「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

9/24(第51回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(9月第4週分・合同)
9/18(第50回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(9月第3週分・後半)
9/15(第49回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(9月第3週分・前半)
9/10(第48回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第5週/9月第1週分・合同)
9/3(第47回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第5週/9月第1週分・合同)

 

2004年度第51回講義
9月24日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第4週分・合同)

 もう9月もあと1週間になってしまいました。
 最近は春の反省から、心身のストレスを溜めない事を第一に生活しているので時の流れが速くて仕方ないです。「朝起きて仕事へ行って、帰って来て寝るだけ」の生活をする大人にはなるまい、と念じ続けてバカをやって来ましたが、いやぁやっぱりバカをやり続けるってのも大変ですね(笑)。

 さて、それでは今週分のゼミをお送りします。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(44号)に読み切り『伝説のヒロイヤルシティー』作画:大亜門)が2本立て形式で掲載されます。
 あの『スピンちゃん』シリーズで、少年以外の一部読者層の心を鷲掴みにした大亜門さんが早くも復帰です。今回の作品は、『スピンちゃん』単行本のおまけページで予告していた通り、ヒーロー戦隊ギャグ物となった様子。
 この復帰作で連載獲得の足がかりとする事が出来るのか、注目ですね。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(44号)に読み切り『88の陣八』作画:桜井亜都)が掲載されます。
 検索エンジン等で桜井さんの経歴を調べてみたのですが、該当件数0という事で、過去の実績等は全く不明です。予告カットのクオリティを見ると、恐らくは別ペンネームで新人賞を受賞しているか、またはアシスタント歴豊富な方かどちらかだと思うのですが……。

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(04年7月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=2編
  ・『風のカラム』
   険持ちよ(21歳・大阪)
  ・『キ☆ノ☆子』
   小野寺真央(21歳・埼玉)
 努力賞=4編
  ・『パッチワークフェイス』
   タグチケンジ(21歳・東京都)
  ・『柔道番長』
   小森香菜(19歳・埼玉県)
  ・『colors』
   岡村美里(18歳・大阪府)
  ・『伝説の侍』
   梶野剛毅(24歳・愛知県)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  ・『満願成就』
   村上敬助(20歳・愛知県)
  ・『CONTINU』
   橘佳菜子(22歳・埼玉県)
  ・『宿りし花は』
   瀬戸カズヨシ(24歳・東京都)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎努力賞の小森香菜さん…04年1月期「十二傑新人漫画賞」に投稿歴あり
 ◎努力賞の梶野剛毅さん…02年後期「新人コミック大賞・少年部門」で最終候補、03年7月期「まんカレ」であと一歩で賞。
 ◎あと一歩で賞の瀬戸カズヨシさん…04年前期「新人コミック大賞・少年部門」で最終候補。

 今月の編集部講評は「ストーリーとか設定はいいから、とにかくキャラクターを立てなさい」というもの。なんか「ジャンプ」の新人賞みたいな講評ですが、よっぽど難解な設定を文字情報で並べ立てる応募作が多かったのかな…と思ってみたりします。
 ……でも、これと全く同じ内容の講評を開講当初の頃にも見た事ある記憶が。その時の駒木は青臭い勢いで「そんな事無い、ストーリーも大事だ」とか言ってたはずなんですが、3年近くやって来て駒木も大分擦れてしまったもんですね(笑)。

 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り2本
 「サンデー」:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年43号☆

 ◎読み切り『鬼より申す!』作画:原野洋二郎

 ●作者略歴
 1977年5月20日生まれの現在27歳
 04年3月期「十二傑」で佳作(3月期の中では次席)を受賞し、受賞作デビュー確約の特典を獲得。今回はその権利を行使する形でのデビューとなる。
 なお、「十二傑」受賞以前の経歴は不明だが、複数のアニメ作品の動画担当アニメーターに同姓同名のクレジットがあり、同一人物の可能性もある。

 についての所見
 ズバ抜けた画力とまでは行かないものの、高い完成度にある安定した絵柄とは言えるでしょう。正直、これがデビュー作とは思えません。
 人物描写は勿論、動的表現、背景処理、その他特殊効果についても既に連載作家と遜色無いレヴェルに達しており、このファクターに関しては“即戦力”と判断して良さそうです。「十二傑」の採点表に「絵柄◎」が付いていたのも肯けますね。
 ただ、減点材料にはならないものの気になったのが、ディフォルメや感情を表現する時の描き方が少々古臭く(初期の『BASTARD!!』っぽい?)感じられる事。この辺は作者の年齢なりに…ということなんでしょうが、キャリアが浅い内は「若々しさに欠ける」という印象を与えるかも知れません。

 ストーリー&設定についての所見
 超シリアスなオープニングで“掴み”を入れて、しかし話を追うごとにシビアなムードが緩んでゆき、最後に全ての謎が解けたと同時にユルユルのオチ…というプロットはなかなか新鮮ですね。作品全体を通じて何かやってやろう…という意気込みが伝わって来て好感が持てました。
 ただ、伏線の処理のさせ方が乱暴過ぎで、さすがにストーリー展開が強引過ぎる印象も受けました。細かいツッコミを寄せ付けないだけの勢いは確かに感じられるのですが、かと言ってそれに頼ってしまうのも如何なものかと思うのです。

 あと、問題点として挙げられるのは演出面でしょうか。余りにも全ての事を文字で説明しようとしていて、少々回りくどかったように思えました。せっかく絵だけで事象を表現出来る画力を持っているのに、これはちょっと勿体無かったですね。
 バトルシーン等で起こった出来事を周りがいちいちセリフで解説する…という手法は、確かに多くの「ジャンプ」作品で用いられたテクニックではあります。ただ、説明的セリフというのは根本的に不自然であり、安易にそれに頼って欲しくないところです。これは、文字情報を極力排し、洗練されたビジュアルと気の利いた決めゼリフで読み手に印象付ける…という演出技法が、最近の「ジャンプ」上位クラスの作品で主流になって来ているだけに、特にそう思ってしまいます。

 今後はもっともっとストーリーテリング力を洗練させていって欲しいと思います。

 今回の評価
 全体的に言って、新人にしては完成度は高いものの、新人にしては悪い手癖がつき過ぎている…といったところでしょうか。ぶっちゃけ、年齢的なものも含めて将来性には疑問の残る作家さんと作品だったように思えます。今後は、少年マンガの“お約束”的な必要悪に頼らない姿勢を求めます。
 評価はB+としておきます。ちょっと甘いかも知れませんが、水準以上の画力や分かり易いストーリーといった“名作崩れの人気作”的な要素も備えていますので、矛盾はしてないかなと。


 ◎読み切り『KESHIPIN弾』作画:吉原薫比古

 ●作者略歴
 1984年生まれで、誕生日は未公開。現在は19〜20歳という事になる。
 03年8月期、04年1月期「十二傑新人漫画賞」の「あと一歩で最終候補」リストに名前が載っており、この前後からマンガ家を志望していた事が窺える。04年上期では「赤塚賞」で準入選を受賞、04年39号で代原として『トイレ競走曲〜序走〜』が掲載され、暫定デビューを果たす。
 今回は「赤塚賞」の受賞作掲載。形としては休載2作品分の代原という事になるが、作者紹介ページも設けられており、正式デビューに準じた扱いとなっている。
 

 についての所見
 
新人賞への投稿作品、しかもギャグ作品という事を考慮しても、明らかに実力不足の拙い絵であると断ぜざるを得ません。中には何が起こっているのかさえ判らなかったり、ギャグのインパクトを殺いでしまっている場面さえ見受けられました。これでは画力をそれほど重視しない当ゼミの評価基準をもってしても、大きな減点材料としなければならないでしょう。

 ギャグについての所見
 1コマに多くのセリフの遣り取りを入れてハイテンポで畳み掛けるネタ運びや、大ゴマで一発ギャグ系インパクトネタを持ってくるなど、随所でなかなかのセンスを感じさせてくれる作品ではあります。荒削りな面が目立ち過ぎるものの、なるほど「赤塚賞」準入選という評価も妥当と言えるでしょう。
 ただし、先述した絵の拙さでインパクトが殺がれてしまっている上に、やや“間”の取り方がせっかちだったかな…という印象も残りました。また、「バカバカしい事を一生懸命やって面白さを引き出す」という試みもイマイチ中途半端だったように思えます。もっとケシピンの描写をマニアックかつテクニカルにやっていれば、もっとシュールな雰囲気が出て来て良かったのではないでしょうか。

 今回の評価
 ギャグの技術云々以前に、絵で全てが台無しになっている作品に終わってしまった感が有りますね。“失敗作”としてB−評価にさせてもらいます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 まずは巻頭カラーページ。明確な作者からの悪意を感じる『銀魂』のキッツイ絵から始まり、『BLEACH』のアニメ告知ページを経て、いかにも読み飛ばされそうな所に『リングにかけろ』のアニメ化告知を発見。テレビ朝日系で水曜深夜2時42分から放映とのことで、DVD化して手堅く稼ぐ事を念頭に置いた戦略のようですが、さすがにコレは如何なもんでしょうか(笑)。……まさか『星矢』の女性ファン層を狙ってるわけじゃないでしょうね? 

 さて、今週も『DEATH NOTE』の話題を少々。ただし今回は直接作品の内容についてというわけではなくて、先日発売になったサブカル系隔月刊誌・「クイックジャパン」誌の特集記事の話を。
 「クイックジャパン」誌の特集記事と言えば、その筋のファンのツボを押さえた誌面構成で定評がありますが、今回も大場つぐみ&小畑健両氏や担当編集者に作品制作の裏側に迫る内容のインタビューを試みるなど、普通のメディアではそうそうお目にかかれない濃い内容が目立ちました。
 中でも出色だったのが、大場さんと担当編集のストーリー打ち合わせについての話。記事によると、まず担当編集が敢えてありがちでつまらない続きの展開を考えて大場さんに提示し、大場さんはそれを否定する方向で構想を練っていって、とんでもなく意外性のある展開になったところでそれを決定稿とするんだそうです。
 担当編集がいかにもありがちなストーリーを考え、それを作家に押し付けるケースは結構耳にしますが、この作品はその真逆なんですね。「マガジン」システムのアンチテーゼと言ったところでしょうか。「ジャンプ」の柔軟な編集方針ゆえに生まれたヒット作なんでしょうね、これは。

 他の連載作品は、軒並み良い意味でも悪い意味でも持ち味発揮…といったところで特筆事項無し。『D.Gray-man』などは、もうちょっと場面転換や演出が改善されれば良い作品になる見込みも有ると思うのですが……。実質掲載順がラス3ですから、いよいよ打ち切り黄信号点灯でしょうか。

「週刊少年サンデー」2004年43号☆

 ◎読み切り『断罪の炎人』作画:吉田正紀

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 資料不足のため、生年月日及び年齢は不明。
 現在確認出来る範囲では、「サンデー」月刊増刊で02年4月号、03年5月号、10月号に読み切りを発表している(ただし、02年4月号掲載の作品はスポーツ選手実録モノ)。吉田さんのコメントによると、マンガ家を志し上京して7年、デビュー以来7本目の読み切りとのことなので、判明している他にあと3本の読み切り掲載があったという事になる。
 なお、今回が「サンデー」週刊本誌初登場。

 についての所見
 上京以来7年という若手作家としては長いキャリアの間、アシスタント経験も豊富だったのでしょう。全編を通じて、特に背景処理や特殊効果など、通常はアシスタントが作画を担当する部分に確かな技術が認められます
 ただ一方、作家の個性が表れる人物描写では、キャラデザインでセンスを感じさせるものの、線の垢抜けなさや若干の歪み、動的表現のぎこちなさが感じられたのが残念でした。この“プロアシスタントの絵柄”を“プロ作家の絵柄”にどう切り替えてゆくかが今後の課題になるでしょうね。

 ストーリー&設定についての所見
 前半で各所に伏線を張り、それを後半で回収しながら見せ場に繋げる…という、高度なストーリーテリング力が感じられるシナリオ
ですね。プロットそのものは少々ステロタイプに過ぎる感もありますが、確固たるテーマの描写やラストシーンの演出もバッチリと決まっており、ストーリー全般に関してはAクラスの評価に値する出来だったと言えるでしょう。

 ただ、問題があるのが主人公たち“改造人間”の特殊能力の設定に関して。設定そのものにケチをつけるつもりは全く無いのですが、それらをお話の中で上手く消化させるだけの練りこみが足りなかったのではと思います。
 例えば特殊能力の凄さを表現するために用いられた具体的な数字(「IQ400」や「体温上昇1000倍で2000℃」など)。これが逆に“具体的なリアリティの無さ”を表現してしまったような気がするのです。大事なのは、それが現実離れした能力だという事を読み手に提示することであって、それだけなら文字に頼らず絵だけで表現した方が逆に説得力が増したのではないでしょうか。特に「体温上昇1000倍」は、最大の見せ場で主人公に異様に説明的なセリフを吐かせてしまい、演出面でも大きくマイナスに働く結果にも繋がってしまいましたしね。
 また、主人公の能力に関しては、「鉛の弾丸を溶かすなら他にも色々な物が溶けるんじゃないか?」とか、「唯の脳に埋め込まれたコンピューターが真っ先にイカれないか?」…などといったツッコミ所が多々存在しており、これは「読み手を作品世界に没入させ切れない」という点で減点材料とせざるを得ません。

 今回の評価
 評価はB+。本当ならA−級の“持ち点”のある作品ではあるのですが、やはり設定の部分で詰めを誤ってしまったように思えます。
 逆に言えば、この設定のアラをさほど気にしない人なら、「かなり良く出来た作品」という評価を下すのでしょうね。それはそれで一つの見識だと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「好きな四字熟語は?」。
 真面目に答えて読者を唸らせるのも良し、ボケて笑いを獲るのも良しという、なかなかの良問だと思います。“真面目派”では一期一会、乾坤一擲、臥薪嘗胆、“ボケ派”では確率変動あたりが面白いですね。夏目義徳さんの国士無双は麻雀用語としてなのか、そうじゃないのかで意味合いが随分変わるような気がしますが……。
 駒木の場合は、好きな…というより最早座右の銘に近いのですが、「因果応報」を挙げておきます。ギャンブル関連なら「一発自模(ツモ)でしょうか。

 ……さて、連載作品の方は思わず毒吐きたくなる作品をオミットすると随分喋る材料が少なくなってしまうのですが(苦笑)、それでも久々に大きくページを割いたギャグが炸裂した『金色のガッシュ』や、漸く主人公が主人公らしい自然な自己主張を始めた『クロザクロ』など、キチンと読ませてくれる作品もありました。
 しかし、やっぱり強烈なインパクトを残してくれたのは、少年マンガ史上に残る志の低いバトルをおっ始めてくれた『モンキーターン』の洞口&波多野ですね。まぁ、こういう色恋に関する男同士の揉め事が傍から見たら大変に見苦しいのは事実なんですが、ここまでリアルにみっともなさを描写しなくても…と思ってしまいました。いや、面白くないのかと言われたら「面白いですよ」と答えるわけなんですが(笑)。

 ……まぁそんなところで今週はここまで。もうしばらく、このようなカリキュラムが続きます。どうかご容赦を。

 


 

2004年度第50回講義
9月18日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第3週分・後半)

 さて、今週の「サンデー」裏表紙に『まいっちんぐマチコ先生』のTV版全話収録DVDの広告が掲載されているのを見て、このDVD担当の社内での行く末を思わず案じてしまった駒木ハヤトがお送りする「現代マンガ時評」のお時間がやって参りました。今日は後半分、「週刊少年サンデー」についての内容でお送りします。

 で、その『マチコ先生』DVDセットなんですが、16枚組で税込99,750円ですよ。ヤフーBBの糞モデムを最低9日間は配り続けないと買えないという結構なお代です。
 当時の主要ファン層が30代半ば以降に達しようとしているこの21世紀、妻子の反対を押し切って大10枚を注ぎ込める男の中の男(←くりいむしちゅーの有田が高田総統のモノマネする風に)が日本全国にどれだけいらっしゃるのか、その実数を是非知りたいものでありますね(笑)。

 ……さて、そんなしょうもない事言ってないで、とっととゼミに移りましょうか。


 「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(43号)に読み切り『断罪の炎人』作画:吉田正紀)が掲載されます。
 吉田正紀さんはこれが本誌初登場。02〜03年には月刊増刊で読み切りを断続的に発表していますが、今年はまだ作品の発表が無く、満を持しての登場という事になりますか。

 

 ※今週後半のレビュー&チェックポイント
 ●今週後半のレビュー対象作…2本
 「サンデー」:短期集中連載総括1本/読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年サンデー」2004年42号☆

 ◎短期集中連載総括『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志

 についての所見(第1回時点からの推移)
 全体的な絵のクオリティについては、口を差し挟む余地の無いところであったと言って良いのではないでしょうか。第1話で指摘した等身の不安定さも、第2話以降は全く気にならないところまで解消していたように思えます。
 第2回では「片手に指6本」というボーンヘッドがありましたが、椎名さんご本人の釈明によると作者・編集サイドによる再三のチェックを奇跡的に潜り抜けてしまったモノのようで、ましてや椎名さんは確固たる実績のある作家さんなのですから、これは弘法も云々…という解釈をすべきでしょう。

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 
こちら(ストーリー&設定面)も全体的に見て、ほぼケチの付け所の無い極めて高いクオリティをキープしたまま、4回の連載を全うしたと言えるでしょう。早くも手垢が付く程こなれたキャラクターと明確に設定されたテーマによって下支えされた良質のコメディと重厚なシナリオは、まさにストーリーテリング技術の真髄と言うべき“芸術”でありました。
 ただ、この後の長期連載が内定しているためにストーリーを完結させられず、短期集中連載としては消化不良気味の結末となってしまった事、更には第3話前半の話の持って行き方(テロ→南の島へ出動)がやや強引だった事など、些末ながらも無視は出来ない小さな減点材料もいくつかあったように思えます。高評価に値する作品ではありますが、残念ながら満点は出せないかな…といったところです。
 
 (とりあえずの)最終評価
 大変素晴らしいが、満点までは至らない…という事で、A−寄りAの評価で据え置きとします。
 ……しかしこの作品、年末の「コミックアワード」でどう扱ったら良いんでしょうね? ホント、今から頭を抱えてますよ(笑)。後々の事を考えて長編扱いにするか、それともとりあえず短編扱いにするかでまず一悩み。で、去年読み切りを短編作品部門にノミネートさせているのに、今年もノミネートさせて良いのかという事でも更に一悩み。個人的な気持ちとしては、前年度で無冠に終わっているだけに、クオリティ相応の再評価をしたいところではあるんですが……。

 ◎読み切り『UPPERS』作画:寺嶋将司

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 資料不足のため、生年月日及び年齢は不明。
 検索エンジンで確認した限りでは、「サンデー」月刊増刊で01年12月号、03年5月号、6月号に読み切りを発表し、同誌03年11月号〜04年1月号まで『秘宝の島Cotto』を短期連載。また、一部では「少年マガジン」系列誌でも作品を発表した事があるとの未確認情報もアリ。
 今回は「サンデー」週刊本誌初登場となる。
 追記:寺島さんはかつて赤松健さん、万乗大智さんのスタジオでアシスタント経験があるそうです。

 についての所見
 
少年マンガの主流からは随分とかけ離れた絵柄ですね。太細のメリハリが弱い線、意識的にデッサンを崩した人物造型など、読み手を選ぶ恐れがある要素が多いのが少々気になります。
 ただ、マンガの記号としての役割は十分に果たせており、ディフォルメや背景処理なども及第点以上。大きな減点材料とするまでには至りません。これでもう少し緻密さが出て来れば随分と印象が違うと思うんですが……。

 ストーリー&設定についての所見
 
まず、この作品の「余命幾ばくも無い主人公」という基本的なアイディアは、恐らくテレビドラマ『木更津キャッツアイ』からの影響を強く受けていると思われます。妙に浮世離れしたような世界観も、『木更津──』のそれを少年マンガ向けに大幅アレンジしたものなのでしょう。
 勿論、既製の作品からアイディアを拝借した以上、オリジナリティに欠ける印象は否めません。が、それでも「拝借するにしても、良いアイディアを借りて来たな」とも思います。というのも、この設定だと、どんな他愛も無い事をするにしても“短い人生で最後の”という意味付けが可能で、各エピソードで読み手に強いインパクトを与える事が容易に果たせるからです。そういう意味では、この設定は読み切りよりもむしろ連載向け(ただし1〜2年程度の中期が限界)のモノであると言えるでしょう。

 ただ、この作品においては、そんな良質のアイディアを上手く活かし切れていなかったように思えます。話の流れが過度にナンセンスなのは「独特の世界観ゆえに」というエクスキューズを採用する余地があるにしても、セリフやモノローグといった脚本面がちょっと拙過ぎたように感じられました。各所で見られた、とても喋り言葉とは思えない説明的なセリフを解消させられたら、もう少し全体的な印象も変わって来るのではないかと思うのですが……。 

 今回の評価
 一部に熱烈なファンを生み出しそうな要素は感じられるものの、全体的な完成度の低さから高い評価は下せないかな…といった印象です。評価はB+寄りBとしておきます。アイディア自体はこれで蔵に入れてしまうには惜しいんですが……。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「子供の頃に大好きだったアニメソングは?」。
 回答に世代差が出ているようで出ていないのは、多分旧作アニメには再放送で触れるチャンスがあったからでしょうね。特に20年くらい前は夕方にアニメの再放送をよくやっていて、下手したら自分が生まれる前の作品を観たりする事が出来ましたし。放送禁止用語が出てくるたびに不自然な口パクになるのが子供心に不思議でした。
 ちなみに駒木は、藤田和日郎さんと被るんですが『銀河鉄道999』という事で。ただし、ゴダイゴの映画版よりも佐々木功のテレビ版の方が好きですね。あと、中学生時代を“子供の頃”として良いのなら、徳永英明の「夢を信じて」(フジTV版『ドラゴンクエスト』初代エンディング)も挙げておきます。実はカラオケの十八番だったり(笑)。

 さて、今週のトピックスは何と言っても『こわしや我聞』の「前号まで(=ここまでのあらすじ)ですね。

 「果歩達は我聞と陽奈をくっつけようと計画中」

 ……これですよ、この簡潔な記述! 今回が第30話ですが、第28話までのお話を無かった事にする潔さがグルービーであります。
 しかし、國生さんといい、今回の冒頭に出て来た眼鏡っ子秘書・千紘といい、最近の藤木俊さんは明らかに一部のコアな読者層をストーリー以外の要素で狙い撃ちしようとしてますよね。……まぁ、開講当初から珠美ちゃんを駒木以上に押し出したPR活動をしている当講座が、あれこれ言える立場じゃないんですが(笑)。

 ──といったところで、今週は時間切れ。ボリューム的にアレですが、ちょっとスランプ気味なので今日はこれくらいでご勘弁を。では。

 


 

2004年度第49回講義
9月15日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第3週分・前半)

 オリコンの週間シングル売上ランキング、我らが椎名林檎女史率いる東京事変の『群青日和』が、よりにもよってゴリエに負けて2位という事態に、「ジャンプ」今週号の『武装錬金』における戦士・剛太のように呆然としてしまう今日この頃、受講生の皆さんは如何お過ごしでしょうか。

 先週のゼミでも一応予告していましたが、今週は代原やら何やらでレビュー対象作が増えてしまいましたので、久々に前・後半分割でお送りします。まず今日は、「ジャンプ」関連の話題をお送りする前半となります。


 「週刊少年ジャンプ」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(43号)に読み切り『鬼より申す!』作画:原野洋二郎)が掲載されます。
 この作品は、04年3月期の「十二傑新人漫画賞」で佳作を受賞(最上位の「十二傑賞」は、準入選の『魔人探偵脳噛ネウロ』)した作品で、当初の予定では増刊号に掲載となっていたものです。原野さんは勿論今回がデビュー作となります。
 今期は新連載1本に対し、連載終了2本+『SBR』中断という“ページ余り”状態にありますので、「赤マル」冬号を待たずしての週刊本誌掲載となったようです。形はどうあれ、原野さんには今後の活躍に向けての大きなチャンス到来となりましたね。

 ……この他、非公式レヴェルで、もう1本の読み切り掲載も決まっている…との情報が入っているのですが、とりあえずこの場では控えておく事にします。


 ★新人賞の結果に関する情報

第16回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年7月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(本誌か増刊に掲載決定)
  ・『流れ星ポロン』
   佐藤真由(20歳・埼玉)
 《講評:(◎評価の)画力は今後ますます伸びそう。主人公もかわいくて好感度が高く、演出に力を入れているのも高評価に繋がった。ただし、主人公の能力など分かり辛い点も多く、これは今後の課題として欲しい》
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『六道マーダーFILE』
   西嶋賢一(23歳・埼玉)
  ・『GHOST DIGITAL CHANGE』
   名村和泰(21歳・宮城)
  ・『弾丸装填(リロード)』
   坂東秋(21歳・香川)
  ・『HARVEST』
   迫雅之(27歳・鹿児島)
  ・『DAY BREAK』
   新谷智(23歳・京都)
  ・『スローダウンゴースト』
   ENYA(22歳・大阪)
  ・『BABY DOLL』
   中川和博(16歳・兵庫)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の佐藤真由さん…03年12月期、04年3月期「十二傑」で最終候補
 ◎最終候補の西嶋賢一さん…03年10月期、04年3月期「十二傑」でも最終候補
 ◎最終候補の新谷智さん…03年9月期「十二傑」、03年3月期「天下一漫画賞」に投稿歴あり。

 7月期は、『ネウロ』が準入選を受賞した3月期で最終候補に残った佐藤真由さんが十二傑賞となりました。同じく3月期で最終候補だった西嶋賢一さんの名前も見えており、それを考えると3月期は随分とレヴェルが高かったという事なんでしょうね。
 

 ※今週前半のレビュー&チェックポイント
 ●今週前半のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本/読み切り1本/代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年42号☆

 ◎新連載第3回『Wāqwāq』作画:藤崎竜

 についての所見(第1回時点からの推移)
 連載もこれが4回目という作家さんですから、こんなわずかな間に大きく印象が変わる…という事も無いですね。相変わらず綺麗な絵で、注文を出すとすれば要所要所で見辛い点が挙げられるでしょう。特に、奇抜なデザインの護神像絡みのシーンは余程分かり易く描いてくれないと、ちょっと状況の理解が難しいですね。

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 
こちらの方は、第2回辺りから微妙にストーリーテリングのバランスを欠いているような感じでしょうか。
 ストーリーに破綻は無く、設定も少々難解ながら矛盾は見当たらないのですが、どうも「ただそれだけ」に終わっているように思えてならないのです。つまり、ストーリー・設定の完成度を高めるのに手間が掛かり過ぎ、読み手にそれらを魅力的に見せる演出面が疎かになってしまっているように感じられてしまうんですね。
 特に“弱い”と感じるのは登場人物のキャラクター面。第1回で主要登場人物を1人死なせているというハンデを、今回の時点でもまだ完全にリカバー出来ていないように思えます。キャラの区別は問題なく出来ていますが、主人公らにあと少し読み手が共感できる要素が欲しいところです。

 ──そういうわけで、ここまではストーリー・設定の失点を無くそうとして、図らずも専守防衛を強いられている…といったところです。ここから可及的速やかに攻めへ転じる事が出来るかどうかが、(連載存続の可否を含めて)この作品の大きなキーポイントとなって来るでしょうね。

 現時点の評価
 第1回時点から若干の下方修正は止むを得ないところで、今回はB+としておきます。
 このスロースタートぶりが、打ち切りまでの判断の早い「ジャンプ」でどう影響するのか、今しばらくチェックを怠らないようにしたいと思います。


 ◎読み切り『秘密兵器ハットリ』作画:いとうみきお

 ●作者略歴
 1973年3月26日生まれの現在31歳
 和月伸宏門下のいわゆる“和月組”出身で、デビューは「赤マル」98年夏号掲載の西部劇・『ロマンタジーノ』(伊藤幹雄名義)。  
 週刊本誌進出は99年10号(デビュー作の同名続編)で、同年49号にも西部劇・『トランジスター』を発表。
 翌00年には『ノルマンディーひみつ倶楽部』で初の週刊連載を獲得(00年24号〜01年20号、46回)
 その後1年のブランクがあって、02年29号に読み切り・『ジュゲムジュゲム』で復帰。この作品が『グラナダ ─究極科学探検隊─』改題の上で03年1号より連載化されるが1クール16回打ち切りに終わる。
 それからまた約1年のブランクを経験した後、「赤マル」04年春号にて『ゴーウエスト!』で復帰。今回はそれ以来の新作発表となる。

 についての所見
 
いとうさんの作品は何度もレビューしていますので、もう絵に関しては多言を要する事もなかろうかと思います。総合的な画力としては連載作家としても並以上の水準にあり、やや止め絵っぽい絵柄が少々気になるものの、それもまだ許容範囲と言って構わないでしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 まず作品全体のスタンスですが、今回はかなりコメディ色の強いものになりましたね。冒頭の『逆境ナイン』を思わせる野球シーンを見ても判るように、まるで島本和彦かと言うような、“形式はストーリー系なのに、読んでみるとギャグにしか思えない”作品だったと思います。(もっとも、テンションの高さを島本作品と比べるのは可哀想ですが……)
 しかも、役に立たない熱血系主人公と、そんな主人公を冷静に犬の如く扱うマネージャーという設定が妙に新鮮で、モチーフがバレバレなのに手垢がついた感じがしないという、不思議な雰囲気の作品に仕上がりましたね。また、さすが“和月組”と言いますか、コメディ部分の“間”の良さもなかなかだったように思えます。

 もっとも、強いコメディ要素の影響からストーリー自体はかなり理不尽な部分も出てしまいましたし、肝心の剣道関連の描写がなおざりになっていたのも否めません。また、主人公のキャラクターがあまり読み手の感情移入を促す要素が多くないだけに、読者を選ぶ作品になってしまったかも知れませんね。ストーリーを真面目に追いかけようとすればするほど作品世界に入っていけない…という、大きなジレンマを抱えた作品とも言えそうです。

 今回の評価
 それぞれ複数存在する加点材料と減点材料をどう差し引きするかによって、人によって評価が大きく分かれそうですね。こういう作品に点数をつけるのは非常に心苦しいものがあるのですが、駒木はA−寄りB+というジャッジにしたいと思います。玉虫色ですいません(笑)。


 ◎代原読み切り『ゴーイングマイウェイ進』作画:ゴーギャン

 ●作者略歴
 「ゴーギャン」は本名不詳のコンビによる合作ペンネームで、それぞれ23歳と27歳の時に00年上期「赤塚賞」で佳作を受賞している。もし受賞当時の体制を維持していると仮定すれば、現在は27〜8歳と31〜2歳ということになる。
 これまでの「ジャンプ」での活動は全て代原読み切り。過去の掲載歴は00年28号(「赤塚賞」の受賞作掲載)、00年44号、03年18号、04年29号の計4回。 

 についての所見
 コマ単位でタッチがコロコロ変わるので、全体像が掴み辛いのですが、シリアスタッチの絵を見る限りでは以前よりも実力はついて来ているように思えました。「ジャンプ」のギャグ系若手作家さんの中では上位クラスにいると言って良いのではないでしょうか。
 ただ、ゴーギャンさんは絵を必要以上に頑張り過ぎる傾向があるのが気になるところ。特に背景の描き込みやトーンの使い方が熱心過ぎ、絵柄が全体的に黒っぽくなって見辛くなってしまっています。
 あと、登場人物のデザインも凝らなくて良いところまで凝り過ぎといった印象です。人数が過剰な上に“濃い人オンパレード”といった趣で、逆にメリハリを欠いてしまったような気がします。
 ここまで画力がついて来たならば、もう無理に小手先の“変化球”で個性を出そうとせず、いわゆるマンガのセオリー通りの描き方をした方が良いのではないでしょうか? 今ならゴーギャンさんにとって「こんなにアッサリさせて良いのか?」というくらいで丁度良いぐらいだと思うのですが。

 ギャグについての所見
 ギャグの技術的な所も、これまでの作品に比べると少しずつは良くなって来ているように思えます
。理詰めで読み手の笑いを誘おうとする明確な意図が伝わって来るようになりましたし、“間”で笑わせるギャグやシュール系のギャグなど、バリエーションにも幅が出て来ましたね。ただ、ギャグ1つ1つの完成度は今一つといったところで、今後は身に付いた技術を洗練させる努力が必要になって来るでしょう。
 あと、今回非常に気になったのがコマ割りがチグハグだった点です。せっかくの笑い所が何の理由も無く小さいコマに押し込められていてはインパクトが殺がれてしまいますし、そもそもそういうコマ割りにしなければならない程ネタを詰め込んでいるのも問題だと思います。この辺も次回以降に向けての課題という事になるでしょうね。

 今回の評価
 過去作と比較してかなりの改善点が見られますが、それでも及第点にはやや足りないといったところでしょうか。少し甘めに見てB寄りB−の評価としておきます。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメント『アイシールド21』の対戦カード誤記についての訂正とお詫びが。おかしいなぁと思っていたら、やはりトーナメント表の通り、西部ワイルドガンマンズの相手は恋ヶ浜キューピットでした。柱谷ディアーズはデビルバッツが勝ち進んだ時の相手ですよね。
 それにしても西部VS恋ヶ浜って、物凄い実力差ですね。どうやって見せ場を作るのか逆に楽しみです。

 一方、今週は国際プロレス・プロモーションを彷彿とさせるチェーンデスマッチで盛り上がった『DEATH NOTE』ですが、ここ最近は、これまでその他大勢の域を脱し切れなかった捜査員たちのキャラクターを掘り下げようという意図が見え隠れしていて興味深いですね。しばらくは今のメンバーで固定して、若干のコメディ要素を交えながらマッタリと第3のキラ探しに勤しむ…という展開になるんでしょうか。まぁ固定ファンを大量に掴んだところで、安定飛行に入るというのも一つの見識だとは思いますが、どうなるんでしょうね。
 それにしても、八方塞がりに思えた話の展開が、気がついたらほぼリセット状態になっているんですから、これは諸々の問題点を差し引いても凄いとしか言いようがありませんね。将棋で言えば、どう考えても詰んでいる所から、見事な指し回しで入玉してしまったというような……。
 今の完成度を年度末(11月末)まで保っていれば、現在B+になっている評価の上方修正と、「コミックアワード」へのノミネートも当然考慮にいれなきゃならないでしょうね。

 で、最後はやっぱり『武装錬金』を。冒頭でもネタに使わせてもらった通り、戦士・剛太の少年マンガ史上に残る放置プレイが余りにも痛々しいですが、どうやら『錬金』は次週臨時休載とのことで、作品内時間を超えた責め苦が続くようです。
 しかし、本当に可哀想な少年ですよね。失恋するためだけに登場した落下傘キャラクターなんて不憫としか……。姿を消した剛太少年が、『いちご100%』の世界にワープして主人公を暗殺しても平気で許せるような気がします(笑)。
 それにしても、カズキ×斗貴子さんの会話もどうしてここまで色気が無いんでしょう(笑)。どう考えても愛の告白の内容なのに、2人とも真顔ってのはさすがにどうかと思いますよ私は(笑)。でもまぁ何気ないスキンシップが妙にストロベリってて、言葉以上に2人の愛を感じるわけですが。あんな愛の篭った目潰し初めて見ました。

 ……それでは、とりあえず前半分をお送りしました。後半分は金曜日を目標に準備を進める事にします。

 


 

2004年度第48回講義
9月10日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第2週分・合同)

 先週の「チェックポイント」・『武装錬金』での自虐カミングアウト&談話室(BBS)でのネタ発言を受けて、物凄く深刻な反応がいくつか返って来て、戸惑うやら恐縮するやらの駒木であります(^^;)。
 すいません皆さん、ネタにしてる時点で自分の中では決着済みなんで心配しないで下さい。今は『あずまんが大王』のゆかり先生のように、結構平気で独り者生活を満喫しております(笑)。とりあえずは、慌てず騒がず焦らず、運気が上向くのを待ち惚ける今日この頃という事で。

 ──って、なんなんだ、この前フリ(笑)。

 もう何が何だか分かりませんが、とにかく今週のゼミをお送りします。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(42号)に読み切り『秘密兵器ハットリ』作画:いとうみきお)が掲載されます。
 この、見事なまでに現在全国劇場ロードショー中の映画を彷彿とさせるタイトルの読み切りを描くのは、『ノルマンディーひみつ倶楽部』、『グラナダ ─究極科学探検隊─』で御馴染みのいとうみきおさん。3度目の連載獲得に向けて本格始動…といったところでしょうか。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(42号)に読み切り『UPPERS』作画:寺嶋将司)が掲載されます。
 寺嶋さんは、これまで増刊号を活躍の場にしていた若手作家さんで、検索エンジンで確認した限りでは、月刊時代の「サンデー超」01年12月号、03年5月号、6月号に読み切りを、03年11月号〜04年1月号まで短期連載を経験しています。(「サンデー超」以外の増刊や02年以前についてはデータが極めて不足していますので、この他にも読み切り掲載があった可能性があります)
 今回は週刊本誌初登場の大チャンスとなりますが、果たしてどうなるでしょうか。

 ……それにしても来週は確定分だけでレビュー4本。更に「ジャンプ」で代原が載るという話も聞いていますので、そうなると5本……。しかも、祝日の関係で翌週分の「ジャンプ」が土曜日に出るので、それまでにゼミを完了させなければならないわけですか……。
 来週は久々に前・後半分割になりますかねぇ。ただ、昼間の仕事の疲れがそろそろ溜まって来る時期に、こういうハードなスケジュールは勘弁して欲しいのが本音ではありますね(苦笑)。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年41号☆

 ◎読み切り『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征

 ●作者略歴
 1981年1月31日生まれの現在23歳
 03年8月期の「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入りを果たした後、04年3月期「十二傑」で準入選(十二傑賞)を受賞。先日発売の「赤マル」04年夏号にて、今作と同タイトルの受賞作でデビューを飾ったばかり。
 なお、澤井啓夫さんのスタジオでアシスタント経験がある。

 についての所見
 やはり週刊本誌に混じると、どうしても洗練されていない荒削りな面が目立ってしまいますね。ただ、「赤マル」レビューの時にも述べましたように、マンガの絵として押さえるべき部分はキチンと押さえてはいます。
 この作品の前後に掲載された『テニスの王子様』や『銀魂』と見比べても違和感はありませんし、ギリギリ及第点は出せる水準ではないでしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 これも「赤マル」レビューの時にも述べましたが、“謎を食う魔人探偵”という設定は非常にオリジナリティが高く、これがそのまま作品最大のセールスポイントになっていると言えそうです。また、今回は「赤マル」に掲載された前作の矛盾点(いわゆるツッコミ所)を解消させようという強い姿勢も窺え、好感が持てます。
 また、各所に施された演出がなかなか上手く、キッチリと“読ませて”くれます。特に、ネウロが長ゼリフを喋りながら芋虫を口の中で蝶に成長させて最後に燃やすシーンなどは秀逸でした。普通に描いていれば冗長になってしまう場面に強いアクセントを持たせ、更にはネウロの魔人として闇の部分を描写する事にも成功。まさに一石二鳥と言える好演出でしたね。他にも事件発生のシーンなど、これがデビュー2作目の新人さんとは思えない好演出が随所に見られました。

 しかしながら、この作品はコンセプト──事件発生後、全く間を置かずに即解決編に入る“非本格・娯楽系ライトミステリ路線”──そのものに、大きな“構造的欠陥”を抱えていると言わざるを得ません。「赤マル」の時は作者サイドの意図が読み取れない部分があったので敢えて採り上げなかったのですが、この欠陥はストーリー系作品として致命的とも言えるものです。
 ミステリ系のマンガや推理小説を読まれる方はお気づきかと思いますが、この作品のコンセプトというのは、言ってみれば推理小説の冒頭と結末だけを抜き出すようなもの。本来なら冒頭と結末の間で展開されるであろうドラマ部分がバッサリとカットされてしまっているのです。つまりこの作品はドラマ無きミステリ。本質的には“前フリが異様に手の込んだ推理クイズ”の域を出ないお粗末なプロットと言わざるを得ません。
 もっとも、こんな致命的な欠陥を、先述したセールスポイントである独創的な設定と高い演出力でリカバー出来ているのがこの作品の凄い所で、「ジャンプ」が懸命に松井さんとこの作品をプッシュするというのも理解できますね。ただ、この作品を連載化する場合には、長いスパンで読者の興味を惹くような新要素を盛り込まないとたちまち悪性のマンネリに陥ってしまうでしょうが……。 

 今回の評価
 連載作品のプロトタイプとしては不安が残る部分が多いものの、読み切り作品としては一応成功の部類に入るでしょう。ただし大きな減点材料もありますので、評価は「赤マル」から僅かに上積みした程度のA−寄りB+に留めたいと思います。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 毎週つくづく思い知らされる事ではあるのですが、『BLEACH』の演出ってのは凄いですなぁ。『NARUTO』の岸本さんは、下積み時代に映画を観まくって演出力の基礎を独学で身に付けたそうですが、久保さんはどうやってノウハウを学んだんでしょうね。
 ただ、この作品で未だに個人的に納得いってないのは長期間に渡ってメインヒロインのルキアを不在にさせた事。このキャラをもっと上手く活かしたシナリオにしていれば、どれだけ凄い作品になったんだろうと、思わず無いものねだりをしたくなります。

 この他、今週絶好調だったのは『銀魂』、『ピューと吹く! ジャガー』といったコメディ・ギャグ勢。もうどのシーンもいちいち笑いのツボを突きまくられて、仕事帰りにドトールコーヒーで読んでて思わずアイスコーヒーを噴出しそうになりました。
 まったく、あのジャガーさんが言葉を失うボケ倒しなんて、面白いを通り越して恐ろしいですね(笑)。たった1コマで、あそこまで心底どうしようもないダメさ加減を表現する技量と言い、うすた京介さんの底知れぬ才能を再確認させられた今週号でした。

 そんな中、ひっそりと『ぷーやん』が1クール突き抜けの最終回。苦節12年で掴んだチャンスでしたが、あっさりと手放す羽目になってしまいました。
 第1回から振り返ってみての感想は、「結局、最後まで霧木さんの描きたいモノが見えてこなかったなぁ」といったところ。スポーツも恋愛も友情も、全てが明確なテーマとならないまま、ただ何となく「ジャンプ」のマンガっぽい場当たり的なエピソードが垂れ流されて終わってしまったような感じですね。
 しかし不思議なのは、連載が叶わないまま12年も下積み生活を続ける執念深さを持ちながら、描かれる作品には「誰が何と言おうと、俺はこういうマンガが描きたいんだ!」…という執着心が全く感じられない事。この欲の無さはある意味異様でもあります。普通は真逆の性質を持った人に対してぶつける言葉なのでしょうが、「一体何がこの人をこうさせるのだろう?」…という疑問が頭から離れません。
 最終評価は、第3回時点から据え置きでB−としておきます。

「週刊少年サンデー」2004年41号☆

 ◎読み切り『吉田ジャスティス(激闘編)』作画:福井祐介

 ●作者略歴
 生年月日は不明ながら、04年春募集の「爆笑王決定戦」応募時には27歳
 02年12月・03年1月期の「サンデーまんがカレッジ」で最終候補(あと一歩で賞)に残り“新人予備軍”入りした後、ギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で最高ランクの“爆笑王”を受賞。今回はその受賞作でいきなりの週刊本誌デビューを飾る。

 についての所見
 全体的に見て決して上手いとは言えないですね。画力を要求されない「サンデー」系のギャグ作品としては「こんなものか」という気もしますが、動的表現の拙さや遠近感のズレといった基本的な箇所での未熟さが目立ち、決して印象は良くありません。少々甘めのジャッジをしても、ギリギリで及第点といったところでしょう。

 ギャグについての所見
 まず、ギャグの見せ方など技術的な面については、一応は形になっていると思います。ネタ振りとオチの間にページを跨がせたり、“間”を持たせて笑わせようと試みたりと、理詰めの計算で読み手の笑いを誘おうとする意図が窺えて、これは悪くないですね。
 ただ、肝心のネタが弱過ぎて、せっかくの見せ場が全く活きていないのではないでしょうか。ギャグになり切れていない“どうでもいい事”を無理矢理“笑っちゃうくらい変な事”に見せようとしていて、これでは多くの読者は引いてしまうんではないかと懸念してしまいます。

 この作風、何か既視感が有るなと思ったら、「ジャンプ」系若手作家の夏生尚さんの描いた代原に、ちょうどこんな意気込みが空回りした作品がありました。“爆笑王”が「ジャンプ」の代原と同レヴェルというのは悲しい話ですが……。

 今回の評価
 技術面が形になっているとはいえ、このクオリティではB寄りB−が精一杯ですね。
 真面目な話、このくらいのクオリティの作品なら新人・若手の作品に限定してもゴロゴロ転がっているはずで、それなのにこれほど簡単に最高ランクの賞を出してしまうのは如何なものかと。どういう意図でここまでこの作品をプッシュするのか、ちょっと不可解ですね。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「自分を動物に喩えたら?」。
 作家さんの回答ではがトップで4票。まぁ色々な角度から連想しやすい動物でしょうから、順当と言えるでしょうね。あまりボケようの無い質問でもありますし。
 駒木は一応「亀」と言っておきましょうか。特に試験の合格状況とか出世のスピードとかが亀の歩みなんで(笑)。この社会学講座も、受講生さんが増えるまでに大分長い間苦労しましたしね。
 ちなみに、昔「走り方がダチョウのようだ」と言われた事があります(笑)。自分では気付かないまま、物凄く無駄なフォームで走っていたらしいです。それでも中学時代は1500m走とか校内マラソン大会で学年ベストテンに入ってたりしたんで、もしも陸上部に入ってフォーム矯正してたらどうなったのか、ちょっと興味が湧いた事もありました。

 さて、先週色々と問題点を指摘した『クロザクロ』ですが、今週は女子高生蒐集者・薊(あざみ)に対する夏目義徳さんの愛情が伝わって来て、「他の登場人物もこの調子で動かせばいいのになぁ」…などと思ってしまいました(笑)。ただ、“子供扱いに怒る女の子”というシチュエーションは『絶対可憐チルドレン』とネタ被りになってしまって不運でしたね。
 あと、「一般人女性が襲われる→蒐集者・九蓋が救出」というシーン、女性が本当に食われる寸前まで追い詰められた方が、緊張感とインパクトが出て良かったような気もしますが、どんなもんでしょうか。
 ……あ、来週発売の「週刊モーニング」には、夏目さんが絵を担当している『P専嬢のダリア』が掲載されます。盆休み返上で描かれた作品だそうですので、ファンの方、興味のある方は是非ともお忘れなきよう。

 さて、今週最後は『モンキーターン』から競艇豆知識。ここでストーリーについては一切触れないのが駒木流であります。
 MB記念で優勝して賞金4000万円を獲得した蒲生さん、「賞金全部使ったる」と酔った勢いで宣言してましたが、実は競艇の賞金は原則最終日の2日後に銀行振込になっているそうです。ですからレースが終わった後に貰えるのは銀行振込の明細だけで、現金はほとんど支給されないはずです。そんな状態であんなに大勢連れ回して、お勘定は大丈夫だったんでしょうか(笑)。地元だからツケが効くのかな?
 ……しかし、4000万円以上の金額が印字されている銀行振込明細ってのも凄いですね。一生に一度で良いから、自分宛のモノでお目にかかりたいものです。
 あ、ちなみに他の公営競技の賞金ですが、中央競馬は月曜日──つまり、開催日の次の日に銀行振込。これには関係者の皆さんからも「さすが天下のJRA、しっかりしている」と好評です(笑)。
 あと凄いのが競輪で、こちらは全額即日現金支給。大レースで優勝したりすると、ちょっと前まで客の財布の中にあった1万円札で構成された数千万円分の札束がデデンと積み上げられます。ただし、さすがに数千万円を全額持ち帰るケースは少なく、適当に100〜200万くらい抜いて、後は銀行振込にしてもらう人が多いみたいですが。
 

 ……というわけで、まだまだ語り足りない部分もありますが、今週はこれくらいにしておきましょう。それでは、また週明けにお会いしましょう。

 


 

2004年度第47回講義
9月3日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第5週/9月第1週分・合同)

 いつの間にか29歳になっていました
 そろそろ助手ともども年齢をサバ読みしたくなって来るお年頃、いよいよ「『スピンちゃん』の単行本、売り切れてて買えんやないけワレ!」と叫んだり、少年マンガについてクソ真面目に論評したりするのが恥ずかしくなって来ましたが、色々な迫り来る物に負けず、頑張り抜きたいと思います。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(41号)に読み切り『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征)が掲載されます。
 もうご存知でしょうが、この作品は、つい先日発売されたばかりの「赤マル」夏号の紙面を飾った同タイトル作品の事実上の続編です。
 掲載のタイミング的には、「赤マル」と連動させる形で週刊本誌に進出させる事が最初から決まっていたと思われますが、「赤マル」に掲載された前作もネット界隈では人気を博しているようですので、編集部サイドの賭け(というか見切り発車)はドンピシャで当たった…という感じでしょうね。今回の作品のアンケート次第では早期の連載昇格も見えて来るだけに、大いに注目の一作になりそうです。


 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(41号)に読み切り
『吉田ジャスティス(激闘編)』作画:福井祐介)が掲載されます。
 先週、結果発表があったギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で、最高ランクの“爆笑王”を獲得した作品が週刊本誌登場です。編集長肝煎りの新人賞で最高ランクを獲得したギャグ作品という事は、即ち現在の「サンデー」が求めているギャグ作品だという事なのでしょうから、こちらも注目の一作と言えそうですね。

 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」:新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年40号☆

 ◎新連載『Wāqwāq』作画:藤崎竜

 作者略歴
 1971年3月10日生まれの現在33歳
 90年上期「手塚賞」で佳作を受賞して“新人予備軍”入りを果たした後、同年下期の「手塚賞」では『WORLD』で準入選を受賞し、この受賞作が季刊増刊91年冬(新年)号に掲載されてデビュー。
 それからは増刊91年春号、週刊本誌91年45号、増刊92年春号と立て続けに読み切りを発表する精力的な活動を展開し、92年51号からは『PSYCHO+』で初の週刊連載を獲得。しかし、この時は個性的過ぎる作風が幅広い支持を得られず1クール11回で打ち切りとなる。
 打ち切り後の復帰は早く、増刊93年夏号、秋号と立て続けに新作を発表したが、そこから増刊95年春号まで1年半のブランクを経験。しかも更にその後1年以上のブランクを強いられるなど不安定な活動を余儀なくされたものの、週刊本誌96年28号より連載が開始された『封神演義』がヒット、00年47号まで4年半の長期連載(他に01年5・6合併号に番外編を発表)となる。なお、この連載期間中にも、00年新年の増刊「eジャンプ」に読み切りを発表している。
 連載終了後、1年強のリフレッシュ期間を経て『サクラテツ対話篇』でいきなりの週刊連載復帰を果たすが、これは残念ながら2クール打ち切り(02年1号〜21号)となった。
 今回は『サクラテツ』終了以来、2年数ヶ月ぶりの復帰作となる。

 についての所見
 
デビュー当時から、ともすれば読者を選んでしまうほどの極端な画風で有名な藤崎さんの描く絵ですが、今作を見る限りでは、それに根本的な画力も付随するようになって来たように見えますね。メカ関係の作画などは(さすがにマトモに比較すると若干見劣りしますが)『BASTARD!!』を彷彿とさせるような緻密さがありました。
 ただ、全体的な視覚効果を優先させる余り、一体そこで何が起こっているのか判り辛い場面もいくつかあり、その点が非常に残念でした。“マンガの記号としての絵”をもう少し意識した作画をしてもらえれば……と思うのですが。

 ストーリー&設定についての所見
 連載ごとにガラリと作風・ジャンルを変えて来る藤崎さんですが、今回もまた前作とは打って変わって、シリアス系のSF作品で登場と相成りました。
 さて、こういうSF作品では独自性の確保と読者の興味を惹くために、往々にして設定は否応なしに膨れ上がり、そこから生まれる世界観も難解・複雑になっていってしまいます。で、これを読み手にどう分かり易く提示するか…という点が1つの大きなカギになって来るわけですが、この作品に関しては、設定提示をストーリー進行と融合させる試みが為されていて、駄作特有の“説明臭さ”は感じられません。ただ、それでも現時点でタネ明かしされていない「作者サイドに詳細を隠されている“謎”設定」も少なくなく、読み手によっては許容範囲を超えた難解さを感じてしまうかも知れませんね。

 シナリオはプロローグとしては相当のボリュームがあり、メリハリも効いている労作です。さすがにキャリア相応の“プロのお仕事”を見せてもらったなぁ…といったところですね。
 ただ、クライマックスシーンの「子を残して父親が死ぬ」という修羅場で、もう少し読み手の感情に訴えかける演出が出来なかったものでしょうか。まだ読み手が登場人物に感情移入しきれない状況の中では難題とも言える注文ではありますが、この辺が傑作になるかどうかのシビアな分岐点であるような気がします。

 現時点の評価
 高い技術が反映された力作ながら、あと一歩のところで良作・傑作とは言い難くさせる欠点もあるという事でA−寄りB+とします。ただ、今のところは短期打ち切りになるような感じもしませんね。長期連載の中で徐々に“味”が出て来れば、“関脇・小結”クラスで誌面の脇を固めるポジションぐらいは確保出来ると思うのですが。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週ネット界隈で話題になったのは、何と言ってもセンターカラーで最終回を迎えた『シャーマンキング』。まぁ、通常は円満終了・大団円であるはずのセンターカラーで、まるで“ロケットでつきぬけた”ような打ち切り色の強い尻切れトンボ最終回をブチカマしてしまったら、そりゃあ話題にもなるわな…といったところではありますが。
 内容面については、単刀直入に言えば「広げに広げきった風呂敷を(タイムリミットまでに)畳めなくなった」という事なんでしょう。以前、巻末コメントで「最終章突入です」という談話があり、完結までのストーリーラインは出来上がっていたのでしょうが、これだけ膨れ上がった設定や伏線をストーリーラインの中で消化しようとすると、物理的に色々な問題が出て来てしまうでしょうね。これだけの長期連載、話のスケールが大きくなってしまうのは仕方ない部分もあるんですが、ちょっとこの作品は限度を超えていたのかな、という感がありますね。
 また、武井宏之さんの持ち味である婉曲的な演出・ストーリーテリング手法が、ストーリー・設定の肥大化傾向にいらぬ拍車を掛けてしまった側面もあるのだろうと思います。恐らく全エピソード中の最高傑作であろうマタムネ編のように、その持ち味が完全に活かされると物凄い威力を発揮する才能ではあるのですが、これをメインシナリオの魅力に繋げ切れなかったのが、この作品の悲劇という事になるのでしょう。
 これだけ“着地”に失敗してしまった以上、最終評価は連載作品としてはギリギリ及第点の程度に留めなくてはならないでしょう。ただ、マタムネ編の完成度からも判るように、武井さんに非凡な才能が無ければここまでの長期連載が実現するわけもないわけですから、ここは一度態勢を立て直して頂いて、是非とも近い将来にリベンジしてもらいたいところですね。

 さて、まだ連載中の作品についても少々。
 相変わらず1回ごとのクオリティが程好く濃密なのが『アイシールド21』。小ネタを数個挟んでおいて、キチンと大きな見せ場を1つ用意するという構成が実に見事ですね。あ、勿論大きな見せ場は王城ツインタワー発動のシーンですよ。決して夕陽ガッツではなく。
 ……でもまぁブルマの存在そのものがネタになるというのも時代ですよね(笑)。何しろ、10数年前の「ジャンプ」では、当たり前のようにヒロインがブルマ姿を披露していたわけですから。こういう所から時代ごとの文化とか風俗が垣間見えてくるんでしょう……などと、久しぶりに(心底どうでも良い事について)学問っぽい切り口で語ってみたりして。
 あと、最近気になっているのが村田さんの絵柄。連載当初から鳥山明さんの、途中あたりから手塚治虫先生のタッチの影響が出て来てるのは判るんですが、他にもう少し影響を受けた巨匠クラスの作家さんがいそうな感じ。特にシリアスタッチの画風が誰かに似ているような気がしてならないんですが、よく判らない。物凄くもどかしいんですが……(笑)。

 『武装錬金』は急展開に次ぐ急展開から、スクランブル的に新章に突入してゆきそうですが、それにしても気になるのが戦士・剛太の噛ませ犬っぷり惚れた女性のためにした努力が全てその女性と別の男の恋愛成就のために浪費されてゆくというこの有様、嗚呼…これは……、

 まるで駒木ハヤトのプライベートそのものじゃないか!

 ……というわけで、剛太少年に感情移入したくなる気持ちもあるんですが、ただ、こういうファンタジーの世界で現実を忠実に再現されると応援する気が無くなってしまうというか(笑)。せめて夢の世界だけでも夢見させてくれよと。
 そういうわけで頑張れカズキ。もう20代も過ぎ去ろうとしているお兄さんに、せめて良いモノ見せてやってくれ。
 ──で、今日は単行本4巻の発売日だったんですが、「ライナーノーツ」を読んでいると、やっぱりこの作品、掲載順なりの人気に甘んじていた事が窺える部分がいくつもありました(苦笑)。それでも読者に媚びる事無く、自分の描きたい物と読者の求める物のギリギリの妥協点を追求しようとする姿勢も垣間見えるのが、天国も地獄も見て来た作家さんらしいですね。


「週刊少年サンデー」2004年40号☆

 ◎新連載第3回『東遊記』作画:酒井ようへい

 ●についての所見(第1回時点からの推移)
 
徐々に画力不足から来るアラが目立って来たかな…という印象です。第1回時点で指摘した戦闘シーンの拙さについてはあまり気にならなくなって来ましたが、今度は人物の表情、特に驚きや恐怖が表現し切れておらず、かなりの違和感を感じる場面が出ていました。
 また、その他の部分でも、“下手”ではなく“粗い”作画が見受けられるのが気になるところ。それでも割と普通に読めてしまうのは、根本的に好感度の高い絵柄なのでしょう。ただ、そこに甘えるのではなく、この長所を作品全体のセールスポイントにする努力をすべきだと思いますが。

 ストーリー&設定についての所見
 第1回同様、「夢」をテーマに据えた第2回もなかなかの完成度だったのですが、このテーマが無くなった第3回になって、急にストーリーが安っぽくなってしまった感じですね。物凄く他愛も無い事を大仰に見せてますが、それが却って話のスケールの小ささを際立たせてしまっているというか……。
 前に述べた通り…と言うか、最早言うまでも無く、この作品は既存の作品の影響を色濃く受けた“フォロアー的作品”です。この手の作品を創る際には、過去の名作が成功した方法論を再利用出来るという利点がある一方で、一旦クオリティが落ちたが最後、元々新鮮味が無い分だけに失敗が際立って見えてしまう…という欠点があります。つまり、この作品は生まれながらにして、「『DRAGON BALL』『ONE PIECE』に見劣りしないフォロアーであり続けなければならない」という厳しいノルマを課されているわけですね。
 それ故に、今回のように少しでもシナリオの質が落ちてしまうと一気に心証が悪くなってしまうのは否定の出来ないところ。借り物の方法論だけではなく、ストーリーテリング面での地力をもっともっと伸ばしていって欲しいです。まずは読者を笑わせ、感動させるような技術の習得からですね。『ONE PIECE』のフォロアーを目指すなら、特に後者の技術は必要不可欠でしょう。
 
 現時点の評価
 ストーリーテリング面の脆弱性が姿を現して来た…ということで、とりあえず評価はB+に下方修正です。ただ、これでもまだ弱含みですね。
 一応、過去にメガヒット作を生み出してきた方法論に基づいた作品ではありますので、ソコソコの商業的なヒットは期待出来るでしょう。が、現状ではクオリティの裏付けが無いだけに、将来性は不透明であると言わざるを得ないですね。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「対談するなら誰と? またその理由は」。
 真面目に答えると面白くなく、ウケ狙いに行くと外し気味になるという難しいお題だったような。一応、多数意見となると2票でブルース・リーですか。
 今の駒木にとっては余りにも非現実的過ぎる質問なんですよね。ファンの立場では対談というよりインタビューになっちゃいますしね。これは首尾良く駒木が著述業で食っていけるようになるまでお預けという事で。まぁ現状、「アメリカ横断ウルトラクイズで勝ち残った時までアメリカ旅行はお預け」くらい先の見えない話ではありますが(笑)。

 ──さて、今週は第3回後追いレビュー以来、とんとご無沙汰になっていた『クロザクロ』について。
 で、何故ご無沙汰だったかと言うと、正直言って、ここで採り上げるだけの“心に引っかかるモノ”が無かった、つまりは(当然読んではいますが)スルーしてた…というわけです。これが他の作家さんの作品なら放っておくんですが、当講座とも縁の深い夏目さんの作品で、「『スルーしている事実』をスルーする」というのはイカンと思い立ち、今回採り上げさせて頂きました。
 よって、今回結構ネガティブな事を細かく指摘します。『クロザクロ』ファンの方には極めて相性の悪い話になりますので、悪しからずご承知おきを。

 さて、この『クロザクロ』が、シナリオ構成の上でかなり特殊な作品であるという事は、皆さんもお判りになっているのではないかと思います。この作品は長編モノのセオリー──数話〜数十話で完結する“小エピソード”を連ねて1つの大エピソードを描いていく──を踏襲せず、1話目からページ数を費やして、“大エピソード”を淡々と進めていく手法を採っているんですね。
 この手法は、シナリオに一貫性を持たせたり、作品の完成度を高めるという長所があります。言い換えると単行本でまとめ読みするのに適した作品になりますね。ただしその反面、ストーリーの起伏が弱くなり読者の興味を惹き付ける要素を創り出すのが難しく、作品の魅力が発揮される前に読んでもらえなくなる危険性が高くなる…つまり雑誌の連載には本質的に不向きな作品であるとも言えるわけです。「8割の読者に嫌われる」どころか「8割の読者にスルーされる」危険性がある…と言えば判りやすいでしょうか。
 このタイプの作品を描く作家さんで成功している人に浦沢直樹さんがいますが、浦沢さんは過去の実績と固定ファンに支えられ、最初から単行本での読み応えを前提にした作品作りが許されている立場にいますから、これは例外中の例外と言えるでしょう。この『クロザクロ』は勿論、“例の中”にある作品です。

 では、このタイプの作品に全く勝ち目がないのかと言えば、決してそうでは無いはずです。確かにストーリーだけでは効果的な“集客”は難しいものの、それを他のファクターで補完する事も可能でしょう。
 駒木は、そのストーリー面の弱点を埋めるのは登場人物のキャラクターだと考えています。改めて言うまでもないマンガ作りの基本ですが、基本だからこそ大事な事とも言えるでしょう。
 例えば、歴代の「サンデー」作家さんの中で、ストーリーの起伏が緩い作品を好んで描く方にゆうきまさみさんがいます。ゆうきさんの作品がそんな淡々としたストーリー展開だったにも関わらず、他の作家さんの作品と遜色なく“集客”が出来ていたのは、『パトレイバー』然り、『じゃじゃグル』然り、数多くの極めて個性的なキャラクターが存在していたという要因があったのは明白でしょう。つまりは、「ストーリーはとりあえずさておいても、このキャラクターが活き活きと動いている所を見ていたい」と思わせる事で“集客”を実現した…というわけです。
 ただ、そんなキャラクター造型に長けたゆうきさんでも『KUNIE』で無残な打ち切りを喰らった事を考えると、このタイプの作品において、ストーリー面の脆弱性がかなり深刻であるという事も分かって頂けると思います。

 それでは、『クロザクロ』は現状、このストーリー面の脆弱性を登場人物のキャラクターでリカバー出来ているのでしょうか?
 結論から言うと、駒木は「否」だと思っています。この判断にはかなり個人の主観的な価値観が影響しますので、駒木のこの判断が正しいと断言出来るものではありませんが、個人的には「かなりヤバい所まで来ている」とさえ考えています。
 まず、ストーリーに深く絡んでいる登場人物の数が、第6話の時点で(多めに見積もっても)5人。しかもその5人も毎回登場するわけでもありません。更に、作品に彩りを添えるサブキャラも幹人の家族ぐらいなもので、それさえも最近は不在という状況です。
 そんな“量”的な不安を抱えている上に、“質”の面でも物足りなさが残ります。キャラクターの魅力というのは、本来ストーリーと関係の無い“遊び”の部分から見出されるモノだったりするのですが、この作品の登場人物は、その要素が物足りないような気がするのです。確かにストーリーに説得力を持たせる程度のキャラ付けは為されてはいるのですが、登場人物そのものが魅力的に映るほどのキャラ造型には至っていないように思えてならないんです(例外として、ごく一部で話題になってる“スパッツ”がありますが)

 ……そういうわけで、少なくともストーリーが盛り上がって来て、それだけで読者を惹き付ける事が出来るようになるまでは、登場人物の魅力で引っ張る必要性があるでしょう。新キャラを出すも良し、現有戦力のパワーアップを図るも良し、とにかく登場人物のファンを作るような試みを期待します。
 ただ、現状でもアンケートの結果が良いのであれば、それは「今のままでも大丈夫」という事なんだろうと思います。その場合は、万が一人気が落ちて来た時の処方箋として一考して頂ければ…と思う次第です(笑)。

 しかし「サンデー」では、超A級のキャラクターを確保していながら今一つ伸びきれない『こわしや我聞』みたいな作品もあるわけで、本当にマンガって奥が深いと思いますね。

 

 ……というわけで、今日の講義はここまで。
 あ、時間の都合で採り上げませんでしたが、絵の上手い人が6本指の手を描くと、なかなか気付かないものですね(笑)……などと、集英社の方に向かって言いつつ、退場させて頂きます。では。


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