「社会学講座」アーカイブ(競馬学関連・3)

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講義一覧

6/29 競馬学概論「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(15)」
6/22 競馬学特論「G1予想・宝塚記念編」
6/15 
競馬学概論「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(14)」
6/8  競馬学概論「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(13)」
6/1  競馬学特論「G1予想・安田記念編」

5/26 競馬学特論「G1プレイバック・東京優駿(日本ダービー)編」
5/25 競馬学特論(短縮授業)「G1予想・東京優駿(日本ダービー)編」

5/18 
競馬学特論「G1予想・優駿牝馬(オークス)編」
5/11 
競馬学概論「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(12)」
5/4  
競馬学特論「G1プレイバック・天皇賞(春)&NHKマイルC」

 

6月29日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(15)」
懺悔番外編:宝塚記念3歳馬挑戦史

珠美:「さて、ご覧のように今日は番外編となります。しかも『懺悔番外編』(苦笑)。どうしてこんな事になったかは、博士から直接説明して頂きましょう」
駒木:「え〜、談話室(BBS)によくいらっしゃる受講生の方は、もうご存知だと思いますが、問題の発端は先週の競馬学講義でした。

駒木:「(前略)……3歳馬の挑戦と言うと、ここ10年ではたった1度、6年前にマル外牝馬のヒシナタリーが挑戦してる。この時は斤量52kgで、13頭中10番人気の4着と健闘してるね。3着のダンスパートナーとハナ差だから、この4着は価値が高いと言っていいんじゃないかな……(以下略)」 

 ……頭ボケボケの未明に行った講義とはいえ、とんでもないボーンヘッドでした。
 この箇所に関して、講義の直後から受講生の方たちの指摘が相次ぎました3歳馬(注:以下、旧表記時代の馬齢も新表記で統一します)の挑戦はもっとたくさんあるじゃないか、そんな指摘でした。
 そうです。宝塚記念における3歳馬の挑戦は、ヒシナタリー以外にも、まだたくさんありました。その中には駒木が実際に競馬場で生観戦した年のレースもあり、まったくお恥ずかしいばかりであります。
 そこで今回は、そんなチョンボの罰符代わり「宝塚記念3歳馬挑戦史」をお送りする事になりました。どうぞよろしくお願いします」
珠美:「……というわけで、今日はいつもの競馬学概論講義とは違うスタイルでお送りしますね。普通なら、私がレースの概要や出走馬の紹介をして、それを博士に解説して頂くんですが、今日はそれも博士にやって頂くことになります。そういうわけで、私は単なる進行役に徹させて頂きますので、どうぞよろしくお願いします。
 では博士、まずは宝塚記念の概要を、3歳馬の出走条件のお話を中心にお話して下さいますか?」

駒木:「うん。宝塚記念が創設されたのは1960年(昭和35年)のこと。4年前に創設されたグランプリ・有馬記念の成功を見て、「これはイケる」と思った競馬関係者が、その関西版を作ってみようって思ったという、ある意味安直なアイディアだったらしい(笑)。ファン投票による出走馬選定、というのもそういう理由からだね。
 で、創設当時の条件は、阪神競馬場の芝1800m距離は徐々に延長されて第7回から2200mになった。そして気になる年齢上の出走条件は、意外な事に当時から3歳以上なんだよね」
珠美:「えっ、第1回から3歳馬に門戸が開かれていたんですか?」
駒木:「そうなんだ。ただその時は、1968年の第9回から出走条件が4歳以上に変わってしまう。レースの施行時期がダービーの翌週とか翌々週になってしまったからなんだ。それまでの8年間で3歳馬が勝ち馬になった事もなかったし、それなら古馬のローテーションに合わせて、春の天皇賞から狙いやすい涼しい時期に施行しようということになったんだと思う。今と逆の発想だね。今は3歳馬が挑戦しやすいように、ダービーから狙いやすい時期に施行してるわけだから」
珠美:「なるほど……。同じレースでも、考え方次第によって、随分とスタイルが変わってくるものなんですね。
 あ、ところで博士、その第1回から8回までは、3歳馬の挑戦はあったりしたんですか?

駒木:「え〜とね、とりあえず手元に第1回から第5回までの出走馬全成績表があるんだけど、それが結構挑戦してる3歳馬は多いんだよね。
 まず第1回は3頭で、第2回は4頭立てだったんだけど、それでも1頭出てる。その後も第3回に1頭、第4回に4頭、第5回も1頭。第4回に出走が多かったのは、この年から第8回まで斤量が賞金別定になったんで、軽量で出走できる二線級の3歳馬が集まったんじゃないかと思うよ。
 このあたり、もうちょっと詳しい話が分かれば良かったんだけどね。大阪のJRA広報センターまで通えば、もっと詳しい資料が見つかったと思うんだけど、そこまで通う余裕が無かったんだよ。その辺は、また時間が作れたら続編をお送りするという事で」
珠美:「分かりました(笑)。
 ……それでは、それから次に出走条件が3歳以上に変更されてからのお話をして頂きましょう」

駒木:「はいはい。また条件が3歳以上になったのは1987年の第28回から。でも、時期がダービーから中1週という過酷なローテーションだったことと、古馬の出走馬レヴェルが高めだったのもあって、挑戦する3歳馬はなかなか現れなかったんだ。出走条件の再変更後、実際に3歳馬がエントリーしたのは1991年が初めての事だったよ。
 …それじゃ、1991年宝塚記念の出馬表を見てもらおうかな。馬名欄が薄緑になっているのが3歳馬だよ」

馬  名 騎 手
メジロライアン 横山典
イイデセゾン 田島良
ホワイトストーン 田面木
タイイーグル 安田隆
イイデサターン 村本
オースミシャダイ 松永昌
ミスターシクレノン 角田
ショウリテンユウ 西浦
バンブーメモリー
10 メジロマックイーン
(単枠指定)
武豊

珠美:「単枠指定っていうところに時代を感じさせますね(笑)。まだ馬券が枠連しかなかった頃に、同枠馬の出走取り消しでトラブルになるのを避けたり、オッズが割れるようにする狙いなんでしたっけ?」
駒木:「そうそう。一定の評価は受けてた一方で、『JRAが強い馬を予想してるのと一緒だ』って批判もあったりした。馬連が定着した今では、もう昔話だけどね」
珠美:「それでは、この年のレースと、出走した3歳馬についてのお話をして頂けますか?」
駒木:「レースの模様は詳しく解説したいところだけど、時間の都合もあるから簡単にね。
 この年の宝塚記念はメジロライアンが唯一のG1勝利を飾ったレースとして有名だね。ライアンは、ここまでG1レースを5回走って、2着2回、3着2回、4着1回という典型的なイマイチ系名馬。2回の2着は、ダービーとオグリキャップの引退レースになった有馬記念。もう典型的な引き立て役なんだよね(苦笑)。
 でもこのレースは、そんなメジロライアンが主役を務めた数少ない機会だった。なにせ、3コーナーから先頭に立って、先行していたホワイトストーンを競り落とした上にメジロマックイーンを完封だからね。
 このG1勝ちが無かったら、引退後の種牡馬としての価値も下がっていただろうし、そうしたらメジロブライトとかの代表産駒は生まれていなかったかもしれない。それを考えると値千金の勝利だよね。
 あ、あともう1つ。このレースは杉本清アナウンサーが、始めて『私の夢』、つまり自分の馬券の軸馬を放送中に公開したレースとしても知られてる(笑)。『あなたの夢はメジロマックイーンか、ライアンか、ストーンか。私の夢はバンブーですってね(笑)。結局、杉本さんの夢はシンガリ負けだった」
珠美:「(笑)」
駒木:「あと、2頭の3歳馬についてだね。この年挑戦したのは、皐月賞・ダービー3着馬のイイデセゾンと、僚馬・イイデサターンイイデの冠名を持った馬はこの年3頭ダービーに出走してるんだけど、その内の2頭だね。イイデの馬主さんは、初めて買った馬の中にこの年の3頭がいたらしいんだから、凄い幸運だよねぇ。
 で、中1週で果敢に宝塚記念に挑んだわけだけど、イイデセゾンなんか、これがデビューから19戦目。ローテーションもキツかったし、さすがに上がり目が無かったみたいだね。相手も当時の古馬最強クラスが出ていたわけだから、力関係も厳しかったイイデセゾンは見せ場無く流れ込みで7着。イイデサターンは逃げ潰れて9着に惨敗しているよ
珠美:「…ハイ、ありがとうございました。それでは時間もありませんし、次のレースの解説をお願いします」
駒木:「その次に3歳馬が挑戦したのは1994年だね。これも出馬表を見てもらおうか」

馬  名 騎 手
インターマイウェイ 田島信
ナイスネイチャ 松永昌
ステージチャンプ 南井
ゴールデンアワー 山田泰
ダンシングサーパス 熊沢
ネーハイシーザー 塩村
サクラチトセオー 小島太
アイルトンシンボリ 藤田
アラシ 土肥
10 マチカネタンホイザ 柴田善
11 ルーブルアクト 清山
12 ベガ
13 ビワハヤヒデ 岡部
14 イイデライナー

珠美:「あ、またイイデの馬ですね」
駒木:「そうだね。このイイデライナーも大概なハードスケジュールだよ。ずっと使い詰めで皐月賞、京都4歳特別、ダービーと来て、中1週で宝塚記念。この馬主さん、エグいことするよねえ(苦笑)。まぁ、数を使う事では有名な大久保正陽厩舎だってこともあるけれどもね。
 この年は、ビワハヤヒデが単勝1.2倍の圧倒的人気を背負って、それを裏切らずに正攻法で完勝。この頃から弟ナリタブライアンとの兄弟対決が話のタネになって来たりしたね。
 で、イイデライナーは良い所無く12着惨敗。ダービーが2ケタ着順だった事もあって最低人気だったし、まぁ仕方ないって所かな」
珠美:「えーと、そして次がヒシナタリーの出走した1996年ですね」
駒木:「そうなるね。じゃあ、このレースは出馬表を見てもらって、あとは最低限の話にとどめようかな」

馬  名 騎 手
カミノマジック 菊沢仁
レガシーワールド 芹沢
ヒシナタリー 熊沢
サンデーブランチ
ゴールデンジャック
サージュウェルズ 大崎
ダンスパートナー 四位
フジヤマケンザン 村本
マヤノトップガン 田原
10 ホマレノクイン 石橋
11 オースミタイクーン
12 カネツクロス 的場
13 ヤマニンパラダイス 河内

珠美:「一見、豪華メンバーに見えるんですけど、実はそうではないんですよね、このレースは」
駒木:「そうだね。レガシーワールドもヤマニンパラダイスも、故障や年齢的な衰えで力を失ってしまってたからね。この年の出走馬では、純然たるG1級と言えるのがマヤノトップガンだけ。そして結果もトップガンが単勝2.0倍の1番人気に応えて完勝を果たしている。で、ヒシナタリーは4着健闘。この年から7月開催になってローテーションが楽になった事や、恵まれた相手関係を考慮したとしても、よくやったの一言じゃないかなぁと思うよ」
珠美:「それではどんどん先にいきましょう。次は1999年ですね」
駒木:「談話室でも言ったんだけど、この年は現場で見てるんだよなあ(苦笑)。ちょっとしたスランプで7番人気に落ちてたステイゴールドからの勝負馬券を握ってて、絶叫した記憶が生々しく残ってる(笑)。結局、2着から7馬身差の3着だったんだけどね(苦笑)」

馬  名 騎 手
ステイゴールド 熊沢
ヒコーキグモ 安藤勝
オースミブライト 蛯名
スエヒロコマンダー 藤田
グラスワンダー 的場
インターフラッグ 河内
マチカネフクキタル 佐藤哲
スターレセプション
スペシャルウィーク 武豊
10 キングヘイロー 柴田善
11 ローゼンカバリー 菊沢徳
12 ニシノダイオー 村本

珠美:「だんだん競走馬として親しみのある馬名が多くなって来ましたね」
駒木:「そうだね。で、この年の宝塚記念は、グラスワンダーがスペシャルウィークを競り落として1着。前年の有馬記念からのグランプリ連覇達成となる。人気の2頭が人気通り走ったんで、馬連配当は200円。ちょっとギャンブルとしてはゲンナリする結果だよね(苦笑)。
 このレース唯一の3歳馬・オースミブライトは、テイエムオペラオー・アドマイヤベガ世代だね。皐月賞2着、ダービー4着からの参戦。上位2頭から離されながらも3番人気に推されたんだけどね、やっぱり古馬の壁は厚くて、流れ込みがやっとの6着に負けてる。クラシックの伏兵クラスじゃ連絡みは厳しいメンバーだったよね。今年の出走馬レヴェルだったら、ひょっとしたかもしれないけど、まぁ仕方ないね」
珠美:「そして最後は昨年・2001年ですね。……って、博士、去年の出来事忘れてちゃダメじゃないですか(苦笑)」
駒木:「まったくだよねえ(苦笑)。去年のレースも現場で観てるんだよ。オフ会徹夜カラオケ明けというとんでもないシチュエーションだったんだけど(笑)」

馬  名 騎 手
ミッキーダンス 河内
ダービーレグノ
メイショウドトウ 安田康
テイエムオペラオー 和田
トーホウドリーム 安藤勝
ホットシークレット 柴田善
ダイワテキサス 岡部
エアシャカール 蛯名
ステイゴールド 後藤
10 アドマイヤカイザー 芹沢
11 アドマイヤボス デザーモ
12 マックロウ 藤田

珠美:「懐かしいというか、記憶に新しいというか、そんなレースですよね」
駒木:「ホットシークレットが逃げて、それをメイショウドトウが早めに捕まえて優勝。ところがオペラオーがズブくてねぇ。直線半ばからようやく伸びてきたんだけど、最後は2着も怪しかった。メイショウドトウは悲願のG1初制覇。なんか、メジロライアンとちょっと似てるのが面白いね。
 ダービーレグノはシンザン記念の勝ち馬皐月賞でも5着と健闘してたんだけど、やっぱりこの年は、その程度の馬が活躍できるにはレヴェルが高すぎたね。ブービーに負けてるけど、仕方ないと思うよ」
珠美:「……と、これで全部終わりましたね。博士、お疲れ様でした」
駒木:「あー、しんどかった(笑)。こんな事がもう二度と無いように頑張りますので、これからもまたよろしくお願いします。
 ……といったところで、今日の講義を終わります。ご清聴どうもありがとう」

 


 

6月22日(土) 競馬学特論
「G1予想・宝塚記念編」

珠美:「いよいよ春シーズン最後のG1レースになりましたね。宝塚記念の直前予想です」
駒木:「散々だった春シーズンも漸く終わるのか。長かったねぇ(苦笑)」
珠美:「本当に今年は皆さんに御迷惑をかけてばかりでした。最後ぐらいはビシッと当てたいものですよね。
 あ、でも、博士と私の本命馬が重なると当たらないジンクスが……(汗)」

駒木:「あー、本当だ。またカブってるねぇ(苦笑)」
珠美:「ハイ。そうなんですよねー(苦笑)。
 あ、博士と私の予想はこちらの出馬表をご覧下さい」

宝塚記念 阪神・2200・芝

馬  名 騎 手
  ローエングリン 横山典
×   テンザンセイザ 四位
ダンツフレーム 藤田
× エアシャカール デザーモ
    マチカネキンノホシ 岡部
×   フサイチランハート 江田照
    トウカイオーザ 熊沢
  ホットシークレット 柴田善
ツルマルボーイ 河内
    10 ミツアキサイレンス 川原
    11 アクティブバイオ 後藤
    12 トウカイポイント 小林淳

駒木:「他の印はバラバラなのに、どうして本命だけカブっちゃうかな(苦笑)」
珠美:「ホントですね(苦笑)」
駒木:「まぁ、ここで言っても始まらんし、藤田騎手とダンツフレームにジンクスを破ってもらうしかないよね。
 …じゃあ、愚痴ばっかり言ってないで本題に移ろうか。珠美ちゃん、いつも通り進行をお願いするよ」
珠美:「ハイ、分かりました。それでは今日も博士に1頭ずつ解説していただきます。まずは1枠1番、唯一の3歳馬・ローエングリンからお願いします」
駒木:「まずは3歳馬が果敢に挑戦してくれた事に敬意を表したいね。これでこのレースの興味深さが大分変わってきたと思うしね。
 で、この馬の評価なんだけれども……。
 3歳馬の挑戦と言うと、ここ10年ではたった1度、6年前にマル外牝馬のヒシナタリーが挑戦してる。この時は斤量52kgで、13頭中10番人気の4着と健闘してるね。3着のダンスパートナーとハナ差だから、この4着は価値が高いと言っていいんじゃないかな。
 ヒシナタリーのこの時点での主な実績は、G3フラワーC勝ちと、NHKマイルC6着ってところかな。後になって古馬の牡牝混合重賞やら阪神牝馬特別(G2)やら勝ってるから、潜在能力はソコソコ高かったんだろうけど、当時としては二線級という評価だった。それでこの健闘だから、『やっぱり斤量差は大きいんだな』って言われたもんさ。
 そして今回のローエングリン。当時よりも斤量差は1kg有利になって、なおかつメンバーにも恵まれてる。実績面を見ると、重賞勝ちこそ無いけれどもヒシナタリーとほぼ互角と考えて良いだろうね。ペースを抑えて逃げられそうなのも有利のはずだし、上位に食い込む可能性は十分過ぎるほどありそうだ。でもねぇ……」
珠美:「でも、何ですか?」
駒木:「いくら前途有望な未来のG1馬候補とは言え、今年の出走馬レヴェルが低いとは言え、格下相手のオープン特別を2勝しただけの3歳馬が宝塚記念勝っちゃうのは、いくら何でもファンタジーの世界だって思ってしまうんだよねぇ。何と言うか、W杯で日本や韓国が優勝しちゃうみたいな、そんな違和感。僕は掲示板止まりかなって、そう思っているよ」
珠美:「…逃げるのはこの馬と考えて良いですか?」
駒木:「そうだね。普通にスタートを切れば、自然とハナを切る形になるんじゃないかと思う。ハナに立てさえすれば、まぁ競りかけられることも無いだろうね。あとは決め手勝負になった時にどれだけの脚が使えるかだろう」
珠美:「…なるほど、分かりました。それでは、次に2枠2番のテンザンセイザをお願いします」
駒木:「3歳時は京都新聞杯を勝った後にダービー6着。そして京阪杯を勝って、4歳になってから重賞3着が2回か。前々走の大阪杯は好位でのケイバを試して失敗したものだから度外視するとしても、ややG1だと格下感は否めないよね。
 それでも、決め脚だけは強烈だからねぇ、この馬。今回は2着争いが相当混戦になりそうなんで、地力無視の瞬発力勝負になった時なんか、この馬がギリギリ突っ込んで来てもおかしくはないと思う。あくまで伏兵だけどね」
珠美:「では、次に私たちの本命馬、そして前日前売りオッズ1番人気3枠3番ダンツフレームをお願いします」
駒木:「安田記念は2着に負けたとは言え、あっぱれな内容だったよね。元々がクラシック戦線でジャングルポケット辺りと互角以上の勝負を繰り広げてた馬。本調子になればアレぐらいは走って当然だったんだ。
 で、今回だけど、気が付いたら回避馬が相次いで、いつの間にかこの馬が一番格上になってしまってた(笑)。元々が中〜長距離で活躍していた馬だから距離延長はむしろプラスだろうし、地力勝負と決め手勝負、どちらでも対応できる奥の深さも有る。馬自体のデキも、ここしばらくでは最高のものだし、文句無しの最有力候補だと思うよ。
 問題を挙げるとすれば、これまでの実績を見ての通り、土壇場での勝負弱さがあるところかな。足元すくわれて取りこぼすパターンが怖いといえば怖い。元々、G1勝って当たり前のレヴェルじゃないわけだしね」
珠美:「楽しみ半分、怖さ半分ってところでしょうか(苦笑)。それでは次に4枠4番、今回のメンバー中、唯一のG1ホース・エアシャカールの解説をお願いします。意外と博士の評価が低いのが気になるんですけど……」
駒木:「うん。思い切って評価を下げたからね。
 このエアシャカール、皐月賞と菊花賞を勝って、ダービーではハナ差の2着本当にあと一歩で三冠馬に手が届いた馬なんだけど、この世代でクラシック走っていた馬は、揃ってその後が大不振でねぇ。マル外のアグネスデジタル、エイシンプレストンが国内外で大活躍したのとは正に好対照なんだ。もし、この馬が三冠馬になってたら、“史上最弱の三冠馬”という有り難くない称号を貰うのは必至だったと思う。だからG1を2つ勝ってるって言っても、多少の修正が必要だと思うね。
 この馬の特徴としては、とにかく決め脚が無いってこと。上がり3ハロンのタイムが35秒を切ったのは1回しかない。その1回にしたって34秒9だからね。直線半ばで抜け出した後に、後ろから来た馬にズブズブと差されるのがこの馬の負けパターン。その代わりハイペースでも35秒台の脚が使えるから、決め脚タイプの馬が道中で脚を使わされて伸びあぐねる流れになると強いんだな。
 ただ、今回のレースはどう考えても決め手勝負だからねぇ(苦笑)。3〜4番手から早目先頭に立って、ゴール前でバタバタと交わされるのが目に浮かぶんだな(苦笑)。果たして交わされるのは1頭なのか、2頭なのか。しかも調教の様子を見るとデキもイマイチみたいだから、一旦先頭に立つ事も無く失速する可能性も少なくない。ちょっと悲観的な見方しか出てこないんだよね。だから僕の評価は×印止まりってわけ」
珠美:「騎手が外国人のデザーモ騎手というのはどうなんですか?」
駒木:「うん。それはプラスだね。ひょっとしたら、これまで見せた事の無い新味を出してくれるかもしれない。ただ、前々走の大阪杯でデムーロ騎手が乗って、見事に負けパターンにハマっての2着だからねぇ(苦笑)。だから、過大な期待を抱くのはちょっとね
珠美:「この講義ではいつもの事なんですけど、不安になって来ました(苦笑)。印を変えたい心境です(笑)」
駒木:「それは僕も同じだよ。解説してる内に結論を変えたくなる事がしばしば有ったりするから(苦笑)。でも、そんな事だから予想が当たらないんだな、きっと(笑)」
珠美:「(苦笑)。では、次は5枠になりますね。ここからは2頭ずつの解説でお願いします」
駒木:「まずはマチカネキンノホシだね。本当はこの馬にも×印くらい打たなきゃなって思うんだけどね。京都記念ではテンザンセイザに先着しているし。
 でも、何て言うのかな、この馬には意外性が無いんだよね。もうパフォーマンスの最大値が固定されてしまっているって感じ。この馬って、大体G2の中〜下位クラスなんだよね。G2でもG1のステップレースになると、途端に勝てなくなる。それを考えたら、このレースも入着止まりかなって気がするんだな。
 それとは逆に、『ひょっとしたら…』と思わせるのがフサイチランハート。条件馬生活が長かったんだけど、それがオープンに挑戦するなりAJCCを勝ち切って、ダイヤモンドSでも57.5kg背負って2着でしょ。前走は実力考査には全く当てにならない目黒記念だし、休み明けで苦手の道悪だから度外視できる。問題はAJCCもダイヤモンドSも大したメンバーじゃなかったって事なんだけど、実質上のキャリアが少ない分だけ面白味があるんだ。特に今回は2着争いなら大抵の馬でも食い込める余地が有るし。まぁ、大穴狙うならこの馬からってところかな。騎手も穴ジョッキーの江田照男騎手だし」
珠美:「……では、次に6枠の2頭をお願いします」
駒木:「トウカイオーザは、有馬記念で穴人気したくらいの期待馬だったんだけど、この春シーズンで能力が割れてしまった感じ。そもそも唯一に近い実績がアルゼンチン共和国杯。このレースと目黒記念は本当に実力考査に役立たないからねぇ。本来G2で入着級の馬だとしたら、このメンツでもちょっと足りないんじゃないかな。
 で、去年のこのレースであわやテイエムオペラオーに先着するかどうかまで健闘したホットシークレット。この馬、凡走する時はとことん凡走するからイメージは悪いけど、結構強いんだよ。本来の格はダンツ、エアシャカールの次くらい。それを考えたら随分と人気が低いって言えるよね。
 それにこの馬、逃げ一辺倒じゃなくて、条件さえ整えば好位差しでも十分戦えるんだよ。だから、ハナに立てなくても勝ち目が無いわけじゃない。ただ、その場合はエアシャカールと追い比べをするという難題が待ち構えてはいるんだけど。あ、もちろんハナを切れれば当然有力候補だね」
珠美:「そのホットシークレットがハナを切れる確率はどれくらいあるんでしょうか?」
駒木:「どうだろうなぁ。ハナを切りたいとは思ってるから、最初から控える事は無いと思う。やっぱりスタート次第だね。大体2〜3割ってところじゃないのかな」
珠美:「微妙ですねー」
駒木:「微妙だね(苦笑)。でもまぁ、今回の僕の予想は、エアシャカールが凡走する事を前提にしてるようなもんだからね。全てが微妙なんだよ(笑)」
珠美:「なるほど、分かりました(微笑)。それでは次に7枠の2頭をお願いします」
駒木:「まずはツルマルボーイだね。金鯱賞でエアシャカールを破った昇り馬。本来ならこういう馬は、G1馬の陰に隠れて4〜6番人気くらいになるんだよね。それでいてこういう馬は、2着に突っ込んで来て中穴メーカーになる事がよくあるんだ。これは不思議な事に、理屈じゃなくて何故か2着に飛んでくるんだよな。
 けれども、今回は出走馬の層が薄いから妙味が薄れちゃったよねぇ(苦笑)。でもまぁ、ローゼングリンが穴人気してくれたお陰で、まだ馬連はどの組み合わせも10倍以上あるのは有り難いね。オイシイと言えばオイシイ。本来はジャングルポケットとかサンライズペガサスがいて、そういうオッズになる存在なんだからね。
 この枠もう1頭のミツアキサイレンスは、どうやらピークを過ぎててデキ不足みたい。元々がそれほど地力に恵まれた馬ではないだけに、ちょっと苦戦だね」
珠美:「…ハイ。では、最後に8枠の2頭についてお願いします」
駒木:「アクティブバイオは日経賞でマンハッタンカフェに勝ってるんだけど、大凡走した実力馬に先着しても自慢にならないしねぇ。それに今年の日経賞は、マンハッタンカフェを除けばオープン特別並みの低レヴェルだった。天皇賞では大敗してるし、目黒記念は2着でもアテに出来ないレースだし……。ちょっとセールスポイントに欠けるかな。
 トウカイポイントは中山記念をレコード勝ちしてるんだけど、どうやら1800mがベストで、この距離は守備範囲外みたいだ。陣営も弱気ムードだし、ちょっと買い被れないね。
 …僕からは以上だよ」
珠美:「……ハイ、ありがとうございました。それでは最後に馬券の買い目を紹介して講義を締めくくりたいと思います。まずは博士からお願いします」
駒木:「はいはい。印を見て分かるように、今回はタテ目無し。思い切ってダンツフレームから心中だ。3を軸に9、8、4、2、6の5点。3-4で決まっちゃったら赤字だけど仕方ないね」
珠美:「私は3、4、9、1の4頭6点BOXです。私も3-4だと赤字ですね。でも、もう当たれば何でも良いです(苦笑)」
駒木:「ミもフタもないなあ(苦笑)。まぁ、メンバーは寂しいけど、気持ちの良いレースが観たいね。サッカーがアレだけに、クリーンで公正なレースを是非お願いしたいね」 
珠美:「そうですね。良いレースを期待しましょう。では博士、お疲れ様でした」
駒木:「うん。お疲れ様。これで講義を終わります」


宝塚記念 結果(5着まで)
1着 ダンツフレーム
2着 ツルマルボーイ
3着 ローエングリン
4着 エアシャカール
5着 マチカネキンノホシ

 ※駒木博士の“勝利宣言&講義の訂正(苦笑)”
 久々に気持ちの良い的中でした。終わってみればいかにも宝塚記念らしい組み合わせの決着と言うか、何と言うか。
 ただ、談話室で受講生の方に講義内容に誤りがあると指摘を受けましたので、訂正しておきます。画竜点睛を欠くとはこの事だ、嗚呼(涙)。
 まず、もう訂正しましたが、5歳世代のマル外はアグネスフライトではなくアグネスデジタルです。デジタルって言ったつもりだったんですけど、レジュメを読み返したら確かにフライトと(苦笑)。お詫びして訂正します。
 あと、3歳馬の宝塚挑戦は99年のオースミブライト(6着)がありました。過去10年の上位5着までの一覧表を見つつ、記憶の糸を辿っていたので完全に頭からぶっ飛んでいました。申し訳ございません。今後は、より一層正確な講義を心がけますのでどうぞよろしく。

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 
印を付けた4頭が上位独占! もう最後の直線がこんなに楽しいレースなんてどれくらい振りだったでしょうか(笑)。これでローエングリンとダンツフレームが入れ替わってくれていれば良かったんですけど、それは贅沢すぎる注文ですね(苦笑)。

 


 

6月15日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(14)」
1997年朝日杯3歳S/1着馬:グラスワンダー

駒木:「さて、今週採り上げるレースは5年前の朝日杯3歳ステークス。今の朝日杯フューチュリティステークスだね。本当は時期的に合わせて宝塚記念にしたかったんだけど、もう宝塚記念は何回もやってるからね」
珠美:「そう言えば、朝日杯はこれまで採り上げたことが無かったんですね。ちょっと意外な感じがしますけど……」
駒木:「そうだよね。まぁ、若馬のレースだと、なかなか見応えのあるレースにならないっていうのもあるかな。出てくるメンバーも、『昔の神童、今の凡人』みたいな馬が多いし、どうしてもレース全体が話題になる事が少ない。
 でもまぁ、今回はレースの内容的にもメンバー的にも、文句は無いんじゃないのかな」
珠美:「うわあ……確かに凄いメンバーですね。
 ……あ、失礼しました。私たちだけ盛り上がってたらダメですね(苦笑)。では、皆さんにも出馬表をご覧頂きましょう」

第49回朝日杯3歳S 中山・1600・芝

馬  名 騎 手
アイアムザプリンス ロバーツ
アグネスワールド 武豊
セイクビゼン 浜野谷
フィガロ 福永
ユーワケンタッキー 坂井
ボールドエンペラー 松永幹
オンクラウドナイン 横山典
マイネルメッサー 田中勝
マチカネサンシロー 柴田善
10 マイネルラヴ 蛯名正
11 グラスワンダー 的場
12 シンボリスウォード 岡部
13 マウントアラタ 小池
14 ダイイチレーサー 四位
15 メインボーカル

駒木:「凄いよねえ。この年代の外国産馬のヒーローが軒並み出走してて、なおかつ数少ない内国産馬の中には後のダービー2着馬・ボールドエンペラーまでいるし。間違いなく、全体的なレヴェルは90年代でナンバーワンだろうね。
 ……それじゃあ、そんなハイレヴェルな出走馬も含めて、レースの紹介をしてもらおうかな。珠美ちゃん、お願い」
珠美:「…ハイ。この朝日杯と名のつくレースは、1949年に関東所属の(旧)3歳ナンバーワン決定戦として誕生しました。当時は関西の阪神3歳ステークス(当時)と並んで、東西別のルーキー最強馬決定戦でした。レース価値は昔から高いものとされ、グレード制導入時からG1格付けを獲得しています。
 そんな朝日杯に大きなレース条件変更があったのが1991年です。朝日杯3歳ステークスと阪神3歳ステークスは、それまでの東西別から、牡牝別のルーキー最強馬決定戦に変更になったんですね。阪神3歳ステークスが牝馬限定の阪神3歳牝馬ステークス(後の阪神ジュベナイルフィリーズ)にリニューアルされたのと同時に、朝日杯は牡馬、せん馬限定のレースへと条件変更になりました。ちなみに、その1991年にこのレースを勝ったのはミホノブルボン。そして阪神3歳牝馬ステークスの勝ち馬はニシノフラワーでした。
 そして、この1997年のレースは、リニューアルしてから数えて7回目にあたるレースになります」

駒木:「この頃の朝日杯3歳ステークスっていうのは、ダービー戦線に直結するレースとして、かなり重要視されてたんだ。早熟のマル外を抑えて勝った内国産馬は、ほぼ間違いなく出世していった。さっき珠美ちゃんに挙げてもらったミホノブルボンもそうだし、ナリタブライアンもそう。クラシックには縁が無かったけど、フジキセキ、バブルガムフェローなんて強い馬たちもいるね。
 それを考えると、ここ数年の朝日杯組内国産馬の凋落振りは残念だよね。今じゃクラシック向けには、G3のラジオたんぱ杯の方がグレード高いような気がするくらいだし」
珠美:「やっぱり距離が1600mというのが問題なんでしょうか?」
駒木:「だろうね。皐月賞が2000mなんだし、朝日杯を2000mにして、ラジオたんぱ杯をマイルにすりゃいいのにって思うんだけど、まぁ“天下の”JRAがやる事だからねぇ。
 ……まぁその辺の話は、また別の機会にしよう。珠美ちゃん、人気上位馬の紹介をよろしく」
珠美:「分かりました。それでは人気順に紹介していきますね。
 まずは1番人気・グラスワンダーです。ここまで3戦3勝、レースを重ねるごとに着差を広げてゆき、前走の京成杯3歳ステークス(当時)では1.0秒、6馬身差の圧勝で単勝1.1倍の圧倒的人気に応えています。この時も調教で絶好の動きを見せ、単勝1.3倍という断トツの1番人気に推されていました。
 2番人気はフィガロ。戦績は2戦2勝で、前走の京都3歳ステークス(当時)を余裕残しで差し切っています。また、新馬戦で見せた上がり3F33秒台の末脚も高く評価されていました。
 3番人気から10倍台のオッズになりまして、アグネスワールド。夏の函館チャンピオンで、こちらも2戦2勝の成績。ただ、今回は休養明けからぶっつけ本番。馬体重も+26kgと、やや不安の残る臨戦過程でした。
 4番人気がシンボリスウォード。この馬も2戦2勝ですね。2戦目に勝ったレースは平場の500万下条件戦だったんですけど、勝ち時計が優秀だった事もあり、穴人気した格好になりました。
 5番人気がマウントアラタ。デビュー戦では後手を踏んで大敗しましたが、2戦目からは卓越したスピードを活かした逃げで連勝。この朝日杯でも、そのスピードがどこまで通用するのかが注目を集めました。
 6番人気がマイネルラヴ。ここまで4戦2勝2着2回と堅実なところを見せていました。前走は東京スポーツ杯3歳ステークスで2着。1着はラジオたんぱ杯に回ったキングヘイローでしたので、東スポ杯組では最先着馬ということになりますね。でも、この戦績でも6番人気ということは、やっぱり他の人気上位馬に比べるとインパクトが弱かったということなんでしょうね」

駒木:「普通の年なら、3番人気までの3頭はどれも1番人気候補だし、4番人気から6番人気までの3頭はどれも2番人気候補だよね。世代によっちゃ1番人気でもおかしくないかもしれない。大体さぁ、驚くのがマイネルラヴの単勝オッズが25.8倍っていうのだよね。それだけグラスワンダーの強さがズバ抜けていたってことなんだろうけどね。それにしてもって感じだよねえ」
珠美:「この年の人気馬は差を広げて勝った事のある馬が多いんですね。1秒以上の差で勝った馬とか、結構いますものね」
駒木:「言ってしまえば無茶苦茶な世代だよね(笑)。これに加えて、年が明けてからスペシャルウィークとセイウンスカイが出て来るんだから、全くもってとんでもない世代だよ。そうかと思えば、引き合いに出して悪いけど、エアシャカールでもあわや三冠馬って世代もある。不公平と言えば不公平だよね(苦笑)」
珠美:「こればっかりは仕方ありませんものね(苦笑)」
駒木:「まったくだね。……じゃあ、レースの解説に移ろうか」
珠美:「ハイ。それではレースの模様を再現しつつ、博士に解説して頂きます。受講生の皆さんも、映像資料をお持ちの方はご覧になりながら受講してくださいね。
 …スタートはちょっとバラついた感じになりました。ボールドエンペラー、オンクラウドナインといったあたりはダッシュがつきません。人気馬の中では、フィガロもそんなに良いスタートではありませんでしたが、こちらはすぐに位置を挽回していきました。
 ハナを切ったのは、大方の予想通りマウントアラタでした。とにかく、なりふり構わずって感じでグングンスピードを上げて後続を引き離してゆきます」

駒木:「他の人気馬も、先行抜け出しを得意にするスピードタイプだったからねぇ。大体が2〜3番手をキープして直線で加速すって戦法でね。それを考えると、逃げなきゃいけないマウントアラタには大きなプレッシャーがかかってるよね。下手にタメて逃げたりしたら、3コーナー辺りから突付かれてレースどころじゃなくなるし。逃げるんなら、もうイチかバチかの特攻逃げしかないよね」
珠美:「…マウントアラタを追う先行グループには、博士がおっしゃった通り、人気馬がズラリと並びます。シンボリスウォード、マイネルラヴが2〜3番手で、その後ろにアグネスワールドと出負けしたフィガロ。グラスワンダーは、そこから一歩引いて7番手を追走します。
 ……このグラスワンダーの位置取りはどうだったんでしょう? ちょっと後手を踏んでいるんですか?」

駒木:「いや、余裕綽々ってところだろうね。鞍上の的場騎手は、『この馬はただの先行馬じゃない』って思ってたんだろう。ペースも随分と速くなったし、人気馬をマークできる中団あたりにつけて、後から決め手の差で強引に押し切っちゃう計算だったんだろうね」
珠美:「確かにこのレース、道中のペースはとても速いです。初めの600mが34秒3で、800mが45秒4ですから、(旧)3歳馬にとっては大変なハイペースですよね」
駒木:「(旧)3歳じゃなくても凄いペースだよ(苦笑)。いくらなんでもヤケクソになり過ぎだね(笑)。もう何て言うか、マウントアラタは言い訳の利く負け方を演じてるだけって感じ。まぁ気持ちは分からないでもないけど、馬券を買ってた人には『ご愁傷様』と言うしかないね(苦笑)」
珠美:「そのマウントアラタですが、3コーナーで一旦は4馬身差まで後続を引き離すんですが、1000mを57秒1で通過した辺りから急に失速。代わってマイネルラヴやフィガロが先頭に迫ります。そして、ここから満を持してグラスワンダーが、大外から捲り追い込みの格好で進出していきます
駒木:「この捲りを見た瞬間、『もう決まった』と確信したね。だってね、走りっぷりが全盛期のナリタブライアンそっくりだったんだよ。ナリタブライアンでもあんな強い勝ち方をするようになったのは(旧)4歳の春になってからだからねぇ。それをまだデビュー4戦目の若駒がやっちゃうんだから、もう恐れ入ったと言うか何と言うか……」
珠美:「さて、いよいよ直線の攻防です。力尽きたマウントアラタを交わしてマイネルラヴが先頭に立ちます。ちょっとコーナーで膨れたフィガロは3馬身ほど後方。そしてグラスワンダーが、この馬のすぐ側まで迫って来ていました。アグネスワールドは馬体重増とブランクの影響が出たのか、ちょっと反応が鈍い感じ。シンボリスウォードは『荒れた馬場に脚を取られた(岡部騎手)』とのことで、戦意を喪失して早々に圏外に転落していました。
 そうして力強く抜け出したマイネルラヴですが、グラスワンダーの役者が一枚も二枚も上でした。直線半ばまでで難なく差を詰めると、並ぶ間もなく交わして逆に差を広げていきます。そうする内に外からフィガロもやって来て、2着争いが熾烈になりました。4番手以下は差が開いて、こちらは入着がやっとという感じです。
 大勢はここで決したまま、ゴールへ。1着はもちろんグラスワンダー。2馬身1/2差、1分33秒6の(旧)3歳コースレコードのオマケ付でした。2着はマイネルラヴがなんとか粘り込んで、3着にフィガロ。そこから3馬身1/2差がついて4着のアグネスワールド…といった結果となりました」

駒木:「グラスワンダーが勝ってから、場内から拍手が沸いたんだよね。本当に良いレースってのは、歓声とか“○○コール”よりも拍手が自然発生するものなんだ。この時のレースはまさにそれ。上位馬は超ハイペースの中を前で追走して、それで後続を完封しちゃったんだからね。展開利もクソもない、実力だけで決着がついた素晴らしいレースだった。
 中でも特筆すべきなのは、マイネルラヴの粘り。あれだけ早めに仕掛けて、直線半ばで交わされて、本当なら戦意を喪失してバテバテになってもおかしくないんだよ。それで2着粘っちゃうんだからねぇ。この後、ちょっと伸び悩んだ時期があったんだけど、スプリンターズステークスでは、当時無敵を誇ってたタイキシャトル相手に大金星。今から考えたら伏線はここにあったんだよね」
珠美:「ちょっとお話も出ましたが、上位馬のその後についてお話してくださいますか?」
駒木:「う〜ん、もう有名すぎて話す事なんて無いんだけどねぇ(笑)。グラスワンダーは、この後故障したりスランプに陥ったりして一時足踏みをするけど、春・冬のグランプリ3連覇を果たすなどして大活躍。スペシャルウィークやエルコンドルパサーと年度代表馬の地位を争ったのは記憶に新しいところだね。
 マイネルラヴについては、さっき言った通り。フィガロは残念ながら、この後リタイヤして大成できなかった。4着のアグネスワールドは、短距離戦線で活躍して、海外で国際G1を2勝。でも国内では最後までG1を勝てなくてね。日本馬のレヴェルアップを奇妙な形で証明する事になる。
 ……まぁ、主だったところはこんなところかな。」
珠美:「ハイ、ありがとうございました。えーと、博士、来週の競馬学講義は宝塚記念の予想になるんですよね?
駒木:「一応そのつもりでいるよ。ちょっと酷いメンバーになっちゃって、モチベーションが上がらないんだけど(苦笑)」
珠美:「サッカーのW杯に負けないように頑張ってもらいたいですね」
駒木:「そうだねぇ。せっかく23日はW杯が休みなんだから、『競馬も頑張ってるぞ!』とアピールするような名勝負になる事を期待したいね」
珠美:「それでは、そろそろお時間です。博士、ありがとうございました」
駒木:「はい。お疲れ様」

 


 

6月8日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(13)」
1992年ジャパンカップ/1着馬:トウカイテイオー

駒木:「G1レースが続いたんで、ほぼ1ヶ月ぶりの競馬学概論になるね。」
珠美:「本当はこれくらいのペースの方が、資料集めが楽で良いんですけどね(苦笑)」
駒木:「それと名勝負探しだね(苦笑)。そんなにいくつも名勝負と言えるようなレースってあるわけじゃないからねぇ。まぁ、そうなったらそうなったで別形式の講義を考えるしかないんだけれども。
 けど、今日扱うレースは文句ナシの名勝負だよ。レースの内容にしても、メンバーにしてもね」
珠美:「1992年のジャパンカップですね。有名なレースですから、学生時代に何回もビデオで観ましたよ。でも、実際にレースがあったのは…えーと、私が小学6年生の時ですね(苦笑)」
駒木:「うひゃ〜(苦笑)。ついに小学生と来たか! もうアレだよ、受講生のみんな、ランドセル背負った小学生時代の珠美ちゃんを想像してるんじゃないかな(笑)。体型とかあんまり変わってないから想像もし易いんじゃ……」
珠美:「(ギロっと睨んで)
博士!?
駒木:「あ、ゴメンゴメン、失言だった(苦笑)」
珠美:「これ以上セクハラみたいなことをおっしゃったら、講義中でも『サラブレッド血統体系』の角で殴りますからね!」
駒木:「あ〜本当に悪かった。謝るから講義を進めよう。とりあえずは出走表だね。珠美ちゃん、用意よろしく」
珠美:「まったく…(大きな溜息)……ハイ。それでは出馬表をご覧下さい。出馬表内で馬名が赤字になっているのは海外招待馬です」

第12回ジャパンC(国際G1) 東京・2400・芝

馬  名 騎 手
ユーザーフレンドリー ダフィールド
イクノディクタス 村本
ヴェールタマンド ブフ
レッツゴーターキン 大崎
ドクターデヴィアス マッキャロン
レガシーワールド 小谷内
ナチュラリズム ディットマン
ヤマニングローバル 河内
ディアドクター アスムッセン
10 レッツィロープ ビードマン
11 クエストフォーフェイム エデリー
12 ハシルショウグン(公営) 鈴木啓
13 ヒシマサル 武豊
14 トウカイテイオー 岡部

珠美:「……10年も経ちますと、馬も騎手も随分と様変わりしていますよね」
駒木:「だね。ドクターデヴィアスなんて、競走馬としてより種牡馬として馴染みがある人も多いんじゃないかな。騎手もそうだね。大崎騎手と小谷内騎手はもう引退してるしね」
珠美:「…では、レースと出走馬の解説に移りますね。
 今日採り上げます第12回ジャパンカップが行われたのは、1992年の11月29日でした。このジャパンカップは、1981年に日本競馬界初の国際招待競走として新設されたレースです。当時はグレード制施行前ですが、賞金面などを考えると国内最高ランクのレースと言っていいと思います。グレード制施行後には、もちろんG1格付けがなされています。
 ……ところで博士、このレースが出来た当時の日本の競馬ってどんな感じだったんですか?」
駒木:「どんな感じって言うと……?」
珠美:「日本の競馬のレヴェルもそうですけど、海外の競馬に挑戦しようとする姿勢とか……」

駒木:「ん〜、1981年っていうと僕もまだ6歳だからなあ(苦笑)。直に知ってるわけじゃないということを先に言っておくけど、まぁ当時の日本競馬界っていうのは、一言で言えば“発展途上”ってところじゃないかな。レヴェルを上げようという気持ちは十分あるんだけど、技術と経験と素質の高い種牡馬・繁殖牝馬が足りないって感じ。今では当たり前のように使われている、坂路コースやウッドチップ、プール調教なんてのも当時はまだ無かったし。
 ただ、そんな状況でも海外で一旗上げようって動きは昔からあったハクチカラのワシントンバースデーハンデ優勝なんてのもその1つだし、今の香港やドバイの国際競走にあたる、アメリカのワシントンD.Cで行われてた招待レースにも頻繁に日本馬が挑戦していた。まぁこれは惨敗続きだったけれどね。そうそう、フランスの凱旋門賞に挑戦する馬なんてのもいたんだよ
珠美:「凱旋門賞ですか!」
駒木:「うん。今から考えたら相当無理してたなぁと思うけどね(苦笑)。それでもそのチャレンジ精神は大したもんだと思うよ」
珠美:「そして、そんな中でジャパンカップが新設されたというわけですね」
駒木:「そういうこと。海外の競馬を日本で学ぼうというわけ。ただ当時の日本は、競馬に関する限りは“極東の辺境”という存在だったから、海外馬を集めるために全力を尽くした。賞金は世界最高レヴェルの額を用意して、招待馬に関してはスタッフも含めてアゴアシ付きレースの時期も世界中で古馬の大レースが終わった直後の11月下旬に設定して、世界中の一流馬が参加できる状況を作り上げたんだけど……」
珠美:「あ、その話は聞いたことがあります。第1回はあんまりネームバリューのある馬が集まらなかったんですよね」
駒木:「そう。まぁ有り体に言って“準一流馬”ってところかな。欧米のG2〜G3クラスの馬と、あとは『なんでこんな馬いるんだ?』みたいなアジア枠。今では伝説になった“インドのシンザン”オウンオピニオンとかね。プロレスファン向けに言うと、初期のFMWみたいな胡散臭さがあったよね(笑)。
 で、それに対するは日本のトップホースたち。そうだなぁ……今の感覚で言うとメイショウドトウ、ナリタトップロード、アグネスデジタルくらいのメンバーかな。錚々たる豪華メンバーが満を持して出陣。さすがに海外のレヴェルの高さを思い知っている競馬関係者たちも、『このメンツなら、日本馬優勢だろう』と思ってたんだよ。
 そうしたらまぁ、外国馬強えぇ強えぇ、日本馬沈む沈む(苦笑)。日本馬最先着が、地方出身馬のゴールドスペンサーで5着勝ったのはアメリカの牝馬で伏兵的存在のメアシードーツで、しかもタイムがコースレコードの2分25秒3。今ではどうってことない時計だけど、当時はみんなひっくり返ったんだよ。そして誰かが言い出した。『日本馬は今世紀中は勝てない!』……で、これ以降、日本馬の海外遠征がピタっと止まってしまった(苦笑)」
珠美:「それは…ショックですよね(苦笑)。でも、その後にカツラギエースとかシンボリルドルフとか勝ってますよね?
駒木:「うん。あと、脚をぶっ壊しながら2着に突っ込んだキョウエイプロミスとかね。一応、しばらくしたら日本の超一流馬と世界の準一流馬は互角以上に戦えるようになった。一流馬も来てたけど物見遊山だったから走らなかったし。あぁ、喜んでいいんだかどうだか分かんないな(苦笑)。
 でもその後は、日本の超一流馬が世界の一流馬に跳ね返されるケースが続く。第6回から6年連続で日本馬は勝てなかった。中にはオグリキャップみたいに紙一重の所までくる馬もいたけれども、メジロマックイーンが他のレースでは考えられないような惨敗を喫したりとかして、相変わらず『海外馬強し』という印象のまま、この年のレースに至る。しかもこの年、ジャパンカップに関しては大きな動きがあったしね」
珠美:「ハイ。この1992年から、ジャパンカップは国際G1競走に認定されました。これで名実共に“秋の欧米・オセアニア統一チャンピオン決定戦”となったジャパンカップにはこの年、世界中から超豪華メンバーが集結することになりました」
駒木:「それまでは初期のドバイワールドカップと一緒で、“世界最高賞金のオープン特別”だったからね。そんなわけで、いくら金をかけようとメンバー集めにも限界があったんだけど、国際的なお墨付きが与えられた途端、状況が一変した。まぁ、今から考えてもゾッとするようなメンバーだよ。ちょっと紹介してみて」
珠美:「……ハイ。それでは紹介しますね。
 まずはこの年、(旧)4歳にして凱旋門賞馬になったフランス牝馬・ユーザーフレンドリー。これが1番人気でした。
 それからイギリスダービー馬が2頭も(苦笑)。お馴染みのドクターデヴィアスと2年前にダービーを制したクエストフォーフェイム。これが6、7番人気なんですから、本当にゾッとしますよね(苦笑)。
 アメリカからはアーリントンミリオン勝ち馬のディアドクター、さらには実績のあるオセアニア勢からは、オーストラリアダービー馬のナチュラリズムと、女傑の呼び声高かったレッツイロープ
 ……本当に凄いメンバーですね、これ」

駒木:「だろ? ……で、対する日本馬がねぇ、これがまた頼りなかったんだな。唯一対抗できそうだったのが、大将格のトウカイテイオーだったんだけど、テイオーにしたって、前走の天皇賞・秋で信じられないような惨敗をして、大きく信頼を失ってしまってた。この馬の現役生活で唯一の5番人気・単勝2ケタオッズ(10.0倍)っていうのが、その現れだね。
 で、あとは本当に頼りない。それぞれセールスポイントはあったんだけど、それにしても外国の豪華メンバーに対するには格も力も足りないように見えた。
 だからまぁ戦前の予想では、日本馬に対しては悲観的な見方が大勢を占めた。中には開き直って『海外の超一流馬のパフォーマンスを堪能するぞ!』なんて人も多かったんじゃないかな。
 でも、いざフタを開けてみると……さぁ、あとはレース解説と行こうか」
珠美:「ハイ。それではVTRを参考にしながらレースの状況を解説させていただきますね。
 まず、比較的揃ったスタートからレガシーワールドが飛び出してハナに立ちます。翌年のジャパンカップ勝ち馬ですね」

駒木:「だね。セントライト記念でライスシャワーに競り勝ったりとか、力の片鱗は見せていたけれども、この時はまだ実績も経験も足りなくて嫌気されてた。ただ、後から結果を見ると、この頃から力は有ったんだなって思うけどね」
珠美:「2番手グループにはドクターデヴィアスとユーザーフレンドリーが。……ってあらら、ユーザーフレンドリーは思いっきり引っ掛かっちゃってますね」
駒木:「だねぇ。それにドクターデヴィアスもレガシーに競りかけるようにペースを上げちゃった。随分と荒れたレースになったって感じだよね」
珠美:「その後ろでマークするような形でトウカイテイオーですね。絶好位につけてます。さらにその後ろにナチュラリズムディアドクターが。結局、この好位〜中位勢で決着することになるんですね」
駒木:「そういう事になるね。重馬場とはいえハイペースの展開だから、この位置につけた馬が上位を独占するって事は、やっぱり力があったんだろうね。少なくとも展開の有利さを活かしきるだけの力はあったって事」
珠美:「ハイ。隊列はほぼ変わらず、レガシーワールドとドクターデヴィアスの2頭がやや前を引き離して、その後ろにユーザーフレンドリー。トウカイテイオーはさらに2〜3馬身後ろ……といった感じで直線に突入します。
 直線では、まずレガシーワールドの粘りの前にユーザーフレンドリーとドクターデヴィアスが脱落。いきなり番狂わせ的な展開です。そこへすかさず差し脚を伸ばすのが、トウカイテイオーと、最内を突いたナチュラリズム。外から豪快にディアドクターもやって来ました。直線半ばで3つ巴の争いになってますね」

駒木:「特にトウカイテイオーとナチュラリズムの叩き合いが凄いよね。ディットマン騎手の風車ムチが炸裂する隣で、あの岡部騎手がフォームを乱しながら気迫込めて手綱をしごく。多分、岡部騎手が競馬人生で一番気合の入ってた瞬間じゃないかな」
珠美:「そして激しい叩き合いはゴール前まで続きました。追い込んできたディアドクターは3番手まで。前の2頭の激しい争いは、最後にトウカイテイオーがクビ差だけ凌いでゴールとなりました。日本勢7年ぶりの勝利、そして日本産馬初の国際G1ホースの誕生です!
 ……あと、レガシーワールドが4着に粘り込み。5着にも日本の副将格・ヒシマサルが食い込みました。結果的に、豪華メンバーの中で日本馬が3頭掲示板に載るという凄いことになりました」

駒木:「いやぁ、力入るよね、このレース。皆さんも何らかの手段でご覧になって下さい。競馬場・ウインズにあるディスクボックスでもいいし、レンタルビデオ屋でG1レース集を借りて来てもいいね。本当はいけないんだけど、ネット上でファイル交換って手もある。意外と流通してるんだよ、競馬のレース映像は」
珠美:「…では最後に、このレースで活躍した馬たちのその後についてお願いします。あ、でも今回は日本馬中心になりますね」
駒木:「その後のトウカイテイオーは有名すぎるよね。次走の有馬記念は1番人気で惨敗。で、中1年開けた翌年の有馬記念で復帰即1着の偉業を達成して、結果的にそこで競走生活を終える事になる。
 レガシーワールドも有名だね。翌年のジャパンカップを制して日本馬の水準向上を体現する事になる。
 他の日本馬は……そうだなぁ。ヒシマサルはこの後パッとしないまま種牡馬入りしちゃったし、レッツゴーターキンもそう。公営のハシルショウグンに至っては、この後もジャパンカップ挑戦→最下位を繰り返して、“アルクショウグン”って揶揄されたり、公営所属馬のジャパンカップ枠削減に一役買ってしまったりした。弱い馬じゃなかったんだけどねぇ。あぁ、そうだ。後に安田記念と宝塚記念で2着に入って、一時は歴代賞金女王に登りつめたイクノディクタスがいたね」
珠美:「結局、この後は日本馬優勢のジャパンカップが続くんですね」
駒木:「そうだね。この“枕そろえて討ち死に”に恐れをなしたのか、この後は超一流馬が一斉にやってくるケースは無くなったしね。あと、調教技術とか日本馬の素質が向上したこともあって、日本馬が外国馬と互角以上で闘えるようになった。まずは外国産馬が健闘して、さらには内国産馬が活躍するようになっていった。まさに日本競馬のレヴェルアップを象徴するようなレースだね、ジャパンカップって言うのは」
珠美:「……というところで、時間ですね。博士、ありがとうございました」
駒木:「はい、珠美ちゃんもご苦労様」

 


 

6月1日(土) 競馬学特論
「G1予想・安田記念編」

駒木:「それじゃあ、講義を始めようか」
珠美:「春のG1も、とうとうこの安田記念と宝塚記念だけになっちゃいましたね」
駒木:「そうだねぇ。今年は予想の成績も良くないまま、ズルズルと春シーズンが終わろうとしてるって感じだけど、せめて1回くらいはスマッシュヒットを飛ばしたいもんだね」
珠美:「……せめて、口だけでも『メガヒット』って言ってみません、博士?」
駒木:「そういう事は、せめてG1予想勝ち越してから言おうね、お互いに(苦笑)」
珠美:「……ハイ(涙目)」
駒木:「それじゃ、さっそく出馬表を見ながら、1頭ずつ解説していこうかな。珠美ちゃん、進行お願いね」
珠美:「…ハイ。それでは、出馬表と私たちの予想印をご覧下さい」
 

安田記念 東京・1600・芝

馬  名 騎 手
    レッドペッパー モッセ
× × ミレニアムバイオ 柴田善
    マグナーテン 岡部
    アメリカンボス 江田照
    ジューンキングプローン イム
    イーグルカフェ 田中勝
  × トロットスター 蛯名
    ミヤギロドリゴ 大西
    ゴッドオブチャンス 四位
  × 10 ディヴァインライト 菅原勲
× 11 グラスワールド 藤田
12 ゼンノエルシド 横山典
13 エイシンプレストン 福永
    14 リキアイタイカン 武幸
× 15 ダイタクリーヴァ 松永
    16 トレジャー 北村
17 ダンツフレーム 池添
  × 18 アドマイヤコジーン 後藤

駒木:「これはまた……珠美ちゃん、たくさん印付けたねぇ。9頭に印あるじゃない。大丈夫? そんなに馬券の手を広げて…(苦笑)」
珠美:「自分でもいけないと思ってるんですけどね(苦笑)。でも、このレースって、絞り辛くありません?
駒木:「確かにね。僕も大分迷った上の印だったよ。断腸の思いで無印にした馬も少なくなかったね。まぁ、それはおいおい解説の中で」
珠美:「分かりました。それでは早速、博士に解説していただきましょう。いつも通り、8つの枠順ごとにお願いしますね。それではまず1枠から。外国馬のレッドペッパーと、昇り調子のミレニアムバイオ。いきなり解説が難しい馬たちなんじゃないですか?」
駒木:「そうなんだよ(苦笑)。随分と悩ませてもらったよ。
 まずレッドペッパーからなんだけど、どうやら今年の香港遠征馬は、今まで日本で実績を挙げてきた馬とは1〜2ランク力が下みたい。もっとも、今年は日本馬もイマイチ小粒な感じがするんで、それほど見劣る感じも無いんだけどさ。
 カギは日本の芝適性だろうね。こればかりは走ってみないと分からないんだけど、もしかすると大穴開けて来るかも知れない変な不気味さはあるね。ただ、僕の見立てじゃ今回の場合、最後方に近い位置から追い込みに賭けるこの馬は、相当展開に恵まれないと2着までは届かないんじゃないかと見ている
珠美:「ということは、ペースはそんなに速くならないんでしょうか?
駒木:「と、思ってるんだけど。少なくとも最後方からワン・ツーみたいな展開にはならないんじゃないかな。マグナーテンがハナ切って、その後ろに何頭かが、競るでもなく折り合いつけてマークするでしょ。で、その後ろにはマグナーテンと同厩舎のゼンノエルシド。マグナーテンが岡部騎手乗せてまでペースメーカーまでするとは思えないけど、共倒れになるようなレースもしないと思うんだ。だから、差し馬ならともかく追い込み馬はチョイ不利かな、と。そう思っているんだけどね」
珠美:「実は私も似たような事を考えていたんですけど、競馬新聞の展開予想と違うんでハラハラしてたんです(苦笑)。何だか、安心しました」
駒木:「まぁ、馬のやる事だから、どうなるか分からんけどね(笑)。……と、言う事で、レッドペッパーは惜しいけど無印。
 で、次のミレニアムバイオね。この馬も問題でねぇ。前走マイラーズC1着をどう評価するかが問題。確かに勝ったメンバーを見たら、G2レースの価値はあるように思えるんだけど、有力馬の凡走に救われた気もするからね。展開が多少なりとも向く分だけ、2着争いに食い込めるかな…とは思うけど。×印は打ったけど押さえの押さえってところかな。後は、中間ちょっと楽をしてるので馬体重に注意ね
珠美:「…分かりました。では次に2枠の2頭を。先程も話に出て来ましたマグナーテンと、有馬記念2着馬・アメリカンボスです」
駒木:「まずマグナーテン。去年の夏に関屋記念を勝ってから、ずっと人気を背負ってて、どれも惜敗してるって感じだね。たまにいるよね、こういうそんな役回りをさせられる馬(笑)。
 今回はどうやらマイペースの逃げを打ちそうな感じ。マイペースと言っても、速めの平均ペース以上になりそうだけどね。ちょっと離し気味に逃げて粘りこむレースを狙うんだろうね。2着までに粘りきるケースも考えられなくは無いけど、このレース、10年以上逃げ馬の連対が無いんだよね。やっぱりコーナーが少なくて直線が広い分だけ差し馬に有利らしい。だからちょっと推しにくい感じがする。
 そしてアメリカンボスね。有馬記念の時は本当に痛い目に遭わされたんだけど、いかにも快勝と大敗を繰り返すこの馬らしいパフォーマンスだったとも言える。まぁ、色々恵まれがあっての2着だったけどね。
 で、今回なんだけど、有馬の時にも増してネガティブな材料が揃ってるね。4戦全敗の休み明け、微妙に守備範囲外の1600mとか。前もそうだったから何とも言えないけど、陣営の気勢も上がらないねぇ。常識的に考えると、この馬を推すわけにはいかないね
珠美:「……次は3枠ですね。よろしくお願いします」
駒木:「香港のジューンキングプローン。国際レースではお馴染みのアラン厩舎からの刺客なんだけど、ちょっと今回は力量面で疑問符が付く上に、騎手も主戦騎手じゃないんだよね。なんか、日本のG1も随分と舐められたなあって感じ。ちょっと今回は陣営の本気度に疑問符だね。いつもは香港アラン厩舎は狙い目なんだけど、今回ばかりは例外。
 それからイーグルカフェか。NHKマイルC勝ってるんだよねぇ。あんまり最近の成績が振るわないんで、てっきり2着馬だったと勘違いしてたんだけど、成績表をよく見たら勝ってたんだよね(苦笑)」
珠美:「は、博士…、またそんな失礼なことを…(汗)」
駒木:「まぁでもさ、NHKマイルCって、勝ち馬の“その後”が両極端なレースではあるんだよね。そもそも出走馬の平均レヴェルが一番低い3歳G1だし、今年は別としてクラシック組は出て来ないしね。エルコンドルパサーとかクロフネみたいに、“行きがけの駄賃”的に勝って行く馬と、この馬やタイキフォーチュンみたいにイッパイイッパイで勝つ馬を比べたら、将来の成績に差が出るのは当然と言えば当然だね。
 で、今回だけど、最近の戦績の振るわなさと状態面の横バイさ加減から考えると、やっぱり苦戦は必至じゃないかな。致命的な出遅れ癖も気になるところだしね。2回に1回以上はレースにならないんじゃ、お話にならない
珠美:「……なるほど。さて、ちょっと厳しいコメントが続いてますが、続く4枠の2頭はどうなんでしょう? スプリントG1を2勝しているトロットスターがいる枠ですけど……?」
駒木:「一番扱いに困るパターンの馬だよね、スプリントで強い馬のマイル挑戦ってヤツ。一流のスプリンターって、大抵G3程度だと1600〜1800mでも平気で勝っちゃったりするから、余計に迷わされるんだな。
 でもねぇ。余程の事が無い限り、スプリンターってマイルG1だと3着が精一杯なんだよ。そりゃ去年みたいに実力馬が揃って凡走…だなんて異常事態になれば分からないけど、それはもうオカルトの範疇だしね」
珠美:「あの、ちょっと質問なんですけど、スプリンターとマイラーの区別ってどこでつければいいんでしょうか?
駒木:「ん〜、とても端的に言うとね、1200mのレースで活躍してる馬はスプリンター(笑)
珠美:「(笑)。そんな判断でいいんですか?」
駒木:「それで1600m以上のG1を、敗因が距離適性としか思えないような大敗を喫したら間違いなくスプリンター。この2つの条件で間違いなく判断できる。トロットスターは、1200mでG1を2勝してるけど、マイルG1は全部着外だろ? それを考えると距離適性は明らかだよね」
珠美:「…なるほど。そう言われてみれば当たり前の話ですよね(苦笑)。そういう理由で、博士はトロットスターを無印にしたんですね」
駒木:「まぁ、そういう事になるね。
 …で、次のミヤギロドリゴだけど、唯一の前売り単勝オッズ100倍台って事からも分かるように、ただ単に力が足りない。これで2着に来たらミラクルだね」
珠美:「…ハイ、それでは次に5枠の2頭ですが、曲者揃いといったところじゃありません?」
駒木:「そうだね。2頭とも典型的な伏兵馬だね。
 まず、ゴッドオブチャンス。前走は逃げを打ってアッといわせたんだけど、元々が折り合いに課題を残した馬なんで、今回は前に馬を置いて2番手で折り合うレースを試したいみたい。それはそれで気持ちは分かるんだけど、そうしたら勝てるのかっていうと、それも違うんだよね。他の馬のペースに乗っかって抜け出せる程、甘くはないと思うんだ。
 そしてディヴァインライトね。人気薄で2着に飛び込むケースの多い、典型的な穴馬決め手に欠ける代わりにバテない馬なんで、差し不発のケースで悠々と粘りこんじゃうんだね。高松宮記念2着の時は、この馬の馬券は持ってるのに、キングヘイローをハナから蹴飛ばしてて非常に悔しい思いをした(苦笑)。
 で、今回なんだけど、今回は同タイプの馬が多いんだよね。直線の早い段階から叩き合いが始まって、最後の最後に力尽きそうな気がする。元々が地力で勝負する馬じゃないだけに、力比べになるとキツいと思う。本当は“注”くらい付けたいところではあるんだけど」
珠美:「……いつもの事なんですけど、私が印を打った馬を消されると心に堪えますね(苦笑)。それに、大抵その指摘が当たってしまいますし……。
 ねえ博士、私の予想って、何なんでしょうね?(苦笑)」

駒木:「知らんよ(苦笑)。まぁ、僕は『珠美ちゃんの予想って、自分の学生時代の予想スタンスに似てるなぁ』って思ったりしてるけどね」
珠美:「え、そうなんですか? ちょっとショック……」
駒木:「おいおい! そりゃ確かに僕の学生時代の馬券成績は酷かったけどさ(苦笑)。でも、せめて前途有望くらい言ってくれ(苦笑)」
珠美:「すいません、失言でした(苦笑)」
駒木:「まぁ、個人的なお説教は講義が終わってからね。じゃあ、続き続き」
珠美:「う……、ちょっと嫌な予感が…(苦笑)。と、とりあえず講義を進めますね。いよいよ有力馬の揃う外枠です。まずは6枠からお願いします」
駒木:「まずグラスワールドからね。この馬、数字の上では平凡なオープン馬なんだけど、芝に転向してから凄い活躍だよね。どうして今までダートばかり走ってたんだろ。
 たださ、その中身が問題だよね。初めの2連勝はハンデ戦、しかも軽ハンデでしょ。で、京王杯2着というのも、今年の京王杯はそんなにレヴェルが高くないから威張れるほどでもない。昇り馬ではあるんだけど、少しインパクトに欠けるんだなあ。力量的にはミレニアムバイオと大して変わらないんじゃないかな。怖いのは底を見せてないって点くらい。だから押さえ以上には推せないねえ。
 そしてゼンノエルシド。○印を打っておいてアレだけど、実のところ、僕はこの馬を大きく評価してるわけじゃないんだ。ただ、藤沢和厩舎が3頭出しを仕掛けてきて、しかも状態をピークに持ってきたって事を考えると、評価しないわけには行かないんだよねぇ。本来は3頭出しって時点で◎にしないといけないくらいなんだけど」
珠美:「そんなに3頭出しっていうのは大きな要素なんですか?」
駒木:「競馬界じゃあ、『3頭出し以上で、もし1頭も2着に来れなかったら赤っ恥』って話を聞いた事がある。あくまで噂の範疇を超えないんだけど、なるほど確かに3頭出し以上だと信頼度がググッと上がるんだよ。先週のダービーも4頭出しで2着、3着だろ? どうやらそういう事らしい」
珠美:「……なるほど。そんな話があるんですね」
駒木:「でもねぇ、今回は7枠の馬が強過ぎるからなぁ」
珠美:「……ハイ、というところで7枠の3頭ですね。よろしくお願いします」
駒木:「今回の主役・エイシンプレストン。何といっても香港の国際G1を2連勝、しかもアグネスデジタル相手に競り勝ってるんだからね。もう実力は本物とみなして良いだろうね。一時期スランプに陥ってたけど、完璧に立ち直った。1分32秒台の時計勝負にでもならない限りは死角ナシと見てるよ。ちょっとここでは格が違う感じ。
 リキアイタイカンは、う〜ん、意外性がある馬なんだけど、やっぱりちょっと力不足が否めないかな。
 さて、問題はダイタクリーヴァ。凡走続きで人気落として、とうとう今回は8番人気か。でもね、今年の金杯じゃあ、ミレニアムバイオとかゴッドオブチャンス相手に4.5〜5.5kgの斤量差で完勝してるんだよ。今回穴人気してる連中と比べたら、地力の差は歴然なんだ。もう後は、どれだけデキを取り戻しているか。これに尽きる。デキが戻ってたら間違いなく勝ち負けだよ」
珠美:「なるほど。そう言えばそうですよね。ダイタクリーヴァかあ……。何だか、印を変えたくなってきました(苦笑)。
 ……それでは、いよいよ8枠の3頭についてお願いします。ダービー2着馬のダンツフレームがいますね」

駒木:「そうだね。でもまずトレジャーから。グラスワールドに2kgのハンデで僅差2着なのに、どうしてここまで人気が無いんだろう(苦笑)。確かに藤沢和調教師が言う通り、ゼンノエルシドより一枚劣るとは思うけどね。まぁ、決め手が不足してる馬だから、レースがし辛い事は確かだろうね。
 そしてダンツフレーム。うーん、個人的にはもっと長い距離を使ってあげればとは思うんだけどねぇ。確かに長距離路線よりは層が薄い気がしないでもないけど、勿体無い気がするなあ。
 まぁ、世代レヴェル的に考えると、アッサリ勝ってもおかしくない潜在能力はあるんだろうから、マトモなら好勝負は間違いないね。問題は、デキが全盛時のレヴェルに戻ってるかどうか。あと、肝心な所で詰めが甘い癖が出なければ良いけどね。
 最後、アドマイヤコジーン。どうやらこの馬は本質的にはスプリンターらしい。行くだけ行って、ジリ脚で粘りこむパターン。切れる脚が使えないから、どうしても前々で競馬しないと話にならないね。で、今回はディヴァインライトみたいな同型馬が多くいるから、やっぱり不利は否めないだろう。雨降って馬場が渋れば分からないけど、それも望み薄みたいだね」
珠美:「……ハイ、ありがとうございました。さすがに18頭全部だと骨が折れますね(苦笑)」
駒木:「まったく(苦笑)。じゃあ、買い目を発表して講義を締めくくろうか。
 僕は12-13、13-15、12-15、13-17、11-13、2-13の6点。ただねぇ、考えれば考えるほど2と11が要らないような気がして来た。まぁ、今さら仕方ないけど」
珠美:「私は11.12.13.17の6点BOXに、13から7.10.15.18へ。10点ですね。私は12番がらみを買い足したい気分なんですけど(笑)」
駒木:「まぁ、迷いたくなるレースだよね。でも難しいレースだからこそ、買い目は絞らなくちゃね」
珠美:「そうですね(苦笑)。いつも痛い目に遭ってるのに、どうして同じ失敗をしちゃうんでしょう?」
駒木:「それが人間ってもんじゃないの?(苦笑) まぁ、そういうことで、講義を終わろうか。随分と時間オーバーになってしまったし」
珠美:「そうですね。では、皆さんも頑張ってくださいね♪」

 


安田記念 結果(5着まで)
1着 18 アドマイヤコジーン
2着 17 ダンツフレーム
3着 ミレニアムバイオ
4着 11 グラスワールド
5着 13 エイシンプレストン

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 まず、展開の完全な読み違えを反省ね。マグナーテンが逃げる予想というのは、陣営の「スピードを生かす競馬をしてもらう」というコメントだったんだけど、よく考えたら岡部騎手に指示出せるわきゃ無いわな(苦笑)。おまけに3頭出し完全着外で赤っ恥と。藤沢和厩舎には悪夢のようなレースだっただろうね。
 で、直接の敗因。これは最も恐れていた、差し馬の完全不発。去年と同じ展開になっちゃった。まぁ、思ったよりもアドマイヤが渋太かったって事もあったけどね。
 後藤騎手、駒木も色々言った事ありますが、G1初制覇おめでとう。今日みたいに謙虚にしてれば誰にでも愛される人だと思いますんで、これからも今日の気持ちを忘れずに頑張ってください。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 また▲−×の不的中……。もう何点買っても当たらない気がして来ました……。
 宝塚記念は反省も込めて、キッチリと点数を絞って勝負に出ます! 皆さんも応援してくださいね。

 


 

5月26日(日) 競馬学特論
「G1プレイバック・東京優駿(日本ダービー)編」

駒木:「さてここからは、珠美ちゃんと一緒にダービーの結果を受けてのレース回顧を始めたいと思います。それじゃ、よろしく」
珠美:「ハイ。こちらこそよろしくお願いします」
駒木:「ところで今日の府中競馬場は、小泉首相が来場して、内閣総理大臣賞を自ら授与したとかで盛り上がったみたい。そういやちょうど1年前、小泉さんは両国国技館で『感動した!』をやったんだよね
 去年は相撲で今年は競馬。何やら馬券も当たったとかでご満悦だったらしいね」
珠美:「誕生日が1月8日で1-8、そして今日が26日だから2-6ですって。それを馬連と枠連で5000円ずつ。そうしたら枠連が的中したとかで……。
 もう私、そんな買い方した人に負けちゃうなんて、悔しくって悔しくって(苦笑)。『私が一生懸命予想したものは一体なんだったのー!』って感じです」

駒木:「(笑)。でも悔しいよね、そういうのって。こちらは真面目に頭を痛めて予想してるわけだからさ。
 ……けど、よく考えてみたら、デタラメに買ってる割には、馬連と枠連の1-8、2-6って、どれも全くの的外れじゃないんだよね。むしろ本命サイドに近いくらい。やっぱりこの人は何か豪運を持ってるんだよ(苦笑)。一緒に麻雀だけはしたくないタイプの人だ(笑)」
珠美:「(笑)。確かにいつの間にかコテンパンにやられちゃいそうな気がしますものね」
駒木:「まったくね。……おっと、雑談はこれくらいにして、早速レース回顧に移ろうか。珠美ちゃん、結果一覧表をお願い」
珠美:「ハイ。それでは、本日行われましたダービーの全着順と私たちの予想印を一覧表にして振り返ってみましょう。では、以下の表をご覧下さい」

東京優駿(日本ダービー) 結果
着順 馬番 駒木 珠美

馬 名

騎 手
× タニノギムレット 武豊
11 × シンボリクリスエス 岡部
× マチカネアカツキ デザーモ
10     メガスターダム 松永
18     ゴールドアリュール 上村
×   アドマイヤドン 藤田
15   バランスオブゲーム 田中勝
ノーリーズン 蛯名
  × ヤマノブリザード 柴田善
10 17 タイガーカフェ 四位
11   × テレグノシス 勝浦
12 16     バンブーユベントス 村田
13     ダイタクフラッグ 江田照
14     モノポライザー 後藤
15     ファストタテヤマ 安田
16 12     チアズシュタルク 石崎隆
17 14     サスガ 安藤勝
18 13     サンヴァレー 田中剛

駒木:「詳しい事は後に話すとして、それにしても武豊騎手はオイシイところを持って行くよねぇ(苦笑)。せっかくの穴狙いだったのに、一番安めの的中になっちゃったよ。まぁ、当たっただけでも儲けモノの当たり方だったから、滅多な事は言えないんだけどさ。
 んで、武豊騎手はこれで史上初になる3度目の日本ダービー制覇か。……そう言えば武豊騎手のダービー勝ちは、今回も含めて全部、皐月賞1番人気敗退からのリベンジなんだよね。まったく、ドラマティック過ぎるよこの人は!(苦笑)」
珠美:「さっきから言ってますけど、もう私は悔しくて悔しくて……。後から考えれば考えるほど、『どうしてこの組み合わせ買ってなかったのかしら?』っていう決着ですし、仁経大関係の知り合いからは『今日の馬券は獲れたでしょ?』とか言われちゃうしで、もうホント散々です(苦笑)」
駒木:「気持ちは分かるよ。僕も以前はそういう事がよくあった。いや、今もあるか(笑)。まぁ、これを反省の糧にして今後に繋げるんだね。
 …それじゃ、そういうわけで本題に行こうか」
珠美:「ハイ。今日はみっちり勉強させていただきます(苦笑)。それじゃいつも通りに、まずは上位5着までの馬を振り返っていただきますね。では初めに第69代ダービー馬になりました、1着馬・タニノギムレットからお願いします」
駒木:「競馬で勝つ時っていうのは大概そういうものなんだけど、今日は危惧していた不安材料が全く出て来なかったよね。レース前に展開予想してて、『ひょっとしたら最後方に置かれるかも』とも思ったんだけれど、中団でレースする馬が何頭か後手を踏んでくれたおかげで理想の位置が取れたし、前走(NHKマイルC)みたいな致命的な不利もなかった。連戦の疲れは無かったとは言えないだろうけど、レースに直接影響が出るほどのダメージは無かったみたいだし。
 武豊騎手の作戦も地味だけど光ったね。駆け引きよりもタニノギムレットの能力を引き出す事にウェイトを置いたのが良かった。コンディションが整っていて自分のレースが出来れば、おのずと結果も付いてくると思ってたんじゃないかな。そして、コンディションが整わなかったら何やってもダメだとも思ってたはず。だから半分開き直りみたいなレースが出来たんだよね」
珠美:「中2週続きでG1を3走するなど、タニノギムレットは詰まり気味のローテーションが心配されていたんですが、これはどうだったんでしょうか? 特にNHKマイルCは前身のNHK杯時代からダービーとの相性が悪かったですよね?」
駒木:「確かにそうなんだけどさ。でもこの馬は結局、NHKマイルCじゃ脚を余して3着になってるよね。もし、これがギリギリの勝負をして1、2着になっていたならどうか分からなかったと思うよ。ダービーに持っていける余力に差が出たと思うから。
 それと、これはスペシャルウィークが天皇賞・秋、ジャパンC、有馬記念で2勝2着1回獲ったり、テイエムオペラオーが同じローテーションで3連勝したりした頃から薄々と感じていたんだけど、ここ数年で競走馬のコンディション調整に関する技術が、ググッと一気に向上したような気がするんだよ。そろそろ昔の常識を捨てる時期に来ているのかもしれないね」
珠美:「なるほど、そういう見方もあるんですね。
 ……ところで博士、タニノギムレットの今後についてはどうお考えですか?」

駒木:「秋には更に飛躍する可能性のある楽しみな素材だと思っているよ。血統的にも期待できそうだしね。少なくとも、菊花賞に向けて距離不安云々って事は無いと思う。あとはこれから出てくる新勢力との兼ね合いだね」
珠美:「つまりは期待大、ということですね。ありがとうございました。
 ……では、次に2着のシンボリクリスエスについてお願いします。この馬は博士の本命馬でした」

駒木:「そうだね。何とか過分な期待に応えてくれたってところだろうか(苦笑)。脚質の自在性と気性の良さ、それと確実に高水準の末脚を繰り出してくれる安定感がこの馬の武器だったんだけど、うん、それ相応の力は示してくれたみたいだね。岡部騎手の我慢を強いる手綱捌きにも、ほとんど嫌がらず応えてくれたみたいだし、中位から脚をギリギリまで貯めて、ゴール前に目標を交わす競馬を見事にやり遂げたのは立派だったよ。
 ただ、今日の競馬で弱点も見つかった。この馬、全てにおいて優等生過ぎる。ソツが無さ過ぎるから爆発力が無いんだよ。何だか、ナリタブライアン世代のエアダブリンを髣髴とさせる感じ。いつもキッチリ伸びては来るんだけど、G1には届かないっていうね(苦笑)。これからは、“差して届かず3着”が増えそうな予感がするなぁ。もちろん、ひと夏越して大化けすれば別だけどね」
珠美:「ハイ。では次に3着のマチカネアカツキをお願いします」
駒木:「好位からのイン強襲。いかにも外国人騎手がテン乗りでやりそうな事だよね。もちろん、ぼくもそれを期待して▲に抜擢したんだけど。
 ひょっとしたら実力以上と言ってもいいような良いレースはしてたんだけどなぁ。でもまぁ、この馬より明らかに強い馬が2頭いたってことじゃないのかな。
 今回は勝ち負け争っての3着だったけど、これはやや人気薄の馬が奇襲戦法だからこそ出来たものだと認識して欲しいな。マトモに行ってもちょっと力が足りない馬だよね」
珠美:「…4、5着には、メガスターダムやゴールドアリュールといった人気薄の馬が滑り込みました。2着馬とはそう差の無い健闘が光ったんですが、こちらはどうでしたでしょうか?」
駒木:「メガスターダムは、道中ちょっと引っ掛かってバタついてこの結果だもんね。地味で目立たないけど、能力は相当のモンだよ。重賞をあと2つ3つ獲ってもおかしくない。ただ、G1獲れるかとなると、かなり微妙な感じがするけどね
 ゴールドアリュールダート馬だけどスピードタイプだから芝でも通用するよ。言い方は凄く悪いけど、クロフネを劣化コピーしたような馬って言ったらいいかな。芝でも重賞でやれるだけの実力はあるだろうけど、秋シーズンはダート競馬で活躍するところを見てみたい気がするなぁ」
珠美:「……と、以上が上位5着に入着した馬についての回顧でした。それでは次に、着外に沈んだ有力馬&注目馬の回顧に移りますね。
 まずは博士が“大穴”と指名した、6着のアドマイヤドンから。2歳チャンピオンは結局、春シーズンでは大きな見せ場が作れずに終わってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?」

駒木:「道中はタニノギムレットとノーリーズンのすぐ近くにいたね。そこから直線でも同じように差脚を伸ばしていった。ただ、ジリジリとは伸びたけど突き抜けるまでには至らなかったね。馬体減が影響してるのかもしれないけど、バランスオブゲームとかヤマノブリザードとか、この馬以外の朝日杯FS組を見る限り、アドマイヤドン自体がそうレヴェルの高いところにいないんじゃないかという気がしてきた。残念だけど、このままフェードアウトしてゆく公算が高いんじゃないかな」
珠美:「朝日杯組には少し辛口のコメントとなりました。では次は8着に終わった皐月賞馬・ノーリーズンですが──?」
駒木:「レース振りそのものは皐月賞と変わりないんだよね。直線では馬混みに突っ込んでいったけど、そう不利も無かったし。けれども直線では伸びを欠いたね。一旦は脚を伸ばしたんだけど、残り1ハロンで他の馬と脚色が一緒になっちゃった。
 理由はどうなんだろうねぇ。皐月賞が完全にフロックだったとは思えないんだけど。まぁ、差し馬によくある凡走グセだと考えるのが自然なのかもね。これは雑誌とかでコメントが出てからもう一度検討してみる価値がありそうだ。(追記:コメントによると、この馬、ひどく左にモタれる癖があるようです。今回はラチ沿いで内にササったのが重大な敗因だとか)
 あと、この馬は早熟タイプでも無さそうだから、能力面が足りるなら、秋以降も十分期待が出来るよ
珠美:「私の本命馬で、博士の予想でも対抗格だったタイガーカフェは10着惨敗になってしまいました…。博士、これは?」
駒木:「決め手の無い馬だからねぇ。道中もう少し前の方につけて、直線で一旦抜け出すような競馬をしないと、ちょっと難しかったかな。あ、いや、それでも今度は後ろから来る馬の目標になっちゃってたか
 ……今から考えると、ちょっとこの馬からは狙い難かったかもしれないね。デザーモ騎手みたいなレースをすれば分からなかったけれど、四位騎手はスマートに乗るタイプの騎手だから、テン乗りの馬で競り合ってまで先行グループに飛び込むことは避けたかったのかもしれないし。まぁ、弱い馬じゃないけど難しい馬だね」
珠美:「なるほど……。つくづくダメですね、私の予想って(苦笑)。
 ……それでは最後に11着のテレグノシスについてお願いします」

駒木:「この馬はNHKマイルCを勝ったわけだけど、あのレースは、やっぱり色んな恵まれが随分とあったよね。今回のメンバーと比べたら格段に楽だった事も確かだと思うし。つまりはこの馬、スプリングSで2着完敗するような馬って事なんだよ、結局はね」
珠美:「駒木博士のジャッジでは、テレグノシスはちょっと力不足、ということなんでしょうか。
 ……でも博士、結果はどうあれ、今年のダービーは面白いレースでしたよね?」

駒木:「そうだね。いかにも東京の芝2400mらしい迫力あるレースだったね。そして来週は安田記念。これも迫力のあるレースになる事が多いよね。今年はちょっと出走馬のレヴェルが今ひとつなんだけど、出来る限りの期待はしてみたいよね。
 …おっと、もうこんな時間か。じゃあ講義を終わろうかな。」
珠美:「ハイ。では博士、ありがとうございました」
駒木:「うん、珠美ちゃんもご苦労さま」

 


 

5月25日(土) 競馬学特論
「G1予想・東京優駿(日本ダービー)編」

 駒木ハヤトです。日誌でお伝えした通り、急遽講義を実施させて頂きます。

 時間もありませんので、内容は出馬表と予想印、簡単な解説のみとなります。

東京優駿(日本ダービー) 東京・2400・芝

馬  名 騎 手
  × ヤマノブリザード 柴田善
ノーリーズン 蛯名
× タニノギムレット 武豊
    ダイタクフラッグ 江田照
×   アドマイヤドン 藤田
  × テレグノシス 勝浦
    モノポライザー 後藤
× マチカネアカツキ デザーモ
    ファストタテヤマ 安田
    10 メガスターダム 松永
× 11 シンボリクリスエス 岡部
    12 チアズシュタルク 石崎隆
    13 サンヴァレー 田中剛
    14 サスガ 安藤勝
  15 バランスオブゲーム 田中勝
    16 バンブーユベントス 村田
17 タイガーカフェ 四位
    18 ゴールドアリュール 上村

 ※駒木ハヤトの見解※
 ゆったりとした平均ペースで、中団から後方がややゴチャつく流れになると見て、好位マーク勢中心のレースになると見ました。
 本命は4頭出しで万全の体制が整った藤沢和厩舎のシンボリクリスエスから。位置取りがどうなるか読めないのが不安ながら、自在性のある馬だけに臨機応変に馬群を捌いて台頭すると見ました。
 それに続くのは、好位勢からタイガーカフェマチカネアカツキ。懸命の粘りこみに活路を見出します。
 実績上位のノーリーズン、タニノギムレットは、若干調子落ちが窺える状況である上、隣の枠同士で牽制しあって後手を踏む可能性が高いと見て押さえに回しました。しかし、この2頭が上位を占めてもおかしくありません。
 大穴は復調気配の兆しが見えるアドマイヤドン。忘れた頃の一発がそろそろ怖い時期です。

 馬連 11-17 8-11 8-17 2-11 3-11 5-11

 ※栗藤珠美の見解※

 私も先行有利の流れと見て、タイガーカフェを本命に推しました。調子も絶好調みたいですし、タイミング良く抜け出せれば、府中の長い直線も克服できると思います。
 2、3番手にはノーリーズンタニノギムレットを。本当はタニノギムレットを強く推したいんですけど、やっぱりローテーションが気になりますよね。
 その他は、かつての実績馬の巻き返しに期待しました。大万馬券まで狙って手広くボックスで攻めたいと思います。

 馬連 1、2、3、15、17のBOX10点、6-17、8-17、11-17

 ……と、我々の見解はこういう事になりました。
 皆さんの御武運をお祈り申し上げます。では、講義を終わります。26日深夜の回顧編をお楽しみに。

 


 

5月18日(土) 競馬学特論
「G1予想・優駿牝馬(オークス)編」

駒木:「さて、日本一遅いG1予想が始まるよ〜」
珠美:「は、博士…、いきなり自虐的なことをおっしゃるのは止めてください…」
駒木:「まぁ、いいじゃないか。僕らの予想を後から知って、『ああ、参考にしなくて良かった〜』って言う人が増えるのは良い事だよ(笑)」
珠美:「は〜か〜せ〜!(怒) 少なくとも私は的中させてみせますからね! ……って言うか、真面目にやって下さい、お願いですから!」
駒木:「了解了解(苦笑)。でもさ、余りの難しさに笑っちゃうようなレースだからねぇ(苦笑)。テンションも上がり切らないよねぇ」
珠美:「…そう、ですよねえ……。本当に難しいですね、今年のレースは。こんなに混沌としたオークスは珍しいんじゃありませんか?」
駒木:「だね。まず、桜花賞馬が出て来ない事からして珍しいし、有力馬の層も薄い。去年暮れの阪神ジュベナイルフィリーズから波乱のレースが続いてるから、原則的に全馬、穴馬か凡走グセのある人気馬なんだよね。だからどの馬にも長所・弱点が山のようにある。その上、一気に距離延長で2400mだろ? まったく、不確定要素の雨アラレのようなレースだよ」
珠美:「本当に溜息が出ますよね(苦笑)。せめて、レース全体の傾向から、いくつかヒントみたいなものは無いんですか?」
駒木:「えーとね、まずこのオークスは、追い込み有利で逃げ・先行馬不利気持ち悪いくらいに差し・追い込みが決まるレースなんだよね。道中のペースもほとんど関係なし。スローペースだろうが何だろうが、キッチリ追い込みが届く。例外は、どうしようもない程に緩いレースだった2年前ぐらいかな。(シルクプリマドンナ―チアズグレイス)それにしたって、桜花賞の3、1着馬だったし、先行というよりは中団チョイ差しに近いレースだった。本当に逃げ馬は不利でね、この10年間連対馬が出てない
珠美:「えっ? そんなに極端なレースなんですか? ……ということは、先行馬は全部消すくらいのつもりで考えないとダメなんでしょうか?」
駒木:「ん〜、それがそういうわけにもいかなくてね。後々名を残すくらい実力のある馬は、先行でもキッチリ結果を出してる。『先行馬が穴を開ける事が無い』くらいに考えておいた方が良いだろうね」
珠美:「なるほど…。でも、今から将来名を残す馬を探すのって、難しくありませんか?
駒木:「難しい(苦笑)。でも、そういう馬だと信じた上でこのレースの馬券を買うんだから、自分が強いと思った馬は黙って信じてあげればいい。これだけだよ」
珠美:「そうですね。わかりました」
駒木:「次はね、意外と距離適性がアテにならないって事が挙げられるかな。さすがにマイラーが優勝するっていうのは考え難いけど、本質的に1600〜2000mくらいまでの馬が2着に飛び込む事くらいは十分有り得るよ。ちょっと古い話だけど、ユキノビジン(93年)とか、ゴールデンジャック(94年)なんかが典型的な例だね」
珠美:「……ということは、血統がマイル向けだっていうだけで評価を下げたらいけないってことですね。
 ……でも博士、それってヒントどころか、余計に混乱させるだけのような気がするんですけど…?」

駒木:「そうとも言う(苦笑)。でも、仕方ないね。無理矢理ウィークポイントを捻り出す事ほど危ない事は無いから。やっぱり、色々なデータから総合的に判断しないとね。
 じゃあ、出馬表と僕たちの予想を受講生に紹介しようか……」

優駿牝馬(オークス) 東京・2400・芝

馬  名 騎 手
× ブリガドーン 木幡
× タムロチェリー 蛯名
    チャペルコンサート 熊沢
    サクセスビューティ 藤田
ブルーリッジリバー 四位
× ユウキャラット 池添
× マイネミモーゼ 後藤
    キョウワノコイビト 松永
    ツルマルグラマー 田中勝
  × 10 スマイルトゥモロー 吉田
× 11 オースミコスモ 常石
    12 カネトシディザイア 河内
    13 ウィルビーゼア 横山典
14 シャイニンルビー 岡部
    15 ビューティマリオン 橋本広
    16 ヘルスウォール 勝浦
    17 マイネヴィータ 柴田善
    18 ニシノハナグルマ 江田照

珠美:「私も博士も、印を付けた馬はほとんど同じなんですけど、順番が全然違いますね」
駒木:「あー、ホントだねぇ」
珠美:「その辺りも含めて、出馬表に従って1頭ずつ解説をして頂きたいと思います。それでは1枠の2頭からお願いします。私は差し馬ということで、実績には目をつぶって展開面から評価を上げたんですけれど…」
駒木:「なるほどね。じゃあ、まず1番のブリガドーンから。ここまで1番人気で4連敗してるという不思議な馬だね。まぁ、デビュー2戦目の未勝利戦で、中山の2歳レコードで勝ってることと、その次の京成杯でローマンエンパイア、ヤマニンセラフィムの3着に来てる事が高評価の要因なんだろう。負けたレースには大体明らかな理由があるから、人気も下がり切らなかったんだろうね。
 今年のような混戦じゃなかったら無印にするところなんだけど……。差し馬だしね、押さえは必要なんじゃないのかな。
 2番のタムロチェリーは、桜花賞の時も言ったけど、もうこの馬は機嫌次第。末脚を貯めて、走る気持ちを維持したまま直線に向けば面白いだろうね。ちょっと距離に不安が残るけど、2着争いなら十分可能性あるよ
珠美:「次は2枠です。桜花賞の時には人気を集めた2頭ですけれど、私も博士も無印です」
駒木:「3番のチャペルコンサートは、ちょっと力が足りないかな。中団から競馬をするタイプだけに、そっちも気になるところ。
 4番のサクセスビューティは11番人気か…。あんまり差が無いとはいえ、下がったもんだなあ。でもまぁ、妥当なところかな。フィリーズレビューの勝ち方からして、マイペースの単騎逃げを打たないと話にならない馬だからね。今回はちょっと息が入りそうに無いし、さっき言ったように逃げ馬不利のデータもある。今回は見送りが妥当じゃないかな」
珠美:「…では次は3枠ですね。博士の本命馬・ユウキャラットと、私の対抗馬・ブルーリッジリバーがいます。
 私は、桜花賞組の好走再現を期待してるので、こういう形になりました。ユウキャラットは……うーん、迷うところなんですけど、やっぱり一度も重賞で実績が無かったり、逃げ馬なのにハナに立てそうに無かったりというのが気になりました。ギリギリで押さえですね」

駒木:「ブルーリッジリバーね、うん。強いと思うよ、この馬。距離不安が言われてるけど、ゴールデンジャックみたいな雰囲気も持ってるし。ただ、僕は2着争い候補だって言う事で、評価は4番手
 さぁ、問題はユウキャラットだね。僕は、この馬は先行〜好位からでも勝てる実力馬だと見た。逃げ以外での実績に乏しいんだけど、以前の不振は距離不足って気もするからね。鞍上が奇しくもアローキャリーの池添騎手。どうも今回も同じようなケイバをして、直線鮮やかに抜け出しそうな気がするんだけどね」
珠美:「次は4枠の2頭についてお願いします」
駒木:「僕はね、このマイネミモーゼ今回の台風の目だと思ってるんだよ。血統も体型も、『いかにも2400m走ります』みたいなニオイがするんだよね。前走・フローラSも負けて強しの内容だったし。あー、でも3番人気なんだな、この馬。穴人気しちゃったなあ。変にマークされなきゃ良いけど……。
 8番のキョウワノコイビトは、とにかくジリ脚だからね。先行・好位の馬のクセにジリ脚。一番オークス向きじゃない脚質だね(苦笑)。今回は入着までってところじゃないのかな」
珠美:「私はマイネミモーゼに押さえの×印ですね。
 ……次は5枠の2頭をお願いします。私はスマイルトゥモローの末脚に少し期待して×印です」

駒木:「ツルマルグラマーは、ちょっとここで他の馬と比べたら可哀相だね。
 スマイルトゥモローはねぇ……。桜花賞の時にも言ったけど、特別→重賞の2連勝が恵まれっぽいんだよ。桜花賞の6着は多少評価できるかもしれないけど、この馬も入着一杯かなってのが僕の評価
珠美:「…はい、分かりました。じゃあ次は6枠ですね。この枠は、オースミコスモの取捨選択がカギになると思うんですけれど…。私はスイートピーSでのパフォーマンスと、これまでの実績を評価して▲印です。博士は×印なんですね」
駒木:「これも迷うところなんだけどね。オースミコスモ、前走は勝負駆けだったんだよ。馬じゃないよ。馬は賞金足りてたからね。勝負してたのは騎手。常石騎手は一旦降板させられた後の再起用だけに、負けられないレースだった。しかも前走は馬体がかなりギリギリ実力馬だとは認めるけれど、好位からのケイバで、どこまで食い込めるだろうか、怪しいところ。あくまで押さえという評価にさせてもらったよ。
 カネトシディザイアは、これも前にも言ったけど、G1争うには地力が少し足りないかな」
珠美:「7枠にはシャイニンルビーがいますね。前日発売の単勝1番人気です。私は前走を評価して、さらに上積みを見込んでの本命です。博士も対抗の高評価なんですが、果たしてどうなんでしょうか?」
駒木:「その前に13番のウィルビーゼア。掴みどころの無い馬だなあ……。でも、なんとなーく8着争いしてそうな気がする馬だね(笑)。10万馬券の時はこういう馬が台頭するんだろうけど、僕にはこの馬を推す勇気は無いねぇ。
 で、14番・シャイニンルビーね。うん、実力は最右翼だろうねぇ、この馬。前走は22kg減であのレースだもんね。いやぁ、驚いた驚いた。
 問題は、やっぱり中間のケイコが軽めだった事をどう受け取るかだろね。中5週で実質時計2本というのはどうなんだろう? 藤沢(和)厩舎だから、軽めの調教で仕上げるノウハウは熟知してると思うけど、中身まで仕上がってない雰囲気も確かにある。走ってみなきゃ分からない怖さがあるね。良い意味でも悪い意味でも。僕は、『多分走るんじゃないかな』って思ってるけど。
 15番のビューティマリオンは、関係者には悪いけど、問題外と言うしかないかな」
珠美:「それでは、最後に8枠の3頭を。私も博士も無印ですね」
駒木:「16番のヘルスウォールねぇ……。この馬、気になったんだけど。桜花賞、外枠先行で5着でしょ。でも、オークスも外枠先行は致命的なんだよね(苦笑)。だから今回も良くて5着かなあ、と。騎手がデムーロから乗り替わりになるのもプラスと言えないし。
 17番マイネヴィータ。この馬も先行馬だね。やっぱり、それを考えると、2着争いはちょっと辛いかなあ。
 大外18番のニシノハナグルマは、道悪限定の印象が強い上に、今回はややデキ落ちムード。ちょっと強く推せないね」
珠美:「……ハイ、ありがとうございました。それでは最後にフォーカスの発表をして締めくくりましょうか。まずは博士、お願いします」
駒木:「いつも通りの買い方。6、14、7のBOXに5-6、6-11、それと枠連で1-3かな。馬連2-6で勝負するかもしれないけど」
珠美:「私は14.5.11.2の4頭BOXに14から1.6.7.10へ4点の計10点です。万馬券もありますよ♪」
駒木:「おぉ、当たったらデカいねえ。まぁ、受講生の皆さんの健闘を祈ります。それでは、講義を終わります。珠美ちゃん、お疲れ様」
珠美:「ハイ。博士もお疲れ様でした」


優駿牝馬 結果(5着まで)
1着 10 スマイルトゥモロー
2着 チャペルコンサート
3着 ユウキャラット
4着 マイネミモーゼ
5着 14 シャイニンルビー

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 ……何も言う事ぁございません。完敗です。相馬眼の無さを思い切り痛感いたしました。
 絵に描いたような◎○▲のスリーフォーファイブフィニッシュ。競馬って難しいねえ。うんうん。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 押さえの馬が3頭も掲示板に載ってるんですけど、肝心の本命・シャイニンルビーが……。やっぱり、本調子に戻りきれなかったんでしょうか……。
 でも、博士がおっしゃっていた「スローペースでも差し馬有利」というのは本当だったんですね。私はハイペース予想で考えていたので、正直ビックリでした。

 


 

5月11日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(12)」
1995年全日本アラブ優駿/1着馬:キタサンオーカン

駒木:「さて、今週の競馬学概論は少し変わったレースを採り上げようと思うんだ」
珠美:「あら、園田競馬全日本アラブ優駿ですか !? 私たち兵庫県の競馬ファンには馴染み深いですけど、果たして他の地方の皆さんにとってはどうなんでしょう?(苦笑)」
駒木:「多分だけど、僕より年上(27歳以上)のコアな競馬ファンならば、間違いなくある程度の知識はあると思うんだけどな。それより年下の人になると、レースどころか『アラブって何?』って世界かもしれないけど(苦笑)」
珠美:「そうですね。もう中央競馬でアラブ系の競走が廃止されて久しいですし、ここで一度、博士からアラブ馬について簡単に解説して頂けますか?」
駒木:「はいはい。じゃあ、『アラブって何?』ってところからね。
 アラブ馬っていうのは、その名の通りアラブ…つまりアラビア半島原産の乗用馬でね。サラブレッドの三大始祖・ゴドルフィンアラビアンはアラブ馬じゃないかと言われてるし、サラブレッド牝馬の祖先にもアラブ馬がある程度いるんじゃないかとも思われているから、サラブレッドの遠い祖先みたいなものだね。現生人類と猿人みたいな関係と言えば分かりやすいかな。
 あ、ちなみにサラブレッドって言うのは、イギリス馬、アラブ馬、トルコ馬、ロシアや中央アジアの馬を交配させて競走用だけに特化して人為的に作り上げた“究極の雑種”だよ。名前は“純血=サラブレッド”だけど、実際は真逆(笑)
 競走用の雑種馬の中で、サラブレッド名簿に登録された馬をサラブレッドって言うんだ。意外と定義が曖昧なんだよね。
 おっと、話が逸れた。アラブ馬ね。アラブ馬はサラブレッドに比べるとスピードでは劣る。その代わり、スタミナが豊富で体は丈夫、おまけに人に従順だし環境の変化にも対応しやすい。スピード以外は全部サラブレッドよりも優れてるとも言えるね。
 で、ややこしい話なんだけど、日本の競馬で走っているアラブ馬は、正式にはアングロアラブ種なんだ。これはアラブとサラブレッドの雑種。アラブとサラブレッド双方の長所を取り入れようという試みの下で生まれた新種なんだよ。細かい話だけど、アラブの血が25%以上入っている馬がアングロアラブで、それ以下だとサラブレッド系(サラブレッドではないけどサラブレッドと酷似した馬)扱いになる。少しでもアラブの血が入ってるだけでO.K.だと際限が無くなるんで、一線を引いたわけだね。
 このアングロアラブ種は、スピードがほんの少しサラブレッドより劣るくらいで、扱い易さとかタフさとかは断然こっちの方が上。“世界標準”という事を無視したら、こちらの方が競馬に向いているとすら言える。
 だから特に、競馬文化が発展途上で競走馬が不足していた終戦直後の日本では、アングロアラブは随分と重宝されてきた。少ない頭数で競馬が開催できて、しかも連闘、連闘でいける。世界で通用する強い競走馬を作るよりも、馬券を売り上げて戦災復興資金を稼ぎ出す事が大事だったこの時期には、まさにうってつけの品種だったんだ」
珠美:「昔はサラブレッドよりも強いアングロアラブがいて、むしろアラブ競馬の方が盛んだったくらいなんだって、仁経大の講義で聞いたことがあります」
駒木:「そうそう。僕が生まれるずうっと前になるけれども、セイユウって強い馬がいてね。菊花賞トライアルのセントライト記念に出て、サラブレッド相手に勝っちゃった。出走資格が無かったんだけど、有馬記念のファン投票で上位に来た事もあったくらい。まぁ、当時は日本のサラブレッドが今と比べて弱すぎたって事もあったんだけれどね。
 今年に入っても、園田競馬のローカル重賞で、アラブがサラブレッド相手に完勝したりしてるよ。生産規模が縮小されて、セイユウ時代に比べて段違いに層が薄くなった今でも、アングロアラブのトップ級は弱いサラブレッドよりも段違いに強いはず。究極のレヴェルになると劣勢だけど、全く太刀打ち出来ないほどじゃないはずだよ」
珠美:「……でも、今ではアラブ競馬は絶滅寸前になっちゃってますよね。どうしてなんですか?」
駒木:「結局は世界標準じゃないって事だよ。アラブ競馬は、日本の他ではフランスとドバイで細々とやってるに過ぎない。サラブレッドが余るくらいに生産されるようになった今では、敢えてアングロアラブにこだわる必要が無くなったっていうのが実際のところじゃないのかな。放っておいても質の良いサラブレッドが集まってくる中央競馬と南関東競馬が真っ先にアラブ競馬を廃止したのがその証明と言えるかもしれない。
 例えば今日扱うレースを実施している兵庫県競馬(園田&姫路競馬場)は、少し前までは全レースがアングロアラブ競馬でね。サラブレッドが1頭もいなかったんだけど、それを逆に誇らしげに思っていた節すらあったんだ。だけど、中央と地方の交流競走が始まった後は、『サラブレッド競馬をやらないと孤立化する』って言うんで、サラブレッドの導入と段階的なアラブ競馬の廃止を決定してしまった。今日扱う全日本アラブ優駿も、果たしていつまで存続できるか分からないんだよね。
 でもその逆に、徹底的に経営をスリム化して、アラブ系競馬だけで独立独歩の道を歩む福山市競馬みたいな所もある。最終的にアラブ競馬は、今のばんえい競馬みたいな規模になって、文化遺産のように細々と存続していくんじゃないかと思っているよ」
珠美:「……なるほど、分かりました。ところで博士、今日はアラブ系競馬の中でも、どうしてこのレースを採り上げることにしたんですか?」
駒木:「うん、いい質問だねぇ。……なんか教育TVみたいなノリだけど(笑)。
 えーとね、まぁ、このレースが純粋に面白かったって事もあるんだけど、この年の全日本アラブ優駿が、ある意味で“全日本”と言える最後のレースだったからって事も大きいかな。まぁ、それはまた後で詳しく解説する事にするよ」
珠美:「…分かりました。それでは、今回からレースの出走表をお見せする事にしました。これで、より講義が分かりやすくなるんじゃないかと思います」

第34回全日本アラブ優駿 園田・2300・ダ

馬  名 騎 手
ドリームウッド 田中道
イチヤ(高知) 花本
ヒロタケテンプー 岩田
ムーンリットガール(中央) 武豊
グレートマルゼン(荒尾) 牧野
オーキッドグレイド 小牧毅
フェイトスター 尾林
タッチアップ(福山) 荻田
キタサンオーカン 小牧太
10 シャンデリアブルー 尾原
11 ミマツタイトル 山口
12 スマノカルダン(福山) 片桐

駒木:「う〜ん、今日のレースは出馬表を出しても出さなくても、ほとんどの人にはチンプンカンプンかもなぁ(苦笑)。まぁ、仕方ないかな。
 …じゃあ珠美ちゃん、改めてレースと有力馬の紹介をお願い」
珠美:「ハイ。このレースが行われたのは1995年の6月7日でした。本来は5月に実施するレースなのですが、阪神・淡路大震災のため1ヶ月順延しての開催となりました。
 この全日本アラブ優駿は、もともと1962年から兵庫県所属限定の重賞競走・“楠賞”として施行されてきたレースを、1973年の第12回から全国交流にグレードアップして現在の名称に変更したものです。後には中央競馬所属馬も交えて、まさに“アングロアラブの日本ダービー”として、アングロアラブ競馬の中でも極めて重要な地位を占めるレースとなりました」

駒木:「あ、あとこのレースには可笑しなジンクスがあってねぇ。『全日本アラブ優駿の勝ち馬の馬番か枠番が、日本ダービーの1着か2着の馬番か枠番に連動する』っていうのがあった。今から考えたら随分といい加減なジンクスなんだけど、当時は10年くらい続いてたのかな。だからスポーツ紙や軟派な競馬専門誌なんかでは、採り上げられたものさ。
 もっとも、この年は施行時期がズレてたから、日本ダービーの方が先だったけどね」
珠美:「……それでは有力馬の紹介なんですけど、博士、単勝人気の資料が無いんですけど、どうしたんでしょうか?」 
駒木:「あー。この時期の園田はまだ馬連導入前で、しかもマークシート式の馬券販売が始まったかどうかの時期でねぇ。発売窓口の大半は枠番連勝専用の口頭販売窓口だったんだよ。『2-5、2-6、100円ずつ』って具合に馬券を買ってた。
 だから単勝馬券を買える窓口はほとんど無くて、売上も1レースあたり数万円から10数万円がせいぜい。これじゃあ、“単勝人気=有力馬”ってわけにはいかなくてね。有力馬は専門紙の印や枠連のオッズを参考にするしかなかったんだ」
珠美:「……なるほど、そうなんですか。じゃあ、どうしましょうか? それだったら博士に直接解説して頂いた方が良いような気がするんですけど…?」
駒木:「あぁ、じゃあそうしようか? なら、まず地元兵庫の馬からね。
 まず、断トツで最有力候補に推されていたのが、6枠7番のフェイトスター。この馬は牝馬なんだけど、その年の春の重賞戦線を総ナメにしていてね。中央競馬で言うところの皐月賞と桜花賞・オークスにあたる2つの重賞レースを圧勝していた。全国からの“刺客”が相手でも、まず連対は外さないんじゃないかと言われていたんだ。
 あとは数段ランクが落ちるんだよね。そりゃ、主要レースを全部フェイトスターにヤラれていたんだから当たり前なんだけれども……。
 そうだなぁ、あとはここまで格下相手に実績を積んできた裏街道組ばかりだね。7戦5勝3着2回、負けたレースは出遅れが原因だったっていうキタサンオーカンとか、中央競馬で言うところの抽選馬にあたる補助馬限定のレースからのし上がって来たヒロタケテンプーとかね。あと、ギリギリでオーキッドグレイドあたりも2着候補の1頭だったかなって程度」
珠美:「牝馬が地元のエースで大本命馬っていうのって、よく考えたら凄いですね」
駒木:「だね。まぁこれは牝馬限定のレースが未整備だったがゆえに自然発生した現象とも言えなくも無いけどね。中央競馬でも、桜花賞とオークスを廃止して、それを合同したようなレースをNHKマイルの位置に持ってきたら、こういう事が起こるかもしれないよ」
珠美:「それはそれで寂しい気もしますけどね(苦笑)。では、他の地区からの遠征馬についてお願いします」
駒木:「うん。この年は関東と北海道からのエントリーが無かったんだけど、その代わりに中央競馬から武豊騎手を伴っての挑戦馬が現れて、かなりの盛り上がりを見せたんだよ。
 ただ、この時期になると、アラブ専門で競馬をやっていた一部地区以外のアラブ競馬は衰退の一途でね。いくら他の地区で無敵の快進撃を続けようとも、ここに来ると見劣りする馬も少なくなかった。
 まず高知イチヤだけど、もともと地区的にランク下位の上にそれほどずば抜けて強い馬じゃなかった。だから完全にノーマークだったね。
 次に荒尾グレートマルゼン。荒尾も格下の地区なんだけど、この馬はここまで確かデビュー以来9連勝でやって来ていて、ちょっとした人気にはなっていた記憶がある。同枠にオーキッドグレイドもいたし。
 福山の2頭の内、注目されたのはタッチアップ。元々福山市競馬兵庫県競馬より若干見劣るランクなんだけど、時々バケモノみたいに強い馬が出てくることでも有名でね。このタッチアップは前走、園田に遠征して地元馬相手のトライアルレースを勝っていて、新たな“怪物候補”として名乗りをあげていた。当時のコアなファンの間では、昭和時代の福山競馬を代表する名馬・ローゼンホーマの再来か、だなんて噂されていたものさ。もう1頭のスマノカルダンは、残念ながら力が足りない印象だったね。
 で、問題は中央競馬・あの栗東は森厩舎ムーンリットガール。中央競馬のアラブ競馬は、実はこの年の秋限りでの廃止が決まっていて、絶滅寸前の様相だったんだ。さっき、『これがある意味で最後の“全日本”』って言ったのもそういうわけ。1年辺りの入厩馬総数も、ほとんど牧場の売れ残りで構成された抽選馬だけの数十頭で、もう色んな意味でギリギリだったわけ。
 ところがこの馬は、そんな悲惨な状況の中に現れた最後のスターホースだった。デビュー以来、アラブ相手では負け無し・完勝ばかりの5連勝。それだけじゃなくて、サラブレッド相手でも府中3歳S(現:東京スポーツ杯3歳S《G3》)では掲示板に載る5着オークス指定オープンのスイートピーSでも8着に健闘したんだ。
 もはや中央のアラブには敵無し。サラブレッド相手にも互角にやれる事も証明した。あとはもう満を持しての“地方競馬挑戦”のみだったんだね。サラブレッドで言うところの海外挑戦みたいなものさ。
 ただ、この馬はこれがダート競馬初挑戦。しかも砂の深い園田のダートだ。果たしてそのダート適性がどうなのかってところに最大の焦点が置かれていたんだよ」
珠美:「地方競馬に“挑戦”するってところが、新鮮な響きですよね。それに、わざわざ乗り換えてまで武豊騎手を起用したんですよね。なんだか、本当に森厩舎の海外G1レース挑戦みたいなお話ですね(微笑)」
駒木:「武豊騎手はこの時が園田初騎乗。これもレース展開の伏線になるから、よく覚えておいてよ。
 ……じゃあ、時間もオーバー気味だし、レースの回顧に移ろうか。珠美ちゃん、よろしく」
珠美:「…ハイ。スタートはほぼ揃ってはいたんですが、フェイトスターが若干立ち遅れ気味になりました。…これはどうだったんでしょう?」
駒木:「まぁ、フェイトスターは元々差し馬だからね。多少の出遅れは気にならなかったんだけど、後から考えると、この出遅れが最後に響いたのかもしれない。まぁ、それは後の話だね」
珠美:「ハナを切ったのはムーンリットガールでした! 敢然と先頭に立ってリードを広げてゆきます。その後ろの先行グループにタッチアップ。そこからさらに遅れてキタサンオーカンとオーキッドグレイドが中団。フェイトスターはその集団を後ろからマークする形で10番手辺りを追走していました」 
駒木:「ムーンリットガールのスピードは、サラブレッド相手でも平気でハナ切るほどだったからね。ここでも逃げるだろうと思われていた。でも、ここからが凄かったんだよね」
珠美:「ハイ、そうです。ムーンリットガールはスピードに乗ったまま、グングンと後続との差を広げていって、最大リード20馬身以上の大逃げになってしまいました」
駒木:「この時、僕は現場にいたんだけど、まさに場内騒然。園田競馬でこんな大逃げが試みられた事は長らく無かったからねぇ。普段は動じない年配客も、この時ばかりは素で驚いていたよ(笑)。
珠美:「1周1000m(当時)の園田競馬場を2周と1/4回るこのレース、ムーンリットガールが依然大逃げを打った状態のまま、最終周回の向正面に差し掛かりました。小回りで直線の短い競馬場ですので、勝負所が向正面なんですよね。
 最大20馬身あったリードですが、ここにきてタッチアップが進出して来て、差が7〜8馬身くらいまで縮まってきました。後続の園田勢も進出を開始します。
 そしてコーナーを回って直線入口。ついにムーンリットガールの脚が止まってしましました。替わってタッチアップが先頭に立ち、そこへ園田勢が怒涛のように押しかけてきます。
 ……えーと、博士、ムーンリットガールはどうしちゃったんですか? やっぱりダート適性と地力の不足だったということだったんでしょうか?」

駒木:「あー、珠美ちゃん、武豊騎手のファンだから気になるのかな?(ニヤリ)」
珠美:「え、あ、いえ、そ、そんな理由じゃありませんよ!(赤面) 純粋な、純粋な疑問ですよ、全くもう。講義の時に博士、何言うんれすか……って舌もつれてるしー!(半泣)」
駒木:「あー、はいはい。これ以上イジめたら珠美ちゃんのファンから殺されるから止めておこうね(苦笑)。
 そうだねぇ。大体は珠美ちゃんが言った通りだと思うよ。
 でも、ちょっと気になるところもある。レース後に武豊騎手が『自分の中では決して早くないペースで逃げているつもりだったんですが』ってコメントを残していたんだけど、一方の小牧太騎手は『前の馬はペースが速過ぎたので、必ず止まると思っていた』ってコメントしてるんだ。
 さっき言ったようにこの時、武豊騎手は園田競馬に初めて乗ったんだよね。しかも2300mのレースなんて年に数回しかないレアな条件なんだよ。だから、武豊騎手がペース感覚を読み違えて、結果的に暴走しちゃったって考えてもおかしくないだろうね。弘法も筆の誤り、武豊もペースの誤りってところさ」
珠美:「……はぁ、あの武豊騎手でもミスするんですねー……って、これは純粋に武豊騎手が元々上手い騎手だということから喋ってるんですからね!(赤面)」
駒木:「了解了解(苦笑)。もうイジめないからレース回顧に戻ろう。最後の直線の攻防がまだなんだ」
珠美:「──あ、失礼しました(苦笑)。最後の直線、ムーンリットガールが脱落して、先頭に立ったのがタッチアップでしたが、その外からキタサンオーカンとオーキッドグレイドが一気に伸びてきます。フェイトスターも大外から脚を伸ばすんですが、脚色が同じになってしまいました」
駒木:「ここで始めの出遅れが響いた形になっちゃったよね。まぁ、本来ならこういう不利な位置からでも格好はつける馬なんだけど、やっぱり大一番だけあって、他の馬の仕上がりも万全だったんだろう。最後まで前が止まらなかったね。敗因を探ればそういう事になるのかな。」
珠美:「結局、キタサンオーカンが鮮やかな差し切りで優勝。2着にオーキッドグレイドがなだれ込んで、兵庫県所属馬、曾和厩舎所属馬、そして小牧兄弟のワン・ツーフィニッシュという劇的な結果になりました」
駒木:「レース的には劇的だったんだけどねえ……。馬券的には大本命の6枠がトんで、何とも言えない雰囲気になっちゃったよ(苦笑)」
珠美:「(苦笑)。以下の着順は、タッチアップが3着でふ、フェイトスターはまさかの4着。ムーンリットガールは結局7着に終わりました。
 では博士、最後に出走馬たちのその後をどうぞ」

駒木:「1、2着馬は、その後故障もあって大成しきれなかった感じかな。タッチアップも活躍はしたけど、“怪物”と呼ばれるには今ひとつの成績だったかも知れない。
 ただ、フェイトスターは凄かった。その後、同一重賞3連覇を果たして、獲得賞金も1億円を突破。そうだなぁ、中央のサラブレッドで言えばエアグルーヴみたいな活躍をして引退したよ。
 もう1頭の主役・ムーンリットガールは、その後も中央でアラブ競馬で圧勝する傍からサラブレッドにも挑戦していった。サラブレッドG1のスプリンターズSに出走(16頭中14着)するなどして話題を集めたよ。翌年からは笠松競馬に移籍して挑戦を続けたんだけど、早熟だったのかな、もうかつての輝きは見られなかった。残念だね」
珠美:「ハイ、ありがとうございました。いよいよ来週からオークスとダービーですね」
駒木:「うん。ただ、ダービーの方は、僕のプライベートな事情から日程調整が難しくてね。ひょっとしたら予想ではなくてプレイバックになるかもしれないけど、それはまた追ってお知らせするよ。
 それでは、今日の講義を終わります、長い間ご苦労様でした」

 


 

5月4日(土・休) 競馬学特論
「G1プレイバック・天皇賞(春)&NHKマイルC」

珠美:「皆さん、こんばんは。競馬学特論のお時間です♪ 今日もよろしくお願いしますね。
 当講座では、毎週土曜日は競馬学の講義を実施していまして、特にJRAG1レースのある週は『競馬学特論』として、駒木博士と私とで、G1レースの予想を行っています
 ですが、今週は変則日程でG1レース・NHKマイルCが土曜実施ということで、物理的事情により予想が出来なくなってしまいました。なので、今週は予想ではなく回顧編の『G1プレイバック』をお送りいたします
 それでは駒木博士、よろしくお願いします」

駒木:「うん、よろしく。ところで、今回の『G1プレイバック』なんだけど、日曜日の天皇賞(春)の回顧がまだ済んでいなかったので、そちらを先にやってしまおうかなと思ってるんだ。ちょっと時間をかけて振り返りたい点もあったからね」
珠美:「ハイ、分かりました。…それではまず、天皇賞(春)の着順を振り返っておきましょうね」

天皇賞(春) 結果
着順 馬番 駒木 珠美

馬 名

騎 手
マンハッタンカフェ 蛯名
ジャングルポケット 武豊
ナリタトップロード 渡辺
  × ボーンキング デムーロ
サンライズペガサス 安藤勝
    キングザファクト 後藤
    トシザブイ 池添
    ホワイトハピネス 小原
    アクティブバイオ 四位
10 11     アドマイヤロード 須貝
11 10     エリモブライアン 藤田

珠美:「……というわけで、今年の天皇賞(春)は、2番人気のマンハッタンカフェが優勝。菊花賞、有馬記念に続くG1レース3勝目を飾りました。2着、3着にもそれぞれ人気馬が入着し、払戻金も馬連540円と堅くおさまりました。そして、私たち2人も予想的中ということになりました♪」
駒木:「まぁ、余程ヒネった買い方でもしない限りは的中できる結果だったから、そう喜んでばかりはいられないんだけれども。まぁ、予想が当たって良かったのは確かだよね」
珠美:「そうです! 当たらないよりは随分マシですよ! 何と言っても、私のお給料が守られたんですから!(笑)
 ……と、まあ冗談はそれくらいにしておきまして、レース回顧をしていただきましょう。博士、よろしくお願いします」

駒木:「うん。じゃあまずレース全体の印象だけど、ここ最近にありがちな“道中スローペースからの末脚勝負”になっちゃったよね。これでいくらか展開の綾を生んでしまったみたいだなぁ。
 あと、これは出走馬1頭ごとの回顧でも採り上げるけど、このレースのポイントは最後の4コーナー。せっかく騎手たちによるシビアな腕比べが見られようとしていたのに、それを台無しにしてしまう非常に残念な出来事があった。馬券当てといて言うのもアレだけど、もっと締まったレースが観たかったなぁ、というのが個人的な感想だね」
珠美:「…なるほど。競馬は人によって色々な見方がありますものね。
 では次に、1頭ずつ、上位入線馬を中心に振り返っていただきましょう」 

駒木:「まず、1着のマンハッタンカフェから。ともかくも直線入口から早めに抜け出してから粘りこんで勝ったんだから、やっぱり地力があったという事なんだろうね。
 ただ、レース展開的には薄氷を踏むような辛勝だったねぇ。内枠から前々で競馬をしたという事もあって、絶えずナリタやジャングルにマークされる苦しい形だった。特に最後の3〜4コーナーでは、その2頭の共同作戦にしてやられてインコースのゴチャついた馬群に放り込まれてしまった。イン側は数頭の先行馬が壁を作っていて、さすがの蛯名騎手でもそこから割り込むのは難しいと思われたんだけど……」
珠美:「インコースがパカっと開いちゃいましたものね」
駒木:「そう。後藤騎手のキングザファクトが4コーナーで外へモタれちゃったんだよなぁ。これがマンハッタンカフェが通る道を開けたのと同時に、外から馬群を捲ろうとしていたナリタとジャングルを外に振ってしまった事実上、ここで勝負あり。カヤの外にいた馬と騎手が勝負の綾と作ってしまったのは、やっぱり残念だよね。
 でもまぁ、この事がマンハッタンカフェの勝利の価値を下げるものではないからね。やっぱり早め先頭で抜け出して粘りこむのは力がある証拠。結局、勝負は『運も実力のうち』って事なんだよね。」
珠美:「分かりました。では次は、結果的に運をつかめなかったことになるんでしょうか? 2着のジャングルポケットです」
駒木:「距離に若干の不安があって、しかも気性に少し問題がある馬だからね。武豊騎手は折り合い重視&漁夫の利狙いで、道中はマンハッタンとナリタの2頭をマークする戦法をチョイスした。これは全く間違ってなかったと思うよ。
 問題の2周目3〜4コーナーでも、先にマンハッタンの“フタ”をしたナリタから“暗黙のバトン”を受け取る形で共同作戦に参加。この時点で武豊騎手は、『これであとはナリタを競り落とすだけ』と考えてたはずなんだ。ところが、アレだろ?
 武豊騎手、レース後は後藤騎手に激昂していたっていうものね。でも、気持ちは良く分かる。『勝負に参加してないお前が、何故いらん事するんや?』ってところだろう。その行為の是非は別にして、血の気の多い騎手なら一発殴っていてもおかしくない場面だったと、僕は思う」
珠美:「あの普段は冷静な武豊騎手が声を荒げるくらいですものね。相当、腹に据えかねたものが有ったということなんでしょうか?」
駒木:「そうだろうねぇ。で、この件で後藤騎手は他の競馬関係者にも随分とミソをつけてしまったから、今後のG1レースでの騎乗馬なんかに影響が出てしまうかもしれないよ。シビアだからね、この世界。ジャングルポケットにしても、あれだけ関係者に縁の深い騎手で、しかもダービーまで勝った角田騎手を降ろしてまで武豊騎手に乗り替えさせてるんだからねぇ」
珠美:「……厳しいですね…」
駒木:「厳しいといえば、3着のナリタトップロードだよね。この馬にとって、チャンピオン・ホースになる最大のチャンスだと思ったんだけどなぁ。結局は3年連続の3着。ナイスネイチャの有馬記念3年連続3着に次ぐ、『同一G1レース3年連続3着』になってしまった」
珠美:「レースのポイントというか、この馬の敗因はどの辺りにあったんでしょう?」
駒木:「そうだねぇ。分かり易いところで言えば瞬発力の差だろうね。菊花賞も先行粘り込みで獲ったG1だったし。
 ただそれよりも、今回に関しては、渡辺騎手が馬を手の内に入れ過ぎた──つまり上手く操縦しようと意識しすぎて馬にストレスを与えてしまった、という点も無視できないと思う。『策士策に溺れる』じゃないけど、ちょっと考えすぎたのかもしれないね。渡辺騎手が採った作戦そのものは間違って無かっただけに、酷な意見になってしまうんだけど…」
珠美:「騎手って大変なお仕事ですね(苦笑)」
駒木:「だね(苦笑)。いくら収入面で恵まれた職業だとしても、御免被りたい(笑)。競馬は外野から見るに限る」
珠美:「(笑)。…では、4着馬のボーンキングを。私、この馬とジャングルポケットのワイドも押さえていたんで、最後の直線は思わず力が入ってしまったんですが、残念でした(苦笑)」
駒木:「スローペースを見切って、早めに先行グループに上がっていっての粘りこみを図ったんだろうね。デムーロ騎手らしい思い切った戦術とも言えるんだけど、残念ながら力が少々足りなかったね。この辺りがダービー4着馬たる所以なのかもしれない」
珠美:「5着は、穴人気していたサンライズペガサスになりました。この馬についても一言お願いします」
駒木:「後方で脚を貯めて、上がり3ハロン33秒台の末脚を使っていたんだけどねぇ。これだけペースが遅ければ、前が止まらないから仕方が無い
 要は展開が向かなかったわけだけど、本当の超一流馬ってのは、一番展開が味方する戦法を自在にチョイスできる懐の深さみたいなものがあるんだよね。このレースの末脚が先行した時も出るのなら、十分G1レヴェルなんだけど……」
珠美:「……ハイ、ありがとうございました。天皇賞(春)の回顧はこれくらいにして、次はNHKマイルカップの回顧に移りましょうか」
駒木:「そうだね」

NHKマイルカップ 結果
着順 馬番 駒木 珠美

馬 名

騎 手
1 テレグノシス 勝浦
  × アグネスソニック 横山典
タニノギムレット 武豊
15 × メジャーカフェ 岡部
11     カノヤバトルクロス 小野
12 ×   サードニックス 石崎隆
17     カフェボストニアン 蛯名
  シベリアンメドウ 後藤
13     オースミエルスト 秋山
10     キーンランドスワン 藤田
11     キネティクス 小林淳
12 18     メジロマイヤー 田中勝
13     ゲイリーファントム 池添
14 16 タイキリオン 柴田善
15     マヤノサリーダ 武士沢
16 14 × × スターエルドラード 和田
17     スペシャルストック 吉田
18 10     エンドレスデザート 郷原

珠美:「…NHKマイルカップは、断然の1番人気に推されたタニノギムレットが3着に敗退。馬連40倍台とやや波乱気味の決着になりました。
 このレースでは1着のテレグノシスを対象とした、20分にわたる長い審議が行われたんですが、結局は到達順位の通り確定となりました。不謹慎ですが、私にはちょっと残念な審議結果でした(苦笑)」

駒木:「降着なら16着降着だったんだよね。“天国と地獄”もいいところだよ。
 この審議、直接不利を受けたスターエルドラードが2位入線馬(アグネスソニック)と同一厩舎だし、降着なら人気馬が2着になって“平和的解決”になるから、本当に降着になっても全くおかしくなかった。ただ、不利を受けたスターエルドラードも審議の対象馬になっていたし、既に脚色が鈍っていたのも事実。この辺が紙一重でテレグノシスの首の皮が繋がった要因だったのかもしれないね。まぁ、これはこの後の報道を待たなきゃ仕方ないけれども…。
 個人的に予想の回顧をするとだね、『そりゃないよ』って感じだね(苦笑)。印をつけた馬の内、4頭が不利を受けるか審議の対象になってるんだから、もうマトモなレースじゃない。もうちょっと、どうにかならなかったかねぇ(苦笑)」
珠美:「そういうこともあるんですねー(苦笑)。
 ……じゃあ、私たちの愚痴はこれくらいにしまして(苦笑)、そろそろレースの回顧の方に移りましょう。まずは全体的なレースの印象からお願いします」

駒木:「東京の1600mでは、まま見受けられる光景なんだけど、向正面の長い直線で逃げ馬と先行馬がビッシリ競り合っちゃって、とんでもないハイペースになってしまった。こうなると、大きなコーナーと長い直線もあって、差し・追い込み馬が断然有利になっちゃうんだよね。極端な話、道中後ろにいればいるほど有利な展開って言うかね。
 例えば、1994年の安田記念でもこういう超ハイペースの展開になったんだけど、その時はスタートで出遅れた最後方グループの2頭がワン・ツーを決めて大波乱になってる。馬の実力より展開利が大きく結果に影響した顕著な例だね。
 …あとは、インコースの仮柵を外した直後という事もあって、最後の直線でゴチャゴチャしちゃったよね。広い東京コースだと珍しい光景なんだけど、これが結局は長い審議と波乱の一因を担う結果になってしまった。」
珠美:「仮柵を外した後っていうと、いわゆる“グリーンベルト”という、内ラチ沿いの数頭分だけ走りやすくなった地帯が出来てしまう状態ですね?」
駒木:「そう。今の東京開催はダービーを控えた8週連続開催だから、どこかで仮柵を外して馬場の保護をする必要があるんだけど、それにしても残念な結果になっちゃたかなぁ、という感じ」
珠美:「なるほど…分かりました。では、次に上位入線馬と、残念な結果に終わった有力馬の戦い振りについて回顧していただきます。
 それではまず、1着のテレグノシスからお願いします」

駒木:「道中は、最内枠から、さっき珠美ちゃんが言ってた“グリーンベルト”を通って後方待機。この馬、今年の冬までは先行馬で、前走のスプリングSでは一転して差し戦法。今回はどちらの戦法をチョイスするかと思ったんだけど、やっぱりというか再び差しで来たね。
 …でも、まさか勝負所を前にして、タニノギムレットより後ろでガマンするとは思わなかったなぁ。確かにレース展開には沿った戦法なんだけど、瞬発力では明らかにタニノギムレットより見劣るからねえ。負けてたら騎乗ミス扱いされてた場面だったね」
珠美:「直線では内ラチ沿い、他の馬が殺到してゴチャついた所から抜け出す形になりましたけど、ここで審議の対象になった出来事が発生します」
駒木:「直線に入った時点で、タニノギムレットよりも抜け出し辛い位置だったものね。で、イチかバチか馬群を縫うように割って出て行った。あのタイミングで仕掛けてないと間に合わないから、ここでのアタックは英断。たとえそれが暴挙と紙一重だったとしてもね。
 で、問題の審議なんだけど、スターエルドラードが右斜めのすぐ後ろにいた状態で、“車線変更”をした事が対象。進路を遮られた馬が明らかに動揺した仕草をしていたから、本当に際どい判定だったよね」
珠美:「でも結局は、先程お伝えした通り降着には至りませんでした。そして馬群を抜け出した後は貯めていた末脚を伸ばしてゴールへ向かいます」
駒木:「うん。その後はもう抜け出して追いまくるだけだったね。後ろから追い上げて来た馬がジリ脚のアグネスソニックだった事と、タニノギムレットが致命的な不利を被っていた事にも恵まれた。
 今回の勝利は、実力の上にいくらか恵まれがあって得る事が出来たものだろうね。これで即、他の3歳強豪や古馬と渡り合ってG1挑戦となると、かなり辛い気がする。まぁ、とりあえずは次のレースに注目だね」
珠美:「…ハイ。では、先程少しだけお話にも出た、2着のアグネスソニックですけれども…」
駒木:「この馬はジリ脚でね。いや、ジリ脚というか、トップスピードが維持できる“航続距離”が短いんだよ。
 普通ジリ脚っていうと、直線の長い東京コースが有利になるんだけど、こういうタイプは例外でね。成績だけ見ると、確かに東京コースは得意な印象はあるんだけど、それは脚質よりも馬個別の相性のような気がするよ。
 事実、このレースでも、残り200mからは失速してしまって、最後は2着を守るのがやっと。道中、離れた最後方から脚を貯めていてコレだものねえ。『NHKマイルCの2着馬は将来伸び悩む』というジンクスを別にしても、前途多難な感じがするなぁ。
 ともかく、この2着は、ハイペースを見越して最後方待機作戦を採った陣営の勝利だね。前走までで先行策に限界を感じていたんだろうけど、出来る事ならレース前に一言でも言っておいて欲しかったなぁ(苦笑)」
珠美:「なるほど、博士はアグネスソニックが中団でレースすると読んでの無印だったんですね。
 では、次は3着馬。1番人気に応えることの出来なかったタニノギムレットですが……」

駒木:「降って沸いた災難の一言に尽きるんじゃないのかな。結果が結果だから武豊騎手を責める声もあるかもしれないけど、ちゃんとセオリーに則った問題の無い騎乗だったと思うよ。
 ただ、一点だけ挙げるとすれば、武豊騎手はここまでインコース側がゴチャつくとは思ってなかったんじゃないかな。馬場の真ん中付近を通ってた馬までインに切れ込んできたからね。普通、ハイペースになった東京の1600m戦は、馬が内外へバラけるんだよ。
 それがああいう形になって、しかも進路を変えようとした瞬間に他の馬に邪魔される場面が2〜3度あった。これじゃあ、たとえタイキシャトル級の馬でも勝つのは難しいんじゃないかな。
 それでも最後は2着争いまで食い込んだものね。負けてなお強い内容だったし、根性のあるところは見せてくれた。将来に期待の持てるレースではあったんじゃないのかな。
 ただ、この後ダービーへ向かうとなると、なかなか厳しいものがあるんじゃないのかな。ローマンエンパイアのリタイアや、他の有力馬がスランプに突入した事で、チャンスではあるんだけど、それよりも体調が維持できるかどうかが心配。中2週→中2週でG1レースを3走っていうのは酷が過ぎるね」
珠美:「……では、次に4着のメジャーカフェを」
駒木:「この馬も後方待機から。不利を受けない外を通って脚を伸ばしたんだけど、意外と末脚がダラシなかったなあ。アグネスソニックよりも早くギブアップしたんじゃあ、今後のG1戦線では苦戦が続きそうだね。G3の1つや2つは狙える器かもしれないけれども」
珠美:「5着のカノヤバトルクロスも後ろからの競馬でしたが?」
駒木:「この馬も展開に恵まれたクチだね。力は少し一線級には足りない
珠美:「それでは最後に、6着以下に終わった有力馬について、簡単に振り返っていただきます」
駒木:「まず6着のサードニックス。典型的な穴人気になっちゃったんだけど、やっぱり力が微妙に足りないかなぁって感じかな。よく頑張ってはいるんだろうけど。
 7着、8着のカフェボストニアンとシベリアンメドウは距離かな。あと、スピード比べに限界があるということも考えられるだろうね。
 12着のメジロマイヤー。今日のレースで先行しちゃったら、勝てるレースも勝てない。
 14着のタイキリオンはどうしちゃったんだろうね? 道中、中途半端な位置でスタミナを浪費したという事もあったんだろうけど、それにしても脱落が早すぎた。ニュージーランドTの時とは大違いだったね。残念だ」
珠美:「……ハイ、ありがとうございました。博士、お疲れ様でした」
駒木:「うん。珠美ちゃんもご苦労様」
珠美:「それでは、また来週の競馬学講義をお楽しみに♪」


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