「特集」アーカイブ(2001年9月上旬)

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9/11 緊急報告・21世紀の狼少年(後編)
9/10 緊急報告・21世紀の狼少年(中編)
9/9  緊急報告・21世紀の狼少年(前編)
9/7  寸劇・駒木ニュース研究所(後編)
9/6  寸劇・駒木ニュース研究所(中編)
9/5  寸劇・駒木ニュース研究所(前編)
9/4  イチロー選手コスプレデビュー
9/3  韓国・性犯罪者名簿公開の余波

9/2  悲劇のミスコロンビア

 


9月11日(火)

「今日の特集」緊急報告・21世紀の狼少年(後編)

 幼年時代から長い間、一般社会から隔絶されていた“狼少年”。マクドナルド内の空気を凍りつかせながらも、ようやくアメリカの首都を導き出すことが出来ました。
 しかし、我々は忘れていました。
 
アメリカの首都でさえ、これなのだから他の国はどうなのか?
 ……と、いうことを。

 「他の国はどうやったっけなあ? イギリスはロンドンやろ、フランスはパリやんなあ……。で、イタリアはベルリンか」

 痛!

 …イタイ、イタイヨウ。ダレカタスケテクレ…………。

 思わず至急電報を打ちたい心境です。

 「違うって。お前、ネタで言うてるんとちゃうか?」
 連れの男性も、いよいよ訝しげになって来ました。「ギャグで言ってるのか?」という問いかけをする辺り、やはり関西人です。
 ですが、何度も言ってますが、相手は狼少年です格が違います

 「ええ? わっからへん。ヒントくれ。何文字や?

 な、何文字……。駒木は隣にいながらギブアップ状態です。徹夜麻雀明けの朝に裏ビデオを見せられるような「お腹一杯」感が体中に浸透してゆくような感覚です。
 もう、連れの男も勘弁してくれ、と言いたげに「3文字」と告げました。
 これで解決か。いや、そんなに甘くはありませんでした。

 「ええ!? 3文字ィ!?」

 またも咆哮です。

 この後彼は、「3文字の都市って、パルマオタワしか知らんわ」などと信じられない言葉を吐き出しました。シカゴはどうしたのでしょうか? いや、問題はそんな瑣末な所ではありません。
 ひょっとしたら、彼は狼少年というよりも、どこからか四次元の海を乗り越えてきた、パラレルワールドの人なのかも分かりません。いや、その方が論理的に説明がつくような気がしてきました

 「え〜? もう1個ヒントくれ!

 だ、第2ヒント………。あなたはクイズミリオネアの2問目で、ライフライン全部使うような人なのですね? まあ仕方ないか、狼だし

 「ヒントくれ! 3文字の真ん中の字を言うてくれ!」

 ま、真ん中………(檄汗)。
 なんか、こう、笑いの神様が降りてきているような感覚です。
 連れの男も「さすがにそれは言えん」と拒否。まあ、言いようが無いでしょうけど。
 もう、いちいちコメントをつけるのが辛くなって来ましたので、しばらくの間、狼少年と連れの男の会話のみをお楽しみ下さい。
 ツッコむべき所は、ご自由にツッコんでくださいませ。

 狼少年:「じゃあ、別のヒント!」
 連れの男:「……サッカーの中田の前のチーム」
 狼少年:「せやから、パルマやんけ!」
 連れの男:「それは今や。前のチーム」
 狼少年:「ええ〜? どこやったけ。ユニフォームは青やったよなあ」
 連れの男:「違うって」
 狼少年:「ええ? イタリアのユニフォームって青やったやんけ」
 連れの男:「(絶句しつつ)せやから違うって。お前、ホンマにネタで言うてるやろ」
 狼少年:「いや違うって。ええ〜!? どこやねん!」
 連れの男:「………」
 狼少年:「もう1個ヒント! 最後の文字は?」
 連れの男:「……『マ』」

 狼少年:「せやからパルマや言うてるやんけ!!」

 ああ、ついに一触即発です。まさか、たかだか「イタリアの首都はどこ?」から、人間関係にヒビが入る事態に発展するとは。
 ついに、苛立ちが頂点を迎えた狼少年が吠え出しました。

 「『マ』〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 「『マ』〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 「『マ』〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 それを見た連れの男、相当哀れに思ったのか、とんでもないことを言いやがりました。

 「もうエエ。隣の人にでも訊いてみ。すぐ教えてくれるわ」

  隣………… 

 やん(゜口゜;;)

 ええっ? と狼狽する駒木の側では、
 
ガタタタタタタタ
 という椅子を引く音が。周囲の客が二次災害を恐れて避難をおっぱじめました。 
 ああ、もう一刻の猶予もありません。駒木も退避です。
 緊急離脱し、席を離れる駒木。しかし、その背中に最後まで咆哮が突き刺さってました。

 「『マ』〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 

しかし、「マ〜〜〜!?」てアンタ……   

(終)


9月10日(月)

「今日の特集」緊急報告・21世紀の狼少年(中編)

 さて、今日からいよいよ狼少年の目撃報告に突入します。
 昨日の報告でも書きましたが、マクドナルドにて、狼少年と思しき人物と連れの男が座る席のすぐ隣に席を確保した駒木は、自然とその2人の会話の内容が聞こえてくるという状況となりました。しかし、まさかそれが世紀の大発見に繋がるとは、夢にも思っていませんでしたが……。

 彼らは最初、「『ガチンコ!』は電波少年のパクり番組だ」という、ある種真っ当な会話をしていました。その時駒木は、「それを言うなら『トロイの木馬』だろう」と、フジTVバラエティー班の傷痕をえぐるような事を考えつつ、ダブルチーズバーガーを口に運んでいましたが、この時点では別にどうという事の無い日常会話でした。
 しかし、その次に話が「外国の首都はどこ?」という、およそ10代後半の2人には微笑まし過ぎて気色の悪い話題に転換した時、異変が起こりました。
 突然、“狼少年”と思しき男がこんなことを言い出しました。
 「アメリカの首都って、ニューヨークと違うやんなあ」
 
しかも、自慢気に
 もう、この辺りで既に、
「痛!」と言えるところなのですが、この時点ではまだ「ただのアホ」です。人間の尊厳はかろうじて守られています

 しかし次の瞬間、彼が言い放った言葉こそ、21世紀の狼少年にふさわしい一言でした。

 「アメリカの首都って、ロサンゼルスやんなあ」

 その時駒木は、周囲の空気が「ピシーッ!」という音と共に凍りつくのを見逃しませんでした。
 驚いたのは“狼少年”の連れの男です。彼は、自分の連れがまさか狼少年だとは知らなかったのでしょう。呆然としつつ、「違うわい」と、ツッコんで関西人としての責務を果たします。ここでツッコんでくれなかったら時空すら歪みかねない状況でしたので、駒木は彼の関西人魂に深く感謝したのでした。
 ですが、そんな彼の思いなど無視して、もう1人の彼は突っ走りつづけます。まぁ、仕方ありません。なにせ、彼は狼少年なのですから

 「ああ、分かった。サンフランシスコや!」

 …嗚呼、凄いことになってきました。サンフランシスコはあらゆる意味で遠すぎます。これにはさすがに連れの男も放置プレイに出ました。まあ、致し方ないところでしょう。しかし、これでは根本的な解決には繋がりません。狼少年の大暴走は続きます。

 「そうや、シカゴや! シカゴ、シカゴ」

 …ほんの少しだけ、近づいたような気がしますが、微々たる物です。童貞がファッションヘルスに行って口童貞素股童貞から卒業するようなものでしょう。この時点で、駒木は「どういうアタマしとんねや。いっぺん五大湖で溺れ死んでくるか?」と、はしたなくも罵りたい心境になってしまいました。
 ですが狼少年は、そんなこと意に介しません。

 「なあ、ヒントくれや、ヒント。一番最後の文字教えてくれ

 さすがにここまで来ると、連れの男も彼が可哀想に思えてきたのでしょう。放置プレイを中断して、彼の頼みを受け入れます。

 「『ン』や。『ン』」

 もうこれで分かるだろう。いい加減勘弁してくれ。駒木は思いました。
 しかし、しかしそんな事では彼は許してくれなかったのです。

 「『ン』〜〜〜〜〜〜〜〜?」
 

 店中に狼少年の絶叫、いや咆哮がこだまします。さすが狼です年季の入った、一本筋の通った鳴き声でした。
 彼はその後、3分間咆哮を繰りかえしましたが、最後、連れの男性の「『ンDC』で終わる」という“なんともはや”な一言が決め手となって、無事正答を導き出しました。まぁ、絶対「DC」の意味なんて分かってないでしょうが

 その後も、アメリカの歴代大統領はクリントンしか知らない、という、人間界での生活は9年に満たないことを推測させる事実が判明したりしましたが、ようやく事態は沈静化に向かおうとしていました。
 だが、しかし。
 それから駒木は、信じられない光景を目にすることになるのです。(後編へ続く


9月9日(日)

「今日の特集」緊急報告・21世紀の狼少年(前編)

 皆さんは、“狼少女”アマラ&カマラ姉妹の話を聞いたことがありますでしょうか? まぁ、社会科の教科書などでも紹介されていますので、「どっちが姉か妹か知らんけど、もっと美人のネエチャン映せ!」と、パンチラ見たさにテニスを見ている男性諸氏から罵声を浴びせられるテニス界最強の姉妹・ウィリアムズ姉妹や、「そんなにゴージャスやのに、なんで長者番付に載らへんねん」といった社会の暗部に触れるようなツッコミを入れたくなる、本業が「金持ちの愛人」であるともっぱらの噂の、ゴージャス姉妹・叶姉妹と並ぶくらいの知名度があると思われますが、やはり知らない方もいらっしゃるでしょうから、ここで簡単に、この狼少女のお話を紹介しておきましょう。
 この姉妹(実は血は繋がっていない)が“発見”されたとされるのは1920年のインドはベンガル地方で、その6年後に「ニューヨークタイムズ」で紹介されて世界中に知られるところになりました。
 さて、この話を初めて詳細に報道したのは、とあるインドの新聞でした。その報道では、“狼少女”について、以下のように報じています。  

 二人の「狼少女」を発見したのは、シングという名の牧師だった。
 シング牧師によると、彼の住んでいた村には化け物がしょっちゅう出てきていたが、ある日、「化け物が村内の洞穴に入った」と村人が言いだしたため、シング牧師は彼の案内でその穴へ向かった。
 洞穴に着くと、まず最初に穴から二匹の狼がとび出し、その後、さらに二才と八才ぐらいの女の子が現れた。彼女たちは、ほえ声を出し、素早く四つ足で灌木の茂みに逃げ込んだが、ついに捕らえられた。
 年少の子にはアマラ、年長の子にはカマラという名前がつけられ、シング牧師の経営する孤児院で育てられた。年少のアマラは間もなく死亡したが、年長のカマラは十七才まで約9年間生きのびた。
 彼女たちの大好物は生の肉や生の牛乳で、それらを犬のように皿から飲み食いした。さらに人をかんだり、ひっかいたりするなど、荒々しい態度が見受けられ、人間のように歩けず、四つんばいで前進したという。
 彼女たちは感情が乏しく、決して笑わなかった。そして死ぬまで肉食のままであった。また、年長のカマラは十七才で死ぬまでに言葉は四十程度しか覚えなかった。

 今から80年以上も前の、しかもインドでのお話なので今ひとつピンと来ませんが、シング牧師の住んでる村が凄い所だということは分かります。だって化け物出るし
 
しかしこの村、なんだか故・川口浩探検隊長の墓前にて報告したくなるような村ですね。おそらく何かで磨いたようなピカピカの白骨や、探検隊に襲い掛かる動かないサソリ、さらには前人未到のジャングルに住む人食い虎などもいたと思われます。
 それはさておき。このお話は、今でも発達心理学や子育て論などで「健全な発育には環境が大事」という結論を導くために引用されたりしていますが、実は2人は重度の知能障害を抱えた捨て子であり、「狼に育てられた云々」というのはフィクションだった、というのが真相のようです。まあ確かに、「生肉大スキ!」というあたりは、コージー冨田演じるタモリに「んなこたぁないん(原音ママ)」とツッコまれそうな話ではありますよね。

 ところが今回、私こと駒木ハヤトは、21世紀の日本で、正真正銘・本物の狼少年を発見したのです! しかも場所は神戸三宮のマクドナルドでした。さすがは肉食動物として育てられた狼少年です。いやはや、獣として育てられた少年にもマクドナルドのハンバーガーが食されていると知ったら、さぞかし藤田田社長も大喜びすることでしょう。
 彼は年の頃18〜9といったところでしょうか。もう既に人間としての生活の方が長いらしく、容姿や態度、日常会話などは普通の人間と何ら変わるところがありませんでした。しかし、彼が連れの男性と交わしていた会話の内容を聴いて、駒木は驚愕しました。その会話は、彼が長年人間世界と隔離されて生きてきたことを如実に物語る、確かな証だったのです! (中編へ続く


9月7日(金)

「今日の特集」寸劇・駒木ニュース研究所(後編)

 ※この寸劇は、実在のニュースを元ネタにした完全なフィクションです。実在の事件や人物、団体等に何ら関係はありません。

「…先生、僕はこの話を進めていく途中から、何か頭の隅に引っ掛かりを感じていたんですよ。『医学に関連していて、裸が絡んだ不適切な行為』、そんなことが、この事件の謎を解くヒントになる出来事が、以前にもあったんじゃないかって。それがやっと思い出せましたよ。本当に難産だったんですけど。
 駒木先生、これはですね。笠井寛司博士の研究の男性版なんですよ」
「……あ! そうか!」
 佐藤の言葉を聞いた途端、今度は駒木が叫び声をあげた。驚きの余り、大きな目が更に大きく見開かれる。
「そうか……そうだったんだな。…うん、それなら全て納得がいく」
 駒木は昂奮気味に、自分で自分に納得させるようにそう言ったかと思うと、今度は突如、苦笑いを浮かべ、自身をを卑下するような口調で話し始めた。
「いやあ、全く恥ずかしい話だね。あんな偉そうなことを言っておいて、僕自身も一面的な思考にとらわれてしまっていたらしい。どうして気がつかなかったんだろう、“あの研究は、女性だけが対象になり得るわけじゃない”ってことを。
 いや、佐藤君ありがとう。君がこの事を発見してくれなかったら、僕は一生、固定観念の呪縛に捕われたままになるところだった。心から感謝するよ。
 これはこういう事なんだね、佐藤君。この一件の“加害者”である助教授は、『日本女性の外性器』の男性版を作ろうとしたわけだ−−−」
 医学博士・笠井寛司の名著として名高い『日本性科学大系1 日本女性の外性器−−統計学的形態論』は、彼の半生を捧げた研究成果の集大成として、1995年に出版されたものである。
 笠井氏が産婦人科医として従事してきた四半世紀の間に、彼自らが撮影・収集した患者の局部・臀部の拡大写真を、なんと
約800枚も収録したというこの書籍は、その中に、どこで集めたのか処女の局部写真が多数収録されているということもあってか、好事家の間で大きな話題となった。同書は、定価29,126円(税抜)という高額にも関わらず、大型書店には注文が殺到、一時は刷っても刷っても間に合わないという異常事態となった。
 ところが後に、同書に掲載された写真は被写体の女性に無許可で撮影・収録、そして出版されていたものであることが判明し、訴訟騒ぎにまで発展した。その結果、笠井博士は地位と職を失い、『日本女性の外性器』は事実上の絶版。今では一般人入手不可の“幻の本”となっている。
「…そうです、駒木先生。“被害者”である学生は、助教授が作ろうとした本……仮に『日本男性の外性器』としましょうか。彼は、その本に掲載する局部写真のモデルとして雇われたんですよ」
 佐藤の言葉に、駒木は大きくうなずいた。そして、自分の考えが正しいと確信したのだろう、彼は力強い口調で話し始めた。
「笠井博士の時は、被写体に許可を得てなかったということが致命傷になってしまったということを、当然この助教授は知っていただろう。だから彼は、自分と自分の研究を理解してもらい易いゼミの学生に的を絞って、モデルになってくれないかと交渉をした。…しかしまぁ、学生は全裸にされているから、ひょっとしたら別の理由をこじつけて交渉をしたのかも知れないな。いや、今はそんな瑣末なことは置いておこう。
 しばらくの間は、『日本男性の外性器』用の写真撮影は順調に進んでいたようだ。ニュースを見る限り、他にも“被害者”がいたらしいからね。しかし、ある時を境にしてこの話は暗礁に乗り上げたとみえる。それは昨今の深刻な出版不況の影響かもしれないし、モデル探しが行き詰まった、などといった単純な理由かもしれない。
 ともあれ、計画は頓挫。そうなった以上、モデルをしてもらった学生に約束していた報酬が払えなくなるのは自明の理だ。助教授は学生に計画の中断と報酬支払いの中止を伝える。しかし、学生は納得しない。それどころか、そのような計画は初めから無かったのではないか、と疑い始めた。疑惑がさらなる疑惑を呼び、それはやがて確信へと変わる。そしてとうとうこの一連の出来事を、“セクハラ事件”として大学に告発してしまった。
 驚いたのは大学側だっただろう。前代未聞の破廉恥な不祥事として、一度はこの助教授を懲戒免職とすることに決めた。しかし、“加害者”と“被害者”の両者から事情を詳しく聴いてみると、これはセクハラではなく、研究活動が中途半端な形で終わってしまったがためのトラブルであるということが判明した。そして助教授と学生の間で示談が成立したという点も考慮され、処分は大幅に緩められて「訓告」に落ち着いた、というわけだ。
 ……君が言いたかったのは、そういうことだね? 佐藤君」
「はい。その通りです、先生。……ただ、ですね。それだとマスコミに“セクハラ不祥事”として報道されたことが説明できないんですが……」
「ふん。マスコミの報道なんてそんなものさ」
 駒木が不機嫌そうに顔をしかめる。
「頭の弱い大学生の卒業論文を掲載して、『TVゲームは子供の精神に悪影響を与える』などと言ってみたり、下らない社会調査に酷い解釈を加えて、結局は自分の言いたいようにまとめてしまったり、『ドッキンばぐばぐアニマル』の着ぐるみオッサンキャラを、よりによって“少女”と断言してしまったり
 結局、自分の無能さをごまかすために事実を歪めてしまってるんだよ、マスコミの報道っていうのはね。だからこそ、歪められたニュースを正しく解釈するために、僕たちのような人間が必要となってくるわけなんだ」
「…そうですね。肝に銘じておきます」
「ははは。素直でよろしい」
「………しかし、先生。どうして人間ってのは、こんな他人から見たらバカバカしい真似をしてしまうんですかね? 男性の局部写真を集めて本を作ろうとする事もそうだし、ギャランティーが払われないからといって、わざわざ話を大きくしてしまうこともそうだし……」
「それはね、佐藤君。人間の持つ“業”が成せる技なんじゃないかと、僕は思っているんだ」
「……ゴウ?」
「“業”だよ、“業”。分かりやすく言うと、人間が抱えている宿命というところかな」
「宿命……ですか」
「ああ。先刻も少し言ったけれど、人間の思考回路というのは、かなりイビツな構造をしていると思うんだよ。少なくとも、他の動物に比べて、余りにも考える力が発達してしまっている。その結果、本来は考えなくてもいい事まで考えてしまうようになってしまったんじゃないか、とね。それはもはや、人間の宿命といっていいだろうと思うんだ。
 だから、今回の件の助教授が『日本男性の外性器』を作ろうとと考えたり、モデルをした学生が被害妄想にも似た感情で自分の助教授を訴えたりすることも、全ては知能の発達しすぎた人間の宿命なんじゃないか、と僕は思うんだよ」
「…なるほど………」
「ま、そういうことさ。さあ、一区切りついたし、とりあえず一息入れよう。コーヒーでいいかな?」
「あ、先生、そういうことは僕がしますよ」
 そう言って佐藤は立ち上がろうとするが、それを駒木は手で制し、
「いや、いいからいいから。事件解決のヒントをくれた、せめてものお礼をさせてくれ。君はそこでゆっくりしてもらっていればいい」
 と言って、事務所を出てすぐの所にある給湯室へと歩いていった。
 部屋に独り残されて手持ち無沙汰になった佐藤は、ここに来る前にコンビニで購入した毎日新聞を取り出した。商売柄、読み始めるのは社会面のベタ記事からだ。こんな所ばかり見てる読者なんて、新聞記者からしたら迷惑この上ないんだろうな、などと思いながら記事に視線を泳がせる。
「………おや、これは……?」
 佐藤の目が、ある記事のところで釘付けになる。と、そこへコーヒーがなみなみと注がれたマグカップを両手に持った駒木が現れた。
「いやあ、待たせたね、佐藤君。インスタントならもっと早くできたんだが、さすがにそれじゃ悪いだろうと思ってね。せめてコーヒーメーカーで、と思ってそれで淹れて来たんだ」
「先生、ちょっと……」
 両手で新聞の両端を握り締めた佐藤が、目配せで駒木を呼び寄せた。
「ん? 何か面白いニュースでも見つかったのかい?」
 駒木は手早くマグカップをテーブルに置いて、佐藤のすぐ近くに駆け寄った。
これを……」
 佐藤が読んでいたベタ記事の中の1つを指し示す。駒木はそれをしばらく黙って見詰めていたが、やがて「ほぅ」と一言呟いた後、自分のもといたソファーに移って腰を下ろした。
小学校の教諭が、授業中に女子児童のスカートの中を隠し撮り、か。確かになかなか興味深いニュースだね。『複数の児童が、この教諭に胸を触られた』云々…とあるから、被害を受けたのは高学年の女子児童なんだろうが、どちらにしろ小学生がパンチラ盗撮のターゲットになったというのは初耳だ」
「ええ。盗撮業界では長い間、『小学生は胸チラあれど、パンチラなし』が定説でしたからね」
「まあ、何事にも低年齢化が進む昨今、いずれその定説も覆されると思ってはいたがね。だがしかし、貴重なサンプルには違いない。このニュース、ありがたく頂戴するよ」
「はい。お役に立てて光栄です。………しかし、授業中に普通のデジタルカメラで撮影するなんて、無謀にも程がありますよ。昭和の時代ならいざ知らず、この盗撮全盛のご時世に……。この教師、気付かれるとは思わなかったんですかね?」
「おいおい、気付かれると思ってたなら、そんな真似するはずないだろう? 
 恐らく彼は、相手が小学生だと思って油断してたんじゃないのかな。『小学生は性的に未熟だから、盗撮なんて言葉すら知らないはずだ』、とね」
「…これも先生のおっしゃる“固定観念”ですか?」
「ああ。彼はきっと、自分の小学生時代の姿と今の小学生を重ね合わせて、そんな結論に達したんだろう。それが大きな誤りであると気付かないままでね」
「やはり世代の差というのは大きいですか?」
「うん。それもあるが、もっと大きいのは男女の差だろう。小学校高学年の場合、精神的成熟度は男女の間に大きな隔たりがあるからね。これはあくまで私見だが、小学6年生の場合、男女間の精神年齢の差は少なくとも3つは離れているんじゃないかと思っている」
「3つも……ですか?」
「信じられないような顔をしているね。よし、それじゃあ僕が塾の講師をしていた頃の話をしてあげよう。
 僕が塾に勤めていた当時、Jポップ界はspeedの全盛期でね。当時僕が担当していた小6の女子児童も、そのほとんどがspeed、もしくはそのメンバーの内の誰かのファンだったんだ。
 君も当然知っているだろうが、当時speedの中では、島袋寛子−今のhiroが一番人気でね。まあ、他の3人の追随を許さないって感じだった。
 ところが、だ。彼女は、僕が教えていた女の子たちの中ではすごぶる不評でね。本当に、まったく人気が無かった。不思議に思った僕は、彼女たちにどうして島袋が気に入らないのか聞いてみたんだ。すると、即座に答えが返ってきたよ。それを聞いて僕はゾッとした。いいかい? 小学6年生の女の子が、こんなことを言ったんだよ。
 
『島袋は男に媚びてる感じがするから嫌い』
 …ってね。どう思う? 佐藤君」
「…………」
 返事が、無い。佐藤の顔は複雑な表情のまま引き攣って硬直していた。
「…怖いだろう?」
 佐藤は小刻みに何度も首を縦に振る。彼が驚きと畏怖の余り、声を失っているのを見て取ると、駒木はさらに言葉を繋いだ。
「まぁ、それ以上に怖かったのは、当の島袋が15歳の時、speedの解散会見で『彼氏と沖縄に帰って店を出すと言い放った時だったけどね。……あぁ、そんなことはどうでもいいんだ。とにかく女の子は、小学生高学年にもなれば、『盗撮』とは何か分かるくらいには精神的に成熟しているっていうことさ。特に可愛い子は、幼い頃から男の視線に晒されている分だけ、警戒心も強いだろうからね。そんな子にとって、デジカメで盗撮しようとする教師を見破るくらい造作も無いことだよ」
「…ですね」
「しかし、これでこの教諭は免職か。30代だったら家族もいるだろうし、大変なことをやってしまったもんだな」
「そういえば、駒木先生の元上司も、盗撮事件を起して免職になったんでしたっけ?」
 佐藤のこの言葉を聞いた駒木は、哀しげな顔に苦笑を浮かべ、やや熱の冷めたコーヒーをごくりと飲み干す。
「もう、昔のことだよ…………」
「………………………」
 佐藤は、駒木の反応を見て「しまった」と後悔したが、フォローの言葉がなかなか思い浮かばなかった。
 気まずい沈黙が、室内に染み渡ってゆく。
「………………………」
「………………………」
 どのくらいの時間が経っただろう。突然、窓に向かって強烈な西日が差し込んできた。どうやら、いつの間にか夕暮れの時を迎えていたらしい。
「……ああ、こんな時間か。そろそろ今日は撤収だな」
 駒木は腕時計で時刻を確かめると、日光を受けて眩しく輝く窓の方を見遣った。
「……先生」
「ん?」
 顔を横に向けたまま、駒木が返事をした。
「………本当、人間って、業が深い生き物ですよね……」
 それは、いったい誰に対して言ったのだろう。佐藤は、あざけるような口調で、ポツリと呟いた。
 その言葉を聞いた駒木は、今度も顔を西の方向へ向けたまま、また少し哀しげな笑みを浮かべ、こう答えるのだった。
「…ああ。そうだな…………」
 雲一つ無い空に浮かんだ大きな夕日は、眼が眩むほど紅く輝いていた。
 いつもは不快な強い陽射しも、今日は何だか妙に暖かく感じられる。
 厳しくも、慈愛に満ちた光が、身体を包み込んでゆく。
 心の奥まで洗われていくような、そんな心地良い感覚に身を任せながら、駒木は、日が沈んで行こうとする遠い空の、さらにその向こうを眺めていた。
   (完)


9月6日(木)

「今日の特集」寸劇・駒木ニュース研究所(中編)

 ※この寸劇は、実在のニュースを元ネタにした完全なフィクションです。実在の事件や人物、団体等に何ら関係はありません。

「僕はね、前々から思っているんだよ−−」
 駒木は組んでいた足をほどき、ねめつけるような視線で佐藤の方を見つめる。
「僕たち人間の頭ってのは、確かに良く出来てはいるんだが、物事を考える上で、随分と質の悪い欠陥を抱えてるんじゃないかってね」
「何ですか、それ?」
 理解に苦しむことを言われて、佐藤は困惑の色が隠せないようだった。それを見た駒木は苦笑いを浮かべ、「まあまあ」と彼をなだめた後、更に続けた。
「いいかい、佐藤君。僕が言いたいのはね、人間が脳を使ってする考え方っていうのは、非常に一面的な思考に偏ってしまっている、ということなんだよ。1つの固定観念を与えられると、それに必要以上に固執してしまう。たとえ、その固定観念が合理性を欠いたものであったとしても、それを払拭するまでに随分と時間がかかってしまうんだ」
「……はあ」
「今回の事件にしてもそうだ。この事件、確かに不可解な点が多い。事件の背景から、事件の結末に至るまで、不可解な部分だらけだと言ってもいい。しかし、どうだろう? それは、僕たちがこの事件をセクハラ事件だと決め付けているから不可解に思うんじゃないだろうか」
「えっ? 先生はこの事件がセクハラじゃないとおっしゃるんですか?」
 目を見開いて驚きの表情を浮かべる佐藤。駒木はその様子を見てニヤリと笑う。
「う〜ん、そうだな。正確に言えば、『結果的にセクハラになってしまった事件』といったところかな。
 この事件において、まず不可解なのは、セクハラに至るまでの背景と動機があまりにも薄弱だということは分かっているね? 必ずしも肉体的な性的嫌がらせを強制できるような人間関係にあったわけではなく、また、実際にその行為を強要するにはタイミングが突飛過ぎる。それなのに被害者である学生は、加害者である助教授の指示に対し、いとも簡単に服を脱いで裸になっている。これは不自然極まりないと言えるだろう。
 しかし、だ。これが初めから強制された行為でなかったとしたらどうだろうか。 これらの不可解な点は一切消え失せるとは思わないかい?」
「あ……!」
「分かったかい? そう。これは強制じゃあない。助教授が学生に服を脱ぐことを依頼し、それを受けた学生も、何らかの理由でそれに同意した、ということなんだよ。だから、この時点では、『セクハラ』とされる行為そのものが存在しないんだ」
「なるほど………。でも…」
「でも、なんだい?」
「でも、それじゃあ、それがどうして結果的にセクハラになってしまったんです?」
「う〜ん、それは良い質問なんだが、少し話が先に行き過ぎてるね。その話をする前に、この助教授が学生に依頼し、同意を受けた行為の検証から始めようか。
 新聞の記事によると、服を脱ぐよう言われた後、『裸にされるなど』したとある。そしてまた、『不適切な行為があった』とも書いてある。ここで大事なのは、『裸にされた』ではなく、『裸にされるなど』という書き方をされていることだ。これは裸になった上に、何らかのプラスアルファがあると見て間違いないところだろうね。
 ただ、ここで問題になってくるのが、この事件の最後に、加害者である助教授に下された『訓告』という非常に軽い処分だ。もし、その“プラスアルファ”が重大なものであった場合、たとえ被害者である学生が告発を取り下げたとしても、そこまで処分が軽くなることはあり得ないだろうからね」
「先生、この『裸』というのは全裸と考えていいんでしょうか?」
「う〜ん、断定は出来ないけれども、そう考えていいんじゃないかと思う。この場合、『裸』のパターンとして考えられるのは、上半身裸・パンツ一丁・全裸といったところかな。まぁ下半身だけ裸という線も全否定は出来ないが、それならまだ全裸の抵抗感が少ないだろう。だったら、脱いでもらう方も『いっそのこと全部』という結論になるはずだ。
 何より僕が、『裸』を全裸のことだと考えたのは、“プラスアルファ”の存在があるからさ。上半身裸やパンツ一丁の状態で可能な“プラスアルファ”となると、非常に限られてしまうからね」
「なるほど、そうですね」
「そしてもう一点、僕が注目しているのは、“被害者”の学生が、件の行為からおそらくかなりの時間を経てから第三者機関に告発をし、しかも間もなくしてその告発をアッサリと取り下げているという点だ。これも初めからセクハラ事件だと考えると不可解極まりないんだろうが、先刻から僕が言っているように、実は元々はセクハラじゃあなかったんだ、と考えると、ある1つの仮説が成り立つんだ」
「……ひょっとして、契約不履行の報復と、示談の成立ですか?」
「そう。さすがだな、佐藤君。その通りだよ。
 最初に助教授が学生に全裸になることとプラスアルファを依頼した時、その学生に対して、恐らくは金銭的な報酬の提示があったと考えられる。それもかなり多額のね。でなきゃ、普通の学生が人前で全裸になるのを承諾するなんて、余計に不自然だろう?
 まあ、そういうことがあって助教授と学生の間で交渉が成立し、『後になってから“セクハラ”とされる不適切な行為』が行われた。ここでちゃんと報酬の授受が行われていれば問題にはならなかった。ところが何らかの理由で助教授は報酬を払わなかったんだな。いや、払えなかったのかもしれない。いずれにせよ、2人の間の契約は守られなかったのは間違いないだろうね。そして契約不履行に腹を立てた学生が、報復措置として告発に至った。ここで初めて、この事件がセクハラ絡みのスキャンダルということになったわけさ。
 驚いたのは助教授だった。まさかこんな展開になるとは夢にも思ってなかっただろうからね。だって自分がやった行為は、セクハラじゃなかったわけなんだから。そして彼は、自分が懲戒免職になると知って大いに焦ったはずだ。懲戒免職だと退職金は出ないし、再就職にも大きく影響する。そこで彼は、窮余の策として退職金の中からいくらかを学生に差し出す代わりに、告発を取り下げてくれるよう求めた。学生も報酬を支払ってくれるなら文句はないわけで、これで示談が成立した。
 …とまあ、こんなところかな。これで一応、話の筋としてはまとまったと言えるだろう。どうだい、佐藤君?」
「はぁ……。さすが駒木先生ですね。そこまで深く考えるなんて、僕にはとても出来ませんよ」
「いや、しかしね。残念ながら僕にはこれが限界なんだ。いくら考えても、肝心の『不適切な行為』がどんなものであったかが判らないんだよ」
 駒木はそう言って、苛立ち気味に頭を掻きむしった。相当もどかしい思いをしているようだった。それを見ていると、佐藤も何とかしたいという気持ちが湧いてくる。
「『不適切な行為』…ですか。う〜ん……」
「ああ。『不適切な行為』と聞くと、どうしてもクリントン前アメリカ大統領のアレを思い出してしまうんだが、それだと訓告処分は軽すぎる」
「…確かに。尻の穴に葉巻を突っ込むなんて、考えただけで寒気がしますよ」
「かといって、他に思い浮かぶ行為は無いし……」
「…先生、この事件は医学部が舞台ですよね?」
「ああ。そう書いてあるな」
「医学部……裸……『不適切な行為』…………」
 佐藤はうわ言のように事件のキーワードを呟きながら、目をつぶって熟考を始めた。
「……何か、何か繋がることが有ったはずだ。何か……」
 熟考する表情が苦悶に変わってゆく。佐藤は必死で頭の中にある断片的な記憶を蘇らせようとしているようだった。駒木はそんな佐藤の必死の表情を見ていると、それ以上語りかける言葉を失ってしまった。仕方無しに、彼も黙考を始める。
 それから、どれくらいの時間が経っただろう。少なくとも2人にとっては非常に長く感じられる時間が過ぎていった。その重苦しい雰囲気が耐え難いものになろうとしていたその時−−−−−
「ああああぁっ!」
 佐藤が部屋一杯に響くような大きい叫び声をあげ、勢いよくソファーから立ち上がった。そして決して大きくない目を見開き、満面の笑みを浮かべて、昂奮気味に駒木にまくし立てる。
「判った! 判りましたよ、駒木先生! 『不適切な行為』の内容が判りました!」
「何! それは本当か、佐藤君!」
「はい。 これはまず間違いないと思います」
 佐藤はそう言うと、スッとソファーに腰をおろし、昂奮を必死に抑えるように、若干震えた声で話し始めた。       (後編へ続く) 


9月5日(水)

「今日の特集」寸劇・「駒木ニュース研究所」(前編)

 某県某市、繁華街からやや外れた通りにある雑居ビルの3階に、その事務所はあった。
 狭い階段と通路から、立て付けの悪くなったボロボロのドアで仕切られている、小じんまりとしたその部屋は、いかにも寂れた事務所という雰囲気を醸し出していた。汚れが目立つ上に所々表面が欠けてしまっている、いかにも時代を感じさせる床。部屋の中で目に付くものと言えば、仕事用の机と椅子、スクラップブックの詰まった本棚、応接用のくたびれたソファーとテーブルのセット、そして申し訳程度に一鉢だけ置いてある観葉植物くらいだろうか。もしも何も知らない人間が入ってきたとしたら、この部屋がどんな用途で使用されているかは、皆目見当がつかないであろう。
 そんな室内に、男が1人。腕まくりして半袖状態にしたノーネクタイのYシャツとスラックスというラフな姿でソファーに座り、足を組んだ姿勢をとっていた。やや痩せ型の体型、程よい長さで無造作に切りそろえられた髪にやや角張った頬。その顔の造りでは、太い眉と眼鏡をかけた大きな目が印象的だ。彼は、新聞を顔に擦り付けんばかりに近づけて持ち、それを興味深そうに眺めている。
 と、そこへ、ドアをノックする音。ドアの中ほどにはめ込まれている質の悪い擦りガラスが言い表し様の無い不快な音を響かせる。それを耳にした男が「どうぞ」と入室を促すと、また1人の若い男が部屋に入って来た。中肉中背、若者にしてはどことなく印象の薄い容貌をしている。これは恐らく、彼が日本人としていかにも平均的な姿をしているからだろう。
 室内に入ってくるなり、若い男はソファーに座る男に話し掛けた。
「やあ、先生。お元気そうでなによりです」
 声を掛けられたソファーの男は、読んでいた新聞をテーブルに置くと、組んでいた足を解いて声の主の方を見やり、
「おお、久しぶりじゃないか。統計学上、最も性犯罪者になる可能性の高い名前の、佐藤誠君
「駒木先生、その呼び方は止めてくれと言ってるでしょう」
 若い男−佐藤は憮然とした表情でやり返す。しかし、その駒木の傍らに読みかけの新聞が置いてあるのを見つけた途端、今度は興味深そうな顔を見せた。
「先生、何か面白いニュースでも?」
「ああ、これか」
 駒木は先刻、自分が放り出した新聞を再び手に取ると、
「いやなに、面白いというか、謎の多いニュースでね。ま、佐藤君もこっちへ来なさい」
 と言って、佐藤を自分の対面のソファーに手招きした。佐藤が席につくと、今度は新聞を佐藤に手渡し、自分が読んでいた記事の箇所を指で指し示した。
このニュースなんだが……」
「ははあ、大学の男性助教授が、こともあろうに男子学生にセクハラをした、という不祥事ですね。確かに珍しいセクハラの事例ですけど、それにどんな謎が……?」
「まぁ、ジックリと読んでごらんよ。この記事、パッと見では分からないかもしれないが、不可解な点がいくつもあるんだよ」
「不可解な点……?」
「そう。普通、この手の話だとね、まずセクハラが起こる背景…つまりは何らかの内部事情があるはずなんだ。例えば職場内で、加害者が被害者より絶対的に上位の関係である、とかね。
 ただ、それだけじゃセクハラは発生しない。それから加害者を実際にセクハラに至らしめる、直接的な動機やきっかけが必ず存在するんだ。それがあって初めて、その背景と動機に応じたレヴェルのセクハラが発生することになる。
 そしてその後、被害者が第三者機関に告発して、そこでようやくセクハラが表沙汰になることになる。しかしセクハラの場合、被害者とはいえ告発すると色々不利益を被るだろうから、そう簡単な話じゃない。何せ、被害者は加害者より社会的には立場が下なんだ。だから、それなりの事情と被害者の“覚悟”のようなものが必ず感じられるはずなんだよね。
 そうして最後に、加害者の処分と事件の処理が行われる。この時、内々で処理されるようなケースを除けば、それまで加害者を擁護していた組織側も、自己保身のためには断固たる処置を下さなければならない。まあ、今回のように新聞沙汰になった場合、大抵の場合は懲戒免職若しくは諭旨免職になるだろうね。
 ……とまあ、普通のセクハラ事件の場合、このように事件の背景から最終処理まで一貫して、論理的な整合性を持っているもんなんだよ。しかし、今回の場合、それがいたるところで破綻している」
「そういえば…何となく違和感があるような……」
「だろう? まあ、佐藤君がどこまで把握しているか分からないから、僕が気付いた部分を列挙していこうか。
 まず背景だ。今回の場合、舞台は大学。加害者が助教授で被害者は学生。まぁ、確かに上下関係は形成されているが、だからといって即、セクハラを強要できるような関係じゃない。大抵こういうケースでは、論文の取り扱いとか単位の認定だとかが絡むんだが、この記事を読む限り、そんな事情があったとは確認できない。ましてやこれは、男が男に対する同性愛セクハラだ。性的嫌がらせを強要される以前に、『どうして男が男に? え? この先生モーホーだったの?』という戸惑いの方が先に来るだろう。心理的なハードルは高いと思うよ。
 次に動機ときっかけ。加害者である助教授は、被害者の学生が研究室に忘れ物を取りにきたところで、突然「服を脱げ」と要求している。これはあまりにも突飛過ぎないだろうか? 2人きりになったから、という事もあるのかもしれない。しかし、それにしたって強引に過ぎる話だ。
 そしてセクハラの内容。これが一番の謎と言っていい。何せ記事には「裸にされるなど」としか書かれてないんだからね。まあ、被害者の人格を守るためといった意味合いが強いんだろうが、それが事件の全体像をボヤケさせている印象は否めない所だ。
 最後に告発から事件の処理。被害者の学生は、強引に過ぎるセクハラに応じた割には、やけにアッサリと告発をしている。そしてそれ以上にアッサリと告発を取り下げてしまう。これが数ある疑問点を余計に増幅させてしまっているんだな。そして、加害者である助教授に対する処分。始めは大学側は懲戒免職で臨む覚悟だったのだが、その後様々な事情があったにせよ、訓告と言う事実上お咎めなしの軽い処分を下している。これも何とも不可解な話だ。
  ……どうだい、佐藤君? 謎だらけだろう?」
「確かに。そう言われてみれば、随分とおかしな話ですね、これは。で、先生はこの不可解なニュースを、どのように分析されたんですか?」
 そう言われると、駒木は苦笑して頭を掻いた。
「いやあ、正直な話、分析は難航していてね。ある程度の糸口は掴んでいるんだが、まだ一本筋の通った結論には達していないんだ。
 そうだ、佐藤君も暇なんだったら、一緒に分析を手伝ってくれないか? まず、僕がここまで分析できた事を話してみるから、それに質問でも疑問でも挟んでくれたらいい。それでいいかな?」
 佐藤は黙ったまま首を縦に振った。
「そうか。よし、それじゃ始めようか」 (中編へ続く


9月4日(火)

「今日の特集」イチロー選手、コスプレデビュー

 まずはこちらのニュースをご覧下さい。
 現在、メジャーリーグでリーグ首位打者を疾走中のイチロー選手が、メジャーリーグ独特の「ルーキーへの洗礼」の“被害者”になった、というニュースです。イチロー選手が着る羽目になった服を着た女性の皆さんが働くレストランは、日本ではお目にかかれないのでピンと来ないのですが、日本のプロ野球で同じようなことをやるとすれば、「西武ライオンズのカブレラがアンミラの制服で新幹線移動」といったところでしょうか。かなり恥ずかしい、という
末代までの恥ですね。
 この「ルーキーへの洗礼」、他の日本人メジャーリーガーも“被害者”になっているようで、野茂選手、長谷川選手、木田選手が洗礼を浴びています。どうもこのあたり、“シャレの分かる人”“クールを装っているスカした人”を狙ってターゲットにしている節がありますね。確かに現在
酒浸りで謹慎中の伊良部選手などは、逆上したらフォークボールじゃなくてフォークでチームメイトに襲い掛かりそうな印象がありますものね。イチロー選手と同じくマリナーズに、去年から所属している佐々木選手はシャレの分かりそうな人なんですが、昔、ハワイで野々村誠夫妻(特に妻)が起した暴力事件の当事者であるのを知ってか知らずか日本でのキャリアや年齢を考慮されてターゲットから除外されていたそうです。
 しかし、この「洗礼」、さすがアメリカと言うか何というか、インパクト勝負の一発芸的な印象があって、いかにもアメリカンベースボールという感じがします。

 この「洗礼」、アメリカ以外のプロ野球がある国で行われているという話は、残念ながら聞きません。しかし、もし韓国で同様のことが行われていた場合、あの『熱血紅湖』が大ブレークするような国すから、日本の常識では計り知れない「洗礼」が行われているような気がします。
 日本でもこのような話は聞いたことがありません。しかし、もし同じような慣習があったとしても、文化の違いから「洗礼」の種類もおのずから違ってくるでしょう。何せ、2点リードの無死二塁から送りバントをするような国ですから、アメリカに比べて
地味でシュールな「洗礼」になるに違いありません。多分、罰ゲームじみた司令が与えられたりするのでしょう。
 ひょっとしたら、かつてメジャーリーグからヤクルトスワローズにやって来た、“一日に3ホームラン打つデブ”こと、
ボブ・ホーナー元選手も、その「洗礼」に辟易して帰ってしまったのかもしれません。そりゃ「地球の裏側には別のベースボールがある」と言うはずですよね。

 それでは、もし日本で「ルーキー洗礼」が行われていた場合、どのようなものになるのか、いくつかの球団で推測してみましょう。

 巨人…ナベツネの前で「♪あ〜さひがさんさん、おはよ〜うさ〜ん」と朝日新聞のCMソングを熱唱。
 ダイエー…試合が終わったら有り金が全部ダイエー株に。
 
ヤクルト…家に帰ったら、冷蔵庫と冷凍庫の中身が全部ヤクルト(一番小さいやつ)。
 日本ハム…オーナーに「丸大のお中元」を送付。

 阪神監督の奥さんに説教(ドラッグしてください)

 駒木ハヤトは、日本プロ野球の前途のためにも、このような慣習は導入しないよう、プロ野球選手各位にお願いしたいと思います(特に阪神)


9月3日(月)

「今日の特集」韓国・性犯罪者名簿公開の余波

 今日の特集は昨日に引き続いて海外の話題です。
 海を隔てたお隣の国、韓国(大韓民国)。一連の靖国問題や教科書問題を契機に、関係各所のウェブサイトにアクセスを集中させてサーバーダウンを狙うという、かつての「幸福の科学、フライデー編集部にFAX攻撃」を髣髴とさせるみみっちい嫌がらせにより、アジア有数のサイバーテロ先進国となった感があるこの国において、ちょっと日本では想像もつかない出来事が起こりました。
 それは、「青少年が被害者となる性犯罪を犯した者の個人情報公開」です。
 これは青少年保護委員会なる公的機関と女性団体の働きかけによって実現したもので、今回は169人の性犯罪犯の個人情報が公開されました。
 しかし、犯罪者とはいえ、この措置は基本的人権の侵害、つまり憲法違反ではないか、という問題や、ウェブサイトで公開しておいて、それがネット上でコピー&ペーストされてばら撒かれるや、「そんなはずじゃなかった。ヤメテ〜」と政府が慌てふためくという、「冗談、顔だけにしろぉ」とアーノルド坊やにツッコまれそうな事態が発生し、韓国国内、かなり騒然としている模様です。

 しかし、そもそもこの個人情報公開、かなりツッコミ処満載のアバウトさが目に付きます。ていうか、韓国政府、かなりお茶目す。
 まずそもそも、何故被害者が青少年の事件だけに限定されているのか。それに、強姦魔と出来心で援助交際しちゃった親父を一緒くたにしてしまっていいのか、という問題もあります。熟女フェチの連続強姦魔は公表されず会社でも家庭でも冴えない援交親父は晒し首同然、というのは御無体だと思うのですが……。
 ですが、このあたりの問題は昨日の特集とネタがカブっているので、コレくらいにしておきたいと思います。

 この件に関して、一番の問題は「同姓同名の人がホントに大迷惑」というところにあります。
 我が日本でもつい最近まで、新聞各社が国立大学の合格者氏名を公開するというサービスをやっていました。しかし、合格者と同姓同名の不合格者の家に、親類縁者一同から「東大合格おめでとう」というスパムメールが殺到し、さらにその家から新聞社宛に八つ当たり抗議が殺到するという事態が発生し、サービスが停止されたという事例がありました。

 しかしこれはまだ、善意の行き先間違いですのでシャレで済みます。しかし、同姓同名の痴漢のせいで、自分まで変質者扱いというのはシャレになりません。ある調査によると、韓国ではよくある名前の場合、同姓同名でしかも同じ地域に居住する人が50人以上に及ぶ場合もあるというのですから大変……というか、「んなもん前もって調べとけ。お前ら全盛期のジミー大西か」と罵りたくなりますね。
 しかし、このお話、対岸の火事では済まないかも知れません。
 日本でも同じような情報公開があった場合、かなりの同姓同名さんが“なんちゃって強姦魔”として白い眼で見られるケースが発生する恐れがあります。同姓同名でなくても、名字が同じだけでも誤解されそうな気もしますね。結構人間っていい加減ですからね。特に、人数の多い名字を持っていて、東京など都市部に住んでいる方はかなりヤバいです。
 村山忠重の苗字館さんによると、全国で最も多い名字は「佐藤」さんで、191万4300人いるそうです。以下、「鈴木」さん、「高橋」さん、「田中」さん、「渡辺」さん、「伊藤」(「伊東さん」となってましたが間違いでした)さん、「山本」さん、「中村」さん、「小林」さん、とこの辺りまでが100万人クラスです。半分が男性として50万人以上。もし、この9つの名字を持つ人が東京で性犯罪を起した場合、それぞれ5〜10万人の男性がとばっちりを受ける形になってしまいます。ちなみに、「駒木」さんは4894位、全国で約2200人ちょっと安心しました
 念のため、名前の方も見ておきましょう。こちらは全国的な調査が無く、明治生命が実施している標本調査だけになってしまうのですが、それによりますと、現在20〜40歳といった性犯罪適齢期の男性で、特に多い名前は「誠」さん、「健一」さん、「大輔」さん、「剛」さん、「浩」さん、「哲也」さん、といったところでしょうか。「誠実に生きるように」という思いを込めて名付けられた「誠」さんが統計学上、最も強姦魔の多い名前だというのは皮肉ですね。それから当時のお母さん、荒木大輔のファンが多すぎます。
 これらの名前を持った方のシェア率はおよそ0.5〜0.75%と言った所です。一見少なそうに見えますが、しかし統計学上、東京都に20〜40歳の佐藤誠さんが数百人いる計算になると考えると、佐藤誠さんならずとも冷や汗ダラダラですね。「カイジ」とか「アカギ」なら後ろで黒服が「ざわざわ」言ってる感じです。
 ですから、小泉首相にはこのような真似は絶対にして欲しくないと思います。それから、全国の未婚の佐藤誠さんは、もしもの時の為に婿養子に入ることをお薦めしたいと思います。
 多分、バーチャルネットアイドル・ちゆさんあたりも、全国の佐藤誠さんを応援してくれると思います。  


9月2日(日) 

「今日の特集」〜悲劇のミス・コロンビア

  先日、ニュースをチェックしていたところ、「疑惑浮上のミス・コロンビア、女王の座を辞退」というニュースを発見しました。ミス・コロンビアに選ばれた女性に結婚歴があるのではないかという疑惑が浮上し、すったもんだの挙句、その女性はミス・コロンビアを辞退された、というお話です。
 この女性、結婚歴は別として今は独身みたいですが、どうやら結婚歴が1度でもあると、コンテストに出る資格が無くなってしまうようですね。また、別の女性も、下着姿で広告に出ていたとの理由で、タイトルはく奪の憂き目を見ていると記事に出ていますね。ただこの後、タイトルはく奪を受けてミスコンテスト・ザ・ビッグファイトが行われたかどうかは、不明です。
 しかし、この話、よく考えたらおかしな話でもあります。
 例えば、昨今のフランスでは、「男と女はいずれ別れるものだ」という非常に真っ当な認識のもと、結婚をしないカップルが多数を占めるようになっていると聞きます。事実上結婚しているが、実は未婚という女性が多いわけですね。この場合、未婚である以上は“ミス”ですから、ミスコンテスト出場資格はあるというわけです。その一方で、いわゆる“成田離婚”のような数日で婚姻を解消した女性や、金に困ってマフィアに紹介された中国人と偽装結婚した女性などは資格を失うわけです。う〜ん、ちょっとこれは変ですね。
 また、下着姿で広告に出ていたのはアウトだそうですが、その一方で個人営業でホテトル嬢をしている女性は多分O.K.だったりするのでしょう。このあたり、ミスコンテストにまつわる規則は非常にアバウトというか、「抜け穴だらけやんけ」とツッコミたくなる気分になりますね。
 少なくとも駒木は、日々個人営業でホテトル業に励み、同棲しているヒモと彼の連れ子を女手1つで養ってる方は、いくら規定はクリアしてても応援はしたいがミス・コロンビアとしてはどうか、という気持ちになってしまいます。

 しかし、そもそもおかしいのは、価値を「未婚」というところに置いている点だと思うのですが。そんなに「未婚」に価値があるんでしょうか? ミスコン受賞者の大多数は、戸籍上は未婚でも下半身は既婚のはずですし。よしんば下半身も未婚だとしても、上の口が既婚の方とか、後ろの穴が既婚の方とか、素股だけの方とかはどのような扱いをすればいいのか、これまた紛糾してしまいそうです。それに、完全な未婚を前提にミスコンをした場合、日本代表は羽田恵理香島崎和歌子山田花子の3名に絞られてしまうではありませんか。そんなのミスコンではありません
 え? 何ですか? 「俺の○○ちゃんは、汚れていない。正真正銘のバージンだ」ですって? ……ああ、時々いますね、そういう方。まあ、モー娘。の辻&加護ギリギリセーフという気がしないでもないですが、その他は諦めてください。ちなみに駒木は、「声優の宴会は、3回に1回は乱交パーティになる」と聞いた16歳の時に
解脱済です。

 話が逸れました。とにかくこの21世紀、奥菜恵の“仰げば尊し乳”が東スポの一面を飾るこの時代に、未婚か既婚かで女性を区別するのはナンセンスだと思うのです。ミス・コンテストをやるくらいなら、若奥様美人コンテストが見たいぞ、ということを強く申し上げて、今日の特集を終えさせていただきます。
 オチが締まらなくて申し訳ありませんでした。


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