駒木博士の社会学講座
仁川経済大学社会学部インターネット通信課程

講座開講3周年記念
第3回仁川経済大学
コミックアワード
Nigawa University of Economics 
Comic Award'04

2005年2月6日(日)〜7日(月)

珠美:「本日はご来場頂きまして誠に有難うございます。駒木研究室で講師助手を務めております栗藤珠美です。今年も皆様の変わらぬご愛顧のお蔭をもちまして、講座開講3周年記念・『仁川経済大学コミックアワード』を開催する運びとなりました。心より御礼申し上げます。
 さて、本日開催致します『仁川経済大学コミックアワード』は、当講座開講以来の主要講義の1つである「現代マンガ時評」の年間総括イベントです。これは、04年度
(03年12月から04年11月まで)に発表され、当講座のゼミ・『現代マンガ時評』内でレビューを発表した作品のうち、特に優秀、もしくは最悪だった作品を、当講座の専任講師・駒木ハヤトが独断で選定・表彰するというもので、今回で3回目を数えます。
 今回も私たちアシスタントは、表彰式の司会・プレゼンターとして一生懸命お手伝いさせて頂きます。どうか最後まで宜しくお願い申し上げます」

順子:「駒木研究室・非常勤アシスタントの一色順子です! 何とかクビにならずに今年も参加することが出来ました(笑)。『ラズベリーコミック賞』の司会、精一杯がんばりますので、どうかよろしくお願いします!」
リサ:「仁川経済大学付属高校3年、長期留学生のリサ=バンベリーです。今年もこのアニバーサリー・イベントに参加することが出来てとても嬉しいです! 研究室のみなさんのジャマをしないよう、一生懸命ガンバリますのでヨロシクです」
珠美:「……なお、今回
の私たちの衣装は、レビューで高評価を得ながらも事情により今年度『コミックアワード』のノミネート対象外ということになりました、『絶対可憐チルドレン』の主人公たちが着ていたユニフォームをアレンジしたものです。同作品は、残念ながら賞レースからは“発走除外”となってしまいましたが、こういう形で私たちから作品並びに作者・椎名高志先生への敬意を表させて頂くことにしました。どうかご理解を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。

 

第3回仁川経済大学コミックアワード 
スケジュール

初日
2/6

(Sun)

04年度「ジャンプ」&「サンデー」年間総括

※「現代マンガ時評」で追って参りました、「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」のこの1年間について回顧します。
 03年12月からの1年間で両誌に掲載された読み切りや新規連載作品を振り返りつつ、様々な観点から両誌の現状や近い将来についての分析や考察を行います。雑誌を“深く読み込む”習慣の無い貴方も、これを機に認識を深めて頂ければ幸いです。

2日目
2/7

(Mon)
「第3回仁川経済大学コミックアワード」
表彰式

※何故か無名の経済大学の冠を戴く「日本で最も権威・格式・価値の低い漫画賞」も今回でいよいよ3回目。また、一部では「グランプリよりもこちらの方が楽しみ」とも評される年間最悪作品に贈られる「ラズベリーコミック賞」にも注目です。
 独断と偏見で審査を務めるのは当講座の専任講師・駒木ハヤト。そして今年も当講座の“3人娘”が司会にプレゼンテーターにと活躍します。こちらもご注目あれ。

 ※両日とも、イベントは当日深夜より開始予定です。
 ※検索エンジン等を経由して直接このページを閲覧されている方は、是非メインページもご覧下さいませ。


記念品(壁紙)頒布

 今年も3人娘のトータルコーディネーター・藤井ちふみさんにお願いして、記念壁紙を作成して頂きました。今回の「コミックアワード」でプレゼンターを務める“絶対可憐レディース”を是非、皆様のお手元でも活躍させてやって下さい。
 なお、わざわざ申し上げる事でもないでしょうが、この壁紙は著作物です。ダウンロード・使用に関しては著作権法の認める範囲に留めて頂きますよう、宜しくお願い申し上げます。

800x600(100KB)1024x768(146KB)

◎藤井さんのウェブサイトWinter GardenAngelCaseも、是非一度ご訪問下さい。


講座開講3周年記念
第3回仁川経済大学
コミックアワード

初日(2月6日) 
「ジャンプ」&「サンデー」年間総括

 本日はご来場有難う御座います。当講座専任講師の駒木ハヤトです。式典初日は今年も「ジャンプ」「サンデー」の年間総括を、『げんしけん』の斑目晴信に似た男が1人でお送りします。

 …………。

 ……すいません、今、自分の喋った言葉を客観的に反芻してたら、何故だか非常に悲しくなりました。何て言うか、自分の存在意義を自分で疑ってしまいました
 
でもまぁこんな自分でも、受講生の皆さんに支えられて3年間頑張って来れたので、もうちょっとやってみようと思います(笑)。今後ともどうか何卒。

 ──さて、今からお送りしますのは、「現代マンガ時評」でレビュー対象にしております「週刊少年ジャンプ」及び「週刊少年サンデー」の、04年度(雑誌の号数が04年扱いである、03年12月から04年11月までのついての年間総括。いつものゼミよりもマクロで客観的なスタンス──つまりは一般の人気や商業的成功の観点に立って、「ジャンプ」「サンデー」両誌の現状を考察して行きたいと、こう思っております。
 なお、昨年度の「コミックアワード」初日の模様や、一昨年にお届けした「『週刊少年ジャンプ』この1年」「『週刊少年サンデー』この1年」(いずれも02年度版)のレジュメと併せてご覧頂けると、より一層お送りする内容の理解が深まると思います。よろしければ是非、これらの資料を手元に置きつつご覧下されば…と思います。

 それでは、まずは「週刊少年ジャンプ」の04年度回顧をお届けします。流れは昨年までと同じように、新連載作品のまとめからスタートし、次に読み切り作品関連の話題。そして昨年度からの連載作品の動向についてお話しして、最後に雑誌全体の総括に繋げたいと思います。 

 というわけで、最初に新連載のまとめからですが、とりあえず04年度に立ち上げられた連載作品を紹介しておきましょう。下の資料をご覧下さい。

 ※03年年末開始
『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健
『銀魂』作画:空知英秋
『LIVE』作画:梅澤春人

 ※04年初頭開始
『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦

 ※04年春開始
『未確認少年ゲドー』作画:岡野剛
『無敵鉄姫スピンちゃん』作画:大亜門
『少年守護神』作画:東直輝

 ※04年夏開始
『家庭教師ヒットマンREBORN!』作画:天野明
『D.Gray−man』作画:星野桂
『地上最速青春卓球少年ぷーやん』作画:霧木凡ケン

 ※04年秋開始
『Wāqwāq』作画:藤崎竜

 注:04年53号より『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之)が開始していますが、この作品は連載開始時期(04年度最終週)を考慮して来年度扱いとします。

 ──いやはや、こうして振り返ってみますと、たった数ヶ月から1年前の話なのに、既に忘却の彼方へ追いやられていた作品もあって感慨深いですね。敢えて実名は挙げませんが

 それにしても04年度の編集方針は、例年と比較すると極めて例外的なものでありました。
 まずは週刊本誌では95年の『レベルE』作画:冨樫義博)と97年の『BASTARD!!(背徳の掟編)(作画:萩原一至)以来久しく絶えていた不定期連載作品である『スティール・ボール・ラン』の開始。例に挙げた“先例”も含め、この試みは残念ながら必ずしも商業的成功に結び付いていないようですが、週刊連載において作品のクオリティを上げる為に大きなネックである「時間と1回あたりのページ数の制約」に対する挑戦として、注目されて然るべき試みと言えるでしょう。
 そして04年後半からは、いわゆる「ジャンプシステム」の象徴である、活発な連載作品の入れ替えが突如として見られなくなりました。04年秋と年末に立ち上げられた連載作品は1本ずつで、しかもそれに連動して終了した連載は、超長期連載の『シャーマンキング』と“長期休養”に入った『スティール・ボール・ラン』のみ。「ジャンプ」名物(?)の短期打ち切りが夏以降全く無くなるという事態になっています。これにはすぐ後で触れる新連載作品の好調さと深く連動しているのですが、ともかくも04年度の「ジャンプ」は異例尽くめの1年だった…と言う事が出来るでしょう。

 そんな04年度の新連載作品は03年度と同じく11本。秋以降の編集方針は先述した通りですが、年度前半は積極的な新連載立ち上げを行っていたため、数字そのものに大きな変化は現れなかった…という理屈のようです。
 しかし前年度までと大きく異なるのは、打ち切りの目安とされる2クール(=連載開始から次回の連載改変までで1クール)を突破出来た作品の比率を表わす“半年(2クール)生存率”です。
 不定期連載の『スティール・ボール・ラン』と、連載開始2クール目の『Wāqwāq』を除外した9作品のうち、3クール目突入を果たしたのは5作品。なんと暫定生存率55.6%という、ここ10年では最高の数字となりました。もし、次回の改変で『Wāqwāq』が終了したとしても10作品中5作品で50%の“半年生存”となり、この場合でも98年度(『HUNTER×HUNTER』、『シャーマンキング』など連載開始)と同水準の豊作ということになります。

 ここで蛇足ながら、95年以降の連載作品“半年生存率”についての資料をご覧頂きましょう。オールドファンも若年の方も興味深い内容ではないかと思います。

参考資料
95年〜03年の連載作品“半年生存率”

◆2003年(03年1号〜03年43号連載開始作品)
 …11作品中2作品(『武装錬金』、『ごっちゃんです!!』)半年生存率18.1%
◆2002年
(01年51号〜02年45号連載開始作品)
 …12作品中4作品(『いちご100%』、『アイシールド21』、『プリティフェイス、『Ultra Red』)半年生存率33.3%
◆2001年
(00年47号〜01年43号連載開始作品)
 …12作品中3作品(『ボボボーボ・ボーボボ』、『Mr.FULLSWING』、『BLEACH』)半年生存率25%
◆2000年(00年1号〜38号連載開始作品)
 …8作品中4作品(『ブレーメン』、『ノルマンディーひみつ倶楽部』、『BLACK CAT』、『ピューと吹く! ジャガー』)半年生存率50%
◆1999年(98年52号〜99年44号連載開始作品)
 …14作品中4作品(『ヒカルの碁』、『テニスの王子様』、『NARUTO』、『ライジングインパクト(第1、2部を合同して1作品扱い)』)半年生存率28.6%
◆1998年(97年52号〜98年43号連載開始作品)
 …10作品中5作品(『明陵帝 梧桐勢十郎』、『ROOKIES』、『ホイッスル!』、『HUNTER×HUNTER』、『シャーマンキング』)半年生存率50%
◆1997年(96年49号〜97年41号連載開始作品)
 …13作品中5作品(『魔女娘ViVian』、『花さか天使テンテンくん』、『I’s』、『世紀末リーダー伝たけし!』、『ONE PEACE』)半年生存率38.5%
◆1996年
(95年51号〜96年42号連載開始作品)
 …12作品中5作品(『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』、『WILD HALF』、『幕張』、『封神演義』、『遊☆戯☆王』半年生存率41.7%
◆1995年
(94年50号〜95年45号連載開始作品)
 …11作品中5作品(『みどりのマキバオー』、『密・リターンズ』、『真島クンすっとばす!!』、『人形草子あやつり左近』、『水のともだちカッパーマン』半年生存率45.5%

注1:短期集中or不定期連載、既存の作品の第二部開始は除外。
注2:連載期間の大半が翌年度以降に属する連載作品は次年度扱い。

 ……詳しく分析している時間は無いのですが、こうして見ますと、ヒット作が連載陣に固定されて新作に余り恵まれなかった01年度以降は短期打ち切りが連発され、逆に90年代半ばの“暗黒期”には小粒な作品が半年〜1年命脈を保ってしまうので名目上の生存率が高い…という図式が見えて来ますね。これを“1年以上生存率”にした場合には大きく数字が変わってくるのでしょうけれども。
 それにしても鬼なのは1999年度ですね。生き残った作品も凄いんですが、表には載せなかった短期で打ち切られた作品の作者がまた凄いんです。主な所を挙げていきますと、ガモウひろし(=大場つぐみ?)、矢吹健太朗、高橋陽一、うすた京介、つの丸、久保帯人…とこんな具合。いやはや、作家のポテンシャルとその時の作品のクオリティは別物とは言え、当時の「ジャンプ」読者は物凄く贅沢な取捨選択をしていたんですねぇ。

 閑話休題。
 まぁそういうわけで、04年度の「ジャンプ」新連載は、少なくとも客観的な数字で判断すれば近年稀に見る大豊作だったと言えそうです。特に『DEATH NOTE』は久々の初版部数ミリオン級の大ヒット作品となり、ここ数年の停滞ムードを一気に払拭し、雑誌全体のムードを盛り上げるのに一役買う形となりました。読者層と商業的展開の選択肢を限定してしまう作風だけに、『ONE PIECE』に代わる大看板となるのは難しいでしょうが、番付上は堂々たる東の正大関といったところでしょう。
 また、この年度はキャリアの浅い若手・新人作家さんの初連載作品が、単行本売上げにおいてスマッシュヒットを弾き出すケースが目立ったのも特徴でした。特に『銀魂』の場合は、本誌の掲載順が一旦打ち切り危険域に転落しながらも、単行本が重版に重版を重ねて息を吹き返す…というレアなケースが見られました。この新人作家の好調ぶりも、ここ数年の傾向であった“新人・新作不況”からの回復基調が確認出来たという意味で、意義の大きな出来事だったと言えますね。

 連載作品の大半が“打ち切り除外特権”を持った長寿作品とスマッシュヒット以上の成功作で占められている今の状況を鑑みると、現在の「新連載の本数を厳選して“高打率”を追求する……」という、従来の「ジャンプ」では余り見られなかった編集方針が今後もしばらくは続く事になりそうです。言ってみれば「サンデー」システムを若干若手有利にしたパターンでしょうか。
 しかしこうなってしまうと、これまでなら棚からボタモチ的に連載枠が転がり込んで来た二線級の作家さんたちにとっては、延々と飼い殺し状態の続きかねない受難の時代が到来してしまう事になりますね(苦笑)。でも、読者側にしてみれば、編集部サイドの“大人の事情”に巻き込まれずに済むので、結構メリットの大きな話になりそうですが……。

 
 ──さて、続いては読み切り作品についての総括です。
 昨年から始まった読み切り作品の積極掲載方針は今年も継続されました。更には連載作品の作者都合休載が常態化して代原掲載が増加した結果、今や週刊本誌に読み切りが掲載されるのは当たり前の事になってしまいました。今や代原や企画モノの類を含めれば読み切りの掲載本数は1年で50本を越え、平均すると週平均1本は読み切りが掲載されている…という状況です。駒木も今はレビュー対象作の少なさを嘆いていた開講当初が懐かしい思いです(苦笑)。
 それにしても既存作品の好調で新連載の立ち上げが滞っている現状、敢えて連載作品候補の発掘に力を注がなくても…とも思うのですが、ここで手綱を絞らない辺りが「ジャンプ」流という事なのでしょうか。また、あるいは連載作品の固定化でワンパターン化されつつある誌面にアクセントをつけるという役割も担わせているのかも知れませんね。

 では、ここで04年度に掲載された読み切り作品のラインナップを一度まとめて振り返っておきましょう。 

 ※正規枠(既にデビュー済みの作家が連載枠獲得にむけて発表した新作)
『World 4u_』作画:江尻立真
『ハッピー神社 コマ太!』作画:後藤竜児
雨女、晴れ男』作:長谷川尚代/画:藤野耕平
『STARTING OVER』作画:鈴木新
『PMG-0』作画:遠藤達哉
『賈允』作:内水融
『機動球児山田 〜めぐりあい稲木〜』作画:ポンセ前田

第1回「ジャンプ金未来杯」エントリー作品

『プルソウル』作画:福島鉄平
『タカヤ −おとなりさんパニック!!−』作画:坂本裕次郎
『BULLET TIME −ブレットタイム−』作画:田坂亮
『ムヒョとロージーの魔法律相談所』作画:西義之
『切法師』作画:中島諭宇樹

『TRANS BOY』作画:矢吹健太朗
『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征
『秘密兵器ハットリ』作画:いとうみきお
『伝説のヒロイヤルシティー』作画:大亜門
『みえるひと』作画:岩代俊明
『セイテン大帝』作画:草薙勉
『マッストレート』作画:吉川雅之) 
『退魔師ネネと黒影』作画:蔵人健吾) 
『ストライカー義経』作画:加地君也) 
『スーパーメテオ』作画:高橋一郎) 
『よしっ!!』作画:福島鉄平) 
『HALLOO SUNSHINE』作画:西公平

 ※代原枠(連載作家の都合や病気による休載で空いた枠を埋めるために掲載された、正規デビュー前の新人の習作原稿)
『ハガユイズム』作画:越智厚介
『夢泡釣団〜ビートルズ編〜』作画:やすべえ
『グレ桃太郎』作画:原淳
『暴走特急山手線外回り』作画:夏生尚
『ハロー地蔵堂!!』(作画:新妻克朗
『兄弟仁義』作画:大石浩二
『HIP☆HOP☆HOP』作画:大石浩二
『オレがゴリラでゴリラがオレで』作画:ゴーギャン
『星十二学暴』作画:大石浩二
『教授百々目木』作画:夏生尚
『トイレ競走曲〜序走〜』作画:吉原薫比古
『ゴーイングマイウェイ進』作画:ゴーギャン
『メガネ侍』作画:彰田櫺貴
『ハピマジ』作画:KAITO
『スクールバトル’04』作画:前田竜幸

 ※受賞作掲載(新人賞の受賞作が、正規枠に準ずる形で掲載されたもの)
『ダー!!!〜便所の壁をブチ破れ〜』作画:吉田慎矢
『BULLET CATCHERS』作画:夏生尚
『ヘンテコな』作画:千坂圭太郎
『桐野佐亜子と仲間たち』作:二戸原太輔/画:叶恭弘
『Mosquito Panic』作画:中西まちこ
『鬼より申す!』作画:原野洋二郎
『KESHIPIN弾』作画:吉原薫比古
『湖賊』作画:久世蘭
『師匠とぼく』作画:川口幸範

 ※その他企画モノ(現役連載作家による特別読み切りや連載作品の番外編など、後の新連載に繋がらない読み切り作品)
『麻葉童子』作画:武井宏之
『BLACK CAT特別編』作画:矢吹健太朗
『BLEACH番外編 逃れゆく星々のための前奏曲』作画:久保帯人

 04年度は、前年度に「赤マルジャンプ」クラスのキャリアの浅い新人を抜擢して不発に終わった反省か、いわゆる代原とページ穴埋めの性格が色濃い新人賞の受賞作掲載を除けば、週刊本誌に掲載されるのは、連載経験者か以前に週刊本誌や「赤マル」で発表した作品が人気を得た(と思われる)若手作家さんの作品に限定されるようになりました。久々の読者投票方式コンペ企画として注目された「金未来杯」にエントリーされた作家さんも全員が増刊で数回の掲載歴を持つ方ばかりで、どうやら編集部サイドは、ここ1〜2年での試行錯誤の末に「実力未知数の新人は、とりあえず『赤マル』から」という方針を固めたようですね。
 そして、これらの読み切り作品の中から数作品が05年度に連載作品として誌面を飾る事になるのでしょう。僅か数作品の連載作品を選定するために数十作品の読み切り作品を載せるという効率の悪さは否定出来ませんが、04年度でもこのパターンから『DEATH NOTE』等の人気連載作品が生まれた事を考えると、本質的な是非は別にして、今しばらくこの方針は続行されるという事になりそうです。

 

 ──では最後に、昨年度から続行中の長期連載作品についても振り返っておきましょう。

☆2005年度に越年を果たした連載作品
 ◎96年度以前連載開始
 『こちら亀有区葛飾公園前派出所』
作画:秋本治/1976年連載開始)
 ◎97年度連載開始
 『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎
 ◎98年度連載開始
 『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博
 ◎99年度連載開始
 『テニスの王子様』作画:許斐剛
 『NARUTO─ナルト─』作画:岸本斉史
 ◎00年度連載開始
 『ピューと吹く! ジャガー』作画:うすた京介
 ◎01年度連載開始
 『ボボボーボ・ボーボボ』作画:澤井啓夫
 『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也
 『BLEACH』作画:久保帯人
 ◎02年度連載開始
 『いちご100%』作画:河下水希
 『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介
 ◎03年度連載開始
 『武装錬金』作画:和月伸宏

☆2004年度中に連載終了した長期連載作品
 
◎96年度連載開始
 『遊☆戯☆王』作画:高橋和希/15号までで円満終了
 ◎98年度連載開始
 『シャーマンキング』作画:武井宏之/40号までで打ち切り終了
 ◎00年度連載開始
 『BLACK CAT』作画:矢吹健太朗/29号までで円満終了
 ◎03年度連載開始
 『サラブレッドと呼ばないで』作:長谷川尚代/画:藤野耕平/2号までで打ち切り終了
 『神撫手』作画:堀部健和/3号までで打ち切り終了
 『ごっちゃんです!!』作画:つの丸/16号までで打ち切り終了

 先刻から幾度も申し上げている通り、04年度は新連載作品が近年稀に見る好調で、それが連載作品の動向にも大きな影響を与えましたピークを過ぎた長期連載作品の相次いでの連載終了がそれです。
 一般に少年マンガの場合、長年話を追いかけていないと現状のストーリーが理解できない程に連載が余りに長期に及んでしまった作品、または原作の終了に先立ってTVアニメ放映が終了してしまった作品は、商業的にジリ貧状態に陥るケースがほとんどです。つまり新規ファンを開拓する事が困難になる一方、連載当初・アニメ放送開始からの固定ファン層が徐々に目減りしてしまうので、そのためにアンケート成績や単行本売上げが徐々に、しかし確実に低迷してしまうわけです。
 当然、そういった作品は然るべき段階で見切りを付けて引導を渡してやるのが商業誌のあるべき姿です。が、大半の読者が「このマンガ、まだ連載やってたのか」と思うような作品であっても、短期打ち切り対象になるような失敗作の軽く数倍は単行本が売れてしまうため、活きの良い新連載が出て来ない限りは延々と雑誌巻末辺りで醜態を晒し続ける…という悲惨な現象が起こります。
 04年前半までの「ジャンプ」はまさにそういった状態になりつつあったのですが、ギリギリの所で新連載作品と世代交代を果たす事が出来ました。駒木が03年度の総括で懸念した“第2暗黒期”の到来は、とりあえず回避されたようです。
 もっとも、04年度では『DEATH NOTE』以外の新作は現状スマッシュヒット級の成績しか残せていませんので、雑誌全体の“戦力”的にはせいぜい現状維持といったところでしょう。“等価交換の世代交代”とでも申し上げれば良いのでしょうか。……ただ、ピークを過ぎた作品と違って新作には未知の魅力というモノがあります。大化けする可能性を秘めている分だけ、やはり世代交代は有意義であったと言えるのではないでしょうか。

 大化けと言えば、これまで小粒な作品ばかりと言われて来た21世紀生まれの作品の中で、『BLEACH』『アイシールド21』など、人気・単行本売上の上昇やテレビアニメ化など、商業的に活発な動きが見られるようになって来たものが現れました。前者は連載開始当初は打ち切り候補に入るほどに人気が低迷し、後者も初めはアンケートが良い割に単行本売上が伸び悩んでいた作品で、これらが連載開始1〜2年を経て幅広い読者層に受け入れられたのは、編集部サイドにとっても嬉しい誤算だったことでしょう。
 これらの作品が、今後果たしてどこまでの“伸び”を見せてくれるのかは未だ知ることが出来ませんが、少なくとも今後最低1〜2年は、看板作品の脇を固め、「ジャンプ」を支える柱の1本として活躍してくれることと思われます。

 では、締め括りとして、現在の「ジャンプ」の誌面構成を俯瞰し、近々の展望などを述べさせてもらおうと思います。昨年の例に倣って、今回も相撲の番付になぞらえてお話します。昔、「週刊プロレス」でWWF(現:WWE)のレスラーの力関係をそうやって表現してたのが頭にこびりついてて癖になってるんですよね(笑)。

 まず、とうとう『こち亀』を除けば連載作品中最古参となった『ONE PIECE』は、この1年も連載長期化に伴う衰微を最小限に留め、相変わらず“一人横綱”の地位を守って年を越しました。さすがに以前と比べると「今週の『ジャンプ』の中で一番良かったのは『ワンピ』だな」と思える頻度はガクンと落ちましたが、それでも未だに抜群の知名度と幅広い読者層からの支持を誇っている「ジャンプ」の“顔”であります。
 いくら『DEATH NOTE』が業界内外で大きなインパクトを残しているとはいえ、作品のタイトルとその内容を知る人の数は文字通りに桁違いであり、『ONE PIECE』あってこその「ジャンプ」”という位置付けは全く不動です。テレビアニメの放映が続いている間での“2枚目の看板”登場が待ち望まれている事は確かではありますが、今しばらくは現在の超長期政権は継続しそうな情勢です。

 これに続く“大関”格の作品としては、先述の通り、今最もコアなマンガ読みの間で注目を集めている作品と言っても過言ではない『DEATH NOTE』が実力最右翼で、そこに安定株の『NARUTO』と、遅咲きの花を咲かせつつある『BLEACH』が続きます。
 その一方で、昨年まで準看板クラスの位置付けで権勢を誇った『テニスの王子様』は、商業的に衰微の傾向が見られるようになり、今では負け越してのカド番を繰り返す“関脇”陥落寸前のクンロク大関(9勝6敗で何とか地位を保つ力の衰えた大関)になってしまったようです。元々、内容のクオリティについては激しく疑問視される事の多かった作品だけに、一度勢いが衰え始めると人気が低迷するのも存外早いのではないか…と思われます。
 また、相変わらず休載や未完成原稿の掲載が頻発している『HUNTER×HUNTER』も、商業的成績を勘案すればこのランクで“張出大関”の番付となりますね。相撲で喩えれば、気力・体力の限界で稽古や巡業には出て来ないにも関わらず、思い出したように本場所に顔を出しては平幕相手に8勝挙げて勝ち越し、大関の地位をキープしてしまう角界の問題児…といったところでしょうか。

 そして、これらの“1横綱5大関”という分厚いトップクラスに続く作品群も、世代交代を果たした結果、随分と活力が滲み出てきたように思われます。05年春からのアニメ化で大ブレイクを目指す『アイシールド21』は、さしずめ“次の場所での大関獲りが懸かった関脇”で、他の雑誌なら看板作品級の単行本売上を誇る『D.Gray−man』『銀魂』は、新入幕場所で敢闘賞を受賞した新進気鋭力士でしょうか。
 この他にも、誌面に彩りを添える個性派の面々も充実しており、「ジャンプ」もこの1年で随分と中身が変わって来たなぁ……と思えるようになりました。数少ない懸念材料としては、『Mr.FULLSWING』『いちご100%』『武装錬金』といった微妙に伸び悩む中堅下位の作品をこれからどう扱っていくか…という事などが挙げられますが、それでも90年代生まれの賞味期限切れ作品が巻末に蠢いていた昨年までと比べると、やはり風通しは随分と良くなったようです。まだまだ油断は禁物とは言え、04年度の「ジャンプ」は、ここ2年間の停滞・後退から脱し、見事に回復基調へ乗ったと宣言して良いのではないでしょうか。

 ──というわけで、「ジャンプ」の年間総括でした。今年は景気の良い話ができて良かったです。何しろこれからお話する「サンデー」の動向は……(苦笑)。
 ……でも三上前編集長関連の話は各所から漏れ聞こえて来てるんですが、表に出ない・出せない話の方が多いので、結局はここではオフレコになってしまうんですよね。まぁ、久米田康治さんが単行本で告白したような事は色んな所で起こってたらしいとだけ申し上げておきます。詳しい話が聞きたかったら、東京旅行中の駒木をコミケ会場かコスプレ雀荘辺りで捕まえて下さい(笑)。

 それでは、「サンデー」も最初に新連載作品の回顧からお送りします。まずは04年度に立ち上げられた長期連載作品のリストをご覧下さい。

『怪奇千万! 十五郎』作画:川久保栄二
『暗号名はBF』作画:田中保佐奈
『こわしや我聞』作画:藤木俊
『思春期刑事ミノル小林』作画:水口尚樹
『DAN DOH!!〜ネクストジェネレーション〜』作:坂田信弘/画:万乗大智
『道士郎でござる』作画:西森博之
『クロザクロ』作画:夏目義徳
『東遊記』作画:酒井ようへい
『ハヤテのごとく!』作画:畑健二郎

 04年度の新連載は9作品、その内の1つはアニメ化に伴う『DAN DOH!!』の第3部開始ですから新作は8作品という事になりました。数字そのものは前年度(7作品)よりも微増となりましたが、その前年度は多くの短期集中連載(5本)を立ち上げたという事情がありましたから、それもほとんど無かった04年度は実質上漸減と言って良いでしょう。事実、今年とよく似た編集方針となった02年度(11作品)よりも新連載の数は減っています。
 で、何故このような消極的な編集方針となったのか…という話になるわけですが、これは推測するに、年度初頭に鳴り物入りで立ち上げられた4作品(『十五郎』〜『ミノル』)の不振によって従来の編集方針──増刊での人気作を週刊本誌連載に“昇格”させる──が頓挫した事や、それまで週刊連載のトライアルとなっていた増刊号での短期連載制度の廃止、そしてやはり人事異動のシーズンを外した急な編集長人事発動による混乱が、その要因として非常に大きかったのではないでしょうか。また、単純に「サンデー」の将来を背負わせるに足りる若手・新人作家の頭数を確保出来なかった…という事情もあるでしょう。

 まぁそんな憶測の真偽はどうあれ、事実として04年度の新連載作品は量だけでなく質の面においても散々なモノとなっています。まず短期打ち切りが3作品(『怪奇千万! 十五郎』『暗号名はBF』『DAN DOH!!〜ネクストジェネレーション〜』)にも及び、残された6作品についても現状において商業的に特に好調と言える作品はありません。また、誌面構成的にも人気作的扱いをされているのは最後発の『ハヤテのごとく!』のみで、他の作品は目次でも真ん中付近〜巻末近辺に追いやられているものがほとんどです。
 どうやら、このまま行くと04年度も過去2年と同様に、「ひょっとしたら近い将来スマッシュヒットするかも知れないのが1〜2作品」…という事になりそうです。看板作品が強いために未だ表立って問題が顕在化していませんが、この停滞は「サンデー」の今後にとって痛手である事は間違いないでしょう。

 ──さて次は短期集中連載・読み切りについての総括をお送りしましょう。こちらもまずは04年度に発表された短編作品のリストをご覧頂きましょう。

 ※短期集中連載(数回で終了する事が連載開始時から確定している作品)
『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志

 ※単発読み切り作品・正規枠&代原
『カズマ来たる!!』作画:万乗大智
『ハヤテの如く』作画:畑健二郎
『教育チャンネル みんなのチャンポッピ』作画:ピョンタコ
『HOOK!』作画:鹿養信太郎
『ダグラーバスタークウ!』作画:松浦聡彦
『犬ちゃん』作画:河北タケシ
ゴーストロジック』作:浜中明/画:ネモト摂
『地球防衛バッパパーマン』作画:森尾正博
『もみあげキャプテン』作画:大塚じんべい
『グッドラックノストラダムス』作画:武村勇治
『緋石の怪盗アルバトロス』作画:若木民喜
『ブリザードアクセル』作画:鈴木央
『タマ!!!! 〜真夏のグランドスラム〜』作画:小山愛子
『ベースボールエンジェル』作画:清水洋三
『ミッションX』作画:我妻利光
『ハルマキ』作画:瀬尾結貴)※代原作品
『UPPERS』作画:寺嶋将司
『断罪の炎人』作画:吉田正紀
『88の陣八』作画:桜井亜都
『ジンの怪』作画:大須賀めぐみ
『BooTa』作画:河北タケシ
『MAXI』作画:佐藤周一郎
『二九球さん』作画:大塚じんべい
『あるふぁ!』作画:桜河貞宗

 ※読み切り・受賞作掲載(新人賞の受賞作が掲載されたもの)
『吉田ジャスティス(激闘編)』作画:福井祐介

 ※その他企画モノ
『天国の本屋』作:松久淳&田中渉/画:桐幡歩
『福原愛物語』作画:あおやぎ孝夫
『大久保嘉人物語』作画:草場道輝
『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』作画:曽山一寿

 04年度は短期集中連載は僅か1本ながら、読み切りは正規枠と受賞作掲載だけでも何と24本「サンデー」の歴史では前代未聞と言って良い程の短編大量掲載が行われた事になります。特に月刊増刊が隔月刊化された春からは、新作発表の機会が大幅に減った若手作家さんと次回作を模索する中堅作家さんのために、毎週のように読み切り作品が掲載されるようになりました。その様子は、まるで“所属作家の虫干し”というような光景でありました。
 しかしこの編集方針は、近年の「ジャンプ」や02年度の「サンデー」を見る間でもなく非常に効率が悪いもので、そこから連載ヒット作の輩出に繋げられなければ、ただ単に微妙なレヴェルの作品で雑誌の平均クオリティを下げているだけになってしまいます。「サンデー」は現時点において、囲い込んでいる若手・新人の層や雑誌の充実度が「ジャンプ」と違うわけですから、単純に「ジャンプ」の後を追うだけでなく、もっと抜本的な改革が必要ではないかと思うのですが……。これは、間もなく三上体制の残務処理が完了して独自色をフルに発揮できるようになる林新編集長の手腕の見せ所になると思います。

 では、最後に03年度から続行中の長期連載作品の動向について。こちらも先に開始年度別連載作品リストをご覧下さい。

☆2005年度に越年を果たした連載作品
 ◎94年度連載開始
 
『名探偵コナン』作画:青山剛昌
 『MAJOR』
作画:満田拓也
 ◎95年度連載開始はなし
 ◎96年度連載開始
 『犬夜叉』作画:高橋留美子
 ◎97年度連載開始
 『からくりサーカス』作画:藤田和日郎
 ※『モンキーターン』作画:河合克敏)は越年直後の05年3号に円満終了。
 ◎98年度連載開始はなし
 ◎99年度連載開始はなし
 ◎00年度連載開始はなし
 ◎01年連載開始
 『金色のガッシュ !!』作画:雷句誠
 『KATSU!』作画:あだち充
 ◎02年度連載開始 
 『焼きたて!! ジャぱん』作画・橋口たかし
 『史上最強の弟子ケンイチ』作画:松江名俊
 『いでじゅう!』作画:モリタイシ
 『D−LIVE』作画:皆川亮二
 ◎03年度連載開始
 『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人
 『MAR(メル)』作画:安西信行
 『結界師』作画:田辺イエロウ
 ※『俺様は?(なぞ)』作画:杉本ペロ)は越年後、8号までで打ち切り終了。

☆2004年度に連載終了した長期連載作品
 ◎98年度連載開始
 『かってに改蔵』作画:久米田康治/34号までで打ち切り終了
 ◎99年度連載開始
 『ファンタジスタ』作画:草場道輝/14号までで円満終了
 ◎01年連載開始
 『うえきの法則』作画:福地翼/46号までで円満(?)終了。ただしアニメ化に伴い05年度春より第2部開始予定
 ◎02年度連載開始
 『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫/1号までで打ち切り終了
 『きみのカケラ』作画:高橋しん/14号までで打ち切り終了
 『美鳥の日々』作画:井上和郎/34号までで円満終了
 ◎03年度連載開始
 『売ったれダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治/8号までで打ち切り終了
 『ロボットボーイズ』作:七月鏡一/画:上川敦志/10号までで打ち切り終了) 

 04年度に終了した長期連載作品は8作品。短期打ち切りの少ない「サンデー」では平均的な数の“人事”でした。その中身も、無事にストーリーを全うした作品もあり、勢いに乗り切れぬまま打ち切られた作品もあり、「この大物作家が鳴り物入りで始めたマンガの打ち切り完結編って、どんな内容?」と問われれば、「ん? ああ、児童ポルノ」と回答せざるを得ない作品もあり、更には長期に渡って全く衰えぬクオリティで誌面の中堅を務めていたにも関わらず、「編集長が自分の子供に読ませたくないから」という物凄い理由で打ち切られた作品あり、と、非常にバラエティに富んだ構成になりました。まさしく三上体制の2年半を象徴するような、混沌とした内容の連載終了作品ラインナップでありましょう。
 そして、これらを後継したのが先に紹介した04年度開始の連載作品たちですが、残念ながら現状では“等価交換”とは行かない様子です。それどころか最近の掲載順を見ると、この春にかけて04年度開始作品から数作品の打ち切り終了があるような情勢で、どうやら04年度に開いた穴を2年掛かりで埋めてゆく…という悲しい現実が見えて来ますね。

 さて、こちらも締め括りとして、「サンデー」の誌面構成の俯瞰と展望をしておきましょう。

 04年度の「サンデー」において、スキャンダル抜きで最大の出来事と言えば、やはり以前から待望されていた“政権交代”の実現、即ち『コナン』『犬夜叉』から『金色のガッシュ!!』への盟主交代でしょう。アニメ化以後はグッズの売上げも絶好調で、商業的にも完全に「サンデー」のエース的存在となりました。現時点で連載開始から4年と、既に上昇期から安定飛行期に入りつつありますが、少なくとも05年度中に勢いが急落する事は無いでしょう。
 そして、看板作品の座を明渡したとはいえ、『名探偵コナン』も依然として単行本初版ミリオン級の成績をキープし、堂々たる“西の横綱”として君臨しています。ただ、商業的成功と引き換えに、連載開始10年以上経ってもメインシナリオを進行出来ないというジレンマを抱えているのは、一読者として見た場合少々辛くもありますが……。
 その一方で、残る“旧二枚看板”の一角・『犬夜叉』は、抜群の知名度こそ健在なものの、テレビアニメの一時中断や平均掲載順の低下など衰微の傾向が否定出来なくなりました。そろそろ「引退」、つまりは円満終了がチラつき始める時期が近付いているように思えます。……もっとも、そうは言っても未だに単行本を1冊出せば、そこらの作品の軽く数倍は売れてしまうのですから、衰えたりとは言え未だ侮れず、といったところでしょう。

 ……というわけで、トップクラスはなかなかに手堅い「サンデー」ですが、これらの新・旧“3横綱”に続く存在は? と問われると一気にトーンが下がってしまいます。「サンデー」を長年支えて来た90年代生まれの作品が続々と円満終了、もしくは長期連載に伴う衰微が著しくなって来た中で、誌面の半数以上を02年度以降開始の小粒な作品が占める状態が続いており、言ってみれば「“大関不在”の現状」とタイトルをつけたくなるような様相が眼前に広がっています。
 とりあえず番付上の序列として“関脇・小結”クラスを指名するとすれば、こちらも衰えたりとは言え存在感抜群の『MAJOR』、単行本売上は目立たないものの平均掲載順は“両横綱”と肩を並べる『結界師』、そして低年齢層を中心に支持を固め、メディアミックスで飛躍を目指す『焼きたて!! ジャぱん』『MÄR』あたりになるでしょうか。これに、失礼ながら意外にも連載が好調に推移している『ハヤテのごとく!』が続く…といったところですね。
 で、この後は、掲載順(アンケート人気)は好調ながら単行本はパッとしない若手・中堅作家の作品と、雑誌内では目立たない存在ながら以前からの固定ファンが買い支えて単行本は初版で最低20〜30万部は出るベテラン作家の作品が多数入り乱れる…といった感じで、序列は混沌としています。ただ、どちらのパターンにせよ商業的に伸び悩んでいるのに変わりは無く、このような作品を多数抱えている状況は決して健全な状態であるとは言えないでしょう。

 ……ちなみに先ほど「大関不在」と申し上げましたが、ホンモノの大相撲の世界で大関が不在になると、東西の正横綱が「横綱大関」として2つの番付を兼ねるよう決まっています。それを考えると、現在の『ガッシュ』『コナン』の図抜けた商業的貢献はまさに横綱大関といった感がありますね。
 それでも「サンデー」本誌の発行部数は下げ止まらず──先日、04年8月までの1年間の平均部数が実数で約116万部と発表されましたが、これはあくまで部数がマイナス成長してゆく過程の中で割り出された平均値であり、しかも集計が終わった直後の秋に『改蔵』と『美鳥』が終了して更に部数が落ちたという話を聞いた事があります──編集長更迭という事態になったのですから、このトップグループの層の薄さが雑誌に与える影響はいよいよ深刻です。
 既に始まっている05年度、現時点で今年度の新連載予定者として名前が挙がっているのは、一部雑誌で情報が出た鈴木央さん草場道輝さん、そして『絶対可憐チルドレン』の本格連載が内定している椎名高志さんといった面々です(あとは福地翼さんの復帰がありますか)。彼らと、既に連載を開始した田中モトユキさんといった、手堅い仕事で定評のある中堅・ベテラン作家さんたちが「サンデー」のスタビライザー役を務めている内に、荒削りでも高いポテンシャルを秘めた若手・新人をどれだけ発掘・育成できるか。「サンデー」浮沈のカギは、やはりその辺に懸かっていそうな気がしているのですが、どうでしょうか。

 ──といったところで、初日のプログラム・「ジャンプ」「サンデー」年間回顧を終わります。今回は冒頭でも申し上げた通り、駒木本人の好き嫌いは勿論、レビューで下した評価も参考とせずに、掲載順(アンケート)や単行本売上といった客観的材料のみを基準として淡々とお話してみましたが、如何でしたでしょうか。時にはシレっと具体的な数字を出したりもしてしまいましたが、どうしてそういう数字が出せるのか? …という問いに対しては大人の事情でお口YKK(友近風に)ですので、信じるも信じないも含めて、どうかお察し下さい(笑)。

 さてさて、明日はいよいよ式典のメインイベント・「コミックアワード」表彰式です。今年は既にノミネート作品が発表済ですが、ここで今一度、ノミネート作品を紹介し直しておきましょう。 

各部門・最終ノミネート作品
(優秀作品賞受賞作一覧・順不同)

◆ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞
『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健
『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦
『あやかし堂のホウライ』作画:金田達也/原案協力:藤田和日郎

◆ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞
『SNOW IN THE DARK』作画:叶恭弘
『ホライズン・エキスプレス』作画:中島諭宇樹
『雨女、晴れ男』作:長谷川尚代/画:藤野耕平
『PMG-0』作画:遠藤達哉
『賈允』作画:内水融
『スーパーメテオ』作画:高橋一郎

◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞
『ホライズン・エキスプレス』作画:中島諭宇樹
『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所(増刊掲載版読み切り)作画:西義之
『PMG-0』作画:遠藤達哉
『スーパーメテオ』作画:高橋一郎

ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞
『無敵鉄姫スピンちゃん』(作画:大亜門)
『吉野君の告白』(作画:坂本裕次郎)

◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞
『吉野君の告白』(作画:坂本裕次郎)


主要賞・最終ノミネート作品

仁川経済大学賞(グランプリ)
『おおきく振りかぶって』作画:ひぐちアサ/「アフタヌーン」連載中)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞受賞作)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞受賞作)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞受賞作)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞受賞作)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞受賞作)

◆ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
『怪奇千万! 十五郎』作画:川久保栄二/「週刊少年サンデー」連載)
『少年守護神(連載版)作画:東直輝/「週刊少年ジャンプ」連載)
『BLACK CAT特別編』作画:矢吹健太朗/「週刊少年ジャンプ」掲載」
『地上最速青春卓球少年 ぷーやん』作画:霧木凡ケン/「週刊少年ジャンプ」連載)
『味覚師ツムジ』作:宇水語/画:佐藤雅史/「赤マルジャンプ」掲載)

 今年は「サンデー」勢の不振やギャグ作品の不作など、やや残念な材料もあるのですが、それでも『おおきく振りかぶって』が参戦するグランプリや、超大物D級作家が揃っての頂上対決ならぬ“底辺対決”の様相を呈したラズベリーコミック賞など見所十分の賞レースとなりました。ご贔屓の作品がノミネートされている方は勿論のこと、そうでない方も受賞作予想などで楽しんで頂ければ……と思います。

 それではまた明日、今度は当講座が誇る“絶対可憐レディース”と一緒にお目にかかる事をお約束して、式典初日のプログラムを終了します。御清聴有難うございました。(式典2日目へ続く)

 

2日目(2月7日) 
「第3回仁川経済大学コミックアワード」表彰式

珠美:「(深く一礼)連日お忙しい中ご来場頂き、誠に有難うございます。これより、式典2日目のプログラム・『第3回仁川経済大学コミックアワード』表彰式を挙行致します。
 私、本日の表彰式の総合司会及びプレゼンテーターを務めさせて頂きます、当社会学講座・講師助手の栗藤珠美です。どうぞ、最後まで宜しくお願い申し上げます。
 そして、こちらは──」

順子:「この講座のアルバイトをしています、一色順子です。今年もプレゼンテーターと、『ラズベリーコミック賞』の司会をやらせてもらえることになりました。
 今日は20代にもなって久々のコスプレ衣装で、ちょっと不思議な気分なんですけど(苦笑)、お仕事はミスしないようにがんばります! 皆さんどうかよろしくお願いしますね〜♪」

リサ:「時々講義を手伝っているリサ=バンベリーです。 今年もプレゼンテーターのお手伝いをさせてもらえることになりました。マンガの中の“チルドレン”みたいに元気良くガンバリます! 最後までヨロシクです!」
珠美:「……というわけで、今年も私たち研究室スタッフの手作りで行うイベントとなります。至らぬ点も有るかと思いますが、どうかご容赦下さいませ。
 ──さて、表彰式を始めます前に、当講座専任講師で、本日の『コミックアワード』審査委員長を務めます駒木ハヤトより、皆様にご挨拶があります。駒木博士、どうぞ」

駒木:「今回は諸般の事情で開催が2ヶ月ばかり遅れてしまいましたが、それでも何とか第3回の『コミックアワード』を開催する事が出来ました。この調子で回を重ねて年中行事化させるつもりですので、今後とも何卒。
 ──さて、これは前回の時にも似たような事を喋った記憶が有るんですが……。
 普段、毎週お届けしている『現代マンガ時評』、そこでの駒木ハヤトは言いたい事を言ってるように見えて、実は全く言えていなかったりするのです。手放しで褒めたい大好きな作品の欠点をあげつらい、逆にクソミソに貶したい作品についても、好き嫌いを排除して内容を考察している以上はフォローを入れたりしなくてはならず、あまつさえ、そのフォローのためにネット界隈で叩かれたりする屈辱を味わったりするわけです。
 しかし今日は年に1度のお祭りです。褒めたい作品をロケットパンチでも放とうかという勢いで手を放して褒め、余にもアレな作品を皮肉タップリに笑い飛ばして、それで皆さんにも目一杯楽しんで頂こうと、このように考えております。
 まぁその分、駒木と感性に齟齬が生じている方にとっては、納得行かない選考結果に大きな不満を持たれる事もあるでしょう。しかし、これも毎年申し上げてますように、この賞は権威も格式も価値もヘッタクレも無い賞ですんで、意に添わない場合は軽く笑い飛ばして頂ければ…と思います。そんな感じで、どうか温かい目で見守ってやって下さい。今日は本当に有難うございます」
珠美:「──さて、これから部門賞の発表並びに表彰へと移らせて頂くのですが、ここで改めまして、過去2回の『コミックアワード』受賞作を紹介しておきたいと思います。どうぞ、以下の資料をご覧下さい。

第1回(02年度)受賞作品

 仁川経済大学賞(グランプリ) 
  『ブラックジャックによろしく』作画:佐藤秀峰

 ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞
 ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞

  『アイシールド21』
 (作:稲垣理一郎/画:村田雄介

 ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞
  『CRIME BREAKER !!』作画:田坂亮
  『だんでらいおん』作画:空知英秋) 

 ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
  『エンカウンター 〜遭遇〜』作画:木之花さくや

※ギャグ系2部門はまだ設置されておらず、ギャグ作品はストーリー系作品に混じって、長編・短編・新人の3部門で賞を争った。

第2回(03年度)受賞作品

 仁川経済大学賞(グランプリ)
 
ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞 
  『美食王の到着』作画:藤田和日郎

 ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞
 
 『武装錬金』
 (作画:和月伸宏

 ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞
  『結界師』作画:田辺イエロウ

 ジャンプ&サンデー最優秀新人ギャグ作品賞
  『スピンちゃん試作型』作画:大亜門

 ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
  『テニスの王子様 特別編・サムライの詩』作画:許斐剛

※新設されたジャンプ&サンデー最優秀ギャグ作品賞は該当作なし

 ……このように、一昨年は“ワイルドカード”枠から、そして昨年は『サンデー』増刊に掲載された読み切り作品がグランプリを受賞しています。果たして今年はどういった展開になりますか、どうぞご注目下さいませ。

 ──それでは、部門賞の受賞作発表・表彰に移らせて頂きます。まず最初に、『ジャンプ』『サンデー』に掲載されたギャグ系作品を対象とする2部門の受賞作発表・表彰です。
 この2つの部門のプレゼンターは、リサ=バンベリーちゃんにお願いする事にします。……では、リサちゃんお願いします」

リサ:「──ハイ、お願いされました!(笑) ……では『ジャンプ&サンデー最優秀ギャグ作品賞』と、『ジャンプ&サンデー最優秀新人ギャグ作品賞』の2部門の発表をさせてもらいます。このうち、『最優秀ギャグ作品賞』は『ジャンプ』と『サンデー』に載っていた全てのギャグマンガの中で一番良かった作品に、『新人』のつく方は、これまで週刊本誌で連載をしたことがないか、これが初めての連載という人の描いた作品で一番良かった作品に贈られる賞です。
 で、この2部門、去年もノミネート作品が2つとも全く同じでいっぺんに発表することになったんですけど、今年はノミネート作品が少なすぎて、やっぱり2つまとめて発表することになっちゃいました(苦笑)。『ジャンプ』と『サンデー』のギャグマンガ家さん、もっとガンバッて下さいね!
 ──それでは、2つの部門にノミネートされた作品を紹介していきます。まずは2つの部門にWノミネートされた
『吉野君の告白』作画:坂本裕次郎から。『金未来杯』で優勝した作品じゃなくて、『赤マル』に載った方ですので注意してくださいね(笑)。大ゴマを上手く利用したテンポの良い掛け合いと、ビジュアルのインパクトで笑いを獲るセンスが高い評価を受けました。
 次に、『最優秀ギャグ作品賞』にノミネート、先ほどの『吉野君の告白』の前に立ちはだかるのが
『無敵鉄姫スピンちゃん』作画:大亜門です。前回の『新人ギャグ作品賞』を受賞した『スピンちゃん試作型』の週刊連載版ですね。読み切り時代から引き継がれた個性豊かなキャラクター設定、そしてギャグの密度・完成度はますます磨きが掛かった感がありました。残念ながら連載は1クールで打ち切りになってしまいましたが、単行本1冊分に凝縮されたパワーで昨年果たせなかった『新人』抜きの部門賞受賞を目指します。
 ……以上、2作品が今回のノミネート作品です。『新人ギャグ作品賞』はノミネートが1作品だけですので、受賞または『該当作なし』のいずれか…ということになります。
 それでは今、駒木博士から受賞作が書かれたペーパーが渡されましたので、読み上げます。今年のギャグ作品2部門の受賞作品は──

 

ジャンプ&サンデー最優秀ギャグ作品賞
 『無敵鉄姫スピンちゃん』作画:大亜門

◎ジャンプ&サンデー最優秀新人ギャグ作品賞
 『吉野君の告白』作画:坂本裕次郎


 ……と、いう結果になりました! 2つの作品で仲良く2つの賞を分け合う形になりましたね。大亜門サン、坂本裕次郎サン、おめでとうございます!
 ──では、ここで審査委員長の駒木博士から審査の経緯について説明をしてもらいます」 

駒木:「……はい、駒木です。まず今年度はノミネート作品が、一次の段階から余りにも少なかったのが非常に残念でした。ギャグ作品は連載枠が限定されている上に、出版社としても余り商売にならないので、単純な話ではないのは分かるんですが……。でも『ジャンプ』なんかは代原枠があって、ギャグ増刊まで出るような恵まれた環境が与えられているのに、『スピンちゃん』以後は連載の話すら出て来ないんですから。それを考えると、やっぱり寂しいですよね。今年こそは『赤塚賞』の名に恥じないような大物新人が出て来てもらいたいものです。あ、勿論、有望な若手作家さんの活躍も期待してます。特に大石浩二さん、期待してますよ。
 ──さて、審査についてですが、焦点は『受賞作がどれにするか?』というより、ノミネートされた2つの作品を『受賞させていいのか?』…という所に絞られました。まぁ『吉野君の告白』の方は、正賞はともかく新人なら十分に資格アリという事でスンナリ決まったんですが、問題は連載が“突き抜け”た『スピンちゃん』をどう扱うか…という点でして。
 これが普通の賞レースなら、不人気で連載が打ち切られた作品を1年間の代表作に推す事なんて、まぁ有り得ないんでしょうけど。でもこの賞はこういう賞ですから(笑)、巷の評価よりも駒木が感じ取ったクオリティで評価しようと。で、単行本を読み返すと、やっぱりよく出来てるんですよね。ネタの過度のマニアックさと、ちょっとギャグの流れがワンパターンなのが気になると言えば気になるんですが、それでもギャグのインパクト・安定感共に、メジャー誌の連載作品として求められる水準をクリアしていると思います。そういう事で、今回は世間の多数意見におもねらないという、この『コミックアワード』の在り方をアピールするという意味も込め、2作品共に賞を贈ることにしました。以上です」

リサ:「ハイ、駒木博士、ありがとうございました。……というわけで、ギャグ2部門の発表を終わります。珠美サン、お返しします」
珠美
:「……ハイ、リサちゃん、ありがとうございました。
 ──それでは続きまして、『ジャンプ&サンデー最優秀新人作品賞』の発表・表彰へと参ります。
 この賞は、『週刊少年ジャンプ』または『週刊少年サンデー』において長編連載経験のない若手作家さんの描いたストーリー系作品を対象にしたもの。そのため、審査対象となる作品は、連載未経験の若手・新人作家さんが描いた読み切りや短期集中連載などの短編、そして初めて手がけた週刊連載作品に限定されます。
 ではここからは、この部門賞のプレゼンテーターを務めます一色順子にバトンタッチしたいと思います。それでは順子ちゃん、よろしくお願いしますね」

順子:「はーい、一色順子です! 今年の『新人作品賞』のノミネートは『ジャンプ』系の作品ばかり4作品となりました。
 まずは
『ホライズン・エキスプレス』作画:中島諭宇樹。中島さんは2年連続の最終ノミネートです。デビュー作で見せつけたスケールの大きな世界観は今も健在。更に今回はトリック仕立てのラストシーンも秀逸でした。果たして昨年度のリベンジはなるでしょうか?
 続いては『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之。現在週刊本誌で連載中の長編作品は来年度扱いということで、今回は『赤マル』に掲載された第1作が審査対象となりました。“オカルトと法律相談モノの融合”というオリジナリティの高い設定と、構成・脚本の上手さが高い評価を受けてのノミネート。アシスタント時代の盟友・中島諭宇樹さんとの競合の行方はどうなりますか。
 3作品目は『PMG-0』
作画:遠藤達哉。『ジャンプ』マニアなら知らない人はいないとも言われる“伝説の新人”遠藤達哉さんの復帰作が堂々のエントリーです。
 スタイリッシュかつ高水準の作画技術、そして抜群の演出・脚本力によって生み出された迫力とスピード感溢れるストーリーは、数年のブランクを感じさせない素晴らしさ。僅か数作品のキャリアで長年ファンの間で語り継がれるのも納得のハイクオリティでした。
 そして最後に紹介するのは、
『スーパーメテオ』作画:高橋一郎。デビュー時から、全く新人らしくない独特の作風で『ジャンプ』読者に強い印象を与えて来た高橋さんですが、デビュー3作目での『コミックアワード』初ノミネートとなりました。
 個性的なキャラクターを限られたページ数で描き切る高い表現力、そしてスポーツ・漫才・恋愛という全く関係の無い3つの要素を融合し、それを素直に楽しめるエンターテインメントに仕上げ切ったセンスにも光るものを感じさせてくれました。キャリア豊かなライバルたちを相手にゴボウ抜きの受賞はなるのでしょうか?
 ……以上、大接戦が予想される『ジャンプ&サンデー最優秀新人作品賞』のノミネート作品を紹介しました。では、いよいよ受賞作の発表です!

 

◎ジャンプ&サンデー最優秀新人作品賞
 『ホライズン・エキスプレス』作画:中島諭宇樹


 ……というわけで、受賞作は中島諭宇樹さんのホライズン・エキスプレス』に決まりました! めでたく去年のリベンジを果たしたということになるんですけど、博士、そこに至るまでのお話、よろしくお願いします」
駒木:「この部門は今年も本当に大変な激戦でした。選ぶまでに4回、5回と作品を読み直して、頭の中の序列も二転三転して、最終的にこういう結果になりました。まぁ激戦って言っても、僕の脳内だけの話なんでビジュアル的にはとても地味なんですが(笑)。
 さて、作家さんとファンの方には申し訳無いですが、まず真っ先に脱落したのは『スーパーメテオ』。このメンツの中に混じったら、さすがにプロットの弱さが隠せなかったですね。
 次に“残念でした”になったのは『ムヒョ』。実はノミネート段階では最有力候補だったんですが、改めて読み直してみると、今やってる連載版に比べて総合的に見劣りする感がありました。これはやっぱり、1年待ってクオリティの高い連載版の方で改めて賞レースに参加させたいという事で、今回は落選とさせてもらいました。
 で、最後に残った2作品・『ホライズン』『PMG』これで大いに迷いました。どちらを選ぶか、それとも2作品同時受賞で行くか。両作品とも長所も短所もハッキリ・クッキリな感じなので、それらのどこを重く見るかで結論が全く違って来るんですよね。長所で言えば『ホライズン』はラストシーン、『PMG』は抜群の演出力。短所は共に主人公のキャラ設定にキズがあるという所。
 そういった中で、最終的な決め手となったのは短所の度合いの大きさでした。『PMG−0』の主人公のキャラ設定は一貫性に欠けていて、しかも過去の体験と矛盾するという点がどうにも腑に落ちなかったんです。エンターテインメントの醍醐味を追求する余り、作品の大黒柱にカンナを入れちゃったかな…といった感じで、そこでアウト。『ホライズン』の方も違和感は確かに有るんですが、矛盾まではしていなかった。だからギリギリで許せる。この辺の微妙な差が命運を分けたという感じです。
 ……まぁ、中島さんは2年連続のノミネートですし、ここで受賞というのも『直木賞』みたいでカッコ良いかな、と選んだ後で思いました(笑)。以上です」
順子:「はーい、身の程知らずな自画自賛ありがとうございました(笑)。じゃあ珠美先輩にとりあえずお返しします」
珠美:「……ハイ、順子ちゃん、お疲れ様でした。
 ──さて、続きましてはこちらも激戦が予想される『ジャンプ&サンデー最優秀短編作品賞』です。こちらの賞は、『週刊少年ジャンプ』、『週刊少年サンデー』の本誌やその系列誌で発表された全ての読み切り・短期集中連載作品を審査対象に、最優秀作品を選定します。昨年の受賞作『美食王の到着』が、そのままグランプリにも選ばれていることからもお分かりになりますように、時には長編作品賞以上に重要視されるグレードの高い部門賞となっています。
 この賞のプレゼンテーターは、2度目の登場、リサ=バンベリーです。リサちゃん、よろしくお願いしますね」

リサ:「ハイ。前の時は『美食王(ガストキング)の読み方を間違えて恥ずかしい思いをしちゃいましたので、今年は気をつけてガンバリます!(苦笑)
 この『最優秀短編賞』は6作品のノミネートがありましたが、そのうち3作品──
『ホライズン・エキスプレス』、『PMG−0』、『スーパーメテオ』は『新人作品賞』の方で紹介済みですので、ここでは残り3作品について紹介したいと思います。
 まず最初に紹介するのは『SNOW IN THE DARK』
作画:叶恭弘。あの『プリティフェイス』でおなじみの叶恭弘さんが、童話『白雪姫』をモチーフに本格ファンタジーに挑戦した…という意欲作です。
 見所は何と言っても超ハイレヴェルな画力、そして叶さんの過去作では見られなかった丁寧なストーリーテリング。異色尽くめのこの作品、果たして受賞はなるでしょうか?
 次に紹介するのは
『雨女、晴れ男』作:長谷川尚代/画:藤野耕平。残念ながら1クール打ち切りとなってしまった柔道マンガ・『サラブレッドと呼ばないで』のコンビが描いた青春学園ドラマです。
 ノミネートの決め手になったのは、何と言っても高度な脚本力。そして、リアリティと生活感のある学園風景を描写した表現力も高い評価を受けました。
 最後は『賈允』
作画:内水融。こちらも1クール打ち切りからの復帰作。しかしそのダメージを全く感じさせない高いクオリティの作品でした。
 難易度の高い軍師策略モノのシナリオを矛盾なくまとめ上げただけでなく、エンターテインメントの要素も決しておろそかにしなかった点が博士の好印象を勝ち取りました。
 ……というわけで、どういった結果になるのかワタシも楽しみなんですけど……あ、どうやら審査結果が出たみたいです。
 では、発表します。今年の『ジャンプ&サンデー最優秀短編作品賞』は、この作品です!

 

◎ジャンプ&サンデー最優秀短編作品賞
 『雨女、晴れ男』作:長谷川尚代/画:藤野耕平

 ……というわけで、最優秀短編賞は『雨女、晴れ男』に決まりました! ……何だか見ている人たちから『意外、意外』ってどよめきも起こってるみたいなんですけど、どうなんでしょう? 駒木博士、解説ヨロシクです」
駒木:「まぁ受賞したお二人には失礼ながら、確かに意外な結果と思われるかも知れないですね。まぁ、その辺も順を追って解説させてもらいましょう。
 まず、『新人作品賞』組の序列はさっきそっちで喋った通りだから割愛ね。で、こっちの賞だけにノミネートされた作品についての話を少ししておきましょう。
 まずは『SNOW IN THE DARK』。『プリティフェイス』以来、お色気ラブコメ路線をひた走る叶恭弘さんが突然発表した本格ファンタジーという事で、それだけでも驚きだったのに、シナリオもこれまでに比べると考えられないほど緻密で更にビックリしたのを覚えています。ただ、ストーリーにどうにも誤魔化し切れなかったキズがあって、敢え無く脱落となりました。それさえ無ければ、話題性込みで受賞まで考えたんですけどね。
 次に『賈允』。これは短編で収めるには壮大過ぎるテーマを扱ってしまったかな…といったところ。あと、主人公の設定が不用意に『封神演義』の太公望に似せてしまったのも、問題といえば問題。
 ……というわけで、“新人枠”代表『ホライズンエキスプレス』と、“一般枠”代表『雨女、晴れ男』の一騎討ち。こうなると、普通に考えれば話のスケールのデカい『ホライズン』有利なんですよ。ただ、逆に考えてみると“学園の日常風景”という思いっきりスケールの小さい地味な世界観で、それと対極にある派手なお話とで互角に渡り合ってるって、実は凄い事なんじゃないのかな…と。また、そういう作品をクローズアップするのも『コミックアワード』の役割だと思ったんで、こういう結果にさせてもらいました。以上です」
リサ:「ハイ、ありがとうございました。珠美サン、どうぞ」
珠美:「……ハイ、リサちゃんお疲れ様でした。また、リサちゃんには式後半の特別表彰で頑張ってもらいますね。
 ──さて、いよいよ部門賞も最後の1つとなりました。04年度に週刊連載の始まった長編作品を対象にした、『ジャンプ&サンデー最優秀長編作品賞』です。
 この賞のプレゼンテーターは、不肖私、栗藤珠美が担当させて頂きます。どうか宜しくお願い申し上げます。
 ……では、この部門の最終ノミネート作品を紹介させて頂きます。今回では、「ジャンプ」「サンデー」から計3作品のノミネートとなりました。
 まずは『DEATH NOTE』
作:大場つぐみ/画:小畑健。04年度で一番の話題作と言われるこの作品ですが、連載開始当初の評価ではノミネート基準に満たず、年度末の評価見直しによって滑り込みでノミネート資格を得るという紆余曲折がありました。
 この作品の魅力と言えば、何と言っても小畑健さんによって描かれる流麗な作画、そして全く予測不能・破綻寸前の所を際どく擦り抜けていくという、色々な意味でスリル満点のシナリオ。連載1年を経ても一向に衰えを知らないその勢いで、『コミックアワード』も受賞なりますかどうか。
 続いては『スティール・ボール・ラン』
作画:荒木飛呂彦。『ジョジョの奇妙な冒険』の作中世界のパラレルワールドを舞台にした作品で、1話31ページの不定期連載というイレギュラーな連載方式も話題を呼びました。
 『ジョジョ』の世界観を踏襲しながらも、キャノン・ボールの醍醐味も余す所無く描き切った実力の高さは『さすが荒木飛呂彦』といったところ。さぁ、この賞レースでは1着入線を果たす事は出来るのでしょうか?
 そして3作品目は『サンデー』増刊から
『あやかし堂のホウライ』作画:金田達也/原案協力:藤田和日郎。前年度『コミックアワード』グランプリ受賞作家・藤田和日郎さんが、今年はお弟子さんを引き連れて長編部門に参戦です。
 この作品、ノミネートのポイントとなりましたのは、僅かなページで主人公の人間性を表現させてしまう抜群のキャラクター描写力と、読者の心を掴んで離さない感動的なエピソード毎のクライマックスシーン。果たして『ジャンプ』系大物作家さんたちを相手に回しての大番狂わせはなるのでしょうか?
 ……以上、今年の
『ジャンプ&サンデー最優秀長編作品賞』にノミネートされました3作品を紹介致しました。それでは、受賞作の発表です!

 

◎ジャンプ&サンデー最優秀長編作品賞
 『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健

 ……以上のように、最優秀長編作品賞・受賞作は『DEATH NOTE』と決定いたしました。こちらは比較的順当といった結果だと思うのですが、その辺りいかがでしょう? 駒木博士、宜しくお願いします」
駒木:「順当、か。まぁ世間的にはそうなるかな(笑)。ただ、ノミネートに至る過程を見てもらえれば分かるように、個人的には『そうせざるを得なくて、そうした』…という感じでしょうか。
 この作品、“予測不可能”という部分を追求する余り、ストーリーが極めて場当たり的になっているので、今でも正直な所、危なっかしくて見てられないんですよ。読んでて辛いの(苦笑)。……ただ、そうは言っても、この1年間で積み上げて来た内容のクオリティを俯瞰すると、確かにこれは良く出来ている。凡百の作家なら行き詰まって逃げ出しちゃいそうな場面も見事に切り抜けている。そこまで結果を出されると、こちらとしても『参りました』と言うしかないな、ということで。
 あと、残りの2作品についてですが、『スティール・ボール・ラン』は、やっぱり第2ステージに入ってからの急失速が響きました。第1ステージで止まってたら、ひょっとすると受賞作が入れ替わっていたかも知れないです。
 『ホウライ』については、週刊本誌の短期連載しかご覧になってない方にはとても信じられないでしょうが、増刊の時は本当に良い作品だったのですよ。ストーリーの盛り上げ方も凄く良く出来ていて、一時は『ひょっとすると……』という時期もあったんですけどね。ただ、クオリティの安定感が欠けるようになって半歩後退、そして同名タイトルの短期連載の失敗が間接的にトドメを刺したかな…と。直接関係無いとはいえ、やっぱりイメージ悪いですよね」
珠美:「……ハイ。博士、どうもありがとうございました。
 ──以上をもちまして全ての部門賞の受賞作が決定致しました。これによって、グランプリ・『仁川経済大学賞』の最終ノミネート作品も確定したことになります。
 ではここで改めまして、会場の皆様には『仁川経済大学賞』の最終ノミネート作品を紹介させて頂きます。

仁川経済大学賞(グランプリ)
最終ノミネート作品

『おおきく振りかぶって』作画:ひぐちアサ
『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健
『雨女、晴れ男』作:長谷川尚代/画:藤野耕平
『ホライズン・エキスプレス』作画:中島諭宇樹
『無敵鉄姫スピンちゃん』作画:大亜門
『吉野君の告白』作画:坂本裕次郎

 ……以上の中から、当社会学講座が選定する04年度最優秀作品が誕生致します。発表まで、今しばらくお待ち下さいませ。
 それでは皆さんにはここで、お待ちかねの『ラズベリーコミック賞』の発表・表彰式で楽しんで頂きましょう。私はここで一旦失礼させて頂き、『ラズベリーコミック賞』の間は一色順子ちゃんに司会を担当してもらいます。──それでは、宜しくお願いします」

順子:「──はーい、『ラズベリーコミック賞』と言えば“お祭り担当”のわたしということで、司会とプレゼンテーターを務めさせてもらいます!
 でもここだけの話、本当は今年の『ラズベリー』は赤星先生再降臨というプランもあったんですよ。でも、打ち合わせの最中に先生が『ノミネート作品の単行本は焼き払い、作家は首まで埋めて1人1人膝蹴りを……』なんて、始皇帝西太后みたいなことを言い出し始めたんで、慌てて博士が先生の被ってた仮面を引き剥がしました(苦笑)。大事な『コミックアワード』が焚書坑儒の場にならなくて良かったです(笑)。
 ……さて、まずは恒例・一色順子選定の『ベスト・オブ・打ち切り』ですけど、今年は『サンデー』から
『DAN DOH!!〜ネクストジェネレーション〜』作:坂田信弘/画:万乗大智ということで。読者のニーズもあんまり無いのにアニメ化されるから、ということで復活……したは良いけれど、そのアニメがまるでロケットのように突き抜けて打ち切り。そのとばっちりを受けて、マンガの方もネクストジェネレーションに渡すバトンを落とす勢いで打ち切り決定。お見事な“逆『ライジングインパクト』現象”でした。……ところで今頃、福地翼さんはどのような思いで『うえきの法則』第2部の原稿を描き貯めてるんでしょうね?
 ──と、まずは軽くウォーミングアップを済ませたところで(笑)、いよいよ『ラズベリーコミック賞』の表彰式に移りたいと思います。
 もう今年で3回目ということで、あんまり詳しい説明もいらないと思いますけど、この賞は映画の『ゴールデンラズベリー賞』をモチーフにした“最悪作品賞”です。まあ具体的にどういう賞なのかは、これまで2回の受賞作とノミネート作を見てもらうのが一番だと思います(笑)。“ちょっとキツ目のシャレ”ということで、贔屓の作家さんの作品が出て来ても、大きな心で受け止めてもらえれば…と思います。

 ──それでは第3回『ラズベリーコミック賞』にノミネートされた5作品を紹介します!
 まずはいきなりの大本命登場、『怪奇千万! 十五郎』
作画:川久保栄二です!
 03年12月、わたしたちは『週刊少年サンデー』で伝説を目の当たりにしました。
 やたらと角張った不自然な造型の登場人物の周りで巻き起こる様々な怪奇現象。この現象の謎を解くため、事件現場に颯爽と現れた少年・十五郎は自信満々に叫びます。「わかった! この怪奇な現象は、怪奇現象だ!」
 ……そんな『十五郎』、「主人公の顔が一番怪奇だ」という読者の声に後押され、連載開始から間もなく作品は色々な意味で迷走を始めました。ストーリー、絵柄、人気、そして作者。巻末目次質問コーナーでは久米田康治先生も顔負けのダウナーなコメントを披露し、最後は「一番怪奇なのは人間だ」という意味深なメッセージを残して、主人公・十五郎と共に川久保さんは姿を消しました。
 『週刊少年サンデー』創刊以来最大の黒歴史と言っていいこの作品、果たしてその消したい汚名を『ラズベリーコミック賞』の歴史の1ページに刻みつけられてしまうのでしょうか?
 続いては
『少年守護神』作画:東直輝。なんと、昨年惜しくも受賞を逃したこの作品が、連載化され、一回り小さくなって『ラズベリーコミック賞』に帰って来てくれました! 2年連続同一作品のノミネートは、もちろん史上初めてのこと。狙って出来ることじゃありませんから価値は高い……いや、低いのかな? まあ、どっちでもいいですね(笑)。
 大失敗作の読み切り版から設定をほぼ引き継いだだけでなく、ストーリーのネタバレ部分やギャグの笑えなさまで引き継いだという必要以上に忠実な後継作ぶり。この律儀さ、涙無しでは読めません。また、本来ならこの作品が主役となるべき“打ち切りサバイバルレース”でも別の意味でカヤの外に置かれ、『ジャンプ』読者が『いやー、スピンちゃん終わったねぇ』…とか盛り上がる中、誰にも気にされずに当たり前のようにヒッソリと終わっていたのもポイントです。
 
誰もがこの作品の存在を忘れかけた今日この頃、この『ラズベリー』で、されなくてもいい再評価を実現できますかどうか。
 3作品目は『BLACK CAT特別編』
作画:矢吹健太朗
。そうです、あの矢吹大先生が『ラズベリーコミック賞』に来てくれました! 意外にも矢吹さんはこれが初の『ラズベリー』ノミネート。昨年の許斐剛さんに続けとばかり、連載作品の特別読み切りで遺憾なくそのポテンシャルの低さを発揮してくれました。
 序盤から中盤にかけ、特に内容があるわけでもないまま延々と続く間延びした会話シーン。気が付いたら既にページ数は後半に突入していて、何のヒネリも無くスヴェンが敵アジトに突撃して醜態を晒したかと思ったら、トレインが実に都合良く助けに現れて、めでたしめでたし。この予算配分を間違った頭の悪いハリウッド映画のような展開は、まさにこの『ラズベリーコミック賞』にふさわしいもの。『お前、これだけ連載続けてて、もうちょっとマシな裏設定くらい考えてなかったんか』と、全国数百万人の『ジャンプ』読者が一斉に唾を飛ばしてツッコんだこの至らない作品が、他の“弱豪”を迎え撃ちます!
 4作品目は
『地上最速青春卓球少年 ぷーやん』作画:霧木凡ケンタイトルを見ただけで、何故か誰もが短期打ち切り作品だと分かってしまうのが悲しいですね。下積み生活苦節13年・やっとのことで掴んだ連載が続いたのはたった13週。茨木編集長、ひょっとして狙ってません?
 ……さてさて内容の方は、変身・必殺技系学園お色気卓球モノという、トッピングを明らかに間違えた宅配ピザのような基本設定の作品。この食い合わせの悪い材料が絡み合って醸し出す“味”は想像以上の不味さで、1週ごとにこれまでの苦労1年分を台無しにしてゆくその様子は、むしろ壮絶でさえありました。終盤に飛び出した渾身のネタ・卓球のスコアをテニス風のスコアにしてみるという新機軸は、誰にも理解してもらえず脳味噌の心配までされてしまうという屈辱。孤高の異才・霧木凡ケンはどこへ行くのか? とりあえず今日は『ラズベリーコミック賞』に来ちゃいました!
 ……そして最後に紹介するのは『味覚師ツムジ』
作:宇水語/画:佐藤雅史。「ただつまらない作品ではシャレにならない」という理由で、意外と新人・若手には狭き門の『ラズベリー』ですが、今回は原作者・作画担当者共にデビュー作というこの作品がクローズアップされました。この賞にノミネートされた新人さんはそれ以降プッツリと命脈を絶たれるというジンクスがあり、わたしはそれがとても心配です(苦笑)。
 ただ、作品の内容は全くフォローの余地がありません。冒頭いきなりから『ミスター味っ子』のパクリ→『美味しんぼ』の受け売りという料理マンガとしては反則技とも言える超必コンボが飛び出したかと思えば、作中に出て来るラーメン屋のスープの秘密は、何と人里離れた山奥から汲んで来た湧き水。わたしはこの作品を読んでいた駒木博士の口からポツリとこぼれた、『そんなんで採算取れるのか』という言ってはいけない呟きが耳をついて離れません。
 そして何より、この作品が本当にスゴい所は、こんな内容なのに原作者付き作品という事実。普通、合作と言えば2人の力を合わせ、“1+1”の答を3や4にするものですが……。どこをどうしたら、2人の力を合わせて小数点第2位まで見なきゃ存在を確認できないような数になってしまったのか不思議でなりません。四則演算には一家言ある矢吹先生、どうかわたしに教えて下さい!

 ……というわけで、前回より1作品あたり2倍のボリュームでお送りしたノミネート作紹介でしたが、ちょっとやり過ぎちゃいました?(苦笑) でも、こういうコーナーですんで怒らないで下さいね。ヒドいコトは言ってますけど、ウソは言ってませんから(笑)。
 ──では、いよいよ発表です。第3回『ラズベリーコミック賞』、受賞作はこちらの作品となりました!

 

 

 

 

 

 

第3回ラズベリーコミック賞
受賞作

 

 『怪奇千万! 十五郎』作画:川久保栄二

 ……ということで、やっぱり受賞作は『怪奇千万! 十五郎』でした(笑)。これは博士、もう説明不要ですか?」
駒木:「……まぁ他の作品も健闘っていうか、かなり『十五郎』を追い詰めるようなネタまみれ加減だったんだけどねぇ。特に『味覚師ツムジ』なんて、もし連載作品になってたら、さしもの『十五郎』も危なかったよ。
 受賞の決め手は……って、どう説明したら良いんだろうね。好きな女の子について『どこが好き?』って聞かれても答えるのが難しいように、全てのあらゆる部分が受賞の決め手だから説明し辛いんだよなぁ。まぁ、スケールが余りにも違うダメっぷりだったということで。
 しかし、今回のノミネート作品紹介はさすがにマズいんじゃないか? 聞いててハラハラしたぞ」
順子:「いえいえ、博士のC評価のレビューに比べたら、まだ笑える分だけマシだと思いますよ?(笑) ……あ、でも、お気を悪くした方がいたらごめんなさい。
 ……というわけで、『ラズベリーコミック賞』の発表でした。そして、またここで司会を珠美先輩にバトンタッチします。どうもありがとうございました〜!」

珠美
:「……ハイ、順子ちゃん、お疲れさまでした。では、ここからはまた私、栗藤珠美が司会進行を務めます。最後まで宜しくお願い申し上げます。
 ──さて、前回まででしたら、ここでグランプリの発表ということになるのですが、今年からは新たに特別表彰を実施することになりました。これは、過去にレビューした作品のうち、『コミックアワード』ノミネート資格期間終了後にレビューされた「ジャンプ」「サンデー」以外の作品連載開始1年以上を経てから特にクオリティの上昇が認められた作品、また、特に功績のあった人物・作品などについて表彰するというものです。原則的に「ジャンプ」「サンデー」の新作のみを扱う『コミックアワード』、その“弱点”である審査対象の狭さを補完するための試みです。
 それでは、表彰作品の発表は、プレゼンテーターの順子ちゃんとリサちゃんにお任せしたいと思います」

リサ:「ハイ。まずワタシからは、良かった作品についての特別表彰作品を発表したいと思います。いきなりですが、受賞作品をどうぞ!」

※04年度・特別表彰※

 特別大賞(グランプリ受賞作に準じるクオリティが認められる、大変優秀な作品に対しての特別表彰)
 
『鋼の錬金術師』作画:荒川弘

 ◎特別功労賞(長期連載を素晴らしい形で完結させる事の出来た優秀な作品に対しての特別表彰)
 
『ORANGE』作画:能田達規

 ◎特別金賞(事情によりノミネートされなかったものの、本来なら部門賞以上の受賞が有望な優秀作品に対しての特別表彰)
 『絶対可憐チルドレン(短期集中連載版)作画:椎名高志

 

順子:「…そしてわたしからは、『ラズベリー特別表彰』を発表したいと思います。こちらは作品じゃなくて人なんですが……と言えばもうお分かりでしょうか?(笑)。ハイ、表彰されるのはこの人です、どうぞ!」

※04年度・ラズベリー特別表彰※

 ラズベリーコミック特別功労者賞
 
(数多の駄作・失敗作をプロデュースし、偏った編集方針で雑誌全体のクオリティを著しく損ねたことに対して)
 三上信一・前「週刊少年サンデー」編集長

 

珠美:「……ハイ、2人ともお疲れさまでした。では、駒木博士にこの特別表彰についてコメントを頂きます」
駒木:「『鋼の錬金術師』は連載が01年7月スタート。当社会学講座の開講が01年11月末ですから、4ヶ月の差で『コミックアワード』と縁が無かった事になりますね。ただ、だから『残念でした』と放っておくには惜し過ぎる作品でもありますので、今回栄えある特別表彰第1号という事にさせて頂きました。
 で、この特別表彰制度を創る事を決心させてくれたのが『ORANGE』の存在でした。単行本を通読していくと、連載開始のインパクトはそうでもないんですが、しばらくしてから物凄い勢いでクオリティが上がっていくのが目に見えて分かるんです。で、最後のあの盛り上がり、エンディングでしょう。『あー、これは大器晩成型の作品ための賞が要るなあ』…と、その時しみじみと思いました。そういう作品って週刊連載では特に貴重ですし、だからこそ大事にしたいんです。
 『絶対可憐チルドレン』については、前に講義で説明させて頂いた通り、去年にも短編作品賞で読み切り版がノミネートされている事と、春から始まる長編連載版との兼ね合いを考えてノミネートから外しました。ですが、そういう事情が無ければ……という思いをこめての特別金賞です。
 ラズベリー特別表彰は、まぁ説明不要ですよね。例の『改蔵』の一件と、『旋風の橘』、『きみのカケラ』、『怪奇千万! 十五郎』……と、あの人にプロデュースされた作品を並べてみるだけで納得出来るでしょう(笑)。本当にこの人の良い噂を1回も聞いた事ないですからね。
 ……まぁでも別の見方をすれば、こういうキツいシャレの対象になれるだけの裏方さんというのも、ある意味貴重ではあるんですよ。普通に能力の無い人だとこうはいかない。この人にも何かある種の才能があったんだと思います。ただ、その才能がもたらした結果が、ポジティブな方向ではなくてネガティブな方向へ逝っちゃったのが悲劇であり、喜劇であったわけですがね。まぁそういったところです。」
珠美:「……コメント有難うございました。特別表彰を受けられた皆さんおめでとうございました。……と、言ってはいけないのでしょうか?(苦笑)
 ──さて、長い時間お送りして参りました表彰式も、いよいよグランプリ・『仁川経済大学賞』の発表を残すのみとなりました。

 では、ここで改めまして、最終ノミネートされました6作品を紹介致しましょう。まずは各部門賞で最優秀賞を受賞した5作品がこちら。

◎ジャンプ&サンデー最優秀長編作品賞
 『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健

◎ジャンプ&サンデー最優秀短編作品賞
 『雨女、晴れ男』作:長谷川尚代/画:藤野耕平

◎ジャンプ&サンデー最優秀新人作品賞
 『ホライズン・エキスプレス』作画:中島諭宇樹

◎ジャンプ&サンデー最優秀ギャグ作品賞
 『無敵鉄姫スピンちゃん』作画:大亜門

◎ジャンプ&サンデー最優秀新人ギャグ作品賞
 『吉野君の告白』作画:坂本裕次郎

 ……そして今回、『週刊少年ジャンプ』、『週刊少年サンデー』の系列誌以外に掲載された作品につきましてはノミネート基準が変更となりました。まず、03年12月から04年11月に単行本1巻が発売された長編連載作品を対象に受講生の皆様からご推薦を募り、そこで挙がった作品について、駒木ハヤトが予備審査を行いました。その結果、所定の基準(ゼミのレビュー基準で評価A以上)を満たした1作品が最終ノミネートということになりました。
 そしてその作品は、現在「アフタヌーン」誌で連載中の
『おおきく振りかぶって』作画:ひぐちアサ。軟式から硬式に転向したばかりの新設野球部を舞台に、個性豊かなキャラクターたちが喜怒哀楽の限りを尽くして精一杯野球に青春を捧げる様子を爽やかに描き切った素晴らしい作品です。
 綿密な取材活動に裏打ちされたリアリティのある野球理論キャラクター設定とシナリオが一体となって創られた内容の濃いストーリー。少年マンガ誌と対極にあるマニア向け雑誌から忽然と姿を現した、今最も少年マンガらしい作品が『少年ジャンプ』の精鋭5作の前に立ちはだかります!

 ……さぁ、今年も素晴らしい作品が出揃いました。当今年度グランプリの栄冠は一体どの作品に輝くのでしょうか? それでは、いよいよ発表です!
 『第3回仁川経済大学コミックアワード』グランプリ、『仁川経済大学賞』に輝いたのは──

 

 

 

 

 

第3回・仁川経済大学コミックアワード
仁川経済大学賞
(グランプリ)

 

『おおきく振りかぶって』
作画:ひぐちアサ

 ……グランプリは“ワイルドカード”枠、ひぐちアサさんの『おおきく振りかぶって』でした! ひぐちさん、本当におめでとうございます!
 ──それでは駒木博士、選考過程について解説をお願いします」
駒木:「まぁこれをご覧の皆さんの想像通りだと思いますが、『おおきく振りかぶって』『DEATH NOTE』の一騎打ちでした。まさに月刊連載向けの時間をかけて丁寧に創り込まれた作品と、余りにも週刊連載らしい刹那主義でギリギリの状態の中から搾り出された作品の対決…という感じで、審査しているこちらとしても非常に興味深かったです。
 ただ、やっぱりシナリオや人物描写の深い部分での緻密さや内容の濃さといった面で、両作品の制作に費やされた時間の差が如実に現れているのは否定出来なかったですね。この辺り、ノンフィクション小説家並の熱心な取材活動で作品のバックボーンを強化させている『おお振り』と
、作品の性質上、机上で理屈をこね回して話を転がさざるを得ない『デスノ』との“基礎体力”の差が至る所で出てしまったかな…といったところです。
 確かに連載開始以来、危ない橋をスイスイと渡り続けている『DEATH NOTE』は凄い。でもこの作品は危ない橋を渡らないと、文字通りお話にならない。ところが『おおきく振りかぶって』は危ない橋を渡らなくても十分やっていける。堂々と頑丈な橋を渡っていて、それが様になっている。この差は非常に大きいと思うんですよね。
 それにしても、『おおきく振りかぶって』みたいな作品が、今では「アフタヌーン」のようなマニア向けの雑誌でないと受け入れられないのかと思うと、ちょっと悲しくなりますね(苦笑)。こういう時代ですから目先の利益追求も仕方ないですが、週刊少年誌の関係者さんにはもうちょっと腰を据えた作品作りをしてもらいたいな…と思ったりもしています。
 ……まぁとにかく、素晴らしい作品を読ませて下さったひぐちアサさん、そしてこの作品を駒木に紹介して下さった推薦人の皆さん、どうも有難うございました!
珠美:「……駒木博士、有難うございました。
 ──さて、今回の式典もこれで全てのプログラムを終了しましたが、それでは最後に、この『第3回仁川経済大学コミックアワード』、全ての受賞作を振り返っておきましょう。

「第3回仁川経済大学コミックアワード」
受賞作一覧

 仁川経済大学賞(グランプリ)
 
『おおきく振りかぶって』
 
作画:ひぐちアサ

 ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞 
 
『DEATH NOTE』

 
作:大場つぐみ/画:小畑健

 ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞
 
『雨女、晴れ男』

 
作:長谷川尚代/画:藤野耕平

 ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞
 『ホライズン・エキスプレス』
 
作画:中島諭宇樹

 ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞
 
『無敵鉄姫スピンちゃん』

 
作画:大亜門

 ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞
 
『吉野君の告白』

 
作画:坂本裕次郎

 ※特別表彰
 
特別大賞『鋼の錬金術師』作画:荒川弘
 特別功労賞『ORANGE』作画:能田達規
 特別金賞『絶対可憐チルドレン(短期集中連載版)作画:椎名高志


 ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
 『怪奇千万! 十五郎』

 (作画:川久保栄二

 ※ラズベリー特別表彰
 ラズベリーコミック特別功労者賞
 三上信一・前「週刊少年サンデー」編集長

 ……今年度の結果は以上のようになりました。皆さんのお好きな作品は受賞されましたでしょうか?
 さて、そろそろ閉会のお時間です。また第4回の『コミックアワード』で皆さんにお会い出来ることを切に願いつつ、閉会の辞に代えさせて頂きます。本日は本当に最後まで有難うございました(深く一礼)」

(※以上をもちまして、「第3回仁川経済大学コミックアワード」を終わります。なお、通常カリキュラムの再開は10日深夜を予定しています)


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