本日はご来場有難う御座います。当講座専任講師の駒木ハヤトです。式典初日は今年も「ジャンプ」「サンデー」の年間総括を、『げんしけん』の斑目晴信に似た男が1人でお送りします。
…………。
……すいません、今、自分の喋った言葉を客観的に反芻してたら、何故だか非常に悲しくなりました。何て言うか、自分の存在意義を自分で疑ってしまいました。
でもまぁこんな自分でも、受講生の皆さんに支えられて3年間頑張って来れたので、もうちょっとやってみようと思います(笑)。今後ともどうか何卒。
──さて、今からお送りしますのは、「現代マンガ時評」でレビュー対象にしております「週刊少年ジャンプ」及び「週刊少年サンデー」の、04年度(雑誌の号数が04年扱いである、03年12月から04年11月まで)のついての年間総括。いつものゼミよりもマクロで客観的なスタンス──つまりは一般の人気や商業的成功の観点に立って、「ジャンプ」「サンデー」両誌の現状を考察して行きたいと、こう思っております。
なお、昨年度の「コミックアワード」初日の模様や、一昨年にお届けした「『週刊少年ジャンプ』この1年」と「『週刊少年サンデー』この1年」(いずれも02年度版)のレジュメと併せてご覧頂けると、より一層お送りする内容の理解が深まると思います。よろしければ是非、これらの資料を手元に置きつつご覧下されば…と思います。
それでは、まずは「週刊少年ジャンプ」の04年度回顧をお届けします。流れは昨年までと同じように、新連載作品のまとめからスタートし、次に読み切り作品関連の話題。そして昨年度からの連載作品の動向についてお話しして、最後に雑誌全体の総括に繋げたいと思います。
というわけで、最初に新連載のまとめからですが、とりあえず04年度に立ち上げられた連載作品を紹介しておきましょう。下の資料をご覧下さい。
※03年年末開始
◎『DEATH NOTE』(作:大場つぐみ/画:小畑健)
◎『銀魂』(作画:空知英秋)
◎『LIVE』(作画:梅澤春人) ※04年初頭開始
◎『スティール・ボール・ラン』(作画:荒木飛呂彦)
※04年春開始
◎『未確認少年ゲドー』(作画:岡野剛)
◎『無敵鉄姫スピンちゃん』(作画:大亜門)
◎『少年守護神』(作画:東直輝)
※04年夏開始
◎『家庭教師ヒットマンREBORN!』(作画:天野明)
◎『D.Gray−man』(作画:星野桂)
◎『地上最速青春卓球少年ぷーやん』(作画:霧木凡ケン)
※04年秋開始
◎『Wāqwāq』(作画:藤崎竜)
注:04年53号より『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(作画:西義之)が開始していますが、この作品は連載開始時期(04年度最終週)を考慮して来年度扱いとします。 |
──いやはや、こうして振り返ってみますと、たった数ヶ月から1年前の話なのに、既に忘却の彼方へ追いやられていた作品もあって感慨深いですね。敢えて実名は挙げませんが。
それにしても04年度の編集方針は、例年と比較すると極めて例外的なものでありました。
まずは週刊本誌では95年の『レベルE』(作画:冨樫義博)と97年の『BASTARD!!(背徳の掟編)』(作画:萩原一至)以来久しく絶えていた不定期連載作品である『スティール・ボール・ラン』の開始。例に挙げた“先例”も含め、この試みは残念ながら必ずしも商業的成功に結び付いていないようですが、週刊連載において作品のクオリティを上げる為に大きなネックである「時間と1回あたりのページ数の制約」に対する挑戦として、注目されて然るべき試みと言えるでしょう。
そして04年後半からは、いわゆる「ジャンプシステム」の象徴である、活発な連載作品の入れ替えが突如として見られなくなりました。04年秋と年末に立ち上げられた連載作品は1本ずつで、しかもそれに連動して終了した連載は、超長期連載の『シャーマンキング』と“長期休養”に入った『スティール・ボール・ラン』のみ。「ジャンプ」名物(?)の短期打ち切りが夏以降全く無くなるという事態になっています。これにはすぐ後で触れる新連載作品の好調さと深く連動しているのですが、ともかくも04年度の「ジャンプ」は異例尽くめの1年だった…と言う事が出来るでしょう。
そんな04年度の新連載作品は03年度と同じく11本。秋以降の編集方針は先述した通りですが、年度前半は積極的な新連載立ち上げを行っていたため、数字そのものに大きな変化は現れなかった…という理屈のようです。
しかし前年度までと大きく異なるのは、打ち切りの目安とされる2クール(=連載開始から次回の連載改変までで1クール)を突破出来た作品の比率を表わす“半年(2クール)生存率”です。
不定期連載の『スティール・ボール・ラン』と、連載開始2クール目の『Wāqwāq』を除外した9作品のうち、3クール目突入を果たしたのは5作品。なんと暫定生存率55.6%という、ここ10年では最高の数字となりました。もし、次回の改変で『Wāqwāq』が終了したとしても10作品中5作品で50%の“半年生存”となり、この場合でも98年度(『HUNTER×HUNTER』、『シャーマンキング』など連載開始)と同水準の豊作ということになります。
ここで蛇足ながら、95年以降の連載作品“半年生存率”についての資料をご覧頂きましょう。オールドファンも若年の方も興味深い内容ではないかと思います。
参考資料
95年〜03年の連載作品“半年生存率”
◆2003年(03年1号〜03年43号連載開始作品)
…11作品中2作品(『武装錬金』、『ごっちゃんです!!』)=半年生存率18.1%
◆2002年(01年51号〜02年45号連載開始作品)
…12作品中4作品(『いちご100%』、『アイシールド21』、『プリティフェイス、『Ultra
Red』)=半年生存率33.3%
◆2001年(00年47号〜01年43号連載開始作品)
…12作品中3作品(『ボボボーボ・ボーボボ』、『Mr.FULLSWING』、『BLEACH』)=半年生存率25%
◆2000年(00年1号〜38号連載開始作品)
…8作品中4作品(『ブレーメン』、『ノルマンディーひみつ倶楽部』、『BLACK CAT』、『ピューと吹く! ジャガー』)=半年生存率50%
◆1999年(98年52号〜99年44号連載開始作品)
…14作品中4作品(『ヒカルの碁』、『テニスの王子様』、『NARUTO』、『ライジングインパクト(第1、2部を合同して1作品扱い)』)=半年生存率28.6%
◆1998年(97年52号〜98年43号連載開始作品)
…10作品中5作品(『明陵帝 梧桐勢十郎』、『ROOKIES』、『ホイッスル!』、『HUNTER×HUNTER』、『シャーマンキング』)=半年生存率50%
◆1997年(96年49号〜97年41号連載開始作品)
…13作品中5作品(『魔女娘ViVian』、『花さか天使テンテンくん』、『I’s』、『世紀末リーダー伝たけし!』、『ONE PEACE』)=半年生存率38.5%
◆1996年(95年51号〜96年42号連載開始作品)
…12作品中5作品(『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』、『WILD HALF』、『幕張』、『封神演義』、『遊☆戯☆王』)=半年生存率41.7%
◆1995年(94年50号〜95年45号連載開始作品)
…11作品中5作品(『みどりのマキバオー』、『密・リターンズ』、『真島クンすっとばす!!』、『人形草子あやつり左近』、『水のともだちカッパーマン』)=半年生存率45.5%
注1:短期集中or不定期連載、既存の作品の第二部開始は除外。
注2:連載期間の大半が翌年度以降に属する連載作品は次年度扱い。
|
……詳しく分析している時間は無いのですが、こうして見ますと、ヒット作が連載陣に固定されて新作に余り恵まれなかった01年度以降は短期打ち切りが連発され、逆に90年代半ばの“暗黒期”には小粒な作品が半年〜1年命脈を保ってしまうので名目上の生存率が高い…という図式が見えて来ますね。これを“1年以上生存率”にした場合には大きく数字が変わってくるのでしょうけれども。
それにしても鬼なのは1999年度ですね。生き残った作品も凄いんですが、表には載せなかった短期で打ち切られた作品の作者がまた凄いんです。主な所を挙げていきますと、ガモウひろし(=大場つぐみ?)、矢吹健太朗、高橋陽一、うすた京介、つの丸、久保帯人…とこんな具合。いやはや、作家のポテンシャルとその時の作品のクオリティは別物とは言え、当時の「ジャンプ」読者は物凄く贅沢な取捨選択をしていたんですねぇ。
閑話休題。
まぁそういうわけで、04年度の「ジャンプ」新連載は、少なくとも客観的な数字で判断すれば近年稀に見る大豊作だったと言えそうです。特に『DEATH
NOTE』は久々の初版部数ミリオン級の大ヒット作品となり、ここ数年の停滞ムードを一気に払拭し、雑誌全体のムードを盛り上げるのに一役買う形となりました。読者層と商業的展開の選択肢を限定してしまう作風だけに、『ONE
PIECE』に代わる大看板となるのは難しいでしょうが、番付上は堂々たる東の正大関といったところでしょう。
また、この年度はキャリアの浅い若手・新人作家さんの初連載作品が、単行本売上げにおいてスマッシュヒットを弾き出すケースが目立ったのも特徴でした。特に『銀魂』の場合は、本誌の掲載順が一旦打ち切り危険域に転落しながらも、単行本が重版に重版を重ねて息を吹き返す…というレアなケースが見られました。この新人作家の好調ぶりも、ここ数年の傾向であった“新人・新作不況”からの回復基調が確認出来たという意味で、意義の大きな出来事だったと言えますね。
連載作品の大半が“打ち切り除外特権”を持った長寿作品とスマッシュヒット以上の成功作で占められている今の状況を鑑みると、現在の「新連載の本数を厳選して“高打率”を追求する……」という、従来の「ジャンプ」では余り見られなかった編集方針が今後もしばらくは続く事になりそうです。言ってみれば「サンデー」システムを若干若手有利にしたパターンでしょうか。
しかしこうなってしまうと、これまでなら棚からボタモチ的に連載枠が転がり込んで来た二線級の作家さんたちにとっては、延々と飼い殺し状態の続きかねない受難の時代が到来してしまう事になりますね(苦笑)。でも、読者側にしてみれば、編集部サイドの“大人の事情”に巻き込まれずに済むので、結構メリットの大きな話になりそうですが……。
──さて、続いては読み切り作品についての総括です。
昨年から始まった読み切り作品の積極掲載方針は今年も継続されました。更には連載作品の作者都合休載が常態化して代原掲載が増加した結果、今や週刊本誌に読み切りが掲載されるのは当たり前の事になってしまいました。今や代原や企画モノの類を含めれば読み切りの掲載本数は1年で50本を越え、平均すると週平均1本は読み切りが掲載されている…という状況です。駒木も今はレビュー対象作の少なさを嘆いていた開講当初が懐かしい思いです(苦笑)。
それにしても既存作品の好調で新連載の立ち上げが滞っている現状、敢えて連載作品候補の発掘に力を注がなくても…とも思うのですが、ここで手綱を絞らない辺りが「ジャンプ」流という事なのでしょうか。また、あるいは連載作品の固定化でワンパターン化されつつある誌面にアクセントをつけるという役割も担わせているのかも知れませんね。
では、ここで04年度に掲載された読み切り作品のラインナップを一度まとめて振り返っておきましょう。
※正規枠(既にデビュー済みの作家が連載枠獲得にむけて発表した新作)
◎『World 4u_』(作画:江尻立真)
◎『ハッピー神社 コマ太!』(作画:後藤竜児)
◎『雨女、晴れ男』(作:長谷川尚代/画:藤野耕平)
◎『STARTING OVER』(作画:鈴木新)
◎『PMG-0』(作画:遠藤達哉)
◎『賈允』(作:内水融)
◎『機動球児山田 〜めぐりあい稲木〜』(作画:ポンセ前田)
第1回「ジャンプ金未来杯」エントリー作品
◎『プルソウル』(作画:福島鉄平)
◎『タカヤ −おとなりさんパニック!!−』(作画:坂本裕次郎)
◎『BULLET TIME −ブレットタイム−』(作画:田坂亮)
◎『ムヒョとロージーの魔法律相談所』(作画:西義之)
◎『切法師』(作画:中島諭宇樹) |
◎『TRANS BOY』(作画:矢吹健太朗)
◎『魔人探偵脳噛ネウロ』(作画:松井優征)
◎『秘密兵器ハットリ』(作画:いとうみきお)
◎『伝説のヒロイヤルシティー』(作画:大亜門)
◎『みえるひと』(作画:岩代俊明)
◎『セイテン大帝』(作画:草薙勉)
◎『マッストレート』(作画:吉川雅之)
◎『退魔師ネネと黒影』(作画:蔵人健吾)
◎『ストライカー義経』(作画:加地君也)
◎『スーパーメテオ』(作画:高橋一郎)
◎『よしっ!!』(作画:福島鉄平)
◎『HALLOO SUNSHINE』(作画:西公平)
※代原枠(連載作家の都合や病気による休載で空いた枠を埋めるために掲載された、正規デビュー前の新人の習作原稿)
◎『ハガユイズム』(作画:越智厚介)
◎『夢泡釣団〜ビートルズ編〜』(作画:やすべえ)
◎『グレ桃太郎』(作画:原淳)
◎『暴走特急山手線外回り』(作画:夏生尚)
◎『ハロー地蔵堂!!』(作画:新妻克朗)
◎『兄弟仁義』(作画:大石浩二)
◎『HIP☆HOP☆HOP』(作画:大石浩二)
◎『オレがゴリラでゴリラがオレで』(作画:ゴーギャン)
◎『星十二学暴』(作画:大石浩二)
◎『教授百々目木』(作画:夏生尚)
◎『トイレ競走曲〜序走〜』(作画:吉原薫比古)
◎『ゴーイングマイウェイ進』(作画:ゴーギャン)
◎『メガネ侍』(作画:彰田櫺貴)
◎『ハピマジ』(作画:KAITO)
◎『スクールバトル’04』(作画:前田竜幸)
※受賞作掲載(新人賞の受賞作が、正規枠に準ずる形で掲載されたもの)
◎『ダー!!!〜便所の壁をブチ破れ〜』(作画:吉田慎矢)
◎『BULLET CATCHERS』(作画:夏生尚)
◎『ヘンテコな』(作画:千坂圭太郎)
◎『桐野佐亜子と仲間たち』(作:二戸原太輔/画:叶恭弘)
◎『Mosquito Panic』(作画:中西まちこ)
◎『鬼より申す!』(作画:原野洋二郎)
◎『KESHIPIN弾』(作画:吉原薫比古)
◎『湖賊』(作画:久世蘭)
◎『師匠とぼく』(作画:川口幸範)
※その他企画モノ(現役連載作家による特別読み切りや連載作品の番外編など、後の新連載に繋がらない読み切り作品)
◎『麻葉童子』(作画:武井宏之)
◎『BLACK CAT特別編』(作画:矢吹健太朗)
◎『BLEACH番外編 逃れゆく星々のための前奏曲』(作画:久保帯人) |
04年度は、前年度に「赤マルジャンプ」クラスのキャリアの浅い新人を抜擢して不発に終わった反省か、いわゆる代原とページ穴埋めの性格が色濃い新人賞の受賞作掲載を除けば、週刊本誌に掲載されるのは、連載経験者か以前に週刊本誌や「赤マル」で発表した作品が人気を得た(と思われる)若手作家さんの作品に限定されるようになりました。久々の読者投票方式コンペ企画として注目された「金未来杯」にエントリーされた作家さんも全員が増刊で数回の掲載歴を持つ方ばかりで、どうやら編集部サイドは、ここ1〜2年での試行錯誤の末に「実力未知数の新人は、とりあえず『赤マル』から」という方針を固めたようですね。
そして、これらの読み切り作品の中から数作品が05年度に連載作品として誌面を飾る事になるのでしょう。僅か数作品の連載作品を選定するために数十作品の読み切り作品を載せるという効率の悪さは否定出来ませんが、04年度でもこのパターンから『DEATH
NOTE』等の人気連載作品が生まれた事を考えると、本質的な是非は別にして、今しばらくこの方針は続行されるという事になりそうです。
──では最後に、昨年度から続行中の長期連載作品についても振り返っておきましょう。
☆2005年度に越年を果たした連載作品
◎96年度以前連載開始
『こちら亀有区葛飾公園前派出所』(作画:秋本治/1976年連載開始)
◎97年度連載開始
『ONE PIECE』(作画:尾田栄一郎)
◎98年度連載開始
『HUNTER×HUNTER』(作画:冨樫義博)
◎99年度連載開始
『テニスの王子様』(作画:許斐剛)
『NARUTO─ナルト─』(作画:岸本斉史)
◎00年度連載開始
『ピューと吹く! ジャガー』(作画:うすた京介)
◎01年度連載開始
『ボボボーボ・ボーボボ』(作画:澤井啓夫)
『Mr.FULLSWING』(作画:鈴木信也)
『BLEACH』(作画:久保帯人)
◎02年度連載開始
『いちご100%』(作画:河下水希)
『アイシールド21』(作:稲垣理一郎/画:村田雄介)
◎03年度連載開始
『武装錬金』(作画:和月伸宏)
☆2004年度中に連載終了した長期連載作品
◎96年度連載開始
『遊☆戯☆王』(作画:高橋和希/15号までで円満終了)
◎98年度連載開始
『シャーマンキング』(作画:武井宏之/40号までで打ち切り終了)
◎00年度連載開始
『BLACK CAT』(作画:矢吹健太朗/29号までで円満終了)
◎03年度連載開始
『サラブレッドと呼ばないで』(作:長谷川尚代/画:藤野耕平/2号までで打ち切り終了)
『神撫手』(作画:堀部健和/3号までで打ち切り終了)
『ごっちゃんです!!』(作画:つの丸/16号までで打ち切り終了)
|
先刻から幾度も申し上げている通り、04年度は新連載作品が近年稀に見る好調で、それが連載作品の動向にも大きな影響を与えました。ピークを過ぎた長期連載作品の相次いでの連載終了がそれです。
一般に少年マンガの場合、長年話を追いかけていないと現状のストーリーが理解できない程に連載が余りに長期に及んでしまった作品、または原作の終了に先立ってTVアニメ放映が終了してしまった作品は、商業的にジリ貧状態に陥るケースがほとんどです。つまり新規ファンを開拓する事が困難になる一方、連載当初・アニメ放送開始からの固定ファン層が徐々に目減りしてしまうので、そのためにアンケート成績や単行本売上げが徐々に、しかし確実に低迷してしまうわけです。
当然、そういった作品は然るべき段階で見切りを付けて引導を渡してやるのが商業誌のあるべき姿です。が、大半の読者が「このマンガ、まだ連載やってたのか」と思うような作品であっても、短期打ち切り対象になるような失敗作の軽く数倍は単行本が売れてしまうため、活きの良い新連載が出て来ない限りは延々と雑誌巻末辺りで醜態を晒し続ける…という悲惨な現象が起こります。
04年前半までの「ジャンプ」はまさにそういった状態になりつつあったのですが、ギリギリの所で新連載作品と世代交代を果たす事が出来ました。駒木が03年度の総括で懸念した“第2暗黒期”の到来は、とりあえず回避されたようです。
もっとも、04年度では『DEATH
NOTE』以外の新作は現状スマッシュヒット級の成績しか残せていませんので、雑誌全体の“戦力”的にはせいぜい現状維持といったところでしょう。“等価交換の世代交代”とでも申し上げれば良いのでしょうか。……ただ、ピークを過ぎた作品と違って新作には未知の魅力というモノがあります。大化けする可能性を秘めている分だけ、やはり世代交代は有意義であったと言えるのではないでしょうか。
大化けと言えば、これまで小粒な作品ばかりと言われて来た21世紀生まれの作品の中で、『BLEACH』や『アイシールド21』など、人気・単行本売上の上昇やテレビアニメ化など、商業的に活発な動きが見られるようになって来たものが現れました。前者は連載開始当初は打ち切り候補に入るほどに人気が低迷し、後者も初めはアンケートが良い割に単行本売上が伸び悩んでいた作品で、これらが連載開始1〜2年を経て幅広い読者層に受け入れられたのは、編集部サイドにとっても嬉しい誤算だったことでしょう。
これらの作品が、今後果たしてどこまでの“伸び”を見せてくれるのかは未だ知ることが出来ませんが、少なくとも今後最低1〜2年は、看板作品の脇を固め、「ジャンプ」を支える柱の1本として活躍してくれることと思われます。
では、締め括りとして、現在の「ジャンプ」の誌面構成を俯瞰し、近々の展望などを述べさせてもらおうと思います。昨年の例に倣って、今回も相撲の番付になぞらえてお話します。昔、「週刊プロレス」でWWF(現:WWE)のレスラーの力関係をそうやって表現してたのが頭にこびりついてて癖になってるんですよね(笑)。
まず、とうとう『こち亀』を除けば連載作品中最古参となった『ONE
PIECE』は、この1年も連載長期化に伴う衰微を最小限に留め、相変わらず“一人横綱”の地位を守って年を越しました。さすがに以前と比べると「今週の『ジャンプ』の中で一番良かったのは『ワンピ』だな」と思える頻度はガクンと落ちましたが、それでも未だに抜群の知名度と幅広い読者層からの支持を誇っている「ジャンプ」の“顔”であります。
いくら『DEATH
NOTE』が業界内外で大きなインパクトを残しているとはいえ、作品のタイトルとその内容を知る人の数は文字通りに桁違いであり、“『ONE
PIECE』あってこその「ジャンプ」”という位置付けは全く不動です。テレビアニメの放映が続いている間での“2枚目の看板”登場が待ち望まれている事は確かではありますが、今しばらくは現在の超長期政権は継続しそうな情勢です。
これに続く“大関”格の作品としては、先述の通り、今最もコアなマンガ読みの間で注目を集めている作品と言っても過言ではない『DEATH
NOTE』が実力最右翼で、そこに安定株の『NARUTO』と、遅咲きの花を咲かせつつある『BLEACH』が続きます。
その一方で、昨年まで準看板クラスの位置付けで権勢を誇った『テニスの王子様』は、商業的に衰微の傾向が見られるようになり、今では負け越してのカド番を繰り返す“関脇”陥落寸前のクンロク大関(9勝6敗で何とか地位を保つ力の衰えた大関)になってしまったようです。元々、内容のクオリティについては激しく疑問視される事の多かった作品だけに、一度勢いが衰え始めると人気が低迷するのも存外早いのではないか…と思われます。
また、相変わらず休載や未完成原稿の掲載が頻発している『HUNTER×HUNTER』も、商業的成績を勘案すればこのランクで“張出大関”の番付となりますね。相撲で喩えれば、気力・体力の限界で稽古や巡業には出て来ないにも関わらず、思い出したように本場所に顔を出しては平幕相手に8勝挙げて勝ち越し、大関の地位をキープしてしまう角界の問題児…といったところでしょうか。
そして、これらの“1横綱5大関”という分厚いトップクラスに続く作品群も、世代交代を果たした結果、随分と活力が滲み出てきたように思われます。05年春からのアニメ化で大ブレイクを目指す『アイシールド21』は、さしずめ“次の場所での大関獲りが懸かった関脇”で、他の雑誌なら看板作品級の単行本売上を誇る『D.Gray−man』と『銀魂』は、新入幕場所で敢闘賞を受賞した新進気鋭力士でしょうか。
この他にも、誌面に彩りを添える個性派の面々も充実しており、「ジャンプ」もこの1年で随分と中身が変わって来たなぁ……と思えるようになりました。数少ない懸念材料としては、『Mr.FULLSWING』、『いちご100%』、『武装錬金』といった微妙に伸び悩む中堅下位の作品をこれからどう扱っていくか…という事などが挙げられますが、それでも90年代生まれの賞味期限切れ作品が巻末に蠢いていた昨年までと比べると、やはり風通しは随分と良くなったようです。まだまだ油断は禁物とは言え、04年度の「ジャンプ」は、ここ2年間の停滞・後退から脱し、見事に回復基調へ乗ったと宣言して良いのではないでしょうか。
──というわけで、「ジャンプ」の年間総括でした。今年は景気の良い話ができて良かったです。何しろこれからお話する「サンデー」の動向は……(苦笑)。
……でも三上前編集長関連の話は各所から漏れ聞こえて来てるんですが、表に出ない・出せない話の方が多いので、結局はここではオフレコになってしまうんですよね。まぁ、久米田康治さんが単行本で告白したような事は色んな所で起こってたらしいとだけ申し上げておきます。詳しい話が聞きたかったら、東京旅行中の駒木をコミケ会場かコスプレ雀荘辺りで捕まえて下さい(笑)。
それでは、「サンデー」も最初に新連載作品の回顧からお送りします。まずは04年度に立ち上げられた長期連載作品のリストをご覧下さい。
◎『怪奇千万! 十五郎』(作画:川久保栄二)
◎『暗号名はBF』(作画:田中保佐奈)
◎『こわしや我聞』(作画:藤木俊)
◎『思春期刑事ミノル小林』(作画:水口尚樹)
◎『DAN DOH!!〜ネクストジェネレーション〜』(作:坂田信弘/画:万乗大智)
◎『道士郎でござる』(作画:西森博之)
◎『クロザクロ』(作画:夏目義徳)
◎『東遊記』(作画:酒井ようへい)
◎『ハヤテのごとく!』(作画:畑健二郎) |
04年度の新連載は9作品、その内の1つはアニメ化に伴う『DAN DOH!!』の第3部開始ですから新作は8作品という事になりました。数字そのものは前年度(7作品)よりも微増となりましたが、その前年度は多くの短期集中連載(5本)を立ち上げたという事情がありましたから、それもほとんど無かった04年度は実質上漸減と言って良いでしょう。事実、今年とよく似た編集方針となった02年度(11作品)よりも新連載の数は減っています。
で、何故このような消極的な編集方針となったのか…という話になるわけですが、これは推測するに、年度初頭に鳴り物入りで立ち上げられた4作品(『十五郎』〜『ミノル』)の不振によって従来の編集方針──増刊での人気作を週刊本誌連載に“昇格”させる──が頓挫した事や、それまで週刊連載のトライアルとなっていた増刊号での短期連載制度の廃止、そしてやはり人事異動のシーズンを外した急な編集長人事発動による混乱が、その要因として非常に大きかったのではないでしょうか。また、単純に「サンデー」の将来を背負わせるに足りる若手・新人作家の頭数を確保出来なかった…という事情もあるでしょう。
まぁそんな憶測の真偽はどうあれ、事実として04年度の新連載作品は量だけでなく質の面においても散々なモノとなっています。まず短期打ち切りが3作品(『怪奇千万! 十五郎』、『暗号名はBF』、『DAN DOH!!〜ネクストジェネレーション〜』)にも及び、残された6作品についても現状において商業的に特に好調と言える作品はありません。また、誌面構成的にも人気作的扱いをされているのは最後発の『ハヤテのごとく!』のみで、他の作品は目次でも真ん中付近〜巻末近辺に追いやられているものがほとんどです。
どうやら、このまま行くと04年度も過去2年と同様に、「ひょっとしたら近い将来スマッシュヒットするかも知れないのが1〜2作品」…という事になりそうです。看板作品が強いために未だ表立って問題が顕在化していませんが、この停滞は「サンデー」の今後にとって痛手である事は間違いないでしょう。
──さて次は短期集中連載・読み切りについての総括をお送りしましょう。こちらもまずは04年度に発表された短編作品のリストをご覧頂きましょう。
※短期集中連載(数回で終了する事が連載開始時から確定している作品)
◎『絶対可憐チルドレン』(作画:椎名高志)
※単発読み切り作品・正規枠&代原
◎『カズマ来たる!!』(作画:万乗大智)
◎『ハヤテの如く』(作画:畑健二郎)
◎『教育チャンネル みんなのチャンポッピ』(作画:ピョンタコ)
◎『HOOK!』(作画:鹿養信太郎)
◎『ダグラーバスタークウ!』(作画:松浦聡彦)
◎『犬ちゃん』(作画:河北タケシ)
◎『ゴーストロジック』(作:浜中明/画:ネモト摂)
◎『地球防衛バッパパーマン』(作画:森尾正博)
◎『もみあげキャプテン』(作画:大塚じんべい)
◎『グッドラックノストラダムス』(作画:武村勇治)
◎『緋石の怪盗アルバトロス』(作画:若木民喜)
◎『ブリザードアクセル』(作画:鈴木央)
◎『タマ!!!! 〜真夏のグランドスラム〜』(作画:小山愛子)
◎『ベースボールエンジェル』(作画:清水洋三)
◎『ミッションX』(作画:我妻利光)
◎『ハルマキ』(作画:瀬尾結貴)※代原作品
◎『UPPERS』(作画:寺嶋将司)
◎『断罪の炎人』(作画:吉田正紀)
◎『88の陣八』(作画:桜井亜都)
◎『ジンの怪』(作画:大須賀めぐみ)
◎『BooTa』(作画:河北タケシ)
◎『MAXI』(作画:佐藤周一郎)
◎『二九球さん』(作画:大塚じんべい)
◎『あるふぁ!』(作画:桜河貞宗)
※読み切り・受賞作掲載(新人賞の受賞作が掲載されたもの)
◎『吉田ジャスティス(激闘編)』(作画:福井祐介)
※その他企画モノ
◎『天国の本屋』(作:松久淳&田中渉/画:桐幡歩)
◎『福原愛物語』(作画:あおやぎ孝夫)
◎『大久保嘉人物語』(作画:草場道輝)
◎『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』(作画:曽山一寿)
|
04年度は短期集中連載は僅か1本ながら、読み切りは正規枠と受賞作掲載だけでも何と24本。「サンデー」の歴史では前代未聞と言って良い程の短編大量掲載が行われた事になります。特に月刊増刊が隔月刊化された春からは、新作発表の機会が大幅に減った若手作家さんと次回作を模索する中堅作家さんのために、毎週のように読み切り作品が掲載されるようになりました。その様子は、まるで“所属作家の虫干し”というような光景でありました。
しかしこの編集方針は、近年の「ジャンプ」や02年度の「サンデー」を見る間でもなく非常に効率が悪いもので、そこから連載ヒット作の輩出に繋げられなければ、ただ単に微妙なレヴェルの作品で雑誌の平均クオリティを下げているだけになってしまいます。「サンデー」は現時点において、囲い込んでいる若手・新人の層や雑誌の充実度が「ジャンプ」と違うわけですから、単純に「ジャンプ」の後を追うだけでなく、もっと抜本的な改革が必要ではないかと思うのですが……。これは、間もなく三上体制の残務処理が完了して独自色をフルに発揮できるようになる林新編集長の手腕の見せ所になると思います。
では、最後に03年度から続行中の長期連載作品の動向について。こちらも先に開始年度別連載作品リストをご覧下さい。
☆2005年度に越年を果たした連載作品
◎94年度連載開始
『名探偵コナン』(作画:青山剛昌)
『MAJOR』(作画:満田拓也)
◎95年度連載開始はなし
◎96年度連載開始
『犬夜叉』(作画:高橋留美子)
◎97年度連載開始
『からくりサーカス』(作画:藤田和日郎)
※『モンキーターン』(作画:河合克敏)は越年直後の05年3号に円満終了。
◎98年度連載開始はなし
◎99年度連載開始はなし
◎00年度連載開始はなし
◎01年連載開始
『金色のガッシュ !!』(作画:雷句誠)
『KATSU!』(作画:あだち充)
◎02年度連載開始
『焼きたて!! ジャぱん』(作画・橋口たかし)
『史上最強の弟子ケンイチ』(作画:松江名俊)
『いでじゅう!』(作画:モリタイシ)
『D−LIVE』(作画:皆川亮二)
◎03年度連載開始
『ワイルドライフ』(作画:藤崎聖人)
『MAR(メル)』(作画:安西信行)
『結界師』(作画:田辺イエロウ)
※『俺様は?(なぞ)』(作画:杉本ペロ)は越年後、8号までで打ち切り終了。
☆2004年度に連載終了した長期連載作品
◎98年度連載開始
『かってに改蔵』(作画:久米田康治/34号までで打ち切り終了)
◎99年度連載開始
『ファンタジスタ』(作画:草場道輝/14号までで円満終了)
◎01年連載開始
『うえきの法則』(作画:福地翼/46号までで円満(?)終了。ただしアニメ化に伴い05年度春より第2部開始予定)
◎02年度連載開始
『ふぁいとの暁』(作画:あおやぎ孝夫/1号までで打ち切り終了)
『きみのカケラ』(作画:高橋しん/14号までで打ち切り終了)
『美鳥の日々』(作画:井上和郎/34号までで円満終了)
◎03年度連載開始
『売ったれダイキチ!』(作:若桑一人/画:武村勇治/8号までで打ち切り終了)
『ロボットボーイズ』(作:七月鏡一/画:上川敦志/10号までで打ち切り終了)
|
04年度に終了した長期連載作品は8作品。短期打ち切りの少ない「サンデー」では平均的な数の“人事”でした。その中身も、無事にストーリーを全うした作品もあり、勢いに乗り切れぬまま打ち切られた作品もあり、「この大物作家が鳴り物入りで始めたマンガの打ち切り完結編って、どんな内容?」と問われれば、「ん? ああ、児童ポルノ」と回答せざるを得ない作品もあり、更には長期に渡って全く衰えぬクオリティで誌面の中堅を務めていたにも関わらず、「編集長が自分の子供に読ませたくないから」という物凄い理由で打ち切られた作品あり、と、非常にバラエティに富んだ構成になりました。まさしく三上体制の2年半を象徴するような、混沌とした内容の連載終了作品ラインナップでありましょう。
そして、これらを後継したのが先に紹介した04年度開始の連載作品たちですが、残念ながら現状では“等価交換”とは行かない様子です。それどころか最近の掲載順を見ると、この春にかけて04年度開始作品から数作品の打ち切り終了があるような情勢で、どうやら04年度に開いた穴を2年掛かりで埋めてゆく…という悲しい現実が見えて来ますね。
さて、こちらも締め括りとして、「サンデー」の誌面構成の俯瞰と展望をしておきましょう。
04年度の「サンデー」において、スキャンダル抜きで最大の出来事と言えば、やはり以前から待望されていた“政権交代”の実現、即ち『コナン』『犬夜叉』から『金色のガッシュ!!』への盟主交代でしょう。アニメ化以後はグッズの売上げも絶好調で、商業的にも完全に「サンデー」のエース的存在となりました。現時点で連載開始から4年と、既に上昇期から安定飛行期に入りつつありますが、少なくとも05年度中に勢いが急落する事は無いでしょう。
そして、看板作品の座を明渡したとはいえ、『名探偵コナン』も依然として単行本初版ミリオン級の成績をキープし、堂々たる“西の横綱”として君臨しています。ただ、商業的成功と引き換えに、連載開始10年以上経ってもメインシナリオを進行出来ないというジレンマを抱えているのは、一読者として見た場合少々辛くもありますが……。
その一方で、残る“旧二枚看板”の一角・『犬夜叉』は、抜群の知名度こそ健在なものの、テレビアニメの一時中断や平均掲載順の低下など衰微の傾向が否定出来なくなりました。そろそろ「引退」、つまりは円満終了がチラつき始める時期が近付いているように思えます。……もっとも、そうは言っても未だに単行本を1冊出せば、そこらの作品の軽く数倍は売れてしまうのですから、衰えたりとは言え未だ侮れず、といったところでしょう。
……というわけで、トップクラスはなかなかに手堅い「サンデー」ですが、これらの新・旧“3横綱”に続く存在は? と問われると一気にトーンが下がってしまいます。「サンデー」を長年支えて来た90年代生まれの作品が続々と円満終了、もしくは長期連載に伴う衰微が著しくなって来た中で、誌面の半数以上を02年度以降開始の小粒な作品が占める状態が続いており、言ってみれば「“大関不在”の現状」とタイトルをつけたくなるような様相が眼前に広がっています。
とりあえず番付上の序列として“関脇・小結”クラスを指名するとすれば、こちらも衰えたりとは言え存在感抜群の『MAJOR』、単行本売上は目立たないものの平均掲載順は“両横綱”と肩を並べる『結界師』、そして低年齢層を中心に支持を固め、メディアミックスで飛躍を目指す『焼きたて!! ジャぱん』と『MÄR』あたりになるでしょうか。これに、失礼ながら意外にも連載が好調に推移している『ハヤテのごとく!』が続く…といったところですね。
で、この後は、掲載順(アンケート人気)は好調ながら単行本はパッとしない若手・中堅作家の作品と、雑誌内では目立たない存在ながら以前からの固定ファンが買い支えて単行本は初版で最低20〜30万部は出るベテラン作家の作品が多数入り乱れる…といった感じで、序列は混沌としています。ただ、どちらのパターンにせよ商業的に伸び悩んでいるのに変わりは無く、このような作品を多数抱えている状況は決して健全な状態であるとは言えないでしょう。
……ちなみに先ほど「大関不在」と申し上げましたが、ホンモノの大相撲の世界で大関が不在になると、東西の正横綱が「横綱大関」として2つの番付を兼ねるよう決まっています。それを考えると、現在の『ガッシュ』『コナン』の図抜けた商業的貢献はまさに横綱大関といった感がありますね。
それでも「サンデー」本誌の発行部数は下げ止まらず──先日、04年8月までの1年間の平均部数が実数で約116万部と発表されましたが、これはあくまで部数がマイナス成長してゆく過程の中で割り出された平均値であり、しかも集計が終わった直後の秋に『改蔵』と『美鳥』が終了して更に部数が落ちたという話を聞いた事があります──編集長更迭という事態になったのですから、このトップグループの層の薄さが雑誌に与える影響はいよいよ深刻です。
既に始まっている05年度、現時点で今年度の新連載予定者として名前が挙がっているのは、一部雑誌で情報が出た鈴木央さん、草場道輝さん、そして『絶対可憐チルドレン』の本格連載が内定している椎名高志さんといった面々です(あとは福地翼さんの復帰がありますか)。彼らと、既に連載を開始した田中モトユキさんといった、手堅い仕事で定評のある中堅・ベテラン作家さんたちが「サンデー」のスタビライザー役を務めている内に、荒削りでも高いポテンシャルを秘めた若手・新人をどれだけ発掘・育成できるか。「サンデー」浮沈のカギは、やはりその辺に懸かっていそうな気がしているのですが、どうでしょうか。
──といったところで、初日のプログラム・「ジャンプ」「サンデー」年間回顧を終わります。今回は冒頭でも申し上げた通り、駒木本人の好き嫌いは勿論、レビューで下した評価も参考とせずに、掲載順(アンケート)や単行本売上といった客観的材料のみを基準として淡々とお話してみましたが、如何でしたでしょうか。時にはシレっと具体的な数字を出したりもしてしまいましたが、どうしてそういう数字が出せるのか? …という問いに対しては大人の事情でお口YKK(友近風に)ですので、信じるも信じないも含めて、どうかお察し下さい(笑)。
さてさて、明日はいよいよ式典のメインイベント・「コミックアワード」表彰式です。今年は既にノミネート作品が発表済ですが、ここで今一度、ノミネート作品を紹介し直しておきましょう。
各部門・最終ノミネート作品
(優秀作品賞受賞作一覧・順不同)
◆ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞
◎『DEATH
NOTE』(作:大場つぐみ/画:小畑健)
◎『スティール・ボール・ラン』(作画:荒木飛呂彦)
◎『あやかし堂のホウライ』(作画:金田達也/原案協力:藤田和日郎)
◆ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞
◎『SNOW IN THE DARK』(作画:叶恭弘)
◎『ホライズン・エキスプレス』(作画:中島諭宇樹)
◎『雨女、晴れ男』(作:長谷川尚代/画:藤野耕平)
◎『PMG-0』(作画:遠藤達哉)
◎『賈允』(作画:内水融)
◎『スーパーメテオ』(作画:高橋一郎)
◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞
◎『ホライズン・エキスプレス』(作画:中島諭宇樹)
◎『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所(増刊掲載版読み切り)』(作画:西義之)
◎『PMG-0』(作画:遠藤達哉)
◎『スーパーメテオ』(作画:高橋一郎)
◆ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞
◎『無敵鉄姫スピンちゃん』(作画:大亜門)
◎『吉野君の告白』(作画:坂本裕次郎)
◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞
◎『吉野君の告白』(作画:坂本裕次郎)
主要賞・最終ノミネート作品
◆仁川経済大学賞(グランプリ)
◎『おおきく振りかぶって』(作画:ひぐちアサ/「アフタヌーン」連載中)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞受賞作)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞受賞作)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞受賞作)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞受賞作)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞受賞作)
◆ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
◎『怪奇千万! 十五郎』(作画:川久保栄二/「週刊少年サンデー」連載)
◎『少年守護神(連載版)』(作画:東直輝/「週刊少年ジャンプ」連載)
◎『BLACK CAT特別編』(作画:矢吹健太朗/「週刊少年ジャンプ」掲載」
◎『地上最速青春卓球少年 ぷーやん』(作画:霧木凡ケン/「週刊少年ジャンプ」連載)
◎『味覚師ツムジ』(作:宇水語/画:佐藤雅史/「赤マルジャンプ」掲載)
|
今年は「サンデー」勢の不振やギャグ作品の不作など、やや残念な材料もあるのですが、それでも『おおきく振りかぶって』が参戦するグランプリや、超大物D級作家が揃っての頂上対決ならぬ“底辺対決”の様相を呈したラズベリーコミック賞など見所十分の賞レースとなりました。ご贔屓の作品がノミネートされている方は勿論のこと、そうでない方も受賞作予想などで楽しんで頂ければ……と思います。
それではまた明日、今度は当講座が誇る“絶対可憐レディース”と一緒にお目にかかる事をお約束して、式典初日のプログラムを終了します。御清聴有難うございました。(式典2日目へ続く) |