駒木博士の社会学講座
仁川経済大学社会学部インターネット通信課程

第4回仁川経済大学
コミックアワード
Nigawa University of Economics 
Comic Award'05

2006年3月10日(金)〜11日(土)

珠美:「駒木研究室・助手の栗藤珠美です。本日はご来場頂きまして誠に有難うございます。今年もまた『仁川経済大学コミックアワード』を開催することが叶いました。受講生の皆様のご愛顧に、心より御礼申し上げます。
 これからお届けする『仁川経済大学コミックアワード』は、当講座開講以来の主要講義である「現代マンガ時評」の年間総括イベントです。
当講座のゼミ・『現代マンガ時評』内でレビューを発表した作品のうち、特に優秀、もしくは最悪だった作品を、当講座の専任講師・駒木ハヤトが独断で選定・表彰するという趣旨のもと毎年開催されており、数えること今年で4回目となります。
 今回は05年度──04年12月より05年11月まで──に「週刊少年ジャンプ」「週刊少年サンデー」とその系列誌に発表された作品、そして、受講生の皆様から推薦を頂いた、05年度に単行本第1巻が出版された優秀な長編作品が審査対象です。グランプリ「仁川経済大学賞」を授与されるのは果たしてどの作品でしょうか? 
 なお、私は授賞式の総合司会を務めさせて頂きます。拙い進行ではありますが、どうか最後まで宜しくお願い申し上げます」

順子:「駒木研究室・非常勤アシスタントの一色順子です! 今年も部門賞のプレゼンテーターと『ラズベリーコミック賞』の司会をやらせてもらえることになりました。『ラズベリー』では、また言っていいかどうかギリギリのトコを攻めていきたいと思いますので、どうぞよろしく!」
リサ:「仁川経済大学1回生になりました、長期留学生のリサ=バンベリーです。最近は何にも参加できてないんですけど、また呼んでもらえてウレシイです。授賞式のお仕事ガンバリますので、ヨロシクです」
珠美:「……なお、
授賞式に先立ちまして、第1部では当講座専任講師・駒木ハヤトによります『ジャンプ』&『サンデー』年間総括発表会を実施いたします。今はもう昔になりつつある05年ですが、ここで今一度、改めて回顧することにより知を新しくして頂ければ幸いです」

 

第4回仁川経済大学コミックアワード 
スケジュール

初日
3/10

(Fri)

05年度「ジャンプ」&「サンデー」年間総括

※05年度の「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」について回顧します。
 04年12月からの1年間で両誌に掲載された読み切りや連載作品を振り返りつつ、様々な観点から両誌の現状の分析・考察を行います。活動の蓄積の中で
集積された濃密なデータも注目です。

2日目
3/11

(Sat)
「第4回仁川経済大学コミックアワード」
授賞式

※ご存知「日本で最も権威・格式・価値の低い漫画賞」も今回4回目となりました。また、正賞よりも注目されているとの噂もある、年間最悪作品賞・「ラズベリーコミック賞」にもご注目あれ。
 独断と偏見で審査を務めるのは当講座の専任講師・駒木ハヤト。そしてこちらも御馴染み、当講座の“3人娘”が司会にプレゼンテーターに登場します。1年に1度の彼女らの晴れ姿も、どうぞお楽しみに。

 ※両日とも、イベントは当日深夜より開始予定です。
 ※検索エンジン等を経由して直接このページを閲覧されている方は、是非メインページもご覧下さいませ。


第4回仁川経済大学
コミックアワード

初日(3月10日) 
05年度「ジャンプ」&「サンデー」年間総括

 積み重ねる事4回目、お蔭様で縁起の悪い回数まで辿り着きました。今年も授賞式前日は、当講座専任講師・駒木ハヤトの「ジャンプ」&「サンデー」年間総括でお楽しみ頂きます。
 今年度に関しては、もう他のウェブサイトさんでメジャー各誌の年間総括が行われたりしているみたいですが、こちらは客観的なデータを中心に、質はともかく量はたっぷりの分析・考察をお送りしたいと思います。元祖かどうかは知りませんが、“本家”の矜持をもって参ります。どうか何卒。

 ──さて、今からお送りしますのは、「現代マンガ時評」でレビュー対象にしております「週刊少年ジャンプ」及び「週刊少年サンデー」の、05年度(雑誌の号数が05年扱いである、04年12月から05年12月までのついての年間総括です。先述しました通り、ここでは普段のゼミでお送りしている評論スタイルではなく、幾分マクロで客観的なスタンス──つまりは一般の人気度や商業的成功の観点に立って、「ジャンプ」「サンデー」両誌の現状の分析と考察をしてゆきます。
 なお、過去3ヵ年の年間総括につきましては、昨年、一昨年の「コミックアワード」の模様、そして3年前の「『週刊少年ジャンプ』この1年」「『週刊少年サンデー』この1年」(いずれも02年度版)の講義レジュメをご覧下さい。懐かしい打ち切り作品の名前があちこちに出て来て、感慨が深まる事請け合いであります。

 ──それではこれより、「ジャンプ」「サンデー」の新連載作品、読み切り作品、前年度以前からの連載継続作品の動向について、それぞれ分析・考察をお届けします。最後まで宜しく。

※お断り:今回の「年間総括」は、05年末に発刊しました同人誌・「『現代マンガ時評』05年度下半期総集編」に収録されているものをベースに、その後の情勢推移等に合わせて加筆・削除修正を行ったものです。よって、これからお届けする内容と、同人誌収録の内容は多くの部分で重複します。あらかじめご承知置き下さい。


 1.「週刊少年ジャンプ」05年度総括

 1−1.05年度「ジャンプ」新連載作品総括

参考資料1・「ジャンプ」05年度新連載作品一覧

 ※04年年末開始
『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之
 ※05年冬開始
『ユート』作:ほったゆみ/画:河野慶
『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征) 
 ※05年春開始
『カイン』作画:内水融
『タカヤ −閃武学園激闘伝─』作画:坂本裕次郎
『切法師』作画:中島諭宇樹) 
 ※05年夏開始
『みえるひと』作画:岩代俊明
『太臓もて王サーガ』作画:大亜門
 ※05年秋開始
『べしゃり暮らし』作画:森田まさのり
『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜

注:『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(作画:西義之)は04年53号の連載開始ですが、連載期間の大半が05年度であることを考慮し、今年度扱いとしました。

 毎年、この企画の準備をするために資料調べをしていますと、必ず「あれ、この作品って、もっと前の年の作品じゃなかったっけ?」……などと思う作品が出て来ます。つまり、健闘空しく短期打ち切りとなった作品は、それから時を経ない内にその存在すら忘れ去られている…というわけですね(笑)。まさしく「ジャンプ」のダイナミズムとある種の残酷さを象徴するような話であります。
 例えば、ここにお出での皆様の中で、04年度の秋頃にはまだ『地上最速青春卓球少年 ぷーやん』が連載されており、それと入れ替わりで『Wāqwāq』が始まったのだ……という事実を、「そんなの言われなくても覚えているよ」とおっしゃる方は果たしてどれくらいいらっしゃるでしょう?
 ……まぁ毎週誌面と自分の胃に穴が開くほどの勢いで「ジャンプ」を凝視している駒木ですら、資料を読み返してみて初めて思い出すぐらいですから、まぁその割合の程は推して然るべきでしょう。
 ところが05年度は、同じように資料調べをしていても、そういう気持ちが一切起こらない極めてレアケースな年でした。強いて言えば、タイトルだけで懐かしさを感じる作品なんて『ユート』ぐらいでしょうか。もっとも、そこに仲間入りする作品も、間もなく1つ2つ増えそうでありますが……。

 05年度の「ジャンプ」がそういうレアなケースとなった理由としては、まず先述の『ユート』を除く年度当初の連載作品(『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』、『魔人探偵脳噛ネウロ』など)が好調で無事に越年を果たしたから…というものが挙げられるでしょう。連載が未だに終わっていないのですから、記憶に残らないはずがありません。
 しかし、それより大きい理由は、「ジャンプ」の名物とも言える10回前後での1クール打ち切りが、06年に入って『大泥棒ポルタ』が打ち切られるまで1度も無かった……という事ではないでしょうか。20数回の2クールで打ち切りになった作品は他にもありましたが、連載が半年に及べば印象も濃くなりますし、連載終了時期も後にずれ込む分だけ、当然作品の存在を忘れるのも遅くなるわけです。つまり、1クール打ち切りが丸1年以上無かったために、それが読者の記憶の風化を妨げた──という理屈ですね。

 まぁ細かい話はともあれ、05年度は新連載作品の1クール打ち切りの極めて少ない年だったわけです。こう言うと、この年が「ジャンプ」にとって順調な1年だったと解釈出来そうですが、しかしそれは本当にそう解釈して良いものなのでしょうか?

 確かに年度当初は、好調だった04年度の勢いを受け、順風満帆の滑り出しであったと言えるでしょう。打ち切るべき作品も少なく、新連載も本数と内容を厳選された“一撃必中”の狙い撃ち。3本以上の新連載シリーズの際に見受けられる「連載前から打ち切り候補」というような作品はなく、連載作品はいずれも実績のある作家さんか、実力派若手作家さんの作品のみがラインナップを飾ったのです。
 そして実際、年度当初から始まった『ムヒョ』『ネウロ』は、アンケート順位の目安とされる掲載順も比較的堅調で長期連載の道へ。唯一スタートダッシュに失敗した『ユート』も、大ヒット作家の特権で打ち切りの気配すら見せずに2クール目で巻き返しを図りました。こうして05年の春を迎え、「ジャンプ」は長期連載作品も含めて打ち切るべき作品が無くなるという凄まじいまでの活況となりました。

 しかし、ここで転機が訪れました
 04年以来の好調もピークを迎えていた春の新連載シリーズで、「ジャンプ」編集部は何と、初の連載となる若手作家中心の3作品を一挙投入する賭けに出たのです。昨年から「サンデー」を思わせる小規模の連載入れ替えを続けていた同誌にとっては、久々の大幅な誌面刷新となりました。この時、入れ替わりに週刊連載を打ち切られたのが『武装錬金』だった事もあり、強く印象に残っている方も多いのではないでしょうか。
 こういう連載陣の質・量が充実し、運営に余裕のある時であるからこそ、若手に道を開いて大ヒット作輩出を狙う。いかにも「ジャンプ」らしい編集方針と言えるでしょう。
 もしもこの方針が成功裏に終わっていれば、茨木編集長は"「ジャンプ」中興の祖"としてマンガ史に名を残す偉人となっていたはずです。が、皮肉にもこの新連載シリーズをきっかけに、「ジャンプ」はいきなり03年度を思い出させるような停滞期に突入してしまいます。

 「参考資料1」をご覧のように、この春の新連載シリーズ以降、「ジャンプ」では7作品の連載が開始されました。しかし既に『カイン』『切法師』『大泥棒ポルタ』は短期間で打ち切り終了。残る4作品にしても、06年3月に入って余りにも大胆なテコ入れが入った『タカヤ』をはじめ、掲載順の低迷、単行本売上の伸び悩みが目立っています。
 しかも、新連載が低迷するだけなら救いようもあるのですが、これらの商業的失敗作が多過ぎて打ち切る事すら出来なくなっています。そう、1クール打ち切りの減少は、「打ち切るべき作品が無い」のではなく、「打ち切るべき作品が多過ぎて新顔に順番が回って来なかった」からだったのです。

 ではここで、具体的に05年度後半の状況を解説しましょう。
 まず夏の新連載シリーズの頃、春シリーズ開始の3作品のうち、『カイン』『切法師』の2作品は特に元気が無く、早くも打ち切りが囁かれるほどに失速していました。ところがこの時点で冬開始組の『ユート』がいよいよ救済の余地が無いほどに人気が低迷し、しかも折悪しく『いちご100%』の連載終了もこの時期に合わせて企画されており、この2作品だけで夏の新連載シリーズで入れ替えるための枠が埋まっていたのです。これでは、1クール打ち切りはしたくても出来るはずがありません
 秋の連載入れ替えも同様で、“打ち切り順番待ち”で1クール延命された『カイン』『切法師』を切るだけで枠が埋まり、『みえるひと』『太臓もて王サーガ』も打ち切られないまま、命を永らえたのでした。『太臓』に至っては、新連載検討会議の前後にアンケートが最下位に転落しながら、その会議が順調さを欠いた為に助かった……という逸話が、単行本の2巻で語られています。内部事情を詳しく知る由はありませんが、それぐらい編集部がゴタゴタしていたという事なんでしょう。また、そんなゴタゴタの中で連載が立ち上げられた『大泥棒ポルタ』が、他の人気低迷作を差し置いて1クール打ち切りとなった辺り、現在の「ジャンプ」編集部の苦悩が窺えます。

 ──しかし、この後半の停滞状況を作り出したのは、『ヒカルの碁』のほったゆみさんや、「ジャンプ」がここ2〜3年がかりで育てて来た期待の若手作家さんばかり。予想外の好調は、予想外の変調で幕を閉じたのですから、まったく世の中何が起こるか判りませんね。

 

 ──さて、ここで少し目先を替えまして、昨年ネット界隈各地で御好評を頂きました、連載作品の“半年生存率”のお話を、今回も少しばかりさせて頂きましょう。
 ではまず、過去10年分のデータを紹介しましょう。資料をご覧下さい。

参考資料・2 95年〜04年の連載作品“半年生存率”

◆2004年(04年1号〜04年40号連載開始作品)
 
…10作品中6作品(『DEATH NOTE』、『銀魂』、『未確認少年ゲドー』、『家庭教師ヒットマンREBORN!』、『D.Gray−man』、『Wāqwāq』)半年生存率60%
◆2003年
(03年1号〜03年43号連載開始作品)
 …11作品中2作品(『武装錬金』、『ごっちゃんです!!』)半年生存率18.1%
◆2002年
(01年51号〜02年45号連載開始作品)
 …12作品中4作品(『いちご100%』、『アイシールド21』、『プリティフェイス、『Ultra Red』)半年生存率33.3%
◆2001年
(00年47号〜01年43号連載開始作品)
 …12作品中3作品(『ボボボーボ・ボーボボ』、『Mr.FULLSWING』、『BLEACH』)半年生存率25%
◆2000年(00年1号〜38号連載開始作品)
 …8作品中4作品(『ブレーメン』、『ノルマンディーひみつ倶楽部』、『BLACK CAT』、『ピューと吹く! ジャガー』)半年生存率50%
◆1999年(98年52号〜99年44号連載開始作品)
 …14作品中4作品(『ヒカルの碁』、『テニスの王子様』、『NARUTO』、『ライジングインパクト(第1、2部を合同して1作品扱い)』)半年生存率28.6%
◆1998年(97年52号〜98年43号連載開始作品)
 …10作品中5作品(『明陵帝 梧桐勢十郎』、『ROOKIES』、『ホイッスル!』、『HUNTER×HUNTER』、『シャーマンキング』)半年生存率50%
◆1997年(96年49号〜97年41号連載開始作品)
 …13作品中5作品(『魔女娘ViVian』、『花さか天使テンテンくん』、『I’s』、『世紀末リーダー伝たけし!』、『ONE PEACE』)半年生存率38.5%
◆1996年
(95年51号〜96年42号連載開始作品)
 …12作品中5作品(『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』、『WILD HALF』、『幕張』、『封神演義』、『遊☆戯☆王』半年生存率41.7%
◆1995年
(94年50号〜95年45号連載開始作品)
 …11作品中5作品(『みどりのマキバオー』、『密・リターンズ』、『真島クンすっとばす!!』、『人形草子あやつり左近』、『水のともだちカッパーマン』半年生存率45.5%

注1:短期集中or不定期連載、既存の作品の第二部開始は除外。
注2:連載期間の大半が翌年度以降に属する連載作品は次年度扱い。

 ──それにしても04年度の数字の高さはズバ抜けていますね。後述しますように、“半年生存率”は決してその年度の景気の具合をストレートに反映させるものではないのですが、04年度は名目上の数字だけでなく、ミリオン級の大ヒットやアニメ化作品も輩出するなど、“実”もキッチリ詰まっているのが特徴です。その前の03年度が大不振だっただけに、コントラストも凄いですよね。

 それでは、この05年度の“半年生存率”についてもまとめておきましょう。
 この年度の新連載作品は10編ありますが、これらの作品の“生死”をまとめますと、こうなります。

●半年生存『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』『魔人探偵脳噛ネウロ』『タカヤ ─閃武学園激闘伝―』『みえるひと』『太臓もて王サーガ』
●短期打切『ユート』『カイン』『切法師』『大泥棒ポルタ』
●保留状態『べしゃり暮らし』(=06年3月現在、2クール目連載中)

 現在のところ、“生存確定”は5作品。これで『べしゃり暮らし』が次の連載入れ替えをクリアすれば6作品となります。よって、05年度の推定“半年生存率”は10作品中5ないし6作品“生存”の50〜60%。なんと前年並の高水準となる可能性が濃厚です。
 しかし、長期連載を果たした作品を冷静に振り返ってみると、先ほどからお話しているように、2クール生き残るのが精一杯な作品や、アンケート(掲載順)は堅調なものの単行本売上が弱い作品ばかり。05年度の新連載で、トーハンのコミック売上週刊ベスト10に1週以上名を連ねた作品は、06年2月末現在でまだ1つもありません。これは、『DEATH NOTE』が早々にミリオンを達成し、他の長期連載作品もベスト10の常連になっている04年度開始の連載作品と比較すると雲泥の差です。
 そこで注目すべきなのは、「参考資料2」内データにおける、いわゆる“暗黒期”と呼ばれている95〜97年の数字が意外と高いという事実です。つまり、この頃も05年度と同じように、ヒット作になる見込みの薄い作品までもが編集方針の都合などで長期連載する事になり、数字を底上げしてしまったという経緯がありました。よって、05年度の“数字上の堅調”も、どうやらこの暗黒期パターンと同様な、または似た状況にあるのではないかと分析したいのですが、如何でしょうか。
 勿論、最終的な結論を下せるのは、何年も後、05年度新連載の作品の行く末を見届けた後になりますが、ひょっとすると今年度は、昨年度以来の回復基調から近来類を見ない好調へと推移した後、突然に恐慌を起こして深刻な不振へと転落……という、「ジャンプ」史上でも極めて特殊な経緯を辿った1年になるのかも知れないですね。

 1−2.05年度「ジャンプ」読み切り作品総括 

参考資料3・05年度「ジャンプ」掲載読み切り作品一覧

※正規枠(既にデビュー済みの作家が連載枠獲得にむけて発表した新作)
『デビルヴァイオリン』作画:大竹利明
『キノコ島の奇跡』作画:真波プー
『MP0』作画:叶恭弘
『スベルヲイトワズ』作画:森田まさのり
『オレたちのバカ殿』作画:ポンセ前田
『モグリ陰陽師SEYMEY』作画:大石浩二
『多摩川キングダム』作画:風間克弥
『FULL COAT』作画:池田圭司
『怪盗銃士』作画:岩本直輝
『RARE GENE 4』作画:夕樹和史
『ふるさとさん』作画:郷田こうや
『TEAM』作画:宮本和也
『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜
『BE A HERO!!』作画:吉川雅之
『大宮ジェット』作画:田村隆平

第2回「ジャンプ金未来杯」エントリー作品

『カメとウサギとストライク』作画:天野洋一
『スマッシングショーネン!』作画:大竹利明
『バカin the City!!』作画:大石浩二
『魔法使いムク』作画:大久保彰
『ナックモエ』作画:村瀬克俊
『@o'clock』作画:やまもと明日香

『闘魂パンダーランド〜学業立志編〜』作画:ポンセ前田
『キャディガール瞬』作画:後藤竜児
『プロジェクト・ヒメシマ』作画:川口幸範
『謎の村雨くん』作画:いとうみきお
『自称ナイスガイ』作画:伊藤直晃

※代原枠(連載作家の都合や病気による休載で空いた枠を埋めるために掲載された、正規デビュー前の新人の習作原稿)
『サムライ手芸部』作画:楽永ユキ
『ハピマジ』作画:KAITO
『肉ガリ −NIKUGARI−』作画:大江慎一郎
『たいして良い思い出もできそうにない学校生活』作画:伊藤直晃
『番長決定戦』作画:相原成年
『名探偵・田中一郎』作画:池内志匡
『ナイスガイ転校生よしお』作画:伊藤直晃

※受賞作掲載(新人賞の受賞作が、正規枠に準ずる形で掲載されたもの)
『征次郎の道』作画:長友圭史
『斬』作画:杉田尚
『未熟仙』作画:栗山武史
『魔界不思議犬ブルブルブルズ』作画:小山祐太

※その他企画モノ(現役連載作家による特別読み切りや連載作品の番外編など、後の新連載に繋がらない読み切り作品)
『ギャグマンガ日和』作画:増田こうすけ

 05年度の読み切り作品は、「参考資料・3」の通り38編で、前年度(51編)に比べると約25%の減少となりました。しばらく続いた読み切り作品の掲載数の増加傾向も一段落といったところでしょうか。
 それでも減少分の多くは、『HUNTER×HUNTER』などの臨時休載が減った事による代原掲載の自然減から来るものであって、“正規枠”の掲載数は、急増傾向を示した03年度以降の水準をキープしています。よって、依然として読み切り作品を積極的に掲載するという編集方針は継続していると考えて良さそうです。
 全体的な傾向としても昨年度と大差なく、正規枠は、大半が連載経験者や増刊等で実績を残している若手作家さんに占められました。現時点でこの中から連載化されたのは『スベルヲイトワズ』(=『べしゃり暮らし』のプロトタイプ)『大泥棒ポルタ』の2作品で、しかもその後の行く末はご存知の通りです。相変わらず効率の悪いコンペテイションではありますが、今後も連載陣の“取材休み”で開いたページを活用した、同様の試みは継続して行われる事でしょう。
 あと、特筆すべき事項としては、05年度で第2回を迎えた「金未来杯」。前年度の第1回が“期待の若手総ざらえ”的なラインナップだったのに対し、今年の顔触れは掲載作品のクオリティも含めて少々小粒なものに。まぁ連載未経験の若手作家の読み切りを5〜6週連続で載せられるだけでも、他の雑誌には無い層の分厚さではあるのですが、それにしてもタマ切れ感の否めない第2回となってしまいました。
 しかも今年度、第1回エントリー作品から連載化された3作品が軒並み伸び悩みまたは不振・打ち切りという状況になっており、否応無しに今後の見通しを暗澹たるものにさせています。このままいくと、期待の若手を伸び悩ませるだけ伸び悩ませ、山のように打ち切り作品を積み重ねた挙句に2回限りで自然消滅した、かつての「黄金の女神杯」と同様の運命をなぞる事になるやも知れません。

 1−3.05年度「ジャンプ」連載作品動向の考察および全体概括

参考資料4・「ジャンプ」連載作品動向一覧表 

☆2005年度に越年を果たした連載作品
 ◎96年度以前連載開始
 『こちら亀有区葛飾公園前派出所』
作画:秋本治/1976年連載開始)
 ◎97年度連載開始
 『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎
 ◎98年度連載開始
 『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博
 ◎99年度連載開始
 『テニスの王子様』作画:許斐剛
 『NARUTO─ナルト─』作画:岸本斉史
 ◎00年度連載開始
 『ピューと吹く! ジャガー』作画:うすた京介
 ◎01年度連載開始
 『ボボボーボ・ボーボボ』作画:澤井啓夫
 ※50号までで第1部終了も、06年年頭より再開。
 『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也
 『BLEACH』作画:久保帯人
 ◎02年度連載開始
 『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介
 ◎03年度連載開始はなし。
 ◎04年度連載作品
 『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健
 『銀魂』作画:空知英秋
 『家庭教師ヒットマンREBORN!』作画:天野明
 『D.Gray−man』作画:星野桂

☆2005年度中に連載終了した長期連載作品
 
◎02年度連載開始
 『いちご100%』作画:河下水希/35号までで円満終了
 ◎03年度連載開始
 『武装錬金』作画:和月伸宏/21・22号までで打ち切り終了
 ◎04年連載開始
 『未確認少年ゲドー』作画:岡野剛/12号までで打ち切り終了
 『Wāqwāq』作画:藤崎竜/23号までで打ち切り終了

 年度後半の新連載不振が祟り、長期連載の終了は4作品、それも02年以降に連載が始まった比較的新顔の部類に入る作品ばかりでした。しかもこれらの作品と入れ替わって立ち上げられた新連載の商業成績は、先述の通り現状は非常に小粒なものに留まっています。残念ながら今年度の連載入れ替えは、お世辞にも成功とは言えないものになってしまったと言って良いでしょう。
 『ムヒョ』『ネウロ』などの05年度新連載作品が今後ブレイクする可能性を最大限好意的に見たとしても、辛うじて現状維持を達成するだけで精一杯だった……とまとめるのが許される最大の妥協になりそうです。救いなのは、好調だった昨年度に“不良債権”的な長期連載作品の多くを片付けてしまっていたため、1年間の停滞も大きなマイナスにならなかったという事ですが……。

 さて、それでは「ジャンプ」総括の締め括りとしまして、現在の誌面構成を俯瞰し、近々の展望などを述べさせてもらおうと思います。今年も昨年までの例に倣い、連載作品のポジションを相撲の番付に喩えてお話してゆきます。

 長年「ジャンプ」の看板・天下無双の“横綱”として君臨している『ONE PIECE』は、またしても1年を無難に乗り切り、年度明け早々にも連載400回を達成する見込みとなりました。もはや週刊連載では追いかけ切れないほどに肥大化の一途を辿る作品のスケールを持て余し気味ではあるものの、単行本売上は依然として不動の首位をキープし、シナリオの完成度も高度に安定しています。あらゆる面において他作品の追随を許さず、もはや驚異的を通り越して奇跡的と言っていい長期安定政権です。
 それにしても、ここまで連載が続きながらなお、上がることはあれど下がる事の無い作者のモチベーションには感服させられてしまいます。過去の「ジャンプ」看板作品ではほぼ例外なく取り沙汰される「連載を終わらせたい作者と、そうさせたくない編集部」の構図が、ことこの作品に限ってはチラつく事すら無いというのはもっと話題になっても良いのではないでしょうか。

 さて、この偉大なる“横綱”の脇を固める“大関”陣ですが、こちらの方は微妙な力関係の変動が起こっています。
 まず、昨年度にセンセーションを巻き起こし、いきなり“東正大関”の座を掴んだ『DEATH NOTE』ですが、連載中断を挟んで第2部に突入してから急失速してしまいました。人気キャラLの死、読者の都合を考えずに複雑化する一方の設定とストーリーなど、理由はいくつか考えられるのですが、ともかくも掲載順は中位前後へ転落し、単行本売上も最新巻では『BLEACH』の後塵を拝するなど、目に見える形での衰微が始まりつつあります。過去にも連載中断からの第2部開始で失敗した作品がいくつかありますが、この作品もその例に漏れる事は許されなかったようです。
 これに替わって、“東正大関”には『NARUTO』が返り咲き。こちらも連載中断と第2部再開を敢行しているのですが、作中の時間を進めた他は設定の変更をマイナーチェンジに留め「以前と変わらない『NARUTO』」をアピール出来ているのが功を奏しているようです。
 これに続くのが、すっかり「ジャンプ」上位陣の一角が板に着いた『BLEACH』で、先に述べた通り後退した『DEATH NOTE』と熾烈な3番手争いを演じています。更に“張出大関”として、現在掟破りの“公傷休場中”ながらも依然として単行本売上はトップクラスを維持している『HUNTER×HUNTER』が泰然自若の構えを見せ、『テニスの王子様』も2場所に1度のペースでカド番を迎えながらもギリギリ踏ん張っているような状況です。

 これに続く“関脇”クラスの作品は、アニメ化後のブレイクが期待ほど果たせず、残念ながら“大関”への昇進を見送られた格好の『アイシールド21』と、単行本部数ではトップクラスの成績を誇りながら、掲載順が伸び悩んだ挙句に度重なる長期休載でミソをつけてしまった『D.Gray−man』の2作品。しかしこの両作品も他誌で言えば悠々看板クラスの成績を誇示しており、これらの作品が中堅を固めているという事そのものが「ジャンプ」の上位層の分厚さを証明していると言っても過言ではないでしょう。
 その下の“小結”クラスには、アニメ化が決定した『銀魂』と、堅実に固定ファンを増やしている『家庭教師ヒットマンREBORN!』。これに続く“幕内上位”クラスは、05年度組の有望株『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』『魔人探偵脳噛ネウロ』が早々に進出し、06年度での飛躍を目指します。
 こうしてみると、実に頼もしい限りの「ジャンプ」連載上位陣ではありますが、05年度後半開始作品が多数を占める下位グループとの格差が広がりつつある事や、“横綱・大関”格の多くが20世紀生まれの超長期連載作品に占められているという現状は、決して褒められたものではないでしょう。ウェブ版でこの年間総括を開始して今年で4年になりますが、この4年間絶えず提言してきた「次代の看板作品輩出」が未だに果たされていないのは残念でなりません。ましてや、今年度後半からの新連載不振が深刻なだけに、懸念は増すばかりです。
 束の間の中興から一転、再び見通しの悪い踊り場へと足を踏み入れた「ジャンプ」の前に待っている階段は、果たして昇りなのか、それとも降りなのか。心配の種は尽きねど年は明け、早くも新しい1年が始まっています。



 2.「週刊少年サンデー」05年度総括

 2−1.05年度「サンデー」新連載作品総括

参考資料5・「サンデー」05年度新連載作品一覧

『最強! あおい坂高校野球部』作画:田中モトユキ
『兄踏んじゃった』作画:小笠原真
『ブリザードアクセル』作画:鈴木央
『見上げてごらん』作画:草葉道輝
『うえきの法則プラス』作画:福地翼
『クロスゲーム』作画:あだち充
『ネコなび』作画:杉本ぺロ
『あいこら』作画:井上和郎
『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志

 04年秋、以前からネガティブな噂の絶えなかった三上信一氏と、“交換トレード”の形で「ヤングサンデー」誌から移籍し「週刊少年サンデー」の新編集長に就任した林正人氏残務処理も一段落した05年度は、彼による新体制が本格的にスタートした1年だったわけですが、その編集方針は、おおよそフレッシュさに欠けた上に極めてディフェンシブなものとなってしまいました。
 こうなるに至った理由に関しては、業界内でも噂が錯綜しているようですが、ともかくも、05年度の「サンデー」には、ある種の逼塞感のようなものがついて回ってしまったのは事実でしょう。

 05年度の新連載は9作品。これは昨年・04年度と全くの同数ですが、その04年度は前年度以前に比べて新連載の数が目に見えて減った年でしたので、これは横ばいというよりむしろ、「人材不足による新連載減少傾向の長期化」と表現すべきではないでしょうか。
 しかもそのラインナップを見ると、ストーリー系7作品の作者は全員が1年以上の長期連載経験者で、しかも多くのケースが前作の連載終了から短期間のインターバルでの連載立ち上げです。一方で、新人の抜擢は雑誌の商業成績には深く関わらないショートギャグ枠の1作品のみに留まりました。
 後出の参考資料6をご覧になればお判りになると思いますが、ベテラン作家が強く、新人に割って入る余地が少ないような印象の強い「サンデー」でも、毎年新連載作品の1/3〜半数程度は連載未経験の若手作家さんが抜擢されるのが普通。ここまで中堅・ベテランに頼り切った新連載の立ち上げは極めて異例の事態と言えます。 

参考資料6・「サンデー」02〜04年度新連載作品一覧

※02年度新連載作品
『旋風(かぜ)の橘』(作画・猪熊しのぶ)
『焼きたて!! ジャぱん』(作画・橋口たかし)
『365歩のユウキ!』(作画:西条真二)
『史上最強の弟子ケンイチ』(作画:松江名俊)
『一番湯のカナタ』(作画:椎名高志)
『鳳ボンバー』(作画:田中モトユキ)
『いでじゅう!』(作画:モリタイシ)
『ふぁいとの暁』(作画:あおやぎ孝夫)
『きみのカケラ』(作画:高橋しん)
『美鳥の日々』(作画:井上和郎)
『D−LIVE』(作画:皆川亮二)

※03年度新連載作品
『ワイルドライフ』(作画:藤崎聖人)
『MAR(メル)』(作画:安西信行)
『俺様は?(なぞ)』(作画:杉本ペロ)
『売ったれダイキチ!』(作:若桑一人/画:武村勇治)
『ロボットボーイズ』(作:七月鏡一/画:上川敦志) 
『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』(作画:中井邦彦)
『結界師』(作画:田辺イエロウ)

※04年度新連載作品
『怪奇千万! 十五郎』(作画:川久保栄二)
『暗号名はBF』(作画:田中保佐奈)
『こわしや我聞』(作画:藤木俊)
『思春期刑事ミノル小林』(作画:水口尚樹)
『DAN DOH!!〜ネクストジェネレーション〜』(作:坂田信弘/画:万乗大智)
『道士郎でござる』(作画:西森博之)
『クロザクロ』(作画:夏目義徳)
『東遊記』(作画:酒井ようへい)
『ハヤテのごとく!』(作画:畑健二郎)

注:作品・作者名太字は、その作家にとって初の長期連載(但し、「サンデー」系列誌の短期集中連載&増刊連載は「長期連載」とカウントしない)となる作品を表す。

 そうやって、超守備的な編集方針で立ち上げられた今年度の新連載、これで失敗に終わったら目も当てられない所でしたが、幸いにもその新連載の全作品が健在なまま次年度へ残留。とりあえず低落傾向に歯止めをかけるという一定の成果を挙げることは叶った格好です。
 06年度に入ってからは、新連載に(やや年季が入り過ぎているとはいえ)連載未経験の若手作家さんを続けて抜擢するなど、やや“攻め”のスタンスに移行しつつありますが、これも05年度を石橋を叩いて固めるような地盤作りに費やしたからこそのゴーサインなのでしょう。林編集長がヒラ編集時代に立ち上げた連載は『からくりサーカス』『ARMS』『リベロ革命!!』『DANDOH!!』『トガリ』など、結構「サンデー」の王道から逸れた冒険的な作品も多いのですが、編集長としての仕事振りはかなりの慎重派であるとお見受けします。
 何はともあれ、これが三上前編集長時代には、想像を絶する駄作・失敗作が立ち上げられては散々な成績で短期打ち切りに遭うというケースが頻発していただけに、少なくともその点に限れば編集長交代の意義は見出せたと言えそうです。

 ただし、その残留した全作品のうち、『うえきの法則プラス』は作者・福地翼さんの“体調不良”のために無期限の休載に突入し、ギャグ系2作品は連載が続いてはいるもののネット界隈など巷の評判は低調。他の作品についても、商業的に景気の良い話題は、初版部数を打ち切り作品並に留めていた『絶対可憐チルドレン』の単行本1・2巻がスマッシュヒットし品薄となったぐらい。つまり、無残な失敗こそ避けられたものの、成功を収めたとも容易には言えない、そんな作品ばかり集まったのが05年度新連載作品の特色ですね。
 よって、ストーリーのクオリティ的には手堅く読ませる作品が多く、今後のブレイクに期待が持てる作品も無いとは言えませんが、現時点において、今年度の新連載作品の将来性は、過去3年と同様「ひょっとしたら近い将来スマッシュヒットするかも知れないのが1〜2作品」といったところ。どこに居るのか分からないポスト『コナン』『犬夜叉』を求める「サンデー」編集部の苦悩に満ちた懸命な戦いが、06年度に入った今もなお続いています。

 2−2.05年度「サンデー」読み切り作品総括

参考資料7・「サンデー」05年度読み切り作品一覧

※短期集中連載(数回で終了する事が連載開始時から確定している作品)
『あやかし堂のホウライ』作画:金田達也《原案協力:藤田和日郎》

※単発読み切り作品・正規枠
『TWIN-kle STAR』作画:谷古宇剛
『すけっとはメガネくん』作画:寒川一之
『伝説の帰宅部 Returner』作画:森尾正博
『石澤の慎さん』作画:都築信也
『トイレの怪人』作画:佐藤将
『蹴闘男』作画:飯島潤
『キングさん』作画:福井祐介
『やってくる!!』作画:河北タケシ
『たまねギィィ!!!』作画:突飛
『父さんとオモチャ達』作画:クリスタルな洋介
『ハルが来た!』作画:小山愛子
『マリンハンター』作画:大塚志郎
『エリート道場のエリート教室』作画:福井ユウスケ

※単発連載作品・代原枠
『名犬ジョン』作画:橋本時計店
『お坊サンバ!!』作画:飯島浩介
『ラブリー フェアリー』作画:小野寺真央
『天晴れ! 半ケツ侍』作画:遊眠
『織田信夫』作画:飯島浩介

 ※その他企画モノ
『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』作画:曽山一寿
『ザスパ草津物語〜夢は枯れない〜』作画:向後和幸
『カミロボ誕生物語』作画:あおやぎ孝夫
『山本KID徳郁物語 〜神の子に与えられた試練〜』作画:山田一喜

 編集長交代に伴う編集方針の変更で、最もそれが形になって現れたのが、この読み切り作品の扱いの変化でしょう。今年度もはじめは毎週のように若手作家さんによる読み切り作品が掲載され、週によってはギャグ系読み切りが3本掲載されたケースすらありましたが、春以降は代原を除けば指折り数えても片手で数えるほどに激減。結果、短期集中連載1本、正規枠読み切り13本と、昨年に比べてほぼ半減してしまいました。
 この大幅な方針変更の確たる理由は不明ではありますが、これまで数年間で多数の読み切りや短期集中連載が立ち上げられたにも関わらず、それがなかなか連載ヒット作品・作家の輩出に繋がらないという事実を考えると、理解に苦しむ事はありません。実際、05年度の読み切りから新連載作品は1つも輩出されておらず、これでは「毎週毎週ページを無駄に捨てるぐらいなら、中堅・ベテランの新連載を1本立ち上げて、それをずっと載せた方がマシ」という考えになってしまうのも、むしろ自然というものでしょう。
 新連載でも超守備的な編集方針でこれ以上無く手堅いまとめ方をした今年の「サンデー」です。読み切り作品に関係する編集方針も、作品を載せるよりも、まずは週刊本誌に載せられるような作品と、そのような作品を描ける作家さんの発掘・育成を水面下で進めるという方向にシフトしていったのではないでしょうか。

 ただ、06年度に入ってからは、図らずも長期連載作品の休載が目立ったために、代原作品の掲載を強いられるケースが増えて来ました。せっかく読み切り掲載数を厳選し始めたというのに、結果的により一層クオリティの低い作品で誌面を埋めざるを得なくなってしまったのは皮肉ですよね。
 せっかく舵を大きく切ったのに、突風が吹いて元の木阿弥に戻された“「サンデー」丸・船長”の忸怩たる思いがこちらまで伝わって来るような気がします。まったくもって、世の中というのは思うようにならないものですね。


 2−3.05年度「サンデー」連載作品動向の考察および全体概括

参考資料8・「サンデー」連載作品動向一覧

☆2005年度に越年を果たした連載作品
 ◎94年度連載開始
 
『名探偵コナン』作画:青山剛昌
 『MAJOR』
作画:満田拓也
 ◎95年度連載開始はなし
 ◎96年度連載開始
 『犬夜叉』作画:高橋留美子
 ◎97年度連載開始
 『からくりサーカス』作画:藤田和日郎
 ◎98年度連載開始はなし
 ◎99年度連載開始はなし
 ◎00年度連載開始はなし
 ◎01年連載開始
 『金色のガッシュ !!』作画:雷句誠
 ◎02年度連載開始 
 『焼きたて!! ジャぱん』作画・橋口たかし
 『史上最強の弟子ケンイチ』作画:松江名俊
 『D−LIVE』作画:皆川亮二
 ◎03年度連載開始
 『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人
 『MAR(メル)』作画:安西信行
 『結界師』作画:田辺イエロウ
 ◎04年度連載開始 
 『ハヤテのごとく!』作画:畑健二郎
 ※『クロザクロ』作画:夏目義徳)は06年1号までで打ち切り終了
 ※『道士郎でござる』作画:西森博之)は06年5・6合併号までで打ち切り終了。

☆2005年度に連載終了した長期連載作品
 ◎97年度連載開始
 『モンキーターン』作画:河合克敏/3号までで円満終了
 ◎01年連載開始
 『KATSU!』作画:あだち充/12号までで円満終了
 ◎02年度連載開始
 『いでじゅう!』作画:モリタイシ/30号までで円満終了
 ◎03年度連載開始
 『俺様は?(なぞ)』作画:杉本ペロ/8号までで打ち切り(?)終了
 ◎04年度連載開始
 『こわしや我聞』作画:藤木俊/53号までで円満終了
 『思春期刑事ミノル小林』作画:水口尚樹/31号までで打ち切り終了
 『東遊記』作画:酒井ようへい/22・23合併号までで打ち切り終了

 05年度は、新連載の本数こそ少なかったものの、それらが全て越年を果たしたという事もあり、年度内に終了した長期連載作品は7作品となりました。終了した長編連載の作品数の推移は02年度9本、03年度5本、04年度8本となっており、今年度は「サンデー」としてまずまず平均的な数の“人事”だったと言えるのではないでしょうか。
 終了した連載のラインナップを見ても、昨年の『かってに改蔵』『きみのカケラ』のように「事件性」のある連載終了は皆無。敢えて挙げるなら『東遊記』の無残な打ち切られ方がトピックになるのでしょうが、やはり全体的に見れば、特筆すべき事柄に欠ける印象です。
 この辺りにも、新体制「サンデー」の無難さが見え隠れしていますね。ほとんどの作品が、それぞれ定められた“天寿”を全うし、実に穏やかな終わり方をしています。喋るネタが無いのは少し困ってしまいますが(笑)、でもやっぱり「サンデー」の連載作品はこうであってもらいたいですよね。

 さて、こちらも締め括りとして、「サンデー」の誌面構成の俯瞰と展望をしておきましょう。
 05年度においても、ここ数年と同じく上位の序列には大きな変化はありませんでした。04年度のアニメ化と共に大躍進を遂げ、「サンデー」の看板作品の地位を奪取した『金色のガッシュ!!』と、連載開始から10年を越えてもなお単行本売上では依然「サンデー」でトップを誇る『名探偵コナン』が堂々たる東西の“横綱”。現在商業的にはやや低迷気味の「サンデー」内で、「ジャンプ」や「マガジン」の猛者たちと互角に張り合える作品は、恐らくこの2作品だけでしょう。
 この2作品に次ぐ3番手はやはり『犬夜叉』。しかしこの長らく「サンデー」を牽引して来た“功労者”も、テレビアニメの一時中断や超長期連載による固定ファンの目減りのため、ここ数年静かに進行していた商業的成績の衰えが、ここ1年でとみに目立つようになりました。勿論、衰えたりとは言えまだまだ『ガッシュ』『コナン』以外の作品とは別格の地力と知名度は維持していますが、それでも元・看板作品として君臨した威光を保ったまま幸せな結末を模索するのなら、決断を下すべき時はいよいよ近付いているのではないでしょうか。

 さて、「サンデー」連載陣の序列を付けるにあたって、困ってしまうのが4番手以降のスマッシュヒット級作品群の扱いです。
 昨年の「年間総括」でも少し述べましたが、「サンデー」では近来2〜3年の傾向として、アンケート(掲載順)上位の常連にいる作品は意外なほど単行本の売上が伸びず、逆に巻末付近に追いやられているベテラン作家さんの作品が高年齢層の固定ファンに支えられて、単行本の売上げでは大健闘する…という奇妙な逆転現象が常となっています。そのため、「雑誌のポジション上位」組と「単行本売上上位」組の上下関係が極めて複雑に入り組んでおり、「ジャンプ」のような単純明快な序列付けが非常に難しいのですね。
 それでも苦心惨憺して番付を作成するとしましょう。まず“大関”は残念ながら今年度も空位。せめて「マガジン」勢のトップクラスに伍して、単行本売上ランキングの上位に常時名を連ねるようにならなければ、推挙の声はかかりそうにありません。
 その代わり、アニメ化作品が増えたことで“関脇・小結”クラスはなかなかの粒揃いになって来た感があります。まずはアニメ化で勢いを増した『MAR』『焼きたて!! ジャぱん』が存在感を発揮する一方で、それに大ベテランの『MAJOR』と、クオリティの高い絵・ストーリー勝負の正攻法で中堅上位をキープする『結界師』も健在。更には単行本セールスも比較的好調な『ハヤテのごとく!』も、これらに並びかける勢いです。
 それらの作品のすぐ下、“幕内上位”クラスでは、『ワイルドライフ』『史上最高の弟子ケンイチ』は雑誌内ポジションの堅調さをアピールし、『ブリザードアクセル』も、ここに来てオリンピック効果も相まって急浮上中。05年度に華麗なる復活を遂げた椎名高志さんの『絶対可憐チルドレン』も、かつての『GS美神』ファンが集中する20代後半〜30代前半の層を中心に支持を拡大しており、まさに4番手以下は団子状態と言って良いでしょう。

 こうして見ると、やはり守りの編集方針が功を奏したか、昨年に比べて「サンデー」連載陣は全体的に底が上がって来た感がありますね。ただ、やはりそれだけでは既存の読者を満足させる事はできても、離れていった元読者や、新規読者層の開拓には不十分です。やはり雑誌全体の勢いを増すためには"横綱・大関"を張れるだけの名作・人気作と、それを描く有力若手作家の育成が必要である事には疑いを差し挟む余地は無いでしょう。
 「サンデー」編集部においては、中堅・ベテランが底固く誌面を支えている今の好機を逃さず、後の看板作家候補を全力を挙げて発掘・育成することに全力を注いで欲しいところです。とりあえずは06年度から始まった若手作家さんによる新連載を出来るだけ多く成功させ、『旋風の橘』がスパイラルを起こした辺りから外れてしまった、本来「サンデー」が進むべきだった軌道に乗り直したいところですね。楽ガキしてる内に見失ったきみのカケラはどこにあるのか、365歩歩いてみたけど見当たらないよ、怪奇千万などといった悪夢にうなされる夜が二度やって来ないよう、神戸の空から一ツ橋の方向へ祈りつつ、05年度の年間回顧を終わらせて頂きます。ご清聴有難うございました。

 ──さて、明日は式典のメインイベント・「コミックアワード」表彰式であります。ここで第4回「コミックアワード」の各賞最終ノミネート作品をもう一度おさらいしておきましょう。

各部門・最終ノミネート作品
(優秀作品賞受賞作一覧・順不同)

◆ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞
『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之
『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征
『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志
『ブリザードアクセル』作画:鈴木央
※以上、いずれも長編連載版

◆ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞
『HAND'S』作画:板倉雄一
『謎の村雨くん』作画:いとうみきお

◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞
『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所(長編連載版)作画:西義之
『魔人探偵脳噛ネウロ(長編連載版)作画:松井優征
『HAND'S』作画:板倉雄一

ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞
『太臓もて王サーガ』(作画:大亜門)

◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞
『ハピマジ』(作画:KAITO)


主要賞・最終ノミネート作品

仁川経済大学賞(グランプリ)
『皇国の守護者』作:佐藤大輔/画:伊藤悠/「ウルトラジャンプ」連載中)
『ヴィンランド・サガ』(作画:幸村誠/「週刊少年マガジン」および「アフタヌーン」連載
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞受賞作)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞受賞作)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞受賞作)

◆ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
『蹴闘男 最強蹴球野郎列伝』作画:飯島潤/「週刊少年サンデー」掲載)
『マリンハンター』作画:大塚志郎/「週刊少年サンデー」掲載)
『カイン』作画:内水融/「週刊少年ジャンプ」連載)
『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜/「週刊少年ジャンプ」連載)

 今回は部門賞で“無風区”が多く、「ラズベリー」も低レヴェルならぬ高レヴェル混戦と、やや盛り上がりに欠ける面もあるのですが、その代わり、長編作品賞やグランプリの審査は困難を極めそうで、頭がキリキリと痛みます(苦笑)。発表の直前まで悩み抜く事になるとは思いますが、何とか良い形でイベントを締め括りたいですね。

 それではまた明日。授賞式の最後には重大発表もございます。お見逃しの無いよう、宜しくお願い申し上げます。(式典2日目へ続く)

 

2日目(3月11日) 
「第4回仁川経済大学コミックアワード」授賞式

珠美:「(深く一礼)本日はお忙しい中ご来場頂き、誠に有難うございます。これより『第4回仁川経済大学コミックアワード』授賞式を挙行致します。
 私、本日の総合司会及びプレゼンテーターを務めさせて頂きます、当社会学講座・講師助手の栗藤珠美です。今年もこのイベントの司会を務められることを大変光栄に思います。どうぞ、最後まで宜しくお願い申し上げます。
 そして、こちら2人は──」

順子:「アルバイトの一色順子です。今年もプレゼンテーターと、『ラズベリーコミック賞』の司会をやらせてもらいます。『ラズベリー』は、ちょっと作品に恵まれなかった1年というか、平和すぎて面白くない1年だったんですけど(苦笑)、そこは何とか多少無理してでも盛り上げたいと思います!(笑) よろしくお願いしますね!」
リサ:「お久しぶりです。研究室でお世話になってる留学生のリサ=バンベリーです。 最近は全然講義にも出てなかったんですけど、呼んでもらえてウレシイです!(笑) ガンバリますので、ヨロシクお願いします!」
珠美:「以上、3名で今年も『コミックアワード』を進行致します。毎年のことではありますが、専門のスタッフも居らず、時間も制約された中、手作りでお届けするイベントです。至らぬ点も多々有るかと思いますが、どうかご容赦下さい。
 ──さて、表彰式を始めます前に、当講座専任講師で、『コミックアワード』審査委員長を務めます駒木ハヤトより、皆様にご挨拶があります。駒木博士、どうぞ」

駒木:「まずは授賞式の開催が遅れてしまった事をお詫びしなければなりませんね。本当に申し訳有りませんでした。
 ……さて、この『コミックアワード』も回を重ねること4回目となりました。日頃、明らかにコメントし難い作品について、あれこれネチネチと指摘、ダメ出し、嫌事を頭を捻って繰り出しているわけですが、やはり本心は『良い作品を心の底から素直な気持ちで賞賛し、受講生の皆さんにお薦めしたい』という所にあるわけです。そして、この『コミックアワード』は、半分悲しいんですが、それが許される1年でほぼ唯一の日になっています。皆様には当社会学講座の、そして『現代マンガ時評』の本質に触れて頂きたいと、このように思っています。
 ──あ、『ラズベリーコミック賞』に関しては、これは当社会学講座の“本性”に触れていただけるイベントです(笑)。最近、少しでも何か批判めいた事を言うと『駒木さんともあろう方が……』とか言われてしまうのですが、開講当初は『マンガ時評』以外の所で毎日毎日毒を吐きまくっておりました。そんな開講当初の黒いユーモアに包まれた雰囲気を、少しだけ体験して頂こうと思います。深い事は考えず、どうか笑えなくても無理して笑ってもらう姿勢でお楽しみ下さい。では、今日も最後まで宜しくお願いします。」

珠美:「──それでは部門賞の発表並びに表彰へと移らせて頂きます。まず最初に、『ジャンプ』『サンデー』に掲載されたギャグ系作品を対象とする2部門の受賞作発表・表彰です。
 この2つの部門のプレゼンターは、リサ=バンベリーちゃんにお願いします。」

リサ:「──ハイ。では『ジャンプ&サンデー最優秀ギャグ作品賞』と、『ジャンプ&サンデー最優秀新人ギャグ作品賞』の2部門の発表です。このうち、『最優秀ギャグ作品賞』は『ジャンプ』と『サンデー』に載っていた全てのギャグ作品の中で一番良かったものに、そして『新人』のつく方は、これまで週刊本誌で連載をしたことがないか、これが初めての連載という人の描いたギャグ作品で一番良かったものに贈られる賞です。
 この賞は第2回に新設されて、今回が3度目の授賞式になります。これまで過去2回の受賞作は──

第2回「仁川経済大学コミックアワード」(03年度)

◎ジャンプ&サンデー最優秀ギャグ作品賞
 ※該当作なし
◎ジャンプ&サンデー最優秀新人ギャグ作品賞
 『スピンちゃん試作型』(作画:大亜門)

第3回「仁川経済大学コミックアワード」(04年度)

◎ジャンプ&サンデー最優秀ギャグ作品賞
 『無敵鉄姫スピンちゃん』(作画:大亜門)
◎ジャンプ&サンデー最優秀新人ギャグ作品賞
 『吉野君の告白』(作画:坂本裕次郎)

 ……というようになってます。表彰された作品が1クール打ち切りになったり、その後の連載作品がとんでもないコトになってたりと、マンガ家の人たちにとっては、あんまりもらってもウレシくない賞かも知れないんですけど(苦笑)、今年も勝手に表彰しちゃいますね。 
 でも、この2部門、今年もノミネート作品が少なすぎて、やっぱり2つまとめて発表することに……。1つの部門でノミネート作品1つずつなんて、ちょっと寂しいですね。作品を紹介しすぎて大変、っていうふうになってみたかったです。
 ──それでは、ノミネート作品を紹介しますね。まず『最優秀ギャグ作品賞』にノミネートされたのは
『太臓もて王サーガ』作画:大亜門。大亜門サンはこれで3年連続のノミネート、そして2年連続の受賞を狙います。個性的なキャラクターたちが繰り広げる、密度・完成度の高いギャグはこの作品でも健在。得意のパロディネタを無理なく繰り出せる世界観も作り上げ、色々な意味で遠慮の無い、インパクト十分の知的な下品さが今年も駒木博士のツボを突きました。
 そして『最優秀新人ギャグ作品賞』にノミネートされたのは、何と代原作品からのエントリーとなった『ハピマジ』作画:KAITO)です。キャリアの浅さを感じさせないレヴェルの高い画力、そして絶妙の“間”から繰り出される数々のギャグは、代原作家の域をはるかに越えていると、駒木博士も絶賛の作品でした。
 ……以上、2作品が今回のノミネート作品です。各賞ともにノミネートは1作品ですので、発表はノミネート作が受賞、または『該当作なし』のいずれか…ということになります。
 それでは今、駒木博士から受賞作が書かれたペーパーが渡されましたので、読み上げます。今年のギャグ作品2部門の受賞作品は──

 

ジャンプ&サンデー最優秀ギャグ作品賞
 ※該当作なし

◎ジャンプ&サンデー最優秀新人ギャグ作品賞
 『ハピマジ』作画:KAITO


 ……と、いう結果になりました! 今年は『新人賞』のみの授賞となりました。大亜門サンは残念でした。KAITOサン、おめでとうございます!
 ──では、駒木博士から審査についての説明をしてもらいます」 

駒木:「……はい、駒木です。まずは今年もノミネート作品の少なさからお話しなければなりませんね。今回も正賞・新人賞合わせて2作品になってしまいました。他にも大石浩二さん、佐藤将さん、橋本時計店さんなど、期待の持てる新人さんも何人かいらっしゃるのですが、あと一歩の所でノミネートに至らず。よく『手放しで褒める』という言葉がありますが、この人たちの作品は『褒めるのに手を離すのはちょっと怖い』という詰めの甘さが目立った…という感じですね。来年度以降の奮起に期待しましょう。
 さて、今回の審査についてですが、こういう競争相手がいない“単走”の賞レースというのは、やっぱり難しいですね。本来相対評価であるはずの審査に絶対評価を持ち込まなくてはならないわけですから。
 まず、『ハピマジ』については、新人賞ということもありますし、先行投資の意味も込めて授賞決定と。作者のKAITOさんはアシスタント修行中で、今は作家としての活動は停滞気味みたいですが、是非とも日常に埋もれないで作家としての活動も積極的に続けて欲しいですね。ギャグ一本で行くにしろ、高い画力を駆使してコメディ系のストーリー作家に転身するにしろ、連載でも成功する可能性が十分ある方だと思います。
 で、正賞の該当作なしについてですが、これは勿論迷いました。というか、大亜門さんに関しては3年連続で迷い続けです(苦笑)。作品のクオリティ的には昨年度の『スピンちゃん』に匹敵するぐらいのモノがあり、連載そのものも打ち切られずに成功しつつあるわけなのですが、問題は昨年度が“『世の中の多数意見におもねらない』というアピールも含めて”という条件付の授賞だったという事。それを競争相手もいない今年でもう1度となると、ちょっとこれは安易過ぎやしないかと。まぁそういうわけで、今回は授賞見送りとさせてもらいました。苦渋の選択でしたが、この作品がグランプリの有資格作品として『皇国の守護者』とか『ヴィンランド・サガ』とかと並んでしまうのもどうかと思いますしね。……僕からは以上です」
リサ:「ハイ、駒木博士、ありがとうございました。……というわけで、ギャグ系2部門の発表でした。珠美サン、どうぞ」
珠美
:「……ハイ、リサちゃん、ありがとうございました。
 ──それでは続きまして、『ジャンプ&サンデー最優秀新人作品賞』の受賞作発表・表彰へと参りましょう。
 この賞は、『週刊少年ジャンプ』または『週刊少年サンデー』において長編連載経験のない若手作家さんの描いたストーリー系作品を対象にしたもの。そのため、審査対象となる作品は、連載未経験の若手・新人作家さんが描いた読み切りや短期集中連載などの短編、そして初めて手がけた週刊連載作品に限定されます。
 ……さて、ここからは、この部門賞のプレゼンテーター・一色順子にバトンタッチします。それでは順子ちゃん、お願いします」

順子:「はい、一色順子です! 相変わらず駒木博士のコメントが言い訳がましいですねー。自分で勝手に評価出しておいて、どうしていつもあんなに迷ってるんでしょう(笑)。
 ……さて、それでは今年の『新人作品賞』のノミネート作品紹介と受賞作発表なんですが、ここでまずは過去3回の受賞作を振り返っておきましょう。

第1回「仁川経済大学コミックアワード」(02年度)

◎ジャンプ&サンデー最優秀新人作品賞
 
『アイシールド21』(作:稲垣理一郎/画:村田雄介)

第2回「仁川経済大学コミックアワード」(03年度)

◎ジャンプ&サンデー最優秀新人作品賞
 『結界師』(作画:田辺イエロウ)

第3回「仁川経済大学コミックアワード」(04年度)

◎ジャンプ&サンデー最優秀新人作品賞
 『ホライズン・エキスプレス』(作画:中島諭宇樹)

 ……どの年の受賞作も、新人賞以外の部門賞を受賞したり、最後まで争ったりと、なかなかレベルの高い賞レースになっています。『アイシル』『結界師』は今でも主力連載作品としてがんばっていますしね。中島さんについては、打ち切りに繋がらなかった方の読み切りが受賞作というのがポイントですね(笑)。『青マルジャンプ』にひっそりと載ってる方を選ぶのが、いかにも『コミックアワード』という感じじゃないでしょうか?

 では、ノミネート作品の紹介に移りましょう。今回ノミネートになったのは3作品。まずは『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之。「赤マル」掲載の読み切り版に続いて、長編連載版での再挑戦です。読み切り版・連載初期の人情モノ連作短編から一転、頭脳と特殊能力を駆使したバトル中心の本格的な長編作品にモデルチェンジしましたが、シナリオや脚本・演出の質の高さは相変わらず懐の深いストーリーテリング力を前面に、受賞しての『新人賞』卒業を目指します。
 2作品目は
魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征。こちらも長編連載版がノミネートとなりました。誌面全体から“異色作”というイメージをアピールしている作品ですが、そこに内包された技術は間違いなく本格的抜群のキャラクターメイキング力、確かな演出・脚本力に加え、澤井啓夫門下らしいギャグセンスも絶妙。娯楽作品には厳しい『現代マンガ時評』ですが、読者に“面白がられる”のではなく“面白いと思わせる”だけのパワーが、評価を押し上げました。
 そして最後は、今回唯一の短編作品となる
『HAND'S』作画:板倉雄一です。ハンドボールマニアの武闘派ヤクザの娘と付き合うことになった主人公が、彼女と自分の命を守るために未経験のハンドボールに挑戦する……という荒唐無稽なストーリーを、強引かつ鮮やかにコメディタッチの青春ドラマとして完成させた秀逸な構成力が最大の魅力。リアルとファンタジー、シリアスとギャグのバランス感覚の高さも評価されて、堂々のノミネートです。人気連載作品2編を押しのけての受賞なるでしょうか? 以上、3作品によって争われる今年の『新人作品賞』、いよいよ受賞作の発表です!

 

◎ジャンプ&サンデー最優秀新人作品賞
 『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之


 ……というわけで、リベンジ達成! 受賞作はムヒョとロージーの魔法律相談事務所』に決まりました! ゼミ内の評価から見れば順当な結果にも見えますが、どうだったんでしょう? 駒木博士、コメントをお願いします」
駒木:「えーと、そうですね。毎年この部門は物凄く審査が難航するのですが、今年は比較的スンナリと決まりました。いや、別に受賞に至らなかった2作品が物足りないという訳ではなくて、積極的に評価出来るファクターの質・量を比較したら『ムヒョロジ』が頭一つ抜けていた……といったところでしょうか。
 とにかくこの作品は、連載が進めば進むほど奥が深くなっていく所が素晴らしい。さっきの紹介の通り、連載当初は感動悲話系の連作短編、これも“泣かせ”のツボを押えた秀作が多かったんですが、そこからミステリ仕立てのサスペンスホラー、更には知能・特殊能力バトルへと転換していって、そのそれぞれがまた憎らしいほど巧い。ミステリ系作品やバトル物のセオリーはキチンと押さえていますし、その上にかつての感動悲話系のエッセンスも交えてストーリーの重厚さを増してもいます。大体この手の連作短編作品は、本格的な長編作品に転換させるのが難しいのですが、そのハンデを微塵も感じさせない才能の豊かさに感服させられました。この作品については、1年“寝かして”おいて大正解でしたね。
 で、残る2作品について。『ネウロ』は“瞬間最大風速”だけなら『ムヒョロジ』も上回るかも知れないぐらい凄い時もあるんですが、どうもこの作品、時々ストーリーがひどく一本調子になってしまう時があるんです。まぁ有り体に言えば『エピソードによってデキにムラがある』と。近い将来、キャラクターの力と刹那的な娯楽性に頼らなくなった時こそ、この作品の価値が認められるべきなのではないのかなと。まぁ現状に満足せず、もっともっと頑張って欲しい、今後に期待する…という意味を込めて“発展的落選”です。
 『HAND'S』も、冷静に見ればメチャクチャな話を上手いことまとめた…という意味で、それはそれで凄い作品ではありますが、今回ここまで内容の濃い長編作品が競争相手になると、ちょっと厳しいかなと。……まぁこの作品はすぐ後の『短編作品賞』にもノミネートされてますんで、とりあえず今はここまでかな。──まぁ審査についてはこういう感じです。」
順子:「はーい、ありがとうございました。“発展的落選”って、全然フォローになってないと思ったりするんですが、とりあえず珠美先輩にお返しします(笑)」
珠美:「……ハイ、順子ちゃん、お疲れ様でした。
 ──さて、3つ目の部門賞は『ジャンプ&サンデー最優秀短編作品賞』です。こちらの賞は、『週刊少年ジャンプ』、『週刊少年サンデー』の本誌やその系列誌で発表された全ての読み切り・短期集中連載作品を審査対象に、最優秀作品を選定します。長編連載作品に比べ、あまりクローズアップされることのない短編作品ですが、週刊本誌掲載の読み切り全作品をレビュー対象とする当講座・当ゼミでは最激戦の部門賞です。かつてはグランプリも輩出したこの賞のプレゼンテーターは、再登場のリサ=バンベリーです。リサちゃん、よろしくお願いしますね」

リサ:「ハイ。でも去年は6作品もノミネートがあったのに、今年は2作品だけのエントリーになってしまいました(苦笑)。残念ですけど、それでも一生懸命ガンバリたいと思います!
 ……では、この賞についても、過去3回の受賞作を紹介しておきますね。

第1回「仁川経済大学コミックアワード」(02年度)

◎ジャンプ&サンデー最優秀短編作品賞
 『CRIME BREAKER !!』
作画:田坂亮
 『だんでらいおん』作画:空知英秋) 

第2回「仁川経済大学コミックアワード」(03年度)

◎ジャンプ&サンデー最優秀短編作品賞
 『美食王の到着』(作画:藤田和日郎)

第3回「仁川経済大学コミックアワード」(04年度)

◎ジャンプ&サンデー最優秀短編作品賞
 『雨男、晴れ女』(作:長谷川尚代/画:藤野耕平)

 ……第1回では『銀魂』の空知英秋サンがデビュー作で受賞していますね。そして第2回では、『美食王の到着』『絶対可憐チルドレン』のものすごくレヴェルの高い一騎打ちが注目を集めました。受賞した『美食王──』はグランプリも受賞して、今のところ最初で最後の短編グランプリ作品になっています。去年の第3回でも、さっき言った通り、6作品が競り合って激しいバトルに。いったんイベントが中断してしまうぐらい審査が難航したのが印象に残ってます。

 ──というわけで、『短編作品賞』のノミネート作紹介です。『HAND’S』については、『新人作品賞』の中で紹介済なので、ここでは謎の村雨くん作画:いとうみきおだけの紹介になりますね。
 
『ノルマンディーひみつ倶楽部』『グラナダ』などでおなじみの、いとうみきおさんの新作は、現代に忍者として産まれてしまった少年の波乱に満ちた生活を描いた痛快なアクションコメディでした。『憧れる強さと、共感できる弱さ』を兼ね備えた、まさに理想的なキャラクターメイキングを施された主人公。そしてその主人公の一人称的な視点で語られるストーリーは、シンプルながら伏線も巧みに絡めた構成力と、長年のキャリアに裏打ちされた脚本・演出で読み応え十分。『ジャンプ』の良い所が出た秀作読み切り作品と言えるでしょう。
 ……もうあっという間に『短編作品賞』の発表の時間になりました。今年の受賞作は
『HAND'S』『謎の村雨くん』のどちらでしょうか──?

 

◎ジャンプ&サンデー最優秀短編作品賞
 『謎の村雨くん』作画:いとうみきお

 ……というわけで、最優秀短編賞は『謎の村雨くん』でした! 駒木博士、解説ヨロシクです」
駒木:「いやー、やっぱり『短編作品賞』のノミネート作品が少ないのは寂しいですねぇ。毎年審査に頭を痛める部門だけに、余計拍子抜けしてしまいます。05年度は短編巧者の若手作家さんがみんな連載枠を獲得してしまったので仕方ないとはいえ、『サンデー』からはノミネート無しとは……。『ジャンプ』も増刊レビューをあれだけやったにも関わらずこうれですし、短編、特に新人・若手作家さんの新作については大不作だったと言わざるを得ないでしょう。
 それでも、『謎の村雨くん』は受賞作に相応しいクオリティの作品でホッと一息です。第2回はともかくとして、他の2回の受賞作となら互角に戦えるんじゃないでしょうか。
 受賞の決め手は、やはり主人公のキャラクター。それから現実離れした世界観設定でも読み手を納得づくで楽しませてしまう説得力ですね。荒唐無稽を荒唐無稽と感じさせないようにする力業がむしろ心地良いという。
 『HAND'S』
も良い作品ではあるんですが、まだストーリーの非現実さが鼻についてしまう嫌いがあって、その分だけ見劣ってしまいました。また、絵の完成度が余りにも違い過ぎるというのもマイナス材料でしたね。失礼かも知れませんが『ダイヤモンドの原石よりも、磨き抜かれた真珠』といったところでしょうか」 
リサ:「ハイ、ありがとうございました。珠美サン、あとはヨロシクです」
珠美:「……ハイ、お疲れ様でした。リサちゃんには特別表彰でもう一頑張りしてもらいますね。
 ──さて、いよいよ5つある部門賞も最後の1つ。05年度に週刊連載の始まった長編作品を対象にした、『ジャンプ&サンデー最優秀長編作品賞』。この賞のプレゼンテーターは、不肖私、栗藤珠美が担当させて頂きます。どうか宜しくお願い申し上げます。
 ではまず、過去3年間の受賞作の紹介からお送りしましょう。各年に賞を受けたのは次の作品でした。

第1回「仁川経済大学コミックアワード」(02年度)

◎ジャンプ&サンデー最優秀長編作品賞
 『アイシールド21』
作:稲垣理一郎/画:村田雄介

第2回「仁川経済大学コミックアワード」(03年度)

◎ジャンプ&サンデー最優秀長編作品賞
 『武装錬金』(作画:和月伸宏)

第3回「仁川経済大学コミックアワード」(04年度)

◎ジャンプ&サンデー最優秀長編作品賞
 『DEATH NOTE』(作:大場つぐみ/画:小畑健)

 ……これまでは何と『ジャンプ』勢の3連覇。“次点”に相当する作品も、第2回で『結界師』がギリギリまで競り合った他は『ジャンプ』作品に占められています。『サンデー』にヒット作が出ていないわけではないのですが、駒木博士のお目に適う作品がなかなか出ませんでした。
 しかし、今回に関しては『サンデー』から強力な2作品がノミネート。4連覇を目指す“『ジャンプ』代表”の
『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』『魔人探偵脳噛ネウロ』に真正面から挑みかかります。
 まずは
『ブリザードアクセル』作画:鈴木央。異例の『ジャンプ』から『サンデー』への移籍を果たした鈴木央さんの、これも少年マンガ誌では異例と言える本格フィギュアスケート作品です。ページ数をたっぷりと費やしたストーリーの土台作り、そして、専門的で詳細な技術解説を交えた競技シーンと、『サンデー』作品らしい丁寧な描写が大変印象的。それでいて、明快なカタルシスを読み手に与える少年向けスポーツ作品の“王道”も外さない構成力の巧みさも光ります。『コミックアワード』受賞で、古巣『ジャンプ』に強烈な“恩返し”を果たすのでしょうか?
 そして続きましては今回の“大本命”、
『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志が満を持して登場です。読み切り、短期集中連載、そして今回の本格長編連載と、足掛け3年かけて練りこまれたキャラクターと世界観の設定はまさに究極の水準そこへ椎名さんの才能と長いキャリアに裏打ちされたストーリーテリング力が加わって、本当に素晴らしい作品が出来上がりました。さぁ、念願の受賞なりますかどうか。
 ……
『ジャンプ&サンデー最優秀長編作品賞』にノミネートされました以上4作品、果たして本年度の“マスターピース”はどれなのでしょうか? いよいよ発表です!

 

◎ジャンプ&サンデー最優秀長編作品賞
 『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志

 ……以上のように、05年度『最優秀長編作品賞』は『絶対可憐チルドレン』に決定いたしました! 3年越しの受賞、椎名さん、おめでとうございました! ……では、駒木博士からコメントを頂きます。今年はやはり順当な審査結果になった…ということで良いのでしょうか?」
駒木:「まぁそういう解釈をしてもらって良いでしょうね。『絶対可憐チルドレン』はとんでもない作品です。どれくらいとんでもないかと言うと、何もかもが巧過ぎるので、普通に読み飛ばしてたら全く凄い事に気付かないぐらい、とんでもない(苦笑)。巷の作品が『こういう事まで出来て凄いなぁ』と感心されるような事を、いとも簡単にサラリとやってのけているものだから目立たなくなってしまうんです。
 確かに、やっている事自体は、他の『ジャンプ』『サンデー』の長編作品と大して変わらないですよ。例えばエピソードごとに個性十分のゲストキャラを出すとか、エピソードの序盤から中盤にかけて伏線を張って、終盤にまとめてキッチリと回収するとか、この賞にノミネートされた作品だったら大体出来てるものばかりです。ただ、それを数話完結の短・中編を連作させていく中で、ほとんどクオリティにムラも無く高度超安定飛行を続けている作品が他にあるかというと……という話なわけですね。
 『絶チル』は、脚本、演出、主要登場人物のキャラクターメイキングなど、作品を構成するあらゆるファクターに穴が無い作品なのですが、悲しいかな、あまりにソツが無さ過ぎると良い所がそれほど目立たなくなってしまい、積極的な評価を得られる事が出来難くなるんです。また、あらゆる所に趣向を凝らしている分だけ、読み手によって好き嫌いが分かれるポイント、つまり『自分が好かない所があるから、この作品は駄目』となってしまう要素が多くなってしまうんですね(苦笑)。
 しかし、そういう作品を“好き嫌い”というフィルターを通さず、技術と意匠の凝らし具合をクローズアップして評価するのが、『現代マンガ時評』の、そして『コミックアワード』の使命です。ならば、これはもう何が何でも受賞させなくてはいけないでしょう。
 落選した3作品に関しては、まぁ今年は相手が悪かったとしか言いようが無いですね。『ムヒョとロージーの──』は総合的に少しずつ力が足りず、『ネウロ』はエピソードごとのクオリティの安定感で明らかに遅れをとり、『ブリザードアクセル』はストーリーの濃密さと、そこに注入された技術の絶対量が不足していました。あと、この作品については、大仰なリアクション描写で安直に読者人気を獲りに行った製作姿勢も大きな減点になりました。
 ──でも、これだけ詳しく解説しても『結局、駒木の好き嫌いじゃねえか』とか言われるんだろうね(苦笑)。まったく、割に合わない仕事だよ」 
珠美:「(苦笑)……ハイ。博士、どうもありがとうございました。
 ──以上をもちまして全ての部門賞の受賞作が出揃いました。これによって、グランプリ・『仁川経済大学賞』の最終ノミネート作品も確定したことになります。
 それでは、ここで改めまして、皆様にグランプリ・『仁川経済大学賞』の最終ノミネート作品を紹介致しましょう。

仁川経済大学賞(グランプリ)
最終ノミネート作品

『皇国の守護者』作:佐藤大輔/画:伊藤悠
『ヴィンランド・サガ』作画:幸村誠
『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志
『謎の村雨くん
作画:いとうみきお

 ……以上4作品の中から、当社会学講座が選定する05年度最優秀作品・第4回『コミックアワード』グランプリ作品が選出されます。発表まで、今しばらくお待ち下さいませ。
 ──それでは皆さんにはここで『ラズベリーコミック賞』の発表・表彰式で楽しんで頂きます。私はここで一旦失礼させて頂き、一色順子ちゃんと司会を交代します。──それでは、順子ちゃん、宜しくお願いしますね」

順子:「──はーい、お待ちかねの『ラズベリーコミック賞』、今年もわたしが司会とプレゼンテーターを務めさせてもらいます! ノミネート作品をバッサバッサと斬って刻んでいきますので、ご期待下さい!(笑)
 ……さて、まずは恒例・一色順子選定の『ベスト・オブ・打ち切り』から。今回は打ち切りらしい打ち切りが少なくて困ってしまいましたが、『コミックアワード』の直前になってスゴい作品が現れました。そう、
『タカヤ −閃武学園激闘伝─』作画:坂本裕次郎です。何しろ打ち切り最終回が新連載第1回を兼ねてるんですから凄いですよねー(笑)。駒木博士は『熱血硬派くにおくん』をやってたら、キャラ絵が同じままで突然『ヘラクレスの栄光』が始まったみたいだ」って言ってました。わたしはイマイチ意味が判らないんですけど、博士と同年代の人なら判る……んでしょうか?(笑)
 ──さて、いつものように軽い準備運動も終わったことですし(笑)、それではいよいよ『ラズベリーコミック賞』の表彰式に移りたいと思います。
 今年で4回目、もう詳しい説明もそろそろいらないと思いますが、一応説明させてもらいますね。この『ラズベリーコミック賞』は、映画の『ゴールデンラズベリー賞』をモチーフにした“ちょっとキツ目のシャレ”。年度内でレビューした全ての作品の中から、駒木博士の独断と偏見で選ばれる“最悪作品賞”です。まあ具体的にどういう賞なのかは、これまで3回の受賞作を見てもらうのが一番だと思いますんで、ここで紹介しておきましょう。

第1回「仁川経済大学コミックアワード」(02年度)

ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
 『エンカウンター 〜遭遇〜』作画:木之花さくや

第2回「仁川経済大学コミックアワード」(03年度)

ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
 『テニスの王子様 特別編・サムライの詩』(作画:許斐剛)

第3回「仁川経済大学コミックアワード」(04年度)

ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
 『怪奇千万! 十五郎』(作画:川久保栄二)

 ……いかがですか? 見事な21世紀マンガ界の黒歴史ですね(笑)。超ド級スカ作品の間に挟まれても全く違和感の無い『テニスの王子様』番外編の存在がとても素敵です。
 あ、皆さんがとても心配していた川久保栄二先生の消息ですが、去年から『小学三年生』の付録ミニ雑誌で、かの迷作
『―蹴球伝― フィールドの狼 FW陣!』をパクったような設定のサッカーマンガを連載中です。この期に及んで川久保先生を使おうとする小学館は、杉村太蔵センセイを次の衆院選で北海道1区から出馬させようと猛プッシュする自民党・武部幹事長ぐらいグルービーだと思います。

 ──それでは第4回『ラズベリーコミック賞』にノミネートされた4作品を紹介しますね。でも、今回は『ラズベリー』候補を量産してくれた三上前編集長がいなくなった影響で、ちょっと寂しいラインナップになってしまいました。もし三上さんがまだ『週刊少年サンデー』にいたら、きっと最近の萌えブームに乗っかる形で、メイド喫茶でバイトする女子高生が女湯で剣道をおっ始めるようなマンガをプロデュースしてくれたはずなので、ちょっと残念です。
 
 ……さて、無い物ねだりしてないでノミネート作の紹介をしましょう! まずは
『蹴闘男 最強蹴球野郎列伝』作画:飯島潤です!
 霧木凡ケン先生が色物マンガ家人生に見切りをつけてバイバイジャンプしてしまった05年、その穴を…いえ、せっかく埋まった穴をもう一度掘り返した男がいました。その名は飯島潤。『ジャンプ』新人として93年にデビューするも、完膚なきまでに飼い殺されて大成せず、ついに10年経った03年、新人賞に応募する一アマチュアに戻って再出発し、『サンデー』へ移籍。そこまでして描き上げた作品がよりにもよってこんなのでした。
 まず『蹴闘男』と書いて『シュートゥーメン』と読ませる時点で読者に多くを悟らせる親切な仕様が心憎いばかりですが、内容の方も期待を裏切りません。何しろ主役級3人のサッカーをやる目的がそれぞれ『女にモテたいだけ』『ヤンキーの良さをアピールする』『世界のファッション業界を支配する』。一番最初のはともかく、残りの2人は変わった色の救急車で特殊な病院に搬送したくなってしまいます
 そんな富士の樹海の中を盗んだバイクで走り出すような迷走の末に始まったサッカーシーンは、ファミコン版『キャプテン翼』を彷彿とさせるような正面アングルにこだわったカメラワークで映し出された、まるで昼休みの中学校運動場を思い出させるようなグダグダな内容の球遊び。気がついたら頭のおかしい人たちが10点差をひっくり返して12-10で逆転勝ちしていました。多分2トライ1ゴールでも決めたんだと思います。
 ……というわけで、この
『地上最速青春卓球少年 ぷ〜やん』『キャプテン翼』『Mr.FULLSWING』の悪いトコ取りをしたような作品で、かつてのライバル・霧木凡ケンさんが果たせなかった『ラズベリー』受賞を狙い……たかったわけじゃないでしょうけど、諸般の事情でもう
目の前です!

 続いては『マリンハンター』作画:大塚志郎ノミネートされれば出世の道が閉ざされる“逆登竜門”をくぐってしまった可哀想な人が今年も出てしまいました。
 『渡る世間は鬼ばかり』から国語力を閉店間際のダイエーの惣菜コーナーぐらい割り引いた超説明的な脚本、特殊能力バトルに見せかけて単に殴り合ってるだけの戦闘シーン、萌えを狙ったもののメッシュの入ったアホ毛以外にアイデンティティの見出せないヒロインなど、駄作の基本要素を押えるだけ押えた贅沢な仕様が色々と目移りしてしまう作品ですが、この作品の見所は何と言っても主人公です。
 『俺は人を縛るものは大嫌い』という、『10代しゃべり場』で周囲からよってたかって論破されるフリーターのような薄っぺらい思想を振りかざしながら、作者の御都合主義には縛られているという悲しいキャラクター。血を見ると正気を失うと言いながら、戦闘が終わればすぐに元に戻る、詐病のメンヘラーみたいなバーサーク能力口に引っ掛けられた呪いの釣り針という特異かつ間抜けなビジュアル設定を用意されながら、それがストーリーでは全く活用されていないという物悲しさ。そしてラストシーン、公園の池の貸しボートを思わせるボロ舟で彼は旅立……というより漂流してゆきました。そう、彼は元祖・漂流作家です!
 新連載ラッシュで盛り上がる06年の「サンデー」。出世競走を共に戦った同輩たちが次々と駆け出してゆく中、ゲート内で落馬転倒した大塚さんの将来、さて詰むや詰まざるや?

 3作品目はカイン作画:内水融。そうです、第1話を読んだ全国の『ジャンプ』読者が『(ノ∀`) アチャー』と苦笑するしかなかったあの作品を、この期に及んで引っ張りだして来てしまいました。ごめんなさい、そろそろ風化しかけた消したい記憶なのに、ほじくり返してごめんなさい!
 この作品のポイントは、やっぱり『原作を台無しにするメディアミックス』を原作者自らやってしまったというところでしょう。ほら、あの、犯人の首が『黒ひげ危機一髪』みたいに飛んでいった映画版『模倣犯』みたいな。
 そのアレンジたるや、原作にあたるプロトタイプ読み切りとリンクしたのは、題名と主人公と特殊能力の名前だけという、三池崇史監督の原作付映画を思わせるダイナミックにも程がある大胆さ。せっかく新規ファンを掴み掛けたのに、琵琶湖のブラックバスを扱うように見事なキャッチ&リリースを展開してしまいました。結局、連載は19週打ち切り。掲載順の関係上ワンセットで扱われることの多かった
『切法師』とほぼ同時にノックアウトされていった様子から、ヘル・ミッショネルズに秒殺されるモストデンジャラスコンビを思い出した人も少なくなかったことでしょう。
 しかしこの作品の連載終了後、内水さんは心温まる短編
『Forest』を発表して好評を博し、今や『短編描かせたら良い仕事する人』というキャラクターを確立しつつあります。そう、彼は印税とは縁の薄い清貧の人・内水融。カネで買えないモノだってあるんだと、東京拘置所のホリエモンに教えてあげて下さい!

 そして最後の4作品目は『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜です。
 伝説の大泥棒・ポルタが、難攻不落の防犯装置を次々と攻略してゆく華麗なテクニックが最大の見せ場であったはずのこの作品、しかしその手口はどうしようもなくちゃっちい小細工ばかりでした。ある時は回転ドアをすれ違って忍び込み、またある時は判り易い変装に身を包んでやっぱり忍び込む。敵役の間抜けさに下支えされた一連の攻略法は、大泥棒というよりむしろコソドロのそれでした。
 
『ミッション・インポッシブル』とまではいかなくても、せめて『キャッツアイ』ぐらい頑張ってくれとの声も虚しく、気がつけばストーリーはテコ入れ感たっぷりの人間ドラマへ。いかにも取って付けたような回想シーンの連続も当然特効薬とはなり得ず、人気は低迷を続けました。そして連載から16回、数々の対立候補をゴボウ抜きにして、あの『ぷ〜やん』以来となる鮮やかな1クール打ち切りを達成したのです。
 そうです、大泥棒ポルタは最後の最後で華麗に打ち切り枠を盗むという大仕事を成し遂げて、わたしたちの前から忽然と姿をくらましました。美少女クラリスの心を盗んで颯爽と消えて行ったルパン三世との格の差を感じさせるこのエピソード、まさに『ラズベリーコミック賞』に相応しいではありませんか!

 ……以上、今年の『ラズベリーコミック賞』にノミネートされた4作品の紹介でした。無理なお願いかも知れませんけど、ファンの皆さん怒らないで下さいね?(笑) では、駒木博士に今年の受賞作を発表してもらいましょう! どうぞ!

 

 

 

 

 

 

第4回ラズベリーコミック賞
受賞作

 

 『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜

 ……ということで、第4回『ラズベリーコミック賞』は『大泥棒ポルタ』に決まりました!  ……これは博士に理由を聞いてみたいですね。決め手は何だったんですか?」
駒木:「……いやー、順子ちゃんには随分と頑張ってもらったんだけどね、今年はどの作品も駄目っぷりのスケールが小さかったよねぇ。大物作家さんも居なけりゃ、鳴り物入りで始まって大コケしたような落差の激しい作品も無かったし。
 そういうわけで今年はドングリの背比べ。作品の駄目さ加減で言えば、『蹴闘男』の方が上なのかも知れないけれど、殆どの人が存在すら覚えてないような作品に賞をあげたって意味が無いからね。だったら、ここは『ジャンプ』伝統の1クール打ち切りを復活させた功労賞の意味合いも込めて『ポルタ』にしようと。まぁそんなところかな」
順子:「『殆どの人が存在すら覚えてないような作品に賞をあげたって意味が無い』とか、今年はナニゲに博士もキツいですね(苦笑)。まあ事実だと思いますけど(笑)。
 え〜と、そういうわけで今年はちょっと残念な感じだった『ラズベリーコミック賞』の表彰式でした。では、ここからまた珠美先輩に司会をお返しします」

珠美
:「……ハイ、順子ちゃん、お疲れさまでした。では、ここからはまた私、栗藤珠美が司会進行を務めさせて頂きます。
 ──さて、あとはグランプリの発表を残すのみとなりましたが、ここで今年も特別表彰を実施します。この特別表彰は、過去にレビューした作品のうち『コミックアワード』ノミネート資格期間終了後にレビューされた「ジャンプ」「サンデー」以外の作品連載開始1年以上を経てから特にクオリティの上昇が認められた作品、また、特に功績のあった人物・作品などについて表彰するという趣旨で、昨年設けられたものです。同じように『ラズベリーコミック賞』の特別表彰もございます。
 それでは、表彰作品の発表は、プレゼンテーターの順子ちゃんとリサちゃんにお願いしましょう。」

リサ:「ハイ。ワタシから紹介するのは“良い方”の作品です(笑)。今年の特別表彰作品は1作品、実は4年ほど前にレビューをしていたこちらの作品です。どうぞ!」

※05年度・特別表彰※

 ◎特別功労賞(長期連載を続ける中で、著しい作品のクオリティ上昇を果たした功績に対して)
 
『医龍-Team Medical Dradon-』作画:乃木坂太郎/原案・永井明

 

 順子:「…そしてわたしからは、『ラズベリー特別表彰』を発表したいと思います。去年は前『サンデー』編集長の三上さんに授賞して色々と論議をかもしたんですが、今年も懲りずに裏方さんである編集さんを勝手に表彰したいと思います。鋭い人はもうお分かりですね? そう、この人です!」

※05年度・ラズベリー特別表彰※

 ラズベリーコミック特別功労者賞
 
(担当作家の著作物と公共の誌面に対する数々の私物化行為に対して)
 冠茂「週刊少年サンデー」編集

 

珠美:「……ハイ、2人とも有難うございました。それでは、駒木博士にこの特別表彰についてコメントを頂きます」
駒木:「まずは特別功労賞『医龍』から。多分殆どの受講生さんが、この作品をレビューしてた事を知らないんじゃないかと思うんですが、実は講座開講当初、この作品の連載が始まって間もない頃にレビューしてたんですね。当時はまだケレン味の濃いエンタメに走り過ぎていた所が気になって評価はA−にとどめたんですが、その後、第1回グランプリの『ブラックジャックによろしく』と立場・クオリティが逆転していく中で、いつか再評価しなくてはと、ずっと思っていたんです。
 本当は連載終了まで待って表彰するつもりだったんですが、もう待ちきれなくなってしまいました(笑)。本当なら特別大賞が相応しいのかも知れませんが、僕の中では、この作品は連載1年を過ぎてから良くなっていったという実感があるので、功労賞という事にさせてもらいました。
 ラズベリー特別表彰は、まぁ『ワイルドライフ』小学館漫画賞受賞記念ということでね(笑)。この人の場合、公私混同ぶりが表に出ているだけでも物凄いですからね。新連載の時には必ず作家にお礼とお世辞を言わせるでしょ。で、『ジャぱん』では作品で一番のイケメンキャラに自分の名前をつけさせて。……まぁ本来僕が言われる立場のセリフなんだけど『何様のつもりだお前』というね、そういう気持ちを込めての特別表彰というわけです」
珠美:「……コメント有難うございました。特別表彰を受けられた皆さん……いえ、『医龍』の乃木さん、は、おめでとうございました(苦笑)。

 ──さて、この授賞式も、いよいよ大詰め。グランプリ・『仁川経済大学賞』の発表のお時間となりました。
 では、ここで改めまして、最終ノミネートされました4作品を紹介致しましょう。まずは『新人』の付くものを除く部門賞で最優秀賞を受賞した2作品がこちら。

◎ジャンプ&サンデー最優秀長編作品賞
 『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志

◎ジャンプ&サンデー最優秀短編作品賞
 『謎の村雨くん』作画:いとうみきお

 ……そして、ここに受講生推薦制度によりノミネートされる作品が加わります。この制度は、『週刊少年ジャンプ』、『週刊少年サンデー』の系列誌以外に掲載された作品から優れた作品を発掘するためのもので、新設された昨年は、いきなりグランプリ作品『おおきく振りかぶって』を輩出するなど、目覚しい効果をあげました。
 今回は、04年12月から05年11月に単行本1巻が発売された長編連載作品を対象として受講生の皆様からご推薦を募りました。そこで2名以上の推薦を獲得した作品について駒木ハヤトが予備審査を行い、その結果、所定の基準(ゼミのレビュー基準で評価A以上)を満たした2作品が最終ノミネートということになりました。それでは、ノミネートを果たした作品の紹介をさせて頂きます。

 まず最初に紹介しますのは、現在『ウルトラジャンプ』誌で連載中の『皇国の守護者』作:佐藤大輔/画:伊藤悠。架空戦記で知られる佐藤大輔さんの同名小説を、ほぼ原作通りにコミカライズした作品です。
 見事なまでに完成されたオリジナリティ溢れる世界観。そしてそこで繰り広げられる戦争シーンは、架空と現実の狭間も、陳腐なイデオロギーをも越えて、圧倒的なリアリティを私たちに見せ付けてくれます。それでいて、ダークな魅力溢れる主人公のキャラクターや、スリル満点のストーリーなど、エンターテインメント要素も満載。複雑な比喩表現を凝らした文章をビジュアル化するという難題を卓抜したテクニックでクリアしてゆく、作画担当・伊藤悠さんの流麗な絵も魅力の一つでしょう。
 駒木博士が『少年マンガ誌では決して許されない重厚かつ良質な内容』だと絶賛した青年誌生まれの“刺客”が、少年誌の秀作2編に襲い掛かります!

 そして2作品目は、『週刊少年マガジン』を経て、現在は『アフタヌーン』誌で連載中の『ヴィンランド・サガ』作画:幸村誠。10世紀〜11世紀の西欧・北欧のヴァイキングが活躍した時代を舞台に、戦いの中でしか生きられない男たちを描いた本格歴史コミックです。
 まず特筆すべきは、日本人にとって馴染みの薄い時代背景というハンデを全く感じさせない圧倒的な描写力でしょう。前作『プラネテス』から定評のある、名作映画を思わせる巧みな演出と脚本、更には誠実な歴史考証の積み重ねによって、私たちが住む現代社会とまるで趣の異なる中世ヨーロッパ社会を、理屈ではなく雰囲気で理解させるということに成功しています。
 また、魅力溢れるキャラクターメイキングの力も見事なもの。人の抱える二面性をリアルに描き出しながら、読み手が感情移入出来るような人物像を巧みに作り上げました。ここにメリハリの利いたストーリー構成や、思わず息を呑む迫力十分のバトル描写も加わって、奥の深い文学性と明快なエンターテインメント性を並立させた、非常に中身の濃い冒険活劇がここに実現しました。果たして2年連続『アフタヌーン』誌からの受賞作誕生は成るのでしょうか?

 ……今年も本当に素晴らしい作品ばかりが出揃いました。05年度グランプリの栄冠は一体どの作品に輝くのでしょうか? それでは、いよいよ発表です!
 第4回『仁川経済大学コミックアワード』の最高栄誉、グランプリ・『仁川経済大学賞』に輝いたのは──

 

 

 

 

 

第4回・仁川経済大学コミックアワード
仁川経済大学賞
(グランプリ)
 

『絶対可憐チルドレン』
作画:椎名高志


社会学部インターネット通信課程特別賞
(準グランプリ)

『皇国の守護者』
作:佐藤大輔/画:伊藤悠

 ……ということで、今年のグランプリは『絶対可憐チルドレン』に、そして急遽新設された準グランプリに『皇国の守護者』が選出されました! 受賞された皆さん、本当におめでとうございました!
 ──それでは駒木博士に、選考過程につい
て解説をお願いします。この結果を見る限り、審査の方は相当に悩まれたと思うのですが……」
駒木:「いやまったく。実は毎年、グランプリは授賞式の準備を始める頃には自分の中で内定しているものなのですが、今年は最後の最後まで悩みました。『謎の村雨くん』はさすがにここに入ると格負け、『ヴィンランド・サガ』はストーリーの密度不足が気になって一歩後退と、ここまではスンナリ行ったんですが、残りの2作品がもう甲乙付け難い争いになってしまって……。その結果、今回は準グランプリの新設という緊急措置で対応するという事にしたわけ。
 まず、皆さんに理解して頂きたいのは、『絶対可憐チルドレン』『皇国の守護者』の2作品を、同じ土俵に上げて比較対照するのがいかに難儀な話かという事です。かたや、連作短編形式のコメディ色溢れるエンターテインメント作品。かたや、
本格長編のシリアスな架空戦記。しかも『絶チル』は読み切り版から3年かけて練り上げた週刊連載で、『皇国の守護者』は8年前に出版された小説を原作にした月刊連載作品。ここまでタイプの違う作品で、しかも両作品ともに隙らしい隙の無い、抜群の完成度の高さでしょう? いや、本当に参りました。
 で、もう今回は明確に白黒つけるのは余りに勿体無いので、両方に賞を出そうと。でもグランプリを2作品というのは流石に無理なんで、ほんのちょっとだけ立場に差をつけないといけない。となると、審査員の好みに囚われちゃいけない『コミックアワード』では、積極的に評価出来る要素がどれだけの量、どれだけの密度で詰まっているかという“手数勝負”で決めるしかないわけです。そうなると、連載開始当初から明確なテーマを前面に押し出して、エピソードを詰めに詰め込んだ『絶チル』がどうしても優位になる。……まぁここまで来ると、作品の良し悪しを超えて、この賞の趣旨とシステムとのシンクロ率の勝負ですね。結果としてはこういう形になりましたが、僕の心の中では2作品同時受賞みたいなもんです。皆さんもそういう解釈をしてもらえると助かります。
 ──いやしかし、このグランプリは“執念の産物”ですね。3年かけて連載を立ち上げて軌道に乗せた椎名高志さんの執念に、3年間この作品のクオリティに相応する評価をしようと粘った僕の執念(笑)。『石の上にも三年』とは、よく言ったものですね。
 ……まぁとにかく、今年も素晴らしい作品を読ませて下さった全ての作家さんたち、そして色々な名作・佳作を駒木に紹介して下さった推薦人の皆さんに心より御礼申し上げます。どうも有難うございました!
珠美:「……駒木博士、有難うございました。
 ──それでは最後に、今回の『仁川経済大学コミックアワード』、全ての受賞作を振り返っておきましょう。

「第4回仁川経済大学コミックアワード」
受賞作一覧

 仁川経済大学賞(グランプリ)
 
ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞 
 
『絶対可憐チルドレン』
 
作画:椎名高志

 社会学部インターネット通信課程特別賞
 (準グランプリ)

 
『皇国の守護者』
 
作:佐藤大輔/画:伊藤悠

 ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞
 
『謎の村雨くん』

 
作画:いとうみきお

 ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞
 『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』
 
作画:西義之

 ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞
 
『ハピマジ』

 
作画:KAITO

 ※ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞は該当作なし。

 ※特別表彰
 特別功労賞
 
『医龍-Team Medical Dradon-』作画:乃木坂太郎/原案・永井明


 ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
 『大泥棒ポルタ』

 (作画:北嶋一喜

 ※ラズベリー特別表彰
 ラズベリーコミック特別功労者賞
 冠茂・「週刊少年サンデー」編集

 ……今年度の結果は以上のようになりました。皆さんのお好きな作品は受賞されましたでしょうか?
 ──さて、これで全てのプログラムは終了いたしましたが、これより当社会学講座の駒木ハヤトより皆様に発表がございます


重大発表

 01年11月の開講以来、長年ご愛顧を頂いておりました当講座、仁川経済大学社会学部インターネット通信課程ですが、本日をもちまして、『現代マンガ時評』を含む全ての定例講義を終了することになりました。駒木は専任講師の職を辞し、駒木ほか3人のスタッフからなる駒木研究室も3月末をもって解散ということになります。長らくのご愛顧、本当に有難うございました。

 この後は、3月末から4月当初までを目処に、残務処理として途中で中断している旅行記系などの講義を完結するまで短期集中で実施し、それをもって現在の業務は全て終了となります。「観察レポート」も、残務処理が終了次第、更新停止とさせて頂きます。談話室(BBS)に関しても、様子を見て廃止も含めた対応を検討することになるでしょう。
 ただし、ウェブサイトは当面このまま存続させますし、駒木も“非常勤講師”の立場でこの講座に籍を置き続けます。ごく不定期ではありますが、講義も実施するつもりでおりますし、可能ならば来年度も「コミックアワード」を開催するつもりでおりますので、どうぞご安心下さい。また、コミケットでの活動も、とりあえず06年12月末の冬コミまでは参加申し込みを続けるつもりでいます。また詳細に関しましては、このサイトで告知する事になりますので、アンテナやブックマークに登録されている方は、どうぞそのまま維持して頂ければ幸いです。

 ──えー、皆さんにとっては寝耳に水の話だったと思います。こういう形での告知になってしまった事は、本当に申し訳ないと思っています。ただ、最終的に活動休止を決断したのは本当にここ最近の話で、迷いに迷った挙句こうなったという事でご容赦願いたいと思います。
 そもそもこの社会学講座は、駒木が「自分の文章は、他の人にとって読むに値するか」という事を査定するために始めたものでした。その時の目標は1年以内に「アクセス数1000/日」と「総計10万ヒット」の2つを達成出来るかどうか。幸いにも、開講から半年余りでこの目標はクリア出来たのですが、裏を返せばこの時から「いつサイトを休止するか」という新たな課題が生まれたのでした。
 当時の駒木が色々考えて出した結論は、「駒木に自信を与えて下さった皆さんに恩返しするために、しばらく頑張ってみよう」というものでした。ところが御存知のように、その後の駒木はモデム配りで糊口を凌がなくてはならなくなったり、激しい環境の変化に精神を病みかけたりで、恩返しどころか、この社会学講座を介して皆さんに支えてもらう始末でした。今の自分があるのは、あの苦しい時に皆さんが支えて下さったお陰で、感謝の言葉もありません。
 しかし05年4月、今の職場での勤務が2年目に入り、仕事内容に慣れつつも、ほぼフルタイムに近い勤務時間になった辺りから、心身ともに社会学講座での仕事に費やす余裕が無くなり始めてしまいました。特にこの頃になると、「現代マンガ時評」の運営に強い行き詰まりを感じるようになり、社会学講座の運営が日に日に苦痛になってゆきました。
 こうして休止のご挨拶をしている今でも、良いマンガ作品を紹介したいという気持ちは強く残っています。しかし、「現代マンガ時評」に関する活動の多くは、余り良いとは思えない作品を細かく読み込み、分析するという作業です。この作業が活動を続ける内に義務化し、単なる作業と化してしまいました。生業の暇を縫って行うアマチュアとしての活動が単純な義務となると、これはもうホントに辛いんです。
 また、評論活動を続ける内に「駒木ハヤト」という名前が一人歩きするようになり、義務としての執筆作業すら満足にさせてもらえないようにもなって来たのも堪えました。最近特に増えた「自分の立場を考えて、発言内容にもっと配慮して下さい」という要求とか、あと、批判めいた評論をした作品について「あんなクソを擁護するな、もっと貶せ」という類の圧力を受けたりすると、気が滅入って丸二日は役に立ちませんでした。一昨年の秋からプライベートでボクシングのブログを始めたのも、実は社会学講座で溜まったストレスを発散するためです。いつの間にかここは、自分の言いたい事が言える場所ではなくなっていたのです。
 まぁそういう積み重ねがあって、昨年の夏頃からはモチベーションがゼロを通り越してマイナスに転じ、1週間の中で数時間、気まぐれにやる気が出来た時に集中して作業を進め、何とか形にするという自転車操業的な状況へ。特に昨年末からの酷い有様は皆さんもご存知の通りです。ぶっちゃけ、ここ半年はストレスを発散するために酒量が増えました(苦笑)。
 今でも皆さんのために「現代マンガ時評」を続けたいという気持ちは強く残っています。しかし、この状態で無理に活動を続けると、遅々として進まない「現代マンガ時評」の作業のために、他の活動が完全に停滞してしまいます。不健全な状態をこのまま引き摺るよりも、ここで一旦区切りをつけ、ついでに心身ともにしばらく休養させてもらって、態勢を整えようと、そういう結論に至ったわけです。

 また、気が付けば開講から4年経ち、駒木もそうなんですが、“三人娘”も随分と年を食ってしまいました(苦笑)。栗藤珠美が今年26歳、一色順子は大学卒業、リサ=バンベリーも20歳で成人。明らかに無理が出ない内に、そろそろ彼女たちをここから解放させてあげようかなと思います。駒木としても、30過ぎてこういう世界にドップリ漬かっているのも気恥ずかしくなって来ましたしね(苦笑)。まぁ今後は、「水曜どうでしょう」みたいに、1〜2年に1度のペースで同窓会みたいな形で集って、何か楽しい企画でも出来ればと思っています。
 あと、「観察レポート」の更新停止の最大の理由は、この社会学講座が昼間の勤務先の生徒たちにバレちゃったからです(笑)。彼らは好意的な解釈でもって受講生をやってくれているようなのですが、さすがに立場上これ以上日記を公開するのもマズいので、今後はmixiで日記を認めることにします。あちらでも「駒木ハヤト」の名前で活動してますので、気が向いたらアクセスして下さい。

 ……まだ言いたい事は山ほどありますが、とりあえず今はこれだけにしておきましょう。また近い内に、チャットパーティか大規模なオフ会でも開いて、そこで思いの丈を全部吐き出したいと思います。
 それではこれまで本当に有難うございました。そして今後ともどうか何卒。


珠美:「……以上、駒木博士からの重大発表でした。名残は惜しいですが、閉会のお時間です。また、このような機会が持てることを心より願っております。本当に有難うございました(涙声で深く一礼)」


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