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積み重ねる事4回目、お蔭様で縁起の悪い回数まで辿り着きました。今年も授賞式前日は、当講座専任講師・駒木ハヤトの「ジャンプ」&「サンデー」年間総括でお楽しみ頂きます。
今年度に関しては、もう他のウェブサイトさんでメジャー各誌の年間総括が行われたりしているみたいですが、こちらは客観的なデータを中心に、質はともかく量はたっぷりの分析・考察をお送りしたいと思います。元祖かどうかは知りませんが、“本家”の矜持をもって参ります。どうか何卒。
──さて、今からお送りしますのは、「現代マンガ時評」でレビュー対象にしております「週刊少年ジャンプ」及び「週刊少年サンデー」の、05年度(雑誌の号数が05年扱いである、04年12月から05年12月まで)のついての年間総括です。先述しました通り、ここでは普段のゼミでお送りしている評論スタイルではなく、幾分マクロで客観的なスタンス──つまりは一般の人気度や商業的成功の観点に立って、「ジャンプ」「サンデー」両誌の現状の分析と考察をしてゆきます。
なお、過去3ヵ年の年間総括につきましては、昨年、一昨年の「コミックアワード」の模様、そして3年前の「『週刊少年ジャンプ』この1年」と「『週刊少年サンデー』この1年」(いずれも02年度版)の講義レジュメをご覧下さい。懐かしい打ち切り作品の名前があちこちに出て来て、感慨が深まる事請け合いであります。
──それではこれより、「ジャンプ」「サンデー」の新連載作品、読み切り作品、前年度以前からの連載継続作品の動向について、それぞれ分析・考察をお届けします。最後まで宜しく。
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※お断り:今回の「年間総括」は、05年末に発刊しました同人誌・「『現代マンガ時評』05年度下半期総集編」に収録されているものをベースに、その後の情勢推移等に合わせて加筆・削除修正を行ったものです。よって、これからお届けする内容と、同人誌収録の内容は多くの部分で重複します。あらかじめご承知置き下さい。 |
1.「週刊少年ジャンプ」05年度総括
1−1.05年度「ジャンプ」新連載作品総括
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参考資料1・「ジャンプ」05年度新連載作品一覧
※04年年末開始
◎『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(作画:西義之)
※05年冬開始
◎『ユート』(作:ほったゆみ/画:河野慶)
◎『魔人探偵脳噛ネウロ』(作画:松井優征)
※05年春開始
◎『カイン』(作画:内水融)
◎『タカヤ −閃武学園激闘伝─』(作画:坂本裕次郎)
◎『切法師』(作画:中島諭宇樹)
※05年夏開始
◎『みえるひと』(作画:岩代俊明)
◎『太臓もて王サーガ』(作画:大亜門)
※05年秋開始
◎『べしゃり暮らし』(作画:森田まさのり)
◎『大泥棒ポルタ』(作画:北嶋一喜)
注:『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(作画:西義之)は04年53号の連載開始ですが、連載期間の大半が05年度であることを考慮し、今年度扱いとしました。 |
毎年、この企画の準備をするために資料調べをしていますと、必ず「あれ、この作品って、もっと前の年の作品じゃなかったっけ?」……などと思う作品が出て来ます。つまり、健闘空しく短期打ち切りとなった作品は、それから時を経ない内にその存在すら忘れ去られている…というわけですね(笑)。まさしく「ジャンプ」のダイナミズムとある種の残酷さを象徴するような話であります。
例えば、ここにお出での皆様の中で、04年度の秋頃にはまだ『地上最速青春卓球少年 ぷーやん』が連載されており、それと入れ替わりで『Wāqwāq』が始まったのだ……という事実を、「そんなの言われなくても覚えているよ」とおっしゃる方は果たしてどれくらいいらっしゃるでしょう?
……まぁ毎週誌面と自分の胃に穴が開くほどの勢いで「ジャンプ」を凝視している駒木ですら、資料を読み返してみて初めて思い出すぐらいですから、まぁその割合の程は推して然るべきでしょう。
ところが05年度は、同じように資料調べをしていても、そういう気持ちが一切起こらない極めてレアケースな年でした。強いて言えば、タイトルだけで懐かしさを感じる作品なんて『ユート』ぐらいでしょうか。もっとも、そこに仲間入りする作品も、間もなく1つ2つ増えそうでありますが……。
05年度の「ジャンプ」がそういうレアなケースとなった理由としては、まず先述の『ユート』を除く年度当初の連載作品(『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』、『魔人探偵脳噛ネウロ』など)が好調で無事に越年を果たしたから…というものが挙げられるでしょう。連載が未だに終わっていないのですから、記憶に残らないはずがありません。
しかし、それより大きい理由は、「ジャンプ」の名物とも言える10回前後での1クール打ち切りが、06年に入って『大泥棒ポルタ』が打ち切られるまで1度も無かった……という事ではないでしょうか。20数回の2クールで打ち切りになった作品は他にもありましたが、連載が半年に及べば印象も濃くなりますし、連載終了時期も後にずれ込む分だけ、当然作品の存在を忘れるのも遅くなるわけです。つまり、1クール打ち切りが丸1年以上無かったために、それが読者の記憶の風化を妨げた──という理屈ですね。
まぁ細かい話はともあれ、05年度は新連載作品の1クール打ち切りの極めて少ない年だったわけです。こう言うと、この年が「ジャンプ」にとって順調な1年だったと解釈出来そうですが、しかしそれは本当にそう解釈して良いものなのでしょうか?
確かに年度当初は、好調だった04年度の勢いを受け、順風満帆の滑り出しであったと言えるでしょう。打ち切るべき作品も少なく、新連載も本数と内容を厳選された“一撃必中”の狙い撃ち。3本以上の新連載シリーズの際に見受けられる「連載前から打ち切り候補」というような作品はなく、連載作品はいずれも実績のある作家さんか、実力派若手作家さんの作品のみがラインナップを飾ったのです。
そして実際、年度当初から始まった『ムヒョ』と『ネウロ』は、アンケート順位の目安とされる掲載順も比較的堅調で長期連載の道へ。唯一スタートダッシュに失敗した『ユート』も、大ヒット作家の特権で打ち切りの気配すら見せずに2クール目で巻き返しを図りました。こうして05年の春を迎え、「ジャンプ」は長期連載作品も含めて打ち切るべき作品が無くなるという凄まじいまでの活況となりました。
しかし、ここで転機が訪れました。
04年以来の好調もピークを迎えていた春の新連載シリーズで、「ジャンプ」編集部は何と、初の連載となる若手作家中心の3作品を一挙投入する賭けに出たのです。昨年から「サンデー」を思わせる小規模の連載入れ替えを続けていた同誌にとっては、久々の大幅な誌面刷新となりました。この時、入れ替わりに週刊連載を打ち切られたのが『武装錬金』だった事もあり、強く印象に残っている方も多いのではないでしょうか。
こういう連載陣の質・量が充実し、運営に余裕のある時であるからこそ、若手に道を開いて大ヒット作輩出を狙う。いかにも「ジャンプ」らしい編集方針と言えるでしょう。
もしもこの方針が成功裏に終わっていれば、茨木編集長は"「ジャンプ」中興の祖"としてマンガ史に名を残す偉人となっていたはずです。が、皮肉にもこの新連載シリーズをきっかけに、「ジャンプ」はいきなり03年度を思い出させるような停滞期に突入してしまいます。
「参考資料1」をご覧のように、この春の新連載シリーズ以降、「ジャンプ」では7作品の連載が開始されました。しかし既に『カイン』、『切法師』、『大泥棒ポルタ』は短期間で打ち切り終了。残る4作品にしても、06年3月に入って余りにも大胆なテコ入れが入った『タカヤ』をはじめ、掲載順の低迷、単行本売上の伸び悩みが目立っています。
しかも、新連載が低迷するだけなら救いようもあるのですが、これらの商業的失敗作が多過ぎて打ち切る事すら出来なくなっています。そう、1クール打ち切りの減少は、「打ち切るべき作品が無い」のではなく、「打ち切るべき作品が多過ぎて新顔に順番が回って来なかった」からだったのです。
ではここで、具体的に05年度後半の状況を解説しましょう。
まず夏の新連載シリーズの頃、春シリーズ開始の3作品のうち、『カイン』と『切法師』の2作品は特に元気が無く、早くも打ち切りが囁かれるほどに失速していました。ところがこの時点で冬開始組の『ユート』がいよいよ救済の余地が無いほどに人気が低迷し、しかも折悪しく『いちご100%』の連載終了もこの時期に合わせて企画されており、この2作品だけで夏の新連載シリーズで入れ替えるための枠が埋まっていたのです。これでは、1クール打ち切りはしたくても出来るはずがありません。
秋の連載入れ替えも同様で、“打ち切り順番待ち”で1クール延命された『カイン』と『切法師』を切るだけで枠が埋まり、『みえるひと』も『太臓もて王サーガ』も打ち切られないまま、命を永らえたのでした。『太臓』に至っては、新連載検討会議の前後にアンケートが最下位に転落しながら、その会議が順調さを欠いた為に助かった……という逸話が、単行本の2巻で語られています。内部事情を詳しく知る由はありませんが、それぐらい編集部がゴタゴタしていたという事なんでしょう。また、そんなゴタゴタの中で連載が立ち上げられた『大泥棒ポルタ』が、他の人気低迷作を差し置いて1クール打ち切りとなった辺り、現在の「ジャンプ」編集部の苦悩が窺えます。
──しかし、この後半の停滞状況を作り出したのは、『ヒカルの碁』のほったゆみさんや、「ジャンプ」がここ2〜3年がかりで育てて来た期待の若手作家さんばかり。予想外の好調は、予想外の変調で幕を閉じたのですから、まったく世の中何が起こるか判りませんね。
──さて、ここで少し目先を替えまして、昨年ネット界隈各地で御好評を頂きました、連載作品の“半年生存率”のお話を、今回も少しばかりさせて頂きましょう。
ではまず、過去10年分のデータを紹介しましょう。資料をご覧下さい。
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参考資料・2 95年〜04年の連載作品“半年生存率”
◆2004年(04年1号〜04年40号連載開始作品)
…10作品中6作品(『DEATH NOTE』、『銀魂』、『未確認少年ゲドー』、『家庭教師ヒットマンREBORN!』、『D.Gray−man』、『Wāqwāq』)=半年生存率60%
◆2003年(03年1号〜03年43号連載開始作品)
…11作品中2作品(『武装錬金』、『ごっちゃんです!!』)=半年生存率18.1%
◆2002年(01年51号〜02年45号連載開始作品)
…12作品中4作品(『いちご100%』、『アイシールド21』、『プリティフェイス、『Ultra
Red』)=半年生存率33.3%
◆2001年(00年47号〜01年43号連載開始作品)
…12作品中3作品(『ボボボーボ・ボーボボ』、『Mr.FULLSWING』、『BLEACH』)=半年生存率25%
◆2000年(00年1号〜38号連載開始作品)
…8作品中4作品(『ブレーメン』、『ノルマンディーひみつ倶楽部』、『BLACK CAT』、『ピューと吹く! ジャガー』)=半年生存率50%
◆1999年(98年52号〜99年44号連載開始作品)
…14作品中4作品(『ヒカルの碁』、『テニスの王子様』、『NARUTO』、『ライジングインパクト(第1、2部を合同して1作品扱い)』)=半年生存率28.6%
◆1998年(97年52号〜98年43号連載開始作品)
…10作品中5作品(『明陵帝 梧桐勢十郎』、『ROOKIES』、『ホイッスル!』、『HUNTER×HUNTER』、『シャーマンキング』)=半年生存率50%
◆1997年(96年49号〜97年41号連載開始作品)
…13作品中5作品(『魔女娘ViVian』、『花さか天使テンテンくん』、『I’s』、『世紀末リーダー伝たけし!』、『ONE PEACE』)=半年生存率38.5%
◆1996年(95年51号〜96年42号連載開始作品)
…12作品中5作品(『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』、『WILD HALF』、『幕張』、『封神演義』、『遊☆戯☆王』)=半年生存率41.7%
◆1995年(94年50号〜95年45号連載開始作品)
…11作品中5作品(『みどりのマキバオー』、『密・リターンズ』、『真島クンすっとばす!!』、『人形草子あやつり左近』、『水のともだちカッパーマン』)=半年生存率45.5%
注1:短期集中or不定期連載、既存の作品の第二部開始は除外。
注2:連載期間の大半が翌年度以降に属する連載作品は次年度扱い。
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──それにしても04年度の数字の高さはズバ抜けていますね。後述しますように、“半年生存率”は決してその年度の景気の具合をストレートに反映させるものではないのですが、04年度は名目上の数字だけでなく、ミリオン級の大ヒットやアニメ化作品も輩出するなど、“実”もキッチリ詰まっているのが特徴です。その前の03年度が大不振だっただけに、コントラストも凄いですよね。
それでは、この05年度の“半年生存率”についてもまとめておきましょう。
この年度の新連載作品は10編ありますが、これらの作品の“生死”をまとめますと、こうなります。
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●半年生存=『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』/『魔人探偵脳噛ネウロ』/『タカヤ ─閃武学園激闘伝―』/『みえるひと』/『太臓もて王サーガ』
●短期打切=『ユート』/『カイン』/『切法師』/『大泥棒ポルタ』
●保留状態=『べしゃり暮らし』(=06年3月現在、2クール目連載中) |
現在のところ、“生存確定”は5作品。これで『べしゃり暮らし』が次の連載入れ替えをクリアすれば6作品となります。よって、05年度の推定“半年生存率”は10作品中5ないし6作品“生存”の50〜60%。なんと前年並の高水準となる可能性が濃厚です。
しかし、長期連載を果たした作品を冷静に振り返ってみると、先ほどからお話しているように、2クール生き残るのが精一杯な作品や、アンケート(掲載順)は堅調なものの単行本売上が弱い作品ばかり。05年度の新連載で、トーハンのコミック売上週刊ベスト10に1週以上名を連ねた作品は、06年2月末現在でまだ1つもありません。これは、『DEATH NOTE』が早々にミリオンを達成し、他の長期連載作品もベスト10の常連になっている04年度開始の連載作品と比較すると雲泥の差です。
そこで注目すべきなのは、「参考資料2」内データにおける、いわゆる“暗黒期”と呼ばれている95〜97年の数字が意外と高いという事実です。つまり、この頃も05年度と同じように、ヒット作になる見込みの薄い作品までもが編集方針の都合などで長期連載する事になり、数字を底上げしてしまったという経緯がありました。よって、05年度の“数字上の堅調”も、どうやらこの暗黒期パターンと同様な、または似た状況にあるのではないかと分析したいのですが、如何でしょうか。
勿論、最終的な結論を下せるのは、何年も後、05年度新連載の作品の行く末を見届けた後になりますが、ひょっとすると今年度は、昨年度以来の回復基調から近来類を見ない好調へと推移した後、突然に恐慌を起こして深刻な不振へと転落……という、「ジャンプ」史上でも極めて特殊な経緯を辿った1年になるのかも知れないですね。
1−2.05年度「ジャンプ」読み切り作品総括
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参考資料3・05年度「ジャンプ」掲載読み切り作品一覧
※正規枠(既にデビュー済みの作家が連載枠獲得にむけて発表した新作)
◎『デビルヴァイオリン』(作画:大竹利明)
◎『キノコ島の奇跡』(作画:真波プー)
◎『MP0』(作画:叶恭弘)
◎『スベルヲイトワズ』(作画:森田まさのり)
◎『オレたちのバカ殿』(作画:ポンセ前田)
◎『モグリ陰陽師SEYMEY』(作画:大石浩二)
◎『多摩川キングダム』(作画:風間克弥)
◎『FULL COAT』(作画:池田圭司)
◎『怪盗銃士』(作画:岩本直輝)
◎『RARE GENE 4』(作画:夕樹和史)
◎『ふるさとさん』(作画:郷田こうや)
◎『TEAM』(作画:宮本和也)
◎『大泥棒ポルタ』(作画:北嶋一喜)
◎『BE A HERO!!』(作画:吉川雅之)
◎『大宮ジェット』(作画:田村隆平)
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第2回「ジャンプ金未来杯」エントリー作品
◎『カメとウサギとストライク』(作画:天野洋一)
◎『スマッシングショーネン!』(作画:大竹利明)
◎『バカin the City!!』(作画:大石浩二)
◎『魔法使いムク』(作画:大久保彰)
◎『ナックモエ』(作画:村瀬克俊)
◎『@o'clock』(作画:やまもと明日香) |
◎『闘魂パンダーランド〜学業立志編〜』(作画:ポンセ前田)
◎『キャディガール瞬』(作画:後藤竜児)
◎『プロジェクト・ヒメシマ』(作画:川口幸範)
◎『謎の村雨くん』(作画:いとうみきお)
◎『自称ナイスガイ』(作画:伊藤直晃)
※代原枠(連載作家の都合や病気による休載で空いた枠を埋めるために掲載された、正規デビュー前の新人の習作原稿)
◎『サムライ手芸部』(作画:楽永ユキ)
◎『ハピマジ』(作画:KAITO)
◎『肉ガリ −NIKUGARI−』(作画:大江慎一郎)
◎『たいして良い思い出もできそうにない学校生活』(作画:伊藤直晃)
◎『番長決定戦』(作画:相原成年)
◎『名探偵・田中一郎』(作画:池内志匡)
◎『ナイスガイ転校生よしお』(作画:伊藤直晃)
※受賞作掲載(新人賞の受賞作が、正規枠に準ずる形で掲載されたもの)
◎『征次郎の道』(作画:長友圭史)
◎『斬』(作画:杉田尚)
◎『未熟仙』(作画:栗山武史)
◎『魔界不思議犬ブルブルブルズ』(作画:小山祐太)
※その他企画モノ(現役連載作家による特別読み切りや連載作品の番外編など、後の新連載に繋がらない読み切り作品)
◎『ギャグマンガ日和』(作画:増田こうすけ)
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05年度の読み切り作品は、「参考資料・3」の通り38編で、前年度(51編)に比べると約25%の減少となりました。しばらく続いた読み切り作品の掲載数の増加傾向も一段落といったところでしょうか。
それでも減少分の多くは、『HUNTER×HUNTER』などの臨時休載が減った事による代原掲載の自然減から来るものであって、“正規枠”の掲載数は、急増傾向を示した03年度以降の水準をキープしています。よって、依然として読み切り作品を積極的に掲載するという編集方針は継続していると考えて良さそうです。
全体的な傾向としても昨年度と大差なく、正規枠は、大半が連載経験者や増刊等で実績を残している若手作家さんに占められました。現時点でこの中から連載化されたのは『スベルヲイトワズ』(=『べしゃり暮らし』のプロトタイプ)と『大泥棒ポルタ』の2作品で、しかもその後の行く末はご存知の通りです。相変わらず効率の悪いコンペテイションではありますが、今後も連載陣の“取材休み”で開いたページを活用した、同様の試みは継続して行われる事でしょう。
あと、特筆すべき事項としては、05年度で第2回を迎えた「金未来杯」。前年度の第1回が“期待の若手総ざらえ”的なラインナップだったのに対し、今年の顔触れは掲載作品のクオリティも含めて少々小粒なものに。まぁ連載未経験の若手作家の読み切りを5〜6週連続で載せられるだけでも、他の雑誌には無い層の分厚さではあるのですが、それにしてもタマ切れ感の否めない第2回となってしまいました。
しかも今年度、第1回エントリー作品から連載化された3作品が軒並み伸び悩みまたは不振・打ち切りという状況になっており、否応無しに今後の見通しを暗澹たるものにさせています。このままいくと、期待の若手を伸び悩ませるだけ伸び悩ませ、山のように打ち切り作品を積み重ねた挙句に2回限りで自然消滅した、かつての「黄金の女神杯」と同様の運命をなぞる事になるやも知れません。
1−3.05年度「ジャンプ」連載作品動向の考察および全体概括
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参考資料4・「ジャンプ」連載作品動向一覧表
☆2005年度に越年を果たした連載作品
◎96年度以前連載開始
『こちら亀有区葛飾公園前派出所』(作画:秋本治/1976年連載開始)
◎97年度連載開始
『ONE PIECE』(作画:尾田栄一郎)
◎98年度連載開始
『HUNTER×HUNTER』(作画:冨樫義博)
◎99年度連載開始
『テニスの王子様』(作画:許斐剛)
『NARUTO─ナルト─』(作画:岸本斉史)
◎00年度連載開始
『ピューと吹く! ジャガー』(作画:うすた京介)
◎01年度連載開始
『ボボボーボ・ボーボボ』(作画:澤井啓夫)
※50号までで第1部終了も、06年年頭より再開。
『Mr.FULLSWING』(作画:鈴木信也)
『BLEACH』(作画:久保帯人)
◎02年度連載開始
『アイシールド21』(作:稲垣理一郎/画:村田雄介)
◎03年度連載開始はなし。
◎04年度連載作品
『DEATH NOTE』(作:大場つぐみ/画:小畑健)
『銀魂』(作画:空知英秋)
『家庭教師ヒットマンREBORN!』(作画:天野明)
『D.Gray−man』(作画:星野桂)
☆2005年度中に連載終了した長期連載作品
◎02年度連載開始
『いちご100%』(作画:河下水希/35号までで円満終了)
◎03年度連載開始
『武装錬金』(作画:和月伸宏/21・22号までで打ち切り終了)
◎04年連載開始
『未確認少年ゲドー』(作画:岡野剛/12号までで打ち切り終了)
『Wāqwāq』(作画:藤崎竜/23号までで打ち切り終了)
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年度後半の新連載不振が祟り、長期連載の終了は4作品、それも02年以降に連載が始まった比較的新顔の部類に入る作品ばかりでした。しかもこれらの作品と入れ替わって立ち上げられた新連載の商業成績は、先述の通り現状は非常に小粒なものに留まっています。残念ながら今年度の連載入れ替えは、お世辞にも成功とは言えないものになってしまったと言って良いでしょう。
『ムヒョ』『ネウロ』などの05年度新連載作品が今後ブレイクする可能性を最大限好意的に見たとしても、辛うじて現状維持を達成するだけで精一杯だった……とまとめるのが許される最大の妥協になりそうです。救いなのは、好調だった昨年度に“不良債権”的な長期連載作品の多くを片付けてしまっていたため、1年間の停滞も大きなマイナスにならなかったという事ですが……。
さて、それでは「ジャンプ」総括の締め括りとしまして、現在の誌面構成を俯瞰し、近々の展望などを述べさせてもらおうと思います。今年も昨年までの例に倣い、連載作品のポジションを相撲の番付に喩えてお話してゆきます。
長年「ジャンプ」の看板・天下無双の“横綱”として君臨している『ONE PIECE』は、またしても1年を無難に乗り切り、年度明け早々にも連載400回を達成する見込みとなりました。もはや週刊連載では追いかけ切れないほどに肥大化の一途を辿る作品のスケールを持て余し気味ではあるものの、単行本売上は依然として不動の首位をキープし、シナリオの完成度も高度に安定しています。あらゆる面において他作品の追随を許さず、もはや驚異的を通り越して奇跡的と言っていい長期安定政権です。
それにしても、ここまで連載が続きながらなお、上がることはあれど下がる事の無い作者のモチベーションには感服させられてしまいます。過去の「ジャンプ」看板作品ではほぼ例外なく取り沙汰される「連載を終わらせたい作者と、そうさせたくない編集部」の構図が、ことこの作品に限ってはチラつく事すら無いというのはもっと話題になっても良いのではないでしょうか。
さて、この偉大なる“横綱”の脇を固める“大関”陣ですが、こちらの方は微妙な力関係の変動が起こっています。
まず、昨年度にセンセーションを巻き起こし、いきなり“東正大関”の座を掴んだ『DEATH NOTE』ですが、連載中断を挟んで第2部に突入してから急失速してしまいました。人気キャラLの死、読者の都合を考えずに複雑化する一方の設定とストーリーなど、理由はいくつか考えられるのですが、ともかくも掲載順は中位前後へ転落し、単行本売上も最新巻では『BLEACH』の後塵を拝するなど、目に見える形での衰微が始まりつつあります。過去にも連載中断からの第2部開始で失敗した作品がいくつかありますが、この作品もその例に漏れる事は許されなかったようです。
これに替わって、“東正大関”には『NARUTO』が返り咲き。こちらも連載中断と第2部再開を敢行しているのですが、作中の時間を進めた他は設定の変更をマイナーチェンジに留め「以前と変わらない『NARUTO』」をアピール出来ているのが功を奏しているようです。
これに続くのが、すっかり「ジャンプ」上位陣の一角が板に着いた『BLEACH』で、先に述べた通り後退した『DEATH NOTE』と熾烈な3番手争いを演じています。更に“張出大関”として、現在掟破りの“公傷休場中”ながらも依然として単行本売上はトップクラスを維持している『HUNTER×HUNTER』が泰然自若の構えを見せ、『テニスの王子様』も2場所に1度のペースでカド番を迎えながらもギリギリ踏ん張っているような状況です。
これに続く“関脇”クラスの作品は、アニメ化後のブレイクが期待ほど果たせず、残念ながら“大関”への昇進を見送られた格好の『アイシールド21』と、単行本部数ではトップクラスの成績を誇りながら、掲載順が伸び悩んだ挙句に度重なる長期休載でミソをつけてしまった『D.Gray−man』の2作品。しかしこの両作品も他誌で言えば悠々看板クラスの成績を誇示しており、これらの作品が中堅を固めているという事そのものが「ジャンプ」の上位層の分厚さを証明していると言っても過言ではないでしょう。
その下の“小結”クラスには、アニメ化が決定した『銀魂』と、堅実に固定ファンを増やしている『家庭教師ヒットマンREBORN!』。これに続く“幕内上位”クラスは、05年度組の有望株『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』や『魔人探偵脳噛ネウロ』が早々に進出し、06年度での飛躍を目指します。
こうしてみると、実に頼もしい限りの「ジャンプ」連載上位陣ではありますが、05年度後半開始作品が多数を占める下位グループとの格差が広がりつつある事や、“横綱・大関”格の多くが20世紀生まれの超長期連載作品に占められているという現状は、決して褒められたものではないでしょう。ウェブ版でこの年間総括を開始して今年で4年になりますが、この4年間絶えず提言してきた「次代の看板作品輩出」が未だに果たされていないのは残念でなりません。ましてや、今年度後半からの新連載不振が深刻なだけに、懸念は増すばかりです。
束の間の中興から一転、再び見通しの悪い踊り場へと足を踏み入れた「ジャンプ」の前に待っている階段は、果たして昇りなのか、それとも降りなのか。心配の種は尽きねど年は明け、早くも新しい1年が始まっています。
2.「週刊少年サンデー」05年度総括
2−1.05年度「サンデー」新連載作品総括
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参考資料5・「サンデー」05年度新連載作品一覧
◎『最強! あおい坂高校野球部』(作画:田中モトユキ)
◎『兄踏んじゃった』(作画:小笠原真)
◎『ブリザードアクセル』(作画:鈴木央)
◎『見上げてごらん』(作画:草葉道輝)
◎『うえきの法則プラス』(作画:福地翼)
◎『クロスゲーム』(作画:あだち充)
◎『ネコなび』(作画:杉本ぺロ)
◎『あいこら』(作画:井上和郎)
◎『絶対可憐チルドレン』(作画:椎名高志) |
04年秋、以前からネガティブな噂の絶えなかった三上信一氏と、“交換トレード”の形で「ヤングサンデー」誌から移籍し「週刊少年サンデー」の新編集長に就任した林正人氏。残務処理も一段落した05年度は、彼による新体制が本格的にスタートした1年だったわけですが、その編集方針は、おおよそフレッシュさに欠けた上に極めてディフェンシブなものとなってしまいました。
こうなるに至った理由に関しては、業界内でも噂が錯綜しているようですが、ともかくも、05年度の「サンデー」には、ある種の逼塞感のようなものがついて回ってしまったのは事実でしょう。
05年度の新連載は9作品。これは昨年・04年度と全くの同数ですが、その04年度は前年度以前に比べて新連載の数が目に見えて減った年でしたので、これは横ばいというよりむしろ、「人材不足による新連載減少傾向の長期化」と表現すべきではないでしょうか。
しかもそのラインナップを見ると、ストーリー系7作品の作者は全員が1年以上の長期連載経験者で、しかも多くのケースが前作の連載終了から短期間のインターバルでの連載立ち上げです。一方で、新人の抜擢は雑誌の商業成績には深く関わらないショートギャグ枠の1作品のみに留まりました。
後出の参考資料6をご覧になればお判りになると思いますが、ベテラン作家が強く、新人に割って入る余地が少ないような印象の強い「サンデー」でも、毎年新連載作品の1/3〜半数程度は連載未経験の若手作家さんが抜擢されるのが普通。ここまで中堅・ベテランに頼り切った新連載の立ち上げは極めて異例の事態と言えます。
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参考資料6・「サンデー」02〜04年度新連載作品一覧
※02年度新連載作品
◎『旋風(かぜ)の橘』(作画・猪熊しのぶ)
◎『焼きたて!! ジャぱん』(作画・橋口たかし)
◎『365歩のユウキ!』(作画:西条真二)
◎『史上最強の弟子ケンイチ』(作画:松江名俊)
◎『一番湯のカナタ』(作画:椎名高志)
◎『鳳ボンバー』(作画:田中モトユキ)
◎『いでじゅう!』(作画:モリタイシ)
◎『ふぁいとの暁』(作画:あおやぎ孝夫)
◎『きみのカケラ』(作画:高橋しん)
◎『美鳥の日々』(作画:井上和郎)
◎『D−LIVE』(作画:皆川亮二)
※03年度新連載作品
◎『ワイルドライフ』(作画:藤崎聖人)
◎『MAR(メル)』(作画:安西信行)
◎『俺様は?(なぞ)』(作画:杉本ペロ)
◎『売ったれダイキチ!』(作:若桑一人/画:武村勇治)
◎『ロボットボーイズ』(作:七月鏡一/画:上川敦志)
◎『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』(作画:中井邦彦)
◎『結界師』(作画:田辺イエロウ)
※04年度新連載作品
◎『怪奇千万! 十五郎』(作画:川久保栄二)
◎『暗号名はBF』(作画:田中保佐奈)
◎『こわしや我聞』(作画:藤木俊)
◎『思春期刑事ミノル小林』(作画:水口尚樹)
◎『DAN DOH!!〜ネクストジェネレーション〜』(作:坂田信弘/画:万乗大智)
◎『道士郎でござる』(作画:西森博之)
◎『クロザクロ』(作画:夏目義徳)
◎『東遊記』(作画:酒井ようへい)
◎『ハヤテのごとく!』(作画:畑健二郎)
注:作品・作者名太字は、その作家にとって初の長期連載(但し、「サンデー」系列誌の短期集中連載&増刊連載は「長期連載」とカウントしない)となる作品を表す。 |
そうやって、超守備的な編集方針で立ち上げられた今年度の新連載、これで失敗に終わったら目も当てられない所でしたが、幸いにもその新連載の全作品が健在なまま次年度へ残留。とりあえず低落傾向に歯止めをかけるという一定の成果を挙げることは叶った格好です。
06年度に入ってからは、新連載に(やや年季が入り過ぎているとはいえ)連載未経験の若手作家さんを続けて抜擢するなど、やや“攻め”のスタンスに移行しつつありますが、これも05年度を石橋を叩いて固めるような地盤作りに費やしたからこそのゴーサインなのでしょう。林編集長がヒラ編集時代に立ち上げた連載は『からくりサーカス』『ARMS』『リベロ革命!!』『DANDOH!!』『トガリ』など、結構「サンデー」の王道から逸れた冒険的な作品も多いのですが、編集長としての仕事振りはかなりの慎重派であるとお見受けします。
何はともあれ、これが三上前編集長時代には、想像を絶する駄作・失敗作が立ち上げられては散々な成績で短期打ち切りに遭うというケースが頻発していただけに、少なくともその点に限れば編集長交代の意義は見出せたと言えそうです。
ただし、その残留した全作品のうち、『うえきの法則プラス』は作者・福地翼さんの“体調不良”のために無期限の休載に突入し、ギャグ系2作品は連載が続いてはいるもののネット界隈など巷の評判は低調。他の作品についても、商業的に景気の良い話題は、初版部数を打ち切り作品並に留めていた『絶対可憐チルドレン』の単行本1・2巻がスマッシュヒットし品薄となったぐらい。つまり、無残な失敗こそ避けられたものの、成功を収めたとも容易には言えない、そんな作品ばかり集まったのが05年度新連載作品の特色ですね。
よって、ストーリーのクオリティ的には手堅く読ませる作品が多く、今後のブレイクに期待が持てる作品も無いとは言えませんが、現時点において、今年度の新連載作品の将来性は、過去3年と同様「ひょっとしたら近い将来スマッシュヒットするかも知れないのが1〜2作品」といったところ。どこに居るのか分からないポスト『コナン』『犬夜叉』を求める「サンデー」編集部の苦悩に満ちた懸命な戦いが、06年度に入った今もなお続いています。
2−2.05年度「サンデー」読み切り作品総括
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参考資料7・「サンデー」05年度読み切り作品一覧
※短期集中連載(数回で終了する事が連載開始時から確定している作品)
◎『あやかし堂のホウライ』(作画:金田達也《原案協力:藤田和日郎》)
※単発読み切り作品・正規枠
◎『TWIN-kle STAR』(作画:谷古宇剛)
◎『すけっとはメガネくん』(作画:寒川一之)
◎『伝説の帰宅部 Returner』(作画:森尾正博)
◎『石澤の慎さん』(作画:都築信也)
◎『トイレの怪人』(作画:佐藤将)
◎『蹴闘男』(作画:飯島潤)
◎『キングさん』(作画:福井祐介)
◎『やってくる!!』(作画:河北タケシ)
◎『たまねギィィ!!!』(作画:突飛)
◎『父さんとオモチャ達』(作画:クリスタルな洋介)
◎『ハルが来た!』(作画:小山愛子)
◎『マリンハンター』(作画:大塚志郎)
◎『エリート道場のエリート教室』(作画:福井ユウスケ)
※単発連載作品・代原枠
◎『名犬ジョン』(作画:橋本時計店)
◎『お坊サンバ!!』(作画:飯島浩介)
◎『ラブリー フェアリー』(作画:小野寺真央)
◎『天晴れ! 半ケツ侍』(作画:遊眠)
◎『織田信夫』(作画:飯島浩介)
※その他企画モノ
◎『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』(作画:曽山一寿)
◎『ザスパ草津物語〜夢は枯れない〜』(作画:向後和幸)
◎『カミロボ誕生物語』(作画:あおやぎ孝夫)
◎『山本KID徳郁物語 〜神の子に与えられた試練〜』(作画:山田一喜)
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編集長交代に伴う編集方針の変更で、最もそれが形になって現れたのが、この読み切り作品の扱いの変化でしょう。今年度もはじめは毎週のように若手作家さんによる読み切り作品が掲載され、週によってはギャグ系読み切りが3本掲載されたケースすらありましたが、春以降は代原を除けば指折り数えても片手で数えるほどに激減。結果、短期集中連載1本、正規枠読み切り13本と、昨年に比べてほぼ半減してしまいました。
この大幅な方針変更の確たる理由は不明ではありますが、これまで数年間で多数の読み切りや短期集中連載が立ち上げられたにも関わらず、それがなかなか連載ヒット作品・作家の輩出に繋がらないという事実を考えると、理解に苦しむ事はありません。実際、05年度の読み切りから新連載作品は1つも輩出されておらず、これでは「毎週毎週ページを無駄に捨てるぐらいなら、中堅・ベテランの新連載を1本立ち上げて、それをずっと載せた方がマシ」という考えになってしまうのも、むしろ自然というものでしょう。
新連載でも超守備的な編集方針でこれ以上無く手堅いまとめ方をした今年の「サンデー」です。読み切り作品に関係する編集方針も、作品を載せるよりも、まずは週刊本誌に載せられるような作品と、そのような作品を描ける作家さんの発掘・育成を水面下で進めるという方向にシフトしていったのではないでしょうか。
ただ、06年度に入ってからは、図らずも長期連載作品の休載が目立ったために、代原作品の掲載を強いられるケースが増えて来ました。せっかく読み切り掲載数を厳選し始めたというのに、結果的により一層クオリティの低い作品で誌面を埋めざるを得なくなってしまったのは皮肉ですよね。
せっかく舵を大きく切ったのに、突風が吹いて元の木阿弥に戻された“「サンデー」丸・船長”の忸怩たる思いがこちらまで伝わって来るような気がします。まったくもって、世の中というのは思うようにならないものですね。
2−3.05年度「サンデー」連載作品動向の考察および全体概括
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参考資料8・「サンデー」連載作品動向一覧
☆2005年度に越年を果たした連載作品
◎94年度連載開始
『名探偵コナン』(作画:青山剛昌)
『MAJOR』(作画:満田拓也)
◎95年度連載開始はなし
◎96年度連載開始
『犬夜叉』(作画:高橋留美子)
◎97年度連載開始
『からくりサーカス』(作画:藤田和日郎)
◎98年度連載開始はなし
◎99年度連載開始はなし
◎00年度連載開始はなし
◎01年連載開始
『金色のガッシュ !!』(作画:雷句誠)
◎02年度連載開始
『焼きたて!! ジャぱん』(作画・橋口たかし)
『史上最強の弟子ケンイチ』(作画:松江名俊)
『D−LIVE』(作画:皆川亮二)
◎03年度連載開始
『ワイルドライフ』(作画:藤崎聖人)
『MAR(メル)』(作画:安西信行)
『結界師』(作画:田辺イエロウ)
◎04年度連載開始
『ハヤテのごとく!』(作画:畑健二郎)
※『クロザクロ』(作画:夏目義徳)は06年1号までで打ち切り終了
※『道士郎でござる』(作画:西森博之)は06年5・6合併号までで打ち切り終了。
☆2005年度に連載終了した長期連載作品
◎97年度連載開始
『モンキーターン』(作画:河合克敏/3号までで円満終了)
◎01年連載開始
『KATSU!』(作画:あだち充/12号までで円満終了)
◎02年度連載開始
『いでじゅう!』(作画:モリタイシ/30号までで円満終了)
◎03年度連載開始
『俺様は?(なぞ)』(作画:杉本ペロ/8号までで打ち切り(?)終了)
◎04年度連載開始
『こわしや我聞』(作画:藤木俊/53号までで円満終了)
『思春期刑事ミノル小林』(作画:水口尚樹/31号までで打ち切り終了)
『東遊記』(作画:酒井ようへい/22・23合併号までで打ち切り終了)
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05年度は、新連載の本数こそ少なかったものの、それらが全て越年を果たしたという事もあり、年度内に終了した長期連載作品は7作品となりました。終了した長編連載の作品数の推移は02年度9本、03年度5本、04年度8本となっており、今年度は「サンデー」としてまずまず平均的な数の“人事”だったと言えるのではないでしょうか。
終了した連載のラインナップを見ても、昨年の『かってに改蔵』や『きみのカケラ』のように「事件性」のある連載終了は皆無。敢えて挙げるなら『東遊記』の無残な打ち切られ方がトピックになるのでしょうが、やはり全体的に見れば、特筆すべき事柄に欠ける印象です。
この辺りにも、新体制「サンデー」の無難さが見え隠れしていますね。ほとんどの作品が、それぞれ定められた“天寿”を全うし、実に穏やかな終わり方をしています。喋るネタが無いのは少し困ってしまいますが(笑)、でもやっぱり「サンデー」の連載作品はこうであってもらいたいですよね。
さて、こちらも締め括りとして、「サンデー」の誌面構成の俯瞰と展望をしておきましょう。
05年度においても、ここ数年と同じく上位の序列には大きな変化はありませんでした。04年度のアニメ化と共に大躍進を遂げ、「サンデー」の看板作品の地位を奪取した『金色のガッシュ!!』と、連載開始から10年を越えてもなお単行本売上では依然「サンデー」でトップを誇る『名探偵コナン』が堂々たる東西の“横綱”。現在商業的にはやや低迷気味の「サンデー」内で、「ジャンプ」や「マガジン」の猛者たちと互角に張り合える作品は、恐らくこの2作品だけでしょう。
この2作品に次ぐ3番手はやはり『犬夜叉』。しかしこの長らく「サンデー」を牽引して来た“功労者”も、テレビアニメの一時中断や超長期連載による固定ファンの目減りのため、ここ数年静かに進行していた商業的成績の衰えが、ここ1年でとみに目立つようになりました。勿論、衰えたりとは言えまだまだ『ガッシュ』『コナン』以外の作品とは別格の地力と知名度は維持していますが、それでも元・看板作品として君臨した威光を保ったまま幸せな結末を模索するのなら、決断を下すべき時はいよいよ近付いているのではないでしょうか。
さて、「サンデー」連載陣の序列を付けるにあたって、困ってしまうのが4番手以降のスマッシュヒット級作品群の扱いです。
昨年の「年間総括」でも少し述べましたが、「サンデー」では近来2〜3年の傾向として、アンケート(掲載順)上位の常連にいる作品は意外なほど単行本の売上が伸びず、逆に巻末付近に追いやられているベテラン作家さんの作品が高年齢層の固定ファンに支えられて、単行本の売上げでは大健闘する…という奇妙な逆転現象が常となっています。そのため、「雑誌のポジション上位」組と「単行本売上上位」組の上下関係が極めて複雑に入り組んでおり、「ジャンプ」のような単純明快な序列付けが非常に難しいのですね。
それでも苦心惨憺して番付を作成するとしましょう。まず“大関”は残念ながら今年度も空位。せめて「マガジン」勢のトップクラスに伍して、単行本売上ランキングの上位に常時名を連ねるようにならなければ、推挙の声はかかりそうにありません。
その代わり、アニメ化作品が増えたことで“関脇・小結”クラスはなかなかの粒揃いになって来た感があります。まずはアニメ化で勢いを増した『MAR』と『焼きたて!! ジャぱん』が存在感を発揮する一方で、それに大ベテランの『MAJOR』と、クオリティの高い絵・ストーリー勝負の正攻法で中堅上位をキープする『結界師』も健在。更には単行本セールスも比較的好調な『ハヤテのごとく!』も、これらに並びかける勢いです。
それらの作品のすぐ下、“幕内上位”クラスでは、『ワイルドライフ』や『史上最高の弟子ケンイチ』は雑誌内ポジションの堅調さをアピールし、『ブリザードアクセル』も、ここに来てオリンピック効果も相まって急浮上中。05年度に華麗なる復活を遂げた椎名高志さんの『絶対可憐チルドレン』も、かつての『GS美神』ファンが集中する20代後半〜30代前半の層を中心に支持を拡大しており、まさに4番手以下は団子状態と言って良いでしょう。
こうして見ると、やはり守りの編集方針が功を奏したか、昨年に比べて「サンデー」連載陣は全体的に底が上がって来た感がありますね。ただ、やはりそれだけでは既存の読者を満足させる事はできても、離れていった元読者や、新規読者層の開拓には不十分です。やはり雑誌全体の勢いを増すためには"横綱・大関"を張れるだけの名作・人気作と、それを描く有力若手作家の育成が必要である事には疑いを差し挟む余地は無いでしょう。
「サンデー」編集部においては、中堅・ベテランが底固く誌面を支えている今の好機を逃さず、後の看板作家候補を全力を挙げて発掘・育成することに全力を注いで欲しいところです。とりあえずは06年度から始まった若手作家さんによる新連載を出来るだけ多く成功させ、『旋風の橘』がスパイラルを起こした辺りから外れてしまった、本来「サンデー」が進むべきだった軌道に乗り直したいところですね。「楽ガキしてる内に見失ったきみのカケラはどこにあるのか、365歩歩いてみたけど見当たらないよ、怪奇千万」などといった悪夢にうなされる夜が二度やって来ないよう、神戸の空から一ツ橋の方向へ祈りつつ、05年度の年間回顧を終わらせて頂きます。ご清聴有難うございました。
──さて、明日は式典のメインイベント・「コミックアワード」表彰式であります。ここで第4回「コミックアワード」の各賞最終ノミネート作品をもう一度おさらいしておきましょう。
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各部門・最終ノミネート作品
(優秀作品賞受賞作一覧・順不同)
◆ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞
◎『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(作画:西義之)
◎『魔人探偵脳噛ネウロ』(作画:松井優征)
◎『絶対可憐チルドレン』(作画:椎名高志)
◎『ブリザードアクセル』(作画:鈴木央)
※以上、いずれも長編連載版
◆ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞
◎『HAND'S』(作画:板倉雄一)
◎『謎の村雨くん』(作画:いとうみきお)
◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞
◎『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所(長編連載版)』(作画:西義之)
◎『魔人探偵脳噛ネウロ(長編連載版)』(作画:松井優征)
◎『HAND'S』(作画:板倉雄一)
◆ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞
◎『太臓もて王サーガ』(作画:大亜門)
◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞
◎『ハピマジ』(作画:KAITO)
主要賞・最終ノミネート作品
◆仁川経済大学賞(グランプリ)
◎『皇国の守護者』(作:佐藤大輔/画:伊藤悠/「ウルトラジャンプ」連載中)
◎『ヴィンランド・サガ』(作画:幸村誠/「週刊少年マガジン」および「アフタヌーン」連載)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞受賞作)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞受賞作)
◎(ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞受賞作)
◆ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
◎『蹴闘男 最強蹴球野郎列伝』(作画:飯島潤/「週刊少年サンデー」掲載)
◎『マリンハンター』(作画:大塚志郎/「週刊少年サンデー」掲載)
◎『カイン』(作画:内水融/「週刊少年ジャンプ」連載)
◎『大泥棒ポルタ』(作画:北嶋一喜/「週刊少年ジャンプ」連載)
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今回は部門賞で“無風区”が多く、「ラズベリー」も低レヴェルならぬ高レヴェル混戦と、やや盛り上がりに欠ける面もあるのですが、その代わり、長編作品賞やグランプリの審査は困難を極めそうで、頭がキリキリと痛みます(苦笑)。発表の直前まで悩み抜く事になるとは思いますが、何とか良い形でイベントを締め括りたいですね。
それではまた明日。授賞式の最後には重大発表もございます。お見逃しの無いよう、宜しくお願い申し上げます。(式典2日目へ続く) |