「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

6/15 競馬学概論「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(14)」
6/14 教育実習事後指導(教職課程)「教育実習生の内部実態」(2)
6/13 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(6月第2週分)
6/11 
メディアリテラシー特論「『探偵ファイル・電脳探偵マル秘レポート』に対する論題〜“宮村優子裏ビデオ”解題」(2)
6/10 
メディアリテラシー特論「『探偵ファイル・電脳探偵マル秘レポート』に対する論題〜“宮村優子裏ビデオ”解題」(1)
6/9  文献講読(小説)『夏、雲ひとつ無い夜に─』(2)
6/8  
競馬学概論「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(13)」
6/7  教育実習事後指導(教職課程)「教育実習生の内部実態」(1)
6/6  
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(6月第1週分)
6/4  スポーツ社会学「大相撲復権への道」(2)
6/3  
文献講読(小説)『夏、雲ひとつ無い夜に─』(1)
6/2  スポーツ社会学「大相撲復権への道」(1)
6/1  競馬学特論 「G1予想・安田記念編」

 

6月15日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(14)」
1997年朝日杯3歳S/1着馬:グラスワンダー

駒木:「さて、今週採り上げるレースは5年前の朝日杯3歳ステークス。今の朝日杯フューチュリティステークスだね。本当は時期的に合わせて宝塚記念にしたかったんだけど、もう宝塚記念は何回もやってるからね」
珠美:「そう言えば、朝日杯はこれまで採り上げたことが無かったんですね。ちょっと意外な感じがしますけど……」
駒木:「そうだよね。まぁ、若馬のレースだと、なかなか見応えのあるレースにならないっていうのもあるかな。出てくるメンバーも、『昔の神童、今の凡人』みたいな馬が多いし、どうしてもレース全体が話題になる事が少ない。
 でもまぁ、今回はレースの内容的にもメンバー的にも、文句は無いんじゃないのかな」
珠美:「うわあ……確かに凄いメンバーですね。
 ……あ、失礼しました。私たちだけ盛り上がってたらダメですね(苦笑)。では、皆さんにも出馬表をご覧頂きましょう」

第49回朝日杯3歳S 中山・1600・芝

馬  名 騎 手
アイアムザプリンス ロバーツ
アグネスワールド 武豊
セイクビゼン 浜野谷
フィガロ 福永
ユーワケンタッキー 坂井
ボールドエンペラー 松永幹
オンクラウドナイン 横山典
マイネルメッサー 田中勝
マチカネサンシロー 柴田善
10 マイネルラヴ 蛯名正
11 グラスワンダー 的場
12 シンボリスウォード 岡部
13 マウントアラタ 小池
14 ダイイチレーサー 四位
15 メインボーカル

駒木:「凄いよねえ。この年代の外国産馬のヒーローが軒並み出走してて、なおかつ数少ない内国産馬の中には後のダービー2着馬・ボールドエンペラーまでいるし。間違いなく、全体的なレヴェルは90年代でナンバーワンだろうね。
 ……それじゃあ、そんなハイレヴェルな出走馬も含めて、レースの紹介をしてもらおうかな。珠美ちゃん、お願い」
珠美:「…ハイ。この朝日杯と名のつくレースは、1949年に関東所属の(旧)3歳ナンバーワン決定戦として誕生しました。当時は関西の阪神3歳ステークス(当時)と並んで、東西別のルーキー最強馬決定戦でした。レース価値は昔から高いものとされ、グレード制導入時からG1格付けを獲得しています。
 そんな朝日杯に大きなレース条件変更があったのが1991年です。朝日杯3歳ステークスと阪神3歳ステークスは、それまでの東西別から、牡牝別のルーキー最強馬決定戦に変更になったんですね。阪神3歳ステークスが牝馬限定の阪神3歳牝馬ステークス(後の阪神ジュベナイルフィリーズ)にリニューアルされたのと同時に、朝日杯は牡馬、せん馬限定のレースへと条件変更になりました。ちなみに、その1991年にこのレースを勝ったのはミホノブルボン。そして阪神3歳牝馬ステークスの勝ち馬はニシノフラワーでした。
 そして、この1997年のレースは、リニューアルしてから数えて7回目にあたるレースになります」

駒木:「この頃の朝日杯3歳ステークスっていうのは、ダービー戦線に直結するレースとして、かなり重要視されてたんだ。早熟のマル外を抑えて勝った内国産馬は、ほぼ間違いなく出世していった。さっき珠美ちゃんに挙げてもらったミホノブルボンもそうだし、ナリタブライアンもそう。クラシックには縁が無かったけど、フジキセキ、バブルガムフェローなんて強い馬たちもいるね。
 それを考えると、ここ数年の朝日杯組内国産馬の凋落振りは残念だよね。今じゃクラシック向けには、G3のラジオたんぱ杯の方がグレード高いような気がするくらいだし」
珠美:「やっぱり距離が1600mというのが問題なんでしょうか?」
駒木:「だろうね。皐月賞が2000mなんだし、朝日杯を2000mにして、ラジオたんぱ杯をマイルにすりゃいいのにって思うんだけど、まぁ“天下の”JRAがやる事だからねぇ。
 ……まぁその辺の話は、また別の機会にしよう。珠美ちゃん、人気上位馬の紹介をよろしく」
珠美:「分かりました。それでは人気順に紹介していきますね。
 まずは1番人気・グラスワンダーです。ここまで3戦3勝、レースを重ねるごとに着差を広げてゆき、前走の京成杯3歳ステークス(当時)では1.0秒、6馬身差の圧勝で単勝1.1倍の圧倒的人気に応えています。この時も調教で絶好の動きを見せ、単勝1.3倍という断トツの1番人気に推されていました。
 2番人気はフィガロ。戦績は2戦2勝で、前走の京都3歳ステークス(当時)を余裕残しで差し切っています。また、新馬戦で見せた上がり3F33秒台の末脚も高く評価されていました。
 3番人気から10倍台のオッズになりまして、アグネスワールド。夏の函館チャンピオンで、こちらも2戦2勝の成績。ただ、今回は休養明けからぶっつけ本番。馬体重も+26kgと、やや不安の残る臨戦過程でした。
 4番人気がシンボリスウォード。この馬も2戦2勝ですね。2戦目に勝ったレースは平場の500万下条件戦だったんですけど、勝ち時計が優秀だった事もあり、穴人気した格好になりました。
 5番人気がマウントアラタ。デビュー戦では後手を踏んで大敗しましたが、2戦目からは卓越したスピードを活かした逃げで連勝。この朝日杯でも、そのスピードがどこまで通用するのかが注目を集めました。
 6番人気がマイネルラヴ。ここまで4戦2勝2着2回と堅実なところを見せていました。前走は東京スポーツ杯3歳ステークスで2着。1着はラジオたんぱ杯に回ったキングヘイローでしたので、東スポ杯組では最先着馬ということになりますね。でも、この戦績でも6番人気ということは、やっぱり他の人気上位馬に比べるとインパクトが弱かったということなんでしょうね」

駒木:「普通の年なら、3番人気までの3頭はどれも1番人気候補だし、4番人気から6番人気までの3頭はどれも2番人気候補だよね。世代によっちゃ1番人気でもおかしくないかもしれない。大体さぁ、驚くのがマイネルラヴの単勝オッズが25.8倍っていうのだよね。それだけグラスワンダーの強さがズバ抜けていたってことなんだろうけどね。それにしてもって感じだよねえ」
珠美:「この年の人気馬は差を広げて勝った事のある馬が多いんですね。1秒以上の差で勝った馬とか、結構いますものね」
駒木:「言ってしまえば無茶苦茶な世代だよね(笑)。これに加えて、年が明けてからスペシャルウィークとセイウンスカイが出て来るんだから、全くもってとんでもない世代だよ。そうかと思えば、引き合いに出して悪いけど、エアシャカールでもあわや三冠馬って世代もある。不公平と言えば不公平だよね(苦笑)」
珠美:「こればっかりは仕方ありませんものね(苦笑)」
駒木:「まったくだね。……じゃあ、レースの解説に移ろうか」
珠美:「ハイ。それではレースの模様を再現しつつ、博士に解説して頂きます。受講生の皆さんも、映像資料をお持ちの方はご覧になりながら受講してくださいね。
 …スタートはちょっとバラついた感じになりました。ボールドエンペラー、オンクラウドナインといったあたりはダッシュがつきません。人気馬の中では、フィガロもそんなに良いスタートではありませんでしたが、こちらはすぐに位置を挽回していきました。
 ハナを切ったのは、大方の予想通りマウントアラタでした。とにかく、なりふり構わずって感じでグングンスピードを上げて後続を引き離してゆきます」

駒木:「他の人気馬も、先行抜け出しを得意にするスピードタイプだったからねぇ。大体が2〜3番手をキープして直線で加速すって戦法でね。それを考えると、逃げなきゃいけないマウントアラタには大きなプレッシャーがかかってるよね。下手にタメて逃げたりしたら、3コーナー辺りから突付かれてレースどころじゃなくなるし。逃げるんなら、もうイチかバチかの特攻逃げしかないよね」
珠美:「…マウントアラタを追う先行グループには、博士がおっしゃった通り、人気馬がズラリと並びます。シンボリスウォード、マイネルラヴが2〜3番手で、その後ろにアグネスワールドと出負けしたフィガロ。グラスワンダーは、そこから一歩引いて7番手を追走します。
 ……このグラスワンダーの位置取りはどうだったんでしょう? ちょっと後手を踏んでいるんですか?」

駒木:「いや、余裕綽々ってところだろうね。鞍上の的場騎手は、『この馬はただの先行馬じゃない』って思ってたんだろう。ペースも随分と速くなったし、人気馬をマークできる中団あたりにつけて、後から決め手の差で強引に押し切っちゃう計算だったんだろうね」
珠美:「確かにこのレース、道中のペースはとても速いです。初めの600mが34秒3で、800mが45秒4ですから、(旧)3歳馬にとっては大変なハイペースですよね」
駒木:「(旧)3歳じゃなくても凄いペースだよ(苦笑)。いくらなんでもヤケクソになり過ぎだね(笑)。もう何て言うか、マウントアラタは言い訳の利く負け方を演じてるだけって感じ。まぁ気持ちは分からないでもないけど、馬券を買ってた人には『ご愁傷様』と言うしかないね(苦笑)」
珠美:「そのマウントアラタですが、3コーナーで一旦は4馬身差まで後続を引き離すんですが、1000mを57秒1で通過した辺りから急に失速。代わってマイネルラヴやフィガロが先頭に迫ります。そして、ここから満を持してグラスワンダーが、大外から捲り追い込みの格好で進出していきます
駒木:「この捲りを見た瞬間、『もう決まった』と確信したね。だってね、走りっぷりが全盛期のナリタブライアンそっくりだったんだよ。ナリタブライアンでもあんな強い勝ち方をするようになったのは(旧)4歳の春になってからだからねぇ。それをまだデビュー4戦目の若駒がやっちゃうんだから、もう恐れ入ったと言うか何と言うか……」
珠美:「さて、いよいよ直線の攻防です。力尽きたマウントアラタを交わしてマイネルラヴが先頭に立ちます。ちょっとコーナーで膨れたフィガロは3馬身ほど後方。そしてグラスワンダーが、この馬のすぐ側まで迫って来ていました。アグネスワールドは馬体重増とブランクの影響が出たのか、ちょっと反応が鈍い感じ。シンボリスウォードは『荒れた馬場に脚を取られた(岡部騎手)』とのことで、戦意を喪失して早々に圏外に転落していました。
 そうして力強く抜け出したマイネルラヴですが、グラスワンダーの役者が一枚も二枚も上でした。直線半ばまでで難なく差を詰めると、並ぶ間もなく交わして逆に差を広げていきます。そうする内に外からフィガロもやって来て、2着争いが熾烈になりました。4番手以下は差が開いて、こちらは入着がやっとという感じです。
 大勢はここで決したまま、ゴールへ。1着はもちろんグラスワンダー。2馬身1/2差、1分33秒6の(旧)3歳コースレコードのオマケ付でした。2着はマイネルラヴがなんとか粘り込んで、3着にフィガロ。そこから3馬身1/2差がついて4着のアグネスワールド…といった結果となりました」

駒木:「グラスワンダーが勝ってから、場内から拍手が沸いたんだよね。本当に良いレースってのは、歓声とか“○○コール”よりも拍手が自然発生するものなんだ。この時のレースはまさにそれ。上位馬は超ハイペースの中を前で追走して、それで後続を完封しちゃったんだからね。展開利もクソもない、実力だけで決着がついた素晴らしいレースだった。
 中でも特筆すべきなのは、マイネルラヴの粘り。あれだけ早めに仕掛けて、直線半ばで交わされて、本当なら戦意を喪失してバテバテになってもおかしくないんだよ。それで2着粘っちゃうんだからねぇ。この後、ちょっと伸び悩んだ時期があったんだけど、スプリンターズステークスでは、当時無敵を誇ってたタイキシャトル相手に大金星。今から考えたら伏線はここにあったんだよね」
珠美:「ちょっとお話も出ましたが、上位馬のその後についてお話してくださいますか?」
駒木:「う〜ん、もう有名すぎて話す事なんて無いんだけどねぇ(笑)。グラスワンダーは、この後故障したりスランプに陥ったりして一時足踏みをするけど、春・冬のグランプリ3連覇を果たすなどして大活躍。スペシャルウィークやエルコンドルパサーと年度代表馬の地位を争ったのは記憶に新しいところだね。
 マイネルラヴについては、さっき言った通り。フィガロは残念ながら、この後リタイヤして大成できなかった。4着のアグネスワールドは、短距離戦線で活躍して、海外で国際G1を2勝。でも国内では最後までG1を勝てなくてね。日本馬のレヴェルアップを奇妙な形で証明する事になる。
 ……まぁ、主だったところはこんなところかな。」
珠美:「ハイ、ありがとうございました。えーと、博士、来週の競馬学講義は宝塚記念の予想になるんですよね?
駒木:「一応そのつもりでいるよ。ちょっと酷いメンバーになっちゃって、モチベーションが上がらないんだけど(苦笑)」
珠美:「サッカーのW杯に負けないように頑張ってもらいたいですね」
駒木:「そうだねぇ。せっかく23日はW杯が休みなんだから、『競馬も頑張ってるぞ!』とアピールするような名勝負になる事を期待したいね」
珠美:「それでは、そろそろお時間です。博士、ありがとうございました」
駒木:「はい。お疲れ様」

 


 

6月14日(金) 教育実習事後指導(教職課程)
「教育実習生の内部実態」(2)

 いやいや、お待たせしてしまいました。講義の内容を練りつつ瞑想してたら、いつの間にか夜が明けてしまってました。
 人はそれを「居眠り」というのではないか、という話はまた別の機会に。時間の都合で短縮講義となりますが、どうぞご了承ください。

 色々と講義予定がズレて、この教育実習事後指導は1週間ぶりの講義となりました。前回内容のレジュメはこちらからどうぞ。
 さて、いよいよ今回から教育実習の舞台裏へと話を進めていくのですが、これから始める一連の話は、駒木の体験談と他の人の体験談を交えて、という話になってまいります。ある程度の脚色を加えてはおりますが、読む人が読んだら個人を特定する事になってしまう恐れがあります。ですので、特定の人物を指す時はデタラメなイニシャルを用いることとします

 それでは、本題へと移りましょう。まずは教育実習初日のお話から……。

 実習初日の内容のほとんどはオリエンテーションであります。まぁ、中には実習開始前の別の日に実習生を集めてそれをやってしまい、その場で「実習初日から授業してもらうから、準備しとけよ」と言われるエゲツないパターンもありますが、それは例外でしょう。
 まずは教科書等の授業用教材の配布を兼ねた実習生同士の顔合わせ。現役で大学に入学したか、もしくは一浪したかの違いがあるため、全員が同学年というわけにはいきませんが、それでもちょっとした同窓会気分になる事は確かです。あっという間に旧交は温められ、かつての同級生たちは、なにかとキツい実習期間中の心の支えになってくれます。
 ただ、駒木の場合はかなり特殊なケースでありました。
 なんと実習生20名中、男は駒木を含めて2名、残る18名全員が女子だったのです。いや、ここで17名だけ女子で、あと1人は神取忍とかだったら色んな意味で怖いですが。
 まぁ、共学校の実習は、大抵が女子実習生の方が多いのですが、やはりここまで男女比が偏るのは非常に珍しい事でありました。駒木以外のもう1人の男子、A君は一学年下だったため全く面識ナシ。ですので、駒木は旧交を温めるどころではありませんでした。高校時代、同じクラブの仲間内以外の女子とほとんど話した事の無かった、典型的なモテない系男子学生だった駒木にとっては、同学年の女子との再会といっても、初対面と大して変わらなかったのです。辛うじて名前を聞いて「あぁ、そういえば一度同じクラスになったかな」と思い出す程度。向こうも大体同じ感覚だったことでしょう。
 もっとも、“高校時代の駒木”などと言っても、それは“プロレスと競馬とマンガ・アニメとライトノベルにハマってるキワモノ学生”でありましたので、旧交があったとしても温めたくもないのですが。もしも「あの駒木君よね!?」などと訊かれれば、「いや、それは兄です。つい先日、『エヴァ』グッズに埋もれて死にました」とでも答えたでしょうが。
 というわけで駒木は、その“プチ同窓会”を半ば傍観者の立場から見詰めるという感じに。それでも、“学年一のイケメン”ならぬ、“学年一のイケてないメン”と何故か2週間だけ交際した経験のあるEさんから、7年ぶりに事の真相を聞かせてもらったりして、「そうか、アイツ生殺しだったんだなあ。可哀相に。人生最高の瞬間をそんな感じで、うぅ……」などと人生の無常を痛感し、早くも現代社会の勉強をする事が出来たりしました

 実習生同士の対面が終わったら、今度は実習期間中お世話になる担当教諭の先生との顔合わせです。ここでどんな先生に当たるかで、これから始まる実習の充実度が全く違ってきます。お笑いの世界に喩えれば、業界入りと同時に、勝手に師匠が決まっているようなもの。西川のりおなどに当たった日には目も当てられません。
 ここで駒木は、幸運にも生涯の恩師とも言うべきT先生と出会い、その結果、世界史教員への道を踏み出すことになるわけなのですが、たくさんの実習生の中には逆のケースとなった人もいるんじゃないかと思われます。
 ちなみに、この実習生の命運を握る担当教諭の選出、舞台裏はこんなモノであります。

 「えーと、まずは世界史のマツバヤシ君なんですが、これはキムラ先生にお願いできますか?」
 「えー、俺、コイツの担任やったんよなあ。お互い知り過ぎててやりにくいからパスでけへん?」
 「じゃあ、カネムラ先生お願いできます?」
 「しゃーないなあ」

 フォローしておきますが、この「しゃーないなあ」で担当教諭になったカネムラ先生が、ナカバヤシ君の生涯の師となる可能性も少なくないわけでして、だからこそ人生は面白いものであったりするわけです。

 では次に校長や生徒指導部長の講話に続くわけなのですが、残念ながら今日はお時間となりました。これはまた次回の講義で……(次回へ続く) 

 


 

6月13日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(6月第2週分)

 それでは今週のゼミを始めます。今はちょうど、新連載の谷間に入ってしまってまして、レビュー対象作品が少ない週が続いています。
 そういう時は、出来れば「ジャンプ」「サンデー」以外から面白い読み切りや新連載の作品を見つけて来ようと思っているのですが、そうは言っても限られた時間と予算の中で、なかなかA−以上の評価を付けられる作品なんて見つからないものでして……。
 そういうわけで、ちょっと小休止状態のゼミですが、どうぞご理解下さい。

 さて、まずは情報系の話題から。
 まずは「週刊少年ジャンプ」の新人月例賞・「天下一漫画賞」の審査結果発表から。手塚&赤塚賞を発表した翌週に月例賞を発表できるというのも、ある意味凄い話ですよね。やっぱり「ジャンプ」の新人は層が厚いんでしょうねぇ。

第69回ジャンプ天下一漫画賞(02年4月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 審査員特別賞=1編
  ・『ROCKET DIVER』(矢吹健太朗賞)
   マメ(23歳・兵庫)
 最終候補(選外佳作)=9編

  ・『天使の条件』
   大沼由尚(17歳・福島)
  ・『リセットBOY!』
   及川友高(25歳・東京)
  ・『ナナシの7』
   安生直人(23歳・埼玉)
  ・『ペットジェントル』
   大江慎一郎(20歳・愛知)
  ・『CaRRY MAN』
   新屋照美(21歳・愛知)
  ・『もて塾へ行こう!!』
   西村大介(24歳・埼玉)
  ・『ウサギマンX』
   小池号直輝(24歳・京都)
  ・『アイの言霊!!』
   士塚真司(21歳・大阪)
  ・『NOT A じょーく』
   山根章裕(23歳・大阪) 

 ちなみにこの回の審査員は、特別賞の名義をご覧の通り、矢吹健太朗氏
 これで総評に「もっとオリジナリティのある作品を!」とか書いてあったら、怒る以前に腹抱えて笑ったと思うんですが、さすがにそれはナシ。その代わりに「ストーリーも大事だけど、それより絵柄を磨くように」という内容が……。
 まぁ、矢吹氏らしいといえばそうなんですが、実際はそれとは逆(絵柄も大事だけど、やっぱりストーリー重視が吉)だっていうのは、矢吹氏も薄々気付いているでしょうに。それとも、「ネームなんか練らなくても、展開間延びさせまくっても、人気さえ維持できりゃ平気〜」という経験談から出てきた言葉なんでしょうかね、やっぱり(笑)。

 ま、皮肉はこれくらいにしますか。

 情報系話題をもう1つ。来週号の「週刊少年ジャンプ」29号で、『ノルマンディーひみつ倶楽部』いとうみきおさんが、読み切りで本誌復帰です。予告のカットを見たら、絵が洗練されて来た印象があるので、ちょっと楽しみですね。

 では、レビューに移ります。今週は「ジャンプ」から2作品ですね。レビュー中の7段階評価についてはこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年28号☆

 ◎新連載第3回『ヒカルの碁(第2部)』作:ほったゆみ/画:小畑健《第1回掲載時の評価:

 ハッキリ言って、もうレビューする必要も無いほど安心して読んでいられる作品なのですが、今回はちょっと目先を変えたレビューを。

 皆さんは「ヒカ碁」が第2部になってから、微妙に、そして明らかに各所でマイナーチェンジが施されているのにお気づきでしょうか? 
 中でも大きい変化は主人公のヒカルですね。顔つきや考え方などが随分と大人っぽくなっていますよね。『ナニワ金融道』でも、連載中断→再開後に主人公の灰原を明らかに“グレードアップ”させて、ストーリー全体の毛色を変えることに成功していましたが、ちょうどそんな感じです。
 まぁ、ヒカルとアキラの会話シーンだけは旧来の子どもっぽいヒカルが残っているのですが、これはアキラに消えてしまった佐為の代わりをさせているんですよね。よく考えたら、今やヒカルの周囲でヒカルより棋力が高いキャラってのはアキラくらいしか無いわけで。佐為編の時は直接の会話がほとんど無かった2人ゆえに出来る設定変更で、この辺りが非常に巧みです。
 また、何気なく登場した小道具の扇子もポイントですね。これはもちろん佐為の分身。この再開第3回の時もそうでしたが、妙手が浮かんだ時などのアクセントとして使用されるのでしょう。

 ただ、あと1つ注文をつけるとすれば、もう少し息抜きする場が、つまりコメディ的な場面がもう少し増えてくれば良いと思いますね。やっぱりストーリーマンガの王道はコメディですので。笑いがあってこそのリアルな日常。
 今のところは伊角クンと倉田プロあたりが“お笑い要員”になっちゃってますが、北斗杯編に入ると出番なくなりますしねえ。
 あ、あとヒロインキャラが欲しいところですよね。ひょっとしたら中国か韓国の若手でヒロインキャラが登場するのかもしれませんが。やっぱり個人的には奈瀬さん復活希望でございます。

 ……と、レビューだかなんだか分からなくなっちゃいましたけど、とにかく素晴らしい作品だって事は確かです。同人ネタが減るから人気が下がるかも、なんて向きもありますが、そんな低次元なレヴェルでこの作品が貶められる事の無いように祈っております。評価はもちろんAで据え置き。平成年代を代表する素晴らしい作品の1つです。

 ◎読み切り『しゅるるるシュールマン』作画:クボヒデキ

 さて、問題作です。いや、問題(のある)作品ですね(苦笑)。もうこのゼミでも3回目のレビューになりますか。
 この作品の何が問題かというと、やはり「作者がシュールギャグの何たるかを分かっていない」という点に尽きると思います。
 ギャグのキレ自体は若干ながら以前よりも良くなっているような気がしますが、それはシュールでも何でもなくて、ただ狙ってやってるギャグに過ぎないんですよね。シュールなギャグっていうのは、基本的には「おかしな人がおかしな人なりに普通の事をやる時に生じる“常識のズレ”から、自然発生的に笑いを生み出す行為」なわけです。
 で、その上級編が『ピューと吹くジャガー』ですね。あの作品は、基本的なシュールギャグをあざとく強調して、ハイアベレージで破壊力の高いギャグを量産しているわけです。

 じゃあこの作品のギャグはどんなギャグかというと、「おかしな人が、ただ笑いを取ろうとしてるだけ」というもので、これではシュールでも何でもなくて“ただのギャグ”なわけですよ。しかも大して面白くも無いし。ツボにハマる人はいるんでしょうけど、少なくとも今「ジャンプ」で連載されているギャグマンガと比べると、間違いなく相当下のレヴェルです。

 とにかく作者のクボさんが自分の勘違いから早く気がつく事。そうすれば活路も見出せるでしょう。それまでは高い評価は進呈できません。C寄りのB−

 ……と、いうわけで今週分のレビューは終了です。来週も2作品程度のレビューになると思いますが、どうぞよろしく。

 


 

6月11日(火) メディアリテラシー特論
「『探偵ファイル・電脳探偵マル秘レポート』に対する論題〜“宮村優子裏ビデオ”解題」(2)

 ※前回(レジュメはこちら)の内容をご覧になってから受講して下さい。また、15歳未満及びセクシャルな表現に抵抗を感じる方の受講はご遠慮下さい。


 さて、それでは今日こそ今回の講義の本題へと話を進めて行きたいと思います。

 今回問題アリとして採り上げるのは、「探偵ファイル」内のあぶない探偵/電脳探偵のマル秘レポート」、その第6回です。

 この回は「声優さんも大変なのです」と題した特集記事で、声優業界の、特に声優志望の女性が声優になるまでの裏事情についてレポートされています。
 実際の内容はリンク先をご覧頂くとしまして、その前半部分──とあるプロダクションでは、養成所の生徒を対象に“特別審査”なる、容姿と親の仕事内容についてのチェックが入り、そこで選ばれた人だけ、偉〜い関係者さんとHすることを条件にプロダクションに仮採用してもらえる、という内容──について、駒木は何ら口を挟むものではありません。否定しようにも反証がありませんし、第一、芸能界でのこの手の話は駒木も聞いた事があったりするからです。

 まぁ、今回の話が本当か嘘かは全く別の問題としまして、芸能界でこの手の話というのは枚挙に暇がありません。それこそ、信憑性の高い筋からの情報から都市伝説の類まで様々です。
 ちなみに駒木が聞いたこの手の話の出所は、某タレントのオフレコ・トークイベントで聞いたものや、芸能界・声優業界に関わりのある人から直に聞いたりしたものです。(逆に言えば、そういうに状況さえ恵まれれば、駒木のような一般人にも知る機会のある情報であるとも言えますね)まぁ、少なくとも都市伝説よりは信憑性の高い情報だと思います。ただ内容のそのほとんどが、とてもじゃないけど危なくて公に述べられるモノではありませんので、ここでは泣く泣く割愛します。が、その中には、「仕事が欲しければ俺と寝ろ」と、ベテラン男性声優が新人の男性に迫る……なんてモノもあったりする事を付記しておきます。

 ──まぁ、そういうわけでして、この第6回の前半部分については何も言う事はありません。マジネタかガセネタかは別にして、よくある話、またはマジネタでも全くおかしくない話である事だけは確かです。
 ただ、問題は、そういうある程度信憑性の高い情報の中に、明らかにデタラメな内容が併記されているというところにあるのです。それがその「──マル秘レポート」第6回の後半部分です。問題のある部分を引用してみましょう。

 そういえば、
 90年代、最高の問題作と言われ社会現象まで引き起こした某アニメ・・・。
 某役柄の方が、その昔AVに出演していたと報じられたことを覚えているでしょうか?

 昔の彼氏とのプライベートビデオ説が有力ではありましたが、だとしたら撮影した相手の男はいったい誰だったのか?
 事の真偽はともかく、某アニメが終了してすぐに彼女はプロダクションを移籍。すると、移籍後にしばらくしてビデオが流出・・・。

 誰に撮られて、誰に流されたのか・・・? おっと、勘ぐり過ぎですね、反省です。(「電脳探偵のマル秘レポート」第6回より引用)

 まず初めに、この引用文の最後の部分、「おっと、勘ぐり過ぎですね、反省です。」という文章は、この記事の著者である“電脳探偵”山木さんが、未確認情報を敢えて載せる時に使用する常套句である、という事を述べておきましょう。つまり、一種の予防線ですね。
 ただ、この文章の内容は、「勘ぐり過ぎ」どころの話ではないのですが……

 まず話の進行上、ある程度のネタバラシをしておきましょう「90年代、最高の問題作と言われ社会現象まで引き起こした某アニメ」「某役柄の方」というのは、宮村優子さんです。1997年、このレポートにもあったように事務所を移籍した年の夏から秋にかけて、大手写真週刊誌等も巻き込んで「宮村優子の裏ビデオ発見?」のような形で騒動が起こったので、記憶されている受講生の方もいらっしゃると思います。
 当時は未確認情報が氾濫し、「これは本物に間違いない」、「いや、よく似てるニセモノだ」、「声はどう聞いたって本人」、「いやいや耳の形が本物と違う」……などと諸説紛紛といった状態が数ヶ月続いた後、いつの間にか沙汰止みとなりました。恐らく今回の「──マル秘レポート」も、その時漏れて来た情報を元にしたのだと思われます。
 ですが、今は事情が異なります当時は出て来なかった様々な事実が判明しています。物事は何でもそうですが、得てして確定的な情報ほど後になってから流れて来るものであります。

 さて、それでは実際に問題点を追及していくわけですが、その問題のある部分とは、
 「昔の彼氏(注:「──マル秘レポート」の文脈から、『彼氏』は業界関係者と思われる)とのプライベートビデオ説が有力ではありましたが」
 という部分、さらには、
 このビデオの中でHをしている女性が宮村優子さん本人であると決め打ちしている
 ……以上2点です。
 これらのポイントは、レポートを進めていく上での重要な仮説・前提条件となっている部分でして、これが覆されると文章全体が成り立たなくなるという、文章の大黒柱的部分である、ということをご確認下さい。

 では、まずは1点目、“プライベートビデオ”説についての反論です。

 実はこの問題の“宮村優子裏ビデオ”駒木はrm化されたモノを持っていまして、何度でも中身を確認する事ができます。
 で、ビデオを観てみればすぐに分かるのですが、この映像には局部にモザイクがかかっています。しかも最近ではお目にかかれない程、かなり目の粗いモザイクがかかっています。
 ……プライベートビデオでモザイク?
 首を傾げられた方もいらっしゃるでしょう。実は、この「宮村優子裏ビデオ」とされた約18分間の映像は、主にレンタルビデオ用に市販されていた“表ビデオ”から抜き出したものだったのです。
 その“表ビデオ”は、宇宙企画から1993年に発売された『新変態よいこ通信』という題名のオムニバスビデオ(無名の女優による短時間のカラミを複数収録したモノ)です。美少女単体モノの多い宇宙企画にしては珍しいタイプのビデオですね。まぁ、だからこそ、このビデオは超マイナーなレーベルとなり、“裏ビデオ”として流通する事が可能になったわけなのですが……。
 (注:駒木は“宮村優子裏ビデオ”は持っていますが、この『新変態よいこ通信』を持っているわけではありません。が、このビデオについて詳細なレビューがされているウェブサイトが存在します。とてもでっち上げとは思えない内容ですので、信頼していいと思われます。情報ソースはこちらこちらから。ただし、リンク先は18歳未満閲覧不可です)
 ちなみにこのビデオが発売された1993年は、宮村優子さんが短大を卒業して、某プロダクションに加入した年にあたります。

 じゃあこのビデオはプライベートビデオじゃないんですね? ……というと、これだけでは、まだ疑いが晴れない部分があるのです。
 実はこの『新変態よいこ通信』(それにしても恥ずかしいタイトルですねぇ^^;;)に収録されている“宮村優子裏ビデオ”の部分は、“物好きカップルによる投稿ビデオ”ということになっているのです。
 つまり、宮村優子とそのお相手となった関係者によるハメ撮り映像を宇宙企画に投稿したモノ、という可能性が残っているというわけです。大手メーカーによるこの手のビデオは、その大抵がヤラセ企画モノなのですが、一応わずかながら可能性が残っている以上、この可能性を潰す反証を提示しなくてはいけません

 反証その1ビデオ内でテロップ表示される投稿者のプロフィールが「美大生カップル」という設定になっていて事実と異なります宮村優子さんの最終学歴は「桐朋学園短期大学 演劇専攻卒業」です。さらにお相手の業界関係者まで美大生を名乗っているわけで、これは噴飯モノです。
 反証その2。冒頭のシーンで、宮村優子さんとされる女性が自己紹介するシーンがあるのですが、彼女は「まきちゃんでーす」と名乗ります。宮村優子さんは本名を芸名としても使用しているため、プライベートで別の名前を使用する事はありません
 反証その3。これは駒木の主観的な判断が入ってしまうのですが、収録されている映像の内容がソフトすぎるのです。定番のフェラチオシーンすらありません。更に言えばハメ撮りビデオでは必須のはずの“結合部分”の映像がほとんど無いですし、映像の様子からして擬似姦(モザイクで局部が鮮明に映らない事を利用して、ペニスを女性のアソコへ挿入していないのに本当にセックスしたようにみせかけること)であることすら窺わせます。プライベートビデオで擬似姦やってたらアホです。
 反証4。これは「そもそも…」という話なのですが、これから売り出そうとする新人声優とのハメ撮りビデオを、わざわざ業界関係者が大手のビデオメーカーに投稿することなど有り得るのでしょうか? 新人声優と関係者がHをする。それをビデオに残す。ここまでは百歩譲って有り得るとしましょう。しかし、それをほぼ撮って出しの形で大手AVメーカーに投稿するなんて事は、いくらなんでも業界的にご法度のはずです。それにどうせ流通させるなら、本当に裏ビデオとして流通させた方が金銭面も含め、何かと得なはずだと思うのですが……?
 反証5どうせ流出させるなら、わざわざ市販されたビデオをカットしたものより、実際にハメ撮りした時のテープを流出させた方がインパクトが強かったのではないでしょうか? 山木さんの説によると、このビデオは事務所を移籍した宮村優子さんに対する報復なわけですから…。

 受講生の方たちがどう感じられたかは分かりませんが、以上の事から駒木は「この“宮村優子裏ビデオ”はプライベートビデオではない」と結論付けさせて頂きます。そして、「──マル秘レポート」で山木さんが述べたかったと思われる、「宮村優子さんが別の事務所へ移籍した事に怒った元の事務所が、報復のためにデビュー前に関係者がハメ撮りしたビデオを流出させた」という事の信憑性も著しく低いものであると断じさせて頂きます。

 しかし、追及はこれだけで終わりません。2つある問題点の2点目、「このビデオに出てくる女性は本当に宮村優子さんなのか?」という所です。
 もし、このビデオが宮村優子さん出演のアダルトビデオでなかったと言う事になるのなら、「──マル秘レポート」の後半部分の内容は根元から崩壊する事になります。

 まず、プライベートビデオ説が否定された時点で、現在残されている可能性は
 「宮村優子さんが、宇宙企画のヤラセ投稿ビデオにAV女優として出演した」
 ……というところでしょう。これなら「事務所移籍に怒った前の事務所が、報復のために宮村優子さんが出演していたAVを流出させた」という説も成り立ちます。まぁ、それにしたって「──マル秘レポート」の内容とはかなり異なるのですが。

 では、実際にビデオの内容を検証していきましょう。本来なら受講生全員に教材として映像資料を提供したいところなのですが、それは諸々の理由から考えて不可能であります。この点は、どうかご容赦願いたいと思います。ただ、今ならファイル交換ツールさえあれば入手は比較的容易だと思われますので、ブロードバンド環境の受講生の方は是非お試し下さい。

 さて、それでは色々な側面からこのビデオを検証していきましょう
 まずはから検証しましょう。何しろ、このビデオが「本物だ!」と騒がれた理由は、「特に声が宮村優子さんと酷似している」というものでしたから、検証する上でも最優先事項と言えます。
 そして、このビデオの女優の声は、確かに宮村優子さんの声と非常によく似ていますソックリです。冒頭の「まきちゃんでーす」の部分からして激似です。カラミの時の声も、「あぁ、宮村優子さんがエロアニメのアフレコしたらこんな声だろうなぁ」と思わせるような声ではあります。さらには、前戯中、ローターを局部に突っ込まれた時に思わず口走った「バカバカバカぁ……」という部分など、「おお! これこそが『あんた、バカぁ?』の原点かァッ !!」と、『バキ』ばりに吼えたくなったりします。
 そういうわけで、声から宮村優子AV出演説を覆すのは非常に困難です。声紋鑑定でもしない限り無理でしょう。ただ敢えて言えば、宮村優子さんがHしてるところ見た事が無いので判断のしようもないのですが。本当は野獣のような声を上げてHするかも知れませんし(笑)。

 ……というわけで、声は本当に似てます。では、他の部分はどうでしょうか?

 AV女優の体の部分で特徴的な箇所といえば、まずはでしょう。いや、本当は局部なんですが、それはモザイクで消されてますし、よしんば見られたとしても比較対象が無いので判断の使用がありません。
 さて、このビデオに出てくる女優さんの胸は、宮村優子さんのそれと比較するとかなり大きいように感じますちょっと違和感アリです。
 ただ、宮村さんはヌード写真を公開した事などありませんから“現物”と比べられませんし、着やせするタイプであるとも考えられます。それに宮村さん自身が以前ラジオで「私は昔、もっと胸大きかったんだよ」と発言していましたので、大きさが違うから本人ではない、と判断するには嫌疑不十分といえます。

 …さぁ、ここまでは反証になり得る資料は見つかりません。それではいよいよ核心部分、について検証してみましょう。

 以前、写真週刊誌などで騒がれた時には、「顔のホクロの位置もソックリだ!」などと言われたのものでしたが、果たして本当の所はどうなんでしょうか?
 まず、ここで注意しなくてはいけない事は、ビデオの映像は終始薄暗い中で撮影されていると言うことです。どうやらホテルの暗い照明の灯りだけを頼りに撮影されているようです。これは恐らく、投稿ビデオという体裁を維持するために本格的な照明が使えなかったからでしょう。
 ですので、顔の全体的な印象はともかくとして、細かい部分まで検証するにはかなり不鮮明な映像となっています。その上、顔が全体的にアップで映る場面はごくわずかですので、果たして本当にホクロの位置がどうとか判断できるのかどうかは疑問です。少なくとも、顔や体全てのホクロが一致するかどうかまで検証することは不可能と思われます。
 では、顔の全体的な印象についてですが、確かに角度や表情によっては驚くほど似ている場面も頻出します。ビデオをざっと流して観ているだけでは「おお、本人か」と思っても不思議ではないでしょう。
 しかし、問題は「似ている」かどうかではなくて「一致している」かどうかです。よりシビアな視点で判断せねばなりません。そこで、ビデオから抜き出した“宮村優子さんと疑われるAV女優”の顔のアップ映像と、宮村優子さんの顔写真を並べて検証してみましょう。(画像に関しては、然るべき所から抗議があれば削除します)

 まずはビデオに登場する「まきちゃん」

 次に、宮村優子さんのポスター画像

 そして、1997年に某所で行われたイベントの時の記念撮影。スナップ写真のため、印象が普段のものと随分違いますが……↓

 

 ……な、なんだか全然似ていない気がするのは駒木だけでしょうか? 
 よく見れば眉毛なんか、「まきちゃん」の方は化粧で描いたものですよね。でも宮村優子さんは、数年前、長期休養から復帰する時に顔の印象が変わるほど眉毛を抜きまくるまでは、ご覧のように自前の太い眉毛をしていました。ですから、少なくとも眉毛は明らかに矛盾してるんですよね。「少なくとも眉毛は」ってのはアレですが(笑)。
 まぁ、眉毛だけじゃなく、顔のパーツの要所要所が違ってるのは見ればお分かりになると思います。少なくとも「同一人物だ!」とは言い切れ無いほどの“誤差”がある事は確かであると思います。

 ……というわけで、この“宮村優子裏ビデオ”とされてきたビデオはどうやら、
 「声が異様に宮村優子さんに似ている女の子が出演していた、ただの表ビデオ」
 というのが自然な結論となるようです。

 ……そういうわけで、先にも述べました通り、これによって「──マル秘レポート」第6回の後半部分は全くのデタラメ・事実無根と言うことになってしまいました。どうやら、この講義の第1回で指摘した、山木さんの「仕入れた情報のソース丸呑み・ウラ取らず」という姿勢が招いた最悪の事態といえそうです。
 ただ、駒木はそうやって鬼の首を取って終わりにしたいわけではありません本当の問題点は別にあります。
 それは、信憑性の高い情報と明らかなガセネタが同じレポートの中で混在することによって、本当の情報がガセネタと誤解されてしまったり、ガセネタが本当の情報だと誤解されてしまったりする…という事です。特に後者の場合は、事実無根の情報で名誉・人格を傷つけられる人が出てくる恐れがあるわけで、これはマジで大問題になって来るのです。(事実、この件に関しては、実名を挙げていないとは言え、宮村優子さんの名誉を傷つけているわけですし)ましてや「探偵ファイル」さんはマイナー月刊誌並の数万人の読者がいるサイトなわけですから、責任は重大と言えます。
 まだ分かり難いかもしれませんね。つまるところ駒木が言いたいのは、
 「せっかくの良質なウェブサイトも、そのコンテンツの中に少しでもデタラメなものがあると、本当に正しい情報まで疑われる事になり、ウェブサイトそのものの価値を貶める事になるので、気をつけて下さいよ」
 ……という事なのです。山木さん、ならびに「探偵ファイル」スタッフの皆さんも、それを肝に銘じてこれからも頑張って頂きたいと思います

 さて、長々と講義を進めてまいりましたが、一応これで締めくくりという事になります。
 ただ、今回の講義は、いくら駒木が慎重に論理的に話を進めていったと言っても、駒木が立てた仮説を正しいものと仮定して話を進めているわけですから、駒木の立てた説にも事実誤認がある可能性があるわけです。
 そこで、駒木はこの講義内容を山木さんに見て頂き、弁明なり反論なりをして頂こうと思っています。その結果、もし駒木の方に非がある部分があるのなら、その点に関しては謝罪しようと思います。それに関しては、また別の日に時間を取ってお知らせしたいと思います。

 では、今日の講義を終わります。ご清聴、ありがとうございました。 (この項、一応の終わり)

 


 

6月10日(月) メディアリテラシー特論
「『探偵ファイル・電脳探偵マル秘レポート』に対する論題〜“宮村優子裏ビデオ”解題」(1)

 今日の講義は、ちょっといつもと趣が異なります

 まず、今日は他のウェブサイトのコンテンツ内容について、その問題点を指摘するような形で進行していきます。ただし、よくあるような“叩き”や“弄り”のような志の低い事をするつもりは全くありません。これは講義を受講して頂く内にお分かり頂けると思います。

 また、題名をご覧になれば分かりますように、今日の講義の内容には相当にセクシャルな内容を含むものになる事が予想されます。なるべく直接的な内容は避けますが、15歳未満の方、またはその手の話題に嫌悪感を感じる方の受講はご遠慮下さい。

 では、以下から実際に講義へと移ります。


 さて。
 ネット業界の有名大手サイトの1つに、「探偵ファイル」さんというサイトがあります。
 このサイトは本職の探偵さんたちが運営しており、一般人には入手困難な情報が多数掲載されています。しかもそれだけではなく、『探偵! ナイトスクープ』のようなお笑いネタも充実しており、純粋な読み物としても楽しめるような構成になっています。
 そのためでしょう、ネット閲覧者の関心も高く、現在平均約40000人/日のアクセスを獲得されています。この数をどの基準で評価すればいいのかは微妙なところでありますが、個人ウェブサイトとしてはもちろん、1つのメディア媒体としてもある程度の影響力を持つ事のできる数字だと思います。

 ──と、そんな「探偵ファイル」さんの複数あるコンテンツの中に、あぶない探偵/電脳探偵のマル秘レポート」というものがあります。
 これは山木さんという若手スタッフが担当しているコンテンツで、主にマンガやアニメ業界の裏事情についてレポートしているものです。
 このコンテンツに関しては、当社会学講座の中でも、演習(ゼミ)「現代マンガ時評」で、「週刊少年ジャンプ」のアンケート事情について一度採り上げさせてもらった事がありますので、ご記憶の方もいらっしゃるかと思います。ちなみにその「ジャンプ」アンケート話は、「──マル秘レポート」の第1回で扱われたものでした。

 さて、この「ジャンプ」アンケート話については、
 「火曜日必着だと、首都圏と一部の土曜早売りエリア以外はアンケートがほとんど反映されない事になるけど、本当だろうか?」
 とか、
 「元ジャンプ作家の原哲夫さんは『コミックバンチ』のインタビューで『新連載の打ち切りが判断されるのは第3回までのアンケート』(リンク先は『ちゆ12歳』さん)と証言していたけど、この記事では『1回目のアンケートで打ち切りもある』となっている。これは何故食い違っているのか?」
 ……などといった疑問点が無くはなかったのですが、具体性に富んだ記述である事などから、「これは総合的には信頼できる情報だ」と判断し、講義で採り上げさせてもらった──といった経緯がありました。

 その後、この「──マル秘レポート」は現在6回まで回を重ねられ、毎回毎回これまで表舞台に出るはずの無かった裏事情が提供されてゆきました。
 ただ、第1回で駒木が感じた一種の“危なっかしさ”──つまり、総合的には信頼に足るのだけれど、局部的に信憑性が揺らぐ部分がある事──を、またたびたび感じてしまったりもしました。

 例えば、第2回某「ジャンプ」連載作家さんの営業話
 この話は、アンケートが打ち切りラインに近付いたのを懸念した某作家さんが、女子高に“営業”をしに行ってアンケート投函をお願いした結果、アンケート結果が発行部数600万部時代の『ドラゴンボール』並となった。そのおかげで待遇が良くなり、有能なアシスタントも紹介してもらえた……という内容です。
 しかし、よく考えてみれば、この話に出てくる“営業”はやり過ぎですよね。それまで打ち切りラインを這っていた数字が突然あり得ない数値にまで跳ね上がったわけですから、常識的に考えて、編集部は数値の上昇を喜ぶよりも不正や作為的行動を疑うはずです。この件に関してその作家さんは、褒められるどころか編集部に呼び出されて詰問されてもおかしくないと思うのですが……?(追記:それ以上に、女子高に営業行ったくらいでそこまで得票が跳ね上がる事自体怪しいですね)
 まぁ、この作家さんの作品が連載続行となり、有能なアシさんがついたのは事実ですから、これらの話が全て虚構という事は無いでしょう。しかし、どうも話の節々が誇張されてしまっている気がしてなりません。有り体に言えば、ロクに裏も取らないまま、(自称)事情通の人から聞いた噂話を文章に起こしただけなのではないか? という疑問が湧くという事です。

 さらに第4回でも疑問符のつく内容があります。
 この回では、先日連載が終了した『ライジングインパクト』について書かれていまして、「この作品は打ち切りで終了した」というこれまでの定説を否定した上で「打ち切りではなく、作者の鈴木央さんが無理矢理始めさせられた連載に疲れたから」という新説を発表しています。
 もちろん、この手の話は「ジャンプ」ではよく聞かれるものです。例えばこのレポートの中で紹介されている『幽☆遊☆白書』この作品に関しては、売れセンのマンガを“粗製濫造”する事に疲れた作者の冨樫義博さんが、編集部に無理を通して自分の手で打ち切ったというのは既に有名な話でもあります。
 しかし、『ライジングインパクト』はどうでしょうか?
 この作品に関しては、連載終了後発売される単行本には相当なページ数の書き足しがなされていますし、当講座のゼミでも紹介した通り、増刊号「赤マルジャンプ」にもサイドストーリー(「──マル秘レポート」では「本編で収録されなかった話」とありますが、これは明らかに誤りです)が執筆・掲載されています。
 で、ここで疑問です。本当に作品を描くのに疲れた作家さんが、改めて書き足しやサイドストーリーの執筆をするでしょうか? これも情報のウラが取れていない雰囲気がプンプンするのですが……。

 また、マンガの裏情報を扱っていながら、肝心の担当者・山木さんがそれほどマンガ界の事情に詳しくないのではないか、と思われる節もあります
 回は前後して第3回です。この回は「ジャンプ」編集部内の派閥争いについての話。この話に関しては、駒木の個人的な判断では信頼できそうなものであります。
 ですが、問題はそれとは別の点にあるのです。
 この回で山木さんは、「ジャンプ」女流作家・河下水希さんと、少女マンガ家・桃栗みかんさんの絵を並べて置いて、「河下先生と作画が似ている...てゆ〜か、別名で本人?ナンテ思っちゃったり...。 いやいや・・・勘繰り過ぎですよね。反省です。。」…などと記述し、その後に追記の形で「新事実発見!」としてこの2人が同一人物であった事を報告しています。
 しかし、この「河下水希=桃栗みかん」という事実は、このレポートが発表される随分前からマンガ通の間では半ば“常識”となっており、新事実でも何でもない、というのが実際のところでした。

 …で、これらの事を考えると、この一連のレポートは、“マンガ事情に決して詳しくない人が、事情通から聞いたソースを丸呑みして書いている”という仮説が浮かび上がってきます。
 もしこの仮説が正しければ、このレポートはかなり危ういモノになって来ます。つまり、事実と虚構かの判断をなされないまま、不用意に虚実ない交ぜの記事が掲載される事になり、その結果、虚構まで事実と混同して数万人の読者に認識されてしまう恐れがあるということです。

 そして、実際にその危惧が現実になってしまったレポートがありました。それは現在最新の回となっている第6回“宮村優子裏ビデオ”に関する記述です。

 ……と、ここから本題に入るところだったのですが、時間の都合上、明日に回したいと思います。申し訳ありませんが、どうぞよろしく。(次回へ続く) 

 


 

6月9日(日) 文献講読
『夏、雲ひとつ無い夜に─』(2)

※この講義は小説です※
第1回未読の方ははこちらからどうぞ。

 9回裏で同点、そしてワンナウト・フルベース。その局面の3塁ランナーというのが、中林卓郎に与えられたこの試合での“役どころ”であった。

 だが、中林は初めから3塁ランナーとして起用されていたわけではない。それならば、もっと緊迫した状況に耐えられる“代走のスペシャリスト”がベンチに控えている。そういう意味において、彼はラッキーだったと言える。
 監督から主審に「代走・中林」が告げられたのはノーアウトでランナー1塁の時だった。打順9番のピッチャーに送られたベテランの代打選手がフォアボールを選び、そこでセオリー通りの代走起用となったのである。
 9回裏、同点、そして上位打線に繋がる状況から考えて、経験の浅い中林の起用は疑問符が付くところだった。しかし延長戦になった時のことや、明日ファームに強制送還となる若者の心境を考えると監督の情が揺らいだりもしたのだろう。ともかく、活躍の機会に飢えていた若者に望みのモノが与えられた。これだけは確かなことであった。

 そこから今に至る試合の流れはこうである。

 まず、1番バッターがベンチのサインに従って送りバントを試みる。成功。1塁ランナー・中林はセカンドに進塁して、これでワンナウト2塁。
 続く2番バッターはライト前…というよりセカンドの後方にポトリと落ちるようなテキサス・ヒット。打球をキャッチする可能性があったため、中林は大きなリードが取れず、3塁にたどり届くのがやっと。これでランナーは1、3塁となった。
 3番バッターが打席に立った初球、1塁ランナーが独自の判断で盗塁を敢行した。中林は、もしキャッチャーが2塁に送球したらダブルスチールでホームに突っ込もうと考えたが、その目論みは、最悪の事態を警戒した相手チームのキャッチャーが送球を断念したことにより立ち消えになった。
 これでランナーは2、3塁。1塁ベースが空くと守備側は守り難い。相手チームは、ベンチから飛び出した投手コーチを含めた数分間の“臨時会議”の末、敬遠・満塁策をチョイスした。3塁ランナーをホームでフォース・アウトにして、本塁→1塁のダブルプレーを狙うための作戦である。次に打順が回ってくるのが4番打者というのが問題だが、1点もやれない局面で、「ワンナウト・2、3塁で3番打者」と「ワンナウト・フルベースで4番打者」という2つのパターンを天秤にかけると、やはり後者の方にメリットが大きいのは明白だった。
 2球目以降、キャッチャーは明らかなボール球を要求し、スリーボールになった後は立ち上がって敬遠の意図を露わにした。3番バッターが涼しい顔でバットを投げ捨てて小走りで1塁へ。タイムをかけ、1塁コーチと何やら雑談を交わしながら脛のプロテクターを外して、それから仁王立ちの姿勢で左足で1塁ベースを踏みしめた。
 3番バッターが1塁ランナーになる準備を終えたのを見届けてから、ウェーティングサークルで豪快な素振りを披露していた4番バッターがおもむろに歩を進める。予想された状況とは言え、3番が敬遠されて自分に打順を回されたことでプライドに引っかき傷でも作られたのだろう。いつにも増して憮然とした表情でバッターボックスに足を踏み入れた──

 
 ──ふぅ。
 中林の溜め息である。
 ──えらい所に来ちゃったな、俺。
 試合前に柔和な表情で気さくに声を掛けてくれた4番バッターが、今では顔を真っ赤にして相手ピッチャーを睨みつけているのを見て、中林はそう思った。
 しかも自分は3塁ランナーである。ヒットならまだ気楽だが、犠牲フライ、内野ゴロ、さらにはワイルドピッチや悪送球……自分の判断でホームに突っ込まなくてはならない場面が無数にある。明らかに中林は、この試合の勝負を決めるキーマンの1人となっていた。極度の緊張が彼を襲う。視線は下へ下へ降りてゆき、足が小刻みに震えた。
 ──けどよ。
 中林は、震えを振り払うように大きな咳払いを1つ、そして前に向き直った。
 ──やっぱり、監督にアピールするなら、このくらいの場面じゃないとな。
 …やはり彼は、こと少なくともメンタル面においてはプロのスポーツ選手であった。逆境を好機に昇華させる術と言うものを身に付けていた。
 ──よし。こうなったらイチかバチかだ。
 “ダメモト”でやっちまおう。それが中林の結論だった。
 どうせ、明日には二軍送りになる身。さらに言えば、次にいつお呼びがかかるか分からない立場。多少無茶をして、結果的にそれがチャンスを潰すことになったとしても、自分を取り巻く環境は大して変わらないだろう。
 ──なら、ちょっとでも可能性があるなら躊躇無くホームに突っ込んでやろう。それでサヨナラのホームを踏んだら俺がヒーローだ!
 …そう考えると、中林は一気にテンションが上がって来るのを感じた。足の震えが止まり、代わりに首から上へ一気に血が昇る。それを落ち着けるために両手で両頬をパンパンと軽く張る。まるで自分が打席に立っているみたいだな、と思うと、ちょっと可笑しかった。

 「──おい、落ち着けよ。ちゃんとサイン出すからよく見ろよな」
 3塁コーチャーズボックスに立つ守備・走塁コーチが中林に囁いた。中林は小さく「ハイ」と答える。コーチは満足そうにうなずいた。中林が「ハイ」と答えたのは、彼のセリフの前半部分だけだったということを全く知らずに。

 ……その時、主審が「プレイ」と叫んで両手を上げた。(次回へ続く) 

 


 

6月8日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”(13)」
1992年ジャパンカップ/1着馬:トウカイテイオー

駒木:「G1レースが続いたんで、ほぼ1ヶ月ぶりの競馬学概論になるね。」
珠美:「本当はこれくらいのペースの方が、資料集めが楽で良いんですけどね(苦笑)」
駒木:「それと名勝負探しだね(苦笑)。そんなにいくつも名勝負と言えるようなレースってあるわけじゃないからねぇ。まぁ、そうなったらそうなったで別形式の講義を考えるしかないんだけれども。
 けど、今日扱うレースは文句ナシの名勝負だよ。レースの内容にしても、メンバーにしてもね」
珠美:「1992年のジャパンカップですね。有名なレースですから、学生時代に何回もビデオで観ましたよ。でも、実際にレースがあったのは…えーと、私が小学6年生の時ですね(苦笑)」
駒木:「うひゃ〜(苦笑)。ついに小学生と来たか! もうアレだよ、受講生のみんな、ランドセル背負った小学生時代の珠美ちゃんを想像してるんじゃないかな(笑)。体型とかあんまり変わってないから想像もし易いんじゃ……」
珠美:「(ギロっと睨んで)
博士!?
駒木:「あ、ゴメンゴメン、失言だった(苦笑)」
珠美:「これ以上セクハラみたいなことをおっしゃったら、講義中でも『サラブレッド血統体系』の角で殴りますからね!」
駒木:「あ〜本当に悪かった。謝るから講義を進めよう。とりあえずは出走表だね。珠美ちゃん、用意よろしく」
珠美:「まったく…(大きな溜息)……ハイ。それでは出馬表をご覧下さい。出馬表内で馬名が赤字になっているのは海外招待馬です」

第12回ジャパンC(国際G1) 東京・2400・芝

馬  名 騎 手
ユーザーフレンドリー ダフィールド
イクノディクタス 村本
ヴェールタマンド ブフ
レッツゴーターキン 大崎
ドクターデヴィアス マッキャロン
レガシーワールド 小谷内
ナチュラリズム ディットマン
ヤマニングローバル 河内
ディアドクター アスムッセン
10 レッツィロープ ビードマン
11 クエストフォーフェイム エデリー
12 ハシルショウグン(公営) 鈴木啓
13 ヒシマサル 武豊
14 トウカイテイオー 岡部

珠美:「……10年も経ちますと、馬も騎手も随分と様変わりしていますよね」
駒木:「だね。ドクターデヴィアスなんて、競走馬としてより種牡馬として馴染みがある人も多いんじゃないかな。騎手もそうだね。大崎騎手と小谷内騎手はもう引退してるしね」
珠美:「…では、レースと出走馬の解説に移りますね。
 今日採り上げます第12回ジャパンカップが行われたのは、1992年の11月29日でした。このジャパンカップは、1981年に日本競馬界初の国際招待競走として新設されたレースです。当時はグレード制施行前ですが、賞金面などを考えると国内最高ランクのレースと言っていいと思います。グレード制施行後には、もちろんG1格付けがなされています。
 ……ところで博士、このレースが出来た当時の日本の競馬ってどんな感じだったんですか?」
駒木:「どんな感じって言うと……?」
珠美:「日本の競馬のレヴェルもそうですけど、海外の競馬に挑戦しようとする姿勢とか……」

駒木:「ん〜、1981年っていうと僕もまだ6歳だからなあ(苦笑)。直に知ってるわけじゃないということを先に言っておくけど、まぁ当時の日本競馬界っていうのは、一言で言えば“発展途上”ってところじゃないかな。レヴェルを上げようという気持ちは十分あるんだけど、技術と経験と素質の高い種牡馬・繁殖牝馬が足りないって感じ。今では当たり前のように使われている、坂路コースやウッドチップ、プール調教なんてのも当時はまだ無かったし。
 ただ、そんな状況でも海外で一旗上げようって動きは昔からあったハクチカラのワシントンバースデーハンデ優勝なんてのもその1つだし、今の香港やドバイの国際競走にあたる、アメリカのワシントンD.Cで行われてた招待レースにも頻繁に日本馬が挑戦していた。まぁこれは惨敗続きだったけれどね。そうそう、フランスの凱旋門賞に挑戦する馬なんてのもいたんだよ
珠美:「凱旋門賞ですか!」
駒木:「うん。今から考えたら相当無理してたなぁと思うけどね(苦笑)。それでもそのチャレンジ精神は大したもんだと思うよ」
珠美:「そして、そんな中でジャパンカップが新設されたというわけですね」
駒木:「そういうこと。海外の競馬を日本で学ぼうというわけ。ただ当時の日本は、競馬に関する限りは“極東の辺境”という存在だったから、海外馬を集めるために全力を尽くした。賞金は世界最高レヴェルの額を用意して、招待馬に関してはスタッフも含めてアゴアシ付きレースの時期も世界中で古馬の大レースが終わった直後の11月下旬に設定して、世界中の一流馬が参加できる状況を作り上げたんだけど……」
珠美:「あ、その話は聞いたことがあります。第1回はあんまりネームバリューのある馬が集まらなかったんですよね」
駒木:「そう。まぁ有り体に言って“準一流馬”ってところかな。欧米のG2〜G3クラスの馬と、あとは『なんでこんな馬いるんだ?』みたいなアジア枠。今では伝説になった“インドのシンザン”オウンオピニオンとかね。プロレスファン向けに言うと、初期のFMWみたいな胡散臭さがあったよね(笑)。
 で、それに対するは日本のトップホースたち。そうだなぁ……今の感覚で言うとメイショウドトウ、ナリタトップロード、アグネスデジタルくらいのメンバーかな。錚々たる豪華メンバーが満を持して出陣。さすがに海外のレヴェルの高さを思い知っている競馬関係者たちも、『このメンツなら、日本馬優勢だろう』と思ってたんだよ。
 そうしたらまぁ、外国馬強えぇ強えぇ、日本馬沈む沈む(苦笑)。日本馬最先着が、地方出身馬のゴールドスペンサーで5着勝ったのはアメリカの牝馬で伏兵的存在のメアシードーツで、しかもタイムがコースレコードの2分25秒3。今ではどうってことない時計だけど、当時はみんなひっくり返ったんだよ。そして誰かが言い出した。『日本馬は今世紀中は勝てない!』……で、これ以降、日本馬の海外遠征がピタっと止まってしまった(苦笑)」
珠美:「それは…ショックですよね(苦笑)。でも、その後にカツラギエースとかシンボリルドルフとか勝ってますよね?
駒木:「うん。あと、脚をぶっ壊しながら2着に突っ込んだキョウエイプロミスとかね。一応、しばらくしたら日本の超一流馬と世界の準一流馬は互角以上に戦えるようになった。一流馬も来てたけど物見遊山だったから走らなかったし。あぁ、喜んでいいんだかどうだか分かんないな(苦笑)。
 でもその後は、日本の超一流馬が世界の一流馬に跳ね返されるケースが続く。第6回から6年連続で日本馬は勝てなかった。中にはオグリキャップみたいに紙一重の所までくる馬もいたけれども、メジロマックイーンが他のレースでは考えられないような惨敗を喫したりとかして、相変わらず『海外馬強し』という印象のまま、この年のレースに至る。しかもこの年、ジャパンカップに関しては大きな動きがあったしね」
珠美:「ハイ。この1992年から、ジャパンカップは国際G1競走に認定されました。これで名実共に“秋の欧米・オセアニア統一チャンピオン決定戦”となったジャパンカップにはこの年、世界中から超豪華メンバーが集結することになりました」
駒木:「それまでは初期のドバイワールドカップと一緒で、“世界最高賞金のオープン特別”だったからね。そんなわけで、いくら金をかけようとメンバー集めにも限界があったんだけど、国際的なお墨付きが与えられた途端、状況が一変した。まぁ、今から考えてもゾッとするようなメンバーだよ。ちょっと紹介してみて」
珠美:「……ハイ。それでは紹介しますね。
 まずはこの年、(旧)4歳にして凱旋門賞馬になったフランス牝馬・ユーザーフレンドリー。これが1番人気でした。
 それからイギリスダービー馬が2頭も(苦笑)。お馴染みのドクターデヴィアスと2年前にダービーを制したクエストフォーフェイム。これが6、7番人気なんですから、本当にゾッとしますよね(苦笑)。
 アメリカからはアーリントンミリオン勝ち馬のディアドクター、さらには実績のあるオセアニア勢からは、オーストラリアダービー馬のナチュラリズムと、女傑の呼び声高かったレッツイロープ
 ……本当に凄いメンバーですね、これ」

駒木:「だろ? ……で、対する日本馬がねぇ、これがまた頼りなかったんだな。唯一対抗できそうだったのが、大将格のトウカイテイオーだったんだけど、テイオーにしたって、前走の天皇賞・秋で信じられないような惨敗をして、大きく信頼を失ってしまってた。この馬の現役生活で唯一の5番人気・単勝2ケタオッズ(10.0倍)っていうのが、その現れだね。
 で、あとは本当に頼りない。それぞれセールスポイントはあったんだけど、それにしても外国の豪華メンバーに対するには格も力も足りないように見えた。
 だからまぁ戦前の予想では、日本馬に対しては悲観的な見方が大勢を占めた。中には開き直って『海外の超一流馬のパフォーマンスを堪能するぞ!』なんて人も多かったんじゃないかな。
 でも、いざフタを開けてみると……さぁ、あとはレース解説と行こうか」
珠美:「ハイ。それではVTRを参考にしながらレースの状況を解説させていただきますね。
 まず、比較的揃ったスタートからレガシーワールドが飛び出してハナに立ちます。翌年のジャパンカップ勝ち馬ですね」

駒木:「だね。セントライト記念でライスシャワーに競り勝ったりとか、力の片鱗は見せていたけれども、この時はまだ実績も経験も足りなくて嫌気されてた。ただ、後から結果を見ると、この頃から力は有ったんだなって思うけどね」
珠美:「2番手グループにはドクターデヴィアスとユーザーフレンドリーが。……ってあらら、ユーザーフレンドリーは思いっきり引っ掛かっちゃってますね」
駒木:「だねぇ。それにドクターデヴィアスもレガシーに競りかけるようにペースを上げちゃった。随分と荒れたレースになったって感じだよね」
珠美:「その後ろでマークするような形でトウカイテイオーですね。絶好位につけてます。さらにその後ろにナチュラリズムディアドクターが。結局、この好位〜中位勢で決着することになるんですね」
駒木:「そういう事になるね。重馬場とはいえハイペースの展開だから、この位置につけた馬が上位を独占するって事は、やっぱり力があったんだろうね。少なくとも展開の有利さを活かしきるだけの力はあったって事」
珠美:「ハイ。隊列はほぼ変わらず、レガシーワールドとドクターデヴィアスの2頭がやや前を引き離して、その後ろにユーザーフレンドリー。トウカイテイオーはさらに2〜3馬身後ろ……といった感じで直線に突入します。
 直線では、まずレガシーワールドの粘りの前にユーザーフレンドリーとドクターデヴィアスが脱落。いきなり番狂わせ的な展開です。そこへすかさず差し脚を伸ばすのが、トウカイテイオーと、最内を突いたナチュラリズム。外から豪快にディアドクターもやって来ました。直線半ばで3つ巴の争いになってますね」

駒木:「特にトウカイテイオーとナチュラリズムの叩き合いが凄いよね。ディットマン騎手の風車ムチが炸裂する隣で、あの岡部騎手がフォームを乱しながら気迫込めて手綱をしごく。多分、岡部騎手が競馬人生で一番気合の入ってた瞬間じゃないかな」
珠美:「そして激しい叩き合いはゴール前まで続きました。追い込んできたディアドクターは3番手まで。前の2頭の激しい争いは、最後にトウカイテイオーがクビ差だけ凌いでゴールとなりました。日本勢7年ぶりの勝利、そして日本産馬初の国際G1ホースの誕生です!
 ……あと、レガシーワールドが4着に粘り込み。5着にも日本の副将格・ヒシマサルが食い込みました。結果的に、豪華メンバーの中で日本馬が3頭掲示板に載るという凄いことになりました」

駒木:「いやぁ、力入るよね、このレース。皆さんも何らかの手段でご覧になって下さい。競馬場・ウインズにあるディスクボックスでもいいし、レンタルビデオ屋でG1レース集を借りて来てもいいね。本当はいけないんだけど、ネット上でファイル交換って手もある。意外と流通してるんだよ、競馬のレース映像は」
珠美:「…では最後に、このレースで活躍した馬たちのその後についてお願いします。あ、でも今回は日本馬中心になりますね」
駒木:「その後のトウカイテイオーは有名すぎるよね。次走の有馬記念は1番人気で惨敗。で、中1年開けた翌年の有馬記念で復帰即1着の偉業を達成して、結果的にそこで競走生活を終える事になる。
 レガシーワールドも有名だね。翌年のジャパンカップを制して日本馬の水準向上を体現する事になる。
 他の日本馬は……そうだなぁ。ヒシマサルはこの後パッとしないまま種牡馬入りしちゃったし、レッツゴーターキンもそう。公営のハシルショウグンに至っては、この後もジャパンカップ挑戦→最下位を繰り返して、“アルクショウグン”って揶揄されたり、公営所属馬のジャパンカップ枠削減に一役買ってしまったりした。弱い馬じゃなかったんだけどねぇ。あぁ、そうだ。後に安田記念と宝塚記念で2着に入って、一時は歴代賞金女王に登りつめたイクノディクタスがいたね」
珠美:「結局、この後は日本馬優勢のジャパンカップが続くんですね」
駒木:「そうだね。この“枕そろえて討ち死に”に恐れをなしたのか、この後は超一流馬が一斉にやってくるケースは無くなったしね。あと、調教技術とか日本馬の素質が向上したこともあって、日本馬が外国馬と互角以上で闘えるようになった。まずは外国産馬が健闘して、さらには内国産馬が活躍するようになっていった。まさに日本競馬のレヴェルアップを象徴するようなレースだね、ジャパンカップって言うのは」
珠美:「……というところで、時間ですね。博士、ありがとうございました」
駒木:「はい、珠美ちゃんもご苦労様」

 


 

6月7日(金) 教育実習事後指導(教職課程)
「教育実習生の内部実態」(1)

 久々の教職課程講義であります。
 以前からの受講生の方はご存知でしょうが、「教育産業の裏側に迫る!」というのが、この「社会学講座」での教職課程の趣旨であります。しかし、今日はちょっと趣向を変えまして、例年この時期に行われる公立学校での教育実習についてお話をしてみたいと思います。

 受講生の皆さんは、かつて(もしくは今も)生徒の立場で教育実習生を迎えた事はおありでしょう。ですが、その教育実習生たちが、どんな事を考えながら、もしくはどんな状況下に置かれながら実習期間を過ごしているのか…という事についてはどうでしょうか? おそらく、実際に実習を経験した方でないと想像もつかない、というのが実情ではないかと思います。

 そこで今回から始まるシリーズでは、そんな教育実習現場の裏側について、駒木の体験談を中心に色々と話をしてみたいと思います。また、駒木は現職の高校教員でもありますので、「実習生が見た現場」だけでなく、「現職教員の立場から見た実習生たち」についてもお話できればと思います。
 まぁ堅苦しい事書いてますが、いつも通りのテイストを維持したいと思ってますので、まぁ気楽に受講して頂ければ…と思います。

 さて、教育実習というと通常、実習生が卒業した母校で実習を行うものです。教育大学や教育学部の学生、または母校で実習できない諸事情(大検経由の高校教員志望など)がある学生のためには、その大学の付属学校で実習を行うことがありますが、原則は“母校で実習”という事になります。

 さてこの事は、何気ない話であるように見えて、かなり大きな問題だったりります。それも男子の実習生にとっては極めて重大であります。

 ここで男子校出身の男子学生は、自分の歩んで来た人生の中で、とんでもない大悪手を打っていた事に気付かされるのです。

 そうです。男子校出身の学生は、闘わずして「ドキッ! 男だらけの教育実習」が確定となってしまうのです! ひょっとしたらポロリもあるかも知れませんが想像しないでおきましょう。
 実習期間が始まるや、教壇に立てば目の前は男、男、男職員室に行っても男、男、男。そして、実習生の狭い控え室も、スシヅメ状態で男だらけとなります。
 これぞまさに『熱血! 男盛り』「世界漫画愛読者大賞」、得票順位ブービーだったにもかかわらず賞金500万円と連載を獲得、全国の4コママンガ作家からの羨望と嫉妬の眼差しを浴びた南寛樹さんもビックリの光景が眼前に展開されるのであります。
 もう忘却の彼方に追いやりたかったはずの、あき竹城に似た売店のオバチャンが唯一の目の保養であった忌むべき日常が、ここに来て復活してしまうこの恐怖。その余り、「どうして俺は女子校に通っていなかったんだ」などと支離滅裂な事を考えてしまったりするのであります。
 ……まぁ、男子校での教育実習も、“教員予備軍”として得られるものは決して共学校と何ら劣るものではありません。ただ、同じカロリーを摂取するのであっても、できるなら見た目華やかでバリエーション豊かな食事をしたい、というのが人の心というもの。駒木の経験上、男子校で実習をした人から羨ましがられた事はあっても逆は無いような気がします。

 では何か? ならお前はいっそのこと女子高で実習がしたかったんじゃないのか?
 ……などと尋ねられる方
もいらっしゃるかも知れませんが、少なくとも駒木に限って言えば、答は「No!」であります。アメリカ映画で、ナイトキャップにネグリジェ姿の近所の太ったオバハンが気の弱い主人公に言い放つような言い方で、
ノオゥ!」と拒否させて頂きます。
 世の男性方は、日常ではうっかり忘れていますが、女性が圧倒的に数的有利に立っている状況へ、ごく少数の男が放り込まれた時の光景は、惨め以外の何物でもありません。それこそ言語に尽くせぬものがあります。例えば、駒木が百貨店のバレンタイン商戦で臨時バイトを勤めた時の話ですが、男女比1:7くらいの現場で働く男子社員の皆さんは、どの方もダウンタウンからマジギレされて「お前の顔など、二度と見たないわ、ボケ!」とカマされた山崎邦正のような表情をしておりました。
 まぁ、この辺りの“女の園へ男のイケニエ状態”話は、また実習エピソードの中で追ってお話するエピソードがありますので、その時まで取っておく事にしましょう。


 ……さて、脱線した話を戻しましょう。

 教育実習は、その学生の最終年度(留年してなければ短大2回生、大学4回生)の春もしくは秋に行われるのでありますが、実際に学生たちが活動を始めるのは、実はその約1年前の7月から。実習予定の母校へ実習の申し込みと事前面接をしに行くのです。「随分と気の早い話だな」と思われるかも知れませんが、最悪9月頃までに実習生を内定させなければ来年に間に合わないので、この辺がギリギリなのです。
 で、ここであんまりな態度をとったり、教職に対する意欲が窺えないと、容赦なく「他所へ行ってくれ」と言われることになります。

 随分と厳しい、と思われるかもしれませんが、学校現場にとって教育実習というのは、正直な話、とても気の重くなるようなボランティア活動なのであります。ただでさえ複数の分掌業務を抱え込んている中へ、2週間つきっきりで学生の指導をしなくてはいけないわけですから、これは大変な労力といえます。
 駒木は非常勤講師ですから授業を後ろで見てもらう程度の事で済みますが、直接指導を担当することになった先生の負担はとても大きいものです。

 そういう状況下へ、学生さんたちは何も知らず母校へやって来ます。驚かれるかもしれませんが、実習希望の学生さんは毎年20〜30人は下りません。中には「ま、免許でも取っとくか」という人もいます。こんな人数、しかもモチベーションの低い人も含めて全員いっぺんに面倒見れるはずがありません。ぶっちゃけた話を言いますと、アホにアホな授業をされると、もう一度担当の先生が授業をやり直す羽目になったりするので、そのリスクも半端じゃないのです。
 ただ、現場の先生の多くも、学校教員を生涯の職と選んだ理由が「教育実習で素晴らしい体験をしたから」ですので、教育実習生にはできる限りのことをしてあげたい。これもまた事実であります。ですから、本当に教職を目指している学生をキャパシティのギリギリまで面倒を見てあげたいという努力はしています。手前味噌な話で恐縮ですが、これだけはご理解くださいませ。
 あ、あと、どうしても意欲十分な学生さんを絞りきれない場合は抽選会を実施したりもします。「抽選?」と思われるかもしれませんが、サッカーW杯1次リーグでも、勝ち点、得失点差、総得点、直接対決成績で並ぶと抽選になるのです。人生最後は運。これは疑いようの無いところであります。
 駒木はその現場に立ち会ったことがありませんが、結構悲壮な現場であると容易に想像出来ます。落選の場合は、希望の校種(小、中、高)が選べなかったり、若しくは大学の付属校(=男子校や女子校)回りになったりするので軽い人生の分かれ目かもしれません。

 と、このような準備を重ねて、いよいよ翌年の春に教育実習となります。今日の講義はその前フリで終わってしまいましたが、次回からジックリとその辺の話を進めていきたいと思います。では、また次回。(次回へ続く

 


 

6月6日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(6月第1週分)

 では、今週のゼミを始めます。
 今週はレビュー対象作が少なくて、ボリューム的には寂しいゼミになりそうですが、その代わりに情報系の話題が多くなりそうです。手間だけかかって実利の少ない構成になりそうですね(苦笑)

 さて、それでは早速情報系の話題から。

 まず、今週は「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」で、それぞれグレードが高い方の新人賞の審査結果が発表されています。いずれの賞も即デビューへ繋がる新人の登竜門ですので、ここに名前が挙がった新人さんは、これからに注目です。

第63回手塚賞&第56回赤塚賞(02年前期)

 ☆手塚賞☆(応募総数448編)
 入選=該当作なし
 準入選=2編
  ・『CROSS BEAT』(評点26/40)
   天野洋一(20歳・岡山)
  ・『とどろきJET』(評点24/40)
   辻井宏次(24歳・埼玉)
 佳作=2編
 
 ・『撃弾ビスケット』(評点21/40)
   安藤英(22歳・埼玉)
  ・『最弱拳銃士ルービック』(評点20/40)
   筒井哲也(26歳・神奈川)
 最終候補=7編
  ・『CIRCUS FIGHT!―サーカスファイト―』(評点18/40)
   照基朧丸(24歳・都道府県不明)
  ・『WW(ウォーキングウォー)復活事始め』(評点17/40)
   坂崎允柄(20歳・栃木)
  ・『アニ・ドク』(評点17/40)
   乾昌介(24歳・奈良)
  ・『STARTER CAT』(評点16/40)
   佐藤奈緒(22歳・埼玉)
  ・『TARNCE』(評点15/40)
   春日真(19歳・大阪)
  ・『ムネマサDRIVE !!!』(評点14/40)
   長谷川真澄(21歳・宮城)
  ・『RUSH!』(評点14/40)
   天草四郎時貞(22歳・岩手)

 ☆赤塚賞☆(応募総数261編)
 入選=該当作なし
 準入選=1編
  ・『K−1』(評点22/35)
   松本宗二郎(19歳・静岡)
 佳作=3編

  ・『オーラメイツ』(評点19/35)
   沢田幸一(22歳・北海道)
  ・『白い白馬から落馬』(評点18/35)
   夏生尚(21歳・神奈川)
  ・『あつがり』(評点16/35)
   菅谷健太(19歳・新潟)
 最終候補=3編
  ・『カリフラワー温泉」(評点16/35)
   長島永典(22歳・東京)
  ・『警部補 播湖欄』(評点15/35)
   下出真輔(22歳・兵庫)
  ・『It's My Life』(評点14/35)
   堀たくみ(19歳・埼玉)
  

第50回小学館新人コミック大賞・少年部門
(02年前期)

 特別大賞=該当作なし
 
大賞=1編
  ・『風』
   中道裕大(22歳・広島)

   →「少年サンデー超8月増刊号」に掲載決定
 入選=1編
  ・『Trouble Travel』
   谷古字剛(25歳・千葉)
 佳作=3編
 
 ・『S〜speed,stroke,and swim』
   石川義人(23歳・千葉)
  ・『サイゴノヒ』
   高橋直樹(23歳・東京)
  ・『隠密ゲームへの招待』
   高枝景水(23歳・東京)
 最終候補=3編
  ・『うちの母ちゃんナンバーワン!』
   幸田きよら(22歳・東京)
  ・『リプレイスチェンジ』
   岡春樹(21歳・東京)
  ・『LUCKY BOY』
   當摩健一(25歳・埼玉)  

 「小学館新人コミック大賞・少年部門」の方は、大賞受賞作が出ました。短期間では詳しい資料を得られなかったんですが、一説によると20数年ぶりの大賞だそうです。先週辺りから編集部がやたらとはしゃいでいるなと思ったらこういう事だったんですね。
 しかし、20数年も大賞を出さないっていうのも、ちょっとメチャクチャな気がしないでもないですが(笑)。
 受賞者の中道裕大さんは、昨年の9・10月期「まんがカレッジ」で努力賞を受賞。そこから約半年でここまで登りつめたわけで、才能を感じさせますね。

 他、佳作以上を受賞した方をGoogle検索かけてみたんですが、手塚賞佳作の筒井哲也さんは、ひょっとしたら昨年に「オールマン」や「別冊ヤングサンデー」で読み切りを発表している同名の作家さんと同一人物かも知れません。ただ、こちらも資料不足で特定は不可能でした。

  あと、気になった事と言えば、手塚賞審査員ほったゆみさん人知れず毒舌全開だった事ですかね。
 いや、厳しい厳しい。駒木がいつもゼミで言ってたような事を連発されてました。まぁ、ほったさんクラスになると、新人さんの考えるストーリーは稚拙で仕方がないんでしょうけどね。


 賞レース以外で情報系の話題をもう1件。
 「週刊モーニング」で連載中だった、現役落語家による4コママンガ『風とマンダラ』(作画:立川志加吾)が今週から無期限の休載に突入。先日、立川談志直系の前座衆6人が修行怠慢のカドで一斉破門になる事件がありまして、その影響と思われます。まぁ、それを考えると確かにマンガ描いてる場合じゃありませんよね。
 この破門事件については、また改めてどこかで扱ってみたいと思いますので、受講生の皆さんは頭の隅の方にでも入れておいて下さい。

 ……と、いったところで今週のレビューへ。
 ただ今週のレビューは、先程も述べましたが対象作品が少ないです。「週刊少年ジャンプ」から1作品と、「週刊コミックバンチ」から1作品の、計2作品となります。
 レビュー中の7段階評価についてはこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年27号☆

 ◎新連載第3回『NUMBER 10』作画:キユ《第1回掲載時の評価:B

 前回のレビューでは「既製の作品の影響が色濃い」と指摘させてもらいましたが、3回目まで読んでみてもその評価を覆すだけの材料は無かったように思えます
 一言で感想を述べると、「サンデーの『ファンタジスタ』をジャンプ風にしたような作品」という感じでしょうか。
 これは、キャラクターとストーリーの設定に、この作品独自の内容──つまり個性ですね──が欠けてしまっているという事なのでしょう。主人公のチームメイトである脇役たちのキャラクターがかなり弱いですし、メインのキャラクターにしてもサッカーに関する事以外の設定が見えてきません。この辺りが読者の感情移入を阻害しているような気がするのです。
 第3回では典型的な悪役キャラが登場しましたが、どうもそれが余計に「ありがち」感を強めてしまっているような気がしてなりません。

 ただ、場面ごとの演出はソツなく出来ていますので、読者に不快感を与えるところまで酷くなっていないのは救いといえます。早い内にどれだけ“化ける”ことができるかが、この作品が連載続行なるか否かのカギになりそうです。

 評価は、前回のB+寄りBから半ランク下げてBとさせてもらいます。
 追記:なんだか『ファンタジスタ』までレヴェルの低い作品に思われるような論調になりましたが、実際は違います。主人公の成長ストーリーでありながら、ライバルの強さの“デフレ”にチャレンジしたりなどの意欲的な部分を評価しています。(評価:A−寄りB+)

 《その他、今週の注目作》

 ◎新連載『がきんちょ強』(週刊コミックバンチ2002年26号掲載/作画:松家幸治

 因縁の(笑)「世界漫画愛読者大賞」の準グランプリ受賞作が新連載作品として再登場です。

 作者の松家さんの経歴については、2月20日付ゼミでも述べましたが、赤塚賞準入選→創作に行き詰まり、一時休筆……というもの。人生、何がどうするか分かりませんねぇ、まったく。

 では作品についての話ですが、これも読み切り掲載時に述べた通り、往年の名作『じゃりん子チエ』のオマージュ的作品です。チエとテツをドッキングさせたような主人公の強が中心となってエゲツないドタバタ喜劇を展開する……というもの。絵柄も含めて、いかにも“昭和”の香りのする作風になってます。古臭い、という批判は避けられないでしょうが、それはそれで個性的であるとも言えます。
 ギャグの切れ味も悪くありません。4コマやショートギャグではなくてストーリー形式の作品で、ここまで完成度の高いギャグマンガは、最近では珍しいくらいでしょう。小じんまりとしたモノですが、確かに才能は感じられるのです。この作品は。

 …ただし、この作品には欠点もあります
 例えば、この作品のオマージュとなっている『じゃりん子チエ』は、主役を務めてもおかしくないほど個性的なキャラを2ケタ以上擁し、さらに主人公抜きでもシリーズを組めるようなバリエーションを誇っていました。が、『がきんちょ強』は連載開始当初とは言え、まだそこまでにはほど遠いのが現状です。今はまだ才能だけで押し切ってますが、やがてネタ切れ・ワンパターンになると、非常に閉塞的な状況に陥ってしまうのではないかと思います。己の才能の枯渇とどう戦ってゆくか、というのが作者の松家さんに課せられたシビアな課題ではないかと思っています。

 評価は現時点ではB+。それがどこまで維持できるのか、また“大化け”があるのかも含めて、今しばらく見守っていきたいと思います。

 

 ……と、いったところでゼミを終わります。講義の実施遅れなどありました事をお詫びいたします。

 


 

6月4日(火) スポーツ社会学
「大相撲復権への道」(2)

 日付から1日遅れの振替講義となります。
 火曜深夜になって、突然ガソリンが切れた車のように頭と体が動かなくなってしまいまして、この始末です。申し訳ありませんでした。それでは早速講義へ移ります。

 さて、前回は色々と横道に逸れましたが、ともかく“エンターテイメント大相撲”に、大相撲人気回復への活路を見出す、というところまでお話を進めました。それでは、今回は、もしもWWEチックな大相撲の興業が行われた場合はどうなるか、というシミュレーションを行ってみたいと思います。
 相撲ファンの方には墳飯モノ、もしくは不謹慎極まりないものに映るかもしれませんが、まぁ物事と言うもの、極端から極端へとドラスティックな転換を果たさないことには世間にインパクトを与えることなど出来ませんからね。しばしガマンしてご覧頂けると幸いであります。

 ……さて、それでは本題へ。

 まずは興業の構成から。まずこの際、ダラダラと時間を取っている幕下以下の取り組みは別枠(ノーTVの小規模会場での裏興業)に移行して、本場所からはカットしてしまいましょう。いくら若手育成の場とはいえ、午前中から午後6時までの興業と言うのはあまりにも散漫でありますし、体格も未熟な少年力士などを目にしてしまっては、エンターテイメントの世界に没頭できなくなってしまいます。経費節減や下位力士の上昇志向を喚起する上でも、幕下格以下の取り組みは後楽園ホールやディファ有明、もしくは北沢タウンホールなどで行うようにしましょう。会場近くのポスターが大相撲と二瓶組長、などという風景を想像するだけで、マニアの顔がほころびます。
 さらに15日連続ワンセットを年6回という現在の開催形式も改めます。週2回、ゴールデンかプライムタイム2時間枠の地上波放送で“ソープオペラ”の興味を繋ぎ、年4回ないし6回の有料放送(PPV)でシナリオのクライマックスを持って来るWWE形式を採用しましょう。とにかく中断すること無く、絶えず興味を繋ぐのが大事なことです。

 次に興業の前半、いわゆる前座枠からプロデュース開始です。WWEなどアメリカンプロレスの前座枠では、とりあえず“ソープオペラ”のメインから外れている中堅以上のレスラーが、“ヤラレ役”の若手相手に豪快なパフォーマンスで圧勝する…というパターンが続きます。
 これは、知名度の高い選手を活かすのと共に、若手に“ヤラレ役”を通じて、修行する場を与えるという役割もあります。あのWWEで一番の人気者、“ピープルズ・ヒーロー”ザ・ロック元々は“ヤラレ役”出身でした。
 というわけで、ここは十両下位格の若手力士に“ヤラレ役”を務めてもらって、個性豊かなベテラン力士に張り切ってもらいましょう
 “黄金の張り手”貴闘力関
は、立ち合いからの張り手一発で相手を土俵に沈めて拍手喝采を浴び、“角界の生き字引”寺尾関は、悲壮感を漂わせながらも衰えない突っ張りを披露して客席を沸かせます。また、“ミスター・モミアゲ”闘牙関は、いつもモミアゲを掴まれて「イテテテテ」と叫んで場内を笑わせ、それでいて豪快に相手を土俵下に叩き出し、笑っていた客を最後は唸らせたりします。とにかく、キャラ立ち優先なのがこの枠ですね。

 次に中堅どころからセミ前にかけて。ここから“ソープオペラ”枠になりますが、この辺はまだ本編とは関係無いサイドストーリー枠個人対個人や、数名のグループ同士の因縁話を持って来ます。試合(取組)も、ここからは実力者同士のシビアな戦いになってきます。
 マッチメークできる“因縁”の例を挙げると、“モンゴル相撲の王者”旭鷲山若きモンゴルのエース・朝青龍との新旧モンゴル人同士のシビアなドラマや、“ケンカ番長”千代大海“後輩を病院送りにした男”雅山アウトロー対決などなど。後者の場合など、最後はケンカした男同士の定番、「傷だらけの顔で大の字に寝そべって、お互いを認め合って高笑い」という結末に持っていけそうで現実味が濃いですよね。

 ……と、こうして会場を暖めておいて、いよいよタイトルマッチ戦線です。これまで固定の“番付”だった「横綱」と「大関」は、プロレスやボクシングのチャンピオンベルトと同じようなチャンピオン・タイトルに改造してしまいましょう。つまり、「横綱」や「大関」が挑戦力士を迎えてタイトルマッチを行うようにするのです。
 そしてもちろん、タイトル戦線には“ソープオペラ”を絡めていきます。トップクラスの力士だけではなく、WWEよろしくコミッショナーサイド、つまり親方衆やその家族、さらには引退した大物力士も絡めてドラマを展開させていきましょう。
 それでは、以下に「横綱」タイトル戦線の“ソープオペラ”を想定してみましょう。どんなストーリーになるでしょうか?

 現「横綱」位保持者は武蔵丸。コミッショナーたる北の湖理事長との繋がりもあり、久々の「横綱」らしい「横綱」といえるポジション。防衛戦も積み重ねられ、現在の興味は次の挑戦者は誰か、といったところ。
 土俵上に上がった北の湖理事長と武蔵丸。マイクを手に取って、「誰か骨のある挑戦者はいないのか?」とアピールする。と、そこへ入場テーマ(大物力士にはテーマソングが付く)が鳴り響く。これは長期欠場中の元「横綱」貴乃花のテーマで、突如の復帰にどよめく場内。彼の傍には父であり師匠でもある二子山親方が。彼らも土俵上に上がってマイク合戦のスタート。
 二子山:「挑戦者は、元最強の『横綱』だった、ウチの貴乃花以外に相応しい者はいない!」
 北の湖:「何を言う。1年以上も土俵を空けていたヤツに、そう簡単に挑戦権など渡せるか!」
 二子山:「ならここで証明してやる!」
 合図を受けた貴乃花、北の湖理事長に掴みかかって上手投げ一閃で一発K.O。「首を洗って待ってろ!」と悠々と土俵を降り、場内大ブーイング。これで次回PPVでのタイトルマッチが確定します。

 と、これがプロローグであります。ただ、これだとあまりに陳腐なままですので、この“ソープオペラ”では、地上波放送シリーズの中で、アッと驚く大物・花田憲子・二子山親方夫人を登場させ、フィクションと現実の狭間を行ったり来たりする、男女間の愛憎ドラマを展開させます。「私にもう1度振り向いて欲しかったら、自分でもカッコ良い所見せてみなさいよ!」というアピールにより、なし崩し的に北の湖理事長VS二子山親方のオールドタイマー戦がPPVのセミに決定。昭和40年代からの因縁を引きずる“名勝負数え歌”の復活です。これでオールドファン対策もバッチリでしょう。

 というわけで興業の柱が出来たところでいよいよPPV。
 セミ前の「大関」タイトルマッチも滞りなく終わり、いよいよあと2試合であります。

 セミファイナルのオールド戦。本来ヒール(悪役)の二子山親方ですが、この試合に限ってはベビーフェイス(善玉)扱いで観客の声援を浴びます。そして見事に北の湖を吊り出して勝利。
 土俵上には涙ぐむ花田憲子さんが上がってハッピーエンドか……と思いきや、往復ビンタを見舞って「勝ったってカッコ悪いものはカッコ悪いのよー!」と毒づき、特大のブーイングを浴びながら退場

 呆然とする二子山親方の傍には、かつて婚約破談で心と人生に大ダメージを負った経験のある、元水戸泉・錦戸親方がやって来て共闘宣言。このシナリオは“to be continued”となります。

 そしてメインイベント。「横綱」選手権、「横綱」“太平洋の巨人”武蔵丸VS挑戦者・“完全無欠のエース”貴乃花の大一番です。いくらエンターテイメントとは言え、ここは真剣な取組でお客を魅了しなくてはなりません。それでこそスポーツ・エンターテイメントであります。
 戦いは激しい立ち合いから始まります。猛烈な武蔵丸の突き押しを浴びる貴乃花。端正な顔は歪み、鼻からは血が噴出します。早くも壮絶な流血戦となりました。
 このまま押し切られるか、というところで貴乃花はようやく得意の四つになります。しばしの膠着状態から今度は激しい投げ合戦。お互いバランスを崩しながらも踏みとどまるといった大相撲。場内からはヤンヤの喝采であります。
 しかし、開始3分を過ぎた辺りから徐々に貴乃花が劣勢に。地上波番組で肩慣らし的取組をこなしたとはいえ、やはり1年のブランクは大きかったのか。貴乃花ピンチ!
 と、その瞬間、
 突如、花道からアメフト姿の男が現れて土俵へ一直線。あれよあれよという間に取組に乱入して土俵上の2人にタックルをぶちかましてしまいます。闘っていた2人はもつれ合って土俵下へ大相撲始まって以来の無効試合です!
 騒然とする場内。若手力士が土俵に続々と上がってアメフト男に飛び掛り、ヘルメットを剥ぎ取ります。正体はなんと(というかミエミエですが)元「横綱」の若乃花こと花田勝。揉みくちゃになりながら連行されていきます。
 ここで収まらないのが観客。暴動寸前の様相になってきました。どうにか収拾を図らなくてはなりません。と、そこへ1人の大男が。なんと、これも元「横綱」にして大ヒールの“(親方の)ワイフ・ビーター”双羽黒こと北尾光司でした。マイクを奪って吼えます。

 「お前らなんか八百長じゃねえか! この八百長野郎!」

 出ました! 往年の迷セリフ!

 これがきっかけとなって、国技館は大暴動。やがてどこからともなく火まで点いてしまい、消防車が出動される大騒ぎに。
 この混乱の角により、大相撲は国技館から追放・興業無期限停止と相成ったのでありました……


 ………ってあれ?

 ………………………………(大汗)

 や、やっぱり「エンターテイメント大相撲」は無理がありましたね。大相撲関係者の方は、まぁ地道に頑張ってくださいませ。(この項終わり) 

 


 

6月3日(月) 文献講読(小説)
『夏、雲ひとつ無い夜に─』

※この講義は小説です※

 夏、雲ひとつ無い夜に、カクテルライトの光が煌々と、広い広い野球場のグラウンドを照らし出していた。
 酷く蒸し暑い日の、プロ野球のナイトゲーム。客の入りも上々で、ビールを売るアルバイトの若者たちが試合後に奮発されるであろう歩合給に胸躍らせるという、そんな日本の夏ではある種“風物詩”と言うべき風景がそこにあった。
 さて、この試合、果たしてどちらのリーグの、どのチームとどのチームが戦っているのかということについては、この際あまり重要ではない。
 とある野外の球場で争われている、日本のプロ野球の試合。
 そういう認識だけもって頂いて、これからの出来事にお付き合い願おう。

 ──ところで、この試合の状況は極めて緊迫していた。
 回は9回の裏、点数は2対2のイーブン。そして、1アウト・フルベース。攻める側にとっても、守る側にとっても、一瞬たりとも気の抜けない、そんな場面である。
 今現在グラウンド内にいる選手は、守備に就いている9人に、塁を埋める3人のランナーとバッターを加えた計14人。それぞれがそれぞれの役目を背負って、このゲームの最前線に臨んでいた。
 彼ら14人の最終的な目的はもちろん、己のチームの勝利ということになるのだろうが、その中でただ1人、それ以外の目的を最優先にして試合に臨んでいる男がいた。
 それは、この場面で3塁ランナーを務める攻撃側の選手で、名を中林卓郎という。今年プロ入り4年目を迎える22歳の若手選手である彼は、この9回からピンチランナーとして試合に出場していた。この試合が、彼の一軍での初試合ということになる。

 そんな彼、中林卓郎はひどく焦っていた。
 1軍デビューの試合でこういう緊迫した場面に出くわしてしまったということも、理由の1つとしてはもちろんある。だがそれ以上に彼は、今、彼自身が置かれている立場に焦っていたのだった──


 今から3週間前、一軍のレギュラー選手の1人が脚に全治3週間のケガをして一軍選手登録を抹消された。その選手と入れ替わりに一軍登録されたのが中林であった。プロ入り4年目にして初めての一軍。全く前触れの無いその抜擢に、周囲はもちろん中林自身が一番驚いた。ケガをした選手と中林は同じポジションではあったが、それならそれでもっと適任の選手がまだ1〜2人上にいる、というのが彼、中林自身の分析であったからだ。
 思ったことが口に出てしまう性分の彼は、一軍行きを命じた二軍監督に、思わず「どうして俺なんスか?」と食って掛かった。二軍監督は、その質問に対しては何も答えずに、ただ「まぁ、3週間勉強して来い」とだけ言って姿を消した。ケガをした選手が一軍に戻ったら、どうせお前がまた二軍に戻されるんだから、細かい事は考えずにせいぜい一軍の雰囲気を味わって来い。そういうニュアンスの言葉だった。
 結局理由の分からなかった人選と、3週間の期限付きという所に腑に落ちない点は残ったが、それでも一軍行きを告げられた夜、中林は嬉しさと興奮のあまり、全く眠れない時を過ごした。入団以来3年半以上を二軍で過ごして来た彼にとって、自分が一軍で野球が出来るということは、それくらい素晴らしい出来事だったのだ。

 中林がプロ入りを果たしたのは18歳。まだ高校に籍が残っていた、4年前の秋のことであった。
 ドラフトでの指名順位は5位だったが、自分たちの高校からプロ野球選手が出るということに慣れていなかった同級生たちにとって、彼はヒーロー以外の何者でもなかった。それから卒業までの間の彼は、まるでアイドル歌手にでもなったかのような扱いを受けた。今では彼も全く自慢する気にならないが、この頃は女の子にかなりモテたりもした。
 しかし年が明け、二軍キャンプに合流してみると、中林は厳しい現実を見せ付けられることとなった。
 プロならではの厳しい練習に、浮かれ気分ですっかり鈍らせていた体がたちまち悲鳴をあげた。練習終了後は激烈な筋肉痛で、全く何も出来ない日々が続いた。
 そして何よりも、自分がただの無名な一選手に過ぎないということに気付かされ、それがひどく胸に応えた。“わが校のアイドル”も、一歩世間に出てみると「あなた誰?」といったもので、合流したチームの中で彼を知る者は全くいなかったのだ。よく考えてみれば、新聞に自分の名前が出たことといえば、ドラフト会議の翌日と、契約が成立した翌日の2回だけ。スポーツ新聞の中には、連日ドラフト指名選手の契約の進展状況を掲載するところもあったが、中林のようなドラフト下位選手の動向に注目する者などどれほどいただろうか。
 彼は結局のところ、いつか使えるようになれば儲けモノ…という、“一山ナンボ”の選手に過ぎなかったわけだ。二軍だけで選手生活を終えた選手がよく口にする、「監督に会ったのは、入団契約と入団発表の2回だけでした」というセリフを、自分も数年後吐く羽目になるのかと想像すると背筋が凍りついたりもした。
 ただ、ここで彼について賞賛すべきなのは、そういった苦しい状況に置かれても、彼は自分で自分の価値を貶めるような行動は決してとらなかったということだった。今の自分のチーム内での価値が低いのなら、自分でそれを高めてやろうと、野球漬けの生活に進んで飛び込んでいった。一言で言うなら、中林卓郎という選手はプロ意識の高い選手だったということだ。
 そしてそれから3年半が経った。その間、さすがの中林でも、心が挫けそうになることもあった。いつ来るとも分からない一軍行きの切符を待ち続けるのに、この期間は決して短いものではない。その間、モチベーションを失った選手、さらには職すら失って姿を消していった選手を数多く見てきたわけである。その中で初心を忘れずに厳しい競争社会に身を置くことは生易しいものではなかった。 
 そんな中、青天の霹靂とはいえ、ようやく待ち続けたモノが中林の手元にやって来たのだ。これが嬉しくないと言えば嘘になるだろう。

 と、そんな事情で一軍に合流した中林だったが、待ち望んだ一軍での生活はカルチャーショックの連続だった。
 なにせ遠征の移動からして二軍とは違うのだ。新幹線ならグリーン車で、飛行機ならスーパーシートである。初めてスーパーシートに乗った時、彼はサービスをしてもらうたびに「あ、どうも」と乗務員におじぎをしてしまい、先輩選手たちに笑われた。
 しかし何よりもショックを受けたのは、一軍選手の凄まじいまでの実力だった。
 中林が初めて面と向かって一軍選手と顔を合わせた時、まず抱いた印象は「肌が白いな」であった。テレビ画面越しでしか見た事の無い憧れの存在は、まるで病人のような青白い肌をしていた。一方の中林は、3年半に及ぶ炎天下の猛練習で仕込まれた褐色に日焼けした肌をしている。もし、プロ野球に詳しくない人が中林と一軍選手を見比べたら、間違いなく中林の方を一流スポーツマンと思うことだろう。
 が、いざグラウンドに出てみると全てが違っていた。
 パワーが違う。テクニックが違う。スピードが違う。
 物事の次元が違うというのはこういうことなのだろう。中林は、どうして自分が3年半も二軍暮らしをして来たのかを思い知らされた。答は至極単純なことであった。一軍選手たちには実力があって、彼にはそれが無かった。ただ、それだけのことだったのだ。
 だがその一方で、中林は「二度と二軍に戻りたくない」という感情も抱くようになっていった。それは明らかな矛盾であったが、人間の感情としては、ごく自然なものでもあった。やはり一度贅沢を体験してしまった心と体は、そうそうまた昔の貧しい生活に戻れないものなのである。
 中林は懸命に頭を巡らせた。どうしたら自分は一軍に居続ける事ができるだろうか。ハナから無理な注文だということは分かっていた。実力如何に関わらず、3週間限定というのが首脳部による当初からの予定なのである。だが、そこで望みを捨てるようではプロとは言えない。どこまでも貪欲で行こうと、彼は開き直った。
 中林が考えた、現時点でも自分が辛うじて一軍で通用しそうなポイントと言えば、まず若さに任せた足の速さ。そしてムードメーカーとしてベンチを盛り上げる威勢の良さ。この2点だった。結論を出してみて一瞬悲しくなったが、こればかりは仕方が無い。実力が無いのは確かなのだから、高望みのしようもないのだ。代走専門だろうが、ベンチウォーマーだろうが、一軍に残ればこの際勝ちなのである。
 それから彼は、大声を張り上げてメガホンを振りかざし、時には相手チームの選手に辛らつな野次を飛ばしてベンチを盛り上げながら、ただひたすら代走としての出番が来るのを待った。一軍の試合の中で、代走が必要になる場面は結構多い。3週間あれば必ずアピールする場が与えられるだろう。その時は必ず何か目に付く活躍をしてやろうと、中林は毎日毎日待ち続けた。
 だが、彼の目論みは外れた。
 確かに代走の機会は何度もあった。しかし、だからと言って中林に出番が回ってくることは無かったのである。ズルズルと日付ばかりが過ぎて行った そして、予定なら次の日には二軍に戻らないといけないこの日、中林にようやく出番がやって来た。それもホームを踏めばサヨナラとなる重要な場面だった。
 彼は当然、その出番を大いに喜んだが、その反面で戸惑いを隠せなかった。自分を大いにアピールできるのは良い。だが、それは一軍初試合の彼にとって、やはり少々荷が重いシチュエーションだったのだ。
 だから、彼は焦った。自分の置かれた立場に焦ったのである──(次回に続く) 

 


 

6月2日(日) スポーツ社会学
「大相撲復権への道」(1)

 先月31日に開幕した、サッカーのW杯が大いに盛り上がっていますね。
 「マスコミが煽動してるだけで、実際にはそれほど盛り上がっていないんじゃないか」との声も聞かれますが、それでも、いつもに比べるとサッカーやW杯に対する関心が高まっているのは事実ですし、また、今週火曜日から始まる日本代表の出場する試合などは、TV中継の視聴率が跳ね上がるのは必至でありましょう。
 恐らく中継を担当するTV各局も、かつてフランスで日本産アニメ『UFOロボ・グレンダイザー』が記録した、最高視聴率100%に追いつけ、追い越せと気合を入れているところだと思います。
 ──って、本当に追い越したら凄いですね。そうしたら、就職率102%を誇る代々木アニメーション学院もビックリです。

 とまぁ、大いに人気が盛り上がっているスポーツがある一方で、今まさに人気凋落の時を迎えているスポーツも存在します
 例えばバレーボール。かつては世界トップクラスの実力を誇り、国内リーグでも会場を超満員にして来た国民的スポーツも、今では実力低迷と不況のWパンチで社会人リーグの開催にも四苦八苦。現在、まったく将来のビジョンが見えてこない状態に追いやられています。
 ラグビーもそうです。かつて多くのスター選手を生み、ドラマ『スクールウォーズ』などで話題を呼んだこのスポーツも、今では部員が15人に届かずに公式戦に出場できない高校が現れる始末。このままでは近い将来、深刻な事態が業界を襲う事でありましょう。

 しかし、そんな中でも、まさに“天国から地獄へ”というような人気凋落に悲鳴を上げているスポーツがあります。

 それは、大相撲です。

 かつて若乃花(3代目)貴乃花若貴兄弟が人気を盛り上げ、空前のフィーヴァーを巻き起こしたこの日本古来のプロスポーツも、21世紀を迎えた今、深刻な人気低迷に喘ぐようになりました。
 往時は20%を超えていた『大相撲ダイジェスト』の視聴率は、なんと今では1%台にまで低迷。同じように“満員御礼”が当たり前だった観客動員も、先日行われた夏場所の“満員御礼”は15日中4日という体たらく。将来の横綱を目指す新弟子の数も激減の一途であり、業界の内外から崩壊の影が忍び寄っている現状であります。まさにスポーツ界のアスキー株といっていいような“絶滅危惧種”、それが大相撲なのです。
 もっとも、相撲界も手をこまねいているだけではありません。ここに来て、修学旅行生向けのチケット大幅値下げや、館内でNHKBS放送の実況が聴けるミニFM局の設置など、様々なファンサービスを立案・実行に移しています。が、どれもこれも抜本的な対策というには程遠いレヴェルに終始しています。これでは、一時的には観客減少は食い止められても大規模な人気回復は望めません。まさに“出口の見えないトンネル”であります。


 ……しかし、そう悲観してばかりではいけません。現在は有刺鉄線ボードの上を暗中模索するような状況であっても、必ず突破口があるはずなのです。
 事実、現在の大相撲と同じように人気凋落著しい状況に陥りながら、まるで不死鳥から力を与えられた瀕死の病人のように息を吹き返し、今ではアメリカを中心に、日本をはじめワールドワイドな知名度と人気を誇るまでになったスポーツ団体があります。
 その名はWWE。かつてはWWWFやWWFと呼ばれていたプロレス団体であります。

 この団体は、1963年にWWWFとして設立されたもので、創立者はビンス・マクマホン・シニア。当時はニューヨークなどアメリカ東海岸を中心にしたローカル団体でしたが、やがて日本のオールドファンにもお馴染みの“人間発電所”ブルーノ・サンマルチノらスター選手を擁してからは、NWA、AWAといった老舗プロレス団体(組織)と並ぶメジャーな存在となりました。

 と、ここで、プロレスファン限定の話で失礼しますが、ブルーノ・サンマルチノと関連して語られる“プロレス都市伝説”といって有名なのが、「スタン・ハンセンのラリアット首折り事件」であります。
 恐らく日本で最も有名であると思われる外国人プロレスラー・“不沈艦”スタン・ハンセン(現在は引退してPWF会長)彼の必殺技と言えば、その黄金の左腕から繰り出されるウェスタン・ラリアットです。馬場、猪木をはじめ、日本で活躍する大物日本人選手の多くがこの技を喰らい、マットに沈められて来ました
 その技の威力たるや半端なモノではなく、たとえプロレスが勝ち負けの決まっているものであろうとなかろうと、「コレを喰らったらひとたまりも無いな」と感じさせる説得力のあるモノでありました。
 そんなハンセンのラリアットに更なる“箔”をつけていたのが件の伝説でした。若手時代の彼が、WWWFのエース・サンマルチノにラリアットを食らわせて首の骨を折り、それから出世街道に乗っかっていった、というものです。確かにウェスタン・ラリアットにはその伝説を信じさせるだけの威力がありましたし、今なお奇書として語り継がれるマンガ・『プロレス・スーパースター列伝』にも同様の記述があり、日本のファンは長らくその伝説を信じていました。
 しかし現在となっては、この伝説は現実と大きくかけ離れたものであるということが判明しています。
 真相はこうでした。当時若手のハンセンは、団体のエース・サンマルチノが相手とあって大変緊張していました。そのためでしょうか、彼はプロレスの基本技であるボディスラムという技を、誤って受身の取れないような態勢でサンマルチノに仕掛けてしまったのです──
 結局、サンマルチノは頚椎骨折の重傷を負って病院送りエースに致命傷を負わせた若手・ハンセンはサンマルチノの復帰戦で負け役を勤めさせられた後にWWWFを追放。主戦場を他団体や日本に求めることになったという次第です。
 まぁ何と言いますか、プロレス界の伝説なんてタネ明かしをしてしまうと幻滅すること間違い無し、まるで憧れのお姉さんの腋毛剃りシーンを見るようなものなのですが、この伝説は特に“味”がありますよね。

 …って、「よね」じゃありません。余談が過ぎました。WWWFです。解説の続きです。

 この団体はその後、1980年代初頭にWWFと改称。やがて1982年には経営者が創業者の息子、ビンス・マクマホン・ジュニア夫妻に交代し、それとほぼ同時に大きな路線転向を実行します。
 それまでのWWFは、日本の多くのプロレス団体と同じように、格闘技色の強い“真剣勝負風”のプロレス団体だったのですが、路線変更後は“エンターテイメント・プロレス”を標榜し、極めてショー要素の強いものへと変貌を遂げてゆきます。
 このエンターテイメント路線とは、まず“スーパースター”ハルク・ホーガンを主人公格のエースレスラーとして固定します。そして、ホーガンに様々なギミック(人為的な設定)を施したレスラーをぶつけて何ヶ月か抗争を繰り広げ、やがて完全決着戦を行う…というもの。その抗争の行方はあらかじめ露骨なシナリオ設定がされており、WWFの所属レスラーは、ファイターと言うよりもパフォーマーというような存在でした。この辺りが“エンターテイメント”と呼ばれる由縁でもありました。
 この路線は、70年代のアメリカンプロレスを支えたレスラーやファン、さらには相変わらず“真剣勝負風プロレス”を支持していた日本のファンには白眼視されていたものの、全米各地では一大“ハルク・ホーガン”ブームが巻き起こりました。ホーガンファンのことを“ハルカ・マニア”と呼んだのもこの頃です。乱暴を承知で大相撲の歴史に喩えれば、まさに若貴時代にあたる絶頂期と言えるでしょう。

 しかし、そんなWWFにも凋落の時がやって来ます。
 大看板のハルク・ホーガンに替わる次代のエースがなかなか育たないのです。まるで若貴以後の大相撲ソックリです。期待のホープたちは、エースまであと1歩というところで、ビンスら経営陣とマジゲンカをして団体を飛び出してしまいました。
 さらにはホーガンら善玉レスラーの敵役を務める悪役レスラーのギミックが段々劣悪なものになって来ました。特に評判が悪かったのは、湾岸戦争時に軍人キャラのレスラーを“フセインの友人”としてイラクの国旗をリング上で振り回させた事でした。これは業界外で大顰蹙を買うと共に、その悪役レスラーが一時隠遁する羽目に陥ったというお粗末な結果となってしまいました。
 そんな中、ホーガンら主力選手の多数がライバル団体WCW(NWAの後身)に移籍主戦力を奪われた上、従来のエンターテイメント路線が限界寸前となったWWFは窮地に立たされます。かろうじて“ヒットマン”ブレット・ハートや、“ハートブレイクキッド”ショーン・マイケルズなどのスター選手に恵まれたために、破綻を来たすまでには至りませんでしたが、その新しいスター達の“賞味期限”も短く、安泰の時はいつになっても訪れませんでした。

 このままジリ貧となってWWFは消えてしまうのか? そんな1998年、ビンス・マクマホン・ジュニアは再び思い切った路線変更で勝負に出ます
 その頃台頭した新ヒーロー・“ストーンコールド”スティーブ・オースチンのライバル役として、なんとビンス社長自らが表舞台に登場するようになります。ついにはボディビルとステロイドでビルドアップした肉体をもってリングにも上がるようにまでなりました
 と、同時にこれまでのエンターテイメント色を更に強化“ソープオペラ(いわゆる昼ドラ)と呼ばれる、チープながら練りに練られたドラマ仕立てのシナリオに沿って試合とその勝ち負けを決めて行くようになります。いわばシナリオとプロレス試合の主客転倒です。ついには「WWFのプロレスはシナリオに沿って展開されている」と公言するまでになりました。「これは八百長じゃない。計算され尽くしたエンターテイメントなのだ」というわけです。事実、いくらシナリオと勝ち負けが決まっているとは言え、リング上で行われている試合は完成度の高い素晴らしいもの。技も手加減しているわけでもなく、時には平気で数mの高さから飛び降りたり投げ飛ばしたりします。いわゆる真剣勝負ではありませんが、レスラーたちの試合に対する姿勢は真剣そのものなのです。
 さて、この路線変更は危険な賭けでありましたが、フタを開けてみればプロレス史上空前の大ヒットとなります。間もなくしてアメリカのプロレス業界はWWFの一人勝ちとなりました。

 やがてこの“戦うソープオペラ”には、ビンス以外のマクマホンファミリー──妻リンダ、長男シェーン、長女ステファニー──が全員参加するまでになり、オーナー家族総出の公私混同ドラマが展開されるようになりました。
 まずファミリーの妻であり母であるリンダは、“WWF唯一の良心”として暴走気味の夫や子どもたちを抑える役として要所要所で登場。時には“ビンスの浮気のため、心の病で入院”などといったシビアな役どころを演じたりしました。 
 長男シェーンは、当初こそ“アホな2代目のボンボン”というキャラでしたが、本職真っ青のレスラーとしての才能を開花させて一気にブレイク。机や機材などの凶器を使う“ハードコア路線”から、キチンとしたプロレス試合までオールラウンドに大活躍。日本人レスラーでも1〜2人しか出来ない、コーナーからコーナーへのミサイルキックを成功させるに至っては、レスラーたちからもリスペクトの対象になりました。もちろん、“ソープオペラ”の登場人物としての存在感も十分です。
 そして長女ステファニー。“ソープオペラ”参加直後はお嬢様キャラ、そして、悪役スターレスラーと政略結婚した若妻という難しい役どころに路線変更して、彼女もまたリングに上がるようになります。その上、TV映えするようにと
豊胸手術を敢行その胸のボリュームアップ加減は半端なものではなく、アメリカでは「使用前→使用後」のような検証サイトが作られるまでになりましたていうか、体張りすぎです。

 ……というレスラーとオーナー一家の奮戦で再び人気絶頂に達したWWFは、2001年にとうとうライバル団体のWCWを吸収合併。さらには先立って崩壊した有力新興団体ECWのレスラーとスタッフを再雇用して、これも事実上の合併をしてしまいます。
 これにより、WWFは業界の完全独占を達成。マイクロソフトと並ぶ独占企業として名を馳せる事となりました。
 現在は同名の自然保護団体WWFとの兼ね合いから名称をWWEに改称しましたが、“ソープオペラ”と試合の完成度はそのままに、益々隆盛の一途を辿っています。

 ……と、以上が、人気凋落のピンチから見事に這い上がったスポーツ団体WWEのあらましでした。

 このWWEのエピソードを見て思う事はやはり、素晴らしい思い切りの良さと、客を満足させるためならオーナー自ら汚れ役になることを厭わないその姿勢であります。さらにもっと言えば、「勝ち負け決めたっていいじゃねえか。そっちの方が客喜ぶし、面白えもん」という、ある種の開き直りにも目を見張るものがあります。

 そこで大相撲です。
 人気低迷に喘ぐ大相撲、その窮地を打開するためには、WWEのように思い切った路線変更を打ち出さなければならないのではないでしょうか?
 そう。「エンターテイメント大相撲」であります。

 では、それが果たしてどういうものになるのか、次回の講義でシミュレートを実施してみたいと思います。(次回に続く 

 


 

6月1日(土) 競馬学特論
「G1予想・安田記念編」

駒木:「それじゃあ、講義を始めようか」
珠美:「春のG1も、とうとうこの安田記念と宝塚記念だけになっちゃいましたね」
駒木:「そうだねぇ。今年は予想の成績も良くないまま、ズルズルと春シーズンが終わろうとしてるって感じだけど、せめて1回くらいはスマッシュヒットを飛ばしたいもんだね」
珠美:「……せめて、口だけでも『メガヒット』って言ってみません、博士?」
駒木:「そういう事は、せめてG1予想勝ち越してから言おうね、お互いに(苦笑)」
珠美:「……ハイ(涙目)」
駒木:「それじゃ、さっそく出馬表を見ながら、1頭ずつ解説していこうかな。珠美ちゃん、進行お願いね」
珠美:「…ハイ。それでは、出馬表と私たちの予想印をご覧下さい」
 

安田記念 東京・1600・芝

馬  名 騎 手
    レッドペッパー モッセ
× × ミレニアムバイオ 柴田善
    マグナーテン 岡部
    アメリカンボス 江田照
    ジューンキングプローン イム
    イーグルカフェ 田中勝
  × トロットスター 蛯名
    ミヤギロドリゴ 大西
    ゴッドオブチャンス 四位
  × 10 ディヴァインライト 菅原勲
× 11 グラスワールド 藤田
12 ゼンノエルシド 横山典
13 エイシンプレストン 福永
    14 リキアイタイカン 武幸
× 15 ダイタクリーヴァ 松永
    16 トレジャー 北村
17 ダンツフレーム 池添
  × 18 アドマイヤコジーン 後藤

駒木:「これはまた……珠美ちゃん、たくさん印付けたねぇ。9頭に印あるじゃない。大丈夫? そんなに馬券の手を広げて…(苦笑)」
珠美:「自分でもいけないと思ってるんですけどね(苦笑)。でも、このレースって、絞り辛くありません?
駒木:「確かにね。僕も大分迷った上の印だったよ。断腸の思いで無印にした馬も少なくなかったね。まぁ、それはおいおい解説の中で」
珠美:「分かりました。それでは早速、博士に解説していただきましょう。いつも通り、8つの枠順ごとにお願いしますね。それではまず1枠から。外国馬のレッドペッパーと、昇り調子のミレニアムバイオ。いきなり解説が難しい馬たちなんじゃないですか?」
駒木:「そうなんだよ(苦笑)。随分と悩ませてもらったよ。
 まずレッドペッパーからなんだけど、どうやら今年の香港遠征馬は、今まで日本で実績を挙げてきた馬とは1〜2ランク力が下みたい。もっとも、今年は日本馬もイマイチ小粒な感じがするんで、それほど見劣る感じも無いんだけどさ。
 カギは日本の芝適性だろうね。こればかりは走ってみないと分からないんだけど、もしかすると大穴開けて来るかも知れない変な不気味さはあるね。ただ、僕の見立てじゃ今回の場合、最後方に近い位置から追い込みに賭けるこの馬は、相当展開に恵まれないと2着までは届かないんじゃないかと見ている
珠美:「ということは、ペースはそんなに速くならないんでしょうか?
駒木:「と、思ってるんだけど。少なくとも最後方からワン・ツーみたいな展開にはならないんじゃないかな。マグナーテンがハナ切って、その後ろに何頭かが、競るでもなく折り合いつけてマークするでしょ。で、その後ろにはマグナーテンと同厩舎のゼンノエルシド。マグナーテンが岡部騎手乗せてまでペースメーカーまでするとは思えないけど、共倒れになるようなレースもしないと思うんだ。だから、差し馬ならともかく追い込み馬はチョイ不利かな、と。そう思っているんだけどね」
珠美:「実は私も似たような事を考えていたんですけど、競馬新聞の展開予想と違うんでハラハラしてたんです(苦笑)。何だか、安心しました」
駒木:「まぁ、馬のやる事だから、どうなるか分からんけどね(笑)。……と、言う事で、レッドペッパーは惜しいけど無印。
 で、次のミレニアムバイオね。この馬も問題でねぇ。前走マイラーズC1着をどう評価するかが問題。確かに勝ったメンバーを見たら、G2レースの価値はあるように思えるんだけど、有力馬の凡走に救われた気もするからね。展開が多少なりとも向く分だけ、2着争いに食い込めるかな…とは思うけど。×印は打ったけど押さえの押さえってところかな。後は、中間ちょっと楽をしてるので馬体重に注意ね
珠美:「…分かりました。では次に2枠の2頭を。先程も話に出て来ましたマグナーテンと、有馬記念2着馬・アメリカンボスです」
駒木:「まずマグナーテン。去年の夏に関屋記念を勝ってから、ずっと人気を背負ってて、どれも惜敗してるって感じだね。たまにいるよね、こういうそんな役回りをさせられる馬(笑)。
 今回はどうやらマイペースの逃げを打ちそうな感じ。マイペースと言っても、速めの平均ペース以上になりそうだけどね。ちょっと離し気味に逃げて粘りこむレースを狙うんだろうね。2着までに粘りきるケースも考えられなくは無いけど、このレース、10年以上逃げ馬の連対が無いんだよね。やっぱりコーナーが少なくて直線が広い分だけ差し馬に有利らしい。だからちょっと推しにくい感じがする。
 そしてアメリカンボスね。有馬記念の時は本当に痛い目に遭わされたんだけど、いかにも快勝と大敗を繰り返すこの馬らしいパフォーマンスだったとも言える。まぁ、色々恵まれがあっての2着だったけどね。
 で、今回なんだけど、有馬の時にも増してネガティブな材料が揃ってるね。4戦全敗の休み明け、微妙に守備範囲外の1600mとか。前もそうだったから何とも言えないけど、陣営の気勢も上がらないねぇ。常識的に考えると、この馬を推すわけにはいかないね
珠美:「……次は3枠ですね。よろしくお願いします」
駒木:「香港のジューンキングプローン。国際レースではお馴染みのアラン厩舎からの刺客なんだけど、ちょっと今回は力量面で疑問符が付く上に、騎手も主戦騎手じゃないんだよね。なんか、日本のG1も随分と舐められたなあって感じ。ちょっと今回は陣営の本気度に疑問符だね。いつもは香港アラン厩舎は狙い目なんだけど、今回ばかりは例外。
 それからイーグルカフェか。NHKマイルC勝ってるんだよねぇ。あんまり最近の成績が振るわないんで、てっきり2着馬だったと勘違いしてたんだけど、成績表をよく見たら勝ってたんだよね(苦笑)」
珠美:「は、博士…、またそんな失礼なことを…(汗)」
駒木:「まぁでもさ、NHKマイルCって、勝ち馬の“その後”が両極端なレースではあるんだよね。そもそも出走馬の平均レヴェルが一番低い3歳G1だし、今年は別としてクラシック組は出て来ないしね。エルコンドルパサーとかクロフネみたいに、“行きがけの駄賃”的に勝って行く馬と、この馬やタイキフォーチュンみたいにイッパイイッパイで勝つ馬を比べたら、将来の成績に差が出るのは当然と言えば当然だね。
 で、今回だけど、最近の戦績の振るわなさと状態面の横バイさ加減から考えると、やっぱり苦戦は必至じゃないかな。致命的な出遅れ癖も気になるところだしね。2回に1回以上はレースにならないんじゃ、お話にならない
珠美:「……なるほど。さて、ちょっと厳しいコメントが続いてますが、続く4枠の2頭はどうなんでしょう? スプリントG1を2勝しているトロットスターがいる枠ですけど……?」
駒木:「一番扱いに困るパターンの馬だよね、スプリントで強い馬のマイル挑戦ってヤツ。一流のスプリンターって、大抵G3程度だと1600〜1800mでも平気で勝っちゃったりするから、余計に迷わされるんだな。
 でもねぇ。余程の事が無い限り、スプリンターってマイルG1だと3着が精一杯なんだよ。そりゃ去年みたいに実力馬が揃って凡走…だなんて異常事態になれば分からないけど、それはもうオカルトの範疇だしね」
珠美:「あの、ちょっと質問なんですけど、スプリンターとマイラーの区別ってどこでつければいいんでしょうか?
駒木:「ん〜、とても端的に言うとね、1200mのレースで活躍してる馬はスプリンター(笑)
珠美:「(笑)。そんな判断でいいんですか?」
駒木:「それで1600m以上のG1を、敗因が距離適性としか思えないような大敗を喫したら間違いなくスプリンター。この2つの条件で間違いなく判断できる。トロットスターは、1200mでG1を2勝してるけど、マイルG1は全部着外だろ? それを考えると距離適性は明らかだよね」
珠美:「…なるほど。そう言われてみれば当たり前の話ですよね(苦笑)。そういう理由で、博士はトロットスターを無印にしたんですね」
駒木:「まぁ、そういう事になるね。
 …で、次のミヤギロドリゴだけど、唯一の前売り単勝オッズ100倍台って事からも分かるように、ただ単に力が足りない。これで2着に来たらミラクルだね」
珠美:「…ハイ、それでは次に5枠の2頭ですが、曲者揃いといったところじゃありません?」
駒木:「そうだね。2頭とも典型的な伏兵馬だね。
 まず、ゴッドオブチャンス。前走は逃げを打ってアッといわせたんだけど、元々が折り合いに課題を残した馬なんで、今回は前に馬を置いて2番手で折り合うレースを試したいみたい。それはそれで気持ちは分かるんだけど、そうしたら勝てるのかっていうと、それも違うんだよね。他の馬のペースに乗っかって抜け出せる程、甘くはないと思うんだ。
 そしてディヴァインライトね。人気薄で2着に飛び込むケースの多い、典型的な穴馬決め手に欠ける代わりにバテない馬なんで、差し不発のケースで悠々と粘りこんじゃうんだね。高松宮記念2着の時は、この馬の馬券は持ってるのに、キングヘイローをハナから蹴飛ばしてて非常に悔しい思いをした(苦笑)。
 で、今回なんだけど、今回は同タイプの馬が多いんだよね。直線の早い段階から叩き合いが始まって、最後の最後に力尽きそうな気がする。元々が地力で勝負する馬じゃないだけに、力比べになるとキツいと思う。本当は“注”くらい付けたいところではあるんだけど」
珠美:「……いつもの事なんですけど、私が印を打った馬を消されると心に堪えますね(苦笑)。それに、大抵その指摘が当たってしまいますし……。
 ねえ博士、私の予想って、何なんでしょうね?(苦笑)」

駒木:「知らんよ(苦笑)。まぁ、僕は『珠美ちゃんの予想って、自分の学生時代の予想スタンスに似てるなぁ』って思ったりしてるけどね」
珠美:「え、そうなんですか? ちょっとショック……」
駒木:「おいおい! そりゃ確かに僕の学生時代の馬券成績は酷かったけどさ(苦笑)。でも、せめて前途有望くらい言ってくれ(苦笑)」
珠美:「すいません、失言でした(苦笑)」
駒木:「まぁ、個人的なお説教は講義が終わってからね。じゃあ、続き続き」
珠美:「う……、ちょっと嫌な予感が…(苦笑)。と、とりあえず講義を進めますね。いよいよ有力馬の揃う外枠です。まずは6枠からお願いします」
駒木:「まずグラスワールドからね。この馬、数字の上では平凡なオープン馬なんだけど、芝に転向してから凄い活躍だよね。どうして今までダートばかり走ってたんだろ。
 たださ、その中身が問題だよね。初めの2連勝はハンデ戦、しかも軽ハンデでしょ。で、京王杯2着というのも、今年の京王杯はそんなにレヴェルが高くないから威張れるほどでもない。昇り馬ではあるんだけど、少しインパクトに欠けるんだなあ。力量的にはミレニアムバイオと大して変わらないんじゃないかな。怖いのは底を見せてないって点くらい。だから押さえ以上には推せないねえ。
 そしてゼンノエルシド。○印を打っておいてアレだけど、実のところ、僕はこの馬を大きく評価してるわけじゃないんだ。ただ、藤沢和厩舎が3頭出しを仕掛けてきて、しかも状態をピークに持ってきたって事を考えると、評価しないわけには行かないんだよねぇ。本来は3頭出しって時点で◎にしないといけないくらいなんだけど」
珠美:「そんなに3頭出しっていうのは大きな要素なんですか?」
駒木:「競馬界じゃあ、『3頭出し以上で、もし1頭も2着に来れなかったら赤っ恥』って話を聞いた事がある。あくまで噂の範疇を超えないんだけど、なるほど確かに3頭出し以上だと信頼度がググッと上がるんだよ。先週のダービーも4頭出しで2着、3着だろ? どうやらそういう事らしい」
珠美:「……なるほど。そんな話があるんですね」
駒木:「でもねぇ、今回は7枠の馬が強過ぎるからなぁ」
珠美:「……ハイ、というところで7枠の3頭ですね。よろしくお願いします」
駒木:「今回の主役・エイシンプレストン。何といっても香港の国際G1を2連勝、しかもアグネスデジタル相手に競り勝ってるんだからね。もう実力は本物とみなして良いだろうね。一時期スランプに陥ってたけど、完璧に立ち直った。1分32秒台の時計勝負にでもならない限りは死角ナシと見てるよ。ちょっとここでは格が違う感じ。
 リキアイタイカンは、う〜ん、意外性がある馬なんだけど、やっぱりちょっと力不足が否めないかな。
 さて、問題はダイタクリーヴァ。凡走続きで人気落として、とうとう今回は8番人気か。でもね、今年の金杯じゃあ、ミレニアムバイオとかゴッドオブチャンス相手に4.5〜5.5kgの斤量差で完勝してるんだよ。今回穴人気してる連中と比べたら、地力の差は歴然なんだ。もう後は、どれだけデキを取り戻しているか。これに尽きる。デキが戻ってたら間違いなく勝ち負けだよ」
珠美:「なるほど。そう言えばそうですよね。ダイタクリーヴァかあ……。何だか、印を変えたくなってきました(苦笑)。
 ……それでは、いよいよ8枠の3頭についてお願いします。ダービー2着馬のダンツフレームがいますね」

駒木:「そうだね。でもまずトレジャーから。グラスワールドに2kgのハンデで僅差2着なのに、どうしてここまで人気が無いんだろう(苦笑)。確かに藤沢和調教師が言う通り、ゼンノエルシドより一枚劣るとは思うけどね。まぁ、決め手が不足してる馬だから、レースがし辛い事は確かだろうね。
 そしてダンツフレーム。うーん、個人的にはもっと長い距離を使ってあげればとは思うんだけどねぇ。確かに長距離路線よりは層が薄い気がしないでもないけど、勿体無い気がするなあ。
 まぁ、世代レヴェル的に考えると、アッサリ勝ってもおかしくない潜在能力はあるんだろうから、マトモなら好勝負は間違いないね。問題は、デキが全盛時のレヴェルに戻ってるかどうか。あと、肝心な所で詰めが甘い癖が出なければ良いけどね。
 最後、アドマイヤコジーン。どうやらこの馬は本質的にはスプリンターらしい。行くだけ行って、ジリ脚で粘りこむパターン。切れる脚が使えないから、どうしても前々で競馬しないと話にならないね。で、今回はディヴァインライトみたいな同型馬が多くいるから、やっぱり不利は否めないだろう。雨降って馬場が渋れば分からないけど、それも望み薄みたいだね」
珠美:「……ハイ、ありがとうございました。さすがに18頭全部だと骨が折れますね(苦笑)」
駒木:「まったく(苦笑)。じゃあ、買い目を発表して講義を締めくくろうか。
 僕は12-13、13-15、12-15、13-17、11-13、2-13の6点。ただねぇ、考えれば考えるほど2と11が要らないような気がして来た。まぁ、今さら仕方ないけど」
珠美:「私は11.12.13.17の6点BOXに、13から7.10.15.18へ。10点ですね。私は12番がらみを買い足したい気分なんですけど(笑)」
駒木:「まぁ、迷いたくなるレースだよね。でも難しいレースだからこそ、買い目は絞らなくちゃね」
珠美:「そうですね(苦笑)。いつも痛い目に遭ってるのに、どうして同じ失敗をしちゃうんでしょう?」
駒木:「それが人間ってもんじゃないの?(苦笑) まぁ、そういうことで、講義を終わろうか。随分と時間オーバーになってしまったし」
珠美:「そうですね。では、皆さんも頑張ってくださいね♪」

 


安田記念 結果(5着まで)
1着 18 アドマイヤコジーン
2着 17 ダンツフレーム
3着 ミレニアムバイオ
4着 11 グラスワールド
5着 13 エイシンプレストン

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 まず、展開の完全な読み違えを反省ね。マグナーテンが逃げる予想というのは、陣営の「スピードを生かす競馬をしてもらう」というコメントだったんだけど、よく考えたら岡部騎手に指示出せるわきゃ無いわな(苦笑)。おまけに3頭出し完全着外で赤っ恥と。藤沢和厩舎には悪夢のようなレースだっただろうね。
 で、直接の敗因。これは最も恐れていた、差し馬の完全不発。去年と同じ展開になっちゃった。まぁ、思ったよりもアドマイヤが渋太かったって事もあったけどね。
 後藤騎手、駒木も色々言った事ありますが、G1初制覇おめでとう。今日みたいに謙虚にしてれば誰にでも愛される人だと思いますんで、これからも今日の気持ちを忘れずに頑張ってください。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 また▲−×の不的中……。もう何点買っても当たらない気がして来ました……。
 宝塚記念は反省も込めて、キッチリと点数を絞って勝負に出ます! 皆さんも応援してくださいね。


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