「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

7/29(第47回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週/8月第1週分・前半)
7/25(第46回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第4週分・後半)
7/24(第45回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第4週分・前半)
7/22(第44回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第3週分・合同)
7/12(第43回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第2週分・後半)
7/9(第42回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第2週分・前半)
7/6(第41回) 
文化人類学「第88回ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権・結果報告」
7/4(第40回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(6月第5週/7月第1週分・後半)
7/2(第39回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(6月第5週/7月第1週分・前半)

 

2003年第47回講義
7月29日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週/8月第1週分・前半)

 ウィンドウズの宿痾と言うべき強制終了により、2度目の講義準備中、駒木ハヤトです(苦笑)。

 ちなみに最初に準備した冒頭挨拶は、斗貴子さんの「エロスは程々に」発言についてでした。
 いやしくも高校教員を志す者が、マンガの世界とは言え現役女子高生にたしなめられて微妙な快感を覚えるとは何事だ……などという原稿を準備していたところ、往年のスタン=ハンセンのショートレンジ・ラリアットくらい絶妙のタイミングで強制終了が発動したのです。いやぁ、世の中よく出来てますね。

 それにしても、斗貴子さんに世界史教えてる学校の先生は大変です。多分、あのキャラなら、
 「古代ローマにおける直接民主制の問題点について、若干の疑問があるのですが、ご教授願えないでしょうか?」
 ……などと、バルキリースカート発動3秒前のような表情で詰め寄る事は間違いありません。多分、そうなったら答えられる質問も答えられんでしょうなぁ……

 ……………………

 ──と、妄想はこれくらいにしまして(笑)、また強制終了にならない内にゼミの本題へと話を変えていきたいと思います。

 まずは今日も情報系の話題から。「ジャンプ」の読み切りに関する情報が1つ入って来ています。

 来週発売の36号において、『ヒカ碁』の小畑健さんが早くも再始動『DEATH NOTE』というホラー作品の作画を担当します。ちなみに原作者の大場つぐみさんは、Googleで検索しても情報がまるで出て来ない謎の人物。恐らくは、36号で作品と併せてプロフィールが公開されると思いますが、こちらについても注目ですね。
 しかし、本当に小畑健さんの仕事量には感服します。あれだけ完成度が高い作画で、次から次へと作品を発表するわけですから凄い話です。

 ……さて、次に話は変わって「赤マルジャンプ」夏号について。いよいよ今週号の「ジャンプ」35号でラインナップが発表になりましたが、やはり今回は絵が比較的達者な若手・新人さんが揃っているみたいですね。他の企画モノもヴィジュアル重視の構成になってしますし、今の時点で恐ろしいほど『ボーボボ』番外編が浮きそうなのが、駒木的には大変に気になるところです(笑)。


 ──それでは情報はこれまでにしまして、レビューとへと移りましょう。今日は読み切り2本(うち1本は代原ですが)がレビュー対象作となります。
 なお、申し訳ありませんが、諸事情によりチェックポイントは今回に限り後半分回しにさせて頂きます。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年35号☆

 ◎読み切り『ボウボウHEAD☆カウボーイ』作画:森田雅博

 今週の読み切り作品は競馬モノ。競馬学が専門の当社会学講座としては厳しくも暖かい目で見たいところではありますが……。

 作者の森田雅博さんは、1979年6月16日生まれの24歳00年12月期の「天下一漫画賞(現:十二傑新人漫画賞)」で審査員(尾田栄一郎)特別賞を受賞し、翌01年の「赤マルジャンプ」夏号にて『ペース・メーカー』でデビューしました。
 森田さんは、「天下一」受賞時から一貫して競馬を題材とした作品にこだわり続け、今年1月の「赤マル」冬号に掲載された『蹄鉄ジョッキーっ!』、そして今作も競馬を題材にした作品となりました。少年誌における競馬マンガは、メジャー4誌全てにおいて大ヒット又はスマッシュヒット作品を出しているジャンル。最近はやや勢いに陰りが見えるとはいえ、狙いそのものは悪くないのですが、果たしてどうでしょうか。

 ではまずからですが、前作に比べてかなりの進歩が窺えます。新人特有の無駄な線が消え、垢抜けた見栄えのする絵が描けるようになったのではないかと思います。マンガ的表現もソツなくこなせており、基本的な力そのものは即連載クラスと申し上げて良いのではないでしょうか。

 …………しかし。ここに来て重大な“疑惑”が持ち上がっています。

 ──これは週明けから2ch掲示板などで話題になっているのですが、この作品のいくつかのシーンが、『焼きたて!! ジャぱん』『はじめの一歩』の中のシーンと酷似している…というのです。
 とりあえず、ネットで拾ったスキャン画像(間もなく消去される可能性が高いので)こちらのサーバーに移してアップしましたので、受講生の方もそちらをご覧下さい。
 ちなみにこの画像、本来なら色々と問題が生じる要素を多数含んでいるとおもわれますので、何かあれば即刻消します。閲覧はどうぞお早めに。また、こういう事をしている駒木が言うのもアレですが、変な使い方をしないようにお願いします。

☆問題のシーン集☆

 ……実際に見ていただけると分かるんですが、これはどれだけ贔屓目で見たとしても、“既製の作品から非常に強い影響を受けた”ものであると思って間違いないでしょう。真偽はどうあれ、読者から「パクりじゃねぇの、これ?」…などと疑われても致し方ないのではないかと駒木は考えます。
 非常に遺憾ながら、某『黒猫』に及ばず、この手の話はマンガ業界で度々疑惑が囁かれています。また、そういう疑惑の囁かれる作品が商業的に成功するケースも多く見られる現状でもあります。しかし、まだ発展途上の段階である新人作家さんがこういう行いをするというのは、善し悪し以前にして果たしてどうなんでしょう? 確かに「どうしても似てしまう」という事は往々にしてあるでしょう。しかし、物事には限度と言うものがあるはずです。これは技術云々というより、もっと根源的な「志」の問題だと思うのですが……。
(ついでに記す:この話題を検証していて知ったのですが、先週号掲載の『Continue』作画:星野桂)でも、他作品の模写及び主要キャラクターのデザインが酷似している事が指摘されています。これも実際に画像を見てみますと、確かに似せる必要のない所まで似ている部分が有りました。もう何て言うか……)

 ……さて、すっかりミソが付いてしまった感がありますが、ストーリー&設定についてもお話しておきましょう。

 今回のお話、確かに勢いがあって読後感も良く、いわゆる好感度の高いストーリーであるとは思います。そのためでしょう、ネット界隈での評価も印象度の上ではそれほど悪くはないようです。
 しかし、それだけでヨシとしないのがこのゼミの方針。その方針にしたがって深く読み込んでいきますと、この作品は中身の薄さを勢いで誤魔化しているという事に気付かされていきます。

 中でも最も大きなミステイクは、5億円馬・ジュテーム号が高い素質を持っているという伏線が全く無しに(それどころか「調教でも走らない」と明記されてます)、精神的な絆が生まれた“だけ”の進斬の馬を破壊する豪腕に耐えて激走してしまった…という矛盾でしょうね。
 しかも、そういう状況にも関わらず、5億円の超高馬に、デビュー以来0勝&馬をぶっ壊してしまう騎手を乗せてしまうしかもレースまで馬主にもそれを隠蔽する)調教師っていうのも、よくよく考えたら酷い話です。また、そういう騎手なら“馬殺しの花咲”みたいな仇名が付いていなければおかしいですし、周囲から単なるヘボ騎手扱いされているのも不自然極まりありません。それに、馬をぶっ壊している当の本人が、その事を全く無自覚というのも無神経が過ぎる話でしょう。

 あと、競馬マンガでありながら、競馬に関するディティールの大半が間違っているというのも大きな減点材料ですね。逐一指摘する時間がありませんが、実在しないデザインの勝負服や馬運車を見ただけで脱力モノですし、何よりもストーリーの根幹である“レース飛び入り参加”が実際は問題外で不可能(出走馬がパドックに出る時点で到着していない場合、無条件で出走取消&関係者はキッツーイ処分が確定というのが致命傷です。
 勿論、これはマンガですから、「現実を無視して話作りをするのがベスト」という場合には、それをやっても構わないでしょう。が、本来のタイムリミットである装鞍所集合時間を作品内のタイムリミットにしても十分に話は成立しますし、むしろそこからレース発走までに、進斬がジュテーム号に「お前は素質がある。俺がお前の力を引き出してやるから、俺を信じろ」…のような決めゼリフが言えますので、話がより盛り上がるはずです。敢えて現実のルールを無視して話作りをする必然性が全く見当たらないのです。

 まとめますと、この作品はストーリーの必然性を全く考慮する事無くシナリオを組まれているわけです。設定の後付けは、話の最初に遡った上で矛盾点の無いように行うのは最低限のルール。これが守れていないようでは、ちょっと……といったところですね。
 恐らく、今の技量で連載を獲得した場合は、間違いなく短期間でストーリーに破綻を来たしてしまうでしょう。もう少し、本格的な話作りを学んだ方が良いのではないかと思います。

 評価ですが、絵の“パクり”疑惑を抜きにして考えた場合、絵は合格点もストーリーテリング力に大きな問題アリということで、B寄りB−という評価になるでしょう。ただし、本音を言えば、文字通りの「論外」という評価こそ正当のような気がします。

 
 ◎読み切り『白い白馬から落馬』作画:夏生尚

 今週は久々に『ピューと吹く! ジャガー』が作者都合の休載。ということで、巻末にショートギャグの代原が掲載されました。

 作者の夏生尚さんは、02年度上期の赤塚賞で佳作を受賞。その受賞作が代原として本誌02年31号に掲載され、デビューとなりました。今回は、またしても代原ながら約1年ぶりの再登場になります。

 しかし今回の作品、代原ゆえに執筆時期が判らないのですが、1年前のデビュー作と絵、ギャグ共に進歩が全く無く、非常に物足りない仕上がりとなってしまいました。
 は確かに新人作家さんの描くギャグマンガとしては上出来の部類に入りますが、所々で下手と言うよりも雑な描写が見受けられるのが残念でした。
 ギャグに関しても、デビュー作の掲載時に指摘した、「“起承転結”の“承”や“転”の部分で無理矢理終わっていて、オチがオチになっていない」…という問題点が全く改善されないまま放置されていました。

 前回は新人賞への応募作、かつデビュー作でしたから大目に見なくてはならない要素もあったでしょうが、今回は新人とは言え、プロ作家として描いた作品なわけですから、擁護出来る材料は全くありません。残念ですが、駄作と言わざるを得ないでしょう。

 評価は前作と同じくC寄りB−。近頃は実力派の若手ギャグ作家さんの頭数が揃って来ていますから、このままでは夏生さんの前途は非常に厳しいものになってしまうでしょうね。


 ……以上で今日のレビューは終了です。ちょっと物議を醸しそうな内容ではあるのですが、このまま捨て置くのもどうかと思いましたので、重く扱ってみました。受講生の皆さんの忌憚の無いご意見を聞かせて頂けると有り難いです。

 では、後半のゼミもどうぞよろしく。

 


 

2003年第46回講義
7月25日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第4週分・後半)

 今年の夏のトレンドは、カメラ目線でお茶の間の皆さんに向かって「グルービー!」(挨拶)

 しかし、少年マンガ史上初めてじゃないでしょうか、闘ってる当の本人をバックに押しやっておいて、しっかりカメラ目線で決めゼリフ叫んでる人ってのは。何て言うか、究極の美味しいトコ取りテクニック。
 これからのコミケシーズンコスプレイヤーをローアングルから狙うアレな人の群れを見つけたら、その集団をバックにして立って、

 「グルービー!!」

 ……これです、これ。今年の夏はこれですよ皆さん。


 ──さて、東京旅行を控えて微妙にテンション高めな駒木ハヤトがお送りする「現代マンガ時評」、時間も迫ってますので、とっとと始める事に致します。

 今日は情報系の話題も特に有りませんので、いきなりレビューから。新連載1本と、新連載第3回後追いレビュー1本の、計2本となります。続いてチェックポイントも宜しく。

☆「週刊少年サンデー」2003年34号☆

 ◎新連載『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』作画:中井邦彦

 今年3作目の本格新連載が開始されました。この後、後追いレビューでお送りする『ロボットボーイズ』の上川敦志さんと同様、これが初連載となる若手作家さんの登場です。

 その作者の中井邦彦さん今年なんと35歳。随分と遅い連載デビューですが、どうやら中井さんは一昨年まで長年江川達也さんのアシスタントを務めていたらしく、そのために本格的なマンガ家としての活動開始が遅れていたようです。
 キャリアとしては、アシスタント時代の7年前に「小学館新人コミック大賞」で入選を受賞し、読み切りデビュー。その後も散発的に読み切りを発表していたようですが、今年になって増刊に掲載した同名の作品が認められた形で、今回の抜擢となりました。
 高校卒業後すぐに上京してマンガ家を目指していた…との事ですから、キャリアは17年。この経験がどこまで活かせるか、見ものと言えそうですね。

 では、内容をチェックしてゆきましょう。

 まずですが、いかにも今の「サンデー」っぽい、好感度の高い明るいタッチの絵で良いんじゃないでしょうか。(もっとも、「またこの絵柄かよ」という声も聞こえて来そうですが……)
 あと、アテナの筆やデビPのデザインなどに、『タルるート』時代の江川達也タッチの影響が見え、「なるほどなぁ…」と思わされたりしましたね(笑)。ていうかキャリアから考えると、ペン入れ以降の工程を代行した経験とかあったりするかも知れませんね。

 次にストーリー&設定について。

 今回の第1回は60ページ以上の長丁場になったわけですが、ややプロットがオーソドックス過ぎる嫌いはあるものの、ダレ場を作る事も無く手堅くまとめられているとは思います。が、そのストーリーの見せ方にかなり大きな矛盾点があり、これは大きな減点材料です。
 今回のストーリーでは、その前半で看護婦の変装をした謎の女性(姫乃美香)が、主人公・ハユマにペンを渡した上にウソをついて騒動を起こそうとするわけですが、これがまずいけませんこのウソ(幼馴染みに恋人がいて、ハユマの事は嫌い)が、読者からはすぐにウソだと判ってしまって白けてしまうのです。薄々と「これはウソだろうな」と判ってしまうようなモノだとしても、真実かどうかは土壇場まで判らないようにする演出は必須だったような気がします。
 また、このウソは作品内の世界でも“すぐにバレるウソ”であって、説得力が全くありません(美香も顔に冷や汗を浮かべてますので苦し紛れのウソだったのかも知れませんが、判り辛い上に前日から伏線を張っている割にそれでは不自然です)。一応、話の中では、
 ハユマがお見舞いに行くと、偶然幼馴染みと子供が戯れている→絵が描いていると思わなかった子供がはしゃいで絵を破る→ハユマ君、青春早合点(謎)
 ……という流れでハユマはウソを本当だと誤解してしまったわけですが、これは実現確率の極めて低い偶然によって発生した現象ですよね。これがさも“仕組まれた罠”のように描かれてしまうと、ちょっと何だかなぁ…といった感じです。

 他にも設定面で矛盾点──ハユマはデビPとD−メンしか描けないはずなのに、やけにスンナリと化物のラクガキを描いている──が見られるなど、どうも全般的にツメの甘さが目立ちます。クライマックスの見せ方が非常に上手くキマっているので、読後感は良い仕上がりになっているのですが、この調子で粗の多い話作りをされてしまうと、破綻したストーリーが半年以上続く惨事になってしまいそうで怖いです。
 評価ですが、ここまでシナリオ面で欠点がある作品に高い評価を出すわけにはいきませんので、とりあえずB−寄りBとしておきましょう。絵とラストの見せ場が良かった分のB評価だと考えて頂ければ。

 それにしても、マンガに出て来る小動物は、どうして口が悪くて関西弁なのが多いんでしょうか(苦笑)。たまには博多弁をガナりたてる、新日本プロレスのマスクマン・魔界2号みたいな小動物がいても面白いと思うんですが。

 
 ◎新連載第3回『ロボットボーイズ』作:七月鏡一/画:上川敦志【第1回時点での評価:B−

 当講座BBSでは、このところ連日この作品に関しての書き込みがあり、もはやここがネット界隈で一番『ロボットボーイズ』に注目しているウェブサイトになりつつあるわけですが(笑)、謹んで第3回の後追いレビューをお届けしましょう。

 第1回では、孤独な主人公に1人“仲間候補”が出来て…というところで「続く」になったわけですが、第2回、第3回もそのエピソードの延長上でストーリーが展開されてゆきました。
 で、ここまでのストーリーから推察するに、どうやらこの作品のコンセプトは、

 「ロボットを作るのは楽しい」
 「仲間と一緒に作ったらもっと楽しい(はずだ)」
 「ロボットコンテストは勝ち負けじゃない。いかに自分が作りたいロボットを作って自分が楽しめるかだ!」

 ……というものであるように思われます。
 で、この3つのコンセプトの内、最初の2つは“いかにも少年マンガ”という感じで良いのですが、最後の1つはどうなんでしょう? 
 よくスポーツ物で「勝利至上主義VS楽しめりゃ良い派」の内部抗争があったりしますが、必ずと言っていいほど前者が勝ちますよね。これは、「勝ち負けという客観的基準を基本にしないと話が描けない」…という大人の事情は勿論の事、「楽しめりゃ良い」っていう考え方は、心のどこかで“逃げ”に走っているからダメ…という要素が含まれているはずなんです。
 まぁ、この作品の主役たちがそういった“ダメ部員的逃げ”に走っているわけじゃないのは分かるんですが、果たしてそういうコンセプトでエンタテインメントが成立するのか…という事を考えると、やはり疑問符が付きます。どうも自分で墓穴掘っちゃったかなぁ……というのが正直なところですね。
 結局の所この作品は、主人公たちが「楽しい」と思える事を、そのまま読者も「楽しい」と思えるかどうかが今後のカギになって来るでしょう。実際、ネット界隈の評判を聞いていると、「ロボット作りが楽しそう」と思えた人からは高い評価が、そうじゃない人からは低い評価が出ているようではありますし……。

 あと、第1回で見られたような大きな矛盾点などは、第2回以降では見受けられませんでした。ただ駒木は、第1話の前半であれほどロボット作りが下手だった主人公が、第2話以降では立て板に水の如く、ロボットに関する知識とノウハウをベラベラと語っている事に未だにシックリ来ないんですれどもね(苦笑)。

 評価はまだ未知数の要素が多いながらも、今後において失敗する可能性が高い…ということでB−という事にしておきましょう。

 
◆「サンデー」今週のチェックポイント◆
 

 巻末コメントのテーマは、「重要視しているイベント」。誰一人として、「嫁さん(彼氏・彼女)の誕生日」という言葉が出て来ないあたり、皆さん不器用な人生を過ごされているようで(苦笑)。
 ちなみに駒木は「年末のタモリが出演する『徹子の部屋』」ですか。いや、本当は言いたいんですよ「彼女の誕生日」とか。しかし世の中には「無い袖は振れない」という言葉が御座いまして(嗚咽)。

 ◎『うえきの法則』作画:福地翼【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 運試しで2次予選って、ウルトラクイズかい(笑)。
 まぁ、こういう場合はトンデモな敗者復活戦があったりするんでしょうけどね。
 もし、これで「2次予選敗退で確定→打ち切り」だったらマンガ史上に残る大傑作(別の意味で)になるわけですが……。

 …………………………

 ……ひょっとしたら!?(ねぇよ)

 ◎『俺様は?』作画:杉本ペロ【現時点での評価:B− 

 うはは、最高だ阪神君
 駒木は兵庫県人のくせに阪神ファンじゃないんですが(20年来のヤクルトファン)、周囲の阪神ファンは皆さん本当に疑心暗鬼ですからねぇ。
 だって、早くもマジック出てるこの状況で、6対0で勝ってたのを6対2にされただけでマジギレしたりしますからね。「また点取られてるやないか!」…って風に(笑)。
 そりゃ野球なんだから点取られるよ…とか、阪神に序盤から6点取られたチームを応援してる俺はどうしたら? …とか、言いたくなるんですが、皆さん阪神君のように目が血走ってますから聞く耳が(苦笑)。

 とりあえず、阪神の選手の皆さんは、誰かお調子者が日本シリーズで三連勝しても「○○(パ・リーグ優勝チーム)はオリックスより弱い」とか言い出さないように気をつけて頑張って下さい(笑)。
 

 ◎『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫【現時点での評価:B/雑感】 

 駒木の母校は中・高ともにブレザーだったので、第二ボタン系の話には縁遠かったんですよね。だから、こういう話を見るとちょっと羨ましかったり。

 ところで、ここ数週間「すわ、次号で最終回?」と言いたくなるような“引き”のこの作品ですが、果たしてどうなりますか……。既に“定員オーバー”の状態だけに、そろそろ危ういと思ってるんですけどね。


 ……というわけで、今週分のゼミでした。週末は業務を完全にストップさせてしまうので、次回の講義は週明けになります。どうぞご了承を。

 


 

2003年第45回講義
7月24日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第4週分・前半)

 もう至る所でお礼を言ってますが、こういうものは言っても言い足りない事は無いので、ここでも言っておきましょう。延べ受講者数100万人突破となりました。これまでのご愛顧に感謝いたします今後ともどうか何卒。

 ……さて、今週末も公私共にハードスケジュールのため、講義もスピード進行で参りましょう。「その割には講義が1日遅れてるじゃないかよ」ってのは、三瓶とかダンディ坂野とかに「あなたの将来の展望は?」という質問をするくらい禁句です。

 まずは「週刊少年ジャンプ」の情報系の話題から。読み切りについては既に前回の講義で述べていますので、今日は34号で発表になった「ジャンプ漫画アイディア杯」の審査結果を紹介します。

第1回 ジャンプ漫画アイディア杯

※原作部門(応募総数945編)
 特別賞=1編
  ・『Z×2』
  竹田雄介(28歳・埼玉)
 最終候補(選外佳作)=5編
  ・『ゴールデン・オーキッド』
   藍住流(24歳・大阪)
  ・『乙女野高校ライディングチーム』
   小鳥遊恵(33歳・東京)
  ・『鉄腕ピエロ』
   江黒祐樹(20歳・神奈川)
  ・『小天狗ジョッキー』
   樋口明日人(38歳・埼玉)
  ・『GRACE OF ECARG』
   藤田明日(35歳・静岡)

※アイディア部門(応募総数324通)
 =最終候補作該当無し

 ……というわけで、今回は膨大な応募数に恵まれながらも、佳作以上の入賞作ゼロという非常に厳しい結果になりました。

 これは恐らく、応募者の大半が「絵が描けなくても気軽に応募できるマンガ賞」と考えていたのに対し、編集部側は「プロのマンガ家を凌ぐ知識・ストーリーテリング力を持つ即戦力を発掘するための賞」と考えていた…という認識のミスマッチのために起こった現象でしょうね。その結果、プロ意識に欠ける応募者の群れが死屍累々の山を築いたと。
 前にも言ったかも知れませんが、漫画原作者ってのは、少なくとも“ストーリー作りが上手くないプロ作家”以上の力量が求められるわけで、実はマンガ家になるよりハードルは高いんですよね。語弊がある言い方かも知れませんが、ちょっとしたライトノベル作家になるよりも難しいんじゃないかと思います(漫画原作者はマンガ家以上の才能を求められるが、ライトノベル作家はマンガ家並みのストーリーテリング力でも一応は勝負できるので)。
 今後はその辺が物書き志望の人たちに浸透しないと、ちょっとこの手の新人賞はいくらやっても上手くいかないでしょうね。

 
 ……さて、それではレビューへ参りましょう。今日のレビュー対象作は読み切り1本のみです。チェックポイントと続けてどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年34号☆

 ◎読み切り『Continue』作画:星野桂

 延々と続きます、「ジャンプ」の若手・新人育成シリーズ。今週は新人・星野桂さんの登場です。
 星野さんは受賞歴等が無いまま(本誌のカット描きなどはやっていたみたいですが)、今年の「赤マルジャンプ」冬号でデビュー今回がプロ2作目ということになります。
 ただ、後でも述べますが、キャリアに似合わない画力を持った人ですから、アマチュア実績かアシスタント経験があるのは間違いないところでしょう。何か情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、どうか駒木まで宜しく。

 ……というわけで、内容の方へ。

 まず、ついさっきにも言及したについてですが、これはデビュー2作目の新人さん…というのを抜きにしても立派なものです。前作に比べれば絵柄も少年マンガ対応に変わりつつありますし、これでもう少し線にメリハリがつけばもっと良くなるでしょう。
 ただ、正直言って“頑張り過ぎ”的な演出過多の嫌いがあるのも否めません。藤崎竜さんを思わせる手の込んだ背景処理や、トリッキーなコマ割りは確かに技術を感じさせてはくれます。しかし、それが作品の良さを引き出す方に作用しておらず、逆に読者が作品世界に没頭するのを妨げる読み辛さに繋がってしまったのは非常に残念でした。これを小説で言うならば、韻を踏んだり1行ごとの字数を揃える方に神経が行き過ぎて、肝心の叙述や描写が読み辛くなっているような感じでしょうか。
 要は、星野さんが欲張り過ぎなわけですね。自分が身に付けた技術を全て作品で吐き出さないと気が済まないんでしょう。その意気込みは買えるのですが、これがイラスト集ではなくてマンガである以上は、不必要なモノは削るのが常道と言うものでしょう。

 一方、ストーリー&設定の方は、まだまだ発展途上という感じだと思います。

 この作品は「空想(ゲーム)上の死と現実の死は違うんだよ」…という、シビアかつデリケートなテーマの上に乗っかっていますが、そのテーマそのものが上手く描き切れていないために、ストーリー全体の説得力が無くなってしまいました
 では何故、そうなってしまったのか? それは、現実の死を描くには、この作品の世界観とストーリーは余りにも現実離れし過ぎていたからなのです。現実の死が云々…などと言っているのが、どう考えても空想上のキャラクターだったりしますし、そもそも現実の世界なら「お化けが出る」と言っても出るわけ無いんですよね。

 あと、ストーリーの展開の仕方で言えば、次から次へと後出しジャンケンのように新しい設定が出て来て勝手に話が進んでいくパターンも頂けません。特に主人公のピンチの際に設定の後出しをして、「実はこうだったので大丈夫なんです!」…とやってしまうと、話のヤマ場がヤマ場にならないんですよね。そのため、読者が一番興奮すべきところで白けてしまう。これは非常に残念な事です。
 気付いた方もいるかも知れませんが、これは『遊☆戯☆王』のカードバトルで、毎週のようにご都合主義的にルールが追加されて優勢・劣勢が入れ替わっていたのと同じパターンです。ここで『遊☆戯☆王』の作品そのものをどうと言うつもりはありませんが、同じカードゲームを題材にした『カイジ』と比べた場合、劇中で扱われているゲームの醍醐味が、より深く描かれているのは2作品の内どちらか? ……と考えた場合、その答えは明らか過ぎるほど明らかですよね。

 まとめると、星野さんは、まだ自分の作品が不特定多数の人に読まれているという事実に対しての自覚が足りない。もっと端的に言えば、独り善がりで、客観的な視点で物を考える訓練が不足している…ということになるんでしょうね。
 それでもストーリーそのものが破綻しているわけではないですし、画力など評価すべき点も十分あります。そういった事情を総合すると、評価はB+寄りBといった辺りが妥当ではないかと思います。次回作に期待しましょう。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 今回で連載1周年。そういや、昨年連載開始の作品は、既に『いちご100%』とこの作品しか残っていないんですよねぇ。

 さて、今週で太陽スフィンクス戦が終了。ちなみに、正式なアメフトルールでは、最終クォーター終了時に同点の場合は、「オーバータイム」と呼ばれる15分の延長戦に入ります。
 ただし、この延長戦はサドンデス方式で、コイントスで先攻・後攻を決め、1点でも先に入れた方が勝ちになるというルール。タッチダウンを奪う所まで攻められなくても、フィールドゴールの3点で勝ちになってしまうので、どうしても先攻側が有利になるようです。
 とはいえ、この泥門VS太陽で考えた場合、フィールドゴールが滅多に決まらない泥門は圧倒的に不利なんですよね。延長無しの取り決めにしていた(?)のは、やっぱりヒル魔の策略だったんでしょうか(笑)。
(追記:アメフト通の受講生さんからご指摘を頂きました。オーバータイムはNFLの他は滅多に適用されない例外的なルールで、学生のアメフトでは引き分けのまま終了となります。そういや、5年ほど前の大学日本一決定戦《甲子園ボウル》で同点両校優勝があったのを思い出しました。
 駒木の頭には、「第1回のアメフトW杯で日本が延長で優勝を決めた」という記憶が強く残りすぎてまして、それが結果的にミスに繋がったみたいです。申し訳ありませんでした)

 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 受講生の方から矢のようなツッコミが入りましたね、キャプテン牛尾の「これが僕たちも初の公式戦」発言。本当なら、前年の秋季県大会から新チームになっているはずですし、春休みにも春季大会がありますので、本来ならばこれが3回目の公式戦になるわけです。
 まぁ、作品内ローカルルールという可能性もありますが、鈴木さんの普段の神経質ぶりならば、巻末コメントなどで言及があるはずですから、これはド忘れしてたんでしょうね(笑)。
 かの『ドカベン』でも、秋の国体を無視してしまっていた…という前例がありますし、この辺は結構難しい問題ではあるのですが。

 
 ──それでは、ちょっと短めですが今日の講義を終わります。週末は業務がストップしますので、出来れば明日に後半分のゼミが出来れば良いな…と思っていますが、どうなるでしょうか(苦笑)。

 


 

2003年第44回講義
 7月22日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第3週分・合同)

 受講生の皆さん、ご無沙汰&ご迷惑をおかけしました。本日から講義に関する業務を再開致します。
 さて、とりあえず今日は、先週分(「ジャンプ」&「サンデー」33号)の内容に関する情報及びレビューとチェックポイントをお送りします。先週土曜発売の「ジャンプ」34号の内容に関しては、情報の一部を除いて7月第4週分扱いにさせて頂きますので、どうぞご理解&ご了承下さい。

 
 ──それではまず、情報系の話題から。「ジャンプ」、「サンデー」共に月例新人賞の審査結果が発表になっていますので、例によって受賞者、受賞作を紹介しておきましょう。

第2回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年5月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し 
 十二傑賞=1編
 ・『HEAVY SPRAY』
(=赤マルジャンプ夏号に掲載決定)
  相模恒大(20歳・北海道)
 
《森田まさのり氏講評:スプレーペインティングという題材が新しい。見たこともない題材を扱った作品に出会うと、それだけで興味を惹かれます。ただペンキではなく、スプレーでなければならない理由があると、なおよかった》
 
《編集部講評:画力はある。ストーリーも勢いに任せて唐突になっている部分もあるが、その分テンポよくまとまっている。ラスト、スプレーで絵を描いているシーンはかっこいいのだが、完成した絵のすごさが伝わる表現に踏み込んでほしかった)
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『HAIR CUTTER 城生』
   林裕史(23歳・長野)
  ・『JIBUN』
   普津澤画乃新(18歳・秋田)
  ・『ゴーストジャッジメン』
   川島明人(19歳・神奈川)
  ・『ZINK』
   ナムさん(20歳・宮城)
  ・『BOMB BERRY』
   松長未央(20歳・北海道)

少年サンデーまんがカレッジ
(03年5月期)

 入選=該当作なし
 佳作=1編
  ・『いたって真剣!』
   直井俊樹(25歳・東京)
 努力賞=4編
  ・『美零憂』
   古谷淳(20歳・福岡)
  ・『練空師』
   吉田博(26歳・東京)
  ・『MOSO』
   中島徹(19歳・愛知)
  ・『コールとイグリス』
   渡辺義彦(21歳・千葉) 
 あと一歩で賞(選外)=該当作無し 

 今回、各賞で最終候補以上に残った皆さんの過去のキャリアについては以下の通りです。

 ◎十二傑賞受賞相模恒大さん02年6月期&03年1月期「天下一漫画賞」で最終候補。
 ◎最終候補普津澤画乃新さん00年9月期「天下一」で最終候補、01年7月期「天下一」で編集部特別賞
 
最終候補林裕史さん02年12月期「天下一」に投稿歴あり。
 
 ※この他にも過去に受賞歴等のある方がいらっしゃるかも知れません。もし情報をお持ちの方がいらっしゃるなら、談話室(BBS)やメールでお知らせ下さい。(特に最近のサンデー系新人賞は他誌出身の新人さんが多いので……)

 ところで、今回の「十二傑」は3度目の最終候補入りとなる相模恒大さんがデビュー権を獲得しました。「天下一」時代の基準なら特別賞止まりでデビューを果たせなかったでしょうから、まさに「十二傑」の狙いが形となりましたね。
 しかし、やはり「十二傑賞」受賞作の発表の場はもっぱら「赤マル」になるようですね。「赤マル」と言えば、もういい加減、盆休み前に発売される夏号のラインナップが決まってる時期でしょう。今のところ確定しているのは、「十二傑」組と『プリティフェイス』の番外編くらいだったと思いますので、残りのラインナップについても早く知りたいところですが……。
 小耳に挟んだ話だと、今回の夏号はビジュアル重視というか、比較的絵の達者な新人さんを多く起用したらしいと聞きました。絵が綺麗なだけじゃ困るんですが、絵に中身が追いついた作品ならば当然ながら期待大ですので、楽しみではありますね。

 
 ……さて、続いては新連載と読み切りの話題です。

 まずは「ジャンプ」から。新連載シリーズが一段落ついた後も、読み切りシリーズは引き続き継続中です。既に発売になった34号の『Continue』作画:星野桂)に続いて、35号でも競馬マンガ・『ボウボウHEAD☆カウボーイ』(作画:森田雅博)が掲載されます。
 作者の森田さんは、昨冬の赤マルでも競馬を題材にした『蹄鉄ジョッキーっ!』を発表しているのですが、その時は内容以前に競馬の知識不足が目立つ作品になってしまい、当ゼミでのレビューでも酷評する結果になっています。今回はその辺りがどこまで改善されているのかも含めて注目したいところです。

 そして「サンデー」では新連載の話題を。日付から言えば明日発売の34号から『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』作画:中井邦彦)が始まります。
 中井さんは江川達也氏のアシスタントを経て、01年ごろから「サンデー」系増刊号などで読み切りを数作発表。今回は増刊03年2月号に発表した同名作品の連載化ということになります。この2月号、かの当ゼミ最高評価作品・『美食王の到着』が掲載された号で、立ち読みながら繰り返し読んでたはずなんですが、恥ずかしながら記憶にありません(汗)。この度は、脳ミソの奥底から記憶を引っ張り出す作業をしながら、レビューに臨みたいと思います(苦笑)。

 
 ……それでは、レビューとチェックポイントをお届けしましょう。今回分のレビュー対象作は、「週刊少年ジャンプ」から新連載第3回の後追いレビュー1本と、読み切りレビュー2本(『ヒカルの碁』番外編は一括してレビューします)の計3本という事になります。その後、「ジャンプ」のチェックポイント、「サンデー」のチェックポイントの順でお届けすることになります。どうぞ最後まで宜しく。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年33号☆

 ◎新連載第3回『神奈川磯南風天組』作画:かずはじめ【第1回時点での評価:B+

 「ジャンプ」の大規模新連載シリーズのレビューも、今回でいよいよ最後となりました。『神奈川磯南風天組』の第3回後追いレビューです。

 さてこの作品、第1回の時点では「問題点は残されているものの、絵柄やネーム、作品を描くにあたっての姿勢などに評価できる点が多い」…として暫定評価B+としました。が、そこから2回分の展開を見る限りでは、ネガティブな要素ばかりが膨らんでいっている感が否めません。

 まず、主役格のワル2人(天堂寺&風間)のキャラ作りに成功していないところが気になります。前回のレビューでも述べた通り、“悪属性”のキャラクターを読者に受け入れられるようにするためには、“ただの悪人ではない魅力的な何か”を提示する必要があります。(最近の「ジャンプ」作品の中でそれを最も成功させている)『アイシールド21』のヒル魔で言えば、不言実行型の努力家である所や、心の深い部分では意外と情が深い所がそれにあたりますね。
 しかし、この作品では、1話に最低1場面は天堂寺と風間が“読者ウケ”するシーンがあるものの、取って付けたような感が否めません。「とりあえず、こうしておけば読者の心は離れないだろう」と、タカを括ってしまっている印象すらあり、違和感を強く感じてしまいます。
 また、天堂寺と風間のキャラ分けにも成功しているとは言い難いですね。現時点では、デビュー間もない頃のオセロよろしく白い黒い以外に区別する方法が無い状態で、このままでは良いストーリーを展開させようとしても上手くいかないでしょう。

 そのストーリーも、現在のところは一話完結型で進行中ですが、早くもワンパターン・マンネリの兆しが窺え、状況はあまり良いとは言えません。せめて1つ、漠然としたものでも良いですから、何か作品全体のテーマ的なモノを呈示できれば流れも変わって来ると思うのですが……。

 評価の方は下方修正してということにしましょう。ハッキリ言って現時点では失敗作の範疇に入る作品ではありますが、マンガ作りの技術はしっかりしていますので、これ以上評価を落とすわけにはいかないところです。

 
 ◎読み切り『ヒカルの碁・特別番外編』作:ほったゆみ/画:小畑健

 それでは続いて、いつの間にか当ゼミと随分関わりが深くなってしまいました(苦笑)、『ヒカルの碁』のレビューです。

 今回は番外編2本立てということで、1本目には本編の序盤に登場した、佐為(ヒカル)VSアキラの非公式対局第2戦を佐為からの視点で描いたもの2本目にはヒカルの後輩にあたる小学生院生2人を主人公にした短編と、共にサイドストーリー的な作品となりました。
 内容的には、本編では出し切れなかった細かい設定や後日談などを交えつつ、極めてオーソドックスなタイプのシナリオでアッサリとまとめた感じですね。まぁ、既に完結した作品の番外編ですから、ここで敢えて力を入れたシナリオにする必要もないでしょう。

 ただしそうは言っても、様々なシーンで施されたほったさんのストーリーテリングの技術には、やはり見逃せないものがあります。省略すべきシーンの略し方や、場面設定についても説明じゃなくてちゃんと描写になっている点など、まさにお手本。マンガ家やマンガ原作者を目指している人なら、それこそ穴が開くほど読み込むべき作品でしょう。

 そういうわけで、余り語るべき所もありませんので、もう評価に行きましょう。先に述べた通り、シナリオ自体はごくありふれた“後日談対応”のモノですが、そこに施されたほったゆみさんの技術や小畑健さんの卓越した画力の分だけ加点して、A−ということにしておきます。
 月並みな言葉ですが、お2人の次回作に期待したいところです。個人的には『哲也』みたいなバッタモンじゃない本格的な麻雀マンガを希望(笑)。でも少年誌じゃムリでしょうね。


 ◎読み切り『テラピー戦士マダムーン』作画:藤田健司

 今日のレビュー3本目は若手作家さんのギャグ読み切りです。正直、休み明けでここまでジャンルの違う作品を3つレビューするのは疲れますね(苦笑)。

 この『──マダムーン』の作者・藤田健司さんは、00年25号に『ハンター×ハンター』の代原として発表した『エゴの代償』でデビュー。その後、第54回(01年上期)赤塚賞で佳作を受賞し、その受賞作『チャタニイズム』で01年33号に“正式デビュー”を果たし、3週後の36・37合併号でも代原としてですが4コマの習作・『分割笑い』を発表しています。
 しかしその後は2年の空白があり、今回が復帰作となります。藤田さんの赤塚賞の同期には郷田こうやさんがいて、藤田さんもさぞかし忸怩たる思いだったと思いますが、こうして復帰を果たした以上は、追いつけ追い越せの精神で頑張って欲しいものですね。

 ──それでは、レビュー本題へ。

 まずですが、パッと見では汚く感じるかも知れませんが、ギャグ作家さん、それも若手としては相当高い技術水準にあるのではないでしょうか。老若男女&人間以外の描き分けもキチンと出来ていますし、細かい部分の演出なども良いです。即連載レヴェルと申し上げてよいでしょう。

 ギャグのデキ具合もかなり良いですね。一発ギャグがあったと思えば次は1〜2ページ引っ張ってオチに持っていくパターン…のように上手く緩急がついていますし、何よりも間の取り方が秀逸です。また、動的表現をフルに活かしたコマと止め絵のコマの使い分けも抜群に上手く、効果をあげています。
 惜しむらくは、マダムーン(月子ママ)が暴走し過ぎて、やや展開が強引になってしまった事。ギャグのためとは言え、「ちょっとそこでこの持って行き方は不自然じゃないかい?」…と思わせる場面がいくつかありました。

 あと、ネット界隈では他の作家さんの影響が濃いとする声も若干ありましたが(駒木も『高校アフロ田中』に雰囲気が似ていると思いました)、少なくともこの作品においては、他の作家さんの影響を受けつつも、そこから一皮剥けたオリジナルの作風になっていると思いますので、この件に関しては不問とします。

 評価はA寄りA−としておきましょう。今後の活躍に期待したい、実力派「ジャンプ」系若手ギャグ作家さんの1人だと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週は『ヒカ碁』番外編が掲載ということで、「ストーリーキング」の募集ページに、ほったゆみさんの『ネームの日々』が出張して来ました。その内容を要約すると、

 「絵はグダグダでいいから、ネーム力が判るように描きましょう。字はなるべく丁寧にすれば好感度大。某少年誌(駒木注:どう考えても某サンデーです^^;;)と違って年齢制限無いので、年イってる人も頑張って下さい」

 ……というもの。でもほったさんは応募時点でマイナーとは言えキャリア10年クラスの現役作家さんだった上に、しかも同じく現役マンガ家のダンナさんが影のスーパーバイザー役に就いていたので、普通の人とは相当事情が違うと思うんですが(笑)。
 しかし、既に諸説あるんですが、ほったさんのダンナさんって一体誰なんでしょうねぇ夫婦でマンガ家と言えば、弘兼憲史&紫門ふみ夫妻や、冨樫義博&武内直子夫妻とかが有名ですね。なんか夫婦2人とも大物ってパターンが多いですねぇ……って、そういや木ノ花さくや夫妻ってのもいましたね。これってやっぱり例が……いやいや(苦笑)

 

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−

 さて、この作品も今週からはチェックポイント枠での取り扱いという事になります。
 ストーリー面でのシリアスな話は次回以降に回しまして、いや〜、良いですねー、斗貴子さん! 奈瀬さんの御姿をもう拝めない今、もはやこの人抜きにしてどうやって「ジャンプ」を語れと言うのですか!(言い過ぎです)

 主人公をサポートする役のヒロインというだけならば、現在連載中の「ジャンプ」作品にも複数存在するんですが、この斗貴子というキャラは不思議と“女性”を感じさせるんですよね。言葉遣いも立ち振る舞いも中性的なんですけれども、全体としてみれば確かに女性なんですよ、いやホントに。
 これに関しては、物書き志望の身としても興味深いです。機会を作って、ちょっとジックリと考察してみたいですね。
 

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 いわゆる「アイシル信者」みたいに思われるのが嫌で、結構意識的にチェックポイントで扱う間隔を開けていたんですが、2ヶ月も開いてたとは気付きませんでした(苦笑)。

 で、いつの間にか太陽スフィンクス戦が大詰めになってるわけですが(笑)、今回出て来た“デビルバッツダイブ”、あれはセンターからボールを受け取ったクォーターバックが直接ダイビングするケースも多いんですよね。
 まぁ今回の場合は、試合の流れ上、助走して来たランニングバックが飛び込んだ方が良かったんですが、次の試合辺りではヒル魔の特攻ダイブってのも見てみたいところ。ランニングバック、ワイドレシーバー、ラインズマンと来たんで、そろそろクォーターバックにスポット当たる試合が描かれる頃合でしょうしね。

 ◎『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 前にも言ったかも知れませんが、久保さんはやっぱりネームの力がありますよね。脚本を書く力があると言いいますか。
 今回の、ルキアの本心を山田花太郎(←この名前だけは何とかしてくれ^^;;)を介して一護に伝えるシーンは特にお見事。ネット界隈では色々あって評判の悪い人ですが、才能はキチンと評価すべきなんではないかと思いますね。

☆「週刊少年サンデー」2003年33号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「本気でやるほどでもないが、プチチャレンジしたいこと」。微妙な質問ですなー。真面目に答えたら、モリタイシさんのように「何事も本気でしたいので、そのような事はありません」になっちゃうんですが。
 ……あ、ちょっと待てよ。高校時代にちょっとカジって挫折というか、放置したままのギターがあったな。ええ、何曲か弾き語り出来て、「駒木君、ギター上手!」と言ってもらえるくらいになるまでプチチャレンジしたいです(笑)。

 ◎『金色のガッシュ!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 う〜む、師匠譲りの見事な後付け炸裂ですね!(決め打ち)
 しかし、サンビームって人は良く出来た人ですなぁ。まぁ、それくらい出来た人じゃないとウマゴンのパートナーは務まらないでしょうけど。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のテーマ、物凄く心に突き刺さったんですが(苦笑)。だってホラ、心にウソ設定でも作らなきゃ、1年以上も他の全てをそっちのけで、しかも給料無しで毎日講義実施なんてやってられませんよ、ぶっちゃけた話(笑)。
 あと、競馬ファンには、「俺の予想は間違っちゃいない。俺の描いた理想的なシナリオを騎手と馬が守らなかっただけなんだ」…というウソ設定は欠かせませんよね。

 しかし、ダメなマンガ家とダメな編集者の打ち合わせは笑いました。『エンカウンター』とか『サイレントナイト翔』とかの打ち合わせシーンもこんな感じだったんでしょうか。車田正美氏が編集者と使い途の無いダメ設定をファミレスで打ち合わせているシーンなんか、想像するだけで笑い泣きできそうです。


 ……というわけで、今回はこれまで。事情があったとは言え、講義の間隔開けると辛くなりますね(苦笑)。

 次回講義は明日か明後日の予定です。では。

 


 

2003年第43回講義
7月12日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第2週分・後半)

 この中で、「林田桃里」みたいな事をした経験のある人、手を挙げて!(挨拶)

 ……どうも。その上、その語呂が悪い事に随分とヘコんだ経験がある駒木ハヤトです(笑)。まぁ、若さゆえの過ちは認めたくないものですよね。

 ──さて、今日は情報系の話題もありませんので、挨拶もそこそこに早速レビューとチェックポイントをお送りしたいと思います。
 レビュー対象作は、新連載作品の1本のみ。ちょっと寂しい内容になりますが、採用試験シーズンゆえ、どうかご容赦を。

 
☆「週刊少年サンデー」2003年32号☆

 ◎新連載『ロボットボーイズ』作:七月鏡一/画:上川敦志

 今年の「サンデー」は新連載が少ないと思っていましたが、調べてみたところこれが今年3作目の新連載ということに。しかもその内1本は、同一作者の作品入れ替え(『俺様は?』)ですので、実質的には『売ったれ ダイキチ!』とこの作品の2つだけになっちゃうんですね。
 最近の「サンデー」は粒揃いで読み応えがある割に、“一見さんお断り”的雰囲気が感じられるように思っていたのですが、どうやら原因はその辺にもありそうですね。まぁこればっかりは一概に良い悪いが言えないんですけれども。

 ところで、先週の情報コーナーで「作画担当の上川敦志さんは、新人女流作家の上川敦子さんと同一人物ではないか?」…などと言ったのですが、調査の結果、やはり同一人物だということが判りました。「女の人にロボット物が描けるの?」という先入観を持たれる事を予防するためらしいです。
 女流作家さんが男性名を使ったり中性的(男女どっちでも取れるような)ペンネームを使ったりする事はよくありますが、そこまで気を遣って女性である事を隠す必要なんてないと思うんですけどねぇ。別にジェンダーフリーがどうこうってわけじゃないですが、そこまで意識してマンガ読むような人なら、逆にちゃんと内容で判断してくれるような気がするんですが。
 あ、ちなみに現在の「サンデー」連載陣の中には、まだもう1人、男の名前を使った女流作家さんがいるそうです。(こちらは姓名判断でそうしたとのこと)

 作者のお2人のプロフィールについては、時間の関係上、ここでは割愛させて頂きます。「サンデーまんが家BACKSTAGE」のそれぞれのコンテンツ七月鏡一さん上川敦志さんに詳しく載ってますので、そちらを参照して下さい。

 ──さて余談はこれくらいにして、第1話の内容について述べていきましょう。

 まずから。基本的には不快感の少ない絵柄で良いんじゃないかと思います。ただ、いかにも「サンデー」にありがちな絵柄な上に、メインキャラクター3人の顔がほとんど同じ輪郭をしているため、どうしても没個性な印象を抱いてしまいましたね。あと、カラーの色塗りやロボットのデザインなどにも若干の課題が残っていそうです。この辺りはキャリアの浅さでしょうね。
 
 しかし、最近の「サンデー」のマンガは“笑顔の似合う可愛い系の少年”が主役の作品が多いですよねぇ。ここまで同じ系統のモノが続いたら、間違いなく編集方針としてそうやってると見て良いと思うんですが、これもあんまり続け過ぎるとパッと見の時点で飽きられてマイナスに働くような気も……。

 次にストーリー&設定に関してですが、これはちょっと“スタートライン”を後ろに置きすぎて失敗したような感が否めません。
 恵まれない環境、知り合いはいるものの孤立した状況で奮闘する、まだ力不足ながらも情熱だけは誰にも負けない主人公。そこから努力と友情で一歩一歩前進してゆき、最後には勝利を獲得する……。
 この図式は、確かに少年マンガのセオリー中のセオリーですよね。努力、友情、勝利ってヤツです。しかし、この作品の場合は、ちょっとそれが極端に行き過ぎのような気がします。

 例えば主人公の置かれている環境でお話をしましょうか。この主人公が通う学校は、奇しくも『MAJOR』聖秀学園とよく似ています。女子高から共学に変わった直後で男子生徒は望み薄な連中ばかり……。それでも『MAJOR』では、主人公が天才プレイヤーで、他の野球部員にも野球経験者や運動センスのある人間が何人もいたので何とかストーリーが成立する所まで頑張れたわけです。(それでも県大会ベスト8が限界でした)
 ですが、この作品の場合は、主人公はそれ以上に過酷な状況に置かれています。頭脳が命のロボット物にも関わらず、生徒はスポーツだけ万能の女子と落ちこぼれ・無気力の男子ばかり。更には主人公も天才と言うには程遠い“下手の横好き”止まり。いくらなんでもこれは“遠すぎ”なのではないかと心配してしまいます。何と言うか、近所の勇者と縁も所縁も無い少年が王様に呼ばれ、「金と最低限の装備やるから、友達誘って一緒に魔王倒してくれ」と頼まれるRPG状態なんですよね(苦笑)。
 ……で、大事なのはここからご都合主義や強引な展開も無しで、果たしてハッピーエンドに持ち込めるのかどうか。また、そこまで行く前に読者に飽きられないかどうか。しかしこの辺は極めて微妙だと思います。どうせ高専ロボコン映画との連動企画なんだから、思い切って高専ロボコンの話にしちゃった方が絶対に良かったと思うんですが……。何しろ高専ですから劇中時間で5年引っ張れます(笑)。

 あ、強引な展開と言えば、この第1話でも早速出てきちゃってますね。自分が作った二足歩行ロボットがマトモに進めないのを知ってるはずなのに、「これならどんな相手も目じゃねぇぜ!」と、何故か自信満々でロボット競技大会に出して当然のように敗北、しかもその後にたった3歩歩いただけで大喜び──というクダリ。熱血のように見えて、実はただのアホ丸出しな主人公が誕生しちゃってます(笑)。しかも脇役が、そこでそんなアホに「カッコいい」と(苦笑)。このツッコミ不在の様相はちょっと酷いですよ。
 ……まぁこのポイントで一番タチが悪いのは、作者サイドがこれで辻褄が合っていると思ってしまっている事でしょうね。こんな感じで話を進められたら前途多難としか言いようがありません。

 というわけで、暫定評価C寄りB−と辛めの採点をしておきます。題材そのものは斬新なだけに、勿体無いと思うんですが、このままいくと間違いなく失敗作になってしまうでしょうね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「どんな動物をペットに飼ってみたいですか?」犬・猫派と、固有名詞派と、キワモノ派に分かれてしまった感がありますね。しかし毛ガニって、それは養殖と言いませんか?(笑)。
 駒木は茶色のトラ猫さいえ入れば何も言う事はございません。そうです、数がたくさんいるからという理由で『子猫物語』の主役に抜擢された茶色のトラ猫です。
 ……ちなみに、何故ゆえ数がたくさんいた方が良かったのかは、近くの物知りな人に訊くか、当講座01年12月27日付の講義レジュメを読んで察して下さい。ちなみに知ってショックを受けても責任は負いませんのでどうか何卒。

 ◎『MAJOR』作画:満田拓也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ……というわけで、“勝負に勝って試合に負けた”的なサヨナラボーク決着となりました。まぁ一応は納まるところに納まったって感じでしょうか。
 で、吾郎は日本プロ球界も大学野球も拒否と言う事で、これはほぼ間違いなく単身メジャー挑戦なんでしょうね。いやー、やっと本編突入ですか!(笑) プロローグに8年半かけるとは、『アストロ球団』も真っ青ですね。
 ──とか言って、これでいきなりエピローグに入ったらどうしましょうか。また有り得そうですし(苦笑)。

 ◎『KATSU!』作画:あだち充【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ……な、何をいきなりセブンセンシズに目覚めちゃってるんだ、この妹は!(笑) プロフィールには「オッチョコチョイな小学生」とありますが、全く別人ですがな。レビュー対象作だったら酷評する所なんですが……。
 それにしても一番可哀想なのは、高速フォークを股間でキャッチしながら誰にも相手にして貰えないキャッチャー君でしょうね(苦笑)。女性受講生の皆さんには分かりようが無いですが、下からタマを突き上げられると痛さを通り越して気分悪くなりますからねぇ。宅八郎に顔中舐められるくらい気分悪くなりますんで、女性の方はそれでご想像を。


 ◎『天使な小生意気』作画:西森博之【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 やはり、究極の選択で欲張りであってこそ主人公と言うわけで。ゲンゾー君お見事でした。
 しかしこのマンガ、どのキャラクターも必要以上にカッコいいんですよねぇ。カッコつけるのもトコトンやればサマになって来ちゃうモンでして。そう言えば、故・山際淳司さんが描いた小説もそんな感じでしたね。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 モリさんの凄いところは、男女を問わずキャラクターの行動がとてもリアルに描けてる所なんですよね。
 講義冒頭で挙げた落書きにしても、桃里の行動パターン(真っ先に親友の女の子へ/次にはちょっと気になる男の子へ行くけど、必要以上に気を遣ってかえって疎遠っぽい/普通に付き合えるけどちょっと苦手なヤツは少考してとりあえずパス/恋愛対象外の男の子には全く意識しないままで結構馴れ馴れしかったりする)にしても、よく人間観察出来てるよなぁ…と素直に感心したりします。
 何でもこの作品は、連載当初の人気低迷を乗り越えて、今やアンケートは上位の常連組だそうで。こういうさりげない描写が出来ているからこそ、ジワジワと人気が上がって来たりするんでしょうね。


 ……時間の都合で端折りましたが、今週は他にも結構見所が一杯ありました。男の中の男ならぬ、悪の中の悪ことフェイスレス指令とか、駒木にとっては電話投票の通帳残高がエンジェルズシェアだとか。ホント、昔からの読者は楽しめる作りになってるんですけどねぇ。これからの「サンデー」、いったいどうしたもんでしょう。

 あ、来週のゼミは週の後半に合同版をお送りする予定です。採用試験直前ですので、どうかご了承を。ではでは。

 


 

2003年第42回講義
7月9日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第2週分・前半)

 「矢吹先生取材のため休載」の「取材」とは、やっぱり『マトリックス・リローテッド』を観に行くことなんでしょうか?(挨拶)

 ──しかし、「いくら自分が嫌いな作品でも、たびたび批判めいた事を言うのは控える」というのが当ゼミの方針とは言え、この度の「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の告知ページ色々な意味でガマンの限界を越えています(失笑)。特に「教えて! 矢吹先生!」のコーナーなんて、編集者が悪意を持って矢吹氏の能力の底の浅さを暴露するように誘導しているとしか思えないですからねぇ……。
 (キャラクターの造形をデザインする時のこだわりとして)他のキャラクターと同じ顔にならないように、ワンポイント(アクセント)を他のキャラと重ならないように入れるなどの工夫を考えます」
 …って、お前それはこだわりじゃなくて、仕方なく似た顔のキャラを描く時の誤魔化し方だろ! とか、
 (キャラクターの服装は)ファッション誌を参考にしたり、色々なデザインの資料を見ます」
 …って、お前服装までパクってんのかい! とか。(まぁ、完全オリジナルでコスチューム考える作家さんはさすがに稀でしょうが)もう爆笑オンエアバトルで500キロバトル狙えそうなネタのオンパレードですよ(笑)。

 それにしても、ここまでの3回は実力派の作家さんを審査員に選んでいたのにどうしてここに来て……いや、別にこの人じゃダメだとイッテルンジャアリマセンヨ(後半棒読み)。
 まぁ、今年に入ってから武井宏之さん、岸本斉史さんといったところが既に審査員を務めていますから、今回はローテーションの谷間になっちゃったんでしょうかね。でも、それならそれで稲垣理一郎さんを持ってくるとか、他の手段は色々あったように思えるんですけどねぇ。
 この感じで行くと、来月は和月伸宏さんあたりですかね。応募者へのアドバイスに「連載するなら西部劇は止めた方が良いです」、又は「読者は既に美形キャラには飽きているみたいです」…などといったマジ回答が掲載される事を期待しましょう。

 ……というわけで、いつになく毒舌モードで始まった今週のゼミですが(笑)、早速情報系の話題に参りましょう。

 創刊35周年企画で攻めまくる「週刊少年ジャンプ」、来週はファン待望の『ヒカルの碁・番外編』作:ほったゆみ/画:小畑健)が登場します。しかも2本立て・計53ページという豪華版です。
 今回は“完結編”でなく“番外編”と言う事で、これは「もう『ヒカ碁』は終わっているんですよ」という作者側のメッセージが含まれているような気がします。(こんな事を言うと、また何か変な反応がありそうなんですが^^;;)まぁ、深い事は考えずに、とにかく作品を楽しむ事に専念した方が良いんでしょうね。勿論、来週のレビューでこの作品は採り上げる予定です。

 来週号では読み切りが更にもう1本。若手ギャグ作家・藤田健司さん『テラピー戦士マダムーン』が登場します。藤田さんは3年前の赤塚賞佳作受賞者で、既に本誌デビューも果たしていましたが、今回は久々の登場となります。
 35ページと、ギャグ作品にしては長い部類に入る読み切りになりますが、果たして内容はどうでしょうか。こちらも来週のゼミのレビュー対象作となります。どうぞお楽しみに。


 ……それでは、レビューとチェックポイントへ行きましょう。今日のレビュー対象作は、新連載第3回の後追いレビューが1本と、読み切り(連載作品の特別編)1本の計2本となります。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年32号☆

 ◎新連載第3回『武装錬金』作画:和月伸宏【第1回時点での評価:A−

 それではまずは、気分良くレビュー出来る方からやりましょう(笑)。いつの間にかネット界隈では「今回の新連載4本の中では一番の有望株」という声が多数意見になりつつある、『武装錬金』の後追いレビューです。

 ……さて、第1回掲載時のレビューで駒木は、「この作品はマズマズの好スタートを切った」…という論調で締め括りました。キャラクターなどの設定面は非常に優れているものの、シナリオの細かい部分や演出面に若干の不安を感じたために、そうしたわけです。
 しかし、それからこの作品の各要素をデジタルに分解・分析してゆくうち、
 「ひょっとしたらこの作品はとんでもない可能性を秘めているのではないだろうか──?」
 ……と、思えるようになって来ました。

 確かに、第1回のレビュー時に指摘した幾つかの不安は未だに解消されていません。シナリオの進行も、プロローグを終え、序章が始まったばかりという段階では未知数の要素が多いでしょう。
 が、この『武装錬金』に関しては、今後紡がれてゆくであろうシナリオを周りから支える部分──即ち、舞台装置となる世界観や、キャラクターの設定とその配置──のことごとくが、現時点でほぼパーフェクトに組み上がっていているのです。要するに、この作品は既に「このままキャラクターを自然に、正確に動かしてゆけば、ほぼ自動的に傑作が出来上がっていく状態」にあるというわけで、パチスロで言うところの「フラグが立った」状態と言えます。ほとんどの方は「そりゃ言い過ぎだ」とおっしゃるでしょうが、この作品は日本マンガ史上に残る名作になる可能性を秘めているとさえ言える大変な“ダイヤの原石”だと、駒木は確信しています。

 ──と、ここまでベタ誉めして来ましたが、それでもまだ、この作品が名作となるために越えなければならない大きなハードルがあると思っています。先に「このままキャラクターを自然に、正確に動かしてゆけば、ほぼ自動的に傑作が出来上がっていく状態にある」と言いましたが、その「自然に、正確に動かしてゆけば」という条件を満たすために色々な問題点が残っているというわけです。
 そして悲しい事に、この“ダイヤの原石”はこれらの障害の前に原石のまま終わってしまう可能性の方が高いような気もしています(苦笑)。

 ──そのハードルのまず1つ目は、「週刊少年マンガ誌の限界」す。
 週刊ペースでハイクオリティなシナリオを展開させ続けてゆくのは、いくら経験豊富な和月さんと言えども至難の業でしょうし、それ以前に“少年マンガ”というジャンルには表現面での制約がついて回ります。それが理由でシナリオ展開の不自然さが出てしまった場合、この作品が本来持っている可能性は損なわれてしまう事でしょう。

 そして2つ目のハードルが「ジャンプシステムによる弊害」です。
 これはもう多言は無用でしょう。作家主導による“円満終了”が極めて難しい条件の中で、名作となるに相応しいエンディングに到達出来るかどうかは微妙と言わざるを得ません。

 ……以上のようにこの『武装錬金』は、非常に大きな可能性を秘めていながらも、最終的には可能性だけで終わらせてしまいそうなネガティブな外的要因を多く抱えた、大変に扱いの難しい作品であると言えます。
 正直な所、この題材は少年マンガではなくて、別の媒体でやって欲しいんですよね。ライトノベルとか、アニメとか。特に、『月姫』、『空の境界』の奈須きのこさんが小説版(又はビジュアルノベル版)『武装錬金』を書いたりなんかしたら、ゾクゾクするような大傑作に仕上がると思うんですが……。

 まぁとりあえずは“ストーリーテラー”和月さんのお手並み拝見といったところでしょうか。少なくとも、短期の打ち切りは無さそうな情勢ですので、ここは自信を持って頑張ってもらいたいと思います。
 評価はA寄りA−に少しだけ上方修正。今後のシナリオによっては更に上方修正する事も考えます。

 ◎読み切り『テニスの王子様 特別編・サムライの詩』作画:許斐剛

 今週の巻頭カラーになったのがこれです。「第0話」ということで、リョーマの父親・南次郎の青春時代を描いた、まさに特別編というような作品でした。

 で、その内容ですが、ファンの皆さんには申し訳ないんですが、端的に申し上げて「許斐剛という作家のポテンシャルを遺憾なく発揮した駄作と言うべき、ハッタリだけで後は何にも無い、文字通り“お話にならないお話”でした。

 シナリオの大筋自体は「ジャンプ」によくある、主人公が悪役らしい悪役を倒す“勧善懲悪シナリオ”で、まぁ一応は起承転結が成立してはいます。ただし、そのシナリオを成立させるために、全編に渡って非現実的な設定や無理のあるストーリー展開をやっているがために、最終的には極めて陳腐なB級・C級ドラマになってしまった感が有ります。

 何しろ、書類登録だけでプロになれるテニスの世界なのに、「プロになるためにアメリカに来る」とか、練習もしないのにテニスクラブに所属して揉め事起こすとか、まずその時点で有り得ません。(「そこをネタとして読む」というスタイルもありますが、当ゼミではNGです)
 他にも、あんな人格無茶苦茶なコーチのテニスクラブがどうして流行ってるんだ…とか、南次郎も10いくつもトーナメントを連勝して、しかも世界ランク1位のプレイヤーが出る位の大会で優勝してるのに、何故に1日経っても誰も知らないんだ…とか、普通の神経を持った作家さんなら「ここの矛盾点をどう解消しようか?」…と頭を悩ませる所を全部スルーしちゃってるんです許斐さん。
 
 この作品、色々な意味で罪深いですね。「ヒット作家になってしまったら、こんな作品描いても誰も文句言わないんだ」とか、「こんな作品描ける人でも億万長者になれちゃうんだ」とか、良からぬ事がどうしても頭を掠めてしまいます。
 評価はどうしようかと思ったんですが、これが新人作家さんの作品なら多分こうするだろう…ということで、Cとします。せめて、許斐さん本人が、この作品の出来を不本意だと思っている事を祈りたいです。

 
◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントでは、鈴木信也さんが2度目の病気休載のお詫びと「プロ野球&高校野球取材するぞ」宣言。しかし、『ミスフル』って、現実の野球を取材しても何ら参考にならない気がするんですが。

 ◎『シャーマンキング』作画:武井宏之【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 主要キャラ全員死亡で逆に緊迫感が無くなると言う、「ジャンプ」ならではの展開ですね(苦笑)。しかも新展開で直近の打ち切りが無くなったと読めるので余計に安心感が増してしまうと言うこの矛盾(笑)。
 しかし、もう何ヶ月も前に出たか分からないヤラレ役持って来られても、そんなの単行本買ってない人間には判別つかないので勘弁して欲しいですね。最近、読者がみんな単行本買ってるのを前提にしているような話作りをしている作家さんが多くて、ちょっと閉口します。

 ◎『ごっちゃんです!!』作画:つの丸現時点での評価:保留

 怖い先輩というのはこういうオチでしたか。でも、それだと細かい矛盾点がいくつか出るような……?
 この時点で全く相撲マンガになってないというのも含めて段々不安になって来ましたねぇ……。

 
 ◎『キックス メガミックス』作画:吉川雅之現時点での評価:C

 当講座の談話室(BBS)でテコンドーに詳しい方から話を聞いた後に今回を読むと、いかにこの作品のシナリオ展開が矛盾だらけか分かりますよね(苦笑)。
 談話室をチェックしていない方のために言っておきますと、いきなりカカト落としやサンドバッグを吹き飛ばすくらいの回し蹴りが出来るような人は、わざわざテコンドー習わなくても十分過ぎるくらい強いテコンドー選手になれるそうです(笑)。


 ……ん〜、ちょっと今日は論調がキツめになり過ぎましたかね(^^;;)。
 ちなみに来週はレビュー対象作3本という過密スケジュールなんですが、採用試験の勉強とかもあって、正直予定通り実施出来るか自信がありません。大幅な講義遅延も覚悟しておいて下さい。
 あ、今週の後半分は予定通り金曜頃に実施予定です。ではでは。

 


 

2003年第41回講義
7月6日(日) 文化人類学
「第88回ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権・結果報告」

 恐らく数十人はいるであろう文化人類学(フードファイト関連)専攻の受講生の皆さん、お待たせしました。約半年振りの文化人類学講義です。
 とりあえず7月には、今回ともう1回、「フードファイター・フリーハンデ」の03年度中間レイトをお送りする予定です。TV局主催の競技会が自粛されたままで“冬の時代”が続くこの業界ですが、それでも懸命に活動している選手たちがいます。彼らの意欲と情熱を評価するためにも、当講座ではこれからもフードファイト関連講義を行って、微力ながら業界の繁栄に助力したいと思っております。今後ともどうか何卒。

 ──さて、既にマスコミ各媒体で報じられていますように、去るアメリカ独立記念日の7月4日午後(=アメリカ東海岸時間。日本時間7月5日未明)、ニューヨークはホットドッグの老舗・ネイサンズにおいて恒例のホットドッグ早食い選手権が開催され、日本の早食いカテゴリでのエース・“プリンス”小林尊選手がアメリカの強豪を大差で退け、見事に“ホットドッグ早食い世界一”の栄誉に輝きました。
 小林選手はこれで大会3連覇。しかも既に次回大会での4連覇と自身が持つ世界記録の更新を目指す旨の発言をしており、頂点を極めてますます意気軒昂といったところでしょうか。

 このネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権は、今年でなんと88回を数える、世界で最高の歴史と格式とグレードを誇るフードファイトの国際大会です。
 この大会については、昨年の6月25日付講義で詳しく採り上げましたのでここでは敢えて重複を避けますが、元々は第一次世界大戦時下で肩身の狭い思いをしていたヨーロッパ系移民が、自分たちがどれだけアメリカを愛しているかアピールするために創設された競技会と言う、まぁいかにもアメリカらしいイベントであります。
 その後、紆余曲折を経まして、現在はアメリカ最大のフードファイト団体・IFOCE(国際大食い競技連盟)が実際の大会運営にあたり、全米や諸外国での予選を含めた競技会の管理・統括を行っています。で、今年もまた、全米各地やカナダで全13回の予選会が開催され、元NFL選手など多彩な顔触れの予選優勝者たちが決勝大会に駒を進めました。(昨年まではイギリスやドイツでも予選会が行われていましたが、例年ヨーロッパ地区代表の選手の成績が振るわないためか、今年から出場枠が剥奪された模様です)
(追記:今年もイギリス、ドイツ、タイで予選会が開かれ、選手が派遣されていたようです)

 そして日本からは唯一、“前年度優勝者枠”として、先に紹介しました小林尊選手がエントリー
 本来ならば日本でも予選会が開かれて、2人または3人の“選手団”が結成されるところなのですが、この日本予選の開催権を握っているのが「TVチャンピオン・大食い選手権」シリーズを企画・制作していたテレビ東京で、ここが番組制作の一環として予選会を開催しない事にはどうにもならないのが泣き所だったりします。派遣した人数の分だけ上位を独占する力のある日本勢ですが、ここ2年はフードファイト番組自粛のために、小林選手以外の参加が実現していない現状なのです。個人的には、フードファイトブームを支えた“黄金世代”が引退する前に、小林選手に白田信幸&山本晃也両選手を交えたドリームチームでニューヨークに殴りこんで欲しいと思うのですが……。

 閑話休題。

 そんなわけで今年のネイサンズ国際ですが、ここでベスト3までに入った選手と記録を紹介しておきましょう。 

優勝 小林 尊 44本1/2
2位 エドワード=ジャービス 30本1/2
(アメリカ新記録)
3位 エリック=ブッカー 29本1/2

 ──小林選手は圧勝&3連覇を果たしたものの、最大の目標であった自己記録(50本1/2)更新はなりませんでした。記録もここまで来ると、「どれくらい食べられるか」というより、「どれくらい効率良く食材を飲み込むか」という方が問題になって来ますので、これが1年ぶりの公式戦参加になる小林選手にとっては、さすがに今回ばかりは酷な条件だったかも知れません。
 ローカル系のフードファイト競技会には出場しないと以前から明言している小林選手ですが、今後は「Q−1グランプリ」のような準メジャー競技会で勝負勘を鈍らせないような配慮が必要になって来るでしょう。
 また記録の面に関しては、小林選手の場合、昨年の大会で危うく口の中のモノを吐き出しそうになるなど、既に能力の限界ギリギリであった感がありました。ですので、本人が今回の競技後に述べた「体調が良ければ60本はいけると思う」という旨の発言は強気に過ぎるような気がします。恐らくは自らのモチベーションを上げるための意味合いも強かったのでしょうが、とりあえず来年は50本を目標に調整を進めてもらいたいと思っています。そこまで行けば4連覇は間違いないのですし。

 さて、今回は、優勝した小林選手には遠く及ばなかったものの、地元アメリカ勢の健闘も光りました。
 2位のエドワード=ジャービス選手は、IFOCE認定のアイスクリーム及びカンノーリ(イタリアのパスタ生地を使った菓子)早食いの記録保持者。中でもアイスクリームの記録12分で1ガロン9オンス(約4リットル)という、日本のトップ選手顔負けのハイレコードです。
 ただ、このジャービス選手、これまではいわゆる甘味系の食材以外ではその潜在能力を表に出す事が出来ず、昨年のこの大会でも目立った記録を残せなかったのですが、ここに来て遂に本格化日本人以外としては初の30本越えを果たしました。
 (追記:ジャービス選手は、この数日前にチャイナタウンでの水餃子早食い大会に出場し、エリック=ブッカー選手を破っていたそうです。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いですね)

 昨年準優勝で、3位のエリック=ブッカー選手も自己記録更新の29本1/2の好記録をマークしました。彼はIFOCE認定の食材別記録を4つ(ブリトー、コンビーフ、ドーナツ、ゆで卵)保持しているアメリカのトップフードファイターで、今大会にあたってはCNNなどのマスコミ取材を受けていました。これ以上の記録更新は疑問ですが、今後も安定した活躍が期待されます。

 余談ですが、IFOCE認定の食材別記録は実に25を数えます。その中には、今回のハンバーガーやホットドッグ、フライドチキンといったオーソドックスな食材も有れば、バターマヨネーズといった、競技の様子を想像するだけで身悶えそうな代物もあります。
 そんな中、今回の優勝者にしてホットドッグ早食い記録保持者である小林選手が、もう1つ保持している記録が有ります。それは何と子牛の脳味噌! これはアメリカのTV番組として開催された競技会の中でマークした記録なんですが、この頃はちょうど狂牛病騒ぎの真っ最中この報せを聞いた全国のファンたちは、喜ぶべきなのか心配するべきなのか迷ったものでありました。

 なお、今大会では女性選手の活躍もありました。これまで無名だったソーニャ=トーマス選手25本の記録をマークし、00年に日本の“女王”赤坂尊子選手がマークした22本1/4の女性最高記録を3年ぶりに更新。これにより事実上、早食い系競技における女性フードファイター世界一の座に就いた事になります。
 これが1年半前までなら、すぐにでも日本のTV局が動いて“日米女王対決”などといったマッチメイクが組まれたと思えるだけに、つくづく現在の状況の悪さが恨めしいところですね。こうなった原因には死亡事故が絡んでいるだけに滅多な事は言えないのですが、本当に惜しい話です。

 
 ……というわけで、今年も日本人の優勝で幕を閉じたネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権。日本人選手の活躍は喜ばしい一方で、来年こそは小林選手の牙城を揺るがすような好敵手が現れる事を祈りつつ、今日の講義を締めさせていただきます。それでは、また。(この項終わり)

 


 

2003年第40回講義
7月4日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第5週/7月第1週分・後半)

 今月は採用試験の勉強と社会学講座の両立を目指してたんですが、早くも共倒れの様相(^^;;)。申し訳ないんですが、採用試験の方をコケさすわけにいきませんので、まだしばらくはマンガ時評オンリーのカリキュラムになります。どうかご容赦を。

 ──さて、それでは取り急ぎ今日も情報系の話題から。まずは来週から始まる「サンデー」の新連載についてのお知らせです。

 次号32号から、『ロボットボーイズ』作:七月鏡一/画:上川敦志)が始まります。まだ次週予告の紹介記事しか判断材料が無いのですが、何だかNHKのロボットコンテスト・高専大会を少年マンガにアレンジしたような作品という感じがします。
 原作担当の七月鏡一さんと言えば、現在「週刊ヤングサンデー」で連載中の『闇のイージス』の原作をはじめ、「少年サンデー」でも『ARMS』作画:皆川亮二の原案協力などを担当していた事でお馴染みの、ベテラン原作者さん。つい最近も『D−LIVE』海上自衛隊・潜水艦編のシナリオを担当されていたのを覚えている方も多いでしょう。
 一方の作画担当は、これが初めての本誌登場となる新人の上川敦志さん。ただこの方、ペンネームで検索してみても全く記事が出て来ないので、ひょっとしたら直前まで別ペンネームを使っていたのかも知れません。昨年の増刊のラインナップに“上川敦子”さんがおり、ひょっとすると、この人が女流作家である事を隠すために(少年マンガ界ではよくある事です)、名前を変えたのかも知れません。これについては来週までに調べておきますね。
 しかし、いきなりこんな抜擢なんて、これまで本誌に読み切り載せたり、増刊で連載してた新人・若手の皆さんの立場は一体……。


 ……それでは、次はレビューへ。今日のレビュー対象作は読み切り1本だけになります。チェックポイントと一緒にどうぞ。

☆「週刊少年サンデー」2003年31号☆

 ◎読み切り『ゴッドルーキー』作画:宇佐美道子

 「サンデー」2週連続の読み切りは、先日発表になった第52回(03年上期)「小学館コミック大賞・少年部門」の大賞受賞作・『ゴッドルーキー』です。作者の宇佐美道子さんは、現在武村勇治さんの下でアシスタント修行中の新人さんとの事。どうやらこれがデビュー作となるようです。
 先週も言いましたが、「サンデー」で増刊掲載を経ずに一足飛びで本誌デビューを果たすのは異例の事です。なので、掲載位置が巻末の“打ち切りウェーティングサークル”になってしまったのも仕方ない話なんでしょうかね(笑)。

 では、本題へ。まずですが、色々なタイプのキャラクターを描き分け、背景処理も手馴れているなど、基礎的能力と意欲は十分に窺える出来になっています。細部の描写などに若干改善するべき余地はありますが、この作品が新人賞への応募原稿である事を考えると、逆にこれくらいの方が「まだ上達の余地が有り、近い将来が楽しみ」…などと高い評価を受けたりするのかも知れませんね。
 ただ、このレビューでは“現時点の能力がプロとしてどの位のレヴェルに達しているか”というのが基準ですから、いくら新人さんの習作原稿とは言え、それなりの評価に留めなくてはならないでしょう。

 次にストーリー&設定。まず一通り読んでみて感じた第一印象は、「読後感の良さだけは損ねないようにして、あとの削れる所は全部削ったな」……というものでした。
 死後の世界の設定描写や主人公の心理描写といった、作品全体の要というべき部分に多くページを割いた一方で、ストーリー全体のボリュームはかなり抑え気味になってしまっています。特に、いわゆる起承転結の“承”の部分がギリギリまで削られており、人によっては「あれ、この話もう終わりなの?」…という感想を抱かせてしまうかも知れません。審査員の講評の中に「話が平板」というものがありましたが、それは恐らく、こういう部分を端的に表現したものだったのでしょう。

 この作品、確かにエピソード全体のまとまりは良く、雑誌に載っている10数作品の中のワンオブゼムとして読んだとすれば、極めて好感度の高い作品ではあると思います。そして、そういうマネが出来るという事は、宇佐美さんは“読者の求めているものを描く”という、商業作家にとってかけがえの無いセンスを備えていると言えるでしょう。
 ただし、この作品はストーリーの醍醐味というべき部分を大きく省略してしまっており、言わば“風呂敷を畳みやすいようにちょっとだけ広げて、そうして綺麗に畳んで見せただけの作品”…と言えなくもありません。細部まで目を通せばディティールに不自然な面がいくつも浮かび上がってきますし(講評の「不良の主人公が何故地獄じゃなくて天国に来たのか説明が無い」というのもその1つです)、ストーリーテリングのテクニックの面で言えば、まだ課題が残っていると言わざるを得ません。

 ……と、長所・短所が出揃ったところで最終評価ですが、まだ未熟な面は残っているものの、確かなセンスも感じられるという事で、B+としたいと思います。
 ただ、現状の力で連載を立ち上げた場合は、ストーリーテリング力の不足から、さほどしない内に破綻を来たす可能性の方が高いと思われます。せっかく「サンデー」には増刊での月刊連載というシステムがあるのですから、こういうタイプの人こそジックリと育てる必要があるのではないかと申し上げておきます。

 ところで、この「コミック大賞」では、一昨年まで“大賞”以上の受賞作は皆無に等しかったのですが、どうも昨年の上期から風向きが変わって、今回で2年連続“大賞”という大盤振る舞いに。さぞかし「サンデー」系新人のレヴェルが上がったのか……と思いきや、実はちょっとゴニョゴニョした話が有るとか無いとか。
 この手の新人賞で本当に大事なのは、受賞者した新人さんが後にどんな良い作品を生み出すかだと思うんですがねぇ。現に「ジャンプ」でも、かつて「天下一漫画賞」で難攻不落の“入選”を射止めた数少ない新人さんの中の1人が辿った道が、“テコンドーにこだわり過ぎて飼い殺し→その割にテコンドーについて全然勉強せず→『キックスメガミックス』”だったりするわけで……(苦笑)。
 まぁ結局は、受賞者さんが始めの第一歩で安住せず、絶えず精進する事が一番大事なんでしょうね。でもそれが一番難しいんですよねぇ。精進するって事は、ギリギリの自尊心を守りながら自己否定を繰り返す行為だったりしますから……。
 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「最近大爆笑した事は?」。うーん、なんか皆さん余裕ありませんなぁ(苦笑)。特に打ち切り間際(?)のあおやぎ孝夫さんに「……ないですね」とか言われると、笑うに笑えないんですが(苦笑)。
 駒木は、今週号の「ジャンプ」の『ピューと吹く! ジャガー』で大爆笑したのが一番最近でしょうか。あ、あと「タモリ倶楽部」の、アルバトロス・叶井俊太郎特集でもバカ笑いしましたね。思わず、自分でやった講義のレジュメを読み返してしまいました(笑)。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 
♪ソイソースかけー ゴハーン

 ……どんな歌なんだよ!(笑) ていうか、この歌詞で即眠りに落ちるような楽曲ってどんな楽曲なんだろう。

 ◎『売ったれダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治【現時点での評価:A−/雑感など】

 文化祭編も今回で終了。しかし、1エピソードに数話かけるスタイルが予想以上にハマった感じですね。文化祭編は見事に質の高い少年マンガになっていたと思います。
 ライバルに、主人公への妨害工作よりも正攻法の対抗策をメインに行なわせた事や、主人公たちがちゃんと努力して正当な結果を得ている事など、かなりポイントが高いです。あと1エピソード見て、それも良い出来だったなら評価をAに上方修正する事も考えないといけませんね少なくとも現時点では、今年の「サンデー」新連載の中では一番の“当たり”です。


 ……他にも採り上げたい作品がいくつかあるのですが、今週よりも来週以降にした方が良さそうなので、今週はここまで。

 なお、明日は臨時講義という形で、小林尊選手の3連覇がかかっている、ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権の速報をお届けする予定です。ではでは。

 


 

2003年第39回講義
7月2日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第5週/7月第1週分・前半)

 今週は『ミスフル』が急病休載のため代原1本。以前から恐れていた、突発的なレビュー作品急増が現実のものになってしまいました。しかも『HUNTER×HUNTER』の落っこち寸前の原稿を見ると、下手すりゃ代原2本になるところだったはず。うー、くわばらくわばら。
 ……しかしこれ、ひょっとすると、代原2本出すわけには行かない編集サイドが、休みたい冨樫さんを説き伏せてラフ原稿を描かせ、ギリギリで印刷所に放り込んだのかも知れませんねぇ(苦笑)。それが本当だとしたら、まるで手塚治虫時代の少年誌を髣髴とさせるような話になりますが(笑)。

 ……というわけで、今日はレビューが3本もあります。急いで講義に移りましょう。

 まずは情報系の話題。来週発売の「ジャンプ」32号は、創刊35周年記念特別号として、「ジャンプ創刊号大解剖」などの様々な企画モノが掲載されるようです。
 しかし、「ジャンプデータベース」で調べてみたんですが、創刊号から連載の始まっている作品が、なんと11回突き抜けしてるんですよね。早くも当時からジャンプシステムは健在だったわけです。で、更には創刊2年目の1969年は、この年に立ち上げられた新連載作品の全てが20回以内に終了というダイナミックこの上ない編集方針。いやー凄いわ、ジャンプ。
 意外と知られていないんですけど、あの『はだしのゲン』(作画:中沢啓治)も「ジャンプ」作品なんですよね(1974年から翌年まで69回連載)。本当に色々な事をやって、今の地位を築き上げたんでしょうねぇ。

 また、巻頭カラーは『テニスの王子様』の特別編・『サムライの詩』。巻末の次号予告によると、アメリカを舞台にした話のようですが、どんなストーリーなんでしょうか。
 一応この特別編もレビュー対象作にあたりますので、来週のこの時間に詳しく内容を紹介する事になると思います。

 ……それでは、レビューとチェックポイントへ。今週のレビュー対象作は、新連載1本、新連載第3回の後追いレビュー1本、そして代原読み切りが1本の計3本となります。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年31号☆

 ◎新連載『神奈川磯南風天組』作画:かずはじめ

 4週連続新連載もいよいよラストの第4弾。今週から登場したのは、かずはじめさん『神奈川磯南風天組』です。

 かずはじめさんは、1971年9月生まれの当年とって32歳になる女流作家さんです。神奈川県出身とのことですから、今回の連載は地元を意識した作品ということになるんでしょうか。
 かずさんは新人賞の受賞歴が全く無いまま、94年春の増刊で後の出世作となる『MIND ASSASSIN』でデビュー
 増刊号のラインナップ決定に関しては、既に掲載が確定した“シード枠”の新人賞受賞作が控えている上、残りの作品枠が決定されるまでには何回もの編集会議(セレクション)があると聞きます。そういう意味では、受賞歴が無いまま増刊デビューというのは、ある意味賞を獲るより凄いような気がしないでもないですね。

 そして同年開催された、かの悪名高き「世界漫画愛読者大賞」の前身・第1回「ジャンプ新人海賊杯」に、かずさんも『MIND ASSASSIN』でエントリーし、見事優勝。読者投票と作品のクオリティが噛み合わないのがこの手の賞ですが、少なくとも個人的には、この作品が優勝した事だけは極めて順当な結果だったと思っています
 で、この「新人海賊杯」の優勝特典として、『MIND ASSASSIN』は連載化されますが、ページ数に余裕の無い週刊連載はこの作品に合わず、27回で打ち切りに。しかしこの作品は、その後も「赤マルジャンプ」や「月刊少年ジャンプ」で連作短編の形で続編が描かれ、更にはノベライズ化やドラマCD化もされていますので、単なる打ち切り作品という評価を下すのは当たらないでしょう。

 その後は「赤マル」や本誌に読み切りを発表しながら、思い出したように週刊連載を始める…というパターンが続きます。連載作品の『明陵帝 梧桐勢十郎』(97年52号〜99年52・53合併号/全96回)『鴉MAN』(01年24号〜40号/全16回)はヒットにこそ至りませんでしたが、短編作品を含めた“かず作品”にはデビュー時から現在に至るまで根強いファンも多く、それが今回の連載復帰に繋がったとみて良いと思います

 ……というわけで、今回の新連載・『神奈川磯南風天組』のレビューへ移りたいと思います。

 まずからですが、独特ながら好感度の悪くないその画風は、以前に『司鬼道士 仙堂寺八紘』をレビューした時と全く変わっていませんので、絵柄そのものについて特筆すべき事は無いと思います。
 ただ、かずさんが描くのを得意とするタイプの人物(目つきの鋭いクールな男、ダサい悪人顔、清純系の女の子キャラetc…)と今回の作風(学園不良モノ)は結構マッチしているような気がします。これがもし計算した上での話だとすれば、かなりの慧眼であると思いますね。

 そして、ストーリー&設定について。

 今回の作品は、やや変則的ではありますが、現在「ジャンプ」で“空白地”となっていた学園不良モノですね。今や「マガジン」ですらオタク路線に転じつつある現在では、少年マンガの主流からかなり外れたジャンルになりますが、逆に“空白地”の利を生かせるかも知れません
 このジャンルの作品を描くにあたってのポイントは色々あります。普通に不良たちのありのままを描いていたら、「密着・警察24時」の「現代に巣食う魔物・キレる若者の実態」になっちゃいますので、これをエンタテインメント作品にするには、良い意味でのカモフラージュを施す必要があるわけです。
 中でも特に重要なものとしては、実生活なら読者の反発を買うはずの“ワルキャラ”に好感や親近感を抱かせる事が1つ。そして、リアル世界では殺伐としたワンパターンの日常生活に起伏を持たせ、義理人情を絡めた中身の濃い人間ドラマに仕上げる事がもう1つです。要は、不良少年たちの良い部分を中心に(良い部分“だけ”では不良じゃなくなるのでNGです)スポットライトを当てる作業をする事が大事になってくるわけですね。

 で、この作品の場合ではどうでしょう。まだストーリーに関してはプロローグの段階なので何も言えませんが、設定に関しては、少なくとも“その理想へ向けて努力しようとする姿勢”らしきモノは窺えます。
 風天組の悪事のハケ口を、いくらヤラれても悲壮感の無いバカキャラ・健人に求め、更にあちこちに「ただのワルではない」事を示す伏線を張って、読者の感情移入をスムーズに進行させようという試みが為されています。まだ現時点ではそれが成功しきれているとは言えませんが、進んでいるベクトルは間違っていないだけに、期待は持てるスタートと言えそうです。
 あと、これは以前にも述べましたが、かずさんはネームが非常に上手く、長ゼリフでもスラスラ読ませてしまう力を持っています。これが意外とバカに出来ないんですよね。

 ……さて、暫定評価ですが、現時点ではB+あたりが妥当なところではないでしょうか。ただ、流動的な要素も多いので、第3話時点で大きく評価が上下する可能性もあります。

 
 ◎新連載第3回『ごっちゃんです!!』作画:つの丸【第1回時点での評価:保留

 さて、第3回の後追いレビューですが、週を追うごとに「本当につの丸さんの作品はスロースタートなんだなぁ」…という思いが募っていきますね(苦笑)。
 ストーリーのテンポは遅く、しかも、その時点では意味不明なポイントが、1〜2回後になってようやくそれが伏線だったと判るような、そんな展開の繰り返しです。端的に言えば、作品のクオリティは置いておいて、読者アンケート結果に繋がらない要素ばっかりなんですよね(苦笑)。

 まぁ、このレビューはそういったポイントを抜きにするのが原則ですから、話の中身に論点を持っていくわけですが、それにしてもストーリーの進行が遅すぎるというのが実感です(苦笑)。単調ですぐに結果に繋がらない特訓シーンでも、高い技術に支えられたギャグを挟んでメリハリをつけてしまうあたりには、確かなつの丸さんの実力を感じるのですが、さすがにもう少し「あぁ、話が進んでいってるなぁ」という実感を持たせて欲しいところではあります。まぁ、『みどりのマキバオー』でも本格化まで随分と時間がかかりましたし、現時点ではとりあえず“待ち”の姿勢が一番なのかも分かりませんね。

 ……というわけで、申し訳ないんですが今回の評価も保留に。評価確定の際には「チェックポイント」でお伝えする事にします。

 
 ◎読み切り『スレンダー』作画:菅野健太

 冒頭でお伝えした通り、今週は『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也)が休載のため、代原が掲載されました鈴木信也さんは、以前にも持病の喘息が悪化して休載した事がありますが、やはり今回も同様のケースなんでしょうか。
 で、代原に選ばれたのは、これがデビュー2作目となる新人・菅野健太さん『スレンダー』です。菅野さんは、02年上期の「赤塚賞」で佳作を受賞して、その受賞作『あつがり』が本誌02年29号の代原となってデビュー。今回はそれ以来の作品発表という事になります。最近は代原掲載のケースも減っていて、菅野さんのようなポジションの新人ギャグ作家さんには厳しい情勢になっているようですね。

 それでは作品の評価に移りますが、やはり気になってしまうのがの拙さです。デビュー当時よりは若干良くなったとは思いますが、まだまだ技術不足は否めないところです。最低限レヴェルの“作者が伝えたい事を正確に読者ヘ伝える”事は出来ていますが、内容の幅を広げるためにも、もう少し画力を身につけてもらいたいですね。
 ただ、この作品は背景や集中線などの効果に関しては、まるで別人のようにソツなくこなしているんですよね。菅家さん、ひょっとしたら今はアシスタント修行をやってるのかも知れません。

 そしてギャグの方ですが、ネタの発想そのものは、デビュー作・『あつがり』と同様、“1つの物事を極端にエスカレートさせたヤツが、当たり前のように日常生活を満喫しようとしたらどうなるか”…という所にあります。前作は暑がり過ぎで人体が自然発火、そして今回はダイエットし過ぎて骸骨だけに…といった具合。ただ、前作はその発想をした時点で思考がストップしてしまい、ギャグというより中途半端なホラーのようなマンガになってしまったのは記憶に新しい(?)ところです。
 しかし今回は違いました1年の間に随分と“ギャグの方程式”的なモノを身に付けて来た努力の跡が窺えます。2ページ×2セットの豪快な“繰り返し技”や、骸骨人間という特殊なキャラでないと出来ないギャグなど、題材を上手く料理している感があります。惜しむらくは最後のオチの展開が甘かった部分で、ここさえキチンと出来ていれば、代原レヴェルを越えた作品になれたのに…と残念に思います。

 評価は、画力の分を少しだけ減点してB+寄りBに。とりあえず、菅家さんの作品をもう1つ2つ読んでみたいところですね。

  

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週の「ジャンプ」で一番笑った(しかも失笑した)のは、今週から始まった7月期「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の告知今月の審査員はあのパクリ芸人矢吹健太朗氏なんですが、そのページの端々から、「スイマセン、この人は絵を描くしか取り得が無いんです。どうか許してやって下さい」…という編集サイドの哀願の声が聞こえて来て、もう……(失笑)。

 しかし、そこまで開き直るんだったら、

 「質問:綺麗な絵のマンガを描くにはどうしたら良いですか?」
 「回答:自分より絵の上手いプロアシスタントを雇って下さい。特に可愛い少年や女の子を描くのが上手い人がオススメです」

 ……くらいまで開き直って欲しいものですが(無理)。

 ◎『こちら亀有区葛飾公園前派出所』作画:秋元治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 最近、かつてのような“男キャラ中心・硬派路線”へと回帰しつつあるこの作品ですが、そうなってみると改めて“老衰”ぶりが判ってしまうと言うか……。
 今回の競馬ネタも、まぁこれが『こち亀』のノリだから…と言ってしまえばそれまでなんですが、その余りの競馬への不勉強さにやや辟易してしまいました。厳然たる公営の地方競馬と、村祭りの草競馬を一緒にしちゃいけませんぜ、ダンナ。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:/雑感】

 なんか最近、回を追うごとにの出番が減ってますよね。今週なんか、勝手に実家へ帰ってるし(笑)。一番最後に出て来て一番影が薄いってのも何だか……。
 えー、この件について個人的な意見を言わせて頂きますと、非常に遺憾であります! ……ので、河下センセイにはどうにかして頂きたいと要求する所存で御座います。どうか何卒(笑)。

 ◎『★SANTA!★』作画:蔵人健吾【現時点での評価:B−/連載総括】

 『闇神コウ』との“打ち切りチキンレース”は、(恐らく)僅差でこちらが嬉しくない軍配を上げられる羽目に。
 “敗因”は色々と考えられるのですが、まとめて言えば、漠然としたスケールの大きな構想を、具体的かつ魅力のあるエピソードに“書き下す”事が出来なかった…という所になるんでしょうね。これはシナリオだけでなく、キャラクター造形、セリフのセンス、画力など、全ての面において言える事です。ファンの方には申し訳ないんですが、蔵人さんは、現時点では「ジャンプ」で週刊連載をするには実力が足りなかったとしか言いようがありません

 ここからもう一度出直すのは並大抵の事ではありませんが、ここまで長年頑張って来た人なのですから、いつの日かリベンジしてもらいたいものです。

 ◎『ピューと吹く! ジャガー』作画:うすた京介【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 いやー、やっぱりハマーは偉大ですなぁ(笑)。この人を勝手に動かしているだけでネタが出来上がっちゃうんですから……。
 いっそのこと、別の雑誌にハマーを主人公にしてもう1本連載立ち上げられませんかねぇ。『闘将(たたかえ)! ハマーさん』みたいな題名で。


 ──さて、長かった新連載攻勢も一段落。何とか峠を乗り切った感じです(苦笑)。なお、後半分は金曜日くらいに実施予定です。どうぞ宜しく。


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