「社会学講座」アーカイブ(大食い特集・2)

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講義一覧

8/18 文化人類学 「2002年度・フードファイターフリーハンデ・中間レイト(4)〜総括」
8/11 
文化人類学「2002年度・フードファイターフリーハンデ・中間レイト(3)〜早大食い・大食いの部」
7/31 文化人類学 「2002年度・フードファイターフリーハンデ・中間レイト(2)〜スプリント・早食いの部」
7/29 文化人類学 「2002年度・フードファイターフリーハンデ・中間レイト(1)〜早飲みの部」
7/5  
文化人類学「ネイサンズ・国際ホットドッグ早食い選手権・結果速報」
6/25 文化人類学「ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権展望」
4/5  文化人類学「『フードバトルクラブ3rd』TV観戦レポート(2)」
4/4  文化人類学「『フードバトルクラブ3rd』TV観戦レポート(1)」
3/22 
文化人類学「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・決勝大会TV観戦レポート(2)」
3/21 
文化人類学「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・決勝大会TV観戦レポート(1)」
3/15 
文化人類学「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・地区予選TV観戦レポート&決勝大会展望(2)」
3/14 
文化人類学「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・地区予選TV観戦レポート&決勝大会展望(1)」

 

8月18日(日) 文化人類学
「2002年度・フードファイターフリーハンデ・中間レイト(4)〜総括」

 いよいよ、このシリーズも今日で最終回、総括という事になりました。
 今日は、全カテゴリの一覧表の公開をし、さらに今年上半期のフードファイト界の動きについて述べさせてもらいます。

 ※前回までのレジュメ…第1回(早飲み系競技)第2回(早食い系競技)第3回(大食い系競技)

 

 ──では、まずは全カテゴリのハンデ一覧表ですが、今回もスペース・容量の都合で別ページとさせて頂きました。この一覧表ページから各カテゴリの解説文へリンクが繋がってますので、どうぞご利用ください。 

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 ……次に、総括文に移ります。例によって、文中敬称略・文体を常体に変更しますので、どうぞよろしく。


 2001年の総括の際に駒木は、2001年という年を「激動」という言葉で表現した。
 本来なら短期間での言葉の重複は避けるべきであろう。しかし、敢えて今回もこの言葉を用いる。2002年上半期は、まさに激動の半年間であった。

 だが、同じ言葉を用いるにしても、その意味合いは随分と違う。2001年の“激動”はフードファイト界という狭い世界の中での“激動”だったが、今年のそれは、業界の外からの圧力によって、フードファイト界そのものが地盤もろとも揺るがされたという意味での“激動”であった。

 今更ながらの話ではあるが、実はこの“激動”の素因のようなものは、随分と前から業界内外にくすぶってはいたのだ。
 「いつか、こういう事態になるのではないか?」、
 または、
 「そういう事態になったなら、その時どうすれば良いのだろう?」
 ……そんな事を考えていた人も多かったはずである。しかし、そんな人たちも、昨年来の、“大食いバブル”とも揶揄された業界内の“激動”の中で翻弄されてしまい、誰も明確な回答を引き出す事は出来ないでいた。
 そして、“それ”は突然やって来た。いや、突然では無かったのかもしれない。必然の事が最悪のタイミングで襲って来た。そういう事だったのかもしれない。
 その後は悲惨だった。何気なくハイカーに捨てられたタバコの吸殻が、次々と樹木に引火して大きな山火事になるように、1つの悪材料が悪影響を与えつつも次の悪材料を作り出し…というようなネガティブな連鎖反応が次々と起こった。
 気が付いたらフードファイト界は、これまでの10年間で築き上げて来た殆どのものを失い、茫然自失の状態に陥った。色んなモノを失って、始めてフードファイト界の住人は、大事な事を忘れていた事に気が付いた。ある者は悲嘆に暮れ、またある者は激しく憤った。だが誰が何をしようと、覆った盆の水は、もう二度と返る事はないのである──。

 ……と、どうやら、やや抽象的な事を長々と話し過ぎたようだ。これでは、受講生の方には余りにも不親切に過ぎよう。
 では、ここで今年の“激動”の様子を、詳細に、時系列に沿ってお話する事にしよう。時計の針は、若干の余裕を持って、2001年の12月暮れまで巻き戻す。

 

 2001年暮れ、テレビ情報誌に掲載された年末年始の番組表を見て、多くのフードファイト・ファンは思わず天を仰いだ事だろう。
 年末・年始は、番組改変期の4月、10月に次ぐTV特番シーズンである。そしてそれは、フードファイト番組が一斉に放映されるという、フードファイト・ファンにとってはたまらない時期でもあるのだ。小林尊の雄姿に黄色い声援を飛ばし、白田信幸のパフォーマンスに嘆息を漏らし、競技に使われていたステーキやケーキが無性に食べたくなり、荒れまくる大食い系BBSを見て静かにキレる。…まぁ、端的に言えばそんな事を毎日繰り返すというのが、このシーズンである。
 当然、この2001〜02年の年末年始でも、多くのフードファイト番組や、フードファイト企画のある番組が放映予定となっていた。だが、問題は1月3日のタイムテーブルにあった。
 この1月3日のゴールデンタイムに、なんとTBS系「フードバトルクラブ」とテレビ東京系「大食い選手権」の両特番がバッティング。さらに、他局でも同時間帯のバラエティ特番内で、有名選手が多数出演するフードファイト系企画が放映される事になったのである。
 これは、目一杯大袈裟に言えば、サッカーW杯とオリンピックと世界陸上を同時にやるようなものである。体はともかく、テレビやビデオを2つ、3つ用意しないと対応しようが無い事態になってしまった。多くのファンは、「大食い(フードファイト)が盛んになるのは嬉しいんだけどなぁ…」などと思いながら、どの番組をリアルタイムで視聴し、どの番組をビデオ撮りし、どの番組を諦めるかで頭を悩ませたのであった。

 また、この番組バッティングは、TV業界内の確執も呼んだ。いや、冷戦状態が高まって、ついに直接衝突に至ったと言うべきか。
 確執の主役となったのは2つのテレビ局だった。1つは、10数年来に渡って「大食い選手権」を放映し、フードファイト番組のノウハウを作り上げて来たテレビ東京。そしてもう1つは、高額賞金のフードファイト競技会「フードバトルクラブ」で一躍、業界最大手の団体に登りつめたTBSであった。この両局の首脳が公の場で顔を合わせた際、テレビ東京の首脳がTBS側に直接「フードバトルクラブ」について不快感を表明したのである。水面下で視聴率戦争をしていても、テレビ局の首脳が公の場で他局を非難する事は極めて異例であった。

 この確執の原因は勿論、お互いが同日同時間帯に同種の番組をぶつけて来た(そして視聴率戦争で後発のTBSが大差で勝利した)ことであるのだが、それ以前からの伏線めいたものも存在する。
 実は、TBSでは「フードバトルクラブ」の開始以前から度々、フードファイトの競技会とその特番を実施・放映して来た。しかしそれらの企画は、構成が稚拙な上に、肝心の出場選手のレヴェルが低く、一般層はおろかフードファイト・ファンの支持も得られず失敗に終わっていた。
 だが、そんな反省の上に企画された「フードバトルクラブ」では、構成面で(かなりの問題は有れど)格段の進歩を見せただけでなく、「大食い選手権」の10倍以上と言う破格高額賞金を用意し、「大食い選手権」出身一流選手の招聘に成功した。
 こうなれば、元々テレビ局としての地力に勝るTBSである。「フードバトルクラブ」が一般層に対する知名度や認知度、さらに視聴率で「大食い選手権」を凌ぐのにそれほど時間はかからなかった。
 これでたまらないのはテレビ東京である。せっかく自分たちが発掘して来た選手たちをヘッドハンティングされて、しかも視聴率戦争で敗れてしまっては、何のために「大食い選手権」をやっているか分かったものではない。しかも「大食い選手権」はテレビ東京の看板番組だ。長かった視聴率低迷期を救ってくれたという恩義もあり、たただの番組ではないのである。以前から、複数のテレビ局で番組の企画を奪い合って、その関係がギクシャクすることは度々有るが、今回の件はテレビ東京にとっては特殊な事だ。その屈辱、いかばかりか。
 もっとも、テレビ東京もただ手をこまねいているだけではなく、色々と手を尽くしたようである。出場選手の待遇改善や、某有名選手を専属タレント化しようとまでしたらしい。だが、選手のTBSへの流出は止められず、専属化を試みた某選手からは、テレビ東京側の致命的な過失があって、逆に三くだり半を突きつけられる始末であった。
 看板番組を“汚され”た屈辱感と、劣勢を挽回できないと言う無力感。テレビ東京関係者の心中は、そのような複雑な感情がない交ぜになっていたのだろう。そしてそうしたものが、テレビ東京の首脳が公の場でTBS側に直接批判すると言う直接行動に繋がったのではないだろうか。
 幸いにも、この確執はそれほど悪い方向には進展せず、そのまま終息に向かった。しかし、この確執がその後の両テレビ局の(特にテレビ東京の)姿勢に変化をもたらしたのも事実である。これはまた、後で述べよう。

 

 さて、この年末年始のフードファイト番組ラッシュの後、昨年以来、徐々に増加していたフードファイト選手のテレビ番組への露出や、全国各地のフードファイト・イベントの数が更に増えていった。
 これは、明らかに一般層のフードファイトに対する認知度とイメージの向上ぶりを示す事であり、長年業界外からは色眼鏡で見られがちだったフードファイト界にとっては、大変喜ばしい事だったと言える。
 また、この時期にはアングラ雑誌・『噂の真相』にフードファイト業界の内部告発めいたレポートが掲載されたりしたが、これも事の善悪は別にせよ、フードファイトというものが一般層でメジャーなものになって来たという証だと言えよう。
 ちなみに『噂の真相』に書かれたレポートは、1人の選手がライターに情報提供をして書かせたものだと推定されるが、その内容は、情報提供した某選手が得をし、その選手と業界内で対立する選手たちが不利になるように虚実を混ぜて書かれているようである。ここで下衆な犯人探しをする事は避けておくが、その『噂の真相』をお持ちの方は、このレポートで誰が一番得をするかを見極めておくべきだと思われる。

 

 …こうして、フードファイト選手の各方面への露出が進んでいくと、本来は“素人”であったトップクラスの選手たちのタレント化が進んでいったのは言うまでも無い。
 そうなると、スケジュール管理やギャランティー交渉、さらには雑収入に対する税金の対策など、様々な雑務が選手たちの活動を圧迫する事になる。また、先にも挙げたが、テレビ東京が某選手を、その本人が預かり知らないところで専属タレント化しようとするなどのトラブルも発生していた。
 ところがそういう背景に置かれている選手たちの殆どは、学業や職業を持つ“兼業”選手であり(山本晃也のように知人にマネージャーをしてもらっている選手もいるが)、これらの諸問題に対して余りにも無力であり無防備であった。駒木は業界内の人間と言うわけではないので詳しい事は知る由も無いが、一躍売れっ子になった選手たちの中には、戸惑いと不安を抱いていた者もいただろう。
 そうした状況の中、日本フードファイト界の一流選手の大半(小林尊、白田信幸、山本晃也、高橋信也、射手矢侑大、加藤昌浩、立石将弘、小国敬史、山形統、以上順不同)を所属選手として誕生したのが、FFA(=Food Fighter association)なる団体であった。
 このFFAは、所属選手のイベントやテレビでの活動のマネージメントや、グッズ販売、さらには所属選手参加によるイベントの企画を行う団体で、言わばフードファイト選手専門のプロダクションというわけである。しかも一説によるとこのFFA、大企業のスポンサーも得ている、かなりバックボーンのしっかりとした団体のようである。
 これにより、所属選手たちは諸々の雑務から解放されるだけではなく、それまでどうしても受身にならざるを得なかったテレビ局との関係も、対等に近い形で交渉が出来るようになった。逆に言えば、テレビ局は自局主催のフードファイト競技会(番組)を成功させるためには、FFAを通じて所属の一線級選手をブッキングしなければならなくなったわけで、これまでのような口約束やいい加減な対応は出来なくなった事になる。
 この新たな関係は、一見すると話がややこしくなったように思われるが、関係そのものは以前に比べて明らかに健全である。
 勿論、これまではテレビ局がフードファイト界を支えて来たのは確かだ。しかし根本的に、テレビ局にとってフードファイトとは、会社の営利を得るための一手段に過ぎない。当然ながら、テレビ局はフードファイトのために存在するわけではないのだ。
 それに対し、FFAはフードファイトの発展が団体の目的そのものであり、存在意義でもある。そういう団体が、営利の手段としてフードファイトを求めるテレビ局と交渉して、選手を派遣する。これは、選手たちにとってもフードファイト界そのものにとっても理想に近いものであろう。
 というわけでこのFFAは、資金力的な規模ではTBS、テレビ東京に次ぐ三番手ながら、人的規模においては両テレビ局を圧倒するという極めてユニークな団体となった。これからのフードファイト界は、どのような形に発展していくにしろ、このFFAを抜きにしては考えられなくなるのは確かである。今後も注目が必要だ。

 

 3月下旬、FFAの設立と相前後して、春のメジャー系フードファイト競技会が開催された。TBS主催の「フードバトルクラブ3rd ザ・スピード」と、テレビ東京主催の「全国大食い選手権・全国縦断最強新人戦」である。
 大会の結果等については、既に詳しく述べているのでここでは省略するが、「フードバトルクラブ──」は早飲みとスプリント競技のみに特化された、過去に類を見ない競技会となったが、トップ選手の奮闘と早飲み系新人選手の健闘が光り、メジャータイトル戦に相応しいハイレヴェルな競技会となった。ただ、テレビ業界の大不況に伴う賞金総額の大幅な減額や番組放映時間の短縮などの懸念材料も浮き彫りになった。視聴率そのものは同時間帯で首位をキープし、番組の存続自体には問題が無いものの、番組制作費の更なる削減などがあれば、競技会のグレードダウン等の悪影響も考えられるだけに心配である。
 一方の「大食い選手権」新人戦は、昨年来の劣勢に危機感を抱いたテレビ東京が制作費を大幅に増額して勝負に出た。全国5都市で予選を開催するなど大会規模を拡大し、さらに番組の演出方法も大幅にアレンジを加えた。今年の新人戦は、発掘された新人選手の平均レヴェルはやや小粒に留まったものの、競技会と番組そのものは極めて完成度の高いものとなった。番組放映後の業界内外の評判も上々で、昨年危惧されていた「大食い選手権」のマイナー化や衰退が杞憂に終わった事を印象付けた。まさに、フードファイト番組の老舗・テレビ東京の底力を見せつけられた出来事であった。

 

 こうして、今年春までのフードファイト界は、まさに順風満帆であり、業界内の情勢判断も極めて楽観的なものが多かった。不況の影響は確かに感じられたが、その悪条件を補って余りあるだけの勢いが、確かにその時のフードファイト界には備わっていた。

 だが、勢いはあくまで勢いであった。
 この時点のフードファイト界には、業界全体を揺るがす大きな出来事が起こった際、それを受け止めるだけの基礎体力はまだ備わっていなかった。それをいつの間にか、皆が忘れていたのである。
 そこへ、嵐が吹き荒れた。

 4月27日、何の前触れも無く、新聞各紙の社会面に「中学生、テレビ番組をまねて給食パンで窒息死」という記事が踊った。その内容は、
 「今年の1月、中学2年生(当時)が、テレビ番組(駒木注:恐らく『フードバトルクラブ・キングオブマスターズ』であろう)を真似て給食時間に友人と早食い競争をしたが、その際誤ってパンを喉に詰め、昏倒。約3ヵ月後の4月24日に死亡した」
 ……というものであった。
 このニュースは、言い方は悪いが、いかにも“ネタ”になりそうなものだっただけにマスコミの反応も大きかった。新聞によっては3段ブチ抜きのスペースで掲載される事もあったし、テレビのニュースでも報道された。死亡した側の過失による事故としては異例とも言える扱いであった。

 そしてこのニュースをきっかけにして、フードファイト界に対しては猛烈な“逆風”が吹き荒れ始めた。4月下旬から予定されていたフードファイト・イベントやローカル系の競技会が続々と中止となり、さらにはテレビのワイドショーを中心とした“フードファイト・バッシング”も開始された。
 出る杭を叩くのが仕事のようなものであるワイドショーにとって、最近メキメキと存在感を増しつつあったフードファイトは格好の標的だったのである。

 この突然の“逆風”に、フードファイト界は何ら為す術が無かった。FFAはまだ設立当初で、団体がまとまってこの事態に対応できる状況に無く、他の個人で活動している選手やフードファイト・ファンたちは、自分たちの意見を幅広く広める手段を持ち得なかったし、テレビなど大手マスコミに対するパイプも無かった。いや、もしパイプが有ったとしても、フードファイトを擁護する立場の人間が、望むような形で新聞やテレビに出演する機会は与えられなかったであろう。マスコミとはそういうものである。
 そんなわけでフードファイト界は、荒れ狂う波の中、ただ我が身の無事を祈りつつ、嵐が過ぎ去るのを待つしかなかったのである。

 いや、その状況の中で、表立った行動を取ったフードファイト選手が1人いた。フードファイト界の早食い・スプリント競技反対派の急先鋒・岸義行であった。

 岸は、メジャーデビュー当時は早食い系競技会にも多く出場していた。テレビ東京系の「早食い選手権」では3位入賞の実績もあるし、ローカル系競技会においては、わんこそばの早食い日本記録まで樹立して未だにそれを保持している。だが、昨年秋以降を境に突如として早食い系競技を批判し始め、その廃止を訴えるまでになった。事故の報道直後から、岸自身の運営するウェブサイトにも「危険な早食いより安全な大食いを推進しよう」旨の主張が掲載されたのは記憶に新しいところである。
 本当に早食いが大食いより危険なのかはさておき、岸はどうしてそこまで早食い系競技に敵意を剥き出しにするようになったのだろうか?
 彼は「フードバトルクラブ1st」において、寿司を喉に詰めて窒息寸前という事態を経験しているが、その後、「フードバトルクラブ2nd」で数々の早食い系競技に参加していることから、それが直接の原因ではないはずだ。
 また、死亡事故の報道前の彼は、「(早食い系競技では)味わう事無く食べ物を飲み込む。それは食べ物を粗末にしているから良くない」という理由で早食い系競技を批判していたが、事故の報道後は「窒息の恐れがあり、危険だから」という主張に切り替えている。これも彼の経歴から考えると、やや不自然であると言わざるを得ない。何故、事故が報道される前から、自らの窒息事故の経験を元に早食い競技の危険性を訴えなかったのだろうか?
 このように、岸の早食い系競技に対する反感を分析するのには、どうも要領を得ない。欠席裁判のような状態で憶測を交えた事を述べるのは止めておくが、彼の主張には、絶えず何か奥歯に挟まった印象を受けるのは否定できないものがある。

 結論の出ない話はひとまず棚に預け、とりあえず話を戻そう。
 ワイドショーがフードファイト批判を繰り広げる中、岸は自ら進んで“フードファイト選手代表”として番組に出演し、早食い系競技批判を展開した。彼の計算では、自分の発言をきっかけにして世論の助けを借り、自説の「早食い廃止・大食い推奨」を実現するつもりだったはずだ。
 その結果、どうなったか。
 効果は絶大であった。岸の主張を聞いた一般層の人たち、特にマスコミの影響を受けやすい人たちは思った。「大食いは危険である」、と。
 岸は肝心な所を読み違えていた。一般層の人々にとっては、いくらフードファイトに対する認知度が上がって来たとは言え、未だ早食いと大食いの区別がついていなかったのである。そこへテレビで見た事のあるような有名な選手が「早食いは危険である」と言ったらどうなるだろうか──?
 そこから生まれた結果は更なる猛“逆風”であった。イメージ悪化を敏感に感じ取ったテレビ局は姿勢を硬化。TBS系「フードバトルクラブ」とテレビ東京系「大食い選手権」と「早食い選手権」の無期限開催休止が決定され、とりあえず7月一杯までのフードファイト番組放映は中止が決まった。
 特にテレビ東京の首脳は、早食い系競技中心の「フードバトルクラブ」に対するライバル心もあって、早食い系競技会(つまりネイサンズ国際の予選会)の廃止を窺わせる発言をするにまで至った。ネイサンズ国際は、フードファイトの凄さを一般層にアピール出来るかけがえの無い機会であるだけに、これは大打撃としか言いようが無い。
 岸の目指したものが正しかったかどうかは、この際置いておこう。だが、結果として、彼の行動がフードファイト界にとって大きなマイナスをもたらしたという事だけは確かである。フードファイト・ファンの意見の中で「早食い擁護」が多数を占めた事が判明して以来、岸は早食い批判を控えて沈黙を守っているが、今後早食い批判を続けるにしろ撤回するにしろ、この事に関しては本人の猛省を求めたい。

 こうしてフードファイト界は未曾有の大打撃を被ったが、辛うじて救いだったのは、この激動を経験した選手やファンが、フードファイト界を離れる事無く、懸命にこれを支え、復旧・復興を目指そうとした事だった。人は宝である。人的損害が無ければ、どんな深刻なダメージを受けてもリカバリーは早いことだろう。

 

 では最後に、下半期の展望めいたものを付け加えて、今回の総括の締めとしたい。

 まず、未だ無期限休止が撤回されていないテレビ局主催のメジャー系競技会であるが、テレビ局側の様子を窺う限り、どうやら少なくとも「大食い選手権」のオールスター戦は実施できそうである。ディフェンディング・チャンプの白田信幸をはじめとする大食い系のトップ選手や、さらには山本卓弥、舩橋稔子といったルーキーたちの活躍によって大いに大会を、そしてフードファイト界を盛り上げてくれる事を祈ろう。

 6月頃に入ってようやく活動が軌道に乗ってきたFFAは、7月のネイサンズ国際で早速その力を発揮した。
 前年度王者の小林尊の派遣や現地でのマネージメントだけでなく、結局不成功に終わったが、ワイルドカード枠での高橋信也の出場を主催者側に打診するなど、その姿勢と意欲は十分評価できるものであった。
 また、ネイサンズ国際の試合ビデオも発売にこぎつけるなど、これまでのテレビ局主導の状況下では不可能であった企画がどんどん実現に向かっている。
 ただ、課題もある。団体設立から4ヶ月になるが、一般層へのアピールがまだまだ欠けているのは否定できない。FFAはフードファイト界と言う狭い世界だけの団体であってはいけない。最近はようやく改善されつつあるとは言え、未だにフードファイトを見るたび「気持ち悪い」と顔をしかめる人もたくさんいる。そういう人たちをフードファイトに振り向かせる事が大切であり、またそれがFFAの使命とも言えよう。

 最後に最近はすっかり影が薄くなってしまった岸義行主宰の「日本大食い協会」についても述べておこう。フードファイト界第4位の団体である。大食い協会は、この秋には第2回の「全日本大食い競技選手権」を開催予定だという。
 この競技会の第1回大会には、小林尊、白田信幸をはじめとする現在のフードファイト界を支える一線級選手が多数出場したことから、本来なら大いなる期待を抱きたいところではある。しかし今回は現時点で既に主力級選手の大半が欠場を表明し、開催そのものが危ぶまれる事態に陥っている。
 これにはどうやら、前回大会の運営に関するトラブルや、岸と他の選手との競技観及び競技に対する姿勢のすれ違いなど、様々な要因が絡み合っているようで、解決の糸口すら見つからないのが現状だ。
 もしこれで大会が中止に追い込まれた場合には、岸のフードファイト界における求心力が大幅に低下する事も考えられる。この秋は、大食い協会にとっても岸にとっても大きな正念場と言えるだろう。

 

 ……さて、いささか総括としては長くなりすぎたが、これで今回の企画の締めくくりとしたい。最後に、フードファイト界に幸あらんことを── (この項終わり) 

 


 

8月11日(日) 文化人類学
「2002年度・フードファイターフリーハンデ・中間レイト(3)〜早大食い・大食いの部」

 ※レジュメはこちらから→第1回(早飲み系競技)第2回(早食い系競技)

 今回の「2002年度・フードファイターフリーハンデ(以下、FFフリーハンデと略)中間レイト」も今日で3回目。今日は大食い系競技のフリーハンデ値を発表し、一応全てのレイトが出揃う事になりますが、申し訳無い事に、まず今回も前回分の訂正から始めなければなりません。

 前回の小林尊選手についての解説文中で、
 「試合終了後、2位のエリック=ブッカー選手からクレームがつき、それについて主催者側の審議が行われた」
 ……という旨を記したわけですが、これは誤りでした。ブッカー選手は競技時間中、小林選手の方を見ておらず、その後もクレームをつけた事実はありませんでした
 クレームをつけたのは、小林選手の隣で競技をしていた、チャールズ=ハーディ選手(2001年ネイサンズ国際第3位)サイドで、彼とTV観戦していた彼の知人が、試合及びイベントが終了してから「コバヤシは失格ではないか」という旨のコメントを発表。それについて主催者側が小林選手を失格としない判定を下し、さらにその模様が現地の新聞やTV番組で報道された……というのが真相でした。
 以上、関係者各位にお詫びして訂正いたします。

 さて、今回は大食い系競技の3カテゴリについてのフリーハンデ値とその解説をお送りします。解説文中は敬称略、および文体の常体への変更を行いますので、ご承知おき下さい。


「2002年度・FFフリーハンデ・中間レイト」
〜早大食いカテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
62 山本 卓弥
59.5 舩橋 稔子
55.5 楊木田 圭介
52.5 久保 仁美
52 須藤 明広

 ※主な競技結果※

なにわ大食い選手権 第1ラウンド

ハンデ(上位3名)
()は他競技での最高値

選手氏名
62 山本 卓弥
58.5(59.5) 舩橋 稔子
55.5 楊木田 圭介
なにわ大食い選手権 第2ラウンド

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
62 山本 卓弥
59.5 舩橋 稔子
49(55.5) 楊木田 圭介
全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
第3ラウンド(早大食いカテゴリのみ)
ハンデ
()は他競技での最高値
選手氏名
52.5 久保 仁美
52 須藤 明広
49(59.5) 舩橋 稔子

 

〜大食い45分カテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
62 山本 卓弥
58 舩橋 稔子
57 久保 仁美
56.5 河津 勝
55.5 須藤 明広
  55.5 皆川 貴子
  55.5 近藤 菜々
55 白瀬 貴浩
53.5 羽生 裕司
10 52 嘉数 千恵
  52 碓井 高貴
12 50 金田 浩司
  50 手塚 欽昭
14 49.5 大山 康太
  49.5 佐藤 清
16 48.5 西林 伸晃

 ※主な競技結果※

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
北海道予選 決勝ラウンド

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
56.5 河津 勝
50.5(55.5) 須藤 明広
50 金田 浩司
50 手塚 欽昭
48.5(49.5) 大山 康太

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
東京予選 決勝ラウンド

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
54.5(55.5) 皆川 貴子
54(57) 久保 仁美
52 碓井 高貴
49.5 佐藤 清
48.5 西林 伸晃

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
名古屋予選 決勝ラウンド

ハンデ(上位2名)
()は他競技での最高値

選手氏名
53.5 羽生 裕司
53(55.5) 近藤 菜々

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
福岡予選 決勝ラウンド

ハンデ(上位2名)
()は他競技での最高値

選手氏名
52 嘉数 千恵
48.5(55) 白瀬 貴浩

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
第1ラウンド

ハンデ(上位4名)
()は他競技での最高値

選手氏名
60.5(62) 山本 卓弥
58 舩橋 稔子
56.5(57) 久保 仁美
56.5 河津 勝

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
第2ラウンド

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
62 山本 卓弥
56.5(58) 舩橋 稔子
56(57) 久保 仁美
55.5(56.5) 河津 勝
55(55.5) 須藤 明広

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
第4ラウンド

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
57 久保 仁美
56.5 河津 勝
56.5(58) 舩橋 稔子
52(55.5) 須藤 明広

 
〜大食い60分カテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
62 山本 卓弥
59 舩橋 稔子
58.5 久保 仁美
56.5 河津 勝

 ※主な競技結果※

なにわ大食い選手権 決勝

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
62 山本 卓弥
59 舩橋 稔子
全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
決勝
ハンデ
()は他競技での最高値
選手氏名
59 舩橋 稔子
58.5 久保 仁美
56.5 河津 勝

 

 2002年の上半期シーズンには、テレビ東京主催の「全国大食い選手権」の新人戦(テレビ東京主催の競技会に参加経験の無い者のみに出場資格がある)と、その予選会の他にメジャー級の大食い系競技会は開催されなかった。
 そのため今回の大食い系3カテゴリのフリーハンデに登場した選手たちは、TBS主催の「フードバトルクラブ」でデビューした河津勝以外、全てメジャー大会初出場のルーキーたちである。

 その「全国大食い選手権」新人戦(以下、「新人戦」とする)は、1998年から毎年4月の番組改変期特番に合わせて実施・放映される大食い系フードファイターの登竜門的な競技会で、過去の“新人王”には岸義行、岩田美雪ら、現在でも第一線で活躍している選手たちがその名を連ねている。
 特に新人が“豊作”だったのが昨年度で、“新人王”の射手矢侑大を始め、白田信幸、立石将弘、高橋信也といった、現在のフードファイトシーンを代表するような選手たちが、この登竜門をくぐっていったのである。

 そしてこの“大豊作”を受けて今年、この「新人戦」は、より多くの優れた新人を発掘するために、全国5箇所で予選会を実施。それに伴って本大会の参加枠も従来の5から10に倍増させた。
 この「新人戦」の規模拡大には、TBS主催「フードバトルクラブ」の勢力伸張に危機感を持った「大食い選手権」サイドが、“まだ見ぬ強豪”の青田買いを狙ったという意味合いも、恐らくはあっただろう。
 しかし皮肉な事に、この年の「新人戦」でデビューしたルーキーたちのレヴェルは、お世辞にも昨年を上回るものとは言えなかった。その結果、予選通過のボーダーライン上にいた選手の水準がいつにも増して低くなり、「新人戦」の前半部分が散漫なものとなってしまったのは残念であった。
 だが、この「新人戦」そのものは、個性豊かな上位入賞選手の好パフォーマンスや、洗練された番組演出によって、終わってみれば非常に素晴らしい競技会となった。このテレビ東京と「大食い選手権」の功績については、また次回の総括で述べる事にする。

 そういうわけで“大豊作”とはいかず、せいぜい“平年並み”に終わってしまった今年のルーキー戦線だったが、それでも即戦力クラスの逸材がいないわけではなかった。
 「新人戦」の近畿地区予選を兼ねた「なにわ大食い選手権」に、若さと言うより幼さが抜けきらない印象の少年・山本卓弥が姿を現した時、彼がそれから常識外れのパフォーマンスを連発する事を予想した者はどれだけいただろうか?
 そんな風に、予選会場を埋め尽くした他のルーキーと同様に全くのノーマークだった彼は、緒戦のタコ焼き30分勝負から150個・6.0kg完食という素晴らしい記録を残して周囲をアッと言わせた。
 そして、第2ラウンド以降もこの快進撃は止まらない。白玉ぜんざい104杯・5.2kg、カレーうどん大盛15杯という好レコードを連発して後の2002年“新人王”・舩橋稔子を一蹴。いとも簡単に初タイトルを獲得してしまったのである。
 特にその決勝では、会場にゲスト解説として現れた赤阪尊子をして、ただただ「凄い」と驚嘆せしめたのが印象深かった。このシーンは、昨年度の「新人戦」準決勝ラウンドにおいて、当時無敵の王者として君臨していた小林尊が射手矢侑大を激賞した場面とダブって見える光景であった。
 こうして一躍「新人戦」の優勝候補筆頭に名乗りを挙げた山本は、本大会でも“平年並み”水準の他地区の選手たちとは次元の違う食いっぷりを見せ、その序盤戦を余裕残しのままブッチギリの成績で圧勝した。
 この時のテーマ食材は豆腐や麦とろ飯などといった、食べ易くて消化に良いものであったから、どうしてもフリーハンデ値は伸び悩んでしまうのだが、それでも山本には62ポイントと言う高レイトが与えられた。これは“女王”・赤阪尊子と互角の実力である事を証明するもので、まさに一流選手への分水嶺と言える。山本はそんなレイトを余裕残しのまま獲得してしまったわけで、本当に空恐ろしい話であろう。
 だが、このまま決勝まで続くかと思われた山本の快進撃は突如、急ブレーキがかかってしまう。
 本来なら消化を促進する食材であるはずの麦とろ飯が、その翌日になっても彼の胃の中で全く消化されずに溜まってしまったのだ。普通ならただの消化不良で済むような話でも、その量が7kgを超えるとなれば大事になる。結局、山本は第3ラウンド開始前にドクターストップという形で戦線離脱を余儀なくされる事となった。
 この突然の体調変異は、どうやら慣れない環境に長時間置かれた事による極度の緊張が原因だったようである。人並み外れた胃袋を持つスーパールーキーも、やはり人の子だったと言う事か。
 そんなわけで、メジャータイトル獲得はならなかった山本だが、そのささいな躓きが彼の存在価値そのものに傷をつけた訳ではない事は、大食い系3カテゴリを完全制覇した彼の高くて安定したフリーハンデ値を見ればよく分かるだろう。
 白田信幸の独走が続き、やや閉塞した印象も抱かせる現在のフードファイト・シーンだが、秋シーズン、彼が大きな風穴をブチ開けてくれる事を期待しよう。

 実力最右翼の山本卓弥がリタイヤするという大波乱に翻弄された今年の「新人戦」、栄えある第5代“新人王”に輝いたのは、身長158cm体重40kgという“小さな女王”舩橋稔子であった。
 舩橋は山本卓弥と共に「なにわ大食い選手権」でデビューし、そこで準優勝となって本大会出場権を得る。山本の強烈なパフォーマンスの前には、さすがの後の“新人王”も影が薄かったが、舩橋もまた、他地区の予選通過者とは1ランク上の好成績を収めており、本大会でも相応の成績が期待された。
 そしてその本大会でも、舩橋は序盤戦から山本卓弥に次ぐ成績を挙げて、その実力が間違いなく全国区である事を証明する。さらに山本がリタイヤした後は、第3ラウンドで苦手の餡巻きに苦しんだ以外は危なげの無いパフォーマンスで決勝進出を果たし、その決勝でも60分勝負を際どく逃げ切って、見事にメジャータイトルを奪取。同時に秋のオールスター戦への出場資格を獲得した。
 本当に小柄な体格の舩橋が、大男たちをバッタバッタとなぎ倒して実現したこの優勝劇は、まさに見ているものにとって痛快極まりないものではあった。だが、話題を
「舩橋稔子はオールスター戦でも通用するのか?」という方向に向けてみると、そうそう浮かれてばかりもいられないのも、また事実である。
 何故ならば、舩橋は決勝戦で明らかに自身の胃容量の限界を露呈してしまったからだ。舩橋の決勝戦での記録から推定すると、どう贔屓目に見ても彼女の胃容量は6kgには届かない。この数値では、トップクラスと伍してゆくには明らかに力不足なのである。
 これでスピードがあるならば、まだスプリント選手への転進も図れるところなのだが、舩橋の場合、その点に関しても不安は多い。小柄な体、小さな口という“逆・白田信幸”とも言うべき彼女の体型は、本来ならば極めてフードファイトには不向きなのである。
 せっかくの快挙に水を差すようで悪いのだが、舩橋には早くもフードファイター人生に関わる大きな正念場が訪れている。彼女が赤阪尊子以来のトップ級・女性大食い選手となるのか、それとも先輩の女性新人王・岩田美雪のように、準一流選手としてフェードアウトしてゆくのか、全てはこの秋にハッキリすることになるだろう。

 この2名以外の選手では、残念ながら、去年以来格段に層の分厚くなったトップクラスに混じって好成績を挙げられそうな選手は見当たらなかった。地区予選決勝レヴェルの選手は勿論、本大会の前半で脱落した選手たちでも、秋のオールスター戦で出場最低資格の寿司100カンを完食できるかどうかは、極めて微妙と言わざるを得ない。
 それでも敢えて有力新人を挙げるならば、「新人戦」で決勝進出を果たした久保仁美河津勝になるのだろうか。だが、久保は胃容量はともかくスピードに難があり過ぎるし、河津の方も4kgソコソコという胃容量では、大食い系競技で戦ってゆくには余りにも心許ない。何しろ、河津が今回獲得した56.5というレイトでは、去年の「新人戦」なら予選を通っているかどうかすら怪しい数字なのである。
 実は、そんな彼らでも、10年前のレヴェルならば十分優勝候補に挙げられる実力を持っているのだ。それだけ、この10年で日本のフードファイトは急速な進歩を遂げて来た事になるのだが、ある意味においては、時の流れは余りにも残酷であるという事でもある。


 ……と、いうわけで大食い系カテゴリの「FFフリーハンデ」をお送りしました。次回は全カテゴリの数値を網羅した一覧表と、この半年のフードファイト界を概観した総合解説文をお送りする予定です。では、また次回をお楽しみに。(次回へ続く

 


 

7月31日(水) 文化人類学
「2002年度・フードファイターフリーハンデ・中間レイト(2)〜スプリント・早食いの部」

 今日は「2002年度フードファイター・フリーハンデ(以下、FFハンデと略)中間レイト」の2回目、「スプリント・早食いの部」をお送りするのですが、その前に一昨日お届けしました「早飲みの部」(レジュメはこちら)で訂正がありましたので、先にお伝えしておきます。

 まず、詳細な記録が不明であった事によりレイティングを控えておりました、青木建志選手の「ペットボトル早飲み」カテゴリのポイントですが、その記録が判明しましたので、レイティング58を追加しています。
 また、白田信幸選手の「ペットボトル早飲み」カテゴリのレイティング60も追加しています。これは、「フードバトルクラブ3rd」の準決勝第2ラウンドでのウーロン茶1.5L早飲み対決を失念していたものでした。
 いずれも既にレジュメでは加筆修正済みですが、再度お確かめ頂ければ幸いです。

 
 ──さて、では今日の「スプリント・早食いの部」に移らせて頂きます。
 この「FFフリーハンデ」では、“食べる”競技のカテゴリを5つに細分化して、それぞれのレイティングを行っています。その5つのカテゴリは、以下の通りになります。

◎スプリント=5分以内 
◎早食い=5分超15分以内 
◎早大食い=15分超30分以内 
◎大食い45分=30分超60分未満 
◎大食い60分=60分以上

 このカテゴリ分けは、いわゆる“早食い”と“大食い”との間に引くべき境界線を設定する…という意味合いがあります。
 “早食い”と“大食い”の解釈は識者の間でも分かれているのが現状で、未だ定義づけの決着を見ていません。しかしこの「FFフリーハンデ」では一応の解釈として、「(人が胃袋の限界まで食べる事が出来ないような)短い時間内で、どれだけたくさんの量を食べられるかを競う」ものを“早食い”系競技そして「一定の長時間をかけてたくさんの量を食べることで、食べるスピードだけでなく消化能力や胃袋の大きさを競う」ものを“大食い”系競技として扱います。
 そして、“早食い”系競技の中でも競技時間によって細分化を図ります。超短時間での瞬間的なスピードを競う5分以内の競技を「スプリント」、スピードの持続力が要求されるような競技時間のものを「早食い」としました。
 また、“大食い”系競技でも、競技時間によって「早大食い」、「大食い45分」、「大食い60分」と分けています。これは、競技時間が長くなるにつれて、求められる能力が食べるスピードから胃の容量や消化能力にシフトしていくという事を考慮したものです。

 ……と、いうわけで今日は“早食い”系競技を対象にした2つのカテゴリについて、各選手のレイティングとその解説をお届けします。解説文は選手名敬称略、及び文体を常体(だ、である調)に変更します。


「2002年度・FFフリーハンデ・中間レイト」
〜スプリントカテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
66.5 白田 信幸
66 小林 尊
65 山本 晃也
64 高橋 信也
63.5 射手矢 侑大
  63.5 小国 敬史
  63.5 立石 将弘
62 新井 和響
58.5 木村 登志男
10 56.5 ヒロ(安田大サーカス)
11 53.5 加藤 昌浩
12 49.5 山根 優子
  49.5 植田 一紀
  49.5 高橋 明子
15 49 渡辺 勝也
16 48.5 駿河 豊起
17 48 土門 健

 ※主な競技結果※

FBC3rd 1stステージ
寿司40カンの部

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
66.5 白田 信幸
66 小林 尊
64(65) 山本 晃也
63.5 射手矢 侑大
62.5(64) 高橋 信也

FBC3rd 1stステージ
カレー1kgの部

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
65 山本 晃也
64 高橋 信也
63.5 小国 敬史
63.5 射手矢 侑大
63.5 立石 将弘
FBC3rd 準決勝第1試合
第1、3ラウンド(餃子)
ハンデ
()は他競技での最高値
選手氏名
60(66.5) 白田 信幸
59(65) 山本 晃也
FBC3rd 準決勝第2試合
第1ラウンド(チーズケーキ)
ハンデ
()は他競技での最高値
選手氏名
58(66) 小林 尊
48 土門 健
FBC3rd 準決勝第3試合
第1ラウンド(チーズケーキ)
ハンデ
()は他競技での最高値
選手氏名
57(64) 高橋 信也
53.5 加藤 昌浩
FBC3rd 決勝
(スプリントカテゴリ競技総合評価)
ハンデ
()は他競技での最高値
選手氏名
66.5 白田 信幸
66 小林 尊
58.5(64) 高橋 信也

 

〜早食いカテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
67 小林 尊
60.5 エリック=ブッカー
60 オレッグ=ツォルニツキー
56.5 河津 勝
56 羽生 裕司
  56 原田 満紀子
  56 近藤 菜々
  56 夏目 由樹
  56 大石 裕子

 ※主な競技結果※

全国大食い選手権 日本縦断最強新人戦
第3ラウンド(早食いカテゴリのみ)

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
56.5 河津 勝

ネイサンズ 国際ホットドッグ早食い選手権

ハンデ(上位3名)
()は他競技での最高値

選手氏名
67 小林 尊
60.5 E・ブッカー
60 O・ツォルニツキー

 

 昨年から日本のフードファイト・シーンで急速に進めれられた競技の高速化・記録のインフレ化の流れは、昨年末の時点で記録のインフレ化が一応の限界を迎えた辺りから、今度は競技の高速化のみに絞られてレヴェルの向上が図られるようになった。即ち、競技の早食い化からスプリント化への転換である。
 その競技のスプリント化を大きく進展させたのは、昨年、それまで大食い系競技の従属物に過ぎなかった早食い系競技の地位をフードファイト界の中で確固たるものにした事で知られる、TBS主催の「フードバトルクラブ」であった。
 今年から「フードバトルクラブ」は、春に早食い系オンリー(実際は早飲み競技とスプリント競技だが)の競技会を開催し、フードファイトでのスピードの限界を追求する姿勢を露わにした。そして選手たちも、既に限界に近いと思われていた従来の記録を大幅に更新してその期待に応え、早食い系競技のさらなる地位向上に貢献した。各選手のレイティング値をご覧頂ければ分かると思うが、トップ選手の平均的レヴェルは、既に大食い系競技のそれを凌駕していると言って良い。
 だが、好事魔多しとはよく言ったものだ。「フードバトルクラブ3rd」放送から間もなくして、フードファイト番組(恐らく「フードバトルクラブ」の事だと思われる)を観て早食い競技の真似をした中学生が食べ物を喉に詰まらせて窒息死するという事故が報道され、状況は一変してしまったのである。
 この、恐らくは1人の通信社記者が好奇心にまかせて配信したたった1本のニュースにより、早食い系競技だけではなく、フードファイト全体にも「危険である」というレッテルが貼られてしまい、激烈なイメージダウンを被ってしまった。実はこの際、フードファイト業界内から一般層へ向けての対応が余りにも不味かった事が、そのイメージダウンに拍車をかけてしまったという側面もあるのだが、それは総括に譲ることにしよう。とりあえずここでは起こった出来事の流れだけを追っていくことにする。
 この一連の事故報道の直後から、まずは全国各地で開催が予定されていたフードファイト・イベントが次々と中止となった。この種のイベントは、一般層へフードファイトの何たるかを認知させるという効果を持つと共に、世間一般のフードファイトに対する好感度の現われでもある。そんなフードファイト・イベントが中止になったという事は、即ち、一般層へのイメージを何よりも重視するテレビ局──メジャー系フードファイト競技会の主催者でもある──の態度を硬化させてしまう最悪の事態に繋がってしまう。TBSとテレビ東京で予定されていたネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権に関する特番は放映中止となり、テレビ東京主催の予選会も中止。そればかりか、今秋以降のフードファイト競技会と番組放映の実施すら白紙に戻されてしまったのである。
 もっとも、秋以降のスケジュールに関しては、未だ「中止」と明言されていないだけに、どうやら比較的イメージの悪くない大食い系競技会から“復活”させていくのではないか…という楽観的な推測が多数意見を占めている。少なくともフードファイトそのものがTV業界から抹殺されるという最悪の事態は避けられそうではある。
 しかし、それでも今回の一連の騒動は、せっかく隆盛を極めるところまで成長した早食い系競技に致命傷を負わせる“痛恨の一撃”であった。ひょっとしたら、今回が“スプリント・早食いの部”としての最後の解説文となるかもしれない(ネイサンズ国際がある限り、カテゴリが消滅する事は無いだろうが)。この本文中では希望的観測も込めて、これからも早食い系競技が国内のメジャー競技会で実施されるという前提の下で筆を進めるが、これをご覧の方も一応の“覚悟”を持って読み進めて頂くようお願いする。
 
 
 昨年下半期から始まった小林尊の苦悩は、今年になってもまだ続いていた。
 日本初の早飲み・スプリント系競技会となった「フードバトルクラブ3rd」。そのレギュレーションの内容から「小林尊絶対有利」の下馬評が圧倒的多数を占めたこの大会で、彼は三度、白田信幸の前に屈した。しかも予選から本戦決勝に至るまで、全ての競技で白田の後塵を拝するという屈辱的な完全敗北であった。これまでは、勝ち上がり過程ではダントツのトップを取りながら、決勝だけ白田得意の大食い系競技で敗れて準優勝…という“惜敗”パターンだっただけに、早飲み・スプリント系競技で喫したこの完敗は、非常にダメージの深いものであったと言える。もう今では誰も彼を“最強のフードファイター”とは認識していないだろう。彼の第一期黄金時代は完全に終焉を迎えたと言える。
 だが、ここで簡単にフェードアウトしないのが小林の小林たるところ。彼は、国内で“アンチ・フードファイト”のムードが収まらない中でも黙々とリベンジのチャンスを窺っていた。そして7月、満を持して彼は、手元に唯一残されたメジャータイトル・「ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権」の防衛戦に臨むため渡米したのである。
 現地での彼は、当日までマスコミ取材等の殺人的スケジュールに引きずりまわされた上、大会会場が気温37℃の屋外という最悪のコンディションに晒されていたが、鍛錬に裏打ちされた実力と彼の精神力が、そんな悪条件を見事に克服した。昨年のこの選手権で記録した12分間で50本という大記録を僅かに更新する50本1/2をマークし、堂々の二連覇、そして1年ぶりのメジャー大会優勝を達成した。それはタイトル防衛であると共に、彼が小林尊である事の防衛でもあった。
 小林の最大の持ち味は、何と言ってもフードファイター随一の嚥下力とその持続力である。彼は、寿司やホットドッグといった固形物でも、ほとんど咀嚼せずに10分以上にわたって飲み込み続けることができる。この事は、例の痛ましい死亡事故を見るまでも無く、人間にとっては体に大きな負担を与えるものであって、常人に真似できるものではない。他の一線級フードファイターでも、4〜5分ならともかく、10分以上の無咀嚼嚥下は無理難題と言って良いものであると思う。それを可能にするまでに自らの体をそこまで鍛え上げた努力と、それを支える彼の才能には脱帽する思いである。恐らくこれからも、少なくとも早食いカテゴリでは、彼の優位は揺るがないものと思われる。
 だが、そんな彼にも弱点が無いわけではない。以前にも少し指摘した事があったが、彼の食べ方は良く言えばワイルド、悪く言えば荒っぽいのである。これは昨年末に「フードバトルクラブ」でファウル制度(食べこぼし、食べ残しが記録無効になるルール)が導入されてから、再三その“お世話”になっている事でもよく分かる。勿論他の選手もファウルを犯しているが、小林のファウル回数は全選手中トップクラスである事は確かだ。
 実は、今回のネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権でも、小林はファウル(=失格)ギリギリのプレイで、あわや失冠するところだったのである。
 その出来事は、小林が2位以下に24本余りの大差(!)をつけて圧勝のまま競技を終了しようという、その間際に起こった。12分もの間、極限状態で競技を続けていた疲れが出たのだろうか、小林が口に頬張ったホットドッグの嚥下に失敗し、むせ返ってしまったのである。
 ここで小林は、何とか競技時間内に内容物を口から吐き出す事は防いだものの、鼻からはいくらかの吐瀉物(?)を噴き出してしまった(そして、試合終了直後には口からも吐き出した)。これを見ていた2位のエリック=ブッカーは、小林がネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権のルール・「一度食べた物を吐き出したら即失格」に抵触するとして運営者サイドに抗議。あわや小林尊は失格か、という事態に陥ってしまったのだ。
 結局、運営者であるIFOCE(国際大食い競技連盟)サイドは審議の結果、
「小林は鼻から吐瀉物を噴いたが、テーブルを汚したわけではない」、
「吐き出した物は胃から吐いたものではなく、嚥下する直前の物がゲップをした弾みで吹き出たものである(だから規則違反ではない)」
「口から吐き出したのは試合終了後であり、小林は最後まで持ち堪えた」
 ……という、(少なくとも初めの2つはかなり苦しい)公式見解を出して、「小林、失格に至らず」と判定。ここでやっと小林のタイトル防衛が確定したのである。
 恐らくIFOCEサイドは、小林が記録上大差で勝利している事などを考慮して、このような判定を下したのであろうが、もしこれが判定に厳しい「フードバトルクラブ」ならば、かなりの確率で失格を覚悟しなければならないところであったはずだ。まさに危機一髪という状況だったのである。
 ……同じファウルでも、これが実力で劣る選手がイチかバチかの挑戦をした挙句のファウルならまだ良い。しかし小林のファウルは、今回の件も含めて、やらなくても良い場面で犯すファウル(またはその未遂)が多いのだ。恐らくこれは、常に限界に挑む事を旨とする彼のポリシーの現れなのであろうが、それで積み上げて来たものを失ってしまっては何にもならない。今はまだ深刻な結果に結びついてはいないが、このままの危うい競技スタイルを維持していこうとすると、近い内に破綻が訪れるだろう。それが果たして、プロ選手として相応しい事なのだろうか? せめて、少しは食べ方の改良くらいは挑んでみてもよいと思うのであるが──。

 総合レイティング値では小林尊に及ばなかったものの、国内メジャータイトル4連覇の偉業を成し遂げて、最強の王者の名を欲しいままにするに至ったのが白田信幸であった。
 彼の体のパーツのことごとくがフードファイトに適応したものであるという事は、これまでも再三述べてきたが、彼の“最大”の武器は、スプリント系競技でも絶大なる威力を発揮した。いや、これまで使いこなせていなかった力を使えるようになったと言うべきだろうか。
 「フードバトルクラブ3rd」の1stステージ・寿司40カン早食いにおいて、白田はそれまで同種の競技では無敗を誇った小林尊を僅差ながら粉砕。ついに早食い系、大食い系両方の競技で小林越えを果たしたのである。
 その時のタイムは36秒14。1皿(2カン)あたりの平均タイムは1秒81という、文字通り破格の好記録であった。そしてその記録を支えたのは、これまでの競技生活で鍛えられた一流の嚥下力もさることながら、一度に寿司8カンまで納められるという彼の大きな口であった。これは現行の「口に納めた時点で完食とする」というルールが存在する以上、決して揺るがないアドバンテージである。
 これを「不公平だ」と言う事は簡単だが、これをリーチが長いボクシング選手や、ジャンプ力の優れたバスケットボール選手と同じ事だと考えたらどうだろうか。そう、白田はフードファイトに冠する天賦の才能を持って産まれて来た男である、ただそれだけの事なのである。
 これで国内のメジャータイトルを独占した白田は、大食い系競技会の集中する秋シーズンで、空前絶後のメジャータイトル7連覇に挑む。現在、フードファイトに集中できる環境に居ないことだけが不安材料だが、それも卓越した技術と才能でフォローしてくれるだろう。

 さて、“2強”の前に圧倒される形になってしまったが、3番手以下の選手たちも着実にレヴェルアップを果たして奮闘している。
 早食い系スペシャリストの第一人者である山本晃也は、寿司やカレーライスといった早食い系競技定番の食材で次々に好記録を連発した。小林、白田の牙城を揺るがすまでに至らないのがもどかしいが、実力そのものは着実にスケールアップしている。
 高橋信也は、「フードバトルクラブ3rd」決勝での消極的な戦いで大いにミソをつけたものの、並み居る強豪を抑えて結果を残しているのだから、もっと自分を評価して良いはずだ。彼の課題は“脱・バイプレーヤー”。そのためには何よりもアグレッシブさが欲しいところである。
 引退を撤回して「フードバトルクラブ3rd」に出場した射手矢侑大の頑張りも評価できるものであった。苦手としていたスプリント系競技での善戦健闘は、さぞかし自信になっただろう。魔が差したようなファウルで勿体無い事をしたが、その悔しさを秋シーズンに繋げて欲しいと思う。大食い系競技では、唯一、白田と互角に争える実力があるだけに期待大だ。
 あと、成長度が目立った選手を挙げるならば、小国敬史立石将弘も該当するだろう。胃容量が“割れて”しまっている立石はともかく、小国には大食い系競技に対する未知の魅力もある。
 そんな中で、一抹の寂しさを覚えたのは新井和響の大不振であった。大食い系競技の集中する秋シーズンでの活躍は望めないため、リベンジの機会は最短でも年末の「フードバトルクラブ・キングオブマスターズ」での話となる。果たしてその時の彼はどのような姿を我々の前に見せてくれるのであろうか?

 一方、土門健らの登場で話題を呼んだ早飲み系競技とは対照的に、早食い系競技においてはルーキーが大不作であったと言わざるを得ない。
 「フードバトルクラブ3rd」では、ある程度の記録を残して56.5のレイトを獲得したヒロを除いては軒並み“素人大食い自慢”の域を越えなかったし、「大食い選手権」の新人戦でも、名古屋予選第1ラウンドで1.6kgの天むすを8分で完食した通過者5名が、それぞれ56ポイントを獲得したのみに終わった。これはネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権の予選会が開かれなかった影響や、前年の2001年デビュー組が大豊作だった反動が出ているのだと思われるが、それにしても寂しい限りであった。
 ただ、その代わりと言っては何だが、大食い系カテゴリの方ではスーパールーキーと呼んで良い逸材が登場した。これはまた、次回の解説文で紹介しよう。

 最後に外国勢。「フードバトルクラブ」の外国人招待枠が消滅したため、国内における外国人の活躍は見られなかった。だが、それでもネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権において、中嶋広文・新井和響全盛期の世界記録に相当する好記録をマークしたエリック=ブッカー(記録26本)とオレッグ=ツォルニツキー(記録25本1/2)が現れて、アメリカにおけるフードファイトのレヴェルアップが窺えたのは収穫だった。いずれ、彼らのような実力者の何人かが日本のメジャー大会に逆上陸して来る日も近いであろう。


 以上、「早食い・スプリントの部」をお送りしました。次回は大食い系競技のレイティング「早大食い・大食いの部」をお送りします。お楽しみに。(次回へ続く) 

 


 

7月29日(月) 文化人類学
「2002年度・フードファイターフリーハンデ・中間レイト(1)〜早飲みの部」

 今日から週1〜2回ペースの不定期で、「2002年度・フードファイター・フリーハンデ中間レイト」をお送りします。

 この企画は、今年の2月にお送りした「2001年度・フードファイター・フリーハンデ」の続編にあたるもので、本来、競走馬の客観的な絶対能力比較に使用される「フリーハンデ」を、フードファイター(早飲み、早食い、大食い選手)の能力比較に応用しようとする試みです。
 詳しい事は、「2001年度フードファイター・フリーハンデ」ハンデ一覧表)を実際に読んで頂く方が早いのですが、時間の無い方のために、ここでも簡単に説明しておきましょう。

 まず、元々の「フリーハンデ」とは、その能力比較をしたい競走馬たちを、とある条件で全て同時に走らせた場合、ゴール前で全馬が横一線になるにはどうすれば良いのかを想定して各馬に負担重量を設定し(例:芝2400mでのハンデ…馬A:61kg、馬B:59.5kg、馬C:57kg)、その数値の高さで各馬の能力を測定・比較できるようにするものです。
 この「フリーハンデ」は、同じ条件で凌ぎを削った競走馬同士の実力比較だけでなく、活躍時期の違いや得意とする条件の違いにより直接対決が不可能な馬同士でも、その数値の高さによって実力比較が可能であるという利点があります。
 よって、この「フリーハンデ」をフードファイトに適用する事で、同じ年に活躍した早食い系選手と大食い系選手の実力比較や、直接対決の無い「大食い選手権」系選手と「フードバトルクラブ」系選手との実力比較、さらには昨年の活躍選手と今年の活躍選手との能力比較が可能になるわけです。

 ──というわけで、この企画の内容、及び意義がご理解頂けましたでしょうか?

 それでは、以下に「フードファイター・フリーハンデ(以下:FFフリーハンデとする)」を編集するにあたっての規定を記しますので、あらかじめよくお読み下さい。

 

◎数値は本家の「フリーハンデ」に倣って、競走馬の負担重量風のものを使用します。重量の単位は、最近ではポンド換算が主流ですが、ここでは旧来のキロ換算の数値を使用します。ただし、競馬と違って、キロという単位に意味は有りませんので、「〜ポイント」と呼ぶ事にします。数値は0.5ポイント刻みです。
 ポイント設定の大まかな目安としては、
 ・50ポイント……フードファイター(選手)と、大食い自慢(一般人)との境界線
 ・60ポイント……「フードバトルクラブ」「大食い選手権(オールスター戦)」決勝進出レヴェル
 ……と、します。ちなみに、常識外れのビッグパフォーマンスが無い限り、65ポイントを超える事は有りません。
(逆に言えば、65ポイントを超えると、普段から一般人離れしているフードファイトの世界においてでも、常識から外れた物凄いパフォーマンスという事になります)

 また、選手間のポイント差については、
 ・0.5ポイント差……ほとんど互角だが、僅かに優劣が生じている状態
 ・1ポイント差……優劣が生じているが、逆転可能な範囲
 ・2ポイント差以上……逆転がかなり困難な差

 ……と、解釈してください。

◎今回の「FFフリーハンデ・中間レイト」の対象となる競技会は、以下の通りです。
 ・「フードバトルクラブ3rd ザ・スピード」
 ・「TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦」(本戦および地方予選)
 ・「『なにコレ!?』なにわ大食い選手権」
(全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・近畿地区予選)
 ・ネイサンズ・国際ホットドッグ早食い選手権

 

最終的に各選手に与えられるポイントは、「FFフリーハンデ」対象競技会における、ベストパフォーマンスの時の数値を採用します。
 そのため、直接対決で敗れている選手の方が、「FFFハンデ」では高い数値を得ている場合もあります。その場合は、敗れた選手が他の競技会で、よりレヴェルの高いベストパフォーマンスを見せた、ということになります。

◎ハンデは以下に挙げる7つのカテゴリに分けて設定します。
 瓶早飲み/ペットボトル早飲み(以上、食材が飲料の競技)/スプリント(5分以内)/早食い(5〜15分)/早大食い(15〜30分)/大食い45分(30〜59分)/大食い60分(60分以上)(以上、食材が食べ物の競技)

最終的に各選手へ与えられるポイントは、7つのカテゴリの中で最高値となったポイントを採用します。
 
これにより、早飲み選手、早食い選手、そして大食い選手との間での、間接的な能力比較が可能になります。

◎他、細かい点については、その都度説明します。

 

 ──それでは、今日はこれから「瓶早飲み」と「ペットボトル早飲み」のフリーハンデ及びその解説を掲載します。なお、解説文中では、人物名を敬称略、文体を常体に変更してお送りします。


 

「2002年度・FFフリーハンデ・中間レイト」
〜瓶早飲みカテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
64 白田 信幸
62.5 小林 尊
62 射手矢 侑大
  62 山本 晃也
61.5 ヒロ(安田大サーカス)
  61.5 土門 健
  61.5 駿河 豊起
61 渡辺 剛士
59.5 新井 和響
10 59 植田 一紀
11 58.5 高橋 信也
  58.5 立石 将弘
13 58 青木 健志
  58 渡辺 勝也
15 57.5 山根 優子
16 57 木村 登志男
  57 柴田 綾太
  57 加藤 昌浩
19 56.5 高橋 明子
20 56 小国 敬史
21 55.5 渡辺 高行
  55.5 渡辺 宏志
  55.5 三井田 孝敏
  55.5 福元 哲郎
  55.5 山形 統
  55.5 平田 秀幸
27 55 関 絵梨

 ※主な競技結果※

FBC3rd プレステージ

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
63(64) 白田 信幸
62.5 小林 尊
62 射手矢 侑大
62 山本 晃也
61.5 ヒロ
FBC3rd 
決勝第8ラウンド・牛乳ステージ
ハンデ
()は他競技での最高値
選手氏名
64 白田 信幸

 

〜ペットボトル早飲みカテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
66.5 土門 健
63.5 加藤 昌浩
63 山本 晃也
  63 ヒロ(安田大サーカス)
  63 小林 尊
62.5 渡辺 勝也
61 渡辺 剛士
60.5 高橋 明子
60 小国 敬史
  60 白田 信幸
11 58 青木 健志
12 54 駿河 豊起

 ※主な競技結果※

FBC3rd・1stステージ・ペットボトルの部

ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値

選手氏名
66.5 土門 健
63.5 加藤 昌浩
63 山本 晃也
63 ヒロ
62.5 渡辺 勝也
FBC3rd 準決勝第1試合
第2ラウンド(ペットボトル)
ハンデ
()は他競技での最高値
選手氏名
62(63) 山本 晃也
60 白田 信幸
FBC3rd 
決勝第3ラウンド・水ステージ
ハンデ
()は他競技での最高値
選手氏名
63 小林 尊

 

 早飲み系競技が初めてメジャー級のフードファイト競技会に採用されたのは、昨年末の「フードバトルクラブ・キングオブマスターズ」だった。しかし、その時の早飲み系競技の位置付けは、まだ早食い系・大食い系競技の補助的な役割に過ぎず、早飲みだけに長けた選手が活躍できる余地は与えられていなかった。

 だが、事態はわずか4ヶ月で急転を迎えた。
 今春に開催された「フードバトルクラブ3rd ザ・スピード」では、予選に純粋な瓶早飲み競技を採用し、本戦に入ってからも、早飲み系競技を勝敗の重要なポジションになるようなレギュレーションに設定したのである。
 これにより、早飲みのスペシャリストに早食い系・大食い系の選手を破るチャンスが与えられる事になったし、逆に、これまで活躍して来た早食い系・大食い系選手たちにとっては、早飲み系競技を克服しない事には成績上位が望めないという事になってしまったのである。それは間違いなく、フードファイト界の大変革であった。

 もともと早飲み系競技は、早食い系・大食い系競技とは求められている能力が全く違う。それ故、これまでのレギュレーションでは台頭しようにも出来なかった早飲み系の選手たちが、この「フードバトルクラブ3rd」で多数“発掘”される事になったのである。
 彼らは自分たちの土俵から離れると途端に脆さを露呈してしまったが、純粋な早飲み系競技では無類の強さを発揮し、これまで第一線で活躍していたフードファイターたちを次々と破っていった。
 しかし、まだフードファイト界には「フードファイト=大食い、早食い」という認識が根強いし、「フードバトルクラブ3rd」のレギュレーションも、準決勝・決勝では早食い系選手が有利なものとなっていた。そのため、いくら早飲み競技でスペシャリストたちが活躍しても、十分な評価が与えられないというのが現状である。
 とはいえ、早飲み系競技には、早食い系・大食い系の競技に比べて危険性が少なく、また「食べ物を無駄にしている」という批判にさらされ難いという長所がある。そのため、早飲み系競技が今後さらにフードファイト界での地位を向上させていく可能性は十分にあるわけで、それを考えると、「早飲み系競技はフードファイトではない」…などといった偏見は無くしておくべきだろう。勿論、この「FFフリーハンデ」では、早飲み系競技は他の競技と全く対等のものとしてレイティングを行っている。

 

 さて、そんな時代の要請によってフードファイト界に現れ出でた多くの早飲み系スペシャリストの中で、早くもフードファイトの歴史にその名を残す大偉業を達成する者が現れた。土門健である。
 彼は他の早飲み系スペシャリスト選手と同様、これまで全くフードファイトの世界と無縁であったのだが、「フードバトルクラブ3rd」が早飲み系選手を大々的に公募したのを機に、自らの足を大舞台へと踏み入れたのだった。
 まず土門は、予選のコーヒー牛乳180ml瓶10本タイムアタックを100名中6位という好成績で通過した。この瓶早飲みという競技は、才能よりも練習量がモノを言う競技であると言われており(事実、土門より上位にランクインした選手は、十分に準備期間を置いて訓練を積んだトップ選手たちと、早飲み芸を生業としている芸人のヒロであった)、それを考慮すると、土門の予選6位という成績は、この時点で考え得る最高の成績であっただろう。
 そして、本戦1stステージの第1ラウンド・ペットボトル1.5L早飲みタイムトライアルにおいて、土門が秘密裏に育て上げていた自らのポテンシャルを、一気に開花させることに成功した。
 土門は、1回目の試技こそ飲みこぼしでファウルにしたものの、2回目の試技では、独自で開発した完全オリジナルのペットボトル捌きを披露して、なんと4秒88というとんでもない新記録を叩きだしたのである。昨年末時点での大会記録が山本晃也の14秒43であったから、実に10秒弱の記録更新ということになる。陸上の100m走で言えば、いきなり現れた新人選手が8秒台を記録してしまったようなもので、まさに常識外れのビッグ・パフォーマンスであった。実は、このタイムトライアルでは、土門が2回目の試技を行う前に11秒台の新記録が誕生していたのだが、この4秒台の記録の前には余韻も含めて何もかも吹き飛ばされてしまった。
 この土門のスーパーレコードの秘密は、やはり何より彼が独自に開発した、“土門スタイル”とも言うべきペットボトル捌きテクニックである。
 「フードバトルクラブ」で採用されている1.5L入りペットボトルは、よく我々が目にする清涼飲料用のものではなくて、醤油などの調味料を入れる柔らかめの物である。このボトルは確かに扱いやすいのだが、中身を飲みすすめていく内に“吸い潰されて”しまい、最後の方になると思うように内容物が吸い込めないという構造的な欠点があった。
 だが、土門はこの欠点を“コロンブスの卵”的な手法で克服する事に成功した。
 彼の“土門スタイル”は、まず瞬間的にペットボトルを吸い潰すまで中身を喉に流し込んだ後、今度は潰れたペットボトルに息を吹き込んで一気に膨らますのである。こうすることによって、終盤の効率の悪さが解消されて大幅にタイムロスを解消する事が可能になる。短縮された10秒弱の内、その半分以上は“土門スタイル”の恩恵であり、それは土門の2回目の試技の後、見様見真似で“土門スタイル”に挑んだ選手たちが大幅な記録短縮を果たした事からも証明されている。まさにこれは、かつて中嶋広文が発明したホットドッグ早食いテクニック・“トーキョー・スタイル”に並ぶ、フードファイト界屈指の大発明であると言えよう。
 しかし土門の才能は“土門スタイル”の発明だけに留まらない。彼は、自らが発明した“土門スタイル”の利点を活かすために必要な才能をも持ち合わせているのである。
 先程から説明している通り、この“土門スタイル”は従来のペットボトル早飲みで生じていたタイムロスを無くし、ボトルの中身を5秒弱で一気に体内へ流し込む事を可能にしたものである。が、それは逆に言えば、1.5Lもの大量の液体を一気に飲み込むだけの能力が無ければ“飲みこぼし→ファウル”という事になってしまうわけで、決して万能の武器ではない。安全に記録を残したいのであれば、“土門スタイル”はむしろ危険とも言える諸刃の剣なのだ。
 その点土門は、一気に1L近くをボトルから吸い込んでしまう桁外れの肺活量と、それを受け止めるための、喉を完全に開いてしまう技術を兼ね備えていた。これによって、彼の“土門スタイル”は初めて無敵の武器たりえたのである。他の選手たちが見様見真似で“土門スタイル”に挑んだところで、土門の記録を脅かすことすら出来なかった理由はここにあった。土門は二重の意味で天才である。1つは“土門スタイル”を確立した独創性において、そしてもう1つは、それを誰よりも活かしきる事のできる身体能力において。
 さて、これからの彼の展望であるが、早食い・大食い競技で素人同然と言う現状では、今のようレギュレーションで「フードバトルクラブ」が行われる限り、その制覇は極めて困難であろう。これは、土門とは全く逆のタイプ──早飲み競技が苦手な早食い・大食い系──の選手が「フードバトルクラブ」での活躍が困難となってしまったのと同じ事である。
 しかし、もしも早飲み系競技オンリーのメジャー大会が開催されたとすれば、間違いなく優勝候補の筆頭に挙げられるであろう。今後の彼とフードファイト界の動向にはしばらく目が離せない。

 そんな土門健のセンセーショナルなデビューに、やや影が薄くなってしまったが、早食い系・大食い系の選手たちの中にも、いち早く早飲み競技に適応し、好パフォーマンスを見せつける選手も少なからずいた。
 その代表的な存在は、やはり国内メジャー大会4連覇を果たした“無敵の巨人”白田信幸だと言えるだろう。
 初めは大食い系選手として表舞台に立ち、その後は徐々に早食い能力を伸長させて、遂には早食い系タイトル・“スピードマスター”まで手にしてしまった白田であるが、彼はまた早飲みでも偉大な存在に登りつめることになった。
 彼は昨年末の「フードバトルクラブ・キングオブマスターズ」でペットボトル早飲みにも一定の適性を示していたが、「フードバトルクラブ3rd」では瓶早飲み競技で抜群の才能を発揮し始めた。予選では他の有力選手のファウルに助けられた面はあったものの堂々のトップ通過で、決勝での900ml大瓶牛乳一気飲みでも小林尊、高橋信也を全く寄せ付けず圧勝した。ペットボトル早飲みでは、調整不足のために記録が伸び悩んだが、これも間もなく“土門スタイル”をマスターしてトップクラスへ踊り出てくるだろう。
 彼の早飲みにおいての武器は、瓶の中身を吸い込んで流し込む力と、その巨体に兼ね備えられた大きな口である。特に彼の口の大きさは900ml入りの大瓶の口を完全に覆ってしまえるほどで、これにより全く中身をこぼす恐れもなく、一気に内容物を体内に流し込む事ができる。コンマ数秒単位の争いとなる瓶早飲み競技において、このアドバンテージは非常に大きい。競技会のたびに思う事だが、本当に彼の体はフードファイトをするために生まれて来たような体である。
 彼の活躍と天賦の才については、またスプリント・早食いカテゴリの解説で述べることにしよう。

 人間と言うものは、ひょっとした弾みで隠されていた才能が表に出てくる事があるものだが、「フードバトルクラブ3rd」における加藤昌浩の“早飲み開眼”は、まさにそれにあたるだろう。
 加藤はこれまでも大食い競技を中心に活躍していたトップ級の選手であったが、早飲み系競技とは無縁の存在。今春の「フードバトルクラブ3rd」が“早飲みデビュー”となっていた。
 そんな加藤の予選結果は18位。本戦進出は勝ち取ったものの、記録ではトップ通過の白田信幸と12秒以上も離されており、調整不足が否めないところだった。
 しかし、1stステージの第1ラウンド・ペットボトル早飲みの最終3巡目に突如エントリーした彼は、見様見真似の“土門スタイル”を駆使して9秒台の好記録を叩き出してしまった。これで彼はこのラウンドを2位で通過。まさに値千金のグッドパフォーマンスであった。(追記:その後、指摘を頂きまして、ビデオで再検証しましたところ、加藤選手のスタイルは“土門スタイル”では無いものでした。訂正いたします)
 加藤の勝因となったのは、おそらく趣味のトライアスロンなどの運動で鍛えられた心肺能力であろう。どこで何が幸いするか、本当に分からないものである。
 これで加藤は大食い能力に加えて、もう1つの大きな武器を手に入れた。これを突破口にして、これからも第一線で活躍を続けて欲しいものだ。

 さて、ここで昨年度の「FFフリーハンデ」の「早飲みカテゴリ」で高いレイティングを獲得した選手たちの動向を俯瞰しておこう。
 まず、昨年度「早飲みカテゴリ」レイティング1位の山本晃也は、トップこそ守れなかったものの、大会前に入念なトレーニングを積んだ成果が現れて、瓶・ペットボトルの両方で相当の好記録をマークした。今後は、肺活量や喉を開くといった、通り一遍のトレーニングだけでは克服不可能な部分に苦しむ恐れはあるものの、それでもトップクラスの地位は維持し続けてくれるものと思う。
 小林尊も、昨年末よりは早飲み能力において着実な進歩をして来たものの、土門健や白田信幸らの牙城を崩せずに不本意な結果に終わった。その最大の敗因は、彼の最大の弱点であるファウルの多さで、「フードバトルクラブ3rd」でもどれくらいの好記録をファウルでフイにしてしまったか分からない。これだけ「フードバトルクラブ」などでもファウル規定が厳しくなってきている昨今、そろそろ彼もこの問題に目を向ける時が来ているのでなかろうか。小林のこのファウル癖に関しては、また「スプリント・早食いの部」の解説文で詳しく述べる。
 ところで、曲がりなりとも記録を伸ばして来た山本や小林と対照的に、伸び悩みを見せてしまったのが小国敬史だった。予選の瓶早飲みではボーダーラインスレスレの20位、そして1stステージのペットボトル早飲みでは記録を残した10人中8位に終わってしまった。もっとも、小国は早食い系競技の実力を伸ばしてきているので、今回は単に早飲み競技の調整が不足していたのかもしれない。だが、小国は元々早飲み競技で台頭してきた選手だけに、彼の伸び悩みに一抹の寂しさは拭えなかった。

 この他の若手・ベテラン選手たちの中では、見事に苦手の早飲みを克服した射手矢侑大や、以前から早飲みが得意であると公言していた駿河豊起が目立ったところだろうか。予選では高橋信也新井和響もある程度の記録を残して気を吐いたが、トップクラスとは水を開けられてしまう格好になった。

 話題をルーキーたちに戻そう。土門健ばかりが目立ってしまった感のある早飲み系スペシャリストのルーキーたちだが、それでも特筆すべき活躍を残した選手たちは他にもたくさんいた。
 中でも、元力士で現在早飲みを芸として活動しているコメディアンのヒロは、実力は勿論、その独特の容姿や持ち前の愛嬌もあって抜群の存在感を発揮した。彼は(残念ながら)タレントとしてはあまり知名度が高くなかったために大会前は全くのノーマークで、彼が好記録を叩き出すたびに場内は驚きに包まれたが、何のことは無い、普段の実力をそのまま発揮しただけであった。彼としては早飲みで準決勝進出を果たせなかった事は無念だろうが、その悔しさをバネにして、これからも“芸”に磨きをかけてもらいたいものである。
 この他、記録としては霞んでしまったが、“土門スタイル”が公開される直前にペットボトル1.5L早飲みで11秒台を叩きだした渡辺勝也、員数合わせのタレント出場者の中で唯一気を吐いた渡辺剛士、女性として始めて早飲みで60ポイントのレイティングを受けた高橋明子、さらに予選で高橋信也らを押しのけてベスト10入りを果たした植田一紀らが有力な早飲み系ルーキーだった。
 残念な事に、(土門健を含めて)彼らは早食い系競技では全くの実力不足で、現状のレギュレーションではメジャータイトル奪取が望める地位にはいないという事である。せっかく早飲み系選手でも飛躍の機会が与えられたのだから、彼らには早飲みの世界だけに安住する事無く、早食い・大食いの世界へと足を踏み入れる勇気を持ってもらいたいものだ。


 ……と、いうわけで今回は以上です。また次回の「スプリント・早食いの部」をお楽しみに。(次回へ続く

 


 

7月5日(金) 文化人類学
「ネイサンズ・国際ホットドッグ早食い選手権・結果速報」

 さて、6月25日付講義でお知らせしました通り、今年もアメリカ独立記念日である7月4日の正午(日本時間7月5日未明)から、ニューヨークのホットドッグ店「ネイサンズ」にて、「ネイサンズ・国際ホットドッグ早食い選手権」(以下、「ネイサンズ選手権」と略)が実施されました。
 既にTVニュースや7月5日付夕刊などで報道されたの結果を、受講生の皆さんは既にご存知かもしれませんが、改めてここでも結果速報とその結果についての解説を行いたいと思います。

 今年のネイサンズ選手権は、ホスト国アメリカの他、前年度王者・小林尊選手を擁する日本、さらにはカナダ、ドイツ、そして数年来、フードファイト熱が高まりつつあるタイからも選手が派遣され、いつにも増して国際色豊かなものとなりました。
 そして12分間で何本のホットドッグを胃に収めるかを競うこの競技、スタートと共に飛び出したのはやはり、昨年に前代未聞の50本という大記録をマークした小林尊選手でした。

 彼の戦法は極めてスピード重視の機能的なもので、まずホットドッグのパンとソーセージを分けます。そしてソーセージを2つに折って口に運ぶと同時にパンを飲用の水につけて柔らかくし、ソーセージが胃に収まり次第、それも胃に一気に流し込んでしまうのです。
 これは、1990年代最強のフードファイターとも言われる中嶋広文さんの考案した「トーキョースタイル」を改良したもので、嚥下力(物を飲み込む力)に長けた小林選手だからこそ出来る荒業です。アメリカ人向けの大ぶりのホットドッグを1本平均14秒強で胃に収めて行くその光景は、時に戦慄すら覚える凄まじいものです。

 そんな豪快な食べっぷりを今年も披露して、小林選手は見る見るうちに他の選手との差を広げてゆきます。中には日本の一流選手顔負けのハイペースで追いすがるアメリカ人選手もいましたが、それでも小林選手との実力差は如何ともし難いものがありました。間もなく興味は、小林選手が昨年の記録50本を更新できるかどうかに絞られてゆきます
 日本からやって来た小林選手の応援団も含む300人の観衆が見守る中、今年も小林選手は人間の域を超えたハイペースを維持し続け、ついに競技時間終了の直前で昨年の記録50本に到達そこからさらにソーセージ部分の半分を口に放り込み、僅かながら記録を更新して競技を終了、それと同時にこの大会の2連覇を達成しました。
 2位はアメリカ代表のエリック・ブッカー選手記録は26本。小林選手とはダブルスコア近い大差ながらも、これは歴代3位にあたる好記録であり、アメリカのフードファイト界も実力の底上げが徐々に進んでいる事を窺わせてくれました

 ところで、今年からは従来の試合前計量に加えて、優勝者は試合後にも計量することとなり、小林選手は表彰式の際に体重を量ることになりました
 彼の試合前の体重は参加全選手で最軽量の51.3kg、そして試合終了直後の体重は58.5kgその差7.2kgで、これをわずか12分間で胃の中に収めた事になります。
 こう聞くと、「7.2kgを12分で!?」と驚かれる方も多いかと思いますが、小林選手の胃容量は最大で12kgありますし、以前にはカレーライス5kg余りを6分で平らげるというビッグ・パフォーマンスを見せた事もあります。なので、今回の出来事もあくまで“実力通り”といった感が強くフードファイト王国・日本のレヴェルの高さを見せつけた、と言った方が的確な表現かもしれません。

 まだ正式発表はありませんが、恐らく秋の番組改変シーズンには、TBSやテレビ東京でフードファイト特番が製作・放映されることと思います。その舞台で小林選手や現在の実力No.1選手である“ジャイアント”白田信幸選手などが、世界最高峰の実力を見せ付けてくれることを期待しつつ、とりあえずこの場を締めくくりたいと思います。

 それでは、短めですが講義を終わります。次回の文化人類学は7月下旬に、2002年度「フードファイター・フリーハンデ・中間レイト」を3回程度のシリーズでお送りする予定です。どうぞ、お楽しみに。

 


 

6月25日(火) 文化人類学
「ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権展望」

 今日は約2ヶ月半ぶりの文化人類学講義になります。

 ではまず初めに、“ちゆインパクト”後に受講されるようになった方のために、当社会学講座の文化人類学講義について説明しておきましょう。

 当講座では文化人類学の一貫として、フードファイト(大食い、早食い、早飲み)を研究対象にしています
 講義を実施するのは、主にTVでフードファイトの競技会が放映された時で、その内容はTV観戦レポート選手たちの戦い振りに関しての考察、さらには「フードファイター・フリーハンデ」のような選手たちの能力分析などです。
 また、研究に際しては「フードファイトは新種の競技スポーツである」という独自のスタンスをとっております。この点に関しては、ひょっとすると受講生の皆さんの認識と異なる部分があるかもしれませんが、講義を受講される中で幾らかでもご理解頂ければと思います。
 説明は以上です。

 ……では、説明が終わったところで、さっそく本題に移りましょう。
 毎年、アメリカの独立記念日である7月4日にニューヨークのホットドッグ店「ネイサンズ」では国際ホットドッグ早食い選手権が行われます。
 この選手権、詳しい概要に関しては後でまた紹介しますが、一言で表現するならば“世界最大規模の国際フードファイト競技会”という事になります。ホスト国アメリカは勿論のこと、イギリス、ドイツ、カナダ、そして世界一のフードファイト大国・日本などから各国・地区の予選を勝ち抜いた猛者たちが集結し、12分間でネイサンズのホットドッグをどれだけ食べられるかを競います。
 そして、その模様は毎年、アメリカの大手ニュースチャンネル・CNNを通じて全米及び世界各地へ配信されます。そのため、普段はフードファイトに全く無関心である日本の一般マスコミですら、この競技会の結果は結構な扱いで報道されたりします。W杯サッカーでアメリカがベスト8に進出したニュースすら1分足らずで済ませてしまうCNNですが、この国際ホットドッグ早食い選手権に関しては、ウェブサイトでも動画ニュースが配信されるくらい大きく扱ってくれますCNNではW杯サッカーよりもホットドッグ早食いの方が格上なのです。フードファイト愛好家としては、嬉しい反面、果たして世の中それでいいのかと思ってしまったりもするのが、この競技会なのです。

 さて我が日本では、今年の春に発覚した痛ましい事故のために、現在フードファイト業界は沈滞気味であります。が、当然の事ながら海を隔てたアメリカ合衆国ではそんな影響など微塵も無く、今年も7月4日に選手権が実施されます
 そしてその選手権には、昨年驚異的な大会レコードで初優勝を果たした日本代表の小林尊選手が、今年もまた優勝最有力候補として出場します。諸般の事情により、TV局による特番放映はありませんが、それでもCNNを通じて我々の前に雄姿を見せてくれる事でしょう。

 そこで今回の講義は、このネイサンズ・国際ホットドッグ早食い選手権について採り上げ、また、大会直前の展望をお送りしたいと思います。

 ……それではまず、このネイサンズ・国際ホットドッグ早食い選手権(以下:ネイサンズ選手権と略します)とは、どのような競技会か、というところからお話をしてゆきましょう。

 このネイサンズ選手権は、世界中に現存するフードファイト競技会の中で最古、もしくはそれに近いものと思われる非常に長い歴史を持っています。
 第1回のネイサンズ選手権が開かれたのは、アメリカが第一次世界大戦に参戦する直前(第一次大戦そのものは1914年に開戦)の、1916年の独立記念日・7月4日のことでした。また、会場であるネイサンズも、この年に1号店が開店しています。
 当時の参加者はわずかに4名。それも全てがヨーロッパ系移民1世でした。その選手権開催の趣旨は、時勢を反映して“アメリカ生まれの食べ物であるホットドッグを食べる事で、ヨーロッパ系移民たちのアメリカに対する愛国心をアピールするため”というもの。つまりは「愛国心ナンバーワン決定戦」だったというわけです。今となっては信じられませんが、アメリカのフードファイト史は、多分に民族的・政治的な問題の影響を受けてスタートしたことになります。
 そしてこの第1回大会が好評だったのか、これ以後、ネイサンズでは毎年独立記念日にホットドッグの早食い選手権を実施するようになりました
 それから現在に至るまで、選手権の開催が行われなかったのは、第二次世界大戦の激化に抗議するため中止された1941年と、国内の社会不安などに抗議するために中止された1971年の、わずかに2回だけ。驚くべき事に、それ以外の年は戦時中だろうが世界恐慌の真っ只中だろうが開催されていた事になります。それを考えると、そりゃ日本も戦争で勝てるはず無いわな、と思ってしまいますよね。日本では食料の配給が滞って芋の蔓とか食ってる頃に、アメリカではホットドッグの早食いやってるわけですから、こりゃあ話になりません。
 それに、よく考えれば今年も全米同時多発テロの9ヵ月後であり、対アルカイダ戦争の余波がまだくすぶっている段階。これが日本ならば、ほぼ間違いなく自粛しているような状況でしょう。そんな中でも開催できるというのは、アメリカという国の大らかさに加えて、もともとこの選手権が「愛国心ナンバーワン決定戦」という趣旨を持っていたためだと思われます。
 もっとも、随分前から愛国心丸出しの国家発揚イベントという性格は薄れていて、今では一種のお祭り的なフードファイト・イベントという認識を持たれています。海外から代表選手を招くのもそういうわけでしょうね。

 ところで、現在のネイサンズ選手権は、IFOCE(国際大食い競技連盟)なる団体が運営しています。
 この団体は、かつてネイサンズ選手権で活躍した元選手らによって結成されたアメリカ最大手のフードファイト団体で、さらにその会員として、全米各地及び各国のフードファイト競技会主催者が加盟しています。ちなみに、日本は「TVチャンピオン・大食い選手権」を主催しているテレビ東京のみが会員として名を連ねています。
 そしてネイサンズ選手権は、このIFOCEが運営するフードファイト競技会の中で唯一の国際競技会であり、それゆえに格別のグレードを誇っています。一応の大会参加資格は18歳以上というだけですが、実際に本大会に出場するためにはIFOCEやその会員が主催する、全米15箇所と英・独・加・日4カ国で行われる予選を勝ち抜いて代表枠を確保しなければなりません(前年度優勝者は予選が免除されて無条件で出場。その他にもIFOCE推薦枠が存在するようです)

 さて、このネイサンズ選手権ですが、ここ数年はホスト国アメリカを日本勢が圧倒する状況が続いています。
 一説によると、日本人選手は1980年代の後半からネイサンズ選手権に出場していて、7年連続で日本勢が優勝するなどの大活躍していたとも言われていますが、詳しい事はよく分かりません。ある意味、神話のような話ですね。(追記:1986年に富永弘明氏が優勝し、フジTVの番組で放送されたという事実が判明しました。ただし、他の年の大会については依然として不明です)
 日本でテレビ東京主催による予選が行われ、正確な記録が残されるようになったのは1997年から。この年、日本は3つの本戦出場枠を与えられ、中嶋広文・新井和響・村野達郎の3選手が日本代表として選出されました。そして本大会では、中嶋広文選手が、ホットドッグのパンとソーセージを別々に食べる“東京スタイル”を駆使し、12分間でホットドッグ24本1/2という世界レコードを樹立して優勝新井和響選手も24本で準優勝を果たし、日本勢の見事なワン・ツーフィニッシュとなりました。今から考えると、この年の選手権は、フードファイト大国・日本の原点となるものだったと言えるでしょう。
 しかしこの大会後、中嶋選手とテレビ東京の間でトラブルがあり、両者がほぼ絶縁状態になるという最悪の事態となりました。その結果、中嶋選手はディフェンディング・チャンピオンとしてネイサンズ選手権に翌年以降も出場する一方で、彼が出場する以上はTV画面に彼の姿を映さなければならないテレビ東京は大会参加をボイコットすることに。中嶋選手が98年に二連覇を達成した後、99年にアメリカ人選手に敗れて(準優勝)現役を引退するまでの2年間、この憂慮すべき状況が続く事となりました。
 中嶋選手の現役引退に伴い、テレビ東京による日本予選が再開されたのが2000年です。この年も日本は代表枠3を与えられ、3年前の準優勝者にして「TVチャンピオン」早食い選手権者だった新井和響、さらに藤田操赤阪尊子を加えた、日本フードファイト界を代表する3選手が本大会出場を果たしました
 そして本大会では新井和響選手25本1/8の新記録で悲願の初優勝。残る日本勢2人も、藤田操選手が準優勝で赤阪尊子選手が3位と、日本人選手が表彰台を独占するという慶事となりました。まさに空前絶後の大偉業と言えましょう。
 その翌年、2001年の日本代表枠は前年度優勝の新井選手を含めて2つ。代表枠削減の理由は不明ですが、駒木個人の推測としては、前年の表彰台独占のような事態が続くとホスト国アメリカの立場が無いので、日本に“遠慮”をしてもらったのではないかと思っています。
 この年の日本代表は、新井選手と、前年末にデビューして以来、国内メジャータイトルを総ナメにしていたスーパールーキー・小林尊選手。特に、デビュー以来無敗の快進撃を続ける小林選手の戦い振りに注目が集まりました
 そんな注目を集めた本大会で、我々は信じられない光景を目にする事になりました。
 それは、これまでの常識を根底から覆すような小林選手のビッグ・パフォーマンス。前年に新井選手が樹立したばかりのレコード・25本1/8を前半の5分でアッサリと更新するや、とうとう最後は
50本まで記録を伸ばしてしまったのです。新井選手も王者の意地を見せて記録を伸ばすも31本まで。新世紀に相応しい豪快な王座交代劇となったのでした。

 ……と、こんな歴史を歩んできたネイサンズ選手権。今年は第85回大会となります。それでは今回の日本代表選考状況と本大会展望をお送りします
 まず国内代表の選考についてですが、今年も例年通り、テレビ東京による国内予選が実施される予定でした。しかしこれが諸般の事情により中止となり、代表枠を返上することとなりました。
 そういうわけで、一時は代表派遣そのものも危ぶまれたのですが、今年設立された日本初のフードファイト選手プロダクション・FFAのバックアップにより、前年度チャンピオンの小林尊選手が無事出場できることとなりました。また、FFAサイドは、FFAの主力選手である高橋信也選手のIFOCE推薦枠での出場も要請。IFOCEはこれを一旦は許可したのですが、IFOCE側が会員であるテレビ東京との関係を考慮したのか、後に高橋選手の出場許可を撤回してしまいました。というわけで、残念ながら今年の日本代表は小林選手ただ1人という事になります。
 随分と手薄になってしまった日本勢ですが、だからといって、フードファイト大国・日本の牙城は揺らぐ事はありません。ここ最近、保持していた国内主要タイトルを失うなど、その栄光に若干の翳りが見えてきた小林選手ですが、外国勢との実力差は歴然としています。余程のアクシデントや有力新人選手の登場が無い限りはV2の可能性が極めて濃厚でしょう。むしろ焦点は、昨年樹立された12分間50本という超人クラスのレコードを更新できるかどうか。日本のフードファイトのレヴェルはこの1年で飛躍的な向上を遂げていますから、おそらく今年もとんでもない記録が生まれるのではないかと思われます。

 そんな注目の第85回ネイサンズ・国際ホットドッグ早食い選手権は、現地時間の7月4日正午、日本時間の7月5日未明に行われます。恐らく日本では7月5日の午前中にはCNN経由で結果と映像が見られることになると思いますので、受講生の皆さんも注目してください。

 それでは、予想外に長くなりましたが講義を終わります。(この項終わり)

 


 

4月5日(金) 文化人類学
「『フードバトルクラブ3rd』TV観戦レポート(2)」

  さて、諸事情あったとはいえ、日付が随分すぎてしまいました(これを書いている時点で7日の午後)。
 更新が遅れた直接的な理由がフードファイト関係者出席者とのオフ会(+取材活動)だったという事で、ご勘弁願いたいと思います。

 では、今日は「フードバトルクラブ3rd」レポートの後半部分。準決勝と決勝戦のレポートと戦況分析を述べていきたいと思います。
 ※予選、1stステージ部分のレポートはこちらをクリックしてジャンプしてください。

 では、以下のレポート文中では敬称略、及び文体変更を行います。


 ☆準決勝 「スピード・シュートアウト」

 ※ルール:マッチレース形式「シュートアウト」のスプリント・ヴァージョン。
 まず参加6選手による組み合わせ抽選が行われ、2人ずつ3組に振り分けられる。これがそのまま対戦カードとなる。
 対戦形式は以下の通り。
 ・1セット1食材の早食い勝負を4セット行う。
 ・勝敗は4セットの完食タイムの合計による。合計タイムが早い選手が決勝進出。
 ・対戦している両選手の合計タイムの差が30秒開いた時点で、たとえ競技中でも“コールドゲーム”となる。
 
(例:A選手とB選手の対戦で、第1セット終了時点でA選手が10秒リードしている場合、第2セットでA選手が完食してから20秒経過してもB選手が完食出来ない場合、合計タイムの差が30秒を超えるため試合終了となる)
 ・テーマ食材は、1セットごとに6つの食材(後述)の中から抽選で決定する。
 ・完食タイムは、スタートの合図があってから、完食後に選手が自テーブルの時計のストップボタンを押すまでとする。
 そして、テーマ食材は以下の6種類。
 ・親子丼2杯(=1kg)
 ・ステーキ4枚(=1kg)
 ・稲庭うどん4皿(=1kg)
 ・ウーロン茶ペットボトル1.5L
 ・ギョーザ10皿70個(=1.05kg)
 ・チーズケーキ5皿15個(=1.05kg)

 それでは、これから各試合の模様を、選手プロフィールも交えながら紹介する。文中で登場する「2001年フリーハンデ」については、こちらを参照して頂きたい。

◆第1試合◆
白田信幸VS山本晃也

 第1試合は、これがマッチレースでは初対戦となる屈指の好カード。
 白田信幸は2001年度「大食い選手権・新人戦」でメジャーデビュー(準優勝)した、2001年デビュー黄金世代の1人にして大将格。身長193cm体重86kgという大柄な体格から“ジャイアント白田”、“大食い大魔神”などの異名をとる。
 デビュー当初こそスピード不足から胃袋を余して負けるケースが見られたが、その後間もなくして急速に早食い力を身につけて一気に台頭。2001年秋シーズンでは、「フードバトルクラブ2nd」、「大食い選手権・スーパースター頂上決戦」、「FBCキングオブマスターズ」とメジャー大会3連勝の偉業を成し遂げ、今や自他共に認めるフードファイト界最強の男。
 今大会は“大食い系選手”というイメージから苦戦が予想されたが、予選、1stステージともに小林尊を上回る記録をマークしてのトップ通過。ペットボトル早飲みに唯一の弱点を残すものの、ここに来て彼の死角は極めて少なくなっている。
 2001年のフリーハンデ値は、総合67(1位タイ)、早飲み59(4位タイ)、スプリント62(6位)。

 山本晃也は、バラエティ番組内の大食い企画出身で、その後にメジャーシーンにデビューした異色のフードファイター。メジャーデビューは「フードバトルクラブ2nd」(準決勝敗退)で、彼も2001年デビュー黄金世代の1人。
 彼の武器は、6kg強という一流選手並の胃容量をバックボーンにした早飲み・早食い。特に強いのが早飲み競技で、早食いでもお茶漬けやカレーなどの飲み込み易い食材で好成績を残している。早食い力が要求される「フードバトルクラブ」では毎回上位に食い込み、特に「FBCキングオブマスターズ」では決勝進出(3位)を果たしてトップグループの一角に堂々食い込んだ。
 今大会は、予選では1位相当成績をファールで潰した後に4位通過、1stステージではスポーツドリンク3位、寿司3位、カレー1位と、“遠回り”を強いられながらも安定した実力を発揮して準決勝進出を果たしている。
 2001年のフリーハンデ値は、総合64(4位タイ)、早飲み61(1位)、スプリント64(2位タイ)。

 バックステージのエピソードだが、試合前、いつもは余裕綽々のはずの白田がややナーバスになっていたと言う。それもそのはず、彼は年末の「FBCキングオブマスターズ」の3回戦(早飲み・スプリントのタイムレース)で山本に敗れている上に、今回が初の一騎撃ち。白田にとってみれば、むしろ1stステージで破っている小林尊が相手に回った方が気が楽だったろう。メジャー大会4連覇に向けて、最大の正念場がやって来た。
 一方の山本、1stステージでは寿司部門で白田の後塵を拝しているものの、この準決勝に寿司は無い。6つの食材の中で明らかに不利なのはチーズケーキくらいで、逆に山本の方に絶対的有利なペットボトルもある。そして何より無欲で王者に挑んでいけるチャレンジャー精神を持てるのが大きい。
 両選手の精神状態に微妙な温度差を残しながらも、戦いの狼煙は舞い上がる。

  ★第1セット〜餃子70個〜

 第1セットは餃子。「FBCキングオブマスターズ」の3回戦では餃子35個でタイムトライアルが行われているが、その時のタイムは山本・44秒92、白田・48秒04。しかし、今大会では大幅な記録更新が相次いでおり、このタイムはほとんど参考にならない。

 スタートと同時にわずかながらリードを奪ったのは山本。一気に餃子を口に掻きこんで勝負をかける。一方の白田は水を使わずに勝負したためか、ややリズムが悪い。5皿完食時点までは数個ほど山本がリードしていた。もし、これが従来の「シュートアウト」ならここで勝負は決まっていたはずで、白田はある意味ルールに救われた格好に。
 終盤、トップスピードの持続力と、体格差で上回る白田が際どく逆転。1分30秒98で完食し、一本目を先取。しかし、山本も約2秒差で続き、ここはほぼイーブンの結果に。
 ※第1セット結果※ 白田信幸2.10秒リード

 

 ★第2セット〜ウーロン茶ペットボトル1.5L

 ここで山本得意のペットボトルが登場。あまり大きく差をつけられない食材ではあるが、それでも現在のビハインドなら十分逆転できる範囲。当然、ここはトップスピードで飛び出した。
 一方の白田、このペットボトルだけは研究が不徹底だったと吐露。競技の様子を見ている限りでは、確かにペットボトル捌きがいかにも未熟だった。逆にいえば、これからの研究次第ではタイムが大幅に短縮できるという事でもあるが……。
 結局、ここは山本の勝利。タイムは手動計時で12秒前後。自己ベストとはならなかったが、現時点での実力は発揮できたといえよう。
 白田は約4秒遅れて完飲。しかし、あのペットボトル捌きで16秒台とは恐れ入る。白田はどの競技ででも、何か我々を驚かせてくれる。

 ※第2セット結果※ 山本晃也4.49秒リード→累計・山本2.39秒リード

 

 ★第3セット〜餃子70個〜

 ここで再び餃子がテーマ食材に。関係者筋の話によると、山本陣営は「ここでどうして餃子なんだ」と運の無さを嘆いたという。一方の白田は「(餃子と決まった時点で)自分がリードできるのは間違いないと思った」と、失いかけていた余裕が蘇る。まさに明と暗。

 このセット、前半戦はほぼ互角。だが、5皿目で山本のスピードがやや鈍ったのを見逃さず、白田が一気に差を広げにかかった。その後の勢いの差は詰まらず、白田9皿63個完食時点で差がほぼ2皿に広がる。
 白田が大差をつけて、まず完食。タイムは残念ながら不明。TVでの様子では、すわ、1分を切ったか? と思われたが、どうやら微妙に数箇所カットされていたようで、恐らく1分20秒台のタイムではないかと思われる。ずば抜けて素晴らしいタイムとは言えないものの、この勝負所でタイムが落ちないのが白田の真骨頂。
 山本、必死で進みゆく秒針に抵抗するが、なかなか餃子が入ってゆかない。以前の「シュートアウト」でも3セット目で勢いが落ちた事があったが、ここでもそのパターンを繰り返してしまった。完食して時計のストップボタンを叩いたが、その直前にビハインドが30秒に達していた。無論、ここで間に合っていても白田相手に1セットで30秒以上の差をつけるのは不可能なので、どっちにしろここで勝負は決していた。

 ※第3セット結果※ 白田信幸のアドバンテージが30秒を超えたため、試合終了。勝者は白田信幸。

 白田、1stステージの小林尊に続き、早飲みとスプリントのチャンピオンクラスに勝利。最高の“手土産”を手にして決勝戦進出を果たした。

 

◆第2試合◆
土門健VS小林尊

 第2試合は、彗星の如く現れた早飲みのニューヒーロー・土門健と、早食い世界王者・小林尊との注目の対決。

 土門健は今大会がメジャー大会デビュー戦になるルーキー。彼は徹底的にペットボトル早飲みのテクニックを追求し、“土門スタイル”というペットボトル捌きの新技を引っさげてフードファイト界に登場した。
 今大会は、予選こそ6位に甘んじたものの得意のペットボトル早飲みでは遺憾なく能力を発揮。スポーツドリンク1.5L部門で彼は、4秒88という常識外れのスーパーレコードを樹立。文句なしの1位通過で準決勝にコマを進めた。

 フードファイト・ウォッチャーの方で小林尊を知らない方はいらっしゃらないと思うが、この機会に改めて彼の経歴を紹介しておこう。

 彼のメジャーデビュー戦は2000年度の「大食い選手権」スーパースター戦。この大会の新人枠で出場した彼は、当時のフードファイト3強であった赤阪尊子、岸義行、新井和響を撫で斬るように破って、デビュー戦でいきなりメジャータイトルを獲得する。その端正な顔立ちと野性味溢れる豪快な食べっぷりは、たちまち一般層やフードファイト・ウォッチャーの人気を集め、現在に至るフードファイト・ブームの原動力ともなった。
 そして翌2001年の春シーズンは、小林尊の絶頂期となった。小林はまず、「フードバトルクラブ1st」を圧勝で征してメジャー大会2連勝を達成。返す刀でネイサンズ・ホットドッグ早食い大会に出場すると、ここでも12分でホットドッグ50本という前人未到の大記録を達成して“世界王者”の称号を獲得した。まさに当時の彼は無敵であり、永遠に彼を超える者は現れないとすら思われた。
 だが秋シーズンに入ると、彼は手に入れたばかりの王座を、白田信幸に1つずつ筍の皮をむしられるように奪われていった。
 まず「フードバトルクラブ2nd」、彼は準決勝までは春と同じ“無敵のプリンス”であった。しかし小林は、決勝戦の牛丼60分大食い勝負で白田相手に思わぬ、そして生涯初めての敗北を喫する。更にその直後の「大食い選手権」は、体調不良のため欠場を余儀なくされて戦わずして失冠の憂き目に。捲土重来を期した「FBCキングオブマスターズ」でも成長した白田の総合力の前に歯が立たず、準優勝に終わる。この再度の敗戦は、早食い・スプリント競技では無敗を維持したままの失冠とはいえ、明らかにフードファイト界の盟主が入れ替わった事を示す出来事であった。
 そして今大会、まるで小林のために設けられたようなスプリント競技のトーナメントであるにもかかわらず、2つの勝ちあがり過程では共に白田の先行を許し、スプリントでの無敗神話も崩壊の時を迎えた。小林にとってフードファイト人生最大の正念場を目の前に、まずは早飲み系ニューヒーロー・土門の挑戦を受ける。
 2001年のフリーハンデ値は、総合67(1位タイ)、早飲み60.5(2位)、スプリント65(1位)。

 この2人の対決、何より注目されたのはテーマ食材決定の抽選であった。実はバックステージで「食べる方のトレーニングは積んでいない」と関係者に吐露していた土門。彼の立場にしてみれば、確率1/6のペットボトルを何回引き当てる事が出来るかに全てが懸かっていた。そして外野の我々にしてみても、土門×小林のペットボトル対決は是非見てみたい試合だった。
 だが、無常にも抽選用のダーツが刺さったのは、的の「チーズケーキ」と書かれた部分であった──

 ★第1セット〜チーズケーキ15個

 胃容量のバックボーンが無い土門にしてみれば、まだ胃袋に余裕がある早いラウンドでは何とか小林に喰らいつき、抽選でペットボトルが当たるのを待つしかない。一方の小林は、勝負に紛れが来ない内に一発で決めてしまいたいところだったろう。
 試合開始。意外と言っては失礼だが、1皿目は土門もほとんど互角に試合を進めている。今回採用されたチーズケーキがフォークに刺さらない食べ難いタイプのものだった事も作用したか。
 だが、“普通の人が普通は食べない量”に入ってからは、やはり現時点での力量差が大きく現れてしまう。よく考えてみれば、スプリント競技では、あの赤阪尊子ですら子ども同然の扱いをされてしまうのが小林尊という選手なのである。土門には悪いが、ここで差が開かなければおかしいのだ。
 結局はワンサイド・ゲームに。小林が完食後30秒経過しても、土門は13個半ほど完食したところ。真剣勝負の現実はいつも残酷だ。だからこそ、稀に起こる奇跡は、我々の目に目映く輝くのであるが……。

※第1セット結果※ 小林尊のアドバンテージが30秒を超えたため、試合終了。勝者は小林尊。 

 小林尊、磐石の決勝進出。決勝では今や宿敵となった白田信幸が待っている。

 

◆第3試合◆
加藤昌浩VS高橋信也

 第3試合は、「フードバトルクラブ」常連2人の対決。しかし、意外な事にこれも初対決となる。

 加藤昌浩は「フードバトルクラブ1st」でメジャーデビューを果たした選手。年齢のためであろうか、あまり意識される事は無いが、彼もまた2001年デビュー黄金世代の1人に挙げる事が出来る。
 「フードバトルクラブ」出身の選手は、どうしても早食い系選手という印象があるが、彼は大食い系競技を得意とする異色のタイプ。早食い競技ではボーダーラインスレスレを行き、「ウェイトクラッシュ」などの大食い系競技で一気に上位に進出する…というパターンが彼の持ち味だ。早食い力のバックボーンが無いまま「フードバトルクラブ」2度の準決勝進出は快挙とも言える。
 また、彼は活躍の範囲が広いことでも知られている。地方の非メジャー大食い競技会を転戦して好成績を挙げているし、2001年秋の「大食い選手権・スーパースター頂上決戦」にも予選出場していたとの情報がある。(どうやら稲川祐也、渡辺人史、別府美樹に次ぐ4位だったとの事)
 今大会、彼は苦手の早食い系トーナメントとあって苦戦が予想されたが、これまで隠れされていたペットボトル早飲みの才能を開花させてペットボトル部門2位で準決勝に進出。早飲みで山本晃也越えを果たした事は高い評価を与えて良いだろう。
 2001年のフリーハンデ値は、総合61.5(10位タイ)、早飲みはランク外(データ不足のため)、スプリント54.5(15位)。

 高橋信也は「フードバトルクラブ1st」でメジャーデビューを果たした、2001年デビュー黄金世代の1人。早食い系競技に重きを置いた活動ながら、大食いにもある程度対応できるゼネラリストで、活躍は多岐に渡る。
 デビュー戦の「フードバトルクラブ1st」では、白田信幸・射手矢侑大・山本晃也を欠いたメンバー構成ながら準優勝を果たし、「大食い選手権・新人戦」では、今度は白田・射手矢と共に決勝に進出(3位)。ネイサンズ・ホットドッグ早食い大会の日本予選でも決勝に進出し、小林尊に次ぐ2位の成績を挙げている。まさにゼネラリストとは彼のような事を言うのであろう。
 ただ、ここ最近はトップグループの一角を占めながらも優勝争いからは蚊帳の外に置かれている感が否めなくなっている。薄れつつある存在感をどこまで取り戻せるかが、今年の彼の課題になってゆくだろう。
 今大会の彼は、予選11位、1stステージ寿司5位、カレー2位という成績。しかもカレーは射手矢のファールに助けられた形で、準決勝進出者6名の中で、最も苦しい勝ち上がり過程を潜り抜けてきた。この苦闘がどこまで報われるだろうか。
 2001年のフリーハンデ値は、総合63(7位タイ)、早飲み59(4位タイ)、スプリント63(4位タイ)。

 スプリントカテゴリのハンデ値に9.5ポイント差のある両者。早食いオンリーでは加藤に勝ち目がないだけに、何とか1度でもペットボトル勝負に持ち込みたいところだったが……

 ★第1セット〜チーズケーキ15個

 無常にも、テーマ食材はチーズケーキに決定。こうなってしまうと、第2試合の土門×小林戦のように、明らかな力の差が結果となって表われてしまう。クレバーな高橋の事だ、ペットボトルが来る前に勝負をつけてしまう算段だったのだろう。鮮やかなスパートを決めて、大差をつけた。加藤はなんとか第2セットに勝負を持ち込みたかったが、完食直前にビハインドが30秒を超えてしまった。

 ※第1セット結果※ 高橋信也のアドバンテージが30秒を超えたため、試合終了。勝者は高橋信也。 

 決勝戦3つ目の枠を手に入れたのは高橋信也。準決勝は多分に運に恵まれた部分もあったが、その強運も彼の持ち味のはず。その運を決勝にまで持ち込むことが出来れば、悲願のメジャータイトルが見えてくる。

 

 ☆決勝 「ザ・スピードマスター」

 ※ルール:詳細は以下の通り
 ・10種類のテーマ食材が設定され、1つのテーマ食材ごとに競技を行なう。
 ・出場者の3選手は、各々のテーブル前でスタンバイ。スタートまでの間、テーブル上の食材(皿など)をテーブル上の範囲でセッティング可能。
 ・スタートの合図と同時に3選手同時に競技開始。各選手のテーブルの端にボタンが設置されており、各選手は完食した後、ボタンを押す。ボタンを最も早く押した選手がそのテーマ食材・飲料の勝者となる。
 ・食材を食べ残したり食べこぼした場合はファールとなって、最下位に降着となる。
 ・先に5勝した選手が優勝となる。(誰も5勝しないままに10戦終了した時は、最大13戦まで延長戦を行う予定だったらしい)

 決勝のレギュレーションは、分量が1kg以下ばかりの超スプリント戦。根本的な能力はもちろんの事、プレッシャーに負けない強靭な精神力が要求される、見た目以上にシビアな競技形式。慎重さと大胆さのバランスを上手く取る事が出来た選手が勝利を掴み取れる。

 ★第1戦:寿司10皿20カン(=500g)

 白田・小林互角のスタート。しかし、高橋は勝機が薄いと判断して試合を放棄。
 残る両者の争いは、もはや「コンマいくつ」差の領域。14カン辺りまでは小林がほんの僅かだけリード。しかし、最大8カンまで口に入れる事の出来る白田が「最後の4カン」で一気に逆転。まずは貴重な1ポイントを獲得した。

白田 信幸 15秒97完食 1勝
小林 尊 16秒53完食 0勝
  高橋 信也 (試合放棄) 0勝

 

 ★第2戦:シューマイ5皿25個(=450g)

 この第2戦も、高橋は試合放棄。徹底した“退却戦”で後半戦に勝負をかけたようだ。
 またしても残された白田と小林。両者の明暗を分けたのは食器選択だった。
 箸を選んだ小林が皿の上で転がるシューマイにリズムを狂わされる一方で、フォークを選んだ白田は後半からコツを掴んで一気にスピードを上げた。最後は1皿に近い大差がついて、白田が2勝目。

白田 信幸 30秒44完食 2勝
小林 尊 21個完食 0勝
  高橋 信也 (試合放棄) 0勝

 

 ★第3戦:水ペットボトル1リットル

 ここも高橋は試合放棄。白田もスタートからしばらくは競技を続けたが、小林のスピードを見て利あらずと手を止めた。小林が労せずして1勝。しかし実力で得た1勝ではないためか、表情は険しいまま。

小林 尊 6秒58完飲 1勝
  白田 信幸 (試合放棄) 2勝
  高橋 信也 (試合放棄) 0勝

 

 ★第4戦:ちくわ3本(=495g)
 第4戦にして、初めて高橋が試合に参加。ようやく三つ巴の戦いが実現した。
 1本目は小林が先行。ちくわを競技で食べた経験がある分のアドバンテージか。
 しかし2本目から一気に白田が差を詰めて瞬く間に逆転。一方の高橋は遅れ始め、途中で諦めた。
 3本目、小林は「横方向に食べる→丸めて一気に口へ詰め込む」という作戦を採ろうとしたが、白田の方が明らかに早い。白田、この勝負は早食い能力が勝因の完勝だった。

白田 信幸 40秒53完食 3勝
小林 尊 2本完食 1勝
  高橋 信也 1本完食 0勝

 

 ★第5戦:ステーキ3枚(=750g)
 この食材を苦手とする小林、“盟友”高橋に全てを託して無念の試合放棄。
 だが、白田のスピードは高橋のそれを完全に上回っていた。あっという間にステーキ半枚以上の差がついてしまい、高橋は無念そうに食器をテーブルに置く。白田、早くも4勝。優勝へリーチをかけた。

白田 信幸 1分29秒46完食 4勝
高橋 信也 1枚完食 0勝
  小林 尊 (試合放棄) 1勝

 
 ★第6戦:イチゴ3皿24個(=480g)
 以前、イチゴが競技に使用された時はフォーク使用が義務付けられたが、今回は手掴みで争われた。
 こういう形式になると強いのは小林。両手を同時に使うフォームで次から次へとイチゴを口に放りこみ、口内で一瞬の内に磨り潰して飲み込んでゆく。片手しか使わなかった白田と、磨り潰さずに飲み込もうとした高橋は微妙にタイムをロス。この決勝、小林は初めて彼らしい勝ち方で2勝目を獲得。

小林 尊 14秒79完食 2勝
白田 信幸 22個完食 4勝
  高橋 信也 19個完食 0勝

 

 ★第7戦:杏仁豆腐3杯(=500g)
 単独でフードファイトに使用されるのは、恐らく初めてであろう杏仁豆腐。敢えて似たタイプの食材を挙げると、お茶漬けあたりだろうか。
 タイムロスの出にくい食材だけに、ここも1秒未満の争い。3人がほぼ同時に杏仁豆腐を掻きこんで行く。しかし、こういう接戦になると体格(口の大きさ)で勝る白田が有利。3杯目を一気に口に流し込んでボタンを押した。小林もほぼ同時にボタンを叩くが0.4秒遅れていた。万事休すか? 
 だがその時、レフェリーから“物言い”。よく見ると白田の足もとに靴で踏み潰された杏仁豆腐が確かにある。赤旗、記録無効。白田はもぎ取ったはずの優勝を剥奪されてしまった。一方の小林は、まさに命拾い。遅れていた高橋も赤旗が揚がり、彼も記録無効となった。

小林 尊 14秒04完食 3勝
白田 信幸 1位降着(13秒64) 4勝
高橋 信也 ─── 0勝

 

 ★第8戦:牛乳・瓶900ml
 900ml入りの瓶ということもあって、かなり大きい瓶での完飲勝負。口の大きな白田は完全に瓶の口をくわえ込む事が出来たが、小林と高橋にはそれが無理。使用されていたのがこの900ml瓶だった時点で勝負は見えていた。瓶をくわえたまま垂直に立てて牛乳を一気に口とノドに流し込んだ白田が完勝。正真正銘の5勝目を獲得して、ここに初代スピードマスター・白田信幸が誕生した。

白田 信幸 8秒14完飲 5勝
  小林 尊 ─── 3勝
  高橋 信也 ─── 0勝

 

 圧倒的な“小林尊有利”という下馬評を覆して、初代スピードマスターの座に就いたのは白田信幸だった
 すでに昨年末の「FBCキングオブマスターズ」の時点で早食い・早飲みでもトップグループ入りを果たしていた白田だったが、それでも今大会で早食いトップ2の小林尊と山本晃也を完封してしまったのには正直驚いた。
 彼の驚異的なパフォーマンスを支える最大の武器は、フードファイトをするために生まれてきたような恵まれた体であろう。“食材を口に入れた時点で完食”という現行ルールが生き続ける限り、彼の早食い系競技における体格的アドバンテージは絶大なものとなる。
 ウォッチャーの中には、「口が大きいから勝てた」と、彼の能力を不当に過小評価する向きがあるが、これは正しくない。どんな競技でも体格・体質に恵まれた選手が有利なのは当たり前で、それも含めて才能なのである。その上で、例えば舩橋稔子のように体格で恵まれない選手が結果を残した時は、いつも以上に賞賛すれば良いだけの話なのである。
 ところで、圧勝に見えた彼の決勝でのパフォーマンスだが、実は見た目以上に際どい接戦であった。第1戦の寿司は、おそらく10回同様の競技をすれば最低2〜3回は小林尊が勝っただろうし、第2戦のシューマイも食器選択に差が無ければ危なかった。「タラ・レバ」は禁物なのを承知で敢えて書くが、もしも第1、2戦を小林に獲られていた場合、恐らく第6戦のイチゴ終了時点で現実とは逆に、小林がリーチをかけていた事になる。そうなればかなりの確率で、勝利の女神は小林に微笑みかけていたはずだ。まさに勝負は水物なのである。
 思い返してみれば、今大会ほど白田に運が味方した競技会は無かった。ルール設定、試合展開、勝負の綾、全てが白田有利に作用した。例えば決勝での並び順。白田は他の選手の動向を見られる上で有利な最後方のポジションにいた。これはただ単純にカメラアングルの都合で、身長の高い人間ほど後ろに回されただけだったと言うから恐れ入る。こういう強運が勝手に白田の方へ降り注いでいくのだから、他の選手にとっては処置無しだったろう。
 白田はこれでメジャー競技会4連勝。まさに無敵の快進撃である。これまでにも、赤阪尊子や小林尊が不動の王者(女王)として君臨している時期はあったが、安定感で言うと白田の安定感はその上を行く。果たして無敵の王者を破る人間はいつ現れるのか? ある意味これは、業界全体の行く末を占う話題でもあり、非常に興味深い。

 三度準優勝に甘んじた小林尊。今回、これまでの競技会で彼の体全体からオーラのように滲み出ていた凄みがやや薄らいでしまったように感じたのは気のせいだったろうか? これはただ単に、他の選手の研究が進んだ結果、小林と他選手との差が詰まって来ただけなのかもしれないが……
 また、回を追うごとに厳しくなっていくペナルティ規則も、彼の勢いに水を差している要因だ。彼の食べ方は良い意味でも悪い意味でも荒っぽく、ワイルドである。それに手かせ・足かせをハメてしまうような現在の規則は彼にとってかなり苦痛であろうと思われる。だが、絶えず揺れ動くルールに対応できてこそ一流選手である。一念発起して箸捌き、ナイフ・フォーク捌きに磨きを掛けるくらいの意気込みを持つことを期待したい。
 いよいよ残る彼の主要タイトルは、ネイサンズ・ホットドッグ早食い大会のみになった。追い込まれた手負いの元・王者がどのようなリベンジに向かうか、大変期待している。

 3位に終わった高橋信也。彼も自らコメントを出しているが、完全に作戦ミスから来る惨敗である。ただでさえ効果が疑問的な“撤退戦術”、これを実力下位の人間がやってしまっては逆効果である。これでは他の選手を助ける事にはなれど、苦しめる事にはならない。
 ただでさえ、今回の決勝はちょっとした事で順位の入れ替わるシビアなレギュレーションであった。トップの選手がファール→記録無効となった時の事を考えると、2着争いに参加する事がいかに大事か分かるだろう。それを自ら3位に甘んじる戦術を採用してしまってはどうしようもない。
 そもそも高橋には、以前から油断したりすぐに諦めたりする悪い癖が見受けられる。これがチャンピオンクラスの選手ならまだ分かるが、彼は相撲で言えば小結・関脇クラス、まだまだ上を目指して貪欲にチャレンジしなければいけない立場なのだ。それに彼はフードファイトのトーナメント・プロである。プロ選手なら1円でも多額の賞金と1つでも上の順位を目指して、手段を選ばない覚悟でもっと貪欲に立ち向かう気概が無くてはいけない。今の高橋に必要なのは、クレバーさではなくてガムシャラさであると、一言ご忠告申し上げる。


 ……以上で、今回のレポートは終了です。このレポート作成にご協力いただいた関係諸氏に厚く御礼を申し上げます。それでは、今日の講義を終わります。(この項終わり)

 


 

4月4日(木) 文化人類学
「『フードバトルクラブ3rd』TV観戦レポート(1)」

 今日から2日間は文化人類学講義をお送りします。

 先日2日、春のフードファイト・シーズンの最後を飾る、TBS主催のメジャー大会・「フードバトルクラブ3rd〜ザ・スピード」が放送されました。
 今大会は、メジャー大会初のスプリント&早飲み競技オンリーのトーナメント戦で、特にこれまでマイナーな存在に甘んじていた早飲み競技にスポットが当たった大会でありました。その大胆なレギュレーション設定の効果もあり、何人かのニュー・スターも出現したようです。
 今回の講義はその「フードバトルクラブ3rd」のTV観戦レポートです。
 この文化人類学で扱っているTV観戦レポでも、実は「大食い選手権」のレポートは、“ネット局の都合でTV観戦出来なかった人のための実況レポ”という意味合いを強くしています。しかし、この「フードバトルクラブ」に関しては、日本に居住する限り観ようと思えば観られる放送環境であるため、フードファイト・ファンの皆さんは、もう既に放送をご覧になっていることと思います。
 ですので、「フードバトルクラブ」レポは、競技内容の再現よりも、むしろ勝因・敗因などの戦況分析にややウェートを置いたものにしたいと思います。あくまでTV観戦レポートですので、どうしても推測を交えたものになりますが、極力正確な分析を心がけますので、どうぞよろしく。

 それでは、以下からレポート本文に移ります。文中は人名敬称略、文体を常体に変更します。なお、文中内の記録に関しては、「プリンス山本/大食い・早食い伝説」管理人のiGUCCiさんの了承を得て、同サイトから転用させて頂きました。厚く御礼を申し上げます。


 ☆プレ・ステージ(予選) 「ボトル・アタック」

 ※ルール:1瓶180mlのコーヒー牛乳10本(=計1.8L)の早飲みタイムトライアル。10瓶全てを完飲し、ゴール地点にある時計のストップボタンを押した時点のタイムが、その選手の持ちタイムとなる。
 ただし、1瓶でも瓶にして10mm以上の飲み残しか飲みこぼしがあった場合、記録は無効となって全選手のトライアル終了後、再トライアルを行う。再トライアルの記録も無効となった場合は「記録なし」となって失格。
 出場者は書類選考通過及び主催者推薦の100名。タイム上位20名が1stステージ進出となる。

 恐らくメジャー大会初の、純粋早飲み競技で争われる今回のプレ・ステージ。
 早食い能力に長けた選手は、早飲みでもある程度のパフォーマンスを発揮できる事は確かだが、それでも一般の認識以上に選手ごとの得手・不得手が分かれているものだ。この辺りは、「2001年・フードファイターフリーハンデ」を参照して頂ければ、各選手の早食い力と早飲み力の微妙なアンバランスさが把握できる事と思う。早飲みは早食いと似て非なる競技なのである。
 したがって、今回のプレ・ステージは戦前から波乱必至の様相を呈していたが、フタを開けてみるとやはり、従来のスプリント・早食い競技では絶対見られない展開が眼前に呈される事となった。

 波乱は第1ヒート(10人ごとに第10ヒートまでトライアルが行われた)から始まった。ここには新井和響、高橋信也、加藤昌浩といった準決勝・決勝進出経験者が名を連ねたのだが、彼らを相手に回して新鋭・植田一紀がヒート2位に食い込み、場内は早くも騒然となる。
 続く第2ヒートも驚きの展開に。ここは今回員数合わせ要員として参加したお笑い芸人・プロレスラーのみで構成されたヒートだったが、普段から早飲みを芸の1つとしてTV出演している、漫才トリオ“安田大サーカス”のヒロが29秒48でヒート1位&暫定総合1位となった。また、お笑いコンビ“ストロングマイマイズ”の渡辺剛士も、飲み残しで無効となったものの29秒26をマークし、“フードファイター越え”を楽々と達成してしまう。
 これで動揺が走ったのか、以後のヒートでは有力選手たちの飲み残し→記録無効が相次ぐ。小林尊、山本晃也、小国敬史の“2001年早飲みトップ3”をはじめ、立石将弘、「大食い選手権」新人戦3位の河津勝といったところも再トライアル回りとなってしまった。
 しかし、その中でも実力を遺憾なく発揮する選手もいた。白田信幸射手矢侑大である。白田は26秒68で総合首位の好記録をマークし、射手矢も苦手意識を払拭する好パフォーマンスで悠々と1stステージ進出を確定させた。
 そして最後に、1回目のトライアルで記録無効となった選手の再トライアル。ここでの失敗→記録無効は即失格となるとあって、各選手慎重な競技に終始。それでも小林尊は27秒91で総合2位の記録をマークし、健在をアピールした。山本晃也、小国敬史、立石将弘らもプレステージ通過。だが河津勝は、好記録をマークしながらも再び記録無効となって失格。1回目などは29秒台をマークしていただけに悔やまれる試技失敗だった。

順位 選手氏名 タイム
1位 白田 信幸 26秒68
2位 小林 尊 27秒91
3位 射手矢 侑大 28秒79
4位 山本 晃也 29秒09
5位 ヒロ 29秒46
6位 土門 健 29秒54
7位 駿河 豊起 29秒86
8位 渡辺 剛士 30秒92
9位 新井 和響 33秒22
10位 植田 一紀 34秒17
11位 高橋 信也 35秒56
12位 立石 将弘 35秒57
13位 青木 健志 36秒11
14位 渡辺 勝也 36秒81
15位 山根 優子 37秒22
16位 木村 登志男 38秒12
17位 柴田 綾太 38秒21
18位 加藤 昌浩 38秒85
19位 高橋 明子 40秒08
20位 小国 敬史 40秒44
以上20選手が1stステージ進出
21位 渡辺 高行 40秒85
22位 渡辺 宏志 41秒10
23位 三井田 孝敏 41秒42
24位 福元 哲郎 41秒47
25位 山形 統 41秒81
26位 平田 秀幸 41秒91
27位 関 絵梨 42秒45

 ※21位以降のタイムは、TV画面に映った細かい文字を読み取ったものを転記したため、実際のものと若干のズレがある場合があります。
 
 新人や異色選手の台頭が目立ったプレ・ステージだったが、終わってみれば2001年フリーハンデのトップ4が上位を独占した。これは能力云々もあるが、競技に対する真摯な姿勢の現われでもあろう。
 トップ通過は白田信幸。大食いの王者が、早飲みでもその能力の高さを見せつけた。決して瓶から飲みこぼすことの無い大きな口と、大量の水分流し込みにも耐え得る強靭なノド。まさに天賦の才に恵まれて先勝を果たした。
 2位には小林尊。一時は失格・緒戦敗退の危機もあったが、再トライアルでキッチリ結果を残した。タイムでは白田に敗れたが、これは慎重な競技に徹した分もあり、致し方ないか。
 3位には“早飲み不得意”との下馬評のあった射手矢侑大が堂々名乗りをあげた。これはもちろん彼の努力・研究の結果が最たる理由だろうが、他にもペットボトル飲料の競技と瓶飲料の競技との適性差もあるのではないだろうかと思われる。この事については後で述べよう。とにかく、彼の復帰と好パフォーマンスに賛辞を送りたい。
 4位は山本晃也。だが、無効になった1回目の記録は25秒60で、これは総合1位相当。やはり早飲み力に関しては間違いなくトップクラスで、さすがは早飲みのパイオニアといったところ。

 4位までとは対照的に、5位以下はガラリと様相が一変。新人や早飲みの得意な選手が上位に名を連ねる一方で、新井和響が9位、そして高橋信也、立石将弘、小国敬史といったところは2桁順位に甘んじる結果になった。この辺りが早食いと早飲みの違いといったところなのだろう。
 中でも気になるのは、以前ペットボトル早飲みで好パフォーマンスを見せた高橋信也、小国敬史の低迷である。特に小国はボーダースレスレの20位通過と、薄氷を踏むような事態に陥った。
 これは、先に射手矢の戦評でも述べた、“ペットボトルと瓶の差”に大きな理由が存在するのではないかと思われる。
 まずペットボトル早飲みに必要なものは、ペットボトルごと飲料を吸い込む力と、吸い込みで凹むペットボトルをいかに捌くかというテクニック、そして1リットル以上の飲料を一気飲み出来る肺活量である。一方、瓶早飲みに必要な能力は、自由落下で落ちてくる飲料を口で受け止め、それを開けたノドへ一気に流し込む力。瓶は小さいものが多いため、肺活量はそう重要ではあるまい。つまり、両者の間では、要求されているモノが異なるのである。
 もちろん、“飲む”という基本的な行動は同じなので、ペットボトルと瓶でそう極端に差が出るという事は考え難い。だがそれでも、「フードバトルクラブ」での極限レヴェルでの争いになると、ある程度の適性差が結果に現れてくるのだろう。
 即ち、射手矢や新井といったところは瓶適性が高く、高橋と小国はペットボトル適性が高いという事になろう。そして、白田、小林、山本(晃)の3人は両方に適性・スキルがあるというわけだ。何気ないところでこの3人の凄さを再確認させられる。

 さて、ボーダーラインからこぼれた選手の中には、「FBCキングオブマスターズ」準決勝進出者・山形統の姿があった。前々から早飲み力に疑問のある選手で、今回のレギュレーションでは苦戦を強いられると思われたが、その危惧が現実になってしまった。1stステージに進出したならカレー早食いで上位の記録が期待できただけに、惜しまれる敗退である。また捲土重来を期待したい。

 

 ☆1stステージ 「トライアングル・レコ−ズ」

 ※ルール:ペットボトル入りスポーツドリンク1.5L→寿司20皿40カン(=1kg)→カレーライス2皿(=1kg)の順にタイムトライアルを行ない、各食材の完食(完飲)タイム上位2名が勝ち抜けで準決勝に進出する。
 なお、タイムのカウントは、スポーツドリンクはペットボトルを持ち上げた瞬間から完飲してペットボトルの底で時計のストップボタンを押す瞬間までで、寿司とカレーは時計のスタートボタンを押した瞬間から完食してストップボタンを押すまでとなる。
 試技はプレ・ステージの順位下位から個別に行ない、これを各食材3巡するまで続ける。ただし、何回でも試技をパスする事も出来る。
 なお、スポーツドリンクはペットボトルにして10mm以上の飲み残し・飲みこぼし、寿司は食材の床への落下、カレーは20g以上の食べ残し・食べこぼしがあった場合はファールとなり、その試技の記録は無効とされる。
 放送されなかったが、“足切り”ラインが設定されていたようだ。スポーツドリンク30秒、寿司1分30秒、カレーは暫定首位選手のタイム+1分を超える記録になった場合、その部門は2回目以降の挑戦が出来ないルールが存在したらしい。

 それでは、以下に各部門(食材)ごとの記録とレポートを掲載してゆく。今回の番組はカットされた部分が多く、記録と放送内容の整合性が欠けているのだが、レポートはあくまで放送内容中心に、そしてそれを補完する程度に記録を参考にした記述を追加する形式とする。

◎スポーツドリンク1.5Lの部◎

 1巡目。まず先行して記録を出したのが、お笑い芸人の渡辺剛士とヒロ。共に14秒30という「FBC」のペットボトル1.5Lレコードを叩き出して、プレ・ステージの好成績がフロックでは無い事を証明した。
 有力選手の1巡目は、軒並みパスかファールで記録が残らずで、結局この2人が暫定首位となる。
 しかし、各選手とも感覚が掴めて来た2巡目、とんでもない記録が次々と生まれていった。まず新人で予選14位の渡辺勝也が、体を揺らしながら飲む独特のスタイルで11秒65をマークしたが、これは序の口。続いて試技を行った同じく新人で予選6位の土門健は、なんと4秒88というスーパー・ハイレコードを叩き出して場内の空気を一変させる。この常識ハズレの記録の前には、小林、白田らフードファイト界のスーパースターたちも、ただ唖然・呆然とする他なかった。
 それでもタダでは起きないのが歴戦の強者。小林尊がパス戦術を撤回して果敢にチャレンジ。しかしこれは飲みこぼしによるファールでノーカウント。ここまでで2巡目が終了した。
 最終の3巡目、予選18位の加藤昌浩がここで大噴火。2人目の10秒切りを達成し、9秒25。暫定2位に踊り出た。その後、ヒロが3回目のチャレンジで記録を伸ばすも10秒61止まり(放送ではカット)。昨年度の早飲み王者・山本晃也も自己ベストを大幅更新したが、それでも10秒台前半まで。
 これで大勢判明かと思われたが、小林尊が再度チャレンジ。今度は完飲し、7秒88のタイムを出すが、飲み残ししが多く、無念のファール。最後に白田信幸もチャレンジしたが、開始直後に飲みこぼしてファール。フードファイト2強は共に記録なしに終わった。

順位 選手氏名 タイム
1位 土門 健 4秒88
2位 加藤 昌浩 9秒25
以上2名、準決勝へ進出(勝ち抜け)
3位 山本 晃也 10秒33
4位 ヒロ 10秒61
5位 渡辺 勝也 11秒65
6位 渡辺 剛士 14秒30
7位 高橋 明子 14秒95
8位 小国 敬史 16秒19
9位 青木 建志 (未確認)
10位 駿河 豊起 28秒11

 スポーツドリンク部門は、脅威の早飲み系新人・土門健の圧勝に終わった。
 彼の勝因は、何と言っても“土門スタイル”とも言うべきペットボトル捌きである。強く吸い込むと凹んで飲み難くなるというペットボトルの弱点を、「一気に吸い込み→ボトルを一瞬膨らまして飲料の流れを良くする→自由落下してくる飲料を飲み干し、更に残りを素早く吸い込む」という見事なテクニックで克服。これまでのペットボトル早飲みの常識を覆すことに成功した。
 この“土門スタイル”は、まさにコロンブスの卵というべきもので、記録云々よりもこのスタイルを生み出した事そのものに大きな価値がある。今後、各選手の研究が進めば5秒前後の記録も不思議では無くなって来るだろうが、たとえ土門がこの競技での覇権を失っても、そのスタイル確立という栄光は永遠に色褪せる事は無いだろう。
 2位通過は、早食い・スプリント系の今大会では伏兵的存在だった加藤昌浩。彼は早食いよりも大食いで力を発揮するタイプの選手だが、ペットボトル早飲みでもトップクラスの能力を持っていることを見せつけた。どうやら、この結果に一番驚いたのは加藤本人だったようだが、運だけではこの記録は出せない。高い実力の現われというべきで、もっと誇って良いと思う。
 昨年の早飲み王者・山本晃也は3位に終わった。本人は現時点で最高の結果だと言うが、試技の様子を見る限りは、ペットボトル捌きなどにまだまだ改善の余地がある。今後の更なる飛躍を期待したい。
 大健闘だったのは新人勢。ヒロ、渡辺勝也、渡辺剛士らが好パフォーマンスを見せつけた。彼らもまだペットボトル捌きに改良の余地があり、まだまだ記録は伸ばせそうだ。
 意外だったのは小国敬史の伸び悩み。前回よりわずかにタイムは詰めているが、今回のハイレヴェルについていけず、放送ではカットの憂き目に遭ってしまった。

◎寿司40カン部門◎

 1巡目。この競技は既に幾度となく行われ、記録の目安も大方できているだけに、2位以内の狙える実力者以外は敬遠ムード。少数精鋭の争いとなった。
 まず戦いの口火を切ったのは、元祖早食い王者・新井和響。寿司は得意食材の1つだけに、ここで準決勝進出を決めたいところだったろう。しかし、気持ちが先走ったのか食べ方にチグハグさが目立ち、タイムは53秒54。実力から言えば40秒台後半は出せるところだったが……。
 他の選手は様子見かパス。次に挑戦したのは、現在のレコードホルダー・小林尊。ますます冴えを見せる動きと寿司丸呑み能力を遺憾なく発揮し、40秒36と自己ベストを更新。続く白田信幸も挑戦し、こちらは44秒53。しかしこれも歴代3位の好記録だ。もう“白田=早食い苦手”という認識は誤りである事を、この1回のパフォーマンスだけで証明してしまった。
 2巡目。目標となるタイムが出たところで、いよいよ他の有力選手たちも試技に挑み始める。まず、高橋信也が挑戦。だがこれは51秒56と、自己ベストマークも全体としては振るわず。
 続いて山本晃也のチャレンジ。寿司は苦手食材だが、これまで幾度と無く好結果を出している食材でもある。そして今回も42秒06をマークして暫定2位へ。これはさすがといった感。さらに射手矢侑大も試技へ。以前から寿司早食いは特に得意というわけでは無かったが、それでも47秒26をマークし、暫定4位ながら実力をアピールする。
 そしてトップ2人の2度目の試技へ。まず小林尊がほぼパーフェクトなパフォーマンスでついに30秒台一番乗り。36秒60で自己ベスト及び「FBC」レコードを更新。だが、これもわずか数分の“大記録”だった。
 満を持して登場した白田信幸は、おそらくスプリント競技では生涯最高とも言えるパフォーマンスを展開。後に自画自賛してしまうような素晴らしい内容で36秒14をマーク。ついに早食いでも小林尊を上回ってしまった。
 3巡目。3位以下の選手は、パスするか、または記録を伸ばせず終わる。この時点で白田・小林両者の準決勝進出が決定したが、2人とも果敢にチャレンジ。だが、さすがに集中力が途切れたのかタイムが伸びず(小林53秒53、白田38秒80)、結局2巡目までの記録で確定となった。

順位 選手氏名 タイム
1位 白田 信幸 36秒14
2位 小林 尊 36秒60
以上2名、準決勝へ進出(勝ち抜け)
3位 山本 晃也 42秒06
4位 射手矢 侑大 47秒26
5位 高橋 信也 51秒56
6位 新井 和響 53秒54

 大食い王者・白田信幸が、スプリント競技の花形・寿司早食いで初の“小林越え”達成。タイムもきわめて秀逸で、早食い・スプリントでもついに王座に手を掛けた。
 そして2位通過は小林尊。自身も自己ベストを約7秒更新してはいるものの、それだけにこの敗戦は余計にショッキングなものと言う事になるのではないか。

 さて、結果的にはコンマ5秒差の接戦となった両者の戦いだが、両選手の試技の中身はかなり異なる。
 まず白田のトライアルは、大きな口という自分の体格的なアドバンテージを最大限に利した戦い振りであった。
 彼はとにかく初めの4カンと最後の4カンが早い。普通の選手では信じられない話ではあるが、彼の口は4カンの寿司でも満杯状態にならないのだ。初めの4カンはともかく、本来一番苦しいはずの最後の4カンを、ほぼトップスピードで強行突破できるのだから、これは強い
 事実、2回目のトライアルでは、36カン完食時点のタイムは小林よりも1秒程度劣っていた。それを一気にひっくり返して0.5秒のオツリが来るのだから、この体格差、恐るべしである。
 もちろん、寿司早食いの基礎能力である嚥下力も、以前に比べて相当の成長を見せている。そうでなければ年末から3ヶ月で23秒(!)もタイムを詰められるはずが無い。
 一方の小林の持ち味は抜群の嚥下力。昨年のネイサンズ・ホットドッグ早食い選手権・日本予選で初公開され、周囲の度肝を抜いた“寿司一気飲み”は未だ健在。“中間疾走”のスピードは未だナンバーワンであることは間違いない。
 そしてこの事から、奇妙な現実が浮き彫りになる。
 スタートとラストが早い白田、そして中間疾走が早い小林。この事から考えると、40カンまでの超スプリント戦は白田が有利となり、それ以上(2分〜5分)のスプリント戦は、中間スピードで勝る小林が有利となる。そしてまた、試合時間5分を超えるような早食いの戦いになると、トップスピード持続時間の長い白田に勝機が芽生えて来る
 つまり、大食いの王者である白田は超スプリントの王者でもあるが、スプリントの王者ではないという事だ。陸上競技で言えば、10000mのチャンピオンが60mでもチャンピオンになれるのに、100mから400mまではトップになれない、というような話。全くもって奇妙な話であるが、この辺りがフードファイトという競技、そして白田の能力の奥深さと言うところだろうか

 さて、スポーツドリンク部門に続き、連続して次点に泣いたのが山本晃也。年末に比べると、彼も24秒ものタイム短縮に成功しているのだが、それをも上回る白田・小林のパフォーマンスの前に屈した形となった。ただ、関係者筋の話によると、山本本人は照準を最後のカレーライスに合わせていたようだ。その辺りのギリギリのところで、上位2人との集中力の差が出てしまったのかも知れない。
 射手矢侑大、高橋信也も、自身の持ちタイムを10秒〜20秒単位で詰めているものの、ボーダーラインには遠く及ばず。昨年春の段階ではスピードで圧倒していた白田に大差をつけられている現実。これを見せ付けられた両者の心境はいかばかりか。
 それにしてもショッキングなのは、新井和響がトップから17秒差の最下位に終わってしまった事だった。後にも述べるが、彼は今回、カレーライス部門でも惨敗を喫して敗退している。世界の頂点に立ってからわずか2年で、彼はスプリント競技のトップグループからアッサリとこぼれてしまった。力が衰えたと言うわけではない。タイムも詰めている。しかし、他の若手選手との差が開いてゆく……。
 大変言い辛い事だが、これはもう、若手トップ選手との間に根本的な能力の差があるとしか言いようが無い。
 野球の王・長嶋然り、自転車の中野浩一然り。世界的偉業を残した第一人者は、引き際もまた見事であった。彼もまた、そろそろ晩節を汚す前に第一線を退く時が来ているのではあるまいか。
 駒木はもう、下位でもがく新井の姿を見るのは苦痛だ。新井本人は、まだ自分が不死鳥のように蘇る日が来ると信じているのだろうが、もしもそれが出来ないと自覚した時は、もう潔く後進に道を譲ってほしい。選手としてではなく、フードファイト界の第一人者の1人として業界に貢献する道もあるだろう。彼にはそれが出来ると駒木は信じているのだが……

◎カレーライス2杯部門◎

 この時点で“宙ぶらりん”状態で残っている選手は16名。うち、「2001年フードファイターフリーハンデ」のスプリントカテゴリで60ポイントオーバー、つまり決勝進出出来る能力を持つと思われる選手は6名も残っている。しかし、準決勝進出枠は2つしか残っていない。まさに潰しあい。フードファイト史上最も過酷なタイムトライアルがここに始まった。
 放送ではカットになっているが、ほぼ全員の選手がこの難関にトライしていった。だが、やはりフードファイト実績の無い早飲み系選手では力不足は否めなかった。結局新人選手の最高位は安田大サーカス・ヒロの8位。ここまで波乱を巻き起こしてきた彼らも、一流選手たちの“洗礼”を受けた形になってしまった。
 さて、これ以降は放送された内容を中心に、上位選手の戦い振りをお送りしていこう。
 1巡目
 小国敬史が59秒47と、いきなり1分の壁を破る好記録をマークすると、続く立石将弘が56秒60を叩いてすぐさまトップに立つ。しかし、まだまだ記録ラッシュは止まらない。高橋信也が51秒22、山本晃也が50秒25と連続して記録を更新し、暫定の2位、1位に。最後に射手矢もチャレンジしたが、これは56秒28で3位。
 2巡目
 記録ラッシュは続く。トップバッターの小国が45秒96で一気にトップへ浮上。立石も48秒13で2位へ食い込む。
 ところがここでも山本(晃)が凄い。39秒43と一気に時計を詰めて再びトップへ。射手矢も47秒14で続き(放送カット)、1巡しない内に上位5人の順位が激しく入れ替わった。
 そして運命を決める3巡目。まず小国が味変用にマヨネーズまで繰り出して記録短縮を図るが、これは逆効果に(放送カット)。立石も記録を伸ばせず終了(これもカット)。
 上位5名の次なる挑戦者は、2回目の試技をパスして勝負を懸けた高橋(信)。記録を伸ばした選手の食べ方を見て即座にフォームを修正し、45秒65と記録を伸ばし、際どく2位に浮上した。
 トップ通過が確定した山本(晃)はパス。残るは暫定4位の射手矢侑大のみ。射手矢は、明らかにこれまでの自身や他選手のトライアルと別次元のハイスピードで飛ばすが、その分やや食べ方が荒くなってしまった。タイムは36秒72と出たが、食べこぼしと食べ残しが規定値を超えたため、ファール・記録無効。無念の1stステージ敗退となった。

順位 選手氏名 タイム
1位 山本 晃也 39秒43
2位 高橋 信也 45秒65
以上2名、準決勝へ進出(勝ち抜け)
3位 小国敬史 45秒96
4位 射手矢 侑大 47秒14
5位 立石 将弘 48秒13
6位 新井 和響 1分03秒42
7位 木村 登志男 1分11秒52
8位 ヒロ 1分22秒95
9位 山根 優子 1分50秒62
10位 植田 一紀 1分51秒54
11位 高橋 明子 1分54秒10
12位 渡辺 勝也 1分58秒20
13位 駿河 豊起 2分05秒06
14位 渡辺 剛士 3分07秒74

 壮絶なタイムアタック争いを制し、準決勝進出最後の枠を射止めたのは山本晃也高橋信也
 まず山本(晃)は、これは順当とも言える実力通りの勝利。胃の中に水分1kgと固形物2kgを入れた状態からのレコード樹立は、さすが「キングオブマスターズ」ファイナリストといったところか。
 一方の高橋(信)は、3位とコンマ3秒の僅差の上、他選手のファールに助けられての薄氷の勝利。これまでの早食い系競技でなら、ゆうゆうと2位を確保できる力関係だったのだが、ここに来て大分差が詰まってきた印象がある。他の選手の突き上げに少々戸惑い気味のようだ。

 惜しくも次点となったのは小国敬史。年末の次点では早飲み系選手の印象が強かったが、この数ヶ月ですっかり早食い系選手に脱皮した感がある。今回は試技する順番に恵まれず、絶えず目標とされる立場に置かれると言う不利も合った。今回の敗戦は負けてなお強しと言える価値ある敗北。これからの成長に期待したい。
 99%掴んでいた準決勝行きの切符を手放す羽目になったのが4位の射手矢侑大。ここのところ、彼が勝負運に恵まれないのがちょっと気にかかる。しかし彼の早食い力の向上は確かに目覚しかった。秋シーズンでの巻き返しに期待したい。
 5位は立石将弘。スポーツドリンクと寿司を完全にパスしてカレーライスに挑んだが、その賭けは実らなかった。彼なりの能力は発揮できているだけに致し方ないところではあるが……。
 以下は大差離れて1分台の記録に。ここで新井和響を紹介しなければならないのが非常に辛いところだ。3回チャレンジして3回目に自己ベストを記録したが、5位の立石と15秒遅れというのは、やはり寂しい。


 ……と、とりあえず前半部分のレポートをお送りしました。後半に関してはまた明日付の講義で。(明日に続く

 


 

3月22日(金) 文化人類学
「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・決勝大会TV観戦レポート(2)」

 昨日に引き続き、文化人類学講義です。前日の講義(第1〜3ラウンドのレポート)を未受講の方は、まず先にこちらをクリックして、レジュメを閲覧してください。

 では、今日は第4ラウンド(準決勝)と決勝戦の模様と、簡単な大会総括を掲載します。最後までどうぞお付き合いくださいませ。
 また例によって、レポート文中は敬称略・文体変更を行います。ご承知おきください。


 ☆第4ラウンド 桑名宿・蛤カレー食べまくり勝負

 ※ルール:1皿300gの蛤入りカレーを、45分間でどれだけ食べられるかを競う。出場4名中、記録上位3名が決勝戦に進出する。

 第3ラウンド終了から5時間後の競技。消化能力に難のある選手には堪えるタイム・スケジュールだ。
 須藤は「(第3ラウンド)の餡巻きが胃に残ってるんですよ」と苦笑しながら本音を吐露。河津も、競技に支障無い程度だが、未消化の餡巻きが残っているようだ。一方、久保は「完全消化」宣言だが、このラウンドの食材・カレーが苦手と顔をしかめる。偏食気味の舩橋だが、カレーはまだ得意な方らしい。

 第1、3ラウンドに引き続いて、スタートダッシュを決めたのは河津。1皿1分と、まずまずのスピードを披露。しかし、他の3選手も遅れる事無くピッタリとマーク。3皿完食時点で、やや須藤が遅れた以外はほぼ横一線。
 あっという間に全員5皿完食。その順番は、河津、久保が全く同時で、舩橋、須藤も差はそう無い。
 10分経過。1位グループ・久保、河津、舩橋(6皿)、4位須藤(5皿)。
 トップ争いはますます熾烈に。久保と河津が文字通りのデッド・ヒート。舩橋も半皿差で追いすがる。しかし、この辺りから須藤が遅れ始める。やはり地力の差が大きい。
 15分経過。その直後、トップグループの3者がほぼ一斉に9皿完食。その差、河津→久保間が10秒、久保→舩橋間が4秒。既に須藤がスローダウンし、3人の決勝進出は決まったも同然だが、激しい競り合いはスプーンを動かす手を止めさせない。
 22分経過。11皿完食一番乗りは舩橋。しかし、相変わらずその差は僅かだ。須藤は8皿完食時点で完全に手が止まった。
 13皿完食時点でのトップは再び河津。トップが目まぐるしく入れ替わる。河津はこの時点でクルージングに入り、後は様子見か。一方で、この時やや遅れていた久保が13皿完食で並ぶ。久保はまだスプーンを止めない。表情は依然笑顔で、まだ余裕か。
 35分経過。12皿完食時点で小休止していた舩橋が動き出して13皿完食。だが、トップの久保は14皿を完食し、なおも笑顔。まさに「東京の微笑み」。個人的には「フードファイト界のモナ=リザ」と呼んでみたい。
 44分経過。1位久保(14皿)、2位グループ・河津、舩橋(13皿)、4位須藤(8皿)。
 もう大勢は決していた。須藤はリタイヤだけは避けたいと、最後まで競技を続けたが、20分以上の間、ほとんどカレーが口に運ばれることは無かった。

1位通過 久保仁美 14皿+α(4.2kg強)
2位通過 河津勝 13皿+α(3.9kg強)
舩橋稔子 13皿+α(3.9kg強)
4位落選 須藤明広 8皿+α(2.4kg強)

 トップ通過は久保。順位にこだわらないマイペース型の選手だが、このラウンドは全体の記録が伸び悩んだ事もあり、少し“区間賞”を狙っていたようだ。
 久保は、どのラウンドでも平均4kg程度の記録をマークしており、安定感という上では申し分ない。問題は、負けない試合運びを要求されるこれまでとは違い、今度は勝つための戦いが求められる事である。果たして決勝戦で、これまでと違った久保が見せられるかどうかがカギ。
 接戦の2位通過は河津と舩橋。
 河津は依然として、胃の限界を悟らせぬクレバーな試合運びが光る。しかし、決勝は完全に胃の容量勝負。彼の限界はどの辺りか?
 舩橋は、第3ラウンドの後遺症か、本来の実力を出せず終いだった。明日の決勝までにいかに体調と精神面を整えるかがポイント。
 ここで脱落となった須藤。敗因はズバリ胃容量の差。実力上位の選手が思わぬアクシデントで消えてゆく中、渋太く生き残ってきたが、運も実力もここまで。しかし、記録よりも記憶に残る懸命の頑張りは、大会全体に彩りを添えた。

 

 ☆決勝戦 京都・しっぽくうどん無制限勝負

 ※ルール:しっぽくうどん(1杯あたり具・麺300g、出し汁300g)を60分間で何杯食べられるかを競う。最も完食量の多い選手が優勝。また、うどんの出し汁は飲まなくてもよい「大食い選手権」ルールが適用される。

 長時間の60分、しかも慣れない熱いうどんという事で、各自スロー気味のマイペースでの序盤戦に。
 例によって1杯目のトップは河津。しかし当然、舩橋と久保も差無く追走。
 2杯完食のトップも河津。ここまで所要時間は約4分。もちろん他の2人も負けてはいない。特に舩橋は、好物のうどんとあって、今日は快調のようだ。
 10分経過。全員4杯完食で横並び。
 5杯完食トップは舩橋。ここに来て、本来のスピードの差が出て来たか。河津もペースを上げたいところだが、とにかくうどんが熱い。徐々に追い上げてきた最下位・久保との差も縮まってきた。
 舩橋6杯完食もトップ(14分30秒)。ここから更に差が広がってゆく。また、2位がわずかながら久保に入れ替わる。河津、早くも苦戦か。
 20分経過。1位舩橋(8杯)、2位グループ・久保、河津(6杯)。
 舩橋が2杯差をキープしたまま、10杯完食一番乗り。中盤戦を支配してゆく。
 30分経過。1位舩橋(11杯)、2位グループ・久保、河津(8杯)。
 ここまで余裕を見せていた舩橋だが、ここからスローダウン。そろそろ胃の中でうどんが膨らみ始める頃である上、序盤戦から熱さ対策で水を多用して来たツケが回って来たようだ。
 40分経過。1位舩橋(11杯)、2位久保(10杯)、3位河津(9杯)。
 ペースの落ちた舩橋、ようやく12杯完食も、ここで完全にストップ。まだ箸の止まらない久保と河津との差が徐々にではあるが詰まってきた。
 しかし河津も10杯完食で小休止。河津の小休止はいつもの事だが、今回は余裕の休止ではなく、本当に限界が近い様子。
 45分経過。1位舩橋(12杯)、2位グループ・久保、河津(10杯)。
 箸が動いているのは久保1人だけ。11杯完食を果たして、いよいよ差が詰まってきた。舩橋もリードを広げたいが、完全に満腹状態になっており、体が食べ物を受け付けない。
 50分経過。1位舩橋(12杯)、2位久保(11杯)、3位河津(10杯)。
 河津がここで最後の力を振り絞り、ラストスパートで勝負に出るが、もう限界が来ていた。時計が53分経過を示した時、静かに箸を置いた。記録を残すためにリタイヤはしないが、河津の勝負はここで終わった。
 55分経過。ついに久保が12杯完食とし、完食杯数では舩橋と並んだ。だが、ここから舩橋が最後の力を振り絞って、再び箸を取った。いよいよ大詰めだ。
 57分経過。舩橋、ついに13杯完食。再び差は1杯近くにまで広がった。
 59分経過。舩橋の手は止まらない。久保も全く手は止まらないのだが、差を縮めるだけのペースアップが出来ない。ようやくここで「勝負あった」。
 カウントダウンが始まる。久保が苦笑いしながら「ダメー、勝てない〜」と言いたげに首を振る。河津は半ば呆れた表情で戦況を見守っていた。1人、舩橋は最後まで真剣な表情でうどんを口に運んでいた。そして訪れた、大食い選手権史上、最も小柄なチャンピオンが誕生した瞬間。進行役の中村有志が、静かに舩橋の手を上げた──

優勝

舩橋稔子

13杯+少量

準優勝

久保仁美

12杯+α

3位

河津勝

10杯+α

 「大食い選手権」第5代新人王は舩橋稔子。2年前の岩田美雪に続く、2人目の女性新人王の誕生となった。
 実力No.1の山本卓弥が失格となった事で、どうしても損な役回りを演じなければならない立場だが、それでも山本以外のメンバーとの実力比較では、おおむね順当な結果と言えるだろう。また、他の選手には悪いが、番組的にも“一番救いのある”結果になったとも言える。
 これで舩橋は秋のオールスター戦への切符を掴んだ事になるが、しかしトップクラスの大食い系フードファイターに囲まれると、どうにも小粒な印象は否めない。今大会の結果で推測される胃容量は5kg強。実力は岩田美雪、別府美樹クラスと考えて良く、胃容量10kgオーバーのトップクラスとの対戦では苦戦は必至だろう。何せ、「大食い選手権」トップ2の白田や射手矢は、たとえ6kgの食材でも早食い・スプリントの範疇に入れてしまう選手なのである。
 準優勝は久保仁美。絶えず余裕を窺わせる戦い振りで、胃容量の限界は最後まで完全に推定できなかった。しかし、余裕が残っているようでも、決勝の終盤戦はガクンとペースが落ちており、ポーカーフェイスの下で、それなりに満腹感と戦っていたのも確かであろう。大まかに見て、舩橋と互角程度の地力ではないだろうか。もし、胃容量にまだ余裕があるにしても、もっとスピードを身につけないとトップクラス入りは難しい。
 第3位は河津勝。各ラウンドでは、胃容量を悟らせないクレバーな戦い振りが光ったが、残念ながら決勝では限界を露呈してしまった格好に。恐らく最大胃容量は4.5kg強。この胃容量では「フードバトルクラブ」でも「大食い選手権」でも覇権を争うには中途半端で、これから余程の進境が見られない限り、残念ながら今回がメジャー大会での最高順位となる可能性が高い。
 当初は低レヴェルが懸念された今大会だが、決勝進出者3名のレヴェルならば、以前の大会と比較してもそんなに遜色は無かった。今回は“一般人以上フードファイター未満”の選手が多く見られたのだが、今となっては新人戦らしくて、それも良かったのかもしれない。

 

◎大会総括◎

 今回の「大食い選手権」は、これまでの大会運営を見直し、巧みで内容の濃いマイナーチェンジが図られた、充実した競技会だった。
 特に、多人数(10人)の選手が旅を共にし、ライバル心と友情を育みながら競技を繰り返すという“ロードムービー”方式は、往年の名番組「アメリカ横断ウルトラクイズ」に相通ずるものがある。この方式では、大会そのものの基本にはフードファイトを置きながらも、放送で前面に押し出すのは選手たちの人間模様であり、視聴者の感情移入と感動を喚起する上でも非常に効果的であった。
 このマイナーチェンジにより、「大食い選手権」は「フードバトルクラブ」との明確な差別化を実現し、なおかつフードファイトに対するイメージアップにも一役買った。まさにTV東京の底力と言うべきで、これからも「大食い選手権」はフードファイト界で高い支持率を維持していくであろう事を、我々に確信させた。
 だがその一方で、画竜点睛を欠くような不手際が2点あり、それは非常に残念であった。
 1つは名古屋地区大会1回戦でのルール設定の失敗、そしてもう1つは山本卓弥ドクターストップ事件であった。もう2件とも個々のレポートで詳しく述べているので、敢えて再び詳述はしないが、これらの反省点を踏まえて、さらに充実した大会運営を願いたい。特に、かつて中嶋広文や小林尊との関係を悪化させて絶縁状態に陥った過ちを、山本卓弥との関係で繰り返さない事を切に願う。

 ※「山本卓弥ドクターストップ事件」については、新事実が明らかになりました。前日付講義第3ラウンド総括に「追記」を執筆しましたので、そちらをどうぞ。


 というわけで、「大食い選手権」レポートでした。次回の文化人類学は4月上旬の「フードバトルクラブ3rd」関連講義になると思います。それでは、今日の講義を終わります。(この項終わり)

 


 

3月21日(木・祝) 文化人類学
「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・決勝大会TV観戦レポート(1)」

 それでは予告通り、文化人類学の講義を行います。先週と同じく、2回に分けての講義となります。
 まず、第1回の今日は第1ラウンドから第3ラウンドまで、そして明日の第2回は準決勝、決勝戦の模様と大会の総括をお届けします。
 この文化人類学講義は、大変熱心な受講生がいらっしゃる一方で、履修を拒否する受講生も少なくないと聞きます。ですので、このままこのフードファイト関連の講義を当講座の中で行うのかどうかも含めて現在検討中です。
 ただ、駒木にとって、フードファイト研究は競馬学・ギャンブル社会学と同じくらい大事な専攻分野ですので、当講座で扱わなくなった場合も、別のウェブサイトを開設し、そこで研究成果を発表する事になると思います。
 この件については、いずれまたこの講義の中でご報告します。とりあえず、少なくとも4月当初放送の「フードバトルクラブ3rd」までは、当講座でレポートを発表する予定でいます。

 ……では、これからレポート発表に移るのですが、その前に一点「お断り」です。
 この「大食い選手権・日本縦断最強新人戦」で、大阪地区2位で決勝大会に進出した舩橋選手のフルネームを、これまでこの講座では「舩橋聡子」としてきました。これはテレビ大阪放送「なにわ大食い選手権」での字幕スーパーに従ったものです。
 しかし、本日放送分の「大食い選手権」では、名前が「舩橋稔子」となっていました。どうやらこちらの方が正しいようです。
 よって、今後この講義中でも表記を「舩橋稔子」で統一する事にします。あらかじめ、ご了承ください。

 それではレポートに移ります。例によって文中敬称略、文体を常体に変更しますが、こちらもご了承ください。

 また、先週放送分のレポートはこちらをクリックしてどうぞ。


 ☆第1ラウンド・箱根宿 豆腐おかわり勝負

 ※ルール:1丁250gの絹ごし豆腐(冷奴)を、45分間でどれだけ食べられるかを競う。参加10名中、記録上位7名が第2ラウンド進出。

 スタートダッシュを決めたのは河津。久保、近藤らも好スタートを決めるが、わずかに河津が早い。須藤、山本、羽生などもトップグループに肉薄。接戦の序盤戦。
 5分経過。1位グループ・河津、羽生、山本(9丁)、4位グループ・須藤、皆川、舩橋、嘉数(8丁)、8位グループ・久保、近藤(7丁)、10位白勢(6丁)。
 10丁一番乗りはやはり河津。次いで、山本、羽生、皆川、舩橋、須藤、近藤、久保、嘉数、白勢の順。
 15分経過。1位グループ・河津、山本(13丁)、3位グループ・皆川、舩橋、久保、嘉数(12丁)、7位須藤(11丁)、8位グループ・羽生、近藤、白勢(10丁)。
 いつの間にか羽生が大ブレーキ。トップ争いから一転して残留争いだ。
 この辺りから、外気の冷たさ(気温1℃台の野外会場)と冷奴の冷え具合が選手の体温を奪うようになり、苦しみだす選手も。その影響が顕著なのは河津と嘉数。
 そんな2人を尻目に、完食数をグングン伸ばすのが大阪大会代表の2人。山本1位、舩橋2位にそれぞれ浮上。やはり地力の差が現れて来たか。
 30分経過。1位山本(18丁)、2位舩橋(16丁)、3位グループ・河津、皆川、久保、嘉数(14丁)、7位グループ・須藤、近藤(13丁)、9位白勢(12丁)、10位羽生(10丁)。
 山本と舩橋の箸は止まらない。山本は悠々と20丁到達だ。舩橋は競技前「豆腐は嫌いです」と語っていたが、そんな事を微塵も感じさせない健闘が光る。競技中の舩橋曰く、「これまで(生きて来た中で)食べた豆腐(の量)よりも、ずっとたくさん食べてます」
 40分経過。1位山本(23丁)、2位舩橋(21丁)、3位グループ・河津、皆川、久保、嘉数(15丁)、7位グループ・須藤、近藤、白勢(14丁)、10位羽生(11丁)。
 ここに来て、突然ボーダーライン上の嘉数がリタイヤ宣言。詳細は不明だが、体温低下が影響していたのか。
 42分経過。1位山本(25丁)、2位舩橋(21丁)、3位久保(17丁)、4位皆川(16丁)、5位グループ・河津、須藤、近藤、白勢(15丁)、9位羽生(11丁)※嘉数は棄権
 羽生は既に脱落確定。残る1ラウンド落選者は1名。ボーダーライン上での熾烈な争いが続く。
 残り1分になって、余力を残していた河津が猛烈なラストスパート。あっという間に安全圏まで突き抜けた。残る3人による争いは、わずかながら白勢が遅れをとって貧乏クジを引かされた格好に。

1位通過 山本卓弥 26丁(6.5kg)
2位通過 舩橋稔子 21丁(5.25kg)
3位通過 久保仁美 18丁(4.5kg)
河津勝
5位通過 須藤明広 16丁(4.0kg)
皆川貴子
近藤菜々
8位落選 白勢貴浩 15丁(3.75kg)
9位落選 羽生裕司 11丁(2.75kg)
途中棄権 嘉数千恵 棄権のため記録なし

 大阪大会代表の華麗なるワン・ツーフィニッシュ。予選で見せた実力の違いを見せつけた。
 特に1位通過・山本のパフォーマンスは際立っており、やはり優勝候補筆頭の下馬評が誤りでなかった事を証明した。
 2位通過・舩橋の記録も、流動食に近い豆腐とはいえ5kgオーバーで頼もしいもの。これから先にも期待を持たせる記録であった。
 3位通過の2人は、記録こそ同数ながら戦い振りは対照的だった。まず久保は、スローなマイペースで着実に完食数を増やしていく典型的な大食いタイプ。そして一方の河津は、満腹中枢が刺激される前の前半戦で完食数を稼ぎ、後半戦は他選手の様子を見ながら通過枠を確保するという、早食い系のクレバーな戦い振り。どちらも胃容量の限界を見せない戦い振りということで、何とも(悪い意味でなく)不気味な印象を与えた。
 胃容量に限界がありそうな5位タイ通過の3名・須藤、近藤、皆川は、恐らく自己最高となる重量をクリア。やはりソコソコ高いレヴェルのペースになると、引っ張られる形になるのだろうか。
 8位落選の白勢は、予選から懸念されていた胃容量の限界が露呈された格好。力不足ゆえ、致し方無しか。
 9位落選の羽生も胃容量の限界。中途半端な早食い力だけで決勝大会進出を果たしたが、やはりここでは通用しなかった。
 決勝進出(ベスト3)有力候補の1人、嘉数が早くも姿を消した。あと3分余り、何が耐えられなかったのかは不明だが、体に別状は無いようで何よりだった。秋のオールスター戦では通用しないだろうが、甘味大食い女王選手権など、準メジャー大会での再登場を熱望したい。

 

 ☆第2ラウンド 丸子宿・とろろ汁45分かきこみ勝負

 ※ルール:1杯250gのとろろ汁かけ麦飯を、45分間でどれだけ食べられるかを競う。出場7名中、記録上位5名が第3ラウンド進出。

 食べ易い食材であるとろろ汁。各自出足は早い。山本、久保、須藤ら30秒で1杯完食する者も。
 序盤戦は久保と山本が好発進でペースを作る。舩橋もすぐに追い着いて来て、トップグループ入り。
 5分経過。トップグループの山本、舩橋、久保が8杯完食で並ぶ。1ラウンドでペースメーカーを務めた河津は出遅れ気味の序盤戦に。
 10分経過。このラウンドでも大阪大会代表2名が上位独占の様相。トップはやはり山本で14杯、2位に舩橋13杯。
 25分経過。1位山本(17杯)、2位舩橋(13杯)、3位久保(13杯)、4位河津(12杯)、5位須藤(10杯)、6位近藤(7杯)、7位皆川(1杯で停滞)。
 皆川、ここで競技続行不可能を伝え、途中棄権。これで残る落選枠は1つ。またしても波乱含みのサバイバルレースに。
 30分経過。山本は余裕を残した状態で23杯を完食。なんと2位の舩橋(15杯)から8杯差だ。しかも口直しの味噌汁まで6杯完食という大物ぶり。
 一方で、2位争いと残留争いが接戦になってゆく。久保が15杯、近藤が10杯をそれぞれ完食。
 35分経過。残留争いが激しい。河津13杯、須藤12杯、そして近藤が11杯完食へ。「追い込まれる須藤、追い上げる近藤」という図式は、地区こそ違うが地区代表決定戦の状況そのままだ。
 すでに満腹感との戦いになっている須藤だが、持ち前の粘り強さを発揮して13杯完食と、再び近藤を突き放す。そして河津は、またしてもここから鮮やかなスパートを決めて14杯完食とし、安全圏をキープし続ける。
 40分経過。残留争いは須藤と近藤の一騎討ちに絞られた。須藤1杯リードのまま、激しく静かなバトルが続く。
 一方で、トップ独走は山本。安全圏を確保した選手がクルージング(身の安全を第一に考えた意識的なスローダウン)に転換する中、彼1人だけが手を緩めない。なんと完食数29杯。重量換算で7.25kgと、「大食い選手権」の45分競技レコードを達成。(従来の記録は射手矢侑大の6.7kg《2回》)カレー並に食べ易い食材とはいえ、これはお見事。
 残留争いは最後まで熾烈を極めたが、大食い競技はやはり先行有利。ギリギリのところで須藤が近藤を抑えきった

1位通過 山本卓弥 29杯(7.25kg)
2位通過 舩橋稔子 17杯(4.25kg)
3位通過 久保仁美 16杯(4.0kg)
4位通過 河津勝 15杯(3.75kg)
5位通過 須藤明広 14杯(3.5kg)
6位落選 近藤菜々 13杯(3.25kg)
途中棄権 皆川貴子 棄権のため記録なし

 山本が、実力の次元が違うところを見せつけて2連続のラウンドトップ通過。結果的にこれが今大会のベストパフォーマンスになった。競技終了後、山本自身は「ちょっと食べ過ぎたかな?」とコメントしていたが、本当に辛そうな印象は無かった。だが、悲劇は10数時間後に訪れる。
 2〜4位・舩橋、久保、河津の3名は、下位の2名とは記録以上の実力差を見せつけて、余裕残しの通過。中でも特筆すべきは連続2位通過の舩橋。マイペースで食べている内に、自然と2位をキープしているように、このメンバーの中ではスピード上位である事を証明している。しかし、山本との地力の差は如何ともし難い印象だ。
 5位で辛うじて通過枠を確保したのは須藤。やはり大食い体質(優秀な消化能力を持った痩せ型)ではない人間が、メジャー大会で戦うというのはいかにも厳しい。これは逆にいうと、須藤と同じような体型・体質の藤田操がどれだけ偉大かを示す材料でもあるのだが。
 惜しくも脱落の近藤は、名古屋大会から懸念されて来た、大食い競技におけるスピード不足が敗因か。しかし、終盤で箸が止まっている選手に追い着けないというのは、やはりそれなりに近藤自身も満腹状態に至っているのであって、やはりこれは地力の差なのだろう。
 早々に途中棄権の皆川は、消化能力に問題ありか。大食いとは、ただ物を食べるだけではなく、消化能力にも長じていないと大成は難しい。だが、ここは“リセット”(試合直後に嘔吐して胃を空にする隠語)をせずに正々堂々と戦い、散っていった彼女の潔さも評価すべきであろう。開始当初は“リセット”が当たり前だったと言われる「大食い選手権」だが、少なくとも今回の選手たちは大変潔かった。これこそ真のフードファイト精神というものだろう。

 以上が大会初日。今大会は第1、2ラウンドが初日(2/16)、第3、4ラウンドが2日目(2/17)、決勝が3日目(2/18)に行われている。収録日をここまで詳細に公開するのは珍しいが、これは、視聴者にクリーンな番組制作が求められている事を自覚しているTV東京の自覚の現われと見たい。

 ☆第3ラウンド 知立宿・大あん巻き30分15本完食勝負

 ※ルール:あん巻き1皿3本(黒餡、白餡、抹茶餡各1本=計400g)を5皿(=合計2kg)、30分以内に完食しなければならない。第4ラウンド進出の人数制限は無く、完食者全員が第4ラウンドに進出できる。

 スタート前、「大食い選手権」の番組現場責任者から、山本卓弥のドクターストップが宣言される。
 「医師の診断の結果、昨日の第2ラウンド分の内容物が消化されていないので、念のためドクターストップと判断した」と理由のアナウンスがあったが、これは極めて疑問の残る判定であった。この件に関しては、ラウンド総括で詳しく述べる。

 甘味は好き嫌いが大きく分かれる食材でもある。今回のメンバーで言うと、餡を得意とするのは久保で、苦手なのは須藤と舩橋。特に舩橋は最も嫌いな食材という事で、苦戦が予想されるスタート。
 序盤から飛び出していったのは河津で、1皿完食55秒というハイペース。どうやら、血糖値の上がりやすい甘味という事を意識して、満腹感が来るまでに完食してしまおうという“クレバーな力技”に出たようだ。
 1皿完食タイムは、河津55秒、須藤2分34秒、久保2分56秒、舩橋3分19秒。須藤はいつも序盤戦だけは早い。いかにもオールドタイプの大食いらしい戦い振りだ。
 河津のペースがなかなか落ちない。2皿目完食タイムは3分31秒。重量を考えると早いとまでは言えないが、さすが「フードバトルクラブ」出身選手らしいところを見せる。
 10分経過。1位河津(14本)、2位グループ・須藤、久保、舩橋(7本)。もう河津はあと1本で完食だ。
 12分ちょうどで、河津が余裕の完食一番乗り。他の選手に大差をつけた。
 以下はやや遅れた。ただ久保は笑顔を絶やさず、終始余裕残しのまま。4皿・17分29秒→5皿完食・23分11秒でクリア。須藤もまだ余裕を持ったまま23分54秒でクリア。

 1人残された舩橋は大苦戦。後半になって極端にペースが落ちた。4皿完食時点で24分34秒。かなり際どいことになって来た。苦手の餡が食欲を蝕む。
 残り3分で残るは2本。1分30秒で1本を食べきったが、雰囲気はいよいよ危なくなってくる。同郷・山本のアドバイスや、周囲の声援を武器にして流し込みを図るが、口に運ぶ回数は、反対側の手に持ったお茶の方が多い。カウントダウンが始まる。緊迫した状況。しかし、もうダメかと思われた瞬間、口の大きさギリギリの一かけらを口に押し込んで、無事完食。タイムは29分59秒。薄氷を踏む思いで舩橋、第4ラウンド進出。観衆、スタッフ、そしてライバルの選手一同までが拍手で彼女の健闘をねぎらう感動的な場面が訪れた。

1位通過 河津勝 12分00秒完食
2位通過 久保仁美 23分11秒完食
3位通過 須藤明広 23分54秒完食
4位通過 舩橋稔子 29分59秒完食
失格 山本卓弥 ドクターストップ

 河津が作戦通りの速攻を決めてトップ抜け。彼がどこまで余力を残してクリアしたのかは分からないが、ソコソコの早食い能力があることは示された。これなら「フードバトルクラブ」でもソコソコまでは進出できるだろう。
 久保は恐らく、後半からは完全なクルージング状態だったのだろう。「美味しい物をたくさん味わって食べる」という思想信条は、胃容量こそ全く違うが、現王者・白田信幸と同じものだ。
 須藤は恐らくイッパイイッパイの数字だろう。しかし、札幌地区大会でコロッケ2.0kgを完食できなかった体たらくを考えると、幾分かの進歩は窺える。
 舩橋がここまで苦戦するとは意外であった。というのも、大阪地区大会の地区代表決定戦で、ぜんざい4kg余りを苦にせず完食していたからだ。この辺りの味覚は微妙なものなので、「ぜんざいなら何とか耐えられる」という感じなのかもしれないが。しかしそれにしても、ここで舩橋が敗退していたら、この大会全体が非常に締まらない悲惨なものになるところであった。彼女の底力と、敵味方を忘れて彼女を応援した選手達のフェアプレー精神を称えたい。

 さて、問題の山本卓弥ドクターストップ問題である。
 「大食い選手権」では、昨年から選手の体調管理に対する意識を高めており、これまで2日制で行われていた大会日程を3日制に改めるなどの策を講じている。今回のドクターストップ事件も、予選段階からの度重なる選手の途中棄権を踏まえての事と推測できなくはない。しかし、結果的にこの判定は極めて疑問の残る判定であった。
 このドクターストップに関しては、事もあろうか、番組サイドは主原因を「山本の自己管理能力不足」に置こうとしているようだが、これは筋違いな事甚だしい。失敗の責任転嫁を図るのはTV東京に限らず、TV局全てに蔓延する悪癖だが、TV東京と「大食い選手権」は似たような問題で“前科”(小林尊絶縁事件)があるだけに、この“再犯”についての批判は免れまい。

 まず、今回のドクターストップまでの経緯についての、番組現場責任者からの声明をまとめると、以下の通りになる。

 「前日の第2ラウンドで、山本は7.25kgもの記録を残した。しかし、この大記録が体に負担をかけていないかどうか念のため、一夜明けた第3ラウンド前に病院の診察を受けた。その結果、食べ過ぎにより、まだ未消化の内容物が残っていた事が判明した。
 山本自身は体に変調を覚えているわけでもなく、第3ラウンド以降への戦意も充分あるが、診察の結果を受けて、体調を考慮し念のためドクターストップとする事にした」

 では、この判定に関する疑問点を列挙していこう。
 まず一点目。「果たして7.25kgという記録は、選手が希望してもいないのに、敢えてドクターの診察を受けるほどのものであったのかどうか?」というものだ。
 確かに、この7.25kgという記録は、「大食い選手権」では桁外れの記録ではある。また、山本は規定の食材以外にも味噌汁6杯やその他ドリンクを口にしているので、実際に胃に入れた重量は8kgを超えているだろう。
 しかし、「フードバトルクラブ」の「ウェイトクラッシュ」では体重増加10kg以上を果たした選手が複数いるし、その彼らがその後に体調の異常で棄権したという前例は無い。
 また、昨年度の「大食い選手権」の新人戦では、射手矢侑大が、今回のとろろ汁かけ麦飯より明らかに消化の悪そうなカツ丼6.7kgを完食しているが、彼にはドクターの診察があったという情報は無いし、さらに翌日の決勝で、当時のレコードとなるラーメン20杯を完食し、見事優勝を果たしている。さらに射手矢は、秋の大会でも準決勝で真珠炊き込み御飯6.7kg完食の翌日、決勝でラーメン27杯強を完食している。
 これらの前例を踏まえると、果たして体調不良との自覚が無かった山本に、敢えて医者の診察を受けさせる必要があったのかどうか、極めて疑問であるといえよう。
 二点目。「『消化器内に未消化の内容物が残っている』という事は、果たしてドクターストップの理由となり得るのか?」という点も、甚だ疑問である。
 選手が胃の内容物を消化しきれずに敗退する例は、これまでの「大食い選手権」でも数多く見られた。今回も第2ラウンドの皆川がそれで途中棄権を申し出ている。
 しかし、胃の内容物が消化されていないからといって、競技開始前に失格を宣告された例はこれまで無かった。事実、この先の第4ラウンドで須藤が「餡巻きが消化されていないんですよ」と訴えるシーンがあったが、それで失格判定は無かった。一晩明けた後と5時間後という条件の違いこそあれ、症状は全く同じである。いや、むしろ自覚症状と不安を訴えた須藤の方が重症である。これは著しい不公平とは言えまいか。
 そもそも、ドクターストップとなる明確な基準が存在しない方が問題だ。もちろん、完全マニュアル化など出来るようなものではないが、せめてガイドラインくらいは作っておくべきではなかったか?
 三点目。「この『ドクターストップ』は、本当に『ドクターストップ』と言えるのか?」と言う事も疑問である。
 番組サイドから発表された声明では、「ドクターストップ」とは言いながら、山本を診察した医者は「食べ過ぎのため、未消化の内容物が残っている」と診断しただけで、その医者がドクターストップを進言したとは一言も触れられてはいない。むしろ、現場責任者が独断で決定した節さえ窺える。これでは「ドクターストップ」ではなく、「レフェリーストップ」である。しかも、「大食い選手権」では公式審判員を置いていないので、本来は「レフェリーストップ」はあり得ない。
 もちろん、大会全体の責任の所在は、番組制作サイドの現場責任者にあるので、この判断が不正であるとまでは言えない。だが、このグレーゾーンの判定を「ドクターストップ」などと“詐称”して、もっともらしく見せるのはどうか。いくら善意による行為とはいえ、勇み足にも限度があるというものだろう。
 四点目。「『念のため』という言葉はどこまで許されるのか?」
 先に挙げた現場責任者の声明概要の中に、赤字で強調した通り、2箇所「念のため」というフレーズが登場する。「『念のため』医者に見せ、『念のため』ドクターストップとした」という使われ方をしている。
 しかし、この「念のため」という日本語は厄介なもので、下手をすると全ての行動に足枷をはめることが出来る言葉でもある。極端な話をすれば、ちょっと頭痛がするだけで、「念のため」失格にすることが出来てしまうのだ。失格にすることは簡単ではあるが、それによって予想される不利益を天秤にかけて使うべき言葉なのである、この「念のため」という言葉は。
 最後に五点目。「食べ過ぎを責めて翌日失格にするくらいなら、どうして当日の内に止めなかったのか。もしくはルール設定を『無制限』で放置しておいたのか」
 「大食い選手権」の競技形式は、大まかに分けて2つしかない。“完食勝負”と“無制限勝負”である。今回の予選からは“サバイバル勝負”も始まったが、これも一応は“無制限勝負”の範疇に入る。
 そして、問題の第2ラウンドも“無制限勝負”であった。“無制限”と謳っている以上、今回の山本のように、勝ちぬけがほぼ確定していても、記録を伸ばすため時間内一杯まで競技を続行する選手もいて当たり前である。以前にも新井和響ら、そういう選手も多くいた。
 そういうルールを決めておいて、食べ過ぎたら医者に見せてドクターストップ裁定、しかも「自己管理も大切だから」と選手に責任転嫁。なんたる無責任か!
 今回の“事件”の最大の原因は、このルール整備問題にある。選手の健康管理に気を配るなら、自己管理を促す以前に、記録の上限を6.0kg程度に決めておいたり、30分経過以降に最下位選手とある程度の差がついた時点でトップ選手を勝ちぬけさせる“コールド勝ち”制度を創設するなり、色々な方法があっただろう。

 今回の「大食い選手権」は、全体として素晴らしい大会であり、素晴らしい番組でもあった。しかし、この「山本卓弥ドクターストップ事件」だけが、唯一、しかもどうやっても償いようの無い大きな汚点になってしまった。今後、二度とこのような事のないように、番組サイドに猛省を促すと共に、山本卓弥選手のこれからの競技生活に幸多からん事を祈りたい。

◎追記(3/24)◎

 この「山本卓弥ドクターストップ事件」について、岸義行公式ウェブサイト「大食いワンダーランド」内のBBSで、同BBS管理人のアリスさん(=現役フードファイターの別府美樹さん)の書き込みがあった。
 アリスさんはそこで、「大食い選手権」のTV局側ディレクターに直接聞いた談話の要旨を公開してくれた。詳しくは実際にそのBBS・「ティールーム」を見て頂ければ良いのだが、その書き込みが流れた後にこの追記をご覧になる受講生のことも考えて、この非公式談話のポイントだけを抜粋して掲載する。
 談話のポイントは以下の通りである。

 ・第2ラウンド終了後、山本卓弥選手本人から「膨満感がある」という自覚症状が運営サイドに伝えられた。彼にとって、食後に膨満感を覚えたのは初めてのことだったようだ。
 ・その訴えを受けて、第3ラウンドの時間を繰り下げて、山本選手を病院に連れて行き、診察させた。
 ・レントゲン撮影の結果、胃に食べ物が詰まっている状態であったため、医師、番組スタッフ、本人の合議の上でドクターストップが決定した。
 ・診察後、消化(促進)剤を服用したところ、数時間後に体調は改善し、第3ラウンドの収録時には餡巻きをもぺろりと平らげていた。

  ……以上がポイントである。
 この談話が100%真実だとすると、先に駒木が挙げた疑問点の1から3までは解消されることとなる。本人が同意の上、という事を考えると「念のため」続行断念という第4の疑問点も、ここでは追及を避けた方が良かろう。
 ただ、このような事態を避けるためのルール整備が今後の課題である事は間違いなく、また、誤解を招くような編集・放送をしてしまった番組制作サイドの責任は免れる事は出来ないだろう。
 とりあえずは、山本選手個人の気持ちが踏みにじられたわけではなかった事を素直に安心したいと思う。

 


 ……以上が第1回分のレポートでした。次回をお楽しみに。では、今日の講義を終わります。 (次回に続く) 

 


 

3月15日(金) 文化人類学
「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・地区予選TV観戦レポート&決勝大会展望(2)」

 ※昨日の講義を受講されていない方はこちらからお読みください。

 まず、昨日の講義の訂正から。札幌大会で2位になった須藤明広選手の名前が複数箇所において間違っておりました謹んでお詫びして訂正させていただきます。

 今日の講義も、昨日に引き続いて「全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦」の地区予選の模様と、それを踏まえての決勝大会の展望をお送りします。
 どうぞTV観戦の参考資料としてお使いください。

 それでは以下からレポート本文になります。レポート文中は文体を常体に変え、選手名も敬称略とします。偉そうに語っているように見えますが、文章の性格上柔らかい文体では合わないのです。どうかその辺りをご了承ください。


◆大阪(近畿・中国・四国)地区予選◆

 大阪予選に関しては、以前「なにわ大食い選手権」としてTV放映された際にレポートを行っているので、詳細はそちらを参照して頂くとして、ここでは記録とプロフィール等の紹介に留めることにする。
 大阪大会の詳細はこちら(2/14付講義)をクリック。

 ☆1回戦・ジャンボたこ焼き30分勝負

 ※ルール:5個1皿(=200g)のジャンボたこ焼きを、30分以内にどれだけ食べられるかを競う。参加者は書類審査通過の31名。2回戦に勝ち抜けるのは3名。

 競技内容の詳細についてはレポート(2/14付講義)参照。 

1位通過 山本卓弥 30皿(6.0kg)
2位通過 舩橋聡子 23皿+3個(4.72kg)
4位繰上 楊木田圭介 17皿(3.4kg)

 ※楊木田は予選4位タイだったが、3位選手の辞退か、若しくは番組側の事情で繰り上がり。

 それでは、1回戦通過3名の簡単なパーソナルデータを。

 ◎山本卓弥…18歳、169cm56kg。どことなく射手矢侑大を思わせる風貌。典型的な大食い体型。
 紹介VTR中の大食いパフォーマンスでは、回転寿司30分73皿という高レヴェルの数字を叩き出した。ちなみに、昨年の「大食い選手権」予選での記録5傑は、白田85皿、高橋78皿、立石74皿、射手矢69皿、稲川63皿。

 ◎舩橋聡子…23歳、158cm40kg。風貌だけなら、中学生とも見紛うような小柄。こちらも典型的な大食い体型。
 紹介VTRでの大食いパフォーマンスは、15分でご飯モノを2.5kgというもの。現在のレヴェルでは特筆するほどでもなかろうが、今回の場合、他地区の選手たちと比較すれば上位にランクされる記録といえる。

 ◎楊木田圭介…19歳、183cm80kg。白田(193cm86kg)は例外として、大食い選手としては大柄な方だろう。
 大食いパフォーマンスでは、ドライカレーを30分で3.6kg。こちらも現在の大食い界では平凡な記録だが、他の地区では充分勝負になる数字だけに、よりによって大阪大会に出場してしまったのは不運としか言いようが無い。

 ☆2回戦(地区代表決定戦)・ぜんざい30分勝負

 ※ルール:1杯50gの白玉入りぜんざいを、30分でどれだけ食べられるかを競う。最下位1名が脱落。

 競技内容の詳細についてはレポート(2/14付講義)参照。 

1位通過 山本卓弥 104杯(5.2kg)
2位通過 舩橋聡子 83杯(4.15kg)
3位落選 楊木田圭介 48杯(2.4kg)

 トップで地区代表を決めたのは山本卓弥だった。30分5.2kgという、甘味大食いタイトルホルダーの赤阪尊子と同格かそれ以上のハイスコアを叩き出しての圧勝。しかもまだ完全に余裕残しというから恐れ入る。満腹感が増幅される甘味での記録だけに、数字以上に価値のあるパフォーマンスと言える。
 2位通過の舩橋聡子も余裕残しでこの数字。現在女性大食い実力No.2である岩田美雪を上回る実力を秘めていると考えて良さそうだ。
 3位落選の楊木田。記録そのものは大食い競技にしては平凡なものだが、名古屋や福岡では優勝ラインにも匹敵する数字だけに惜しい。とにかく相手が悪かった。

 ☆地区大会決勝・カレーうどん60分勝負

 ルール:カレーうどん(重量未発表だが、かなりのビッグサイズ)を60分以内にどれだけ食べられるかを競う。ただし、スープは残しても良いという「大食い選手権」ルールが適用される。

 競技内容の詳細についてはレポート(2/14付講義)参照。

優勝 山本卓弥 15杯完食
準優勝 舩橋聡子 10杯完食

 山本卓弥が、地区代表決定戦に引き続いての圧勝で地区チャンピオンの座に輝いた。
 実はこの日は地区代表決定戦とのハシゴ収録で、なんと彼はぜんざい5.2kgを平らげた数時間後にこの記録を残した事になる。しかも本人はまだ胃に余裕があるというのだから末恐ろしい。
 この競技で使用されたカレーうどんは、とにかくビッグサイズ。それに加えて、カレーうどんが普通のうどんよりスープが残し辛い事を考えると、この15杯と言う記録は、通常のうどんなら軽く20杯以上は行く数字である。
 今回のパフォーマンスを考えると、現時点でも間違いなく「大食い選手権」オールスター戦決勝進出レヴェルで、潜在能力だけなら“最低でも”射手矢侑大クラス。あわよくば白田信幸・小林尊レヴェルまで到達しそうな才能を持っていると言える(それを考えると、番組内での白田の賛辞はリップサービスではなく本音だと思われる)
 今回の他地区チャンピオンと比較すると、頭1つどころか体全体が1つ2つ分抜きん出ている。文句ナシで優勝候補の筆頭で、余程の事が無い限り決勝大会でも圧勝劇が見られるであろう。
 唯一の弱点は、まだ巨大な胃袋を時間内に満腹にできるほどのスピードが未開発であるところだが、これも今回の選手レヴェルを考えると問題にならない。とにかく能力の絶対値が違いすぎる。
 準優勝の舩橋は、山本卓弥のビッグパフォーマンスにワリを食った形だが、それでも他地区の代表と比べると実力は抜きん出ている。この新人戦のみならず、打倒・赤阪の一番手としての末永い活躍を期待したい。

◆福岡(九州)地区予選◆

 ☆1回戦・明太子イス取り勝負

 ※ルール…第1から第3までの3つのテーブルが用意され、それぞれ明太子関連の食材が置いてある。用意された食材は、第1テーブル・明太子&ご飯(計1.0kg)、第2テーブル・明太子シューマイ(700g)、第3テーブル明太子ウインナー(400g)。
 書類選考を通過した30名の参加者は、まず第1テーブルからスタートし、食材を完食すれば第2テーブルに進出。しかし第2テーブルには席が10脚しか無く、この席が埋まった時点で、残りの20名は失格となる。
 同じ要領で第2テーブルで競技が行われ、第3テーブル着席の時点で7名に絞られる。そして第3テーブルをクリアした選手上位5名が地区代表決定戦に進出となる。

 複雑な競技形式だが、これも名古屋大会と同じく、大食い能力よりも早食い能力を問う競技だと言えよう。しかし福岡大会では、名古屋大会のような不始末は起こらなくて済んだ。だがこれは、競技形式が優れているわけでも何でもなくて、余りの低レヴェルのために、早食いが早食いにならなかっただけだ。「早食い」とは全員が完食を前提とした争いなので、完食できない者が多いと早食いとしての競技が成り立たないのである。
 なにしろ3つの食材の重量累計2.1kgをクリアできたのが僅かに4名。なんと地区代表決定戦への進出枠が埋まりきらなかったのである。「大食い選手権」関係者も、余りのレヴェルの低さに頭を抱えたに違いない。1回戦で見所があった選手は、トップ通過の嘉数千恵くらいなものだった。

1位通過 嘉数千恵 2.1kg完食
(順位は第3テーブルクリア順)
2位通過 白勢貴浩
3位通過 安楽与司春
4位通過 中林修一

 では、例によって、地区代表決定戦進出者の簡単なプロフィールを紹介しよう。

 ◎嘉数千恵…32歳、155cm50kg。
 名古屋大会では、ペースが掴めずに1回戦敗退も、福岡まで遠征して見事にリベンジ。本業は看護婦。一応は大食い向け体型であり、その点でも期待できる。
 ◎白勢貴浩…24歳、185cm90kg。
 大学時代はアメフト部に所属。体系的には大食い向きではないが、部活時代に「めし練」で仕込まれた大食いがどこまで通用するかがカギ。
 ◎安楽与司春…39歳、176cm84kg。
 体型から大食い適性が有るとは言えなさそうであるし、年齢も消化能力に衰えが見られる頃。苦戦必至か。
 ◎中林修一…30歳、172cm112kg。
 こちらも医者から肥満気味と指摘される程であり、胃の容量的に期待しづらい。

 ☆地区代表決定戦・焼き餃子45分1本勝負

 ※ルール…1皿10個・70gの焼き餃子を、45分間でどれだけ食べられるかを競う。上位2名が決勝大会に進出。

 序盤戦、中林が好スタートを決め、約2分で5皿完食一番乗りを果たす。しかし間もなく嘉数がトップに立ち、8分経過の時点で10皿完食1番乗り。後続からは白勢が追い上げ、水で流し込む作戦で追随する。中林は早々に3番手まで後退し、残る安楽は独自のペースで追走。
 15分経過。1位嘉数(19皿)、2位白勢(14皿)、3位グループ・中林、安楽(12皿)。
 この時点で既に嘉数のワンサイドゲーム。下位の2人はもちろん、2位の白勢までスローダウン。白勢は水を多用しすぎたツケが回って来たか。
 残りの30分、焦点は嘉数の記録一点に絞られることとなった。
 35分経過。1位嘉数(29皿)、2位白勢(19皿)、3位グループ・中林、安楽(15皿)。
 100個の差をつけられた白勢、「(100個差は)考えないように頑張ります」と開き直りか諦めか。
 嘉数は38分で30皿の大台に乗せ、さらに記録を伸ばしにかかる。そして44分で340個に到達。この時、白勢はようやく200個に到達していた。そして間もなく、制限時間が終了。九州地区代表は嘉数千恵と白勢貴浩に決定した。

1位通過 嘉数千恵 34皿+5個(2.415kg)
2位通過 白勢貴浩 20皿+6個(1.442kg)
3位落選 安楽与司春 15皿+7個(1.099kg)
4位落選 中林修一 15皿+6個(1.092kg)

 地区チャンピオンは嘉数千恵。相手に恵まれすぎて平凡な記録に終わったが、終盤の様子からもまだまだ余裕が窺え、さらに記録の上積みが期待できる。
 ただし、ここまで3kg以上の世界を経験していないのは問題で、果たして決勝大会で高いレヴェルに巻き込まれた時、上手く対応できるかどうかがカギとなるだろう。
 2位通過の白勢は、序盤で水を多用したためとはいえ、「大食い選手権」本戦進出者としては余りにもお粗末な記録。決勝大会では大苦戦を強いられることだろう。
 3位以下の2人については多言を要しない。結局、1回戦で2.1kgに苦しんでいた姿が全てだったのだろう。

 

◎決勝大会展望◎

 さてここからは、地区代表10選手による決勝大会の展望及び優勝者予想を行う。
 まずは、ここで5つの地区大会を勝ち抜いてきた10人の選手をもう一度まとめて紹介しよう。以下の表をご覧頂きたい。

地区大会順位

選手氏名

地区大会記録
札幌大会1位 河津勝 鮭茶漬4.95kg
札幌大会2位 須藤明広 鮭茶漬3.15kg
東京大会1位 皆川貴子 玉子焼3.10kg
東京大会2位 久保仁美 玉子焼2.91kg
名古屋大会1位 羽生裕司 きし麺2.675kg
名古屋大会2位 近藤菜々 きし麺2.30kg
大阪大会1位 山本卓弥 カレーうどん15杯
大阪大会2位 舩橋聡子 カレーうどん10杯
福岡大会1位 嘉数千恵 餃子2.415kg
福岡大会2位 白勢貴浩 餃子1.442kg

 ここに挙げた記録の中で、余裕残しでマークされた記録は東京2位の久保、大阪1位の山本、福岡1位の嘉数のもの。
 また、名古屋大会は時間前に繰上げ終了で、2位の近藤は2.5kg程度までは記録を伸ばせた可能性がある。
 さらに大阪2位の舩橋は、この記録の前にぜんざいを4kg以上胃に納めている事を考えなければならない。

 ……と、以上の点を踏まえた上で、決勝大会の展望に移ることにしよう。

 まずは決勝大会の内容だが、これは今までの慣例から考えると、比較的容易に想像がつく。
 第1ラウンドは、30分で2.5kg程度の完食勝負(完食出来ない者が脱落する形式)だろう。そしてその後は1日2〜3ラウンドのペースで45分ないし60分の無制限勝負(完食量下位1〜2名が脱落する形式)が食材を変えながら繰り返されて、それが上位3名まで絞り込まれるまで続く。無制限勝負でのボーダーラインは、前半戦が2.5kg程度、準決勝では4kg近くの攻防になるのではないだろうか。
 そして決勝は3人による60分間の麺類(ラーメンorうどん・そば)大食い勝負のはずだ。「大食い選手権」始まって以来、ほぼ毎回行われてきた伝統の競技形式である。

 この推測が当たると仮定すると、まず2.5kgの完食が難しい選手は第1ラウンド通過すら覚束ない。それを考えると、ここで福岡2位の白勢がかなり危ない。他に北海道2位の須藤、そして名古屋組の羽生と近藤も際どいところだろう。
 第2ラウンド以降は耐久戦である。まず真っ先に第1ラウンドで苦戦しそうな4人が脱落候補と見て間違いない。また、東京1位の皆川も、胃容量に明らかな限界があり、意外に早く限界が訪れそうだ。以上、消去法で5人が消え、そして残ったのも5人。
 今度は残った5人の内でのサバイバルレース。まず実力がずば抜けているのが大阪代表の2人。安定して4kgオーバーの記録を叩き出せるのだから、まともに行けば、まず決勝進出は間違いないところだろう。
 最後の1つの枠を争うのが河津、久保、嘉数。
 スピードで勝るのは河津で若干有利
だが、胃容量の勝負になった時は久保や嘉数にもチャンスが巡ってくるかも知れない。
 決勝戦は恐らく大阪大会の再戦になるだろうが、山本の実力上位は覆し難い。恐らく、決勝戦は山本のワンマン・ショーになるのではないだろうか。焦点はどれだけ彼が記録を伸ばせるか、といったところだろう。

 今回の大会では5つの地区大会が行われたが、これはこれまでの「大食い選手権」最大の問題点であった、“予選の段階で本戦の展開が読めてしまう”という点を是正するために行われたものではないかと推測している。要は「フードバトルクラブ」対抗策の一貫である。
 ただし、今回は余りにも安易に出場者と本戦出場者を増やし過ぎたために、大阪大会を除いて選手全体のレヴェルが著しく低くなってしまった。もし大阪大会までレヴェルが低かった場合、優勝を「フードバトルクラブ」で2回戦にすら進んだ事のない河津にさらわれる可能性が極めて高く、そうなると「大食い選手権」の価値が大きく揺らぐところであった。この点は番組スタッフの間で大いに反省してもらいたい。(話の流れ上、河津が優勝できない事を前提に話をしている事をご容赦願う)

 決勝大会の放映は3月21日(木・祝)。受講生の方で「TVチャンピオン」が視聴可能な方は、是非、ニューヒーロー誕生の瞬間を確かめて頂きたいと思う。


 ……以上が今回のレポートでした。今後、4月初頭まで断続的に文化人類学の講義が続きます。他の講義共々、どうかよろしく。
 それでは、今日の講義を終わります。(この項終わり)

 


 

3月14日(木) 文化人類学
「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・地区予選TV観戦レポート&決勝大会展望(1)」

 さぁ、いよいよ春のフードファイト・シーズンが始まりました。これから2週間ほどの間に、「大食い選手権(新人戦)」と、「フードバトルクラブ3rd」の両メジャー大会の模様がTV放映されます。
 フードファイトを文化人類学として研究対象にしている当講座でも、当然これらの競技会に関する講義を行います。フードファイト・ファンの皆さんはもちろん、これまで余り興味が無いという受講生の皆さんも、是非受講された上で、充実したフードファイト・ウォッチングに励んで頂きたいと思います。

 今日から2回の予定で、14日に放送された「全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦」の地区予選の模様と、それを踏まえての決勝大会の展望をお送りします。

 以下からレポートになります。レポート中は選手名は敬称略・文体を常体に変えます。


◆札幌(北海道・東北)地区予選◆

 ☆1回戦・コロッケ25個早食い勝負

 ※ルール:5個1皿(=400g)のコロッケ5皿25個(総重量2kg)の完食タイムを競う。
 参加者は書類選考通過の30名。6組に分かれて競技が行われ、完食タイム上位5名が代表決定戦に進出。制限時間は45分間で、もしも完食者が5名に満たない場合は、45分間での完食数の多い者が順に勝ちあがる。

 45分で2kgという条件は、一人前の選手なら楽勝の条件で、トップクラスの選手なら5分前後でクリアしてしまう数字と言える。だからこそ、番組側も「早食い勝負」というフレーズを用いたのだろう。
 しかし、競技開始から間もなくして見せ付けられた光景は、“たった”2kgのコロッケに悪戦苦闘し力尽きていく選手たちの姿であった。
 とにかく完食者が現れない。第1組からは制限時間時間ギリギリで大山康太1人が完食を果たしたが、これでもまだマシな方であった。
 威勢の良い言葉だけ吐いて、次から次へとタイムオーバーしてゆく選手たち。いや、“選手”という言葉を使うことすらためらわれる。先日放送された「デブ王選手権」の出場者より食が細い“大食い選手”とは何たる体たらくか。
 出場者中、まともなパフォーマンスを見せたのは最終組の河津勝だけであった。しかし河津は昨年度の「フードバトルクラブ」出場経験者で、厳密に言うと今大会の出場資格は無い人物である。
 どういう事情で彼が出場に至ったかは知る由も無いが、とにかく彼が出て来てくれて良かった。そうでなければ余りにも悲惨な予選会になるところであった。
 結果、時間内完食者2名に加えて、21個(1.68kg)完食者3名が、地区代表決定戦進出を決めた。だが、河津の言う通り「(大会に)出てくるなら完食くらいしなくちゃ」というところであろう。

1位通過 河津勝 14分44秒完食
2位通過 大山康太 44分07秒完食
3位タイ
通過
金田浩司 21個完食
手塚欽昭
須藤明広

 以下、地区代表決定戦進出者の簡単なパーソナルデータを紹介する。ただし、今回は出場者PR用のVTRが製作されなかったため、ごく簡単なものにさせて頂いた。

 ◎河津勝…29歳、182cm74kg。
 メジャーデビューは「フードバトルクラブ2nd」(1stステージ22位敗退)。年末の「キングオブマスターズ」にも出場したが、クジ運に恵まれず1回戦で新井和響と対戦する羽目になり、当然のように惨敗。敗者復活戦では健闘はしたものの、4人中3位敗退に終わっている。2001年度フリーハンデ値50ポイント(42位)。

 ◎大山康太…24歳、175cm107kg。
 声優・歌手の桜井智熱狂的ファンという奇異なキャラクターは確かに目立つが、肝心の大食い適性はといえば肥満体質でもあり極めて疑問。“大食い自慢の一般人”の範疇を越えられるか?

 ◎金田浩司…30歳、173cm94kg。
 ◎手塚欽昭…28歳、170cm110kg
 ◎須藤明広…29歳、177cm110kg。
 以上3名は、職業が漁師というところから、MCの中村有志に“魚三兄弟”と命名される。体型は典型的な肥満体型で、こちらもフードファイターとしては前近代的な体型。1回戦での記録も平凡であるし、どこまでやれるか……。

 ☆地区代表決定戦・鮭茶漬45分間おかわり勝負

 ※ルール…1杯350gの鮭茶漬を、45分間でどれだけ食べられるかを競う。上位2名が決勝大会進出決定。

 フードファイトに使用される食材の中では、最も食べ易いものであるお茶漬け。かつて山本晃也が、5.2kgを3分余りでクリアしてしまった事もある、“好記録メーカー”の食材である。
 では、競技の模様を伝えられる限り紹介しよう。
 スタート早々、河津が楽々と先頭に立つ。現役トップクラス選手と比較すれば明らかに見劣る河津も、このメンバーに入るとさすがに実力が違う。あっという間に後続に2杯以上の差をつけてしまう。以下、須藤、金田、手塚、大山の順で序盤戦は進行。1回戦2位通過の大山、原因不明の大ブレーキで最下位スタート。
 15分経過。1位河津(11杯)、2位グループ手塚・須藤(8杯)、4位金田(7杯)、5位大山(4杯)。
 これまでスプリント系の種目しか体験した事の無い河津、独走状態になりながらも、大食い競技における自分のペースが掴めない様子。しかし他の選手はというと、ペースが掴めないどころか、既に満腹状態になってスローダウンして早くも胃袋の限界。地区代表決定戦にして何たる惨状か。最下位で完食量の少ない大山はスローながら食が進んでいるが、あくまでもジリジリ。
 35分経過。河津と大山以外は手が完全に止まっていて、食べている2人にしてもペースは極端に落ちている。河津は目標を15杯完食に置いていたが、ここに来て微妙なペースとなる。
 40分経過。手が止まっていた選手の内、金田がおもむろに動き出して8杯目を完食。これで杯数だけなら2位タイに浮上だ。スローペースながら食べ続けていた大山はここで力尽き、脱落が決定的に。河津はようやく14杯目をクリア。序盤のハイペースが嘘のように停滞を強いられている。
 終了1分前。焦点は2位争い。追い上げる金田と、振り払おうとする須藤。その行方は、終了直前に須藤が9杯目を完食して勝負有り。河津は結局15杯完食ならず。

1位通過 河津勝 14杯+50g(4.95kg)
2位通過 須藤明広 9杯(3.15kg)
3位落選 金田浩司 8杯+100g(2.90kg)
4位落選 手塚欽昭 8杯+30g(2.83kg)
5位落選 大山康太 6杯+20g(2.12kg)

 河津が格の差を見せつけ、楽勝で地区王者の座に就いた。やはりこのメンバーでは力が違い過ぎた感がある。ただし、食材が水分中心のお茶漬けという事を考えると、この記録にはやや不満が残る。ある程度の大食い適性は示したが、トップクラスと伍すためには、やや実力不足は否めないところ。
 2位通過は須藤満腹感を圧してラストスパートを決めた気迫は評価できるが、それでもまだ“フードファイター”というより“大食い自慢”の範疇だろう。決勝大会では苦戦必至と言わざるを得ない。
 3位以下には特筆すべきものは無い。予選1回戦の惨憺たる有様が全てであった。

 

◆東京(関東・北信越)地区予選◆

 ☆1回戦・カレーパン途中下車勝負

 ※ルール…都電浅草線の貸切車両に乗り込み、駅から駅までの間(1〜2分間)にカレーパンを1個(=80g)ずつ完食してゆく。次の駅に停車するまでに完食できなければ失格。ただし、10個までは「5駅先に進むまでに5個完食」のパターンを2セット行う。
 参加者は書類選考通過者の21名。地区代表決定戦進出枠の5名に絞られるまで競技が続行されるサバイバル形式。

 後で述べる名古屋大会と共に、今回から予選に採用されたサバイバル形式。大食い力だけでなく、ある程度のスピードを要求するもので、恐らく「フードバトルクラブ」を意識したものであるといえる。
 ただし、この形式には問題点も多い。これは、実際に問題点が噴出して一部で話題になった名古屋大会のレポートで詳しく述べる事にしよう。

 胃に溜まりやすく、早食いに向かない事では定評のあるカレーパンだけに、総重量1kg前後で脱落者が相次ぐ。予選段階ゆえの選手間の能力のバラつきもあったのだろう。最終的に20個完食の時点で規定の5人に絞られて競技終了となった
 結果的に通過条件となったのは、総重量1.6kg。時間は停車時間を含めて平均2.5分とすると、50分程度という事になるか。スプリントのインターバルトレーニングのような形式だったが、競技時間的には一応大食いの範疇で、大食い系フードファイターとして最低限度の能力を持っているかどうかを見極めるには、まずまず適した条件といえる。

●チェックポイント毎の通過人数状況●

 スタート(21名)→5個(20名)→11個(19名)→12個(16名)→15個(15名)→16個(14名)→17個(9名)→19個(6名)→20個(5名=終了)

上位5名生き残り 碓井高貴 20個(1.6kg)完食
久保仁美
皆川貴子
佐藤清
西林伸晃

 以下、東京地区代表決定戦進出者の簡単なパーソナルデータを。

 ◎碓井高貴…31歳、170cm64kg。
 どことなく新井和響に似た風貌。一応、大食い向きの体型ではあるか。
 ◎久保仁美…21歳、154cm42kg。
 典型的な大食い体型。本人も競技終了後に「まだ(胃には)余裕がある」と笑顔で答え、大器の片鱗。
 ◎皆川貴子…32歳、164cm39kg。
 なんと2児の母。こちらも体型は大食い向きの超スレンダー体型で、胃の容量には期待が持てそう。
 ◎佐藤清…28歳、175cm72kg。
 カレーとパンが大好物で、毎日「3個だけ」カレーパンを食べているという“カレーの猛者”。
 ◎西林伸晃…38歳、181cm100kg。
 5人の中で唯一の肥満体質。大食い体型の選手が2人勝ちあがっているだけに、やや苦しいか?

 ☆地区代表決定戦・玉子焼き45分食べまくり勝負

 ※ルール…1皿あたり卵5個使用の玉子焼き(=350g)を45分間でどれだけ食べられるかを競う。上位2名が決勝大会進出。

 玉子焼きは、噛みやすく柔らかいため、比較的食べ易い食材といえる。今回は350gひとかたまりのビッグサイズゆえに早食いは難しく、大食い選手権にふさわしいテーマ食材となった。
 トップクラス選手の参考記録としては、1口サイズのだし巻き玉子ではあったとはいえ、新井和響が2.0kgを2分40秒で完食するという、素晴らしいスプリント・レコードがある。

 序盤戦。まず皆川が、1皿目を1分21秒でクリアして勢いよく飛び出す。以下は久保、碓井、佐藤、西林の順。
 5分経過。1位皆川(3皿)、2位グループ・久保、碓井、佐藤(2皿)、5位西林(1皿)
 味変化が出来ない(?)条件下で、味の単調さに各選手苦しめられる。特に甘いタイプの玉子焼きだけに、余計苦しいようだ。
 大食い体型の女性2名が快調に先行。男性陣は碓井が何とか食い下がる形で前半戦は推移。
 22分30秒経過。1位グループ・皆川、久保(6皿)、3位グループ・碓井、佐藤(5皿)、5位西林(3皿)。
 この辺りで佐藤、西林の手がストップ。早くも限界到達で脱落濃厚。
 上位陣にも異変が訪れる。8皿目の皆川、7皿目の佐藤の2人が胃の限界が近いことを訴え、ペースダウン。一方の久保はまだ余裕たっぷりで、上位2位に入る事だけを考えている様子。
 やがて碓井が3位で置かれるようになり、こちらも脱落濃厚。これで地区代表争いの大勢は判明し、焦点はトップ争いに絞られた。
 40分経過して間もなく、皆川、久保ともに8皿目をクリア。しかし余裕の無い皆川に比べて、久保は依然として余裕綽々だ。
 ところが、トップ通過は久保かと思われた44分過ぎ、突然皆川が脅威的なラストスパート。久保は余裕が仇になって、それに対応できなかった。皆川がトップを死守したまま競技終了

1位通過 皆川貴子 8皿+300g(3.10kg)
2位通過 久保仁美 8皿+110g(2.91kg)
3位落選 碓井高貴 7皿(2.45kg)
4位落選 佐藤清 5皿+240g(1.99kg)
5位落選 西林伸晃 4皿+10g(1.41kg)

 東京地区チャンピオンは皆川貴子。胃の限界を圧してのラストスパートは立派であった。しかし、3.1kgという記録は、「大食い選手権・新人戦」では本戦進出ギリギリのレヴェルであり、大威張り出来るものではない。決勝大会のハイペースにどう対応してゆくかがカギになりそうだ。
 決勝大会での期待度なら、むしろ2位通過の久保仁美の方が高い。結局最後まで胃の限界を感じさせなかっただけに、記録の伸びも期待できる。課題はハイレヴェルの争いになった時にスピードで対応できるかどうかだ。
胃の容量は優れていても、胃を余してしまうなら宝の持ち腐れである。どちらにしろ、決勝大会が楽しみだ。
 3位以下の選手たちは力不足としか言いようが無い。2kg前後で胃の限界を訴えるようでは、今後の大成も難しいだろう。

 

◆名古屋(中部・北陸)地区予選◆

 ☆1回戦・天むすび太鼓打ちサバイバル勝負

 ※ルール…1個50gの天むすを、15秒間隔で打ち鳴らされる太鼓と太鼓の間に完食してゆく。15秒後、次の太鼓が鳴るまでに1個完食出来なければ失格。
 参加者は書類選考通過の30名。地区代表決定戦進出枠の5名に絞られるまで競技が続行されるサバイバル形式。

 競技会収録直後から、一部参加者の間で不満が爆発していたのがこの1回戦であった。
 形式の上では、東京大会とほぼ同じのサバイバル形式なのだが、名古屋では1個ごとのインターバルが短かったために、構造的に潜む問題点がモロに噴出してしまうこととなった。

 まず最終的に、この名古屋大会1回戦の通過条件となった条件の問題。これが天むす1.6kgを8分でというもので、明らかに早食い競技の範疇である。「大食い選手権」の予選としては明らかにおかしい条件だ。

 さらに、この形式ではフードファイトに必要な基礎能力である「胃の容量」を正確に見極める事が出来ない。これは大問題である。
 「フードファイトクラブ」を観ていればよく分かるが、いくらスプリント・早食いを得意にしている選手でも、水分込みで最低3〜4kg分以上の胃の容量を持っている。そうでないと競技に耐えられないためである。今回の1.6kg程度なら、素人に毛の生えたような能力しか持たない人間でも無理矢理胃の中に詰め込む事は可能で、そうすると、本格的な競技に出た時になって一気に化けの皮が剥がれたり、最悪の場合には嘔吐や呼吸障害という身体的な影響も懸念される(そして実際にそうなった)。
 これらの点から考えると、予選段階では、地味でも良いから純粋に胃の容量を競う形式にすべきではないかと思う。

 さらに問題点がもう1つ。この形式だと、ちょっとしたアクシデントで15秒時間切れ→失格になってしまい、本来実力を持つ者がオミットされてしまう可能性がある。事実、この大会で1回戦敗退した嘉数千恵が福岡大会で地区チャンピオンになるなど、あってはならない逆転現象が起こっている。予選というものは、優れた者を選抜するよりも、明らかに実力で劣った者を振るい落とす役割を果たすべきであり、この点もやはり大問題であった。

 …が、何はともあれ、このような問題点を噴出させながらも、競技会として一応成立したとは言える。
 サバイバル形式自体は、アレンジの仕方を工夫制限時間を5分毎に区切り、60分以上の競技を想定して食材の量を決定するなど)すれば面白い競技にする事も可能だと思うので、もっとスタッフ会議でアイデアを練って欲しい。個人的には「フードバトルクラブ」との差別化を図るカギがこの形式に隠されていると思っているので、大変期待している。

 では、この1回戦の競技状況と、地区代表決定戦進出者の簡単なパーソナルデータを以下に記す。

●競技の進行状況●

 スタート(30名)→10個(29名)→15個(20名)→25個(10名)→29個(7名)→30個(6名)→32個(5名=決定)

上位5名生き残り 羽生裕司 32個(1.6kg)完食
原田満紀子
近藤菜々
夏目由樹
大石裕子

 ◎羽生裕司…23歳、174cm78kg。
 職業は高校の体育教員。職場の同僚からは「お前じゃ無理だ」と言われたが、根性で奮起する。
 ◎原田満紀子…32歳、164cm54kg。
 面長の顔にサングラスという風貌で、周囲から“女・岸義行”と呼ばれる。確かに自他ともに認めるソックリさんだ。体型的にも大食い向けで、期待を持たせる。
 ◎近藤菜々…23歳、154cm50kg。
 ◎夏目由樹…31歳、162cm43kg。
 ◎大石裕子…30歳、161cm47kg。

 予選のあり方が杜撰だった割には、というか、スレンダーの大食い体型を持つ選手が揃った。これで1回戦の内容は悲惨だったが、何とか形にはなったかと思われたのだが……

 ☆地区代表決定戦・きしめん45分おかわり勝負

 ※ルール…1皿300gのきしめんを、45分間でどれだけ食べられるかを競う。上位2名が決勝大会進出。

 スタート早々、近藤を除く4選手が、制限時間を無視したハイペースでガンガン飛ばす。先手を取ったのは羽生で、初めの1杯を45秒でクリア。しかし2杯目から大石が逆転し、彼女が序盤戦のペースを握る。2番手に羽生、以下は原田、夏目、近藤。近藤は唯一、ハイペースに乗らずに独自のペースでチャンスを窺う格好。
 5分経過。1位グループ・大石、羽生(5皿)、3位グループ・原田、夏目(4皿)、5位近藤(3皿)。
 5分で1.5kgはさすがに早い。「フードバトルクラブ」の「ハングオーバー」並のハイペース。これが持続できればとんでもない記録になるが、これはさすがに無謀か。早食い系競技で勝ち抜いてきた新人選手たちだけに、戦い方が大食いに対応できていない印象。番組にゲスト出演していた白田信幸と赤阪尊子も、食べ方が大食い用のモノになっていないと指摘していた。
 競技の状況としては、1位グループの2人が依然ハイペースで飛ばし、その様子を窺いながらピッタリマークする原田、やや遅れ始める夏目、あくまでマイペース追走の近藤、といった感じ。
 10分経過。1位グループ・大石・羽生(7皿)、3位原田(6皿)、4位グループ・夏目、近藤(5皿)
 ここで1位グループの2人が早くも息切れ。やはり序盤の頑張りはオーバーペースだったようだ。これを見た原田が着実に差を詰める。まだ羽生はスローダウンしながら食べる力が残っているが、大石は完全に動きが止まった。そして、いつの間にか近藤が7皿完食。僅差の4位に追い上げて来ていた。
 しばらく時間が経った後、完全に動きの止まっていた夏目と大石は体調不良を訴えて途中棄権。オーバーペースが消化器に負担をかけていたようだ。
 このあたり、1回戦の構造的な欠点による悪影響がモロに出て来ている。胃の基礎能力を競わず、中途半端な早食い競技で選んだ選手を大食い競技に出してしまったツケがここで回ってきた格好だ。
 35分経過。1位グループ・羽生、原田(8皿)、3位近藤(7皿)。
 上位2人の記録が、10分経過時からほとんど伸びていないように、羽生と原田も胃容量の限界のようだ。ただ1人スローペースで追い上げる近藤。ビハインドが1皿を切った。
 それから間もなくして、敗勢を悟ったのか体調不良か、原田が途中棄権を申し出た。これで5人中3人が棄権し、残るは2人。自動的に地区代表が決定し、ここで競技は繰上げ終了となった。

1位通過 羽生裕司 8皿+275g(2.675kg)
2位通過 近藤菜々 7皿+200g(2.30kg)
途中棄権 原田満紀子 棄権のため記録なし
途中棄権 大石裕子 棄権のため記録なし
途中棄権 夏目由樹 棄権のため記録なし

 名古屋大会は、前代未聞の3人リタイヤという後味の悪い結末になった。これには色々な見方があるだろうが、やはり1回戦の構造的欠陥が少なからず影響しているだろう。
 地区チャンピオンは羽生裕司。結果的に最初の10分だけで代表の座を手中にした格好で、適性は大食いというより早食いの方にある選手と思われる。ただ、それにしても胃の容量が2kgソコソコで限界になるのでは非常に頼りなく、基礎能力に大きな不安がある。
 2位で代表の座に滑り込んだのが近藤菜々。ソルトレーク五輪のショートトラックで、5人中4人が転倒して唯一難を逃れた最下位選手が、漁夫の利で金メダルをせしめた事が話題になったが、形としてはそれに似ている。
 乱ペースに巻き込まれなかった判断力は見事だが、それにしてもスピードが遅すぎる。1回戦で早食い競技をクリアしているのだから、もっとスピードが出るはずであろうが、今回の記録はやはり平凡。決勝大会ではどこまで巻き返せるかがカギだろう。


 ……というわけで、3つの地区大会の模様をお送りしました。明日は残る2つの地区大会のレポートと、決勝大会の展望をお送りします。
 それでは、また明日。(明日に続く


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