「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

8/29(第55回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第5週分・後半)
8/27(第54回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第5週分・前半)
8/25(第53回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第4週分・後半)
8/23(第52回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第4週分・前半)
8/19(第51回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第3週分)
8/17(第50回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第2週分・後半)

8/13 総受講者100万人達成記念式典(クリックすると、新しいウィンドウが開きます)

8/5(第49回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第2週分・前半)
8/3(第48回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週/8月第1週分・後半)
8/1(番外編) 
人文地理「『観察レポート』特別版・駒木博士の東京旅行記」

 

2003年第55回講義
8月29日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第5週分・後半)

 どうも。今週号の「サンデー」表紙の安倍麻美が、どう見ても元女子プロレスラーの美咲華菜にしか思えない駒木ハヤトです、こんばんは(笑)。
 安倍麻美も、笑った顔は姉ちゃんそっくりなんですけどねぇ。素の顔だとエラく印象が違いますな。

 ……さて、今日は情報系の話題もありませんし、早速レビューとチェックポイントへと参りましょう。
 レビュー対象作は2本。短期集中連載の第1回と読み切りが各1本という構成です。チェックポイントも続けてお送りします。

☆「週刊少年サンデー」2003年39号☆

 ◎短期集中連載第1回『ふうたろう忍法帖』作画:万乗大智

 今週から最近の「サンデー」では最早お馴染みとなった短期集中連載がスタート。ただし今回は若手作家さんでもギャグ作品でもなく、ベテラン・万乗大智さんが勇躍登場して来ました。
 既に皆さんも、万乗さんについては8年間の長期連載となった『DANDOH!!』シリーズ(原作:坂田信弘)でご存知の事と思いますが、かなり詳細なプロフィールが掲載された公式のウェブページが見つかりましたので、『DANDOH!!』以前の経歴等は、そちらと「まんが家BACKSTAGE」のプロフィールを併せて参照して頂ければ…と思います。
 公式ページの方は、万乗さんが取締役を務めている有限会社アーパスのサイト内ページなのですが、どうやらこれは親族(お兄さん?)の経営している会社みたいですね。その会社の事業案内に「漫画の原作/原画の企画立案」と「キャラクター商品の企画開発」があるところを見ると、この(有)アーパスが税金対策用の会社の機能も果たしていると言う事ですか。

 意外な所で生臭い部分が発見できたところで(笑)、今回の新作についてのレビューへと移りましょう。

 に関しては、既に8年も週刊連載している方ですから、あれこれと注文をつけるポイントはほとんどありませんね。多少個性のキツい絵柄のような気もしますが、「サンデー」読者はもう慣らされてしまっていますので問題にならないでしょう。
 ただ、今回の主人公、ちょっとダンドーと似過ぎなのが気になって仕方ないんですが……(苦笑)。

 次にストーリー&設定ですが、有り体に言えば『パーマン』のオマージュなんですよね、これ(笑)。ちゃんとアレンジを加えているので別物になってますが、ほとんどの設定のベースは『パーマン』です。ここまで上手くアレンジすると、元ネタがバレても“パクリ”とは思えないという好例ですね。ストーリー展開のテンポも良いですし、さすがは週刊連載8年のキャリアといったところでしょうか。
 しかし、シナリオそのものには設定過多の嫌いがありますし、破綻している部分もあるのが残念でした。“コピーロボット”と本人が入れ替わった事による混乱をちゃんと描いて欲しかったのもありますし、第一、「そこまでして風太郎を守りたいなら、あと3日くらい山の中で監禁しとけよ」というツッコミが避けれらないですからねぇ……。
 まぁ、この辺を第2回以降でどう収拾させるかも含めて、今後を注視してゆきたいと思います。

 評価はプラス・マイナス両面を考慮して、B+寄りBという事にしておきます。勿論、ストーリー上の矛盾点が解消された場合などは評価を上昇修正することになると思います。


 ◎読み切り『進学教室 !! フェニックス学園』作画:水口尚樹

 続いての読み切り枠は、現在「サンデー超増刊」で連載中の『進学教室 !! フェニックス学園』が読み切りの形で出張して来ました。
 作者の水口尚樹さんは、現在連載未経験の「サンデー」系若手ギャグ作家さんの中で最も活発に活動している人でしょう。昨年には本誌で読み切りを発表した後、この『──フェニックス学園』の増刊連載を開始。そして今年は、増刊連載の合間に19号から短期集中連載を経験しています。
 今回は本誌連載へ向けての正に試金石となる“勝負”でしょう。果たして、出来栄えはどうでしょうか?

 まずですが、前回の登場から間がないので仕方ないのですが、相変わらず萌えとは程遠い絵柄ですよね(苦笑)。それでも画力そのものは幾分向上していますし、以前よりも「ちょっとでも男臭さを和らげよう」という気持ちが窺える分だけ、まだ「サンデー」作家らしくなったというところでしょうか(笑)。

 一方、ギャグの冴えは見事と言って良い位に進歩していますねページ変わりの1コマ目にオチを持って来る視覚効果を上手く活用出来ていますし、緩急をつけた前フリとオチのインパクトも効果的に出来ています。特に今回はボケとツッコミの間が絶妙で、いわゆるギャグの“打率”が非常に高かった事に好印象を持てました。更に言えば、ネタがほぼ全て全年齢対応になっているのが良いんですよ。ネタを理解できる人が偏ると、どうしても支持層が限られてきますからね。

 敢えて欠点を探すならば、多少強引過ぎる展開がいくつか見られた点ですが、これも許容範囲といって良いものです。ほとんど欠点ナシの素晴らしい作品という事で、評価はAとしておきたいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「今、無性に食べたい物」。
 ……なんか皆さん、カロリーと脂質が強烈な食べモノばかりですねー(笑)。そんな食生活だと和月伸宏さんみたいになっちまいますよ
 とはいえ、食べたい物って、やっぱりコッテリした物になっちゃうんですよね。駒木も回答するなら、「ココイチのロースカツカレー・チーズミックス・ライス100g増量」って答えますし(笑)。ダイエット中なんで控え気味にしてるんですが、最近カツ系が食いたくて仕方ないんです。

 ◎『WILD LIFE』作画:藤崎聖人【現時点での評価:B+/雑感】

 今週、藤崎さん的にはサービスカット連発で「どうよ?」って感じだと思うんですけど、スイマセン、個人的には全然萌えませんでした(苦笑)
 まぁ少年誌的な限界があるのは百も承知なんですが、それでも何と言いますか、「服の上から聴診器当てるくらいやったら、他にする事一杯あるやろ!」…という感じなんですよね。いや、他に何をするのかはココでは言えませんが(笑)。
 やっぱり人には不得手な事があるものなんですねぇ。


 ◎『ロボットボーイズ』作:七月鏡一/画:上川敦志【現時点での評価:B−/雑感】

 うわ、正に絵に描いたようなタイアップ(笑)。個人的には、こういう企画というのは文字通りの“とってつけたような話”になっちゃうので好きじゃないんですよね。
 しかし今回、天馬が「いつも試運転は上手くいくけど、本番がダメで」なんて言ってましたけど、第1話を読む限りではとてもそういう風には……(苦笑)。いや、少しでも話の矛盾点を無くそうという努力は認めるんですけれどもね。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 当講座の談話室(BBS)で既に指摘があったんですが、賞金王決定戦の競走得点って、1着10点、2着9点、3着7点、4着6点、5着5点、6着4点ですから、予選の成績は波多野20点(5着、5着、1着)に対して洞口22点(2着、2着、6着)なんですよね。だから今回のラストの描写は誤りなんです。
 まぁ、ストーリー上、2人とも決勝に乗らない事には話にならないと思うんですが、河合さん、どう決着つけるんでしょうか?(苦笑)


 ……ということで、今月最後の講義をお届けしました。来月はいよいよ“積み残し講義消化月間”です。久しぶりにフル回転で腕を振るうつもりですのでご期待下さい。(ただ、月初は小旅行の予定があるんですがね)

 それでは、講義を終わります。

 


 

2003年第54回講義
8月27日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第5週分・前半)

 ようやく正常なカリキュラムになりました。まぁ本来なら、「ジャンプ」のレビューは月曜深夜に実施するのが筋なんでしょうが、当講座のレビューは時間をかけて吟味しないと話にならないので、こればかりはご勘弁願います。

 ところで最近になって気付いたんですが、「ジャンプ」って、登場人物紹介前回までのあらすじ紹介が無いんですよね。しかも、その割にはやたら登場人物が多くて、シナリオもやたら複雑(伏線、回想、時系列の入れ替えが多いもの)だったりしますし……。
 ひょっとしたら、この辺も単行本を買わせるためのテクニックだったりするのかも知れませんが(穿ち過ぎ?)、もうちょっと“雑誌派”の読者の事も考えて頂きたいなぁと思ったり思わなかったり……。
 受講生の皆さんはどう思われますか? 

 
 ──さて、この話題はとりあえず置いておきまして、今週も情報系の話題から。今週で『ROOKIES』(作画:森田まさのり)が時期外れの円満終了となった影響か、来週は読み切り作品が一挙2本掲載となります。

 まず1本目は、現在『シャーマンキング』を連載中の武井宏之さんによる49ページの特別読み切り作品・『エキゾチカ』。予告からは今一つ中身が掴めないんですが、どうやら車が絡んだアクション物になりそうです。
 普通、連載と並行して描かれた読み切りというのは出来がイマイチであるケースが多いんですが、果たしてどうなるでしょうか?

 2本目は、新人ギャグ作家・大亜門さん『超便利マシーン・スピンちゃん』。題名を聞いてピンと来た方もいらっしゃると思いますが、「赤マルジャンプ」03年春号に掲載された、『スピンちゃん試作型』の続編という事になりますね。
 以前にも“「赤マル」掲載→本誌読み切り→本誌連載”…というパターンが多く見られただけに、文字通りの正念場となる今回の作品の出来は非常に気になるところです。「赤マル」では即連載級のテクニックを見せてくれただけに、期待したいところではありますが、さてどうなるでしょうか。
 どうでもいい話ですが、今回の『スピンちゃん』本誌登場、一読者としては本当にメチャクチャ楽しみにしています。こんなに楽しみなのは尾玉なみえさんの本誌登場以来ですので非常に……心配です(苦笑)。

 
 ──それでは、レビューとチェックポイントへ。今週のレビュー対象作は読み切り1本のみですが、チェックポイントの方は色々とお話する事がありますので、ボリューム的にはご満足頂けると思います。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年39号☆

 ◎読み切り『LIKE A TAKKYU !!』作画:高橋一郎

 今週の読み切り枠は、新人・高橋一郎さんの卓球系ボクシングマンガ(!)『LIKE A TAKKYU !!』です。
 高橋さんは現在20歳02年下期の「手塚賞」で準入選を受賞し、その受賞作・『ドーミエ〜エピソード1』が本誌03年16号に掲載されてデビュー。このデビュー作が異色のシナリオ構成だった事から、一部で注目を集めたのは記憶に新しいところです。

 ……それでは、デビュー2作目となる今回の作品について、レビューをしてゆきましょう。

 まずはについて。有り体に言えば「第一印象でかなり損している絵柄」といったところでしょうか。
 本来、新人作家さんの描くマンガというのは、無駄な線や描き込みが多いものなのですが、高橋さんの場合は逆なんですよ。ちゃんと“マンガの文法”を理解し、描かなくてはならない部分をキチンと残す一方で、省略して良い部分は思い切ってゴッソリと削っているんです。これが出来るという事からして、高橋さんは間違いなく水準以上の画力(ただしマンガ限定の)を持っていると言って良いと思います。
 ただし、画力そのものに未だ発展途上の部分を残しているため、第一印象ではかなり雑な絵──言い換えると“実力のあるプロが手抜きをしているような絵柄”──になっています。この点についてはかなり残念でした。今後はもう少し見栄えのするペンタッチを開発する事が望まれます。それが難しいのであれば、独特の作風を活かして、いっそのこと原作者に転じるのも面白いかも知れません。
 あ、あと細かい点ですが、本誌222ページ(このマンガの30ページ目)の6コマ目、なんか両手で同時にパンチ打ってるように見えて変ですね。こういうミスも勿体無いです。

 次にストーリー&設定について。こちらも語るべき所の多い作品ですね。
 先に良かった点から述べてゆきましょう。まず、登場人物の数をギリギリまで絞り、更に主役格キャラの2人の過去や環境を掘り下げる事によって、そのキャラクターに“厚み”を持たせたのは良いですね。設定が説明じゃなくて描写になっているのも好感が持てます。
 また、シナリオそのものは、よくある“ヒロイン勘違い→主人公巻き込まれて災難型シナリオ&出来なきゃ嫌な男と付き合わなきゃいけないヒロイン特約付”のそれなんですが、これを卓球とボクシングでやってしまうあたりからも、高橋さんの非凡な才能の一面が窺えますね。
 ただし、反省すべき材料も残されてはいます。主人公のキャラクター造型の上で、トラウマという本来はもっと厄介な設定を軽はずみに出してしまった点、また、「楽しく生きる事が人生で一番大事なこと」という作品のメインテーマを語るのに冗長かつ説教臭くなってしまった点などがそうですね。これらのポイントは作品の根幹を為す部分だけに、それらのツメが甘くなってしまったのは非常に残念でした。狙いは全然悪くないだけに、あとちょっとした微調整でかなりの傑作になったはずなんですが……。

 さて評価ですが、作・画両面の完成度を考慮した場合、今回はB+が適当といったところでしょうか。しかし、高橋さんの持つ作画のセンスを考えると、近い将来“大化け”する可能性は極めて高いと思われ、今後において大変期待が持てる新人作家さんである事は間違いないでしょう。次回作がとても楽しみです。


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週号は話題のタネの多い号でしたが、「嫌事は極力言わない」の原則から、テニス版の念能力バトルはスルーの方向で。

 ◎『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ここ数週は回想編なんですが、これくらいテンポが速いと、やはり読み応え出て来ますね。ただ、回想編が適正なテンポという事は、当然メインストーリーは冗長になってしまってるわけで……。まぁ、冗長とは言っても手抜きしているわけじゃなくて、思い切り広げた風呂敷を思い切り丁寧に畳んでいるだけなんですが。
 今の“空島編”が終わってからで良いですから、いくつか数回で1エピソードになるショート・ストーリーを堪能してみたいですね。フランス料理フルコースの合間に出て来るシャーベットみたいなのを、是非お願いしたいところです。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/今週分のシナリオ構成分析等】

 今週、ネット界隈でやたらと叩かれていたのがこの『アイシル』でした。今週登場した超ステレオ型“アホでマヌケなアメリカ白人”の言動が癇に障ったのか、某巨大掲示板なんかではエラい言われようしてましたね。
 プロレス界の名言「悪役は読者の憎しみは買っても、怒りを買ってはいけない。憎い悪役なら客は彼を観に会場へ戻ってくるが、怒らせてしまうと客は二度と会場に帰って来ない」…なんてのがあるんですが、そういう意味において、今回は結果的にやや失敗だったのかも知れませんですね。
 ただ、この作品はリアル路線のように見えて、設定面では相当なディフォルメ(現実の極端化)が施されているんですよね。ですから、ステレオタイプなアホ白人が出た事を批判するのは「何を今更……」な話なんですよ。それに、これまでも恋ヶ浜や賊学といった“踏み台役”の相手チームのトップは、誰にでも判り易くて憎たらしいチンケな悪役でしたよね。そういう意味では今回のアホ白人も“前例踏襲”ではあったわけです。まぁネタが多少安直だったかも知れませんですが。
 今回の『アイシル』がの内容が人によって生理的・感情的に受け付けなかった…ってのは理解できるんですが、その感情に妙な理論武装をして作品の価値全体をぶっ叩くのは、ちと行き過ぎのような気がします。

 でも今回の『アイシル』は、ストーリーテリングの観点から言うと、もの凄い密度で色々な事をやってるんですよね。
 箇条書きにすると、こんな感じです。

 ●太陽高戦の翌日にNASA高戦をするという超ハードスケジュールを、コンディション的に五分で戦えるような常識的なスケジュールにするための“事件”を起こす。
 ●ただし、普通に延期するだけだと太陽側が泥門に出場権を譲った理由が消失するので、泥門が出場した場合じゃないと解決できないような“事件”を設定する。
 ●次回対戦相手と、関連する主要登場人物(NASA高監督)をキャラクターを含めて簡潔に紹介。
 ●NASA高監督のキャラクター紹介に絡める形で先述の“事件”を設定すると同時に、この人物を“判り易い悪役”であると手っ取り早く印象付ける。
 ●そのついでに、泥門側や主催者側に「打倒、NASA高!」となるような動機付けを行う。(特に主催者サイドの立場を泥門寄りに持っていくところが重要)
 ●NASA高監督の悪役っぷりがちょっとドギツかったので、読者の不快感を持続させない内にとりあえず“因果応報”させて溜飲を下げさせておく。
 ●しかし、ネタ自体は「アメリカ人の日本人差別」というシビアなものなので、その仕返しは“目には目を”ではNG。別の角度から、しかも笑いのオブラートにくるんで、今回のエピソード全体を「シリアスじゃなくてギャグなんですよ。肩の力抜いて受け取って下さいね〜」…と印象付けるように仕返しさせる。
 ●当然、仕返し担当は“毒をもって毒を制す”タイプのヒル魔。最近ちょっと影が薄かったので丁度良し。ただし、他のキャラも総出演で毒の強さを和らげさせるのも忘れない。
 ●どうせだから、ウェブサイト用のネタにもしてみよう。

 ……これを19ページでやってるんですから、駒木は四の五の言う前に「凄ェ!」と思います。多分、普通の作家さんなら今回のエピソードだけで4回分くらいのページ数を使っちゃうんじゃないですかね。


 ◎『ROOKIES』作画:森田まさのり【開講前に連載開始のため評価未了/連載総括】

 病気休養明けから電光石火のスピードで完結。かなり駆け足な展開の最終回でしたが、語るべき部分は語りきっている感じですので、確信犯的な駆け足だと言って良いと思います。(だって、延々と来年の夏までのストーリーを語られた上に、また笹崎と1年以上かけて試合されても困るでしょ?)

 連載全体の総括ですが、「ジャンプ」作品にしては非常に贅沢なページの使われ方をした作品だったと思います。
 この作品は、アンケート結果での打ち切りを免除されていたそうですが、森田さんはその“特権”を思う存分堪能出来たんではないでしょうか。何しろ、ニコガク野球部がマトモに野球始めるまでにとんでもない時間がかかってますからね。アンケート結果を気にしないといけない環境では絶対無理です、こんな展開(笑)
 ただ、ちょっとばかりその“特権”を堪能され過ぎたような気がしないでもないんですよね。これだけの長期連載で、チーム結成以来1回目の夏の甲子園予選で事実上完結しちゃうマンガって、やっぱりアンバランスですよ(笑)。

 ……というわけで、作品全体の評価はA−寄りB+としておきます。まぁ何はともあれ、森田さん、お疲れ様でした。しばらくはゆっくり休んで、大好きなボクシング観戦でも楽しんだら良いんじゃないですかね。


 ◎『ピューと吹く! ジャガー』作画:うすた京介【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 駒木、『さるかに合戦』に大爆笑。こういう客観視能力って、ギャグ作家さんには大事ですよね。


 ……というわけで、今日のゼミは以上です。
 吉川雅之さん、PRIDEグランプリ決勝を観に行けるのは、連載がもうすぐ終わっちゃうからですか? …といった疑問を投げかけつつ、ではまた(笑)。

 


 

2003年第53回講義
8月25日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第4週分・後半)

 週をまたいでしまいましたが、先週発売の「週刊少年サンデー」関連のゼミをお送りします。
 今日はレビュー対象作がありませんので、出来れば“読書メモ”もやってみたかったんですが、またそれでカリキュラムを遅らせてしまっては元も子もありませんので、大人しく短縮バージョンで済ませてしまいたいと思います。

 ──というわけで、今日のゼミに使用するテキストは、8月20日発売の「週刊少年サンデー」38号です。ええ、次号予告に今週号のグラビアを飾った安倍なつみの実妹喫煙・先天的な音痴が80年代アイドルを想起させると一部で評判の安倍麻美がデカデカと載っているヤツです。
 マンガ雑誌の表紙がその雑誌の売上げを左右すると言うのは、半ば業界内の常識だったりするのですが、雑誌によっては主力の連載作品のイラストが表紙を飾るよりも、アイドルの水着写真が載った時の方が売れ行き好調な時もあるそうで。多分、現場にしてみれば物凄いジレンマなんでしょうね(苦笑)。

 ……あ、せっかく次号予告ページを開けて頂いたんですから、ここで情報系の話題もお送りしてしまいましょう。

 まずは短期集中連載の情報から。『DANDOH!!』シリーズでお馴染みの万乗大智さん新作・『ふうたろう忍法帖』で早くも再始動です。
 万乗さんは以前から増刊等で忍者アクション物作品を描いていましたので、今回はその延長線上にある作品と言う事になるのでしょう。長期連載後の復帰作は、その作者の真価を問われる場になるだけに、これは是非注目したいところですね。まぁ、一部の人はヒロイン(?)の万乗パンツ露出必至のコスチュームに注目しているのかも知れませんが……(笑)。
 勿論、当ゼミでも第1回と最終回の2度、レビューを実施する予定です。

 次に読み切りの情報を。ここ2年ほど増刊・「少年サンデー超増刊」を中心に積極的に活動中の若手ギャグ作家・水口尚樹さんが、現在増刊で連載中の『進学教室!! フェニックス学園』を引っさげて本誌に登場します。水口さんは過去に本誌で読み切りと短期集中連載を経験しており、今回が3度目の本誌登場となります。実力的には現連載陣と遜色無いモノを持っているだけに、ここで結果を出して本誌連載への足がかりを得たいところでしょう。こちらも次週分のゼミでレビューをお送りします。

 さて次。月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」6月期分の結果発表が出ていますので、例によって受賞者・受賞作を紹介しておきましょう。

少年サンデーまんがカレッジ
(03年6月期)

 入選=1編  
  ・『サムライハート』(=「サンデー超増刊」10月号に掲載)
   今野明範(20歳・東京)
 《講評:勢いのある絵、ストーリーの構成力の高さ、魅力的なキャラクターとその心情の描写に、編集部一同、才能を確信しました)
 佳作=該当作なし

 努力賞=2編
  ・『宇宙パトロール トメオ』
   新井隆広(21歳・神奈川)
  ・『カオス・シュレティンガー』
   ゆうき美也子(23歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=4編
  ・『あまねくムオン』
   真鍋誠(22歳・大阪)
  ・『アソビマスター』
   畠谷洋二(21歳・千葉)
  ・『サムライ・ピエロ』
   塩村聖雪(22歳・東京)
  ・『パイパイ』
   坂本大(22歳・東京)

 今回の受賞者さんについての過去のキャリアは確認出来ませんでした。

 それにしても、久々に入選作が誕生しましたね。ちょっと調べてみたところ、昨年02年6月期の『サブ・ヒューマンレース』(作画:小澤淳)以来ですから、ちょうど1年ぶりという事になりますね。講評を読む限りでは、絵からストーリーからキャラクターからベタ褒め状態で、ここまでプッシュされると楽しみになって来ますよね。
 こちらの方は、増刊号をチェックしてみて、A−以上の評価が与えられると判断した場合のみ、「読書メモ」枠でレビューする予定です。


 ──それでは、チェックポイントをお送りします。レビューお休みの分だけ、いつもより幾分“増量”の方向で。

☆「週刊少年サンデー」2003年38号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 恒例、巻末コメントのテーマは、「放っておかれると、ずうっとやってしまうほどの趣味」。
 そんな趣味があったら仕事にならない週刊連載作家さんだけあって、煮え切らない答え連発でしたね(苦笑)。敢えて挙げるなら、寝る事考え事でしょうか。お疲れ様です、としか言いようがありませんな、しかし……。
 そういう駒木も、3月の業務縮小までは似たような状況だったわけなんですが、パソコンを繋いで講義準備をしていた関係上、ネットサーフィンは依存症レヴェルだったような気がします(今でもか^^;;)。
 あ、あとは麻雀ですかね。さすがに手積みで仲間とダラダラやってると飽きますが、フリー雀荘の全自動卓でテンポ良くサクサク打ってると、本当に延々とやってしまいます。恐ろしや、亡国の遊戯。

 ◎『金色のガッシュ!!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 いったいどういう感覚してるんだよー、この人(雷句さん)のギャグセンスはー(笑)。この大緊迫した場面でナゾナゾ博士、しかもビッグボイン。で、しかも空気をおもくそ弛緩させといて、それでも全体の緊迫感は落ちていないと言う離れ業。まさにグルービーじゃありませんか。
 しかし、こんなケッサクを出しちゃうと、黙ってないんでしょうなぁ、師匠が(笑)。

 ◎『KATSU!』作画:あだち充【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 小説や映画なんかでは、重要な場面を印象付けるために敢えて情景描写を挟んで間を持たせる事があるわけなんですが、あだちさんの作品もそういう場面って結構ありますよね。
 特に今回のは、全体のストーリー上でかなり大事な場面だっただけに、非常に効果的だったと思います。何かと批判めいた事を言われる作家さんですが、こういう部分はちゃんと評価しないとダメですよね。

 
 ◎『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』作画:中井邦彦【現時点での評価:/雑感】

 うあー、本気でエコロジー世界征服秘密結社とのパワープレイに突入ですか……。何て言うか最悪の事態。
 しかし、このマンガに出て来る絵の具現化能力って、『うえきの法則』の超能力からバリエーションを無くしただけなんですけど……。この連載決めた編集部のお偉方の皆さん、それ分かってたんですかねぇ?

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】

 この号が発売された直後からのネット界隈で、「小学生のパンチラが──」とかいう話題が全く出て来ないあたりに、
 「人間、慣れって怖いな」
 ……と思いました(笑)。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 学校時代には必ず1人はいましたよね、何らかのダメ職人が(笑)。
 そういや駒木も学生時代の一時期、中央競馬の未勝利戦ばかりを病的なまでに研究していた時期がありまして、その頃はかなり立派なダメ職人だったような気がします(笑)。毎週「週刊競馬ブック」を手際よく縮小または拡大コピーして家に持ち帰り、それを鮮やかにスクラップ処理。カッターナイフとスティック糊の使い方の鮮やかだった事(笑)。
 それで、その研究した未勝利戦の馬券回収率が50%無かったんですから、まさにダメ職人。まぁ、そのお蔭で競馬のイロハは身に付いたような気がしますけどね。


 ……といったところで、今日はこれまで。次回は今週の前半のうちに…とだけ申し上げておきます。

 


 

2003年第52回講義
8月23日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第4週分・前半)

 お約束の日から1日遅れで申し訳ありません。今週3回目の「現代マンガ時評」をお送りします。講義をやってもやってもスケジュールが遅れ気味というあたり、何か闇金の返済に追われてるような錯覚を覚える今日この頃です(笑)。

 しかも今日は年に3度の「赤マルジャンプ」全作品レビュー。喩えて言うなら、料理学校出たばかりの新人コックの作ったフルコースを立て続けに10回食べさせられた上に詳細な感想まで求められる…という、心身にモロ負担がかかる作業です。ハッキリ言ってご勘弁願いたいです(苦笑)。でも、たまにとんでもない傑作が埋もれてたりするので止められないんですよね。さて、今回はどうなりますか……。

 それでは、これよりレビューを始めます。今までと同様、現役連載作家さんによる番外編はレビューから除外しますのでご了承下さい。

◆「赤マルジャンプ」03年夏号レビュー◆

 ◎読み切り『脱走屋鉄馬』作画:小林ゆき

 巻頭恒例の“打ち切り作家枠”、今回は昨年の「赤マル」夏号以来、1年ぶりの登場となります、小林ゆきさんです。
 小林さんは『いちご100%』の河下水希さんの弟子格にあたる女流作家さん00年上期の「手塚賞」で佳作を受賞し、その作品でのデビューはならなかったものの、翌01年の「赤マル」春号にて『北が丘少年魂』でデビューを飾りました。
 その後の小林さんの“出世”ぶりは正にトントン拍子で、「ジャンプ」本誌01年41号で読み切り・『あっけら貫刃帖』を発表するや、翌02年の11号から同名作品の連載を開始します。新人の層が分厚いことでは業界随一の「週刊少年ジャンプ」、デビューから1年も満たない内の連載獲得は快挙と言って良いものでしたが、連載で読者の支持は得られずに残念ながら12回・1クールでの“突き抜け”となりました。
 それからは先述の通り、02年「赤マル」夏号に読み切りを発表したものの、それ以後は作品発表の機会も得られないままで現在に至ります。恐らくは、その間も新連載作品を決める編集会議にネーム等を提出しつつ、捲土重来を期していたのでしょうが、これほど短期間に激しい浮き沈みを経験した「ジャンプ」系作家さんも珍しいでしょうね。

 ……と、経歴紹介が長くなり過ぎました。早々に内容へ話題を移しましょう。
 まずですが、多くのキャラクターの顔デザインが、画力そのものよりも雑に見える絵柄になってしまい、見栄え的に大きく損をしてしまった気がします。目立たない背景や特殊効果などは(アシスタント任せかも知れませんが)キッチリ出来ていただけに、少し勿体無かったですね。
 次にストーリー&設定に関してですが、お話そのものは形になっているものの、キャラクター&世界観など設定面での作り込みが甘く、結果として場当たり的で薄っぺらいストーリーになってしまいました。ちょっと抽象的な言い方になりますが、登場人物たちの過去が感じられないと言いますか……。
 確かに、ストーリーの中でも「かつて○○という出来事があって…」などと語られているんですが、それ以外の部分が全く想像できないんです。よくSFで主人公が人工的な記憶を植え付けられたりするモノがありますが、作品丸ごとそんな感じなんですよね。せっかくのキャラクターが、1人の人間でなく“作り物の動く設定”になってしまっては、シナリオの魅力も半減です。こちらも絵と同様勿体無い仕上がりになってしまいました。
 評価はといったところでしょうか。今後はストーリーを考える前に、先にキャラクターを作ったりすれば面白くなるかも知れませんね。

 ◎読み切り『双龍伝』作画:山田隆裕

 山田さんのデビューは「赤マル」98年春号97年12月期『天下一漫画賞』で佳作を受賞していて、その特典によるものでした。この98年春号でデビューした作家さんは、他に矢吹健太朗氏現在『バンチ』作家になった小野洋一郎氏などがいます。豊作なのかそうじゃないのか判断つかないのがアレですね(笑)。
 さて、“同期の桜”たちが順調(?)に出世を果たしてゆく一方で、山田さんは「赤マル」99年冬号にデビュー2作目を発表するものの、それ以来は作品発表の機会に恵まれませんでした。今回は実に3年半ぶりの復帰作。人情としては、誰しも頑張って欲しいと思うところですが……。

 まずですが、画力そのものはかなり高いと思います。今回の「赤マル」はビジュアル(画力)重視の編集方針を採ったと聴きましたが、これを見ると確かに肯ける話です。
 ただし迫力のある動きが表現出来ていないために、マンガというより一枚絵の集合体みたいな印象がありますし、少年の顔を描くのが苦手なのか、肝心の主人公の顔デザインが妙に崩れてしまっています。せっかくの画力が作品の魅力になり切れていない感じでしょうか。
 ストーリー&設定に関しては「見るべき物が無い」と申し上げなければなりません。説明的セリフのオンパレードで、ストーリーそのものは何のヒネリも無い平板なもの。見せ場も“「ジャンプ」的ご都合主義”である、「気合だけで超サイヤ人化→必殺技炸裂して敵を一発K.O.」では寂しい限りです。また、“前王の父親が(元・国王ではなく)国で最強の武将”という不自然な設定など、細かい面でのアラも目立ちます。
 評価はC寄りB−。これでは今後の見通しも暗いと言わざるを得ないでしょう。


 ◎読み切り『SEA SIDE JET CITY』作画:北嶋一喜

 ここから終盤近くまでは、デビュー作、もしくはデビュー2作目の新人さんが続きます。
 北嶋さんは今月に18歳になったばかりの現役高校生01年8月期「天下一」で審査員特別賞を受賞した後、03年3月期「天下一」で準入選を受賞し、その受賞作で今回晴れてデビューとなりました。

 のレヴェルは、年齢やキャリアを考えるとなかなかのモノでしょう。しかも、何気に美人な女性看護士の描き方などを見る限り、色々なタッチの使い分けも出来るようで、将来も楽しみと言えそうです。ただ、今回の画風は少年マンガと言うより児童マンガのそれだけに、違和感が無いわけではありませんでした。
 ストーリー&設定は、分かりやすく単純過ぎず…といった感じでまとめられており、こちらも年齢やキャリアなりに懸命の努力をした跡が窺えます。ネームのセンスも非凡ですね。
 ただし、“周囲から劣等生扱いされた主人公が、空を飛ぶ事で擬似リベンジする”というメインテーマが、“悪者をやっつける”というサブテーマに“喰われて”しまい、結果として“空を飛ぶ”という最大の見せ場が中途半端になってしまったのは非常に残念です。また、発明品を狙うギャングの設定や行動に説得力が無かったのも減点材料ですね。中途半端に勧善懲悪的シナリオにせず、主人公が空を飛ぶ事だけにスポットを当てた話にすれば、もっともっと良い話が作れたような気がします。
 評価はB寄りB+。これで「天下一」の準入選はさすがに買い被り過ぎでしょう。この月(03年3月期)の応募者に「1ヶ月遅らせて(賞金と特典が大幅グレードアップした)『十二傑新人漫画賞』に応募しておけば良かった」…と思わせないための救済措置だったのかも知れませんね。


 ◎読み切り『オウタマイ』作画:梅尾光加
 
 梅尾さんは、02年2月期「天下一漫画賞」の最終候補を経て02年「手塚賞」佳作を受賞し、その受賞作・『甲殻キッド』03年春号の「赤マル」でデビュー。今回は連続登場と言う事になりますね。

 に関しては、まだキャラの描き分け(特に輪郭)などの課題を残すものの、前作に比べると大分アカ抜けて来たのではないでしょうか。大ゴマを連発したダイナミックな演出も新人の域を超えており、今後が楽しみな逸材と言えそうです。
 ストーリー&設定の面では、何と言っても歌と舞踊を退魔系バトル物に組み入れたアイディアが新鮮で秀逸です。歌を題材にした作品と言えばバンドやヴォーカリストのサクセスストーリーに偏りがちですが、見事なコペルニクス転回です。このオリジナリティは大いに評価できるポイントですね。多少強引ですが、主人公を退魔の世界に巻き込んだ手法も良いでしょう。
 ただ、シナリオの細かい部分ではアラも目立ちます。封印が解かれた魔物が学校に憑りつく理由付けが為されていないため、ストーリー後半がご都合主義的になってしまいましたし、そのために前半で張った伏線も伏線になり切れませんでした。また、スピーカーでガナった軽音楽と日本舞踊が自然なコラボレーションをしてしまうのは逆に不自然ではないでしょうか? 
 恵まれた画力と秀逸なアイディアがありながら、それを生かすだけのディティールを作り上げられなかったのが非常に惜しかったですね。ただし、評価の上ではオリジナリティの豊かさを大いに買いたいです。甘めですがB+寄りA−の評価を進呈します。
 
 
 ◎読み切り『Z−XLダイ』作画:暁月あきら

 続いては、過去の経歴全く不明の暁月あきらさんの登場です。ただ、あまりにも新人離れした画力と「漫画歴5年」というプロフィールから、以前に別ペンネームでプロ又は同人活動をしていた可能性は極めて高いと思われます。
 また、確証は持てないものの、02年3月期「天下一漫画賞」の最終候補に残った空見宙也さんの『プロトガンナー』に絵柄が似ており、ここで「ジャンプ」との接点を持った上でペンネームを変えてデビュー…というのが真相かも知れません。この件に関しては、もう少し調査をしてみる必要がありそうですね。

 さて、作品についてですが、先ほども述べたように、に関しては即連載級の腕前だと言えそうです。多少の“同人臭さ”は感じられますが、それも鼻につくほどではなく、これは大きなセールスポイントですね。
 次にストーリー&設定についてですが、暁月さんはこの題材を長年温めて来たのでしょう、キャラクターや世界観の設定にかなり太いバックボーンを実感させてくれます。特にヒロイン・若葉がエクセルを嫌いになったきっかけなど、かなりベタな話ではありますが随分と話に深みを持たせてくれますね。
 ただし、その設定やキャラを活かし切るだけのシナリオになっていないのが残念なところです。悪役が単純なパワープレイで主人公サイドに攻めて来るのも芸が無い感じですし、後半で主人公・ダイがエクセルとしての自分を思い出して真価を発揮するシーンも強引が過ぎる嫌いがありますね。また、“かつて人間で、その記憶の断片を持つエクセル”というオイシイ設定が消化不良になってしまったのが痛すぎます。
 野球で言えば、ノーアウト満塁のチャンスをゲッツー崩れの1点だけでチェンジにしてしまったような感じでしょうか。今回の「赤マル」は惜しい完成度の作品が多いですが、この作品は惜し過ぎます。評価はB+。同じ世界観でもう1作品くらい読んでみたいですね。


 ◎読み切り『黄金の暁』作画:岩本直輝

 今年4月に新設され、“月間最優秀作は漏れなくデビュー”という破格の特典が話題を読んだ「ジャンプ十二傑新人漫画賞」その栄えある第1回の佳作&十二傑賞(=月間最優秀賞)に輝いた岩本直輝さんが登場です。
 先ほどの北嶋一喜さんも現役高校生の18歳でしたが、この岩本さんも、その北嶋さんと誕生日がわずか1日違いの18歳。こういう“伸びしろ”のある新人さんを次々と確保出来るのが「ジャンプ」の強いところですね。

 については、人物キャラデザインの未熟さ、キャラクターが背景に溶け込んでしまうゴチャゴチャ感など、今後修正すべき点は多いでしょう。しかし、黄金竜の迫力ある描写など、多くのマンガ家志望者が練習を敬遠しがちな(それでいてマンガ家として必要な)部分に力を注いでおり、将来性は確かに十分感じられます
 ストーリー&設定も、全体的にまだ未熟さが窺えるものの、懸命にヒネりを加え、内容のあるシナリオにしようとする気持ちがビンビン伝わって来て好感は持てます。話の基本的な流れはベタなのですが、そこに鉱石獣というオリジナルの要素を加えて、ある程度の斬新さを生み出す事にも成功しています。
 ただし、作品の重要なテーマである“人間と鉱石獣は信頼関係で結ばれるべき”…という部分に説得力を持たせ切れなかったのが非常に残念でした。“信頼”というものは一朝一夕で成立するものではないだけに、もう少し主人公と鉱石獣の触れ合いにページ数を割けば良かったのではないか…と思います。
 以上、まだまだ未熟な点が多く、今回の評価はB+に留めます。が、岩本さんが将来に期待できる逸材である事は間違いなく、次回作以降にも注目したいところですね。


 ◎読み切り『HEAVY SPRAY』作画:相模恒大

 続いても「十二傑」組、5月期十二傑賞の相模恒大さんが登場です。
 相模さんは「天下一漫画賞」時代の02年6月期、03年1月期で最終候補に残ったものの賞には恵まれず、今回は三度目の正直での受賞&デビューとなりました。

 まずはなんですが、一応は見栄えがする画風ではあります。が、構図やキャラクターによって得手不得手の差が大きいようで、コマごとの完成度にムラがあるのが少し気になります。また、この作品で一番重要であるはずのスプレーアートやペンキアートの“作中作品”がお世辞にも魅力的なモノとは言えず絵が逆に作品のクオリティを押し下げてしまった感も否めません。
 一方のストーリー&設定も、残念ながら長所より問題点の方が圧倒的に多くなってしまっています。何より、スプレーアートの本質的な魅力を描き切れておらず、結局は「スプレーで落書きするのが大好きなイタズラ坊主のドタバタ劇」になってしまっているのが痛いです。
 更に言えば、「スプレーアート以前に、どうしてペンキ屋が突然大繁盛するんだよ」というツッコミは避けられないラストシーンなど、シナリオ上の問題はプロット段階にまで及んでおり、有り体に言って課題山積というところです。
 評価はC寄りB−。幸運でプロデビューは果たせたものの、現時点での実力は他の有望新人さんには及ぶべくもなく、今後は猛烈な努力と勉強が必要になって来るでしょう。


 ◎読み切り『ゲームブレイカー』作画:村中孝

 続いて登場の村中孝さんも、今回がデビューとなる新人さん。しかし、編集部への持ち込みから各新人賞の受賞を経ずにデビューを果たしたようで、過去の経歴等は不明です。新人賞を盛んに開催している「ジャンプ」でも、たまにですがアシスタント等をしながら原稿持ち込みだけでデビューしてしまう人もいますが、村中さんもそういうタイプの新人さんなのでしょうか。

 の完成度は非常に高いですね。絵そのものだけでなく、かなり“マンガを描く訓練”を積んでいる印象もあり、今すぐ連載しても大丈夫でしょう。ただ、多少「サンデー」的な画風であり、「ジャンプ」本誌に載った場合は微妙な違和感が出て来る可能性がありますね。
 ただ、ストーリー&設定の組み立て方には課題が残っていそうです。まず第一に基本的な設定にかなり無理がある上、その設定がエピソード全体に生かし切れていない(=設定の消化不良)ため、全体的に散漫な印象があります。また、肝心の見せ場・バトルシーンも、妙に緊張感が欠ける駆け引きや、後付け設定や姑息な小細工が勝利の決め手になるなど、スケールの小ささが目立ちます。
 アイディアそのものには良作・傑作を生み出せる可能性があると思われるだけに、この作品も非常に勿体無いですね。評価は画力の分を加点してもBが精一杯でしょう。

 ◎読み切り『アシハラ戦記 トウタ』作画:ゆきと

 ゆきとさんは01年後期「手塚賞」で佳作を受賞し、翌02年の「赤マル」夏号でデビュー今回が1年ぶりの登場となります。前回はバスケットボールをテーマにしたスポーツ物作品でしたが、今回は一転して日本の神話世界をモデルにしたファンタジー。なかなか果敢な挑戦ですね。

 に関しては、画力そのものは別にしてマンガの絵として見難いのが気になります。線の強弱のメリハリを持たせないままで背景やエキストラ的キャラを細かく描き過ぎているので、メインのキャラが目立たないんですよね。せっかくの絵の密度が逆効果になっている感じです。線や絵の取捨選択というのも、マンガを描く上での重要なテクニックのはずですから、今後はこのあたりに目を配ってほしいものです。
 次にストーリー&設定の面ですが、設定過多のために話の流れが重たくなってしまったようですね。次から次へと設定や情報を与えられたために、話の筋を理解し難かった読者の方も多いのではないでしょうか。作者自ら「わかりにくい話だと思いますが」とコメントしていましたが、言い訳する前にもう少しネームを練るのがプロのあるべき姿ではないかと思います。いざ連載を始めた時でも、巻末コメントで言い訳したところでアンケートや単行本の売上げは稼げないんですからね。
 あと、よくよく見ればキャラクターの態度や言動に細かい矛盾がありますし、瀕死の主人公が何の理由も無く大復活してしまう(というか、ちゃんとトドメ刺しとけよアサカド)という“反則モノのラフ・プレー”など、シナリオを見た目カッコ良く消化させるために各所で相当な無理をしているようにも思えます。
 やはりファンタジーを短編で描き切るのは至難の業ですね。「赤マル」春号の『天上都市』作画:中島諭宇樹)のように、設定を説明するのではなく描写するテクニックを開発しない限り、成功は難しいのではないでしょうか。それでも、一応話そのものに大きな破綻が無かったので評価はBとさせてもらいます。


 ◎読み切り『red』作画:福島鉄平

 ストーリー系の新人・若手枠のオーラスは、「ジャンプ」では珍しい移籍組の若手・福島鉄平さんです。
 福島さんは00年に「コミックフラッパー」誌でデビュー。翌年まで同誌や他誌に読み切り作品を発表していましたが、その後は「ジャンプ」系新人予備軍に転出。03年1月期の「天下一漫画賞」で最終候補に残った後、加地君也さんのアシスタントを経て、今回のデビューとなりました。

 まずですが、好き嫌いの分かれそうな絵柄ですよね(苦笑)。画力そのものも決して拙劣ではないでしょうが、画力秀逸とするには躊躇するようなレヴェルであるとも思います。どちらにしろ、少年マンガの王道的なストーリーとの相性は悪そうで、今後の「ジャンプ」での活動の幅はかなり限定されてしまいそうですね。
 ストーリー&設定については、さすがに他の新人さんに比べて一日の長と言いますか、シナリオの組み立て方には工夫の跡が感じられますね。ただし、その工夫が作品の魅力を増しているかと言えば、これはNoだと思います。
 まずマズいと思ったのが、説明的なセリフと必要以上に判り辛くした伏線でストーリーが展開して行くという構成です。これですと読者は、長くて小難しい設定を延々と読まされたかと思えば、その場では何が起こっているのか判らない事件を次々と見せられる…と言った具合で、ストレスだけが溜まっていってしまいます。伏線は鋭い人には先が読めるくらいの情報量を与える位がちょうど良いはずですから、もう少し伏線だと判り易い伏線を張るべきではなかったかと思います。
 2点目の問題点としては、シナリオの起伏が緩く、全体的にマッタリ過ぎる…という点でしょうか。敵が主人公の存在を把握しているのに、わざわざ主人公の方がノコノコと敵の方へ出向いていくというのはさすがに……。
 最後に3点目。この作品は人命の価値について意図的にモラル・ハザードを起こしたストーリーですよね。勿論、それはそれで別に構わないんですが、それでも作中に1人も常識的な感覚を持ち合わせたキャラがいないというのはさすがにヤバいと思います。
 どんなにエグい話でも、そこに1人でもマトモな感覚(殺人に対する嫌悪感、恐怖感)を持った登場人物がいれば、読者はそこを拠り所にしてストーリーに没入してゆけるんですが、この作品ではそれが出来ていないのです。何しろ、登場人物中で最も“こっち側”にいると思われる人が、惨殺死体を目の前に「ダメなんだよね血とか」などと言っているわけですから……。
 そのため、読者と作品の間に不必要な精神的距離が出来てしまい、主人公やストーリーに感情移入できなくなってしまうんですね。この作品を読んでいて不快感を催した方もいると思いますが、それは間違ってないと思います(笑)。
 評価はBが妥当なところでしょう。もう少し話の見せ方に工夫を加えればグッと良くなったはずだけに、これまた勿体無い作品と言えそうです。


 ◎読み切り『肉虎(マッスルタイガー)!』作画:山田一樹

 この「赤マル」夏号では唯一のギャグ枠。コッテリとしたストーリー物が続いた後の口直しといったところでしょうか。
 山田さんは新人賞の受賞歴等無いまま、「赤マル」01年春号でデビュー。その後、本誌の01年50号、02年22・23合併号に代原ながら作品を発表しています。よって今回は、増刊・本誌通じて1年数ヶ月ぶりの登場ということになりますね。

 まずですが、どうしようもないレヴェルだった1年前に比べると、まだマシにはなっていると言えます。しかし、不自然かつワンパターンな顔のアングルや表情といい、迫力のまるでないアクションシーンと言い、プロとしては依然として落第点の範疇に留まっています。これでは作品全体の雰囲気は“クサい芝居のコント状態”みたいなもので、当然、作品のクオリティにもかなり悪い影響を与えています。
 また、ギャグについても課題は多いです。ギャグの密度が薄い上に、同じネタのボケの繰り返しと間の悪いツッコミのオンパレードで“笑うに笑えない”状況が延々と続いてしまっています。特にラストシーンなどは狙いすぎて半ば意味不明です。
 敢えてセールスポイントを探すとすれば、2度出て来たブレーンバスターのシーンでしょうか。元々動きの無い絵のお蔭で、怪我の功名的に間が良くなりました。売れない芸人の漫才で、ネタの途中に妙な間が出来て笑いが生じる事がありますが、ちょうどそんな感じです。
 評価ですが、個人的な「笑える、笑えない」を抜きにして絵やギャグの技術面という事で考えると、やはりCということになってしまうでしょうね。1年以上かけての成長度がこれでは、今後の見通しも極めて厳しいでしょう。


 ◎読み切り『プリティフェイス 番外編』作画:叶恭弘

 トリは“終了長編作品・番外編枠”ということで、今回は6月に連載を終えたばかりの『プリティフェイス』の番外編が登場です。

 しかし、こうして新人・若手作家さんの中に叶さんの作品が混じると、何とも表現のし難い“格の差”が感じられるのが興味深いですね。今回は画力自慢の新人さんが終結した増刊号だったのですが、そこへ入っても叶さんの実力というのは一歩図抜けているように思えます。これは恐らく、叶さんは画力そのものも然ることながら、様々なマンガを描くテクニック──構図の取り方、ディフォルメの技術、不必要な線や背景の省略など──が非常に長けており、それが作品のクオリティに反映された…という事なのでしょう。
 シナリオそのものは、かなり“お約束”に甘えた、強引かつ陳腐なモノではあるのですが、長期連載で築き上げた各登場人物の奇抜なキャラクターが、この欠点をカバーしています。番外編の“特権”を余すところ無く活用した、したたかな作品ですね。
 これを読む限り、あと何回か番外編を読みたい衝動に駆られますが、そういうタイミングで惜しまれつつ去るのが華というもの。見事な引き際を演出した叶さんに拍手ですね。
 評価は読後感の良さの分だけオマケしてA−。ただし、この作品は長期連載の番外編だからこそ存在し得たモノですので、評価も“ご祝儀相場”として受け取ってもらえると幸いです。

 
 ※総評…あるオフレコ筋からの情報で、今回の「赤マル」はビジュアル(画力)重視の編集方針であると以前から聞いていたのですが、確かに画力(特に絵の見栄え)の点で言えば、過去最高レヴェルの水準にあったと思います。
 ただし、それがそのまま作品としての水準に繋がらないのがマンガの奥深い所。今回は画力とアイディアに恵まれながら、それをフルに活かすだけのストーリーテリング力に欠けるケースが相次ぎ、結果として“傑作になり損ねた凡作”のオンパレードになってしまいました。かつて冨樫義博さんが「今の新人は絵の勉強ばかりし過ぎ」というような事を言っていましたが、それを象徴するような「赤マル」夏号だったのではないでしょうか。

 あと、非常に気になったのは、新人さんのストーリー系作品のシナリオ構成が、全ての作品においてお互いに酷似していた事です。
 どの作品も、まず1ページ目にモノローグで作品世界の大雑把な紹介等があって、2〜3ページ目で扉絵が来ます。で、次ページから“掴み”になるような“事件”があって、それが一段落ついた後にはキャラクターと世界観の設定説明がしばらく続きます。ところが平和な一時もここまで。その直後には先の“事件”よりも深刻かつ、作品の核となる“大事件”が起こってストーリーが一気に動き始めます。この“大事件”では主人公か主人公に関わるキャラが命の危機に晒されますが、そこから何らかのきっかけで主人公が一気にパワーアップ(擬似超サイヤ人化)し、一気に問題が解決して大団円へ。しかもカッコよく決めた後にズッコケさせてオチをつける所まで各作品共通です。
 ……まぁ作品によっては多少の誤差がありますが、大体こんな感じですね。ここまで来ると、編集サイドが意図的にシナリオ構成に介入しているとしか思えません。いや、編集さんがシナリオに口出しするのは構わないのですが、それにしても余りにも画一的過ぎる気がしませんか? 何だか同じ企画書の固有名詞を変えただけのプレゼンを延々と聞かされているような気分にさせられ、ちょっとばかり不快感を覚えました(勿論、それで評価を揺るがせた訳ではありませんが)。新人さんにはもうちょっと自由にやらせてあげても良いんじゃないかと思うんですが……。


 ……というわけで、以上が「赤マル」夏号のレビューでした。回を追うごとにボリュームが大きくなっている気がしますが、もう気にしない事にしました(笑)。
 次回は可及的速やかに実施予定です。「サンデー」のチェックポイント中心のアッサリとした構成になると思いますが、今回のボリュームに免じてご了承願います。ではでは。

 


 

2003年第51回講義
8月19日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第3週分)

 「現代マンガ時評」タイムラグ解消シリーズ第2弾、今日は先週発売の「週刊少年ジャンプ」37・38合併号についてのゼミを実施します。
 なお8月第3週分は、「サンデー」が合併号休みのため前・後半分けずに今日1回だけの実施となります。なお、今週発売の「赤マルジャンプ」に関しては、8月第4週分・前半として恒例の全作品駆け足レビューを行いますので、どうかご期待下さい。

 ……それでは情報系の話題から。まずは月例新人賞・「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の6月期分の審査結果が出ていますので、受賞者・受賞作を紹介しておきましょう。

第3回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年6月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作&十二傑賞=1編
 ・『URABEAT』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  田村隆平(23歳・滋賀)
 
《冨樫義博氏講評:伏線の使い方は分かっているようです。説得力がもっと増すように、その張り方や作品で扱う知識に気を配ると良いのではないでしょうか》
 
《編集部講評:キャラクターは良い。ストーリーも最終候補作の中ではずば抜けて上手い。しかしせっかくのストーリーに画力がついていってないのが惜しい。どんどん描いて画力アップを!)
 審査員(冨樫義博)特別賞=1編
  ・『電波にチカラ』
   浅野裕美子(21歳・京都)
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『ミラくるトーイ』
   山下綾子(26歳・東京)
  ・『HERO SYNDROME』
   吉田慎矢(17歳・島根)
  ・『Blue Steady』
   田畠裕基(19歳・福岡)
  ・『風神と雷神』
   石川綾一(年齢・住所不明)
  ・『スカイランド』
   岩本章一(26歳・埼玉)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります。(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎佳作&十二傑賞の田村隆平さん…03年2月期「天下一漫画賞」で審査員(武井宏之)特別賞を受賞。
 ◎最終候補の吉田慎矢さん…02年9月期「天下一」に投稿歴あり。
 ◎最終候補の田畠裕基さん…01年8月期「天下一」で編集部特別賞を受賞。
 ◎最終候補の石川綾一さん…03年4月期「十二傑」でも最終候補。20歳、宮城県との記載あり。

 今回の審査員は冨樫義博さん。さすがはネームだけでマンガの原稿料を稼ぐ男と言いますか、「伏線の使い方は分かっているようです」…だなんてグルービーな講評が印象的でした。
 ところで、来月の「十二傑」も講評に注目です。「既存の作品の影響が強すぎる」などという、まるで江川卓が球数100を超えて球威の落ちたピッチャーを批判するようなスカしたコメントは、果たして出るのかどうか? 
 ……やっぱり、日頃から後ろめたい事をやってる人は、こういう所で寒い思いをするんですよね(笑)。

 余談はさておき、情報系の話題をもう1つ。次号39号では、読み切り作品・『LIKE A TAKKYU』作画:高橋一郎)が掲載されます。
 作者の高橋一郎さんは現在20歳。02年下期の「手塚賞」で準入選を受賞し、その受賞作・『ドーミエ 〜エピソード1〜』本誌03年16号でデビューを飾っており、今回はそれ以来の作品発表となります。
 前作は“新人賞対応”のトリッキーな構成の作品だっただけに、今回は正攻法で挑んだ場合にどれくらいのクオリティを維持できるのかを注目したいところですが……。


 ──それではレビューとチェックポイントへ。今回のレビュー対象作は読み切り1本のみ。チェックポイントも続けてどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年37・38合併号☆

 ◎読み切り『ネコマジンみけ』作画:鳥山明

 「ジャンプ」の読み切りシリーズ、今週はベテラン作家枠、しかも合併号という事で、3年ぶりに鳥山明さんの登場となりました。
 恐らく「ジャンプ」系作家さんでは一番有名な人だと思いますので詳述は避けますが、鳥山さん先々代の編集長・鳥嶋和彦氏に才能を見出され(というか、鳥嶋氏のシゴきに耐え)、台頭。『Dr.スランプ』、次いで『DRAGON BALL』と、メガトン級の超大ヒットを連発し、「ジャンプ」黄金期の立役者となりました。
 『DRAGON BALL』終了後は第一線から退き、短期集中連載や読み切りを散発的に発表する活動方針にスイッチ。現在は文字通りの悠悠自適生活を営んでいるようです。しかし最近も『DRAGON BALL』単行本の再編集版が発売され、現役「ジャンプ」連載作品に伍して売上げランキングに名を連ねるなど、未だにその影響力は衰えるところを知りません。別の業界で喩えると、B’zがセミリタイヤしたような存在…といったところでしょうか。

 ──それでは本題へ。第一線を退いた作家さんの“読み切りのための読み切り”をレビューするのは初めてに近いですので、果たして上手い論評が出来るか不安ですが……。

 まずに関して。以前はスクリーントーンをほとんど使わない事で有名だった鳥山さんも、最近はペン入れ後の工程をコンピューターで済ませているとのことで、いかにもそれっぽい仕上がりになっていますよね。それにしても、トーン削りのような細かい作業が使えないにも関わらず、そんなに平板な印象を与えない作画技術はさすがだと思います。
追記:受講生の方から、「コンピューター作画でも細かい作業は出来ます」という、よくよく考えたら至極当たり前でごもっともなご指摘を頂きました。全くその通りです。駒木の栄養不足で死にかけた脳がご迷惑をおかけしました。
 要は、鳥山明さんが複雑な作業をやってないのに、ちゃんとした仕事になってる。凄い…と言えばよかったんですよね)

 また、地味な要素ですが、登場キャラの容姿や服装が2003年対応(あくまで田舎の村の2003年ですが)になっているのに感心しました。ベテランの作家さんは、得てして勉強不足で時代遅れの作画をやってしまいがちなのですが、このあたりはさすがです。

 ただし悲しいかな、ストーリー&設定の方は、鳥山さんのマンガ制作に対するエナジーが、その全盛期に比べて大いに減退してしまったのをハッキリと感じ取れるものになってしまっていまいました。

 この「ネコマジンみけ」のような、最後にハッピーエンドで終わるエンタテインメント系作品において、その構成を考える上で最大のポイントとなるのは、“いかにクライマックスシーンで読者にカタルシスを与えるか”…という部分です。こういうエンタテインメント系の作品では、決まって主人公が悪者を倒して終わりになりますが、何故そうするかと言うと、それが読者にカタルシスを与えるのに一番手っ取り早いからなんですよね。勧善懲悪モノが古典の時代から脈々と受け継がれているのは、実はそういうわけなんです。

 で、ラストで読者にカタルシスを与えるためには2つの要素が重要になってきます。その1つ目は言うまでも無くクライマックスシーンそのもの。これが上手くいかないと、文字通りお話になりません。
 そして2つ目が、そのクライマックスシーンに至るまでに、読者の気持ちに適度な負荷、つまりストレスを与えておく事です。同じ料理を食べるにしても、空腹時と満腹時では感じる美味しさが違ってくるように、読者をカタルシスに飢えさせておき、クライマックスのカタルシス効果を増幅させる…というわけです。
 この作業は案外サジ加減が難しく、やり方を誤ると読者がシラけてしまったり、あまりのストレスに読むのを放棄されてしまったりするのですが、傑作・良作を構成する要素としては外せないモノでもあります。

 では、この『ネコマジンみけ』はどうかと言いますと、このカタルシスを与えるための2つの要素──特に“ストレス付加”要素が弱いんですね。話のテンポが早い事もあるのですが、ストーリー上に大きな“谷”も“山”も無いまま、何となく「めでたしめでたし」で終わっている…といった感じです。その結果、読後感こそ悪くないものの、非常にインパクトの弱い作品に終わってしまいました。
 実は、読者にストレスを与えるシーンを描くというのは、作家にとってもストレスが溜まる作業でもあります。何しろ自分が手塩にかけて育てたキャラを苛め抜くわけですからね。本当ならやりたくないんです。しかし第一線に立っている作家さんは、そこを「傑作を描いてやるんだ」という情熱でカバーして、その困難を乗り越えてゆくわけなんです。
 しかし今回の作品(敢えて言うなら『DRAGON BALL』以降の作品全て)を見る限り、今の鳥山さんにはこの、「重いストレスを乗り越えてでもカタルシスを追求するだけの熱意、気力」が、大きく減退してしまっているように思えます。今回に限らず、最近の鳥山作品の評判が今一つ芳しくないのは、このあたりに主たる原因があるのではないかと、駒木は考えています。

 さて評価ですが、絵柄など見所はあるものの作品全体のデキは不完全ということで、B寄りB+ということにしておきましょう。こういう状態で長期連載されても晩節を汚すだけだったでしょうから、鳥山さんが第一線を退いたタイミングは見事だったですよね。まぁ、そう出来るだけの財産を築けたというのが一番大きいのかも知れませんが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週、ネット界隈で聞いて一番面白かったネタが、『アイシールド21』神龍寺ナーガの監督が言った、
 「念のため言うとくぞ。他の誰かが同じ真似しよったら、滝壷に沈んでもらう。だが阿含だけは許される。それが実力の世界というもんだ」
 ……の、「阿含」「冨樫(義博)」に代えて読むとピッタリ来る…というものでした。確かにまぁ、そのまんまですけどね(笑)。
 ただ、実力があって優遇されるならまだ良いんじゃないですか? ……というのが駒木の個人的見解ですね。しょうもない作品が何かの弾みで売れて、シナリオ編集者任せ、作画アシスタント任せで人生何遍も遊んで暮らせる金を稼ぎ出した人もいますからねぇ。(このゼミ、現役作家さんも結構聴講されてるらしいので、こんな事言うと怒られそうですが)

 あと今週は、よりによって盆進行で修羅場状態の作家さんに4コマ(しかもお題つき)を競作させるという、見かけよりも大層恐ろしい企画が実施されていましたね。
 編集者も相手が相手だけに、「あのねぇキミ、起承転結って言葉知ってる? ていうか、やる気あんの?」…というツッコミを入れることなど出来るはずもなく、発表された作品は、そのまま作家さんたちの4コママンガを描くセンスと執筆当時のモチベーションがモロに反映されていましたね。絶対、嫌がらせですよコレ。普段、作家が締め切りを守ってくれずにプライベートの時間を削られてる編集者たちの復讐ですよ(笑)。

 で、各作品のデキ具合に関してですが、4コママンガとして一番“形”になっていたのは『ONE PIECE』ですね。尾田さん、本当にマンガ描くの好きなんですなぁ。
 その他、個人的に気に入った作品を列挙していきますと、『H×H』(緻密に計算された投げやり振りが素晴らしい)『ジャガー』(さすがは「ジャンプ」No.1ギャグ作家の貫禄)『シャーマンキング』(イヨッ、番外編の達人!←褒めてません)『BLEACH』(4コマ目に工夫が欲しかったが、狙いはヨシ)……といったところでしょうか。以下、次点に『武装錬金』と『アイシル』ですかね。
 ちなみに、デキがアレでナニだった作品については敢えて詳述しませんが、「“やおい”の題材になる作品は、本当の作者が描いたパロディ4コマまで、ヤマもオチもイミも無くなる」というトリビアを発見した気がしました。15へぇ。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 今週は、とりあえずこの作品を採り上げておかないといけないでしょうなー(笑)。とりあえずの長期連載ゴーサインが出て(どうやらアンケート結果はマズマズ良好だったようです)現場のテンションが上がったのか、ギャグと言いストーリーと言い、物凄い濃密な19ページでした。
 評価の再検討は、現在の“パピヨンマスク編”が終わってからにしたいと思いますが、現時点では期待以上のデキと言っていいと思います。

 ところで、どうも“パピヨンマスク編”は、突き抜けても尻切れトンボにならないような、10回前後で一区切りつくようなシナリオになってるようですね。前作の失敗で懲りたのか、それとも“白装束を着た”状態で臨んだ連載だったのか……。
 まぁ意図はどうあれ、それが心地の良いハイテンポを生み出し、今の好結果に繋がったのだと言えそうです。

 余談ですが受講生さんの指摘によると、ビジネスホテルに未成年の女の子が1人で泊まろうとすると、非常に怪しまれるそうです。まぁ駒木などは、それを聞くと逆に、偽の身分証明書でシレっと「21歳・ルポライター見習い」になりきる斗貴子さんなどを想像してワクワクしてしまうのですが(笑)。

 ◎『ROOKIES』作画:森田まさのり【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 今週の御子柴の満塁ホームランは、「サンデー」の『MAJOR』作画:満田拓也)でもあるような、実力不相応の奇跡が起きる、“『プロゴルファー猿』的ミラクル”なんですが、今回の場合は、何とかそこに必然性を持たせようとする森田さんの気持ちが伝わって来て、非常に好感を持ちました。
 こういう地道な努力が出来る人というのは良いですね。もっとも、それが行き過ぎるとミクロン単位で長さを揃えようとする散髪屋みたいになっちゃうんですが(苦笑)。


 ……ちょっと短いですが、次回は長丁場になりますんで、今日はこんなところにさせてもらいます。
 「赤マル」はまだジックリ読んだわけではありませんが、『プリティフェイス番外編』を読むと、「やっぱり惜しまれるタイミングで止めるのが華だな」…などと思ったりしますね。いや、この社会学講座はまだまだ続きますけどね(笑)。

 ではでは。

 


 

2003年第50回講義
8月17日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第2週分・後半)

 随分久しぶりの講義になりますね。もっとも、駒木は記念式典前後の公私多忙があって、全く久しぶりという感じがしないのですが(苦笑)。
 それにしても、去年までは式典があろうが何があろうが中4〜5日で講義を再開していた事を思うと、本当に自分がヘタレになってしまったものと痛感してしまいます。まぁ、去年までと同じ事を今まで続けようとしていたら、多分どこかで過労入院する羽目になってたと思いますが……。

 さてさて今日の講義の内容は、8月6日の水曜日に発売された、「週刊少年サンデー」36・37合併号についてのレビュー及びチェックポイントとなります。物凄いタイムラグがありますが、もしもまだこの号の「サンデー」が手元に残っておりましたら、逐一参照の上、受講して頂きたいと思います。
 蛇足ながらこの号の目印を申し上げますと、『金色のガッシュ!!』が表紙&巻頭カラー次号予告が安倍なつみのグラビア特集目次の次ページが吉岡美穂が自衛隊員募集ポスターのようなポーズをとっているアデランスの広告になっている奴です。
 ……しかし、少年誌に1ページ広告を掲載しようと考えたアデランスの意図が全く判らないですよね。“少年誌にヅラ”という、喩えるなら“「週刊新潮」にリカヴィネ”級のミスマッチを実現に導いた、アデランスの広報さんの前途を大いに案じてしまいます。


 まぁ、そんな事はさておき講義です。この号では改めて採り上げる必要のある情報もありませんので、早速レビューとチェックポイントをお送りしたいと思います。
 今日のレビュー対象作は、新連載第3回の後追いレビュー1本のみ。それに続いてチェックポイントもお送りします。どうぞ宜しく。


☆「週刊少年サンデー」2003年36・37合併号☆

 ◎新連載第3回『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』作画:中井邦彦【第1回時点での評価:

 というわけで、「週刊少年サンデー」夏の新連載第2弾・『楽ガキFighter』の後追いレビューをお送りするのですが……。

 この第3回まで読んでの率直な感想を申し上げます。まさか、ここまで酷い作品とは思いませんでした。駒木も長年、物理的事情が許す限り色々な駄作と出会って来ましたが、ここまで勢いに溢れた駄作となると、『サイレントナイト翔』作画:車田正美以来かも知れません。

 何しろ、主人公と敵対する事になった組織の目的が、
「一部の強大な人間が大多数のバカな弱者を導く、争いや環境破壊の無い理想の世界を、絵が具現化する筆の力で建設する」
 ……という、もしも組織の理念について述べた本が発売になった場合、まずと学会送りがまず間違いないようなモノなのです。まぁ要は世界征服を宣言しているわけですが、ここまで薄っぺらいエコロジー理念を述べたご高説を、駒木は初めて伺いました。環境保護を訴えながら石油を自宅に備蓄していたカントリー歌手、故・ジョン=デンバーも真っ青です。

 しかも、とりあえず百歩譲ってこの“理想”をアリと認めるにしても、そうすると今度はこのお話と組織の目的が全く噛み合いません。いやしくも世界征服を企もうという組織なのだったら、少し頭の足りない高校生を組織の仲間に取り込む前に、具現化した絵で国会議事堂くらい占拠してはどうかと思うのですが(笑)。
 悪の怪人組織ですら世界征服のために幼稚園バスをジャックするのは控えるようになったこの21世紀に、このハリボテのような世界観。ハッキリ言って、もうお手上げです。
 ひょっとしたら、今回のやりとりが主人公・ハユマを能力に目覚めさせるためのショック療法という筋書きかも知れませんが、それならそれで読者に致命的な誤解を抱かせてしまうような見せ方に大きな問題があるわけで、全くフォローも出来ません。

 以上のように、この作品はそのストーリーや、それを差支える土台の部分が既に倒壊してしまっています。思うに中井さんは、師匠の江川達也氏の悪い部分──ハッタリを重視する余り、ストーリーが平板になってしまう点──だけを引き継いでしまっているような気がします。しかもそのハッタリすら中途半端なのですから、文字通りお話になりません……。

 評価は勿論大幅ダウンです。世界観、ストーリーが完全に崩壊しているわけですから、評価も止むを得ないところでしょう。


◆「サンデー」今週のチェックポイント◆
 

 巻末コメントのテーマは、「自分って親に似ているなぁ…と思うところ」。面白いように見えて、実は答えにくい質問のようで、コメントも「顔」とちょっとした性格に分かれた感じになりましたね。藤田和日郎さんは隣のページにデカデカと掲載されているフリーダイヤルに電話したんでしょうか。
 駒木は「声」でしょうか。親戚からかかって来た電話のことごとくで父親に間違われる度にそう思います。


 ◎『史上最強の弟子ケンイチ』作画:松江名俊【現時点での評価:B+/雑感】

 設定のベタさ加減では定評のある(?)この作品ですが、またしてもベタなキャラが出ました。オッパイ星人の小学生!
 えー、女性の受講生さんに言っておきますが、男も12歳になりますと、大抵は程度の差こそあれ性に目覚めてますので、リアルな世界でこういうガキに出会った場合は、問答無用でグーパンチをくれてやるのが得策だと思います(笑)。
 ちなみにウチの珠美ちゃんは、抱きつかれる以前に胸のサイズが……(睨まれてるのに気付いて固まったらしい)

 
 ◎『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【現時点での評価:B/雑感など】

 作中に登場した「狗神大サーカス団」って、やっぱり最近「うたばん」に出てる「犬神サーカス団」から来てるんでしょうなー。“藤田和日郎さんから借りたビデオの「かくし芸大会」”といい、藤崎さんは相当バラエティー好きのようですね。
 ところで、連載開始以来、この作品はB評価にしていましたが、そろそろB+くらいに上げても良いかと思っています。絶対音感にこだわり過ぎた初期に比べると、着実に良化していると思いますし、この位が妥当だと考えます。


 ◎『天使な小生意気』作画:西森博之【開講前に連載開始のため評価未了/連載総括】

 4年に及ぶ連載も晴れてフィナーレ。やや唐突な締め括り方だったような気もしますが、読後感は悪くなかったと思います。
 この作品の良かった所としては、いわゆるヒーローやヒロインだけでなく本当に平凡な脇役にも脚光を浴びさせた事、そして少年マンガ的な“必殺技バトル”をほぼ完全に封印し、それでいてちゃんと迫力のあるバトルが成立させた西森さんのテクニックでしょう。
 惜しむらくは、所々でストーリーの精度が危うくなってしまった点。もう少し骨太なシナリオ展開ならば、ここ数年の「サンデー」を代表する作品にも成り得たと思えるだけに、残念ではありました。
 最終評価はA−。とりあえずは安心して人に薦められる良い作品と言えそうです。

 
 ……というわけで、やや短めですが今日はここまで。次回は「ジャンプ」37・38合併号のレビューとチェックポイントになります。どうぞ宜しく。

 


 

2003年第49回講義
8月5日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第2週分・前半)

 今日の講義が、とりあえずは記念式典前最後の講義になると思います。また、今日も式典の準備と平行しつつ…という感じですので、駆け足、駆け足で進行させたいと思います。どうぞ宜しく。

 まず、情報系の話題から。「週刊少年ジャンプ」の次号は夏の合併号ということで、様々な企画モノが用意されているようですが、読み切りの方も超大物作家さんの登場となりました。
 次号に掲載される読み切りは、『ネコマジンみけ』作画:鳥山明)。ご存知、『DRAGON BALL』で「ジャンプ」を史上最高の隆盛に導き、現在は悠悠自適の創作活動を続けている鳥山明さんが、特別ゲスト的な扱いながら久々に週刊本誌に登場です。
 作品の性質上、緊張感がビリビリと伝わって来る傑作というわけにはいかないでしょうが、肩の力の抜けた佳作にあれこれ言ってみるのも一興…ということで、次週のゼミではレビュー対象作として扱うつもりです。

 そして今日は話題をもう1つ。実際に「ジャンプ」を購読されている受講生の皆さんは大変驚かれたでしょうが、作者体調不良のために長期休載されていた『ROOKIES』(作画:森田まさのり)が、今週発売の36号から連載再開となりました。
 先週号の次号予告にさりげなく『ROOKIES』の名前が載ってはいたのですが、ちょっと意外なタイミングでしたね。中途半端なタイミングで『闇神コウ〜暗闇にドッキリ〜』が打ち切りになったのは、こういう事情があったわけですか。
 ストーリーも既に佳境に突入しているだけに、後はテンションを落とさず一気呵成にキメて欲しいものです。期待しましょう。

 
 ──それでは、速やかにレビュー&チェックポイントを。今日のレビュー対象作品は読み切り2本となります。そしていつも通り、その後にチェックポイントとなります。

 
☆「週刊少年ジャンプ」2003年36号☆

 ◎読み切り『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健

 2週連続で既製作品からの模写疑惑(というより確定に近いですが)が持ち上がるという、極めて憂慮すべき事態となっている「ジャンプ」読み切りシリーズですが、今週はどちらかと言えば間違いなく模写される側の(苦笑)、小畑健さんの登場です。今回は納涼という意味も込めて(?)ホラー作品での登場となりました。
 さて、今回の原作者・大場つぐみさんに関してなんですが、残念ながら詳しい事は全く判りませんでした。巻末コメントなどから、ネット界隈では「ジャンプ」系の新人マンガ家さんらしい…という受け止められ方をしているようですが、駒木も、新人さんかどうかは別にして、マンガ畑の住人の方であるとは考えています。

 では、作品の内容について述べてゆきましょう。

 まずですが、もうこれは何も口を挟む点はありませんね。少年誌作家にしてはリアルタッチな小畑さんの画風が、ホラー系作品になって更に栄えているような気がしました。

 次にストーリー&設定ですが、全体的な完成度はソコソコの水準に達しているものの、至る所で詰めの甘さが見受けられ、そのために“良作になり損ねた凡作”に終わってしまったような気がします。

 この作品のメインアイディアは、『ドラえもん』「独裁スイッチ」などに見られる、「平凡な人間が他人の生殺与奪を握ってしまった時、その人間と社会はどうなるか?」……という“もしも”のお話です。人が死ぬ(又は消える)という不可逆かつ重大な事象が簡単な作業で出来てしまえる…というギャップが得体の知れない恐怖を生み出すのがキモですね。
 ところが、この『DEATH NOTE』では、デス消しゴムという便利すぎるアイテムのために、その恐怖感が完全に帳消しになってしまっています。更に言えば、死んだ人間がそれこそマンガみたいに元通りに生き返ってしまうという非現実的な現象に、滑稽さすら感じてしまいます。これではダメなんですね。
 現実的なシチュエーションで非現実的な恐怖を描くからこそ、ホラーはホラー(恐怖)足りえるわけで、非現実的なシチュエーションでいくら怖い事をやっても、読者に恐怖感は植え付けられないわけです。

 そして、実はこの作品で一番怖いのは、主人公・鏡太郎の隠れた凶悪性だったりするのですが、これがどうにも作品中で描ききれていないのが、もう1つの惜しい所です。
 ストーリーの中で太郎は、終始怯えながらもシレっと嘘八百を並べてデス・ノートを守り通すわけですが、そこまでするための動機が上手く描かれておらず(「持っていた方が良いかな…」とは言ってますが、それだけでは弱いです)ノートを守り抜く事さえも不自然に映ってしまいました。その上、ラストシーンで18歳になった太郎は完全に悪人面になってるわけですが、その豹変振りも唐突過ぎて不自然なんです。恐らくは作者の大場さんの頭の中には理由が出来上がってると思いますが、それが読者サイドに伝わり切ってないんですよね。

 ……以上の事情により、この作品は“怖いはずなのに怖さが伝わって来ない、何だかちょっと分かり難いお話”になってしまいました。せっかく小畑健さんに絵を描いてもらったのに、勿体無い事しましたね。
 評価は絵の分だけ加点して、ギリギリでBでしょうか。

 
 ◎読み切り『世界しーん』作画:浅上えっそ

 先週の予告には掲載されていなかったのですが、今週は、『HUNTER×HUNTER』の取材休みで開いた枠を埋めるための15ページギャグ読み切りが掲載されました。
 作者の浅上えっそさんは、01年下期の赤塚賞で佳作を受賞し、その受賞作『まげちょん』で、同年末発売の本誌02年3号にて代原ながらデビューを飾っています。
 ただ浅上さんは、詳細は不明ながら90年代末に「手塚賞」で1回、「天下一漫画賞(現:十二傑新人漫画賞)」で2回、それぞれ最終候補まで残っており、相前後してアシスタント経験もあったようです。
 で、今回は約1年半ぶりの作品発表ということに。果たして出来栄えはどうでしょうか?

 まずについて。パッと見で言えば、多少の“同人臭さ”は残るものの、見栄えが良さそうな画風ではあります。アシスタント経験の賜物でしょう、背景の上手さも目を引く仕上がりです。
 しかし、よくよく見てみれば、この作品の絵は変なのです。集中線などの特殊効果と絵が全く合っていないために、動いているようで動きの無い、違和感アリアリのシーンが至る所に見られるのです。セル画の枚数が足りずにカクカク動いているアニメというか、物凄く芝居の下手なコントというか、とにかく変なんですね。
 その結果、読者がスムーズに読み進める事が出来ず、笑えるはずの場面でそれが出来難くなってしまいました。同じネタでコントをやっても、上手い人とそうでない人ではウケが違うのと一緒です。

 また、ギャグそのものにも今一つ“突き抜け”方が足りないような気がします。この作品は「しょうもないバカバカしい事を、クソ真面目にやれば面白い」…という、昔から使われているパターンを追求した作品なのですが、その肝心のクソ真面目さが今一つに終わってしまったように思えるのです。バカバカしい記録に挑戦させるなら、それこそ命の遣り取りをするくらいヒリヒリした緊張感でやらせないと、爆発力のあるギャグにはならないのです。

 ……というわけで、評価はC寄りB−。とりあえずマンガらしいマンガにならないと、連載獲得どころの話ではないと思います。僭越ながら猛省を促し、奮起を期待したいところであります。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 先月は、“「十二傑新人漫画賞」募集ページby矢吹健太朗”について、あれこれ好き放題述べたんですが、まさかそれが今月分の前奏曲に過ぎないとは、夢にも思いませんでした。

 矢吹さんはまだ“上手い(ように見える)絵”というセールスポイントがありましたので、それで引っ張れば良かったのです。しかし、それすら無い人が自分のセールスポイントを述べようとした場合は……。
 先週、集中線や書き文字による特殊効果について、ご本人が出来ていないテクニックを応募者に「やってみろ」と言ってのける無理難題を提出したかと思えば、今週は「名」と「迷」を誤植したとしか思えない“メイ台詞”についてルー大柴の顔面のようなネチっこさで解説した挙句、キャラ造型は、まずセリフから」という趣旨のミスリードを堂々と展開する傍若無人ぶり。今年に入って、「粋じゃねぇぜ」とか、「曲がったことが大嫌い」とか、見事なまでに性格をセリフで表した主人公のマンガが無残に突き抜けていった現実を全く顧みないアドバイスに、ワタクシ、口が南極2号のようになってしまいましたよ。

 ──誰か、誰かいませんか? このお方に「まだまだだね」と言ってくれる人は……!

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 ラスボスは、とんでもなく強くてとんでもなく悪い奴だった……というわけですね。王道パターンながら、これが案外難しいんです。しかし、根っからの悪人という奴から溢れる不快感というのは強烈ですなぁ。
 こういうキャラが不必要に動きすぎると、読むのすら嫌になる不快な展開になってゆくものなのですが、どうやらその辺のバランスも考慮してるみたいですね。


 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B/雑感】 

 すいません、先週から連続で登場です(苦笑)。
 “まるでHしてるような会話(セリフだけ)→実はマッサージしてました”…みたいな肩透かしは何度も見て辟易してますが、“まるでHしてるような会話→Hはしてないけど、それに準ずるようなビジュアル”というのは、作品の評価は別にして素晴らしい!(笑)
 これで表現規制水準が15年前(『バスタード』、『電影少女』の頃)のモノだったら申し分なかったんですが……とか、もうすぐ28の男が言う言葉じゃありませんな、しかし
 

 ……というわけで、今日のゼミはこれまで。
 今週の掲載順あたりから新連載4本もアンケート順位に影響され始めたような気がするんですが、見事に『武装錬金』とその他3作品で明暗分かれた形になりましたね。やっぱり何作品かは突き抜けちゃうんでしょうかねぇ。

 あ、冒頭でも言いましたが、次回のゼミは記念式典後になると思います。どうか何卒。

 


 

2003年第48回講義
8月3日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週/8月第1週分・後半)

 先日の番外編はどうも失礼しました(笑)。未だに頭が痛むのは、多分珠美ちゃんにドツかれたせいではなくて睡眠不足と眼精疲労のせいだと思うんですが、まぁ何とか講義終了まで保たせたいと思います。

 さて、今日は変則的な内容で、「サンデー」系の情報をお届けした後に、今週発売の「ジャンプ」&「サンデー」各35号のチェックポイントをお送りします。「サンデー」はレビュー対象作がありませんでしたので、今日はチェックポイントのみの扱いとなります。

 それでは、まず情報系の話題ですが、今日は最終回のお知らせをしなければなりません。約4年に渡って連載されて来た『天使な小生意気』作画:西森博之)が、次号36・37合併号をもって最終回となります。
 連載回数199回という中途半端な回数での終了ですが、長期連載作に関しては原則的に作者に最終回のタイミングを委ねるのが「サンデー」のスタイルですから、円満終了と見て間違いないと思います。正直言って、「あと1回で全てにケリを付けられるのか?」…と思ったりもしますが、心配するより期待して待ちたいと思います。

 
 ──情報系の話題は以上です。引き続き、「ジャンプ」と「サンデー」のチェックポイントをお送りします。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年35号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週の「ジャンプ」はビッグサプライズ連発。特に初っ端の『ボーボボ』アニメ化には、驚きを通り越して絶句してしまいましたよ。あのノリをどうやってアニメで表現するのか、ちょっと心配になっちゃいますね。

 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 第2回人気投票結果発表となりました。本誌でのポジションや単行本部数と全くそぐわない莫大な投票総数、更には明らかに“男尊女卑”の開票結果からも、このマンガの支持層が恐ろしく偏っている事が再確認される形になりましたね(笑)。

 あ、作品の中身についても語っておきましょうか。
 あのピッチャー、投げる角度が反則とか言う前に、顔が即退場級の反則だと思うんですが。
 もし駒木が選手なら、笑い死にしそうになって見送り三振確定ですね。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B/雑感】 

 いきなりの唯編突入個人的な話で恐縮ですが、駒木にとっては「臨むところよ!」ってところであります(笑)。
 しかし、このシチュエーション、微妙に『りびんぐゲーム』作画:星里もちる)の4巻あたりと被ってますね。あ、そういや唯と当時のいずみちゃんって1つ違いなのか。うあー、見えねー(苦笑)。

 ◎『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 既に『朝まで生テレビ』級の大討論になってます、ポンズは死んだか死んでないか…という話題について私見を。

 この論争のポイントは、384ページ最終コマのブラックアウトを、「ポンズの意識が飛んだ表現」とするか、「場面が転換した事を示す表現」とするかで解釈が変えられる…という事ですね。前者ならポンズは死んでますし、後者なら生きているわけです。
 で、個人的な意見を言わせて頂ければ、9:1くらいの割合で死んでるかな……と。ポンズというキャラは、これまでの冨樫さんのパターンからすればちょうど“死なせごろ”のキャラ──キャラはある程度立っているが、ストーリーの根幹には関係が無い脇役──ですし、あの一連のシーンで、他に死ぬ可能性のあるキャラがいないという事もあります。
 今回は“死なせごろ”の割にはファンの多いキャラだったために論議を醸したわけですが、冨樫さんなら平気でやっちゃいそうな気がするんですけどね。

 ◎『闇神コウ 〜暗闇にドッキリ〜』作画:加地君也現時点での評価:B−/連載総括】
 
 見事なまでに中途半端な期間で打ち切り終了となりました。連載期間は1クール半という事になるんですかね。まぁ、これほど納得の行く打ち切りも珍しいですね。
 加地さん本人は、失敗の理由を設定だと述べていましたが、駒木はそれよりも設定を物語上で演出する方法がマズかったんじゃないかと思っています。アクションシーンがワンパターンかつ予定調和の範囲に終始してしまいましたし、シナリオそのものも意外性が感じられませんでしたし……。
 どうやら加地さんは再起の意向を示しているみたいですので、とにかくゼロから立て直す覚悟で頑張ってもらいたいものです。

 評価はB−で据え置き。残念ながら失敗作という判断です。

☆「週刊少年サンデー」2003年35号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「ショックだった過去の落し物」。原稿を落とした(not原稿間に合わず)人が2人もいてビックリ。そんな『まんが道』の夢シーンみたいな話が本当にあるとは。しかもマンガ家ご本人が!
 駒木は雷句誠さんとほぼ同じでお気に入りの帽子駒木は幼少の頃からヤクルトファンだったのですが、関西地区ではヤクルトスワローズの帽子なんてどこにも売ってなく、冗談じゃなくて何年かがかりで見つけてやっと買ってもらったんですね。で、それを数ヶ月もしない内に電車で……(涙)。

 ◎『MAJOR』作画:満田拓也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 予想通りとは言え、ついに物語は佳境へ。しっかし、8年がかりの伏線というのも凄い話ですなぁ。
 でも吾郎よ、いくら日本人メジャーリーガーが存在しないというパラレルワールドだとしても、忘れていい人といけない人がいるんでないかい?(苦笑)

 ◎『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』作画:中井邦彦第1回掲載時の評価:B前回のレビューについて】

 受講生の方からご指摘があったんですが、前回(第1回)に登場した、ハユマが描いてしまった悪キャラは、D-メンの“悪属性バージョン”だったんですね。これならハユマの能力でも描けておかしくないわけで、その部分に関しては矛盾点は無くなりました。
 ただ、それでもシナリオ構成にある問題が全て解消されたわけではありませんので、評価は据え置きにしておきたいと思います。

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 タガ外れまくりの黒賀村編、佳境というより秘境へ辿り着きつつある感がありますね。何て言うか、「見てるか弟子ども! 俺はギャグセンスにおいても、まだまだ貴様らには負けん!」……という藤田さんの叫びが聞こえてくるような、そんな感じであります。
 しかしこの村、デキの悪いRPGに出て来る、シナリオライターの悪ノリだけで作ったような村なんですが、存在してて大丈夫なんでしょうか?(笑) 多分、戦争が始まったら、真っ先に消されるか、国が滅びても残ってるかのどちらかだと思います。

 
 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 モデム配りを2人一組でやってますと、頻繁に出ます、高みからの発言。

 「いや、こんな仕事で良い成績出したって自慢できるもんじゃないし、給料も変わらんし。運だよ、運」

 ……モデム配りのスタッフは、みんな「こんなクソ会社のクソ仕事、ろくなもんじゃねえ」…とか言いながら、成績が悪いと何故か凹むんですね。で、その日に調子の良かった方のスタッフから毎日のように飛び出るのがこの言葉。何て言うか、人間の心の闇を覗く思いです。

 ところで、女の子が「カワイイ」と言う女はブス…という定説について。これ、以前女友達に訊いてみたんですが、彼女曰く、
 「女が同性の容姿を誉める時はね、『カワイイ』じゃなくて、『あの子はキレイ』って言うのよ」
 …とのこと。なるほど、確かにそれ以後の経験上、その子の言った事は正しかったような気がします。『キレイ』って言葉は、高みから見た時には使わないんですね。何て言うか、女性の心の闇を覗く思いです。

 
 ……というわけで、今日のゼミを終わります。途中、何か誤解を招きかねない発言があったのは、多分、珠美ちゃんに『現代用語の基礎知識』の背の部分で頭をドツかれたせいだと思いますので、どうかご容赦を。

 なお、来週は記念式典の準備を先行させるため、通常の講義はイレギュラーになると思います。これもご容赦下さい。ではでは。

 


 

番外編
8月1日(金) 人文地理
「『観察レポート』特別版・駒木博士の東京旅行記」

順子「……というわけで、講義形式で『観察レポート』することになりました。しかも、ワタクシこと一色順子に、珠美先輩を交えた豪華メンバーでお送りします!」
珠美:「豪華って、そんな……(苦笑)。あ、栗藤珠美です。皆さん、よろしくお願いします」
駒木:「……で、ベタな流れで当の本人は“豪華メンバー”の中には入ってないわけだね(苦笑)。まぁ、確かに華が無いとは自覚してるけど」
順子:「あ、すいません(苦笑)。初司会でテンション高いんですよ(笑)。
 ……え〜と、今日付の「観察レポート」を読んでもらえば分かるんですけど、駒木博士が東京へ旅行へ行っていた先月の26日から28日までのレポートのボリュームが大きくなりすぎちゃうんで、講義の形式でやっちゃおうというわけです」

駒木:「華の無い兄チャンの貧乏一人旅なんて、それほど面白くも無いと思うんだけどねー(笑)。まぁでも、やってみるだけやってみようかな、と。この社会学講座って、大抵『これはウケないだろうな』って内容の講義ほどウケたりするし」
順子:「……というわけで、まずは博士、今回の旅行ってどんな旅行だったんですか?」
駒木:「まぁ、簡単に言えばオフ会みたいな集まりに出席するついでに、旅打ち(旅先でギャンブルする事)でもやってみようかな、ついでに近くでやってるからプロレスでも見ようかな…と、こういうわけ。で、今ならヒマは持て余しているし、出来るだけ安上がりな旅行にしちゃおうと、こういうわけだ」
珠美:「そう言えば、『青春18きっぷ』を使った旅行だって、おっしゃってましたね」
駒木:「ネット上で、昼間に在来線を乗り継いで東京へ行くためのガイドとかが載っててね。読んでみると、これならそれほどキツくなさそうだと思って、やってみる事にしたんだよ。何しろ神戸から東京まで、新幹線だと金券屋価格で片道12500円のところを2500円弱で行けるんだから。これは悪くないだろ?」
順子:「そう言えば博士、いつも新幹線が嫌いだって言ってましたっけ」
駒木:「3時間とか中途半端に長い時間がかかるクセに、一人前に金だけ取られるのが納得行かないんだよな(笑)」
順子:「……と、そんなわけで博士はJR三ノ宮駅から500km以上離れた東京まで電車の旅をすることになりました。神戸のキーステーション・三ノ宮駅を朝9時過ぎに出る新快速からスタートして、次々と電車を乗り換えながら8時間半ほどかけて東京駅を目指します。
 で、博士、長い旅ですから色々とネタがあったんじゃないですか?」

駒木:「ん〜、それが、ずっと本ばかり読んでたからなぁ(苦笑)」
順子:「しゃ、車窓からの景色も見ずに、ですか?」
駒木:「いや〜、採用試験の勉強中は歴史の本以外は読めなかったからストレスが溜まっててね。結局、今回の旅行、往復で6冊も本が読めたよ(笑)」
順子:「……(溜息)」
珠美:「…そ、それでも博士、長い旅だったんですから、何か印象深い出来事とかはあったんじゃありません?」
駒木:「ん〜……。あー、そう言えば、静岡を過ぎた辺りから突然、人の喋る声のイントネーションが変わったんでビックリしたね」
珠美:「あー、要は標準語に変わったわけですね?」
駒木:「そう。ここの講義だと標準語使ってるわけだけど、やっぱりプライベートじゃ神戸に住んでる以上は関西弁なわけで、耳もそっちの方に慣れてるわけだよ。ところが、浜松発熱海行の電車に乗り換えたあたりから急にヒアリングが出来なくなってきた(笑)。あぁ、やっぱり関西弁と標準語は外国語みたいなもんだ…って改めて思ったね」
順子:「珠美先輩、アシストありがとうございます(笑)。あと、他には何かありませんでしたか?」
駒木:「ん〜、そうだなー。……あ、これまで鉄道マニアの人たちが、やけに電車の型や座席のタイプにこだわるのを不思議に思ってたんだけど、実際に長旅やってみると、その気持ちが分かった気がしたよ。新しいタイプの電車と座席は疲れないし、古いタイプだとその逆。同じ旅するなら、快適な電車と座席でってのは理解できるね」
順子:「あーそう言えば、わたしのバイト先にいる“鉄っちゃん”の男子メンバーが、『あの路線は転換クロスシートなんだよ!』…とか熱く語ってた記憶があります(笑)。正直、『何を熱くなってんの』って思ってたんですけど(笑)」
駒木:「長旅の途中で、座席の固い昔のタイプの電車に乗ると、足は伸ばせないわ背中と腰が痛くなるわで大変なんだよ。かと言って指定席じゃないから立って歩き回るわけにもいかないからねぇ。結果的に今回の旅行で一番キツかったのが、浜松から熱海まで、古い車両の鈍行に延々乗せられ続けたことだったかな」
順子:「なるほどー。で、そうやって東京には18時過ぎに着いたんですね?」
駒木:「そうそう。そこから集合場所の池袋まで移動して、オフ会」
順子:「ベタな質問ですけど、どうでした?」
駒木:「年下の女の子が幼稚園児の息子連れて来ててさぁ(苦笑)」
順子:「幼稚園児!」
珠美:「うわ〜、ということは、私の年(23)では、もう子供を産んでたわけですね(汗)」
駒木:「その子に前会った時はお腹が大きいだけだったんだけど、次会ったら幼稚園児(笑)」
珠美:「ビックリされたんじゃないですか?」
駒木:「ていうか、モデム配ってる場合じゃないなって真剣に思ったよ」
珠美:「(笑)」
順子:「(大爆笑)」
駒木:「順子ちゃん、気持ちは判るけど笑い過ぎ」
順子:「あ〜、すいません。お腹痛い……(苦笑)。
 ──で、その夜はずっとオフ会だったんですか?」

駒木:「そうだね。予約してたホテルの門限が0時ちょうどだったんで、それにギリギリ間に合う時刻に解散して、その日の予定は終わり。ボロいビジネスホテルで100円60分のテレビ眺めつつ、眠くなったんで2時過ぎに寝たかな。本当は踏み台昇降でもやりたかったんだけど、都合の良い段差が無くて出来なかったな」
順子:「踏み台昇降ダイエットもそこまで来ると執念ですね(笑)。……で、次の日はどんな旅行を?」
駒木:「色々と候補はあったんだけどね。浅草で寄席を観るとか、後楽園ホールでプロレス観るとか。旅打ちするにしても(公営競馬は日曜が休みなので)江戸川競艇にするか、雀荘のハシゴでもするか……とか。でも結局、夕方に近くで全日本女子プロレスの興行があるってことで、立川競輪に行く事にした。競輪とプロレスのダブルヘッダーだね」
順子:「どういうコメントつけたら良いか分からない構成ですね(苦笑)」
珠美:「そこは順子ちゃん、『駒木博士らしいですね』って言っておけば良いのよ(笑)」
順子:「なるほど、便利な言葉(笑)。……それで、まずは立川競輪ですね。確か、日本で一番流行ってる競輪場ですよね?」
駒木:「そうだね。で、行ってみたら確かに流行ってるし、設備も良い。フリードリンクにコーラやコーヒーがあったり、オッズプリンターがタダで使えるところなんて中央競馬以上だよ」
順子:「へぇ〜。なんだか、机の上にボタンがあったら15回叩きたい気分ですね(笑)」
駒木:「(八嶋智人口調で)はしゃぎ過ぎです。……で、特別観覧席にしても、今は亡き西宮・競輪場なら2500円とか取られるような席が500円とかで入れて、しかもスポーツ新聞の無料サービス付。他の公営ギャンブルと競合した上で流行らせたいのなら、やっぱりここまでしないとダメだよなって思ったね。兵庫県の競輪場が潰れちゃったのも仕方ないかな…と。
 ただ、客層の9割以上が熟年以上ってのは一緒だった。やっぱり競輪は先が長くないかなー」
順子:「麻雀業界も、そう言われながら若者向けの店を作って頑張ってるんですけどね〜」
駒木:「あぁ、客層と言えば、立川の客は西宮・甲子園と違ってガラが悪くないのが新鮮だったね」
順子:「ガラが悪くない?」
駒木:「誰も、言葉の最初と最後に『アホ』も『バカ』も『ボケ』もつけないんだよ。何て上品なんだと(笑)」
順子:「関西のお客さんは『アホ』とか付けるわけですね(苦笑)」
駒木:「例えば、車券販売窓口で、自分が頼んだのと違う車券が出てきた時ね。立川の客は『これ、頼んだのと違うじゃないか』…としか言わない。これが関西だと……」
順子:「関西だと……?」
駒木:「『オイコラボケ、これ、頼んだんと違うやないか、クソババァ、このアホンダラボケカスゥ!』……こんな感じ」
順子:「麻雀の役だと数え役満になりますね、それ(笑)。ていうか、関西の方がちょっとおかしいと思います(苦笑)。
 ……で、肝心の車券の成績はどうでした?」

駒木:「ん〜一応、前もって立川のバンク(自転車が走るコース)の特徴を調べてたんで、車券作戦で戸惑う事は無かったんだけどね。でも、この日は堅い配当が続いたんで、10レース中7レース的中したのに収支はマイナスだった(苦笑)。こんなの初めてだよ」
順子:「いえ博士、とても博士らしい結果じゃないですか(笑)。ねー、珠美先輩?」
珠美:「そうね(笑)」
駒木:「酷ぇなぁ、2人とも。酒の席でもないのに無礼講なんだよな、駒木研究室って(苦笑)」
順子:「まあ、和気藹々のイイ職場ってことで素晴らしいじゃないですか(笑)」
珠美:「そうですね(微笑)。で、その後はプロレス観戦でしたっけ?」
駒木:「おもくそ誤魔化されたな(苦笑)。プロレスは、立川競輪場横駐車場特設リングの、全日本女子プロレス。民家のド真中にある小さな野外駐車場にリングを作っただけの、まさに特設リング。客席の奥にブルーシートで幕を作って、そこにトラックを止めて、それが控え室代わりっていう、いかにも地方興業らしい大会だったね。多分、遠隔地から観に来たのは駒木だけだったんじゃないかな(笑)」
珠美:「でも、そういう雰囲気も楽しそうですね」
駒木:「ああ。酔っ払いのオヤジが野次飛ばしてたり、休憩時間には地元の演歌歌手が即席歌謡ショーやったりと、色々な意味で牧歌的(笑)。
 しかも、その日は『めちゃイケ』のプロレス企画になったら必ず出てる阿部四郎レフェリーが“デビュー40周年記念”興業としてプロモートしてたみたいでね。会場前に花輪が来てたり、メインイベントの試合前に地元のスナックのママさんから花束贈呈があったりと、何だか不思議なムードが終始漂ってたよ」
順子:「博士って、微妙にレアな体験する事って多いですよね(笑)」
駒木:「だね(笑)。しかも、立見券持って入場待ちしてた時に地元の人から余ったリングサイド券を貰って、それで観させてもらったんだけどね、その席が極悪同盟控え室の真後ろでねぇ。“極悪”なのに、試合前には和やかな笑い声が聞こえてくるわ、セコンドに来てた元選手の子供がウロチョロしてるわで、まるで下町の夕暮れ風景だった。コアなプロレスファンにはたまらない情景だったね」
珠美:「試合よりもそっちの方が楽しかったみたいですね(笑)」
駒木:「だって、つまらないんだよ試合は(苦笑)。選手が大量離脱した直後だし、同じパターンの試合が次から次へと続くし。まぁ、見所は開場10分前に突然復活することが決まったミゼットプロレスと、『めちゃイケ』そのまんまの極悪同盟の試合くらいなもんで。
 それよりも、セミファイナルの途中で、駒木のすぐ隣で阿部四郎が中途半端に厚い財布を取り出して、クレーン・ユウとコンドル斎藤(極悪同盟のセコンド・元レスラー)にギャラを現金支給してたのが一番見応えが(笑)。3万円握らされて『えー! こんなに貰っちゃって良いんですか?』とかコンドル斎藤が言ってたのが生々しくてねぇ」
順子:「うわー、レア体験!」
駒木:「これだけでチケット代は出たと思ったね。まぁ、その席の券は貰いモンだけど。……あ、券を下さった方、簡単にしかお礼を言えず申し訳ありませんでした。Tシャツにジーンズ、黒いカバンを下げてたのが駒木です。もし受講生の方だったら、メール下さい」
珠美:「博士、講義で私信はちょっと(笑)」
順子:「……で、プロレスも終わって、これで東京での予定は全部終了したわけですね」
駒木:「そうだね。あとは一旦新宿で途中下車して簡単にメシ食って、東京駅から夜行の『ムーンライトながら』で神戸へ…って感じ」
順子:「あーあの、指定席が一部自由になる小田原駅で空席争奪戦“小田原バトル”が起こったり、コミケシーズンには指定席券が超レアになる大垣・東京間の夜行快速ですね」
駒木:「解説ありがとう。詳しいな(笑)」
順子:「バイト先の“鉄っちゃん”が力説してたんで覚えちゃったんですよ(苦笑)」
駒木:「なるほどね。まぁ7月はコミケシーズンじゃなかったから、満席は満席だったけど大した混雑じゃなかった。僕は肩幅が大きいんで、ちょっと座り心地はアレだったけどね。
 大垣に着いた後は電車2本乗り継いで、10時ごろに三ノ宮へ。で、ここで素直に帰れば良かったんだけど、中途半端に体力が余ってて帰りたくなくなって、フラフラと馴染みの……」
順子:「じゃ、雀荘ですか?」
駒木:「(苦笑しながら肯く)俺ってアホやなぁ……とか思いながら麻雀打ってたよ。さすがに半荘4回で引き上げたけどね」
珠美:「えーと………それって、ここ数日の体調不良の発端だったりしませんか、博士?」
駒木:「……かも知れない」
順子:「かも知れない、じゃなくてズバリでしょ!」
珠美:「……お疲れの様子だと思って、ここ数日、随分と本気で心配したんですが、そうですか、そういう理由だったんですか……(溜息)。
 博士、後でお話がありますので、研究室で歯を食いしばったままお待ち下さいませね(冷笑)」

順子:「あ、博士、逃げちゃダメですよ♪ ……というわけで、これから博士は、『武装錬金』の斗貴子さんのような表情に豹変した珠美先輩に、何か堅い物で頭をドツかれる羽目になっちゃいましたので、これで講義を終わりにしたいと思います。皆さん長時間、ありがとうございました。では〜♪」


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