「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

9/30(第35回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(9月第5週/10月第1週分)
9/23(第34回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(9月第4週分)
9/17(第33回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(9月第3週分)
9/10(第32回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(9月第2週分)
9/4(第31回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(8月第5週/9月第1週分)

 

2005年度第35回講義
9月30日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(9月第5週/10月第1週分)

 1週間のご無沙汰でした。やはり世を忍ぶ仮の本業がフル稼働してる時期は、モチベーションが昼間で根こそぎ削られている気がしますね。一般の人としては真っ当な話ですが、こんな講座を開いている時点で一般の人ではない駒木にとって、これは非常に難しい問題であります(苦笑)。
 今週は、本当なら遅くとも木曜ぐらいには実施しないといけないぐらいのボリュームなのですが、アーカイブ収録時の都合により、実時間から1日遅れで翌日振替実施扱いという体たらく。情けない限りで、本当に申し訳有りません。

 さて、今日は「週刊少年ジャンプ」系の新増刊・「ジャンプ the REVOLUTION」の公式発売日でした。1〜2日前から既に流通に乗っていたようですので、もう入手した方も多いと思いますが、予想通りなかなか独特な雰囲気を発した雑誌ですね。個人的には、高年齢層を対象にした、マンガ版「ジャンプノベル」を作りたかったのかな…と推測していますけど。
 実力派中堅・ベテラン作家さんも多数執筆していますし、出来れば全作品レビューをしたいんですけど、今のタイミングはかなり微妙なんですよね。最近は「赤マル」レビューの度に疲労の余りチョンボしてますし……。
 今のところ考えているのは、「毎週のゼミの中で1〜2作品ずつに分けてレビューして、余力が出来た時に残りをまとめてやる」…という方式なんですが。あとからレジュメを参照する時に面倒臭くなりそうなのが嫌なんですけれど、どんなもんでしょうか。

 今日の時点ではまだ全作品読了してませんので、とりあえず始動は来週からということで何卒。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(44号)より『べしゃり暮らし』作画:森田まさのり)が新連載となります。
 『ろくでなしBLUES』、『ROOKIES』の森田さんが久々の本格始動となりました。今回は系列誌や週刊本誌に読み切りでプロトタイプ版を発表した、少年を主人公としたお笑い立志伝モノのようですね。
 ストーリーだけでなく、劇中劇のギャグにも高度なセンスが要求される、非常に難易度の高いジャンルですが、果たして完成度の方はどんなものでしょうか。

 なお、今号の「週刊少年ジャンプ」では、翌々週の45号から『大泥棒ポルタ』(作画:北嶋一喜)が新連載となる情報も併せて発表になっています。秋の新連載はこの2作品で、入れ替わりに終了するのは、今週最終回を迎えた『カイン』と、次週の最終回が濃厚となっている『切法師』の2本の線が強くなってきましたね。共に2クールの短期打ち切りですか。
 最近は「ジャンプ」連載陣のレヴェルが総じて高く、新連載が成功するのはなかなか厳しい情勢のようです(勿論、そもそも人気を獲り切れる内容ではなかった、という要素もあるでしょうが)。これらの新連載、どのようにして2クールの壁を突破を狙っていくのか、注目と言えるでしょう。

 ★新人賞の結果に関する情報

 今週は、「ジャンプ」で「ストーリーキング」の、「サンデー」で月例賞「まんがカレッジ」の審査結果発表がありました。それぞれ興味深い選考結果となりましたが、まずは「ストーリーキング」から。

第14回ストーリーキング(05年上期)

 ◎マンガ部門
 キング=該当作無し
 準キング=該当作なし
 最終候補(選外佳作)=4編

  ・『K』
   中島伸幸(21歳・埼玉)
  ・『十騎学園清掃委員椿見参!!!』
   中川ゆうた(21歳・京都)
  ・『サニワのアラシ』
   越智沢博和(29歳・神奈川)
  ・『モノノケ埋葬BEAT』
   松雪ヨウ(25歳・群馬)

 ◎ネーム部門
 キング=該当作無し
 準キング=該当作なし
 特別賞=1編
  ・『ハネウオ』
   天海了(26歳・東京)
 最終候補(選外佳作)=7編
  ・『ジローの大工』
   菜洲戊得(21歳・愛知)
  ・『WILD RANK』
   大橋寿裕(16歳・岐阜)
  ・『鬼強』
   吉田覚(22歳・新潟)
  ・『牛若丸』
   かんあさ祐樹(22歳・群馬)
  ・『GANG☆STAR』
   宮武由祐(17歳・香川)
  ・『スポチャンサイボーグ』
   輪木和也(24歳・大阪)
  ・『金糸雀は詩わない』
   吉田亮(28歳・東京)

 受賞者の皆さんのキャリアは以下の通りです。
 ◎ネーム部門最終候補の
大橋寿裕さん…04年秋期(第12回)「ストーリーキング」ネーム部門でも最終候補。
 ◎ネーム部門最終候補の吉田覚さん…03年下期「赤塚賞」で最終候補。
 ◎ネーム部門最終候補の宮武由祐さん…05年4月期「十二傑新人漫画賞」に投稿歴あり。 

 ……一時期の隆盛に比べると最近低迷気味の「ストーリーキング」ですが、今回はネーム部門に特別賞1編が出ただけという、極めて低調な結果に終わりました。マンガ部門などは見栄えのする絵が印象的な作品も複数見受けられたのですが、どうやらそれが作品全体のクオリティに繋がっていなかったようです。
 そして、こういう結果になった事もあって、編集部からの講評ではかなり厳しいコメントが相次ぎました。曰く、「無駄な部分を省くための推敲が足りない」「テーマ・素材に新鮮味が欠ける上に取材不足」「ネーム部門は『ヒカ碁』『アイシル』並の即戦力を求めているが、応募作の水準はそこまで届いていない」……等など。
 要は、「ページ数無制限」「ネームでの投稿も可」という条件を“活かす”よりも“甘える”応募者が多い、という事なのでしょう。思えば、『ヒカ碁』も『アイシル』も、ネーム部門の受賞作ながら作者は現役のマンガ家さんでしたし、専門分野に対する知識も並々ならぬモノがありました。上位入賞を果たすには、この2作品に並んで追い越すぐらいの気持ちで製作に当たらないと勝ち目は無いという事なのでしょうね。

 なお、次回から「ストキン」は大幅にリニューアルが図られるとの事。現状、「ジャンプ」は月例賞に加えて「手塚賞」「赤塚賞」もあるだけに、新人賞の住み分けも色々考えないといけないという事なのでしょうね。

少年サンデーまんがカレッジ
(05年7月期)

 入選=1編(週刊本誌or増刊に掲載)
  ・『こより日和!』
   小川麻衣子(18歳・熊本)
 《編集部講評:18歳の若さ、そしてセンスの良さが編集部の圧倒的な支持に繋がった。天性のデッサン力と流麗なペンタッチも秀逸》
 佳作=該当作なし

 努力賞=4編
  ・『ヨモツノゴオウ』
   山鳥寅人(19歳・大阪)
  ・『年下のヒーロー』
   君塚力(19歳・大阪)
  ・『KARASU』
   天日和諒(22歳・東京)
  ・『ロボコックイボちゃん』
   大鶴曜介(22歳・神奈川)
 あと一歩で賞(選外)=該当作なし

 受賞者の皆さんのキャリアは以下の通りです。
 ◎努力賞の大鶴曜介さん…02年下期「赤塚賞」で佳作受賞。

 ……先月に引き続いて、低調な中から入選1編が出ましたね。講評の褒めっぷりも相当に高いテンションですので、増刊か本誌に掲載される時を期待して待ちたいと思います。
 ところでこちらの講評には「キャラクターが立っていない作品が多い」という嘆き節が。しかし、それは増刊や本誌に掲載されている新人・若手作家作品の大半にも言えることですからね。“お手本”がそんな調子なのですから、応募作もそういうモノになってしまうのも当然と思えるのですが、如何なものでしょうか。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:代原読み切り1本
 「サンデー」
:対象作品なし
 ◎今週は、「サンデー」についてはチェックポイント対象作品もありませんので、こちらのコーナーは1週休みとなります。ご了承下さい。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年43号☆ 

 今週はレビュー対象作無しになる所だったんですが、『HUNTER×HUNTER』が作者都合休載となって代原が掲載されました。そういや『ハンタ』の代原も久々だなぁ…と思って調べてみたところ、どうやら04年48号以来ほぼ11ヶ月ぶりらしいですね。
 実はこの作品、これまでも“毎回のように休載する期間”と“作画の荒れが酷いながらも何とか間に合う期間”が、氷河期と間氷期よろしく交互交互にやって来ているので、ひょっとしたらこれを機にまた休載が増えるかも知れません。
 個人的にはこの作品、マンガの完成品としてはともかくとして、ネームの中身は「ジャンプ」でもトップクラスの水準を維持していると思っていますので、休載だけは勘弁して欲しいなぁ…といったところです。あと、代原のレビューが増えるのが面倒臭いというのもあります(笑)。

 ◎読み切り『たいして良い思い出もできそうにない学校生活』作画:伊藤直晃

 作者略歴
 生年月日は非公開。05年上期「赤塚賞」応募時25歳とのことで、現在は25〜26歳
 「十二傑」への投稿を経て(04年12月期「最終候補まであと一歩」)05年上期「赤塚賞」で準入選を受賞。今回は受賞作となった31ページの作品(扉+1ページのショートギャグ×30本)を15ページに短縮しての代原暫定デビュー。

 ●についての所見
 トーンを使うべき部分の処理が甘い、フリーハンドで描くべき部分と定規を使うべき部分の振り分けが間違っている点がある…など、基本的な所で稚拙な部分が目立ちます。ただ、人物作画の線などは比較的シッカリしており、絵がギャグの足を引っ張るというような所は殆どありませんでした
 総合的に見れば、ギャグ作品としてはギリギリ及第の水準でしょうか。ただ、これから正式デビューや連載を目指していくとするならば、早急な技術向上は必須でしょう。
 
 ギャグについての所見
 まず気になったのが、ほとんどの作品においてギャグの流れ──ネタ振りからオチに至るまでが全くのワンパターンである事。確かにその作家の持ち味としてコンスタントに笑いの獲れるパターンを確立する事は大切なのですが、カーボンコピーと言っていいほど同じパターンが続くと、さすがに食傷してしまいますね。
 また、全般的に(というか、どのネタも同じパターンなので当たり前ですが)オチが弱いのも気になりました。ツッコミを読み手に委ねて過ぎというか、最後に気の利いたセリフが欲しい所で、笑いでなく余韻だけ残して終わってしまうのは如何なものでしょうか。

 “間”の持たせ方や、簡潔で無駄の無いセリフ回しなど、確かにセンスが光る部分もあるのですが、残念ながら総合的に見て、週刊本誌へ掲載するにしては物足りない水準だと思います。

 今回の評価
 評価はB−とします。典型的な代原レヴェルの内容で、本来なら「赤塚賞」では佳作ぐらいが妥当な作品だと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、『ネウロ』の連載30回『みえるひと』の連載10回、そして『カイン』の最終回に伴う連載総括と、盛りだくさんの内容となりました。大体新連載シリーズが10週ごとですから、結構タイミングが被っちゃうんですよね。

 ◎『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征
 旧評価:B寄りB+新評価:A−

 駒木のこの作品の解釈に対して、ウィキペディアにまでネガティブなリンクを張られてしまって「何だかなぁ」なんですが(笑)、今回は以前の講義や談話室(BBS)で表明したように、純粋なエンターテインメント作品として評価を下しました。最近は推理モノの皮を被ってるのかどうかも怪しくなってますので、多分この解釈が揺れる事はしばらくはないでしょう。
 ※10/15未明にウィキペディアの該当部分が削除修正されました。執筆された方、有難うございます。

 さて、今回評価点を大幅に上昇させたのは、“犯人役”にあたるキャラが二転三転して見事に収束した「サイ編」の構成力、そしてキャラクターメイキングの上手さを最大限評価してのものです。特に最近は刑事たちや怪盗サイといった魅力的なレギュラー脇役が良い味を出しており、これが作品全体のクオリティにも好影響を与えているのではないでしょうか。
 問題点としては、エピソードごとにストーリーの完成度に大きなバラつきがある点でしょうか。どのエピソードでも「サイ編」ぐらいのヒネりと意外性が含まれるようなお話になるのが理想ですね。 

 今回はちょっと点数を上げ過ぎかとも思うのですが、A−寄りB+とかにしたら、評価がどれくらい上がったのか自分でも謎になってしまうので(笑)。まぁ無意識にこびり付いている個人的な先入観を取っ払う事を考えたら、一旦はこれぐらい上げてみるのも丁度良いのかなとも思います。
 さて次回の評価見直しですが、今度は「コミックアワード」のノミネートが絡んで来ますので、キリ番にはこだわりません。当ゼミで年度末となる11月末に近いタイミングで、エピソードのキリが良い所を見計らって新評価を出すつもりです。

 ◎『みえるひと』作画:岩代俊明
 旧評価:B寄りB+新評価:B

 そしてこちらは10回目にして、残念ながら評価の下方修正を実施しました。

 で、第4回以降からの印象なんですが、作品全体のテーマと言うか、ストーリーや登場人物に仮託して作者が描きたい物が見えて来ないんですよね。少なくとも駒木には全然伝わって来ません。
 この辺り、プロトタイプでは謎解き系のサスペンスホラーだったのを全く違うコンセプトに切り替えた影響が出ているのではないでしょうか。読み切りの連載化では、プロトタイプ版の設定を踏襲しつつ、更に長編でこそ出来るストーリーやキャラの掘り下げを図るのがセオリーなのですが、それが思うように出来ていないのかなと。
 とりあえず今は、登場人物の心情描写に力を入れて、読み手の感情移入を促進させるように試みるべきでしょう。各人物にフォーカスを当てたショートエピソードを何回か続けるだけで随分と印象が違って来ると思うのですが。

 この作品についても「コミックアワード」前にタイミングを見計らって評価見直し予定です。

 ◎『カイン』作画:内水融
 旧評価:B−
最終確定評価:B−(据置)

 『ユート』に続く、今年度短期打ち切り第2号。2クール、連載19回で打ち切り終了となってしまいました。
 しかし正直言って、この打ち切りを惜しんだりフォローしたりする気持ちには全くなれません。ファンの皆さんには申し訳ないですが……。

 読み切り版から踏襲した設定は題名と主人公の名前だけ。それで読み切り版から取り去った要素の代わりに何を投入したかと言えば何もなし。出来上がったのは、キャラ掘り下げの著しく甘い登場人物たちだけが勝手に盛り上がって、それでいて盛り上がらない戦闘シーンを繰り返すストーリー展開でした。
 これでは少なくとも「ジャンプ」で成功するのは、どう考えても難しかったでしょう。当ゼミとしてもメジャー誌の連載作品としては落第点となるB−評価を出さざるを得ませんでした。

 これで内水さんは、「策士・軍師を主人公にした“頭脳派”の読み切りで成功→肉弾戦闘中心の“肉体派”の連載で失敗」…というルーチンを2セット繰り返してしまった事になります。決して実力不足の作家さんとは思わないのですが、これだけ適性違いのチャレンジを繰り返しては失敗するのも致し方無しでしょう。
 次のチャンスがあるのならば、三度同じ過ちを繰り返さぬようにして頂きたいです。

 
 ──というわけで、今日はここまで。意外と長丁場の講義になりましたが、少しでもお待たせした分の償いになっていれば幸いです。
 それでは、また来週。増刊掲載の『いちご100%』番外編を読んで、「なんか『BOYS BE…』みてえだな」と第一印象を抱いた駒木がお送りしました(笑)。

 


 

2005年度第34回講義
9月23日(金・祝) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(9月第4週分)

 9月もいつの間にか下旬。当講座の年度で言えば、もうラスト2ヶ月という事になりました。昨年度は「コミックアワード」の実施が遅れたという事情もありましたが、やはり光陰矢の如しの感ですね。
 さて、今年度も勿論「仁川経済大学コミックアワード」を実施しますが、昨年度では対応が後手後手に遅れた反省もこめて、今年はワイルドカード推薦の募集を今の内から始めておきたいと思います。
 レギュレーションは昨年度同様。「週刊少年ジャンプ」&「週刊少年サンデー」系以外の作品で、04年12月以降に単行本1巻が発売された長編連載作品が対象です。「コミックアワード」のグランプリに相応しいクオリティの高い作品を推薦して下さい。
 推薦は左フレームの「直通メール」直リンクから送信して下さい。メールの題名は「コミックアワード推薦」推薦する作品のタイトル・著者・掲載誌・出版社を明記して、簡単な推薦文も付けて下さい(安易な推薦を避ける為の措置です)。なお、推薦作品は1〜3作品程度でお願いします。
 そして、推薦が2票以上に達した作品から随時“予備審査”を行い、当ゼミのレビュー基準でA評価以上に達した作品を「コミックアワード」グランプリにノミネートします。ちなみに昨年度、推薦を2票以上獲得したのは、最終的にグランプリを獲得した『おおきく振りかぶって』、それに『シグルイ』、『ヒストリエ』の都合3作品でした。「週刊少年マガジン」とか「週刊ヤングジャンプ」からの推薦作品は皆無で、「アフタヌーン」と「チャンピオンRED」のマンガに票が集まる辺りがウチらしいですが(笑)。
 ……というわけで、どうか何卒宜しくお願いします。グランプリを決めるのは貴方の1票かもしれません。 


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 今週は採り上げるべき公式アナウンス情報はありませんでした。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年42号☆ 

 ◎読み切り(第2回『金未来杯』エントリー作品)『@'clock』作画:やまもと明日香
 ※注:題名に機種依存文字があります。1文字目は○の中に1が入った文字です。

 作者略歴
 1980年7月10日生まれの現在25歳
 新人賞の受賞を経ないまま、「赤マル」04年春号にて『天空の司書』でデビュー。今作は「赤マル」05年春号に掲載されたデビュー第2作の同タイトル・マイナーチェンジ版。

 についての所見
 
作品発表を重ねるごと、地味ながら確実に良くなって来ているようですね。やや線が細くインパクト不足を感じてしまいますが、週刊本誌に混じってもあからさまに浮くような絵ではなくなって来ました。
 更に次へのステップアップという意味でやや細かい問題点を指摘させてもらうと、まずはトーン処理でしょうか。トーンの選択と使い方がまだ不慣れに見えました。あとはページをパラパラとめくっていると、主人公が大抵同じアングルの顔面・バストアップになっているのも気になります。構図の取り方がワンパターンだと演出面にも影響してきますので、この辺りも次からはもっと気にして欲しいです。
 
 ストーリー&設定についての所見
 設定・シナリオに関しては、「赤マル」05年春号の同タイトル作品をそのまま踏襲しています。あまり褒められる事ではありませんが、過去にも同様のケースは沢山ありますし、準備期間の短さ、過去作のマイナーチェンジ版を描かねばならないという制約もあったでしょう。それを考えると、今回はあまり厳しく責められないかな……とも思います。
 ただ今回は、改作するにあたって、ストーリー展開のメリハリが無くなり、一本調子になってしまった気がするのです。前作から推敲を施して無駄なコマを減らしたのは良いのですが、今度は無駄が無くなり過ぎて、場面と場面の“間”が詰まってしまっています。
 つまり、演出のためにコマ・ページ数を割いていた部分まで削られていて、読み手に与える効果がその分目減りしているというわけです。全体としては僅かな改稿なのですが、今回は不思議なくらい違った印象の作品になってしまいました。

 あと、この作品の“肝”は、主人公の少年が何かを引き換えに時間の流れの外に身を置く──母親や村の皆に存在を忘れられる──かどうかの心理的葛藤のはずで、敵役の能書きや細かい設定云々よりも、もっとその辺りの心象描写を丁寧にやるべきではなかったでしょうか。
 読み手の感情を揺さぶろうとする方向性そのものは間違っていないと思いますので、あとは演出面でしょうね。こういう所で他の作家さんの名前を出すのは失礼なんでしょうが、例えば久保帯人さんのような演出上手や、雷句誠さんのような“泣かせ”上手がこの作品を描けば、それはもう物凄い破壊力の読み切りになっていたと思います。

 今回の評価
 評価はB+。レビュー内で指摘した、ストーリー展開のメリハリが無くなった分だけ減点しました。
 個人的にはこの作家さんは、あと1〜2作「赤マル」で腕を磨き、センスが洗練されて来てから満を持して本誌進出を果たしてもらいたかったのですが……。この性急な抜擢は、結果的に出世を遅らせたり停滞させてしまいそうで、逆に怖いです。

 ──さて、これで今期「金未来杯」の全作品が出揃いましたので、簡単な総括を。

作品名 作者 評価
『カメとウサギとストライク』 天野洋一 B
『スマッシングショーネン』 大竹利明 B+
『バカ in the CITY!!』 大石浩二 B+
『魔法使いムク』 大久保彰 B
『ナックモエ』 村瀬克俊 B+
『@’clock』 やまもと明日香 B+

 当ゼミの基準としてはB+評価4作品、B評価2作品という結果になりました。昨年は5作品中、A−評価1作品(『ムヒョ』)、B+評価3作品(『プルソウル』、『タカヤ』、『切法師』)でしたから、若干粒が小さくなったかな……といったところでしょうか。
 ただこれには、昨年の第1回で、数年がかりで育て上げた有望新人さんを全て使い果たしたという側面があり、今回が不作というより前回が豊作過ぎた(その割には連載化させて大失敗していますが)と評する方が妥当でしょう。
 さて、優勝予想ですが今回は突出した出来の作品が無く、非常に難しいですね。ただ、この手のコンペで最も有利な、絵の見栄えが良い作品となると『カメとウサギと──』か『魔法使いムク』になりますか。内容はともかく、お話は分かりやすいモノでしたので、非マニアの若年層から支持票を集めそうではあります。
 ただ、今回の水準で上位入賞作品をそのまま連載させてしまうのは正直厳しいのではないかと。昨年度の水準でも、軌道に乗ったのは『ムヒョ』ぐらいですし、「黄金の女神杯」の時も成功した作品は僅少でしたしね……。上・中位クラスの作品が底堅く、『DEATH NOTE』や『D.Gray−man』ですら掲載順が下がり気味というこのご時世、キャリアも実績も浅い作家さんの読み切りを連載化するなんて、ヨハネスブルクぐらい危険だと思うのですが如何でしょうか。

☆「週刊少年サンデー」2005年43号☆

 今週号は、またしても『うえきの法則プラス』が休載で代原が掲載されました。一応は取材休載という事になっていますが、3週前の休載と同様に“作者都合休載”の可能性が大ですね。
 もうこの段階になると、作業時間が足りないという問題ではなく、そもそもネームが出来上がらないという状況ではないでしょうか。かなりの大ピンチという感じがしますが……。

 ◎読み切り『ラブリー フェアリー』作画:小野寺真央

 作者略歴
 生年月日は非公開。04年7月期「まんカレ」応募時21歳とのことで、現在は22〜23歳
 先述の04年7月期「まんがカレッジ」で佳作入賞し“新人予備軍”入り。先月発売の隔月増刊05年9月号にて『犬神』でデビューを果たしたばかり。

 ●についての所見
 純粋な画力という意味では、全体的に拙いものの「サンデー」のギャグ作品としては及第点を出せる水準にあると思います。ただ、線のメリハリが弱い上に人物の動きや(特に“妖精”の)表情の変化が乏しく、見た目のインパクトという点では物足りなさが残りました
 もう少し構図や人物のポーズにバリエーションをつけて、一挙手一投足を印象付けるような工夫が出来るようになれば良いのではないでしょうか。
 
 ギャグについての所見
 ギャグの見せ方に関しては、“間”の取り方やページ跨ぎ、コマ割りなどといった基本テクニックが貫徹されています。少なくともこれらの点に関しては、ポジティブな評価をして良いのではないかと思います。
 ただ、絵の所見でも述べたように全体的にインパクト不足な絵柄のため、ビジュアルで見せるネタは不発気味だったのではないでしょうか。また、ツッコミなどのセリフ回しもヒネりが効いておらず、せっかくの笑わせ所を活かし切れていないように見えました。いつも言っているように、笑える笑えないは極めて主観的な要素ではありますが、少なくともまだ随分と良化の余地を残しているのは間違いないと思われます。

 現時点での評価
 評価を付けるには微妙な作品ではありますが、B寄りB−としておきます。今回は代原ということで仕方ありませんが、本来なら隔月増刊の片隅に掲載されるのが精一杯の水準でしょう。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は連載第10回を迎えた『絶対可憐チルドレン』をピックアップします。

 ◎『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志
 旧評価:新評価:(据置)

 10回時点の今回もA評価で据置としました。
 第8話までは各登場人物にスポットを当てた連作短編形式、そして単行本3巻分に突入した第9話からは短期集中連載分を伏線とした長めのエピソードに突入していますが、ここに至るまで全く隙の無い完成度です。高度なストーリーテリング技術と緻密な計算によって組まれたシナリオを、活き活きとしたキャラクターが縦横無尽に駆け巡る……といった感じで、まさに理想的な展開を歩んでいると言って良いでしょう。
 キャリアと才能に恵まれた作家さんが作品にも恵まれるとこうなる、という典型例でしょうね。商業的な観点では、単純明快な必殺技バトルが好みの小学生にどこまでウケるかという問題は残っていますが、少なくとも当講座の評価としてはケチのつけようのない水準の作品と断言できます。

 また、評価とは直接関係ない部分ですが、遊び心に富んだこの作品の端々から、椎名高志さんの『絶チル』と“チルドレン”に対する愛情が伝わって来るのが、とても好感が持てるんですよね。駒木にとっては、読んでいるだけで幸せになれる作品です。


 ……というわけで今週分はこれまで。来週からは連載回数キリ番の作品や、連載打ち切りの作品(涙)が連続・大量発生しますので、ボリューム面でもソコソコ充実した内容になるのではないでしょうか。
 「ジャンプ」の打ち切りは、掲載順からして多分アレとアレなんでしょうね。『武装錬金』打ち切ってまで始められた作品なだけに、複雑な意味で残念です。

 それでは、また来週。

 


 

2005年度第33回講義
9月17日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(9月第3週分)

 今週もガタガタの状態で週末を迎えてしまいました。昼の仕事から帰って来た途端に気力が尽きるのを感じ、その回復もままならないまま、寝なきゃいけない時刻を迎えている……という感じでした。どれくらい気力が無かったかと言うと、『DRAGON BALL』の天下一武闘会と『バキ』の最強トーナメントを足してで割ったような、ハレンチ☆パンチぐらい志の低いマンガを見せられても、「フーン」で終わってしまうほどと申し上げれば、ご理解頂けるのではないかと。
 幸い今日から予定の無い3連休ですので、この講義が終わったらサウナ行ったり麻雀打ったりして心身共にリフレッシュしてみたいと思います。

 さて、連休シフトでもう次週分の「ジャンプ」が発売になってますが、今日は月曜発売の、『NARUTO』が表紙の41号が対象ですのでお間違えないようお願いします。「サンデー」は水曜発売の42号です。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(42号)に「第2回金未来杯」エントリー作として、『@o'clock』作画:やまもと明日香)が掲載されます。
 やまもとさんは新人賞の受賞歴が無いまま、持ち込み活動を経て04年に「赤マル」でデビュー。今回は「赤マル」05年春号掲載の同タイトル作品をマイナーチェンジさせたもの。デビュー3作目で大きなチャンスを迎える事になりました。 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年41号☆ 

 ◎読み切り(第2回『金未来杯』エントリー作品)『ナックモエ』作画:村瀬克俊

 ●作者略歴
 79年8月7日生まれの現在26歳
 03年11月期「十二傑新人漫画賞」で佳作&十二傑賞を受賞し、その受賞作『福輪術─ふくわじゅつ─』が04年2月発売の「青マルジャンプ」に掲載されてデビュー。同年5月の「赤マル」春号にも『Kick! コータ!!』を発表していたが、その後今回まで1年半はアシスタント業(鈴木信也さんのスタジオに所属とのこと)に専念していたのか、ブランクを作っていた。

 についての所見
 
デビュー時から画力のある方でしたが、前作からの1年半で更に進歩しているようで、好感が持てました
 相変わらず師匠である鈴木信也さん、更には井上雄彦さんからの影響も強い絵柄ではあります。「どこかで見たことあるような絵」という感じもしますが、絵柄そのものは随分と洗練されて来たのではないでしょうか。格闘シーンの描写も前作より良くなっています。
 以前からの問題点である人物の表情の変化が固い所など、手放しで褒められない部分も未だ残ってはいます。が、連載未経験・デビュー3作目の若手作家さんにしては、相当上位クラスの技量である事は間違いないでしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 最初に悪い所を率直に指摘すると、プロットそのものは、かなり既視感が強くて手垢のついたモノだったですね。悪い言い方をすれば陳腐でヌルいストーリーに終始した…という感じでしょうか。
 マンガの読み方には色々なスタンスがありますが、少なくともこのゼミのスタンスでは、他の作品とのバランスを取る意味でも「ヌルいけど楽しめる作品」に高い評価を与える事は出来ません。よって、ストーリーを評価する“基礎点”はどうしても辛めの採点をする事になってしまいます。

 ただ、ストーリーラインには最低限の理屈の整合性や説得力が保たれるよう、総じてよく練られており、陳腐さ・ヌルさも許容範囲で収まったかな…といったところです。「本格格闘技ドラマ」と銘打たれては困惑を禁じ得ませんが、B級の映画・Vシネマのようなヌルい作品と割り切ってしまえば悪くないんじゃないでしょうか。(まぁあくまで「○○としては〜」という話ですが)

 具体的に評価できるポイントは、まず格闘シーンが挙げられます。喧嘩の延長上のような“バトル”ではなく、キチンと“格闘技”の草試合が描かれていました。実力上位の主人公が試合前半劣勢に陥る理由付けをムエタイの特色と絡めるなど小技も効いています。
 「ジャンプ」でよくある、「半端な実力の敵役が素人の主人公を滅多打ち→擬似サイヤ人化で一撃逆転KO」という芸のないムーヴに比べると、今回のそれは雲泥の差。このまま更に取材・研究を重ね、本格的な格闘マンガが描けるようになるまで精進してもらいたいですね。
 あとは敵役の勘違いした体育会系教師のキャラ造型、これもステロタイプな“敵役のための敵役”ではなく、微妙に大きく歪んだ性格を描写したら結果的に敵役になった……という描写が出来ているのは良かったと思います。今回はこの描写力が作品のクオリティに直結したとは言い難いですが、次回作以降、作品に恵まれればフルに活きて来る才能でしょう。

 先に述べたように、ストーリーの根本的な部分がやや低調だったのは残念でしたが、その中に埋もれそうになって潜んでいる高いポテンシャルが光る惜しい作品でもありました。今回の結果如何に関わらず、次回作に期待したい作家さんです。 

 今回の評価
 評価はB+としておきます。個人的には好きな部類に入る作品でもあるのですが、それを意識して逆に厳しめの採点にしました。
 ちなみに現在・現実の私立高校では、上司に楯突いて堂々と体罰を肯定・実施するような困った教員は、気が付いたら架空の学校へ転勤しているのでご安心を(笑)。

☆「週刊少年サンデー」2005年42号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は評価見直し対象作品が2作品。連載20回の『うえきの法則プラス』と、連載10回の『あいこら』について採り上げます。

 ◎『うえきの法則プラス』作画:福地翼
 旧評価:B+新評価:B+(据置)

 今回の見直しでも、B+評価で据え置きとしました。
 この10回は、正編『うえきの法則』でも見られた団体バトルに突入しています。さすがに手馴れているなぁ…といったところですが、やはり過剰に理屈をこねまわした駆け引きばかりが表に出ているのがどうにも……。
 ストーリーの流れ上、仕方ない事ではあるのですが、敵役が“当面の”敵役で、しかも主人公らとの因縁が薄いために、ドラマ性が薄れて“バトルのためのバトル”になりがちです。以前に比べると心象描写が緻密になっている分、いくらかバトル以外に中身のある内容になっていますが、まだドラマとバトルの主客が転倒気味ではないでしょうか。

 まぁこの路線が受けたからこそ『うえき』は成功し、こうして続編も描かれている事は承知しています。でも、だからといって、“現在地”に安住してしまうには余りにも勿体無いと思うのです。

 次は連載30回時点でまた評価見直しをします。

 ◎『あいこら』作画:井上和郎
 旧評価:B+新評価:B+(据置)

 相変わらずのカタルシス優先・予定調和上等、ストーリーの内容を云々言えばキリが無いですが、エンターテインメントに徹しきったその製作姿勢はむしろ清清しささえ感じますね。
 脚本・演出面など、“マンガの見せ方”に関するテクニックについては申し分ありませんし、コメディ要素を支えるギャグにしても、本職真っ青のインパクトが感じられるネタもありました。
 この作品を「2005年を代表する名作!」とか、「ラブコメの最高峰!」…などと評するのはどうかと思いますが、雑誌のラインナップの脇を固める娯楽作品として一級の佳作であることは間違いないでしょう。

 とりあえずこの作品については今回で評価確定とします。個人的に一読者として好きな作品でもあるので、今後はレビュアーの立場を離れて素直に楽しませて下さい(笑)。

 

 ……以上、9月3週分のゼミでした。ではまた、来週。

 


 

2005年度第32回講義
9月10日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(9月第2週分)

 ほぼ一週間のご無沙汰でした。たった6日で体がガタガタです(苦笑)。翌日の疲れの残り具合で、否応無しに現在の年齢を思い知らされる今日この頃です。
 開講当初みたいに、毎日朝まで講義の準備して、2時間睡眠で往復2時間半の職場へ出勤……なんて真似はもう出来ないでしょうね。これをご覧の20代半ばの受講生さん、気合だけで頑張れる今の内に、やりたい事はやっておきましょう(笑)。

 ……さて、それでは今週のゼミをお送りします。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(41号)に「第2回金未来杯」エントリー作として、『ナックモエ』作画:村瀬克俊)が掲載されます。
 村瀬さんは03年11月期「十二傑」で佳作を受賞し、翌04年2月発売の「青マル」でデビュー。その春の「赤マル」にも読み切りを発表していましたが、今回が1年ぶりの登場で本誌初登場。鈴木信也さんのスタジオでアシスタントを務めているそうですが、その修行の成果がどれくらい現れているか注目ですね。

 ★新人賞の結果に関する情報

第28回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年7月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『魔界不思議犬ブルブルブルズ』
   まや夫(19歳・岩手)
 《鈴木信也氏講評:魔王が人間界で犬扱いという設定は面白かった。だが魔界生物に比べて人間の描き方が雑すぎる。主人公の表情は豊かで良かったのだが》
 《編集部講評:序盤の設定の不可解さが気になったが、全体を通して「笑い→感動」へ読者を引っ張っていく展開は良い。絵は人間の顔を中心に要努力。》
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『ホタルのヒカリ』
(=鈴木信也特別賞)
   三代川将(22歳・東京)
  ・『ORANGE SPIKE!!』
   青木雅彦(23歳・東京)
  ・『ヨモギアンドドラゴン』
   黒内双磨(22歳・東京)
  ・『Dr.ヒイラギの事件簿』
   イチノセコウタ(25歳・新潟)
  ・『ライオンprologue』
   小笠原大(26歳・北海道)
  ・『チンフー』
   神崎ししゃも(27歳・愛知)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎十二傑賞のまや夫さん04年9、11月期に太宇諭まや夫名義で投稿歴あり、04年10月期「十二傑」に太宇諭みや夫名義で最終候補。

 今回の十二傑賞は、昨秋に3ヶ月連続応募という離れ業をやってのけた経験のある19歳のまや夫さん。講評の通り、画力には大きな課題が残されているものの、その中に秘められているセンスが認められた……といったところでしょうか。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年40号☆ 

 ◎読み切り(第2回『金未来杯』エントリー作品)『魔法使いムク』作画:大久保彰

 ●作者略歴
 1980年3月11日生まれの現在25歳。
 00年9月期「天下一漫画賞」で最終候補となって、“新人予備軍”入り。その後、岸本斉史さんのスタジオでアシスタントを務めながらデビューの機会を窺い、「赤マル」05年冬(新年)号でデビューを果たす。
 今回はそれ以来2度目の登場で、初の週刊本誌掲載&「金未来杯」への大抜擢。

 についての所見
 今冬デビュー時以来の高水準を保っています。デビュー2作目の若手作家さんで、ここまで安定して洗練された線を描ける人はそういないんじゃないでしょうか。さすがは腕達者が揃う岸本斉史スタジオですね。

 しかし欠点の方もデビュー時からそのまま。これも岸本斉史さんのアシ出身者の特徴でもあるのですが、線描が細かい代わりに強弱・太細のメリハリに欠け、アクションシーン等で迫力不足に陥る面が気に掛かります
 独特のトボけた世界観・雰囲気を醸し出す事には成功しているのですが、それが作品全体のクオリティに繋がっているかどうかというと、微妙ではないでしょうか。

 ストーリー・設定についての所見
 まず、どうしても気になってしまうのが、登場人物の行動全般の動機付けが甘く、説得力に欠けている点です。
 この作品のストーリーは、本質的には“主人公巻き込まれ型”。主人公が敵役と戦う羽目になる事自体は不自然ではありません。しかし、そこへ取って付けたように“友達を作る”という行動(そして、アッサリと出来上がってしまう、にわか作りの友情関係)を絡めてしまった事で、いっぺんにおかしくなってしまいました。
 この“友情”は、作品全体を通じて描かれたテーマになっているわけですが、それならそれで、もっと濃いエピソード描写をして欲しかったところです。登場人物が「俺たち友達だ」と宣言したからといって、読み手がそれを認証するかどうかは別ですからね。

 あとは、この動機付け云々の話と関連していると思いますが、キャラクター描写が甘いようにも感じました
 主人公は感情移入を促す要素に乏しく天然ボケで、敵役は喋る言葉の語尾以外に特徴無し。この2人がバトルを繰り広げても、読み手がその状況をエキサイトして体感するには相当のエネルギーを要すると思われます。

 ストーリーの組み立て方や演出による見せ場の盛り上げなどは堅実で、よく考えて製作された作品だとは思います。ただ、ストーリーの流れを成立させるための無理が多過ぎたのではないでしょうか。

 今回の評価
 絵は標準以上、ストーリーも形にはなっていますが、形だけに終わってしまったかな……という事でBとしておきます。駒木が不自然と感じた点をそう感じない人ならば、ガラっと評価が変わる作品だとは思うんですけどね。

☆「週刊少年サンデー」2005年41号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は1週遅れで『ネコなび』の連載10回評価見直しを実施します。3週目が2本立てだったので、連載11回の今回が実質キリ番かと思いきや、31号スタートなので、もう10回到達していたんですね。失礼しました。

 ◎『ネコなび』作画:杉本ぺロ
 旧評価:B−新評価:B寄りB

 ネコの生態を中心に描こうとしたこの作品ですが、やはり色々な意味で無理があったのでしょうか、数週前からは捨て猫2匹を主役格に据えた連作形式の4コマが続いています。
 4コマの連載モノは、ネタよりもキャラ優先みたいな所がありますので、これも落ち着くべき所に落ち着いたのかな…という気がします。ただ、主要キャラが捨て猫2匹+おじさん1人では“タマ不足”が否めませんし、ネタの方も、オチの意外性が弱かったりワンパターン気味だったりと、今ひとつインパクト不足ではないかと思います。

 ラスト1ページの実録おまけマンガは「相変わらず」といった感じでしょうか。こちらもネタのバリエーションに乏しく、ギャグの密度も薄い感じで、笑える・笑えない以前に笑う機会が少ない気がします。

 悪いなりに作品の体裁が固まってきたという事で評価は僅かに上方修正としましたが、依然としてメジャー誌の連載作品としては落第点のクオリティとせざるを得ませんね。
 とりあえず今回で評価は一旦確定とし、今後は大きな変化が見られた時に評価の見直しを行う事とします。
 

 ──相変わらずの寂しい内容で恐縮ですが、今週はここまでとします。それでは、また来週お会いしましょう。

 


 

2005年度第31回講義
9月4日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第5週/9月第1週分)

 いよいよ新学期となり、また多忙な数ヶ月間に突入という事になりました。まぁ世間的には、いい年して丸2ヶ月休んでる方がどうかしてるわけですが(笑)。
 特に今週はボクシングの西日本新人王決定戦があり、駒木のもう一つの顔である、ボクシング観戦ブログ管理人業も多忙。こちらの仕事が後手後手に回ってしまいました。あんまり追う兎を増やすとロクな事が無いのは判ってるんですけどね……。

 さて、今週分は『クロスゲーム』の第二部開始がありましたが、案の定レビューのしようがないスロースタートでしたので、「チェックポイント」欄での扱いとさせて頂きます。ご了承下さい。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(40号)に「第2回金未来杯」エントリー作として、『魔法使いムク』作画:大久保彰)が掲載されます。
 大久保さんは00年に“新人予備軍”入りして以来、4年以上の雌伏を経て「赤マル」05年冬(新年)号でデビューを果たした若手作家さん。今回は週刊本誌初登場で「金未来杯」への抜擢となりました。

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(05年6月期)

 入選=1編(週刊本誌or増刊に掲載)
  ・『鬼が島のドガ丸』
   出口真人(23歳・埼玉)
 《編集部講評:みずみずしいキャラ描写と、好感度の高い絵柄が高評価を集めた。悪人を活き活きと描ける所に才能を感じる。今後は描けるキャラクターの幅を広げ、色々な世界観に挑戦していってもらいたい》
 佳作=該当作なし

 努力賞=2編
  ・『アタックマジェンタ』
   餓原ショータ(23歳・沖縄)
  ・『ナントカ』
   発地記也(19歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『森のくまさん』
   渡部純子(19歳・徳島)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎入選の出口真人さん…元「月刊少年ジャンプ」の新人作家で、03年に同誌新人賞入賞の後、04年末の増刊号でデビュー。


 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り1本
 ──なお、今回は採り上げる対象となる作品が無いため、「ジャンプ」の“チェックポイント”はお休みとさせて頂きます。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年39号☆ 

 ◎読み切り(第2回『金未来杯』エントリー作品)『バカ in the CITY!!』作画:大石浩二

 作者略歴
 82年7月14日生まれ現在23歳
 週刊本誌04年24号にて、代原掲載による暫定デビューを果たし、それ以後も26号、31号にそれぞれ代原掲載を果たしている。
 正式デビューは「赤マル」04年夏号。04年秋のギャグ増刊では4コマ作品を発表し、週刊本誌05年7号では正規枠で読みきりを発表し“凱旋”を果たした。
 今回は約7ヶ月ぶりの新作発表。

 についての所見
 久々の作品となりましたが、まだ絵柄が全体的に粗いのが気になりますね。以前からの課題である動的表現の拙さも改善されていませんし、少々物足りなさが残りました。画風は画風として、もう少し線や技巧を洗練させると、随分と印象が違って来ると思うのですが……。
 ただ、今回は積極的に美醜のコントラストをつけたり、美少女毒舌キャラに挑戦するなど、意欲的な姿勢も窺えました。これは作品の幅を広げると言う意味では大きな進歩ではないでしょうか。

 ギャグについての所見
 今回はキャラクター・題材別にページ単位で区切りを作った4コママンガ中心のショートギャグ作品でした。まとまったページのギャグ作品も手がける大石さんですが、やはり場数を踏んだ回数の多いショートギャグの方が手馴れている感じがありますね。
 さて、今回も全体的に俯瞰するとネタの出来・不出来──個人的に笑える・笑えないではなくて、起承転結の落差の大・小など技術的な面での話──のバラつきが大きく、読み手を終始笑わせっ放しにするパワーには欠けたかな……といった感じでしょうか。これは4コマ物にしてはページ数が多過ぎ、ネタの絞込みがままならなかった事もあるのでしょうが、それでも第一線で通用するギャグマンガを目指すならば、ネタの“不発”は極力ゼロに抑えるべきだと思います。

 それでも個別のネタを吟味してゆくと、非凡なセンスに唸らされる事も少なくありませんでした。無駄が全く無いセリフ回しや、オチの種類の多彩さもそうですが、各ネタに登場するキャラクターのバリエーションが実に豊かで、しかもそれぞれのキャラが全く被る所が無いというのが素晴らしいです。個人的には“相原コージ作品の少年誌版”みたいな印象を受けました。
 好き嫌いは抜きにして(蛇足ですが、駒木のフェイバリットネタは「ツキミちゃん」の「ヘドが出ます」でした。これも笑いの根源である違和感を追求した良いネタですが)、凄いなと思ったのは、「文字郎くん」記号としての文字と絵の相違をギャグに転化させた奥の深い作品でした。

 ……というわけで、未だクオリティの安定度に課題を残しつつも、着実な前進が窺えた…という結論ですね。大石さんの非凡なセンスが再確認できたという意味で意義の深い作品だったと思います。

 今回の評価
 迷うところですが、今回も評価はB+とします。ハズレのネタがもう少し減ればAクラス評価も可能なのですが……。
 ところで、関係者の方に窺うと、一般的にギャグ作品はアンケートでは苦戦するのが当たり前だそうです。それを考えると、この作品は出来・不出来に関わらず「金未来杯」を争うには厳しそうですね。ただ、それ以上に気になるのは、この作品が連載化されるとすれば、『ジャガー』枠の巻末しか思い浮かばないという事なんですが……。

☆「週刊少年サンデー」2005年40号☆

 先週時点ではセンターカラーで掲載予定だった『うえきの法則プラス』が“作者取材のため”休載。「ジャンプ」流に言えば“作者都合のため”とする所なんでしょうね。
 『うえき』に関しては、つい最近も表紙も目次も修正出来ないギリギリの段階で原稿を落とした事がありましたが、今回は合併号休み明け2週目での予定外休載。製作現場が相当に煮詰まっている事は間違い無さそうですね。

 ◎読み切り『お坊サンバ!!』作画:飯島浩介

 作者略歴
 生年月日は非公開。04年11月期「まんカレ」応募時26歳とのことで、現在は26〜27歳
 本人かどうか100%確認は出来ないものの、02年に『月刊少年ガンガン』のショートギャグ企画に掲載歴があるようで、これが一応のデビュー作という事になるか。
 「サンデー」では、04年11月期「まんがカレッジ」にて努力賞に入賞し“新人予備軍”入り。隔月増刊05年5月号にてデビューし、7月号にも読み切りを発表
 今作は増刊7月号に掲載された作品のマイナーチェンジ版で、半ば代原の形ながら週刊本誌デビュー。

 ●についての所見
 作中で「画力はないけど」というメタなネタがありましたが、謙遜(?)するほど下手な絵ではありません。確かに細かい描写が雑だったりしますが、それでも線のメリハリもあり、背景の処理なども手馴れていて、さすがに年齢とキャリアを感じさせます。
 「サンデー」のギャグマンガなら…とう限定はつきますが、これはこれで十分アリな水準ではないでしょうか。
 
 ギャグについての所見
 まず、ネタ1つ1つの意外性やバリエーションは、平凡な若手・新人さんの作品と一線を画した水準にあるとは思います。“間”で獲るギャグあり、言葉で笑わせようとするネタ有り、メタなネタも有りと、「プロとして、商品になるギャグ作品を作ろう」と言う意識は窺えました。
 しかし、ネタ振りからオチへの流れがどのネタも同じパターン・同じ“間”で、ページが進めば進むほど単調さが強くなっていったのは問題でしょう。もうちょっとツッコミのパターンやセリフに工夫が欲しかったですし、後半に入ると、ネタの展開からオチから読めてしまうのも頂けないポイントです。
 人を笑わせるには意外性と違和感というのが大事なはずですからね。それが欠けてしまっているようでは、ちと厳しいのではないでしょうか。

 しかし、最近の「サンデー」本誌に載っているギャグ作品が一様に低調なため、これでも「形にはなっているなぁ」とは思えてしまうのが怖いですね(苦笑)。ですが、読み手としてこの水準で満足したくはないですし、作家の皆さんにも頑張ってもらいたいと思います。

 現時点での評価
 評価は。雑誌を読む流れで目を通すには、毒にも薬にもならない作品…といったところでしょうか。今度は純粋な実力で本誌再登場が果たせるよう、飯島さんにはさらなる精進に励んで頂きたいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎連載第2部開始『クロスゲーム』作画:あだち充

 今週から第2部“開幕”。野球モノということで、話の作り易い高校からスタートかと思いきや、主人公中学3年の秋から開始という事になりました。高校入学までの間でジックリとストーリーの基礎を作っていくと言う事なのでしょうか。
 で、再開第1回となった今週は、主人公と主要キャラクターの現状と人間関係の大まかな所を描写する事に費やされました。しかしページを贅沢に使っているとは言え、この辺の描写力は「さすが」といったところ。各登場人物の微妙な変化や成長などがすぐに理解出来るようになっていました。
 問題はこの後、どういったストーリーになっていくか……というところなんですが、これは年単位の長いスパンで見届けないといけないのでしょうね(笑)。
 とりあえず、次回は再開10回目に、この「チェックポイント」欄で採り上げる事にします。

 

 ……といったところで今回はこれまでとします。しばらくこんな調子ですが、どうかご辛抱を。


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