「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

1/29(第105回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(1月第5週分・合同)
1/26(番外) 
人文地理「続々・駒木博士の東京旅行記」(3)
1/22(第104回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (1月第4週分・合同)
1/20(番外) 
人文地理 「続々・駒木博士の東京旅行記」(2)
1/14(第103回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(1月第3週分・合同)
1/9(第102回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(1月第2週分・合同)
1/7(第101回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(12月第5週〜1月第1週分・合同)

1/3(番外) 
人文地理「続々・駒木博士の東京旅行記」(1)

 

2003年度第105回講義
1月29日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第5週分・合同)

 すっかり「分割版」の体を成さなくなりつつある当ゼミのお時間です(笑)。とりあえず、年度末まではこの名称を続けて、それからまた考えるという感じで行きたいと思います。4月から駒木の身分がどうなるか、本当に判りませんからねえ。

 ……さて、それでは今日も情報系の話題から。まずは「サンデー」系の月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」03年11月期の結果発表がありましたので、例によって受賞者等を紹介しておきましょう。

少年サンデーまんがカレッジ
(03年11月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=1編
  ・『笑ってよ! ヒデロウ』
   瀬尾結貴(23歳/奈良)
 努力賞=3編
  ・『カジバのシン』
   平田陽臣(19歳・福岡)
  ・『TIME・LIMIT』
   麻倉愛菜(17歳・神奈川)
  ・『JUSTICE』
   斎貴明(16歳・愛知)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『天までとどけ!!』
   スタ缶(19歳&24歳・千葉)

  受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎努力賞の麻倉愛菜さん…03年4月期「まんカレ」であと一歩で賞。


 佳作受賞作は、この賞では珍しいギャグ作品。まだ未読なので内容については何とも申し上げられませんが、編集部の評価はかなり高いようで、今後の動向に注目と言えそうですね。
 ただ、「サンデー」のみならず少年マンガ誌というのは“ギャグ枠”がかなり限定されていますからねぇ。現在の「サンデー」では、間もなく水口尚樹さんの連載が開始しますし、『いでじゅう!』『美鳥の日々』といったコメディ系作品も好調で、なかなか枠も空きそうにないですし……。新人さんの活動の場である増刊も春までお休みで、その後は隔月刊になりそうな様子で、ちょっとタイミングが悪くて気の毒ではあります。

 さて、情報系の話題をもう1つ。「サンデー」では来週号(10号)に読み切り・『ハヤテの如く』(作画:畑健二郎)が掲載されます。畑さんは、つい最近まで増刊の方に『海の勇者ライフセイバーズ』という作品を短期連載していました。これまでのパターンで行くと、本誌連載獲得へ向けてのトライアルという事になるのでしょうか。
 なお、畑さんは久米田康治さんのアシスタント出身。『ライフセイバーズ』第1回の柱(「ジャンプ」で言えば、「○○先生の作品が読めるのはジャンプだけ!」が書かれているような部分)には、「ライフセイバーの知識なんてないですよ」と言う畑さんを「お前の師匠はアイスホッケー知らずにアイスホッケー漫画描いてた」と説得する担当さん…という遣り取りが掲載されていたそうです(笑)。

 ……それでは、レビューとチェックポイントへと参りましょうか。今週のレビュー対象作は、「サンデー」の新連載第3回後追いレビュー1本のみということになります。
 お送りする順序としましては、「ジャンプ」のチェックポイント→「サンデー」のレビュー→チェックポイントという事になります。どうぞ宜しく。
 

☆「週刊少年ジャンプ」2004年9号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

  今週の巻末コメントで光ったのは、やはり「今回の見開きを描いたお蔭でどんな絵を描いても面倒臭く感じなくなりました」と開き直った村田雄介さんこの上無く「今更」な『ウォーリーを探せ』のパロディを、週刊連載の、しかも巻頭カラーでやらされたご苦労、心からお察し申し上げます。
 しかし、本当に何故今頃になって『ウォーリーを探せ』……。あれって平成3年のブームですからねぇ。平成3年って言えば、駒木がまだ15〜16歳の頃ですよ。ていうか、今の小学生生まれてないじゃないですか(爆)
 ちなみに平成3年の主な出来事や流行を思うままに列記してみますと、湾岸戦争雲仙普賢岳噴火若・貴ブーム宮沢内閣成立ドラマ『東京ラブストーリー』&『101回目のプロポーズ』大ブレイクKANの『愛は勝つ』大ヒットWindows3.0発売カルピスウォーター大ヒット宮沢りえヌード写真集発売ジュリアナ東京が大人気……といった感じになります。まさに隔世の感(笑)。今はもう貴乃花部屋がもうすぐ誕生しようって頃ですからねぇ。しかし、「僕は死にましぇ〜ん!」からもうそんなに経ちますか。しかし、今あのドラマやってたらアレほどウケたんでしょうかねー。
 あと、どうでもいい話ですが、カルピスウォーターを初めて飲んだ時、「うわ、本物のカルピスってこんなに濃かったんだ!」と思われた方、どれくらいいらっしゃいます?(笑)。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 えーと、大浜>カズキ>六舛>岡倉ですか(笑)。しかし、究極の美形ってどんな形なんでしょうか。
 しかし、そんな盛り上がった部分も含めて、全部一人でオイシイ所を掻っ攫っていくのがパピヨン。両手を離しても洗面器が落ちないのは引力の不思議か、はたまたホムンクルスの超能力か(笑)。まぁ「ジャンプ」では、かつて『キン肉マン』で、アノ部分の力だけで1トンを持ち上げる超人がいましたけれども。

 それはそうと、最後のページでその場にいる5人の眼がアップになってるんですが、ホムンクルス特有の眼をしているのは変態バカ2人組だけですね。ということは、早坂姉弟は2人ともまだ人間という事なんでしょうか。


 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 いよいよ今の試合も決着しそうですね。しかし、主人公が1年生の夏の県予選1回戦が終わるまで連載2年半というのは色々な意味で凄いですね。まさに平成の『アストロ球団』といったところでしょうか。
 それにしても、このマンガのいさぎ良い所というか、開き直りも良い所なのは、これまでの野球マンガが散々やり尽くして来たパターンを、何の躊躇いも無く、さも自分が思いつきましたとでも言わんばかりに堂々とやってしまう所だと思った駒木でありました。
 でも、過去の名作に触れる機会の少ない小学生とかは、ここまで自信満々にやられると、この作品オリジナルのシーンだ…とか思ってしまうんでしょうね。そういう意味においては、鈴木さんは巧くてしたたかです。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B/雑感】

 ……などと言っていたら、こっちもベタだ〜(苦笑)。仲間が転校することになって、散々名残を惜しんだ挙句にドタキャンって、一体何年前のパターンなんだ(笑)。まぁ、ツカミとオチを「牛肉と豚肉で夫婦大喧嘩」という部分で揃えて来たのはなかなか見事でしたが。
 しかしまぁこうして見ると、やっぱり黄金パターンは偉大だって事になっちゃうんですかねぇ……。

☆「週刊少年サンデー」2004年9号☆

 ◎新連載第3回『暗号名はBF』作画:田中保佐奈【第1回掲載時の評価:A−

 さて、本日唯一のレビュー、『暗号名はBF』の第3回後追いレビューです。
 
 なかなかの好発進を見せた第1回から2週間、第3回を迎えた今週の時点でも、大筋では当初のクオリティをキープ出来ていると思います。主人公の“素の姿”を強調して読み手の感情移入を促す試みも積極的に成されていますし、色々と考えてシナリオを立てている熱意が伝わって来て好感が持てますね。シナリオの内容にやや新鮮味を欠く(=どこかで見た事あるようなお話である)など、若干物足りない部分もありますが、駒木には許容範囲と映ります。

 ただ、非常に残念なポイントが1つだけありました。それは先週号(8号)の第2回で、主人公の特殊能力・“誘う目”で幻惑された女情報員が、後から「実は騙されたフリをしていました」と告白するシーンです。これは読み切り版でも似たような問題点があったのですが、素で騙されておいて、その後で「実は騙されたフリをしていたのよ」と告白するのは、かなり無理がある展開ですよね。
 まぁ、“誘う目”の効力は「頼みを一瞬断れなくなるらしい」という、かなり曖昧な表現で説明されていますので、無理な解釈を重ねれば矛盾にはならないで済むには済むんです。が、それでもこの“誘う目”という能力は、シナリオ作りの中ではかなり厄介な手枷・足枷になって来そうですね。

 ……と、そういうわけで、大きな問題点が浮き彫りになって来たということで、評価はA−寄りB+と半歩後退させておきたいと思います。ただし、勿論のこと、今後の展開によっては評価の変更もあり得ます。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「生まれてからの一番古い記憶」。
 こういう話題の時には必ず「お母さんのお腹の中で……」と言う人が出て来るものだったりしますが、今回そういう人はゼロ。「誰かに向かって何か話しているか、発音出来なくて通じない」という雷句誠さんなどは相当古い記憶のような気がしますが、これも1〜2歳というところでしょうかね。追記:杉本ペロさんが、『生まれたと思ったら生まれてなかった』とコメントなさってました。ギャグ作家さんのコメントは冗談である事が多いので、無意識のうちにスルーしてたようです。受講生さん、ご指摘有難うございます)
 年齢を具体的に挙げている人では3歳が最も多いようですが、実は駒木も3歳前後の思い出が最古です。父親に公園で遊ばせてもらっていて豪快に膝を擦りむいたとか、テープレコーダーに何やら録音していたとか、朝10時頃に教育テレビを観ながら優雅にジャムトーストの朝食を摂っていたとか、なんか断片的に色々出て来ます。
 あーあと、ベタですが貰ったお年玉を右から左へ強奪された事も鮮明に覚えております。母親曰く、駒木の学資保険に消えたそうですが、真相はどうだか(笑)。

 ◎『金色のガッシュ!!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 こんな緊迫した場面になっても、5ページ半にわたってドタバタギャグを入れる雷句さんの思い切りは相変わらず素敵です(笑)。しかも、メンバー中最も笑いに縁遠そうなレイラをクローズアップするとは、さすがやりますね。
 しかもまた、そこから戦闘シーンへの持っていき方が強烈に上手くてシビれます。ギャグで笑わせた数ページ後にはもうシリアスな修羅場ですものねぇ。

 ◎特別企画「哀川翔×井上和郎 スペシャル対談」

 まず、内容以前に何ですかこのミスマッチは!(笑)。『ゼブラーマン』公開記念と『美鳥の日々』アニメ化記念を一緒にしてしまうのは強引通り越して反則に近いと思います。憶測で物言ったらまた叱られますが、何だか井上さんが猛烈にセッティングをお願いして実現したような雰囲気満々なのですが(苦笑)。
 しかもインタビューの冒頭でまた驚きですよ。哀川翔、『美鳥の日々』読んでるし! これが普段から「サンデー」読んでいるのか、それともインタビューがあるからと予備知識として読んだのか判りませんが、どちらにしろ「アンタは偉い!」と言いたいです。

 ◎『結界師』作画:田辺イエロウ【現時点での評価:A/雑感】

 今回で1つのエピソードが終了。それにしても見事な締め方でした。やっぱりこの作品は読み手を笑わせるよりも泣かせる方がシックリ来ますね。1回ごとの盛り上がりを気にする余り、エピソード通じてのテーマがあやふやになる面があったような気もしますが、田辺さんのキャリアでそこまでを求めるのは酷というものでしょう。
 今後の展開にも広がりが期待出来そうな感じになって来ましたし、ますます楽しみですね。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のレースシーン、本当に秀逸ですねー。その内容が“実際の競艇では滅多に起こらないが、起こった時は最高に盛り上がるような展開”だけに、競艇観戦経験者の駒木としてはエキサイトしまくりました。ちなみに、一番盛り上がる読み方は、2連単1−3の舟券を1点買いしているつもりで読む事ですね(笑)。波多野、行けーッ! とか叫びそうになりますよ。

 
 ……というわけで、今週は以上。来週はレビュー対象作が増えそう(ひょっとしたら3作品)なので、久々に分割版でお送りする事になるかも知れません。
 では、とりあえずまた来週という事で──

 


 

番外編
1月26日(月) 人文地理
「続々・駒木博士の東京旅行記」(3)

 ◎前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回

 この半年で5回も東京へ行き、さすがにこの春は東京もどうかなぁ……と思っていましたところ、とんでもない時期にとんでもない所でとんでもないイベントが予定されている事が判りました。
 春の青春18きっぷシーズンである3月22日に、高知競馬場で黒船賞という交流重賞競走があるのですが、なんとこの日にあの“日本競馬史上最弱のアイドルホース”ハルウララ号が出走予定で、しかも騎乗予定の騎手が、黒船賞のために遠征する武豊騎手というではありませんか! 何ですかこのタイミングの良さは!(笑)
 しかもですね、JRには近畿圏から高知へ行くための夜行快速・「ムーンライト高知」号という、まさに御誂え向きの列車が存在していまして、更にこの時期は通常全席グリーン車のところを青春18きっぷ客のために1両だけながら普通指定席に変えてくれるという大盤振る舞いをしてくれるのですよ! 何ですかこの便利の良さは!(笑)
 ……これはもう、駒木に行って来いと言ってるも同然ですよね(笑)。ですから、最終決定は別にして、とりあえず行き帰りの指定席券は1ヶ月前から押さえておきたいと思います。多分0泊3日の弾丸旅行になり、結局駒木は懐を寒くした上にハルウララが最後方で馬場掃除する光景を眺めるだけで終わりになるでしょうが、こうなったらドンと来いですよ(笑)。
 もし決行の場合は、当然旅行記を書きますので、どうぞお楽しみに。

 ──というわけで、春の講義予定が1つ固まったところで、話を年末の東京旅行に変えましょう。今日はレポートの3回目。今回で何とかコミケ2日目の会場からは脱出したいと考えています。それでは、どうぞ宜しく……。
 なお、レポート文中の文体は常体です。


 『吼えろペン』9巻サイン本をTYPE−MOONブースで購入した紙袋に放り込むと、駒木は未だ喧騒に満ちた西4ホールを離脱し、どう考えてもコスプレ広場というよりカメラ小僧、いやカメラ大きなお友達広場と化している屋上スペースもスルーして、そそくさを東ホールへと向かった。
 しかし、この西から東への移動、一度でも東京ビッグサイトを端から端まで歩いた人なら判るだろうが、とにかく異様に距離があって辟易する。正確な距離は知らないが、1〜2回往来するだけで立派な有酸素運動になる。もしも週に1度コミケをやったなら、常連参加者はみんな脂肪を燃やしまくってスリムになる事請け合いだ。問題点は、サークル参加者の皆さんは、スリムになるどころか過労で痩せ衰えて死んでしまうであろうという事であるが。

 ……そんなこんなで、クソ長い連絡通路に散々ヤラれまくった後、同人誌即売のメイン会場である東ホールへ到着した。
 コミケ未経験者の方たちのために解説しておくと、東ホールでは、初日と2日目は少年マンガの“やおい”系サークルのブースがメインであり、これ自体はそれほどの集客力を持ってはいない。が、(ある程度は行列を伸ばしても支障の少ない)壁際に配置された大手サークルや、(ホールの外にまで思う存分大蛇の列を伸ばせる)通用口前に配置された超大手サークルの周辺は別世界の趣となる。これらのサークルは主に商業媒体でも活躍するプロまたはセミプロの人気作家(特に18禁系作家)が主宰しており、限定された部数の新刊同人誌を求めて、理性が限定解除されたその作家のファンたちが全国から集まり、行列を成すのである。
 壁際サークル付近には、世界史の資料集に載っているような“世界恐慌時のアメリカで炊き出しの配給を待っている行列”がサークルの数だけ発生し、そして通用門に配置されたサークル付近は、先刻西ホール側から俯瞰した大蛇の列がウネウネと複数伸びている。なるほど、ヤマタノオロチとはこういう化物だったのだな、などと素直に思えてしまうから恐ろしい。

 既に時刻は11時を過ぎ、ホール横の空きスペースでは今まだ残る行列を尻目に、一足早く“戦利品”の閲覧会および交換会も行われている。『かってに改蔵』風に言えば、ダメ・プレゼンテーションといったところか。この時期にしては比較的暖かい気候のせいか、一仕事終えた参加者の表情も穏やかだ。
 しかしその脇で勢いを衰えさせる事無く体長を伸ばし続けるヤマタノオロチ周辺は、未だに悲壮感をも伴う壮絶な場となっていた。
 「あ、○○です。今、東に来てますが、赤松健さん(の新刊本)終了です!」
 「──え、介錯(注:作家さんの名前)も終了!?」
 「ゴメン△△だけど、ちょっとこっち限定3部になっちゃって、俺だけじゃみんなの分買えないんだわ。何人か手の空いた人、こっち回してくれる?」
 「えーと、今。並んでるけど、時間かかりそう。んー、そうだねー……多分この列だと…軽く小一時間かな。でも買えるかどうか分かんないなー、1限入っちゃったし。ウン、だから今から並びに来ても無理!」
 ……などと、携帯電話で仲間と連絡を取り合う人たちの声がお台場の抜けるような青空に響き渡っていた。内容を吟味すると全てが台無しだが、それさえ気にしなければ、何だか敏腕ビジネスマンが会社相手に丁丁発止の遣り取りをしているように見えて、無駄に頼もしい
1〜2年前には、「行列は会議室で起こってるんじゃない! ビッグサイトで起こってるんだ!」…とか言ってウケを獲った人相当数いたはず
である。

 ……とまぁ、そういうわけであるからして、普通ならこんな状況下で行列の最後尾にへばり付く、などと言うのは愚行としか言いようがない。今時になってヤフーBBに入るようなもんである。
 が、だ。今回は積極的に金を遣おうという、マネーロンダリング大作戦。こういう時でもなければ、こんな馬鹿は出来ないというシチュエーションである。それに、熱心な受講生さんならお分かりだろうが、駒木は「何事も経験」という言葉に弱い。そんな経験何の役に立つのか、さすがにこれは高校の授業でもネタに出来んだろう…と言われても、「〜〜が出来る」という条件が揃ってしまえば、もう止まらないのである。だからこそ、わざわざ目的を作って半年で5回も東京旅行へ出掛けたりしているわけだ。
 そういうわけで、駒木も遅れ馳せながら、あらかじめマークしておいた(してるのかよ)ヤマタノオロチの首の1つに並ぶ。もう2年も前の事になるが、こういう講義をやった関係上、微妙にその手のサークルの知識は持っていたりするのだ。まさに何事も経験だ。

 紙袋から『吼えろペン』9巻を取り出し、読みながら列が進むのを待つ。まさか気まぐれで買った単行本が早速役に立つとは思わなかった。
 10分、20分、30分……。とにかく待つ。『吼えろペン』は既に3回目の通読になっているが、待つ。途中でどんどん限定数が減っていって、売り切れとなる本も出て来るが待った。で、1時間ほど待った結果、手に入れたのは薄い同人誌が2冊。しかも後続のプレッシャーに圧されて、「えーと、これとこれ」みたいな感じで掴んだモノである。中身なんて確認してない。
 しかし面白いもので、人間、余りにも長時間並んで、待っていたりすると、そうやってモノを手に入れるという事自体に大きなカタルシスを感じてしまうものらしい。列を離脱してみると、訳も無く何となく清々しいのである(笑)。そういや、先刻のTYPE-MOONの時もそんな感じだった。
 そう、もはや同人誌の中身とか、下手をすると誰がどんなマンガを描いたのかすら問題ではなく、「行列に並んで、1時間以上も待って、やっと同人誌を手に入れる」事そのものが目的になってしまうのだ。ランナーズ・ハイならぬウェイティング・ハイとでも言うべきか。なるほど、どう考えても割高な同人誌に大勢の人が群がるのはこういう理由だったのか。やっぱり何事も経験だ。実際に並んでみなければ一生理解出来なかっただろう。いや、別に一生理解しなくても何ら人生に支障は無いのだが。

 ──と、いうわけで貴重な経験をした駒木、今度は東ホール内の中小サークルを巡回してみる事にする。特に目当ては無いが、掘り出し物を探してみようというわけだ。普段、メジャー少年誌に掲載されたプロの作品にあれこれ注文をつけるくらい目が肥えてしまっている駒木だが、それでも収穫皆無という事は無かろうと考えたのである。
 ……が、いくら広いホールをグルグル回ってみても、なかなか「これは!」と思うようなモノがなかなか見当たらない。この日は元々、駒木の中では“範疇外”のやおい系同人誌が多いという事もあるのだが、何だか知らないが「何か違う」のである。
 そして、ホールを3/4周してハタと気が付いた。

 自分は“こっち側”じゃなくて“あっち側”の人間ではないのか、つまり、同人誌を買うよりも売りたいんじゃないか…と。

 そうなのだ。そもそも9歳の頃から小説家を志し、それ以来、純粋に娯楽として小説やマンガを読む愉しみを放棄してしまった人間が、しかも今や1日あたり3000人以上を相手にしたウェブサイトを運営している人間が、こういう場で単なる一消費者を演じられるはずなどあるはずがなかったのである。
 うーむ、何だか知らないが自分はパンドラの箱を開けてしまった気がする(笑)。というか、勢い余って次回夏コミの申し込み用紙を購入しようとしている自分がいるのだが(笑)。(注:結局、春からの身分が流動的過ぎるので、夏の参加は思い止まりました。いくらクソ忙しい学校現場でも年末は必ず休めるので、今年の冬コミあたりから始動しようと本気で構想中です。←実はコレを告知するために、このレポートを企画したのです^^;;
 ……結局、頭の中のヘンなチャクラが開いただけで、掘り出し物探しはほぼ不発「『北斗の拳』受験問題集」という、マンガでもない恐ろしく実用価値の無い教材を、余りのバカバカしさで衝動買いしたのみに終わり、東ホールから退場した。

 それから駒木は、再びクソ長い通路を渡って西ホールへ。目当ては創作小説サークル。そう、まさに駒木の“同好の士”が集う所であり、サークル参加の場合は一応候補に挙がるであろうエリアだ。どういう状況であるかチェックしておいて損はあるまい。勿論、食指の動いた同人誌は確保するのは言うまでも無い。

 ──だが、しかし。

 意気揚揚と西1・2ホールへ足を踏み入れた駒木であったが、その周辺だけ余りにも雰囲気が違うのに面食らい、たちまち意気を削がれてしまった。エリア全体から強烈なATフィールドが張り出していて、何だか気軽に入っていけない雰囲気なのである。
 いや、別にサークルの売り子さんたちが仏頂面であるとか無愛想であるとかいうわけではない。むしろ逆である。だが、その溢れ出た過剰な意欲がATフィールドとなって、来る者に圧迫感を与えるのだ。
 また、パッと見ではどういう内容の小説か判らないのも痛い。中には作品紹介を掲示しているサークルもあるにはあるが、それにしても「普通の高校生の日常を描いた心温まるお話です」みたいな要領を得ないモノが多くて購買意欲が萎える。中身はどうか判らないが、「普通の高校生の日常」と聞いて「面白そう、読んでみよう」などと思う人間がどれほどいるというのか。勘弁してくれ。
 ……なるほど、こういうイベントで小説本が売れない理由が判った。『月姫』のシナリオライター・奈須きのこさんの大傑作小説・『空の境界』(新書タイプの同人誌として頒布され、数千部完売の伝説樹立。挙句、講談社ノベルズとして出版決定)ですら、無名時代に夏コミでコピー本として頒布した時は5〜10部程度しか売れなかったのも肯ける。あの作品も粗筋とか掲示のしようがないものなぁ。
 そういうわけだから、とうとう1冊の同人誌も買う事なく西ホールを離脱する事となった。結局手に入れたのは、「サークル参加する時には、創作小説だけはNG」という教訓だけ。まぁそれでも貴重な収穫というべきか。

 ふと気付いてみると時刻は午後2時を回っていた。既に会場を後にする人の流れも出来つつあるし、駒木もとりあえずこの日はこれで打ち止めとする事にした。何しろこの後も予定が詰まっているのだ。ここだけでエネルギーを消費し尽くすわけにはいかない。
 というわけで、またしてもクソ長い通路を歩き倒し、ビッグサイト出口付近で荷物整理をし(あの手の紙袋を裸で外部に持ち出すほど駒木は人間出来上がってない)、りんかい線の国際展示場駅へと歩を進めた。通り道では何故か鳥肌実のイベント告知のチラシが配られていた。何だか判らんが、さすがだと思った。 


 ……というわけで、ようやくコミケ2日目終了です。ただ、旅行の全行程からすればまだ1/3程度なんですよね(笑)。長期連載の予感がして来ましたが、とりあえず今日はこれまでです。次回もどうか何卒。(次回へ続く

 


 

2003年度第104回講義
1月22日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第4週分・合同)

 今週あたりはスケジュール的にも余裕があるし、久し振りに前・後半分割でお届けしようかな……と考えたんですが、ちょっと「サンデー」だけでは講義が成立しそうになかったので、合同版とさせて頂きます。早いところ、旅行記とか別企画とかも進行させなくちゃいけませんしね。

 ところで、先の旅行の移動中には宮部みゆきさん『クロスファイア』を読んでたりしてたのですが、基本的な設定『デスノート』『十五郎』の1話目をミックスしたようなミもフタも無いモノながら、強引に力技で読ませる辺りはさすがだなぁ…と思ったりしました。
 ただ、そんな宮部みゆきのテクニックをもってしても、秘密結社的な組織や念力発火能力などといった奇抜な設定を日常の中に埋め込んだ際には“取って付けた感”が拭い切れなかった感が否めないんですよね。現代の必殺仕事人モノとか非SFの超能力モノってのは根本的に難しい題材なんだなぁと改めて実感してしまったり。

 ──さて、無駄話はこれくらいにして、ゼミを始めましょう。まずは情報系の話題から。
 最初の情報は今年度の「小学館漫画賞」について。まだ関連各誌では発表になっていないのですが、今年はドラマでも話題になった『Dr.コトー診療所』が一般部門の受賞作になった事もあり、マンガ業界の枠を越えて一般のエンターテインメント系ニュースとして、各媒体で報道されています。
 少年部門以外は当ゼミとの関連性が薄いですが、一応全部門の受賞作を発表しておきましょう。

第49回小学館漫画賞・受賞作

 ◎児童向け部門
 『ミルモでポン!』(作画:篠塚ひろむ/月刊ちゃお連載)
 ◎少年向け部門
 『鋼の錬金術師』(作画:荒川弘/月刊少年ガンガン連載)
 『焼きたて!! ジャぱん』(作画:橋口たかし/週刊少年サンデー連載)
 ◎少女向け部門
 『ラブ★コン』(作画:中原アヤ/別冊マーガレット連載)
 ◎一般向け部門
 『Dr.コトー診療所』(作画:山田貴敏/週刊ヤングサンデー連載)

 一般社会的にはどうか知りませんが、マンガ業界的には『Dr.コトー診療所』より、少年向け部門の『鋼の錬金術師』でしょうね。他出版社からの作品の受賞自体は、よく「ジャンプ」系作品が受賞しているように、それほど珍しい事ではないのですが、いわゆる四大メジャー誌(というか、実質「サンデー」と「ジャンプ」)以外からの受賞となると、極めて異例ということになります。
 一応、自社作品のメンツを保つ形で『ジャぱん』も選ばれていますが、過去の受賞作と比較すると、(読み手によって評価が異なる)クオリティはともかくとしても、知名度・商業的実績などの客観的要素においては最低ラインギリギリといったところでしょう。同時期に「サンデー」で連載が始まった作品群『ケンイチ』、『KATSU!』、『うえき』と比較すれば止むを得ず、という感じでもありますが、正直なところ『かってに改蔵』用のネタを提供しただけに終わったような……(笑)。

 しかしこういう場合、これまでなら集英社(=小学館の旧子会社)の大ヒット作を引っ張り出して来て賞のグレードを維持してきたのですが、この度は肝心の「ジャンプ」も“受賞適齢期(連載2年程度)”の作品が極めて手薄で、それも果たせなかったようです。まぁ『ジャぱん』で受賞出来るなら『BLEACH』にも受賞資格はあるとも思えるんですが、過去の受賞作を見ると、「ジャンプ」作品は相当の大ヒット作でないと(少なくとも少年向け部門は)受賞出来ないという暗黙の了解があるみたいですから、今回は見送りとなったようですね。
 それにしても「ジャンプ」や「サンデー」の深刻な新作不況がこんな所にも影響するとは。でもまぁ、これで受賞作が幅広い範囲から選ばれるようになるのなら、良い前例が出来たとも言えると思いますけどね。全盛期の『ONE PIECE』をわざわざ候補に挙げておいて落選させたり、大半の審査員の反対を押し切ってまで自社作品受賞に固執するどっかの出版社の漫画賞よりは、随分と健全な姿である事は間違いないですし。

 ……次に、今週は「ジャンプ」系の月例新人賞・「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の11月期分審査結果発表がありましたので、こちらでも受賞者等を紹介しておきましょう。

第8回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年11月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作&十二傑賞=1編
 ・『福輪術』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  村瀬克俊(24歳・神奈川)
 
《鈴木信也氏講評:キャラクターの描き分けがよく出来ていて、作者のメッセージがはっきり伝わって来る。解説をなるべく抑え、絵やストーリーで分からせる工夫が加われば更に良くなる。》
 
《編集部講評:話が綺麗にまとまっている上、キャラクターの感情が丁寧に描けている。少年がワクワクするような“華”をどれだけ持たせられるかが今後の課題。)
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『ブレイバー』
   松永俊輔(23歳・福岡)
  ・『シューシップ』
   木村泰幸(25歳・神奈川)
  ・『奇剣トン太』
   小林慎和(27歳・東京)
  ・『@infinity.com』
   波多野佑輔(23歳・東京)
  ・『グーとおれ』
   小幡勇一(20歳・兵庫)
  ・『ジーン』
   堀井美奈子(21歳・東京)

 今回の受賞者&最終候補者の皆さんは、全員が過去の実績ナシという珍しいケースでした。その割には全員が20代の応募者で、フレッシュさを求めているのか即戦力を求めているのか、イマイチよく判らない話になってしまったんですけどね(笑)。

 
 ──では、今週のレビューとチェックポイントへと参りましょう。今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」の新連載1本のみです。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年8号☆

 ◎新連載『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦

 皆さんもご承知の通り、深刻な新人・新作不況が続く「週刊少年ジャンプ」。遂にここへ来て一度は封印されたはずの“最終兵器”が投入されました。業界内外に熱狂的なファンが数多く存在する事で知られる、ベテラン・荒木飛呂彦さんが満を持しての週刊本誌復帰です。

 荒木さんのデビューは1980年で20歳の時でした。第20回(80年下期)「手塚賞」において『武装ポーカー』で準入選を受賞しデビュー。その後、2度の増刊掲載や本誌での読み切り発表などを経て、83年に『魔少年ビーティー』で週刊連載デビューを果たします。この作品と、84〜85年にかけて連載された『バオー来訪者』は、それぞれ単行本1〜2冊分の短期連載に留まったものの、連載終了から20年経った今でも未だに根強いフリークが存在するカルトな作品として有名ですね。
 しかし、荒木飛呂彦の名が幅広く知られるところになったのは、やはり87年から連載が開始された『ジョジョの奇妙な冒険』によってでしょう。途中中断を挟んで描かれた第6部・『ストーンオーシャン』を含めると、この作品は連載期間16年・全750回余という、「週刊少年ジャンプ」でも『こち亀』に次ぐ歴代2位の長期連載作品としてその歴史に名を残しています。
 今回の新作・『スティール・ボール・ラン』は、荒木さん曰く「パラレルワールドの話で『ジョジョ』とは違う」とのこと。しかし、『ジョジョ』の中でもパラレルワールドに突入した…というストーリーになっているため、これは実質上の続編ではないか…という説も出ており、早くも話題沸騰といったところでしょうか。

 また、この連載は毎週31ページという、週刊連載としては異例の大ボリューム(通常は20ページ未満)とのことですが、ネット上の噂によると、定期的(月イチ?)に休載を挟んでスケジュール調整をするとも言われています。
 未確定情報をベースに推測をするのは危険ではありますが、このページ数はストーリー系読み切り作品の標準的な数字でありますし、今後の「ジャンプ」では、『スティール・ボール・ラン』休載時に新人・若手の読み切りを載せる…という編集方針になったのかも知れませんね。

 ──さて、それでは内容についての話をしてゆきますが、この作品は注目度の極めて高い作品でもありますので、無用の誤解を避けるためにも少々前置きをしておきます。
 駒木は約15年前からの「ジャンプ」読者でありますが、特別に『ジョジョ』や荒木作品のファンというわけではありません極めてニュートラルな立場で作品に接していましたし、今後も恐らくはそうなるでしょうですので、受講生さんの中にも数多くいらっしゃるであろう、『ジョジョ』や作家・荒木飛呂彦の熱心なファンの方々とは、作品に相対するスタンスが根本的に違うと思います。
 勿論、当ゼミでは、どんなに個人的に思い入れのある作家・作品を対象にしたレビューであっても、極力ニュートラルな立場から論評する方針を堅く守っております。駒木が再三再四、「作品の評価は好き嫌いで決めません」と申し上げている通りです。ですが、やはりその辺は未熟な駒木ですから、“敢えて立ったニュートラルなスタンス”“ごく自然に立ったニュートラルなスタンス”では、論じ方のニュアンスに微妙な差が現れて来る場合もあるかも知れません。(当然、そんな差など出さないように極力配慮はしているのですが……)
 ですから、熱心な『ジョジョ』ファン、荒木飛呂彦ファンの方から見れば、これから始まる駒木のレビューは大きく意に沿わないモノになっているかも知れません。「ファンの見方はそうじゃないんだよ」、または「作品に対する愛情が足りない」…などといった思いを抱かれる方もいらっしゃるでしょう。が、その際は込み上げて来る熱い思いを喉元でグッと堪えて頂いて、「そうか、ファンでもない人間から見ると、こういう風に見えるのだな」…などと、動物園で柵の中に居る動物を物珍しく眺めるように接して頂ければ幸いです。
 ……本来はこんなエクスキューズを入れる事自体が“逃げ”であり、やってはいけない事なのかも知れないですが、ファンの極めて多い作家さんの作品をレビューするに際して、無用な摩擦を避けるための配慮と言う事でご理解を賜りたく存じます。どうか何卒。

 では、まずはについての話から。……とはいえ、今年の末にはデビュー25年目を迎えようかというベテラン作家さんですから、基本的には何も口を挟めるわけもないんですが(笑)。冒頭から当たり前のように馬がバンバン描かれていますが、実は動いている馬の絵ってメチャクチャ難しいんですよね。さすがです。
 ただ、アクションシーンで過度にアップの構図が多用されていて、迫力は伝わるが何が起こっているのか読み取り辛い場面もいくつか見られたのは残念でした。この辺も「これが荒木流だ」と言われてしまえばそれまでなんですが、ここはデジタル的に若干の減点材料としたいと思います。

 次にストーリーと設定です。
 まず、過去作のパラレルワールドでのストーリーという事について。これは『ツバサ』作画:CLAMP)の例を見るまでも無く、下手をすると単なる自己満足に陥り失敗作になってしまうという危険な試みなのですが、少なくとも第1回を見た限りでは上手にバランスが取れていると思います。
 過去作の設定の流用を必要最小限──この作品世界が『ジョジョ』の世界のパラレルワールドであると読者に判らせる範囲──に留め、ストーリーの主な部分はパラレルワールド内のオリジナル設定を中心にして描かれています。第1回で登場したキャラクターの数もそれほど多くなく、これなら“一見さん”でも話についていけるのではないでしょうか。

 ところで、荒木さんの根本的なストーリーテリング技術は、実は本来あまりスマートなものではありません。相当な設定過多で、そのため必要以上にネームを多用してしまう傾向があります。時には過剰に説明的なセリフが延々と続くシーンもあったりもし、ある意味、橋田壽賀子ドラマのような不自然さが絶えずつきまとう作風でもあると思います。
 ただ、荒木作品の場合、まず設定そのものが非常に練られているという強みがあり、なおかつ天賦の才とも言える個性的かつ高度な演出力もあって、そんな雰囲気の不自然さも、読む人によっては“個性的で魅力的な作風”に変わってしまうんですね。つまり、荒木作品というのは読む人によって評価が大きく異なるモノなわけです。まさに評論家泣かせですね(苦笑)。

 で、今回の『スティール・ボール・ラン』の第1回を駒木がどう判断したか…という話になるわけですが、結論だけ先に言うと、「かなりよく出来ている」になります。
 やはり多少説明的なセリフの多さが気になるものの、膨大な設定を説明するのに“記者会見におけるキャラクター同士の質疑応答”という形式を採用する事で上手くまとめていますし、53ページの中に3つの小エピソードを盛り込むという密度の濃さも素晴らしいと思います。今後はどうか判りませんが、とりあえずは絶好のスタートを切ったと判断して良いのではないでしょうか。

 暫定評価はA−寄りAとします。この調子で行けば、今年の「ジャンプ」を代表する作品の1つになりそうですね。ただ、それがこの雑誌にとって本当に幸せな事かどうかは分かりませんが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週の巻末コメントでは、空知英秋さんが、デビュー作『だんでらいおん』を中学生に演劇化してもらったという事で喜びの声。確かに『だんでらいおん』はセリフが多い人情モノのドラマですから、演劇化するには絶好の作品かも知れませんね。しかし、デビュー1年にして、作家冥利に尽きるような体験ですよね。
 あと、和月伸宏さん「手の平からモッサリと毛の生えた夢」の分析を希望。でもまぁ夢判断って、その道のオーソリティであるフロイトにかかると、どんな夢でも大抵は「性的欲求不満」っていう結果になったりするんですけどね(笑)。

 ◎『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 突如始まったデービーバッグファイト編。尾田さんが昨年から事あるごとに予告していたメンバーの1名離脱は、どうやらこのエピソードで起こりそうですね。ノリそのものは何だか番外編っぽい感じですので、そんな予告でも無ければ、さして注目もされない“暇ネタ”扱いでスルーされてたでしょう。でもまぁ、そうなってたら、実際にメンバーが1人抜けた時のインパクトは、良い意味でも悪い意味でも絶大だったでしょうが……。
 ところで、実況役が上空からレースの模様を実況するというパターン、どこかで見た覚えがあるなぁと思っていたら、『Dr.スランプ』(作画:鳥山明)のペンギングランプリ編でした。あの時は、作者の鳥山明さん自身がスズメ型の小型飛行機に乗って実況(ついでに参加&優勝まで)していましたが、そう言えば今回の実況役もスズメに乗ってますよねぇ。

 ◎『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健【現時点での評価:B+/雑感】

 しかし、次々と心臓麻痺とかで死んでゆく凶悪犯の名前、どう考えてもあり得ない名前ばかりでチョイと興醒め。恐らくは、よくある名前を使うと、同姓同名の読者に悪いから…という事なんでしょうが、これならまだ伏字の方が現実味あるように思えません?
 あと、本筋の方も徐々におかしくなって来ているような気がするんですが……。今はまだ違和感程度なんですが、既定されたシナリオを進行させようとする余り、キャラクターたちの行動に不自然さが見え隠れするように思えるんですよね。こういうお話は、キャラクターたちが予定外の暴走をするのを敢えて許し、作家が泣きそうになりながらシナリオを急遽変更して辻褄を合わせてこそ盛り上がるはずなんですけれども……。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 今回は斗貴子さんの登場がわずか3コマなのですが、それでもテンションと話の密度を落とさずに乗り切ってしまうあたり、随分と世界観や設定が成熟して来たものだと思います。ただ、和月さんは『るろうに剣心』時代から、敵キャラの個性付けを異様な外見にする事だけに頼りすぎる悪癖があり、あんまり多用されると現代劇としては少し辛いかな、という気もします。
 あと、桜花&秋水姉弟の「望み」桜花のホムンクルス化あたりが有力でしょうか。ただ、この姉弟、ものすげえインモラルな薫りがするんですが、皆さんどうお感じになってます?

☆「週刊少年サンデー」2004年8号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「今までで一番ハマったTVゲーム」。
 やっぱり皆さん、ゲーム好きですなあ。もう少し「ゲームはあまりやりませんでした」みたいな回答があると思ったんですけどね。ただ、ムッツリスケベの河合克敏さん、スーパーリアル麻雀2はTVゲームじゃないでしょう(笑)。まぁ一応、TVゲーム化されてますが、脱衣麻雀はやはり、100円玉積み上げてヒリヒリした緊張感の中でやってこそ思い入れが生まれるものだと思いますし。ちなみに駒木はシリーズの中では3と5が特にお気に……いやいやいやいや(笑)。
 駒木は「ダービースタリオン」シリーズになりますかね。結構1つのゲームをとことんやりこむタイプなのですが、ダビスタはその桁が1つ違ったような気がします。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今週はダメコモンセンスですか。何だか先週のネタとかなりニュアンスが似ているような気がするんですが(笑)。
 しかし、確かに「自分の常識は他人の非常識」というのはありますよね。特に駒木みたいに、世の中のヘンな所、ヘンな所に首を突っ込んで、このように講座まで持っている人間にとっては切実な話ではあります。気をつけてはいるんですが、それでも知識のギャップというものは避けられないモノですからねえ。
 例えば、以下に挙げる各分野の“常識”はどうでしょう? これらは全て、“その道”の人たちにとっては、「人間は呼吸しないと窒息して死ぬ」くらいの常識なんですが、皆さんはついて来れますか?

 ※プロレスファンの“常識”
 ◎故・ジャイアント馬場が創立した全日本プロレス、現在の社長は武藤敬司。アントニオ猪木が創立した新日本プロレスの社長は藤波辰彌。
 ◎三冠ヘビー級選手権とは、インターナショナルヘビー級、PWF認定ヘビー級、UNヘビー級の各選手権ベルトを統一したものである。
 ◎現在、日本のプロレス団体の数は軽く40を超えており、正確な数はプロレス関係者でも把握できていない。
 ◎「パワーボム狙いをウラカン=ラナで切りかえし、そのまま丸め込んで3カウント」と聞けば、頭の中でその光景を容易に想像出来る。
 ◎2003年のプロレス界の最大の話題と言えば、やはりWJだ。

 ※麻雀好きの“常識”
 ◎メンタンピンをアガった時の点数は、子3900点、親5800点。
 ◎アリアリルールと聞いて、何がアリなのか判る。
 ◎方角は東西南北(とうざいなんぼく)よりも東南西北(トンナンシャーペー)と呼ぶ方がしっくり来る。
 ◎桜井章一はマギー司郎に似ている。しかし、実は似てない。

 ※競馬ファンの“常識”
 ◎上がり3ハロンとは、レースでの最後の600mの事である。
 ◎調教で15-15とは、200mを15秒のペースで走る軽めの調教の事を言う。
 ◎キーストンとかテンポイントとか聞くと、自然と目頭が熱くなる。
 ◎杉本清アナウンサーの実況名文句を3つは言える。
 ◎武幸四郎騎手の敗因は全て「合コンの行き過ぎ」に集約される。

 ──まぁこんなところでしょうか(笑)。まぁ“その道”じゃない人で、各分野3つ以上理解出来たら大したもんだと思いますが……。

 ◎『売ったれ ダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治【現時点での評価:B/連載総括】
 
 テコ入れを施すたびに迷走の度合いが深まる…という、悲惨な道筋を通ってしまったこの作品ですが、とうとう連載終了となってしまいました。最後は完膚なきまでの打ち切り最終回で、ハッピーエンドのシナリオにも関わらず、端々から悲壮感の漂う幕切れでしたね。
 この作品、連載当初は非常に順調だっただけに、本当に勿体無いという印象が強いです。今から考えれば、温泉旅館立て直し編から足場を踏み外していたんでしょうね。商売に関わるウンチクをストーリーに上手く絡めて行ってこその作品なんですが、回が進むに従ってウンチクの説得力が消え失せていくのが悲しかったですね。
 最終評価はB寄りB−としましょう。連載当初はA−つけてたんですが、ここまで評価を下げなきゃならない作品というのも珍しいですね。

 ……と、いったところで今週のゼミはここまで。来週もレビュー対象作が少ないですし、合同版になるかな…といったところです。

 


 

番外編
1月20日(火) 人文地理
「続々・駒木博士の東京旅行記」(2)

 ◎前回までのレジュメはこちらから→第1回

 さて、今日は昨年末に敢行した超ハードスケジュール東京旅行のレポート第2回をお送りします。誤解の無いように繰り返しておきますが、年末の東京旅行記です(笑)。今月15日から行って来たヤツ(落語&競艇&ボクシングが目的の旅行)とは違いますので、どうかお間違いなく。

 ところで駒木は、昨年夏から数えて、この半年ばかりの内に5回ほど東京旅行を敢行しているわけですが、時々受講生さんから「そんなに頻繁に旅行なんかして、お金は大丈夫ですか?」とか訊かれたりします。
 しかしながら駒木の場合、往復ともに青春18きっぷを使った場合なら、宿泊費や食事代などを合わせても、3日間の行程でも楽々3万円を切ります。新幹線の往復運賃相当額で全ての費用が賄える計算ですね。
 これは駒木の旅行の場合、交通費は然る事ながら、1泊5000円台のビジネスホテルを利用し、食事もファストフードやラーメン屋などで簡単に済ませてしまうから安上がりなんですよね。本当なら東京在住の知人を招集して呑み会とかやっても良いんですが、駒木の旅行は余りの過密スケジュールなので、夕食が平気で22時とか23時とかになったりするんですよね。そうなると、ちょっと小洒落た店などは店仕舞いを始めてしまいますし、いきおい、宿の近くのラーメン屋とか牛丼屋とかで済ませる羽目になってしまうんです。
 ちなみに、このレポートでお送りしている年末の旅行では、3日目の夕食が(色々な意味で)強烈でした。どう強烈だったのかは、またいずれ紹介すると言う事で(笑)。

 ……では、今回は旅行2日目の午前10時場所は東京ビッグサイト(コミケ会場)西4ホール付近、企業ブース待ち行列の中からリスタートです。今日も最後までどうか何卒。

 例によって、レポート内では文体を常体に変更致します。


 ◎2日目(12月29日)その2

 行列全体の歩みに従って進んでいくと、早くもホール入口手前にて「○○(←ブース名)最後尾こちらです」のプラカードを持ったスタッフ(または客)が出現。こういう光景を見ると、「あぁ、コミケに来たんだな」という独特の感慨が沸く。
 しかし、わざわざ場所確保してスタッフにプラカード持たせておいて行列がチョボチョボ…なんて所もあって、朝っぱらから哀愁を誘う。同人サークルブースじゃなくて企業ブースだけに余計である。

 そんな中、駒木が目指したのは、新進ソフトメーカー・TYPE−MOON(タイプムーン)のブース。スタッフ4名の無名同人サークルを出発点に、数年後には企業ブース進出を果たしてしまったという、矢沢栄吉真っ青の成り上がり伝説を残したメーカーである。
 そのTYPE−MOONが“成り上がり”を果たしたきっかけは、同人サークル時代にリリースされたビジュアルノベルゲーム・『月姫』。これが駒木のチンケな表現力では到底説明できないほどの超名作で、リリース直後からほぼ口コミだけを媒体に評判が広がってゆき、末にはBSデジタルながらテレビアニメ化までされてしまったという、これまた伝説のゲームソフトである。もっとも、そのアニメは原作の良い部分だけを徹底的にブチ壊した駄作だというのが専らの評判で、「優れた文字媒体作品の映像化は得てして失敗する」という世のセオリーを地で行ってしまったようであるが……。

 で、駒木もこの『月姫』には超ド級の感銘を受けたクチで、大袈裟じゃなく人生観を揺るがすくらいに影響を受けた人間だったりする。そういう意味では今の自分があるのはTYPE−MOONの皆さんのお蔭とも言えるわけで、今回の“マネーロンダリング計画”を実行するにあたっては、まずここを出発点にしなくてはならないだろう…というわけだ。鶴の恩返しならぬ駒の恩返しとでも言おうか。
 ……というわけで企業ブースのある西4ホールに辿り着いたの駒木だったのだが、不覚にも企業ブース内の地図を持参して来るのを忘れていたために、早くも迷う迷う。ようやくブースを発見した時には、既に長蛇の列が形成されており、スゴスゴと最後尾につくしかなかった。
 今回のコミケでTYPE−MOONはオリジナルグッズセットを販売していたのだが、“お1人様1セット限り”──いわゆる「1限」だったため、駒木が並び始めた時点では既に2巡目という人までいた。つまり駒木は“周回遅れ”である。せっかく3時間かけて並んだ意味をたった5〜10分で失ってしまったわけだ。F1なら、せっかく予選を上位でクリアしたのに、スタートグリッドでエンスト起こしてピットスタート…みたいなものか。嗚呼、情けない。
 行列が進むのを待ちながら、遠巻きに見える東ホール方面をぼんやりと眺めると、ホールの外壁に沿って半端じゃない大蛇の列が形成されているのが見えた。大手サークルの同人誌を求めて形成された行列である。お前らこれからスタジアムの中に入っていって偉大なる将軍様を称えるマスゲームでもやんのか…と言いたくなる位の人の群れ。改めて恐ろしい所にやって来たもんだと実感する。
 それでも、こちらの行列はまだアオダイショウの列程度か。勿論、アオダイショウと言っても田中邦衛(=青大将)の事ではない。東京ビッグサイトに田中邦衛ばかり数百人の列とか、考えるだけで恐ろしい。数百人が一斉に、ボストンバッグからカボチャを取り出して、息子が妊娠させた娘の父親に土下座。数百人が一斉に調子外れの『西新宿の親父の唄』熱唱。やるなら今しかねえ、じゃなくて、頼むからやらないでくれとか言われるだろう。というか、田中邦衛が数百人って、並んでる全員が変化の杖持参なのだろうか。

 ──話が逸れた。まぁ、その程度の行列で待機すること数十分、ようやく順番が回って来て無事に商品ゲット。卓上カレンダーやテレホンカード等が入った小さな包みと、コミケ定番・イベント開催中の東京ビッグサイト内でしか使えそうに無い全面イラスト紙袋を受け取って、晴れて行列から離脱する。
 残念ながら、ブース内には製作スタッフらしき人たちは居なかった。しかし、年明けて04年1月30日に発売される新作へ向けて最後の追い込み中なのだから、当たり前と言えば当たり前か。締め切り抱えた萩原一至とか冨樫義博がコミケ会場にいるようなもんだもんな…と思いかけて、その喩えが実に適切でない事に気が付いた。まぁ冬コミの時期は、年中師走のマンガ家さんたちも地獄の年末進行明けで、短い冬休み中だったりするんだけれども。
 ブースの空きスペースには、デッカいテレビが置いてあり、そこでその新作・『Fate/stay night』のデモムービーを公開していた。ちなみに、駒木はこのゲームの体験版を入手してプレイしてみたのだが、これがまた腰が抜けるほどの凄ぇ出来だった。本編も間違いなく傑作だと確信して、思わず予約まで入れてしまったほどだ。パソコンゲーム業界の需給事情により18禁のいわゆるエロゲーという事になっているが、要はラブシーン付きのサウンドノベルである。受講生の皆さんも、発売日当日にはこんなポンコツ講座など受講してないで、実際にプレイしてみる事をお薦めしておくどうせ発売日から数日は休講になるんだから、思う存分サボってくれればヨロシ(笑)。
 あと蛇足な余談だが、TYPE−MOONの販売物は、この2日目に完売してしまったらしい。さすがは同人サークル時代から需要の読み違えでは定評のあるメーカーである。まぁ、ここを最初の“巡礼先”に選んだのはそういう理由もあったのだが。

 さて、これで早くも企業ブースに用が無くなったので、そそくさと西4ホールを横切って行った……のだが、途中で小学館のブースに突き当たり、急停車。12月発売の「サンデーGX」をまだ未読だったので、置いてあった見本誌で立ち読み。そして、直筆サイン本を販売しているというので、まだ未購入だった『吼えろペン』(作画:島本和彦)の9巻をゲット
 が、ブースを離れてそのサインを見てみたら、いかにも「あー、このマジック、インクが切れてきたなぁ。でも、時間も無いしここは勢いで誤魔化しちゃえ!」…というような、かすれ気味の“ハズレ”サインで思い切り脱力する。しかし、ここは懸命に「このサインはきっと、年末進行の真っ只中、立ち上げられたばかりの新連載と冬コミ3日目に頒布予定の同人誌の原稿に追われている最中に仮眠時間を削って書かれたモノだろうから、多くを望むのは贅沢だ!」……などと無理矢理自分に言い聞かせる。その推測が当たってるかどうかは知らない。多分知らないままの方が幸せだろうと思う(笑)。
 やはりマンガ家のサインは、ちゃんとしたサイン会に参加して貰うべきものなのだろうとしみじみ思った。前もって整理券を確保してサイン会に挑み、いざ自分の順番が回って来た時には、「よろしければ、“炎尾燃にちょっとカッコいいセリフを言われて頬を赤らめる萌”をお願いします!」…というように正々堂々と細かいリクエストをし、それに対して島本さんから「なんだ、注文が細かいなぁキミは!」…とかツッコミの1つでもカマされながら描いてもらってこそマンガ家のサインというものだ。畜生、バトルサイン会行きてぇなぁ。

 ──と、図らずも「マンガ家のサインとは何ぞや」というテーマについて哲学をする羽目になりつつ、今度こそ企業ブースを後にした。時刻は早くも11時を回ろうとしている。さぁ急ごう。東ホールでは、今まさにこの時にも何匹もの大蛇が物凄い勢いで同人誌を丸呑みしようとしているのだ。


 ……と、すいません。ヘンなところで勢いがつき過ぎて、全然話が進みませんでした(苦笑)。次回には、何とかビッグサイトを脱出したいと思いますので、どうか何卒。 (次回へ続く

 


 

2003年度第103回講義
1月14日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第3週分・合同)

 今週は「週刊少年ジャンプ」が合併号休みのため、前・後半合同版ながら「週刊少年サンデー」関連の内容のみのゼミとなります。明日の早朝からまた1泊3日(また車中泊です^^;;)で東京旅行へ出ますので、こちらとしては都合が良いスケジュールになったんですけどね(笑)。

 ところで、最近よく当ゼミのレビューに対するご批判を頂きます。ご批判そのものは以前からも度々頂いていたのですが、ここ10日余り、ご批判が新たなご批判を生む形で、“続々と”という感じで厳しいお声が寄せられる事になりました。
 勿論、こちらが至らない点があれば早急に反省、改善しなければならないと思っております。が、中には誤解や感情の行き違いから生じたご批判も多く、そういったものに関しては、こちらとしても根本的に解決しようにも出来ないわけで、困惑する事しきりであります。

 そして、そんなご批判の中では、

 1.客観的がウリと公言しているクセに随分と主観的なレビューではないか。
 2.自分の意見を断定口調で決め付けてばかりではないか。
 3.評価Cをつけた作品のレビューが感情的になり過ぎ、必要以上に貶すような論調になってはいないか。

 ……といったご意見が大多数を占めます。
 ただ、これら1〜3(特に1と3)のご意見につきましては、明らかに誤解に基づくものであり、こちらとしてもどうすれば皆様にご理解頂けるのか、途方に暮れているのが現状であります。

 まず、のご意見に関してですが、「客観的がウリ」も何も、駒木はこれまで自分のレビューを「客観的」だと公言した事はございません。全読者の最大公約数的意見から逸脱しないように、という自分への戒めの意味も込めて「少しでも客観的な内容に近づけるよう努力する」という趣旨の事を申し上げた時があったかと思いますが、それはあくまで理想であり、当ゼミのレビューには駒木ハヤト独特の価値観が色濃く現れているはずです。ましてや「俺の評論は客観的だ」などといった傲慢極まりない感情など心の片隅に抱いた事すらありません。
 そもそもマンガを評論する上での客観的基準など存在するはずもなく、そんな中で「自分の価値観が客観的だ」などと口走る事は愚の骨頂です。それくらいの分別は駒木にもあるつもりです。ですから今後は、「当講座のレビューは、専任講師・駒木ハヤトの価値観に基づく主観的なレビューである」と考えて頂いて結構です。
 ただ、かといって公の場で評論活動をする限り、主観的な独自の価値観のみを拠り所にするというのも問題であると駒木は考えます。そのため、駒木は評論の際、また7段階の評価を付ける際には主観的な価値観の中で最も独善的なもの、即ち「好き嫌い」や「面白い、面白くない」といった感情的な価値観を極力排するように心掛けています。そしてその事だけは、開講以来現在に至るまで徹底出来ていると自負しております。
 事実、これまでレビューした作品の評価と個人的な「面白い、面白くない」の順位はかなりの部分で異なっていますし、ましてや「好き、嫌い」の順位とは大幅に食い違っています。あくまでレビューにおける評価は、絵の表現力、シナリオ構成や設定の完成度・整合性、表現技巧の巧拙など、作品の「良い、悪い」を判断するファクターを基準に下していますので、くれぐれも誤解なさらぬようにお願いしたいと思います。

 次にについてですが、自分の思っている事と相反する内容を他人に断定口調で決め打ちされた時というのは、確かに人間、気分を害するものだと思います。ですから「表現にもっと留意せよ」というご要望には極力お応えしたいという思いもあります
 ただし、評論という媒体は、その論者の意見をある程度断定的に主張してこそ初めて成り立つようなものでもあると、駒木は考えています。ですから、「これが駒木ハヤトの考えです!」…と自信を持ってお話できる内容については、今後も断定口調で述べさせて頂く事になると思います。
 また、当ゼミのレビューは、先に述べたように駒木ハヤト個人の価値観に基づく主観的な評論であって、それ以上のものではありません。あくまで世の中にある多数の評論のワン・オブ・ゼムであって、たとえ断定口調だからと言って、駒木の意見を受講生の皆さんに押し付けるようなものではないのです。(勿論、『もっともだ』と言って頂けるのが一番ではありますが……)
 ですから、駒木の断定口調の意見と皆様のご意見が食い違ったとしても、「駒木はそう思ったらしいが、自分は違う」と思って頂ければそれで良いのです。そして、「自分の意見の方が妥当である」とお考えになれば、駒木と同様にご自分のウェブサイトを立ち上げて意見を公にし、巷間の声を問えば良いだけの話なのです。

 最後にですが、これは100%誤解でありまして、こちらとしても「ご理解下さい」としか言いようがありません。
 恐らく、この種のご意見を寄せられた方は、
 「この作品を読んで嫌いになったから、これだけクソミソに言うんだろう」
 ……と思われているのでしょう。しかし、違うんです評価Cを付けざるを得ない作品と言うのは、それこそ(駒木の価値観で言えば)褒めることの出来る要素が皆無に近く、逆に酷評しなければならない要素は枚挙に暇が無い……というような作品です。つまり、駒木の感情とは全く関係なく、「生まれながらにして駒木にクソミソに貶される運命にある作品」なのです。
 また、皆さんは講義の模様を文字に起こした形で受講されているわけですが、喋り言葉を文字に起こした場合、本来の微妙なニュアンスが伝わらないケースがまま見受けられます。そして当ゼミの場合は、評価C作品のレビューの際に、そういう誤解を招くケースが多くなってしまうようです。ただ、奇妙な話で、そういった時はお叱りが増える反面、褒めて頂けるケースも多いのですが……。
 ですので、今後は評価C作品のレビューにつきましては、正規のレビューとは別枠扱いにしたいと思っています。具体的には、評価C作品については最初に「評価Cである」とお伝えした上で、レビューそのものはハイパーリンクを張った別ページで行う…という手段を現在検討中です。

 ──以上、ご理解頂けましたでしょうか? 勿論、受講生の皆さんのお声はこれからも謹んで拝聴したいと考えておりますので、談話室(BBS)並びにメールにて忌憚の無いご意見をお寄せ下さいますよう、お願い申し上げます。
 最後にダメ押しで言っておきますが、当講座のレビューは、あくまで主観的なレビューで。どうぞ宜しく。

 では、気を取り直して講義の本編へ参りましょう。
 ただ、今週は情報系の話題がありませんので、早速レビューとチェックポイントへ。レビュー対象作は新連載1本のみということになります。

☆「週刊少年サンデー」2004年7号☆

 ◎新連載『暗号名はBF』作画:田中保佐奈

 飛び石連休ならぬ、飛び石新連載シリーズが進行中の「週刊少年サンデー」、今週が4作品中の第2弾ということになりますね。
 今週登場の田中保佐奈さんは、これが初の週刊長期連載となりますが、実はキャリア10年目という、生え抜きの「サンデー」系若手では恐らく最古参にあたる方です。
 田中さんは「サンデーまんがカレッジ」で佳作を受賞後、94年下期の「小学館コミック大賞・少年部門」で入選し、それが契機でデビューを果たします
 その後は98〜99年と02年の2回、増刊号での短期連載を経験し、たびたび週刊本誌でも読み切りを発表しています。また、椎名高志さんのスタジオでチーフ格のアシスタントを務めていた事でも知られていますね。
 今回は03年30号に発表した同タイトルの作品が“昇格”した形での連載獲得。10年目で掴んだ大チャンスを果たして活かせるかどうか、注目の新連載となりました。

 まずですが、これは以前読み切りのレビューでもお話したように、基本的には見栄えのする綺麗な絵柄であると思います。ディフォルメなどの表現についても問題ないですし、十分に水準はクリアしているのではないでしょうか。
 ただ、今回登場したキャラクターの内、同じ系統の輪郭で同じようなパーツ配置の顔が多すぎて、多少メリハリに欠ける印象がありました。似ているようで似ていないようで、でも良く見たらやっぱり似ている顔ばかり…というのは、少々違和感を感じますね。
 まぁこれを評価の減点対象にするのはどうかとも思えますし、根本的に描き分けする実力が無いわけでも無さそうですので、今回に限っては、あくまでも“問題点の指摘”という事にしておきましょう。

 次にシナリオと設定について。読み切り版の時にはシナリオの整合性で大きな欠陥があったため、「このままで連載にゴーサインを出すのはどうか」と思ったのですが、少なくとも今回の内容に関しては、明らかな矛盾点はありませんでした。必要最小限の設定説明をこなしつつ、“主人公のデモンストレーション用”としてはかなりボリュームのあるシナリオをまとめ上げたわけですから、むしろここは「良く出来ている」と評価するべきかも知れません。複雑な心理描写もかなりリアリティがありましたしね。
 問題点を挙げるとすれば、ページ数の関係上止むを得ないとは言え、若干ご都合主義(都合良く問題が解決し過ぎる)の傾向が見られたあたりでしょうか。ただ、これも全体の完成度からすれば許容範囲の小さな減点に留まるでしょう。

 むしろ、心配なのは今後です。主人公を「変身前は片想いに悩むタダの中学生、変身後はオトナの話術(笑)を最大の武器にした万能型ヒーロー」という、かなり裏技的──本来は読み手の感情移入が難しい万能型主人公なのに、「重要じゃない場面ではタダの中学生」という二面性を持たせて読者の感情移入が促進可能にした──キャラに仕立て上げたのはグッジョブなのですが、この主人公にリアリティを持たせるのはかなり大変だと思います。何しろ、「どうして素(中学生)の時は、変身している時みたいにカッコ良く出来ないの? 同一人物でしょ?」…というツッコミが常時背中に突きつけられるわけですからね。
 ですから、変身中の時の言動には“お仕事感”、“やらされている感”を滲ませて、素の時こそが本当の主人公の姿だ…と読み手を印象付ける試みが絶えず必要になって来るでしょう。ただ、話が盛り上がれば盛り上がるほど主人公は常時変身しっ放しになる可能性が高いわけで、そうなると延々“お仕事をやらされてます”的な主人公が大暴れする…という、何とも微妙なお話になってしまいます。そういう事態も避けなければならないでしょう。
 よって、この辺の構造的な弱点を如何に克服するかが、イコールこの作品が成功するかどうかの重要なカギになって来るのではないかと思います。『名探偵コナン』のように、いつまでも辿り着かないゴールを目指して一話完結型の小エピソードを延々と積み上げていくのも一つの手でしょうが、『コナン』もかなり危ない綱渡りをやりつつ延命している作品だけに、安易に真似しようとすると奈落の底へフリーフォールしてしまいそうで怖いですね。

 さて、第1回時点での暫定評価ですが、いくつかの減点材料を抱えつつも、全体的な完成度はかなり高いと言う事で、A−を進呈したいと思います。ただし、先述の通り、今後の展開にはかなり弱含みな要素も抱えているため、後追いレビューやそれ以降でも減点せざるを得ない場面が出て来るかも知れません。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「闘ってみたい有名人」。
 なんちゅう質問じゃ、と思ったんですが、それは作家の皆さんも同様らしく、微妙な回答の連続で……。それにしても藤田和日郎さんと安西信行さんの回答一致、しかも「女子十二楽坊」は奇跡的な邂逅だと(笑)。
 駒木は……。闘おうにも自分がフィジカル面で弱すぎるんで……(苦笑)。ミルコ=クロコップあたりと闘わせたい人なら結構いるんですが。金正日とか、モデム配り先の電器量販店の店長とか(同列かよ)。

 
 ◎『犬夜叉』作画:高橋留美子【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回も物騒なカップルによる物騒なラブコメ模様個人的にバカ受けなんですが(笑)。青年誌でいいから、もっと描いてくれればいいのに。
 しかし、この辺の遣り取り、肝心のお子様はどれくらい理解できるのか、そっちの方もちょっと心配ですが。「結ばれました」って言っても、特にウブな男子小学生なんかは意味判らんでしょうし……。まぁでも、何となくヤバいんだ、くらいは判るように描いている辺りが大御所の表現力ですけれどもね。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 確かに「自分は普通だ」と思ってる事に限って、周りから見たら異常だったりしますからね。例えば、大分昔に鈴木みそさんが調査してたんですが、便所で大の方をした後の拭き方とか。アンケート取ったらかなりの種類に分かれるんですが、回答者は口を揃えて「でも、これって普通でしょ?」と言うんだとか(笑)。
 で、不思議王カードなんですが、「毎年1000億単位の赤字を垂れ流しながら、業績絶好調みたいに振舞える某企業の不思議」を追加して頂きたいと……。


 ◎『きみのカケラ』作画:高橋しん現時点での評価:B−/雑感】
 
 今週もやってくれますなあ……。何と言いますか、もうこれはある種の悪意をもってやっているとしか思えない、ロリエロのメタファー連発。擬似フェ○まで繰り出した手段の選ばなさぶりには、口アングリでございますよ。
 また、それらのシーンの大半は、ストーリー展開における必然性が全く有りませんからねぇ。イコロなんか普通に服着せりゃ良いのに。
 日本の少年マンガは外国でも単行本化されて広く発売されてたりするんですが(作者にも海外分の印税が発生したりします)この作品だけは無理でしょうねえ、きっと。規制の厳しい国とかなら持ってるだけで捕まりそうです。


 ……というわけで、今週はこれまで。しかし、たかが一個人のマンガ評論のスタンスでこれほど揉めるのはウチくらいでしょうね(笑)。そういう意味においてはむしろ名誉かな……なんて思ったりしながら、また来週。

 


 

2003年度第102回講義
1月9日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第2週分・合同)

 中1日開けて、今度は今週発売の「ジャンプ」、「サンデー」についてのゼミを行います。
 一昨日付の講義で10数本のレビューをやった直後でまだ頭の疲れが溜まってるんですが、今日もレビュー対象作が3本。しかも『十五郎』の後追いレビューという“難関”まで控えていて、ちょっとビビり気味です。読むだけでも疲れるのに、内容について細かく分析するのにどれだけ骨が折れるやら……。

 ……とはいえ、3000人以上の受講生さんを前に逃げるわけにも行きませんので、頑張らせて頂きます。
 そういうわけで、まずは今週も情報系の話題から。今週は「ジャンプ」、「サンデー」両誌から新連載の話題が入って来ています。

 まずは「ジャンプ」ではビッグネームの再登板。『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズでお馴染みの、荒木飛呂彦さんが遂に復帰です。そのタイトルは『ストーンオーシャン』最終回掲載号の巻末コメントで予告されていた通り、『スティール・ボール・ラン』
 巷ではこれが『ジョジョ』シリーズなのか、それとも全く別物なのかで意見が分かれているようですが、まぁ結論は急がないでおきましょう。最終回間際になって「実は世界がリンクしてました」という、永井豪・『デビルマン』方式という可能性もあるわけですしね。

 次に「サンデー」から。これは一度“今期の新連載一覧”のような形で紹介したはずなのですが、改めてという事で。
 次号から開始されるのは、『暗号名はBF』(作画:田中保左奈)。昨年掲載された読み切りからの“昇格”です。田中さんは「サンデー」系の若手作家さんの中では古株で、なんと今年でキャリア10年目。「ようやく」の連載獲得となりました。
 ただ、昨年の30号に掲載された読み切り版では、長期連載に踏み切るには躊躇われる“キズ”が目立ったように思えただけに、どこまで軌道修正が出来ているかがポイントとなりそうです。

 ……それでは今週分のレビューをお送りしましょう。今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」から第3回後追いレビュー1本と読み切り1本、そして「サンデー」からは第3回後追いレビュー1本計3本です。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年6・7合併号☆

 ◎新連載第3回『LIVE』作画:梅澤春人【現時点での評価:B+

 昨年末の新連載シリーズについてのレビューもこれにてラスト。シリーズ第3弾・『LIVE』の第3回後追いレビューです。
 しかし、今回は新連載第3回ということで、定番のセンターカラーなんですが、今号は『BLEACH』の巻頭カラー+51ページがあったり、他に2つもセンターカラーがあったりで、せっかくのカラーページが目立たないんですよね。打ち切りの是非を検討する回でのコレは、ちょっと可哀想な気が。いや、ベテラン作家さんを捕まえて外野が「可哀想」もクソもないんですが。

 で、内容についてですが、レビューすべきポイントについての印象は、第1回の時とほとんど変わっていませんね。話が急展開してゆくようなタイプの作品ではありませんし、ベテラン作家さんですから絵柄も2週間で変わりようがありませんから、当たり前と言えば当たり前なんですが。
 ただ、作品全体を通じてのテーマがまだ未確定(というか、敢えて設定していない?)のままで第1回から第3回まで同じようなエピソードを続いているために、早くも悪性のマンネリ感が漂い始めています。作者の梅澤さんにしてみれば毎回頭をヒネって新しいエピソードを考えているわけで、「マンネリとか言われても困る」といったところでしょうが、いかんせん、どの話も概括すれば「いつもの梅澤春人の話」というところに留まっているんですよね。
 また、これはたとえ、今回が梅澤作品を読むのは初めてという人を対象にしても、与える印象は大差無いのではないでしょうか。梅澤春人作品のパターンは知らなくとも、「何となく同じような話が3連発で続いてるなぁ」という部分は何となくでも感じ取れるはずですので……。

 この辺りは、第1回のレビューで申し上げた“縮小再生産”の反作用が早くも出ているのではないかと思います。この作品は既に第1話、いやそれ以前の段階で梅澤さんの頭の中で完成されてしまっていて、第1話時点ではもうピークを過ぎつつあるんですね。なので、2話以降で大幅な進展をしようと思っても構造上不可能なわけです。
 これからカンフル剤のように新キャラや新事件を起こして、そのピークをなるべく長く持続させる事は可能でしょうが、今の“縮小再生産”方式を改めない限り──つまり、これまでとは全く違う梅澤春人作品にしない限り、この作品の今後はそう長くないのかな、という気がしています。

 ただ、総合的な評価は作品そのものをデジタルに評価しなくちゃいけませんので、大幅な減点も出来ません。マンガとして求められる最低水準は軽くクリアしているわけですからね。
 ですので、第1回から若干評価を落としてB+寄りB。これくらいが妥当なラインではないかと思います。

 
 ◎読み切り『World 4u_』作画:江尻立真

 今週の読み切り枠には、これが週刊本誌2度目の登場となる江尻立真さが登場です。
 江尻さんは金沢大学の漫研出身で、在学中にはマンガだけでなくアニメ制作にも関わったという本格派。その最中、99年冬号、夏号では「赤マルジャンプ」に作品を発表し、プロマンガ家デビューを果たしています。
 週刊本誌には03年25号に今回の同題名の作品を発表済み。アンケートが好評だったのか、それとも微妙な数字だったのかは判りませんが、この度、改めての読み切り掲載という事になりました。

 まずについては、前回の時と同様、新人・若手の域を越えた素晴らしいデキになっていると思います。もう完全に絵柄が固定されているみたいですが、まぁこれだけ描ければ固まっても問題ないでしょう。
 ただ、これも前回掲載時に述べた事ですが、やはり線が細くてインパクトという上では物足りなさを感じてしまうような絵柄ではあると思います。一線級のプロとしてやっていくならば、絵柄に応じたジャンルのチョイスという作業も必要になってくるのではないでしょうか。

 ただし、高評価が出来る絵と違い、今回のストーリーは、プロット段階、つまり「どのような話にするか」という地点から、ベクトルを間違えてしまったような感が否めません
 今回のこの作品は、1つのエピソードの中で「怖い話」と「心温まる話」という相反する2種類の要素を合体し、「ちょっと不思議な話」として完成させようとした作者側の意図が見てとれます。救いようの無い話だと読者の支持が得られないという配慮が働いたのでしょうか。
 ただ、これはプラスの数とマイナスの数を足し算するようなもので、結局はどっちつかずに終わってしまうんですよね。怖い話を期待している人は拍子抜けで終わってしまうし、心温まる話を期待していた人は素直に心を温められないんです。ちょっと寂れた遊園地なんかに色々な意味で中途半端なアトラクションがありますが、ちょうどそのような話になってしまったんじゃないでしょうか。

 また、「怖い話」の要素の組み立て方にも若干の疑問が残ります。この手のホラーというのは、“因果応報で訪れる恐怖”または“全く無関係な所から理不尽に訪れる恐怖”というのが基本です。前者の代表例が幽霊話の復讐モノで、後者のそれが血飛沫バリバリのスプラッターですね。
 ですが、今回の2エピソードはこれも中途半端なんですよね。基本的なスタンスは因果応報モノなんですが、被害を受ける(霊に危害を加えられる)側が化けて出られて仕返しされる程の罪を背負っているわけではないので、どうもシックリ来ないのです。かと言って、「全く無関係で理不尽な恐怖」とするには因縁が付き過ぎていますし……。

 あと、これも前回にも指摘したんですが、答えの分かり難い考えオチは止めた方が良いですね。上手くまとめたように見えて、話の余韻が台無しになってしまいます。

 ……そういうわけで評価なのですが、今回は話の組み立て方を間違ってしまっていますから、前回から評価を落とします。絵の良さの分だけ少々加点してBということにしておきましょう。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週の巻末コメントは、ほとんど皆さん揃って新年のご挨拶。多分コメントを書いているのは年末進行最終段階(12/24前後)のはずなんですが、まるで年賀状みたいですね(笑)。
 ただ、冨樫義博さん、あなた「コレで1回分はネタ考えないで済む」という気持ちが表われ過ぎてます(笑)。

 しかし、今週号の表紙は各作品ごとの合作なんですが、そのカットの大きさが、なんかそのまま雑誌内の番付を現しているようで興味深いですね。
 『ONE PIECE』『テニスの王子様』『NARUTO』“3強”で、それに『BLEACH』が肉薄。その後を掲載順の割に単行本が売れず出世し損ねている『アイシールド21』と、“客員待遇”の『H×H』『こち亀』が続く…と。欄外ながらちょっと大きめに載っている『ボーボボ』もほぼ同ランクでしょうか。
 それにしても、あれほど商業的な貢献をした『遊☆戯☆王』がその他大勢扱いとは、やっぱり「ジャンプ」ってシビアですね。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/単行本1巻の話題&表現規制について】

 先日のゼミで、「『武装錬金』は編集サイドからの支持で残虐シーンの描写に表現規制を受けている。致し方ない部分もあるが、それでも如何な物か」…という旨の発言をしたところ、複数の受講生さんから談話室(BBS)で、「描いた後に修正されているわけではないので、作者本人の意思で表現を和らげたのではないか」というご指摘を頂きました。
 で、その時は、駒木の意見とご指摘のどちらが事実に近いのかを判断する材料がありませんでしたので、こちら側の軽率な発言を謝罪しつつ、結論は先送りにさせて頂きました。ところが、その直後に発売された単行本1巻の中で、作者の和月さんご本人がこの作品における表現規制についても述べておられました。いやー、グッドタイミングですね(笑)。

 その、和月さんが表現規制について述べられていたのは、余りページを利用したオマケコーナー・「ライナーノート」。簡単に言うと、1話毎の制作舞台裏が箇条書きスタイルで述べられたコーナーなのですが、その第7話部分に、この件に関する興味深い内容が記されておりました。
 この第7話・「キミは少し 強くなった」は、斗貴子さんが薔薇型ホムンクルスを相手に激痛に耐えながらバルキリー・スカートを発動し、「脳漿をブチ撒けろ!!」と、少年マンガのヒロイン史上指折りの物騒なセリフを言い放って秒殺圧勝を果たしたエピソードでした。そして、この戦闘シーンの際の描写が色々と問題になったとのことで、「ライナーノート」にその時の複雑な心境を吐露されています。

 では、ここでゼミ用の教材としまして、その第7話部分を全文引用させて頂きます。著作権との兼ね合いが微妙かも知れませんが、引用の必要性や、本文と引用文の主・従の関係性から考えるとセーフだと判断しました。勿論、然るべき所から抗議を受けた場合は速やかに削除しますので、ご了承下さい。

・規制の嵐に泣いたり笑ったりの回。
・蛙井(引用者注:カズキと戦った蛙型ホムンクルス)小ガエルバージョンは当初考えてなく頭部+脊髄を模したパーツというデザインでしたが、「生首を連想させる表現は、かなり黒に近いグレー」というコトで没。じゃあ、もうテキトーに小ガエルの体でもくっつけてやれと、いい加減に描いたら、むしろ奇妙な味わいが出て大満足。まさにケガの功名。
・花房(引用者注:斗貴子さんに脳漿をブチ撒かされた薔薇型ホムンクルス)は当初「美」にこだわるキャラとして設定。斗貴子の傷を醜いとののしる→それに対する斗貴子の返答という流れで、傷に少々触れる会話を描こうとしたところ、「顔の傷を醜いというのは、実際に事故や病気で顔を傷に負った人への配慮で黒」というコトで没。少々残念だけど、これは納得。
・斗貴子の目潰しの直接描写は「実際に子供が真似するかもしれない、これも黒に近いグレー」で没。ポイントはフキダシで隠すコト。目潰しは斗貴子のスパルタン振りを一発で描写出来る素晴らしい技で、連載開始前から考えていただけにかなりショボン。
・少年誌は規制が多くて大変。が、しかし、その中で切磋琢磨するコトで、より多種多様な演出を編み出せると考えれば、これもまあ良し。己の実力を高められれば、問題なし。

※引用元:集英社刊・ジャンプコミックス『武装錬金』第1巻188ページ「ライナーノート」15行目〜31行目。

 ……この記述から分かる事は、
 ・「ジャンプ」には表現についてモラル基準がかなり厳しく設定されている。
 ・『武装錬金』の場合、実際に制作へ入る前の段階(プロット〜ネーム)の打ち合わせで、担当編集者から和月さんに通達する形で表現規制に関するダメ出しが行われている。

 ……の2点ですね。
 先日に駒木が指摘した部分は単行本で言えば2巻以降に収録される部分も混じっていますので、最終的な結論は単行本化された時の「ライナーノート」に委ねなければなりませんが、『武装錬金』における残虐描写の表現規制については、編集部主導で行われていると考えて良さそうな感じですね。
 大体、作り手側の立場で考えると、残虐描写をやるからにはそれによって読者に与える効果を計算してやっているわけで、それを当り障りない形に修正してしまっては、何のためにそういうシーンを挟んでいるか判らなくなっちゃうんですよね。

 しかし、このモラル基準は正直厳しすぎる印象がありますねぇ……。メジャー少年誌という事で仕方ないんでしょうが、とんでもない厳しさですよ、コレ。「ジャンプ」は乳首NGとか、そんな事言ってる場合じゃないですな。
 ただ、生首NGって、『H×H』では完璧にカイトの生首出てましたよね……って、締め切りギリギリで仕上がった原稿だと修正のしようが無いか。もし確信犯だとすると、したたかだなー、冨樫さん(笑)。 

☆「週刊少年サンデー」2004年6号☆

 ◎新連載第3回『怪奇千万! 十五郎』作画:川久保栄二【第1回掲載時の評価:C

 さて、連載開始以来、ネット界隈の至る所で凄い事になっている(笑)、この『十五郎』の後追いレビューです。
 あ、それはそうと、どうやら第1回のレビューが一部でエラい好評を頂いたようで、有難うございます。
 「この作品が酷い(もしくは凄い)事は判るんだけど、そのメカニズムが判らない」という方に道しるべを提示する…というのは、実はこのレビューを始めるに至った目的の一つだったりします。ですので、そういう形で当ゼミを利用してもらえるのは本当に嬉しい事ですね。まぁ出来れば、駄作じゃなくて傑作のレビューで利用して頂きたいという思いはあるんですが……(笑)。

 ──では、本題に移りましょうか。
 ただ、今回は普通に第2話、第3話の内容について述べるのではなく、この作品の根底に流れる“ダメ要素”について概括してみたいと思います。
 この度の「ジュピターの憂鬱」編も、至る所にツッコミ所満載の凄いエピソードでしたが(例えば、音の波形を反転させて…という部分の理論が完全に間違ってたらしい、とか)、ネット界隈の反応を見ていると、もう「この作品は駄作である」という結論を強調するためにあれこれ述べなくてはならない段階は過ぎたかな…と思うんですよね。ただでさえ、そうやって評価Cの作品にダメポイントを指摘しまくった時のレビューが「感情的になり過ぎ」と批判を受ける事も多いですし(本人はかなり冷静なつもりなんですけど、文字の形だとそうは思ってもらえないみたいですね^^;;)、今回はちょっと地味にやらせて頂こうかなと。
 ……ただ、地味にやったらやったで、今度は「生温い。こんなクソを擁護しやがって、駒木もヤキが回った」とか言われるんですよねぇ。本当、サジ加減が難しいです(笑)。

 閑話休題。
 それでは、この『十五郎』という作品を根本的な所で駄作たらしめている3つのポイントについて述べてゆきましょう。

 まず1点目は、主人公・十五郎のキャラクター設定です。
 この作品において、十五郎というキャラは「やろうと思った事は、どんな困難な事も楽々出来てしまう万能人間」という設定になっています。まぁその割には「ジュピターの憂鬱」と「ジュピターの快楽」を演奏した時に建物が崩壊する事を予測出来ていない辺りがアレなんですが、それはとりあえず置いといて。
 で、この“万能人間”というのを主人公にしてしまうと、ストーリーの盛り上がりが全く期待出来なくなるんですよね。読み手にカタルシスが全然来ないんです。
 あらゆるエンターテインメント系ストーリーの基本というのは、主人公が困難にブチ当たって、それを試行錯誤しながら克服・解決してゆく事です。そして、その困難を克服・解決する過程に作品の魅力がギッシリ詰まっているのは言うまでもありません。
 ところが、この作品のように主人公が“万能人間”だと、その困難を克服・解決する過程が全く無くなってしまうんですよね。例えばですね、20代後半以降の受講生さんならよくお判りになると思うんですが、ファミコン等のアクションゲームで裏技を使って無敵モードにした時、最初は凄い爽快なんですが、すぐに飽きが来ましたよね。無敵モードで完全クリアしても全然嬉しくなかったり。
 で、この作品の主人公・十五郎は、まさにその無敵モードに入ってるんですよね。だから、問題を完全クリアしても全然嬉しく思えないんです。
 皆さんも良かったら、古今東西の名作少年マンガの主人公を出来る限り思い出してみて下さい。評判の高い作品の主人公ほど、どこかに重大な弱点や欠陥を抱えていたはずです。

 次に2点目。それは、提示した設定に説得力を持たせる努力を放棄している事です。
 普通、マトモな作品ならば、シナリオの中で新しい設定を提示する場合、ある種“デモンストレーション”的な出来事を起こして、その設定に説得力を持たせるように努めるものです。
 例えば、西部劇かなんかで、「コイツは東の方じゃ並ぶ者無しと言われたガンマンなんだ」という触れ込みで新キャラが登場した場合、必ずその新キャラに実力を発揮させる機会が与えられますよね。その界隈でNo.2くらいの“村一番レヴェル”のガンマンが出て来て新キャラに決闘を挑み、自分が1発発射する前に拳銃とカウボーイハットを吹っ飛ばされて腰を抜かしたりするわけです。そういう手続きを踏んで、「東では無敵のガンマン」という設定に説得力を持たせるわけです。
 ところがこの作品では、設定は読み手に提示さえすれば自動的に承認されるというシステムになっちゃってるんですよね。しかもそれを主人公の十五郎が“万能人間”であるという部分にまでやってしまっているので業が深いのです。
 このシステムを是としてしまったら、別のマンガの中で「こちらが今、人気絶頂の名作・『怪奇千万! 十五郎』を描いている売れっ子作家・川久保栄二さんだ」という記述をしたが最後、この『十五郎』が人気絶頂の名作になり、川久保栄二さんは売れっ子作家になってしまうわけですね(笑)。で、そうなると、作中にこの作品が引用された時、作中の登場人物は「おお、凄い! この作品はなんて面白いんだ!」…と言わなくちゃいけなくなるんです。それを見せられた読み手は果たしてどう思うでしょうか?
 ……あ、この『十五郎』を面白いと思っている方には失礼しました。該当部分を『旋風の橘』『エンカウンター』かなんかに替えてもう一度是非。

 そして最後の3点目はちょっと難しいんですが、頑張ってついて来て下さいね。3点目は、物語の中で起こった1つの出来事について、そこから派生して起こる出来事を全く想定できていない、という部分です。
 先程、“万能人間”の愚について解説した際に、「十五郎は“万能人間”の割に、ホールが崩壊する事について判ってなかった」という事について茶化してしまったんですが、それもこの「1つの出来事から派生する出来事を想定できていない」一例の1つですね。何でも出来る人間なのだったら、起こり得る出来事は全て想定出来ていないといけないはずなのに、実際にはそうなってない。それはおかしいわけです。
 第3回では、バイオリン奏者・澄香が、観客どころかあらゆる人間が自分のいるホールの1km四方から退避している事に気付いていなかった…という場面がありましたが、これなんか、その最たる例ですよね。普通、気付くだろうと(笑)。お前はよゐこの濱口か、どこまで簡単に騙されとるねんと。そういう事になっちゃうわけですね。こういうシーンがあると、そのせいで現実感が台無しになってしまいます
 一流の作家さんになると、この辺のディティールを作り上げるテクニックが大変達者だったりするわけですが、どうも川久保さんは、その辺を考える事すらしてないような気がしてならないんですよね。そうでなければ、このような現実感のぶっ飛んだ作品を描けるわけがないはずなんですが……。

 ──さて、いかがでしたでしょうか? これでまた頭の中でモヤモヤしていた疑問を解消していただければ幸いです。
 ……あ、忘れない内に評価をつけておきましょう。当然の事ながらCで据え置きです。恐らく、もう最終回の総括までこの作品をゼミで採り上げる事はないんじゃないかと思います。こういう作品にグダグダ何かを言う暇があったら、もっと優れた作品を採り上げたいと思いますので。


 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「お正月の思い出」。
 結構皆さん色々な思い出を語っておられて興味深いんですが、やっぱり目立ってるのは高橋しんさん「箱根駅伝走ってました」ですよね(笑)。『いいひと。』で箱根駅伝編が描かれた時から有名なエピソードですけど、やっぱりインパクト抜群です。
 駒木の場合は、今年の2日、3日、4日モデム配りをやらされた事が一生の屈辱的な思い出になりそうです。良い思い出なら、2日に西宮競輪、3日に園田競馬、4日にフリー雀荘行った、数年前の正月になるでしょうけど。ちなみに、今では西宮競輪場と、その時に行ったフリー雀荘は潰れてしまいました。

 ◎『犬夜叉』作画:高橋留美子【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回の間の良いラブコメシーンを読んでると、普遍的だけど上手いよなぁ……とか思ったりしたんですが、よく考えたらその“普遍”のかなりの部分を作ったのは高橋さんご本人だったりするんですよね(笑)。いや、失礼しました。

 ◎『結界師』作画:田辺イエロウ【現時点での評価:A/雑感】

 ここ数回、シリアスモードの展開になってから、作品の雰囲気が締まって良い感じになりましたね。やっぱりこの作品は単なるコメディにしてしまうのは勿体無い題材ですよ。
 今回は特に最後のセリフが決まってましたね。一流の作家さんになるためには、こういう決めゼリフを作るコピーライター的な才能も必要ですから、そういう意味でも田辺さんの今後は期待出来ると思います。

 

 ……というわけで、今週はこれまで。長かったですね、ごめんなさい。
 次週は「ジャンプ」が休刊なので、15日から東京旅行に行く前に何とか「サンデー」だけの内容のゼミを実施できればなぁ…と思っています。どうも無理臭いですが(笑)。

 


 

2003年度第101回講義
(前回まで延々と間違ってましたが、2003年の講義回数ということで、3月一杯までカウント続行です)
1月7日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(12月第5週〜1月第1週分)

 今年最初の「現代マンガ時評」は、恒例の「赤マルジャンプ」全作品レビューをお送りします。既に「ジャンプ」、「サンデー」のいずれも今年最初の週刊本誌が発売になっていますが、とりあえずはこちらからという事で。
 なお、談話室(BBS)でお約束していた『武装錬金』の表現問題については、今回は週刊本誌に関連しない内容という事もありますし、次回ゼミに順延という事にさせて頂きたいと思います。ご了承下さい。

 ……それでは、長丁場必至の内容になる事ですし、早速レビューを始めたいと思います。ただ、例によって、普段のレビューよりもやや駆け足気味のものになりますので、ご承知おき下さい。あと、これもいつも通りですが、連載作品の番外編はレビュー対象から外してあります。

◆「赤マルジャンプ」04年冬号レビュー◆

 ◎読み切り『NOIZ ─ノイズ─』作画:樋口大輔

 連載経験者が担当する巻頭枠、今回は『ホイッスル』でお馴染みの樋口大輔さんの登場です。連載終了後も精力的な活動を続ける樋口さん、03年は本誌でも読み切りを発表していますが、滑り込みで年内2作品目の読み切り作品発表となりました。
 樋口さんの経歴に関しましては、昨年5月1日付講義で前作・『dZi:s』のレビューをした際に詳しくお話しておりますので、そちらを参照して下さい。

 に関しては「良い意味で特筆すべき事は無し」という扱いで良いでしょう。ただ、余りにもクセが無い画風というのも、インパクトが弱くなって逆に困りモノだな…という気もしました。
 樋口さんの絵は、学校の通知表で言えば全教科オール4のような水準なんですが、マンガの絵って、少しくらい3が混じっていても、1〜2教科くらいダントツの5を獲れるような絵の方が逆に良かったりするんですよね。難しい話ですが。

 ストーリーは、ごく普通の日常風景の中に場違いな超能力を1つ放り込んだらどうなるか…という典型的な「もしも」型のお話ですね。
 こういう系統の話は、論理的整合と言いますか、ストーリーの中で起こる色々な出来事の流れが自然でないと一気に興醒めしてしまうものなのですが、この作品ではそれが見事にクリアされています。特に、本来なら主人公サイドと関係ないはずの警察を事件に巻き込むやり方がかなり練られていて、この辺りはさすがにキャリア13年目のいぶし銀というところでしょうか。
 問題点を挙げるとすれば、超能力モノにしては話のスケールが小さくなり過ぎてしまった事でしょうか。最後に妹が快復しないといった辺りに物足りなさを感じた読み手の方もいらっしゃるでしょう。まぁこれは日常劇の延長なので、仕方が無い事でもあるのですが……。あ、あと、「5時間58分後」みたいに、どうでも良い部分のディティールまで凝る必要は無いと思います。むしろ「約6時間」と大雑把な設定にした方がオカルトっぽくて良かったような。

 評価は典型的な“佳作の小品”という事でA−に。確かに問題点もありますが、高い完成度でその弱点をほぼフォローし切ったと思います。
 最後に蛇足ながら個人的な意見を述べさせて頂きますと、樋口大輔という作家さんは、看板作家を目指すよりもこういう手堅い作品を描いてこその人のような気もします。野球で言えば“バント・守備の名手の2番・ショート”みたいなポジションと言いますか。なので、今後もこういった活動を続けていただいて、また「ジャンプ」本誌で主要作品の脇を固めるという、地味ながら重要な役割を果たしてもらいたいと思っているのですが、どんなものでしょうか。


 ◎読み切り『Lock you!!』作画:村中孝

 さて、ここからは新人・若手枠。そのトップバッターは、前号の「赤マルジャンプ」・03年夏号でデビューを飾ったばかりの村中孝さんです。

 に関しては、“画力自慢新人大会”だった03年夏号組だけあって、かなりのハイレヴェルです。デフォルメ表現なども新人離れしていますね。
 ただ、気のせいでしょうか、やや表情のバリエーションが乏しくてメリハリに欠ける感を少々抱いてしまいました。マンガにおけるキャラの表情というのは一種の記号なんですが、その記号の種類が少ないような気がしたんですよね。まぁ、基本的な画力が高いので、これはかなり些末な指摘の範疇にはなるんですが。

 次にストーリーと設定について。
 
まず、設定に関しては、読み手によって賛否両論出て来るんじゃないでしょうか。というのも、「コメディだから、多少は非現実的な事をしても大丈夫」というマンガを描く上でのエクスキューズをかなり拡大解釈し、極端な設定でもって描かれているんですよね、この作品は。例えば主人公の貧乏度合いや、アンナ姫のぶっ飛んだ設定などがそうですね。現実的要素に対する非現実的要素の割合が、同種のラブコメ作品のそれより勝ち過ぎているんです。
 この非現実の度合いを許せる人にとっては、この作品の世界観は居心地の良いモノになるでしょうし、許せない人には逆になって来るでしょう。まぁそれはどんなマンガでも共通の課題ではあるんですが、ちょっとこの作品の場合は読者を分不相応に選び過ぎているのではないかと思われます。

 あと、ストーリーは随分と苦しくなっちゃいましたね。全般的に見られる展開の強引さも然る事ながら、ミエミエのオチを引っ張り過ぎてしまいました。更に、主人公とヒロインが、「好きだ、好きだ」と言ってる割に、その好きな人の事を根底から忘れているというのもマヌケ過ぎたような気がします。

 また、他に気になった部分としては、この作品の中は既製作品から多くのキャラ(ジャイアンとスネオ等)や名前(「青島刑事」等)が数多く流用されている事ですね。新人作家さんがこういう“遊び心”を多用するのは余り感心出来ません。こういう試みは、既に100%自力で完成度の高い作品を作れる人がやるからこそ“遊び”になるんであって、そこまで至っていない人がそれをやってしまうと、未熟さを誤魔化すために、昔の名作からキャラを拝借したように見えてしまうんですよね。

 評価は少々辛目かも知れませんが、メジャー雑誌掲載作品でギリギリ及第点のBということで。
 
 
 ◎読み切り『弾丸ピッチャーうづき』作画:サトウ純一

 続いては、今回がデビュー作となるサトウ純一さん。02年下期『手塚賞』の佳作受賞者ですね。来月には26歳の誕生日を迎えるという事で、「ジャンプ」の新人さんとしては遅咲きの部類に入るでしょうね。

 は、典型的な「パッと見は上手そうだけど、よく見ると変」なタイプですね。意識的に得意なアングルや表情を多用しようとしていて、妙に不自然な所が色々な所に見受けられます。
 また、「マンガなので仕方ない」と言われればそれまでですが、顔のパーツ毎の比率がいやに不自然なのも目に付くところです。

 ストーリーと設定は、主人公の投げる球同様、シンプルな直球勝負といった感じですね。45ページにしては、少々中身が薄い気もしますが、まぁそれ自体は許容範囲でしょう。
 ただ、そのシンプルなシナリオですら上手に演出し切れないほどストーリーテリング力が低いのは致命的でした。ストーリー展開を全て説明的過ぎるセリフの羅列に頼っていては、せっかくの活きの良い素材も台無しになってしまいます。
 あと、野球対決シーンにも、もう少し工夫が欲しかったですね。結末が読める勝負なのですから、もっと演出で盛り上げないと……。空振り三振というのは見栄えが良いようで、実は結構マヌケなんですよね。(こちらもありがちですが)バットを折ってミットにめり込むとか、余りの球威の前に見逃し三振とか、まだそっちの方が盛り上がるってもんです。

 評価はB−ですね。02年下期「手塚賞」組は、高橋一郎さん、梅尾光加さん、落合沙戸さんと、新人不況の昨今においても比較的豊作の部類だっただけに、次回作ではサトウさんにも奮起を促したいところです。


 ◎読み切り『グラス・アイランド』作画:藤山海里

 次は、「赤マル」02年冬号(=2冊目の01年冬号)以来、2年ぶりの登場となる藤山海里さんです。出身地や年齢からは00年上期に「赤塚賞」佳作を受賞している青山海里さんと同一人物だと思われますが、確定情報をお持ちの方がいらっしゃったら、是非BBSかメールでお知らせ下さい。

 さて、作品についでですが、まずはから。
 マンガに必要とされる技術そのものは、新人・若手としては水準以上でしょう。このまま本誌に放り込んでも、連載作家さんたちと十分互角に張り合えそうです。
 ただ、中途半端にリアルなタッチをどう“武器”として有効利用するか…というのは、今後の活動においてのキーポイントになりそうですね。下手をすれば「少年マンガらしくない」と言われてしまいそうな画風でもありますので、必要に応じてマイナーチェンジも考えるべきでしょう。

 次にストーリー&設定ですが、まずは難しい近未来SFモノにチャレンジして、曲がりなりにもストーリーをまとめ切った事は素直に評価すべきだと思います。実は、ファンタジーと同じくらい、マンガの世界では鬼門だったりするんですよね、SFって。
 ただ、「科学者とは何ぞや?」や、「ロボット万能社会の落とし穴」など、作品の根底に流れるテーマのレヴェルが余りにも高すぎ、やや矛盾を孕んだまま消化不良で終わらせてしまったような感が否めません。
 まぁこのような難しいテーマは巨匠クラスでないと完璧に描くのは無理なので、デビュー2作目の作家さんが描き切れないのは当たり前ではあります。が、それでも新人の身で無理難題に挑んでしまった愚は評価から差し引かなければならないとも思います。

 それでも全体的な実力は新人・若手の中に混じれば上位クラスでしょう。次回作ではもうちょっと描き易い題材を選んで、連載獲得にチャレンジしてもらいたいと思います。評価はB+

 ◎読み切り『ナイン』作画:福島鉄平

 さぁ、どんどん行きましょう。続いては福島鉄平さん「コミックフラッパー」からの転身という極めて異色のキャリアを持つ若手作家さんですが、03年夏号に続いての「赤マルジャンプ」連続掲載となりました。
 それにしても、先程の村中さんもそうですが、厳しい倍率のプレゼンを連続で潜り抜けるというのは凄いですよね。ただ、それが「ジャンプ」新人の層の薄さを象徴しているのだとするならば、素直に喜べなくなっちゃうんですが、まぁ推測から結論を導き出すのは反則なので、これ以上は控えておきます(笑)。

 ……では、まずから。
 03年夏号の「赤マル」を読まれた方は同じ感想を抱かれたと思いますが、この短期間で絵柄がガラっと変わっていて驚かされました。どちらかと言うと少年誌というよりも児童誌(「コロコロ」等)寄りのタッチになってしまったのが気になりますが、福島さんの作品は殺伐としたストーリーが持ち味ですので、これくらい極端にやってしまう方が良いのかも知れません。

 ストーリー&設定も、夏号から進歩の跡が見られますね。独特の殺伐さを少年マンガのエッセンスで薄める事に成功し、多少危ういながらもバランスを保ったまま49ページを乗り切ったと言えるでしょう。
 命の価値を不用意に軽んじてしまう可能性のある「命○個」という表現にしても、悪の親玉が溜め込んだ命の数だけ酷い死に方をするというシーンで上手い演出が施されていますね。
 ただ、惜しいと言うか、画竜点睛を欠くと言うか、臆病な主人公が強大な悪に挑むに至る動機付けが余りにも短絡的で説得力が無かったのは非常に残念でした。作品中で大きなミスはこれだけなのですが、この1つのミスが明らかに致命傷になってしまっています。ページ数も余裕があるのですから、もうちょっとページ配分を考えればどうにかなったはずなんですが……。

 評価はB+寄りBという事にしておきましょう。つくづくも惜しい作品だと思います。


 ◎読み切り『ストリンガー』作画:田中顕

 ここからは5連発でジャンプデビュー組の人たちが続きますが、他の4人と経歴が一味違うのがこの田中顕さんです。
 田中さんは、『ろくでなしBLUES』時代の森田まさのりさんのスタジオでアシスタントを務めて業界入りしたのですが、その後は一時「サンデー」に移籍。皆川亮二さんのスタジオでアシスタントに従事するかたわら、01年秋からは「サンデー超増刊」で短期連載を経験しています。
 しかし、その後はまた「ジャンプ」に出戻る形で再移籍村田雄介さんのスタジオで『アイシールド21』の連載当初からチーフ格でアシスタントを務めています。通常“チーフアシスタント”という肩書きは、キャリアの長い作家さんが一番弟子格のアシスタントに与えるモノと聞きますので、このような“若手作家さんのチーフアシスタント”というのは極めて異例です。ただ、これだけのキャリアがある人ですから、編集サイド主導で「連載ペースに慣れない若手のアドバイザー役も兼ねて」という意味で“チーフ”という肩書きを与えた可能性もありますね。

 まずですが、有り体に言ってかなり荒い印象がありますね。タッチを洗練しないままで固まってしまったというか、下積みが長過ぎてデビューした時には既に時代遅れの絵柄になってしまったというか……。ちょっとこのままで「ジャンプ」本誌に持って行くのは躊躇われるレヴェルではないかと思います。アシスタント経験が長いので、背景処理だけはやたらに上手いんですけどね(笑)。
 しかし、元「サンデー」新人作家という知識を持って見ると、確かにどことなく「サンデー超増刊」に載ってそうな作品に見えて来るから不思議です。

 ストーリー&設定は、大雑把にまとめれば長所と短所が入り混じっている…といったところでしょうか。
 全体的な構成は重厚で、特に主人公が幼少の頃に戦場で体験したエピソードなどは秀逸です。“巨悪を討つためには犠牲も厭わない”という主義主張を主人公に持たせるというのは考えモノですが、敢えて“危険水域”に踏み込んで話作りをしようとしたアグレッシブさは評価してあげたいと思います。
 ただ、そんな長所を全く台無しにしているのが、メインストーリーが悪い意味で陳腐な事ですね。特に悪役のキャラクター付けを、“中途半端に狡猾な小悪党”という、話作りが簡単な代わりに読み手に与えるカタルシスが小さくなってしまう安易な方向へ持っていってしまったのは残念極まりない部分でした。

 評価は、「見所のある部分もあれど、欠点が圧倒的に多い」という事でB寄りB−にしておきましょうか。


 ◎読み切り『剣客PLANETヒヅカ』作画:守屋一宏

 続いては、01年後期「手塚賞」佳作受賞者・守屋一宏さんの登場です。守屋さんはこれがデビュー作で、受賞以来2年間の苦労がようやく実った…という事になりますね。「手塚賞」や「赤塚賞」の佳作にはデビュー確約特典が付かないので、守屋さんのようにデビューが遅れたり、デビューも果たせぬまま消えていく人もいたりします。(まぁ両賞の佳作受賞作が、“その程度の水準”であるという事も否定できないのですが)

 さて、まずはですが、基本的な表現に関しては十分合格点じゃないかと思います。ただ、良い意味でも悪い意味でもマンガっぽい絵柄なので、シリアスなシーンを描いても深刻さが伝わって来ない…という弱点も見え隠れしています。
 小栗かずまたさんの『花さか天使テンテンくん』のように、子供社会の日常を描いたコメディなんかには非常に向いている画風だと思いますので、今後はそっち方面を目指すか、もしくは絵柄をもうちょっとシリアスタッチに改造する必要が出て来るでしょうね。

 ストーリーと設定は、こちらも基本的なストーリーテリング能力は問題ないのですが、今回に限ってはページ数の割に内容のボリュームを欲張り過ぎた印象が強く残りました。設定過多で消化不良に陥っていますし、シナリオもメインストーリーを押さえるだけで精一杯で、説明不足で不可解な展開が各所で見られたりしました。
 あと、これは絵柄にも関連して来るのですが、読み手に登場キャラの痛みが余り伝わって来ない表現が目立ったのも、やや残念でしたね。こういう物言いをすると良識ある受講生さんに叱られそうですが、「色々な意味で、ちょっと『ONE PIECE』の読み過ぎ」…と言いたくなってしまいました。

 評価は商業誌で活動するのに基本的なラインはクリア出来ているということでBが妥当かと思います。
 

 ◎読み切り『サクラ戦線北上中!!』作画:森田一博

 続いては03年8月期の「十二傑賞」受賞作が登場です。森田さんは当然の事ながらこれがデビュー作となります。
 しかしこの作品、“ラズベリーコミック賞作家・許斐剛氏が賞賛して受賞”という部分が当ゼミ的にはアレなんですが、さぁどうでしょうか(笑)。

 現在の「ジャンプ」では少なくなった劇画調タッチで、非常に個性的です。それはそれで結構な事なんですが、全体的にデッサンが狂い気味で余分な線が多いため、上手い下手以前に見辛い絵になってしまっているのは問題でしょうね。
 まぁこれは本人のモチベーション次第でいくらでも改善出来るでしょうから、次回作への宿題という事にしておきましょう。

 そしてストーリー&設定にも、若干の問題点の存在を否定出来ません。特に設定の積み上げ方に課題が残されていますね。
 普通、いくらフィクションとは言えども、話作りの過程においては、ベースは現実的な部分に置いて、その上で非現実的な要素を積み重ねて行くものです。そうして世界観の完成度を高めていこうとするのですが、この作品はちょっと非現実的な要素が多過ぎる気がするのです。で、その結果、世界観の完成度が非常に低いレヴェルで留まってしまっているというわけですね。砕けた言い方をすると、「ツッコミ所満載の設定で、全体的にどことなく嘘臭い」といったところでしょうか。
 これが、この作品を読んだ後に、「あぁ、この作品で描かれている社会は、きっとこういう社会なんだな」と想像出来るような所まで行っていれば、多少印象も違って来たでしょう。が、残念ながらこの作品では、学校から一歩外に出た後の情景が全く見えて来ないのです。

 評価はB−ということで。大化けする可能性も感じさせる人ではあるのですが、今の「ジャンプ」がそこまで悠長に事を構えていられるかは微妙でしょうね。


 ◎読み切り『勇とピアノ空』作画:大竹利明

 まだまだ続くルーキー攻勢、次に登場したのは03年上期「手塚賞」佳作受賞者・大竹利明さんの受賞後第一作&デビュー作です。

 まずにはかなり難が有りますね。まだマンガではない“止め絵の羅列”の段階に留まっている感じです。このままで週刊本誌に持って行ったら、読まれる以前の段階で拒否反応を浴びてしまうでしょうから、今後は画力の向上が急務になって来るでしょう。
 ただ、演出といった面では相当なポテンシャルを秘めていると思われ、下手ではあるのですが不思議と読んでいて不快感は感じられないのは良い所だと思います。この才能は最大限活かしてゆくべきでしょう。

 ストーリー&設定については、オーソドックスと言えばオーソドックスなお話なのですが、先程述べた高い演出力に支えられて、非常に良い読後感を読み手にもたらす構成になっています。どうしてもバトル物に走りがちな「ジャンプ」系新人さんたちの中で、こういう“一服の清涼剤”的な日常劇を持って来たセンスも評価出来ますね。
 ただ、ケチをつけるわけではありませんが、どうも“よく出来すぎた話”であるのが気になるところです。デビューしたばかりの作家さんにそこまで注文をつけるのはどうかとも思うのですが、全般的に話が都合良く流れ過ぎではないかと感じたんですよね。普通の人が要所要所で超人的な才能を発揮し過ぎと言いますか。
 あと、何故そこまでベートーベンにこだわったのかというのも、ちょっと不可解かなと。クライマックスシーンの主人公のビジュアルから逆算しての設定なのかも知れないのですが、モフィーのキャラとベートーベンのイメージがどうにも結び付き辛くて……。

 まぁそれでも、デビュー作にしては上々の出来と言えるでしょう。演出力は新人の域を超えていますから、ひょっとすればひょっとする逸材です。今回の評価は画力による原点分を半ランク分差し引いてB寄りB+


 ◎読み切り『一夜物語』作画:臼田幸太

 ストーリー系作品の新人・若手枠ラストに登場は、03年7月期の「十二傑賞」受賞作・臼田幸太さんの『一夜物語』です。

 ……で、これから詳しくレビューしてゆくわけですが、先に言葉を選ばず総評を述べておきますと、「うわ。こりゃ酷ぇ」でした(苦笑)。何と言いますか、『ツバサ』みたいなお話を実力の無いド新人に描かせるとこんな惨憺たる結果になるんだな…などと、反面教師的に学ぶ所の多い作品だったと思います。

 まずは完全にグダグダ。画力そのものも発展途上なのですが、構図の取り方や背景と人物との描き分けが全く出来ていない上に、これまた使い慣れていないスクリーントーンを間違ったやり方で貼り付けてしまったために、心底読み辛い絵柄になってしまっています。
 駒木はこの作品を読み切るまでに3回くらい小休止を頂きましたが、ギブアップされた人も多くいらっしゃったのではないでしょうか。

 そしてストーリーと設定も、自己満足・独り善がりの極致と言うべき悲惨なモノで、こういう立場(レビュアー)でなかったら、「いい加減にしろ、このクズ!」と罵った上に雑誌を投げ捨てていたと思います。それくらい酷いです。
 冒頭のモノローグで2つの国が出て来たと思ったら、舞台になったのは全く別の国で、しかも主人公が登場したと思ったら、いきなり全く別の場面へ転換してしまいます。読み手の状況認識という重要な要素を全く無視して作者のエゴが大暴走。もう「何が何だか」です。
 で、ようやく状況が飲み込めて来たと思ったら、今度はワケの判らない固有名詞が次から次へ。作者の「こんな設定考えたんです、カッコいいでしょ? 凄いでしょ?」という気持ちばかりが読み手に伝わり、肝心のお話の方はちっとも脳ミソに入ってゆきません。
 それでもシナリオはいつの間にか淡々と展開してゆき、クライマックスもクライマックスらしい盛り上がりが無いまま、主人公が勝手に自己啓発して擬似超サイヤ人化して一撃で終了。最後は笑えないギャグと説明的過ぎるセリフで後日談を(描写でなく)説明して、体裁だけ一応整えただけ。もうフォローする余地全く無しですね。

 相当な不作であっても月に1作品デビューさせなくてはいけない「十二傑賞」ではあるのですが、この作品が最終審査以前に予備審査を通ってしまった事が大変に不思議です。まぁ時々こういう選考では、終わってみれば全員が「誰だ、こんなの残したの?」という結果になる事もあるそうですけれども(笑)。
 評価はもう文句ナシでCということで。当ゼミのC評価は、作品に対する死刑判決みたいなものなのですが、今回ばかりは全く躊躇しませんでした。

 
 ◎読み切り『部活王ぱなた』作画:風間克弥

 新人・若手枠ラストはギャグ枠「赤マル」03年春号でデビューを果たした風間克弥さんが半年振りの再登場となりました。徐々に「ジャンプ」系の新人・若手ギャグ作家さんの頭数が揃いつつある今、何とか“連載候補生”入りを果たしたいところでしょうが……。

 は、「ギャグマンガにしては」という条件付きながらも及第点でしょう。既製作品の影響が随所に見られるのは多少気になりますが、様々なタイプのキャラが描けるようで、画力の拙さでギャグの足を引っ張る…という事態は避けられそうです。
 注文をつけるとすれば、もうちょっと動的表現を勉強した方が良いという事と、デフォルメのパターンをもう少し増やした方がもっとギャグマンガらしくなる…といった2点でしょうかね。

 ただ、ギャグの方はイマイチ突き抜けたモノが感じられません。「服の袖から何かが出て来る」という所から派生したギャグを多用していますが、それは作品の世界観と関係の無いものだけに、話の中でギャグだけ浮いているように感じられてしまいます。『ボーボボ』みたいにギャグ1つ1つのインパクトが恐ろしいほどデカければ話は別なのですが……。
 また、ツッコミが弱いのも難点の1つで、せっかくのボケが上滑りしたままスルーされてしまっています。“ボケ→ツッコミ→それを無視してボケ”というようなパターンも見られず、全体的に一本調子で終わってしまったかな…という感じです。

 全くセンスが無い…というわけではないのですが、このまま週刊本誌で通用するかと言えば、否でしょう。他の作品から影響を受けるにしても、表面的な部分だけではなく、笑いを獲るメカニズム的な部分にもっと目を向けてもらいたいものですね。
 評価はB寄りB−ということで。

 
 ◎読み切り『Snow in the Dark』作画:叶恭弘

 いよいよ大トリです。皆さん、お疲れ様でした(笑)。駒木も当然ながらヘトヘトに疲れています(笑)。

 さて、最後を飾るのは、『プリティフェイス』終了以来の復帰第1作となる叶恭弘さん。元々は短編を中心に活動していただけに、今回はまさに初心に立ち返っての再出発ですね。
 しかも今回、ジャンルをラブコメから一転、中世ヨーロッパを舞台にしたファンタジー系作品に変えて来ました。文字通りの心機一転と言いますか、叶さんの並々ならぬ創作意欲を感じさせる新作となりました。

 まずは。改めて言うのも憚られますが、やっぱりメチャクチャ上手いです、叶さん。特にカラーページの彩色が素晴らしい出来で、このまま画集に載せてお金を取っても良いくらいです。
 絵の綺麗さだけで言えば、「ジャンプ」でも小畑健さんに匹敵するツートップの一角でしょうね。ただ、さすがに今回のデキを週刊連載レヴェルで求めるのは、遅筆の叶さんには酷かも知れませんが……。

 そしてストーリーと設定。叶さんの作品と言えば、アラの多い設定を無理矢理まとめる“パワープレイ”が定番だったのですが、今回ばかりは一味違います。というか、長期連載を経験して一皮剥けたと言うべきなのでしょうか。
 起・承・転・結が出来ているのは勿論、ヤマ場の畳み掛けるような盛り上げ方や余韻の残るエンディングは大変素晴らしいモノでした。特にシナリオ上のツッコミ所をシラミ潰しにしてゆこうという姿勢に、叶さんがストーリーテラーとして一段階レヴェルアップした事を伺わせてくれましたね。
 ただ、珠にキズなのが、王妃(ヒロインの義母)の本音が解釈し辛く、読み手を混乱させてしまった点ですね。話に整合性を持たせるためには致し方ない配慮ではあったのですが、これは減点材料にせざるを得ません。

 蛇足ながら歴史考証についてですが、ヨーロッパの辺境にある小国を舞台にするならば、中世ドイツは最適のシチュエーションであり、これは問題ありません。
 城やキャラの名前が英語表記だったのは確かにツッコミ所ではあるのですが、作品のタイトルから一貫して英語表記なのでギリギリ許容範囲とすべきかも知れませんね。また、神聖ローマ時代のドイツなら、辺境の小国の君主を“王”と読んでいいかは疑問ではあります。ただこれも「若年層の読者に判りやすくするためなんだ」と言われれば矛先が鈍ってしまうのですが……。
 ……まぁいずれにしろ、「俺はドイツの歴史に詳しいんだぜ!」という態度なのに知識が教科書レヴェル以下のイワタヒロノブ氏よりはずっとマシではありますが。

 評価は十分A−はあるでしょう。本気で叶さんの次回作が楽しみになって来ましたよ。

 
 ※総評…揃って評価A−で貫禄を見せたベテラン勢2人は良かったのですが、肝心の新人・若手の作品からこれといったモノが見出せなかったのは残念でした。
 ただ、難しいテーマに挑んだものの、実力不足で自滅してしまった作品が多くあったのは注目に値します。勿論、結果として駄作に終わってしまえばそれ相応の評価しか出来ませんが、その結果に至るまでの過程は認めなければならないと思います。少なくとも、夏号のように絵だけ達者で中身がチンマリとまとまってしまっている作品をダラダラと見せられるよりは、ずっとマシだったと言えるでしょう。
 しかし、「十二傑新人漫画賞」組の不振は深刻ですね。編集サイドにしてみれば、先の見えたデビュー済み若手作家よりも、未知の魅力があるルーキーを使ってみたいというところなのでしょうが、明らかにクオリティ不足な作品まで掲載してしまうのは問題アリだと思います。当初の公約からは後退しますが、「該当作なし」の導入も本気で考えた方が良いのではないかと思います。

 

 ……というわけで、「赤マルジャンプ」完全レビューでした。講義実施が遅れて申し訳ありませんでした。では、早ければ今週中にもう1度ゼミでお会いしましょう。

 


 

番外編
1月3日(土) 人文地理
「続々・駒木博士の東京旅行記」(1)

 受講生の皆さん、明けましておめでとうございます、駒木ハヤトです……とは言っても、仕事始めまでは極端に出席率が落ちるんですよね、当講座は(笑)。仕事や学業の合間を縫って受講されているという、熱心なんだか熱心じゃないんだか判らない方たちがどうやら1000人程度もいらっしゃるようで……。
 そういう方たちは、このレジュメをご覧になっているのは5日の昼か夕方という事になるわけですね。中には既に競馬ファン年始の定番パターン・「金杯で乾杯しようとして完敗」を実践し、ストレスが溜まる一方で新年早々電話投票講座の残高はスッカラカン…という方もいらっしゃるのではと思いますが、いかがなもんでしょうか。

 で、そのストレス発散に久しぶりに駒木の講座でも聞いてやるか…なんて方もいらっしゃるでしょうが、お先に謝っておきます。ご期待に添えません。今日はよりにもよって、色気の全く無い駒木の東京旅行記です。ごめんなさい。楽しんで頂けるかどうかは、皆さんの心の大きさ次第という事になって来るかと思います。嫌なウェブサイトもあったもんですね(笑)。
 ……とはいえ、まぁ元旦早々“大脱出モノ”史上最悪の手際の悪さ&クオリティで、お茶の間を大いに引かせたプリンセスあややよりかは幾分マシなお話が出来るのではないか…とも思っておりますので、しばらくの間どうかお付き合いの程を。別に勝俣とか石田純一みたいな小芝居じみたリアクションは要りませんので。

 
 ──というわけで、今年最後の単身東京旅行についてのお話です。毎回駒木は、「交通費と宿泊費は極限まで削る」「他人に決められたとしたら、マジギレしそうな過密日程を組む」というポリシーに則り、旅行のたびに周囲から呆れられるようなプランを組んでいるのですが、今回は行き帰りとも夜行列車を使った1泊4日(!)の旅で、内容も後からお聴きになればお分かりになると思いますが、いつにも増して過酷なモノとなりました。まぁ一言で申しますと、“1人「水曜どうでしょう」”みたいなもんでありますね。
 ……それでは、旅行中延々と脳内で大泉洋と藤村ディレクターが罵り合っているような、そんなおぞましくも微笑ましいレポート、どうぞ生暖かい目でご覧下さい。

 ※レポートは文体を常体に変えます。 


 ◎初日(12月28日)

 19時過ぎ、余裕を持って設定していた予定出発時刻よりやや遅れて自宅を発つ。ここから岐阜の大垣駅までは、夜行列車の出発時刻から逆算した行程になる。大垣までで既に乗り換えが3回控えているせいか、何となく落ち着かない。
 これが昼間なら、乗換えをしくじっても到着時刻が30分くらいズレるだけなので別に平気なのだが、夜の乗り継ぎはそうはいかない。神戸〜東京間の物凄く中途半端な所で一晩立ち往生を食った上に、到着が少なく見積もっても10時間は遅れる。そんな目に遭ったら、講義の準備とモデム配りの過密日程を縫った半徹夜状態で夜行の指定席をキープしたりした諸々の苦労が全てパアである。そのような、1年間も準備を重ねて立ち上げた末に大コケした某『怪奇千万! 十五郎』新連載マンガみたいな事態だけは何としても避けたい。……と、今から振り返ってみると、どうもこの旅行で一番緊張していたのはこの辺だったような気がする。どんな旅行やねん。

 一度電車に乗ってしまったら最後、東京に着くまではほとんど買い物の出来ない行程なので、時間を気にしながらも、とりあえず最寄の駅前で色々な買い物を済ませる。で、「もうここから最後、家には引き返せませんよ」という時刻になった瞬間、荷物の中に首枕を積み忘れていた事に気付く。
 あ〜あ、これで行き帰りの車中は不眠確定だ。ホント、いつもどこかで肝心な物を忘れる悪いクセはどうにかならんものか。

 大垣までの行程は特に何も無いので省略。例によって大量に積み込んだ文庫本を読み耽りながら時間を潰す。ただ、米原行きの新快速に乗っていた時、遅い時間帯の割に乗客数が多いなぁと思っていたら、車掌が検札しに来た際に、ほぼ全員が青春18きっぷを提示したのには笑った。みんな駒木と同じような目的を持って、同じような時間の計算をして、その結果同じ電車に乗っているのであった。
 で、大垣駅に着くと、いるわいるわ、大量のバックパッカーが駅構内の至る所を埋め尽くしていた。しかも、何か皆さんたたずまいが“ただ者じゃない感”に満ち満ちている。何しろ、1ヶ月以上前からあらゆる手段を講じて夜行の指定席を確保して来た人たちであるからして、ただそこにいるだけで濃い。でも多分、他人から見たら駒木も同じようなモンなんだろうな。

 そんなこんなで大垣駅のホームから乗り込んだのは、貧乏旅行愛好家にはお馴染みの「ムーンライトながら」号。ただし、今回は繁忙期限定の臨時便。年末年始の「ながら」は事前予約の段階で定員が埋まってしまうので、正攻法でチケットを取ろうと思ったらこちらに回るしかなかった。少し古い特急用車両が使われているので多少座り心地が悪いのだが、背に腹は変えられぬ。
 車内では、どうせ寝れないのだと開き直って、読書を続行。周囲に気遣いながらビール飲んだりスナック菓子食ったりしながら、まるで昼間に特急乗って旅しているようなスタンスだ。


 ◎2日目(12月29日)
 
 名古屋を過ぎてやや行った辺りで日付変更。車掌さんの検札で青春18きっぷの2日目にハンコを入れて貰う。
 深夜から未明といった時間帯に突入も、普段の生活では研究室での仕事が本格的に始まる時刻なので特にどうという事も無い。時折眠気に襲われた時だけ数十分まどろみ、目が冴えたら文庫本を開くの繰り返し。ちなみにこの往路の車内で読了した本は、『どんどん橋、落ちた』(綾辻行人:著)『ショッピングの女王』(中村うさぎ:著)『OUT』上巻(桐野夏生:著)の3冊、いずれも文庫本。恐ろしいまでに統一感の欠如した濫読というか、古本屋で適当に面白そうな本を漁ったのが丸分かりな、ややもって恥ずかしいラインナップになってしまった。
 この中で特に印象的だったのが『OUT』。冒頭で詳細に描写される弁当工場の無機質な仕事場風景が、モデム配り現場の雰囲気とどことなく似ていて、何だか他人事と思えない。まだモデム配りは時給が高い昼の仕事なので何とかなっているが、これが夜勤の薄給仕事だったら、働く人間の心が崩壊してしまうのは間違いないだろう。
 その3冊を読了したところで小田原駅を過ぎる。この辺りから席が空き始め、空席の連続2席を独占出来るようになったので、東京まで小一時間ほど横になって仮眠。完徹だと絶対に夕方辺りで睡魔に堪えられなくなるので、少しでも寝ておく事は重要なのだ。
 そして午前4時47分東京駅着。夜明け前なので外は未だ真っ暗である。ちなみに、普段の駒木ならこの辺りからようやく講義準備の調子が上がって来る。以前、「ツルマルボーイの末脚みたいな調子ですね」と、珠美ちゃんから指摘された事があるのは秘密だ。

 ……さて、言い遅れたが、ここで今回の旅行のテーマは、「『ネットランナー』から貰った金をコミケでマネー・ロンダリングする」…である。
 実は、珠美ちゃんと順子ちゃんが同誌のトレーディングカード企画のモデルとして“出演”した際、「週刊少年ジャンプ1年分」くらいのギャラが発生していたのだ。こういう“あぶく銭”は地味に使ってもわびしいだけだし、第一、あのソフトバンクが出所の汚れたゼニなので、それに見合った使い道を探していたのだ。
 で、それならば、去年この講義をきっかけに受講生数が急増したという縁もあるし、だったらそのギャラ、残さずコミケで使わせてもらおう…という事になった次第。駒木も、こういう機会でもなければ同人誌をバカ買いするような経済観念は持っていないし、今回を貴重な経験をするチャンスとして活かさせてもらう事にした。いつもなら旅行初日は早朝に神戸を発ち夕方に東京へ着くようにするところを、わざわざ一月前から準備して夜行の切符を取るまでしたのはそういう理由からである。どうせ遠征するなら1日でも多く参加したいではないか。
 しかし、コミケだけが目的の旅行で終わらないのが“駒木スタイル”。先述のように、駒木の旅行は過密日程がデフォルトである。コミケで買い物を終えた後の空いた時間には、連日ギリギリまで神戸じゃ出来ない事をするための予定をスケジュールしておいた。我ながら、この“時間貧乏性”はもはや病気のレヴェルだと思う。普通、競馬旅打ちのついでに寄席見物したり、椎名林檎コンサート鑑賞のついでに麻雀とプロレス観戦のタブルヘッダーとかしないよな。

 と、話を戻そう。時は午前5時前の東京駅である。
 これが“猛者”クラスになると、迷わずJRからりんかい線を乗り継いで、東京ビッグサイト前に形成されつつある入場待ちの待機列に並ぶのだろうが、さすがに駒木でも、朝の5時過ぎから単身で5時間も寒空の下で待ち続けられるほど人間は出来ていない(笑)。よって、せっかく青春18きっぷの力でJRが乗り放題なので、しばらく適当に時間を潰す事にした。
 まずは始発間もない中央線で神田へ行って、今日の夜泊まるホテルの下見。極度の方向音痴なので、これくらいの事をしておかないと、万全とは言えないのだ。幸い迷う事も無くホテルを発見し、近くのコインロッカーに夜まで使わない衣類などの荷物をぶち込む。
 その後は早朝でもたくさんの店が開いている新宿まで足を伸ばして朝飯。ハードスケジュールが待っているので、ここで胃袋を満杯にしておく。

 ここでようやく空が明るくなって来た。こんな時間帯で既に当日の検札が入っている青春18きっぷを改札の駅員さんに大いに怪しまれながらも、いよいよコミケ会場・東京ビッグサイトへと向かう。
 東京駅での乗り換えの難儀さ(構内を500m以上歩かされる)にウンザリし、新木場駅で乗り換えの際に大量の“同好の士”がウジャウジャと電車を降りて来るのに更にウンザリしながらも、所用時間的にだけは順調に目的地へ到着。それでも交通機関の整備と旅客輸送の分散化が進み、例の講義で危険を喚起したほどの混雑が解消されていたのは幸いだった。
 とはいえ、国際展示場駅を出て、いざ入場待ち待機列を目の当たりにすると、やはり少々面食らう。長蛇の列ならぬ「大蛇の列」と形容したくなるような人の群れがそこに。そしてその列の間近には、あの「M-1グランプリ」会場のパナソニックホールがある。「この列の近くに訳の知らない人が殺到したら……」と考えたら、やはり危険を感じてしまうのも自然ではある。結局は「M-1」を観に来たお笑いファンの数が予想外に少なくて事無きを得たのだが、これで数千とか1万とかの“異邦人”が乱入して来たら、間違いなく少々の混乱では済まなかったとは思う。取り越し苦労でも苦労した甲斐はあったと信じたい

 列に合流したのが午前7時半。ここから移動開始まで約2時間の待機となる。異様に機能的な服装をした男性参加者と、異様に機能的じゃない服装で着飾った女性参加者のコントラストを横目で観察しながら、やはりここでも読書で時間を潰す。ここで読んでいたのは『OUT』の下巻『霞町物語』(浅田次郎:著)。しかし、寒風吹きすさぶ早朝の有明で、死体の解体シーンが出て来る小説を読んでいると、心身ともに冷える(笑)。以前、同じようなシチュエーションで『殺人鬼』(綾辻行人:著)を読んで大層堪えた経験があるのだが、こういう時には暇つぶしに読む本も選ばなきゃな、と改めて実感した。
 それにしても、周りで並んでいた参加者を観てて思ったのだが、コミケにコスプレでもなく素でゴスロリとか着て来る発想というのはどこから沸いて出て来るのだろう。やっぱりそれは“ハレ”の場だから…という事なのだろうか。でもそれなら夏祭りとかでゴスロリ着て来る人間はほとんどいないしなぁ。それとも「ここならどんな服装でも原則的に恥はかかない」という認識なんだろうか。そりゃまぁ確かに、徹底的なコスプレに混じったら、ゴスロリ着て来る参加者なんて、コンビニへ近所の住人がパジャマで買い物に来る程度の違和感しか感じないのだけれども。

 9時半頃になって待機列の移動開始。とりあえず希望に従って各ホールの入口付近まで誘導され、改めて待機列が形成される事になる。
 駒木は企業ブース行きの列に並んだのだが、その列が作られた場所がコスプレ広場(コスプレイヤーと、それを見物したりカメラ撮影したりする人たちの専用スペース)だったためか、誘導を担当しているスタッフの大半がコスプレをしていて、否応なしに目移りしてしまう。中には『ハリーポッター』シリーズのヒロイン・ハーマイオニーのコスプレをした男性スタッフまでいて、明らかにその場にいた参加者全員から注目を浴びていた。わざわざスネ毛の処理までご苦労様と言いたい。
 しかし、だ。もしもこの場で騒いだりする奴が現れたとしたら、そのハーマイオニー男も「ちょっと貴方、ふざけるのは止めて下さい」とか言ったりしてしまうのだろうか。そして万が一、本当にそのような事態が起こった時に、我々は一体どのような言葉を口にすれば良いというのか。駒木には全く想像もつかない。いやはや、世の中には未だに答の出ない問題が溢れているものである。

 ……などと馬鹿な事を考えている内に、開場時刻・午前10時を迎えた。待機列も粛々と動き出す。さぁ、いよいよ祭りの始まりだ。 (次回へ続く


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