「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

10/31(第40回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(10月第5週分)
10/22(第39回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(10月第4週分)
10/21(第38回) 競馬学特論「ディープインパクト三冠なるか? 菊花賞直前プレビュー」
10/15(第37回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(10月第3週分)
10/7(第36回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(10月第2週分)

 

2005年度第40回講義
10月31日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第5週分)

 丸一週間遅れで失礼しております。先週末はどうしてもこちらに時間を全く割けない状況になってしまい、止む無く「レポート」の方で告知をさせてもらいました。
 色々と制約が大きくなりつつある現状ですが、何とか巻き返して行きたいと思っております。どうか何卒。

 では取り急ぎ、既に先週分となってしまった10月5週分のゼミを始めます。今日の講義で対象となるのは「ジャンプ」47号、「サンデー」48号ですので、お間違えの無いようにお気を付け下さい。なお、今回も「ジャンプ」増刊レビューはお休みさせて頂きます。まったく、『HUNTER×HUNTER』や『うえきの法則』に文句言う資格無いですね……。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ※今週は、新連載及び読み切りの情報はありませんでした。

 ★新人賞の結果に関する情報

 この週は、「サンデーまんがカレッジ」の審査結果発表がありました。夏休みと重なる時期だけに、応募作はかなり多かったそうですが……。

少年サンデーまんがカレッジ
(05年8月期)

 入選=該当作無し
 佳作=1編
  ・『マベナ刑務所』
   高藤カヲル(24歳・山口)
 努力賞=2編
  ・『未来少年きゃも』
   岡崎加奈(20歳・兵庫)
  ・『Relationship』
   佐藤五月(25歳・埼玉)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『防人千年記』
   吉村英明(25歳・神奈川)

 受賞者の皆さんのキャリアは以下の通りです。
 ◎あと一歩で賞の吉村英明さん…05年8月期(同時!)「十二傑新人漫画賞」で最終候補、02年6月期「天下一漫画賞」に投稿歴あり。

 ……応募作の割には入賞作は少なく、最終候補作品すら4編という大不作。新人不況が続く「サンデー」の現状を表すような8月期結果となりました。
 それにしても、「ジャンプ」「サンデー」月例賞同時応募・同時最終候補という吉村さん、開講間もなく4年になりますが、こういうケースは初めてです。惜しむらくは、どちらも最終候補で止まってしまい、労多くして実りが少ないという事ですが……。
 あと、佳作入賞の高藤カヲルさんは、以前から同人活動を積極的に行っていたようです。確かに絵柄のこなれ方はキャリアを感じさせるものではありますね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本&読み切り1本&代原読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作品無し
 ◎今週はチェックポイント対象作品がありません。よって、「サンデー」関連のコーナーは1週休みとなります。ご了承下さい。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年47号☆ 

 ◎新連載第3回『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜《第1回掲載時の評価:B−

 についての所見(第1回時点からの推移)
 第1回時点から長所・短所共にほぼ変わらない水準で推移しています。普通に読み飛ばす上では気にならない程度なのですが、それでもジックリと読み込んでいくと、動感の無さ(=止め絵っぽさ)と表情・ポーズの変化の小ささが否応無しに目立ってしまいます。
 「過ぎたるは及ばざるが如し」になってしまっては困るのですが、それでももう少し派手に動きのある表情やポーズを描いた方が、迫力も出て良いのではないかと思いますね。 

 ストーリー・設定についての所見(第1回時点からの推移)
 第1回の時点で指摘したトリック関連の練り込みの甘さや構成・演出の拙さも相変わらず
ですが、それ以上にシナリオ・脚本の“浅さ”が問題点として浮き彫りになりつつありますね。
 全く意外性も無く一本調子のプロットに、過去の掘り下げや心象描写に欠けた薄っぺらいキャラクター、そしてレトリックのカケラも感じられない台詞回し。主人公がピンチらしいピンチも無く楽々とお宝を奪い取るストーリーで、“偽悪人”になり損ねた“口の悪い善人”が、言われなくても判っている内容の説教を言い放つ…というルーチンはエンターテインメント性が極めて希薄です。
 特に今回、その脚本面の拙さを露呈したのが、カスケが相棒・ポルタについて語るシーンでした。ここは本来なら、これまで読者に提示されていなかったエピソードなどに深く踏み込むべき所なのですが、結局は既に描かれている内容をほぼ繰り返しただけ。これでは単なるページの無駄遣いです。

 とにかくシナリオにしろ、脚本にしろ、熟考に熟考を重ねるべき所で、それを明らかに怠っているように思えます。ストーリーを形として成立するところで終わっている、絶対妥協してはいけない所で妥協しているような作品…といったところでしょうか。これでは、いくらストーリーが形として成立している作品とはいえ、高い評価を出せるはずがありません。

 今回の評価
 B−評価据え置きとします。次回の評価見直しは連載10回時点で、(多分有り得ないでしょうが)A−以上の評価にハネ上がった時には11月末の時点とします。

 ◎読み切り『キャディーガール瞬』作画:後藤竜児

 作者略歴
 
資料不足のため、生年月日・年齢は未判明。
 デビューは週刊本誌99年6号掲載の『はだしの教師』で、これは代原掲載による暫定デビューの可能性が高い。また、01年29号にも同タイトルの代原を発表している。
 その後、「赤マル」01年夏号にこれも同タイトルの『はだしの教師』を発表しており、これが正式デビューか。
 それからは2年半のブランク(高橋和希さんのスタジオでアシスタントを務めていた)があって、週刊本誌04年13号で『ハッピー神社♥コマ太』で復帰、「赤マル」04年夏号には『冒険王』、04年秋発売のギャグ増刊では
『LUCKY☆CHILDタケル』を発表している。
 今作は05年9月発売の「ジャンプ the REVOLUTION!」に掲載された作品『キャディーガール』の設定をほぼ踏襲して創られたリメイク作。

 についての所見
 相変わらずの、高橋和希門下だと一目で判る独特でアクの強い画風ですね。しかしこの画風、よほど作画技術が洗練されていないと、単なるリアリティの無い絵で終わってしまうという難点があります。
 特に後藤さんの描く絵は、かなり以前から動的表現や表情の描き方にぎこちなさが目立っているのが難点。結局は“他とは少し変わっているだけで下手な絵”で終わってしまっているのが現状です。まぁギャグマンガの絵としてはギリギリで及第点かな、とも思いますが……。

 ギャグについての所見
 後藤さんの描く作品は殆どが“天然ボケの変人に翻弄される主人公”というパターンで、今回もそれを踏襲しています。ただこの形式は、ボケキャラの“変さ”が読者の理解の範疇外に飛び出してしまい、笑いに繋がらないケースが多いですし、主導権を完全に失った主人公のツッコミがどうしても弱くなる…という側面もあります。
 特に今作は、ボケキャラの行動のベクトルが、読み手を笑わせるより主人公を窮地に追い込んでいく方に向いており、ギャグがギャグとして成立しているかすら微妙になっています。言ってみれば「ちょっと頭のおかしい人が善良な少年を不幸に叩き込むストーリーの31ページ」になってしまってるんですよね。
 作者としては、何でもかんでもゴルフに例えてしまう所を笑いに繋げたかったのでしょう。ですが、本質的に作品の内容とゴルフは全く関係ないので、その笑い所が全部蛇足になってしまっているような気がしてなりません。

 今回の評価
 評価はC寄りB−とします。後藤さんの場合、一度「天然キャラのボケっ放し」というルーチンから離れてみるのも良いかも知れません。ハッキリ言うと、これだけたくさん同じパターンのギャグを発表して未だに芽が出ないのですから、このパターンに固執している場合ではないと思うのですが……。

 ◎読み切り『番長(バカ)決定戦』作画:相原成年

(受講生の皆さんへ:この作品は評価Cとなりました。結果的に読み手の感情を損ねる論調のレビューになっている恐れがあります。この作品のレビューをご覧になるかどうかは皆さんでご判断下さい。

 作者略歴
 生年月日は現在非公開。
ただし、05年4月期「十二傑」応募時に22歳で、現在は22〜23歳
 05年4月期「十二傑」にて、今作で最終候補となり“新人予備軍入り”。今回が代原掲載による暫定デビュー作。

 についての所見
 「十二傑」の評価表には「絵」の欄に◎がついていたのですが、う〜ん、そこまで良い点を付けていいのだろうか…というのが正直な感想です。
 確かに一見するとリアルタッチの絵柄なのですが、デッサン・遠近感の歪みは明らかですし、動的表現もぎこちない状態。そして背景の描き方やトーンの使い方も、全く雑誌の誌面サイズや紙質の悪さに対応出来ておらず、非常に見辛くて汚らしい絵柄になってしまいました。

 ギャグについての所見
 こちらは全ページに渡って課題山積といった有様です。本来載るはずではなかった作品ですから、それも当たり前と言えば当たり前なのですが……。
 まずはネタの密度。15ページしかない作品で最初のネタらしいネタが出て来るのが4ページ目の最終コマ。その後も、会話がやたらと間延びしていて、ネタのテンポが非常に悪いです。
 次に問題なのが、とんでもなく弱いツッコミ。笑いに繋がるツッコミは殆ど皆無で、形だけでもボケに反応したツッコミならまだマシな方。途中からはツッコミ役の主役が、ツッコミ入れずにドン引きし始めるという、「お前が先に引いたら、読者が笑えるわけねぇだろ」的な寒々しいシーンが連発されてゆきます。
 そしてネタそのものも、目新しさも意外性も全く無い“不良の間抜けな悪さ自慢”パターン。どこかで何度も見た事があるようなネタの展開が続いたかと思えば、「ここでボケて!」的な所でスカして逃げに入ってしまう体たらく。挙句の果てには、恐らくは「ここにこういうキャラがいないとネタと話が成立しないから」という理由で、意味不明の人物が何の脈絡も無く乱入して暴れだすという“無法状態”。ギャグマンガの最低限の文法すら成立が危うい状況で、さすがにこれはちょっと酷過ぎますね……。

 正直な所、いくらノルマとは言え、この作品を熟読した上で評論するのは大変に苦痛な作業でした(苦笑)。

 今回の評価
 新人さんの芽を潰しにかかるようで気が引けるのですが、余りにも余りにもな作品ですので、評価はCとさせてもらいます。

 

 ──というわけで、今週は3作品レビューしてB−評価が最高という、喋ってる方も苦痛極まりないゼミになってしまいました。よく誤解されるんですが、駒木は出来る事なら全作品ベタ褒めしたいと思ってるんです。ただ、現実がそれを許してくれないという……。
 本当、毎週気持ち良くAクラス評価を出せる作品とめぐり合えたらどんなに幸せでしょうね。

 まぁ愚痴っぽくなってしまいましたが、何とか1回分のゼミを終える事が出来ました。この調子で遅れを取り戻して行きたいと思います。では、また今週中にお会いしましょう。

 


 

2005年度第39回講義
10月22日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第4週分)

 ご存知の方も多いでしょうが、第3回「コミックアワード」特別金賞受賞作・『絶対可憐チルドレン』が遂に単行本化となりました。どうやら既に中小規模の書店では売り切れ続出、小学館でも早々に増刷を決定するという、まずまず好調なスタートを切った模様です。
 ただ、書店員さんのブログを散見しますと、初版部数は前連載作『一番湯のカナタ』の失敗もあって、かなり抑え気味だった模様で、楽観するにはまだ少々早いかも知れません。「取次は『犬夜叉』はいいから『絶チル』回せ」や、『ハヤテ』にしても『絶チル』にしても初版の読みが甘すぎる」など、小学館と取次に対する恨み節もあちこちから聞こえて来ましたが……。
 以前、関係者の方から「小学館は、雑誌にしろ単行本にしろ、原則的には売れ残りが出ないように刷る」という話を聞いた事があったのですが、今回の件を聞いて改めて納得、という感じでした。 
 ちなみに駒木は勿論発売初日、残部僅かになった平積みから掴んでレジに直行しました。1巻には幻の読み切り版(第2回「コミックアワード」短編作品部門最終ノミネート作)も収録されていますので、興味のある方は是非、購入を検討下さい。

 次に「コミックアワード」のグランプリ枠推薦ですが、先週辺りから特定の1作品が票を重ねて頭1つ抜け出した形となりました。その候補作品はまだ未読なのですが、今から“審査”が楽しみです。
 ところで、今年度は幸か不幸か「ラズベリーコミック賞」の候補が不作気味で、頭を抱えております。単なる駄作なら「サンデー」の増刊に1冊あたり5〜6作品は載っているのですが(笑)、ブラックユーモアとしての対象になり得る作品が殆ど無いのが現状です。
 こちらの候補作まで公募するというのは、さすがに悪趣味ですからねぇ。さて、どうしますか。
 
 ……と、前置きが長くなってしまいました。そろそろゼミの本題へ参りましょう。
 今週は昨日付実施の競馬学講義で準備時間が不足している上、代原2本のイレギュラーでレビュー対象作が増えたという事情もありますので、「ジャンプ the REVOLUTION」レビューは1週お休みとさせて頂きます。ご了承下さい。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(47号)に、読み切り『キャディーガール瞬』(作画:後藤竜児)が掲載されます。
 
この作品は、先日発売の「ジャンプ the REVOLUTION」に掲載された『キャディーガール』のマイナーチェンジ版だと思われます。レビューの順番が時系列と逆になってしまいますが、とりあえずこちらを優先してレビューすることにします。
 なお、後藤さんは2回目の週刊本誌登場。不評に終わった前回のリベンジなるか、といったところでしょうか。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…4本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本&読み切り1本&代原読み切り1本
 「サンデー」
:代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年46号☆ 

 ◎新連載第3回『べしゃり暮らし』作画:森田まさのり《第1回掲載時の評価:A−寄りB+

 ●についての所見(第1回時点からの比較)
 ベテラン作家さんの作画が短期間で変わるはずも無く、特記すべき事項はありません。前回のレビューで採り上げた人物ごとの描き分けにしても、第2回以降は気にならない程度の範疇になっています。髪型と顔のパーツのバリエーションがいかに多いかの証明でしょう。

 ストーリー・設定についての所見(第1回時点からの比較)
 こちらも、第1回時点で指摘したポイントを、良い所も悪い所も共に変わりなく引き継いでいます。非常にレヴェルの高いテクニックを感じる一方で、スケールの小ささや作中ギャグの扱いには未だ苦闘中…といったところでしょうか。
 ただ、今週の第3回辺りからは、ストーリーが徐々に学校レヴェルを超えた所へ踏み出そうとしているようですので、これはしばらく様子を見たいと思います。 

 あと、ここまで気になる点としては、主人公・圭右に読み手が感情移入するための“取っ掛かり”が少ない点ですね。“人の迷惑顧みず、変人の域まで辿り着いた笑わせたがり”というキャラクターに共感させるというのは、かなり難しいテーマだと思うのですが……。
 そんなドギツいキャラの割に不快感を与えないよう配慮しているのは流石ですが、これについても、この作品を語る上ではネガティブな要素になりそうです。

 現時点での評価
 評価はA−寄りB+で据え置きます。しかしこの作品、かなり特異なジャンルの作品ですので、駒木にとっても扱いが難しいんですよね(苦笑)。
 次回評価見直しは10回時点としますが、「コミックアワード」のノミネート締切が11月末ですので、そこまでに評価を上方修正する必要があれば、適時評価見直しを実施するつもりです。

 ◎読み切り『闘魂パンダーランド 〜学業立志編〜』作画:ポンセ前田

 ●作者略歴
 生年月日は未公開だが、「赤塚賞」受賞時の年齢から推測すると現在25〜26歳
 03年下期「赤塚賞」にて、水溜三太夫名義で佳作を受賞。その後現在のペンネームに改名し、週刊本誌04年33・34号に2週連続掲載された『機動球児山田 〜めぐりあい稲木〜』でデビュー。その後、04年秋発売のギャグ増刊、週刊本誌05年7号にて『おれたちのバカ殿』を発表。
 今作は、05年春発売のヒーローズ増刊および「赤マル」05年夏号に掲載された『闘魂パンダーランド』シリーズの第3作。 

 についての所見
 
「赤マル」掲載の前作から間隔が殆ど無いこともあって、印象としてはその時述べた↓

 デビュー時に比べると、全体的にペンタッチが洗練され、徐々に良くはなっては来ていると思います。ただ、今年1月の時に述べた、「動的表現が甘く、背景の描き込みも少々不足気味。人物の表情のバリエーションも増やして欲しい」……という問題点はそのままで、これは残念でした。

 ……から殆ど変わっていません。そろそろ絵柄が良くも悪くも固まって来た感もありますね。
 これが欠点が一種の“味”になって来れば良いのですが、なまじ絵が上手くなって来たため逆に苦しいのかも知れません。洗練されたマンガとして正統派の絵柄になっている分、余計に下手な部分が目立ってしまっているのではないでしょうか。

 ギャグについての所見
 残念ながら、このシリーズは回を重ねれば重ねる程にデキが悪くなっている感があります。掲載誌の発行部数と反比例してクオリティが下がっていく作品というのも悲しいですね。

 ポンセ前田さんの作品は、学校が舞台になると『クロマティ高校』に雰囲気が酷似する特徴を持っていますが、今回も“パンダ版メカ沢”みたいなコンセプトの作品になりました。が、悪い意味で「似て非なる」を地で行く内容になってしまっています。
 まず、主役のパンダは、自分をパンダと自覚しながらも人間らしく振舞おうとします。そのため、『クロ高』のメカ沢がそうしたような、人間社会に異分子が混じる事によって生まれるネタと笑いが出て来ませんでした。1〜2箇所、「パンダが人間以上に人間らしく振舞う」という違和感で生まれるギャグが見受けられましたが、これでは質・量共に物足りません。
 また、人間社会に混じる異分子として、わざわざパンダを選択した理由が作品内から殆ど見出せない、つまりパンダでなければ出来ないギャグが極めて少ないのも大きな問題ですね。もっと生物学的なパンダの特徴を利用したネタが欲しかったです。

 あとはこれも相変わらずなのですが、ネタの密度が薄いのです。笑いに繋がらないような遣り取りも律儀過ぎるぐらい律儀に描いてしまうため、ページ辺りのネタ数がが減ってしまうのでしょう。
 無駄な場面を省略するのは、ネタの密度を濃くするだけでなく、場面を省略する事そのものもネタに繋がります(場面転換前と後の差が激し過ぎると、笑いに繋がる違和感が出るため)。今後はこの辺りも意識したネタ作りも考えて欲しいです。 

 今回の評価
 評価はB寄りB−とします。ちょっと今回の作品はネタの吟味不足、推敲不足だったのではないでしょうか。

 ◎読み切り『たいして良い思い出もできそうにない学校生活』作画:伊藤直晃

 作者略歴
 生年月日は非公開。05年上期「赤塚賞」応募時25歳とのことで、現在は25〜26歳
 「十二傑」への投稿を経て(04年12月期「最終候補まであと一歩」)05年上期「赤塚賞」にて、『たいして良い思い出もできそうにない学校生活』で準入選を受賞。そして、週刊本誌05年43号にて、その受賞作を15ページに短縮しての代原暫定デビューを果たした。今回は、その暫定デビューの際に掲載されなかったページを繋ぎ合わせたもの。

 ●についての所見
 
元々は43号に掲載された分と同じ作品ですので、基本的には全く同じ印象を受けました。
 人物作画が比較的シッカリしているものの、トーンを使うべき部分の処理が甘く、線も粗くて安定感に欠けています。率直に言って、基本的な作画技術が根本的に欠けているという印象です。ただ前回掲載された分は、技術の未熟さがギャグのクオリティに影響していないネタばかりで救われました。

 が、今回掲載分では、残念ながらそうも行かず、絵のマズさがギャグにも悪影響を与える程になってしまいました。動的表現や集中線などの特殊効果があまりにも拙く、せっかくの動きが有るはずのオチが映えないネタが目立つ結果に。
 そういうわけで、今回はさすがに減点材料にしないといけないかなぁ…という感じですね。 
 
 ギャグについての所見
 前回掲載から漏れた分を繋ぎ合わせて再構成したという事もあってか、オチのパターンもクオリティもかなりのバラつきがあったように思います。ツッコミを読み手に委ねるオチばかりで失敗した前回に対し、今回は省略とサイレントの効果を使った比較的高度なオチや、“間”が上手く決まっているオチなど、ネタによっては上手くハマっているオチもありました。
 ただ、まだ作者が想定する“ストライクゾーン”と実際の“ストライクゾーン”にはかなりのズレがあるようで、やはり多数のネタはツッコミが弱く、またボキャブラリー不足が目立ちました。先述のように「サイレント効果と“間”の余韻で笑わせるネタが良い」と思えたのは、ひょっとしたら欠点の裏返しなのかも知れません。

 今回の評価
 前回に比べて絵で減点、ギャグで加点、という事で、評価はB−に据え置きます。
 この年齢で、このクオリティでデビュー作、しかも連載枠の極端に狭いギャグという事で、伊藤さんには相当厳しい茨の道が待ち受けていると思いますが、このまま「ジャンプ」で活躍しようというのなら、覚悟を決めて精進してもらいたいものです。
 

☆「週刊少年サンデー」2005年47号☆

  ◎読み切り『織田信夫』作画:飯島浩介

  作者略歴
 生年月日は非公開。04年11月期「まんカレ」応募時26歳とのことで、現在は26〜27歳
 本人かどうか100%確認は出来ないものの、02年に『月刊少年ガンガン』のショートギャグ企画に掲載歴があるようで、これが一応のデビュー作か。
 「サンデー」では、04年11月期「まんがカレッジ」にて努力賞に入賞し“新人予備軍”入り。隔月増刊05年5月号にてデビューし、7月号にも読み切りを発表
 週刊本誌では、05年40号に代原の掲載経験がある。

 ●についての所見
 イレギュラーな代原ゆえに前回掲載の作品より製作が先か後かすら分からないのですが(というか、ネタに『セカチュー』のパロディがあるので、その頃の製作?)前作同様に粗い部分がありつつも、見易い絵柄ではあると思います。線の細・太のメリハリが良く、背景も雑に見えて必要最小限の描きこみはキッチリとこなしています。
 決して画力が高いとは言えず、高評価を出せるわけではありません。ですが、欠点を欠点らしく見せない、良い意味での誤魔化しが上手い、そんな絵と言えるのではないでしょうか。 
 
 ギャグについての所見
 こちらも前回の作品同様、ネタのバリエーションや見せ方のテクニック面自体はなかなかの水準だと思います。正統派のボケ・ツッコミを基本にしながら、“間”で見せるネタやメタなネタ、更にはト書きを絡めた変則的なネタもありました。
 ことテクニック面だけに限って言えば、(『神聖モテモテ王国』は別格として)ここしばらく概ねギャグ作品のレヴェルの高くない「サンデー」でなら、連載まで行ってもおかしくない水準ではないでしょうか。……とはいっても、これから述べるように、これもあまり積極的な褒め言葉では無いのですが(苦笑)。

 今作で問題なのは、肝心なネタの内容。余りにもベタ過ぎるというか、先の読める予定調和な展開ばかりだったような気がします。また、ページ配分やコマ割りのテンポがギクシャクしており、本来盛り上げるべき所で盛り上がらず、終わり方も中途半端に映りました。
 実はこの辺りも最近の「サンデー」ギャグ作品の典型的なパターンで、良くも悪くも「サンデー」っぽい作品…ということになるのではないでしょうか。 

 現時点での評価
 評価は今回もとします。もう一皮剥ければ…という作家さんなんですけどね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、『見上げてごらん』の連載30回評価見直し。確かに掲載順は上を見上げなきゃならない位置に落ちて来ましたが……

 ◎『見上げてごらん』作画:草場道輝
 旧評価:B新評価:B(据置)

 今回も評価据え置きとしました。
 部内対抗戦はテコ入れの疑いが濃いアッサリ過ぎる早急な決着に。その後もキャラクターの掘り下げもソコソコに、伏線を張った後は慌しく特訓編へ突入するという性急な展開が続いています。
 その間、読み手を作品世界に没入させる事も無く、本当にスリルのある、先の読めないストーリーもありません。スポーツマンガとしての手続きを淡々と重ねているだけ…という感が強く、作品のクオリティには大きな不満が残ります。ベテランさんの作品らしく、マンガとしての体は成しているので評価は下げませんが、かなり厳しい現状と言わざるを得ません。
 なお、この作品は今回で一応の評価確定とし、クオリティに大きな変化があった時のみ採り上げることとします。

 

 ──というわけで、今週のゼミを終わります。正直、代原のレビュー2つというのは精神的にキツいです(苦笑)。“させられてる感”が物凄いので、出来る事なら勘弁してもらいたいのですが……。
 特に『うえきの法則』は、異常事態が2ヶ月以上続いているわけで、そろそろ長期休載&新連載開始などの抜本的な対策を考えて頂きたいところです。まぁ代原が増える度に弱ってる読者なんて、90万読者でも駒木ぐらいのもんでしょうが……。

 


 

2005年第38回講義
10月21日(金) 競馬学特論
「ディープインパクト三冠なるか? 菊花賞直前プレビュー」

珠美:「講義の場では、随分とご無沙汰しておりました。当講座助手の栗藤珠美です。
 今週はディープインパクトの三冠達成が懸った菊花賞が行われるということで、当講座でも久々に競馬学講義を実施することになりました。今日は最後まで宜しくお願い申し上げます」

駒木:「どうも駒木です。……なんか、久しぶりにこういうトーク形式の講義をやると、何だか落ち着かないもんだね。心細いっていうか、足元覚束ないっていうか(苦笑)。
 ……なので、今日は他の研究室メンバーも交えようと──」
順子:「はーい、一色順子です! 今日はディープインパクトを外した馬券が買えないか研究しに来ました(笑)」
駒木:「なんだその空気読めてない第一声は(苦笑)。……ていうか、リサちゃんも呼んだはずだけど来てないのかな?」
順子:「あ、あの子、大学の仲間と昨日から京都競馬場に並びに行ってます(笑)。だから今日は欠席させて下さい、ですって」
珠美:「き、昨日から?」 
駒木:「それは麗しき学生生活だねぇ(笑)。でも徹夜組の一番乗りは、秋華賞が終わった直後から並んでいるそうだ(笑)。凄いと言うのかバカと言うのか。
 でもそんな事、競馬ブームの頃でもなかなか無かった事だよね。まぁ盛り上がらないより余程マシじゃないのかな。2年前のネオユニヴァースの時とは大違いだ。ネオと違って無敗だから、とかバカみたいに強いから、というんじゃなくて、これはディープインパクトが持ってる得体の知れないカリスマ性の所為のような気もするね。
 これが一過性の“熱病”で終わっちゃうのか、それともオグリキャップみたいに、10年規模の競馬ブームを起こさせる起爆剤になるのか。まぁそういう辺りも注目ってところなんだろうね」
珠美:「……ところで博士は、11年前のナリタブライアンの三冠達成をリアルタイムでご覧になってるんですよね。その時の盛り上がり方はいかがでしたか?」
駒木:「そうだなぁ……。これは人によって感じ方も違うかも知れないけど、取り立てて『ついに三冠!』という感じじゃなかったような気がするね。勿論、競馬マスコミはそれなりに盛り上げてはいたし、ファンも盛り上がってはいたけれども、普段のG1と全く別物って感じじゃなかった」
順子:「そんなもんだったんですか? 菊花賞のビデオ観ると、杉本(清アナウンサー)さんが『10年ぶり! 10年ぶりの三冠馬!』って叫んでたんで、てっきり物凄く盛り上がってるもんだと……」
駒木:「まぁあの場面でアナウンサーが白けてちゃどうしようもない(笑)。…んー、何て言うのかな、ブライアンの場合は漠然と三冠達成が規定路線みたいな感じだったからね。『トライアルは2着だったけど、まぁ普通に三冠獲るんだろうなぁ』みたいなね」
順子:「普通に三冠獲るだろうって(笑)」
駒木:「それくらい強かったって事だよ。ファンの興味は三冠獲った後、暮れの有馬記念で兄貴のビワハヤヒデと対決する所に飛んでたからねぇ。しかもそれが1週間前の天皇賞でハヤヒデが怪我して引退してダメになったばかりだったから、むしろ少し盛り下がってたかも知れない。杉本さんの実況の『弟は大丈夫だ!』ってフレーズも、ここだけの話、ちょっとスベってた。宝塚記念の『アイルトンセナ、いやアイルトンシンボリ』ほどじゃないけど(笑)」
珠美:「そういう意味では、ナリタブライアンと同様に三冠達成が濃厚だと思われるディープインパクトが、これほど注目されるのは興味深いですね」
駒木:「本当にね。まぁタイミングもあるんだろうけど、さっき言ったようにディープインパクトそのものに魅力があるんだろうね。これほど1頭の馬で盛り上がってるのって、多分ハルウララ以来じゃないかと思うんだけど」
順子:「最弱か最強か、ですか(笑)」
珠美:「どちらにしろ、競馬界全体が注目されるのは良い事ですよね」
駒木:「そうだね。例えば最近僕がハマってるプロボクシングの業界なんか、世界チャンピオンが日本のジムに何人もいるのに、世間的には全然盛り上がってないわけだよ。一応、業界一の人気選手扱いの亀田興毅にしたって、試合会場はガラガラだし、新聞記事ももっぱら格闘技欄の穴埋め記事がせいぜいだ。
 そういう意味では、業界を代表する最強の存在が正しい形で大きくクローズアップされるという事だけでも恵まれてるとは思うよ。プロ野球とかと違って、いつも注目されてるとは限らないスポーツだしね、競馬って。こういう時に思う存分注目されておいた方が良い」
珠美:「……となると、ディープインパクトには是非とも三冠を達成してもらわないと、そこで話題が終わってしまいますね」
駒木:「そうだろうなぁ。とりあえず、競馬界全体の事を考えると、この馬にはしばらく勝ち続けて貰わないとね。最低でも菊花賞は勝ってもらわないとシャレにならない。……まぁディープインパクトなら、三冠馬になる必要条件をクリアしてるから大丈夫だとは思うけど」
順子:「三冠馬になる条件ですか? それはローテーションとか、G1の勝ち方とか?」
駒木:「いや、そういうのじゃなくて、もっと基本的な所」
順子:「……?」
珠美:「それでは質問を変えましょうか。博士がお考えになっている、『三冠馬になるために最も重要な条件』とは何になりますか?」
駒木「ケガとか病気しない事。夏に体調崩さない事
順子:「そ、そんな当たり前過ぎる……(笑)」
駒木:「結果になってからでは当たり前だけど、それ以前なら真面目な話。皐月賞、ダービーと勝った二冠馬で三冠を獲り損ねた理由として一番多いのがコレだからね。実力的には三冠馬になってもおかしくなかった馬が、菊花賞に出られなかったり、出て来ても勝ち負け以前の状態だったり。『無事是名馬』とはよく言ったもんだよ」
珠美:「それでは、次に重要な条件は何でしょう?」
駒木:「次かい? その次は『ライバルに恵まれない』こと。特にひと夏越して力をつけて来るステイヤー系のライバルは三冠の大敵だね」
順子:「ミもフタもないこと言いますね(苦笑)」
駒木:「いやだって、勝ったり負けたりの力関係の相手とG1の度に激しく競り合って、それで全く違う条件で3連勝するなんて至難の業だよ。第一、三冠馬なんてのは、一世代内の相対的なNo.1なんだから、絶対的な強さは必要ない。要はその年のクラシック戦線に出て来る馬の中で一番強ければ問題ない」
順子:「それはそうですけど……」
駒木:「僕は、これが本当に重要な条件だと思ってる。過去の三冠馬の3歳時のライバルホースって、どれもG1級のレースは無冠のままで、変則的な例外は三冠牝馬のスティルインラヴぐらい。だいたい三冠馬の元・ライバルは、古馬になったらG2勝ちも覚束ないままフェードアウトしてゆく。追記:ミスターシービーの場合、クラシックでは“ライバル未満”の存在ながら、古馬になってから立場が逆転したカツラギエースという、扱いの難しい対抗馬が居た事を特記しておきます)
 だから、楽に勝てる相手しか相手にしない、これが三冠達成の秘訣だったりする。
 逆に、ライバルに恵まれちゃうと、いくら力があっても三冠は至難の業。ビワハヤヒデとか、スペシャルウィークとか、実力的には三冠獲ってても不思議じゃなかったはずだよ。けど、運悪くこれらの馬と、特定の条件でなら勝ち負け出来る“刺客”馬が1〜2頭いたために1冠だけで終わっちゃった。
 あと、菊花賞になって能力が開花したライバルにぶつかったミホノブルボンとかネオユニヴァースとかね。秋の昇り馬ってのは、それまで散々勝って来た相手が突然変貌するだけに、油断してる分だけ余計にタチが悪い。
 更に逆に言えば、エアシャカールなんて下手したらあの実力で三冠馬だったわけ(笑)。幸か不幸か、アグネスフライトという、この馬の強さなりのライバルがいたお陰で“三冠馬版・オペックホース”にならなくて済んだわけだけど。
 ……んー、そういう意味で言えば、やっぱりある程度強くないと三冠は難しいとも言えるかな。『G2が精一杯クラスの馬が相手なら難なく勝てる』ぐらいの実力があった方が良い。勿論それが無くても可能性はあるけどね。強い馬が三冠馬になるんじゃなくて、三冠レースを全勝した馬が三冠馬になるわけだから」
順子:「だんだん聴くのがイヤになって来ました(苦笑)。博士、そんな盛り下がることばかり言ってるから、いつまで経っても彼女できないんですよ」
駒木:「ほっとけ(笑)」
珠美:「(苦笑)。……えーと、他に三冠馬に必要な条件を挙げるとすれば、どんなものがありますか?」
駒木:「次は距離適性だろうね。当たり前だけど、ベスト距離が1200じゃタイキシャトルぐらい強くても三冠は無理(笑)。2000がベストだと、ダービーは何とかなっても流石に3000mで勝ち負けはキツい。逆に菊花賞がベストという馬だと、春シーズンに間に合わなくて、これはむしろ三冠馬を阻止するような馬になってしまう。やっぱり2400m前後がベスト距離の馬が良いね。距離適性から微妙に外れた皐月賞と菊花賞は実力差で捻じ伏せるしかない。ライバル不在の状況に恵まれないと三冠は難しいってのはそういう意味もあるんだ。
 あとは早熟すぎず、晩成過ぎないこと。クラシックシーズンに入った頃に成長が止まっちゃう早熟さじゃ厳しい。かと言って、いくら将来活躍出来る素質は有っても、3歳春のトライアルシーズンまでに新馬・2戦目を勝って、弥生賞あたりから本格化出来るようじゃないと、皐月賞にすら出られない。当たり前だけど三冠レースに全部出走しないと三冠は不可能だからねぇ。
 あと最後に、その競走能力が人間の力でコントロール出来るタイプであること。気性であり、脚質の融通性かな。いつ好走出来るのか計算できない馬じゃ、G1レース3連勝は難しい。追込脚質で破天荒なイメージのミスターシービーも、あれで凡走らしい凡走が少ないタイプだったし、菊花賞は3コーナー大捲りをこなすような器用さもあった」
珠美:「まとめますと、『リタイヤするようなケガ・病気をしない』、『同世代にG1級のライバルが不在』、『2400m前後がベストの距離適性』、『クラシックシーズンに合わせて成長する』、『安定してポテンシャルを発揮できる』、そして出来れば『G2クラスの馬なら問題にしないぐらいの強さ』があれば更に良い…と」
駒木:「そういう事だね」
珠美:「ディープインパクトや他の三冠馬を見ていると、当たり前のように思える条件ばかりですけど、別にこれらを全て兼ね備えた馬を探そうとすると難しいですね」
駒木:「馬の絶対的な強さ・速さに関係ないから余計にね。これが“○○ぐらい強い馬”って括りだと、逆にたくさん出て来るんじゃないかな。幅が狭い条件とか、他力本願な条件があるからレアなんだよ」
順子:「……ということは、三冠って、純粋な強さだけじゃどうにもならないから価値がある、ってことなんでしょうか?」
駒木:「うん、そうだろうねぇ。強さよりもレアさってところかな。いや、三冠馬にケチつけてるわけじゃないよ。単純に強い馬より三冠獲った馬の方に値打ちがあるのは事実だしね」
順子:「それじゃ、ディープインパクトも思ってるほど強くないってこと……に?」
駒木:「いや別に三冠馬が強くないって言ってるわけじゃない。絶対的な能力が高い馬は相対的にもそうなり易いんだからね。特にディープインパクトは、必ず出遅れるっていう致命的な欠点を格段の能力差でフォローして来た馬だから弱いはずが無い。レースのビデオ観る度に思うもの。『反則だ』って(笑)。
 ただ、ディープインパクトのライバル不在は徹底してるからなぁ。古馬のエース級との能力比較になると、まだ確信めいた事は言えそうにない。ジャパンCなり、有馬記念で手合わせしてみないと判らないね。ゼンノロブロイとタップダンスシチーを相手にダービーみたいなレースが出来たら、それはルドルフ以上の専制皇帝が誕生する事になるんだろうけど、その保証は全く出来ないからね。
 まぁでも、天下のルドルフでも3歳のジャパンCは3着に負けてるんだから、本当の実力査定は4歳になってからだろう」
順子:「かなり強いけど、とびきり強いかは来年次第、と。博士と話してるとテンション下がりますね(苦笑)」
駒木:「競走馬の“強さ”の源って、幻想というか最大限楽観的な期待に負う所が大きいからね。馬券の予想でもそうだけど『これくらい強かったらいいなぁ』が、知らない内に『これくらい強いはず』に変わってる。だから至極真っ当な現実を述べただけで、そういう事になっちゃうんだよ。駒木研究室で勉強してる以上は、その辺は割り切れ(笑)」
順子:「まぁディープインパクト外しで馬券買っても良さそうって気にはなりましたけど(苦笑)」
珠美:「話が徐々に馬券の方へ向いて来たところで、そろそろレース展望へ移りましょうか。既に出走表が発表されています」


第66回菊花賞 京都3000芝

馬  名 騎 手
コンラッド 小牧太
ヤマトスプリンター 池添
ミツワスカイハイ 渡辺
ローゼンクロイツ 安藤勝
アドマイヤフジ 福永
アドマイヤジャパン 横山典
ディープインパクト 武豊
シャドウゲイト 佐藤哲
エイシンサリヴァン 吉田豊
10 レットバトラー
11 シックスセンス 四位
12 ピサノパテック 岩田
13 ディーエスハリアー 石橋脩
14 フサイチアウステル 藤田
15 マルブツライト 松岡
16 マルカジーク 角田

珠美:「まずは博士、このメンバーを俯瞰しての雑感をお願いします」
駒木:「いやぁ、三冠達成濃厚ですね、って感じかな(笑)。勝負付けの終わった馬と、登録頭数が少ないから出走出来た条件クラスの馬だらけ。セントライト記念組と別路線組の何頭かに僅かな希望があるけど……それを『危うしディープインパクト』なんて言うほどスポーツ新聞に毒されちゃいないよ僕は」
順子:「じゃあやっぱりディープインパクトに死角なし、ですか?」
駒木:「いや、あくまで『濃厚』。『確定』じゃないよ。競馬がギャンブル・スポーツたる所以というか、まだ未確定の要素が残っている以上は何が起こるか判らない。
 よく僕たちは『死角なし』なんて軽はずみに言うけれども、ディープインパクトだって所詮は1頭のお馬さんなんだから、どこかに死角はあるはずなんだ。例えば、この馬はロングスパートを仕掛けておいて、ラスト2ハロンから更に加速するのが一番凄い所なんだけど、これがもしかしたら3000m以上のレースでは不発に終わるのかも知れない。そうなると、外から一気に追込馬がやって来て、これまで経験した事の無い追われる恐怖に苛まれたら……まぁあくまで仮定の話だよ。
 だから死角は無いんじゃなくて見えてないだけ。ひょっとしたら、ディープインパクト陣営にも見えてない死角が、他の馬の陣営や騎手には判ってるかも知れない。もしそうだとしたら大波乱の可能性は大だね。実際、大本命がコケるレースというのは、死角が無いように見えて実はあった…というケースが殆どだ。勿論、『もしも』が2つ3つ重なった上での結論だから、実際の可能性は僅かだろうけど。でもゼロじゃないよ」
順子:「分かりました。博士の言葉で、泥舟に乗ったつもりで穴狙いします!(笑)」
珠美:「ところで、展開はどうなるのでしょう? ディープインパクトが出遅れて最後方近くから発進するのは分かるのですが……(笑)」
駒木:「菊花賞はイレギュラーな展開が起こりやすいから予想し難いよね。ナリタブライアンの時もスティールキャストが大逃げしたし、差し馬が押し出されて先行、なんてレースも珍しくない。ただ、このレースにしても、ディープインパクトの勝ちパターンにしても、展開云々で決まる要素が低いから、それほど展開は重要視しなくても良いんじゃないかと思う。どうせ勝つ時は3コーナーからバーッと上がって直線でチュドーン! だから」
珠美:「(笑)
 
駒木:「ただ、これまでのレースを見る限りでは、ディープインパクトは自分の後ろから迫る差し馬は全く問題にしないんだけど、直線の時点で内ラチ沿いで先に抜け出している馬にはちょっと苦戦している。弥生賞のクビ差もそれだね。
 だから、波乱を呼ぶ展開としては、ステイヤーの資質があるけど注目されて来なかったダークホースが大逃げを打つとか、先行馬がディープインパクトのスパートに合わせて最内からロングスパートを仕掛ける『ナリタブライアンを倒したスターマン』パターンとか。ともかく、直線入口で“貯金”を作るのが必須条件。それが守れるかどうかは二の次。瞬発力勝負で敵うはず無いんだから。
 あとはそれこそ、さっきの仮定の話みたいにディープインパクトの距離適性が3000mに合わない事を祈る他力本願作戦ぐらいか。でもまぁどの馬も負けて元々なんだから、他の騎手にはアグレッシブな騎乗を期待したい」
珠美:「では、具体的に“打倒・ディープインパクト”が僅かでも期待できる馬を挙げて下さい」
駒木:「一番期待できるのはゲートで落馬かな(笑)」
珠美:「…………!(3年前、ノーリーズンに賭けて財布にあるだけ負けた事を思い出して物凄い顔をしている)」
駒木:「その顔見せると婚期が遅れるから隠した方が良いよ、珠美ちゃん(笑)。……まぁ悪質な冗談はさておき、神戸新聞杯組のシックスセンスローゼンクロイツは能力的にも脚質的にも逆転は難しそうだなぁ。ラジオたんぱ賞のコンラッドも、余程思い切った乗り方をしない限りはこのカテゴリ。まぁこれらの馬は順当な展開になった時の2、3着候補としては有力だけどね。
 僅かでもジャイアントキリングの可能性がある馬を探すと、セントライト記念組のフサイチアウステルピサノパテック。4角先頭型の先行馬だから出し抜けをカマすとしたらこのどちらか。ただ、この2頭、揃いも揃ってズブいしジリ脚なんだよね。それでセントライト記念でもキングストレイルにやられちゃってるし。それが今度はディープインパクトだから、まぁ難しいだろうね。むしろ大逃げ打った方が面白い。
 あとは実際に弥生賞でクビ差まで追い詰めたアドマイヤジャパンだけど、この馬はまず自分自身が万全にならなきゃね。神戸新聞杯(5着)みたいなレースだと勝負以前の問題だ」
順子:「じゃあ、スピードよりもスタミナ、みたいなステイヤー型の馬はいそうですか?」
駒木:「最近の長距離レースの傾向としては、スピードはスタミナを駆逐するからねぇ。抜群のスピードと、その距離をこなすのに必要最低限なスタミナを持った馬がまず最上位に来て、次に“そういう馬が居ない時に限り”で、決してバテないスタミナを武器にロングスパートで捻じ伏せるタイプが台頭する。
 今回はディープインパクトがいるからね。ディープインパクトがガス欠起こさない限りはそういう馬に出番が無いし、そうなった時はディープインパクトじゃなくてアルマゲドン(最終戦争)状態だよ」
順子:「その『上手い事言った』みたいな話の締め方、なんかヤですね(笑)。……まあとにかく、常識的に考えて全く予想出来ないことが起こらない限りはディープインパクトが勝ちそう、で良いんですね?」
駒木:「そういう事だね。だからディープインパクトを外して馬券を買う場合は、むしろディープインパクトがいないつもりで予想するのが良いんじゃないかな」
珠美:「まだ語り足りない部分もあるかと思いますが、そろそろお時間が来たようです。一応、現時点でのフォーカスを挙げて頂けますか?」
駒木:「常識的に考えると、ディープインパクト軸しかないだろうねぇ(苦笑)。馬単オッズと大して変わらないし、保険の意味でも馬連で。儲け出そうと思ったら4-7、7-11、1-7の3点で留めないと厳しいか。
 大波乱の時は前残りか、中団の最内で様子眺めしてた馬が有利かな。6、12、14のボックス。どれも万馬券だから、100円ずつでも十分楽しめそうだ」
順子:「わたしはセントライト記念組の2〜4着馬の馬連ボックスと、この3頭を軸に3連複と3連単を狙ってみます」
珠美:「私は、やはりディープインパクトから、オッズとお財布と相談しながら色々と楽しんでみたいと思います。
 ……それでは、久し振りで最後まで勘が戻らない所もあったかと思いますが、今日の競馬学講義を終わります。最後までご清聴有難うございました」

 


 

2005年度第37回講義
10月15日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第3週分)

 現在募集中の「コミックアワード」ワイルドカード推薦ですが、既に2票獲得=予備審査推薦決定が3作品出ております。ただ、昨年度の『おおきく振りかぶって』のように票が集中する作品はなく、票は完全に割れ気味ですね。
 去年の『おお振り』の推薦文を読み返すと、推薦人各位の「何としてもこのマンガを駒木に読ませるぞ!」という熱意が篭っているのを感じます。思えば、この作品がグランプリを獲ったのは必然だったのかも知れませんね。

 なお、推薦の募集は11月末まで続行します。推薦要件を満たす良い作品をご存知の方は、是非とも熱き1票を駒木のメールボックスへ。

 ──それでは、ゼミを始めます。今週も「ジャンプ・ザ・レボリューション」のレビューをお送りするつもりですが、時間と駒木の余力の関係上、先週同様に日曜〜月曜に追加振替の形を採るか、独立したミニ講義を実施する事になると思います。ご了承ください。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(46号)に、読み切り『闘魂パンダーランド 〜学業立志編〜』(作画:ポンセ前田)が掲載されます。
 
昨年のギャグ増刊、そして今年の「赤マル」と連続して掲載されたショートギャグ作品が週刊本誌登場です。
 読み切り掲載のチャンスをなかなか繋げられないポンセ前田さんですが、今回こそ結果を出せるのか、というところも注目になりそうですね。

 ★新人賞の結果に関する情報

第29回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年8月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『刀無』
   平方昌宏(19歳・東京)
 《星野桂氏講評:キャラが活き活きとしており、結末もオチがあってしっかりしていた。強いて言えば、主人公に呪いをかけたキャラの説明が不十分でだった点が若干わかり辛い印象。》
 《編集部講評:キャラが魅力的で、話の導入も良い。千人を切った侍だという部分を納得せる一面が描けていればなお良かった》
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『蒼煌のレウ』
   江藤俊司(23歳・福岡)
  ・『修理屋』
   西島麗(19歳・宮城)
  ・『Three Swordman's Nostalgia』
   梧桐柾木(20歳・京都)
  ・『オタッキュウ』
   鈴木ヒカル(20歳・千葉)
  ・『伝説の少年』
   佐藤亮輔(年齢非公開・新潟)
  ・『辺境惑星“E”』
   吉村英明(24歳・神奈川)
  ・『Crimson −クリムゾン−』
   神崎暁也(22歳・大阪)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎十二傑賞の平方昌宏さん04年11月期「十二傑」で最終候補。04年3月期「十二傑」にも投稿歴あり。また、現在通学中の専門学校のサイトに写真とインタビュー掲載中(9/27付)。
 ◎最終候補の江藤俊司さん…04年1月期「十二傑」でも最終候補。03年06月期「十二傑新人漫画賞」で投稿歴あり。

 ◎最終候補の西島麗さん…03年下期「ストーリーキング」マンガ部門で最終候補。
 ◎最終候補の
梧桐柾木さん…05年6月期「十二傑」で作画担当者として最終候補。
 ◎最終候補の
吉村英明さん02年6月期「天下一漫画賞」に投稿歴あり。

 ……今回は、過去の最終候補者の再チャレンジ大会となった模様です。偶然か、慣例か、こういう月が年に数回ありますよね。まぁ7〜8月は学生さんにとっては夏休みなので、「総合的に応募作が多くなる→手馴れた投稿経験者がどうしても上位に来る」という図式なのかも知れませんが。 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年45号☆ 

 ◎新連載『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜

 ●作者略歴
 1985年8月6日生まれの現在20歳。現役大学生(……だが、連載中の学業両立は困難そう)。
 01年8月期「天下一漫画賞」で特別賞を受賞して“新人予備軍”入りした後、03年3月期「天下一」にて『SEA SIDE JET CITY』準入選を受賞し、これが「赤マル」03年夏号に掲載されてデビュー。その後、1年4ヶ月のブランクを経て「赤マル」05年冬(新年)号、及び05年19号に、今作と同タイトルのプロトタイプ版読み切りを発表。この一連の流れで評価を高め、初の週刊連載獲得となった。

 についての所見
 
連載前に2度の“試走”を重ねていることもあるのでしょう、人物作画を中心に、安定感がありますね。また、デビュー時のぎこちない線の面影は全く無く、2年半のキャリアの中で、確実に作画作業に手馴れているのが分かります。
 ややマンガ的にディフォルメが強過ぎる画風だけに好き嫌いが分かれる可能性もありますが、洗練された好感度の高さも兼ね備えています。「ジャンプ」の連載作品として通用する水準には達しているのではないでしょうか。

 ただ、顔面・バストアップのコマが多めで構図は相変わらず単調に映りますし、集中線の引き方がズレているのか、動的表現に迫力が全く感じられないのは大きな問題ですね。全体的にどのコマも止め絵臭いので、決めのシーンの見栄えも今ひとつ。インパクトに欠ける画面構成に陥っている感は否めません。

 ストーリー・設定についての所見
 
こちらも「読み切り版から相変わらず」なのですが、脚本・構成・演出の拙さが目立ちます。とにかく冒頭から中盤にかけて文字による説明に頼り過ぎで、設定から話の筋書きから全てがト書き・説明的なセリフの羅列で進行していっています。
 その結果、いわゆる“カメラワーク”が動きの無い単調な顔面・バストアップの連続になり、長セリフと相まって、極めて冗長な展開になってしまいました。後半に入って多少演出に力が入ったシーンもあったのですが、手垢の付いた平凡な脚本のせいもあり、盛り上がりに欠ける印象でした。残念です。 

 次にプロトタイプ版以来、この作品の“肝”の部分となっているトリックですが、今回は「赤マル」掲載版の焼き直しとなる牢破りでした。当時からネット界隈の評判は今ひとつだったと記憶していますが、まぁ見たところ致命的な矛盾は無いようですので、これ自体を減点材料にする事はありません。
 ただ、トリックのレヴェルはさておいても、成功にまず敵失菓子に擬した道具の持ち込みと差し入れの看過)が必要な時点で、大いに興が削がれた感が否めません。また、一連の作業における段取り臭さがストーリーのテンポを悪くしたという側面もありはしないでしょうか。 それに、そもそもこの「トリックを使った問題解決」というのが、果たして良いのかどうか、という問題もあります。下手にトリックで押すよりは、痛快なアクションシーンを交えたパワープレイの方が、“静”と“動”のコントラストや、テンポとダイナミックさに溢れた演出でプラス効果が得られる分だけ勝ると思うのですが……。
 トリックは、この作品のアイデンティティではあるのですが、そのアイデンティティが作品全体のクオリティに繋がっていないとなれば、早い時期にテコを入れるという選択肢も浮上するでしょうね。

 また他にも、主人公・ポルタの“偽悪人”描写の中途半端さなど、誌面の至る所から“生温さ”のような物が漂う第1回だった…という感が強く残りました。新連載不作の続いた02〜03年にタイプスリップしたかのような錯覚を覚える、前途多難の船出と言えそうです。

 今回の評価
 この作品が人気投票でどういう成績を収めるかは未知数ですが、当ゼミとしては完全な失敗作としてB−評価に留めます。現状は「この作品を連載しようとしたのが最大の失敗」といったところでしょうか。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週は『タカヤ』の連載20回評価見直しです。

 ◎『タカヤ -閃武学園激闘伝-』作画:坂本裕次郎
 旧評価:B−
新評価:B−寄りB

 打ち切られた“同期”2作品を尻目に3クール目に突入したこの作品ですが、ここへ来て唐突に格闘技トーナメントが開幕するテコ入れが実行されるなど、順調とは言えない現状のようです。この分かり易いテコ入れ、以前は「ジャンプ」のセオリーだったのですが、最近では珍しいですね。

 さて、その“勝負”テコ入れ後の内容ですが、残念ながら、やや低調と言わざるを得ません。どこからどう見ても『DRAGON BALL』の天下一武闘会『グラップラー刃牙』の最強トーナメント編、というオリジナリティの欠如は拭い難く、それをさておいても、登場選手のキャラクターの弱さ先の読めてしまうトーナメントのマッチメイク構成、更には戦闘シーンそのものの淡白さと、ネガティブな要素満載な内容に終始しています。
 主人公・タカヤや準主役クラスが絡んだ試合では、もっとタカヤや主要キャラが窮地に陥るようなスリリングな展開が欲しいですし、他の試合でも読み手の予想を裏切るような出来事がもっとあっても良いはずです。どうせ『刃牙』を真似るなら、街の暴走族がマイク・タイソン(みたいな人)に勝っちゃう位のサプライズまで完全コピーしてもらいたいものです。
 まぁそもそも、根本的に登場人物が揃っていない時点で総集編的なトーナメントをやる事自体無理があるのですが……。

 評価の上方修正は、バトルの特化で低水準のドラマが無くなった分だけ減点材料が消えたから…と解釈して下さい。悪意と受け取られたら不本意なのですが、まぁ駒木はそれぐらいこの作品をクオリティ面で買ってないと考えてもらっても構いません。
 

☆「週刊少年サンデー」2005年46号☆

 もう御馴染みという感じで、『うえきの法則プラス』が休載&代原掲載。最近の「サンデー」は、カテナチオな編集方針なので、貴重なレビューの機会ではあるんですが……。でもどうせレビューするなら連載経験者の重厚な読み切りが読みたいんですよね。

 ◎読み切り『天晴れ! 半ケツ侍』作画:遊眠

 作者略歴
 生年月日は非公開。05年前期「コミック大賞」応募時27歳とのことで、現在は27〜28歳
 05年前期「小学館新人コミック大賞」少年部門で佳作入賞。この時の受賞作『(カリスマ)整体新米臨時教師ゴトサン』が、隔月増刊05年9月号に掲載されてデビュー。
 今回は代原ながら初の週刊本誌登場。

 ●についての所見
 新人さんの、しかも代原用のストック原稿ですので仕方ありませんが、原稿が雑誌に掲載されてどうなるか分かっていない…というような描き方ですね。全体的にゴチャゴチャした画面構成で、描線やトーンの網目が必要以上に細かくて見辛い絵になってしまいました。大きめサイズの原稿用紙から、雑誌サイズの質の悪い紙への縮小印刷が行われる事を全く意識していない感じで、これでは載せるのが逆に可哀想なくらいです。
 技術的な面では、集中線などの特殊効果に無駄が多く、こちらも見辛さに拍車がかかっています。また、全般的に読み手の目を惹き付けるべきポイントの強調が甘く、読み手が真っ先に目が行くところにギャグのポイントが来ていない…という個所もいくつか見受けられました。
 
 ギャグについての所見
 とにかくギャグの密度を濃くして、テンポ良く読ませようという意欲“だけ”は窺えるのですが……。残念ながら、粗製濫造のネタをただただ無闇矢鱈に注ぎ込んだだけに映ってしまいました。
 これは、登場人物のキャラクターが定まっておらず、更にはネタとネタとの間に余りにも脈絡が無いからだと思います。読み手を笑わす以前に戸惑わせるマンガと言えば良いのでしょうか……。
 まぁ主役格の侍には「鞘当てにこだわる」と「半ケツ」というキーワードがあると言えばあるのですが、その2要素自体が全く脈絡がないですからね……。

 ネタのクオリティも疑問が残りますね。ボケよりも何の工夫の無いツッコミの方が強調される構成になっていたり、言葉の使いまわしの工夫が乏しかったりと、笑いの間口を狭めよう、狭めようとしているように見えてしまいます。とにかくネタの見せ方で大きく損をしているという印象ですね。

 現時点での評価
 ちと厳しいかも知れませんが、とても商業誌に載せる水準には達していない、ということでC寄りB−の評価に留めます。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、連載第30回を迎えた『ブリザードアクセル』の評価見直しです。

 ◎『ブリザードアクセル』作画:鈴木央
 旧評価:A−新評価:A寄りA−

 相変わらず微妙な評価の表現で恐縮ですが、実質0.5ランクの上方修正です。ビギナーが成長していくスポーツ物作品にとっては難関の序盤を突破して、完全にお話が軌道に乗って来た感じです。
 まず、主人公・吹雪がフィギュアスケートの実力が着いて来るにつれ、正面突破でライバルを打ち負かせるようになったのが大きいですね。読み手にカタルシスを与え易くなりました。
 次に、全寮制の合宿と共に新規登場人物を大量投入し、彼らのキャラが徐々に浸透して来たのも良いですね。かなり個性の強い敵役キャラも登場し、今後の展開も楽しみです。

 現在はまだ地味な佳作…といったところですが、今後一気に大化けする可能性も秘めた、期待の一作です。世間的には全く注目されていない作品ではありますが、こういうマンガこそ、当ゼミがプッシュしていきたいですね。

 

 ──というわけで、とりあえずレギュラー企画はここまで。この後は、「ジャンプ」増刊レビューをお送りします。今週は2作品のレビューとなります。
 ところで前々回のゼミ内で述べた、ウィキペディア・『ネウロ』の項目内で当講座が不本意な扱いを受けていた件ですが、15日にどなたかが削除修正を施して下さいました。有難うございました。

◆「ジャンプ the REVOLUTION」レビュー(2)◆

 ◎『マジシャンズ ジャッジメント』作画:尾崎裕一

 作者略歴
 1978年10月12日生まれの27歳
 新人賞受賞歴等、デビュー以前の経歴については資料不足のため不明・調査中。「赤マル」00年春号にて『PENALTY』でデビュー。その後、澤井啓夫さんのスタジオでアシスタントを務める。
 今作は、実に5年5ヶ月ぶりの復帰作となる。

 についての所見
 背景からは無駄な部分がキッチリと省かれていますし、描線も比較的安定しています。見易さという点ではなかなか高い水準の絵柄ではないでしょうか。

 ただ、動的表現にぎこちない面もあり、アクションが必要な所で迫力に欠けるなど、手放しで褒めるには躊躇を覚えてしまいます。また、老若・美醜の描き分けが極端過ぎ、リアル系の絵柄とマンガっぽいディフォルメの施された表現が混在しているのも、余り良いとは思えません。
 もう少し全体的にリアル志向の絵柄を目指すぐらいで丁度良くなるのではないかな、と感じました。
 
 ストーリー・設定についての所見
 フォーマットは過去作も多い“『必殺仕事人』型復讐モノ”で、そこに「手品」という独自の要素を交えた設定ですね。手垢の付いた設定ににオリジナルの要素を混ぜて独自性を演出する…というのは、話作りの基本ではありますが、だからこそ、それが守られているのに好感が持てます。
 ただ、今作の暗くてシリアスなストーリーの流れの中で、「手品」という非現実的な明るさを伴う要素はミスマッチだったのではないでしょうか。読み手によっては、主人公の能天気な振る舞いが好感度を押し下げてしまうかも知れません。独創性のあるアイディアながら、それが活きる環境を与えられずに拒絶反応を起こしてしまったかな…といったところです。

 また“『必殺仕事人』型復讐モノ”のシナリオにしては、読み手に与えるストレスとカタルシスの振り幅が小さかったように思えます。あんまり大き過ぎると、それはそれで読み手がエグさに引いてしまうので問題ですが、エンターテインメント性を追求するなら、ある程度の残酷さも必要不可欠なはずです。
 まず被害者が酷い目に遭って読み手に“復讐願望”のようなモノが沸き上がらせ、それを作中の主人公(=復讐者)に仮託させて作中世界や登場人物に対する感情移入が一気に促進させる。そして、その後の復讐シーンによって、一気に溜め込んだストレスをカタルシスに転換させる…という流れ、これこそが“『必殺仕事人』型復讐モノ”の黄金パターンではないでしょうか。
 それを考えると、今作は被害者側の被害も、復讐者側の復讐も、かなりヌルかったのではないかな…と思います。特にこの増刊では、巻頭カラーで美少女が両足を切断されて舐め回されるマンガが掲載されていただけに、余計インパクト不足が浮き彫りになっていました。 

 今回の評価
 評価はB寄りB−とします。ただ、この作品は「作家の実力不足がもたらした駄作」というよりは、「作家が実力の使い方を誤った失敗作」という感じです。次のチャンスでは、アイディアを練りに練り、推敲に推敲を重ねて、実力が遺憾なく発揮された作品を描かれる事を望みます。

 ◎『World 4u_』作画:江尻立真

 作者略歴
 生年非公開で6月18日生まれ。後述のように98年に大学在学中に本格的な活動をしていた事から考えると、現在20代後半ではないかと考えられる。
 金沢大学の漫研出身で、そこではマンガだけでなくアニメ制作にも関わったという本格派。在学中の98年末、「赤マル」99年冬(新年)号に『CHILDS』を発表してデビュー。「赤マル」には99年夏号にも読み切りを掲載。
 その後4年のブランクがあり、週刊本誌03年25号にて、今作に至る『World 4u_』シリーズの第1作で復帰。その後、04年5・6合併号にシリーズ第2作を発表した。
 今作はそれ以来1年9ヶ月ぶりの復帰作にして、シリーズ第3作目となる。
 なお、作家以外の活動としては、尾田栄一郎さんのスタジオでアシスタントを務めている(いた?)。

 についての所見
 繊細かつ高度に洗練されたレヴェルの高い作画技術は今作でも健在。特に今作では、以前に比べて描線の強弱が強調されるようになっており、見栄えの良さも更に増して来た印象があります。絵だけでカネが取れる希少な才能を持った若手作家さんですね。
 得も言われぬ“マイナー系月刊誌っぽさ”を漂わせる画風ではありますが、これはペンタッチや画風がメジャー少年誌では余り見られないものであるためでしょう。現在の「ジャンプ」は、連載作品の絵柄のバリエーションが広過ぎるぐらい幅広いですし、この作品が溶け込む余地も十分残されていると思います。
 
 ストーリー・設定についての所見
 様々な趣向を凝らし──それが必ずしも成功したとは言えなかったシリーズ1、2作目とは異なり、今回はオーソドックスな怪談話のショートストーリー2本立てという構成でした。これは恐らく、今作は読者から都市伝説・怪談話を公募する企画の“お手本”としての役割を担っているからでしょう。

 しかし、この手の都市伝説や怪談話はショート・ショート的な簡潔さが求められ、その分ホラーやスプラッタとしてはキャラクターの作り込みやシナリオの練りこみが不足しているモノが殆どです(勿論例外もありますよ)実在する語り手がいて、「本当にあった話である」というノンフィクション性・現実味があって初めて成立するエンターテインメントであります。
 それに対して今回の作品は、架空世界の人物に語られた、架空世界での「本当にあった話」──つまりはフィクションです。これでは、単なる“練りこみの不足したホラー短編”という事になってしまいます。

 そういうわけで、とりあえず今回はマンガ形式の“企画募集PR記事”と判断した方が良いのかな…という印象です。こんなコンセプトで描かれたマンガにエンターテインメント作品としての評価を下すのはちょっと気の毒ですね。

 今回の評価
 ……という結論に従って、今回は評価なしとします。もし、1つの作品として評価を下すならB〜B+の間ぐらいになるんじゃないでしょうか。

 

 ……何とかかんとか、今週分もお届けする事が出来ました。全ての面において限界が切迫しているのを感じるこの頃ですが、今の自分のモチベーションでやれる事を、許される最大限の範囲で、やりたいように積み重ねていきたいと思っています。どうか何卒。

 


 

2005年度第36回講義
10月7日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第2週分)

 今週も世を忍ぶ仮の本業の方へエネルギーを削り取られて消耗しきっている駒木です。中間テストの試験問題作りが修羅場状態でして、どないにもならんわという状態で……。
 よって今週は止む無く変則的な講義となります。本日にまずレギュラー企画のレビューとチェックポイントをお送りし、その後、連休中に「ジャンプ・ザ・レボリューション」の作品レビューを2〜3作品分、追加振替分として付け足して公開します。
 非常にややこしい事になってしまい恐縮ですが、限られた時間と駒木の気力を効率良く使う苦肉の策でございます。どうかご理解を。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(45号)より『大泥棒ポルタ』(作画:北嶋一喜)が新連載となります。
 
北嶋さんは現在の「十二傑新人漫画賞」の前身・「天下一漫画賞」最後の受賞者(03年3月期準入選)で、03年「赤マル」春号にて17歳の若さでデビュー。05年には「赤マル」と週刊本誌にて今作のプロトタイプ版読み切りを発表し、今回の連載獲得に繋げました。
 ただ、プロトタイプ版の2編を読んだ限りでは、ストーリーの根幹となるトリックにかなり難がある感じで、連載化には不安が隠せません。この準備期間の間に相当なアイディアの練りこみが無いと、早晩危うい事になるのではと個人的には危惧していますが、さてどうなることでしょうか。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:対象作品なし
 ◎今週は、「サンデー」についてはチェックポイント対象作品もありませんので、こちらのコーナーは1週休みとなります。ご了承下さい。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年44号☆ 

 ◎新連載『べしゃり暮らし』作画:森田まさのり

 ●作者略歴
 1966年12月22日生まれの現在38歳
 84年上期「手塚賞」で佳作を受賞(森田真法名義)し、受賞作『IT'S LATE!』が「フレッシュジャンプ(注:80年代に出版されていた、若手・新人作品中心の月刊誌)に掲載されてデビュー。その後、85年上期「手塚賞」でも佳作を受賞し、86年から87年にかけて当時の「少年ジャンプ」季刊増刊で3回の掲載を果たす。なお、85年よりしばらくの間、『北斗の拳』連載中の原哲夫さんのスタジオでアシスタントを務める。
 週刊本誌デビューは87年50号の『BACHI−ATARI ROCK』。これがリメイク、改題の末に連載化されたのが『ろくでなしBLUES』で、8年9ヶ月間(88年25号〜97年10号)・422回にも及ぶ長期連載となる。
 その後、1年ほど読み切り中心のマイペースな活動を続けた後、98年より『ROOKIES』を連載(98年10号〜03年39号、途中中断あり。通算239回)
 その後は「赤マル」04年春号にボクシング物の超短編作品を発表した後、「週刊ヤングジャンプ」04年37・38合併号、「少年ジャンプ」週刊本誌05年5・6合併号に相次いでお笑いを題材にした読み切りを発表。今作は、その週刊本誌に掲載された読み切りから設定をマイナーチェンジさせて連載化したもので、2年ぶりの週刊連載。

 についての所見
 森田さんの作品をレビューする際には前々から述べているのですが、画力については全くケチの付けようがありません。極めてレヴェルの高いリアルタッチで精微な作画は、歴代「ジャンプ」作家の中でも指折りの上位に入ることでしょう。
 ただ、今回は軽微な減点材料として、主人公・圭祐と、敵役の1人・玉木の相貌が微妙に似ていて、少々見分けがつきにくい場面がありました。まぁ駒木も実際に高校に勤めているので、同じ学校に通っている(=同じ制服・校則・トレンド)生徒の見分けのつき難さは理解出来るのですが……。

 ストーリー・設定についての所見
 冒頭から無駄の無い構成に熟練の実力を感じさせてくれました。世界観や登場人物のキャラクター設定が一切のわざとらしい説明抜きに描写されており、見事としか言いようがありません。
 脚本や演出面も申し分無し。お笑いを題材とした作品では生命線ともなるセリフ回しも抜群に達者ですし、構図の取り方も、読み易さを損ねない範囲でバリエーション豊かに仕上がっています。
 この辺はやはり、通算で761回の週刊連載をこなして来た強みでしょう。ことテクニック面に関して言えば、非常に高い完成度に達していると言って良いでしょうね。

 ……しかし、どうなんでしょう、今回に限って言えば、何とも言えぬ話のスケールの矮小さと演出過剰の“クサさ”が気になって仕方ありませんでした。
 何しろ、主人公の“お笑い”のスキルにしても、敵役の狡賢さ・悪さにしても、全ての遣り取りがあくまで“校内一”クラス。誤解を恐れず表現を選ばず言えば、「みみっちい」上に「安っぽい」のです。
 確かにリアリティという点で考えると、この設定も正着ではあるのですが、リアリティの高さとエンターテインメント性の高さが必ずしも一致しないというのがストーリーテリングの難しい所。高度なエンターテインメントを成立させるには、少なくとも第1回時点の世界観はあまりにも平凡過ぎるように思えるのです。

 あと、主人公が次々と放つギャグの扱いも難しいところですね。森田さんはコメディ要素の高い作品も難なくこなす、ギャグのスキルも高い作家さんではあるのですが、それでも本職で専業のお笑い芸人やギャグ作家さんと伍して行こうとするには限界があるでしょう。
 まぁこの作品の場合、一応は「作中のギャラリーが笑ったギャグ=面白いギャグである」という演出で対処してはいますが、この演出も万能ではありません。もし、ギャグに対する反応が、読み手と作中で大きく異なった場合、それは読み手の作品への感情移入を損ねる結果に繋がる事でしょう。
 そもそも笑いに関するセンスやギャグに対する反応は読者によってそれぞれです。しかし、この作品をストーリー作品として成立させるためには、この多種多様・十人十色な笑いに対する基準を強引に一本化するしかないわけです。これはかなり厳しい手枷・足枷でしょう。この構造上の欠点とどう向き合っていくか、それがそのままこの作品の課題になっていくのではないでしょうか。 

 現時点での評価
 テクニック面は全く申し分ないものの、構造上の欠陥(または欠陥になる恐れの高いポイント)を考慮すると、Aクラス評価を下すには躊躇を覚えます。そこで、今回はA−寄りB+として、今後しばらく様子を見る事にします。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、まず先週ウッカリとチェック漏れしていた『ムヒョ』の連載40回評価見直しから。それから『太臓』の連載10回評価見直し、そして残念ながら今回で連載終了となった『切法師』の連載総括を実施します。

 ◎『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之
 旧評価:A−寄りA新評価:A−寄りA(据置)

 高い水準での評価据置としました。
 現在展開中のエピソードは、対悪霊とのバトルや同業者ライバルとの駆け引きなど、これまでややおざなりになっていた部分にスポットを当てたもの。しかも、それがキチンと起伏に富んだ展開上手く演出出来つつあるのですから立派です。
 連載開始以来、感動系悲話からサスペンスホラーまで、幅広い趣向のストーリーを紡ぎ出して来たこの作品ですが、バトル物としての要素も補強され、更に奥行きが広がって来たのではないでしょうか。最近は絵の方も描線が洗練され、個性的なタッチを維持したままクオリティが上がって来ています。
 他の「第1回金未来杯」組が打ち切り、もしくは苦戦を強いられている中、頭一つリードした感のあるこの作品、このまま行けば年度末の「コミックアワード」でも楽しみな存在となりそうです。

 ◎『太臓もて王サーガ』作画:大亜門
 旧評価:A−寄りB+新評価:A−寄りB+(据置)

 こちらも評価は据置としました。
 ギャグの密度は相変わらず高く、登場人物のキャラクターに関連したネタも効果的に利かされています。構成の甘さが若干気にはなるものの、テクニック面ではAクラス評価をつけてもおかしくない水準で高値安定しています。
 ただ、最近感じるのはネタのマンネリ・ワンパターン化です。同系統のネタならまだしも、ほぼ同じネタを何週も繰り返すケースが多くなりました。
 また、ネタ出しも随分苦しいようで、得意のパロディネタに頼り過ぎている感も否めません。『ジョジョ』ネタオンパレードになった第9回などは、さすがに(読み手を選び過ぎるという意味で)やり過ぎではなかったでしょうか。
 “同期”の『みえるひと』と対照的に掲載順が安定している所を見ると、どうやら長期連載の目も出て来たようですが、今度は別の意味で将来が心配になって来た感がありますね。

 ◎『切法師』作画:中島諭宇樹
 旧評価:B+新評価:(最終確定評価)

 2クール・18回で無念の打ち切り終了。クオリティそのものは、第10回時点から大きな変化はありませんでしたが、ストーリーが尻切れトンボで終わったのを重く見て評価を更に1ランク下げました。
 連載が失敗に終わった原因は、第10回評価見直しでも述べましたが、やはりバトルシーンの淡白さでしょう。ともかくこの作品は、バトル主体の作品としては、余りにも肝心要の部分が弱過ぎました。この問題は、最近の「ジャンプ」新連載作品に共通しているもので、いつか近い内にジックリとお話したいテーマではありますが、今日は時間の都合もありますので、結論の再確認に留めます。
 そもそも中島さんはここまで、バトルに頼らない、卓越した世界観構築力とストーリーテリング力で魅了する作品を紡ぎ出して来た作家さんです。それがいきなりバトル物志向へコンバートしても、そうそう上手くいくはずがありません。先週終了した『カイン』もそうでしたが、もう少しご自分の適性というものを考慮してもらいたいなと、僭越ながら助言申し上げたいところです。

 ──それでは、この後は増刊レビューの第1回目をお届けしましょう。今回は目次順で3作品のレビューです。

◆「ジャンプ the REVOLUTION」レビュー(1)◆

 ◎『エンバーミング -DEAD BODY and BRIDE-』作画:和月伸宏

 作者略歴
 1970年5月26日生まれの35歳
 弱冠16歳にして87年上期の「手塚賞」で佳作を受賞し、“新人予備軍”入り。高校卒業後、上京し小畑健さん他、複数の作家さんの下でアシスタント修行を積む。その間も新人賞への応募を続け、91年には、月例賞の優秀作品を収録する単行本・「ホップ☆ステップ賞セレクション」(6巻・90年度募集分収録)『北陸幽霊小話』を発表して暫定的ながらデビュー。翌年、季刊増刊の92年春号にて正式誌面デビューも果たす。
 出世作となったのは、同じく季刊増刊93年冬(新年)号に発表した『るろうに -明治剣客浪漫譚-』。この作品は週刊本誌93年21・22年合併号にリメイクして掲載された後、翌94年19号からは『るろうに剣心 ─明治剣客浪漫譚─』として連載開始。これがヒット作となり、アニメ化・OVA化も為された。いわゆる“「ジャンプ」黄金期”の終焉期から“「ジャンプ」暗黒期”前半にかけての間の代表作として、毀誉褒貶の波に揉まれながらも99年43号まで全255回の長期連載を全うする。
 その後の作家生活は、不遇とは言えぬとも恵まれたとも言えない停滞が続いている。00年末から臨んだ2回目の連載『GUN BLAZE WEST』は、2クール全28回(01年2号〜35号)で打ち切り終了。また、03年30号から開始した『武装錬金』は、高年齢層読者を中心にカルト的なスマッシュヒットを記録するも、05年21・22号までで週刊連載を打ち切られて(休載週を除き、全79回)「赤マル」へ移籍。05年夏号から年内終了の予定で完結編を短期連載中。
 今作は
『武装錬金』執筆の合間を縫って描かれた、和月さんご本人曰く、新作のパイロット版的読み切りとのこと。
 なお、和月さんのスタジオからは、尾田栄一郎さん、武井宏之さん等、多数のヒット作家・「ジャンプ」連載作家が輩出されており、別名“和月組”とも言われる。

 についての所見
 リアルさとマンガ的ディフォルメのバランスが絶妙で、かつ高度に洗練された絵柄ですね。相変わらずの高水準です。背景処理や特殊効果も実によく考えて趣向が凝らされており、さすがは“15年選手”といったところでしょう。
 特に最近は美少女系キャラが関連するバイオレンスまたはセクシャルな要素を含んだ場面を描くことに対する躊躇も薄れて来たようで、表現の幅も随分と広がってきたように思えます。

 数少ない問題点としては、美醜のコントラストが大き過ぎる、捨てキャラ的な悪役の造型がインパクトの割に適当さがにじみ出ている…など、『るろうに』時代からの傾向が未だに抜けきっていない事が挙げられるでしょうか。しかしそれも微細なもので、総合的に見れば十分「ジャンプ」のトップクラスに位置する水準だと申し上げて良いでしょう。
 
 ストーリー・設定についての所見
 和月さんの過去作同様のパターン──現実世界をベースに、ジャンルを問わず過去の名作エンタメ作品のモチーフを注ぎ込み、更にオリジナルの設定を交える──の手法で創られた世界観・設定ですが、今回は近代ヨーロッパを舞台にしたフランケン・シュタイン物。キャリアを追うごとに、「週刊少年ジャンプ」では異色な方向へ流れつつあるのが印象的ですね(笑)。
 それでも(個人的にですが)そういう趣向の作品の方がシックリ来るように思えるのが、幸か不幸か…といったところではあります。下世話な話ですが、既に生活の糧を得るためにマンガを描く段階を過ぎた作家さんでもありますし、今後は作風に適合した(本質的なクオリティと読者人気の整合性が高い)発表の場を模索する必要も出て来るのでしょうね。

 それはさておき、今作のデキ具合についてですが、 特に目を引くのが脚本と演出の上手さ
 脚本では説明臭くなりがちな部分も、さりげなく語り手を入れ替えたりモノローグ・ト書きを挿入したりして、“アク抜き”が為されています。演出面でも、構図の取り方が非常に巧みで、とにかく高度な技術が誌面の隅々から感じ取れる読み応えのある作品に仕上がっています。

 ただ、今回は作者ご本人が「所謂パイロット版のつもりなので投げっ放しな所が多々ある」と認めておられるように、ストーリーに関して言えば、やや中途半端な内容で終わってしまったかな…といったところです。シナリオ、世界観、キャラクター、戦闘シーンの各要素いずれもが掘り下げ不足で、それぞれの魅力を描ききる前にページが尽きてしまったように感じました。ワンフレーズでまとめれば「消化不良」の一言に尽きるでしょう。
 確かに「巧いなぁ」と思わせる部分は非常に多いのですが、今回は技巧が勝ち過ぎた作品ではなかったでしょうか。「パイロット版」という言葉の通り、プロローグ以前の予告編的な作品──本来、雑誌のメインコンテンツにするべきではない性質の──で終わってしまった感じですね

 今回の評価
 今回の評価はBとします。ただ、今作で足りない所は、全て来るべき(?)本格連載では伸びしろになる部分ですので、今後の展開に期待したいところです。


 ◎読み切り『ANGEL AGANT』作画:暁月あきら

 作者略歴
 生年月日等は非公開。ただし、非常に似た絵柄で02年3月期「天下一漫画賞」で最終候補となった空見宙也さんと同一人物とすれば、現在28〜29歳ということとなる。
 それ以外にも、今回の巻末コメントで暁月あきら名義以外、またはイラストレーター等としての活動を匂わせる記述があったり、某18禁系マンガ家さんとの同一人物説が一部で囁かれたりしているが、いずれも確証に乏しく詳細は不明。(※個人的に後者の件は、「よく絵柄が似ているが別人っぽい」と思っています)
 この名義としての活動は「マンガ暦5年(「赤マル」の新人作家紹介欄より)」の03年に、「赤マル」夏号にて『Z−XLダイ』を発表した1作品のみ。今回は2年4ヶ月ぶりの新作発表となる。

 についての所見
 03年の“デビュー作”時点で既に只者ではない絵の巧さを遺憾なく発揮していた暁月さん。今回も新人・若手レヴェルを明らかに超越した作画の水準です。
 メリハリが利いて洗練されたタッチ、抜群の安定感、そして一枚絵としても完成していながらも、マンガ的な表現に全く抜かりが無いのが印象的。肥大したこの業界の中で、これだけの絵が描ける人が野に埋もれているのですから、世の中分からないものです。

 長所・短所併記の原則から、少しでも指摘できる問題点でも有るかなと探してみたのですが、見つからなかったですね(笑)。読み手の好き嫌いの問題に委ねられる点を除いた技術的な面では、敢えて挙げるような欠点は無いのではないでしょうか。

 ストーリー・設定についての所見
 まず、冒頭シーンはよく出来ているのではないでしょうか。キャラ紹介、序盤のシナリオ進行、伏線提示と短いページでなかなか充実した内容でありました。
 また、クライマックスの戦闘シーンもなかなかでした。主人公サイドが深刻なピンチに陥った所からリスキーな反撃で逆転勝利を飾るなど、限られたページ数で必要最低限の“ツボ”は押えられていました。

 しかしその間の、冒頭シーン後からクライマックスの戦闘シーンまでの中盤部分では、一転してクオリティが急落した感があります。
 中でも鼻につくというか目に付くのが過剰な下ネタでしょうか。華を添えるお色気ならまだしも、「さぁこのコスプレとサービスカットで萌えてみろ」と言わんばかりのあざといネタをこうも乱発されては食傷します。それ以前の問題として、シリアスな雰囲気を台無しして、シナリオの流れもブツ切りにするという失敗に繋がっており、この試みは全くの逆効果でしょう。
 あと、設定の提示のやり方も如何なものでしょうか。説明的なセリフを乱発した割には話の軸となる肝心な部分が説明不足で、そのために敵役サイドが採る行動の理由と動機がイマイチ見え来辛かったです。
 敵役といえば、主人公が窮地から脱する理由敵役の御都合主義的な自滅であるのも、シナリオの盛り上がりという上ではどうでしょうか。作中の巨悪であり、主人公最大のライバルあるはずの敵ボスが単なる無能なエロ親父では……。

 とにかく、今回は下ネタに頼り過ぎたのが最大の敗因で、その次が御都合主義の看過でしょうか。下ネタ・お色気そのものに対して「志が低い」とかベタな事を言いたくはありませんが、それがストーリーのクオリティを押し下げてしまったら、「そりゃ本末転倒だよ」とは言いたくなってしまいます。

 今回の評価
 絵の良さを加点した上で、今回の評価はBとします。
 正直言って、暁月さんは少なくとも「ジャンプ」では原作付作品の作画担当が適所ではないでしょうか。週刊連載でこの絵のクオリティを維持するには相当な時間が必要でしょうし、そのためにはネームを練る時間を削らなくてはならないはずです。で、その条件で良いストーリーを創れる作家さんだとは、失礼ながら現状を見る限りでは思えないんですよね。


 ◎読み切り『いちご100%番外編 〜京都初恋物語〜』作画:河下水希

 作者略歴(参考:河下水希・桃栗みかんファンサイト「OVER DRIVE」他) 
 生年非公開の8月30日生まれ。
 「ジャンプ」作家となる以前は“桃栗みかん”名義で同人・商業両面で活動をしていたのは既に公然の秘密。
同人活動に関しては、現在93年から97年にかけて発行された同人誌の存在が確認されているが、公式データが存在しないため、詳細は不明。
 正確な商業デビュー時期も資料不足のため未判明だが、諸々の資料から類推すると94年頃と思われる。デビュー当初は原作付きボーイズラブ作品の作画担当で、レディコミ月刊誌「office YOU」にて短期(3回)連載された『高校男子 -BOYS-』作:花衣沙久羅)を表題作とする中編集が95年7月に発売されている。
 それから間もなくしてソロ活動を始めると、97年には「YOUコミックス」レーベルから初の単独名義作品集『空の成分』を出版。その後は少女誌「マーガレット」に移籍し、99年から00年にかけて単行本を3冊リリースしている。

 “河下水希”名義でのデビュー作は週刊本誌00年19号の『りりむキッス』で、これは同年48号より連載化されたが、2クール24回で打ち切り終了となる。
 それから「赤マル」01年夏号で読み切り掲載を挟んだ後、02年12号より今作の本編でもある『いちご100%』を連載開始。スマッシュヒットとなった同作は05年35号まで全167回の長期連載となり、CDドラマやテレビゲーム、更には深夜枠でアニメ化・DVD化もされた。
 今作は先述の通り、『いちご100%』の番外編。正確に言えば最終回にまつわるサイドストーリー。

 についての所見
 まだ連載が終わって間が無いので当たり前ですが、高値安定で水準した見栄えの良い絵は今回も健在です。レディス&少女マンガで培った繊細なタッチと、その後「ジャンプ」での活動で身につけた少年誌対応のタッチが融合して、オリジナリティの高い画風になりつつあるのではないでしょうか。
 この作品に関しても、個人的な好き嫌いを除けば批判せねばならないネガティブな点は殆ど見当たりません。

 ストーリー・設定についての所見
 今回のストーリー、一言でまとめれば「女の子目線の『BOY’s BE…』」といったところでしょうか。作品の完成度を犠牲にしてまでも読み手の好感度を優先するという、“読者カタルシス特化型”のシナリオです。
 ストーリーの説得力や登場人物の心境変化に関する動機付けは放棄して、「とにかく惚れちゃいました」という事実関係で強引に押しまくる。そして最後は他人から見たら痴話喧嘩にしか思えないイベントから告白成功、ハッピーエンド。ひたすらに陳腐ではありますが、コンスタントに読み手へ満足感を与えるという意味では王道とも言えるかも知れません。

 当ゼミで言えば典型的な“名作崩れの人気作”ですね。この手の作品には、完成度の高さとプロのお仕事を認めつつも、否定的なニュアンスで評論を行うのが常なのですが、今回は番外編ということでもありますので、これくらい軽いノリの方がむしろ良いのかも知れません。 そもそも、本編よりもよく出来たシナリオをここで投入されても逆にアレですからね(笑)。

 今回の評価
 “名作崩れの人気作”のスタンダード評価・B+とします。とりあえず今は長期連載お疲れ様でした、といったところですね。

 

 ──というわけで、今週は都合4作品のレビューをお届けしました。今後も週に1〜2作品のペースでお届けできればと思います。それでは、また。

 


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