「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

11/25(第44回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(11月第4週分)
11/19(第43回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(11月第3週分)
11/13(第42回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(11月第2週分)
11/5(第41回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(10月第6週/11月第1週分)

 

2005年度第44回講義
11月25日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(11月第4週分)

 漸く一時の精神的停滞からは抜け出せた気配ですが、今度は公務・私事多忙な上に冬コミ用の原稿締め切りという“魔物”が急速接近中。本当、1日60時間は欲しい今日この頃です。明日も明日で昼の職場関係の諸事がありまして、研究室に帰って来れるかどうかも……。

 ……というわけで、今週もボリューム少なめ&取り急ぎで失礼します。
 あ、コミックアワードのワイルドカード枠推薦、締め切りが迫っております推薦メールはお早めにどうぞ。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(52号)に、読み切り『謎の村雨くん』(作画:いとうみきお)が掲載されます。
 
『ノルマンディー秘密倶楽部』『グラナダ』のいとうさん、04年42号以来の新作発表となりました。駒木の中では結構多作な人だという印象があったのですが、改めて調べてみると1年以上のブランクが開いていました。
 『グラナダ』の連載をしくじってから間もなく3年。そろそろ3度目の連載のチャンスを掴みたいところですが……

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(53号)に、読み切り『山本KID徳郁物語 〜神の子に与えられた試練〜』(作画:山田一喜)が掲載されます。
 「サンデー」ではお馴染の実録モノ企画、今回は格闘界から山本KIDが登場です。大晦日のチケット営業も兼ねての企画なんでしょうね。
 作者の山田さんは、02年のルーキー増刊、月刊増刊03年11月号、そして今年にも隔月増刊に読み切りを発表している若手作家さん。どうやらこれが週刊本誌初登場ということになりそうですね。企画モノは連載獲得の足掛かりにはなり難いのですが、これで顔と名前を売って……というところでしょうか。

 ★その他、公式アナウンス情報  

 ◎「週刊少年ジャンプ」連載中の『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博、今週発売の51号より一時休載となりました。連載再開は06年8号の予定。
 最近、また休載多発の周期に入っていた『H×H』ですが、遂に2度目の長期休載入りとなりました。巷では「コミケ休載か?」なんて言われてますが、実は冨樫さんが(少なくとも表立った)同人活動をしたのは、6年前の99年が最後だとか。なので、恐らくは純粋なモチベーションの不良か、創作の行き詰まりが休載の原因なんでしょう。それでも作品を投げ出さない辺りは、立派というか渋太いというか……。

 また、明確な告知はありませんが、同じく「ジャンプ」で連載中の『D.Gray−man』作画:星野桂)も、先週号からなし崩し的に長期休載に突入した模様です。非公式の情報によると、少なくとも次々号までの休載が確定しているとか。
 この作品、単行本の好調な売り上げとは裏腹に掲載順が低迷していましたが、ひょっとすると相当長い間、原稿を落とすかどうかの瀬戸際を歩んで来た連載作品だったのかも知れませんね。「ジャンプ」の主力作品に出世するためには大事な時期だっただけに、これは惜しい躓きになってしまいました。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作品なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年51号☆ 

 ◎読み切りプロジェクトヒメジマ作画:川口幸範

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 79年4月3日生まれの現在26歳
 01年3月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。その後、「天下一」では01年11月期で編集部特別賞、02年2月期に審査員(武井宏之)特別賞、そして04年4月期「十二傑新人漫画賞」にて『師匠とぼく』で十二傑賞を受賞し、週刊本誌04年51号にて受賞作掲載デビューを果たす。
 今回は1年ぶりの新作発表で、その間は村田雄介さんのスタジオでアシスタントを務めていた。

 についての所見
 
デビュー作で画力の高さは証明済みの川口さんですが、ちょっと今回は全体的に違和感の漂う絵柄だという印象を受けました。恐らくは、線が“リアル描写仕様”のままのディフォルメを多用してしまった事、またリアルタッチの人物作画で微妙にデッサンが狂っている場面が目立った事などが原因だと思われます。あと、前作と違って舞台が現実世界だっただけに、違和感を誤魔化し難かったのかな…という気もしますね。
 とはいえ、背景処理や動的表現などはアシスタント経験の成果もあってほぼパーフェクト。もう少し線にメリハリが付いてくれば、また印象がガラっと変わって来るでしょうね。

 あと気になったのは、村田雄介さん及び村田さんのアシスタントが多用する、見開き2ページぶち抜きのコマ割りの描き方について。このコマ割りは読者に普通とは違った読ませ方を強いるため、特別な配慮が必要になるんですが、これが残念ながら上手く出来ていませんでした。
 その「配慮」というのは、同じコマの中でも右ページ側の方から左ページ側の方へ読者の視線を誘導するようにして、「ここは2ページ見開きのコマ割りだ」と認識させなくてはならない…というものです。それを怠ると、読み手は作者の意図とは異なった順番で読み進めようとしてしまい、混乱してしまいますからね。
 この配慮、さすがに“本家”の村田さんは理解・実践しておられるのですが、村田さんの原稿を間近で見ていたはずのアシスタントさんたちは、何故かその配慮を失念しているケースが目立ちます。いや、失念しているのではなく、分かっていても難しい表現なのかも知れないですね。

 ストーリー&設定についての所見
 プロットそのものは、手垢の付いた平凡な、しかも内容に乏しいケンカ・格闘モノ。これをどうにか脚本・演出の力で際立たせようという努力の跡は窺えるのですが、その演出が余りに奇抜過ぎ、読み手が内容を把握する事すら困難な、非常に読み難い構成の作品になってしまいました
 特に厳しいのが序盤、読み手が登場人物や舞台設定の把握もままならない内から、その設定を理解していないと意味の分かり辛いセリフの波状攻撃を浴びせた辺り。読み辛い上に理解し辛いでは、読み手の感情移入を促進するどころか逆効果です。
 結局の所、オリジナリティを追求しようとして一人善がりになってしまった…といったところでしょうか。セリフ回しにはセンスが窺えるだけに、これは惜しい、そして余りにも勿体無いミスであったと言えるでしょう。 

 今回の評価
 デビュー作ではA−寄りB+を出したんですが、その頃の長所が影を潜め、逆に短所が際立ってしまったのでは、評価の大幅なダウンは免れないところ。ギリギリで評価というのが妥当かな、といったところです。

☆「週刊少年サンデー」2005年52号☆

 ◎読み切り『横縞ホットブラザーズ』作画:山川コージロー

 作者略歴
 生年月日は非公開。03年2月期「まんカレ」応募時26歳とのことで、現在は28〜29歳
 詳細は不明だが、01年の「ヤングアニマル」誌新人賞の入賞経験あり(?)。「サンデー」系新人としては、03年2月期の「まんがカレッジ」で佳作入賞。その後、05年になって増刊デビューを果たし、今回が初の週刊本誌進出となる。

 ●についての所見
 輪郭の線が非常にスッキリと洗練された絵柄で、とても見易くて良いですね。アシスタント経験も長いのでしょうか、背景の描写や特殊効果などは本格派で、ストーリー系の連載作家さんと比較しても全く遜色ありません。ギャグ作品に不可欠なディフォルメ表現も達者で、これは即戦力級の実力と申し上げて良いでしょう。
 ただ、人物の輪郭に比べて、その内側のパーツ(例えば顔の目鼻立ち)の描写がやや不安定でクセが強過ぎる嫌いがありますので、万人受けする絵柄を目指すなら、今度はその辺の画風も洗練させていく事が必要になるのではないかと思います。 
 
 ギャグについての所見
 こちらのファクターにおいても、新人離れした職人芸的な渋いテクニックが随所で光っていますね。例えば15ページの中で起承転結を手堅くまとめ切った構成力であるとか、登場人物を必要最低限に絞った上に、そのキャラクターについても過不足無く掘り下げるとか、「とにかく巧い」と言いたくなる、いぶし銀の技が冴えています。
 ただ、この作品の構成は、一発勝負の読み切りギャグ作品というよりも、むしろ「コメディ作品の連載1回分」というような印象を受けます。ギャグ短編としては、ネタの密度であるとか、ボケ・ツッコミを畳み掛ける勢いなどの点で物足りなさが否めませんでした。
 非常に良く出来た構成の作品ではあるのですが、「笑いを追求する」という観点から見ると、やや物足りないかな、といったところです。

 今回の評価
 評価はB+とします。次回作はストーリーにも力を入れたコメディ作品が読んでみたいですね。テクニックは十分連載級のモノを持っていると思いますので、あとは作品に恵まれるだけでしょう。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週で『こわしや我聞』が最終回となりました。簡単に連載の総括をしておきましょう。

 ◎『こわしや我聞』作画:藤木俊
 旧評価:最終確定評価:B+

 連載当初は絵、ストーリー両面で拙さの方が目立った作品でしたが、徐々に骨太の長編ストーリーを展開させていって、クオリティも回を追うごとに上がって行った感がありました。最後は伏線の殆どを回収して綺麗にまとめ切り、見事に大団円で幕。非常に気持ちの良い円満完結でした。
 しかしこの作品、登場人物のキャラ設定やシナリオの展開は王道まっしぐらと言うか極度にベタなモノが多かったですよね。本来なら「あざとい」と言われてしまうようなネタばかりだったんですが、この作品独特のぎこちなさというか、良い意味でも悪い意味でも素朴で愚直な作風が、この「あざとさ」を中和して逆に良い方向に持っていったような気がしています。藤木さんには、この得な作風を活かして、今後も頑張って頂きたいですね。

 

 ──それでは今週はこれぐらいで。来週からは同人誌の執筆に入りますので、やっぱりこちらは留守しがちになると思います。今しばらくのご辛抱を。 

 


 

2005年度第43回講義
11月19日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(11月第3週分)

 昼の仕事は2学期も終盤戦、漠然とした掴み所の無いストレスも溜まり、こちらの研究室での仕事は大スランプの様相であります。レジュメ作成のためキーボードを叩く指が数時間止まってしまう状況で、皆さんにはご迷惑をおかけしております。
 もうしばらくすればバイオリズムも幾分上向くと思いますので、それまではお互い辛抱ということで、どうか何卒。「今週は講師都合で休講です」とかならんように頑張ります。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(51号)に、読み切り『プロジェクト・ヒメジマ』(作画:川口幸範)が掲載されます。
 
川口さんは、ちょうど1年前の週刊本誌04年51号でデビューを果たしている若手作家さん。そのデビュー作・『師匠とぼく』の異色ぶりをご記憶の方も多いでしょう。
 今作は前作とは趣向を変えて、学園モノ現代劇のようですが、さてどうなるでしょうか。

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(52号)に、読み切り『横縞ホットブラザーズ』(作画:山川コージロー)が掲載されます。
 
山川さんは今回が本誌初登場のギャグ作家さん。03年に「まんがカレッジ」で佳作入賞経験があるほか、01年にはたびたび「ヤングアニマル」誌の新人賞で入賞を果たしているようです。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作品なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年50号☆ 

 今週は『D.Gray−man』が“急病”休載ということで、取材休みの『べしゃり暮らし』で空いたページを合わせて「十二傑」受賞作の掲載がありました。予告に無い掲載ですので代原に近い扱いですが、作者プロフィールの掲載もあり、一応は“正規枠”の扱いのようですね。

 ◎『魔界不思議犬ブルブルブルズ』作画:小山祐太

 作者略歴
 1986年1月24日生まれの現在19歳
 04年頃から投稿活動を始めていたが、当時の名義は太宇諭まや夫、太宇諭みや夫、まや夫などのペンネームを使用していた。
 04年10月期「十二傑」では最終候補となり、“新人予備軍”入り。05年7月期「十二傑」にて今作で十二傑賞を受賞し、今回のデビューとなった。

 についての所見
 「十二傑」の講評でも厳しく指摘されていたのですが、人物作画の粗さは致命的と言えるほどに酷い有様です。ただ線が粗いだけでなく、根本的な人間の造りや背景との遠近感といった基本中の基本事項が無視されていて、これはいくら新人賞の応募作品といっても言い訳の効かない欠陥でしょう。
 しかし、背景の描きこみは粗いながらも普通にこなせていますし、特殊効果はむしろ新人としては巧い部類です。見栄えの悪さはどうしようもありませんが、“単なる絵の下手な人”というわけではなさそうです。
 
 ストーリー・設定についての所見
 結論を先に言えば、ストーリー・設定の内容は、いかにもお粗末でした。主人公格である魔王が独白を淡々と続ける序盤から中盤は余りにも「説明してます・されてます」という印象が強く、そこから話が唐突に動いて始まる終盤は、後出し設定連発で強引極まりない展開に。脚本の拙さも目立ち、作品世界に没入し難くなってしまっています。
 ありがちな勧善懲悪ではなく、“泣ける話”に持っていこうという志向は悪くありません。ですが、その要素も“取って付けた感”が強過ぎて、それだけでポジティブな評価を下すには躊躇を覚えてしまいます。

 ただ、構図の取り方などの演出は飛び抜けて上手く、この作品は演出だけで体を成していると言っても過言ではありません。見せ場における人物の表情や細かいシーン転換の妙には、高いセンスと充実した研究の跡が窺えました。
 現状ではこの演出力もボロボロのストーリーを誤魔化すための機能に留まっていますが、なるほど青田刈りをしておきたい才能ではあるかも知れません。たとえそれが、現状ではプロとして標準以下レヴェルの総合力であるとしても。

 今回の評価
 演出力のファクターだけ抜き出せばAクラスではありますが、総合的な評価を下すとすれば、絵の粗さなどの大減点が祟ってB−に留め置かなければなりません。
 現状の実力では次回作を発表するのもままならないでしょうが、大化けする可能性もある面白い存在の新人さんだと思います。今後の精進に期待しましょう。

☆「週刊少年サンデー」2005年51号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は、実は先々週に第2部が第10回に到達していた『クロスゲーム』の評価見直しを遅れ馳せながら実施します。一応、毎週連載回数はチェックしているのですが……。いやまったく、ミスばかりでイカンですね。

 ◎『クロスゲーム』作画:あだち充
 旧評価:A−寄りB+新評価:
A−

 かなり迷ったのですが、ストーリーにまとまりが出て来た事を踏まえ、評価を上方修正してAクラス入りとしました。長い長い助走を経て、漸く綺麗なテイクオフを果たした…といったところでしょうか。
 相変わらずの淡白過ぎるストーリー展開は気になりますが、熟練のテクニックがその欠点を補っている…というジャッジです。以前から定評の有る演出・脚本の上手さは言うまでもなく、読み手に提示する情報のタイミング・分量や、さりげなく張っていた伏線の活かし方も実に的確です。
 あだち作品は作者のモチベーションが過度にストーリーのクオリティに直結するため今後も油断は禁物ですが、とりあえず現時点は順調に推移していると言って良いのではないでしょうか。今後も経過観察を続けますが、しばらくは安心して読んでいられそうです。


 ──というわけで、今週はショートバージョンでしたがこの辺で。また週明けにお会いしましょう。

 


 

2005年度第42回講義
11月13日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(11月第2週分)

 大晦日の格闘技興行・「曙×ボビー・オロゴン戦決定」の一報を耳にし、曙の抱える莫大な借金の額に思いを馳せた秋風吹きすさぶこの季節、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 またしても大幅に遅れてしまいましたがゼミをお送りします。今週は妙にストレスが溜まっている感じで、平日は全般的に不調でした。多分、講師先で教えてる現代社会の授業内容が「信教の自由と思想・信条による差別、男女平等問題、部落差別、民族差別、障害者差別、ハンセン病回復者人権問題、HIV感染者差別」と異様にヘビーだったからではないかと思うんですが……。色々な背景を持つ生徒たちの前で、不適切な発言を避けつつ核心に迫った事を喋らないといけないので、結構大変であります。
 その点、こちらの方は「的確かつ不適切」で攻めて行けるので、少しは気が楽ですね(本当に的確かどうかはアレですが)。まぁだからと言って、ここで上に挙げた内容を不適切な言動でブチ撒けると大変な事になるとは思いますけどね。歴史なんて、普通に事実を述べるだけで各方面から反発を受けたりしますから。

 さて、今週もまた取り急ぎレギュラー分を実施した後、数日後に追って増刊のレビューの続きをお届けする予定です。今回で最終の第4回、あと簡単な総括も実施しますので気長にお待ち下さい。(11/18に追加分レジュメ掲載しました。大幅な遅延、誠に申し訳有りませんでした)


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ※今週は新連載と読み切り作品に関する公式アナウンス情報はありませんでした。

 ★新人賞の結果に関する情報

第30回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年9月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『弾丸天国』
   松浦大貴(18歳・静岡)
 《村田雄介氏講評:まだまだ荒削りだが、主人公などキャラクターに勢いと爽快感がある。読んでいてスカッとするこの作風を維持していって欲しい》
 《編集部講評:単純な話だが、キャラに魅力があり、ストーリー展開や見せ場にアイディアが注ぎ込まれていて飽きさせない。31ページにまとめ切った構成力も良い。しかし絵はもっと丁寧にすべき》
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『Machine Made』
   肥田野健太郎(19歳・新潟)
  ・『JUDOISTS』
   横田卓馬(19歳・神奈川)
  ・『ファンキーベイベエ』
   下津浦宏(21歳・東京)
  ・『錠前屋ロッキー』
   中村豪(22歳・東京)
  ・『初恋ターボ』
   鷲敷重憲(23歳・福島)
  ・『千里と万里』
   山口ミコト(25歳・埼玉)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎最終候補の肥田野健太郎さん…05年1月期「十二傑」でも最終候補。04年6月期「十二傑」にも投稿歴あり。
 ◎最終候補の横田卓馬さん…04年8月期「十二傑」でも最終候補。
 ◎最終候補の
下津浦宏さん…「少年マガジン」の第72回新人漫画賞で佳作受賞&「マガジンスペシャル」04年8月号でデビュー(?)

 10代の受賞者が中心という、いかにも「ジャンプ」らしい審査結果となりました。講評を読むと多分に先物買いの印象が強いですが、こういう事が出来るだけの応募者の質量が確保出来ているのが強みでしょうね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:代原読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年49号☆ 

 ◎読み切り『ナイスガイ転校生よしお』作画:伊藤直晃

 作者略歴
 生年月日は非公開。05年上期「赤塚賞」応募時25歳とのことで、現在は25〜26歳
 「十二傑」への投稿を経て(04年12月期「最終候補まであと一歩」)05年上期「赤塚賞」にて、『たいして良い思い出もできそうにない学校生活』で準入選を受賞週刊本誌05年43、46号にて、その受賞作が15ページずつ分割・抜粋されて代原として掲載。暫定デビューを果たした
 今回は、その前作の2回分に続いて3度目の代原掲載となる。

 ●についての所見
 今作は恐らく正規枠での掲載は全く考えられていない習作原稿だと思われます。よって、シリアスにネガティブな論評をぶつけまくるのはどうかと思いますが、まぁそれでも率直に言って落第点のデキでしょうね。
 本来の画力そのものは悲観するほど酷くないのだと思うのですが、とにかく線と仕上げが粗いために実際以上に汚く見えてしまいます。特に背景処理の手抜き加減は酷いもので、もう少しまともな線を引いてもらいたいものです。
 また、絵のインパクトで狙ったギャグについて。習作ゆえ、試験的・実験的な意味合いも強かったのでしょうが、現状の力量ではやらない方が良いのかな……というより、それをやれるだけの画力を早いところ身に付けないと厳しいでしょうね。
 
 ギャグについての所見
 天然系の変人を、周囲の一般人が観察しつつ、彼のペースに巻き込まれつつツッコミを入れる…というパターンの構成でした。しかし、その実態は「ボケ役のギャグの“ボケ”としては取るに足らない仕草を、周囲が何のヒネリも無い言葉でそれを如何に変かと状況説明する」という惨憺たるモノに。序盤にはツッコミ無用の“間”で狙うギャグもあり、「おっ!」と思わせられたのですが、それも中盤以降は無くなってしまいました。
 “ボケ役”の動作の面白さをクローズアップさせたかったのかな…と思うのですが、もっとツッコミで笑いを狙わないと、ネタの質・量が確保出来ないのではないかと。

 とにかく急務なのは、セリフや独白の言い回しで笑わせるネタの充実でしょう。これからは、出来る限り多くのコマで笑いを獲ろうとする貪欲な姿勢で臨んで欲しいです。 

 今回の評価
 評価はC寄りB−とします。ここから正規枠への昇格に繋げるのは、ちょっと難しいでしょうね。
 

☆「週刊少年サンデー」2005年50号☆

 ◎読み切り『エリート道場のエリート教室』作画:福井ユウスケ

 ●作者略歴
 生年月日は不明ながら、04年春募集の「爆笑王決定戦」応募時には27歳で、そこから換算すると、現在は28〜29歳
 02年12月・03年1月期の「サンデーまんがカレッジ」で最終候補(あと一歩で賞)に残り“新人予備軍”入りした後、ギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で最高ランクの“爆笑王”を受賞。その受賞作『吉田ジャスティス(激闘編)』が週刊本誌04年41号に掲載されてデビューを果たす。翌05年14号では『キングさん』を発表し、その後も隔月増刊に読み切りを発表している。

 についての所見
 あからさまに他誌某ヒット作等の他作品の影響を受けた絵柄なのは気になりますが、以前より全体的に画風が洗練されており、明らかな進歩の跡が窺えます。背景処理や特殊効果の水準も、連載作家級かそれに近い所まで来ているのではないでしょうか。
 こと絵に関して言えば、ギャグ系作家という限定付ながら、ほぼ申し分無いレヴェルであると言えるでしょう。

 ギャグについての所見
 これはデビュー時から相変わらず、なのですが、ギャグの見せ方──演出・テクニック面に関してはソツなく出来ています
。ディティールで細かい笑いを狙うという小技も効かせようという試みも窺えます。
 ただ、これも福井さんの以前からの傾向なのですが、そのテクニックに溺れがちというか、演出を効かされて前面に押し出される肝心のネタがインパクト不足であるケースが多い気がします。ページ跨ぎや間を取って強調したオチが、絵のインパクト・セリフの練り込みといった点で他のネタとの差別化が出来ていないのでは、と思うのです。
 よく日常会話でも、「これ面白い話なんだけど──」と前置きすると面白くなくなる…という事があったりしますが、これと似たような状態に落ち込んでいるのがこの作品ではないでしょうか。

 今回の評価
 個人的には全く笑えない作品ではありましたが、評価は個人の趣味嗜好を考えませんので、技術面である程度加点してB寄りB−とします。週刊本誌掲載のマンガとしてはギリギリで落第点というところです。
 絵・テクニック的には問題ない水準だと思います。あとはネタの練り込みだけ。推敲に推敲を重ね、妥協の無いネタ作りを追求すれば大化けする可能性もあるとは思うのですが……。

 

◆「ジャンプ the REVOLUTION」レビュー(4)◆

 ◎読み切り『Luck Stealer −ラックスティーラー−』作画:かずはじめ

 ●作者略歴
 1971年9月19日生まれの現在34歳
 新人賞の受賞歴が全く無いまま、94年春の増刊で後の出世作となる『MIND ASSASSIN』でデビュー。同年開催された第1回「ジャンプ新人海賊杯」にデビュー作を改作してエントリーし、読者投票で優勝。これにより優先連載権を獲得し、94年52号より同作の連載を開始。しかし翌95年27号までの27回で打ち切りとなり、その後は季刊増刊や「月刊少年ジャンプ」誌で連作短編の形で続編を発表した(作品としては未完のまま)
 その後、週刊本誌96年29号、97年3・4合併号にそれぞれ読み切りを発表した後、現時点での代表作となる『明陵帝 梧桐勢十郎』を週刊本誌に連載した(97年52号〜99年52・53合併号)
 連載終了直後から、「赤マル」00年冬(新年)号、週刊本誌00年21・22合併号に新作読み切りを発表するなど意欲的な活動を続け、01年春には『鴉MAN』で3度目の連載を獲得(01年24号〜40号/16回打ち切り終了)。早期の打ち切りにも関わらず、その後も活動は極めて精力的で、「赤マル」02年冬(新年)号、週刊本誌02年37・38合併号にまたもや相次いで新作を発表した。
 4度目の連載は03年31号より開始された『神奈川磯南風天組』ただしこれも2クール18回、同年51号までで打ち切り終了となった。連続短期打ち切りのため、「ジャンプ」復帰が危ぶまれたが、約1年後の「赤マル」05年冬(新年)号で、今シリーズの第1作となる同タイトル作品を発表して戦線復帰。今回のシリーズ第2作発表に繋げた。

 についての所見
 既にキャリア10年余、連載も長短合わせて4回経験した作家さんとあって、画風は既に固まっています。個性的なタッチで描かれた絵柄は評価が分かれそうですが、マンガの絵としての機能を十分に果たしているのは間違いないでしょう。
 欲を言えば、もう少し全体的に動感が欲しいのですが、ここまで画風が固まってしまうと、中途半端な絵柄改造は逆にバランスを崩してしまうかもしれませんね。

 ストーリー・設定についての所見
 基本設定はシリーズ第1作から踏襲していますが、新規読者層を意識して続編的要素(前作から通読している事が前提の内容)は極力控えめになっていました。
 ただ、それにしても主人公とその周辺の人物やその設定を描き過ぎかな…という印象を抱かされました。肝心のドラマ部分のボリュームよりも主人公の設定描写がメインという感じで、クライマックスのアクションシーンも盛り上がり的には今ひとつのまま終わってしまいました。
 勿論、『MIND ASSASSIN』以来、この手の作品はお手の物の作家さんですから、シナリオのまとまりや安定感といった面は流石ではあります。ただ、69ページの「自己最高記録」(巻末コメントより)という“量”を作品の“質”に繋げられなかったのでは…と思うのです。

 結論を言えば、全体的にやや平板な展開に終始した“不成功作”といったところでしょうか。連載作品として設定等を徐々に小出しにしていけば、また味が出る作品だと思うのですが……

 今回の評価
 評価はB+。ネガティブな事ばかり述べてしまいましたが、これがもし新人さんの作品なら大いに驚くぐらいのクオリティであり、キャリア相応の手堅さを感じさせるソツの無い作品です。ただ、駒木はこの作家さんの“最大値”を知っているだけに、並の作品では大いに不満が残ってしまったりするのです。

 ◎『大正裏孔雀』作画:西嶋賢一

 作者略歴
 生年月日は非公開。03年10月期〜04年7月期「十二傑」応募時23歳とのことで、80年7月〜10月生まれと推測できる。よって現在は25歳か。
 03年10月期「十二傑」で最終候補に残り“新人予備軍”入り。その後、04年3月期及び7月期「十二傑」でも最終候補となる。新人賞での入賞はそれ以後途絶えるが、空知英秋さんのアシスタントを務めるなど、デビューへ向けての活動は継続させていた。
 今回は、これら一連の活動が認められてのデビュー作発表。

 についての所見
 まず何よりも、作品の主要テーマの1つである“幻覚”を表現するサイケデリックな背景処理が目を引きます。少なくとも「ジャンプ」作品としては非常に珍しく、このオリジナリティは非常に有効な武器となるでしょう。
 ただ、絵そのものは全体的に線が細く、描写には粗や歪みも目立ちます。今後は人物作画を中心に線のメリハリをつけたり、デッサン力を高めたりしていって欲しいですね。
 
 ストーリー・設定についての所見
 独特の絵柄で描かれた世界観でアンチヒーローが活躍する流れは、否応なしに『ネウロ』を想起させますね。ただ、主人公の複雑な生い立ち、精神面から攻める“制裁”の手法などからはLuck Stealer』『MIND ASSASSIN』的な要素も感じられますし、色々な作品のエッセンスを上手く頂戴して創られたお話…という結論になるのではないかと思います。

 ストーリーの構成的には、主人公の“裏”の部分──内に秘めた心の中身──を上手く描けており、これでストーリーに深みを持たせられています。回想シーンの挿入のタイミングや的確な脚本・演出のセンスも冴えています。デビュー作としては上々のデキでしょう。
 ただ、推理ドラマ仕立てのシナリオはやや拍子抜けな展開でしたし、所々でケレン味が強過ぎる箇所が目立ったのも事実でしょう。特に主人公の「軟派な女好き」という設定の執拗な描写は、いくら秘められた内面とのギャップを演出するためとは言え、少々クドかったのではないかと思うのですが……。

 全体的な印象としては、まだまだ荒削り。しかしフォーマット通りに小じんまりとまとまってしまった作品にはない、非凡なセンスが至る所から感じ取れる興味深いストーリーでありました。現状はまだ問題の方が先行してはいますが、中長期的には非常に楽しみな逸材です。

 今回の評価
 評価はB+。こういうアタマに「超」の付く個性的な新人さんを抜擢するだけの懐の深さがいかにも「ジャンプ」らしいですね。また、最近の「ジャンプ」読者は、そんな超個性的な作品を好む傾向が強かったりしますので、ひょっとすると、この作品か西嶋さんの新作が、近い内に週刊本誌に登場して来るかも知れません。

 ◎『砂のシグマ』作画:小林ツトム

 作者略歴
 1982年5月31日生まれの24歳
 投稿時代は“小林マコト”名義。04年5月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りすると、05年1月期「十二傑」で十二傑賞を受賞。「赤マル」05年春号にて受賞作『DRUG BOY』でデビューを果たした。
 今回はそれ以来の新作となる、デビュー2作目の読み切り作品。

 についての所見
 パッと見の印象で上手そうに見えるという、かなり得をするタイプの絵柄ではないでしょうか。これは人物デザインのセンスの良さと、背景処理や動的表現などの特殊効果が上手い所から来ているのでしょう。
 しかしよく見ると、人物作画では得意なアングル・動作やと不得意なそれらとのギャップが大きく、線描が粗い箇所も多く見受けられます。まだまだ未完成の部分を多く残している段階とも言えそうです。

 とりあえず今は第一印象で誤魔化せていますが、このままの画力で週刊本誌の中に混じってしまうと、さすがに拙さが目立って危ないはず。今後出来る限り速い段階で根本的な画力をつける事が望まれます。
 
 ストーリー・設定についての所見
 全体を通じて伏線らしい伏線が殆ど無く、極めて一本調子で平板なシナリオになってしまっているのは厳しいですね。敵役が頼まれもしないのに「私は敵です」と名乗り出て、土曜ワイド劇場宜しく延々と自分の悪事を謳いだす。“願い木”の謎解きも、“願い木”本人(?)が主人公が手掛かりすらろくに発見しないまま、事の真相を喋る。これでは盛り上がる話も一気に興醒めです。

 そういうストーリーテリングの基本的な所から失敗している具体例が、敵役の“善人面した悪人”キャラ描写でした。ここでは“悪人笑い”で(見え見えでベタベタながらも)伏線を張ろうとしているのですが、大失敗に終わっています。
 ここはセオリーなら「“悪人笑い”の伏線→それでも相変わらず善人ぶる態度→主人公に真実を見抜かれて本性表す」…とやって、ストーリーに意外性を持たせるわけです。ところがこの作品では「“悪人笑い”の伏線→間髪入れずに悪人に豹変」…とやってしまったため、ただ単に「ああそうだったんだー」で終わってしまいました。
 先述の“願い木”の謎解きもそうですが、重大な事実や結論をいとも簡単に発表されてしまうため、ストーリーの内容が膨らみ切らないまま萎んでしまうのです。殺人事件が起こった所で犯人が突然罪を告白するミステリみたいなもんですからね、これは。

 小林さんは前作からそういった傾向が見受けられたのですが、2作目の内容もこれだとすると、どうやら根本的にストーリーテリングの手法を理解出来ていないのではないかという嫌疑が沸いて来ます。こういった単純で分かり易過ぎるぐらい分かり易い話が意外と読者の人気を博する事があるのも承知していますが、少なくともテクニック面を重視する当ゼミの評価基準では厳しい採点をせざるを得ません。

 今回の評価
 評価はB−とします。せっかく好感度の良い絵柄を持っているのですから、これに中身が伴うようになってもらいたいものです。今のままでは勿体無さ過ぎる上に(実力不足のまま人気だけが出てしまうので)タチが悪い事この上ないですからね……。


 ※総評残念ながら、最高評価がB+止まりと寂しい結果に終わってしまいました。実力派のベテラン作家さんたちも、諸々の事情で実力をフルに発揮出来たとは言い難く、この手の企画モノ増刊の難しさを痛感させられる1冊になってしまったかな…といったところでしょうか。
 特に新人・若手作家さんの作品が総じて低調だったのが気掛かりでした。ここ1〜2年、活きの良い新人・若手に恵まれて好調に新しいヒット作を輩出してきた「ジャンプ」も、いよいよ踊り場に足を踏み込んだのかも知れませんね。

 

 ──といったところで、漸く区切りがつきました。今後しばらくは冬コミ向けの原稿執筆などに忙殺されてしまいますが、出来る限りの範囲内で足掻いてみたいと思います。どうか何卒。

 


 

2005年度第41回講義
11月5日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第6週/11月第1週分)

 あっという間に11月になりました。そろそろ本気で冬の同人誌版新刊の編集にとりかからないとヤバいんですが、やりたい事とやるべき事とやれる事のギャップがそれぞれ凄くて、果たしてどうしたものか……。
 とりあえず、現時点で決まっているのは「マンガ時評総集編」絡み。新刊の「下半期総集編」に加えて、昨年冬に完売してしまった「04年度版」を100部ほど重版かけ、更に夏で余った「05年度上半期版」と共に再販します。
 新刊の書き下ろしは、お馴染の追記に加えて、「コミックアワード」の初日で実施する年間総括を、ウェブ上じゃ怖くて言えないような事も含めて“ディレクターズ・カット”版で一足先にお見せしようかな…などと考えています。新刊は扱う時期が短い上に新連載・読み切りが少なかったので、これまでとは変わった趣の本になるかも知れません。

 ……さて、今週のゼミはレギュラー分の内容が少し寂しいので、久々に増刊レビューの続きが出来そうです。また先にレギュラー分のレジュメだけ公開し、その後に増刊レビュー分を追加する変則パターンでお送りしますので、ご了承下さい。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(50号)に、読み切り『エリート道場のエリート教室』(作画:福井ユウスケ)が掲載されます。
 
この作者は、恐らく04年に1回限りで実施されたギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」の“爆笑王”受賞者の福井裕介さんだと思われます。これまで2度週刊本誌掲載を果たしていますが、最近は増刊での活動が中心。『うえき』休載で枠が空いたという幸運があったとはいえ、久々3度目の週刊本誌登場となりますね。

 ★その他、公式アナウンス情報

 ◎「週刊少年サンデー」連載中の『うえきの法則プラス』(作画:福地翼)が、今週号無期限の長期休載となりました。
 最近休んでいる週の方が多かった『うえき』が遂に長期休載へ突入。「サンデー」の長期休載は、かの黒歴史的作品・『きみのカケラ』作画:高橋しん)以来のことですが、休載理由もその時と同じく「作者体調不良のため」とのこと。
 ……まぁこの理由を額面通り受け取るのは、少なくとも情報の真偽を判断する上では止めておいた方が良いんでしょうね。本当に病気で休載する場合は、ちゃんと病名や症状、連載再開の目処を併せて発表する場合が非常に多いですし。大人の事情だけで始められた作品だけに、作家さんの精神的負担も大きかったのかな…などと駒木個人は推測していますが、まぁ真相が表に出ては来ないんでしょうね。

 ◎「週刊少年ジャンプ」の若手・新人作家コンペテイションイベント・第2回「ジャンプ金未来杯」の優勝作品が『カメとウサギとストライク』(作画:天野洋一)と発表されました
 昨年度に比べて全体的にやや小粒な印象があった今年度の「金未来杯」、やはりと言うか画力(というか絵の見栄え)が投票行動の決め手になったようですね。第2回「黄金の女神杯」で『鬼が来たりて』作画:しんがぎん)が優勝したのとほぼ同じパターンで、個人的には様々な理由で冴えない気分であります(苦笑)。
 もっとも、第1回「金未来杯」エントリー作品連載化後の不振のせいか、それとも公表されなかった今回の投票内容詳細が芳しくなかったのか、編集部も今後の展開にはかなり慎重な様子です(受賞作の連載化を確約するような文言無し)。ともかくも、作家さんと読者にとって幸せな形の着地点を探ってもらいたいな、と思います。
 
 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:代原読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作品無し
 ◎今週はチェックポイント対象作品がありません。よって、「サンデー」関連のコーナーは1週休みとなります。ご了承下さい。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年48号☆ 

 先週から当講座以外の活動でバタバタしていたので気付かなかったのですが、今週はレビュー対象作ゼロになる所だったんですね。まぁ増刊レビューがありますので、題材には困らなかったわけですが……。
 しかし『H×H』は久々の“長考”に入りそうなムードですね。まぁここ数ヶ月まともに連載されていた時は内容の微妙な薄さが気になっていたので、少し休んで内容の濃いネーム(敢えて『作品』とは呼ばない)を見せてくれたら、それはそれで満足なんですがね。ただ、もう原稿落ちるのは想定内の話なんですから、場当たり的な代原掲載はそろそろ勘弁して欲しいです。

 ……あ、ついでで失礼ですが、今週の『DEATH NOTE』は久々にこの作品独特の雰囲気が出てましたね。モノローグと文字情報だけで1回分費やして1人のキャラを紹介する…という手法、マンガの文法としてはかなりの荒業なんでしょうが、こういう演出こそが良し悪しを超えた所にある『デスノ』らしさだと思います。来週号の掲載順は実質ラス3だそうですが、これを機に巻き返しなりますか。
 あと、『みえるひと』の“初代・明神”は、「青マルジャンプ」掲載の「ストーリーキング」受賞作に出て来た主役ですね。こういう読者の都合を考えない裏設定を前面に出して来たという事は、いわゆる“閉店前売り尽くしセール”の予感がします。……う〜ん、この作品も設定を膨らませれば良くなる見込みがあるだけに、2クールで終わらせるには惜しいんですけどね。

 ◎読み切り『名探偵田中一郎』作画:池内志匡

 作者略歴
 生年月日は現在非公開。
ただし、05年4月期「十二傑」応募時に24歳で、現在は24〜25歳
 00年3月期「天下一漫画賞」で審査員(藤崎竜)特別賞を受賞し、新人予備軍入り。その後、5年以上の空白期間があったが、05年4月期「十二傑」にて、今作で最終候補入賞。今回が代原による暫定デビュー。

 についての所見
 パッと見の造型はなかなか上手に描けているように見えますが、細かい所を見ていくとまだまだ粗い部分の方が目立ちます。
 まず線がメリハリが無く一本調子である上に、太く描くべき線と細くするべき線とを取り違えた個所も見受けられます。また背景処理やトーン処理も、根本的な技術不足の上、限定された予算と労働力との妥協の産物である印象が否めません。これは投稿作品ですから当たり前と言えば当たり前なのですが、それでも週刊本誌に掲載される以上は指摘しておかなくてはならないでしょう。
 あとは顔とそれ以外の体のパーツのバランスでしょうか。下手にリアルタッチな絵柄だけに、首から上の部分が微妙に大き過ぎるのが気になりました。
 ただ、これらの点はギャグ作品としてなら目を瞑っても良い程度の拙さだと思います。それよりむしろ、小奇麗に仕上げようとし過ぎて、ギャグ作品にしてはディフォルメや特殊効果が随分と大人しくなってしまった方がマズいかも知れません。ギャグの遣り取りと絵面がミスマッチに感じたのは駒木だけでしょうか?

 ギャグについての所見
 ギャグが笑えるかどうかという事を抜きにして、ギャグのバリエーション、見せ方・テンポといったテクニカルな面に関しては、プロとして平均値の水準に乗っている要素もありますね。1コマ内での複数のボケ・ツッコミの遣り取りや、ページ跨ぎの効果も決まっていました。
 ただ、「絵についての所見」で先述した控えめなディフォルメや特殊効果のせいで上滑りしている印象を与えるかも知れません。また、作品全体のネタの絶対数も少ないですね。

 さて、ネタのクオリティについては、まずコンセプトや粗筋がインパクト不足であるのが痛いです。手垢の付きまくった“『金田一少年の事件簿』パロ”で、しかも既成パロディ作品の殻を破ったとはとても言えない展開では、笑う・笑わないの判断以前に「またか」「今更これか」という印象を読み手に与えてしまいます。
 それと、ボケにしてもツッコミにしてもセリフが練りこみ不足の感が否めません。たとえ無理だとしても、一言一句全てのセリフで笑いを獲ろうとするぐらいの貪欲な推敲をしてもらいたかったですね。恐らく、その辺にこの作品が最終候補に止まってしまった理由があるのではないでしょうか?

 今回の評価
 評価は少々厳しいですがB−としておきましょう。本来なら週刊本誌どころか増刊にすら載るはずのない作品でしたから仕方ありませんが、ちょっと現状力不足ではないでしょうか。

◆「ジャンプ the REVOLUTION」レビュー(3)◆

 ◎『天球儀』作画:藤崎竜

 作者略歴
 1971年3月10日生まれの現在34歳
 90年上期「手塚賞」で佳作を受賞して“新人予備軍”入りを果たし、同年下期の「手塚賞」で『WORLD』で準入選を受賞この受賞作が季刊増刊91年冬(新年)号に掲載されてデビュー。
 それからは増刊91年春号、週刊本誌91年45号、増刊92年春号と立て続けに読み切りを発表する精力的な活動を展開。92年51号からは『PSYCHO+』で初の週刊連載を獲得するも、幅広い支持を得られず1クール11回で打ち切りとなる。
 打ち切り後は増刊93年夏号、秋号と立て続けに新作を発表したが、そこから増刊95年春号まで1年半のブランクを経験。しかも更にその後1年以上のブランクを強いられるなど不安定な活動を余儀なくされたものの、週刊本誌96年28号より連載が開始された『封神演義』がヒット、00年47号まで4年半の長期連載(他に01年5・6合併号に番外編を発表)となる。なお、この連載期間中にも、00年新年の増刊「eジャンプ」に読み切りを発表している。
 1年強のリフレッシュ期間を経て『サクラテツ対話篇』でいきなりの週刊連載復帰を果たすが、これは残念ながら2クール打ち切り(02年1号〜21号)。それから2年余りのブランクを経て04年40号から『Wāqwāq』を連載するも、これも05年23号まで全34回で打ち切りとなった。今作は連載終了以来初の新作発表となる。

 についての所見
 ここ最近の藤崎さんの画風は、デビュー以来の独特な絵柄に、プロ作家活動の中で身についた正統派の作画技術が融合されているようです。以前に比べてアク(=リアリティの欠如による違和感)が薄れた一方で、個性は個性としてそのまま強烈なアピールを続けている…といった感じでしょうか。
 一作品の中でいくつもの画風を使い分ける器用さと、極端かつ的確なディフォルメも映えているのも個性的で良いと思います。以前の作品では目立った見辛い場面も今作では随分と減っており、少なくとも作画においては藤崎さんの画風の良い所ばかりが目立った良作…という評価をするのが妥当ではないでしょうか。
 
 ストーリー・設定についての所見
 レビューすべく今作を一読しての第一感は「さぁ、困った」でありました(苦笑)。こういった細かい設定やストーリーの完成度より世界観や作品の雰囲気を愉しむべき作品は、「面白い」という感情を完全に排除する当ゼミのレビュー基準と極めて相性が悪いんですよね……。

 それでも、無駄な部分を的確に省略し、頻繁な場面転換でも読み手を混乱させない構成力、そして確かな技術を感じさせる脚本や演出は「お見事」の一言。これは当ゼミの基準でも高い評価点に繋がるポイントです。
 敢えて言ってしまえば、有って無いようなストーリーのマンガでも、33ページを保たせて読み手を飽きさせないというのは、地力が無ければ無理と言うものでしょう。ストーリーを描かずして、ストーリーテリング技術を見せつける、という粋な仕事だと思います。

 ただそれでも、当ゼミでAクラス評価になるような、「同程度のテクニックが施された上で、完成度の高い内容のあるストーリーが描かれた作品」と比較すると、加点材料の量で差が出てしまうのも確か。本来の意味とは少々違いますが、「名作崩れの人気作」的な扱いをするべきなのかな……というのが駒木の結論です。

 今回の評価
 というわけで、評価はB+としておきます。好き嫌いや「面白い」「面白くない」というファクターを通すと、読み手によって評価の上下の差が非常に激しくなると思いますが……。

 ◎『銀河少年ユニ』作画:仲野ケンシロウ

 作者略歴
 生年月日は非公開。05年上期「手塚賞」応募時27歳とのことで、現在は27〜28歳
 05年上期「手塚賞」にて『-meteoric- 流星のユニ』で準入選を受賞。今作はタイトルから受賞作の改作もしくはマイナーチェンジ版と思われる。

 についての所見
 まず、どうしても気になってしまうのが人物作画の拙さでしょう。頭と胴体の大きさのバランスが大きく崩れていたり、表情やポーズのバリエーションが少なく不自然な場面が目立ったりと、パッと見で拒否反応を示したくなる絵柄と言わざるを得ません。線もまだ荒れが目立ちますし、動的表現なども課題が残っているようです。
 しかし、背景描写や宇宙船など直線的な物体の描写は非常に手馴れており、先述の人物作画と比べると「これは同じ人が描いた絵だろうか?」…と思ってしまうほどです。人物作画に比べて静物描写に長けている人はアシスタント出身の新人さんに多いですが、それでもここまで極端な画風は珍しいですね。

 総合的に言えば、やはり人物作画の失点が目立ってしまうかな…といったところ。いくら部分的に良い所が有っても、メインの部分がダメだったら厳しいですよね。
 
 ストーリー・設定についての所見
 こちらの方では、有り体に言って「良い所より悪い箇所の方が圧倒的に目立つ作品」…という印象を受けました。

 真っ先に気になったのが、説明と描写の使い分けのアンバランスさ。冒頭で読み手の知らない固有名詞を既出の言葉のように描く…という、思わせぶりな描写テクニックを使っておいて、中盤以降は極度に説明的なセリフや文字による解説のオンパレード。
 しかも、肝心な部分をクライマックスまで隠そうとする意図を持ち過ぎて、読み手が知りたい部分は“お預け”状態。逆に正直どうでもいい部分ばかりが延々と説明されていく…という、読んでいて非常にストレスの溜まる構成に終始しています。
 これでもまだ、冒頭に読み手を作中世界に没入させるキャッチーなシーン(例えば主人公のキャラクターを前面に出し、そこを読者の興味の取っ掛かりにする、など)を挿入していれば、まだ印象も違って来たのでしょうが……。

 更に言えば、人物のキャラクター、特に主人公の描写が中途半端です。主人公・ユニが、冒頭から出ずっぱりの宇宙海賊の少年(?)に存在感を食われてしまっている…というだけで大問題でしょう。
 その上ストーリーに一貫性が有りません。主人公の「宇宙旅行を夢見る少年」というキャラクター設定と全く関係ない所から、いきなり「ユニは惑星を最終兵器から守る生体兵器だった」という方向へ逸走してしまっては……。
 本来シナリオは1本の“幹”があって、そこから枝分かれしては元の幹に収束される…というのがベストでしょう。しかしこの作品の場合は、いきなり2本目の“幹”が生えたかと思ったら、1本目の“幹”ともども発育不良で伸び悩んでしまったという感じ。もうちょっとストーリーの焦点を絞って欲しかったですね。

 今回の評価
 評価はB−としておきます。デビュー作ゆえ仕方ない部分もありますが、それにしても「手塚賞」準入選作品に手を加えたにしては、かなーり物足りない出来栄えの作品と言わざるを得ません。

 

 ◎読み切り『キャディーガール』作画:後藤竜児

 作者略歴
 
資料不足のため、生年月日・年齢は未判明。
 デビューは週刊本誌99年6号掲載の『はだしの教師』で、これは代原掲載による暫定デビューの可能性が高い。また、01年29号にも同タイトルの代原を発表している。
 その後、「赤マル」01年夏号にこれも同タイトルの『はだしの教師』を発表しており、これが正式デビューか。
 それからは2年半のブランク(高橋和希さんのスタジオでアシスタントを務めていた)があって、週刊本誌04年13号で『ハッピー神社♥コマ太』で復帰。「赤マル」04年夏号には『冒険王』、04年秋発売のギャグ増刊では『LUCKY☆CHILDタケル』を発表している。
 今作はそれ以来、約1年ぶりの復帰作となる。なお、当講座10月31日付講義にてレビューした『キャディーガール瞬』は、今作の後に製作されたリメイク版である。

 についての所見
 リメイク版と間を置かず描かれた作品ですので、抱いた印象もその際行ったレビューの時と同じ──「相変わらずの、高橋和希門下だと一目で判る独特でアクの強い画風」動的表現や表情の描き方にぎこちなさが目立っている──ですね。リアルな描写とは掛け離れた絵柄だけに、こういったアラが目立つと余計に下手に見えてしまいます。これを作者ご本人がどこまで自覚しているかが問題になるわけですが……

 ギャグについての所見
 当然ながら、後のリメイク版と同様、“天然ボケの変人に翻弄される主人公”パターン。やはり笑いを追求するより、ボケ役の変人っぷりを追求しているような、ベクトル違いの感が否めませんでした。もうちょっとボケ役とツッコミ役のパワーバランスが接近しないと、読み手が笑おうとする態勢を取り難いのではないか…と思ってしまうわけですが。
 ただ、こちらの作品の方がリメイク版よりも、ゴルフを題材にしたネタの数やバリエーションで上回っており、そういう意味では評価できる点も若干多い仕上がりにはなっています。(とはいえ、たかだか読み切り1回分でネタが枯渇気味になるようでは、連載のプロトタイプ版としては厳しいですが……)

 今回の評価
 評価はB−とします。ギャグ作品が3本ある現在の「ジャンプ」に割り込んで行けるだけのパワーがあるかというと、ちょっと厳しいでしょうね。ワンアイディアで出来た設定の作品ですから、早々のネタ枯れになりそうですし……。

 

 ──というわけで、今回も3作品分のレビューをお送りしました。残り3作品、上手くすれば次回で完了出来そうなのですが、まぁ期待しないでお待ち下さい。それでは、また次週分でお会いしましょう。


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