「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

1/31(第54回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(1月第4週分)
1/22(第53回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(1月第3週分)
1/14(第52回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(1月第1週後半/第2週分)
1/9(第51回) 
文化人類学特殊講義「旅行記外伝・『デンジャーパーティ』体験記」(前編)
1/5(第50回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(1月第1週分・前半)
1/2(第49回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(12月第5週分)

 

2005年度第54回講義
1月31日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第4週分)

 風邪と眼精疲労も峠を越しまして、ようやく業務再開となりました。年を重ねる度、体調を崩してからリカバーするまでの手間と暇が増えているのを感じます。否応無しに年齢を痛感させられます。

 さて、こういう事になってしまいましたので、今週もスクランブル体制でお送りします。とりあえずは今日(31日深夜)準備できた所までを公開し、残りは明日にでも追加振替講義とさせて頂きます。(追記:講師多忙につき追加振替は2/2以降に延期させて頂きます)
 そんな今回のゼミでお送りするのは、1月第4週発売の「ジャンプ」、「サンデー」(共に8号)の内容についてと、「赤マルジャンプ」06年冬号のレビュー第2回です。最後まで(というか講義終了まで)どうか何卒。

 ……あ、講義遅延のワリを食って開催が遅れております、第4回「仁川経済大学コミックアワード」ですが、水面下で地味に準備は進行中です。こちらも今しばらくお待ち下さい。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

※30日発売の「ジャンプ」9号掲載の情報については、次回ゼミ(1月第5週/2月第1週分)にて紹介します。

★新人賞の結果に関する情報

第32回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年11月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『レオの宝箱』
   山崎宰(18歳・福島)
 《秋本治氏講評:絵は未熟だがストーリー、演出、キャラクターとしっかり描けている。18歳と若いので、このまま自分の世界を描いてゆけば十分プロを目指せるだろう》
 《編集部講評:ストーリーはオーソドックスながら、キャラクターメイキングと構成力はある。設定は色々な要素を入れて工夫しているが、それだけで読者を引っ張っていけない事を意識して欲しい》
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『轟55号』
   徳光武志(28歳・三重)
  ・『泣き虫リンゴとドブねずみ』
   藤本シゲキ(22歳・山梨)
  ・『Let'ユース』
   大槻充(24歳・埼玉)
  ・『gooDrival』
   牛尾洋次郎(23歳・福岡)
  ・『悪霊専門清掃サービス ゴーストクリーニング』
   吉田由壱(23歳・神奈川)

少年サンデーまんがカレッジ
(05年11月期)

 入選=該当作なし
 佳作=1編
  ・『DEAD TURN』
   田口ケンジ(22歳・東京) 
 努力賞=2編
  ・『コンポコ』
   伊藤香代(22歳・東京)
  ・『イメージスロウ』
   小嶋武史(27歳・山形)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  ・『正露丸的緊急事態!!』
   入江達(25歳・大阪)
  ・『青空同盟』
   長谷部夏美(22歳・大阪)
  ・『幸せ提供します!』
   藤田ゆうき(18歳・三重)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ※「十二傑新人漫画賞」
 ◎最終候補の徳永武志さん…「ビッグコミックスピリッツ増刊・漫戦No.2」(02年10月発売)に、今応募作と同タイトルの作品を発表。
 ◎最終候補の吉田由壱さん…04年12月期「十二傑」でも最終候補。

 ※「まんがカレッジ」
 ◎努力賞の小嶋武史さん…04年5月期「サンデーまんがカレッジ」であと一歩で賞(選外)&04年末期「ストーリーキング」ネーム部門で最終候補。02年には「週刊少年マガジン」の新人賞で入賞経験?

 今月はこの他、確証が取れずに掲載を見合わせた情報として“「コミックバンチ」掲載歴があるかも知れない選外の人”もおり、他誌での活躍を経て“メジャー挑戦”を狙う新人さんの多い月度でありました。
 それにしても、「ジャンプ」は元・他誌所属の若手作家さんが新人賞に応募した時は、ほぼ間違いなく1度は最終候補で叩き落しますね。『REBORN!』の天野明さんも随分足止めを食っていたはずです。
 ただ、ある程度活躍した作家さんになると、いきなり連載前提の読み切り掲載スタートが可能だったりと、フレキシブルな部分もあるんですよね。プロ野球でテスト生入団とFA入団で待遇が恐ろしく違う、みたいなもんでしょうか。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2006年8号☆ 

 ◎読み切り『宇宙商人ポメットさん』作画:風間克弥

 作者略歴
 78年9月22日生まれの現在27歳。
 
02年9月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りした後、「赤マル」03年春号にて『ドスコイン〜遊星から来たあんちくしょう〜』でデビュー。
 
その後、「赤マル」04年冬(新春)号04年秋発売のギャグ増刊にそれぞれ読み切りを発表し、05年8号には週刊本誌にも登場を果たしている。

 についての所見
 昨年の作品に比べると、背景処理や特殊効果などには若干の進歩が窺えますが、それでも根本的な人物作画の拙さは相変わらず。ポーズの変化が小さいので動的表現にも悪い影響を与えていますし、描線も不安定なのでパッと見の段階で「下手な絵」という印象を受けてしまいます。
 デビューからもうすぐ3年、もう伸びしろが無いのか、それとも人物作画の技術を磨く余裕が無いのか。ともかくも、未だにギャグ作品という但し書きがあってもセーフ・アウトの境界線を彷徨っている段階ですね。

 ギャグについての所見
 こちらも悪い意味で相変わらずな要素が目立ちます。「弱いボケ→そのボケ説明しているだけでツッコミ、以上終わり」…というパターンが延々と続いて食傷してしまいました。またビジュアルで笑いを狙うも画力不足でインパクトが生まれていないのが余計に辛さを醸し出しています。
 また、ページや大ゴマの無駄遣い、間の悪い演出・構成なども相変わらず。ページ数に恵まれているのに、それをクオリティに繋げられない作風には苛立ちすら覚えます。

 ただ、光明というわけではありませんが、「惜しい」と思えるポイントも見出せた作品ではありました。まだ“打率”は低いですがセリフの言い回しで狙う小ネタを見せたり、活かし切れていないものの登場人物のキャラクターが笑いに繋がる“良い味”を出していたり。
 今になって漸く磨けば光る要素が現れて来た…というのは遅きに失した感が無きにしも非ずですが、それでも大化けの可能性が出て来たのは喜ばしい事。あとはこれを風間さんご本人が活かし切れるかどうかでしょう。

 今回の評価
 評価はB−とします。まだ長所が長所足りえていない現状、まだまだ「ジャンプ」本誌の正規枠相応の水準には程遠いクオリティと言わざるを得ません。キャリア的にもあとチャンスは1〜2回でしょうし、そこでどれだけ“変わり身”を見せられるかですね。

☆「週刊少年サンデー」2006年8号☆

 ◎読み切り『護って騎士』作画:福井あしび

 ●作者略歴
 データ不足により、生年月日は不明だが、05年下期「新人コミック大賞」応募時の年齢から推定すると、現在27〜28歳
 05年下期「小学館新人コミック大賞」少年部門にて、今作で入選(首席)を受賞。本来は来月発売の増刊でデビュー予定だったが、誌面の都合上か今回前倒しで週刊本誌デビュー。

 絵についての所見
 どうしても、頭部がサザエさんばりに大きい、必要以上にマンガ的な人物造型が気になりますね。あんまり良い言い方ではないかも知れませんが、いかにも素人臭い絵柄になってしまいました。
 とはいえ、描線をよく見てみると、案外リアルタッチもこなせそうな感じではあります。今後はもう少しシリアス・リアル路線に絵柄を改造した方が違和感が無くて良いのではないでしょうか。

 この他、トーンの選択ミスで暗くなってしまった画面構成や、ロングショットの絵の粗さなど、いかにもデビュー作らしい荒削りな面もいくつか見受けられました。ただ、これは新人賞の受賞作掲載ですから、ある程度は仕方ない部分でしょう。
 根本的な画力はかなり高いはずですので、今の絵柄の野暮ったさが抜けて来れば印象も随分と変わって来るでしょう。今作のクオリティはさておき、次回作での変貌振りに期待です。

 ストーリー・設定についての所見
 この作品最大のセールスポイントは、やはり全体の構成力ということになるのでしょうか。フェンシングの解説を巧く挿入しつつも、それでいてフェンシング描写はあくまでストーリーを盛り上げるためのアイテムに留めたあたりにセンスを感じさせてくれます。
 欲を言えば、もう少しフェンシングの魅力を示してもらいたかったのですが、逆を言えばそれを欲張らなかったのも良かったかも知れません。

 また、「作品のメインはキャラクター描写とストーリーである」という少年マンガの大原則を忘れず、主人公の心の動きを描こうとした姿勢にも好感が持てます。ヒロインと敵役のキャラクター設定がやや記号的でステロタイプだった事、序盤の主人公の行動が酷すぎて“正義の騎士”的キャラを気取るには説得力に欠けた事など、問題点も見受けられますが、見据えているベクトルが間違っていないので致命的な欠陥にはなっていません。

 ただ、個人的に残念だったのがストーリー。確かに持ち前の構成力で上手くまとめられてはいるのですが、イマイチ食い足りなさが残りました。
 これは、余りにも展開が予定調和的だったり、主人公の心の葛藤がアッサリと終わり過ぎたり、最後のフェンシング試合がワンサイドゲームだったりと、読み手の心を躍らせるようなシーンが欠如していたのが原因でしょう。話を上手くまとめる力があり過ぎるのも考え物、といったところなのでしょうか。

 今回の評価
 今回はB+評価としておきます。絵にしてもストーリーにしても、センスは感じさせてくれるものの、目の前にある現物はどこか物足りない…という作品でした。
 新人賞の応募作としては全く問題なく、首席を獲得したのも肯けるクオリティなのですが、現状、プロの世界に入るとやはり格の差が否めないですね。それでも、近い将来を期待させてくれる新人さんです。名前はしっかり覚えておきましょう。

◆「赤マルジャンプ」06年冬号レビュー(2)◆

 2回目の今回は、正規レビュー実施予定のうち2作品を紹介します。お待たせした(実はこの部分は土曜公開です)割に少なくてすみません。今のコンディションではこれが精一杯です……。

 ◎読み切り『ジュウオウムジン』作画:水野輝昭

 ●作者略歴
 1976年11月11日生まれの現在29歳
 01年上期「手塚賞」で佳作入賞、“新人予備軍”入りし、「赤マル」01年夏号にて『DINOSOUL』でデビューを果たすも、その後、新作発表が途絶え、今作で復帰するまで実に4年4ヶ月ものブランクを経験。

 についての所見
 
素の状態からディフォルメを利かせた、いかにもマンガっぽい絵柄ですが、手馴れたタッチで安定しており、殆ど違和感の無い仕上がりになっています。人物造型の描き分けも出来ていますし、動物を人間と同じようなタッチで描けているのも好印象です。
 ブランクの間はアシスタントをしていたのか、背景処理や特殊効果もソツが無く、これなら週刊本誌へそのまま持っていっても十分通用するでしょう。ただ、線が若干粗く、緻密さが感じられないので、連載陣上位と比較すると見劣りは否めないところではありますが……。

 ストーリー&設定についての所見
 1ページ目からいきなりのアクションシーンで読み手を引き込みつつ、無駄なく主人公のキャラの一番伝えたい所を描写。そして、扉ページを場面転換の繋ぎに使って日常シーンへ持っていく…という演出・構成が素晴らしかったです。伏線の張り方も良いですね。
 また、2ページ目の大ゴマで主人公のビジュアル上の特徴を一発で描き切った場面に代表されるように、文字の解説に頼らない姿勢にも好感が持てました。無駄な部分を廃し、その分設定・ストーリーの内容を充実させようという強い意志が形となって現れていました。

 ストーリーも、適度に練りこまれた世界観や各キャラの設定に矛盾しないよう配慮されているので展開が実に自然で、テンポも良いですね。そんな自然な流れの中でキチンとヤマ場も作れていますし、これはかなりポイントが高いです。
 ただ、ラストがまとまり切っておらず、読み切りにも関わらず未完の状態で終わってしまったのは非常に残念。「100のサインを集める」のは無理にしても、どこか別の前向きな落とし所を見つけてもらいたかったですね。

 また、3人称視点のスタンスにも関わらず、主人公が動物になっている様子は主人公の1人称でしか描かれていないというのにも若干の違和感が残りました
 勿論、便宜上、主人公は人間のビジュアルをしている方が見易いのですが、どこか数箇所で「“動物バージョン”になっている主人公の絵」や「人間バージョンと動物バージョンとがシンクロしている図」を持って来るべきではなかったでしょうか。

 今回の評価
 評価は少々甘いかも知れませんがA−としておきます。まだ伸びしろのある作家さんでしょうから、ブランクの分を埋めるだけの活躍を期待します。

 ◎『生きてた。』作画:小山祐太

 作者略歴
 1986年1月24日生まれの現在20歳(作品発表当時は19歳)。
 04年頃から太宇諭まや夫、太宇諭みや夫、まや夫などのペンネームを使用して投稿活動を開始。04年10月期「十二傑」では最終候補となり、“新人予備軍”入り。05年7月期「十二傑」にて『魔界不思議犬ブルブルブルズ』で十二傑賞を受賞し、

 についての所見
 デビュー作で致命的と言って良いほど酷かった人物作画は、心持ち良くなったかな…程度の進歩に留まり、相変わらずの低水準でした。描線が太い上に不安定なのが下手に見える原因でしょうから、もっと描き込みをしてもらいたいです。
 また、人物造型デザインの無頓着さも相当なモノで、現状では「真面目な話を描いているのに、雰囲気的にはギャグにしか見えない」というぐらい。その世界観や人物のキャラに応じた容姿を作り上げるという意識を持つべきではないでしょうか。

 背景処理や特殊効果といったマンガ独特の表現技巧についてはデビュー作から及第点レヴェルをキープしているなど、全くセンスが無いわけではないのでしょう。まだ若い作家さんですし、ともかくもプロ意識を持って技術の練磨に励むのみでしょうね。
 
 ストーリー・設定についての所見
 まず特筆すべきなのが、ビジュアルトリック的なドンデン返しと、そこから畳み掛けるようにハイスピードで展開されるクライマックスシーンの演出ですね。脱力系ギャグ作品のような気の抜けた世界観設定と、序盤のグダグダなドタバタ劇とのコントラストが強烈で、まさにディープ・インパクト。これが全て計算なのだとしたら恐ろしい才能です。
 それにしても、小山さんの読み手の感情と涙腺を刺激させるパワーは素晴らしいですね。ネームの練り込みの賜物でもあるはずですが、これほどこの手のセンスがズバ抜けた新人作家さんとなると数年に1人ぐらいの稀少さです。これは今後も最大の武器として是非活かして欲しいです。

 ただし、プロット・シナリオの内容の充実度や、世界観・登場人物設定の緻密さなど、本格的な長編ストーリー作品を描く上で最低限必要な要素が大きく欠けているのも事実です。この歪なストーリーテリング力を“異彩の才能”と賞するか、“荒削り”とまとめるか、“片手落ち”とネガティブに判断するかは意見が分かれるところでしょうね。
 いずれにしろ、このままだと、短編ならまだしも長期連載になると10回どころか3回保たないでしょう。原則的に短編作家は存在そのものが認められない「ジャンプ」だけに、今のままでは立ち位置が随分と難しくなりそうではあります。

 今回の評価
 評価はB+とします。ホント、クライマックスの見せ場だけならA評価なんですけどね。この突出した部分に対しての態度が“依存”か“利用”かで今後は大きく変わって来ると思います。

 ……それでは、「今週分」としてはひとまずここまで。引き続いて1月最終週〜2月第1週分のゼミ準備に移ります。しばしの間失礼します。

 


 

2005年度第53回講義
1月22日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第3週分)

 1週間のご無沙汰になってしまいました。いやもう、毎日昼間でエネルギーを完全に使い果たしてしまいまして……。
 仕事がほぼ授業専門の高校講師にとって、1月は一月遅れの師走なんであります。正月ボケを許さぬ学期冒頭の実力テスト、祝日も無しでギッチリ詰まった時間割、トドメに3年の前倒し学年末テストと、テンよし中よし終いよし。理想的な逃げ馬みたいな1ヶ月なのです。この月を乗り越えれば、後は1年でもかなり楽な部類に入る時期なんですが……。
 で、生半可な気合ではここの講義はこなせないコンディションの現状、こちらのカリキュラムはどうしてもこんな感じになってしまいます。申し訳有りません。近い内に何とかします。

 さて今週は、「週刊少年ジャンプ」は合併号休みで、その代わり「赤マルジャンプ」06年冬号が発売になっています。例年は年末発売なのですが、今冬は「GO!GO!ジャンプ」が05年末に発売されたこともあって、変則的なスケジュールになっています。
 当ゼミでは、「赤マル」と言えば全作品レビューがデフォルトなのですが、この時期に発売されると準備時間的に言って正直辛いものがあります。また、先日も申し上げた通り、全作品レビューというスタンスそのものもボチボチ見直す時期ではないかと検討していた所でもありました。
 そこで今回は、週刊連載の最終回総括も兼ねる事になる『武装錬金ピリオド』と、新人・若手作家さんの作品から評価B+以上(今の見立てでは4作品程度)のレビューを2〜3回に分けてお送りし、残りの作品については作者略歴と短評のみに留めようと思っています。どうか何卒。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★今週の誌面では、読み切り・新連載、及び新人賞関連の公式アナウンス情報はありませんでした。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「サンデー」:読み切り1本
 ・なお、チェックポイントはレビュー該当作が無いため休止します。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年サンデー」2006年7号☆

 ◎読み切り『ギョッとする! おととさん』作画:橋本時計店

 ●作者略歴
 データ不足により、生年月日は不明だが、「爆笑王決定戦」の受賞年齢から推定すると、現在24〜25歳
 04年、「週刊少年サンデー」ギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で佳作受賞。同年末発売の隔月増刊05年新年号にて『ゴースト 〜入浴中の幻〜』でデビュー。増刊05年3月号、及び週刊本誌05年35号に代原読み切りを発表している。
 今回は正規枠で、2度目の週刊本誌登場。

 絵についての所見
 昨年の時点から、随分と線がスッキリと洗練されている絵柄でしたが、今回は更に安定感を増して、完全に週刊本誌の水準に溶け込んでいます。父親役の擬人化した魚にしても、微妙なリアルさ加減で上手く描けていますしね。
 どこか既視感のある、「少女向けホラー風絵柄のパロディ」を更にパロディにしたような画風で、ディフォルメ・特殊効果が単調に続いたのが少し気になりますが、それでも作者が伝えたい事は全て伝えられているので、大きな減点材料には当たらないでしょう。

 ギャグについての所見
 まず結論から先に述べますと、ギャグの見せ方、転がし方が実に良く出来ている作品です。テクニックだけで言えば「サンデー」のギャグ系作家さん全体の中でも五指に余らないでしょう。
 特に優れているのが絵の使い方。サイレントの技法も使いつつ、セリフに頼らず「絵で笑いを獲ろう」という意識が高いのが印象的でした。マンガだから当たり前なようで、実はこれが非常に難しいのです。また、“考えオチ”っぽいネタがいくつか見られたのも、ネタのバリエーションの観点から言ってもプラス材料でしょう。
 そしてこれと関連しているのですが、“間”とテンポの良さも特筆すべき点。三段オチ形式で仕込まれた小ネタの挿入などは、新人離れした技術と言っていいでしょう。

 課題としては、ややセリフのギャグが練り込み不足で流れ気味だった点が挙げられるでしょうか。セリフそのものは無駄なく練り込まれており、意図する所は理解出来るのですが、ここからもう一歩ハジけてもらいたいと思います。ただ、これもレヴェルの高い注文です。
 あと、これは評価点とは関係ない所での話ですが、やっぱりこのコンセプトは読者を選びますよね。「父親がリアルな魚」という時点で引いてしまうと、ギャグのクオリティ以前の所でかなり厳しそうです。事実、ネット界隈の感想を見ると相当辛口のものが多かったようですし……。

 今回の評価
 世間の趨勢に逆行して高い評価を出すなんて、また何か言われそうで怖いのですが(笑)、好き嫌い無視・テクニック重視の当講座の評価基準に鑑み、敢えてここでA−評価を進呈します。あくまで駒木の価値観なんで、「それは違う」とか言いっこ無しで願います。
 今作の評判はさておいても、とにかくセンスは抜群に優れた作家さんだと思います。多くの人に受け容れられる作品に恵まれるまで、どんどん新作を量産していってもらいたいです。

◆「赤マルジャンプ」06年冬号レビュー(1)◆

 1回目の今回は、巻頭カラーの『武装錬金ピリオド』のレビューを兼ねて、『武装錬金』シリーズの総括もまとめてお送りします。新人・若手作家さんの作品については、レビューの骨子は出来上がっているものの、評価A−とB+の振り分けで迷っている作品が複数あるのです。お待たせして申し訳ないですが、次回ゼミまでお待ち下さい。

 ◎『武装錬金ピリオド』作画:和月伸宏

 旧評価:保留最終確定評価:A−

 ビジュアルノベル風に言えば、「斗貴子さんグッドエンド」という事になるのでしょうか。若干強引でヌルめの辻褄合わせが認められるものの、読み手に陽性のカタルシスを十分与えてのハッピーエンド決着となりました。
 最近は“救いのある悲劇”にもチャレンジする(『エンバーミング』)など、ストーリーテラーとしての充実と共に新境地を開拓しつつある和月さんですが、今回は自他共に認める“ハッピーエンド至上主義者”らしい結末でしたね。でもまぁ、ヒロインが死ぬか消えて終わる話はアリですが、主人公が死んで終わると全く収集がつかないので、収まるべき所へ収まったと言うべきなのでしょう。

 そして、先ほどは“若干強引でヌルめ”と述べましたが、それでもプロットの充実度は素晴らしかったです。可能な限り伏線を回収し、脇役たちそれぞれの物語にも決着をつけ、見せ場の演出・脚本も全くスキ無しのクオリティ。打ち切りで過剰に広がり切っていた“風呂敷”を畳み切る事に成功しています。

 ……ただ、それでも如何ともし難いのがページ数の絶対的不足。今回のプロットなら、最低でも単行本1冊分丸々のボリュームは欲しい所なのですが、この辺が円満完結でない悲しさなのでしょうね。蛇足や“遊び”の部分を削るだけでは事足りず、戦闘シーンや場面・時系列を飛ばすのに必要な“間”まで削ってようやく詰め込んだ…といったところでしょうか。
 せっかくの名ゼリフ・名場面も、読み手がそれらをジックリと吟味したり、余韻を楽しんだりする余裕が見出せず。何とももどかしい、そしてとても惜しい完結編でありました。とはいえ、そんな中でも、カズキ・斗貴子の再会シーンや、2人が日常に帰って行くラストシーンなど、トピックスとなる場面ではギリギリのページの遣り繰りで名シーンを演出できていますから流石です。これには脚本の良さも含めて、和月伸宏の意地を感じました。
 出来る事なら、『きみのカケラ』方式で、単行本で全面改稿してもらいたいぐらいなのですが、それも見果てぬ夢。ただ、単行本では特別読み切りが描き下ろされる予定らしいので、そちらでの補完に期待しましょう。

 さて、最後に連載全体の総括をして、締めくくる事としましょう。
 世界観や人物の諸設定、作品全体を通じてのプロットだけに絞れば、マンガ史にその名を刻む程の名作級クオリティだったと今でも断言できます。しかし、製作サイドのミステイク(例えば盛り上がりに欠けた大半の戦闘シーン)や、いわゆる大人の事情のために、これらの恵まれた条件を理想的な形に満足させる事が叶いませんでした。ポテンシャルに不相応な“マニア向けのカルト作品”の域に留まってしまった、返す返すも実に惜しい佳作であります。
 よって、評価は名作とするには欠点が多過ぎるということでA−。和月さんには、この作品での反省点を踏まえ、次回作での飛躍を強く望みたいですね。

 
 ──というわけで、『武装錬金ピリオド』及び『武装錬金』シリーズの総括レビューをお送りしました。
 しかしこの『武装錬金』、見方を変えると、今回曲がりなりにも程好いタイミングで完結を迎えられたのは打ち切られた“お陰”でもあるわけで、内心複雑な心境だったりもするのですよ。
 現状のマンガ業界で、キチンと始まってキチンと終われるマンガって、殆ど期待出来ないんですよね。そういうジレンマが最近、かなり心に重く圧し掛かるようになって来ました。冒頭から結末まで心躍らされ、完結するのが惜しくて堪らないような名作マンガに出会うなんて事、今となっては見果てぬ夢なのでしょうか。

 


 

2005年度第52回講義
1月14日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第1週後半/第2週分)

 今週には旅行記外伝を終わらせる予定だったのですが、想像以上に世を忍ぶ仮の本業のストレスが酷く、こちらに取り掛かる気力が確保出来ませんでした。長期間心身をリフレッシュさせてしまうと、その揺り戻しも酷いという典型例であります(苦笑)。

 まぁ、旅行記も骨子は頭の中で完全に出来てますので、しばしお待ちを。

 さて、それでは早速ゼミを始めましょう。今回は先週土曜日発売の「週刊少年ジャンプ」6・7合併号の内容についてと、「GO!GO!ジャンプ」レビューの第2回をお送りします。なお、前回のゼミの中で「『週刊少年ジャンプ』系作家の作品は4つ」と申し上げましたが、5つの間違いでした。よって、レビュー対象作もその分増えて全部で5作品となります。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(8号)に読み切り『宇宙商人ポメットさん』(作画:風間克弥)が掲載されます。
 風間さんは03年デビューの若手ギャグ作家さん。05年8号掲載の『多摩川キングダム』以来、ちょうど1年ぶり2度目の週刊本誌登場となります。連載枠が埋まって入る今、そこへ割って入ろうとするギャグ作家さんには厳しい状況ですが、これを打開する起爆剤にしたいところでしょう。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 ・なお、チェックポイントはレビュー該当作が無いため休止します。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2006年新年6・7合併号☆ 

 ◎読み切り『FOREST』作画:内水融

 作者略歴
 正確な生年月日データは散逸して不明。
 00年5月期「天下一漫画賞」にて審査員(ほったゆみ)特別賞を受賞して“新人予備軍”入り後、「赤マルジャンプ」01年冬号にて『POT MAN』でデビュー
 その後、にわのまことさんのスタジオでアシスタント修行を積みつつ作家活動も継続し、「赤マル」01年冬号、03年春号にて読み切りを発表
 本誌初登場を週刊連載で果たす異例の“飛び級”で03年41号より『戦国乱波伝サソリ』を連載するも失敗(03年52号まで、1クール12回打ち切り)
 それからは04年26号『賈允』を発表し、これを大幅にリメイクした『カイン』を05年24号より連載したが、またしても打ち切りの憂き目に遭う(05年43号まで2クール打ち切り)
 今回は2度目の打ち切りからの復帰作で、過去作とは一線を画した読み切り作品。

 についての所見
 『カイン』終了後から間もない事もあり、良い意味でも悪い意味でも平行線といったところでしょうか。線がやや繊細過ぎる嫌いがあり、人物の表情も硬いのが気になりますが、それでも細部に至るまで緻密に描きこまれており、「力作」との印象も強く受けます。「ジャンプ」作品としても合格点を出せる水準でしょう。
 今後、どこまで絵柄を改造する余地があるかどうかは微妙ですが、もう少し線にメリハリを付けて欲しいものです。そうすれば、もっと画力の面から積極的に評価出来るようになれるのですが……。

 ストーリー&設定についての所見
 今回は「特に特殊な設定の無い、現実世界(のいつか、どこか)とよく似た環境の架空世界」という、内水融・読み切り定番パターンの世界観設定となりました。そして諸々の設定の説明・解説を極力廃し、そうする事によって「この作品世界は、原則的には私たちの住んでいる世界と同じなのですよ」という印象付ける事に成功しています。
 後から説明も無しに追加される解放奴隷の設定も、この意識付けが上手いために違和感も有りません。余分な設定解説にページを取られなかったのがドラマの充実にも繋がっていますし、これは積極的に評価したい所です。
 しかし、このパターンだとシックリくるのに、どうして連載になると中途半端に現実世界とシンクロさせたり、付け焼刃の特殊設定を添付しちゃったりするんでしょうね。

 ストーリーの方は、悪党が無垢な少女に心を癒されて改心するが……という手垢が付いたパターンではあるのですが、その“材料”の料理の仕方が巧いという印象ですね。扱いの難しい“善・悪の逆転”というテーマを堂々と描き切り、シビアながら人情味溢れる“後味の良い悲劇”に上手く仕上げられています
 また、ステロタイプな善悪に囚われないキャラの村の用心棒が良い味を出していました。これが「正義と平和を守るため」とか口に出して言い出すと、一気にドラマがチープになってしまうのですが、この辺は内水さんの非凡なセンスの現れでしょう。

 ただ、惜しむらくは脚本。やや事務的で説明的なセリフが多く、決め台詞も冴えていたとは言い難いもので、折角の良作も画竜点睛を欠いた感が否めませんでした。クライマックスでも一連のセリフがあと少し洗練されていれば、文句無しで名作だと推せたのですが、これだけが残念でしたね。 

 今回の評価
 それでも評価は十分A−。これで内水さんは当ゼミ開講以来、読み切りは全てAクラス評価。本当、短編は良い仕事するんですけどねぇ……。

◆「GO!GO!ジャンプ」レビュー(2)◆

 ◎読み切り『恋するサボテン』作画:長宏樹

 作者略歴
 1980年3月22日生まれの現在25歳
 05年2月期「十二傑」で審査員(岸本斉史)特別賞に入賞し“新人予備軍”入り。その後の受賞歴は無いが、今回のデビューを迎えた。

 についての所見
 フリーハンド主体でディフォルメ気味の絵柄。天然的な柔和さと親しみに溢れた、見易く得な画風ではあると思います。雰囲気的には尾田栄一郎さんタイプに分類されるのでしょうか。
 ただ、全体的に描線が弱々しく、画力そのものも基礎的な所から不足している現状でもあります。もう少しリアル系の描写力を身につけてから、もう一度今の絵柄に戻すぐらいで丁度良いように思えますね。(ただ、そうすると本格的に『ONE PIECE』みたいな絵柄になっちゃいそうですが……)

 ストーリー&設定についての所見
 まず端的に結論だけまとめると、序盤は展開が余りにも不自然で唐突、中盤はひたすら冗長、終盤は辻褄を合わせるための後付けに違和感アリアリ……という、“逆・三拍子”揃った作品になってしまったのではないでしょうか。途中に挟まれたギャグも「無理矢理挟みました」感が否めませんでした。

 特に中盤で随分とページを浪費したのが終盤に響いています。主人公のキャラクターを描き切れなかったためにクライマックスのカッコ良い行動に説得力が全く出て来なかったですし、覆面ヒロインもその魅力を最大限発揮出来たとは言い難い演出でした。
 折角の特殊能力も戦闘シーンを盛り上げるような活かし方をされておらず、敵役も記号としての“やられ役”キャラを脱し切れないままでした。

 ストーリーの破綻はギリギリの所で避けられてはいるものの、それも矛盾点を潰すだけで精一杯。設定・ストーリーの練り込みは落第点レヴェルとあっては、いくらデビュー作である事を考慮しても、厳しい評価は避けられないでしょう。

 今回の評価
 評価はB。長さんは、年齢的にも次回作辺りが正念場になると思われますが、余程大幅な改善が見られない限り、なかなか見通しは厳しそうです。

 ◎読み切り『REVOLVER大和』作画:久米利昌

 作者略歴
 1981年8月1日生まれの現在24歳
 04年1月期「十二傑新人漫画賞」にて最終候補に残り、“新人予備軍”入り。その後、04年下期「手塚賞」で準入選を受賞。そして「赤マル」05年春号にて、受賞後第一作の『ライジングT』でデビュー。今回が2作目となる。

 についての所見
 
デビュー作から高水準にあった背景処理・特殊効果は今回も堅調。やはりどこかでアシスタント修行を積んでいるんでしょうね。定規を使った無機物の描写が完全にプロの絵柄になってます。
 ただ、これもデビュー作以来の特徴だった、人物の表情やポーズの固さが今回も見受けられたのは残念でした。基本的な造型にも若干違和感があり、今後、連載を目指すに当たってはこれが課題になる事でしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 コマ割りや構図の取り方といった演出面が随分と手馴れた感じなのが驚きです。デビュー2作目としては特筆すべきスキルの高さですね。
 デビュー作では今ひとつだった脚本面に関しては、まだ冗長で回りくどいセリフも見られるものの、決めゼリフの部分などで着実な進歩が窺えました。まだ手放しで褒めるのは難しいですが、このまま頑張って欲しいです。

 一方、設定やストーリーといった“今作限り”の要素についてですが、何とも言えないもどかしさが残ってしまいました。必殺技や不良まみれのサッカー部といったベタでトンデモな設定を使っておきながら、何とかそのトンデモ色を消して正統派の青春モノに見せたい…という配慮が露わになってしまい、逆に不自然でした。
 正統派な青春ドラマにしたいなら「リボルバーショット」みたいなケレン味の有り過ぎる高橋陽一的なギミックは不要でしょうし、サッカー部の設定ももう少し練りこむ必要があったでしょう。逆にトンデモ設定を使うなら、作中人物に「リボルバーショットって『キャプ翼』じゃあるまいし」なんてメタなツッコミを入れさせては興醒めになるだけです。トンデモをやるならやるで思い切ってトコトン開き直って欲しかったですね。

 懸命に矛盾点を潰し、トンデモ色を消そうとした努力の結果、確かにストーリーはよくまとまっており、ラストも形としては上手く決まってはいるのですが、逆に言えば「まとまっているだけ」という言い方も出来てしまう作品でした。駒木が言うのもアレですが、欠点を指摘してツッコむという評論家的な視点で作品を創っても成功するわけではない…という典型例と言えるのではないでしょうか。

 今回の評価
 評価の難しい作品ですが、デビュー作同様のB寄りB+としておきます。レビューは随分と辛口になってしまいましたが、絵にしてもストーリーにしても最低基準は軽くクリア出来ている作家さんではあるのです。
 ただ、良作・佳作を生み出すために必要となる、最低基準からのプラスアルファが物足りないので、こういうニュアンスの批評になってしまうのです。

 ◎読み切り『レマ宇宙探検隊』作画:東元俊也

 作者略歴
 1981年10月27日生まれの現在24歳
 05年5月期「十二傑」で十二傑賞を受賞(この時はLUHEN名義)。今回はこの際の特典を行使しての受賞作によるデビュー。

 についての所見
 受賞歴全くナシの状態で描かれた新人賞応募作とあって、さすがにデッサンや描き込みの細部で粗さが目立ちます。スクリーントーンの使い方にも、まだぎこちなさが残っていますね。
 しかしそれでも、人物造型のバリエーションや様々な構図での対応、不要なディティールの大胆な省略やディフォルメなど、非凡なセンスは随所で窺えました。磨けば磨いた分だけ光りそうな素材ではありますね。次回作以降のスキルアップに期待しましょう。

 ストーリー&設定についての所見
 「ジャンプ」では珍しい、正統派の少年宇宙冒険モノ。題材としてはなかなか新鮮なのですが、この短いページでは、宇宙冒険の魅力や醍醐味を伝えるのはさすがに難しかったようです。もう少し主人公や仲間たちの宇宙船(避難用宇宙ボート)内部でのシーンを充実出来れば、キャラクター描写の面でも良い効果が得られたはずなのですが……。
 また、ストーリーでも根本的な所で無理がある──わざわざ悪の親玉がTVにしゃしゃり出て、怪しさ満点のカミングアウトをする──ために、完成度を随分と損ねてしまった感がありました。クライマックスの展開も性急で、呆気ない印象が否めず、ここでもページ数不足と主人公たちのキャラ描写不足が響いています。ひょっとしたら「十二傑賞」ではなく「ストーリーキング」で勝負すべき題材の作品だったのかも知れませんね。

 今回の評価
 評価はB−とします。東元さんも次回作でどれだけ化けられるかが「ジャンプ」作家としての素質を見極める試金石となりそうです。


 ……というわけで、全5作品に限定しましたが増刊レビューをお送りしました。やはりベテラン連載作家と新人作家の“格の差”が明確に見えたかな、と。まぁ当たり前と言えば当たり前なのですが……。
 でも「新人だからベテランより下手で当然」という理屈が通用しないのがマンガ業界ですからね。ベテランの壁をヒョイっと乗り越える逸材の登場を待ちつつ、今後も心を鬼にして辛めのレビューを心掛けたいと思います。

 それでは、また来週。次週は「赤マル」の発売となりますが、今回は評価上位の5作品程度をレビュー対象として、あとは略歴と簡単な評価のみの掲載に留めようかと思っています。語る価値も意義も薄い作品のレビューがトラブルの種になるのはもうウンザリですしね。

 


 

2005年度第51回講義
1月9日(月・祝) 文化人類学特殊講義
「旅行記外伝・『デンジャーパーティ』体験記」(前編)

 気が付けば世間的にも、学校歳時記的にも冬休みが終わってしまいました。長期休暇中に店晒し状態の講義を何とかしたい……と思っていたものの、気持ちばかり焦って全く準備が進まず、このような体たらくであります。まったくもって申し訳有りません。
 しかし、このまま「最近の講義一覧表」を「現代マンガ時評」の文字で埋め尽くすのも忍びなく、駆け込みながら特別企画シリーズを放り込んでしまおう、という次第であります。全2〜3回の短期集中で今週中の完結を目標にカリキュラムを組む予定です。

 さて、そうして今回お送りしますのは、タイトルにありますように、不定期でお届けしている駒木の東京旅行記の“外伝”05年末の東京旅行の際、冬コミの打ち上げを兼ねて緊急開催したオフ会(食事会)の顛末記であります。
 この食事会は、以前の旅行記にも登場しました、東京は亀戸にある、プロレスラー・松永光弘氏がオーナーシェフを勤めるステーキ屋・「ミスターデンジャー」で開催されました。実施の正式決定が旅行出発前夜、要予約のため参加者変更不可という切迫した事情により、広く参加者を募る事が出来なかったのが残念でしたが、以前からオン・オフライン問わず直接交流のあった受講生さん&駒木で計7名という“宴会適性人数”で無事挙行されました。
 で、この「ミスターデンジャー」というステーキハウス、後でじっくりレポートをご覧頂きますが、その飲食店らしからぬ店名からして一筋縄では行かないのです。今回予約したパーティコースも“デンジャーパーティ”という物騒な名前が付けられ、しかもその名に恥じない危険なまでにデカい食材のボリュームが一部愛好者の間で有名であります。
 パーティ体験者から聞こえて来る噂の“デンジャー”ぶりも凄まじいものばかり。曰く「入店時は威勢の良かった大の男どもが、2時間後には弱弱しい声で『テイクアウト出来ますか〜』と悲鳴をあげた」。また曰く、「ステーキハウスのパーティなのに、満腹でメインのステーキが一切れも食えない」。まったくもって、サービス精神旺盛な料理人の本末転倒な心意気に溢れた逸話のオンパレードであります。

 そういうわけで今回は、その“危険なパーティ”を我が身と胃袋を張って体験したその様子について、レポートをお届けしようという次第。参加して頂けなかった皆様にもせめて雰囲気だけでも掴んでいただこう…という趣旨であります。まぁ演出上、多少大仰な表現も出てくるかと思いますが、堅い事は気にせず、どうか最後までお楽しみ下さいませ。

 ──では、これよりレポート本文に移ります。便宜上、文中の文体は常態に変えますのでご了承下さい。


 ステーキハウス「ミスターデンジャー」へは、JR総武線で亀戸まで行った後、駅舎に改札・ホームが隣接している東武亀戸線に乗り継ぐのが最短コースである。最寄駅の東あずま駅までは2駅、所要時間5分弱。余談だが、「東あずま」は漢字に直した場合、「東東」ではなく「東吾嬬」と書くそうだ。
 それにしてもこの、23区内の住人でも存在すら知らない事が多いこの超ローカル路線を、駒木はステーキを食うためだけに年3度は利用しているのだから、我ながら呆れてしまう。もし「東武亀戸線を最も多く利用している神戸市民ランキング」があれば、相当な上位に食い込むのではなかろうか。まぁ多分1位は「東武亀戸線沿線に住む、学生時代からの恋人と遠距離恋愛中の男性24歳」とか「東武亀戸線沿線に離婚した前妻と住む愛息に月に1度会いに行く会社員34歳」とか、信じられないぐらいレアな条件をクリアした人がいると思うので無理だろう。第一、そんなタイトルあまり欲しくない。

 いつもの旅行では、後楽園ホールでボクシングやプロレスを観た後に独りで乗り込む東武亀戸線だが、今回は総勢7名の“大所帯”。その大半は、駒木の「1回“デンジャーパーティ”やってみたいんだけど」という急な提案に乗って下さった、駒木と旧知の受講生の皆さんである。
 駒木とは交流があっても、受講生さん同士はほぼ互いに初対面…という組み合わせのメンバー構成で、ちょっとその辺は心配だったのだが、やはりそこは「社会学講座」という共通の話題があるという強み。趣味や価値観も似通っており、あっという間に打ち解けたのは幸いだった。困った時はマンガかプロレスか競馬か麻雀か歴史の話に振れば大丈夫なのだから心強い。言葉のキャッチボールで高速スライダーを投げてもバッチリ受け止めてくれる安心感が、あっという間に信頼関係を築いていく。

 東あずま駅に着いてからは、駅舎を背に向けて右方向、「デニーズ」の看板の見える方向へひたすら歩を進めると、間もなく闇夜の中に黄色い蛍光看板が視界に入って来る。ここが「プロレスラー・松永光弘の店 ミスターデンジャー」だ。
 時刻はまだ19時前だが、既に店の前には入り切れない客が厳冬の寒さに身を震わせながら席が開くのを待っていた。このローカルな土地にしてこの繁盛振り。これだけでもこの店がただの有名人の店でない事がよく判る。
 事実、「ミスターデンジャー」は、経営が軌道に乗るまでは一切プロレスマスコミの取材を受け付けなかったという逸話が残っている。これは好奇心先行のプロレスファンに頼らず、地元住民のリピーターを確保する事こそが成功の近道という、店主・松永光弘氏の信念によるものであったらしい。松永氏は、そのレスラー全盛時代には無数の凄惨なデスマッチを戦い、果てはプロレス史上初めて後楽園ホールの2階バルコニーから1階めがけてダイビングボディアタックを敢行した事で知られる無鉄砲な御仁ではあるが、こと商売事に関しては石橋を叩いて渡る慎重派であるようだ。

 それゆえ、メニューや料金設定も、有名人の店にありがちな割高さとは全く無縁。一番人気のセットメニューは、450gのステーキにミニサラダとカップのスープ、それにライスが付いて2000円というお得さ。しかもステーキは、安価なブロック肉を使用していながら下処理の段階で筋を全部取り除いているため、ナイフが要らない位柔らかい。その上、ライスは中華料理屋で言う“炒飯・大”サイズの超大盛りまで可能の大盤振る舞いである。
 そしてサイドメニューのボリュームも満点以上だ。例えばメニューに「おすすめ!」と特記された「にんにく焼き」は、300円というロー・プライスに油断していると、小鉢一杯・全部で20片は在ろうかという白塊の山に迎撃されて面食らう事になる。
 かつて駒木も、1人で来店した際にこの“にんにくジェットストリームアタック”をお見舞いされ、嬉しい悲鳴を上げさせられたものだ。なるべく罪無き通行人に接近せぬようホテルへ帰着した後、念入りに入浴して身を清浄し、この恐るべきガーリックスメルを根源から断絶せんと懸命の努力を重ねたものの、翌朝、狭いシングルルームは香ばしい異臭で充満しており、寝起き早々派手にむせっかえる羽目になった。せっかくの禁煙ルームを台無しにしてしまい、大変申し訳なかったと反省している。

 ……これだけお話すれば、お分かり頂けるだろうか。つまりは、サービス精神が溢れすぎて危険水域に達している店、それが「ミスターデンジャー」なのである。そして、そんな店で、我々は、わざわざ“デンジャーパーティ”と謳われた、そんなコース料理を頼んで食そうというのである。これぞまさにフードバトルと言っても過言ではない。
 さて、既に事前に予約済みの駒木一行は颯爽と店内へ。予約している旨を告げ、忙しなく動き回る店員さんに、キープされていた奥の座敷席へと誘導される。左右のカウンター・テーブル席は既に宴もたけなわ。卓上には鉄板の上で肉汁がほとばしり、山盛りのライスが存在感たっぷりに白く輝いていた。
 とりあえずは座敷席に腰を落ち着けて、飲み物をオーダー。壁に貼られた90年代初頭のプロレス超マイナー興行ポスターに感嘆の声を挙げながら、ドリンクとコース料理の1品目が到着するのを待つ。
 そして、「斎藤彰俊が出世し、木村浩一郎も健在、松永はこうして実業で成功した。ところで徳田光輝は今何やってんだ?」という、コアなプロレスファンしか理解し得ない“旧W☆INGトーク”に華を咲かせていたその時、遂に店員がパーティの口火を切る品を持って座敷に登場した。

 「こちらオードブルになりますー」

 事務的な声に乗せられて、積載可能部位の大部分をローストビーフ風牛肉タタキと生ハムとキムチ(何故?)で埋め尽くされた大皿が運ばれて来る。それも2皿。7人で大皿一杯の肉とハムとキムチを2皿。オードブルと言うには余りにもな待遇である。
 普通オードブルってもんは、焼豚とか小さな手羽先の揚げ物を1人1〜2切れずつ分配したら終わりになるもんじゃないのか? オードブル業界的には、これってどうなんだ? しかし率直な疑問は現実の前に意味を失ってゆく。
 そして我々は思った。これがオードブルなら、この先どうなるんだろう……?

 ──その答えは、それから間もなくして胃袋をもって理解させられる事となる。満腹中枢の虐待が始まろうとしていた(続く)。

 


 

2005年度第50回講義
1月5日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第1週分・前半)

 今週は4日に「サンデー」、そして7日に「ジャンプ」がぞれぞれ発売になる、ちょっと変則的な日程です。翌週月曜が成人の日のための「ジャンプ」前週土曜発売ルール適用なわけですね。
 よって、「現代マンガ時評」も特別編成。まず今回に「サンデー」5・6合併号関連の講義を実施することにして、「ジャンプ」6・7合併号については来週実施の次回に回します。
 そして、今回と次回では、年末からお待たせしておりました、「ジャンプ」増刊の「GO!GO!ジャンプ」掲載作品のレビューも2回に分けてお送りします。ただ、今回は、レビュー対象作品を「週刊少年ジャンプ」系作家さん(現在は月刊連載中の樋口大輔さんも含む)の作品で、かつ連載作品の特別編でない4作品に限定させてもらいます。
 本来なら全作品レビューが原則ではあるのですが、下読みの段階でレビュー対象外となる作品に評価A−以上相当の作品が見出せなかった、そして来週には「赤マルジャンプ」06年冬号が発売になるという諸事情を鑑み、こういう措置を採らせて頂きました。どうかご理解の程を。

 ……それでは、今週のゼミを始めます。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(7号)に読み切り『ギョッとする! おととさん』(作画:橋本時計店)が掲載されます。
 橋本さんは「爆笑王決定戦」出身の若手ギャグ作家さんで、2度の増刊掲載と1度の週刊本誌代原掲載を果たしていますね。個人的には、「サンデー」ギャグ系若手作家さんの中では力量上位だと思っているのですが、さて今回はどうなるでしょうか。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「サンデー」:新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年サンデー」2006年新年5・6合併号☆

 ◎新連載第3回『地底少年チャッピー』作画:水口尚樹

 についての所見(第1回掲載時からの推移)
 
既に絵柄が固まりつつある作家さんですし、絵のテクニック全般について、特筆すべき事項は見当たりません。「良くも悪くも平行線」といったところではないでしょうか。

 ギャグについての所見
 2本立ての第2回を含めてここまで4話を重ねましたが、依然として伸び悩みの傾向にあるようです。
 さすがにわざと滑るダジャレを連発するような自殺行為は第2回以降減りましたが、ネタフリ・ページ跨ぎからインパクトのあるビジュアルでオチ…というネタがワンパターンで連続する構成、しかもその間に挟まる部分の小ネタの密度が薄くては、どうしても一本調子さと淡白さが目立ってしまいます。

 また、ネタ元がゲストキャラの外見や行動の判り易過ぎる変さに集約し過ぎているのも問題ではないでしょうか。馴染みの無い人物が、馴染めないような外見・行動をしているのでは、どうしても読み手は引き気味のスタンスになってしまいますしね。
 ただこれは、主人公・チャッピーのキャラに笑いを生み出すパワーが不足している事実の裏返しでもあり、そう考えるとかなり根深い課題でもあります。つまり、主人公だけではインパクトの強いギャグを量産出来ないので馴染みの無いゲストキャラに頼らざるを得ないが、ゲストキャラはあくまでもゲストなので主人公の代わりは出来ない……という理屈です。

 こうして見ると、どうもこの作品は、根本的な部分から失敗している可能性が濃厚ですね。読み手に笑いを提供できない主人公と相手役では、良いギャグ作品になりようがありません。今のこの作品は、バカボンパパのキャラが非常に地味な『天才バカボン』みたいなモノですからね。
 ここから挽回するには、事実上の主人公交代となるような荒療治を施してでも、キレの良いネタを量産できる新レギュラーキャラ──例えば『ピューと吹く! ジャガー』におけるハマーのような──の投入が必須になって来るでしょう。

 今回の評価
 評価は1ランク下げてB−に。前途のかなり厳しい作品ですが、「サンデー」だとこれでも1年ぐらいは生き延びてしまうんでしょうね。失敗作の連載を引き伸ばす事ほど、作家さんにとってダメージの大きな仕打ちは無いはずなのですが……。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、『道士郎でござる』の最終回総括です。

 ◎『道士郎でござる』(作画:西森博之
 旧評価:B+評価:B+(据置)

 04年5月開始ですから、連載期間は約1年7ヶ月。半年〜1年弱で打ち切られるか、2年以上の長期連載になるパターンが多い「サンデー」にしては、やや中途半端という気がしますね。
 そしてストーリーも、一応は円満終了の体は成しているものの、最終回に向けての流れがやや唐突な感が否めませんでした。掲載順や単行本売上げも中〜下位ランクだったようですので、ひょっとすると“擬似円満”の打ち切り最終回だったのかも知れません。

 さて、作品全体の内容を振り返ってみると、“少年版『最強伝説黒沢』”みたいな話でしたね。本家『黒沢』と違い、主人公が人生に行き詰まったオッサンではなく前途ある少年である分だけ、前向きで、将来にも希望があって、恋愛も成就出来て…と、明るいトーンの話になりましたが、まぁそれはそれで良かったのではないでしょうか。連載終了の真相はどうあれ、爽やかなハッピーエンドであった事も確かです。
 ただ、連載中は、明確なコンセプトや幹となるストーリーラインが非常に見え辛かった感が否めませんでした。良い意味だけでなく、悪い意味での“得体の知れなさ”も醸し出してしまい、エンターテインメントとして今ひとつ煮え切らない、ちょっと残念な作品になったかな、と。個人的にはかなり好きなマンガだったのですけどね。

◆「GO!GO!ジャンプ」レビュー(1)◆

 ◎読み切り『蟋蟀 -KOHROGI-』作画:樋口大輔

 作者略歴(参考:他) 
 1966年5月10日生まれの現在39歳。新人時代は来住大介名義も使用していたが、実は女流作家である。
 91年11月期の「ホップ☆ステップ賞」にて佳作入賞し、翌92年に季刊増刊「スプリングスペシャル」で『イタル』でデビュー
。同年には「手塚賞」(92年上期)でも佳作入賞を果たしている。
 その後の活動は増刊94年秋号、週刊本誌95年20号、97年46号と、散発的に読み切りを発表する程度に留まっていたが、98年13号より正統派サッカーマンガ『ホイッスル!』の連載を開始すると、これがスマッシュヒットとなって02年45号まで全216回の長期連載となる(※余談:『ホイッスル!』は、連載終了間際にCS放送限定ながらアニメ化を果たしたものの、放映中に連載が打ち切られた。このため、一部マニアの間では、「アニメ放映中の連載打ち切りは無い」というマンガ業界の不文律を破った稀有な作品として語られる事もある)。また、連載と平行して「月刊少年ジャンプ」01年10月号に読み切りを発表し、これが後の「月刊」移籍への伏線となっている。
 連載終了後は03年22・23合併号、「赤マル」04年冬(新年)号に読み切りを発表した後、約1年の空白期間を経て「月刊少年ジャンプ」へ移籍。05年3月号よりアイスホッケーを題材にした『GO AHEAD −ゴーアヘッド−』を連載している。
 今作は、連載の合間を縫って描かれた、約2年ぶりの新作読み切り作品である。

 についての所見
 今年でキャリア15年になるベテラン作家さんですが、悪い意味の馴れが全く窺えない所に好感が持てますね。やや淡白な画風ながら『ホイッスル!』時代からの手堅く洗練された作画技術が維持されています。
 ただちょっと気になるのが、以前にも指摘したかも知れませんが、人物の美醜の描き分けにおいて“美”のグループに属する人物造型の差別化が甘い──つまり美形キャラが皆どことなく雰囲気が似てしまっている点。すっかり絵柄が固定されてしまっているので、最早どうしようもないのですが、先述した画風の淡白さがこの辺から滲み出ているような気がします。

 ストーリー・設定についての所見
 「現代社会に棲む魔法使い」という、限定されたページ数では設定の描写だけでも困難を極める厄介な題材でしたが、巧みな技術でこれをクリアしています。詳細な設定の提示・解説を、ストーリーを進める上で必要最低限な範囲に留め、主人公の心象描写やドラマに大半のページを割いた事で、内容に深みが出ていました。
 クライマックスのバトルシーンでも、安直な“必殺技炸裂→主人公圧勝”パターンに甘えなかったのも良かったのではないでしょうか。技ではなく気持ちの強さを最大の勝因に持って来る辺り、さすがベテラン作家らしいツボの押え方をしているなと感心させられます。

 ただ、残念なのはプロット・シナリオが平凡かつ簡単に先が読めてしまうモノであったため、ストーリーを追いかける妙味には著しく欠けた作品になってしまった事でした。もう少し読み手の意表を突く要素があっても良かったはずです。
 それに実は今回のお話というのは、「魔法使いの秘密結社が世間の迷惑顧みず、罪の無い一般人を命の危険に晒してまで新人魔法使いに実地訓練を積ませる」……という酷い内容なんですよね。こんな迷惑な話を典型的なハッピーエンドでお茶を濁させてしまって良いのか…という疑問も生じます。

 まぁそういったキズを目立たせないだけのストーリーテリング力は流石と言う他無いのですが、これらの欠点に目を瞑ってまで褒められるかというと、躊躇を覚えてしまいます。

 今回の評価
 評価はシナリオの練り込み不足・不備を減点してB+とします。ただ、本来は鬼門であるはずの「連載作品と平行して描かれた読み切り」で、ここまで頑張れたという所で、逆に樋口さんの地力の高さを再確認する事が出来たように思います。

 ◎読み切り『ハットリ』作画:矢部臣

 作者略歴
 1981年6月生まれの現在24歳
 04年末期(第13回)「ストーリーキング」マンガ部門で「準キング」を受賞。その受賞作『アナグマ』が「赤マル」05年春号に掲載され、デビュー。今回はそれ以来のデビュー2作目となる。

 についての所見
 
明らかに難の多かったデビュー作の絵に比べると、随分と線がスッキリと洗練され、“プロ仕様”の絵柄になって来てはいます。アシスタント修行の成果でしょうか、背景や動的表現などの特殊効果も格段に進歩しているようです。
 ただ、人物の表情がまだまだ固く、所々でデッサンの段階から失敗している箇所も多々見受けられます。それに、どのシーンを見ても、顔や体を向いている方向が正面や正面に近い斜めのアングルばかりで、これには強い違和感を感じてしまいました。推測の範疇を出ませんが、不得手なアングルを意図的に避けているのではないかと思われます。

 結局のところ、アシスタントとしてのスキルはアップしたものの、肝心のマンガ家としての作画技術は未だ発展途上だという事なのでしょう。今後、週刊本誌進出や連載獲得を目指す上においては、魅力的な人物を描くための作画技術の習得が急務であると言えます。

 ストーリー&設定についての所見
 冒頭からインパクトのある早い展開でストーリーを引っ張ったのは、読み手を作中世界に引き込むのに効果的だったと思います
。現実世界と非現実世界の絡め方も絶妙でした。
 しかし、その最初のアクションシーンが一段落着いてから一気に尻すぼみになってしまいました。起承転結の“承”に当たる部分の大半を設定の説明・提示に費やしてしまい、主要登場人物のキャラクターや心象の描写は説明的なセリフで事務的・作業的に一通り語られたのみ。読み手の感情移入を促進するようなシーンは皆無と言って良いでしょう。
 そして、そんな不完全な状態のままで話はクライマックスに突入し、バトルシーンは主人公が敵役の怪物に説教臭い演説をして必殺技一発で終了。有り体に言って全く盛り上がりに欠けた内容に終始してしまいました。
 その上、「夢から覚めたら記憶を失くす=永遠の別れ」という、ありがちながら読み手の感動を惹き起こす設定も、そこまでのキャラ描写とドラマの盛り上げが不完全なため、不発に。残念ながら全てが中途半端なままで終わってしまった感が否めませんでした。

 どうも現在の矢部さんは、いわゆる“設定厨”状態にハマっているのではないでしょうか。読者が求めているのは難解な設定ではなく、心を打つドラマであるという事を失念しないで頂きたいなと、僭越ながら諫言申し上げたい次第です。

 今回の評価
 評価はB−とします。巻頭の『蟋蟀』で樋口さんの設定描写の巧さを堪能した直後だっただけに、余計にこの作品の欠点が浮き彫りになってしまったかも知れません。

 

 ……以上、1月第1週前半分のゼミをお送りしました。後半分は週明けに実施する予定です。それでは。

 


 

2005年度第49回講義
1月2日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(12月第5週分)

 新年明けましておめでとうございます。
 年を改めても体力・気力の充実には程遠く、相変わらず守勢一方の講座運営が続きますが、どうか何卒。

 さて、12/30のコミケット69・「駒木研究室」スペースには相変わらず多数のご来訪、有難うございました。
 さすがに3回も続けて出ていると年中行事化してしまうのか、講義の質・量のジリ貧傾向が如実に反映されているのか、頒布数の方は既刊2冊がそれぞれ40程度、新刊が120程度。在庫を研究室に送り返す宅配便の箱が一回り大きくなりました(笑)。
 まぁ去年の200冊完売が出来過ぎという事は自分が一番良く分かっているのですが、今回は随分力を入れて書き下ろし原稿を認めたので、その辺は少々残念ではありました。力入れるほど報われないのが「社会学講座」の歴史なんで、それも“らしい”と言えばそうなんですがね。

 ……それではゼミを始めます。今日は東京旅行などで先週実施できなかった、年末発売の「ジャンプ」4・5合併号関連の内容で軽めにお送りします。増刊レビューとかは今しばらくお待ちを。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(6・7合併号)に読み切り『FOREST』(作画:内水融)が掲載されます。
 昨年、連載第2作の『カイン』で大スベりをやらかしてしまった内水さんですが、早くも戦線復帰となりました。短編作品の上手い作家さんですから、今回も期待とは言えるのですが、どうしても文末に「……」を付けたくなってしまう存在になっちゃいましたね。
 “3度目の正直”を果たすための重要なステップとなる今回、とりあえずは順調な滑り出しを果たしたいところですが、どうなるでしょうか。 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 ・なお、チェックポイントはレビュー該当作が無いため休止します。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2006年新年4・5合併号☆ 

 ◎読み切り『氷姫奇譚作画:河下水希

 作者略歴(参考:河下水希・桃栗みかんファンサイト「OVER DRIVE」他) 
 生年非公開の8月30日生まれ。
 「ジャンプ」作家となる以前は“桃栗みかん”名義で同人・商業両面で活動をしていたのは既に公然の秘密。
同人活動に関しては、現在93年から97年にかけて発行された同人誌の存在が確認されているが、詳細は不明。
 正確な商業デビュー時期も資料不足のため未判明だが、諸々の資料から類推すると94年頃と思われる。デビュー当初は原作付きボーイズラブ作品の作画担当を務め、95年7月にはレディコミ月刊誌「office YOU」にて短期(3回)連載された『高校男子 -BOYS-』作:花衣沙久羅)を表題作とする、初の単行本となる中編集を刊行した。間もなくしてソロ活動に移行し、97年には「YOUコミックス」レーベルから初の単独名義作品集『空の成分』を出版する。
 その後は少女誌「ぶーけ」に移籍。99年から00年にかけて『かえで台風』、『あかねちゃん OVER DRIVE』1〜2巻の単行本を3冊リリースした。この頃から現在に近い作風へとシフトしていったと言われる。

 “河下水希”名義でのデビュー作は週刊本誌00年19号の『りりむキッス』で、同年48号より連載化された(2クール24回で打ち切り終了)。「赤マル」01年夏号で読み切り掲載を挟んだ後、02年12号より『いちご100%』を連載開始。これがスマッシュヒット、05年35号まで全167回の長期連載(&05年秋発売の「ジャンプ the REVOLUTION」にて番外編も掲載)となり、CDドラマやテレビゲーム、更には深夜枠でのアニメ化など複数のメディアへの進出も果たした。
 今作は『いちご100%』終了後の復帰作となる。

 についての所見
 相変わらずの高値安定ですね。キャリア・実績相応の総合的に優れた画力は今回も健在です。
 今作で特筆すべき点を挙げるとすれば、ヒロインの“通常バージョン”と“姫様憑依バージョン”での微妙な表情の描き分けでしょうか。単純に言えば“ツン”と“デレ”の差なんでしょうが、ただ単に記号的に差を付けるに留まらず、キチンと「同じ顔をした別人」として2人のヒロインを描いたのは流石ですね。
 あとは鎧武者や悪霊・骸骨といった、河下さんの作風からすれば“専門外”とも思われるようなモノもキチンと描けており、この辺も基礎画力の高さが窺えます。

 ストーリー・設定についての所見
 前回のゼミでは、次号予告での短文から推測して「ラブコメ色を抑えたミステリ系の話のようですね」と紹介したのですが、フタを開けてみたら……(苦笑)。
 いやまさか「ミス研」がオカルト方面のサークルだとは想定外でした。でも「“ミステリー研究会”のメンバーが旅行に出かける」なら、殺人事件が起こると思いません?(笑)

 まぁそんな事はさておき、作品の中身について。
 今回のストーリーは、河下さんお得意のライトなお色気ラブコメをベースに、オーソドックスな山村伝説・輪廻転生・霊魂憑依を絡めたオカルト系エピソードを簡略化してミックスして…という、良くも悪くも小じんまりとまとまったお話になりました。
 まったく、どの要素を抜き出してみても、強烈な既視感を覚えてしまう作品ではあります。故に全く目新しさやインパクトは感じないのですが、それでもいくつかの伏線を張ったり、ちょっとした謎解き要素(呪いの正体と原因探し)を交えたりして、内容の充実も図られています。この辺はさすがに地力を感じさせられるポイントです。
 ただ、やはり短編読み切りで、しかもメインシナリオ以外の“お色気パート”にページを割く制約の多い構成では、ストーリーの充実度にも限界が見え隠れしました。一応ツッコミ所は消す配慮は施されているのですが、根本的に話の流れが強引で、登場人物(特に過去編)の心象描写も全く物足りませんでした。

 まぁこの作家さんと作品の主軸が、ストーリーの内容よりもヒロインのキャラ描写やお色気シーンの方に向いているのは百も承知なんですが……。それでも、もっとシナリオを練り込めば、正統派のストーリー系作品としても十分通用するような素材だと思えるだけに、残念さの方が先行してしまいます。呪いの原因となった過去のエピソードを、もう少しジックリ描くだけでも随分と違った印象の作品になったと思うんですけどね。

 今回の評価
 文字通りの“名作崩れの人気作”という事でB+とします。今回はこれでいいとして、次回作では一度、お色気に頼らない本格的なストーリーが読んでみたいですが、まぁこれは無理な注文なんでしょうね(笑)。

 

 ……といったところで今日はひとまずこれで終わります。なお、今週は週末にもう1回ゼミを実施する予定です。


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