「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・10)

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講義一覧

9/24(第51回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (9月第4週分・合同)
9/18(第50回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (9月第3週分・後半)
9/15(第49回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (9月第3週分・前半)
9/10(第48回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第5週/9月第1週分・合同)
9/3(第47回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第5週/9月第1週分・合同)
8/27(第46回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第4週分・合同)
8/23(第45回) 
演習(ゼミ) 「現代マンガ時評・『赤マルジャンプ』04年夏号特集」
8/20(第44回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第3週分・合同)
8/12(第41回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第2週分・合同)
8/6(第40回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第1週分・合同)
7/31(第36回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週分・後半)
7/28(第34回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (7月第5週分・前半)
7/22(第33回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (7月第4週分・後半)
7/20(第32回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (7月第4週分・前半)
7/17(第31回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (7月第3週分・合同)
7/9(第30回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (7月第2週分・合同)
7/2(第28回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第5週〜7月第1週分・合同)

 

2004年度第51回講義
9月24日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第4週分・合同)

 もう9月もあと1週間になってしまいました。
 最近は春の反省から、心身のストレスを溜めない事を第一に生活しているので時の流れが速くて仕方ないです。「朝起きて仕事へ行って、帰って来て寝るだけ」の生活をする大人にはなるまい、と念じ続けてバカをやって来ましたが、いやぁやっぱりバカをやり続けるってのも大変ですね(笑)。

 さて、それでは今週分のゼミをお送りします。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(44号)に読み切り『伝説のヒロイヤルシティー』作画:大亜門)が2本立て形式で掲載されます。
 あの『スピンちゃん』シリーズで、少年以外の一部読者層の心を鷲掴みにした大亜門さんが早くも復帰です。今回の作品は、『スピンちゃん』単行本のおまけページで予告していた通り、ヒーロー戦隊ギャグ物となった様子。
 この復帰作で連載獲得の足がかりとする事が出来るのか、注目ですね。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(44号)に読み切り『88の陣八』作画:桜井亜都)が掲載されます。
 検索エンジン等で桜井さんの経歴を調べてみたのですが、該当件数0という事で、過去の実績等は全く不明です。予告カットのクオリティを見ると、恐らくは別ペンネームで新人賞を受賞しているか、またはアシスタント歴豊富な方かどちらかだと思うのですが……。

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(04年7月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=2編
  ・『風のカラム』
   険持ちよ(21歳・大阪)
  ・『キ☆ノ☆子』
   小野寺真央(21歳・埼玉)
 努力賞=4編
  ・『パッチワークフェイス』
   タグチケンジ(21歳・東京都)
  ・『柔道番長』
   小森香菜(19歳・埼玉県)
  ・『colors』
   岡村美里(18歳・大阪府)
  ・『伝説の侍』
   梶野剛毅(24歳・愛知県)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  ・『満願成就』
   村上敬助(20歳・愛知県)
  ・『CONTINU』
   橘佳菜子(22歳・埼玉県)
  ・『宿りし花は』
   瀬戸カズヨシ(24歳・東京都)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎努力賞の小森香菜さん…04年1月期「十二傑新人漫画賞」に投稿歴あり
 ◎努力賞の梶野剛毅さん…02年後期「新人コミック大賞・少年部門」で最終候補、03年7月期「まんカレ」であと一歩で賞。
 ◎あと一歩で賞の瀬戸カズヨシさん…04年前期「新人コミック大賞・少年部門」で最終候補。

 今月の編集部講評は「ストーリーとか設定はいいから、とにかくキャラクターを立てなさい」というもの。なんか「ジャンプ」の新人賞みたいな講評ですが、よっぽど難解な設定を文字情報で並べ立てる応募作が多かったのかな…と思ってみたりします。
 ……でも、これと全く同じ内容の講評を開講当初の頃にも見た事ある記憶が。その時の駒木は青臭い勢いで「そんな事無い、ストーリーも大事だ」とか言ってたはずなんですが、3年近くやって来て駒木も大分擦れてしまったもんですね(笑)。

 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り2本
 「サンデー」:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年43号☆

 ◎読み切り『鬼より申す!』作画:原野洋二郎

 ●作者略歴
 1977年5月20日生まれの現在27歳
 04年3月期「十二傑」で佳作(3月期の中では次席)を受賞し、受賞作デビュー確約の特典を獲得。今回はその権利を行使する形でのデビューとなる。
 なお、「十二傑」受賞以前の経歴は不明だが、複数のアニメ作品の動画担当アニメーターに同姓同名のクレジットがあり、同一人物の可能性もある。

 についての所見
 ズバ抜けた画力とまでは行かないものの、高い完成度にある安定した絵柄とは言えるでしょう。正直、これがデビュー作とは思えません。
 人物描写は勿論、動的表現、背景処理、その他特殊効果についても既に連載作家と遜色無いレヴェルに達しており、このファクターに関しては“即戦力”と判断して良さそうです。「十二傑」の採点表に「絵柄◎」が付いていたのも肯けますね。
 ただ、減点材料にはならないものの気になったのが、ディフォルメや感情を表現する時の描き方が少々古臭く(初期の『BASTARD!!』っぽい?)感じられる事。この辺は作者の年齢なりに…ということなんでしょうが、キャリアが浅い内は「若々しさに欠ける」という印象を与えるかも知れません。

 ストーリー&設定についての所見
 超シリアスなオープニングで“掴み”を入れて、しかし話を追うごとにシビアなムードが緩んでゆき、最後に全ての謎が解けたと同時にユルユルのオチ…というプロットはなかなか新鮮ですね。作品全体を通じて何かやってやろう…という意気込みが伝わって来て好感が持てました。
 ただ、伏線の処理のさせ方が乱暴過ぎで、さすがにストーリー展開が強引過ぎる印象も受けました。細かいツッコミを寄せ付けないだけの勢いは確かに感じられるのですが、かと言ってそれに頼ってしまうのも如何なものかと思うのです。

 あと、問題点として挙げられるのは演出面でしょうか。余りにも全ての事を文字で説明しようとしていて、少々回りくどかったように思えました。せっかく絵だけで事象を表現出来る画力を持っているのに、これはちょっと勿体無かったですね。
 バトルシーン等で起こった出来事を周りがいちいちセリフで解説する…という手法は、確かに多くの「ジャンプ」作品で用いられたテクニックではあります。ただ、説明的セリフというのは根本的に不自然であり、安易にそれに頼って欲しくないところです。これは、文字情報を極力排し、洗練されたビジュアルと気の利いた決めゼリフで読み手に印象付ける…という演出技法が、最近の「ジャンプ」上位クラスの作品で主流になって来ているだけに、特にそう思ってしまいます。

 今後はもっともっとストーリーテリング力を洗練させていって欲しいと思います。

 今回の評価
 全体的に言って、新人にしては完成度は高いものの、新人にしては悪い手癖がつき過ぎている…といったところでしょうか。ぶっちゃけ、年齢的なものも含めて将来性には疑問の残る作家さんと作品だったように思えます。今後は、少年マンガの“お約束”的な必要悪に頼らない姿勢を求めます。
 評価はB+としておきます。ちょっと甘いかも知れませんが、水準以上の画力や分かり易いストーリーといった“名作崩れの人気作”的な要素も備えていますので、矛盾はしてないかなと。


 ◎読み切り『KESHIPIN弾』作画:吉原薫比古

 ●作者略歴
 1984年生まれで、誕生日は未公開。現在は19〜20歳という事になる。
 03年8月期、04年1月期「十二傑新人漫画賞」の「あと一歩で最終候補」リストに名前が載っており、この前後からマンガ家を志望していた事が窺える。04年上期では「赤塚賞」で準入選を受賞、04年39号で代原として『トイレ競走曲〜序走〜』が掲載され、暫定デビューを果たす。
 今回は「赤塚賞」の受賞作掲載。形としては休載2作品分の代原という事になるが、作者紹介ページも設けられており、正式デビューに準じた扱いとなっている。
 

 についての所見
 
新人賞への投稿作品、しかもギャグ作品という事を考慮しても、明らかに実力不足の拙い絵であると断ぜざるを得ません。中には何が起こっているのかさえ判らなかったり、ギャグのインパクトを殺いでしまっている場面さえ見受けられました。これでは画力をそれほど重視しない当ゼミの評価基準をもってしても、大きな減点材料としなければならないでしょう。

 ギャグについての所見
 1コマに多くのセリフの遣り取りを入れてハイテンポで畳み掛けるネタ運びや、大ゴマで一発ギャグ系インパクトネタを持ってくるなど、随所でなかなかのセンスを感じさせてくれる作品ではあります。荒削りな面が目立ち過ぎるものの、なるほど「赤塚賞」準入選という評価も妥当と言えるでしょう。
 ただし、先述した絵の拙さでインパクトが殺がれてしまっている上に、やや“間”の取り方がせっかちだったかな…という印象も残りました。また、「バカバカしい事を一生懸命やって面白さを引き出す」という試みもイマイチ中途半端だったように思えます。もっとケシピンの描写をマニアックかつテクニカルにやっていれば、もっとシュールな雰囲気が出て来て良かったのではないでしょうか。

 今回の評価
 ギャグの技術云々以前に、絵で全てが台無しになっている作品に終わってしまった感が有りますね。“失敗作”としてB−評価にさせてもらいます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 まずは巻頭カラーページ。明確な作者からの悪意を感じる『銀魂』のキッツイ絵から始まり、『BLEACH』のアニメ告知ページを経て、いかにも読み飛ばされそうな所に『リングにかけろ』のアニメ化告知を発見。テレビ朝日系で水曜深夜2時42分から放映とのことで、DVD化して手堅く稼ぐ事を念頭に置いた戦略のようですが、さすがにコレは如何なもんでしょうか(笑)。……まさか『星矢』の女性ファン層を狙ってるわけじゃないでしょうね? 

 さて、今週も『DEATH NOTE』の話題を少々。ただし今回は直接作品の内容についてというわけではなくて、先日発売になったサブカル系隔月刊誌・「クイックジャパン」誌の特集記事の話を。
 「クイックジャパン」誌の特集記事と言えば、その筋のファンのツボを押さえた誌面構成で定評がありますが、今回も大場つぐみ&小畑健両氏や担当編集者に作品制作の裏側に迫る内容のインタビューを試みるなど、普通のメディアではそうそうお目にかかれない濃い内容が目立ちました。
 中でも出色だったのが、大場さんと担当編集のストーリー打ち合わせについての話。記事によると、まず担当編集が敢えてありがちでつまらない続きの展開を考えて大場さんに提示し、大場さんはそれを否定する方向で構想を練っていって、とんでもなく意外性のある展開になったところでそれを決定稿とするんだそうです。
 担当編集がいかにもありがちなストーリーを考え、それを作家に押し付けるケースは結構耳にしますが、この作品はその真逆なんですね。「マガジン」システムのアンチテーゼと言ったところでしょうか。「ジャンプ」の柔軟な編集方針ゆえに生まれたヒット作なんでしょうね、これは。

 他の連載作品は、軒並み良い意味でも悪い意味でも持ち味発揮…といったところで特筆事項無し。『D.Gray-man』などは、もうちょっと場面転換や演出が改善されれば良い作品になる見込みも有ると思うのですが……。実質掲載順がラス3ですから、いよいよ打ち切り黄信号点灯でしょうか。

「週刊少年サンデー」2004年43号☆

 ◎読み切り『断罪の炎人』作画:吉田正紀

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 資料不足のため、生年月日及び年齢は不明。
 現在確認出来る範囲では、「サンデー」月刊増刊で02年4月号、03年5月号、10月号に読み切りを発表している(ただし、02年4月号掲載の作品はスポーツ選手実録モノ)。吉田さんのコメントによると、マンガ家を志し上京して7年、デビュー以来7本目の読み切りとのことなので、判明している他にあと3本の読み切り掲載があったという事になる。
 なお、今回が「サンデー」週刊本誌初登場。

 についての所見
 上京以来7年という若手作家としては長いキャリアの間、アシスタント経験も豊富だったのでしょう。全編を通じて、特に背景処理や特殊効果など、通常はアシスタントが作画を担当する部分に確かな技術が認められます
 ただ一方、作家の個性が表れる人物描写では、キャラデザインでセンスを感じさせるものの、線の垢抜けなさや若干の歪み、動的表現のぎこちなさが感じられたのが残念でした。この“プロアシスタントの絵柄”を“プロ作家の絵柄”にどう切り替えてゆくかが今後の課題になるでしょうね。

 ストーリー&設定についての所見
 前半で各所に伏線を張り、それを後半で回収しながら見せ場に繋げる…という、高度なストーリーテリング力が感じられるシナリオ
ですね。プロットそのものは少々ステロタイプに過ぎる感もありますが、確固たるテーマの描写やラストシーンの演出もバッチリと決まっており、ストーリー全般に関してはAクラスの評価に値する出来だったと言えるでしょう。

 ただ、問題があるのが主人公たち“改造人間”の特殊能力の設定に関して。設定そのものにケチをつけるつもりは全く無いのですが、それらをお話の中で上手く消化させるだけの練りこみが足りなかったのではと思います。
 例えば特殊能力の凄さを表現するために用いられた具体的な数字(「IQ400」や「体温上昇1000倍で2000℃」など)。これが逆に“具体的なリアリティの無さ”を表現してしまったような気がするのです。大事なのは、それが現実離れした能力だという事を読み手に提示することであって、それだけなら文字に頼らず絵だけで表現した方が逆に説得力が増したのではないでしょうか。特に「体温上昇1000倍」は、最大の見せ場で主人公に異様に説明的なセリフを吐かせてしまい、演出面でも大きくマイナスに働く結果にも繋がってしまいましたしね。
 また、主人公の能力に関しては、「鉛の弾丸を溶かすなら他にも色々な物が溶けるんじゃないか?」とか、「唯の脳に埋め込まれたコンピューターが真っ先にイカれないか?」…などといったツッコミ所が多々存在しており、これは「読み手を作品世界に没入させ切れない」という点で減点材料とせざるを得ません。

 今回の評価
 評価はB+。本当ならA−級の“持ち点”のある作品ではあるのですが、やはり設定の部分で詰めを誤ってしまったように思えます。
 逆に言えば、この設定のアラをさほど気にしない人なら、「かなり良く出来た作品」という評価を下すのでしょうね。それはそれで一つの見識だと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「好きな四字熟語は?」。
 真面目に答えて読者を唸らせるのも良し、ボケて笑いを獲るのも良しという、なかなかの良問だと思います。“真面目派”では一期一会、乾坤一擲、臥薪嘗胆、“ボケ派”では確率変動あたりが面白いですね。夏目義徳さんの国士無双は麻雀用語としてなのか、そうじゃないのかで意味合いが随分変わるような気がしますが……。
 駒木の場合は、好きな…というより最早座右の銘に近いのですが、「因果応報」を挙げておきます。ギャンブル関連なら「一発自模(ツモ)でしょうか。

 ……さて、連載作品の方は思わず毒吐きたくなる作品をオミットすると随分喋る材料が少なくなってしまうのですが(苦笑)、それでも久々に大きくページを割いたギャグが炸裂した『金色のガッシュ』や、漸く主人公が主人公らしい自然な自己主張を始めた『クロザクロ』など、キチンと読ませてくれる作品もありました。
 しかし、やっぱり強烈なインパクトを残してくれたのは、少年マンガ史上に残る志の低いバトルをおっ始めてくれた『モンキーターン』の洞口&波多野ですね。まぁ、こういう色恋に関する男同士の揉め事が傍から見たら大変に見苦しいのは事実なんですが、ここまでリアルにみっともなさを描写しなくても…と思ってしまいました。いや、面白くないのかと言われたら「面白いですよ」と答えるわけなんですが(笑)。

 ……まぁそんなところで今週はここまで。もうしばらく、このようなカリキュラムが続きます。どうかご容赦を。

 


 

2004年度第50回講義
9月18日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第3週分・後半)

 さて、今週の「サンデー」裏表紙に『まいっちんぐマチコ先生』のTV版全話収録DVDの広告が掲載されているのを見て、このDVD担当の社内での行く末を思わず案じてしまった駒木ハヤトがお送りする「現代マンガ時評」のお時間がやって参りました。今日は後半分、「週刊少年サンデー」についての内容でお送りします。

 で、その『マチコ先生』DVDセットなんですが、16枚組で税込99,750円ですよ。ヤフーBBの糞モデムを最低9日間は配り続けないと買えないという結構なお代です。
 当時の主要ファン層が30代半ば以降に達しようとしているこの21世紀、妻子の反対を押し切って大10枚を注ぎ込める男の中の男(←くりいむしちゅーの有田が高田総統のモノマネする風に)が日本全国にどれだけいらっしゃるのか、その実数を是非知りたいものでありますね(笑)。

 ……さて、そんなしょうもない事言ってないで、とっととゼミに移りましょうか。


 「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(43号)に読み切り『断罪の炎人』作画:吉田正紀)が掲載されます。
 吉田正紀さんはこれが本誌初登場。02〜03年には月刊増刊で読み切りを断続的に発表していますが、今年はまだ作品の発表が無く、満を持しての登場という事になりますか。

 

 ※今週後半のレビュー&チェックポイント
 ●今週後半のレビュー対象作…2本
 「サンデー」:短期集中連載総括1本/読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年サンデー」2004年42号☆

 ◎短期集中連載総括『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志

 についての所見(第1回時点からの推移)
 全体的な絵のクオリティについては、口を差し挟む余地の無いところであったと言って良いのではないでしょうか。第1話で指摘した等身の不安定さも、第2話以降は全く気にならないところまで解消していたように思えます。
 第2回では「片手に指6本」というボーンヘッドがありましたが、椎名さんご本人の釈明によると作者・編集サイドによる再三のチェックを奇跡的に潜り抜けてしまったモノのようで、ましてや椎名さんは確固たる実績のある作家さんなのですから、これは弘法も云々…という解釈をすべきでしょう。

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 
こちら(ストーリー&設定面)も全体的に見て、ほぼケチの付け所の無い極めて高いクオリティをキープしたまま、4回の連載を全うしたと言えるでしょう。早くも手垢が付く程こなれたキャラクターと明確に設定されたテーマによって下支えされた良質のコメディと重厚なシナリオは、まさにストーリーテリング技術の真髄と言うべき“芸術”でありました。
 ただ、この後の長期連載が内定しているためにストーリーを完結させられず、短期集中連載としては消化不良気味の結末となってしまった事、更には第3話前半の話の持って行き方(テロ→南の島へ出動)がやや強引だった事など、些末ながらも無視は出来ない小さな減点材料もいくつかあったように思えます。高評価に値する作品ではありますが、残念ながら満点は出せないかな…といったところです。
 
 (とりあえずの)最終評価
 大変素晴らしいが、満点までは至らない…という事で、A−寄りAの評価で据え置きとします。
 ……しかしこの作品、年末の「コミックアワード」でどう扱ったら良いんでしょうね? ホント、今から頭を抱えてますよ(笑)。後々の事を考えて長編扱いにするか、それともとりあえず短編扱いにするかでまず一悩み。で、去年読み切りを短編作品部門にノミネートさせているのに、今年もノミネートさせて良いのかという事でも更に一悩み。個人的な気持ちとしては、前年度で無冠に終わっているだけに、クオリティ相応の再評価をしたいところではあるんですが……。

 ◎読み切り『UPPERS』作画:寺嶋将司

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 資料不足のため、生年月日及び年齢は不明。
 検索エンジンで確認した限りでは、「サンデー」月刊増刊で01年12月号、03年5月号、6月号に読み切りを発表し、同誌03年11月号〜04年1月号まで『秘宝の島Cotto』を短期連載。また、一部では「少年マガジン」系列誌でも作品を発表した事があるとの未確認情報もアリ。
 今回は「サンデー」週刊本誌初登場となる。
 追記:寺島さんはかつて赤松健さん、万乗大智さんのスタジオでアシスタント経験があるそうです。

 についての所見
 
少年マンガの主流からは随分とかけ離れた絵柄ですね。太細のメリハリが弱い線、意識的にデッサンを崩した人物造型など、読み手を選ぶ恐れがある要素が多いのが少々気になります。
 ただ、マンガの記号としての役割は十分に果たせており、ディフォルメや背景処理なども及第点以上。大きな減点材料とするまでには至りません。これでもう少し緻密さが出て来れば随分と印象が違うと思うんですが……。

 ストーリー&設定についての所見
 
まず、この作品の「余命幾ばくも無い主人公」という基本的なアイディアは、恐らくテレビドラマ『木更津キャッツアイ』からの影響を強く受けていると思われます。妙に浮世離れしたような世界観も、『木更津──』のそれを少年マンガ向けに大幅アレンジしたものなのでしょう。
 勿論、既製の作品からアイディアを拝借した以上、オリジナリティに欠ける印象は否めません。が、それでも「拝借するにしても、良いアイディアを借りて来たな」とも思います。というのも、この設定だと、どんな他愛も無い事をするにしても“短い人生で最後の”という意味付けが可能で、各エピソードで読み手に強いインパクトを与える事が容易に果たせるからです。そういう意味では、この設定は読み切りよりもむしろ連載向け(ただし1〜2年程度の中期が限界)のモノであると言えるでしょう。

 ただ、この作品においては、そんな良質のアイディアを上手く活かし切れていなかったように思えます。話の流れが過度にナンセンスなのは「独特の世界観ゆえに」というエクスキューズを採用する余地があるにしても、セリフやモノローグといった脚本面がちょっと拙過ぎたように感じられました。各所で見られた、とても喋り言葉とは思えない説明的なセリフを解消させられたら、もう少し全体的な印象も変わって来るのではないかと思うのですが……。 

 今回の評価
 一部に熱烈なファンを生み出しそうな要素は感じられるものの、全体的な完成度の低さから高い評価は下せないかな…といった印象です。評価はB+寄りBとしておきます。アイディア自体はこれで蔵に入れてしまうには惜しいんですが……。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「子供の頃に大好きだったアニメソングは?」。
 回答に世代差が出ているようで出ていないのは、多分旧作アニメには再放送で触れるチャンスがあったからでしょうね。特に20年くらい前は夕方にアニメの再放送をよくやっていて、下手したら自分が生まれる前の作品を観たりする事が出来ましたし。放送禁止用語が出てくるたびに不自然な口パクになるのが子供心に不思議でした。
 ちなみに駒木は、藤田和日郎さんと被るんですが『銀河鉄道999』という事で。ただし、ゴダイゴの映画版よりも佐々木功のテレビ版の方が好きですね。あと、中学生時代を“子供の頃”として良いのなら、徳永英明の「夢を信じて」(フジTV版『ドラゴンクエスト』初代エンディング)も挙げておきます。実はカラオケの十八番だったり(笑)。

 さて、今週のトピックスは何と言っても『こわしや我聞』の「前号まで(=ここまでのあらすじ)ですね。

 「果歩達は我聞と陽奈をくっつけようと計画中」

 ……これですよ、この簡潔な記述! 今回が第30話ですが、第28話までのお話を無かった事にする潔さがグルービーであります。
 しかし、國生さんといい、今回の冒頭に出て来た眼鏡っ子秘書・千紘といい、最近の藤木俊さんは明らかに一部のコアな読者層をストーリー以外の要素で狙い撃ちしようとしてますよね。……まぁ、開講当初から珠美ちゃんを駒木以上に押し出したPR活動をしている当講座が、あれこれ言える立場じゃないんですが(笑)。

 ──といったところで、今週は時間切れ。ボリューム的にアレですが、ちょっとスランプ気味なので今日はこれくらいでご勘弁を。では。

 


 

2004年度第49回講義
9月15日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第3週分・前半)

 オリコンの週間シングル売上ランキング、我らが椎名林檎女史率いる東京事変の『群青日和』が、よりにもよってゴリエに負けて2位という事態に、「ジャンプ」今週号の『武装錬金』における戦士・剛太のように呆然としてしまう今日この頃、受講生の皆さんは如何お過ごしでしょうか。

 先週のゼミでも一応予告していましたが、今週は代原やら何やらでレビュー対象作が増えてしまいましたので、久々に前・後半分割でお送りします。まず今日は、「ジャンプ」関連の話題をお送りする前半となります。


 「週刊少年ジャンプ」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(43号)に読み切り『鬼より申す!』作画:原野洋二郎)が掲載されます。
 この作品は、04年3月期の「十二傑新人漫画賞」で佳作を受賞(最上位の「十二傑賞」は、準入選の『魔人探偵脳噛ネウロ』)した作品で、当初の予定では増刊号に掲載となっていたものです。原野さんは勿論今回がデビュー作となります。
 今期は新連載1本に対し、連載終了2本+『SBR』中断という“ページ余り”状態にありますので、「赤マル」冬号を待たずしての週刊本誌掲載となったようです。形はどうあれ、原野さんには今後の活躍に向けての大きなチャンス到来となりましたね。

 ……この他、非公式レヴェルで、もう1本の読み切り掲載も決まっている…との情報が入っているのですが、とりあえずこの場では控えておく事にします。


 ★新人賞の結果に関する情報

第16回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年7月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(本誌か増刊に掲載決定)
  ・『流れ星ポロン』
   佐藤真由(20歳・埼玉)
 《講評:(◎評価の)画力は今後ますます伸びそう。主人公もかわいくて好感度が高く、演出に力を入れているのも高評価に繋がった。ただし、主人公の能力など分かり辛い点も多く、これは今後の課題として欲しい》
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『六道マーダーFILE』
   西嶋賢一(23歳・埼玉)
  ・『GHOST DIGITAL CHANGE』
   名村和泰(21歳・宮城)
  ・『弾丸装填(リロード)』
   坂東秋(21歳・香川)
  ・『HARVEST』
   迫雅之(27歳・鹿児島)
  ・『DAY BREAK』
   新谷智(23歳・京都)
  ・『スローダウンゴースト』
   ENYA(22歳・大阪)
  ・『BABY DOLL』
   中川和博(16歳・兵庫)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の佐藤真由さん…03年12月期、04年3月期「十二傑」で最終候補
 ◎最終候補の西嶋賢一さん…03年10月期、04年3月期「十二傑」でも最終候補
 ◎最終候補の新谷智さん…03年9月期「十二傑」、03年3月期「天下一漫画賞」に投稿歴あり。

 7月期は、『ネウロ』が準入選を受賞した3月期で最終候補に残った佐藤真由さんが十二傑賞となりました。同じく3月期で最終候補だった西嶋賢一さんの名前も見えており、それを考えると3月期は随分とレヴェルが高かったという事なんでしょうね。
 

 ※今週前半のレビュー&チェックポイント
 ●今週前半のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本/読み切り1本/代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年42号☆

 ◎新連載第3回『Wāqwāq』作画:藤崎竜

 についての所見(第1回時点からの推移)
 連載もこれが4回目という作家さんですから、こんなわずかな間に大きく印象が変わる…という事も無いですね。相変わらず綺麗な絵で、注文を出すとすれば要所要所で見辛い点が挙げられるでしょう。特に、奇抜なデザインの護神像絡みのシーンは余程分かり易く描いてくれないと、ちょっと状況の理解が難しいですね。

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 
こちらの方は、第2回辺りから微妙にストーリーテリングのバランスを欠いているような感じでしょうか。
 ストーリーに破綻は無く、設定も少々難解ながら矛盾は見当たらないのですが、どうも「ただそれだけ」に終わっているように思えてならないのです。つまり、ストーリー・設定の完成度を高めるのに手間が掛かり過ぎ、読み手にそれらを魅力的に見せる演出面が疎かになってしまっているように感じられてしまうんですね。
 特に“弱い”と感じるのは登場人物のキャラクター面。第1回で主要登場人物を1人死なせているというハンデを、今回の時点でもまだ完全にリカバー出来ていないように思えます。キャラの区別は問題なく出来ていますが、主人公らにあと少し読み手が共感できる要素が欲しいところです。

 ──そういうわけで、ここまではストーリー・設定の失点を無くそうとして、図らずも専守防衛を強いられている…といったところです。ここから可及的速やかに攻めへ転じる事が出来るかどうかが、(連載存続の可否を含めて)この作品の大きなキーポイントとなって来るでしょうね。

 現時点の評価
 第1回時点から若干の下方修正は止むを得ないところで、今回はB+としておきます。
 このスロースタートぶりが、打ち切りまでの判断の早い「ジャンプ」でどう影響するのか、今しばらくチェックを怠らないようにしたいと思います。


 ◎読み切り『秘密兵器ハットリ』作画:いとうみきお

 ●作者略歴
 1973年3月26日生まれの現在31歳
 和月伸宏門下のいわゆる“和月組”出身で、デビューは「赤マル」98年夏号掲載の西部劇・『ロマンタジーノ』(伊藤幹雄名義)。  
 週刊本誌進出は99年10号(デビュー作の同名続編)で、同年49号にも西部劇・『トランジスター』を発表。
 翌00年には『ノルマンディーひみつ倶楽部』で初の週刊連載を獲得(00年24号〜01年20号、46回)
 その後1年のブランクがあって、02年29号に読み切り・『ジュゲムジュゲム』で復帰。この作品が『グラナダ ─究極科学探検隊─』改題の上で03年1号より連載化されるが1クール16回打ち切りに終わる。
 それからまた約1年のブランクを経験した後、「赤マル」04年春号にて『ゴーウエスト!』で復帰。今回はそれ以来の新作発表となる。

 についての所見
 
いとうさんの作品は何度もレビューしていますので、もう絵に関しては多言を要する事もなかろうかと思います。総合的な画力としては連載作家としても並以上の水準にあり、やや止め絵っぽい絵柄が少々気になるものの、それもまだ許容範囲と言って構わないでしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 まず作品全体のスタンスですが、今回はかなりコメディ色の強いものになりましたね。冒頭の『逆境ナイン』を思わせる野球シーンを見ても判るように、まるで島本和彦かと言うような、“形式はストーリー系なのに、読んでみるとギャグにしか思えない”作品だったと思います。(もっとも、テンションの高さを島本作品と比べるのは可哀想ですが……)
 しかも、役に立たない熱血系主人公と、そんな主人公を冷静に犬の如く扱うマネージャーという設定が妙に新鮮で、モチーフがバレバレなのに手垢がついた感じがしないという、不思議な雰囲気の作品に仕上がりましたね。また、さすが“和月組”と言いますか、コメディ部分の“間”の良さもなかなかだったように思えます。

 もっとも、強いコメディ要素の影響からストーリー自体はかなり理不尽な部分も出てしまいましたし、肝心の剣道関連の描写がなおざりになっていたのも否めません。また、主人公のキャラクターがあまり読み手の感情移入を促す要素が多くないだけに、読者を選ぶ作品になってしまったかも知れませんね。ストーリーを真面目に追いかけようとすればするほど作品世界に入っていけない…という、大きなジレンマを抱えた作品とも言えそうです。

 今回の評価
 それぞれ複数存在する加点材料と減点材料をどう差し引きするかによって、人によって評価が大きく分かれそうですね。こういう作品に点数をつけるのは非常に心苦しいものがあるのですが、駒木はA−寄りB+というジャッジにしたいと思います。玉虫色ですいません(笑)。


 ◎代原読み切り『ゴーイングマイウェイ進』作画:ゴーギャン

 ●作者略歴
 「ゴーギャン」は本名不詳のコンビによる合作ペンネームで、それぞれ23歳と27歳の時に00年上期「赤塚賞」で佳作を受賞している。もし受賞当時の体制を維持していると仮定すれば、現在は27〜8歳と31〜2歳ということになる。
 これまでの「ジャンプ」での活動は全て代原読み切り。過去の掲載歴は00年28号(「赤塚賞」の受賞作掲載)、00年44号、03年18号、04年29号の計4回。 

 についての所見
 コマ単位でタッチがコロコロ変わるので、全体像が掴み辛いのですが、シリアスタッチの絵を見る限りでは以前よりも実力はついて来ているように思えました。「ジャンプ」のギャグ系若手作家さんの中では上位クラスにいると言って良いのではないでしょうか。
 ただ、ゴーギャンさんは絵を必要以上に頑張り過ぎる傾向があるのが気になるところ。特に背景の描き込みやトーンの使い方が熱心過ぎ、絵柄が全体的に黒っぽくなって見辛くなってしまっています。
 あと、登場人物のデザインも凝らなくて良いところまで凝り過ぎといった印象です。人数が過剰な上に“濃い人オンパレード”といった趣で、逆にメリハリを欠いてしまったような気がします。
 ここまで画力がついて来たならば、もう無理に小手先の“変化球”で個性を出そうとせず、いわゆるマンガのセオリー通りの描き方をした方が良いのではないでしょうか? 今ならゴーギャンさんにとって「こんなにアッサリさせて良いのか?」というくらいで丁度良いぐらいだと思うのですが。

 ギャグについての所見
 ギャグの技術的な所も、これまでの作品に比べると少しずつは良くなって来ているように思えます
。理詰めで読み手の笑いを誘おうとする明確な意図が伝わって来るようになりましたし、“間”で笑わせるギャグやシュール系のギャグなど、バリエーションにも幅が出て来ましたね。ただ、ギャグ1つ1つの完成度は今一つといったところで、今後は身に付いた技術を洗練させる努力が必要になって来るでしょう。
 あと、今回非常に気になったのがコマ割りがチグハグだった点です。せっかくの笑い所が何の理由も無く小さいコマに押し込められていてはインパクトが殺がれてしまいますし、そもそもそういうコマ割りにしなければならない程ネタを詰め込んでいるのも問題だと思います。この辺も次回以降に向けての課題という事になるでしょうね。

 今回の評価
 過去作と比較してかなりの改善点が見られますが、それでも及第点にはやや足りないといったところでしょうか。少し甘めに見てB寄りB−の評価としておきます。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメント『アイシールド21』の対戦カード誤記についての訂正とお詫びが。おかしいなぁと思っていたら、やはりトーナメント表の通り、西部ワイルドガンマンズの相手は恋ヶ浜キューピットでした。柱谷ディアーズはデビルバッツが勝ち進んだ時の相手ですよね。
 それにしても西部VS恋ヶ浜って、物凄い実力差ですね。どうやって見せ場を作るのか逆に楽しみです。

 一方、今週は国際プロレス・プロモーションを彷彿とさせるチェーンデスマッチで盛り上がった『DEATH NOTE』ですが、ここ最近は、これまでその他大勢の域を脱し切れなかった捜査員たちのキャラクターを掘り下げようという意図が見え隠れしていて興味深いですね。しばらくは今のメンバーで固定して、若干のコメディ要素を交えながらマッタリと第3のキラ探しに勤しむ…という展開になるんでしょうか。まぁ固定ファンを大量に掴んだところで、安定飛行に入るというのも一つの見識だとは思いますが、どうなるんでしょうね。
 それにしても、八方塞がりに思えた話の展開が、気がついたらほぼリセット状態になっているんですから、これは諸々の問題点を差し引いても凄いとしか言いようがありませんね。将棋で言えば、どう考えても詰んでいる所から、見事な指し回しで入玉してしまったというような……。
 今の完成度を年度末(11月末)まで保っていれば、現在B+になっている評価の上方修正と、「コミックアワード」へのノミネートも当然考慮にいれなきゃならないでしょうね。

 で、最後はやっぱり『武装錬金』を。冒頭でもネタに使わせてもらった通り、戦士・剛太の少年マンガ史上に残る放置プレイが余りにも痛々しいですが、どうやら『錬金』は次週臨時休載とのことで、作品内時間を超えた責め苦が続くようです。
 しかし、本当に可哀想な少年ですよね。失恋するためだけに登場した落下傘キャラクターなんて不憫としか……。姿を消した剛太少年が、『いちご100%』の世界にワープして主人公を暗殺しても平気で許せるような気がします(笑)。
 それにしても、カズキ×斗貴子さんの会話もどうしてここまで色気が無いんでしょう(笑)。どう考えても愛の告白の内容なのに、2人とも真顔ってのはさすがにどうかと思いますよ私は(笑)。でもまぁ何気ないスキンシップが妙にストロベリってて、言葉以上に2人の愛を感じるわけですが。あんな愛の篭った目潰し初めて見ました。

 ……それでは、とりあえず前半分をお送りしました。後半分は金曜日を目標に準備を進める事にします。

 


 

2004年度第48回講義
9月10日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第2週分・合同)

 先週の「チェックポイント」・『武装錬金』での自虐カミングアウト&談話室(BBS)でのネタ発言を受けて、物凄く深刻な反応がいくつか返って来て、戸惑うやら恐縮するやらの駒木であります(^^;)。
 すいません皆さん、ネタにしてる時点で自分の中では決着済みなんで心配しないで下さい。今は『あずまんが大王』のゆかり先生のように、結構平気で独り者生活を満喫しております(笑)。とりあえずは、慌てず騒がず焦らず、運気が上向くのを待ち惚ける今日この頃という事で。

 ──って、なんなんだ、この前フリ(笑)。

 もう何が何だか分かりませんが、とにかく今週のゼミをお送りします。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(42号)に読み切り『秘密兵器ハットリ』作画:いとうみきお)が掲載されます。
 この、見事なまでに現在全国劇場ロードショー中の映画を彷彿とさせるタイトルの読み切りを描くのは、『ノルマンディーひみつ倶楽部』、『グラナダ ─究極科学探検隊─』で御馴染みのいとうみきおさん。3度目の連載獲得に向けて本格始動…といったところでしょうか。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(42号)に読み切り『UPPERS』作画:寺嶋将司)が掲載されます。
 寺嶋さんは、これまで増刊号を活躍の場にしていた若手作家さんで、検索エンジンで確認した限りでは、月刊時代の「サンデー超」01年12月号、03年5月号、6月号に読み切りを、03年11月号〜04年1月号まで短期連載を経験しています。(「サンデー超」以外の増刊や02年以前についてはデータが極めて不足していますので、この他にも読み切り掲載があった可能性があります)
 今回は週刊本誌初登場の大チャンスとなりますが、果たしてどうなるでしょうか。

 ……それにしても来週は確定分だけでレビュー4本。更に「ジャンプ」で代原が載るという話も聞いていますので、そうなると5本……。しかも、祝日の関係で翌週分の「ジャンプ」が土曜日に出るので、それまでにゼミを完了させなければならないわけですか……。
 来週は久々に前・後半分割になりますかねぇ。ただ、昼間の仕事の疲れがそろそろ溜まって来る時期に、こういうハードなスケジュールは勘弁して欲しいのが本音ではありますね(苦笑)。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年41号☆

 ◎読み切り『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征

 ●作者略歴
 1981年1月31日生まれの現在23歳
 03年8月期の「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入りを果たした後、04年3月期「十二傑」で準入選(十二傑賞)を受賞。先日発売の「赤マル」04年夏号にて、今作と同タイトルの受賞作でデビューを飾ったばかり。
 なお、澤井啓夫さんのスタジオでアシスタント経験がある。

 についての所見
 やはり週刊本誌に混じると、どうしても洗練されていない荒削りな面が目立ってしまいますね。ただ、「赤マル」レビューの時にも述べましたように、マンガの絵として押さえるべき部分はキチンと押さえてはいます。
 この作品の前後に掲載された『テニスの王子様』や『銀魂』と見比べても違和感はありませんし、ギリギリ及第点は出せる水準ではないでしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 これも「赤マル」レビューの時にも述べましたが、“謎を食う魔人探偵”という設定は非常にオリジナリティが高く、これがそのまま作品最大のセールスポイントになっていると言えそうです。また、今回は「赤マル」に掲載された前作の矛盾点(いわゆるツッコミ所)を解消させようという強い姿勢も窺え、好感が持てます。
 また、各所に施された演出がなかなか上手く、キッチリと“読ませて”くれます。特に、ネウロが長ゼリフを喋りながら芋虫を口の中で蝶に成長させて最後に燃やすシーンなどは秀逸でした。普通に描いていれば冗長になってしまう場面に強いアクセントを持たせ、更にはネウロの魔人として闇の部分を描写する事にも成功。まさに一石二鳥と言える好演出でしたね。他にも事件発生のシーンなど、これがデビュー2作目の新人さんとは思えない好演出が随所に見られました。

 しかしながら、この作品はコンセプト──事件発生後、全く間を置かずに即解決編に入る“非本格・娯楽系ライトミステリ路線”──そのものに、大きな“構造的欠陥”を抱えていると言わざるを得ません。「赤マル」の時は作者サイドの意図が読み取れない部分があったので敢えて採り上げなかったのですが、この欠陥はストーリー系作品として致命的とも言えるものです。
 ミステリ系のマンガや推理小説を読まれる方はお気づきかと思いますが、この作品のコンセプトというのは、言ってみれば推理小説の冒頭と結末だけを抜き出すようなもの。本来なら冒頭と結末の間で展開されるであろうドラマ部分がバッサリとカットされてしまっているのです。つまりこの作品はドラマ無きミステリ。本質的には“前フリが異様に手の込んだ推理クイズ”の域を出ないお粗末なプロットと言わざるを得ません。
 もっとも、こんな致命的な欠陥を、先述したセールスポイントである独創的な設定と高い演出力でリカバー出来ているのがこの作品の凄い所で、「ジャンプ」が懸命に松井さんとこの作品をプッシュするというのも理解できますね。ただ、この作品を連載化する場合には、長いスパンで読者の興味を惹くような新要素を盛り込まないとたちまち悪性のマンネリに陥ってしまうでしょうが……。 

 今回の評価
 連載作品のプロトタイプとしては不安が残る部分が多いものの、読み切り作品としては一応成功の部類に入るでしょう。ただし大きな減点材料もありますので、評価は「赤マル」から僅かに上積みした程度のA−寄りB+に留めたいと思います。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 毎週つくづく思い知らされる事ではあるのですが、『BLEACH』の演出ってのは凄いですなぁ。『NARUTO』の岸本さんは、下積み時代に映画を観まくって演出力の基礎を独学で身に付けたそうですが、久保さんはどうやってノウハウを学んだんでしょうね。
 ただ、この作品で未だに個人的に納得いってないのは長期間に渡ってメインヒロインのルキアを不在にさせた事。このキャラをもっと上手く活かしたシナリオにしていれば、どれだけ凄い作品になったんだろうと、思わず無いものねだりをしたくなります。

 この他、今週絶好調だったのは『銀魂』、『ピューと吹く! ジャガー』といったコメディ・ギャグ勢。もうどのシーンもいちいち笑いのツボを突きまくられて、仕事帰りにドトールコーヒーで読んでて思わずアイスコーヒーを噴出しそうになりました。
 まったく、あのジャガーさんが言葉を失うボケ倒しなんて、面白いを通り越して恐ろしいですね(笑)。たった1コマで、あそこまで心底どうしようもないダメさ加減を表現する技量と言い、うすた京介さんの底知れぬ才能を再確認させられた今週号でした。

 そんな中、ひっそりと『ぷーやん』が1クール突き抜けの最終回。苦節12年で掴んだチャンスでしたが、あっさりと手放す羽目になってしまいました。
 第1回から振り返ってみての感想は、「結局、最後まで霧木さんの描きたいモノが見えてこなかったなぁ」といったところ。スポーツも恋愛も友情も、全てが明確なテーマとならないまま、ただ何となく「ジャンプ」のマンガっぽい場当たり的なエピソードが垂れ流されて終わってしまったような感じですね。
 しかし不思議なのは、連載が叶わないまま12年も下積み生活を続ける執念深さを持ちながら、描かれる作品には「誰が何と言おうと、俺はこういうマンガが描きたいんだ!」…という執着心が全く感じられない事。この欲の無さはある意味異様でもあります。普通は真逆の性質を持った人に対してぶつける言葉なのでしょうが、「一体何がこの人をこうさせるのだろう?」…という疑問が頭から離れません。
 最終評価は、第3回時点から据え置きでB−としておきます。

「週刊少年サンデー」2004年41号☆

 ◎読み切り『吉田ジャスティス(激闘編)』作画:福井祐介

 ●作者略歴
 生年月日は不明ながら、04年春募集の「爆笑王決定戦」応募時には27歳
 02年12月・03年1月期の「サンデーまんがカレッジ」で最終候補(あと一歩で賞)に残り“新人予備軍”入りした後、ギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で最高ランクの“爆笑王”を受賞。今回はその受賞作でいきなりの週刊本誌デビューを飾る。

 についての所見
 全体的に見て決して上手いとは言えないですね。画力を要求されない「サンデー」系のギャグ作品としては「こんなものか」という気もしますが、動的表現の拙さや遠近感のズレといった基本的な箇所での未熟さが目立ち、決して印象は良くありません。少々甘めのジャッジをしても、ギリギリで及第点といったところでしょう。

 ギャグについての所見
 まず、ギャグの見せ方など技術的な面については、一応は形になっていると思います。ネタ振りとオチの間にページを跨がせたり、“間”を持たせて笑わせようと試みたりと、理詰めの計算で読み手の笑いを誘おうとする意図が窺えて、これは悪くないですね。
 ただ、肝心のネタが弱過ぎて、せっかくの見せ場が全く活きていないのではないでしょうか。ギャグになり切れていない“どうでもいい事”を無理矢理“笑っちゃうくらい変な事”に見せようとしていて、これでは多くの読者は引いてしまうんではないかと懸念してしまいます。

 この作風、何か既視感が有るなと思ったら、「ジャンプ」系若手作家の夏生尚さんの描いた代原に、ちょうどこんな意気込みが空回りした作品がありました。“爆笑王”が「ジャンプ」の代原と同レヴェルというのは悲しい話ですが……。

 今回の評価
 技術面が形になっているとはいえ、このクオリティではB寄りB−が精一杯ですね。
 真面目な話、このくらいのクオリティの作品なら新人・若手の作品に限定してもゴロゴロ転がっているはずで、それなのにこれほど簡単に最高ランクの賞を出してしまうのは如何なものかと。どういう意図でここまでこの作品をプッシュするのか、ちょっと不可解ですね。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「自分を動物に喩えたら?」。
 作家さんの回答ではがトップで4票。まぁ色々な角度から連想しやすい動物でしょうから、順当と言えるでしょうね。あまりボケようの無い質問でもありますし。
 駒木は一応「亀」と言っておきましょうか。特に試験の合格状況とか出世のスピードとかが亀の歩みなんで(笑)。この社会学講座も、受講生さんが増えるまでに大分長い間苦労しましたしね。
 ちなみに、昔「走り方がダチョウのようだ」と言われた事があります(笑)。自分では気付かないまま、物凄く無駄なフォームで走っていたらしいです。それでも中学時代は1500m走とか校内マラソン大会で学年ベストテンに入ってたりしたんで、もしも陸上部に入ってフォーム矯正してたらどうなったのか、ちょっと興味が湧いた事もありました。

 さて、先週色々と問題点を指摘した『クロザクロ』ですが、今週は女子高生蒐集者・薊(あざみ)に対する夏目義徳さんの愛情が伝わって来て、「他の登場人物もこの調子で動かせばいいのになぁ」…などと思ってしまいました(笑)。ただ、“子供扱いに怒る女の子”というシチュエーションは『絶対可憐チルドレン』とネタ被りになってしまって不運でしたね。
 あと、「一般人女性が襲われる→蒐集者・九蓋が救出」というシーン、女性が本当に食われる寸前まで追い詰められた方が、緊張感とインパクトが出て良かったような気もしますが、どんなもんでしょうか。
 ……あ、来週発売の「週刊モーニング」には、夏目さんが絵を担当している『P専嬢のダリア』が掲載されます。盆休み返上で描かれた作品だそうですので、ファンの方、興味のある方は是非ともお忘れなきよう。

 さて、今週最後は『モンキーターン』から競艇豆知識。ここでストーリーについては一切触れないのが駒木流であります。
 MB記念で優勝して賞金4000万円を獲得した蒲生さん、「賞金全部使ったる」と酔った勢いで宣言してましたが、実は競艇の賞金は原則最終日の2日後に銀行振込になっているそうです。ですからレースが終わった後に貰えるのは銀行振込の明細だけで、現金はほとんど支給されないはずです。そんな状態であんなに大勢連れ回して、お勘定は大丈夫だったんでしょうか(笑)。地元だからツケが効くのかな?
 ……しかし、4000万円以上の金額が印字されている銀行振込明細ってのも凄いですね。一生に一度で良いから、自分宛のモノでお目にかかりたいものです。
 あ、ちなみに他の公営競技の賞金ですが、中央競馬は月曜日──つまり、開催日の次の日に銀行振込。これには関係者の皆さんからも「さすが天下のJRA、しっかりしている」と好評です(笑)。
 あと凄いのが競輪で、こちらは全額即日現金支給。大レースで優勝したりすると、ちょっと前まで客の財布の中にあった1万円札で構成された数千万円分の札束がデデンと積み上げられます。ただし、さすがに数千万円を全額持ち帰るケースは少なく、適当に100〜200万くらい抜いて、後は銀行振込にしてもらう人が多いみたいですが。
 

 ……というわけで、まだまだ語り足りない部分もありますが、今週はこれくらいにしておきましょう。それでは、また週明けにお会いしましょう。

 


 

2004年度第47回講義
9月3日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第5週/9月第1週分・合同)

 いつの間にか29歳になっていました
 そろそろ助手ともども年齢をサバ読みしたくなって来るお年頃、いよいよ「『スピンちゃん』の単行本、売り切れてて買えんやないけワレ!」と叫んだり、少年マンガについてクソ真面目に論評したりするのが恥ずかしくなって来ましたが、色々な迫り来る物に負けず、頑張り抜きたいと思います。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(41号)に読み切り『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征)が掲載されます。
 もうご存知でしょうが、この作品は、つい先日発売されたばかりの「赤マル」夏号の紙面を飾った同タイトル作品の事実上の続編です。
 掲載のタイミング的には、「赤マル」と連動させる形で週刊本誌に進出させる事が最初から決まっていたと思われますが、「赤マル」に掲載された前作もネット界隈では人気を博しているようですので、編集部サイドの賭け(というか見切り発車)はドンピシャで当たった…という感じでしょうね。今回の作品のアンケート次第では早期の連載昇格も見えて来るだけに、大いに注目の一作になりそうです。


 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(41号)に読み切り
『吉田ジャスティス(激闘編)』作画:福井祐介)が掲載されます。
 先週、結果発表があったギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で、最高ランクの“爆笑王”を獲得した作品が週刊本誌登場です。編集長肝煎りの新人賞で最高ランクを獲得したギャグ作品という事は、即ち現在の「サンデー」が求めているギャグ作品だという事なのでしょうから、こちらも注目の一作と言えそうですね。

 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」:新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年40号☆

 ◎新連載『Wāqwāq』作画:藤崎竜

 作者略歴
 1971年3月10日生まれの現在33歳
 90年上期「手塚賞」で佳作を受賞して“新人予備軍”入りを果たした後、同年下期の「手塚賞」では『WORLD』で準入選を受賞し、この受賞作が季刊増刊91年冬(新年)号に掲載されてデビュー。
 それからは増刊91年春号、週刊本誌91年45号、増刊92年春号と立て続けに読み切りを発表する精力的な活動を展開し、92年51号からは『PSYCHO+』で初の週刊連載を獲得。しかし、この時は個性的過ぎる作風が幅広い支持を得られず1クール11回で打ち切りとなる。
 打ち切り後の復帰は早く、増刊93年夏号、秋号と立て続けに新作を発表したが、そこから増刊95年春号まで1年半のブランクを経験。しかも更にその後1年以上のブランクを強いられるなど不安定な活動を余儀なくされたものの、週刊本誌96年28号より連載が開始された『封神演義』がヒット、00年47号まで4年半の長期連載(他に01年5・6合併号に番外編を発表)となる。なお、この連載期間中にも、00年新年の増刊「eジャンプ」に読み切りを発表している。
 連載終了後、1年強のリフレッシュ期間を経て『サクラテツ対話篇』でいきなりの週刊連載復帰を果たすが、これは残念ながら2クール打ち切り(02年1号〜21号)となった。
 今回は『サクラテツ』終了以来、2年数ヶ月ぶりの復帰作となる。

 についての所見
 
デビュー当時から、ともすれば読者を選んでしまうほどの極端な画風で有名な藤崎さんの描く絵ですが、今作を見る限りでは、それに根本的な画力も付随するようになって来たように見えますね。メカ関係の作画などは(さすがにマトモに比較すると若干見劣りしますが)『BASTARD!!』を彷彿とさせるような緻密さがありました。
 ただ、全体的な視覚効果を優先させる余り、一体そこで何が起こっているのか判り辛い場面もいくつかあり、その点が非常に残念でした。“マンガの記号としての絵”をもう少し意識した作画をしてもらえれば……と思うのですが。

 ストーリー&設定についての所見
 連載ごとにガラリと作風・ジャンルを変えて来る藤崎さんですが、今回もまた前作とは打って変わって、シリアス系のSF作品で登場と相成りました。
 さて、こういうSF作品では独自性の確保と読者の興味を惹くために、往々にして設定は否応なしに膨れ上がり、そこから生まれる世界観も難解・複雑になっていってしまいます。で、これを読み手にどう分かり易く提示するか…という点が1つの大きなカギになって来るわけですが、この作品に関しては、設定提示をストーリー進行と融合させる試みが為されていて、駄作特有の“説明臭さ”は感じられません。ただ、それでも現時点でタネ明かしされていない「作者サイドに詳細を隠されている“謎”設定」も少なくなく、読み手によっては許容範囲を超えた難解さを感じてしまうかも知れませんね。

 シナリオはプロローグとしては相当のボリュームがあり、メリハリも効いている労作です。さすがにキャリア相応の“プロのお仕事”を見せてもらったなぁ…といったところですね。
 ただ、クライマックスシーンの「子を残して父親が死ぬ」という修羅場で、もう少し読み手の感情に訴えかける演出が出来なかったものでしょうか。まだ読み手が登場人物に感情移入しきれない状況の中では難題とも言える注文ではありますが、この辺が傑作になるかどうかのシビアな分岐点であるような気がします。

 現時点の評価
 高い技術が反映された力作ながら、あと一歩のところで良作・傑作とは言い難くさせる欠点もあるという事でA−寄りB+とします。ただ、今のところは短期打ち切りになるような感じもしませんね。長期連載の中で徐々に“味”が出て来れば、“関脇・小結”クラスで誌面の脇を固めるポジションぐらいは確保出来ると思うのですが。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週ネット界隈で話題になったのは、何と言ってもセンターカラーで最終回を迎えた『シャーマンキング』。まぁ、通常は円満終了・大団円であるはずのセンターカラーで、まるで“ロケットでつきぬけた”ような打ち切り色の強い尻切れトンボ最終回をブチカマしてしまったら、そりゃあ話題にもなるわな…といったところではありますが。
 内容面については、単刀直入に言えば「広げに広げきった風呂敷を(タイムリミットまでに)畳めなくなった」という事なんでしょう。以前、巻末コメントで「最終章突入です」という談話があり、完結までのストーリーラインは出来上がっていたのでしょうが、これだけ膨れ上がった設定や伏線をストーリーラインの中で消化しようとすると、物理的に色々な問題が出て来てしまうでしょうね。これだけの長期連載、話のスケールが大きくなってしまうのは仕方ない部分もあるんですが、ちょっとこの作品は限度を超えていたのかな、という感がありますね。
 また、武井宏之さんの持ち味である婉曲的な演出・ストーリーテリング手法が、ストーリー・設定の肥大化傾向にいらぬ拍車を掛けてしまった側面もあるのだろうと思います。恐らく全エピソード中の最高傑作であろうマタムネ編のように、その持ち味が完全に活かされると物凄い威力を発揮する才能ではあるのですが、これをメインシナリオの魅力に繋げ切れなかったのが、この作品の悲劇という事になるのでしょう。
 これだけ“着地”に失敗してしまった以上、最終評価は連載作品としてはギリギリ及第点の程度に留めなくてはならないでしょう。ただ、マタムネ編の完成度からも判るように、武井さんに非凡な才能が無ければここまでの長期連載が実現するわけもないわけですから、ここは一度態勢を立て直して頂いて、是非とも近い将来にリベンジしてもらいたいところですね。

 さて、まだ連載中の作品についても少々。
 相変わらず1回ごとのクオリティが程好く濃密なのが『アイシールド21』。小ネタを数個挟んでおいて、キチンと大きな見せ場を1つ用意するという構成が実に見事ですね。あ、勿論大きな見せ場は王城ツインタワー発動のシーンですよ。決して夕陽ガッツではなく。
 ……でもまぁブルマの存在そのものがネタになるというのも時代ですよね(笑)。何しろ、10数年前の「ジャンプ」では、当たり前のようにヒロインがブルマ姿を披露していたわけですから。こういう所から時代ごとの文化とか風俗が垣間見えてくるんでしょう……などと、久しぶりに(心底どうでも良い事について)学問っぽい切り口で語ってみたりして。
 あと、最近気になっているのが村田さんの絵柄。連載当初から鳥山明さんの、途中あたりから手塚治虫先生のタッチの影響が出て来てるのは判るんですが、他にもう少し影響を受けた巨匠クラスの作家さんがいそうな感じ。特にシリアスタッチの画風が誰かに似ているような気がしてならないんですが、よく判らない。物凄くもどかしいんですが……(笑)。

 『武装錬金』は急展開に次ぐ急展開から、スクランブル的に新章に突入してゆきそうですが、それにしても気になるのが戦士・剛太の噛ませ犬っぷり惚れた女性のためにした努力が全てその女性と別の男の恋愛成就のために浪費されてゆくというこの有様、嗚呼…これは……、

 まるで駒木ハヤトのプライベートそのものじゃないか!

 ……というわけで、剛太少年に感情移入したくなる気持ちもあるんですが、ただ、こういうファンタジーの世界で現実を忠実に再現されると応援する気が無くなってしまうというか(笑)。せめて夢の世界だけでも夢見させてくれよと。
 そういうわけで頑張れカズキ。もう20代も過ぎ去ろうとしているお兄さんに、せめて良いモノ見せてやってくれ。
 ──で、今日は単行本4巻の発売日だったんですが、「ライナーノーツ」を読んでいると、やっぱりこの作品、掲載順なりの人気に甘んじていた事が窺える部分がいくつもありました(苦笑)。それでも読者に媚びる事無く、自分の描きたい物と読者の求める物のギリギリの妥協点を追求しようとする姿勢も垣間見えるのが、天国も地獄も見て来た作家さんらしいですね。


「週刊少年サンデー」2004年40号☆

 ◎新連載第3回『東遊記』作画:酒井ようへい

 ●についての所見(第1回時点からの推移)
 
徐々に画力不足から来るアラが目立って来たかな…という印象です。第1回時点で指摘した戦闘シーンの拙さについてはあまり気にならなくなって来ましたが、今度は人物の表情、特に驚きや恐怖が表現し切れておらず、かなりの違和感を感じる場面が出ていました。
 また、その他の部分でも、“下手”ではなく“粗い”作画が見受けられるのが気になるところ。それでも割と普通に読めてしまうのは、根本的に好感度の高い絵柄なのでしょう。ただ、そこに甘えるのではなく、この長所を作品全体のセールスポイントにする努力をすべきだと思いますが。

 ストーリー&設定についての所見
 第1回同様、「夢」をテーマに据えた第2回もなかなかの完成度だったのですが、このテーマが無くなった第3回になって、急にストーリーが安っぽくなってしまった感じですね。物凄く他愛も無い事を大仰に見せてますが、それが却って話のスケールの小ささを際立たせてしまっているというか……。
 前に述べた通り…と言うか、最早言うまでも無く、この作品は既存の作品の影響を色濃く受けた“フォロアー的作品”です。この手の作品を創る際には、過去の名作が成功した方法論を再利用出来るという利点がある一方で、一旦クオリティが落ちたが最後、元々新鮮味が無い分だけに失敗が際立って見えてしまう…という欠点があります。つまり、この作品は生まれながらにして、「『DRAGON BALL』『ONE PIECE』に見劣りしないフォロアーであり続けなければならない」という厳しいノルマを課されているわけですね。
 それ故に、今回のように少しでもシナリオの質が落ちてしまうと一気に心証が悪くなってしまうのは否定の出来ないところ。借り物の方法論だけではなく、ストーリーテリング面での地力をもっともっと伸ばしていって欲しいです。まずは読者を笑わせ、感動させるような技術の習得からですね。『ONE PIECE』のフォロアーを目指すなら、特に後者の技術は必要不可欠でしょう。
 
 現時点の評価
 ストーリーテリング面の脆弱性が姿を現して来た…ということで、とりあえず評価はB+に下方修正です。ただ、これでもまだ弱含みですね。
 一応、過去にメガヒット作を生み出してきた方法論に基づいた作品ではありますので、ソコソコの商業的なヒットは期待出来るでしょう。が、現状ではクオリティの裏付けが無いだけに、将来性は不透明であると言わざるを得ないですね。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「対談するなら誰と? またその理由は」。
 真面目に答えると面白くなく、ウケ狙いに行くと外し気味になるという難しいお題だったような。一応、多数意見となると2票でブルース・リーですか。
 今の駒木にとっては余りにも非現実的過ぎる質問なんですよね。ファンの立場では対談というよりインタビューになっちゃいますしね。これは首尾良く駒木が著述業で食っていけるようになるまでお預けという事で。まぁ現状、「アメリカ横断ウルトラクイズで勝ち残った時までアメリカ旅行はお預け」くらい先の見えない話ではありますが(笑)。

 ──さて、今週は第3回後追いレビュー以来、とんとご無沙汰になっていた『クロザクロ』について。
 で、何故ご無沙汰だったかと言うと、正直言って、ここで採り上げるだけの“心に引っかかるモノ”が無かった、つまりは(当然読んではいますが)スルーしてた…というわけです。これが他の作家さんの作品なら放っておくんですが、当講座とも縁の深い夏目さんの作品で、「『スルーしている事実』をスルーする」というのはイカンと思い立ち、今回採り上げさせて頂きました。
 よって、今回結構ネガティブな事を細かく指摘します。『クロザクロ』ファンの方には極めて相性の悪い話になりますので、悪しからずご承知おきを。

 さて、この『クロザクロ』が、シナリオ構成の上でかなり特殊な作品であるという事は、皆さんもお判りになっているのではないかと思います。この作品は長編モノのセオリー──数話〜数十話で完結する“小エピソード”を連ねて1つの大エピソードを描いていく──を踏襲せず、1話目からページ数を費やして、“大エピソード”を淡々と進めていく手法を採っているんですね。
 この手法は、シナリオに一貫性を持たせたり、作品の完成度を高めるという長所があります。言い換えると単行本でまとめ読みするのに適した作品になりますね。ただしその反面、ストーリーの起伏が弱くなり読者の興味を惹き付ける要素を創り出すのが難しく、作品の魅力が発揮される前に読んでもらえなくなる危険性が高くなる…つまり雑誌の連載には本質的に不向きな作品であるとも言えるわけです。「8割の読者に嫌われる」どころか「8割の読者にスルーされる」危険性がある…と言えば判りやすいでしょうか。
 このタイプの作品を描く作家さんで成功している人に浦沢直樹さんがいますが、浦沢さんは過去の実績と固定ファンに支えられ、最初から単行本での読み応えを前提にした作品作りが許されている立場にいますから、これは例外中の例外と言えるでしょう。この『クロザクロ』は勿論、“例の中”にある作品です。

 では、このタイプの作品に全く勝ち目がないのかと言えば、決してそうでは無いはずです。確かにストーリーだけでは効果的な“集客”は難しいものの、それを他のファクターで補完する事も可能でしょう。
 駒木は、そのストーリー面の弱点を埋めるのは登場人物のキャラクターだと考えています。改めて言うまでもないマンガ作りの基本ですが、基本だからこそ大事な事とも言えるでしょう。
 例えば、歴代の「サンデー」作家さんの中で、ストーリーの起伏が緩い作品を好んで描く方にゆうきまさみさんがいます。ゆうきさんの作品がそんな淡々としたストーリー展開だったにも関わらず、他の作家さんの作品と遜色なく“集客”が出来ていたのは、『パトレイバー』然り、『じゃじゃグル』然り、数多くの極めて個性的なキャラクターが存在していたという要因があったのは明白でしょう。つまりは、「ストーリーはとりあえずさておいても、このキャラクターが活き活きと動いている所を見ていたい」と思わせる事で“集客”を実現した…というわけです。
 ただ、そんなキャラクター造型に長けたゆうきさんでも『KUNIE』で無残な打ち切りを喰らった事を考えると、このタイプの作品において、ストーリー面の脆弱性がかなり深刻であるという事も分かって頂けると思います。

 それでは、『クロザクロ』は現状、このストーリー面の脆弱性を登場人物のキャラクターでリカバー出来ているのでしょうか?
 結論から言うと、駒木は「否」だと思っています。この判断にはかなり個人の主観的な価値観が影響しますので、駒木のこの判断が正しいと断言出来るものではありませんが、個人的には「かなりヤバい所まで来ている」とさえ考えています。
 まず、ストーリーに深く絡んでいる登場人物の数が、第6話の時点で(多めに見積もっても)5人。しかもその5人も毎回登場するわけでもありません。更に、作品に彩りを添えるサブキャラも幹人の家族ぐらいなもので、それさえも最近は不在という状況です。
 そんな“量”的な不安を抱えている上に、“質”の面でも物足りなさが残ります。キャラクターの魅力というのは、本来ストーリーと関係の無い“遊び”の部分から見出されるモノだったりするのですが、この作品の登場人物は、その要素が物足りないような気がするのです。確かにストーリーに説得力を持たせる程度のキャラ付けは為されてはいるのですが、登場人物そのものが魅力的に映るほどのキャラ造型には至っていないように思えてならないんです(例外として、ごく一部で話題になってる“スパッツ”がありますが)

 ……そういうわけで、少なくともストーリーが盛り上がって来て、それだけで読者を惹き付ける事が出来るようになるまでは、登場人物の魅力で引っ張る必要性があるでしょう。新キャラを出すも良し、現有戦力のパワーアップを図るも良し、とにかく登場人物のファンを作るような試みを期待します。
 ただ、現状でもアンケートの結果が良いのであれば、それは「今のままでも大丈夫」という事なんだろうと思います。その場合は、万が一人気が落ちて来た時の処方箋として一考して頂ければ…と思う次第です(笑)。

 しかし「サンデー」では、超A級のキャラクターを確保していながら今一つ伸びきれない『こわしや我聞』みたいな作品もあるわけで、本当にマンガって奥が深いと思いますね。

 

 ……というわけで、今日の講義はここまで。
 あ、時間の都合で採り上げませんでしたが、絵の上手い人が6本指の手を描くと、なかなか気付かないものですね(笑)……などと、集英社の方に向かって言いつつ、退場させて頂きます。では。

 


 

2004年度第46回講義
8月27日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第4週・合同)

 いよいよ夏休みも最終週後半……というか、社会人にもなってこの時期まで夏休みというのが恵まれ過ぎているわけではありますが、それでもいよいよ『げんしけん』の笹原妹みたいなのが教室中に一杯溢れる職場に強制送還されるのかと思うと、背筋に冷たい物が走ります(苦笑)。
 また来月から3ヵ月半ほど、週1回ペースがやっとの講義日程に戻ると思いますが、そこらへんの事情も踏まえて頂いてどうか何卒。

 なお、冬コミ用の原稿は既に進行中です。どうやら余りの分厚さに頭がクラクラしそうな本になりそうですが、汚名返上及び読み応えのある内容にすべく鋭意努力中ですので、こちらもどうか何卒。

 ──では、今週のゼミをお送りします。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(40号)より、『Wāqwāq』作画:藤崎竜)が新連載となります。
 一昨年の『サクラテツ対話篇』以来、「ジャンプ」の第一線を離れていた藤崎さんですが、いきなりの週刊連載復帰となりました。
 ちなみに2ch掲示板で流れている非公式情報によると、今期の新連載はこの1作品のみになる模様。終了する連載作品も、次週で最終回を迎える『シャーマンキング』と、もうしばらく後に何か1作品が終わる程度になるとのことで、随分と小規模の入れ替えになるんですね。
 ……いや、こういう事を言っても意味が無いとは判ってるんですが、本当に大亜門さんは運が無いと思いました。

 
 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーGAGまんが新人賞
「爆笑王決定戦」

 爆笑王=1編

 ・
吉田ジャスティス(激闘編)(=週刊本誌41号に掲載決定)
   
福井祐介(27歳・東京)

 《選評:ツッコミキャラ皆無なのに、主人公吉田ジャスティスの自己完結ギャグは炸裂しまくり。ボケの一つ一つに読者がツッコミ入れずにはいられない。引き込むテンポの良さに大いなる可能性を感じます》

 準爆笑王=1編
  ・『絶対正義ロボット ノーメン』
   下出真輔(22歳・埼玉) 
 佳作=1編
  ・『学園戦隊ファンタジアン』
   橋本時計店(23歳・東京)
 最終候補=5編
  ・『河童巻き』
   佐藤将憲(21歳・東京)
  ・『かせげ!! マオウ様』
   クリスタルな洋介(24歳・秋田)
  ・『SM進化論』
   内藤みえこ(16歳・愛知)
  ・『どいつもこいつも筋肉くさい!』
   福井祐介(27歳・東京都)=爆笑王受賞作とのWエントリー
  ・『演歌寿司投手 コブシ』
   溝口直樹(33歳・愛知)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎「爆笑王」の福井祐介さん…02年12月・03年1月期「まんカレ」であと一歩で賞。
 ◎「準爆笑王」の下出真輔さん…03年7月期「まんカレ」で努力賞&「週刊少年チャンピオン」の読者コーナーでイラスト担当の経験有り?
 ◎最終候補の佐藤将憲さん…04年6月期「まんカレ」で努力賞

 ……というわけで、最高ランクの「爆笑王」受賞者が出ました。週刊本誌登場も既に決定という事で、編集サイドのかなりのイレコミ具合が伝わって来ますね。……あ、でもそう言えば審査員は三上編集長だったはずですので、職権を行使しただけとも言えるわけですか(笑)。
 しかし今回の賞レースは、「サンデー」系の新人賞にしては“新人予備軍”の名前が目立ちますね。ひょっとして担当編集さんから「応募作少なくて穴場だから、挑戦してみたら?」とか言われたんでしょうか(笑)。

 
 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り1本/代原読み切り1本
 「サンデー」:(短期集中)新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年39号☆

 ◎読み切り(「第1回ジャンプ金未来杯」エントリー作品)『切法師』作画:中島諭宇樹

 作者略歴
 1979年7月21日生まれの現在25歳
 01年11月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りした後、02年度の「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞し、翌03年の「赤マル」春号にて受賞作・『天上都市』が掲載され、デビュー。
 週刊本誌初登場は03年46号掲載の『人造人間ガロン』で、今年に入ってからは2月発売の「青マルジャンプ」で『ホライズンエキスプレス』を発表している。
 なお、デビュー後しばらくまで、村田雄介さんのスタジオでアシスタントを務めていた。

 についての所見
 
以前から若手作家としてはトップクラスの技量を誇っていた中島さんだけあって、今回も実に安定した絵を見せてくれました。村田雄介門下ならではの細かい描写や動物系・怪物系キャラの造型も立派なもので、他の連載作品と比較しても全く遜色無いレヴェルに達していると言えるでしょう。
 敢えて注文をつけるとすれば、少年・少女系キャラの顔の描き分けをもう少し明確にして欲しいという点と、前作でも指摘した見開き基準のコマ割りで一部見辛い部分があるのを修正して欲しい…といったところでしょうか。後者に関しては、パッと見でコマ全体に目が行くような構図にすれば何とかなると思いますので、次回までに修正してもらいたいものです。

 ストーリー&設定についての所見
 初の時代劇という事で、どういう作品になるかと思っていましたが、結局は時代劇風ファンタジーという、フタを(扉ページを?)開けてみれば、いかにも中島さんらしい作品になりましたね。

 さて、中島さんお得意の世界観作りは今回も好調で、数多くの設定が矛盾無く1つの作品世界に集束してゆく様は壮観でありました。設定提示はページ数の加減もあって、セリフなど文字による“説明”が中心になりましたが、これを主人公の時代背景相応の持って回ったセリフ回しと上手く噛み合わせて嫌味無くクリアさせており、大変な工夫の跡が窺えます。
 また、今回は主要登場人物の数を絞り、キャラクターの掘り下げに力を注いだのも特筆すべき点ですね。ただ、それでも若干キャラ造型が中途半端な印象が残ったのも事実で、これは今後の課題になるのではないでしょうか。

 一方、シナリオに関してですが、こちらは残念ながら少々物足りない完成度だったように思えました。プロットはよくまとまっており、好感度は低くないと思われるのですが、ページ配分が……。設定提示とキャラクターを掘り下げるのに労力とページ数を費やしてしまったために、起承転結の“転”と“結”がボリューム不足になってしまったような気がしてなりません。
 特に中島作品は、ダイナミックな演出で意表を突くクライマックスの盛り上げ方が持ち味なだけに、このページ配分は痛かったと思います。あと10〜20ページもあれば、同じシナリオでも随分と違った仕上がりになっていたと思うのですが、今回はちょっと計算が甘かった感じですね。

 今回の評価
 評価については、高い技術を認めつつも、作品の完成度を揺るがす大きな減点材料があったという事でA−寄りB+。中島さんにはアンカーとしてビシッと大会を締めて欲しかったんですが、こうなっては仕方ありませんね。

 
 ──さて、「金未来杯」のエントリー全作品が出揃った所で、簡単にですが総括をやっておきましょう。

作品名 作者 評価
『プルソウル』 福島鉄平 (A−寄り)B+
『タカヤ −おとなりさんパニック!!−』 坂本裕次郎 B+
『BULLET TIME −ブレットタイム−』 田坂亮 (B寄り)B−
『ムヒョとロージーの魔法律相談所』 西義之 A−
『切法師』 中島諭宇樹 (A−寄り)B+

 (あくまで個人的な観点での話で恐縮ですが、)A−評価が1作品、更にはあと一歩でAクラスに届くB+評価が3作品と、なかなかの粒揃いだったとは言えると思います。昔行われた「黄金の女神杯」の時と比べても、全作品の平均点の比較なら随分とこちらの方が上ではないでしょうか。
 ただ残念だったのは、今回のエントリー作に本来持っているポテンシャルを発揮しきれなかった作家さんが複数見受けられたという事。今後の作家人生を揺るがす可能性の高いコンペテイションなのですから、もっと設定やシナリオを練りこんで欲しかったです。
 恐らくこの中から1〜3作品程度が連載作品に昇格するのでしょうが、その時には今回至らなかった点を改善させて、もっともっと良い作品にグレードアップさせてもらいたいと思います。

 さて、蛇足ながらここで優勝予想を。
 ここはやはり、最高評価を付けた『ムヒョ』を…と言いたい所なのですが、前にも述べた通り、この手の賞は余程抜きん出た存在でもない限りは、「中身よりも絵のパッと見の美しさ優先」という、まったくもってミもフタも無い基準で優勝が決まってしまうので、逆に『ムヒョ』は不利だと思っています。むしろ『ムヒョ』とは真逆のタイプ──お話が分かり易くて絵が綺麗な、いわゆる読むのに疲れない作品が有利でしょう。
 というわけで、駒木の優勝予想作品は『切法師』とします。でも、競馬のG1予想みたいにスパッと外れそうだなぁ。いかにも論理の展開が、外れた時の競馬予想っぽいぞ、我ながら(笑)。

 ──以上、「金未来杯」関連の話題をお送りしました。またレビューとチェックポイントに話題を戻します。

 

 ◎読み切り『トイレ競走曲〜序走〜』作画:吉原薫比古

 ●作者略歴
 生年月日は未公開だが、04年上期の「赤塚賞」受賞当時に19歳で、現在は19〜20歳という事になる。
 03年8月期、04年1月期「十二傑新人漫画賞」の「あと一歩で最終候補」リストに名前が載っており、この前後からマンガ家を志望していた事が窺える。
 04年上期「赤塚賞」で準入選を受賞して“新人予備軍”入り。今回が代原ながら(暫定)デビュー作となる。
 

 についての所見
 
画力をさほど要求されないギャグ作品という事を考慮しても、まだ全体的に稚拙な面が目立ちますね。人物作画は粗いなりに形になっているように思えるのですが、背景・特殊効果等にキャリアの浅さがモロに出ている感じで、素人臭い印象が拭えないでいます。
 せめて下手ではない程度までは上達して欲しいところですね。今後に期待しましょう。

 ギャグについての所見
 「赤塚賞」準入選だけあって、ネタの見せ方や話の転がし方はちゃんと出来ていると思います。ボケの緩急のつけ方やインパクトのある表現の方法、更にはツッコミのタイミングなど、笑い所を作る技術はある程度の水準に達しているのではないでしょうか。
 ただ、惜しむらくは肝心のネタそのものが弱いという事。狙いは何となく分かるのですが、まだまだ読み手の意表を突けていない感じです。基本的に「笑い」というものは、突然起こった予想外の出来事による違和感が脳に反応して起こる生理現象なのですから、その辺りを踏まえたネタ作りをして欲しいと思います。

 今回の評価
 技術点を少し上乗せして、B寄りB−としておきます。ただ、ギャグ作品の文法は収得済みみたいですから、大化けの可能性もあるのではないでしょうか。今後に期待しておきましょう。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 巻頭カラーは『武装錬金』。しかし新連載第1回以来ようやく通算2度目、しかも「連載1周年突破記念」という微妙なタイミングの巻頭カラーというあたりに“大事にされてない感”が漂ってはいるのがアレですね(苦笑)。
 ……でもまぁ、この作品がキャラクター人気投票が開催出来るところまで生き残ったというのは感慨深い話で。03年度連載開始組では唯一の存続作品になっちゃいましたしね。
 と、ここで話ついでに人気投票の順位予想もやってみましょうか。
 まず1位は鉄板中の鉄板で斗貴子さん。これはまぁ確定でしょう。作者の和月さんは少々不満のご様子ですが、こっちにしてみれば「このマンガは斗貴子さんあってこそだと早く気付け」と言いたい所です(笑)。もうこれは順位じゃなくて2位との票数差が焦点ですね。
 で、2位から4位はそれぞれ逆転の目も有るでしょうが、パピヨン、カズキ、ブラボーの順と予想。以下、ベスト10圏内にエンゼル御前、岡倉、六舛、まひろ、早坂姉弟、ちーちん&さーちゃんがダンゴ…といったところではなかろうかと。大浜は性癖をバラされた上に順位伸び悩み…という悲惨な結果になると見ましたが(笑)。

 ──しかし、今週の「ジャンプ」は雑誌全体でまとめて“確変”に入ったような感じで大変読み応えがありました。『ONE PIECE』、『アイシールド21』、『DEATH NOTE』、『BLEACH』、『銀魂』と、掲載順上位の作品のほとんどが持ち味出しまくりの好内容で唸らされっぱなしでした。

 そんな中、とんでもない“やらかし”方をしてくれたのが『ぷーやん』ですね(苦笑)。卓球なのにテニス式の点数カウント、しかもテニス式としても勝負のつけ方が間違っているという、「お前暑さでドタマやられたんか?」と言いたくなるような異次元空間がそこに。
 ただ、どうやら以前にはちゃんと11点制による試合シーンが登場しているらしく、今回は壮大なスケールのギャグだったらしいです(笑)。スケールの壮大なギャグは、外した時のダメージも壮大だな…などと、しみじみと思ったりしました。

 そして『スティール・ボール・ラン』は今週で第2クールが終了。しかしこの作品、2ndステージになってレース的要素が薄まった途端、一気に間延びしてしまった感がありますね。せっかくキャノンボール物にしたんですから、レースならではのスリリングな展開をもっと織り交ぜて貰いたいんですが……。
 駒木のこの作品に対する評価は、レース物ならではのスピード感やストーリー進行のテンポの良さ、更には『ジョジョ』シリーズで膨れ上がった設定を上手くダイエットした事を高く評価してのものでしたので、その材料が霧散してしまった以上は、少しは評価を落とさなければなりません。
 現時点における新評価はA−としておきます。

 

「週刊少年サンデー」2004年39号☆

 ◎短期集中新連載『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志

 ●作者略歴
 1965年6月24日生まれの現在39歳
 「まんカレ」で「サンデー」系新人となり、週刊本誌89年14号掲載の4コマギャグ作品『Dr.椎名の教育的指導!!』でデビュー。このシリーズを90年にかけて不定期連載(全14回)するのと平行して、野辺利雄さんのスタジオでアシスタント修行。
 90年に入ってからは、月刊増刊にて読み切り連作形式の作品『(有)椎名百貨店』を連載開始。この連載は90年4月号より91年5月号までの全14回で終了したが、これ以降も事実上の不定期連載として連作短編は増刊等に掲載され続け、『(有)椎名百貨店』のタイトルは椎名さんの短編集の書名として引き継がれる。
 週刊本誌では91年30号より、『(有)椎名百貨店』内の1作品として描かれた『極楽亡者』を連載用にリメイク・改題した『GS(ゴーストスイーパー)美神 極楽大作戦!!』を連載開始。これが連載期間8年以上・一説に単行本発行部数の累計5000万部を突破したと言われるほどの大ヒット作となる。なお、この作品はTV・映画アニメ化され、連載中の93年には小学館漫画賞少年部門を受賞している。
 99年41号に『GS美神──』の連載を終了した後も精力的な執筆活動を続け、「サンデー」週刊本誌での連載だけでも『MISTERジパング』(00年14号〜01年46号)『一番湯のカナタ』(2002年21・22号〜2003年2号)の2作品を手がけており、また連載期間の合間には、「サンデー」の月刊増刊、「サンデーGX」誌、「マガジンアッパーズ」誌等で読み切り・短期集中連載作品を多数執筆している。
 今作は「サンデー」月刊増刊03年7月号に掲載された同タイトル作品の連載リメイク版。本来は週刊連載用作品としてプレゼンに出された企画だが、それが一度暗礁に乗り上げた末に短期集中連載作品として蘇った…という複雑な経緯での週刊本誌登場。   

 についての所見
 長いキャリアの中で洗練された個性的な絵柄は今回も健在でした。バリエーション豊かな表情や許容範囲内で大袈裟なディフォルメ表現、そして極めて安定感のある質の高いアクションシーンなど、読んでいて「さすが」と言いたくなる場面はいくつもありました。
 ただ、今回はチルドレンの3人の等身が各所でバラバラになっており、全く安定していなかったのが非常に気になりました。キャラを見分ける記号としてダメというわけでは無いのですが、これは珠にキズでしたね。

 ストーリー&設定についての所見
 絵の方には珠にキズがつきましたが、こちらの方は結論から言えばほぼ完璧。久し振りに「傑作とはこういう作品なんだ」と認識を新たにしてくれたような素晴らしい出来だったように思えます。
 冒頭から全く無駄の無い設定提示と登場人物紹介のあった後は、49ページという限られたボリュームの中で緊張→緩和→緊張→緩和(オチ)という非常にメリハリの利いた展開が、テンションだけは落ちないままで最終コマまでキッチリと続きます。これだけでも凄いんですが、シナリオもそれ自体よく練られている上に、ちょっと深めのテーマまで消化不良を起こす事無く描き切っているという、最高級の完成度。いやはや、恐れ入りました。
 キャラクター等の設定面についても、今回の時点では少々物足りない点があるものの、ほとんどの登場人物のキャラ分けは明確に出来ており、やはりこれも合格点の水準と言って差し支えないでしょう。また、設定を読み手に提示する際、絵による“描写”と文字による“説明”を実にバランス良く使い分けている事に大変感心させられました。
 
 現時点の評価
 僅かな欠点を差し引いても、A−寄りの評価は譲れないところ。これでも厳しく採点したくらいです。
 この作品が「サンデー」読者に広く受け入れられるかどうかは、読み手の趣味嗜好などの諸条件に左右される事になるのでしょうが、少なくともストーリーテリングに関わる技術面に関しては限りなく満点に近いデキだと思います。比べるのもアレですが、新人・若手作家さんたちの短編作品とは完全に格が違う感じです。
 なお、この作品は短期集中連載ですので、次回レビューは3週間後の最終回掲載時となります。それまでしばしの間、この素晴らしい作品を心から堪能させて頂こうと思ってます。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「何回も繰り返し聞く、お気に入りの一曲」。
 さすがに連載陣の皆さんの回答は気持ち良いくらいにバラバラ。全くダブり無しという事になりました。作業中に音楽を聴く事が多いであろうマンガ家さん、さすがにこの辺りは流行に左右されないこだわりが出て来るんでしょうね。
 駒木は……色々候補が有るんですけどね。椎名林檎さんの『幸福論』、ポルノグラフティの『サウダージ』、小松未歩さんの『傷あとをたどれば』
Swinging Popsicleの『サテツの塔』、戸川純さんの『諦念プシガンガ』……なんか、段々とマイナーになっていくな(笑)。
 まぁここは一つメジャーなところから、原盤を1.3倍早回しにして一青窈みたいな声になった『瞳をとじて』という事にしておきましょうか(ぉ)

 さて、ちょっと講義が長引いて来ましたんで、こちらの連載作品の方はちょっとアッサリめに。……とは言っても、採り上げるのは話が「天下一品」のスープくらいにコッテリしている『モンキーターン』なわけですが(笑)。
 福岡の夜は燃え上がったのかどうかという大問題はとりあえず打っ棄っておきまして、本当に青島優子という人は、自分の意図とは全く関係ない所で、付き合っている男を根っこの部分からダメにしてゆきますね(苦笑)。昔、ここで述べた「青島優子サゲマン説」は、やっぱり当たっていたと確信いたしました。当たっていても全然嬉しくないですが。
 しかし、ここまでドロドロした人間ドラマが展開出来るという事は、この作品のキャラ設定が優れているという証拠なんですよね。いやー、河合さんって凄いなあ(全然褒めてるように聞こえません)

 ……というわけで、今週のゼミは以上です。来週は藤崎竜さんの新連載に『東遊記』の第3回後追いレビュー。難しそうな作品ばかりが対象で大変そうですが、何とか頑張ります。では。

 


 

2004年度第45回講義
8月23日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・『赤マルジャンプ』04年夏号特集」

 大変お待たせしました……というか、お待たせし過ぎてもう誰も待っていないような気がしますが、年3回の恒例行事、「赤マル」全作品レビューをお送りします。

 ……しかし、今回の「赤マル」は『DEATH NOTE』4コマに全部持っていかれたような気がしてなりませんね(笑)。「そういう事じゃないんですよ」「そんな事言ってるんじゃないんですよ」は、極私的今年度最高の名セリフになりました。
 いや、駒木もね普段から思ってたんですよ。写真週刊誌とかのグラビアとかね。バカみたいな笑顔で丸出しされても、そんなの嬉しくないですよ私は。そういう事じゃないんだ…………と、いう風に応用も利きますし(利かすな)

 ──まぁバカはこれくらいにしまして、レビューを始めます。今回も読む人によって評価が分かれそうな作品が多そうですが、あくまで数多の評価のワンオブゼムとしてお楽しみ下さい。
 なお、いつものように連載作品の番外編はレビューから除外させてもらいます。「そういう事じゃないんだ」とか言われてもこればかりはご勘弁を(笑)。あと、講義準備時間短縮のため、レビューはいつもよりアッサリ気味にするようにします。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

◆「赤マルジャンプ」04年夏号レビュー◆

 ◎読み切り『しーもんきー』作画:叶恭弘

 ●作者略歴
 1970年12月16日生まれの33歳
 「ジャンプ」作家になる以前のキャリアの存在も噂されているが、詳細は不明。
 「ジャンプ」系作家としてのキャリアは、「ホップ☆ステップ賞」(=「十二傑新人漫画賞」の前身の前身)92年1月期において、『BLACK CITY』で入選を受賞この作品が季刊増刊92年秋号に掲載されて「ジャンプ」デビューを果たす。
 その後は週刊本誌93年12号で本誌デビューを果たし、更に94年から1年〜2年に1度のペースで季刊増刊、週刊本誌に作品を発表(ちなみに週刊本誌には94年49号と00年25号の2回掲載。後者の方は原作者付作品)その傍らで小説本の挿絵も担当するなど、寡作ながら幅広い活動を続ける。
 02年24号からは、「ジャンプ」初の連載となる(叶さん自身が「10年ぶりの連載」と発言)となる『プリティフェイス』の週刊連載が開始。この作品は03年28号まで約1年間続き、「赤マル」03年夏号では、この作品の事実上の完結編となる『プリティフェイス番外編』を発表。
 復帰作は「赤マル」04年冬(新年)に掲載された『Snow in the Dark』で、今年には「ストーリーキング」ネーム部門受賞作・二戸原太輔さん原作の『桐野佐亜子と仲間たち』のマンガ担当も務めた(04年19号〜20号掲載) 

 についての所見
 
今回も「ジャンプ」系作家トップクラスの画力を見せつけてくれました。しかもカラー原稿とかを見ると、何だかまた達者になられたような気もするのですが、錯覚でしょうか。
 「一目惚れするくらい可愛い(しかも猿だと判っても惚れてしまうくら可愛い)女の子」という難題が難題にならないというのが叶さんの凄い所で、さぞかし羨ましがっている同業者の方も多いのではと思います。

 ストーリー&設定についての所見
 前作『Snow in the Dark』は、『プリティフェイス』以前を思わせるシリアスなお話でしたが、今回はまた一転して『プリフェ』系の“お気楽お色気コメディ”に戻って来ましたね。器用ですねぇ(笑)。
 ただ、今作のシナリオは“お気楽”系にしても、少々脱力が過ぎるかな……という印象が残りました。主人公の前に次々と障害が待ち構えている割には、それが全てハリボテのようにスカスカで、ことごとく御都合主義的・なし崩し的にストーリーが展開してしまってるんですよね。こう言っては語弊があるかも知れませんが、まるでエロマンガみたいなお話でした(笑)。「赤マル」で言えば45ページからHシーンが始まれば、そのままそっち系の雑誌で通用してしまうような、“ストーリー二の次にし過ぎ”な作品だったように思えます。
 まぁ、雑誌の一作品として楽しむだけなら、勿論これだけでも十分でしょう。ただ、誰もが認める傑作と言うには物足りなさが否めないところですね。 

 今回の評価
 画力を最大限に評価してB寄りB+とします。当ゼミの評価では前作より低いですが、週刊連載するにしては、シリアス系よりこっちの方が向いているかも知れないですね。客観的な数字にも繋がりそうな気もしますし。

 ◎読み切り『あかねの末』作画:落合沙戸

 ●作者略歴
 1977年7月25日生まれの現在27歳
 02年後期「手塚賞」で佳作を受賞し、「赤マル」03年春号にて『あかねの纏』でデビュー。04年に入ってからは、2月発売の「青マルジャンプ」で『いのちやどりしは』作:高野勇馬)のマンガ担当を務めた。

 についての所見
 
原作付作品を任されるだけの事はあって、全ての要素において及第点・合格点を出せる水準の絵だと思います。
 ただ、1つ贅沢を言えば、もう少し絵柄にアクが欲しいところ。技量の割に個性が弱いと言うのは、商業作家としては損な話だと思いますので……。

 ストーリー&設定についての所見
 「ジャンプ」では珍しい幕末の時代物ですね。史実に忠実というよりは巷の幕末物読み物の世界観に忠実、といった感じですが、幕末物愛好家が激怒する内容の幕末モノ大河ドラマが放映されている昨今(笑)、あまりその辺を五月蝿く指摘するのは良くないでしょう。むしろ、曲がりなりにもしっかりした知識がバックボーンとして作品を支えている事を評価すべきだと思います。
 ストーリーもよくまとまっていると思います。ただ、全般的にやや優等生的過ぎる面があるのが残念でした。敵役サイドの主人公に対する扱いがヌル過ぎた印象があり、その分だけ緊迫感に欠ける予定調和的な内容になってしまったような気がしますし、クライマックスにもう少し読み手の感情を揺さぶるような大きな見せ場が欲しかったところです。

 今回の評価
 新人・若手作家さんの作品としては相当の完成度だとは思うのですが、A評価を出すには躊躇するところで、B+と言う事にしておきましょう。

 ◎読み切り『冒険王』作画:後藤竜児

 ●作者略歴
 ※資料が手元に無く、生年月日は不明です。ご了承下さい。
 デビューは99年6号掲載の『はだしの教師』。詳細は不明だが、代原掲載による暫定デビューの可能性が高い。また、01年29号にも同タイトルの代原を発表している。
 現時点で正式デビュー作の可能性が高いのは、「赤マル」01年夏号に掲載された、これも同タイトルの『はだしの教師』
 それからは2年半のブランク(高橋和希さんのスタジオでアシスタントを務めていた)があって、週刊本誌04年13号で『ハッピー神社♥コマ太』を発表。復帰を果たす。
 今回はそれ以来、約半年振りの復帰となる。

 についての所見
 
トーンのベタ貼りや大袈裟なポーズなど、至る所に師匠・高橋和希さんの影響が見てとれますね。ただし、これらの特徴は、高橋さんの垢抜けた絵柄だからこそ見栄えするものであって、正直な所、現在の後藤さんの画力では逆効果(=見栄えが悪くなる)になってしまっているように感じます。
 また、人物のポーズや表情のバリエーションが少なく、動的表現もぎこちなさが残っています。これらはマンガの記号としての役割を果たす部分ですから、当然の事ながら大きな減点材料になります。

 ギャグについての所見
 まず、“間”の取り方や小ネタの使い方などには進歩が窺えます。個人的な笑う・笑えないは別にして、明確な笑い所は作れていますね。
 ただ、勿体無いのがツッコミの弱さ。天然系のボケ役が暴走しっ放しでは、どうしても単調になってしまいます。ましてや今回は31ページもあるわけですから、もうちょっと展開に緩急が欲しかったところですね。長めのセリフによるツッコミで獲る笑いがあれば、全体的な印象も随分と変わって来たでしょう。
 あと、これは笑える要素が少なかったから余計に感じる事なんでしょうが、読み手の感情移入の対象になるであろうツッコミ役の少年に全く救いが無い展開というのも、もうちょっと何とかして欲しかったところです。

 今回の評価
 前作(C寄りB−)ほど悪くはないと思いますが、画力の稚拙さなどを考えると、及第点には足りないかな…という印象。少々厳しいですがB−としておきます。


 ◎読み切り『WoodManザッパー』作画:鬼団子

 ●作者略歴
 1984年7月27日生まれの現在20歳
 03年9月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入りした後、04年2月期「十二傑」で十二傑賞を受賞。今回はその受賞作掲載の特典によるデビュー。

 についての所見
 
色々な構図やシーンに挑戦しており、“デビューを目指す新人”としての意欲的な姿勢は窺えますが、“プロの一作家”として見ると、やはりまだ力量不足が目立っている感じですね。
 線が洗練されておらず、ただでさえゴチャついて見えるところに人物作画と背景の区別が曖昧なのが痛いですね。人物が背景に埋没して見えてしまって見難くなってしまいました。また、人物作画も顔と体のパーツのバランスが狂っている場面もあり、どうしても稚拙な絵柄に映ってしまいます。あと、主要キャラ以外の人物デザインに手を抜き過ぎです。オバQみたいな人間はさすがにやり過ぎでしょう。
 「十二傑賞」の採点表で「絵」の項目に○印がついていたように、決して根本的に画力が無いわけではないでしょうから、次回作でのパワーアップに期待したいところです。

 ストーリー&設定についての所見
 呪いの大樹VS人間…というシチュエーションはオリジナリティが高く、プロットの内容も悪くないのですが、残念ながらそれを支える世界観が曖昧だったのが痛いです。
チェーンソーを使った林業が栄えている時代に、斧を持った木こりが派遣されるというところから説得力がありませんし、全体的に見ても、時代や地理的な設定が非常に貧弱です。そのため、読み手には“何だか分からないどこかの世界”としか映らず、感情移入がし難くなってしまっているのではないでしょうか。
 また、感情移入し難いと言えば、主人公のキャラクター設定も掘り下げが甘いのも問題ですね。読み手との“距離感”が最後まで詰まらないままで、登場人物たちがストーリーを転がすための“駒”の役割にしかなっていないように見えてしまいました。 

 今回の評価
 目の付け所は悪くないのですが、結果として今回は独り善がりな作品になってしまったかな…というところでしょうか。評価はB−とします。

 ◎読み切り『ニライカナイより』作画:田村隆平

 ●作者略歴
 1980年4月19日生まれの現在24歳
 03年6月期の「十二傑新人漫画賞」で佳作(十二傑賞)を受賞し、受賞作『URA BEAT』が週刊本誌03年45号に掲載され、デビュー。今回がそれ以来10ヶ月ぶりの新作発表となる。

 についての所見
 やや線にメリハリが足りない印象で、特にロングショットのシーンで人物描写が粗い場面がまま見受けられますが、背景がスッキリしていて見易く、ディフォルメ表現にも見所があるなど長所もあり、ギリギリで及第点は出せるような水準には達していると思います。
 今後は苦手なシチュエーションを中心に修練を積んで、もっとしっかりした絵柄を身に付けてもらいたいですね。

 ストーリー&設定についての所見
 主要登場人物のキャラクターが立っているのがまず高ポイントですね。導入部分の構成も非常に上手くいですし、冒頭シーンからスムーズに繋がった主人公たちとシーサとのコミカルな遣り取りも、ギャグマンガのテクニックを取り入れてテンポ良く仕上がっています
 が、それ以降、ストーリーの核心に入ってゆく後半部分の展開が頂けません。全く前触れも無く「こういう事実があったんだ」と伏線を後付けしてしまう強引なストーリー展開をカマしてしまっては全てが台無しです。また、シーサの内面心理描写(つまり絶対に嘘をつけない部分)がストーリー展開と矛盾しているのに至っては、シナリオ上の致命的な欠陥と言わざるを得ないでしょう。この辺り、デビュー作で指摘された、理詰めでお話を組み立てる技術の未熟さが今回もモロに出てしまったかな…というところですね。
 ラストシーンも、形だけは上手くまとまっているのですが、それまでに積み上げて来たモノがモノだけに、狙った効果が得られているとは言い難い状態です。なまじ前半が良かっただけに、本当に勿体無いですね。

 今回の評価
 シーサが道案内を始めるところまでならA−評価、それ以後はストーリー完全崩壊でC評価という、非常に複雑怪奇な作品ですね(苦笑)。間を取ればB評価くらい出しても良いのでしょうが、全体を通してみた場合、失敗作には違いありませんので、ここは厳しくB−とします。


 ◎読み切り『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征

 ●作者略歴
 1981年1月31日生まれの現在23歳
 03年8月期の「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入りを果たした後、04年3月期「十二傑」で準入選(十二傑賞)を受賞。今回はその特典としての受賞作デビュー。

 についての所見
 確かに洗練されていない荒削り部分も見受けられ、現時点ではいかにも見栄えの悪い画風にもなっていますが、マンガを描く上で押さえるべき部分は押さえており、画力そのものは低くないのではないでしょうか。むしろ個性的という部分ではプロとして活動してゆく上ではプラスに働くでしょう。
 今後は現在の画風を維持したまま、より細かい部分を洗練していってもらいたいと思います。

 ストーリー&設定についての所見
 事実上の主人公・ネウロのキャラクターと設定が非常に独創的で、これがそのまま作品全体の魅力に繋がっていますね。特に「“謎”が食料」→「だから“謎”を探さなくてはならない」→「そのために探偵をやる」……という持って行き方は秀逸でしょう。
 ただ、ネウロを支える重要な“助演女優”である弥子のキャラ造型がやや弱かったかな、という気がします。これで弥子がネウロの助手になった動機付けがもう少し説得力のあるものになっていればもっと良かったのですが。「推理小説の最後だけ読むのが好きな少女が、ネウロによって本格的な謎解きに引き込まれ……」と言われても、ネウロのやっている謎解きは、その「推理小説の最後だけを読む」のと同じようなもんですからね。

 さて、ストーリーの根幹を担うミステリー部分に関しては、正直言ってかなりの問題アリとせざるを得ません
 トリックに関しては、まぁ確かにかなり荒唐無稽なモノだとは思いますが、それでも今回程度の“トンデモ度”のトリックなら本格物の推理小説でも結構使われていますので許容範囲でしょう。
 しかし、犯人と犯人が殺人に至った動機が余りにもトンデモ過ぎます。多くの容疑者候補の大人がいる中で子供が犯人…という発想そのものは悪くないのですが、今回の内容では、それを読み手に納得させるだけの説得力が大きく欠けています(ギャグでやっているのであれば、話は別ですが、それならそれであの場面はギャグを挟む所ではないでしょう)。9歳の少年を殺人犯に仕立て上げるのであれば、9歳児の子供目線で心理描写と動機付けを組み立てる必要があるはずです。

 とにかく、アイディアを思いついたまま採用するのではなく、キチンと説得力を持たせる努力を惜しまないで欲しいですね。ここさえ良くなれば、松井さんはとんでもない傑作を生み出す余地のある才能の持ち主だと思いますので。 

 今回の評価
 非常に高く評価出来る部分もある一方で、減点材料とせざるを得ない部分もある…という加点・減点の幅が大きな作品で、色々差し引きした結果B+とさせてもらいます。ただ、同じB+評価でも、このような「大きなキズのある傑作のなり損ね」と「ちょっとキズのある佳作の小品」では意味合いが全く異なります。よって、この作品の場合は“かなり強含みなB+”とご理解下さい。

 

 ◎読み切り『狗童』作画:岩代俊明

 ●作者略歴
 デビュー時にプロフィールが公開されていないため、生年月日は不明だが、昨秋の「ストーリーキング」受賞時には25歳。
 同人での創作活動を経て、03年下期「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞し、受賞作『みえるひと』が04年2月発売の「青マルジャンプ」に掲載され、デビュー。今回はそれ以来の新作発表となる。

 についての所見
 驚きました。前作『みえるひと』(の「ストキン」応募)から1年弱、まるで別人が描いたかのような見事な上達振りです。人物作画、背景、特殊効果と全てにおいて見事なまでに洗練された絵柄、扉ページのカラー着色まで含めて、即連載レヴェルの水準に達しています。
 ここに至るまでにどれほど地を這うような努力をして来たのでしょう。それを考えるとこちらが地に平伏したくなるくらいです。
 敢えて言えば今回はバトルシーンが少々分かり辛いのが珠にキズになるのでしょうが、だからといってそれを減点材料にするのもどうかな、という程度だと思います。

 ストーリー&設定についての所見
 こちらもデビュー作からの成長振りが物凄いです。荒削りだった“素質”が、眩しいまでに光り輝く“才能”に磨かれた…という感じでしょうか。
 とにかく素晴らしいのが演出力ですね。世界設定を綺麗に描写した冒頭シーンが大変印象的ですし、本来なら冗長な印象を与えかねない、長いセリフの遣り取りで行われる設定や状況の提示も全くクドさを感じさせません。セリフ回しのセンスも良いですし、回想シーンの挟み方も絶妙。クライマックスの盛り上げ方もお見事で、読み手の感情に訴えかけるテクニックを完全に自分のモノにしています。

 ただ、大ゴマを多用した演出でページ数を食ってしまったため、シナリオのボリュームが若干薄くなってしまったのは、やはり見逃せないウィークポイントでしょう。
 また、「才能」という言葉の使い方も少し気になりました。「才能が問題ではない」と言われても、難しい技を使えるようになった時点で、それはもう立派な「才能」ですからね。もうちょっと別の表現を使えば、もっと良くなったと思います。

 今回の評価
 文句ナシの秀作です。少々の欠点を差し引いたにしても、A−の評価を出したいです。
 これだけの演出力があれば、もうすぐにでも週刊連載にゴーサインを出しても良いくらいですが、どうせならこの演出力に食われないぐらい中身の濃いシナリオを立て、満を持して打って出て欲しいですね。
 現在週刊本誌で活躍中の「金未来杯」組に肉薄する、次世代エース候補の逸材ですね。今後に期待です。

 

 ◎読み切り『味覚師ツムジ』作:宇水語/画:佐藤雅史

 ●作者略歴
 ※宇水語さん
 誕生日が8月9日で専業のマンガ原作者である事以外は不明。過去の経歴も不明だが、「週刊少年ジャンプ」系の雑誌では今回がデビュー。

 ※佐藤雅史さん
 1975年6月28日生まれの現在29歳
 02年下期「手塚賞」で準入選を受賞するも、ここまで約2年デビューする機会に恵まれず。高橋和希さんのスタジオでアシスタント経験あり
 今回が原作付作品ながらデビュー作となる。

 についての所見
 先ほどの後藤竜児さんもそうでしたが、こちらも師匠・高橋和希さんの影響をモロに受けた画風ですね。ただ、影響を受けただけで本質的な画力までは受け継いでいないようですが……。
 そもそも高橋和希さんの描く人物キャラは一様にディフォルメが施されており、本来人間として有り得ない造型の髪型や顔に描かれているんですよね。高橋さんは高い画力の裏付けがあったからこそ、それらを破綻なく描き切る事が出来たわけですが、これを本質的な画力が無いまま真似しようとすると、デッサンの狂った“高橋和希もどき”になってしまうんですよね。残念ながら、この作品もそうです。
 ただ、アシスタント出身者だけあって、背景処理や特殊効果は達者ですね。それでもやっぱり、高橋流のトーンベタ貼りが気になって仕方ないんですが……。

 それにしても、一昨年の手塚賞の結果発表時に掲載されたカットは、ここまで酷くなかったように思えたんですが……。そのカットが“奇跡の一枚”だったのか、それともアシスタント先で変な手癖がついてしまったのか、どちらかなんでしょうね。

 ストーリー&設定についての所見
 わざわざ原作者を起用して、どんな料理モノ作品を見せてくれるのかと思ったら、1ページ目からいきなり『ミスター味っ子』からアイディア借用とは恐れ入りました。色々な意味で。厳密に言えばこれでもパクりではないのでしょうが、これは『ふしぎの海のナディア』と『アトランティス』の関係くらいのグレーゾーンだと思います。
 更に、その後のラーメンスープの化学調味料云々…というのは『美味しんぼ』で10数年前から使い古されたパターンの劣化コピー。料理マンガの黄金パターンだから…というエクスキューズを認めるにしても、オリジナリティの極めて乏しい内容と断ぜざるを得ません。

 メインシナリオに入ってからも、ストーリー展開はやや迷走気味。名店が流行らなくなった理由が、店主未亡人の技術不足からいつの間にかスープの問題に摩り替わっていますし、そのスープの秘密にしても「物凄い山奥にある水源から毎日スープに使う分だけ水を汲んでいた」というかなりトンデモな内容。揚げ足取りは避けたいのですが、そんな大掛かりな仕事やってたら普通は気付くやろ、と思ってしまいました(笑)。
 料理マンガは大概トンデモな内容で、それが許されるだけの懐の深さのようなモノがあるのは分かるのですが、ここまで稚拙な内容だと……。

 一応、起承転結の付け方など最低限のストーリーテリング力はあると思うのですが、それにしてもシナリオの質が貧弱過ぎです。ましてや専業原作者の作品でこれというのは、その存在意義すら問われかねない失敗作と言わねばならないでしょう。 

 今回の評価
 ギリギリでマンガとしての体を成している…ということで、C寄りB−。このようなお話で世に出てしまう原作者、そしてそんな原作でもないとデビューできないマンガ家。失礼ながら、前途は多難としか言いようが有りません。

 

 ◎読み切り『アンサンブル』作画:神海英雄

 ●作者略歴
 1982年7月27日生まれの現在22歳
 ここ数年の各新人賞の受賞者・最終候補者リストに名前が挙がっておらず、ペンネームを変えたわけではなければ、編集部持ち込みからプレゼンを潜り抜けて、今回デビューを果たした事となる。

 についての所見
 有り体に言って画力そのものも物足りませんし、画材のチョイスも良くない事もあり、まだ全体的に垢抜けない絵柄に見えてしまいます。これがデビュー作ですから仕方ない面もあるのですが、未だアマチュアの延長線上かな…といったところです。
 アマチュアの延長線上と言えば、作中にたびたび出て来るディフォルメが漫研の会誌っぽいというか、表現が極端過ぎて、ちょっと気になってしまいます。ただ、今回に限って言えば、作品世界のノリの軽い雰囲気を表現するのに役立っている側面もあり、減点材料とまでは行かないでしょう。 

 ストーリー&設定についての所見
 学園・部活動モノということで、“仕様”上壮大なスケールの大作…というわけには行きませんが、それでもこの小さな作品世界を丁寧に描けていると思います。更には。各所に読み手に身近さを感じさせる試みが為されており、非常に好感が持てました。
 また、主要登場人物のキャラクターがよく立っているのも良いですね。ややステロタイプという気がしないでもないですが、“作者に動かされている感”が全く感じられなかったですから、これは相当なセンスでしょう。

 ただシナリオは、上手くまとめているものの、やや手垢の付き過ぎた内容だったかな、というところです。ノリの軽い世界観が、本来必要だったはずの緊迫感を削いでしまった感も否めないでしょう。どちらかと言えば、マンガよりも演劇向けの脚本・演出だったかも知れないですね。

 今回の評価
 相当なセンスを感じさせる部分も複数あるのですが、絵やシナリオには物足りない部分もあり、全体としてはB+評価が妥当かな、といったところです。
 果たしてこの作品が連載向けかどうかという事は別にして、この手の正統派の学園ドラマは「ジャンプ」では空き家状態になっている枠ですから、この路線をしばらく続けてみるのも面白いかも知れませんね。

 

 ◎読み切り『リアクション!!』作画:岩田崇

 ●作者略歴
 1982年1月16日生まれの現在22歳
 「十二傑新人漫画賞」04年1月期で十二傑賞を受賞。今回はその特典による受賞作掲載・デビュー。

 についての所見
 「十二傑」の編集部講評で「絵柄は個性的だが魅力的ではない」という旨の記述がありましたが、さすが上手い表現だと思います。
 リアルタッチの絵を志向しているのは分かるのですが、人物デッサンなどの美術的な技術が伴っていないために、全体的に見て違和感だらけの絵柄になってしまったような印象があります。リアルタッチのままディフォルメ表現を狙うなど、興味深い試みも見受けられるのですが、まずは基礎的な画力をつけてもらいたいと思いますね。

 ストーリー&設定についての所見
 少年マンガでは馴染みの薄い合気道をテーマに据えた高い独創性、更には読み手に強烈なインパクトを与える奇抜なキャラクター設定など、良い評価の出来る部分が非常に目立って見える作品ですね。コメディ部分のテンポの良さも光っています。
 ただ、合気道関連のウンチク解説がやや冗長だったり、キャラの濃過ぎる登場人物が暴走してしまってストーリーがドタバタすぎる脱線気味の内容になってしまうなど、長所がそのまま短所に直結してしまっているとも言えます。まさしく諸刃の剣といったところでしょうか。 
 次の機会には、もう少しマトモな筋書きのお話が読んでみたいですね。それにキャラクター造型の上手さが噛み合えば、もっと良くなるでしょうし。 

 今回の評価
 画力の分を差し引いて、B−寄りといったところでしょうか。良い所もあるんですけどね。
 ただ、現状だと、絵だけでギブアップしてしまう読者も出て来そうですので、幅広い読者の支持を集めるには、まず絵柄改造が最優先事項ではないかと思いますが……。

 

 ◎読み切り『空中図鑑』作画:田中靖規

 ●作者略歴
 1982年11月17日生まれの現在21歳
 03年9月期「天下一漫画賞」で佳作を受賞し、当時の規定である「佳作以上は受賞作掲載確約」の特典で、「赤マル」03年冬(新年)号に受賞作『獏』が掲載され、デビュー。
 その後、04年2月発売の「青マルジャンプ」で2作目を発表し、今回はそれに続くデビュー3作目。

 についての所見
 デビュー時のアクの強さが影を潜め、随分と少年マンガらしい絵柄になって来たのでは…と思います。背景処理などの表現技法にもソツがなく、基本的には及第点以上の水準に達していると思います。
 ただ、アクション・バトルシーンにやや躍動感が欠ける印象もあります。これは今後克服すべき課題でしょうね。

 ストーリー&設定についての所見
 デビュー以来、大掛かりな設定にシナリオの中身がついて来れない“設定負け”の傾向が強い作家さんでしたが、残念ながら今回もその傾向が色濃く出てしまっているように思えます。
 今回に至っては、設定の説明が一通り終わったと思ったら、突然敵役が現れてバトルに突入してやっつけて終了…という、ハッキリ言ってどうしようもない内容のストーリーで、これはさすがにマズいんじゃないでしょうか。
 あと細かい所ですが、冒頭の主人公のモノローグから考えると、最後のヒロインのモノローグはストーリー上の辻褄が合わないんですよね。こういうケアレスミスも残念な所でした。

 今回の評価
 評価はB−とします。今回は余りにもストーリーに内容が無さ過ぎました。デビュー作、2作目より明らかに悪くなっており、ちょっとしたスランプなのかも知れませんね。

 

 ◎読み切り『大石浩二を1匹見かけたら30匹はいると思え!』作画:大石浩二

 ●作者略歴
 プロフィール未公開のため、生年月日は不明。
 週刊本誌04年24号にて、代原掲載による暫定デビューを果たし、それ以後も26号、31号にそれぞれ代原掲載を果たしている。
 今回は初の「赤マル」進出で、正式デビュー作という事になる。

 についての所見
 
これまで掲載された代原作品に比べると、かなりの進歩の跡が窺えます。まだ稚拙な点も残されてはいますが、ギャグ作品としてなら及第点の範疇に入って来ました。

 ギャグについての所見
 今回は4コマ、または8コママンガにフォーマットを固定した作品となりました。最近の「ジャンプ」では連載作品の番外編以外には見られない形式ですが、大石さんの場合、ツッコミ不在でボケっ放しのギャグが持ち味なだけに、通常形式よりもこちらの方が持ち味が出るような気がします。
 ギャグの内容については、ネタ1本ごとに異なるタイプのギャグを持って来るという意欲的な構成がまず目を引きました。なかなか懐の深い作家さんかも知れません。ギャグそのものについては、まだ当たり外れが大きいものの、得意の“間”で笑わせるギャグは今回も決まっていたように思えます。贅沢を言えば、もっとシュールさが出てくれば良いですね。

 今回の評価
 一連の代原作品よりは数段上の内容で、B寄りB+くらいまで評価を引き上げても良いんじゃないかと思います。史上2人目の代原作家出身の「ジャンプ」連載作家へ向けて、今後も精進を重ねていって欲しいですね。

 

 ◎読み切り『解体心書』作画:岩本直輝

 ●作者略歴
 1985年8月5日生まれの現在19歳
 02年1月から「ジャンプ」への投稿活動を開始。約1年の“新人予備軍”生活を経て、「十二傑新人漫画賞」03年4月期で佳作&十二傑賞を受賞受賞作『黄金の暁 ─GOLDEN DAWN─』にて「赤マル」03年夏号でデビュー。
 その後は「赤マル」04年春号にデビュー2作目を発表。今回はそれ以来の新作。

 についての所見
 デビュー以来順調に上達を重ね、随分と垢抜けた好感度の高い絵柄になって来ましたね。動物や植物なども上手く描けていますし、可愛い女の子が描けるようになったのもプラス材料でしょう。
 ただ、動的表現や表情のつけ方にまだぎこちない部分が残されており、そのためアクションシーンでは違和感を感じてしまう事もありました。せっかくここまで上達したのですから、この弱点も克服してもらいたいです。

 ストーリー&設定についての所見
 前作に続き、今回も人間の心をテーマに据えたストーリー。読み手の感情へストレートに訴えかける事の出来るテーマですから、この方向性は間違っていないと思います。シナリオの内容そのものも悪くはないでしょう。
 ですが、今回は心拳医術の設定説明に追われて、肝心の登場人物の心的描写が疎かになってしまったのではないでしょうか。そのため、せっかくのシナリオやクライマックスの見せ場も今一つ効果が上がらなかったように思えました。
 また、主人公や敵役のキャラ設定が特殊で有り体に言えば変人だったので)読み手が感情移入し難い状況になってしまいました。ヒロインのキャラクターもやや掘り下げ不足で主人公の魅力不足をリカバーする事が出来ず、この辺りもストーリー全体が消化不良に陥ってしまった要因の一つに挙げられるのではないでしょうか。
 やっぱり主人公は、読み手が心情的にシンクロ出来るキャラじゃないとストーリーも活きて来ませんよね。

 今回の評価
 前作はA−評価を獲得した作家さんではありますが、残念ながら今回は評価が精一杯といったところです。次回作では主人公のキャラ造型に留意して、本来の持ち味を活かせるような作品を見せてもらいたいですね。


 ※総評…A−評価は1作品に終わりましたが、B+評価が5作品。ここしばらく不作続きだった夏号にしては、なかなかの粒揃いだったと言えるでしょう。
 また、低い評価に甘んじた作品も、「良い作品を描いてやろう」という意欲が感じられるものが多く、「とりあえず載ればいいや」的な作品がほとんど見受けられなかったのは、レビュアーとして嬉しい出来事でした。


 ……大変遅くなりましたが、以上、夏の「赤マル」レビューでした。今週分のゼミは週後半に合同版でお送りする予定です。

 


 

2004年度第44回講義
8月20日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第3週・合同)

 旅行記にもケリがつきまして、ようやくこちらの仕事にとりかかれます。ゼミだけ受講されている、推定400人の皆さん、大変お待たせ致しました。
 さて、今週はご存知の通りイレギュラーな状況になってしまっていますので、こちらの方も変則的なスケジュールでお送りします。
 まず、今日はレギュラー版の「現代マンガ時評」として、今週発売の「週刊少年サンデー」関連の講義を。そしてまた明日、明後日あたりにレギュラー枠とは別に、「赤マル」夏号の全作品レビューをお送りする予定です。


 「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 『絶対可憐チルドレン』の情報は先週のゼミでご報告しましたので、今週はナシという事で。次号から4回の短期集中連載です。
 あと、『絶対可憐──』に関しては、作者の椎名高志さんご本人の談話によると、何らかの形での続編掲載が既に内定しているようです。週刊本誌がダメになった場合は「GX」か「ヤンサン」あたりになるんでしょうか。

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(04年6月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=1編
  ・『Go!! Snow Boarder's』
   麻倉愛菜(18歳・神奈川) 
 努力賞=4編
  ・『ワンダフル・ボン』
   川村博之(25歳・京都)
  ・『栄養専門学校』
   小笠原真(26歳・大阪)
  ・『スラムの猫』
   佐藤将憲(21歳・東京)
  ・『ぺってん』
   福島太郎(22歳・福岡)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『そして僕らはここにいる、桃太郎X』
   浅倉ポム王(18歳・鳥取)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎佳作の麻倉愛菜さん…03年11月期「まんカレ」で努力賞&03年4月期「まんカレ」であと一歩で賞。
 ◎努力賞の小笠原真さん…03年12月期「十二傑新人漫画賞」に投稿歴あり?

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「サンデー」:新連載1本/読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年サンデー」2004年38号☆

 ◎新連載『東遊記』作画:酒井ようへい

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 
02年3月発売の「増刊少年サンデーR」(ルーキー増刊)に酒井洋平名義『シブヤペインターズ』を発表した…というのが、現在確認している最古の経歴。
 02年内の活動履歴は資料不足のため、これ以外は不明だが、月刊増刊03年8月号に今作と同タイトルのプロトタイプ作品を発表している。
 週刊本誌は今回が初登場。

 についての所見
 メリハリの利いていない弱々しい線、明らかに美術的なバックボーンの感じられない不自然な人物造型など、稚拙な部分が目立ってはいます。ただ、キャラクターの描き分けや背景・特殊効果などは良く出来ており、“マンガの記号としての絵”という観点から見れば、不自然でない仕上がりにはなっているのではないでしょうか。結論として、「根本的な画力ほど見苦しくない絵」だとは思います。
 しかし戦闘シーンでは、派手な動きを表現しようとしたものの、画力不足のために何が起こってるのかよく判らないコマが多々見受けられました。戦闘シーンが最大の見せ場になるタイプの作品だけに、これは大きな課題と言えそうですね。

 
 ストーリー&設定についての所見
 読めば一目瞭然、「週刊少年ジャンプ」の王道バトルファンタジーを彷彿とさせる世界観・設定の作品ですね。まぁ有り体に言って、
 『ONE PIECE』+『DRAGON BALL』+『HUNTER×HUNTER』÷3(以上)
 ……といったところでしょうか。担当編集が、「サンデー」で「マガジン」方式の作品プロデュースを推し進める事で知られるあの冠茂という事を考えると、これはもう確信犯的な企画と判断して良さそうですね。

 こういう“企画先にありき”で偉大なる先人の後を追いかけた場合、「真似出来たのは上辺の格好だけ」……というケースが非常に多いのですが、しかしながらこの作品は、現時点では意外にも(と言っては失礼ですが)上手くやれているようです。
 必要最低限かつ必要不可欠な世界観や設定の描写が出来ていますし、セリフ回しにもなかなかのセンスを感じさせてくれます。また、説教臭くなりやすいテーマ──「夢」を、敵キャラとの戦闘のテーマと被せる事によって嫌味を消した手法は特筆モノ。更には主人公の動機付けを「幼い頃からの夢」というシンプルなものとし、それに説得力を持たせたシナリオの積み上げ方も見事でした。
 そして、これらのテクニックを支える演出全般も十分合格ラインでしょう。ただ、ラストシーンで安易に説得力の無いお涙頂戴に走ってしまったのは残念でした。確かに過去の名作を振り返ってみても、このシーンはお涙頂戴の別離シーンがよく似合うわけですが、それならそれでキッチリ読み手の感情を揺さぶる脚本・演出を用意するべきでしょう。この辺りが次回以降のカギになって来そうですね。
 
 現時点の評価
 そういうわけで、この作品は若干の課題は残しているものの、なかなかの好スタートを切ったと判断して良さそうです。
 が、今回はあくまでプロローグ的なお話。問題は次回以降も過去の傑作顔負けの良質なシナリオが展開出来るかどうかでしょう。今回と同じかそれ以上のクオリティを次回以降も繋げてゆけるならば、『ONE PIECE』級の大ヒットになるかも知れません。ただし、次回以降尻すぼみになるならば『★SANTA!★』のような悲惨な末路を辿る事になるでしょう。ある意味、今後の「サンデー」の(もっと言えば三上編集長と冠茂編集の)命運を握った作品と言えそうです。
 暫定評価は一応A−としておきますが、第2話以降の出来如何では容赦なく減点をブチかます覚悟です。

 ◎読み切り『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』作画:曽山一寿

 ●作者略歴(インターネット百科事典・ウィキペディアによる)
 1978年9月24日生まれ現在25歳
 第47回(00年後期)「小学館新人コミック大賞・児童部門」で佳作を受賞
 01年に読み切りで掲載された今作と同タイトルの作品が連載化され、好評のまま現在に至る。同作品の他、『探偵少年カゲマン』(作:山根あおおに)を「別冊コロコロコミック」誌に連載の経験あり。
 今回の作品は、“「サンデー」出張版”としての番外編的な扱いか。

 についての所見
 いかにも「コロコロコミック」という感じのアクの強い画風ですね。“ジュニア版どおくまん”みたいな絵は色々な意味で強烈な印象を与えてくれます。
 これは、「コロコロ」メイン読者層の小さい子供にインパクトを与えるには、これくらいの極端なキャラクターデザインやディフォルメが必要だという事でしょう。まぁ逆に言えば、読者層の違う「サンデー」では浮きまくってるわけですが(笑)。
 画力そのものはお世辞にも高いとは言えなさそうですが、ギャグを引き立てるための背景処理・特殊効果は「さすが」と言えるレヴェル完全に子供向けのギャグに特化した絵柄と言えそうです。


 ギャグについての所見
 「サンデー」公式サイトの宣伝文句によると、現在の「コロコロ」の人気No.1作品との事ですが、なるほど“間”の取り方といい、テンポの良いセリフ回しといい、確かな技術を感じさせてくれますね。ネタ振りから贅沢な大ゴマを使ったオチへの持って行き方も達者で、テクニック面は一流と言って良いだけのものがあります。
 ただ、さすがに大人(思春期以降の少年層含)が読むにあたっては、やや知的センスに欠ける、他愛が無さ過ぎる内容・ネタだったような気がしますね。まぁ完全にターゲットを小学生以下に絞った作品でしょうから、“計算づくの子供だまし”でも決して悪くは無いのですが、“全年齢基準”で考えるとなると、物足りない部分もあるわけで……。 
 
 今回の評価
 いやー、20代後半の大人がこの作品を評価するのは難しいですよ(苦笑)。男子小学生目線なら評価Aでもおかしくないぐらいなんですが……。
 ただ、当ゼミでは、これまでも少年向けの作品を大人目線で評価して来たわけで、この作品も例外扱いするわけにはいかないでしょう。よって、技術点を最大限に評価しつつも、“読者層を極端に選び過ぎる”という部分で大幅に減点し、最終評価はA−寄りB+に留めたいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「好きな夏のデザートは?」。
 作家さんの間では、夏限定ということもあってかスイカカキ氷(特に宇治金時)が“2強”を占める結果になりました。しかし何故に宇治金時なんでしょうか? 微妙に高級感があるからですかね。
 駒木は、カキ氷をお金出して食べるのは好きじゃないんですよね。「原材料・水」と思うと勿体無く思えて(笑)。スイカも種が鬱陶しいから余り好きじゃありませんし……。今やオールシーズンのデザートですが、やっぱりアイスクリームかな。

 『史上最強の弟子 ケンイチ』は、ここに来ていきなり美羽に“幼馴染み”の萌え要素が追加されました(笑)。うわー、後付けくせぇ…などと思いつつ読んでいたら、どうやら本編シナリオにもリンクしている模様。一石二鳥狙いですか。
 『いでじゅう!』は連載100回達成。連載当初から方向性が固まるまでのフラつき加減を知る者としては感慨深いものがあります。ただ、『茂志田☆諸君!』時代のハジけっぷりから考えると、この作品の大人しさにはまだまだ物足りなさもあり、今後の発展に期待というところです。ラブコメも良い味出てるんですが、やっぱりモリさんは本質的にはギャグ作家のはずですから。
 『うえきの法則』はいきなりの急展開。何だかストーリーが一気に収束されていますが、この強引なやり方は微妙にキナ臭いですね。緊張感の高め方は悪くないんですが……。果たしてこの作品の行く末は?

 ──といったところで本日はここまで。これから取り急ぎ、「赤マル」レビューに取り掛かります。では。

 


 

2004年度第41回講義
8月12日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第2週・合同)

 旅行と旅行の合間を縫って、今週分のゼミをやっておくことにします。しかし、またこういう週に限ってレビュー対象作が4本ってのはどういう事なんだろう(苦笑)。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(39号)では、「金未来杯」最終第5弾となる読み切り『切法師』(作画:中島諭宇樹)が掲載されます。
 中島さんは、「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞し、昨年の「赤マル」春号にその受賞作『天上都市』が掲載され、デビュー。その後も週刊本誌、特別増刊「青マルジャンプ」で相次いで新作を発表しています。
 スケールの大きい世界観が持ち味の中島作品ですが、今回は初の戦国時代モノという事で、これまでとは違ったカラーの作品になりそうですね。新味が引き出されるのか、それとも相性の悪いテーマでポテンシャルが発揮されずに終わるのか。どちらにしても注目の一作と言えそうです。

 ◎「週刊少年サンデー」では次号(38号)より、『東遊記』(作画:酒井ようへい)が新連載となります。
 この作品は、月刊増刊03年8月号に掲載された同タイトルの読み切り作品の連載化。酒井さんは週刊本誌初登場にして長期連載獲得という大抜擢ですね。

 ◎「週刊少年サンデー」では次々号(39号)より、『絶対可憐チルドレン』(作画:椎名高志)が短期集中新連載となります。 
 もう既にこのゼミでは何度となく採り上げた作品ですので、多言は無用だと思いますが、稀代の名作読み切りが紆余曲折を経てようやく週刊本誌登場です。
 ここに至るまでのサンデー編集部内における椎名さんの冷遇されっぷりから見ると、相当の反響を得られないと長期連載昇格は難しそうな情勢ですが、そんな逆境を跳ね返すような傑作を期待したいと思います。
 
 ◎「週刊少年サンデー」では次号(38号)に、『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』(作画:曽山一寿)が掲載されます。
 この作品は01年頃から「月刊コロコロコミック」、「別冊コロコロコミック」で連載されているもので、非常に珍しい児童誌から少年誌への“出張”ということになりますね。
 ……しかし、『クロザクロ』とか『モンキーターン』とかが載ってる雑誌に小学生以下向のギャグ作品が載るってのも凄いなあ(笑)。


 ★新人賞の結果に関する情報

第15回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年6月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(本誌か増刊に掲載決定)
  ・『CRUSH』
   松本祐介(22歳・兵庫)
 《和月伸宏氏講評:画力は高いレベルにある。磨いていけば更に伸びるだろう。しかしストーリー・演出といった面はまだまだで、更なる努力が求められる》
 《編集部講評:作家としてのセンスは感じられるものの、ストーリーが単純過ぎ、あっけないという印象。世界観や主人公の強さに説得力が無く、もっと物語に工夫をするべきだ)
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『!堂々卓球武!』
   松原利光(18歳・和歌山)
  ・『マシュー』
   池長和也(21歳・鳥取)
  ・『Mare』
   吉原雅彦(22歳・埼玉)
  ・『WIZARD』
   葉月シュンスケ(21歳・福岡)
  ・『ストロベリー フィールズ フォーエバー』
   安孫子今日太郎(25歳・東京)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の松本祐介さん…03年4月期「十二傑」で最終候補。
 ◎最終候補の松原利光さん…03年5月期「十二傑」に投稿歴あり。
 ◎最終候補の我孫子今日太郎さん…04年2月期「十二傑」に投稿歴あり。

 ……今回はかなりの“凶作”だったようで、講評で「ストーリーや演出はまだまだ」/「世界観に説得力が無い」随分な言われようの作品が十二傑賞受賞となってしまいました。恐らくドングリの背比べの中から画力優先で選んだものと思われますが、それにしても、ここまで扱き下ろしておいて増刊に載せるってのも凄い話ですね(笑)。
 まぁ、同じアレな作品なら、伸びしろの無い若手よりも少しでも将来性に期待出来る新人の方を…という気持ちも判るんですが……。

 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…4本
 「ジャンプ」:読み切り2本
 「サンデー」:新連載第3回後追い1本/読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年37・8合併号☆

 ◎読み切り(「第1回ジャンプ金未来杯」エントリー作品)『ムヒョとロージーの魔法律相談所』作画:西義之

 作者略歴
 1976年12月27日生まれの現在27歳
 西さんを含む4人組ユニット・多摩火薬として『サバクノオオクジラ』で99年上期「手塚賞」準入選を受賞し、これが「赤マル」99年夏号に掲載され、デビュー。
 しかし、多摩火薬はその後解散し、個人活動へ以降。西さんは村田雄介さんのスタジオで『アイシールド21』のアシスタントを務めた後、04年「赤マル」春号にて今作と同タイトル・同一世界観の作品を発表し個人名義初の作品掲載を果たす。
 なお、今回が多摩火薬時代を含めて初の週刊本誌掲載。
 
 についての所見
 
根本的にリアリティを拒否した画風のため、パッと見は随分下手に見える絵ですが、実際は線の乱れが少ないですし、アシスタント修行で会得した特殊効果・背景処理の技術も上々です。見た目で損をしていますが、マンガ的な技術としては合格ラインと言えるでしょう。
 ただ、将来の週刊本誌連載を目指すにあたっては、もう少し読み手に好感度を与える(=実際はどうあれ上手に見える)絵柄にしていってもらいたいところでもありますね。線の細太のメリハリをつけて欲しいですし、可愛い女の子の描き方の研究もしてほしいです。連載作品ではヒロイン的なキャラが不可欠でしょうし、その場合は一発で読み手を惹き付けるだけのビジュアル的魅力が必要になって来るでしょうから……。


 ストーリー・設定についての所見
 「赤マル」に載った前作の同タイトル作品をレビューした時にも述べましたが、やはりこの作品の魅力はオリジナリティの高い世界観に尽きると思います。一つ一つの要素は既製の作品でも多く見受けられる設定なのですが、それを巧みに組み合わせ、全く新しい別モノの作品に仕立て上げています。
 ほとんどのパターンを使い尽くされた昨今、オリジナリティのある作品を描くならこの方法しか無いと言われてはいるのですが、それをキッチリやり遂げているのは、やはり立派と言えるでしょう。
 ただ敢えて1つ注文を出すならば、もうちょっと裏設定をしっかり創り込んで、この良く出来た世界観にもう少し現実感を持たせるよう工夫をしてもらいたいですね。そうすればもっと良くなると思います。

 また、あまり目立たない部分ではありますが、脚本(ネーム)・演出・構成でも確かな技術を感じられます。説明的なセリフを排して設定の“描写”をする事が出来ていますし、見せ場の迫力ある演出も上々です。また、その見せ場に多くページを割けるような構成が施されているのもお見事。
 来週登場の中島諭宇樹さんもそうですが、新人時代に『アイシールド21』のアシをするというのは、ストーリーテリングを勉強する上で非常に効果的なのかも知れませんね。『アイシル』は理詰めで計算された脚本・構成に、独創的かつ挑戦的でダイナミックな演出を施した作品なわけで、よく考えてみたら、これほどテクニックの盗み甲斐のある作品もそうは無いでしょう。(まぁあくまで駒木の推測ですけどね)

 ただ、1つ残念だったのは、シナリオ上の肝である、「相談者の少女・カヤが霊となった同級生・ノブオをストーカー扱いしている事実」を強調して読み手に伝える事に失敗しており、作品全体の説得力を不用意に欠いてしまった事ですね。
 実際には、

ムヒョ:「で? 家の異変は、ノブオの霊がまたストーカーに来ているせいだと?」
カヤ:「うん…時期もピッタリ合うしー」 

 ……という、カヤがノブオをストーカーだと認識していた事を証明する会話がある事から、シナリオ構築上の過失はゼロに近いのですが、それが読み手に伝わり難いような描き方をしてしまったのは、やはり減点材料にせざるを得ないでしょうね。もう一度、当該シーンのコピーを貼り付けてでも強調すれば良かったのに…と思います。

 今回の評価
 ……というわけで、長所・短所共に認められる作品ではありますが、それでも高い技術とセンスに支えられた長所のインパクトがいくつかの短所を完全に上回っており、A−の評価は譲れないところです。
 さて、この作品は、これまでに「金未来杯」で掲載された3作品と比較しても互角以上のクオリティだとは思います。ただ、「金未来杯」のような読者投票形式のコンペテイションの場合、パッと見の良い絵柄の作品が重厚なシナリオの佳作よりも高い評価を得てしまう傾向があるため、苦戦を強いられる可能性が高いのではないでしょうか。

 ◎読み切り『TRANS BOY』作画:矢吹健太朗

 作者略歴
 1980年2月4日生まれの現在24歳
 98年1月期「天下一漫画賞」審査員特別賞を受賞し“新人予備軍”入り。その4ヵ月後、弱冠18歳にして「赤マル」98年春号・『邪馬台幻想記』でデビュー同名のリメイク作品を週刊本誌98年36・37合併号に発表し、その後連載化(99年12号〜27号 変則2クール打ち切り)
 連載終了から約5ヵ月後、週刊本誌99年46号掲載の『STRAY CAT』で復帰し、これが『BLACK CAT』に改題されて連載化。00年32号から04年29号まで185回の長期連載作品となる。
 今回は『BLACK CAT』連載終了以来の新作。

 についての所見
 以前、『BLACK CAT』の特別編でも同じ事を言いましたが、洗練された好感度の極めて高い絵柄で、もっと言えば洗練され過ぎて“毒”が足りないくらいの画風だと思います。今回出て来た凶悪犯や宇宙人も、やはり何と言うか“異形度”が物足りないように感じられたのですが、如何でしょうか。
 また、これは最近ようやく具体的な個人的結論に至った事なのですが、矢吹さんの構図のとり方、これが(普通の作家さんと違って)コマ1コマが独立したイラストを繋ぎ合わせてようやくマンガとして成立させているように見えて仕方が無いんですよね。これは多分、矢吹さんが人物の見せ方(動き、ポーズ、アングル等)に対して無頓着で、ただ無意識の内にイラスト的な見栄えを重視して描いているからなんじゃないかと勝手に思っているんですが、どうなんでしょう? 駒木は絵については門外漢ですから、読者目線だけで結論づけられない専門的な所は、そのスジの方に助言を頂きたい所ではありますが……。 

 ストーリー&設定についての所見
 前回レビューした『BLACK CAT番外編』のシナリオが余りにもアレだったので正直かなり心配していたのですが(笑)、今回は存外(と言ってはさすがに失礼か)よく出来たプロットになっていると思います。伏線やビジュアルトリックも組み込まれていますし、これはなかなかのクオリティだと言っても良いでしょう。
 ただ、惜しむらくはこの秀逸なプロットを活かし切るだけの構成、演出、脚本が余りにもお粗末で、これが非常に残念でなりません。説明的なセリフが多過ぎて少々興醒めでしたし、前半にシナリオ構成上不必要な会話や場面が多過ぎたためにページが詰まり、トリックのネタ公開や主人公の心情描写といった肝心要のヤマ場が随分と薄味になってしまいました。せっかくの高級食材を料理の段階でダメにしてしまったようで勿体無いですね。
 ──この辺り、矢吹さんが18歳でデビューした後、修行期間が殆ど無いままで週刊連載と言う異様な環境に放り込まれたツケなのかな、と思ったりします。限定されたページ数でキッチリ完結させるような話を創る作業なんて、ほとんどやった事無いでしょうからね。……でもまぁA級の作家さんは、長期連載でもページ数とかエピソード毎の起承転結とかを意識した作品作りをしてるんでしょうが。

 今回の評価
 十分合格点級の画力やプロットがありながら、そのアドバンテージを活かす事無く失点を重ねてしまった…というところでしょうか。B寄りB+くらいが妥当ではないかと思います。
 ……蛇足ですが、今回みたいにネット界隈で支持率の極端に低い作家さんの作品でこういう評価を出すと、必ず「あいつ分かってねえ」みたいな物言いをされるんですが、ここでの評価はファクターごとに加点・減点してデジタルに採点したものであって、幾つも欠点を抱えた作品でもそうそう酷い評価にならない事だけは判って欲しいと思います(笑)。こっちだってねえ、イヤイヤ評価つけてる時もあるんですよ。でも好き嫌い排除が鉄則ですからね。
 Bくらいの評価をつけた作品のレビューを読んで、「駒木のヤツ、あいつの作品を褒めてる、クソだ!」とか言う人がたまにいらっしゃるんですが、B+までの評価というのは「短所が長所を上回ってる作品」なんで、決してポジティブな評価をしているわけじゃないんで、そこんとこ何卒。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今期の新連載作品は掲載順が安定しない事もあって、サバイバルレースの情勢が全く不明なんですが、12回目で掲載順7位の『家庭教師ヒットマンREBORN!』はさすがに生き残り当確でしょうか。
 当初の『ドラえもん』『タルるーと』路線を破棄し、サブキャラクターを大幅増員してのドタバタに方向転換したのがプラスに働いた…と見るべきなんでしょうね。最近は死ぬ気弾も京子ちゃんも全く陰に隠れた存在になっちゃいましたし(笑)。
 ただ、作品のクオリティ的にはセリフのトンチが利いていない『銀魂』みたいな感じで、評価の上方修正をするには躊躇を覚えてしまいます。どうしようもない所から、ハマる人はハマる作品にはなったと思いますが……。

 で、当講座の談話室(BBS)でも指摘があった、『テニスの王子様』最大の見せ場でスマッシュを打つリョーマの指が6本あるという物凄いミスがありました。これ、リョーマは豊臣秀吉の生まれ変わりという伏線でしょうか(笑)。
 しかし、今回の件だけでなく、最近のこの作品は以前にも増して腑抜けて来たような印象があるんですよね。昔は「デタラメにも五分の魂」みたいな感じがしたんですが、この頃はもう何か適当に技の名前付けてグァーっとやっとけばいいや、みたいな……。連載開始から4年半、そろそろ作品の寿命なのかも知れませんね。

 

 「週刊少年サンデー」2004年37号☆

 ◎新連載第3回『クロザクロ』作画:夏目義徳【第1回時点での評価:保留

 ●についての所見(第1回からの推移)
 第1回のレビューで述べた内容に付け加える事は無いですね。ただ、もう少し絵が安定して来れば…とは思います。コマごとに絵のクオリティが上下するので、やっぱり気になってしまうんですよね。
 余談ですが、今回登場の転校生、『P専嬢のダリア』の主人公・ダリア姐さんの若かりし頃、みたいな感じでしたね(笑)。

 
 ストーリー&設定についての所見(第1回からの推移)
 第3回までで大まかな世界観は明らかになったものの、ストーリーの全貌判明には程遠い…といったところでしょうか。それでも1回ごとの“引き”はキッチリ出来ており、読み手の興味を損ねない配慮は為されていますね。ここまでのストーリーも、理詰めで練られていると思います。
 ただどうなんでしょうか、いくら読み手の興味を持続させるような構成にしてあるとはいえ、ここまでプロローグ的な話を長く続けるのはかなりの冒険のような気もします。ストーリー展開の起伏が余りにも緩やか過ぎて、全体的に薄味なお話になりつつあるような……。
 あと、見せ場はもっとインパクトの強い演出を施しても良いのではないでしょうか。少年誌ゆえの表現規制もあるかも知れませんが、どうせエグい内容の作品なのですから、それをとことんまで追求するべきではないかと思います。「自分はこういうマンガが描きたいんだ」という気持ちをシーンの1つ1つに叩きつけていくような激しいアイデンティティの発露。そういうのをもっと見せてもらいたいですね。
 連載開始前に夏目さんからは「8割の読者に嫌われる作品です」というコメントを頂きましたが、まだ現状ではそこまで好き嫌いが分かれるほど極端な内容にはなっていないように思えます。それこそ、編集部が対処に困るくらいのエゲツない演出を施してみるのはどうでしょうか。そうすれば自然とストーリーの起伏も大きくなってくるでしょうし、死中に活路を見出す事も可能になると思うのですが……。
 
 現時点の評価
 またストーリーが進行していないので、現時点でも評価をつけるのを躊躇うところですが、あまり先延ばしにするのもアレですから、とりあえずの暫定評価という事でB+としておきます。勿論、今後の展開次第で評価は大きく変動する事があります。

 ◎読み切り『大久保嘉人物語』作画:草場道輝

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 1971年1月1日生まれの現在33歳
 「週刊少年サンデー」公式サイトによると、デビューは月刊増刊の97年6月号
 週刊本誌では99年35号から04年14号まで『ファンタジスタ』を長期連載。また、02年2・3合併号には今回と同種の企画モノ作品『川口能活物語』を発表している。

 についての所見
 相変わらず…と言っては失礼でしょうか、決して洗練された画風ではないものの、長年サッカーマンガを描いてきた経験と技術の染み付いた、しっかりした絵であると思います。
 ただ、平山相太は病気でやつれてたとはいえ、圧倒的に似てませんね(笑)。最初、「この貧相なアホ面は誰だ?」と本気で迷ってしまいました。

 
 ストーリー&設定についての所見
 扉ページのクレジットを見ると、どうやら取材は草場さんではなくて別の方がなさったみたいですね。それを草場さんがマンガ化した…というわけですから、これは事実上の原作付作品ということになりますか。
 内容は、恐らく大久保選手に興味のある人なら誰もが知りたかったであろうと思われる、代表落ち前後の舞台裏。普通にテレビや新聞を読んでいるだけでは知り得なかった情報も取材によって引き出されていて、なかなか読み応えのあるストーリーになっていると思います。ただまぁ、これも本当に実際のところはどうだったのかは、僕らには知る由も無いわけですが(笑)。かつて「マガジン」に掲載された『モーニング娘。物語』を見ても明らかなように、こういう企画モノは“良い話”を作るためには結構な無茶をしたりしますからね。
 個人的には、今回の話はノンフィクションではなくて、事実をモデルにしたフィクションのエンタテインメント作品として短期集中連載で読んで見たかったですね。シナリオ自体はそれくらい良く出来ていますし、そのシナリオの魅力を活かしきるにはもっとページ数が必要だったのではないかと思うんですが。 
 
 今回の評価
 今回も先週と同じく評価無しという扱いにしたいと思います。それでも、この手の企画モノにしては本当に良いデキだったと思いますね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「オリンピックで注目の競技・選手は?」。
 作家さんの回答では柔道が最多回答。それを野球が猛追、サッカーは意外に伸び悩み…といったところでしょうか。
 駒木はスポーツなら何でも、特にちょっとマイナーなくらいの競技が好きなので「とりあえず全部」と言っておきます(笑)。強いて挙げるなら、プロの競輪選手が銭カネ抜きで敢えて報われない戦いを挑む自転車競技でしょうか。あと、個人的に望ましい結果は「隠れた実力者の番狂わせ」「絶対王者の磐石の防衛」ですね。それこそ選手の国籍関係無しでそういうシーンが見たいなと思います。

 さて、連載作品は『結界師』から。もう作者が楽しんで設定を創ってるのがよく分かる、爺さんと婆さんの青春ストロベリートーク炸裂!(笑) いやー、良守君、やっぱりキミの前途は厳しいようだぞ。
 ストーリーも、のほほん系の挿話かと思ったら、作品のメインシナリオに絡む話題に急接近という意外な展開。なるほど、よく考えてますね。

 『ワイルドライフ』は、先週から『じゃじゃ馬グルーミンup!』の“あぶみさん争奪戦”を彷彿とさせる展開でしたが、やっぱりと言うか何と言うか、この作品らしいお定まりの方向にあっさり収束していっちゃったなあという印象。まぁこの辺が逆にライト読者層の支持を集めているのかも知れませんが……。

 そして今週で『暗号名はBF』が最終回となってしまいました。当講座のBBSでも連載終了を惜しむ声が上がっているようですが、確かに短期打ち切りには少々惜しい作品ではあったかな、という感はありますね。
 ただ、例によって漏れ伝わる話を聞くと、いわゆる数字で現れる客観的な成績がシャレにならないくらい低かったそうで……。ぶっちゃけ、作品のクオリティは別にして商業的な成功が見込めないので切られた…という事なんだろうと思います。
 さて、作品の総括ですが、全体としては無難にまとまった佳作だとは思いますが、所々で設定の綻びが見受けられる上、シナリオが予定調和の域から脱し得なかったのが伸び悩みに繋がったのではないでしょうか。あと、キャラクターの掘り下げも若干足りなかったような気がしますね。嫌われる要素が少なかった代わり、好かれる要素も少なく、“空気マンガ”化してしまったのではないかと分析しています。
 最終評価はB+としておきましょう。

 

 ……いやー、長かった今日の講義は(笑)。皆さんもお疲れ様でした。それでは、東京に行って参ります。皆さんもお盆休みを満喫して下さい。では。

 


 

2004年度第40回講義
8月6日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第1週・合同)

 お待たせしました。今週のゼミをお送りします。

 先週、『焼きたてジャぱん!』のTVアニメ化情報をお届けしたばかりですが、今週は「ジャンプ」連載中の『BLEACH』のアニメ化が決定という情報が入って参りました。放送枠はテレビ東京系18:30からという事で、なんと『ジャぱん』と同じ曜日の30分前つまり直前の枠)から放送という超ニアミスの事態に。
 いや、前々から思っていましたが、節操無いですなぁテレビ東京。30分差でこの組み合わせは何ですか?(笑) 国政選挙のゴールデンタイムに平然と「日曜ビッグスペシャル」を放送する非メジャー系テレビ局の面目躍如といったところでありますね。
 ……それにしても、連載初期は人気が伸び悩み、一時は明らかに打ち切り候補に挙がっていたであろう作品がここまで“出世”するとは、なかなか感慨深いものがありますね。月並みな言葉ではありますが、この作品の魅力を知る者の1人として、アニメ版も是非とも成功してもらいたいものです。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(37・38合併号)では、「金未来杯」第4弾となる読み切り『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(作画:西義之)が掲載されます。
 この作品は、「赤マルジャンプ」04年春号に掲載された同名作品の事実上の続編にあたるもの。アンケート結果が良かったのでしょうか、堂々の本誌昇格となりました。
 作者の西義之さんは、多摩火薬という合作ペンネームで「手塚賞」準入選を受賞した4人組の一員。ユニット解散後は『アイシールド21』の村田雄介さんのスタジオでアシスタントを務めていました。個人名義の作品としては、先述の「赤マル」版『ムヒョと──』に次ぐ2作目となります。

 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(37・38合併号)では、読み切り『TRANS BOY』(作画:矢吹健太朗)が掲載されます。
 約2ヶ月前に『BLACK CAT』の連載を終えたばかりの矢吹健太朗さんの復帰作が早くも登場です。次回予告からはどういった作品なのかは全く判りませんが、これほどの短いスパンで大幅に作風が変わる事は考え辛いですから、恐らくは“良い意味でも悪い意味でも矢吹剣太朗”といった作品になるのではないかと思います。
 しかし次回予告のカットを見てて思ったんですが、矢吹さんは本当に“イラストは”文句ナシに上手いんですね。

 ◎「週刊少年サンデー」の次号(37号)には、『大久保嘉人物語』(作画:草葉道輝)が掲載されます。
 今週掲載の『福原愛物語』に続く、オリンピック代表選手のノンフィクション企画第2弾。今回は『ファンタジスタ』草葉道輝さんがマンガ化担当です。以前スポーツ物を描いていて、現在手が空いている作家さんを狙い撃ちしてますね(笑)。
 こちらも作品の性質上、レビューでは形式的な扱いになると思います。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年36号☆

 ◎読み切り(「第1回ジャンプ金未来杯」エントリー作品)『BULLET TIME −ブレットタイム−』作画:田坂亮

 作者略歴
 1977年7月9日生まれの現在27歳
 新人賞を経ないまま、「赤マルジャンプ」01年冬号にて『TRIGGER!』(作:高田義孝)のマンガ作画担当者としてデビュー。単独名義としては、「赤マル」02年春号掲載の『CRIME BREAKER』がデビュー作で、今回はそれ以来の作品掲載で週刊本誌初登場となる。
 なお、現在は岸本斉史さんのスタジオでアシスタントを務めている。
 
 についての所見
 クセの強い画風ですが、基本的には相当の画力を持っている作家さんだと思います。現役アシスタント(しかもスタジオ内で主力クラス?)だけあって、背景処理・特殊効果のレヴェルもかなりのもの。デビュー作がいきなり原作付作品だった…というキャリアは伊達では無いようです。
 ただ、線が必要以上に細かく、メリハリに欠ける画風は珠にキズ。リアルタッチで細微な絵を、まだマンガ用の絵に変換し切れていないような気がします。今回は主要キャラクターの描き分けが若干甘かった事もあり、読み辛い場面もまま見受けられました。
 また、今回は後述するネーム過剰もあってロングレンジからの構図が必要以上に多く、絵が細かい割に演出上の効果が上がっていないようにも思えました。画力が作品のクオリティに繋がりきっていないようで残念でした。 


 ストーリー・設定についての所見
 結論から先に言うと、色々な意味で消化不良で終わってしまった失敗作と断ぜざるを得ません。

 まず読み切り作品にしては細かい設定が多過ぎます。ストーリーを成立させるために必要な範囲を超えた設定を捌き切れず、お話を読んでいるというより、設定を詰め込まれているような気分になった方もいらっしゃるのではないでしょうか? 
 しかも、これだけ細かい設定を立てておいて、肝心のメインキャラクター設定がなおざりになっているのは大きな減点材料です。ストーリーを成立させるための“記号”としてのキャラ設定は豊富にあるのですが、彼らの人間的魅力を醸し出すような描写が欠けている感は否めませんでした。
 まとめると、せっかく練りに練った設定が、読み手を作品世界に没入させる手段になっていない…という事ですね。設定を立てる事そのものが目的化しているようで、この点は非常に残念でした。

 しかも、その悪性の設定過多が脚本、つまりネームの方にも悪影響を与えてしまっているようです。本来絵で描写しなければならない部分は当然のように、更には絵で描写出来ている部分までも逐一セリフやモノローグで説明してしまっているために、とにかく全編文字だらけになってしまいました。立てた設定は全て情報として提示しないと気が済まなくなってしまったのでしょうか、ちょっと異常な量のネームだったように思えます。
 セリフの中には前作同様かなり気の利いた遣り取りもあり、根本的な文章力やセンスは悪くないはずなのですが、今回は説明的なセリフの大波に飲み込まれてしまいました。本当に勿体無くて仕方ありません。

 シナリオ面も今回は不満が残る出来でした。凝った構成にしようという気持ちが勝ち過ぎて、それが逆にストーリーの判り辛さに繋がってしまっています。加えて、クールな雰囲気を醸し出す事に力を注ぎ過ぎたのか、全般的に緊迫感に欠ける展開になっているのも頂けない部分ですね。

 今回の評価
 実は、「金未来杯」にエントリーした5人の作家さんの中で、駒木が内心最も期待していたのがこの田坂さんの作品でした。前作で見せつけてくれたA級のポテンシャルを今回も見せ付けてくれると信じて疑わなかったのですが……。
 今作の評価は敢えて厳しくB寄りB−とします。持ち前の高い才能を発揮する方向性を完全に間違えているようで、今後も含めて心配でなりません。これが次回作で「駒木なんぞに心配される筋合いじゃないわ」という事になるよう、心から祈っております。
 


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週はサプライズ展開があった2つの作品から。
 まず『ONE PIECE』遂に船を下りるメンバーがウソップに確定という急転直下の展開に。確かに強さのインフレから取り残され、シリアスなバトルシーンには絡めなくなってはいましたが、日常シーンにおけるツッコミ役としては貴重な存在だっただけに、「思い切ったなぁ」というのが率直な感想ですね。
 どういった結末になるか全く予想もつきませんが、とにかく次回に注目というところで。 

 そしてもう1つのサプライズ展開は、やはり『DEATH NOTE』。竜崎Lを殺すのでなく、“そっち”に行ったか…というところでしょうか。しかし、段々と展開が前提条件無視の無理のある展開になって来ましたね。そりゃ、ほとんど伏線も張らずに事件を起こせば読者の意表を突く事は出来ますが、果たしてそれでどこまで破綻無く切り抜ける事が出来るやら……。
 こういう展開になるのなら、ライトもLも中途半端な天才ではなく、麻雀マンガの金字塔『バード』(作画:青山広美)のように、世界最強クラスの超天才による超絶バトルにしてしまった方が良かったかも知れませんね。それならば、どんな常識外れな事をやっても「夜神月(もしくは竜崎L)ぐらいの天才なら、これくらいは造作も無い事だ」という殺し文句で片付けられるようになるんですが。

 『こち亀』名物キャラ日暮が4年に1度の出番到来。駒木が「ジャンプ」読者になったのは今から16年前ですから、リアルタイムで5回(今年、4年前、8年前、12年前、16年前)見ている事になるのかな。
 しかも4年に1度という超レアなキャラクターの割には、いつもアッサリ風味で「あれ、もう終わり?」…と言いたくなるようなエピソードなんですよね。「名物に美味い物無し」というのはこのマンガにも適用されるルールのようで(笑)。
 特に今回は時差ボケ系のネタが無かったのが寂しかったですね。例えば、ちょうど4年前は慎吾ママが大ブレイクしていたんですから、「おっはー!」と、暑気払いになるクソ寒い挨拶でもしてくれれば、いかにも『こち亀』らしくて良かったんじゃないかと。え、そんなの面白くない? いやだって、『こち亀』って基本的に面白くな(以下自粛)。

  

 「週刊少年サンデー」2004年36号☆

 ◎読み切り『福原愛物語』作画:あおやぎ孝夫

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 「週刊少年サンデー」ウェブサイトの公式プロフィールによると1970年代生まれとのことだが年齢は不詳。
 第43回(98年後期)「小学館新人コミック大賞」で入選を受賞。その後しばらくのキャリアは不明だが、01年からは小学館発行の月刊誌「コミックGATTA」で『ジョカトーレ』の連載を開始。だが、同年「GATTA」誌が休刊となり連載終了の憂き目に。
 翌年には「週刊少年サンデー」に移籍。週刊本誌02年15号で読み切り『背番号は○(マル)』を発表した後、同年35号から04年1号まで『ふぁいとの暁』を連載していた。
 今回は連載終了後初の週刊本誌登場となる。

 についての所見
 2年前の「サンデー」移籍の時点で、既に完成度の高い作画が出来ていた作家さんですから、今回も取り立てて言うべき事は無いですね。十分に合格点の出来にあると思います。
 特に今回は福原愛さんの幼児時代から現在までを追う…というストーリーと毒の無いあおやぎさんの画風が見事にマッチした感があり、好感度の高い仕上がりになっていたのではないでしょうか。どこまで狙った人材配置なのか判りませんが、これは成功でしたね。

 
 ストーリー&設定についての所見
 スポーツ選手の実録モノをここで採り上げるのは久し振りですが、改めて思うのが「この手の作品に名作は無いな」という事ですね(苦笑)。物語性を無視し、取材した題材の中から採り上げた人物を極力肯定するものを寄せ集めて、それを時系列に添って並べてゆくだけ。これでは良質のエンターテインメント作品など出て来るはずがありません。
 誤解の無いように言っておきますが、これは作家さんが悪いのではなくて、マンガを使って気安くタイアップしてやろう、なんていう安易な企画が悪いんです。これだけ“大人の事情”で塗り固められてしまったら、どんな力量のある作家さんでも、名作を作り上げる事は不可能に近いでしょう。まぁ現実に炎尾燃とか富士鷹ジュビロとかいれば別なんですが(笑)
 
 
 今回の評価
 そういうわけで、今回からこの手の企画モノの読み切り(特に一定以上のキャリアのある作家さんの作品の場合)は原則評価無しという扱いにしたいと思います。低い評価出して、訳知り顔で「こういう作品描いてちゃいけない」なんて言うのは、キチッとプロのお仕事をしている作家さんに失礼ですしね。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「冷蔵庫にいつも入れておきたい物は?」。
 当たり前の話ですが、回答にアルコール系が無いというのが、いかにもマンガ家さんらしくて面白いですね(笑)。マンガ業界でも堂々と「酔っ払いながら作品描いてる」と公言してるのは、赤塚不二夫さん車田正美さんくらいでしたっけ? 
 駒木は……研究室の仕事ではホットドリンクばかり飲んでるので、あまり答えが浮かばないんですよね。食べ物で言えば、食パンと、それに塗るバターとかジャムとか蜂蜜とかですかね。ただ、夜中に食ってると太るんだよなあ。炭水化物と糖質と脂質の塊みたいなもんだから。

 さて、連載作品はアッサリめにやっときましょう。
 今週の『いでじゅう!』は、まさにモリタイシさんの持ち味フル回転といった感じでしたね。いつものラブコメ風エピソードだけではなく、『いでじゅう!』以前の初期作品で冴えまくっていた絶妙な間で繰り出されるギャグも随所で決まっていて、緩急のついた良い展開だったと思いますね。
 しかし、これを見てると、今週号の「サンデー」を『武装錬金』の世界に持っていきたくなりますな(笑)。そういうシチュエーションだけでギャグSSが1本書けそうです。

 ……では、今週はこの辺で。来週は旅行の合間を縫って、何とかゼミだけでもやりたいと思っています。

 


 

2004年度第36回講義
7月31日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週・後半)

 ゼミの内容とは直接関係ないのでこちらで喋りますが、『焼きたて!! ジャぱん』のアニメ化が決定しましたね。
 連載当初から『ジャぱん』が『ミスター味っ子』のアニメ版と似ていると指摘していた駒木にとっては、放送枠がテレビ東京系のゴールデンと聞いて「そこまで同じかよ」と(苦笑)。今度も大袈裟な映像効果で全国の少年たちの爆笑を誘う事になるんでしょうなあ。
 しかし『味っ子』のアニメ化はもう17年前なんですよね。完全に視聴者世代が入れ替わってますし、そういう意味では、二匹目のドジョウを狙ってみる価値もあるのかも知れませんね。全25回の予定が全100回にまで延長された“偉大なる先達”の後をどこまで追えるか、とりえあず注目ということで。

 ……といったところで、やや遅くなりましたが今週分のゼミ後半をお送りします。やっぱりここに来てプレッシャーかかってます(苦笑)。


 「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年サンデー」の次号(36号)には、『福原愛物語』(作画:あおやぎ孝夫)が掲載されます。最近「サンデー」ではご無沙汰になっていた、有名人実録モノの読み切りですね。
 今回マンガ化を担当するのは、『ふぁいとの暁』あおやぎ孝夫さん。この手の企画モノは作家側のメリットが小さいので新人作家さんがやるのが普通なんですが、確かに絵柄とモデルの釣り合いを考えると、ベストに近い人選のような気もしますね。
 一応、これも当ゼミのレビュー対象作にはなるんですが、この手の作品は作家性が極めて希薄なモノになりがちなんですよねぇ。別の意味でプロのお仕事をキチンとこなした作品に「この作品は物語性が足りない!」とか偉そうに指摘するのもバカ丸出しですし、内容的によほど目新しいモノが見られない限りは簡単に触れるだけに留めたいと考えています。

 ※今週後半のレビュー&チェックポイント
 ●今週後半のレビュー対象作…1本
 
「サンデー」:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

 「週刊少年サンデー」2004年35号☆

 ◎新連載『クロザクロ』作画:夏目義徳

 ●作者略歴
 
75年8月23日生まれの現在28歳
 「まんがカレッジ」94年10月期で佳作を受賞し“新人予備軍”入り後、95年上期「小学館新人コミック大賞少年部門」で入選。受賞作『雨天笑遊記』月刊増刊95年9月号に掲載されデビュー
 翌96年には『雨天笑遊記 稲穂の章』で週刊本誌デビュー。更に97年までに増刊号で2度の作品発表を果たすが、その後、学業・アシスタント業(メインは皆川亮二さんのスタジオ)・一般企業への就職(コナミ関連企業でTVゲームのデバッグやデザインなど担当)等で3年弱活動を休止。
 月刊増刊00年1月号で復帰を果たした後、勤務先を退社してマンガ家に専念。00年より02年11号まで「サンデー」週刊本誌にて『トガリ』の短期連載及び長期連載
 『トガリ』終了後は、「サンデー」週刊本誌02年17号、03年45号に読み切りを発表する一方で他誌での活動を模索。04年6月発売の「別冊モーニング」2号掲載の読み切り『P専嬢のダリア』(作:草薙だらい)では作画担当を務めている。

 についての所見
 作画技術についてのバックボーンはしっかりしている作家さんですから、絵の基本的な所についてどうこうというのは無いですね。特にリアルタッチで描かれている部分は見どころ十分ではないかと。
 ただ、ちょっと気になったのが人物作画の顔の部分。パーツのバランスが微妙に狂っているように見える箇所が複数ありました。ひょっとしたら他のパーツがリアルなところにマンガっぽいパーツが入ったせいなのかも知れませんが、微妙な違和感が否めなかったです。

 
 ストーリー&設定についての所見
 まず特筆すべきは主人公の設定ですね。ちょっと(かなり?)ひ弱な10代少年の主役というのは、読み手(特に「サンデー」のメイン読者層)が自分とシンクロしやすいキャラであり、感情移入を喚起する上で大きくプラスに働いたのではないかと思います。
 今回の後半部分では幹人が不良どもを暴力で蹂躙するシーンがありましたが、この辺もあらかじめ主人公側への感情移入が図られているので、“エグい暴力シーン”から“『必殺仕事人』ばりのカタルシス満点な復讐シーン”に転化出来ていると思われます。
 しかしこの作品、逆にもし主人公の設定を誤っていたら、嫌なヤツが同じ穴のムジナな連中をボコボコにしているだけ…という、読み手の受ける印象が真逆の無残なお話になっていたでしょうね。そういう意味では、今作の主人公・幹人というキャラは、『クロザクロ』という作品全体の命綱であるとさえ言えそうです。
 ──ところで、第1回では主人公たちの校種・学年が明かされませんでしたね。こういうのは先に提示しておかないと、後で読み手にイメージとのギャップを与えてしまうので良くないと思うんですが……。
(追記:作中に、主人公とヒロインが高校1年生である事を示す描写がありました。駒木の読み込み不足でした。謹んでお詫び申し上げます)

 一方、シナリオの方ですが、どうやら現時点はプロローグのプロローグといったところで、ストーリーの方は全貌どころか取っ掛かりすら見えて来ません。よって、シナリオに関しての評価は保留せざるを得ないでしょう。
 ただ今回を見た限りでは、既製の作品で使い古された、お約束的・記号的な場面演出に頼り過ぎな面があったような気がします。ネット界隈で『スパイダーマン』との類似点を指摘する声が多数上がったのも、その表れぼ1つでしょう。“定番”ならではの手堅さを感じさせる一方で、目新しさに欠けた嫌いもあったのではないでしょうか。しかも、“変身”モードに入っている幹人がヒロインのビンタを易々と浴びる…というシーンなどは話の整合性からしてギリギリで、“お約束”を守ろうとする余りにもっと大事な約束事を破ってしまうところでした。
 逆に、先に述べた復讐シーンは明らかに“お約束・定番”の域を逸脱しており、それ故にインパクト抜群のシーンになっているんですよね。ぶっちゃけ、今回はこの復讐シーンが全てと言っておかしくないくらいのインパクトで、このシーンまでが“お約束”止まりだったなら、所謂“空気マンガ”になっていたかも知れません。(まぁ実際には“空気マンガ”にはなってないわけで、今のタイミングで敢えてこんな事を言うのはアレなんですが)
 全部のシーンで目新しさを追求されると、それはそれでグチャグチャになってしまうんですが、それでももう少しこの作品ならではの独自色を前面に押し出して来てもバチは当たらないと思います
 
 現時点の評価
 ストーリーがまだ漠然としているので、とりあえず評価は保留ということにしておきます。ただ、敢えて現時点でジャッジを下すとすれば、B+とA−の境界線上を行ったり来たり……といったところになりますね。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「口癖はなんですか?」。
 
連載開始早々、夏目義徳さんのネガティブ剛掌波が炸裂してますなあ(笑)。久米田さんが去りし今、ネガティブ系回答担当は夏目さんが就任でしょうか。でも本当、人気ってどうやったら出るんでしょうね。
 駒木は……今の講師先に着任してからは「キツい」「辛い」「誰か助けて」が口癖になった気がします。……あー、ネガティブなのは駒木の方か。

 さて、連載作品の方は『結界師』から。
 前々回で大ネタが一段落ついて、余韻を引きずりながら前回からマッタリと新編突入…という感じですが、1つのエピソードが終わると、まるで何事も無かったようになるのがこの作品の特徴ですね。日常と非日常の物理的距離が近い世界観というのは、状況のリセットがし易くて新展開の時には得というわけですか。まぁデメリットも大きいので使い勝手の良い設定とは思えませんが……。
 ……しかし、時音曰く、良守は「弟みたいなもん」ですか、先は遠いぞ少年(笑)。あと、ウロ様の頭に乗っかってたドーナツは、多分ミスドのドーナツのスケッチですね。上からホームカット(シュガーレイズド?)、フレンチクルーラー、ハニーディップ、チョコリング、ココナツ…といったところでしょうか(笑)。渋いチョイスですなあウロ様。

 話変わって今週の『いでじゅう!』、貴方は林田君の事を素直に笑えましたか? 駒木は結構身につまされて気まずく半笑いでした。

 で、気まずいと言えば『モンキーターン』。どうしてここまで地味に嫌な緊迫感を持たせようとするんでしょうか、しかも競艇に関係ないところで(笑)。
 確か、澄&ありさと洞口は面識があったはずなので、最終日後には憶測と嫉妬の愛憎劇がスタートすることになりますなぁ。何だか『からくりサーカス』よりも心の準備が必要だよ!(苦笑)

 ……とっいったところで今週のゼミはここまで。しかし、『かってに改蔵』が無いと、読む取っ掛かりが無くて困ってしまいますね。何やかんやで「サンデー」にとって重要な存在だったのかも知れません。

 


 

2004年度第34回講義
7月28日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週・前半)

 どうも、積み残しの講義だらけで、何から手をつけたら良いのか自分でも分かってない駒木です(笑)。せめて春の高知旅行記は盆休み前に完結させたいですね。
 ……でもまぁとりあえずは出来る所からやっていくという事で、今日はゼミの前半分です。


 「週刊少年ジャンプ」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(36号)では、「金未来杯」第3弾となる読み切り『BULLET TIME!! −ブレットタイムー』(作画:田坂亮)が掲載されます。
 田坂さんは、新人賞を経ないまま、「赤マルジャンプ」01年冬号にて『TRIGGER!』(作:高田義孝)のマンガ作画担当者としてデビュー。単独名義での作品は「赤マル」02年春号に掲載された『CRIME BREAKER』だけで、その後はアシスタントに専念されていたようです。
 ※ちなみに『CRIME BREAKER』は、「第1回仁川経済大学コミックアワード」にて、『だんでらいおん』(作画:空知英秋)と共にジャンプ&サンデー最優秀短編作品賞を、受賞しています。
 田坂さんは「金未来杯」の中では最も実績の少ない作家さんという事になるのでしょうが、それでも『CRIME BREAKER』で見せた久保帯人ばりの高度な演出力などを考慮すると、実力的には他の作家さんに比べると全く遜色無いと思います。今回もどのように読み手を“魅せて”くれるのか、駒木個人としても今から大変楽しみです。期待して待ちたいと思います。

 ※今週前半のレビュー&チェックポイント
 ●今週前半のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り(金未来杯エントリー作品)1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年35号☆

 ◎読み切り(「第1回ジャンプ金未来杯」エントリー作品)『タカヤ −おとなりさんパニック!!−』作画:坂本裕次郎

 作者略歴
 1980年4月18日生まれの現在24歳
 01年5月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。その後、03年上期「手塚賞」で準入選を受賞し、週刊本誌03年29号に受賞作『KING OR CURSE』が掲載されてデビュー
 その後、04年2月の「青マルジャンプ」で『デス学!!!』、「赤マル」04年春号に『吉野くんの告白』を発表するなど、意欲的な活動を続ける。
 今回はデビュー1周年にして約1年ぶりの週刊本誌登場。
 
 についての所見
 
普段「赤マル」などの増刊号を読んでいない方は、
1年前の『KING OR CURSE』とのギャップに驚かれたのではないでしょうか。線の粗さが完全に取れ、随分とアカ抜けた画風になりましたよね。
 以前はコマ内の余白が必要以上に大き過ぎたり、作画の線が細過ぎる印象がありましたが、今作を見る限りでは許容範囲内に収まるところまで来たような感じです。
 ただ、週刊本誌対応で敢えて細かい指摘をすると、顔のディフォルメが“顔面内ディフォルメ”に留まっていたり、動的表現にやや止め絵臭い所があったりしたのが少し気になりました。せっかくダイナミックな作風なんですから、もっと絵で迫力が表現できるようになると更に良くなると思います。あと、せっかく前作のように美醜の描き分けが出来る技術があるのですから、もうちょっとアクの強いビジュアルの登場人物を出して来ても良かったんじゃないでしょうか。
 ……とまぁ細かい問題点もありますが、全体的に見れば及第点には十分あると思います。


 ストーリー・設定についての所見
 前々作『デス学!!!』の世界観に、前作『吉野くんの告白』で開眼したスラップスティックの要素をミックスさせたら、何だかノリの軽いラブコメになっちゃった…という感じでしょうか。同じアイディアの作品も“料理”の仕方を変えると全く別物になるとは言いますが、まさか同一作者の作品で実証が出来るとは(笑)。

 それはさておき、ストーリーを全体的に概括すると、とりあえずは起承転結のメリハリの効いたお話に仕上がっていたとは思います。演出を効かせたカタルシス十分の仕上がりにもなっていますし、読み手に良い読後感を与える、エンターテインメント性の高い作品ではないでしょうか。
 ただ、伏線を殆ど使用しないままで次から次へと新しい事実や過去が提示されたり、ケンカが弱いはずの主人公がマジギレしたという理由だけで敵役と互角以上に戦えてしまったりと、薄っぺらさや悪性の御都合主義が全編に渡って見られたのは大きな不満でした。前々作『デス学!!!』では、ストーリーを超高速展開にする事によって、それらの欠点を逆に長所に変える事が出来たのですが、今回は比較的オーソドックスな筋立てだっただけに、欠点が欠点のまま表に出てしまったかな…という印象がありますね。
 あとギャグについては、前作同様、強力なボケの前にツッコミがやや弱くなってしまったように思えました。言葉のセンスはある作家さんだと思いますので、次回作ではもっとセリフの練り込みにも労力を割いて欲しいところです。ただ、それをやると空知英秋さんと作風が被って来るんですよね(^^;;)

 今回の評価
 読み手にカタルシスを与える力は十分あるものの、シナリオが御都合主義的で大きな問題がある…という、典型的な「名作崩れの人気作」的作品です。「面白い作品に高い点を与えて何が悪い」というお声も頂戴しそうですが、技術点重視の当ゼミの基準に照らしあわすと、やはりB+が妥当なラインかな…という感じですね。
 それでも将来に期待が持てる有望な若手作家さんだと思います。ただ、この作品が連載化されるとなると、正直「う〜ん……」といった感じですが……。


 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週はいきなり連載作品について。
 しかし、『DEATH NOTE』は話がどんどん凄い方向へ向かってゆくというか逸れて行くというか……。緻密な計算に基づいているようで、実はいかにも「ジャンプ」らしい、全くの行き当たりばったりなインフレバトルマンガなんだなぁと、しみじみ思います。これで竜崎Lが死んだ後から本当に“真のL”が出て来たら、『ドラえもん』の中に出て来る、フニャコフニャオの『ライオン仮面』のノリですよね(笑)。
 ただ、それでも設定や前提条件に矛盾を起こさずやって来れているのは素直に凄いなと。この辺が多くの支持を集めている要因なんでしょう。

 そして、巻頭付近でデスノートを巡る静かな戦いが続く中、真ん中あたりで少年マンガらしからぬデスエロス(byOHPさん)を炸裂させているのが『ぷーやん』。こっちはノリが「スーパージャンプ」の『DESIRE』みたいになって来ました(笑)。
 もうこの際、数秘術なんて面倒臭い事言わずに「勃起力」とかにしたら良いんですよ(笑)。某名作カンフー映画みたいに「勃てば勃つほど強くなる」とか言って(下衆!)。もう中途半端に卓球するより、開き直ってそっち方面に流されて行った方が面白いんじゃないかと思ったりするわけですが、如何なもんでしょうか(笑)。

 最後は今週も『武装錬金』。本当は毎週同一作品を採り上げるのは控えたいんですが、こんなもん見せられたらどうしょうもないですわ(笑)。
 前半の続・海水浴編に関しては、もうネット界隈でさんざん採り上げられてますから、ここは敢えてスルー。とりあえず『ONE PIECE』の空島編よろしく
「へそ!」と叫ぶだけに留めておいて、緊迫の後半部分に注目しましょう。
 まずエンタメの基本である、平穏から非常事態への急角度バックドロップが完璧に決まっているのがお見事。全く想定出来ない展開ではなかったんですけれども、いざ本当にこうなると「そう来たか!」ですよね。
 セオリー通りの展開になれば、ここからカズキ&斗貴子さん組VSブラボー&中村組のイリミネーション・タッグマッチになってゆくんでしょうが(もっと言えば、無効試合になって、ブラボーがカズキ側に寝返った上で錬金戦団と戦う事になるんでしょうが)、さてどうなりますか。まぁ本当ならカズキVS斗貴子さんという展開が一番“オイシイ”ものの、今の状況では無茶が過ぎる感じですから、これは仕方ありませんね。
 あと、掲載順が巻末ですけど、それに関してはもう慣れました(笑)。人気が掲載順に反映されるまでにはタイムラグがあるらしいですから、多分ここ最近の“確変”モードに入るまでのバトルシーンが影響してるんだと勝手に解釈しています。
 

 ……といったところで今週前半分はこれまで。後半は金曜日あたりになると思いますが、出来ればそれまでに積み残しの講義シリーズを1回挟めれば…と思っています。では。

 


 

2004年度第33回講義
7月22日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第4週・後半)

 さて、今週分の後半、「週刊少年サンデー」35号の内容についてのゼミを始めます。
 ……いやー、それにしても強烈な置き土産を残していってくれましたなー、久米田康治センセイは(笑)。今回はレビュー対象作が無いから随分楽ができるぞ…などと思っていたら、とんでもない最終回になったもんですね。

 まぁそんなわけで、今回は内容が薄いんだか濃いんだか判らない内容になると思います。先々週のように、ノリが良すぎて変な事を口走っても気にしないでおくように(笑)。


 「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年サンデー」では次号(35号)より、『クロザクロ』(作画:夏目義徳)が新連載となります。
 ……というわけで、夏目義徳さんが「サンデー」で週刊連載獲得です。夏目さんは最近「別冊モーニング」にも作品を発表するなど、その活動の幅を広げていましたが、紆余曲折を経ながらも堂々の“古巣”復帰ということになりますね。
 いやしかし、次号予告を見ただけで「うわッ、これは最近の新連載とはワケが違うぞ!」…というオーラが伝わって来るあたり、色々な意味で「さすが」といったところですね(笑)。どこをどう考えても所謂“少年マンガの王道”とは違う路線になると思われますが、それならそれで異質な存在感を発揮する作品になってもらいたいと思います。

 ──さて、夏目さんには以前、読み切り作品『オロチ』が掲載された時にも、当講座の受講生さんへのコメントを頂いた事がありましたね。で、今回も忙しい執筆の合間を縫ってコメントを頂きましたので、紹介させて頂きます。

 自分もこのHPの博士や受講生と同じく、漫画家である以前に漫画を読むのが好きなんで、ある程度どういう漫画が読者や世間に受け入れられやすいかのデータがないわけじゃないんだけど、自分はせっかく漫画家なんだから自分なりに面白いものを探そうと思います。読者の皆様も一緒に探してください。」

 ……あと、この後に受賞者を紹介する「まんがカレッジ」の編集部講評──「たとえ読者の8割に嫌われても2割の熱狂的なファンがつくような強い個性・主張のある作品が今後の漫画界の新しい力になると思います」──になぞらえたんでしょうか、

「誰にも嫌われない漫画ではなく、八割の読者に嫌われる漫画です。」

 …というコメントも頂いています(^^;)。でもまぁこれも、いつもの夏目義徳作品だというアピールだと解釈するべきだと勝手に思ったりなんかしていますが。

 「サンデー」の週刊本誌で新連載という事は、当然レビュー対象作になるわけですが、それにあたっては夏目さんから「くれぐれも手加減無用で」という注文を受けています(笑)。
 なんでも、以前『オロチ』のレビューをした時も「このレビューはヌルい」と感じられたそうで、今回は「思う存分酷評してくれ」とさえ言われております(苦笑)。もうなんか、『吼えろペン』9巻あとがきマンガで言うところの「それは攻撃をしろということか富士鷹!」…みたいな感じなんですが、こちらもそこまで言われれば謹んで覚悟完了と言う事で。
 ……でも、本当はそういう厳しい見方をした上で絶賛出来れば最高なんですけどね。誤解してらっしゃる方も多いでしょうけど、このゼミのレビューは褒めるためにやってるんですから……。

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(04年5月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=2編
  ・『満月と狼』
   斉藤尚武(25歳・茨城) 
  ・『マジカルゲバッグ』
   指音ゆう(25歳・京都) 
 努力賞=2編
  ・『マダングリル』
   虹色パンダ(24歳・香川) 
  ・『ALL THE WAY TO EDGE OF THIS WORLD 〜この世の果てまで〜』
   西村学(24歳・千葉)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  ・『鯨と祈祷師』
   川縁芳乃(14歳・三重)
  ・『コピーマン』
   西本美登樹(22歳・和歌山)
  ・『カミカクシ』
   小嶋武史(26歳・山梨)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎佳作の指音ゆうさん…03年12月&04年1月期「まんがカレッジ」であと一歩で賞。
 ◎あと一歩で賞の小嶋武史さん…02年に「週刊少年マガジン」の新人賞で入賞?

 

 ※今週後半のレビュー&チェックポイント
 ●今週後半のレビュー対象作…なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。


「週刊少年サンデー」2004年34号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「どんな役で映画に出演したいですか?」。
 連載陣の皆さんは当然と言いますか、答えがバラバラに。ただ、主役よりも脇役、いや端役を好む傾向があるみたいですね。これは「自分に大きな役は似合わない」と思ったためか、それともただ楽をしたいだけなのか(笑)。
 ちなみに駒木がやりたいのは悪役。それもどうしようもないマンガに出て来るチンケなのじゃなくて、映画『レオン』のゲーリー・オールドマンみたいに、どこか突き抜けてしまったような凶悪な人間を演じてみたいというか。……すいません、自分の演技力を棚上げして無茶言いました(笑)。

 ──さて。それではそろそろ本日のメインイベントへ参りましょうか(笑)。
 今週号は、やっぱりこの作品が全てと言って過言ではないでしょう。インパクトが他の作品とは違い過ぎた『かってに改蔵』最終回について、詳しくお話したいと思います。

 この最終回の解釈については、ネット界隈では文字通り諸説紛紛といった趣になっていたようですが、確かにそれも仕方が無いというくらい“深い”作品だったと思います。恐るべし、久米田康治ですよ!
 駒木も一読した瞬間は、恥ずかしながら「ええ話やー……」などと感動しかけてしまったのですが、ギリギリの所で「うわ、これネタだ」と気付き、正気に返りました。いやー、危ない所でしたが、駒木もまだ何とか大丈夫そうです(笑)。
 
 今回の最終回は、最後だけ異様なほどのシリアスモードで綺麗にまとめる事により、全てを綺麗にまとめたフリをする…というモノでしたね。実は設定も伏線もほぼ全部ブン投げて最悪の形で終わってるんですが、最後の最後で別の世界観(非常によく出来たハリボテの世界観ですが)を築き上げるという、もの凄い力技で強引にまとめ(たフリをし)てしまいました。いやはや、本当に恐ろしい。
 これ、下手すれば単に作品を“投げて”しまった…と受け取られかねない危険も孕んでるんですが、それもキチンと対策立ててますからねぇ。この最終回の冒頭で『新世紀エヴァンゲリオン』TV版最終回のパロディを持って来たのは、ただそうしているわけじゃなくて、「ちゃんと分かって下さいね。これはネタなんですからね」というアピールの役割も果たしているわけですよ。新連載の時に巻頭カラーを貰えなかったのに、最終回のラストがカラーページだった事も含め、全部が計算ずくなんです。凄いでしょう?
 中には余りにもマジメに描き過ぎなので、“お笑いネタ認定”をし辛いという方もいらっしゃるかも分かりませんが、そこはそれ、あなたが今受講しているこの社会学講座の性格をよーく考えてみましょう。諸般の事情でこれ以上は何も言えませんが(笑)、賢明な受講生の皆さんなら、駒木が申し上げたい事も判って頂けるはずです。「壮大なネタ」という概念がこの世にはあるのです。

 ……あ、先ほどの「計算ずく」で思い出したんでちょっとここで大声で言えない小耳に挟んだ話を。
 この度の最終回の舞台となった場所、これはどう見ても精神科の病院であり、改蔵・羽美・地丹は患者さんで、他の登場人物は病院関係者だったように描かれていますが、実際にはどこを見ても「病院」、「病気」、「医者」、「看護士」、「治療」、「治癒」といった、“そのものズバリ”な単語は一言も出て来てないんですよね。「〜院」、「先生」、「研修生」、「看護学生」、「婦長」、「(状態が)良くなる、良い方向へ向かう」といったキワどい言葉は使われるのですが、ギリギリの所で「ここは病院じゃありません。彼らは精神病患者ではありません」というエクスキューズが利くようになっているんだそうです。例えば「婦長」は、「看護士のコスプレが好きな婦人会長(=略して婦長)」だと言い逃れが出来るわけですね(笑)。
 最後の最後まで編集部に迷惑をかけつつも、深刻な被害は与えないようにする…という、久米田さんの矜持みたいなモノが窺えるエピソードですよね。

 閑話休題。
 ──しかし、改めて感心させられたのが、久米田さんの卓抜した演出力です。
 一言で「綺麗にまとめる」と言うのは簡単ですが、今回の場合は全然綺麗にまとまっていないモノを綺麗にまとまったように見せかけているのですから、結構な無茶をやっているわけです。普通にやってても読者は騙せないんですね。
 ところが今回、久米田さんは見事に読み手の目を眩ます事に成功したわけです。これは、脚本となるネームは勿論、コマ割りや絵の見せ方といった諸々の演出技法を駆使したからこそ出来る芸当で、言ってみれば演出技術の確信犯的な悪用ですね。
 だってねぇ、あんな場面で彩園すずに天使のような笑みを浮かばせて「2人に幸あれ」ですよ!(笑) これはもう、悪魔的な所業と言っても過言ではないですよ、ええ。……あ、念のため言っておきますが、これは最大限の褒め言葉ですので何卒。

 ……まぁそんなわけで、この最終回は久米田康治という作家のポテンシャルを遺憾なく発揮した大傑作だと思います。作品全体としては、設定の場当たり的な変更やストーリー性に欠けるワンパターンな構成など、若干の減点材料も見受けられますが、それでもこの最終回の出来振りを加点するなどすれば、総合評価A−は十分にあるかと。いまはただ、本当にお疲れ様でしたと申し上げたいところです。
 駒木が聞き集めた情報を総合すると、今の編集長がいる限り、久米田さんが次回作を「サンデー」でやるのは難しそうですが、まぁとにかくしばらく休んで英気を養って頂きたいと思います。1〜2年も待てば…ね(笑)。

 ……さてさて、『改蔵』に完全に食われてしまった形になりましたが、井上和郎さんの『美鳥の日々』も今週号で最終回となりました。
 こちらは『改蔵』とは対照的に、本当の本当に綺麗にまとめた終わり方でしたね。何と言いますか、作品の中で「これをやっておかなければならない」という部分を完遂した、非常に完成度の高い作品であったと思います。コンセプトこそ「寄生獣+南くんの恋人」とキテレツでしたが、だからこそメインストーリーはオーソドックスに締める…という得も言われぬバランス感覚も見事でした。
 ただ惜しむらくは、先述の通り「これは押さえておかなければ」…というファクターは全てクリアした作品ではあったのですが、その上にある「ここも上手くやれば更に良くなる」…という“高等技術”の部分にまでは手が回らなかったような印象もありました。語弊を恐れず言えば、心的描写の踏み込みが足りない、超二流のエンターテインメント…といったところでしょうか。
 最終評価はB+。名作ではないものの、連載作品としては十分及第点にあった作品だとは思います。

 ……ああ、今週は他の作品にも色々言いたい事有ったんですが、もう時間がありません。体ボロボロです(苦笑)。とりあえず今週はこれでお許し下さい。では、また。

 


 

2004年度第32回講義
7月20日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第4週・前半)

 採用試験中だというのに、今週は前・後半分けての講義実施であります(笑)。ただ、これは切羽詰り具合がまだ軽い週の前半に重たい仕事をやっておこうという、そういう目論見だったりするわけで。

 ……あ、あと、もうあちこちで(というかご本人発信でも)漏れ始めていますが、今週の後半分では皆さんに嬉しいニュースをお伝え出来そうです。そちらの方もどうぞお楽しみに。


 「週刊少年ジャンプ」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(35号)では、「金未来杯」第2弾となる読み切り『タカヤ ─おとなりさんパニック!!─』(作画:坂本裕次郎)が掲載されます。
 坂本さんは、03年上期の「手塚賞」で準入選を受賞して同年6月に週刊本誌でデビュー。04年になってからも「青マル」、「赤マル」に作品を発表するなど、精力的な活動を続けています。
 坂本さんは約1年ぶりの週刊本誌登場となりますね。増刊号をお読みにならない受講生さんは、是非とも坂本さんのこの1年の充実振りを確かめて頂きたいと思います。次回予告カットでもお分かりになると思いますが、特に絵の垢抜け振りは注目です。

 ◎詳報はありませんでしたが、「週刊少年ジャンプ」次号(35号)では、以前話題を呼んだ『DEATH NOTE』『ボボボーボ・ボーボボ』のコラボ企画が再び実施される模様です。(どうやら扉ページだけのコラボ企画ではないか…という情報も出ていますが……)

 

 ※今週前半のレビュー&チェックポイント
 ●今週前半のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り(金未来杯エントリー作品)1本&代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年34号☆

 ◎読み切り(「第1回ジャンプ金未来杯」エントリー作品)『プルソウル』作画:福島鉄平

 作者略歴
 79年4月23日生まれの現在25歳
 マンガ家としてのデビューは00年に「コミックフラッパー」誌にて。翌年まで同誌などで活動していたが、その後はキャリアを捨てて「ジャンプ」への投稿を開始し、03年1月期「天下一漫画賞」最終候補で“新人予備軍”入り。加地君也さんのスタジオでアシスタントを務めつつ、デビューのタイミングを窺う。
 「ジャンプ」デビュー作品は、「赤マル」03年夏号に掲載された『red』。なお、「赤マル」には04年冬(新年)号にも『ナイン』を発表している。
 なお、今回の作品が週刊本誌初登場となる。
 
 についての所見
 
前作『ナイン』の頃から少年誌向けの絵柄にモデルチェンジを図っている福島さんですが、今作ではそれも完成の域に達しつつありますね。以前見られたアクの強い極度に個性的なタッチの名残を残しつつも、スッキリとした見易い絵柄になっていると思います。ただ、好き嫌いの分かれそうな絵柄ではありますので、読み手を選ぶ嫌いは有りそうですが……。
 背景処理、動的表現、ディフォルメといったマンガの記号的な部分にしても問題は無く、技術的な面での減点材料はほとんど見当たらないと言って良いでしょう。 


 ストーリー・設定についての所見
 今回の作品は、「ジャンプ」デビュー作・『red』から主要な設定を踏襲したまま大幅にストーリーを変更させたモノですね。『red』は少年誌向けには程遠い“黒い”ストーリーでしたので、少なくとも商業的には妥当な選択だと思います。
 内容についても、『red』で見られた欠点の多くが解消されていて、こちらの技術向上振りも目を見張るものがありますね。伏線の張り方やストーリー展開にも無駄が無くなって来ていますし、設定の提示にも工夫が見られます。確かにまだ消化不良気味な所も見受けられますが、総合的に見れば相当高いストーリーテリング力を身につけているんじゃないでしょうか。

 ただ、惜しむらくは、その高い技術が作品の完成度に繋がりきっていない所ですね。格闘技で“上手いけど強くない選手”なんてのがいますが、福島さんの場合も残念ながらそういう傾向が見られます。
 これは具体的に言えば、演出力不足という事になるのでしょう。読者にビジュアルでインパクトを与えなければならないシーンで文字に頼り過ぎるため、本来読み手にカタルシスを与えるはずの場面で段取り臭さを感じさせてしまうんですね。伏線は処理出来ているんですが、ただ処理しただけで終わってしまっているわけです。例えば主人公の身体能力の高さなど、先生のセリフだけでなく絵でも説得力を持たせておくべきだったでしょう。

 今回の評価
 技術点だけなら十分にAクラス評価に値するモノが感じられます。「ジャンプ」デビュー以来の成長振りからすると、今後が非常に楽しみな作家さんの1人ですね。
 ただし先述の通り、今回は技術の高さが作品のクオリティ、特にエンタテインメント性に繋がっていない印象があり、技術点だけを見て評価を下すのにはやや躊躇を覚えます。
 ……というわけで、今回はA−寄りB+という事にしておきます。これでも「赤マル」のレヴェルなら十分上位クラスの出来なんですが、この果てしなくハイレヴェルな「金未来杯」では苦戦を強いられるのではないでしょうか。

 ◎代原読み切り『教授百々目木』作画:夏生尚

 作者略歴
 生年月日は不詳だが、「赤塚賞」受賞時の年齢から換算すると、現在23〜24歳
 02年上期「赤塚賞」で佳作を受賞し、その受賞作が週刊本誌02年31号に代原として掲載され、暫定デビュー。
 それから更に1度の代原掲載を挟んだ後、03年下期「赤塚賞」にて『BULLET CATCHERS』で準入選を受賞し、これが04年14号に掲載されて正式デビュー
 なおこの後、04年19号に過去の習作原稿が代原掲載されており、今回は代原・正規含めて5回目の週刊本誌登場となる。

 についての所見
 
デビュー以来、色々な絵柄に挑戦している夏生さんですが、今回は比較的オーソドックスなスタイルでまとめて来た感じですね。そのためか、印象も「普通のマンガだな」といったところ。
 ギャグマンガという事も考慮に入れると十分及第点にはあると思うのですが、線が細くて不安定であるのと、集中線の処理を凝り過ぎて変になってしまった…という2点がやや気になりました。変な所で奇をてらわずに、もっと大事な部分を気にしたらいいのに…と思ってしまいます。


 ギャグについての所見
 以前の作品に比べると多少マシになったようですが、それでも相変わらずの“無理矢理感”を感じてしまいますね。「とにかく変な事をさせなければ」という気持ちばかりが先立って、ネタが上滑りしているように思えます。まず登場人物のキャラクターを立てておいて、そこから自然に出て来る言動で笑いを獲るようにしなければ、いつまで経ってもこの違和感は無くならないでしょう。
 あと、今回の作品では“間”の悪さとツッコミの掘り下げ不足も気になりました。たくさんネタを詰め込むのは良い事なのですが、ちゃんと1つ1つのネタを大事にして笑いに繋げないと、「沢山のネタが滑りまくってる」という事で、むしろ逆効果に働いてしまいます。

 今回の評価
 率直に言って、伸び悩んでるなぁ…といった感じでしょうか。「こうしたら笑いが獲れる」という自分なりのセオリーが出来ていないんでしょうね、どの作品を読んでも暗中模索しているような気がします。
 作品を精力的に描き上げるのも確かに立派なんですが、現状を鑑みると、今大事なのは完成原稿を仕上げる事よりも、笑いを獲るための方法論を確立する事なのではないでしょうか。
 評価はB−としておきます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 先週あたりから巻末コメントには担当編集者交代についてのものが目立つようになりました。同じ一ツ橋系の「サンデー」もそうらしいんですが、7月は人事異動のシーズンなんですね。今期は『テニスの王子様』、『未確認少年ゲドー』担当の島田氏がライトノベル部門へ異動、その影響でしょうか、『武装錬金』も担当さんが代わるみたいですね。
 しかし『錬金』は、次でもう3代目の編集さんになるんですよね。まだ連載1年しか経ってないのに……。まぁ、担当さんが変わって作風に影響を及ぼすような作家さんじゃないので、心配する事は無いでしょうが。

 作品については、時間も無いのでその『武装錬金』だけ。やっぱり今週はこの作品でしょう。バトルより日常シーンの方が高評価というのは、「ジャンプ」作家の立場からしたら微妙なんでしょうが、良いもんは良いで仕方が無いですよね。
 で、まずは改めて「和月、よくやった!」と(笑)。
 
だってねえ、パピヨン編で斗貴子さんの“ヘソチラ”を描いた時でさえ、あまりに恥ずかしくてアシスタントが寝静まった深夜にコッソリペンを入れたというあの和月伸宏が、デデーンと大ゴマで女の子の水着シーンですよ! きっと「初々しい」「中学生日記か」というツッコミは、作者自身へのセルフツッコミと見ましたがどうか。
 ……ただし、駒木はそっちよりも、カズキから「斗貴子さん、オレは貴方とずっと一緒にいたいんだ(意訳)(意訳)と言われて顔を赤らめる斗貴子さんの方が数段お気に入りだったりします(笑)。もうなんかすっかり恋する乙女モードで、可愛くって仕方が無いというか。
 それにしても、駒木としては連載開始当初から期待していた方向へ漸く設定とシナリオが転がり出して、やっとこさホッと一安心といったところです。あとはバトルシーンだけどうにかなれば心配の種も無くなるのですが……。


 ……と、以上が前半分です。後半分は金曜あたりには実施したいと思ってますが、とりあえず今週は採用試験優先なのでご迷惑をおかけするかも知れません。その辺も含めてどうか何卒。

 


 

2004年度第31回講義
7月17日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第3週・合同)

 今週も講義が滞って面目ありません。
 先週の末辺りから、採用試験の勉強等、優先順位的に講義よりも上位にある色んな事を済ませていたら、こうなってしまいました。トドメに金曜夜は高校の職場の親睦会に3次会まで連れ回されまして……。
 「駒木のヤツ、サボってやがるな」とお思いでしょうが、実はこちらの業務が滞っている時の方が切羽詰っている場合が多かったりするのです^^;;。どうかその辺、お察し下さいませ。

 ……というわけで、今週の「現代マンガ時評」です。今週は「サンデー」がお盆先取りの合併号休みなんですが、「ジャンプ」関連でかなり興味深い話題が多いですから、そちらを重点的に扱いたいと思っています。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(34号)から若手作家による読み切り競作企画・「週刊少年ジャンプ金未来杯(ゴールドフューチャーカップ)(ゴールドフューチャーカップ)が開催されます。
 現在判っているのはエントリーした5人の有力若手作家さんが、それぞれ週替りで1作品ずつ読み切りを発表する…という事だけですが、恐らくは読者投票でランキングを決定し、上位入賞者が優先的に週刊連載を獲得してゆく事になるのではないかと思います。

 では、ここでエントリー作家・作品と、掲載スケジュールを紹介しておきましょう。

「金未来杯」掲載ラインナップ

 ◎第1弾・34号(次号)に掲載
 …『プルソウル』(作画:福島鉄平)
 ◎第2弾・35号に掲載
 …『タカヤ ─おとなりさんパニック!!─』(作画:坂本裕次郎)
 ◎第3弾・36号に掲載
 …『BULLET TIME』(作画:田坂亮)
 ◎第4弾・37
38合併号に掲載
 …『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(作画:西義之)
 ◎第5弾・39号に掲載
 …『切法師』(作画:中島諭宇樹)

 ……さて、この「金未来杯」、ベテラン受講生さんならすぐにピンと来たと思います。そうです、この企画は、かつて「ジャンプ」で実施され、山のように短期打ち切り作品を輩出するわ、有望作家の出世を遅らせるわで惨憺たる結果に終わった、あの「ジャンプ新人海賊杯」のリメイク版です。
 「新人海賊杯」失敗の概要及び問題点については、当講座02年5月21日付講義のレジュメをご覧頂ければ…と思いますが、まさか今回の参院選における左翼政党のような惨敗っぷりを見せたダメ企画を復活させるとは正直ビックリです。この報を目にした時、駒木は大丈夫なのか「ジャンプ」は、と思わず天を仰ぎました(笑)。

 ただ、唯一救われるのは、今回エントリーした若手作家さんたちがハンパじゃない逸材揃いだという事ですね。これは個人的な目利きなんで他の方が見た場合どうかは判りませんが、駒木が見る限りでは、これなら「金未来杯」がどんな結果になってもまぁ大丈夫だろうな、と思ったりなんかしています。何しろ当講座でAクラス評価を獲得した人ばっかりですからね。個人的には今年度「コミックアワード」の短編作品賞と新人賞の決定戦みたいな感じに理解しています。
 そういう意味では心配でありながら、それ以上に期待十分…といったところでしょうか。
 
 ★新人賞の結果に関する情報

第14回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年5月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(本誌か増刊に掲載決定)
  ・『カミさまの手』
   高橋英里(20歳・埼玉)
 《荒木飛呂彦氏講評:魅力ある語り口で読者を引っ張っていく事が出来ている。主人公が何をしたいのか、具体的描写があればなお良かった》
 《編集部講評:キャラクターがしっかり描けていた。読者をひきつける見せ方も上手い。だが、主人公の動機付けをもっとしっかり描き込んで欲しかった)
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『兄貴同心捕物帖』
   鈴木祥高(22歳・神奈川)
  ・『IQ〜愛球〜』
   近喰康史(27歳・東京)
  ・『配達人Σ』
   小林マコト(21歳・山梨)
  ・『掌』
   北尾光(23歳・兵庫)
  ・『ツナギ尊』
   永井裕二(23歳・埼玉)
  ・『マグロフィッシュ』
   辻風林太郎(21歳・埼玉)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の高橋英里さん…03年4月期「十二傑」で最終候補
 ◎最終候補の鈴木祥高さん…03年7月期「十二傑」でも最終候補

 ……今月も佳作以上の受賞者は無しという結果に。まぁ「ジャンプ」には色々な新人賞がありますから、こういう谷間みたいな時期があっても仕方ないですかね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り前・後編総括1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年33号☆

 ◎読み切り(前・後編総括)『機動球児山田 〜めぐりあい稲木〜』作画:ポンセ前田

 作者略歴
 本誌32号の新人紹介ページによると、「赤塚賞」03年下期佳作受賞者の水溜三太夫さんがペンネームを変えたものと判明(先々週のゼミで的外れな推測をしていましたが、大ハズレでした^^;)。生年月日は非公開だが、昨年秋の受賞時に24歳なので、現在は24〜25歳。
 今回がデビュー作だが、「赤塚賞」佳作受賞者がいきなりまとまったページで週刊本誌での正規デビューを果たすのは異例。
 

 についての所見
 
「ジャンプ」系のギャグ作家さんには珍しい、シリアスタッチの絵柄ですね。ちゃんと人間が人間らしく描かれており、基本的な画力は軽く及第点以上だと思われます。背景も、多少遠近感がズレているような気もしますが一応キチンと描けているようですし。
 ただ、人物の表情のパターンが少な過ぎるのと、動的表現に違和感を感じさせる稚拙さが残っているのが気になりました。まぁこれも“味”と言えば“味”なんですが、この辺は上手くなってもバチが当たらない部分だと思います。


 ギャグについての所見
 まだ色々と課題も残されていますが、基礎的な技術は身についていますし、良いセンスを感じさせてくれる部分もある作品だったように思えます
 特に良かったと思えるのが、各所に散りばめられている、やたらとマニアックな小ネタですね。「ベースボーラーは本当は強いんです」とか、異種格闘技戦シーンの「PRIDE」パロディとか、“スーパーカートリオ”とか、まぁ“その道”の人の絶妙のツボを突くネタの連発には、顔の筋肉を緩ませながら唸らせられました。ただ、ちょっとターゲット読者の間口が狭すぎるような気もしますので、全世代的にウケる作品を描きたいのであるならば、今後はネタ選びに熟慮が必要になるでしょう。
 あと、前編の前半では主人公のモノローグでネタを引っ張る『クロマティ高校』的な手法が見られましたね。雰囲気に合っていて良かったと思います。ちょっとまだ稚拙な印象は拭えませんでしたが、これから研究をして、自分のモノにしてもらいたいところです。

 一方の課題となるのが、大ゴマを乱発し過ぎな上に、ページが進むにつれて展開が単調&ワンパターンになってしまった事ですね。正直な話、後編は前編のネタ焼き直しだけでしたし、蛇足だったように思えます。せっかくの大チャンスなんですから、もっとネタを練りこんで欲しかったですね。

 今回の評価
 これがデビュー作の新人さんにしては上々のデキなのではないでしょうか。今回は後編の失速を減点してB+寄りBとしておきますが、今後の成長が楽しみな作家さんではありますね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 先週号の武井宏之さん、そして今週号の和月伸宏さんの巻末コメントに登場する「山形から送られて来たさくらんぼ」。これ、どうやら故・しんがぎんさんのご実家から“和月組”の作家さんに毎年贈られて来ている品物みたいですね。良い話だー……。
 和月さんをはじめ、元同僚の作家さんたちは実際に山形へ赴いていてお墓参りもしているようですし、本当に“和月組”の絆って強いんですねえ。

 さて、作品の方ですが、今週大きな動きがあったのは『D.Gray-man』ですね。とはいえ、1回分のページを全部費やして主な設定を吐き出しただけですが(笑)。それにしてもこの設定、『BASTARD!!』『新世紀エヴァンゲリオン』を足して2で割って何か大切な物を差し引いたような感じがするのは駒木だけなんでしょうか……。
 ただ、もう『BASTARD!!』から15年、『エヴァ』から10年経ってるわけで、低年齢層の読者とっては逆に新鮮に映るのかも知れませんね。そうなったら大殊勲ではありますが、さてどうなりますか。
 ……しかしもっと根本的な問題は、この設定の良し悪しよりも、果たしてこの第7回までにどれくらいの読者が興味を持続しているかでしょう。読者アンケートで打ち切りゾーンにある作品というのは、作品そのものがダメなわけじゃなくて、もう既に読者の興味が離れて読み飛ばされている作品ですからね。(だから「商業的成功の見込み無し」という事で打ち切りになるわけです)
 まだ今週号の時点ではアンケート順位が掲載順に反映されていないですが、これが次々号あたりでどんな感じになっているか、注目しておきたいと思います。
 
 ……と、今週も時間が押しているのでここまで。今から土曜発売の来週号を買いに行って参ります(爆)。

 


 

2004年度第30回講義
7月9日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第2週・合同)

 何やかんやとズルズル遅れてしまいましたが、今週分のゼミをお送りします。レビュー対象作ゼロ、しかも情報系の話題も殆ど無し…という、1年でも1回あるかどうかの内容の薄いゼミとなりますが、肩の力を抜いて受講して下さいまし。

 ……ところで先日、ゼミで作品をレビューした某マンガ家さんからメールを頂きました
 その作家さんの作品については、駒木はかなり厳しい評価を下していたんですが、それでもメールの内容は「細かく分析してもらって有り難い」というもので、こちらはモニタの前で、もうただただ恐縮でした(笑)。
 しかし、こういう事があると本当にレビュー活動をやってて良かったと思えます。これからも作家さんが目を通した時でも納得してもらえるようなレビューが出来るよう、精進を重ねていきたいですね。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 
 ★連載終了に関する情報

 「週刊少年サンデー」次号(34号)で、『美鳥の日々』作画:井上和郎)、『かってに改蔵』作画:久米田康治)の2作品が最終回となります。2作品の長編連載作品が同時に最終回というのも異例ですね。

 ……駒木が各方面、ソースの明かせないような所も含めて聞いた話を総合すると(だから以下は話半分で聞いて下さい)『美鳥の日々』はアニメ終了まで完結のタイミングを引き伸ばした上での円満終了だとか。それが本当だとすると以前の『ARMS』等と同じパターンですね。
 一方、『かってに改蔵』は作家さんの望まない形での終了だ…なんて聞いてます。まぁ、この作品はそうでもなきゃ延々と続くような作品ですから円満終了なんて有り得ないんですが、最近でも安定したクオリティを維持していただけに残念と言うしか。
 まぁ今の編集長さんは、編集長に就任するや否や『旋風の橘』を立ち上げて猛プッシュして引っ込みがつかなくなり『きみのカケラ』を作家招聘から自ら担当してまた引っ込みがつかなくなり『怪奇千万! 十五郎』にゴーサインを出したけどさすがに今度はすぐに引っ込めて(笑)で、今は「こういうのがギャグマンガってもんなんだよ」と『ミノル小林』をプロデュースしてるような人…と聞いてますから、こういう編集方針になっちゃうのも致し方無いでしょう(苦笑)。というか、それが本当だとしたら、よくまだ編集長やれてるなぁって話ですが。
 で、この2作品と入れ替わりになる新連載についても本当なんだか嘘なんだか判らない話は聞いてますが、この辺はデリケートな話題なので今週は触れないでおきます。巻末の次号予告に告知が載ってからということで。

 
 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…なし
 ※『機動球児前田 〜めぐり会い稲木〜』は後編掲載の次号にまとめてレビューします。

「週刊少年ジャンプ」2004年32号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 まず、「テニプリマンガテクニックスクール」は……えーと、物凄く毒吐きそうなのでノーコメントという事で(笑)。
 ちなみに、主人公の凄さを表現する方法を学びたかったら、『ブル田さん』(作:高橋三千綱/画:きくち正太)の1巻を古本屋で探して読むとか、山田芳裕さんの作品を読み漁るとかするのが一番手っ取り早いと思います。小細工ナシで主人公の凄さを表現するバイブルです。
 ……もっとも、そこから影響受けまくると異様に濃いぃ作風になっちまうと思いますが(笑)。

 さて、連載作品に関してのお話をいくつか。
 まずは久々に『DEATH NOTE』。先週発売の単行本2巻は、何と『テニスの王子様』最新刊を上回るセールスだったようで。もう雑誌内番付は“大関”格と見て良いんでしょうね。いやー、凄い所に金の卵が埋まってたもんです。
 で、内容はまたしても今週で急展開。最後のコマのライトの凶悪フェイスなんかは「さすが」だと思うんですが、ただ、やっぱりミサとの“危険な遣り取り”でもうちょっと引っ張って欲しかったなぁ…という印象の方が強いですね。終わり方が凄い唐突に感じました。
 前々から気になってたんですが、どうもこの作品、1つ1つのエピソードを贅沢に消化し過ぎのような気がするんですよね。今まさに最高潮まで盛り上がろうとしている時に、話を急展開させて次のエピソードへ移行させてしまっているように思えて仕方ないです。
 現時点でも水準以上の出来にある事は確かなんですが、更に良くなる余地が膨大に残されているだけに、今は「勿体無いなぁ」という印象の方が強いです。これで読み手の心の方がヒリヒリするような心理的駆け引き作品の前面に出て来れば、恐ろしいまでの名作になると思うんですが……。

 作品変わって今週の『銀魂』、こんな下品な題材で平然と人情噺が描ける空知さんのすっかりベクトルを間違えた才能の発露に感激しました(笑)。ギャグも冴えまくってますし、もうすっかり「ジャンプ」の中堅に定着した感じですね。
 そう言えばこの作品も単行本の売上げが話題を呼びましたね。1巻の初版が打ち切り作品並だったために超品薄になり、重版に重版が重ねられて最終的には39万部まで行ったとか。2巻は普通の本屋でも平積みになってましたし、そりゃ空知さんも担当さんと金の話ばかりして薄汚くなるって話ですよ(笑)。印税だけで数千万円となると、そろそろ来年の税金の対策も考えておかないと大変ですしねぇ。住民税とかどのくらいになるんだろ。考えるだけで恐ろしいですな。

 最後に『武装錬金』今週もストロベリー全開で心響きまくりの展開でした。ただ、せっかくの見せ場なんだから、もう少しあざとい位の演出で魅せてもバチ当たらないんじゃないかと思うんですけどね。嗚呼、これで演出だけ『BLEACH』並だったら…なんて、気ィ悪い事を考えてしまう今日この頃です(^^;;)。

「週刊少年サンデー」2004年32・33合併号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「子供時代に流行ったギャグは?」。
 ……これに似た質問が以前あったような記憶があるんですが、気のせいだったかな?
 しかし回答見てますと、ドリフ関連のギャグが多いですね。しかも世代を幅広く網羅しているのがナニゲに凄いですよね。ドリフが長年第一線で活躍していた事の証でしょう。
 そういう駒木も、子供時代のギャグで思い出すのはドリフとひょうきん族関連ばっかりなんですよね。

 ……あーそうだ、ギャグじゃないけど「アミダババァ」の最終回は子供心でも非常に感銘を受けたのを覚えてます。
 確かアミダババァが重い病気で入院中の男の子から「大好きなアミダババァがタケチャンマンに勝つ所を見たい」…という手紙を受け取るという話でした。アミダババァはその気持ちに応えたいんだけど、劇中の世界では悪役がタケチャンマンに勝ってしまうと、その悪役は存在意義を無くし、二度と表舞台には登場出来なくなる。つまりこの世から消えてしまうわけです。当然の事ながらアミダババァは悩みに悩みますが、それでも最後には自分の身を犠牲にする事を決意してタケチャンマンに勝ち、最後は独り寂しく消えてゆく……という内容だったはずです。
 今から考えると、どうして「ひょうきん族」でそんなシリアスなシナリオを立てたのか不思議でならないんですが、それをさて置いても、悪役の存在意義がテーマってのは非常に“深い”ですよね。あと、駒木は普段は「全員集合」派だったのに、何故かこの回だけ「ひょうきん族」観てたんですよ。だから余計に強く印象付けられてるんですよね。

 ──とまぁ、それはさておき連載作品について。

 最近すっかり正統派柔道マンガになりつつある『いでじゅう!』ですが、実際問題この路線って皆さん的にはO.K.なんでしょうか? 
 確かに力量のある作家さんですから、ギャグ抜きでもキチンと形にはなっているわけなんですが、でも果たしてそれがモリさんの持ち味をフルに活かしている事になるのかなぁ…などと素朴な疑問を抱いてしまうのですが。
 この辺は、個人個人の嗜好と価値観によって大きく見解が異なるはずなので結論付けは出来ないんですが、う〜ん……。

 しかしそれにしても、ここ最近の『こわしや我聞』は、すっかり國生さんのマンガになっちゃいましたなぁ(笑)。もう解体とか本業とかはどうでも良くて、とにかく國生さんが動いてたらそれでヨシ、という開き直りもいいとこな流れになりつつ。
 ……まぁ、「サンデー」のメイン読者層を考えると、それが確かに正解なんでしょう。國生さんがストライクゾーン真ん中高目な「サンデー」男子読者っていかにも多そうですし(偏見?)。 
 ちなみに駒木の場合、國生さんは“絶好球”過ぎて思わず見送ってしまう感じです(笑)。

 最後に一部で青島優子サゲマン説が噴出しつつある『モンキーターン』ですが、やっぱり生々しい恋愛してますキノコ頭カップル! つーか、あの感じから行くと、発覚してない“前科”が絶対あるぞあの2人は。「ペラ小屋で何やってるんだ!」「ナニやってました」的な経験があるんじゃないだろうか……と思わず邪推全開ですよ。
 邪推と言えば、波多野×澄とか洞口×青島とかは、どこまで進んでたんでしょうねぇ。……あーいや、何か中学生みたいな発想で、我ながら言った側から非常に恥ずかしいんですが(笑)。

 ──というわけで、今週はここまで。なんか物凄く恥ずかしい締めですが、全く気にしない方針で来週以降も邁進していきますので、どうか何卒。

 


 

2004年度第28回講義
7月2日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第5週〜7月第1週・合同)

 最近、勤務先の試験問題作成の締め切りに追われて、微妙にマンガ家気分の駒木ハヤトです。
 この試験の問題というヤツ、アイディアまとめて、ラフ原稿書いて、清書して、微調整して…と、制作行程がマンガと似てて面倒な事この上無いんですよねぇ。しかもその後の採点がまた……。
 そんな試験問題作成以上に煩雑でプレッシャーのかかる作業を毎週休まず続けている(あ、例外もいるか)週刊連載マンガ家の皆さんってのは、やっぱり凄いですなぁ。いつもレビューでは偉そうな事言ってますが、そういう部分でのリスペクトは失っちゃいかんなぁと常々思っております。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(32号)から、『機動球児山田 〜めぐりあい稲木〜』作画:ポンセ前田)が(恐らくは)前・後編形式の読み切りとして掲載されます。
 作者のポンセ前田さんは、これが「週刊少年ジャンプ」系雑誌初登場で、Googleで検索しても全く情報が拾えなかった謎の人物。次号予告に掲載されたカットはデビューのド新人には思えませんし、ペンネームや作品タイトルから微妙な“年食ってます感”を窺わせてくれます。
 これらの事を考えると、どうやら既にデビュー済みの作家さんがペンネームを変えて登場したのではないかと思えるのですが、果たして真相はどうなのでしょうか? 
 ※受講生の皆さんからの情報をお待ちしております。

 
 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:代原読み切り1本
 「サンデー」:読み切り1本&代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年31号☆

 ◎代原読み切り『星十二学暴』作画:大石浩二

 作者略歴
 新人賞受賞等のキャリアが無いまま、週刊本誌04年24号に代原で暫定デビュー。その後、26号にも代原掲載を果たしている。
 今回は巻末の作者コメントによると「昔描いた作品」との事で、暫定デビュー以前に描かれた習作原稿だと思われる。

 についての所見
 
デビュー以前の作品という事で仕方ないのですが、前作までと同様に、ギャグマンガとしてなら人物作画はギリギリ許容範囲なものの、背景処理・特殊効果は明らかに落第点クラスになっています。特に集中線の引き方が粗く、まさに習作原稿ならでは…といった感じになっていますね。

 ギャグについての所見
 まず、“間”で笑わせるギャグのセンスは良いですね。これはデビュー作の時にも光っていたポイントですので、このまま伸ばしていって欲しいポイントです。
 ただし後は厳しい評価をしなければならない面も目立ちます。ギャグの密度を上げようというアグレッシブな気持ちは窺えるのですが、ギャグとギャグの繋ぎが強引過ぎて素直に読み進め難くなっていますし、ボケそのものも同じ1つのネタで長く引っ張り過ぎてやや冗長かな、という感もあります。ツッコミも所々では上手に出来ている部分があるのですが、残念ながら、安定感という意味で言えば今一つですね。
 良い所は確かにあるのですから、その良い所だけで全ページを構成出来るように精進して欲しいと思います。ちょっとの良い所すらまるで無い凡百の代原作家さんたちよりは随分と先に行っているのは間違いないのですから。 

 今回の評価
 前作(正確にいえば次々回作?)同様B寄りB−ぐらいが妥当かなと思います。短い間隔で代原がこれで都合3作掲載され、評価はいずれもB−程度。現状の実力はこのあたりと判断して良いのでしょうね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週は、日頃から駒木が好意的に見ている作品が、それぞれ本来の持ち味を出し切った絶好調の回で、個人的に非常にご満悦といったところでした(笑)。

 まずは『アイシールド21』今回のような前フリ的エピソードが非常に印象的な仕上がりになっている辺り、作品的に“旬”なんだろうなぁと思ったり思わなかったり
 ……それにしても各校のマネージャー可愛いですねぇ(そっちから攻めるか)。何か、どの学校の娘に萌えるかで人生の勝ち負けまで決められそうで怖いんですが(笑)、駒木はやっぱり柱谷ディアーズの娘さんがイチオシということで。ええ、堂々と負け組人生選びますよワタクシは
 と、それはそれで置いといて、作品の内容的なポイントと言えばやはり、桜庭の変身、セリフのセンスが異様にカッコ良過ぎる大会委員長、そして最後の見開きページで否応なしに見せ付けられる泥門デビルバッツの戦力不足…といったところでしょう。こういう演出力が一般的な人気に繋がれば良いんですけどね。

 で、次に先週“セキュリティホール”をいくつも指摘した『武装錬金』ですが、今週の1回だけでその“セキュリティホール”のほとんどが解消される、「恐るべし和月」的展開に驚愕やっぱりカズキと斗貴子さんはストロベリってナンボですよ。主人公とメインヒロインはこうでないと、話が上手く回ってゆきません。
 ただ、お願いなので今後は心配させる間もなく「さすが和月」と思わせる展開にしてもらいたいところ。作家の試行錯誤にファンと掲載順を巻き込むのは精神的に堪えるので勘弁してもらいたいです(笑)。
 あ、ちなみに単行本3巻買いました。ライナーノーツに以前ここで話題になったグロシーンのモザイク処理についてのコメントがあり、あれは「ジャンプ」の表現規制を意識して半ば自主的に為されたモノであると判明。ただ、このモザイク処理に関しては、2代目担当氏に「逆に生々しくないか?」と疑問を呈されたとか。思わず「じゃあどないせえっちゅうねん」と、作家に成り代わってツッコミを入れたくなりました(苦笑)。この辺が作家とサラリーマンの違いなんでしょうなぁ。

 『いちご100%』は、さつきの最終ターン&戦線離脱の回。いよいよ最終回を念頭に入れてるのかなぁ…と思ったりもするんですが、今期新連載や掲載順の低迷している『ゲドー』を残してまでしてこの作品を切るのか? と考えると、それはかなり微妙な気が。
 それにしても思うのは、前期打ち切りサバイバルレースのレヴェルの高さといったら『スピンちゃん』なんか、今期新連載だったら悠々セーフだったんでしょうね。

 ……う〜ん、何だか最近採り上げる作品が固定化されてるなぁ。でも、新連載が個人的に不振気味で、看板作品がヤマ場手前で、それでもってダメな作品が相変わらずダメだと、どうしてもこうなっちゃうんですよね。今更『MAJOR』の夢島編やられても…みたいなね(笑)

 「週刊少年サンデー」2004年31号☆

 ◎読み切り『ミッションX』作画:我妻利光

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 
77年10月17日生まれの現在26歳
 これまでは増刊を活動の場にしており、今回が週刊本誌初登場。確認出来る限りでは「月刊サンデー超増刊」02年1月号、02年1月号、03年6月号、そして昨年秋のルーキー増刊に作品を発表している。

 についての所見
 やはりまず気になるのが、人物作画が余りにも稚拙な点。何と言うか、絵が人間の顔や体の形になってないんですよね。こういう絵柄は実際の実力以上に「この人、絵が下手だ」という印象を与えてしまって良くないです。個人的には尾田栄一郎さんや鳥山明さんの影響を受けたは良いが、基礎画力が無いまま失敗した…という印象があります。
 その他表現や特殊効果的な面については及第点でしょうか。動的表現なんかは上手い方だと思いますしね。ただ、微妙に遠近感がズレているように見えて違和感を感じる場面もあったような気もしますが……。

 
 ストーリー&設定についての所見
 ミもフタも無い表現ですが、「少年マンガの美味しい所の寄せ集め的作品」といったところですね。ただし、寄せ集めたそれぞれの設定やストーリーに説得力や必然性を持たせる努力を完全に怠っているために、全体的な完成度は非常に低い水準に留まってしまっています。
 キャラクター描写も同様で、「ああ、どっかの少年マンガで見た事あるな」という登場人物は沢山いるのですが、それぞれの人間描写が完全に不足しています。そうなると当然キャラクターに対する感情移入が出来ず、ヤマ場で彼らが魂の叫びをしようが体を張ろうが、全然心に響いて来ないのです。

 こうなった原因は、厳しい言い方をすると、我妻さんがマンガというモノの本質を見ず、上辺だけを見て創作活動をしているからではないでしょうか。
 「こういう作品が(読者受けしそうだから)描きたい」という気持ちもあって良いと思いますが、ならばそういった作品が何故読者の心を打つのかを徹底的に分析した上で創作活動に移らないと、いつまで経っても中身の無い上っ面だけの作品しか描けないと思います。
 
 今回の評価
 絵、ストーリー共に問題山積で、C寄りB−が精一杯のところ。週刊本誌登場は時期尚早だったとしか言いようが無いです。

  ◎代原(あだち充氏休載による)読み切り『ハルマキ』作画:瀬尾結貴

 作者略歴
 03年11月期「サンデーまんがカレッジ」で佳作受賞したばかりのルーキー受賞時23歳
 「まんカレ」受賞作がネット公開された実績はあるものの、今回が実質的な(暫定)デビュー作。

 についての所見
 
新人作家さんのギャグ作品という事を考えると、悪くは無いレヴェルにあるとは思います。可愛い女の子の絵が描けるので、ディフォルメした時の落差も映えていますしね。
 ただ、画材の選択が良くないのか、ロングレンジ視点からの絵になった場合、線が不自然に太くて不安定な絵に見えてしまうのが勿体無いところですね。ディティールの描きこみも甘いように思えますし、このあたりが次回作以降の課題でしょう。

 ギャグについての所見
 全体的なギャグのノリは『ボボボーボ・ボーボボ』に似てますね。ビジュアルのインパクトで勝負するネタを次々に繰り出して、それに逐一ツッコミを入れていく…というスタイル。これは瀬尾さんが意識してるか、無意識のままなのかは判りませんが、『ボーボボ』から受けた影響は強そうですね。
 ただ、本家『ボーボボ』に比べると、ボケ(というかハジケ?)のインパクト・違和感が弱く、そのためにツッコミが勝ち過ぎてしまっているように思えます。また、そのツッコミもボケを活かすというより一刀両断してギャグの流れを堰き止めてしまうようなツッコミですので(『ボーボボ』の場合は、そうしないと収拾がつかないくらいにボケが強いわけですが)「今一つのボケと、頑張りすぎのツッコミ」という、売れない若手芸人のコントみたいな図式に陥ってしまっています。
 この路線で活路を見出すとすれば、とにかくビジュアルのインパクトで笑いを奪えるセンスを磨くしかないですね。あとはセリフ回しで獲る笑いや、“間”で獲る笑いを研究して、展開に緩急を持たせる事が大事なんじゃないでしょうか。

 今回の評価
 現状はC寄りB−が精一杯かな、というところです。一生懸命さは伝わって来るだけに、何とかしてあげたいとの思いもあるのですが、一読者に「何とかしてあげたい」と思わせてしまうような状態は、やはり良くないですよね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「好きだった給食のメニューは?」。
 ……ジェネレーションギャップと地域性が見てとれる面白い質問だと思います。で、コメントを集計してみると、揚げパンが5票でトップ。駒木が小学生時代の神戸市では、揚げパンが出た事はほとんど無いと記憶してるのですが、確かにあれはテレビや写真越しに見ても美味そうでした。
 次点は定番のカレーで4票。駒木の時はカレーシチューとご飯が別々に出て来るタイプのメニューだったのですが、これがカレーの容器にご飯をぶち込むか、ご飯の皿にカレーをぶっ掛けるかでクラスメートとマジメに論議していた覚えがあります。男子小学生ってヒマですなあ(笑)。
 そんな駒木のマイフェイバリット給食献立は、「鯨肉のノルウェー風」。鯨肉の唐揚げをジャガイモ、人参と一緒にトマトソースで煮込んだ料理で、これが子供の舌には大層美味かった。今では絶対に食べられない食材だけに、余計に懐かしいですね。

  さて、本誌の内容ですが、今週はやはり『MAJOR』アニメ化決定記念・満田拓也×伊集院光対談が見ものでしたね。……あ、念のため言っておきますが、“×”印は攻・受の記号じゃありませんよ。想像すると物凄い構図になっちゃいますんで、それは禁止と(笑)。
 しかし、心底凄ぇと思ったのが、10年もの連載期間で、ほとんどのアイディア・ストーリーが取って出し状態の自転車操業だったという事ですね。「あんまり計算したものはバレちゃうんですよ」とのことですが、普通は「良い話だったらバレてもいいや」とか思いますよねぇ。
 そういうわけで、今週いきなりサンダースが引退宣言しちゃったのも、ここ1〜2週間で考えたものみたいです(笑)。そりゃ先が読めないって言うか、先が読めなきゃ何しても良いのかよって言うか(笑)。……まぁとにかく頑張って頂きたいと思います。

 『結界師』は色々な伏線を張りつつ、主人公に大目標が出来て…という回。読み切り・短編用の設定から連載用の設定に上手にシフトチェンジ出来て来てますね。
 読み切りからの昇格作品は、こういう感じで軌道に乗るまでが大変なんですが、これでひとまずは安定路線という事でしょう。『こわしや我聞』もまだ不安定ですが、シフトチェンジしつつあるかな…といったところでしょうか。『暗号名はBF』は……ちょっと見解が分かれそうですね(^^;;)。
 しかし、これが「ジャンプ」のマンガなら何作品が生き残ってたのかと考えると、作家さんとファンは冷や汗モノでしょうね。

 で、センターカラーで競艇シーン殆ど無しという思い切った構成『モンキーターン』は、お約束の御邪魔虫が入るというベタな展開に(笑)。しかし、この二重恋愛は結構心身ともに堪えそうですなあ。やっぱり少し羨ましいけど(笑)。

 ……というわけで、今週はこれまで。来週はまだ大丈夫ですが、ボチボチ採用試験の方もあるので、どうか何卒。


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