「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・11)

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講義一覧

12/24(第76回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(12月第4週分・合同)
12/17(第74回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (12月第3週分・合同)
12/10(第72回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (12月第2週分・合同)
12/3(第70回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (11月第5週/12月第1週分・合同)
11/26(第68回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (11月第4週分・合同)
11/21(第67回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (11月第3週分・後半)
11/18(第65回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (11月第3週分・前半)
11/12(第63回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (11月第2週分・合同)
11/5(第62回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (10月第6週/11月第1週分・合同)
10/28(第59回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (10月第5週分・合同)
10/22(第57回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(10月第4週分・合同)
10/15(第55回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (10月第3週分・合同)
10/8(第54回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (10月2週分・合同)
10/1(第52回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (9月第5週/10月第1週分・合同)

 

2004年度第76回講義
12月24日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(12月第4週分・合同)

 今日はよりによってクリスマス・イヴでありますが、ふと気になってこの3年ばかりの12月24日に駒木が何をしていたかを「観察日誌・レポート」で振り返ってみたところ……。

   _| ̄|○     


 ……えーと、リンク張る気力も無いので勝手に確かめて下さい。余りの無味乾燥ぶりに、ただただ脱力します。
 個人的に一番参ったのは01年でした。何を考えて、あんな所に行ったんだろうなぁ俺ぁ。

 まぁそんなこんなで、非常に冴えないまま20代最後のクリスマス・イヴを淡々とスルーした駒木がお送りする、恐らく今年最終になるであろう「現代マンガ時評」です。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(5・6合併号)『スベルヲイトワズ』作画:森田まさのり)が掲載されます。
 森田さんは、『ろくでなしBLUES』、『ROOKIES』といった2本の超長期連載作品でお馴染のベテラン作家さん。今回はここ最近「ジャンプ」系列他誌で手がけている、お笑いに青春を捧げる若者を描いたお話になりそうですね。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(6号)より『最強! 都立あおい坂高校野球部』作画:田中モトユキ)が新連載となります。
 中卒ルーキーを題材にしたプロ野球マンガ・『鳳ボンバー』で無念の打ち切りを経験した田中モトユキさんが、今度は高校野球モノで再挑戦という事になりました。
 田中さんは、『鳳──』の前には正統派バレーボールマンガである『リベロ革命!!』も手がけており、硬・軟どちらにも対応出来る作家さん。今回はどのようなタッチの作品になるのでしょうか。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年新年3・4合併号☆

 ◎読み切り『MP0』作画:叶恭弘

 作者略歴
 1970年12月16日生まれの34歳
 「ジャンプ」作家になる以前のキャリアの存在も噂されているが、詳細は不明。
 「ジャンプ」系作家としてのキャリアは、「ホップ☆ステップ賞」(=「十二傑新人漫画賞」の前身の前身)92年1月期において、『BLACK CITY』で入選を受賞この作品が季刊増刊92年秋号に掲載されて「ジャンプ」デビュー
 その後は週刊本誌93年12号で本誌デビューを果たし、更に94年から1年〜2年に1度のペースで季刊増刊、週刊本誌に作品を発表(ちなみに週刊本誌には94年49号と00年25号の2回掲載。後者の方は原作者付作品)その傍らで小説本の挿絵も担当するなど、寡作ながら幅広い活動を続ける。
 02年24号からは、「ジャンプ」初の連載(叶さん自身が「10年ぶりの連載」と発言)となる『プリティフェイス』の週刊連載が開始。この作品は03年28号まで約1年間続き、「赤マル」03年夏号では、この作品の事実上の完結編となる『プリティフェイス番外編』を発表。
 復帰作は「赤マル」04年冬(新年)に掲載された『Snow in the Dark』で、同年夏号には『しーもんきー』を発表。さらに今年は「ストーリーキング」ネーム部門受賞作・二戸原太輔さん原作の『桐野佐亜子と仲間たち』のマンガ担当も務めた(04年19号〜20号掲載) 
 
 についての所見
 
小畑健さんと並ぶ「ジャンプ」系作家トップクラスの卓抜した画力を、今回も遺憾なく見せ付けてくれました。ただ単に絵が上手いだけでなく、ディフォルメなどのマンガ的な技巧も優れているのが叶さんの描く絵の特徴ですね。
 まぁそういうわけで、余りにも凄いので、他に何も口を挟む事が出来ません(笑)。

 ストーリー・設定についての所見
 “マジカルミステリー”などという銘が打たれ、一体どういう作品かと思って身構えていましたら、『プリティフェイス』『魔法先生ネギま!』をミックスしたような世界観の軽いノリのコメディ作品でしたね。とりあえず「どこがミステリーやねん」と担当編集を吊るし上げたい気分ですが(笑)。
 まぁそういうわけで、プロット・シナリオについては著しく重厚さに欠けており、当ゼミの評価基準としては減点を免れません。が、それでも完成度の高い設定や非常に手堅くまとめられたストーリー展開はクオリティを相当押し上げており、なかなか侮れない作品であるとも言えます。
 また、読み切り作品としてキチンと成立させているだけでなく、連載化にも耐え得るほど完成された世界観を構築出来ているのも好感が持てますね。これでキャラクターを何人か追加すれば、今回を第1回として次号からでも連載開始出来そうな感じです。

 先述した通り、余りにもノリが軽過ぎるがために決して「名作」には成り得ない作品ではありますが、雑誌の中堅どころで雑誌本来の読者層である若年男子層をガッチリ掴む「人気作」になるだけのポテンシャルは十分に秘めた作品です。

 今回の評価
 典型的な「名作崩れの人気作」ですが、その中でも特に優れたクオリティを誇る作品ということで、評価はA−寄りB+まで欲張りたいと思います。
 それにしても『プリティフェイス』以来、叶さんは完全に商業作家として一皮剥けた感がありますね。あとは週刊連載を維持するのにギリギリの遅筆だけがネックなのですが、これも『武装錬金』方式で、6〜8週につき1週の取材休みを置けば難儀な話にはならないと思うのですけどね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 巻頭カラーはアニメ化が決定した『アイシールド21』。読み切り版の段階から異例に次ぐ異例の経緯を辿って来たこの作品も、遂に来るべき所まで来た…といったところでしょうか。1人のアメフトファンとしては、これを機にアメフトが日本でもメジャースポーツへの道を歩んでくれれば…と思います。
 さて、内容についてですが、チアリーダーの応援風景などディティール描写でリアリティを維持しながら、肝心な部分ではギャグを交えながら許容範囲一杯までトンデモな描写をやらかすという反則スレスレの“ラフプレー”。相変わらず稲垣さんのストーリーテリングにおける策士振りが光ってますね。この、オービスに引っかかる寸前までスピード違反して高速道路を走り抜けるような手法は手放しで誉められない部分もあるのですが、稲垣さんの場合はこれを確信犯でやっているので何も言えなくなってしまうんですよね。
 しかし、村田さんの絵もどんどん上手くなってますね。特に連載当初は酷かったカラーページの作画が目に見えて良くなっているのは特筆モノです。

 さて、最近またちょっとクオリティに不満を感じているのが『武装錬金』です。確かに随所に施された小ネタは効かされており、脚本も一定以上の水準にはあると思うんですが、敵サイドのキャラクターの掘り下げが……。
 和月さんは『るろうに剣心』の頃から、ヤラれる事を前提に作られた敵キャラについては、そのキャラの内面を掘り下げるのを怠りがちな悪癖があるのですが、この度もそれがモロに出ているような感じですね。『BLEACH』みたいに色々なキャラを掘り下げすぎるのもストーリーのテンポの上で問題だとは思うのですが(アレは久保さんのずば抜けた演出力があるからギリギリセーフなのです)、もうちょっと“噛ませ犬”を大事に扱ってあげてもバチは当たらんかなぁと、そう思うんですけどね。

 あともう1つ悪い意味で気になった作品は『未確認生物ゲドー』今週から「ジャンプ」定番のバトル物に突入していったわけですが、この手際の悪さというか、流れの不自然さといったら……。「フェニックスを引き渡す」のと「闘技場で戦う」というのが等価値で結ばれてしまうのがどう考えても納得出来ないです。まぁ納得しなくて良いんでしょうが。
 しかし、これで次号で『グラップラー刃牙』の最強トーナメントみたいな「全選手入場!」があったら、これはこれで不満を通り越して爆笑モンなんですが。とか天狗とか細木数子とか32種類の未確認生物がワラワラと登場……なんて面白いと思うんですがどうでしょう。

 最後に全くどうでもいい話ですが、『DEATH NOTE』の竜崎がバナナを食っている時の顔、何か『ムヒョとロージー──』のムヒョの超リアル版みたいに見えませんか?
 ……まぁ本当に心底どうでもいい話なんですが。

☆「週刊少年サンデー」2005年新年4・5合併号☆

 ◎読み切り『石澤の慎さん』作画:都築信也

 ●作者略歴
 生年非公開の4月28日生まれ。
 「サンデーまんがカレッジ」(年度・月期調査中)で努力賞、00年前期「小学館新人コミック大賞」少年部門佳作を受賞し“新人予備軍”入り。
 しかしデビューはそれから約3年ほど後。増刊号の03年2月号に掲載された『楽園争奪戦!!!』がデビュー作で、これ以後、増刊の03年5月号、6月号、04年夏号に読み切りを発表し、03年11月号〜04年2月号には短期連載も経験するなど精力的な活動を続けている。
 今回が週刊本誌初登場。

 についての所見
 線が細めな割には描写が緻密さに欠け、有り体に言ってチープさが否めない画風ではありますが、基本的な表現技法については不満はありません。積極的に評価するのは難しいですが、及第程度の水準にはあるでしょう。
 ちょっと気になるのは、人物作画において顔面のアップと正面からのアングルを多用し過ぎている点。これに人物ごとの老若男女美醜の差が大きくないこの作品の“仕様”も含めると、画面のメリハリの面でやや不満が残る結果になってしまいました。

 ストーリー&設定についての所見
 コンセプトとしては現代版・亜流の『遠山の金さん』といったところでしょうか。シナリオは全体的にB級民放テレビドラマ的なヌルさを感じさせるもののマズマズ上手くまとめられていますし、ルーレットのイカサマの手口や“裏カジノでイカサマを逆手に取って大勝→開き直って換金拒否”…といった辺りの持っていき方などはヒネりが利いていて良かったです。
 ただし、そのシナリオを効果的に見せるための演出・脚本、特にクライマックスシーンの盛り上げ方が非常に弱く、これが作品全体のクオリティをガクンと下げてしまっているように思えます。更には登場人物のキャラクターや行動に対する動機付けを描く事が随分と疎かになっており、そのために読み手が作品世界に没入出来きれず、また、登場人物にも感情移入し切れない結果に繋がってしまいました。
 あと素朴な疑問を抱いてしまうのは、コンセプトは『遠山の金さん』なのに、何故主人公が都知事なのか? ……という点ですね。コンセプトに合わせるのなら主人公は裁判官か検察官じゃないとおかしいのに、これは如何に。そのせいで、“桜のバッヂ”という設定が物凄く取って付けたモノになった感が……。
 まぁ「司法関係者が裏カジノに出入りしていたらおかしい」という事なんでしょうが、それなら弄るべきは設定ではなくプロット・シナリオだったんじゃないかなぁ…と思うんですけれども。

 今回の評価
 評価はギリギリでBとしておきましょう。ただ、インパクトという面ではかなり不満が残ります。連載獲得のためには、もっとアクの強い絵や設定で勝負するべきでしょう。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は実力派の作家さんたちが遺憾なく実力を発揮してくれました。

 まずは『結界師』。今回はインターミッション的な小エピソードだったのですが、高度な画力と演出力で余韻たっぷりの心温まるお話に仕上がりましたね。
 いちいち細かい所まで行き届いた猫の仕草の描写といい、最低限の回顧シーンとちょっとした表情の変化で黒須先生と黒猫・ノワールの固い絆を表現したりと、浅いキャリアを感じさせない渋いテクニックに唸らされました。こういうお話がサラッと描ける作家さんはやっぱり一流だと思うのですよ。

 ……しかし、インパクトという点では、今週の「サンデー」は『道士郎でござる』に全部持っていかれたような気がしないでも(笑)。
 まったく、長いネタ振りとページをまたいでの馬と侍登場って、これはギャグマンガのテクニックじゃないですか(笑)。ストーリー系作品が「サンデー」のギャグ作品を悠々と凌駕しちゃって良いんでしょうか?
 それにしても「すんげえ」と女子中学生に(心の中で、とはいえ)言わせるマンガって、それこそ凄い話ですよねぇ。

 あと『いでじゅう!』、告白シーンを年末合併号に持って来るってのもエラい話で……。普通なら最終回直前でやるような事ですが、一体これからこの作品はどうなっちゃうんでしょうね?
 まぁカップル成立したとしても、あの林田の性格を考えると、片想い時代と変わらないノリでお話が作れそうな気がするんですけどね。大体、恋愛において告白受諾ってのはゴールのように見えて、実はスタートに過ぎなかったりするわけですし。

 ……というわけで、今週はこれまで。『D-LIVE』の“大統領亡命編”は、“鉄ちゃん運転士奮闘編”に変更すべきだと提言して、ゼミを終わります。年明けは「赤マル」レビューと、「コミックアワード」関連の諸々に取り掛かります。では。

 


 

2004年度第74回講義
12月17日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(12月第3週分・合同)

 先週のこの時間でお願いした「コミックアワード」推薦の件、ご協力頂きまして誠に有難うございました。
 「あなたの今年度フェイバリット作品を推薦して下さい。しかし、駒木がそこから独自に審査して勝手に選抜させてもらいます」……などといった手前勝手この上ない話に、果たして乗ってくれる方がいらっしゃるのだろうか──? と心配していたのですが、それでも1週間弱の短い期間の中で何とか企画として成立する数の推薦をお預かり出来ました。
 当然の事ながら票は割れ気味で、十人十色の価値観が色濃く反映されたものとなりましたが、その中で1つだけ集中した票を獲得したのが『おおきく振りかぶって』(作画:ひぐちアサ/「月刊アフタヌーン」連載中)でした。折からの多忙で実際に読むのはこれからになりますが、何しろそれぞれに一家言ある当講座の受講生さんから一極集中の人気を集めた作品です。過度にならない程に大いなる期待を持って審査に当たりたいと思います。
 なお、この他に“優先審査要件”の2票を獲得した『シグルイ』(作:南條範夫/画:山口貴由/「チャンピオンRED」連載中)、また他に1票の推薦を頂いた作品で未読の作品についても、時間の許す限り何らかの手段で単行本を読了し、審査に当たる所存です。2度の東京旅行やコミケ準備で恐らく今年度の「コミックアワード」の開催は年明け早々にズレこみそうなのですが、どうぞそれまでお楽しみに。
 ……それにしても、“読者投票”の上位2作品が載ってるのが「アフタヌーン」と「チャンピオンRED」ってのが凄いですね(笑)。皆さん、「コミックアワード」の何たるかをよく分かってらっしゃいます。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(新年3・4合併号)『MP0』作画:叶恭弘)が掲載されます。
 叶さんは、「ジャンプ」読者さんの間では『プリティフェイス』で御馴染であろう、中堅からベテランに足を踏み入れようというキャリアの“10年選手”。自他共に認める寡作で、連載終了後は「赤マル」に発表した読み切り2作と原作付作品の作画担当を1作品のみという限定的な活動を続けています。
 今回は久々の単独名義による週刊本誌登場となりますが、予告を見る限りでは“マジカルミステリー”という、『プリティフェイス』以前の作風に近いお話になるような感じですね。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(新年4・5合併号)に読み切り『石澤の慎さん』作画:都築信也)が掲載されます。
 都築さんは03年から増刊で精力的な読み切り・短期連載作品の発表を続けて来た若手作家さん。今回が初の週刊本誌登場となります。

 ★新人賞の結果に関する情報

第19回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年10月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=2編
 ・『征次郎の道』十二傑賞=週刊本誌or増刊に掲載決定)
  長友圭史(23歳・神奈川)
 《講評:様々な要素を上手くまとめている。主人公を中心にした話で、脇役も共に作中で成長できているのが好もしい。絵は読みやすいが、表情が固い面も》
 ・『SMILE SEVEN』
  矢萩隼人(23歳・北海道)
 《講評:とにかくキャラが立っているのが良い。エンターテインメント志向が強いのも好感が持てる。ただし戦闘のロジックにはもっと意外性が欲しい。画力はまだ努力が必要な水準》
 最終候補(選外佳作)=8編

  ・『HERO DELIVERY』(=審査員特別賞)
   中村歩(19歳・北海道)
  ・『ダ・ヴィンチング』
   太宇諭みや夫(18歳・岩手)
  ・『骨喰み』
   森田将文(24歳・東京)
  ・『サーブのかなめ』
   辰巳佳子(22歳・北海道)
  ・『うぇいくあっぷ』
   畑中純(21歳・三重)
  ・『SKY JACK』
   秋葉絵美(22歳・東京)
  ・『ブレイクスルー』
   森貴史(22歳・東京)
  ・『パンドラ』
   丹治愁(20歳・宮城)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎佳作&十二傑賞の長友圭史さん…00年11月期「天下一漫画賞」で最終候補。
 ◎最終候補の森田将文さん
03年下期「ストーリーキング」マンガ部門で最終候補01年11月期、02年1月期、02年7月期、03年1月期の「天下一」で計4回最終候補。
 ◎最終候補の秋葉絵美さん…04年6月期「十二傑」に投稿歴あり。

 今回の受賞者一覧には、これが5回目の最終候補となる森田将文さんの名前が。ちょうど当講座が開講された頃に1回目の最終候補リスト掲載があったわけで、もう丸3年の“新人予備軍”生活になっているわけですね。
 しかし、その3年間に月例賞を受賞した人の中には今週号で表紙を飾った空知英秋さんもいて、何だか弟弟子に真打出世で席次を抜かされていく、師匠に嫌われた落語家みたいな悲哀が滲み出てますが、来年こそは良い年にしてもらいたいものですね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本/読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年新年2号☆

 ◎新連載第3回『ムヒョとロージーの魔法律相談所』作画:西義之

 についての所見(第1回時点からの推移)
 既に2度の読み切り掲載時と、新連載第1回の時に述べるべき事は全て話しましたので、今回は特に申し上げる事はありませんね。
 好感度の高い(=万人受け、ライト読者層向けのする)絵柄ではありませんが、マンガの記号としての表現や各種特殊効果などには問題は無く、むしろ世界観と合致した絵柄でもあり、「個性的」という言葉でポジティブな評価を与えるべきなのかも知れません。

 ストーリー・設定についての所見(第1回時点からの推移)
 早くも第3回にして、これまでの一話完結型フォーマットを破棄。第1回の時点で多く残されていた設定を後付けする“糊しろ”を上手く活用して、ごく自然な形で新展開へ移行する事に成功しています。
 週刊連載の限られたページ数では、これまでの路線が行き詰まるのが時間の問題だと言う事は自明の理とはいえ、それでもこんな早めに路線変更を敢行出来る“危機管理能力”の高さには唸らされます。勿論、作品のクオリティを決定するのはこの後にどれだけのストーリーを紡ぎ出せるかという点に掛かって来ますが、弱含みのファクターを一掃してしまったこの英断には高い評価を献じたい所です。

 今後の課題としては“上級編”のモノとなりますが、慣れて来ると地味に感じてしまうバトルシーンのアレンジ、過剰にならない程度の新キャラクター補強(敵役だけでなく味方側にも)、読み手に主人公・ムヒョを感情移入させるだけの要素の追加など。これらの要素に重厚なシナリオが加われば、マンガ通を心から唸らせる傑作になるんじゃないかと期待しています。
 少なくとも、現時点でもこの作品は、巷に転がっている凡庸な作品とは一線を画したクオリティの作品だと思います。今後、尻すぼみにならない事だけを祈りつつ、連載の行く末を追いかけて行きたいですね。 

 現時点の評価
 評価は今回A−寄りAに上方修正。今後の展開によっては変動の余地も残されていますが、現時点では大変有望な作品と言えるでしょう。
 なお、この作品からは、原則として連載が10回の区切りを越えるごとにチェックポイント欄で評価の見直しをする事にします。これは最近の連載作品が、第3回の後追いレビューをしてから間もなく大幅なテコ入れ・路線変更を行う事が多く、当ゼミの評価が現状と合わないケースが相次いでいるためです。まぁ物理的な事情もありますので、それほど詳しいレビューは出来ないと思いますが、それなりにご期待下さい(笑)。

 ◎読み切り『キノコ島の奇跡』作画:真波プー

 作者略歴
 1978年4月26日生まれの現在26歳
 01年上期「手塚賞」にて準入選に入賞。その受賞作『余韻嫋嫋』が「赤マル」01年夏号に掲載され、デビュー。
 その後は「ジャンプ」系作家としてはブランクを作り、独自の活動を続けるも、04年2月発売の「青マルジャンプ」に『ピアニカぼうや』を発表して復帰を果たした。今回はそれ以来の新作発表で、初の週刊本誌登場。
 
 についての所見
 
人物の造型や各種表現に少年マンガ黎明期(手塚治虫とそのフォロワーが台頭した時代)のそれを彷彿とさせるモノが使われており、得も言われぬレトロ感を醸し出していますね。これは作品の魅力の一つでもありますが、無意味に現在では違和感を感じるディフォルメ手法を使っているという部分ではマイナスにも働くでしょう。
 基礎的な画力についてはさほど欠点は感じられませんが、今回はやや線が洗練されておらず粗い印象がありました。また、それが白っぽい背景によって強調されてしまったようで、少々物足りないクオリティだったように思えました。

 ストーリー・設定についての所見
 今回も真波さん独特の作風──読み手にカタルシスを与えたり涙を誘ったりといった重厚なシナリオで勝負するのではなく、作品全体から漂う暖かな雰囲気で読み手を得も言われぬ幸福感に導く事で成功を狙う──がフル回転した個性豊かな作品となりました。この作品を読まれた受講生さんの中にも、爽やかな読後感にホンワカとさせられた方も多くいらっしゃるでしょう。

 ただ、今回のシナリオは、「足りない何かを満たす」というエンターテインメントの基本から余りにもかけ離れてしまったのではないでしょうか。シナリオの軸を「声が固まる」という、ある意味世の中的にはどうでもいい部分に置き過ぎ、読み手に「それでどうしたの?」…という疑問を差し挟む余地を与えてしまったように思えました。
 これがもし、「声が固まる」という事によって主人公やヒロインの人生が不幸から幸せに転じた…というようなシナリオになっていれば、お話から受ける印象も随分と違って来たでしょう。真波さんにはもう少し、「設定描く」のではなく、「設定描く」という事を考えて欲しいところです。

 ……もっとも、これが前作「ピアニカぼうや」のように、作品の体裁が子供向け絵本のような“マンガ以外”のモノであれば話は別なんですけどね。今回の場合はフォーマットが一般的なエンタメ系ストーリー作品のそれだと思えましたので、前作とは違った評価をさせて頂きました。

 現時点の評価
 評価は、「雑誌内の一作品としての鑑賞には耐え得る」ということでBとしておきます。それにしても毎回レビューに困らされる作家さんですね(苦笑)。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 『銀魂』は連載1周年巻頭カラー&ファン投票告知。この作品についての思いは冬コミ頒布予定の総集編にも詳しく書きましたが、それにしても連載当初の事を考えると、このアニバーサリーは感慨深いものがありますね。
 ……それにしても今回の話、巻末の方に掲載されてたら、どう考えても次回か次々回で最終回ですよね(笑)。

 さて、そんな巻末近辺をうろついている『いちご100%』は、期せずして東・南・西・北の大四喜成立という事態に。凄いですねえ。店によってはダブル役満扱いですよ。しかもこの新年を迎えようかと言う時期に季節感外れっぱなしの夏休みネタ。そんなに読者サービスしたいかと(笑)
 もう何と言うか、年末編集会議を前にしてなりふり構わぬカンフル剤投入といった趣ですが、もしこの状況下で打ち切りが決まったら一体どんな無残な最終回になっちゃうんでしょうか。やっぱり「俺たちの青春はまだ始まったばかりだ!」…みたいなノリなんでしょうかね。

☆「週刊少年サンデー」2005年新年2号☆

 ◎読み切り『伝説の帰宅部 Returner』作画:森尾正博

 ●作者略歴
 本格的なキャリアの開始は01年11月期の「サンデーまんがカレッジ」で佳作受賞から。ちなみに受賞当時26歳で、現在は29〜30歳。
 その後、雌伏期間を経て月刊増刊03年9月号でデビュー(?)。また、増刊では03年12月号から04年2月号(月刊としての最終号)までの僅か3回ながら、今作と同タイトルの作品を短期連載している。
 週刊本誌には04年21号に『地球防衛バッパパーマン』を発表しており、今回が2度目の掲載。

 についての所見
 巷では、「サンデー」では久々となる“乳首券”行使に盛り上がっているようですが、その資格を得るに値するだけの高度に洗練された絵柄であると言えるでしょう(笑)。
 リアル系でありながらディフォルメも上手く出来ていますし、動的表現や背景処理・特殊効果も問題なし。敢えて言えば人物の表情が固い(パターンが少ない)気もしますが、これも「改めて粗捜しをすれば」といった程度。今すぐ連載を始めても全く違和感無く誌面に溶け込めるでしょうね。

 ストーリー&設定についての所見
 「サンデー」系作家の大先輩である島本和彦さんを始め、新旧・雑誌・出版社問わず、何故かほぼ定期的に誌面を飾る“トンデモ系学園モノ”の作品ですね。そう言う意味では、この作品の設定は相当に手垢の付いたモノですなんですが、本来なら最も日陰の立場に置かれるはずの帰宅部男子を最強の存在にする…という逆転の発想が新機軸になっていて、既視感を弱める事に成功していますね。

 しかし、この作品はどうにも世界観の作り込みが甘いのが難点です。誤解を恐れず言えば、リアリティが余りにも欠如し過ぎているんですよね。
 勿論この作品は“トンデモ系学園モノ”ですから、普通の学園ドラマに求められるような日常的なリアリティは一切不要です。が、それにしても学園モノを謳っている以上は、最低限の学園モノとしてのリアリティを残しておかないと物凄く薄っぺらい絵空事になってしまいます。過去に成功した“トンデモ系学園モノ”作品を読んでもらったらお判りになると思いますが、この手のお話には、トンデモな中に矢鱈どうでも良い部分で“学園モノ“を意識させる生々しい設定──例えば昼の弁当とか親呼び出しとか──が用意されていたはずです。
 ところがこの作品の場合、「運動部VS帰宅部」という図式を成立させるのに気を配り過ぎて、“学園”を描く事を疎かにしてしまっています。その結果、この作品のストーリーは、どう考えても学校の体を成していない嘘臭い“学園”を舞台に、これまた嘘臭い“部活”バトルが展開されただけ…という文字通りの絵空事で終わってしまいました。これは、読み手に作品への感情移入を阻害する大きな要因となることでしょう。

 ──と、七面倒臭い嫌事をダラダラと述べて来ましたが、そういった欠点をカモフラージュするだけの構成と演出力に長けている作品である事も確かです。深い事を考えずに読み飛ばす上では、そんな「文字通りの絵空事」だとか「感情移入を阻害する云々」などといった大仰な事は関係なく、バトルと乳首をスカッと楽しめるんじゃないでしょうかね。 

 今回の評価
 評価は加点・減点激しく相殺してB+寄りBとします。今回のを見た限りでは、ちょっと連載化するには無理のある作品かな…といったところですね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 さて、今週は時間も余裕が無いので『モンキーターン』の総括だけ。
 超長期連載作品の多い「サンデー」では余り目立ちませんが、それにしても8年以上にも及ぶ連載を、伏線処理もこなしてキッチリと大団円に導いた高度なストーリーテリング力は素晴らしいの一言です。難を言えば(恐らくは完結を急がせる大人の事情もあったのでしょうが)1度目の賞金王決定戦から完結へ向けての展開がやや性急だったのが惜しまれる所で、特に長い間暖めていた“青島×憲二×澄・三角関係”の伏線を足早に処理せざるを得なかったのは作者サイドにとっても痛恨事だったことでしょう。
 それでも作品を全体的に俯瞰すれば、「一定以上の人気作は、どれだけ長期連載になっても大団円まで続行する」…という“サンデーシステム”の利点を遺憾なく活用した良作である事に、疑念を挟む余地は全く無いでしょう。最終評価は先ほど述べた惜しい点を差し引いてA寄りA−ということにしておきます。
 最後に、河合さん、お疲れ様でした。次回作にも一ファンとして期待しています。

 ……といったところで今週はこれまで。では、これから荷物をまとめてちょっとリフレッシュ旅行に行って来ます。実はあと3時間ほどで出発しないといけないのです(笑)。ではでは。

 


 

2004年度第72回講義
12月10日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(12月第2週分・合同)

 入稿完了と同時に猛烈な眼精疲労と虚脱感に襲い掛かられて四苦八苦の駒木ハヤトです。
 正式なご報告はまた追ってさせて頂きますが、冬コミで頒布予定のオフセット本の内容は、04年度(03年12月〜04年11月)分の講義の内、現連載作品と評価A−以上を獲得した作品のレビューを抜粋し、そのレビュー1つごとに追記を書き下ろしたモノになりました。感覚としては、おまけページの多いマンガの単行本を想起して頂ければと。
 ……まぁ“現連載作品と評価A−以上を獲得した作品のレビューを抜粋”と聞くと物足りないボリュームに思われるかも知れませんが、これでも9.5ポイント活字で詰めて編集してもA5版76ページになってしまいまして……。脱稿した今になって考えると、これが色んな観点から見てギリギリなボリュームであるように思えます。
 まぁそういうわけで、首都圏在住及びコミケ2日目参加予定の受講生の方は、駒木が自宅へ発送する宅急便の箱のサイズ縮小にご協力頂けると幸いです。

 ──ところで話は変わるのですが、今年も12月に入りまして、いよいよ開講3周年記念式典兼「仁川経済大学コミックアワード」を開催する時期となりました。
 もう既に水面下で各賞の審査は進めているのですが、ここで受講生の皆さんにちょっとしたお願いを1つ。“ワイルドカード”枠、つまり「週刊少年ジャンプ」&「週刊少年サンデー」系列誌以外に掲載された傑作を推薦して頂きたいのです。今年は色々な意味で余裕が無くて“新規開拓”が出来なかったんですよね。

 推薦要件は「『週刊少年ジャンプ』&『週刊少年サンデー』系列誌以外の商業誌に掲載され、03年12月〜04年11月に単行本1巻が発売された長編連載作品」です。「ジャンプ」&「サンデー」系作品とは違い、作品の雑誌掲載日ではなく単行本発売日を基準にしている事にご注意下さい。
 なお、季刊連載や不定期連載作品の場合は連載第1回の雑誌掲載が02年以前というケースもあると思いますが、「コミックアワード」はあくまで新作を対象にした賞ですので、そういう作品は選考上不利になると思っておいて下さい。

 推薦は出来ればメールでお願いしたいのですが、メールを使える環境に無い方は談話室(BBS)ででも構いません。推薦の際にはメール及びBBS書き込みのタイトルに「コミックアワード推薦」と明記の上、推薦したい作品名とその著者名、初出掲載誌名、それから簡単な推薦文(「〜〜な所が良いと思います」程度で構いません)をお願いします。
 推薦が2票以上に達した作品から優先的に(1票の作品も出来る限りは)チェックをしてゆき、評価A以上に達した作品についてはレビュー実施の上、「コミックアワード」のグランプリ枠にノミネートさせて頂きます。要件に達しなかった作品については、「余裕があれば、その余裕なりに」という事でご容赦願います。

 定期的に「現代マンガ時評」を受講されている方ならば当ゼミの“評価A以上”がどれくらいレアなのかはご承知の事と思いますが、「この作品なら!」というお薦めがあれば、是非お願いします。ただし、「せっかく推薦してやったのにノミネートされなかった!」…とか後で言うのはナシでお願いしますね(笑)。所詮は駒木のやる事ですから、気にしない気にしない。
 あ、推薦締め切りは12月17日の午前0時必着とします。慌しい日程ですが、どうか宜しく。

 ──と、長々と前フリで喋り過ぎましたが、今週のゼミを始めます。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(新年2号)『キノコ島の奇跡』作画:真波プー)が掲載されます。
 真波さんは、「赤マル」01年夏号でデビューを果たし、長いブランクの後に今年2月の「青マル」に読み切りを果たした若手作家さん。恐らく現在の「ジャンプ」系若手の中では1、2を争う“異色作メーカー”で、マニア筋ではデビュー時から注目を集めていたようです。今回も予告カットからして異色ですが、果たしてどういう作品なのでしょうか……?

  ◎「週刊少年サンデ−」では次号(新年3号)に読み切り『伝説の帰宅部 Returner』作画:森尾正博が掲載されます。
 森尾さんは週刊本誌04年21号にも『地球防衛バッパパーマン』を発表しており、今回が2度目の本誌登場。また、この作品は月刊増刊で03年12月〜04年2月号まで短期連載された作品の週刊本誌出張版で、この手の増刊連載作品の週刊本誌進出が“連載前のお披露目”という意味合いを持つ事が多い事を考えると、特に注目と言えそうです。

 ★新人賞の結果に関する情報

第67回手塚賞&第60回赤塚賞(04年上期)

 ☆手塚賞☆
 入選=該当作なし
 準入選=2編
  ・『REVOLUTION』
   久米利昌(23歳・東京)
  ・『スカートウォーズ』
   宮本和也(21歳・大阪)
 佳作=2編
 
 ・『貯心マシーン』
   東本直樹(20歳・兵庫)
  ・『白猫豆腐刀』
   佐藤真由(20歳・埼玉)
 最終候補=4編
  ・『HEROISM』
   沖田修治(24歳・三重)
  ・『Break Boys』
   葛西仁(25歳・東京)
  ・『竜脚の配達人』
   小泉雅恵(19歳・東京)
  ・『絵具の絵の具』
   内海謙一(22歳・兵庫)

 ☆赤塚賞☆
 入選=該当作なし
 準入選=該当作なし
 佳作=2編

  ・『萌え萌え燃さん』
   伺乃浩明(27歳・東京)
  ・『夢追い人』
   松田俊幸(24歳・東京)
 最終候補=3編
  ・『征食者たちの行進 イーターズ・マーチ』
   彰田櫺貴(22歳・大阪)
  ・『お薬の時間です。』
   小野寺章(19歳・青森)
  ・『NATURAL BAKERY KID』
   辻風林太郎(21歳・東京)

第55回小学館新人コミック大賞・少年部門
(04年後期)

 特別大賞=該当作なし
 大賞=1編
  ・『宵越しの契』(=本誌または増刊に掲載決定)
   山下文吾(21歳・神奈川)
 
《選評要約:「うまい。面白く読めた。このまま伸びていって欲しい」(高橋留美子さん)/「個人的に点が甘くなってしまう絵柄と題材。楽しんで描いている感じと火事場のシーンのセンスを買いたい」(あだち充さん)/「凄く良かった。絵も上手いしキャラも立っているし、見せ方も心得ている。ほぼ満点だがヒロインが自分で火をつけるラストシーンはいかがなものか」(青山剛昌さん)/「独特の絵柄で画力があり、特に女性を描くのが上手い。ストーリーも限られたページの中でよく作られており、作家としてのセンスを感じる。」(史村翔さん)
 
入選=1編
  ・『剣玉の昆』(=本誌または増刊に掲載決定)
   加藤祐介(23歳・山梨)
 
《選評要約:「個性を感じる。ギャグとシリアスがもう少しうまく融合されると更に良くなる」(高橋留美子さん)/「ネタにも絵柄にも23歳という若さを感じさせない所が逆に凄いかも知れない」(あだち充さん)/「剣玉で悪霊退治という発想が面白い。絵柄も話に合っていると思うが、ストーリーはありがち」(青山剛昌さん)/「画力は個性的で魅力もある相当の水準。荒っぽいストーリーだが勢いで読ませてしまう。作家能力を感じさせてくれた」(史村翔さん)
 
佳作=4編
 
 ・『幸咲』
   石神晃実(22歳・千葉)
  ・『阿修羅さん』
   平山昌吏(29歳・東京)
  ・『記憶の鍵』
   佐々木よしみ(21歳・京都)
  ・『クラボとヴォーダ』
   土屋昌宏(18歳・栃木)
 最終候補=1編
  ・『ダマッテ俺について来い!!』
   麻倉愛菜(18歳・神奈川)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ※手塚賞
 ◎準入選の久米利昌さん…04年1月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補。
 ◎準入選の宮本和也さん…00年9月期「天下一漫画賞」で最終候補?
 ◎佳作の佐藤真由さん…04年7月期「十二傑」で十二傑賞受賞
(デビュー確定)、03年12月期、04年3月期「十二傑」では最終候補
 ◎最終候補の葛西仁さん…03年7月期「十二傑」&03年2月期「天下一」でも最終候補。
 ◎最終候補の小泉雅恵さん…03年4月期「十二傑」でも最終候補。
 ◎最終候補の内海謙一さん…03年下期「手塚賞」でも最終候補
 ※赤塚賞
 ◎佳作の伺乃浩明さん…第51回「月ジャン少年マンガグランプリ」で“ブロンズ”受賞、「月刊少年ジャンプ」04年12月号でデビュー?
(現物をまだ未確認ですので、「月ジャン」読者の方で同誌掲載のプロフィールと比べて年齢などに食い違いがあればご連絡下さい)
 
◎佳作の松田俊幸さん…「週刊少年チャンピオン新人漫画賞」02年下期で特別奨励賞、03年上期で奨励賞を受賞?(注:年齢に食い違いがあり、絵柄でも判別が難しく、まだ確定情報ではありません)
 ◎最終候補の彰田櫺貴
さん…週刊本誌04年44号にて『メガネ侍』で代原暫定デビュー済
 
◎最終候補の辻風林太郎さん…04年5月期「十二傑」でも最終候補。
 ※新人コミック大賞
 ◎佳作の石神晃実さん…03年12月期「十二傑」に投稿歴あり。
 ◎佳作の
平山昌吏さん…03年2月期「サンデーまんがカレッジ」であと一歩で賞(最終候補)。
 ◎最終候補の麻倉愛菜さん……03年11月期「まんカレ」で努力賞、03年4月期「まんカレ」であと一歩で賞。

 ……「ジャンプ」系両賞は最終候補者の殆どが過去に受賞・最終候補歴のある“新人予備軍”で、中にはデビュー済みの人までいるという異様なラインナップ。その影響もあってか「手塚賞」の方はなかなかの高水準だったようですが、逆の見方をすれば、「手塚賞」と「赤塚賞」が“新人予備軍”以外の一般投稿者から敬遠されている…という事になりますね。
 この両賞の衰退振りについては以前から何度も喋ってますので敢えて繰り返しませんが、偉大な作家さんの名を冠に被せている以上、続けるなら続けるで抜本的な対策を施してもらいたいところですね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年新年1号☆

 ◎読み切り『デビルヴァイオリン』作画:大竹利明

 作者略歴
 1983年2月15日生まれの現在21歳(週刊本誌のプロフィールには85年生まれとありますが、誤記のようです)
 03年上期「手塚賞」にて佳作を受賞し“新人予備軍”入り。デビューは「赤マル」04年冬(新年)号掲載の『勇とピアノ空』で、今回がデビュー2作目&本誌初登場。
 
 についての所見
 
天然っぽいディフォルメの利いたどことなく愛嬌のある絵柄で、読み手に親しみを持ってもらい易いという面はあるかと思います。ただ、いかんせん画力そのものの稚拙さには看過し難いものがあり、辛い点を付けざるを得ません。
 特に人物の造型、動的表現、特殊効果など、今作の設定・ストーリーを補強するために不可欠な要素のスキルが足りていない印象があり、これは大きな減点材料です。「どんな人でも気絶してしまう怖い顔」にしろ、「イケメン君の下手糞なバイオリン演奏」にしろ、その直後のセリフやリアクションの助けがなければそう認識出来ず、絵がマンガの記号としての役割を果たしていない状態になっています。
 せっかく好感度の高い絵柄なのですから、その長所をフルに活かせるような基礎画力、そして相性の良い設定・ストーリーを持って来る配慮がもう少し欲しい所ですね。

 ストーリー・設定についての所見
 「恐ろしい顔をした男が実は臆病で……」という設定は随分と手垢の付いたモノですが、その裏返しである安定感も利して、プロット・ストーリーは手堅くまとめられていますね。クライマックスの持って行き方も良かったです。
 ただ、ストーリーをもっとよく見せるために必要なファクターである、キャラクター設定・演出および構成(コマ割り)が弱く、全体的なクオリティは伸び悩んでしまった印象です。具体的なポイントを挙げていくと、何をさせたいのか判らない敵役、不必要な伏線(虫とハンバーガー&ピクルス)、具体性を欠き過ぎて意味を為していないヒロインの回想シーン(「私はクラシックが大好き」なのを描くのではなくて、何故クラシックが大好きなのかを描くのが、本来の回想シーンの役割では?)などなど。……この辺りの要素を上手く整理して、メインストーリーに繋げていれば、随分と重厚さのあるお話になったのではないかと思えるだけに残念でした。

 あ、あと気になったのはギャグの挟み方でしょうか。ストーリーの腰を折るようなギャグも決して悪いとは言えないのですが、それならちゃんと笑いを取れるようにギャグの技術も磨くべきだと思います。

 現時点の評価
 評価はB。まだデビュー2作目ですから仕方ないのですが、ストーリーテリング力の基盤が出来きっていないように思えます。次回作でどこまでスキルを伴った重厚なストーリーを作り上げられるかが、今後の展開のカギになって来るでしょうね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 『銀魂』に、何だかいかにもアシスタントが描きました的なモブ(群集)キャラが一杯……。まぁモブをアシスタントに描かせるのは誰でもやってる事ではあるんですが、顔がアップになってる場面まで全く違うタッチのアシさんに描かせるのは如何なものかと。…とは言っても『こち亀』に比べたら屁でもないレヴェルなんですけどね(笑)。
 全く絵柄の違うアシスタントに主要キャラの人物作画を除く全パートを任せてしまう人と言えばつのだじろうさんが有名ですが、つのださんの作品はは最近でもそうなんでしょうか? 『まんが道』で3ページの作品を半年以上もかけて推敲していた真摯な姿との余りのギャップに悶絶した記憶があるのですが。

 ところでその『こち亀』では、金が金を呼び過ぎて面白くないギャンブルというのをやってましたが、実際にもバブル期にマンション麻雀で億単位を稼いだと言われるプロの人などは、点5や点ピン程度のレートでは“逆レート負け”して勝率が落ちるとかどうとか。
 確かに駒木も点5より下のレートになると緊張感が薄れるような気はします。普段ならギリギリの所で止めるような牌が止まらずに放銃したりするんですよね。

☆「週刊少年サンデー」2005年新年2号☆

 ◎読み切り『すけっとはメガネくん』作画:寒川一之

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 生年月日は不明。
 新人賞の受賞歴&02年以前の活動についても資料不足のため不明だが、月刊増刊01年9月号に企画モノの『小林雅英物語』を発表している。
 03年に入ってからは、月刊増刊同年9月号から翌04年1月号まで『泣き虫センターコート伝説 忍』を短期連載。今回は連載終了以来の復帰作で、週刊本誌初登場となる。

 についての所見
 クセの無い洗練された線で描かれた“プロの絵”になっていますね。動的表現や背景処理・特殊効果などもソツなくこなせていますし、技術的な面についてはほとんど問題とすべき点は見当たりません。好印象です。
 ただ欲を言えば、各人物の顔の造型にもう少し微妙な差がつけられるようになれば…と思います。今回は敵チームの選手の判別がつき難く、これが珠にキズとなった感がありました。

 ストーリー&設定についての所見
 最近の「サンデー」系の若手・新人さんが描く作品によく見られる、“1アイディア1作品”のお話
ですね。「もしも〜〜だったら?」という、ちょっと奇抜なメインアイディアが1つあって、それに肉付けする形でキャラとストーリーを練っていくという。
 ただ、そうやって描かれた作品の多くは、アイディアの奇抜さがリアリティの欠如に繋がったり、1つのアイディアだけではまとまったページ数を引っ張り切れずに間延びしてしまったりする傾向があります。恐らくは先にアイディアありきだと、ストーリーとキャラクターの練りこみを怠りがちになってしまうんでしょうね。

 で、この作品も「もしも、野球マニアの将棋プロがキャッチャーをやったら?」…という、トンデモ系のメインアイディア1つのお話ですので、先に挙げたような傾向も否定出来ません。将棋の盤面や手順を覚えるのと野球の配球や打者のクセを覚えるのとでは勝手が随分と違うでしょうし、それ以前に“将棋の棋士が野球をする”という部分からして取って付けた感が漂って来ます。
 ただ、この作品は演出がズバリと決まっているのが強みですね。特に主人公が手の痛みを堪えつつミットを構えるクライマックスシーンでは登場人物の感情を見事に表現しており、諸々の問題点で生じた失点もかなりフォローされているように思えます。
 もっとも、そうやって失点を挽回した所でお話をまとめ切れずにまた失点を重ねてしまったのは痛いですね。ネット界隈では「読み切りなのに打ち切り最終回のよう」という論評もありましたが、これは言い得て妙。作品の完成度と言う面では割り引かざるを得ません。

 今回の評価
 評価は画力と演出力の高さを最大限考慮してB+とします。次回作では、まずストーリーをよく練って、その上で演出力をフルに活かせるような構成を考えて欲しいですね。陰ながら期待しています。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今日はざっと一言感想を書き連ねていきます。

 『MAJOR』嫌なヤツが改心する“イベント”の回でした。まどろっこしくてクサい芝居ではなく、何気ない1つのセリフを心のカギにしたという配慮が憎いですね。この作品の製作過程からして、どう考えても後付けでしょうが、絶妙の好手だったと思います。

 『いでじゅう!』はもう、ギャグもコメディも通り越して、ほとんど青春恋愛ストーリーになっちゃってますなぁ。若いって良いなあと、最近職場でもしみじみと思うこの頃であります(笑)。

 『モンキーターン』最終回前にして、因縁の対決が遂に決着。最低限度のリアリティを保った範囲で擬似必殺技バトルを展開させた技量はやはり素晴らしいの一言ですね。競艇を観ない人にはどう伝わったか判りませんが、あれが実際のレースなら伝説クラスの一戦になるんじゃないでしょうか。
 連載総括については、また次号の最終回を拝見した上でジックリと。

 『D−LIVE』は、メインシナリオよりも鉄道関連のウンチクの方が印象強すぎです(笑)。いわゆる“鉄”の人たちの知識の深さと、それを語り出した時の止まらなさ加減が見事に描写されていて感服の一言です。ただ、この見事さは、この作品の商業的成功には決して繋がらないんでしょうねぇ……。

 ……といったところで今週はこれまで。来週からは高校の仕事が休みに入りますので、多少はフットワークが軽くなると思います。どうぞご期待の程を。

 


 

2004年度第70回講義
12月3日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(11月第5週/12月第1週分・合同)

 そうか、これがお盆前や12月初旬に多くの人が使っていた「修羅場」という言葉が適用される事態なのだな、などと考える駒木ハヤトです。
 ……とはいえ、本当に忙しいのは“こっち”の仕事以外の諸々でして、試験問題作ったり(3本同時進行。ワタシャ全盛期の永井豪か)、知人の結婚式二次会の司会なんぞを任されて「新郎、お姫様抱っこでございます! カメラをお持ちの皆さん、シャッターチャンスです、どうぞ前へ!」…とか叫んだりしている内に体力を使い果たしてしまうという有様。
 やっぱこういうのって、学生時代に慣れておくべきだったよな…などと、『じゃじゃ馬グルーミンup!』で別の意味で使われたフレーズを呟いてみたりしています(笑)。本来の意味では使う目処は一向に立っておりません。

 さて、どうでもいい前口上はコレくらいにして講義を始めます。今本当に修羅場に入ってるのは、実際に年末頒布予定の『現代マンガ時評04年度総集編』をご覧になればお分かりになると思います。何しろ、今日これからお送りする内容が収録されてますから。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(新年1号)『デビルヴァイオリン』作画:大竹利明)が掲載されます。
 大竹さんは約1年前に発売された「赤マルジャンプ」04年冬号において、異色作『勇とピアノ空』でデビューを飾った新人作家さん。デビュー2作目も“楽器シリーズ”になったようで、今回も「ジャンプ」らしくない作品になりそうな感じですね。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(新年2号)に読み切り『すけっとはメガネくん』作画:寒川一之)が掲載されます。
 寒川さんは、月刊増刊03年9月号から翌04年1月号まで『泣き虫センターコート伝説 忍』を短期連載していた若手作家さんで、今回が週刊本誌初登場となりますね。

 
 ★新人賞の結果に関する情報

第12回ストーリーキング(04年下期)

 ◎作画部門(画王杯)
 画王=該当作無し
 準画王=1編
(公式ウェブサイトにて公開)
  ・荒井健治(27歳・神奈川)
 
《講評:人物のデザイン、人物の作画、背景、特殊効果などそれぞれ高いレベル。オリジナリティもある。が、各人物の個性付けを無理に変えた結果、『一番的な人物配置』が崩れてしまった。原作者の意図を読み取る事が必要》
 奨励賞=該当作なし
 最終候補(選外佳作)=7編
  ・小野伸明(27歳・滋賀)
  ・中島大作(28歳・東京)
  ・広瀬かつき(27歳・埼玉)
  ・鈴木利文(28歳・東京)
  ・隅井章仁(22歳・埼玉)
  ・山内愛(23歳・福井)
  ・外丸奈緒美(26歳・群馬)

 ◎マンガ部門
 キング=該当作無し
 準キング=該当作無し
 奨励賞=1編
  ・『雨の神話』
   藍(15歳・愛知)
 最終候補(選外佳作)=3編
  ・『龍のいた国』
   江畑喜之(27歳・東京)
  ・『勇者の墓』
   大沢祐輔(20歳・愛知)
  ・『東京ダスト』
   カメイケイスケ(25歳・埼玉)

 ◎ネーム部門
 キング=該当作無し
 準キング=該当作無し
 奨励賞=1編
  ・『火消し屋仙太捕物控』
   岡真由美(38歳・栃木)
 最終候補(選外佳作)=4編
  ・『SK8Monkey』
   那須野秀(26歳・東京)
  ・『鬼神千記』
   井口奈保(16歳・長野)
  ・『ケルベロスの少年』
   瀧山貴浩(27歳・宮崎)
  ・『BANK LIVES』
   大橋寿裕(15歳・岐阜)

 受賞者の皆さんのキャリアは以下の通りです。
 ◎作画部門(画王杯)最終候補の中島大作さん…01年1月期「天下一漫画賞」でも最終候補。
 ◎作画部門(画王杯)最終候補の広瀬かつきさん…04年4月期「十二傑新人漫画賞」でも最終候補。
 ◎作画部門(画王杯)最終候補の隅井章仁さん…02〜03年にかけて、「マガジンZ」誌で『青春特急!!電車でGo!学園』『ギルティギアXTRA』の作画担当。
 ◎作画部門(画王杯)最終候補の外丸奈緒美さん…外丸ナオミ名義で02年下期「赤塚賞」で佳作受賞。
 ◎マンガ部門奨励賞のさん02年5月期「天下一漫画賞」で最終候補(当時13歳!)
 ◎マンガ部門最終候補の
大沢祐輔さん…02年度「ストーリーキング」マンガ部門でも最終候補

 ……今回から新たに作画部門もスタートし、今や「手塚賞」に替わる「ジャンプ」系新人作家の登龍門となった感のある「ストキン」ですが、特に今回は色々な意味で内容の“濃い”回でしたね。
 まず作画部門は、「ジャンプ」系新人賞では異例の「最終候補全員20代」という事態になった上、講談社から単行本まで出した人が最終候補に名を連ねるという、贅沢なんだか一ツ橋から音羽へ向けての見せしめなんだか判らない決着に。
 マンガ部門の奨励賞には、これまた20代の最終候補者から一歩抜け出たのが15歳の藍さん。ローティーンで“新人予備軍”入りした人は後が続かないケースも多いのですが、「ジャンプ」編集部が手厚く育成を進めていたようです。これは将来に期待したいですね。
 一方、「ストキン」の目玉とも言えるネーム部門は今回も不調。奨励賞が30代後半、残りの最終候補も“大長編功労賞”と“ローティーン枠”で殆ど埋まってしまっており、『ヒカルの碁』や『アイシールド21』の頃に比べると、ややタマ不足になって来たのかな…といったところです。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年53号☆

 ◎新連載『ムヒョとロージーの魔法律相談所』作画:西義之

 作者略歴
 1976年12月27日生まれの現在27歳
 西さんを含む4人組ユニット・多摩火薬として『サバクノオオクジラ』で99年上期「手塚賞」準入選を受賞し、これが「赤マル」99年夏号に掲載され、デビュー。
 しかし、多摩火薬はその後解散し、個人活動へ以降。西さんは村田雄介さんのスタジオで『アイシールド21』のアシスタントを務めた後、04年「赤マル」春号にて今作と同じタイトルのプロトタイプ作品でソロデビュー。同じく、週刊本誌04年37・38合併号でもプロトタイプ作品を掲載(「第1回金未来杯エントリー→優勝ならず)。
 当然ながら、今回が初の週刊連載獲得。
 
 についての所見
 過去2回の読み切り版の独特な画風を踏襲しながらも、今回の連載化にあたっては随分とタッチが洗練されて来た印象です。前回指摘した線のメリハリの強弱も改善されていますし、背景処理、特殊効果、動的表現なども連載作品として標準的なレヴェルを確保しています。カラーページの彩色も達者ですね。
 根本的に(というより最早意図的に)違和感を感じさせる絵柄ですので、好感度を高くする事にも限界はあるでしょう。それでも可能な限りパッと見の印象も良くしようという意図は明確に窺え──例えば、読み切り版に比べると女の子キャラのデザインが若干ですが艶っぽくなっていたり──、これは評価出来るポイントです。

 ストーリー・設定についての所見
 相変わらずのオリジナリティの高い世界観は健在。そして今回の連載化にあたっては、設定をリアリティが深まるようにマイナーチェンジも施すなど、こちらも絵と同じく違和感を可能な限り排除しようとする意図が窺えます
 また、これは故意か偶然かは判断がつかないのですが、一見細かく決められたように見える設定には随分とまだ“遊び”の部分(=現時点では説明しなくても支障が無いので謎になっている部分)があります。これだと、比較的容易に後付け設定を加える事が出来るので、長編のストーリーを練っていく上ではプラスに働くでしょう。この手の読み切りからの昇格作品の場合、いかに作品の方向性を短編仕様から長編仕様に切り替えるかがポイントになって来るので、これは活かし切りたい所です。

 ストーリーに関しては、プロットがやや新鮮味に欠け、脚本に若干説明的過ぎる嫌いがあって弱含みであるものの、設定の持つパワーと演出力のお蔭で、その欠点の悪影響が最小限に抑えているように思えます。ゲストキャラ(依頼人)の感情表現もややオーバーなくらいに強調し、動機付けを明確にしているのでラストシーンにも説得力がありました。
 ただ、問題は主人公・ムヒョのキャラクター描写が今回の時点では甘かった事。このキャラは典型的な“偽悪人”キャラなのですが、その内の“偽”の部分がアピール不足では、読み手にとって魅力的な人物になりません。読者と作品との距離感を縮める役割は、もう1人の主役格であるロージーが果たしていますが、もう少し読み手が応援したくなるようなキャラクター描写が欲しい所です。

 現時点の評価
 評価は今回もA−としておきます。やはりオリジナリティのある世界観と演出力が強みですね。
 ただ、「金未来杯」で一敗地にまみれたように、人気作としての要素には乏しい作品である事も事実ですので、長期連載を果たす為には、魅力的なヒロインキャラなり、泣けるくらいの感動的なシナリオなり、もう一押し何か読み手を惹き付ける要素が必要になって来るでしょう。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今回の『BLEACH』は、久保さんの持ち味である演出力と脚本力が完璧に決まった会心の作。2次元の平面な絵に過ぎないキャラクターに生きた感情を持たせ、更にそれを誌面を突き破って読者の脳ミソにまで伝わらせるこのパワーは凄まじいの一言です。
 これでストーリーの内容が極度にワンパターンである事と、“後出しジャンケン”のカモフラージュが不得手な面、メインヒロインを作者個人の趣味でないがしろにする面がもう少しどうにかなれば、この作品は看板作品になれるポテンシャルを秘めているはずなんですが……。冨樫義博さんの遅筆といい、天は容易に二物を与えてくれないものなんですね。

 『武装錬金』第1回のキャラクター人気投票の結果発表。優勝が斗貴子さんというのは予想通りでしたが、思ったほど後続との差が開かなかった感じ。そして熾烈な2着争いは少差でカズキがパピヨンを制して主人公の面目躍如。しかし、やおい本向け美形キャラが上位を占めがちな「ジャンプ」の人気投票としては、ちょっと「らしからぬ」結果ではありますね。
 あと気になる所と言えば、登場間もない“負け犬”剛太の健闘、日常キャラの意外な不振、作品きっての敵役を食ってしまったヒャッホウ…といったところでしょうか。今後のストーリーの行方をも左右すると言われる「ジャンプ」のキャラクター人気投票ですが、今回の結果は「これで変えようあんのか?」…と言いたくなってしまうような(笑)。

 先週は「チェックポイント」がお休みだったため、採り上げられませんでしたが、『未確認生物ゲドー』の“残留”が決定したようですね。この、千代大海が際どくカド番を脱出し続けるような綱渡りはいつまで続くんでしょうか。……あ、いや別にこの作品に恨みも何も無いですが。

☆「週刊少年サンデー」2005年新年1号☆

 ◎読み切り『TWIN-kle STAR』作画:谷古宇剛

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 生年月日は不明
だが、「新人コミック大賞」受賞当時の年齢から推測して、現在27〜28歳
 02年上期「新人コミック大賞・少年部門」で入選を受賞。デビュー時期は不明ながら、03年以降の増刊号では、03年3、6、9月号、04年GW号にそれぞれ読み切りを発表。今回が初の週刊本誌登場となる。

 についての所見
 人物のポーズや表情に少しぎこちなさを感じるものの、他の点は概ね問題なく、週刊本誌に混じっても違和感の無い水準の画力は持っているでしょう。人物造型のパターンも豊富ですし、何よりスポーツモノに必要不可欠な動的表現がキチンと出来ているので見易いですね。
 あとは、読み手がこの絵柄そのものに好感を持ってもらえるかどうかでしょうね。これは多分に好みの問題なので、当ゼミで言及するのはどうかと思うのですが、もう少し好感度の持てる容姿の登場人物を増やしてもバチは当たらないと思います。

 ストーリー&設定についての所見
 結論から先に言うと、稚拙な内容のプロットを、あの手この手で強引に1本の話に仕上げてしまった作品…といったところでしょうか。
 まず頂けないのが話のスケールの小ささ。自分のスカウトを蹴ったという恨みを晴らすためだけに練習試合をセッティングするようなクズを相手に、そいつをコテンパンにやっつけるならまだしも、最後で取ってつけたようにそのクズに遠い目されつつ認められるのをストーリーの“ゴール”に設定されても……。これでは『ドラゴンボール』で、フリーザが悟空の強さを認めて終わり、みたいなものです。栽培マンごときに殺られたヤムチャはともかくとして、クリリンの立場は一体どうなるのか。
 ……つまりは、ストーリーの途中で読み手が受けるストレスの方が、クライマックスの見せ場で得られるカタルシスよりも大きくなってしまっているという事。これではエンターテインメントとしては落第です。
 これで演出・構成・脚本がもう少ししっかりしていれば印象も変わって見えたのでしょうが、これが更に足を引っ張っている始末ではどうしようもありません。ましてやラスト2ページの“とってつけた感”の凄まじさといったら……。

 あと、これは揚げ足取りに近いかも知れませんが、主人公の弟の方が帰宅部即復帰でいきなりスーパープレイというのは、余りにも御都合主義でリアリティに欠けるような気も。ボレーシュートをバーに当てて「練習不足」とありましたが、それなら「久々のプレイであんな事が!」…と、素質を裏付ける出来事に転化した方がまだ良かったと思います。
 

 今回の評価
 評価はちょっと厳しくB−とします。
 また、編集長も交代した事ですし、ボチボチこの「微妙な若手首実検劇場」の在り方についても考えて欲しい所です。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週から巻末コメントはフリーコメントに。まぁ質問もネタ切れの傾向が強かったですし、仕方ないですかね。ただ、「サンデー」の場合は数年周期でフリーコメントと質問形式が交互に循環してますので、また数年後には質問コーナーになるのでしょう。大体、何人かの作家さんが「書く事無えよ」と言い出して質問コーナーに戻るんですよね。……というか、もう今週の時点で「書く事無い」が出てますが(笑)。

 さて、今回で最終回を向かえたのが『DAN DOH!! ─ネクストジェネレーション─』。元々、アニメ化に伴う連載復活でしたので、そのアニメが短期打ち切りになってしまっては、こちらの命脈も続かなかったというところですね。
 そういう事もあってストーリーの方は、本来ならこれから最後の盛り上がりを見せるというところで尻切れトンボという格好に。大人の事情で始まって、大人の事情で終わるという、作品にとっては一番恵まれない経緯を辿った作品と言えそうですね。
 最終評価は全シリーズからの継続としてB+据え置きとします。

 ……来週には色んな事がいっぺんに片付きますので、今度はいよいよコミックアワードに向けての準備も進められると思います。不義理の連続で受講される気持ちも遠のきがちかと思いますが、どうか何卒。

 


 

2004年度第68回講義
11月26日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(11月第4週分・合同)

 季節外れの小学館の人事異動に思いを馳せる、11月最後の「現代マンガ時評」を始めます。
 以前から、この冒頭のコーナーでそれとなくほのめかしてましたが、遂に「週刊少年サンデー」の編集長が交代となりました。駒木が小耳に挟んだ話によると、前任者の時代に連載が始まった『ガッシュ』が大ブレイクする幸運がありながら、在職の2年弱で雑誌の部数が10万部単位(しかも1単位じゃなく)で暴落していったとかどうとか。300万部越えの「ジャンプ」、「マガジン」ではなく、公称130万部台の雑誌での話ですから、それだけ数字を下げたとすれば、この“短期政権”も致し方無いところではないかと。
 ……駒木も三上前編集長の在職中は色々な事を言いましたが、三上氏も与えられた状況の中で出来る限りの善処を施したには違いありませんので、今となっては「お疲れ様でした」と手を振ってお見送りしたい気持ちです。思えば、本来なら編集部内の“秘密兵器”的な役割を果たすような独特の感性の持ち主(例えば、あの島本和彦さんを担当したのが若手編集時代の三上氏です)が、編集部全体の舵とり役を任されてしまったのが、そもそも悲劇の始まりだったのでしょう。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(53号)より『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之)が新連載となります。
 この作品は、「赤マル」04年春号でプロトタイプが掲載され、その後に今夏開催された「金未来杯」のエントリー作品として“第2話”が掲載されていた同名タイトル作品の連載化です。西さんは、4人組ユニット・多摩火薬時代も含めてこれが初の週刊連載獲得となります。
 ところで、この作品が連載決定との情報がネット上に流れてから、「『金未来杯』で優勝できなかった作品が何故、優勝作品より先に連載化?」…という声があがっていますね。中には真偽不明のインサイダー情報まで流れている始末ですが、これと同じような出来事は、以前開催された「黄金の女神杯」の際にもありましたので、個人的には別にどうって事じゃないと思ってます(笑)。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(新年1号)に読み切り『TWIN-kle STAR』作画:谷古宇剛)が掲載されます。
 谷古宇さんは02年前期の「新人コミック大賞」少年部門で入選しプロ入り。03年から04年初頭にかけて、増刊号に4回も読み切りを発表している若手作家さん。増刊の隔月刊化に伴って活動の場を制限される格好になっていましたが、週刊本誌抜擢で新作発表となりました。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り2本
 「サンデー」
:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年52号☆

 ◎読み切り『よしっ!!』作画:福島鉄平) 

 作者略歴
 79年4月23日生まれの現在25歳
 マンガ家としてのデビューは00年に「コミックフラッパー」誌にて。翌年まで同誌などで活動していたが、その後はキャリアを捨てて「ジャンプ」への投稿を開始し、03年1月期「天下一漫画賞」最終候補で“新人予備軍”入り。加地君也さんのスタジオでアシスタントを務めつつ、デビューのタイミングを窺う。
 「ジャンプ」デビュー作品は「赤マル」03年夏号に掲載された『red』で、その後「赤マル」には04年冬(新年)号にも『ナイン』を発表。今夏には「第1回ジャンプ金未来杯」にエントリーされ、『プルソウル』を週刊本誌04年34号に発表した。

 についての所見
 『red』以来、少年マンガ風に絵柄をモデルチェンジさせていた福島さんですが、今回は再び「コミックフラッパー」時代のそれに戻したような感じですね。
 さすがに経験豊かな作家さんですから画力そのものは問題ないレヴェルなのですが、リアルなようでリアルでない人物造型や、動きの感じられ難い独特の画風には、やはり若干の違和感を覚えてしまいます。有り体に言うと好感度の高くない絵柄かな…といった印象です。

 ストーリー&設定についての所見
 「ジャンプ」では珍しい(ここしばらくでは『こち亀』でネタにされた程度でしょうか)弓道を題材にした作品。マンガならではの無茶も数ヶ所見られるようですが、全体的には部活経験者らしいきめ細かな専門的な描写が嫌味無く為された作品だと思います。
 そういう意味ではバックボーンの確かな作品ではあるのですが、ただこの作品の場合、キャラクター設定がお世辞にもよく出来ているとは言えず、結果的に作品のクオリティがガクンと下がってしまったように思えます。読み手に好かれる要素(憧れるほどの“強さ”&共感できる“弱さ”)の少ない主人公と、見苦しいほどスケールの矮小な小悪党の敵役が織り成す学園ドラマから、どうやって魅力を見出せば良いのか判らない…というのが正直な所です。そんな中でもヒロインに関しては少ない出番の中で上手く好人物ぶりを演出出来ていただけに、これをあと2人分引き出せれば良かったんですけどね。せめて主人公の内面描写をもう少し深くやるだけでも印象が変わったんじゃないでしょうか。
 あと、ストーリーに関しては、敢えて「ジャンプ」の王道的シナリオ(例:売り言葉に買い言葉から、大事なモノを賭けての弓道対決)を避けて独自色を出そうとした意気込みは認められるのですが、先述のキャラクター設定の失敗もあって、それが上手くエンターテインメント性に繋がりきらなかった感じですね。

 あ、なんか全編貶しっ放しになってしまいましたが、全体的な構成などに関しては「さすが」と思わせるだけのモノがあったと申し添えておきます。決して成功したと思えない設定・ストーリーでも、最後までスンナリと読ませてしまうのですから地力は確かなのでしょう。ただ、その力の使い所を間違えているような気がするのです。 

 今回の評価
 評価はBとします。色々考えた末でご自分が専門的な知識を持つ分野の作品にチャレンジしたのでしょうが、結局は題材云々といった以外の部分で躓いてしまった感じですね。

 ◎読み切り『HALLOO SUNSHINE』作画:西公平

 作者略歴
 81年生まれ。生年月日は非公開で現在22〜3歳
 00年9月期の「天下一漫画賞」で最終候補に残って“新人予備軍”入りし、「赤マル」01年夏号にて『GREADOKURO DEAD』でデビューを果たす。その後、「赤マル」01年冬号、週刊本誌02年31号、03年50号で、それぞれ読み切りを発表。今回が1年ぶりの復帰作となる。
 なお、03年の本誌掲載の時は、『神奈川磯南風天組』を連載中だった、かずはじめさんのスタジオでアシスタントを務めていた。(追記:現在は島袋光年さんのアシスタントを務めているそうです)

 についての所見
 以前に比べると絵の密度が濃くなり、動的表現の拙さが解消されて来た感じですね。また、人物の表情が実に豊かなのに好感が持てました。
 ただ、密度の濃くなった絵を太い線で描いたためにややゴチャゴチャした感じがするのと、人物の描写などで所々で明らかに歪んだ箇所があるなど、完成度としては「なかなかの水準まで辿り着きながらも今一歩」…といったところではないでしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 ストーリーについては、一昔前の現代劇でよく使われた“地上げ屋VS小商店”のプロットを上手くファンタジー系にアレンジされており、よくまとめられているとは思います。演出面も、特に達者とまでは行きませんが、読み進める上で不快感の無い程度のクオリティは確保出来ているでしょう。
 しかしながら、この作品の場合、没落した王家、またはそれによって発生した無法地帯などといった世界観や、“グラスゴーの呪い”などの主要設定がストーリーと全く噛み合っていないのが大きな欠点になってしまっています。それらの世界観や設定にリアリティを持たせる配慮を怠っているのもそうですが、そもそもそんな世界観や“グラスゴーの呪い”が無くてもこのお話が十分に成立してしまうのが致命的です。バトルシーンのハイライトが蛇足になってしまったのでは、かなり厳しいですね。
 また、ストーリー進行上、途中で主人公の存在感が薄くなってしまっており、いわゆるキャラ立ちが中途半端に終わってしまったのも残念な点でした。

 今回の評価
 「雑誌の一作品として読み飛ばすには問題なし」ということで、評価はBとします。奇抜な設定よりも人間ドラマを描く事に留意して、次回作に臨んでもらいたいと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 『ONE PIECE』は良い所まで来て、今週は作者結婚のため“取材”休暇。本人欠席のまま、巻末コメント欄では結婚式に出席した和月組ご一同様より祝辞が掲載されました。
 尾田さんの奥さんになられたのは、結婚直前までタレント・モデルとして活動されてらっしゃった方。今は一般人なのでネット上で情報公開をするのは差し控えますが、まだネット上に残されていた写真でご尊顔を拝見しましたところ、なるほど和月伸宏さんのコメントの通り“ナミ系”の顔をした美人さんでした。……しかし、人生ここまで上手く行くもんなんですねぇ(笑)。

 『こち亀』新発売の関連書籍との連動企画。駒木も夏の東京旅行で亀戸から東武亀戸線に乗る機会があったのですが、程好い寂れっぷりにしみじみしたのを思い出します。一旅行者としては、東京という所は何かにつけて両極端な感じがします。
 ところで、一応は都会の部類に入り、JR・私鉄の洗練されっぷりが光る神戸にも、実は神戸電鉄や山陽電車といった寂れ系私鉄がいくつかあり、中には1日の平均乗降者数が少な過ぎて来春限りで廃止が決まった駅なんてのも。夜になったら突然無人駅になる所も存在しており、神戸も思えば結構極端から極端ですね。

 いよいよ終幕間近かと思われる『未確認生物ゲドー』今週出て来たフェニックス細胞に侵食された異形の怪物にはちょっと「ウゥッ」と来るものが(苦笑)。少し前に一部で流行った“蓮コラ”みたいな、異形の集合物が生理的に受け付けないんです。理科の教科書の口絵にあった蜂の巣のアップ写真もダメだったなぁ……。
 ただ、逆に言えばそこまで生理的嫌悪感を喚起させる絵が描けるのも、やっぱり実力なのかも知れませんね。まぁ、そういう実力を認めちゃったりしてるから、当ゼミの評価と巷の人気がシンクロしないんですが(笑)。

 ☆「週刊少年サンデー」2004年52号☆

 ◎読み切り『あるふぁ!』作画:桜河貞宗

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 年齢と新人賞受賞歴は未判明

 デビュー前後の経歴も不明だが、資料の揃っている03年以後の動向に限れば、月刊増刊03年3月号から8月号まで短期連載していた『バトルゲージ』がある。今回はそれ以来1年3ヶ月ぶりの“戦線復帰”となる。

 についての所見
 
線がスッキリと洗練されて“プロ仕様”の絵になっていますし、背景処理や特殊効果も概ね出来ていますね。欲を言えば、もう少し動的表現を自然に描ければ申し分無いのですが、これは次回作への課題という事にしておきましょう。
 しかし、絵の上手・下手を抜きにしての話ですが、人物造型や構図の取り方、表情やポーズの取り方などが妙に古臭いというか、今風で無いのが気にかかります。「サンデー」でたまにいらっしゃる、陰で結構なキャリアを積んだ“新鋭”さんなのかも知れないですね。よう知らんけど、ですが(笑)。

 ストーリー&設定についての所見
 古くは『GU-GUガンモ』、最近では『タキシード銀』など、「サンデー」では以前から前例の多い擬人動物同居モノ(?)の作品ですね。今のところは“空席”になっている枠ですから、目の付け所は悪くないですね。
 あと、冒頭から自然な流れでページを費やさずに主要登場人物紹介をこなしたり、限られたページ数の中で伏線を張ってストーリーにアクセントをつけたりする構成力には非凡なモノがあると思います。キチンと理詰めでお話を組み上げて行こうとする姿勢が窺えて好もしいですね。

 ただ今回に限って言えば、ストーリーテリングを理詰めでカツカツに構成し過ぎてしまった嫌いがありますね。登場人物の設定や言動に“遊び”(いわゆる裏設定など、ストーリーに関係ない部分)が無いため、話の流れがいちいち段取り臭く、キャラ立ちも弱いままになってしまいました。
 他の方はどうか判りませんが、駒木の場合は、いくら登場人物が親切な事や良い事をしても、そのキャラがやりたくてその行動をしたのではなく、ストーリー進行上やらされてるような錯覚を覚えてしまいました。ましてや、町中でいきなり落石注意で通行止めという設定の不自然さと来たら……。

 これも程度の問題なのですが、桜河さんの場合、理屈に頼らない話作りをする訓練というのも必要なのかも知れませんね。とりあえずキャラクターを作ってみて、それらがアドリブで動いていくうち、勝手にストーリーが出来ていた…みたいな事を試してみるのも一策でしょう。 

 今回の評価
 今週はB評価ばっかりなのですが、この作品も加点・減点を激しく相殺させて評価Bとさせてもらいます。
 それにしても、「サンデー」の若手作家さんが描く読み切りは微妙な作品が多くて困ります^^;;

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「現在、注目している人物」。
 なかなか漠然としたテーマで答えも割れ気味。ただ、大きくは芸能系、スポーツ系、身の回りの変人系に三分されるみたいですが……。
 駒木は、スポーツ系はプロボクシング界から、来年にも世界タイトル挑戦と言われている長谷川穂積選手と、全日本新人王戦にコマを進めた磯道鉄平選手を挙げておきましょう。

 さて、今週から新展開なのは『クロザクロ』。しかし、この無国籍っぷりは凄いですなぁ(笑)。何だか三池崇史監督の映画みたいな雰囲気が漂って来て、いよいよ「週刊少年サンデー」じゃなくなって来たような感じですね。
 しかし、キャラ立ちしてた女の子キャラを総員一時退場させての男2人組でどうやってストーリーを盛り上げようという考えなのか、非常に気になるところです。三振かホームランかの大振りをしようとしているんでしょうか……?

 一方、いよいよ完結へ向けて最終エピソードに突入したのが『モンキーターン』。連載開始当時は賞金王決定戦の常連だった洞口父とデビュー前の新人だった青島が、揃って賞金王シリーズに斡旋されて同じ場所でモニターテレビを眺めてる…というあたりに時の流れを感じてしまいます。
 恐らくこれが最後になるであろうレースシーンは、まず6枠・波多野の乾坤一擲・超抜トップスタート炸裂からスタート。現実でこんなスタートになったら、舟券買ってる人たちの心臓が大変な事になるでしょうね(笑)。

 今週『ハヤテのごとく!』とネタが被るという異次元殺法が炸裂したのは『からくりサーカス』。それにしても、わざわざミンシアにコスプレさせる理由をどこに見出したのか、藤田和日郎さんに是非とも伺ってみたい気分であります(笑)。
 ……でも、こういう出発点からとんでもない傑作を作り上げてしまうのが、藤田さんの恐ろしい所でもあるんですよね。

 
 ──といったところで今週はこれまで。
 明日の競馬学特論ですが、ひょっとすると1週お休みになるかも分かりません。何とか簡単にでも講義をやりたいとは思ってるのですが……。

 


 

2004年度第67回講義
11月21日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(11月第3週分・後半)

 今週のゼミ後半分は、かねてから予告しておりました通り、「読書メモ」「少年ジャンプ・ギャグスペシャル’05」(←12月1日発行扱いで、雑誌業界的には新年増刊号なんですね)のレビューをお送りします。

 それでは、まずは「読書メモ」の方から。今回は“玉石混交、但し殆ど石”といった状況の「週刊少年サンデー」の隔月刊増刊の中で、キラリと光る“玉”を掘り出してみました。単行本のこととなるとケチ臭い小学館が増刊連載にも関わらず単行本を出し、間もなく週刊本誌にも登場予定のこの作品です。では、どうぞ。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

◇駒木博士の読書メモ(11月第3週)◇

 ◎『あやかし堂のホウライ』作画:金田達也《原案協力:藤田和日郎》/増刊「少年サンデー・スーパー」連載中

 作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 生年月日、年齢は未判明。
 藤田和日郎さんのスタジオで6年以上もの間アシスタントを務め、チーフ格として作画を支えるベテランスタッフ。詳細なデータは不明ながら、過去(02年以前)に増刊号で読み切りを発表した経歴があるとのこと。 

 についての所見
 一箇所で長年アシスタントを務めていると、師匠格の作家さんの画風に似て来る事はよくある話ですが、金田さんの場合は特にその傾向が強いようですね。正直言って、「原案協力:藤田和日郎」のクレジットが無ければ色眼鏡をかけて見てしまうほど似ています。厳しい事を言いますが、こういう“藤田和日郎”色を全面に出しても大丈夫なケースでないと、大手を振って表に出る事の出来ない絵柄かも知れません。
 藤田さんの絵柄との相違点を挙げるとすれば、金田さんの絵柄の方がややマンガっぽいという所でしょうか。藤田さんの絵柄をややディフォルメして、線をスッキリさせたら金田さんの絵になる…という感じですね。もっとも、藤田さんの絵自体がマンガ的なタッチとの相性があまり良くない気もしますので、それをマンガ的タッチにした金田さんの絵柄が好感度の高いモノかというと、これは疑問であると思います。
 ただし、長年アシスタントで揉まれた経験と鍛えられた腕の賜物でしょう、背景処理や動的表現など基本的な表現技法については連載作家クラスの域に達しています(まぁ連載作品の背景や特殊効果を担当しているわけですから当たり前ですが)全体的に見れば、マンガの絵としては問題ない水準に達していると言って良いでしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 この作品を読んで驚かされたのが、このストーリーテリング系ファクターのレヴェルの高さでした。絵とは違い、ストーリーテリング力は技術だけでなくセンスが要求されるために弟子が師匠を真似る事はなかなか出来ないのですが、なんのなんの、金田さんは立派に師匠・藤田和日郎さんの超高水準の領域に肉薄しています
 間もなく単行本が発売されますので、これは是非とも実際に確かめて頂きたいのですが、まず第1話の前半部分、冒頭から怒涛のように畳み掛ける濃密な内容のプロローグが素晴らしいです。ストーリーを本筋まで巧みに誘導しながら、主人公・アヤカのキャラクターを読み手の頭へ明確に焼き付ける事に成功しており、これが後半の修羅場シーンでのアヤカの献身的な行動に説得力が生まれ、その結果としてストーリーの完成度も非常に高い水準まで押し上げられています。また、その後の第2話以降でも脚本・構成・演出の上手さは光っており、特に第3話は脚本力(鋭い決めゼリフ)で“説得力十分の自己犠牲”という高難度の課題をクリアするなど、現役連載作家顔負けの実力を披露してくれました。

 ただ、課題も無いわけではありません。第4話は第3話までとは異なり、コメディ色の強い趣向のお話だったのですが、これはやや不発気味だったように思えました。今後、週刊連載も念頭に置くとすれば、この辺の配慮も必要になって来るでしょう。
 何しろ重い感動系ストーリーの次回に軽いコメディを持って来るのは、それだけでも肩透かし気味だったりするわけで、それで成功を収めようとするなら余程の構成力──回の冒頭から「今回は番外編ですよ」的な雰囲気を漂わせるなど──とギャグセンスが必要になって来ます。そういう意味では、こういう“箸休め”的な回にまで最高級のクオリティを求めるのは酷だとも思うのですが、それくらいの要求をしたくなるような作品だったりするのです。

 ……とまぁそういうわけで、第1話を一読した段階では、その余りの技術水準の高さに「藤田さんが事実上の原作者ではないか?」…と邪推したりもしたのですが、藤田さんの公式コメントからすると、藤田さんはあくまで原案段階で関わっているだけの模様。どうやら金田さんは“藤田流”の免許皆伝・正当後継者とも言うべきテクニシャンのようですね。
 これだけの実力者がこれまで表に出て来なかったのは不思議なのですが、ひょっとすると、これまでは師と己との差別化のために独自色を出そうとする余り、(『H×H』で言うところの)強化系念能力者が具現化系能力で戦うような真似をしていたのかも知れませんね。

 今回の評価
 ほとんど満点に近いストーリーテリング力から細々とした問題点を差し引いても、十分にA寄りA−の評価は出せる良作です。作風的には「原案協力:藤田和日郎」だからこそ許されるという特殊な作品ではありますが、そこに施されたテクニックはホンモノ。今後の展開が非常に楽しみな作品です。

◆「少年ジャンプ・GAG Special '2005」レビュー◆

 ……というわけで、後半戦は「ジャンプ」ギャグ増刊のレビューをお送りします。ただし、今回は新人・若手作家さんの作品を中心に、内容もいつもより若干短めでお送りします。他意は無く、「嫌事ばかり延々と聞きたくないでしょう?」…という話ですのでご理解の程を。

 なお、今回は雑誌の目玉が低年齢層を“顧客”にしている『ボーボボ』だったためか、全体的に男子小・中学生をメインターゲットにしたと思われる(もっと言えばウンコネタなど下ネタ中心の構成の)作品が目立ちました。このため、当講座の受講生さんのように「ジャンプ」読者としては高年齢層にあたる方々にとっては「他愛が無さ過ぎる」もしくは「チープで下品過ぎて、笑えるかどうかは別にして不快だ」と思われる作品も多かったのではないかと思います。
 これは実を言うと駒木もそうでした(笑)。ただ、個人的な“面白い、面白くない”は極力除外するのが当ゼミの評価基準ですので、レビュー及び評価はそういった個人的な感情は度外視してテクニカル面を中心に行いました。「ひょっとしたら、お子様はこういう作品も受け入れられるのかな」…と思った作品にはそれなりの評点をつけてますので、それを承知の上で受講して頂くようお願い申し上げます。

 ◎読み切り『おれたちのバカ殿』作画:ポンセ前田

 作者略歴
 
生年月日は未公開だが、「赤塚賞」受賞時の年齢から推測すると現在25歳前後
 03年下期「赤塚賞」にて、水溜三太夫名義で佳作を受賞。その後現在のペンネームに改名し、週刊本誌04年33・34号に2週連続掲載された『機動球児山田 〜めぐりあい稲木〜』でデビュー。今回はそれ以来のデビュー2作目となる。

 についての所見
 相変わらず動的表現や描き込みの甘さなど気になる点も多いものの、全体的に見ればギャグ作品として及第点の出せる水準にはありそうです。
 ただ欲を言えば、もう少し見た目でインパクトを与えられるくらいのアクの強さが欲しい所です。

 ギャグについての所見
 今回は完全に『魁!!クロマティ高校』の亜流といった感じの作風になりました。ただ、それにしてはキャラクターのインパクトが弱いですし、ギャグの密度も薄くネームの練りこみも不足しているため、全体的に物足りなさは否めません。とりあえずは、もう少しコマ割りを細かくして内容を充実させるべきではないかと思います。
 ただ、最後のオチは上手く決まっており、良い読後感だけは確保出来たかな…というところ。ギャグセンスが無いわけではないでしょうから、とにかくネーム段階でもう少し熟考してもらいたものです。

 今回の評価
 評価はB寄りB−。今回は本誌代原レヴェルの域を超えないデキに終わってしまった感じですね。

 ◎読み切り『LUCKY☆CHILDタケル』作画:後藤竜児

 作者略歴
 
資料不足のため、生年月日・年齢は未判明。
 デビューは週刊本誌99年6号掲載の『はだしの教師』で、これは代原掲載による暫定デビューの可能性が高い。また、01年29号にも同タイトルの代原を発表している。
 その後、「赤マル」01年夏号にこれも同タイトルの『はだしの教師』を発表しており、これが正式デビューか。
 それからは2年半のブランク(高橋和希さんのスタジオでアシスタントを務めていた)があって、週刊本誌04年13号で『ハッピー神社♥コマ太』で復帰、「赤マル」04年夏号にも『冒険王』を掲載している。

 についての所見
 以前と変わらず高橋和希門下特有の大袈裟な作風で、不自然なシーンも見受けられるのですが、今回は動的表現に若干の改善が認められたこともあり、やや見易くなったかな…という印象です。ひょっとしたら今回のようなナンセンス系のギャグとは相性の良い絵柄なのかも知れないですね。

 ギャグについての所見
 もうあざといまでにウンコネタ尽くし(笑)。「そこまでして男子小学生を笑わせたいか」と言いたくなるようなネタの連発に、閉口された受講生さんも多かったと思います。墨汁で汚した体操服を着て、集団で「ジャンプ」を回し読みしては笑ってるような小学生以外は相手にしてないんだ…という感じですもんね(笑)。でも、そういう小学生読者の何割がこの増刊を買ってアンケートを出すのかと考えるとアレですが。

 とはいえ、ギャグの見せ方については随分と手慣れてきたなぁ…といった印象です。テクニックだけなら若手作家さんの中でも上位クラスに入って来たのではないかと思わせてくれました。
 ただ、問題はお話を成立させるための必要最低限のシナリオすらマトモに構成出来ないほどのストーリーテリング力の乏しさ。ナンセンスギャグにしては展開がマトモで、普通のギャグにしてはナンセンス過ぎる中途半端なお話になってしまっています。これでは自然と論理的に物事を判断出来てしまう年齢に達した読み手には違和感と不快感しか与えられないんじゃないでしょうか。

 今回の評価
 技術点などを考慮して一応評価はBをつけておきます。今の作風を活かすなら、『ボーボボ』くらいハジけた方が可能性がありそうです。

 ◎読み切り『一九ポンチ咄』作画:大亜門

 作者略歴
 
 1977年5月29日生まれの現在27歳
 持ち込み活動の末、02年4月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りした後、週刊本誌02年34号にて代原で暫定デビュー。同年44号に2度目の代原掲載を果たした後、「赤マル」03年春号にて『スピンちゃん試作型』で正式デビュー。
 この『スピンちゃん』シリーズは、週刊本誌でも03年40号と48号の2回、それぞれ題名を微妙に変えつつ新作が掲載され、最終的に04年16号から『無敵鉄姫スピンちゃん』のタイトルで週刊連載化。ただし、この連載は人気不振のため1クール11回で打ち切り終了となる。
 その後、週刊本誌04年44号で復帰を果たし、今回はそれから間髪入れず、2ヶ月弱の間隔での新作発表。

 についての所見
 インパクトに欠ける単調なタッチは相変わらずですが、随分と絵柄が安定して来た印象を受けました。欲を言えばもう少し見た目に映える絵柄にして欲しい所ですが、減点材料とすべき要素はほとんどありません。

 ギャグについての所見
 こちらも相変わらずの高度なテクニックと脚本力に支えられた、濃密な31ページだったと思います。全編を通じて安定したクオリティを維持させる技術の確かさは、他の新人・若手作家さんの追随を許さない“格の差”を感じさせてくれました。さすがは(曲がりなりにも)連載経験者といったところでしょう。
 ただ、今回は過去作に比べて登場人物のキャラクターが弱く、その分だけギャグの方も大人しめに終始した感もありました。また、低年齢層を意識したためか、大亜門さんの持ち味の1つであるマニアックなパロディネタがほとんど見られなかったのも残念でしたね。“脱パロディ”を図るのではなく、お子様にも判るパロディを追求する方が良いのではないかと思うのですが……。

 今回の評価
 今回は良作評価には今一歩足らず、最大限技術点を加味してもA−寄りB+が精一杯といったところ。次回作での巻き返しに期待です。

 ◎読み切り『多摩川キングダム』作画:風間克弥

 作者略歴
 78年9月22日生まれの現在26歳。

 02年9月期の「天下一漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りした後、「赤マル」03年春号にて『ドスコイン〜遊星から来たあんちくしょう〜』でデビュー。その後、「赤マル」04年冬(新春)号に『部活王なぱた』を発表し、今回がデビュー3作目となる。

 についての所見
 全体的に稚拙な印象が否めません。人物の表情のバリエーションに乏しく、また、ポーズの付け方が微妙に不自然なために違和感があります。更にはコマ内の構図の取り方にも課題が残っているようで、絵の面ではややセンスを疑われるような水準に留まっているような印象ですね。

 ギャグについての所見
 いきなりアップでインパクトのあるビジュアルを見せる、いわゆる“出オチ”のようなギャグは(クオリティの高低は別にして)決まっているのですが、他の系統のギャグについては全くお粗末です。ボケは言葉で表現するシュール系のギャグに挑んでいるものの違和感が足りずに不発気味、以前から弱い印象のあったツッコミは今回も弱く、ボケに対してただ叫びながら状況を説明しているだけ。これではせっかくの31ページも間延びを助長するだけで終わっているのではないでしょうか。
 風間さんはこれで3度目の増刊登場を果たしたわけですが、3度目にしてこの低調な内容では、今後の展開も厳しかろうと思います。

 今回の評価
 評価はC寄りB−。有り体に言って、何とかマンガの体を成しただけの失敗作といったところです。


 ◎読み切り『ネコタ!』作画:夏生尚

 作者略歴
 生年月日は不詳だが、「赤塚賞」受賞時の年齢から換算すると、現在24歳前後
 02年上期「赤塚賞」で佳作を受賞し、その受賞作『白い白馬から落馬』が週刊本誌02年31号に代原として掲載され、暫定デビュー。
 それから更に1度の代原掲載を挟んだ後、03年下期「赤塚賞」にて『BULLET CATCHERS』で準入選を受賞し、これが04年14号に掲載されて正式デビュー
 この後、04年19号、44号に代原として読み切りが掲載掲載されているが、“正規枠”としては今回が2作目となる。

 についての所見
 夏生さんの作品はデビュー作から拝見していますが、絵の上達ぶりは目覚しいものがありますね。線もすっかり洗練されて来て、ストーリー作家としても通用する高い水準に達しています。今回掲載の新人・若手の中では1、2を争うデキでしょう。
 しかしながら、この絵の上手さがギャグを引き立てる方向に働いていないのが気掛かりです。何と言うか、デビューしたてのジャニーズJr.がしょうもないコントをやっているような違和感を感じてしまうんですよね。

 ギャグについての所見
 絵とは対照的に、こちらは夏生さんのギャグが以前から抱える問題点である“ムリヤリ感”が全く解消されておらず、残念でした。普通全くギャグとは結び付かないシチュエーションから、段階を踏まずにいきなり間の悪い大ネタへ持って行くので笑う以前に戸惑ってしまいます。
 また、ボケ役のキャラクターが今一つ定まっておらず、「ただ無闇矢鱈にギャグを連発する子供」だったというのも、作品の内容が散漫になった原因かも知れないですね。「自分はこれが当たり前だと思って行動しているが、他人から見たらどう考えてもボケ」ぐらいの天然ボケキャラが出て来ると、もっと印象が違って来たと思うのですが。 

 今回の評価
 評価はB−とします。これだけの画力があるのなら、ギャグにこだわらずストーリー系作家への転身を図ってみるのも良いのでは……? とも思えてしまう、デビュー6作目でした。

 ◎読み切り『ループ☆魔法典』作画:岩淵成太郎

 作者略歴
 1982年11月21日生まれの現在22歳(本日誕生日!)
 03年上期の「赤塚賞」で佳作を受賞し、“新人予備軍”入り。「赤マル」04年春号にて『爆走妖精ロンタ』でデビューを飾り、今回がデビュー2作目となる。

 についての所見
 デビュー2作目になりますが、まだ稚拙な面が目立ちますね。基礎的な画力が伴わない上に、ペンとトーンを使わず描かれているため、絵柄そのものが何となく素人臭く感じます。
 ただまぁそれは個人的な主観ですから置いておくにしても、人物のポーズの半分以上が不用意にただ突っ立っているだけで、まるで学芸会の三文芝居のようになっているのは閉口してしまいました。登場人物にはその場に応じてもっと必然性のある動きをさせてあげなければ、マンガではなく単なるイラストです。
 こういう絵柄は素人さんが描くイラストや4コママンガなんかではよく見受けられる構図だったりするのですが、いくら新人とは言えプロがそれやっちゃイカンでしょう。

 ギャグについての所見
 長ゼリフを多用したり、1つのコマに複数のセリフの遣り取りを入れるなど、『銀魂』を意識したと思われる演出が多数目に付きます。ただし、それも演出技法を真似てみているだけで、セリフそのものにトンチが利いておらず、全くと言って良いほど笑いに繋がっていない印象を受けました。もっと物事を必要以上に回りくどく説明するなり、キャラクターとそぐわない鋭い毒を吐かせるなり、読み手に大きな違和感を与えるようなセリフを練ってもらいたかったですね。

 今回の評価
 全体的に見て、『銀魂』から画力とストーリー構成力と国語力を骨抜きにしたような失敗作といったところ。評価はC寄りB−が精一杯ですね。

 ◎読み切り『黒子女子』作画:梅尾光加

 作者略歴
 1981年2月11日生まれの現在23歳
 01年前後から投稿活動を開始。当時の月例賞「天下一漫画賞」では01年1月期、7月期、02年2月期で最終候補に残っている。
 その後、02年下期「手塚賞」で佳作を受賞、その受賞作『甲殻キッド』が「赤マル」03年春号に掲載され、デビューを果たす。「赤マル」には03年夏号にも『オウタマイ』が掲載され、異例の増刊連続掲載を果たすも、その後は今回まで約1年のブランクを作った。

 についての所見
 ストーリー系出身の作家さんだけあって、若手ギャグ作家陣に混じると、さすがに腕達者ぶりが際立っていますね。ただし、今回“ギャグ仕様”で強めに施したディフォルメがやや粗く、次回作以降に課題も残した感じです。

 ギャグ(及びストーリー&設定)についての所見
 49ページというギャグ作品では普通あり得ないページ数、作品のキャッチコピーにギャグ作品を示すフレーズが入っていない事、更には作品中のギャグの密度の薄さからして、この作品は純粋なギャグ作品ではなく、コメディ(ギャグ要素を多く盛り込んだストーリー作品)と見た方が良いのかも知れません。
 ただ、それにしてもギャグの質・量共、物足りなさが否めませんでした。また、ストーリー系作品としてもシナリオが極めて平板でキャラクターも全然立っておらず、全体的な内容の乏しさは如何ともし難いものがあります。とりあえず1つの作品として成立はしているものの、一体何が表現したかったのかが全く伝わって来ない凡作と言わざるを得ないでしょう。

 今回の評価
 絵の完成度が高いので一応“読める”のですが、「ただそれだけ」といった印象。B寄りB−としておきます。
 梅尾さんはこれまで若手では上位級のエンタメ系ストーリー作品を描いていた作家さんだけに、今回の停滞はかなり気掛かりです。今一度、ストーリー系作品で再出発を図って欲しいところですが……。

 ◎読み切り『影武者』作画:菅家健太

 作者略歴
 生年月日は未公開。「赤塚賞」受賞当時の年齢から推測して、現在21〜22歳。
 02年上期「赤塚賞」で佳作を受賞、その受賞作『あつがり』が代原ながら週刊本誌02年29号に掲載されて暫定デビュー。代原としては翌03年にも31号に作品を発表している。
 今回は久々の新作発表、そして初の“正規枠”掲載で正式デビュー作ということになる。

 についての所見
 動的表現に違和感が残っていたり、背景と人物キャラのバランスが狂っているなど、有り体に言ってまだまだ稚拙な面が目立ちます。が、代原作家時代のロクに画材も選ばない“プロ以前”の絵柄よりは格段に洗練されて来た印象です。この調子で修練を重ねれば、遠くない内に「ジャンプ」でも立派に通用する画力になることでしょう。

 ギャグについての所見
 菅家さんの作品は、「赤塚賞」の受賞作『あつがり』以来ずっと、全編通じて1つのテーマ(お題?)にこだわったギャグ作りをしており、今回は「影」でした。
 しかし、そういうこだわりは悪くないのですが、そのこだわった結果がダジャレ連発では……。「影」だからこそ、または「影」でしか出来ないギャグをもっと出してこそ、こだわりが生きて来るのではないかと思うのですが……。

 今回の評価
 前作に比べて絵が上手くなった代わりに、肝心のギャグの方が平凡になってしまった感じですね。マンガって難しいですねぇ……。
 評価はB−としておきましょう。ただ、ダジャレ連発がツボにハマった人がジャッジすると、もっと評点が跳ね上がるんでしょうね。
 

 ◎読み切り『大石浩二ってアレでしょ? 尿検査でいつも引っかかる人でしょ?』作画:大石浩二

 作者略歴
 プロフィール未公開のため、生年月日は不明。
 週刊本誌04年24号にて、代原掲載による暫定デビューを果たし、それ以後も26号、31号にそれぞれ代原掲載を果たしている。
 正式デビューは「赤マル」04年夏号。今回はデビュー2作目で、最近の「ジャンプ」では珍しいオール4コマ作品。

 についての所見
 戦隊モノからデューク更家まで(あ、これじゃ1本分だけだ)、老若男女、人外も含めて幅広い人物の描き分けが出来ており、線も洗練されて来ました。今回は4コマでしたから細かい部分は判りかねる面もありましたが、少なくともギャグ作家としては合格点の画力と言えるでしょう。
 欲を言えば、トーン処理や背景にもう少し手を加えて欲しいかな…といったところで、これは次回作以降の課題としましょう。

 ギャグについての所見
 扉の1ページネタ+4コマ24本4コマ作品は編集サイドからのダメ出し・ボツが多いと聞きますから、これだけの分量を埋めるまでには凄まじいまでのネタ出しがあったでしょうね。まずはお疲れ様と申し上げたいです(笑)。
 で、ネタの方ですが、中には技術・センスを感じさせるモノがあったものの、やや“打率”が伸び悩んだかな…といったところです。各ネタで入れ代り立ち代りするキャラクターの数が多過ぎてやや散漫な印象がありましたし、ネタそのものも、大石さんの持ち味である“間”で笑わせるギャグと『兄弟仁義』シリーズで多く見られるシュール系ギャグの割合が低く、そのため“不発”が増えてしまったような印象です。
 4コマの場合、5W1H(特に登場人物のキャラクター)をしっかり確定し、コメディタッチのストーリーを展開させながら、個性豊かな登場人物のキャラクターを手がかりにしてネタを量産するパターン(過去作で言うと『幕張サボテンキャンパス』『あずまんが大王』など)でないと、安定して質の高いネタを並べる事は難しいような気がします。
 で、今回の場合、ちょうどそのパターンの逆を行ってしまったように思え、そういう意味では微妙に伸び悩んだのも致し方無いかな…という気がします。もし次回作でも4コマ作品で勝負するのならば、まずはそれに適したキャラクターを生み出すところから始めてみてはどうでしょうか。

 今回の評価
 評価はとしておきましょうか。“瞬間最大風速”には非凡なモノを感じさせてくれる作家さんだけに、いつも厳しめの評点をつけるのが心苦しかったりするのですが……。

 ◎読み切り『猫又マタムネ』作画:降矢大輔

 作者略歴
 少なくとも降矢大輔名義では、過去の経歴等のデータは全く不明。別名義での活動が無ければ、今回が編集部への直接持ち込み等、非公開のルートを経てのデビュー作ということになる。

 についての所見
 極太でいかにも洗練されていない線や人物デザインの垢抜けなさにキャリアの浅さを感じさせますが、それでも表現的に押さえるべきところは押さえている感じです。それに背景処理など、連載作品ではアシスタントが担当する部分のクオリティも高く、ひょっとすると降矢さんは現役アシスタントなのかも知れませんね。

 ギャグ(ストーリー&コメディ)についての所見
 内容を見る限りでは、純粋なギャグ作品と言うよりも、ギャグ要素の高いラブコメ作品と言えそうですね。ギャグもストーリーも新鮮味に欠けた平凡なものでしたが、“間”の取り方や演出が達者で、非常にスムーズに読み進める事が出来ました。ことテクニック面で言えば、今回の増刊に掲載された新人・若手作家さんの中では随一とも言える水準ではないでしょうか。
 これでシナリオやキャラクターがもう少し充実してくれば、一気にクオリティが上がって来ると思います。次回作に期待です。 

 今回の評価
 評価はB+とします。しかし、これくらいの水準の作品がマシに見えるというのも、やや悲しいものがありますね。

 ※総評…A−以上の評価をつけられた作品はゼロ。B+評価も10作品中僅かに2作品で、やはりこれは低調な結果と言わざるを得ません。いくら過去の実績が乏しいメンバー中心のラインナップとは言え、わざわざ代金を支払ってまで代原クラスの作品を読まされるのは、一読者として堪らないモノがありました。


 何やかんやといって、結構なボリュームになってしまいましたが、如何だったでしょうか。酷評続きでストレスが溜まり気味の受講生さんもおられるかと思いますが、“仕様”という事でどうかご容赦下さい。

 それでは今日の講義を終わります。次回講義をお楽しみに。

 


 

2004年度第65回講義
11月18日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(11月第3週分・前半)

 公式発表ではありませんが、『絶対可憐チルドレン』の来春からの本格連載開始が、作者・椎名高志さんご本人から発表されましたね。増刊掲載の読み切り版から追いかけて来た者としては嬉しい限りです。
 掲載誌については、一旦発表されたものが編集部側からNGが出て(そりゃまぁ、半年フライングされたら編集部も『カンベンしてくれ』でしょう)伏せられてしまいましたが、まぁ「GX」転出じゃなくて良かったね…ということで(笑)。
 どうしてこれまで長々と飼い殺しにされていた作品が一気に日の目を見たのか…という訳は、もうすぐしたら目に見える形で分かるはずなんですが、それにしても本当に分かり易い方向転換ですね。レビュアーの立場から離れて言わせて頂くと、「喜べ! 俺たちの『サンデー』が帰って来た!」…ってなところでしょうか。

 ところで今週は、その「サンデー」は先週号が一足早い合併号だったため、1週休み。とりあえず今日は「ジャンプ」分、ひょっとしたら実施できるかも知れない明日の後半分は「ジャンプ」のギャグ増刊関連分と「読書メモ」特集ということになるかと思います。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(52号)に読み切り『よしっ!!』作画:福島鉄平)が掲載されます。
 福島さんは、今夏開催の「金未来杯」にもエントリーしていた有望若手作家さん。前作は広く支持を集める事が出来ませんでしたが、早々のリスタートとなりました。今回は現代劇の弓道モノということで、これまでとは一風違った福島さんの作品を読む事が出来そうですね。

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(52号)に読み切り『HALLOO SUNSHINE』作画:西公平)が掲載されます。
 西公平さんは01年デビューの若手作家さんで、過去2回週刊本誌掲載の経験があります。そろそろキャリア的にもこのチャンスを連載へ結び付けたいところでしょう。次号予告を見た限りでは少年マンガでは“鬼門”とも言うべきファンタジー系作品のようですが、さて、どうなるでしょうか──?

 ※今週前半のレビュー&チェックポイント
 ●今週前半のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り2本/代原読み切り1本
 ※「チェックポイント」は時間の都合で休みます。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年51号☆

 ◎読み切り『スーパーメテオ』作画:高橋一郎 

 ●作者略歴
 1983年1月26日生まれの現在21歳
 02年下期「手塚賞」で準入選を受賞、その受賞作・『ドーミエ〜エピソードI〜』が週刊本誌03年16号に掲載され、デビュー。この年は39号にも読み切り『LIKE A TAKKYU!!』を発表している。
 今回は約1年ぶり、3度目の週刊本誌登場となる。

 についての所見
 前作でもそうだったのですが、高橋さんの絵は線が非常に粗く、時には手抜きとも思えるような雑な箇所も多く見受けられるものの、マンガの記号としてのツボはキチンと押さえられているのが特徴です。意外と見苦しさは感じられない絵柄に仕上がっていると言えます。
 前作から1年経っても絵柄を変えないということは、もうずっとこのタッチで行くという意思表示なのかも知れませんね。ただ、クオリティ云々は別にして、少年誌で人気を獲ろうとするならば、せめて雑に思える箇所は修正した方が良いような気もします。
 あと、これは評価云々と関係ないですが、そういう粗いタッチの絵にも関わらず、主人公の眉毛の剃り跡を執拗に細かく描写していたのには笑ってしまいました。何か物凄いこだわりがあったみたいですね(笑)。

 ストーリー&設定についての所見
 プロットそのものは、どこにでもよくあるような学園の部活動を舞台にした勧善懲悪モノですね。ただ、そこへSFじみた手の込んだ設定と演出力に支えられて、既存の作品とは一味違った中身の濃い作品に仕上がっています。
 特に優れているのが“キャラクター&設定描写力”ですね。凡百の作品ならダラダラと間延びしたセリフ劇で設定を説明してしまうような場面でも、上手に挿話を挟みながら必要最低限のページ数で読み手に情報を与える事が出来ています。例えば冒頭数ページで主人公の身体的特徴と性格を見事に描写しきった場面など、既に新人・若手の域を超えたレヴェルに達していると言えるでしょう。
 で、そういうパワーに支えられたおかげで、この作品はどんな突拍子も無い設定にも説得力を持たせられてますし、間延びを防ぎ、密度の高いストーリーを展開させることも出来ているわけですね。
 ただ、惜しむらくはメインプロットが陳腐で御都合主義な事。先述の良く出来た要素と余りにもアンバランスに映ってしまい、作品の完成度がやや落ちてしまった感は否めません。もう少しその辺を練りこんでいれば、本当に素晴らしい作品に仕上がったはずだと思うのですが……。

 今回の評価
 それでも評価は十分A−に値する良作です。高橋さんはデビュー作以来、荒削りな面ばかりが目立っていましたが、いよいよその才能も洗練されて来たかな…といったところでしょうか。あとは良い題材とプロットに恵まれれば、きっと「ジャンプ」の中核を担う作家さんになれると思います。

 ◎読み切り師匠とぼく作画:川口幸範

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 79年4月3日生まれの現在25歳
 「天下一漫画賞」の時代から月例賞で最終候補や特別賞受賞を繰り返し、2年以上にも及ぶ“新人予備軍”暮らしが続いていたが、04年4月期「十二傑新人漫画賞」にて十二傑賞を受賞。今回は受賞作デビューの権利を行使しての週刊本誌登場となった。

 についての所見
 
人物の造型、ペンタッチ、構図など、いかにも「ジャンプ」らしくない要素が満載…といった感じですが、基礎的な画力はこれがデビュー作とは思えない程。各種表現技法や背景処理、シリアスとディフォルメの使い分け、登場人物の描き分けなど、既に即連載級の実力と言えるでしょう。
 雌伏期間の長い人が表に出た時のインパクトが大きいのは世の常ですが、2年以上も諦めずにコツコツと投稿活動を重ねて来た意志の強さが絵にも反映されているという感じですね。「ジャンプ」で成功するためにはもう少しアクを抜くべきなのかも知れませんが、画力そのものは申し分無しです。

 ストーリー&設定についての所見
 先程の『スーパーメテオ』と同じく、若手としては卓越した才能が光る佳作です。
 まず特筆すべきなのが、先程の『スーパーメテオ』同様の“設定描写力”。本来なら果てしなく掴み所の無いキャラクターであるはずの主役級2人(“師匠”と“ぼく”)の人となりが、しばらく読み進めている内に自然と把握出来てしまうのには唸らされました。何しろ登場人物の大半が氏名不詳なのに、話を追うのに何ら支障が無いんですからね。
 また、何気ない遣り取りを1つの見せ場に仕上げる演出力も、これがデビュー作の新人さんとは思えない水準に達しています。これは来るべき週刊連載の際には大きな武器となる事でしょう。

 ただしこの作品、プロットやストーリーそのものは非常に弱く、有り体に言うと「有って無きが如しのストーリー」という感じになっています。ストーリー全体と登場人物ごとの5W1Hが曖昧なため、作品のテーマがぼやけてしまったのも、その一因でしょう。
 この作品が「十二傑賞」で受賞した際の編集部講評が「ストーリーの展開がまるでわからない」…という、職責をブン投げたようなモノだったのが気になっていたのですが、なるほど、人気作を輩出するために子供にも分かり易いお話を追求している編集者さんにとって、この作品は異次元のモノに見えたことでしょう。分かり易いキャラクターが紡ぎ出すストーリーではなくて、作品全体から漂う雰囲気を楽しむ性質の作品など、少なくとも「ジャンプ」系の新人が描くべき作品じゃありませんからね。 

 今回の評価
 高い演出力とストーリーの弱さをどう判断するか、非常に迷うところです。まるでボクシングの採点で手数と強打、どちらを重視するかみたいな話で、確固たる判断基準に欠ける難しいジャッジになりました。多分、この作品は読んだ人によって評価が大きくバラけるでしょう。
 とりあえず駒木が下したジャッジはA−寄りB+。演出力よりストーリーの中身を重視した上での判断です。

 ◎代原読み切り『スクールバトル’04』作画:前田竜幸

 ●作者略歴
 
生年月日・年齢は資料不足のため未判明。
 01年9月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入り。しかしその後の投稿成績は振るわず、03年9月期「十二傑」で「最終候補まであと一歩」リストに名を連ねたのみ。
 今回が代原掲載による暫定デビュー。

 についての所見
 意識的に“豪快さ”を出そうという狙いのペンタッチではありますが、結果として“荒っぽさ”の目立つタッチになってしまったかな…という印象ですね。丁寧に描くべき箇所が粗雑になっている点がいくつか見受けられました。
 とはいえ、ギャグ作品としてなら十分及第点の出せる水準ではあると思います。あとはもう少し“出オチ”がカマせるくらいアクの強いデザインの人物が描けるようになると、更に良いですね。

 ギャグについての所見
 第一印象は「うわー、『ジャンプ』なのに島本和彦みたいなの出たー!」でした(笑)。多分、同じ印象を抱いた方もいらっしゃったことでしょう。まぁパクリではなくてモチーフの範疇でしょうから、オリジナリティに欠けるという面を除けば、評価にネガティブな影響を与えるには至らないと思います。
 それよりむしろ、何でもない事を大袈裟に表現して違和感を滲み出し笑いを誘う…という、島本和彦(っぽい)作品の魅力を上手に再現できている点、これは逆に高く評価出来る点とさえ言えます。一見「ただ島本和彦の真似をしているだけ」に見えるかも知れませんが、その「ただ真似をする」だけでも高い脚本力と演出力が必要なわけで、それを見事にクリア出来ているこの作品は、やはりそれなりのクオリティに達した佳作と言うべきだと思います。
 とはいえ、全体を俯瞰すると、ギャグの密度を濃くしようとしたためか、やや“ハズし”気味のボケまで濫発してしまったように思えるのも確か。全編通して安定したギャグの水準を維持できなかったのは残念でした。 

 今回の評価
 この作品も評価が難しいところなんですが、とりあえず今回はB+としておきます。今回も素質は感じられるような作品でしたので、あとは全ページを通じ、安定して読み手を笑わせられるようなシビアな構成を心掛けれてもらえれば…と思います。

 

 ……というわけで、何とか3作品のレビューを間に合わせる事が出来ました。後半も早い時期に実施できるよう頑張ります。

 


 

2004年度第63回講義
11月12日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(11月第2週分・合同)

 アニメ『げんしけん』を観ながら、「この絵は『ナディア』の島編か」…などと呟きたくなる秋の夜長、いかがお過ごしでしょうか、当講座専任講師の駒木ハヤトです。
 ところで今週は「サンデー」がメジャー各誌より一足先に合併号シーズンに突入。もうそんな時期なんですねぇ。もうあの『十五郎』からもう1年と思うと、月日が流れるのは早いもんですね(笑)。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(51号)に読み切り『スーパーメテオ』作画:高橋一郎)が掲載されます。
 高橋さんは02年下期「手塚賞」で準入選を受賞し、『ドーミエ〜エピソードI〜』で03年に本誌デビュー。その後、03年にもう1作、週刊本誌に読み切りを発表していますが、今回はそれから1年以上のブランクを経てのデビュー3作目ということになります。
 今回はバレーボール物のようですが、一筋縄ではいかない作風の作家さんだけに、どういった作品になるかは未知数。とにかく楽しみではありますね。

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(51号)に読み切り『師匠とぼく』作画:川口幸範)が掲載されます。
 この作品は、04年4月期の「十二傑賞」受賞作。タイミングに恵まれず、ここまで掲載が見送られて来たようですが、今回晴れて週刊本誌掲載と相成りました。
 川口さんは、「十二傑賞」受賞までに月例賞の審査員・編集部特別賞(=デビュー確約の賞より1ランク下の次点)を受賞する事3回という苦労人タイプの新人作家さん。この作品は長年の投稿生活の集大成という事になるのでしょうね。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(52号)に読み切り『あるふぁ!』作画:桜河貞宗)が掲載されます。
 桜河さんは増刊で03年3月号から8月号まで短期連載を経験済みの若手作家さん。今回が初の週刊本誌登場となります。(12日午後から夜にかけて、謝った情報を掲示していました事をお詫びいたします)

 ★新人賞の結果に関する情報

第18回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年9月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
  ・『バスチル』
   木村泰幸(26歳・神奈川)
 《岡野剛氏講評:結局主人公が何をやりたいのかがよく判らないものの、髪型を含めた主人公のキャラの面白さで最後まで読ませてくれた。》
 《編集部講評:セリフやキャラ作りに対して高い意識を感じる。勢いもあって一気に読ませるが、主人公のバスケットの思い入れに説得力が無かった》
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『砂人』(=審査員特別賞)
   小倉裕也(25歳・東京)
  ・『バーリトゥーダー』
   中田毅(23歳・千葉)
  ・『カケル、かける』
   大前貴史(23歳・兵庫)
  ・『書家』
   鈴木まど香(18歳・東京)
  ・『雄材大流』
   河合浩平(21歳・和歌山)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の木村泰幸さん…03年11月期「十二傑」で最終候補。
 ◎最終候補の大前貴史さん…03年8月期「十二傑」で審査員
(許斐剛)特別賞、03年10月期「十二傑」にも投稿歴あり。また、「ウルトラジャンプ」の新人賞(03年前期)にも入賞の経験あり

 先月(佳作1作品、最終候補11作品)の反動でしょうか、今月は佳作ナシで最終候補作品も少なく、やや寂しい審査結果発表となりました。新人さんの層が特に分厚いと思われる「ジャンプ」でもこういう事があるものなんですね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り2本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年50号☆

 ◎読み切り『ストライカー義経』作画:加地君也 

 ●作者略歴
 1977年9月7日生まれの現在27歳
 97年3月期「天下一漫画賞」で佳作を受賞、その受賞作『天翔騎馬』が「赤マル」97年夏号に掲載されてデビューを果たす。
 その後は「赤マル」99年春号(三条陸さん原作の漫画担当)00年冬(新年)号、週刊本誌00年18号にそれぞれ読み切りを発表。それから2年のブランクを経て、週刊本誌02年43号に『暗闇にドッキリ』を発表すると、これが翌年連載化される(03年18号〜35号まで1クール半17回で打ち切り)。
 今回は連載終了後、約1年ぶりの復帰作となる。

 についての所見
 1年余のブランクがありましたが、「悪い意味で以前と比べて変化のない絵柄」…といったところでしょうか。
 まず、加地さんの描く絵は、全体的に線が細い割に緻密さに欠けており、どことなく雑に見えてしまいます。その上、人物(の顔)ごとの造型や美醜のコントラストが弱い(特に美形キャラを描く事が苦手な様子な)ため、インパクトまで不足している感も有ります。インパクトが弱い上に雑に見える絵柄では、読み手にはネガティブな印象しか与える事が出来ないでしょう。 

 ストーリー&設定についての所見
 まずストーリーですが、これ自体は失点がなるべく少なくなるように手堅くまとめられていると思います。ただ、見方を変えると、セールスポイントとオリジナリティに欠ける、無難過ぎでベタな勧善懲悪の話──つまりは、失点が少ない代わりに得点も少ない話になってしまったかも知れませんね。

 一方、明らかに失点の材料と思われるのが各種設定です。特にメインアイディアであるはずの“義経(牛若丸)&弁慶+サッカー”が、極めて中途半端なこじつけに終わってしまったのは致命的な欠陥と言わざるを得ないでしょう。“単なる高さのある垂直飛び=八艘飛び”で“顔面ブロック=弁慶仁王立ち”程度の結びつきでは、敢えて現実感の無いこの設定を採用した意義は薄く、まだ普通のサッカーマンガにして普通の青春ドラマにした方が無理がない分だけマシだったかも知れません。
 また、義経と弁慶のどちらが主役なのかが曖昧で、これは読み手の感情移入を阻害する要因だったのではないでしょうか。どうせベタなストーリーなら、弱々しい“義経”を、突如現れた強い“弁慶”が体を張ってサポートし、その頑張りで闘志に火を点けた“義経”が火事場のクソ力的に才能を発揮して八艘飛びシュート(?)を披露……といったパターンの方が、まだ筋が通っていたような気もします(それはそれでエラいベタさですが、あくまで「まだマシ」という例えで)。有り体に言って企画倒れに終わってしまった作品という感ですね。

 それでもまだ登場人物のキャラクターが上手く出来ていれば、キャラクター主導型の作品として評価する余地は有ったと思うのですが、残念ながら……。
 この作品の登場人物は、まるでストーリー進行上必要な設定が人間の姿を動いているようで、動機付けや性格形成の背景が極めて希薄。“(作者に)やらされている感”が非常に強かったです。

 今回の評価
 評価は赤点寸前のC寄りB−。判り易い奇抜な設定も良いですが、もっと読み手の心を惹き付ける人間やドラマを中に入れて欲しかったですね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週は時間も足りないので控えめに。

 まずは今週で第1部完となった『NARUTO』。個人的にはタイミング的にも「何故今に?」という思いが先に来てしまうのですが、良い余韻の残る演出はお見事でした。
 前から思っていた事なんですが、岸本さんはラストシーン(っぽいシーン含)を描くのが巧いなあと。近日再開するであろう第2部は、是非とも読後感の良い大団円でお願いしたい所です。『マキバオー』『ヒカ碁』など、第二部に突入した長編作品は失速してラストも尻すぼみになってしまう事も少なくないのですが、この作品は余力を残している内に上手く完結させてもらいたいなぁと思いますね。

 さて、そろそろ打ち切りサバイバルレースの行く末が気になる時期ですが、今週遂に『Wāqwāq』が実質最下位に転落。これは厳しいですね。これに加えてあと1作品打ち切りとなれば、往年の『ノルマンディーひみつ倶楽部』のように打ち切り圏内ギリギリで渋太く生き残って来た『未確認生物ゲドー』でしょうか。
 掲載順で言えば当然『武装錬金』も候補になるんでしょうが、連載1周年を過ぎ、単行本も中堅クラスと互角の部数で推移している現状を鑑みると、そうそう簡単には打ち切られないんじゃないかと思っています。今は毎週50ページ以上の読み切りを乗せないと誌面が埋まらないような状態ですし、敢えて単行本の売上げが伸びて来た作品に引導を渡してまで3作品を打ち切る必要性が見出せませんからね。
 まぁ単行本で作者自ら人気低迷を暴露している作品ですから予断を許さない情勢ではあるのでしょうが、今期を無事に乗り越えたなら、商業的な成績や今後の“伸びしろ”を考えた場合、年明け以降は『ミスフル』の方が危ないような気がしています。トーナメントの途中でバッサリ打ち切った『ホイッスル!』の前例がありますし、起死回生のサプライズが無ければ、近い内に苦しい立場に追い込まれるのではないでしょうか……とか、去年の今頃から同じ事を言ってるような(笑)。「ジャンプ」作品って、3クールを突破したら必要以上に打ち切られなくなるんですよねぇ。
 

☆「週刊少年サンデー」2004年50・51合併号☆

  ◎読み切りMAXI作画:佐藤周一郎

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 年齢と新人賞受賞歴は未判明
。以前増刊号の「新人コミック大賞」募集ページにカットを描いていたとの情報があり、同賞出身作家の可能性が高い。
 確認できた限りで一番古い掲載歴は月刊増刊01年9月号に掲載された読み切り『アルプスの闘魂 カンジ!』。デビュー当時はギャグ作家で、その後月刊増刊02年3月号、週刊本誌02年12号に発表した読み切りはいずれもギャグ作品だった。
 その後、週刊本誌02年34号に初のストーリー系作品『カラス〜the master of GAMES〜』を発表し、翌03年には月刊増刊で『PEACE MAKER』を短期連載する(03年12月号〜04年2月号)
 今回は短期連載終了以来の新作発表で、週刊本誌には2年ぶりの復帰作となる。

 についての所見
 美術的な画力や描き込みの精度に関してはお世辞にも高いとは言えません。しかし、線がスッキリと洗練されており、また、キャラの描き分けやディフォルメ、メカ(魔騎士)描写や動的表現など、マンガの絵として必要な要素においては軒並みプロの仕事が出来ている印象です。絵そのものが作品のクオリティを上げるところまではいきませんが、それでもマンガの記号としては全く問題なく機能している、「上手くはないが、よく出来ている絵」であると思います。
 蛇足ながら具体的に1つ注文を出させてもらうと、もう少しアクの強い造型の顔が描けるようになれば、更にメリハリがついて良いんじゃないかな…といったところでしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 この作品は良きにつけ悪しきにつけ、謎の巨大生物・魔騎士を巡るスケールの大きな世界観に尽きると思います。どことなく過去の名作アニメなどからモチーフを推測できそうではありますが、オリジナルの設定も絡めて上手くモチーフを融合させており、「サンデー」作品としてはなかなか新鮮ではなかったかな…と思います。
 ただ、余りにも惜しいことに、この世界観の中心的存在である魔騎士についての設定や作品内の歴史的背景が完全に説明不足で、そのために登場人物の言動、心理描写が全てピンボケになってしまいましたね。特に主人公と敵役の行動に関する動機付けが伝わって来ないのが痛く、これではストーリーや登場人物に感情移入のしようがありません。お話の内容を語る以前のところで躓いてしまった感があります。
 何と言いますか、「ダイヤの原石は宝石に非ず」という感じで、ただただ勿体無い作品でしたね。

 今回の評価
 ポテンシャル自体はA評価までいくような素材の作品だと思うのですが、完成度がゼロに近い低さでは失敗作の評価を出さざるを得ないといったところ。泣く泣くB−とさせてもらいます。

 ◎読み切り『二九球さん』作画:大塚じんべい

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 
年齢と新人賞受賞歴は未判明。
 デビューは週刊本誌04年21号に掲載の『もみあげキャプテン』。その直後に発売された増刊04年GW号にも読み切りを掲載しており、今回がデビュー3作目となる。

 についての所見
 デビュー作のレビューで「全体的に見て稚拙な部分が目立つものの、不思議と読み辛さは感じさせない」と述べたのですが、今回も同じ印象を抱きました。ギャグ作品ですから高い水準を求める事はしませんが、今はまだ“ヘタウマ”ではなく“ヘタウマっぽいヘタ”といったところですので、せめてもう少し丁寧に描く努力はしてもらいたいです。

 ギャグについての所見
 基本的なギャグの組み立て方やギャグのバリエーションの持たせ方については、必要最低限の基準をクリア出来ている
と思います。ギャグの密度についてもデビュー作以来の高い水準を保っていますね。
 ただ、今回はボケ、ツッコミ、リアクションのバランスが狂っていて、結果的にギャグの完成度が低く留まってしまったようでした。具体的に言うと、弱いボケに対して強いツッコミ、強いボケに弱いツッコミ、弱いボケに対して大き過ぎるリアクション…という、笑い所と白け所が併設されているパターンのギャグが多く、これでは笑おうと思った人でも笑い難くて仕方がないのではないでしょうか。失礼ながら、売れない若手お笑いグループのコントを見ているような感覚に囚われました。

 今回の評価
 今回はいかにも“笑いの歯車”が空回りしてしまった感があり、技術点を考慮してもB−評価に留めざるを得ません。いつになるか判りませんが、持ち前の技術をフルに活かし切った作品でリベンジしてもらいたいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「今、一番食べたいもの」。
 「食欲の秋」ということで、連載作家陣の最多回答は「松茸」でした。そうそうどこでも売っているというような物でもなく、更には自分で食べるためだけに買うには躊躇するような値段設定というところがミソなのでしょうか。
 ……しかし、「サンデー」作家の皆さんは分かってらっしゃらない。ここで企業名と商品名をバシっと出しておけば、その企業から商品がダンボール箱一杯にビシッと届くというのに、何故それをなさらないのか?(笑)。

 駒木は、「ステーキハウス・ミスターデンジャー」の肉をむせっかえる程食いたいですねぇ。12月には2回東京行く予定なんですが、最低1回は450gステーキセットを平らげに訪れたいと思ってます。
 ……ただ、予算を考えずというのなら、ここに一度で良いから行ってみたいです。恐ろしいほど旨いとは聞いているのですが、薦められるままに飲み食いしたら軽く5万は逝くという、同じ神戸にある店とはいえ、駒木の稼ぎでは皇居に入るのと同じ位敷居が高い所です(^^;;)。

 連載作品については、今週特に演出の良かった『結界師』を。何気ない会話の中に、これからのシナリオの伏線提示やキャラ設定の解説・描写を可能な限り詰め込んだと思われる、渾身の労作ネームですね。当講座昨年度の“新人賞”受賞作ですが、いよいよ新人の域を超えた本格的で骨太の作品に仕上がりつつあるようで、大変頼もしく思います。

 来週は「サンデー」が休みの分、「ジャンプ」のギャグ増刊や、これまでレビュー出来なかった「サンデー」増刊号の作品の「読書メモ」などがお送り出来れば…と思っています。まぁ、年末の事もありますので、時間と相談しながらになりますが、期待せずにお待ち下さい。

 


 

2004年度第62回講義
11月5日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(10月第6週/11月第1週分・合同)

 この週末は色々な仕事にカタがつき、久々にちょっとだけ気楽な日々を過ごしております。とはいえ、11月という時期から色々とやるべき事を考えると、そうそう安閑とはしていられないわけですが……。
 何だか嫌な事ばかりある今日この頃ですが、もうしばらく某誌の背表紙に注目しておくと良い事があるそうなんで、とりあえずその日のすべき事を頑張ってやっておきたいと思います。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(50号)に読み切り『ストライカー義経』作画:加地君也)が掲載されます。
 どうやら本格的に開催中らしい“突き抜け作家復活サバイバルシリーズ(仮)”の第3弾は、『闇神コウ〜暗闇にドッキリ!〜』の加地君也さんが登場です。
 今回は源義経の生まれ変わりがサッカーをする…という、作品を読む前には言っちゃいけない類のツッコミを今にでも吐き出したくなりそうな内容みたいですが、果たしてどうなる事でしょうか(苦笑)。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(50・51合併号)に読み切り『MAXI』作画:佐藤周一郎)が掲載されます。
 佐藤さんは、02年に2度週刊本誌登場を果たしている若手作家さんですが、最近では一旦増刊に活動の場を移し、03年12月号から04年2月号まで短期連載を獲得。“週刊連載獲得まであと一歩”というポジションをキープしつつ、今回久々の週刊本誌進出となりました。
 最近、特に“連載予備軍”の若手作家さんの作品掲載が目立つ「サンデー」ですが、佐藤さんはその中でも“チーフ格”と言って良いポジションでしょう。過去に本誌掲載になった2作品は完成度の面であと一歩という感じでしたが、2年を経てどれくらい成長が見られたか、注目しておきたいところですね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年49号☆

 ◎読み切り『退魔師ネネと黒影』作画:蔵人健吾 

 ●作者略歴
 1975年4月12日生まれの現在29歳
 95年に「第31回MJ少年漫画大賞」で佳作を受賞、この受賞作『SINCE2030』「月刊少年ジャンプ」の95年8月増刊に掲載され、デビュー
 その後は週刊の方に活動の場を移し、97年上期「赤塚賞」で最終候補、そして翌98年上期では「赤塚賞」で準入選、「手塚賞」で佳作を同時受賞。「赤塚賞」の受賞作『世界平和と僕』「赤マル」98年夏号に掲載され、これが“週刊”デビュー。週刊本誌にも98年41号に初掲載を果たす。
 しかし、その後は年に1〜2度、増刊で新作を発表するペースとなり伸び悩み。01年には別ペンネームで「ガンガン」誌への移籍を模索する時期もあったとのこと。
 しかしその矢先、「赤マル」02年春号『SANTA! -サンタ-』掲載されると、これが『★SANTA!★』に改題の上、03年より連載化される。デビュー以来8年目での嬉しい初の連載となったが、1クール12回で無念の打ち切りとなった。
 今回は連載終了以来、1年数ヶ月ぶりの復帰作となる。

 についての所見
 『★SANTA!★』連載中は絵柄の荒れが特に目立っていた蔵人さんの絵ですが、時間に追われなければそれなりのクオリティは提供出来るのは以前からの作品でも実証済みで、今回も全体的な完成度はそれほど悪くは無いと思います。
 ただ、基本的にデッサンの出来てない絵だけに、アングルによって顔のパーツのバランスが狂ったり、人間の全身像がやや不自然だったりする所が見受けられ、曲りなりにも連載経験作家さんが描く絵としては物足りなさが残りますね。現在の連載陣と比較すれば、やはり見劣りは否めないところです。

 ストーリー&設定についての所見
 結論から先に言うと、こちらは落第点をつけなければならないクオリティでしょう。ストーリーは一応作品の体を成していますが、そこでギリギリ精一杯という感がありました。

 まず、以前からの課題である脚本の拙さがほとんど修正されていないのが大変気になりました。全編、長々とした説明的セリフのオンパレードで、しかもそれが場面転換や効果的な演出をほとんど施さずに延々と続いているため、作品半ばの中弛みが酷かったように思えます。「橋田寿賀子が脚本描いたアクション映画ってこうなるのかな」…などと考えながら読んでました(笑)。
 あと蛇足ながら蔵人さんの脚本力の無さを象徴しているシーンなので指摘しておきますと、80年前の回想シーンで「リスク」という言葉が出て来るというのは如何なものかと。そりゃ1920年代の日本でも英語は使って構わないんですが、“80年前の日本”という設定を強調しなければならない場面でそりゃないよなぁと。

 また、シナリオの流れも、キャラクターの描写を全くないがしろにして設定の説明が延々と続く…というメリハリを欠いたものになってしまっています。それどころか、キャラクターたちに必然性の無い、動機不明の行動が目立っていて理解に苦しみます。
 
まぁこれは、話の終盤で伏線が処理されれば一応理屈は判るようにのですが、それで果たしてシナリオの完成度が高まったり、読み手へに与えるカタルシスが増したりしたかどうかというと……。個人的には効果が無かったどころか逆効果とさえ映ります。厳しい論調になりますが、本末転倒・独り善がり・自己満足的な趣向の凝らし方に終始し、作品のクオリティを上げるにあたって、もっと大事にしなければならない所を疎かにしていると言わざるを得ません。

 今回の評価
 評価はC寄りB−とします。脚本、演出のスキルがもう少し上がって来ないと、今後の展開も厳しいものになるでしょう。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 まず今週は『銀魂』から。駒木が記憶する限りでは、連載開始以来初の3話構成の今エピソードも滞りなく幕。どうも地下闘技場の真上には野球場があるような気がして仕方が無いのは、多分駒木が最近雀荘の順番待ちで『グラップラー刃牙』を1巻から通し読みしているからでしょう(笑)。
 お話の方は、久々に空知さんの持ち味が出た人情噺でしたね。脚本力のある作家さんだけあって、ラストも決まってました。ただ、もうちょっとプロット・シナリオから予定調和や手垢の付いた感じを拭って欲しかった気もします。良い所が一杯ある作家さんだけに、余計に頑張って欲しいと思ってしまうのですよ。

 『家庭教師ヒットマンREBORN!』は、またまた新キャラ登場。作品の行き詰まりを打破するために新キャラを投入するのは確かに効果が有るのですが、それにしてもここまで無軌道に登場人物を増やし過ぎるのは悪性のインフレという気もして来ます。
 掲載順を考慮すると2クール突破も濃厚で、いよいよ年単位の長期連載も視野に入って来た現状、今この作品に必要なのは新キャラよりも、一本筋の通った中身の濃いストーリーではないのかな…などと思ったりもします。まぁ、覚えてられないくらい設定とシナリオの複雑なマンガが増えている昨今、クオリティを抜きにして考えると、こういう肩の力を抜いて流せる作品が1つ、2つ有っても良いとは思うのですけれどもね。

 で、制約された中の工夫も遂に行き着く所まで行ったな、という感じの『いちご100%』。もうこの歳になると極めて客観的に「よくやるなぁ」と眺めるだけなのですが、免疫の出来てない男子中学生とかはたまらんでしょうなぁ(笑)。
 しかし、大増23ページにしてまでやる事がコレというのは……この作品的には正着なんでしょうな、やっぱり。

「週刊少年サンデー」2004年49号☆

 ◎読み切り『BooTa』作画:河北タケシ

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 
年齢と新人賞受賞歴は未判明。
 デビューは02年春の増刊号「サンデーR」のルーキートライアルにて。その後、増刊03年4月号週刊本誌04年19号にて読み切りを発表。

 についての所見
 前作の時点でも既にそうでしたが、“ギャグ作品としてなら連載級”の水準には達しているでしょう。今回は前作では見られなかった非美形キャラもキチンと描かれていますし、シリアスとディフォルメの使い分けも(やや粗が目立ちますが)出来ています。全体的に見て、合格点のデキだと言えるのではないでしょうか。

 ギャグについての所見
 まず、ギャグの見せ方については上手く出来ていると思います。ボケとツッコミのテンポが軽妙ですし、セリフもなかなか上手に練られている感じですね。“間”の持たせ方も理に適ったテクニックが認められます。
 ただ、今回の作品の場合、ラストのオチが余りにもミエミエで意外性が無く、それまで地道に積み重ねて来た前フリが全て台無しになってしまったような気がしますし、何の落ち度も無く壊されてしまう豚の貯金箱・ブー太が余りに哀れで笑うに笑えない…という構造的欠陥も有りました。これでブー太が壊されても仕方ないような腹黒キャラ(例えばモリタイシさんの『茂志田☆諸君!!』に出て来るピエール=ホソナガみたいな)だったなら、まだ素直に笑えたと思うのですが……。

 今回の評価
 諸々の問題点は否定出来ませんが、絵やギャグの技術点を重視してB評価としておきたいと思います。作者コメントを読むと、今回はスランプ脱出の契機となった作品だそうですので、今度は絶好調期に新作を読んでみたいものです。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「アルバイト経験」。
 これはマンガ家さんに限らず、激しく個人差がありますよね。皆無に近い人もいれば腐るほどある人もいると。要は大学行ってる頃の生活スタイルと、学校を卒業してから定職に就く(マンガ家の場合は連載獲得)までの期間次第という事なんでしょうが……。
 連載作家陣の中で気になる回答としては、藤崎聖人さんの「夜のウェイター」というもの。駒木の聞いた話では、確か藤崎さんって男のペンネームを使っている女流作家だったような……。そう考えると、何やら深い答えのような気も。

 駒木のアルバイト経験については、イチから喋ってると日が暮れるどころか年が明けますので、労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」、及び社会調査「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」の講義レジュメをご覧下さい。
 ……そういや、今日、近所のショッピングセンター前で久々にハンドインをやってるモデム配り要員に出くわしました。どうも今度は光用のモデムを配ってるようでした。進歩の無さもここまで来ると、何だか『キン肉マン』か『テニスの王子様』を見るようで逆に清々しいような。

 『ワイルドライフ』何か物凄く唐突に無意味なタイミングで女医さんの着替えシーン(しかも赤レース下着)が挿入されてたんですが、これは単なるサービスカットなのか、それともあだち充さんへのオマージュなのか。しかしこれ、完膚なきまでに萌えませんなあ

 ところで『ハヤテのごとく!』、先日の第3回レビューでは『ネギま!』を更に人気獲り要素だけに特化したものじゃないのか…とお話したんですが、どうもここ2回を見てると、むしろ『スピンちゃん』−ギャグ+萌え)というような気がしてきました。まぁどっちにしろ、「それってどうなの?」という話ではあるんですが(笑)。

 話が一気に盛り上がって来たのが『クロザクロ』。遂に“擬似スーパーサイヤ人化”炸裂です。
 ただ、こういう“最後の手段”発動は、もうちょっと主人公サイドがピンチに陥ってから(というか死ぬ一歩手前まで追い詰められてから)じゃないと効果半減なので、非常に惜しいと思ってしまいました。ギリギリの状況に置かれてこそ、読み手の感情に訴える諸々に説得力が持たせられると思うんですが、どうでしょうか。

 ……といったところで今週はこれくらいに。そういや、「ジャンプ」でギャグ増刊が発売されるんですが、これをどうしたものか、現在考慮中です。とりあえず読んでみて、全作品レビューする価値があると思えばする…という感じになると思いますが……。
 何はともあれ、それでは、また来週。

 


 

2004年度第59回講義
10月28日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(10月第5週分・合同)

 昼の仕事で心身の疲労は溜まる一方ながら、こちらのモチベーションは復活気味…といった感じの10月第5週分「現代マンガ時評」をお送りします。
 しかし振り返ってみますと、ここ最近の当講座はマンガ、マンガ、競馬、マンガ……。まるで就職活動を忘れたバカ学生の脳ミソの中身みたいで、恐縮することしきりであります。
 今一度もう少しモチベーションを上げて、近い内には何とか1〜2週に1度くらいは気の利いた講義を出来るよう、気持ちを盛り上げていきたいと思いますので、どうか何卒。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(49号)に読み切り『退魔師 ネネと黒影』作画:蔵人健吾)が掲載されます。
 今週号に新作を発表した吉川雅之さんに続いて、前作が打ち切りに終わった作家さんの復帰作掲載…という事になりました。次号予告ページのカットを見る限りでは、以前よりも絵柄が洗練されている気がするのですが、果たして?

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(49号)に読み切り『BooTa』作画:河北タケシ)が掲載されます。
 河北さんは若手のギャグ系作家さん。週刊本誌では04年19号に『犬ちゃん』が掲載されて以来、2度目の登場となります。

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(04年8月期)

 入選=1編(週刊本誌または増刊に掲載決定)
  ・『佐助君の憂鬱』
   石井あゆみ(19歳・埼玉)  
 
《あらすじ&講評:名字が『服部』という理由だけで忍者の末裔と信じている一家に生まれた佐助が主人公の変則ラブコメディー。ユニークなキャラクターとセンス抜群の構成・セリフ回しが素晴らしく、満場一致での入選となった》
 佳作=1編
  ・『サイの河原』
   飯沼深弥子(25歳・東京)
 努力賞=3編
  ・『怪盗アルペジオ』
   新井淳也(19歳・神奈川)
  ・『Griffon(グリフォン)』
   栗山裕史(24歳・大阪)
  ・『エンシエント・カラー』
   宮武祐典(19歳・大阪)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『青春』
   魔王源(25歳・愛知県)

 今回は、受賞者の過去のキャリアに関する情報は得られませんでした。
 入選受賞作は、受賞作紹介のカットを見る限りでは、かなり独特の絵柄…というか、普段の「サンデー」では受賞まで辿り着かないような画力に思えるのですが、それでいて入選ですから、それ以外の部分で相当に高いクオリティがあったのでしょう。講評を読む限りでは、「ジャンプ」で言うところの空知英秋さんのような作風と推察出来るのですが、実際のところはどうなんでしょうね。

 ★その他公式アナウンス情報

 今夏に実施された「第1回 ジャンプ金未来杯」の結果発表があり、投票結果1位の「金未来杯」受賞作には『タカヤ −おとなりさんパニック!!−』(作画:坂本裕次郎)が選出されました。なお、この結果を受け、坂本さんの週刊連載獲得が内定した模様です。

 今回の結果発表では、2位以下の作品の順位や得票数などの細かいデータは公開されませんでした。以前の「黄金の女神杯」では上位3作とか、全順位発表とかやってたんですが……。
 ただ、
もそも得票数の順位と支持率(「支持する」得票数/投票総数)の順位が一致しない可能性があるという欠陥ルールですから、具体的な数字を発表する事にどれだけ意義があるか…と考えると、まぁこれもアリかなと。バカ正直に全順位を発表した場合、下位に終わった作家さんの経歴にキズをつけてしまうので、確かにこれも一つの見識ではあるんですよね。特に今回参加した5人の若手作家さんは、誰が次に連載を獲得してもおかしくない“有望株”の人たちばかりだったわけですし……。

 今更どうでもいいんですが、駒木の受賞作予想──『切法師』(作画:中島諭宇樹)──は予想通り大外れでした(苦笑)。見た目絵が綺麗で、比較的とっつき易い話の作品を…と思って推したんですが、どうやらその傾向がもっと極端に反映された作品が選ばれた感じですね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本/代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年48号☆

 ◎読み切り『マッストレート』作画:吉川雅之 

 ●作者略歴
 手持ちのデータが不足しており、生年月日・年齢は確認出来ず。
 98年に「天下一漫画賞」で入選を受賞し、その受賞作『テコンドー師範!! 鏡くんのカカト落とし』週刊本誌98年35号に掲載され、デビュー。それ以来、テコンドーを題材にした作品にこだわり続け、「赤マル」00年冬号、週刊本誌01年29号に読み切りを発表。そして、03年には週刊本誌に掲載された作品『キックスメガミックス』が連載化されるものの、残念ながら1クール14回で打ち切り終了
 今回は、連載終了以来、約1年ぶりの復帰作となる。

 についての所見
 相変わらず線が洗練されておらず、各所でデッサンから粗い部分が見受けられますが、それでも以前に比べると、明らかに見苦しい場面は大分減ったように思えます。決して上手いとは言えないものの、マンガを成立させる上で最低限の水準には達しているでしょう。
 ボクシング関連の描写についても、ボクシングそのものより既存のボクシングマンガを意識しているような印象で、若干の違和感を禁じ得ませんでしたが、それなりに研究した上での“ボクシング挑戦”だったのだな…というのは伝わって来ました。当たり前のように思える事ですが、本質的にボクシングはマイナースポーツなので、余程のボクシングマニアが作者でもない限り、リアルなボクシングシーンを描くのは難しいんですよね。

 ストーリー&設定についての所見
 これはボクシングマンガ共通の課題と言えるのですが、ボクシングを題材にした読み切りは、プロットがどうしても手垢の付いたワンパターンなもの──色々な意味で不器用ながら図抜けた潜在能力を持った主人公が、小器用な小悪人ボクサーを逆転パンチでやっつける/八百長を要求された実力者ボクサーが、最後の最後で本気のパンチで逆転勝ちする──になってしまいがちです。起承転結の構成と、読者にカタルシスを与えるという課題をクリアするためには、どうしてもこうなってしまうんでしょうか。
 ……で、この作品もボクシングとボディビルの融合という、凄まじく男臭い新機軸を打ち出したものの、ストーリーの“手垢感”を打ち消すには至らなかったように思えます。ボディビルの筋肉がボクシングには通用しない…という所に目をつけたのは上手いと思いましたが、それも最後のトンデモな必殺パンチ(いくら脇を締めても、あんな体重の乗ってないパンチで威力が出るのは……?)でウヤムヤになっていて、それが作品の“軸”になり得なかったのは残念でした。

 また、前作以来の課題である、感情移入し易いキャラクター作りが、今回も上手くいっていないようで、これも作品全体のクオリティに響いている感じです。過去編を挿入するなど、工夫された面も窺えるのですが、そもそものキャラクター造型の中に、読み手が好感を抱く要素が余りにも少なかったんじゃないでしょうか。

 今回の評価
 無残に終わった前作のような失敗作ではありませんが、それでも凡作の域を脱する事は出来なかったような印象で、評価は少し厳しめですがB−としたいと思います。

 ◎代原読み切り『ハピマジ』作画:KAITO

 ●作者略歴
 作者本人運営のウェブサイト掲載のプロフィールによると、1984年8月15日生まれの現在20歳
 プロへのステップとしての同人活動を経て、03年より「ジャンプ」への投稿活動を開始。04年4月期「十二傑」では最終候補に残っている。
 今回は『HUNTER×HUNTER』休載に伴う代原掲載で、これが暫定デビュー作となる。 

 についての所見
 率直に言って、ギャグ作品だという事を抜きにしても相当高いレヴェルの絵だと思います。デビュー以前のアマチュア活動の賜物か、線が既に洗練されていますし、ディフォルメや各種表現・特殊効果についても全く見苦しい点がありません。「ジャンプ」のギャグ系若手作家さんは画力に課題を抱えている人が多いですから、このアドバンテージは出世争いをしていく中でかなり大きいのでは…と思います。
 ただし、今回は(ご本人のウェブ日記の記述から推測すると)1人での作業だったようですので仕方が無いとはいえ、背景やモブシーンが少なく、全体的にページが白っぽくなったのがやや気になりました。今度は、時間と折り合いをつけながらでも、必要な描き込みは欠かさないようにしてもらいたいものです。

 ギャグについての所見
 こちらも、これが代原暫定デビューとは思えない確かなテクニックが光っていますね。意識的に多く挟んでいると思われる、“間”で笑わせるギャグが冴えていますし、「ツッコミを無視したボケの畳み掛け」や「長いネタ振りからページを跨いでの大ゴマでオチ」などの技術も身に付いており、将来有望といったところでしょうか。
 欠点を指摘するとすれば、“間”のギャグが多過ぎ、かつ何度も続き過ぎたため、展開がやや単調になってしまったところでしょうか。あとは、最近の「ジャンプ」でトレンドになりつつある、長いセリフの応酬で笑わせるギャグも欲しかったですね。

 今回の評価
 まだ未完成な所があるとはいえ、全体的に見て代原にしておくのは惜しいくらいのクオリティですね。「赤塚賞」なら準入選〜佳作クラスには達しているんじゃないですか。もう少し暫定デビューが早ければ、間もなく発売のギャグ増刊に載るチャンスもあったと思うのですが、残念でしたね。
 評価は十分B+はあるでしょう。次回作が楽しみです。

 あと余談ですが、作者略歴のところでリンクを張ったKAITOさんのウェブサイト内の日記に、作品掲載が決まった喜びをストレートに表現した記述があるのですが、その中に「担当さんが凄く〆切ギリギリらしくテンパってらっしゃっていつ載るのかは聞けなかったのですが……」というくだりがあって、その生々しさに思わず笑ってしまいました。確かに、代原載せないといけない状況なんですからテンパってて当たり前なんですがね。
 ちなみに、その作品掲載が決定したのは今月の14日。発売日の1週間ほど前には関係者筋から2chに掲載順や誌面内容についてのネタバレがありますから、印刷とかを考えると多分本当にギリギリなんでしょうね。まぁ一読者からすれば、「どうせ落ちるんだからギリギリまで待つなよ」とツッコみたいところではありますが。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 まずは先週のゼミで『Wāqwāq』のモチーフについて言及しましたが、この際、駒木は浅薄で的外れな推測をカマしただけでなく、根拠の薄い推測を断定に近いニュアンスで決め打ちするという愚行を犯してしまいました。先週のこのコーナーで発言した内容を撤回すると共に、お詫び申し上げます。本当にすいません。このバカは定期的にこういう大恥をかく本当に懲りない野郎です。
 談話室(BBS)等でご指摘を受けた通り、この作品のモチーフになっているのはゾロアスター教神話で、それに諸々のオリジナル又は別モチーフの設定を絡めている…と解釈するのが妥当のようですね。

 さて、今週個人的にガツーンとヤラレたのが『アイシールド21』でした。もう何か執念としか思えないストーリーの超高速展開といい、余韻残りまくりのラストといい、平成の「ジャンプ」作品とは到底思えない異色の仕上がりになってましたね。長期連載の軌道に乗った途端に展開が間延びする作品が多い中、緊張感を絶やさない姿勢は素直に凄いと思うのですよ。
 それにしても、葉柱ルイの「テメェと俺と何が違う?」という涙の叫びは胸にグッと来るものがありました。確かに何も違わないんですよね。現実の無常さが自然に滲み出ていて良いです。これがセンスの無い作家さんだとヒル魔の替わりにセナを出して、「僕にはかけがえの無い仲間がいるんです」とかに言わせちゃって、陳腐な友情賛歌に持っていったりするんでしょう。

 『いちご100%』は、話のメインから外れた者同士のカップル成立、しかも随分なやっつけ仕事…という、作者の意図を掴みかねる展開でした(笑)。さつきの“敗者復活”もそうですし、何か最近、このマンガのストーリーが『デスノート』並にイレギュラーになってるんですが、一体何があったんでしょうか……。掲載順も実質最後尾ですし、色々な意味で先が読めません。

 そして、巻末で貫禄を見せ付けてくれたのが『ピューと吹く! ジャガー』。やっぱりハマーが出て来るとクオリティが一気に上がりますね。
 それにしても、小ネタをいくつも挟みつつ、最後のコマまでの全てが大きなネタ振りになってるとは……。うすた京介さんは、時々思い出したようにこんな凄まじい大ネタを持って来るから油断出来ません。

「週刊少年サンデー」2004年48号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「今まで観た映画の中で一番怖かったのは?」。
 んー、この質問も1〜2年くらい前にあったような気がしますね。講義レジュメ漁って調べるのも面倒なのでうろ覚えのまま喋りますが、確かその時は『女優霊』が最多回答だった気が。今回も『呪怨』と共に2票入ってますね。
 前の時とダブってるかも知れませんが駒木の答えも一応。6歳の時に予備知識無しで見せられたアニメ『はだしのゲン』は未だに忘れられません。

 さて、マンガの方では新キャラ・新設定続出の『結界師』が、いかにも「勝負に出てるなぁ」…という感じですね。雰囲気を作り上げながらも、コメディの要素も忘れないというバランス感覚も見事です。地味ですが、キチンと読ませてくれますね。

 あと『いでじゅう!』ですが、このマンガには、どうしてこう不憫なキャラが多いんでしょうね。……というかまぁ、他のラブコメ系マンガが敢えて触れない、本来なら“バックステージ”の部分を積極的に描いているからなんでしょうけど。でも担当の市原さん、最終ページ柱の「朔美の願いが、届きますように!」…というのは、気休め言うにも程があると思うんですが(笑)。

 ……といったところで今週のゼミはこの辺で。一気に秋めいて来ましたが、皆さんも体調には気をつけて下さい。ではでは。

 


 

2004年度第57回講義
10月22日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(10月第4週分・合同)

 いきなりでアレですが、今週も相変わらず不調です。
 しかしこういう活動って、損ですね。不調でも不調なりに体裁を整えないと、全く形になりませんから。

 ……などと、今週の『HUNTER×HUNTER』を読みながら考えてみたりした、台風一過の夜でありました。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(48号)に読み切り『マッストレート』作画:吉川雅之)が掲載されます。
 あの、昨年度ラズベリーコミック賞の候補にも挙がった『キックスメガミックス』でお馴染の吉川雅之さんが、今度はボクシングを題材にした作品で登場です。
 最近、特にボクシング観戦にハマりつつある駒木としては、期待と不安が半分半分……というより二分八分くらいなのですが(笑)、果たしてどんな作品になるんでしょうか。1年以上の雌伏を経て、吉川さんがどれくらい真っ当な格闘技マンガを描けるようになったのか、ジックリ確かめさせてもらおうかなと思います。

 なお、次号の「ジャンプ」では、「金未来杯」の結果発表があるようです。既に2ch界隈では優勝者の情報が流れていますが、そこで挙がっている話が本当だとすれば、「意外ではあるものの、冷静にこの手の読者投票コンペの傾向を考えたら納得」といったところでしょうか。……まぁ詳しくは、また来週のこの時間にて。

 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」:新連載第3回1本/読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年47号☆

 ◎読み切り『湖賊』作画:久世蘭

 ●作者略歴
 1980年12月25日生まれの現在23歳
 04年8月期「十二傑新人漫画賞」にて佳作(十二傑賞)を受賞。今回は、十二傑賞の受賞特典を行使しての受賞作掲載デビューとなる。
 なお、未確認ながらアシスタント経験があるらしいとの情報も。

 についての所見
 「十二傑」で佳作受賞の最大の決め手となったのが画力というだけあって、構図の取り方、ディフォルメ表現、動的表現、各種特殊効果や背景処理など、マンガを描く上で大事になるテクニックは既に一通り習得出来ているように思えます。連載作家にとっては出来て当たり前の事ですので、週刊本誌に載ってしまうと「これで『絵が◎評価?』」…という印象を抱いてしまうかも知れませんが、これがデビュー作と考えると、やはり上々のデキにあると思います。
 ただ惜しむらくは、人物描写が全体的に線が弱々しく、デッサン等もやや粗く見える事。また、色々な造型の顔を描き分けようと意識する余り、キャラごとの美醜の格差が極端過ぎたように思えました。これで“ソコソコ綺麗な顔”と“ソコソコ醜い顔”のバリエーションがついてくると、随分と印象が変わって来ると思うのですが。

 絵についての総合的なジャッジは、「新人としては十分合格点、『ジャンプ』作家としてなら及第点以上合格点未満」というところになりますかね。

 ストーリー&設定についての所見
 まず、いわゆる起承転結の構成やシナリオ上の“静”と“動”のコントラストがキチンと出来ている事に好感が持てます。ページ配分のバランスが良いですね。
 また、戦闘シーンでは“主人公陣営のピンチ→起死回生の挽回策→逆転勝利”…という流れが一定の説得力を持たせる形で描かれており、これもポイントは高いです。

 ただ、この作品には少なからず欠点もあり、特に主人公やヒロインのキャラクターが弱く、バトルに勝った際のカタルシスが得られ難い形になってしまったのは残念でした。悪役がかなりドギツい“悪”だったため、登場人物の相対的な位置関係において主人公に感情移入出来るようにはなっているのですが……。
 また他にも、シナリオ自体も内容が薄く、凝ったバトルシーンとストーリーの主客が転倒してしまっている感も否めなかったように思えます。例えば、敵役と主人公に個人的な因縁を含ませるとか、工夫次第でもう少しお話に深みを持たせる事も出来たはずです。
 あと気になった点としては、セリフで状況説明しなくては判り辛い場面に限ってセリフが無く、逆に絵だけで十分伝わる場面で余分な説明的セリフが目立った事が挙げられます。文字情報の使い方について、もう少し気を遣って欲しかったですね。

 今回の評価
 プロのマンガ家としての基礎的な技術については一通り備わっており、デビューする資格は十分にあると思います。ただ、シナリオや設定といった、作品のクオリティを大きく左右する要素にいかにも不安があり、“プロの作家”にはなれても“優れたプロの作家”になれるかどうかは、現状では未知数といったところでしょう。
 評価は難しいところですが、B寄りB+としておきます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 それにしても、この状況で冨樫義博さんに表紙絵を発注できる編集部の度胸に乾杯! ……といった感じの今週号ですが、表紙絵が落っこちたらどうしたんでしょうね。過去の原稿から引っ張って来たりしたんでしょうか。

 さて、連載作品についてもコメントを少しずつ。

 『NARUTO』はリタイアした仲間たちを復活させつつ、シカマルにクローズアップ…という、話を転がしつつ挿話も入れるという、岸本さんの構成力が光る回でした。……にしても、「ジャンプ」作品でも死亡状態の仲間を復活させるにも手間がかかるようになったもんですね。こういうのもやはり時代ごとのトレンドというヤツでしょうか。

 今回あたりで、ようやく作品世界の全体像が明らかになりつつある『Wāqwāq』ですが、これらの設定、よくよく考えてみたら、あの『Fate/Staynight』の聖杯戦争と類似点が多いんですよね。願望をかなえる装置を巡って7組が戦うとか、その装置を作ったのが3人の能力者とか。ここまで具体的な数字まで合致してしまうと、完全オリジナルの設定が偶然一致したとは考え難いような。
 まぁ、ベースは同じでもディティールは随分と変えてますので、『Fate』をモチーフに使ったとしても上手いことアレンジしたな…という感じではあるんですが、ただ、こういう洒落たマネが出来るのなら、中途半端じゃなく、使える所は全部モチーフにしちゃえば良かったのに…などと思ってしまいました。今のままだと、『Fate』の難解な部分ばかり似てしまっているような気も……。

 『武装錬金』久々にコメディ要素急増の回。ただちょっと唐突過ぎた感も。ここ最近、シリアス方向に針が大きく振れていた分、突然コメディの方に針が反動すると戸惑ってしまうんですよね。
 まぁそれはそれで別に構わないんですが、ただ、こういう違和感について和月さんが鈍感になっているのがちょっと心配ではあります。

 最後に『いちご100%』。また後述しますが、「サンデー」の『モンキーターン』で青島が“脱落”したのと入れ替わるように、こちらのサブヒロインのさつきが“敗者復活”したというのが何となく趣深かったです(笑)。
 ……しかしこのマンガ、本当にギャルゲーになっちゃうんですねぇ。これまで多くのギャルゲーっぽい作品が敢えて踏み越えなかった一線だったんですが、越える時は本当にアッサリ越えるもんですね。

「週刊少年サンデー」2004年47号☆

 ◎新連載第3回『ハヤテの如く』作画:畑健二郎)【第1回時点での評価:B−寄りB

 ●についての所見(第1回時点からの推移)
 
全体的な印象としては「特に大きな変化は見られない」といったところでしょうか。ただ、ここまでの3週で技術の拙さに目が慣れて来ると、「意外と好感度の高い絵なのかな」…と思えるようになりました。
 失礼ながら畑さんの画力のバックボーンの頼りなさからして、とても作為的に高い好感度を演出しているとは思えないのですが、少なくとも結果的に「上手くはないけど、見てて楽しい絵」にはなっていると言えそうです。

 ストーリー&設定についての所見
 こちらのファクターについては、随分と思い切ったなぁというか、そうするしか道がないだろうなぁという方向性に流れて行きつつありますね。即ち、元々からして脆弱なストーリー性をほぼ完全にオミットし、主人公と“萌え”の塊であるような美少女キャラとのラブコメ(もどき)要素に特化して読者のご機嫌を伺う…という方針です。
 似たような方向性の作品としては一連の赤松健作品(『ラブひな』、『魔法先生ネギま!』)がありますが、まだ一応は一本筋の通ったプロットが組まれている赤松作品とは違い、この作品は本当に人気取りの要素だけに完全に特化された感がありますね。とりあえず読者ウケしそうな場面を繋ぎ合わせてページを埋めてみました…みたいな感じです。その結果、主人公もヒロインも影が薄くなってしまい、“萌え”担当要員の脇役・マリアが出ずっぱり。おかげで主人公を中心とするストーリーがほとんど描かれないという事になってしまったわけでしょうね。
 これは恐らく、第1回のレビューで指摘した、マンガの世界でありがちな光景を抽出・強調して作品作りをするという手法の産物ということになりますか。まぁ確かに、人気商売として読者ウケを最優先するのは決して間違っておらず、むしろ第1話よりも良化の兆しさえ窺えるわけですが、ただ、ここまでストーリー性が欠如してしまうと、当ゼミの評価基準からすれば高い点はつけられないんですよね。メロンパンの端がいくら美味いからといって、それだけを固めたモノはパンとは言えないわけですから……。 

 今回の評価
 本来、この手の作品は「名作崩れの人気作」ということでB+の評価をつけることにしているのですが、この作品はストーリーの弱さを鑑みるに、「『名作崩れの人気作』崩れ」と言った方が良いような気がします。よって評価は「単なる雑誌の中の1作品として割り切って読む分には、さほど問題の無い作品」に出すBということにします。

 ◎読み切り『ジンの怪』作画:大須賀めぐみ

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 資料不足のため、生年月日及び年齢は不明。
 
02年春発売のルーキー増刊でデビュー。これまでに月刊増刊で02年11月号、03年2月号に読み切りを発表、03年12月号から04年2月号まで短期連載を経験している。
 週刊本誌は今回が初登場。 

 についての所見
 「サンデー」系の若手作家さんとしては十分過ぎるくらいのキャリアを積んでいるだけあって、人物造型、各種の表現技法や特殊効果など、あらゆるの要素においてレヴェルの高い絵柄だと思います。線も見事に洗練されていますし、他の本誌連載作家さんの絵と見比べても全く遜色ありません。まさに即戦力級の画力と言えるでしょう。
 ただ、絵柄がやや洗練され過ぎて逆にインパクトに欠ける印象が無きにしも非ずで、もう少し陰陽のコントラストをつけられるようになれば更に良くなるのではないでしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 冒頭の“掴み”で伏線を張ってみたり、主要キャラの過去回顧を挿入してシナリオに深みを出す試みを実践してみたり、更には小ギャグも挟んでみたりと、随所でストーリーテリングのテクニックをアピールするべく頑張ってみた…という作品ですが、残念ながらそのいずれもが取って付けたような感じで、成功したとは言えないクオリティに甘んじているように思います。
 これには色々な要因があると思いますが、ページ数の割に設定過多で、シナリオのメイン部分よりも設定提示に関する遣り取りの方が主になってしまったのが一番大きかったのではないかと考えています。設定だけヤヤコシい割に、ストーリーは随分とアッサリしたモノになってしまいましたしね。
 また、全体的にセリフで話を進め過ぎではなかったでしょうか。マンガを読んでいるというより、延々と字面を追いかけるついでに絵を見ているような感覚で、演出力が弱いように感じてしまいました。

 ……批判するばかりになってしまいましたが、創作の方向性自体は間違っていないと思うんですよね。ただ、「良い作品にするために、こういう要素を入れなきゃいけないんだ」という気持ちが先走り過ぎて、いわゆる“遺伝子組み替えマンガ”になってしまったような気がします。

 今回の評価
 この作品も評価が難しいですね(苦笑)。最近の「サンデー」読み切りは、褒めきれないし、かといって貶しきれない作品ばかりで困ってしまいます。んー、本当に迷うところなんですが、最近レビューした作品とのバランスも考えつつ、B+寄りBということにしておきましょうか。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「1日だけ別人になれるとしたら?」。
 橋口たかしさんが言うように、あんまり遠くない以前に同じような質問があった記憶が。ただ、その時とは少なからずメンツも変わってますし、まぁ良いんじゃないでしょうか。
 ……で、連載作家の皆さんの答えは真面目なものからウケ狙いまで、もうゴチャゴチャといった感じ。全く傾向とか掴めませんね(笑)。印象に残った答えとすれば、師匠譲りの無鉄砲さで(『デスノート』の)ワタリ」と答えた畑健二郎さんなったところで一体何をするのか教えて欲しい「ワカパイ」夏目義徳さんあたりでしょうか。
 駒木は、フサイチの馬で有名な関口房朗氏と答えておきます。競馬を馬主席で観戦した後、六本木ヒルズの最上階の自室に戻って銀座から寿司屋ごと出前…ってのを一度やってみたいです(笑)。

 さて、時間も無いのでアレですが、連載作品についてもコメントを。
 今週号は、「DVDをカバンに入れる作業だけで早くもパンパンに膨らました、思春期丸出しの股間」というフレーズが不覚にもツボにハマった『ミノル小林』とか、どこまで校則緩いんだ県立井手高校…などと学校関係者の端くれとして呆然とした『いでじゅう!』など、小ネタは結構あったのですが、やはり「これだ!」と1つ採り上げるなら『モンキーターン』という事になるでしょうね。
 ……今、手元の「サンデー」を読み返しているのですが、本当に今回の『モンキーターン』は河合克敏、渾身の一編という趣で、本当に素晴らしいデキでした。まるで良質の映画を見ているようなカット割り、練りに練られた、かといって芝居臭さを感じさせない脚本。出来る事なら少年誌の巻末じゃなくて、青年誌の巻頭カラーで読みたかった…と言えば贅沢過ぎでしょうか。
 いよいよストーリーは賞金王決定戦での最終決戦に向けて佳境に突入していくようですね。足掛け8年の長期連載、終わってしまう事に対する名残惜しさはありますが、ここまで来たら最高のクオリティでの結末を期待して待ちたいと思います。

 ……それでは今週はこれまで。来週は昼間の仕事が本当にキツくなりそうなので、ゼミのクオリティはあんまり期待しないで下さいね(苦笑)。
 では、また明日、菊花賞予想でお会いしましょう。

 


 

2004年度第55回講義
10月15日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(10月第3週分・合同)

 何やかんやで、今回も金曜に合同版実施となってしまいました。今週は時間に余裕があるはずだったんですが、先週ちょっと気合を入れた反動で気が緩んでしまったのか、今週も授業が無いだけで結構仕事の多い日々が続いたせいなのか、体調の方が微妙に堪えてしまってまして……。ただでさえスランプ気味のところへコレというのはキツかったです。
 こういう事があると、いつも思い出すんですが、開講当初、週6〜7ペースで講義をしてた頃の自分って一体何だったんでしょうね。年が今より3つ若かった事を差し引いても、我ながらちょっと異常な頑張りだったような気がします。しかも報われない頑張りでしたし(笑)。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(47号)に読み切り『湖賊』作画:久世蘭)が掲載されます。
 この作品は、今週号で選考結果が発表になった、「十二傑新人漫画賞」04年8月期の佳作&十二傑賞受賞作。作者の久世さんは勿論これがデビュー作となります。講評を読む限りでは、多少画力偏重の嫌いがあるようですが、いきなり週刊本誌に掲載されるという事は、それだけ編集部の期待が大きいという事なのでしょう。
 また、名前をgoogleで検索してみたところ、久世さんのお兄さんと思われる人がとあるBBSに宣伝書き込みをしていたのを発見しました。それによると久世蘭という名前はペンネームで、さらに久世さんはこのお兄さんの妹さん、つまりは女流作家であるようです。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(47号)に読み切り『ジンの怪』作画:大須賀めぐみ)が掲載されます。
 大須賀さんは02年春発売のルーキー増刊でデビュー。これまでに月刊増刊で02年11月号、03年2月号に読み切りを、03年12月号から04年2月号まで短期連載を経験しています。週刊本誌は今回が初登場で、最近「サンデー」で目立つ、連載を目指す若手作家さんのトライアル的な新作掲載のようですね。

 ★新人賞の結果に関する情報

第17回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年8月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作&十二傑賞=1編
(週刊本誌47号に掲載決定)
  ・『湖賊』
   久世蘭(23歳・神奈川)
 《村田雄介氏講評:画力があり、仕上げも非常に丁寧。主人公たちの動機付けがもっと明確に示されていると、さらに話の中に入りやすかったように思う。》
 《編集部講評:セリフ、解説など文字が多いためにテンポ良く読み進められない印象がある。作った設定に振り回されるのではなく、思い切って削ぎ落とす努力もしていきたい。》
 最終候補(選外佳作)=11編

  ・『革命時代』(=審査員特別賞)
   柏原風太(17歳・大阪)
  ・『忘れていたモノ』
   杉田尚(22歳・北海道)
  ・『桃鉄』
   横田卓馬(18歳・静岡)
  ・『火星遊記』
   高山憲弼(23歳・大阪)
  ・『探偵野郎』
   手羽先チキン(21歳・東京)
  ・『Carry Out!!』
   よーし(23歳・京都)
  ・『天使たちの本音』
   桜井竜矢(19歳・宮城)
  ・『人助 -じんすけ-』
   杉江翼(17歳・富山)
  ・『ハゲたあの日』
   三原健(17歳・群馬)
  ・『BEYOND』
   早川魚兎(17歳・宮城)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎最終候補の杉田尚さん…03年10月期「十二傑」でも最終候補。04年3月期「十二傑」にも投稿歴あり。
 ◎最終候補の高山憲弼さん…03年8月期「十二傑」で最終候補、03年2月期「天下一漫画賞」で編集部特別賞
 ◎最終候補の三原健さん…04年1月期「十二傑」にも投稿歴あり。

 8月期は佳作1編の他に、最終候補11編という“大盤振る舞い”。ただ、10代後半の若い応募者を他誌に奪われないために、最終候補のボーダーラインを下げて囲い込んだような節もありますね。まぁ編集部サイドにしてみれば、ここから1人モノになれば御の字…ということなんでしょうが。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年46号☆

 ◎読み切り『セイテン大帝』作画:草薙勉

 ●作者略歴
 資料不足のため、生年月日・年齢は未確認。
 確認出来る範囲での「週刊少年ジャンプ」系マンガ誌における最古のキャリアは「赤マル」99年春号掲載の『P.K. ―アタッキングキーパー―』。しかしこの時にはデビュー作家紹介のページが無く、別ペンネームでの活動歴の存在も考えられる。(「赤マル」97年冬号に草薙奈央というペンネームの作家がデビューしているが、関連性は不明)
 その後、週刊本誌00年52号に『バンドネオン☆ヘッド』を発表するも、以後はキャリアが途絶えていた。今回は約4年ぶりの復帰作ということになる。

 についての所見
 まず、背景処理や動的表現など、マンガの記号としての絵を描くだけの基本的技術はちゃんと備わっていると思います。キャラクターの描き分けも出来ていますし、コマ割りや構図の取り方も“年の功”でしょうか、随分と手慣れているように感じました。

 ただ、この作品に関しては、そのような作者の持つスキルの高さの割に違和感が否めない絵柄でもあり、手放しで高い評価をつけるのには躊躇を覚えます。
 まず人物キャラの造型。どのキャラも顔の輪郭と目・鼻・口のバランスが合っていない上、アングルによっては輪郭のデッサンが狂って見える場面もありました。喩えは悪いですが、モチベーションの下がったベテラン作家が中途半端にアシ任せにしたような絵柄に見えて仕方ありませんでした。
 そしてそれ以上に気になるのがディフォルメ表現や各種特殊効果のセンスが余りにも古臭いという事。果たしてこれを作品の良し悪しを判断する材料に入れて良いのかどうかは難しいところですが、それでも全編に渡って最近のトレンドでは“悪しき旧習”としてオミットされてしまった技法を全編で矢継ぎ早にカマされては、さすがに食傷してしまうというものです。

 ストーリー&設定についての所見
 絵と同様、こちらもマンガのストーリーテリングにおける基本的なスキルは感じられる作品ではあります。プロット、挿話の挟み方、見せ場での演出など、いくつかの箇所では「お、この辺はさすがにプロだな」と思わせる点がありました。

 しかし、それらの長所を帳消しにして余りある大きな欠点が3つばかりあり、そのため結果的にこの作品を失敗作たらしめてしまっているように思えます。
 まず1点目は主人公とヒロインのキャラクター設定。読み手の感情移入を喚起したり、思わず応援したくなるような要素──端的に言うと「憧れるほどの強さと、共感出来るような弱み」──が相当不足しているような気がするのです。乱暴でバカで作者の都合の良い時だけ察しが良い主人公と、さとう珠緒並に計算高い腹黒ヒロインで、魅力的なお話を作るのは至難の業でしょう。
 で、次の点は脚本の拙さ。回りくどい説明的セリフの連発もそうですが、言語センスがいかにも泥臭いというか、どうにも工夫が無いように思えてなりません。もっと短いセンテンスの決めゼリフを練りに練る必要があるでしょう。
 そして最後の3点目はドタバタ系ボケ・ツッコミギャグの量的過剰です。このドタバタ劇がまたいかにも古臭いという事はとりあえずさておいても、これに費やしたページそのものが多過ぎではないでしょうか。そのせいで51ページ作品にも関わらず、ストーリーそのものは酷く単純なパワープレイに終始してしまいましたし、何よりも主人公の擬似スーパーサイヤ人化に説得力を持たせるための“ミニ過去編”が不十分になってしまったように感じられます。
 この他にも、メイン設定を敢えてヤヤコシくしてまで『西遊記』に絡める事に果たして意義があったのかどうかなど、疑問点を挙げれば枚挙に暇がありません。正直な所、新人賞の講評でありがちな「ストーリーや設定に凝るのも良いが、まずは魅力的なキャラクターを」という注文を敢えてつけなければならないほど、クオリティの低い作品と言わざるを得ないでしょう。

 今回の評価
 最低限のスキルは身に付いているものの、全体の完成度としては新人賞最終候補クラスの失敗作…という事で、評価はB−とさせてもらいます。しかし、4年のブランク故にこうなったのか、それとも4年間の雌伏をもってしてもここまでだったのか……。どちらにしろ、過ぎ去った年月は余りにも重いですね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 何か、今週号の掲載順はかなりトリッキーですねぇ。いくらなんでも『銀魂』『リボーン』は高過ぎるような……。「ジャンプ」では、アンケート結果の精度を増すために、たまに掲載順を普段以上にランダムなものにする時があるようですが、果たしてどうなんでしょうね。

 そんな中、連載5周年記念の巻頭カラー『NARUTO』。いやでも、もう5年ですか。まったく、最近の「ジャンプ」作品はストーリー展開が遅くなりましたよね。5年234回の連載で、未だに佳境どころか話全体のヤマ場すら見えて来ないというのは、一体どんなもんなんでしょうか(笑)。この作品、似たタイプのシナリオである『聖闘士星矢』で言うと、まだ十二宮編に入ってない感じですからね。ここから最後、ちゃんと幸せな形で完結出来るのか、やや心配では有ります。

 心配といえば『BLEACH』。いつも言ってますが、この見せ場でこれ程にぞんざいな扱いを受けるメインヒロインってのもどうかと思うんですけどね(笑)。折角の主人公との再会シーンがあんなにアッサリ……。

 『アイシールド21』では、食い放題のコスプレ焼肉屋という、全く採算性を無視した有り得ない設定が実に羨ましい(笑)。現実にあったら、今回の件が無くても絶対1年保たないような店ですね絶対。
 しかし、ノーモーションでいきなり恋愛話始めてる“女子マネ卓”が妙に生々しいと言うか、新鮮と言うか。ウチの3人娘も、駒木の見てない所ではあんな風に盛り上がってるんでしょうかね(笑)。

 当講座の談話室(BBS)でも話題になった『D.gray−man』の新展開、いかにもテコ入れしてみました、みたいな感じのエピソードですが、連載当初のアレな設定に固執されるよりは随分マシなんじゃないでしょうか。
 しかし、『銀魂』といい『リボーン』といい、最近の「ジャンプ」新連載作品は2クール〜3クール目あたりでのテコ入れと軌道修正が実に巧みで頼もしいですね。そういう作品が3年、4年と続いてしまうのは勘弁して欲しいですが、どうせ長いこと読まされるのなら、一定以上のクオリティは保った状態で読みたいですしね。

☆「週刊少年サンデー」2004年46号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「生きている間に『これだけはやっておきたい!』という事は?」。
 当然と言うか、回答はバラバラになりましたね。スケールの大きなものから小さなものまで、まさに十人十色といった感。にしても、「身辺整理」ってのは、まるでもうすぐ死にに行くようで少し怖いですよ高橋留美子さん(苦笑)。
 ちなみに駒木は……候補は結構あるんですが、とりあえずさしあたっては「万馬券的中」「天和または地和和了」の2つを挙げておきます。まぁ前者の方は3連単が導入されてからグッとハードルが低くなったんですけどね。麻雀では、かつて配牌3面待ちテンパイであわや地和…という事があったんですが、残念ながら第一ツモが“前後賞”でダブリー止まり。あれは悔しかったですね。

 さて、今週で『うえきの法則』が遂に最終回となってしまいました。しかし最近の「サンデー」は、まだ余力の残ってる中堅どころをガンガン切っていきますね。まるでそれほど古くない家がシロアリに柱を食われてガタガタになっていくような……。まぁまだ大黒柱が残ってるのが救いではありますが。
 で、『うえき』ですが、序盤から中盤にかけては、シナリオの中身やキャラクターの心情描写そっちのけの“底抜け脱線ゲーム”的戦闘ばかりが目立って、正直言って薄っぺらい印象が否めませんでした。が、ここ最近は徐々にではありますが、キチンとした人間ドラマを描かれるようになっていただけに、このタイミングでの打ち切りっぽい流れでの最終回は残念でなりません。ましてや、すぐ後から新連載があるというわけでも無いのに……。福地さんも今回は本当に無念だったでしょうが、是非とも次回作では、『うえき』を通じて身につけた実力を遺憾なく発揮してもらいたいものです。
 最後に総括評価。連載当初から2年ぐらい続いた“低迷期”の分を減殺しなきゃならないので、ここは厳しくB+寄りとしておきます。

 ……他の作品についても色々述べたかったんですが、ちょっと余裕が無くなりました。とりあえずは、また来週という事で。では。
 あ、勿論、土曜深夜には競馬学特論がありますので、そちらも宜しく。

 


 

2004年度第52回講義
10月8日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(10月第2週分・合同)

 今週も講義が遅くなってすいません。この講座以外の生活で疲れ果ててしまってました(苦笑)。最近は4月当初のような深刻な精神的ストレスからは解放されつつあるのですが、この度は中間考査直前の修羅場にヤラれてしまいました。「試験問題作成も同時に3つ以上抱えると脳味噌が悲鳴を上げる」というトリビアを発見したのが収穫といえば収穫ですが、明日どころかずっと役に立たないダメ知識です。
 1年前にモデム配りをやってた頃も色々と疲れてた記憶はあるんですが、やっぱり頭の使う頻度と密度が余りにも違うと疲労の度合いも違って来るようで。
 巷には「ゲーム脳」だの「メール脳」だの妄言をのたまわってらっしゃる学者さんがいらっしゃいますが、次は「モデム配り脳」の研究を進めて欲しいところであります。脳波測定したら、多分期待通りの結果が出て来ると思います(笑)。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(46号)に読み切り『セイテン大帝』作画:草薙勉)が掲載されます。
 当講座の開講以来、聞いた事の無い作家さんの名前だなぁ…などと思ってちょっと調べてみますと、前回の作品掲載は週刊本誌00年52号に掲載された『バンドネオン☆ヘッド』とのこと。言われてみれば、確かにそういうタイトルのサッカーマンガを読んだ記憶がありますが、約4年ぶりの復帰作という事になるんですね。

 なお、「ジャンプ」では来週号から『スティール・ボール・ラン』が2週間だけ復帰するようです。

 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年45号☆

 ◎読み切り『みえるひと』作画:岩代俊明

 ●作者略歴
 1977年12月11日生まれの現在26歳
 同人での創作活動を経て、03年下期「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞し、今作と同タイトルの受賞作が04年2月発売の「青マルジャンプ」に掲載され、デビュー。
 その後は「赤マル」04年夏号にを発表。
今回はデビュー作のリメイクで初の週刊本誌登場となる。

 についての所見
 残念ながら今回は「時間が厳しくキツかった(巻末コメントより)」ためなのか、前作・『狗童』に比べると全体的に仕上がりが粗かったように思えます。各所に微妙なデッサンの歪みや動的表現の甘さなどが見え隠れし、中でも人物の表情の変化もぎこちなかったのが気になりました
喩えて言うなら、東南アジアに発注した動画枚数の足りてないアニメみたいな感じで、「もう少し手間をかければキチンと出来るはずなのになぁ」…というのが実感ですね。
 あと、これは全く個人的な主観になりますが、敵役である悪霊のデザインの“異形”っぷりが、デビュー作のそれと比べると迫力不足だったような感も。絵柄の変化と(中途半端な)実力の向上が、こういう画力よりもセンスが要求される部分で良くない影響を与えているのかも知れません。

 ストーリー&設定についての所見
 まず特筆すべき点は、作品全体の“柱”ともなっている高度なビジュアル&叙述トリックでしょう。序盤から巧みに伏線を張り巡らし、「意図的に読者に誤解を与える」という難しい課題をクリアしました。
 それに加え、キャラクターの描写や設定の提示を全てストーリーの中で消化しようとする姿勢にも好感が持てます。(もっとも、そのために主人公のセリフがやや説明的で長くなり過ぎた嫌いもあるのですが……)

 しかし今回の作品に関しては、大掛かりなトリックを成功させるために相当の無茶をやってしまったような感があります。まず、悪霊が姫乃の親戚を装う必然性がありませんし、OL・美也子の地縛霊の言動もトリックのネタバレを避け、更にホラー独特の“雰囲気”を出すためとは言え、余りにも不自然で回りくど過ぎた印象が強く残りました。この辺り、エンターテインメント要素(分かり易い“面白さ”)とミステリ要素(謎めいた“面白さ”)との相性の悪さがモロに出てしまったのかな…という感じです。

 今回の評価
 トリックそのものの発想は非常に良かったと思うのですが、それを成立させるための手法が、腰の曲がった老人の背を伸ばすために背骨をバキバキに折ってしまうような強引なものだったのが……。結果、全体的な完成度としては物足りないものになってしまったように思えます。
 今回の評価は絵の減点分を少し差し引いてB寄りB+。岩代さんは演出面では高い才能を持っているのですから、ミステリ系よりも純粋なエンターテインメント系の作品を描いた方が存分にポテンシャルを発揮出来るような気がします。次回作は『狗童』路線の作品でチャレンジしてもらいたいですね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週号の私的ハイライトは、「なんか明らかに後付けっぽい設定出たー!」…などと、大亜門さんのマンガのような雄叫びが出そうな『アイシールド21』でした。
 何事にも用意周到な稲垣理一郎さんですから、こんな伏線を張った以上は後々の事までキッチリと考えてるんでしょうが、それにしてもこのタイミングで提示する必要のある事なのか、ちょっと今後に注目です。
 注目と言えば、各チームのマネージャーの描写を必要以上に頑張ってるのも注目と言うか、「村田さん、アンタも好きねえ」と言うか(笑)。でも、こういうレヴェルの高い遊び心は駒木も嫌いじゃありません。

 あと巻末コメントでは、連載作家さんたちの相変わらずの日常生活の不健康さ&慎ましさに思わず苦笑い。特に澤井啓夫さん「唐揚げ弁当とサラダ」あたりはヤフーのモデム配ってる人間がよくやる組み合わせなんで、懐かしかったりも(笑)。でも、唐揚げどころか、この手の店屋物の弁当はそもそも体に良くないので気をつけた方が宜しいかと。
 そういや、クソゲーム屋のクソ三男は毎日近くの弁当屋のカレー弁当を食ってました。相当栄養のバランスが悪かったのか知りませんが、日に日に情緒不安定になっていったのを思い出します。カレーの具以外の野菜食ってる所を見た事無かったです。多分、彼の脳の細胞は1人前350円のカレーで構成されてたんでしょう。

 

「週刊少年サンデー」2004年45号☆

 ◎新連載『ハヤテの如く』作画:畑健二郎

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 資料不足のため、生年月日及び年齢は不明。
 久米田康治さんのスタジオでアシスタントを務めながら作家を志し、02年10月発売のルーキー増刊に読み切りを発表し、これがデビュー作と思われる。
 03年に入ってからは月刊増刊での活動を本格化し、2月号で読み切りを、7月号から11月号までは『海の勇者ライフセイバーズ』を短期連載した。
 週刊本誌には04年10号に今作と同タイトルの読み切りを発表しており、今回はこれが連載化された形になる。

 についての所見
 
2月の読み切り版と見比べてみたのですが、絵柄に大きな変化はありませんでした。短期連載も経験しているだけあって必要最低限の描写は出来ており、決して落第点というわけではないのですが、線が未だ洗練されておらず、やはり他の連載陣に混じると見劣りしてしまいまう印象です。
 具体的に気になるポイントを挙げるとすれば、少年・少女キャラの頭部(顔を含む)の造型が余りにも“マンガチック”で不自然という事でしょうか。しかも、そんな不自然なところから更に粗っぽいディフォルメを施したりしているものですから、駒木の目には余計不自然なモノに映ってしまいました。
 これは恐らく標準的な手法──リアルタッチの顔をディフォルメしてマンガ的な顔の絵にする──で描いたのではなく、いきなり初めからマンガ的な人間の絵を描こうとした結果でしょう。専門的な絵の修養を積んだ形跡が殆ど感じられない、絵描きとしてのバックボーンが脆弱な絵であるように思えてしまいました。
 あと、これも読み切り版からの課題なのですが、スクリーントーンの使い方がとても雑なのが気になって仕方ありません。トーンのチョイスを間違っているのか、処理が甘いのか、ともかくも平板な絵に見えてしまいます。一方でカラーの着色はアニメのセル画っぽく上手く塗れているのが色々な意味で不思議なんですが……。

 ストーリー&設定についての所見
 とりあえず作品の全体像を一言で表すと、「肩の力を抜いて読める、大変軽いノリのラブ(?)コメディ」…という事になるのでしょうか。一応、ストーリーは破綻の無い程度に転がっており、「七面倒臭い事を考えずにマンガを楽しみたい」という読者層には、丁度心地良い“軽さ”なのかも知れません。
 ……とはいえ、当ゼミはマンガについて積極的に七面倒臭い事を考えて楽しむ事を旨としているわけですから、評価も自ずと異なって来ます。すなわち、「肩の力を抜いて読める」と言うよりも、「余りにもヌル過ぎて物足りない」という風に。

 普通、この手のノリの軽いコメディは、実際の日常生活でありがちな光景、つまりベタな部分を抽出・強調してシナリオを作ってゆくものです。そうやって、あり得ない出来事を描きつつ現実感をなるべく損ねないお話を作ってゆくわけですね。
 しかし、この作品のシナリオ・設定はちょっと違います。実際の日常生活でありがちな光景ではなく、マンガの世界でありがちな光景を抽出・強調して作り上げられているため、今度は物凄くありがちでベタベタな割に現実感が極めて薄くなってしまっているのです。それこそ先に「絵に関しての所見」で述べた、余りにもマンガ的過ぎて逆に不自然になってしまった登場人物の顔の造型のように。
 ……こういうお話の作り方、他の作品でも全く無いわけではありません。ただそれは、その「マンガとして余りにもベタベタな話」や、それを描く事自体を笑いのネタにしてしまう、つまりパロディとして描く場合がほとんどで、だからこそ許されるやり方でもあります。例えばラブコメマンガの世界には、

“遅刻しそうな主人公(♂)が食パン加えながら疾走
 ↓
 曲がり角で同じように走って来た女の子と出会い頭に衝突、ついでに主人公が勢い余って女の子の股間に顔を埋めたりする
 ↓
 女の子が「この痴漢!」とかブチ切れて言い争いに ↓
 主人公、その場は何とか振り切って教室に着いてみると、転校生がやって来るという話で持ちきり
 ↓
 そこへ担任が大人しそうな女の子を連れて教室に 
 ↓
 その女の子が一通り自己紹介を終えた辺りで、「あー! アンタ朝の痴漢!」”

  ……という、かの『エヴァンゲリオン』TV版最終回でも使われた黄金パターンがありますが(しかしこれ、喋ってて恥ずかしくなりますなぁ)、現在のマンガを取巻く状況では、このストーリー展開は「うわー、まるでマンガみたいなお話ね」と登場人物に言わせるなりして“ネタ認定”させないと使えません。何故なら、元々は日常の光景をディフォルメして作られたこのパターンも、マンガのパターンとして余りにも定着してしまったがために現実感が全くなくなってしまったからです。
 で、もし普通に1つのお話としてこういうベタベタなパターンを使ってしまうと、それは現実感もオリジナリティも全く無い「“寒い”作品」になってしまいます。そして、話のベタさの程度はここまで極端ではありませんが、この『ハヤテの如く』も、多分にその「“寒い”作品」の要素を満たしてた作品になってしまっているように思えてならないのです。
 そう言えば、畑さんの師匠である久米田康治さんは、“ネタ認定”させたベタベタな話で笑いを獲ったり、実在する「“寒い”作品」を暗に「これ、ネタですか?」と皮肉ってみたりする達人でした。そんな師匠から、まさかこういう「“寒い”作品」を描いてしまう弟子が現れるとは……。師匠のテクニックの本質を理解出来なかったのか、それとも師匠を真似しようとしてどこかで歯車が狂ってしまったのか、ともかくも久米田さんに『かってに改蔵』の中でイジってもらいたい作品が、ひょんな所からまた1つ増えてしまいましたね(笑)。 

 今回の評価
 色々と厳しい事を言いましたが、それでも当ゼミ評価基準・B評価の「単なる雑誌の中の1作品として割り切って読む分には、さほど問題の無い作品」という要素は満たしていると思われますので、絵の稚拙な部分を差し引いてもB−寄りBくらいは出せるんじゃないでしょうか。ただ、現状を鑑みるに、ここから大化けする可能性は低いとしか言いようが無く、これでもかなり弱含みな評価という事になりますね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「最近、テンパったこと」。
 週刊連載作家さんに訊いても、そりゃ「いつもテンパってます」という答えが返って来るだろうな…と思ってたら、やっぱりそうなりましたね(笑)。
 駒木も基本的には仕事で麻雀で毎日テンパってますが、最近で一番“高目”のテンパイはこの前の日曜日、起きてみたら中山競馬場が不良馬場になってて急遽G1予想を差し替えなくてはならなくなった時ですかね。

 さて、では連載作品についても軽く触れてゆきましょう。

 まず、最近はネット界隈で評価が赤マル急降下中の『東遊記』について少々。確かにここ最近のテーマ性・ストーリー性の希薄なバトルに突入してからというもの、急に内容がチープになった印象は否めませんね。第2回辺りまでの内容なら、もう少しやれるかと思ったのですが……。
 この辺りが経験の浅い若手作家が見切り発車で連載をスタートさせた弱味なのか、それとも企画モノしか作れないくせに創作の主導権を放したがらない担当の作品故なのか、一度迷走を始めると打開策が見出せないで入るようです。「サンデー」のメイン読者である小・中学生のウケが果たしてどうなのかがイマイチ掴めないのですが、もし今の内容で人気も頭打ちという状況なのであれば、作品の寿命もそう長くないでしょうね。
 評価の再検討については、11月末の“年度末”に行う予定です。

 次に『いでじゅう!』。ここしばらくでは久々に林田×桃里がストロベリってるお話でした。それはそれで悪くないんですが、ただモリさんの本来の実力からすれば、そういうラブコメっぽい雰囲気の中でもキッチリと笑いを獲れるはずなんですが……。それなりのクオリティは維持出来てはいるんですが、ナニゲにスランプ気味なのかも知れません。

 で、最後は今週も『モンキーターン』。凡百のマンガなら洞口に勝たせるところで波多野2着・洞口4着という極めて微妙な結果に持ち込ませるあたり、さすがというか何と言うか。いつの間にか主役が交代してるのには思わず笑ってしまいました。しかし、このレースで一番災難なのは、選手の色恋沙汰に巻き込まれた舟券買ってる客でしょうね(苦笑)。
 さて次号からは、また波多野の女性関係をめぐるソープオペラが再開でしょうか。競艇かドロドロした色恋沙汰か。どうしてこのマンガ、「週刊少年サンデー」でやってるんでしょう?(笑)。

 ……といったところで今週はこれまで。来週は昼間の仕事が多少楽になるので、あんまり酷いスケジュールにはならないと思います。

 


 

2004年度第52回講義
10月1日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第5週/10月第1週分・合同)

 1週間のご無沙汰でした。何とか週末実施が出来ましたが、週前半は久々に極度の大不調に陥りまして、比較的余った時間を完全に棒に振ってしまいました。
 今週は週末に久々の競馬G1予想もありますし、早いところゼミの方を片付けてしまいたいと思っていたのですが……。何か最近気力がめっきり減退してしまったように思えます。やらなくてはいけない事はたくさん残っているんですけどねぇ。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(45号)に読み切り『みえるひと』作画:岩代俊明)が掲載されます。
 この作品は、今年2月発売の「青マルジャンプ」に掲載された、岩代さんの「ストーリーキング」準キング受賞作と同タイトルの新作。ただ、予告カットのキャラは“旧版”では見かけなかったものですので、ある程度の設定変更が施されていると思われます。
 なお、岩代さんは「青マル」、「赤マル」04年夏号に続く3度目の読み切り掲載で今回が週刊本誌初登場。連載獲得へ向けてのチャンス&正念場となりましたね。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(45号)より『ハヤテの如く』作画:畑健二郎)が新連載となります。
 畑さんは元・久米田康治さんのアシスタント。月間増刊で短期連載を経験した後、今年2月に今作と同タイトルの読み切りを週刊本誌に発表。今回はその作品の連載化という事になります。
 ただ、2月に掲載された読み切りは、お世辞にも週刊連載に相応しいクオリティにあるとは思えなかっただけに、今回の抜擢は正直驚きです。言葉を選ばずに言えば、「『改蔵』打ち切ってこれですか」と(苦笑)。
 まぁ読み切り版で露呈した画力とストーリーテリング力の拙さが、この半年余りの間にどこまで修正出来ているか、お手並み拝見といったところですね。「先週は的外れで失礼な事言って申し訳有りませんでした」と謝らなくちゃならないくらいの作品であって欲しいんですが……。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り1本/代原読み切り1本
 「サンデー」:読み切り1本
 《お断り》今週の「チェックポイント」は時間等の都合により休みます。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年44号☆

 ◎読み切り『伝説のヒロイヤルシティー』作画:大亜門

 ●作者略歴
 1977年5月29日生まれの現在27歳
 持ち込み活動の末、02年4月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りした後、週刊本誌02年34号にて代原で暫定デビュー。同年44号に2度目の代原掲載を果たした後、「赤マル」03年春号にて『スピンちゃん試作型』で正式デビュー。
 この『スピンちゃん』シリーズは、週刊本誌でも03年40号と48号の2回、それぞれ題名を微妙に変えつつ新作が掲載され、最終的に04年16号から『無敵鉄姫スピンちゃん』のタイトルで週刊連載化。ただし、この連載は人気不振のため1クール11回で打ち切り終了となる。
 今回は『スピンちゃん』終了以来の復帰作。

 についての所見
 全体的な印象は『スピンちゃん』の頃と変わりませんね。ストーリー系の連載作品に混じるとさすがに見劣りしますが、それでもギャグ系作品としてなら十分及第点の出せるクオリティだと思います。
 今回気が付いた点としては、主要登場人物のデザインを極端に差別化した所ですね。これはペンタッチが単調でインパクトに欠けるという短所を補うためだと思うんですが、ギャグ系作品の持つ“非常識の許容範囲の広さ”を上手く活用しているんじゃないでしょうか。まぁ、本当は短所そのものを解消させる努力をするのが一番なのですが……。

 ギャグについての所見
 テクニック面については何も口を挟む事が無いくらい良く出来ていると思います。大亜門さんは暫定デビュー当時から、既に新人離れした熟練度の高い技術を身に付けた作家さんだった記憶があるのですが、ここに至って早くも完成の域に達したとさえ言えそうです。
 
“間”の取り方やセリフ回しの上手さ、インパクトを持たせる演出技術の高さなど、とても1クール打ち切り作家とは思えない程。また、ページ辺りの“ネタ密度”も凄まじいまでに濃く、「キツめのスケジュール」(作者巻末コメントより)を全く感じさせない、質・量共に兼ね備えた一級品に仕上がっていますね。
 そして、もはや大亜門さんのアイデンティティとも言えるパロディの冴えも健在「天下一漫画賞」で最終候補に残った際、月替り審査員の矢吹健太朗さんから「既存の作品の影響が強すぎる」という、趣深い講評を頂戴した事のある大亜門さんですが、今やそれすらもギャグになってしまった感もありますね(笑)。

 ただ、大亜門さんの作品の場合、長所がそのまま短所に直結してしまう面も否定し切れません。
 例えば、完成度・安定性の高いテクニックは“レヴェルの高いワンパターン”となってメリハリを欠く結果に繋がっているように思えますし、作風が完全に固定されているため、「良し悪しは別にして、この作風についていけない」という読者を延々と放置してしまう事になるでしょう。また、マニアックなパロディの連発は、コアな読者から強い支持を集めると同時に、ライト読者層の支持を不用意に落とす“副作用”も生じるはずです。(『プリキュア』と『三つ目がとおる』のネタなんて、全読者の何%が理解出来たんでしょうね^^;)
 この辺りの、読者層を不用意に限定してしまう要素を如何に削っていくかが、今後、大亜門さんが「ジャンプ」週刊本誌で活躍するためのカギとなるのではないでしょうか。

 今回の評価
 欠点も認められるものの、それも「過ぎたるは及ばざるが如し」的な短所であって、高い評点を与えるのに躊躇するものではありません。
 今回の評価はA寄りA−としておきます。先に述べた通り、作品のクオリティと人気が整合しない作品の典型例になりそうな気もしますが、大亜門さんには是非とも実力相応のヒットをブチかましてもらいたいものです。


 ◎代原読み切り『メガネ侍』作画:彰田櫺貴

 ●作者略歴
 今回が代原による暫定デビューとなる新人という以外、詳細なデータは不明。「ジャンプ」系新人賞の受賞者(最終候補者等含む)にも名前は確認できず。

 についての所見
 人物キャラの造型そのものがギャグのネタになっている分、画力をアピールしきれなかったかも知れませんが、線そのものは安定していますし、女の子キャラもなかなか可愛く描けていると思います。ギャグ系作品に求められる画力は十分保てていると言って良いでしょう。
 欲を言えば、もうちょっと背景処理や特殊効果の技術をつけてもらいたいですね。しばらくアシスタント修行するなどして技術に磨きをかけてもらいたいところです。

 ギャグについての所見
 大亜門さんの『ヒロイヤルシティー』を先に読んだせいかも知れませんが、15ページの割にネタの密度が薄いのが、まず気になりました。これは多分、1コマあたりの情報量が少ないためだと思われるのですが、全体的に随分と淡白な印象を受けてしまいましたね。
 また、ギャグそのものに関しては、ツッコミのタイミングが悪い上に単調だったように思えるのと、ネタとネタの連携が唐突で強引過ぎるところの2点に物足りなさを感じました。ネタの繋がりが無茶苦茶な不条理系ギャグを志向するなら、下手にストーリー仕立てにしてページを浪費するのではなく、腹を括って最初から『ボーボボ』のようにハジケてみた方が良かったのでは…と思います。

 とはいえ、“間”の取り方やシュールっぽいネタ運び、更には何気なく挟まれている小ネタなど、ギャグセンスが窺える部分も随所に見受けられます。単なる「載っただけ」の代原とは一味違うような気もしますね。もっとも、幅広い支持を得るためには、もう少し理詰めで読者を笑わせる配慮が必要だとも思いますが。

 今回の評価
 商業誌掲載作品としての及第点には少々足りないという事で、B寄りB−としておきましょうか。ただ、荒削りなセンスが磨かれて来ると、大化けする可能性もある作家さんだとは思います。

「週刊少年サンデー」2004年44号☆

 ◎読み切り『88の陣八』作画:桜井亜都

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 資料不足のため、生年月日及び年齢は不明。

 桜井崇子名義で月刊増刊03年6月号&9月号に読み切りを発表しており、今回が週刊本誌初登場となる。

 についての所見
 
これが週刊本誌初登場の新人さんとは思えない、無駄な線を排した完全“プロ仕様”の絵ですね。老若男女の描き分けもバッチリ出来ていますし、背景処理や特殊効果にもソツがありません。これであと少し“陰陽”のコントラストがあれば完璧なのですが、現状でも連載作家級、新人・若手としてはトップクラスのクオリティは既にあると思います。

 ストーリー&設定についての所見
 まず特筆すべきなのは、伏線を巧みに使いこなし、やや複雑なストーリーラインをほぼ矛盾無くまとめた高い技術でしょう。今回のシナリオは下手をすると悪性の御都合主義にハマってしまう危険性もあっただけに、このファインプレーは見逃せない部分でした。
 あと、バトルシーンの駆け引きも凝っていて良かったですね。バトルに限って言えば、今回のレヴェルを維持できるなら連載でも十分やっていけると思います。

 ただ、これらの長所を打ち消して余りある欠点だと思えたのが、プロットの貧弱さと登場人物のキャラクターの弱さ。ページとエピソードの分量のバランスを考えたら止む無くこうなってしまったのだと思うのですが、ヒトダヌキとその妖術の設定説明と、その設定を踏まえたバトルを1戦やっただけで終わってしまったような印象がありました。
 もしここに、登場人物のそれぞれの行動に対する動機付け(が出来る程度のキャラ立ち)と、作品全体を通じたテーマに基づく一本筋の通ったプロットがあれば、それこそ年間を通じての傑作になるくらいのポテンシャルはあったと思うのですが……。非常に惜しいですし、残念です。

 今回の評価
 評価はA−寄りB+。ただし、素質・実力は間違いなくA級です。あとは、桜井さんの才能をフルに発揮できるだけのシチュエーションに恵まれるかどうかといったところで、未だやや停滞気味の「サンデー」で、近い内に活躍してくれる事を期待したいと思います。


 ……といったところで、今週はここまで。(あんまり楽しみにしてらっしゃる方はいないと思いますが)「チェックポイント」お休みして申し訳有りません。10月からは何とかもう少し頑張れるよう、努力してみます。では。


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