「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・12)

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講義一覧

3/31(第100回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (3月第5週/4月第1週分・合同)
3/26(第98回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (3月第4週分・合同)
3/17(第97回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (3月第3週分・合同)
3/13(第96回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (3月第2週分・合同)
3/6(第94回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (2月第5週/3月第1週分・後半)
3/4(第93回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (2月第5週/3月第1週分・前半)
2/26(第91回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (2月第4週分・合同)
2/19(第89回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (2月第3週分・合同)
2/12(第87回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (2月第2週分・合同)
2/10(第86回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (1月第6週/2月第1週分・合同)
1/27(第85回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (1月第5週分・合同)
1/22(第84回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (1月第4週分・合同)
1/16(第82回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (1月第3週分・合同)
1/7(第80回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (1月第2週分・合同)
1/5(第79回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (12月第5週/1月第1週分・合同)

 

2004年度第100回講義
3月31日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第5週/4月第1週分・合同)

 ほとんど反則ですが、日付上は月末実施……という事で、年度講義回数100回を何とか達成出来ました。今年度は公私多忙で講義回数が随分と減ってしまいましたが、ご愛顧有難う御座いました。
 来年度も、どうぞ宜しく。

 さて、本当ならこの冒頭挨拶で、「ライブドアとフジ・サンケイグループの攻防戦は、まるで『ジャンプ』のバトル系マンガみたい」という話をしようと思ったのですが、時間も気力も足りない状況ですので、また別の機会に。
 まぁ株式会社というシステム自体、『DRAGON BALL』の元気玉みたいなもんですからね。「オラにみんなのカネを少しだけ分けてくれ!」……なんか嫌なマンガになりますな。
 そうなるとスカウターで判明するのは総資産額でしょうか。なら駒木はゴミ呼ばわりされますねきっと。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(18号)『TEAM』作画:宮本和也)が掲載されます。
 宮本さんは、04年下期「手塚賞」準入選受賞者。ただし、受賞作掲載ではなく、受賞後第1作でのデビューとなります。
 最近の「ジャンプ」ではデビュー即週刊本誌掲載というケースは随分と減っていますが、今回の措置は期待の現れ…と解釈して良いのでしょうか?

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(18号)より『うえきの法則プラス』作画:福地翼)が連載開始(再開)となります。
 昨年の『DAN DOH!! ネクストジェネレーション』に続く、アニメ化に伴う円満終了作品の連載復活ですが、今回は果たしてどうなる事でしょうか。最悪の経路を辿った『DAN DOH!!──』の二の舞だけは避けてもらいたいところですが……。
 この作品については、レビューは他の新連載作品と同様に実施しますが、事実上の第二部開始という事ですので、お話しする内容は第一部からの推移を中心にしたものになると思います。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年17号☆

 ◎読み切り『ふるさとさん』作画:郷田こうや

 ●作者略歴
 生年月日は資料不足のため不明。ただし01年上期「赤塚賞」入賞時23歳なので、この春で27歳となる
 01年上期「赤塚賞」で佳作受賞その受賞作『グッドボール』が週刊本誌01年27号に代原として掲載され、暫定デビュー。その後、02年度に3度の代原掲載を経て、「赤マル」03年冬(新年)号にて正規枠デビューを果たす。また、03年度には17号、26号にそれぞれ読み切りを発表している。
 今回はそれ以来、2年弱のブランクを経ての復帰作となる。

 についての所見
 
画力そのものは、ギャグ系作家さんとしては十分合格点を出せるものだと思います。男子、女子キャラの造型も(「ジャンプ」っぽくありませんが)好感度の高いデザインで、ディフォルメ技術もなかなかのものでしょう。デビュー以来、郷田さんの絵柄をずっと追いかけていますが、以前に比べて固さが取れてきた印象がありますね。
 しかし、今回の絵はいかにも線が粗く、また背景処理がやや手抜き気味で、それで見栄え的に大きく損をしているように思われます。多分、絵コンテや下書きを描くような感覚でペン入れをしてしまっているのが良くないのだと思いますが……。

 ギャグについての所見
 ギャグの見せ方、つまりテクニック面については、こちらも合格点クラスです。単なるボケ・ツッコミは勿論、ページ跨ぎのオチ、1コマの中での複数のセリフの遣り取り、“間”で笑いを狙う手法など、多彩なバリエーションのギャグで長丁場の31ページを埋め尽くしてくれました。
 また、以前の作品の欠点だった、登場人物のキャラクターの弱さが随分と解消されており、この点も評価出来るポイントです。

 ただ、ツッコミが“ボケを説明しているだけ系”で、全般的に物足りなかったのと、ビジュアルで見せるギャグが今一つインパクト不足だったのではないでしょうか。折角のテクニックが、大きな笑いに繋げる事が出来ていなかったように思えるのです。
 特にビジュアル・インパクト狙いのギャグは、構図・演出──特にロングショットとアップの使い分けが出来ていれば、大きく印象が違ったものになったと思われるだけに、残念でなりません。

 今回の評価
 テクニックはしっかりしており、読み手によっては十分笑いを獲れる作品に仕上がっていると思いますが、駒木個人の評価としては、絵が粗かった分の下方修正も酌んでBとしておきます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 去年に色々話題を呼んだ「ジャンプ・イン・ジャンプ」が今年も登場。今週は『BLEACH』のゲームブック形式の尸魂界編復習企画と、7ページのショート番外編、そして雑多な企画諸々でした。
 番外編の誕生日話は、確か昔『シティハンター』でも同じようなエピソードがあったと思いますが、そこは演出力では「ジャンプ」随一の久保さん、キッチリと“久保流”で魅せてくれました。歌唱力のある歌手なら、カヴァー曲にもオリジナリティを持たせられるようなものでしょうかね。

 『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』は、どうやら以前の感動系ショートストーリーに回帰したようですね。大人の事情で軌道修正しかけたものを中断した…といったところでしょうか。
 今回のエピソードは、主人公2人が事務所に戻って来た…という話が中心でしたので消化不良気味でしたが、次回以降には以前の高クオリティに戻ってくれる事を期待しましょう。

 『魔人探偵脳噛ネウロ』は、ちょっととんでもない方向へ行ってしまいましたねぇ……。もうミステリ風味も何も素っ飛んでしまって、「今週の殺人鬼さん」を紹介してるだけのマンガになっちゃいました。今回のエピソード、トリックなんかどうだって良くなってますからね。
 何だか「ラズベリー」の5文字がチラつくようになって来ましたが、次号からの新エピソードはどうなるんでしょうか。こちらは楽しみというより怖いですね、様々な意味で。

 今週の『ユート』で最後に出て来た「スピードスケートじゃない」競技は、見たところショートトラックっぽいですね。ザッとネットで調べてみると、ショートトラックは北海道以外でも小学生の競技会が開かれているようです。ひょっとしたらショートトラック競技のマンガになってゆくんでしょうか?

☆「週刊少年サンデー」2005年18号☆

 ◎新連載第3回『見上げてごらん』作画:草場道輝

 についての所見(第1回時点からの推移)
 
特に大きな変化はありません。絵柄はさておき、テニスを題材にした作品に必要なテクニック等で、不足しているモノは見当たらないと申し上げて良いでしょう。
 欲を言えば、この作品オリジナルの趣向があれば……と思いますが、既存の作品によって蓄積されたノウハウや、長年のキャリアで培った構図や演出の技術を的確に活用している点は好感が持てます。 

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 今回でプロローグ的なエピソードが終了しました。メインシナリオを進行させながら、ごく自然な形で今後に繋がる伏線張りや設定の提示が為されており、この辺は「さすが長期連載経験者」…といったところでしょうか。
 ただ、そのメインシナリオが余りにも手垢の付いたものに終始したのには、やはり物足りなさが否めませんでした。言ってしまえば、平凡な若手作家さんが描く読み切り作品のような、序盤の時点で結末までの展開が読めてしまう、しかも本当にその通りの結末を迎える平凡なストーリーだったと思います。
 しかも、そんなお話を1回読み切りではなく、3週間もかけてしまったわけで、これはストーリーの密度という観点でも不満が残ってしまいました。

 結局のところ、この作品には「他に無いセールスポイント」と呼べる点が見当たらないのです。ソツなく必要最低限の水準はクリア出来ていたとしても、加点材料が無くては、「悪くない作品」ではあっても「良い作品」にはなり得ないでしょう。 
 
 現時点での評価
 評価は据え置きでBとします。
 この作品についても、第10回終了時点で評価の修正を実施します。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週はまず、連載第10回になった作品の評価見直しから。

 ◎『兄踏んじゃった』作画:小笠原真
 旧評価:B−新評価:B
(据置)

 作品の内容に変化が見られず、評価も変えようなし……という事になりました。個人的には数週間に1度くらいは笑える所もあるのですが、どのみち、その程度の頻度では厳しいですね。
 ただ、ツッコミのセリフや、一発ギャグ系のネタの見せ方が僅かながら改善されたような気もしており、それが気のせいであるかどうか確かめるためにも、あと10週経過観察してみたいと思います。

 さて、『MAJOR』は急転直下というか、これだけ長年引っ張っておいた割には簡単過ぎる幼馴染みカップル成立となりました(笑)。体育会系も行き着くところまで行くと、構造的にラブコメが成立出来ないのかな……などと考えてしまいました。この辺、『いでじゅう!』とは沢山の意味で好対照ですね。

 あと、心底どうでもいい話とは思うのですが、『ブリザードアクセル』の扉ページ、吹雪の決めポーズがゴルゴ松本の「命!」にしか見えないんですが、どうすれば良いんでしょうか?

 ……どうやら目がおかしくなっているみたいですので、今週はここまでにしたいと思います(笑)。では、また来週。いよいよ新学期が始まって公務多忙になりますが、出来る範囲で頑張ります。

 


 

2004年度第98回講義
3月26日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第4週分・合同)

 遅くなりましたが、旅行明け最初のゼミを行います。
 今週は旅行だの何だのと公私共に多忙で、時間が破滅的に不足しておりますので、取り急ぎ講義を進行させてしまいます。「チェックポイント」で時間調整を図るケースも出て来ると思いますが、どうか悪しからず。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(17号)『ふるさとさん』作画:郷田こうや)が掲載されます。
 郷田さんは02年に代原暫定デビューを果たした後、ハイペースで増刊、週刊本誌に読み切りを相次いで発表していた若手ギャグ作家さん。ここ1年半ほどは活動休止状態で、駒木も人知れず安否を心配していたのですが、今回週刊本誌で晴れて復帰となりました。

 ★新人賞の結果に関する情報

第13回ストーリーキング(04年末期)

 ◎マンガ部門
 キング=該当作無し
 準キング=1編
  ・『アナグマ』
(=「赤マル」05年春号に掲載決定)
   矢部臣(23歳・神奈川)
《講評:今回の応募作の中では画力の高さが目立った。また、ストーリーにも先を期待させる力があった。どちらの力にも、より一層磨きをかけ、精進して欲しい》
 最終候補(選外佳作)=5編
  ・『銀』
   八木あゆみ(19歳・東京)
  ・『アクトレス・シャトヤンシー』
   安堂友子(24歳・広島)
  ・『ヒンドランスダッシュ』
   遠藤学(27歳・東京)
  ・『リアルソウル』
   小野俊輔(25歳・茨城)
  ・『隼の守護神』
   野寺寛(24歳・福岡)

 ◎ネーム部門
 キング=該当作無し
 準キング=1編
  ・『good×badチョイス』
   栗山武史(24歳・和歌山)
 特別賞=1編
  ・『DRUMLINE』
   本寄直助(19歳・新潟)
 最終候補(選外佳作)=5編
  ・『あの空越えて』
   渡辺直樹(25歳・東京)
  ・『ブレイクシュート』
  ・『キーボーイ』
  ※2作同時最終候補
   小嶋武史(27歳・山形)
  ・『アルビニズム・ヒーロー 〜名も無き国の竜〜』
   祝ホーリー(14歳・三重)
  ・『バスケットボールホリッカーズ』
   大平平太(22歳・神奈川)

 受賞者の皆さんのキャリアは以下の通りです。
 ◎マンガ部門最終候補の野寺寛さん…02年3月期&8月期、03年1月期「天下一漫画賞」でも最終候補。
 ◎ネーム部門最終候補の
小嶋武史さん…04年5月期「サンデーまんがカレッジ」であと一歩で賞(選外)。02年には「週刊少年マガジン」の新人賞で入賞経験?
 
ネーム部門最終候補の祝ホーリーさん川縁芳乃名義で、04年5月期「まんがカレッジ」であと一歩で賞、04年11月期で努力賞。(情報有難う御座いました)

少年サンデーまんがカレッジ
(04年12月・05年1月期)

 入選=1編
  ・『YUNGE!』
(=週刊本誌、または本誌に掲載決定)
   麻生羽呂(24歳・東京)
《講評:画力やキャラ設定は高いレヴェルにある。ただし、1コマの中に複数の要素を入れ過ぎる癖のため、読み辛くなっている。ページ、コマ、見開きの効率的な使い方が欲しい》
 佳作=2編
  ・『ずっと大切な場所』
   中川将道(26歳・高知)
  ・『忍者くん!』
   小森香奈(21歳・埼玉)
 努力賞=6編
  ・『ピカ』
   高橋かず(26歳・茨城)
  ・『魔球X』
   緒方雄一(20歳・神奈川)
  ・『そうるぼいす』
   瓦龍樹(21歳・大阪)
  ・『ヤクシャ』
   松延寛(27歳・東京)
  ・『アイキュードー』
   西尾洋一(22歳・大阪)
  ・『TOKYO RUCKER PARK』
   河野洋介(26歳・神奈川)
 あと一歩で賞(選外)=該当作なし

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎入選の麻生羽呂さん…メールマガジン「まんカレ通信」の受賞者インタビューによると、「これが3度目の投稿で、前回は努力賞を受賞した」とのこと。01年11月の開講以来のデータに、麻生羽呂名義の受賞者は無く、別ペンネームを使用していたものと思われる。

 ……「ストーリーキング」は2部門とも準キングが出ました。『アイシールド21』稲垣理一郎さん以来(コアな所では中島諭宇樹さん岩代俊明さんという“原石”も出ましたが)、ちょっと「ストキン」出身者はあまりパッとしない状況が続いていますんで、ここらでドカンと来てもらいたいモンですね。
 一方の「まんカレ」は、2か月分合同の審査という事もあって、かなりの豊作になった模様。この賞の入選は、「ジャンプ」の月例賞では佳作か十二傑賞と同等の水準なので、過度の期待はアレかも知れませんが、受賞作紹介のカットを見る限りでは即戦力級の画力が期待出来そうで楽しみです。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:新連載第3回1本&読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年16号☆

 ◎読み切り『RARE GENE4』作画:夕樹和史

 作者略歴
 79年生まれで今年26歳。誕生日は非公開。
 00年12月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。翌年、「赤マル」01年夏号にて『福楽木町怪盗奇話』を発表し、デビューを果たす。
 その後、「赤マル」には02年春号にも作品を発表したが、その後今回に至るまで3年のブランクを経験。
 この復帰作は勿論、週刊本誌初登場。

 についての所見
 線が全般的に細い上に洗練されておらず、見た目に雑だと感じる絵柄ではあると思いますが、キャラクターの描き分け、動的表現などはソツなくこなせており、画力そのものには問題は無いと思われます。ただ、背景の描き込みが甘い部分が随所で見受けられたのが残念でした。
 問題点としてはディフォルメ表現の使い方というか、その認識が、いわゆる商業誌(プロ)のスタンダードなマンガの文法から大きく外れている所ですね。簡単に言うと、ディフォルメを、使う事が表現上好ましい場面で使うのではなく、作者が使いたい所で好き勝手に使っているだけ…という所が頂けないかなと。読み手がこの違和感を受け入れるためには、相当の度量と労力を強いる事になると思います。

 ストーリー&設定についての所見
 後で述べるように、根本的な部分を間違ったライトノベルのようなノリのお話でしたが、プロットそのものは結構練られているのを感じます。駒木ぐらい若手・新人読み切りを無駄に読み込んでいる人間にとっては、多分に“「ジャンプ」若手読み切りフォーマット”的な段取り臭さを感じますが、その段取りをキチンとこなせている事を評価すべきでしょう。
 ただ、そのプロットを充実させるためのエピソードが貧弱だった事は否定出来ません。やたらと軽いノリのギャグ・コメディは、本来必要であったドラマ性を殺いでしまい、単なるページの穴埋めに終始した感がありました。また、大きな“盛り上げ処”であったはずの、回想シーンと最後の“擬似超サイヤ人化”シーンの脚本と演出に工夫が見られなかったのも不満です。

 そして、先に少し述べましたが、キャラクターや世界観の設定についても、必然性の欠けた過去作から取って付けたようなモノが多かったように思えます。特に、主人公側が義賊をやっている事に対する動機付けが非常に甘く、読み手がなかなか主人公に感情移入出来ない状況が生まれてしまったのでは……と思います。

 今回の評価
 画力・プロットの完成度が及第点以上に達していますし、評価はギリギリでBとしておきます。作品のクオリティそのものより、読者に対して「この作品を好きになってもらうにはどうしたら良いのか?」という意識が希薄である…という印象が強かったです。
 実はこの作品、東京旅行中にお会いしたとある方からお薦めを頂いた作品なんですよね(苦笑)。こういうニュアンスでレビューをするのは非常に心苦しいのですが、レビューは自分が設定した評価基準を厳格に守らないと成立しませんから、「ご容赦下さい」と申し上げるしかありません。好き勝手にモノを言うのも大変です(笑)。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週は時間の都合もあって『武装錬金』のみピックアップ。
 作者側主導でシナリオを手仕舞いにかかるという、この作品では何度となく見た光景にまたも突入しつつあるのが、読んでてちょっと辛いですね(苦笑)。本当、この作品は盛り上がらない戦闘シーンが色々な面で悪影響を与えていて、それが大変にもどかしいです。
 あと、駒木はこの作品のコメディ部分は高く評価しているのですが、今回ぐらいシリアス度の高い展開で能天気にギャグを連発されると、さすがにどうかなという面も。人気狙いなら、ここではギャグよりもストロベリーを提案したいのですが。
 まぁでも、戦士・毒島の余りにも分かり易い“素顔美少女”伏線は良し! 何だか知らんがとにかく良し! 
 ……これで意表を突いて素顔がアレだったら、『H×H』のビスケの一件みたいな話になるんでしょうが、さすがにそこまではやんないでしょうね。やる必要全く無いし(笑)。 

☆「週刊少年サンデー」2005年17号☆

 ◎新連載第3回『ブリザードアクセル』作画:鈴木央《第1回時点の評価:B+

 についての所見(第1回時点からの推移)
 特に述べなければならない…というような点はありません。競馬用語で言うところの「良い意味での平行線」ではないでしょうか。
 ただ、紙質の悪さのせいか、線が雑っぽく見えるのも相変わらず。この辺り、掲載誌をチェックしながら少しずつ修正してもらえればと思います。

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 第3回で主人公以外の主要登場人物をクローズアップし、シナリオに幅を持たせるための気の利いた試みが為されていますね
 バレエとフィギュアスケートの融合…という発想もオリジナリティがあって、なかなかのものだと思います。意地悪な見方ですが、競技人口の少ない種目を題材にする事によって、誇張した表現などでリアリティを欠いた場面をを目立たなくする効果も得られるでしょう。
追記:受講生さんから「フィギュアスケートとバレエは、そもそも密接な関係を持っている競技であり、それで『オリジナリティがある』とは言えないのではないか」とのご指摘を頂きました。駒木の知識不足から誤った解釈をしてしまった事を認め、お詫びします。
 該当箇所を「フィギュアスケートをバレエと絡めて描かれた作品は、少年マンガとしては珍しいと思いますので、目新しさという点では高く評価できますね」と修正させて頂きます。評価の変更は行いません。

 ただ、主人公・吹雪のキャラ設定が少々変わり者過ぎて、主人公らしくない(=読者の支持を集め辛い)面があるのは否定出来ないところでしょう。天然ボケ系の主人公は頻繁に見受けられますが、そのコントロールを失敗して連載も失敗する…というパターンも結構ありますので、今後とも気をつけて欲しい要素では有ります。
 また、マイナースポーツ物には欠かせない、題材となるスポーツの魅力を読み手にアピールするための工夫が余り感じられないのも気になります。冠茂編集プロデュース作品のように、あんまり説明的なアピールをされてアレですが、フィギュアスケート競技について、読者の興味を引く部分をもっとアピールしてもバチは当たらないと思います。

 現時点での評価
 評価は若干の上方修正として、A−寄りB+とします。マンガとしては随分と内容の濃い作品になりつつありますが、まだ“フィギュアスケート物”としては物足りない部分も残っていますので、Aクラス評価は見送った次第です。
 次回の評価変更は、例によって第10回終了時点にて行います。

 ◎読み切り『父さんとオモチャ達』作画:クリスタルな洋介

 (受講生の皆さんへ:この作品は評価Cとなりました。結果的に読み手の感情を損ねる論調のレビューになっている恐れがあります。この作品のレビューをご覧になるかどうかは皆さんでご判断下さい。

 ●作者略歴
 生年月日は不詳だが、新人賞入賞時の年齢から計算すると、現在24〜25歳
 04年にギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で最終候補に残り“新人予備軍”入り。04年9・10月期「まんがカレッジ」でも佳作を受賞。今回がデビュー作となる。

 についての所見
 普通に普通のイラストを描けば、それほど下手な作家さんではないと思うのですが、今回の作品の絵はとにかく見辛かったです。上手・下手以前に不特定多数の人に見てもらうような絵になってない、といったところでしょう。
 構図の取り方、陰影の処理、トーンの使い方、ディフォルメのさせ方など、全ての表現技法が絵を見辛いモノへと誘導しているような気がしてなりません。何がどう描かれているか判別し難いというのは、マンガの記号としては致命的な欠陥と言わざるを得ないでしょう。

 ギャグについての所見
 こちらについても、根本的な欠陥を指摘しなければならないようです。
 このマンガ、形式としては巷によくある、「変な人が変な事をする様子を描いて笑いを誘う」タイプの作品なのですが、この中の「変な人が変な事をする様子を描く」という“手段”が、本来の“目的”である「笑いを誘う」に全く繋がっていません。
 いくら違和感が笑いの根源とは言え、ここまで“違和”が突き抜けてしまっては、笑うどころじゃない…といったところ。まるで全く別の文化の国か星で描かれたマンガのような気がしてしまいました。

 何と言うかこの作品、変な人が変な事をする様子だけが淡々と描かれている…という、とんでもないマンガになってしまってますよね。アレな病院に強制入院させられそうなアレな人が好き放題暴れまわっていて、それを周囲が静止する事も出来ずに途方に暮れている物語。これでは笑うどころかドン引きじゃないでしょうか。

 ギャグが全く描かれていないギャグ作品となれば、これは白紙答案も同然。評価としても、真っ白なページを眺めた時と同じ点数を付けざるを得ないでしょう。
 
 現時点での評価
 
……というわけで、絵もギャグも救いよう無しで、評価は文句無しの。さすがにこの作品は一切のフォローのしようがありません。
 積極的にギャグ系作家の“ダイヤの原石”を発掘しようと頑張っている林編集長就任後の「サンデー」ですが、こういう石ですらない物も売り物にしようとされては困ります。せめて最低限度の判別だけは済ませてから雑誌に掲載させて欲しいと願うばかりです。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 先程、「ジャンプ」のチェックポイントで、『武装錬金』のシリアスな場面におけるギャグの挟み方についてお話をしましたが、『金色のガッシュ!!』ウンコティンティンについても、個人的には「どうなのコレ?」…といったところでありました。まぁ、こちらは純粋なギャグとしても十分面白いので、それはそれで良しという話ではあるのですがね(笑)。
 しかし、「サンデー」が誇るお子様向け作品で、言葉責めと羞恥プレイとは、マンガという表現媒体はどこまでも奥が深いですなぁ。この調子で、「全ての『サンデー』連載作品のヒロインに『ウンコティンティン』と言わせるぞ大会」みたいなのを開いて頂きたく……と、何だか周囲から突き刺さる視線が痛いので、これ以上は止めておきましょう。

 ところで、ミズノと『MAJOR』がタイアップしたり、桃屋と『ジャぱん』がタイアップしたりと、まるで制作費節約のために宿泊先のホテルとタイアップする大阪ローカルの深夜放送みたいな最近の「サンデー」。今週はセガと『ハヤテのごとく!』がタイアップする事になりました。
 ただ、この作品が他の2作品と違うのは自己防衛のためのタイアップというところですよね。「死せる『ときメモファンド』、生ける『ムシキング』を走らす」といったところでしょうか(笑)。いや、「ときメモファンド」は死んでませんけど(自己防衛)。頑張れ、コナミ!(自己防衛)
 いや、それにしても、あの「ときめきメモリアル・オンライン」、あれじゃあまるで出会い系サ…うわ、珠美ちゃん何をするやめ………

 

 ──突然失礼しました。講座助手の栗藤珠美です。諸般の事情により、駒木博士にはチョークスリーパーで眠って頂きました。ちょっと泡を吹いていますが、これも生きている証ですのでご心配なく(微笑)。
 大変僭越ながら、この場は駒木博士の代理として、受講生の皆様に講義締め括りの挨拶を務めさせて頂きます。次週はまた、旅行記とゼミをお届けする予定です。では、失礼致します。

 


 

2004年度第97回講義
3月17日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第3週分・合同)

 昨日までの1泊旅行の疲れがまだ残っていて少々ヤバいのですが、最低限のノルマだけでも…ということで、今週のゼミを実施します。
 しかし今週は、「忙しい時に限ってレビュー対象作品が増える」というジンクスが発動し、「ジャンプ」で代原2本掲載という頭の痛い事態になってしまいました。『ミスフル』の場合は、作家さんが喘息持ちだそうなので、これは致し方ないのですが、タイミングが……。

 レビューの質が荒れてしまわないよう頑張りますので、最後までどうか何卒。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(16号)『RARE GENE 4』作画:夕樹和史)が掲載されます。
 夕樹さんは、00年12月期の月例賞で最終候補に残って“新人予備軍”入りし、01年夏と02年春の「赤マル」に読み切りを発表している若手作家さん。今回は3年ぶりの「ジャンプ」登場にして、初の週刊本誌登場となります。
 02年春号に掲載された作品の出来は…………、と言葉を濁してしまいたくなるレヴェルでしたが、さてこの3年でどこまでスキルアップが成されているでしょうか。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(17号)『父さんとオモチャ達』作画:クリスタルな洋介)が掲載されます。
 この作家さんは、「爆笑王決定戦」最終候補、「まんがカレッジ」04年9・10月期に佳作受賞という経歴がありますが、今回がデビュー作。随分と若手ギャグ作家さんの発掘に力を入れている様子の林新体制「サンデー」ですが、またしてもデビュー即本誌掲載の新人さんが登場となりました。

 ★新人賞の結果に関する情報

第22回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年1月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
  ・『DRUG BOY』
   小林マコト(22歳・山梨)
 《空知英秋氏講評:画力が高い。ストーリーも描けているが、主人公のキャラが弱く印象が薄い。何か1つ“とっかかり”が欲しい。キャラを作りこむ意識をもっと高く。》
 《編集部講評:絵は評価出来る。しかし設定が説明不足で、その設定ゆえの面白いエピソードが欲しい。また、話の印象が暗すぎるので、何か明るい要素も》
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『件名666』
   木村吉見(24歳・東京)
  ・『SPIRITUAL PEOPLE』
   松本直也(22歳・東京)
  ・『うぐいす改』
   船津雄史(20歳・大阪)
  ・『大正鬼族』
   西島賢一(24歳・埼玉)
  ・『ANDROID FRIEND』
   肥田野健太郎(18歳・新潟)
  ・『ダイレクトッ!』
   坂本充祥(25歳・東京)
  ・『リオのサーカス』
   高橋良幸(22歳・埼玉)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の小林マコトさん…04年5月期「十二傑」で最終候補。
 ◎最終候補の船津雄史さん…01年5月期&02年3月期&03年3月期「天下一漫画賞」、および03年9月期「十二傑」で最終候補。04年1月期にも投稿歴あり。

 
◎最終候補の肥田野健太郎さん…04年6月期「十二傑」にも投稿歴あり。
 ◎最終候補の坂本充祥さん
…04年7月期「十二傑」にも投稿歴あり。
 ◎最終候補の高橋良幸さん…03年4月期、04年6月期、04年9月期「十二傑」にも投稿歴あり。

 今月の審査員は空知英秋さん初めての審査という事もあってか、非常に詳細で力の入った講評が大変印象深かったです。
 それにしても、いくら文字数を確保するためとはいえ、句読点を省略したり、敬体(です、ます)を一部常体(だ、である)に転換させたりの力技には、ちょっと苦笑い。でも、そこまで熱心に講評をしてもらって、投稿者の皆さんも幸せですよね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…4本
 「ジャンプ」:読み切り3本
 「サンデー」
:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年15号☆

 ◎読み切り『斬』作画:杉田尚

 作者略歴
 81年6月28日生まれの23歳。
 03年10月期の「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。その後、1年余りに及ぶ投稿生活の末、04年12月期「十二傑」で十二傑賞を受賞。今回は、同賞の特典である受賞作掲載&デビュー。

 についての所見
 
プロフィールページのカットや扉絵を見る限りでは、得意な構図の一枚絵はソコソコ“見れる”ようですね。ただ、残念ながらマンガの絵としては技術が全く足りていないという印象です。
 まず全体的に線のメリハリが効いておらず、背景に人物作画が埋没気味。その人物の造型も、リアル風とマンガ風がどっちつかずになっていて違和感が否めません。
 特殊効果・背景処理に関しても至らない部分が多いようです。動的表現こそ見苦しくないように出来ているとは思いますが、遠近感のズレた構図と背景作画は見辛くて見栄えが良くありません。
 あと、全ページを通じてトーンに頼らないのは一向に構わないのですが、数少ないトーンを使った場面を見る限りでは「使わない」のではなく「使えない」ようにしか見えないのは頂けません。この辺りは、今後アシスタント経験を積むなりして、みっちりと鍛えこむべきでしょうね。

 ストーリー&設定についての所見
 まずストーリーについてですが、辻斬り犯人のドンデン返しも含め、かなり手垢の付いたプロットではありますが、まとまってはいます。新人賞の応募作品という事を考えると、これくらい背伸びしない方が良いのかも知れないですね。
 とはいえ、そんなストーリーも、脚本と演出の拙さですっかり台無しに。モノローグは必要以上に説明的なのに、肝心な部分に限って説明が足りていない印象です。バトルシーンも、戦闘に関する駆け引きに乏しい上にセリフも工夫の無い“ゴルァ系”一辺倒では……。
 
 あと、「十二傑」の講評でもありましたが、“現代でも帯刀を許された社会”というメイン設定、これに説得力が全く無かったのもマイナスでしょう。「何故、危険を圧してでも刀を持たなければならないのか?」…という疑問に答えられるだけの理由付けがあると無いとでは、世界観の完成度は大きく違って来るはずです。 

 今回の評価
 評価はB−。今回は課題は山積といった内容でした。とりあえずは、早い内に実力のある作家さんのアシスタントに就いて、技術習得に励んだ方が良いと思われます。

 ◎読み切り『ハピマジ』作画:KAITO

 ●作者略歴
 作者ご本人運営のウェブサイト掲載のプロフィールによると、1984年8月15日生まれの現在20歳
 同人活動を経て、03年より「ジャンプ」への投稿活動を開始。04年4月期「十二傑」で最終候補に残って“新人予備軍”入りし、週刊本誌04年48号にて代原暫定デビュー。

 についての所見
 「ジャンプ」のギャグ系新人さんには珍しい、スッキリと洗練された絵柄が相変わらず印象的です。画力そのものも、正式デビュー前の新人作家さんとしては相当の高水準と言えるでしょう。
 人物の描き分けやディフォルメについても、バリエーションがやや少ないものの、コントラストがハッキリしていて高い効果を挙げています。陰影を上手く使った表現も良いですね。
 前作で指摘した背景の密度についても、白さが目立たないようになって来ています。欲を言えばモブ(群集)をもう少し真面目に描いて欲しいのですが、まぁこれに関しては、つの丸さんという“先駆者”がいらっしゃいますので、減点材料にする必要はないでしょうね。

 ギャグについての所見
 前作に比べて、更にギャグのスキルも上がっているようですね。“間”で笑わせるギャグは相変わらず健在で、今回は更にギャグのテンポが良くなり、大ゴマの使い方にも進歩の跡が窺えます。冒頭で登場した巨大消しゴムが、後々に伏線として効いて来る辺りは実に気が利いていますし、セリフ回しも巧みになって、ツッコミも冴えるようになっていました。
 惜しむらくは、冒頭の3〜4ページでギャグの密度が薄く、“掴み”があまり上手くいっていなかった点でしょうか。やはり冒頭に一発大きめのをカマせるかどうかで、作品全体のクオリティも随分と違って来ますからね……。 

 とはいえ、実力的には既に代原作家の域を超えており、「ジャンプ」系若手ギャグ作家さんの中でも、5本の指には入る逸材と申し上げて過言ではないでしょう。このまま連載を狙っていってもらいたい逸材の1人です。

 今回の評価
 評価は思い切ってA−を出しましょう。作者ご本人のウェブサイトによると、どうやらこの『ハピマジ』シリーズがこれが最後だそうですが、次のシリーズで是非、正式デビューと連載を目指していってもらいたいです。

 ◎読み切り『肉ガリ ─NIKUGARI─』作画:大江慎一郎

 ●作者略歴
 1981年10月11日生まれの現在23歳
 02年4月期「天下一」で最終候補に残り“新人予備軍”入り。2年半のブランクを経て、「赤マル」05年冬(新年)号にて『メガネのベクトル』でデビュー。今回はデビュー作以前の習作原稿が代原として掲載された模様。

 についての所見
 デビュー作以前の作品なので仕方ないですが、やはり全体的に線が粗く、随分とゴチャついた印象があります。背景処理も、やや雑な斜線や集中線が目立って見栄えが良くありません。
 あと、表情の変化に意外とバリエーションが少ないのも気になった点ですね。ディフォルメも余り効いていませんし、絵のクオリティは物足りない水準に留まってしまっていると言わざるを得ないでしょうね。

 ギャグについての所見
 全体的に観て、問題点が目立つ作品です。

 まず、ページ数の割にネタの絶対数が少な過ぎます。終盤に、ほぼ2ページギャグ無しという場面がありましたが、これは勿体無さ過ぎでしょう。
 次に、肉体や肉そのものをギャグのネタにするのは良いとしても、ネタの掘り下げ方が甘いので、上手く笑いに繋げられていない感がありました。もっと、普通の人と肉ガリのギャップを徹底して追求するとか、工夫がもう少し欲しかったですね。
 そして、ギャグのテクニック面では、ツッコミがやや甘かったように思えました。デビュー作のボケっ放し・ツッコミ無視のオンパレードよりは随分マシでしたが、ボケた所を指摘するだけでなく、ツッコミそのもので笑いを取れるようになれば、もっと内容も充実して来ると思います。

 今回の評価
 評価はB−としておきます。今回はデビュー前の習作ですから仕方ないにしても、次までこれと同じレヴェルでは、前途は厳しい事になりそうです。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 『アイシールド21』では、相変わらずの密度で新キャラ紹介と、インターミッションのプロローグを1回に納めてしまいました。新キャラ・陸なんて、かなりな後付け設定なんですが、これを違和感無くまとめてしまう力技はさすがです。
 さすが、と言えばラストの悪魔版・まも姐さんですね。素のキャラとのギャップを利用してインパクトを生み出すのは、ストーリーテリング上のセオリーなんですが、それを完璧にやっちゃってます。次号は面白いモノが見れそうですね。

 『ONE PIECE』は、漸く全ての主要な設定・伏線が揃ったようですね。それにしても大きな風呂敷を広げる作品になっちゃったもんです。それでも、とにかくシナリオの完成度が高いので、ほとんどケチのつけようが無いんですよね。
 このまま行くと、ルフィ一行から離脱したウソップとニコ・ロビンも、本人さえ望めば復帰も出来そうな感じですが、さてどうなるんでしょうか。

 さて、先週辺りから、『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』では、第三者に解説させて主人公の能力の高さをアピールする…というパターンが多用されているのですが、これが余りにもわざとらしくて少々閉口。作者の西さんは、そういうのが上手い作家さんのアシスタントを務めていたはずなんですが……。
 最近思うんですが、西さんって、意外と「ジャンプ」っぽいバトル描写は苦手なんでしょうかね? 人情噺やっていた頃と脚本が随分とぎ
こちなくなっているのが気になるところです。 

 最後は『ピューと吹く! ジャガー』……の読者企画・『ピューと吹き出す! ジャガー』の方を。すいません、ヒネクレ者で(笑)。
 でも入選した3作品とも、やたらとレヴェルが高くて笑うやら驚くやらなんですよね。特にツッコミがどれも秀逸で、「売れない若手ギャグ作家さんは、これ見て勉強しなさい」と言いたくなるくらい。こういう猛者を相手にしなくちゃならない「ジャンプ」作家さんは大変ですね。

 
☆「週刊少年サンデー」2005年16号☆

 ◎新連載見上げてごらん』作画:草場道輝

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 1971年1月1日生まれの現在33歳
 「週刊少年サンデー」公式サイトによると、デビューは月刊増刊の97年6月号
 週刊本誌では99年35号から04年14号までファンタジスタ』を長期連載。また、02年2・3合併号と04年37号には、サッカー選手の実録モノを手がけている。

 についての所見
 確かな経験と技術に裏打ちされた、完成度の高い絵柄である事に疑問を差し挟む余地は無いと言って良いでしょう。今回は“専門外”のテニスが題材ですが、今回に限って言えば、実戦シーンもソツなくこなせているように見えます。
 ただ、いつまで経ってもアカ抜けない画風は、やはり読者を選んでしまうでしょうね。「好き・嫌い」というよりも、「普通・嫌い」が分かれる絵柄ではないかと思います。

 ストーリー&設定についての所見
 こちらのファクターについても、積んだキャリアがそのまま作品の完成度に繋がっているのではないかと思います。冒頭で主人公の周辺環境や人物像がスムーズに把握出来るように配慮が成されているのは、さすがです。
 とはいえ、シナリオと主要設定のことごとくが、既存の作品、特に若手作家が描く読み切り作品で、いかにもありがちなモノ──他のスポーツ出身の選手が、その別のスポーツで培った才能を活かして非常識で痛快な活躍をする/メンタル面の弱さが響いて実力を発揮できない脇役が主人公の助けを借りて才能を開花させる/悪役が如何にも「主人公に倒されるために出てきました」的な小悪党だったりする──ばかりだったのは、如何なものでしょうか。正直な所、随分と陳腐で安っぽいお話になっちゃったなぁ…といったところです。

 今後しばらくの内に、どれだけ「この作品ならでは」という新機軸を打ち出せるかどうかが、成功か失敗かの分岐点になってゆくのではないでしょうか。逆に言えば、今のままでは誌面の後半で“その他大勢”として埋没していく可能性が極めて高いと思われます。 
 
 現時点での評価
 基本的な部分はキッチリ出来ていますのでB評価としておきます。ただ、これは「面白い、面白くない」とは別物の評点です。
 ……それにしても、剣道が絡んでいるところといい、『旋風の橘』に出て来たような髪型の新入部員が出て来たところといい、何だか前編集長の残留思念のようなモノを感じる作品ですね(苦笑)。聞いた話によると、ストーリー系の新連載作品は、この作品までが三上体制時代に企画されたものらしいですが……。


◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 さて、今週の「チェックポイント」は、『あおい坂』の評価再検討からお送りします。実は先週で10回になっていたのを失念してたんですが(苦笑)、今回で1回戦が終了したという事で、ちょうどキリが良くなりました。

 ◎『最強! 都立あおい坂高校野球部』作画:田中モトユキ
 旧評価:A−新評価:B+

 今回で1段階の下方修正となりました。
 評価ダウンの最たる理由は、「作品の端々から漂う大雑把さ」です。試合シーンの構成にしろ、人物の内面描写にしろ、余りにも緻密さに欠ける印象があり、Aクラス評価を下すにはクオリティ不足…という判断をしました。
 特に試合シーンは、(1球単位ではなく)1打席単位で組み立てられた試合展開を、あらかじめ想定した通りにただなぞっているだけに見え、一本調子に感じました。これはあおい坂チームの初期能力が高く設定され過ぎている事もあるのでしょうが、芸の無いパワーゲームだったように思えます。
 あと、これはどうしようも無い事ですが、この作品は余りにも出た時期が悪かったですね。この作品の足りない所を全て兼ね備えた『おおきく振りかぶって』という偉大な存在が、同時代に鎮座しているわけですから。

 なお、この作品については、とりあえず今回で評価確定とします。今後は大きくテコ入れが入った時などに限って評価の見直しを行います。

 ……あと、今週は色々と言いたい作品も多いのですが、また皆さんの心をザワつかせるのもアレですから、心から良かったと思えた『結界師』をピックアップ。戦闘シーンのモンスターデザイン・駆け引き描写・演出等全てがビシッとハマり、非常に見栄えしていて実に良い感じです。
 画力のある作家さんというのは、結構数多くいらっしゃるのですが、その画力を作品のクオリティに直接繋げられる人というのは少ないと思うんです。田辺さんはそんな数少ない有能な人の1人だと自信を持って推せる人ですね。頑張ってもらいたいです。

 ……というわけで、旅行前最後の講義を終わります。次回講義は週明けになりますが、どうか何卒ご了承下さい。

 


 

2004年度第96回講義
3月13日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第2週分・合同)

 すいません、週が明けてからの講義実施となってしまいました。
 講師先の仕事が一段落ついて、これまで緊張しっ放しだった自律神経が一気に脱力を始めてしまったのか、急激に体がおかしくなってしまいました。視神経の凝りが頭部全体に回っている感覚で、目を使うと眼球の奥から鈍い痛みがジンジンやって来るという……。しかも目ばかりじゃなくて、頭はキリキリするわ、鼻は花粉症状態だわ、歯茎も熱持って腫れだすわで少々ビビりました。
 結局、丸2日間、ほとんどネットを最低限度に留め、安静に過ごして何とか現在は小康状態です。普段はネット依存の上に、歴史本の休憩に小説を読む位の活字中毒ですので、メチャクチャ暇に……。

 まだ目の腫れが引いておらず、時々冷やしながらの講義準備ですが、短時間集中で乗り切りたいと思います。最後までどうぞ宜しく。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(15号)『斬』作画:杉田尚)が掲載されます。
 この作品は04年度12月期「十二傑新人漫画賞」の十二傑賞受賞作。杉田さんは最終候補3度目にしてのデビュー権獲得となりました。いきなりの本誌デビューですが、このチャンスを今後に活かせるような作品を期待しましょう。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本&読み切り1本
 「サンデー」
:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年14号☆

 ◎新連載第3回『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征

 についての所見(第1回時点からの推移)
 全体的な印象は前回レビュー時点のまま。「『ジャンプ』の週刊連載作品としては、赤点スレスレの及第」…という総合評価も変更はありません。

 特に気になるのが、線が不安定な上に細いという点。ロングショットからの構図での見栄えの悪さの原因になっていると思うのですが、これがペン使いの拙さを余計に目立たせている気がしてなりません。
 あと、スクリーントーンの使い方など特殊効果も徐々に荒れて来ているのが気掛かりです。初の週刊連載、しかもミステリ物というハードな条件で、色々と厳しい事もあるでしょうが、連載初期で一番の踏ん張り所なので頑張って欲しいです。 

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 今週の第3回で、連載第1回から引っ張っていた密室殺人事件の謎解き(?)がありました。が、正直言って期待外れの低クオリティだったと言わざるを得ません。
 何しろ、犯人限定の決め手は遺留品のコンタクトレンズと安っぽい誘導尋問。しかも尋問のキッカケは「コンタクトレンズを片方だけ着けている」という、かなり無理のある展開でした。
 密室トリックの物証も現場に置き去りという杜撰さで、“謎を後付け出来る”という反則技が使える恵まれた条件を全く活かせていません。これでは、後出しジャンケンで負けている状態ですね。

 ただ、これは作者サイドも分かっているのでしょう。第1回ではネウロに「美味そうな謎」「なかなか香ばしい気配」と言わせていたものを、今回謎を食った後では「薄味だった」と“下方修正”させてしまっています。作者ご自身が、今回のネタで良しと思っていないのは救いではありますね。
 とはいえ、連載準備段階から時間をかけて練ったはずの今回のネタがこのクオリティでは、とても「次回以降には期待出来る」とは言えません。“人間が描けていない”という、ミステリ物でありがちな欠点も抱えており、ここに来て早くも行き詰まったかな…という印象です。

 現時点の評価
 評価はBに下方修正。今後の展開如何によっては、“不合格点”のB−評価に落とす事も考えなければならなさそうです。早めのテコ入れか、トリックのクオリティアップを望みます。

 ◎読み切り『怪盗銃士』作画:岩本直輝

 ●作者略歴
 1985年8月5日生まれの現在19歳
 02年1月から「ジャンプ」への投稿活動を開始。約1年の“新人予備軍”生活を経て、「十二傑新人漫画賞」03年4月期で佳作&十二傑賞を受賞受賞作『黄金の暁 ─GOLDEN DAWN─』にて「赤マル」03年夏号でデビュー。
 その後は「赤マル」04年春号、夏号の2度読み切りを発表し、今回が週刊本誌初登場。

 についての所見
 デビューから今回で4作目、作品を重ねる毎に着実な進歩が窺え、非常に好感が持てますね。線が洗練され、すっかり“プロ仕様の絵”になっている辺りは、デビュー作を知る者としては感慨深いものがあります。
 特に人物作画から角張った所が無くなったのは大きいです。女の子キャラが随分と艶っぽくなって来たのも、作風を広げる上ではプラスになるでしょう。

 ただし、顔の造型のバリエーション、特に美少年・美少女系顔の描き分が今一つで、登場人物1人1人の印象がやや薄れてしまったのは残念でした。また、構図の取り方でアップとロングショットの使い分けが上手くなく、「どこに注目すべきか」という情報が読み手に伝わり難くなってしまっているのも減点材料です。
 個人的な見解としては「良いモノ沢山持ってるのに勿体無いなぁ……」といったところ。デビュー以来2年の成長振りからして、まだ伸びしろはあると思うのですが。 

 ストーリー&設定についての所見
 まず、プロットが実によく練られているのが好印象でした。序盤と終盤をリンクさせる伏線の張り方と言い、ただ悪者を倒して一件落着…とせず、登場人物が幸せになる事を“ゴール”に設定した所と言い、平凡な若手・新人作家が決して超えられない“壁”を、いとも易々と越えている印象があります。戦闘シーンの盛り上げ方もアクセントが付いていて良かったのではないでしょうか。
 これらの長所は必ずや連載獲得・人気獲得の武器になる要素ですから、どんどん伸ばしていってもらいたいです。

 ただし、こちらのファクターについても、そんな長所を相殺してしまうような短所がいくつか見受けられ、これまた非常に勿体無い事になってしまっています
 まずは設定過多。ストーリーの中で必然性のある設定の提示をしようと頑張ってみた形跡は見受けられますが、それにしても消化不良の感が否めません。本来なら、設定やストーリーに深みを持たせる役割を果たすはずの回想シーンも、いかにも取って付けたような感じになってしまい、結果的に作品の完成度を下げる方向へと働いてしまいました。
 そして、もう1つ問題なのは、主人公の性格。ストーリーの内容や設定とマッチしておらず、ちょっと不自然でしたね。始めに主人公のキャラありきでストーリーを組み立てていったのか、読者ウケしそうな主人公を追い求め過ぎて墓穴を掘ったのか分かりませんが、不幸な生い立ちを持った人間だったら、もうちょっと陰のある所があった方が良かったでしょう。

 今回の評価
 長所だけを抜き出せば、十分Aクラス評価が可能な作品ではあるのですが、看過出来ない短所も少なくなく、今回の評価はB+とさせてもらいます。
 ただ、潜在能力は抜群のモノを感じさせてくれますので、今後の動向には目が離せない作家さんです。次回作での成功を大いに期待しましょう。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 長かった準々決勝が決着した『アイシールド21』。喜びをストレートに絵で表現した扉ページを見てますと、やっぱり「ここぞ」という時には画力がモノを言うなぁ…なんて思ったりしますね。
 ところで、これでデビルバッツは都大会ベスト4。実在のケースに当てはめて言うと、これでクリスマスボウルの出場校を決める関東大会への出場権を獲得した事になります。つまり、都大会準決勝の西部戦と、決勝の王城戦のどちらかは負けても大丈夫なわけですね。さて、原作者の稲垣さんは、どういった“オプションプレー”を考えているんでしょうか。今後はこの辺も注目と言えそうですね。

 『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』は、落ちこぼれキャラのロージーが潜在能力開眼…という一幕。ストーリーを大幅にテコ入れした以上、キャラ設定も大胆に弄るべし…といったところなのでしょうか。
 それも、先に回想シーンでムヒョの突然の能力開眼を描いておいて、似たようなシチュエーションでロージーにも同じ事をさせる…と、上手く伏線を張って説得力を持たせてますね。この辺はさすがです。まぁ多少分かり辛い伏線ではありましたが……。

 そして、『武装錬金』「ブラボー生きてました」という、正直言って脱力の展開へ。確かに武装錬金が作動している以上、生きていないとおかしいんですが、さすがにこのヌルさは……どうなんでしょうかね。「生死不明で姿を消す→主人公のピンチに突如復活」というフェニックス一輝パターンも確かにアレですけど(笑)。
 それにしても、エピソードを重ねる毎に生死に対するシビアさが薄れていっているのが気になります。VS再殺部隊編に入ってから、バトルシーンが全然命懸けって感じがしないもんなぁ……。

 

☆「週刊少年サンデー」2005年15号☆

 ◎新連載『ブリザードアクセル』作画:鈴木央

 ●作者略歴
 1977年2月8日生まれの現在28歳
 94年8月期「ホップ☆ステップ賞」で佳作を受賞し翌95年の増刊春号にて受賞作『Revenge』が掲載となり、デビュー。
 その後、「赤マル」96年冬(新年)号に読み切りを発表後、秋には週刊本誌初進出を果たす(96年46号)。それから1年のブランクを経験するが、「赤マル」98年冬(新年)号で復帰後、同じく98年52号より『ライジングインパクト』で初の週刊連載を獲得。15回打ち切り後、最終回間際の人気急上昇で連載再開…という異例の経緯を辿り、二部合計145回の長期連載となった。
 その後、02年45号から『Ultra Red』を連載するも、3クール34回で無念の打ち切り。この連載終了を機に「週刊少年ジャンプ」との専属契約を解除。03年からは「ウルトラジャンプ」、「ヤングジャンプ」といった集英社の系列誌の他、小学館の「IKKI」誌にも読み切り、連載作品を発表するなど幅広い活動を展開。
 「サンデー」初登場は04年28号で、今作のプロトタイプとなる同タイトルの作品を発表している。今回は勿論、「サンデー」で初の連載作品となる。

 についての所見
 主要登場人物の造型が、どれもこれも過去の鈴木央作品で見た事のあるタイプのモノばかりなのが気になりますが、画力そのものは、やはり元・長期連載作家の面目躍如といったところ。これだけ動きのあるシーンが多くありながら、違和感を全く感じさせないのはさすがです。
 ただ、今回に関しては、若干ですが線が粗く感じられました。目の錯覚か杞憂であれば良いのですが……。

 ストーリー&設定についての所見
 昨年発表の読み切り版から大幅に設定を変更。「4回転半ジャンプが出来る少年が主人公」という1点を除いては、全く別物のお話になりました。ただし、出来上がったモノを俯瞰すると、これは英断と言えるのではないでしょうか。
 まず、主人公の性格のバックボーンを固めるやり方が上手いですね。冒頭にまず、主人公の行動全般についての動機付けとなる短くて分かり易い回想シーンを持って来る辺りなどは憎い演出と言えるでしょう。
 また、その回想シーンで描かれた主人公の複雑な家庭環境や、「武器は4回転半ジャンプだけ」というイビツな主人公の才能など、後々ストーリーを盛り上げるのに役立ちそうな伏線も既に配備済み。連載開始数話でお話が行き詰まるという事態は考えなくても良さそうですね。

 しかしながら、余りにもステロタイプな前半の“主人公空回り劇”といい、余りにも陳腐な後半の“小物感”漂う敵役をギャフンと言わせるスケートシーンといい、ストーリーの内容については不安の残るスタートになってしまっています。奇をてらい過ぎるのも問題ですが、余りにベタ過ぎるのも如何なものかと。
 お約束に頼るのも良いですが、せめて少しぐらいは新鮮味のある展開を見せてもらわないと、高い評価は付け辛いですね。第2話以降で新味が出て来るのを期待したいと思います。

 現時点での評価
 長期連載経験者の確かなテクニックは感じさせるものの、これといったセールスポイントには欠ける作品…というところで、暫定評価はB+とします。ただ、かなり流動的な要素も多いですので、次回以降のレビューでは大幅に評価が変動する可能性もあります。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 「友を救うか、世界の人類を救うか」という、『HUNTER×HUNTER』の世界なら「回答しない」が正解になるような問題がテーマとなった『金色のガッシュ!!』。答えは予想通り「どっちも助ける」だったわけですが、ガッシュが余りにも気持ち良く他力本願を宣言したのには、笑っちゃいけないけど笑ってしまいました。
 せめてその場限りの勢いでもいいから、ここは「俺が何とかする!」…と言う所じゃないのか、などと思ってしまった駒木は、どうやら島本和彦病に冒されているようですね(笑)。

 ……あぁ、他の作品についても喋りたいんですけど時間がありません(現時点で月曜日の朝5時です^^;;)。
 とりあえず、大人の事情に満ち溢れた『焼きたて!! ジャぱんですよ!』と、10代の甘酸っぱい恋心を遺憾なく描いた『いでじゅう!』『MAJOR』、そしてとにかく凄い事になっているのが誌面中から伝わってくる『クロザクロ』、そしてその直後から始まる、余りにも対照的な絵柄と内容の『ハヤテのごとく!』を通して読んでみると、「サンデー」もいつの間にか懐の深い雑誌になったんだなぁ…などとしみじみ思いました(笑)。

 ──とりあえず、今日はこれくらいで勘弁して下さい。今週のカリキュラムもまた変則的になりますが、また追って連絡します。では、ひとまず失礼します。

 


 

2004年度第94回講義
3月6日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第5週/3月第1週分・後半)

 一昨日に引き続いて、今週のゼミをお送りします。 
 今日お届けするのは、「サンデー」14号の内容についてのレビューとチェックポイント。ただ、レビューが3本という物理的事情がありますので、チェックポイントの方はボリューム控えめとなります。ご了承下さい。


 ※今週後半のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「サンデー」:読み切り3本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年サンデー」2005年14号☆

 ◎読み切り『キングさん』作画:福井祐介

 ●作者略歴
 生年月日は不明ながら、04年春募集の「爆笑王決定戦」応募時には27歳で、そこから換算すると、現在は27〜28歳
 02年12月・03年1月期の「サンデーまんがカレッジ」で最終候補(あと一歩で賞)に残り“新人予備軍”入りした後、ギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で最高ランクの“爆笑王”を受賞。その受賞作『吉田ジャスティス(激闘編)』が週刊本誌04年41号に掲載されてデビューを果たす。
 今回は、約半年振りの新作でデビュー2作目となる。

 についての所見
 デビュー作の制作から半年以上立っているはずですが、相変わらず拙い画力のまま留まっています。
 まず、人物がやたら小じんまりと描かれている上に線のメリハリが弱く、物凄くゴチャついて見えてしまいます。更に以前からの欠点である遠近感のズレが今回も修正されておらず、ハッキリ言って非常に見難いです。
 画力にはこだわらないギャグ作品とはいえ、この水準でプロと名乗るのは相当無理があるのではないでしょうか。

 ギャグについての所見
 ギャグの見せ方そのものは、ちゃんと形になっていますね。
ページ跨ぎの一発ギャグ、“間”を意識した見せ方、絵を使ったギャグと文字で使ったギャグの使い分けようとする意識等々…。この辺は、デビュー時点からある程度形にはなっていたとはいえ、技術そのものは決して「サンデー」連載作家クラスと見劣りするものではありません。

 しかし、そのテクニックを実際に読み手の笑いに繋げる手立てが余りにも至っていない印象がありました。
 まず、「絵についての所見」でも述べた画力の拙さのために、ビジュアルで見せるギャグで作者の意図する効果が全く得られていません。コマ割りや構図の取り方も理に適っておらず、笑おうにも笑えない誌面構成になってしまっています。
 また、ネタそのものもインパクトの弱さが目立ちます。この作品は、主役以外の登場人物がいかに「笑える変人」であるかを笑ってもらおう…という意図で制作されていると駒木は思っているのですが、その“変人度”が微妙に大きく足りないんじゃないかと思うのです。
 例えば、“某”という名前で笑いを狙ったシーンがありますが、文字や読みの違和感で笑いを獲るなら、もっとヒネりようがあったはずです。かつて『伝染るんです』で登場した伝説的なネタ・「新しい字を発明しました」のように、発想次第では大きな可能性のある題材なんですが……。

 今回の評価
 今回は画力の低さが、ギャグのクオリティまで大きく押し下げた…というジャッジでB−とします。
 現在の福井さんの作品は、言ってみれば“喋りだけ変に手馴れている、笑えないお笑い芸人”のようなもの。もっと画力を高め、ネタ1つ1つを極限まで練りこむ努力を極めなければ、今後相当高い壁にぶち当たる事になるでしょう。


 ◎『やってくる!!』作画:河北タケシ

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 
年齢と新人賞受賞歴は未判明。
 デビューは02年春の増刊号「サンデーR」のルーキートライアルにて。その後、増刊03年4月号05年春号、週刊本誌04年19号、49号にて読み切りを発表している。

 についての所見
 河北さんの画力の確かさは、既に以前の読み切りで証明済みですが、今回も洗練された線で安定した作画を見せてくれました。
 ただ、今回は低年齢層読者を意識し過ぎたのか、やや大雑把に見える(実際はそんな事ないのですが)絵柄だったようにも思えます。また、本来は色々な造型の人物を描ける力を持っている人だけに、それを今回“封印”してしまったのも残念でした。実力をフルに発揮出来ないような題材にしてしまったかな…といったところです。

 ギャグについての所見
 ギャグの見せ方についても、以前から全く問題が無いですので安心して読めます。ネタフリからオチ、ツッコミから更なるボケ倒し……と、流れるようなコンビネーションでスムーズに話が展開されて行っています。
 ただ、今回はページ数の割に大ゴマを多用し過ぎて、ネタの密度が随分と薄くなってしまったかな…といったところ。これで小ネタが多ければ良かったんですが、どうも“打数”が少なくて、その分“安打数”の絶対数も少なくなってしまったような、そんな風に思えました。

 今回の評価
 評価はBとしておきます。個人的に、河北さんの作風は、もうちょっと対象年齢層を上げた方が良い結果に繋がると思うんですが……。次回作では、また別の試みを見てみたいですね。

 ◎『たまねギィィ!!!』作画:突飛

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 
「まんがカレッジ」入賞時の年齢から換算すると、現在22〜23歳
 03年7月期「まんがカレッジ」で佳作を受賞
し、“新人予備軍”入り。福地翼さんのスタジオでアシスタント修行を積みつつ活動を続け、04年秋のルーキー増刊「サンデーR」にてデビュー。
 先日発売の隔月増刊05年春号にも読み切りを発表しているが、週刊本誌にはこれが初登場。

 についての所見
 何となく「サンデー」っぽくない雰囲気ではありますが、洗練された画風で、好感度の高い絵柄だと思います。ディフォルメなどには、明らかに今風というか、最近の人気作を研究した跡が窺え、センスの新しさも目を引きます。
 欲を言えば、もうちょっと“毒気”と言いますか、醜いモノを読み手に「醜い」と思わせるだけのエグい表現技法を身につけて欲しいところ。作者が「これは変なモノだ」と描いたものが、読み手を本能的に「ウワッ、これ変!」…と反応させるようなものになれば、ギャグのクオリティも、もっと上がってゆくと思います。

 ギャグについての所見
 こちらもギャグの見せ方は問題無いでしょう。先にレビューした2作品で出来ている事は、この作品でもキチンと出来ていました。1コマ当たりの密度も濃く、ページ数の割にはネタの数もしっかりと仕込まれていましたね。
 ですが、勿体無いのはタマネギ(ヲニヲン平八)の設定が中途半端で、そのために作品全体のインパクトも中途半端なものに留まってしまった点。もっとタマネギならではのネタ──無意味に周囲の涙を誘うとか、牛丼食って「お前、それ共食いじゃないのか」とか──を追求したりする余地があったんではないでしょうか。
 この作品と同系統のネタに『クロマティ高校』のメカ沢ネタがあります。比べちゃ可哀想な気もしますが、やっぱりネタの掘り下げ方といい、演出といい、明らかに格の差があるような気がしますね。

 今回の評価
 こちらも評価はB。ギャグ作品は、「自分は笑えないけど、他の人はどうだろう?」…と思いながら採点するので、どうしても評価点は真ん中(B〜B+)に寄ってしまいます。
 しかし、これは若手ギャグ作家さん全般に言える事なんですが、1コマ1コマ、1ネタ1ネタをもっと大事に、限界ギリギリまで練りこむ事を厭わないで頂きたいな…と。打率10割を目指すくらいじゃないと、連載で成功するのは難しいわけですからね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 今週は『D-LIVE』が100回記念という事で、いつもの“指定席”を離れて誌面前半でセンターカラー。おかげで、どこに載ってるのかと随分と探しました(笑)。
 で、お話の方は、予定調和的ながら、心地良い結末をシッカリと読ませてくれる高クオリティ。大の大人の男が、内心でコッソリと子供みたいにハシャいでる姿を克明に描いてくれるこの作品が、段々大好きになって来ている自分がいます(笑)。

 あと、最近ずっと気になってるのが、『クロザクロ』ビックリ人間路線。今週も、「うわ、すごーい」と、K−1の谷川プロデューサーのような気の抜けた声を上げてしまいそうになるビジュアルの人たちが6人も登場です。
 ピーコが見たら卒倒しそうなファッションといい、彼らが行動を共にしている理由が一休さんでも思いつかなさそうな6人の統一感の無さといい、本当、「王様のレストラン」の松本幸四郎みたいな声と仕草で「素晴らしい!」と言いたくなりますね。最終ページ柱に「はたして敵か味方か?」と煽ってありますが、敵になるより味方になる方がもっと嫌な気がするのは駒木だけでしょうか(笑)。
 とりあえず右から順番に、スタジャン筧利夫美形安田大サーカスメンヘルプリキュアと命名してみました。真ん中の3人が、紙吹雪撒き散らしながら体を張ったコントをする…という内容の同人誌が読んでみたいです。

 ──などと、作者ご本人が見てる前でこんなネタ喋って大丈夫か? ……といった疑問を孕みつつ、今週のゼミを終わりたいと思います。では、また。

 


 

2004年度第93回講義
3月4日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第5週/3月第1週分・前半)

 今週は、「サンデー」で読み切り3本掲載という修羅な編集方針のため、ゼミは2日に分割して実施したいと思います。
 とりあえず、今日は情報系の話題と「ジャンプ」関連の話題をお届けして、「サンデー」の内容に関しては明日という事にさせて頂きます。

 ところで、近頃ネット界隈を大いに賑わせた話題といえば、久米田康治さんが「週刊少年マガジン」で新連載を立ち上げるというニュースですね。『ネギま!』の赤松健さんも日記で公言していましたし、これは確定情報と見ていいでしょう。
 ただ、これを“移籍”と表現していいのかどうかとなると少々微妙なんですよね。そもそも「サンデー」系の作家さんは、「ジャンプ」のように専属契約を結んでいませんので、活動は自由なんです。これは『クロザクロ』の夏目義徳さんが講談社の「モーニング」で活動したり、『絶対可憐チルドレン』の椎名高志さんも、同じく講談社の「マガジンアッパーズ」で活動したという事でも明らかです。

 もっとも、久米田さんの場合、『改蔵』の終わり方が終わり方だっただけに、小学館や「サンデー」編集部と険悪な関係に陥った可能性は大いにあるでしょう。その後の編集長が交代したとは言え、去年の段階で赤松健さんへの根回しが行われている事を考えると、それよりも早く「マガジン」の話がまとまっていた…と考えた方が妥当のような気がします。
 ……それにしても、この業界はダイナミズムに溢れていますね。そう言えば…なんて言ったら失礼ですが、久米田さんの陰に隠れて、霧木凡ケンさんの「ヤングガンガン」移籍という情報も入って来ています。この後すぐにお伝えする鈴木央さんの件もありますし、それぞれの思惑と市場原理が絡み合って、人材が絶えず動いている事を改めて思い知らされますね。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(14号)『怪盗銃士(シーフガンナー)作画:岩本直輝)が掲載されます。
 岩本さんは、リニューアル直後で激戦を極めた03年4月期「十二傑新人漫画賞」で十二傑賞を受賞し、これまで増刊にて3度の読み切り掲載を果たしている新進気鋭の若手作家さん。現在まだ19歳で将来性も十分、今回の週刊本誌初進出をきっかけに、次世代の「ジャンプ」主力作家を狙いたいところです。

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(15号)より『ブリザードアクセル』作画:鈴木央)が、次々号(16号)より『見上げてごらん』作画:草場道輝)が、それぞれ連載開始となります。
 昨年、「サンデー」への電撃移籍を果たした鈴木央さんが、その移籍第1作の連載化で登場。草場さんはテニス物に初挑戦ということになりますね。

 ※今週前半のレビュー&チェックポイント
 ●今週前半のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年13号☆

 ◎新連載第3回『ユート』作:ほったゆみ/画:河野慶

 についての所見(第1回時点からの推移)
 特筆すべき変化は見られず、安定して高いクオリティが維持されていますね。純粋な新人ではないとはいえ、これがマンガ家としてデビュー2作目で、しかも初の週刊連載だと考えると、これは相当凄い事なのではと思います。

 ただ、河野さんにとって悲劇なのは、立場上どうしても、ほったさんの前作『ヒカルの碁』と比べられてしまう事でしょうね。小畑健さんと同じ土俵に上げて比較されるなんて、作家さんの立場からしたらたまったもんじゃないでしょう(笑)。
 あと、必要以上にマンガっぽい絵柄が、最近のトレンドから微妙にズレているような気もします。相当に読者を選ぶ絵柄である事は確かで、そういう点では損をする作風であるとも言えるでしょうね。

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 こちらのファクターに関しても、第1回から引き続き、高度に安定。卓越した演出力とストーリーテリング能力でグイグイと“読ませて”くれます。
 “短期打ち切り免除特権”があるのか、「ジャンプ」作品としては、かなりスローペースのストーリー展開ですが、駒木には冗長さを感じるところまでには至っていないと感じられました。

 ところで、凡百の作家がこのようなマイナーなジャンルを題材にした作品を描いた場合、作品序盤は説明的なセリフや過剰なウンチクが羅列され、読み手を辟易させてしまうものです。が、さすがは『ヒカルの碁』の原作者と言うべきか、この作品ではそんな無粋な要素は皆無に近いと言って良いでしょう。
 それが出来ている理由は、作中において、自然な形で価値基準の目安(スラップスケートとノーマルスケートの違い/500mのタイム)を提示しているから。現実のスポーツでも、「詳しい競技ルールを知らなくても競技を楽しめるよう導けるかどうか」というのは、ビギナー獲得のために大変重要なんですよね。

 そんな中、敢えて僅かな問題点を探すとすれば、作品全般に段取り臭さと言いますか、登場人物の言動の中に作者の意図があからさまに表れ過ぎている点。これは「過ぎたるは及ばざるが如し」といったところで、スキルが高過ぎるほど高い、ほったさんならではの短所ではないでしょうか。

 現時点の評価
 評価はA寄りA−で据え置きとします。当ゼミの評価基準である、演出や設定・ストーリーの完成度については、殆どケチのつけようが有りません。
 ただ、ほったさんがどれだけ趣向を凝らしても、「子供のスケート競走のどこが面白いの?」…と言われてしまえば、「ハイ、それまでよ」…となってしまうんでしょうね。「作品の『良い・悪い』と、『面白い・面白くない』は全く別」という、当ゼミと同じジレンマを抱えた作品と言えそうです。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 『DEATH NOTE』は今週で第1部・完。しばらく休載の後、“L”の後を継ぐ“M”と“N”の2人がライトを追い詰める第2ラウンドが開始される事になりそうです。
 それにしても、今回出て来た海外の児童施設は、やけに浦沢直樹作品っぽい世界観でしたね。こういう良い意味のハッタリは個人的に好きですねえ。

 先週、カズキVSブラボーが決着した『武装錬金』は、早くもブラボー退場と言うサプライズ。確かに、作品の中でブラボーが果たすべき役割は全て果たした感もありますが、『DEATH NOTE』並に思い切った決断ですよね。
 ただ、欲を言えば、どこからどうやっても感動間違いなしの展開なんですから、もう少し勿体つけても良かったんじゃないかと思います。今週はブラボーが命を賭して子供たちを守る事を決意した所で「続く」にして、あと1〜2回かけてブラボーの過去篇を描いて、その上でジックリと今生の別れを描く…ぐらいで丁度良かったような。

 あと、マンガ以外では「十二傑新人漫画賞」の審査過程が公開されていて、大変興味深かったですね。
 紹介されていた選考過程は、まず編集さんで下読み(=一次審査)を行い、それを月替り審査員の作家さんに送付して第二次選考。で、実際に受賞作を決定する最終選考には作家さんは直接参加せず、編集さんが合議して序列をつける…と、いった具合。
 駒木はこれまで勝手に、最終選考は作家さんも同席して実施していると思っていたんですが、作家さんが直接担当するのは二次審査だけなんですね。時々、いかにも編集ウケしそうな陳腐でベタな展開の作品が、十二傑賞どころか佳作まで獲る事もあるのですが、なるほど、それにはそういう事情があったんですね。

 ──さて、とりあえず今日はここまで。明日は「サンデー」の若手作家ギャグ作品3連発。ちょっとした大仕事になりますが、頑張ります。ではでは。

 


 

2004年度第91回講義
2月26日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第4週分・合同)

 『ハヤテのごとく!』の単行本が売れ行き好調で、早々に重版が決定したみたいですね。
 ……もっとも、若手作家さんの初単行本は、初版部数を相当抑え気味にしたりしますので、実勢を把握するには2巻以降の初動(第1週売上げ)次第という事になるでしょう。これで初週のトーハン売上ランキングがベスト10に乗っかるようになれば、堂々たる「サンデー」の主力クラスになるわけですが、果たしてどうなるでしょうか。
 他誌ですが、これと似たようなパターンだったのが昨年の『銀魂』でしたね。1年前の今頃は『ごっちゃんです!!』と壮絶な打ち切り争いをしていたわけですが、今やすっかり「ジャンプ」の安定株。世の中、一寸先は闇と言うか光と言うか……。

 ──などと、1年前の今頃は郊外の寂れた電器量販店でモデムを配ってた現役高校講師がお送りする、今週の「現代マンガ時評」です。


  「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年サンデー」では次号(14号)「サンデーGAGフェスタ2005」として、
 『キングさん』
作画:福井祐介
 『やってくる!!』作画:河北タケシ
 『たまねギィィ!!!』作画:突飛
 ……の、以上3作品が掲載されます。
 まず、最初のお二人は週刊本誌デビュー済。福井さんは、昨年の「爆笑王決定戦」で“爆笑王”となって、週刊本誌04年41号で受賞作掲載デビュー。河北さんは、これまでに2度の週刊本誌を果たしています。
 唯一、今回が週刊本誌発動上となる突飛さんは、03年7月期「まんがカレッジ」で佳作を受賞し、04年秋のルーキー増刊でデビュー…という経歴を持っています。

 ……正直、増刊レビューでもないのに若手さんのギャグ作品を3つも一気にレビューするのは、かなり精神的に厳しい作業なのですが(苦笑)、まぁなんとかやってみたいと思います。
 
 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:短期集中連載総括1本&読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年12号☆

 ◎新連載『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征

 作者略歴
 1981年1月31日生まれの現在24歳
 03年8月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残って“新人予備軍”入り。その後、04年3月期「十二傑」で、今作と同タイトルの作品で準入選(十二傑賞)を受賞、「赤マル」04年夏号で受賞作デビューを果たす。更に週刊本誌04年41号にも同じく今作と同タイトルの作品を発表し、今回はこの一連の実績が認められての連載獲得となった。
 なお、新人時代は澤井啓夫さんのスタジオでアシスタントを務めていた。

 についての所見
 読み切り版の掲載された昨秋と同様に、線が見るからに粗く、未だに見た目の冴えない絵柄です。ロングショットからの人物作画などは、どう考えてもプロとして落第点の拙さですし、そういう点では「悪い意味での平行線」を辿っていると言えるのではないでしょうか。
 ただ、ネウロの顔や手など、“異形”のデザインには非凡なモノを感じさせてくれますし、アシスタント技術で培った特殊効果や背景処理も概ねソツなくこなせていると思います。松井さんは根本的に画力不足というわけでなく、得意分野と不得意分野が極端に分かれているという事なのでしょうね。

 総合的に見れば、「『ジャンプ』の週刊連載作品としては、赤点スレスレの及第」…といった辺りになりますか。
 

 ストーリー&設定についての所見
 まずは設定ネウロと弥子の馴れ初めや、弥子がネウロのペースに巻き込まれていく過程が、読み切り版に比べて随分と練り込まれていますね。読み手に与える説得力は段違いで、これはお見事でした。
 そして、画力の拙さを感じさせない高度な演出も随所で光っています。とにかく画面にアクセントとインパクトを持たせようという強い意思が誌面の端々から感じられて、大変好感が持てました。
 また、連載当初から中長期的な視点でプロットが立てられているのも、個人的には良い判断だと思います。週刊連載は読み切りと比べてページ数の制約が大きいですし、早い段階の“脱・一話完結型”はプラスになってもマイナスにはならないでしょう。

 ただ、これらの加点材料をゴッソリ帳消しにした上に、更に減点せざるを得ないのが、この作品の重要な要素であるミステリ部分のお粗末さ。読み手によって評価の分かれる部分ではあるでしょうが、これを「完成度の高いミステリ作品」と断言するのは、さすがに無茶ではないかと思います。

 まず、“事件発生→即、解決編”という流れがもたらす、ドラマ性の薄さという構造的欠陥は、今回の“喫茶店の殺人”でも露呈してしまいました。いくら特殊なタイプの作品とはいえ、ストーリー性を完全に無視しても良いという理屈にはならないでしょう。読み手の気持ちを作中世界へいざなう為にも、せめて挿話の体を成す程度のシナリオは用意して欲しいところです。

 そして、それ以上に拙いのがメインの謎解き部分……いや、これはもう既に謎解きですらありませんね。むしろ“謎造り”と言うべきものです。
 作中でネウロがやったのは、“謎解き”と称して前提条件無視の何ら証拠の無い勝手な推論を提示しているだけ。それに後から、その推論に見合った犯人とトリック、更には過去の出来事まで創造して辻褄を合わせているのです。
 これは、ハッキリ言って大反則の“後出しジャンケン”です。ミステリの鉄則とも言える“意外なトリック”と“意外な犯人”は、本来、深読みすれば真実に辿り着けるような伏線も提示した上で、それをストーリーの中でミスリードさせるように持って行って実現させるものです。この作品がやっている事は、何の伏線も無い設定を後から出して意外さを演出しているだけ。そりゃ意外ですよ、何にも無い所から突然犯人とトリックが沸いて出て来たら
 でもそれをやってしまうと、極端な話、どんな犯人でもどんなトリックでも成立してしまいますよね。極端ついでに極論を言えば、十五郎が出て来て「怪奇現象だ」と宣言しても、夜神月が毒殺に見せかけてデスノートを書いていたとしても、辻褄は合ってしまうわけです。1つしか存在しない正答を求めて思考を巡らすのが本来の“謎解き”なのに、これでは……。
 作者の松井さんは読み切り版の時に「本格的なミステリではありませんが、気軽に楽しんで下さい」という旨のコメントを残していました。しかし、読者はともかく作者が製作過程において気軽になるのはイカンと思うのですが、如何でしょうか。

 ──確かにこの作品は、巧みな設定構築と高度な演出によって、ミステリ要素抜きでもキャラクターや作品の雰囲気を楽しめるような造りにはなってはいます。ですが、やはり“謎解き”を作品の柱に据えた作品である以上、その柱がグラグラでは、作品全体の価値も大きく揺らいでしまうというものです。

 現時点の評価
 今後、ネウロが合格点を付けるような「香ばしい謎」を巡るシナリオになってどうか…という未知の魅力は残されていますが、現時点では長所より短所先行と言わざるを得ず、評価はB+止まりとなります。オリジナリティもありますので、ポテンシャルはそんなに低くないと思うのですが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 やはり巷に流れたネタバレ通りの衝撃展開となった『DEATH NOTE』いずれ行き着く所はココしかなかった…という着地点ではありますが、本当にそこに着地させちゃって良かったの? …という話のような気も。冷静に見ると、余りにも救いの無いストーリーですしねぇ。

 一方で、『アイシールド21』異様にアツい展開に。最近やや間延び気味だっただけに、結果的に物凄いメリハリがついた形になりました。本来一番冷静なキャラを心底焦らせて、読者にも危機感を伝える…というテクニックは見事ですね。
 次のプレーはゴールラインまで残り1〜2ヤード。長身ラインズマンが相手で、デビルバッツダイブもままならないこの状況、果たしてどのような逆転劇を見せてくれるか注目ですね。
 ところで、ネット界隈で「あと2秒でどうやって逆転?」…とかいう声がよく聞かれるのですが、アメフトは残り時間がゼロになっても、そのプレーが終了するまで(タッチダウン成立の場合は、トライフォーポイントのプレーまで)試合は続行されるのです。あと1秒残っていれば、最大8点まで追加出来るので、それ故に時間とタイムアウトの使い方が大変重要になって来るわけです。また、この秒単位の時間を巡る攻防が、アメフトの大きな魅力の1つでもあるんですよね。時は金なりを地で行くスポーツです。

 『武装錬金』は、カズキVSブラボーが決着。フィジカル面で足りない力をメンタル面で補完するという、熱い戦闘シーンの鉄則が貫かれているのは良かったとは思います。ただ、これだけの因縁の対決ですから、もうちょっとシーソーゲームを展開させてもバチは当たらなかったような気も……。
 まぁ連載開始以来、戦闘シーンになるとアンケート成績が落っこちる傾向のある作品ですから、作者サイドが遠慮しちゃってるのかも知れないですね。でも、それならバトルやる意義がどんどん薄れていってしまいませんかね。

 そして今週で最終回となった『未確認生物ゲドー』序盤から巻末近くの掲載順を維持したまま4クール。往年の『ノルマンディーひみつ倶楽部』を彷彿とさせるような、長期低空安定飛行でしたね。
 連載の総括としては、まず前半の“『地獄先生ぬ〜べ〜』路線”では、昔取った杵柄でソコソコ安定したクオリティを維持出来ていたと思います。ただ、後半に変なバトル物にマイナーチェンジしてしまってから、一気に迷走してしまったかなと。有り体に言って、岡野さんの“打ち切り作家級”のストーリーテリング能力が見事なまでに露呈された…と、そんな感じでしたね。
 最終評価は、画力で加点してBということにしたいと思います。

☆「週刊少年サンデー」2005年13号☆

 ◎短期集中連載・最終回総括『あやかし堂のホウライ』作画:金田達也《原案協力:藤田和日郎》

 についての所見(第1回時点からの推移)
 第1回時点と比較して…という部分では、特に申し上げる事も無いですね。もうちょっとタッチが洗練してくれれば…と思ったのですが、お師匠さんがお師匠さんだけに、まぁ仕方ないでしょう。
 ネット界隈では、「余りにも藤田和日郎に似すぎ」という意見も聞こえてきますが、まぁ原案協力にご本人のクレジットが入っている“プロディース”作品である事ですし、「故・青木雄二一門のマンガのようなもの」と解釈するのが吉だと思っています。
 

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 こちらは、正直なところガッカリさせられてしまいました。05年度最初の“大ガッカリ”です。

 設定面では、増刊版の登場人物のほとんどを引き継いだ割には、踏み込んだキャラ描写が出来ず、アヤカとホウライ以外の扱いが極めて中途半端に。特にホウライの性格描写が非常に甘く、肝心のクライマックスシーンが完全な御都合主義になってしまいました。
 ストーリーも、増刊連載版と比べて明らかに“薄味”で、最後まで週刊連載の少ページに対応し切れずに終わってしまったような……。最初のエピソードは増刊版の第1話を2話に“希釈”してしまったため、盛り上がるポイントがチグハグに。2番目のエピソード・“火走り”編にしても、余分な内容が多過ぎて、肝心のメインシナリオがピンボケ気味だったように思えました。

 藤田和日郎直伝の演出・戦闘シーンの盛り上げ方など、見所も多分にあったのですが、それも作品のクオリティを上げるどころか、何とか下げ止めるので精一杯といったところ。残念ながら、今回の短期集中連載は失敗と断ぜざるを得ません。

 最終評価
 短期集中連載版にはA寄りA−の高評価をつけていましたが、この度はフォローの余地がありません。評価はBに大幅下降修正とさせて頂きます。


 ◎読み切り『蹴闘男』作画:飯島潤

 (受講生の皆さんへ:この作品は評価Cとなりました。結果的に読み手の感情を損ねる論調のレビューになっている恐れがあります。この作品のレビューをご覧になるかどうかは皆さんでご判断下さい。

 作者略歴シェルターさんの「週刊少年ジャンプデータベース」を参考にさせて頂きました。管理人の高円寺Qさん、お気に入りの作家さんにいつも低い評価をつけてしまってすみません^^;;)
 75年6月25日生まれの29歳。
 91年若しくは92年に、当時の月例賞「ホップ☆ステップ賞」で、『必殺!! 家族戦隊家族マン!』が月刊最高得点で入賞。この作品が翌93年発売の「ホップステップ賞SELECTON」10巻に掲載され、デビュー。
 新人賞の受賞歴としては、「ホップ☆ステップ賞」92年4月期で審査員(井上雄彦)特別賞、95年4月期で佳作をそれぞれ受賞。96年上期「赤塚賞」では準入選を受賞している。
 雑誌デビューは、季刊増刊96年夏号に掲載された「赤塚賞」受賞作・『彼と彼女のヒーローと悪役な関係』。翌97年16号には本誌デビューを果たしたが、これが「ジャンプ」作家としては唯一の週刊本誌掲載となった。
 その後も「赤マルジャンプ」に98年夏号、99年春号、00年春号と3回作品を発表するが、それからは長期のブランクを強いられ、やがて「少年サンデー」へ一新人として移籍する事に。
 「サンデー」系新人としては、「まんがカレッジ」03年3月期で佳作を受賞して“予備軍入り”。翌04年に隔月増刊GW号『神様♡お手ェェっ!!!』を発表して再デビューを果たした。
 今回が「サンデー」系新人としては初の週刊本誌進出。「ジャンプ」時代を含めても、メジャー誌の週刊本誌に作品を発表するのは97年以来8年ぶりとなる。

 なお、坂本眞一さんや、いとうみきおさんのスタジオでアシスタント経験アリとの事。

 についての所見
 線はスッキリと見易いですし、アシスタント的技術も確か。10数年のキャリアは伊達ではない…といったところでしょうか。
 ただ、人物作画で大きな問題点が。正面からのアングルを必要以上に多用している上、表情とポーズのバリエーションが余りにも少な過ぎます。『ミスフル』の鈴木信也さんの絵を更に固くしたような感じでしょうか。
 特に、正面から同じポーズの似たような顔の選手が殺到するサッカーシーンなどは、ファミコン版「キャプテン翼」のような極めて微妙な光景に……。有り体に言って「見栄えのする下手な絵」になってしまっているようです。

 ストーリー&設定についての所見
 最近、特によく目にするようになった、『SLAM DUNK』系サッカーマンガですが、内容の至らなさ加減に関しては、最近ではこの作品が恐らく最右翼でしょう。10数年のキャリアを持ってしてもコレなのか、10数年経っても芽が出ないからコレなのか、ともかくも「酷い」の一言に尽きる内容でした。

 まずは設定。キャラクター設定と場面設定のほぼ全てにおいて現実感が希薄で、更にその無理っぽさを捻じ伏せるだけの説得力が皆無と来ています。
 喩えて言えば、『Mr.FULLSWING』『ぷーやん』『ハングリーハート』の悪いエッセンスだけが集約されたような設定…と、いったところでしょうか。何とも言えない相性の悪い設定群が、作品内で微妙なハーモニーを奏でて、大変な事になっています。
 その辺が端的に現れていると言えるのが、『蹴闘男(シュートゥメン)という語呂の悪い造語でしょう。サッカーというより、むしろキックボクシング選手に捧げる方が妥当な難読語のニックネームを、作中世界だけでなく堂々と作品タイトルにまで使ってしまうこのセンスには閉口させられます。

 ストーリーも、要約すれば(得体の知れない3人組が)来た、見た、勝った」で終わってしまう、カタルシスの薄い内容に終始。何の苦労も駆け引きも無く、ただ突撃プレイを掛けたら10点差をひっくり返して勝ちました、女の子にもモテました…というこのシナリオで、飯島さんは一体何を伝えたかったのでしょうか?
 そして、本来ならば、そういうシナリオを補強するために力を入れなければならないサッカーに関する描写も、この作品では完全におざなりです。各選手が一斉にボール目掛けて駆け込んで来るという、まるで小学生が休み時間に校庭でやるような試合、しかもこれを有名高校スカウトの前でやってるというリアリティの無さ。これはもう既にサッカーマンガの体を成していないと言わなければならないでしょう。 

 今回の評価
 ……というわけでして、『少年守護神』以来、久々に出てしまいました死刑宣告。今年度最初の評価Cであります。霧木凡ケンさんもそうでしたが、若手のままで変にキャリアを積んでしまうと、感性が微妙に歪んでしまうんでしょうか……。

 さて、初めて評価Cのレビューに触れて、気分を悪くされた方、申し訳ありません。今回みたいにストーリー・設定において褒める要素が全く無い場合、こういう事になってしまいます。
 これが「ラズベリーコミック賞」の表彰式なら、ちょっとはブラックユーモアのオブラートに包む事も出来るのですが、ゼミはあくまでクソ真面目にマンガ作品を徹底分析する試みなので、時々こういう救いの無い事態が起こります。こちらも好きでやってるわけではないので、どうぞご理解をば。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 『MAJOR』が今週で連載500回の節目を迎えました。まぁ色々とツッコミ所のある作品ではありますが、小学生編・中学野球編・海堂高校編・聖秀学園編・米3A編…と、長編作品6本分のストーリーを全うした上に、ここから更にもう一花咲かせようというのは、やっぱり凄いですよ。
 で、どうやら次回からは大リーグ編ではなく、野球W杯編に突入しそうな予感。なるほど、その舞台でギブソンと対決させようというわけですか。しかし、結局メジャーリーグを殆ど描かないんですね、タイトルが『MAJOR』なのに……。
 あ、あと、清水姉はミニスカ姿に色気が無いのが逆に良いと思うのですが、賛同者はいらっしゃるのかどうか(笑)。

 『ハヤテのごとく!』は、余りにもベタな天然ドジ系メイドさん登場。涙目で睨むところで萌えを誘う所なんて、本当にあざといんですが、それでも畑さんが描くと許せてしまう何かがありますね。
 これはきっと、「ベタな表現を読者が期待する通り描く能力」みたいなモノが、畑さんの脳に備わってるんでしょう。ゼニになる才能ですねぇ。

 ……というわけで、今週はここまで。先週から1本レビューを準備するのに3〜4時間かかってしまって、大変往生してます。細かい事をあれこれ考えるより、「コミックアワード」の時みたいに一気にバーッとやっちゃうのが一番だとは、大脳新皮質では分かってるんですけどね……。
 このままだと、来週もご迷惑をかける事になるかも知れませんが、どうぞ気長にお待ち下さい。

 


 

2004年度第89回講義
2月19日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第3週分・合同)

 今年の「小学館漫画賞」、既にBBSの方では児童部門の『ケロロ軍曹』誤記問題で一盛り上がりしたのですが、こちらで採り上げるのをすっかり忘れておりました。
 もう皆さんもご存知でしょうが、少年部門は「週刊少年ジャンプ」連載中の『BLEACH』が、功労賞的な審査委員特別賞を『こち亀』がそれぞれ受賞となりました。少年部門の「ジャンプ」作品単独受賞は『SLAM DUNK』以来10年ぶりという事になりますね。

 そして今週になって、小学館の各マンガ誌で詳細が発表されていますが、少年部門で惜しくも落選となった“対抗馬”は「マガジン」代表『魔法先生ネギま!』と、「サンデー」代表『MÄR(メル)』だった模様です。まぁ読者の立場から有り体に言ってしまえば、“商品”色の強いマンガの中から一番“作品”っぽいモノが選ばれたのかな? ……といった感じですね。
 しかし去年のこの賞では、『鋼の錬金術師』と『焼きたて!! ジャぱん』同時受賞という、トヨタとライブドアを同じ規模の会社として扱うような非常に独特な価値観を我々に見せ付けてくれたわけですが、今回はやけに大人しい決着ですね。競争相手が同じ一ツ橋系の集英社「ジャンプ」だから意地を張らなくても良かったのか、それとも審査員のお歴々に『MÄR』の中身が余程嫌われたという事なのか。まぁどっちにしろ『烈火の炎』でも受賞を逃している安西信行さんには少々気の毒な話になってしまいました。

 ──それにしても、『ネギま!』が「小学館漫画賞」ノミネートなんて大ネタ、「講談社漫画賞」ノミネート作家・久米田康治さんなら絶対に放っておかないはずなんですが、勿体無いですねぇ……。


  「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年サンデー」では次号(13号)『蹴闘男 最強蹴球野郎列伝』作画:飯島潤)が掲載されます。
 飯島さんは元々「ジャンプ」系の若手作家さんで、デビューはなんと93年。今年でキャリア12年目、かの霧木凡ケンさんに匹敵する“万年若手”という事になりますね。
 「サンデー」への移籍が明らかになったのは、03年3月期「まんがカレッジ」での佳作入賞で、翌04年には増刊に読み切りを発表しています。勿論、今回が週刊本誌初登場です。
 「ジャンプ」時代に遡っても、週刊本誌に読み切りを発表するのは97年16号以来、実に8年ぶりとなる飯島さん。今回が間違いなく今後の作家人生を占う大舞台になる事でしょう。 

 ★新人賞の結果に関する情報

第21回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年12月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
  ・『斬』
   杉田尚(23歳・北海道)
 《大場つぐみ氏講評:2005年の現代に誰もが刀を持っているという設定にはやや無理が感じられた。その発想に説得力が有ればそのミスマッチも魅力的になるのだろうが》
 《編集部講評:画力は今一歩だが個性的なタッチ。話はまとまっているが、現代を舞台に刀で闘うというシチュエーションを上手く描けていない。設定を踏まえた演出が必要》
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『ダンジョンマスター』
   俊輔(24歳・福岡)
  ・『ブラインドブラインド』
   吉田由壱(22歳・神奈川)
  ・『銀板の横綱』
   我孫子今日太郎(26歳・東京)
  ・『ブロイラー・ガール』
   手羽先チキン(21歳・東京)
  ・『鬼人伝』
   阿部正則(19歳・東京)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の杉田尚さん…03年10月期&04年8月期「十二傑」で最終候補。04年3月期「十二傑」にも投稿歴あり。
 ◎最終候補の我孫子今日太郎さん…04年6月期「十二傑」でも最終候補。04年2月期「十二傑」に投稿歴あり。
 ◎最終候補の手羽先チキンさん…04年8月期「十二傑」でも最終候補。

 今月の十二傑賞は、3度目の最終候補エントリーの杉田尚さんがゲット。念願のデビュー権獲得となりました。
 そして今回の審査員は大場つぐみさん。画力についての言及が殆どナシという、いかにも噂になっている“中の人”っぽい講評が大変気になって仕方ありません(笑)。……まぁ原作者という立場での審査ですから当たり前と言えば当たり前なんですが。

 ★その他公式アナウンス情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」の不定期連載(長期休載中)作品『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦)の「ウルトラジャンプ」誌移籍&連載再開が、このたび同誌公式ウェブサイト上で発表されました。(公式サイト:『スティール・ボール・ラン』スペシャルコーナー※音が鳴りますので注意公式アナウンスによると、05年4月号にプロローグ編が掲載、そして5月号より本格連載開始になるとの事です。
 鳴り物入りで連載開始、一時は主力作品並のプッシュを受けていた感のある『SBR』でしたが、連載開始1年で大きな方向転換を余儀なくされる事となりました。やはり“短期集中31ページ連載の繰り返し”という形式に無理があったのか、それとも単行本の売上不振など商業的理由のためか。理由はどうあれ「週刊少年ジャンプ」読者としては残念なお話になってしまいましたね。
 物理的な事情もあって、今後は頻繁にこの作品をゼミで採り上げるのは難しくなりますが、何か大きな動きがあれば積極的にクローズアップしてみたいと思います。
 
 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載1本&読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年11号☆

 ◎新連載『ユート』作:ほったゆみ/画:河野慶

 作者略歴
 
ほったゆみさん
 1957年生まれで、今年48歳になる。
 85年、「まんがタイムファミリー」にて同じくマンガ家をしている夫との合作でデビュー。87年には「ビッグコミック賞」で佳作を受賞し、「ビッグコミック」系雑誌や競馬マンガ誌でマンガ家として活動。
 98年、第2回「ストーリーキング」ネーム部門で準キングを受賞したのを機に原作者に転向。99年2・3合併号より『ヒカルの碁』(画:小畑健)を連載開始すると、これが連載期間4年半にも及ぶロングラン・大ヒット。この作品は日本のみならず東アジア各国でも人気を博し、若年層への囲碁文化の普及にも大きな貢献を果たした。
 今回は『ヒカルの碁』終了以来、1年半の沈黙を破っての新連載開始となる。

 河野慶さん
 1977年5月31日生まれの現在27歳
 99年12月期「天下一漫画賞」(現在の「十二傑漫画賞」の前身)で佳作を受賞。その翌年、「赤マル」00年春号にて、受賞作『左ききのサリー』が掲載されてデビュー。
 その後はマンガ家としてのキャリアは中断したが、ライトノベルの挿絵を担当するなど、イラストレーターとしての活動をする事もあった。今回は約4年半ぶりのマンガ家復帰作となる。

 についての所見
 高度に線の洗練された、非常に完成度の高い絵ですね。老若男女・美醜の描き分けも申し分なく出来ていますし、背景処理や特殊効果などにも一切ソツがありません。
 敢えて気になる点を探してみれば、人物の描き方にやや強めのディフォルメがかかっており、その分リアリティに欠ける点が挙げられるでしょうか。ただ、それもあくまで“個性”の範疇内と思われ、クオリティに与える影響は殆ど無いでしょう。個人的な好き嫌いを除けば、減点材料になる箇所は皆無に近いです。

 ストーリー&設定についての所見
 こちらのファクターも、「流石は『ヒカ碁』のほったゆみ」…といったところでしょうか。冒頭から抜群のテクニックによって、読み手をグイグイと作品世界に引き込んでいってくれます。
 何気ない会話や情景の描写を作中世界の設定提示へ繋げてゆく手際の良さがまず印象的。そして、やや引っ込み思案の主人公・雄斗をアクシデントに巻き込んで行く際に、アクの強い脇役・吾川を上手く触媒に使っているのも見逃せないポイントです。
 また、それに関連して、読み手に不快感を与えかねない“汚れ役”は全て脇役・端役に回し、主役格2人(雄斗&和也)の好感度を下げないように配慮出来ているのも素晴らしいです。この辺は「ジャンプ」の若手作家さんたちに是非とも見習って頂きたいところであります。
 そして、構図の取り方や演出の入れ方も憎らしいほど理に適っています。今回は本来なら単調になりがちな会話シーンが多かったのですが、それを多様なアングルからのカットを使ったり、場面転換の頻度を上げたりして適度なアクセントをつけていますね。
 まったく何でしょうか、この痒い所に手が届き過ぎるほど行き届いた手の尽くしようは。ちょっとそこらの作家さんとは次元の違う技術力です。

 ただ、今回はプロットとストーリー展開の中で、2点ばかり不自然な箇所が見受けられました
 まず1点目、雄斗が東京のスピードスケート事情について余りにも無知である事。そして2点目は吾川の言動が余りにも強引に過ぎる場面があった事です。
 これは恐らく、ストーリー内で読み手に提示する情報量を増やそうとするが余り、ストーリーと設定説明の主客が転倒してしまったために起こったものでしょう。一言で表現するなら、お話の中に作者の都合を反映させ過ぎた…といったところでしょうか。
 ただ、このキズも、果たして「作品のクオリティを大きく下げる致命的な欠陥」とまで言って良いのかとなると……。次回以降に後付けでフォロー出来そうな部分でもあるだけに、現時点で大きく減点するには躊躇を覚えてしまいますね。

 現時点の評価
 ……というわけで第1回の暫定評価は、ほったさんのテクニック面を大きな加点材料としてA寄りA−としておきます。ただ、レビュアーの価値観によって大きく評価が分かれそうな内容でもありますので、確信めいた判断は出来かねますね。

 ◎読み切り『サムライ手芸部』作画:楽永ユキ

 作者略歴
 
代原暫定デビューのため生年月日不詳。ただし、「十二傑」最終候補時の年齢から換算すると、現在26〜27歳。
 03年7月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入り。今回が代原掲載による暫定デビューとなる。 

 についての所見
 見事なまでに線が洗練され、少なくとも見た目においては大変上手に見える絵になっています。それぞれのコマを1枚のイラストと見るならば相当な水準に達していると言えるでしょう。
 ただ、今回の作品を見る限りでは老若と美醜の描き分けが余り出来ておらず、全ページを通じてどこか一本調子な感もありました。敵役をゴリラの擬人化キャラにしていますが、それも“非常に顔立ちの整ったゴリラ”であり、本質的な美醜のコントラストにはなっていません。ひょっとしたら作者ご本人もその辺を判っていて、だからこそのキャラ造型なのかも知れませんね。
 ジャンルによっては(例えば18禁系)こういう絵柄でもな全く問題無いのでしょうが、少年マンガ家を目指すならば、この点の克服も1つの課題と言えるのではないでしょうか。 

 ギャグ(及びストーリー&設定)についての所見
 「15ページ・代原」というフォーマットはギャグ作品のそれなのですが、公式には「コメディ」とあります。よって、ギャグ・ストーリー共に評価の対象とします。

 ──というわけで、様々な角度から内容を吟味した上で感じた事は、「実に中途半端な作品だな」…と。物凄く小さい風呂敷を広げかけたかと思ったら、すぐに手仕舞いしてしまったような、そんな印象を受けました。
 ストーリーは辛うじて起承転結の形を成立させただけで、読み手を感動させたりカタルシスを感じさせたりする中身の濃さは全くナシ。「コメディ」と謳っている以上は“規定ルーチン”であるギャグにしても、いくつかあったネタを具体的な笑いに結び付ける事が出来ていません。
 世界観や設定は目新しさも感じさせてくれたのですが、ここまでストーリーとギャグが弱いと、少々のオリジナリティではフォローになりませんね。惜しいといえば惜しい、惜しくないと言えば全く惜しくない、
そんな作品でした。 

 今回の評価
 評価は、「パッと見の画力で何とか読ませる」ということでB−寄りBとしておきます。ただ、画力以外の要素にもうちょっと見所が出て来ないと、「赤マル」掲載以上の展開は難しいのではないでしょうか。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 さて、今週の「チェックポイント」は、この号で連載10回となった『ムヒョ』の評価再検討からお送りします。

 ◎『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之
 旧評価:A−寄りA新評価:A−寄りA(据置)

 今回から新展開という間の悪さで、今回も暫定評価という事になってしまいました。まぁ1クール打ち切りが無かっただけでもヨシとすべきなんでしょう。
 さて内容についての話を。第5話辺りまでは確かに少ページ・一話完結型の弊害で、Aクラス評価とするには物足りないストーリーでした。が、それ以降は構成と演出のレヴェルが一気に上がり、早くも一皮剥けた印象です。藤田和日郎作品を髣髴とさせるクライマックスの“泣かせ”の持って行き方は、既に「ジャンプ」でもトップクラスの水準でしょう。
 今週からは、また別のストーリーテリング技術が求められるシナリオになっているのが気になる点ではありますが、ここまでの内容を見る限りでは不安より期待先行させて良いのでは…と思っています。
 この次は、連載20回時点で評価の見直しを実施します。

 他の作品については、時間が時間ですので今週は割愛します。“嵐の前の静けさ”的なエピソードが多かったので、敢えて今週に採り上げなくても、次号以降いくらでも語る機会はあるでしょうしね。特に『DEATH NOTE』は、ネット界隈で流れているネタバレが本物なら、とんでもないお祭りになるはずですから……。

☆「週刊少年サンデー」2005年11号☆

 ◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 今週で『KATSU!』が、やや唐突な最終回となりました。いかにも中途半端な完結のさせ方は色々な類推を呼びますが、作家さんの“格”や連載期間などから考えると、編集部からの打ち切りは考え辛いでしょう。あだち充作品としては商業的に成功したとは言い難いですし、作者サイドから手仕舞いに入ったとしても不自然では有りません。
 しかしこの作品、最後までストーリーの軸が一定せずにブレまくってましたね。純粋にボクシングを描きたいのか、恋愛を描きたいのか、人間ドラマを描きたいのか、その辺りの作者の「これがやりたい」という気持ちが読み手側に伝わって来なかったように思えました。
 で、その辺の不安定要素がインパクトの弱さに繋がり、ひいては商業的成績にも影響していったんではないかと、個人的に考えています。
 最終評価はB+としておきましょう。しかし、次回作も「少年サンデー」なんですかね?

 他の作品については、こちらも時間が無いので大幅に割愛しますが、『いでじゅう!』「初めて彼女が出来た男子高校生の舞い上がりっぷり」の微笑ましいリアリティには、自分の10数年前を思い出して身悶えました(笑)。「ビッグコミックスペリオール」の『漫歌エロチカ派』作画:相原コージ)に登場する“秘密結社”風に言えば、鳴り物・大太鼓まで引っ張り出しての大喝采です。
 こういうのは、作者本人の体験や身近な人から聞いた話がネタ元になるケースが多いと思うんですが、それにしても再現度の高い描写ですよね。実に感心します。

 ……さて、取り急ぎ…という感じでしたが今週はここまで。来週は時間がたっぷり取れますので、もうちょっと早い段階で何とかしたいと思います

 


 

2004年度第87回講義
2月12日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第2週分・合同)

 どうも、この時期になると、何故か17年前のファミコン版「ドラクエ3」発売日前後の事を思い出す駒木ハヤトです。17年前なんて、今、高校講師として駒木が授業を受け持っている生徒が生まれた頃なんですよね。そりゃ年も取るはずだなあ。

 当時駒木は小6で、発売日は平日の水曜・2月10日。当時はTVゲーム専門店自体が殆ど存在せず、ゲームといえば電器量販店かデパートの“おもちゃ売場”で買うというのが相場。予約も出来ません。
 よって子供たちは親に「ちゃんと毎日家で勉強しますから」などとマニフェストの1つでも発表してご機嫌を取り、キープしていたお年玉の残りを託して朝から駅前のデパート等に並んでもらうわけです。ちなみに駒木のマニフェストは「ファミコンは週3日、1日1時間までにする(但し、連休時等除く)でしたでしょうか。まだ高橋名人の威光が健在だった時代です。ラスボスのダンジョンに入ってからエンディングが終わるまで数時間を要する現在では考えられない話ですね。
 まぁそういうわけで発売日当日、子供たちは学校でまだ見ぬ「ドラクエ3」の話題に花が咲かせました。あの数々の悲劇を生んだ復活の呪文がバッテリーバックアップに変更される件について、かなりの希望的観測を語っていたのを思い出します。まぁ結局それは希望的観測に過ぎず、従来の「じゅもんがちがいます」に代わって禍禍しい呪いのテーマに打ちのめされる事になるのですが。
 あ、中にはごく稀に、学校をズル休みして昼頃には既にロマリアでポイズントードと激闘を繰り広げてた奴もいましたね。ですが、そういう奴は羨ましがられるわけでもなく、陰では軽蔑されていたような記憶があります。小学校はムラ社会。規律を乱す奴は自然と嫌われてしまうのです。時々呑み会等で、「子供時代に学校休んでフライングしてた話」を自慢気にする人がいますが、それはむしろ“残念・切腹系”の話なので、今後はご一考下さい。
 一方、発売日当日のデパート前も凄かったそうです。PTA総会でもこれだけ集まらんだろうという数の親御さんが整理券を求めて行列を成し、中には家族ぐるみでお付き合いしている他家の奥様の為に行列をループしまくる人も続出。コミケのシャッター前が郊外の町に出張して来たような壮絶な光景があったとかどうとか。そう言えば、東京の電気街では発売日前夜から、それこそコミケの入場待ちクラスの大行列が出来ており、朝のワイドショーなどで取り上げられて、今で言うところのフィギュア萌え族(仮)叩きによく似たニュアンスで白い目を向けられていました。
 そうやって手に入れた「ドラクエ3」に、帰宅直後から貪りついたのは言うまでも有りません。前もって発売日当日と翌日の建国記念日はゲーム時間無制限の許可を取り付けており、寝食を忘れて勤しんだものです。ちなみにパーティ4人目の女魔法使いに初恋の女の子の名前を入れるという、“結婚式の余興で「てんとう虫のサンバ」”くらいベタな真似をしたのも懐かしい思い出です。その初恋の子がコギャル時代の小倉優子みたいなイタい短大生になって同窓会に姿を現し、駒木を愕然とさせるのはそれから7年後のお話です。

 ……とまぁ、長々と昔話をしましたが、この話で駒木が一体何を言いたかったかと申しますと、「世の中変わらないなぁ。ついでに俺も」という事で(笑)。30前にもなって毎週「ジャンプ」と「サンデー」を熟読して批評までしちゃってるバカな野郎ですが、今後ともどうか何卒。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(11号)より『ユート』作:ほったゆみ/画:河野慶)が、次々号(12号)より『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征)が連載開始となります。

 やや例年に比べて時期が早いですが、今年度最初の新連載シリーズが開幕です。今回は久々の複数作品開始という事で、ヒット作連発に甘えない「ジャンプ」の積極的姿勢が窺えます。

 まず『ユート』は、『ヒカルの碁』で大ヒットを飛ばした原作者・ほったゆみさんの「ジャンプ」2作目。囲碁を扱った前回に引き続いて今回もマイナージャンルであるスピードスケートを題材にチョイスして来ました。
 一方、作画担当者の河野慶さんは99年12月期「天下一漫画賞」佳作受賞者。しかし「赤マル」00年春号で受賞作デビューを果たした後にマンガの方は休筆状態に入り、今回は実に約5年ぶりの復帰、しかも初の連載獲得という事になります。ブランクの間もジャンプノベルの挿絵を担当するなど画力には定評があるようですが、マンガの実力の程は未知数。これは注目と言えそうです。

 次に『ネウロ』は、「赤マル」→本誌で読み切り連続発表からの連載という、最近では『スピンちゃん』や『ムヒョ』と同じコースを通っての連載獲得となりました。
 読み切り版が人気を博しての連載獲得なのでしょうが、長期を通じてレヴェルの高いトリックを量産出来るかどうか、また、長期的展望に立ったストーリー展開が出来るかどうか…という課題をどう克服するかがカギになるでしょう。こちらも長期間注目しなくてはならない作品ですね。 

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(04年11月期)

 入選=該当作なし
 佳作=1編
  ・『KUGUTU!』
   板木達也(17歳・広島)
 努力賞=6編
  ・『恋の応援歌
   小川公世(19歳・鹿児島)
  ・『機械仕掛けのダンデライオン』
   川縁芳乃(14歳・三重)
  ・『ハドウ』
   中谷祐太(15歳・兵庫)
  ・『INSTANT』
   杉浦由依(21歳・東京)
  ・『オンバブの木』
   中橋隆元(24歳・三重)
  ・『桃と煙とサングラス』
   飯島浩介(26歳・神奈川)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『けつよ〜血餘〜』
   松尾星二(26歳・愛知)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎努力賞の小川公世さん03年4月期「まんがカレッジ」であと一歩で賞
 ◎努力賞の
川縁芳乃さん04年5月期「まんがカレッジ」であと一歩で賞
 ◎努力賞の
中谷祐太さん03年9・10月期「まんがカレッジ」であと一歩で賞
 ◎努力賞の飯島浩介さん「月刊少年ガンガン」02年8月号のショートギャグ企画に掲載歴あり(?)

 ……今回は10代受賞者が4名…という話でしたが、うち3名は過去にも入賞歴のある“新人予備軍”の皆さんでした。とはいえ、10代前半の身でキチンと2作目を完成させたというのも凄い事には変わり無いんでしょうけどね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り1本&新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから(←今週、少し加筆してます)。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年10号☆

 ◎読み切り『FULL COAT』作画:池田圭司

 作者略歴
 77年2月24日生まれの間もなく28歳。
 「週刊少年ジャンプ」系の新人賞の受賞・入賞歴は無く、これが「ジャンプ」デビュー。ただし、同姓同名の人物が01〜02年に「ビッグコミックスピリッツ」系の新人増刊で数回読み切りを発表しており、これが同一人物なら2年余のブランクを作っての雑誌移籍となる。
 ※「スピリッツ」系新人の「ジャンプ」移籍例としては、『アイシールド21』原作者の稲垣理一郎さんがいる。

 についての所見
 
見るからに緻密さに欠け、どうしても稚拙に見えてしまう絵柄ではありますね。各所で顔の輪郭と目・鼻・口のパーツのバランスが狂っているように、デッサン能力にやや難があると見ました。ただ、ディフォルメ表現は雑な中に技術というか、既存の作品の研究成果を感じさせる部分もありますね。
 一方、背景・特殊効果などには全く見苦しさは見られません。どうやらアシスタント歴の長い若手作家さんにありがちな画風──人物作画以外の部分だけ技術が確か──と言うべきなのでしょう。

 総合的に判断すれば、画力は「ジャンプ」では何とか及第点クラス…という水準でしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 まず、単なる勧善懲悪系のお話にせず、FW志望の選手がDFの適性に目覚めてゆく…という、ちょっと普通の所から視点を変えて作ったプロットは新鮮だったと思います。ライバル役も敢えてありがちな小悪人にせず、純粋にテーマをサッカーだけに絞ったのもスッキリしていて良かったでしょう。
 ただ、この試みも「目新しさを出す」という事以外にはクオリティに良い効果を与える事は余り出来なかったかな…という印象もあります。後で似たような事を述べますが、見せ場ではもっと絵で説得力を持たせるようにして欲しかったですね。今回のシナリオでは、どうしても読み手に与えるストレスとカタルシスの幅が小さくなりますので、問答無用でインパクトを与える場面がもうちょっと欲しかったです。

 あと、今回の問題点として挙げられるのは主人公のキャラ設定でしょうか。
 この作品の主人公は最近の「ジャンプ」読み切りのトレンドになりつつある、桜木花道・悪ガキ系主人公ですが、この系統のキャラクターが作品全体にもたらすデメリット──読み手の主人公への感情移入を阻害する──をフォローし切れていないのが残念です。この手の第一印象が悪い人物に魅力を持たせようとするのなら、余程の“意外な一面”を見せないといけないはずです。下手をすれば読み手が敵キャラを応援したくなる…という逆転現象が起きてしまいます。
 この作品では一応、“難病の弟を思う兄”という一面をアピールし、その辺への気遣いも見せてはいるのですが、肝心のサッカーに対する真摯な姿勢がほとんど描かれておらず(友人が「誰よりも努力してた」と一言セリフでフォローを入れたのみ。危うく見逃す所でした)、目に見えるのはオチャラケたプレーで失敗するシーンばかり。ディフェンダーとしての素質を示す伏線も明らかに不足しており、監督のセリフだけで無理矢理「そういう事にしている」ように見えてしまいます。
 先にも述べたように、もう少し絵で表現する事に神経を遣って欲しいです。絵で情報・伏線を提示し、見せ場もセリフより絵で読み手を説得するという、言ってみればマンガで最も大事な部分にもう少し目を向けては如何かと思うのですが……。プロットやストーリーの組み立てには手馴れた物も感じさせてくれますので、この辺が改善されれば随分と印象の違う作品になると思います。

 今回の評価
 評価はBとしておきます。ただ、今回は実力不足ゆえの低評価というわけではなく、作品が本来持つポテンシャルを表現する事に失敗した故の評価です。その辺を修正した次回作が描かれる事を期待します。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 一昨日のこのコーナーでも述べましたが、今週も冴えに冴えていたのが『銀魂』。こうして見ると、脚本力と演出力というのがマンガにとって如何に大事なものかがよく分かります。現状、この作品の評価はあまり高くしていないのですが、こういう話が月1〜2ペースで量産されるようになったら、A−への上方修正というのも考えるつもりです。

 そして久々の“確変”に入りそうな気配の『武装錬金』。最近はおざなりな敵キャラの扱いと物足りないバトル描写の連続で、正直どうしたもんかと思っていたのですが、漸くの復調気配です。
 しかし、いつも思うんですが、せっかく“核鉄の治癒能力”というモノがあるんですから、もっと命を削るようなギリギリのバトルをやっても良いと思うんですけどね。最近のバトルを見ていると、バトル中心のストーリーにしてはヌルい戦いが多過ぎたように思います。和月さんは上昇志向なら新人以上という人ですから、その辺も分かってらっしゃると思うのですが……。

☆「週刊少年サンデー」2005年11号☆

 ◎新連載第3回『兄踏んじゃった』作画:小笠原真

 についての所見(第1回時点からの推移)
 相変わらずマンガというよりもイラスト的な絵柄ですね。更に、人物の表情が必要以上に硬くワンパターンなため、どうにもぎこちなさが残ります。一つの“味”ではあるのですが、その“味”も余りにワンパターンでは飽きてしまいます。

 ギャグについての所見(第1回時点からの推移)
 こちらも第1回以来の問題点がそのまま改善されず残っている感じですね。ハイスパートでボケを畳み掛けるという発想は良いのですが、そのボケの1つ1つが弱い上に、それに対するツッコミが輪にかけて弱く、全編を通じてギャグのキレの無さだけが目立つ最悪の展開になってしまっています。
 今回のラストのように、ネタフリからページ跨ぎ大ゴマでオチ…といった、ギャグの見せ方に関しては技術が備わっていますので、ネタのクオリティさえ洗練されれば状況は一変するでしょう。とにかく今は、1週間という時間をギリギリまで使って、1つ1つのネタを練りに練って欲しいと思います。

 現時点での評価
 評価はB−に据え置きとします。現時点ではキャリアの浅さがモロに出ているとしか言いようがありません。この劣勢を覆せるだけの成長力が小笠原さんに備わっていれば良いのですが、今後、今以上に締め切りに追われるようになるだけに、心配の種は尽きません。

 ◎読み切り『トイレの怪人』作画:佐藤将

 作者略歴
 生年月日・年齢等不詳。
 今回が本誌初登場。当講座開講(01年12月)以降の「週刊少年ジャンプ」・「週刊少年サンデー」系新人賞、及び03年以降の増刊における掲載歴は確認できず、異なる名義で活動していない限りは、これがデビュー作ということになる。

 についての所見
 背景の描き込みやトーンに濃い色を使い過ぎ、人物作画が背景に埋没してしまう場面がいくつか見受けられましたが、画力そのものにはそれ程の問題点は無いように見えました。人物作画も整ってますし、あとはキャリアが解決してくれるでしょう。

 ギャグについての所見
 とにかく目を見張るのが言語感覚の良さ。セリフの1つ1つに工夫を凝らしている跡が窺え、大変好感が持てます。また、モノローグや擬音と絵を上手く噛み合わせる演出の上手さが全編に渡って光っていますね。もしこれがデビュー作ならば、かなりのセンスの持ち主と考えて良いでしょう。
 ただ、惜しい所と言うか、改善の余地を残す点もありました。まずはギャグのテンポが良過ぎて、ツッコミが流れ気味になってしまった点、そして話の展開が余りにも無茶で、余りの現実感の無さのために読み手を笑いに集中出来ない環境に置いてしまった点です。さすがに学校の地下に古墳を改造した便所というのは、余りにも絵空事過ぎると思えたのですが……。  

 今回の評価
 評価は欠点を差し引いてB+とします。それでも現在の「サンデー」系若手ギャグ作家さんの中ではトップクラスのセンスを持っている事に疑いを挟む余地は無く、今後の飛躍が大いに期待出来ます。今月末発売の増刊号に読み切りが載るようなので、出来次第では“読書メモ”枠ででも紹介するつもりです。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 今週のトピックスと言えば、やはり遂にカップル成立となった『いでじゅう!』でしょう。もうちょっと今の微妙な関係で引っ張るかな…と思ったのですが、間延びするぐらいなら…と、バレンタインを機に話を大きく動かして来ましたね。
 今後は“カップル成立後のラブコメ”という、少年マンガでは余り類を見ないパターンに突入してゆきますが、モリさんの実力ならその辺もソツの無いストーリーテリングを見せてくれる事でしょう。とは言っても、ここまで来たら後は円満完結のタイミングを図るだけになっちゃうんですが、せめて完結までに皮村と中山ちゃんだけは幸せになってもらいたいですなぁ。

 それにしても今週傑作だったのが『道士郎でござる』開久三高カツアゲ理論
 
何と言うか、もうこのジャイアンと青木雄二と福本伸行がミックスされたような、強烈にもっともらしくて胡散臭い論理展開がたまりません。西森さんはこのマンガを一体どうしたいんでしょう?(笑)
 そう言えば、現実にも大阪の方には学校名と制服だけでハンパな不良が逃げ出すような学校があるらしいのですが、関東エリアにもそういう学校ってあるんですかね。まぁウチのBBSがそういう話題で盛り上がってもアレなんで、大っぴらに教えて頂かなくて結構ですが(笑)。

 あと今週は『MAJOR』もマイナーリーグ編のクライマックスという事で渾身の一本でした。力勝負でバットを砕くという定番の決着も、画力が伴っているので説得力がありますし、そこに挿入されたサンダースのモノローグが良い味を出してますね。こういう、盛り上がってる所で客観的な状況の俯瞰を入れるのは個人的に大好きな表現技法の1つです。

 ……というわけで何とか「コミックアワード」で出来た時差が解消出来ました。この調子だと来週は旅行記もお送り出来そうです。それでは、また数日中に。

 


 

2004年度第86回講義
2月10日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第6週/2月第1週分・合同)

 「コミックアワード」後、最初の講義をお届けします。まずはその準備で遅れに遅れてしまった、先週分のゼミからです。
 先週号の「ジャンプ」「サンデー」など、既に処分してらっしゃる方もおられるでしょうし、わざわざ10日遅れでやる事は無いと思いますが、これも次の「コミックアワード」のためという事で(笑)。後々、年間総括をキチンとするためには欠番を出すわけには行かないという事情があるわけです。

 ……ところで、「コミックアワード」では2日目の表彰式が後半分翌日順延になるという不始末をしでかしてしまい、本当に申し訳有りませんでした。
 直接の理由は、新人&短編の両部門の審査がメチャクチャ難航してしまった事。表彰式内で申し上げたように、目の前に増刊号と週刊本誌の読み切りスクラップを置き、1作品読み返しては唸り、また1作品読み返しては悩み…といった具合で。
 毎年、必ず1部門は悩む羽目になるのですが、今年は2部門に跨って難航してしまいまして、本当に困りました。やっぱりこういうのって、多人数の合議・投票制にして、権利と責任を分散した方が明らかに楽ですね。権利はともかく、責任を1人で被るというのはメチャクチャなプレッシャーがありました。まぁその分楽しいという面もあるんですけどね。
 ──とはいえ、ネット界隈で話題として採り上げて頂いたのは、大抵がほぼ順当に決まったグランプリとラズベリーという理不尽(苦笑)。まぁ悩んだ両部門は正直言って小粒な印象がありましたけどね。

 ……さて、前口上はこれくらいにしまして、ゼミを始めます。ただ、1週遅れという事情がありますので、情報系の話題は週末実施予定の2月第2週分に全て回す事にします。今日はレビュー1本とチェックポイント少々の“簡易版”という事で何卒。


 ※1月第6週/2月第1週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作無し

 ※7段階評価の一覧表はこちらから(←今週、少し加筆してます)。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年9号☆

 ◎読み切り『征次郎の道』作画:長友圭史

 作者略歴
 81年2月16日生まれの間もなく24歳。
 00年11月期「天下一漫画賞」で最終候補
に残り“新人予備軍”入りした後、4年間の空白期があったが、04年10月期「十二傑新人漫画賞」で佳作・十二傑賞を受賞。今回は十二傑賞の特典を行使しての受賞作デビューとなる。

 についての所見
 「十二傑」の講評で「表情がやや堅い」というコメントがありましたが、確かに細かい表情の変化を描写するのがやや苦手にしているような感じはありますね。極端から極端への変化はバッチリなのですが……。
 とはいえ、総合的な画力は明らかに新人離れしており、特に背景処理や特殊効果などは連載作家さんのそれにヒケを取らない程の出来映えでした。恐らくはこの空白期の4年間にアシスタント修行等、プロ作家としての修練をみっちりと積んでいたのでしょう。
 作品の要となる柔道シーンも、動感溢れる描写を見せてくれました。ただ、ドラゴンスクリューが明らかにドラゴンスクリューじゃないのには苦笑い。これ以外にも作品の端々からプロレスに対する認識の浅さみたいなのが見え隠れしており、柔道はともかくとして、プロレスの知識の方は「WWEにハマってます」程度しか無いんじゃないかなぁ…と思ってしまったりしました。

 ストーリー&設定についての所見
 まず、スポーツ系作品にありきたりな熱血&バカ系主人公・征次郎だけでなく、“サブ主人公”的なキャラクター・ステファンを配置したのは上手かったと思います。2人のキャラクターに目標を達成させる事で読み手に与えるカタルシスも割増されますし、ストーリーの奥深さもいくらかは増したのではないでしょうか。
 ただ、それでもプロットそのものは、単純な勧善懲悪モノ&格闘技モノ読み切りにありがちな“悪役の陰湿な攻め→主人公のハートに火が点いて一発逆転”に留まっていて平凡さ・陳腐さは否めません。また、わざわざその陳腐なプロットに落とし込むために、ストーリーラインの流れをかなり強引にしてしまっている面も見受けられます。折角の奇抜な設定が、逆にストーリーの不自然さを演出する…という勿体無い作品になってしまったようです。

 また、“メイン主人公”・征次郎の性格や行動パターンが悪い意味で主人公らしくなかったのも気になりました。悪役の設定をかなり陰湿なキャラにし、何とか釣り合いを取ろうとはしているのですが、それでも結局は“どっちもどっち”といったところに落ち着いてしまったような……。
 何しろ、クライマックスの柔道シーンを冷静な視点で俯瞰すると、「柔道に対する真摯さに欠ける自分勝手な少年が、柔道に対する真摯さの余り人間性が欠如した教師をプロレスまがいの必殺技でK.O.する」…ですからね。これでカタルシスを目一杯感じろという方が無茶というものです。
 エンターテインメント性を追求するのなら、むしろ何か理由をつけてステファンに試合をさせた方が良かったかも知れませんね。まぁそうなると題名もプロットも大幅に変わってしまうわけですが……。

 今回の評価
 絵の達者な分だけ0.5ランク加点して、評価はBとしておきます。う〜ん、何だか、“地元の特産物をふんだんに使った、見た目鮮やかな平凡な醤油ラーメン”みたいな惜しい作品でしたね。

◆「ジャンプ」05年9号のチェックポイント◆ 

 この号から『NARUTO』は第2部開始。時間を進めて違和感無く主人公の能力インフレを実現…といったところなのでしょうが、ビジュアル的&内面的にはドラスティックな変化は無いみたいですね。
 それ考えると『DRAGON BALL』の悟空の急成長(というか身長急上昇)というのは、色々な意味で思い切った決断だったんでしょうね。

 さて、この号は何と言っても『銀魂』ギャグと人情噺のバランスが非常に良かったです。最後に2人が「ありがとう」と声を重ねる所なんか、いかにも名作映画のワン・シーンでありそうな場面で、心底唸らされました。
 お登勢婆さんの若い頃の話もそうでしたが、空知さんは元々脚本がべらぼうに上手くて、演出も達者ですから、真面目にちゃんとしたショート・ストーリーを描いたら、ギャグ以上に上手いんですよね。もっとこういう“読ませて”くれる話が読みたいですね。(とか思ってたら、この次号で見事な正統派人情噺を見せてくれました。グッジョブ!)

 あと、『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』は今回のエピソードも上手く“泣かせ”のツボを押さえていましたね。読み切り版や連載当初はその辺のツボが微妙にズレていたように思えたんですが、見事に修正して来ました。連載を進める内に作家さんの技量が上がっていくというのは、見ていてとても気持ちが良いものです。

 それはそうと『いちご100%』。もうここまで来たら、淳平とヒロイン様御一行は一夫多妻制の国に移住するくらいしか丸く収める方法は無いんじゃないかと思ったりするのですが(笑)。

◆「サンデー」05年10号のチェックポイント◆

 この10号、既に次号の内容を知っている段階になると、逆に話がし辛いですねぇ。特に『いでじゅう!』あたり(笑)。
 あと、「この作品、ちょっといい話があると必ず人死にが出ますよね。今度はどうなんでしょう?」…と言いたかった『からくりサーカス』も、次号でそのまんまな展開になりつつありますし。
 そういや、今ふと思ったんですが、『金色のガッシュ!!』人死に(というか魔界強制送還)が出る呼吸みたいなものって、何となく『からくりサーカス』に似てません? さすが師弟関係だなぁ…なんて勝手に思ったりしているのですが。

 まず誌面前半で目についたのが『結界師』。今回は今後に向けてのネタ振りで、ストーリーそのものは殆ど進行が無かったんですが、その分、見た目で読者に印象付けるために至る所で思わせぶりな演出が効かされてましたね。こういう“良い誤魔化し”が出来るのは、やはり一流の才能というヤツなんだと思います。
 ……えー、その辺が今一つピンと来ない方、現在「サンデー」には『東遊記』という格好の比較対照が御座いますので、そちらと見比べて技術の差を感じ取って頂ければ宜しいのではないかと。

 あと、誌面後半で目に付いたのが『D-LIVE』。駒木より随分先に「C-WWW」さんが指摘されていたのですが、今回のロコのはしゃぎっぷりってのは、完全に“ツンデレ系”ヒロインですよね(笑)。何だこのキャラクターの破天荒な転がし方は…と思わず笑ってしまいました。
 確かに皆川さんの作品は変な所で堅物系の登場人物が意外な一面を見せるという特徴が有りますが、今回は何か別の作家さんの生霊が憑いたかのような(笑)。いや、まぁ凄ぇ面白いんですがね。

 ……といったところで、アッサリ風味で先週分の「現代マンガ時評」をお送りしました。この連休中に、今週分のゼミもやって、遅れをリカバーしたいと思います。
 あ、ニュースサイト経由で飛んで来た方も、宜しければアンテナなどに追加して頂いて、今後も暇な時にでも受講してもらえると嬉しいです。なかなか新しい講義が始まらない時は、昔のアーカイブなんかもチェックして時間を潰してもらえれば尚のこと嬉しいです。一応、過去の講義レジュメは、量だけなら京極夏彦さんの単行本1.5冊分くらい貯まってると思いますので、暇は潰せるでしょう。
 ただ、さすがにあんまり昔になると随分なクオリティだったりするので、その辺はご容赦を。若気の至りに加えて、週7回のペースで無理矢理に講義をデッチ上げていて、しかも受講者(アクセス)数が1日100人未満なのをいい事に、好き放題喋ってますので……。

 ……まぁそんなこんなで、今後とも何卒。さしあたり、また週末にお会いしましょう。

 


 

2004年度第85回講義
1月27日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第5週分・合同)

 現在「コミックアワード」の準備で大忙しの駒木研究室ですが、レギュラーの講義も落とせないという事で、とりあえずゼミを実施しておきます。

 さて、今週では、通常のレビューとチェックポイントの他、一足先に「コミックアワード」部門賞の最終ノミネート作品を発表させて頂くことにしました。これは、今年の「コミックアワード」では、クオリティ面ではノミネートに全く問題ないものの、授賞の妥当性の面からノミネートを見送った方が賢明…という作品が複数ありまして、これは先に公表して事情を説明しておくべきかな…と思った次第であります。
 また、賞レースならではの、ノミネート作品から受賞作を予想する楽しみというものを、もっと皆さんに味わって頂こうという狙いもあります。まぁ予想が当たった所で何の自慢にもならない話になると思いますけどね(笑)。

 ……そういうわけで、今週のゼミは通常よりボリューム多目でお送りします。ではまず、いつも通りのレギュラー企画からお送りしましょう。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(9号)『征次郎の道』作画:長友圭史)が掲載されます。
 この作品は、04年10月期「十二傑新人漫画賞」の佳作・十二傑賞受賞作品です。長友さんは00年11月期に当時の月例賞・「天下一漫画賞」で最終候補に残っており、“新人予備軍”歴4年でのデビューとなります。しかし、それでもまだ23歳というのですから、やはり「ジャンプ」の新人さんは若い人が多いですね。 
 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから(←今週、少し加筆してます)。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年8号☆

 ◎読み切り『多摩川キングダム』作画:風間克弥

 作者略歴
 78年9月22日生まれの現在26歳。
 02年9月期の「天下一漫画賞」で最終候補
に残り“新人予備軍”入りした後、「赤マル」03年春号にて『ドスコイン〜遊星から来たあんちくしょう〜』でデビュー。
 
その後、「赤マル」04年冬(新春)号04年秋発売のギャグ増刊にそれぞれ読み切りを発表し、今回が週刊本誌初登場。
 なお、今作はギャグ増刊掲載作品と同タイトル・同設定の作品。

 についての所見
 昨秋発表の作品と比べると、これでも表情やポーズの不自然さが少し改善された(ボロが出なかった?)ような気もしますが、それ以上に画力全般の拙さが目に付いてしまう現状ですね。主人公の顔からして、場面ごとで輪郭から形が合わない超低予算のアニメ状態では……。
 あと、背景処理や動的表現といった作画の基礎的な部分にも課題が山積みで、いくらギャグ作品としても、この画力では若干の減点材料とせざるを得ない水準でしょう。

 ギャグについての所見
 結論から先に言えば、ギャグマンガを構成するあらゆる要素が中途半端な作品になってしまっています。ギャグ作品としての体裁は一応保たれているのですが、その中身の出来に関しては疑問符を山ほど付けざるを得ません。
 まず、前フリでコマ数・ページ数を消費し過ぎてネタの密度が薄くなってしまっていますね。しかも、その割に肝心のギャグの“間”が性急で、文字通りネタが上滑りしている場面が数箇所で見受けられます。
 また、ネタはビジュアルで見せる“出オチ”中心のモノが多かったですが、画力不足もあって狙い通りのインパクトが生み出せたとは言い難いデキ。ましてや“出オチ”以外のネタの中にはギャグになっていないのではないかと思えるのもチラホラと。例えば腕とボールを大きくして思いっきりブン投げるというだけの行為に3ページ使ったのは、一体何を意図したものだったのでしょうか。恥ずかしながら駒木の理解能力の限界を越えていた1シーンでありました。
 そしてずっと以前からの欠点であるツッコミの弱さも“健在”で、ただ驚くかボケの内容を説明するだけで終わっています。これでは“料理”次第では笑えるかも知れないボケでも、全く活きて来ないのではないかと思うのです。

 ……何と言いますか、ギャグで笑わせる以前に所定のページ数を埋めるのに必死…という風に感じられてしまう作品でした。2本立て・37ページというのは如何にも酷だったような感じですね。

 今回の評価
 ちょっとこれは「無残な完成度」と申し上げる他ないですね。一応、形ばかりはギャグ作品になっているということで評価はC寄りB−としますが、今回の週刊本誌進出は余りにも無謀なチャレンジだったとしか。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 さて、先週から急展開で大注目だった『DEATH NOTE』ですが……。
 今回で一気に進んだタネ明かし、個人的には“アウトにしたいギリギリセーフ”といった感じでした。記憶喪失以後のストーリー展開を、記憶喪失以前に遡って全部予測していた事にする…というのは、言葉を選ばずにズバリ言ってしまえば「ズルい」と思います。それやっちゃうと何でもアリになってしまうんで。まぁ確かに、この修羅場でそういう手段を思いつくという悪魔的な発想力は相変わらず素晴らしいのですけれども。
 この“計画通り”の件の他、ノートの所有権の遣り取りについても、読み手によって評価が分かれそうな気がします。何となくですが、本格ミステリが好きな方はこういうものも好きそうな気がしているのですが、どうでしょう?

 ……今週は個人的にはやや低調な号だった感じでしょうか。あ、でも『いちご100%』を最終ページまで読んでから3ページ素っ飛ばして、『HUNTER×HUNTER』のフェイタンぶち切れシーンに繋げて読むと、何だか知りませんが気持ちがスカッとしました(笑)。

☆「週刊少年サンデー」2005年9号☆

 ◎新連載『兄踏んじゃった』作画:小笠原真

 作者略歴
 77年12月19日生まれの現在27歳。
 04年6月期の「サンデーまんがカレッジ」で努力賞を受賞
して“新人予備軍”入り。今回、デビュー作がいきなりの週刊連載という大抜擢。

 についての所見
 人物の顔〜上半身のアップを見ていると達者に見えるのですが、全身を描いた時にはバランスが悪くなり、動的表現は不自然で、ロングショットの教室風景には遠近感がありません。そういう部分も含めて壮大なネタという可能性も無きにしも非ずですが、少なくとも今回の絵だけで判断するとすれば、「ギャグ作品としてなら何とか及第点」…といったところでしょうか。

 ギャグについての所見
 全力を挙げてネタの密度を上げ、良いテンポを維持し、ビジュアルで見せるギャグと言葉のギャグを両立させよう…という気持ちは十分に伝わって来る作品です。ただ、伝わって来るのが気持ち“だけ”になっているのが残念なのですが。
 物足りなく思える最大のポイントはボケの弱さと、それに対するツッコミが律儀すぎる所でしょう。ギャグ作品の出来事として、大して変わった事をしているわけではないのに、それをいちいちツッコミで1つのギャグに成立させようと頑張り過ぎているため、得も言われぬ“無理矢理感”が全てのページから滲み出てしまっています。
 ボケの畳み掛けにしても、畳み掛けるボケが後になればなるほどインパクトが弱くなってゆくため、それに対するツッコミも尻すぼみになってゆく悪循環に。結果として、「ただボケとツッコミという一連の作業を繰り返した」…というような状態に陥ってしまったのではないでしょうか。

 見たところ、正統派のボケ&ツッコミよりも、もっとシュール系ギャグの方が向いてそうな作風に思えますので、一度そういうギャグも試してもらいたいところです。「サンデー」はギャグ作品の短期打ち切りは滅多にありませんし、また、分かり易すぎるギャグがお好きな人が編集長から左遷された事ですし、色々試すだけの価値はあると思うのですけれどね。

 現時点での評価
 現時点においては、やはり失敗作と言わざるを得ず、評価はB−とさせて頂きます。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻頭から嫌事を言いたくなる作品が4色カラーで登場してますが(笑)、「ジャンプ」に続いてあんまりネガティブな事を言い過ぎるとアレですのでパスします。同じ理由で短期集中連載作品掲載順ケツから3番目の作品についても、苦言を啓上するのは次回以降という事で。

 ……というわけで、今週は『いでじゅう!』をピックアップ。類稀なるギャグの才能を埋もれさせたまま、ヌルめの恋愛コメディを続けるのはモリタイシさん的にどうなんだろう? ……などと思いつつも、何気ない細かい仕草を描くことで心理描写までしてしまう卓越したセンスは、やっぱり素直に凄いんじゃないかと。
 この作品、何やかんや言っても、読んでて安心させられるんですよね。特にここ最近、ベテラン作家さんの手堅い作品が続々と終わってしまっただけに余計そう感じてしまうのですよ。ただモリさんの才能は、青年向け月刊誌辺りで『茂志田★諸君!!』のような先鋭的なギャグ作品を描いてこそ活きるような気がするので、その辺りは複雑なんですが……。

 ──というわけで、今週のレギュラー企画は物理的な事情もありましたがアッサリめに留めさせてもらいました。
 では、ここからは来週開催予定の「第3回仁川経済大学コミックアワード」の部門賞ノミネート作品発表に移りたいと思います。
 回を数える事、今年で3回目。こんな心底エエ加減なイベントではありますが、近頃は微妙な注目を集めるようになって来たようで嬉しい限りであります。各賞の受賞作・作家がかなりの確率で伸び悩んだり、「ラズベリーコミック賞」にノミネートされた新人作家さんがその後プッツリと命脈を絶つ…という後味の悪い賞ではありますが、今回もどうか何卒。

 さて、喋るにしてもネタ無しでは喋れませんので、早速ノミネート作品を発表させて頂きます。どうぞご覧下さい。

各部門・最終ノミネート作品
(優秀作品賞受賞作一覧・順不同)

◆ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞
『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健
『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦
『あやかし堂のホウライ』作画:金田達也/原案協力:藤田和日郎

◆ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞
『SNOW IN THE DARK』作画:叶恭弘
『ホライズン・エキスプレス』作画:中島諭宇樹
『雨女、晴れ男』作:長谷川尚代/画:藤野耕平
『PMG-0』作画:遠藤達哉
『賈允』作画:内水融
『スーパーメテオ』作画:高橋一郎) 

◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞
『ホライズン・エキスプレス』作画:中島諭宇樹
『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所(増刊掲載版読み切り)作画:西義之
『PMG-0』作画:遠藤達哉
『スーパーメテオ』作画:高橋一郎

◆ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞
『無敵鉄姫スピンちゃん』(作画:大亜門)
『吉野君の告白』(作画:坂本裕次郎)

◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞『吉野君の告白』(作画:坂本裕次郎)

 ──今回のノミネート作品選出は、純粋な作品のクオリティでは全く遜色無いものの、“授賞の妥当性”の観点から苦渋の選択を強いられたケースがありました。

 特に困ったのが短編作品賞。この部門では、『絶対可憐チルドレン』『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』というレビューの評価点上位2作品をノミネートから外すという事になりました。
 素直にノミネートさせていれば間違いなく最有力候補になったであろう作品ですので非常に迷ったのですが……。

 まず『絶チル』に関しては、

●昨年度に同タイトル・ほぼ同設定の読み切り作品が同じ部門にノミネート&落選しており、年度をまたいでの“再チャレンジ”は違和感が否めない。

●今回の短期集中連載作品は、1つの短編作品であると共に、05年春より連載開始予定の長編作品の第1話〜第4話という性質も併せ持っており、短編作品として表彰対象とするのは若干の疑問が残る。

●長編連載が決定している現在の状況において、『絶対可憐チルドレン』という作品の真価を問うには、長編連載版のクオリティを見て判断するのが望ましい。

 ……という3つの理由から、今回はノミネートを見送り、今春開始の長編連載でその真価を問う事にさせて頂きます。ただし、これだけの作品が2年連続で“無冠”というのも、それはそれで問題でもありますので、表彰式当日に何らかの形で特別表彰をしようと思っています。

 また、『ムヒョ』についても『絶チル』で3番目に挙げたのと同じ理由をもって、今回は短編作品賞のノミネートを見送りました。ただし、新人作品賞については、西義之名義のソロデビュー作品である増刊読み切り版こそがこの賞に相応しいという事で、最終ノミネートに挙げさせてもらいます。この辺は我ながらかなりファジーな判断なのですが、エエ加減な賞らしい微妙な匙加減としてご容赦願いたいと思います。

 あと、新人ギャグ作品賞についてですが、『無敵鉄姫スピンちゃん』は、プロトタイプ短編である『スピンちゃん試作型』が前年度に同部門を受賞していますし、同一作家が2年連続で“新人賞”を受賞するのもアレだと思いますのでノミネートから外しました。
 よって、この部門は1作品のノミネートになりますが、これは受賞決定というわけでなく、「該当作無し」という選択肢も残されていますので、ご承知置き下さい。なお、最終審査はこれから改めてノミネート作品を精読し、発表当日ギリギリまで熟考を重ねて決定します。

 ……というわけで、「コミックアワード」最終ノミネート作品の“発表会”をお届けしました。また受賞作予想や、“極私的受賞作”などを聞かせて頂けると幸いです。では、週明けのコミックアワード当日にお会いしましょう。

 


 

2004年度第84回講義
1月22日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第4週分・合同)

 コンディションも良いし、週2回講義でも大丈夫だ…などとタカを括っていましたらこの始末。「サンデー」だけならまだしも、「ジャンプ」のレビューを土曜日深夜にやってるようじゃいけません。
 来週はコミックアワードの準備でバタバタしますが、何とかゼミは滞りなく済ませたいと思ってます。どうか何卒。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(8号)『多摩川キングダム』作画:風間克弥)が掲載されます。
 風間さんは「赤マル」03年春号でデビューしたギャグ系若手作家さんで、これが3度の増刊掲載を経ての週刊本誌初登場となります。今週の大石浩二さん&ポンセ前田さんと同じく昨秋発売のギャグ増刊からの抜擢となりますね。ただ、デビュー作から追いかけて来た立場からすると、やや時期尚早という感じがしなくもないのですが……。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(9号)より『兄ふんじゃった!』作画:小笠原真)が新連載となります。
 小笠原さんは04年6月期の「まんがカレッジ」で努力賞を受賞していますが、増刊等での掲載歴は無く、今回が何と週刊連載でのデビューということになります。
 恐らくは今週限りで終了した『俺様は?』作画:杉本ペロ)の後釜なのでしょうが、ショートギャグ枠にしてもこれは異例の大抜擢。果たして実力は如何ほどか注目と言えそうです。

 ★新人賞の結果に関する情報

第20回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年11月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
  ・『ママん

   吉たけし(24歳・熊本)
 《秋本治氏講評:絵は仕上げが丁寧で非常に好感が持てる。ただ、物語は引っ張る割に今ひとつパンチ力不足。意外性のある展開や衝撃的なギャグが欲しかった》
 《編集部講評:絵の読み易さ、ギャグの分かり易さは評価出来る。が、ギャグの密度が薄くインパクトも欠けていた。内容もパロディが多すぎで、もっとこだわりを持って欲しい。》
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『THE HAVES AND THE HAVE NOTS』(=審査員特別賞)
   伊万里裕介(21歳・滋賀)
  ・『斬るWEST!』
   平方昌宏(19歳・東京)
  ・『蜉蝣』
   山添泰平(22歳・東京)
  ・『start!』
   高山憲弼(23歳・大阪)
  ・『雪嵐』
   木住千夜(21歳・愛知)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎最終候補の平方昌宏さん…04年3月期「十二傑」にも投稿歴あり
 ◎最終候補の高山憲弼さん…04年8月期&03年8月期「十二傑」で最終候補、03年2月期「天下一漫画賞」で編集部特別賞

 ギャグ作品が月例賞で最終候補の壁を突破するのは難しいのですが、今回は「十二傑」始まって以来初の十二傑賞受賞のギャグ作品が出ましたね。ただ、選評を見る限りでは、他の作品の水準もそれほど高くなかったようではありますが……。
 ともあれ、大半の若手ギャグ作家さんが代原作家で消えてゆく中、貴重な正規デビューの機会を掴んだのですから、これを是非とも今後の活躍に繋げて欲しいものですね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り2本
 「サンデー」
:新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから(←今週、少し加筆してます)。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年7号☆

 ◎読み切り『おれたちのバカ殿』作画:ポンセ前田

 作者略歴
 
生年月日は未公開だが、「赤塚賞」受賞時の年齢から推測すると現在25〜26歳
 03年下期「赤塚賞」にて、水溜三太夫名義で佳作を受賞。その後現在のペンネームに改名し、週刊本誌04年33・34号に2週連続掲載された『機動球児山田 〜めぐりあい稲木〜』でデビュー。その後、04年秋発売のギャグ増刊で今作と同タイトルの作品を発表している。

 についての所見
 秋のギャグ増刊から中2ヶ月ということもあり、絵柄に大きな変化は見られませんでした。
 よって、指摘する内容も前回とほぼ同じとなりますね。ギャグ作品としては及第点の水準、しかし動的表現が甘く、背景の描き込みも少々不足気味。あと、そろそろ人物の表情のバリエーションを増やして欲しいかな…というところです。贅沢を言うならば、いわゆる出オチを効果的に表現出来るようなインパクトのあるタッチも使えるようになってもらいたいですね。

 ギャグについての所見
 ギャグ増刊の同タイトル作品同様、『魁!!クロマティ高校』の亜流ですね。ここまで似せるなら完全にパロディにしてしまった方が読んでて気持ち良いのですが、まぁその辺は大人の事情もあるでしょう(笑)。
 ギャグの方は、1つ1つのネタを吟味すれば見所も窺えるのですが、それ以上に相変わらずの内容の薄さが気に掛かります。1ページあたり3〜6コマのコマ割りにしては話の展開が淡々とスローモーなものですから、実際以上に密度の薄さを体感してしまうのでしょう。
 また、こちらも以前からの課題なのですが、ボケに対するツッコミが全般的に弱いですね。現状はボクシングで言うなら単調な大振りパンチの連続で、ギャグで大事な要素である意外性に乏しくなってしまっています。これでボケ→ツッコミ→ボケの畳み掛け…という、ジャブ、ストレート、フックのトリプルのようなコンビネーション・ギャグを意識して組み立てるようにすれば、もっと印象も違って来ると思うのですけれども。

 今回の評価
 評価は昨秋の増刊掲載時から据え置きでB寄りB−とします。週刊本誌の正規枠として大きく扱われるにしては物足りないデキだったのではないでしょうか。

 ◎読み切り『モグリ陰陽師 SAYMAY!』作画:大石浩二

 作者略歴
 82年7月14日生まれ現在22歳
 週刊本誌04年24号にて、代原掲載による暫定デビューを果たし、それ以後も26号、31号にそれぞれ代原掲載を果たしている。
 正式デビューは「赤マル」04年夏号。04年秋のギャグ増刊では4コマ作品を発表した。今回は正式デビュー以来初の週刊本誌掲載。

 についての所見
 こちらも中2ヶ月での“登板”という事で、前回のギャグ増刊から大きな絵柄の変化は認められませんでした。
 しかし、デビュー以来専ら4コマや1ページ作品を描いて来たためか、今回の通常のスタイルではコマの大きさに対して絵が小じんまりとし過ぎている感がありました。この辺は慣れの問題でしょうが……。
 あと、“間”のギャグを得意とする作風の大石さんにとっては、これも良い“味”になっているのですが、もうちょっと動的表現も磨いて欲しいかな…と思います。 
 とはいえ、ギャグ作品という事を考慮すれば、決して見苦しくはない絵ではないかと思います。後は、先ほども申し上げましたが迫力を持たせられれば更に良いですね。

 ギャグについての所見
 正式デビュー前の代原に比べると、格段の進歩が窺えます。
行き当たりばったりではなく、テクニックで狙った笑いを追及しようという貪欲な姿勢が窺えて好感が持てます。得意の“間”で笑わせるギャグの他に、ツッコミを読者に委ねる“ボケっ放し”のギャグ、シュール系のギャグなど、やや玄人ウケに偏っているものの、ギャグに随分とバリエーションが出て来ましたね。

 ただ、まだ1つ1つのギャグの練りが今一つ足りない印象で、不用意な“凡打”がまま見受けられました。特にツッコミのセリフが不発気味のまま終わる事が多く、この辺が今後の課題になるのではないでしょうか。
 あと、コマ割りが随分と無神経というか、「いかにも適当に割りました」と見える場面が目立つのも(本当は適当なんかじゃないんでしょうが、あくまで「そう見える」という意味で)残念でした。ギャグ作品の場合、同じネタでもコマ割り1つでクオリティが大違いになったりしますので、次回作以降では、その辺の配慮も怠らないようにしてもらいたいと思います。

 今回の評価
 評価は少々甘めですが、“瞬間最大風速”の強さとギャグセンスが徐々に洗練されて来た…ということでB+とさせて下さい。これで“打率”が9割以上になっていればAクラス評価なんですが。


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆
 

 今週はやはり急展開の『DEATH NOTE』でしょうね。この作品の製作手法で「計画通り」とやるのは苦笑を禁じ得ませんが、見事な(良い意味での)ハッタリの効かせ方です。ライトの人格歪んだ顔も見事ですね。さすが小畑さんです。
 しかし、来週以降しばらくは色々な意味で目が離せない局面が続きますね。一歩間違えれば奈落の底というポイントをどのようにしてクリアしてゆくのか、興味は尽きません。

 あと、今週号では『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』も素晴らしいデキでした。ギリギリまで無駄な部分を削ぎ落とし、説明と描写を併用してページ数の浪費を防ぎ……といった具合で、ありとあらゆる方法を駆使して内容の濃さを追求し、それを見事に成功させています。
 また、クライマックスの盛り上げ方も申し分なく、余韻の残し方も良好。読み切り版から連載開始以後をも通じて、今回が最高のクオリティだったのではないでしょうか。正直、ここまでA−評価をつけた作品としては物足りないデキの回もあったのですが、今回でまた印象がガラリと変わりました。
 ……でも、こういう地味な努力がアンケートに反映されるかどうかとなると、微妙なんでしょうね。 

☆「週刊少年サンデー」2005年8号☆

 ◎新連載第3回『最強! あおい坂高校野球部』作画:田中モトユキ

 についての所見(第1回時点からの比較)
 特筆事項はありません。第1回の時に申し上げた通り、積み重ねたキャリアによって文句の付け所の無い絵であると言って良いでしょう。

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの比較)
 第2回、第3回と、大目標の設定や主人公の周辺環境の描写など、着実に定跡に従った“布石”が次々と打たれていますね。能力のズバ抜けた主人公ら“シニア組”と、ザル守備の外野など“古参組”のギャップという後のエピソードの伏線となりそうな“置石”もあり、この辺りの組み立ては見事です。
 前作でもインパクト強烈な序盤をメイクしながらも、そこから一気に中弛みして見事に散った“前歴”がやや気になる所ではありますが、今の所は全く問題が無く、それどころか良作・傑作になる可能性も秘めていると言って良いでしょう。

 ただ、手放しで褒められない部分もあります。
 まず、前回から指摘させてもらっている登場人物のキャラクター面。これに関しては、ネット界隈での声を聞くと「上手くキャラ立ちさせている」という意見もあるようですので多分に主観的なジャッジという事になるのかも知れませんが、個人的には、まだ1人1人の個性が希薄で“動く記号”の域から脱し切れていないような気がするのです。現状でも必要最低限のレヴェルはクリアしていますが、作品で果たす役割以外に何か“人間”を感じさせるポイントが感じられれば、もっと良くなると思うのですが……。
 それともう1点。ストーリー展開が極端と言うか、ちょっと“読者にストレスを与えておく→主人公を活躍させて、ストレスの反動で大きなカタルシスを与える”…という図式を狙い過ぎているように感じられ、過剰な作為というか、あざとさのようなモノが見え隠れするのは如何なものかと。かなりの高望みではありますが、今少し緻密なストーリーテリングを期待したいのです。

 現時点での評価
 多少の懸念材料はありますが、現時点においては設定・ストーリー共に完成度は高く、評価はA−とします。前作が前作でしたので若干の不安は禁じ得ませんが、なかなかの好スタートを切る事が出来たようですね。
 次は第10回の時点で“チェックポイント”内で再評価をする予定です。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 『俺様は?』が今週で最終回となりました。最後の最後で作者本人が「本当に最後までよく分かりませんでした」と発言しましたが、確かに2年も続いた割には掴み所の見出せない微妙なテイストの作品だったような気がしますね。
 明らかにベタなギャグ作品ではないのですが、かといってシュール・不条理といった感じでもなく、時には極度にマニア向けのネタが仕込まれている…といった感じで、駒木個人としても最後まで作品世界にハマれなかったなぁ…という印象です。
 最終評価は無難にということにしておきましょうか。

 さて、連載作品の中でまず目に付いたのは、“メイド國生”という、もしイラクに彼女がいたならば、アメリカが宣戦布告する理由として十分過ぎる正当性が確保出来たと思われる超ド級の大量破壊兵器が登場した『こわしや我聞』ですね。
 何と言うかもう、あざといにも程があるだろうという。こんなツッコミ所満載な作品が暴走する中で、どうして『かってに改蔵』は終わってしまったのかと思うと無念でなりません(笑)。ただ、ここまで國生さんに頼らないと、もうこのマンガはやっていけないのかと思うと逆に悲しくもなりますが。

 最後に巻末付近から『道士郎でござる』をピックアップ。
 ちょっと前の“馬に乗った侍様”ネタも凄かったですが、今回も下手なギャグマンガより強烈な展開に悶絶しそうになりました。不良と侍が物凄い形相で「エーリーターン、あーそーぼー」って、もう立派な不条理ギャグ作品ですな、これは(笑)。また、エリが持って来たのが遊び用のバドミントンセットなのがポイント高し。
 掲載順を見ると今にも壮絶な討ち死にをしそうで心配なのですが、何とか長期間この作品で楽しみたいものですね。

 ……といったところで今日はこれまで。
 来週は公務多忙の上にコミックアワード準備もありますので、通常の講義はゼミ1回だけになってしまうと思います。ご辛抱を強いる事になりますが、どうか何卒。

 


 

2004年度第82回講義
1月16日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第3週分・合同)

 今週は「ジャンプ」が合併号休みで、「サンデー」もレビュー対象作が1本のみ──しかも、また後でお話しますが、その1本もイレギュラーな事態に──と寂しいラインナップ。そこで今回のゼミは、このタイミングを有効的に活用いたしまして、これまで出来ないでいた「コミックアワード」関連の企画を色々と済ませてしまいたいと思います。
 まずは昨年末に公募しましたグランプリノミネート推薦作品の選考結果発表とノミネート作品のレビューを。そして、これからのノミネート作品選考にあたり、04年度開始の連載作品の中でレビュー実施当時よりクオリティ等に大きな変化があった作品について、評価の変更を告知させてもらいます。
 この04年度開始の連載作品の評価変更については、既に一部を年末にコミケで頒布した総集編の中で発表しているのですが、今回はそれも含めてここで改めて紹介させて頂くこととします。

 ……それでは、本日のゼミを始めます。最初に「サンデー」関連の内容を、その後に特別企画へをお送りします。それでは最後までどうか何卒。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 今週は新連載と読み切りに関する告知はありませんでした。

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(04年9・10月期)

 入選=1編(週刊本誌または増刊に掲載決定)
  ・『メッセンジャー』
   大谷昭(22歳・山梨)  
 
《講評:圧倒的な画力・演出力で新しいヒーロー像を生み出した力作》
 佳作=2編
  ・『ボクらの又一先生』
   クリスタルな洋介(24歳・秋田)
  ・『僕は君が好き』
   後藤隼平(23歳・東京)
 努力賞=7編
  ・『Hopスイミング』
   佐藤かや(20歳・群馬)
  ・『TERUWO HAZARD 〜それでも彼女を愛せるか〜』
   野中咲織(19歳・福岡)
  ・『Boy hood』
   村上敬助(20歳・愛知)
  ・『オヅの魔法使い』
   笠原隆広(24歳・群馬)
  ・『はなまる!』
   明日葉マーク(26歳・北海道)
  ・『願いカナエさん』
   池渕孝幸(22歳・東京)
  ・『戦国プリズナー』
   篠原健輔(27歳・群馬)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎佳作のクリスタルな洋介さん04年期「爆笑王決定戦」で最終候補
 ◎努力賞の村上敬助さん04年7月期「まんがカレッジ」であと一歩で賞

 ……前期(04年8月期)に続いて今回も入選作が出た他、多数の作品が入賞する大豊作となったようですね。

 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:雑誌発売なし(チェックポイントも休止)
 「サンデー」
:短期集中連載第1回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年サンデー」2005年7号☆

 ◎短期集中連載第1回『あやかし堂のホウライ』作画:金田達也《原案協力:藤田和日郎》

 ●作者略歴
 生年月日、年齢は未判明。
 藤田和日郎さんのスタジオで6年以上もの間アシスタントを務め、チーフ格として作画を支えるベテランスタッフ。詳細なデータは不明ながら、過去(02年以前)に増刊号で読み切りを発表した経歴があるとのこと。 
 今作は、増刊04年GW号よりシリーズ連載中作品の週刊本誌出張版。金田さんにとってはこれが週刊本誌初登場となる。

 についての所見
 2ヶ月ほど前(04年11月第3週)に増刊連載分のレビューをしたばかりですので、今回敢えて付け加えないといけないポイントは有りません。気になる点もあるものの、マンガの絵としては及第点に達している……という見解です。
 ただ、若手・新人中心の増刊号から週刊本誌に移籍して来ると、及第点程度のクオリティでは、やはり全体的に見劣りが否めない印象ですね。背景や特殊効果が優れているのは週刊連載作品では当たり前の事ですし、人物作画がもう少し洗練されて来れば…といったところでしょうか。 

 ストーリー&設定についての所見
 今回、週刊本誌版を読んでビックリしました。

 なんと内容の大半が増刊版第1回と同じ!

 ページ数の都合か妖怪とのバトルシーンが次回に回されていて、替わりにアヤカとホウライの擬似バトルが付け加えられていますが、他の部分は丸写しに近い内容に……。
 確かに増刊版の第1回は素晴らしいクオリティでしたし、増刊と週刊本誌の発行部数の格差を考えると、「増刊版第1回のハイクオリティを、週刊本誌読者にも」…という発想は間違ってはいないと思います。ただ、増刊から追いかけて来た立場からすると、どうしても拍子抜けしてしまいますね。特にこれは、増刊版第1回のハイライトシーンが次回に先送りされてしまっているので余計にそう感じる部分があるのかも知れません。

 まぁそういうわけでして、こちらに関しても今回改めて申し上げるべき点は殆ど無しという事になってしまいます。ただ、先程から申し上げているように、ヤマ場のバトルシーンが無い分だけ、個人的には増刊版に比べると物足りない印象がありました

 現時点での評価
 本来の1回分のエピソードも終わっていないですし、今回はとりあえず評価保留とさせて頂きます。
 この度は短期集中連載ということで、少々間が開きますが、次回レビューは6週間後の最終回に行います。さすがに最終回まで来たら増刊版とは違うエピソードも語られるでしょうから、その時にまた改めて“新作”としての評価を行いたいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は今春開始となる『MÄR(メル)』のアニメの製作発表告知がありました。どうも今春からは昨年連載終了した『うえきの法則』もアニメ化されるようで、こう言っちゃアレですが、また微妙なポジションの作品ばかりアニメになるなぁ…と。
 しかし、『うえきの法則』アニメ化という事は、『ダンドー』パターンで連載復活という事になりそうですね。マンガの場合、アニメ化そのものには経済的効果は大きくなくて、それによって単行本が売れる事で出版社も作家も潤うわけですから……。でも、せっかく収拾つけた作品を大人の事情で「アニメ続く間だけでもやっといて」と復活させるのは、逆に勿体無い気がするんですけどね。

 ……さて、話を連載作品の方へ。
 『結界師』は画力の高さが演出力に繋がって、その演出が更に作品全体のクオリティに繋がって……という見事な好循環。いよいよ風格が備わって来ましたなぁ。
 それにしても、普段リアル世界の学校に出入りしている人間としては、最後のシーンなんかは高校生にしちゃあ色気が有り過ぎるんじゃないかと思ったりするわけですが(笑)。……でもまぁこの辺はターゲット読者層の感覚を意識した描写なんでしょう。男子中学生にしてみれば女子高生なんてのは大人のお姉さんですから。

 『犬夜叉』は久々のラブコメ・インターミッション。人物の表情といい、小気味良いテンポといい、さすがはラブコメ作家の“真祖”高橋留美子女史。今回は圧巻の内容でございました。
 しかし、こういう最近流行の軽いノリのドタバタを描けば凄いクオリティを出せるというのに、敢えてそういう安易な方向に流されずに一本筋の通ったストーリーを描き続けるというのは、やはり25年以上第一線で活躍し続けた作家としての矜持なんでしょうね。

 ──さて、これで“レギュラー枠”の内容は終了。冒頭で申し上げた通り、これより“読書メモ”枠内で特別企画をお送りします。

◇駒木博士の読書メモ(1月第3週)◇

 では、第3回「仁川経済大学コミックアワード」関連の特別企画に移らせて頂きます。

 まずはグランプリ候補の“ワイルドカード”枠ノミネートにあたり、受講生の皆さんから頂いた推薦作品の選考結果について、発表させて頂きます。
 今回のノミネート作品推薦では、「2票以上の得票があった作品を優先的に審査する」という内規を設けて実施しました。しかしさすがは当講座の受講生さんと申し上げるべきか、票は割れに割れて推薦1票のみの作品が相当数を占める状況に。結局、2票以上の得票を獲得したのは以下の3作品となりました(以前に2作品と発表しましたが、後に集計ミスが判明しました。申し訳有りません)

『おおきく振りかぶって』作画:ひぐちアサ/月刊「アフタヌーン」連載中
『シグルイ』作:南條 範夫/画:山口貴由/月刊「チャンピオンRED」連載
『ヒストリエ』作画:岩明均/月刊「アフタヌーン」連載中

 ……この結果を受けまして、駒木は12月末から1月上旬にかけ、これらの“優先枠”3作品について既刊の単行本を精読。ノミネートにあたっての“審査”を実施致しました。また、これと併せ、推薦1票の作品につきましても“参考作品”として、時間の許す限り精読させて頂きました。
 さすがは当講座の受講生さんが「是非に」とおっしゃる作品だけあって、いずれも魅力的な要素が少なからず込められた佳作・良作ばかり。レビュアーの立場を離れた一読者としてなら「面白い」と断言出来る作品のオンパレードで、当ゼミのレビュー基準に照らし合わせた場合でも、大半の推薦作品についてA−以上の評価を出したことでしょう。
 そんなハイレヴェルな争いの中、力強い伸び脚で馬群から一歩、二歩と抜け出して来たのは、「やはり」と言いますか、推薦投票で最多得票を獲得した『おおきく振りかぶって』でした。並の創り手ではスケールの小さい平凡な作品に留まってしまうであろう題材を、緻密な計算の施された設定・シナリオの組み立てと細微に至るまで配慮の施されたストーリーテリングによって、非常に完成度の高い作品に“大化け”させたのには度肝を抜かれる思いでありました。

 一方、残りの“優先枠”2作品については、それぞれ高く評価出来るポイントがあるものの、若干のマイナス要素も見受けられました
 まず『シグルイ』は、強烈なインパクトを内包しながらも完成度に揺るぎを全く見せないハイクオリティの世界観と、抜群の画力に裏打ちされた高度な演出テクニックが光る良作でした。しかしながら、ストーリー展開にやや一貫性を欠いており、そのためか全体的にどことなく散漫な印象が否めませんでした。
 次に『ヒストリエ』は、我々現代の日本人には縁遠い古代ギリシア世界を現実感タップリに描き上げた表現力にまず舌を巻き、更には長期的展望に基づいて丹念に紡ぎ出され骨太のシナリオにも唸らされる…といういかにも玄人好みのする作品でした。ただ、ストーリー展開はかなりのスローテンポで、しかも淡々とし過ぎる嫌いも有り、エンターテインメント性において少々物足りない部分があったのも事実です。
 また、“参考作品”についても先述のようにそれぞれに見所のある作品ばかりではあったのですが、クオリティ的には概ね上記“優先枠”2作品と互角程度といったところ。残念ながら、推薦投票での劣勢を跳ね返すには至りませんでした。

 ノミネート作品選出にあたっては、皆さんから多数の推薦を頂いた事もあり、当初は2〜3作品程度のノミネートを想定しておりました。しかし『おおきく──』は、駒木個人の評価だけでなく、受講生さんからの推薦投票においても頭一つ以上抜きん出た作品で、結果として他の候補作とは明らかに一線を画する存在になってしまいました。
 こういうシチュエーションで他の作品をノミネートさせても、これは無理矢理に負け戦を強いるようなもの。“ノミネートのためのノミネート”をしてしまっては、こうしてわざわざ審査をしている意義が見出せなくなります。
 よって、今回は『おおきく振りかぶって』1作品のみのノミネートとさせて頂きます。他の作品を推薦された方に対しては心苦しい思いもあるのですが、どうかご理解を頂きたく存じます。

 ──ではここで改めまして、「コミックアワード」のグランプリへのノミネートが決定した『おおきく振りかぶって』のレビューをお送りします。単行本2巻収録分までの内容についてという事で、ひょっとすると「アフタヌーン」読者の方の認識とはギャップがあるかも知れませんが、とりあえず今回はここまででご勘弁を。

 ◎『おおきく振りかぶって』作画:ひぐちアサ/月刊「アフタヌーン」連載中) 

 ●作者略歴
 資料不足のため生年月日、年齢は未判明・調査中。女流作家とのこと。
 新人当時は“ひぐちアーサー”名義。「アフタヌーン四季賞」98年春のコンテストで四季賞を受賞し、受賞作『ゆくところ』が「アフタヌーン」98年8月期に掲載されてデビュー。
 その後、1年余のブランクがあったが、00年2月号から5月号まで『家族のそれから』を短期連載し、同年11月号からは初の長期連載となる『ヤサシイワタシ』を発表した(01年12月号まで、全13回)
 今作は03年9月号より連載が開始、04年3月に単行本1巻が刊行された。05年1月21日には3巻が発売される。

 についての所見
 ディフォルメが弱い割には「ビジュアルでリアリティを持たせよう」という意図があまり感じられないという、ややインパクトの弱い絵柄ではありますね。登場人物の描き分けにも苦心惨憺した様子が見て取れました(笑)。また、線もスッキリと洗練されていないため、見る人によっては若干粗く感じられるかも知れません。
 ただ、野球シーンなどの演出や動的表現の出来映えからすれば画力そのものは決して低いとは思えず、これは「下手ではないが器用さに欠ける絵」と表現するのが妥当ではなかろうかと思います。作品の評価に与える影響としては、「加点材料にも減点材料にもならない程度」といったところですね。

 ストーリー&設定についての所見
 こちらは殆ど文句のつけようの無い、とにかく素晴らしい内容です。 

 まず特筆すべきは、やはり登場人物たちの多彩なキャラクター設定でしょう。それもただ性格を描くだけでなく、その性格にシンクロした行動を、更にその行動にシンクロさせた重厚なエピソードを巧みに組み上げています。キャラクター主導でありながら、決してストーリーがなおざりになっていないという点には大変好感が持てます。
 “性格→行動”はまだしも、“行動→重厚なエピソード”が達成できた作品なんてなかなか見当たりませんし、ましてや“トンデモ”要素に頼る事無く、御都合主義的な要素も殆ど見当たらないケースとなると、本当に貴重な存在ではないでしょうか。
 また、主人公をはじめとする主要登場人物の性格はネガティブな要素も少なくないのですが、読み手が感情移入出来るキャラクターの条件である、“憧れるだけの強さと、共感できるだけの弱さ”になるよう上手に調整出来ているのも見事です。

 しかし、もっと凄いのが試合シーン。とにかく“盛り上がるバトル”の必要条件と言える要素がこれでもか、これでもか、と盛り込まれています
 非常に使い勝手の悪い特殊能力を持ち、終始苦戦を強いられながらも土壇場になるとポテンシャルを完全に発揮する事の出来る、“憧れるだけの強さと、共感できるだけの弱さ”を併せ持つ主人公。
 その主人公を支えるは、“勝負を左右しない程度の大仕事”をタイミング良くやってのける、頼り甲斐があって個性豊かなサブキャラたち。
 そして高い能力を持つ敵役が主人公の前に立ちはだかり、駆け引きと中身の濃い心理戦によって繰り広げられるシーソーゲームに次ぐシーソーゲーム。その中で起こる葛藤と自己成長がもたらす起死回生。
 ……こうして挙げると、まるで「これが『ジャンプ』で成功するバトル物マンガの条件だ!」…みたいですが、正にその通り。言い換えるとこの作品は、「優れた“少年マンガ的戦闘シーン”を上手く野球に“翻訳”したマンガ」です。
 しかもこれを安易なミラクルの濫発や、底抜け脱線ゲーム的な必殺技の応酬無しで実現させているのですから、これはもうとんでもないクオリティです。

 今後は月刊連載というページ数が限定された条件の中で甲子園予選を描いてゆくという難問が待ち構えていますが、是非とも現状のクオリティを維持したまま連載を全うしてもらいたいものです。

 現時点の評価
 勿論、評価は文句ナシのAです。
 『鋼の錬金術師』といい、この作品といい、最近の名作と呼ばれる作品は、マンガ出版業界の中枢から少し離れた所から輩出されるケースが多いですね。名作ドーナツ化現象とでも言うんでしょうか。
 まぁ「ジャンプ」「サンデー」のレビューを専門にしている身としては寂しい話ですが、メジャー誌は出版不況の中で会社の屋台骨を支えるという使命があるだけに、制約も大きくなって来ているのでしょうね。それに引きかえ大手出版社(または他業種メインの会社)のマニア向け月刊誌には、じっくりと構想を練られる環境の中、“大人の事情”に囚われずに作家性を存分に発揮出来る…という、名作を生み出せるだけの豊かな土壌が広がっているのかも知れません。

 
 ──さて、長丁場の講義となりましたが、いよいよラスト。「ジャンプ」「サンデー」04年度連載開始作品の評価修正の告知です。この作業が終了すれば、04年度「コミックアワード」の各部門賞ノミネート有資格作品が確定する事になりますね。

 それではまずは、「ジャンプ」系作品から。評価に変更の無い作品については解説を割愛させてもらいます。

 ◎『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健
 旧評価:A−寄りB+新評価:A−

 アドリブに次ぐアドリブによって、その場その場でストーリーを積み重ねていく…という極めてリスキーな手法で描かれているこの作品。大局観を欠いたストーリー展開によってシナリオの重厚さを欠いた場面も見受けられ、その分弱含みの材料も多い作品ではあります。
 ですが現状においては奇跡的に“非常にレヴェルの高いその場凌ぎ”が持続されており、作品全体としても概ね成功を収めているのではないでしょうか。特に閉塞感満点のライト版キラとLとの攻防戦をクリアして新展開に繋げた辺りのストーリーテリングには凄味すら感じさせます。
 ただし、今後シナリオの方向性選択を一歩間違えれば奈落の底…というような作品である事も確か。この作品の評価を高い所に固定させるには、最終回の円満終了を待たなければならないでしょう。しかし、早くも1巻あたりの発行部数がミリオンを突破し、人気作ゆえの連載引き伸ばしが必至な情勢の中、果たしてどこまで明日の見えない戦いを続けていけるのか、心配の種は尽きません。

 ◎『銀魂』作画:空知英秋) 
 旧評価:B+寄りB
新評価:B+寄りB(据置)

 ◎『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦
 旧評価:A−新評価:A−(据置)

 ◎『未確認生物ゲドー』作画:岡野剛
 旧評価:B+新評価:B

 連載第3回時点では、一話完結型のストーリーを手堅くまとめる技術と高い画力を考慮してB+評価としましたが、ここ最近のストーリーの迷走ぶりは目に余るものがあり、今回を機に下方修正する事となりました。

 ◎『家庭教師ヒットマン REBORN!』作画:天野明
 旧評価:B−新評価:B

 連載第3回時点のレビューでは、主人公がアイテムやサブキャラに支えられながら1つの目標を達成するべく奮闘するという、『タルるーと』路線”の作品として扱い、その上で厳しい評価を下しました。しかし、直後からこの作品は、キャラクター超重視型の一話完結型コメディ路線に大きくテコ入れされ、B−評価を下した根拠が解消されてしまいました。
 現状では、内容の薄いストーリー性が大きな減点材料となるものの、多彩な登場人物によるテンポの良いドタバタ劇によってある程度“読める”作品になっていると言って良いでしょう。当ゼミの評価Bの基準である、「単なる雑誌の中の1作品として割り切って読む分には、さほど問題の無い作品」は満たされていると考え、新しい評価はBとさせて頂きました。

 『D.Gray−man』作画:星野桂
 旧評価:B−新評価:B寄りB+

 第3回時点では、難解な設定提示の連発と余りにもぎこちないストーリー展開のために“前途多難”という事で厳しい暫定評価を下しました。しかしその後は微妙にキャラ重視に路線を変更して読者の興味を繋ぎつつ、時間をかけて設定の難解さを解きほぐしていって、何とか上手く軌道に乗せる事が出来たようです。
 相変わらずストーリーがぎこちなくて難解──作品を読む限り、星野さんは自分が伝えたい事を伝えたいように伝えるのが苦手なようです──なのは頂けませんが、各章のエピローグなどで優れた脚本・演出力を垣間見せる事もしばしば。「大きな問題はあるが見所のある作品」ということで、新評価は弱含みのB+としました。

 ◎『Wāqwāq』作画:藤崎竜
 旧評価:B+新評価:B

 掲載順(人気)降下以後、まるで“投了”のタイミングを探っているかのような中身の薄いバトルの連続に陥り、クオリティの下げ止まりが見えません。長期連載が実現して軌道に乗った『D.Gray−man』とまさに好対照な成り行きと言えるでしょう。商業誌ならではの悲劇ですね。

 ※『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之)に関しては、連載開始間もない(04年53号開始)ため、連載版に限り特例として05年度作品の扱いとします。よって、今回では評価の見直しは行いません。

 ……では、次に「サンデー」系連載作品についても評価の見直しをしておきましょう。

 ◎『こわしや我聞』作画:藤木俊
 旧評価:B新評価:B(据置)

 ◎『思春期刑事ミノル小林』作画:水口尚樹
 旧評価:B+寄りB新評価:B+寄りB(据置)

 ◎『道士郎でござる』(作画:西森博之
 旧評価:B+新評価:B+(据置)

 ◎『クロザクロ』作画:夏目義徳
 旧評価:B+新評価:B 

 恐らくご本人が見ているであろう前で気が引けますが(笑)、今回下方修正の対象となりました。登場人物のキャラクターの弱さ(奇抜な外見や行動ではなく、内面描写が欠けているという部分で)と迷走気味のストーリーを勘案すると、減点材料の多さ故に厳しい評価を下さざるを得ません。
 ただ、ここ最近の展開は確信犯的に「面白いデタラメ」を意識した話作りであるようにも見え、当ゼミの評価基準では量れない魅力を備えた異色作に化ける可能性もありますね。

 なお、この作品を他の評価B作品と同等と扱うのに疑問を抱かれる方もいらっしゃるでしょうが、この作品に限らず、「低い基礎点でほぼ満点の評価B」「高い基礎点から大きく減点されて評価B」とでは同じ評価でも意味合いが違って来ます。作品の7段階評価については、その辺の解釈もどうか適切にと、皆さんにお願い申し上げます。

 ◎『東遊記』作画:酒井ようへい
 旧評価:B+新評価:B寄りB− 

 同人版では新評価Bとしてますが、脱稿後の展開も考慮して更に下方修正しました。
 毎回毎回、週を追うごとにクオリティが目に見えて下がっている悲惨な作品です。序盤こそ“冠茂プロデュース効果”による計算づくのエンターテインメント性が見受けられたのですが、最近はテーマ不在の中、漠然とした目標に向かって、ただのんべんだらりと続いているだけ…といった感じです。
 近況において特に酷いのが脚本力の貧弱さで、セリフに対する配慮の無さは致命的とも言える欠点になっています。最近では誌面の後半に追いやられる事も目立っていますし、前途は極めて厳しいと言わざるを得ません。

 ◎『ハヤテのごとく!』作画:畑健二郎
 旧評価:B新評価:B(据置)


 ……というわけで、これで04年度の全作品について、「コミックアワード」選考時点での評価が確定しました。ではここで、第3回「仁川経済大学コミックアワード」の仁川経済大学賞(グランプリ)ノミネート作品と、各部門賞ノミネート有資格作品を改めて紹介しておきましょう。
 なお、一部ではグランプリ以上に好評という噂の「ラズベリーコミック賞」のノミネート作品も発表しておきます。ただ、今年のラスベリーは、わざわざノミネート作品を発表する意味があるのかな…などと思ったりもするのですが(笑)。

※各部門ノミネート(有資格)作品一覧※

◆仁川経済大学賞(グランプリ)
 …“グランプリ”という名の通り、この1年の間に当ゼミでレビューした作品の中で最も優秀な作品に送られる賞。
 ノミネート資格は、“ジャンプ&サンデー”の名の付く各部門賞の受賞作と、「ジャンプ」、「サンデー」両誌以外のレビュー対象作の中でA評価(但し、連載作品については最新に発表された評価)を獲得した作品。

●(ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞受賞作)
●(ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞受賞作)
●(ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞受賞作)
●(ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞受賞作)
●(ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞受賞作)
『おおきく振りかぶって』作画:ひぐちアサ/「アフタヌーン」連載中)

◆ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞
(※ノミネート有資格作品)
…「週刊少年ジャンプ」系と「週刊少年サンデー」系の雑誌で長編連載されたストーリー作品が対象。
 ノミネート資格は対象作品の内、A−以上の評価(但し、連載中に評価が変更されている場合は最新に発表されたもの)を得た作品。

『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健
『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦
  《以上、「週刊少年ジャンプ」連載》
『あやかし堂のホウライ』作画:金田達也/原案協力:藤田和日郎
  《以上、「週刊少年サンデー超(スーパー)」連載》

◆ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞
(※ノミネート資格保持作品)

…「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」系の雑誌に掲載された読み切り、または短期集中連載のストーリー作品が対象。
 ノミネート資格は、長編作品賞と同じく評価A−以上。

『NOIZ -ノイズ-』作画:樋口大輔
『SNOW IN THE DARK』作画:叶恭弘
『ホライズン・エキスプレス』作画:中島諭宇樹
『雨女、晴れ男』作:長谷川尚代/画:藤野耕平
『窯神』作画:岩本直輝
『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所(増刊掲載版読み切り)作画:西義之
『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所(週刊本誌掲載版読み切り)作画:西義之
『PMG-0』作画:遠藤達哉
『賈允』作画:内水融
『狗童』作画:岩代俊明
『スーパーメテオ』作画:高橋一郎
 《以上、「週刊少年ジャンプ」系雑誌に掲載》
『絶対可憐チルドレン(短期集中連載版)作画:椎名高志
 《以上、「週刊少年サンデー」系雑誌に掲載》

◆ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞
(※ノミネート資格保持作品)
…「週刊少年ジャンプ」系と「週刊少年サンデー」系の雑誌に掲載された全ギャグ作品が対象。
 ノミネート資格はA−以上の評価(但し、連載作品については、連載中に評価が変更されている場合は最新に発表されたもの)を得た作品。

『無敵鉄姫スピンちゃん』作画:大亜門
『吉野君の告白』作画:坂本裕次郎
『伝説のヒロイヤルシティー』作画:大亜門) 
 《以上、「週刊少年ジャンプ」系雑誌に掲載》

◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞
(※ノミネート資格保持作品)

…「週刊少年ジャンプ」や「週刊少年サンデー」の本誌や増刊において、両誌の週刊本誌で長期連載(=短期集中でない連載)を経験していない作家の発表した読み切り・短期集中連載作品または初の長期連載作品が対象。ただし、その作者が他誌で長期連載経験があっても有資格とする“大リーグ新人王方式”を採用。
 ノミネート資格はA−以上の評価(但し、連載作品については、連載中に評価が変更されている場合は最新に発表されたもの)を得た作品。

『ホライズン・エキスプレス』作画:中島諭宇樹
『窯神』作画:岩本直輝
『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所(増刊掲載版読み切り)作画:西義之
『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所(週刊本誌掲載版読み切り)作画:西義之
『PMG-0』作画:遠藤達哉
『狗童』作画:岩代俊明
『スーパーメテオ』作画:高橋一郎
 《以上、「週刊少年ジャンプ」系雑誌に掲載》

◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞
(※ノミネート資格保持作品)
…「週刊少年ジャンプ」や「週刊少年サンデー」の本誌や増刊において、両誌の週刊本誌で長期連載(=短期集中でない連載)を経験していない作家の発表したギャグ作品(初の長期連載作品含む)が対象。ただし、その作者が他誌で長期連載経験があっても有資格とする“大リーグ新人王方式”を採用。
 ノミネート資格はA−以上の評価(但し、連載作品については、連載中に評価が変更されている場合は最新に発表されたもの)を得た作品。

『無敵鉄姫スピンちゃん』作画:大亜門
『吉野君の告白』作画:坂本裕次郎

◎ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
…映画のアカデミー賞に対するゴールデンラズベリー賞をモチーフにした、最悪な作品を表彰する賞。対象作はレビュー対象にした全作品で、作品のクオリティの低さだけにとどまらず、あらゆる意味において「最悪!」という作品を選出する。ノミネート及び審査基準は駒木ハヤトの独断。

『怪奇千万! 十五郎』作画:川久保栄二/「週刊少年サンデー」連載)
『少年守護神(連載版)作画:東直輝/「週刊少年ジャンプ」連載)
『BLACK CAT特別編』作画:矢吹健太朗/「週刊少年ジャンプ」掲載」
『地上最速青春卓球少年 ぷーやん』作画:霧木凡ケン/「週刊少年ジャンプ」連載)
『味覚師ツムジ』作:宇水語/画:佐藤雅史/「赤マルジャンプ」掲載)

 各部門賞につきましては、有資格作品の中からクオリティの充実度や授賞の妥当性などの観点から非公開の予備審査を行い、表彰式前に改めてノミネート作品を発表します。

 ──さて、かなりの長丁場になりましたが、これで今週の講義を終わります。

 


 

2004年度第80回講義
1月7日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第2週分・合同)

 学校や企業の年末年始休みも終わり、受講生さんの数も戻って来たみたいですね。どのウェブサイトでも大なり小なりそうなんでしょうが、ウチはアクセス解析すると中小のプロバイダーよりも大手企業や大学からのアクセスの方が多かったりする程ですので、盆暮れ正月前後は受講生数の変動が激しくて少々ビビります(笑)。
 ちなみに現在の大学経由のアクセス数ベスト5は、北海道大学、佐賀大学、大阪大学、東京大学、筑波大学。これらの大学は、1つの学校に籍を置きながら別の大学(仁川経済大)の講義も受講するという、非常に勉強熱心な学生さんが揃った模範的な大学です(笑)。
 ……以前はミスマッチもいいとこで東大がトップだったのですが、卒業していった人も多いんでしょうね。そのせいか、最近はgo.jp(日本の政府機関)からのアクセスも少なくありません。何か、この社会学講座が国を組織の内側から徐々に蝕んで行ってるような、そんな気にさせられます(笑)。

 ……というわけで、今日も年明け発売の「ジャンプ」「サンデー」のレビューで着実に日本を駄目にしていきたいと思います。どうか何卒。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(7号)『モグリ陰陽師SAYMAY!』作画:大石浩二)が掲載されます。
 大石さんは昨年に代原掲載の形で暫定デビューした若手ギャグ作家さんで、3度の代原掲載後、増刊に2度読み切りを発表しています。今回は31ページというまとまったボリュームでの“週刊本誌凱旋”。連載へ向けてのトライアルという事になりそうですね。

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(7号)『オレたちのバカ殿』作画:ポンセ前田)が掲載されます。
 このポンセ前田さんも若手ギャグ作家さん。「赤塚賞」佳作受賞を経て、昨年04年32〜33号に前・後編形式の読み切りでいきなりの週刊本誌デビュー。今回は昨秋発売のギャグ増刊に掲載された同タイトル作品の改作ということになりそうですね。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(7号)より『あやかし堂のホウライ』原案協力:藤田和日郎/作画:金田達也)が7回の予定で短期集中連載されます。
 これは、現在は隔月で発行されている増刊号に連載中の作品の“出張版”。増刊で連載されている内容については、04年11月21日付ゼミでレビューを行いましたので、詳細はレジュメを参照して頂きたいのですが、当講座期待の作品と申し上げておきます。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから(←今週、少し加筆してます)。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年5・6合併号☆

 ◎読み切り『スベルヲイトワズ』作画:森田まさのり

 ●作者略歴
 1966年12月22日生まれの現在38歳
 84年上期「手塚賞」で佳作を受賞(森田真法名義)し、受賞作『IT'S LATE!』が「フレッシュジャンプ(注:80年代に出版されていた、「サンデー超増刊」のような内容の、若手作家の登竜門的月刊誌)に掲載されてデビュー。その後、85年上期「手塚賞」でも佳作を受賞し、86年から87年にかけて当時の「少年ジャンプ」季刊増刊で3回の掲載を果たす。なおこの時期、85年よりしばらくの間、『北斗の拳』を連載中の原哲夫さんのスタジオでのアシスタントも務めていた。
 週刊本誌初登場は87年50号掲載の『BACHI−ATARI ROCK』。これがリメイク、改題の末に連載化されたのが『ろくでなしBLUES』で、8年9ヶ月間・422回(88年25号〜97年10号)にも及ぶ長期連載に。
 その後、1年ほど読み切り中心のマイペースな活動を続けた後、98年より『ROOKIES』を連載(98年10号〜03年39号、途中中断あり。通算239回)
 その後は「赤マル」04年春号、「週刊ヤングジャンプ」04年37・38合併号にそれぞれ読み切りを発表。今回は約1年半ぶりの週刊本誌復帰となる。

 についての所見
 これだけ絵の達者な作家さんの作品だと、何も述べる事が無くて済むので楽で良いですね(笑)。
 しかし、波田陽区顔の悪役には思わずニヤリとさせられました。顔的にも良い人選ですし、この人なら文句なんか絶対に言って来ないでしょうしねぇ。むしろ「切腹!」のネタが1つ増えたって事で喜ばれるんじゃないですか。

 ストーリー・設定についての所見
 森田さんが以前から手がけている、漫才を題材にした青春ドラマですね。しかも今回は漫才師志望の高校生が主人公という、かなり異色な内容のストーリーになりました。
 こういう特殊な作品は、下手をすると無残な企画倒れに終わってしまうものですが、そこはさすがに森田さん、流れるような脚本、盛り上げ所を考えたテンポ良いストーリー展開でキッチリと読み応えのあるお話に仕上がっています。こんな能力バトルもスポーツも出て来ない地味な話で、よくぞここまでキッチリ“起承転結”のメリハリのついた少年マンガに仕上がったものだと、心の底から感心させられます。

 ただ、この作品の厳しい所は、そんな脚本やストーリーの完成度だけでなく、作中に出て来るハガキ職人のネタや漫才と言ったギャグの質についても非常に高い水準を求められる事。しかも“作中で「笑える」という事になっているギャグ”は笑えるように、“作中で「寒い」という事になっているギャグ”は寒くなければならないという、絶妙の匙加減が求められます。
 で、この作品の場合、果たしてその匙加減は上手くハマっていたでしょうか? …まぁこれは読み手個々の判断に委ねられるのでしょうが、駒木には“作中では大爆笑間違いなし”のはずのネタは、そこまで質の高いものであるとは思えませんでした。少なくとも大爆笑出来ない人も相当数にのぼるだろうな、と。
 ただ、漫才に関しては、演者の動きが激しい上に喋りの微妙なトーンの変化や独特の“間”で笑いを生み出すという非常に複雑な演芸ですからね。これをマンガという二次元の静止画で再現するという事自体に、そもそも無理が有ったのではないでしょうか。
 よって、こと漫才シーンに関しては、森田さんの力量云々と言うよりも、マンガという表現手段の限界と言った方が良いのかも知れません。例えば、南海キャンディーズのネタをマンガで再現してくれと言われたって、そうそう出来るもんじゃないでしょうし。

 それともう1点、キャラクター設定について。限られたページ数の中でソツなく主要登場人物のキャラを描写出来ているのは素晴らしいのですが、主人公はもうちょっと読み手が感情移入出来るようなキャラクターでも良かったかも知れませんね。
 まぁそれでも、主人公が相対的に“善属性”になるよう意地悪い悪役を配置したり、主人公を応援する気になれなかった人のための受け皿的なキャラ・蒼太を“第二主人公”にするなど、配慮も抜かりありません。この辺りのフォロー能力は、やはり「さすが」といったところでしょう。

 今回の評価
 たとえそれが困難な作業とはいえ、やはり作品のキモであるギャグの質の再現度が今一つだったのは痛いですね。評価はちと厳しいでしょうがB+とさせてもらいます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 時間が無いので今日は軽く。

 外伝が最終回を迎えた『NARUTO』。さすが「ジャンプ」の準看板だけあって、しっかりと最後まで読ませてくれました。
 ただ正直言って6回引っ張るだけのプロットだったのかな…という感も否めずで。途中からどう考えてもミエミエの結末だっただけに、ラストシーンで今少し読み手の心を鷲掴みにして握り潰すような盛り上げが欲しかったかなと。特に駒木は、「岸本さんはラストシーンの名手」という認識でいますので、余計に要求レヴェルが高くなっちゃうんですよね。

 そして珍しく1つのエピソードを引っ張っていた『銀魂』も、銀さん記憶喪失回復で一段落。しかし、いくらギャグ色の強い作品でも、あんな御都合主義なストーリー展開だったら普通は辟易するもんですが、それでもキッチリ読ませられてしまうというのは、“お約束”の使い方と脚本が抜群に上手いからなんでしょうね。
 で、空知さんは05年1月期の「十二傑新人漫画賞」の審査員に抜擢。空知さんの事を「十二傑」の前身の「天下一漫画賞」で佳作を受賞した所から追いかけている人間としては非常に感慨深いです(笑)。
 ……というか、当講座開講以降3年の月例賞受賞者で、そこから連載を獲得して審査員を務めるところまで来た作家さんって空知さんだけなんですね。そう考えると、やっぱり「ジャンプ」で成功するのって狭き門ですねぇ……。

☆「週刊少年サンデー」2005年6号☆

 ◎新連載『最強! あおい坂高校野球部』作画:田中モトユキ

 ●作者略歴
 生年非公開の12月26日生まれ。
 1996年に「サンデーまんがカレッジ」で入選、97年前期「小学館新人コミック大賞」少年部門でも入選
 デビュー前後の経歴についてはデータ不足のため現在調査中だが、初の週刊連載は『リベロ革命!!』で、これは00年4・5合併号より02年18号まで2年余に渡って続いた。その連載終了後も、ほとんどインターバルを置かず、同年23号より『リベロ──』連載中に発表した読み切りを大幅に改作した『鳳BOMBER』を連載開始。ただしこれは人気が伸び悩み、03年21号までで打ち切り終了となった。
 その後は月刊増刊03年12月号に、男子チアリーディングを題材にした異色作『ヤンチア!』を発表するも、ここまで約1年のブランクを作っていた。

 についての所見
 合計3年半もの週刊連載経験に裏打ちされた作画技術は熟練の域に達しようとしていますね。主要登場人物の多い高校野球マンガでは必須条件となる多彩な顔の描き分けも巧みにクリアしていますし、試合シーンの動感溢れる描写はまさに過去に積み重ねたキャリアの賜物でしょう。
 前の連載作品も野球マンガでしたし、今後についても不安材料は皆無に近いと言って良いでしょう。ビジュアル面に関しては安心して読める作品になりそうですね。

 ストーリー&設定についての所見
 高校野球、無名校に有望選手が入学、監督が野球一筋の若い女性……となると、どうしても最近の話題作『おおきく振りかぶって』が思い出されてしまいますね。ただ、『おおきく──』が「アフタヌーン」連載作品らしく、十分に時間とページ数を費やしてキャラ描写などの“布石”を進めていったのに対し、こちらの『あおい坂』はいかにも週刊少年誌連載作品らしい、ハイテンポでダイナミックな立ち上がりとなりました。
 まぁ競争の激しい週刊少年誌では、連載当初から読者を掴んでアンケート結果を出さなくてはならない…という大人の事情がありますので、第1回から読み手にインパクトとカタルシスを与えるという考え方は間違ってはいないでしょう。間違ってはいないのですが、ただしかし、さすがにこの作品のストーリー展開は性急に過ぎたような気がします。
 何しろ慌ててストーリーを進めたがために、主役格の5人のキャラクター描写が全く不足したまま最初の試合シーンを迎えてしまいました。これでは読み手は作中世界を、ただ漠然とした状態で受け止めるしかありませんし、第一、誰がどういう人物だかよく判らない内に華々しい活躍をされても、読み手がその状況を感情移入して楽しめるかどうかと言うと……。
 また、読み手に大きなカタルシスを与えるためには、前もって過度に不快にさせない程度のストレスを与えておく必要がありますが、この点に関しても性急な展開が裏目に出てしまっているような気がします。一応は、「学校内で日陰の存在に置かれ、部員不足にも悩んでいる」…というストレス要素を設定してはいるのですが、随分と手垢のついたパターンだけに新鮮味が無く、おまけにページ数の不足から具体的な状況描写をする事が出来ていません。こんな状態では、いくら盛り上げようと工夫を凝らしても、読み手が得られるカタルシスはかなり限定されてしまうでしょう。
 もし、この第1回の内容を2倍から3倍ぐらいのページ数をかけてジックリ描けば、同じプロットでも随分と違った印象を与える事が出来たと思うのですが……。

 ただ、そうは言ってもまだ連載第1回ですから、今後時間をかけて登場人物のキャラクターを綿密に描き、着実に“布石”を打ってゆけば、早い段階で巻き返す事も可能でしょう。なので今はしばらく“経過観察”を続けたいと思います。

 現時点での評価
 というわけで評価は保留。第3回、そしてそれ以降もジックリと様子を見定めていきたいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 時間の都合で今週は大きな動きのあった『いでじゅう!』だけ。
 一世一代の告白の結果は、状況はほぼ現状維持、ただし好く好かれるの“攻守”交代? ……という絶妙の玉虫色決着に。ここまで盛り上げておいて焦らされたのはアレですが、でもさすがモリさん落とし所を見つけるのが上手いなぁと。
 しかし、精神的な事に限って言えば、こういう物凄く手応えのある片想い期間ってのが、一番恋愛してて楽しい時期だったりしませんか? ……良いなあ、若いモンは活き活きと恋愛してて(笑)。

 ──といったところで今週はここまで。来週は「ジャンプ」が休みなので、随分と遅れ気味だった04年度開始連載作品の評価修正と、「コミックアワード」“ワイルドカード枠”の推薦作品発表が出来ると思います。それでは。

 


 

2004年度第79回講義
1月5日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(12月第5週/1月第1週分・合同)

 12月30日のコミケット67におきましては、駒木研究室出展のスペースに多数の受講生さんにご来場&「『現代マンガ時評』04年度総集編」のご購入をして頂き、誠に有難うございました。この場を借り、改めて御礼申し上げます。
 なお、本の“メイキング”につきましては、昨日から始まりました旅行記の中でお送りする予定です。そちらも併せて受講下さるようお願い申し上げます。

 さて、今日は旅行等のために実施が遅れておりました、04年末発売の「赤マルジャンプ」05年冬号・全作品レビューをお送りさせて頂きます。例によって週刊本誌連載作品の番外編や企画モノは対象外とし、作品レビューにつきましても、通常より若干簡略化したものにするつもりです。そうは言っても、始めたら長話になるでしょうが(笑)。
 それでは時間も差し迫ってますし、早速参りましょう。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

◆「赤マルジャンプ」05年冬号レビュー◆

 ◎読み切り『Luck Stealer −ラックスティーラー−』作画:かずはじめ

 ●作者略歴
 1971年9月19日生まれの現在33歳
 新人賞の受賞歴が全く無いまま、94年春の増刊で後の出世作となる『MIND ASSASSIN』でデビュー
 続いて、同年開催された第1回「ジャンプ新人海賊杯」にデビュー作を改作してエントリーし、読者投票で優勝。これにより優先連載権を獲得し、94年52号より同作の連載を開始。しかし翌95年27号までの27回で打ち切りとなり、その後は季刊増刊や「月刊少年ジャンプ」誌で連作短編の形で続編を発表した(作品としては未完のまま)
 その後、週刊本誌96年29号、97年3・4合併号にそれぞれ読み切りを発表した後、『明陵帝 梧桐勢十郎』を週刊本誌に連載。97年52号より99年52・53合併号まで、約2年の長期連載となる。その連載終了直後から、「赤マル」00年冬(新年)号、週刊本誌00年21・22合併号に新作読み切りを発表するなど意欲的な活動を続け、01年春には『鴉MAN』で3度目の連載を獲得(01年24号〜40号/16回打ち切り終了)。早期の打ち切りからのリカバーも早く、「赤マル」02年冬(新年)号、週刊本誌02年37・38合併号にまたもや相次いで新作を発表した。
 4度目の連載は03年31号より開始された『神奈川磯南風天組』ただしこれも2クール18回、同年51号までで打ち切り終了となった。連続短期打ち切りのため、「ジャンプ」復帰が危ぶまれたが、今回で増刊ながら約1年ぶりの復帰を果たす。

 についての所見
 デビューから間もなく10年、もう随分前から画風は固まっている感じですね。動性や人物のパーツ造型の写実性をやや欠く絵柄ながらも、独特なタッチなりに線は洗練されており、クオリティそのものは比較的高い水準にあると申し上げて良いでしょう。

 ストーリー・設定についての所見
 デビュー作『MIND ASSASSIN』を髣髴とさせる現代版『必殺』シリーズ路線のプロットの作品でしたね。かずさんにとって、この手の路線はさすがにお手の物といった感じで、シナリオの“起承転結”は手堅くまとめられていたと思います。“10年選手”らしい演出の巧みさも評価すべき点でしょう。
 ただ、このプロットとそれに基づいて作られたシナリオ、更には“運を操る能力者”という設定は、いずれも先例の多くある手垢のついたモノだけに新鮮味に欠けたかな…といったところです。これで何か目新しい設定でもあれば印象も変わって来たのでしょうが、敵役もステロタイプな悪徳金融業者とあって、余計に“手垢感”が増した感がありました。

 あと気になった点としては、今回は脚本力のあるかずさんにしては説明的なセリフが目立ったところと、主役格の1人である恵太少年の扱い方がややなおざりになっていた点でしょうか。結果的に恵太は何もしないままタナボタ式で助けられた形になっており、作品全体のテーマである「正しい事をし続けていれば奇跡が起こる。幸せになれる」との不整合が起きてしまいました。これはシナリオの完成度の面で減点材料にせざるを得ません。

 全体的に見れば、短編巧者のかずさんにしては随分とキズの多い作品で、10年来の読者としては残念でありました。

 今回の評価
 評価は厳しいかも知れませんが、大きな減点材料もありましたのでB+寄りBとさせてもらいます。

 ◎読み切り『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜

 ●作者略歴
 1985年8月6日生まれの現在19歳。現役大学1年生。
 01年8月期「天下一漫画賞」で特別賞を受賞して“新人予備軍”入りした後、03年3月期「天下一」で準入選を受賞し、受賞作掲載によるデビュー権を獲得する。
 この権利を行使したデビュー作は「赤マル」03年夏号掲載の『SEA SIDE JET CITY』。今回はそれ以来1年4ヶ月ぶり2度目の読み切り掲載となる。

 についての所見
 デビュー作は年齢相応の粗さが否めませんでしたが、それから2年弱経って随分とタッチが洗練されて来た印象です。動的表現などの特殊効果や背景処理もよく出来ており、ひょっとするとアシスタント修行を積んだのかも分かりません。
 改善の余地を指摘するとすれば、表情のバリエーションがやや乏しかった点と、人物(顔)を描く視点が正面アングルで同じような距離感で描かれたのものが極端に多く、画面のメリハリにやや欠けた点でしょうか。必要以上に凝った絵や構図にされても困るのですが、もうちょっと気を遣ってもバチは当たらないと思います。

 ストーリー・設定についての所見
 まず、近未来(という名の架空の世界)を舞台に描かれた怪盗モノという着眼点は悪くないと思います。ただ、その発想を具体的でリアリティのある設定に結び付けられなかった感じで、「非現実な世界を舞台にした非現実なお話」に留まってしまったのは残念でした。
 特に「う〜む……」というポイントだったのがキャラクターの設定です。主人公・ポルタとその相棒・カスケには読み手が感情移入出来る要素が乏しく“動く記号”状態。ヒロイン・カワムラの場合は行動の動機付けとなるオルゴールのエピソードに説得力が全く見出せず(本来の持ち主以外に特に何の価値も見出せないはずのオルゴールに悪徳金融業者が執着するのは何故?)。これでは読み手を作品世界に没入させるのはかなり難しいのではないでしょうか。
 更に、ストーリーのヤマ場となる金庫破りにしても、トリックがかなり使い古された手法である上に、どう考えても敢えて面倒臭い手段を取っているような気がしてなりません。何と言いますか、映画『アルマゲドン』で、宇宙飛行士に穴掘りを教えるか、元々あった穴に爆弾放り込めば良いものを、わざわざ穴掘り屋を宇宙飛行士にして月に放り込んだのを思い出してしまいました。

 作者サイドの「凝った面白い話を作ってやろう!」…という意気込みは確かに感じられるのですが、残念ながら今回に限っては空回りに終わってしまったように思います。

 今回の評価
 設定の完成度の甘さ、ストーリー全体に染み渡っている御都合主義を考えると、“失敗作”の扱いは避けられません。評価はB寄りB−とします。

 ◎読み切り『ガランス』作画:田畠裕基

 ●作者略歴
 1984年7月30日生まれの現在20歳
 01年8月期「天下一漫画賞」で特別賞を受賞して“新人予備軍”入りした後、03年6月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補、次いで04年上期「手塚賞」で佳作を受賞。今回がデビュー作。

 についての所見
 構図や人物デザインに極力バリエーションを持たせようという意欲が誌面の端々から強烈に伝わって来ますね。勿論それ自体は大変に好感の持てる事なのですが、いかんせん、それにまだ技術が付いていっていないようですね。
 まず、顔のアップは比較的綺麗に描けているのですが、ロングショットの構図になると途端に線が粗くなるあたりに経験の浅さと練習不足を感じさせられます。また、動的表現にぎこちなさを感じさせる場面も見受けられ、全体的なクオリティを押し下げてしまいました。この辺は早急にどうにかしないと、週刊本誌進出や連載獲得は難しいでしょう。アシスタント修行で身につけたと思しき背景作画を見る限りでは、画力そのものは低くないと思われますので、苦手分野の克服に勤しんでもらいたいものです。 

 ストーリー・設定についての所見
 最初に評価出来るポイントから挙げておきましょう。
 この作品独自の設定である新生物・メテリアンのオリジナリティと、その設定をストーリーの内容を上手く噛み合わせる事が出来ている点、これは良かったと思います。また、結果的に成功しているかどうかは別にしても、演出面に随分と気を遣った跡が見受けられるのも、問題意識の高さを感じさせてくれました。

 とはいえ、この作品は課題の方も山積みで、全体的なクオリティからすれば、かなり低い水準に留まっていると言わざるを得ません
 1点目は脚本。徹頭徹尾、説明的セリフや喋り言葉になっていない長セリフのオンパレードで、これは大変興醒めでした。情報や設定は、極力絵で描写するようにしてもらいたいものです。
 次に2点目は主人公のキャラ設定。義父から受け継いだ人間の愛に触れて凶悪化を避けられたメテリアン…という設定なのに、口も性格も悪い偽悪人キャラにしてしまっては説得力に欠けてしまいませんか? 確かに偽悪人キャラを使うとクライマックスからエンディングの展開で便利なのですが、そんな作者側の都合で主人公のキャラクターに矛盾を生じさせては意味が無いでしょう。
 3点目は戦闘シーンが魅力に欠ける事。主人公側・敵側共に「ゴルァ」系の罵詈雑言を吐きながらのパワープレイに終始し、単なるストーリー展開上の手続きという意味合いに留まってしまったのは、やはり不満が残ります。
 そして最後の4点目は過剰に連載化を意識したエンディング。「この物語はまだまだ続く」という含みを持たせるだけならまだしも、ほとんどパロディギャグとしか思えないほど陳腐な“大ボス会談”をやられては、もはや失笑するしかありません。こういうのを「蛇足」と言いますが、それにしてもこれほど太くて長い蛇の足は久しくお目にかかれませんでした。

 今回の評価
 評価はB−とします。センスを感じさせる部分も有るには有るのですが、それを台無しにしている悪い要素が多過ぎる印象です。偉そうな物言いで恐縮ですが、もうちょっと地に足をつけた作品作りをしてもらいたいと思います。

 ◎読み切り『生徒兵器上本』作画:吉原薫比古

 ●作者略歴
 1984年生まれで、誕生日は未公開。現在は20歳という事になる。
 03年8月期、04年1月期「十二傑新人漫画賞」の「あと一歩で最終候補」リストに名を連ねた後、04年上期「赤塚賞」で準入選を受賞
 その後、週刊本誌04年39号に『トイレ競走曲〜序走〜』が代原掲載され、暫定デビュー。次いで同年43号に「赤塚賞」受賞作『KESHIPIN弾』が掲載されて、これが正式デビュー作となった。
 今回はそれ以来の新作発表。

 についての所見
 特殊効果などはデビュー時よりは若干マシになった感もありますが、それでもプロのマンガ家の絵としては落第点をつけなければならない水準です。
 特に問題と言えるのが、作品内でクオリティが大きく変動する点と、ディフォルメの使い方が全くマンガとしての効果を意識していない点の2つ。「稚拙」というより「雑」という印象が強く残ってしまう絵でした。

 ギャグについての所見
 どうでもいい事を大袈裟に表現したり、必要以上に持って回った長ゼリフの応酬をカマしたりして違和感を醸し出し、読み手の笑いを誘う…という吉原さんの作風が今回も全面に出ていますね。
 ただどうでしょう、今作は“間”の取り方が甘く、セリフもただボケの内容を説明したり、ヒネリの無い反応を返すだけの浅いツッコミが目立ったように思えました。数ヶ所は読む人によってはツボを突かれるようなギャグも見受けられたのですが、“打率”はプロ野球のバッター並に留まってしまったかな…といったところです。

 あと、今回気になって仕方なかったのが、コマ割りに対する無頓着さです。小さいコマと大きいコマの使い分けが酷く適当ですし、前フリからページを跨いでオチに持っていく…というテクニックも見られないまま。理詰めで笑いを誘う技術に乏しい感じで、これでは正直言って先が思いやられます。

 今回の評価
 評価はC寄りB−。……んー、これ以上この作品について述べると、物凄い毒発言になりそうですのでノーコメントっちゅうことで。

 ◎読み切り『ナツキン』作画:本名健二

 ●作者略歴
 過去の増刊・週刊本誌掲載リストに名前が無いが、プロフィール紹介ページも無く、個人データは全く不明。ただし、プロフィール紹介が無い場合は別ペンネームでデビュー済みの公算が高い。
 同じ名字の若手作家さんとしては、「赤マル」00年冬号デビューで、矢吹健太朗さんのアシスタントを務めていた本名健太郎さんがいるが、手元に同氏の絵が掲載された資料が無く、現時点では判別不可。(情報をお持ちの方、よろしければお教え下さい)

 についての所見
 表情の変化や動的表現が少々ぎこちない場面もいくつか見受けられましたが、何箇所かあったディフォルメ表現はなかなかの出来で、総合的に見れば若手作家として及第のレヴェルには達していると思います。ただし、絵で読み手の興味を惹き付けるには個性とインパクトが不足している感じで、数多の若手作家の中で抜きん出るにはもう少し他の人には無い何かが欲しい所ですね。

 ストーリー・設定についての所見
 プロット・シナリオは手垢のついた平凡なモノながら、設定したテーマに忠実に仕上げられた真面目な作品ですね。盛り上げ所もキチンと考えられており、エンターテインメント性を意識した作りになっています。
 ただし、問題点も多く存在します。横田と桜泉学園との因縁を生じさせたシーンはやや唐突で分かり難かったですし、最後の2on2の試合シーンでも、横田が主人公・赤島のパステクニックを完全に失念しているのは物語の展開上かなり無理があるように思えました。
 また、赤島のキャラクター設定がいかにも主人公らしくなく、読み手の感情移入を得られ難いであろうという事、コメディ風味を出すために散りばめられた小ギャグがことごとくスベっている事など、読み手の通読意欲を損ねかねない要因がいくつも見られました。「何をすべきか」は解っているものの、そのために「どうすべきか」が解っていない…というような印象がありましたね。

 今回の評価
 評価はB寄りB−とします。主人公のキャラクター次第では侮れない作品になったと思うのですが、残念です。

 ◎読み切り『レッサーパンダ・パペットショー』作画:篠原健太

 ●作者略歴
 生年は非公開の1月9日生まれ。脱サラしてのマンガ家デビューという、「ジャンプ」作家としては異例の経歴。
 03年6月期、9月期の「十二傑」で“最終候補まであと一歩新人リスト”に掲載されたが特に受賞歴等は無く、今回は実績的には一足飛びでのデビューとなる。

 についての所見
 これがデビュー作とは思えないほど手馴れた印象の有る、線の洗練されたスッキリした絵柄ですね。背景の描き込みや特殊効果なども新人離れしており、技術は相当の水準に達していますね。
 課題を挙げるなら、顔の描き分けがやや甘く、どこを見ても同じような表情ばかりに見えた事でしょうか。また、これは評価の対象にすべきではないのかも知れませんが、人物の造型が若干古臭さを感じてしまいました。

 ……あとこれは完全に評価外の私見ですが、口を大きく開けた表情というのは必要以上に下品な印象を与えてしまうので、あんまり乱発しない方が良いと思うのですが、どんなもんでしょうか。 

 ストーリー・設定についての所見
 まず脚本が非常に素晴らしいです。これは今後の活動の上でも大きな武器になる事でしょう。
 ストーリーテリングの面では、冒頭の流れるような展開に魅力を感じました。主役格の登場人物のキャラクターを簡潔に描写出来ており、状況の提示も非常にスムーズでした。キャラ設定と立場的な位置関係や、物理的ショックで魂が抜けるという設定は記憶喪失ネタ並に定番ですが、これも脚本とテンポの良さで押し切って、ネガティブな印象はそれほど無かったと個人的には感じています。

 ただ、惜しむらくは中盤でストーリー展開がかなりダレてしまった事。火葬場までの道中や2回に及ぶ不良との絡みはもうちょっと内容をスッキリさせる事が出来たのではないでしょうか? その分浮いたページでもっと演出に力を入れたり、ラストシーンでもう少し盛り上げたりすれば、もっと良くなったと思うのですが……。
 あと、コメディと銘打つ以上は、もう少しギャグのクオリティも充実させて欲しかったですね。脚本力はあるのですから、もうちょっと意図的に笑いを取るようなセリフ回しを狙ってみるべきでしょう。

 最後にラストシーンで種明かしされるアキラに関するビジュアルトリックですが、この完成度もなかなか見事でした。伏線提示と処理に関するテクニックも非凡なモノを感じさせてくれます。
 ただ、今回のトリックは、ストーリーの内容や作品のテーマ的には全く関係の無い要素であり、“無闇矢鱈にクオリティの高い蛇足”に終わってしまった嫌いもありましたね。

 今回の評価
 高い技術を感じさせてくれる作品ではあるのですが、中盤のダレ方が激しく、Aクラス評価を出すには躊躇してしまいますね。評価はA−寄りB+とします。ただ、持ち前の高い脚本力と構成力を活かし切るようなアイディアに恵まれれば、週刊本誌でも五分に戦える余地は十分にあると思いますよ。


 ◎読み切り『トトの剣』作画:大久保彰

 ●作者略歴
 1980年3月11日生まれの現在24歳。
 00年9月期「天下一」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。岸本斉史さんのスタジオでアシスタント修行を積んでいたが作品を発表する機会に恵まれず、今回がようやくのデビューとなる。

 についての所見
 絵が達者な作家さんのスタジオでアシスタントを務めた成果がストレートに表れた、高度に洗練された絵柄になっていますね。ただし、やや描写が細か過ぎなのが気になります。線の強弱のメリハリに欠け、絵から伝わる躍動感が薄い嫌いもあったりしました。

 ストーリー・設定についての所見
 まず疑問なのが、このストーリーでわざわざ現実と全く異なる架空世界を舞台にする必要があったのかな? ……という点です。今作のストーリーや設定ならば、ディティールを少しいじるだけで現実世界(または中世ヨーロッパや日本の江戸時代など過去の現実世界)を舞台にした伝奇モノにアレンジ出来たはずで、どうも手間を掛けてわざわざ読み手にとって馴染の薄い、つまり作品の内容に没入し辛い設定にしてしまったような気がしてならないのです。
 これがもし、“石の文明”社会を舞台にした連作短編の1つというのなら話も変わって来るのですが、今回のストーリーに、このオリジナルの世界観がそれほど噛みあっているとは思えないんですよね。

 また、これは作品内でセルフツッコミが入っているのですが、主人公の「小さな危険から逃げながら大きな危険を冒す」という行動パターンはやはり矛盾していますよね。名工オーケンの剣を奪い返すのは構わないのですが、それなら目先の危険からも逃げちゃ駄目でしょう。
 恐らくはストーリーから逆算して設定を組み上げたが故の構造的欠陥だと思うのですが、この辺りはもっと練りこむ余地があったような気がします。主人公に説得力の無い行動を取られては、ストーリーにも説得力が出て来ませんからね。

 そしてもう1つ、ヒロインと敵役のキャラ設定の練りこみが随分と甘かったのも気になった点です。主人公も含めて、登場人物がストーリーを成立させるための記号に留まっている感が否めません。

 ……と、欠点ばかり述べる結果になりましたが、岸本さん直伝の構成・演出力にはかなり見所がありました。キャラクターとストーリーに恵まれれば、この長所はもっともっと活きて来るでしょう。

 今回の評価
 設定やストーリーの構造的欠陥は大きな減点材料となりますので、評価は厳しくB寄りB−とします。ただ、かなりのポテンシャルを秘めた作家さんだとは思いますので、あとは空回りした歯車が噛み合い始めれば…といったところですね。

 ◎読み切り『WONDER HEAD』作画:新井友規

 ●作者略歴
 1983年3月12日生まれの現在21歳
 02年11月期「天下一」で審査員(鈴木信也)特別賞を受賞して“新人予備軍”入り。その後、03年12月期「十二傑」で『HURL KING』が十二傑賞を受賞し、この作品が「赤マル」04年春号に掲載されてデビュー。
 今回はそれ以来、2回目の増刊登場となる。

 についての所見
 デビュー作と悪い意味で変わらない、『スラムダンク』になり損ねたようなハンパなクオリティの絵柄ですねぇ……。新人賞の応募作ならともかくとして、プロデビュー後の絵としては、やはり不満が残ります。
 背景や特殊効果等の描き込みは手馴れて来た感じですが、もっと人物作画に丁寧さと緻密さが欲しいところですね。今のままでは普通に描かれた絵がまるで軽くディフォルメされているように崩れているので、どんなシリアスな話をしても妙な軽さが滲み出てしまいます。

 ストーリー&設定についての所見
 ストーリー・設定の方も、相変わらずの『スラムダンク』リスペクトですね。まぁ今回は単なる桜木花道パターンでなく、「先生、バスケがしたいです」が物凄く生ぬるい感じで融合されてる感じですが(苦笑)、それはそれでまたゴマンと先例があるパターンですしねぇ……。
 しかも、キャラクター設定の妙で若干のオリジナリティが感じられた前作と比べると、今作はストーリーからキャラクターから徹頭徹尾“黄金パターン”の模写……いや、キャラクター設定がなおざりになっていたり、主人公の心境の変化が「ストーリーの都合に合わせました」的な強引なモノになったりしている事を考えると、これはもう模写にもなっていないですね。スポーツ物の肝である試合シーンも極めて平凡ですし、ちょっとこれは辛いですね。
 まぁ確かにストーリーそのものは上手くまとめられているので、1つの作品としてはキチンと成立しているのですが、これもこの“黄金パターン”を築き上げた先人たちのお蔭であり、新井さんの作家性は微塵も感じられません新人の内からここまで創作意欲に欠けていて、果たして今後はどうなっちゃうんでしょうか?

 今回の評価
 評価は基礎点B評価から絵の稚拙さとオリジナリティ・作家性の欠如を差し引いてB−としておきます。極私的な趣味嗜好で評価して良いならもっと厳しい点をつけますが、一応は作品として成立している事を考慮して一線は越えずに踏みとどまります。


 ◎読み切り『メガネのベクトル』作画:大江慎一郎

 ●作者略歴
 1981年10月11日生まれの現在23歳
 02年4月期「天下一」で最終候補に残り“新人予備軍”入りし、特別賞以上の受賞歴がないまま、今回のデビューを迎えた。

 についての所見
 デビュー作相応と言うべき、まだまだ発展途上といった感じの絵柄ですね。人物作画もそうですが、特殊効果や背景処理なども粗く、これはかなり改善の余地を残している感じです。

 ギャグについての所見
 勢い勝負のボケを、ろくにツッコミもいれずに徹底してスルーしっ放し。自分のギャグの魅力を自分で台無しにしているような展開にむず痒さを感じてしまいます。ボケを無視して“間”で笑いを取る…という手法は確かに有効ではあるのですが、それは1作品に1回限りの“奇襲攻撃”的なギャグで、あまり乱発すべきものではないでしょう。
 また、ビジュアルで見せる“一発ギャグ”も画力不足が祟って見せ方が上手くいっていませんし、セリフ回しによるギャグもまだまだ。残念ながら及第には程遠い内容に終始した印象です。

 今回の評価
 画力もアレですし、評価はC寄りB−に留めます。こちらも、もう少し理詰めで笑いを取るテクニックの習得を急ぐべきでしょう。素質の有る若手ギャグ作家さんは、多くは有りませんが連載枠が埋まるぐらいは揃っているのですから。

 ◎読み切り『紅熛 -クレナイノヒョウ-』作画:及川友高

 ●作者略歴
 1977年2月27日生まれの現在27歳
 02年4月期「天下一」で最終候補に残り“新人予備軍”入りし、「赤マル」03年冬(新年)号にて『神様のバスケット』でデビュー。今回は2年ぶりのデビュー第2作となる。

 についての所見
 デビューから2年。線が若干スッキリしたのはキャリアの成せる業でしょうが、どうも画力(デッサン力)が伴わないまま、画風だけが固まってしまったような気もします。顔の造型のパターンも物足りませんし、表情の変化もかなり硬く、いかにも見栄えのしない絵柄になってしまっています。これでは本誌進出、連載獲得は厳しそうですね。

 ストーリー&設定についての所見
 “「ジャンプ」式読み切りフォーマット”と言うべき定番パターンに落とし込んだシナリオで、一応はお話として成立していますが、クオリティ的には全体的に物足りなさが残ります。
 先ほどの『トトの剣』と同様、この作品もわざわざ壮大な架空世界を1つでっちあげるにはシナリオの内容が物足りない感じで、更には不要な設定や、固有名詞先行で説明不足のまま理解に苦しむ設定も散見されます。有り体に言ってかなり独り善がりな世界観を見せられた…という印象です。
 登場人物の扱い方も随分荒っぽいと言うか、主役級を持て余し気味のストーリー展開に終始。また、主人公のキャラ付けも『テニスの王子様』を見ているかのような決めゼリフ先行型で、かなり乱暴だったように思えます。
 また、これは画力不足のせいもあるのですが、演出面もやや物足りなく、どこにでも転がっているような話を、どこにでも転がっている作品のようにまとめてしまったかな…といったところでしょうか。

 今回の評価
 画力の減点も有りますし、評価はギリギリでB−といったところ。次回は、もうちょっと設定を整理し、演出に力を注いだ作品を見せてもらいたいものですね。


 ◎読み切り『流れ星ポロン』作画:佐藤真由

 ●作者略歴
 1983年11月20日生まれの現在21歳
 03年9月期「十二傑」で“最終候補まであと一歩”、同年12月期「十二傑」には最終候補に残って“新人予備軍”入り。04年3月期でも最終候補まで残った後に7月期には十二傑賞を受賞し、更に04年上期「手塚賞」でも佳作を受賞した。
 今回は十二傑賞受賞作でのデビューとなる。

 についての所見
 
「十二傑」の際には画力で“◎”評価を獲得していましたが、なるほど背景処理や特殊効果などは、新人作家さんにしては達者な部類に入ると思います。ただ、人物作画、特に顔のデッサンはかなり歪み気味で、もうちょっと緻密さを持たせる必要があるでしょう。動的表現にも、もう少しスムーズさが欲しい所ですね。

 ストーリー&設定についての所見
 まず、ネーム(セリフ、モノローグ、ト書き)の量を削り、絵で見せる演出に力を注いでいるのは非常に好感が持てます。実際、演出面に関しては成功していると言って良いでしょう。
 プロットや人物キャラ設定に関しても、ボリュームを抑え気味にして、代わりにクオリティを意識した仕上げ方で、こちらも上手くまとめられているのではないでしょうか。

 ただ惜しいのは、主人公・ポロンがシナリオの中では“お客さん”的なポジションに終始し、エピソードの中で浮き気味になってしまった所です。せっかくの回想シーンも挿入のタイミングがいかにも取って付けたような感じで、アンバランスな印象を受けました。もうちょっとポロンを上手く揉め事に巻き込む方法が無かったものでしょうか。
 また、ポロンの特殊能力もバトルの駆け引きに活かし切れないままで、せっかくの多彩な能力も蛇足で終わってしまっています。敵役の能力をもうちょっと強くした方が良かったですね。

 今回の評価
 評価はB+。演出面を中心にセンスを感じさせてくれる作家さんですので、次回作以降での大化けに期待が持てますね。


 ◎読み切り『カミサマの手』作画:高橋英寿

 ●作者略歴
 1983年6月生まれの現在21歳
 投稿時代は“高橋英里”名義で、03年4月期「十二傑」で最終候補に残った後、04年5月期に十二傑賞を受賞。今回が受賞作掲載によるデビュー。

 についての所見
 
単刀直入に言って、デビュー作としては上々の水準には達していると思います。森田まさのり作品風の表情描写といい、アングルや距離感の使い分けといい、良いセンスの絵ですね。特にセリフと人物の表情が上手くマッチしているのが好印象です。
 これであとは全体的にもう少し緻密さが出て来れば良いですね。そうなれば週刊本誌に入れても遜色の無いレヴェルになるでしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 地味で小じんまりとした内容ながら、プロット・シナリオが良く練られている佳作だと思います。“起承転結”の流れも見事ですし、主要登場人物の数を絞って、その分主人公のキャラクター描写にページ数を費やしたのも好判断でしょう。
 ただ、これは「十二傑賞」の講評にもあったのですが、主人公がボランティアのような“カミさま業”を本格的に乗り出すようになった動機付けや回想シーンが、あと1つ欲しかったですね。ストーリーの説得力がやや殺がれ、画竜点睛を欠いた印象が残りました。

 今回の評価
 評価はA−寄りB+としておきましょう。高橋さんは玄人ウケするような、地味で確実な仕事の出来る人…という印象で、これで何か題材に恵まれれば、すぐにでも大きなチャンスが来ると思われます。

 ◎読み切り『CRUSH』作画:松本佑介

 ●作者略歴
 1981年8月14日生まれの現在23歳
 03年2月期「天下一」で“最終候補まであと一歩”、03年4月期「十二傑」で最終候補に残って“新人予備軍”入り。04年1月期「十二傑」では最終候補に残れず足踏みするも、同年6月期で十二傑賞を受賞してデビュー権を獲得。今回はその特典を行使しての受賞作掲載。

 についての所見
 人物が背景に紛れるような感じで、多少ゴチャついた印象はありますが、人物造型などはいかにも今風で、好感度の高い絵柄ではあると思います。特殊効果や動的表現なども全く問題なく、これでもう少し線が洗練されて来て、スッキリした見栄えの絵になれば、出世争いにおいて大きな武器になる事でしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 格上の敵役を相手に、使用条件が極めて限定された切り札を持つ主人公が挑む…という、バトル描写の基本フォーマットに忠実な作品ですね。やや敵役のスケールが小さかったような気もしますが、ただ倒されるために用意した記号としての敵役ではなく、キチンと必要最小限のキャラクター描写が為された人物を配置したのにも好感が持てました。
 ただ、ストーリーの中身がほとんどバトルで占められていて、ボリュームの面で物足りなかったのも事実。これで親子愛なり、何か確固たるテーマを設定し、それをラストシーンでクローズアップする事が出来れば、シンプルかつ重厚な良作になれたと思うので、非常に残念でした。

 今回の評価
 評価はB+。「十二傑」結果発表時の講評では「大不作の回」といった印象があったのですが、いやいやなかなかの素質の持ち主とお見受けしました。次回には、シナリオを慎重に練った作品を期待します。


 ◎読み切り『バスチル』作画:木村泰幸

 ●作者略歴
 1978年9月5日生まれの現在26歳
 03年11月期「十二傑」で最終候補に残って“新人予備軍”入りし、、今回はその権利を行使しての受賞作掲載。次いで04年9月期に十二傑賞を受賞してデビュー権を獲得

 についての所見
 ストーリー向けのシリアスタッチとギャグ向けのディフォルメを上手く使い分けており、いかにもコメディに向いたタイプの絵柄ですね。美醜男女の描き分けもなかなか達者ですし、潜在能力はかなりのモノと見ました。絵柄のタイプ的には、“うすた京介+のりつけ雅春(『中退アフロ田中』)÷2”といったところでしょうか。
 欲を言えば、これでもう少し線が洗練されて、見た目がスッキリしてくるといよいよ本格的なのですが、これは次回作でのお楽しみとしておきましょう。

 ストーリー&設定についての所見
 辻褄合わせのディティール描写をバッサリとカットし、とにかく勢いに任せてアツい話を描き切った…という感じですね。プロットそのものは昔からあるパターンではありますが、過ぎたるは及ばざるが如し的な潔さが奇妙な爽快感を生んで、読後感の良い作品に仕上がりました。
 ただ、やはり全体を通じでの完成度という面では今一つ。動機付けと能力・性格設定を不明確なままに主人公を暴走・活躍させたり、御都合主義的なストーリー展開など、多くのツッコミ所を内包した内容になってしまっています。もっとも、純粋な一読者として楽しむ上では、このような細かい所を気にするのは野暮というものでしょうね(笑)。まぁ、当ゼミのようにクソ真面目な評論をするのでもなければ、低予算のB級娯楽Vシネマを観るような感じで楽しめば良いんじゃないでしょうか。

 今回の評価
 評価は、やや完成度の低い「名作崩れの人気作」ということでB寄りB+。とりあえず、早いうちにもう1回新作を読んでみたいですね。

 ※総評…A−以上の評価はゼロということで、開講以来の3年では一、二を争う大不作という事になりました。非常に残念です。
 中でもキャラクター設定やシナリオに深刻な矛盾のある作品や、必要以上に壮大な世界観で矮小なエピソードを描いたファンタジー系の失敗作が目立ったような気がしました。もう少し設定やストーリーに一貫性を持たせる事と、ストーリーの身の丈にあった世界観を舞台にするという認識を持って頂きたいと思います。壮大な世界観の架空世界を舞台にするのなら、それ相応のスケールの大きな、その世界観でないと不可能なストーリーを用意しないと、結局は架空世界の馴染の薄さだけが前面に出てしまいます。
 とはいえ、B+評価を出した作品の作家さんは、いずれも荒削りながらA級のポテンシャルを感じさせる人たちばかりでした。これで順調に才能が開花してくれれば、後々に連載で活躍出来るようになると思います。


 ……という事で、やっと終わりました。でも、これからすぐに年明け合併号のレビューをやらなくちゃいけないんですよね。あー、分身の術が使えたらなぁ……。
 とまぁ、そういう事で、また後ほど。


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