「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・13)

 ※検索エンジンから来られた方は、トップページへどうぞ。


講義一覧

6/25(第17回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (6月第4週分)
6/19(第16回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (6月第3週分)
6/11(第15回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (6月第2週分)
6/4(第14回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (5月第5週/6月第1週分)
5/28(第12回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (5月第4週分)
5/20(第11回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (5月第3週分)
5/14(第10回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (5月第2週分)
5/8(第9回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (5月第1週分)
5/2(第8回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (4月第5週分・後半)
4/29(第7回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (4月第5週分・前半)
4/24(第6回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (4月第4週分)
4/16(第4回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (4月第3週分)
4/8(第1回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (4月第2週分)

 

2005年度第17回講義
6月25日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(6月第4週分)

 どうもご無沙汰しておりました。金曜日の仕事終わり、『げんしけん』特装版を買うために、疲れ果てた体を引きずって近場(職場からクルマで30分圏内)の本屋を巡回。見事なまでに空振り三振を喫し、スゴスゴと家に帰った駒木でございます。
 まったく、わざわざ数分のために駐車料金払ってまでショッピングセンター内の大型書店に乗り込んだんですよ、こっちは。そうしたら、寂しげに通常版だけが大量に売れ残ってるじゃないですか。んで、近くを通った店員に「特装版ありますか?」と尋ねたら、一瞬「トクソウバン?」とキョトンとされた一瞬後に、「このヲタ野郎、いい年してスーツ着て同人誌付のマンガ本がそれほど欲しいか」みたいな顔で冷たく「売り切れです」と言い放たれたじゃありませんか!(被害妄想です)
 ……ところが今日、神戸・三宮のマンガ専門書店に行ってみると、今度は特装版が探す間もなく堂々と店頭で山積み仁王立ち。何だったんだ、昨日の恥辱と苦労は。というか何なんだ、この供給の偏り方。
 調べてみると、どうやら講談社側が初版部数の設定を読み違えて、一般書店に配本が行き渡らなかったのが原因らしいですね。てっきり数年前の『新世紀エヴァンゲリオン』単行本付フィギュア大量売れ残り事件の反動かと思ってたんですが(笑)。 

 ……さて、いきなり余談ばかり長くなりましたが、今週のゼミを始めます。
 今週は01年11月の開講以来、多分2回目となるレビュー対象作ゼロ。昨年辺りまでは、毎週のように新人・若手作家さんの読み切りとか「ジャンプ」の休載代原とかが載っていたんですが、最近はめっきりこの手の読み切りが減りましたからね……。
 まぁそういうわけで、今週は“チェックポイント”拡大版ということで、日頃は余り話題にしていない、長期連載作品についての簡単な考察などを、気まぐれに羅列してみたいと思います。敢えてネガティブな話もすることになるでしょうが、推す作品推す作品のことごとくが大ヒットに至らない駒木の言う事なので、特に気になさらぬよう。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(31号)より、『ネコなび』作画:杉本ペロ)が新連載となります。
 「サンデー」のショートギャグ枠を長年担って来た杉本ペロさんが、ほぼ半年振りに週刊本誌復帰となりました。新人ギャグ作家の発掘が思うに進まない「サンデー」、とりあえずは“実績組”を呼び戻して態勢建て直し…といったところでしょうか。

 ◎「週刊少年サンデー」では、7/13発売の33号より、『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志)が新連載となります。(※作者ご本人運営のウェブサイト掲載の情報です)
 増刊での読み切り版掲載から2年、曲折に次ぐ曲折を経て、漸く待望の新連載開始となりました。
 読み切り版と短期連載版は共に当ゼミでAクラス評価となっているこの作品、果たして長期連載版ではどのような姿を見せてくれるのでしょうか。今から非常に楽しみです。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年29号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 時間と分量に制約がありますので、積極的に語りたい作品優先、無理にコメントした挙句に内容が嫌事中心になりそうな作品はスルーの方針で。

 まず、今週号のハイライトは何と言っても『アイシールド21』でしょう。
 勿論“ヒル魔の素で驚いた顔→ムサシの見開き2ページ「待たせたな」”や、まも姐の泣かせるナレーションといった正攻法の脚本・演出もずば抜けているんですが、個人的に印象に残ったのは、その演出の一環として随所に挿入された“トンデモ要素”の方でした。
 往年の花形満を髣髴とさせる堂々たるムサシの自動車無免許運転、そして、ドラえもんから時門(=時の流れを遅くする道具)でも出してもらったかのように延々と続くタイムアウト。現実には有り得ない光景の連続なのに、ツッコむ気が全く起こらない……というか、ツッコんだら最後、「何をマンガ相手にそんなムキになってんの」と失笑されるモノばかりというのが凄いです。しかもコレ、明らかに確信犯ですからね。文字通りの反則技、心ゆくまで堪能させて頂きました。
 ……なんか、こんな物言いしてると「駒木、ヒネクレ過ぎ」とか言われそうですね(笑)。でも、単なる一読者として初読した際にはリアルに感動泣きしたりもしてるのですよ。しかもコンビニでレジに持っていく前、不覚にも衆人環視の中で。

 さて、次は『魔人探偵脳噛ネウロ』にしましょうか。この作品もしばらく迷走気味でしたが、先の“アヤ・エイジア編”からは一皮剥けたようですね。トリックよりも、キャラクターとストーリーに重きを置いたストーリーになって、随分と“読める”ようになりました。
 ただ、“小者の敵キャラ出現→アッサリ葬られて退場→真の敵キャラ登場”というパターンを、“アヤ編”と今編でそっくりそのまま繰り返すのは、ちょっと如何なものでしょうか。せっかく凝らした趣向も、それがルーチンになってしまっては効果半減です。

 ところで、最近元気が無い(ように思える)のが『DEATH NOTE』です。少なくとも第1部の時のように「今、このマンガが絶好調!」的な扱いはされなくなって来ちゃいましたね。
 これは、第2部突入以降、色々な意味で“安全圏内の作品”になってしまい、その分テンションが下がっているからではないのかな…と思うんですよ。誤解を恐れず荒っぽい言い方をすると、「普通のストーリーマンガになっちゃった」といったところでしょうか。
 大成功に終わった第1部の何が凄かったかと言うと、絶えず2種類の“危険”──主人公・ライトの身の破滅と、作品そのものの破綻──に迫られながらも、それを神業のようなストーリーテリングで逃れ続けたところにあると思うんですよ。
 ところが第2部になってからは、ライトは身の危険が及ばない所での見えない敵との戦いに。ストーリーの方も、かなり練り込まれてはいるものの、設定が現実世界から乖離している事もあり、何だか遠く離れた世界での絵空事のような……。
 100万人の固定ファンを抱えるまでになった超人気作ですが、この構造的な問題を抱えて、果たしてどうやって巻き返していくのでしょうか? 興味津々でもあり、かなり心配でもありますね。

 「ジャンプ」最後は『HUNTER×HUNTER』を。
 最近、“出席率”が上がったのに伴って、シナリオがやや薄味になったかな…という印象があったのですが、どうやら実は、(殺しすぎて)不足気味の主要脇役キャラ補充に専念していたようですね。この辺のストーリーとキャラクターのバランス感覚の良さが、少年マンガ家・冨樫義博の真骨頂といったところでしょうか。
 個人的には今週登場の、盲目の軍儀棋士少女が良い味出してるなぁと。ただ、この作品の場合、こういう当該エピソード限定の脇役は、登場即死亡フラグ発生なのが辛いんですよね(苦笑)。

☆「週刊少年サンデー」2005年30号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 さて「サンデー」なんですが、ぶっちゃけてしまうと、最近のこの雑誌、個人的には全般的に「おしなべて低調」って感じなんですよね。読むのもレビューするのも、半ば義務みたいな感じで……。
 ましてや「現代マンガ時評」視点で“良い”作品で、更に一読者としても“好き”な作品となると、もう『結界師』ぐらいしか残っていないという現状です。(まぁ、ここに来月からは『絶チル』が混じることになるでしょうが……)

 ではその『結界師』、どういう所が好きかと言うと、場面を切り替え切り替え、同時進行的に淡々と出来事と人物を描写している内に自然と深みのある重厚なストーリーが出来上がっている…という心地良い完成度の高さ。昔の作品で言えば、『機動警察パトレイバー』がこんな感じだったかも知れません。
 ただ、こういう作品は読み込むのに頭を使う分だけ、読者層が狭まっちゃいますよね。ハリウッド映画に対するフランス映画みたいな。そういう意味では、この作品が単行本の売上ランキングと縁が薄いのも理解できる気がします。

 では最後に、今週で最終回となった『いでじゅう!』の連載総括を。そう言えばこのマンガも、駒木の中では“良い”と“好き”が比較的一致していたんですが。
 で、この作品、連載初期は“テクニックは感じられるが、今一つノリ切れないギャグ作品”という感が強かったのですが、やがて“甘酸っぱいリアルさ溢れるラブコメ”へテコ入れ。結果的には、これが功を奏した形になりましたね。
 そして最終的には、多少強引とはいえ伏線を全て回収して無事に円満完結。週刊連載のマンガ作品としては、かなり恵まれた終わり方をしたんじゃないでしょうか。
 そんな作品全体のクオリティを俯瞰すると、ストーリー・ギャグ共にやや全体的に“軽い”作品になり過ぎた感がありましたが、(恋愛絡みの)心情描写は本格的なラブストーリー顔負けの高水準。「少々の欠点があるものの、長所がフォローして余りある」といったところでしょうか。最終評価はA−としておきましょう。

 
 ──と、とりとめもない内容になりましたが、ともかくも今週はこんな感じにさせてもらいました。来週もレビューは杉本ぺロさんのショートギャグ新連載だけで微妙ですが、状況を見て臨機応変に考えます。ではでは。

 


 

2005年度第16回講義
6月19日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(6月第3週分)

 今週は公私多忙……というより、諸々の事情で脳味噌がメモリースワップ寸前の状態に陥っております。あと10日もすれば、今度こそ本当に心身共にリラックス出来る2ヶ月が到来しますので、それまでは講義の方も淡々と進行したいと思います。例えば、「どうでもいい話ですが、サイバーエージェントって会社、社長の顔がゴージャス松野に似ているだけで、その何もかもが信頼できない自分がいます」とか、余計な事を喋るのも極力自粛する方針で参る所存です。どうかご了承下さい。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報 

 ★新人賞の結果に関する情報

第25回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年4月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『ISSUN』
   魔球通司郎(23歳・神奈川)
 《小畑健氏講評:キャラクターや話の展開に統一性が欠け、分かり辛い部分もあったが、演出力やオリジナリティのあるストーリーだった。世界観をしっかり絞るとなお良い》
 《編集部講評:作画の線が細い点は気になるが、個性のある絵柄。非現実的な話の展開ながら、しっかり読ませる説得力のある構成と雰囲気作りが出来ている。キャラに厚みがあるともっと良かった》
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『イビル&フラワーズ』=小畑健特別賞
   森山崇(25歳・大阪)
  ・『タイム・キーパー』
   吉野朋宏(20歳・大阪)
  ・『番長決定戦』
   相原成年(22歳・東京)
  ・『Brighten』
   住吉崚(14歳・奈良)
  ・『名探偵田中一郎』
   池内志匡(24歳・愛媛)
  ・『メンズフレイバー』
   葛城一(17歳・岩手)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎最終候補の池内志匡さん…00年3月期「天下一漫画賞」で審査員(藤崎竜)特別賞。
 
 残念ながら佳作以上の受賞者が出なかった今回の審査員は小畑健さん。資料を遡ってみると、少なくとも99年以降、小畑さんが審査を務めた回で佳作以上の賞は1回も出ていないようです。
 じゃあ小畑さんが審査を務める月は特別不作なのか……というと、決してそうでもなく、最終候補者には後に別の賞を受賞したり、増刊デビューを果たしたりする新人さんもチラホラと。ただ単に運とタイミングという事なのか、それとも小畑さんの審査基準が厳しいのか、ちょっと興味が湧きますね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本&読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作無し

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年28号☆

 ◎新連載第3回『切法師』作画:中島諭宇樹

 についての所見(第1回掲載時からの推移)
 作画そのものについては、第2回以降も、かなりレヴェルの高い所で安定飛行を続けているのではないかと思います。特殊表現や人物の微妙な表情の変化など、細かい部分の仕事に怠りが無い所には大変好感が持てます
 ただ、見開きページの見難さは相変わらずで、今回は「全ての物事は右から左へ」というマンガの大原則へも挑戦するような“ラフ・プレー”もありました。マンガにおける表現技法の限界に挑戦し、自分が新しい“文法”を作ってやろう…という意気込みは素晴らしいと思うのですが、まずは読み手の理解を第一に考えてもらいたいですね。

 あと、評価に関係ない話ですが、このマンガ、斬新な表現に挑戦する一方、所々で手塚〜藤子時代のマンガから引き継がれている演出技法──例えば、必要以上に無表情なキャラに、モノローグ中心に豊かな感情を表現する──も多々見受けられるのが興味深いですね。
 こういう作画に対する姿勢は、師匠の村田雄介さんからの影響が色濃いんでしょうね。パッと見の絵柄ではなく、派手な外見に隠れた中身の部分を継承しているというのは、本当に良い師弟関係だったのでしょう。 

 ストーリー&設定についての所見(第1回掲載時からの推移)
 連載開始以来2つ目のエピソードとなった第2回、第3回は、少々ベタな印象の否めない“RPGの序盤でありがちな小ミッション”でした。プロットも手垢の付いた小品、敵役もザコの範疇を出ない怪物(西洋風に言えばインプとコボルト?)とあって、根本的に盛り上がりようの無いストーリーだったように思えます。

 とはいえ、そのボリューム的に物足りないシナリオに、演出や深みのある心理描写などで“足し算”を施し、それなりに読ませる話に仕上げた辺りに、確かな地力を感じさせてくれました。特にラストシーン、読み手が心地良い余韻に浸れるような演出が見事。
 他の若手作家さんの多くがそうするように、安易に笑いでオチをつけてしまった方が簡単ではあるのですが、それを敢えてしない辺りに、「ジャンプ」フォーマットに一切頼らず連載まで来た“反骨の若手作家”の心意気を感じました。

 現時点での評価
 第1回での評価はA−寄りAでしたが、先述の通り、第2〜3回のストーリーがプロット段階から物足りない内容だったのは事実。ここは一旦A寄りA−に評価を落として10回目まで様子を見たいと思います。


 ◎読み切り『ギャグマンガ日和』作画:増田こうすけ

 作者略歴
 1977年6月2日生まれの現在28歳
 98年上期「赤塚賞」で佳作、同年下期の同賞でも準入選を受賞。その後は週刊本誌や「赤マル」での活動を経ないまま、「月刊少年ジャンプ」を活動の場に選択する。
 デビュー作は『夢−赤壁戦い−』で、その後短編ギャグの読み切り発表を挟んで、連作短編形式の『ギャグマンガ日和』を連載開始。現在まで連載期間5年を超すロングラン作品となっている。
 今作の週刊本誌進出は、『ギャグマンガ日和』アニメDVD発売を記念してのパブリシティ特別企画と推測される。

 絵についての所見
 典型的なヘタウマ系画風ですね。高年齢層の方には中崎タツヤ・『じみへん』と申し上げると分かり易いでしょうか。パッと見の絵柄の見苦しさと、緻密さとかけ離れた画風にフォローの余地はありませんが、マンガの記号としては最低限度以上の役割を果たしています。“ギャグマンガとしては”の前提付きながら、及第点の評価はして良いのではないでしょうか。

 ギャグについての所見
 “特別出張版”となる今回は、月刊本誌での連載開始以来のキャラであり、読者の人気も高い(らしい)聖徳太子&小野妹子コンビによるネタ。「『ギャグマンガ日和』とは何ぞや?」という事を知ってもらうために、極力手堅い選択をした…といったところでしょうか。確かに、商業的には最良の選択であるとは言えそうです。
 ただ、ギャグの内容については少々手堅さが過ぎて、“爆発力”に欠けたような気もします。駒木は昨秋のGAG増刊でしかこの作品を読んでいませんが、あの時に比べるとシュールなネタや“間”で獲る笑いが抑えられていたような……。また、動的表現に乏しい絵柄でアクション系のネタを複数持って来たのもミスチョイスではなかったでしょうか。
 とはいえ、凝ったセリフ回しや文章からは高度なギャグセンスが感じられますし、注釈を本来とは違う用途で使って表現するネタなど、テクニックの豊かさも確かめられました。よって今回は、「実力のある作家さんの描いた、少々失敗気味の1本」という解釈をするのが妥当と言えるでしょう。

 今回の評価
 ……というわけで、今作の評価は「欠点の方が目立つが、評価すべき部分もいくつかある」のB+とします。
 この作品のファンの人からすれば「この作品は、こんなじゃないんだ」…といった気分でしょうが、ホームを離れた“中立地”でのゲスト原稿ですから、致し方無い部分もあろうかと思います。

☆「週刊少年サンデー」2005年29号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週の「サンデー」は連載作品の評価見直しのみ。

 ◎『うえきの法則プラス』作画:福地翼
 旧評価:A−寄りB+新評価:B+

 実質0.5ランクの下方修正となりました。
 評価ダウンの理由は、第一部以来の欠点である「必要以上に説明的で回りくどい長セリフの乱発」です。駒木のような完璧主義的視点でもなければ気にならないのかも知れませんが、どうにもこの、喋っている感じが一切しないセリフで埋め尽くされた画面の連続が気になって仕方ありません。
 せっかく心情描写に大幅な進歩が見られ、読み手が感情移入しやすい作品になって来ているだけに、このネガティブな要素は大変に残念です。

 第20回時点で、もう一度評価を見直しますが、脚本面で大きな改善が見られなければ、このままB+で評価確定かな…という考えでいます。

 
 ──と、いうわけで大幅に遅延しましたが、6月3週分のゼミをお送りしました。次週は昼の仕事が今期最大のヤマ場を迎える1週間(教える側も生徒も疲労が溜まっている所へ、期末試験作成のノルマが積み重なる)で、果たして講義自体出来るのかどうか……と思っていたところ、幸か不幸かレビュー対象作がゼロになりそうな情勢。今のところは『いでじゅう!』の最終回総括くらいしか講義の題材が見当たりません。どうしたら良いやら……。
 さすがに丸1週間休講までは考えていませんが、果たして何をしたら良いのだろうかと少々迷っております。その時に出来る範囲で何かする事になるのだろうと思いますが。
 それでは、また数日後にお会いしましょう。

 


 

2005年度第15回講義
6月11日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(6月第2週分)

 6月に祝日を作ってくれるのなら、東郷健にでも又吉イエスにでも投票したくなる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。本州以南で梅雨に入ったばかりの週末、6月2週分のゼミをお送りします。
 しかし、こういう時期になりますと、とりあえずどっかへ高飛びしたくなりますね。寝台列車とか、飛行機の国際線とか乗りたくなります。どうか生きてる内に、6月にラスベガス辺りへビジネスクラスで赴いて、ギャンブルとボクシング観戦に明け暮れるバカンスを過ごしたいものです。どこかで世の中間違えて、これまで書いた文章が本になってバカ売れしないもんでしょうか(笑)。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(28号)に読み切り『ギャグマンガ日和』作画:増田こうすけ)が掲載されます。
 この作品は既に「月刊少年ジャンプ」で連載中で、今回はDVD発売の記念&販促強化企画の特別編といったところでしょうか。
 ただ、作者の増田さんは98年上期・下期「赤塚賞」でそれぞれ佳作・準入選を受賞。現在は同賞の審査員も務めており、昨年もギャグ増刊に読み切りを発表するなど、「週刊──」にも縁の浅からぬ人ではあります。
 これが意外にも週刊本誌初登場ですが、熟練の技で“受賞者”と“審査員”の格の差を見せ付けてくれると思います。期待して待ちましょう。

 ★新人賞の結果に関する情報

 今週は「ジャンプ」で「手塚賞」「赤塚賞」の、「サンデー」では、「小学館新人コミック大賞」少年部門の審査結果発表がありました。

第69回手塚賞&第62回赤塚賞(05年上期)

 ☆手塚賞☆
 入選=1編
  ・『未熟仙 〜みじゅくせん〜』
   栗山武史(24歳・和歌山)
《選評要約:「主人公の好感度が非常に高い。キャラや舞台の造型にも面白みがある(稲垣理一郎さん)「個性的な世界が出来てあり、ワクワクした。キャラも描けている」(尾田栄一郎さん)「エピソードの量、ページ配分といった構成で実力を感じる」(森田まさのりさん)
 準入選=1編
  ・『-meteoric- 流星のユニ』
   仲野ケンシロウ(27歳・福岡)
 佳作=2編
 
 ・『バンディッツ・リターン』
   川田暁生(27歳・東京)
  ・『RODEO』
   木下真美子(17歳・千葉)
 最終候補=4編
  ・『キレデカ』
   高山憲弼(24歳・大阪)
  ・『シアンスカーレット』
   前田竜雪(23歳・福岡)
  ・『ザイチ』
   吉田郁子(19歳・京都)
  ・『千年魔王』
   斎藤真一(26歳・愛知)

 ☆赤塚賞☆
 入選=該当作なし
 準入選=1編
 
 ・『たいして良い思い出もできそうにない学校生活』
   伊藤直晃(25歳・茨城)
 佳作=2編

  ・『SNAKE HUNTER』
   沢田ショウ(22歳・埼玉)
  ・『次世代忍者』
   彰田令貴(23歳・大阪)
 最終候補=5編
  ・『犬侍 〜一匹で斬る?〜』
   細野悠(24歳・神奈川)
  ・『転校生後味悪郎と愉快な山本』
   吉田和弘(22歳・東京)
  ・『ピー男』
   菊地秋(18歳・兵庫)
  ・『みかん流』
   中山伸明(20歳・愛知)
  ・『BEST DUO』
   栗山武史(24歳・和歌山)
   ※手塚賞との同時入賞

第56回小学館新人コミック大賞・少年部門
(05年前期)

 特別大賞=該当作なし
 大賞=該当作なし
 
入選=1編
  ・『サンタ南国より参る』
   福島太郎(23歳・福岡)
 
佳作=4編
 
 ・『妙林寺の注君』
   石井あゆみ(22歳・東京)
  ・『かかしとレイディ』
   森繁拓真(27歳・東京)
  ・『(カリスマ)整体新米臨時教師ゴトサン』
   遊眠(27歳・東京)
  ・『HELL KING 〜地獄王〜』
   岩本ゆきお(27歳・東京)
 最終候補=3編
  ・『A.K』
   早真みけ(16歳・神奈川)
  ・『マブダチ。』
   AYUMICHOん(17歳・奈良)
  ・『スペア』
   佐治聡一(23歳・大阪)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ※手塚賞
 ◎入選の栗山武史さん…04年末(12月)期「ストーリーキング」ネーム部門で準キング。
 ◎佳作の川田暁生さん…03年8月期「十二傑新人漫画賞」&00年12月期「天下一漫画賞」で最終候補。
 ◎最終候補の高山憲弼さん…03年2月期「天下一」で編集部特別賞、04年11月期&04年8月期&03年8月期「十二傑」で最終候補。

 ※赤塚賞
 ◎佳作の彰田令貴
さん彰田櫺貴名義、週刊本誌04年44号にて『メガネ侍』で代原暫定デビュー済。04年下期「赤塚賞」では最終候補。

 ※新人コミック大賞
 ◎入選の
福島太郎さん…04年6月期「サンデーまんがカレッジ」で努力賞。
 ◎佳作の
石井あゆみさん…04年8月期「サンデーまんがカレッジ」で入選、隔月増刊05年新年号にて受賞作デビュー済。
 ◎佳作の森繁拓真さん…別ペンネームで00年後期「ちばてつや賞」優秀新人賞受賞、01年〜03年まで「週刊ヤングマガジン」、「別冊ヤングマガジン」で読み切り、短期連載作品を数作発表とのこと。
(甲斐高風さん、情報有難うございました)
 
※なお、佳作の岩本ゆきおさんは、「ガンガン」系雑誌で活動を続けている作家さんと同姓同名で、年齢もほぼ一致するようです。絵柄で判別出来るという方、情報をお願いします。

 ……「ジャンプ」、「サンデー」両誌の賞ともに、「期待の新人登場!」的な扱いではありましたが、既に他の賞を受賞したり、デビュー済みの新人作家さんの姿も見受けられました。

 まず入選が9年ぶりに飛び出した「手塚賞」、その受賞者は、実は「ストキン」の準キングを受賞したばかりの栗山武史さん。審査員講評を見ると、キャラクター、設定、構成力を高く評価されており、なるほど「ジャンプ」のマンガとして必要な点を全て備えているというわけですね。
 「手塚賞」入選の作家さんを“良いトコ取り”で紹介しますと、井上雄彦、諸星大二郎、星野之宣、浅美裕子、岸大武郎…といった面々。今後、栗山さんがどこまで伸びてゆくか楽しみですね。

 一方の「赤塚賞」は、悪い意味で平行線の水準といったところでしょうか。これだけ長い間、即戦力級の有望新人が現れず、かと言って「GAGキング」の復活の声も聞こえもしない状況は寂しい限りです。
 とはいえ、今は連載陣も好調で、たまに『スピンちゃん』のような有望株が現れても1クール打ち切りになる現状では、ギャグ新人に対する需要そのものが無いのかも知れません。編集部も「たまたま逸材が出て来ればめっけもん」ぐらいに考えているのかも知れませんね。

 さて最後に「サンデー」系の「小学館新人コミック大賞」
 今回から賞金増額となり、“トップ賞”も追加されましたが、残念ながら大賞以上の受賞者は該当なし。こちらも佳作には「まんカレ」入選でデビュー済の新人さんが混じっているなど、新人発掘の成果がどこまで挙がったかは微妙と言えそうです。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本
 「サンデー」
:対象作なし。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年27号☆

 ◎新連載第3回『タカヤ −閃武学園激闘伝−』作画:坂本裕次郎
 
 についての所見(第1回掲載時からの推移)
 
概ねで言えば、第1回の時から大きな変化はありませんが、人物キャラの顔の描き方に違和感が出て来たような……。これはパーツのバリエーションが少ないのと、リアルタッチ仕様の等身の時でもディフォルメっぽい目鼻立ちを描いてしまっているせいでしょう。
 元々は美形キャラ以外の人物造型に味がある作家さんなのに、そういう面を全くと言って良い程活かしていないのが気掛かりです。後のストーリー・設定でも同じ事を言うつもりですが、どうも今の坂本さんは創作上の“フォーム”を完全に見失っているような気がしてなりません。

 ストーリー・設定についての所見(第1回掲載時からの推移)
 今週で第3回となりましたが、ここまで毎回ワンパターン、しかも相当中身の薄い低水準のシナリオ──性格最低&暴力気質のイケメン(紛い)が現れて、主人公とヒロインを挑発・攻撃した挙句に返り討ち。最後にラブコメの真似事があって次回へ続く──が連発されています。有り体に言って、「大変悲観すべき惨状」と申し上げて良いでしょう。
 この一連のシナリオ、一応は読み手をムカつかせた後、カタルシスを得させる……というバトル系少年マンガのセオリーには則ってはいるので、落第点というわけではありません。が、それに付加するドラマとオリジナリティが余りに希薄で、とても平凡に映ります。
 またラブコメ要素にしても、最初からカップルが殆ど出来上がっている状態で、恋愛の醍醐味が全く無い上に、恋愛モノでは“規定演技”とも言える、当事者の心的描写も寂しい限り。言い方は悪いですが“上っ面だけの話”ばかりを延々と見せられているような印象で、とても残念です。

 2週間前にも述べましたが、坂本さんはギャグ的要素の強い作品でここまで来た人です。しかし、今の作品のベクトルは、それとはかなり違う方向へ行ってしまっているようで……。
 かつての「黄金の女神杯」、そして「バンチ」の「世界漫画愛読者大賞」と、この手の企画の優勝作品は受賞時をピークに逆噴射する傾向が強いですが、どうもこのジンクスは今回も繰り返す事になりそうな情勢ですね。

 現時点での評価
 評価は大幅下方修正。B−とします。まさか前年度の「コミックアワード」部門賞受賞者を、次の年の「ラズベリーコミック賞」候補に挙げなければならなくなるとは……。連載10回の時点で評価見直しを実施する予定ですが、下手をすれば連載総括のレビューになってしまうかも知れません。

 ──さて、今週はどっちかと言えば賞レースの解説中心の内容になってしまいましたが、とりあえずこういう形にまとめさせてもらいました。
 両誌の連載作品についても色々と述べたい事も増えては来ているんですが、
 「今回は、まるでサブヒロインルートが確定したギャルゲーのイベントみたいです。本当に恵まれないヒロインだ……」
 とか、
 「やっぱり殺しちゃいけない人を殺してしまったんだなぁと痛感する今日この頃」
 とか、
 「昔のサンデーでよくあった、打ち切りが確定した辺りから急速に盛り上がるマイナースポーツ系作品みたいになって来ました」
 とか、
 「前々から疑問に思ってたんですが、この人たちどうして命を賭けてまで戦ってるんですか?」
 とか、
 「本当に惜しいです。セリフが回りくどすぎる所だけ改善されてません」
 とか、
 「このマンガのセリフって、つくづく心を打ちませんね。担当が心無い人だと、作品まで心が無くなるんですね」
 ……とか、とにかくシャレにならない嫌事しか思い浮かびませんので、自粛させて……ませんね(笑)。まぁ、どの作品の事を言っているのか判っても、決して口に出さないように。
 まぁそんなわけで、「2年前のコミックアワード、『武装錬金』じゃなくて『結界師』だったかなぁ」と今更ながらに後悔している駒木ハヤトがお送りしました。では、また来週。

 


 

2005年度第14回講義
6月4日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(5月第5週/6月第1週分)

 「構内掲示板」でお報せしている通り、2度目のコミケサークル参加が決定致しました。冬コミ成功の勢いに乗って申込みしてしまったは良いものの、日頃の講義準備でさえ事欠く状況で、果たして本が作れるのか? ……と、少々ビビり気味であります。
 とはいえ、駒木が参加する事で替わりに落選しているサークルさんもいるわけですから、キチンとした本を出すのは半ば義務みたいなもの。最悪でも1冊はキッチリとした新刊を出せるように頑張ります。
 ところで迷っているのが、昨年末に頒布した旧刊について。現在はもう保存&謹呈用に10冊程度しか残っていないのですが、これを重版かけるかどうか……。昨日の講義でもお話したように、200は刷らないと大赤字確定ですので、重版するなら通販でもして頒布数を確保しないといけないのですが……。

 まぁこの辺は今月中に詰めていきたいと思います。何かご意見&ご要望ありましたら、メールや談話室(BBS)などで是非どうぞ。

 ──それでは、今週も遅くなりましたがゼミを実施します。どうぞ最後まで宜しく。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ※今週は新連載&読み切り情報、及び新人賞の受賞作発表はありませんでした。

 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載1本&新連載第3回1本
 「サンデー」
:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年26号☆

 ◎新連載『切法師』作画:中島諭宇樹

 作者略歴
 1979年7月21日生まれの現在25歳
 01年11月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りした後、02年度の「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞翌03年に「赤マル」春号で受賞作・『天上都市』が掲載されてデビュー。
 03年46号では『人造人間ガロン』で週刊本誌初登場を果たすと、04年2月には「青マルジャンプ」で『ホライズンエキスプレス』(=当講座の第3回「コミックアワード」にて「ジャンプ」&「サンデー」最優秀新人作品賞受賞作)を発表。同年秋に週刊本誌で開催された「第1回ジャンプ金未来杯」では、今作と同タイトルのプロトタイプ作品『切法師』でエントリーしたが、惜しくも優勝を逃している。
 なお、デビュー後しばらくまで、村田雄介さんのスタジオでアシスタントを務めており、村田さんのダイナミックな構図の取り方などに強く影響を受けた跡が見受けられる。

 についての所見
 デビュー時点から新人・若手としては上位クラスの画力を持っていた作家さんでしたが、デビューから2年にして、キッチリ連載作家級の水準まで押し上げて来たな…といったところです。

 まず、線が非常にスッキリと洗練されているのが良いですね。一本一本のラインに迷いが無く、背景と人物作画のメリハリがしっかりしているので、大変見やすい絵に仕上がっています。
 総体的に見れば相当マンガチックなタッチなのですが、絵の完成度が高いのでリアリティが薄くても違和感が有りません。これは場面ごとのディフォルメの効かせ具合が的確である事も影響しているでしょう。プロの仕事が当たり前のようにこなせています。
 また、以前からの中島さんの絵の“売り”である、超ロングショットからの風景俯瞰が、各所で絶好の演出としてズバリと決まっていました。これは一枚絵で作品全体のスケールの大きさを表現出来るという、マンガ家として非常に稀有な才能だと言えるでしょう。
 そして、最後にもう一点付け加えたいのが喜怒哀楽の表現の巧みさ。なかなか伝え難い細かい意図を、たった一枚の絵で読み手へ的確に伝える事の出来るのがマンガの醍醐味。こういう作品を読んでいると「やっぱりマンガは良いなあ」と思わせてくれます。

 数少ない問題点としては、『ホライズンエキスプレス』以来よく見られる、見開きページ基準のコマ割りが今回も紛らわしかった所ですね。この見開きゴマの見せ方には研究の余地がありそうです。

 ストーリー&設定についての所見
 まず設定・世界観ですが、これは同タイトルの読み切り版から大幅マイナーチェンジさせてのリスタート。プロトタイプ版とは異なり、年代や舞台背景こそ日本の戦国時代ながら、ある種パラレルワールドを舞台にしているような、一風変わった和モノファンタジーといった趣となりました。
 万葉仮名のような当て字で洋モノファンタジー用語を登場させる…という手法は賛否分かれるかも知れませんが、設定の量は程々に収まっていますし、独り善がりな嫌らしさは感じられませんでした。少なくとも今の所は、これら一連の設定群も、作品のオリジナリティを醸し出す方向に働いているのではないでしょうか。
 ただ、これはもうデビュー以来の癖と言っても良いと思うのですが、設定をセリフで説明してしまうのだけは余り感心できません。脚本力と演出力のある作家さんですので、これも違和感は薄いのですが、もう少し文字情報以外で描写する技法を多用しても良いと思います。

 さて一方、ストーリーの方は、第1回という事もあって一話完結のエピソードでしたが、これもなかなかの完成度。キチンと1つの話としての“ヤマ”を作ってまとめ上げる一方、長編作品のプロローグとしての役割も見事に果たしていました。これは誰でも出来るようで、なかなか出来ないものなのです。
 プロットの立て方にしても、定番の“性格の悪い小悪党”を出さず、読み手に過度のストレスを与えないままカタルシスだけ演出しようという配慮が窺え、これにも好感が持てました。一ネタごとに一仕事加える寿司屋みたいな気の利かせ方がニクいですね。
 主人公の性格や行動に対する動機付けも、回想シーンを絡めつつ強い説得力を持たせる配慮が成されており、実に自然。いかにも少年マンガらしい主人公像を“やらされている感”を微塵も感じさせないまま作り上げる事に成功しています。これは後々のストーリーで大いに活きて来る事でしょう。

 問題点を敢えて挙げるとすれば、隅々に至るまでソツが無さ過ぎて、作品全体のアクが弱くなり気味…という所でしょうか。殆ど言いかがりに近い指摘ではありますが、積極的に“人気”を獲らなければならない「ジャンプ」では、馬鹿に出来ない部分だとも思います。さて、補正が切れた後の掲載順はどうなりますか……。 

 現時点での評価
 細かい欠点はあるものの、それを帳消しにして余りあるテクニックとセンスが遺憾なく発揮されています。人気の有無は別にして、当ゼミとしては自信を持ってお勧め出来る良作です。暫定評価はA−寄りAとしておきましょう。

 ◎新連載第3回:『カイン』作画:内水融

 についての所見(第1回時点からの推移)
 
相変わらず、全体的な画力の水準はなかなかのものであると思います。第1回に比べるとぎこちなさも徐々に抜けて来ているようですし、今回では特に大きな違和感を得る場面は無かったです。総合的な評価としては「目立った問題は無く、明らかに及第点以上」として良いでしょう。
 ただ、細かい所を見てみると、人物の顔のパーツの描き分けが今一つだったり、美形キャラに比べて繕躯師・リュウギのような“老け系”人物の作画がやけに野暮ったかったりと、気になる部分もあったりします。今後も完成度を上げる努力を惜しまないでもらいたいですね。

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 で、こちらに関しては相変わらず、毎週読むたびに思わず首を傾げるような内容が続いています。これと言って設定やストーリーが破綻している箇所は無いのですが、どうも全体的に具体性を欠き、散漫な印象が漂っているように思えてなりません。
 これはどうも、作品全体の目標最終到達点──「こうなったら大団円」というポイント──がハッキリしていないのが大きく影響しているのではないでしょうか。いわゆるラスボスも不明、主人公の明確な意図も不明のままサブストーリーばかり進行されても、読み手もどこにピントを定めてこの作品を観たら良いのか判らなくなってしまいます。
 つまり、現状においてこの作品は、話の“幹”が見えて来ないまま、細かいエピソードで“枝”ばかり見せられている状態というわけです。これでは折角の設定・世界観も活きては来ませんし、無闇に新キャラを投入されても、より散漫な印象が強まるだけではないでしょうか。

 最近は時系列に沿ってメインストーリーを進行させる、オーソドックスな“編年体型”作品だけでなく、『D.Gray−man』のように豊富なキャラクターを活き活きと動かす事に重点を置く“紀伝体型”作品も増えて来ています。が、それにしてもこの作品はシナリオ上の不確定要素が多過ぎ、いくらキャラクターを投入しても空回りしてしまうのではないかと危惧してしまいます。

 現時点での評価
 評価は今回も据置でBとします。「少年マンガっぽい作品にしよう」という意図は感じられるのですが、「どうしても自分はコレが描きたい」という気持ちが、この作品からは伝わって来ないんですよね。
 この人、やっぱり策略系ヒーローが描きたかったんじゃないかなぁと勝手に想像してしまったりするわけですが。何か大人の事情でもあったんでしょうかね。


☆「週刊少年サンデー」2005年26号☆

 ◎読み切り『ハルが来た!』作画:小山愛子

 ●作者略歴
 資料不足のため、生年月日・年齢は不明。
 西条真二さんのスタジオでアシスタント修行の後、01年に「サンデー超増刊」でデビュー。その後も意欲的に新作を執筆し続け、増刊を主戦場にして断続的に読み切りを発表する一方で、02年33号で週刊本誌進出03年夏からは増刊での短期連載も果たす。04年にも週刊本誌に読み切りを発表した他、05年春からは「小学三年生」の別冊付録にて『アイアンフェザー』を連載中。(ちなみに同誌は、『キッカーズ』「バンチ」のカジメ焼きで有名なながいのりあきさんや、『十五郎』川久保栄二さんも連載中という子供向にしては異様に濃いメンツになっています)

 についての所見
 1年前の本誌掲載作品同様、マンガの絵としては及第点には達していると思います。ただ、人物作画が“リアル路線を志向しながら、リアルになり切れず”といった感があり、またポーズや表情の変化が固い、動的表現にもややぎこちなさが残り…と、物足りない部分もかなり目立ちます
 また、これはストーリーの演出面にも絡んで来る話ですが、構図やアングルの取り方が単調で、その分平板なビジュアルになってしまったかな、という気もしました。
 
 ストーリー&設定についての所見
 過去の作品は悪い意味で西条真二門下らしい荒唐無稽なお話が目立っていましたが、今回は雰囲気をガラリと変えてハートウォーミング系学園モノになりましたね。漸く“呪縛”から逃れたようです。
 さて、今回のコンセプトは、一言で表現すれば「少年マンガ的夜回り先生」でしょうか。学園モノと言えば熱血教師が付き物ですが、今作に登場する先生は“北風より太陽”という感じで、これは少年マンガとしては新鮮だったのではないでしょうか。一貫した行動パターンでキャラクターも立っており、作品全体の魅力がこの1人の登場人物のお蔭で相当アップしたように思えます

 しかしながら、シナリオの内容はお粗末の一言。ページ数の都合もあるのでしょうが、生徒の改心が余りにも御都合主義的でした。また、今時ゴキブリをラーメンに放り込むチンピラや、昭和の香り漂う不良の佇まいなども余りにも陳腐であると言わざるを得ません。
 確かに使い古されたベタなストーリーでも“王道”と呼ばれるモノがありますが、それはあくまでイジりようがない位に完成されたパターンだから“王道”なのです。しかしこの作品のストーリーは、ただ単に使い古されたものを安易に使いまわしただけ。せっかくのキャラクターの良さを活かしきれておらず、非常に残念でした。勿体無い作品です。

 今回の評価
 キャラクターの良さを最大限評価しつつ、減点すべき箇所を減点して、+寄りの評価とします。しかし、前作よりも明らかな進歩も窺えますので、次回作を楽しみに待ちたいと思います。

 
 ……今週は久々にレビュー3本でキツかったです。ただ、来週は『タカヤ』の後追いレビュー1本だけになるので、楽過ぎなんですよね……。訳の判らない代原を読まされるよりは…なのですが、ちょっと寂しいですね。では、そんなところでまた来週。

 


 

2005年度第12回講義
5月28日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(5月第4週分)

 1週間のご無沙汰でした。
 今週は若干体力に余裕があり、何とか旅行記の続きでもお送りしようとモニターに向かって呻吟していたのですが、どうにもこうにも前に進まず、結局今週中の講義実施を断念する羽目になってしまいました。
 頭の中では講義の骨子は固まってるので、歯車が噛み合えば早いと思うのですが、申し訳有りません。

 とりあえず今日は“ノルマ”の「現代マンガ時評」をお送りし、態勢を整えることにします。しばしのお付き合いを。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(27号)に読み切り『ハルが来た!』作画:小山愛子)が掲載されます。
 小山さんは、週刊本誌には02年、04年に続いてこれが3度目の登場。これまではチャンスをなかなか連載に繋げきれませんでしたが、今回こそは…の気持ちでしょう。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:対象作なし。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年25号☆

 ◎新連載『タカヤ −閃武学園激闘伝−』作画:坂本裕次郎

 作者略歴
 1980年4月18日生まれの現在25歳
 01年5月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。その後、03年上期「手塚賞」で準入選を受賞し、週刊本誌03年29号に受賞作『KING OR CURSE』が掲載されてデビュー
 翌04年には2月発売の「青マルジャンプ」で『デス学!!!』「赤マル」04年春号では『吉野くんの告白』を発表した他、秋に週刊本誌で開催された「第1回ジャンプ金未来杯」では、『タカヤ −おとなりさんパニック!!−』で見事に優勝を飾り、事実上の週刊連載権を獲得した。
 今回は勿論デビュー以来初めての週刊連載獲得となる。
 
 についての所見
 
デビューから約2年、これが都合5作目になりますが、作数を重ねる毎に画風が洗練されている印象がありますね。見るからに線が粗かったデビュー作の頃や、コマの余白を持て余していた増刊修行時代の面影も今は昔といったところです。
 前作の読み切り版『タカヤ』と比べても、ディフォルメや人物造型のバリエーションなどに進歩の跡が見られ、日々精進を続けている様が誌面から窺え、好感が持てました。

 しかしどうでしょう、絵柄のインパクトが大き過ぎると言いますか、表現が極端過ぎてドギツくなってしまったのではないかな…という気もします。本来ディフォルメは可愛らしさや愛嬌を増幅させるために施される技法ですが、この作品の場合、“過ぎたるは及ばざる如し”といった感じで、不自然さの方が先行して見えてしまいました。
 まぁ決して下手な絵ではありませんので、「こういう絵が好きだ!」という人も相当数いらっしゃるでしょう。ただ、個人的には、絵柄が急速に道元宗紀(伝説の怪作『A・O・N』でマニアの間では有名な打ち切り作家さん)しているのが心配でなりません。

 ストーリー・設定についての所見
 こちらは単刀直入に言うと、「中途半端になってしまったなぁ」といったところでしょうか。テンポの良いスラップスティックギャグ、ツンデレ系(=ツンツン状態とデレデレ状態のコントラストが激しい性格)萌えヒロインと主人公の甘いラブコメ、熱い血のたぎるバトルアクション…と、様々な読者ウケする要素をブチ込んだは良いのですが、完成度としてはいずれも今一つの水準に留まってしまったように思えます。
 具体的に言うと、坂本さんの一番の持ち味であるギャグのハジけっぷりが、作品をストーリー物として成立させるために弱くなっているのです。しかも犠牲を払って強調したはずのストーリーも、ライトなラブコメのノリを出すためか御都合主義的・手垢の付いた一本調子な内容に終始してしまって……。

 そんな中でも構図の取り方や演出、脚本ではキャリアの浅さを感じさせない技量とセンスを感じさせてくれます。だからこそ、内容の今一つ希薄なシナリオであってもキチンと読ませる作品になっているわけですがね。
 しかし、この長所を短所の補完に充てるだけで終わらせてしまうのは非常に勿体無い事だと思います。シナリオを充実させるのが作品の構造上無理であるのなら、せめてギャグをもっと強化するべきではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

 現時点での評価
 他の作品を使った喩えはあまり良くないのですが、作風のアクがやたらに強くなった『ハヤテのごとく!』と言えば、未読の方にもニュアンスが伝わり易いと思います。
 現状では“名作崩れの人気作”が更に崩れたような作品ということで、寄りB+という暫定評価を出させて頂きます。

☆「週刊少年サンデー」2005年26号☆

 今週の「サンデー」はレビュー対象作が無し。いきなりですが“チェックポイント”で連載10回区切りの評価見直しを行います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『見上げてごらん』作画:草場道輝
 旧評価:B新評価:B(据置)

 今週で連載10回となりました。
 連載作家としての草場さんのキャリアを感じさせる安定感で、ここまで無難にストーリーを展開させていってはいます。ただ、難が無いのは良いのですが、それ以上にこの作品ならではの長所が探し辛い作品になっているような気がしてなりません。
 手垢が付きまくっていて先が読めてしまうシナリオ然り、外見以外の個性がボヤけっぱなしの登場人物のキャラクター然り、今一つ盛り上がりに欠けるテニスの競技シーン然り。どうもこの作品からは「ここが魅力です」と断言出来る要素が見出せないのです。先述した通り、どこがどう悪いというわけではないのですけどね。
 ──というわけで、評価は「読むのは苦にならないが……」という作品のBで据置とします。次回の評価見直しは連載20回目に。

 なお、今回で『最強! 都立あおい坂高校野球部』作画:田中モトユキ)が連載20回目を迎えていますが、前回の評価見直しで「大きなテコ入れがあった場合のみ評価変更を実施」と宣言していますので、今回はスルーします。
 ただ、最近の今一つ平板なストーリー展開からすると、現在のB+評価もやや怪しいかな、という気もするのですけどね。

 ……というわけで、今週のゼミはここまで。すっかり内容がショボくなってしまってますが、現状これで漸く精一杯というところですのでご容赦を。
 ところで、「ジャンプ」「サンデー」とまるで関係ない話で恐縮ですが、来月発売の『げんしけん』6巻・初版特装版に付く“同人誌”の執筆者ラインナップが凄過ぎて驚いています。何しろ、あさりよしとお・甘詰留太・うたたねひろゆき・久米田康治・桜玉吉・志村貴子・園田健一・TAGRO・田丸浩史・二宮ひかる・氷川へきる・平野耕太・ももせたまみ・八雲剣豪ですからね。どこをどうしたら集められたんだ、こんなメンバー。しかも作風が個々に隔絶されまくってますしねぇ。
 ちなみに駒木は、何故か“二宮ひかる”を“立原あゆみ”と一瞬混同して、「え? あの絵柄で『げんしけん』?」…とか考えてしまいました(笑)。そう言えば昔、桜玉吉さんが立原あゆみタッチで『防衛漫玉日記』を描いた事がありましたね。あれはシュールでした。

 それでは、また来週。

 


 

2005年度第11回講義
5月20日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(5月第3週分)

 ここ数ヶ月、ずっと謝ってばかりですが、本当に講義が少なくて申し訳無いです。
 今年度の講師の仕事、拘束時間が昨年度比で1日平均2時間増加、しかも担当授業時間数が週20時間という凄い事になってしまっていて、毎日ヘトヘトであります。……まぁ同業者の方でもなければ、週20コマの授業がどれだけキツいか多分判って頂けないと思いますが(苦笑)、芸にうるさい客の前で1回50分の舞台を1日4回こなす漫談家の姿を想像して頂ければ。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報 

 ★新人賞の結果に関する情報

第24回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年3月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作&十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『JIKANGAE』
   普津澤画乃新(19歳・東京)
 《河下水希氏講評:独自の世界観、演出力など、その才能に驚かされた。ただ、とっつきにくいジャンルであることと、ネーム量が多いのが気になる。読者の目を意識した作品作りを》
 《編集部講評:記号化されたような独特のタッチの絵は賛否が分かれそうだが、見せ場の演出力には目を見張るものがある。今後は多くの読者に受け入れられるような絵柄とストーリーを》
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『万事のMEGANE』
   西誠(18歳・東京)
  ・『ラブコメ! 〜じゃじゃ馬ハニー〜』
   稲田知佐(22歳・愛媛)
  ・『ブレイキン!!』
   葛西ひとし(24歳・東京)
  ・『コウ!!』
   宮野彰(20歳・東京)
  ・『ラズリの石』
   池田智(20歳・栃木)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎佳作&十二傑賞の普津澤画乃新さん…00年9月期「天下一」で最終候補、01年7月期「天下一」で編集部特別賞、03年5月期「十二傑」で最終候補、04年3月期「十二傑」で審査員
(河下水希)特別賞。
 ◎最終候補の西誠さん…03年下期「ストーリーキング」マンガ部門で最終候補。
 ◎最終候補の
葛西ひとしさん「葛西仁」名義で04年下期「手塚賞」、03年7月期「十二傑」&03年2月期「天下一」で最終候補(?)
※ただし、年齢が2つ違います。

 ──昨年、一昨年の審査担当時には、それぞれ準入選を大盤振る舞いした河下水希さんですが、今回も佳作が1作品。しかも、昨年の「河下賞」受賞者が2年越しの捲土重来という事になりました。
 それにしても、受賞者の普津澤さんは、19歳にして投稿歴4年目ですか。普津澤さんは勿論、担当編集者も感無量の受賞でしょうね。
 まぁでもとりあえず、今月は「ナイススメル!」が一番インパクトがありましたけど(笑)。 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年24号☆

 ◎新連載:『カイン』作画:内水融

 作者略歴
 正確な生年月日データは散逸して不明。
 00年5月期「天下一漫画賞」にて審査員(ほったゆみ)特別賞を受賞して“新人予備軍”入り後、「赤マルジャンプ」01年冬号にて『POT MAN』でデビュー
 その後、にわのまことさんのスタジオでアシスタント修行を積みつつ作家活動も継続し、「赤マル」01年冬号、03年春号にて読み切りを発表
 本誌初登場はいきなりの週刊連載で、03年41号から連載開始となった『戦国乱波伝サソリ』(03年52号まで、1クール12回打ち切り)。その後は04年26号に、今作の(一応の)プロトタイプとなる『賈允』を発表した。

 についての所見
 デビュー当時は酷評される程だったと言われる絵ですが、精進を重ねる事数年、ここに至って更に緻密さを増して来た印象がありますね。各種の表現技法の確かさは言うに及ばず、特にトーンを使った陰影の表現が良い見栄えに仕上がっていると思います。
 とはいえ、線にメリハリが欠けていて、やや繊細過ぎる印象もありますし、人物の表情が固く、躍動感が不足しているような気もします。端的に言うと「上手いようで上手く見えない絵」といったところで、読み手に与える印象という面では、ネガティブな要素も拭えません。 

 ストーリー&設定についての所見
 こちらは正直、「う〜ん……」と首を捻ってしまうような内容でした。まったく、どこをどうしたら、プロトタイプの設定を、ここまで悪い意味で換骨奪胎出来るのか……。
 プロトタイプ時の持ち味であり、オリジナリティであった策士系ヒーローが、ごく平凡な特殊能力系ヒーローに変更されており、それに引き摺られるように、他の全てのファクターまでが平凡なものに転落してしまった感がありました。
 前回の連載獲得時も、似たような展開でしたね。策士系ヒーローの読み切りで人気を掴んで、いざ始まった連載では、主人公は策士じゃなくてサソリだったという……。

 そしてストーリーの方も、典型的な“「ジャンプ」若手&新人読み切りフォーマット”的なシナリオ展開に終始する平凡なモノになってしまいました。
 すなわち、序盤に事件があって、設定の説明(not描写)があって、また大きな事件が起こって、敵役との戦闘があって、エンディング……という。「赤マル」を読んでいたら、1冊の中で5〜6回は見られるようなお話です。
 確かに、(先読みが簡単に出来てしまうとは言え)敵役の1人が味方に寝返る展開は工夫の跡が感じられますし、後のストーリーに絡んでいく伏線も提示するなど、必要最低限以上の仕事は施されてはいるでしょう。演出面も、連載作家の“格”を感じさせてくれるモノがあったとは思います。
 ですが、戦闘シーンの呆気なさや、説明的に過ぎる脚本など、作品の魅力を殺いでしまうような短所が、長所以上に目立っている印象です。正直言って「前途多難」の4文字がチラつく第1回でありました。

 現時点での評価
 評価はBとします。いわゆる「面白い・面白くない」で判断すれば、点数はもっと低くなりますが、先述の通り、必要最低限以上の仕事は施されていますので、この評点とします。
 しかし、現在の掲載順中〜下位の豪勢な作品群と比較すると、恐らく苦戦は免れないだろうな…とは思います。『ぷ〜やん』以来途絶えている1クール突き抜けも危惧されるところです。

☆「週刊少年サンデー」2005年25号☆

 ◎新連載第3回『クロスゲーム』作画:あだち充

 についての所見(第1回時点からの推移)
 
数十年のキャリアで培われ、築き上げられた確固たる絵柄が、たった2週で変わるはずもありません。特筆事項なし、の一言で留め置かせて頂きます。 

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 連載3回目となりましたが、ストーリー的には殆ど進展は無く、小さいエピソードに絡めて少しずつキャラクターや世界観の設定の描写を積み重ねていっています

 この辺り、さすがは“古き良き時代の「サンデー」”を知るベテラン作家さんというか、目先のアンケート人気に囚われずに済む大御所の余裕と貫禄を感じさせるというか……。
 話の先が全く見えて来ないため、ストーリー面では物足りなさはありますが(というか、現時点で良否の判断が出来ません)、既にかなりの人数のキャラクターが立ってきており、そちらの方でキャッチーな作品にはなって来ているとは思います。この辺、4姉妹モノというのは強いですね。

 総括すると、ストーリー展開の遅さは気になるものの、4姉妹モノのコンセプトや、熟練のストーリーテリング術などが欠点を巧みにフォローしており、少なくとも“悪くない”レヴェルの水準には達していると思います。
 
 現時点での評価
 評価は出そうかどうか迷ったんですが、ストーリーが余りにも進展してませんので、今回も保留としておきます。連載10回の時点で再度チェックを行うことにしましょう。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今回は『ブリザードアクセル』が連載10回の区切りを迎えましたので、評価の見直しを行います。

 ◎『ブリザードアクセル』作画:鈴木央
 旧評価:A−寄りB+新評価:A−

 フィギュアスケートの演技・競技シーンに突入。いよいよこの作品も本編突入といったところでしょうか。
 今回の“特待生試験編”では、受験する主役・準主役の2人が、「完成度は劣悪ながら、特定の部分で非常に優れた素養を見せつける」というのがテーマでした。これが平凡な作品ならば、「どう考えても見栄えの悪い演技を観て、何故か賞賛する偉いさんたち」…という説得力に欠ける構成になるのですが、それを意図的に演技の全貌を見せない演出と、イメージ映像を大胆に挟む事で強引に解決してしまいました。マンガという媒体の利点を活かしたファインプレーでしょう。
 ……まぁこれも、よくある手法と言えば確かにそうなのですが、フィギュアスケートとこれらの演出の相性は良いようで、手垢のついた感は、個人的にはそれほど感じられませんでした。やや観覧者のリアクションが派手過ぎるというか大映テレビのドラマ並にクサいのが気になりますが、方向性としては間違っていないと思います。

 とりあえず懸念材料が解決され、加えてここまで失点らしい失点も少ない事から、ここで一度評価をA−に上方修正して、更にチェックを継続する事にします。

 
 ……というわけで、今週のゼミはこれまで。1週間お待たせして、この内容で申し訳ありません。来週は高校の仕事も多少楽になるので、何とか早め早めの講義実施を心掛けたいのですが……。

 


 

2005年度第10回講義
5月14日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(5月第2週分)

 もう5月も半ば。巨人のミセリも故郷に帰ってしまいました。講師先の職場なんかでは、「今の季節が気候的に一番良いねぇ。ずっとこのままだったらいいのに」なんて声も聞こえてきます。
 駒木は気候的にはどうでも良いですから、ゴールデンウィーク的に5月が続いて欲しいです。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(24号)から新連載シリーズが開幕します。今回のラインナップは、
 24号
より新連載:『カイン』作画:内水融
 25号より新連載:『タカヤ−閃武学園激闘伝−』作画:坂本裕次郎
 26号より新連載:『切法師』作画:中島諭宇樹
 ……の、以上3作品です。

 ここ1年ほどは作品の入れ替えが緩やかだった『ジャンプ』ですが、今回は若手作家を積極的に登用し、連載作家陣の若返りを図ります。暗黒期を支えたベテラン2人を切り飛ばしてこのラインナップとは、いやはや、いかにも「ジャンプ」らしい編集方針です。
 しかし、それにしても今回の新連載シリーズ、世間ではどうか知りませんが、当講座的には凄いメンバー揃いです。上から順番に、第3回「コミックアワード」の短編賞最終ノミネート者、新人ギャグ部門賞受賞者、新人賞受賞者ですからね。切り札3枚同時切りみたいなもんです。
 この3作品を交えた打ち切りサバイバルレースは、過去最高レヴェルと言って良い過酷な状況ですが、これだけの逸材揃い、何とか頑張ってもらいたいものです。
 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年23号☆

 ◎読み切り『大宮ジェット』作画:田村隆平

 ●作者略歴
 1980年4月19日生まれの現在25歳
 03年6月期の「十二傑新人漫画賞」で佳作(十二傑賞)を受賞。受賞作『URA BEAT』が週刊本誌03年45号に掲載され、デビュー。

 その後も「赤マル」04年夏号に読み切りを発表。今回が約9ヶ月ぶり、デビュー以来3作目の読み切り掲載となる。

 についての所見
 まだ細かい注文はつけたくなりますが、普通に読む分には殆ど違和感を感じる事が無くなって来ました。アクション物の必須課題である動的表現も問題なく、「ギリギリ及第点」とした昨年の「赤マル」掲載作品よりは、かなり良くなって来た印象です。
 あとは、全体的に線にフリーハンド感が有り過ぎて、細かい部分になればなるほど粗く見えてしまう点、トーンの選択や処理が今一つで画面が必要以上に暗くなる点、この2点が修正されれば連載作家級の水準に肉薄するのではないでしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 セリフや演出などにセンスを感じさせてくれるのはデビュー作以来の長所でしたが、これらは今回も冴えていました。特にセリフとモノローグの使い分けが巧かったと思います。とはいえ、若干ネームが多過ぎた嫌いもありますので、もう少しセリフ量を厳選してもらいたかったかなと。
 設定の描写も良かったです。説明的な設定の羅列を必要最低限の分量に抑え、その際にも演出を利かせたりするなど、工夫の跡が見られます。最近の「ジャンプ」新人・若手作家さんでは、これが出来ていない人が多いので、そういう意味では大きなアドバンテージです。

 そして今回は、これまでの懸念材料だったシナリオの構成にも改善が見られ、その分だけ作品のクオリティも上がって来ていると思います。前作までのシナリオは崩壊状態でしたから、これは大きな進歩です。
 ただ、“起・承・転・結”のメリハリが、“起・承・転・承・転・結”みたいに間延びしたようになってしまい、そうやってボリュームが増えた分だけ“転”の部分(戦闘シーンを中心とする見せ場)で少々盛り上がりに欠けたかな…という気もします。もう少しページ数を確保して描く話だったのかも知れませんね。

 今回の評価
 これまで駒木の中では“極私的・期待の新人”という扱いの作家さんでしたが、今回から「極私的」を外しても良いかな・・・と思えるようになりました。評価はB+。センスに実力が追いついて来た今、あとは作品に恵まれるだけだと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 前号の『武装錬金』に続いて、今週号限りで『Wāqwāq』が連載終了となりました。1クール終了前後から掲載順は巻末付近で、その上に単行本もランク外に甘んじていては、この結果も止む無しでしょう。
 内容面については、人気面で大きくコケ始めてからは、壮大な世界観を活かし切れないバトルの繰り返しに転落。まるで序盤で先発投手がKOされたプロ野球のワンサイドゲームみたいな覇気の無い作品になってしまいました。ごく単純なものとはいえ、シナリオを最後まで全う出来た事だけが救いかもしれません。
 最終評価は、一応は辻褄の合う形で完結させたという構成力に免じて、ギリギリでとしておきます。

☆「週刊少年サンデー」2005年24号☆

 ◎読み切りザスパ草津物語〜夢は枯れない〜』作画:向後和幸

 ●作者略歴
 生年月日不詳だが、ニュース記事によると今年28歳
 6年前(1999年)に、「サンデー」系の新人賞で入賞。しかしデビューの機会になかなか恵まれず、長らく専業アシスタント生活を送る。
 そして昨年末、隔月増刊「サンデー超」05年新年(1月)号でデビュー。先日発売のGW(5月)号にも読み切りを発表している。
 
今回は企画モノながら初の週刊本誌登場となる。

 についての所見
 6年間のアシ経験の賜物でしょう、スッキリと洗練された線は作家としてのキャリアの浅さを感じさせません。背景処理や特殊効果などの“アシ技術”は勿論問題無し。マンガの作画に関するテクニックの高さが窺い知れます。
 しかし、業界キャリアがアシ経験に偏った弊害でしょう、人物作画で少々ぎこちない面が……。特に人の表情とポーズのバリエーションが乏しく、いくつかの場面で微妙に違和感の否めない所がありました。何て言うのか、主要キャラの描き方がモブ(群集)っぽいんですよね。

 ストーリー&設定についての所見
 企画モノでストーリー云々を論評する事が間違っているので、作品のクオリティに関する責任を作家さんに負わせる事はしませんが、それにしても取材した内容を「これでもか、これでもか」と詰め込み過ぎた嫌いがありますね。
 この作品のポイントとしては、
 「元・日本代表GKの再出発」
 「元Jリーガーたちが旅館で働きつつ挑んだ、地方クラブチームのJリーグ昇格挑戦」
 「JFLチームの、天皇杯におけるJリーグ王者撃破」

 ……の3つが挙げられるわけですが、これを全部欲張ってしまったため、“広く浅く”な作品になってしまったかな、と。肝心のサッカー競技シーンが殆ど描かれていないのも残念ですし、何と言うかテレビのドキュメント番組を早送りして見たような気にさせられてしまいました。

 今回の評価
 いろいろ述べましたが、企画モノということで今回は評価なしとしておきます。これを機会に、向後さんが活発な作家活動が出来るようになれば…と思います。


 ──とりあえず今週のゼミはこれまで。講師がくたばってなければ、また来週にもお会い出来るでしょう。ではでは。

 


 

2005年度第9回講義
5月8日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(5月第1週分)

 毎度お馴染、年に3度のマンガ評論修羅のお時間がやって参りました。春の「赤マルジャンプ」全作品レビューです。
 去年の春号では、『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之)の読み切り第1作が登場。その時もA寄りA−の評価をつけたんですが、まさかその1年後に週刊本誌で巻頭カラーを獲得する事になるとは思いもよりませんでした。更に2年前の春号にて『天上都市』で鮮烈なデビューを果たした中島諭宇樹さんは、間もなく連載獲得との噂。どんな分野でもそうですが、無名の新人時代から目を付けていた人が出世していくのを追い掛けて行くのは楽しいものですよね。

 ……まぁそういうわけで、1年後、2年後に喜びを得るために今年もやります、全作品レビュー。今回はどのレビューも通常サイズでお届けしますので、恐ろしく長いです。会社の仕事の合間に受講されている方は、知らぬ間に上司が近くに立っていないか、どうぞお気をつけて(笑)。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

 ◆「赤マルジャンプ」05年春号レビュー◆

 ◎読み切り『ノラ・ソラ』作画:加治佐修

 ●作者略歴
 1973年12月30日生まれの現在31歳
 「赤マルジャンプ」99年夏号にて『ハプニングゴーゴー!!』でデビュー。その後「赤マル」00年冬(新年)号、本誌00年45号に読み切りを発表した後、岸本斉史さんのスタジオでのアシスタント活動に専念し、キャリアが一時中断。
 しかし02年末の新連載シリーズで突如抜擢され、00年45号掲載の読み切りを長編にリメイクする形で、03年2号から『TATTOO HEARTS』の連載を開始。ただし、これは1クール14回で打ち切り終了となってしまう。
 それからは、03年47号に読み切りを発表して復帰を果たすものの、その後1年以上に渡って作家としての活動を休止。今回が久々の新作発表となる。

 についての所見
 
連載経験に加え、長期のアシスタント経験もあるだけに、「赤マル」では抜群のハイクオリティの画力を見せつけてくれました。週刊本誌連載陣に混じっても中位以上にはランクされるでしょう。
 洗練された線、数々の戦闘シーンでも全く違和感の無い動的表現、密度の高い背景処理、無国籍風の世界観設定を活かした登場人物の描き分けと、ほぼ全てのファクターにおいて合格点以上の水準に達しています。
 敢えて言えば、シリアスタッチ系の絵柄にしては、人物の等身数が小さ過ぎる(頭がデカイ)ような気がするのですが、まぁこれも大きな減点材料にはならないでしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 まず、いわゆる“起承転結”がよくまとまっていますね。プロット・シナリオも目新しさはないものの、良作エンターテインメントの特徴を押さえた丁寧なモノに仕上げられているのではないでしょうか。
 少なくとも、完成度という観点では相当に高い評価をしていいと思います。

 ただ、その完成度の裏返しでしょうか、お話のスケールが小じんまりとし過ぎている気もします。華々しい武道の世界を題材に採り上げておきながら、結局は裏の空き地でのチンピラとの喧嘩で話が終わってしまったわけですし。
 また、主人公以下、主要登場人物の行動についての動機付けやキャラクターの掘り下げが甘く、読み手の感情移入が得られ難い設定になってしまったのも残念でした。この作品、本来なら90〜120分程度の長編映画になりそうな設定やストーリーだけに、今回のような短編読み切りにまとめるには少々無理があったのではないでしょうか。

 今回の評価
 立派に商業誌の作品として通用する水準には達しているでしょう。丁寧にプロの仕事が施されていて好感も持てるのですが、それが作品全体のクオリティに繋がり切らなかった感じですね。評価はB寄りB+とします。

 ◎読み切り『八と八百万の神々』作画:イワタヒロノブ

 作者略歴
 1976年12月9日生まれの現在28歳
 01年3月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入りした後、01年下期「手塚賞」で準入選。その受賞作『AX 戦斧王伝説』が「赤マル」02年冬(新年)号に掲載され、デビュー。
 その後、「赤マル」02年春号、週刊本誌02年49号、03年44号に読み切りを発表。今回は約1年半のブランクを経ての復帰作となる。
 ※イワタヒロノブさんについては、以前“レビュー放棄宣言”をしましたが、今作は「敢えて無視するほど酷い作品ではない」と判断し、レビューを実施する事にしました。

 についての所見
 
以前の作品に比べると線の粗さ・乱暴さは影を潜め、良い意味で他の作品と比べての違和感が無くなって来たように思えます。
 とはいえ、人物の表情の微妙な描き分けが出来ていないのと、動的表現で不自然な場面が多々見受けられるのは大きな問題点でしょう。これが出来ていないと、いわゆる“大根役者”の芝居に見えてしまうんですよね。

 また、競馬シーンなどディティールの描写で明らかな手抜きが見受けられるのも残念でした。この辺の「少し調べれば何とかなる部分を何とかしない」という悪癖が直っていないのは頂けません。

 ストーリー&設定についての所見
 最近の「赤マル」でも前例があり、かつては藤子・F・不二雄先生も描いた事のある“運・不運”を題材に扱ったお話。不運を自覚しないで済む人間なんてごく一握りでしょうから、読み手から親近感を得られるテーマではありますよね。
 手垢が付いた分だけ目新しさは有りませんが、それでも知識も無いのにドイツを舞台にした『BASTARD!!』もどきばかり描いてた以前と比べると、マイナスからプラマイゼロ以上にリカバー出来た分だけ前進でしょう。(もっとも、神道に詳しい人が見ると、ドイツの時の駒木のようにアレかもしれませんが)

 ただ、主人公が徹底して受け身の立場で、美味しい所を全部脇役に持っていかれているというのは、設定上如何なものかと思うのです。敵役とバトルをして一撃必殺でやっつける謎の脇役、それを傍観する主人公…という構成は初めて見ました(笑)。
 まぁ新機軸と言えば新機軸なのですが、読み手が注目する焦点がボヤけてしまいますので、成功しているとは言えないでしょうね。

 あと、コミカルタッチなので深くツッコんでもアレですが、ストーリー展開も少々強引で御都合主義だったような気もします。良く言えばベタベタ、悪く言えば陳腐だったかな、といったところです。 

 今回の評価
 評価はB−とします。当ゼミの基準とすれば何とか“問題内”に入って来たかな…といったところです。とはいえ、デビューから既に3年。「ジャンプ」系若手としては若い年齢ではないですし、今回か次回作辺りのアンケート結果で、「ジャンプ」作家を続けていけるかどうかの正念場がやって来そうですね。

 
 ◎読み切り『砂人』作画:小倉祐也

 作者略歴
 1979年7月22日生まれの現在25歳
 04年9月期「十二傑新人漫画賞」にて、十二傑賞は逃したものの、審査員(岡野剛)特別賞を受賞。今回はその受賞作が掲載されてのデビューとなる。

 についての所見
 デビュー前の作品としては、かなり完成された絵柄だと思います。人物の描き分けや怪物の造型、ディフォルメ表現や背景処理などにおいては、既に新人・若手では上位にランクされて然るべきテクニックです。
 ただし、動的表現は落第点。表現したい動きが表現出来ていないな…と、すぐに判ってしまう場面が見受けられましたし、何がどう起こっているのか理解し辛いシーンもありました。アクション物を志向するなら必須の課題ですので、初めて“プロ”として描く次回作では、この辺りのスキルアップに期待したいと思います。

 ストーリー&設定についての所見
 主人公のキャラクターは、ちょっとヒネ過ぎている面も有りますが、奇をてらわず主人公っぽい設定にしてあって、悪くなかったと思います。行動の動機付けも丁寧に描けていますし、理屈よりも感情で魅せるバトルシーンも、なかなかでした。
 ただ、その主人公を取巻く世界観の設定が全体的に説得力に乏しく、ストーリーも嘘っぽくなってしまったのは残念でした。周囲の人物が、あれほどヒネた主人公にネガティブな感情を抱かずに平然と好感を持って接しているのは(少なくともストーリー前半では)ピンと来ませんし、不便極まりない砂漠の中の無医村に大勢の人が住まなければならない理由が全く描けていないのも、やや不満が残ります。
 また、最後のバトルシーンも、主人公の“擬似超サイヤ人化”だけで片付けず、巨大な怪物を一撃必殺でやっつけるための理由付けが1つ欲しかったです。今回の話では、『おおきく振りかぶって』の三橋が気合を入れた途端に、いきなり150km/h台の豪速球を投げたようなもんですからね。 

 今回の評価
 評価はB寄りB−とします。マンガの世界にプロテストのようなモノがあれば、合格ラインに乗っている水準の作品ではありますね。ただ、プロ同士で実力を競い合う世界に入れば、まだまだ苦しい面も多々あるようです。次回作までの頑張りに期待しましょう。

 ◎読み切り『少年勇士スタースティング(改め)ハニカミ流星群』作画:吉原薫比古

 作者略歴
 1984年生まれで、誕生日は未公開。現在は20〜21歳という事になる。
 03年8月期、04年1月期「十二傑新人漫画賞」の「あと一歩で最終候補」リストに名を連ねた後、04年上期「赤塚賞」で準入選を受賞
 その後、週刊本誌04年39号に『トイレ競走曲〜序走〜』が代原掲載され、暫定デビュー。次いで同年43号に「赤塚賞」受賞作『KESHIPIN弾』が掲載されて、これが正式デビュー作となった。
 最近では「赤マル」05年冬(新年)号にも読み切りを発表しており、今回は増刊2号連続での新作掲載となる。

 についての所見
 
前作までに比べると、良い意味でも悪い意味でもアクの強さが抜けてしまったかな…という感じです。無駄な線が消えて多少洗練されては来たものの、肝心の画力が全く進歩していないので、“下手だけど個性的な絵”から“単なる下手な絵”に落ち着いてしまったような……。
 特に深刻なのが、線が弱々しくなった分だけインパクトが大きく殺がれてしまった事。このせいで、ビジュアルで獲るギャグの“爆発力”が完全に失われてしまいました。これで商業誌の作品として成立させるには少々厳しいですね。

 ギャグについての所見
 基本的なテクニックと言いますか、効果的なネタの見せ方や、ボケ・ツッコミのタイミング、セリフのテンポの持たせ方などは、ちゃんと出来ていると思います。ただ、これらのテクニックが、実際に読み手の過半数から大多数を笑わせるに至るギャグに繋がっているかというと……相当に微妙でしょうね。
 その原因は、まず先に指摘した画力不足が大きく足を引っ張っている…というのがあると思います。いくらページ跨ぎの大ゴマでインパクトを膨らませても、根本的にインパクトに乏しい絵ではしんどいでしょう。
 更に、“間”の持たせ方がせっかち過ぎたり、セリフの練りこみが今一つ足りなかったりと、目立たない所で改善の余地を残してもいたのではないかと。とりあえず、今回は色々な面でギャグを上滑りさせてしまったかな…というのが、駒木の抱いた印象です。 

 今回の評価
 一応、ギャグマンガそのものの組み立ては出来ている…ということで、B−評価とします。とりあえず、絵をどうにかしないと今後も厳しいでしょうね。

 ◎読み切り『ビーチ・ボム』作画:榊健滋

 作者略歴
 “榊健滋”名義では、「週刊少年ジャンプ」系雑誌における過去の経歴は無し。しかし、新人紹介ページの掲載も無い事から、既にデビューを果たした若手作家がペンネームを変えた可能性もある。

 についての所見
 
『リボーン』をベースに(どうやら天野明さんのアシスタントのようです)、許斐剛さんの画風のネガティブなエッセンスだけを交えたような、何だか複雑な画風ですね。
 背景処理や特殊効果などは新人離れしたテクニックも感じさせてくれます。が、どうも人物作画全般に慣れていないのか、表情のバリエーションが限定されている上に非常に固く、また、動的表現がかかっている所でも人物が止め絵状態になっていて躍動感がありません。これはスポーツ物の作品としては、かなり痛い事なのではないかと……。
 大きな発表の場に出て来れば、いわゆる腐女子人気が見込めそうな画風ではありますが、純粋なマンガの絵としてのクオリティを考えた場合、それほど高い評価は出来ない現状ですね。

 ストーリー&設定についての所見
 こちらも、『リボーン』風のキャラクターシステムと、トンデモ系スポーツマンガのネガティブな要素が交じり合ったような、一言では形容し難い内容になってますね。アシさんが師匠の作風に影響を受けるのは、確かによくある話ではありますが、どうも少々タチの悪い化学反応をしてしまったのでは……。

 まず、キャラとしての個性を出すための設定が、各主要登場人物1人1人に“配備”されているのは良いと思います。ただ、その個性だけが強過ぎて、「それは人としてどうだろう?」的な人たちが暴走するばかりの、キャラ優先・内容希薄なシナリオ──それこそまるで『リボーン』のような──になってしまったのは、ちょっと如何なものかと。
 確かに『リボーン』のフォーマットは、一話完結系コメディとしてなら非常に有効なのですが、まともなストーリ系作品に落とし込もうとするのは、かなり無理があるような気がします。事実、『リボーン』も初期のストーリー性を廃棄する事によって、ようやく軌道に乗ったわけですからね。
 また、先に少々指摘しましたが、ビーチバレーの競技シーンがトンデモな内容です。ビーチバレー競技というよりも、ビーチバレーを利用した特殊能力バトルになっている感じ。高度な駆け引きも主人公の成長や葛藤も無しのパワーゲームに終始しており、少々物足りなかったですね。

 全体的に見ると、週刊本誌で連載されている人気作のエッセンスは巧みに吸収しているとは思えるのですが、それを下支えするストーリーテリング力は、まだまだ不足している…というのが当ゼミでのジャッジです。

 今回の評価
 “名作崩れの人気作崩れ”ということでB評価とします。いわゆる「商品」としてのマンガとしてなら有望だとは思うのですが、当ゼミの基準では、そういう作品は評価のしようがありません。ファンになった方には「ごめんなさい」ですね。

 ◎読み切り『トリュフュールとパウロ』作画:矢萩隼人

 作者略歴
 1981年6月17日生まれの現在23歳
 04年10月期「十二傑新人漫画賞」で佳作(ただし、十二傑賞ではなく次席)を受賞し、“新人予備軍”入り。今回、受賞後第1作でのデビューを果たした。

 についての所見
 まず、ここまで分かり易く画力がアレな作家に賞を出して、しかも増刊に掲載してしまう「ジャンプ」編集部の懐の深さは凄いと思います。……まぁそういう度量があってこそ『ラッキーマン』が生まれ、『DEATH NOTE』が生まれたわけですが(笑)。

 ただ、この画力の足りない絵が、マンガの記号としての機能を果たしていないかというと、決してそういうわけではないのがマンガの奥の深い所ですね。確かに現状の実力では表現の幅を著しく制限されるでしょうが、少なくとも今回の作品では普通に記号として違和感なく機能していると思います。
 とはいえ、高い画力があれば、この作品のクオリティも更に高くなったはずで、そういう意味では勿体無いですね。ぶっちゃけ、絵が達者な人を作画担当にして、矢萩さんは原作に専念する…という手もあるでしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 現代風ファンタジーの世界観ながら、結構本格的なミステリですね。ストーリー展開の緩急の付け方にセンスを感じますし、また、挿入された童話や怪物との戦闘も蛇足になっていないのも良いと思います。

 トリックもなかなか凝った作りになっていて、読み手に意図して誤解を与え、犯人特定を困難にさせるように腐心している様子が窺えます。「一番意外な登場人物を犯人に」というセオリーが守られているのも好感が持てますね。
 ただ、犯人(怪物)の仮の姿に冒頭のモノローグを語らせたのは叙述トリックとしては非常に危ういですし、時間の経過を示す具体的な描写を避けて犯人の“擬似アリバイ”を作り出す手法も、余り褒められたものではないでしょう。純粋なミステリとしては、“健闘”ぶりは認められるものの、残念ながら完成度の面で今一つと言わざるを得ません。
 また、トリュフールの相棒・パウロがどういう人物なのかという描写が一切無く、設定がブン投げられた状態だったのも、細かい話ですが減点材料です。次回作ではディティールの処理にもう少し配慮して欲しいですね。

 今回の評価
 ミステリとして欠陥がある以上、高い評価は出来ません。ギリギリ及第点のB評価がいいところかな、と思います。とはいえ、ストーリーテリング面のセンスや素質といった面では、将来性を感じさせる作家さんですので、今後に期待します。 

 ◎読み切り『Heart Catcher』作画:神海英雄

 作者略歴
 1982年7月27日生まれの現在22歳
 新人賞の受賞歴の無いまま、「赤マル」04年夏号にて『アンサンブル』でデビュー。今回がデビュー2作目となる。

 についての所見
 背景処理の線が粗かったり、トーン処理がベタ貼り気味で違和感があったりと、まだ細かい所で気になる点も見受けられますが、全体的に見れば、前作よりもタッチが洗練されて印象が良くなって来たようです。
 コマ割りや構図も、相当工夫された跡が窺え、演出面への気配りが感じられます。これ以上凝られると逆に辛い気もしますが、今後もやり過ぎない程度に色々とやってもらいたいと思いますね。
 賛否分かれそうなのはディフォルメ表現でしょうか。シリアスタッチとのコントラストが大き過ぎ、また、場面の雰囲気とディフォルメ度が合っていない時もあるように思えますので、もう1つ2つ、ディフォルメの“変則ギア”があれば良いでしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 ズバリ言って、読み手によって評価が真っ二つに分かれそうな作品ですね。読み手の好意に依存するストーリーと設定と言えばいいのでしょうか。

 まずは良い所はダイナミックな演出と、最少の文字数で最大の効果を狙った脚本。天性の素質もあるのでしょうが、巧い人のテクニックをよく研究しているなぁ…と思いました。これらのファクターに関しては、週刊本誌に持っていっても全く遜色無いでしょう。
 ストーリーの緩急も良いですね。序盤から中盤にかけての内容が、全てクライマックスの見せ場を活かすように計算されているのは見事です。

 ただ惜しむらくは、無理のある設定やストーリー展開を、過度の演出で乗り切ろうとし過ぎた事。そのため、設定やストーリー上の出来事の多くが現実感希薄なモノになってしまいました。
 動機付けも含めて唐突で強引過ぎるバンドのギター奏者の実演販売への転向、フジテレビのコメディドラマかと思わせるような分かり易すぎる敵役、そして「なんぼなんでも」と言いたくなる“実演販売バトル”等々。読み手を白けさせかねないケレン味の強い要素が多過ぎで、「読者を選び過ぎる作品」になってしまったかな…といったところです。
 この作品、ツボにハマった人にとっては大傑作になるでしょう。ですが、余りの現実感の無さに呆れたり失笑したりする読み手も少なからず出て来るのでは…と思うのです。フィクションは虚構だからこそ強い現実感が必要だと思うのですが、如何なものでしょうか。

 今回の評価
 実に評価の難しい作品ですが、当ゼミではB+評価とさせて頂きます。読み手の感性によってはA評価もC評価も有り得る作品ですが、ここでは少し距離を置いて俯瞰し、平均値的な点数をつけてみました。

 ◎読み切り『ライジングT』作画:久米利昌

 作者略歴
 1981年8月1日生まれの現在23歳
 04年1月期「十二傑新人漫画賞」にて最終候補に残り、“新人予備軍”入り。その後、04年下期「手塚賞」で準入選を受賞。
 今回は一連の応募作・受賞作ではなく、新たに描き下ろされたデビュー作。

 についての所見
 
これがデビュー作とのことですが、キャリアの浅さを感じさせない、完成度の高い絵ではないでしょうか。特殊効果や背景処理なども、既に新人・若手としてはトップクラスの水準に達しています。
 強いて言えば、人物造型の顔の描き分けが少々甘い事と、表情のバリエーションがやや乏しい事が残念でしたが、これも許容範囲の中に収まっていると思います。

 ストーリー&設定についての所見
 序盤にさりげなく張った伏線を終盤に活かす構成力、意表を突いたストーリー展開などは非凡なモノを感じさせてくれます。ありきたりの話では済まさないぞ…という意気込みを強く感じさせるストーリーではありました。主人公のキャラ設定もアクが強い割に好感度が高くて良いですね。
 ただ、「主人公が今、本当は何をしたいのか」という事が最終盤になるまでハッキリしないため、ストーリー全体の“軸”が見えて来ず、中盤まではただ漫然と話が流れていった嫌いもありました。また、シナリオ上、主人公の成功までの過程が気がついたら全て終わっていた…という事になっているので、クライマックスでのカタルシスが今一つ沸いてこないのも少々不満が残ります。
 あと微妙な所としては、脚本がやや野暮ったかったようにも思えるのですが……。個人的には、決めゼリフをもう少し凝って欲しかったですね。

 大きな欠陥があるわけではないのですが、自然な成り行きでストーリーが展開していったら、イマイチ感動やカタルシスに浸れない話になってしまっていた…というところでしょうか。

 今回の評価
 これも評価の難しい作品ですが、B寄りB+とします。評点は伸び悩みましたが、それでもデビュー作としては上々と言える作品ではないでしょうか。

 ◎読み切り『ドル箱王者ベルト固め』作画:松田俊幸

 作者略歴
 1980年7月28日生まれの現在24歳
 同姓同名の人物が02〜03年にかけて「週刊少年チャンピオン」誌系新人賞で入賞しているが、同一人物であるかどうかは不明。確実な経歴は、04年下期「赤塚賞」佳作受賞のみ。
 今回は受賞後第1作でのデビューとなる。

 についての所見
 「ジャンプ」ギャグ系新人作家さんには「画力はちょっと……」という人が多いですが、この作品の松田さんはストーリー系作家さんとしても通用する実力がありますね。事実、前後の作品と見比べてみても全く違和感がありません。
 特殊効果や動的表現などのマンガ的技巧も良いですね。ただ、やや線がゴチャつき気味で、状況や人物の表情が判別し辛い場面があるのは、マンガの絵としてどうかと思いますが。

 ギャグについての所見
 残念ながら、こちらは「難有り」というところです。悪い意味で「赤塚賞」の佳作なりの水準でしょうか。

 まず、内容の薄いストーリーを律儀に追求し過ぎたために、ネタの密度が薄くなってしまいました。その結果、コメディとしては話がグダグダ、純粋なギャグ作品としてはネタが弱すぎる…という最悪な中途半端に陥ったかな、という印象ですね。
 更に問題点としてはツッコミが弱い事。後半に入って数ヶ所巧くキメている部分も見られましたが、全体としては工夫の乏しい“ボケを説明しているだけツッコミ”が多くを占め、ただでさえ弱いボケを膨らませられないまま流してしまったかな…という感じです。

 あとは贅沢な要求かも知れませんが、今やマイナーになってしまったプロレスを題材にしたのならば、せめてプロレスファンだけでも大喜びできるマニアックなネタを入れて欲しかったですね。

 今回の評価
 ギャグとしては弱すぎる…ということで、B寄りB−評価とします。もう少しギャグを練る時はバカになってみても良いんじゃないかと思いますが。 

 ◎読み切り『@'clock』作画:やまもと明日香
 ※注:題名に機種依存文字があります。1文字目は○の中に1が入った文字です。

 作者略歴
 1980年7月10日生まれの現在23歳
 新人賞の受賞を経ないまま、「赤マル」04年春号でデビュー。持ち込み活動を経て、今回が1年ぶりの新作で、デビュー2作目となる。 

 についての所見
 
まだ線がやや不安定で、全体的に粗い印象が残っていますが、1年前の前作に比べると随分見易くなって来たと思います。まだ週刊本誌に持っていくと辛い水準ですが、変なクセがついていない画風は貴重なので、このまま真っ直ぐ上達してもらいたいものです。
 具体的な課題としては、アクションシーンを分かり易く見せるための動的表現やトーンを使った特殊効果、それと人物の顔の造型バリエーションでしょうか。今の内にテクニックの“抽斗(ひきだし)”を多く作っておいて欲しいと思います。
 
 ストーリー&設定についての所見
 気持ちの良い性格の主人公の人物像がよく掘り下げられており、実に好感が持てました。全ての行動の動機づけが明確で、回想シーンの挿入もタイミング・内容共によく考えられていたと思います。最近「ジャンプ」系の読み切りでは、“とりあえず入れておこう”的な回想シーンが目立つのですが、この作品に限っては、上手く機能していたのではないでしょうか。
 クライマックスの盛り上がりも文句なし。演出と相まって見事に決まっており、説得力十分の内容でした。欲を言えば、大時計の設定をもう少し明瞭にし、戦闘シーンをもう少し凝って欲しかったかな…とも思いますが。

 ハッピーとは言えないエンディングに関しては、少年マンガという事もあって評価が分かれるところでしょう。ただ、話の必然性を追求してのこの結末ですし、主人公のキャラも合って悲壮感も抑え気味にはなっていました。個人的には、これを「悲劇だからNo」とされると、創作者としては辛いだろうなと思います。

 今回の評価
 注文をつけたくなる点は多く残ってはいますが、当ゼミ的にはこの「赤マル」ではイチオシの作品です。評価はやや甘めですがB+寄りA−
 ただ、現状のままで不用意に本誌へ抜擢してしまうと、アンケートシステムに潰されてしまう可能性が高いと思います。“将来の1軍候補の高卒ルーキー”として、今しばらく「赤マル」を舞台に実力養成に励んでもらいたいですね。

 ◎読み切り『DRUG BOY,』作画:小林ツトム

 作者略歴
 1982年5月31日生まれのもうすぐ23歳
 投稿時代は“小林マコト”名義。04年5月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入りすると、05年1月期「十二傑」で十二傑賞を受賞。今回はその特典を行使しての受賞作掲載デビュー。

 についての所見
 
線がやや粗く、全体的に画面が黒っぽ過ぎる印象がありますが、マンガの絵として概ね問題無い水準に達しているでしょう。特殊効果や背景処理などもキチンとこなせており、デビュー作としては上々の出来です。線がこなれてくれば、非常に見栄えする絵になるのではないでしょうか。
 敢えて注文を1つ出すとすれば、今回は登場しなかったディフォルメ表現を、次回作では見せてもらいたいです。表現の幅を広げて欲しい、というヤツですね。

 ストーリー&設定についての所見
 全体的に何でもかんでもセリフとモノローグで“説明”し過ぎで、“描写”が出来ていないのが非常に気になりました。マンガというよりも絵物語みたいになってしまっています。
 冒頭の“麻薬”の説明も必要あるかどうか。序盤でもいくらでも世界観を描写出来る余地がありましたし、「1ページ目から事件発生→出来事の顛末を追いながら世界観も描写」…という構成がベストだったのではないでしょうか。
 中盤以降の展開も起伏が緩くて不満が残ります。シティアドベンチャーなのに全然アドベンチャーしないまま、主人公がいきなり“運命の友”と再会するのは如何なものでしょう。その後も延々と設定に関する説明中心のセリフ劇が続いて、いつの間にかクライマックスになっていた…という感じで、どうも設定にストーリーが殺されてしまったかな、と。

 また、キャラクター設定についても、主人公の仲間2人が話に絡みきれずにやや弱くなってしまっています。せめて主人公との絆を暗示させる遣り取りの1つでも見せてくれれば印象も違ったのですが……。

 今回の評価
 絵は合格点ながら、ストーリーと設定は落第点で、このゼミの基準では厳しい点をつけざるを得ません。今回はB寄りB−評価とします。

 ◎読み切り『ママ作画:吉たけし

 作者略歴
 1979年12月2日生まれの現在25歳
 04年11月期「十二傑新人漫画賞」で、ギャグ作品では初となる十二傑賞受賞を果たし、今回のデビュー権を勝ち取った。

 についての所見
 見易くて嫌味の無い画風ですね。ただし、顔のバリエーションが少ない、表情も固い、ポーズや動きがぎこちない…など、人物作画に課題を抱えてもいるとは思います。後に述べるように、この絵のせいで肝心のギャグの足を引っ張ってしまった感がありました。

 また、全体的にギャグ作品としてはアクが弱すぎる絵柄であるような気もします。4コマやほのぼの系ショートギャグには向いていると思いますが、ページマンガでインパクト勝負のギャグをカマす時には、これは大きくマイナスに働くのではないでしょうか。

 ギャグについての所見
 ギャグを見せるためのテクニックは、結構備わっていると思います。伊達にストーリー系中心の「十二傑」をギャグで獲ってないですね。セリフ回しも抜群の出来とまでは言えませんが、それでもなかなか練られており、一定の地力は感じました。
 ただ、これらのギャグが、絵のせいで活きて来なかったのは非常に残念ですね。人物の表情や動きが固くて小じんまりとしているため、お笑いで言うところの“リアクションが薄い”状態になっています。
 かなりグダグダな感じのオチも、味といえば味なのですが、全体的にインパクトの薄いギャグの構成で最後もこの調子では、ちょっと厳しいかも知れません。

 今回の評価
 作品として成立はしているものの、失敗作との評は免れない所で、評点はB寄りB−とさせてもらいます。

 ◎読み切り『アナグマ』作画:矢部臣

 作者略歴
 1981年6月生まれの現在23歳
 04年末期「ストーリーキング」マンガ部門で「準キング」を受賞。今回はその受賞作でのデビューとなった。

 についての所見
 
主人公のような典型的なマンガタッチの顔がデッサン狂いまくりで、他の人物も表情のバリエーションに乏しいため、画力以上に下手に見えてしまいますね。アシスタント経験者なのでしょうか、背景処理などのテクニックはソツなく出来ていて、“人物作画以外はバリバリで中堅以上のプロ級”という状態です。
 微妙にタイプが違うかも知れませんが『忍空』の桐山光侍さんの絵柄に印象が似ているような気がしますが、どうでしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 
ストーリーキング準キング受賞作という事で、期待していたのですが……。どうも設定に根本的な問題があって、ストーリー以前の段階で厳しい事になってるかな、という感じです。

 この作品の基本設定は、確かに斬新で壮大な世界観ではあるんです。が、その世界観──地底世界の全貌・詳細がまるで見えて来ないので、その魅力が全くこちら側に伝わって来ません
 アナグマたちが何故、地底を目指すのか。
 目指すという地底に辿り着けば、一体何があるのか。
 過去のアナグマたちにはどのような英雄がいたのか。 アナグマたちの日常とはどんなものか。
 ……等々、読み手がこの世界観に魅力を持つためには、描写しなければならない事がいくつもあったはずなのに、これが出来ていません。これでは、どれだけストーリーを練っても、読み手にとっては遠い世界で起こっている得体の知れないエピソードで終わってしまいます。
 また、この世界観と読み手の間を取り持つ役割を担う主人公についても、生い立ちや人物像、更には何故ゆえアナグマになりたいのか…という行動に関する動機付けなど、提示しなくてはならない部分が全く提示出来ていません。これでは読み手が主人公に親近感を持ちたくても持てません。

 これが現実(かそれに近い)世界を舞台にした、“空を飛びたい男たちと、それに憧れる少年”とかなら、読み手の理解もスムーズなんですが……。まぁ斬新な設定というのは、インパクトこそありますが、扱いが非常に難しい諸刃の剣という事なんでしょうね。

 今回の評価
 ストーリーが破綻しているとか、そういうわけではないのですが、設定が余りにも…なのでB−まで評価を落とします。次回作では、是非ともまだ見ぬ真価を拝見したいものです。 


 ※総評A−がかろうじて1作品。ここ3年豊作が続いていた春号ですが、今年は不作気味でした。
 毎号大抵お目にかかる「これは手の施しようが無いな」という問題外の作品は無かったのですが、シナリオや設定の詰めが甘かったために失敗に終わってしまった作品がとても多かったです。持ち前の実力を発揮出来なかった人も少なくなかったように見え、それが残念でした。
 ところで今回は特に、主人公がフィジカル面よりメンタル面で勝負する系統の作品が目立ちましたね。以前、ある「ジャンプ」投稿経験者の方から、「『赤マル』は毎号持ち回りでチーフ編集者が1人就いて、その人が中心になって掲載作品を決めるらしい」…という話を聞いた事があったのですが、なるほど、そんな気のする微妙に偏った編集方針でしたね。ただ、そんな編集方針を採った割には、肝心の主人公像が今一つハッキリしない作品ばかりだった気もしますが(苦笑)。
 何といいますか、作家だけでなく、編集者の実力も試される「赤マルジャンプ」といったところでしょうか。

 ──というわけで、長丁場のゼミ、お疲れ様でした。またレギュラーの講義も宜しく。

 


 

2005年度第8回講義
5月2日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(4月第5週分・後半)

 今週は「赤マル」レビューもお届けしなくてはなりませんが、とりあえずは先週の続きからお送りします。

 今日の講義内容は、先週発売の「サンデー」合併号のレビューとチェックポイント。「後半」というより「やり残し」といった感じですが、どうか何卒。


 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本(4/29付前半分に収録)
 「サンデー」
:新連載1本

☆「週刊少年サンデー」2005年22・23合併号☆

 ◎新連載クロスゲーム』作画:あだち充

 ●作者略歴(参考:フリー百科事典『ウィキペディア』)
 1951年2月9日生まれの現在54歳
 70年、「デラックス少年サンデー」(後の月刊増刊)にて『消えた爆音』を発表し、デビュー。70年代は原作付作品を中心に地味な活動に終始したが、78年には後に注目された『ナイン』を「少年サンデー」の月刊増刊にて発表している。
 80年代に入ると、『陽あたり良好!』『みゆき』『タッチ』と短期間にヒット作を連発。83年には『タッチ』で「小学館漫画賞」少年部門を受賞し、「サンデー」を代表する作家の1人となる。また、これらの作品はアニメ化または実写ドラマ化され、『タッチ』は今なお抜群の知名度を誇る名作となっている。
 その後もヒット作には恵まれなかったものの、『スローステップ』、『ラフ』、『虹色とうがらし』などの作品をコンスタントに残し、92年から「週刊少年サンデー」で連載開始した『H2』がスマッシュヒットとなり、アニメ化。この作品は05年に入って実写化され、話題となった。
 最近の作品は、『いつも美空』、『KATSU!』(いずれも「週刊少年サンデー」連載)など。

 についての所見
 今年でデビュー35年の大ベテランを捕まえて、今更絵の上手い下手を論じる事自体がアレですね(笑)。
 もはや「お馴染」といった感のある洗練されたタッチの絵柄は、読み手にある種の安心感を与えるほど安定しています。絵の見辛さを全く心配しなくても良いというのは、やはり凄い事だと思います。
 それにしても、読者の多くが生まれる前から固まっている絵柄が、今なお全く古臭く感じられないというのは不思議な話ですよね。

 敢えて難癖をつけるとすれば、「また同じ顔か」という所になるのですが、これはもう言うだけ野暮なような気もします(笑)。

 ストーリー&設定についての所見
 こちらもまさに熟練のテクニック。今回は登場人物の紹介を兼ねた、ごく簡単なプロローグ的なボリューム控えめなストーリーでしたが、これが非常に高度な演出によって、立派な作品に仕上がっているから見事です。普通に描くと非常に説明臭くなってしまう内容ながら、この人の手にかかるとキッチリと“描写”になっているんですよね。
 これはやはり“必要最小限かつ最大限”の量に厳選されたセリフとモノローグ、そして巧みな場面転換やカット割といった、35年のキャリアによって培われて来た技術と、作者自身の卓越したセンスによるものでしょう。

 まだストーリーそのものは全くと言って良いほど進行していませんので、作品のクオリティそのものを評価するのは先の話になると思いますが、少なくとも失敗作にはならないだろう…という期待感は持たせてくれた第1回だったと思います。
 
 現時点での評価
 ストーリーが全然進行していませんので、とりあえず評価は保留としておきます。
 しかし、あだち充で野球モノ、しかも男子読者人気が期待出来る四姉妹モノでヒットが獲れなかったら、「サンデー」的にも、あだち充さん的にも相当厳しいでしょうね。


◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は『武装錬金』終了で、大いにネガティブな盛り上がりを見せたネット界隈ですが、「サンデー」でもヒッソリと『東遊記』が最終回を迎えました。
 ただ、こちらは終わるべくして終わったと言うか、これでも終わるのが遅過ぎたくらいの惨憺たる内容だったように思えます。画力、シナリオ、脚本、演出と、ありとあらゆるファクターが、メジャー誌で連載出来るレヴェルに達していなかったと言う他ありませんでした。
 それでも序盤の数回は(冠茂編集のプロデュース力でしょうか)見所のある所もあったのですが、回を重ねる毎に急失速。特に年が明けてからは、「盛り上がりに欠けるストーリー→無理矢理大ゴマを挟んでメリハリを付けようとする→貧弱な語彙のセリフで盛下がって逆効果」…という最悪のパターンを繰り返してしまい、とうとうどうにもならなくなってしまいました。
 最終評価はC寄りB−。連載作品としては論外に近い低水準の作品でした。フォローのしようがありませんし、したくもありません。この作品の意義を見出すとすれば、「冠編集がプロデュースしても、こんな悲惨な失敗もある」という“実績”が作れた…という事でしょうか。

 ……といったところで、ゼミの後半も終わりです。とにかく4月最終週は「打ち切りにも良い打ち切りと悪い打ち切りがある」という事をしみじみと実感させられましたね。まぁその辺の良い悪いは個人の主観によるものが多いので、難しい問題ではあるわけですが。
 それでは、また連休中に1〜2度くらいはお会いしましょう。

 


 

2005年度第7回講義
4月29日(金・祝) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(4月第5週分・前半)

 すっかりご無沙汰してしまいました。
 本格的に講師先の仕事が始終授業漬けの状態に突入して2週間。日増しに心身のストレスも蓄積され、全てのエネルギーを昼間で消費してしまって、ここ数日は夜に起き上がる事さえ出来ませんでした。
 まぁ昨年の今頃は、車で通勤中にアクセル踏みながら側壁へ向かってハンドルを切りたい欲求に駆られる事しきりだったので、それに比べたら一回り大きく成長しているのではあると思いますが(笑)。

 ──それでは、4月最終週のゼミをお送りします。今週は「ジャンプ」関連(というか、『武装錬金』関連)でお話する内容が特に長くなりそうですので、急遽前・後半に分割して実施したいと思います。
 今日は情報系の話題と「ジャンプ」関連の話を。そして明日、明後日には、若干短めで「サンデー」関連のレビューとチェックポイントをお届けする予定です。どうぞ宜しく。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(23号)『大宮ジェット』作画:田村隆平)が掲載されます。
 田村さんは03年のデビュー以来、増刊を含めて今回が3作目。これまでの2作品は、先鋭的なセンスに理詰めのテクニックが追いついていない印象がありましたが、今回は果たしてどうでしょうか。

 ◎「週刊少年サンデー」では次号(24号)『ザスパ草津物語 〜夢は枯れない〜』作画:向後和幸)が掲載されます。
 毎年1〜2回企画されるスポーツ実録モノが今年も登場。今回は元・日本代表を含む、かつてのJリーガーたちが多数所属する新興チーム・ザスパ草津のJリーグ昇格までを追った作品ですね。
 作者の向後さんは今年28歳。サッカー関連のニュース記事によると、6年前に新人賞を受賞したもののデビューする機会に恵まれず、ここまでプロアシスタントとして業界に関わって来た人とのこと。新聞のインタビューで応えた「漫画を通じて『好きなことを信じ続けて、やればできるんだ』ということを感じてもらえれば」…というコメントは、恐らく作者ご本人をも投影したものではないでしょうか。
 実録モノは、当ゼミでは原則評価対象外としていますが、一応レビューは実施する予定です。


 ★新人賞の結果に関する情報

 今週は「サンデーまんがカレッジ」の発表がありましたが、それに先立ちまして、先々週からずっと紹介し忘れておりました、「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の方からお届けします。

第23回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年2月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
  ・『Strength』
   彩崎廉(20歳・東京)
 《岸本斉史氏講評:全体的にバランスよくまとまっているし、ハッタリの利かせ方も上手。ただ、少し読み難い印象で、フキダシの位置に注意して欲しい》
 《編集部講評:表情の描き分けなど、画力には非凡なセンスを感じる。構成やアイディアもしっかり出来ている。あとは読者層を考えた作品作りを》
 最終候補(選外佳作)=8編

  ・『パンダのジューベー』(岸本斉史特別賞)
   長宏樹(24歳・大阪)
  ・『Weapon Bros』
   上田裕之(20歳・神奈川)
  ・『化け斬り九郎』
   菅原たけし(31歳・宮城)
  ・『HACK』
   仁井原正美(20歳・千葉)
  ・『リトルケイジャー』
   太平平太(22歳・神奈川)
  ・『ばっつみ!!』
   うの一薫(24歳・東京)
  ・『Guild』
   秋葉絵美(22歳・埼玉)
  ・『DLT』
   布施龍太(24歳・東京)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎最終候補の上田裕之さん…04年4月期「十二傑」にも投稿歴あり。

 
◎最終候補の菅原たけしさん…04年3月期「十二傑」で最終候補。03年10月期にも投稿歴あり。
 ◎最終候補の秋葉絵美さん
04年10月期「十二傑」で最終候補。04年6月期にも投稿歴あり。

少年サンデーまんがカレッジ
(05年2月期)

 入選=該当作無し
 佳作=1編
  ・『満月の日は血に染まる』
   森田滋(19歳・埼玉)
 努力賞=3編
  ・『デビッキュ!!』
   干場章宏(21歳・大阪)
  ・『ハッピーフェイス』
   瀬戸カズヨシ(25歳・東京)
  ・『ガチンコ! フォンドルメン』
   大坂吉宏(23歳・秋田)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  ・『98¢POP』
   苫瀬もあ(21歳・アメリカ)
  ・『サボテンハイキング』
   友永真理子(22歳・大阪)
  ・『MATAGI』
   岩田有正(24歳・愛知)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎努力賞の瀬戸カズヨシさん…04年前期「新人コミック大賞・少年部門」で最終候補、04年7月期「まんカレ」であと一歩で賞。
 
あと一歩で賞の岩田有正さん…03年9・10月期「まんカレ」でもあと一歩で賞。

 「十二傑」では、見るからに絵の達者さが目立つ彩崎廉さんがデビュー権をゲット。今期の連載入れ替えが巷の噂通り“3in・2out”なら、本誌の読み切り枠が削られてしまいますので、受賞作掲載は「赤マル」夏号という事になりそうですね。
 「まんカレ」の佳作受賞者・森田滋さんは、「サンデー」のメルマガによれば、今回が生涯3作目の完成原稿とのこと。まだ若いですし、今後の“伸び”に期待です。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:新連載1本(後半分に収録)

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年21・22合併号☆

 ◎読み切り『BE A HERO!!』作画:吉川雅之 

 ●作者略歴
 手持ちのデータが不足しており、生年月日・年齢は確認出来ず。
 98年に「天下一漫画賞」で入選を受賞し、その受賞作『テコンドー師範!! 鏡くんのカカト落とし』週刊本誌98年35号に掲載されてデビュー。それ以来、テコンドー物一筋の創作活動で「赤マル」00年冬号、週刊本誌01年29号に読み切りを発表。そして、03年には週刊本誌に掲載された作品『キックスメガミックス』が連載化。しかしこれは1クール14回で打ち切り終了
 その後、約1年のブランクを経て、04年48号にてボクシング物の『マッストレート』で復帰。今回は題材を柔道に変えての新作読み切り。

 についての所見
 相変わらず、細い線が中心の洗練されていない絵柄ではありますが、以前に比べると無駄な線が随分と減って、見易くなった印象です。以前は真正面のアングル以外の絵が非常に雑だったのですが、今回の作品を読んだ限りでは、その辺も概ね修正されていると思います。
 ただ、これも以前からの課題であった動的表現を伴うシーンがまだ未完成といった感じです。激しい動きを表現するのは良いのですが、そこで何が起こっているのか、どの技をどのように仕掛けているのかが今一つ把握し辛い面があり、これは格闘モノを扱うのならば必ず修正しなければならない部分でしょう。
 絵については門外漢の駒木が具体的なアドバイスをするのは随分とおこがましい話ですが、もう少し“激しい動きを説明するスローモーション映像”を挿入してはどうかと思います。(今週号で言えば、『アイシールド21』のRB全員抜き競演シーンがお手本でしょうか)

 ストーリー&設定についての所見
 まず、長らくの課題であった“読み手が感情移入出来るキャラクターを作る”というテーマにおいて、随分と研究と工夫が凝らされた跡が窺えました。この意欲は買いたいですね。
 とはいえ、複雑な性格とコンプレックスのせいで“乱暴で卑屈”という主人公の性格は、やはり読み手の感情移入を促進するには、まだ少々微妙ではなかったでしょうか。また、ライバルの性格も、“天真爛漫・天然ボケ”というより、むしろ“シナリオの都合によって作者主導で都合良くスイッチされる性格”という風に感じられました。
 何と言うか、「読者に嫌われないようなキャラにしよう」という作者の思惑が、必要以上に見えてしまって、少々興醒めではないかな…と思うのですが、どうでしょうか。また、どうせこだわるなら「嫌われない」じゃなくて「好かれる」を追求してもらいたいところではあります。

 あと残念だったのはプロットですね。色々と設定面で趣向を凝らしていても、こちらが手垢が付き過ぎた「技を1〜2個覚えただけの素人が、その道のエキスパートを怒りのパワーで薙ぎ倒す」では、結局“どこにでもある平凡な話”になってしまいます。
 吉川さんの作品を見ていると、どうもいつもシナリオが借り物というか、昔から使い古されたパターンをそのまま使い回しているだけに思えて、これが不満でなりません。 

 今回の評価
 努力と「自分の作品を良くしたい」という意気込みは感じられますが、それが作品のクオリティに繋がっていないかな……といったところ。評価はB寄りB−としたいと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 ネット界隈では2週間ほど前から未確認情報が流されていましたが、今週号で『武装錬金』が連載終了となりました。完結編を「赤マル」夏号に発表する猶予は与えられたものの、山積みになった伏線を全て回収する事は事実上不可能で、有り体に言って実に中途半端な打ち切りと言わざるを得ないでしょう。

 それにしても青天の霹靂と言うべき打ち切りであります。掲載順(=アンケート人気)は連載以来下位に低迷していたとは言え、単行本の初版は推定30万部台後半。年に4冊出版するとして、軽く年間4億円以上の安定した売上げが計算できる“優良債権”であるはずのこの作品がバッサリと切られてしまう…というのは、普通は有り得ない話ですからね。
 この初版部数、現在の中堅層の厚い「ジャンプ」ではそう目立ちませんが、「サンデー」や「マガジン」なら主力勢に次ぐ4〜5番手、その他のマンガ誌なら“ドル箱作品”の1つとして厚遇に処される数字ですからね。恐らく、「週刊少年ジャンプ」以外の業界関係者の方は揃って「有り得ねえ!」とか叫んでらっしゃるのではないでしょうか(笑)。
 ただ、この作品と入れ替わりに始まる新連載陣が、どうやら内水融(『賈允』)坂本裕次郎(『タカヤ』)中島諭宇樹(『切法師』)…というラインナップらしいんですよね。3人とも当ゼミでA−以上の評価獲得経験者(しかも2人は04年度『コミックアワード』部門賞受賞者)というだけでも、マニア受けはするかも知れないけどメガヒットはしなさそうじゃないですか(笑)。
 それを考えると、編集部的にはこれ以上「ジャンプ」の“地味な実力派比率”を高めるわけにはいかなかったんだろうなぁ…と。「商業的には『ミスフル』の方が伸び悩んでいるが、雑誌の構成を考えると、高年齢層人気に偏っている『武装錬金』を」…という考え方は、ある意味自然でもありますからね。まぁこれも、他誌からすればメチャクチャ贅沢な悩みである事は間違いないでしょうけど。

 ……さてさて、愚痴は尽きませんが、個人的な話としても、今回の打ち切りは「残念」の一言に尽きます。
 もっとも、当ゼミの評価と読者人気や商業的成績がリンクしない事は今に始まった事ではありませんので、打ち切りそのものは遺憾ながら致し方無いと思ってます。ただ、この作品に関しては、もっと良い作品になって、もっと恵まれた結末を迎える事が出来るだけのポテンシャルを秘めているはずだ…という確信にも似た思いが未だに残っています。それだけに打ち切りは無念でならないのです。

 この『武装錬金』については、駒木は新連載第3回のレビュー時に、世界観やキャラクター設定の完成度の高さを激賞しつつも、以下の懸念材料を指摘していました。

──そのハードルのまず1つ目は、「週刊少年マンガ誌の限界」す。
 週刊ペースでハイクオリティなシナリオを展開させ続けてゆくのは、いくら経験豊富な和月さんと言えども至難の業でしょうし、それ以前に“少年マンガ”というジャンルには表現面での制約がついて回ります。それが理由でシナリオ展開の不自然さが出てしまった場合、この作品が本来持っている可能性は損なわれてしまう事でしょう。

 そして2つ目のハードルが「ジャンプシステムによる弊害」です。
 これはもう多言は無用でしょう。作家主導による“円満終了”が極めて難しい条件の中で、名作となるに相応しいエンディングに到達出来るかどうかは微妙と言わざるを得ません。

03年7月9日付・当講座講義レジュメより)

 ……手前味噌ながら、そのまんまですね(苦笑)。これだけで、この作品の回顧が済んでしまうような気もします。まったく、こんな予想なんて当てたくなかったです。

 第3回の時点で駒木が抱いた『武装錬金』の印象は、誤解を恐れず言うと「よく出来た伝奇物エロゲー」でした。「抜群の正義感を持つ少年が、卓越した特殊技能を持つが心と過去に闇を持つ少女の戦いに巻き込まれる形で出会う」…という、変形の“ボーイ・ミーツ・ガール”物です。
 もう少し詳しく説明すると、共通の友人との日常生活の中で恋心を育む過程を大きな柱として描きつつ、要所では非日常世界を舞台に変えて、強大な敵との激しいバトル。そのバトルでは絶望的な戦力差で大ピンチに陥るものの、主人公の正義感とヒロインを想う心が奇跡を生む……といった感じのストーリー。
 ──駒木の表現力不足もあって、かなり安っぽく聞こえるかも知れませんが、ともかくも『武装錬金』は、こういうフォーマットに乗っかってこそ、持ち前のポテンシャルを最大限に活かせるのではないか…と、駒木は考えたわけです。

 しかしながら、この作品は作者サイドが余りにも“バトル系少年マンガ”を意識し過ぎたために、読者の多数が求めたとされる(単行本のライナーノーツより)日常生活が疎かになってしまう結果に。また、斗貴子の“ヘソチラ”を描くだけで心中にピンクタイフーンが吹き荒れる超奥手の作者(同じくライナーノーツより)にかかっては、カズキと斗貴子の関係も終盤までお茶を濁した状態で放置されてしまいました。
 また、日常編を疎かにしてまで重きを置いたはずのバトルシーンも、作者本人も「バトルになると人気が落ちる」と認める失敗の連続に。戦術面の駆け引きが甘かった上、傑作バトル物のセオリーである“両者ギリギリの状態になってからのせめぎ合い”も殆ど見られず、全体としてかなり底の浅い戦闘描写に終始した感は否めませんでした。
 それでも、各エピソードのクライマックス〜エンディングシーンや、インターミッション的な日常編では、巧みな脚本・演出力に支えられた“ツボ”を突いたシーンが随所で見受けられ、この作品の持つポテンシャルの豊かさを垣間見せてはくれました。これらの良シーンを目にする度、「この作品は、やはり良く出来ている」と思えたのですが、その後にはまた、迫力に欠けるバトルシーンの連続に……。まったくもって『武装錬金』は、実にもどかしい作品だったと思います。
 最終回にして、カズキと斗貴子は漸く恋人同士になったわけですが、連載当初から待ち望んでいたシーンを目の当たりにしても、駒木の胸に去来するのは空しさだけでした。これからストーリーが加速度的に良くなって行く画期となるはずの場面が、余りにも唐突な打ち切り終了のラストシーンになってしまうとは、何という皮肉なのでしょうか……。

 この作品の最終評価は完結編終了後まで保留します。「赤マル」で与えられるであろうページ数で“軟着陸”は望むべくもありませんが、評価を下すのは、せめて最後を見届けてからにしたいのです。
 
 ──さて、今週は『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』が連載20回、『魔人探偵脳噛ネウロ』が連載10回を迎えましたので、これら2作品について評価の変更も実施しておきましょう。

 ◎『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之
 旧評価:A−寄りA新評価:A寄りA−

 一時はバトル系作品に路線変更かと思われたのですが、第10回までの評判が良かったのか、今後は“感動路線”と“VSエンチュー編”の両睨みで進行してゆくようですね。まぁどちらにしろ、次号で巻頭カラーを獲得する程に人気は高値安定傾向にあるようです。
 作品のクオリティも、相変わらずの高水準を保っています。「ジャンプ」作品にしては随分と地味な印象がありますが、エピソードごとのクライマックスシーンの盛り上げで上手くフォロー出来ている感じですね。
 ただ、起承転結の“承”の部分がやや冗長になったり、セリフ回しで頂けない場面があったりと、最近やや粗も目立って来た感も。そこで、一旦評価をA−に下げ、その上で更に10回様子見を続けたいと思います。

 ◎『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征
 旧評価:B新評価:B(据置)

 クオリティそのものには変化がありませんので、一応評価は据え置きとしました。
 ただ、もうこの作品は、“ミステリ風エンターテインメント”の形式を利用しながら、主人公サイドの遣り取りや、犯人役キャラのキレっぷりを楽しむ…という、いわゆる“ネタ漫画”になってしまった感がありますね。ストーリーやトリックのクオリティは別にして、勝手に読者が楽しんでいる状態になっているようです。
 当ゼミ的には作家の技量で読者を“楽しませ”てこそナンボですので、勝手に“楽しまれ”ている状態では、高い評価は出せません。この作品については、とりあえず今回で評価確定とし、大幅な作風変更があった時のみ、評価の変更を行うものとします。


 ──というわけで、今週前半分のゼミをお届けしました。『武装錬金』については多少私情も混じってしまったかな…と、今更ながらに恥ずかしい思いをしていますが、第2回「コミックアワード」最優秀長編作品賞受賞作という肩書きに免じて、どうかご容赦下さい。ではでは。

 


 

2005年度第6回講義
4月24日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(4月第4週分)

 講義の遅延、情けない限りであります。昨晩は高校講師の仕事関連で終電まで呑みの付き合いがありまして、講義の準備どころじゃありませんでした。他のヨタ話はともかく、マンガ評論は酔っ払ったままでやるのは失礼ですしね……。
 これがモデム配り時代以前なら、呑み会も1次会で無理矢理抜け出して来るだけの間違った根性があったものですが、まぁこれも年のせいでしょうか(笑)。

 ──これに関連するような、しないような、なんですが、今年は昼間の仕事の方が去年よりも忙しくなる事が確定しまして、こちらに割ける時間が更に減ってしまいます。簡単に言うと、拘束時間が1日平均1〜2時間長くなってしまうので、その分研究室に居られる時間が削られるわけです。
 そのため、この「現代マンガ時評」においては、今週から“チェックポイント”欄を縮小し、原則として連載10回単位の評価見直しや、最終回掲載時の総括をするためだけのコーナーとさせて頂きます。元々“チェックポイント”は、前・後半分割化した際に内容を水増しするために始めた中途半端なコーナーですので、現状を考えると思い切って削ってしまった方が良いのかな…という気もしますしね。
 今後、その手のフリートークは冒頭か締め括りでネタっぽくお話することにします。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(21・22合併号)『BE A HERO!!』作画:吉川雅之)が掲載されます。
 吉川さんは、デビュー以来、テコンドー等の格闘技を題材に扱って来た作家さん。前作の読み切りではボクシングとボディビルの融合という、男色ディーノが武者震いしそうな設定でしたが、今回も予告カットを見る限りでは、かなり男臭い作品になりそうですね(笑)。

 ◎「週刊少年サンデー」では次号(22・23合併号)より『クロス・ゲーム』作画:あだち充)が新連載となります。
 つい先日に連載を終えたばかりの重鎮・あだち充さんですが、非常に早い段階での復帰、しかも『H2』以来の野球モノと来ました。連載終了後2ヶ月半での復帰となると、ひょっとすると前作終了以前から既にこの作品へのバトンタッチが内定していたのかも知れませんね。
 どうやら「サンデー」では『じゃじゃ馬グルーミン★up!』以来の4姉妹モノにもなるようですが、このパターンは男読者が必ず姉妹の内の誰かに“引っ掛かる”ので、キャッチーではあるんですよね。手間隙は異様にかかるんでしょうけど。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:対象作無し
 「サンデー」
:新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年20号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週の「ジャンプ」は読み切り・新連載が無いのでレビューは無し。この欄で『ユート』の連載第10回・評価見直しのみをお届けします。

 ◎『ユート』作:ほったゆみ/画:河野慶
 旧評価:A寄りA−新評価:A−寄りB+

 1ランクの大幅ダウン修正となりました。
 評価下降の理由は、ストーリー上のヤマの小ささと、読み手にカタルシスを与える場面が極端に少ない事。連載開始以来10回、単行本にして1冊分以上を費やして、主人公が殆ど良い目に遇っていないというのは、エンターテインメントとしては大きな問題だと思うのです。
 脚本やストーリーテリングの巧みさは依然としてAクラスですし、絵の方も標準以上のレヴェルを保っていると思うのですが、肝心のシナリオがここまで弱含みでは厳しいです。今回敢えてAクラス評価から落とした上で、もうしばらく経過観察したいと思います。

☆「週刊少年サンデー」2005年21号☆

 ◎新連載(連載再開)第3回『うえきの法則プラス』作画:福地翼《連載再開第1回掲載時の評価:A−寄りB+

 についての所見(第1回時点からの推移)
 絵そのものについては前回のレビュー時点から大きな変化はありませんが、改めて人物の表情の微妙な表現が良くなったなぁ……としみじみ思います。第1回の森あいの泣き顔といい、第2回の植木の怒り顔といい、実写なら「名演技」と言われるであろうシーンがコンスタントに飛び出すようになって来ましたね。
 こういう文字・文章で表現するには困難を極める情景を、僅か一枚の絵で表現する事が出来るのがマンガという表現媒体の長所。そういう意味でこの作品は、純粋なイラスト用の画力では計れない“マンガ画力”が相当高い水準に達していると申し上げて良いでしょう。

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 こちらについても、前回のレビュー時点から大きな変化は認められません。ただし、こちらは良い面も悪い面も、です。

 憧れる強さと共感できる弱さを併せ持つ、読み手の感情移入をスムーズに誘導できる主人公。そして、その性格設定を活かした目的意識のハッキリしたストーリー展開は、明快で読後感も良いものに仕上がっています。これは大変に良い部分です。
 しかしながら、文字情報やセリフで一から十まで説明した上で話を進めようとする悪癖、これがどうしても抜け切れていない印象で、ストーリー展開がどうにもギクシャクしてしまっています。もう少し隠喩的な演出を散りばめたり、セリフ抜きでも絵だけで分かるような場面を増やしたりしてはどうだろうかと思うのです。
 あくまで私見ですが、この作品に限って言えば、「頭の鈍臭い読者は置いていくぞ」位のスタンスで良いのではないかと。それが出来るだけの画力は既に備わっているのですしね。
 
 現時点での評価
 良い意味で平行線ということで、評価はA−寄りB+のまま現状維持とします。連載10回時点の評価見直しまでに、どう進化するのか、今から楽しみです。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週はこのコーナーで採り上げる対象になる作品はありません。
 雑誌全体をザッと読んだ感想としては、「吾郎みたいな主人公だと、イチローをあそこまで嫌な奴にしないと話が成立しないんだな」と、作家さんの苦労に思いを馳せたりしました。

 

 ……というわけで、今週はショート・バージョンでお送り致しました。来週分では、新連載に読み切りのレビュー、そして恐らくは大変に気の重くなる最終回の総括と、内容充実の一本になるのではないかと思います。では、また。

 


 

2005年度第4回講義
4月16日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(4月第3週分)

 いきなりで恐縮ですが、今週から「週刊少年マガジン」で始まった新連載・『ヴィンランド・サガ』作画:幸村誠)をご覧になりましたでしょうか?
 中世ヨーロッパの10世紀末のフランス王国(名目上で987年成立、それ以前は西フランク王国)が舞台、しかも主人公は北方民族・ヴァイキングの少年。……このマニアックこの上ない設定の歴史物マンガが、商業主義の権化のような「週刊少年マガジン」に載って、しかも凄ぇ面白いというんですから、二重三重で驚きです。
 戦闘員の装備や、生臭さが全身から漂うカトリックの坊主など、歴史考証もかなり慎重に配慮している様子で、こちらも大変素晴らしいです。この時代の戦争にしては少々戦闘で人が死に過ぎるような気もするのですが、まぁ『はじめの一歩』みたいな激し過ぎる試合が現実のボクシングでは殆ど観られないのと同じと考えれば苦になりません。

 『プラネテス』で有名な幸村誠さんの作品、しかし初めての週刊連載。ネット界隈でも大きな期待と共に一抹の不安も抱かれているようですが、もし第1回のクオリティが今後も続くなら、これはとんでもない傑作になるやも知れません。
 しばらく様子を見て「どうやらこれはA評価が出せそうだ」となった場合、「読書メモ」枠で採り上げて第4回「コミックアワード」のワイルドカード枠に推薦したいと思います。普段「マガジン」に拒否反応を出している方も、どうぞ今一度コンビニ等でご確認を。お薦めです。

 ──と、いきなり講談社の回し者になったような挨拶で失礼しました(笑)。公務多忙で遅くなりましたが、今週の「現代マンガ時評」をお送りします。
 そう言えば、このゼミは集英社「ジャンプ」と小学館「サンデー」の作品を中心にレビューしているわけですが、肝心の「コミックアワード」では、3回中2度も講談社勢(しかも「モーニング」と「アフタヌーン」)がグランプリを受賞してるんですよね。我ながら不思議です。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 今週は、新連載・読み切りについての情報、及び新人賞関連の情報は特に有りませんでした。
 なお、「週刊少年ジャンプ」では次号(20号)より『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健)が連載再開となりますが、現時点では改めてレビューを行う予定はありません。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年19号☆

 ◎読み切り『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜

 ●作者略歴
 1985年8月6日生まれの現在19歳。現役大学生。
 01年8月期「天下一漫画賞」で特別賞を受賞して“新人予備軍”入りした後、03年3月期「天下一」で準入選を受賞し、受賞作掲載によるデビュー権を獲得する。
 この権利を行使したデビュー作は「赤マル」03年夏号掲載の『SEA SIDE JET CITY』。その後、1年4ヶ月のブランクを経て「赤マル」05年冬(新年)号に今作と同名の『大泥棒ポルタ』を発表。今作は、その「赤マル」版から設定とストーリーに大幅な変更を加えたリメイク作品。

 についての所見
 
「赤マル」冬号の掲載からまだ3ヵ月という事で、大きな絵柄の変化といったものは感じられませんね。キャリアの割に洗練されたタッチの人物作画は好印象が持てますし、動的表現などの特殊効果もマズマズこなせていると思います。
 ただ、問題点も前回同様といったところで、構図の単調さ、人物の表情の微妙な変化が上手く表現できていない所など、画面にメリハリが欠けた部分がありました。また、後で述べる場面転換の単調さも災いしてか、背景の“スカスカ感”が否めません。大まかに見たところ、半分以上のコマ数が真っ白か真っ黒かトーンのベタ貼りで占められており、先述した構図の単調さが余計に際立ってしまった嫌いもありました。

 北嶋さんが「天下一漫画賞」で準入選を受賞した決め手は、確かダイナミックな構図と演出だったはずなんですが……。ここで今一度初心に戻り、自分の独創性の豊かさを再確認すべきなのかも知れませんね。

 ストーリー・設定についての所見
 まず冒頭のシーンから。この部分に関しては、テンポの良さといい、モノローグの挟み方といい、よくネームが練られていて、なかなかの出来映えに仕上がっていると思います。
 ところが、タイトル(扉ページ)を挟んでから後が良くありません。ページをめくってもめくっても、セリフによる世界観と設定の説明が続くばかりで、非常に淡白な内容に陥ってしまいました。末にはメインシナリオの進行まで文字情報の段取りだけで済ませてしまっており、「この作品がマンガという媒体で描かれる必要性」が希薄になってしまっています。

 また、作品全体の出来映えを左右する大きなカギと言える、宝物を盗み出すためのトリックに大きな問題点がありました。作品内では「7時55分と針が示す大時計を、時計ごと傾けて8時00分に見せかける」…という事になっているのですが、これは実際にはそうなりません。
 お判りでしょうか、長針が55分を指している時計を傾けて00分に見せかけようする場合、短針も一緒に1時間分ズレてしまいます。つまり、7時55分の時計を傾けて誤魔化そうとすると、時計の針は9時00分を指す事になってしまうはずなのです。有り得ない事実を根拠にしたトリックは、もはやトリックとは言えません。致命傷です。
 あと、ネタ振りの部分で「変装では見破られて終わりだ」と言っておきながら、結局は変装をして姿を誤魔化している…というのも如何なものでしょうか。こんな杜撰なトリックをメインに据えるぐらいなら、冒頭で見せたようなアクションで華麗に盗み出した方がまだ良かったのではないかと思います。

 結局のところ、力を入れるべき所を完全に間違えてしまった作品…といったところでしょうか。結果的にトリックも人間の心を描いたドラマも中途半端で終わってしまって、残念なクオリティの作品になってしまったような気がします。

 今回の評価
 評価はトリックの致命的欠陥で大幅に割り引いてB−とします。「赤マル」作品が週刊本誌に掲載された場合、かなりの確率で連載化への道を辿る事になりますが、この作品の場合に限っては時期尚早ではないでしょうか。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週も『銀魂』はギャグが絶好調。言語センスの鋭さは相変わらずですし、今回は“間”の取り方が特に絶妙でした。個人的には、もう少しストーリー要素が強いエピソードの方が良いと思うのですが、これはこれで非常に楽しめました。
 それにしても、「ジェットコースター乗ってる内にウンコしなきゃ殺す」と言う方も言う方なら、本当に座高が盛り上がるくらい脱糞しちゃう方もしちゃう方ですね(笑)。

 『ユート』は漸く大きくストーリーが動き出しました。女コーチが「阿寒スプリント1000M7位」「1分42秒58」というキーワードに大きく反応するあたりが“ほった節”というか、マイナー競技モノならではの巧いハッタリの利かせ方ですよね。
 ただ、どうも次回では、雄斗はスピードが乗り過ぎてコーナーを曲がりきれずに壁へ一直線…というシーンになってしまいそうですね。これでどうやって話を良い方向に盛り上げていくんでしょうか……?

 『HUNTER×HUNTER』は、全ページにまともな絵が入っているという非常に珍しい光景が。一体いつ以来の事なのか、誰か調べてくれませんか?(笑)
 ただ、絵の出来映えに反比例するように、内容が薄味になっているのが気になります。個人的には「絵が綺麗で内容ソコソコ」よりも「絵は殴り書きで内容抜群」という方がまだ嬉しいのですが、多分、自民党の派閥で言えば河野グループくらいの少数派なんでしょうね、そういう割り切り方をしている読者って。 

☆「週刊少年サンデー」2005年20号☆

◎読み切り『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』作画:曽山一寿

 ●作者略歴(参考資料:インターネット百科事典・ウィキペディア)
 1978年9月24日生まれ現在25歳
 第47回(00年後期)「小学館新人コミック大賞・児童部門」で佳作を受賞
 「コロコロコミック」誌において、01年に今作が読み切り掲載を経て連載化。好評のまま現在に至る05年には「小学館漫画賞」児童部門を受賞。
 なお、この作品の他、『探偵少年カゲマン』(作:山根あおおに)を「別冊コロコロコミック」誌に連載の経験あり。
 今回の作品は、“「サンデー」出張版”としての番外編的な扱いで、04年38号にも同様のパターンで読み切りが掲載されている。

 についての所見
 もはや上手いとか下手を超越した絵柄ですね。特に人物作画では、見た目のリアルさを徹底的に軽視し、ギャグを表現するための記号に落とし込んでいるように見受けられます。
 で、それでいて、線は非常にスッキリと洗練されており、見易い絵柄であるのが特徴ですね。喜怒哀楽の表現も実に的確ですし、なるほど、これならどんな幼い子供にでも作者側の表現上の意図が伝わる事でしょう。

 「サンデー」では明らかに浮いた絵ですし、純粋な一枚絵として見た場合には「高いクオリティ」と言うのに強い躊躇を覚える事も事実です。が、小学生以下を対象にしたギャグ作品の絵として極限まで完成されたものと言えるのではないでしょうか。

 ギャグについての所見
 “間”で獲る笑い、ページをまたいでのビジュアル一発ギャグは、徹底的に小学生を意識して判り易過ぎるくらいに判り易いネタを畳み掛けています。必要以上に豪快なコマ割りは、後述するように微妙な手法ではありますが、ネタ1つ毎のインパクトを増し、“笑わせ所”を読者全員に提示する効果は得られているでしょう。
 また、さりげなく技術を感じさせるのがツッコミのセリフでした。簡潔かつ的確と言えば良いのでしょうか、この脚本力は相当なものではないかと思います。

 ただ、やはり1コマの大きさが非常に大き過ぎ、ネタの絶対数・密度が物足りなくなったのは否めませんでした。ここまでネタ数が少ないと、1つのネタが笑えないだけで作品全体に対する印象も大きく異なってくるので、この点では相当損をしているのではないでしょうか。
 小学生相手に特化した内容のネタもそうですが、長所がそのまま短所になって跳ね返って来るようなタイプの作品であると言えますね。子供向けマンガとしては、既に完成の域に達してはいますが、万人受けするギャグ作品かどうかと問われると、首を傾げざるを得ないでしょう。
 
 今回の評価
 今回も評価はA−寄りB+に留めたいと思います。ただし、これはギャグを表現する技術を重視し、更に読者層を子供から大人まで幅広く…という前提でジャッジしたものであると付記しておきます。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 個人的には今週号の目次、『結界師』→『でんぢゃらすじーさん』という並びのコントラストが頭にガンガン響きました(笑)。頭を使って読ませるよう設計された作品の次に、頭を使わないでも笑えるよう設計された作品ですからね。
 それにしてもこの『結界師』の、読者の読解力に依存して、説明的なセリフやモノローグを極力排するやり方っていうのは、なかなかレヴェルの高い手法ですよね。

 『いでじゅう!』では、新キャラクター登場。テーマは“普通の人”でしょうか。いや、“変になりたい必要以上に普通の女の子”って既に変なのかな? ……んーまぁメガネっ子だから良しとしましょう。
 ちなみに、駒木の座右の銘は「明日出来る事は今日しない」「女性のメガネは七難隠す」であります。まぁ自分の周りには今日だろうが明日だろうが出来ない事だらけで往生してたりするわけですが。

 ──といったところで、ちょっと控えめですが今週はこれまで。2ch界隈の情報によると、今月中にもかなり覚悟を持って臨まなければならない事態がやって来そうですが、とりあえず先伸ばし出来る事は今日しない方針で邁進する予定ですので、どうか何卒(笑)。

 


 

2005年度第1回講義
4月8日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(4月第2週分)

 今年度最初の「現代マンガ時評」をお送りします。今年度から有名無実と化していた“分割版”のフレーズを削除致しまして、原則週1回の講義実施とさせて頂きたいと思います。
 実はこの4月から、また高校講師の方の担当授業時間数と朝イチ出勤日が増えまして、とてもじゃないですが週2回以上の講義実施が保証できません。長期休暇時等、余裕がある時は極力講義回数を増やしたいと思いますが……。
 開講3周年を過ぎ、駒木も年を重ねて色々な意味で無理が効かなくなって参りました。それでも今の自分が出来る事を着実に、確実に達成させてゆきたいと考えています。どうかご理解の程、宜しくお願い申し上げます。

 ……さて、固い話はここまでにしまして。
 いやー、それにしても酷かったですねアニメ版『アイシールド21』の声優陣
 栗田もプロ失格級でしたが、悲惨を極めたのは(やっぱり)ヒル魔。「イメージと違う」を通り越して、田村淳の声で喋ってるヒル魔ですからね、あれじゃあ。
 駒木はこれまで、周囲から湧き上がる「なんでロンドンブーツやねん」という至極ごもっともな怨嗟の声に対しても「1度聞いてみるまでは保留しましょうよ」と諌めて来たのですが、その保留も即座に解除というところであります。
 駒木個人が認識している声優の史上最悪キャスティングは、15年以上前に某ローカル局で強行されたイカれたラジオドラマ企画の「天空人に生まれ変わった植村直己役:古谷徹」だったんですが、今回はその斜め上を突き抜けたんじゃないかとすら思える体たらくでありました。原作のお2人も「ジャンプ」の巻末コメントで田村淳をベタ褒めなさってましたが、今となっては大人の事情の根深さを痛感する次第であります。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(19号)『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜)が掲載されます。
 北嶋さんは当時の月例賞「天下一漫画賞」で準入選を受賞して本誌デビューを果たした若手作家さん。今回の読み切りは、「赤マル」で発表された同タイトル作品のリメイクとなるようです。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(20号)『絶体絶命でんじゃらすじーさん』作画:曽山一寿)が掲載されます。
 「今年度『小学館漫画賞』児童部門受賞」という箔を付けて、「コロコロコミック」から昨年に続いて2度目の“出張”となりました。
 やはり「コロコロコミック」読者を「週刊少年サンデー」に取り込むための戦略なんでしょうね。一度手にとってもらって「あ、『ガッシュ』も載ってるのか」とか思わせる…という。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年18号☆

 ◎読み切り『TEAM』作画:宮本和也

 作者略歴
 83年5月8日生まれの現在21歳
 04年下期「手塚賞」で準入選を受賞。今回は受賞後第1作でのデビューとなる。
 なお、00年9月期の月例賞最終候補者に同姓同名の名前がリストアップされているが、プロフィールの「マンガ歴1年ちょい」という記述を考えると別人か。

 についての所見
 率直に判断して、プロのマンガ家を名乗るには物足りない画力と申し上げざるを得ません。動的表現、背景処理、そしてディフォルメといった、マンガの表現に必要な技術が未熟ですし、人物作画でも非常に稚拙な部分が目立ちます。
 また、これらの画力の拙さがバスケの試合シーンのクオリティを、更には作品全体のクオリティをも大きく押し下げてしまったのは否定出来ないでしょう。これは評価を出す上では大きな減点材料となります。

 ストーリー&設定についての所見
 特に完成度が低い作品というわけではないのですが、設定といい、ストーリーといい、既存の同系作品からの影響を大変強く感じるのが何とも……といったところですね。やや乱暴に言ってしまえば、極めてオリジナリティの低い、“典型的少年向けスポーツ物マンガの焼き直し”的な作品という風に映りました。
 特にステロタイプな小悪党の敵役、予定調和的なクライマックスの展開はストーリーを随分と陳腐にしてしまった感が否めません。また、世界観や敵役の設定にリアリティを持たせる努力を怠ったのも“焼き直し臭”を強めているのではないでしょうか。
 あくまで個人的な印象ではありますが、これらのステロタイプな設定が、「話の展開上、必要に迫られて」ではなく、「少年マンガでこういうのがよくあるから」または「自分が好きな少年マンガのパターンだから」使われたような気がしてならないのです。そしてこれが“焼き直し”と思えてしまう理由でもあるのです。

 それでも、主要登場人物の設定は(ステロタイプには変わりありませんが)よく練られていると思います。天然ボケ系・野生児的ながら好感度の高い性格&使い勝手の悪い能力を持つ主人公がいて、この主人公と様々な面で相互補完関係にあるパートナーを配置する…という発想は、なかなか気が利いていると思います。
 また、多少“臭い”ところはありますが、脚本もなかなかよく考えられており、こちらも好感が持てます。稚拙な所が多々目立つ作品ながら、不思議と読後感が良いのは、こういった部分が有効に機能しているからではないでしょうか。

 今回の評価
 ストーリー・設定だけなら、何とかB評価は出せるクオリティにはあるのですが、画力で減点しなくてはなりませんので、B寄りB−とします。
 あと、評価には加味しませんでしたが、元バスケ部の駒木が見ると、このマンガのバスケ競技シーンは許し難いレヴェルの“迷シーン”に映る事を付記しておきます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 最近今更ながら「何やかんや言ってても、このマンガ凄ぇなあ」と思いながら読んでるのが『ONE PIECE』です。スケールの大きな、しかも綿密に練られたプロット、シリアスとコメディのバランス、読み手が混乱を来たさないギリギリの線を追求した登場人物数と、なるほど伊達に「ジャンプ」の看板背負ってるわけじゃないなぁ…なんて感じる事が多くなりました。
 今週も、メチャクチャ緊迫した場面だというのに、途中に2ページ挟んだギャグが全然違和感無く溶け込んでるんですよね。これまでの世界観とキャラ設定の積み重ねが、こういうさりげない場面で活きて来るんですね。

 連載開始以来最長のエピソードが終わったばかりの『銀魂』は、前回までのエピローグも兼ねて久々の一話完結型コメディ。これまで築き上げた設定をフルに活用しての、総決算的エピソードといったところでしょうか。腕の良い若手芸人のショートコントのような“傍観者からのボキャブラリー豊かなツッコミ”が冴えまくっていて、楽しませてもらいました。
 それにしても、「漫画の編集者みたいなみたいな事言いやがったヨ」っていう、作者の体験談的なメタなツッコミが良かったです。
 ……あ、作者の体験談的セリフと言えば、『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』の、「〆切間際の記憶消失なぞよくある」ってのも、ちょっと考えたら怖いセリフですよね。そんなにキツいのかよ、週刊連載って…という。 

☆「週刊少年サンデー」2005年19号☆

 ◎新連載(連載再開)『うえきの法則プラス』作画:福地翼《正編終了時の評価:B+寄りB

 ●作者略歴
 1980年2月7日生まれの現在25歳
 98年12月・99年1月期「サンデーまんがカレッジ」で佳作受賞し“新人予備軍”入り。その後、2年半の雌伏期間を経て、『うえきの法則』でいきなりの週刊本誌連載デビュー。これが01年34号より04年46号まで3年強に及ぶ長期連載となる。
 今作は同作品アニメ化に伴う、事実上の第二部となる続編。

 についての所見
 絵柄そのものは正編の『うえき』終了時から大きく変わっていないのですが、以前に比べると線描が細かくなり、それにつれてシリアスとディフォルメのコントラストが大きくなって、随分と垢抜けた印象の絵になりました。表現の幅の広がり、そして好感度といった点においては長足の進歩と言えると思います。
 特に、人物の表情による心情描写がとても良くなったように感じられ、これは読み手の感情を揺さぶるのに大変有効に働く事でしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 以前は極度に叙事的というか、極端な話、「“少年誌っぽい能力バトル”さえやっておけば……」的雰囲気すら漂っていたのが、この『うえきの法則』でした。ですが、今回のストーリーを見る限りでは、キチンと人間の心を描いたドラマが“主”になっており、良い意味での主客転倒が為されているようです。こちらも長足の進歩を遂げていると申し上げて良いでしょう。

 ただ、惜しむらくは、相変わらずバトルが小細工的な駆け引きに終始していて、“戦い”というより“底抜け脱線ゲーム”になってしまっているところ。もっと高度な戦略性や、戦力的劣勢を気迫でカバーしての大逆転劇など、今後はもっとスリリングな攻防が展開される事を望みます。
 また、キャラクターの心情表現を、行動による“描写”よりも、本人のセリフやモノローグなどの文字情報による“説明”に頼っているのも、やや興醒めを誘う要素ではなかったかと思います。同じ内容のセリフでも、キャラクター本人ではなく、その家族や友人に語らせるだけで随分と印象が違うものなので、この辺の工夫も今後は凝らしていって欲しいと思います。
 
 現時点での評価
 以前に比べると、作品全体のクオリティが明らかに上がっており、読んでて本当に嬉しい気分になりました。こういう出来事があると、評論活動をやってて良かったと思えるんですよね。
 評価は以前のものを一旦破棄して、改めてA−寄りB+としておきます。今回指摘した問題点が改善されてくれば、いつでもAクラス評価を出すつもりでいます。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週巻頭カラーの『名探偵コナン』では、平次から「お前の周り、事件起き過ぎとちゃうんか?」という、読者なら誰もが思っている事を代弁してくれる名ゼリフが出現して爆笑。やっぱり作者ご本人も同じ事を考えていたんですね。

 『ワイルドライフ』には、どこをどう見ても最近ラジオ局のオーナーになった小デブな人をモチーフにしたキャラが登場。ただ、このマンガの悪い所はネタを考えたら、その「思いついた」という時点で止まっちゃう所なんですよね。モデルにした人物像の掘り下げが甘くていけません。
 同じホリエモンをモチーフにしたキャラといえば、「近代麻雀」連載中の『むこうぶち』にも、“赤入り麻雀が強い、小天狗な若旦那”として森江という男が登場してます。こっちはもう、ホリエモンの不快な部分だけを見事に抜き出してて、読んでて楽しいったらありゃしません。今月15日発売の次号から2〜3回に渡って、この森江がケツの毛まで抜かれて人生破滅する様子が描かれるので、アンチ堀江の方は是非ご一読を。

 何だか手仕舞いのようにも見えた最近の『こわしや我聞』ですが、どうやら次のエピソードに続くことになりそうですね。それにしても、せっかく集めた仙術使いの面々がまるで影の薄いまんまだったのは残念でした。この辺の構成力を付ける所なども、掲載順巻末脱出のカギになって来ると思うのですが。


 ……と、いったところで今年度最初の講義をお届けしました。しばらくは次週の予定すら確約できない状況が続くと思いますが、そういった場合も「観察レポート」だけでも更新させるつもりですので、気が向いたら近況確認だけでも宜しくお願いします。では、また来週。


トップページへ