「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・14)

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講義一覧

9/30(第35回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (9月第5週/10月第1週分)
9/23(第34回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (9月第4週分)
9/17(第33回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (9月第3週分)
9/10(第32回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (9月第2週分)
9/4(第31回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (8月第5週/9月第1週分)

8/29(第30回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (8月第4週分)
8/23(第29回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (8月第3週分)
8/11(第27回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (8月第2週分)
8/6(第25回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (7月第6週/8月第1週分)
7/30(第23回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (7月第5週分)
7/23(第21回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (7月第4週分)
7/14(第20回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (7月第3週分)
7/8(第19回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (7月第2週分)
7/2(第18回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (6月第5週/7月第1週分)

 

2005年度第35回講義
9月30日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(9月第5週/10月第1週分)

 1週間のご無沙汰でした。やはり世を忍ぶ仮の本業がフル稼働してる時期は、モチベーションが昼間で根こそぎ削られている気がしますね。一般の人としては真っ当な話ですが、こんな講座を開いている時点で一般の人ではない駒木にとって、これは非常に難しい問題であります(苦笑)。
 今週は、本当なら遅くとも木曜ぐらいには実施しないといけないぐらいのボリュームなのですが、アーカイブ収録時の都合により、実時間から1日遅れで翌日振替実施扱いという体たらく。情けない限りで、本当に申し訳有りません。

 さて、今日は「週刊少年ジャンプ」系の新増刊・「ジャンプ the REVOLUTION」の公式発売日でした。1〜2日前から既に流通に乗っていたようですので、もう入手した方も多いと思いますが、予想通りなかなか独特な雰囲気を発した雑誌ですね。個人的には、高年齢層を対象にした、マンガ版「ジャンプノベル」を作りたかったのかな…と推測していますけど。
 実力派中堅・ベテラン作家さんも多数執筆していますし、出来れば全作品レビューをしたいんですけど、今のタイミングはかなり微妙なんですよね。最近は「赤マル」レビューの度に疲労の余りチョンボしてますし……。
 今のところ考えているのは、「毎週のゼミの中で1〜2作品ずつに分けてレビューして、余力が出来た時に残りをまとめてやる」…という方式なんですが。あとからレジュメを参照する時に面倒臭くなりそうなのが嫌なんですけれど、どんなもんでしょうか。

 今日の時点ではまだ全作品読了してませんので、とりあえず始動は来週からということで何卒。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(44号)より『べしゃり暮らし』作画:森田まさのり)が新連載となります。
 『ろくでなしBLUES』、『ROOKIES』の森田さんが久々の本格始動となりました。今回は系列誌や週刊本誌に読み切りでプロトタイプ版を発表した、少年を主人公としたお笑い立志伝モノのようですね。
 ストーリーだけでなく、劇中劇のギャグにも高度なセンスが要求される、非常に難易度の高いジャンルですが、果たして完成度の方はどんなものでしょうか。

 なお、今号の「週刊少年ジャンプ」では、翌々週の45号から『大泥棒ポルタ』(作画:北嶋一喜)が新連載となる情報も併せて発表になっています。秋の新連載はこの2作品で、入れ替わりに終了するのは、今週最終回を迎えた『カイン』と、次週の最終回が濃厚となっている『切法師』の2本の線が強くなってきましたね。共に2クールの短期打ち切りですか。
 最近は「ジャンプ」連載陣のレヴェルが総じて高く、新連載が成功するのはなかなか厳しい情勢のようです(勿論、そもそも人気を獲り切れる内容ではなかった、という要素もあるでしょうが)。これらの新連載、どのようにして2クールの壁を突破を狙っていくのか、注目と言えるでしょう。

 ★新人賞の結果に関する情報

 今週は、「ジャンプ」で「ストーリーキング」の、「サンデー」で月例賞「まんがカレッジ」の審査結果発表がありました。それぞれ興味深い選考結果となりましたが、まずは「ストーリーキング」から。

第14回ストーリーキング(05年上期)

 ◎マンガ部門
 キング=該当作無し
 準キング=該当作なし
 最終候補(選外佳作)=4編

  ・『K』
   中島伸幸(21歳・埼玉)
  ・『十騎学園清掃委員椿見参!!!』
   中川ゆうた(21歳・京都)
  ・『サニワのアラシ』
   越智沢博和(29歳・神奈川)
  ・『モノノケ埋葬BEAT』
   松雪ヨウ(25歳・群馬)

 ◎ネーム部門
 キング=該当作無し
 準キング=該当作なし
 特別賞=1編
  ・『ハネウオ』
   天海了(26歳・東京)
 最終候補(選外佳作)=7編
  ・『ジローの大工』
   菜洲戊得(21歳・愛知)
  ・『WILD RANK』
   大橋寿裕(16歳・岐阜)
  ・『鬼強』
   吉田覚(22歳・新潟)
  ・『牛若丸』
   かんあさ祐樹(22歳・群馬)
  ・『GANG☆STAR』
   宮武由祐(17歳・香川)
  ・『スポチャンサイボーグ』
   輪木和也(24歳・大阪)
  ・『金糸雀は詩わない』
   吉田亮(28歳・東京)

 受賞者の皆さんのキャリアは以下の通りです。
 ◎ネーム部門最終候補の
大橋寿裕さん…04年秋期(第12回)「ストーリーキング」ネーム部門でも最終候補。
 ◎ネーム部門最終候補の吉田覚さん…03年下期「赤塚賞」で最終候補。
 ◎ネーム部門最終候補の宮武由祐さん…05年4月期「十二傑新人漫画賞」に投稿歴あり。 

 ……一時期の隆盛に比べると最近低迷気味の「ストーリーキング」ですが、今回はネーム部門に特別賞1編が出ただけという、極めて低調な結果に終わりました。マンガ部門などは見栄えのする絵が印象的な作品も複数見受けられたのですが、どうやらそれが作品全体のクオリティに繋がっていなかったようです。
 そして、こういう結果になった事もあって、編集部からの講評ではかなり厳しいコメントが相次ぎました。曰く、「無駄な部分を省くための推敲が足りない」「テーマ・素材に新鮮味が欠ける上に取材不足」「ネーム部門は『ヒカ碁』『アイシル』並の即戦力を求めているが、応募作の水準はそこまで届いていない」……等など。
 要は、「ページ数無制限」「ネームでの投稿も可」という条件を“活かす”よりも“甘える”応募者が多い、という事なのでしょう。思えば、『ヒカ碁』も『アイシル』も、ネーム部門の受賞作ながら作者は現役のマンガ家さんでしたし、専門分野に対する知識も並々ならぬモノがありました。上位入賞を果たすには、この2作品に並んで追い越すぐらいの気持ちで製作に当たらないと勝ち目は無いという事なのでしょうね。

 なお、次回から「ストキン」は大幅にリニューアルが図られるとの事。現状、「ジャンプ」は月例賞に加えて「手塚賞」「赤塚賞」もあるだけに、新人賞の住み分けも色々考えないといけないという事なのでしょうね。

少年サンデーまんがカレッジ
(05年7月期)

 入選=1編(週刊本誌or増刊に掲載)
  ・『こより日和!』
   小川麻衣子(18歳・熊本)
 《編集部講評:18歳の若さ、そしてセンスの良さが編集部の圧倒的な支持に繋がった。天性のデッサン力と流麗なペンタッチも秀逸》
 佳作=該当作なし

 努力賞=4編
  ・『ヨモツノゴオウ』
   山鳥寅人(19歳・大阪)
  ・『年下のヒーロー』
   君塚力(19歳・大阪)
  ・『KARASU』
   天日和諒(22歳・東京)
  ・『ロボコックイボちゃん』
   大鶴曜介(22歳・神奈川)
 あと一歩で賞(選外)=該当作なし

 受賞者の皆さんのキャリアは以下の通りです。
 ◎努力賞の大鶴曜介さん…02年下期「赤塚賞」で佳作受賞。

 ……先月に引き続いて、低調な中から入選1編が出ましたね。講評の褒めっぷりも相当に高いテンションですので、増刊か本誌に掲載される時を期待して待ちたいと思います。
 ところでこちらの講評には「キャラクターが立っていない作品が多い」という嘆き節が。しかし、それは増刊や本誌に掲載されている新人・若手作家作品の大半にも言えることですからね。“お手本”がそんな調子なのですから、応募作もそういうモノになってしまうのも当然と思えるのですが、如何なものでしょうか。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:代原読み切り1本
 「サンデー」
:対象作品なし
 ◎今週は、「サンデー」についてはチェックポイント対象作品もありませんので、こちらのコーナーは1週休みとなります。ご了承下さい。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年43号☆ 

 今週はレビュー対象作無しになる所だったんですが、『HUNTER×HUNTER』が作者都合休載となって代原が掲載されました。そういや『ハンタ』の代原も久々だなぁ…と思って調べてみたところ、どうやら04年48号以来ほぼ11ヶ月ぶりらしいですね。
 実はこの作品、これまでも“毎回のように休載する期間”と“作画の荒れが酷いながらも何とか間に合う期間”が、氷河期と間氷期よろしく交互交互にやって来ているので、ひょっとしたらこれを機にまた休載が増えるかも知れません。
 個人的にはこの作品、マンガの完成品としてはともかくとして、ネームの中身は「ジャンプ」でもトップクラスの水準を維持していると思っていますので、休載だけは勘弁して欲しいなぁ…といったところです。あと、代原のレビューが増えるのが面倒臭いというのもあります(笑)。

 ◎読み切り『たいして良い思い出もできそうにない学校生活』作画:伊藤直晃

 作者略歴
 生年月日は非公開。05年上期「赤塚賞」応募時25歳とのことで、現在は25〜26歳
 「十二傑」への投稿を経て(04年12月期「最終候補まであと一歩」)05年上期「赤塚賞」で準入選を受賞。今回は受賞作となった31ページの作品(扉+1ページのショートギャグ×30本)を15ページに短縮しての代原暫定デビュー。

 ●についての所見
 トーンを使うべき部分の処理が甘い、フリーハンドで描くべき部分と定規を使うべき部分の振り分けが間違っている点がある…など、基本的な所で稚拙な部分が目立ちます。ただ、人物作画の線などは比較的シッカリしており、絵がギャグの足を引っ張るというような所は殆どありませんでした
 総合的に見れば、ギャグ作品としてはギリギリ及第の水準でしょうか。ただ、これから正式デビューや連載を目指していくとするならば、早急な技術向上は必須でしょう。
 
 ギャグについての所見
 まず気になったのが、ほとんどの作品においてギャグの流れ──ネタ振りからオチに至るまでが全くのワンパターンである事。確かにその作家の持ち味としてコンスタントに笑いの獲れるパターンを確立する事は大切なのですが、カーボンコピーと言っていいほど同じパターンが続くと、さすがに食傷してしまいますね。
 また、全般的に(というか、どのネタも同じパターンなので当たり前ですが)オチが弱いのも気になりました。ツッコミを読み手に委ねて過ぎというか、最後に気の利いたセリフが欲しい所で、笑いでなく余韻だけ残して終わってしまうのは如何なものでしょうか。

 “間”の持たせ方や、簡潔で無駄の無いセリフ回しなど、確かにセンスが光る部分もあるのですが、残念ながら総合的に見て、週刊本誌へ掲載するにしては物足りない水準だと思います。

 今回の評価
 評価はB−とします。典型的な代原レヴェルの内容で、本来なら「赤塚賞」では佳作ぐらいが妥当な作品だと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、『ネウロ』の連載30回『みえるひと』の連載10回、そして『カイン』の最終回に伴う連載総括と、盛りだくさんの内容となりました。大体新連載シリーズが10週ごとですから、結構タイミングが被っちゃうんですよね。

 ◎『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征
 旧評価:B寄りB+新評価:A−

 駒木のこの作品の解釈に対して、ウィキペディアにまでネガティブなリンクを張られてしまって「何だかなぁ」なんですが(笑)、今回は以前の講義や談話室(BBS)で表明したように、純粋なエンターテインメント作品として評価を下しました。最近は推理モノの皮を被ってるのかどうかも怪しくなってますので、多分この解釈が揺れる事はしばらくはないでしょう。
 ※10/15未明にウィキペディアの該当部分が削除修正されました。執筆された方、有難うございます。

 さて、今回評価点を大幅に上昇させたのは、“犯人役”にあたるキャラが二転三転して見事に収束した「サイ編」の構成力、そしてキャラクターメイキングの上手さを最大限評価してのものです。特に最近は刑事たちや怪盗サイといった魅力的なレギュラー脇役が良い味を出しており、これが作品全体のクオリティにも好影響を与えているのではないでしょうか。
 問題点としては、エピソードごとにストーリーの完成度に大きなバラつきがある点でしょうか。どのエピソードでも「サイ編」ぐらいのヒネりと意外性が含まれるようなお話になるのが理想ですね。 

 今回はちょっと点数を上げ過ぎかとも思うのですが、A−寄りB+とかにしたら、評価がどれくらい上がったのか自分でも謎になってしまうので(笑)。まぁ無意識にこびり付いている個人的な先入観を取っ払う事を考えたら、一旦はこれぐらい上げてみるのも丁度良いのかなとも思います。
 さて次回の評価見直しですが、今度は「コミックアワード」のノミネートが絡んで来ますので、キリ番にはこだわりません。当ゼミで年度末となる11月末に近いタイミングで、エピソードのキリが良い所を見計らって新評価を出すつもりです。

 ◎『みえるひと』作画:岩代俊明
 旧評価:B寄りB+新評価:B

 そしてこちらは10回目にして、残念ながら評価の下方修正を実施しました。

 で、第4回以降からの印象なんですが、作品全体のテーマと言うか、ストーリーや登場人物に仮託して作者が描きたい物が見えて来ないんですよね。少なくとも駒木には全然伝わって来ません。
 この辺り、プロトタイプでは謎解き系のサスペンスホラーだったのを全く違うコンセプトに切り替えた影響が出ているのではないでしょうか。読み切りの連載化では、プロトタイプ版の設定を踏襲しつつ、更に長編でこそ出来るストーリーやキャラの掘り下げを図るのがセオリーなのですが、それが思うように出来ていないのかなと。
 とりあえず今は、登場人物の心情描写に力を入れて、読み手の感情移入を促進させるように試みるべきでしょう。各人物にフォーカスを当てたショートエピソードを何回か続けるだけで随分と印象が違って来ると思うのですが。

 この作品についても「コミックアワード」前にタイミングを見計らって評価見直し予定です。

 ◎『カイン』作画:内水融
 旧評価:B−
最終確定評価:B−(据置)

 『ユート』に続く、今年度短期打ち切り第2号。2クール、連載19回で打ち切り終了となってしまいました。
 しかし正直言って、この打ち切りを惜しんだりフォローしたりする気持ちには全くなれません。ファンの皆さんには申し訳ないですが……。

 読み切り版から踏襲した設定は題名と主人公の名前だけ。それで読み切り版から取り去った要素の代わりに何を投入したかと言えば何もなし。出来上がったのは、キャラ掘り下げの著しく甘い登場人物たちだけが勝手に盛り上がって、それでいて盛り上がらない戦闘シーンを繰り返すストーリー展開でした。
 これでは少なくとも「ジャンプ」で成功するのは、どう考えても難しかったでしょう。当ゼミとしてもメジャー誌の連載作品としては落第点となるB−評価を出さざるを得ませんでした。

 これで内水さんは、「策士・軍師を主人公にした“頭脳派”の読み切りで成功→肉弾戦闘中心の“肉体派”の連載で失敗」…というルーチンを2セット繰り返してしまった事になります。決して実力不足の作家さんとは思わないのですが、これだけ適性違いのチャレンジを繰り返しては失敗するのも致し方無しでしょう。
 次のチャンスがあるのならば、三度同じ過ちを繰り返さぬようにして頂きたいです。

 
 ──というわけで、今日はここまで。意外と長丁場の講義になりましたが、少しでもお待たせした分の償いになっていれば幸いです。
 それでは、また来週。増刊掲載の『いちご100%』番外編を読んで、「なんか『BOYS BE…』みてえだな」と第一印象を抱いた駒木がお送りしました(笑)。

 


 

2005年度第34回講義
9月23日(金・祝) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(9月第4週分)

 9月もいつの間にか下旬。当講座の年度で言えば、もうラスト2ヶ月という事になりました。昨年度は「コミックアワード」の実施が遅れたという事情もありましたが、やはり光陰矢の如しの感ですね。
 さて、今年度も勿論「仁川経済大学コミックアワード」を実施しますが、昨年度では対応が後手後手に遅れた反省もこめて、今年はワイルドカード推薦の募集を今の内から始めておきたいと思います。
 レギュレーションは昨年度同様。「週刊少年ジャンプ」&「週刊少年サンデー」系以外の作品で、04年12月以降に単行本1巻が発売された長編連載作品が対象です。「コミックアワード」のグランプリに相応しいクオリティの高い作品を推薦して下さい。
 推薦は左フレームの「直通メール」直リンクから送信して下さい。メールの題名は「コミックアワード推薦」推薦する作品のタイトル・著者・掲載誌・出版社を明記して、簡単な推薦文も付けて下さい(安易な推薦を避ける為の措置です)。なお、推薦作品は1〜3作品程度でお願いします。
 そして、推薦が2票以上に達した作品から随時“予備審査”を行い、当ゼミのレビュー基準でA評価以上に達した作品を「コミックアワード」グランプリにノミネートします。ちなみに昨年度、推薦を2票以上獲得したのは、最終的にグランプリを獲得した『おおきく振りかぶって』、それに『シグルイ』、『ヒストリエ』の都合3作品でした。「週刊少年マガジン」とか「週刊ヤングジャンプ」からの推薦作品は皆無で、「アフタヌーン」と「チャンピオンRED」のマンガに票が集まる辺りがウチらしいですが(笑)。
 ……というわけで、どうか何卒宜しくお願いします。グランプリを決めるのは貴方の1票かもしれません。 


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 今週は採り上げるべき公式アナウンス情報はありませんでした。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年42号☆ 

 ◎読み切り(第2回『金未来杯』エントリー作品)『@'clock』作画:やまもと明日香
 ※注:題名に機種依存文字があります。1文字目は○の中に1が入った文字です。

 作者略歴
 1980年7月10日生まれの現在25歳
 新人賞の受賞を経ないまま、「赤マル」04年春号にて『天空の司書』でデビュー。今作は「赤マル」05年春号に掲載されたデビュー第2作の同タイトル・マイナーチェンジ版。

 についての所見
 
作品発表を重ねるごと、地味ながら確実に良くなって来ているようですね。やや線が細くインパクト不足を感じてしまいますが、週刊本誌に混じってもあからさまに浮くような絵ではなくなって来ました。
 更に次へのステップアップという意味でやや細かい問題点を指摘させてもらうと、まずはトーン処理でしょうか。トーンの選択と使い方がまだ不慣れに見えました。あとはページをパラパラとめくっていると、主人公が大抵同じアングルの顔面・バストアップになっているのも気になります。構図の取り方がワンパターンだと演出面にも影響してきますので、この辺りも次からはもっと気にして欲しいです。
 
 ストーリー&設定についての所見
 設定・シナリオに関しては、「赤マル」05年春号の同タイトル作品をそのまま踏襲しています。あまり褒められる事ではありませんが、過去にも同様のケースは沢山ありますし、準備期間の短さ、過去作のマイナーチェンジ版を描かねばならないという制約もあったでしょう。それを考えると、今回はあまり厳しく責められないかな……とも思います。
 ただ今回は、改作するにあたって、ストーリー展開のメリハリが無くなり、一本調子になってしまった気がするのです。前作から推敲を施して無駄なコマを減らしたのは良いのですが、今度は無駄が無くなり過ぎて、場面と場面の“間”が詰まってしまっています。
 つまり、演出のためにコマ・ページ数を割いていた部分まで削られていて、読み手に与える効果がその分目減りしているというわけです。全体としては僅かな改稿なのですが、今回は不思議なくらい違った印象の作品になってしまいました。

 あと、この作品の“肝”は、主人公の少年が何かを引き換えに時間の流れの外に身を置く──母親や村の皆に存在を忘れられる──かどうかの心理的葛藤のはずで、敵役の能書きや細かい設定云々よりも、もっとその辺りの心象描写を丁寧にやるべきではなかったでしょうか。
 読み手の感情を揺さぶろうとする方向性そのものは間違っていないと思いますので、あとは演出面でしょうね。こういう所で他の作家さんの名前を出すのは失礼なんでしょうが、例えば久保帯人さんのような演出上手や、雷句誠さんのような“泣かせ”上手がこの作品を描けば、それはもう物凄い破壊力の読み切りになっていたと思います。

 今回の評価
 評価はB+。レビュー内で指摘した、ストーリー展開のメリハリが無くなった分だけ減点しました。
 個人的にはこの作家さんは、あと1〜2作「赤マル」で腕を磨き、センスが洗練されて来てから満を持して本誌進出を果たしてもらいたかったのですが……。この性急な抜擢は、結果的に出世を遅らせたり停滞させてしまいそうで、逆に怖いです。

 ──さて、これで今期「金未来杯」の全作品が出揃いましたので、簡単な総括を。

作品名 作者 評価
『カメとウサギとストライク』 天野洋一 B
『スマッシングショーネン』 大竹利明 B+
『バカ in the CITY!!』 大石浩二 B+
『魔法使いムク』 大久保彰 B
『ナックモエ』 村瀬克俊 B+
『@’clock』 やまもと明日香 B+

 当ゼミの基準としてはB+評価4作品、B評価2作品という結果になりました。昨年は5作品中、A−評価1作品(『ムヒョ』)、B+評価3作品(『プルソウル』、『タカヤ』、『切法師』)でしたから、若干粒が小さくなったかな……といったところでしょうか。
 ただこれには、昨年の第1回で、数年がかりで育て上げた有望新人さんを全て使い果たしたという側面があり、今回が不作というより前回が豊作過ぎた(その割には連載化させて大失敗していますが)と評する方が妥当でしょう。
 さて、優勝予想ですが今回は突出した出来の作品が無く、非常に難しいですね。ただ、この手のコンペで最も有利な、絵の見栄えが良い作品となると『カメとウサギと──』か『魔法使いムク』になりますか。内容はともかく、お話は分かりやすいモノでしたので、非マニアの若年層から支持票を集めそうではあります。
 ただ、今回の水準で上位入賞作品をそのまま連載させてしまうのは正直厳しいのではないかと。昨年度の水準でも、軌道に乗ったのは『ムヒョ』ぐらいですし、「黄金の女神杯」の時も成功した作品は僅少でしたしね……。上・中位クラスの作品が底堅く、『DEATH NOTE』や『D.Gray−man』ですら掲載順が下がり気味というこのご時世、キャリアも実績も浅い作家さんの読み切りを連載化するなんて、ヨハネスブルクぐらい危険だと思うのですが如何でしょうか。

☆「週刊少年サンデー」2005年43号☆

 今週号は、またしても『うえきの法則プラス』が休載で代原が掲載されました。一応は取材休載という事になっていますが、3週前の休載と同様に“作者都合休載”の可能性が大ですね。
 もうこの段階になると、作業時間が足りないという問題ではなく、そもそもネームが出来上がらないという状況ではないでしょうか。かなりの大ピンチという感じがしますが……。

 ◎読み切り『ラブリー フェアリー』作画:小野寺真央

 作者略歴
 生年月日は非公開。04年7月期「まんカレ」応募時21歳とのことで、現在は22〜23歳
 先述の04年7月期「まんがカレッジ」で佳作入賞し“新人予備軍”入り。先月発売の隔月増刊05年9月号にて『犬神』でデビューを果たしたばかり。

 ●についての所見
 純粋な画力という意味では、全体的に拙いものの「サンデー」のギャグ作品としては及第点を出せる水準にあると思います。ただ、線のメリハリが弱い上に人物の動きや(特に“妖精”の)表情の変化が乏しく、見た目のインパクトという点では物足りなさが残りました
 もう少し構図や人物のポーズにバリエーションをつけて、一挙手一投足を印象付けるような工夫が出来るようになれば良いのではないでしょうか。
 
 ギャグについての所見
 ギャグの見せ方に関しては、“間”の取り方やページ跨ぎ、コマ割りなどといった基本テクニックが貫徹されています。少なくともこれらの点に関しては、ポジティブな評価をして良いのではないかと思います。
 ただ、絵の所見でも述べたように全体的にインパクト不足な絵柄のため、ビジュアルで見せるネタは不発気味だったのではないでしょうか。また、ツッコミなどのセリフ回しもヒネりが効いておらず、せっかくの笑わせ所を活かし切れていないように見えました。いつも言っているように、笑える笑えないは極めて主観的な要素ではありますが、少なくともまだ随分と良化の余地を残しているのは間違いないと思われます。

 現時点での評価
 評価を付けるには微妙な作品ではありますが、B寄りB−としておきます。今回は代原ということで仕方ありませんが、本来なら隔月増刊の片隅に掲載されるのが精一杯の水準でしょう。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は連載第10回を迎えた『絶対可憐チルドレン』をピックアップします。

 ◎『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志
 旧評価:新評価:(据置)

 10回時点の今回もA評価で据置としました。
 第8話までは各登場人物にスポットを当てた連作短編形式、そして単行本3巻分に突入した第9話からは短期集中連載分を伏線とした長めのエピソードに突入していますが、ここに至るまで全く隙の無い完成度です。高度なストーリーテリング技術と緻密な計算によって組まれたシナリオを、活き活きとしたキャラクターが縦横無尽に駆け巡る……といった感じで、まさに理想的な展開を歩んでいると言って良いでしょう。
 キャリアと才能に恵まれた作家さんが作品にも恵まれるとこうなる、という典型例でしょうね。商業的な観点では、単純明快な必殺技バトルが好みの小学生にどこまでウケるかという問題は残っていますが、少なくとも当講座の評価としてはケチのつけようのない水準の作品と断言できます。

 また、評価とは直接関係ない部分ですが、遊び心に富んだこの作品の端々から、椎名高志さんの『絶チル』と“チルドレン”に対する愛情が伝わって来るのが、とても好感が持てるんですよね。駒木にとっては、読んでいるだけで幸せになれる作品です。


 ……というわけで今週分はこれまで。来週からは連載回数キリ番の作品や、連載打ち切りの作品(涙)が連続・大量発生しますので、ボリューム面でもソコソコ充実した内容になるのではないでしょうか。
 「ジャンプ」の打ち切りは、掲載順からして多分アレとアレなんでしょうね。『武装錬金』打ち切ってまで始められた作品なだけに、複雑な意味で残念です。

 それでは、また来週。

 


 

2005年度第33回講義
9月17日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(9月第3週分)

 今週もガタガタの状態で週末を迎えてしまいました。昼の仕事から帰って来た途端に気力が尽きるのを感じ、その回復もままならないまま、寝なきゃいけない時刻を迎えている……という感じでした。どれくらい気力が無かったかと言うと、『DRAGON BALL』の天下一武闘会と『バキ』の最強トーナメントを足してで割ったような、ハレンチ☆パンチぐらい志の低いマンガを見せられても、「フーン」で終わってしまうほどと申し上げれば、ご理解頂けるのではないかと。
 幸い今日から予定の無い3連休ですので、この講義が終わったらサウナ行ったり麻雀打ったりして心身共にリフレッシュしてみたいと思います。

 さて、連休シフトでもう次週分の「ジャンプ」が発売になってますが、今日は月曜発売の、『NARUTO』が表紙の41号が対象ですのでお間違えないようお願いします。「サンデー」は水曜発売の42号です。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(42号)に「第2回金未来杯」エントリー作として、『@o'clock』作画:やまもと明日香)が掲載されます。
 やまもとさんは新人賞の受賞歴が無いまま、持ち込み活動を経て04年に「赤マル」でデビュー。今回は「赤マル」05年春号掲載の同タイトル作品をマイナーチェンジさせたもの。デビュー3作目で大きなチャンスを迎える事になりました。 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年41号☆ 

 ◎読み切り(第2回『金未来杯』エントリー作品)『ナックモエ』作画:村瀬克俊

 ●作者略歴
 79年8月7日生まれの現在26歳
 03年11月期「十二傑新人漫画賞」で佳作&十二傑賞を受賞し、その受賞作『福輪術─ふくわじゅつ─』が04年2月発売の「青マルジャンプ」に掲載されてデビュー。同年5月の「赤マル」春号にも『Kick! コータ!!』を発表していたが、その後今回まで1年半はアシスタント業(鈴木信也さんのスタジオに所属とのこと)に専念していたのか、ブランクを作っていた。

 についての所見
 
デビュー時から画力のある方でしたが、前作からの1年半で更に進歩しているようで、好感が持てました
 相変わらず師匠である鈴木信也さん、更には井上雄彦さんからの影響も強い絵柄ではあります。「どこかで見たことあるような絵」という感じもしますが、絵柄そのものは随分と洗練されて来たのではないでしょうか。格闘シーンの描写も前作より良くなっています。
 以前からの問題点である人物の表情の変化が固い所など、手放しで褒められない部分も未だ残ってはいます。が、連載未経験・デビュー3作目の若手作家さんにしては、相当上位クラスの技量である事は間違いないでしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 最初に悪い所を率直に指摘すると、プロットそのものは、かなり既視感が強くて手垢のついたモノだったですね。悪い言い方をすれば陳腐でヌルいストーリーに終始した…という感じでしょうか。
 マンガの読み方には色々なスタンスがありますが、少なくともこのゼミのスタンスでは、他の作品とのバランスを取る意味でも「ヌルいけど楽しめる作品」に高い評価を与える事は出来ません。よって、ストーリーを評価する“基礎点”はどうしても辛めの採点をする事になってしまいます。

 ただ、ストーリーラインには最低限の理屈の整合性や説得力が保たれるよう、総じてよく練られており、陳腐さ・ヌルさも許容範囲で収まったかな…といったところです。「本格格闘技ドラマ」と銘打たれては困惑を禁じ得ませんが、B級の映画・Vシネマのようなヌルい作品と割り切ってしまえば悪くないんじゃないでしょうか。(まぁあくまで「○○としては〜」という話ですが)

 具体的に評価できるポイントは、まず格闘シーンが挙げられます。喧嘩の延長上のような“バトル”ではなく、キチンと“格闘技”の草試合が描かれていました。実力上位の主人公が試合前半劣勢に陥る理由付けをムエタイの特色と絡めるなど小技も効いています。
 「ジャンプ」でよくある、「半端な実力の敵役が素人の主人公を滅多打ち→擬似サイヤ人化で一撃逆転KO」という芸のないムーヴに比べると、今回のそれは雲泥の差。このまま更に取材・研究を重ね、本格的な格闘マンガが描けるようになるまで精進してもらいたいですね。
 あとは敵役の勘違いした体育会系教師のキャラ造型、これもステロタイプな“敵役のための敵役”ではなく、微妙に大きく歪んだ性格を描写したら結果的に敵役になった……という描写が出来ているのは良かったと思います。今回はこの描写力が作品のクオリティに直結したとは言い難いですが、次回作以降、作品に恵まれればフルに活きて来る才能でしょう。

 先に述べたように、ストーリーの根本的な部分がやや低調だったのは残念でしたが、その中に埋もれそうになって潜んでいる高いポテンシャルが光る惜しい作品でもありました。今回の結果如何に関わらず、次回作に期待したい作家さんです。 

 今回の評価
 評価はB+としておきます。個人的には好きな部類に入る作品でもあるのですが、それを意識して逆に厳しめの採点にしました。
 ちなみに現在・現実の私立高校では、上司に楯突いて堂々と体罰を肯定・実施するような困った教員は、気が付いたら架空の学校へ転勤しているのでご安心を(笑)。

☆「週刊少年サンデー」2005年42号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は評価見直し対象作品が2作品。連載20回の『うえきの法則プラス』と、連載10回の『あいこら』について採り上げます。

 ◎『うえきの法則プラス』作画:福地翼
 旧評価:B+新評価:B+(据置)

 今回の見直しでも、B+評価で据え置きとしました。
 この10回は、正編『うえきの法則』でも見られた団体バトルに突入しています。さすがに手馴れているなぁ…といったところですが、やはり過剰に理屈をこねまわした駆け引きばかりが表に出ているのがどうにも……。
 ストーリーの流れ上、仕方ない事ではあるのですが、敵役が“当面の”敵役で、しかも主人公らとの因縁が薄いために、ドラマ性が薄れて“バトルのためのバトル”になりがちです。以前に比べると心象描写が緻密になっている分、いくらかバトル以外に中身のある内容になっていますが、まだドラマとバトルの主客が転倒気味ではないでしょうか。

 まぁこの路線が受けたからこそ『うえき』は成功し、こうして続編も描かれている事は承知しています。でも、だからといって、“現在地”に安住してしまうには余りにも勿体無いと思うのです。

 次は連載30回時点でまた評価見直しをします。

 ◎『あいこら』作画:井上和郎
 旧評価:B+新評価:B+(据置)

 相変わらずのカタルシス優先・予定調和上等、ストーリーの内容を云々言えばキリが無いですが、エンターテインメントに徹しきったその製作姿勢はむしろ清清しささえ感じますね。
 脚本・演出面など、“マンガの見せ方”に関するテクニックについては申し分ありませんし、コメディ要素を支えるギャグにしても、本職真っ青のインパクトが感じられるネタもありました。
 この作品を「2005年を代表する名作!」とか、「ラブコメの最高峰!」…などと評するのはどうかと思いますが、雑誌のラインナップの脇を固める娯楽作品として一級の佳作であることは間違いないでしょう。

 とりあえずこの作品については今回で評価確定とします。個人的に一読者として好きな作品でもあるので、今後はレビュアーの立場を離れて素直に楽しませて下さい(笑)。

 

 ……以上、9月3週分のゼミでした。ではまた、来週。

 


 

2005年度第32回講義
9月10日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(9月第2週分)

 ほぼ一週間のご無沙汰でした。たった6日で体がガタガタです(苦笑)。翌日の疲れの残り具合で、否応無しに現在の年齢を思い知らされる今日この頃です。
 開講当初みたいに、毎日朝まで講義の準備して、2時間睡眠で往復2時間半の職場へ出勤……なんて真似はもう出来ないでしょうね。これをご覧の20代半ばの受講生さん、気合だけで頑張れる今の内に、やりたい事はやっておきましょう(笑)。

 ……さて、それでは今週のゼミをお送りします。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(41号)に「第2回金未来杯」エントリー作として、『ナックモエ』作画:村瀬克俊)が掲載されます。
 村瀬さんは03年11月期「十二傑」で佳作を受賞し、翌04年2月発売の「青マル」でデビュー。その春の「赤マル」にも読み切りを発表していましたが、今回が1年ぶりの登場で本誌初登場。鈴木信也さんのスタジオでアシスタントを務めているそうですが、その修行の成果がどれくらい現れているか注目ですね。

 ★新人賞の結果に関する情報

第28回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年7月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『魔界不思議犬ブルブルブルズ』
   まや夫(19歳・岩手)
 《鈴木信也氏講評:魔王が人間界で犬扱いという設定は面白かった。だが魔界生物に比べて人間の描き方が雑すぎる。主人公の表情は豊かで良かったのだが》
 《編集部講評:序盤の設定の不可解さが気になったが、全体を通して「笑い→感動」へ読者を引っ張っていく展開は良い。絵は人間の顔を中心に要努力。》
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『ホタルのヒカリ』
(=鈴木信也特別賞)
   三代川将(22歳・東京)
  ・『ORANGE SPIKE!!』
   青木雅彦(23歳・東京)
  ・『ヨモギアンドドラゴン』
   黒内双磨(22歳・東京)
  ・『Dr.ヒイラギの事件簿』
   イチノセコウタ(25歳・新潟)
  ・『ライオンprologue』
   小笠原大(26歳・北海道)
  ・『チンフー』
   神崎ししゃも(27歳・愛知)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎十二傑賞のまや夫さん04年9、11月期に太宇諭まや夫名義で投稿歴あり、04年10月期「十二傑」に太宇諭みや夫名義で最終候補。

 今回の十二傑賞は、昨秋に3ヶ月連続応募という離れ業をやってのけた経験のある19歳のまや夫さん。講評の通り、画力には大きな課題が残されているものの、その中に秘められているセンスが認められた……といったところでしょうか。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年40号☆ 

 ◎読み切り(第2回『金未来杯』エントリー作品)『魔法使いムク』作画:大久保彰

 ●作者略歴
 1980年3月11日生まれの現在25歳。
 00年9月期「天下一漫画賞」で最終候補となって、“新人予備軍”入り。その後、岸本斉史さんのスタジオでアシスタントを務めながらデビューの機会を窺い、「赤マル」05年冬(新年)号でデビューを果たす。
 今回はそれ以来2度目の登場で、初の週刊本誌掲載&「金未来杯」への大抜擢。

 についての所見
 今冬デビュー時以来の高水準を保っています。デビュー2作目の若手作家さんで、ここまで安定して洗練された線を描ける人はそういないんじゃないでしょうか。さすがは腕達者が揃う岸本斉史スタジオですね。

 しかし欠点の方もデビュー時からそのまま。これも岸本斉史さんのアシ出身者の特徴でもあるのですが、線描が細かい代わりに強弱・太細のメリハリに欠け、アクションシーン等で迫力不足に陥る面が気に掛かります
 独特のトボけた世界観・雰囲気を醸し出す事には成功しているのですが、それが作品全体のクオリティに繋がっているかどうかというと、微妙ではないでしょうか。

 ストーリー・設定についての所見
 まず、どうしても気になってしまうのが、登場人物の行動全般の動機付けが甘く、説得力に欠けている点です。
 この作品のストーリーは、本質的には“主人公巻き込まれ型”。主人公が敵役と戦う羽目になる事自体は不自然ではありません。しかし、そこへ取って付けたように“友達を作る”という行動(そして、アッサリと出来上がってしまう、にわか作りの友情関係)を絡めてしまった事で、いっぺんにおかしくなってしまいました。
 この“友情”は、作品全体を通じて描かれたテーマになっているわけですが、それならそれで、もっと濃いエピソード描写をして欲しかったところです。登場人物が「俺たち友達だ」と宣言したからといって、読み手がそれを認証するかどうかは別ですからね。

 あとは、この動機付け云々の話と関連していると思いますが、キャラクター描写が甘いようにも感じました
 主人公は感情移入を促す要素に乏しく天然ボケで、敵役は喋る言葉の語尾以外に特徴無し。この2人がバトルを繰り広げても、読み手がその状況をエキサイトして体感するには相当のエネルギーを要すると思われます。

 ストーリーの組み立て方や演出による見せ場の盛り上げなどは堅実で、よく考えて製作された作品だとは思います。ただ、ストーリーの流れを成立させるための無理が多過ぎたのではないでしょうか。

 今回の評価
 絵は標準以上、ストーリーも形にはなっていますが、形だけに終わってしまったかな……という事でBとしておきます。駒木が不自然と感じた点をそう感じない人ならば、ガラっと評価が変わる作品だとは思うんですけどね。

☆「週刊少年サンデー」2005年41号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は1週遅れで『ネコなび』の連載10回評価見直しを実施します。3週目が2本立てだったので、連載11回の今回が実質キリ番かと思いきや、31号スタートなので、もう10回到達していたんですね。失礼しました。

 ◎『ネコなび』作画:杉本ぺロ
 旧評価:B−新評価:B寄りB

 ネコの生態を中心に描こうとしたこの作品ですが、やはり色々な意味で無理があったのでしょうか、数週前からは捨て猫2匹を主役格に据えた連作形式の4コマが続いています。
 4コマの連載モノは、ネタよりもキャラ優先みたいな所がありますので、これも落ち着くべき所に落ち着いたのかな…という気がします。ただ、主要キャラが捨て猫2匹+おじさん1人では“タマ不足”が否めませんし、ネタの方も、オチの意外性が弱かったりワンパターン気味だったりと、今ひとつインパクト不足ではないかと思います。

 ラスト1ページの実録おまけマンガは「相変わらず」といった感じでしょうか。こちらもネタのバリエーションに乏しく、ギャグの密度も薄い感じで、笑える・笑えない以前に笑う機会が少ない気がします。

 悪いなりに作品の体裁が固まってきたという事で評価は僅かに上方修正としましたが、依然としてメジャー誌の連載作品としては落第点のクオリティとせざるを得ませんね。
 とりあえず今回で評価は一旦確定とし、今後は大きな変化が見られた時に評価の見直しを行う事とします。
 

 ──相変わらずの寂しい内容で恐縮ですが、今週はここまでとします。それでは、また来週お会いしましょう。

 


 

2005年度第31回講義
9月4日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第5週/9月第1週分)

 いよいよ新学期となり、また多忙な数ヶ月間に突入という事になりました。まぁ世間的には、いい年して丸2ヶ月休んでる方がどうかしてるわけですが(笑)。
 特に今週はボクシングの西日本新人王決定戦があり、駒木のもう一つの顔である、ボクシング観戦ブログ管理人業も多忙。こちらの仕事が後手後手に回ってしまいました。あんまり追う兎を増やすとロクな事が無いのは判ってるんですけどね……。

 さて、今週分は『クロスゲーム』の第二部開始がありましたが、案の定レビューのしようがないスロースタートでしたので、「チェックポイント」欄での扱いとさせて頂きます。ご了承下さい。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(40号)に「第2回金未来杯」エントリー作として、『魔法使いムク』作画:大久保彰)が掲載されます。
 大久保さんは00年に“新人予備軍”入りして以来、4年以上の雌伏を経て「赤マル」05年冬(新年)号でデビューを果たした若手作家さん。今回は週刊本誌初登場で「金未来杯」への抜擢となりました。

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(05年6月期)

 入選=1編(週刊本誌or増刊に掲載)
  ・『鬼が島のドガ丸』
   出口真人(23歳・埼玉)
 《編集部講評:みずみずしいキャラ描写と、好感度の高い絵柄が高評価を集めた。悪人を活き活きと描ける所に才能を感じる。今後は描けるキャラクターの幅を広げ、色々な世界観に挑戦していってもらいたい》
 佳作=該当作なし

 努力賞=2編
  ・『アタックマジェンタ』
   餓原ショータ(23歳・沖縄)
  ・『ナントカ』
   発地記也(19歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『森のくまさん』
   渡部純子(19歳・徳島)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎入選の出口真人さん…元「月刊少年ジャンプ」の新人作家で、03年に同誌新人賞入賞の後、04年末の増刊号でデビュー。


 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り1本
 ──なお、今回は採り上げる対象となる作品が無いため、「ジャンプ」の“チェックポイント”はお休みとさせて頂きます。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年39号☆ 

 ◎読み切り(第2回『金未来杯』エントリー作品)『バカ in the CITY!!』作画:大石浩二

 作者略歴
 82年7月14日生まれ現在23歳
 週刊本誌04年24号にて、代原掲載による暫定デビューを果たし、それ以後も26号、31号にそれぞれ代原掲載を果たしている。
 正式デビューは「赤マル」04年夏号。04年秋のギャグ増刊では4コマ作品を発表し、週刊本誌05年7号では正規枠で読みきりを発表し“凱旋”を果たした。
 今回は約7ヶ月ぶりの新作発表。

 についての所見
 久々の作品となりましたが、まだ絵柄が全体的に粗いのが気になりますね。以前からの課題である動的表現の拙さも改善されていませんし、少々物足りなさが残りました。画風は画風として、もう少し線や技巧を洗練させると、随分と印象が違って来ると思うのですが……。
 ただ、今回は積極的に美醜のコントラストをつけたり、美少女毒舌キャラに挑戦するなど、意欲的な姿勢も窺えました。これは作品の幅を広げると言う意味では大きな進歩ではないでしょうか。

 ギャグについての所見
 今回はキャラクター・題材別にページ単位で区切りを作った4コママンガ中心のショートギャグ作品でした。まとまったページのギャグ作品も手がける大石さんですが、やはり場数を踏んだ回数の多いショートギャグの方が手馴れている感じがありますね。
 さて、今回も全体的に俯瞰するとネタの出来・不出来──個人的に笑える・笑えないではなくて、起承転結の落差の大・小など技術的な面での話──のバラつきが大きく、読み手を終始笑わせっ放しにするパワーには欠けたかな……といった感じでしょうか。これは4コマ物にしてはページ数が多過ぎ、ネタの絞込みがままならなかった事もあるのでしょうが、それでも第一線で通用するギャグマンガを目指すならば、ネタの“不発”は極力ゼロに抑えるべきだと思います。

 それでも個別のネタを吟味してゆくと、非凡なセンスに唸らされる事も少なくありませんでした。無駄が全く無いセリフ回しや、オチの種類の多彩さもそうですが、各ネタに登場するキャラクターのバリエーションが実に豊かで、しかもそれぞれのキャラが全く被る所が無いというのが素晴らしいです。個人的には“相原コージ作品の少年誌版”みたいな印象を受けました。
 好き嫌いは抜きにして(蛇足ですが、駒木のフェイバリットネタは「ツキミちゃん」の「ヘドが出ます」でした。これも笑いの根源である違和感を追求した良いネタですが)、凄いなと思ったのは、「文字郎くん」記号としての文字と絵の相違をギャグに転化させた奥の深い作品でした。

 ……というわけで、未だクオリティの安定度に課題を残しつつも、着実な前進が窺えた…という結論ですね。大石さんの非凡なセンスが再確認できたという意味で意義の深い作品だったと思います。

 今回の評価
 迷うところですが、今回も評価はB+とします。ハズレのネタがもう少し減ればAクラス評価も可能なのですが……。
 ところで、関係者の方に窺うと、一般的にギャグ作品はアンケートでは苦戦するのが当たり前だそうです。それを考えると、この作品は出来・不出来に関わらず「金未来杯」を争うには厳しそうですね。ただ、それ以上に気になるのは、この作品が連載化されるとすれば、『ジャガー』枠の巻末しか思い浮かばないという事なんですが……。

☆「週刊少年サンデー」2005年40号☆

 先週時点ではセンターカラーで掲載予定だった『うえきの法則プラス』が“作者取材のため”休載。「ジャンプ」流に言えば“作者都合のため”とする所なんでしょうね。
 『うえき』に関しては、つい最近も表紙も目次も修正出来ないギリギリの段階で原稿を落とした事がありましたが、今回は合併号休み明け2週目での予定外休載。製作現場が相当に煮詰まっている事は間違い無さそうですね。

 ◎読み切り『お坊サンバ!!』作画:飯島浩介

 作者略歴
 生年月日は非公開。04年11月期「まんカレ」応募時26歳とのことで、現在は26〜27歳
 本人かどうか100%確認は出来ないものの、02年に『月刊少年ガンガン』のショートギャグ企画に掲載歴があるようで、これが一応のデビュー作という事になるか。
 「サンデー」では、04年11月期「まんがカレッジ」にて努力賞に入賞し“新人予備軍”入り。隔月増刊05年5月号にてデビューし、7月号にも読み切りを発表
 今作は増刊7月号に掲載された作品のマイナーチェンジ版で、半ば代原の形ながら週刊本誌デビュー。

 ●についての所見
 作中で「画力はないけど」というメタなネタがありましたが、謙遜(?)するほど下手な絵ではありません。確かに細かい描写が雑だったりしますが、それでも線のメリハリもあり、背景の処理なども手馴れていて、さすがに年齢とキャリアを感じさせます。
 「サンデー」のギャグマンガなら…とう限定はつきますが、これはこれで十分アリな水準ではないでしょうか。
 
 ギャグについての所見
 まず、ネタ1つ1つの意外性やバリエーションは、平凡な若手・新人さんの作品と一線を画した水準にあるとは思います。“間”で獲るギャグあり、言葉で笑わせようとするネタ有り、メタなネタも有りと、「プロとして、商品になるギャグ作品を作ろう」と言う意識は窺えました。
 しかし、ネタ振りからオチへの流れがどのネタも同じパターン・同じ“間”で、ページが進めば進むほど単調さが強くなっていったのは問題でしょう。もうちょっとツッコミのパターンやセリフに工夫が欲しかったですし、後半に入ると、ネタの展開からオチから読めてしまうのも頂けないポイントです。
 人を笑わせるには意外性と違和感というのが大事なはずですからね。それが欠けてしまっているようでは、ちと厳しいのではないでしょうか。

 しかし、最近の「サンデー」本誌に載っているギャグ作品が一様に低調なため、これでも「形にはなっているなぁ」とは思えてしまうのが怖いですね(苦笑)。ですが、読み手としてこの水準で満足したくはないですし、作家の皆さんにも頑張ってもらいたいと思います。

 現時点での評価
 評価は。雑誌を読む流れで目を通すには、毒にも薬にもならない作品…といったところでしょうか。今度は純粋な実力で本誌再登場が果たせるよう、飯島さんにはさらなる精進に励んで頂きたいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎連載第2部開始『クロスゲーム』作画:あだち充

 今週から第2部“開幕”。野球モノということで、話の作り易い高校からスタートかと思いきや、主人公中学3年の秋から開始という事になりました。高校入学までの間でジックリとストーリーの基礎を作っていくと言う事なのでしょうか。
 で、再開第1回となった今週は、主人公と主要キャラクターの現状と人間関係の大まかな所を描写する事に費やされました。しかしページを贅沢に使っているとは言え、この辺の描写力は「さすが」といったところ。各登場人物の微妙な変化や成長などがすぐに理解出来るようになっていました。
 問題はこの後、どういったストーリーになっていくか……というところなんですが、これは年単位の長いスパンで見届けないといけないのでしょうね(笑)。
 とりあえず、次回は再開10回目に、この「チェックポイント」欄で採り上げる事にします。

 

 ……といったところで今回はこれまでとします。しばらくこんな調子ですが、どうかご辛抱を。

 


 

2005年度第30回講義
8月29日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第4週分)

 いつにも増して公私共にバタバタしておりまして、またしてもゼミの実施が1週間遅れ……。元々そんなのありませんが面目ありません。

 今回は講義実施日基準で先週分、つまり8/22発売の「ジャンプ」関連のゼミです。「サンデー」関連は、読み切りも新連載も連載回数キリ番も無いので、今週もお休みですね。若手作家さんの読み切りが載ってもアレなケースが多い「サンデー」なんで、それはそれで平和だという気もするんですが、ここまで凪の状態が続くとやっぱり寂しいもんですね。
 前みたいに連載作品から何作品かをピックアップして感想述べても良いんですが、アレは結局採り上げる作品と感想のニュアンスが固定化されて、毎週同じ事ばっかり言ってる事になるので、やってる自分が真っ先に嫌になっちゃったんですよね。
 例えば今の駒木だと、毎週『絶チル』『結界師』を褒めて、あとは特定の作品と特定の編集者を皮肉るだけになるという、実に受け皿の狭い内容になる事必至なわけでして。これが自分としては余り好ましくないんですよ。
 ほらあるでしょ、政治の話始めると自分の支持政党の良い所ばかり注目して、逆に反対勢力政党の悪い所ばかり抜き出して腐すのをルーチンで繰り返してるブログとか(笑)。ああいうの嫌いなんですよ。その人と波長が合えば気持ち良いんでしょうけど、一度ズレたら毎回の更新が拷問に近いんですよ。特に支持政党とか主義主張って歩み寄りようの無い分野ですからね。
 当講座ではタクシー運転手の世間話ルールに倣い、政治と宗教と野球関係の悪口は極力避けているんですが、実はマンガの話も突き詰めれば似たような事になっちゃうのかな……と思う今日この頃でして。だったら、ただでさえ言いたい放題言ってて殺伐とした雰囲気になりやすいゼミなのに、殊更それを助長する事も無いだろうという結論に至ったわけです(笑)。
 ……まぁそういうわけで、講義のボリュームが少ない場合も、「あぁ今週は平和だったんだなぁ」と思って遣り過ごして頂ければと思います。

 ──では、今週分のゼミに参りましょうか。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

※もうここで情報を扱った“次号”は既に発売されているんですが、備忘録代わりに掲載しておきます。

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(39号)に「第2回金未来杯」エントリー作として、『バカ in the CITY!!』作画:大石浩二)が掲載されます。
 大石さんは新人賞の受賞を経ないまま、04年に代原暫定デビュー。同年「赤マル」夏号で7ページの掲載ながら正規デビューを果たすと、同年末発売のギャグ増刊、週刊本誌05年7号とステップアップして、今回の金未来杯エントリーとなりました。
 「ジャンプ」ギャグ枠における出世の難しさは既に周知の通りですが、今回はその狭き門をアイシールド21よろしく一気に駆け抜けるための貴重なチャンスとなりました。

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(40号)より『クロスゲーム』作画:あだち充)が第2部連載開始(再開)となります。
 プロローグ的な第1部でヒロイン候補が死んでしまうという衝撃の展開で迎える第2部は、やはり数年後まで時間を進めて始まる模様ですね。ストーリーの進行が極めて遅い“あだちメソッド”が採用される可能性が極めて高いですので、当ゼミでは、再開初回の内容については、とりあえずチェックポイント枠で扱う予定です。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作なし
 ──なお、今回も採り上げる対象の作品が無いため、“チェックポイント”はお休みとさせて頂きます。「サンデー」関連記事は無しとなりますのでご了承下さい。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年38号☆ 

 ◎読み切り(第2回『金未来杯』エントリー作品)『スマッシングショーネン』作画:大竹利明

 作者略歴
 1983年2月15日生まれの現在21歳
 03年上期「手塚賞」にて佳作を受賞し“新人予備軍”入り。デビューは「赤マル」04年冬(新年)号掲載の『勇とピアノ空』で、週刊本誌05年新年1号では『デビルヴァイオリン』を発表した。
 今作は、手塚賞佳作受賞作と同タイトル(改作?)のデビュー3作目。
 
 についての所見
 
やや線が弱々しい嫌いはありますが、以前に比べるとグンとリアリティのある洗練された絵柄になって来ました。以前は一目見ただけで異色作扱いされそうな、ちょっと稚拙さの目立つ絵でしたので、これは大きな進歩と言えるのではないでしょうか。
 問題点としては、表情の変化や動的表現がややぎこちないという点でしょうか。今回は作品全体のトボけた雰囲気とこの絵柄が合致していたので、それほど目立ちませんでしたが、次回作では色々な意味でもう少しメリハリのある絵になってもらいたいです。

 ストーリー・設定についての所見
 まず、短いページの中でキャラクター設定が上手く決まっていたと思います。特にヒロイン格のバドミントン部マネージャー・遥の我田引水な性格が良い効果を挙げているんじゃないでしょうか。
 この作品、何かにつけて強引さに満ち溢れているのですが、このキャラが余りにも天然な強引さでストーリーを引っ張ってしまうため、本来読み手が抱くはずの違和感が相当に軽減されています。また、主人公と敵役の位置関係が良い意味でシリアスさに欠ける“まったり感”を醸し出しており、どことなくトボけた作品の雰囲気を補強出来ています。

 ただ、ストーリーの内容に関しては、主人公の特殊設定に固執し過ぎて、作品全体の軸となるテーマ性がボヤけてしまったかな…という感じです。スポーツを描いたわけでも、主人公の求めた“青春”を描いたわけでもなく、「鳥がメチャクチャやって来る頭」を描いた話になってしまったような気がするんですよね。主客が転倒していると言えば良いのでしょうか。
 まぁ、作品全体の雰囲気と個別のギャグを眺めて楽しむ“娯楽作品”として見れば、結構良く出来た話だとは思うのですが、何かと欲張りな駒木と当ゼミの評価基準に従うと、少々つける点の辛くなる内容だったですね。 

 現時点の評価
 評価はB+としておきます。ヒロインの天然でブラックな性格を除けば読み手を不快にさせる要素の無い作品ですから、作品の内容以前で嫌われる事はないと思います。あとは積極的にファンになってくれる層をどれだけ掘り起こせるか…でしょうね。

 

 ──というわけで、短いですが8月4週分のゼミをお送りしました。多分、何年か後にこの週のアーカイブを見たら「ああ、この週の『ジャンプ』と『サンデー』は平和だったんだなぁ」と思う事でしょう(笑)。

 なお、8月5週/9月1週分のゼミは週内実施を最低限の目標に準備作業を進めて行きます。どうぞ今しばらくをお待ちを。

 


 

2005年度第29回講義
8月23日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第3週分)

 年に3度の「赤マル」レビューのお時間がやって参りました。大変ですけど、最後まで頑張ります。
 実は春にヒーローズ増刊もチェックしていて、余裕があればレビューしようと思っていたのですが、余裕が全くありませんでした(苦笑)。秋の増刊「ジャンプ・レボリューション」は実力派作家競作もあるようなので、是非ともレビューしたいと思っていますが。
 それにしてもその秋の増刊、予告を見る限りでは、「ジャンプノベル」のマンガ版っていう感じですね。伝奇モノ、超能力モノ、SF、ちょっとヌルめの青春ラブストーリーというラインナップも、そういう雰囲気を醸し出しているような……。

 ……さて、戯言はそれくらいにして、レビューへと参りましょう。今回も現役連載作品の番外編の類はレビューから除外します。また、完結が4ヶ月順延した『武装錬金』は、作品の性格上“チェックポイント”扱いで感想を述べるに留めます。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

◆「赤マルジャンプ」05年夏号レビュー◆

 ◎『武装錬金ファイナル』作画:和月伸宏

 “ファイナル”にも関わらず「冬号へ続く」という、大人の事情が機能した痕跡丸出しの展開となりました(笑)。ファイナルなのに終わらないのは、「ファイナルファンタジー」とアントニオ猪木・ファイナルカウントダウンぐらいなものだと思っておりましたが、まさかこんな所から……。
 確かに、連載終了数ヶ月経てなお単行本売上げは衰えず、しかもこの作品と入れ替わりにスタートした新連載が軒並み不振。編集部が和月さんに対して譲歩するだけの材料は余るほどありますからね。……まぁ理由は何にせよ、作者サイドが要求したページ数で完結編が描かれるのは喜ばしい事であるのは間違いありません。

 また、こうしてページ数が大幅に増えた事によって、この完結編の持つ性格も大きく変わることになりました。即ち、“打ち切り作品の敗戦処理”から“長編連載作品のエピローグ”への大転換です。
 週刊連載の時とは違い、製作に費やせる“持ち時間”が増えますし、まとまったページ数を(毎週ごとの“引き”を意識せず)大胆に使えるので、シナリオを立てる上での制約も小さくなりました。「話を完結させるためのエピソードを描かなければならない」という一点を除けば、むしろ以前よりも環境に恵まれているとさえ、言えるかも知れませんね。勿論、この段階でのストーリーの完結を望まない向きにしてみれば、“完結編”が描かれている事自体が、何を引き換えにしても我慢出来ない苦痛ではあるはずですので、難しい問題でもあるのですが……。

 さて、そんなヤヤコシい話はさておき、今回の「ファイナル」の内容は実に素晴らしいモノであったと思います。
 まず、この作品のキモであったカズキと斗貴子の相互補完関係を恋愛成就という形で明確にし、それをバトルシーンにおける動機付けに強くリンクさせる…という、ベタながら最強に近い“黄金パターン”が遂に完成。これによって、彼らの行動やストーリー展開に確かな説得力を持たせる事に成功しました。個人的には、連載第2〜3回の時点で「こういうパターンにハマれば凄い作品になるかも」と思っていましたので、「やっと来たか!」という感じです(笑)。
 また、連載当初からのウィークポイントであったバトルシーンもここに来てクオリティが急上昇。(作品世界内における)最高レヴェルでの一進一退の攻防戦から、常識的には挽回不可能な大ピンチへ持ち込む…という、「ジャンプ」系バトルマンガの王道を地で行く“熱い”展開になりました。
 惜しむらくは、未回収の伏線処理が性急で、いかにも“手っ取り早くまとめてます感”のあるシーンがまま見受けられた事ですが、これも許容範囲を逸脱した失点ではないでしょう。全体的に見て、連載開始以来最高の水準に達したと申し上げるべきだと思います。

 幸か不幸か、全ての面において完結編に突入してからピークを迎えてしまった感がある『武装錬金』ですが、ここまで来たら、せめて最高のエンディングを我々に見せて貰いたいですね。主人公・カズキが絶望的な状況で“冬号に続く”となった今回の『ファイナル』ですが、果たしてハッピーエンド至上主義者の和月さんが、どのようにしてケリをつけるのか。最後の最後まで、熱く注目したいと思います。

 ◎読み切り『妖怪学校オルフェノ・ライフ』作画:夕樹和史

 ●作者略歴
 79年生まれで今年26歳。誕生日は非公開。
 00年12月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。翌年、「赤マル」01年夏号にて『福楽木町怪盗奇話』を発表し、デビューを果たす。
 その後、「赤マル」には02年春号にも『泥棒ネコライフ』を発表したが、その後3年のブランクを作る。週刊本誌05年16号掲載の『RARE GENE 4』で復帰し、今回が復帰2作目。
 現在、沖縄に在住して創作活動をしているという、若手作家としては異色の存在。 

 についての所見
 
対象年齢を低めにした今作、パッと見の印象でも“子供向け”をアピールするためか、3等身のディフォルメ体型を基準とするキャラ造型でした。“子供中心の世界”を強調する効果も果たしていますし、この試みそのものは悪くないと思います。
 ただ、全体的に線が弱々しく雑な印象で、リアル感の無さだけが目立つ絵柄になってしまったかな……といったところ。作品のクオリティ全体に悪影響を与えるほどの失点はありませんが、及第点ギリギリぐらいの出来でしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 まず、妖怪学校や妖怪たちを取り巻く世界観の設定が優秀ですね。ドタバタコメディとの相性も良いですし、それでいて“妖怪と人間との軋轢”というシビアなテーマにも対応出来るような内容も組み込まれています。
 また、この世界観を読み手に提示する際に、文字情報による“説明”に頼らず、極力絵を用いた“描写”が出来ているのもポイントが高いですね。この辺は低年齢層を意識した製作姿勢の副産物でしょうか。

 ただ、逆にストーリー面では少々「どうせ子供向けだから」という部分に甘えてしまったように感じました。心象描写や行動の動機付けといった作品の“奥行き”を広げる努力を怠り、予定調和に偏り過ぎたのではないでしょうか。
 確かにお話は作品のテーマに沿う形でまとまっているのですが、そのテーマにもう少し説得力を持たせるような配慮が欲しかったです。“低年齢層向け”というコンセプトを実現するのに、“引き算”──低年齢層読者に必要ではない部分を削っていく──の発想ではなく、その反対の“足し算”の発想で最後まで勝負して欲しかったです。

 今回の評価
 評価はB+。今後はどういった作風で勝負するのかは分かりませんが、今回は一つの可能性を見た気がします。


 ◎読み切り『剛腕!“エナメル”ケンマ』作画:森田雅博

 ●作者略歴
 1979年6月16日生まれの現在26歳
 
00年12月期の「天下一漫画賞」で審査員(尾田栄一郎)特別賞を受賞し、“新人予備軍”入り。翌01年の「赤マル」夏号にて『ペース・メーカー』でデビュー
 その後、「赤マル」03年冬(新年)号週刊本誌03年35号と、競馬を題材にした作品を発表するも、その後2年のブランクを作ってしまい、今回が復帰作となる。 

 についての所見
 
全体的に見れば十分合格点の出せる水準ではないでしょうか。人物作画だけでなく、動的表現や背景処理といったテクニックも確かです。ただ、“不良”という記号を表現するための人物造型や、感情を表すための表情の変化のパターンが少々オーバーなので、好き嫌いが分かれそうな画風ではありますね。

 ストーリー&設定についての所見
 まず目を引くのが、「週刊少年チャンピオン」の『バキ』シリーズを彷彿とさせる特訓シーンやケタ違いの強さの表現ですね。確かにツッコミ所満載のハッタリではありますが、それが「バカ正直にツッコんだら、むしろ不粋」という所まで突き詰められており、良い意味の開き直りが利いているな…といったところです。
 ただ、問題はそれ以外の設定やストーリーが実に矮小なスケールで、しかも陳腐である点。そのために、先述したスケールの大きなハッタリが不自然に浮き上がってしまいました。『バキ』のような、ある種トンデモな設定を用いるのなら、世界観やストーリーの全てに至るまで同じぐらいトンデモでハッタリの利いたモノに統一すべきではなかったでしょうか。でないと、“非現実性”という、読み手が作品世界に没入し難い要素ばかりが目立ってしまうと思うのです。

 あと、「このマンガは専門的・本格的なボクシング物です」というのをアピールするためかどうか知りませんが、一般的には殆ど知名度の無い外国人選手の名前(だけ)を連発するのは、ボクシングに興味の無い読者を敬遠させるだけなので避けるべきでしょう。せめてタイソン級の知名度を持った伝説の強豪、それかむしろ、フィクションの強みで架空の日本人世界王者をでっち上げた方が説得力も増したのではないでしょうか。

 今回の評価
 「失敗作」というほどメチャメチャな作品でもないですし、評価はBとしておきます。どうしようもない競馬マンガばかり描いていた頃に比べると一皮剥けた感じではありますが、それでも週刊本誌で成功するようになるには、まだもう一皮二皮剥けないと苦しいのではないでしょうか。

 ◎読み切り『サムライスラッシュ』作画:加持君也

 ●作者略歴
 1977年9月7日生まれの現在27歳
 97年3月期「天下一漫画賞」で佳作を受賞、その受賞作『天翔騎馬』が「赤マル」97年夏号に掲載されてデビュー。
 その後は「赤マル」99年春号(三条陸さん原作の漫画担当)00年冬(新年)号、週刊本誌00年18号にそれぞれ読み切りを発表。それから2年のブランクを経て、週刊本誌02年43号に『暗闇にドッキリ』を発表すると、これが翌年連載化された(03年18号〜35号まで1クール半17回で打ち切り)。
 連載打ち切り後1年余りのブランクがあったが、週刊本誌04年50号に『ストライカー義経』を発表して復帰。今回はそれ以来、8ヶ月の間を空けての新作発表となる。

 についての所見
 
昨年末の前作の時も同じように感じましたが、絵柄はもっぱら悪い意味で“相変わらず”という感じですね。「見るからに下手クソ」というような所は無いのですが、線が細く安定味に欠け、顔やバストアップになるとデッサンの細かい歪みも見受けられます。構図の取り方も、やや“引き”過ぎで違和感も残りました。
 ただ、今回は背景などに濃い目のスクリーントーンを多用しているので、線の弱さが幾分カモフラージュ出来ていたのではないでしょうか。まぁミもフタもなく言えば、道具の力で誤魔化しただけでもあるのですが……。

 ストーリー&設定についての所見
 端的に言ってしまえば、オリジナリティと意外性のカケラも無いストーリーと設定の作品、と言わざるを得ません。ここまで全編に渡って既視感に溢れたマンガも珍しいでしょう。「誰でもデジャヴが体験出来ます」という触れ込みで紹介出来るぐらいです。
 確かにシナリオは起・承・転・結が決まっていますし、そこに“タイムスリップして来たサムライ”という設定を絡めて、話の内容にアクセントを加えようという姿勢も窺えます。1本のストーリーとしては破綻はなく、一定の完成度は認められるですが、いかんせん、作品を構成する全ての要素が“既製品”の寄せ集めだとすぐに判ってしまえるのが致命的です。
 また、「初見から怪しい人物が案の定本当に怪しかったという、映画『天河伝説殺人事件』犯人・岸恵子テイスト溢れるヒネリの無さもエンターテインメント的には大きな減点材料になりますね。どんでん返しが全然どんでん返ってないんですから……。

 前々から思っていた事ですが、加持さんは“王道”──過去作の優れた部分を踏襲する──と“陳腐”──過去に使い古された要素を使い回す──の区別がついていないように思えてなりません。どうせ真似するなら、良い所だけ真似て欲しいものです。

 今回の評価
 評価はB寄りB−としておきましょう。既にキャリアも8年。そろそろ2回目の連載を狙わなくてはならない時期ですが、この現状ではかなり厳しいでしょうね。

 ◎読み切り『キャッチクラブ』作画:宮本和也

 作者略歴
 83年5月8日生まれの現在22歳
 04年下期「手塚賞」で準入選を受賞し、週刊本誌05年18号にて『TEAM』でデビュー。今回がそれ以来のデビュー2作目となる。

 についての所見
 
デビュー作から画力の拙さは大きな懸念材料でしたが、全般的にまだまだ稚拙な印象が抜け切らない感じですね。線やデッサンの歪みの度合いを見ると、「粗い」とか「雑」というよりも、単に「下手」と言った方が良さそうな……。
 背景処理や動的表現などの基礎テクニックも随分とぎこちない印象で、まだ完全に実力不足。今後はアシスタント修行を積んでこの辺の課題克服を急ぐべきだと思います。

 ストーリー&設定についての所見
 とにかく設定やストーリーを構成する要素のことごとくに現実感が無く、無理があり、整合性に欠ける……という感じです。16歳の若者2人がプレハブ小屋で立ち上げた“キャッチクラブ”といい、高度経済成長時代のマンガの香りが漂う兄妹離別シーンといい、銃声が聞こえても騒ぎ一つ起こらない高級ホテルといい、通知と非通知が都合良く(悪く)入れ替わる携帯電話といい、8階から飛び降りた2人分の落下エネルギーを片手で楽々支える生身の人間といい、もうどこを指摘して良いのやら……といったところですね。
 フィクションというのは確かに架空のウソ話です。ただ、読み手が作品世界に没入するための取っ掛かりには、それなりのリアリティやディティールが必要になるわけで、それがまったくの皆無では、ストーリー以前の問題で立ち往生という事になってしまいます。

 話の組み立て的には、一応は起承転結が完成しており、伏線も上手く使えていて、評価出来る点も有るんですが……。今回は先に述べた通り、それを評価しようの無い別の大きな問題が重く圧し掛かっている感がありますね。

 今回の評価
 評価はB−。まだデビュー半年のキャリアではあるのですが、ここまでの2作を読んだ限りでは、前途多難なのではないでしょうか。


 ◎読み切り『ふぁんしい討魔伝』作画:彰田令貴

 ●作者略歴
 生年月日は未公開だが、05年上期「赤塚賞」応募時点の年齢から推測すると、現在23〜24歳なお、以前は彰田櫺貴名義で活動していた。
 週刊本誌04年44号にて『メガネ侍』で代原暫定デビューを果たすと、「赤塚賞」の04年下期で最終候補、05年上期で佳作を受賞。今回が増刊ながら晴れて正規デビュー作となる。
 

 についての所見
 
暫定デビュー当時に比べると、全体的に垢抜けてスッキリして来ました。確かに一線級のストーリー作家さんに比べると見劣りは否めませんが、ギャグ作品を描く上においては、画力・テクニックとも及第点以上の水準に達していると思います。リアル風のタッチと完全ディフォルメのタッチの使い分けも効果的です。
 これでもう少しリアル風タッチの絵に緻密さがつき、美醜のコントラストがつくようになれば言う事ありません。 

 ギャグについての所見
 まず、序盤のネタの密度が薄いのが残念でした。少ないページ数の作品で、スタートから最初の大ネタが登場するのが4ページ目というのは……。その後は1ページにつき1〜2ネタのペースで展開しているので、余計に惜しいですね。
 ネタの見せ方やテクニックなどは概ね良かったんじゃないでしょうか。もう少しページ跨ぎの大ネタを使って欲しかったですが、大ゴマの使い方や言葉の使い回しなどは申し分なく、特に“間”で笑わせるギャグのセンスは特筆モノでした。

 これで小ネタをもう少し増やしてページ辺りのネタ密度を濃くし、登場人物にもう少しキツめの個性が持たせられるようになれば、週刊本誌で活躍するチャンスも生まれて来るでしょう。

 今回の評価
 今回の評価はB+とします。彰田さんには失礼ですが、意外な所からホープが出現した…という感じです。

 ◎読み切り『闘魂パンダーランド 〜あんたパンダの何なのさ〜』作画:ポンセ前田

 ●作者略歴
 生年月日は未公開だが、「赤塚賞」受賞時の年齢から推測すると現在25〜26歳
 03年下期「赤塚賞」にて、水溜三太夫名義で佳作を受賞。その後現在のペンネームに改名し、週刊本誌04年33・34号に2週連続掲載された『機動球児山田 〜めぐりあい稲木〜』でデビュー。その後、04年秋発売のギャグ増刊、週刊本誌05年7号にて『おれたちのバカ殿』を発表した。
 今回は05年春発売のヒーローズ増刊に掲載された作品と同タイトル・同設定の新作。
 

 についての所見
 
デビュー時に比べると、全体的にペンタッチが洗練され、徐々に良くはなっては来ていると思います。ただ、今年1月の時に述べた、「動的表現が甘く、背景の描き込みも少々不足気味。人物の表情のバリエーションも増やして欲しい」……という問題点はそのままで、これは残念でした。この辺はギャグを効果的に見せるために必要な要素だけに、もうちょっと頑張ってもらいたいのですが……。

 ギャグについての所見
 ヒーローズ増刊版(レビュー未済)に比べると、パンダの特徴に関連したネタがガクンと減りました。「ヤクザの世界に擬人化したパンダが馴染んでいる」という違和感で読み手の笑いを誘う余地はあるものの、せっかくの題材なのに、それを活かし切れてないのは勿体無いなぁ…といった感じです。
 ネタの密度が薄い事や、笑いに繋がらないセリフやコマが多過ぎる印象もあり、少なくとも今回に限っては失敗の範疇に入るデキだったのではないでしょうか。

 今回の評価
 ヒーローズ増刊版ではB+以上はあるかな、というデキだったのですが、今回はB評価が精一杯です。週刊本誌で成功するためには、もうちょっと念入りなネタ繰りが欲しいところです。

 ◎読み切り『オウルサムス』作画:安藤英

 ●作者略歴
 1979年6月2日生まれの現在26歳
 01年9月期「天下一漫画賞」で特別賞を受賞し“新人予備軍”入りし、更に02年上期「手塚賞」では佳作を受賞
 同年、「赤マル」02年夏号にて『リ・サイクルZ』でデビュー。03年冬(新年)にも『マルジャガルダ』を発表するが、今回復帰するまで2年8ヶ月ものブランクを作った。

 についての所見
 
純粋な画力はなかなかのものです。ペンタッチやスクリーントーンの使い方が『遊☆戯☆王』風で、「リアル風ながらリアルじゃない」…という違和感もあるのですが、絵のクオリティそのものは問題ありませんね。
 ただ、表情の変化のバリエーションが乏しく、動的表現がぎこちないため、コマとコマの間の連続性に欠ける印象もありました。駒木はマンガと言うよりもイラストの集合体に見えてしまったんですが、他の方はどうだったのでしょうか……。

 ストーリー&設定についての所見
 単刀直入に言って「読み手に対して非常に不親切な作品」ですね。舞台背景や状況設定について提示される情報が極めて不足しており、読み手がストーリーを追い掛けるのに大変な困難を伴う作品になってしまいました。
 確かに、設定の明確な提示を必要最低限に抑え、その代わり、作中の会話や出来事の中から読み手に推察させる…という手法は存在します。が、この作品は推察する材料すら与えないというレヴェルで、いわゆる5W1Hすらあやふやです。
 また、登場人物たちの(灰鉄を倒す事を手段として達成する)目的や危険な軍務に就いた動機付けも全く不明で、その上、作品全体を通じて読み手に伝えたいテーマも明瞭ではありません。言ってみれば作品のバックボーンと言うべき部分が欠けているわけです。そこへ追い討ちをかけるように、雰囲気をぶち壊すギャグまで乱発されている始末。
 これでは、読み手を戸惑わせる事は出来ても、作中世界に没入させたり登場人物に感情移入させたりする事はとても無理でしょう。そのため、本来なら盛り上がるはずのバトルシーンのクライマックスにも、全く説得力が感じられませんでした。

 作品全体を俯瞰すると「人間たちが、ただ何となく命がけで怪物を倒すお話」とまとめる他無く、残念ながら完全な失敗作と断ぜざるを得ません。

 今回の評価
 評価は厳しくC寄りBとしました。ただこの作品、もう少しネームをいじれば、傑作とまではいかなくとも普通に読める作品にはなったと思うんですよね。どうしてこの作品にダメ出しもせず、プレゼンもアッサリと通ってしまったのか、作者よりもむしろ編集サイドの姿勢を咎めたいです。

 ◎読み切り『HAND’S』作画:板倉雄一

 ●作者略歴
 1982年2月15日生まれの現在23歳
 01年10月期「天下一漫画賞」で特別賞を受賞し、“新人予備軍”入り。その後も投稿活動を続け、03年12月期「十二傑」では最終候補に残っていた。
 今回は“新人予備軍”入りしてから4年弱を経てのデビュー作となる。

 についての所見
 
途切れがちの線、白っぽい画面構成、モブキャラの過度の省略…と、パッと見では手抜き工事のように思われる絵ですが、よくよく見ると描くべき所は概ね描けており、細かい部分の描きこみも施されています。
 また、ディフォルメや動的表現、更には画面構成の工夫といった辺りのテクニック面もかなりのもの。まだ完全とは言い難いものの、とてもデビュー作とは思えない水準に達していると言えるでしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 “ヤクザが溺愛する娘に惚れた男子の悲劇”、“スポーツ初心者が、いきなり失敗の許されない場面で試合に出場”、“天然ボケの彼女と、そのボケに巻き込まれる彼氏”…など、作品を構成する要素1つ1つは、確かにどこかで見た事があるようなモノばかりですが、これをありそうであまり無いパターンに組み合わせて“手垢感”を払拭する事に成功しています。また、コメディ色を強くする事によって、話のスケールの小ささが目立たなくしたのも良い狙いだったでしょう。
 そして、ストーリーテリングの力量もかなりのもの。まず最初はインパクトを与える事だけに重点を置いてコメディ色を強調し、後からシナリオの展開に必要な部分のディティールを追加して、ストーリー物としての説得力も損なわないように配慮されています。そういった部分を支える脚本・演出の技術も確かです。
 また、話の最終目的を競技シーンの勝利に置かず、作品本来のテーマである主人公の恋の方にスポットを当てたのも良かったのではないでしょうか。単純な勧善懲悪に走りがちな新人・若手作家さんの読み切りの中で、こういった違う切り口からのアプローチがあるだけで、随分と新鮮に映るものです。

 ただし、いくらコメディ要素で誤魔化しているとはいえ、やや話が出来過ぎで無理があったり、余りにも物騒で現実感の無いヤクザたちの描写など、ツッコミ所というか、読み手が白けてしまう可能性のある要素も少なからずありました。これはやはり若干の減点材料となるでしょう。 しかしそれが作品全体の完成度・クオリティを大きく押し下げるかというと、そこまで厳しく見る必要も無いのではないか…というのが駒木個人の判断です。

 今回の評価
 というわけで、評価はA−。デビューまでは随分と時間がかかりましたが、今回の成功で、それなりに報われるのではないかと思います。近い将来、週刊本誌で活躍する事を陰ながら祈ります。

 ◎読み切り『なぞなぞの魔法!』作画:沖田修治

 ●作者略歴
 1980年1月16日生まれの現在25歳
 04年下期「手塚賞」で最終候補に入賞し“新人予備軍”入りし、今回デビューを果たした。

 についての所見
 
人物作画の細かい歪みや、全体的に洗練されていないペンタッチなど、いかにもデビュー作らしい粗さが窺えますが、それでも全体的に見れば及第点の出せるレヴェルではないでしょうか。
 背景処理や動的表現、ディフォルメ・人物の表情のバリエーションなど、マンガの絵を描くためのテクニックは問題無いですし、難しいアングルからの描写もソツなくこなせています。これでもう少しキャリアを積み、線が洗練されてくれば、週刊本誌でも十分勝負出来る水準の絵になると思います。

 ストーリー&設定についての所見
 まず、なぞなぞと魔法を結びつけるアイディアと、それをストーリーの中で上手く絡めた構成力は高く評価出来ますね。それに、魔法世界と現実世界を平行して描き、それを自然な流れで噛み合わせた辺りにも非凡なセンスを感じます。
 また、説明臭さを感じさせない設定の提示や、登場人物の行動の動機付けや心象描写がキチンと出来ているのもポイントが高いですね。これらの仕事をこなすには、脚本や演出の技術が優れていないと出来ないわけで、そういった点でも、沖田さんのテクニックの確かさを推し量る事が出来ます。

 しかし、非常に残念だったのが、この良く出来ていたはずのストーリーが、クライマックスから急失速してしまった事ですね。
 バトルシーンの決め手が余りにも呆気なく、また、「後からやって来た大人たちが全てを解決出来る能力を持っていた」…という最後に明かされた事実は、主人公とヒロインが成し遂げた事の価値を胡散霧消してさせてしまいました。「終わり良ければ全て良し」と言いますが、この作品はその真逆を行ってしまったような気がします。

 今回の評価
 評価はB+。最後のバトルシーン以後が上手くまとまってさえいれば、この作品もAクラス評価だったのですが……。

 ◎読み切り『トラ!! the goal-d Gravi-ruler』作画:石岡ショウエイ

 ●作者略歴
 生年不明の7月19日生まれ。
 「週刊少年ジャンプ」では、新人賞や作品発表の履歴が無いが、「月刊少年ジャンプ」の01年夏の増刊号の“新人読み切り”枠で作品を発表しており、これがデビュー作か。しかし、その後4年間の活動歴は資料不足のため全く不明。

 についての所見
 
線がスッキリとしていて、一枚絵としては見栄えのする画風ではあるのですが、マンガ記号としての機能が果たせているかと言うと……。
 まず、人物の顔やポーズのバリエーションが少ないために、出て来る人物の表情や姿勢がいちいち不自然に映ります。また、動的表現も集中線の上に止め絵を載せているようにしか見えず、まるでセル画の圧倒的に足りないアニメを観ているようでした。
 そしてこれが、この作品のハイライトであるサッカーシーンへモロに悪影響を与えてしまっています。躍動感が全く感じられない所に距離感の無さも相まって、まるでサッカーをしているように思えない微妙な場面の連続となってしまいました。サッカーを題材にした作品として、この画力不足は致命的欠陥と申し上げて良いでしょう。

 ストーリー&設定についての所見
 今作を読んでの第一印象は「内容が薄い」でしょうか。起承転結の“起”の部分でページ数を食い過ぎて間延びし、その代わりに話のヤマ場であるサッカーシーンからクライマックスが随分とアッサリし過ぎていた印象がありました。
 また、ストーリーの進行もいかにも平板と言うか、起伏に欠けているような気もします。思い出話を披露するだけで主人公は簡単にチャンスを掴み、サッカーのバトルでも特にピンチらしいピンチも無く、一芸だけで楽々と勝利。有り体に言って、エンターテインメント性がかなり低いシナリオではないでしょうか。
 フォーマットがしっかりしている「ジャンプ」の読み切りらしく、起承転結の体裁は整っていましたが、そこからの上積みに欠ける、残念な作品でした。 

 今回の評価
 ストーリーだけならB〜B−といったところですが、絵の減点を加味するとC寄りB−になってしまいますね。
 年齢的、キャリア的にも今後の展開が厳しくなって来る時期でしょうし、今回か次回作が実質的なラストチャンスになるかも知れないですね。

 ◎読み切り『Strength』作画:彩崎廉

 (受講生の皆さんへ:この作品は評価Cとなりました。結果的に読み手の感情を損ねる論調のレビューになっている恐れがあります。この作品のレビューをご覧になるかどうかは皆さんでご判断下さい。

 ●作者略歴
 1984年7月生まれの現在21歳
 05年2月期「十二傑」で十二傑賞を受賞。今回はその特典を行使しての受賞作掲載デビュー。

 についての所見
 
一見『D.Gray−man』を思わせる、雰囲気のある絵柄で、扉ページの“イラスト”もなかなかの見栄えです。
 ただ、作中では得意なアングル・ポーズと、そうでない所のクオリティの格差が結構大きく、ディフォルメ表現も“素”の絵柄を正確にディフォルメしていない印象で、微妙な違和感が残りました。絵柄自体もまだ洗練の余地を残していて、マンガ家としての画力を見た場合はギリギリで及第といったところでしょうか。
 あと気になった点としては、人物の表情。バリエーションに乏しい上に、表情が全般的に下品過ぎるのではないかと思います。

 ただ、この辺は今後アシスタント修行や色々な経験を積む事によって改善されて来ると思います。今回は低い評価を付ける他無いですが、次回作以降の成長に期待します。

 ストーリー&設定についての所見
 まず、全般的に無駄な部分が多過ぎますね。特に序盤では、省略したりアッサリと飛ばすべきシーンに大ゴマと長セリフを使っており、大変冗長な印象が残りました。
 次に、脚本や演出面にも課題山積です。セリフがやたらと説明的なのも気になりますし、伏線の処理にしてもわざとらしいやり方になってしまっていて、全く“伏”線になっていない状態です。
 そしてストーリーテリング面にしても稚拙な印象が拭えませんでした。登場人物の行動の動機付けが全く不明瞭ですし、主人公と“森の男”グラントの会話からバトルシーンに至るまでの過程も不自然な点が多すぎます。一応のテーマである“力”にしても、村の少年に「力こそ全て」という仰々しいフレーズを使わせた割には、そのきっかけは「大工仕事が手伝いたいのに出来なかった」では……。大掛かりなテーマに説得力を持たせるには余りにも物足りないでしょう。

 ──と、いろいろ述べてきましたが、一言にまとめると、文字通り「お話になってない」という状態です。いくら「十二傑賞」受賞作とは言え、これは商業誌に載せる作品ではないと、個人的には思っています。

 今回の評価
 かなり厳しいジャッジではありますが、これほどストーリーが崩壊している作品をフォローする余地も見出せず、評価Cとさせてもらいました。ネット界隈では、作画の方で他の作品からトレースをしたという疑惑も持ち上がってますが、この作品に関してはそれ以前の問題のような気がしています。

 ◎読み切り『JIKANGAE』作画:普津澤画乃新

 ●作者略歴
 1985年4月13日生まれの現在20歳
 00年9月期「天下一漫画賞」で、弱冠15歳にして最終候補に残り“新人予備軍入り”。その後、01年「天下一」特別賞03年5月期「十二傑」最終候補04年3月期「十二傑」審査員(河下水希)特別賞と、デビュー間近の所で停滞するも、05年3月期「十二傑」で佳作(十二傑賞)を受賞して遂にデビュー権を獲得した。

 についての所見
 
「十二傑」の編集部講評で「記号化されたような独特のタッチの絵は賛否が分かれそう」というような記述がありましたが、なるほど、写実性を完全に無視した独特の絵柄ではあります。しかし、人物作画だけでなく、背景や効果音を表現するための描き文字にまで同一のタッチで統一されていますし、線もスッキリと洗練されています。個人的には不思議と違和感の無い絵柄だと思いました。
 背景の細かい描き込みも手抜きせずにキッチリと施されており、難しい構図からの大ゴマにも積極的にチャレンジするなど、意欲的ですね。ただ、ちょっとゴチャゴチャし過ぎかな、とも思いましたが……。

 ひょっとすると、かつての藤崎竜さんのように、必要以上に絵柄で読者層を狭める可能性もありますが、純粋な力量的には週刊本誌の連載陣に混じっても遜色ないレヴェル。さすが、15歳から5年間弛まぬ努力で腕を磨いて来ただけの事はありますね。これだけの実力でまだ20歳、将来に期待が持てそうです。

 ストーリー&設定についての所見
 “ジカンガエ”という能力のアイディアや、世界観の描写は秀逸だったと思います。脚本や演出にも確かな技術と才能を感じさせてくれました。天然ボケ系の主人公という難しいキャラクターも上手く描けており、これが作品の魅力を増しているのは間違いないでしょう。
 ただ、敵役に個性や悪事を働く動機付けを持たせ切れなかったのはマイナス要因でしょうし、壁に犯行計画を書くとか、それを主人公たちが偶然発見するといった辺りは無理のある展開だったと思います。また、クライマックスのアクションシーンも、どこかで一度大ピンチに陥る場面があれば、もっとクオリティが上がったはずです。

 今回の評価
 総括すると、総合的な実力は優秀ながら、やや今回は要所要所で小さな失敗があったかな…といったところ。ただ、将来性と素質は十分に感じられ、ひょっとすると早い段階で週刊本誌進出や連載獲得という事になるかも知れませんね。評価はストーリー面の失点を勘案してAクラスはとりあえず見送り。A−寄りB+としておきます。

 ◎読み切り『weisse Maria』作画:René Scheibe

 ●作者略歴
 現在20歳の現役大学生。ドイツのライプチヒのブックフェアにて開催された、「SHONEN JUMP BANZAI! PRIZE」──「週刊少年ジャンプ」と月刊「BANZAI!」誌(独版「ジャンプ」)が主催した新人マンガ賞──を受賞し、今回はその受賞作掲載。  

 についての所見(※8/24、27に、事実誤認によりそれぞれ一部修正しました。お詫びいたします)
 
最初は「あれ? えらくまたマンガの基本文法から外れたフォーマットで描かれてるな」…と思っていたのですが、受賞者インタビューを読むと、意図的に日本風とは違う趣向で描いたとの事。どういう考えでこうしたのかは分かりませんが、なるほど是非は別にして目を引く事は確かです。

 では、具体的に画力を評価するにあたってのポイントを羅列しておきます。
 ペンに慣れていないせいか全体的に線が不安定。ただ、デッサンの崩れはそれほど目立たない。
 それでも背景処理は“日本水準”。
 喜怒哀楽の表現はなかなか上手い。
 ただし、動的表現は今ひとつ。
 ──と、いったところでしょうか。キッチリとしたマンガの絵にはなっていませんが、画力そのものは、ある程度の水準に達していると言えそうです。

 ストーリー&設定についての所見
 内容的には、残念ながらストーリーマンガの真似ゴトといったところでしょうか。どちらかと言うと子供向けのちょっとした絵本のような単純なストーリーで、本来なら到底「ジャンプ」系の雑誌に掲載されるようなものではないでしょう。
 ただ、ラストシーンの余韻の残し方など、未熟さを隠せない中にキラリと光るセンスのようなものも感じられました。ほぼ有り得ない話ですが、これで本格的な修行を数年積めば、ひょっとしたらひょっとするかも知れません。

 ……まぁともかくも今回は、オリンピックで言うところの「参加する事に意義がある」的な“記念出場”という解釈をするのが妥当ではないでしょうか。

 今回の評価
 とりあえず今回は日本基準で評価する事の是非から問われそうな内容ですので、評価なしとしておきます。この作品の水準では、「ドイツから『ジャンプ』連載作家誕生!」……とするには厳しいでしょうが、将来的にはどういう展開があるんでしょうね。
 以前「ジャンプ」では、香港から「手塚賞」準入選を受賞して増刊デビューした人が、日本への人が連載目指して長期滞在してアシスタント修行してた事がありましたね。結局「ジャンプ」連載デビューには至らず、「世界漫画愛読者大賞」へ流れちゃったわけですが……。

 ※総評…『武装錬金』が良過ぎて、それと否応なしに比べられてしまう新人さんは可哀想でしたね(笑)。それでもA−評価が1作品、そして近い将来の飛躍が期待できるB+評価作品がいくつかあり、全体的なレヴェルとしてはマズマズだったのではないでしょうか。
 ただ、年齢と内容の薄いキャリアだけを重ねていっている“ベテラン若手”の作品が総じて低調だったのは、何とも言えない切なさを感じてしまいますね。完全実力主義のマンガ業界の厳しさが伝わって来る夏号の「赤マル」でした。

 ──ということで、大変遅くなりましたが、以上「赤マル」夏号レビューでした。なお、今週分のゼミも遅れる可能性があります。詳しくは“観察レポート”をご覧下さい。

 


 

2005年度第27回講義
8月11日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第2週分)

 11日夜から恒例の東京旅行へ出発する関係上、ゼミを早々に水曜日から準備を始めて、この木曜午後に実施する事になりました。幸いにも「サンデー」にレビューとチェックポイント対象作が無かったので、何とかなりそうです。

 しかし、東京から帰って来ると、今度は「赤マル」レビューですか……。しんどいなぁ(ぼそ)。
 そういや、『武装錬金』が夏では終わらない、というソースの無い未確認情報がネット界隈を乱舞しているんですが、実際の所どうなんでしょう。時期的にもう本は出来ているはずで、いわゆる早売りは無いにしても、現物が業界近辺には流通しててもおかしくないのですが……。

 まぁその辺は実際に本見りゃ判るってことで、とりあえずお盆直前のゼミをお送りしましょう。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(38号)に「第2回金未来杯」エントリー作として、『スマッシングショーネン!』作画:大竹利明)が掲載されます。
 大竹さんは「赤マル」04年冬(新年)号でデビュー。週刊本誌にも05年1号に読み切りを発表しています。絵・ストーリーとも独特の作風で、これまでは音楽を題材とした作品を描いていましたが、今回は「手塚賞」で佳作を受賞した、バドミントンをテーマにした作品をリメイクして臨むようです。

 ★新人賞の結果に関する情報

第27回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年6月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『ネコロマンサー』
   松本直也(22歳・東京)
 《天野明氏講評:召喚モノはたくさんあるが、新鮮で楽しく読めた。ペルのキャラクターが活き活きしていて良かったが、欲を言えばモカにもっと個性があればなお良かった。》
 《編集部講評:召喚というアイディアやストーリーはオーソドックスだが、読みやすくまとまっていた。召喚される猫のキャラも面白いが、最後に主人公自身のキャラが立つ形で終わって欲しかった》
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『町子の花火』
   北原奈津子(19歳・福岡)
  ・『スケルトラ』
   ベイビーボーイ(18歳・大阪)
  ・『Water'n Hazard!!』
   作:伊藤直也(24歳・京都)/画:梧桐柾木(19歳・京都)
  ・『TRICK STAR』
   赤西保(21歳・出身非公開)
  ・『ブレイクウォール』
   森伸市(19歳・福岡)
  ・『DRAGON HARD ROCK』
   石橋叩渡(23歳・埼玉)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎十二傑賞の松本直也さん…05年1月期「十二傑」で最終候補。

 ……今回の「十二傑」は、十二傑賞受賞者の松本さん以外は、これが初めての入賞というフレッシュな顔触れでした。編集部の評価や講評を見ると、やや低水準かなという気もしますが、ここから荒削りの才能を編集者の力で細かく研磨していくという事なんでしょうね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本&読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作なし
 ──なお、今回は“チェックポイント”はお休みさせて頂きます。「サンデー」関連記事は無しとなりますのでご了承下さい。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年36・37合併号☆ 

 ◎新連載第3回『太臓もて王サーガ』作画:大亜門

 についての所見
 良い意味でも悪い意味でも概ね変わらず……といったところでしょうか。ギャグマンガとしてなら及第点以上の水準をキープしています。
 ただ、相変わらずの単調なタッチと、オチのコマ以外に動きのあるシーンが極端に少ないという事が、この作品をかなりビジュアル的な面で地味に映らせていると思います。せめて人物作画のポーズだけでもバリエーションをつければ、と思うのですが……。

 ギャグについての所見
 まず、新キャラ──プロトタイプ版にいたキャラのマイナーチェンジ再登場ですが──の投入によって、レギュラーが4人に増加。ボケ、狂言回し兼ボケ、ツッコミ、ボケ・ツッコミ兼業という、なかなか柔軟性のある構成になりました。
 これにゲストキャラを加えていけば、ギャグのバリエーションにかなり幅を持たせる事が可能でしょう。基本的にボケ2&ツッコミ1だった『スピンちゃん』と比べても進歩の跡が窺えます。
 この他、ネタの密度や構成、台詞回しなど、テクニック面については、大体の部分で優秀な水準を維持出来ていると思います。

 問題点を挙げるとすれば、ページ跨ぎの大ゴマで決める一発ギャグが、結構な確率でインパクト不足気味に感じられる事でしょうか。前々から薄々感じていた傾向ではありますが、ちょっと顕著になって来たかな…という感じです。
 これは絵柄が単調で地味である事も若干は影響しているでしょうし、他のパートでは台詞回しの冴えているツッコミが、この一発ネタの時だけボケを説明しているだけの単調なモノが多いのも原因になっているでしょう。作者サイドとしては小難しい言葉ネタだけでなく、誰でも理解できるネタを用意して幅広い読者層に訴える思惑があると思うのですが……。
 救いなのは、その後の1〜2コマでネタを更に転がしてフォローが出来ており、結果的にはそこまで含めて1本のネタとして巧くまとめられている事でしょう。が、このボケとツッコミのパターンは『スピンちゃん』で不発に終わっているものだけに、アンケート面の事を考えれば、もう少しマイナーチェンジが欲しい所です。

 あと、今回からやたらに増えたパロディネタも賛否が分かれるでしょうね。この辺は読み手によって評価が完全に分かれてしまうでしょうから、非常に評価が難しいところです。
 当ゼミのジャッジとしても、ここは「テクニック的には優秀だが、ネタによって読者を選び過ぎるというデメリットも無視できない」…という感じ。評価点としては、加点・減点互いに相殺する事になりますね。

 今回の評価
 非常に悩ましい所なんですが、ここで一度A−寄りB+と評価をAクラスから落として、10回まで経過を観察する事にします。加点材料、減点材料の解釈の仕方で随分と評価も変わってしまう作品なので、個人的な趣味嗜好を抜いたジャッジが本当に難しいです(苦笑)。

 ◎読み切り(第2回『金未来杯』エントリー作品)『カメとウサギとストライク』作画:天野洋一

 ●作者略歴
 1981年6月22日生まれ現在24歳
 02年上期の手塚賞で準入選を受賞。その時の受賞作『CROSS BEAT』週刊本誌02年35号に掲載され、いきなりの本誌デビュー翌03年21号にも『LIVEALIVE〜はじまりの歌〜』を発表したが、その後2年間はアシスタント修行に専念されたのか、マンガ家としてのキャリアを中断。今回が実に丸2年ぶりの復帰作となる。

 についての所見
 以前から画力には定評のある若手作家さんでしたが、今回も基本的には非常に見栄えのする絵柄だと思います。紙質の悪い「ジャンプ」に載せるにしては、かなり細かい線も使って描かれていますが、印刷に負ける事無く綺麗な絵に仕上げられています。
 随所に挟まれたディフォルメ表現や、スポーツ物には不可欠な動的表現・ハッタリを効かせた演出についても文句無し。むしろ、少々やり過ぎかと思えるようなインパクトのあるシーンを描き出せています。

 少し気になる点としては、基本的にリアルタッチな絵柄であるのに、人物の顔の造型で目だけが不自然に大きいという事でしょうか。読み手によっては違和感を感じるかも知れません。そして些細な点ですが、静物の細部の描き込みを、光の効果を効かせまくって誤魔化しているのも、ちょっと残念でした。煮込みうどんが透明感有り過ぎます(笑)。

 ストーリー&設定についての所見
 「実力・素質を認められずに虐げられていた主人公が、クラブのエースと対決して勝利する」……というプロット自体は、かなり手垢の付いたもの。多くの作品で使われて来たパターンだけに、ある程度はまとまった話になっていると思います。
 ただ、言い換えれば使い古されて陳腐化したストーリーだけに、魅力のある作品にしようと思えば、設定や演出等にオリジナリティや何らかの付加価値が無ければなりません。

 そういう意味で、この作品の付加価値に当たる部分はどうかというと、残念ながら「成功」と自信を持って推せる水準には達していないように思われます
 まず、各登場人物の人物像の掘り下げ、そして行動に対する動機付けが甘く、全ての設定がとって付けたように感じてしまいました。先にストーリーと起こる出来事ありきで、キャラ立ちが巧くいっていないという。登場人物が行動を起こすごとに「何故?」と思う事が多い作品でした。
 また、読み手にストレスを与えておいて、最後にカタルシスを与えて演出効果を高めるのは良いのですが、この作品の場合、最初に与えられるストレスが強過ぎるのではないかな…と思います。単に三球三振に討ち取ったぐらいで、読み手に与えられた負の感情が帳消しになるかというと、少々疑問が残りますね。
 それに関連して、野球の対決シーンに、もう少し勝負の醍醐味のようなモノが欲しかったです。ピッチャーとバッターだけの1打席勝負は制約が大きいのは分かりますが、ちょっとアッサリし過ぎかな、といったところです。
 
 今回の評価
 物足りない部分はかなり多いですが、破綻もしていないので、評価はという事にしておきます。絵の上手さが作品のクオリティにあまり直結していないのが勿体無いです。

 

 ──日程の問題もありますし、今日はここまでとしておきます。それでは皆さん、有明でお会いしましょう。

 


 

2005年度第25回講義
8月6日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第6週/8月第1週分)

 日程も詰まり気味ですので、早速ゼミを始めます。来週は木曜日から東京へ出発しますので、カリキュラムは多少流動的です。「サンデー」にレビュー対象作が無いので、水曜実施も可能だとは思いますが……。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(36・37合併号)から若手作家による読み切り競作企画・「第2回・週刊少年ジャンプ金未来杯(ゴールドフューチャーカップ)が開催されます。
 昨年度に「ジャンプ」では久々の新人・若手作家コンペテイション企画として開催され、後の連載作品3本を輩出した「金未来杯」ですが、今年もほぼ同じ内容で第2回が開催される事となりました。
 昨年度の第1回と同様、各作品はアンケートハガキの設問の中で「支持・不支持」を問われ、最多「支持」票を獲得した1作品が「金未来杯」を受賞する…という流れのようです。副賞や特典などは明記されていませんが、過去のケースから考えても、受賞作及び読者や編集部内の評価が高かった作品が長期連載化されるのは間違いないでしょう。

 さて、ではここでエントリー作家・作品と、掲載スケジュールを紹介しておきましょう。

「金未来杯」掲載ラインナップ

 ◎第1弾・36・37合併号(次号)に掲載
 …『ウサギとカメとストライク』(作画:天野洋一)
 ◎第2弾・38号に掲載
 …『スマッシングショーネン!』(作画:大竹利明)
 ◎第3弾・39号に掲載
 …『バカ in ths CITY!!』(作画:大石浩二)
 ◎第4弾・40号に掲載
 …『魔法使いムク』(作画:大久保彰)
 ◎第5弾・41号に掲載
 …『ナックモエ』(作画:村瀬克俊)
 ◎第6弾・42号に掲載
 …『@'oclock』(作画:やまもと明日香)
※機種依存文字が読めない方へ:1文字目は○中に1です。

 今年のエントリーは昨年より1つ増えて6作品。ただ、個人的な印象としては、昨年度エントリー5作品の作者の皆さん(福島鉄平、坂本裕次郎、田坂亮、西義之、中島諭宇樹、以下エントリー順敬称略に比べると、やや小粒な印象もありますね。期待半分、不安半分…といったところでしょうか。
 勿論、このエントリー作品は当ゼミで掲載週のレビュー対象作となります。そちらの方も、どうぞお楽しみに。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本
 「サンデー」
:レビュー対象作なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年35号☆ 

 ◎新連載第3回『みえるひと』作画:岩代俊明

 についての所見(第1回時点からの推移)
 まず、第1回時点に比べると背景の描き込みとトーン処理がシッカリして来ましたね。この辺は穿った見方をすると「良いアシスタントさんが補強されたのかな?」…と考えてしまうのですが(笑)、アシスタントの使い方も作家の才能の内ですから、これはこれで立派な前進でしょう。
 そして、背景のお陰も多少入ってるかも知れませんが、人物作画の方もメリハリが出て来ました。まだ若干立体感が欠けている気もしますが、こちらもパッと見で見苦しいという印象は全く無くなりました。
 全体的に見て、減点材料は概ね解消されたと判断して良いのではないでしょうか。

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 第2回・第3回の2週に渡って、新キャラの登場と世界観の補強を兼ねたショートエピソードが描かれましたが、今回のお話はどうにも淡白だという印象が強く残りました。シナリオのまとまりは問題が無かったのですが、要所要所で物足りない点が目立ったかな…といったところです。
 具体的に言えば、設定の提示のために説明的な台詞を多用した点、戦闘シーンの駆け引きや攻防、更には目を引く演出が不足していた点、そして心象描写が乏しかった点など。作品の内容を読み手の心に印象深く刻み込むためのテクニックが感じられなかったのが残念でした。

 全体としては「悪くない」作品ではあるのですが、「悪くない」程度では生き残れないのが現在の「ジャンプ」。打ち切りが近そうな作品が1つ2つある今の内に、テコ入れと読み手の望む方向性への舵取りをしていってもらいたいものです。  

 今回の評価
 評価は絵の減点材料の解消と、新たに生まれたストーリー面の懸念を相殺させてB寄りB+で据え置きます。次は連載10回の時に評価の見直しを実施します。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週の「チェックポイント」は、まず『切法師』の連載10回評価見直しから。

 ◎『切法師』作画:中島諭宇樹
 旧評価:A寄りA−新評価:B+

 掲載順も徐々に低迷しつつあるこの作品ですが、当ゼミでの評価も実質1.5ランクのダウンとさせてもらいます。
 パノラマ的な作画を多用した演出の巧みさ、心的描写の巧さとそれを活かしたドラマ展開など、見所のあるシーンも少なくありません。ですがそれ以上に、非常に高い割合のページ数を割いている戦闘シーンがどうにも平凡で、作品のクオリティを大きく押し下げている……という判断です。
 バトルがメインの作品であるならば、主人公が本当に死ぬ寸前・絶体絶命の窮地に追い込まれてからの逆転劇や、手負いの状態で格上の敵にギリギリの勝利を収める…といったような、勝ち負けが判っていてもドキドキするような展開で盛り上げて欲しいところです。この作品まではバトルよりもドラマで見せるタイプの作家さんだっただけに、その辺の戸惑いや準備不足もあったのでしょうか。
 また、ファンタジー物の設定を和風アレンジするのは良いのですが、そのアレンジを含めてやや陳腐であるような印象も受けます。この世界観でないと出来ない趣向が何か1つでもあれば全く見方も変わって来ると思うのですが……。

 果たして20回の評価見直しがあるのかどうか微妙な情勢ですが、何とかテコ入れが間に合う事を祈りたいですね。実力のある作家さんだけに、短期打ち切りは見たくないものです。

 ──そして今週号では『いちご100%』が完結を迎えました。当講座開講間もない頃に連載が始まった作品ですが、いつの間にか長期連載の部類に入る作品になっていましたね。そりゃ当講座スタッフもみんな年とるわけですね(苦笑)。

(※ところで、実はこの最終回総括は第2稿です。当初は普通のストーリー系作品と同様のスタンスからクソ真面目に総括評価をしたのですが、「そうして見る作品ではないですよ」という至極ごもっともなご指摘を受け、修正をしております)

 さて、この作品は連載当初は正統派の青春ラブストーリーとして出発し、新連載時の評価もそういうスタンスで出しました。しかし、最終回を迎えた時点で作品全体を俯瞰すると、確信犯的にシナリオ・設定の内容充実を犠牲にし、その分商業的成績を意識した、いわゆる「名作崩れの人気作」的作品と考えた方がしっくり来るようです。複数の女の子に対して一生心の傷になりそうな事をした真中が最後までモテモテ…という御都合主義的なエンディングも、そういう解釈をすれば納得も出来ますし。
 ただ、それにしても主人公の性格設定や行動には“人気作”として問題はありはしないか……とも思うのですが、次々と現れたヒロインにそれを相殺するだけの魅力があり、また河下さんの見栄えする絵もそれを後押しするだけの力があったとも思います。という事で、少々甘いかも知れませんが、改めてB+の評価で総括とさせてもらいます。
 

☆「週刊少年サンデー」2005年36号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、『見上げてごらん』の連載20回評価見直しをお送りします。

 ◎『見上げてごらん』作画:草場道輝
 旧評価:B新評価:B(据置)

 連載20回の区切りですが、今回も評価は据え置きとします。現在、部内での5対5対抗戦が進行中ですが、試合シーンの内容が、どうにも薄味かな…という感じですね。高度に専門的な技術論や内容の深い駆け引きではなく、根性論や「正義は勝つ」というような根拠薄弱な精神面の部分ばかりをクローズアップしてしまったため、ストーリーや作品全体の説得力に悪い影響を与えているように思えます。
 また、単純に主人公サイドがアッサリと勝ち過ぎるというのも問題でしょうね。ただでさえ勝ち負けが読めるマッチメイクなだけに、もうちょっとピンチを煽るような場面があっても良かったでしょう。

 この作品、とりあえずあと10回様子を見て、それで内容が変わらないようでしたら、それで評価確定としたいと思います。

 

 ──といったところで、今週分のゼミはこれまで。また来週お会いしましょう。では。

 


 

2005年度第23回講義
7月30日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第5週分)

 大亜門さん、『いちご100%』真中ネタがギリギリで間に合って良かったですね、と言いたくなる7月末の「現代マンガ時評」をお送りします。
 今週はレビュー対象作も多いですので、取り急ぎ本題へ参りましょう。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(05年5月期)

 入選=該当作なし
 佳作=1編
  ・『鈴さんのフェアリーキッス♥』
   干場章広(22歳・大阪)
 努力賞=1編
  ・『幽便屋』
   長島幸(23歳・大阪)
 あと一歩で賞(選外)=2編
  ・『ヒーロー列伝』
   友栄チエ(19歳・神奈川)
  ・『カンナギ』
   塩野貴子(21歳・東京)

 今回の受賞者の過去のキャリアについては、ネット検索で調査した限りでは目ぼしいものは見つかりませんでした。

 ……普段から2ヶ月単位か1ヶ月単位かで大きく収穫の質と量が異なる「まんカレ」ですが、この5月期は特に大不作といったところでしょうか。ここまで入賞作品が少ないのは、かなり珍しい現象ですね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…4本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:新連載第3回1本&読み切り2本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年34号☆ 

 ◎新連載『太臓もて王サーガ』作画:大亜門

 ●作者略歴
 1977年5月29日生まれの現在28歳
 02年4月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りした後、週刊本誌02年34号にて代原で暫定デビュー。同年44号に2度目の代原掲載を果たした後、「赤マル」03年春号にて『スピンちゃん試作型』で正式デビュー。この『スピンちゃん』シリーズは、週刊本誌でも03年40号48号の2回、それぞれ題名を微妙に変えつつ読み切りが掲載され、04年16号から『無敵鉄姫スピンちゃん』のタイトルで週刊連載化(1クール11回で打ち切り終了)。
 連載終了後の復帰は、04年44号の『伝説のヒロイヤルシティー』。今作は、この作品の設定をベースに大幅マイナーチェンジを施したもの。

 についての所見
 相変わらずペンタッチが単調でメリハリに欠ける面が直っていませんが、安定した水準をキープ出来ていますね。少なくとも絵から減点材料を探す必要は無いでしょう。

 ただ欲を言えば、全体的にもう少し絵に動きがあれば、もっとハツラツとした雰囲気が出て良いんじゃないかと思います。動的表現自体は問題ないのですが、人物の動きがどれも小さいコマの中だけで完結してしまっているので、動感を実感し難くなっているんです。
 根本的にギャグのパターンが“しゃべくり漫才”形式ですから仕方ない部分でもあるんですが、ビジュアル的にインパクト不足というのは、ちょっと気になる所ですね。

 ギャグについての所見
 こちらはもう、完全に“自分の型”を作り上げている大亜門さんだけあって、高い安定性と完成度が全てのページから感じられます。まさに熟練の技巧といったところでしょうか。
 様々な角度からの笑いを狙う台詞回しの上手さは勿論の事、1つのコマも無駄にしないネタの密度、ページ跨ぎのオチを多用する構成力も見事です。『スピンちゃん』時代はやや過剰とも思われたパロディネタも、今回は多少抑え気味になっており、万人向けを意識するという意味では、これも良い選択ではないでしょうか。
 ※まぁ『出っ歯=ゲームセンターあらし=色々なところあらしまくり』という恐ろしく判り辛いネタもありましたけどね(笑)。80年代前半の「コロコロコミック」読者じゃないと判らんネタです。

 意地の悪い注文を出すならば、ややギャグの展開が一本調子・ワンパターン気味な感があるので、もう少しメリハリとトリッキーさを入れてもらいたい…といったところ。1回につき1箇所ぐらい“間”の取り方を極端にするとか、言葉に頼らないギャグも入れてみるとか、安定感だけでなく良い意味で読者の予想を裏切るような意外性があれば、随分と印象も変わって来ると思うのです。

 今回の評価
 評価はA−としておきます。ただ、良く出来た作品ではあるのですが、ギャグのパターンが昨年打ち切られた『スピンちゃん』と大差ないので、アンケート的には不安だったりします。この人も系列青年誌送りになっちゃうんでしょうか……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週の「チェックポイント」は『タカヤ』の連載10回評価見直しです。

 ◎『タカヤ -閃武学園激闘伝-』作画:坂本裕次郎
 旧評価:B−
新評価:B−(据置)

 掲載順的には“同期”3作品の中では最も好調ではありますが、内容的には低迷から抜け出せずにいるようです。
 どんでん返しや意外性の無い一本調子なシナリオ、攻防の質・量共に物足りなさの否めない戦闘シーン、そして最近は“脚本力が無いのに説教臭い”という新たなネガティブ要素まで表面化してしまいました。ウリであったはずのツンデレヒロインとのラブコメ要素も上手く展開出来ているとは思えません。
 現状では場当たり的に設定を“増築”して、何とかその場その場を凌いでいるようですが、元々土台が弱い所に無計画な建て増しを繰り返しているわけですから、早晩全体にガタが来るのは必至。現状のままでは厳しいのではないでしょうか。

 ……ただ、最近の「ジャンプ」は連載10〜20回前後からのテコ入れが実に上手いですから、とりあえず評価を据え置いて、あと10回は経過観察を続けたいと思います。

☆「週刊少年サンデー」2005年35号☆

 ◎新連載第3回『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志

 についての所見(第1回時点からの推移)
 
特筆すべき事項はありません。キャリア17年の作家さんの2年描き続けて来た作品の絵柄が2週間でガラっと変わるはずもありませんしね(笑)。 

 ストーリー&設定についての所見
 第2話、第3話は2話完結形式で、「チルドレンたちの社会との適応」をテーマに、ややコメディ要素の強いエピソードとなりました。予定調和で陳腐に陥りがちなシナリオでしたが、ちょっとした犯人当てをスパイス代わりに取り入れて、文字通り一味違うお話になっていたと思います。(ただ、皆本の『許せ!! 薫ッ!!』という台詞は、強引で解釈の難しいモノでしたが……)
 世界観設定の提示の仕方も自然ですし、既に完成の域に達しているチルドレン3人のキャラクターも、上手くシナリオと噛み合っていたと思います。

 ただ、これは物凄く贅沢な悩みなんですが、これまでの読み切り、短期集中連載、そして今シリーズの第1話が余りにも良く出来ていたため、少し内容のテンションを落とすと途端に薄味に感じてしまう自分がいます(笑)。また、第1話で、作品のテーマについて言いたい事を全部言っちゃったところもありますので、今後の盛り上げもかなり辛いだろうな……と心配してしまう面も。
 連載開始前に、物凄い3段ロケットスタートを切ってしまった反動が来なければ良いのですが……。

 現時点の評価
 評価はとりあえずAで据え置きます。しかし駒木は、どうしてこんな良い作品に不安を感じなくちゃならんのでしょうね(苦笑)。

 ◎(代原)読み切り『名犬ジョン』作画:橋本時計店

 ●作者略歴
 データ不足により、生年月日は不明だが、「爆笑王決定戦」の受賞年齢から推定すると、現在24〜25歳
 04年に新設された「週刊少年サンデー」ギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で佳作を受賞。同年末発売の隔月増刊05年新年号にて『ゴースト 〜入浴中の幻〜』でデビュー。増刊には05年3月号にも読み切りを発表している。
 今回は代原とはいえ、初の週刊本誌登場となる。 

 絵についての所見
 デビュー1年弱とは思えないほど線がスッキリしていますね。「サンデー」の誌面にも上手く溶け込んでいるようですし、「サンデー」のギャグ作品としてなら十分に及第点の出せる水準でしょう。
 細かい事を言えば、潰れ気味なベタや、ロングショットを多用し過ぎる構図に注文をつけたくなるのですが、減点材料にするほどのミスではないでしょう。

 ただ、ちょっと絵がマジメ過ぎるというか、ディフォルメやキャラ造詣のハジケっぷりが足りない気もします。今後、作風に応じてどれくらい“バカ”になれるかがカギに来るんじゃないでしょうか。

 ギャグについての所見
 基本的なテクニック面についてはキッチリしてますね。ネタフリ→小ネタ→ページ跨ぎオチ…といった展開のさせ方や、1コマ内でのハイテンポな会話の遣り取りなど、ギャグを見せる手法には全く問題はありません。
 また、台詞回しにも巧さを感じさせます。豊富なボキャブラリーを駆使して、必要以上に回りくどい表現や、気の利いた比喩表現で読み手の笑いを誘っています。

 しかしながら、まだ全体的に省ける無駄な部分が多過ぎるような気もします。1コマで収まりそうな所に2〜3コマ使ってみたり、ネタフリを長く引き伸ばし気味だったりと、いわゆる“ネタ繰り”が不徹底だったのではないでしょうか。
 あと、これは個人の主観が入っていそうですが、ネタにもう少し意外性が欲しかったです。例えば、“デューク東郷顔の犬”が出た時点で、誰もがライフル銃を持ち出すのは想像つくわけですから、そこを更に裏切るような大ネタを持って来るというのが理想的ではなかったでしょうか。 

 今回の評価
 長所もあるが短所も多いという作品ですので、評価はB+とします。「サンデー」系新人ギャグ作家さんの中では上位5人以内には入る素質を持っていると思いますので、このまま良い所を伸ばしていってもらいたいですね。

 ◎読み切り『カミロボ誕生物語』作画:あおやぎ孝夫

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 生年月日は非公開。「週刊少年サンデー」ウェブサイトの公式プロフィールによると、1970年代生まれとのこと。
 第43回(98年後期)「小学館新人コミック大賞」で入選を受賞。その後しばらくのキャリアは不明だが、01年からは小学館発行の月刊誌「コミックGATTA」で『ジョカトーレ』の連載を開始。だが、同年「GATTA」誌が休刊となり連載は最終号で終了となる。
 翌年には「週刊少年サンデー」に移籍。週刊本誌02年15号で読み切り『背番号は○(マル)』を発表した後、同年35号から04年1号まで『ふぁいとの暁』を連載。
 実録モノ読み切りは04年36号の『福原愛物語』に続いて2作目。可愛らしい子供の絵に定評があり、幼少期の回想シーンが中心となる実録モノにはうってつけの作風か。

 についての所見
 独特の柔らかいペンタッチと好感度の高い絵柄は今回も健在。むしろ以前より線が洗練され、マンガ的な絵の中に緻密さが加わって来ているような感もあります。
 人物造型における、少年から大人への外見上の変化や、その他取材しないと描けないディティールの確かさなど、随所にプロの仕事が施された、まさに力作ですね。

 ストーリー&設定についての所見
 ストーリーに関しては、取材した内容を無難にまとめるだけの“作業”の産物ですから、評価のしようがありません。が、傍から見たらかなり珍奇な場面──エエ年した大人が自作の人形でプロレスごっこ──も強引に爽やか・感動系の話に転換させていった力技に、視点アングルの違った所でプロの実力を見た感じです(笑)。

 ……まぁでも、一人っ子・一人遊び好きのプロレスファンとしては、このカミロボ・安居さんの気持ちはよく判るんですけどね(笑)。こういう内向的で緻密な趣味というのは、個人的には大好きです。
 駒木じゃなくても、仮想プロレス話やるのはプロレスファンの楽しみの一つですし、『最凶超プロレスファン列伝』にもあるように、丸めたマットや細長いクッションを相手にスパーリングしたりするわけですよ。ジャーマン仕掛けて頭打ったりとか(笑)。“実践派”の連中なんかだと、実際に人間相手にパワーボム仕掛けて、同級生を病院送りにしたヤツなんかもいました。パワーボムって、仕掛け方と受身間違うと肩の骨折れるんですよね。

 ──話がエラい逸れ方しましたが、まぁよく出来た作品です、とまとめておきましょう(笑)。
 ああ、そうだ。実は日本には、カミロボ以上の歴史を誇る凄まじいヴァーチャル格闘技ワールドが存在します。その名も「日本紙相撲協会」。なんと昭和28年創設の伝統ある“冗談法人”です。今度はこれも実録マンガにしてもらいたいですね。 
 
 今回の評価
 実録モノ作品ということで、今回も評価無しにします。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は『ブリザードアクセル』が20回のキリ番となりましたので、評価見直し簡易レビューです。

 ◎『ブリザードアクセル』作画:鈴木央
 旧評価:A−新評価:A−(据置)

 数話前から主人公が全寮制の合宿に入り、一気に本格的なフィギュアスケート競技マンガへ発展しつつありますね。主人公の少年マンガ的熱血キャラを上手くシナリオと絡み合わせることで、自然に特訓エピソードへ誘導したのには唸らされました。
 やや御都合主義な面や、深いキャラ描写が欠けている面も否めませんが、全体的に見て高い水準で安定していると思います。評価を据え置いて、このままチェックを続けます。
 

 ……レビュー4本のゼミで、準備に時間を食ってしまいました。
 来週は『いちご100%』の最終回総括なんですが、とりあえず真中はデスノートに「怪盗サイに箱詰めにされて死亡」と書かれるべきだと思います。ではまた(笑)。

 


 

2005年度第21回講義
7月23日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第4週分)

 珠美ちゃんのレポートにもありましたが、今週は同人誌版「現代マンガ時評」の書き下ろし分を執筆しておりました。ウェブ上でならタダで閲覧出来るコンテンツだけで対価を頂くわけにはいきませんので、ささやかなプレミアというヤツですね。
 しかしながら、ウチのようにウェブ上での活動をメインとしている所が、わざわざ間口の狭くした場(=コミケ)でしか閲覧出来ないコンテンツ──しかも、事情アリとは言えわざわざ有料で──を提供するというのも、ある意味おかしな話ではあります。その辺、ご不満をお持ちの方もいらっしゃるかも知れません。
 かつては貴重な表現発表の場であった同人誌即売会は、今やインターネットが兼ね備えた表現発表機能に比べるとひどく限定された場になっており、数十万人が参加するコミケにしても、地理的・経済的・精神的な敷居の高さはかなりなものがあります。言ってみれば、わざわざ全ての人が参加できない環境で限定的にコンテンツを公開するという行為ですから、実は非効率な事この上ないわけです。アマチュア同人が多くの人にコンテンツを読んでもらいたければネットで無料公開すればそれで良く、本来ならコミケなどは時代の仇花的存在となっていても不思議ではないはずです。
 それでもコミケ等の同人誌即売イベントの数や規模が巨大化こそすれ縮小する様子が全く見えないのは、「イベントに参加する」「イベントで同人誌を売る」という事自体が、参加者にとってかけがえのない目的になっているんでしょうね。テレビでならタダでスポーツ中継観られるのに、わざわざ見え難い席から生観戦したりするのと一緒のようなもので。あとは「同好の士との出会いの場が持てる」とか「自分の実力を商業に近い環境で試せる」とかもあるでしょう。つまり、インターネットのモニター画面越しでは出来ない事をやってみたい……という事なのではと思うわけです。
 で、そんなことを言っている駒木がコミケに参加する理由は、「受講生さんと面と向かって直接お目にかかりたい」、または「これまで縁の無かった方にも『社会学講座』を知ってもらいたい」……といったところでしょうか。ネットでしか出来ない事があるように、コミケでしか出来ない事をしたいと考えています。
 まぁそういうわけで、こちらの趣旨について、どうかご理解下さいませ。昼からの入場だと人の流れもスムーズですし、東京近郊にお住まいの方、実家が首都圏にあって帰省中だという方は是非、見物がてらにでもフラリとご来場頂き、1部手に取ってもらえると幸いです。

 ……なんかいきなり変な独り言ですいません(笑)。まぁたかが駒木の戯言ですんで、竹輪のように右から左へ抜かして下さい。
 
 それでは、今週のゼミを始めます。今週からキリ番回数の評価見直し作品が結構多くあって、ちょっと大変ですが……。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 まずお詫びから。先週の「サンデー」で掲載告知されていた『マリンハンター』作画:大塚志郎=今週号掲載)を紹介するのを失念しておりました。申し訳ないです。

 ◎先週、既に告知済みですが「週刊少年ジャンプ」では、次号(34号)より、『太臓もて王サーガ』作画:大亜門)が新連載となります。大亜門さんはこれが『無敵鉄姫スピンちゃん』に続き2度目の連載。今回も短期打ち切りになると、今後の展望がかなり厳しいものになるはずですので、是非とも頑張ってもらいたいところです。

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(35号)『カミロボ誕生物語』作画:あおやぎ孝夫)が掲載されます。
 この作品は、先日掲載された『ザスパ草津物語』に続く、「サンデーMIP読み切りシリーズ」第2弾とのこと。作者のあおやぎさんは、『福原愛物語』に続く、実録マンガのお仕事になりますね。
 当ゼミでは実録モノは原則的に評価対象外としていますが、形式的にレビューを実施します。
 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:新連載第3回1本&読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年33号☆ 

 ◎新連載『みえるひと』作画:岩代俊明

 ●作者略歴
 1977年12月11日生まれの現在27歳
 同人での創作活動を経て、03年下期「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞今作と同タイトルの受賞作『みえるひと』が04年2月発売の「青マルジャンプ」に掲載され、デビュー。
 
その後は「赤マル」04年夏号に読み切り『狗童』を、週刊本誌04年45号にデビュー作『みえるひと』のマイナーチェンジ版をそれぞれ発表。今作は、その昨秋発表のマイナーチェンジ版の基本設定を引き継いだ長編連載作品。

 についての所見
 
昨秋の読み切りの時点でも粗が目立った作画ですが、残念ながら連載版の開始を迎えても、完成の域には遠く及ばなかったようです。細・太のメリハリの足りない線とやや崩れ気味のデッサンで描かれた人物作画は見るからに不安定。そこへ空白の多い背景の描き込みとトーン処理の甘さが加わって、かなり貧弱な印象を与える絵になってしまいました。
 それでもディフォルメ表現を多用した人物の表情のバリエーションや動的表現などに若干の改善が見られており、今後に向けて望みの持てる要素もありました。現時点では赤点スレスレの水準ですが、この連載を続ける内に更なる進歩がある事を期待しましょう。

 ストーリー&設定についての所見
 過去2回掲載されたプロトタイプ版では、叙述&ビジュアルトリックをメインに据えた“怪奇ミステリ”だったこの作品ですが、今回を見る限りでは、『銀魂』などのようにキャラクターを前面に押し出した、ライトでコメディチックな作風の作品にモデルチェンジが図られたようです。
 過去2作のプロトタイプ版では、ミステリ要素とストーリーのクオリティの両立に苦しんでいた面もありましたので、これは無難な選択かも知れません。また、現在の「ジャンプ」には、『ネウロ』『ムヒョ』のようなミステリ要素を含んだサスペンス・ホラー作品が連載中ですし、敢えて限られたパイを奪い合う必要は無い…という判断が働いたという推測も成り立ちます。

 ただ、そうやってミステリ要素を取っ払ってしまったため、ストーリーがやや単純で意外性の無いモノになってしまった事も否定出来ません。幸い、レヴェルの高い脚本・演出がこの弱点をフォローして、予定調和ながら鑑賞に耐え得るクオリティは維持出来ていると思うのですが、読み手の感情を揺さぶる場面や、意表を突くようなサプライズが見られなかったのは少々残念でした。これも今後へ向けての課題ですね。

 今回の評価
 評価は“伸びしろ”を残すという意味も込めて、B寄りB+としておきます。昨秋のプロトタイプ版と同評価になりましたが、加点材料と減点材料が共に少なくなって都合プラマイゼロ…という感じに解釈して貰えればと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週は『カイン』が10回の区切りを迎えましたので、定例の評価見直しを実施します。

 ◎『カイン』作画:内水融
 旧評価:B
新評価:B−

 第3回時点から更に下方修正。メジャー誌の連載作品としては落第点のレヴェルに転落です。
 この作品の問題点については、以前のレビューでも色々と挙げて来ましたが、ここ数回で特に気にかかるのがキャラクターメイキングの下手さ。登場人物のキャラクター描写が終わらない内に込み入ったエピソードを始めてしまったり、人物の実像よりも名前だけが先に提示されてしまったりで、読み手が登場人物に感情移入する間を与えてくれないのです。
 こうなってしまうと、作中の全ての出来事が読み手の興味の外で起こるような事態になってしまいます。せっかくの回想シーンにしても、その回想の主体となる人物のキャラが固まっていないまま始まってしまうため、いくら不幸話を聞かされても現在とのギャップを感じなければ感動も出来ない…ということに。これではいくらシナリオを練っても効果激減です。キャラ立ち不足のために、完全にストーリーが死んでいる状態ですね。

 今週号から始まった新連載シリーズのタイミングが中途半端で、この作品も当面は打ち切りを逃れたようですが、今のままでは2クール目をクリアするのは難しいと言わざるを得ません。

☆「週刊少年サンデー」2005年34号☆

 ◎新連載第3回『あいこら』作画:井上和郎《第1回掲載時点での評価:B+

 ●についての所見
 長期連載を1度経験している作家さんらしく、絵柄の安定感は全く揺るぎません。高い水準の好感度と見栄えを維持したまま、良い意味で平行線を保っています。
 
 ストーリー・設定についての所見
 第2話、第3話と、キャラクター重視&一話完結型のコメディが展開されています。恐らく今後もこの大枠を据え置いたまま、徐々に主人公とヒロインたちの恋の進展が描かれていく事になるのでしょう。
 シナリオについては、良く言えば、登場人物のキャラと魅力を引き出し、読者を決して不快にさせないよう計算されたノリの軽いコメディ。悪く言えば予定調和でドラマ性の希薄な、典型的なB級シナリオといったところでしょうか。
 これだけ“商品”として計算されていると、商業的な面では一定以上の数字を残すのは間違いないでしょう。ただ、だからといってこのマンガが「名作」と呼ぶに相応しい“作品”かというと、やはり首をボキボキと関節が鳴るまで捻ってしまうのです。

 現時点での評価
 評価はB+で据え置きです。当ゼミの基準では、今の路線を踏襲する限り、これ以上はどうにもなりませんね。


 ◎読み切り『マリンハンター』作画:大塚志郎

 (受講生の皆さんへ:この作品は評価Cとなりました。結果的に読み手の感情を損ねる論調のレビューになっている恐れがあります。この作品のレビューをご覧になるかどうかは皆さんでご判断下さい。

 作者略歴
 生年月日は非公開だが、03年3月期「まんカレ」入賞時は20歳で、そこから計算すると現在22〜23歳か。
 02年6月発売の「ビッグコミックスピリッツ・増刊新憎」の作者ラインナップに“大塚志郎”の名前があり、これがデビュー作か。同年にはNHK教育の「10代真剣しゃべり場」に出演するという経歴も。
 「サンデー」系誌での活動は、03年3月期「サンデーまんがカレッジ」で佳作入賞してから。翌年、「サンデー」増刊04年2月号で再デビューを飾り、同年増刊夏号には今作と同タイトルのプロトタイプ版を発表。
 今回が週刊本誌デビューとなる。

 についての所見
 まず気になるのが線や塗りの潰れですね。週刊本誌の紙質の悪さのせいでしょうが、率直に言って見辛い作画になってしまいました。これは新人さんの多くがハマるワナなのですが、アシスタント経験はこういう所で活かして欲しかったですね。

 ただ、今作は紙質の問題以前に作画のレヴェルも低調でした。
 マンガの絵というよりもイラストの延長上のような絵といった印象で、特に構図の取り方が極めて単調でした。コマの多くが理由も無く顔面かバストアップのアングルで描かれており、悪い手癖がついているなぁ…といった印象です。
 また、動的表現が拙いのも問題ですね。格闘シーン等の動きを、静止しているシーンとインパクトの瞬間だけで描写しようとしているため、全く迫力も躍動も感じられません。

 更には、本来なら世界観や設定を象徴するように配慮しなければならない人物造型や衣装のデザイン、これについても全く無頓着なのも大きな減点材料です。「この世界観で、こういう理由があって、この世界の人間はこういう姿形をしている」とか、「この世界の環境がこうだから、機能的にこういう服装をしている」とかいったモノが全く感じられません。
 この後、設定面全般についても苦言を呈しますが、このデザイン全般の配慮の無さが、ストーリーや作品全体のクオリティの足を引っ張っているように思われます。とにかくマンガを描く上で必要な“こだわり”が全く伝わって来ず、技術云々以前の作家としての意識のレヴェルで大きな課題を抱えているのではないでしょうか。
 
 ストーリー・設定についての所見
 正直言って、久々に読むのがキツい週刊本誌の読み切りだった気がします。どこから問題点を指摘すれば良いのか……。 

 それでも、まず指摘しないといけないのは脚本・演出でしょうね。とにかく徹頭徹尾説明的なセリフ・モノローグのオンパレード。登場人物のことごとくがご丁寧に細かい知識を持っていて、TPOに応じて台本でも読んだかのようにウンチクを披露。敵キャラは敵キャラで、戦闘中だというのに詳細な自戦解説を繰り広げる始末。また、先に指摘した単調な構図と動的表現の甘さが演出の足を引っ張って、映える場面も映えなくなってしまっています。

 次に設定とストーリー。作品世界の背景から主人公の目的から、主人公が特殊能力を持った理由まで色々と並べてはみたものの、これらがストーリーの内容を全く無視して提示されているため、全くの蛇足になっています。
 それだけでなく、本来なら描写されなければならなかった、主人公の行動の動機付けや現在の人格形成に至るまでのエピソードが皆無に近く、結果として「設定過剰なのに設定不足」という随分な惨状に至っています。知らない人には判らない喩えで恐縮ですが、『なぁゲームをやろうじゃないか』(作画:桜玉吉)に出て来る、確信的ダメダメ作中ファンタジー作品『アコンカグア』を思い出してしまいました。

 そして、アクション系作品の命綱と言うべき戦闘シーンもお粗末な限り。確かに個人の特性や必殺技を用意されてはいるのですが、根本的な部分では、駆け引きの全く無い、しかも秒殺決着のパワーゲームでは如何とも・・・・・・。
 「サメだから血に反応してバーサークする」という設定も、先程から指摘している描写力不足のために、活かし切れたとは言えません。むしろ“擬似超サイヤ人化”の理由を、感情の発露ではなく先天的な特異体質に依存してしまったのは、ドラマを盛り上げる上ではマイナスだったでしょう。

 2年前、大塚さんが佳作入賞を果たした「まんカレ」の講評には「まんがのドラマはキャラクターが全て。設定や事件の目新しさに読者は感情移入してくれません」という旨の苦言がありました。この言葉を大塚さんが少しでも胸に刻み付けていれば、こんな酷い作品を発表する事も無かったでしょうに、本当に残念です。

 現時点での評価
 評価はです。形式的には起承転結がキチンと成立している作品ですから、本来なら、B−ぐらいに留め置くのが妥当な線なんですけどね。ただ、今回は余りにも減点材料が多く、レビューの内容もご覧の通りになってしまいましたので……。
 しかし、「サンデー」の読み切りで評価Cを付けるのは、今年度でもう3回目ですね。ここまで来ると、「何故こんな作品描いたの?」と作家を責めるより、「何故こんな作品を載せていいと思ったの?」と編集者を責めたい気分になります。編集長交代で少しは風通しが良くなるかと思われた「サンデー」ですが、少なくとも新人・若手の発掘に関しては、改善の跡が見えて来ませんね……。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 さて、今週にキリ番回数を迎えた連載作品は無いのですが、実は『兄踏んじゃった』の評価見直しを5週間ほど忘れておりました(汗)。
 忘れていたというか、評価の低い作品でしたから、10回の時点で評価確定させたつもりでいたんです。ところが、同人誌版の編集をしていて、「あと10週経過観察します」と言っていたのに気付いたという次第。大変失礼致しました。

 ……というわけで、連載25回時点の評価見直しです。

 ◎『兄踏んじゃった』作画:小笠原真
 旧評価:B−新評価:寄りB−

 実質0.5ランクの上方修正としました。個人的に笑えるかどうかと問われればキツいのですが、それでもツッコミの台詞回しなどに随分と工夫・改善の跡が見られるようになりました。
 ただ、ギャグの組み立てが完全にワンパターン化されており、展開の意外性が全く期待出来ないというのは無視できないマイナス要素ですね。吉本新喜劇のようにネタフリからオチまで知っていても笑えるギャグなんて、一生で1つ、2つのものですからね。やっぱり読み手の予想を良い意味で裏切るような展開で見せるネタを増やしていってもらいたいです。

 この作品については、今度こそこれで評価確定としておきます。今後はクオリティに大きな変化があった時のみ、この欄で採り上げることになるでしょう。

 

 ──というわけで、今週はこれまで。同人誌の入稿締め切りが27日必着なんで、それまではどうか何卒。

 


 

2005年度第20回講義
7月14日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第3週分)

 たとえ日常で少々キツい事があっても、今週の『ジャガー』の、「借りてない借金」というフレーズに爆笑出来る内は多分大丈夫…と、自分を励ました駒木ハヤトです。鬱陶しい梅雨真っ只中、いかがお過ごしでしょうか。

 さて今週は、レビューする方が手薬煉(てぐすね)引いて待ち構えていた『絶対可憐チルドレン』が登場です。駒木の中では連載前から今年度「コミックアワード」有力候補でしたが、長期連載版第1回もやはり素晴らしい出来でした。詳しくは後ほど。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(33号)より、夏の新連載シリーズが開幕します。前期の新連載がまだ連載10回に到達するかどうかという早いタイミングですが、昨年来、作品の新陳代謝が鈍っていた分を取り戻そうという方針なのでしょうか。

 それはさておき、今回のシリーズで立ち上がる新連載は以下の2作品です。
 ●33号より開始:『みえるひと』作画:岩代俊明
 ●34号より開始:『太臓もて王サーガ』作画:大亜門
 ……前者は、一昨年の「ストーリーキング」準キング受賞作を、一度週刊本誌掲載の読み切りとしてリメイクしたモノを連載化した作品(ややこしいですね^^;;)。後者は、恐らく昨年に週刊本誌で発表された、『伝説のヒロイヤルシティー』をリメイクした作品と思われます。
 前のシリーズと同様、連載1〜2回目のフレッシュな顔触れ。これだけ雑誌全体が好調であるにも関わらず、新人・若手を続々投入するあたりが、さすが「ジャンプ」といったところですね。

 ★新人賞の結果に関する情報

第26回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年5月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『レマ宇宙探検隊』
   LUHEN(23歳・北海道)
 《許斐剛氏講評:スケールの大きな世界観で、ロマン溢れる作品。キャラクターそれぞれの等身大な発言や、大胆な行動も好印象で魅力的》
 《編集部講評:スケールの大きさ、展開のスピーディーさで、読者をワクワクさせる力を持っている作品。ただ、キャラクター一人ごとの作りこみが物足りず、感情移入し辛いのが難点》
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『ドラッグン -モコメッツとボク-』
   泉昭典(25歳・東京)
  ・『商人とバザー』
   山田圭介(19歳・宮城)
  ・『3D』
   三浦圭介(24歳・兵庫)
  ・『D 〔ディー:〕』
   高田さほ子(21歳・長崎)
  ・『INSTANT AVENGERS』
   松丸里子(22歳・東京)
  ・『炎獣消獣士 サラマ』
   松本由紀(20歳・福岡)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎最終候補の泉昭典さん…04年12月期「十二傑」にも投稿歴あり。

 今月の十二傑賞は、「ジャンプ」では珍しい宇宙冒険モノ。しかし、だからこそフレッシュな印象を審査した人たちに与えたのでしょうか。
 受賞発表ページを見たところ、まだ絵の方は発展途上のような感がありますが、「スケールの大きな世界観」という講評には食指をそそられます。時期的に「赤マル」夏号掲載か、週刊本誌掲載か微妙ではありますが、この作品の事は忘れず覚えておこうと思います。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:なし
 「サンデー」
:新連載1本&新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年32号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週号の「ジャンプ」は、レビュー対象作がありません。ただし、『ムヒョ』が連載30回『ネウロ』が連載20回の節目を迎えましたので評価見直しと簡易レビューを、そして、今週号で慌しく打ち切り最終回を迎えた『ユート』の連載総括を実施します。

 ◎『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之
 旧評価:A寄りA新評価:A−寄りA

 形としては第10回でつけた評価に復帰ということにさせてもらいました。
 再度の上方修正に至った理由は、現在進行中の「ソフィー編・裏切りのリオ編」におけるシナリオ完成度の高さ。エンターテインメントと、読み手の意表を突くミステリ要素をかなり高いレヴェルで融合させており、これは驚嘆に値します。
 ただこの作品、エンタメとはいえ、娯楽作品というよりも悲劇にカテゴリされる作品ですので、幅広い読者層からの支持を集めるかと言えば疑問です。が、それでも作品の出来の「良い・悪い」のみを判断基準とする当ゼミとしては、こういったストーリーテリング能力豊かな作品を見逃すわけにはいきません。
 欠点と言うか、今後に向けての課題とすれば、週刊連載1回分の中で、1つ何か“ヤマ”となる場面を作るべきだ…という事でしょうか。その場を盛り上げるために作品全体のクオリティを押し下げては本末転倒ですが(またそういう作品が多いですよね)、1回分10数ページの間に、何か1つキャッチーな場面や台詞を挿入出来るようになれば、いよいよ名作の域に手の届く作品に化けてくるのではないかと思います。

 ◎『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征
 旧評価:B新評価:B寄りB+

 (果たして初めからそう考えていたのかどうかは別にして、)単行本1巻で作者から(この作品は)推理物の皮を被った単純娯楽漫画」という公式コメントがあったそうです。そういうわけで、こちらもその前提条件に立って、根本的な所から評価の見直しを行いました。

 評価すべき点・加点材料としては、まず何と言っても主役と主要脇役のキャラクターが、実に個性的でインパクトが強い…という事が挙げられます。ホラー・サスペンス的な要素を多く含みつつも、この作品が多くの人が親しみ易いユーモアに溢れたコメディとして成立しているのも、このキャラクターメイキングの妙が大きな要因として働いている事でしょう。
 次に挙げられる強調材料としては、以前からも指摘しているように脚本・演出の上手さ。脚本は、多少台詞過多な感もありますが、ちゃんと喋り言葉独特の砕けた表現が出来ているので苦になりません。

 反対に減点材料としては、全般的なシナリオの弱さを指摘させてもらいます。「娯楽漫画」と銘打った割にこの作品のストーリーは、どうも読み手にカタルシスを与えたり、感情を揺さぶったりするようなエンターテインメント性に乏しいように思えるのです。端的に言えば「皮を被っ」ているだけの「推理物」の部分だけが強調され過ぎているというか……。
 そもそも犯人探しやトリックに主眼を置いたドラマは、読み手に提示できる情報が制限されるため、どうしてもストーリーそのものが淡白になってしまいます。また、犯人探しやトリックが最大のエンタメ要素である以上、ストーリーに凝らなくても大丈夫…と言う事も出来るでしょう。
 となると、この作品が形式的とは言え未だ本格ミステリのフォーマットを守っている限り、シナリオの出来が物足りない娯楽作品──もしくは、犯人探しやトリックがエンタメ要素足りえない本格ミステリ風ドラマ──に留まってしまう宿命を抱えているのかも知れません。

 ……そういうわけで、今回の評価は弱含みのB+とさせてもらいました。かなり乱暴な意見ですが、「娯楽漫画」を追及するのならば、もういっそのことネウロ&弥子が凶悪な変態怪人と戦うバトル物にテコ入れした方が良いと思ったりもしています。 

 ◎『ユート』作:ほったゆみ/画:河野慶
 旧評価:A−寄りB+最終確定評価:B+

 そしてこちらは残念ながら、最終回に伴う連載総括です。連載期間は2クール21回。原作者の過去の実績や、いわゆる“突き抜け”が見られなくなって久しい現在の「ジャンプ」としては、ほぼ最短コースの打ち切りと考えて良いでしょう。『ヒカルの碁』で、その実力を国内外に示し、輝かしい名声を勝ち取ったはずのほったゆみさんでしたが、思わぬ所で足元を掬われてしまった形となりました。
 ただ、連載開始当初から10回前後までの内容の煮え切らなさぶりから考えると、打ち切りも止む無し…とも思います。イマイチ読み手が共感しにくいキャラの主人公や脇役に加え、カタルシスに欠けるやや冗長なシナリオ。それに加えて、マイナースポーツである少年アイススケート競技の魅力を伝える努力を怠っていては、商業的に厳しい結果になるのも致し方無しかな…といったところです。
 それでも、掲載順が巻末に落っこちて来た辺りから登場人物が活き活きと動き出しましたし、シナリオでも序盤で張っていた伏線が上手く働き始め、歯車が噛み合い始めていました。打ち切り直前時点でのクオリティは、当ゼミの基準でもAクラスをつけて良い水準だったでしょう。ネット界隈で話題になっていた映画予告編風のラストシーンも、本当にアレが予告編だったならば、賞賛されて然るべきクオリティでした。そういう意味では、打ち切りは仕方ないとはいえ、大変残念でもありますね。

 評価はB+としましたが、これは事実上の未完に終わった作品に、高い評価を与えるわけにはいかない…という配慮だと解釈して頂ければ。こんなブン投げ方をした作品としては破格の評価です。
 

☆「週刊少年サンデー」2005年33号☆

 ◎新連載『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志

 ●作者略歴
 1965年6月24日生まれの現在40歳
 月例賞「サンデーまんがカレッジ」で入賞して“新人予備軍”入りした後、週刊本誌89年14号掲載の4コマギャグ作品『Dr.椎名の教育的指導!!』でデビュー。このシリーズを90年にかけて不定期連載(全14回)するのと平行して、野辺利雄さんのスタジオでアシスタント修行。
 90年からは、月刊増刊にて読み切り連作形式の『(有)椎名百貨店』を連載開始。この連載は90年4月号より91年5月号までの全14回で終了したが、これ以降も事実上の不定期連載状態で連作短編を増刊等に発表し、『(有)椎名百貨店』のタイトルは椎名さんの短編集の書名として引き継がれている。
 週刊本誌では91年30号より、『(有)椎名百貨店』内の1作品として描かれた『極楽亡者』を連載用にリメイク・改題した『GS(ゴーストスイーパー)美神 極楽大作戦!!』を連載開始。これが当時の「サンデー」では史上最長連載期間となる、約8年にも及ぶ大長編&一説に単行本発行部数の累計5000万部を突破したと言われるほどの大ヒット作となる。なお、この作品はTV・映画アニメ化され、連載中の93年には「小学館漫画賞」少年部門を受賞している。
 99年41号に『GS美神──』の連載を終了した後も精力的な執筆活動を続け、「サンデー」週刊本誌での連載だけでも『MISTERジパング』(00年14号〜01年46号)『一番湯のカナタ』(2002年21・22号〜2003年2号)の2作品を手がけており、また連載期間の合間には、「サンデー」の月刊増刊、「サンデーGX」誌、「マガジンアッパーズ」誌等で読み切り・短期集中連載作品を多数執筆している。
 今作は、「サンデー」月刊増刊03年7月号掲載の読み切り版を短期集中連載用中編としてリメイクした作品(04年8〜9月まで連載・全4回)の事実上の続編で、椎名さんにとっては約3年ぶりの週刊長編連載となる。 

 についての所見
 キャリア17年目に突入というベテラン作家さんだけあって、絵のクオリティと安定感は「さすが」といったところ。短期集中連載版に比べると、人物造型に若干の変化が見られますが、確信的に行われたモノを除けば誤差の範疇でしょう。
 当たり前の話ですが、背景処理や特殊表現なども全く問題なし。それどころか、ディティールの小技の利かせ方などに、長年のキャリアで培った確かな技術が感じられました。

 ただ、クオリティ云々とは別の所で、絵柄・画面の雰囲気全体に何とも言えない古臭さが感じられたのが気になりました。これは恐らく、作中で使用されている“マンガ的表現のための記号”が、『GS美神』時代のまま固まっているからなんでしょうね。
 この古臭さというのは難しいモノで、中途半端に古いとダサく見えてしまうのですが、とことん古くなると逆に新鮮に映ったりするんですよね。果たして、「サンデー」読者、特に若年層はこの絵柄に対してどのような印象を持つのか、ちょっと興味が湧きますね。
 

 ストーリー&設定についての所見
 事実上、同一作品で3度目の第1話という今回、やはりというか良い意味で手垢の付いた全く無駄の無い、軍隊の保存食の味のように濃い内容の設定・シナリオだったと思います。何しろ2年前の読み切り版の時点でも既に大分こなれた雰囲気のあった作品を、実力に定評のある作家さんが必要以上にじっくり推敲したわけですから、逆に言えばここまで煮詰まらない方が不思議といったものでしょう。
 短期集中連載版の時にも採り上げた、起承転結の構成や緊張(シリアス要素)と緩和(コメディ要素)の転換の上手さも相変わらず。そして今回は「能力に恵まれ過ぎた者の悲劇と希望」という、作品の根底を流れるテーマも明確に。これにより、単なる娯楽作品に留まらず、バックボーンのしっかりした本格的なドラマとしても通用する内容となりました。

 ハッキリ言って、これほど隙の無い、完成度の高いマンガは、日本中のどの雑誌を探してみてもそうそうお目にかかれるモノではないでしょう。「少年サンデー」読者からの人気を集められるかどうか……という、“商品”としての課題は残されていますが、少なくとも“作品”としては文句の付け所がありません。素晴らしいマンガです。

 現時点の評価
 評価は自信を持ってAとします。これでたとえ仮にこの作品の人気が伸び悩んだとしても、それはもう、桂米朝師匠の落語よりも若手芸人の勢いに任せたコントが好きな人がいたりするようなもので、単純に趣味嗜好の問題という事になると思います。

 ◎新連載第3回『ネコなび』作画:杉本ぺロ
 
※連載2週目が2本立てで、正確に言えば新連載第4回にあたりますが、便宜上この表記を使います。

 についての所見
 良い意味でも悪い意味でも変化無しですね。「ギャグ作品としては軽く合格点以上」という、第1回時点の評価は変わりません。しかし、「ギャグ作品としては」という括りを取っ払った場合、少々ネコを愛らしく描く技術に欠けているとも思いますが……。
 
 ギャグについての所見
 こちらは主に悪い意味で変化なしです。4コママンガでは、無理矢理にネコを擬人化させただけでオチてもいない強引なネタばかりが目立ちますし、本来ネコを題材にしたマンガではつきものの、ネコの習性をネタにした作品も回を追うごとに減る一方です。
 この辺り、生来のネコ好きでも、長年ネコを飼ってきたわけでもない人の限界というものが如実に現れて来ていますね。ネタ切れ以前の問題と言いますか、そもそもネタが無いわけですから、そんな中で毎週連載を続けるのは地獄の苦しみだろうなと思います。

 せめてこれでラスト1ページの実録マンガがしっかりしたギャグになっていれば良いのですが、これも現状は巻末コメントのマンガ化&企画の告知ページと化していて、宝ならぬページの持ち腐れ状態。残念ながら、この作品は早くも「1粒で2度不味い」という、末期的な状況に陥っていますね。

 現時点での評価
 評価は0.5ランク下げてB−とします。早くも八方塞がりのような情勢ですが、ここから起死回生があるのかどうか、とりあえず連載10週目まで様子を見てみる事にします。


 ……というわけで、今週のゼミはここまで。
 本当なら講義回数を一気に増やしたいところなんですが、同人誌版の印刷所締め切りまで2週間を切ってしまってますので、そちらの目処が立つまでご辛抱下さい。それでは、また。

 


 

2005年度第19回講義
7月8日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第2週分)

 当講座としては、ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権関連の講義もしなければならない所ですが、とりあえずは優先順位順に仕事を済ませてゆく事にします。
 それにしても、最近「やりたい事」と「やれる事」のギャップが大きくなり過ぎて困っています。やりたい事はどんどん増えるのに、使える時間はどんどん減っていく……


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎既報通り、「週刊少年サンデー」では、次号(33号)より、『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志)が新連載となります。言うべき事は既に全て言ってしまいましたが、ともかくも2年がかりで連載まで漕ぎ着けたのですから、良い作品になる事を、そして商業的にも良い結果がもたらされる事を切に望みます。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年31号☆

 ◎読み切り『未熟仙』作画:栗山武史

 作者略歴
 生年月日は非公開。昨年冬の「ストーリーキング」応募時、また今春の「手塚賞」応募時は24歳
 
04年末(12月)期「ストーリーキング」ネーム部門で準キングを受賞し“新人予備軍”入り。その後、05年上期「手塚賞」で入選を受賞し、今回はその受賞作でデビューを飾る。 

 絵についての所見
 掲載誌のインタビュー記事によると、本格的に仕上げた完成原稿としては、これが生まれて2作目とのこと。なるほど、お世辞にも洗練されたとは言い難い線で描かれた粗い絵…というのが第一印象ですね。
 奥行きがあってスケールの大きな背景描写や、愛嬌のあるキャラクターデザインにセンスの片鱗を窺い知る事は出来ますが、画力そのものは“プロ基準”で見た場合は極めて稚拙と言わざるを得ません。年齢的にもエクスキューズの利く条件ではありませんし、こと絵に関しては、作家活動を続けていく上での大きなハンデを背負っている現状です。

 ストーリー・設定についての所見
 「手塚賞」の講評を見ると、高い評価が集中していたのが、キャラクターメイキングと世界観の描写でしたが、確かにこの作品の魅力はその2点に集約されているように思えます。小手先のフォーマットや既視感のあるストーリーに頼らず、「魅力あるキャラクターの主人公」という「ジャンプ」マンガを構成する必須条件を前面に押し出した…という点が、今回の高い評価に繋がったのでしょうね。
 演出面では、文字情報による説明を極力排除し、なるべく絵を使って設定を描写出来ている点、そして場面転換による“シーン省略”のテクニックが非常に秀逸な点が光っていました。このような、限られたページ数で最大限のエピソードを盛り込むための技術とセンスは、マンガ家を続けていく上で非常に役に立つことでしょう。

 ただ、今回に限って言えば、そうやって折角多くのエピソードを盛り込むだけの余地を作っておきながら、肝心のストーリーが随分と内容希薄に陥ってしまったのは大変残念でした。いわゆる起承転結で言えば“承”の部分が他愛も無い会話劇だけで終わってしまったため、何とも言えない間延び感漂う話になってしまった感がありましたね。
 それでも、クライマックスから終盤にかけての見せ場の作り方、脚本力には新人離れした才能が見え隠れしています。今回に関しては残念でしたが、これで良いプロットに恵まれれば、もっとクオリティの高い作品が作れるのではないでしょうか。

 今回の評価
 諸々の才能・センスを高く評価する一方で、絵の稚拙さとシナリオの貧弱さを大きく減点して、今回はB+寄りBとします。過去の「手塚賞」入選作と比べると、やや見劣りしないでもないかな…とは思うのですが、「ジャンプ」の求めるベクトルと、この作品の向かっているベクトルが綺麗に一致しているという事なんでしょうね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週は『ユート』が連載20回の区切りを迎えたのですが、「次号で連載終了」との未確認情報が流れていますので、とりあえず今週の評価見直しは中止し、次週のゼミで適切な処置を執りたいと考えています。

 新連載の噂も流れてはいるんですが、どうやら先般の新連載シリーズと同様、「コミックアワード」受賞作家が登場して、間もなく伸び悩む…というジンクスが発動しそうな予感溢れるラインナップのようです。これも詳しくは次号辺りで公式発表があると思うので、注目して下さい。

☆「週刊少年サンデー」2005年32号☆

 ◎新連載『あいこら』作画:井上和郎

 ●作者略歴
 公式プロフィールによると、1970年代の5月1日生まれとのこと。これを踏まえると、26〜35歳の間ということになる。(ただし、デビュー時期を考えると70年代末という可能性は低そう)
 4コママンガ作家としてデビューした後、97年度上期「小学館新人コミック大賞」少年部門で入選、本格的なマンガ家への道を歩む。「サンデー」系作家の“名門”である藤田和日郎さんのスタジオでアシスタントを勤め、01年には月刊増刊(当時)で『HEAT WAVE』を短期連載。
 週刊本誌では、02年17号に一部で論議をかもした“怪作”『葵DESTRUCTION!』で初登場し、同年42号からは『美鳥の日々』で初の連載を開始。これが深夜アニメ化もされるスマッシュヒットとなり、04年34号に円満完結を果たすまで2年弱の長期連載となった。
 その後は増刊で原作付読み切りを発表するなどしていたが、今作をもって本格的な活動再開となった。

 についての所見
 既に画力に関しては定評のある作家さんですが、改めてじっくり拝見すると、やはり達者な方ですね。
 とにかく非常に洗練された線によって描かれた、実に見栄えのする絵です。リアルタッチの絵を極力好感度が高くなるようにディフォルメさせたという感じの絵柄で、「ジャンプ」系の名手・叶恭弘さんを彷彿とさせるタッチです。(ただし叶さんのタッチは、井上さんのそれよりも随分と緻密さを残していますが)

 また、動的表現や背景処理、更に進行させたディフォルメ表現なども巧みで、一枚絵としての見栄えだけに留まらず、マンガの記号としての役割も十分に果たせています。欲を言えば老若・美醜の“老”と“醜”のコントラストを付けてもらいたいところですが、この作品にその要素は必要無いかも知れませんね。

 ともかくも、およそ絵に限定して評価を下せば、現在の「サンデー」連載陣の中でも間違いなくトップクラスにランクされるハイクオリティと言えるでしょう。
 
 ストーリー・設定についての所見
 とにかく(事の是非は別にして)唸らされるのは、よく言えば緻密、悪く言えばあざとく計算され尽くしたヒロイン格4人の女性キャラ造型ですね。赤松健さんに並んだとまでは言いませんが、肉薄はしている完成度の高さでしょう。
 まず、第1回の中でほぼ同時に全員出現させても容易に区別がつくほどに、外見・喋り方・性格に大きなコントラストをつけられています。ヒロイン40人制が罷り通る現代では、「たかが4人程度で……」とは思われるかも知れませんが、それでもここまで明確に別物のキャラクター4人を同時に提示するというのは只事ではありません。
 そして更には、主人公の極私的萌えポイント(碧眼、巨乳、サリーちゃん足、甘ったるいハスキーボイス)の他に、読者対策“隠れ萌えポイント”(ツンデレ系ツインテール、メガネっ子優等生、お姉さん系女教師、ホシノルリ系朴念仁ロリキャラ)も各ヒロインに標準配備されているという手の込みよう。2次元世界に理解のある男子「サンデー」読者ならば、どれかのキャラのどれかのポイントに惹かれるように、全ての要素が細部に至るまで計算されています。
 そして、ここまで緻密な設定構築が出来ていれば、いずれこの設定とギャップのある裏設定を後付けして、ストーリーや設定の幅を広げる事も可能。いやはや、よくぞここまで練りこんだ…といったところです。

 次にストーリーに関して。主人公とヒロインを無理矢理同居させてしまう手法は、『りびんぐゲーム』以降の星里もちるさんのそれを想起させる、気持ちの良い強引さが感じられるものでした。ここでツッコミを入れると「何をマンガ相手に……」と言われてしまいそうな、思いっきりの良い非現実かつ理想的な設定が心地良いです。
 ただ、シナリオそのものは、現時点においては予定調和的と言うか、キャラクターの魅力を引き出すための手段としての役割しか果たしていない感じです。商業的には全く間違っていないチョイスでしょうが、これは当ゼミの評価基準においては、やはり大きな減点材料になってしまいます。この設定・世界観でキャッチーな萌え要素を維持しつつ、本格的な人間ドラマが描けたらバケモノ級の超名作になるんでしょうけどね。

 ところで、この作品を否定する側からは「所詮は『ラブひな』のパクり」と一刀両断されているようですが、個人的には、そこまで単純に底の浅い作品ではないように思います。そもそも『ラブひな』が「サンデー」系ラブコメの「マガジン」移植なのですから、「逆輸入」と言うならまだしも、「パクり」というのは少々乱暴ではないでしょうか。
 個人的には、『ラブひな』『プリティフェイス』“後期星里もちる作品の平均像”)÷3……くらいの、ある程度複雑な計算式で成り立っている作品だと思います。

 現時点での評価
 ……というわけで、現時点では極めて完成度の高い「名作崩れの人気作」。当ゼミの評価基準に則るとB+ということになります。勿論、ここにシナリオの重厚さが加わって来た場合には、間違いなくAクラス評価になるだけの可能性を秘めています。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週で『クロスゲーム』が第10回を迎え……と言おうとしたら、何と第1部完。ここまでが単行本1巻分を費やした壮大なプロローグだった…ということのようです。
 いやはや、さすが「サンデー」、さすが大御所。「ジャンプ」系新人なら、数年かけて掴んだ連載が終わるかも知れないページ数でプロローグが出来るんですから凄いですね。逆を言えば、マンガ家がメジャー誌で好きなように作品を描けるようになるには、あだち充くらい頑張らないと難しいという事なんでしょうが……。

 ──というわけで、第1部終了時点での評価見直しです。

 ◎『クロスゲーム』作画:あだち充
 旧評価:保留新評価:A−寄りB+

 「少々キズの多過ぎる佳作」ということで、こういう暫定評価をつけました。
 まずプラス材料としては、台詞や直接的な叙述・描写を徹底的に排除し、切り替わりの早いカメラワークや一見無意味な風景の挿入などで独特な雰囲気を醸し出す、いわゆる“あだち充式演出”が、読み手の感情を揺さぶる手段として冴えに冴えている点が挙げられます。婉曲的な表現が許される「サンデー」でも、ここまで遠まわしな演出をして、しかもそれが効果を上げている辺りに、この作家さんの実力を感じさせてくれます。
 一方、マイナス材料としては、直接的な叙述を排除した副作用で、キャラクターの描写やシナリオの充実度が損なわれてしまった…という点でしょうか。まだキャラクターやストーリーが固まり切っていないうちにメインヒロインが死んじゃって第1部完…というのは、いくらなんでも乱暴だったように思えました。

 ……そういうわけで、第2部開始以降のメインシナリオで挽回してくれる事を期待しつつ、現時点ではやや控えめの評価をつけさせてもらいました。

 ──ということで、今週のゼミはここまで。来週は講義や執筆活動に専念出来ますので、何かしら成果を皆さんに披露したいと思います。今度こそ空振りには終わらせませんので、ご期待を。ではまた。

 


 

2005年度第18回講義
7月2日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(6月第5週/7月第1週分)

 今更ながら、5月と6月の講義回数の少なさに愕然としている駒木です。本当に、ここまで見限る事無く受講して下さっている皆さんに感謝&陳謝。
 この4月から昼の仕事の出勤時刻が2時間ほど早くなっているのが、幕之内一歩のボディブロー並に効いている感じです。個人的に一番集中出来る時間帯(未明から明け方、もしくは昼の早い時間帯)に動けるのが週に1〜2日しか無いのが痛いですね。
 ……というか、いかにこの社会学講座が、社会人として非常識な生活の上に成り立っていたかがよく判りますな(笑)。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(31号)に、読み切り『未熟仙』作画:栗山武史)が掲載されます。
 この作品は、先日発表になった05年上期「手塚賞」入選作。予告のカットを見る限りでは、絵柄は未だ発展途上という感もありますが、それを補って余りある魅力がある作品なのかも知れません。ともかくも、9年ぶりの「手塚賞」入選作ということで、注目の一作である事は確かですね。

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(32号)より、『あいこら』作画:井上和郎)が新連載となります。
 前作『美鳥の日々』で、トリッキーな設定のラブコメを見事に完結させた井上和郎さんですが、今度の設定は“ボーイ・ミーツ・4ガールズ”。正統派と言えば正統派、変化球と言えば変化球ですが……。
 しかしこの設定だけだと、「それって「ジャンプ」の『いちご(以下略)」とか、「これも10週以内にヒロインが1人死ぬんですか?」とか斜に構えた妄言を吐きたくなりますね(笑)。……ともかく、最近閉塞気味の「サンデー」に華やかさをもたらしてくれそうな作品ではありますね。

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(05年3・4月期)

 入選=1編 (週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『侍じゃ剣!!』
   一氏剛(29歳・東京)
 《編集部講評:「真剣勝負」にかける主人公の思いがよく描けており、画力もそれを伝え切るだけの高さにある》
 佳作=2編
  ・『禁断少女』
   佐藤充(23歳・山口)
  ・『僕の彼女は…』
   菊地裕也(25歳・埼玉)
 努力賞=6編
  ・『スピードスター』
   高橋拓也(25歳・神奈川)
  ・『ナスの言霊師』
   久保知絵子(20歳・北海道)
  ・『TRUE KING』
   春日架乃(25歳・茨城)
  ・『人足配達人ハヤラ』
   前橋陽(20歳・神奈川)
  ・『ファイヤーサーファー』
   溝江俊輔(21歳・東京)
  ・『魔法使いは漢前!』
   内藤ミエ(17歳・愛知)
 あと一歩で賞(選外)=該当作なし

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎努力賞の高橋拓也さん…03年12月・04年1月期「まんカレ」であと一歩で賞。

 ……今期の「まんカレ」は2ヶ月合同とあって、なかなかの豊作。当たり前ではありますが、1ヶ月単位の時と2ヶ月単位の時では明らかに投稿作の層が違いますね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:レビュー対象作なし
 「サンデー」
:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年30号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週は最終回もキリ番回数も無いので、チェックポイントは実質お休み。来週辺りからは色々と忙しくなりそうですが……。
 ところで『ネウロ』の弥子が熱く語った学食トーク。今もって講師先の学食で昼メシを食う機会の多い身としては親近感のある話題でした(高校の学食は、いわゆる“社員食堂”も兼ねています)。何校も渡り歩いているから判るんですが、高校の学食は原則として学校ごとに外部の業者と契約して運営されているので、美味い所と不味い所の格差が大きいんですよ。
 酷い所になると、フライヤーの油がギトギトになっても交換せずに1日(数日?)乗り切ろうとするので、油モノを一口食べた瞬間にグエッとなります。もっと酷い所になると、教員・生徒に見捨てられてて異様に閑散としています(笑)。学食あるのに、教員ほぼ全員がホカ弁の宅配を利用してますからね。
 ちなみに現在の駒木の勤務先の学食は、母校や今までの勤務先と比較してもかなりの上ランク。450円の定食なら、ライス味噌汁付の主菜に加えて小鉢2つまで付いて来たりするので、いちいち満腹食ってしまいダイエットがなかなか進みません。 

☆「週刊少年サンデー」2005年31号☆

 ◎新連載『ネコなび』作画:杉本ぺロ

 ●作者略歴
 生年月日は非公開。
 96年上期「小学館新人コミック大賞」少年部門で佳作を受賞。同年8月、『名物!!うつけモノ本舗』でデビュー。
 その後、週刊本誌99年17号から『ダイナマ伊藤!』を連載開始、02年47号までの長期連載となる。2度目の連載は03年7号から05年8号まで連載された『俺様は?』(最後の数回のタイトルは『俺様はZ』)
 今回は半年のブランクを経た後、3度目の連載となる。

 についての所見
 「緻密」や「リアリティ」という概念とは対極的な位置にある淡白な絵柄のため、どうしても見た目で損をしてしまいますね。それでも、技術的には立派なプロの水準に達していると思います。
 ヘタウマ系の割には線も安定していますし、ディフォルメや擬人化といった表現もソツなくこなせています。このタッチにして動物がキチンと描け、老若男女の描き分けも出来ているのですから、やはりその辺は伊達に9年弱のキャリアを積み重ねていないという事なのでしょう。

 そういうわけで、総合的な評価としては「ギャグ作品としては軽く合格点以上」といったところ。これでもう少し華があるか、アクが強ければ申し分無いのですが……。
 
 ギャグについての所見
 今回は連載1回目の特別編成ということで、実録マンガ風のページ物と、本編であるネコを題材にした4コマの二部構成。しかし残念ながら、どちらも「どうにも中途半端」といった出来に留まってしまったような……。

 まず、実録風の方は、ネタの掘り下げ不足が否めませんでした。もっと現実を脚色出来る余地があったはずなのに、実在の人物に遠慮したのか照れなのか、せっかくの“美味しい”出来事をサラリと描き過ぎてしまったような気がします。桜玉吉さんの『漫玉日記』シリーズまで行ってしまうと、さすがに少年誌では過激でしょうが、それでももう少し人物の弄りようがあったのではないでしょうか。
 あとはオチが「どうする? アイフル」という今更感溢れるネタでは、インパクト的に相当苦しいかな…と。時期を外した旬のネタで笑える人の割合が高いとは思えませんしね。

 次に4コマの方。こちらは先程以上に重症です
 確かに起承転結のテンポや展開のさせ方などには、キャリア相応の手馴れた技術を感じさせてくれます。ただし、オチが綺麗にオチ切っているのかと言うと、かなり微妙ではないでしょうか。
 また、ネタの多くが、本来ならネコを出したりネコを擬人化させる必要の無いものばかり。「タイトル上“ネコ縛り”だからネコにしました」と言わんばかりの必然性の無さに、笑うよりも首を傾げざるを得ませんでした。
 一瞬、「これは『寸止めで笑えない4コマを並べてみる』という壮大なネタなのだろうか?」と考えたのですが、どうやらそうでもないようで……。駒木は大のネコ派なので、このようなマンガは笑えるものなら笑いたいというのが本音なのですが、残念ながら脳がそれを許してくれませんでした。

 今後、杉本さんがネコを飼う中で、飼い主ならではのネタを発掘出来れば、あるいは大化けも…とは思いますが、少なくとも現時点では「準備不足の見切り発車による交通事故」と結論付ける他ないようです。

 現時点での評価
 評価はB寄りB−とします。いくら誌面の中でも重視していないギャグ枠とはいえ、もうちょっと準備期間を経てから連載に望んで欲しかったです。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週で『思春期刑事ミノル小林』が最終回。編集長の交代以来、微妙に扱いが悪くなって来ているな…と思ったら、今週の『ネコなび』と入れ替えという事になったようです。
 さて、この作品の作者・水口尚樹さんに関しては、当講座の開講間もない頃から、そのポテンシャルの高さについて高い評価を惜しみませんでした。第2回の「コミックアワード」では、今作の連載獲得の決め手となった短期集中連載作品で、新人ギャグ作品部門の最終ノミネート作品に推していたほどです。
 ただ、今作『ミノル小林』については、ギャグを見せる技術に関しては、やはり光るモノが感じられたものの、コアとなるキャラクターが最後まで作りきれず、伸び悩んでしまったかな…という印象はありました。絵柄の幅が狭い故に、外見上のコントラストが作り難いという側面もあったかも知れません。
 最終評価はテクニック面を最大限評価してB+寄りとしておきます。

 ──今週は地味な内容に終始しましたが、とりあえずこんなところで。
 あ、先週冒頭で採り上げた『げんしけん』特装版ですが、その後間もなく秋葉原でも完売状態になったらしいですね。駒木の体験談を参考にして、無事単行本をゲットされた受講生さんもいらっしゃったようで、お役に立てて何よりです。
 しかしあの同人誌、コミケで売られたとしたら1部1000〜2000円の価格設定で、それでもシャッター前に長蛇の列が並んで1万部単位で午前中速攻完売とかになるんでしょうね。そこまでの無茶をしなかった講談社に乾杯ということで(笑)。


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