「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・15)

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講義一覧

12/23(第48回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (12月第4週分)
12/20(第47回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (12月第3週分)
12/13(第46回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (12月第2週分)
12/5(第45回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (11月第5週/12月第1週分)
11/25(第44回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (11月第4週分)
11/19(第43回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (11月第3週分)
11/13(第42回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (11月第2週分)
11/5(第41回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (10月第6週/11月第1週分)
10/31(第40回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (10月第5週分)
10/22(第39回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (10月第4週分)
10/15(第37回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (10月第3週分)
10/7(第36回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (10月第2週分)

 

2005年度第48回講義
12月23日(金・祝) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(12月第4週分)

 タモリが「徹子の部屋」で密室芸を披露するのを観て、年の瀬を感じた今年最後の3連休の夜、いかがお過ごしでしょうか。駒木は「うわぁ、もう年の瀬か、ゼミ以外の講義が全然出来てないぞ」と今更ながら自分に呆れ返っている所です。本当に申し訳ない。
 申し訳ないついでにお知らせをしますと、27日夜から31日午前まで、また研究室を留守にする関係上、ひょっとすると今日の講義が年内最後の講義になる可能性があります。今のところは、大晦日の格闘技中継が終わった後ぐらいにゼミか中断している旅行記(今年の春旅行!)の続きでも書こうかと思っているのですが……

 まぁとりあえず今日は今週分のゼミという事になります。対象となるテキストは「ジャンプ」3号、「サンデー」3・4合併号です。もう年内最後の合併号の出るシーズンではありますが、作家・編集者の皆さんは年明け発売分の原稿で昨日・今日まで地獄の年末進行だったんでしょうね。この場合、師走じゃなくて「編集走」とか「印刷機走」とか書けば良いんでしょうか(笑)。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(新年4・5合併号)に読み切り『氷姫奇譚』(作画:河下水希)が掲載されます。
 『いちご100%』の河下水希さんが、早くも復帰作の発表です。マンガ業界では、連載終了後の長期休みに入る前、余韻が残っている内に「1本読み切り描いて」と依頼される…というケースがままあるそうですが、果たして真相はどんなもんでしょうね。
 内容は、どうやらこれまでのラブコメ色を抑えたミステリ系のお話のようですね。新境地開拓となるのか、見物と言えるでしょう。

少年サンデーまんがカレッジ
(05年9・10月期)

 入選=1編(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『THROW OFF』
   佐久間力(27歳・東京)
 《編集部講評:高い画力と痛快なキャラクターが魅力。》
 佳作=4編
  ・『瑠璃越しの風景』
   草野朔郎(20歳・東京) 
  ・『200X年の魔王伝』
   沖縄二郎(25歳・神奈川)
  ・『フォシルリダクション』
   松浦準(22歳・東京)
  ・『カゴキュー LET'S PLAY BASKETBALL WITH TAKERO』
   みやかたりょうすけ(27歳・山口)
 努力賞=3編
  ・『電光石火 〜鬼気伝説〜』
   住吉崚(15歳・奈良)
  ・『SKY BLUE』
   小林大樹(18歳・宮崎)
  ・『ウェイブガップ』
   ヨシタカ(20歳・千葉)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  ・『魔法の使えない魔法使い』
   湯本早紀(17歳・群馬)
  ・『M・大出のカッコイイ軌跡』
   里見慶(26歳・東京)
  ・『Myth』
   荒井翔(15歳・石川)

 受賞者の皆さんのキャリアは以下の通りです。
 ◎あと一歩で賞の住吉
さん…05年4月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補

 本来、10代の応募が最も多いはずの8月期が不作だったにも関わらず(というか、夏休み中に完成出来なかった力作が先送りされた?)9・10月期は大豊作となった模様です。中には「ジャンプ」に投稿した返す刀で「サンデー」にも投稿する中学生の“新人予備軍”さんまで。
 必ずしも早熟が成功に繋がらない業界ですが、こういう頑張ってる人というのは応援したくなりますね。ただ、才能を存分に発揮するなら、今は「サンデー」より「ジャンプ」の方が向いてると思いますけどね。「サンデー」は某K氏みたいな、作家と作品を私物化するような編集者が結構いるらしいですし。 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…4本
 「ジャンプ」:読み切り1本&代原読み切り1本
 「サンデー」
:短期集中連載第1回1本&新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2006年新年3号☆ 

 ◎読み切り『World 4u_』作画:江尻立真

 作者略歴
 生年非公開で6月18日生まれ。後述のように98年に大学在学中には本格的な作家活動をしていた事から考えると、現在20代後半ではないか。
 金沢大学の漫研出身、しかもマンガだけでなくアニメ制作にも関わったという本格派。在学中の98年末、「赤マル」99年冬(新年)号に『CHILDS』を発表してデビュー。「赤マル」には99年夏号にも読み切りを掲載。
 その後4年のブランクを経て、週刊本誌03年25号に『World 4u_』シリーズの第1作を発表。その後、04年5・6合併号に第2作、05年秋発売の「ジャンプ the REVOLUTION」に第3作を発表した。今回は通算4作目のシリーズ読み切り発表となる。
 なお、尾田栄一郎さんのスタジオでアシスタントを務めている(いた?)。

 についての所見
 10月3週分ゼミの中でも述べたように、繊細かつ高度に洗練された絵柄ですね。特にディフォルメを効かせた軽いタッチの作画の好感度は非常に高く、この才能は大いに買いたいです。
 ただ、今回はグロテスクな表現にも意欲的に挑戦した場面があったのですが、これはちょっと失敗だったのではないでしょうか。他の絵柄から浮き過ぎですし、そこまで過剰な演出をする必然性は無かったのではないかな…と思いました。実験は出来る時にしておく、という考えは理解出来るのですけどね。
 
 ストーリー・設定についての所見
 有名な都市伝説や怪談をモチーフにしたショートストーリー2本立ての構成でした。単に“よくある話”に留めるのではなく、そこからもう一歩先に踏み込んで行こう…という製作意図だったのではないでしょうか。
 ただ、そういう作者からの意気込みは伝わったのですが、完成度は正直言って物足りなかったです。話の展開に脈絡が無い部分や不自然な箇所が目立ち、“それらしい”結末を見せられても腑に落ちませんでした

 まず1本目では、“虫入りドロップ”の設定を現実世界と夢の世界でゴチャ混ぜにしてしまったため、ホラーで大事な現実感が薄れてしまった…という失敗が1つ。そして、取って付けたように老婆の幽霊話まで絡めてしまったため、ストーリーが終盤になって支離滅裂になるという2つ目の失敗がありました。
 そして2本目は、主人公が機転を利かせて雪女とその赤ん坊の呪いを遣り過ごしたシーンと、その後のラストシーン(雪女と結ばれて、赤ん坊を子として育てているというオチ)の脈絡が全くありません。そのため、本来なら良い事を言っているはずの主人公の“禁煙・親バカ宣言”も説得力が皆無になってしまいました。これでは、「ああ、こういう事か」と読み手を納得して終わらせるはずの話が、「あれ、どうしてこういう事になるんだ?」という疑問を抱かせて終わってしまいます

 発想は良かったと思うのですが、その発想の活かし方を間違えると酷い事になる、という典型例だったのではないでしょうか。

 今回の評価
 普通、これぐらい絵の上手い作品なら低くてもB評価ぐらいは出したいのですが、さすがにここまでストーリーが崩壊してしまうと、厳しい点を付けざるを得ません。今回はB寄りB−としておきます。

 ◎読み切り『爆裂非常勤講師ビッグバン』作画:大江慎一郎

 ●作者略歴
 1981年10月11日生まれの現在24歳
 02年4月期「天下一」で最終候補に残り“新人予備軍”入りし、2年8ヶ月の空白期間を経て「赤マル」05年冬(新年)号にて『メガネのベクトル』でデビュー
 その後、今作で05年下期「赤塚賞」に応募、佳作を受賞し、「ジャンプ」では非常に珍しい“正規デビュー後の新人賞初入賞”を果たした。
 今回は『Mr.FULLSWING』突発休載(目次に休載告知すら載せられない、ギリギリのタイミングでの“原稿落ち”)による、代原枠での受賞作掲載。

 についての所見
 やや線が弱々しく、迫力に欠ける嫌いはありますが、以前より全体的に絵柄が洗練されて、見た目にもスッキリとして来ました。背景処理、特殊効果といった部分にも違和感は感じられず、人物造型の描き分けも出来ています。
 現時点でも、ギャグ作品の絵としてなら、週刊本誌でも十分勝負になるでしょう。あとは一瞬で読み手にインパクトを与えられる絵が描けるようになれば、なお良いですね。

 ギャグについての所見
 セリフの掛け合いのテンポや、話の流れの持って行き方などは、ギャグ作品のセオリー通りといったところ。なるほど、曲がりなりにも「赤塚賞」の入賞作品なりのクオリティではあります。
 しかし、全般的にツッコミのセリフやモノローグが笑いに繋がるヒネりに欠けており、また、ボケを際立たせる構図やコマ割りといった演出にも、まだまだ改善の余地が多く残されているように思えました。ネタの密度も今一つで、人前に出すにはまだまだ推敲する必要がある作品なのではないでしょうか。

 今回の評価
 評価はB−としておきます。現時点では、連載どころか2作目の正規枠掲載に関しても先行きの厳しさを感じます。とにかく1つ1つのネタを大事にし、もっともっと練りこんだ作品を見せてもらいたいですね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週の「チェックポイント」は『タカヤ』の連載20回キリ番レビューです。

 ◎『タカヤ -閃武学園激闘伝-』作画:坂本裕次郎
 旧評価:B−
新評価:B

 開き直りもいいとこな“『バキ』路線”への大幅な方向転換からおよそ10話経過したわけですが、当初に比べるとバトルシーンの中身や演出への気遣いといった面で大幅な進歩が窺えるようになりました。少なくとも“格闘バトル物”としては及第点の範疇に入って来たのではないかなと思います。
 ただ、脚本や演出面でのハッタリの利かせ方といった面では甘い部分も多く見られますし、バトルの勝敗の行方が容易に予想でき、しかも律儀にその方向へ進んでしまっているのも物足りません。まだまだ偉大なる先人の後塵をモロに浴びている段階で足止めを食っている…といったところでしょうか。

☆「週刊少年サンデー」2006年新年2号☆

 ◎短期集中新連載『グランドライナー』作画:吉田正紀

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 1977年6月10日生まれの現在28歳
 97年前期「小学館新人コミック大賞」で入賞し“新人予備軍”入り。01年に月刊増刊でデビューを果たし、以後通算7本の読み切りを発表。(現在確認出来る範囲では、「サンデー」月刊増刊02年4月号、03年5月号、10月号及び週刊本誌04年43号掲載の『断罪の炎人』)
 今回は昨秋以来の復帰作で、短期ながら初の週刊連載となる。

 についての所見
 洗練された線と確かな技術に支えられた、好感度の高い垢抜けた絵柄ですね。背景処理・特殊効果なども問題なく、他の連載陣に混じっても全く遜色の無い水準にあると言えるでしょう。
 前作はややぎこちない印象を抱かせる箇所もあった……と当時のレビューに書いてあるのですが(笑)、今回は殆どそういう所もありませんでした。ただ、敢えてダメ出しをするならば、顔を構成するパーツ(特に目)のバリエーションが少ない事、老若美醜のうち“老”と“醜”の表現がややぎこちないかな…という印象は持ちました。これは現時点では画風と割り切ってしまうしか仕方無いのでしょうが。

 ストーリー&設定についての所見
 
まずはやはり設定でしょう。世界観、登場人物のキャラ・背景の練り込みが半端でないですね。作中世界の成り立ちや歴史、更には主要キャラクターの殆ど全員に表・裏両面の設定が組み込まれており、これがストーリーにも深みを持たせる効果が出ています。
 これもストーリーの最初から最後までが既に決まっている短期集中連載だからこそ、という考え方も出来なくはないですが、それにしてもこの緻密さは大いに買いたいです。
 シナリオも第1回にして早くもプロローグ的なエピソードを終え、ストーリーの本題に入った所で“引き”。このシナリオの密度もなかなかのものです。

 ただ、練りに練った設定群を惜しみなく使おうと考え過ぎたのか、シナリオの展開や登場人物のセリフがキッチリし過ぎている感もありました。作中で起こる出来事やセリフの殆どに、「ここは設定の解説です」「これは後の出来事の伏線となるセリフです」という作者からの意図があからさまに見えてしまったかなぁと。
 つまりは、シナリオと直接関係無い“遊び”の部分が少ないという事なんです。この“遊び”の部分は、ストーリーの中で登場人物の個性を醸し出すのに重要な要素で、これが無いと登場人物の人間味が乏しくなってしまうんですよね。
 現時点では、まだ大きなキズには繋がっていないですが、このまま回を重ねていくと、読み手が感情移入しきれないまま主人公が暴走する事になりそうで、ちょっと怖いですね。

 今回の評価
 評価は“保留”としたいところですが、短期集中連載ゆえにそうもいかず、A−寄りB+という玉虫色の暫定評価でご容赦願いたいな、と。現時点ではまだ「本格的な佳作・良作」と「期待外れの尻すぼみ失敗作」のどちらにベクトルが向かってもおかしくないと考えています。
 短期集中連載作品ですので、次回レビューは最終回掲載時にて行います。 

 ◎新連載第3回『聖結晶アルバトロス』作画:若木民喜

 についての所見(第1回掲載時からの推移)
 今回などは、顔・バストアップのコマと、描き込みが少なくて済むディフォルメ表現をちょっと使い過ぎかも…とは思いました。ですが、絵だけに注目するような意地悪な読み方をしなければ、全く問題の無い高水準をキープ出来ているのではないでしょうか。
 描き貯め分が無くなった後に若干の心配は残っていますが、とりあえずは“良い意味での平行線”と言って良さそうです。

 ストーリー&設定についての所見(第1回掲載時からの推移)

 さすがは「サンデー」作品といったところでしょうか。まだ漸くメインシナリオが動き始めたばかりで、評価変更のきっかけになるような判断材料は殆どありませんでした。とりあえずは今回(第3回)の終盤から動き始めたエピソードの行く末を見届けない限り、ジャッジを下すのは難しそうです。
 ただ、細かい所で少し気になったのが第1回と第2回、第2回と第3回の間に、それぞれ作中時間で一晩のタイムラグを作ってしまった事。これによって話の連続性が途切れ、いちいち各話の前半で、似通った内容の“日常から非日常への転換ルーチン”を繰り返さざるを得なくなりました。そのため、メインシナリオ自体は普通に進行しているのに、何かダラダラと毎回同じような話を繰り返しているような印象が残ってしまうのです。
 日常パートと非日常パートの両方を意識するのは大事ですが、意識し過ぎてどっちつかずになると逆効果ですからね。配慮が行き過ぎないようにしてもらいたいです。

 今回の評価
 評価はとりあえずA−で据え置きです……が、第1回時点よりややネガティブな印象が強くなっています。とりあえずもうしばらく様子を見ますが……。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、『ブリザードアクセル』の連載40回キリ番簡易レビューをお送りします。

 ◎『ブリザードアクセル』作画:鈴木央
 旧評価:A寄りA−新評価:A−

 あまりにもベタであざといウケ狙い(=敵役の中途半端な演技→主人公サイドの見事な演技→敵役の顔面変形リアクション)が延々と繰り返された事に嫌気して評価を0.5下方修正しました(苦笑)。
 多分、バカップルペアの顔面変形の読者ウケが良かったんでしょうが、だからといって同じパターンを延々と繰り返すのは、作品のクオリティ的には如何なものかな…と思うわけですよ。せめてもう少し演出に趣向を凝らして欲しいです。
 

 ……というわけで、コミケ前最後の講義をお送りしました。また「観察レポート」の方でも最終的な告知をしますが、今回も駒木は開会から1時間程度は自分の買い物を済ませるために奔走してますので、駒木の面を眺めたい奇特な方は午後になってからお越し下さい。
 毎回何故だか駒木を訪ねて下さる方が、駒木が席を外している時間帯に集中してしまいます。ちゃんと直接ご挨拶したいので、是非とも先に別の買い物を済ませてからゆっくりお越し下さい。大丈夫です本は売れ残っても売り切れませんから(笑)。

 


 

2005年度第47回講義
12月20日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(12月第3週分)

 この冬1回目の旅行から帰って来ました。今回の旅行はボクシングと落語を満喫する、非コミケ版マニアックツアーだったわけですが、結果としてこちらの講義が開店休業状態になってしまい申し訳有りません。旅行記も春の前半でストップしてますが、いずれ書きますので何卒。

 では、取り急ぎ12月2週分のゼミをお送りします。今回は「ジャンプ」「サンデー」の06年新年2号についての講義ですので、お間違えの無いように宜しく。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(新年3号)より、第1部完により連載を中断していたボボボーボ・ボーボボ』作画:澤井啓夫が第2部連載開始、また、「作者体調不良」により長期休載中だった『D.Gray-man』作画:星野桂が連載再開となります。
 理由は全く異なりますが、連載が中断していた2作品が次号より復活となります。
 本来、第2部再開となった作品はレビューを行うのですが、まぁ『ボーボボ』に関しては必要ないかな…と思っています。そもそもレビューする意義の見出し難いほどハジケた作品ですしね(笑)。

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(新年3号)に読み切り『World 4u_』(作画:江尻立真)が掲載されます。
 この作品は、週刊本誌03年25号、04年5・6合併号、そして05年秋の「ジャンプ the REVOLUTION」に掲載されているシリーズ作品で、いわゆる怪談や都市伝説の類のショートホラーを連作したもの。20代後半以上の人には「ドラマ『世にも奇妙な物語』みたいなマンガ」と言えば分かり易いでしょうか。
 原作となる怪談・都市伝説を読者から公募する企画も進んでいるようですし、読者との双方向的な関わりを求める試みとして、今後もこういう形での読み切り掲載が続くかも知れません。

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(新年3号)より『グランドライナー』(作画:吉田正紀)が新連載となります。
 吉田さんは、新年1号から連載中の若木民喜さんと同じく、長年「サンデー」で断続的に読み切りを発表していた“ベテラン若手”作家さん。吉田さんご本人曰く、マンガ家を志して上京丸8年以上ということですから、投稿時代も含めると相当なキャリアでしょう。
 最近では数度にわたる月刊増刊(当時)での読み切り発表の他、週刊本誌04年43号にて『断罪の炎人』を発表していますね。この作品は三上前編集長時代、毎週のように掲載された読み切りの中では比較的佳作の部類に入る作品だったはずですから、連載未経験組の抜擢としては妥当な人選と言えるのではないでしょうか。

 ★新人賞の結果に関する情報

第31回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年10月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『ロレンツォのバイオリン』
   木下聡志(22歳・奈良)
 《久保帯人氏講評:絵が上手いので読み易い。ただ、双子の主人公と姉の描き分けが甘くて、それぞれのシーンの良さを殺してしまったのが残念》
 《編集部講評:バランスの良い絵を描けているので好感が持てる。しかし各キャラの個性が薄い。もっと登場人物に寄ったエピソードを交えてキャラにインパクトを持たせる工夫を》
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『れっつしんがぁそんぐ〜Let's sing a song〜』
   千田浩之(20歳・神奈川)※久保帯人特別賞
  ・『ぱわふるハート』
   宇野智哉(20歳・東京)
  ・『ちゅー一杯』
   内野正宏(28歳・神奈川)
  ・『天から降りてきた少年』
   上野義幸(18歳・鹿児島)
  ・『MEDAL・BOY〜メダルボーイ〜』
   外園哲平(19歳・鹿児島)
  ・『アーバン・レジェンド』
   丹治亜起(21歳・宮城)
  ・『新世紀忍者外伝服部さん』
   ベネ(27歳・埼玉)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎十二傑賞の木下聡志さん…「月刊少年ジャンプ」系月例新人賞「新人マンガRedグランプリ」06年1月期で“シルバー(銀賞)”入賞。
 ◎最終候補の内野正宏さん…03年7月期「十二傑」、02年12月期&01年5月期「天下一」でそれぞれ最終候補
 ◎最終候補の
外園哲平さん05年5月期「十二傑」に投稿歴あり。
 ◎最終候補の丹治亜起さん04年2月期「十二傑」に投稿歴あり。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:新連載1本&代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2006年新年2号☆ 

 ◎読み切り『FALLEN』作画:樹崎聖

 作者略歴(参考:「樹崎聖ファンサイトTACHYON」
 65年2月1日生まれの40歳。
 80年代半ば頃より「ジャンプ」、「マガジン」系のメジャー系少年誌の新人賞に幅広く投稿活動を行い、最終候補以上の入賞が約10回にも及ぶ。87年、当時の「週刊少年ジャンプ」系月例新人賞「ホップ☆ステップ賞」で入選を果たし、同年週刊本誌32号にてデビュー。更には48号に読み切りを発表した後、52号から『HARD LUCK』で初の連載獲得を果たすが1クール打ち切りとなる(〜88年12号まで、全11回)。
 その後、季刊増刊88年夏号での読み切り掲載を経て、週刊本誌89年41号より『とびっきり!!』で2度目の連載を獲得。しかしこの度も“武運”に恵まれず、連続での打ち切りを喫する(〜90年23号まで、全32回)。以後は活動の場を季刊増刊へと移し、91年冬、92年夏、93年冬、夏、秋、94年春、95年夏の各号で読み切り・シリーズ連載作品を発表。94年36・37号には人物伝の企画モノながら週刊本誌への一時復帰も果たした。
 95年末からは『スーパージャンプ』誌へ移籍『交通事故鑑定人環倫一郎』原作:梶研吾)は5年以上に及ぶ長期連載(96年2号〜01年19号)となり、これが現時点における代表作となっている。連載終了後は系列誌の『Ohスーパージャンプ』誌での隔月連載を中心に、モトクロス専門誌での作品発表など、活動の幅を広げてゆく。
 05年春からは「週刊少年ジャンプ」復帰を期して青年・一般誌での活動を休止。半年以上に及ぶ水面下での活動を経て、今回実に1
1年4ヶ月ぶりの週刊本誌復帰を果たした。

 についての所見
 
巧拙だけでは括れない個性的な画風なので評価が難しい作家さんではあります。好んでフリーハンドの不安定な線を多用し、また、集中線を使った動的表現を敢えて避けている節もあります。ただ、そうするとどうしても見栄えが野暮ったくなってしまうんですよね。
 なので、その試みがマンガの記号として効果をあげているかというと微妙ではないかと。好意的な読み方をする読者でもなければ、この絵柄の見慣れなさは「古臭い」または「マンガのセオリーから外れている→上手くない」という印象に繋げて解釈されてしまうのではないでしょうか。
 あとは人物作画でも、表情が硬かったり、顔のパーツの大きさが歪んでいたりと、微妙な違和感を感じさせてしまう要素が見受けられました。こういった所も、先述の「上手くない」という印象を補強してしまうのが泣き所ですね。 

 ストーリー&設定についての所見
 少年誌、少なくとも「ジャンプ」では非常に珍しいモトクロスのダウンヒル競技を題材にした作品。ただ、この題材の新鮮さが、世界観設定の甘さとストーリー展開の強引さで帳消しになっているのが残念です。
 必要以上に多国籍感抜群で現実感のまるでない人物造型や学園風景、「ダウンヒル競技で体を張っているアスリート=だから喧嘩が強い」という飛躍した理論は強引極まりありません。また、喧嘩で負けた屈辱感をダウンヒルをやる直接の動機付けにするための描写も、話のキモになる部分としては甘かった感が否めませんでした。
 また、必要以上に説明口調な脚本の拙さ、肝心の競技シーンが尻切れトンボに見えてしまう構成上の問題が山積。随所で仕上げの甘い所が頻出し、クオリティを押し下げてしまっています。

 何と言いますか、「やりたい事は分かる」作品ではあるものの、作者からの「やりたい事を分かって下さい」という要求ばかりが表に出ている作品といったところでしょうか。絵の所見でも先述しましたが、読み手の好意的解釈に期待し過ぎていて、独り善がりに陥っている嫌いがありますね。

 今回の評価
 評価はB寄りB−とします。個人的には、この作家さんが連載で打ち切りを食った理由を再確認させられる、ちょっと悲しい作品でした。でも、樹崎作品を好意的に見られるファンの人にとっては、全く違う評価になるでしょうね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、先週分でお届け出来なかった分まで一気にお送りします。『ムヒョ』の連載50回、『ネウロ』の連載40回『みえるひと』の連載20回『大泥棒ポルタ』連載10回のキリ番簡易レビューとなります。一気にどうぞ。

 ◎『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之
 旧評価:A−寄りA新評価:A−寄りA(据置)

 今回も評価据え置きとしました。
 この10回では、タイトルにもなっている連載当初の「相談事務所」という設定から完全に脱却。事実上の第2部開始と言うべき新展開になりました。
 その上においても、既出脇役キャラの効果的な活用や、魔法律を使ったバトルシーンの充実など、絶えず新味を出し続けようという姿勢が大変に好感が持てます。今後も安定したクオリティが期待出来る作品です。

 ◎『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征
 旧評価:A−新評価:A−(据置)

 この直近10回は、「推理モノの皮を被った娯楽作品」から、本格的なサスペンスへと一歩踏み込んだ10回だったのではないでしょうか。今回のエピソードは、ストーリーの練られ具合も連載開始以来1、2を争うほどになっていますし、当ゼミのAクラス評価を維持するに十分のクオリティでした。こちらも今後期待が持てる作品ですね。

 ◎『みえるひと』作画:岩代俊明
 旧評価:B新評価:B(据置)

 どうも近況を見ると、『未確認少年ゲドー』を思わせる低空飛行ながら、際どく打ち切り回避かな…という見通しも出て来ました。それと交代してヤバくなったのが『太臓』というのが、昨年の『ゲドー』VS『スピン』打ち切りバトルを思い出させて、個人的には暗澹たる気分にさせられるのですが(苦笑)。

 ストーリーの方は、ここしばらくの“打ち切り間際・設定大放出キャンペーン”的な展開のお陰で、ようやく作品の骨組とキャラクターの確立が達成されつつあるようです。言わば、“遅れ馳せのプロローグ終了”といった感じで、やっとストーリーを盛り上げるお膳立てが整ったというところでしょうか。
 まだ実績が出来ていないので評価は据え置きですが、もしまだしばらく連載が続くなら、次の評価見直しでは良い評価を付けられると思います。

 ◎『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜
 旧評価:B−新評価:B−(据置)

 評価は据え置き。掘り下げの甘いストーリー、登場人物の必然性の無い行動、小細工という名のトリック謎解きなど、作品のスケールを小さくするばかりの10回だったように思えてなりません。
 読者を繋ぎ止めておくためのキャッチーな要素も少ないですし、今後も連載の存続も含めて前途多難でしょう。 

☆「週刊少年サンデー」2006年新年2号☆

 ◎新連載『地底少年チャッピー』作画:水口尚樹

 作者略歴
 
生年非公開の6月20日生まれ。
 アマチュアや別媒体での活動を経て、週刊本誌02年15号にて『4649!どヤンキーラーメン』でいきなりのデビュー
 同年7月からは月刊増刊で連載を開始(『進学教室!! フェニックス学園』/02年8月号〜03年10月号)03年には月刊連載と平行して週刊本誌で短期集中連載もこなす(『黒松・ザ・ノーベレスト』/03年20号〜25号)
 04年には『思春期刑事ミノル小林』で初の週刊連載を獲得。しかし商業的には伸び悩んだまま1年半で連載は終了(2004年13号〜2005年31号)。今回は、連載終了後の復帰即の週刊連載となる。

 についての所見
 
長期連載経験の賜物でしょう、以前に比べると線が安定し、色々なタイプの人物造型やディフォルメもこなせるようになってますね。更に(アシスタントさんの仕事でしょうが)背景処理や特殊効果なども全くソツが無くなって来た印象があります。
 ギャグ作品の絵として必要な画力・テクニックは十分にクリアしていると思うのですが、欲を言えば、もう少しシリアスな顔の時に目鼻立ちのバランスを取れるようになってくれれば…と。それで随分と見た目の「上手い・上手くない」の印象がガラリと変わって来ると思うのですけれどもね。

 ギャグについての所見
 以前からギャグの密度やバリエーション、そのギャグを見せる演出のテクニックは申し分無い作家さんだけに、安心して読んではいられるのですが……。ただ、今作は現時点ではキャラクター設定が明らかに失敗しているように思えてなりません。そして、その設定を大事にする余り、ギャグ作品で一番大切な「読者を笑わせる事」が疎かになっているのではないかと。
 例えば、「下らないダジャレやオヤジギャグを連発する」というキャラの主人公・チャッピーと、「下らないギャグにバカ受けしてしまうお人よし」キャラの居候先の父・母の掛け合い。このシーンは確かに登場人物のキャラ立てには必要なのですが、「読者が笑えるかどうか」という大事な部分が無視されているシーンでもあるわけです。
 作中人物のツッコミ役のミヤコが呆れるギャグで読者が笑えるはずも無く、そうなると喚起されるのはストレスばかり。そこで気の利いたセリフで何か笑いを引っ張って来れれば良いのですが、それも無しとなると厳しいです。

 また、今回はシーンとシーンの間の繋がりが余りにも脈絡が無く、読んでいて混乱しかねない勢いでした。ギャグ作品とは言えもうちょっと話の筋立てを整えて欲しかったですね。

 今回の評価
 評価はギリギリでBとしておきます。実力的にはAクラスの力がある作家さんだと思っているのですが、今回も下手をすると失敗作街道まっしぐらという事になるかも知れません。

 ◎読み切り『メタモル・フォックス』作画:緒方雄一

 ●作者略歴
 生年月日は不詳だが、新人賞入賞時の年齢から計算すると、現在20〜21歳
 04年12月・05年1月期「まんがカレッジ」で努力賞に入賞して“新人予備軍”入り。隔月増刊05年5月号にてデビュー。
 今回は『ガッシュ』休載に伴う代原ながら初の週刊本誌登場。

 についての所見
 ゴチャついた構図や、デッサンの崩れた人物像系など、必ずしも上手いとは言えない絵ではあります。ただ、ディフォルメにグロテスクな“毒”が極めて小さいため、見た目の印象としてはかなり得をしているのではないでしょうか。
 特殊効果や動的表現も問題なくこなせていますし、ギャグ作品としては及第点の範疇にあると思います。この水準に留まらず、更なるスキルアップに向けて頑張ってもらいたいですね。

 ギャグについての所見
 冒頭から、ギャグの密度・テンポ、そして濃密でセンスの窺えるセリフ回しなど、評価できるポイントもいくつか見つかりました。ただ、「敢えてヒロインをドン引きさせる」というのをメインにした構成が、明らかに笑いに繋がらないモノで、これが非常に残念です。
 これで読み手が感情移入させる対象を変えられれば、まだ笑い所も多く作れたのでしょうが、この作品では、読み手はドン引きして怒り狂うヒロイン役の女の子に感情移入してしまうはずで、それではいくら主人公たちが愉快な事をやっても笑うに笑えない、という話です。
 もっとも、先に述べたようにテクニック的には水準に達していますので、ツボにハマった人を爆笑させる可能性も無くは無いでしょうね。
 
 現時点での評価
 
評価はB寄りB−。最近の「サンデー」ギャグ系若手作家さんに多いのですが、「こうすれば読者は笑うはずだ」という自分なりの“勝ちパターン”を全く見つけられていないのが丸分かりで、読んでて少々辛いんですよね。……まぁそういう段階の新人をピックアップして、しかも修行させるでもなく即デビューさせてしまう編集部にも罪があるんでしょうけど。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは前号の積み残し。『絶対可憐チルドレン』の20回レビューと、『クロザクロ』の最終回総括です。

『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志
 旧評価:新評価:(据置)

 相変わらずの高クオリティ、A評価据置です。
 幹となる大きなストーリーを微速前進させつつ、練りに練られた小エピソードを積み重ねてゆき、更には的確かつ適量のゲストキャラを登場させて読者を飽きさせない…という、まさに職人芸と言うべきテクニック。これが安定したクオリティで毎週展開されているのですから、贅沢な話です。
 現状は巧過ぎて、幅広い読者層からの人気獲得に繋がり切っていないような感じですが、コアな読者に下支えされながら、このクオリティを保っていってもらいたいものです。

『クロザクロ』作画:夏目義徳
 旧評価:B最終確定評価:B 

 正直、やっと終わってくれたか……という感じでした。連載後半になってからは、ストーリーの方向性がまるで定まらず、新キャラが出て来てはフェードアウトし、生き残った登場人物も、何人かが似たようなセリフを喋るのでキャラの描き分けもままならず……という迷走ぶり。
 連載前からネット上で交流させて頂き、思い入れのある作家さんだっただけに、本当に読んでいて辛い作品でした。連載初期のテンションを上手く操れば、良い作品になったはずなのに残念です。
 次回作こそ、この失敗を成功の母にして頑張ってもらいたいと思います。

 

 ……というわけで、最後は湿っぽくなってしまいましたが、今日はここまで。今週はもう1回ゼミを実施して、何とかカリキュラムを調整したいと思ってます。では。

 


 

2005年度第46回講義
12月13日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(12月第2週分)

 お待たせしました。週を跨いでしまいましたが、12月2週分のゼミをお送りします。「ジャンプ」「サンデー」共に06年新年1号についての講義となりますのでご注意下さい。

 先週は年末のコミケット69で頒布する同人誌「『現代マンガ時評』05年度下半期総集編」の編集作業に掛かりきりになっていました。しかし、1年前から徐々に計画を進めていた去年とは違い、今年はインターバルが短い上に書き下ろし原稿が飛躍的に増えてしまったため、実に難儀な作業に……。
 月曜に印刷所必着が締切ということで、土曜の昼から日曜の朝にかけては完全な修羅場状態。途中食事休憩等を挟みながら20時間ぶっ続けでキーボードを叩いておりました。最後の方は神経が昂ぶっていて眠くないのに体は疲れ果てて言う事を聞かないという不思議な体調になっていて、ちょっと異世界へ出掛けそうになりましたね(苦笑)。

 まぁともあれ、本は出来上がる事になりました。
 内容は、いつも通り佳作・良作を中心にレビューを抜粋・掲載して、それに書き下ろしの「追記」を付け足したものがメイン。ただ、今回はそれだけだとボリュームが少ないので、20ページ分ぐらい「特別企画」を付けました。
 その「特別企画」とは、毎年、「コミックアワード」の初日にお送りしている、「『ジャンプ』『サンデー』年間総括」の“先行ディレクターズ・カット版”。わざわざ有明までご足労頂いた方だけのために、一足早くご覧頂きます。
 勿論、こちら(インターネット通信課程)でも年明けの「コミックアワード」で公開しますが、その時は多少内容を穏やかなモノに修正したりしますので、一応は“同人誌版限定”という事になるかと思います。お金を頂く以上はそれなりの付加価値を…という、ささやかな気持ちですので、コミケ参加不可能な方もどうかご理解下さい。

 新刊の頒価は前回までと同様500円です。
 なお、今回は昨年の冬コミで即日完売となった「04年度総集編」を、再販の要望もありましたので100部ほど増刷しました。刷った時点で赤字確定ですので、資金回収にご協力下さい(笑)。また、今年の夏コミで売れ残った「05年度上半期総集編」も50〜60部ほど持って行きます。バックナンバーを揃えておきたいという方は、是非ともこの機会にどうぞ。

 前置きが長くなりましたが、それではゼミを始めます。カリキュラムがこういう事態になっていますので、「チェックポイント」の次週分先送り等、ご辛抱頂く点もあります。どうか悪しからずご了承下さい。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(新年2号)に読み切り『FALLEN』(作画:樹崎聖)が掲載されます。
 一部では随分前から話題になっていましたが、94年36・37合併号の企画・実録物読み切り『風と踊れ(バロン西物語)』以来、実に11年半ぶりの「週刊少年ジャンプ」復帰となる、樹崎聖さんの新作読み切りが登場です。一度「ジャンプ」を離れ、系列の青年・一般誌へ転出した作家さんが復帰するのは異例中の異例ですね。相撲で言えば元・幕内の引退力士が他のプロスポーツを経て幕下付出で再デビューするような話ですが……。
 今回の作品は、樹崎さんがここ数年傾倒しているという、モトクロスを題材にした異色作。この「ジャンプ」復帰のために他の仕事を軒並みキャンセルしたという樹崎さんですが、果たして結果を出す事は出来るのでしょうか?

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(新年2号)より『地底少年チャッピー』(作画:水口尚樹)が新連載となります。
 前作『思春期刑事ミノル小林』をやや不本意な形で終えてから7ヶ月、水口尚樹さんが早くも連載に復帰ということになりました。いかに現在の「サンデー」ギャグ作家陣の層が薄いか、という証明にもなってしまうのですが、ともあれ、水口さんは2度目の週刊連載獲得となりますね。

 ★新人賞の結果に関する情報

 今週は「ジャンプ」で「手塚賞」「赤塚賞」の審査結果発表がありました。

第70回手塚賞&第63回赤塚賞(05年下期)

 ☆手塚賞☆
 入選=該当作なし
 準入選=1編
  ・『タイタンズ・ヴォイス』
   イチノセコウタ(25歳・新潟)
 佳作=3編
 
 ・『自殺裁判』
   浜田智史(24歳・東京)
  ・『JUICE -ジュース-』
   棚橋正知(23歳・愛知)
  ・『ギャンブルドット』
   高山憲弼(24歳・大阪)
 最終候補=3編
  ・『イマジン』
   内野雅之(23歳・石川)
  ・『FIRST・WEST』
   久保崎太一(20歳・宮崎)
  ・『LAWRENCE』
   柿本泰人(17歳・石川)

 ☆赤塚賞☆
 入選=該当作なし
 準入選=該当作なし
 佳作=1編

  ・『爆裂非常勤講師ビックバン』
   大江慎一郎(23歳・愛知)
 最終候補=6編
  ・『幻想髪いでさん』
   相原成年(23歳・東京)
  ・『麗!! 柔道五人娘。』
   近藤信輔(21歳・埼玉)
  ・『鬼教師ヒドウ〜プリティくまくまん編〜』
   浅野裕喜子(23歳・京都)
  ・『かさじぞうドキュメンタリー』
   トーマス・ダルトリ(19歳・宮崎)
   コーク・A・ダルシム(18歳・宮崎)
  ・『彼女のオカン』
   畑部千晶(23歳・奈良)
  ・『映像サークルの南君と北君。』
   濱口裕司(20歳・石川)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ※手塚賞
 ◎準入選のイチノセコウタさん…05年7月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補。
 ◎佳作の棚橋正知さん…05年3月期「月刊少年ジャンプ」月例賞・「新人マンガRedグランプリ」漫画部門・審査員特別賞、97年6月期「天下一漫画賞」で最終候補
(当時14歳)
 ◎佳作の高山憲弼さん…05年上期「手塚賞」で最終候補、03年2月期「天下一」で編集部特別賞、04年11月期&04年8月期&03年8月期「十二傑」で最終候補。

 ※赤塚賞
 ◎佳作の
大江慎一郎
さん「赤マルジャンプ」05年冬(新年)号で正規デビュー済。新人賞では、00年12月期&02年4月期「天下一」で最終候補。
 ◎最終候補の相原成年さん…05年4月期「十二傑」で最終候補。その応募作が週刊本誌05年47号に代原として掲載され暫定デビュー。
 ◎最終候補の畑部千晶さん…04年上期「ストーリーキング」マンガ部門で最終候補。
 ◎最終候補の濱口裕司さん…05年1月期「十二傑」に投稿歴あり

 上期は入選受賞作が出て話題となった「手塚賞」、今回は準入選1編・佳作3編という平均的な“収穫”となりました。ただ、上位の受賞者は過去にも新人賞へ応募歴のある20代前半〜半ばの“新人予備軍”が中心で、新人発掘という意味では微妙な結果かも知れません。
 一方、最近とみに凋落著しい「赤塚賞」は、今回「ここまで落ちぶれたか」と溜息を尽くしかない惨憺たる結果に。正規デビュー済みの若手作家さんまで引っ張り出して漸く佳作1編では、賞の意義も権威も形無しです。

 この両賞の発表があるたび毎回言ってるような気がしますが、権威・伝統が少しでも残っているうちに、そのピリオドを打つ勇気も必要なのではないかと思います。個人的には、“集英社漫画賞”的な賞レースに切り替えるのもアリなんじゃないかと思ってるんですけどね。

 ★その他、公式アナウンス情報  

 ◎「週刊少年サンデー」連載中の金色のガッシュ!!』作画:雷句誠が、「右手負傷」のため今週発売の新年1号より一時休載となりました。
 
最近長期休載づいている「ジャンプ」と「サンデー」ですが、「サンデー」の看板作品までがこの流れに巻き込まれるという非常事態になってしまいました。ただ、今回の休載は理由を明示した上に、公式サイトでも作者・雷句さんからのコメントをアップして“火消し”に必死の構えです。まぁ「サンデー」の大黒柱的作品ですから、イメージだけでも守らねば…というところなのでしょうね。
 しかしこの辺り、漠然とした理由で休載を宣言した後ダンマリを決め込む『うえき』との違いが浮き彫りになってますね。「本当に傷病が理由で休載した時は、誤解されないよう必死に理由を説明する」という業界のセオリーが今回も生きています。狼少年が必死に「今回は本当に狼が来たんだよ!」と叫んでるみたいですよね(笑)。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…4本
 「ジャンプ」:読み切り2本
 「サンデー」
:新連載1本&代原読み切り1本
 (なお、諸事情のため「チェックポイント」は休止します。今週ピックアップ予定だった作品については、次回ゼミで採り上げます)

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2006年新年1号☆ 

 ◎読み切り『破天荒』作画:杉田尚

 作者略歴
 81年6月28日生まれの24歳。
 03年10月期の「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。04年12月期「十二傑」で十二傑賞を受賞し、週刊本誌05年15号にて、受賞作『斬』でデビュー。
 今回はデビュー以来2作目の新作発表。

 についての所見
 
デビュー作の時に比べると、全体的に技術が洗練されて“プロ仕様の絵”になって来た感がありますね。背景処理、動的表現などの特殊効果なども随分と迫力が出て来ました。画力向上が順調に進んでいる事が窺えます。
 ただ、惜しむらくは、杉田さんの絵は線の質と絵柄の相性が最悪であるというところ。本来、超リアル系の精微な絵を描くのに適した繊細な描線で、いかにもマンガ的で極端なディフォルメを施した造型の人物作画をしているので、実像以上に下手に見えてしまうのです。
 この辺は、画材を使い分けたり、人物の造型をリアル系に修正するだけで改善が出来るはずですので、次回作以降は色々な試行錯誤をしてもらいたいですね。 

 あと、根本的な画力以外の問題点としては、「文字による情報と、ビジュアルがミスマッチしている」という所でしょうか。要は作者が伝えたい内容が、読者に伝わらない絵になっているという事です。
 特に主要登場人物の人物造型が、「パッと見で恐れられるビジュアルの主人公」、「『幽霊』呼ばわりしてイジめられそうな女の子」といったキャラクターに、説得力をまるで持たせられていないのが痛いですね。こういう失策が、そのまま世界観や人物のキャラクター設定のクオリティを大きく損ねる結果に繋がっていたのではないでしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 まず総論から述べさせて頂くと、クオリティ・完成度の高さは明らかに落第点クラスよほど自分の趣味・嗜好がこの作品にハマらない限りは、最後まで通読するのも辛いレヴェルではなかろうかと思います。
 とはいえ、プロット自体はよく練られており、話の流れこそベタながら一本調子にならないような配慮が施されています。また、人の心・気持ちに主体を置いて見せ場を作ったり、クライマックスを盛り上げようという意図も決して間違ってはいないでしょう。
 ですが悲しいかな、このプロットを作品全体のデキに結びつけるための技術が全く欠けている…というのが現実のようです。

 まず、目に見えて拙いのが、デビュー以来の欠点でもある脚本でしょう。とにかくセリフに無駄が多過ぎますね。長い上に分かり辛くて、しかも喋り言葉になってない、という悲惨な状態です。
 「これが無くても意味は通る」という部分はザックリと省略し、あとは実際に口にしてみても違和感の無い文体にしないと、読んでいて辛いですね。

 次に問題アリと思えるのが、設定のリアリティでしょうか。現実世界に、ただ単純に非現実的な要素を放り込んでしまったため、「現実世界で非現実的な事態がただ淡々と起こっている」という違和感の塊のような状況になってしまいました。
 フィクションを描く時には「(設定として提示された)非現実的な出来事が起こってもおかしくない現実“的”世界」を構築する必要があり、それがいわゆる世界観です。ある意味、現実と非現実を巧く融合させるのが、ストーリーテラーの力の見せ所だったりするわけです。
 ところが杉田さんの場合、デビュー作の頃からその辺の配慮が大変疎かになっている傾向があります。話のキモとなる設定をもっと大事にしてもらいたいです。

 で、これらの各論も含めて、全体的に言えるのは「描写に説得力が足りない」という事。厳しくて僭越ながら偉そうにぶっちゃけ言ってしまうと、「自分がこう描けば、読者もそう分かってくれる」と甘え過ぎなのではないかと。週刊本誌で上位を張っている作家さんたちが、自分が伝えたい事を読者に伝えきるために、いかに努力をしているのか、今一度研究を深めて頂きたいと思います。

 今回の評価
 評価はデビュー時から据え置きのB−。しかしながら、「ここを直せば」という具体的なポイントがすぐに浮かんで来るということは、案外成功までの距離は短いのかも知れません。
 年齢的、キャリア的には連載獲得までのチャンスもあと1〜2回といったところでしょうか。悔いの残らないよう、頑張ってもらいたいものです。

 ◎読み切り『あの夏、僕と博士と発明と』作画:田辺洋一郎

 作者略歴
 資料不足のため、生年月日不詳。98年上期「手塚賞」応募時22歳とのことで、現在29歳〜30歳
 古い資料が無いため、月例賞の応募歴は不明も、98年上期「手塚賞」で準入選を受賞同年に週刊本誌29号にて、その受賞作『カブ吉と僕の夏休み』でデビュー。
 その後は武井宏之さんのスタジオでアシスタントに就いたため、作家活動が中断されるが、01年7号、11号にギャグ短編を代原で掲載し復帰01年秋発売のギャグ増刊にも代原のマイナーチェンジ版作品を発表した。
 今回はそれ以来、実に4年ぶりの「ジャンプ」復帰となる。なお、年末発売の「赤マル」06年冬(新年)号で本格復帰予定。 

 ●についての所見
 デビューからキャリア7年、殆どプロアシスタント状態で作画作業の仕事に専念していたこともあり、画力そのものは非常に高いですね。どことなく武井宏之さんの画風に近いのも、アシスタント時代に受けた影響の所以でしょう。
 線が非常に洗練されており、アシスタント出身作家にありがちな背景処理と人物作画のアンバランスも見受けられません。マンガの表現手段のための技術は一通りマスターしている“免許皆伝”状態で、今すぐ原作者付作品のマンガ担当もこなせるほどの実力ではないでしょうか。絵に関しては文句無しです。
 
 ギャグについての所見
 変人のボケキャラが、常識人のツッコミキャラを巻き込んで騒動を繰り広げるタイプのドタバタギャグ。結構エグい事をやっている割に、そう見えないのは絵柄で得しているんでしょうね。
 ギャグを見せる演出だとか、セリフ回しなどにはセンスも窺えます。こちらも絵同様、プロ作家として必要最低限な技術は、既に身についていると言っていいでしょう。

 ただ、今回のネタは全般的にボケがボケになっていないケースが目立ちました。最近の若手・新人作家さんのギャグ作品でもよくある、変な人が変な事をするだけで、それが笑いに繋がっていないというパターンです。
 特にこういう「変人ボケ&常識人ツッコミ」パターンは、常識人のツッコミキャラが被害者の立場になってしまうと、読み手はその被害者意識に自己を投影してしまいがちです。そうなると、本来笑える所まで笑えなくなってしまうんですよね。
 今回も、目の付け所を少し変えるだけで、全然違った雰囲気の作品になったと思うのですが……。残念ですし惜しかったですね。 

 今回の評価
 評価は画力等を最大限評価してB−寄りとします。ギャグのセンスが全く無い人だとは思いませんが、ただ、かといって今のままでは成功するのも簡単ではなさそうですね。

☆「週刊少年サンデー」2006年新年1号☆

 ◎新連載『聖結晶アルバトロス』作画:若木民喜

 ●作者略歴
 1972年5月9日生まれの現在33歳
 1993年下期「小学館新人コミック大賞」で入選。このしばらく後に増刊でデビューしたとされる。その後、「数回の逃亡&復帰(「サンデー」公式ウェブサイト内「まんが家BACKSTAGE」公式プロフィールより)」を繰り返しながら断続的に作家活動を続けていたとされる。
 ネット上の検索で掲載が確認できた読み切り作品としては「サンデー」月刊増刊01年3月号で発表した『キャプテン スイートハート』が最も古い。その後、増刊では02年2月号、同年9月号、04年2月号週刊本誌04年27号での読み切り掲載が確認されている。
 今作は、04年に増刊(『情報怪盗──』)・週刊本誌(『緋石の怪盗──』)で発表した『アルバトロス』シリーズのリメイク作品。デビュー以来丸12年を経て、初めての週刊連載獲得となる。

 についての所見
 
いや何と言うか、通り一遍の表現では追いつかないぐらいに上手いですね。表紙絵1枚だけでインパクト十分の、キャッチーな人物作画だけでなく、背景処理や特殊効果、ディフォルメなど一連の表現技巧もほぼ文句なし。好き嫌いを基準から除けば、まずケチの付けようが見当たらない、非常に高い画力だと思います。
 ネット界隈では、マンガのみならず様々な分野で活動をしていたという噂が広がっていますが、なるほど、そういう話が出るのも肯けます。アニメ・ゲーム関連なんかで、イラスト一枚いくらの仕事で生活していたと言われても驚けません。

 物凄い欲を言えば、もうちょっと紙質の悪い誌面でも見易いベタやトーンの使い方を……というところですが、それは「小畑健みたいに上手くやれ」と言ってるのと同じですから、これは本当に欲張りな話でしょうね(笑)。

 ストーリー&設定についての所見
 読み切り版から(今のところ)設定を細かく色々と変えた、「異世界ファンタジー系・ボーイ・ミーツ・ガール物」とカテゴライズ出来そうな作品となりました。読み切り版からの連載化にあたって、長編と短編の違いに苦慮する作家さんが多い中、見事に長編仕様の話にまとめあげたのは立派と言えるでしょう。
 日常世界に住む熱血系の主人公が、ヒロインの住む非日常世界のトラブルに巻き込まれ、命や平穏な生活と引き換えに特殊能力(とヒロインの愛)を得て戦いの世界へ……という流れは『武装錬金』に相通じる所もありますが、恐らくこういうタイプの話を描こうとすると、囲碁将棋の定石みたいなもんで、多少似た話になるんでしょうね。

 設定面では、世界観や情報の提示をやや少なめに抑える一方で、主人公のキャラクター設定だけは冒頭から上手く描写・提示させています。これは非常に渋いテクニックです。
 情報量を小出しにすると、ストーリーに深さが出るのですが、一方で読み手の意欲を挫く不親切さも出てきます。しかし、主人公を前面に押し出していると、読み手はその主人公を拠所にしてストーリーを追いかけていけるので、細かい疑問を放置しながらでも作品世界に没入出来るという仕組み。このパターンを芸術的なまでに巧く使った例が『新世紀エヴァンゲリオン』ですね。
 ただ、この『アルバトロス』の場合、惜しむらくはキャラクターや世界観の描写に陳腐なシーン──分かり易いステロタイプな不良を登場&主人公に成敗させる、など──を使い過ぎた感があり、それが残念でした。こういうシーンを多用すると、作品全体をB級っぽい印象にさせてしまい、新鮮味やスケール感を削いでしまいますからね。

 この他、脚本は少々冗長な印象もありますが、口語の使いこなしの巧さも感じられ、十分に及第点。卓越した画力に支えられた演出も高水準でしょう。バトル描写も、ピンチとチャンスの振り幅の大きさが利いていて、インパクトと迫力に富んだ良いシーンになっていました。
 まだストーリーの全貌が見えておらず、不確定要素は大きいものの、クオリティ的には見事なまでの好発進と言えそうです。あとは「サンデー」読者の好き嫌いに見合うかどうか、という所でしょうね(それが商業的成功に向けて最難関の課題でしょうが……)。

 今回の評価
 評価は「駒木、こういうマンガには甘いなぁ」と言われそうですが(笑)、画力の高さとストーリー構成のテクニックの巧さを認めてA−の評価を進呈します。今後の展開が非常に楽しみです。
 

 ◎読み切り『フルメイド・ジャケット』作画:クリスタルな洋介

 ●作者略歴
 生年月日は不詳だが、新人賞入賞時の年齢から計算すると、現在24〜25歳
 04年にギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で最終候補に残り“新人予備軍”入り。04年9・10月期「まんがカレッジ」でも佳作を受賞。週刊本誌05年17号にて暫定デビュー後、隔月増刊05年9月号に読み切りを発表し、正式デビューを果たす。
 今回は『ガッシュ』休載に伴う代原ながら2度目の週刊本誌登場となる。

 についての所見
 今春の暫定デビュー時は、絵の巧拙以前に「読めるか、読めないか」レヴェルの見辛い絵だったのですが、さすがに今回は大幅に改善されました。ただ、まだ紙質に不向きな細かいトーンが気になる場面もあり、研究の余地は残っているのではないかと思います。

 そして絵柄全般についてですが、線が全体的に弱々しくて不安定なのが損をしているかな…という感じ。妙にゴチャゴチャしている場面も見受けられますし、今の絵柄だと、何をどう描いても下手に見えてしまうかな、と。画風云々以前の問題として、もう少し線洗練させ、画面をスッキリさせてパッと見の見栄えを良くするべきでしょう。
 それでも、女の子を可愛く描くセンスみたいなものは十分に感じられますので、今後はこれを武器に活かして欲しいです。まぁこの作家さんの作風を考えると、Jリーガーに「持ち球のシンカーをもっと活かせ」と言ってるような気になりますが……。

 ギャグについての所見
 「ジャンプ」の『あの夏、僕と博士と発明と』でも触れた、変人系ボケ&常識人ツッコミのパターンです。コメントを読む限りでは、クリスタルな洋介さんはどうやらこのパターン専門でやっていくようですね。
 デビュー作の『父さんとオモチャ達』では、変人ボケ役が暴走し過ぎ、ギャグどころか情緒不安定な親父が嫁に逃げられ、娘を虐待して家庭を崩壊させる様を実況してるだけ…という恐ろしいマンガでC評価と相成ったのですが、これと比較すると、今作は確実な進歩を遂げているのではないでしょうか。

 まず話の流れ、ツッコミ役主導で、ボケ役が狼藉を働く度に痛い目に遭う…という風にしたのは良かったですね。これだとギャグ以前の段階で“引く”という可能性も無くなります。また、コマとコマの間の状況変化を大胆に省略させ、そのギャップで笑いに繋がる違和感を醸し出す…という演出も決まっています。
 ただ、まだ狙い澄ました「自分が狙った通りのギャグをピンポイントで決める」という段階には届いていないようです。場面の省略が悪い方向に出て、“間”が詰まり過ぎなシーンもまま見受けられ、絵と同様こちらも不安定な印象が残る作品でした。
 
 現時点での評価
 
評価はB。これでこの作家さんなりの“必勝パターン”みたいなモノが作れれば、「サンデー」でも面白いになって来ると思うんですけどね。

 

 ……というわけで、12月2週分は以上です。重労働明けに4作品のレビューは疲れました(苦笑)。
 『絶チル』の連載20回レビュー、『クロザクロ』の最終回総括レビューは次回にお送りします。では、ひとまず今日はこの辺で。

 


 

2005年度第45回講義
12月5日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(11月第5週/12月第1週分)

 世間的には全くどうでもいい話ですが、雑誌は1ヶ月先行で月期・年度を更新しますので、今週が「ジャンプ」「サンデー」的には05年度の最終週ということになります。第4回「コミックアワード」についても、今週分までが審査対象です。
 というわけで、現在募集中の「コミックアワード」ワイルドカード枠推薦も、そろそろ締め切りたいと思います。駒木研究室のEメールボックスに12/10(土)到着有効という事で何卒。11月発売までに単行本1巻が発売された作品が対象です。

 では、今週も遅くなりましたがゼミをお送りします。レビュー対象作がいきなり増えて面食らっているのですが……


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(新年1号)より『聖結晶アルバトロス』(作画:若木民喜)が新連載となります。
 『うえきの法則プラス』の無期限休載、及び『こわしや我聞』、『クロザクロ』の終了に伴う新連載シリーズが開幕となりました。まずは“ベテラン若手”組から若木民喜さんが登場です。
 若木さんは、01年頃から「サンデー」増刊で活動開始したようですから、最低でもキャリアは約5年になりますか。専属契約の無い「サンデー」では経済的な面でもモチベーションの維持は大変だっただろうと下世話な心配もしたくなりますが(笑)、我慢の甲斐あって漸くの連載獲得です。
 この作品は03年に増刊で、04年に週刊本誌(同年27号)で掲載された読み切り作品の連載化。こういうタイムラグを置いての読み切り連載化は、低迷期の「ジャンプ」がよくやって失敗していましたが、この他誌が作ってしまったジンクスを打破する事が出来るでしょうか。

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(新年1号)に、読み切り『破天荒』(作画:杉田尚)が掲載されます。
 杉田さんは04年12月期「十二傑」の受賞者で、週刊本誌05年15号に『斬』で受賞作掲載デビューを果たしています。その際は全ての面で荒削りな所ばかりが目立ってしまっていた記憶があるのですが、この1年弱でどれほど洗練した所を見せてくれるのでしょうか、楽しみです。

 ★新人賞の結果に関する情報

第57回小学館新人コミック大賞・少年部門
(05年下期)

 特別大賞=該当作なし
 大賞=該当作なし
 
入選=2編
  ・『護って騎士』(=増刊06年2月発売号に掲載決定)
   福井あしび(27歳・大阪)
 
《選評要約:「絵が魅力的。ストーリーもキャラもちゃんと読者に伝えられる、基本が判っている人だと思う。次はその基本を壊したハジけた作品も見てみたい」(高橋留美子さん)/「競技の説明もキャラの描き方も分かり易くて楽しめた」(あだち充さん)/「良かったのだが、何か物足りなさが残る。冒頭部分は良かったが、話が小さくなりすぎたのかも。あとは演出をもう少し上手くしてもらいたい」(青山剛昌さん)/「最近よくある画風で新鮮味は無いが、基本力はある。題材とテーマをよくマッチさせているし構成も読後感も良いが、ストーリー的に突出したモノがない」(史村翔さん)

  ・『傀儡今昔』(=増刊06年2月発売号に掲載決定)
   平井希(23歳・東京)
 《選評要約:「絵は非常に高いレベルで話も面白い。華のある主役を描く能力を確かめるためにも少年が主人公の作品を見てみたい」(高橋留美子さん)/「可愛い女の子など見栄えする絵が描けている。扉ページや冒頭の構成に気をつけて欲しい」(あだち充さん)/「面白い! 絵、演出、脚本も非常に良いしカッコ良い。この人の作品をもっと読んでみたい」(青山剛昌さん)/「意外性のあるストーリーで最後まで読ませてくれる。ツボにハマった時のキャラ・シーンの描き方は既にプロ級。バラつきがあるのが欠点だが、それでもよくまとめている」(史村翔さん)

 
佳作=2編
 
 ・『武装掃除屋タキ』
   南部もち(22歳・埼玉)
  ・『勝利でゲット!!』
   泉たかこ(21歳・大阪)
 最終候補=1編
  ・『ゼルダ』
   向井(15歳・佐賀)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎入選の平井希さん…海星座の名義で03年「ビッグコミックスピリッツ」増刊でデビュー?(大垣女子短期大学のウェブサイトより)

 ……入選は2作品。絵柄から何から対照的な内容の作品のようですが、共に増刊掲載が即決定したという事は、それなりの水準に達しているということなんでしょうね。最近ストーリー系若手作家さんの台頭が殆ど見られない「サンデー」、こういう所から突破口が開けてくれば良いのですが。
 それにしても成績筆頭の福井さん、投稿キャリアこそ確認できませんでしたが、このマンガ用のペンを使わない手馴れたタッチは、学生時代にアマチュアで同人活動やってたっぽい感じですよね。また、こういう絵柄をスンナリと受け容れている大御所作家の皆さんの反応が結構意外でした。マンガに対する度量というのは、ひょっとすると読者の方が作り手側よりも狭かったりするのかも知れません。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り2本
 「サンデー」
:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年52号☆ 

 ◎読み切り『謎の村雨くん』作画:いとうみきお

 ●作者略歴
 1973年3月26日生まれの現在32歳
 和月伸宏門下のいわゆる“和月組”出身
 デビューは「赤マル」98年夏号掲載の西部劇・『ロマンタジーノ』(伊藤幹雄名義)週刊本誌には99年10号(デビュー作の同名続編)が初登場。また、同年49号にも西部劇・『トランジスター』を発表している。
 翌00年には『ノルマンディーひみつ倶楽部』で初の週刊連載を獲得(00年24号〜01年20号、46回)
 1年のブランク後、02年29号に読み切り・『ジュゲムジュゲム』で復帰。この作品が『グラナダ ─究極科学探検隊─』改題の上で03年1号より連載化されるも1クール打ち切り(〜同年16号)
 それからまた約1年のブランクを経験した後、「赤マル」04年春号にて『ゴーウエスト!』で復帰し、週刊本誌同年42号に『秘密兵器ハットリ』を発表。今回はそれ以来、約1年ぶりの新作発表となる。

 についての所見
 
相変わらず人物の表情が硬い所がまま見受けられるのが欠点ですが、全体的に見れば十分の完成度を誇るリアル志向の絵柄と言えるでしょう。ディフォルメにおける“崩し具合”も、そのリアル志向を損ねない程度の上手いバランス加減に仕上がっているのではないでしょうか。
 今回は主人公の人物造型が「どうみてもハリー・ポッター」という指摘と論議が色々な所であるようですね。ただ駒木個人としては、いとうさん本人がこの主人公のビジュアルを完全に自分のモノにしている事もありますし、殊更に咎める必要も無いのではと思います。いとうさんの師匠・和月伸宏さんが「○○がモチーフ」と言いつつ頻繁に使ってる手法なので、ある意味納得のいく話ですし(笑)。

 ストーリー&設定についての所見
 登場人物の数を極力抑え、なおかつ主人公のモノローグを多用した一人称的な語り口。ストーリーの方も、主人公の人物描写に偏らせるという、思い切った構成の作品となりました。「ジャンプ」の読み切りとしては、かなりトリッキーで、かつクセの強い趣向だと言えるでしょう。
 これを生半可な実力の人がやってしまうと、説明・用語解説口調のネームの羅列で見てられないモノになってしまうのでしょうが、この作品に関しては脚本・演出の水準が高く、このクセの強さも逆に新鮮味へと転化された感がありました。ページ跨ぎの演出など、本来ならギャグマンガで使われるテクニックを流用するなど、玄人好みの手法が渋く決まっています。
 クセのある構成ゆえに万人受けし難いのが残念ではありますが、それでもページ数の制約を受けながら長所が短所を大きく上回るように仕上げるのは至難の業。そのために施されたテクニックなども含め、高い評価を下さなければバチの当たる作品だと思います。

 それに何よりも、そうして念入りに描かれた主人公のキャラクターが、非常に読み手に親近感を与えるモノになっているのが良いですね。“共感出来る弱さ”と“憧れるだけの強さ”が両立出来ているのが素晴らしいです。
 また、ストーリー軽視のように見えて、キチンと締めるべき所は締めているのも好感が持てました。弾丸をクナイで“斬鉄剣”状態にするシーンを、敢えて先に見せてクライマックスに向けての伏線としていたり、銀行強盗とのバトルでは主人公の行動に制約(自分の正体を他人にバラさない)を課す事で深みを持たせています。この辺りの技巧は、もはや“名手”クラスの域に至近しているのではないでしょうか。

 欠点としては、先述の「読み手を選ぶ趣向」の作品である事、あとは設定が一部“マンガであること”に頼り過ぎている面が鼻につくかも…といった所が挙げられますが、これらも必要悪の範疇でしょう。
 実力に定評はありながら、長年伸び悩み傾向が続いたいとうさんですが、いよいよ実力をフルに発揮出来る作品と主人公に恵まれたようです。あとは長編連載に耐えうる骨太のシナリオを創れるかどうか。ひょっとすると、この作品を連載化出来るか、更に連載を成功させられるかどうかが、いとうみきおさんのマンガ家人生の成否を決めるターニングポイントになるかも知れません。 

 今回の評価
 評価はA寄りA−とします。今年度は「これだ!」という読み切りに出会えていなかったのですが、最終週にやっと来たか、という感じですね。この作品は是非とも連載化して、成功させてもらいたいです。

 ◎読み切り『自称ナイスガイ』作画:伊藤直晃

 作者略歴
 1979年9月3日生まれの現在26歳
 「十二傑」への投稿を経て(04年12月期「最終候補まであと一歩」)05年上期「赤塚賞」にて、『たいして良い思い出もできそうにない学校生活』で準入選を受賞週刊本誌05年43、46号にて、その受賞作が15ページずつ分割・抜粋されて代原掲載・暫定デビューを果たす。また、49号には今作のプロトタイプ的な作品で同じく代原掲載を果たしている。
 そして今回、正規デビューの“ご挨拶”である作者プロフィールが掲載され、正式デビューとなった。

 ●についての所見
 以前掲載された習作原稿に比べると、描線や背景処理なども洗練されてはいます。なるほど正式デビュー作と敢えて銘打つだけの差別化は図られているのでしょう。
 ただ、コマによって背景処理を明らかに忘れている部分がありますし、いくら描線を整理しても、陰影の存在そのものが不可解な絵もいくつか見受けられます。動的表現もスムーズとは言い難いですね。
 結局の所、「明らかに落第点」から「惜しいところで落第点」になったぐらいの進歩で、まだまだプロ作家としてやっていくには、余程この絵に合ったギャグのスタイルを開拓しない限りは厳しいでしょう。
 
 ギャグについての所見
 代原掲載された事実上の前作同様、「天然系変人の変な行動を、ツッコミ役が何のヒネリも無い言葉でそれを如何に変かと状況説明する」という、マンガのギャグとしては非常にレヴェルの低いモノに終わってしまいました(判り難い所でバトル系マンガの“解説役キャラ”のパロディもありましたが……)。確かにこれは演芸の一人コントなどで使われる手法ではあるのですが、声の抑揚などを凝らして笑いが狙える実演・実写とは異なり、文字でこれをやると単なる味気の無い説明になってしまいがちです。
 また、「変な主人公が何をするか」ではなく、「主人公が変」という、奥行きの狭い所で終わっているのも難点ではないかと思いますし、そもそも「これは変だ」と主張している事が「常識的な所で変」に留まっていて、全体的にギャグが小じんまりとしてしまっている感があります。この作品のようなインパクト勝負のギャグは、如何に常識の範疇から飛び出るかがカギになって来ますから、そこで突き抜け切れないと、文字通り壁に当たる事になってしまうでしょう。

 そういうわけで、これから伊藤さんが『ジャガー』『ボーボボ』『太臓』という連載陣や、他の有力若手ギャグ作家さんと伍していくためには、ギャグを考える時の根本的な発想の部分から変えていかないと辛いんじゃないでしょうか。「これがギャグだ」という固定観念からブッ壊すぐらいの大手術が必要のような気がします。
 ともかくも前途多難の正式デビューとなりました。チャンスにはこの上無く恵まれているのですから、伊藤さんにはもっと良い作品が描けるよう、ガムシャラに頑張ってもらいたいです。

 今回の評価
 評価は代原版からほんの少し改善されたという事でB−とします。ただ、この水準では、今後の展開云々という話になるのは望み難いでしょうね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、年度末締めということで、「コミックアワード」合わせの駆け込み評価変更です。今年度から10回ごとの評価見直しを行っているので、「コミックアワード」の部門賞ノミネート資格に関係する作品だけ採り上げます。

 ◎『太臓もて王サーガ』作画:大亜門
 旧評価:A−寄りB+新評価:A−

 かなり迷ったんですが、評価を連載当初のものに戻しました。連載回数を重ねるに連れてパロディ系のネタが枯渇する一方で、登場人物のキャラで獲る笑いが前面に出て来て、随分と万人受けする要素が増えて来た…というのが評価アップの決め手です。こんな怪我の功名もあるもんだな、とも思いましたが(笑)。
 今後はマンネリが心配ですが、たびたび新キャラを投入するなどの配慮も窺えますし、もうしばらくは大丈夫なんじゃないでしょうか。逆に、マンネリが避けられない状況になったら、連載を手仕舞いする思い切りも必要でしょうね。コンスタントにクオリティの高い作品を創れる作家さんですし、1つの作品に固執する必要も無いと思います。

☆「週刊少年サンデー」2005年53号☆

 ◎読み切り『山本KID徳郁物語 〜神の子に与えられた試練〜』(作画:山田一喜)

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 資料不足のため、生年月日等不明。
 確認出来る最古のキャリアは02年のルーキー増刊で、その後は月刊増刊03年11月号、隔月増刊05年新年号など、断続的に読み切りを発表している。
 今回は企画物ながら初の週刊本誌登場。

 についての所見
 
本質的な画力は別にして、慣れない企画のプレッシャーに押し潰されてしまったかな…というのが率直な印象です。

 若手作家さんがこの手の実録モノを手がけると、どうしてもそうなってしまうのですが、実物に似せようとする余り、人物の表情が全体的にぎこちないのが気になってしまいます。特にこの作品の場合、気を遣った割に余り実物に似てないというのも頂けないかな、と。
 それに格闘シーンでは、肝心の選手のムーヴが全く描かれておらず、インパクトの瞬間や見せ場の静止画像的な所を切り抜いてお茶を濁しただけになっているのも残念でした。せっかくこういうマンガを描く機会を得たのですから、絵で「今後は格闘マンガなら任せて下さい」ぐらいのアピールを業界中に広げるくらいの意気込みが欲しかったですね。

 ストーリー&設定についての所見
 こちらは取材内容に大きく拘束されるので、色々と注文をつけるのは酷でしょう。ただ、構成が事実の羅列に留まっていて、やや散漫だった印象はありました。この辺は取材の質・量も関わって来るので、どうにもならないところもあったでしょうが……。 

 今回の評価
 企画モノということで、評価は行いません。ただ、少なくとも作者の山田さんにとって、このマンガを描いたメリットや意義が余り見出せないという点が残念です。

 ……さて、本当は今週で連載20回を迎える『絶対可憐チルドレン』の評価見直しを実施する予定だったのですが、これはエピソードの切れ目を待って次週に回したいと思います。今週は伏線張りまくりで不確定要素が多すぎます(笑)。なお、現状では評価はAで据え置きの方向です。

 それでは、来週はまた同人誌版執筆などでこちらの実施は遅れ気味になります。どうか何卒ご容赦を。

 


 

2005年度第44回講義
11月25日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(11月第4週分)

 漸く一時の精神的停滞からは抜け出せた気配ですが、今度は公務・私事多忙な上に冬コミ用の原稿締め切りという“魔物”が急速接近中。本当、1日60時間は欲しい今日この頃です。明日も明日で昼の職場関係の諸事がありまして、研究室に帰って来れるかどうかも……。

 ……というわけで、今週もボリューム少なめ&取り急ぎで失礼します。
 あ、コミックアワードのワイルドカード枠推薦、締め切りが迫っております推薦メールはお早めにどうぞ。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(52号)に、読み切り『謎の村雨くん』(作画:いとうみきお)が掲載されます。
 
『ノルマンディー秘密倶楽部』『グラナダ』のいとうさん、04年42号以来の新作発表となりました。駒木の中では結構多作な人だという印象があったのですが、改めて調べてみると1年以上のブランクが開いていました。
 『グラナダ』の連載をしくじってから間もなく3年。そろそろ3度目の連載のチャンスを掴みたいところですが……

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(53号)に、読み切り『山本KID徳郁物語 〜神の子に与えられた試練〜』(作画:山田一喜)が掲載されます。
 「サンデー」ではお馴染の実録モノ企画、今回は格闘界から山本KIDが登場です。大晦日のチケット営業も兼ねての企画なんでしょうね。
 作者の山田さんは、02年のルーキー増刊、月刊増刊03年11月号、そして今年にも隔月増刊に読み切りを発表している若手作家さん。どうやらこれが週刊本誌初登場ということになりそうですね。企画モノは連載獲得の足掛かりにはなり難いのですが、これで顔と名前を売って……というところでしょうか。

 ★その他、公式アナウンス情報  

 ◎「週刊少年ジャンプ」連載中の『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博、今週発売の51号より一時休載となりました。連載再開は06年8号の予定。
 最近、また休載多発の周期に入っていた『H×H』ですが、遂に2度目の長期休載入りとなりました。巷では「コミケ休載か?」なんて言われてますが、実は冨樫さんが(少なくとも表立った)同人活動をしたのは、6年前の99年が最後だとか。なので、恐らくは純粋なモチベーションの不良か、創作の行き詰まりが休載の原因なんでしょう。それでも作品を投げ出さない辺りは、立派というか渋太いというか……。

 また、明確な告知はありませんが、同じく「ジャンプ」で連載中の『D.Gray−man』作画:星野桂)も、先週号からなし崩し的に長期休載に突入した模様です。非公式の情報によると、少なくとも次々号までの休載が確定しているとか。
 この作品、単行本の好調な売り上げとは裏腹に掲載順が低迷していましたが、ひょっとすると相当長い間、原稿を落とすかどうかの瀬戸際を歩んで来た連載作品だったのかも知れませんね。「ジャンプ」の主力作品に出世するためには大事な時期だっただけに、これは惜しい躓きになってしまいました。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作品なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年51号☆ 

 ◎読み切りプロジェクトヒメジマ作画:川口幸範

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 79年4月3日生まれの現在26歳
 01年3月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。その後、「天下一」では01年11月期で編集部特別賞、02年2月期に審査員(武井宏之)特別賞、そして04年4月期「十二傑新人漫画賞」にて『師匠とぼく』で十二傑賞を受賞し、週刊本誌04年51号にて受賞作掲載デビューを果たす。
 今回は1年ぶりの新作発表で、その間は村田雄介さんのスタジオでアシスタントを務めていた。

 についての所見
 
デビュー作で画力の高さは証明済みの川口さんですが、ちょっと今回は全体的に違和感の漂う絵柄だという印象を受けました。恐らくは、線が“リアル描写仕様”のままのディフォルメを多用してしまった事、またリアルタッチの人物作画で微妙にデッサンが狂っている場面が目立った事などが原因だと思われます。あと、前作と違って舞台が現実世界だっただけに、違和感を誤魔化し難かったのかな…という気もしますね。
 とはいえ、背景処理や動的表現などはアシスタント経験の成果もあってほぼパーフェクト。もう少し線にメリハリが付いてくれば、また印象がガラっと変わって来るでしょうね。

 あと気になったのは、村田雄介さん及び村田さんのアシスタントが多用する、見開き2ページぶち抜きのコマ割りの描き方について。このコマ割りは読者に普通とは違った読ませ方を強いるため、特別な配慮が必要になるんですが、これが残念ながら上手く出来ていませんでした。
 その「配慮」というのは、同じコマの中でも右ページ側の方から左ページ側の方へ読者の視線を誘導するようにして、「ここは2ページ見開きのコマ割りだ」と認識させなくてはならない…というものです。それを怠ると、読み手は作者の意図とは異なった順番で読み進めようとしてしまい、混乱してしまいますからね。
 この配慮、さすがに“本家”の村田さんは理解・実践しておられるのですが、村田さんの原稿を間近で見ていたはずのアシスタントさんたちは、何故かその配慮を失念しているケースが目立ちます。いや、失念しているのではなく、分かっていても難しい表現なのかも知れないですね。

 ストーリー&設定についての所見
 プロットそのものは、手垢の付いた平凡な、しかも内容に乏しいケンカ・格闘モノ。これをどうにか脚本・演出の力で際立たせようという努力の跡は窺えるのですが、その演出が余りに奇抜過ぎ、読み手が内容を把握する事すら困難な、非常に読み難い構成の作品になってしまいました
 特に厳しいのが序盤、読み手が登場人物や舞台設定の把握もままならない内から、その設定を理解していないと意味の分かり辛いセリフの波状攻撃を浴びせた辺り。読み辛い上に理解し辛いでは、読み手の感情移入を促進するどころか逆効果です。
 結局の所、オリジナリティを追求しようとして一人善がりになってしまった…といったところでしょうか。セリフ回しにはセンスが窺えるだけに、これは惜しい、そして余りにも勿体無いミスであったと言えるでしょう。 

 今回の評価
 デビュー作ではA−寄りB+を出したんですが、その頃の長所が影を潜め、逆に短所が際立ってしまったのでは、評価の大幅なダウンは免れないところ。ギリギリで評価というのが妥当かな、といったところです。

☆「週刊少年サンデー」2005年52号☆

 ◎読み切り『横縞ホットブラザーズ』作画:山川コージロー

 作者略歴
 生年月日は非公開。03年2月期「まんカレ」応募時26歳とのことで、現在は28〜29歳
 詳細は不明だが、01年の「ヤングアニマル」誌新人賞の入賞経験あり(?)。「サンデー」系新人としては、03年2月期の「まんがカレッジ」で佳作入賞。その後、05年になって増刊デビューを果たし、今回が初の週刊本誌進出となる。

 ●についての所見
 輪郭の線が非常にスッキリと洗練された絵柄で、とても見易くて良いですね。アシスタント経験も長いのでしょうか、背景の描写や特殊効果などは本格派で、ストーリー系の連載作家さんと比較しても全く遜色ありません。ギャグ作品に不可欠なディフォルメ表現も達者で、これは即戦力級の実力と申し上げて良いでしょう。
 ただ、人物の輪郭に比べて、その内側のパーツ(例えば顔の目鼻立ち)の描写がやや不安定でクセが強過ぎる嫌いがありますので、万人受けする絵柄を目指すなら、今度はその辺の画風も洗練させていく事が必要になるのではないかと思います。 
 
 ギャグについての所見
 こちらのファクターにおいても、新人離れした職人芸的な渋いテクニックが随所で光っていますね。例えば15ページの中で起承転結を手堅くまとめ切った構成力であるとか、登場人物を必要最低限に絞った上に、そのキャラクターについても過不足無く掘り下げるとか、「とにかく巧い」と言いたくなる、いぶし銀の技が冴えています。
 ただ、この作品の構成は、一発勝負の読み切りギャグ作品というよりも、むしろ「コメディ作品の連載1回分」というような印象を受けます。ギャグ短編としては、ネタの密度であるとか、ボケ・ツッコミを畳み掛ける勢いなどの点で物足りなさが否めませんでした。
 非常に良く出来た構成の作品ではあるのですが、「笑いを追求する」という観点から見ると、やや物足りないかな、といったところです。

 今回の評価
 評価はB+とします。次回作はストーリーにも力を入れたコメディ作品が読んでみたいですね。テクニックは十分連載級のモノを持っていると思いますので、あとは作品に恵まれるだけでしょう。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週で『こわしや我聞』が最終回となりました。簡単に連載の総括をしておきましょう。

 ◎『こわしや我聞』作画:藤木俊
 旧評価:最終確定評価:B+

 連載当初は絵、ストーリー両面で拙さの方が目立った作品でしたが、徐々に骨太の長編ストーリーを展開させていって、クオリティも回を追うごとに上がって行った感がありました。最後は伏線の殆どを回収して綺麗にまとめ切り、見事に大団円で幕。非常に気持ちの良い円満完結でした。
 しかしこの作品、登場人物のキャラ設定やシナリオの展開は王道まっしぐらと言うか極度にベタなモノが多かったですよね。本来なら「あざとい」と言われてしまうようなネタばかりだったんですが、この作品独特のぎこちなさというか、良い意味でも悪い意味でも素朴で愚直な作風が、この「あざとさ」を中和して逆に良い方向に持っていったような気がしています。藤木さんには、この得な作風を活かして、今後も頑張って頂きたいですね。

 

 ──それでは今週はこれぐらいで。来週からは同人誌の執筆に入りますので、やっぱりこちらは留守しがちになると思います。今しばらくのご辛抱を。 

 


 

2005年度第43回講義
11月19日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(11月第3週分)

 昼の仕事は2学期も終盤戦、漠然とした掴み所の無いストレスも溜まり、こちらの研究室での仕事は大スランプの様相であります。レジュメ作成のためキーボードを叩く指が数時間止まってしまう状況で、皆さんにはご迷惑をおかけしております。
 もうしばらくすればバイオリズムも幾分上向くと思いますので、それまではお互い辛抱ということで、どうか何卒。「今週は講師都合で休講です」とかならんように頑張ります。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(51号)に、読み切り『プロジェクト・ヒメジマ』(作画:川口幸範)が掲載されます。
 
川口さんは、ちょうど1年前の週刊本誌04年51号でデビューを果たしている若手作家さん。そのデビュー作・『師匠とぼく』の異色ぶりをご記憶の方も多いでしょう。
 今作は前作とは趣向を変えて、学園モノ現代劇のようですが、さてどうなるでしょうか。

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(52号)に、読み切り『横縞ホットブラザーズ』(作画:山川コージロー)が掲載されます。
 
山川さんは今回が本誌初登場のギャグ作家さん。03年に「まんがカレッジ」で佳作入賞経験があるほか、01年にはたびたび「ヤングアニマル」誌の新人賞で入賞を果たしているようです。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作品なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年50号☆ 

 今週は『D.Gray−man』が“急病”休載ということで、取材休みの『べしゃり暮らし』で空いたページを合わせて「十二傑」受賞作の掲載がありました。予告に無い掲載ですので代原に近い扱いですが、作者プロフィールの掲載もあり、一応は“正規枠”の扱いのようですね。

 ◎『魔界不思議犬ブルブルブルズ』作画:小山祐太

 作者略歴
 1986年1月24日生まれの現在19歳
 04年頃から投稿活動を始めていたが、当時の名義は太宇諭まや夫、太宇諭みや夫、まや夫などのペンネームを使用していた。
 04年10月期「十二傑」では最終候補となり、“新人予備軍”入り。05年7月期「十二傑」にて今作で十二傑賞を受賞し、今回のデビューとなった。

 についての所見
 「十二傑」の講評でも厳しく指摘されていたのですが、人物作画の粗さは致命的と言えるほどに酷い有様です。ただ線が粗いだけでなく、根本的な人間の造りや背景との遠近感といった基本中の基本事項が無視されていて、これはいくら新人賞の応募作品といっても言い訳の効かない欠陥でしょう。
 しかし、背景の描きこみは粗いながらも普通にこなせていますし、特殊効果はむしろ新人としては巧い部類です。見栄えの悪さはどうしようもありませんが、“単なる絵の下手な人”というわけではなさそうです。
 
 ストーリー・設定についての所見
 結論を先に言えば、ストーリー・設定の内容は、いかにもお粗末でした。主人公格である魔王が独白を淡々と続ける序盤から中盤は余りにも「説明してます・されてます」という印象が強く、そこから話が唐突に動いて始まる終盤は、後出し設定連発で強引極まりない展開に。脚本の拙さも目立ち、作品世界に没入し難くなってしまっています。
 ありがちな勧善懲悪ではなく、“泣ける話”に持っていこうという志向は悪くありません。ですが、その要素も“取って付けた感”が強過ぎて、それだけでポジティブな評価を下すには躊躇を覚えてしまいます。

 ただ、構図の取り方などの演出は飛び抜けて上手く、この作品は演出だけで体を成していると言っても過言ではありません。見せ場における人物の表情や細かいシーン転換の妙には、高いセンスと充実した研究の跡が窺えました。
 現状ではこの演出力もボロボロのストーリーを誤魔化すための機能に留まっていますが、なるほど青田刈りをしておきたい才能ではあるかも知れません。たとえそれが、現状ではプロとして標準以下レヴェルの総合力であるとしても。

 今回の評価
 演出力のファクターだけ抜き出せばAクラスではありますが、総合的な評価を下すとすれば、絵の粗さなどの大減点が祟ってB−に留め置かなければなりません。
 現状の実力では次回作を発表するのもままならないでしょうが、大化けする可能性もある面白い存在の新人さんだと思います。今後の精進に期待しましょう。

☆「週刊少年サンデー」2005年51号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は、実は先々週に第2部が第10回に到達していた『クロスゲーム』の評価見直しを遅れ馳せながら実施します。一応、毎週連載回数はチェックしているのですが……。いやまったく、ミスばかりでイカンですね。

 ◎『クロスゲーム』作画:あだち充
 旧評価:A−寄りB+新評価:
A−

 かなり迷ったのですが、ストーリーにまとまりが出て来た事を踏まえ、評価を上方修正してAクラス入りとしました。長い長い助走を経て、漸く綺麗なテイクオフを果たした…といったところでしょうか。
 相変わらずの淡白過ぎるストーリー展開は気になりますが、熟練のテクニックがその欠点を補っている…というジャッジです。以前から定評の有る演出・脚本の上手さは言うまでもなく、読み手に提示する情報のタイミング・分量や、さりげなく張っていた伏線の活かし方も実に的確です。
 あだち作品は作者のモチベーションが過度にストーリーのクオリティに直結するため今後も油断は禁物ですが、とりあえず現時点は順調に推移していると言って良いのではないでしょうか。今後も経過観察を続けますが、しばらくは安心して読んでいられそうです。


 ──というわけで、今週はショートバージョンでしたがこの辺で。また週明けにお会いしましょう。

 


 

2005年度第4回講義
11月5日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第6週/11月第1週分)

 あっという間に11月になりました。そろそろ本気で冬の同人誌版新刊の編集にとりかからないとヤバいんですが、やりたい事とやるべき事とやれる事のギャップがそれぞれ凄くて、果たしてどうしたものか……。
 とりあえず、現時点で決まっているのは「マンガ時評総集編」絡み。新刊の「下半期総集編」に加えて、昨年冬に完売してしまった「04年度版」を100部ほど重版かけ、更に夏で余った「05年度上半期版」と共に再販します。
 新刊の書き下ろしは、お馴染の追記に加えて、「コミックアワード」の初日で実施する年間総括を、ウェブ上じゃ怖くて言えないような事も含めて“ディレクターズ・カット”版で一足先にお見せしようかな…などと考えています。新刊は扱う時期が短い上に新連載・読み切りが少なかったので、これまでとは変わった趣の本になるかも知れません。

 ……さて、今週のゼミはレギュラー分の内容が少し寂しいので、久々に増刊レビューの続きが出来そうです。また先にレギュラー分のレジュメだけ公開し、その後に増刊レビュー分を追加する変則パターンでお送りしますので、ご了承下さい。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(50号)に、読み切り『エリート道場のエリート教室』(作画:福井ユウスケ)が掲載されます。
 
この作者は、恐らく04年に1回限りで実施されたギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」の“爆笑王”受賞者の福井裕介さんだと思われます。これまで2度週刊本誌掲載を果たしていますが、最近は増刊での活動が中心。『うえき』休載で枠が空いたという幸運があったとはいえ、久々3度目の週刊本誌登場となりますね。

 ★その他、公式アナウンス情報

 ◎「週刊少年サンデー」連載中の『うえきの法則プラス』(作画:福地翼)が、今週号無期限の長期休載となりました。
 最近休んでいる週の方が多かった『うえき』が遂に長期休載へ突入。「サンデー」の長期休載は、かの黒歴史的作品・『きみのカケラ』作画:高橋しん)以来のことですが、休載理由もその時と同じく「作者体調不良のため」とのこと。
 ……まぁこの理由を額面通り受け取るのは、少なくとも情報の真偽を判断する上では止めておいた方が良いんでしょうね。本当に病気で休載する場合は、ちゃんと病名や症状、連載再開の目処を併せて発表する場合が非常に多いですし。大人の事情だけで始められた作品だけに、作家さんの精神的負担も大きかったのかな…などと駒木個人は推測していますが、まぁ真相が表に出ては来ないんでしょうね。

 ◎「週刊少年ジャンプ」の若手・新人作家コンペテイションイベント・第2回「ジャンプ金未来杯」の優勝作品が『カメとウサギとストライク』(作画:天野洋一)と発表されました
 昨年度に比べて全体的にやや小粒な印象があった今年度の「金未来杯」、やはりと言うか画力(というか絵の見栄え)が投票行動の決め手になったようですね。第2回「黄金の女神杯」で『鬼が来たりて』作画:しんがぎん)が優勝したのとほぼ同じパターンで、個人的には様々な理由で冴えない気分であります(苦笑)。
 もっとも、第1回「金未来杯」エントリー作品連載化後の不振のせいか、それとも公表されなかった今回の投票内容詳細が芳しくなかったのか、編集部も今後の展開にはかなり慎重な様子です(受賞作の連載化を確約するような文言無し)。ともかくも、作家さんと読者にとって幸せな形の着地点を探ってもらいたいな、と思います。
 
 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:代原読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作品無し
 ◎今週はチェックポイント対象作品がありません。よって、「サンデー」関連のコーナーは1週休みとなります。ご了承下さい。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年48号☆ 

 先週から当講座以外の活動でバタバタしていたので気付かなかったのですが、今週はレビュー対象作ゼロになる所だったんですね。まぁ増刊レビューがありますので、題材には困らなかったわけですが……。
 しかし『H×H』は久々の“長考”に入りそうなムードですね。まぁここ数ヶ月まともに連載されていた時は内容の微妙な薄さが気になっていたので、少し休んで内容の濃いネーム(敢えて『作品』とは呼ばない)を見せてくれたら、それはそれで満足なんですがね。ただ、もう原稿落ちるのは想定内の話なんですから、場当たり的な代原掲載はそろそろ勘弁して欲しいです。

 ……あ、ついでで失礼ですが、今週の『DEATH NOTE』は久々にこの作品独特の雰囲気が出てましたね。モノローグと文字情報だけで1回分費やして1人のキャラを紹介する…という手法、マンガの文法としてはかなりの荒業なんでしょうが、こういう演出こそが良し悪しを超えた所にある『デスノ』らしさだと思います。来週号の掲載順は実質ラス3だそうですが、これを機に巻き返しなりますか。
 あと、『みえるひと』の“初代・明神”は、「青マルジャンプ」掲載の「ストーリーキング」受賞作に出て来た主役ですね。こういう読者の都合を考えない裏設定を前面に出して来たという事は、いわゆる“閉店前売り尽くしセール”の予感がします。……う〜ん、この作品も設定を膨らませれば良くなる見込みがあるだけに、2クールで終わらせるには惜しいんですけどね。

 ◎読み切り『名探偵田中一郎』作画:池内志匡

 作者略歴
 生年月日は現在非公開。
ただし、05年4月期「十二傑」応募時に24歳で、現在は24〜25歳
 00年3月期「天下一漫画賞」で審査員(藤崎竜)特別賞を受賞し、新人予備軍入り。その後、5年以上の空白期間があったが、05年4月期「十二傑」にて、今作で最終候補入賞。今回が代原による暫定デビュー。

 についての所見
 パッと見の造型はなかなか上手に描けているように見えますが、細かい所を見ていくとまだまだ粗い部分の方が目立ちます。
 まず線がメリハリが無く一本調子である上に、太く描くべき線と細くするべき線とを取り違えた個所も見受けられます。また背景処理やトーン処理も、根本的な技術不足の上、限定された予算と労働力との妥協の産物である印象が否めません。これは投稿作品ですから当たり前と言えば当たり前なのですが、それでも週刊本誌に掲載される以上は指摘しておかなくてはならないでしょう。
 あとは顔とそれ以外の体のパーツのバランスでしょうか。下手にリアルタッチな絵柄だけに、首から上の部分が微妙に大き過ぎるのが気になりました。
 ただ、これらの点はギャグ作品としてなら目を瞑っても良い程度の拙さだと思います。それよりむしろ、小奇麗に仕上げようとし過ぎて、ギャグ作品にしてはディフォルメや特殊効果が随分と大人しくなってしまった方がマズいかも知れません。ギャグの遣り取りと絵面がミスマッチに感じたのは駒木だけでしょうか?

 ギャグについての所見
 ギャグが笑えるかどうかという事を抜きにして、ギャグのバリエーション、見せ方・テンポといったテクニカルな面に関しては、プロとして平均値の水準に乗っている要素もありますね。1コマ内での複数のボケ・ツッコミの遣り取りや、ページ跨ぎの効果も決まっていました。
 ただ、「絵についての所見」で先述した控えめなディフォルメや特殊効果のせいで上滑りしている印象を与えるかも知れません。また、作品全体のネタの絶対数も少ないですね。

 さて、ネタのクオリティについては、まずコンセプトや粗筋がインパクト不足であるのが痛いです。手垢の付きまくった“『金田一少年の事件簿』パロ”で、しかも既成パロディ作品の殻を破ったとはとても言えない展開では、笑う・笑わないの判断以前に「またか」「今更これか」という印象を読み手に与えてしまいます。
 それと、ボケにしてもツッコミにしてもセリフが練りこみ不足の感が否めません。たとえ無理だとしても、一言一句全てのセリフで笑いを獲ろうとするぐらいの貪欲な推敲をしてもらいたかったですね。恐らく、その辺にこの作品が最終候補に止まってしまった理由があるのではないでしょうか?

 今回の評価
 評価は少々厳しいですがB−としておきましょう。本来なら週刊本誌どころか増刊にすら載るはずのない作品でしたから仕方ありませんが、ちょっと現状力不足ではないでしょうか。

◆「ジャンプ the REVOLUTION」レビュー(3)◆

 ◎『天球儀』作画:藤崎竜

 作者略歴
 1971年3月10日生まれの現在34歳
 90年上期「手塚賞」で佳作を受賞して“新人予備軍”入りを果たし、同年下期の「手塚賞」で『WORLD』で準入選を受賞この受賞作が季刊増刊91年冬(新年)号に掲載されてデビュー。
 それからは増刊91年春号、週刊本誌91年45号、増刊92年春号と立て続けに読み切りを発表する精力的な活動を展開。92年51号からは『PSYCHO+』で初の週刊連載を獲得するも、幅広い支持を得られず1クール11回で打ち切りとなる。
 打ち切り後は増刊93年夏号、秋号と立て続けに新作を発表したが、そこから増刊95年春号まで1年半のブランクを経験。しかも更にその後1年以上のブランクを強いられるなど不安定な活動を余儀なくされたものの、週刊本誌96年28号より連載が開始された『封神演義』がヒット、00年47号まで4年半の長期連載(他に01年5・6合併号に番外編を発表)となる。なお、この連載期間中にも、00年新年の増刊「eジャンプ」に読み切りを発表している。
 1年強のリフレッシュ期間を経て『サクラテツ対話篇』でいきなりの週刊連載復帰を果たすが、これは残念ながら2クール打ち切り(02年1号〜21号)。それから2年余りのブランクを経て04年40号から『Wāqwāq』を連載するも、これも05年23号まで全34回で打ち切りとなった。今作は連載終了以来初の新作発表となる。

 についての所見
 ここ最近の藤崎さんの画風は、デビュー以来の独特な絵柄に、プロ作家活動の中で身についた正統派の作画技術が融合されているようです。以前に比べてアク(=リアリティの欠如による違和感)が薄れた一方で、個性は個性としてそのまま強烈なアピールを続けている…といった感じでしょうか。
 一作品の中でいくつもの画風を使い分ける器用さと、極端かつ的確なディフォルメも映えているのも個性的で良いと思います。以前の作品では目立った見辛い場面も今作では随分と減っており、少なくとも作画においては藤崎さんの画風の良い所ばかりが目立った良作…という評価をするのが妥当ではないでしょうか。
 
 ストーリー・設定についての所見
 レビューすべく今作を一読しての第一感は「さぁ、困った」でありました(苦笑)。こういった細かい設定やストーリーの完成度より世界観や作品の雰囲気を愉しむべき作品は、「面白い」という感情を完全に排除する当ゼミのレビュー基準と極めて相性が悪いんですよね……。

 それでも、無駄な部分を的確に省略し、頻繁な場面転換でも読み手を混乱させない構成力、そして確かな技術を感じさせる脚本や演出は「お見事」の一言。これは当ゼミの基準でも高い評価点に繋がるポイントです。
 敢えて言ってしまえば、有って無いようなストーリーのマンガでも、33ページを保たせて読み手を飽きさせないというのは、地力が無ければ無理と言うものでしょう。ストーリーを描かずして、ストーリーテリング技術を見せつける、という粋な仕事だと思います。

 ただそれでも、当ゼミでAクラス評価になるような、「同程度のテクニックが施された上で、完成度の高い内容のあるストーリーが描かれた作品」と比較すると、加点材料の量で差が出てしまうのも確か。本来の意味とは少々違いますが、「名作崩れの人気作」的な扱いをするべきなのかな……というのが駒木の結論です。

 今回の評価
 というわけで、評価はB+としておきます。好き嫌いや「面白い」「面白くない」というファクターを通すと、読み手によって評価の上下の差が非常に激しくなると思いますが……。

 ◎『銀河少年ユニ』作画:仲野ケンシロウ

 作者略歴
 生年月日は非公開。05年上期「手塚賞」応募時27歳とのことで、現在は27〜28歳
 05年上期「手塚賞」にて『-meteoric- 流星のユニ』で準入選を受賞。今作はタイトルから受賞作の改作もしくはマイナーチェンジ版と思われる。

 についての所見
 まず、どうしても気になってしまうのが人物作画の拙さでしょう。頭と胴体の大きさのバランスが大きく崩れていたり、表情やポーズのバリエーションが少なく不自然な場面が目立ったりと、パッと見で拒否反応を示したくなる絵柄と言わざるを得ません。線もまだ荒れが目立ちますし、動的表現なども課題が残っているようです。
 しかし、背景描写や宇宙船など直線的な物体の描写は非常に手馴れており、先述の人物作画と比べると「これは同じ人が描いた絵だろうか?」…と思ってしまうほどです。人物作画に比べて静物描写に長けている人はアシスタント出身の新人さんに多いですが、それでもここまで極端な画風は珍しいですね。

 総合的に言えば、やはり人物作画の失点が目立ってしまうかな…といったところ。いくら部分的に良い所が有っても、メインの部分がダメだったら厳しいですよね。
 
 ストーリー・設定についての所見
 こちらの方では、有り体に言って「良い所より悪い箇所の方が圧倒的に目立つ作品」…という印象を受けました。

 真っ先に気になったのが、説明と描写の使い分けのアンバランスさ。冒頭で読み手の知らない固有名詞を既出の言葉のように描く…という、思わせぶりな描写テクニックを使っておいて、中盤以降は極度に説明的なセリフや文字による解説のオンパレード。
 しかも、肝心な部分をクライマックスまで隠そうとする意図を持ち過ぎて、読み手が知りたい部分は“お預け”状態。逆に正直どうでもいい部分ばかりが延々と説明されていく…という、読んでいて非常にストレスの溜まる構成に終始しています。
 これでもまだ、冒頭に読み手を作中世界に没入させるキャッチーなシーン(例えば主人公のキャラクターを前面に出し、そこを読者の興味の取っ掛かりにする、など)を挿入していれば、まだ印象も違って来たのでしょうが……。

 更に言えば、人物のキャラクター、特に主人公の描写が中途半端です。主人公・ユニが、冒頭から出ずっぱりの宇宙海賊の少年(?)に存在感を食われてしまっている…というだけで大問題でしょう。
 その上ストーリーに一貫性が有りません。主人公の「宇宙旅行を夢見る少年」というキャラクター設定と全く関係ない所から、いきなり「ユニは惑星を最終兵器から守る生体兵器だった」という方向へ逸走してしまっては……。
 本来シナリオは1本の“幹”があって、そこから枝分かれしては元の幹に収束される…というのがベストでしょう。しかしこの作品の場合は、いきなり2本目の“幹”が生えたかと思ったら、1本目の“幹”ともども発育不良で伸び悩んでしまったという感じ。もうちょっとストーリーの焦点を絞って欲しかったですね。

 今回の評価
 評価はB−としておきます。デビュー作ゆえ仕方ない部分もありますが、それにしても「手塚賞」準入選作品に手を加えたにしては、かなーり物足りない出来栄えの作品と言わざるを得ません。

 

 ◎読み切り『キャディーガール』作画:後藤竜児

 作者略歴
 
資料不足のため、生年月日・年齢は未判明。
 デビューは週刊本誌99年6号掲載の『はだしの教師』で、これは代原掲載による暫定デビューの可能性が高い。また、01年29号にも同タイトルの代原を発表している。
 その後、「赤マル」01年夏号にこれも同タイトルの『はだしの教師』を発表しており、これが正式デビューか。
 それからは2年半のブランク(高橋和希さんのスタジオでアシスタントを務めていた)があって、週刊本誌04年13号で『ハッピー神社♥コマ太』で復帰。「赤マル」04年夏号には『冒険王』、04年秋発売のギャグ増刊では『LUCKY☆CHILDタケル』を発表している。
 今作はそれ以来、約1年ぶりの復帰作となる。なお、当講座10月31日付講義にてレビューした『キャディーガール瞬』は、今作の後に製作されたリメイク版である。

 についての所見
 リメイク版と間を置かず描かれた作品ですので、抱いた印象もその際行ったレビューの時と同じ──「相変わらずの、高橋和希門下だと一目で判る独特でアクの強い画風」動的表現や表情の描き方にぎこちなさが目立っている──ですね。リアルな描写とは掛け離れた絵柄だけに、こういったアラが目立つと余計に下手に見えてしまいます。これを作者ご本人がどこまで自覚しているかが問題になるわけですが……

 ギャグについての所見
 当然ながら、後のリメイク版と同様、“天然ボケの変人に翻弄される主人公”パターン。やはり笑いを追求するより、ボケ役の変人っぷりを追求しているような、ベクトル違いの感が否めませんでした。もうちょっとボケ役とツッコミ役のパワーバランスが接近しないと、読み手が笑おうとする態勢を取り難いのではないか…と思ってしまうわけですが。
 ただ、こちらの作品の方がリメイク版よりも、ゴルフを題材にしたネタの数やバリエーションで上回っており、そういう意味では評価できる点も若干多い仕上がりにはなっています。(とはいえ、たかだか読み切り1回分でネタが枯渇気味になるようでは、連載のプロトタイプ版としては厳しいですが……)

 今回の評価
 評価はB−とします。ギャグ作品が3本ある現在の「ジャンプ」に割り込んで行けるだけのパワーがあるかというと、ちょっと厳しいでしょうね。ワンアイディアで出来た設定の作品ですから、早々のネタ枯れになりそうですし……。

 

 ──というわけで、今回も3作品分のレビューをお送りしました。残り3作品、上手くすれば次回で完了出来そうなのですが、まぁ期待しないでお待ち下さい。それでは、また次週分でお会いしましょう。

 


 

2005年度第40回講義
10月31日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第5週分)

 丸一週間遅れで失礼しております。先週末はどうしてもこちらに時間を全く割けない状況になってしまい、止む無く「レポート」の方で告知をさせてもらいました。
 色々と制約が大きくなりつつある現状ですが、何とか巻き返して行きたいと思っております。どうか何卒。

 では取り急ぎ、既に先週分となってしまった10月5週分のゼミを始めます。今日の講義で対象となるのは「ジャンプ」47号、「サンデー」48号ですので、お間違えの無いようにお気を付け下さい。なお、今回も「ジャンプ」増刊レビューはお休みさせて頂きます。まったく、『HUNTER×HUNTER』や『うえきの法則』に文句言う資格無いですね……。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ※今週は、新連載及び読み切りの情報はありませんでした。

 ★新人賞の結果に関する情報

 この週は、「サンデーまんがカレッジ」の審査結果発表がありました。夏休みと重なる時期だけに、応募作はかなり多かったそうですが……。

少年サンデーまんがカレッジ
(05年8月期)

 入選=該当作無し
 佳作=1編
  ・『マベナ刑務所』
   高藤カヲル(24歳・山口)
 努力賞=2編
  ・『未来少年きゃも』
   岡崎加奈(20歳・兵庫)
  ・『Relationship』
   佐藤五月(25歳・埼玉)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『防人千年記』
   吉村英明(25歳・神奈川)

 受賞者の皆さんのキャリアは以下の通りです。
 ◎あと一歩で賞の吉村英明さん…05年8月期(同時!)「十二傑新人漫画賞」で最終候補、02年6月期「天下一漫画賞」に投稿歴あり。

 ……応募作の割には入賞作は少なく、最終候補作品すら4編という大不作。新人不況が続く「サンデー」の現状を表すような8月期結果となりました。
 それにしても、「ジャンプ」「サンデー」月例賞同時応募・同時最終候補という吉村さん、開講間もなく4年になりますが、こういうケースは初めてです。惜しむらくは、どちらも最終候補で止まってしまい、労多くして実りが少ないという事ですが……。
 あと、佳作入賞の高藤カヲルさんは、以前から同人活動を積極的に行っていたようです。確かに絵柄のこなれ方はキャリアを感じさせるものではありますね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本&読み切り1本&代原読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作品無し
 ◎今週はチェックポイント対象作品がありません。よって、「サンデー」関連のコーナーは1週休みとなります。ご了承下さい。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年47号☆ 

 ◎新連載第3回『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜《第1回掲載時の評価:B−

 についての所見(第1回時点からの推移)
 第1回時点から長所・短所共にほぼ変わらない水準で推移しています。普通に読み飛ばす上では気にならない程度なのですが、それでもジックリと読み込んでいくと、動感の無さ(=止め絵っぽさ)と表情・ポーズの変化の小ささが否応無しに目立ってしまいます。
 「過ぎたるは及ばざるが如し」になってしまっては困るのですが、それでももう少し派手に動きのある表情やポーズを描いた方が、迫力も出て良いのではないかと思いますね。 

 ストーリー・設定についての所見(第1回時点からの推移)
 第1回の時点で指摘したトリック関連の練り込みの甘さや構成・演出の拙さも相変わらず
ですが、それ以上にシナリオ・脚本の“浅さ”が問題点として浮き彫りになりつつありますね。
 全く意外性も無く一本調子のプロットに、過去の掘り下げや心象描写に欠けた薄っぺらいキャラクター、そしてレトリックのカケラも感じられない台詞回し。主人公がピンチらしいピンチも無く楽々とお宝を奪い取るストーリーで、“偽悪人”になり損ねた“口の悪い善人”が、言われなくても判っている内容の説教を言い放つ…というルーチンはエンターテインメント性が極めて希薄です。
 特に今回、その脚本面の拙さを露呈したのが、カスケが相棒・ポルタについて語るシーンでした。ここは本来なら、これまで読者に提示されていなかったエピソードなどに深く踏み込むべき所なのですが、結局は既に描かれている内容をほぼ繰り返しただけ。これでは単なるページの無駄遣いです。

 とにかくシナリオにしろ、脚本にしろ、熟考に熟考を重ねるべき所で、それを明らかに怠っているように思えます。ストーリーを形として成立するところで終わっている、絶対妥協してはいけない所で妥協しているような作品…といったところでしょうか。これでは、いくらストーリーが形として成立している作品とはいえ、高い評価を出せるはずがありません。

 今回の評価
 B−評価据え置きとします。次回の評価見直しは連載10回時点で、(多分有り得ないでしょうが)A−以上の評価にハネ上がった時には11月末の時点とします。

 ◎読み切り『キャディーガール瞬』作画:後藤竜児

 作者略歴
 
資料不足のため、生年月日・年齢は未判明。
 デビューは週刊本誌99年6号掲載の『はだしの教師』で、これは代原掲載による暫定デビューの可能性が高い。また、01年29号にも同タイトルの代原を発表している。
 その後、「赤マル」01年夏号にこれも同タイトルの『はだしの教師』を発表しており、これが正式デビューか。
 それからは2年半のブランク(高橋和希さんのスタジオでアシスタントを務めていた)があって、週刊本誌04年13号で『ハッピー神社♥コマ太』で復帰、「赤マル」04年夏号には『冒険王』、04年秋発売のギャグ増刊では
『LUCKY☆CHILDタケル』を発表している。
 今作は05年9月発売の「ジャンプ the REVOLUTION!」に掲載された作品『キャディーガール』の設定をほぼ踏襲して創られたリメイク作。

 についての所見
 相変わらずの、高橋和希門下だと一目で判る独特でアクの強い画風ですね。しかしこの画風、よほど作画技術が洗練されていないと、単なるリアリティの無い絵で終わってしまうという難点があります。
 特に後藤さんの描く絵は、かなり以前から動的表現や表情の描き方にぎこちなさが目立っているのが難点。結局は“他とは少し変わっているだけで下手な絵”で終わってしまっているのが現状です。まぁギャグマンガの絵としてはギリギリで及第点かな、とも思いますが……。

 ギャグについての所見
 後藤さんの描く作品は殆どが“天然ボケの変人に翻弄される主人公”というパターンで、今回もそれを踏襲しています。ただこの形式は、ボケキャラの“変さ”が読者の理解の範疇外に飛び出してしまい、笑いに繋がらないケースが多いですし、主導権を完全に失った主人公のツッコミがどうしても弱くなる…という側面もあります。
 特に今作は、ボケキャラの行動のベクトルが、読み手を笑わせるより主人公を窮地に追い込んでいく方に向いており、ギャグがギャグとして成立しているかすら微妙になっています。言ってみれば「ちょっと頭のおかしい人が善良な少年を不幸に叩き込むストーリーの31ページ」になってしまってるんですよね。
 作者としては、何でもかんでもゴルフに例えてしまう所を笑いに繋げたかったのでしょう。ですが、本質的に作品の内容とゴルフは全く関係ないので、その笑い所が全部蛇足になってしまっているような気がしてなりません。

 今回の評価
 評価はC寄りB−とします。後藤さんの場合、一度「天然キャラのボケっ放し」というルーチンから離れてみるのも良いかも知れません。ハッキリ言うと、これだけたくさん同じパターンのギャグを発表して未だに芽が出ないのですから、このパターンに固執している場合ではないと思うのですが……。

 ◎読み切り『番長(バカ)決定戦』作画:相原成年

(受講生の皆さんへ:この作品は評価Cとなりました。結果的に読み手の感情を損ねる論調のレビューになっている恐れがあります。この作品のレビューをご覧になるかどうかは皆さんでご判断下さい。

 作者略歴
 生年月日は現在非公開。
ただし、05年4月期「十二傑」応募時に22歳で、現在は22〜23歳
 05年4月期「十二傑」にて、今作で最終候補となり“新人予備軍入り”。今回が代原掲載による暫定デビュー作。

 についての所見
 「十二傑」の評価表には「絵」の欄に◎がついていたのですが、う〜ん、そこまで良い点を付けていいのだろうか…というのが正直な感想です。
 確かに一見するとリアルタッチの絵柄なのですが、デッサン・遠近感の歪みは明らかですし、動的表現もぎこちない状態。そして背景の描き方やトーンの使い方も、全く雑誌の誌面サイズや紙質の悪さに対応出来ておらず、非常に見辛くて汚らしい絵柄になってしまいました。

 ギャグについての所見
 こちらは全ページに渡って課題山積といった有様です。本来載るはずではなかった作品ですから、それも当たり前と言えば当たり前なのですが……。
 まずはネタの密度。15ページしかない作品で最初のネタらしいネタが出て来るのが4ページ目の最終コマ。その後も、会話がやたらと間延びしていて、ネタのテンポが非常に悪いです。
 次に問題なのが、とんでもなく弱いツッコミ。笑いに繋がるツッコミは殆ど皆無で、形だけでもボケに反応したツッコミならまだマシな方。途中からはツッコミ役の主役が、ツッコミ入れずにドン引きし始めるという、「お前が先に引いたら、読者が笑えるわけねぇだろ」的な寒々しいシーンが連発されてゆきます。
 そしてネタそのものも、目新しさも意外性も全く無い“不良の間抜けな悪さ自慢”パターン。どこかで何度も見た事があるようなネタの展開が続いたかと思えば、「ここでボケて!」的な所でスカして逃げに入ってしまう体たらく。挙句の果てには、恐らくは「ここにこういうキャラがいないとネタと話が成立しないから」という理由で、意味不明の人物が何の脈絡も無く乱入して暴れだすという“無法状態”。ギャグマンガの最低限の文法すら成立が危うい状況で、さすがにこれはちょっと酷過ぎますね……。

 正直な所、いくらノルマとは言え、この作品を熟読した上で評論するのは大変に苦痛な作業でした(苦笑)。

 今回の評価
 新人さんの芽を潰しにかかるようで気が引けるのですが、余りにも余りにもな作品ですので、評価はCとさせてもらいます。

 

 ──というわけで、今週は3作品レビューしてB−評価が最高という、喋ってる方も苦痛極まりないゼミになってしまいました。よく誤解されるんですが、駒木は出来る事なら全作品ベタ褒めしたいと思ってるんです。ただ、現実がそれを許してくれないという……。
 本当、毎週気持ち良くAクラス評価を出せる作品とめぐり合えたらどんなに幸せでしょうね。

 まぁ愚痴っぽくなってしまいましたが、何とか1回分のゼミを終える事が出来ました。この調子で遅れを取り戻して行きたいと思います。では、また今週中にお会いしましょう。

 


 

2005年度第39回講義
10月22日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第4週分)

 ご存知の方も多いでしょうが、第3回「コミックアワード」特別金賞受賞作・『絶対可憐チルドレン』が遂に単行本化となりました。どうやら既に中小規模の書店では売り切れ続出、小学館でも早々に増刷を決定するという、まずまず好調なスタートを切った模様です。
 ただ、書店員さんのブログを散見しますと、初版部数は前連載作『一番湯のカナタ』の失敗もあって、かなり抑え気味だった模様で、楽観するにはまだ少々早いかも知れません。「取次は『犬夜叉』はいいから『絶チル』回せ」や、『ハヤテ』にしても『絶チル』にしても初版の読みが甘すぎる」など、小学館と取次に対する恨み節もあちこちから聞こえて来ましたが……。
 以前、関係者の方から「小学館は、雑誌にしろ単行本にしろ、原則的には売れ残りが出ないように刷る」という話を聞いた事があったのですが、今回の件を聞いて改めて納得、という感じでした。 
 ちなみに駒木は勿論発売初日、残部僅かになった平積みから掴んでレジに直行しました。1巻には幻の読み切り版(第2回「コミックアワード」短編作品部門最終ノミネート作)も収録されていますので、興味のある方は是非、購入を検討下さい。

 次に「コミックアワード」のグランプリ枠推薦ですが、先週辺りから特定の1作品が票を重ねて頭1つ抜け出した形となりました。その候補作品はまだ未読なのですが、今から“審査”が楽しみです。
 ところで、今年度は幸か不幸か「ラズベリーコミック賞」の候補が不作気味で、頭を抱えております。単なる駄作なら「サンデー」の増刊に1冊あたり5〜6作品は載っているのですが(笑)、ブラックユーモアとしての対象になり得る作品が殆ど無いのが現状です。
 こちらの候補作まで公募するというのは、さすがに悪趣味ですからねぇ。さて、どうしますか。
 
 ……と、前置きが長くなってしまいました。そろそろゼミの本題へ参りましょう。
 今週は昨日付実施の競馬学講義で準備時間が不足している上、代原2本のイレギュラーでレビュー対象作が増えたという事情もありますので、「ジャンプ the REVOLUTION」レビューは1週お休みとさせて頂きます。ご了承下さい。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(47号)に、読み切り『キャディーガール瞬』(作画:後藤竜児)が掲載されます。
 
この作品は、先日発売の「ジャンプ the REVOLUTION」に掲載された『キャディーガール』のマイナーチェンジ版だと思われます。レビューの順番が時系列と逆になってしまいますが、とりあえずこちらを優先してレビューすることにします。
 なお、後藤さんは2回目の週刊本誌登場。不評に終わった前回のリベンジなるか、といったところでしょうか。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…4本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本&読み切り1本&代原読み切り1本
 「サンデー」
:代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年46号☆ 

 ◎新連載第3回『べしゃり暮らし』作画:森田まさのり《第1回掲載時の評価:A−寄りB+

 ●についての所見(第1回時点からの比較)
 ベテラン作家さんの作画が短期間で変わるはずも無く、特記すべき事項はありません。前回のレビューで採り上げた人物ごとの描き分けにしても、第2回以降は気にならない程度の範疇になっています。髪型と顔のパーツのバリエーションがいかに多いかの証明でしょう。

 ストーリー・設定についての所見(第1回時点からの比較)
 こちらも、第1回時点で指摘したポイントを、良い所も悪い所も共に変わりなく引き継いでいます。非常にレヴェルの高いテクニックを感じる一方で、スケールの小ささや作中ギャグの扱いには未だ苦闘中…といったところでしょうか。
 ただ、今週の第3回辺りからは、ストーリーが徐々に学校レヴェルを超えた所へ踏み出そうとしているようですので、これはしばらく様子を見たいと思います。 

 あと、ここまで気になる点としては、主人公・圭右に読み手が感情移入するための“取っ掛かり”が少ない点ですね。“人の迷惑顧みず、変人の域まで辿り着いた笑わせたがり”というキャラクターに共感させるというのは、かなり難しいテーマだと思うのですが……。
 そんなドギツいキャラの割に不快感を与えないよう配慮しているのは流石ですが、これについても、この作品を語る上ではネガティブな要素になりそうです。

 現時点での評価
 評価はA−寄りB+で据え置きます。しかしこの作品、かなり特異なジャンルの作品ですので、駒木にとっても扱いが難しいんですよね(苦笑)。
 次回評価見直しは10回時点としますが、「コミックアワード」のノミネート締切が11月末ですので、そこまでに評価を上方修正する必要があれば、適時評価見直しを実施するつもりです。

 ◎読み切り『闘魂パンダーランド 〜学業立志編〜』作画:ポンセ前田

 ●作者略歴
 生年月日は未公開だが、「赤塚賞」受賞時の年齢から推測すると現在25〜26歳
 03年下期「赤塚賞」にて、水溜三太夫名義で佳作を受賞。その後現在のペンネームに改名し、週刊本誌04年33・34号に2週連続掲載された『機動球児山田 〜めぐりあい稲木〜』でデビュー。その後、04年秋発売のギャグ増刊、週刊本誌05年7号にて『おれたちのバカ殿』を発表。
 今作は、05年春発売のヒーローズ増刊および「赤マル」05年夏号に掲載された『闘魂パンダーランド』シリーズの第3作。 

 についての所見
 
「赤マル」掲載の前作から間隔が殆ど無いこともあって、印象としてはその時述べた↓

 デビュー時に比べると、全体的にペンタッチが洗練され、徐々に良くはなっては来ていると思います。ただ、今年1月の時に述べた、「動的表現が甘く、背景の描き込みも少々不足気味。人物の表情のバリエーションも増やして欲しい」……という問題点はそのままで、これは残念でした。

 ……から殆ど変わっていません。そろそろ絵柄が良くも悪くも固まって来た感もありますね。
 これが欠点が一種の“味”になって来れば良いのですが、なまじ絵が上手くなって来たため逆に苦しいのかも知れません。洗練されたマンガとして正統派の絵柄になっている分、余計に下手な部分が目立ってしまっているのではないでしょうか。

 ギャグについての所見
 残念ながら、このシリーズは回を重ねれば重ねる程にデキが悪くなっている感があります。掲載誌の発行部数と反比例してクオリティが下がっていく作品というのも悲しいですね。

 ポンセ前田さんの作品は、学校が舞台になると『クロマティ高校』に雰囲気が酷似する特徴を持っていますが、今回も“パンダ版メカ沢”みたいなコンセプトの作品になりました。が、悪い意味で「似て非なる」を地で行く内容になってしまっています。
 まず、主役のパンダは、自分をパンダと自覚しながらも人間らしく振舞おうとします。そのため、『クロ高』のメカ沢がそうしたような、人間社会に異分子が混じる事によって生まれるネタと笑いが出て来ませんでした。1〜2箇所、「パンダが人間以上に人間らしく振舞う」という違和感で生まれるギャグが見受けられましたが、これでは質・量共に物足りません。
 また、人間社会に混じる異分子として、わざわざパンダを選択した理由が作品内から殆ど見出せない、つまりパンダでなければ出来ないギャグが極めて少ないのも大きな問題ですね。もっと生物学的なパンダの特徴を利用したネタが欲しかったです。

 あとはこれも相変わらずなのですが、ネタの密度が薄いのです。笑いに繋がらないような遣り取りも律儀過ぎるぐらい律儀に描いてしまうため、ページ辺りのネタ数がが減ってしまうのでしょう。
 無駄な場面を省略するのは、ネタの密度を濃くするだけでなく、場面を省略する事そのものもネタに繋がります(場面転換前と後の差が激し過ぎると、笑いに繋がる違和感が出るため)。今後はこの辺りも意識したネタ作りも考えて欲しいです。 

 今回の評価
 評価はB寄りB−とします。ちょっと今回の作品はネタの吟味不足、推敲不足だったのではないでしょうか。

 ◎読み切り『たいして良い思い出もできそうにない学校生活』作画:伊藤直晃

 作者略歴
 生年月日は非公開。05年上期「赤塚賞」応募時25歳とのことで、現在は25〜26歳
 「十二傑」への投稿を経て(04年12月期「最終候補まであと一歩」)05年上期「赤塚賞」にて、『たいして良い思い出もできそうにない学校生活』で準入選を受賞。そして、週刊本誌05年43号にて、その受賞作を15ページに短縮しての代原暫定デビューを果たした。今回は、その暫定デビューの際に掲載されなかったページを繋ぎ合わせたもの。

 ●についての所見
 
元々は43号に掲載された分と同じ作品ですので、基本的には全く同じ印象を受けました。
 人物作画が比較的シッカリしているものの、トーンを使うべき部分の処理が甘く、線も粗くて安定感に欠けています。率直に言って、基本的な作画技術が根本的に欠けているという印象です。ただ前回掲載された分は、技術の未熟さがギャグのクオリティに影響していないネタばかりで救われました。

 が、今回掲載分では、残念ながらそうも行かず、絵のマズさがギャグにも悪影響を与える程になってしまいました。動的表現や集中線などの特殊効果があまりにも拙く、せっかくの動きが有るはずのオチが映えないネタが目立つ結果に。
 そういうわけで、今回はさすがに減点材料にしないといけないかなぁ…という感じですね。 
 
 ギャグについての所見
 前回掲載から漏れた分を繋ぎ合わせて再構成したという事もあってか、オチのパターンもクオリティもかなりのバラつきがあったように思います。ツッコミを読み手に委ねるオチばかりで失敗した前回に対し、今回は省略とサイレントの効果を使った比較的高度なオチや、“間”が上手く決まっているオチなど、ネタによっては上手くハマっているオチもありました。
 ただ、まだ作者が想定する“ストライクゾーン”と実際の“ストライクゾーン”にはかなりのズレがあるようで、やはり多数のネタはツッコミが弱く、またボキャブラリー不足が目立ちました。先述のように「サイレント効果と“間”の余韻で笑わせるネタが良い」と思えたのは、ひょっとしたら欠点の裏返しなのかも知れません。

 今回の評価
 前回に比べて絵で減点、ギャグで加点、という事で、評価はB−に据え置きます。
 この年齢で、このクオリティでデビュー作、しかも連載枠の極端に狭いギャグという事で、伊藤さんには相当厳しい茨の道が待ち受けていると思いますが、このまま「ジャンプ」で活躍しようというのなら、覚悟を決めて精進してもらいたいものです。
 

☆「週刊少年サンデー」2005年47号☆

  ◎読み切り『織田信夫』作画:飯島浩介

  作者略歴
 生年月日は非公開。04年11月期「まんカレ」応募時26歳とのことで、現在は26〜27歳
 本人かどうか100%確認は出来ないものの、02年に『月刊少年ガンガン』のショートギャグ企画に掲載歴があるようで、これが一応のデビュー作か。
 「サンデー」では、04年11月期「まんがカレッジ」にて努力賞に入賞し“新人予備軍”入り。隔月増刊05年5月号にてデビューし、7月号にも読み切りを発表
 週刊本誌では、05年40号に代原の掲載経験がある。

 ●についての所見
 イレギュラーな代原ゆえに前回掲載の作品より製作が先か後かすら分からないのですが(というか、ネタに『セカチュー』のパロディがあるので、その頃の製作?)前作同様に粗い部分がありつつも、見易い絵柄ではあると思います。線の細・太のメリハリが良く、背景も雑に見えて必要最小限の描きこみはキッチリとこなしています。
 決して画力が高いとは言えず、高評価を出せるわけではありません。ですが、欠点を欠点らしく見せない、良い意味での誤魔化しが上手い、そんな絵と言えるのではないでしょうか。 
 
 ギャグについての所見
 こちらも前回の作品同様、ネタのバリエーションや見せ方のテクニック面自体はなかなかの水準だと思います。正統派のボケ・ツッコミを基本にしながら、“間”で見せるネタやメタなネタ、更にはト書きを絡めた変則的なネタもありました。
 ことテクニック面だけに限って言えば、(『神聖モテモテ王国』は別格として)ここしばらく概ねギャグ作品のレヴェルの高くない「サンデー」でなら、連載まで行ってもおかしくない水準ではないでしょうか。……とはいっても、これから述べるように、これもあまり積極的な褒め言葉では無いのですが(苦笑)。

 今作で問題なのは、肝心なネタの内容。余りにもベタ過ぎるというか、先の読める予定調和な展開ばかりだったような気がします。また、ページ配分やコマ割りのテンポがギクシャクしており、本来盛り上げるべき所で盛り上がらず、終わり方も中途半端に映りました。
 実はこの辺りも最近の「サンデー」ギャグ作品の典型的なパターンで、良くも悪くも「サンデー」っぽい作品…ということになるのではないでしょうか。 

 現時点での評価
 評価は今回もとします。もう一皮剥ければ…という作家さんなんですけどね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、『見上げてごらん』の連載30回評価見直し。確かに掲載順は上を見上げなきゃならない位置に落ちて来ましたが……

 ◎『見上げてごらん』作画:草場道輝
 旧評価:B新評価:B(据置)

 今回も評価据え置きとしました。
 部内対抗戦はテコ入れの疑いが濃いアッサリ過ぎる早急な決着に。その後もキャラクターの掘り下げもソコソコに、伏線を張った後は慌しく特訓編へ突入するという性急な展開が続いています。
 その間、読み手を作品世界に没入させる事も無く、本当にスリルのある、先の読めないストーリーもありません。スポーツマンガとしての手続きを淡々と重ねているだけ…という感が強く、作品のクオリティには大きな不満が残ります。ベテランさんの作品らしく、マンガとしての体は成しているので評価は下げませんが、かなり厳しい現状と言わざるを得ません。
 なお、この作品は今回で一応の評価確定とし、クオリティに大きな変化があった時のみ採り上げることとします。

 

 ──というわけで、今週のゼミを終わります。正直、代原のレビュー2つというのは精神的にキツいです(苦笑)。“させられてる感”が物凄いので、出来る事なら勘弁してもらいたいのですが……。
 特に『うえきの法則』は、異常事態が2ヶ月以上続いているわけで、そろそろ長期休載&新連載開始などの抜本的な対策を考えて頂きたいところです。まぁ代原が増える度に弱ってる読者なんて、90万読者でも駒木ぐらいのもんでしょうが……。

 


 

2005年度第37回講義
10月15日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第3週分)

 現在募集中の「コミックアワード」ワイルドカード推薦ですが、既に2票獲得=予備審査推薦決定が3作品出ております。ただ、昨年度の『おおきく振りかぶって』のように票が集中する作品はなく、票は完全に割れ気味ですね。
 去年の『おお振り』の推薦文を読み返すと、推薦人各位の「何としてもこのマンガを駒木に読ませるぞ!」という熱意が篭っているのを感じます。思えば、この作品がグランプリを獲ったのは必然だったのかも知れませんね。

 なお、推薦の募集は11月末まで続行します。推薦要件を満たす良い作品をご存知の方は、是非とも熱き1票を駒木のメールボックスへ。

 ──それでは、ゼミを始めます。今週も「ジャンプ・ザ・レボリューション」のレビューをお送りするつもりですが、時間と駒木の余力の関係上、先週同様に日曜〜月曜に追加振替の形を採るか、独立したミニ講義を実施する事になると思います。ご了承ください。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(46号)に、読み切り『闘魂パンダーランド 〜学業立志編〜』(作画:ポンセ前田)が掲載されます。
 
昨年のギャグ増刊、そして今年の「赤マル」と連続して掲載されたショートギャグ作品が週刊本誌登場です。
 読み切り掲載のチャンスをなかなか繋げられないポンセ前田さんですが、今回こそ結果を出せるのか、というところも注目になりそうですね。

 ★新人賞の結果に関する情報

第29回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年8月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『刀無』
   平方昌宏(19歳・東京)
 《星野桂氏講評:キャラが活き活きとしており、結末もオチがあってしっかりしていた。強いて言えば、主人公に呪いをかけたキャラの説明が不十分でだった点が若干わかり辛い印象。》
 《編集部講評:キャラが魅力的で、話の導入も良い。千人を切った侍だという部分を納得せる一面が描けていればなお良かった》
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『蒼煌のレウ』
   江藤俊司(23歳・福岡)
  ・『修理屋』
   西島麗(19歳・宮城)
  ・『Three Swordman's Nostalgia』
   梧桐柾木(20歳・京都)
  ・『オタッキュウ』
   鈴木ヒカル(20歳・千葉)
  ・『伝説の少年』
   佐藤亮輔(年齢非公開・新潟)
  ・『辺境惑星“E”』
   吉村英明(24歳・神奈川)
  ・『Crimson −クリムゾン−』
   神崎暁也(22歳・大阪)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎十二傑賞の平方昌宏さん04年11月期「十二傑」で最終候補。04年3月期「十二傑」にも投稿歴あり。また、現在通学中の専門学校のサイトに写真とインタビュー掲載中(9/27付)。
 ◎最終候補の江藤俊司さん…04年1月期「十二傑」でも最終候補。03年06月期「十二傑新人漫画賞」で投稿歴あり。

 ◎最終候補の西島麗さん…03年下期「ストーリーキング」マンガ部門で最終候補。
 ◎最終候補の
梧桐柾木さん…05年6月期「十二傑」で作画担当者として最終候補。
 ◎最終候補の
吉村英明さん02年6月期「天下一漫画賞」に投稿歴あり。

 ……今回は、過去の最終候補者の再チャレンジ大会となった模様です。偶然か、慣例か、こういう月が年に数回ありますよね。まぁ7〜8月は学生さんにとっては夏休みなので、「総合的に応募作が多くなる→手馴れた投稿経験者がどうしても上位に来る」という図式なのかも知れませんが。 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年45号☆ 

 ◎新連載『大泥棒ポルタ』作画:北嶋一喜

 ●作者略歴
 1985年8月6日生まれの現在20歳。現役大学生(……だが、連載中の学業両立は困難そう)。
 01年8月期「天下一漫画賞」で特別賞を受賞して“新人予備軍”入りした後、03年3月期「天下一」にて『SEA SIDE JET CITY』準入選を受賞し、これが「赤マル」03年夏号に掲載されてデビュー。その後、1年4ヶ月のブランクを経て「赤マル」05年冬(新年)号、及び05年19号に、今作と同タイトルのプロトタイプ版読み切りを発表。この一連の流れで評価を高め、初の週刊連載獲得となった。

 についての所見
 
連載前に2度の“試走”を重ねていることもあるのでしょう、人物作画を中心に、安定感がありますね。また、デビュー時のぎこちない線の面影は全く無く、2年半のキャリアの中で、確実に作画作業に手馴れているのが分かります。
 ややマンガ的にディフォルメが強過ぎる画風だけに好き嫌いが分かれる可能性もありますが、洗練された好感度の高さも兼ね備えています。「ジャンプ」の連載作品として通用する水準には達しているのではないでしょうか。

 ただ、顔面・バストアップのコマが多めで構図は相変わらず単調に映りますし、集中線の引き方がズレているのか、動的表現に迫力が全く感じられないのは大きな問題ですね。全体的にどのコマも止め絵臭いので、決めのシーンの見栄えも今ひとつ。インパクトに欠ける画面構成に陥っている感は否めません。

 ストーリー・設定についての所見
 
こちらも「読み切り版から相変わらず」なのですが、脚本・構成・演出の拙さが目立ちます。とにかく冒頭から中盤にかけて文字による説明に頼り過ぎで、設定から話の筋書きから全てがト書き・説明的なセリフの羅列で進行していっています。
 その結果、いわゆる“カメラワーク”が動きの無い単調な顔面・バストアップの連続になり、長セリフと相まって、極めて冗長な展開になってしまいました。後半に入って多少演出に力が入ったシーンもあったのですが、手垢の付いた平凡な脚本のせいもあり、盛り上がりに欠ける印象でした。残念です。 

 次にプロトタイプ版以来、この作品の“肝”の部分となっているトリックですが、今回は「赤マル」掲載版の焼き直しとなる牢破りでした。当時からネット界隈の評判は今ひとつだったと記憶していますが、まぁ見たところ致命的な矛盾は無いようですので、これ自体を減点材料にする事はありません。
 ただ、トリックのレヴェルはさておいても、成功にまず敵失菓子に擬した道具の持ち込みと差し入れの看過)が必要な時点で、大いに興が削がれた感が否めません。また、一連の作業における段取り臭さがストーリーのテンポを悪くしたという側面もありはしないでしょうか。 それに、そもそもこの「トリックを使った問題解決」というのが、果たして良いのかどうか、という問題もあります。下手にトリックで押すよりは、痛快なアクションシーンを交えたパワープレイの方が、“静”と“動”のコントラストや、テンポとダイナミックさに溢れた演出でプラス効果が得られる分だけ勝ると思うのですが……。
 トリックは、この作品のアイデンティティではあるのですが、そのアイデンティティが作品全体のクオリティに繋がっていないとなれば、早い時期にテコを入れるという選択肢も浮上するでしょうね。

 また他にも、主人公・ポルタの“偽悪人”描写の中途半端さなど、誌面の至る所から“生温さ”のような物が漂う第1回だった…という感が強く残りました。新連載不作の続いた02〜03年にタイプスリップしたかのような錯覚を覚える、前途多難の船出と言えそうです。

 今回の評価
 この作品が人気投票でどういう成績を収めるかは未知数ですが、当ゼミとしては完全な失敗作としてB−評価に留めます。現状は「この作品を連載しようとしたのが最大の失敗」といったところでしょうか。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週は『タカヤ』の連載20回評価見直しです。

 ◎『タカヤ -閃武学園激闘伝-』作画:坂本裕次郎
 旧評価:B−
新評価:B−寄りB

 打ち切られた“同期”2作品を尻目に3クール目に突入したこの作品ですが、ここへ来て唐突に格闘技トーナメントが開幕するテコ入れが実行されるなど、順調とは言えない現状のようです。この分かり易いテコ入れ、以前は「ジャンプ」のセオリーだったのですが、最近では珍しいですね。

 さて、その“勝負”テコ入れ後の内容ですが、残念ながら、やや低調と言わざるを得ません。どこからどう見ても『DRAGON BALL』の天下一武闘会『グラップラー刃牙』の最強トーナメント編、というオリジナリティの欠如は拭い難く、それをさておいても、登場選手のキャラクターの弱さ先の読めてしまうトーナメントのマッチメイク構成、更には戦闘シーンそのものの淡白さと、ネガティブな要素満載な内容に終始しています。
 主人公・タカヤや準主役クラスが絡んだ試合では、もっとタカヤや主要キャラが窮地に陥るようなスリリングな展開が欲しいですし、他の試合でも読み手の予想を裏切るような出来事がもっとあっても良いはずです。どうせ『刃牙』を真似るなら、街の暴走族がマイク・タイソン(みたいな人)に勝っちゃう位のサプライズまで完全コピーしてもらいたいものです。
 まぁそもそも、根本的に登場人物が揃っていない時点で総集編的なトーナメントをやる事自体無理があるのですが……。

 評価の上方修正は、バトルの特化で低水準のドラマが無くなった分だけ減点材料が消えたから…と解釈して下さい。悪意と受け取られたら不本意なのですが、まぁ駒木はそれぐらいこの作品をクオリティ面で買ってないと考えてもらっても構いません。
 

☆「週刊少年サンデー」2005年46号☆

 もう御馴染みという感じで、『うえきの法則プラス』が休載&代原掲載。最近の「サンデー」は、カテナチオな編集方針なので、貴重なレビューの機会ではあるんですが……。でもどうせレビューするなら連載経験者の重厚な読み切りが読みたいんですよね。

 ◎読み切り『天晴れ! 半ケツ侍』作画:遊眠

 作者略歴
 生年月日は非公開。05年前期「コミック大賞」応募時27歳とのことで、現在は27〜28歳
 05年前期「小学館新人コミック大賞」少年部門で佳作入賞。この時の受賞作『(カリスマ)整体新米臨時教師ゴトサン』が、隔月増刊05年9月号に掲載されてデビュー。
 今回は代原ながら初の週刊本誌登場。

 ●についての所見
 新人さんの、しかも代原用のストック原稿ですので仕方ありませんが、原稿が雑誌に掲載されてどうなるか分かっていない…というような描き方ですね。全体的にゴチャゴチャした画面構成で、描線やトーンの網目が必要以上に細かくて見辛い絵になってしまいました。大きめサイズの原稿用紙から、雑誌サイズの質の悪い紙への縮小印刷が行われる事を全く意識していない感じで、これでは載せるのが逆に可哀想なくらいです。
 技術的な面では、集中線などの特殊効果に無駄が多く、こちらも見辛さに拍車がかかっています。また、全般的に読み手の目を惹き付けるべきポイントの強調が甘く、読み手が真っ先に目が行くところにギャグのポイントが来ていない…という個所もいくつか見受けられました。
 
 ギャグについての所見
 とにかくギャグの密度を濃くして、テンポ良く読ませようという意欲“だけ”は窺えるのですが……。残念ながら、粗製濫造のネタをただただ無闇矢鱈に注ぎ込んだだけに映ってしまいました。
 これは、登場人物のキャラクターが定まっておらず、更にはネタとネタとの間に余りにも脈絡が無いからだと思います。読み手を笑わす以前に戸惑わせるマンガと言えば良いのでしょうか……。
 まぁ主役格の侍には「鞘当てにこだわる」と「半ケツ」というキーワードがあると言えばあるのですが、その2要素自体が全く脈絡がないですからね……。

 ネタのクオリティも疑問が残りますね。ボケよりも何の工夫の無いツッコミの方が強調される構成になっていたり、言葉の使いまわしの工夫が乏しかったりと、笑いの間口を狭めよう、狭めようとしているように見えてしまいます。とにかくネタの見せ方で大きく損をしているという印象ですね。

 現時点での評価
 ちと厳しいかも知れませんが、とても商業誌に載せる水準には達していない、ということでC寄りB−の評価に留めます。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、連載第30回を迎えた『ブリザードアクセル』の評価見直しです。

 ◎『ブリザードアクセル』作画:鈴木央
 旧評価:A−新評価:A寄りA−

 相変わらず微妙な評価の表現で恐縮ですが、実質0.5ランクの上方修正です。ビギナーが成長していくスポーツ物作品にとっては難関の序盤を突破して、完全にお話が軌道に乗って来た感じです。
 まず、主人公・吹雪がフィギュアスケートの実力が着いて来るにつれ、正面突破でライバルを打ち負かせるようになったのが大きいですね。読み手にカタルシスを与え易くなりました。
 次に、全寮制の合宿と共に新規登場人物を大量投入し、彼らのキャラが徐々に浸透して来たのも良いですね。かなり個性の強い敵役キャラも登場し、今後の展開も楽しみです。

 現在はまだ地味な佳作…といったところですが、今後一気に大化けする可能性も秘めた、期待の一作です。世間的には全く注目されていない作品ではありますが、こういうマンガこそ、当ゼミがプッシュしていきたいですね。

 

 ──というわけで、とりあえずレギュラー企画はここまで。この後は、「ジャンプ」増刊レビューをお送りします。今週は2作品のレビューとなります。
 ところで前々回のゼミ内で述べた、ウィキペディア・『ネウロ』の項目内で当講座が不本意な扱いを受けていた件ですが、15日にどなたかが削除修正を施して下さいました。有難うございました。

◆「ジャンプ the REVOLUTION」レビュー(2)◆

 ◎『マジシャンズ ジャッジメント』作画:尾崎裕一

 作者略歴
 1978年10月12日生まれの27歳
 新人賞受賞歴等、デビュー以前の経歴については資料不足のため不明・調査中。「赤マル」00年春号にて『PENALTY』でデビュー。その後、澤井啓夫さんのスタジオでアシスタントを務める。
 今作は、実に5年5ヶ月ぶりの復帰作となる。

 についての所見
 背景からは無駄な部分がキッチリと省かれていますし、描線も比較的安定しています。見易さという点ではなかなか高い水準の絵柄ではないでしょうか。

 ただ、動的表現にぎこちない面もあり、アクションが必要な所で迫力に欠けるなど、手放しで褒めるには躊躇を覚えてしまいます。また、老若・美醜の描き分けが極端過ぎ、リアル系の絵柄とマンガっぽいディフォルメの施された表現が混在しているのも、余り良いとは思えません。
 もう少し全体的にリアル志向の絵柄を目指すぐらいで丁度良くなるのではないかな、と感じました。
 
 ストーリー・設定についての所見
 フォーマットは過去作も多い“『必殺仕事人』型復讐モノ”で、そこに「手品」という独自の要素を交えた設定ですね。手垢の付いた設定ににオリジナルの要素を混ぜて独自性を演出する…というのは、話作りの基本ではありますが、だからこそ、それが守られているのに好感が持てます。
 ただ、今作の暗くてシリアスなストーリーの流れの中で、「手品」という非現実的な明るさを伴う要素はミスマッチだったのではないでしょうか。読み手によっては、主人公の能天気な振る舞いが好感度を押し下げてしまうかも知れません。独創性のあるアイディアながら、それが活きる環境を与えられずに拒絶反応を起こしてしまったかな…といったところです。

 また“『必殺仕事人』型復讐モノ”のシナリオにしては、読み手に与えるストレスとカタルシスの振り幅が小さかったように思えます。あんまり大き過ぎると、それはそれで読み手がエグさに引いてしまうので問題ですが、エンターテインメント性を追求するなら、ある程度の残酷さも必要不可欠なはずです。
 まず被害者が酷い目に遭って読み手に“復讐願望”のようなモノが沸き上がらせ、それを作中の主人公(=復讐者)に仮託させて作中世界や登場人物に対する感情移入が一気に促進させる。そして、その後の復讐シーンによって、一気に溜め込んだストレスをカタルシスに転換させる…という流れ、これこそが“『必殺仕事人』型復讐モノ”の黄金パターンではないでしょうか。
 それを考えると、今作は被害者側の被害も、復讐者側の復讐も、かなりヌルかったのではないかな…と思います。特にこの増刊では、巻頭カラーで美少女が両足を切断されて舐め回されるマンガが掲載されていただけに、余計インパクト不足が浮き彫りになっていました。 

 今回の評価
 評価はB寄りB−とします。ただ、この作品は「作家の実力不足がもたらした駄作」というよりは、「作家が実力の使い方を誤った失敗作」という感じです。次のチャンスでは、アイディアを練りに練り、推敲に推敲を重ねて、実力が遺憾なく発揮された作品を描かれる事を望みます。

 ◎『World 4u_』作画:江尻立真

 作者略歴
 生年非公開で6月18日生まれ。後述のように98年に大学在学中に本格的な活動をしていた事から考えると、現在20代後半ではないかと考えられる。
 金沢大学の漫研出身で、そこではマンガだけでなくアニメ制作にも関わったという本格派。在学中の98年末、「赤マル」99年冬(新年)号に『CHILDS』を発表してデビュー。「赤マル」には99年夏号にも読み切りを掲載。
 その後4年のブランクがあり、週刊本誌03年25号にて、今作に至る『World 4u_』シリーズの第1作で復帰。その後、04年5・6合併号にシリーズ第2作を発表した。
 今作はそれ以来1年9ヶ月ぶりの復帰作にして、シリーズ第3作目となる。
 なお、作家以外の活動としては、尾田栄一郎さんのスタジオでアシスタントを務めている(いた?)。

 についての所見
 繊細かつ高度に洗練されたレヴェルの高い作画技術は今作でも健在。特に今作では、以前に比べて描線の強弱が強調されるようになっており、見栄えの良さも更に増して来た印象があります。絵だけでカネが取れる希少な才能を持った若手作家さんですね。
 得も言われぬ“マイナー系月刊誌っぽさ”を漂わせる画風ではありますが、これはペンタッチや画風がメジャー少年誌では余り見られないものであるためでしょう。現在の「ジャンプ」は、連載作品の絵柄のバリエーションが広過ぎるぐらい幅広いですし、この作品が溶け込む余地も十分残されていると思います。
 
 ストーリー・設定についての所見
 様々な趣向を凝らし──それが必ずしも成功したとは言えなかったシリーズ1、2作目とは異なり、今回はオーソドックスな怪談話のショートストーリー2本立てという構成でした。これは恐らく、今作は読者から都市伝説・怪談話を公募する企画の“お手本”としての役割を担っているからでしょう。

 しかし、この手の都市伝説や怪談話はショート・ショート的な簡潔さが求められ、その分ホラーやスプラッタとしてはキャラクターの作り込みやシナリオの練りこみが不足しているモノが殆どです(勿論例外もありますよ)実在する語り手がいて、「本当にあった話である」というノンフィクション性・現実味があって初めて成立するエンターテインメントであります。
 それに対して今回の作品は、架空世界の人物に語られた、架空世界での「本当にあった話」──つまりはフィクションです。これでは、単なる“練りこみの不足したホラー短編”という事になってしまいます。

 そういうわけで、とりあえず今回はマンガ形式の“企画募集PR記事”と判断した方が良いのかな…という印象です。こんなコンセプトで描かれたマンガにエンターテインメント作品としての評価を下すのはちょっと気の毒ですね。

 今回の評価
 ……という結論に従って、今回は評価なしとします。もし、1つの作品として評価を下すならB〜B+の間ぐらいになるんじゃないでしょうか。

 

 ……何とかかんとか、今週分もお届けする事が出来ました。全ての面において限界が切迫しているのを感じるこの頃ですが、今の自分のモチベーションでやれる事を、許される最大限の範囲で、やりたいように積み重ねていきたいと思っています。どうか何卒。

 


 

2005年度第36回講義
10月7日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第2週分)

 今週も世を忍ぶ仮の本業の方へエネルギーを削り取られて消耗しきっている駒木です。中間テストの試験問題作りが修羅場状態でして、どないにもならんわという状態で……。
 よって今週は止む無く変則的な講義となります。本日にまずレギュラー企画のレビューとチェックポイントをお送りし、その後、連休中に「ジャンプ・ザ・レボリューション」の作品レビューを2〜3作品分、追加振替分として付け足して公開します。
 非常にややこしい事になってしまい恐縮ですが、限られた時間と駒木の気力を効率良く使う苦肉の策でございます。どうかご理解を。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(45号)より『大泥棒ポルタ』(作画:北嶋一喜)が新連載となります。
 
北嶋さんは現在の「十二傑新人漫画賞」の前身・「天下一漫画賞」最後の受賞者(03年3月期準入選)で、03年「赤マル」春号にて17歳の若さでデビュー。05年には「赤マル」と週刊本誌にて今作のプロトタイプ版読み切りを発表し、今回の連載獲得に繋げました。
 ただ、プロトタイプ版の2編を読んだ限りでは、ストーリーの根幹となるトリックにかなり難がある感じで、連載化には不安が隠せません。この準備期間の間に相当なアイディアの練りこみが無いと、早晩危うい事になるのではと個人的には危惧していますが、さてどうなることでしょうか。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:対象作品なし
 ◎今週は、「サンデー」についてはチェックポイント対象作品もありませんので、こちらのコーナーは1週休みとなります。ご了承下さい。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年44号☆ 

 ◎新連載『べしゃり暮らし』作画:森田まさのり

 ●作者略歴
 1966年12月22日生まれの現在38歳
 84年上期「手塚賞」で佳作を受賞(森田真法名義)し、受賞作『IT'S LATE!』が「フレッシュジャンプ(注:80年代に出版されていた、若手・新人作品中心の月刊誌)に掲載されてデビュー。その後、85年上期「手塚賞」でも佳作を受賞し、86年から87年にかけて当時の「少年ジャンプ」季刊増刊で3回の掲載を果たす。なお、85年よりしばらくの間、『北斗の拳』連載中の原哲夫さんのスタジオでアシスタントを務める。
 週刊本誌デビューは87年50号の『BACHI−ATARI ROCK』。これがリメイク、改題の末に連載化されたのが『ろくでなしBLUES』で、8年9ヶ月間(88年25号〜97年10号)・422回にも及ぶ長期連載となる。
 その後、1年ほど読み切り中心のマイペースな活動を続けた後、98年より『ROOKIES』を連載(98年10号〜03年39号、途中中断あり。通算239回)
 その後は「赤マル」04年春号にボクシング物の超短編作品を発表した後、「週刊ヤングジャンプ」04年37・38合併号、「少年ジャンプ」週刊本誌05年5・6合併号に相次いでお笑いを題材にした読み切りを発表。今作は、その週刊本誌に掲載された読み切りから設定をマイナーチェンジさせて連載化したもので、2年ぶりの週刊連載。

 についての所見
 森田さんの作品をレビューする際には前々から述べているのですが、画力については全くケチの付けようがありません。極めてレヴェルの高いリアルタッチで精微な作画は、歴代「ジャンプ」作家の中でも指折りの上位に入ることでしょう。
 ただ、今回は軽微な減点材料として、主人公・圭祐と、敵役の1人・玉木の相貌が微妙に似ていて、少々見分けがつきにくい場面がありました。まぁ駒木も実際に高校に勤めているので、同じ学校に通っている(=同じ制服・校則・トレンド)生徒の見分けのつき難さは理解出来るのですが……。

 ストーリー・設定についての所見
 冒頭から無駄の無い構成に熟練の実力を感じさせてくれました。世界観や登場人物のキャラクター設定が一切のわざとらしい説明抜きに描写されており、見事としか言いようがありません。
 脚本や演出面も申し分無し。お笑いを題材とした作品では生命線ともなるセリフ回しも抜群に達者ですし、構図の取り方も、読み易さを損ねない範囲でバリエーション豊かに仕上がっています。
 この辺はやはり、通算で761回の週刊連載をこなして来た強みでしょう。ことテクニック面に関して言えば、非常に高い完成度に達していると言って良いでしょうね。

 ……しかし、どうなんでしょう、今回に限って言えば、何とも言えぬ話のスケールの矮小さと演出過剰の“クサさ”が気になって仕方ありませんでした。
 何しろ、主人公の“お笑い”のスキルにしても、敵役の狡賢さ・悪さにしても、全ての遣り取りがあくまで“校内一”クラス。誤解を恐れず表現を選ばず言えば、「みみっちい」上に「安っぽい」のです。
 確かにリアリティという点で考えると、この設定も正着ではあるのですが、リアリティの高さとエンターテインメント性の高さが必ずしも一致しないというのがストーリーテリングの難しい所。高度なエンターテインメントを成立させるには、少なくとも第1回時点の世界観はあまりにも平凡過ぎるように思えるのです。

 あと、主人公が次々と放つギャグの扱いも難しいところですね。森田さんはコメディ要素の高い作品も難なくこなす、ギャグのスキルも高い作家さんではあるのですが、それでも本職で専業のお笑い芸人やギャグ作家さんと伍して行こうとするには限界があるでしょう。
 まぁこの作品の場合、一応は「作中のギャラリーが笑ったギャグ=面白いギャグである」という演出で対処してはいますが、この演出も万能ではありません。もし、ギャグに対する反応が、読み手と作中で大きく異なった場合、それは読み手の作品への感情移入を損ねる結果に繋がる事でしょう。
 そもそも笑いに関するセンスやギャグに対する反応は読者によってそれぞれです。しかし、この作品をストーリー作品として成立させるためには、この多種多様・十人十色な笑いに対する基準を強引に一本化するしかないわけです。これはかなり厳しい手枷・足枷でしょう。この構造上の欠点とどう向き合っていくか、それがそのままこの作品の課題になっていくのではないでしょうか。 

 現時点での評価
 テクニック面は全く申し分ないものの、構造上の欠陥(または欠陥になる恐れの高いポイント)を考慮すると、Aクラス評価を下すには躊躇を覚えます。そこで、今回はA−寄りB+として、今後しばらく様子を見る事にします。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週のチェックポイントは、まず先週ウッカリとチェック漏れしていた『ムヒョ』の連載40回評価見直しから。それから『太臓』の連載10回評価見直し、そして残念ながら今回で連載終了となった『切法師』の連載総括を実施します。

 ◎『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之
 旧評価:A−寄りA新評価:A−寄りA(据置)

 高い水準での評価据置としました。
 現在展開中のエピソードは、対悪霊とのバトルや同業者ライバルとの駆け引きなど、これまでややおざなりになっていた部分にスポットを当てたもの。しかも、それがキチンと起伏に富んだ展開上手く演出出来つつあるのですから立派です。
 連載開始以来、感動系悲話からサスペンスホラーまで、幅広い趣向のストーリーを紡ぎ出して来たこの作品ですが、バトル物としての要素も補強され、更に奥行きが広がって来たのではないでしょうか。最近は絵の方も描線が洗練され、個性的なタッチを維持したままクオリティが上がって来ています。
 他の「第1回金未来杯」組が打ち切り、もしくは苦戦を強いられている中、頭一つリードした感のあるこの作品、このまま行けば年度末の「コミックアワード」でも楽しみな存在となりそうです。

 ◎『太臓もて王サーガ』作画:大亜門
 旧評価:A−寄りB+新評価:A−寄りB+(据置)

 こちらも評価は据置としました。
 ギャグの密度は相変わらず高く、登場人物のキャラクターに関連したネタも効果的に利かされています。構成の甘さが若干気にはなるものの、テクニック面ではAクラス評価をつけてもおかしくない水準で高値安定しています。
 ただ、最近感じるのはネタのマンネリ・ワンパターン化です。同系統のネタならまだしも、ほぼ同じネタを何週も繰り返すケースが多くなりました。
 また、ネタ出しも随分苦しいようで、得意のパロディネタに頼り過ぎている感も否めません。『ジョジョ』ネタオンパレードになった第9回などは、さすがに(読み手を選び過ぎるという意味で)やり過ぎではなかったでしょうか。
 “同期”の『みえるひと』と対照的に掲載順が安定している所を見ると、どうやら長期連載の目も出て来たようですが、今度は別の意味で将来が心配になって来た感がありますね。

 ◎『切法師』作画:中島諭宇樹
 旧評価:B+新評価:(最終確定評価)

 2クール・18回で無念の打ち切り終了。クオリティそのものは、第10回時点から大きな変化はありませんでしたが、ストーリーが尻切れトンボで終わったのを重く見て評価を更に1ランク下げました。
 連載が失敗に終わった原因は、第10回評価見直しでも述べましたが、やはりバトルシーンの淡白さでしょう。ともかくこの作品は、バトル主体の作品としては、余りにも肝心要の部分が弱過ぎました。この問題は、最近の「ジャンプ」新連載作品に共通しているもので、いつか近い内にジックリとお話したいテーマではありますが、今日は時間の都合もありますので、結論の再確認に留めます。
 そもそも中島さんはここまで、バトルに頼らない、卓越した世界観構築力とストーリーテリング力で魅了する作品を紡ぎ出して来た作家さんです。それがいきなりバトル物志向へコンバートしても、そうそう上手くいくはずがありません。先週終了した『カイン』もそうでしたが、もう少しご自分の適性というものを考慮してもらいたいなと、僭越ながら助言申し上げたいところです。

 ──それでは、この後は増刊レビューの第1回目をお届けしましょう。今回は目次順で3作品のレビューです。

◆「ジャンプ the REVOLUTION」レビュー(1)◆

 ◎『エンバーミング -DEAD BODY and BRIDE-』作画:和月伸宏

 作者略歴
 1970年5月26日生まれの35歳
 弱冠16歳にして87年上期の「手塚賞」で佳作を受賞し、“新人予備軍”入り。高校卒業後、上京し小畑健さん他、複数の作家さんの下でアシスタント修行を積む。その間も新人賞への応募を続け、91年には、月例賞の優秀作品を収録する単行本・「ホップ☆ステップ賞セレクション」(6巻・90年度募集分収録)『北陸幽霊小話』を発表して暫定的ながらデビュー。翌年、季刊増刊の92年春号にて正式誌面デビューも果たす。
 出世作となったのは、同じく季刊増刊93年冬(新年)号に発表した『るろうに -明治剣客浪漫譚-』。この作品は週刊本誌93年21・22年合併号にリメイクして掲載された後、翌94年19号からは『るろうに剣心 ─明治剣客浪漫譚─』として連載開始。これがヒット作となり、アニメ化・OVA化も為された。いわゆる“「ジャンプ」黄金期”の終焉期から“「ジャンプ」暗黒期”前半にかけての間の代表作として、毀誉褒貶の波に揉まれながらも99年43号まで全255回の長期連載を全うする。
 その後の作家生活は、不遇とは言えぬとも恵まれたとも言えない停滞が続いている。00年末から臨んだ2回目の連載『GUN BLAZE WEST』は、2クール全28回(01年2号〜35号)で打ち切り終了。また、03年30号から開始した『武装錬金』は、高年齢層読者を中心にカルト的なスマッシュヒットを記録するも、05年21・22号までで週刊連載を打ち切られて(休載週を除き、全79回)「赤マル」へ移籍。05年夏号から年内終了の予定で完結編を短期連載中。
 今作は
『武装錬金』執筆の合間を縫って描かれた、和月さんご本人曰く、新作のパイロット版的読み切りとのこと。
 なお、和月さんのスタジオからは、尾田栄一郎さん、武井宏之さん等、多数のヒット作家・「ジャンプ」連載作家が輩出されており、別名“和月組”とも言われる。

 についての所見
 リアルさとマンガ的ディフォルメのバランスが絶妙で、かつ高度に洗練された絵柄ですね。相変わらずの高水準です。背景処理や特殊効果も実によく考えて趣向が凝らされており、さすがは“15年選手”といったところでしょう。
 特に最近は美少女系キャラが関連するバイオレンスまたはセクシャルな要素を含んだ場面を描くことに対する躊躇も薄れて来たようで、表現の幅も随分と広がってきたように思えます。

 数少ない問題点としては、美醜のコントラストが大き過ぎる、捨てキャラ的な悪役の造型がインパクトの割に適当さがにじみ出ている…など、『るろうに』時代からの傾向が未だに抜けきっていない事が挙げられるでしょうか。しかしそれも微細なもので、総合的に見れば十分「ジャンプ」のトップクラスに位置する水準だと申し上げて良いでしょう。
 
 ストーリー・設定についての所見
 和月さんの過去作同様のパターン──現実世界をベースに、ジャンルを問わず過去の名作エンタメ作品のモチーフを注ぎ込み、更にオリジナルの設定を交える──の手法で創られた世界観・設定ですが、今回は近代ヨーロッパを舞台にしたフランケン・シュタイン物。キャリアを追うごとに、「週刊少年ジャンプ」では異色な方向へ流れつつあるのが印象的ですね(笑)。
 それでも(個人的にですが)そういう趣向の作品の方がシックリ来るように思えるのが、幸か不幸か…といったところではあります。下世話な話ですが、既に生活の糧を得るためにマンガを描く段階を過ぎた作家さんでもありますし、今後は作風に適合した(本質的なクオリティと読者人気の整合性が高い)発表の場を模索する必要も出て来るのでしょうね。

 それはさておき、今作のデキ具合についてですが、 特に目を引くのが脚本と演出の上手さ
 脚本では説明臭くなりがちな部分も、さりげなく語り手を入れ替えたりモノローグ・ト書きを挿入したりして、“アク抜き”が為されています。演出面でも、構図の取り方が非常に巧みで、とにかく高度な技術が誌面の隅々から感じ取れる読み応えのある作品に仕上がっています。

 ただ、今回は作者ご本人が「所謂パイロット版のつもりなので投げっ放しな所が多々ある」と認めておられるように、ストーリーに関して言えば、やや中途半端な内容で終わってしまったかな…といったところです。シナリオ、世界観、キャラクター、戦闘シーンの各要素いずれもが掘り下げ不足で、それぞれの魅力を描ききる前にページが尽きてしまったように感じました。ワンフレーズでまとめれば「消化不良」の一言に尽きるでしょう。
 確かに「巧いなぁ」と思わせる部分は非常に多いのですが、今回は技巧が勝ち過ぎた作品ではなかったでしょうか。「パイロット版」という言葉の通り、プロローグ以前の予告編的な作品──本来、雑誌のメインコンテンツにするべきではない性質の──で終わってしまった感じですね

 今回の評価
 今回の評価はBとします。ただ、今作で足りない所は、全て来るべき(?)本格連載では伸びしろになる部分ですので、今後の展開に期待したいところです。


 ◎読み切り『ANGEL AGANT』作画:暁月あきら

 作者略歴
 生年月日等は非公開。ただし、非常に似た絵柄で02年3月期「天下一漫画賞」で最終候補となった空見宙也さんと同一人物とすれば、現在28〜29歳ということとなる。
 それ以外にも、今回の巻末コメントで暁月あきら名義以外、またはイラストレーター等としての活動を匂わせる記述があったり、某18禁系マンガ家さんとの同一人物説が一部で囁かれたりしているが、いずれも確証に乏しく詳細は不明。(※個人的に後者の件は、「よく絵柄が似ているが別人っぽい」と思っています)
 この名義としての活動は「マンガ暦5年(「赤マル」の新人作家紹介欄より)」の03年に、「赤マル」夏号にて『Z−XLダイ』を発表した1作品のみ。今回は2年4ヶ月ぶりの新作発表となる。

 についての所見
 03年の“デビュー作”時点で既に只者ではない絵の巧さを遺憾なく発揮していた暁月さん。今回も新人・若手レヴェルを明らかに超越した作画の水準です。
 メリハリが利いて洗練されたタッチ、抜群の安定感、そして一枚絵としても完成していながらも、マンガ的な表現に全く抜かりが無いのが印象的。肥大したこの業界の中で、これだけの絵が描ける人が野に埋もれているのですから、世の中分からないものです。

 長所・短所併記の原則から、少しでも指摘できる問題点でも有るかなと探してみたのですが、見つからなかったですね(笑)。読み手の好き嫌いの問題に委ねられる点を除いた技術的な面では、敢えて挙げるような欠点は無いのではないでしょうか。

 ストーリー・設定についての所見
 まず、冒頭シーンはよく出来ているのではないでしょうか。キャラ紹介、序盤のシナリオ進行、伏線提示と短いページでなかなか充実した内容でありました。
 また、クライマックスの戦闘シーンもなかなかでした。主人公サイドが深刻なピンチに陥った所からリスキーな反撃で逆転勝利を飾るなど、限られたページ数で必要最低限の“ツボ”は押えられていました。

 しかしその間の、冒頭シーン後からクライマックスの戦闘シーンまでの中盤部分では、一転してクオリティが急落した感があります。
 中でも鼻につくというか目に付くのが過剰な下ネタでしょうか。華を添えるお色気ならまだしも、「さぁこのコスプレとサービスカットで萌えてみろ」と言わんばかりのあざといネタをこうも乱発されては食傷します。それ以前の問題として、シリアスな雰囲気を台無しして、シナリオの流れもブツ切りにするという失敗に繋がっており、この試みは全くの逆効果でしょう。
 あと、設定の提示のやり方も如何なものでしょうか。説明的なセリフを乱発した割には話の軸となる肝心な部分が説明不足で、そのために敵役サイドが採る行動の理由と動機がイマイチ見え来辛かったです。
 敵役といえば、主人公が窮地から脱する理由敵役の御都合主義的な自滅であるのも、シナリオの盛り上がりという上ではどうでしょうか。作中の巨悪であり、主人公最大のライバルあるはずの敵ボスが単なる無能なエロ親父では……。

 とにかく、今回は下ネタに頼り過ぎたのが最大の敗因で、その次が御都合主義の看過でしょうか。下ネタ・お色気そのものに対して「志が低い」とかベタな事を言いたくはありませんが、それがストーリーのクオリティを押し下げてしまったら、「そりゃ本末転倒だよ」とは言いたくなってしまいます。

 今回の評価
 絵の良さを加点した上で、今回の評価はBとします。
 正直言って、暁月さんは少なくとも「ジャンプ」では原作付作品の作画担当が適所ではないでしょうか。週刊連載でこの絵のクオリティを維持するには相当な時間が必要でしょうし、そのためにはネームを練る時間を削らなくてはならないはずです。で、その条件で良いストーリーを創れる作家さんだとは、失礼ながら現状を見る限りでは思えないんですよね。


 ◎読み切り『いちご100%番外編 〜京都初恋物語〜』作画:河下水希

 作者略歴(参考:河下水希・桃栗みかんファンサイト「OVER DRIVE」他) 
 生年非公開の8月30日生まれ。
 「ジャンプ」作家となる以前は“桃栗みかん”名義で同人・商業両面で活動をしていたのは既に公然の秘密。
同人活動に関しては、現在93年から97年にかけて発行された同人誌の存在が確認されているが、公式データが存在しないため、詳細は不明。
 正確な商業デビュー時期も資料不足のため未判明だが、諸々の資料から類推すると94年頃と思われる。デビュー当初は原作付きボーイズラブ作品の作画担当で、レディコミ月刊誌「office YOU」にて短期(3回)連載された『高校男子 -BOYS-』作:花衣沙久羅)を表題作とする中編集が95年7月に発売されている。
 それから間もなくしてソロ活動を始めると、97年には「YOUコミックス」レーベルから初の単独名義作品集『空の成分』を出版。その後は少女誌「マーガレット」に移籍し、99年から00年にかけて単行本を3冊リリースしている。

 “河下水希”名義でのデビュー作は週刊本誌00年19号の『りりむキッス』で、これは同年48号より連載化されたが、2クール24回で打ち切り終了となる。
 それから「赤マル」01年夏号で読み切り掲載を挟んだ後、02年12号より今作の本編でもある『いちご100%』を連載開始。スマッシュヒットとなった同作は05年35号まで全167回の長期連載となり、CDドラマやテレビゲーム、更には深夜枠でアニメ化・DVD化もされた。
 今作は先述の通り、『いちご100%』の番外編。正確に言えば最終回にまつわるサイドストーリー。

 についての所見
 まだ連載が終わって間が無いので当たり前ですが、高値安定で水準した見栄えの良い絵は今回も健在です。レディス&少女マンガで培った繊細なタッチと、その後「ジャンプ」での活動で身につけた少年誌対応のタッチが融合して、オリジナリティの高い画風になりつつあるのではないでしょうか。
 この作品に関しても、個人的な好き嫌いを除けば批判せねばならないネガティブな点は殆ど見当たりません。

 ストーリー・設定についての所見
 今回のストーリー、一言でまとめれば「女の子目線の『BOY’s BE…』」といったところでしょうか。作品の完成度を犠牲にしてまでも読み手の好感度を優先するという、“読者カタルシス特化型”のシナリオです。
 ストーリーの説得力や登場人物の心境変化に関する動機付けは放棄して、「とにかく惚れちゃいました」という事実関係で強引に押しまくる。そして最後は他人から見たら痴話喧嘩にしか思えないイベントから告白成功、ハッピーエンド。ひたすらに陳腐ではありますが、コンスタントに読み手へ満足感を与えるという意味では王道とも言えるかも知れません。

 当ゼミで言えば典型的な“名作崩れの人気作”ですね。この手の作品には、完成度の高さとプロのお仕事を認めつつも、否定的なニュアンスで評論を行うのが常なのですが、今回は番外編ということでもありますので、これくらい軽いノリの方がむしろ良いのかも知れません。 そもそも、本編よりもよく出来たシナリオをここで投入されても逆にアレですからね(笑)。

 今回の評価
 “名作崩れの人気作”のスタンダード評価・B+とします。とりあえず今は長期連載お疲れ様でした、といったところですね。

 

 ──というわけで、今週は都合4作品のレビューをお届けしました。今後も週に1〜2作品のペースでお届けできればと思います。それでは、また。


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