「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・4)

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講義一覧

3/27 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (3月第4週分)
3/20 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (3月第3週分)
3/13 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (3月第2週分)
3/6  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (3月第1週分)
2/27 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (2月第4週分)
2/20 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (2月第3週分)
2/13 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (2月第2週分)
2/6  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (2月第1週分)
1/30 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (1月第5週分)
1/23 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (1月第4週分)
1/16 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (1月第3週分)
1/9  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (1月第1、2週分)

 

3月27日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(3月第4週分)

 いよいよ現カリキュラムでは最後の「現代マンガ時評」となりました。
 先週お知らせした通り、来週からも週2回に分けて同様の講義を実施する予定ですが、これまでのような「レビュー長いよ!……しかも多いよ!」という、胸焼けがするような大ボリュームのゼミはあまり見られなくなるんではないかと思います。どうぞ最後までじっくりとお楽しみ下さい。

 ──では、今日も情報系の話題から。

 まず初めに、今週は「週刊少年サンデー」系月例新人賞「サンデーまんがカレッジ」の審査結果発表がありましたので、例によって受賞者・受賞作をお知らせしておきます。

少年サンデーまんがカレッジ
(02年12月・03年1月期)

 入選=該当作なし
 佳作=2編
  
・『AVENGER』
   川柳呼人(19歳・福岡)
    ・『TRANCE』
   長蔵啓丸(18歳・静岡)
 努力賞=4編
  ・『D・D・D』
   高野裕也(20歳・東京)
  ・『はなちゃん』
   吉田時計店(22歳・京都)
  ・『髪師バツ』
   平吹雅浩(26歳・宮城)
  ・『ZEN』
   梶川卓郎(27歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=4編
  
・『DAIVE!』
   佐伯玄太(21歳・愛媛)
  ・『オロチ』
   宇佐美道子(22歳・東京)
  ・『ジェットボ−イ』
   片岡堅(23歳・埼玉)
  ・『あぁ、塾通い』
   福井祐介(26歳・東京)

 2ヶ月合併の募集だった事もあり、今回の「まんカレ」は豊作だったようです。佳作の2人はまだ10代ですし、将来が楽しみですね。新人が連載デビューするまでは長い時間がかかる「サンデー」ですので、若いという事は大きな武器になると思います。
 今月は受賞歴無し&地方在住の受賞者さんが多いんですが、これは12・1月期ということで、首都圏在住の人たちはコミケに専念していたか、アシスタント先の年末進行で力尽きて自分の作品どころじゃなかったんでしょうかね(笑)。

 では次の話題に。
 先週のゼミでも「未確認情報」という扱いながら既に紹介した情報ですが、「週刊少年ジャンプ」の新連載シリーズのラインナップが決定しましたので、正式にお知らせしておきましょう。

 ◎18号(4月1日発売号)より新連載
  ……『闇神コウ 〜暗闇にドッキリ〜』作画:加地君也
 ◎19号(4月8日発売号)より新連載
  ……『SANTA!』作画:蔵人健吾

 加地君也さんは今から6年前の97年3月期「天下一漫画賞」で佳作を受賞し、同年「赤マルジャンプ」でデビュー。
 しかしその後はチャンスに恵まれず、増刊で1回、本誌で2回読み切りを発表しただけだったのですが、ようやくの連載獲得となりました。
 今回の連載作は昨秋に本誌で発表した『暗闇にドッキリ』のリテイク版ですが、読み切り発表当時にネット界隈で囁かれた「既成の作品の影響が強すぎる」「パターンにハマリ過ぎてて新鮮味が無い」…といった課題をどう克服するかが“突き抜け”回避へのポイントとなるでしょう。

 一方の蔵人健吾さんも、キャリア8年にしての初連載獲得という“苦労人型”の若手作家さんです。95年に「月刊ジャンプ」の新人賞で入賞した後、98年の「赤塚賞」で佳作を受賞して「週刊少年ジャンプ」に“移籍”。その後は増刊、本誌で断続的に読み切りを発表していました。
 今回の連載作は「赤マル」02年春号に掲載された同名の読み切りのリテイク版。当ゼミの読み切り版に対するレビューは「絵もストーリーも及第点以上。しかしセリフの言葉遣いが致命的に下手」…というものでした。こちらも課題を克服できているか、注目したいと思います。


 ……さて、情報はそれくらいにして、そろそろレビューへと移りましょう。今週は「週刊少年ジャンプ」から読み切りレビュー2本、「世界漫画愛読者大賞」のレビュー1本の計3本をお送りします。勿論、“チェックポイント”もお送りしますので、そちらもどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年17号☆

 ◎読み切り『しろくろ』作画:空知英秋

 今週の「ジャンプ」では新人作家さんの読み切りが2本掲載されました。
 まずは、昨年秋に「天下一漫画賞」佳作受賞作・『だんでらいおん』で鮮烈なデビューを果たした、現在の「ジャンプ」系新人作家さんの中で一番の注目株・空知英秋さんの新作からレビューをお送りしましょう。

 まずからですが、正直言ってちょっと粗いかな…という印象があります。もっとも、これは「3週間で51ページ」というハードスケジュールがモロに響いてしまったものでしょう。収入源の乏しい新人作家さんにアシスタントを豊富に使える余裕など無いでしょうし、物理的な事情には勝てなかったというところでしょうか。
 しかしながら意識的に手抜きをした部分は無く、必要な箇所では比較的細かい描写や変わったアングルにも挑戦しようという意気込みが感じられるのはプラス材料です。前作の課題の1つであったデフォルメ表現にも若干の進歩が見受けられます。あとは同じデビュー作からの課題である“無駄な線の多さ”がもっと解決されて来れば、ずっとプロらしい絵柄になって来るでしょう

 次にストーリーの方ですが、やはり注目すべきはデビュー作でも存分に見せつけた、新人離れした脚本とコメディの才能でしょう。この『しろくろ』でも、下手な小説家を上回る言葉遣いの使い分けや、ギャグ作家真っ青の“間”の良さで読者を作品世界に引っ張り込んでくれます。
 また、今回のような“ノリの良い”話は、下手に笑いに走りすぎるとコメディを飛び出してギャグマンガになってしまい、逆に興醒めになってしまう事があります。しかしそれも適度にシリアスな空気を交えてギリギリのところでストーリー作品の枠内に収まらせており、その辺りのセンスも注目に値するところです。

 ただ、問題点もあります。51ページの終盤まで話の核心が見えて来ず、さらには話のノリが良すぎるために、読み疲れや若干の中だるみ感がどうしても出て来てしまったのです。
 まぁこの点に関しては、逆にコテコテでワンパターンの話を51ページで見せられても酷く苦痛なので、大変に難しい所ではあります。が、もう少し話のテンポに緩急をつけ、話の前半で伏線を張って後半でまとめる…など改善の余地はまだ残されていると思います。新人作家さんにしては厳しい注文になりますが、既に新人の域を越えている空知さんならば、近い内に克服してくれると期待しています。

 評価ですが、絵の粗さとストーリーの中だるみをやや減点し、それでも類稀な才能を評価してB+寄りA−の評価を進呈したいと思います。間違いなく一流の才能を持った逸材です。「ジャンプ」編集部には、この人を埋もれさせたり潰したりしないよう、格別の配慮をお願いしたいと思います。

 ◎読み切り『野球狂師の詩』作画:郷田こうや

 読み切り2本目はギャグマンガ。あの島袋光年氏に才能を見出されたという特異な経歴を持つ、郷田こうやさんの登場です。
 郷田さんは00年から代原作家として度々本誌に登場していたのですが、今冬の「赤マル」掲載を経て、遂に正規枠での本誌読み切り掲載となりました。以前、「週刊少年ジャンプこの1年」(第2回)の中でも採り上げましたが、98年に「ジャンプ」でいわゆる代原制度が確立されて以来、本誌で連載を獲得した代原作家は未だゼロ(注:南寛樹さんが「週刊少年サンデー」と「週刊コミックバンチ」で連載獲得の記録あり)。郷田さんがこの忌まわしきジンクスを破る事ができるかどうか、今後も注目ですね。

 さて、それではレビューの本題へ。

 もう郷田さんの作品はこのゼミで相当な回数レビューしていますが、回を追うたびに絵が着実に上達しているのに感心させられます。アシスタント修行をしているのか、背景の描写も相当手慣れているようですし、今回は馬の描写という難しいテーマに挑戦するなど、意欲的な姿勢に大変好感が持てるところです。

 ただ惜しむらくは、絵に比べて肝心のギャグ技術の上達が今一つなところでしょう
 郷田作品の以前からの欠点であった、ギャグのバリエーションが少なくて一本調子な点については、まだまだ不完全ながら徐々に良くなって来ています。しかし、今度はギャグに対するツッコミが単純すぎてそこで笑いが取れず、結局またワンパターンに感じてしまうようになってしまいました
 また、“間”がイマイチ良くないのも気になります。コマ割りなどの構成力が洗練されておらず、この辺りもギャグの勢いを削ぐ結果に繋がっているような気がします。

 というわけで、この作品については、絵は及第点をあげられる出来なのですが、ギャグマンガとして肝心な部分はまだまだ新人・若手の域を脱するところまでいっていません。
 ここで本来ならば奮起を促すべきところですが、郷田さんの場合はキャリアと発表した作品の数から考えると、そろそろ“頭打ち”と判断せざるを得ない時期に差し掛かっているのではないでしょうか。幸いにも画力はついているのですから、原作者をつけてストーリー作品にチャレンジするなど、色々な可能性を探ってみるのも面白いと思うのですが……。
 評価はB−としておきましょう。


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントでは矢吹健太朗氏がCGを勉強するためパソコン購入と報告。「ネットはしません」宣言「そりゃあ自分の悪口パクリ糾弾記事読まされるだけだもんな」と納得する一方で、「もしもエロゲーやり始めた挙句、『同人ゲームだし、パクってもいいか』とか言って金髪・白セーターの女吸血鬼とかメガネの似合うカレー好きのエクソシストとか双子で赤髪の美少女メイドとか出しやがったら殺す!」……と決意を新たにした駒木でした。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:/雑感】
 
 高校生の男子にとって、自分の部屋に女の子が同居するシチュエーションにおけるメリットとデメリット……うはぁ、複雑すぎますって(笑)。
 よく考えたら、『りびんぐゲーム』作画:星里もちる)の中で同じ悩みを抱えた20代後半の不破雷蔵も大層苦しんでらっしゃいましたなぁ。
 駒木の部屋? そんなもん、10年分の「週刊プロレス」と「週刊競馬ブック」で埋もれてて、女の子が入れる状況にありませんがな。

 ◎『TATTOO HEARTS』作画:加治佐修【現時点での評価:B+/連載終了に当たっての総括】

 先週の『グラナダ』に続いて、こちらも“突き抜け”終了。
 この作品、悪くは無いんですが、それ以上に良くなかった…という感じでしょうか。連載が始まった時は『Ultra Red』より早く終わるとは思ってませんでしたが、余りにもインパクトが尻すぼみになってしまいましたね。
 全話通じて読んでみますと、キャラクターが“設定”の域を越えられなかったのが致命的だったような気がします。一言で言えば、キャラクターが粋じゃなかったんですね。
 最終評価はということで。
 

☆「週刊少年サンデー」2003年17号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『金色のガッシュ!!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 「怒りに任せて復活&パワーアップ」とか「都合の良すぎるタイミングで味方登場」とかいった、少年マンガのベタベタなパターンも、見せ方次第によって説得力が随分と違うもんだと思わせてくれますね。
 特に恵とティオの登場なんて、ナゾナゾ博士の性格がアレでなければ今回みたいに出来なかったわけで、連載作品というのは、やっぱり積み重ねてナンボなんですね。面白い作品は何をやっても面白いし、ダメな作品で何をやってもダメなわけですね。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】 

 さ、さすがに指チュパは……(絶句)
 しかしまぁ“何をやっても可愛くなってしまう少年キャラ”が上手い少年誌作家っていうのも珍しいですね。明らかに何かが間違っとるような気がします。

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 見せ方次第で説得力が違うのパート2。
 力量のある人に全力で悪役を描かせるとこうなるんですなー。本当に底の知れない悪くて嫌な奴。それでいて「読みたくない」と思わせるような嫌悪感は湧かないのがまた凄い。
 藤田さんは今でも十分評価されていると思いますが、それでももっと評価されるべき作家さんだと考えてるのは駒木だけでしょうか?

 ☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.8 『ちゃきちゃき江戸っ子花次郎の基本的考察』作画:赤川テツロー

 いよいよこの「世界漫画愛読者大賞」エントリー作完全レビューも最終回です。実は1週目の『軍神の惑星』を読んで、「これが平均レヴェルくらいならイケる!」と思ってゴーサインを出したんですが、実はこれが1、2を争う作品だったという……(溜息)。
 まぁ詳しい総括は来週辺りにやるとしまして、今週分のレビューをやってしまいましょう。

 今週のエントリー作の作者・赤川テツローさんは、東京都出身の44歳。今から20年以上前に赤塚賞の最終選考に残り、それが縁で「週刊少年ジャンプ」の増刊でデビュー。その後、幼年少女誌に移籍して連載を獲得するも、極度のスランプに陥ってしまい、ここ最近は読み切りを散発的に発表しながらアルバイトで食べている…との事。「世界漫画愛読者大賞」お馴染みの、“消えた若手マンガ家敗者復活戦”パターンですね。

 では作品の内容へ。形式としてはショートギャグなので、手短に行きましょう。

 絵柄は赤川さんのキャリアを象徴するように、マンガというよりも絵本的というか、キャラクターイラスト的なもの。かなり個性的な画風といって良いのではないかと思います。特に下手だとは思いませんが、現代のマンガに向いている絵ではないのかな……という気はしますね。
 で、内容ですが、これはタイトル通り江戸っ子である主人公の“江戸っ子らしさ”を羅列的に描写し、考察するというものです。狙いとしては読者に「あぁ、そういうのある、ある」と思わせて笑いを取りたかったのでしょう。テツandトモ風に言えば『江戸っ子が○○なのはなんでだろう〜』…という感じなのでしょうね。
 しかし、致命的なのは、この作品は「あぁ、あるある」ではなくて「で、それで?」になってしまう所です。既に手垢がつきまくったネタをこねくり回しただけで新鮮味が全く有りませんし、どこを面白く見せたいのか…という作者の主張が全然伝わって来ないのです。

 読者審査員の銀次さんにお聞きしたところ、この作品は編集部サイドも読者サイドも評判が芳しくなく、どうして最終審査に残ってしまったのか、今になっても不思議だとの事です。読者審査員の方は仕方無いにしても、プロの編集者が何となくで決めちゃうのはプロとしていかがなものかと思うのですが……。
 評価はC寄りB−とします。

 ・「個別人気投票」支持しないに投票。(この作品が1年以上の連載に耐えられるとは思えません)

 ・「総合人気投票」「グランプリ信任投票」でこの作品を支持することはありません。

 全作品総括と総合人気投票については、来週中に何らかの形でお届けする予定です。

 
 ……というわけで、このスタイルでの「現代マンガ時評」はこれにて終了です。長い間ご愛顧有難うございました。また4月からも別の形でお目にかかりますので、どうぞ宜しくお願いします。ではでは。

 


 

3月20日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(3月第3週分)

 では今週もゼミを始めます。
 日々の講義に手間取られて4月以降のカリキュラムについて詳細を発表できないでいるのですが、このゼミは4月以降も現体制に近い形で継続します。ただし、毎週2回(火・金?)に分けて、こちらの負担を軽減させる替わりに速報性が高まる形を採らせて頂く事になると思います。
 とりあえず今日を含めてあと2回、全力で頑張りますのでどうか何卒。

 ……それでは、今週もまず情報系の話題からお知らせします。

 1点目は、先週にもお伝えした高橋しんさんの動向。既に「週刊少年サンデー」をお読みの方はご存知の通り、高橋さんが作画・連載中だった『きみのカケラ』今週の15号を最後に無期連載休止という扱いになりました。
 ストーリー的には尻切れトンボになっているため、今のところは再開を前提にした連載休止ではないかと思います。

 そういえば、「週刊コミックバンチ」で連載休止中の、「世界漫画愛読者大賞」と当講座選定「ラズベリーコミック賞」の2冠(笑)・『エンカウンター ─遭遇─』作画:木之花さくや)が来週号から再開されて“しまう”んですよね。
 「バンチ」編集部にとっては大失敗の精算、木之花夫妻にとっては今後のマンガ家生命を賭ける一大リベンジになるんでしょうが、個人的には「もう勘弁」と言いたいところです(苦笑)。

 次に「週刊少年ジャンプ」の連載改編についてです。
 これはまだ駒木が実際に確認していないため、100%確定した情報とは言えないのですが、まず終了する作品が、今週既に終了した『グラナダ ─究極科学特捜隊─』作画:いとうみきお)に『TATTOO HEARTS』作画:加治佐修)を加えた2作品。そして、それに入れ替わって新連載となるのが、加地君也さん蔵人健吾さんの初連載組2人とのこと。打ち切られる2作品は、残念ながら共に1クール“突き抜け”という事になりますね。 
 加地さんは昨秋に本誌で発表した読み切り・『暗闇にドッキリ』が、そして蔵人さんはこれまで長年コツコツと積み重ねてきた実績が認められての連載獲得ということになりますが、果たしてどうなるでしょうか。以前の読み切りの評価から考えれば、実力的に連載は荷が重いという感が否めませんでしたが……


 ──それでは今週もレビューを始めましょう。今週も先週と同じく「ジャンプ」の読み切りと「世界漫画愛読者大賞」組の計2本、そして“チェックポイント”ということになります。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2003年16号☆

 ◎読み切り『ドーミエ 〜エピソード1〜』作画:高橋一郎

 プロトタイプ読み切り攻勢の続く最近の「ジャンプ」ですが、今週も新人・高橋一郎さんの作品が本誌掲載となりました。
 高橋さんは1月に20歳になったばかりで、昨秋の第64回手塚賞で準入選を受賞。今回の『ドーミエ』はその受賞作となります。
 ただ、この作品掲載に至る経緯としては、高橋さんは「次回作のネームが『ドーミエ』より良ければそちらを掲載」と言われていたそうで(赤塚賞受賞者のウェブサイトからの情報)、そういう意味では嬉しくも悔しい本誌デビューということになるのでしょうね。

 ……では作品の内容をいつも通り分析・評価してゆきましょう。

 まずはから。
 この絵柄に関しては読者の人たちの中でも意見が相当分かれると思われます。特に、「いくらなんでも絵が雑すぎる」という感想を抱かれた方も多かったのではないでしょうか。確かに、背景や顔の描写でところどころ大雑把過ぎる部分があるのは確かです。
 しかし、繰り返し繰り返し見てみると、要所要所ではキチンと描き込みがなされていますし、動的表現や擬音のバリエーション、更には音を絵で表すやり方など、現代のマンガで使用される表現技法は一しきりマスターしている事が窺えます。表面的に見ていると錯覚してしまいますが、マンガ家としての基礎的な実力は充分備わっていると言えそうです。また今度、たっぷりと作画に時間をかけた作品を読んでみたいですね。

 残るストーリーや設定に関してですが、これは率直に言って、「うわ、難しいなコレ」…といったところですね(苦笑)。もう1年以上レビュー活動を続けていますが、評価を下す難しさで言えば1、2を争うところだと思います。
 何しろ、とにかく話の流れがトリッキーです。手塚賞の講評にも「奇想天外に話が進んだ。切り口が斬新(高橋和希さん)」、「話に説得力はないが、物語の二重構造などストーリー作りには可能性が感じられる(手塚プロダクション)とあるように、オリジナリティだけで規定のページを引っ張ってしまった感があります。
 そんな“仕掛け”のためにシナリオのボリュームが薄くなり、物足りないと言えば物足りないのですが、それでも奇抜な設定特有の自己満足が感じられない事や、ネームなどの文章力に非凡なセンスが感じられる事など、評価できる部分もかなりたくさんあります。

 結局のところ、この作品は何よりも作者の将来性と可能性を感じさせるところに意義があるのであり、恐らくは高橋さん本人も「私はこういう事が出来ます」というアピールの意味合いを込めて執筆されたのではないかと思います。
 評価は保留……と言いたいところですが、期待料込みでB+寄りA−を進呈しておきましょうか。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 最近、「ジャンプ」のチェックポイントは毎週困らされます。ほっといたら毎週同じ作品ばかりチェックしてる…なんてことになりかねないからです(苦笑)。

 ◎『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のは、少年マンガとしてコテコテのパターンの集合体みたいな内容ですね。それでもちゃんと“パクり”以上のモノになっているあたり、誰かさんとは地力が違うと言うか(笑)。
 とりあえず今が作品の“旬”だと思うので、早め早めにストーリーを展開させて円満終了に持ち込んでもらいたいと思います。(まぁ無理でしょうけど)

 ◎『こちら葛飾区亀有公園前派出所』作画:秋元治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 そう言えば、昔の『こち亀』ってこんな感じだったよな……と思わせる今週でしたね。ただ、全盛期ならもっとオチがオチらしくなっていたと思うので、確かにこのあたりに衰えらしきものが有るのではないかと感じさせられました。
 まぁ、国が歌舞伎を保護するみたいに、『こち亀』も「ジャンプ」と温かい目を持ったファンに保護されたら良いと思います。この作品と秋元さんにはそれくらいの資格はあるでしょうし。

 ◎『グラナダ ─究極科学捜索隊─』作画:いとうみきお【現時点での評価:B−/連載終了にあたっての総括】

 “ノルマン現象”の再現ならず。突き抜けてしまいました。
 結局、敗因は読み切りの設定を不用意に引っ張りすぎたって事でしょう。そこからドミノ倒しみたいに事態が悪化してしまったと思われます。
 打ち切りが決まってからの“敗戦処理”だったのかも知れませんが、過去編を冒頭に持って来て、その後に“青年編”を始めたら結果が変わっていたかも知れません。あ、でも「ありきたり」とか言われそうだなぁ……。
 この作品より切られるべき作品はあると思いますが、この作品が切られない理由が無い…というところに最終的な評価は落ち着いてしまうんですかね。
 最終的な評価はB寄りB−と、少しだけ上げておきます。

☆「週刊少年サンデー」2003年16号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週の「サンデー」は全体的に豊作。時々こういう週があるので「サンデー」読者は辞められんのですよね。
 あとは『コナン』『犬夜叉』を越えるカリスマ的な看板作品だけなんですけどねぇ……。『ガッシュ』以外にもう1つか2つ“タマ”が欲しいところです。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【第3回時点での評価:A−/雑感】

 昔から、何故かマンガでは悪人が5階建てのビルに刺客を配置して立て篭もるわけですが(苦笑)。
 今回の“ザ・ガマン”的展開も使い古されてはいるんですが、『あしたのジョー』+『勃ち往生』は新手だったんでは。2chのサンデー板で「でもカウパー腺液が出ないあたり『サンデー』の限界だな」とかいう意見があって笑えたんですが、往年の「ジャンプ」では『ジャングルの王者ターちゃん』で“恥ずかしい液”そのものも出してた事を考えると、確かにそうかも知れません(笑)。まぁ、個人的には精液が出ようが腺液が出ようが、男の体から出る液には興味が無いですけど。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】 

 ……と思ったら、「サンデー」は擬似精液ならオッケーみたいです(爆笑)。

 まぁそれはさておき、相変わらず安心して読ませてくれますね。評価はB+のままですが、高値安定のB+です。

 ◎『きみのカケラ』作画:高橋しん【現時点での評価:B−/連載中断に当たっての総括】 

 ……というわけで、連載休止です。
 何というか、「作者が何を言いたい&やりたいのかがハッキリしてない」のが(少なくとも少年誌的には)激しくNGだったのだな……と感じてます。あと余分な“遊び”が多すぎて、間延びしてないのに間延びしている風になったのもいけなかったのかな…と。
 ゆうきまさみさんではないですが、長い間マンガ家やってると、こういう事もあるもんです。とりあえずキッチリ養生して下さい…と言いたいです。

 

☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.7 『東京下町日和』作画:山口育孝

 この企画もあと2週です。「やんなきゃ良かったのに」という言葉を内へ外へと浴びせつつ、今週もレビューを続行します(苦笑)。

 今週のエントリー作・『東京下町日和』の作者・山口育孝さんは43歳。18年前に青年誌でデビューし、短期連載2回を経験した後に活躍の場を求めながらアシスタントをしていた…という経歴があるそうです。ただし、10年前に廃業してからは普通の会社員としてマンガとは縁の無い生活をしていたとのこと。今回は一念発起しての現役復帰ということになりますね。

 さて、作品の内容なのですが、とにかく言える事は絵にしろストーリーにしろ古臭いという事です。もう既にネット界隈でも同じような意見が嫌と言うほど出て来てますが、駒木も他に表現のしようが無いくらいそう思います。何と言いますか、「20年〜30年ぐらい前のマンガのありがちな姿」という企画なら拍手喝采を浴びたであろう、骨の髄まで70〜80年代風に染まった作品ですね。

 しかし一言で「古い作品」と言っても、名作クラスの作品となると、いくら古い時期に描かれた作品でも古臭くないんですね。例えば藤子・F・不二雄先生の『ミノタウロスの皿』なんかは、30年以上前の作品ですが全く古臭くありません(10年位前にアニメ化されましたが、これも超名作です)し、他の先生方の名作も然りです。
 しかし、凡作や名作まがいの単なる人気作になったりすると、大抵の場合は古臭く感じてしまうんですね。これは恐らく、当時の感覚で「まぁ今の読者ならこんなのがウケるだろう」…みたいな感じで描かれたからではないかと思います。名作クラスの作品は時代を越えた斬新さと質の高さで「今」を無視出来ますが、それ以外の作品にはそれが出来ないのでしょう。(例外的に「早く生まれすぎた作品」というのがありますね。これは「今」のピントを合わせ損なったという事になりますか)

 で、何が言いたいかといいますと、「この作品は凡作だよ」って事です(笑)。20年前の感覚で「今の若者にはこういうのがウケるだろう」とやっちゃったんだろうと思います。斬新さは勿論、ストーリーもパターンそのものですし、好材料は見当たりません。
 作者の山口さんが10数年前に売れっ子になれなかったのは、ひょっとすると当時から作風が古臭かったからなんじゃないかと思ってしまいましたが、どうなんでしょうか?

 評価はB寄りB−あたりになりますか。一応、パッと見が小奇麗なので、感情に任せて評価を下げるわけにも行かないんですよね。

 ・「個別人気投票」支持しないに投票。(支持する理由が全く見当たりません)

 ・「総合人気投票」「グランプリ信任投票」でこの作品を支持することはありません。

 いよいよ来週で最後なんですが…………「総合人気投票」でもらえる5票分の参政権が思い切り重くのしかかりますねぇ。まぁ消極的な意思表示として「まだマシ」な作品に5票を投じたいと考えています。

 それでは今週のゼミはこれまで。来週は現体制最後の「現代マンガ時評」ですが、気負わずにいつも通りやりたいと思います。では。

 


 

3月13日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(3月第2週分)

 情報系の話題にもならないんで前フリに使っちゃいますが、02年度仁経大コミックアワード2冠・『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介)の単行本2巻のトーハン初週売り上げランキングが発表されて、6位『ホイッスル!』作画:樋口大輔24巻から僅差(?)の7位という事になりました。何と言いますか、擁護するのも叩くのも自由自在という非常に微妙な順位ですね(笑)。
 まぁ落第点だった1巻の時よりはマシになっているようなので、単行本の売り上げがマズくて連載続行に関わるとかいう事態は無くなって一安心です、個人的に。

 さて、そういうわけでですね(常套句)、今週もゼミの時間がやってまいりました。今日はレビュー2本の他に、大きいニュースも入っていますので、どんどん紹介してゆきましょう。

 ではまず、「週刊少年ジャンプ」系月例新人賞・「天下一漫画賞」03年1月期の審査結果が発表になっていますので、受賞作・受賞者を紹介してゆきましょう。

第78回ジャンプ天下一漫画賞(03年1月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=1編
  
・『SELF HEAD』
   原哲也(24歳・群馬)
 審査員&編集部特別賞=該当作無し
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『ロク』
   相模恒大(20歳・北海道)
  ・『マイナースウイング』
   福島鉄平(23歳・東京)
  ・『涙目のスー』
   井上高正(24歳・東京)
  ・『IMAGINATION』
   野寺寛(22歳・福岡) 
  ・『ムクロ』
   森田将文(23歳・愛知)
  ・『CRY MAX』
   宮本勝(29歳・兵庫)
  ・『フライング』
   吉原聡司(21歳・大阪)

 受賞者の過去の経歴は以下の通りです。

 ◎最終候補相模恒大さん…02年6月期「天下一」でも最終候補。
 ◎最終候補福島鉄平さん…00年に「月刊コミックフラッパー」でデビュー&翌年にも同誌に作品を発表(した作家さんと同一人物?)
 ◎最終候補野寺寛さん…02年3月期および8月期「天下一」でも最終候補。
 ◎最終候補森田将文さん…01年12月期、02年1月期および7月期「天下一」でも最終候補。

 ……今月は最終候補で停滞を強いられている志望者さんが多かったですね。ここからステップアップできるか、それとも終わってしまうかで人生が変わって来るんでしょうねぇ。

 
 では次に、ちょっと大きなニュースを。

 既に『最後通牒・半分版』さんなどで報じられていますが、現在「週刊少年サンデー」で『きみのカケラ』を連載中の高橋しんさんが、体調等の事情により現在進行中の活動を全て休止すると公式ウェブサイトで発表しました。
 これにより、連載中の『きみのカケラ』は数週間の内に連載終了、もしくは無期休載という事になりますね。内容と人気の迷走が囁かれていた問題作ですが、とりあえずは呆気ないフィナーレということになりそうです。
 高橋さんがおっしゃっている事を要約すれば、『きみのカケラ』連載開始の半年前から満足に活動できない事情を抱えたまま無理をしていたが、これ以上は利あらずと判断した…というもの。
 ですが気になるのは、高橋さんがその「満足に活動できない事情を抱えた」期間に、やたらと精力的な活動をされている事なんですよね(苦笑)。あちこちに読み切り描いたり、『きみのカケラ』の単行本に異様な加筆修正をしたり。だからこそ破綻したんだ…という意見もあるんでしょうけど、ちょっとにわかに信じられなかったりしました。

 
 ──というわけで、情報系の話題は以上。今週のレビューと“チェックポイント”に移りましょう。
 今週は「週刊少年ジャンプ」の読み切り1本と、「世界漫画愛読者大賞」のエントリー作1本の計2本のレビューを行います。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年15号☆

 ◎読み切り『神撫手』作画:堀部健和

 今週は若手作家さんによる、連載昇格を念頭に置いたプロトタイプ系読み切りが登場しました。
 作者の堀部健和さんは、「ほりべたけお」のペンネームで2000年に「赤マルジャンプ」でデビュー。翌年にも同誌で作品を発表しており、今回が約2年ぶりの復帰作&本誌初登場作品ということになりました。

 さて、それでは本題へ。
 まずですが、多少クセのある画風ながら、プロとしての最低レヴェルは軽くクリアしていると思います。ただ、何となく他の連載作家さんに混じるとインパクトが弱い印象があるのが気になるところです。主要キャラクターのデザインがオーソドックス過ぎなのかも知れませんね。

 一方のストーリー・設定ですが、これは残念ながら複数の問題点アリと言わざるを得ません。
 確かにシナリオ全体の流れは一見自然であり、少年マンガらしいメリハリの利いた起承転結が成立しているように思えます。
 しかし、自然に見えるストーリー展開の中にご都合主義的なものが見え隠れしますし(美術館長の行動やセリフに無理がある、神撫手能力の復活が理由も無く早過ぎるetc…)主人公の設定や警察と主人公の遣り取りなどにリアリティに欠ける気がしてなりません。後者に関しては恐らく『ルパン3世』『キャッツアイ』などの影響を受けたものなのでしょうが、それらの作品とこの作品が似て非なるものであるのは明らかです。
 また、途中に無用なギャグを入れてしまうのも感心できません。最近の「ジャンプ」系若手・新人作家さんは真面目な話でも無理にギャグを挟もうとしますが、話の腰を折ったり世界観をブチ壊してまで入れるようなモノでもないはずです。

 結論としては「惜しいけど、総合的に言ってまだまだ」というところでしょう。評価としてはB−が妥当であると考えます。完成度が低い割には妙に読後感が良い作品なので、ひょっとすると連載化されたりする可能性もありますが、現状の力量で連載になっても突き抜けるのが関の山ではないでしょうか。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今年の連載改変は変則的なんですが、それでもソロソロ未確認のインサイダー情報が漏れ始めてきました。まだ噂の段階なのでここでは採り上げませんが、どうにも溜め息しか出ないラインナップが実現しそうです(苦笑)。
 しばらくは新連載=短期集中連載という認識でないといけないんですかねぇ……。

 あと、巻末コメント長者番付1位のクセに近所のカレー屋でバイキングとか、焼肉の思い出を熱く語る女流作家とか、四十肩の若手ラブコメ作家とか、出前先の定食屋に気を遣うクセに編集者と読者には遠慮せず原稿を落とす作家とか、「ジャンプ」の作家さんの実生活はどこかおかしいと思います。

 ◎『NARUTO』作画:岸本斉史【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のような挿話描くの本当に上手いですね、岸本さん。場面の断片を巧みに繋ぎ合わせ方が素晴らしいです。これでメインストーリーの展開をもうちょっとスピードアップさせたら文句無しなんですが。まぁそれはさすがに注文がキツ過ぎですかね。

 ◎『シャーマンキング』作画:武井宏之【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 第2回キャラクターファン投票結果発表。しかし、メチャクチャな順位だなー(苦笑)。これほど露出度と順位が連動しないランキングが出る作品って珍しい気がするんですが。
 「ジャンプ」の人気投票は今後のストーリー展開を左右するくらい重要な隠れイベントですが、少なくともチョコラブがこれから八面六臂の活躍をすることだけは無くなってしまったような気が(笑)。

☆「週刊少年サンデー」2003年15号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 こちらの巻末コメントのテーマは「お薦め本」。読書家かそうでないかがモロバレですねぇ(笑)。しかし、週7日の内8日働いてそうな週刊連載作家さんのどこに読書する時間があるんだろう。映画ならまだ分かるんですが。まさか取材休みって読書タイムですか?(笑)

 ◎『名探偵コナン』作画:青山剛昌【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のトリック(?)だった、スーパーの天井に住む男、確かこれ、実際の事件であった話ですよね。食うに困って住み着いたっていうシチュエーションもそのまんまだった気がします。でもよくこんなB級ニュースをネタにしてマンガに出来るって、ナニゲに凄い話なんでは。
 そして、停滞中のメインストーリーも最近になってボチボチ進行しつつありますね。惜しまれつつ完結するつもりならばギリギリのタイミングだと思いますので、しばらく注目したいと思います。
 でも『金色のガッシュ!!』がメガヒットにならない限り、なかなか終わらせてくれないんでしょうねぇ。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 「世の中返さないといけないもの」の中の「あの人の小学館漫画賞」が個人的に大ヒット。勿論、他出版社の雑誌に連載していた児童向け部門のあの人ですね。今頃どうしているんだろう……。

☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.6 『大江戸電光石火』作画:弾正京太

 今シリーズもいよいよ佳境の6回目。しかし、全然ムードが盛り上がらないのはいかがなものかと(苦笑)。応募作数から考えると、これでもまだ健闘していると言えるかも知れませんが、賞のグレードと賞金がアレですからねぇ……。

 で、今回のエントリー作家さん・弾正京太さん大阪出身の32歳。8年前からマンガ家を志して活動を続けてきたものの活躍の舞台に恵まれず、なんと今回が実質的なデビュー作となった模様です。
 前回の「世界漫画愛読者大賞」では佳作を受賞していたそうで、数少ない“リベンジ”組という事になりますね。

 さて、それでは内容の方へ。
 まずですが、これはなかなかのハイレヴェル。マンガ家志望者としての年数はともかくとして、デビュー作でここまで完成度の高い絵を描けるの人は珍しいと思います。
 しかし残念なのは、女性キャラの描き分けが致命的なまでに出来ていない事でしょう。正直、最初の数ページは何度読み返したか分かりませんでした。

 ストーリーに関しては特に問題とする点はありません。オーソドックスながら、ドラマ時代劇っぽい展開で悪くないんじゃないでしょうか。出来の悪い時代劇は江戸を舞台にした現代劇みたいになりますが、この作品については大丈夫でしょう。
 ただし、特筆して褒めるべき点も見当たらないのが困りモノでもありますね(苦笑)。見せ場の殺陣がアッサリ終わり過ぎたり、単純な筋書きを複雑に見せようとしてやたら多くの伏線を張ってしまったりして、痛快さが抜けてしまったせいなのかも知れません。単純なストーリーは悪い事では有りません。むしろ、「週刊モーニング」連載の野球マンガ・『ジャイアント』のように、単純な筋書きでも見せ方次第では素晴らしい作品にする事もできるわけですから、小細工は逆効果です。

 とりあえず今回の作品だけで判断するなら「可もなく不可もなく」といったところでしょうか。しかし、これまでのエントリー作に比べると、「これ以上ひどくなる事は無いな」的安定感が感じられるのはプラスです。
 評価は甘めかも知れませんがB+を進呈。大化けはどうか分かりませんが、小化け程度ならしそうな気はしますね。今後の動向に注目したいと思います。

 投票行動は以下の通りです。

 ・「個別人気投票」支持するに投票。(正直言って迷いましたが、まとまった期間の連載で読んでみたいと思いました。でも、やっぱり早まりましたかね?《苦笑》)

 ・「総合人気投票」では、残り2作品がこの作品を上回る出来ではない限り、この作品に投票する予定です。

 ・「グランプリ信任投票」でこの作品を支持することはありません。ギリギリで準グランプリレヴェルでしょう。


 ……というわけで、今週のゼミも終了です。次週も「ジャンプ」では読み切りが載りますし、ある程度のボリュームは維持できそうです。では、また来週。

 


 

3月6日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(3月第1週分)

 さて、2ch掲示板のモデム配りアルバイト関連スレをチェックしていたら、今日の講義の準備がダダ遅れになってしまった駒木です(苦笑)。申し訳有りません。

 で、とりあえず、今週のゼミも「世界漫画愛読者大賞」レビュー1本と、“チェックポイント”のみになってしまいます。今年の春は「ジャンプ」の新連載シリーズが遅れ気味(一説によると今年は長期連載作品終了含みの変則シフトの模様)なので、レビュー対象作が稼げないのが痛いところです。まぁ、体力的・時間的に余裕が無いというのもあるんですが……。
 しかしまぁ、来週はまだしも、再来週には体も空きますので、質・量共に充実したゼミが出来るのでは…と思っています。

 それでは早速、「ジャンプ」と「サンデー」のチェックポイントから行きます。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年14号☆

 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週はどうもチェックポイントの題材になりそうな部分が少ないんですよねぇ……。
 一発ネタの類なら、118ページの1コマ目なんてのは絶好のターゲットになるわけですが(笑)、ストーリーの意外性とかに関しては、どうも今週はイマイチでした。残念。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 あっという間にVS賊学戦が終わってしまいましたね。あ、いや、凄い良いテンポなんで構わないんですが。モン太加入のエピソードで引っ張り過ぎたって反省でもあったんでしょうかね。
 試合の方はモン太が主役か? ……と思わせておいて、キッチリ美味しい所はセナが持って行きましたなぁ。いつの間にかメンタル的にも随分と成長したようで。

 ところで、売れ行きが色々な意味で注目されるであろう単行本の2巻が発売になりましたね。内容はもちろんの事、相変わらずオマケページが充実しているわけですが、駒木は王城の女子マネージャーにちょっと萌え(笑)。第二の奈瀬さんみたいに出世しないものか?(笑)
 それにしても、オマケページの文章読むたびに思うんですが、何だか良く出来たテキストサイトみたいな文章ですよね。特に太字の使い方とか。

 ◎『グラナダ ─究極科学捜索隊─』作画:いとうみきお【現時点での評価:B−/雑感】
 
 現時点で打ち切り候補筆頭と目される作品ですが、むー、何だか当初とは全く別のマンガになっちゃいましたね。序盤のドタバタよりは今の方が中身が濃くて良いとは思うんですが、それにしても話変え過ぎだろう…って気が(苦笑)。

☆「週刊少年サンデー」2003年14号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『MÄR(メル)作画:安西信行【現時点での評価:B 

 今回で主人公の目的がハッキリし、仲間が一人加わったわけですが、何だか、物凄く取ってつけたような設定のような気がプンプンと……(汗)
 特にギン太の加入は、「ただ単にセオリー通りメンバーを増やしたいだけ」的な印象が漂って来て、あまり好ましくないですねぇ。どうも迷走の予感がしてきました。どうして最近の「サンデー」は連載前からプッシュした作品に限ってポシャるんだろう(苦笑)。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】
 
 身体検査中の美鳥の表情とか仕草とかの描写がいちいち細かくて感心しました(笑)。特に、美鳥に目がいかないようなコマに力を入れてるのが……。井上さんがこの作品に愛情を注いでいるのが良く分かります。
 そう言えば、どうでもいい部分の描写を極力どうでも良く描く人の代表格故・藤子・F・不二雄先生でしたね。「変ドラ」さんの『白ドラ』を見てもらえれば分かるんですが、もはやナンジャコリャの世界でして(笑)。同じマンガという媒体でも表現の方法は十人十色なんですねぇ。

☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.5 『極楽堂運送』作画:佐藤良治

 恐らく今回のエントリー作の中で最も“濃い”作品(そして作者さん)の登場です。第1回でも独特過ぎる世界観で読者を色々な意味で惑わせた作品がありましたが、今回のその“枠”は、どうやらこの作品のようですね。

 作者の佐藤さんは37歳。19年前と17年前の2回「手塚賞」の佳作を受賞し、2回目の受賞の時に増刊号デビュー。しかし、他の作家さんとの力量差を痛感し、また自分の求める作風が少年誌に合わないと判断して、活動の舞台を青年誌へと移します。
 その後、「週刊漫画アクション」で連載をするなどして来ましたが、なかなか芽が出ずにここまで来てしまった模様。しかし、これほどまでキャリアが長くて実績が乏しい作家さんも珍しいのではないかと思います。執念深いといえば良いのか、それとも……

 さて、では作品の内容に。
 まず絵柄ですが、上手下手を別にして「主流から外れてるなぁ」…という印象がありますね。恐らくは「バンチ」か「モーニング」くらいしか拾ってもらえなさそうな気がします。
 あと、女の子キャラの描き方がワンパターン&表情が固めなのが気になる点でしょうか。オッサンキャラが濃い分だけ女の子を可愛く描こうという気持ちは感じられるのですが、腕が追いついていない感じですね。

 ちょっと解釈が難しいのがストーリーの方ですね。独特な世界観をどう評価するかでも意見が割れそうなんで、いつにも増して主観が入ってしまいそうなんですが、とりあえず駒木の考えを述べてみます。

 まずシナリオの流れそのものは、そんなに不自然ではなかった気がします。ただ、“地獄猫”の家の前で張っている刑事が何のために張り込みをしているのか全く無意味なのが気になる点ではありますが。
 むしろ問題なのは、作品全体のテーマが1つに絞りきれなかった点でしょう。親子の絆がメインなのか、ヒロイン・蘭の復讐劇がメインなのか、それとも裏社会に生きる人間の逞しさを描くのがメインなのか、その辺が伝わって来ませんでした。なので、ラストシーンが今一つ効果を上げていないような気がするんですよね。

 あと、それ以上に問題なのはキャラクター描写です。
 なるほど、出て来るキャラというキャラがアクの強い印象を与えてくれますが、しかし本当の意味で“キャラが立った”キャラは1人もいなかったような気がします。
 物語の登場人物には、話を進めるために与えられた役割と設定が存在します。しかし、これだけでは登場人物が本当の個性を身につけた事にはなりません。個性的なキャラを生み出すためには実際には話の展開には役立たない、言ってみれば“遊び”の部分が必要です。これは“裏設定”と言い換えても良いでしょう。
 この作品に出てくる登場人物にはそれが無いんですね。だから作中の性格描写がシナリオに引きずられてチグハグになったりするわけです。どうやらこの作品は読者審査会後の修正で“改悪”されてしまったようですが、そういう修正を許してしまう“セキュリティホール”みたいなものが元々有ったのではないかと駒木は思っています。

 結論を言うと、この作品は失敗作(not駄作)です。佐藤さんの力量が果たしてこれが限界かどうかはよく判りませんが、少なくとも『極楽堂運送』がグランプリや連載作に相応しいものであるとは言えないと思います。
 評価はB寄りB−

 投票行動は以下の通りです。

 ・「個別人気投票」支持しないに投票。(現在連載中の作品と比較して、この作品が勝っているとは思えません)

 ・「総合人気投票」「グランプリ信任投票」でこの作品を支持することはありません。

 ……なんだか8週連続で「支持しない」になりそうな気がしてきました(苦笑)。総合人気投票、どうしましょう?

 
 ……といったところで、今週のゼミは終了です。来週はレビューを2本お届けできそうです。では。

 


 

2月27日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(2月第4週分)

 さて、月刊作家さんには地獄の2月も最終週となりました。ちなみに週刊作家さんは毎日が地獄で、連載を持たない駆け出しの作家さんは、ボンヤリと自分の将来を考えた時が地獄だったりするわけですが。
 …マンガ家っていうのは、歌手とよく似ていて、当たり外れの差が激しい印税稼業ですからねぇ。当たれば億なんですが、それまでは安アパートで餓死寸前とかだったりしますし。
 ちなみに小説家の売れる・売れないはお笑い芸人に似てますね。ブレイクするのが大抵30歳前後以降だったり、トップクラスでも収入が億まで届くのはほんの一握りだったりしますし。明石家さんまでも年収の上では浜崎あゆみとか宇多田ヒカルには及ばないでしょうから。

 とまぁ雑談はさておき、ゼミです。今週はお伝えする情報も無くて、レビューも1本だけと寂しい中身になってしまいました。ただ、駒木の体調もイマイチですから、正直助けられた…という気もしますが。
 ところで、今週の話題作と言えば何といっても「週刊少年マガジン」で新連載になった『魔法先生ネギま!』作画:赤松健)ですよね。「マガジン」とは縁遠いこのゼミですが、さすがにこの作品を無視するわけにはいかないとは思っています。ただ、どうせレビューするならジックリと中身を見定めてからやりたいので、どうか2〜3週間お待ち下さい。然るべき時にキチンとレビューをしたいと思ってます。

 というわけで、今週のレビューとチェックポイントへ
 今週のレビューは「世界漫画愛読者大賞」の1本のみで、その前に「ジャンプ」と「サンデー」のチェックポイントをお送りします。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年13号☆

 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 
 
 今週の話の持って行き方は、よく出来てますね。やっぱり試合やってる方が面白いわ、この作品。
 まさか第1回で死にかけてた伏線(“ハァハァ3兄弟”)をこんな所で活かしてくるとは思いませんでした。後付けも上手くなってますね、稲垣さん。
 それにしてもヒル魔ってキャラは奥が深いですなぁ。主人公のセナを思い切り目立たせておいて、実はデビルバッツ一の天才プレーヤーにして努力家。性格も乱暴ではあるけれども決して悪者ではない(むしろ不器用でシャイなカワイイ所のある奴)…という絶妙のバランス感覚。こんな難しいキャラをよく破綻無く使いこなせるものです。感服します。

 ◎『Ultra Red』作画:鈴木央【第3回掲載時の評価:/雑感】

 新連載2作品が不調という事もあり、どうやら打ち切り圏内から脱出しちゃったみたいですね。理不尽な打ち切りに泣かされてきた鈴木さんですが、凄いところで反動が(笑)。ノルマン現象改めウルトラノルマン現象ですか。なんか、変身ヒーローのバッタモンみたいな現象だな。
 しかし、話の展開そのものは、これまでの格闘系少年マンガの“カバー・ナンバー”にしか思えないのが辛いところ。もうちょっとオリジナリティが欲しいところなんですけれども……。

 ◎『BLACK CAT』作画:矢吹健太朗【開講前に連載開始のため評価未了/雑感?】
 
 うわー、今度は『うえきの法則』だよー(苦笑)。しかし、なんてスケールの小さいコピー……いやいや。
 しかしこれって、言ってみれば『HUNTER×HUNTER』の孫コピーって事ですか(笑)。確かに、見事なまでに劣化してますな。

☆「週刊少年サンデー」2003年13号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は『金色のガッシュ !!』『モンキーターン』が取材休み。駒木は『モンキーターン』→『ガッシュ』の順で読み始めるので、物凄く戸惑いました(笑)。
 ちなみに最後は『かってに改蔵』でシメます。いや、別に面白くないわけじゃないですよ。逆です。ドラマの配役のトリみたいなもんですよ。

 ◎『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【現時点での評価:/作品の再評価】

 連載開始以来、この作品に関しては酷評を続けて来ましたが、今回分を読む限り良化の兆しが見えてきたような気がします。キャラが増え、話を展開させる上での役割分担が上手くいくようになり、ストーリーの説得力が増して来ました。
 まだ楽観は許しませんが、ソコソコの質を保てる作品にはなって来たのではないかと思います。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】 

 どうも今回についてはネット界隈で不評みたいですが、個人的には先週と併せて高い評価をしても良いんじゃないかと思っています。小ギャグ、小ギャグで積み重ねていって、最後の最後でドカーンと大ネタ…というメリハリの効いた展開にモリさんの技術的向上を見たような気がするんですよね。
 最近気付いたんですが、この作品、ずっと『ボンボン坂高校演劇部』っぽいと思ってたんですが、『奇面組』のエッセンスも相当含まれてますよね。主人公が原則的に常人なんでパッと見では分からないんですが……。

 

☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.4 『華陀医仙 Dr.KADA』作画:曾健游

 「愛読者大賞」シリーズもあっという間に折り返し地点。ここまでは第1週をピークにどうも尻すぼみの印象が否めないのですが、何とか巻き返してもらいたいものですが……。

 さて、今回は香港在住の曾健游さんが登場です。
 インタビュー記事などによると、曾さんはかつて日本で数年アシスタントを務めてマンガ家修行を経験していたとのこと。そして帰国後に投稿した作品・『福亨千萬年』第51回「手塚賞」(96年上期)準入選を受賞&増刊デビュー。また、99年には『至福千萬年』というよく似た題名の作品で第63回「週刊少年マガジン新人漫画賞」選外佳作になっています。(情報提供:シェルターさん。感謝!)
 現在は香港で幼児向けの雑誌でマンガを連載しているとのことで、現役作家の立場でこの賞にエントリーしたわけですね。
 ところで曾さん、インタビューでは随分とアメリカンコミック形式の分業制を熱く批判していましたが、それは日本の某大御所某大御所某大御所を批判してるのと一緒なんですけど、良いんですかね?(笑)

 ……さて、本題に映りましょう。

 まずですが、既に多くの人から指摘をされているように雰囲気は鳥山明さんによく似ていますね。ただ、細かい部分と見ると相当違った印象もありますので、これは日本での修行時代に徐々に形成されていったオリジナルの絵柄なのでしょう。
 で、技量的なものですが、これは既に香港で連載を持っているというだけあって、プロとして合格点を出せる位の出来はあると思います。充分に即戦力でしょう。

 で、ストーリーですが、こちらも一定の水準には届いていると思います。全体的な話の流れには大きな矛盾点はありませんし、多少手垢は付いていますがキッチリと起承転結も成立しています。設定的にも連載に向いていますし、話の広がりも望めますので、将来性もあるでしょう。そういう意味では、これまでの4作品の中では最も今後に期待できそうな作品と言えそうです。

 しかし、残念ながらこの作品は、手放しで賞賛できるモノである…とも言えないのです。

 まず、作品の対象年齢が「バンチ」読者層とはギャップがあり過ぎます。少年向けならまだしも、この作品はどう考えても児童向けです。小学生向けの作風では、いくら(コアな読者にはあまり好まれないとしても)ノスタルジーで勝負できる余地のある「バンチ」でも苦戦は必至と言うものです。
 曾さんはバイオレンス的な要素を追加して大人の鑑賞に堪えうる作品にしようと考えた節がありますが、そのせいで逆に作品の世界観にバランスを欠いてしまったような気もしますね。命の価値が場面場面で乱高下してしまい、読者に困惑する要因を与えてしまいました。

 更に、「主人公・華陀のキャラが定まっていない」という部分にも問題があります。
 今回の作品中では、その華陀が基本的に薄情なのか情に厚いのか、また、報酬的には“赤ひげ”タイプなのかブラックジャックタイプなのか…といったあたりが非常に曖昧で場当たり的だったような気がするのです。
 曾さんは「愚かな人間には薄情で、良い妖怪には情が厚い」…という風にしたかったのかも知れませんが、それでは単なる俗物であって主人公向けのキャラではありません。医者を主人公にするマンガでは、その主役は特別・特異な行動パターンをとる人間でないとインパクトは残せないのです。ですから、その辺が非常に残念でありました。

 ……さて、最後に総括と行きましょう。
 先に述べましたように、この作品には将来性があります。世界観のブレを修正し、主人公の性格付けにテコ入れを施せば大ヒット作になる可能性すらあるでしょう。ただし、発表すべき媒体は「バンチ」ではなく、小学生をメインターゲットにした少年誌もしくは児童誌です。残念ながらこの賞に向いた作品ではない…と言わざるを得ません。

 評価は児童向けマンガとして扱った上で、加点・減点要素を相殺してB+とします。どこか良い雑誌が拾ってくれればいいんですが……。

 なお、投票行動は以下の通りです。

 ・「個別人気投票」支持しないに投票。(作品は良いと思っていても、だからといって「バンチ」で連載されるわけにはいかないので、敢えて不支持に。ハッキリ言ってジレンマ感じてます)

 ・「総合人気投票」「グランプリ信任投票」でこの作品を支持する予定はありません。


 ここまで4週連続で「不支持」なんですが、やっぱり看板作品候補になると考えたら、思い切りが鈍くなりますよね。「グランプリには推薦しないが、何らかの形で続きが読んでみたい」…みたいな選択肢は無いもんでしょうか。

 ……では、今週のゼミはこれまで。来週も短めになると思いますが、副業多忙のため、どうかご容赦を。では。

 


 

2月20日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(2月第3週分)

 今週は久しぶりにレビュー対象作が3本もありますので、駆け足でお送りします。日常生活がバタバタし始めた途端にレビュー対象作が増えるなんて、人生ままならんもんです(笑)。

 さて、まずは情報系の話題から。今日は1点だけです。

 高橋昌俊氏の死去以来、バタバタとしている「週刊少年ジャンプ」の人事ですが、今週号(12号)の「編集人」(=編集長)は茨木政彦氏になっていました。鳥嶋氏は本当に名義だけのワンポイントだったんですね。
 茨木氏はいわゆる“鳥嶋体制”の頃から長年副編集長を務めてきた人だけに、もしこれが正式な編集長就任ならば順当な繰り上がり人事と言うことになるんでしょうね。
 この件に関しては、また動きがあり次第お伝えします。(なんか、本物のニュースみたいだな^^;;)


 では、今週のレビューの方へ。今週は「ジャンプ」から読み切り1本、「サンデー」から短期集中連載の第1回レビューを1本、そして「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作完全レビュー1本計3本となります。
 また、毎週お送りしている「ジャンプ」と「サンデー」の“チェックポイント”ですが、今回は諸事情で金曜に追加振替、もしくは休止とさせてもらいます。ご了承下さい。 

☆「週刊少年ジャンプ」2003年12号☆

 ◎読み切り『少年守護神』作画:東直輝

 昨年、『ソワカ』を連載するも2クールで打ち切りとなった東直輝さんが、今回読み切りで復帰となりました。
 東さんはデビュー以来2回連続で短期打ち切りになった作家さんなんですが、どうやら「ジャンプ」の“2連続打ち切り作家追放の掟”は“3連続”に緩和されたみたいですね。この辺り、即戦力不足に悩む「ジャンプ」の台所事情が反映されているようです。

 さて、この「ジャンプ」で読み切りと言えば、アンケート次第で連載化される“プロトタイプ”の性格が強い作品です。果たして今作が連載に足るレヴェルに達しているのかどうか、一応の判断を下してみたいと思います。

 まずですが、こちらは以前とほとんど変わった感じは見られませんね。しかし、東さんは元々がプロとしてはあまり絵が達者な方では無いだけに、これはやや残念な材料ではあります。

 しかし、ストーリー・設定面の方は、遺憾ながらもっと残念な材料となってしまいました。ぶっちゃけて言ってしまうと、とにかく全編マイナスポイントだらけという悲惨な内容です。その全てを採り上げると『碼衣の大冒険』作画:イワタヒロノブ)の時みたいに顰蹙を買うだけになりそうなので、ここでは特に大きな問題2点に絞ってお話をします。

 まず1点目。これはやはり世界観を無視した主人公たちの服装でしょう。戦国時代劇なのに服装だけが現代風という訳の分からない設定になっていました。これはもう内容以前の“最低限の約束事”が守られていません
 いや、別に現代風の服を着ていても良いんですが、それだったら何がしかの理由付けをして必然性を持たせないと、何の効果も得られずに誤解を生むだけです。おそらく序盤でタイムスリップ物と錯覚した読者の方も多かったのではないでしょうか。
 例えば学園ストーリー物で、主人公の男子高校生がセーラー服に女装しているとします。するとほとんどの読者は「主人公は“そういう”キャラだな」と認識するでしょう。しかしその後、主人公が全編普通の男子高校生として振舞って、他の登場人物も当たり前のように接して…となっていったらどう思うでしょうか? 多分絶句するか、「これは本当はシュールギャグマンガじゃないか?」…と疑うかのどちらかでしょう。
 物語というものは、作者から特別な指示が無い限り、その物語が描かれた時点の常識をベースにして話が展開されるものです。それを理解していない人がいくら頑張ってもどうしようもありません。

 2点目作品全体の“ノリ”がコメディを突き抜けてギャグの範疇まで飛び抜けてしまっています。しかもそのギャグもテンポが早いだけで何の工夫も無い稚拙なものでした。
 昔の東さんの作品はそこまで酷くなかったので、これは非常に残念でした。こんな事言ってはアレですが、休み中に『Mr.FULLSWING』でも読み過ぎて感覚が狂ってしまったんではないかと疑いたくなるくらいです。

 この他にも必然性が無かったり、無理のあるストーリーテリングの問題点が山積みです。一体、どうしちゃったんでしょうか。東さんの今後が心配になってしまいましたね。

 評価は厳しくとしておきます。別の分野のクリエーターの人から「あれ? マンガの世界ってのはこの程度で連載持てちゃったりするんですか?」…などと言われても言い訳の出来ない作品ですので。

☆「週刊少年サンデー」2003年12号☆

 ◎短期集中連載第1回『電人1号』作画:黒葉潤一
 今年の「サンデー」で2作品目となるギャグ作品の短期集中連載シリーズですが、今回から黒葉潤一さんが登場となりました。
 黒葉さんは学生時代の97年4号から99年8号までの2年間、「サンデー」本誌で『ファンシー雑技団』を連載した経験を持つ若手作家さん。その後も本誌や増刊などで散発的に活動をして来ましたが、短期集中とは言え久々の連載獲得となりました。
 なお、このゼミでは今回と最終回の2回、レビューを行います。

 それでは作品の内容に話題を移しましょう。

 “ギャグ作家さんにしてはマズマズ”…といった感じでしょうか。『ファンシー雑技団』時代よりは上手くなっているように思えますが、動的表現を苦手にしているように思えるのが気になるところで、これが作品全体の迫力を弱めてしまった感もあります。

 そして肝心のギャグですが、「第1回からアンケート人気を獲らなくちゃ!」…という意気込みが空回りしてしまったのか、とにかく間の悪さが気になります。これは前の短期集中連載作・『少年サンダー』作画:片山ユキオ)でも見られた面で、1コマ間を置いた方が良かったのに……というシーンが良く目立ちました。
 他に注文をつけるとすると、ギャグマンガの生命線である意外性がやや物足りなかった面と、ギャグの見せ方がワンパターン気味になってしまった点などが挙げられます。

 良かった頃の黒葉さんって、ちょっとシュール気味のギャグで勝負していたような気がするんですけど、気のせいでしたかねぇ。とりあえずドタバタギャグに向いている作風とは思えないので、もうちょっと工夫してみて欲しいと思っています。現時点の評価はB−

☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.3 『摩虎羅』作:茜色雲丸/画:KU・SA・KA・BE

 今週のエントリー作家さんは作画分業制の2人組。共に35歳という茜色雲丸さんKU・SA・KA・BEさんのコンビです。
 「バンチ」に掲載されたインタビューによると、原作担当の茜色さんはゲームのシナリオライターで、マンガ担当のKU・SA・KA・BEさんは現役のマンガ家兼アシスタントとのこと。そしてコンビ結成は10年前。とある雑誌の企画モノ作品を描いたのがきっかけであるそうですが、それ以後は作品を発表する機会に恵まれて来なかったようですね。
 何だか、前回の特徴(埋もれた新人マンガ家復活戦)と今回の特徴(別分野からの脱サラ挑戦)を微妙に合わせたようなお2人の経歴が興味深いですね(笑)。

 ──さて、では作品のレビューの方へ。

 この作品については、先週のゼミの終わりの方で「これは“『エンカウンター』的な作品”だ」…みたいな事を話したと思うんですが、ここでそれはどういう意味なのかを、もう一度お話しておきます。“サードインパクト”組の受講生さんたちには多分話していなかったと思いますので。

 この「世界漫画愛読者大賞」や、その前身である「ジャンプ新人海賊杯」では、ある特定のタイプの作品が、いつも上位に入賞して連載を獲得し、漏れなく短期で打ち切られる…という現象が起こっています。
 で、その特定のタイプとは、

 1.絵の見栄えが良い(パッと見の画力が高い)。
 2.サラリと読む感じでは読後感が良い。
 3.しかし、よく読みこめば話が破綻している。 

 ……というもの。つまりは読み切りの時は誤魔化せても、連載に突入すると構成力の不足がたちまち露呈して破局を迎えてしまう…ということですね。
 そして昨年の「世界漫画愛読者大賞」でも同様のケースがあり、それが先に名前の出た『エンカウンター 〜遭遇〜』だったわけです。
 ではここで、この『エンカウンター』が「愛読者大賞」当時どんな感じだったか、昨年のゼミのレビューからちょっと抜粋してみましょう。

 この作品、言い方は悪いですが、読者を雰囲気で誤魔化してしまえば、大賞まで手が届くかもしれません。ただし、今のままで連載に踏み込めば、早かれ遅かれ破綻してしまうでしょう。それが非常に惜しい。
 『エヴァ』は、話が破綻する寸前の状態で、まるで北緯38度線で綱渡りをやるようにして、ギリギリ成立した話でした。そんな話に影響を受けて新たなストーリーを作り上げるのは並大抵の覚悟では出来ません。作者の木之花さんには是非、意気込みだけではなく覚悟も持って話作りに挑んでもらいたいと思います。返す返すも惜しい作品でした。再挑戦を待っています。

 ……わはは。キッツイ事言ってますねぇ。全部当たってますけど(笑)。
 恥ずかしい話、昨年の「愛読者大賞」レビューはイマイチ冴えないモノが多かったと思うんですが、この『エンカウンター』だけはドンピシャだったような気がします。まぁこんなネガティブな予想が当たったところで何の得にもならないんですけどね(苦笑)。

 …とまぁ、こういうタイプの作品の事を『エンカウンター』的と読んでいるわけです。お分かりになったでしょうか?

 ──ではこの『摩虎羅』のどういったところに問題があったのか…といった話になるわけですが、ここでは2つ具体的な“ストーリーの破綻”ポイントを指摘しておきます。

 まず1つ目ゴブ族のブローカーが、何故弱いはずの人間を試合に出す事にそんなに固執するのか? …といった点です。
 このブローカーにとって、人間の摩虎羅を試合に出して負けるという事は、賭け金と摩虎羅の売却代金を二重に損することになるわけで、普通なら「あの女を使うしかないのか」とか思う前に諦めますよね(苦笑)。せめて摩虎羅を叩き売ってでももっと強そうな種族の戦士を雇うはずです。それに「あの女を使うしか──」って言うタイミングは、リザードマンが死んでからですよねぇ、どう考えても。

 2つ目摩虎羅はどうして第1戦の巨神族戦の時から奥の手・インドラの瞳を使わなかったのか? 「水戸黄門」の印籠じゃあるまいし…という話です。
 いや、「最初で使ったらお話にならん」という意見出るでしょうが、それは作者と読者の都合であって摩虎羅の都合じゃないわけですよ。いつも駒木がレビューで言っている“キャラの行動の必然性”というヤツです。

 ……この作品、喩えて言うなら「プロレスやってる」って感じなんですよね。話を盛り上げるためにキャラクターがわざわざ自分から窮地に陥って、そんでもって劇的な展開で逆転すると。
 でも、今この作品が発表されたストーリーマンガの世界は、そういうのが一切無い世界です。言うなれば「PRIDE」みたいな真剣勝負・バーリ・トゥードのリングなんですよ。そこでプロレスやられても興醒めなんですよね。プロレスはプロレスのリングでやるから面白いのであって、本当の真剣勝負の場でロープに飛んだり逆さおさえ込みで勝負決まっても「それってどうよ?」…なわけです。
 まだこの読み切りでは多少面白さが残っているかも知れませんが、これがこのまま連載になるとまず破綻するか、さもなくば飽きられるでしょう。

 以下、駒木のエエカゲンな推測なんですが、この失敗はどうも、原作の茜丸さんがゲームシナリオ畑の人であるところに原因がありそうな気がしています。
 といいますのも、ゲームシナリオの世界って、意外とプロレス風味の“暗黙のお約束”が通用する媒体でして、「面白い」と思ってもらえるなら多少シナリオが破綻してても許されるところがあるんですよね。
 ですからこの『摩虎羅』、茜丸さんがゲームシナリオを作る感覚でマンガ原作を作ってしまったためにストーリー破綻してしまったのではないかと思うのです。あくまで個人的に思ってるだけですけどね。

 さて、とりとめもない話はこれくらいにして評価です。
 散々な事を言ってきましたが、一応絵は標準以上ですし、破綻箇所があるとは言えマンガとしては成立していますから、ある程度の点はつけなければならないでしょう。もしも今後シナリオが破綻しないようになれば大化けの要素もあると思ってますしね。まぁ、やや甘めでB−寄りBといったところでしょうか。

 では、最後に投票行動の公開です。

 ・「個別人気投票」支持しないに投票。(ダメモトで賭けてみたい思いもあるが、少なくとも「愛読者大賞」の看板を背負っての連載はリスクが大きすぎるとの判断。通常のアンケートにも票は入れていません)

 ・「総合人気投票」「グランプリ信任投票」でこの作品を支持する事はありません。

 

 ……というわけで、以上で今週のゼミを終わります。

 


 

2月13日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(2月第2週分)

 ちょっとばかり、のっぴきならない事情がありまして、講義の開始時刻が遅れています。(現在14日午前5時)
 もともと毎週の事ではありますが、途中から振替講義になると思いますので、ご了承ください。

 先に言っておきますが、今週のレビューは「世界漫画愛読者大賞」の1作品のみになります。デキ次第では「週刊ヤングジャンプ」に掲載された尾玉なみえさんの新作もレビュー対象作にする予定だったのですが、高い評価を出せそうに無いので今回は見送ります。ん〜、「卵管」は良かったんですけどねぇ(笑)。
 で、他には、いつも通り情報系の話題と「ジャンプ」・「サンデー」少年2誌の“チェックポイント”をお送りします。


 それではまず、情報系の話題から。
 初めに新人賞関連を。今週は「週刊少年ジャンプ」系の月例新人賞・「天下一漫画賞」02年12月期の審査結果が発表になっていましたので、受賞者・受賞作を紹介しておきましょう。 

第77回ジャンプ天下一漫画賞(02年12月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 審査員(秋本治)特別賞=1編
  
・『発進 !! ストイック兵器ブサイボーグ !!』
   川口幸範(23歳・長崎)
 最終候補(選外佳作)=6編
  ・『PICTURE GHOST』
   佐藤幸輝(19歳・宮城)
  ・『シャイニングエッジ』
   内野正宏(27歳・神奈川)
  ・『水 ─WATER─』
   田中秀作(19歳・福岡)
  ・『DAIKON』
   伴ダナー(20歳・兵庫) 
  ・『インベイション』
   松尾雄太(16歳・長崎)
  ・『無刀拳』
   岩井俊之(31歳・滋賀)

 なお、受賞者の過去の経歴は以下の通りです。

 ◎審査員特別賞川口幸範さん第64回「天下一」(01年11月期)で編集部特別賞を、第68回(02年3月期)「天下一」で審査員(武井宏之)特別賞をそれぞれ受賞

 ……川口さんは、これで3回目の特別賞受賞。佳作の壁の前に相当な苦戦を強いられている印象ですね。今回は「少年誌向けではない」という作風が足枷になってしまったようですね。難しいものです。

 さて、次に新連載の情報を。
 基本的な事項は既報ですが、「週刊少年サンデー」の次号・12号から、黒葉潤一さんの短期集中連載・『電人1号』が開始となります。
 おそらくは、先日まで連載されていた『少年サンダー』作画:片山ユキオ)と同様、5回程度の連載になると思われますが、この時の人気次第では本格連載もあり得る話ですので、良い作品を期待したいものです。

 そして3点目。「週刊少年ジャンプ」前編集長・高橋俊昌氏の死去に伴う、今後の「ジャンプ」編集部の体制についての情報です。
 今週発売の11号では、いわゆる連載作家陣の巻末コメントが全て高橋氏の追悼コメントとなっており、更には、本来なら編集者の近況を掲載する欄に、高橋氏の上司である「ジャンプ」発行人・鳥嶋和彦氏の追悼文が掲載されていました。いかに今回の出来事が大きな衝撃を与えたものであったかを物語る1ページであったと言えるでしょう。
 また、背表紙の編集人(=編集長)欄を見ると、鳥嶋氏が発行人と兼任する形になっていましたので、ここはとりあえず鳥嶋氏が暫定的に編集長に復帰し、来るべき新体制までのワンポイント・リリーフを勤める事になったようです。一種の非常時体制ですが、まぁ妥当な線ではないかと思います。
 この話題については、新しい動きがあり次第、随時このゼミで情報提供をしてゆきますので、ご注目下さい。


 ……それでは今週もレビューと“チェックポイント”の方へ。まずは「ジャンプ」と「サンデー」の“チェックポイント”からどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年11号☆

 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週の「ジャンプ」は、『HUNTER×HUNTER』取材休載なのに新人読み切り無し。これはたまたま載せられるような原稿が無かったのか、それとも方針変更なのか、どっちなんでしょうねぇ?

 ◎『ヒカルの碁(第2部)』作:ほったゆみ/画:小畑健【現時点での評価:A/雑感】

 いやぁ、久々に熱い『ヒカ碁』を見ました。本当は静かなテーブルゲームを、ここまでスピード感と迫力溢れる描写をするとは、さすがです。
 しかし、この北斗杯ってコミ5目半なんですね。まぁ会場が日本だから日本式ってわけでしょうが、今年から日本もコミ6目半になったんで、どのあたりからか変更させる事になるんでしょうけど。でも、コミが変わると、マンガの中で使用する昔の棋譜の結果も変わってくるんですよね。半目勝負だったら勝敗逆転だし。う〜ん、どうするんでしょうねぇ、これ。
(追記:ご指摘を頂きました。単行本で「コミは5目半で統一する」旨の記述があったそうです。『ヒカ碁』ではプロ試験においても東京本院のリーグ戦だけに限っていたり、独自の世界観で描かれているので、これもまぁアリと言えばアリでしょうか。しかし問題ナシとは言えない話ですけどね)

 ◎『シャーマンキング』作画:武井宏之【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 シュールだなぁ、今週は(笑)。真面目に読ませたいのか、笑わせたいのか、両方なのか、ようワカランです(笑)。
 あ、分かった事もありました。
 「いい大人にはのび太君が穿くような半ズボンは似合わない」
 コレ、重要ですな(笑)。そりゃあ、葉も「うええええ?」だわ。

 ◎『プリティフェイス』作画:叶恭弘【現時点での評価:B+/雑感】

 なんだ、結局は2週間前に立てた仮説(夏緒が乱堂の正体を知って協力者になる)がキッチリ当たっちゃったなぁ。何だか競馬で審議の結果、繰り上がりで馬券が当たった…みたいな感じが(苦笑)。
 しかし今週もパンツだらけですな。まぁ良いんですけど(笑)。昔、『しあわせのかたち』作画:桜玉吉)が、人気対策のために毎週意図的にパンチラシーンを出していたっていうのを髣髴とさせるような……。

『Ultra Red』作画:鈴木央【第3回掲載時の評価:/雑感】

 “関東の噛ませ犬(笑)”東堂院光のヘタレぶりをみて、
 「ここは『なんやてー!』って叫ばなきゃダメでしょ」
 …と、思った人は多かったはずです(笑)。

 

☆「週刊少年サンデー」2003年11号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『ファンタジスタ』作画:草葉道輝【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ん〜、全体的には地味な話が続くんですが、こまめにヤマ場がありますよね、この作品。小エピソードを積み重ねてゆくというのは長編の基本ではあるのですが、週刊連載ではなかなか難しいはず。伊達に何年も連載続けてないって事でしょうね。

 ◎『鳳ボンバー』作画:田中モトユキ【現時点での評価:B+/雑感】

 なんか最近、妙にキャラの平均美形率(ナンジャソラ)が上がってる気がするんですが、これも一種のテコ入れなんでしょうかね(笑)。まぁ確かに読んでる途中に男性読者がどこかを凝視する場面は飛躍的に増えた気がしますが(笑)。
 でも、せっかくの野球マンガなんだから、もっとスカッと野球しているところが観たいこの頃。そういう意味では、これから始まるオープン戦は個人的に楽しみです。

 

☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.2 『鬼狂丸』作画:新堂まこと

 今週も「世界漫画愛読者大賞」の最終エントリー作品についてのレビューをお送りします。

 今回のレビュー対象作・『鬼狂丸』新堂まことさんは、大阪府出身・在住の25歳。今回の作品がデビュー作になる、全くの新人さんだそうです。
 新堂さんは印刷会社のデザイン部に勤務した後、マンガ家を目指して3年前に退職。現在は持ち込みや投稿などを続けつつ、マンガ漬けの毎日であるそうです。
 ……前回の「愛読者大賞」では、新人賞の受賞歴があるも燻ってしまった“敗者復活組”の人が多かったですが、今年はここまで連続して脱サラ組のエントリーになっていますね。しかし、どっちにしても「これでいいの?」と思ってしまう傾向ですよね(苦笑)

 では、レビューの方へと移りましょう。

 まずですが、これは有り体に言ってお粗末としか言いようがありません。部分部分では上手く描けているように見える箇所もありますが、描写の難易度が少しでも高くなると、途端に絵柄が荒れ始めます。特に、アクションシーンが多いというのに、殴られた顔面の描写がとんでもなく稚拙なのが気になります。
 持ち込み・投稿を続ける中、独学で画力を高めるというのは難しかったのかも知れないのですが、こうしてプロの卵としてデビューしてしまったからには、批判を受けても仕方ない事ではないかと思われます。

 次にストーリーこちらも正直言って、問題点が相当あると言わざるを得ません。
 中でも最も大きな問題点は、「作品内の世界観と、そこで起こった出来事の間にリアリティが薄い」というところです。同じ城の中で生活している主人公と継母の間で命を遣り取りするならば、もうちょっと情報戦的な要素が絶対に入ってくるはずです。主人公側も彼の命を狙う側も、お互いの城内事情に疎すぎるんですよね。
 例えば、主人公は冒頭で3人の家来から待ち伏せを受けるわけですが、「城内で相手になるのは数名」と分かっているはずの強者を相手にするにしては、これはちょっとお粗末過ぎる相手です。しかもそれで「大丈夫」ってどういう事ですか(苦笑)。普通なら毒殺か色仕掛けで攻めると思うんですけどね。よしんば、そういう間抜けな相手であるとしても、そうである旨の伏線が必要であるはずです。
 で、他にもこういう違和感のあるシナリオが全編に渡って続きます。血を見て凶暴化する場面とそうでない場面の分け方、父親・安槌仁隆の意味不明な行動など、作者にとって都合の良いように話が流れてゆく傾向が強く見られます。これではキャラが立っていようと全く活きて来ません。

 さて、評価のお時間です。絵、ストーリー共にプロとしては“赤点”の内容。ただ、マンガとして成立しないほど酷い作品でもありませんので、C寄りB−くらいの評価でよいのではないかと思います。

 以下、投票行動の公開です。

 ・「個別人気投票」支持しないに投票。(現時点では週刊連載に耐え得る作品ではないとの判断です。勿論、通常の人気アンケートにも票は入れていません)

 ・「総合人気投票」「グランプリ信任投票」でこの作品を支持する事はありえません。


 ……というわけで、今週のゼミは以上です。
 来週で扱う「愛読者大賞」のエントリー作は『摩虎羅』。読者審査員を務められた銀次さんがおっしゃるには、ある意味『エンカウンター』的要素を含んだ作品とのことです。駒木も既に「バンチ」を購入して読んでみましたが、全く同感です(苦笑)。まぁ、詳しくは次週にて。

 


 

2月6日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(2月第1週分)

 いつの間にか月が変わって2月最初のゼミとなりました。この「現代マンガ時評」については、業務縮小となる4月以降も形を若干変えて継続するつもりでいますが、現体制ではあと丸2ヶ月・今回を入れてあと8回という事になります。
 そして、そのラスト8回を飾る…というわけではありませんが、今回から8週連続で第2回「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品完全レビューを行います。曜日の都合でレビューの実施はほぼ1週間遅れてしまうのですが、その点はどうかご容赦下さい。

 ……では、今週も情報系の話題から。ただ、今週は賞レースや新連載関係の話題が無かったため、雑多なモノが中心となります。

 まず1点目話題になりそうな(というか、もうなっていますが)読み切り情報から。
 現在、「週刊少年サンデー」で『美鳥の日々』を連載中の井上和郎さんが「少年サンデー超増刊」4月号で発表する特別読み切りのタイトル『葵デストラクション !! 2』に決定しました。
 『葵──』と言えば、井上さんが昨年「サンデー」本誌で発表し、好評を博した読み切り作品で、結果的に『美鳥の日々』連載獲得の決め手となった陰の出世作です。事実上の主役がほとんど少女のような外見の父親…という強烈な設定で、特にネット界隈での大フィーバーを巻き起こした“怪作”なのですが、遂に続編が発表されることになりました。
 なお、「サンデー」では本誌連載に繋がらない読み切り等は単行本に収録されない可能性が極めて高いですので、ファンの方は実際に雑誌を購入し、場合によってはスクラップ編集などされるのが宜しいかと思います。

 次に2点目。これは情報と言うより半ば雑談なのですが……。
 昨日、駒木はマンガ喫茶に立ち寄って、あれやこれやと新刊単行本をチェックしたのですが、その中の1冊・『A・O・N』作画:道元宗紀第1巻にて興味深い記述があったので紹介します。
 この『A・O・N』の1巻は本編の他、かつて道元さんが増刊号で発表した読み切りが掲載されていたのですが、その作品紹介文の中で“打ち切り作家の経済事情”的内容が書かれていました。以下、要点をまとめてみました。

 新人作家が10週前後(道元さんの場合は9週)で連載が打ち切りになった場合、経費が(個人差は有るが)300〜350万円ほどかかる
 しかし連載終了時点ではそれに見合った収入は得られないため、とりあえずは借金を抱えてアシスタント生活に逆戻りする羽目になる。

 ……大手出版社における新人の原稿料は1ページ1万円が相場(ただし、カラー原稿は倍額)だそうなので、1週平均20ページとして10週で200万強。「ジャンプ」では、その他に僅かな専属料や研究費等が出るそうですが、これは焼け石に水でしょう。「週刊連載作家は原稿料では暮らしていけない」という話を時折聞きますが、それはこういう理由なのですね。
 で、頼みとなるのは単行本の印税ですが、さすがのジャンプコミックスでも打ち切りマンガにそう多くの部数を割り当てるわけには行かないでしょうから、先述の赤字分を埋めるのがやっとではないかと思われます。特に道元さんの連載デビュー作・『奴の名はMARIA』全1巻でしたので、ひょっとすると赤字補填もままならなかったかも知れません
 ちなみに、今回収録された読み切り作品は、道元さんが『奴の名はMARIA』終了直後にアシスタントをやりながら1人で執筆した中編作品。道元さんなりに苦労して描いた作品だったようですが、担当編集者の反応は「こういう連載に出来ない作品は2度と描かないでくれ」だったそうです。何だか、こちらまで陰鬱な気持ちにさせられる話ですよね(苦笑)。

 ところで、道元さんと同じように打ち切りを連発し、「ジャンプ」を“追放”処分になったと言われていた尾玉なみえさんですが、この度「週刊ヤングジャンプ」の方で読み切りながら復帰が決まったそうです。来週・2/13発売の11号に掲載されるという事ですので、ファンの方は是非ともチェックして下さい。

 ……以上、情報及び雑談のコーナーでした。では引き続き、今週のレビューと“チェックポイント”へと移らせてもらいます。
 今週は「ジャンプ」と「サンデー」の両本誌にはレビュー対象作がありませんので、この2誌に関しては“チェックポイント”のみの実施です。
 ですので、今週のレビュー対象作は他誌から。まず先にお知らせした「世界漫画愛読者大賞」レビューが1本で、あとは今週ようやくチェック出来た「少年サンデー超増刊」2月号から、藤田和日郎さんの特別読み切りのレビューをお送りします。計2本のレビューですね。

 では、まず“チェックポイント”から順番にお届けします。どうぞ、よろしく。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年10号☆

 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週号の巻末コメント、見事なまでに新年会関連で埋め尽くされていましたね(笑)。よほど印象深い新年会だったのか、それとも新年会に出るために仕事漬けで他にネタが確保できなかったのか……。
 そんな中、ひっそりと謝罪している冨樫義博さんも、らしいと言えばらしいですが(笑)。

 ◎『テニスの王子様』作画:許斐剛【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 しかし、このマンガのセリフはどうしてここまでダサいんでしょうか(苦笑)。徐々に作品の“高橋陽一化”が進行しつつあるのが、心配なようで楽しみなようで……。

 ◎『プリティフェイス』作画:叶恭弘【現時点での評価:B+/雑感】

 とんでもない勢いでの急展開。先週やったストーリー予想なんか微塵も当たらなかったですね(苦笑)。
 しかし、この展開はどう収拾つけるんでしょうか? 普通、日常コメディ物で急展開というのは最終回目前の目印だったりするんですが、今の掲載順を見る限りでは、どう考えても先に終わりそうな作品が3つばかりありそうですものねぇ。

 ◎『ピューと吹く! ジャガー』作画:うすた京介【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 久しぶりのハマー解禁。やっぱり主要キャラが全員出揃った方が良い感じですね。
 そういや、確かに学校のリコーダーに入ってました、クリーニングロッド。でも当時は使い方が分からずに「指揮棒?」とか言って不思議がってましたが。笛汁がボトボト落ちるほど笛吹いてませんでしたし、垂れたところで怯むような神経では男子小学生なんてやってられません(笑)

☆「週刊少年サンデー」2003年10号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『きみのカケラ』作画:高橋しん【現時点での評価:B−/雑感ほか】

 かなり力の入ったセンターカラーです。この前の『一番湯のカナタ』作画:椎名高志)もそうだったんですが、人気がそんなにあるわけでもない作品が唐突にセンターカラーをもらった時は、連載終了の理由作りである事がままあるんですよね。今回で23話ですから、最短コースなら次の入れ替えで打ち切りという事もあり得ます。
 ただ、単行本1巻の作者あとがきによると、この作品は既にシナリオが完成されていて、しかも全体としてはそう長い話ではないとの事です。となると、編集部側も耐え難きを耐えて最後まで面倒見る可能性も出て来ますね。

 また、その大量加筆単行本ですが、各所の細かい描写をまんべんなく追加しているという印象で、単行本オリジナルの追加エピソードは皆無でした。
 ただ、だからと言って、加筆した分だけストーリーそのものが分かり易くなっているかというと、それも“?”でして、結局高橋さんは何のために加筆用のネームを切ったのか、激しく悩ましいのですが……。結局、床屋がミクロン単位でスポーツ刈りの毛を切り揃えるようなモノなんでしょうかねぇ。
 ちなみに、『きみのカケラ』1巻の推定売り上げ部数10万部台前半だそうです。「サンデー」系作品の1巻にすれば売れている方ではあるのですが、労力と経費を考えると恐ろしく割に合わない話だと思います(苦笑)。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 この全日本選手権編は、正直言って最初ダレ気味かと思ったんですが、最後の最後でキッチリと一盛り上がりしましたね。淡々とした構成でそれなりに迫力を出して見せ場を作るんですから、さすがです。

☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.1 『軍神の惑星』作画:谷川淳

 作者の谷川さんは千葉県出身の33歳。「バンチ」誌上に掲載されたインタビュー記事によると、映像関係の専門学校からテレビドラマ製作の道へ進むも、27歳の時にマンガ家へ方向転換。アシスタントをしながら試行錯誤しつつ現在に至る……とのことです。どうやら今回が実質的なデビュー作ということになるのでしょうか。
 このインタビュー記事だけで判断するのはアレですが、マンガ家を志した直接の理由が「映像関係の仕事、しばらくやってみたけど向いてないんじゃないかと思って」というのは、正直に告白する事を含めていかがなものかと思ってしまったりもしますが(苦笑)。

 ……では、作者紹介はこれくらいにしまして、いつも通り絵とストーリーに分けてレビューさせてもらいます。

 まずですが、実質デビュー作にしてはなかなか手慣れていると言って良いのではないでしょうか。パワードスーツ等のメカ系描写も出来ていますし、少なくとも及第点は出せるものと思います。
 谷川さんはアシスタント経験が長い上、恐らくテレビドラマ業界時代にも絵コンテでも切っていたでしょうから、その辺りは下積みキャリアの賜物と言ったところなのでしょう。
 ただ、少し注文をつけさせてもらうならば、人物の表情や動きの表現が乏しかったり、あるいは無駄ゴマが多いため、全体としてどことなく散漫な印象を受けてしまうところがある事でしょうか。緊迫感のあるべきシーンが、そのためにやや間延びして見えてしまったのは残念でした。

 次にストーリーですが、端的に言って、こちらも絵と同じくなかなか良く出来ているのではないでしょうか。ページ数に見合った人数に主要キャラクターを絞り、また、キャラそれぞれの行動に一貫して必然性があるという点は高く評価できると思います。話が途中で切れてしまったのは残念ですが、(オムニバス形式でない、長編作品という)ストーリーの性格を考えると、それも止む無しでしょう。

 しかし、やはりストーリー面にも問題点が残されています独自性・オリジナリティが極めて弱く、今後のストーリー展開に大きな期待が抱き難いという点がそれです。
 というのも、この作品の基本的なストーリーの骨組み──モチベーションが低かった主人公が親しい人間の戦死・戦傷によって戦意を燃やす、または運命の悪戯によって旧友同士で矛を交える──は、(既に各方面から指摘されているサンライズ系アニメ作品だけでなく)アニメ・SF問わずあらゆるジャンルの“王道パターン”として使われて来たものなのです。
 といっても、この作品をいわゆる“パクり”と言っているわけではありません。既存の作品の傾向を自分の中で消化し、とりあえずは別の形にして発表しているわけですから、これは“オマージュを捧げた作品”とするべきでしょう。そして、オマージュとしての完成度は極めて高いものとさえ言えます。
 ですがこの作品のストーリーは、オマージュを捧げた作品という“だけ”であって、それ以上でも以下でもありません。“+α”の要素が見られないのです。それ故に、今後のストーリーに抱く期待感が乏しくなってしまいました。これは、作品そのものとしては勿論、「最低1年間の連載を前提とする」というこの賞の性格から考えると、大きな減点材料と言わざるを得ません。

 さて、悪い癖が出てしまい、また長いレビューになってしまいました。早いところ最終的な評価に移りましょう。
 作品の完成度としては一級品、しかし独自性が乏しいためにインパクトが乏しく、絵にもやや問題あり……というところで、評価はB+とさせてもらいます。

 ところで、今回は駒木も“参政権”を活用して読者投票に参加する事にしましたので、その投票行動も公開したいと思います。

 ・「個別人気投票」支持しないに投票。(続編を読んでみたい気持ちはあるが、看板作品としての長期週刊連載ではなく、単行本1〜4冊程度の長さになる短〜中期の連載で読んでみたい。なお、通常のアンケート投票ではこの作品に1票を投じた)
 ・また、「総合人気投票」「グランプリ信任投票」でこの作品を支持する予定は今のところありません。

 《その他、今週の注目作》

 ◎『美食王の到着』作画:藤田和日郎/「少年サンデー超増刊」2月号掲載)

 「サンデー」本誌で『からくりサーカス』連載中の藤田和日郎さんの作品が、特別読み切りで増刊号に登場しました。
 以前「サンデー」の記事で週休0.5日を公言した藤田さんですが、ここ半年取材休みを取っていない事を考えると、恐らくは合併号休み返上でスケジュールを詰めたものと思われます。何と言うか、恐ろしい人ですね(苦笑)。そりゃあ、そんな師匠の背中を見てたら弟子もスクスクと育ちますわな。
 で、この作品ですが、一言で申し上げるなら「とんでもない傑作」です。日頃、駒木は「連載中の作家が描いた特別読み切りに傑作なし」と申し上げていたのですが、ある意味喜ばしい事にその例外が生まれました。

 この作品の最大のポイントは、主に新本格ミステリ小説で使われている叙述トリック(わざと誤解を招く文章表現を使って、読者のキャラクターに対する認識を狂わせる技法。特に綾辻行人氏がよく使用する)を見事なまでにマンガ、しかもミステリではない作品に応用してしまった点にあります。
 叙述トリックは本来、キャラクター像の構築を読者の想像に委ねるという小説の特性を利用した技法で、逆に言えばマンガには極めて不向きな技法と言えます。ところが、この作品ではその叙述トリックを高い完成度で実現しています。しかも「叙述トリック使いました!」とばかりにそれをメインに押し出しているわけではなく、ストーリー演出の一環としてサラリと使いこなしているわけで、その奥の深さには本当に唸らされます。
 また、この作品が素晴らしいのは叙述トリックだけではありません。短編読み切り作品の弊害とも言えるキャラクター説明やモノローグ過多の嫌らしさを、演劇仕立てにする事で──この辺りは『からくりサーカス』の応用でしょうが──見事に解消し、と同時に、一見すれば少年マンガにしては残酷な話を軽快な印象のエンターテインメント作品に転じさせているのも、まさにお見事としか言いようがありません。

 とにかくこの作品は、作家・藤田和日郎の才能と技巧の限りを尽くされた名作中の名作です。受講生の皆さんも、この作品を読む機会があれば、是非ご一読の上、脳裏に焼き付けてもらいたいと思います。
 評価は大変迷いましたが、そのずば抜けた技巧を評価して、A+寄りのAという開講以来の最高評価を付けさせてもらう事にします。本当に素晴らしい作品でした。

 
 ……というわけで、今週のゼミは以上です。次週も1本ないし2本のレビューということになるのではないかと思います。

 


 

1月30日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第5週分)

 今月最後のゼミですが、時期的なものもあって内容のボリュームは今一つになってしまいそうです(苦笑)。今週は“チェックポイント”の内容を増やして、少しでも受講生の皆さんに楽しんでもらおうと思っていますが……。
 あと何週間かすれば、「ジャンプ」の新連載シリーズが始まりますので、また忙しくなるんですけどね。

 さて、今週もまずは情報系の話題から。

 まずは訃報です。先週のゼミでもお伝えした通り、24日に「週刊少年ジャンプ」編集長・高橋俊昌さん記者会見の途中に倒れてお亡くなりになるという痛ましい出来事がありました。
 新聞報道によると、死因はクモ膜下出血の可能性が濃厚であるようです。倒れた場所が船上であったために救命救急が遅れてしまったのも不運だったように思えますが、予想不可能な出来事だけに誰も責める事は出来ないでしょう。本当に不幸な事故でありました。
 高橋さんはまだ44歳。編集長就任2年目とまさに人生これからだっただけに残念でなりません。改めて心からご冥福をお祈り申し上げます

 さて、今後の「ジャンプ」についてですが、誰が編集長(またはその代理)になったとしても、しばらくは現状維持が精一杯ではないかと思います。特に例年通りなら数週間後には“高橋体制”でラインナップを決めた最後の新連載シリーズが始まりますので、全てはこれを乗り切ってからではないでしょうか。
 そんなわけで、当ゼミではしばらく様子を静観したいと思います。

 次に「週刊少年サンデー」の新連載情報を。
 まだもう少し先ですが、2/19発売の12号から黒葉潤一さんの作品(タイトル等は不明)が短期集中ながら新連載となります。黒葉さんは昨年に『煩悩寺のヘン!』というタイトルの読み切りを発表していましたが、連載の形では99年8号に『ファンシー雑技団』の連載が終了して以来4年ぶりとなります。これを足がかりに再び連載作家の座を射止めることが出来るのか、注目したいと思います。
 ※このニュースは『最後通牒・半分版』さんを情報元にさせて頂きました。

 
 ……さて、それではレビューと“チェックポイント”へ移りましょう。今週のレビューは「サンデー」から新連載第3回の後追いレビュー1本のみです。「ジャンプ」は今週も“チェックポイント”のみになりますが、悪しからずご了承下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年9号☆

 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 シリアスバージョンの話が始まった……はずだったんですが、緊迫した場面の割にはおもくそコメディタッチですねぇ。
 キャラクターたちがちょっと緊張感抜けすぎな気がしないでもないですが、でもやっぱり久保さん、コメディの才能ありますよ。バトルシーンを除けば、原則的にはこのノリでいいんじゃないでしょうか。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 うわー、進の描写が凄い。んで、その後のセナ&モン太のコントとのコントラストも凄い(笑)。
 しかし、モン太のキャラクターがどうもご都合主義的になっているのが気になります。セナがあれだけ派手に行動しても全く何も気付いていない事になってますし、かと思えば「賊学のアメフト部の主将で──」と、これまでアメフトとラグビーの区別がつかなかった人間とは思えないセリフを吐いたり……。
 まぁそれ言い出したら『HUNTER×HUNTER』なんて矛盾だらけですから、あまり目くじら立てる点ではないのかも知れませんけどね。でもこれまでキメ細かく伏線を張って来た作品だっただけに“?”マークが打ち消せません。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:/雑感】

 突如新キャラ登場、しかも男。かなりアレンジはしてますが、じれったいラブコメにありがちな恋敵役ですね。これでテニスが得意で歯がキラリと光れば完璧なんですが(笑)。
 しかし、その恋敵が東城にロック・オンしたという事は、この作品の正ヒロインはやっぱり東城ということになるんですかね

 ◎『ヒカルの碁』作:ほったゆみ/画:小畑健現時点での評価:A/ちょっとした余談】

 北斗杯に登場する外国勢が揃って美形である事がちょくちょく巷の話題になっていますが、これは噂によると、アニメを子供と一緒に見るお母さん対策なんだそうです(笑)。つまり最近の仮面ライダーとか戦隊モノのパターンですね。
 ……てことは、その路線を続ける限り奈瀬さんの出番は無いって事か。くそー。

 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 先生! 鈴木信也さんの画力では、いくら女子キャラ脱がせてもサービスカットにならないので諦めた方が良いと思います!

 ◎『プリティフェイス』作画:叶恭弘【現時点での評価:B+/雑感】

 先週、掲載順が実質最下位で「すわ、打ち切り候補?」と思ったのですが、こちらも突然の新キャラ登場。しかし乱堂の正体を知るキーパーソンでありながらお色気要員とは便利な役ドコロですなぁ。
 ストーリー展開的に言って、新キャラ・夏緒は男に戻った乱堂との初恋を成就させるため、本物の由奈探しに協力するようになると踏んでるんですが、どうでしょうかね。

 

☆「週刊少年サンデー」2003年9号☆

 ◎新連載第3回『俺様は?(なぞ)』作画:杉本ペロ【第1回時点での評価:B− 

 前回のレビューでは、ツッコミ役の笠井(野菜)少年のキャラの弱さを主な原因としたチグハグさを指摘させてもらいましたが、その後の第2回、第3回と同じノリの話が続いたこともあって抱いた印象には大差ありません。ワンパターンのギャグが必ずしも悪いとは言いませんが、問題を抱えた状態でのワンパターンはいかがなものでしょうか?
 また、今回(第3回)の分を読んでいて思ったのは、「このマンガのキャラって、人の話を聞かない連中ばっかりだな」…ということ。人の言う事に聞く耳持たずに勝手にボケたり茶々を入れたりしてしまうので、恐らくは作者の杉本さん自身もキャラクターを統制する事が出来なくなっているのではないか…と思うのです。

 では、ここからどうやって良い方向に持っていけば良いのか? ……などと問われると辛いところなのですが、早めに新キャラを出すなどしてテコ入れをした方が良いとは思います。または今回の5ページ目から6ページ目にかけて見られた、“ハイスパートなボケの絨毯爆撃”をトコトン追求していって、テンションの高さで押し切ってしまう作品にするのも一つの手ではないでしょうか。

 現状に変化が見えない以上は評価もB−に据え置きです。まったく見込みの無い作品とは思えないんですが……。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『金色のガッシュ !!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため、評価未了/雑感】

 この作品に出てくるイタいキャラって、そのイタさよりも面白さの方が勝ってるんですよね。だから嫌らしさが無いわけで。でも、さすがに今回のパティの回想シーンはシュール過ぎると思いました(笑)。

 ◎『焼きたて !! ジャぱん』作画:橋口たかし【現時点での評価:/雑感】

 「いくら魔物とはいえ…」
 「…ブリを生のままかじりついたりするのはどうだろう…」

 同意すると共に激しく笑いました。お見事。
 しかし同時に、いくらマンガとはいえブリをデッキブラシで洗ったりするのはどうだろう…とも思いましたが(笑)。

 ◎『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【第1回掲載時の評価:

 破天荒系マンガの揚げ足なんぞいちいち取っちゃイカンと思いながらも……うぅ、我慢できん。
 まず、氷点下28℃の世界にしては、皆さんおもくそ軽装なんですけど、あれで大丈夫なのでしょうか。なんか、スキー場か普通の雪山登山みたいな格好なんですけど……。
 あと、突然変異の子熊ですが、アルビノである以前に、眉毛がある時点で既に恐ろしい遺伝子異常だと思いますが、どうなんでしょうか?
 ……瑣末な点は置いておくにしても、もうちょっとリアリティがあっても良いと思うんですけどねぇ、この作品。そろそろ評価を下げるべきなのかも知れません。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感ほか】 

 今回も着衣・脱衣ともにサービス満点でありますが、今日は内容よりも単行本の話について。発売されたばかりの1巻がなんと全国的に品薄状態のようです。2月早々に重版が決定したとか。
 通常、第1巻は初刷を抑え気味にするんですが、それでも「サンデー」系の作品で速攻完売状態は珍しい話です。もうこの時点で少なくともスマッシュヒットの域には達していると言って良さそうですね。余程のしくじりが無い限りは長期連載確定となりそうです。

 ◎『DAN DOH !! Xi』作:坂田信弘/画:万乗大智【開講前に連載開始のため、評価未了/雑感】

 全英オープン打ち切り&サシ勝負に変更とは、また思い切った事しましたねぇ。でも、小学生を全英オープン勝たせるのはマンガの世界でも現実感無さ過ぎなので、これはこれで英断だと思います。『Xi』になる前から換算すると相当の長期連載作品ですが、いよいよクライマックスに突入ですね。


 ……というわけで、今週は“チェックポイント”を当社比2倍にしてみましたが、いかがでしたでしょうか?
 次週ですが、明日金曜の発売号から始まる、『週刊コミックバンチ』の「世界漫画愛読者大賞」最終候補作レビューを今年も実施する方向で検討中です。「バンチ」が金曜発売になってしまったので、ほぼ1週間遅れになってしまうのが泣き所ですが……。

 ──それでは今週のゼミを終わります。

 


 

1月23日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第4週分)

 さて、今週もゼミの開講です。今週は世を忍ぶ仮の本業の事情もあり、極力無駄口叩かずに講義を進行させていきますので、どうぞよろしく。

 では早速情報系の話題から。今週は賞レースの話題が盛りだくさんです。

 まず、昨年(平成14年)度の小学館漫画賞の受賞者・受賞作が発表になりましたので、紹介しておきましょう。

◎少年部門
雷句誠『金色のガッシュ!』(「週刊少年サンデー」連載)

◎一般部門
浦沢直樹『20世紀少年』「ビッグコミックスピリッツ」連載)

◎少女部門
矢沢あい『NANA-ナナ-』(「月刊Cookie」連載)
渡辺多恵子『風光る』「月刊flowers」連載)

◎児童部門
樫本学ヴ『コロッケ』「月刊コロコロコミック」連載)

 裏事情をご存知ない方の為に説明しておきますと、小学館漫画賞はその名の通り、実質上は小学館が出版する雑誌に連載された作品を表彰するアワードです。ただし、元は小学館の子会社である集英社と、同じく集英社から生まれた白泉社の作品も表彰される事もあります。
 とはいえ、少し前までは「週刊少年ジャンプ」系の作品が受賞を打診された場合などは、「ジャンプ」編集部主導で受賞を“なかった事”にするケースが多かったようです。ただ、冨樫義博さんが編集部の反対を押し切って受賞を“敢行”してからは、当たり前のような顔をして受賞するようになりました
 あと、一般部門は作家が複数の出版社を掛け持ちする場合が多いので、それほど神経質にはならないようです。

 今回で目に付くのは、やはり講談社漫画賞との2冠という、プロレスで言うならIWGPヘビーと三冠ヘビーを統合してしまうような偉業を達成した浦沢直樹さんでしょうか。というか、この人がまだ審査員側に回っていないのがおかしいと思うんですけどね(笑)。
 このゼミと関わりの深い少年部門は、アニメ化が決まって絶好調の『金色のガッシュ!』。数ヶ月前、駒木が何気なしに予想した通りになってしまって正直驚いてるんですが、まぁ今の状況から考えると順当と言えば順当でしょうね。

 では次に、「ジャンプ」「サンデー」両誌が主催する月例新人賞の発表もありましたので、こちらも受賞者を紹介しておきましょう。

 まずは「天下一漫画賞」の方からどうぞ。

第76回ジャンプ天下一漫画賞(02年11月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 審査員(鈴木信也)特別賞=1編
  
・『魔天狼の男』
   新井友規(19歳・東京)
 編集部特別賞=2編
  
・『マッハ100枚カード』
   山口甚八(21歳・兵庫)
  
・『BEAST』
   暁ユウト(16歳・長崎)
 最終候補(選外佳作)=5編
  ・『ダンス 華麗なる返信』
   森本(22歳・北海道)
  ・『望月由太の恋愛波乱万丈記』
   桜庭恭平(25歳・千葉)
  ・『SAMURAI Future TV』
   MA-39(24歳・埼玉)
  ・『神なしどき』
   麻湧(22歳・北海道) 
  ・『草原のムートン 』
   おやつおやお(29歳・神奈川)

 次に「サンデーまんがカレッジ」の方も。

少年サンデーまんがカレッジ
(02年11月期)

 入選=該当作なし
 佳作=1編
  
・『Anti Champ』
  海老根一樹(25歳・東京)
 努力賞=1編
  ・『Web』
   田中猛士(27歳・埼玉)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  
・『影武者』
   鈴木清仁(30歳・千葉)
  ・『帰宅最前線』
   塩村聖雪(21歳・東京)
  ・『Versus!』
   寺本直子(23歳・兵庫)

 なお、受賞者の過去の経歴は以下の通りです。

 ・「天下一」最終候補麻湧さん……第8回(02年度)「ストーリーキング」ネーム部門最終候補
 
「まんカレ」佳作海老根一樹さん……01年に「週刊少年チャンピオン」の新人賞で入賞し、既に短期集中連載も経験済み。
 ・「まんカレ」選外寺本直子さん……02年6月期「まんカレ」でも選外

 

 あと、「サンデー」関連で今週気になる話を2つばかり聞きましたので、こちらも紹介しましょう。

 まず1点目、先日発売された『きみのカケラ』作画:高橋しん)の単行本1巻ですが、なんと全体の約2/3にあたる120ページほどの加筆訂正が行われているとのこと。(ネタ元:高橋しんさんのインタビュー記事
 まぁ、高橋さんの“加筆グセ”『最終兵器彼女』の時から少し話題になってはいましたけど、ここまで加筆しちゃったら、「じゃあ雑誌連載の意義って何?」って感じになっちゃいそうな……。まぁ、噂を聞くと話の筋そのものは変わっていないらしいんですけどね。(駒木は物理的事情でチェックできていないんですが)
 『きみのカケラ』は、今週号でまたも掲載順最後尾になってしまいまして、恐らくは春の新連載シリーズでの入れ替え候補に入ってしまっていると思います。老婆心ながら、単行本の加筆とかする前に連載用のネームを思う存分練った方が良いと思うんですが、いかがなもんでしょうか?(苦笑)。

 もう1点は、先週から連載の始まった『俺様は?(なぞ)』作画:杉本ペロ)なんですが、杉本さん本人の談話によると、この作品が始まったのは、前作『ダイナマ伊藤!』の単行本売り上げが芳しくなかったためのテコ入れという裏事情があるそうです。
 そう言えば、去年打ち切りになった『一番湯のカナタ』作画:椎名高志)も単行本の売り上げがイマイチだった…という話を小耳に挟んだ事がありますし、「サンデー」の連載作品入れ替えには単行本売り上げが少なからず影響しているようですね。
 ……あれ、だとすると、さっきの『きみのカケラ』の大幅加筆は残留対策になっているんですね。う〜む……。

 なんだかスッキリしないお話でしたが、興味深いものだったので採り上げてみました。で、以上が情報系の話題でした。

※臨時ニュース※

 1月24日、「週刊少年ジャンプ」編集長の高橋俊昌氏が急逝されました。映画『ONE PIECE』の製作発表記者会見の最中に倒れ、病院に搬送されたものの亡くなられたそうです。死因は現時点では不明。まだ44歳の若さでした。追加情報:報道によると、いびきのような音を立てた直後に昏倒した…ということですので、脳卒中など急性の脳疾患である可能性が高そうです)
 前任者の鳥嶋氏から編集長職を引き継いで約1年半。まさにこれからと言う時でしたから、さぞかし無念であったろうと思われます。この悲しい出来事の後も「ジャンプ」が発展する事と、故人のご冥福を心からお祈り申し上げます。

 

 ……さて、それではレビューに移りましょう。今週は「週刊少年サンデー」から、新連載第3回の後追いレビューと、短期集中連載の総括レビューの計2本をお送りします。今週号でレビュー対象作の無かった「ジャンプ」は“チェックポイント”のみお送りします。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年8号☆

 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 実質18ページで5場面同時進行、しかもほとんどが戦闘シーン……。最近ずっとこんな感じなんですが、ハッキリ言って限界超えてるような(汗)。4ページの週刊連載を5本同じ雑誌に連載してるようなもので、色々な意味で無茶だと思います。『キン肉マン』で言えば、正義超人VS悪魔超人の5対5を毎週同時進行でやってるようなモノですよ、これ。
 逆に言えば、これくらい無茶やってても破綻させない程の技量を持ってるんですから、尾田さんには正攻法で勝負してもらいたいんですけどねぇ。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 ちょっとミエミエの展開で間延びした感の有ったWR(ワイドレシーバー)獲得編も何とか終了先読みできる展開を演出の凄さで良く魅せるマンガだけに、こういうエピソードは向いてないのかも知れませんね。
 これでラインズマン(栗田)、クォーターバック(ヒル魔)、ランニングバック(セナ)、ワイドレシーバー(モン太)と揃って、残る主要ポジションはキッカー&パンター(ムサシ?)のみですね。出来ればあと1人、オールラウンドなスーパーサブがいれば、試合の内容に幅を持たせる事が出来そうなんですがね。
 ここからしばらく、この作品が本当に成功するかどうかの分岐点になりそうです。要注目。

☆「週刊少年サンデー」2003年8号☆

◎新連載第3回『MÄR(メル)作画:安西信行【第1回時点での評価:保留 

 第1回時点では評価を先送りしていたこの作品ですが、いよいよ世界観らしきモノも見えてきましたし、現時点での評価を下したいと思います。

 どうやらこの作品のファンタジー世界は、アイテム・ÄRMを介しているものの、事実上は正統派ファンタジーと言って良いようです。ハッキリ言って「大変な道を選んだなぁ」…って感じですよね(苦笑)
 ただ、いきなり鎧を着た剣士や“いかにも”な魔法使いが出て来るようなコテコテ展開ではなく、またファンタジー作品にありがちである自己満足的な設定のひけらかしも見られないなど、若干は評価できるポイントもあると思います。「オリジナリティはあまり感じられないが、独自色はある」といった感じでしょうか。

 ただ、この作品の最大の問題点として、主人公のキャラ造型に大きな欠陥があるのではないかと思えてなりません。
 『のび太の宇宙開拓使』パターンで簡単に能力を成長させ過ぎたのに白けてしまう読者も多そうですし、また、(特に高年齢層の)読者にとってはありがちで「ワクワクしない」光景なのに、主人公が「ワクワクし過ぎている」という事にギャップが生じ、その結果、読者の感情移入を疎外してしまいそうな気がします。
 27歳の駒木にはもう小学生の感覚は掴めないのですが、もしも小学生までがこの“ワクワク感のギャップ”を感じているようならば、この作品の前途は多難と言う事になって来るでしょう。

 全体的な評価としては、プラス・マイナス合算してマイナスの方が勝っているということで、B+寄りBにしたいと思います。

 
 ◎短期集中連載総括『少年サンダー』作画:片山ユキオ【第1回時点での評価:B− 

 短期集中連載と言う事で、今回の5回目で一応の最終回となりました。これからアンケートの結果を受けて本誌連載となるかどうかが決定するわけですね。

 5回通じての感想ですが、全体的な印象としては、第1回のレビューで述べた“間の悪さ”が最後まで修正しきれなかったかな…といったところでしょうか。ネタ振りに“タメ”を利かせるか、もしくは『ボボボーボ・ボーボボ』のようにボケのインパクトを極限にまで高めるかすれば良い作品になったと思われるのですが……。
 第4話などは、「ひょっとしたら傑作に──?」と思わせるシーンも有っただけに惜しかったです。もしもこれで本誌連載のチャンスが掴めた場合は、そういった部分の修正を施してもらいたいですね。

 評価は第4回の“一瞬のきらめき”の分を少しだけ加点して、B寄りB−ということにしましょう。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週の「サンデー」は偶然でしょうけど、異様にアツい場面が多かったですね。いつもこういう感じだと良いんですけどねぇ。

 ◎『史上最強の弟子ケンイチ』作画:松江名俊【現時点での評価:B+/雑感】

 これほど説得力のある不純な動機も珍しい(笑)。師匠連の反応もリアルで笑えるなぁ。最後に少年マンガっぽい理由で取り繕ってますが、こっちは全然説得力が無いです(苦笑)。
 しかし、兼一って既にもう普通の高校生としてはメチャクチャ強いところまで上達してるんですよね。

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今週は“後付けの名手”藤田和日郎の面目躍如といったところでしょうか。それにしても、この設定の素っ飛ばし方は凄いなぁ。どう辻褄を合わせてくれるのか、期待して待ちたいと思います。

 ◎『うえきの法則』作画:福地翼【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 最近人気上昇中との呼び声高いこの作品ですが、今週はラストシーンで魅せてくれました。良い笑顔だなぁ。
 ただこの作品のバトルシーンは、策略合戦というより姑息な小細工合戦になっている嫌いが有って、それが多少気になっていたりします。例えば終始力技で圧倒するバトルなんかがあれば、メリハリが利いていて良くなると思うんですけどね。

 
 ……というところで、今週のゼミは終了です。次回はレビュー対象作が少ないんですが、一応通常通りの内容でお送りする予定です。

 


 

1月16日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第3週分)

 ここしばらくゼミの実施が遅れ気味でご迷惑おかけしております。一番余裕の無い木曜深夜にゼミをやるというスタイルはいい加減限界に来ていますね……。
 社会学講座が開講した頃とは事情が全く違って来てますし、秋くらいに日程変更しておけば良かったと今更ながらに反省しています。とはいえ、来週限りで今講師をしている高校からは御役御免なので、そういう障害もあと1回なのですが……。

 さて今回の講義ですが、「週刊少年ジャンプ」が合併号休みのため、レギュラーのレビュー対象雑誌は「週刊少年サンデー」1誌になります。
 ただ、ここに来て買いそびれ寸前だった「赤マルジャンプ」の冬号が何とか入手出来ましたので、そちらに掲載された作品についても“チェックポイント”並のボリュームで簡単にレビューと評価をしてみようかと思います。「赤マルジャンプ」は毎回全作品レビューをしては、「面倒臭い。もう次はやらないぞ」…などと思うのですが、新しいのを読むたびに言いたい事が沢山出てきてしまう…という少し困った雑誌であります(苦笑)。

 では、今週はいつもより輪にかけて時間が押し迫ってますし、これといった情報系の話題も有りませんから、早速レビューの方へ移りましょう。
 今週のレビュー対象作は、「週刊少年サンデー」から新連載作品1本です。また、現在短期集中連載中の『少年サンダー』作画:片山ユキオ)は、連載終了週に総括の形で後追いレビューを行う予定です。

☆「週刊少年サンデー」2003年7号☆

 ◎新連載『俺様は?(なぞ)』作画:杉本ペロ

 数ヶ月前に『ダイナマ伊藤!』の連載を終えたばかりの杉本ペロさんが、この号から「サンデー」に連載復帰となりました。
 ウェブサイト上などでの杉本さんの談話を読むと、この“連載終了→数ヵ月後に復帰”…という一連の流れは、あらかじめ予定されたものであったそうで、どうやらこれはマンネリ防止か心機一転のための“フルモデルチェンジ”であったようです。
 杉本さんは1996年に第38回新人コミック大賞で入選して同年デビュー。1999年からは先述の『ダイナマ伊藤!』を「サンデー」本誌に3年間連載していました。都合、今回が2作目の連載作品と言う事になりますね。

 ……さて、それではレビューの方へ。
 ギャグ作品ですのでについてダラダラ述べるのもどうかと思いますが、一応。
 前作から通じての感想ですが、画力そのものは高くないものの、キャラクターの描き分けがなかなか上手なのがポイントですね。画力の割には見苦しくない…といったところでしょうか。

 で、肝心のギャグの中身についてなのですが、どうも初回に関してはチグハグとした印象が拭えませんでした
 その一番の原因は、ツッコミ役である笠井少年のツッコミが下手というか、笑わせる方に誘導していない点でしょう、
 この作品、主人公格の覆面小学生はもちろん、“国鉄”とか担任の先生までが常識の皮を被ったボケ役なのです。そうなると当然のこと非常にツッコミ役の“仕事”が重要になって来るわけですが、その彼が“職場放棄”して怖がってばかりだと、読者がどのように読んだら良いのかが掴めず、戸惑ってしまうような気がするのです。
 さらに、これは解釈に個人差が出て来るでしょうが、主人公格の覆面小学生の行動がまだ大人しいような気がします。ギャグ作品なんですから、もっと破天荒に常識外れな事をしても良いんじゃないでしょうか。ドア壊すくらいなら校舎丸ごと壊したりした方がドタバタ度が高くて良かったんじゃないかと思います。それを考えると少女型ロボットに地球まるごとぶっ壊させた鳥山明さんはやっぱり凄いですよね(笑)。
 ……まぁこの辺は回を追うごとにキャラクターが立って来て、作品全体のムードも変わって来るのでしょうが、現時点では物足りなさが否めませんでした。

 そういうわけで、現時点での暫定評価ですが、不条理・ドタバタ系のギャグとしては全体的にインパクト不足である…ということで、やや厳しめのB−評価とさせてもらいます。巻き返しに期待しましょう。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『金色のガッシュ !!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため、評価未了/雑感】

 『凄ェ!』と思ったら良いのか、バカ笑いしたらいいのかよく分からない戦闘シーンでしたねぇ(笑)。あぁ、『凄い』と思いながらバカ笑いしたら良いのか。
 どうやら、もっと魔物の数が絞れて来たらチーム戦になる予感ですね。戦いながら生き残った敵が両サイドに分かれるってパターンでしょうか。この設定はさすがに後付けっぽいんですが、後付けの技術まで師匠譲りとは恐れ入ります。

 ◎『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【現時点での評価:/雑感】 

 “絶対眼力”ですか……。また、ミもフタも無い設定出してきましたねぇ(苦笑)。「マガジン」の余り良いとは思えない)マンガっぽいという意見があるみたいですが、駒木も同感です。
 ただ、大抵の少年マンガの主人公は“絶対第六感”を身に付けてるようなものですから、要はこれからの描写方法でしょうね。先人の中には“絶対第七感”まで捏造した凄い人もいらっしゃいましたし(笑)。

 ◎『DAN DOH !! Xi』作:坂田信弘/画:万乗大智【開講前に連載開始のため、評価未了/雑感】

 ずっと前から言われている事ですけど、万乗さんの少女に対する思い入れは物凄いものがありますよねぇ。特に今回はダンドーのナイスショットよりもエバの描写の方が明らかに力入ってますし。
 でもまぁ、少女に対する過剰な思い入れというのは、手塚先生、藤子F先生、宮崎駿氏の作品にも見られる話ですから、ひょっとすると万乗さんも巨匠の予備軍なのかも知れないとか……(笑)


 ……というわけで、「サンデー」のレビューとチェックポイントでした。続いて、「赤マルジャンプ」03年冬号の全作品(本誌連載作品のショート番外編は除く)の“チェックポイント”型レビューに移ります。

◆「赤マルジャンプ」レビュー◆

 ◎読み切り『ゲット☆ア☆ラック』作画:キユ

 ここに載ったと言う事は、「ジャンプ」追放は免れたわけですかね。今の「ジャンプ」は人材難ですし、3回打ち切りまで追放は猶予してもらえるようになったんでしょうか。
 でも確かにキユさんの作品は上手いです。画力も新人さんと比べたら際立っていますし、“料理”の難しい設定もちゃんと使いこなしていますし。
 ただ、『NUMBER10』の頃からそうなんですが、この人のお話には読者を驚かせる力が不足しているような気がします。今回も主人公の境遇がマイナスからゼロに近い点に戻った所で終わりですし……。猪木じゃないですが、もっとバカになって欲しいと思います。評価B+

 ◎読み切り『蹄鉄ジョッキーっ!』作画:森田雅博

 作者の経歴は、2000年12月「天下一」特別賞から翌年増刊デビュー。今回が約2年ぶり2度目の増刊掲載…といったところ。
 内容以前に、競馬の知識が『マキバオー』と『ダビスタ』程度のまま、プロとして競馬マンガを描こうとする姿勢に大きな疑問を抱いてしまいます。16歳で騎手デビューという時点で競馬ファンは白けますよ。
 レースシーンも非現実的というか非常識的。馬と人が会話するという着眼点はありきたりながら悪くないだけに、あとは森田さんの気構え次第でしょう。評価B−寄りC

 ◎読み切り『マルジャガルダ』作画:安藤英

 安藤さんは2002年上期「手塚賞」佳作から同年夏に増刊デビュー。今回がデビュー2作目となります。
 前作から気になってはいたんですが、とにかくセリフが無意味にクド過ぎます。接続詞の使い方が話し言葉になってないんですよねぇ。これを直させない編集さんも編集さんですが。他にも勢いで誤魔化してる設定の矛盾点もあったりと、まだまだ力不足感が否めません。評価B−

 ◎読み切り『SPARE DRAGON』作画:小椋おぐり

 小椋さんは2001年下期「手塚賞」佳作から、翌年春に増刊デビュー。今回が2回目の増刊登場です。
 まとまったページ数をもらって、複雑な設定の作品に挑戦したのかも知れませんが、惜しいところで消化不良といったところでしょうか。敵役の造型が杜撰になってしまったのが痛かったですね。展開次第では感動的な名作に持っていけたかも知れないのに残念です。評価はB。

 ◎読み切り『レインボー侍』作画:やまだたけし

 01年の夏ごろに代原作家としてデビューしたやまださんですが、今回が初の増刊掲載となりました。これも一種の出世ということでしょうか。
 作風は藤波俊彦さん(「スピリッツ」や「週刊SPA!」などで連載を持っていた人。キャバクラを題材にしたギャグが有名)とよく似た感じの不条理ギャグですね。「ジャンプ」には無い作風ですので、これは武器になると思います。ただ、今回は以前と比べるとボケの破壊力がやや大人しかったかな…という印象を持ってしまいました。まぁギャグマンガの評価は人によって大きく違いますから難しいところですが……。評価はBとしておきます。

 ◎読み切り『神様のバスケット!』作画:及川友高

 及川さんはこれがデビュー作。02年4月期の「天下一」最終候補からのステップアップという事のようです。
 話の流れそのものは悪くないんですが、主要キャラクターが多すぎたのが惜しかったですね。45ページ読み切りでは、主役格2人と数人の脇役をキャラ立ちさせるのは無理がありました。その分バスケシーンの攻防が圧縮されてしまい、醍醐味が削がれた感があります。
 それでもデビュー作としては上出来だと思います。頑張ってください。評価はB寄りB+

 ◎読み切り『激 !! 深紫高校ウォッポ部』作画:草壁達也

 01年春に増刊デビューの草壁さんですが、今回が1年半ぶりの復帰と言う事になります。作者名で検索してみますと、その間は『おジャ魔女どれみ』関連の同人活動やってたみたいで、思わず「ンな事してる間あったらネーム描け」とツッコミ入れたくなったりもしますが(苦笑)。
 ただ、この作品そのものは悪くないと思います。1つ1つのギャグが小じんまりしていたり、使い古されたパターンのものが多かったりしたのは残念ですが、コマ割りやページを使い方は確かにプロの仕事です。あとはパロディに頼らない独自のギャグパターンを身に付けることでしょうね。このままだと“プロ級の同人作家”で終わってしまいそうな気もしますし(苦笑)。評価はB寄りB+

 ◎読み切り『ZONE』作画:星野桂

 星野さんはこれがデビュー作。以前から本誌のカット描きなどをしていたようで、何かしら「ジャンプ」との繋がりがあったみたいです。
 印象から言うと、一昔前のパソコンゲーム雑誌によく載ってたようなマンガですね。メジャー系よりもマイナー系の雑誌の方で受け入れられそうな作風でしょうか。
 話の筋そのものはデビュー作としては上々でしょう。ただし、自己満足的な設定を詰め込みすぎたような気もしますけれど。もっとディティールをスッキリさせれば凄く良い作品になったと思うので、その点が残念です。評価B+寄りB


 ◎読み切り『サクラサク、15』作画:藤嶋マル

 昨年1月期の「天下一」佳作から、その受賞作で増刊デビューを果たした藤嶋さんの受賞後第一作。
 この作品、単刀直入に言うと中途半端です。ミステリみたいでもあり、オカルトみたいでもあるのですが両方になりきれてません。昔流行ったRPG風アクションゲームみたいです。謎解きが論理的でなく犯人の自供強要だけで終わってしまったのが致命的でしたか。
 あと、説明不足の“お約束”に頼り過ぎの傾向があり、雰囲気だけで誤魔化して読者を煙に巻こうとする“『エンカウンター』的作品”と言わざるを得ません。今の内から楽をする事を覚えてしまってどうするんでしょうか。前作の出来が良くて期待している作家さんだっただけに残念です。評価B−

 ◎読み切り『メガ高野球部』作画:郷田こうや

 01年上期「赤塚賞」佳作から代原作家となった郷田さんですが、ようやく正規コースでのデビューとなりました。
 しかし今回の作品は、面白いかどうかは別にして郷田さんの悪い点と言うべき、“同じタイプのギャグを同じペースで延々と続ける”…が出てしまいました。こういうタイプの作品は、ツボにはまる人だとバカウケなのですが、そうじゃない人の方が圧倒的に多くなってしまうんですね。前作の『青春忍伝! 毒河童』あたりではその欠点を克服したように見えたのですが、残念でした。評価C寄りB−

 ◎読み切り『獏』作画:田中靖規

 02年9月期の「天下一」佳作受賞作で、これが勿論田中さんのデビュー作となります。
 発表当時の選評「絵は抜群に上手い。説明的なセリフが多いが、それ以上に描かれた世界観の魅力が勝る」……というものでしたが、確かに大筋ではその通りだと思います。ただ個人的には、“喧嘩しながらダラダラ喋る”という橋田ドラマ的な展開が話の醍醐味を削いでいる気がしますし、そのセリフにもまだ文言の中身を練る余地があったと思います。
 でもデビュー作にしては上出来でしょうね。評価はB+寄りBです。
 

 ◎読み切り『ホイッスル!(特別編)作画:樋口大輔

 最終回で謎のままだった、主人公・将のリタイヤした原因と復帰までを描いた番外編です。
 今回感じたのは、樋口さんはページの使い方と話の持って行き方がやはり上手であると言う事。単純なシナリオで51ページを無駄なく効果的に使い切ったというあたりに確かな技量を見ることが出来ました。
 ただ、樋口さんの場合、その技量が“魅力に欠けるシナリオをフォローする”という部分にしか活かされていないんですよね。それがこの作品が打ち切りになった原因の1つでもあるように思えます。評価は甘めですがB+寄りA−としておきましょう。

 総評としては、今回は「工夫の跡が見られたが、完成までには今一歩」という作品が多かったように思えます。設定過多の傾向も気になる点です。
 それでも、夏号のようにステロタイプな勧善懲悪の連発よりはずっとマシですし、そういう意味では幾らかの収穫はあったと言うべきなのではないでしょうか。


 ……と、時間大幅オーバーとなりましたが、何とか終了です。次回は平常どおりのゼミにしたいと思います。では、また来週に……。

 


 

1月9日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第1、2週分)」

 今年最初のゼミの時間となりました。今年も「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」を中心に新連載作品や読み切りの詳細なレビューを実施してゆく方針です。どうかよろしくお願い致します。
 さて、今回のゼミは先週の休講を受けて、「ジャンプ」の5号と6・7合併号、そして「サンデー」の6号を対象にレビューと“チェックポイント”を実施します。そのため、今週はレビュー3本ということになりますね。

 では、まず軽く「ジャンプ」「サンデー」関連の情報を採り上げておきましょう。今週の話題は1つだけです。

 現在冬の新連載シリーズが始まっている「週刊少年サンデー」では、来週の7号より、杉本ペロさんのギャグ作品・『俺様は?(なぞ)』が新連載となります。つい最近まで『ダイナマ伊藤!』を連載していた杉本さんですが、2ヶ月ほどのインターバルでの復帰となりますね。
 「サンデー」では、『神聖モテモテ王国』作画:ながいけん)以降、ショートギャグ作品ではこれといったインパクトが残せないでいるのですが、果たしてどうなるでしょうか?

 ……それでは、今週はレビュー対象作が多いですし、無駄話も挟まずにそちらへ移りましょう。今週は「ジャンプ」から新連載3回目の後追いレビュー1本読み切りレビュー1本を、そして「サンデー」からは新連載レビュー1本計3本のレビューをお送りします。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年5号〜6・7合併号☆

 ◎新連載第3回『TATTOO HEARTS』作画:加治佐修/5号掲載分

 新人・加治佐さんの週刊初連載作品・『TATTOO HEARTS』の後追いレビューです。
 前回の第1回時点でのレビューでは、主人公たちのキャラ紹介や世界観の説明をソツなくこなした部分を評価して比較的高目の評価(A−寄りB+)をしたのですが、どうもその後の展開は、残念ながらやや伸び悩んでいるような印象があります
 その原因は、話全体のテーマが未だに見えてこない点にあると思われます。ここまでの展開は、タトゥハーツの超能力を身に付けた主人公が一方的に刺客に命を狙われているだけで、極めて行動が受動的なのです。一応は“粋に生きる”という漠然とした目標はあるのですが、それが話を大きく盛り上げる方向へ向いておらず、読者の興味をそそるパワーに欠けてしまうのですね。
 喩えて言うなら、この作品は第1回で離陸した後にエンジンを止めてしまい、高度安定飛行に入る前の段階で既に惰性で滑空している状態なのです。前回指摘したように、この作品は「ジャンプ」の他作品と絵柄や設定の点で類似点が多く、ただでさえ不利な状況に置かれています。そういう中でダラダラと滑空を続けていては、“打ち切り”の4文字が近付いてしまう事でしょう
 加治佐さんは、画力や構成力などの基礎能力にはほぼ問題が無いだけに、今の状況は非常に勿体無い気がしてなりません。もし、首尾良くこのクールの生き残りが果たせた場合は、ハイテンポでインパクトのあるストーリー展開で事態打開を図ってもらいたいと思います。

 評価は少し下げてB寄りB+とします。


 ◎読み切り(前後編)『はじめ』作:乙一/画:小畑健

 年末年始の変則スケジュールの目玉という事なのでしょうか、5号と6・7合併号の2号に渡って、ジャンプノベル出身の新進小説家・乙一さん『ヒカルの碁』の作画担当・小畑健さんの豪華タッグによる特別読み切りが掲載されました。

 まずからですが、これはもう言う事は何も有りませんよね(苦笑)。小畑さんは『ヒカ碁』の取材休みを利用してこの作品を執筆したわけですが、年末進行前後の超絶スケジュールの中で実質的なページ増とは全く恐れ入ります
 それにしても、小畑さんに絵を描いてもらえるという事は原作者にとって幸せこの上無い話なんでしょうが、逆に言えばそれは“作品がダメ=原作がダメ”という公式が成り立ってしまうことになりますよね。う〜ん、プレッシャー大きそうですねぇ(笑)。

 さて次に、ストーリー面についてですが……。
 話の根幹になっているのは、“空想の実体化”。ぶっちゃけた話、小説やマンガの世界ではよくあるパターンではあります。ストーリーテラーを志す人間なら1度は考えつく設定でしょう。
 ただ、だからといって「ありきたりだからダメ」というものでありません。肝心なのは“料理”の方法です。何の変哲も無い炒飯でも美味いものは美味い…みたいなもので、使い古された設定でも面白いものは面白いですからね。
 そういう観点に立つと、この作品は話のメインを空想が具現化されてから3年経過した地点に置いているというあたりにオリジナリティが窺え、高く評価できるものだと思います。この辺はさすがに売れっ子小説家さんの底力というヤツですよね。
 ただ、個人的に惜しかった点は、話の“着陸地点”です。「はじめは本当にいた」という部分を強調して話が終わっているのですが、本来ならば「はじめがいなくなって悲しい」という部分が先に来ないと不自然ではないかと思うのです。いくら空想の産物とは言え、3年間毎日付き合っていたら情も沸きますし、空想だろうと現実だろうと関係なくなるのが普通だと思うんですよね。ですので、最後は喪失感に苛まれる主人公を描いて悲しいエンディング……というのが理想的な幕引きだったのではないかと思ったりします。まぁ、これは人によって評価が大きく分かれると思われますが……。

 そういう点を加味しまして、評価はA−に限りなく近いB+という結論にしたいと思います。

◆「ジャンプ」ここ2週のチェックポイント◆ 

『遊☆戯☆王』作画:高橋和希【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 えーと、高橋さんのやりたい事は、“スタンドを使った『リングにかけろ』”と解釈してよろしいんでしょうか?(苦笑)

『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 やっぱり日常を舞台にしたコメディ描かせると、内容が見違えますねぇ。ただ、それで少年誌以外で活躍できるような作風とは言えないのが辛いところですが。“お色気力”に欠けているのも問題ですね。う〜ん、中途半端な形で才能が埋もれて……(苦笑)。

『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 相変わらず人が呆気なく死んでいきますが、冨樫さんの上手い所は“読者に認知はされているが、深い感情移入はされていない”キャラクターだけ死なせるところですね。この微妙なサジ加減にセンスが窺えるところであります。

☆「週刊少年サンデー」2003年6号☆

◎新連載『MÄR(メル)作画:安西信行

 『烈火の炎』でヒットを飛ばした“実績組”の中堅作家・安西信行さんの「サンデー」連載復帰作が遂に登場です。
 安西さんは、昨年の『烈火』終了後に青年誌で読み切りを発表するなど、活動の幅を広げようとする意図が窺えたりもしたのですが、結局は元の鞘に収まった格好ですね。
 さて、今回の作品は“少年マンガの鬼門”・正統派ファンタジー物。「ジャンプ」で『SWORD BREAKER』が撃沈した後を受けて始まったこの作品ですが、内容はどうでしょうか……。

 まず絵柄ですが、これは良い意味でも悪い意味でも以前と変わっていませんね。顔の描き分けのパターンが少ない…という問題もありますが、まぁ指摘しなければならない点はほとんど無いと思います。パッと見で世界観ともマッチした絵柄とも思えますし、まぁ良いんじゃないでしょうか

 そしてストーリー今回は完全にプロローグ的なエピソードで、主人公が日常からファンタジー世界へ導かれていく“巻き込まれ型”の話が展開されました。
 話の内容そのものはステロタイプで、それこそ同系統の作品で何度と無くあったパターンです。が、これはいわゆる“お約束”みたいなものですし、プロローグだけで作品全体の評価を下すのは愚の骨頂ですので、現時点でのストーリー面の評価は保留したいと思います。
 ただ、1点だけ気になるのが主人公のキャラ造型です。運動神経ゼロ・成績中の下という少年をどのようにヒーローにしてゆくのか、その見通しにはなかなか厳しいものがあると思います。また、運動神経ゼロと謳っておきながら、いきなり見せ場で“お姫様抱っこ”を敢行させてしまう…という設定に対する杜撰さも気になるところであります。

 まぁ、今回だけでは評価の下しようがありませんので、7段階評価は保留に。しかし、期待よりも不安の方が先行した第1回とだけは言っておきます。


◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫【第3回掲載時の評価:B/雑感】 

 これが他の作品なら、「女子中学生のヌードキター!」なんでしょうけど、このマンガ色気無ぇ(笑)。爽やかなのもここまで来ると凄いですね(笑)。

『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため、評価未了/雑感】

 コース取りでイン奪い合って深い進入…って、これはこの年末の賞金王決定戦そのまんまではないですか(笑)。勿論、こっちの執筆時期の方が断然早いんですけど、本当によく出来た偶然の一致ですねぇ。まぁ、実在の世界ではインコース組は全滅状態になっちゃったんですが。

 

 ……さて、今回は以上です。講義の実施が遅れに遅れて申し訳有りませんでした。
 次回は「ジャンプ」が合併号休みなんですが、ようやく年末発売の「赤マルジャンプ」を入手できたんで、また簡易版のレビューでもやろうかと考えています。またどうぞよろしく。それでは講義を終わります。 


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