「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

12/30 文献購読(小説)「年忘れボツネタ供養バカ笑い企画・駒木博士のショートショート発表会番外編」
12/29 特別演習「『週刊少年ジャンプ』この1年」(3)
12/28 競馬学特論「駒木研究室・2002年G1予想大反省会」(1)
12/27 特別演習「『週刊少年ジャンプ』この1年」(2)
12/26 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(12月第4週分)
12/25 労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」(2)
12/23 特別演習「『週刊少年ジャンプ』この1年」(1)
12/22 ギャンブル社会学「toto(サッカーくじ)売上げ低迷、その原因を探る」(7・最終回)
12/21 
競馬学特論 「G1予想・有馬記念編」
12/20 労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」(1)

12/19 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(12月第3週分)
12/18 
ギャンブル社会学「toto(サッカーくじ)売上げ低迷、その原因を探る」(6)
12/16 
集団心理学特殊講義「悪夢の同時開催 !? 12・29“コミックマーケット”VS“M-1グランプリ”in有明」

 

12月30日(月) 文献購読(小説)
「年忘れボツネタ供養バカ笑い企画・駒木博士のショートショート発表会番外編」

 さて、当社会学講座もいよいよ今年最後の講義となりました。

 この2002年の講義は、1月2日のフードバトルクラブ・キングオブマスターズ直前プレビューから始まって、今日までで約300回を数えます。それらの講義レジュメを全て合わせると、恐らくは京極夏彦先生も真っ青の分厚い本が出来る位のボリュームになっているのではないでしょうか。 
 ハードカバーで分冊になる位までに、全く銭にならない文章を書き続けたこの1年。もはやここまで来ると、さすがに自分でも「アホちゃうやろか」と思ったりもします。

 そんなアホも今年は今日で“やり納め”。「やり」の字をカタカナにすると、まるで風俗雑誌の年末特大号みたいでアレですが、今日は今日でアホさ全開の講義を全うして、この1年を締めくくりたいと思います。どうか皆さん、最後までよろしくお付き合い下さいませ。

 ……で、今日の講義ですが、これはタイトルをご覧になればお分かりになりますように、いわゆる“ボツネタ”のリサイクルという事になります。
 昨年11月末の開講以来、実に300回以上にも及ぶ当講座の講義ですが、それぞれの講義について計画を立てる中で、構想段階まで出来ていながらも泣く泣くボツにせざるを得なかった題材というのも少なからず存在します。ある時など、レジュメを執筆する直前までいった題材を反故にして、夜中の2時3時に半ベソかきながらニュースサイトを見て回って題材探しに“奔走”した事もありました。
 
題材をボツにした理由の大半は、「あまりにも間口が狭すぎる」というもの。“分かる人には分かる”程度なら良いのですが、“本当に分かる人にしか絶対に分からない”位にまで対象を絞り込んでしまうと、さすがに公の場でお話するのが憚られてしまうものなのです
 そんなボツになった講義のタイトルを挙げてみますと、
 「『あずまんが大王』に学ぶ現代の政治経済」
 とか、
 「夢の頂上決戦! 仮想プロレス観戦記・史上最強タッグ決定リーグ戦」 
 ……などなど。前者は『あずまんが大王』の単行本を全巻読破した上で、政治経済に興味のある人にしか面白くないという、保守新党のそれとドッコイドッコイの支持率しか望めない講義。後者に至っては、馬場&アンドレ組と鶴田&天龍組とハンセン&ブロディ組と三沢&小橋組と川田&田上組と長州&健介組とザ・ファンクスとザ・ロードウォリアーズが参加する「世界最強タッグ決定リーグ戦」を想像して狂喜乱舞出来る人にしか分かってもらえない…という、受講生の皆さんに喧嘩を売っているとしか思えないような講義でした。

 しかし、今回復活させる講義が一度ボツになった理由は他のものと一味違います。それは、

「あまりにも下品すぎてボツ」

 ……これはこの秋に実施した「ショート・ショート発表会」(未読の方は11月前半の講義レジュメを参照して下さい)用のネタだったのですが、そういう理由で執筆を断念したわけです。
 この、下ネタ上等親子で受講されているというお母様からは「子供には余り見せたくない時もあるんですけどね」…などと言われてしまう当社会学講座でこのボツ理由なのですから、どれくらい下品なのかは推して知るべしです。
 が、1年の最後を締め括るにあたり、「インパクトの強い講義を」…と考えると、「一丁、やってみるか」…なんて考えてしまい、調子に乗って本当にやる事にしました

 そんなわけで、今回お届けするショート・ショートは、題名からして季節感大ハズレという、色々な意味で挑戦的なお話です。その名も『アザラシなんていらねぇよ、秋』。気楽に肩の力を抜いて、楽しんで頂ければ…と思います。ただし、もし万が一ツボにハマっても、あまり大きな声で笑わないようにお願いします。ご家族や職場の同僚が「何、何?」とモニターに寄って来た時に大変恥ずかしい思いをする羽目になりますので。
 というわけで、どうかこみ上げる笑い声は寝ている家族を起こさないようにHをする要領で噛み殺しつつ、お楽しみ下さいませ。それでは皆さん、よいお年を──


「駒木博士のショート・ショート発表会」
番外編:『アザラシなんていらねえよ、秋』 

 某在京TV局の第5小会議室。5〜6人ほどで満員になるなる狭い部屋の中で、2人の男が机に差し向かいで宅配弁当の食事を摂っていた。局に泊り込んでやった仕事が一段落ついた後の、昨日の夕食を兼ねた朝食である。昨日の午後に作られたという弁当の白飯は、既に割り箸を頑として受け付けないくらいに固い。
 「あー、チクショウ、参ったな、クソッ」
 小気味良いテンポで罵倒と愚痴を使い分けているのは、この局で夜11時からのニュース番組でディレクターを務める真田という男である。
 「どうしてくれんだよ…まったく…俺が何したって…言うんだよ…クソッ」
 言葉の合間合間、トンカツ弁当の冷え切ったカツを親の敵にそうするような勢いで力強く噛み砕く真田。
 そして、その様子を真正面から見ていたもう1人の男が、手に持った大盛ノリ弁当を机に置いて、半ばウンザリした顔をして口を開いた。
 「──真田さん、そんなに激しく噛むと、また差し歯が折れますよ。アロンアルファでムリヤリくっつけてるんでしょ、それ」
 「うるせぇよ、喜田川。差し歯なんてどうだっていいんだよ、またボンドでくっつけりゃいいんだから。……ていうかだなぁ喜田川。今回の件はファーストADのお前だって他人事じゃねぇんだからな。ここで問題起こしたらお前のD昇格だって覚束ねぇ。分かってんだろうな?」
 「……分かってますよ。分かってますけど、そんなにあのアザラシの名前が問題なんですか?」
 「あー分かってねぇ。お前、全然分かってねぇよ。いいか? 大体テレビってのはなぁ、チラリとかポロリってのはともかくとして、直接ズトンッ! ……て感じの下ネタは絶対ダメなんだよ。NHKじゃあ浅草キッド出す時に玉袋筋太郎の名前を変えさせたくらいなんだぞ。それが何だ? アザラシの名前が『クリちゃん』だ? 誰が付けたか知らねぇけど、ふざけんじゃねぇってんだよ」
 ──今年の夏から秋にかけて、日本の河川に本来いるはずの無いアザラシたちが次々と姿を現したのは周知の事実であるが、なんとこの会話が為されている5日前になって、多摩川に現れたタマちゃん、歌津町に現れたウタちゃんに続く3頭目のアザラシが出現したのである。
 そしてそのアザラシには、いつの間にか「クリちゃん」なる名前が付けられて、同じくいつの間にか全国的に定着してしまったのであった。
 「……まったくよぉ、昨日なんて、日朝首脳会談と民主党代表選挙の後にクリちゃんだぞ。拉致された人がどう、とか言った後にクリちゃん、クリちゃんって。真面目な雰囲気の番組がいきなり村西とおるのアダルトビデオになっちまうじゃねぇか」
 「お、懐かしいっスね、村西とおる。俺、野坂なつみがメガネ着けたままヤっちゃうのが好きだったなぁ」
 「バカ野郎! ンな事言ってる場合か! ……昨日の昼間のワイドショー観たか? 現場中継のバカリポーターが、『川から姿を現したクリちゃんを一目見ようと、この辺りには1000人以上の人が集まっています!』…とか何とか言っちまいやがって。何考えてんだ。カワから姿を現したクリちゃん見に1000人集まりましたって」
 「うはー、それじゃまるでソフト・オン・デマンドっスね。俺、あんまりデマンドは好きじゃな……」
 「バカ野郎! もういいんだよAVの事はッ! いい加減にしろ、この底抜けバカ!」
 トンカツソースの付着したグーパンチが脳天を一撃。喜田川は「グヘッ」とマンガの擬音みたいな短い悲鳴をあげて、思わず殴られた所を手で押さえた。感触にヌルリとするモノがあったので一瞬血かと思ったが、どうやらソースらしかった。今日は何としてでも仕事場を抜け出して風呂に入ろうと喜田川は思った。
 「……まったくよぉ。そもそもどうしてアザラシにクリちゃんなんだよ。おかしくねぇか?」
 「秋だから、じゃないっスか? 秋と言えば栗で、だからクリちゃん」
 「それだったらそれだったで、まだマシな名前があるんじゃねえのかよ。・・・…オイ、秋関連で他にありそうな名前、言ってみろよ喜田川」
 「えーと……モミジちゃんに、イチョウちゃん」
 「ん〜、何だか語呂が悪ぃな」
 「じゃあカキちゃんとかナシちゃんとか」
 「……イマイチ」
 「カニちゃん」
 「それじゃ何の生き物だか分かんねぇよ」
 「……マツタケちゃん」
 「余計悪いよバカ! タマちゃんとマツタケちゃんって、それじゃそのまんまじゃねぇか。アザラシのニュースの度、観てる人間の脳裏にポコチン思い浮かべさせてどうすんだよ」
 「……じゃあやっぱりクリちゃんで仕方ないんじゃないスか?」
 「ん〜、でも名前がなぁ。これだけ話題になったらニュースでやらないわけにはいかねぇし、名前だけ伏せるってのもアレだしなぁ……」
 と、そこへ、ノックもせずにいきなり1人の男が部屋に雪崩れ込んで来た。
 「あー、真田さんここにいた! 大変ですよ、大変!」
 やって来たのは、真田と喜田川の担当するニュース番組のセカンドADをしている八木だった。彼も泊り込みで仕事をしていたのだが、真田たちとは別の部屋にいたのである。
 その八木は、手に持ったプリントをマラソン大会の沿道の客が持つ小旗のように激しく振り回した後、2人が弁当を置いている机の上に叩きつけた。ドンッという音が狭い室内に響く。 
 「何だよ何だよ。徹夜明けなのに元気だなぁ、お前」
 「そんな事言ってる場合じゃないですよ、喜田川さん! あぁ、真田さんも早く見て下さいよ、昨日の視聴率速報!」
 「ンン? ……な、何だこの数字、これ俺らの番組のか?」
 「凄いでしょ、真田さん。時間帯ダントツトップの18%!」
 「……ていうか、何だ? ここで瞬間最大が一気に突き抜けてるじゃねぇか。何だよ、この26%ってのは?」
 「それ、アザラシのニュースの時間っスよ、確か」
 分刻みの視聴率が記されたプリントの時刻を確かめながら、喜田川が真田に言った。
 「アザラシって、クリちゃんか? どうしてアザラシが出てきて率が上がるんだよ?」
 「いや、そこまでは……」
 喜田川が口ごもると、また八木が「あぁ、それなんですけどね……」と言いながら、今度はGパンの後ろポケットから別のプリントを取り出して机上に広げた。

放送コード】クリちゃん関連ニュースでハァハァ(;´Д`)するスレ part35【ギリギリ】

1 :朝まで名無しさん :02/9/26 23:17 ID:o7taMsAR

 立てますた。

 前スレ(part34)ttp://news2.2ch.net/test/read.cgi/liveplus/0956242773/

154 :朝まで名無しさん :02/9/26 23:20 ID:???

 キタ━━━━(。A。)━(゚∀゚)━(。A。)━(゚∀゚)━(。A。)━━━━!!!!

155 :朝まで名無しさん :02/9/26 23:20 ID:???

 キタ Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)!!!

156 :朝まで名無しさん :02/9/26 23:20 ID:???

 キタ━━━( ´∀`)・ω・) ゚Д゚)・∀・) ̄ー ̄)´_ゝ`)-_-)=゚ω゚)ノヨォ━━━!!!!

157 :朝まで名無しさん :02/9/26 23:20 ID:???

 キタキタキタキタキタキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

158 :朝まで名無しさん :02/9/26 23:20 ID:???

 クリチャン━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ キター!!!

159 :朝まで名無しさん :02/9/26 23:20 ID:???

 アノイロッポイオクチカラ…クリチャン…… ハァハァ(;´Д`)

160 :朝まで名無しさん :02/9/26 23:20 ID:??? 

 キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!

161 :朝まで名無しさん :02/9/26 23:20 ID:??? 

 イク━━━━(;´Д`)━━━━ッ!!

162 :朝まで名無しさん :02/9/26 23:21 ID:??? 

 ↑早スギまつ。

163 :朝まで名無しさん :02/9/26 23:21 ID:??? 

 マタクリチャン━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ キター!!!

 「なんだこりゃ?」
 「知らないんですか、真田さん? 『2ちゃんねる』ですよ、インターネットの掲示板です。そこの『ニュース実況板』っていう所でこんなスレッドが立てられてるんですよ」
 「……てことは何か? ウチのニュースを観た連中が書き込んでるって事か?」
 「そうですそうです。女子アナが『クリちゃん』って言うたびに、みんな『キター』とか言って大騒ぎですよ。この紙に載ってるのはこれだけですけど、実際には5分くらいのニュースの間に1000ぐらいのレスがあって……」
 「つまりアレか? 女子アナが『クリちゃん』、『クリちゃん』って連呼するのを聞きたくて、男どもがニュース番組にカジりついてるって事か?」
 「そうですそうです。だから昨日の深夜枠なんか、女子アナがニュース読んでる局の率だけが上がってるんですよ。男がニュース読んでるトコなんか酷いモンですよ」
 「…………喜田川、八木」
 「何スか?」 「はい?」
 「方針変更だ。今日から毎日クリちゃん関連ニュースはレギュラー企画だ。『今日のアザラシ・タマちゃんクリちゃん』って感じでトップニュースの後に持ってくぞ」
 「え? さっきと話が違うじゃないですか? 直接ズトンッってのはダメなんじゃ無かったんですか?」
 「バカ野郎。いいか、テレビってのはなぁ、他の何よりも視聴率が優先するんだよ。率さえ獲れれば何だって許されるんだよ。『電波少年』を見ろ。数字さえ獲ってりゃあ警察沙汰になろうが裁判沙汰になろうが始末書1枚で終わりだったじゃねぇか。それがテレビってもんなんだ。それにだ。俺たちゃあ別に放送禁止のタブーに挑戦するってわけじゃねぇ。『クリちゃん』っていう、かわいいかわいいアザラシのニュースを、視聴者が求めているニュースを詳しく報道しようってだけなんだよ。……いいか? これは報道の在るべき姿だ。『視聴者が知りたいニュースを提供する』。どこが悪いんだよ、誰にも文句は言わせねぇ!」
 「わ、わかりましたよ……」
 その、橋田ドラマを思わせる真田の長セリフに気圧された喜田川が、セリフの最中に顔に飛んで来たツバ飛沫を手で拭いながら相槌を打った。
 「よし、今日からクリちゃんのニュースは俺が原稿を書く。それをウチのキレイどころの女子アナに日替わりで読ませろ。ブスとババァはいらねぇ。美人で若い子だけでいい。その手配は頼んだぞ、八木」
 「あ、分かりました」
 この会話の内容がアナウンス部の社員に伝わったなら、その日から真田と口を聞くのを止めよう……などと思いながら、八木は声だけ快活な返事をした。将来出世しそうなタイプである。
 「喜田川はワイドショー班に精一杯ヨイショして、出来る限り使えるテープ確保して来い。社食と1階の喫茶店だったら経費で落とせるからメニューの高い順番からオゴってやれ。ホラ、あっちのADで相撲部屋から逃げ出して来たような図体のヤツがいただろ。そいつにカツ丼の5杯とクリームソーダの3杯でも振舞ってやればすぐにオチるだろうよ」
 「真田さん、俺、今持ち合わせが無いんで、ちょっと貸して下さいよ」
 「バカ野郎! 俺……じゃねぇ、局次長のツケにして幾らでも食っとけ! オラオラ、分かったらボサっとしてないでサッサと言って来い!」
 真田の怒号に追い出されるようにして部屋を飛び出して行った部下たちの背中を見送ると、真田は早速近くにあった紙を持ってきて、ポロシャツの胸ポケットに突っ込んであったボールペンで叩き付けるようにニュース原稿を書き始めた。
 「見てろよぉ。学生時代、早稲田の団鬼六と呼ばれた実力を全国1億2千万人に見せ付けてやっからなぁ」
 絶好調時の栗本薫を思わせる猛スピードで原稿を書き綴ってゆく真田には、もはや老朽化してグォングォンと喚きつづけるエアコンの機動音すら聞こえていなかった。

 ◆──────◇

 「──いやぁ、昨日の数字は凄かったっスねぇ。このまま行くと、今週中には30まで行っちゃうんじゃないスか?」
 10月10日──真田ディレクター指示の下で企画された『今日のタマちゃん・クリちゃん』の放送が開始された日から2週間。ついに視聴率は20%の大台をはるかに越え、コーナー放送時の瞬間視聴率は30%に迫る勢いとなっていた。
 そしてこの日は、あの時の小会議室に真田、喜田川、八木の3人が集まって、翌週以降のコーナーの構成についてミーティングを行っていた。高視聴率を受け、翌週からコーナーの時間が延長される事になったのだ。
 「それにしても真田さんの原稿、ノリノリですよね」
 「おぉ八木、お前良い事言うねえ。褒めてやる」
 「ありがとうございます。……特に昨日、『川沿いに集まった少年たちが、しっとりと濡れたクリちゃんを舐めるように眺め、間もなくその愛くるしい姿の前に顔を赤らめていました』ってのは力作でしたねぇ。フランス書院文庫も真っ青って言うか」
 「『舐める』って部分の後の文字を読めないように汚く書いて、『しっとりと濡れたクリちゃんを舐める』で一旦噛ませる所なんか、イイ狙いだったろ? また原稿読んでた女子アナが顔真っ赤にして恥ずかしがったから、インターネットでも大反響。来週からが楽しみでたまんねぇよ」
 「真田さん、俺も一生懸命テープ集めて来てるんですから褒めて下さいよ」
 「あぁ、喜田川もよくやったよな、うんうん」
 「……なんか、言い方がぞんざいなんだよなぁ」
 「ん? 何か言ったか?」
 「いや、何も……」
 「ところでよ、さっき報道の若いのに聞いたんだけど、またアザラシが出たんだって?」
 「あぁ、そうらしいですね」
 真田の問いに八木が答えた。
 「何でもタマちゃんと同じ川に現れたそうですよ。もうワイドショー班は大挙して現場に向かってるそうです」
 「何だよー、どうせならクリちゃんの方が来りゃあイイのによ。『タマとクリが擦れあって声が漏れる』って感じで攻めりゃあ、30%どころの話じゃねぇぞ」
 「いやいやいや、真田さん、せめて『ちゃん』くらい付けましょうよ」
 「何だったら、クリちゃんの友だちにリスでも呼んで来るか、ん?」
 「うわぁ、最低だこの人!」
 「いいんだよ別に。人格は最低でも視聴率が最高だったらどうだっていいんだよ、ガハハハハハ…………」

 

 ──この時、有頂天にあった彼らだが、しばらく後には一転してドン底に叩き落される事になる。その事を彼らはまだ知る由も無かった。

 まず、タマちゃんと同じ川で新たに発見されたアザラシにはその後、全身が金色の毛に覆われているところから「キンちゃん」という名前が付けられた。
 そしてその数日後には、タマちゃんとキンちゃんは運命的な出会いを果たし、まるで昔から仲良く暮らして来た兄弟のようにくっついて生活するようになった。

 すると、その事実を知った真田の上司は、真田の番組で2頭の様子を深夜生中継する事を指示するところとなった。その中継に潜む危険性を悟っていた真田たちは何とかして企画にストップをかけようとしたが、タテ社会の壁の前に叶わなかった。

 生中継は文字通りの修羅場となった。

 「こちら、タマちゃんとキンちゃんの暮らす、横浜市は──」

 「キンタマー!」

 「よ、横浜市は鶴見川では──」

 「キンタマー!」
 「タマキーン!」

 「鶴見川では、2頭のアザラシを見物するために──」

 「チンポコー!!」

 「2ちゃんねる」掲示板内で企画された「生中継でアザラシに声援を送る緊急オフ」に全国中から集まった数千人の観衆たち。その中の一部が暴走し、生放送でカットのしようの無い場面で放送禁止用語を連呼してしまったのであった。

 次の日から「今日のアザラシ」のコーナーは最初から存在しなかったかのように姿を消し、同じように真田たちの名前も番組のクレジットから姿を消した。その他多くの関係者も謹慎や減俸の処分が下り、そのテレビ局内では、間もなくして季節外れの大人事異動が行われた。真田はこの時に依願退職して社を去っていった。

 それからしばらくして、報道局の近くにある男子便所の壁に、ボールペンで刻み込まれるようにして書かれた落書きが発見された。
 「アザラシなんていらねぇよ、秋」
 その落書きが発見されてから、それは真田が書いたものではないかという噂が一しきり流れたが、それもその落書きと共に、1週間もしないうちに消えていった。

 そしてその後、このテレビ局の男性社員は、女性とコトに及ぶ際になってアザラシの姿を思い浮かべてしまうという奇妙な後遺症に襲われる事になったと言う。 (完)

 


 

12月29日(日) 特別演習
「『週刊少年ジャンプ』この1年」(3)

※前回までのレジュメはこちらから→第1回(新連載作品中心)第2回(読み切り作品中心)

 「週刊少年ジャンプ」の2002年を振り返るという趣旨の講義の第3回、今回が最終回なのですが、正直言って「やらなきゃ良かった」とか思っています(苦笑)。ここまで手を焼く羽目になる題材とは思っても見ませんでした。こんな事だったら素直に、「M−1」の回顧を立川談志の「褒めてやる」の価値などを絡めつつやっておけば良かった…などと思っております(苦笑)。
 が、一度始めてしまったものはケリをつけなければなりません。最終回の今回は、「ジャンプ」そのものと長期連載作品についての年間総括です。

 
 ──まず、今年の「週刊少年ジャンプ」関連のニュースの中で(良い意味で)最も注目すべきものとしては、「『週刊少年マガジン』からのマンガ雑誌発行部数第1位の奪還」が挙げられるでしょう。
 この王座交代劇は、その最大の原因「マガジン」の『ラブひな』・『GTO』終了後の大不振であったためか、それほど大きく騒がれる事はありませんでしたが、それでもこの出版不況の中で部数を横バイ〜微増に持ち込んだ「ジャンプ」側の功績も小さく扱うべきでは無いでしょう。
 それどころか、現在の「ジャンプ」を支えている作家の大半が、いわゆる“ジャンプ黄金期”、“ジャンプ暗黒期”に直接携わっていない“ポスト暗黒期”の若手・中堅作家である事も併せて考えると、目先の利益に捕われず中長期的な観点から新人発掘・育成に挑む…という、伝統的な「ジャンプ」型編集方針の勝利とさえ言えるのではないでしょうか。

 それにしても、全く編集方針の異なる「マガジン」の凋落が、かつての「ジャンプ」の“暗黒期”突入の時と同じく、
 「看板作品の終了→後続の作品が不発で看板不在に→読者離れ進み、部数激減」
 ……というパターンで進行したのは興味深いところですね。
 そんな「マガジン」も去年から今年にかけて、新たな看板作品を求めて盛んに新連載作品をプッシュし、時にはアニメ化を前提とした新連載の立ち上げまで実行したのですが、結果は無残なものばかり。中にはアニメが放送される前に人気不振で増刊に“左遷”されるものまであり、ヒット作を計算ずくで生み出す事の難しさを証明した格好になりました。

 しかし、この一連の「マガジン」の低迷は、「ジャンプ」にとっても対岸の火事ではないのです。
 詳しくはこの後の長期連載作品の総括で述べますが、現在の「ジャンプ」には、99年に連載開始された長期連載作品『ヒカルの碁』、『テニスの王子様』、『NARUTO』以来、誰もが認める大ヒット作が誕生していない…という潜在的な不安要素が存在しているのです。一応、今年には『アイシールド21』という大ヒット作“候補”は生まれましたが、これが本当の大ヒット作に化けるかどうかはこれから次第ですし、第一、『アイシールド21』1作品だけでは層が薄すぎます。この、潜伏したウィルスのような不安材料を“発病”させないためにも、来年度以降は腰を据えた新人発掘をガンガン進めていってもらいたいものです。

 ……さて、他にも紹介すべき出来事もあるのですが、それは作品の総括を進めながら検討する事にしましょう。
 ではここで改めて、2002年以前から連載が開始された長期(3クール以上)連載作品の一覧表をご覧頂きましょう。

長期連載作品一覧

☆2003年に越年を果たした連載作品
 ◎95年以前連載開始
 『こちら亀有区葛飾公園前派出所』
作画:秋本治/1976年連載開始)
 ◎96年連載開始
 『遊☆戯☆王』作画:高橋和希
 ◎97年連載開始
 『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎
 ◎98年連載開始
 『ROOKIES』作画:森田まさのり
 『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博
 『シャーマンキング』作画:武井宏之
 ◎99年連載開始
 『ヒカルの碁』作:ほったゆみ/画:小畑健
 『テニスの王子様』作画:許斐剛
 『NARUTO─ナルト─』作画:岸本斉史
 ◎00年連載開始
 『ストーンオーシャン』作画:荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』としては87年から)
 『BLACK CAT』作画:矢吹健太朗
 『ピューと吹く! ジャガー』作画:うすた京介
 ◎01年連載開始
 『ボボボーボ・ボーボボ』作画:澤井啓夫
 『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也
 『BLEACH』作画:久保帯人

☆2002年に連載終了した長期連載作品
 ◎97年連載開始
 『世紀末リーダー伝 たけし!』作画:島袋光年/37・38合併号までで強制打ち切り終了
 ◎98年連載開始
 『ホイッスル!』作画:樋口大輔/45号までで打ち切り終了)
 ◎99年連載開始
 『ライジングインパクト』作画:鈴木央/12号までで打ち切り終了)

 ではまず、一覧表とは順序が前後しますが、今年連載が終了した作品から振り返っておきましょう。

 まず、今年の長期連載作品終了第1号となったのは『ライジングインパクト』でした。
 この作品の打ち切りは、ファンの間に衝撃を与えました。と言いますのも、この『ライジングインパクト』はかつて、「連載当初のアンケートが悪く打ち切り決定→連載終了間際から人気が急上昇→急遽、一部設定を変更して連載再開」…という特殊な経歴を辿っており、また、打ち切られる直前からストーリーが新展開に突入していた事もあって、ファンの間では“打ち切りは有り得ないか、有ってももっと先”…と認識されていたからです。

 そして、そんな事情もあって、連載終了直後から周辺では様々な動きがなされました。
 ファンの間では連載再開要望の署名活動が行われたり、また一方では「この作品は打ち切りではなく、作者が続きを描く事を拒否した事による“『幽☆遊☆白書』パターン”だ」…などといった噂が流布されたりしました。
 ただしこの噂に関しては、『ライジングインパクト』の単行本に大幅な加筆が行われている点や、作者の鈴木央さんの次回作が、「以前から描きたい」とされていたファンタジー物ではなく格闘モノであった事などから、今では全く信用されていません。よって、『ライジングインパクト』については、この総括でも“打ち切り”と扱います。
 まぁ確かにこの打ち切りは唐突な感が否めず、多少の勘繰りを入れてみたくなるタイミングであったというのも否定できないところではありました。これは後で述べる『ホイッスル』もそうなのですが、今の「ジャンプ」では、相当の長期連載作品であっても、今後に人気上位への定着やメディアミックス的な展開が望めない場合ならば固定ファンに飽きられる前に幕を引いてしまう…というケースが多いようです。この手法にはメリット・デメリットが混在すると思われますが、確かに1つのやり方ではあるでしょう。これは来年以降の動向でも注目したい点だと言えます。

 ……さて、今年の長期連載打ち切りとその衝撃で最大級のモノと言えば、やはり『世紀末リーダー伝 たけし!』の強制打ち切り終了と作者・島袋光年氏の逮捕という出来事をおいて他に無いでしょう。
 事件が発覚したのは今年の8月7日の事でした。既に8月8日付「現代マンガ時評」でも紹介済みですが、ここでも当時の新聞記事を引用しておきます。

 神奈川県警少年課と伊勢佐木署は7日、漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載中の漫画家・島袋光年容疑者(27)(東京都世田谷区玉川1)を児童買春・児童ポルノ処罰法違反(児童買春)の疑いで逮捕した。

 調べによると、島袋容疑者は昨年11月12日、横浜市神奈川区内のホテルで、同市内の女子高生(16)に現金8万円を渡し、みだらな行為をした疑い。

 島袋容疑者は携帯電話の出会い系サイトを通じて女子高生と知り合ったが、女子高生には偽名を使い、コンピューター会社員を名乗っていたという。

 島袋容疑者は、1996年にデビューした人気漫画家。翌97年から「週刊少年ジャンプ」に「世紀末リーダー伝 たけし!」を連載。昨年、同作品で小学館漫画賞(児童向け部門)を受賞している。
(読売新聞より)

 島袋氏の犯した罪は、小学生をも対象に含めるマンガ雑誌の連載作家としては文字通り“ご法度”だった事もあって、編集部の動きは極めて迅速でした。逮捕から2日後には非常に厳しい決断を下されます

 集英社(東京都千代田区)は9日、「週刊少年ジャンプ」に「世紀末リーダー伝たけし!」を連載中の漫画家、島袋光年容疑者が児童買春禁止法違反(児童買春)容疑で逮捕されたのを受け、13日発売号での掲載を最後に連載を打ち切ることを決めた。また、9月に刊行予定の単行本第25巻の販売を中止し、1〜24巻の出荷も停止する。単行本は累計で約800万部が発行されている。
(毎日新聞2002年8月10日東京朝刊から)

 連載終了と単行本の出荷停止(事実上絶版)という措置は、『世紀末リーダー伝 たけし!』という作品を存在もろとも抹消する事を意味します。恐らくは作者の島袋光年氏も「ジャンプ」では二度と作品を発表する事は出来ないでしょう。
 不幸中の幸いだったのは、この事件は島袋氏個人による犯行であった事。「ジャンプ」そのものや他の作品に悪影響を及ぼす事はありませんでした。しかし、悪性のストレスは週刊連載作家の職業病と言えるものであり、これから“第二のしまぶー”が現れないためにも、編集者による作家の接し方には十分な気配りを持ってもらいたいと思います。
 ※島袋光年氏はその後、懲役2年執行猶予4年の有罪判決を受けて釈放されました。今後は一般生活を送りながら罪を償うことになります。

 さて、一連の事件について語り終わったところで、『──たけし!』の作品の内容についても振り返っておきましょう。
 『──たけし!』は当初、1話完結型のギャグ作品として出発し、小学生を中心にかなりの人気を博しました。ジャンプフェスタでは短編アニメも製作されたところからすると、実現しなかったもののTVアニメ化の話もあったと思われます。
 しかし、しばらくすると『──たけし!』はギャグ路線をかなぐり捨てて、「ジャンプ」伝統の格闘バトル路線への転換が始まります。普通ならここで更に人気が上昇するものなのですが、この作品に関しては例外的に人気が低下幾度もの試行錯誤の末にギャグ路線への復帰が図られることとなりました。
 このUターンは効果覿面で、すぐに人気は上昇傾向となったのですが、今度は作者・島袋氏が慢性的なネタ切れを起こし、作品制作に支障を来たす事態となります。恐らく悪性のストレスが溜まり、そのはけ口を援助交際に求めるようになったのもその時期からでしょう。
 そういう事情によって、再び「──たけし!」はシリアスな格闘バトル路線に軌道修正されますが、この時もたちまち人気は低迷し、連載末期には打ち切り候補として名が挙がるようにもなりました。一説によれば、強制打ち切りの時点では既に年内の連載終了が内定していたとも言われています。事件が発覚した時点では、既に作者にしても作品にしても色々な意味で限界が訪れていたのでしょう

 それにしても今回の件は、ほとんど誰も得をした人間がいないという意味において、非常に悲しい出来事でした。二度とこのような事が起きないようにしてもらいたいものです。


 島袋&『たけし』問題のインパクトが強過ぎて、思わず失念してしまいそうですが(笑)、『ホイッスル!』についても振り返っておきましょう。
 この『ホイッスル!』中学サッカーを題材にした作品で、才能を秘めた努力家の少年を主人公にするという、いかにも少年誌の長編モノらしい作品でした。いわゆる“必殺シュート”などを用いない、良い意味でも悪い意味でも地味な作風ではありましたが、中高生以上の女性層からも人気を集め、絶えず全体で中程度辺りの人気を確保し、衛星放送限定ながらアニメ化もされました。
 しかし、02年初夏のW杯終了後からは徐々に人気が下降。その時点で連載4年にも関わらず未だ完結への道筋が見えない事もあったのか、今年の夏の時点で秋での打ち切りが決定してしまいました。打ち切り決定から連載終了までにはかなりの猶予期間が与えられていたようで、比較的穏やかな幕引きとなりましたが、やはりストーリー全体からすれば中途半端な終わり方だったと言えるでしょう。
 この打ち切り劇は、人気が続く限り容易に話を完結させる事が出来ないという「ジャンプ」の編集方針の悪い面が出た格好と言えるかも知れません。もう少し物語そのものの価値についても考えて欲しいと思うのは自分だけでしょうか?


 ──と、打ち切り作品についてはこれくらいにしまして、来年からも連載が続く作品についての話に移りましょう。 先に言っておきますが、ここからは駒木個人の主観が混じる内容となりますので、受講生の皆さんもそういう認識をして頂きたいと思います。

 では本題に移りますが、この2002年の長期連載作品は、全体的──特に99年以前から連載が開始された“看板作品”において「勢いの上げ止まり」が見られた1年ではなかったかと思います。多くの作品において、1つのエピソードを描き終わるまでの期間が長くなっており、「冗長過ぎる」という表現を使わなくてはならない作品もチラホラと出て来たのでないかと思われます。
 これは看板作品の『ONE PIECE』についても例外ではありません。最近のこの作品は、ひたすらに長い期間をかけて大風呂敷を広げていくようなストーリー展開になっており、とうとう最近ではネット界隈で内容について不満の声も聞かれるようになりました。単行本売り上げなどを見ても低年齢層を中心とした読者人気は相変わらずで、アンケート得票もかつての『DRAGON BALL』を思わせるようなダントツ首位が続いているそうですが、このままの展開が続けば、近い内に人気の目減りも有り得るかも知れないと駒木は考えています。

 ただ、これは1つの作品の“鮮度”という観点から見れば無理も無い話です。いくら優れた描き手であっても、長年同じ話ばかり描いていればテンションが下がるのが当たり前なのです。これも駒木の私見ですが、週刊連載の少年マンガの場合、1つの作品が全ての意味でピークを保てる“寿命”は、大体2年から3年で限界だと考えています。その後は作家の力量と精神状態によって、高いレヴェルのままで長期間安定したり、徐々に作品の質に悪影響が出て、最後には破綻に至ったりすることになるわけです。
 本来ならば、2〜3年、長くても4年程度を目安にして完結に持ち込むのがエンタテインメントとしての正しい姿なのですが、出版社の商売が絡む以上、それがなかなか出来ないのは皆さんもご存知の通りです。「もうちょっとだけ」と言っている内に、生まれたばかりの赤ん坊が小学生になってしまったり、小学生だった少女がオンナになってしまったりするわけですね。
 そういう意味では、最近になって内容の質低下が盛んに叫ばれている『こちら葛飾区亀有公園前派出所』などは、連載開始から25年を経過してなお(ネット界隈の読者に支持されないベクトルであるにしろ)路線転換を図ろうとするだけでも凄い話であり、それでいてアンケート人気が25年にわたって中位程度を保っているらしいという事を考えると、これはもう脱帽せざるを得ません
 恐らく、現在の『こち亀』を支持する読者は、かつての『こち亀』を全く知らず、オールドファンとは全く次元の違う感覚でこの作品を楽しんでいるのでしょう。超長期連載作品のほとんどが、昔からの固定ファンの支持を食い潰しながら命脈を保っている事を考えると、(この推測が正しいとすれば)これは空恐ろしい話でもあります。

 話を戻しましょう
 こうして、時期的にピーク期の限界が訪れる作品が続出した長期連載作品たち。ですが、「ジャンプ」全体のムードにまで影響しているのは、そういった“ピーク寿命切れ”作品だけでなく、2000年以降に連載の開始された作品──つまり、まだ“寿命切れ”以前の作品たちがイマイチ不甲斐ないところに原因があるのではないかと思ったりもします。
 このシリーズでは再三申し上げていますが、2000年以降に連載が開始された作品は、「ジャンプ」の看板を担えるような作品とはなり得ていません。特にこれから伸びてゆくはずの01年連載開始作品などは、今年もたびたび打ち切り候補に挙がるなど、予断を許さない状況が続きました。とりあえず現在は連載続行にゴーサインが出ていると思われますが、ここから「ジャンプ」の看板を背負えるまでに“大化け”できるかどうかは極めて微妙であると言わなければならないでしょう。

 ……ここまで述べて来た事をまとめますと、現在の「ジャンプ」は既に、“ポスト暗黒期”から“過渡期”に移行しつつある…という事です。「ジャンプ」編集部には、雑誌がまだ高いレヴェルのクオリティを維持している間に打てる手を全部打って、大物新人の発掘・育成、または中堅・ベテラン作家の“もう一花”の“栽培”を成し遂げて欲しいものです。

 お金を払ってまで苦々しい思いをするような第二の暗黒期が訪れないよう切に願いつつ、また、「週刊少年ジャンプ」の更なる発展を祈りつつ、この講義を占めさせて頂きます。拙い講義でしたが、御清聴どうも有難うございました。(この項終わり)

 


 

12月28日(土) 競馬学特論
「駒木研究室・2002年G1予想大反省会」(1)

珠美:「いよいよ今年も、日付上はあと3日となりました。毎週土曜日にお送りして来ました競馬学講義も、今回が年内最後となります。というわけで今日は、今年のJRAG1レースを振り返る…と言いますか、私たちが皆さんに披露して来た予想の大反省会をお送りします(苦笑)。」
駒木:「G1レースっていう括りなら、まだ明日に東京大賞典が残っているんだけどね。まぁ、この講座ではJRAのレースにほぼ限定して講義をやって来たし、今日から振り返っても良いかな…と。
 ただ、よくよく考えてみたら、今日1日で21レースを振り返るのはどう考えても無理なんで、上半期(フェブラリーS〜宝塚記念)と下半期(スプリンターズS〜有馬記念)とで2回に分けて実施する事にしたよ。だから年をまたいだ反省会だね(苦笑)」
珠美:「2年越しで反省するんですか……。何だか気が重いです(苦笑)」
駒木:「まぁ、それくらい受講生の皆さんには迷惑かけてしまったからねぇ。もう全力で景気の悪い話をさせてもらおうじゃないか」
珠美:「全力で不景気な話ですか(苦笑)。……分かりました。私も頑張ります(笑)。
 ──では、さっそく始めましょう。まずは2月のダートG1・フェブラリーステークスから反省してゆきましょう(笑)」

フェブラリーステークス 東京・1600・ダ

着順 馬  名 着差
1着 アグネスデジタル

──

× 2着 トーシンブリザード
× 3着 ノボトゥルー 1/2
4着 トゥザヴィクトリー 1/2
× 5着 トーホウエンペラー 1/2
6着以下の“反省材料”
× 9着 ウイングアロー  
  × 10着 ノボジャック  
  × 14着 イーグルカフェ  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“敗戦の弁”
 えーと、1着-3着、1着-4着、それに2着-3着もか。
 笑うしかないね、こりゃ。まぁ、ノボトゥルーの地力を微妙に読み違えたのが一番大きいかな。競馬って面白いもので、大きな読み違えは“怪我の功名”になるけど、微妙な読み違えは致命的なミスになるからねえ。
 あと、アグネスデジタルの地力と、負けたら言い訳できない戦法で勝負した石崎騎手に脱帽ってところかな。

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 当たっちゃいました♪ しかも、この講座が始まってから、始めて博士に勝つことが出来ました。嬉しいです。10点買いしちゃったんで、当たっても儲からないですけど、嬉しいです(笑)。

珠美:「このレースは、アグネスデジタルが中団差しで1番人気に応えて快勝。海外でのレースとダートグレード競走を含めると4つ目のG1勝利となりました。2着は公営の雄・トーシンブリザードが健闘したんですよね。
 ……そして私たちの予想は、博士が惜しくも不的中、私は◎−▲で的中となりました。とはいえ、10点買いで13.5倍だったんですけどね(苦笑)」

駒木:「1着3着、2着3着、1着4着だもんなぁ。『マトリックス』の弾避けみたいな外し方だよね(苦笑)。
 あと、レース直後は悔しかったせいか、負け惜しみっぽい事を言ってるけど、これはハッキリ言って惨敗だ。アグネスデジタルの調子を読み違え、トーシンブリザードの勝負気配を読み違え、ノボトゥルーの本命に固執し過ぎて……。これだけミスが重なったら、そりゃあ外れるわ。今から考えたら、これはどう考えてもアグネス本命だよなぁ。何考えてたんだろう?」
珠美:「さっそく1つ目の反省ですね(笑)。でも私も要らない印をたくさん打ってしまってますね。ちょっと反省です」

高松宮記念 中京・1200・芝

着順 馬  名 着差
× 1着 ショウナンカンプ

──

2着 アドマイヤコジーン 3 1/2
× 3着 スティンガー クビ
    4着 リキアイタイカン 1 1/2
5着 トロットスター クビ
6着以下の“反省材料”
6着 ディヴァインライト  
  × 9着 サイキョウサンデー  
× × 10着 エアトゥーレ  
  × 14着 メジロダーリング  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“勝利宣言”
 ○▲的中。辛勝だなあ……。
 トロットスターは、ここまで負ける要素が見当たらないんだけど、やっぱり競馬は波乱のスポーツだよね。
 競馬学的に言えば、スティンガーの走りは“中距離以上に適性のある馬が短距離を走った時の走り”だと覚えておいてください。「距離適性が合わない」とは、ああいう事です。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 ううぅ……(涙)。フェブラリーSの時に「博士に勝ちました!」なんて言ってたら、キッチリお返しされちゃいました……。2着3着って、やっぱりショックですね(苦笑)。
 それにしても、いつもは実績不足の昇り馬を軽視している博士が、ショウナンカンプを▲にしているんですね…。この辺りのカンの働きがキャリアの差なんでしょうか…。

珠美:「重賞未勝利の昇り馬・ショウナンカンプが果敢な逃げを打って後続を完封。一躍、一流馬の仲間入りを果たしました。2着は当時復調著しかったアドマイヤコジーンが2番手のまま粘り込み。結局、“行った行った”の決着になりました。
 私たちの予想は、博士が▲−○のタテ目で的中。私は同じタテ目でも悔しい2着3着になりました。まさか重賞も勝った事が無い馬がここで勝てるなんて思っても見ませんでした。もう完敗ですね……」

駒木:「2人とも、トロットスターのスランプが続く事が読み切れてないよね。まぁ1番人気だったんだから、それが大勢を占める認識だったんだろうけど。
 ショウナンカンプの▲抜擢は、今年の僕にしては珍しい好プレーだったね。普通なら『穴人気してる』って言って嫌気するタイプの馬だったんだけど、全体のレヴェルがそう高くない事を考えて馬券の対象に残したんだった。でも、そんな好プレーが全く配当的な所に繋がらないのが僕らしいよな(笑)」

桜花賞 阪神・1600・芝

着順 馬  名 着差
    1着 アローキャリー

──

×   2着 ブルーリッジリバー 1 1/4
3着 シャイニンルビー ハナ
    4着 カネトシディザイア 1 1/4
  × 5着 ヘルスウォール クビ
6着以下の“反省材料”
× 6着 スマイルトゥモロー  
  × 7着 チャペルコンサート  
× 8着 キョウワノコイビト  
11着 オースミコスモ  
12着 タムロチェリー  
  × 16着 サクセスビューティ  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“敗戦の弁”
 まぁ、アレだね。山内調教師が「まさか」って言ったくらいだから、こっちが当たるはずないよね、アローキャリー。それに馬体重発表の時点で僕の予想は終わってたから、むしろよく2着3着まで格好がついたな、と。
 今回に関しては、良馬場のブルーリッジリバーについて言及した事と、8枠の3頭を完全に見切った事で勘弁してくださいな。また、皐月賞で頑張るんで、よろしく。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 私の◎と○はどこへ行っちゃったんでしょうか……(苦笑)。またボロボロに外れちゃいました。
 オースミコスモ、散々でしたね。途中で不利を受けた上、一番馬場の荒れた所走らされてましたものね…。タムロチェリーはずうっと後ろのままでしたし……。
 何だか自信喪失しちゃいそうです。これからまだG1レース続くのに、不安です……。

珠美:「13番人気のアローキャリーが、鮮やかな先行抜け出しで大波乱の主役となりました。池添謙一騎手は嬉しいG1初勝利ですね。2着にも伏兵・ブルーリッジリバーが飛び込んで、馬連は3万円台の高額配当になりました。馬単と3連複があったらどんな配当だったんでしょうね(苦笑)。
 予想の方は当然の事ながら2人とも外れ。上のコメントにあるように、私は目も当てられない大惨敗でした。◎−○の組み合わせで11着12着って何なんでしょうね(苦笑)。……あ、でも博士は2着3着だったんですね。良馬場条件で印を変更したのが良かったんでしょうか。あ、良かったと言っても外れなんですけど(笑)」

駒木:「やかましい(笑)。でもこの時のシャイニンルビーは馬体重が−22kgだったからね。その時点で僕の予想は終わっていたよ。せっかくブルーリッジリバーという穴馬を発掘してたのに勿体無いことをした。
 あと、アローキャリーね。この時は同厩舎のサクセスビューティにハナを譲るから、“負け役”を務めるもんだと思われていたんだよね。それがまぁ、直線入ったらスルスルと抜け出して……。コメントにもあるように、管理してる調教師までが『まさか勝てるとは』って言ってたんだから、僕たちに当てられるはずが無いよね(苦笑)」

皐月賞 中山・2000・芝

着順 馬  名 着差
    1着 ノーリーズン

──

  2着 タイガーカフェ 1 3/4
3着 タニノギムレット ハナ
    4着 ダイタクフラッグ
    5着 メガスターダム 1 1/2
6着以下の“反省材料”
× 7着 アドマイヤドン  
× 8着 バランスオブゲーム  
× 10着 ヤマノブリザード  
× 12着 チアズシュタルク  
14着 ローマンエンパイア  
16着 モノポライザー  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“敗戦の弁”
 コーシロー、お前ってヤツは……(絶句)。弥生賞の時にヤマノブリザード相手にやった事を逆にヤラれてどうすんだ。マンガのチンケな悪役か、キミは。
 まぁ、こんな結果となってはどうしようもないんだが。安全牌だと思って切ったら国士無双に当たった気分だよ(苦笑)。◎をタニノギムレットにしたところで2着3着だしね。タイガーカフェに印打って、モノポライザーを叩き切ったのがせめてもの抵抗ってとこか。
 2週続けて、伏兵が展開に恵まれて抜け出すレースが続いてるなあ。勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなしってこの事だね。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 私の推した馬、タニノギムレット以外ボロボロじゃないですか……。いつも競馬学のお仕事をしているのに…。もう、ただただショックです。
 もう、自信喪失気味です。次はどうにか当たりますように……。 

珠美:「桜花賞に続き、このレースも波乱の結末となりました。勝ったのは15番人気のノーリーズンで、2着には8番人気のタイガーカフェ。馬連で5万円台ですから、馬単があればまず10万馬券は間違いないところですね。
 私たちの予想の方は、言わずもがなといったところでしょうか(苦笑)。私のコメントが週を追うごとに悲観的になっていっているのが、今となっては可笑しいですよね(苦笑)」

駒木:「このレースも、抜擢した穴馬が2着に飛び込んだのに、本命馬が沈んで不的中。まるでデ・ジャヴを見てるみたいだったよ(苦笑)。
 元々からして難しいレースだったから、外れるのは覚悟してたんだけど、この時はさすがに寝覚めが悪かったなぁ。コメントで目一杯負け惜しみを言ってるのもそのせいだろうね。けど、今年はこんな風に本命馬が大凡走して、伏兵がスルスルと抜けちゃうってレースが多かった。本命党・中穴党にはとにかく辛いシーズンだったよねぇ」

天皇賞・春 京都・3200・芝

着順 馬  名 着差
1着 マンハッタンカフェ

──

2着 ジャングルポケット クビ
3着 ナリタトップロード 1/2
  × 4着 ボーンキング 1 1/4
5着 サンライズペガサス ハナ
※レース直後のコメントはありませんでした。

珠美:「……と、ここまで波乱続きだった春のG1戦線が、とりあえずの一段落となりましたのが、この天皇賞でした。マンハッタンカフェが前年の菊花賞、有馬記念に続くG1レース3勝目。前走日経賞で汚した名誉を見事に挽回しました。以下の着順も、2着ジャングルポケット、3着ナリタトップロードと順当に収まり、馬連は5.4倍と堅めの配当となりました。
 ここまで堅いレースになりますと、私たちも外しようがないという感じでしたね(笑)。私も博士も久々の的中となりました」

駒木:「3連複があったら2倍とか3倍になっちゃいそうだ。…それにしてもアレなのはナリタトップロードだよねぇ。せっかく1番人気背負っておいてジャストブロンズって(苦笑)。『キミはマンガのネタを提供するために走っているのか』と、吉野家で問い詰めたくなるね(笑)」

 

NHKマイルカップ 東京・1600・芝

着順 馬  名 着差
1着 テレグノシス

──

  × 2着 アグネスソニック 1 3/4
3着 タニノギムレット 3/4
× 4着 メジャーカフェ 1 1/4
    5着 カノヤバトルクロス 1 1/2
6着以下の“反省材料”
×   6着 サードニックス  
  8着 シベリアンメドウ  
14着 タイキリオン  
× × 16着 スターエルドラード  
※レース直後のコメントはありません 

珠美:「このレースは4番人気のテレグノシスが勝ったんですが、この馬の走行について約20分にも及ぶ審議が行われるなど、スッキリしない決着になってしまいましたね。圧倒的1番人気を背負ったタニノギムレットも直線で致命的な不利を受けて3着。馬連の配当は48.3倍とやや波乱の結果になりました。
 私たちの予想ですが、タニノギムレットが連を外した影響が強くて、2人とも1着3着の惜しい外れとなりました」
駒木:「このレースはバタバタしたレースだったねぇ。前半の4ハロンが45秒3っていう超ハイペースで先行馬が全滅。更に直線でインコースの“グリーンベルト”を巡って多くの馬に不利が発生。……このレースは僕らにとっては反省材料と言うより“災難”だったって感じかな(苦笑)。
 あと毎年思うんだけど、このレースをG1でやる意義って、馬券の売り上げを伸ばしたい以外に何か有るのかねぇ? ダービーに外国産馬が出られるようになった今、もうこのレースをやる意味なんて無いと思うんだけど。どうしてもG1でやりたいならダートのレースにするべきだね」

優駿牝馬(オークス) 東京・2400・芝

着順 馬  名 着差
  × 1着 スマイルトゥモロー

──

    2着 チャペルコンサート 1 1/2
× 3着 ユウキャラット 3/4
× 4着 マイネミモーゼ クビ
5着 シャイニンルビー
6着以下の“反省材料”
× 6着 ブリガドーン  
7着 ブルーリッジリバー  
  × 8着 ツルマルグラマー  
× 12着 タムロチェリー  
× 14着 オースミコスモ  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“敗戦の弁”
 ……何も言う事ぁございません。完敗です。相馬眼の無さを思い切り痛感いたしました。
 絵に描いたような◎○▲のスリーフォーファイブフィニッシュ。競馬って難しいねえ。うんうん。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 押さえの馬が3頭も掲示板に載ってるんですけど、肝心の本命・シャイニンルビーが……。やっぱり、本調子に戻りきれなかったんでしょうか……。
 でも、博士がおっしゃっていた「スローペースでも差し馬有利」というのは本当だったんですね。私はハイペース予想で考えていたので、正直ビックリでした。

珠美:「3歳牝馬戦線はまたも波乱の決着。直線強襲を決めた4番人気・スマイルトゥモローと、中団から脚を伸ばした12番人気・チャペルコンサートの2頭が上位を占め、馬連はまたも135倍の万馬券決着となりました。
 予想の方ですが、2人とも不的中。私は穴狙いをしたんですが、狙った馬は軒並み着外に沈んでしまいました。もう完全にピントが狂ってますね、このあたり……(苦笑)」
駒木:「このレースに関しては、コメント通りの完敗だから何も言う余地が無いなぁ(苦笑)。
 ただ、こうして観ると、今年はシャイニンルビーに泣かされっ放しの年だった気がする。やっぱり年頃の女の子は何かと気紛れだね(笑)」
珠美:「それ、聞きようによっては誤解されちゃいますよ(苦笑)」

東京優駿(日本ダービー) 東京・2400・芝

着順 馬  名 着差
× 1着 タニノギムレット

──

× 2着 シンボリクリスエス 1 
× 3着 マチカネアカツキ
    4着 メガスターダム
    5着 ゴールドアリュール クビ
6着以下の“反省材料”
×   6着 アドマイヤドン  
  7着 バランスオブゲーム  
8着 ノーリーズン  
  × 9着 ヤマノブリザード  
10着 タイガーカフェ  
  × 11着 テレグノシス  
※レース直後のコメントはありません

珠美:「今年のダービーは、ここまで惜敗続きだったタニノギムレットが1番人気に応えて完勝。武豊騎手は史上初となる日本ダービー3勝ジョッキーとなりました。2着には皐月賞後に台頭して来た後の有馬記念馬・シンボリクリスエスが入って、このレースは馬連8.7倍の平穏な決着でしたね。
 でも私の予想の方は、本命馬の選択を完全に間違えて不的中。もうタイムマシンで戻って当時の私に教えてあげたいくらいです(苦笑)」
駒木:「僕だったらもっと高配当のレースの結果を教えに行くけどね(笑)。
 まぁ冗談はさておき、この時のタニノギムレットは過密ローテーションによる疲れが懸念されていたんだけど、見事に役目を果たしたね。ただ、結果的にはこのレースで燃え尽きたみたいになっちゃったけれども。
 この時は、◎のシンボリクリスエスと▲のマチカネアカツキが勝負馬券だったんだよなぁ。直線半ばまでは最高の結末が見えてたんだけどねぇ。惜しい事をした。
 ……それにしても、このレースの5着・6着がゴールドアリュールとアドマイヤドンなんだね。改めて見てみると不思議な因縁を感じさせるよなぁ」

安田記念 東京・1600・芝

着順 馬  名 着差
  × 1着 アドマイヤコジーン

──

2着 ダンツフレーム クビ
× × 3着 ミレニアムバイオ 1 1/2
× 4着 グラスワールド ハナ
5着 エイシンプレストン クビ
6着以下の“反省材料”
  × 9着 ディヴァインライト  
  × 14着 トロットスター  
× 17着 ダイタクリーヴァ  
18着 ゼンノエルシド  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“敗戦の弁”
 まず、展開の完全な読み違えを反省ね。マグナーテンが逃げる予想というのは、陣営の「スピードを生かす競馬をしてもらう」というコメントだったんだけど、よく考えたら岡部騎手に指示出せるわきゃ無いわな(苦笑)。おまけに3頭出し完全着外で赤っ恥と。藤沢和厩舎には悪夢のようなレースだっただろうね。
 で、直接の敗因。これは最も恐れていた、差し馬の完全不発。去年と同じ展開になっちゃった。まぁ、思ったよりもアドマイヤが渋太かったって事もあったけどね。
 後藤騎手、駒木も色々言った事ありますが、G1初制覇おめでとう。今日みたいに謙虚にしてれば誰にでも愛される人だと思いますんで、これからも今日の気持ちを忘れずに頑張ってください。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 また▲−×の不的中……。もう何点買っても当たらない気がして来ました……。
 宝塚記念は反省も込めて、キッチリと点数を絞って勝負に出ます! 皆さんも応援してくださいね。

珠美:「4年前の2歳マイル王者・アドマイヤコジーンが長いスランプを経て久々のG1レース2勝目を挙げました。2着には前年ジャングルポケットと好勝負を繰り広げたダンツフレームが飛び込んで、このレースは“リベンジ組”のワン・ツーとなりました。馬連配当は58倍。アドマイヤコジーンが7番人気だったんですね。
 予想の方は、またしても2人とも不的中。本命・対抗が重なって共倒れという、辛い結果になってしまいました……。私はもう、何か悪い霊に憑りつかれいてるような無茶苦茶な印ですね(苦笑)」
駒木:「コメントではゴチャゴチャ言ってるけど、ダンツフレームを4番手評価にしてる時点で終わってる。完全に予想のピントがズレてるんだよなぁ。まぁ、エイシンプレストンの5着不発だけはこの時点では予想しようが無かったんだけどね。でも、ゼンノエルシドに危険承知で○印打つくらいなら、ダンツに打つべきだったよね。それだったら外しても後悔してなかったと思う」

宝塚記念 阪神・2200・芝

着順 馬  名 着差
1着 ダンツフレーム

──

2着 ツルマルボーイ クビ
  3着 ローエングリン 1 1/4
× 4着 エアシャカール 3/4
    5着 マチカネキンノホシ ハナ
6着以下の“反省材料”
×   7着 テンザンセイザ  
  9着 ホットシークレット  
×   11着 フサイチランハート  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“勝利宣言&講義の訂正(苦笑)”
 久々に気持ちの良い的中でした。終わってみればいかにも宝塚記念らしい組み合わせの決着と言うか、何と言うか。
 ただ、談話室で受講生の方に講義内容に誤りがあると指摘を受けましたので、訂正しておきます。画竜点睛を欠くとはこの事だ、嗚呼(涙)。
 まず、もう訂正しましたが、5歳世代のマル外はアグネスフライトではなくアグネスデジタルです。デジタルって言ったつもりだったんですけど、レジュメを読み返したら確かにフライトと(苦笑)。お詫びして訂正します。
 あと、3歳馬の宝塚挑戦は99年のオースミブライト(6着)がありました。過去10年の上位5着までの一覧表を見つつ、記憶の糸を辿っていたので完全に頭からぶっ飛んでいました。申し訳ございません。今後は、より一層正確な講義を心がけますのでどうぞよろしく。

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 印を付けた4頭が上位独占! もう最後の直線がこんなに楽しいレースなんてどれくらい振りだったでしょうか(笑)。これでローエングリンとダンツフレームが入れ替わってくれていれば良かったんですけど、それは贅沢すぎる注文ですね(苦笑)。

珠美:「安田記念で復活の足がかりを得たダンツフレームが接戦を制し、G1初制覇を達成しました。2着には逃げるローエングリンを4番人気・ツルマルボーイが直線強襲。馬連は10.6倍の配当となりました。
 予想の方は2人とも的中。特に博士は◎−○の的中ということでしたが……?」
駒木:「今になって印を見たら『ナンダコリャ』だよなぁ(苦笑)。気持ち良い的中って、何言ってんだよ自分(笑)。ホットシークレットだけならともかく、テンザンセイザとフサイチランハートにまで手を伸ばすなよなぁ。
 やっぱり今年はどこかおかしいね。何か勘違いしてたと思うよ。それに気付かないまま秋シーズンに突入したんだから、酷い結果になったのもよく理解できる。
 ……この企画、夏にやるべきだったね。そっちの方も反省だ(苦笑)」
珠美:「結局、春のG1レースでの馬券の戦績は、博士が4勝6敗、私が3勝7敗となりました」
駒木:「4勝って言っても、配当的には当たっただけだね。もう少し気合の入った中穴馬券を当てておかないとお話にならんよ」
珠美:「さて、反省も盛り上がってきたところで申し訳ないんですが、今回はここでお時間となりました。この続きは年明け、1月4日の講義でお送りする事になります」
駒木:「新年早々大反省だね(笑)。まぁ、旧年の過ちを振り返って、新年の抱負を語るという意味では良いんじゃないかな」
珠美:「では、お疲れ様でした」
駒木:「ご苦労様。年末年始、公営競馬で馬券を買われる方、どうか頑張って下さい」 (次回へ続く

 


 

12月27日(金) 特別演習
「『週刊少年ジャンプ』この1年」(2)

※前回までのレジュメはこちらから→第1回(新連載作品中心) 

 「週刊少年ジャンプ」の2002年を振り返るこの講義、今回が2回目となります。
 前回、『アイシールド21』を、「あわよくば『スラムダンク』級か?」…などと言っていたらコミックス売り上げランキングが不発に終わってしまい、一気に意気消沈しつつあったりするのですが、何とか気力を振り絞って続けていこうと思います(苦笑)。

 さて今回は、1回読み切りを中心とする短編作品の総括を行います。ただし、対象とする期間は2002年1号〜52号までの間とします。(新連載作品の対象期間と違うので中止して下さい)
 また、一括りにすると収拾がつかなくなるため、以下のようにをさせてもらいます。当講座独自の分類

 1:プロトタイプ系読み切り
 アンケート人気が良かった場合には、ほぼ同じ設定で連載化される事を前提とした短編作品。既にデビューを果たし、本誌連載や本誌・増刊での読み切り掲載経験の有る作家の作品がこれにあたる。

 2:代原系読み切り
 連載作家が急病、もしくは物理的な事情(笑)で原稿を落とした際に、白紙のページを作らないためだけに掲載される作品。主に編集部員の机に潜り込んでいた新人の習作原稿が起用される事が多いが、ごくたまに連載作家の昔の恥の塊のような原稿が掲載される事も有る。
 大抵は「特別読み切り」のクレジットが付き、印刷工程の都合でアンケート葉書や表紙に作品名が載らない事すらある。

 3:受賞作掲載
 「手塚賞」・「赤塚賞」・「ストーリーキング」・「天下一漫画賞」…といった新人賞の受賞作の中で、特に出来が良かった作品を増刊から一足飛びで本誌に抜擢したもの。アンケート人気が良ければそのまま連載化されるケースもある。
 ただし、受賞作でも明らかに代原として掲載されたものについては、このカテゴリに含めず“代原系読み切り”として扱う。(「赤塚賞」の佳作受賞作や「天下一漫画賞」の最終候補作品は大抵これに該当する)

 4:その他企画モノ等
 “プロトタイプ系”とは逆に、連載を前提としないその場限りの短編作品。連載中(または終了直後)の作品の番外編や外伝、連載中の作家が連載の合間に描いた短編、更には伝記モノなどがこれに該当する。


 ──というわけで、この4つの分類に従って話を進める事にしましょう。
 ではまず、プロトタイプ系読み切りから総括してゆきましょう。

2002年プロトタイプ系読み切り一覧
(掲載順)

 『SWORD BREAKER』作画:梅澤春人
 『メルとも! E−之介』作:真倉翔/画:加藤春日
 『ジュゲムジュゲム』作画:いとうみきお
 『Elephant Youth!』作画:西公平
 『司鬼道士 仙堂寺八紘』作画:かずはじめ
 『DAI−TEN−GU』作画:鈴木新
 『暗闇にドッキリ』作画:加治君也
 『碼衣の大発明』作画:イワタヒロノブ

 今年度のプロトタイプ系読み切りは8作品掲載されましたが、今のところ連載化されたのは『SWORD BREAKER』『ジュゲムジュゲム』(『グラナダ ─究極科学探検隊─』に改題)の2作品のみ。時期的に言って、下半期に発表された作品にはチャンスが残っているはずですが、ネット界隈の評判を総合した限りでは、あと1作品出番が回ってくるかどうか…といったところでしょうか。
 また、連載化された作品も打ち切り又は打ち切り候補に挙げられており、今年のプロトタイプ系読み切りの全体的な印象とすれば、不満を禁じ得ません

 ただデータを見る限りでは、最近の「ジャンプ」はプロトタイプ系読み切りを“捨てて”しまうケースが多く、連載化されるプロトタイプ系読み切りの割合は相当低く抑えられています。
 以前の「ジャンプ」では、プロトタイプ系読み切りが載ればかなりの確率で連載化されたのですが、どうやら鳥嶋和彦氏(=あのDr.マシリトのモデル)が編集長に就任した96年頃から編集方針が変わったようですね。
 鳥嶋氏と言えば、中長期的な観点から新人発掘をガンガン進め、後の「ジャンプ」少年誌発行部数No.1復帰を果たした礎を築いた…という印象があるのですが、その発掘にあたっては相当シビアな眼で連載候補作を吟味していたようです。

 …そういう意味では、現在の編集長・高橋俊昌氏鳥嶋体制を引き継いでいると言えるのでしょう。しかし彼の就任以降、プロトタイプ系読み切りのレヴェルが若干下がってきているのが少し気になります。つまり候補作を吟味する以前の段階が疎かになっているわけで、今後はこの辺りにもう少し力を注いで欲しいと注文をつけたいところでもありますね。


 ──では次に、ここ数年では読み切り作品全体の中で“最大勢力”と化した代原系読み切りについて振り返ってみましょう。

代原系読み切り一覧
(掲載順。同名作品は重複して掲載)

 『桃太郎の海』作画:吉田真
 『SAVE THE WORLD』作画:堀たくみ
 『まげちょん』作画:浅上えっそ
 『つなげたいよ』作画:永峰休次郎
 『抱きしめて! ベースボール・ラブ』作画:セジマ金属
 『偉大なる教師』作画:郷田こうや
 『しゅるるるシュールマン』作画:クボヒデキ
 『ボウギャクビジン』作画:郷田こうや
 『しゅるるるシュールマン〜しぅると病気編〜』作画:クボヒデキ
 『ラーマゲドン拉麺最終戦争』作画:脊川つい
 『HAT HAT HAT』作画:吉津遼
 『踊れ!刑事ダンス!!』作画:山田一樹
 『さとふ2002』作画:さとう○○○
 『しゅるるるシュールマン』作画:クボヒデキ
 『あつがり』作画:菅家健太
 『しゅるるるシュールマン しぅるとラブバスの旅編』作画:クボヒデキ
 『しゅるるるシュールマン しぅると個展編』作画:クボヒデキ
 『白い白馬から落馬』作画:夏生尚
 『もて塾恋愛相談』作画:大亜門
 『イケてる戦隊ごきげんジャー』作画:原淳
 『青春忍伝!毒河童』作画:郷田こうや
 『なるほど納得てんこもり !!  おバカちん研究所』作画:日の丸ひろし
 『もて塾へ行こう!』作画:大亜門
 『隼くんと御鷹くん』作画:原淳
 『抱きしめて! ベースボール・ラブ』作画:セジマ金属
 『怨霊英雄物語』作画:新井たみ重

 ……今年は複数の作家が原稿を落としまくる異常な年であったため、実に17名・27作品の代原が掲載されました。
 ただ、掲載作が習作原稿中心であった事もあり、全体のレヴェルとしては低調だったと言わざるを得ないでしょう。無論、中には見るべき点のある佳作もあったのですが、それでも既に連載中のギャグ作品と比べると見劣りするのは否めない所です。色々な若手作家さんの作品が読めるという事に関しては意義がありますが、雑誌としてそれではイカンのではないかと思います。

 ところで、この講義に際して代原と代原作家について調べてみたのですが、その結果、かなり寒い事実が判明してしまいました。
 といいますのも、「ジャンプ」に代原制度らしきものが確立された98年頃(=『BASTARD!』や『HUNTER×HUNTER』の原稿が毎回のように落っこち出した時期)から現在までで、代原掲載から本誌連載まで“出世”を果たした作家は、なんとゼロなのです。厳密に言えば、後に「サンデー」や「バンチ」で連載枠を獲得した南寛樹さんがいるのですが、「ジャンプ」本誌で連載を獲得した代原作家は存在しません
 この結果は、「ジャンプ」におけるギャグ作品の連載獲得までのハードルの高さを証明していると共に、代原作家が代原作家に留まっている由縁らしきものが窺えるものと言えるでしょう。

 
 ──と、少し不景気な話になってしまいましたが、ここでムードを変えましょう。続いては前途洋洋たる受賞作掲載を果たした読み切り作品を紹介してゆきましょう。

受賞作掲載作品一覧
(掲載順)

 『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介)《第7回「ストーリーキング」・ネーム部門キング受賞作》
 『CROSS BEAT』作画:天野洋一)《第63回「手塚賞」準入選受賞作》
 『だんでらいおん』
作画:空知英秋)《第71回「天下一漫画賞」佳作受賞作》

 本来、受賞作は増刊に回されるものですので、1年で3作品の掲載というのは平均程度の量といったところではないでしょうか。

 既に連載化されて編集部の全面プッシュを受けている『アイシールド21』は勿論、『だんでらいおん』ネット界隈ではなかなかの人気を博しています(当講座のゼミもその一翼を担っていますが《笑》)。また、受賞作そのものは「既成の作品の影響が強すぎる」という批判も聞かれた『CROSS BEAT』天野洋一さんに関しても、次回作へ向けて本格的に活動中という情報があり、来年の活躍が期待できそうな状況です。
 というわけで、今年の受賞作掲載作品はかなりの“当たり”ではなかったかと思います。「ジャンプ」で新人・若手がチャンスを掴むには相当な実力と運が必要になりますが、ここから未来の売れっ子作家さんが続々と飛び出して来る事を期待したいと思います。


 そして最後に“その他企画モノ等”のカテゴリ。こちらもまず作品一覧をご覧頂くことから始めましょう。

その他企画モノ等の作品一覧
(掲載順)

 『トリコ』作画:島袋光年
 『怪盗COLT』
作画:村田雄介
 『ヒカルの碁番外編 第1回 塔矢アキラ』作:ほったゆみ/画:小畑健
 『ヒカルの碁番外編 第2回 加賀鉄男』
作:ほったゆみ/画:小畑健
 『ヒカルの碁番外編 第3回 奈瀬明日美』
作:ほったゆみ/画:小畑健
 『ヒカルの碁番外編 第4回 三谷裕輝』
作:ほったゆみ/画:小畑健
 『ヒカルの碁番外編 第5回 倉田厚』
作:ほったゆみ/画:小畑健
 『ヒカルの碁番外編 第6回 藤原佐為』
作:ほったゆみ/画:小畑健 

 ……今年のこのカテゴリは『ヒカルの碁』の番外編が大半を占める格好になりました。島袋光年氏の名前がトップに出ているのが痛々しいですが、彼の不祥事に関しては次回へ譲り、ここではノーコメントという事にしましょう。
 さて『ヒカルの碁』番外編は、競馬や賭け碁などのギャンブルを扱ったエピソードが多く、原作(ネーム)担当のほったゆみさん趣味・嗜好がモロに反映されたものとなりました。題材的に「ジャンプ」のターゲットである小学生の反応が心配されるところでしたが、アンケート人気は上々だったそうで、「ジャンプ」読者層の許容範囲の広さと固定ファンによる基礎票の威力をまざまざと見せつける形となりました。
 今回のシリーズの成功は今後の編集方針に影響を与える可能性もあり、来年以降も同様の“番外編シリーズ”が組まれるケースも有り得るでしょう。特に『HUNTER×HUNTER』などは、作者の休養も兼ねて長期・断続的(2〜3週おき)の番外編シリーズが組まれそうな気がしますし、今後とも注目です。


 ……というわけで、今回は読み切り作品について総括というか概括を行ってみました。やや退屈な講義になってしまったかも知れませんが、次回までどうぞお付き合いを……。(次回へ続く

 


 

12月26日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(12月第4週分)

 いよいよ今年最後のゼミとなりました。
 自分で言うのもナンですが、よくもまぁこんな事を毎週毎週休まずに1年以上続けて来たものですよね(苦笑)。
 その内容に関しては賛同の声を頂きつつ、その一方で匿名掲示板では「殺す」とか書かれつつ(苦笑)。果たして駒木はこのゼミで得してるのか損してるのか、自分でも皆目分からない状況なのでありますが、自分の審美眼を磨くためにもこの試みは出来る限り続けるつもりでいます。来年からもどうぞよろしく。

 さて、今週は「週刊少年ジャンプ」が合併号休みのため、レビュー対象雑誌は「週刊少年サンデー」のみになります。
 しかしそれだけでは少し寂しいので、今週は他の雑誌から1作品を、レビューというより半分推薦みたいな形で紹介したいと思います。どうぞよろしく。

 
 ──ところで、今週は情報系の話題でコレといったものが余り無いので(『金色のガッシュ』のアニメ化は先週お話しましたしね)、ちょっと雑談っぽい話を一席

 先週末、今年度「仁川経済大学コミックアワード」“2冠”に輝いた『アイシールド21』の単行本が発売されたんですが、ちょっと驚いた事にその売り上げが思ったほど伸びてないんですよね。同日発売になった「ジャンプ」4作品の中では最下位で、アニメが始まって絶好調の『NARUTO』はともかく、『BLEACH』とか『Mr.FULLSWING』にも結構な水を開けられる“惨敗”だったり。
 今回の『アイシールド21』第1巻発売は、「ジャンプ」側も部数を相当増やして勝負に出たらしいんですが、どうやら大振り狙いのファウルチップになっちゃった格好です。まぁ、『ヒカルの碁』も1巻の時は余り売れ行きが良くなかったみたいなんで、これからどうとでもなるんでしょうが……。
 しかし、駒木が最寄駅前の本屋(やや小規模)で『アイシル』の単行本を見つけた時は、即日瞬殺目前のラスト1冊だったんで、初めこのニュースを聞いた時は信じられなかったですよ。
 ただ、後から他の本屋を見に行ったら結構な数が残ってたんで(それでも同時発売になった他の3作品と遜色ない売れ行きだったんですが)、多分駒木が買った本屋は入荷数が少なかったんでしょうね。

 ……と、間口の狭い話でお茶を濁したところで(笑)、ボチボチ今週のレビューへ行きましょうか。
 今週のレビュー対象作は、「サンデー」から第3回後追いレビューが1本、そしてその他の雑誌から新連載レビューを1本で、計2本のレビューをお送りします。また、「サンデー」については“今週のチェックポイント”もお送りします。

 

☆「週刊少年サンデー」2003年4・5合併号☆

 ◎新連載第3回『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【第1回掲載時の評価:

 前回のレビューの後、たった2話で随分とストーリーが進展しました。この、ネタを出し惜しみしないテンポの良さ評価できる内容でしょう。今のところ、このテンポがこの作品の生命線になっているのではないかと思います。

 話の中身そのものは、良く言えば破天荒でダイナミックな、悪く言えば相変わらずご都合主義でリアリティに欠けるものになっています。もう少し具体的に言えば、主人公が大した苦労も無く、絶対音感能力と前向きな性格だけで困難を潜り抜けていく……というスタイルですね。
 本来なら、このパターンでは物足りなさがハッキリ残るのが普通なんですが、今のところは先述したテンポの良さに救われて大きな失点には繋がってはいないと思います。ただ、それは“失点が無いだけで最高でプラマイゼロ”という事でもあるわけなんですが……。

 とりあえず現時点での課題は、もう少し獣医学の専門的な部分に踏み込んだエピソード(例えば困難な外科手術を1人でやらなくちゃいけない…など)を用意して、話全体に深みを持たせる事でしょうね。主人公の絶対音感を活かした話ばかりで攻めまくっても、あっという間に読者に飽きられてしまうと思います。
 普通なら、こんな低次元の心配をするのはプロの作家さんと編集さんに失礼なんですが、最近の「サンデー」って、作者が題材に対して不勉強なケースが増えているので、どうしても心配になってしまうんですよねぇ……。

 さて評価ですが、今回もB評価のまま据え置きとします。但し、ワンパターンがこの後何週間も続くようであれば、“チェックポイント”で再評価を下したいと思います。
   

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『MAJOR』作画:満田拓也【開講前に連載開始のため、評価未了/雑感】

 むー、今週は“『プロゴルファー猿』方式”の極致ですなぁ……。あんな展開で聖秀が勝って、それでハッピーエンドになり切れるんでしょうかねぇ? 
 少なくとも、本当に高校野球やってた人は納得行かないと思うんですけど、う〜ん……

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【第3話掲載時の評価:B+/雑感】 

 うひー、サンデーの許容範囲ギリギリのお色気全開ですなー。しかも美鳥じゃなくてお姉さん出してくる変化球が心憎い(笑)。
 なんやかんや言って、今「サンデー」で一番青少年の読者の心を掴んでいるのはこの作品なのかも知れませんね(笑)。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため、評価未了/雑感】

 んー、ナニゲに澄ってスタイル良いんだよなー(どこ見てんだ)。
 それにしても、この作品って淡白なストーリーのように見えて、中身が濃いんですよね。次回から始まる優勝戦も、3〜4人のキャラに感情移入させておいて、それらを全て同時進行で動かしていくわけですから、相当な完成度ですよ。

《その他、今週の注目作》

 ◎『最強伝説黒沢』作画:福本伸行/「ビッグコミックオリジナル」03年1号)

 メジャー誌では『カイジ』などで、そして「近代麻雀」系列誌では『アカギ』『天』などでコンスタントにヒットを飛ばしている福本伸行さんが、今度はビジネスマン向の「ビッグコミックオリジナル」に登場です。
 福本作品の主人公と言えば、天才的な才能と人間的な弱みを併せ持った、「一見ダメそうでも実は可能性があるんだよ」的な若者キャラである事が多いんですが、今回の『──黒沢』は一味違います。

 この主人公の黒沢、道路工事会社で平の現場監督を務める44歳の男なんですが、未だ独身で身寄りも無くてプライベートで親しい人間もいない“齢男(=『としお』と読む、作者による造語)
 そして今回の話は、18歳で就職して以来、日々の仕事を淡々とこなすだけの人生を過ごして来た黒沢が、実に44歳になって初めてその空しさに気付いてしまった……というもの。
 もう何というか、虚無の権化のようにメチャクチャなヘヴィーさです。これまで『あぶさん』読んで、「ああ、50過ぎた俺でももう少し何かやれるかも知れない」と思ってたお父さん方をマリアナ海溝に沈めるような第1話ですよ、まったく。

 今回はプロローグ的な話で、(これから“最強伝説”を築いていく事になるであろう)黒沢の生活の空虚さを物凄く具体的に描写する回だったんですが、その描写がいちいち鋭くて参ってしまいます。
 中でも一番強烈なのが夕食のシーン。独りでチェーン店の大衆居酒屋に行って、そこで「なんこつ揚げ」と「ライスセット」注文して、それが晩メシ。それだけでも空しさ120%なのに、その「なんこつ揚げ」が他のどのツマミよりも安い280円というのが嫌と言うほどリアルで泣けてきます。しかも、その「なんこつ揚げ 280円」を黒沢が老眼になってるのを説明しながら紹介するのが何とも言えません。
 で、その上ラストでは、黒沢が「太郎」と名付けた物言わぬ道路工事用人形にすがり付いて泣き付くシーンで“次回へ続く”ですから、もう……。

 しかし、この作品の一番凄い点は、ここまでミもフタもない内容を描いておきながら、恐らく大部分の読者に「次回が早く読みたい」と思わせてしまう所にあります。酷い事を書いてるのに、嫌味がほとんど感じられないんですよね。
 何と言いますか、福本さんは余程読者の心理を客観的に掴む技量に長けているんでしょう。

 まだ今回はプロローグ段階ですし、今後は福本作品特有の極端な間延びも予想されるだけに心配もあるのですが、とにかくこの第1回は素晴らしいの一言でした。
 今はまだ暫定評価ですが、当ゼミとしては久々の評価を進呈したいと思います。

 

 ……と、いったところで今年最後のゼミも終わりです。来年は第2週、1月9日からの再開となりますが、どうぞ宜しく。

 


 

12月25日(水) 労働経済論
「役に立たない? アルバイト時給案内」(2)

 ※前回のレジュメはこちらから。

 さて、今日は先週金曜日分の続き。駒木がこれまで体験したアルバイトについて当り障りのある話をしてゆく講義です。
 12/16から受講されるようになった方は、1日ごとの内容の落差に頭がクラクラしていると思われますが、すぐに慣れますので、それまで見捨てる事無く受講を続けて頂きたいと思います。

 それでは、勿体ぶってもナニな講義ですので、さっそく前回の続きを進めてゆきましょう。
 その前回は、情報教育指導補助員と悪徳会社派遣の家庭教師という、“時給2000円仕事の明と暗”に触れて頂いたわけですが、今日は同じ教育産業のお仕事、塾講師についてのお話から始めます。

 ……駒木が経験した塾講師の時給は、前回の一覧表の通り、1700円でした。
 この「時給1700円」。額面だけならば凄いんですが、これには裏があります。ベテラン受講生の方はご存知でしょう、今年の1月21日付講義でお教えしたバイト講師時給のカラクリというヤツです。時間外労働が極めて多いために、実質時給は750円程度にまで抑えられてしまうのです。
 その上、時には01年12月28日講義のように、“事務時給”670円で寒空の下で深夜にビラ配りをさせられたりもします。ハッキリ言って、将来のための修行とでも思わないとやってられませんでした。

 で、ここからは“新ネタ”なのですが。
 この1700円という時給、実は採用時の額でして、本来ならキャリアを積むに従って50円刻みで上がってゆくものなのです。
 ところが駒木の場合、約4年のキャリアを経て辞めるまで時給は全く上がりませんでした。ていうか、それで「やってられるか」とばかりに辞めたんですが。
 その理由を端的に説明しますと、こうなります。

上司が社内での自分のメンツを守るため、本来なら入塾させないレヴェルの生徒をアホみたいに入れる。(つまり営業成績の水増し)

その状況で成績順のクラス分けをすると、当然とんでもないレヴェルのクラスが出来上がる。そういうクラスは成績だけでなく、給与査定の対象になる生徒アンケートの成績も悪い傾向があるので、社内でのメンツを重んじる上司はそんなクラスなど持ちたくない。

◎そういうクラスは駒木に丸投げして、自分は誰が教えても成績の良いクラスを担当して安泰。しかし駒木の社内査定は当然最悪に。(以下、4年間繰り返し)

 ……その「とんでもないレヴェル」がどう「とんでもない」のかと言いますと、こんな感じになります。

 ・中3の時点でbe動詞と一般動詞の区別がつかない。
 ・疑問文に答える時は、いつも“Yes,is”(脱字ではありません)
 ・授業中に連れ立ってトイレへ抜け出したかと思ったら、消火器を炸裂させて大パニック。
 ・道行く人に石を投げつける。
 ・それを叱ったら、逆切れして来る

 まぁそういう事情があって、駒木の時給は大衆食堂の日替わり定食の代金並に据え置かれてしまったわけです。その上司、仕事を離れれば良い人だったんですが、その後不祥事起こしてクビになってますので、やっぱりそういう人だったんでしょう。

 しかしまぁ、時給を不満に思っていたバイト講師は駒木だけではなかったようでした。
 …確かあれはマチカネフクキタルに日本銀行が発行する新渡戸稲造の肖像画を強奪された菊花賞の日だったと思うんですが、会社側が何を血迷ったのか、学生バイト講師と経営陣との懇談会を開いた事がありました。
 するとまぁ、出るわ出るわ。発言するバイトから次々と「時給上げろ」「時間外労働手当出せ」…などといった不満の声が噴出。懇談会は本来の趣旨を逸脱してゼネスト寸前の国鉄労働争議の様相を呈してしまいました。
 しかし、正規社員にすら残業手当を出さない経営陣がそんな声に耳を傾けるわけもなく、「時間外労働手当を出したら、家に持ち帰って仕事をしている人に対して不公平になる」…という信じられないコメントを発して、会はウィンドウズのシステムエラーのごとく強制終了。以後、二度とこのような懇談会は開かれなかったのは言うまでもありません。

 ちなみに、その塾は未だに健在であります。ただ、そこの社長はこのご時世に新しい大学作ったりするような、ヒロポン中毒かと思えるほどに重度の夢想家ですから、まぁ先行きはそう長くないと思います。


 ──と、学習塾の内幕話が長くなり過ぎました。今度は時給1000円相当の「量販店棚卸し」の仕事についてお話しましょう。

 この「棚卸し」という仕事、販売業に携わっている方には馴染み深いと思いますが、これは簡単に言えば「決算などのために行う在庫一斉調査」です。つまり、何円分の商品を抱えているかを1円単位で調べるわけですね。
 春や秋頃にデパートや量販店が突然臨時休業をしたりしますが、それは大抵この棚卸しです。商品売りながらダラダラと在庫調査しても仕方ないので、1日だけ販売をストップさせて一気に調べ尽くしてしまうのです。
 しかし、大規模な量販店とかになりますと、1日だけで地下から屋上倉庫までの在庫を調べるのは至難の業。そこで人材派遣会社に委託して臨時アルバイトを1〜2日だけ雇うわけです。
 で、この棚卸しは、営利目的ではなく特別にそれ用の予算を組んで実施するために、結構な額の金が人材派遣会社に流れ込みます。するとそれは上前をハネられた後にバイトに還元されるわけで、その結果、時給1000円のような意外な高給優遇が実現するのです。
 しかし、やる事はしょせん“数を数えるだけ”なのですから、自然と業務は時給に(良い意味で)見合わないものになってゆきます。
 例えば、駒木が2日間この棚卸しをやった時の初日のタイムテーブルはこんな感じです。

14時30分:集合、事務所内の会議室へ。
15時00分:簡単なオリエンテーション。明日の昼食会場への案内。
16時00分:棚卸し業務開始。言われるがまま、持ち場へ移動。
16時15分:店舗内倉庫で、ダンボール4つ分の小物を数数え&仕分け。
17時20分:最初の作業終業。次の作業まで20分以上何もせず待機。
17時40分:屋上にて、小さ目の物置3つ分の附立(=数数え)。
18時45分:店舗内倉庫で、棚1つ分の附立。指揮役の正社員が張り切ってしまい、駒木の仕事ほとんど取られる
19時20分:30分の休憩。
19時50分:ダンボール3つ分の小物を数数え&仕分け。
20時15分その日中にやるべきことがなくなり、時間潰しに、「今日やっておけば、明日がほんのちょっと楽」になる作業を適当にこなす。
20時55分:業務終了。
21時15分:解散。

 これでこの日は5500円貰ってるわけです。さっきの塾なら18時から24時まで働いて3400円強ですから、いかにこの仕事が美味い仕事か分かると思います。
 惜しむらくは、この仕事は超短期でしか有り得ず、年に数日しか良い思いが出来ない事ですかね(笑)。まぁ、最近は不景気でこの仕事も時給が下がっているようですが、業務内容が内容なのでオイシイことには変わりないと思います。アルバイトをお探しの方、年明けからのアルバイト雑誌には注目です。

 ……さて、講義も長引いてきましたので、続きは次回に。今度は年明けになりますが、どうぞよろしく。(次回へ続く

 


 

12月23日(月・祝) 特別演習
「『週刊少年ジャンプ』この1年」(1)

 いよいよ年末という事もあり、テレビなどでも2002年を振り返る様々な企画が放送されるようになりました。これがもう数日もすれば「2002年10大ニュース」などという活字が新聞や雑誌に躍ることになるのでしょう。

 そして我が社会学講座も、この年末から来年早々にかけて、この1年間を総まとめする企画を実施したいと思います。
 とはいえ、社会学講座全体の総まとめは既に開講1周年記念式典で実施してしまいましたので、この度は“各個撃破”。当講座の看板講義の1つである『現代マンガ時評』において馴染みの深い「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」の1年間をつぶさに振り返ってみたいと思います。

 そしてまず、今回からは「ジャンプ」の1年を3回シリーズでお送りします
 “ジャンプシステム”の名の下に数多く生まれては消えていった新連載作品や、代原を中心に毎週のように掲載された読み切り作品、更には昨年から連載されていた“ベテラン組”の動向を、各種データを交えながら詳しく検討してゆくつもりです。
 なお、「サンデー」の年間総括は年明け間もなくに実施予定です。そちらの方もどうぞご期待下さい。

 
 ──では、今日は「ジャンプ」総括の1回目。この1年間に新たに立ち上げられた連載作品──つまり新連載作品について回顧してゆきましょう。

 ……それではまず、今年の新連載作品を改めて振り返っておきましょう。なお01年末に連載が開始された作品は、その連載期間の大半が02年に入ってからですので、02年分の新連載として扱いました。また、他の年の新連載作品も同様に翌年扱いとします。

『もののけ! にゃんタロー』作画:小栗かずまた
『ソワカ』作画:東直輝
『サクラテツ対話篇』作画:藤崎竜
『あっけら貫刃帖』作画:小林ゆき
『いちご100%』作画:河下水希
『少年エスパーねじめ』作画:尾玉なみえ
『プリティフェイス』作画:叶恭弘
『NUMBER10』作画:キユ
『ヒカルの碁(第2部)』作:ほったゆみ/画:小畑健
『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介
『SWORD BREAKER』作画:梅澤春人
『A・O・N』作画:道元宗紀
『Ultra Red』作画:鈴木央

 ……この中で厳密には新連載ではない『ヒカルの碁』は除外して考える事にすると、今年の新連載作品は12本ということになります。
 そしてその12本の中で、“短期打ち切り”と呼ばれる2クール(=新連載シリーズと次のシリーズの間が1クール)以内の打ち切りを逃れた作品は、

『いちご100%』作画:河下水希
『プリティフェイス』作画:叶恭弘
『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介

 ……の、以上3作品。秋にスタートした『Urtra Red』がまだ2クール目の連載中ですが、掲載順や諸々の材料から考えるに、このクール限りでの打ち切りが濃厚であるため、ここには含みませんでした。 

 さて、12作品中3作品の“生き残り”ということは、“半年生存率”25%ということになりますね。
 しかし「4作品中3作品が短期打ち切り」…などと聞くと、何だか不振の1年だったように感じますが、果たして本当はどうなのでしょうか? 
 ではここで、過去5年間(1997〜2001)における新連載作品の“半年生存率”を振り返っておきましょう。ここでも長期連載中断後の再開(not新連載)にあたるものや、鳥山明さんが手がけた短期集中連載作品、さらに不定期連載作品は除外して考えます。

◆2001年(00年47号〜01年43号連載開始作品)
 …12作品中3作品(『ボボボーボ・ボーボボ』、『Mr.FULLSWING』、『BLEACH』)半年生存率25%
◆2000年(00年1号〜38号連載開始作品)
 …8作品中4作品(『ブレーメン』、『ノルマンディーひみつ倶楽部』、『BLACK CAT』、『ピューと吹く! ジャガー』)半年生存率50%
◆1999年(98年52号〜99年44号連載開始作品)
 …15作品中4作品(『ヒカルの碁』、『ライジングインパクト(2回目)』、『テニスの王子様』、『NARUTO』)半年生存率26.7%
◆1998年(97年52号〜98年43号連載開始作品)
 …10作品中5作品(『明陵帝 梧桐勢十郎』、『ROOKIES』、『ホイッスル!』、『HUNTER×HUNTER』、『シャーマンキング』)半年生存率50%
◆1997年(96年49号〜97年41号連載開始作品)
 …13作品中5作品(『魔女娘ViVian』、『花さか天使テンテンくん』、『I’s』、『世紀末リーダー伝たけし!』、『ONE PEACE』)半年生存率38.5%

 ……奇しくも1年ごとに“当たり年”と“ハズレ年”が交互交互に訪れているように見えるのが趣深いところですが、半年生存率が高い年にはそれなりの理由──アンケートが良くないままダラダラ半年程度続いた作品、又はアンケートが悪くても編集部の意向によって打ち切られない作品がある──があり、実質上の平均半年生存率は30%前後ということになりそうです。
 で、これらの事情を考えますと、今年の半年生存率は決して高くはないにせよ、そう悲観する程の成績でもないようです。それどころか、『アイシールド21』という本当に久々の大ヒット作候補が飛び出た事を考慮すると、少なくとも平均程度という判断が出来るのではないでしょうか。

 それにしても、新連載作品の7割が“無駄弾”に終わって当たり前…というのはやっぱりキツいですよね。改めて“ジャンプシステム”の恐ろしさを再認識させられます。
 ……というか、7割以上の作品が尻切れトンボで終わっていても平気というのもある意味凄いですよね(苦笑)。

  
 さて、全体を概括したところで、今度は各シリーズごとに新連載作品をざっと振り返ってみましょう。

 まずは“01年年末シリーズ”。このシリーズでは3本の新連載がありました。改めて作品名と作者を紹介しておきましょう。

『もののけ! にゃんタロー』作画:小栗かずまた
『ソワカ』作画:東直輝
『サクラテツ対話篇』作画:藤崎竜

 『──にゃんタロー』小栗かずまたさんは、97年11号から00年30号までの161回に渡って『花さか天使テンテンくん』を連載した“成功組”の作家さんで、その後、『──にゃんタロー』の読み切りテストを経て連載復帰となりました。
 しかし、いざ連載を始めてみると、『──テンテンくん』の絵柄で『地獄先生ぬ〜べ〜』の亜流を描いたようなオリジナリティの無さが早々に露呈。人気は初期から低迷し、僅か1クール・11回で打ち切りとなりました。
 「週刊少年ジャンプ」には、「前作で成功した作家は1クール打ち切りはしない」という“優遇制度”が存在していたのですが、この事例はその暗黙の了解を破るものでした。その後は再度の“掟破り”は無かったのですが、今後も編集部の動向には注目する必要がありそうです。

 シリーズ第2弾の新連載『ソワカ』は、99年33号から45号まで『CHILDEAGON』を別ペンネームで連載(1クール打ち切り)した経験をもつ、東直輝さんの作品でした。
 この『ソワカ』は、前作(学校コメディ)とは全く趣向を変えた時代劇モノで、ある程度はファンの開拓にも成功していたようなのですが、絵の荒さや間延び気味の展開が広く受け入れられなかったのか、2クール・22回で打ち切りとなりました。
 1クール目の“生き残り競争”では、“優遇制度”が適用されるはずの『──にゃんタロー』と、長期連載組の『ライジングインパクト』に競り勝つなど健闘はしたのですが、“半年生存”には一歩及ばなかった格好です。

 この時のシリーズ3作目は藤崎竜さん『サクラテツ対話篇』。藤崎さんは、前作の『封神演義』で96年28号から00年47号まで206回の長期連載を達成した実力者で、同作品は「ジャンプ」では数少ない“円満終了作品”としても知られています。
 藤崎作品は女性──特に同人誌を描くようなコアなマンガ好きの間に人気があり、この『サクラテツ──』もその層の間では人気が高かったのですが、それ以外の層には全くと言って良いほど受け入れられずに人気は低迷。“優遇制度”が切れた2クール目・19回で打ち切りとなってしまいました。藤崎作品の欠点である“作品が読者を選んでしまう”という部分が強く影響した結果と思われます。

 ……このように01年年末シリーズは、実績者を中心に手堅い編集方針で臨んだものの、期待外れに終わってしまった感が否めませんでした。
 それまでの2年間ヒット作らしいヒット作に恵まれて来なかった編集サイドにとっても、このシリーズは密かに勝負を賭けていた事は間違いなく、そういう意味においてでもこのシリーズの失敗は痛恨事だったことでしょう。

 
 では次に“02年春シリーズ”の新連載作品を振り返ります。

『あっけら貫刃帖』作画:小林ゆき
『いちご100%』作画:河下水希
『少年エスパーねじめ』作画:尾玉なみえ

 シリーズトップバッターの『あっけら貫刃帖』を描いた女流作家・小林ゆきさんはこの作品が初の週刊連載。『赤マルジャンプ』や本誌などでの地道な活動が実っての連載枠獲得となりました。
 しかし、まとまりは良かったものの全体的にインパクトの弱い設定・ストーリーが嫌気され、敢え無く1クール・12回で打ち切りの憂き目に遭いました。

 そしてシリーズ2作目は、河下水希さん『いちご100%』。河下さんは少女マンガ出身の女流作家さんで、『あっけら──』の小林さんの師匠格にあたります。「ジャンプ」では00年48号から01年21・22合併号まで『りりむキッス』を連載(2クール・24回打ち切り)した経験があります。
 『いちご──』は、少年誌で許容される範囲のお色気を交えながら展開される正統派ラブコメ。一時期は02年年末の打ち切り候補にも挙げられましたが、次から次へと新ヒロインやライトなHシーンを連打するテコ入れが功を奏したのか人気もやや回復。辛うじてですが、03年への越年を果たしました。

 『少年エスパーねじめ』は、かつて赤塚賞受賞作『純情パイン』を連載に起こすも1クール打ち切り(00年47号〜01年09号までの13回)を喰らった経験のある、尾玉なみえさんの新作でした。
 尾玉さんはコアなファンが多く、その実力を高く評価する声もあります。が、その余りにも独特すぎる作風と安定感の低さが“ジャンプシステム”と合わなかったのか、この作品も“撃沈”2クール・20回で打ち切りとなりました。

 ……この春シリーズは、年末シリーズの反動のためか、新人1人&打ち切り作家2人という小粒なラインナップとなりました。しかしそんな中でも『いちご100%』が越年を果たし、一応はその意義が認められるシリーズとなったのではないでしょうか?

 ところでこの前後から、「ジャンプ」では“打ち切り免除枠”とされている『ジョジョの奇妙な冒険』『ROOKIES』の人気が本来の“打ち切りライン”に低迷するようになりました。(もしかしたらそれ以前からかも分かりませんが──)
 そうなると辛いのは単行本売上げの見込み辛い新連載作品で、本来ならギリギリ打ち切られないで済むはずの作品まで打ち切られる結果となったようでした。今年の半年生存率低迷の原因はこういう所にあったのかも知れません

 
 ──続いては、“GW(ゴールデンウィーク)シリーズ”です。

『プリティフェイス』作画:叶恭弘
『NUMBER10』作画:キユ
『ヒカルの碁(第2部)』作:ほったゆみ/画:小畑健

 まずは叶恭弘さん『プリティフェイス』。叶さんは約10年前から、ジャンプの本誌や増刊などで読み切り作家やイラストレーターとして活動して来ましたが、ここに来て突然の新連載。叶さんはジャンプデビュー前に連載経験があったそうですが、それ以来の連載という事で、手探りのスタートとなりました。
 既に前クールで同系統(お色気系コメディ)の『いちご100%』が連載されていた事もあり、叶さん本人も1クール打ち切りを覚悟していた様子さえ窺えたこの連載ですが、テンポの良いライトな作風が受けたのか、予想を覆す人気を博して早々と打ち切り争いから離脱。最近こそ人気ジリ貧の傾向が窺えますが、見事に2クールの壁を突破して越年を果たしました

 一方、連載開始前からコアなジャンプ読者層の注目を集めたのが、キユさんのサッカーマンガ『NUMBER10』でした。
 さて、キユさんといえば、前作・『ロケットでつきぬけろ!』という、1クール・10回(00年34号〜44号)で打ち切りになった作品が余りにも有名です。
 普通なら1クールで打ち切りになった作品など、読者にはロクに記憶される事も無くフェードアウトしてゆくものなのですが、『ロケット──』に関しては違いました
 その作中や作者の本誌巻末コメントで端々に見受けられるキユさんの独特すぎる個性が各地で話題となり、やがて同作品は「ジャンプ」打ち切りマンガの象徴的な存在にまで“出世”。今では一部で1クール打ち切りの事を「突き抜け」と呼ぶようにまでなっていたりします。
 そして、今作の『NUMBER10』。同作品は、W杯を間近に控えて開始されるサッカーマンガ…という一見良い条件のもとで連載が開始されたのですが、人気は早い段階から低迷。また、「ジャンプ」には既に『ホイッスル!』というサッカーマンガが長期連載されていた上、同じクールの新連載が先述の『プリティフェイス』と『ヒカルの碁第2部』という人気作(少なくとも当時は)であった事もダメ押しとなり、この作品も1クール・10回で“突き抜け”の再現となってしまいました。

 『ヒカルの碁』に関しては、次々回に予定している長期連載作品回顧にて振り返る予定ですので、ここでは扱いません。

 ……“GWシリーズ”で初登場した2作品は、それぞれ既存の作品と同系ジャンルであったのですが、結果は明暗分かれるところとなりました。しかも作家本人が打ち切りを覚悟していた方が生き残るという世知辛さに思わず泣けて来ます。


 講義も長引いていますし、サクサク行きましょう。次は“03年夏シリーズ”となります。

『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介
『SWORD BREAKER』作画:梅澤春人

 この辺りから我々の記憶にも新しくなって来ますね。
 まずこのシリーズの第1弾となったのは、『アイシールド21』。本誌掲載も成されたストーリーキング受賞作をマイナーチェンジさせての連載化でした。
 そしてこの作品には、連載開始前後から「これを何が何でもヒットさせるぞ!」的な編集部の熱意が窺えていました。これが初連載作となる作画担当の村田雄介さんには連載経験作家を含む実績のあるアシスタントを大量に斡旋され、その上に最初から1クール打ち切りを免除していたような節さえ窺える優遇振り。何と言いますか、“社運を賭ける”ような全面プッシュでありました。
 その期待に若い作者コンビも応えます。高いレヴェルの作品の完成度もあって人気は連載当初から上位に固定。既にメガヒットの条件の一つでもある同人誌人気も爆発寸前の様相で、「ジャンプ」としては3年ぶりの大ヒット作品候補の誕生となりました。
 これからどこまで人気が膨れ上がるかは03年の動向次第ですが、ひょっとすると往年の『SLAM DUNK』級の名作にまで成長するかも知れません。「ジャンプ」の新たな看板作品候補として、今後も目が離せない状況が続きます。

 そのワリを食ったわけではないでしょうが、『アイシールド21』と対照的に典型的な打ち切りパターンにハマってしまったのが『SWORD BREAKER』でした。
 この作品の作者・梅澤春人さんは、これまで2度の長期連載経験を持つ中堅作家さんで、特に音楽を絡めたヤンキー系マンガを得意としていました。
 しかしこの作品は、これまでの梅澤作品とは一線を画した正統派ファンタジー物。一度同題名の読み切りで“試運転”を済ませていたとは言え、既に業界内ではタブーとも言えるジャンルの作品であったこともあり、この連載は期待と不安双方にまみれたスタートとなりました。
 この作品は一部でコアなファンを獲得したものの、全体的な人気は連載開始間もなくから低迷を始め、最終的には2クール・16回で打ち切り。不安視されていた部分だけ全て現実となる最悪のケースになってしまいました。

 ……このシリーズは、“期待のニューフェイス+実績のある中堅”という構成で、編集部にしてみれば年末シリーズ以来の“勝負駆け”だったように思えます。『ソドブレ』の失敗は残念でしたが、『アイシールド21』の大成功は何物にも替え難い功績と言えそうです。

 
 最後に、“02年秋シリーズ”の2作品を。『世紀末リーダー伝たけし!』が作者の不祥事で強制打ち切りされたばかり…という異様なムードの中での新連載立ち上げとなりました。

『A・O・N』作画:道元宗紀
『Ultra Red』作画:鈴木央

 『A・O・N』道元宗紀さんは、かつて『奴の名はMARIA』(94年40〜48号連載)『大好王(ダイスキング)』(99年14号〜31号連載)2度の短期打ち切りを経験した作家さんです。
 普通「ジャンプ」では、デビューから連続して2度短期打ち切りとなった場合は、その後の復帰が非常に困難になるのですが、今回は特例的に3度目のチャンスが与えられた格好になりました。
 しかしこの作品、プロレスマンガでありながら肝心の格闘シーンの描写が極めて拙劣であったなど欠点の方が目立ち、連載当初から人気が低迷。道元さんは背水の陣も実らず、今回も1クール・10回で“突き抜け”る形となってしまいました。

 そして『Ultra Red』。作者の鈴木央さんは、前作『ライジングインパクト』で、15回で“突き抜け”→読者からのアンコールに応え復活→130回と長期連載ながらやっぱり打ち切りという居た堪れない経験をした人だったりします。
 『Urtra Red』は未だ連載続行中なので多くを述べるべきではないでしょうが、掲載順の推移は既に“優遇”対象者の2クール打ち切りの典型パターンにハマってしまっています。どうも序盤に作品全体のテーマが定まりきらなかった印象があったのですが、ひょっとしたらその辺が人気低迷に響いていたのかも知れません。

 ……この秋シリーズは、今から振り返ってみると様々な意味で異色であったような気がします。短期打ち切り2回経験者の起用、プロレスマンガと格闘マンガというジャンルの重複、そして両作品の短期打ち切り(見込み)。
 『──たけし!』強制打ち切りに伴う事後処理で編集部がパンク状態だったのか、どうもこのシリーズの方針はおざなりだったような気がしてなりません。その点はちょっと残念な気がしました。


 ……というわけで、今回は新連載作品の動向についてお送りしました。次回は代原を含む読み切り作品について総括します。 (次回へ続く

 


 

12月22日(日) ギャンブル社会学
「toto(サッカーくじ)売上げ低迷、その原因を探る」(7)

※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回

 足掛け1ヶ月かかったこのシリーズも、いよいよ今回で最終回です。
 今日は、まずサッカーくじと既存ギャンブルとの比較検討のまとめを先に行い、その結果を踏まえた上でサッカーくじの今後について展望、さらに提言を加えてゆくつもりです。

 
 ──ではまず、前回までに行ったサッカーくじと既存ギャンブルとの比較検討を振り返るため、各ギャンブルの“7つの条件”をまとめた一覧表を提示します。ご覧下さいませ。

  一獲千金 達成感 期待値 戦略性 中毒性 とっつき易さ サービス
サッカーくじ 極低 極低
宝くじ
(当せん金高額)
極高 極低 極低 極高
宝くじ
(当せん金低額)
極低 極低 極高
競馬 極高
競輪 極高 極低
競艇
オートレース
パチンコ・パチスロ 極高 極高
麻雀 極高 極高 極高 極低
ビデオポーカー 極低 極低 極高
ビデオ麻雀 極低 極低 極高
スロットマシーン 極高 極低 極高 極高
ルーレット 極高
ブラックジャック 極低 極高 極高
バカラ 極低 極高 極低 極高

 ※詳しい分析については第3回〜第6回までのレジュメを参照して下さい。

 ……こうして一覧表にしてみると、余計に分かり辛くなってしまっている気がするのですが(苦笑)、まぁこれは参考という事でご容赦願います。
 さて、これまでの講義内容からして、もう既に皆さんには理解して頂いていると思いますが、既存のギャンブルはいずれもサッカーくじよりも優れた点を持っており、その部分をセールスポイントにして集客に成功しています。

 宝くじは、抜群の“一獲千金”性とっつき易さ
 公営ギャンブルは、戦略性達成感喚起力
 パチンコ・パチスロ及び麻雀は、ゲームとしての魅力時には人を破滅に追い込むような中毒性
 ビデオゲーム賭博は、過剰とも言えるファンサービス
 そして近い将来日本にお目見えするであろうカジノは、あらゆるタイプのギャンブルを集めた“ギャンブルのデパート”としての利便性と存在感

 それに対して我らがサッカーくじはどうかと言えば、

 優れているように見えて、実は宝くじには到底及ばない中途半端な高さの“一攫千金”性
 ギャンブル・ゲームとしての魅力を示す達成感喚起力や戦略性のお粗末さ、及び中毒性の低さ
 詐欺に等しいまでの回収期待値の低さ。また、その欠点をカモフラージュするための策の無さ。
 致命的とも言えるルールの煩雑さととっつき難さ
 ファンサービスを何よりも後回しにしたメチャクチャな運営姿勢。

 ……といった体たらくです。サッカーくじの運営サイドは低迷の原因を当せん金の低さ(=“一攫千金”性の小ささ)にばかり求めていますが、何の事はありません。要は、

サッカーくじはギャンブルとしての魅力が乏しい

 ──ただそれだけの事なわけです。ギャンブルとしてつまらないので、他のギャンブルから客を奪う事が出来ず、それどころかどんどん固定客が流出してゆく…という、至極当然な理屈なのです。
 そして、そんな単純な事に全く気付いていない運営サイドの無能さがそもそもの大問題…という事も言えるのではないでしょうか。

 しかしここで「ハイ、以上」とやってしまっては日刊ゲンダイの芸能コラムのような志の低い“言いっ放しパワーボム”で終わりですし、駒木としても悪口言いっ放しでは気分が悪いというもの。そういうわけでここからは、「どうすればサッカーくじは集客力のあるギャンブルになるか?」という事をテーマに、いくつかの提言を試みたいと思います。

 ──サッカーくじを魅力あるギャンブルに生まれ変わらせるためには、大きく分けて2つのコースが考えられます。

 まず1つ目は、「サッカーくじの宝くじ化」“一攫千金”性を強化し、“庶民のささやかな夢”を演出するようなギャンブルを目指す作戦です。そしてこの策は既にサッカーくじ運営サイドも目をつけていて、既に来年以降の施策として、

 ・1等当せん金の上限アップ(現行1億円から2億円へ)
 ・高額当せん金が望めそうな難易度の高い新種くじ
(勝敗だけでなくゴール数も同時に当てるタイプ)の導入

 ……などが公に出ています。
 ですが、これらの策はデメリットも大きいのが気になります。
 まず、当せん金を倍増させるのに際しては、法律で「1等当せん金額はくじ1口の金額の100万倍以内とする」とされているために、くじの1口あたりの価格も倍増させねばなりません。これは客にとって大きな負担となります。下手をすれば「当せん金上限倍増」以上のデメリットになりかねません。
 さらに新種くじに関しては、ただでさえ問題になっているとっつき難さを更に悪化させる事になりますし、予想行為も困難になりますので戦略性も低くなります。このまま行けば、「作ってみたら、ただの『ロト6』の出来損ないだった」…という結果になるのがオチです。

 結局、サッカーくじが“第2の宝くじ”を目指しても、それは「サッカーを絡めてとっつき難くしただけの宝くじ」であって、余程のサッカー好きでない限りは見向きもされないままで終わってしまう可能性が大です。
 これはあまり知られていませんが、終戦直後に「野球くじ」「相撲くじ」といったスポーツ系くじが発売された事がありました。スポーツの勝敗と純粋な抽選を複合させたもので、宝くじの一種なのですが、結局不人気のまま短期間で命脈を断たれています。結局、“くじ”に求められているのは当せん金と手軽さであって、スポーツの醍醐味ではないのです。

 
 ──そういうわけで、『サッカーくじの宝くじ化』は駄目です。サッカーくじを魅力あるギャンブルに変えるためには別の手段を選ばなければなりません。
 結論から先に言ってしまいましょう。それは、サッカーくじの公営ギャンブル化、これしかありません。“一攫千金”性を犠牲にしてでも、他のポイント──達成感喚起力や戦略性を高める努力をするべきであると思うのです。

 最もダイナミックな転換を図るなら、アメリカのラスベガスイギリスのブックメーカー(私営“賭け屋”)で行われているような、1試合ごとの勝敗を当てさせる『マネー・ドッグ』と呼ばれる方法でしょう。それは、

鹿島アントラーズ  1.5倍
コンサドーレ札幌  2.8倍

 ……というようにオッズを提示して各試合後との結果を賭けさせるものです。現行ルールでは引き分けがありますが、これは再びVゴールとPK戦を復活させれば済む話ですし、引き分けに賭けさせるように賭けのルールを変更してもいいでしょう。
 ラスベガスでの『マネー・ドッグ』では、回収期待値は95%程度と言います。ルールの簡単さ、試合数の多さなども含めて考えると、これは極めて高い売上げが望めるギャンブルとなりそうです。
 ただし、この方法は野放しにすると深刻なギャンブル中毒者を生む可能性があり、国家の高度な“ギャンブル管理能力”が求められます。日本のような「禁止か野放しか」といった両極端な気質のギャンブル後進国では、導入には時期尚早の感が拭えません。また、よしんば導入するにしても各種の法律改正のために数十年の歳月を要することは目に見えています。

 ですので、ここではもう少し穏やかな“公営ギャンブル化”案として、「くじ対象試合の大幅削減」を提唱したいと思います。
 現行のサッカーくじにおける「勝ち」「負け」「引き分け」の組み合わせ総数は3の13乗=159万4323通りですが、これを3の5乗=243通り、または3の6乗=729通りまで減らし、これを1セットとして1回2セットのくじを販売します。
 これは中央競馬の馬連(最高153通り)と3連複(最高816通り)を意識したもので、客が“難しいけど何とか当たりそう”な範囲の組み合わせ数です。
 この試合数削減に加えて回収期待値を75%以上にまでアップさせれば(当然2等以下は廃止です)サッカーくじは立派な公営ギャンブルに生まれ変わります。これなら達成感喚起力が増しますし、予想がし易くなる分だけ戦略性も向上します。
 あとは大口(10口以上)購入用のマークカードを導入したり、積極的にカップ戦を行ってくじの販売回数を増やすなどすれば、少なくとも現在よりは随分とマシな運営が出来るのではないでしょうか。(勿論、オッズの公開や電話投票制度の拡充などサービス向上は必須です)

 これでもかなり無茶な提案である事は認めます。認めますがが、逆に言えばそれくらいやらねばサッカーくじに未来は無いのではないでしょうか?

 
 ……以上のように、サッカーくじの前途は極めて厳しいものであります。が、こうして一度生まれて来た以上は廃止される事無く存続して欲しいというのがギャンブル・ファンの偽り無い気持ちであります。
 サッカーくじを運営される皆さんには、せめて冷静で的確な現状認識をしていただきたいという願いをこめまして、この講義を終わります。長い間有難うございました(この項終わり) 

 


 

12月21日(土) 競馬学特論
「G1予想・有馬記念編」

駒木:「さぁ、今年の(JRAの)G1レースもいよいよラスト。有馬記念だね」
珠美:「去年は2人とも、テイエムオペラオーに“◎”、メイショウドトウに“○”を打って、敢え無く撃沈しちゃいましたね(苦笑)。博士は年間馬券収支の黒字を賭けての一戦だったんですけど、残念でした」
駒木:「今年は回収率90%前後っていう絶不調なんで、そういうプレッシャーは無いんだけどね、残念ながら(苦笑)。そりゃあ、当日の前座レースで中穴獲って、ここでも一番高目の配当をゲットすれば分からないけど、そんなのが出来るなら1年間苦労してないからねぇ」
珠美:「でもせめて、このレースを当てて良い締めくくりをしたいものですよね。テレビCMの小林薫さんじゃないですけれども(笑)」
駒木:「そうだねぇ。でも筋金入りの人は、次の日の競艇賞金王決定戦とか、公営競馬の東京大賞典とか、今年は開催が微妙とも言われてる競輪グランプリとかに年の締めくくりを賭けてるんだろうけどね(笑)。
 ……まぁ、それよりも今は明日の事が大事だ(笑)。とりあえず有馬記念の出馬表を紹介しておこう」

有馬記念 中山・2500・芝内

馬  名 騎 手
シンボリクリスエス ペリエ
    コイントス 岡部
    ヒシミラクル 角田
    エアシャカール 横山典
    テイエムオーシャン 本田
× ノーリーズン 蛯名
  × アメリカンボス 江田照
    タップダンスシチー 佐藤哲
ジャングルポケット 藤田
    10 イーグルカフェ 田中勝
  11 ナリタトップロード 渡辺
12 ファインモーション 武豊
    13 フサイチランハート バルジュー
    14 アクティブバイオ 後藤

珠美:「昨年に続いて頭数こそフルゲート割れとなりましたが、14頭中G1ホースが9頭で中身は濃くなった印象がありますが、博士の目から見てはいかがですか?」
駒木:「G1レース9頭か……。『よく考えたら、それくらいいたのか』って気がしないでもないけれども(苦笑)。でもG1馬は全部ファン投票選出なんだね。一番順位の低いイーグルカフェでも14位か。まぁ確かに現時点では最高に近いメンバーではあるよね。
 ……でも何だろうなぁ、これは秋シーズンに入ってから毎回言ってるけれども、まだこれでもオペラオーとかが抜けた穴が埋まり切ってない感じがするんだよなぁ。現時点では全体のレヴェルは決して高いとは思えないんだよ、どうしても。勿論、将来オペラオー級まで目指せそうな若駒はいるんだけども……。
 だから、意外とこの有馬記念は波乱含みだと思ってるんだ。去年みたいに大万馬券が炸裂しても決して驚けないね。まぁ、そんなのは中穴党の僕にとっては『勘弁してくれ』だけど(苦笑)」
珠美:「(苦笑)。……ではここで、改めて有馬記念のレースとしての特徴について教えて頂きたいんですが?」
駒木:「コースは中山競馬場の芝内回り2500mだね。2コーナーを曲がる少し手前からスタートするんで、都合コーナーを6回曲がる事になるわけだ。距離が距離だから、あまり枠順の有利・不利は無いだろうけど、コーナーワークの加減で逃げ・先行有利とはよく言われてるね。まぁここ最近は随分と差し馬が届くようになっているけど、それでも4コーナーは差の無い9番手以内で回りたいところだね。純粋な意味の追込みが届いたのは2000年のテイエムオペラオーくらいで、逆に言えばそれくらい強くないと直線一気は無理って事。
 あと、年度最終戦ということで各馬が目一杯に仕上げてくるレースという事も言っておかなくちゃね。このレースに関しては、『このレースに勝つ』以外の思惑は無いと見た方が良い。ただし連戦に次ぐ連戦の影響で、目に見えない疲れが溜まっている馬が多いのも特徴。調教までは完璧だったのにレースで大凡走する馬も多いから、大本命馬だからと言って、全幅の信頼を置いちゃいけないのが難しいところだね」
珠美:「牝馬の優勝が随分途切れているということも時々話題になりますね」
駒木:「1971年トウメイ以来だから30年以上遠ざかってるんだね。そのトウメイの優勝にしても、馬のインフルエンザの流行で有力馬が軒並み出走回避した6頭立てのレースだったから、余程牝馬とは縁の無いレースってことになるね。
 ただ、ここ10年ではヒシアマゾン(94年・2着)エアグルーブ(97年・頭+クビ差の3着)みたいに善戦健闘した馬もいるわけだから、いわゆる“女傑”クラスの馬ならば勝ち負けのチャンスはあるわけだ。だから、そう必要以上に『牝馬だから…』って考えるのもどうかと思うよ。それよりも、出走している牝馬が牡馬に伍していけるだけの実力があるかどうかを分析する方が大事だと思う」
珠美:「ということは今年の牝馬にもチャンス有り、という事ですね。
 あと、レースの展開はどうなるでしょうか? 逃げ馬不在ですが……」

駒木:「アメリカンボスが逃げるというのが有力だね。陣営も先行策を予告してるし。ただ、この馬は厳密な意味で逃げを打った事は無いんだよね。だから出来れば前に馬を置いて2〜3番手を追走したいはずなんだ。
 そういう意味では、これまでの脚質を返上して逃げる馬が出て来る可能性もある。例えばヒシミラクルなんか、平均的に脚を使うタイプだから思い切って逃げ切りを狙って来るかも知れないよね。
 まぁどっちにしろ、ペースはスロー。これがいつもなら瞬発力勝負になるんだけど、今回は道悪が残りそうなんで文字通りの泥仕合になっちゃいそうだねぇ。典型的な前残りのケイバになるのか、3コーナー前からペースが上がってサバイバルレースになっちゃうのかは分からない。チャンスが必ず巡って来るという意味で、やや先行馬に有利という気がするけど、難しいねぇ、正直言って(苦笑)」 
珠美:「──では博士には、今日も出走馬を1頭ずつ枠順に沿って解説して頂きます。
 まずは1枠。いきなり有力馬・シンボリクリスエス登場です。秋の天皇賞優勝・ジャパンカップ3着と、およそ3歳馬らしくない戦績を挙げての登場ですが、いかがでしょうか?」

駒木:「秋に出走した3レースは全部強い内容だったもんねぇ。前走も出遅れが無ければ1着まであっただろうし、並の3歳馬でないのは確か。問題になる道悪にしても、デビュー2戦目に不良馬場で追込み直線一気(2着)を見せてるわけだから、少なくとも下手ではないだろうね。脚質的にも気性的にもスキは無いし、有力馬の1頭であることは間違いないよ。
 ただ、問題はローテーションだよねぇ。秋緒戦の神戸新聞杯から、中3週→中3週→中3週でG1レース3連発。馬の体調管理には定評のある藤沢和雄厩舎とはいえ、さっき言った“目に見えない疲れ”がどうしても心配になる。杞憂に終わってくれれば良いんだけどね」
珠美:「本当、私の馬券のためにも杞憂に終わって欲しいです(苦笑)。
 それでは次に、2枠コイントスについてお願いします」

駒木:「コイントスかぁ。確かにここ何戦かの着順は整ってるんだけど、その着順っていうのが、ハンデ戦やメンバー構成が今一つの重賞ばかりだからねぇ。
 4戦連続1番人気の重圧から逃れた気楽さで大穴を開ける可能性が全く無いとは言えないんだけど、ちょっと現時点では番付が違いすぎる感じかな。さすがにこんな場で平幕優勝を予想するほど僕もイカれてないよ(笑)」
珠美:「続いて3枠ですが、ここから2頭ずつお願いしますね。この枠では新旧の菊花賞馬が同居した形になりましたが、博士のジャッジはいかがでしょうか?」
駒木:「まずヒシミラクル。このレースは菊花賞直行組の戦績が結構良くて、それなりの穴も開けたりしてるんだけど、さすがにこの馬にまでそれを求めるのは可哀想なんじゃないかって気がするね。ズバリ言ってしまうのはどうかと思うけど、菊花賞の勝ちはハッキリ言って恵まれだったからねぇ。どっちかと言えば神戸新聞杯の6着の方が実力を現してると思うよ。
 チャンスがあるとすれば、イチかバチかの逃げを打つかくらいかな。それにしても余程の恵まれが無いと辛いと思うよ。
 ヒシミラクルとは逆に、ギリギリまで脚を貯めて追い込みに賭けるしかないのがエアシャカール。だからこの有馬記念の舞台と道悪は本当にキツいよねぇ。脚を貯めっ放しで撃沈するか、見せ場だけ作って入着止まりになるかのどちらかかな。地力的にもそれほど威張れる馬でもないからねぇ」
珠美:「3枠の2頭については、やや厳し目の見解になりましたね。……では、次に4枠の2頭。ここもG1ホース2頭が同居する形になっていますが……」
駒木:「テイエムオーシャンは、もう天皇賞とジャパンカップの時に散々言ってきたからもう良いよね? このメンバーでは実力不足が否めない。調教師たちのオフレコ談話でも『ファインモーションは分からんけど、テイエムオーシャンには勝てる』って声が漏れ聞こえてくるし、いい加減牝馬路線に戻してあげればいいのに…って感じかな。
 ノーリーズンは、菊花賞の落馬中止が疲労蓄積を避けたって意味では逆にプラスになっているかも知れないね。ジャパンカップより良いコンディションでレースに臨めそうだ。
 懸念は差し脚質と地力の差なんだろうけど、もしも有力馬の内の1〜2頭が凡走した場合は繰り上がりでチャンスが巡って来そうなポジションではあるんだ。言ってみれば“補欠第1位”だね。ジャパンカップの時に比べたら随分と人気の盲点になった感じだし、穴で一考ってところだね」
珠美:「ノーリーズンの差し脚質はマイナスに働きませんか?」
駒木:「皐月賞勝った時は4コーナーから捲ってるわけだから、今回も好走するんなら、そういう走り方になるんじゃないのかな」
珠美:「なるほど、本当に“補欠1位”みたいな存在ですね(笑)。
 では、次は5枠です。この枠は“大穴枠”といったところでしょうか?」

駒木:「出たな、アメリカンボス(苦笑)。あれ、珠美ちゃん、こっそりと×印付けてるじゃないか(笑)。やるなぁ」
珠美:「スローペースの先行馬なので、コッソリと狙ってみました。シンボリクリスエスとの組み合わせでも万馬券なんで……」
駒木:「まぁ、凡走と好走の落差の激しい馬だから、確かに不気味ではあるよね。
 でも、どうだろうね。去年はテイエムとドトウが後手を踏んで凡走した上に、2着争いした相手が末にヘタれることで有名なトゥザヴィクトリーだったしねぇ。恵まれがいくつも重なっての“激走”だったと僕は思っているんだけど。まぁ、珠美ちゃんの勇気に敬意は表しておくよ(笑)」
珠美:「ハイ、ありがとうございます(苦笑)」
駒木:「あと、タップダンスシチーは惜しかったんだよなぁ。良馬場だったら格好の穴馬だと思っていたんだけど、この馬、道悪は駄目らしいんだよ。ただでさえ中山の馬場は痛み始めてるわけだしね。う〜ん、可哀想だけど、レースが始まる前に終わっちゃってる感じかなぁ」
珠美:「では、次は6枠です。この枠もG1ホース2頭という構成になっていますが……」
駒木:「さぁ、また判断に困る馬が登場だね。とうとう年内未勝利のままで来ちゃったジャングルポケットだ。
 前走の5着についてだけど、これはスローペースだったのに加えて、やっぱり休養明けが駄目なんだと思う、この馬は。どうも間隔が開くと末脚が鈍り気味になるんだよね。去年の札幌記念然り、阪神大賞典然り。ひょっとしたら菊花賞もそうだったかも知れない。
 そういう意味で言えば、今回は大きな狙い目なんだよね。詰まったローテーション、ダービーを勝った重馬場、そして地力勝負でも十分通用する相手関係。地力だけだったらシンボリクリスエスよりもまだ上じゃないかと思ってるからね、僕は。
 ただ、脚質がねぇ……。ジャパンカップみたいに一番後ろから行ったんじゃ、お話にならない。これは藤田騎手の腕に期待するしかないんだけど、果たしてどうだろうね。上手い事行けば、1997年のシルクジャスティスの再現になりそうなんだけど。
 この枠のもう1頭はイーグルカフェか。前走はビックリだったけど、それはこの馬にビックリじゃなくて、デットーリ騎手にビックリって感じだったからねぇ(苦笑)。今回は距離も長いし、騎手も戻っちゃうし……。まぁ、普通に考えて苦戦は必至だろうね」
珠美:「デットーリ騎手の凄さは痛いほど目に焼き付けられましたものね(苦笑)。タイムマシンがあったら、もう一度11月に戻りたい気分で一杯です(笑)。
 ……では、講義も長引いて来ましたし、先を急ぎましょう。いよいよ注目の7枠ファインモーションがこのメンバーで通用するかどうかについて。詳しくお訊きしたいと思います」

駒木:「まずは枠順通りにナリタトップロードからなんだけど、本当にこの馬は運が無いなぁ。何だかこっちまで泣きたくなっちゃうよ(苦笑)。よりによって雨が降るかねぇ、こんな時に。地力だけなら勝ち負けなんだけど、馬場が3ヶ月使い込まれて荒れ気味の上にコレじゃあねぇ……。残念だけど、今回も見送りが賢明かな。馬券と関係なしで健闘を祈りたい気分ではあるんだけどね。
 で、ファインモーションだ。ここまで6戦6勝でG1レース2勝だね。普通の牝馬G1勝ちというのは牡馬混合のG3と同価値くらいなんで、実は大した意味は成さないんだけれども、この馬は並クラスの牝馬チャンピオンではないからねぇ。伊藤雄二調教師『(以前管理した)エアグルーヴより能力は上』と言うくらい惚れこんでるらしいし、少なくとも“女傑候補生”である事は確かだろうね。
 僕の見解としても、この馬はエアグルーヴ級の大物だという認識だよ。そして、当面のライバルであるシンボリクリスエスよりも強いんじゃないかと見込んでいるんだ。あと、ゆったりしたローテーションも良いよね。
 心配はやっぱり道悪だろうなぁ。地力の違いでこなしてしまうと思っているけれども、道悪を走った経験が無い以上は完全に信頼する事は出来ないからね。下手をすると足下を取られて大凡走って可能性も捨てきれない」
珠美:「えーとですね、つまり、全幅の信頼は置けないけれども馬券に絡む可能性は一番高い…ということでよろしいですか?」
駒木:「そうだね。そういう事だね」
珠美:「分かりました。それでは最後に8枠です。こちらは一転して人気薄の馬が2頭揃いましたが、いかがですか?」
駒木:「フサイチランハートにしてもアクティブバイオにしても、人気薄で重賞を勝ったのは良いんだけど、その後がイマイチ続いてないんだよね。デキそのものは良いんだけど、後はコイントスと以下同文だね」
珠美:「──ハイ、有難うございました。いよいよ結論ということになりますけれども……」
駒木:「注目の集まるファインモーション、実力は十分ここでも通用すると見て本命に抜擢。対抗するのはこの秋の主役・シンボリクリスエスだけど地力上位のジャングルポケットも全く差は無し。それぞれに死角はあるんだけど、一応は三つ巴かな。
 で、もしもこの3頭のどれかが凡走してしまったらノーリーズンが代わりに台頭しそうな気配。これが一応の穴だね。買い目は馬連で1-12、9-12、1-9、6-12の4点。3連複は、1-9-12のオッズが低すぎるので見送りだね」
珠美:「私は馬連で1-12、1-9、9-12、1-11、1-6、1-7の6点です。1-7だったら万馬券なんで、宝くじを買ったつもりで待つことにします(笑)」
駒木:「それじゃ、講義も終わりだね。受講生の皆さんもグッドラック!」
珠美:「おいしいお酒が呑めると良いですね(笑)。それでは、皆さんお疲れ様でした♪」


有馬記念 結果(5着まで)
1着 シンボリクリスエス
2着 タップダンスシチー
3着 コイントス
4着 11 ナリタトップロード
5着 12 ファインモーション

 ※駒木ハヤトの“敗戦の弁”
 仕事があるので酒は呑めないけれども、今日のコーヒーは不味い(苦笑)。
 ファインモーションは、あそこまで力んだレースをしてしまうと、ロスしたスタミナの分だけ不利だよねぇ。あれで5着に粘ってるんだから全く通用しないわけじゃないんだけど、今日は全てが裏目に出た感じだね。武豊騎手も馬の実力を少し過信していたのかも。
 タップダンスシチーは、佐藤哲三騎手のギャンブル成功ってところだろうね。だけど、「有馬記念においては奇襲戦法を禁ずる」みたいな内規作ってくれないだろうか。あんなの予想しろってったって無理だよ(涙)。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 シンボリクリスエスが伸びて来た時は「やった!」と思ったんですけど、後ろから何も来ませんでした……(苦笑)。
 この秋は博士も私もボロボロでしたね……。また来年、チャンスがあればリベンジしたいと思います。申し訳有りませんでした。

 


 

12月20日(金) 労働経済論
「役に立たない? アルバイト時給案内」(1)

 最近、街中や駅構内など至る所で、「Yahoo! BB(ブロードバンド)」のモデム無料配布キャンペーンが展開されています。
 場所によっては若い女性がサンタクロースの衣装を着て懸命に黄色い声を張り上げており、その光景を見た男性諸氏が鼻の下を三遊亭円楽師匠のように伸ばしているという光景もチラホラと見受けられます。
 しかしよくよく考えてみればこの仕事、結構恥ずかしそうな業務内容ではありませんか。何しろ、人前でコスプレ姿をさらし、その上で自己アピールをするわけですから、これは仕事というよりむしろ罰ゲーム。思わず「第3チェックポイント失格者8名 帰国」などと、20代後半でないと意味が判らないような字幕スーパーを貼り付けたくなってしまいます。

 ところがつい先日、このような認識を一変させてしまう事実を友人から聞かされまして、大層驚きました。

 「あの仕事、実は短期アルバイトなんだけど、時給が1350円なんだよ」

 ……バブル期に学生、またはフリーターをしておられた受講生の方にはピンと来ないかも知れませんが、このデフレスパイラルのご時世に時給1350円というのは破格の好待遇と言えます。これは、牛丼チェーンの繁盛店の深夜勤務ですら1000円チョイの時給である事と比較して考えてみればよく分かると思います。
 その話を聞いて駒木は思いました。そりゃサンタの服着て大声張り上げるわな…と。駒木が時給1350円貰えるのならば、大声張り上げるどころか大川興業の“ウィーン電動コケシ合唱団”に入隊しても構いませんアメリカのアフガン空爆の歌だって唄います。♪1日1個〜3日で3個〜3個落として2個誤爆……って、お前好きで唄ってるだけじゃねえかって話なんですが。

 ……まぁ、この例を見ても分かりますように、アルバイトの中には意外なほど高い時給、またはその逆のパターン…というものが多々存在します。
 実は駒木も、これまで結構な数のアルバイトを経験して来たわけなのですが、やはりそれらの職種の多くにおいて、
 「え? こんなに貰っていいの?」
 もしくは、
 「ちょっと待ってくれ、これはあんまりじゃないの?」
 ……といった感想を抱かせるような両極端な時給だったような記憶があります。
 そこで今回は、これまで駒木が糊口を凌ぐために体験してきた様々なアルバイトの内容とその時給を公開し、その実態をお教えしようかと思います。「何だ駒木の奴、ネタが無くなったから人生の切り売りか?」と思われた方、非常に鋭いと申し上げておきましょう(笑)。

 ……では、駒木がこれまで経験したアルバイトを、給料の時給換算額が高いもの順に並べてみましょう。

職 種 名 時給額
情報教育指導補助員(県非常勤職員) 2000円
家庭教師(某悪徳業者からの派遣) 2000円
塾講師 1700円
某量販店の棚卸し(2日間限定) 1000円
洋菓子店バレンタインデー臨時要員 800円
マンガ喫茶店員 750円
中古ゲーム屋店員 750円
デパートの縁日(露店)臨時要員 750円

 実は、今やっている公立高校の非常勤講師給料は時給換算の上に他の待遇もアルバイトと大して変わらなかったりするのですが、まぁそれは契約社員的なものであると考えて除外します。講師の授業時給を知りたい人は、県庁に問い合わせて下さい(笑)

 それでは時給の高いものから順番に仕事内容を解説してゆきましょう。
 まずは大半の方が聞き慣れないであろう「情報教育指導補助員」という仕事ですが、これは簡単に言えば“教員志望の就職浪人向け救済事業”。適当な仕事をデッチあげてそこへ人を斡旋し、その給与として国から貰った失業対策の補助金を糖尿病患者のションベン並にドボドボと垂れ流す…という、共産党系の県会議員なら息子の0点答案を見たのび太のママのように怒り狂うであろう、それはもう素晴らしい政策でありました。

 その仕事内容は、3つの中学校に週1回ずつ(つまり週3回)出勤し、1日6時間ほどパソコンを使った授業に同席して教員をサポートする…というものでした。
 とはいえサポートと言いましても、授業そのものが高度な内容ではありませんし、第一、情報教育指導補助員の採用基準“ワープロを扱える程度の知識があればパソコン初心者でもオッケー”でしたから、専門的な事をやれと言っても出来ません。せいぜいが机間巡視やパソコン初心者の生徒へのアドバイス程度。時には中学生と小一時間雑談をしている内に授業終了…なんて事もありました。
 空き時間も長いのですが、簡単な雑用をしたりする他は特にすることも無いので、歴史の勉強をしたりタイピングソフトでブラインドタッチの練習をしたり。そんなこんなで昼メシを食って定時(15時)になれば、「勝手に残業されたら役所から怒られるから帰ってくれ」と言われて退勤。以上であります。
 で、これで日給は12000円。勿論交通費は別途支給です。3ヶ月の期間限定の仕事だったのが駒木的には残念至極だったのですが、まぁ燦然と輝く“オイシイ仕事・ザ・ベスト”であります。ちと話は飛躍しすぎかも知れませんが、建設業者や道路族が何故にあそこまで公共事業にこだわるのか、何となく分かったような気もした覚えがあります。

 ──ところが同じ時給2000円の仕事でも、家庭教師の場合はかなり事情が異なります。

 表にもありますように、駒木が仕事を斡旋されたのはクソの役にも立たない教材をン十万で売りつけるような悪徳企業でした。そういう家庭教師派遣会社は教材を売ってナンボですので、本来メインであるはずの家庭教師派遣業は“もののついで”。どこの骨とも分からない学生を高い額面の時給で釣って登録させては、高い教材を売りつけた先の“カモ”に派遣するわけであります。
 この場合、派遣された家庭教師は生徒の成績を上げる事は期待されていません。せいぜい現状維持させてソコソコの信頼を得る程度で良いのです。何故なら、そうしておかないと次の教材(これも数十万円)を買ってもらえなくなるのですから……。

 で、何の因果かそんな業者に、当時塾講師経験4年の、どこの骨か身元明らかな駒木が釣られてしまいました。まるで街中の練りエサで金魚を釣るような釣り堀にカツオかマグロが泳いでいるみたいな話で、今から考えたら一生の不覚モノの痛恨事なのですが、当時の駒木は大学卒業直後の就職浪人で収入がゼロ。背は腹に替えられなかったのです。
 しかしそんな事情があったとは言え、この仕事は胃がキリキリ痛む辛い稼業でありました。週1回90分という全く足りない時間の中、「これだけ高い買い物したんだから、成績上げてもらわないと困るのよッ」という、親御さんの突き刺すような視線を浴びつつ悪戦苦闘しなければならないのです。しかも、その“高い買い物”は全く役に立たず、いちいち駒木が自作の教材を作って教えなければならない始末。
 これではいくら時給2000円とはいえ、果たして割に合うのかどうか微妙な状態。何しろ勤務時間が短いので、時給2000円といっても大した稼ぎにはならないのです。クルマで生徒宅まで往復1時間かけて行ったら仕事中に駐禁のステッカーが貼られてしまい、1ヶ月分の月謝を兵庫県警に強奪された事もありました。
 せめてもの救いは、担当した生徒が一応希望した高校に合格し、親御さん共々喜んでもらえた事でしょうか。マン・ツー・マンの指導ですので、嬉しさもひとしおでありました。
 あと、良からぬ事を考える男子受講生諸君に付け加えて言っておきますが、派遣会社経由の場合、男の家庭教師には男の生徒が振り分けられるのが常です(親御さんが一応心配して指定するケースが多い)ので、あまりソッチ系の期待はしないように戒めさせて頂きます。
 よしんば邪な願いが叶ったとしても、そこで可愛くて性格も良くて自分を好いてくれるような女の子が生徒になる確率は、イクラから立派な鮭に成長して生まれ故郷に戻ってくる程度のものであります。せいぜい、「『三人姉妹を担当』と聞いて喜び勇んで行ったら、森三中みたいな三姉妹だった」……というのがオチであります。夢はあくまで夢。だからこそ美しいのかも知れません。

 ……などと、下司な話題を小奇麗にまとめてみたところで、今日は時間となりました。この話題、思ったよりも長話になりそうなので、2〜3回に分けてお話することにします。では、また次回をお楽しみに。(次回へ続く

 


 

12月19日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(12月第3週分)

 「M−1」×「コミケ」問題も解決に近付き、ようやく平常業務に専念できそうです。色々な意味でホッと一息といったところですね。

 さて、そんな中で今週の現代マンガ時評です。

 ビジターの皆さんのためにこの講義の内容について紹介しますと、このゼミは毎週木曜日に実施し、その週発売の「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」の2誌を中心に、新連載や読み切りの作品に対してレビューを行うというものです。また、それに付随する形で、「ジャンプ」、「サンデー」関連の情報や、“チェックポイント”なる雑感中心のコーナーも設けています。
 そしてレビューに関しては、普通の感想から更に一歩踏み込んで、内容についてかなり詳細に掘り下げるようにしています。ちなみにレビューの方針は、
 「基本的には極力客観的に。ただし、譲れない部分は独自の価値観で」
 ……といったところ。複数存在する見方の中の1つとして認識して頂けると幸いです。

 では、今日も情報系の話題からまいりましょう。
 まずは「少年サンデー」系の月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」9・10月期分の結果発表がありましたので、受賞者・受賞作を紹介しておきます。

少年サンデーまんがカレッジ
(02年9・10月期)

 入選=該当作なし
 佳作=該当作なし

 努力賞=3編
  ・『BOAR』
   林亮吾(19歳・福岡)
  ・『SWIM!』
   渋谷政美(24歳・長野)
  ・『1on1』
   新野武仁(26歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  
・『PEACEFUL』
   田中裕介(23歳・新潟)

 同時期に「新人コミック大賞」があったとはいえ、2ヶ月合算でこの結果というのは、やや低調と言うべきでしょうか。

 「サンデー」と言えば、どうやら『金色のガッシュ !!』作画:雷句誠)のアニメ化が内定した模様です。次号の“重大発表”で詳報がリリースされるようなので、ファンの方は特に注目ですね。
 また、「サンデー」6号(03年1月7日発売号)から新連載となる安西信行さんの新作は、『MAR(メル)』という題名だと判明しました。予告のカットから判断するに、恐らくはファンタジー系の作品であると思われます。ファンタジー……う〜ん、一抹の不安が(苦笑)。まぁ、安西さんは世間で思われているよりも実力のある作家さんだと思いますので、駒木個人としては期待度の方が高いんですけどね。

 一方、「週刊少年ジャンプ」では、次号(5号)から前・後編の読み切り・『はじめ』作:乙一/画:小畑健)が掲載されます。「ジャンプノベル」出身の売れっ子小説家・乙一さんと『ヒカ碁』の小畑健さんによる強力タッグと言う事で、これは注目と言えるでしょう。
 しかし、小畑さんは『ヒカ碁』の取材休み中にこれを執筆ですか。いくらネームを切る時間が省かれているとは言え、よく働きますなぁ(笑)。『アイシールド21』の単行本おまけページ21Pも驚きましたが、こちらも凄い話です。

 
 ……さて、それではレビューとチェックポイントに話題を変えましょう。今週のレビュー対象作は2作品。「ジャンプ」の連載第3回後追いレビュー1本と、「サンデー」の新連載レビュー1本ですね。また、“チェックポイント”も併せて実施します。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年3.4合併号☆

 ◎新連載第3回『グラナダ─究極科学特捜隊─』作画:いとうみきお【第1回掲載時の評価:B−

 「ジャンプ」では打ち切りか否かを占うターニング・ポイントとなる第3回時点でのレビューですが……。

 まだこの時点においてでも、第1回で指摘した、読者に感情移入させる力の不足が未だ響いているような気がします。
 キャラクターの造型が甘いのか、それともただの説明不足か微妙な所ですが、相変わらず主要キャラ2人の描写が深い所まで踏み込まれておらず、どうにも彼らに感情移入がし難くなっています
 しかも、その状態で第2話や第3話の冒頭に日常ドタバタ系エピソードを持って来てしまったので、更に読者に対して違和感を感じさせる結果になってしまったように思えます。

 また、主人公に与えられている分子を分解する力(というか、超科学アイテム)が余りにも便利すぎて、立ち塞がる障害が全て呆気なくクリアしてしまうのも問題と言えます。簡単に言うと、ストーリーのヤマ場が全く作れないんです。
 この状態を打開するための策として最適なのは、同じくグラナダの超科学をマスターした敵キャラを登場させる事でしょう。恐らくは作者のいとうさんも考えてると思うんですが、今の話の展開ではその前に打ち切られてしまいそうな気がしてなりません(苦笑)。
 
 現時点での評価はB−。余程ダイナミックな“大化け”が無い限り、浮上は難しいのではないでしょうか。

  

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『テニスの王子様』作画:許斐剛【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 許斐さんの話作りって、とにかく強調するべき所を極端なまでに強調するんですよね。だから、あまり複雑な話に慣れていない小学生くらいにはメチャクチャ分かり易いんでしょう。
 ただ、逆に言えばそれは“陳腐”に転落しかねないものですから、それがストーリー重視派の読者には悪い印象を与えたりする原因なのではないか……と言う事に今更ながら気付いてみたり(笑)。
 こんな言い方どうかと思いますが、「名作になり得ない人気作」という肩書きが似合いそうな作品ですよね。作風は随分違いますが、『焼きたて !! ジャぱん』なんかもそういう作品だと思います。


 ◎『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 一応これで修行編は終了ですかね。まぁ、間延びさせないためにはこの辺りが限界でしょう。
 しかし、この人は真面目な話を描いてるより、純粋なコメディ描かせた方が良い感じがするんですが。一度、青年向けの日常生活物コメディとか読んでみたいんですが、どんなもんでしょうね。

 ◎『ピューと吹く! ジャガー』作画:うすた京介【開講前に連載開始のため評価未了/雑感+α】

 赤塚賞の受賞者さんが運営するウェブサイトで書かれていたんですが、この作品の担当さん(=受賞者さんの担当)が、「最近はハマーをオチに使いすぎたので、しばらくはジャガーとピヨ彦中心で行く」…と言っていたそうです。結構バランス考えてるんですねぇ。
 ちなみに、うすたさんはネームに4日かけて、それから2日強のブッ通しで作画をするそうです。で、6時間仮眠を摂って次回の打ち合わせをするのだとか。そりゃあ原稿落ちるのも仕方ないですね(苦笑)。やっぱりギャグマンガ描きは魂を削る仕事だなぁ。

 

☆「週刊少年サンデー」2003年2号☆

 ◎新連載(短期集中)『少年サンダー』作画:片山ユキオ

 今週から「サンデー」お得意の短期集中連載がスタートしました。人気次第で「打ち切り」、「増刊へ左遷」、「本誌で本格連載」…と運命が分かれていくシビアなプレゼンテーション企画です。
 作者の片山ユキオさんは、『烈火の炎』安西信行さん『金色のガッシュ !!』雷句誠さん、そして『美鳥の日々』井上和郎さんと同じく、藤田和日郎さんのアシスタント出身の若手作家さんです。ここ最近は増刊を中心に活躍していましたが、この度ようやく週刊連載のチャンスを掴む事が出来たわけですね。

 ……では、作品の内容を観ていきましょう。まず絵柄ですが、これは「サンデー」のギャグ作家さんの中では達者な方ではないかと思われます。色々なパターンの描き分けも出来るようですし、ギャグマンガを展開させていく上では十分な力があるでしょう。

 しかし肝心のギャグの方は、“手数”こそ多いのですが、そのことごとくにおいてインパクトが弱いような気がしてなりません。典型的なボケ・ツッコミからシュール系のギャグまで、こちらも色々なパターンのギャグを披露していて、テクニシャンぶりは窺えるのですが、そこで止まってしまっています
 何度も読んでみて分かったのですが、この作品のギャグはどうも間が悪いんですね。もっと言えば間の“タメ”が効いていないんです。ネタ振りの効果が出始める前にギャグを出してしまうので、ギャグというギャグが上滑りしてしまっているんだと思います。

 第1回を見た時点での評価はB−といったところ。ミもフタもない言い方ですが、雷句誠さんや井上和郎さんと同門なのに、どうしてここまでギャグ技術に差が出てしまうのか、不思議でなりません。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『金色のガッシュ !!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため、評価未了/雑感】

 す、凄いっスね、12人の刺客……(笑)
 それにしても今回はいつもより輪にかけてギャグが決まってましたなぁ。アニメ化が決まってノリノリだったんでしょうか。

 ◎『KATSU!』作画:あだち充【開講前に連載開始のため、評価未了/雑感】

 えーと、ボクシングシーン、どっちがどっちだかメチャクチャ区別がつき難いんですが……(汗)。なんだか、『A・O・N』を髣髴とさせる分かり難さですね。ボクシングって同じような体格の選手同士の試合になるんで、これからも大変そうだなぁ……。

『いでじゅう!』作画:モリタイシ【第3回時点での評価:A−/雑感】

 ふ、藤原痛そう……(脂汗)。だってタマの裏ですよ、タマの裏! 女の子にはワカランのだろうなあ、あの痛みは(苦笑)。

 ◎『きみのカケラ』作画:高橋しん【第13回掲載時の評価:B−/雑感】 

 ついに掲載順が“打ち切り権利獲得”の最後尾まで転落。やっぱり人気が無いんでしょうねぇ。
 この作品については、「OHP」さんが12月18日の日誌で物凄く的確な分析をされているのでそちらを参照して頂きたいんですが、このまま行くと物凄い看板倒れ作品として名を遺してしまいそうですね(苦笑)


 ……と、いったところで今週のゼミはここまで。講義の実施が遅れて申し訳有りませんでした。来週は『ワイルドライフ』の第3回後追いレビューを中心に、色々やってみたいと思います。では。

 


 

12月18日(水) ギャンブル社会学
「toto(サッカーくじ)売上げ低迷、その原因を探る」(6)

※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回

 未だ昨日以来のアクセス急増の波が続いているようですが、今日から平常通りの講義を再開します

 低迷が続くサッカーくじの問題点を挙げつつ、既存のギャンブルとの比較検討を行っているこの講義、本日の第6回では、カジノ系ギャンブルの分析とサッカーくじとの比較検討を行います。
 一見、日本では馴染みの薄そうなカジノ系ギャンブルですが、東京都が公営カジノ開設を目指し都庁で模擬カジノを開催するなど、近い将来日本にも大規模なカジノが開かれる可能性が高くなっています。また、都市部を中心に非合法なのを承知で小規模なカジノが開催されているのも確認されていますし、ここで他の既存のギャンブルに準じた扱いをするのは妥当と考えています。

 ただ、カジノ系のギャンブルは相当の種類があり、国・地域によってルールが若干異なったりしますので、今回はラスベガスのホテル内カジノを想定し、ギャンブルの種類も日本人に馴染みの深いスロットマシーン、ルーレット、ブラックジャック、バカラに限定して分析・比較検討を行う事とします。

 比較検討の対象や方法に関しては、第3回のレジュメを参照して下さい。

 ※参考資料(駒木によるサッカーくじの特徴一覧)

  一獲千金 達成感 期待値 戦略性 中毒性 とっつき易さ サービス
サッカーくじ 極低 極低
サッカーくじ
(理想型)
極高 極低

 


(6) カジノ系ギャンブル(スロットマシーン、ルーレット、ブラックジャック、バカラ)

  一獲千金 達成感 期待値 戦略性 中毒性 とっつき易さ サービス
スロットマシーン ※1極高 ※2 極低 極高 極高
ルーレット 極高
ブラックジャック 極低 極高 極高
バカラ 極低 極高 極低 極高
※1…機種によっては“中”〜“高”程度の場合も。
※2…機種やレートによって異なる。

 1.“一獲千金”性

 ●スロットマシーン
 カジノ系ギャンブルで最も“一獲千金”性が高いものが、このスロットマシーンでしょう。「ジャックポット」と呼ばれる大当たりが出た場合、条件次第では最高で数百円が数億円に化ける場合があります
 カジノのスロットマシーンは、「機械仕掛けのインスタント・ジャンボ宝くじ」みたいなものであると考えれば良いでしょう。

 ●ルーレット
 ルーレットで最も高配当が望める賭け方は、「ストレート」と呼ばれる、38個あるうちの1つの数字に賭けるもので、的中した場合はチップが35倍になります
 35倍という倍率は一見高そうに思えますが、競馬で35倍と言えばただの中穴馬券ですから、一獲千金を狙うギャンブルとしてはお粗末なものでしょう。大金を稼ぐ場合には莫大な賭け金が必要となるはずです。

 ●ブラックジャック
 このギャンブルでは、勝てば賭け金は2倍に、“ブラックジャック”(=カード2枚で21点になること)で勝てば2.5倍になって戻って来る…というルールになっています。ですから“一獲千金”性は極めて低いと言えます。後でも述べますが、ブラックジャックはセオリーに従って一進一退を繰り返しながらコツコツと稼ぎを得るゲームです。

 ●バカラ
 架空の2人(プレイヤーとバンカー)がオイチョカブをし、その勝ち負けを当てる…というのがバカラというギャンブルなのですが、賭け方は3種類あります。
 その中で倍率が高いのは“タイ(引き分け)”の9倍ですが、これは期待値が低いためにあまり好まれません。ほとんどの賭けは、当たれば賭け金が1.95倍になる“プレイヤー(の勝ち)”か、賭け金2倍の“バンカー(の勝ち)”のどちらかで為される事になります。よって、このギャンブルも“一獲千金”性は極めて低いです。
 

 2.達成感喚起力

 ●スロットマシーン
 先程も述べましたが、スロットマシーンはインスタント(スクラッチ系)宝くじみたいなものです。ですから外れるのが前提で、時々“小当たり”があり、ごくごく稀に「ジャックポット」になる…といった感じです。
 よって、スロットマシーンの達成感喚起力も、スクラッチ系宝くじ並みの「低」が妥当と思われます。

 ●ルーレット
 “一獲千金”性が低い分だけ勝利度数も多く、かなりの達成感喚起力が期待できます。また、ルーレットの玉が思い通りの番号に入った瞬間のカタルシスは相当のものであるはずです。

 ●ブラックジャック
 1ゲームにかかる時間とその間隔が短い上、ほぼ2回に1回は勝てるようになっているのがブラックジャックです。なので、1回1回の達成感はそれほど高くなくても総合的にはかなりの達成感喚起力であると評価できます

 ●バカラ
 ブラックジャックと同様、勝利する頻度が高いのが特徴です。
 また、カードを“絞る”(=自分の賭けた側の2枚目・3枚目のカードを、裏から表にジワジワとひっくり返す行為)時の緊張・興奮と、それが勝ちになった時の快感・達成感は特筆すべきものです。

 
 3.資金の回収期待値

 ●スロットマシーン
 スロットマシーンでは、レート(=使用するチップの額面)が高ければ高いほど期待値は良くなるように設定されています。誤差はあるでしょうが、1枚5セントの機械で90%前後、1枚25セントの機械で94%前後、1枚1ドルの機械で97%前後という認識が一般的です。
 100%を割っている以上は、「ジャックポット」でも出ない限りいつかは負ける事になりますが、ギャンブルとしては高めの期待値だと言えます。

 ●ルーレット
 期待値はルールによって異なり、アメリカン式の場合では94.74%、ヨーロピアン式(“00”が無いのでプレイヤー有利)では97.3%となります。これもギャンブルとしては高めの期待値でしょう。

 ●ブラックジャック
 後に述べます基本戦略をマスターする事が前提ですが(余程の初心者で無い限り、ブラックジャックのプレイヤーは基本戦略を知っています)、その場合は期待値が99%程度となります。ほぼイーブンの勝負が出来るというわけです。

 ●バカラ
 「プレイヤー」または「バンカー」に賭けた場合は98%台後半の期待値です。「タイ」だと85%台後半になりますが、ここまで不利が明らかだと賭ける人はほどんどいないでしょう。これもギャンブルとしては、かなりプレイヤー有利な期待値と言えます。
 
 4.戦略性

 ●スロットマシーン
 原則として運任せなので、極めて戦略性は低いです。

 ●ルーレット
 これも基本的には運任せなのですが、賭け方のバリエーションが多彩なため、運と関係無い部分の駆け引きも若干ながら存在します。

 ●ブラックジャック
 まずブラックジャックには、確率論に基づく基本戦略(セオリー)があり、プレイヤーがとるべき最善策を知ることが出来ます。また、「カウンティング」と呼ばれる必勝法が存在します。故に、戦略性は極めて高度です。
 ブラックジャックは何セットかのトランプをまとめてシャッフルして使用し、使用済のカードは全て廃棄してしまうので残りのカードに偏りが出来ます。この偏りを利用し、プレイヤーに有利な局面だけ賭け金を増やすのが「カウンティング」です。
 この必勝法を活用すれば、期待値は100%を超え、長期的に観て必ず黒字とする事が出来ます
 ただし、カジノ側は「カウンティング」をしにくい状況を作ったり、露骨な「カウンティング」をする客を出入り禁止にしてしまったりして自衛しています。逆に言えば、このような“網”を潜り抜ける事も戦略の1つでしょう。

 ●バカラ
 バカラにおいて客が出来ることは、結果を運に任せて賭けるだけです。言わばトランプを使った丁半バクチのようなものだと考えてください。よって、戦略性は極めて低いのです。

 5.中毒性

 ●スロットマシーン
 ●ルーレット
 ●ブラックジャック

 これらの種目は負けた場合の屈辱感があまりなく、達成感との落差が小さいため、それほど中毒性は高くありません。ただし、1ゲームに要する時間とゲームごとの間隔が短かったり、そもそもカジノは年中24時間営業だったりしますので、ギャンブル中毒にかかりやすい環境が整っているとも言えます。

 ●バカラ
 達成感が高く、負けた場合との格差が大きいのでしょうか、バカラ賭博には特に熱心で中毒的な愛好家が存在します。それで財産を使い果たしたり、犯罪に手を染めたりする人間もいますので、中毒性は他のカジノ系ギャンブルより高めであると考えられます。

 6.とっつき易さ

 ●スロットマシーン
 チップを機械に投入してレバーを引く。これがスロットマシーンの全てです。これほど初心者向けのギャンブルも少ないでしょう。

 ●ルーレット
 ルーレットもルールは単純明快です。いくつかのパターンの賭け方と、賭ける際のチップの置き方さえマスターすれば、もうルーレットの基本は習得したも同然です。このギャンブルも随分ととっつき易いものであると言えます。

 ●ブラックジャック
 勝つためには、基本戦略だの「カウンティング」だのと覚えないといけない事が多いゲームですが、ただ始めるだけならばルールは簡単です。ほんの数分で最低限のルールを把握し、ゲームに参加する事が出来るでしょう。

 ●バカラ
 要は「2つあるうちのどっちが勝ちますか?」…という当てモノのゲームなのですから、非常に簡単です。バカラも非常にとっつき易いゲームと言えるでしょう。


 7.ファンサービスの充実度
 ラスベガスの大手ホテルにあるカジノの場合、年中24時間営業の上、ドリンクはアルコール類を含めて全て無料(厳密に言えば、1杯あたりチップ1ドル必要ですが)というサービスぶり。
 また、ある程度以上の賭け金を出す客には“コンプ”と呼ばれる各種特典がつきます。ホテル内での食事無料券から始まって、ホテル宿泊費無料、さらには次回ホテル代&往復飛行機代無料というものまであります。カジノはギャンブル運営のプロである以上に、顧客サービスのプロでもあるのです。

 ◎総括及びサッカーくじとの比較◎
 スロットマシーンのような“一獲千金”型ギャンブル、ブラックジャックのような“戦略性”型ギャンブル、バカラのような“中毒性”ギャンブルと、とにかく様々なタイプの客のニーズに応えられるのがカジノの強みでしょう。また、期待値の高さととっつき易さ、さらにラスベガスのサービスの良さは最強クラスです。
 カジノとサッカーくじを比べてしまうと、サッカーくじには「サッカー好きにお薦めかも」というポイントしかウリが無くなってしまいます。昔のゲーム雑誌でクソゲーの紹介する文章みたいなものですね(笑)


 ……というわけで、以上でサッカーくじと各種ギャンブルとの比較検討が終わりました。次回はこれを踏まえてサッカーくじの展望と改善すべき点を指摘してゆきたいと思います。恐らく次回で最終回ではないかな…と考えています。それでは今回はここまでです。(次回へ続く

 


 

12月16日(月) 集団心理学特殊講義
「悪夢の同時開催 !? 12・29“コミックマーケット”VS“M-1グランプリ”in有明」

 まず始めにお断りから。
 今日の講義は、いつもと違ってエンタテインメントの要素は極力削っています(とはいえ、あまり深刻なムードにするのもどうかと思いますので、少々ノリは軽くしてますが)
 内容はどちらかと言うと啓発に近いものになると思います。人によっては「駒木のくせに生意気だ」…とジャイアニズムを喚起されてしまう方もいるかと思いますが、こちらは真剣にやってますので、どうか何卒
(追記:既にお問い合わせを頂いておりますが、このウェブサイト及びコンテンツはリンクフリーです。お役に立てるのならば、どうぞ遠慮せずに他の方に紹介してあげて下さい。ただし、リンク時に併記する文章には十分留意してください。不謹慎な語句が混じっていると、意図が十分に伝わりません)

追記その2《12/18》:本日の夕方ごろ、「M−1グランプリ」の公式サイトトップページが更新されました。その内容を読む限り、どうやら「M−1」サイドも本腰を入れて警備・安全対策に乗り出した模様です。このまま事態が良い方向へ向かえば、以下のコンテンツで懸念したような事態が発生する可能性はかなり少なくなると思います。(ただし、ゼロではありません)
 しかし、今回の両イベントは不確定要素が多いものである事は確かですし、早朝から午前中にかけに激烈な混雑が、また夜から未明にかけて治安の悪化が発生する事も事実ですので、『コミックマーケット』当日の事情をご存知ない方は、是非ともこの機会に“予習”されることをお薦めします。

追記その3《12/23》:駒木宛に届いた苦情のメールによりますと、このコンテンツの内容を確信犯的に悪意をもって曲解し、「コミケ」や「M−1」に来場しようとしている人たちに「有明に行くとコミケ参加者にレイプされるぞ」等といったデマを流布し、「M−1」の開催妨害を企む悪質な輩がいるようです。
 しかし、このコンテンツの意図「『コミケ』と『M−1』を平穏無事に終わらせるためにはどうすれば良いのか?」という点にあります。当然の事ながら、イベントを妨害するような悪辣な連中と駒木は一切の関わりを持ちません
 来場予定の皆さんは、くれぐれも冷静な対応をするようにして下さい。恐怖心に煽られる事無く、予測される危険だけを認識されるように宜しくお願いします。


 ──さて、皆さんは「M−1グランプリ」というイベントをご存知でしょうか?

 この「M−1グランプリ」(以下:『M1』と略)は、結成10年未満のコンビを対象にした漫才のプロ・アマオープン大会で、数次にわたる予選と決勝大会を勝ち抜いた優勝者には賞金1000万円が贈られるという、業界最大の“漫才競技会”です。
 昨年の「M1」では、コンビ結成10年目のため最初で最後の挑戦となった中川家が、決勝大会の出番順抽選で絶対不利と言われるトップバッターを引きながら劇的な優勝。イベントの特異さや、異様なまでに緊張感溢れる出演者の姿なども含めて大きな話題を呼びました。
 そして、その後に中川家がTVや演芸界でブレイクした事から、早くも業界内では“芸人の出世階段”として認識されるところとなり、第2回となった今年も予選の段階から白熱した戦いが展開されたのです。
 また、出場者の多くが20代の若手芸人である事から、若い女性を中心としたお笑いファン層の関心もここに来て急上昇。審査会会場では徹夜組まで出るほどの大盛況で、決勝大会を前にして早くも大会の成功は保証されたかのように思えました。ここだけの話、駒木も決勝大会を非常に楽しみにして待っており、松竹芸能の2コンビ(ますだ・おかだ&アメリカザリガニ)に天下を獲らせてやりたいと、切に切に願っておりました。

 が。

 今年の「M1」決勝大会の開催日と会場が発表になった瞬間、突如としてイベントの成功が危ぶまれる事態となってしまいました
 いや、一イベントの成功云々を言っていられる状況ではなくなってしまったのです
 なんと今年の「M1」決勝大会は、12月29日に、東京有明のビッグサイトから程近くにあるパナソニックセンター・及び付設特設会場で行うというのです。しかも5000人の客席を作って、大会を盛り上げようとしているのです。
(追記:後にも述べましたが、『5000人の客席』というのは未確認情報と判明しました。しかし、若手芸人のイベントは集客力がありますので、大勢の来場者があっても驚けません)

 12月29日。
 有明のビッグサイト(から程近く)

 鋭い方はもうお分かりでしょう。そう、これらは日本最大規模の同人誌即売会・「コミックマーケット」(以下「コミケ」と略)が開催される日付と場所であります。

 “ソチラ系”の話に疎い方にはピンと来ないでしょうが、「コミケ」というイベントはとんでもないイベントなのです。

 まず、年々増加している参加者の数は、現在3日間開催で約50万人1日あたりでも15〜20万人という恐ろしい数に膨れ上がっています。GLAYの10万人コンサートを規模拡大して3日間連続で開催するようなもの、又は日本代表が出場するサッカーW杯決勝を3日連続で行うようなもの……と言えば、幾らかは正確な有様が想像出来ますでしょうか? 

 しかも「コミケ」は、最悪でも始発電車に乗って開場を待たなければ有名作家・サークルの同人誌は売り切れ必至とあって、開催日の会場前には徹夜・半徹夜組の行列が連日7万人以上の大群となって周囲を埋め尽くします。
 その行列は10時に開場となってからも一向に解消する事なく、最終的に全員が入場出来るのは13時前後という状況になります。もうこれはちょっとした民族大移動です。
 それだけではありません。その間の5〜10時間、7万人以上が立ちっ放しになったり、歩いたり、会話したり、飲み食いしたり、尿意や便意を催したり、体調不良を訴えたり、挙句の果てには昏倒したりするわけですから、当然ながら大小の混乱も生じます
 まず携帯電話は不通状態(今回はNTTのアンテナ車が出ますが、効果は未知数)周囲のコンビニは20分以上の入店待ち(!)。そしてトイレは最高1時間半待ち「トイレ待ち、ここが最後尾です」の札が出る始末。倒れた人を収容する救護所は野戦病院を彷彿とさせます。それより何より、7万人以上が一斉に移動し続けるわけですから、絶えず将棋倒しの危険性が伴います。

 問題が発生するのは会場周辺だけの話ではありません。都心部から有明までを繋ぐ輸送機関もパンク状態となります
 まず有明に乗り入れている私鉄各線は、始発を繰り上げて増発までしますが、早朝から延々と乗車率は200%以上。主要各駅の構内は改札からホームプラットに至るまで満杯状態で、人がいつ線路に転落してもおかしくない状況。まさに終戦直後の買出し列車の様相となります。(追記:りんかい線の情報をメールで頂きました。既に色々なサイトで話題になっているみたいですが、こちらを参照して下さい。なお、りんかい線は今回“初めて尽くし”らしいですので、何が起こるか分かりません。何も起こらない事を祈る一方で、別の交通機関の利用を検討してください。)
 都バスの乗り場や車内も修羅場です。廃車寸前の予備車両定年退職した元運転手を召集してまで、加藤鷹真っ青のピストン運動……じゃなくてピストン運送を展開するのですが、それでも東京駅前には乗車待ちの人たちが、僅かなパンの販売を待ち続ける旧ソ連のモスクワ市民の如く1kmほどの列を形成します。勿論、バスの中はギネスブックに挑戦してるのかと思うくらいのスシヅメ状態です。 
 自家用車での来場などもっての他。まず会場付近は渋滞が発生しますし、第一、数千〜数万台を収容する駐車場など、あと数十年分のゴミを埋め立てない限りは確保できない事でしょう。

 この他にも、文字通り足の踏み場も無くなってしまう会場内の様子も描写したいところですが、これは今回の件と直接関係無いので省略します。

 ……とにかく、「コミケ」開催当日(または前夜)の東京はこのような状況です。
 これまでの「コミケ」では、危機管理思想の行き届いた数千人規模( !! )のスタッフがしっかりと管理・運営を行っている事や、幸運に恵まれていたが故に惨事には至っていません。が、多くの参加者が「いつ死人が出てもおかしくない」と言ってはばからない程の状況が毎回続いており(実際にそうなのですが)「死人が出た時が『コミケ』の終わり」という悲壮な覚悟の元でタイトロープなイベント運営が行われているのです。
 
 そんな所で、「M1」の決勝大会が5000人の観客を集めて、しかも公開生放送付で開催されようとしているのです。しかも恐ろしい事に、この特設会場は、通常「コミケ」入場待ちの行列が集中する部分を占拠して設営されると言うのです。
(追記:『M1』の観客が5000人というのは、どうやら未確認情報の模様です。ただし、大阪でも若手芸人限定のライブに万単位の人が集まる事がありますので、『5000人も集まらない』というわけでは決してありません。そこのところを誤解しないようにお願いします。)

 これ、どう思われますか?

 
 ……まぁ、まず真っ先に考えるのは、
 「よく、こんな時と場所に公開イベントをやる気になったよなぁ」
 ……というところなのですが、どうやら驚いた事に、「M1」側はコミケの存在そのものを失念していたのではないかと強く疑われています(スポンサーであるオートバックスの広報担当者がそう認めたとの未確認情報有)。確かに、そうでもなければ年末の有明でイベントなどやろうとするわけがありませんが、いやしくも吉本興業主催でTV局も一枚噛んでこの状況…と言うのは余りにもお粗末過ぎると断言して良いでしょう。

 しかし今回、問題なのはそんな所ではありません。「M1」を開催する事そのものが駄目だというわけでもありません。やりたいならやっても構わないのです。
 肝心な部分は、

 いつにも増して人死にが出る可能性が高くなった

 ……という事なのです。

 具体例を挙げましょう。このイベントのバッティングに伴い、以下に挙げるような混乱が生じる可能性があります

◎12/28(『M1』前日)朝から会場設営が開始されるが、その準備作業と「コミケ」初日の入場待ち行列及び帰宅組群集がバッティングし、混乱を来たす可能性が大。
 そもそも、27日深夜から酷く混雑した状況の中で機材等の搬入が出来るのかすら不透明。

 ◎12/28深夜から29日午前中にかけての「コミケ」2日目参加希望者によるラッシュに、事情を知らない「M1」鑑賞希望者(女子中〜大生が中心)が完全に巻き込まれる。タダでさえ「いつ人が死ぬか分からない」混雑なのに、そこへ“異分子”が紛れ込む事で、それこそ何が起こるか分からなくなる。最悪の場合、将棋倒し事故が発生して数百〜数千人の死傷者が出る可能性も。

 ◎12/29午後から夜にかけて、「M1」公開生放送が行われている所へ「コミケ」2日目の帰宅組が群集を成して大移動するため、混乱発生必至。ストレスの鬱積した「コミケ」参加者と「M1」鑑賞希望者の小競り合い等が発生する可能性も。(別に『コミケ』参加者やお笑いファンの素行の悪さを指摘しているわけではありません。10万人以上いたら、0.1%心無い人がいるだけで100人以上の大暴動になります。そういう事です。)

 ◎12/29深夜、「コミケ」3日目の徹夜組(3日間中ダントツで最大規模)と、「M1」終了後の滞留組がバッティングしてトラブルが発生する可能性有り。

 ◎12/30未明から「M1」の撤収作業が開始されるが、「コミケ」3日目の入場待ち組&帰宅組・延べ数十万人の群集を相手に、大混乱は必至。最悪の場合、作業の延期も。

 ……ざっと考えられるのは以上ですが、やはりダントツでヤバいのは2番目の12/28深夜〜翌29日午前の混乱でしょう。
 幸運にも死者・負傷者が出なかったとしても、準備不足で会場入りした「M1」鑑賞希望者の中で体調を崩す人は当然出て来るでしょう。何しろ冬の有明は街中よりも気温が2〜3度低い厳寒地帯なのです。その上、食糧補給もトイレもままならないのですから、体調を崩さない方がおかしい位です。しかし、これまでの「M1」側の姿勢を鑑みるに、そういう人たちの面倒を看てくれるような期待は全く出来ません
 そうなると、自然と「コミケ」側が用意した救護施設を利用する事になるのでしょうが、それでも対応しきれるかどうかは未知数です。「M1」組の病人にかかりきりで「コミケ」組の病人に対応出来ない…などといった本末転倒な結果すら起こらないとは限らないのです。

 ──では、これらの懸念される事態をどうしたら防げるのでしょうか?

 最も手っ取り早いのは、「M1」か「コミケ」かどちらかを中止する事、せめて「M1」の屋外ステージだけでも断念する事でしょうが、当然ながらこれは無理な話です。
 準備不足が明らかな「M1」ですら恐らく半年前から「コミケ」に至っては2年前から会場を仮押さえして準備を重ねて来ているわけですから、この期に及んで中止ともなれば、別の意味で人死にが出かねません(笑)。

 ならば、せめて警備体制の強化を図る事でしょうが、定期的に綿密な打ち合わせを重ねている「コミケ」側のスタッフたちはともかくとして、危機管理意識が薄い「M1」側が真剣に警備員増強などの手段を講じるかどうかは全く不明です。
 よしんば警備員が増強されたとしても、ロクに状況も知らないアルバイトだけ増やして結局足手まとい…という可能性の方が高いです。「M1」側は「安全です。大丈夫です」と強調していますが、そんなの屁のツッパリにもなりません昨年夏の明石で起きた将棋倒し事故も似たような状況で起きているのです。本当に警備がシッカリしているなら「危険ですから気をつけて」と言うはずです。事実、危ないのですから。

 では、事故を防ぐためにはどうしたら良いのでしょうか?

 答は1つ「コミケ」「M1」双方の参加者・観客が危機意識を自覚して、自らの安全は自分で確保する覚悟で有明を訪れる事。これしかありません。

 「コミケ」に来場される皆さんは、“「コミケ」慣れ”している方も含めて、いつも以上に緊張感を持って行動して下さい。勿論、運営スタッフやベテラン参加者の指示・助言に従う事は言うまでもありません
 当たり前の事ですが、トイレ等の施設は順番を守り、時には譲り合って使用しましょう。特に女性の方は前日から水分を控え、会場入りまでトイレに行かないで済むように対策を立てておきましょう。今回はいつにも増して女性が多いので、トイレ2時間待ちなどという事態も有り得ます。
 また、「M1」組の中には事情を知らない人がたくさんいます。余所者だと疎外しないで、必要とあらば助けてあげましょう辛いのはお互い様です。

 そして「M1」鑑賞希望者(特に女子中高生)の皆さんへ。
 まず、ミもフタも無いことを言うようですが、ちょっとした好奇心だけで有明に行こうとするのは止めてください下手すると死にます。行きたいなら行っても構いませんが、絶対辛いと思います。ほぼ間違いなく、家でTVを観ていた方がじっくりイベントを楽しめます
 どうしても行くんだ。自分が好きな芸人さんを応援したいんだ! …と言う方は、万全の準備をして会場入りして下さい。出来るだけ薄くて暖かい服を重ね着し、カイロを完備し、食料・水分は家から持参して下さい。当然、トイレ対策も考えておかなければなりません。
 あと、「コミケ」側スタッフの助言や指示には必ず従って下さい。「お前らと関係ねえよ」と思われるかも知れませんが、彼らは少なくともあなたよりも現地の事情を詳しく知っています。エベレストのシェルパみたいなもんです。あなたは「M1」の観客であると同時に、「コミケ」会場のビジターであることを忘れないで下さい
 あと、これは「コミケ」組と共通の忠告ですが、現場は民家がほとんど無く、夜9時10時ごろから治安が急速に悪化します。下手すれば夜中の新宿歌舞伎町よりタチが悪いです。「コミケ狩り」と呼ばれるクズのような恐喝グループが跋扈してますし、今年は「M1」徹夜組の女子学生を見込んだレイプ魔の出現すら懸念されています。若い女性は単独行動を避け、出来るならエスコート役の成人男性を同伴する事をお薦めします
 また、小さいお子さんやご老人と一緒に来場するのは避けて下さい。万が一の時、真っ先に命が危ぶまれるのが子供と老人です。

 ──以上の事を、全ての参加者・観客の皆さんが守ってくだされば、事故やトラブルなどは一切起こる事は無いと思われます。どうか、責任を他者に転嫁する事無く、自分の身と自分の愛するイベントは自らの手で守り抜く覚悟で臨んで頂きますよう、お願いします。


 ……ここまで色々と述べて来ましたが、駒木が願うところはただ1つ。平穏無事なるイベントの運営と遂行だけです。かつての2000年問題よろしく、「取り越し苦労でよかったね」と言って笑顔で新しい年を迎えられるよう、遠く離れた神戸からお祈り申し上げて、今日の講義を終わりたいと思います。(この項終わり)


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