「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・5)

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講義一覧

6/27(第37回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第4週分・後半)
6/25(第36回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第4週分・前半)
6/23(第35回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第3週分・後半)
6/20(第34回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第3週分・前半)
6/17(第33回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第2週分・後半)
6/12(第32回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第2週分・前半)
6/9(第31回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第1週分・後半)
6/5(第29回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第1週分・前半)
6/2 1時限(第27回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第5週分・後半)
5/27(第25回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第5週分・前半)
5/23(第23回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第4週分・後半)
5/20(第22回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第4週分・前半)
5/17(第21回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第3週分・後半)
5/15(第20回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第3週分・前半)
5/9(第18回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第2週分合同)
5/5(第17回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第5週/5月第1週分・後半)
5/1(第15回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第5週/5月第1週分・前半)
4/28(第14回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第4週分・後半)
4/21(第12回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第4週分・前半)
4/20(第11回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第3週分・後半)
4/16(第8回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第3週分・前半)
4/14(第7回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第2週分・後半)
4/8(第4回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第2週分・前半)
4/4(第2回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第1週分・後半)
4/2(第1回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第1週分・前半)

 

2003年第37回講義
6月27日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第4週分・後半)

 お約束通り、何とか週内のゼミ実施が叶いました。そのせいで談話室(BBS)の質疑応答が完全に滞ってしまっていましたが、こちらの方も来週からは可能な限り迅速な対応をして行きたいと思っています。

 さて、今週は「週刊少年サンデー」30号のレビューとチェックポイントの他に、「読書メモ」として、先日発売になった月刊増刊・「少年サンデー・スーパー」7月号に掲載された『絶対可憐チルドレン』(作画:椎名高志)を紹介させてもらいます。
 最近でこそ連載の失敗で“流浪生活”を強いられている椎名さんですが、実は知る人ぞ知る短編の名手。今回の作品もその実力がフルに発揮されたものとなりました。講義の後半部分にどうぞご注目下さい。

 ……それではまず、いつも通り情報系の話題から。今日は「サンデー」来週号の読み切りについてのお知らせです。

 来週の「サンデー」に掲載される読み切りは、先日の「小学館新人コミック大賞・少年部門」で大賞を受賞した『ゴッドルーキー』(作画:宇佐美道子)。各種増刊や系列雑誌が充実している「サンデー」では、新人さんのデビュー作が本誌に掲載される事は稀なのですが、今回は大抜擢の本誌デビューとなります。
 この『ゴッドルーキー』、「新人コミック大賞」審査員各氏の選評を総合すると、「話運びやセリフなどに高いセンスを感じさせるが、ストーリーはやや平板で課題が残る」…というもの。当ゼミのレビュー基準からすれば微妙なタイプの作品と言う事になるでしょうか(笑)。まぁ、色々な意味で注目ですね。

 ……では、「サンデー」今週号のレビューとチェックポイントへ。今週のレビュー対象作は読み切りレビューの1本のみとなります。

☆「週刊少年サンデー」2003年30号☆

 ◎読み切り『暗号名はBF』作画:田中保左奈

 ギャグ系短期集中連載も一段落つき、今週からストーリー系の読み切りシリーズが始まります。

 今週の『暗号名はBF』(=コードネームはベイビーフェイス)の作者・田中保左奈さんは、椎名高志さんのアシスタント出身の若手作家さんです。
 田中さんは、ネット界隈の一部で話題になったウェブコミック『ポカちゃんと僕』の原画を担当しており、その作者紹介に略歴が掲載されていましたので、そちらを参考にしてキャリアを紹介させてもらいます。
 田中さんは「サンデーまんがカレッジ」で佳作を受賞、さらに第35回(94年下期)「小学館新人コミック大賞」で入選を受賞し、デビュー。これまで98〜99年『ワイルドフラワーズ』02年『プレイヤー〜禁断のゲーム〜』/原作:若桑一人)の2度、増刊連載を経験しています。また、本誌には、ほぼ1年前に『プレイヤー〜禁断のゲーム〜』の読み切り版を発表して以来の登場となります。
 ご本人は略歴で「もはや若手とは言えない」…みたいな事を書いてましたが、確かに作家歴だけなら、もう既に中堅の域に突入していますね。少年誌系で週刊連載未経験の若手さんとしては、「ジャンプ」系“ベテラン若手”の霧木凡ケンさんに次ぐくらいのキャリアじゃないでしょうか。


 余談ですが、Googleで検索していたら、増刊00年8月号のラインナップが出て来たんですが、そのメンツが凄すぎます。橋口たかしさん、井上和郎さん、雷句誠さん、松江名俊さん、曾西けんじさん、片山ユキオさん連載or短期連載経験者のオンパレード。更にはかつて「ジャンプ」で、“「新人海賊杯」(世界漫画愛読者大賞の事実上の前身)2位で連載獲得→突き抜け”というディープな経歴を持つ坂本眞一さんまで。今度東京行く時、国会図書館で読んで来ようかなぁ(笑)。

 ……さて、無駄話はそこまでにしまして、『暗号名はBF』の内容について述べてゆきましょう。

 まずからですが、基本的には見栄えの良い好感度の高い絵柄だと思います。キャリアもキャリアですし、このまま即連載に突入したとしても全く問題無いでしょう。
 ただ、ペンタッチが全般的に一本調子で、ちょっとメリハリに欠けているのではないか…という事と、人物キャラの頭部が実際よりも相当大きめに描かれていて多少違和感を感じる…という以上2点が多少気になります。読む人によっては、「下手ではないんだけど、なんだか読んでて疲れる」…などと感じてしまうかも知れません。

 次はストーリー・設定に関してですが、こちらも大筋はマズマズまとまっていると思います。
 ある時は普通の中学生、またある時は日本を守る凄腕のスパイ…というアンバランスな二重生活をする主人公の日常・非日常を限られたページ数の中で上手く描写出来ていますし、“変身前”と“変身後”での容姿以上のコントラストもメリハリという面では効果的でした。

 しかし、残念な事は、
 「女スパイが主人公の色仕掛けに陥落し、機密データを奪われる→実は、接触を察知していてダミーを掴ませた→女スパイが、再度主人公の色仕掛けに陥落してギブアップ」
 ……という、シナリオで最も重要な部分にかなり無理があるという事です。
 こういうストーリーの場合、
 「女スパイ、色仕掛けに陥落→実は騙された振りをしていて、主人公が手玉に取られていた→クライマックスで主人公逆襲。逮捕・連行されてゆく女スパイが、主人公に恋している自分に気付く」
 ……なんてパターンなら(ベタですけど)自然なのですが、今回のシナリオでは、女スパイが敵襲ではなく自分が騙される事を予測していた事になってしまい、どうにも不自然なのです。
 他にも、主人公の“素”が不自然なまでにウブだったりとか(あんな環境で生活している中学2年生の少年が、性に全く目覚めてないのは異常です)サブキャラ・マジョラムが余りに作者にとって便利すぎるキャラになっている部分など、あちこちに細かいキズが目立っていて、「読み切りならともかく、これで長期連載はなぁ……」という仕上がりになってしまったのが非常に残念でした。

 ……というわけで評価。本来、ここまでまとまった作品ならA−からB+くらいの評価を出すところなんですが、やはりシナリオのキーポイントでの矛盾は大きな減点材料になってしまいます。やや辛口ながらB+寄りのBとしておきましょう。


◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「タイムスリップできるならどの時代で何をしたいか」。連載陣の皆さんは原始時代から未来までバラバラの回答。さすがは発想力溢れるマンガ家さんたちですね。
 駒木は……候補が一杯ありすぎて困ってしまうんですけどね(笑)。自分が生まれる前にあったスポーツの名勝負を生で観てみたいですし、20年前に戻って“いじめられっ子”だった自分に処世術を教え込みたいですし、10年前に戻って、初めて彼女が出来て浮かれてた自分に喝を入れてやりたいですし、5年前の自分には「麻雀やってる暇あったら歴史の勉強して小説書け」と言ってやりたいですし……って、本当にグータラだったんだな、俺は。
 あ、でも一番やりたいのは、何百年か未来に飛んで、その頃発刊されている「世界の歴史」シリーズを読んでみる事ですね。21世紀初頭の日本と世界がどんな感じで俯瞰されているのか、非常に興味があります。

 ◎『史上最強の弟子ケンイチ』作画:松江名俊【現時点での評価:B+/雑感】
 
 こういう話では、ほぼ必ず「ロミオとジュリエット」が演目になるんですよね。何故なら、それはキスシーンがあるから(笑)。
 しかも必ずヒロインがジュリエットで、美男子系のゲストキャラがロミオをやり、主人公は見ちゃいられないくらい取り乱すというのがパターンなんですよねぇ。まぁ、同じMNO(モテナイ男)として、気持ちは痛いほどよく分かりますが(苦笑)。

 ◎『MAJOR』作画:満田拓也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 先週のこのコーナーで、「これでファールってのはどうよ?」って言ったんですが、完膚なきまでにファールでしたね(苦笑)。まぁ、よく考えたらあそこでホームランだと救いが無さ過ぎますか。
 どっちにせよ、これで高校編の試合はラストマッチになるのかな? 伏線は完全に処理しちゃいましたし、ここまでで時間掛かり過ぎてますし。ここから甲子園編とか始めちゃうと、週刊誌で『なんと孫六』作画:さだやす圭)やってるような感じになっちゃいますよねぇ。

 
 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 連載開始当初と比べて、勝のキャラが変わり過ぎ(笑)
 でも、それで全く違和感が無いと言う事は、長い間かけて、地味ながら確実に勝が成長する過程を描き続けて来たからなんでしょうね。多分、“キャラクターが勝手に動き出す”というのはこういう事を言うんでしょう。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】

 ついにネットアイドルネタまで引っ張り出して来ましたかー。……ていうか、美鳥のサイトはどう考えてもバーチャルネットアイドルサイトだと思うんですが(笑)。
 人生相談のコンテンツなんか、ウチの去年の新歓祭(3000万ちゆデー)思い出してしまいました。まぁ珠美ちゃんは少しシャレの利かない子なので、あんな形になっちまいましたがね(苦笑)。

 
 ……さて、いつもの講義内容はこれで終了ですが、先に予告しました通り、今日は引き続き“読書メモ”をお送りします。

◇駒木博士の読書メモ(6月第4週後半)◇

 ◎『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志/『少年サンデー超増刊』7月号掲載

 先ほどは田中保左名さんの読み切り作品をレビューしましたが、今度はお師匠さんの番ですね。

 椎名さんはご存知、長期連載作・『GS美神極楽大作戦!!』を代表作に持つベテラン作家さん。ただ、最近はヒット作に恵まれず、現在は「サンデー」系少年誌を“行脚”して、読み切りや短期集中連載をこなしています。そして、今回の増刊登場もその一環で、今月から3回連続で読み切りを発表するとの事です。

 で、今回の3連続読み切りシリーズの第1弾ですが、これがもう、近頃の不振はどこへ行ったんだろうと言うような素晴らしい傑作でした! 
 キャラクターを構築するにあたって大事な、主観(このキャラならどう動くかという“人間性”の把握)と客観(そのキャラの動きを読者はどう受け止めるかと言う予想)の認識と、それに応じた描写がほぼ完璧に出来ていますし、ヒロインの女の子たちが、“子供の皮を被った大人”ではなく、“極度にマセた子供”に描けているのも素晴らしいです。
 また、目立たない所でも、キッチリと築き上げた世界観をわざとらしい“説明”ではなく必要最小限の“描写”で全うしているなど、普通の作家さんがしたくても出来ない事を次々とやってのけています。この作品、一見だけではトリッキーでマニア向けのように感じますが、ストーリーテリングの根底に流れている部分は見事なまでに基本に忠実なもので、これから読み切りを描こうとしている新人・新人予備軍の方たちには格好のテキストであるとさえ言えるものです。

 そして何よりこの作品の凄い所は、まだ1話目だと言うのに、既に以前いくつかのエピソードが描かれているかのような“(良い意味で)手垢のついた完成度”の高さです。既にファンサイトなどでは「この作品で連載を!」…という声も高いですが、確かにこれは今すぐにでも週刊連載で読んでみたい気持ちにさせられます

 “アンチ・アンチエスパー”といった、やや反則気味の設定など、“玉にキズ”的な要素も無きにしも非ずですが、それでもこの作品の圧倒的な完成度を揺るがせるには至りません。評価は文句ナシのA。今の所はシリーズ化の予定は無いようですが、是非とも続編、または連載化を実現させてもらいたいものです。素晴らしい作品を有難う御座いました。

 ……というわけで、久しぶりに後味の良いゼミの締め括りが出来ました。この調子で来週以降も傑作揃いだと良いんですけどね。では、ゼミはまた来週。明日は競馬学特論でお会いしましょう。

 


 

2003年第36回講義
6月25日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第4週分・前半)

 ようやく日程がほぼ正常になりました。今週の「現代マンガ時評」前半分をお送りします。

 さて、今日は情報系の話題がありませんので、早速レビューとチェックポイントへ。
 レビュー対象作は、新連載1本と新連載第3回の後追いレビュー1本の計2本です。代原読み切りとか無くて、本当に良かったと思っています(笑)。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年30号☆

 ◎新連載『武装錬金』作画:和月伸宏

 新連載シリーズも第3弾。いよいよ和月伸宏さんが登場です。先週に連載を開始したつの丸さん同様、打ち切りを喰らった後、長らくのブランクを経ての再起作となります。気分はタイトル奪回に賭ける元チャンピオンのプロボクサーといったところでしょうか。

 そんな和月伸宏さんは1970年5月生まれの33歳。そのキャリアは、弱冠16歳にして87年上期の「手塚賞」で佳作を受賞をしたところから始まります。マンガの新人賞において、若いという事はそれだけで受賞への“武器”となりますが、それにしてもかなりの“若年受賞”と言えるでしょう。
 ただ、この年齢では本格的な活動は難しかったようで、ここから数年間の空白期間が存在します。どうやらこの間に上京し、複数の作家さんの下でアシスタント修行を積んでいたようです。その修行時代中の91年には「ホップ☆ステップ賞セレクション」6巻で“仮デビュー”を果たしています。
 本格的な作家活動のスタートは92年の増刊春号での読み切り掲載から。同年の増刊冬号では後のヒット作・『るろうに剣心』のプロトタイプとなる作品を発表、これが人気を博したのか、翌年には再度プロトタイプの読み切りを本誌(93年21・22合併号)に発表し、これが連載獲得の決め手となりました。

 待望の連載は94年19号からスタートとなりました。その作品は勿論、『るろうに剣心 ─明治剣客浪漫譚─』です。
 この『るろうに剣心』は、魅力的なキャラクターや(少年誌としては)なかなか重厚なストーリー展開で上々の人気を獲得。後にはアニメ化・OVA化され、同人人気も当時の「ジャンプ」で1、2を争うものとなりました。
 『スラムダンク』終了後の、いわゆる“ジャンプ暗黒期”に突入すると、『るろうに剣心』は「ジャンプ」の看板作品としても(若干“看板”としては物足りないながらも)懸命な働きを見せ、この連載は99年43号に大団円を迎えるまで255回の長期連載となりました。

 これで売れっ子作家のポジションを確固たるものにした和月さんですが、2度目の連載作品となった『GUN BLAZE WEST』は無念の2クール・28回打ち切り(01年2号〜35号)。この時は実績作家の特権で“突き抜け”を免除されていましたので、事実上のストレート打ち切りでした。
 この作品は駒木個人の感想としても「打ち切り止む無し」というクオリティに留まり、ヒットを2度連続させる事の難しさを象徴するような打ち切り劇となりました。

 そして今回は、本格デビュー以来初となる現代劇のアクション・ファンタジーで2度目のヒットを目指します。果たしてその内容はどんなものになっているでしょうか?

 ……というわけで、『武装錬金』についてお話を進めてゆきましょう。

 まずに関してですが、絵柄そのものは以前と変わらないものの、『るろうに』の頃の荒っぽさは影を潜めて、完成度が随分と増しているような気がします。駒木は絵心が全く無い人間なので表現が難しいのですが、人物が人間っぽく描かれるようになった感じがするんですよね。
 あと見逃せないのが、マンガ的ディフォルメ表現のソツの無さ。和月さんの画風はメリハリが弱いという弱点を抱えているのですが、この表現の巧みさはそれをカバーし、更にストーリーにもメリハリを効かせていると思います。

 次はストーリー&設定に関して。
 ……目ざとい受講生の方は気付いていらっしゃるでしょうが、今回のシナリオの大筋は、実は最近の「ジャンプ」で“流行モード”になっている、「正義感溢れる主人公がその正義感ゆえに第三者の揉め事に巻き込まれ、その中で特殊能力を手に入れてパートナーと共に問題解決へ動き出す」…というものです。今年の連載作品で言えば、『TATTOO HEARTS』(作画:加治佐修)や『闇神コウ〜暗闇にドッキリ!〜』(作画:加地君也)に当てはまるパターンですね。

 しかしこのパターン、流行している割には連載の成功には結びついておらず、それどころか短期打ち切り人気低迷といった事態が相次いで発生しています。
 では、どうしてこんな現象が発生するのでしょうか? 要因は大きく分けて2つ考えられます。
 1つはキャラクターの造形不足で、主人公が“正義感溢れる少年マンガの王道的キャラ”というだけの没個性キャラになってしまったり、サブキャラ・悪役が各々の役割をこなすだけの“記号”になってしまったり…というもの。つまりキャラが設定に負けている状態なわけですね。
 そして2つ目は、シナリオの練りこみ不足世界観などの設定は完成されていても、それを活かしたエピソードが作れていない事が多いのです。こういう場合はキャラクターもこなれていない場合が多いので、“没個性なキャラが没個性なストーリーを展開する”というネガティブ相乗効果が炸裂してしまう結果になってしまいます。
 要するにこのパターンは、比較的簡単に世界観や設定を構築出来る割に、魅力あるストーリーやキャラクターを練り上げる事が難しいんですね。ギョーカイ的な言い方をすると、「編集会議のネーム審査は潜り抜け易いが、いざ連載を始めてみると、たちまち暗礁に乗り上げる」…という感じになるでしょうか。

 ──では、この『武装錬金』の場合はどうでしょうか?

 まずキャラクターの構築については、とりあえず主人公・サブキャラ共に十分な合格点をあげられるでしょう。
 決め台詞(『粋じゃねえ』とか『曲がった事が大嫌い』とか)に頼らずに主人公の“正義の味方”ぶりが演出出来ているのも良いですし、パートナー役との性格のコントラスト(“動”と“静”)もベタですが良い効果を出しています。
 また、主人公の周囲に“活動のハンデ”、または“萌え担当”となる妹キャラや、狂言回し担当の半エキストラ的なキャラクターを配置しているのもポイントが高いです。この辺りはさすがに“元・「ジャンプ」看板作家”という肩書きがダテではない事を証明していますね。

 次にシナリオの練りこみについてですが、連載第1回という事でまだ“様子見”の段階ながら、こちらもまぁ及第点は出せる出来具合になっていると思います。
 まず、登場人物のキャラクター・設定に沿った形で、しかも細かい伏線を消化させながら自然な“巻き込まれ型ストーリー”が演出出来ているのは高く評価できるポイントです。それに、この話における設定の要である“武装錬金”の設定が、「闘争本能に反応して“スイッチ・オン”」…というストレートで理屈抜きなものだったのも、やや安直とはいえ、理屈っぽくならずに済んで逆に良かったのではないでしょうか。
 ただし、シナリオの細かい部分では“狙い過ぎ”な過剰演出や、勢いに任せ過ぎて少々ご都合主義になってしまった見せ場のアクションシーンなどの減点材料も見受けられます。特に妹を化け物に食われた主人公が怒りを爆発させるシーン、この“泣かせ”のシーンが消化不良だったのが非常に惜しいポイントだったと思います。

 ……というわけで、ややキャラクター偏重で“名作崩れの人気作”に陥る嫌いがあるものの、この『武装錬金』、第1回を見る限りではマズマズの好スタートを切ったと言えると思います。余程シナリオに難が出て来ない限り、長期連載も展望できる期待作になるのではないでしょうか。暫定評価はA−としておきましょう。

 
 ◎新連載第3回『キックス メガミックス』作画:吉川雅之【第1回掲載時の評価:B−

 さて、今週からは後追いレビューもスタートです。まずは今回の新連載シリーズ第1弾の『キックス メガミックス』から。

 あまりクドクドと苦言を呈したくないので、簡潔にまとめてしまいますが、今回に至っても、2週前に指摘した問題点は全く改善されず、それどころかますます泥沼にハマっていってしまっているような感さえ窺えます。
 中でも一番マズいのは、ストーリー展開が既に間延び&ワンパターン状態に陥っている事でしょう。主人公がテコンドーの才能があるという事は第1話の時点で明らかになっているのに、それと同様のパターンが工夫も無しに3回続いてしまっています。それも第2回からは敵役の方が明らかに“良い人キャラ”のため、主人公の快進撃が全く読後の爽快感に繋がっておらず、これはもう最悪の展開と言ってしまえると思います。
 また、ここまで来てもストーリーの長期的な展望が全く見えて来ないのも問題でしょう。普通の読者はそこまで気が長くありませんし、駒木のような熱心にマンガを読み込む人間でも、作品から漂う行き当たりバッタリ感に辟易してしまいます。

 評価は戒めの意味も込めてCにダウンさせます。現在のところ、突き抜け候補一番手と考えて良いでしょう。というか、この作品を2クール以上続けさせたら、駒木は茨木編集長のセンスを本気で疑い始めると思います(笑)。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週は、読者投稿コーナー『ジャンプ団』の人気イラストコーナー・『まんが★王』があったんですが、このコーナー見ていつも思うのは、「これに出て来たキャラで本当にマンガ描いたら、メチャクチャつまんなそう」って事だったりします(苦笑)。
 何て言うか、イラストと一緒に載っている設定が、もっともらしい割には話作りに全く役に立たないものばかりなんですよね。そのキャラがどういう人間なのか、人物像が全く見えて来ないと言うか。まぁ、それを絵から読者に想像させる狙いもあるんでしょうけどね。

 『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 少し前の擬似打ち切りネタもそうでしたが、鈴木さん、自虐ネタはいつも強烈ですなー(笑)。笑えるか笑えないか微妙な小ネタを連発するより、週に1発自虐ネタをブチかませば、もっとファンが増える気がするんですが。まぁ大きなお世話ですね(苦笑)。
 ただ、私立兄御田学園なんですが、本物の真性オタクの皆さんはあんな常識的な行動はとりません。本屋で立ち読み中にボソボソっと何やら独白したかと思ったら、いきなり「ゲフゲフゲフ」と笑ったりします。まぁ、そんなマジ描写をされても、そんなマンガ絶対に読みたくありませんが(笑)。

 ◎『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今週から登場した昆虫型生物の“女王”、てっきり『レベルE』に出てたマクバク星人かと思ったんですが、容姿を見比べると微妙に違うみたいですね。まぁよく考えたら、マクバク星人はメスしか産まないので、王じゃなくて女王を産むわけですし。
 しかし今週は新キャラたちが続々と出て来たんですが、この作品のパターンとして、大量にサブキャラが出て来た直後には必ず大量の人死にがあるんですよね。う〜、おっかねぇ。

  
 ◎『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 この作品における“ヤムチャ”的ポジションの石田クンも完全勝利。しかし相手が七番隊の序列第4位ってところが、他のメンバーとの微妙な力関係を表しているようないないような(笑)
 でもまぁ、主役クラスが頭より体を動かす方が得意なタイプだけに、こういうクールなタイプがいるとメリハリがついて良い感じですね。
 しかし、「どうやら尸魂界じゃ“最強の使い手”ってのは、だらだらと御託の長い奴の事を言うらしい」ってセリフ、決まってますなぁ。このマンガの後に某『BLACK CAT』なんか読むと効果倍増です。

 
 ……では、前半分はこれまで。後半分は頑張って週内実施を目指します。ではでは。

 


 

2003年第35回講義
6月23日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第3週分・後半)

 お待たせしました。先週分のゼミ・後半分をお送りします。
 今日はあまり大きなボリュームじゃないんですが、そのエネルギーは、明日か明後日の「ジャンプ」レビューに回したいと思います。
 今日は外出し損ねて、まだ「ジャンプ」の新連載・『武装錬金』読んでないんですが、既にネット界隈では「糞だ」「いや、普通じゃん」…と、意見が激しくぶつかっているようで。 ──まぁ「傑作だ!」という声がほとんど上がっていないのがアレなんですが(苦笑)、当講座ではどのような評価になるか、どうぞご注目下さい。

 
 ……では、今日も「サンデー」関連情報からいきましょう。来週は読み切り作品が掲載されますので、そちらの紹介をしておきましょう。

 次号(30号)に掲載されるのは、『暗号名はBF(コードネームはベイビーフェイス)作画:田中保左奈)。
 作者の田中さんは、昨年に増刊連載作品『プレイヤー 〜禁断のゲーム〜』原作:若桑一人)の読み切り版を本誌02年32号で発表して以来、久々の本誌登場となります。原作者抜きでどのようなストーリーテリングを見せてくれるのでしょうか? 
 勿論、この作品についてはレビューで色々とお話する予定です。

 しかし、今年の「サンデー」は「ジャンプ」以上に若手・新人作家さんの本誌登用をやっているのですが、その割には新連載の立ち上げは遅れているんですよねぇ。
 まぁ今のラインナップは昨年の今頃よりも粒揃いで、「今すぐ打ち切れ」と言いたくなるようなモノは無いのですが、それにしたってボチボチ新陳代謝を図る頃だと思うんですけどね。(打ち切られる作家さんにとっては、たまったもんじゃないでしょうが^^;;)

 ……では、レビューとチェックポイントへ。今日のレビュー対象作は、短期集中連載の総括レビュー1本です。チェックポイントと併せてどうぞ。 

☆「週刊少年サンデー」2003年29号☆

 ◎短期集中連載総括『ビープ!』作画:しょうけしん【第1回掲載時の評価:

 先週のアオリで薄々とは予測出来てましたが、なんと3回で連載終了です。まさに短期集中ですねぇ。
 まぁ、ここまで短かったら逆に良からぬ憶測(打ち切りか否か)が排除できて良いですよね(笑)。初めから3回限りと決めた上での起用だったんだと思えますから(笑)。

 ちなみに「サンデー」の場合、短期集中連載から本格連載へ移行するかどうかを1〜2週目の段階で決めてしまう事も多いので、3回で終了だからといって冷遇されているとはならないと思います。(駒木も含めて)読者って、表象的なモノから色々と憶測してしまうわけですが、どうもそういうのは大抵外れているみたいですね(苦笑)。
 最近はこのゼミでも、“『こうじゃないの?』と憶測→関係者筋から『そうじゃありません』と指摘”…というパターンがよくあって、反省する事しきりです。でも、憶測じゃない本当の事は、得てしてオフレコだったりするんですよ、この業界(苦笑)。本当にサジ加減が難しいですね、いやはや。

 閑話休題。作品の内容について述べましょう。

 これは第1回のレビューでも少し触れましたが、今回の連載では、ギャグで笑わせる以外に友情ドラマによる感動(言わば“泣かせ”)を盛り込もうという試みが為されていたように思えます。しかし、その試みは果たして成功したでしょうか? 
 残念ながら、答えはです。

 では何故、この試行は失敗に終わったのでしょうか。
 その理由としてはまず、ページ数が相当に限定(15ページ前後)された状況では、笑わせて泣かせて…というのは余りに忙し過ぎたという事が1つ目です。3回という連載回数もその足を引っ張った事でしょう。
 そして2つ目には、しょうけしんさんが、「どのようにしたら読者は感動し、涙腺を刺激されるか」というメカニズムを理解していない、もしくはそれを作品に活かすだけの技量に乏しい事が挙げられます。これは、この作品にとっては致命的な“キズ”と言っていいものです。

 ここで“泣かせ”のメカニズムについて詳しく述べる事は控えますが(無粋な行為ですし、駒木も小説家志望の端くれとして、切り札的な手の内はバラしたくありませんので)、読者を感動させようとするのであれば、もっと主人公に親近感を持たせ、3話かけて1本の感動的なシナリオを消化させるようなペースで進行するべきだったと思います。
 性格の悪い主人公に、とってつけたような別れのドラマを演じさせても、読者は感動するどころか白けてしまうのではないでしょうか。しかもそれで水準には達しているギャグの技量が活かし切れなくなってしまっては、せっかくのチャレンジも逆効果にしかならないでしょう。

 ……というわけで、評価は“落第点”のB−に後退です。少なくとも意欲だけは窺えただけに、態勢を整えて再チャレンジしてもらいたいところですね。 

 
◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 おなじみ巻末コメントのテーマは、「一番怖かったホラー映画」。“最多得票”は4票で『女優霊』。駒木は未見ですが、筋金入りのホラー映画ファンでも、この映画は心底怖いそうですね。
 駒木が一番震えた作品は、映画じゃなくて小説なんですが、綾辻行人さんの『殺人鬼』シリーズですね(これ、厳密に言うとスプラッタに属するんですが)。恐怖感で言ったら『黒い家』とかも捨て難いんですが、文字読むだけで肉体的苦痛を実感させる描写はもう……。結構、グロ画像とか平気なタイプなんですが、このシリーズだけはもう勘弁願いたいですね(苦笑)。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 2本立てって言っても、ページ数大して変わらんじゃないか……というツッコミはさておき、それにしても季節感の無いネタで勝負してきましたなー(笑)。
 しかしネタが部活動対抗リレーとは、またマニアックなところを。しかもちゃんと「部にまつわる物をバトン代わりにする」という部分を押さえているし、ポイント高いですね。
 ちなみに、駒木が高校生時代に見た部活動対抗リレーでは、水泳部の“バトン”はコースロープで、柔道部のは(!)でした。パフォーマンス賞とかは無かったんですが、野球部がゴール地点にベースと審判を配置して、アンカーがそこへ滑り込んで「セーフ!」とやらかした時はバカウケ状態でしたね。面白い事考えるバカがいたものです。

 あと、今回忘れちゃいけないのが、モモリの柔道着+ブルマ。これはやっぱり『帯をギュっとね!』で、作者の河合克敏さんがムッツリスケベだという事が判明したあの名シーンのオマージュなんでしょうねぇ。

 ◎『MAJOR』作画:満田拓也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 さぁ、いよいよ大詰めですね。これで打球がファールって事は、ちょっと考え難い気がするんですが、どうなんでしょうね。
 これに関しては別のマンガレビューサイトさんで、
 「いくら吾郎たちが努力したと言っても、海堂の連中の方がもっと血の滲むような努力と苦労をしているはず。そんな彼らが、主人公の敵だからという理由で負けるのは納得いかない」
 ……という意見があり、なるほどなぁ…と思ったものです。主人公が勝つのが原則の少年マンガとは言え、譲っちゃいけない部分ってのはあるはずですよね。
 まぁしかし、主人公に奇跡が起こりまくって勝ちまくるスポーツマンガの最高峰・『プロゴルファー猿』を生み出した「サンデー」ですから、その辺は何でもアリなのかも知れませんけどね(苦笑)。

 ◎『売ったれダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治【現時点での評価:A−/雑感】

 いくら一般公開の文化祭でも、実際にはこれほどトイレが混む事は有り得ないんですが(だって、学校ってアホみたいにトイレ多いですよ)女子トイレの混雑という題材そのものには現実味がありますね。だって、イベントやスポーツの会場とかでは、確かに女子トイレって恐ろしいほど混んでますからねぇ。傍から見てて、「そんなに何十分も待たされて大丈夫なのか?」…といらぬ心配をしてしまったり。
 その点、男は楽なんですよね。“回転率”がめっぽう早い上、どうしても我慢ならん時は物陰で済ませてしまったりも出来ますし(笑)。

 ところで、先週の土曜日に母校の文化祭に行ったんですが、駒木が所属していたSF研究部(実態は文芸部+漫研+TRPG同好会)の後輩たちは、模擬店でマンガ喫茶をやって繁盛させてました。要は、日頃から身内でやっている事──各々でマンガを持ち寄って、茶を飲んで菓子を食べながら読む──をオープンにして金を取っただけなんですが(笑)。
 今や10年以上の先輩となった駒木などは、「上手い事やったなぁ」…と思う反面、よく“当局”から許可が出たなぁと感慨にふけったり。駒木が在籍していた頃は、マンガを読んでるのがバレた時点でかなりヤバかったんですけど、少しずつ時代が変わってるのかも知れません。その内、模擬店インターネットカフェなんてのも登場しそうですね。


 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 いいなぁ、ごっつぁんゴール(笑)。
 駒木なんて、ごっつぁんゴールのボールが流れて来たと思ったら、それが蹴ったら骨折間違いなしのボーリング球だったり、狙っていたボールをごっつぁんゴールで横取りされて悔しがってる所に、それがきっかけで起こった修羅場(ごっつぁんセーブ)の処理について相談されたりとか、27年余の人生、ずうっとそんなのばっかですよ。
 ……ひょっとしたら、駒木はゴールキーパーなんでしょうか。だとしたら、せめてチラベルトみたいにフリーキックで良いから蹴らせて欲しいもんです。誰ですか、アンタはごっつぁんゴールも外す男だろ? とか言ってる人は。

 

 ……というわけで、最後は訳が分からなくなってしまいましたが(苦笑)、今日はここまで。今週は少し時間が取れそうなので、出来るだけ頑張ってみる事にします。ではでは。

 


 

2003年第34回講義
6月20日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第3週分・前半)

 お待たせしました。今週前半分のゼミを開講します。
 既に「サンデー」も発売され、早いところ、
 「俺にも“ごっつぁんゴール”をよこせ! アシストはもう嫌なんだよ! 本当に嫌なんだよ! 分かってんのか! 俺が顔面ブロックで転がした球を自分の手柄のようにゴールするのは勘弁してくれ! いや、それならせめて礼を言え!」
 ……とか絶叫したいところなのですが(←何があったんだよ)、とりあえず今日は「ジャンプ」関連の内容でお送りします。

 ──ではまず、情報系の話題から。今日の目玉は、4月期から新装なった月例新人賞・「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の審査結果発表です。
 第1回の応募作数は、なんと手塚賞のそれを大きく凌ぐ524作品。しかも最終候補に残った作品数が12と、全てにおいて月例新人賞の常識を越えたスケールの争いとなりました。まさに“最高評価作はデビュー確約”というオイシイ条件が功を奏した形で、さすがは新人育成の「ジャンプ」…といった感じがしますね。
 では以下、受賞者及び受賞作を紹介しておきます。

第1回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年4月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作(&十二傑賞)=1編 
 ・『黄金の暁』
(=赤マルジャンプ夏号に掲載決定)
  岩本直輝(17歳・秋田)
 
《講評:キャラクターの行動がきちんと一貫していて、一つ一つのエピソードがキャラクターの性格を表し、魅力を引き立てるものになっている。画力も高いレベルにあり、17歳という年齢にも将来性を大いに期待させられる。今後は魅力的な表情やデザインをより深く研究・追求して欲しい》 
 最終候補(選外佳作)=11編

  ・『モンスター’Sトレイシー』
   小泉雅恵(18歳・新潟)
  ・『佐藤政夫34歳』
   今井正二(28歳・千葉)
  ・『BIO ROBOT』
   小林真依(20歳・大阪)
  ・『足跡』
   松本祐介(21歳・兵庫)
  ・『剣道花信』
   角石俊輔(21歳・東京)
  ・『School』
   高橋英里(19歳・埼玉)
  ・『Are You Hungry?』
   佳川尚生(26歳・埼玉)
  ・『ガンマンハンター☆コンドル&バッファロー』
   石川直紀(24歳・東京) 
  ・『不死身の剣』
   田中拓磨(20歳・富山)
  ・『あくまのススメ。』
   石川綾一(20歳・宮城)
  ・『スカイレース』
   千阪圭太郎(18歳・京都)

 今回最終候補以上に残った皆さんの過去のキャリアについては以下の通りです。

 ◎佳作&十二傑賞受賞岩本直輝さん02年7月期「天下一漫画賞」で最終候補。
 ◎最終候補小林真依さん01年11月期、02年10月期「天下一」でも最終候補。

 今回デビューが決まった岩本さん、昨年最終候補に残った時は「オリジナリティ」の項目以外は無印でしたが、今回は4つの項目に“◎”、または“○”印が付くという“躍進”。この1年間で飛躍的に力が伸びたという事でしょうか。若いって良いですねー(苦笑)。

 ……それでは、今週号の「ジャンプ」のレビュー&チェックポイントをお送りします。レビュー対象作は、新連載と読み切り各1本の計2本です。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年29号☆

 ◎新連載『ごっちゃんです!』作画:つの丸

 4週連続新連載シリーズも2週目に入りました。ここからは“暗黒期”の「ジャンプ」で活躍した作家さんたちが次々と登場します。
 そして今週から連載が始まったのは、日本競馬マンガ史上に残る名作・『みどりのマキバオー』でお馴染みのつの丸さんが描く相撲マンガ・『ごっちゃんです!』です。

 つの丸さんは、第2回「GAGキング」で入賞し、91年春に増刊・本誌で相次いで読み切りを発表してデビュー。当時はサルを主役にしたギャグ作品を得意とし、92年には『モンモンモン』で初めての週刊連載を果たします(93年冬で打ち切られるまで83回連載)。
 そして94年冬、これまでの猿キャラ一辺倒の作風をかなぐり捨てて、競馬マンガ『みどりのマキバオー』を連載開始。連載当初は稚拙な画力や既成の作品の影響を強く感じさせるストーリーに評判はイマイチでしたが、連載を進める内にグングンと大化けして、やがて当時の「ジャンプ」を代表する作品の1つにまで“成長”を遂げます。同作品はアニメ化もされ、誰もが認める大ヒット作となりました。
 しかし、『マキバオー』終了後のつの丸さんは停滞に入ってしまいます。『サバイビー』『重臣 猪狩虎次郎』と立て続けに連載を立ち上げますが、いずれも2クールで打ち切り
 独特すぎる作風、作品の魅力が発揮されるまでに時間がかかる“スロースターター”ぶりが、アンケート至上主義の「ジャンプ」では足を引っ張った格好となりました。
 そんな中で立ち上げられた今回の新連載は、約2年ぶりの復帰作。読み切りでの“試運転”もなく、いきなりの連載開始となりましたが……?

 ……では、内容について述べていきましょう。

 まずに関して。つの丸さんの画風は、パッと見だけだとメチャクチャ下手そうに見えるんですが、全体を見てみるとキッチリ丁寧な描写が出来ていたりするんですよね。よくよく考えれば、『マキバオー』では難易度の高い競馬シーンを巧みに描いていたわけですから、下手なはずが無いんですが。
 勿論、“今風の絵柄”を外すという事は、読者の支持を集めるに当たっては不利に働きます。ただ、つの丸さんの場合はそれを半ば意識的・確信犯的にやってるわけで、「かなり損な生き方してるよなぁ……」と思ってしまいますよね(笑)。

 次にストーリー・設定の面についてですが、こちらは「かなり実験的な事をやってるなぁ……」という印象を抱きました。
 これもすぐには気付かないかと思うんですが、第1話のストーリーは、実はスポーツ系マンガによくある、
「スポーツに関しては全くの素人である主人公が、ひょんな事から誤解されて、部のヒーローに祭り上げられる」
 ……というパターンなんですよね。往年の名作・『キャプテン』以来の伝統的なスタイルです。

 従来のこのスタイルの作品では、部のヒーローに祭り上げられた主人公は、必ず今の自分では周囲の期待に添えない事に苦悩します。そして、そこから努力と友情で這い上がっていく過程にスポットを当ててお話を展開させていきます。見事な少年マンガの図式ですね。
 ところが、この『ごっちゃんです!』では、部のヒーローに祭り上げられた主人公は、苦悩するどころか有頂天になってしまいます。それどころか主人公に“話のスポットライト”は当たらず、その主人公の奇行に巻き込まれ、主人公の代わりに苦悩する脇役にスポットが当たってしまっているのです。
 で、そこへ更に、ギャグマンガのノリでストーリー作品を描いていく…という“つの丸方式”が加わって、その結果、伝統的なスタイルのスポ根系作品にも関わらず、化学反応を起こした金属のように、全く別物の作品になってしまったわけです。

 さて、問題はこの“実験”をどう評価するかですが、それはやはり、この作品を読者が「面白い」と思うかどうかにかかって来るのでしょう。が、その判断を下すのは、正直に言って大変に難しいところだったりします。
 何しろ前例が乏しいパターンです。経験とデータが蓄積されていない以上、第1話の時点で「これで大丈夫」、「いやダメだ」…などとは、軽はずみに言えないのです。
 ただ、敢えてここで1つだけ意見を言わせてもらいますと、この作品のように、読者に主人公への感情移入をさせ難くするような設定、これまでの常識を基準にするなら“アウト”です。もしもこの作品が失敗に終わるとするならば、その原因の多くはそこに求められる事になるのではないかと思っています。

 ……というわけで、今回の時点での評価は保留とします。評価を下せるのは第3回、ひょっとしたら最終回になるかも知れませんね。

 
 ◎読み切り『KING OR CURSE』作画:坂本裕次郎

 今週の読み切り枠は、先日の03年度上期「手塚賞」最高評点獲得&準入選受賞を果たした新鋭・坂本裕次郎さん『KING OR CURSE』です。

 さて、この作品についてなんですが、“作者紹介”のページに載っている「手塚賞」審査員のコメント実に的を射ていまして、駒木が敢えて熱弁を振るう必要が無くなってしまいました(苦笑)。というわけで、ここでは審査員諸氏の講評を改めて紹介し、そこへ駒木の解説・意見を付記する形でレビューとしたいと思います。

 それでは、まず絵に関しての講評から。

「パワーはあるけど、画面が狭いのが残念」(尾田栄一郎さん)
「絵は、まだ上手いとは言えないが迫力がある」(鳥山明さん)
「迫力のあるシーンはかなり良い」(近藤裕氏)
「画力は高評価。ただ、画面の整理をしないと、読者に何をやっているのか伝わらない」(茨木政彦氏)

 ……まぁ、ご覧の通りですね(笑)。

 絵に関してのコメントを残した4審査員全員が言及しているように、確かに誌面から飛び出すような迫力を感じさせるパワフルな絵柄だったと思います。
 ただし、それがストレートに画力の評価に結びついていない(4人の中で、画力そのものを評価したのは茨木氏だけ)のは、その迫力を持たせるのに、“場面のズームアップ”と“キャラクターの表情を極端に変化させる”ことだけに頼り過ぎたためでしょう。ひょっとしたら、それが発展途上の画力を誤魔化すための苦肉の策だったのかも知れません。そのため、逆に「画面が狭い」という注文をつけられる結果になってしまったわけですね。
 また、その他気になった点として、ややディティール(エキストラ的キャラクターや、人物の服装など)への配慮が足りない箇所が目立った事が上げられます。ただこれは、“描く力が無い”のではなく、作品内の世界観の構築が甘かったために“描きようが無かった”のかも知れないですね。

 そして、ストーリー・設定について。こちらはさすが「手塚賞」だけあって、審査員全員からコメントが出ています。 

「少年誌のツボは押さえているし、話も分かりやすくていい」(鳥山明さん)
「戦いの制限による面白さは感じた」(尾田栄一郎さん)
「面白く読めた。ただ、ラストの『期限切れ』オチはいらなかったかも」(高橋和希さん)
「『呪言虫』のアイデアは高評価」(茨木政彦氏)
「ストーリーとしてのまとまりはあるが、キングタイガーの性格が分かり辛い。最強の大悪党と呼ばれているのに、すごくいい人に見えてしまう」(手塚プロダクション)
「『魔女』が悪者を封じ込めるという設定に少し混乱。村人達のキングタイガーに対する反応の変化が急すぎるのも残念」(ほったゆみさん)
「世界観と設定の説明不足が読者の理解を妨げている」(近藤裕氏)

 まず高い評価を得たのは、「ストーリー全体のまとまりが良い」という事と、主人公に呪いをかけてハンデを背負わせる…というアイディアについてでした。
 確かにこの作品は、シナリオ全体の流れには余り違和感はありません。更に“呪言虫”のアイディアが上手に効いて、ありきたりの“『ドラゴンボール』風・勧善懲悪シナリオ”に陥る事も避けられました。恐らくは、これらの事が、この作品を準入選受賞まで押し上げた大きな理由になるのでしょう。

 しかし審査員諸氏の中には、“少年誌のお約束”に甘んじず、シビアに作品の内容を分析した方もいらっしゃいます。さすがはこの辺り、厳しいプロの目という奴ですね。で、その結果、一読しただけでは見落とされてしまいそうな設定部分の矛盾点や、シナリオの自然さを演出するために犯したご都合主義が複数指摘されました。

 特に指摘が目立ったのは、主人公・キングタイガーについてのキャラ造形の甘さ大悪党なのに良い人みたいだ…という、下手をすれば致命傷になりかねない批判がなされています。これは「大悪党なのだが、呪いのせいで悪事を働く事をガマンする」という原則が全編でキチンと守られなかった事を言っているのだと思いますが、確かにそれは指摘の通りでしょう。
 今回はそれが目立たなかったのは、このキャラ造形の甘さが“怪我の功名”的に働いて読後感が良くなったからですね。しかし、今後はこういった甘い部分を改善しないと、いつか強烈なしっぺ返しを喰らう事になるのではないかと思います。

 この他には「世界観や設定の説明が不足気味」…という評がありましたが、これは駒木が見たところ、説明不足じゃなくて考えて無かっただけ…という気がしています。そうでなければ、同じ“悪”の属性を持つ魔女が大悪党に呪いをかける…などといった、ディディール部分全体に漂う統一感の無さが説明できません。この辺りも今後の課題でしょうね。
 そういう意味で、この設定構築が満点に近い形で出来ていたのが、「赤マル」春号に掲載されていた『天上都市』作画:中島諭宇樹)でした。細かい設定をキチンと作っておき、ストーリーで必要な部分しか語らないこれがベストの形でしょう。

 ……というわけで総合的な評価なんですが、画力、ストーリーテリング力、共にまだまだ荒削りながら、一応は形になっているということでBとしておきます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週の巻末コメントでは、加地君也さんのコメントがネットで「不遜だ」と批判を受けたようですが、まぁ学校の成績なんてそんなもんですからねぇ。大体、物事を本気で勉強するようになるのは社会に出てからですし。
 ちなみに駒木、予備校生時代に一番苦手にしていた科目は世界史でした(笑)

 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 夏の大会の組み合わせ抽選会、まぁ闇夜に浮かび上がる岸田今日子の顔くらい異様な説明的なセリフはともかくとして、有力校のほとんどが高野連から出場自粛を勧告されそうな外見というのは如何なものか(笑)。これで良いんですか? 東京都民より東京に詳しい埼玉の皆さん。
 しかしなぁ、主催者、せめてイスぐらい用意しろよ(笑)。

 ◎『シャーマンキング』作画:武井宏之【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 もしかしたら、じゃなくて当たり前のように変態ですがな……と言おうとしたら、KTRさんに先を越されてしまいました(苦笑)。


 ◎『Ultra Red』作画:鈴木央【現時点での評価:/連載総括】

 完膚無きまでの打ち切られぶりでした。一応、3クール続いたわけになるんですが、連載開始当初のムードからすれば、突き抜けなかっただけでも意外だったくらいですからねぇ。
 で、総括なんですが、正直、ストーリーもクソも無い“天下一武道会”方式で延々と来て、挙句にその途中で尻切れトンボで終わってしまったら総括のしようが無いというか(苦笑)。まぁ、“可もなく不可もなく”程度にずっと読めていたという事は、B評価のままで良いという事なんでしょう。
 

 今日のゼミはこれで終了です。後半分は、やっぱり来週回しかなー、といったところです。ではでは。

 


 

2003年第33回講義
6月17日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第2週分・後半)

 予告より3日遅れのゼミ後半分実施となりました。最近は謝ってばかりなんですが、本当に申し訳ないです。

 最近は、講義と昼間のモデム配りだけならともかく、来月の採用試験の準備やら、来年春までに脱稿目標の長編小説執筆やらで、本当にいくら時間があっても足りない日々が続いているんですよね……。正直、今のところは週2回のゼミと競馬学特論(G1予想)を実施するだけで精一杯といったところです。まぁそういう状況に対応するための業務縮小だったんですが、現実は想定よりも厳しく襲いかかって来ている…というのが本音ですね。
 何時になるかは判りませんが、溜まりに溜まっている講義にケリをつけるための集中カリキュラムを必ず組みますので、どうかしばらくは今の状況でお許し下さいますよう、宜しくお願い致します。

 それでは今週のゼミ・後半分を始めます。今日は「週刊少年サンデー」関連の話題の後に、お待たせしていた第2回「世界漫画愛読者大賞」の投票結果総括を実施します。物凄く時期外れかつ意義が薄いのは自覚していますが、一応のケジメとしてやらせてもらいます。どうせ今回限りで事実上廃止になる賞ですし、興味の薄い方はスルーして頂いて結構です(笑)。

 ……というわけで、まずは「サンデー」関連のお話から。まずは情報系の話題としまして、月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」の審査結果を紹介しておきます。

少年サンデーまんがカレッジ
(03年4月期)

 入選=該当作なし
 佳作=1編
  ・『無敵モグラのケンタ!』
   大塚真史(21歳・神奈川)
 努力賞=3編
  ・『ワールド・イズ・マイン』
   小嶋亮(20歳・福岡)
  ・『ちぇんじ あ ごーごー』
   蕨南うか(22歳・埼玉)
  ・『ボウズマルモウケ』
   小林沙耶花(20歳・埼玉)
 あと一歩で賞(選外)=4編 
  ・『紅の少女』
   麻倉愛菜(17歳・神奈川)  
  ・『30時間の時計』
   林廼晴(23歳・台湾)
  ・『RING RING』
   幻素(22歳・京都)  
  ・『現世怪奇譚』
   小川公世(17歳・鹿児島)

 今回の受賞者さんの中で、過去の経歴を持っていると思われる方は「あと一歩で賞」の幻素さん。どうやら02年秋の「アフタヌーン四季賞」で準入選を受賞してらっしゃるみたいです。
 その時の受賞コメントを読むと、それまで何度も「アフタヌーン四季賞」に投稿されていたみたいなんですが、ここへ来て小学館、しかも少年誌に鞍替え(掛け持ち?)とは珍しいパターンですね。まぁ「アフタヌーン四季賞」は結構懐の深いところのある(?)賞みたいなんで、こういうケースがあっても不思議じゃないんですけどね。

 ……それでは、日付の上ではもう先週になりました、「サンデー」28号のチェックポイントをお届けしておきます。

☆「週刊少年サンデー」2003年28号☆
 
◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「自分の漫画がドラマ化されるなら、どのキャラをどのタレントにやって欲しいですか?」
 やはり真面目路線か、狙った回答かで分かれましたね。これもやはりですが、あだち充さんは自虐ネタでした。「イメージがわきません」の安西信行さんは、冨樫義博先生に相談……いえ、何でもありません。
 有り得ない話ですが、ウチの研究室にキャスティングするなら、珠美ちゃんは仲間由紀恵さんですね。仲間さんに演じてもらえれば、本人より凶暴性が薄れそうなんで……って、珠美ちゃん、僕に向けて広辞苑を、しかも縦に持って振りかぶるのは怖いから止めてくれ……いや、お願いですから止めていただけませんでしょうか。

 ◎『金色のガッシュ』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 雷句さんって、どんな時にでも笑いを取らなきゃ、本当に気が済まないんですね(笑)。「そこは笑わせるところじゃないだろう」って場面でも無理矢理ギャグに結びつけ、しかもシリアス系のテンションも落とさないと。そこまでこの人を駆り立てるのは一体何なんでしょうか(笑)。

 ◎『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【現時点での評価:B/雑感】

 ウサギが食糞する事は知ってましたが、パンダもやるんですなー。しかも健康管理に影響してたとは初耳でした。
 ところでウサギの食糞に関しては、マンガ家の鈴木みそさんが、昔ウサギを飼っていた当時にコラムでよくネタにしてたのを思い出します。
 「おい、お前の姉ちゃんの糞、食わせてくれるって約束だろ?」
 「ひとつだけだぞ」

 ……ウサギの世界ではこんな会話が行われてるのでは? いや耳が聞こえないから会話が成り立たないんだった…なんてのがあった記憶が。最近はそうでもないですが、昔の鈴木みそさんは、「丼1杯のウンコをいくらで食うか?」とか、そんなネタを十八番にしてたんですよね、(笑)。
 あ、お食事中の方、失礼しました……っていうか、講義中にメシ食ってちゃダメですよ(笑)。

 ◎『うえきの法則』作画:福地翼【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 んー……。
 なんか、必殺技合戦からだんだん底抜け脱線ゲームみたいになってる気が。『ガッシュ』と違って、描いているご本人がギャグになってると思っていないだけ業が深いんですよねぇ。
 その内、「カマしたギャグを衝撃波に変える力!」とか言い出しそうで怖いですよね(笑)。

 「コマネチ!」
 ちゅど〜ん!
 「ゲッツ! アェ〜ンド、ターン!」
 ちゅどど〜ん!
 「♪鉄のフォルゴレー、無敵フォルゴレー」
 ちゅどどどど〜ん!

 ……今度の敵は笑えるが強いんだぞ! ……って、別のマンガになっとりますがな。

 
 ──というわけで、ちと暴走気味でしたが(笑)、チェックポイントは以上です。(色々あってテンション高いんです^^;;)

 それでは、これからは少しトーンを変えて、今日の講義後半、第2回「世界漫画愛読者大賞」投票結果総括に移りたいと思います。

特別企画:第2回「世界漫画愛読者大賞」総括

 ……当講座、及び当ゼミの受講生の皆さんは既に十分ご存知でしょうが、改めてこの賞について、簡単ですが説明しておきましょう。
 この「世界漫画愛読者大賞」は、「週刊コミックバンチ」及び関連企業が主催・後援したプロ・アマ・オープン&公募形式のマンガ賞です。
 この賞の特徴は大きく分けて2つ。1点目は、総額1億円、最高ランクの賞であるグランプリの賞金が5000万円という、マンガ業界では前代未聞の高額賞金を用意した事。そしてもう1つは、賞の結果に読者の意見を最大限に反映させるため、中間選考に読者審査員を招聘し、また最終選考の結果を全て読者投票に委ねたでした。

 しかし、鳴り物入りで開催された第1回の「世界漫画愛読者大賞」は、業界に旋風を巻き起こすどころか失笑を買うような惨憺たる結果に終わってしまいます。
 まず問題だったのが寄せられた応募作品の量と質でした。応募総数は、メジャーマンガ誌における月例新人賞並である215本に留まり、しかも最終候補まで残った応募者の大半が、かつてマンガ家を目指したものの夢半ばで破れた“落第生”ばかりという、およそ世界最高レヴェルの賞に相応しくない有様になってしまいました。
 そこへ加え、賞の目玉であった読者投票による最終選考にシステム上の大きな欠陥があり、そんな低レヴェルの最終候補作品たちが、著しく歪んだ形で過大評価されてしまったのです。

 ……この第1回の詳しい顛末は、昨年実施した「徹底検証! 世界漫画愛読者大賞」に譲りますが、この時に(半ば間違って)各賞を受賞した“栄えある”作品たちのその後もまた、悲惨なものでありました
 中でも、グランプリを受賞した『エンカウンター −遭遇ー』は、読者から“圧倒的な信任”を受けた作品であったにも関わらず、連載当初からその内容・人気共にドン底に低迷。その余りの体たらくに長期の連載休止を余儀なくされ、挙句には原作担当者(作画担当者の夫)が事実上の“更迭”となる始末。現在は連載の再開こそ為されましたが、この作品を取り巻くムードは芳しくありません。
 この他にも、もはや人情ギャグマンガではなく、“力量不足の作者が週刊連載のプレッシャーに負け、内部崩壊を起こしてゆくのを観察するためのマンガ”に趣旨が変わりつつある、準グランプリ作・『がきんちょ強』や、「連載開始以来、この作品は何が変わりましたか?」…という問いに「強いて言えばページ数が減りました」…としか答えようの無い4コママンガ賞受賞作・『熱血! 男盛り』など、第1回「愛読者賞」で主要な賞を受賞した作品群は、お世辞にも「バンチ」に貢献したと言い難い状況です。
 そんな「愛読者賞」組の中で、例外的に健闘していると言えるのは読者投票5位の入選作・『満腹ボクサー徳川。』ですが、これも商業的な成功を収めたと言うには程遠く、コアな「バンチ」ファン──何故か、彼らは好きな連載作品の単行本をあまり買いません──の間だけの人気作に終わってしまっている感が否めません。

 そして、今回の第2回「世界漫画愛読者大賞」です。
 こちらも昨秋から実施した講義・「第2回世界漫画愛読者大賞への道」をご覧頂ければ大まかな展開は把握出来ると思いますが、応募総数の更なる大幅減少応募締め切り後のグランプリ選出基準厳格化など、おおよそ“世界”を冠につけるイベントに相応しくないドタバタ状態で審査が進行していってしまいました。
 それでも、何とかほぼ予定通りに審査は進行し、今回から3段階にチェンジされた読者投票審査の結果が発表になりました。既に各種媒体で発表されていますが、ここでも改めて紹介しておきましょう。
 

作品名
(合計得票順)
個別
人気票
総合
人気票
()内は支持率
合計
得票
『摩虎羅』 1172 737
(21.1%)
1909

※グランプリ信任投票※

 投票総数:2354(うち有効投票数1533
 信任:909票 不信任:624票
 信任率
(信任票数/有効投票数)
 =59.3%(規定の信任率に達せず不信任)
 ※純粋に信任票数を投票総数で割った“粗信任率率”38.6%

『東京下町日和』 1184 638
(18.3%)
1822
『軍神の惑星』 1326 479
(13.7%)
1805
『鬼狂丸』 1228 447
(12.8%)
1675
『大江戸電光石火』 1065 484
(13.9%)
1549
『華陀医仙 Dr.KADA』 897 292
(8.4%)
1189
『極楽堂運送』 847 264
(7.7%)
1111
『ちゃきちゃき江戸っ子花次郎の基本的考察』 683 145
(4.2%)
828

 ……ご覧のように、『摩虎羅』が最高得票を獲得したものの、今回新設されたグランプリ信任投票で規定の信任率を得られませんでした。これにより、同作品は準グランプリとなって、グランプリは“該当作なし”という事になりました。
 『摩虎羅』の獲得した得票は、個別人気投票の段階では4位、逆転を果たした総合人気投票でも得票率が20%強で、最高得票と言えど“辛勝”と言わざるを得ないもの。この程度の支持率では、グランプリ信任の高いハードルは越えられなかったという事なのでしょう。
 グランプリ信任投票での、信任909票という数字も微妙ですね。個別人気投票で支持した読者をまとめ切れず、総合人気投票で他の作品に投票した人の大半をグランプリ信任に取り込めなかったのが、表を見れば一目で判ってしまいます。信任率59.3%という数字は結構際どいですが、大量の無効・保留票も考慮すると、今回ばかり不信任という不名誉な結果も致し方ないといったところではないでしょうか。 

 ……さて、これから今回の投票結果の全体像について多少の検証を加えていきたいのですが、ここで比較対象として、前回の読者投票結果も紹介しておきますね。

作品名
(合計得票順)
個別人気票 総合人気票
※1
合計得票
『エンカウンター』 1773 5018
(グランプリ信任率96%=信任)
※2
6791
『がきんちょ強』 1445 3625 5070
『アラビアンナイト』 1505 3504 5009
『142cmのハングオン』 1630 2981 4611
『満腹ボクサー徳川。』 1447 2976 4423
『飛翔の駒』 1154 1882 3036
『黒鳥姫』 1009 1767 2776
『逃げるな!!! 駿平』 1181 1573 2754
『熱血! 男盛り』 762 1819 2581
『灰色の街』 648 567 1215
 ※1…第1回の総合人気投票はポイント制で実施。投票ハガキに貼られた応募券(エントリー作品が掲載された週の「バンチ」に付いていた物)の枚数に応じて、ハガキ1通あたり2票・3票・5票の投票権が与えられた。
 ※2…第1回のグランプリ信任投票は、「総合人気投票で支持した作品をグランプリに信任するかどうか」を選択する形で、総合人気投票と同時に実施。つまり、この場合は『エンカウンター』に投票した人以外に、グランプリ信任投票の投票権は事実上無かった。

 ──こうして2回分の結果を見比べてみますと、第2回における各作品の得票数が、前回に比べて大幅にダウンしているのがよく分かりますね。
 第2回の個別人気投票で最高得票を得た『軍神の惑星』でも、前回の結果で換算すると6位相当の票数しか得られませんでしたし、総合人気投票の得票数合計も、ポイント制廃止だけでは説明のつかない前年比1/7以下という数字に低迷してしまいました。

 ……で、恐らくこれには2つの可能性が考えられます。

 1点目は、単純に「コミックバンチ」の部数そのものが低下した事による影響です。

 この業界の公称部数ほど当てにならないモノはないのですが、一時期に比べるとコンビニなどでの「バンチ」の入荷数が目減りしているのは明らかで、実売部数は漸減傾向にあると思われます。
 部数が増減しても、普通、アンケート葉書の回収率は一定のはずですから、実売部数が減っていれば自ずと得票総数は目減りする事になります。

 そして2つ目の理由は、最終候補作のレヴェルが低く、読者の支持票を集められなかった事、及びそれに伴って「バンチ」読者に“「愛読者賞」離れ現象”が現れたのではないか…というものです。ちなみに駒木個人としてはこちらの方を重く見ています。

 ここで皆さんに注目してもらいたいのは、グランプリ信任投票における投票総数2354票という数字です。
 今回のグランプリ信任投票は、個別人気投票と同じく通常の読者アンケート(ハガキ代読者負担)で実施されました。ということは、各週の個別人気投票に寄せられたアンケートハガキの枚数も、2354に誤差をプラス・マイナスしたものと推定できる事になります。恐らくは、各週2200〜2500ぐらいの範疇に納まるのではないでしょうか。

 そう考えると、今回の最終候補8作品の中で、個別人気投票において、明らかに過半数の支持を受けていると思われるのは、なんと『軍神の惑星』『鬼狂丸』の2作品のみ。それにしても得票率は6割以下です。
 そうでなくても今回の「愛読者大賞」は、第1回の大失敗を経て強引に実施されたもの。当初から読者は疑心暗鬼の状態で最終審査(読者投票)に臨んだと推測できます。
 ところが、そこで突きつけられた最終エントリー作品は、読者の過半数の支持すら得られないものばかり。これでは読者が「愛読者大賞」そのものへの関心・期待を失ってしまったと考えても全く不自然ではないでしょう。その結果が、総合人気投票の投票総数激減とグランプリ信任投票における大量の無効・保留票(全体の35%)発生に繋がったのではないでしょうか? つまり、「バンチ」読者は『摩虎羅』だけでなく、「愛読者大賞」そのものに三行半を突きつけたというわけです。応募作品数の低迷を考えると、この賞はマンガ家&マンガ家志望者からも見放されていると思われますし、有り体に言って、「愛読者対象」はその存在意義が消え失せているといっても過言ではないと思います。
 ……どうやら「愛読者大賞」は今回限りで事実上廃止または規模縮小されると思われますが、あらゆる全ての選択とタイミングを逸してきた主催者サイドが、最後の引き際だけはギリギリ見誤らなかったというのは皮肉ですよね。

 それにしても驚かされるのが、準グランプリの『摩虎羅』でさえ、個別人気投票ではギリギリ過半数か、もしくは過半数割れの票数しか得られなかったという事実ですね。『摩虎羅』の作者のお二方には申し訳ないですが、ここは『エンカウンター』の再現が避けられて良かった…とするべきなんでしょう。
 
 
 ──さてさて、あまりに悲観的な内容ばかりで締め括ってもアレですので、どこかの大河長編マンガじゃありませんが、もうちょっとだけ続けることにします。

 ここからは蛇足を承知で、2回分の投票結果から見た、平均的「バンチ」読者の好きな作品のタイプ、嫌いな作品のタイプを少しばかり分析してみたいと思います。ネット界隈ではコアな読者の評判に特化されがちですので、ここで一度、ライトな読者を含めた「バンチ読者」の最大公約数的な趣味・嗜好を把握してみるのも面白いでしょう。

 で、まず全般的に言える事は、「奇抜さ・斬新さより古臭くても手堅い方を好む」「暗いテーマの重厚な作品より、明るくてライトなエンターテインメント作品を好む」…という事ですね。
 『東京下町日和』のように、多少古臭くても読んで爽快感を得られる作品、または肩の力を抜いて読む事が出来る作品が上位に食い込む一方で、どことなく“陰”のムードが漂う作品は、たとえ題材やシナリオが斬新なものであったにしても、軒並み下位に低迷しています。
 コアな読者の皆さんには、じゃあ『がきんちょ強』はどうなんだ?…と言われそうですが、この作品、小難しい事を考えずにページを読み飛ばしてゆくライトな読者の間では、肩の力を抜いて読める“ごはん系”作品という扱いを受けているのではないでしょうか。

 次に絵柄について。こちらでは、キャリアの浅さで絵が雑な作品はある程度“大目に見る”ものの、キャリアを重ねてクセの強すぎる絵柄で固まってしまった作品は全く相手にしない…という傾向が見て取れます。
 前者の“大目に見て”みらった作品が、『142cmのハングオン』、『鬼狂丸』で、後者にあたる作品が『逃げるな!!! 駿平』や『極楽堂運送』などになるでしょう。つまり、“クセの強すぎる絵では、「バンチ」読者には内容以前に受け付けてもらえない。しかし、若さゆえの過ち(笑)には結構優しい”…という事になるのでしょう。

 あと、『華陀医仙』の低迷からは、「バンチ」読者は少年マンガを大人向けにしたモノは求めているが、そのものズバリの子供向けマンガは読みたくない…という事が分かりますね。
 また、全体的にギャグ作品が低迷気味である点もよく囁かれますが、元々ギャグ作品は雑誌の読者アンケートで票が伸び悩む傾向があるそうですので、読者の傾向と片付けるのは乱暴かも知れません。そういう意味では、かの問題作・『がきんちょ強』が第1回で準グランプリを獲ったのは、実は快挙と言える事だったりします。(もっとも、全体的な低レヴェルに助けられた面の方が大きいでしょうが……)

 ──さて。以上の傾向を総合しますと、「バンチ」読者の最大公約数的な趣味・嗜好とは、

 「絵が一定以上の水準で見栄えし、マンガ雑誌の1作品として気軽に読み飛ばせる、オーソドックスで安定感のあるストーリーのエンターテインメント系作品が読みたい。また、新人の作品は一応温かい目で見るが、積極的なプッシュはしない」

 ……というものになると思います。
 しかし、これが果たして「バンチ」の編集サイドが求める理想と一致するかどうかは極めて微妙でしょうね。今挙げたような“読者が求める作品”を集めていっても、単行本がバカ売れしたり、アニメ・映画等のメディアミックスが成功するとは思えませんし、作家の創作意欲が満たされる環境とも思えませんので。
 まぁ結局は、理屈抜きで大多数の人が「面白い」と感じるようなメガヒット作を出せば済む話なんですが、これが出来たら苦労しないんですよね(苦笑)。まったく、難しいお仕事ですね、マンガ雑誌の編集って。

 
 ……というわけで、やや支離滅裂になりましたが、今回の特別企画はいかがだったでしょうか?
 「駒木風情が偉そうに『バンチ』を語るんじゃねえ!」…という声も聞こえて来そうですが、恐らく「バンチ」関連でこんな企画をやる事はもう無いと思いますので、どうかお目こぼしを頂きたいと思います。

 では、ゼミを終わります。6月第3週分のゼミは、明日の深夜から準備にとりかかる予定です。

 


 

2003年第32回講義
6月12日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第2週分・前半)

 今週からしばらく、ゼミの前半分は修羅場必至の様相を呈して参りました。何しろ4週連続新連載の上に読み切り枠継続ですよ。まったく、駒木を殺す気ですか茨木編集長!(苦笑)
 しかし、この調子で新連載+新連載第3回後追い+読み切り+『H×H』代原…みたいなパターンでレビュー4本とかになったらどうしましょうか(苦笑)。そんなの、業務縮小前でも厳しいボリュームなんですが……。

 今や仮死状態のバーチャルネットアイドルちゆさんに、カレーライスが大好きな冨樫義博さんを応援してもらいたい気分で一杯です。

 ……と、テキストサイト界の古語を駆使したところで(笑)、講義の内容へ突入しましょう。まぁ古語といっても2年しか経ってないんですけどね。ネット界隈の時代変遷って激しいなぁ……。

 ──で、今日の情報系の話題ですが、まずはネーム部門が今や人気原作者の登竜門的存在となった、ストーリー作品オンリー・ページ数無制限の新人賞・「ストーリーキング」の審査結果発表からお届けしましょう。
 で、この「ストーリーキング」は今年から年2回開催となりました。よって、今回の第9回は03年上期分という扱いになります。

第9回ストーリーキング(03年上期)

 ◎マンガ部門
 キング=該当作無し
 準キング=該当作なし
 奨励賞=該当作なし
 最終候補(選外佳作)=4編
  ・『オキテ』
   岡春樹(23歳・埼玉)
  ・『取り除いてあげる』
   ひろみつれん(18歳・宮崎)
  ・『スーパー!? しんじくん』
   吉田求(21歳・山口)
  ・『LILAC』
   大西戈梛(19歳・大阪) 
  

 ◎ネーム部門
 キング=該当作無し
 準キング=1編
 ・『喇叭王国
(トランペットキングダム)
  池田悠一郎(23歳・千葉)
 《講評:しっかりとしたキャラクター付け、丁寧な心理描写もさることながら、確かな楽器の知識に裏付けられた演出が素晴らしい。ただ知識を書き連ねるのではなく、全く音楽の知識のない読者も理解できるように描けています》
 奨励賞=3編
  
・『SHOW DOWN』
   北原孝洋(25歳・東京)
  ・『ラブ&サイコ〜市場主義恋愛の危機〜』
   河合大和(22歳・三重)
  ・『ココロクマナシ』
   奥山直人(17歳・秋田)
 最終候補(選外佳作)=5編
  ・『BERUTA』
   久保咲(18歳・宮崎)
  ・『アレキサンダー育成日記』
   年鳴航介(23歳・大阪)
  ・『squeeze』
   島田智亮(23歳・福井)
  ・『ゼロ戦ドロボージェントルメンズ』
   前田祐希(15歳・三重)
  ・『十柱戯』
   黒犬のしっぽ(36歳・東京)

 受賞者の皆さんについての情報は以下の通りです。

 ◎ネーム部門最終候補の久保咲さん02年度「ストーリーキング」で奨励賞を受賞
 ◎ネーム部門最終候補の黒犬のしっぽさん02年度「ストーリーキング」でも最終候補。

 また、マンガ部門最終候補岡春樹さんに関しては、02年度前期の「小学館新人コミック大賞・少年部門」の最終候補に同姓同名の名前が掲載されています。ただ、都道府県が違いますし(今回が埼玉で当時が東京)、年齢も微妙(今回が23歳なのに、当時は21歳)という事もあり、同一人物とは特定できませんでした。

 ──今回もネーム部門が盛況でしたね。しかし、ネーム部門の受賞者さんたちって、自分でマンガ描いた方が良いくらい画力が高そうに見えるんですが……。
 マンガ原作者よりマンガ家になる方が簡単なのは“業界の常識”ですし、安易に原作者になる方へ逃げて欲しくないなぁ…というのが個人的な心境です。

 
 ……さて次に、次号(29号)に掲載される読み切りの情報を。
 次号に掲載されるのは、先週に審査結果発表があったばかりの第65回「手塚賞」で準入選を受賞した『KING OR CURSE』(作画:坂本裕次郎)。
 選評によると「キャラクターの活きが良い少年誌向けの作品」という事ですが、レビューでは勢いだけでなく、ストーリーテリング力のバックボーンにも視点を向けて論じてみたいと思っています。

 そして最後に残念なお知らせ
 ストーリー展開がクライマックス真っ只中にあった『ROOKIES』作画:森田まさのり)ですが、作者の体調不良のために今号(28号)から無期限休載となりました。先週お知らせした未確認情報が的中する形になってしまいましたね。
 こういう形の連載休止はなかなか再開されないケースが多いだけに心配ですが、何とか森田さんには作品が完結まで頑張ってもらいたいと思います。

  
 では、レビューとチェックポイントへ。今日は新連載第1回レビューと読み切りレビューが各1本ずつ計2本のレビューとなります。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年28号☆

 ◎新連載『キックスメガミックス』作画:吉川雅之

 いよいよ今週から始まりました“創刊35周年記念超特大新連載”の第1弾は、これが初の連載枠獲得となる若手作家・吉川雅之さんのテコンドー物作品・『キックスメガミックス』です。
 吉川さんは98年に『テコンドー師範!! 鏡くんのカカト落とし』で天下一漫画賞入選を受賞。その作品が本誌98年35に掲載されてデビューを果たしています。また当時、吉川さんはにわのまことさんのアシスタントを務めていたようですね。
 その後の吉川さんは、「赤マル」の00年冬号に読み切りを、そして本誌01年29号には今作のプロトタイプとなる同名の作品を発表していますが、これらは全てテコンドーを題材にした作品。これを懐が狭すぎるとするのか、一意専心と評価するのかは、かなり意見が分かれると思いますが……。

 で、今回はなんと2年の空白期間を経ての連載獲得です。
 これはやや唐突な感が否めませんが、ここ最近は『TATTOO HEARTS』作画:加治佐修)のように、“くすぶっていた若手作家が忘れた頃の作品で連載獲得”…というケースが時々見られますので、そういうのも最近の「ジャンプ」の編集方針の1つとして存在しているという事なんでしょうね。(『ヒカ碁』打ち切りに続く韓国の圧力第2弾だ! ……という説は、未だにマルクス主義を唱えている日教組強硬派の教員にそうするようにスルーするという事で^^;)

 ……それではエエ加減にレビューの本題へ。
 まずはについて。いきなりですが問題アリです。
 正面から描いた人物キャラ、顔のアップ、打撃技が決まった瞬間(インパクト)の描写、そしてカラーの彩色についてはプロとしても及第点をあげられると思います。しかし、それ以外の部分については、ハッキリ言ってアマチュア以下のレヴェルです。
 よくプロの作家さんが、マンガ家志望のアマチュアに「自分が得意なポーズや角度ばかり描いていたら上達しないよ」…などとアドバイスしたりしていますが、吉川さんは正にその「自分が得意なポーズや角度ばかり描いていて上達していない」人なわけです。
 特にロングショットの人物描写の拙さや、背景との距離感の無さ致命的で、今後格闘シーンが増える事を考えると前途多難としか言いようがありません。

 次にストーリー・設定面についてですが、こちらも課題を抱えてのスタートとなっています。

 まずストーリー面について。こちらはまだ様子見の段階ながら、どうにもスケールの小さいのが気になります。
 テコンドーが題材なのに、やってる事はカカト落とし以外は普通の喧嘩だったりとか、作品のテーマが実質上、「とりあえずテコンドーが強い奴を喧嘩でやっつけて、憑依してる霊を成仏させる」という事になってしまっている…など、全体的な志の低さが懸念されるところです。
 これらの点が第2回以降でどのように解決されるのか、今しばらく観察してみたいと思います。

 そして、設定にはストーリー以上に大きな問題があります。出て来る主要キャラの大半が読み手に嫌悪感を抱かせる要素をもったキャラである…という部分ですね。
 何しろ主人公、それに憑依した霊、主人公の同級生、喧嘩の対戦相手、その取り巻きの女子……。これら全てがいわゆる“嫌な奴”なんですよね(苦笑)。そうでないのは主人公たちの乱暴狼藉の被害者だけですから、これはもう無茶苦茶です。
 こんな設定では、いくら吉川さんがストーリーを練っても、多くの読者には“人情味もクソも無い連中がただ潰しあっているだけ”にしか見えないでしょう。喩えて言うならば、腐った食材を使って手の込んだ料理を作っているような状態なんです。
 恐らく吉川さんは『アイシールド21』のヒル魔のような偽悪キャラによる話を作ろうとしたのでしょうが、現状では「コミックバンチ」の『ガキんちょ強』みたいな状態になってしまっている気がしてなりません。

 暫定評価はC寄りB−としましょう。
 しかし、長年くすぶっていた若手作家さんを引っ張り出すのは良いんですが、こんなパターンが続くんじゃ、チャンスを与えているのか引導渡してるだけなのか、判らなくなって来ちゃいますね(苦笑)。

 
 ◎読み切り『そーじの時間』作画:桜井のりお

 今週は『ROOKIES』(作画:森田まさのり)の休載に伴う代原として、先週結果発表になった第58回「赤塚賞」の佳作受賞作・『そーじの時間』が掲載されました。作者の桜井のりおさん弱冠17歳(来月誕生日ですが)で、現役高校生とのこと。
 ちなみに桜井さんは、つい先日発表された「週刊少年チャンピオン」の新人賞でも入賞を果たしており、浜岡賢次さんの絶賛を受けています。実は今回の『そーじの時間』、ネット界隈では浜岡さんの『浦安鉄筋家族』のパクリだ…という批判が浴びせられていたりするのですが、そういうミクロな部分ではなく、もっとマクロな部分──ギャグに対する感性などでも、何か合い通じるモノがあったりするんでしょうかね。

 ──ではまずについてなんですが、これはかなり評価が難しいですね(苦笑)。
 確かにオーソドックスからかけ離れた、一見雑に見える絵柄ではあるんですが、様々なパターンの動きや表情が描けていますし、背景などの描き込みもキッチリ出来ています。先ほどの『キックスメガミックス』とは逆に、見た目よりも奥の深さも感じさせる画力の持ち主であるような気がするのですが……?

 そして肝心のギャグですが、まず、ヒシヒシと感じさせられるのは、作者・桜井さんの意欲の高さでしょうね。敢えて労が多くて実りの少ないサイレント物に挑戦し、完璧とは言えないまでも、なかなかの水準まで到達させています。これはパクリ云々は抜きにしても評価できる部分でしょう。
 ただ、どうせサイレント作品を描くのなら、スタートからラストまでの“ドタバタ”が全て因果関係を持って連なっていて欲しかった…という思いもあります。それがキチンと出来ていたのなら、うすた京介さんのように辛い点をつけた審査員さんも評価を上げたでしょうし、ひょっとしたら「パクり」という非難すら封印できたかも知れません。
 また、1つ1つの“ドタバタ”に無理があるのも残念でした。さすがにクシャミ一発で窓ガラス突き破る頭突きとか、黒板消しを人の頭にぶつけて綺麗に…というのはちょっと……。ギャグマンガにもやっていい不条理と、やっちゃダメな不条理というのがあると思うんですが、どうでしょうか。

 評価は甘めかも知れませんが評価とします。
 ただ、マンガ家生活で一生サイレント物を描くわけにはいきませんので、今後はオーソドックスなギャグ作品も手がけてゆく事になるでしょう。その際にはキャラクター作りや、セリフを使ったギャグの構成など、今回は必要とされなかった技術が求められる事になります。桜井さんの真価が問われるのは今でなくてその時だと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今日は情報とレビューで時間を取られてしまったので、ちゃんとしたチェックポイントは1本だけ。
 しかし、『ONE PIECE』でのエネルのバカ面には笑わせてもらいました。しかもスクリーントーン一切ナシで全部手書き。尾田さん、アンタは青木雄二(笑)。

 ◎『プリティフェイス』作画:叶恭弘【現時点での評価:B+/連載総括】
 
 往年の「ジャンプ」名作・『ド根性ガエル』からそうですが、このタイプの作品(一話完結型コメディorギャグ)は、どんなタイミングで連載が終わるにしても一応は格好がつくのが強みですよね。
 しかしその点を考慮しても、この作品の幕引きは鮮やかでした。叶さんは話の風呂敷を広げるのは上手くないのに、畳むのは上手なんですよね。この才能は貴重だと思いますよ。逆のタイプの作家さんは腐るほどいるんですが、叶さんみたいなタイプは極めて珍しいんで……。
 最終的な評価はB+としておきます。それにしても、当の作者本人が“突き抜け”を覚悟していて、現実にはそうならなかったパターンも珍しいですね。これも逆のタイプの人は腐るほどいるんですが(笑)。


 ……というわけで、今日のところはこれまで。後半分は出来るだけ早めに…とだけ言っておきます(苦笑)。

 


 

2003年第31回講義
6月9日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第1週分・後半)

 またしても週を跨いでしまいました。本当に最近はどうもイカンですね。

 さて、そういうわけですので時間を気にしながら早速、講義の本題へと移りましょう。

 まず情報系の話題は、「少年サンデー」系の新人賞・「新人コミック大賞・少年部門」の審査結果発表からです。この賞は毎回「ジャンプ」の「手塚賞」「赤塚賞」と同じ週に発表されるんですが、やはり何か意識したものがあるんでしょうかね?

第52回小学館新人コミック大賞・少年部門
(03年前期)

 特別大賞=該当作なし

 
大賞=1編

  ・『ゴッドルーキー』(=本誌31号に掲載決定)
   
宇佐美道子(22歳・東京)

 《選評要約:「テンポ・ネームのセンスが良い。キャラクターの心理描写に無理が無く、読後感も良好。今回のイチオシ」(高橋留美子さん)「細かい注文はつくが、化ける可能性を感じる」(あだち充さん)「設定は良いがストーリーに難あり。主人公の設定などにも説明不足がある」(青山剛昌さん)「冒頭部分は出色。ストーリーが平板なものの、セリフが上手く、総合的な能力やセンスを感じさせる」(史村翔さん)

 
入選=2編
  ・『魔法の卵使い』
   桐幡歩(22歳・東京)
  ・『コハク』
   高倉幸(21歳・福岡)
 佳作=2編
 
 ・『正義の見方』
   国廣克(23歳・愛媛)
  ・『栄町二丁目わかば台のヒーロー』
   臼井智大(25歳・東京)
 最終候補=1編
  ・『オレの名はキル!』
   工藤柾人(27歳・千葉)

 受賞者の皆さんについての情報は以下の通りです。

 ◎大賞の宇佐美道子さん……「サンデーまんがカレッジ」02年12月&03年1月期で「あと一歩で賞」(最終候補)。現在、武村勇治さんのアシスタント(?)。
 ◎最終候補の工藤柾人さん……「まんがカレッジ」02年8月期で努力賞受賞

 昨年の前期に、長年出ていなかった大賞が出た…と編集部(だけ)が大騒ぎしていたのが記憶に新しいところですが、今回も大賞が出ましたね。ただし、審査員の満場一致というわけでは無さそうですし、どういう基準で大賞に推されたのか、今一つピンと来ないところが難点でしょうか。
 ただまぁこれも、作品そのものを読んでみればいい話で、そういう意味では本誌掲載が決定していると言うのは嬉しい話です。もっとも、「ストーリーが平板」という感想に一抹の不安を禁じ得ませんが……。

 しかし、前回の発表の時も講義で言いましたが、4人の審査員の皆さん、意見が全く噛み合ってませんよね(笑)。あと、2ch掲示板で「あだち充が『悪役や動物達の描き方に勉強不足が目立ちます』と偉そうに言うのは如何なものか」…みたいな意見が出てて吹き出しそうになりましたね(笑)。


 ──さて、それでは取り急ぎレビューとチェックポイントに参りましょう。今回のレビュー対象作は、短期集中連載1回目のレビュー1本のみ。少し寂しいですが、チェックポイントと続けてどうぞ。
 ……どうでもいいですが、最近、チェックポイントが「ニュースステーション」で言うところの「出来るだけニュースを」みたいなもんか…などと考えてみたり(笑)。


☆「週刊少年サンデー」2003年27号☆

 ◎短期集中連載第1回『ビープ!』作画:しょうけしん

 年頭の『少年サンダー』から始まった短期集中連載シリーズもこれで第4弾。ギャグヒーロー物、ロボットドタバタ物、サイエンス・ヤンキー物(何じゃそりゃ)と来て今回は、ギャグ作品では定番とも言える動物モノの登場です。
 作者のしょうけしんさんは、01年頃から「サンデー超増刊」で活動を開始している若手作家さん(データ不足のため、詳しい経歴は分かりませんでした。情報求ム)今回の『ビープ!』「超増刊」で連載された作品で、「サンデー」本誌に掲載される若手作家さんによくあるパターンという事みたいですね。

 それでは、内容の分析をしてゆきましょう。

 まずですが、ギャグ作品を描くにあたっては全く問題ないと思います。及第点ですね。
 ただし、絵柄に多少クセがある輪郭の線が異様に太い等)のが少しだけ気がかりです。余計な所で読者の好き嫌いを刺激しなくても良かったのに…と思ってしまいました。

 ギャグに関しては、少なくとも駒木はネット界隈で囁かれているほど低レヴェルであると思いません。理詰め・計算づくでギャグを構成出来るテクニックはあると思いますし、展開にもメリハリが感じられます。登場人物のキャラ描写も一応は出来ていますし、ギャグ作家としての基礎的な能力は備わっていると見るべきでしょう。
 ただ、やはり問題点もあります。まず、少なくとも今回はギャグの密度が薄く、ボリューム的に物足りませんでした。あと、ギャグマンガに素でマジメで道徳的なやりとりに大ゴマとページ数を費やすのも、読者を“笑いに集中させる”という意味ではマイナスに作用してしまったのではないでしょうか。もっとも、“ギャグ連発→人情話→オチへ一直線”というのは、かの吉本新喜劇の黄金パターンだけに、全くナシというわけではないんでしょうけどね。

 現時点での暫定評価ですが、一応Bとしておきたいと思います。次回以降で、どれだけギャグの密度を濃く出来るか、その手腕に注目してみたいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 今週の巻末コメントのテーマ「どうしても集めてしまう物」結構人気なのが食玩系でしょうか。生活がコンビニと仕事場の往復になりがちなのがマンガ家という職業ですから、そういう意味では肯ける結果ですよね。そういや以前、桜玉吉さんが1日8個のチョコエッグを食らう生活をしばらく続けてましたっけ(笑)。
 ちなみに駒木の場合は古本。ついつい仕事帰りに古本屋に寄っては買い込んでしまうんですよね。昨日も財布の中身が切迫していると言うのに、宮部みゆきさんの『ドリームバスター2』を……(苦笑)。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 まさか「サンデー」のマンガでスカイラブツインシュートが見られるとは夢にも思いませんでした(笑)。
 そういや、連載開始当初にも“脳味噌えぐられたラーメンマン”ネタがありましたし、モリさんは80年代の「週刊少年ジャンプ」に相当な思い入れがあるみたいですね(笑)。
 しかしまぁ、完全にギャグマンガからラブコメにシフトしましたなぁ、この作品。いや、私は大変に好きですが(笑)。

 ◎『ファンタジスタ』作画:草葉道輝【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 アテネオリンピック編スタート……と思ったら、もう決勝トーナメント突入。おいおい、せめて予選で1〜2週引っ張ろうよ(苦笑)。そりゃあ、時事ネタが一切使えない辛さとかあるのは分かりますけどね。
 で、トーナメントの相手はパラグアイ、ブラジル、イタリアの順ですか。3試合で来年の夏まで引っ張ろうと言う魂胆でしょうね。ペース的にも遅すぎるわけでは無さそうですし。
 しかしイタリアチームは強烈に強そうだなぁ。まぁ少年マンガの王道的展開ではありますが……。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】

 メ、メイド服キタ───ッ!!(狂喜乱舞)
 ……いや、失礼(笑)。しかし、井上さんはどこまで素晴らしくてダメなセンスを持ってるんでしょうか。ここまで来るのに結構苦労されている作家さんだったそうですが、21世紀に芽が出るのを宿命付けられていたような気までしてきますね。

 
 ……あと、敢えてスペースは設けませんでしたが、『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫)での残分表示のミス、どうやら本格的に勘違いされてるみたいですね、あおやぎさん(苦笑)。まぁ、正確に描けば余計に大部分の読者へ混乱を招くという、どうでもいい割には難儀な箇所だったりするわけですが……。

 さて、第2週の後半はレビュー対象作が無さそうですので、時間があれば…ですが、「世界漫画愛読者大賞」の総括をやっておきたいと思います。ではでは。

 


 

2003年第29回講義
6月5日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第1週分・前半)

 さて、今日の講義はボリュームが大きくなりそうですので、前フリ抜きで行きます。テスト間近になって、試験範囲まで授業が進んでない学校の先生みたいなもんだと……って、そのまんま高校講師バージョンの駒木に当てはまりますね、それ(苦笑)。墓穴掘ったなぁ。

 ……まぁそういうわけで、まず「週刊少年ジャンプ」を中心とした情報系の話題から。

 今週の注目情報は、なんと言っても次号(28号)から始まる4週連続新連載のラインナップでしょう。

 ◎第1弾(28号〜)
 『キックスメガミックス』(作画:吉川雅之)
 ◎第2弾
(29号〜)
 『ごっちゃんです !! 』(作画:つの丸)
 ◎第3弾
(30号〜)
 『武装練金』(作画:和月伸宏)
 ◎第4弾
(31号〜)
 『神奈川磯南風天組』(作画:かずはじめ)

 ……最近はイレギュラーの上に2作品入れ替えが続いていた「ジャンプ」の新連載入れ替えですが、ここに来て大規模な入れ替えが実施される事になりました。98年春の5本に次ぎ、99年夏の4本に並ぶ、“今世紀最大”規模の大改造ですね。
 ちなみに、98年春の5本からは、『ROOKIES』、『ホイッスル!』、『HUNTER×HUNTER』の3本が、99年夏の4本からは『テニスの王子様』が長期連載作となっています。今回は果たしてどうなりますか……。

 新連載作家さんのプロフィールに関しては、時間の都合もありますので、それぞれの作品の第1回レビューの際にお届けする事にしますが、今回は初連載となる吉川雅之さんを除く3人が2年以上の長期連載経験者という“実務派”揃いに。新人の読み切りを多数掲載して育成を図りながら、連載作品の質・量を高いレヴェルで安定させようという編集方針が感じ取れますね。
 しかし、この3人の長期連載作品というのが『るろうに剣心』、『みどりのマキバオー』、『明陵帝 梧桐勢十郎』…といった、いわゆる“ジャンプ暗黒期”を支えた(?)作品ばかり。当時を知る者にとっては、ちょっと複雑ですよね(苦笑)。

 で、4本新連載が始まるという事は、同じ数の作品が消えるという事になります。既に『ジョジョ』と『ヒカ碁』が終了した上に4本終了とは凄い話ですが、これが“英断”となるか“暴挙”となるのかは、今後の結果待ちになるのでしょうね。
 現在のところ連載終了が有力視されている作品としては、もはや“当確”の『プリティフェイス』と、掲載順がいかにも怪しい『Ultra Red』、そして今号に打ち切りを匂わせる巻末コメントが載った『★SANTA!★』の3本。残る1枠に関しては、『ROOKIES』が長期休載に入る…という未確認情報も手元に入って来ています。
 なお、『★SANTA!★』と同じ新連載組で、こちらも同じく評判のパッとしない『闇神コウ』作画:加治君也)は、首の皮一枚残ったのではないか…とする説が有力です。奇しくも今号から、従来の一話完結型から脱却を始めただけに、“とりあえず、あと10回は続行”のゴーサインが出たと見ても良いのではないかと思っています。(もっとも、ストーリー展開と打ち切りは全くリンクしないのが「ジャンプ」の伝統ですが)

 次に新人賞の話題を。今週は「ジャンプ」伝統の新人マンガ賞・「手塚賞」&「赤塚賞」の審査結果発表がありましたので、受賞者及び受賞作を紹介しておきます。
 最近は“審査員が豪華な月例賞”的存在になりつつある両賞ですが、受賞者の皆さんには“手塚”&“赤塚”の冠がついた賞を戴いた栄誉に恥じない活躍を期待したいと思います。

第65回手塚賞&第58回赤塚賞(03年前期)

 ☆手塚賞☆
 入選=該当作なし
 準入選=1編
  ・『KING OR CURSE』(評点24/35)
   坂本裕次郎(22歳・東京)
 佳作=5編
 
 ・『ミラージュリリィ』(評点21/35)
   高島正嗣(23歳・東京)
  ・『サヴァナ』(評点21/35)
   二階堂健博(27歳・東京)
  ・『スマッシングショーネン』(評点20/35)
   大竹利明(20歳・栃木)
  ・『合縁鬼縁』(評点19/35)
   黒輪ビビコ(23歳・福岡)
  ・『I LIKE SOCCER VERY MUCH!!』(評点18/35)
   井原顕(23歳・奈良)
 最終候補=4編
  ・『Spring Dreamer!!』(評点17/35)
   中西まちこ(18歳・京都)
  ・『足下の小さな君』(評点16/35)
   土田健太(21歳・千葉)
  ・『TOY SEED』(評点14/35)
   作:鈴木弘生(21歳・秋田)
   画:鈴木弥生(18歳・秋田)
  ・『すぺしゃるSIZE』(評点12/35)
   シンスケ(24歳・福岡)  

 ☆赤塚賞☆
 入選=該当作なし
 準入選=該当作なし
 佳作=4編

  ・『おしくらまんじゅう』(評点15/25)
   岩渕成太郎(20歳・宮城)
  ・『そーじの時間』(評点13/25)
   桜井のりお(17歳・埼玉)
  ・『HIGE☆KIDS』(評点11.5/25)
   ゴッドアイ(18歳・東京)
  ・『ハート』(評点10.5/25)
   鷲見恭平(17歳・岐阜)
 最終候補=4編
  ・『西部養殖センター』(評点10/25)
   黒川智紀(16歳・愛媛)
  ・『ボクサーたける最後の挑戦』(評点8/25)
   安藤彰吾(21歳・奈良)
  ・『進め! 北工放送部』
   日丸屋和良(18歳・福島)
  ・『ハガユイズム』(評点7/25)
   越智厚介(21歳・大阪)

 受賞者さんたちの過去のキャリアについては以下の通りです。(ペンネームを変えている人の場合は、検索漏れが生じる可能性が有ります)

 ◎手塚賞佳作の井原顕さん01年12月期「天下一漫画賞」で最終候補
 ◎手塚賞最終候補の中西まちこさん…中西真知子名義で、01年後期「手塚賞」で最終候補&01年12月期「天下一」で編集部特別賞を受賞
 ◎手塚賞最終候補の土田健太さん01年度「ストーリーキング」漫画部門で奨励賞受賞
 ◎赤塚賞佳作の桜井のりおさん02年5月期「天下一」で最終候補。

 ……結果を見る限りでは、今回の両賞はやや低調な結果に終わりましたね。受賞者の皆さんの経歴を見ると、一歩前進二歩後退…といったような人もいて、この世界で成功するまでの道の険しさを痛感させられます。
 しかし、そういった中で長年の苦労が報われて人気作家になった人も複数いらっしゃるわけで、今回受賞された皆さんも諦めずに、確固たる結果が出るまで粘り続けてもらいたいものですね。

 ……さて、情報系の話題はここまで。レビューとチェックポイントへと移りましょう。ただし、寂しい事に今日のレビューは読み切り1本のみです。その後のチェックポイントも続けてどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年27号☆

 ◎読み切り『未確認少年ゲドー』作画:岡野剛

 すっかりレギュラー企画として定着した感のある読み切り枠、今週はベテラン・岡野剛さんの登場です。
 岡野剛さん(旧ペンネーム:のむら剛)88年上期の「赤塚賞」で入選を受賞し、その受賞作・『AT(オートマチック)Lady』が本誌読み切り掲載となってデビュー。この作品は89年に連載化されますが、これは残念ながら10回突き抜けになっています。
 その後、真倉翔さんを原作者に迎えてプロトタイプ型読み切り掲載→連載化された『地獄先生ぬ〜べ〜』が、93年から99年まで5年半に渡るロングラン&スマッシュヒットとなり、アニメ化もされました。
 しかし、その後は真倉翔さんとのコンビで臨んだ『ツリッキーズ・ピン太郎』19回で、久々の単独作品となった『魔術師^2(マジシャン・スクウェア)16回でそれぞれ打ち切りとなり、有り体に言って“落ち目”の状態に甘んじています
 今回はその『魔術師^2』連載終了後以来、1年半ぶりの本誌登場。これが4回目の連載、そして再び“人気作家”のポジションへ就く事を目指しての本格的な再起作となります。

 ……では、レビューへ。
 に関しては、既にデビュー時から定評があっただけに、基本的な点で問題になる部分は皆無ですね。特に今回は、岡野さんお得意の可愛い女の子が主人公の作品だけに、非常に好感度の高い絵柄になっていると思います。
 ただ、デビュー時に画力が完成“され過ぎて”いただけに、絵柄が14年前のままで固まってしまっている感が否めません。そのため、所々でやや古臭い表現が目立つようになって来ました。これを一種の“味”に転じる事が出来るかが、今後の課題になるのではないでしょうか?

 次に、岡野さんにとって(画力とは逆に)デビュー時から弱点・穴と言われていた、ストーリー&設定についてですが、こちらも今回に限っては比較的よくまとまっていると思います。起承転結が上手く成立していますし、安易にバトル系シナリオに逃げなかったのも評価できるポイントです。

 ……が、悲しいかな、細かい部分まで探ってみると、やはり多少の問題点があぶり出されてしまいます

 まず1つ目は、
 「讃良がゲドーを凶悪な化け物と誤解→実はイイ奴→しかもちょっとドジな奴」
 ……というどんでん返しに固執し過ぎたために、途中の展開が硬直化というか、無理のある流れになってしまった点ですね。こういうケースは、最初に立てたプロットを余りにも忠実に守ってしまった時によく起こってしまうんですよね。
 次に2点目、この作品の要である“未確認生物”の設定、つまり作品全体の世界観の構築が曖昧になってしまったという部分ですね。“未確認”なのに全体の種類数が“確認”されているなど、未確認生物というモノが、「川口浩探検隊」で言うところの“人跡未踏のジャングルに棲む人食い虎”のような存在になってしまいました。作品全体の価値を落とすような致命傷にはなってしませんが、残念な点ではあります。

 総合的な評価としては、プラスマイナス諸々を考慮して、B寄りB+辺りが妥当ではないかと思います。
 ただし、設定やキャラ造詣の完成度をもう少し上げれば、十分連載に耐えうる作品になりそうな気もしています。もしも連載化の際には、その辺りに留意して頑張って欲しいと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 連載2周年で96回。途中で持病の喘息のために原稿落っことした事もあって、微妙な回数になっちゃいましたね(苦笑)。
 しかし、やっぱり謎の男の正体は兄でしたか。余りにもベタ過ぎて、コメントのしようがありません(笑)

 ◎『テニスの王子様』作画:許斐剛【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 181ページ1コマ目の「葵剣太郎データ」あまりのバカバカしさに全身脱力しました(苦笑)。やっぱり許斐さんは高橋陽一の後継者だ(笑)。
 ロブ率6%、ショートクロス率12%、失恋率100%(←ここもツッコミ所)、んで、その下の3.14は“円周率”ってオチなんですな。ていうかこれ、データっていうより単なる落書きに近いんじゃないかと(笑)。

 ◎『シャーマンキング』作画:武井宏之【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 正直、最近のこの作品は「ワケワカラン」状態一歩手前だったんですが、今週のデキの良さには驚かされました。いやぁ、深いわー、コレイラク戦争の大義がどう…とか未だに言ってる人に読ませてあげたいですね。っていうか、それは駒木もそうか(苦笑)。
 次回の打ち切りレースには候補入りしているであろうこの作品ですが、今週みたいなテンションならまだまだ続行可能だと思いますので、どんどん頑張って欲しいものです。
 

 ──と、今日はこれくらいにしたいと思います。後半は週明けになってしまいますかね。一応、頑張ってみますけど(苦笑)。

 


 

2003年第27回講義
6月2日(月)・第1時限 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第5週分・後半)

 本日の講義はダブルヘッダーです。
 後で珠美ちゃんに「観察レポート」を更新してもらいますが、この週末、公私で色々無茶しまくった挙句、日曜日から月曜日に日付が変わったあたりから“ガス欠”になってしまいました(苦笑)。
 本当はこのゼミは日曜日付でやる予定だったんですが、日本ダービーのレースVTRを観ようとしても、その2分半がどうしても起きていられなくなってしまいまして、敢え無く研究室から“早退”の体たらくでした。講義を楽しみにしていた受講生の皆さん、申し訳ありませんでした。

 ……というわけで、まずは第1時限。先週分の「現代マンガ時評」後半分から実施します。
 ただ、先週の「サンデー」は特にお知らせすべき情報やレビュー対象作がありませんので、「チェックポイント」だけの非常にアッサリとした講義となります。(だからこそ、ダブルヘッダーが可能なわけですが)
 時間と体力に余裕があれば「週刊少年マガジン」の話題作・『ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−』作画:CLAMP)のレビューをやろうか…などと考えていたんですが、これはまた別の機会という事になりますね。まぁぶっちゃけた話、年末の「ラズベリーコミック賞」にノミネートするためのレビューになっちゃうと思いますんで(苦笑)、これはまた熱が冷めた頃にやる事にします。

 ──では、「サンデー」26号のチェックポイントをどうぞ。

☆「週刊少年サンデー」2003年26号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 今週の巻末コメントのテーマ「自分の作品でグッズを作るとしたら何を作りたいですか?」
 
意外と皆さん、商売っ気が無くて微笑ましい感じです。まぁ、こんなところで「とりあえず超合金ロボットとトレーディングカードゲームかな。目指せバードスタジオ!」…とか素で書かれても対処に困りますが。久米田さんを除いて

 ◎『史上最強の弟子ケンイチ』作画:松江名俊【現時点での評価:B+/雑感】

 新島とその取り巻きって、恐ろしく頭が悪いですなぁ(笑)。「オレ様の頭脳と──」とか言ってる割に、丸腰同然で町を練り歩くなんて、ヤフーBBのモデム配りキャンペーン猿以下ですがな、しかし。
 まぁ次号の「歴史に残る死闘」を楽しみにしておきましょう(笑)。


 ◎『MÄR(メル)作画:安西信行【現時点での評価:B 

 さぁ、一気に風呂敷が広がりましたね。次週からは主人公たちの特訓編も始まるようで、本格的なファンタジーRPG風ストーリーになってゆくみたいです。
 ただ、これは個人的な意見なんですが、正直なところそれで作品の良さに繋がっていないような気がするんですよねぇ。キャラクターとプロットにクセの無い『ドラゴンクエスト・ダイの大冒険』みたいな作風になりつつあるような……。
 まぁ、アレだけプッシュされて始まった連載ですから、何があってもあと半年は続くと思うんですが、それでも上半期中にどうにかインパクトを与える展開にならないと、ちと苦しいかも知れません。

 ◎『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫【第3回掲載時の評価:B/雑感】 

 これだけBチーム対Fチームで引っ張って、なのにその後の展開に繋がる伏線がほとんど用意されていない事を考えると、これは終了が近いんでしょうか? 
 あと、268ページに出て来るスコアボードの真ん中の数字“残分表示”なんですが、バスケ部経験者以外で正確に分かってる人いるんでしょうか(笑)。しかも“残分3”ということは、残り2分以上3分未満という事ですから、マンガの中でもほとんど誰も分かってないという事になりますね(苦笑)。
 懐かしいなぁ、バスケ部時代に得点板係していて、ボケーッとしてる間に「残分6」のまま6分間スルーしちゃって、顧問から鬼のように怒られた思い出が(笑)。
 

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のお題は「衣だけ変えて中身同じ」
 ていうか、何で「15コの0円キャンペーン」を出してくれないんですか!(笑) 
 ……マジメな話、やっぱり週刊連載中のマンガ家さんは、なかなか外出しない分だけモデム配りキャンペーンに馴染みが無いんでしょうかね。


 ──というわけで、第1時限終了です。2限目は競馬学特論・日本ダービー回顧となります。どうぞ引き続いてよろしく。

 


 

2003年第25回講義
5月27日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第5週分・前半)

 最近5号分の「ジャンプ」スクラップ作業のせいで右手がすっかり凝ってしまった駒木です、こんばんは(苦笑)。
 「ジャンプ」と「サンデー」に関しては、雑誌を処分する際に、資料として残したい部分だけスクラップ処理をする事にしているのですが、特に骨が折れるのが読み切りの全ページ切り抜きです。特に50〜60ページクラスの中編となると、それ1作品だけで15分くらいかかってしまうので大変なんですよね。で、最近の「ジャンプ」はご存知の通り毎週読み切りが掲載されているわけで、その労力たるや……(苦笑)。
 「何もそこまで……」と思われる方も多いと思いますが、読み切りの多くは単行本に掲載されないままになってしまいますから仕方ありません。まぁ後から国会図書館へ通わなくて済む…と無理矢理思うしかないですね(笑)。

 ──さて、それでは今週もゼミの開始です。

 まずは情報系の話題から。今週は読み切り情報を1件だけ。そろそろ以前から噂されていた大量(4作品?)の連載入れ替えが始まりそうな予感がするのですが、今は“嵐の前の静けさ”という事なんでしょうか。

 そんな嵐の直前である次号(27号)に掲載される読み切りは、『未確認少年ゲドー』作画:岡野剛)。
 岡野さんは、長期連載&スマッシュヒットとなった『地獄先生ぬ〜べ〜』の作画担当という事で皆さんもご存知の事でしょう。その後の岡野さんは連載の短期打ち切りが2回とやや低迷気味なのですが、1年以上のブランクを経て久々の本誌復帰という事になりました。最近は原作者をつけずに“ソロ活動”を続けている岡野さんですが、そろそろ連載復帰への突破口を見出したいところではありますよね。

 
 ……それではレビューへ。今回も、ここ最近の定番である“読み切りレビュー1本+チェックポイント”の流れでお送りします。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年26号☆

 ◎読み切り『ゴールデンシュート鳥越』作画:郷田こうや

 もう第何弾なのかも忘れてしまいそうな、「ジャンプ」の読み切りシリーズ。今週は郷田こうやさんのギャグ作品が登場です。
 郷田さんは、01年に赤塚賞佳作受賞&デビューを果たしてから、なんとこれで6回目の本誌掲載(うち代原としての掲載が4回。他に増刊で1回掲載)。「ジャンプ」では特定のギャグ系新人さんが一定期間に“優遇措置”を受けるケースがあるのですが、郷田さんの場合はそれの“デラックス版”という感じがしますね。まぁ作品のデキまでデラックスかどうかは別なのですが(苦笑)。

 ……さて、まずはからですが、今回は臨時アシスタントを使うほどのハードスケジュールだった影響か、ここ2〜3作よりもやや粗さが目立っています。それでもギャグ作家さんとしては十分通用する水準にはあると思いますが。
 あと、細かいところで目に付いた点は、本誌で言えば287ページの“リアル顔”画力が上がれば、それだけ絵で見せるギャグのバリエーションも増えるという典型例ですね。ただ、今回の場合は「とりあえずやってみた」感が否めず、笑いに結びつき辛いのが残念でしたが。

 そして、この“リアル顔”の例にとどまらず、今回もギャグに関しては全般的にやや物足りなさが否めませんでした
 郷田さんの作品を読んでいると、いつも「努力と試行錯誤はしているんだな」…という何かは感じさせてくれます。今回はギャグ作品としては異例の多ページ(41ページ)という事もあり、様々なバリエーションのギャグを散りばめようという意図がヒシヒシと伝わって来ます。
 しかし、これで意欲が読者の笑いに繋がれば最高なのですが、それがなかなか上手くいかないのがギャグマンガの難しさ。特に郷田さんはいつもこの点で苦労しており、そして今回もまた、いつもと同じような苦労を抱え込んでしまった気がします。
 過去の作品も含め、郷田さんのギャグ作品に出て来る主人公は、一見個性的であるように感じるのですが、実はその逆なんですよね。“笑顔の眩しい毒舌美女”とか“普通の高校にやって来た忍者”とか、いつも奇抜な設定1つは用意されてはいるのですが、それ以外の部分が全くボヤけてしまって、いわゆる「キャラが立っていない」状態になってしまっているのです。
 よくストーリー作品で「キャラクターが命」…などと言われますが、ギャグにとってもキャラ立ちは非常に重要な要素です。同じギャグ・フレーズでも、何の変哲も無い一般人に言わせるのと、そのネタが似合う(または全く似合わない)キャラクターに言わせるのとでは全く“威力”が異なって来るのです。
 この事を説明するのに最も適当な例が、TV番組の「笑う犬」シリーズで以前あった『小須田部長』。このコントでウッチャン演じる小須田部長は、そのキャラに相応しいヘタレっぷりで笑いを獲ったかと思えば、時にキャラに全くそぐわない頼もしさを見せて、そのギャップでまた笑わせましたよね。しかし、これで小須田部長がごく平凡な普通のサラリーマンだったら、これほど面白いコントにはならなかったはずです。普通の人が無理難題を押し付けられて困っているだけの詰まらないモノになっていた事でしょう。
 で、郷田さんの作品は、それに似た状態になってしまっているわけです。まぁ出て来る人物は平凡で普通の人ではありませんが、ギャグ世界においてはかなり没個性なキャラクターである事は確かだと思います。この点をどうにかしない限り、いくらギャグのネタを練っても、作品全体のクオリティは改善しないのではないかと思います。

 評価はB−としておきましょう。諸々の素質は感じさせる作家さんだけに、このまま燻って欲しくないものです。とりあえず次回作に注目してみます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『BLACK CAT』作画:矢吹健太朗【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ウワァ……(絶句)。
 アンケート人気が下がると、萌えキャラ出現イベントや主人公縮小イベントなど、何か“仕掛ける”と言われている矢吹さんですが、今回はイヴの人魚コスプレとは……。
 しかし、日頃からパンチラ・セミヌード披露で男子中高生のハートを掴んで離さない某作品よりも、露出の小さいこちらの方がずっとあざとい気がするのは何故でしょうか?(苦笑)

 ◎『★SANTA!★』作画:蔵人健吾【現時点での評価:B−/雑感】 

 今回のバトルのオチ、これはギャグなのか真剣なのか、どう解釈したらいいんでしょうね?(苦笑)
 真面目にやってるとしたら、ちょっと手の施しようの無いくらい勘違いしてるとしか思えないんですが……。

 ◎『プリティフェイス』作画:叶恭弘【現時点での評価:B+/雑感】 

 前号の巻頭カラーから一転、掲載順が実質ブービーに。ストーリーも風雲急を告げるものですし、どうやら連載終了が間近と見て良いみたいですね。
 今回のクライマックスはネット界隈でもなかなか好評。叶さん、ストーリーの演出力にはやはり非凡なものがありますよね
 あと数回でどのようなドラマティックな幕引きをしてくれるのか、最後まで注目してみたいと思います。

 

 ……と、今日はアッサリ風味のボリュームですが、こんなところで。今週はゼミ以外の講義も充実させるつもりですので、どうかご容赦を。

 


 

2003年第23回講義
5月23日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第4週分・後半)

 後半の部、スタートです。何とか今週はほぼ正常な日程で講義が実施できました。

 さて、今日も早速情報系の話題から。

 まずは「サンデー」以外の話題を。
 今年初冬から春にかけて、当ゼミでエントリー作完全レビューを実施した第2回「世界漫画愛読者大賞」ですが、今週発売の「バンチ」誌上で最終結果発表がありました。
 注目の、読者投票第1位作品『摩虎羅』作:茜色雲丸/画:KU・SA・KA・BE)のグランプリ信任投票の結果“不信任”となり、今回はグランプリ該当作無しという事になりました。
 その他の結果を簡単に紹介しておきますと、準グランプリ(賞金1500万円)に先述の『摩虎羅』、そして残る最終エントリーの7作品が賞金100万円の“入選”、その他に読者選考会で落選した内の3作品が賞金50万円の“佳作”となりました。
 この賞、賞金総額1億円を謳っていたのですが、実際に支払われる賞金は2350万円グランプリの5000万円を別にしても半分以上の賞金が宙に浮いた形となるわけで、どれだけ今回の賞レースが不作だったかがよく判ろうと言うものです。
 それは主催者側もよく理解しているようで、次回からこの賞は大幅リニューアル(規模縮小?)されるとの事元々からして構造的欠陥の塊のような漫画賞だっただけに(←詳しくは02年5月20日付講義・「徹底検証! 『世界漫画愛読者大賞』」を参照)仕方ないと言えばそうなのですが、意欲だけは十二分に窺える試みだっただけに残念ではありますね。
 なお、今回の「世界漫画愛読者大賞」については、別タイトルの講義として、または当ゼミ内で詳しい考察を行なう予定です。どうぞお楽し……とは言えませんね、さすがに(苦笑)。

 さて、次は「サンデー」系の情報。月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」の3月期審査結果が出ていますので、受賞者・受賞作を紹介しておきます。

少年サンデーまんがカレッジ
(03年3月期)

 入選=該当作なし
 佳作=2編
  ・『一射入魂』
   大塚志郎(20歳・東京)
    ・『鋼鉄盗人』
   飯島潤(27歳・東京)
 努力賞=5編
  ・『ギャロウィン』
   白石テツマサ(22歳・神奈川)
  ・『地獄TAXi』
   HIROSHI(21歳・京都)
  ・『パスorラン』
   高橋たいら(23歳・熊本)
  ・『Tennis Bpys』
   川村隆信(22歳・東京)  
  ・『ビバ・スイマー部』
   浜崎智弘(25歳・埼玉)
 あと一歩で賞(選外)=該当作無し 

 今回の受賞者さんたちのキャリアは以下の通りです。(名前で調査してますので、同姓同名の別人の可能性が僅かながらに残っています)

 ◎佳作の大塚志郎さん02年6月の「ビッグコミックスピリッツ・増刊新憎」で読み切り発表。また、02年10月にはNHK教育の「真剣10代しゃべり場」に出演
 ◎佳作の飯島潤さん96年増刊夏号及び、「赤マルジャンプ」98年夏、99年春、00年春号で読み切り掲載(注:99年以前に「ジャンプ」系新人賞で受賞の可能性が有りますが、確認できませんでした)


追記:受講生の方から、飯島さんが95年4月期の「ホップ☆ステップ」賞で佳作を受賞していた…との情報を証拠物件付で(!)頂きました。有難う御座います。ちなみに、この95年4月期には当時16歳の村田雄介さんが入選を受賞しています。逆にいえば村田さんも、『アイシル』で成功するまでに7年以上掛かってるわけですね)
さらに追記:その後の追加調査で飯島さんは第44回赤塚賞《96年上期》で準入選を受賞していた事が判明しました。ちなみにその受賞作がデビュー作です)
もう1回追記飯島さんのデビューは、92年初版の単行本・『ホップ☆ステップ賞セレクション』10巻でした。当時の「ホップ☆ステップ賞」では、月ごとの最高評点獲得者は単行本でデビュー出来る特典があったようで、増刊や本誌で作品を発表していないのに単行本のラインナップに名を連ねている新人作家さんもいらっしゃっいました)

 今回の「まんカレ」、「総評」では編集者代表と思しき方による「まんがのドラマはキャラクターが全て。設定や事件の目新しさに読者は感情移入してくれません」豪快な決め打ちが。まぁ確かにキャラ立ちしてないストーリーの大半は駄作ですが、“全て”はさすがに言い過ぎじゃないかと思ったり思わなかったり。
 でもまぁ多分、『なぁゲームをやろうじゃないか』作画:桜玉吉)の2巻に載っている『アコンカグア』(注:確信犯的にクソつまらなく描かれた、ファンタジー物の“作品中作品”)みたいな作品ばかりが寄せられてストレス溜まってたんでしょうね(笑)。

 
 ……情報系の話題は以上。今日はちょっと喋りすぎた感がありますので、さっさとレビューに行っちゃいましょう。現時点で既に、本日の駒木の睡眠時間が4時間を割る事が確定しています。
 今週のレビュー対象作は2本新連載第3回の後追いレビューと、短期集中連載の総括レビューです。チェックポイントも続けてどうぞ。 
 

☆「週刊少年サンデー」2003年25号☆

 ◎新連載第3回『売ったれ ダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治【第1回掲載時の評価:A−

 短期集中連載時からのリニューアルが功を奏し、上々のスタートを切った…と、第1回のレビューで申し上げたんですが、第2回と第3回に関して言えば、最初に比べて若干パワーダウンしてしまったと言わざるを得ません
 その理由はハッキリしています。1回あたりのページ数が減ったのに、第1話と同じテンポで一話完結型のエピソードに無理やりまとめようとしてしまったからです。

 こういう話は、途中に主人公が悪戦苦闘すればするほどクライマックスが盛り上がり、更にはリアル感が出て来るものなのですが、20ページ前後のボリュームでは、かなりご都合主義的に主人公が成功してしまわないとページ的に間に合わないんですよね。つまり、規定のページで収まるように上手く構成すればするほど、ストーリー展開が不味くなってしまうというジレンマが出て来てしまうわけです。
 この“症状”は、以前『MIND ASSASSIN』作画:かずはじめ)でも見られたもので、重症に陥ると打ち切りに直結しかねない厄介なモノだったりします。一話完結型から数話完結型に改める事で、ある程度症状は和らぐのですが……。
 あとは、早い段階で悪役らしくないライバルを出現させる事が成功への近道かな…という気がします。こういうお話って、“いかにも”な悪役が出て来ると一気に安っぽくなってしまいますんでね。(短期集中連載の時はそれでかなり損をしていた気がします)

 ただし評価は、近い内に数話完結型に移行するであろう事を考慮して、ほぼ据え置きのA−としておきます。ただし、あと5回ほど様子を見て良化の兆しが見えなければ、格下げも検討します。

 ◎短期集中連載総括『黒松・ザ・ノーベレスト』作画:水口尚樹【第1回掲載時の評価:A−

 短期集中連載は5回目で終了となりました。同じ短期集中でも回数がまちまちなのはどういう事なんでしょうね、しかし。まぁ、水口さんは増刊で連載中なので、最初から1ヶ月限定という予定だったのかも知れませんが。

 さて、内容についてですが、やや最終回で失速気味だったものの、なかなかのハイレヴェルを維持したままで5回を乗り切ったのではないかと思います。水口さん独特の“間”の良さに加えて、主要キャラクターがキチンと立っていたのも成功の決め手でしょう。特にキャラ立ちの点は、これまで短期集中連載された他の作品と比べてもかなりのアドバンテージを持っていると思います。
 ただし、第1回の時からの短所である、ボキャブラリーが若干拙いという部分が克服されておらず、全編笑いっぱなしという所までは行かなかったのが残念ではありました。今後はこの問題点を解消する事が出世への近道となるのではないでしょうか。

 評価はB+寄りA−で据え置きとします。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 今週の巻末コメントのテーマ「初めてファンレターを貰った時の感想」。もはや手の施しようの無い(笑)久米田さんを除いては、皆さんボケる事も無く素直なお答え。
 駒木もファンレターではありませんが、講義について良い評価をして頂いたメールを貰った時は大変に嬉しいものです。最近、またご返事出来ない状態が続いていますが、全部しっかり読んで有り難がってますので、どうか何卒。

 ◎『MÄR(メル)作画:安西信行【現時点での評価:B/雑感】 

 何か甘酸っぺえキスシーンで盛り上がってますが、あの勢いだったら、キスというよりヘッドバッドではないかと思われますが(笑)。お互いの前歯と前歯がぶつかって、キスしちゃった云々とか言ってられない痛みが走ってるはずだと思ってしまったり。
 そういや、『じゃじゃ馬グルーミンup!』作画:ゆうきまさみ)での駿平とひびきの前歯衝突は微笑ましかったですよね(笑)。

 ◎『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【現時点での評価:B/雑感】 

 瀬能のセリフが象徴するように、上手くツッコミ所を笑い所に変えるようになって来ましたね、この作品。まぁある意味、読者がいちいちツッコミを入れる気力も失せて来たという事もありますが(笑)。
 最近は絶対音感の設定が全くと言って良いほど出てこなくなりましたが、その分だけ主人公がキチンと努力するようになって来てドラマが盛り上がるようになりましたね。下手に主人公に能力を与えても面白い話が出来るわけではない事を逆の意味で証明した作品と言えそうです。

 ◎『KATSU!』作画:あだち充【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 香月の親父さんがジム生に課したハードルがどれ位厳しいか、ちょっと検証。

 ◎東日本の新人王……新人王戦はキャリアの少ない(4勝以下)プロボクサーによる階級別トーナメント。階級によるが、東日本新人王になるには3〜5連勝が必要。しかも、大抵各階級に1人は将来の日本ランカー〜世界チャンプ級がエントリーしているので、最低でも日本ランカー並の素質が必要。
 ◎日本ランキング5位……日本ランカーになるには、全日本新人王(東日本新人王になって、西日本新人王との決定戦に勝つ)になるか、デビューから6勝してA級ボクサーになった後、日本ランカーとの直接対決で勝つ必要有り。5位以内になるには、ランカーになった後に日本やアジア諸国のランカー相手に勝たなければ難しい。
 ◎10連勝……デビュー以来10連勝なら、最低でも日本チャンピオンになって1〜2回防衛済みか。デビューして何勝かしているボクサーなら、下手すれば世界に手が届く。
 ◎コミック大賞受賞……年2回の「サンデー」系新人賞。大賞が出るのは10年に1人とも言われる。
 ◎ミドル級世界チャンピオン……ミドル級は世界クラスでは最も層が分厚い階級の1つで、恐ろしくハイレヴェル。ただし、日本では事実上の最重量クラスで層が薄く、世界クラスとのギャップが激しい。ゆえに、日本人がミドル級で世界チャンピオンになる事は天地をひっくり返すほど難しいが、これまででただ1人、あの「ガチンコファイトクラブ」の竹原慎二だけがその天地をひっくり返すような偉業を達成している。

 これに比べたら、インターハイ優勝というのは確かに大分簡単と言えそうですね。このマンガの世界じゃなければ…の話ですが(笑)。
 大体が、高校のボクシングは技術云々よりラッシュ・ラッシュらしいんですよね。2分3ラウンドですし、ちょっと攻め込まれていると、すぐにレフェリーストップがかかってしまいますから……。まぁこの辺が、現実をどこまで反映させるかのさじ加減の難しさですよね。

 ……というわけで、最後はマンガ時評なのかボクシング関連講義なのか判らなくなってしまいましたが、これも社会学講座らしいってことでご容赦を。ではでは。

 


 

2003年第22回講義
5月20日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第4週分・前半)

 今週前半分のゼミをお送りします。最近「現代マンガ時評」ばっかりだな…とご不満をお持ちの受講生さん、申し訳ありません(苦笑)。
 実はここしばらく公私共にゴチャゴチャしているので、ちょっと意識的に講義回数を減らしています。それでもそろそろアクセル踏もうと思ってますので今しばらくお待ちを。

 では、今日も情報系の話題から。今週は「週刊少年ジャンプ」系の月例新人賞・「天下一漫画賞」3月期の審査結果が発表されましたので、受賞者・受賞作を紹介しておきましょう。

第80回ジャンプ天下一漫画賞(03年3月期)

 入選=該当作無し
 準入選=1編
  ・『SEA SIDE JET CITY』
   北島一喜(17歳・富山)

 
《講評:背景の描き込みの量、質ともに高レベルで、熱意が伝わった。コマ割りと、アングルに大変工夫がこなされていて、演出の効果はかなり評価できる。セリフの言い回しにもセンスを感じる。ストーリーをもう少し練って欲しい》
 佳作=該当作無し  
 審査員&編集部特別賞=該当作無し
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『アメイジング・ヒーロー』
   黒岩基司(23歳・宮崎)
  ・『KING』
   福田光(20歳・三重)
  ・『タイム☆トリッパーズ』
   高野紗代(19歳・愛知)
  ・『HURD QUINN』
   ミュウ・ミッチ(23歳・北海道)
  ・『KOU』
   田村喜広(27歳・大阪)
  ・『罪人ジゾウ』
   船津雅史(18歳・大阪)
  ・『砂塵の桜』
   朱柳限(18歳・北海道) 

 今回最終候補以上に残った皆さんの、過去の受賞歴等は以下の通りです。

 ◎最終候補の黒岩基司さん02年5月期「天下一」で最終候補、02年度「ストーリーキング」ネーム部門で最終候補
 ◎最終候補のミュウ・ミッチさん01年12月期&02年5月期「天下一」で最終候補
 ◎最終候補の船津雅史さん01年5月期&02年3月期「天下一」で最終候補

 ──最終候補の壁をなかなか越えられない人たちがいる一方で、初受賞でいきなり数年ぶりの準入選という17歳も……。今回の「天下一」は、まさに実力社会を象徴したものとなりました。
 
(補足:その後、受講生さんのご指摘により、準入選の北島一喜さんも、01年8月期「天下一」で審査員《許斐剛》特別賞を北嶋一喜名義で受賞していたことが判明しました。ご協力有難うございました)

 そして既報通り、「天下一漫画賞」は03年3月期をもって廃止され、それに代わって「ジャンプ十二傑新人漫画賞」が新設されました。「毎月必ず1名デビュー」という破格の“特典”の影響は大きく、既に締め切られた4月期には「手塚賞」に匹敵する数の応募作品が寄せられたとかどうとか。
 しかし、「手塚賞」では毎回数人がデビュー出来たりしますので、(デビューする事だけを考えるなら)ひょっとしたら今は「十二傑」よりも「手塚賞」の方が穴場かも知れませんね。少なくとも、ギャグ作品なら間違いなく「赤塚賞」の方が受かり易いでしょう。ナニゲにこういう所から運命が分かれてしまう事もよくある話ですので、投稿を考えられている方は熟考をお薦めします

 そして今日は情報をもう1つ次号の読み切りについてです。
 次号(26号)掲載の読み切りは『ゴールデンシュート鳥越』。その作者は、もうこのゼミでもすっかりお馴染みの新人・郷田こうやさんです。
 郷田さんは今年だけでも既に「赤マル」冬号と本誌17号に作品を発表済み。このペースは新人さんとしては異例のものと言って良いと思います。ただ、最近の郷田さんは画力も上達して非常に意欲を感じさせる活動振りではあるのですが、どうも肝心のギャグ構成力の方がまだ発展途上(というか伸び悩み)なのが気になっています。次週のゼミでは、その辺にも深く踏み込んだレビューをお送りしたいと思います。

 
 情報系の話題は以上です。続いて本日分のレビューへ移りましょう。
 今日のレビュー対象作は読み切りの1本で、その後にはチェックポイントもお送りします。あと、今回も簡単ながら「読書メモ」もやりますので、そちらもご注目下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年25号☆

 ◎読み切り『World4u_』作画:江尻立真

 今週号も読み切りは“新人・若手枠”。今回は実に4年ぶりの作品発表となる、現在は尾田栄一郎さんのアシスタントも務めている江尻立真さんの登場です。
 先週のゼミでもお話しましたが、江尻さんは金沢大学の漫研出身で、在学中はアニメ製作などの本格的な同人活動も手がけていたようです。で、それと相前後して99年にはマンガ家としてプロデビューを果たしています。ただし、キャリアは「赤マルジャンプ」に限られており、本誌は今回が初登場になりますね。

 ──では本題へ。

 まず目に付くのが絵の綺麗さですね。キャラ絵は勿論、背景までも細かく、それでいて過剰にならない程度にキッチリ描き込まれていて、非常に好感が持てます。デフォルメ等のマンガ的表現も問題なく出来ていますし、「ジャンプ」系の新人・若手作家さんの中では間違いなくトップクラスの画力と言えるでしょう。
 注文をつける点とすれば、タッチが細い線だけでメリハリが無く、しかも動きの少ないコマが圧倒的に多いために、作品全体の迫力が弱くなってしまった所でしょうか。やはりマンガは見た目のインパクトが重要な部分がありますので、次回作ではこの辺りを修正していって欲しいと思います。

 ストーリーは、かつての「ジャンプ」長期連載作・『アウターゾーン』作画:光原伸)を思わせる、日常を舞台にしたショート・ホラー物。冒頭・中間・ラストで語り部が登場する辺りからはTVの「世にも奇妙な物語」の影響も強く感じますね。
 今回は2つのエピソードがオムニバス形式で描かれたわけですが、両方とも起承転結・伏線の構築及び処理が丁寧に練られていて、“力作”という言葉が良く似合う仕上がりになっています。さすが“元・映像作家”だけあって、場面転換や言語表現にも工夫の跡が見られて良い感じです。
 ただし、これはページ数の関係もあるのでしょうが、今回は「上手く見せたい」、「キッチリとした構成を完成させたい」…という意気込みが強過ぎた感が否めません。特に気になったのがクライマックスが高度な“考えオチ”になっている部分でした。怖いという感情はストレートに脳みそと感覚に訴えてこそ出て来るものですから、怖さを表現する部分で読者に論理的な思考を求めてしまっては、せっかくの練ったシナリオも威力半減といったところなのです。
 また、根本的な問題として、これをマンガで表現する意義があるのかどうか…という点にも疑問を感じます。駒木が思うに、この作品のエピソードはマンガ向きではなく、小説やアニメまたは実写でこそのお話だと思うのですが……。

 評価は非常に迷ったんですが、A−寄りB+に留めたいと思います。地力そのものは既に連載作家さんのそれだと思いますので、次回作に期待しましょう。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『プリティフェイス』作画:叶恭弘【現時点での評価:B+/雑感】 

 連載1周年巻頭カラーでお祝いムード……と思いきや、急展開&人気投票の結果発表が単行本回しという事で、一部では「次期打ち切り確定」などと囁かれる羽目に……。いや、実際のところは判らないんですが。
 ただ、“○周年記念巻頭カラー”の直後に連載終了というパターンも以前にありましたし、一話完結形式の作品での急展開は最終回への布石であるのは1つのセオリーですから、終わってもおかしくはないとは思います。
 個人的には安心して読める“ごはん系”作品として、もうしばらく継続させて欲しかったりするんですけどね。

 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 今晩は。今回の天国に物凄〜〜く感情移入出来てしまうのが酷く悲しい駒木ハヤトです(笑)。もう何年も恋愛で全く良い思いをしていないので、こういうのってズキズキと堪えるんですよね(苦笑)。……まぁ、このマンガの世界では、何話か引っ張って天国の取り越し苦労…って展開になるんでしょうが。
 しかし、久々に擬似最終回ネタを見たような気が。ただ、ネタそのものよりも「マジ、シャレになんねー」の方が笑えたりするのがアレですね(笑)。

 
 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:/雑感】
 
 河下センセイ、メイド系ウェイトレス衣装+ミニスカート+ニーソックスは反則です(笑)。
 でも、実社会でも町の洋菓子店でメイド系制服の店員さんっているんですが、仕事熱心のあまり無愛想な人が多くて、あまり可愛くないんですよね。まぁ最近はメイドコスプレ喫茶なんてのが出来て、プロの仕事として可愛さを演出してくれる店も出て来ましたけど。

 ところで、最近のこの作品はストーリー的にも大分骨太になって来た感がありますね。次に採り上げる時までこのテンションが持続していればB+への格上げも検討したいと思います。

◇駒木博士の読書メモ(5月第4週前半)◇

 ◎『覇王〜Mahjong King's Fighters〜』作画:木村シュウジ/『近代麻雀』連載中

 今回は、近頃一部で大いに話題を振りまいた作品を紹介します。
 この作品は、日本プロ麻雀連盟が公認&協力の下、実在する連盟所属のプロ雀士がフィクションの世界の中に登場し、主人公と共に業界を挙げての麻雀トーナメントで戦いを繰り広げる…というもの。
 まぁそれだけなら水島新司作品の麻雀版みたいなもので、それほど目新しさも無いわけなのですが、今回、とあるキャラクターが登場する事で一気に作品全体のボルテージが急上昇しました。
 その“とあるキャラクター”とは、なんとあの哭きの竜! まさにマンガならではと言いますか、強烈な事をしてくれるもんです(笑)。だってこれ、他のマンガで喩えるなら、『はじめの一歩』で、一歩の対戦相手が矢吹丈…みたいなもんですよ。反則だとは思いながら、先が気になって仕方ないじゃないですか。
 ……というわけで、麻雀に詳しい受講生さんは今後の展開にご注目を。駒木の予想では、井出洋介もどきのキャラが理屈こねながらコテンパンに負かされると見ましたが。


 ……では、今日はこの辺で。また後半でもどうぞよろしく。

 


 

2003年第21回講義
5月17日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第3週分・後半)

 久々の週内ゼミ後半実施となりました(ギリギリですけど)。そして今週は、これも久々にレビュー対象作ゼロという事に。講義する方としては楽なんですが、やっぱり拍子抜けすると言うか何と言うか……。
 なので、今日は業務縮小前から積み残しになってた課題を消化してしまおうと思っています。講義の後半にご注目を。

 今週は特に情報もありませんので、早速講義の本題へと移りたいと思います。まずは「サンデー」のチェックポイントからお送りしましょう。

☆「週刊少年サンデー」2003年24号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻頭の注目はミニモ……もとい、『金色のガッシュ(ベル)!』カードゲーム。何と言いますか、「そこに目をつけたか!」…と言いたくなってしまいますね(笑)。目指すはやはり、億単位のカードを売り尽くした「ジャンプ」の某作品でしょうか。
 『ガッシュ』は意外と単行本が売れていなかったりしますので、こういう所で商業的に成功させたいと言う気持ちは分からないでもないんですがねぇ。でも正直言って、何か違うだろうと思ったり思わなかったり……。

 ◎『焼きたて!! ジャぱん』作画:橋口たかし【現時点での評価:/雑感】
 
 電子レンジに猫の話って、アレは作り話だったんですか。「マクドのコーヒーこぼして火傷したから賠償金よこせ」…とか、「タバコ売りやがって、おかげで肺ガンだ! 金払え!」…とか、アメリカって日本では『ギャンブルレーサー』(作画:田中誠)の世界でしか見られない理屈が通じる国なので、それもアリだと思ってたんですけどね。
 しかし、アメリカならヤフーBBはいくら賠償金払う羽目になるんだろう(笑)。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 この作品の皮村と林田のやりとりって、ティーンエイジャー男子の行動を結構リアルに表現してて、思わず微苦笑しちゃうんですよね。
 そういえば、中〜高校生活で、自分の片想いの相手をトップシークレットにしちゃうのは男子だけみたいですね。女子は仲良しグループでは結構開けっぴろげにしちゃって、当事者以外は応援に回ったりするそうで。
 しかし冷静に俯瞰してみると、片想いの相手を悟られまいと必死になるニキビ面の男ってアホそのものなんですよね(苦笑)。でもどうして開き直れないんでしょうなー。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 以前の『神聖モテモテ王国』(作画:ながいけん)を思わせるような、投稿コーナー新設。当面の打ち切り回避を祝していいのやら、『うわ、縁起悪りぃ』と引くべきなのやら、分かりませんな(笑)。
 それにしても「久米田先生の悩み」、これボケ辛いなぁ(苦笑)。ハガキ来なかったらどうすんだろう。
 ところで、受講生の皆さん、もし仲間由紀恵さんに「私を取るか、『社会学講座』を取るかどちらかにして」…と言われたら、どう答えるべきだと思いますか?(笑)

 ◎『天使な小生意気』作画:西森博之【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回の格闘シーン&決めゼリフ、カッコいいなぁ。
 普通の少年マンガの場合、“必殺技の名前唱えて何か分からんけどズドーン!” …で逃げられるんですが、この作品の場合はそれが出来ないわけで、西森さんは結構大変な思いをされてるんじゃないかと思ったりします。“必殺技ズドーン”よりも10倍難しくて10倍地味だったりするんですが、せめて当ゼミくらいはその地味な努力を評価しなくちゃと思わされます。お見事でした。

 

◇駒木博士の読書メモ(5月第3週後半)◇

 ……というわけで、今週は久しぶりに「読書メモ」の実施。今回のターゲットは、皆さんにレビューをお待たせしていたこの作品です。

 ◎『魔法先生ネギま!』作画:赤松健/「週刊少年マガジン」連載中【現在まで評価未了/レビュー】

 もう特別な説明は不要でしょう。『ラブひな』で一世を風靡した赤松健さんが新たに立ち上げた連載作・『魔法先生ネギま!』が当ゼミに登場です。

 さて、この作品、赤松さんのウェブ日記によりますと、第1回から『ラブひな』を上回るアンケート結果をマークし続け、既に1年先まで見据えた構想を検討中との事。
 何と言いますか、日本中の週刊連載マンガ家さんの羨望の眼差しを集めてしまいそうな勢いですよね(笑)。

 ですが、まぁそれも内容を読めば理解出来ます。作者の赤松さんには多少失礼かも知れませんが、この作品は(前作・『ラブひな』と同じように)“名作”になる事を一番初めの段階から放棄されている代わり、全てのパワーが、“人気作”になるような方向性で注ぎ込まれているのです。具体的に言えば、複雑で起伏に富んだストーリーや先の読めない展開で読者を引き込むのではなく、読者の最大公約数的な意見を正確に掴んだエンターテインメント(ベタベタのラブコメ、萌えキャラ、ライトなお色気など)を提供する事だけに徹した作品…という事ですね。
 このようなマンガに対する姿勢は、邪道と言ってしまえば確かにそうでしょう。内容の濃いストーリーと技巧を求める当ゼミでは、たとえこの作品が日本一の人気作に出世したとしてもAやA−といった評価を与える事は出来ません
 しかし、それとは別の部分において、「それはそれで凄い」という思いも強く抱かされるものでもあるのです。

 普通、メガヒット作品を世に出した作家さんは、その成功に溺れて客観的な判断力を欠くようになってしまいます。その後に新作を描くにしても、そのメガヒット作で成功したと思われる部分を抽出し、記号化し、それを再構成する事しか出来なくなるのです。簡単に言うと、キャラクターの名前と舞台設定をマイナーチェンジさせただけの焼き直しした作品しか描かなくなり、しかもそれが正解だと信じて疑わなくなるわけです。それが読者の目にはどう考えても不正解に映る駄作だったとしても…です。
 こうなったが最後、その“大御所”作家さんが新しく立ち上げる連載は短期打ち切りの連続となります。そして、挙句の果てにはメガヒット作のリメイクに逃げ込んで、かつての支持層のノスタルジーに訴えるしか術が無くなってしまうのです。ここでは具体的な名前は挙げませんが、いくつかの青年誌・成年誌(not18禁)でマンガを読まれる方には、誰がそういうタイプの作家なのか、すぐにお分かりになると思います。
 以前、小林よしのりさん「2作品以上ヒット作を出せる作家は天才だ」…みたいな事を述べてらっしゃいましたが、それはこの辺りにも理由があるのだと思います。それまでの成功に至ったプロセスを一度放棄し、再び白紙の状態からヒット作を描く作業を始めるだけの意欲と力がある人と言うのは、やはり天才的な才能を持っている人なのでしょうから。
(ただし、長い間バカの一つ覚え的に同じような作品を描き続けている内に、読者の世代が一回りして偶然2度目のヒット作が生まれてしまう…という例外的なパターンもあります。誰とは言いませんがギャラクティカ某→某流星拳ですね《笑》。
 また、この発言の当事者である小林よしのりさんについては、“天才”と呼ぶには駄作が多すぎるような気がしないでもないですね。もっとも、これは人によって考え方が異なるでしょうが──)

 で、そういう意味で言えば、赤松健さんはそのような「2度のヒット作を生み出せる天才」の典型例という事になると思います。決して自分の過去の成功に溺れず極めて冷静な自己&現状分析を行う事が出来、その上、他のヒット作からも参考になる部分はどんどん取り入れていこうという謙虚な姿勢も窺えます。これは地味ながら間違いなく天賦の才と言えるものでしょう。
 いつになるか分かりませんが、赤松さんには青年誌あたりで骨太の長編ストーリー作品に挑戦してもらいたいです。単なる“人気作家”でキャリアを終わらせてしまうには惜しい才能であると、駒木は思えてならないのです。

 ……とはいえ、今回の作品そのものの評価は、先に挙げた理由からB+止まりです。これは当ゼミの評価基準からも譲れないところですので、もうどうしようもありません。ただし、“究極のB+評価”と言うべきものであると思います。

 ──今週の講義は以上です。やっと1つ課題をクリア出来ました(笑)。次週も出来れば週内実施できればいいですね。ではでは。

 


 

2003年第19回講義
5月15日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第3週分・前半)

 日付だけなら中4日も開いてしまったんですが、振替講義の加減で実質はあまり休めてません(苦笑)。キツいです、正直。

 いや〜、先週の講義は疲れました(笑)。結局、全作品を真面目にレビューしたのと同じ形になっちゃいましたしねぇ。今日はレビュー1本とチェックポイントなんですが、「あれ? レビュー1本だけで良いんだ」…みたいな感覚ですよ(笑)。
 まぁ、たまには無茶するのも一興、ということで……。

 
 さて、今週も次号の「ジャンプ」に掲載される読み切り作品の情報から。しばらくは毎週こんな感じになりそうですね。
 「週刊少年ジャンプ」次号(25号)に掲載されるのは、『World 4u_』作画:江尻立真)。作者の江尻さんは、99年冬(新年)号の「赤マルジャンプ」でデビューし、同年夏号にも作品を発表していましたが、それから4年ぶりの復帰作となります。
 とりあえずザッと調べてみましたところ、江尻さんは金沢大学の漫研出身で、学生時代にはアニメ製作(監督・絵コンテ)などの本格的な同人活動もしていたようです。で、現在は上京して尾田栄一郎さんのアシスタントを務めているとのこと。雌伏していた間にどれほど力を貯えたのか、ジックリと見せて頂きたいと思います。

 しかし、「赤マル」やら本誌の読み切りやらのラインナップを振り返りますと、「ジャンプ」ってやっぱり新人・若手の層が分厚いですよねぇ。人材不足なのは「連載作家」であって、「作家」は溢れるほどスタンバイしているのがよく判ります。
 それを考えれば、連載枠を減らして新人や若手にチャンスを与える現在の編集方針って、理に適ってはいるんですよね。まぁそうやって載った読み切りがスカだった場合は物凄く印象悪いんですが(苦笑)。

 そして今日はニュースをもう1本。「ジャンプ」の至る所をよく観察してらっしゃるような受講生さんはお気づきでしょうが、「ジャンプ」のオフィシャルな発売日が毎週月曜日に切り替わったようです。
 元々、「ジャンプ」は(一部地域を除いて)事実上月曜発売だったわけですが、ようやく実態と一致するようになったわけです。しかし、何故これまでそうしなかったんでしょうか。色々と読者には関わりの無い所で問題があったのだと思いますが……。

 
 ──では、レビューとチェックポイントに移ります。先に紹介しましたように、今日のレビューは読み切り1本分のみ。「チェックポイント」も続けてどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年24号☆

 ◎読み切り『GRAND SLAM』作画:杉本洋平

 今週の読み切りは、本誌デビューとなる若手作家・杉本洋平さんの登場です。
 杉本さんは現在23歳。新人賞の受賞歴等は有りませんが、01年冬(新年)号の「赤マルジャンプ」でデビューし、同年夏号にも作品を掲載しています。先程の江尻立真さんと2年違いながら同じようなキャリアですね。

 ……では、まずからレビューしてゆきますが、恐らくはほとんどの方がパッと見の絵柄に「?」マークをつけたと思います。勿論、画風という部分も影響しているのでしょうが、それよりも基礎的な技術のいくつかが習得出来ていないような気がしてなりません。
 特に「これは……」と思ってしまったのが、グラウンドの土の描き方と距離感の描写ですね。野球場の地面が、まるで西部劇でガンマンが打ち合いするような荒野になっちゃってますし、ピッチャーマウンドからバッターボックスまで何十mも離れているように見えてしまうのも、ハッキリ言って頂けません。
 このミスは画力もそうですが、取材不足も祟っているように思えます。他の野球マンガを研究するのは当然の事ながら、実際に野球場に足を運んで写真撮影やスケッチを敢行するくらいの手間ヒマはかけるべきでしょう。

 次はストーリー・設定について。
 ストーリーは野球マンガにおける1つの王道とも言える、「読者にストレスを溜めさせる→主人公が豪快なホームラン」…というパターンでした。
 この形式は、一見すると工夫が無さげで単純な筋書きではありますが、実はこれ自体には問題はありません。これまでにも『ブル田さん』作:高橋三千綱/画:きくち正太)や、『ジャイアント』作画:山田芳裕)のように、単純なシナリオを上手く演出して成功した傑作もありますし、ジャンプでも(傑作とまでは言えないものの)『Mr.FULLSWING』がマズマズの成功を収めています。ですからこの作品も、むしろ良い所に目をつけた…と言って良いのではないかと思います。ですから、現にこの作品を読んで爽快感を抱かれた方もいらっしゃったのではないでしょうか。

 しかし、そんな方たちには失礼ながら、この作品には、肝心の演出面に“キズ”があります。既に出揃った感のあるネット界隈の評判では、“賛否両論おしなべて不評”だったのも、ひょっとするとその辺が理由かも知れません。

 まず、主人公の行動に一貫性がやや欠けている事が1点目です。
 バッティングセンターではポリシーに従って、決してスイングしない主人公が、どうして練習台でバッターボックスに立っている時はブンブン振り回すのか、この辺が不可解なんですよね。単純な筋の話ですから、ここで読者に不可解さを抱かせてしまうと、最後の爽快感が削がれてしまって苦しいわけです。
 実戦でスイングは一切せずに、バーベル放り投げる代わりに素振りでもやらせていれば、多少は印象が違ったかと思いますが……。

 2点目。これはひょっとすると駒木だけなのかも知れないので遠慮がちに言いますが、最後の勝負で打った球がフォークボールっていうのは、どうかと思いませんか?
 こういう野球モノっていうのは、全精力を注ぎ込んだ豪速球を、全身全霊のフルスイングで打ち砕くからカタルシスがあるんであって、相手を欺こうとするフォークボールが勝負球で良いんでしょうか? 
 それに、主人公は速球に目が慣れた訳であって、フォークボールは全く対応外のはずですし、見えているはずの速球を1回打ち損じているのもどうかと思うんですよね。力み過ぎて大空振りというのなら、ベタながらアリなんですが……。

 喩えでまとめてみますと、非常に活きの良い魚を仕入れて来て、そのまま刺身で出せば美味いものを、下手に火を通して失敗した…みたいな作品という事になりますか。素材は良かっただけに残念です。
 評価は諸々の加点・減点を考慮してBとしておきましょう。次回作はもっと“熱い作品”を見てみたいものです。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『テニスの王子様』作画:許斐剛開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ここまでやるなら、「11人いる!」までやらなくちゃ(笑)。この辺り、まだ許斐さん自身は「一応リアル路線だから」とか思ってるのかも知れませんね(ホントか?)。
 失礼ながら、初めて原画を見たアシスタントさんたち、よく笑いを堪えた!…と心から賞賛を送りたい気分であります(笑)。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 なんつーか、本当に芸が細かいですなぁ。
 3箇所あるロングショットの工事シーンでは、ナニゲにレギュラーメンバーたちを「ウォーリーを探せ」状態で仕事させてるし、別のシーンでは、「ヒル魔は栗田以外の前では辛そうに練習してる所は見せない」…というさりげない演出が為されているし。
 ただ、ちょっと最近気になるのが、リアル路線とマンガ的表現のバランスが狂い始めているところですね。今回出て来た太陽スフィンクスなんて、これ『遊☆戯☆王』と『ミスフル』の合体みたいな設定じゃないですか。まぁ、栗田に『余!?』とかツッコミ入れさせている内はまだまだ大丈夫だと思いますが(笑)

 ◎『ROOKIES』作画:森田まさのり開講前に連載開始のため評価未了/解説等】

 今週の展開は、ストーリーテリングの観点から見ると、とんでもない大冒険に踏み出したと言える凄いものです。完全に予定調和を排し、試合の勝敗も含めて混沌とさせてしまいました。
 で、そこまでするからには、大多数の読者を納得させるような、それでいて“見え見え”でない結末に持って行かなければなりませんこれからの数回は、ひょっとすると作品全体のクオリティを決めてしまうような大事なものになるかも知れませんね。要注目です。

 
 ……というわけで、今日の講義はこれまで。後半はレビュー対象作がありませんが、何かやります(笑)。ではでは。

 


 

2003年第18回講義
5月9日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第2週分合同)

 さて、中3日開けて再びゼミのお時間です。
 談話室(BBS)では未だに『ヒカ碁』問題で喧喧囂囂やってますが(苦笑)、こちらではもう過去は振り返らずに、未来を見据えて講義をやっていこうと思ってます。

 ……ということで、今週のゼミは、「ジャンプ」と「サンデー」の合併号休みを利用した、恒例の「赤マルジャンプ」全作品レビューをお送りします。
 ただ、こんな企画を立てると、
 「『サンデー』の増刊やルーキー増刊は特別扱いしないくせに、どうして『赤マル』だけ贔屓するんだ!」
 …というお叱りの声も聞こえて来そうで恐縮モノではあるのですが、“合併号休みに年3回発行”というのが結構重要なファクターだったりします(笑)。多すぎず、少なすぎず、ちょうど題材に困ってる時に発売されてしかも「サンデー」のルーキー増刊と違って、どこの本屋やコンビニでも買えてしまうとなれば、自然と特別扱いになってしまうんですよねぇ。
 まぁ「サンデー」系増刊の方も、A−以上の評価がつけられそうな作品は極力チェックしていきますので、「サンデー」派の受講生の方も、とりあえずは現体制でご了承下さいませ。

 ──では、早速全作品レビューをお届けしたいと思います。ただし、いつもみたいに詳細なレビューをやっていると時間と身が保ちませんので、どちらかと言えば「チェックポイント」の論調に近いようなスタイルで講義を進めて行こうと思いますので、どうか何卒。
 なお、例によって連載作品の番外編はレビューから除外します。ほとんどエロマンガのテイストに近い『苺十割』や、本編よりも面白いと評判の『ふんばりの詩』とか、語り所は結構あるんですけどね(笑)。

◆「赤マルジャンプ」03年春号レビュー◆

 ◎読み切り『沙良羅』作画:やまもとかずや

 巻頭カラーは、もはや「赤マル」名物となった“打ち切り作家枠”。今回は初連載作(そして初突き抜け作)『I'm A Faker!』以来、約1年半ぶりの新作発表となる、やまもとかずやさんの登場です。
 やまもとさんは96年10月期の「天下一漫画賞」で準入選を受賞し、その受賞作・『君が見た地球』で、本誌97年7号にてデビュー。その後、98年と01年に増刊で、00年には本誌でそれぞれ読み切りを発表し、先ほど述べましたように01年に連載を獲得…という経歴を辿って現在に至ります。

 『I'm A Faker!』の連載時はやや粗いと思われた絵柄が大分アカ抜けて来たのがまず目に付きます。アクションシーンや“異形の者”の描写もキッチリなされていて、ブランクがダテでなかった事を匂わせます。
 ただし、ストーリー・設定の方でやや難が。
 アクションシーン以外で人の気配を必要以上に排してしまったために舞台設定に現実感が薄れてしまった事、そしてヒロイン・沙良羅の心情描写の掘り下げが甘くてラストシーンに感情移入させ辛くなってしまった事が読み応えを損ねる結果になってしまった気がします。主役を妖怪の少年から沙良羅に変えてみれば、ずっと奥の深い作品になった気がしますが。
 評価はB+寄りB。素材は良かっただけに惜しい作品と言えそうです。

 ◎読み切り『バクハツHAWK !!』作画:天野明

 天野明さん2001〜02年まで「週刊ヤングマガジン」と系列雑誌で活動していた作家さんで、短期ながら2本の連載(『ぷちぷちラヴィ』、『MONKEY☆BUSINESS』)も経験しています。
 その後、天野さんは「ヤンマガ」を離脱し、一新人として「ジャンプ」に移籍。02年11月期の「天下一漫画賞」では、おやつおやお名義で最終候補になったのを経て、今回が「ジャンプ」移籍デビュー作となります。

 に関しては、さすが元・連載作家、全く問題ありません。無駄な線を排除できているあたりにキャリアを感じさせます。ただ、少年誌向けのペンタッチを意識するあまり、“古臭い少年マンガ風”になってしまった気もしますが……。
 ストーリー・設定に関しては、残念ながら大いに難ありです。この話、冒頭と結末だけ先に決まっていて、後から間の部分を作ったと推測できるのですが、そうやって冒頭と結末をこじつけるために相当な無理をやってしまっています
 特に主人公と敵役の兄弟子を巡り合わせるための手順が矛盾だらけで、この時点でお話として破綻してしまいました。普通、会いたくないヤツが鎖に繋がれてたら、わざわざ会わずに迂回するでしょうに。
 この手の作品は同じパターンの失敗が多いですよね。「“『ジャンプ』っぽい作品”だから大丈夫だろう」でタカを括るのではなくて、ストーリーを繋げるためにいかに必然性のある出来事をでっち上げるか…という部分をもっと意識するべきでしょう。
 評価はC寄りB−

 ◎読み切り『少年青春卓球漫画ぷーやん。』作画:霧木凡ケン

 3本目は「ジャンプ」の誇る(?)永遠の若手作家こと、霧木凡ケンさんの登場です。
 霧木さんのデビューはなんと12年前15歳の初投稿作・『ななせ君のバカ』(きりきけんいち名義)が91年8月期「ホップ☆ステップ賞」でいきなり入選を果たし、この作品が増刊92年冬号に掲載されてデビューとなります。
 その後も92年上期の赤塚賞で準入選を受賞して本誌掲載となるなど、ここまでは順調な出世コースを辿ったのですが、ここから途中5年間の空白があったり、2度の本誌掲載も連載に繋がらないなどして一気に“苦労人路線”を突き進むようになってしまいました。
 なお、今作品は約1年半ぶりの復帰となる読み切りとなります。

 絵柄個性的ながら、一定以上の技量を窺わせるものと言えるでしょう。ただし動的表現に問題点があり、全体的に変な“間”が生じてしまうのが、やや気になるところです。(これも霧木さんファンにはたまらない点なのでしょうが)
 ストーリー・設定は、小じんまりとした内容ながらなかなかまとまっていると思います。ただ、ハッピーエンドなオチを除けば、青年誌の連載ギャグマンガの1回分を抜き出したような感覚が残ってしまいました。
 これはどういう事なのかと言いますと、登場人物が読み切りにしては多過ぎるのがまず1つで、そして話の趣向が、多くの人を楽しませるよりも固定ファンに“いつものヤツ(楽しみ)”を提供する方向に流れてしまっている気がするのがもう1点です。実力は感じられるものの、読み難くてインパクトが大きくないというわけですね。
 この作品、恐らくは昔から霧木さんの作品を読んでいる人たちにとっては手堅く楽しめた作品だと思います。ただし、ニュートラルな立場から俯瞰すると、やはり物足りなさもあるわけです。
 評価は、これもB+寄りB


 ◎読み切り『スピンちゃん試作型』作画:大亜門

 さて、ここからはキャリアの浅い新人作家さんがしばらく続きます。
 大亜門さん02年4月期の「天下一漫画賞」で最終候補に残り(西村大介名義)、その後現在のペンネームに改名して、「ジャンプ」本誌02年34号で代原ながら『もて塾恋愛相談』でデビューを果たします。その後、同年44号でも「天下一」の応募作・『もて塾へ行こう!』が再び代原として作品が掲載されていますね。
 にもかかわらず、今回「赤マル」で新人扱いされているのは、恐らく「代原は正式なキャリアに含めず」という不文律が「ジャンプ」編集部に存在しているのでしょう。つまりは編集部的には今作が大亜門さんのデビュー作ということになっていると思われます。

 で、この作品を読んだ率直な感想は、「この作者、化けた!」…というところでしょうか。いつもながら分かり難い喩えで言いますと、フットボールアワーが第2回のM−1でブレイクしたような感じです。
 大亜門さんは、デビュー時から新人に似合わないほど高いギャグ構成力を持っていたテクニシャンだったのですが、なかなかそれが爆発的な笑いに繋がらないもどかしさがありました。が、今回は個性的なキャラクターを練りこんだ事によって、作品の完成度が飛躍的に増しています
 中でも特筆すべきなのは、漫才の高等テクニックであるボケの畳みかけ(ボケ→ツッコミ→それを強引にスルーして更にボケ…というパターン)を巧みにマンガに応用している点で、見事なまでにテンポの良い展開で31ページを押し切ってしまいました
 残る懸念は、この質の高さが週刊ペースで維持できるのかという事と、全年齢に通じるネタの割合をもう少し増やせるかどうかという所になるでしょう。しかし、現時点で既に週刊連載にゴーサインを出して良い位のレヴェルには達しています。評価はやや迷うところですがA−寄りAとします。


 ◎読み切り『甲殻キッド』作画:梅尾光加

 続いてはこの作品がデビュー作となる梅尾光加さんの登場です。
 梅尾さんは02年2月期「天下一漫画賞」で最終候補に残った後、02年下期「手塚賞」で佳作を受賞。今回はその受賞作でデビューと言うことになります。
 「手塚賞」や「赤塚賞」の佳作は、「天下一」で言えば特別賞〜最終候補に相当するもので、受賞作が代原以外で掲載されるケースは意外と少ないんですよね。そういう意味では“新人マンガ家追っかけにとっては嬉しいお話だったりします。

 “新人さんの習作原稿にしては”という但し書きを付ければですが、十分に合格点だと思います。見た目で違和感を感じる場面はほとんど見られませんでしたし、背景や擬音効果の力量もなかなかのものです。ただ、ややタッチが独特すぎて好き嫌いが分かれそうな絵柄であることと、キャラの顔の描き分け(特に若い男の)が甘い部分今後の課題となるでしょうね。
 ストーリー・設定は、大まかな所では少年マンガの王道を全うしていて、読後感の良い仕上がりにはなっています。ただ、脱皮する特殊体質の実態がやや曖昧(明らかにストレスが増している時点で脱皮の兆候が無かったりする)であったり、主人公がヒロインに対する愛情の深さを“怒り爆発→準サイヤ人化”の時点までで表現し切れていなかった部分があって、ややエピソード全体の説得力を欠いてしまったような気もします。
 評価はやや甘いかも知れませんが、Bとしておきましょう。

 ◎読み切り『あかねの纏』作画:落合沙戸

 続いては、先程の梅尾さんと同じく、02年下期の「手塚賞」で佳作を受賞し、今回デビューを果たした落合沙戸さんの作品です。ただし、落合さんの場合はこのデビュー作は受賞作ではなく、受賞後第一作という事になります。

 一言で言えば達者ですね。今回の「赤マル」は絵が上手い人が多くて表現に困ります(苦笑)。注文をつけるところとすれば、ペンの代わりにロットリングを使っているために、やや迫力に欠ける部分が見え隠れしたところでしょうか。当ゼミでは「ピーコのファッションチェック」の「サンダル履く時は素足で」くらいしつこく言ってますが、「ジャンプ」の紙質で細いロットリングを使うのはデメリットの方が大きいので感心できないんです。(よく見たら、ペン使ってらっしゃいました。謹んで訂正いたします)
 ストーリー起承転結がしっかり出来ていますし、見せ場の殺陣や主人公の特殊能力についての描写もキッチリ出来ていて、完成度の高い話になっています。ただし、ミステリ系作品としては致命的なまでに犯人とトリックがバレバレで、読みながら興醒めさせてしまう結果になったのは残念でした。これで松坂屋の用心棒をスケープゴートにして、主人公側の誰かが犯人だったりすれば、即連載クラスの力量だと言えたのですが……。
 評価は諸々の加点・減点を総合してB+。それでも、次回作くらいで本誌に“プロトタイプ型”読み切りを載せて、連載枠獲得を狙うくらいの実力はあると思います。


 ◎読み切り『SECOND SWIMMER』作画:後藤真

 こちらも今号デビューの作家さん、後藤真さんです。
 後藤さんは02年7月期の「天下一漫画賞」で最終候補に残ったという経験はありますが、これまで賞レースとは無縁の存在。しかしスタートラインに立ってしまえば条件は同じ。19歳とまだまだ若いですし、腰を据えて頑張って欲しいものです。

 は「天下一」で“画力◎”を獲得しただけあって、年齢・キャリアを感じさせない緻密な描き込みが特徴的です。ただ、マンガ的な表現や構図、背景と人物のバランスなどで不慣れな点がまだ見られます。描き込む線の取捨選択が出来るようになれば、連載作家さんたちと遜色ないレヴェルまで行けるのではないかと思います。
 しかし、ストーリー・設定には改善の余地が大いにあると言わざるを得ません。冒頭から拙い台詞回しシリアスな空気を台無しにする下手なギャグ表現が目立って、読者の感情移入を阻害していますし、肝心要・ラストの競泳シーンの展開が完全に破綻しています。携帯電話のトリックに無理がある上に、泳いでいる最中のエースの心的描写が矛盾だらけで、もはや意味不明です。「読者をアッと言わせよう」という意気込みは十分に感じられるのですが、残念ながら今回は空回りしてしまったようです。
 評価は文字通り「お話になってない」ですので、厳しくCとしておきます。

 ◎読み切り『詭道の人』作画:内水融

 さて、残るは5作品。どんどん進めていきましょう。
 内水融さん00年5月期の「天下一漫画賞」で審査員(ほったゆみ)特別賞を受賞した後、同年冬の「赤マル」でデビュー。その後、01年冬号にも作品が掲載されて、今回が2年ぶり3度目の「赤マル」登場となります。

 この人もに関しては大丈夫そうですね。どうやら以前は「画力に難アリ」との評判だったそうなんですが、2年間の修行の成果が出ているという事になりますね。老人に化けた夷吾の体が、「肌まで老人」と言うには若々し過ぎた…という問題点もありますが、ギリギリでご愛嬌の範疇でしょうか。
 そしてストーリー・設定は、「天下一」で、ほったゆみさんが特別賞に推しただけあってなかなかのものです。歴史についても基本的な考証はキッチリ押さえていますし、老いと若返りを逆手に取った“詭道”のトリック構成力も良かったです(たとえそれが、勘の鋭い人にはバレバレのものであったとしても)。また、そのトリックのタネが敵役への復讐に繋がっているあたりが技アリといった感じです。
 惜しむらくは、台詞に世界観を壊すような表現が目立ってしまったところ。古代中国に「HEY!」はやっぱりマズいんじゃないかと思います。
 評価はA−。次回作には、トリック構成能力を活かした探偵モノなんてのはどうでしょうか。「ジャンプ」で推理モノは鬼門ではあるのですが、設定さえ誤らなければ良い作品が描けるだけの能力があると思うのですが……。

 
 ◎読み切り『Play StYle ANTHEM』作画:中山敦支

 中山さんは99年に弱冠15(6?)歳で「手塚賞」最終候補に残った後、01年に実施されたスカウトキャラバンで“スカウト”され、「赤マル」02年春号でデビュー。今回は1年ぶり2度目の作品掲載となります。
 ちなみに、南日本新聞ウェブサイト中山さんを紹介した記事がありましたので、リンクを張って置きます。しかし、記事には鹿児島在住のマンガ家さんのアシスタントをやっているとありますが、一体どなたなんでしょう……?

 まずに関しては、画力云々という以前に、極めて完成度の高い少年誌向けの絵柄に仕上がっています。写真をトレースして背景を描く…というような緻密さは見られませんが、それも含めて極めて好感度の高いタッチだと言えそうですね。今回のヒロインはいわゆる萌え要素も高そうですし。
 ストーリー・設定に関しても、なるほど、こちらも完成度も好感度も高い仕上がりになっています。やや展開が駆け足に過ぎ、ご都合主義に走っている嫌いはありますが、キチンと起承転結も成立していて、ストーリーテリングに関する基礎的な力は認められます
 ただ、これは相当意地悪な見方かも知れませんが、今回の話は、既成作品の良い所だけを抽出して再構成しただけで、オリジナリティが完全に欠落してしまっていたような気もするのです。喩えるならメロンパンの端っこだけを固めて作った菓子パンみたいなもので、「美味しい事は美味しいのですが、それはパンとしてどうなのか?」と言いたくなってしまうんですよね。
 確かに今回の話は読んでいて面白いでしょう。読後感も爽やかでしょう。そういう意味では、現時点でも中山さんは人気作家になる素質は十分にあると言えそうです。しかし、今のままでは“名作崩れの人気作”しか描けないようになってしまいそうでもあるのです。楽をせずに自分にしか出せない魅力を試行錯誤する気持ちを持って欲しいと思います。評価はB+としておきましょう。 


 ◎読み切り『ドスコイン〜遊星から来たあんちくしょう〜』作画:風間克弥

 今号2本目のギャグ作品の登場です。作者の風間克弥さんは、02年9月の「天下一漫画賞」で最終候補に残って“新人予備軍”の仲間入りを果たした後、今回で晴れてデビューとなりました。

 まだ粗さと素人臭さが目立ちますが、ギャグ作品ですから、それほど目くじらを立てるものでもないでしょう。これでリアルな絵柄とのコントラストが出来るようになればギャグ表現に広がりが出て来るのでしょうが、まぁデビュー作からそれを求めるのは酷でしょうから、今後の課題という事にしておきましょう。
 で、肝心のギャグですが、風間さんはセリフの言い回しで攻めるタイプの作風のようですね。テンポも悪くないですし、現時点でもソコソコの水準にはあると思います。しかし、風間さんは理詰めで笑いを取れるタイプでは無さそうですし、小さなギャグを積み重ねるというスタイルですので、爆発力という面でも物足りなさが残ります
 評価はB。とりあえず次回作に期待しておきましょう。


 ◎読み切り『二山高Cメン』作画:瀬戸蔵造

 「月刊少年ガンガン」出身という、「ジャンプ」では異色の経歴を持つ瀬戸蔵造さんの、1年ぶりとなる「ジャンプ」2作目の登場です。今回も前作・『monochro stroke』に引き続いて卓球を題材にした作品となりました。「ガンガン」時代は野球マンガを描いていたそうなので、卓球に固執しているわけではなさそうですが……?

 まず残念なのがでした全体的に線やデッサンが粗く、どうしても雑っぽい印象を抱かせてしまいます。特に動的な表現を狙った場面がことごとく止め絵のようになってしまうのはいただけません。何よりも、この1年で目立った画力の向上が見られない事が一番の懸念材料でしょう。現状に満足するにはまだ早過ぎると思いますが。
 ストーリー・設定は……というか、このマンガがギャグ作品なのかコメディなのか、正確に判断できません(苦笑)。まぁ多分コメディだと思うんですが、何だか“突き抜けてない『泣くようぐいす』”を読んでいるような感覚にとらわれてしまいました(笑)。まぁストーリー作品としてもギャグ作品としても、内容の密度が薄いような気がしますが……。作者の狙いが技量不足から読者に伝わりきっていない感じで、有り体に言って“ちょっと寒い”出来になってしまったようですね。
 評価はB−としておきましょう。


 ◎読み切り『天上都市』作画:中島諭宇樹

 今回の「赤マル」のトリを務めるのは、これがデビュー作となる中島諭宇樹さん現在『アイシールド21』の村田雄介さんの下でアシスタント修行をしているみたいですね。(『アイシル』2巻の巻末スタッフ紹介に名前あり)
 中島さんは、01年11月期の「天下一漫画賞」で最終候補に残って“予備軍”入りした後、第8回(02年度)「ストーリーキング」マンガ部門で準キング(=他賞の準入選相当)を獲得。今作『天上都市』はその受賞作となります。

 今回、この作品を一読して抱いた感想は、
 「凄い。才能のスケールが違いすぎる」
 ……でした。絵がどうとか、ストーリーがどうとか細かい点をいちいち指摘するのが馬鹿らしくなってしまう位の“才能の塊”を見せ付けられ、(良い意味で)ア然としてしまいました。
 何よりも素晴らしいのが、現実とは全く違う“もう1つの現実世界”を、矛盾・破綻を生じさせる事なく、過剰に状況説明的にならず、それでいて裏設定で自己満足に陥る事もないままで描き切ったという点です。「ジャンプ」系の新人作家さんたちが陥りがちなワンパターンの勧善懲悪モノの範疇から大きく飛び出し、立派に完成された1つの物語を紡ぎ出したその天賦の才には、思わず嫉妬すら覚えてしまうほどです。
 勿論、まだ修正すべき点も残っています。例えば、エファが空中戦で使う武器の描写が分かり難かった点や、エファとゼオの口論がやや取って付けたような感じに陥ってしまった点など。今回は余りに設定やストーリーの起伏のつけ方が決まっていたために目立ちませんでしたが、今後は更に完成度の高い描写を目指してもらいたいと思います。
 少々の減点材料はありますが、評価は文句ナシの個人的には「ジャンプ」では5年から10年に1人の逸材だと思っています。ただ、中島さんの作風は、規定ページ数や週刊連載といった制約がある中ではフルに生きて来ないような気がしますので、連載を立ち上げるにしても、当初は「『赤マル』巻頭カラーまたは巻末で毎号60〜100ページ」…のようなパターンでジックリ才能を育ててゆく形が良いのではないでしょうか。

 ※総評…今回は大豊作と言って良いでしょう。即連載級の作品が2つ3つ見られましたし、ゆくゆくは連載作家を目指していけそうな有力新人も複数いる事が確認できました。
 これまで「『ジャンプ』では新人が育っていない」というのが定説でしたが、今回の「赤マル」でそれが大きく覆されたのではないでしょうか。今年の「ジャンプ」では長期連載作品が終わり、暗黒時代の再来を危惧する声もありますが、駒木は自信を持って「そんな事はない!」…と声をあげたいと思います。あとは素質ある人たちが世知辛いマンガ業界の風に吹き飛ばされてリタイヤしてしまわない事を祈りつつ、今回のレビューを締め括らせてもらいます。
 

 ……というわけで、実質3日がかりの講義、いかがでしたでしょうか?(苦笑)。多分夏号以降は、レビューをするにしても前後半に分けたいと思います(笑)。

 次週からはレギュラー通りの構成に戻ります。そちらもどうぞお楽しみに。ではでは。

 


 

2003年第17回講義
5月5日(月・祝) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第5週/5月第1週・後半)

 またも週をまたいだゼミ後半の実施となってしまいました。毎週のように冒頭で陳謝してる有様で情けないのですが、今回は例の臨時講義がありましたので、どうかご理解を頂きたいと思います。

 ──というわけで今回は、先週発売の「週刊少年サンデー」を中心とした講義という事で、宜しくお願いします。

 では、例によって初めは情報系の話題から。まずはこの度新設された、応募者30歳未満限定のマンガ原作者新人賞・「サンデー原作・原案ドリームステージ」の審査結果からお伝えしておきましょう。
 「週刊少年ジャンプ」主催の「ストーリーキング」に影響を受けたと思われるこの新人賞、4つの部門に総数782作品の応募があり、応募条件に縛りが多かった事を考えると、なかなかの盛況だったようです。では、受賞者と受賞作を紹介しましょう。

第1回サンデー原案・原作ドリームステージ

 ◎読切原作部門(応募総数430編)
 大賞=1編
 『ソフィアの掟』(=マンガ化されて本誌または増刊掲載)
  濱中明(26歳・東京)
 《講評:バトルの秀逸なアイデア・ソフィストというオリジナリティ溢れる設定・わかりやすく書かれたドラマと文章・魅力的なキャラクターなど、選考委員の中でも圧倒的な支持を集めた作品。》
 入選=該当作なし
 佳作=1編
 
・『悪路王偽伝』
  保坂歩(21歳・宮城)
 最終候補(選外佳作)=4編
  ・『BATTLEカイト』
   住友里江(26歳・東京)
  ・『エスケープ・フロム・コンビニ』
   真坂和義(23歳・神奈川)
  ・『(題名なし)』
   片本晴康(24歳・大阪)
  ・『クイズランド』
   廣海好(28歳・三重)

 ◎スペシャリスト部門(応募総数102編)
 大賞=該当作なし
 入選=該当作なし
 佳作=該当作なし
 最終候補(選外佳作)=1編

  ・『すべての山に登れ』
   青木瑠依(25歳・東京)

 ◎ネーム部門(応募総数109編)
 大賞=該当作なし
 入選=1編
 『ワンハンドウイナー』(=マンガ化されて本誌または増刊掲載)
  柴山政日郎(29歳・愛知)
 《講評:よく練りこまれた秀逸なドラマと大胆でメリハリのきいた構成が評価され、文句なしの入選受賞》
 佳作=1編
 
・『白澤記』
  小原なつみ(22歳・愛媛)
 最終候補(選外佳作)=該当作なし

 ◎キャラクター部門(応募総数141編)
 大賞=該当作なし
 入選=該当作なし
 佳作=該当作なし
 最終候補(選外佳作)=2編

  ・望月洋輔(19歳・兵庫)
  ・内田有紀(23歳・栃木)

 若年層を対象にした新人賞とはいえ、受賞者は20代後半がズラリと並びました。さすがに原作者新人賞ともなれば、やはり小説家と同様に学校を出て、ある程度の社会経験を積んだ人でないと“味”が出ないんでしょうか。
 受賞作のうち、大賞と入選の2作品はマンガ化されて掲載されます。「サンデー」本誌に掲載された場合は勿論、増刊掲載の場合も特筆すべき作品は当ゼミでもレビュー対象にします。

 さて、今日はもう1つ、駒木がネット閲覧中にふとした事から入手した情報を紹介します。

 その情報とは、昨年まで約1年間本誌で連載されていた『トガリ』で「サンデー」読者にはお馴染みの夏目義徳さんの動向について。
 夏目さんご本人が運営されている公式ウェブサイト・「SeS homepage」内のBBSで夏目さん(ハンドルネーム:SeS)自身が明かしたところによりますと、夏目さんはつい最近「少年サンデー」及び小学館から決別し、新たな活躍の場を模索する事になったそうです
 既に「週刊少年サンデー」公式サイト・「Webサンデー」内の「まんが家バックステージ」からは夏目さんの手記が過去ログも含めて削除されており、事態の深刻さを物語っています。夏目さん曰く、「(単行本は)もう永遠に増刷されることはないでしょう」との事です(ひえ〜)。
 どうやら夏目さんは『トガリ』の連載終了後から新作のネームを練っていたそうですが、この1年間は1つの作品に対して、“編集からダメ出し→言われた通りに修正→別の箇所にダメ出し”…という、典型的な飼い殺しパターンにハメられていたそうです。
 人材の飼い殺しがあるという事については、確かに以前からいろいろな噂を耳にしていたのですが、まさかそういう事が連載作家さん相手にも行われているとは……。何だか業界の暗部を見せられたようでゾッとしますね(苦笑)。

★追記★

 この「夏目義徳さん、小学館と決別」について、夏目義徳さんご本人からメールを頂きました。(!) 知らない事は恐ろしいというか、なんと夏目さんは当講座を受講して下さっていたそうです(苦笑)。
 このゼミで採り上げた作家さんからメールを頂いたのは、実はこれが初めてじゃないんですが、嬉しい一方で「オイ、見てないと思って偉そうな事言っちゃったよ」…などと心臓ごと恐縮してしまいますね、しかし(^^;;)。

 ……で、夏目さんがおっしゃるには、決して編集部や小学館との関係が険悪になったという事実は無くて、(1年間同じ作品のネームを修正し続けていた事も含めて)マンガ家として当たり前の活動をして来た結果、残念ながら作品発表の機会が得られなかっただけ…という事だそうです。
 ですから、夏目さんが小学館を離れられるという事も、「専属契約を結んでいないフリーの自由業者が、これまでの取引先と距離をおいて新規開拓に乗り出した」というだけであって、それ以上でも以下でもないと解釈すべきなんだろうと思います。まぁ「バックステージ」のログ削除はさすがにシビアだと思いますが(苦笑)。

 というわけで、上記の発言に誤解を招く表現をしてしまった事を認め、この追記をもって訂正したという事にさせて頂きます

 ちなみに夏目さんは、現在文字通り心機一転、新作のネームに着手してらっしゃるそうです。月並みな言葉しか述べられませんが、新天地での活躍を期待します。頑張って下さい!

 
 ──さて、いささかショッキングなニュースではありましたが、気を取り直してレビューの方へ行きましょう。
 今日のレビューは新連載の1本のみ。その後の「チェックポイント」も合わせてどうぞ宜しく。

☆「週刊少年サンデー」2003年22・23合併号☆

 ◎新連載『売ったれダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治

 (短期集中連載を除けば)「サンデー」では久々の長期連載が今週から始まりました。『MÄR』以来ですから、ほぼ4ヶ月ぶりになりますか。
 原作担当の若桑さんは小学館系マンガ誌で幅広く活動している原作作家さんで、「サンデー」でも『風の伝承者』画:山本智)などで活躍しています。
 そして作画担当の武村さんは、94年に増刊でデビューし、その後は打ち切り作品ながら『マーベラス』で本誌連載も果たしており、そろそろ若手から中堅に差し掛かるくらいのキャリアを持つ作家さんですね。この1年は企画モノや読み切りが中心の活動でしたが、この作品で晴れて本誌へと帰還を果たした形となりました。
 なお、この作品は昨年春に本誌で短期集中連載された『ダイキチの天下一商店』がベースになっていますが、実際には“主人公の名前以外総取換え”状態で、全く別物の作品が始まったと解釈した方が良さそうですね。

 ……では、本題へ。

 については全く問題無いでしょう。むしろ以前に比べて絵柄が少年誌っぽくなり、より好感の持てる絵柄になっています。特に良い味が出ているのがデフォルメ表現で、派手ながら嫌味の少ない描写になっているのが素晴らしいと思います。
 最近「サンデー」ではノリの良い作風の作品が増えたため、余り目新しさが感じられないのは不運でしたが、安心して見ていられるのは間違いありません。

 そしてストーリーと設定についてですが、こちらもとりあえずは合格点を出せる仕上がりになっているのではないでしょうか。
 こういう“業界ハウツー・薀蓄モノ”の作品では、以下に挙げる3つのポイントが重要です。すなわち、

 1.作品で紹介される薀蓄に説得力があるか。
 2.薀蓄はストーリーを引き立てるために存在しており、主客転倒していないか。
 3.主人公側の成功(勝利)に必然性があり、ご都合主義になっていないか。

 ……これらのどれが欠けていても、作品の魅力は激減し、ただ単に作者が読者に知識をひけらかしているだけのイヤミな作品になってしまいます。
 この系統の作品は、成功した場合には『ナニワ金融道』作画:青木雄二)のようにインパクトのある名作となる事も可能なのですが、短期打ち切りになる作品も多く、成功させるには意外と難しいジャンルと言えそうです。
 で、この『売ったれダイキチ!』の場合ですが、少なくともこの第1話では3つのポイントを全てクリアしています
 やや筋書きがオーソドックス過ぎる嫌いはありますが、中身の濃い薀蓄がその物足りなさをカバーしており、全体としてはシンプルながらも説得力のある仕上がりになっていると思います。

 また、目立たない所ですが、コマ割り等の構成力も相当なものです。今回は60ページ以上もあったのですが、冗長さを感じさせませんでした。このポイントについても高い評価をしなければいけないでしょう。

 というわけで、今回の時点での暫定評価A寄りA−シナリオのオリジナリティ等で少し減点しましたが、なかなかの好発進です。ただ、真価が問われるのはこれ以降ですので、今しばらく注視しておきたいと思います。
 最後に個人的な話ですが、鯉と鮎の話モデム配りに応用させてもらいたいと思います(笑)。デッカイ声で「いかがですか〜」と連呼するのは控えめにしてみようかな…などと思ったり思わなかったり。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントは「泣ける映画」について。思ったより皆さんベタですねー。さすがにマンガ家始めてからはマイナー映画とか観る時間が作れないんでしょうか。
 ちなみに駒木は、あのアルバトロスが今度公開する映画の題名が『えびボクサー』で、内容もそのまんまだった事に笑い泣きしました。

 あと、今週号は『MAJOR』でも『ふぁいとの暁』でも、身を賭して監督に逆らう主人公のライバルが描かれてましたが、ネット上で「『MAJOR』ではここまで3年かけたのに、『ふぁいとの暁』ではいともあっさり……」みたいな発言があったのには思わず吹き出しました(笑)。

 ◎『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【現時点での評価:/雑感】 

 いつの間にやら、すっかり中堅位置に固定されたようで。しばらくは安泰みたいですね。確かに読み易い雑誌向けの作品になっていると思いますが。
 で、今回のポイントはモノクロ1ページ目の4コマ目楳図かずお風の「ギヤアー(ギャァーじゃなくて)を見ると、改めてこの作品が「マガジン」のマンガじゃなくて小学館のマンガだという事に気付かされます(笑)。でも、感じ出てるよなぁ(笑)。

 ◎『MÄR(メル)作画:安西信行【現時点での評価:B/雑感】 

 チェスの階級で敵をランク付けするシステム、どこかで見た事あるなと思ったら、かつての「サンデー」の人気作・『ダッシュ勝平』作画:六田登)であったんでした。まぁ20年以上前の作品ですから、パクりとかそういう以前に、「駒木、お前そこまでチェックしてるのかよ!」…ってな話だと思いますが(笑)。
 いや、実は駒木、『ダッシュ勝平』に触発されてバスケ始めた変なヤツなんですよ(笑)。高校でバスケ部に入ったら丸腰でヤクザと戦わなくちゃならないのかとマジで怯えていた6歳の駒木が我ながら懐かしいです(苦笑)。

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 ついに! ついに! ……ってな感じで「次号へ続く」合併号でこんな引きをカマすなんて、藤田さんは意地悪だ(笑)。
 それにしても、このシーンまでに読者を何年待たせたんだよ、この人は(苦笑)。
 

 ……というわけで、このゼミも次回へ続く…と。
 次回のゼミはお約束通り、「赤マルジャンプ」のレビューが中心になると思います。駒木は既に火曜日にゲット済みですが、今号は佳作・良作揃いでビックリしました。未読の皆さんは是非最寄のコンビニか書店でどうぞ。

 


 

2003年第15回講義
5月1日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第5週/5月第1週・前半)

 先週あたりからゼミの実施ペースまで遅れ気味になっており、申し訳ありません。説明し始めるとキリが無いような事情が山ほどあるのですが、ここで不満を言っても仕方が無いので止めておきます。まぁ要は、忙しい上にテンション下がる事ばっかり起こってると認識して下さい(苦笑)。
 あ、言い忘れていましたが、来週は「ジャンプ」「サンデー」共に合併号休みとなるため、ゼミは週1回にまとめる事になると思います。内容は「赤マルジャンプ」についてのレビューなどをお送りする予定です。

 さて、皆さんもご存知のように、今週の「ジャンプ」では『ヒカルの碁』最終回というビッグサプライズがありましたが、それは「チェックポイント」のコーナーで詳しくお伝えする事にしまして、まずは情報系の話題からお届けしましょう。

 最近の「ジャンプ」では、空いた連載枠の穴埋めの意味もあって読み切り攻勢が続いていますが、次号(24号)でも45ページの野球マンガ・『GRAND SLAM』作画:杉本洋平が掲載されます。
 作者の杉本さんは01年に増刊デビューした23歳の若手作家さんで、今回が本誌初掲載。茨木新編集長による新人・若手の育成強化策に乗っかった形ですが、果たしてこのチャンス活かす事が出来るでしょうか。次々週のゼミにてレビューしますので、こちらもご注目下さい。

 さて、それでは本日分のレビューとチェックポイントをお届けします。なお、レビュー対象作は読み切りの1作品のみとなります。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年22・23合併号☆

 ◎読み切り『dZi:s』作画:樋口大輔

 このところ新人・若手の読み切りばかり載っていた感のある「ジャンプ」ですが、今週は『ホイッスル!』でお馴染みの樋口大輔さんが登場となりました。
 樋口さんは男性名のペンネームを使っていますが、実は女流作家91年11月期の「ホップ☆ステップ賞」において来住大介名義で佳作受賞し、翌年春の増刊・「スプリングスペシャル」でデビュー。ですからキャリアは10年以上になるんですね。資料によると昭和41年の5月10日生まれとのことですので、「H☆S賞」受賞時は26歳で、現在はもうすぐ37歳という事になりますか。
 で、デビュー後は散発的(1〜2年に1度ペース)に増刊や本誌に読み切りを発表し、98年から02年まで『ホイッスル!』を連載(その後、「赤マル」で完結編発表)。今回が復帰第1作ということになりますね。

 さて、それではレビューの本題へと移りましょう。

 いつもなら絵とストーリーに分けてお話するわけですが、連載入れ替えの激しいメジャー誌で長期連載を経験した作家さんを捕まえて、今更「絵がどうこう」…などというのも失礼なので、ストーリーと設定面に絞ってレビューしたいと思います。まぁ「絵は悠々と合格点以上」ということで。

 で、そのストーリーと設定なのですが、こちらもさすがに長期連載経験者の地力と言うべきか、なかなか芸の細かい演出を要所要所で見せ付けてくれます。この辺りはさすがといったところでしょう。
 ちなみに個人的には、瞬がヤタガラスをロリコン扱いする場面(つまり、自分が女子中学生の彼氏を好意も無しに演じているという事を示す伏線)や、暴言を吐かれた舞が一瞬でビル一棟分の電源をダウンさせてしまうシーン(事態の深刻さを体感させる効果)、そしてシンプルながらも迫力のあるアクションシーン(特に1回目のガン・アクションはクライマックスへの伏線にも)などが印象に残りました。

 ただ、残念だったのは、基本的なシナリオの出来がやや物足りなかったところでしょう。勿論、「赤マル」や新人賞レヴェルの作品からすれば一枚も二枚も格の違う完成度だと思うのですが、レヴェルの高かった演出面と主客が転倒してしまったような感が否めませんでした。
 中でも一番の問題点は、クライマックスのご都合主義的展開という事になるでしょう。いくらなんでも「原理は良く分からんが復活できた」というのは余りにも乱暴です。まぁ「たかがマンガでそこまで求めるのはどうか」という声もごもっともですが(笑)、やはりお話作りのルールとして、何でもいいからもっともらしい理由をでっち上げるべきだったと思います。
 あと、“一見して主人公の頼れる味方が、実は悪者”という、結構高度なセオリーを採用してはいるのですが、短編読み切りでシンプルな設定を強いられた悲しさか、やや簡単に展開が読めてしまったのも残念でした。2時間サスペンスドラマですぐに犯人が分かってしまう配役と言いますか、中尾彬が出て来た瞬間に、「あぁ、コイツが女の首絞めて殺しよるんやろな」…みたいなね(笑)。

 最終的な評価ですが、「見所のある作品ではあるが、良作・傑作には及ばず」というところで、A−寄りB+ということにしておきましょう。
 ただ、連載作品として設定を複雑化すれば、もっと良い作品になる余地はあると思います。長期連載作品が立て続けに終わって、地盤が緩みがちの「ジャンプ」ですから、ハズレの多い新人・若手新連載枠を1つ削ってでも、樋口さんのような安定感のある中堅作家さんに脇を固めてもらうのも良い策ではないかと思うのですが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 『NARUTO』『テニスの王子様』、両方とも分身技が決め手になっているんですが、片方は唸らされて、もう片方は笑わされるのは何故なんでしょう?(笑)

 ◎『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 この作品、話が追いかけ易くなって見せ場の密度が上がると、クライマックスが近い事がすぐに判るので便利ですね(笑)。
 しかし、初期の頃には展開にもっと切迫感があったような気がするんですが、やはり5年以上も連載しているとギリギリのレヴェルでバテが来るんでしょうか。

 ◎『ヒカルの碁 第2部(北斗杯編)』作:ほったゆみ/画:小畑健【現時点での評価:A/連載総括】

 一部で噂されていましたが、「ジャンプ」では(第2部だけを見れば)異例の短期での円満終了となりました。
 唐突とも言えるラストシーンなどに打ち切りを疑う声もありますが、この作品を商業的に打ち切る理由なんて全く有りませんし、終わり方にしても「ジャンプ」作品という事を抜きにすれば十分考えられる範囲です。
 第一、この先の展開を考えると、主人公・ヒカルの実力が中途半端過ぎてどうにもやり辛いんですよね。
 考えられる道としては、時間を5〜6年素っ飛ばして、七段あたりまで昇段したヒカルたちを描くか(『ドラゴンボール』方式)、それともプロ・アマオープンの阿含・桐山杯辺りで“奇跡の快進撃”を演じるヒカルが準決勝・決勝で塔矢親子と相対するか(『月下の棋士』方式)
 しかし両方ともリアル路線を採用する『ヒカ碁』ではかなり無理がある展開で、原作のほったさんが納得するとは思えません。まぁ結局は作品としての潮時という事だったんでしょう。今のタイミングが惜しまれながら去るギリギリのポイントのような気がしないでもないですし、ここは黙ってお見送りをするべきなんでしょうね。

 作品全体としては、やや北斗杯編が蛇足になった感もありますが、十分にマンガ史に残る名作の1つとしてカウントされるべきだと思います。同時期の「ジャンプ」作品でも、この作品より人気のある作品はいくつかありますが、作品の質という面では決して見劣りする事は無いと思っています。
 囲碁という難しい題材、しかも週刊少年誌という舞台でここまでクオリティの高い作品を提供してくれた作者のご両人には、改めて「有難う御座いました。そしてお疲れ様」と申し上げたいと思います。
 

 ……チェックポイント対象作が2作品のみと、ちょっと寂しくなりましたが、今日はこの辺で。ゴールデンウィークは色々切羽詰ってますので、後半の実施も遅れると思いますが、どうか何卒気長に……。

 


 

2003年第14回講義
4月28日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第4週分・後半)

 さて、世間では『ヒカルの碁』最終回でパニクっている人も多くいらっしゃるでしょうが(笑)、とりあえず今日は先週の「サンデー」についてのゼミを行います。
 いや、本当に申し訳有りません。やっぱりこういう講義は週を跨いじゃいけませんね(苦笑)。

 ……というわけで、まずは取り急ぎ情報系の話題を。今週は新連載の話題が入っています。

 次号(22・23合併号)から、『売ったれダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治)の連載が始まります。
 この作品は、昨年春に短期集中連載された『ダイキチの天下一商店』の大幅リメイク版と思われます。短期集中連載作品の長期連載化は、通常なら短期連載の終了後間もなく始まるケースが多いだけに、この作品の場合は“一旦連載ボツ→大幅設定変更でネーム再提出→敗者復活で連載獲得”……というコースを辿ったのでしょう。執念の勝利と言うべきでしょうか。
 次号予告での絵柄を見た感じでは、主人公の見た目がリメイク前に比べて相当幼くなっており、恐らくはそれに合わせて性格などの設定も変更になっているであろうと推測出来ます。主人公の年齢を読み切り版から下げて結果的に失敗した『鳳ボンバー!』の替わりにこの作品が新連載…という辺り、如何ともし難い縁起の悪さを感じてしまいますが(笑)、どうにか健闘してもらいたいと思います。


 ……それではレビューに移りましょう。今週は読み切り1本のみのレビューになります。「チェックポイント」も併せてどうぞ御清聴下さい。

☆「週刊少年サンデー」2003年21号☆

 ◎読み切り『結界師』作画:田辺イエロウ

 “新鋭ビッグ読み切り”シリーズ第2弾は、新人・田辺イエロウさん『結界師』が登場です。
 ここでいつもなら作家さんのプロフィール紹介に移るのですが、恥ずかしながら「サンデー」系新人さんの情報源が少ない当ゼミでは、なかなか田辺さんの経歴を調べる事が出来ませんでした。それでも少ない情報を掻き集めたところ、「ジャンプ」の「赤マル」にあたる「ルーキー増刊」でデビューした後、増刊での読み切り掲載を経て、今回の本誌デビューに到達した…との事です。そして、増刊で発表した作品が、今回の『結界師』の“前日談”であったようですね。(誤りがあればご指摘下さい。早急に訂正いたします)

 さて、それでは例によって、“絵→ストーリー&設定”の順でレビューをしてゆきましょう。

 に関しては、とりあえず文句の付け所はありませんね。線に無駄が無く、様々な容姿の人物の描き分けや動物・妖怪の描写に関しても、新人さんにしては非常に達者です。デフォルメや格闘などの動的表現もソツなくこなしており、極めて完成度の高い画力と言えそうです。来週から即連載を任せても大丈夫な気にすらさせてくれます
 正直言って、これほどの実力の持ち主がデビュー数作目の新人とは考え辛く、別ペンネームでのプロ活動経験が有るのではないかとすら疑ってしまいます。果たしてどうなんでしょうね?

 そしてストーリー&設定の面についてですが、こちらも文句無く合格点を出せる良い出来に仕上がっています
 (実質上の第2話なのに読み切り扱いになったので仕方ないですが)やや設定過多の嫌いこそあるものの、その説明の仕方が非常に上手く、鬱陶しさを全く感じさせません。話の中に主人公のモノローグを挟むタイミングや、そのモノローグやセリフ等の文章力もかなり秀逸です。
 また、キャラクターの設定・キャラ立てもバランス良く出来ていますし、更には行動の動機付けや伏線の処理という高度な技術を要するファクターも、無さ過ぎるくらいソツ無くクリア出来ています。
 ただ惜しむらくは、そこまで完成度の高いシナリオ構成を実現していながら、読者に大きな感銘を与えるようなインパクトのある見せ場や決めセリフに乏しかった事ですね。野球で言えば、ホームラン性の当たりながらフェンスギリギリのツーベースで終わってしまった…という感じで、決して悪くない結果ながらも「惜しい、残念」という贅沢なネガティブ感情を禁じえません。

 評価はA寄りA−ということにしておきましょう。田辺さんの実力そのものは既にA評価クラスだと思いますが、“ソツ無く”で終わってしまった分の減点をしておきました。
 それでも、久々に連載で読んでみたい作品に出会えたような気がします。全ては今回のアンケート結果で決まるのでしょうが、良い方向へ向かう事を祈っておきたいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は「サンデー」も「マガジン」も上戸彩が巻頭グラビアでしたね。こういうケースって珍しいんじゃないかと思うんですが、どうなんでしょう?

 ◎『名探偵コナン』作画:青山剛昌開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 あっちこっちでドンデン返しが連発の今週でしたが、やっぱり最大のビッグサプライズはジョディ&新出両先生の正体でしたねぇ。これって前もって決めてたんでしょうか、それとも後付け?
 これが藤田日出郎さんなら間違いなく後付けで決着出来るんですけどね(笑)。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感

 まぁ、この作品ですからクソ真面目にツッコミ入れてもアレなんですが、こんな実習生いませんって(笑)。
 しかし、ドラマを回想するシーンで『スクールウォーズ』だけ異様に似てないのはどういう事か(笑)。まぁ、この実習生が4〜5歳の時のドラマですから、その分記憶が曖昧って事にしておきましょうか。

 ◎『天使な小生意気』作画:西森博之開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今週のエピソード、良い感じですね。弱い人間が弱い人間なりにカッコよく立ち回って消えていく。少年マンガでなかなか出来そうで出来ない表現ですよね。

 ◎『鳳ボンバー』作画:田中モトユキ【現時点での評価:B+/連載総括

 先週お知らせした通り、無念の打ち切りとなりました。タイミング的には、“あやや投入”の時点で打ち切りが決まってたのかも知れませんね。
 結局、ダラダラとキャンプ編、二軍生活編をやってしまったのが致命傷になった感じですね。さっさと一軍で活躍させて、その後スランプに陥って二軍落ち→“恋女房”と出会って復活──というパターンでやっていれば、多少異なる結果になったかも知れません。
 田中さんには、とりあえず今しばらくは静養と充電に務めてもらって、近い将来に別の作品でリベンジを果たして欲しいと思います。
 

 ……というわけで、やや駆け足でしたが今日はこれまで。また明日か明後日には今週の前半分をお送りしたいと思います。では。

 


 

2003年度第12回講義
4月23日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第4週分・前半)

 「応募者全員大サービスの『アイシル』グッズ、もうちょっとどうにかならなかったのか、編集部!」…と直訴したい駒木です、こんばんは(笑)。

 ……さて、今週の前半戦はとにかくレビューが大変ですので、早いところ本題に突入したいと思います。

 まずは読み切り作品についての情報から。次号(22・23合併号)に樋口大輔さん『dZi:S』(←「ジーズ」と発音)が掲載されます。樋口さんはご存知、昨年まで『ホイッスル!』を長期連載していた中堅の女流作家さんですが、いよいよ次の連載獲得へ向けて本格的に始動する事になったようです。
 次号予告の紹介文を読む限りでは、今回の作品は現代劇の伝奇モノのようです。あまり「ジャンプ」では馴染まないジャンルですが、構成力には定評のある作家さんだけに期待したいところです。

 なお、次号は号数を見ても分かりますように、ゴールデンウィーク合併号となります。公称発売日が火曜でなくて月曜ですので、地方在住の方や早売りゲッターの方はご注意下さい。

 それでは、今週のレビューへ。今週は新連載第3回の後追いレビューが1本と、読み切りレビュー2本の計3本となります。その後の「チェックポイント」もどうぞ宜しく。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2003年21号☆

 ◎新連載第3回『★SANTA!★』作画:蔵人健吾【第1回時点での評価:

 先週の『闇神コウ』に引き続いて、今週は『★SANTA!★』がセンターカラーでの“打ち切り審査”に臨みます。

 まず第1回からの変化ですが、絵の完成度が第2回からガクンと下がってしまったのが大変に気になります。獣人のキャラ・デザインが物凄くぞんざいですし、主人公・サンタの描写ですら稚拙なものが目立ちます。連載ペースに対応出来ずに絵が荒れているのか、それともこれまでパッと見だけ誤魔化して来たが出来なくなったのかは判りませんが、どっちにしてもこれは大きなマイナスポイントです。
 また、元々コマの密度が薄いところに背景や特殊効果の無いコマがやたらと多かったりするのも、あまり褒められたモノでは有りませんね。このパートは作家さんが指示を出してアシスタントさんに委ねる部分なのですが、蔵人さん、まだアシスタントさんの使い方に戸惑っているんでしょうか……?

 ストーリー面では、省略すべき所と詳述すべき所の区別が余りついていないような気がします。冗長で世界観を壊しかねないマッタリとした会話がダラダラ続くのに、肝心のアクションシーンは敵キャラの悲鳴だけ…という展開が多過ぎるんですよね。
 この作品は、悲愴な運命を背負った主人公の少年が、行く手を阻む凶悪な獣人たちを倒してゆくドラマのはずなのですが、3話までのストーリーを見る限りでは、凶悪なはずの獣人は漏れなく間抜けで弱っちいですし、気が付いたら人間のライバルが出現している…と、場当たり的に迷走しているように思えます。

 評価はランクを落としてB−とします。最近の掲載順を俯瞰すると、このクールの新連載は『シャーマンキング』あたりと打ち切り争いを演じなければならないわけで、それを考えればかなり厳しい状況に置かれていると考えてよいのではないでしょうか……。
 新連載が全滅すると、次の新連載は生き残りのハードルが更に高くなってしまうんですよね(時間が経つと、打ち切り争いを演じるアンケート下位の作品の完成度が増して来たり固定ファンが付いたりするので)。どこでこの悪循環が断ち切れるのか。ちょっとシビアな問題になって来ましたね。
 
 
 ◎読み切り『LIVEALIVE 〜はじまりの歌〜』作画:天野洋一

 今週は読み切りが2編。まずはストーリー物のこちらからレビューをしてゆきましょう。
 作者の天野洋一さんは、02年上期の手塚賞で準入選受賞し、その時の受賞作『CROSS BEAT』で本誌デビューとなった、キャリア1年の新人作家さん。この作品がデビュー2作目となります。「赤マル」ではなく本誌に連続して発表の機会を与えられているところを考えると、同じように『だんでらいおん』『しろくろ』で本誌連続掲載を果たした空知英秋さんと同様、編集部から大きな期待が寄せられているようですね。新人・若手による連載獲得レースのトップグループ疾走中…といったところでしょうか。

 さて、それでは内容についてレビューしてゆきましょう。

 に関しては、現在の本誌連載陣に混じっても遜色無いほどの高い完成度に達していると思います。少年、青年、中年男性の描き分けもキチンと出来ていますし、ディフォルメ表現も多少クセは有るものの水準に達しています。今回は女性キャラが出て来なかったのが(評価を出す上で)少し残念でしたが、今くらいの力が有るならば、多少苦手だとしても苦手なりに描き切れるでしょう。

 次にストーリー・設定ですが、今回もデビュー作に引き続いて、ソツなく“スタンダード・ナンバー”的シナリオで47ページをまとめ切っていますキャリアを考えれば上出来でしょう。
 しかし、その“まだ浅いキャリア”という部分を抜きにして考えると、物足りない所があるのもまた事実です。音楽モノの“肝”とも言える演奏シーンの表現にしろ、根本的なストーリーにしろ、天野さんならではの独自色があまり感じられないんですよね。ネット界隈で『BECK』を引き合いに出されるのもこの辺りに原因があるような気がします。
 また、主人公がいわゆる“天才型”で、特に苦労も無くて才能だけで観衆を魅了してしまう…という部分も、読者の感情移入というファクターから考えると少々減点しなければならない材料だと思います。

 現在の天野さんのポジションは、“新人以上、連載作家未満”というところでしょうか。連載を獲得し、その上で成功を収めなければ価値が見出せない少年マンガ作家さんにとっては一番居辛いポジションではないかと思います。
 天野さんがこのまま停滞してしまうのか、それともここから飛躍して将来の「ジャンプ」を引っ張ってゆく存在になるのか、これからもつぶさに観察を続けてゆきたいと思います。
 今作の評価は、高い画力の分だけオマケしてB+としておきましょう。


 ◎読み切り『キャプテン』作画:鉄チン28cm

 今週2本目の読み切りは17ページのショート・ギャグ作品です。
 この作品がデビューとなる作者の鉄チン28cmさんは、昨年度の「ストーリーキング」で最終候補という経歴が残っています。言うなれば、これまで“デビュー予備軍”だった人という事になるのでしょうか。
 「ストーリーキング」の受賞歴があってデビューがギャグ作品というのも異色ですが、もっと異色なのがその年齢で、鉄チンさんはなんと今年34歳少年誌では異例の遅咲きデビューと言っていいと思います。

 それでは、異色尽くめのこのデビュー作についてレビューしてゆきましょう。

 まず衝撃的なのが、その脱力感満ち溢れる(?)スカスカの絵ですよね(苦笑)。小学校の文集に載ったイラストかと錯覚するようなお粗末な出来で、鉄チンさん本人が「穴があったら入りたい」と言うのも大いに理解できます。
 ただ、よく見てみると人物の輪郭は結構マトモに描写できていたり、ナニゲに女の子が可愛く描けていたりします。ですので、ちゃんとした画材を選んだり背景等に手間をかけさえすれば、ギャグマンガとしては見られるところまでは上達するのではないか…と思ったりもします。この辺りは(発表する機会が有れば)次回作でもう一度ジャッジしてみたいところですね。
 まぁ、少なくとも今回の作品に関しては“画力は問題外”という事で、評価に下方修正をせざるを得ないでしょう。

 そしてギャグの方ですが、こちらは一見下らないだけの下ネタしか描けないように見えて、一部分ながらキラリと光る部分を見つける事が出来ました。
 「ジャンプ」本誌で言えば408〜411ページにあたる場面ですが、クソ真面目なように見えて結構ヒドい事を言っているモノローグや、そのモノローグと全くシンクロしない間抜けな遣り取り絶妙のシュール・ギャグになっていました。
 唯一の見せ場がシュールギャグという事で、ここが笑えなかったら「単に絵が酷いだけの笑えないマンガ」になってしまうのが辛い所ですが、駒木はこのシーンで「荒削りながらギャグセンス有り」と認めてあげたいと思います。(ギャグマンガは読み手の感性で評価がズレるので、本当に難しいんですけどね)
 ただし、他の部分は狙いすぎて意味不明なギャグや、年齢を感じさせる時代遅れの下ネタが続いてしまい、総合的には代原レヴェルに留まってしまったと思います。

 さて評価ですが、先に述べた通り画力で大幅減点してC寄りB−とします。ただし、今回一瞬垣間見えたシュールギャグのセンスが開花すれば、将来的にはブレイクする可能性も有るでしょう。


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 しかし、『いちご100%』『プリティフェイス』は毎週毎週「ジャンプ」の限界に挑戦してますなー(笑)。そのせいで、『闇神コウ』がどれだけ頑張ってサービスしても全然目立ちません(苦笑)。

 ◎『Ultra Red』作画:鈴木央【現時点での評価:/雑感】
 しかし鈴木さんは、一度負けた敵キャラは容赦なくヤムチャ化させますねぇ(苦笑)。まぁこれも少年マンガの常ですし、トーナメント戦では使い捨てしないと収拾がつかないくらいキャラクターが出るから仕方ないんですけどね。
 気が付けばもう連載半年。いつの間にか打ち切りボーダーライン上のままで安定しちゃいましたね。

 ◎『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 いくら冨樫作品とは言え、主人公の少年キャラが腕を吹っ飛ばすというのはショッキングです。不謹慎な話ですが、コレ、イラク戦争が長引いていたら論議を醸したかも知れませんですね。
 そう言えばこの作品、大怪我はいくらでも治るんですが、「ジャンプ」作品お馴染みの“死人生き返り”が無いんですよね。この辺りは冨樫さんなりのポリシーなんでしょうか?

 

 ……というわけで、長丁場のゼミになりましたが、今日はここまで。後半はまた週末〜週明けになるかと思います。我が事ながら大変だ……(苦笑)。

 


 

2003年度第11回講義
4月20日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第3週分・後半)

 このゼミが“分割版”になって3週間、「1週間って早いなぁ」…と思うようになりました(笑)。特にここ最近はレビュー対象作が多い事もあるのですが、とにかく「ジャンプ」と「サンデー」に追いまくられているような気がします(苦笑)
 まぁでも、今週なんか分割していなければレビュー4本という修羅場だったわけで、それなりに効果はあったのかな……とも思っていますが。

 では、時間も差し迫っていますし、早速ゼミを始めましょう。

 まずは情報系の話題からですが、今日はまず始めに連載終了のお知らせからしなければなりません。
 次号(21号)で、『鳳ボンバー』作画:田中モトユキが最終回という事になりました。タイミング的にも連載回数的にも明らかな打ち切りで、残念な結果になってしまいました。
 もともとこの連載は、既にバレーボールマンガの佳作として定評のあった『リベロ革命!』を打ち切ってまでして立ち上げたものだけに、関係者の皆さんもショックが大きいと思います。とにかく今は「次回作に期待」としか言いようがないですね……。

 また、次号では“新鋭ビッグ読み切り”の第2弾として、田辺イエロウさん『結界師』が掲載されます。田辺さんは「ルーキー増刊」からデビューし、ここ最近は増刊にも顔を出している“期待の新鋭”作家さん。次号予告に掲載されたカットからも高い画力の一端が窺え、大変期待させられます。勿論、この作品については次週のこの時間でレビューさせてもらいます。

 

 ──それでは、本日分のレビューへ。今日は短期集中連載の第1回レビューと、読み切りレビューの計2本をお送りします。ただし、「チェックポイント」は都合により休ませて頂きます。

☆「週刊少年サンデー」2003年19号☆

 ◎新連載(短期集中連載)『黒松・ザ・ノーベレスト』作画:水口尚樹

 『少年サンダー』作画:片山ユキオ)、『電人1号』作画:黒葉潤一)に続く、ギャグ作家さんの短期集中連載シリーズ第3弾が今週からスタートします。
 作者の水口尚樹さんは、昨年の“特選GAG7連弾”という企画でプロデビューを果たし、そのすぐ後から増刊ながら連載を獲得し、順調にステップを踏んで来た期待の若手作家さんです。
 ……実は水口さんは、プロデビュー前に『普通えもん』という(色んな意味で)凄い作品を発表しています。この作品、今後水口さんがどれだけ伸び悩んだとしても、「まだまだこんなもんじゃないよ、この人は」…と許せてしまうくらいの傑作ですので、皆さんも参考資料として是非ご一読下さい。
(リンク先の『ホームレスのホーム』さん、ありがとうございます。貴方は勇者だ!)

 さて、とりあえず皆さんに腹筋を痙攣させてもらったところで(笑)、真面目な話に移りたいと思います。

 まずはについてですが、ギャグ作品としては及第点だと思います。ただし女性キャラを描くのが上手くないようなので、その辺りがこれからの課題になってくるでしょう。(もっとも、今の「サンデー」の萌え路線から敢えて逆らうのも手でしょうが)

 そして肝心要のギャグについてですが、こちらの方は多少ムラを残しながらも、『普通えもん』で発揮された優れたセンスを見事に発揮しています
 現時点での水口さんの“武器”は2つありまして、1つは“動と静のコントラスト”が非常に上手いという事で、もう1つはコマとコマの間の省略の使い方がダイナミックで秀逸であるという事です。
 これらは共にマンガという表現媒体の特徴を利した表現であり、そういう意味では水口さんは生粋のギャグマンガ家ということになるのかも知れません。

 ただし問題点もあります。“動から動へ”というドタバタ系ギャグのインパクトが薄いのがまず気になりますし、言葉で笑わせるギャグも打率が低そうです。(個人的に「溶けるぜ!」だけは超特大ホームランでしたが)
 また、『いでじゅう!』モリタイシさんと異なり、水口さんは理詰めでギャグを構成する事にやや不得手なところがあると思われるので、作品や一話ごとの出来不出来の差が大きくなりそうなのも心配材料です。

 ……とまぁ、色々述べてみましたが、結論を言えば「センスは十分。完成度はまだまだ」という事になるでしょう。現時点の評価は少し甘めですがB+寄りA−というところにしておきましょう。


 ◎読み切り『竹の子ドクター十五郎』作画:川久保栄二

 今週から始まった“新鋭ビッグ読み切り”シリーズ。第一弾は現在増刊で『医術師 十五郎』を連載している若手作家・川久保栄二さん。今回が本誌初登場です。
 今回の作品は連載中の『医術師 十五郎』を本誌用読み切りにアレンジしたもので、晴れて連載獲得となった『史上最強の弟子ケンイチ』作画:松江名俊)など、いくつかの作品で試みられているパターンです。ここで反応が良ければ連載、悪ければ単行本化もままならないまま、間もなく増刊連載も終了…という“天国と地獄”を地で行く修羅の道だったりするのですが、さて今回はどうでしょうか?

 まず真っ先に目に付くのが独特過ぎると言っても良い絵柄ですね。
 勿論、絵柄が個性的なのは悪い事ではありませんが、ただそこに画力が伴っていないとマズい事になってしまいますよね。表情の変化やアングルのバリエーションに乏しく、単調かつインパクトの弱いパッと見になってしまった感があります。
 また、医療マンガなのにマトモな手術シーンが出て来ないというのはどういう事なんでしょうか。そりゃあ本物の医者だった手塚先生が描くようなレヴェルのリアルさは求めていませんが、難しい描写を“描かない”のではなくて“描けない”と思わせてしまうような構成はいかがなものかと思います。

 ストーリー・設定の方も残念ながら問題アリですね。

 中でも一番痛いのは、『ブラックジャック』以来の医療マンガの根幹である、「高度に専門的な医療知識に基づくシナリオ」及び「超人的なオペ技術を持つ主人公」の両方ともが水準に至っていないという点ですね。
 まぁ中には『ブラックジャックによろしく』作画:佐藤秀峰)のように、後者の方を逆手に取って現実の絶望感を赤裸々に描く事に成功した傑作もありますが、それはあくまで例外ですし、前者の条件はキチンと満たしています。
 しかしながら、この作品で提示した「高度な医療知識」とは、「寒天は胃の中で固まる」とか、「ブロックサインを決めておけば手術もスムーズ」…のようなトンデモ系のものばかり。シナリオ中に“どんな医者でも出来る手段で”という縛りを自ら入れてしまったのですから仕方ないとも言えますが、かのブラックジャック先生は数十人同時に手術するという離れ業をやってのけたわけですから、十五郎先生もそれに匹敵するくらいの力技を持って来ても良かったような気がします

 また、シナリオの展開が少年マンガ黎明期(昭和20〜30年代)のような超高速&ご都合主義なのも違和感が否めません。
 50年前の少年マンガはページ数が少なかった(連載で10ページ前後、読み切りでも長くて60ページ強)ために、そうせざるを得なかった、そして読者の目も今ほど肥えていなかったからそれでも許されたのですが、現代ではやはり通用しないでしょう。
 特に気になったのが、十五郎が「国からお墨付きを貰っている」というだけで“凄い奴”と認定させてしまった部分です。やはりここは、何らかの手段で医術の腕前を見せ付け、その上でクライマックスで前人未到の大難事に挑む──! …という形が良かったのではないかと思うのですが……。

 評価はB−がせいぜいでしょう。ハッキリ言って本誌に載っていいレヴェルではありません。ただ、増刊の連載をウォッチしている人の中には、「今回は連載版の魅力が完全に失われている」…という意見を出されている方もいらっしゃるので、これで川久保さんの技量を決め打ってしまうのは危険とも言えそうです。とにかく次回作での巻き返しに期待しましょう。


 ……う〜ん、また最近レビューが長くなりがちですね。丁寧かつ簡潔にレビューできないものか、もう少し試行錯誤してみたいと思います。では、また。

 


 

2003年度第8回講義
4月16日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第3週分・前半)

 さて、今日からは第3週分の「現代マンガ時評」をお送りします。
 一昨日の講義が遅れたため、やや混乱されている方もいらっしゃるかも知れませんが、一昨日の講義は先週の「サンデー」について、今日は今週発売の「ジャンプ」についての講義となります。

 ではまず情報系の話題ですが、今日は次号の「ジャンプ」に掲載される読み切り作品の情報についてお知らせしておきましょう。
 次号では、ここ最近展開されている“期待の若手読み切り作品攻勢”に、『ROOKIES』(作画:森田まさのり)取材休みの穴を埋めるための作品を加えた、都合2作品の読み切りが掲載されます。

 まず“期待の若手枠”なのが天野洋一さん『LIVEALIVE 〜はじまりの歌〜』です。天野さんは02年上期の手塚賞で準入選(最高評点)を受賞し、受賞作『CROSS BEAT』で本誌デビューを果たした、新進気鋭の作家さんですね。今回も前作に引き続いて音楽モノ作品のようですが、果たしてどんな進歩の跡を見せてくれるのでしょうか。
 そして“穴埋め枠”の方が『キャプテン』作画:鉄チン28cm)。鉄チンさんは昨年度の「ストーリーキング」で最終候補まで残った人で、なんと今年34歳になる異色のルーキー。この作品が(別のペンネームで以前から活動していない限り)デビュー作となるようですが、こちらも注目です。

 噂では、近々更に長期連載作が終了すると言われている「ジャンプ」ですが、どうやら捨て身ともいえるアグレッシブな姿勢で新人の発掘・育成を目指す態勢を固めたようですね。確かにここしばらくの「ジャンプ」では看板作品級のメガヒット作に恵まれていませんから、手遅れになる前にハイリスク・ハイリターンの賭けに出るのも悪くない選択かも知れません。
 ただ、問題はその賭けの勝敗を握っている新人・若手作家さんたちの実力でしょう。ここしばらくの「ジャンプ」では、「期待をかけた新人が伸び悩み→仕方なく、打ち切り作家やキャリアを重ねて、とりあえずソツの無い作品が描ける若手作家に連載枠が回ってくる→結局突き抜け」…というパターンが続いている感が否めません。果たして、編集部の過大な期待に応えられるだけの力を持ったルーキーが現れるのかどうか。問題はこの点に集約されて来るのでしょうね。

 ……それでは、今週もレビューとチェックポイントをお届けします。今週のレビュー対象作は、新連載の後追いレビューと読み切り各1本ずつで、計2本となります。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年20号☆

 ◎新連載第3回『闇神コウ 〜暗闇にドッキリ〜』作画:加地君也第1回時点での評価:B−

 ここ最近定番となった感のある、新連載第3回のセンターカラー&ページ増ですね。敢えて目立つ位置に掲載してアンケート人気の最大値を計り、その結果に従って“突き抜け”か否かを決断する…というわけです。見た目とは裏腹にエグいイベントですよねぇ。

 ──で、この作品の内容の方ですが、有り体に言ってしまうと第1話から大きな変化はありません。指摘した長所も短所もそのままといった感じですね。
 ただ、それに加えて何か新しいポイントを指摘するならば、加地さんは、いわゆる“黄金パターン”を踏襲するのは非常に長けているものの、魅力的に見せたり、そこにオリジナルなものを加えたりするような技量が足りていない…というところでしょうか。

 ストーリーを構築する上で“黄金パターン”、つまり話作り上の定石を利用する事は悪い事ではありません。……というより、どんなにオリジナリティのある名作と言われる作品にしても、その大半は“黄金パターン”の塊にほんの少し独自色を塗りつけたモノに過ぎないわけで、むしろこれはストーリーテラーにとって大切な才能であると言えます。
 しかしながら、“黄金パターン”は先に言ったように定石ですから、既存の作品の中で数え切れないほど使い古されています。そしてその中には、作者の技量によってピカピカに磨かれた文字通りの“黄金”となったものもあるわけで、ただ“黄金パターン”を使っただけでは読者の高い支持は得られはしません。「この作品は、ただの“黄金パターン”じゃないな。奥が深いぞ」…と思わせるような何かが無ければいけないわけです。

 ところがこの『闇神コウ』では、その部分が明らかに欠如してしまっています。なるほど、ヒロイン(?)路蔭の二面性をアピールしてキャラクターを立てようする意欲は窺えますし、シナリオ上の起承転結の骨組みもしっかりしています。
 が、そのキャラ立ては“意外性の無い意外な素性”止まりに終わってしまっていますし、起承転結にしても、それだけを優先してしまったがために、ストーリー展開の起伏が浅くなってしまっています。読者がストーリーに没入する前に主人公・コウがブチ切れて勝手にシナリオが進行し、そのコウのピンチに際しては、読者がスリルを感じる前に路蔭が予定調和的に現れてアッサリとそれを解決してしまう……といった具合です。
 どうやら現在の加地さんは、作品の体裁を整えるために膨大なエネルギーを注いでしまい、結果的に読者を無視してしまっているように思えてなりません。ネット界隈の評判では、「ギリギリ“突き抜け”だけは回避できるんじゃないか」という声が多数を占めているようですが、果たしてどうでしょうか。作品が“殻”を突き抜けない内に作品そのものが突き抜けてしまってはシャレにもなりません
 もしも今週で“突き抜け”が確定してしまったならば、もう何を言っても無駄ですが、もしもまだチャンスが残っているのならば、何らかのテコ入れを施す事をお薦めしたいと思います。とりあえずは今の1話完結形式を改めて、ページ数をジックリ使ったドラマを見てみたいと思います。
 評価はB−で据え置きとします。しかし、路蔭の第1話の服装って何だったんだ。コスプレ?(笑)


 ◎読み切り『SELF HEAD』作画:原哲也

 今週の“期待の若手枠”は03年1月期「天下一漫画賞」の佳作受賞作原哲也さん『SELF HEAD』です。原さんは現在24歳で、これがデビュー作のようですね。少年誌ではやや遅めのデビューでしょうか。
 しかし、原さんの名前、某御大と2/3一致してるのが非常に紛らわしいんですが(苦笑)。編集部もペンネーム使わせた方が良いんじゃないかなぁと思ったりします。

 ……では、早速内容に話題を移してゆきましょう。

 まずはについてですが、単刀直入に言えば、「まだまだ発展途上で荒っぽい」…という感じでしょうか。これは今後の努力で何とかなる余地は残っているでしょうが、現状で連載作家さんたちと比べると見劣りは否めないでしょう。
 あと、キャラクターの髪型や服装などがやたらと古臭いのが気になります。主人公が「俺」とプリントされたタンクトップ(というかランニングシャツで、他のキャラクターの服装も、「田舎臭い」と言ったら田舎の人が激怒しそうなほど現実感の無いアレな格好です。
 で、こういう不用意な描写が絵柄を泥臭いものに感じさせてしまい、結果的に作品全体の雰囲気をややマズくしてしまったような気がしてなりません。これからプロを名乗るわけですから、そういう細かい部分にも気を使ってもらいたいものです。少年たちの世界を舞台にしたTVドラマや映画で研究するなり、ファッション雑誌を買ってみるなり、出来る事はたくさんあるはずです。

 そしてストーリー・設定の方ですが、こちらは「設定過多で消化不良」という言葉が一番適当ではないかと思います。

 シナリオの大まかな骨組みは「子分の仇討ちのために主人公が敵と喧嘩する」だけで、本来なら31ページでも多過ぎるくらいなんですよね。ところが、そこへ余計な設定や、いてもいなくても良いような脇役をジャイアンシチューの食材のようにドカドカ放り込んでしまったのが問題でした。単純で分かりやすいはずの話が変に回りくどくなって、単純なストーリーならではの爽快感が削がれてしまいましたね。

 また、受賞の決め手となった、床屋(理容師)VS美容師というテーマも十分に活かしきれていなかったのではないかと思います。
 ストーリー作品にするのなら、敢えて現実感を一切排した奇抜な発想(例えば理容師と美容師がハサミ捌きの技術で戦う格闘大会とか)で“バカバカしい事をクソ真面目にやる”路線で勝負するべきでしたでしょうし、もっと笑いの要素を交えてナンセンス・ギャグ作品にしてしまう手もあったでしょう。とにかくこの作品は何においても中途半端だったのが残念でした。
 あと、こんな事を言ってしまってはミもフタも無いのですが、「今更『カリスマ美容師』ってどうよ?」(笑)。そもそも大阪エリアでは「シザースリーグ(でしたっけ?)」の放映そのものが無かったんで、余計に「どうよ?」と思ってしまいますね(笑)。
 ……関係ないですが、「たまごっち」とか「アムラー」みたいな恥ずかしさがありますよね、「カリスマ美容師」という言葉には(苦笑)。

 では評価を。「天下一」の佳作(手塚賞で言えば準入選クラス)としては物足りない印象が否めず、B−といったところでしょうか。僭越ながらアドバイスさせてもらうと、原さんはもっと21世紀の風俗・流行についてもっと勉強するべきだと思います。
 余談ですがこの作品、「しまぶー(島袋光年)の作品みたいだ」とか、色々言われていますが、個人的には岩田康照さんの『神光援団紳士録』に近いように思えます。まぁ突き抜けマンガに似ててもアレなんですが(苦笑)。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『プリティフェイス』作画:叶恭弘【現時点での評価:B+/雑感】

 巻末コメントでは、作中の時間経過について「普通に進めます」と言及あり。確かに難しいんですよね、学園モノの場合は。特にこういう続けようと思えばどこまでも続けられるような作品の場合は……。
 まぁ、「ジャンプ」には“作者がタイムマシンで1年前に戻る”という離れ業が許された前例がありますから、どうとでもなるでしょう。それよりも来年まで連載が続けられるように頑張って欲しいものです。

 ◎『ピューと吹く! ジャガー』作画:うすた京介【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ギタリストトーナメント編終了。ピヨ彦の新境地が見えた意欲的なシリーズでしたねぇ。少年マンガの“黄金パターン”をことごとく裏切る事をギャグに結び付けた技量には唸らせられっぱなしでした。
 しかし、今回の後半からのジャガーさんの顔。どうして楳図かずおタッチなんだよ、しかも中途半端に(笑)。

 
 ……というわけで、今日のゼミはこれまで。後半はまた週末か週明けになってしまいそうですが、どうぞ宜しく。

 


 

2003年度第7回講義
4月14日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第2週分・後半)

 本当に、本当にお待たせしました。4月第2週分後半の「現代マンガ時評」です。つい2週間前までとは雲泥の差のヘタレぶりですが、どうかご容赦下さい。今がサボっているわけではなくて、先月までが異常だったんです(苦笑)。

 ……それでは、まずは「サンデー」関連の情報から。

 はじめに、月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」の2月期審査結果発表がありましたので、受賞者を紹介しておきます。

少年サンデーまんがカレッジ
(03年2月期)

 入選=該当作なし
 佳作=2編
  
・『ぼくたち上等!』
   山川コージロー(26歳・京都)
    ・『食材屋(めしや)』
   石厳當(23歳・沖縄)
 努力賞=2編
  ・『SAMURAI WIND』
   村神渓一(19歳・長野)
  ・『バイシクル』
   我孫子有希(24歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=2編
  
・『ぱそ・かの』
   平山昌吏(28歳・東京)
  ・『拓福招来 弁天丸!!』
   川村好永(24歳・埼玉)

 受賞者の過去の経歴ですが、「あと一歩で賞」の川村好永さんと同じ名前の方が、「ジャンプ」の月例新人賞・「天下一漫画賞」の2000年6月期で最終候補に残っています。結構変わった名前ですので、恐らく同一人物ではないかと思われるのですが……。

 次に、新連載と読み切りの情報を。

 今週で突然最終回を迎えた『電人1号』作画:黒葉潤一)に代わり、来週からまたギャグ作品の短期集中連載として、水口尚樹さん『黒松・ザ・ノーベレスト』がスタートします。
 水口さんは、昨年「サンデー」本誌で行われた、若手・新人ギャグ作家さんたちによる競作企画・“サンデー特選GAG7連弾”でメジャー誌デビュー。その後は増刊で連載を獲得するなど、「サンデー」系新人作家さんの王道的ルートを歩んで来ましたが、いよいよ長期連載の“最終試験”の時を迎えたようです。
 (余談ですが、その“GAG7連弾”からは『いでじゅう!』のモリタイシさんが本誌連載を獲得しています)
 
 そして、この短期集中連載攻勢と平行する形で、次週から“新鋭ビッグ読切”なる企画がスタートします。こちらはどうやらストーリー作品の競作企画のようで、やはり後の本誌連載枠を賭けた大事なイベントということになりそうです。昨年、同様の仕掛けを連発して、やや不発に終わった「サンデー」ですが、今年もまだまだ積極的に新人・若手の育成を実施してゆくようです。
 …で、次週に掲載されるのは川久保栄二さん『竹の子ドクター十五郎』。ほぼ1年前にあたる「少年サンデー超増刊」02年3月号で同タイトルの作品が掲載されていますが、さすがに転載という事は考え辛いですので、恐らくはそれを土台にした新作ではないかと思われます。
(追記:久々の大失態です……。川久保さんはその後、現在に至るまで、この読み切りを元にした『医術師!! 十五郎』を「少年サンデー超増刊」で連載中でした。不勉強で申し訳ありませんでした)

 この2作品については、当然ながら次週のこの時間にレビューをお送りします。

 ……では、今週もレビューをお送りします。本日分のレビュー対象作は、先程お伝えしたように、今週で最終回を迎えた短期集中連載・『電人1号』の総括レビュー1本だけという事になりますね。
 その後、「チェックポイント」、そして「読書メモ」もお届けします。最後までどうぞよろしく。

☆「週刊少年サンデー」2003年19号☆

 ◎短期集中連載総括『電人1号』作画:黒葉潤一第1回時点での評価:B−

 先週、「終わる気配が見えないんですが……」などと言った直後に終了です(苦笑)。このゼミではこういう事が頻繁に起きるので困ってしまいます。まぁ自業自得なんですが。

 では、総括に移るわけですが、ここでは第1回で指摘した点を振り返りながら、新しく発見した点なども含めつつお送りする事にします。

 まずは最初に指摘した「間の悪さ」からですが、やはり全8回の連載中、ここが一番気になってしまった部分でした。短いページに可能な限り中身を持たせようとした反作用と言いますか、大半のコマが小さい上にその中でキャラがバタバタばかりしていて、いわゆる“静と動”のメリハリが利かなくなってしまった感がありました。
 以前は“静”のオンパレードで読者をニヤリと笑わせるようなギャグを得意としていた黒葉さんですが、“動”の方は今一つ上手く表現出来なかったみたいですね。

 次に「意外性の無さ」「ワンパターン」ですが、これは同じ原因から露呈した問題だったのではないかと考えています。
 それはキャラクター不足です。主要キャラが電人1号・2号とミノルの3人(?)だけで、あとは使い捨て気味のゲストキャラが毎週1〜2程度。これではギャグの起点がほぼ全て電人1号のボケからになってしまいますから、当然の事ながらワンパターンになり、意外性も無くなります。
 全てとは言いませんが、ギャグ作品におけるヒット作のほとんどでは、いわゆる“ボケ担当”だけでも系統の違う数人のキャラクターが配置され、更にそのボケをイジるキャラがいて、最後に主人公格のキャラがツッコミを入れる…というパターンが確立されています。そうする事でギャグのバリエーションが増し、また1人のキャラをクローズアップする事で連載1話単位のメリハリも出て来るわけです。ちなみに、主人公格のキャラがツッコミ担当なのは、その役回りが読者の感情移入を一番引き受けやすいからですね。ツッコミ役が“読者の代弁者”になるわけです。
 もともと「サンデー」のギャグマンガというのは、主要キャラが少ない作品が多く、恐らくはこの作品もその影響を多分に受けたものなのでしょうが、それにしても苦しい設定にハマり込んでしまったとしか言いようがありません。

 せっかく1号とか2号みたいな設定を作ったのですから、せめて5号くらいまで出せば展開もまた変わって来たのではないかと思います。(勿論、それで良い作品にするためには、それなりの技量が求められますが)

 評価はB−寄りBとしておきましょうか。全くダメとは思えないんですけどねぇ。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 「ジャンプ」のパンチラ攻勢を受けてか、最近は以前にも増して男子読者サービスが強化された気がしますね(笑)。しかし、いくら乳首が見えようが、擬似精液がぶっかけられようが、『モンキーターン』の“キノコ頭カップル”の会話に見える生々しさこそが、他の何よりもエロい気がしてなりません(笑)。

 ◎『焼きたて!! ジャぱん』作画:橋口たかし【現時点での評価:/雑感】

 ……とか言いつつ、やっぱり注目は最終ページですね(笑)。
 まぁ、脱がせるのは良いとして、何故にヒモパン?(笑) ちょっと橋口さん、最近欲求不満なんじゃないのかと変な心配をしてしまいますよね(苦笑)。

 ◎『DAN DOH !! Xi』作:坂田信弘/画:万乗大智【開講前に連載開始のため、評価未了/連載終了にあたっての総括】

 『Xi』になる前も含めると、足かけ8年にもなる長編でしたが、今回で爽やかに幕。最終回は典型的なエピローグ形式でしたね。まぁ先週に話そのものはケリがついてましたし、他にどうしようもないですけれども。

 作品全体の印象としては、普通の少年を主人公にして、『あした天気になあれ』のシナリオで『プロゴルファー猿』をやり、オマケに万乗パンツをトッピングしたもの…といった感じでしょうか(どんなんじゃ)。
 ストーリーの途中で許容範囲スレスレまで読者にストレスを強いるのが苦痛と言えば苦痛でしたが、その分のカタルシスも保証されているのが強みでしたね。特にダンドーが子供離れした実力を身に付けてからは爽快感の勝る作品になり、素直に楽しめたような気がします。
 評価はB+といったところでしょうか。当ゼミの基準では、どうしても“トンデモ系”の作品には点が辛くなってしまうのですが、この評価は褒め言葉として受け取ってもらえれば幸いです。

 ◎『鳳ボンバー』作画:田中モトユキ【現時点での評価:B+/雑感】

 やっぱり最終回が近いんですかねぇ。もしそうなったら総括で評価を下方修正しなくちゃいけないんですが……。
 で、ここでも注目はやっぱりラスト直前の見開きになっちゃうんですよね(笑)。あややが絶頂ですよ、絶頂!
 しかし、抱えているギターは完全にメタファー(暗喩)なんでしょうなぁ、アレの(苦笑)。何というか、キャラクター以上に作品の方向性がボンバーしてますね(笑)。

駒木博士の読書メモ(4月第2週後半)◇

 ◎『ORANGE』「週刊少年チャンピオン」連載/作画:能田達規【開講前に連載開始のため、評価未了/雑感】

 実は、今一番駒木が楽しみにしているサッカーマンガがこれです。奇をてらわず、かといってエンタテインメントの精神も忘れずに、2部リーグの世界を等身大かつ卑小にならないように描ききった、バランス感覚抜群の良作です。
 特に今回は凄いです。12人目のプレイヤーたるサポーターが、チームの得点に直接貢献する様子を全くリアリティや説得力を損なうこと無く描き切るなど、そうは出来るものではありません。少なくとも某直訳すれば『空腹の心』になる作品と作者さんには無理でしょう。
 「ジャンプ」だと魅力が発揮される前に突き抜けそうで、「マガジン」だと連載以前に企画が通らなさそうで、「サンデー」だとサッカー以上に女子高生オーナーのパンチラ&お色気シーンだけを延々と展開してしまいそうなこのマンガ、「チャンピオン」連載で本当に良かったと思います(笑)。


 ……というわけで、今日のゼミを終わります。次回のゼミは、とりあえずは水曜日付でお送りする予定です。

 


 

2003年度第4回講義
4月8日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第2週分・前半)

 業務縮小にも関わらず、多くの方に引き続き受講して頂いて、嬉しく思うと共に恐縮しております(苦笑)。
 とりあえず先週みたいに、1週間でゼミ2回+他1回のパターンを基本にボチボチやって行こうと思いますので、どうか何卒。新ネタが入ったらモデム配り関連の講義もイレギュラーにやりますんで、そちらも宜しく。ここでは広告ナシの利点を活かして自由な活動をさせてもらいます(笑)。

 さて、それではゼミを始めましょう。まずは「ジャンプ」関連の情報から。今週は月例新人賞・「天下一漫画賞」の審査結果発表がありましたので、受賞作等をここでも紹介しておきましょう。

第79回ジャンプ天下一漫画賞(03年2月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し  
 審査員(武井宏之)特別賞=1編
  
・『イツカノミヤコ』
   田村隆平(22歳・滋賀)
 編集部特別賞=1編
  
・『ギャンブルドット』
   高山憲弼(21歳・大阪)
 最終候補(選外佳作)=4編

  ・『鬼子と忌み子』
   本間純一(20歳・北海道)
  ・『少年A』
   葛西仁(23歳・東京)
  ・『ありがとう先生』
   夏田統(25歳・宮崎)
  ・『キュプロクス』
   高木友勝(16歳・岐阜) 

 今回の受賞者に、過去の受賞歴等は見当たりませんでした。編集部特別賞の高山さんの絵柄なんて、かなりプロっぽく思えたので、てっきりベテランの投稿者さんかと思ったんですけどね。
 ところで最終候補作の『鬼子と忌み子』の講評の、

 「画力は抜群に高いが、全体的に個性に欠け、ありがちな印象。妖怪というよくある題材にもっと深みが欲しいし、それぞれの登場人物も、まだ設定の域を出ていない。読者の心に何か特徴が強く残るキャラ作りに専念して」

 ……という文言なんですが、これ、画力についての部分以外は先週連載が始まった『闇神コウ 〜暗闇にドッキリ〜』作画:加地君也にそのままあてはまっちゃう気がするんですが(苦笑)。
 こう言っちゃあアレかも知れませんけど、作品が世に出るかどうかなんて、結局は運次第なんでしょうねぇ。小説の世界でも、後に傑作として評価される作品が新人賞の2次選考あたりでハネられたりする事もありますし。

 この「天下一漫画賞」は次回の3月期(既に応募は締め切り)で最後となり、翌月からは「ジャンプ十二傑新人漫画賞」にモデルチェンジされます。というか、3月期に間に合ってしまった応募者の人って、結構可哀想なんですが(苦笑)。

 ──それでは、今週もレビューとチェックポイントの方へ。今週のレビュー対象作は新連載レビュー1本のみとなります。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年18号☆

 ◎新連載『★SANTA!★』作画:蔵人健吾

 「ジャンプ」の新連載シリーズ第2弾は、先週の加地君也さんに続いて初の連載獲得となった蔵人健吾さん『★SANTA!★』です。
 蔵人さんは今から8年前の95年に「月刊少年ジャンプ」の「MJ少年漫画大賞」で佳作を受賞し、同年発行の「月刊ジャンプ」の増刊号でデビュー。しかしその後はしばらく伸び悩み、97年からは「週刊少年ジャンプ」系の新人賞に応募するようになります。そして98年に「赤塚賞」準入選と「手塚賞」佳作を同時受賞し、同年の「赤マル」春号で再デビューを果たします。
 その後は年1〜2回のペースで「ジャンプ」本誌や「赤マル」に作品を発表し、昨年にはエニックスの「ガンガンパワード春季号」でも読み切りを発表しています。
 そして今回の『★SANTA!★』は、昨年の「赤マル」春号で発表した『SANTA! ─サンタ─』のリメイク版となります。苦節8年、ともすれば「ジャンプ」よりも「世界漫画愛読者大賞」の方が似合いそうな経歴の蔵人さん、果たして第1回の出来はどんなものだったでしょうか──?(蔵人さんの詳細な経歴については、「シェルター」さんの『蔵人健吾作品データ』を参考にさせて頂きました)

 例によってまずからですが、多少クセはあるものの力量はかなりのものが認められます。駒木は以前──この作品の読み切り版が掲載された頃から、蔵人さんの画力には注目していたのですが、連載にあたってアシスタントを使えるようになったせいか、ここに来て更に上積みがあったようです。
 ただ、どうにも“あまりにも「ジャンプ」っぽ過ぎる”という点が玉にキズといった感じです。このせいで、絵柄のインパクトという面で損をしている印象が否めないんですよね。誤解を恐れず喩えて言えば、バストのサイズ以外にこれといった特徴の無いソコソコ可愛いB級グラビアアイドルみたいなんですよね。

 で、次にストーリー・設定面

 第1回のシナリオそのものは少年マンガ……というか「ジャンプ」作品の王道的シナリオで、有り体に言って“目新しさは無いが、手堅い印象を与える”…という感じでしょうか。
 ただ、ネット界隈では「『ONE PIECE』の焼き直しにしか見えない」という厳しい声も出ており、読み手によって評価がかなり分かれているようです。

 しかし、駒木がそれ以上に気になるのはセリフやモノローグにおける言葉遣いの拙さです。この点に関しても駒木は読み切り版の頃から指摘させてもらっていたのですが、残念ながら1年を経た今でも大幅な改善は出来なかったようです。
 これは『アイシールド21』『ヒカルの碁』といった原作者付き作品と直接比較してもらえるとよく分かるのですが、とにかく蔵人さんの書くセリフは説明的で回りくどいですし、砕けた喋り言葉に硬い表現の接頭語や接続語が多用されているのもマイナスポイントです。舞台演劇の脚本ならそれでも良いんですが、マンガという表現手段は映画やドラマに近いモノですから、セリフはとにかく自然じゃないといけないんですよね。
 そんな不自然さが最も目立ってしまったシーンが、よりによって最大の見せ場である「オレの目的は世界征服だ!」というフレーズです。「目的」という言葉って、決めゼリフにはかなり格好悪いんですよね。語呂も悪いですし。ギリギリ合格点で「オレの野望は世界征服だ!」…じゃないですかね。これならまだ言い易いですし、セリフっぽい感じがします。
 あとは、そのフレーズを引っ張り出した敵キャラのセリフ、
 「え゛!? お…おいちょっと待て!! その左手の印…!? なんだよお前の目的って…!!」
 ……これも悲惨なほどカッコ悪いです。普通、殺されようとしてるヤツが「なんだよお前の目的って」…とか言わないですよねぇ。
 で、これらの失点がシナリオ・ストーリーの魅力を肝心なところで少しずつ削いでしまっているわけです。こういうクドい作風もジャンルや見せ方を工夫すれば評価される道も残されていると思うのですが(典型例は『鉄鍋のジャン』正統派冒険モノではちょっと通用し辛いかな…といったところです。

 ……というわけで、少なくとも第1回を読んだ限りでは、この作品は「ソコソコ美味い素材なのに、それをソースで台無しにしてしまった失敗作のフランス料理のようなもの」…と言わざるを得ません。暫定評価は、画力やある程度の手堅さを考慮してもB−寄りBというところでしょう。せっかくのチャンスを1クールで手放さないためにも、早急な改善策を練ってもらいたいものです。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週で『ストーンオーシャン』作画:荒木飛呂彦)が打ち切り気味の(?)最終回。アンケート人気万年最下位クラス&単行本売り上げ低迷という状態では、さすがの“優遇作品”も立場が弱くなっちゃうんでしょうなぁ。
 まぁこの作品に関しては、駒木よりももっと的確に論評出来る方が多くいらっしゃるでしょうし、途中読んでいない時期もあったりしましたので、総括するのは止めておきますね。
 
 ◎『ボボボーボ・ボーボボ』作画:澤井啓夫【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ホントに凄い人出たー!(爆笑)。
 その次のコマの「悲しい事に澤井の画力が追いついてねー!!!!」ってセリフの「悲しい事に」という部分に色々なモノが詰まってるように思えて更に爆笑。いやー、久々にホームランですなぁ。企画モノをやるなら、これくらいの威力を持たせないといけませんよね、やっぱり。

 ◎『プリティフェイス』作画:叶恭弘【現時点での評価:B+/雑感】

 巻末コメントでは平謝りの叶さん。しかし、「ジャンプ」で原稿落とした事を謝られると、「あぁ、やっぱりこれってマズい事なんだなぁ」って思わされてしまいますよね(笑)。
 で、ネタの方は……これもスゲぇな(苦笑)。
 というか、読者の大半を占める男子小学生・中学生のほとんどは、アレの形を「チ○コ」だと言われてもなかなか理解できないんじゃないかと思うんですが(笑)。第一、人前でアレをナニだと認識してパニクっている女子高生の集団って、とても強烈な光景だと思うんですけれども(笑)。あと、人知れず、ああいう方面には極めて疎そうな理奈ちゃんまで赤面してるんですが、一体どこで知識を仕入れたんでしょう?(苦笑)


 ……というわけで、ちょっと短いですが今日の講義はこれにて終了です。
 最後がチ○コネタってのもアレですが、『エンカウンター』の写真ぺージについて喋る方がもっとアレな感じがしますし(苦笑)。まぁ、ピラミッドの呪いに関しては当講座の「学校で教えたい世界史」を参照して下さい(笑)
 では、また週の後半でお会いしましょう。

 


 

2003年度第2回講義
4月4日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第1週分・前半)

 一昨日の“前半”に引き続き、今日は“後半”です。
 “前半”は何やかんやでこれまでと同じぐらいのボリュームになっちゃったんですが、今回ははさすがに分割版らしい長さになってしまうと思います。
 短い講義だと「サービスが足りない!」…とか思ってしまうんですが、それだと業務縮小した意味無いんで(苦笑)、徐々に慣らしていくことにします。

 で、“後半”「週刊少年サンデー」関連の情報やレビュー、チェックポイントを中心に、更には“前半”と同じように、他の雑誌などに掲載された作品のレビューや「読書メモ」などをお送りします。

 今週は「サンデー」関連の情報は特に無いのでお休み。レビュー対象作もありませんので、「チェックポイント」だけお送りします。

☆「週刊少年サンデー」2003年18号☆

 最近気になってるのが、“短期集中連載”中の『電人1号』。今週でもう7話目なのに、まだ終わる気配が見えません。一体、どうするつもりなんでしょうかねぇ……?

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『ファンタジスタ』作画:草場道輝【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 イタリア編が一区切りついて、今回からオリンピック編。どこまで連載続くか分かりませんが、舞台もてっぺいも日本とイタリアを往復し続けるみたいですね。
 で、今回はプロローグ的エピソードなんですが、「10代でACミラントップチーム所属」っていう肩書きが、実態以上に日本で評価されているっていうのが妙にリアルで唸らされました。マスコミって、「若者+重みのある肩書き」に弱いですからね。女子高生が芥川賞候補! ……とか(笑)。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 “5階建てビル編”は3回で完結。まぁギャグマンガですし、これくらいでまとめるのが正解でしょう。しかし、知らない内に絵柄が随分変わった気がするんですが、錯覚でしょうか?
 注目は最終ページ(特にラスト2コマ)の林田と桃里の様子でして、何だか今回のエピソードが2人の関係にとってのターニングポイントになった感がありますね。これからどんな感じでラブコメ風味が出てくるのか、個人的に少し楽しみです(意外とラブコメ好きなんです)

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 こちらも“一時閉幕”。いよいよ次回から“からくりサーカス編”が始まるってことになるんでしょうか。それにしてもこれだけ長期間、テンション下げずにこれだけのエピソードを描き切る技量っていうのは本当に凄いですよね。
 今週は藤田さんお得意の(?)、主要キャラクターがまた1人天に召されていくシーン。あ、今回のは地に召されたんですよね。それにしても、あんな幸せに地獄へ堕ちてゆくカップルってのもまた凄いですよね。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 こういうリアル系のスポーツ物っていうのは必殺技とか魔球の類の超能力とか出せないわけですが、スペシャルぺラとかVモンキーとかでその“代用品”を作ってるのが見事ですよね。競艇なんて、レースシーンもワンパターンで結構地味なのに、よく演出できてると思います。

 ◎『DAN DOH !! Xi』作:坂田信弘/画:万乗大智【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 いよいよ次回最終回。来週には簡単な総括をさせてもらいます。
 で、今週。ガラスの破片が刺さったボールを思い通りにコントロールする事が「真のゴルフの世界」だと初めて知りました。坂田先生、有難う御座います!(笑)
 ……というかこの作品、本当に最後まで坂田氏が原作描いてたんでしょうかね(苦笑)。 

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感?】

 1年半かけてウェブサイトを成功させた事で、ネット以外の社会生活をボロボロにした駒木は勝ち組なんでしょうか、負け組なんでしょうか?(苦笑)。


 ……というわけで、「サンデー」のチェックポイントは以上。最近の「サンデー」は比較的中身が濃いんで、見どころが結構ありますよね。


 では、今日の後半戦、「第2回世界漫画愛読者賞」の総括に移りたいと思います。まずは、今回のエントリー作8作品と当ゼミでの評価を振り返っておきましょう。

作品名 作者 評価
『軍神の惑星』 谷川淳 B+
『鬼狂丸』 新堂まこと (C寄り)B−
『摩虎羅』 茜色雲丸/KU・SA・KA・BE (B−寄り)B
『華陀医仙』 曾健游 B+
『極楽堂運送』 佐藤良治 (B寄り)B−
『大江戸電光石火』 弾正京太 B+
『東京下町日和』 山口育孝 (B寄り)B−
『ちゃきちゃき江戸っ子花次郎の基本的考察』 赤川テツロー (C寄り)B−

 まぁ当ゼミの評価なんて、ゴマンとある意見の1つに過ぎないわけですが、それでも他に確固たる判断材料もありませんので、とりあえずそれで振り返ってみますと、8作品中B+評価が3作品ある一方で、B−評価、またはそれに近いB評価も5作品ある…という結果になりました。
 当ゼミの評価でのB+“連載作品として及第点”B−評価“いわゆるスカ・ハズレ”ですので、そういう意味では、エントリー作のデキがかなり上下極端に分かれたかな……という印象です。
 ただこれは、応募作数が少なかったために最終審査進出のボーダーラインが極端に下がってしまった…という見方もでき、そういう意味では仕方がない話かも知れません。むしろ、応募総数100作品程度の中から“見ていられる”作品が数点でもあったのは、普通のマンガ新人賞と比較すれば上出来とさえ言えるでしょう。

 ですが、この賞が「賞金総額1億円、グランプリには連載1年保証」というケタ外れの特典を売り物にした、看板作品発掘のための賞である事を考えると、やはり今回のエントリー作品は物足りなさが否めません
 昨年の第1回の時も同様の喩えをしたのですが、この賞は、野球で言えばドラフト1〜2巡目クラスの、松坂や松井クラスの選手を求めた特殊な“入団テスト”なんですよね。
 ところが、そんな入団テストに集まって来るのは、
 「全国大会出られるかどうかの社会人チームで8番ライト打ってましたが廃部になっちゃいました。28歳、妻子持ちですけど頑張ります」
 …とか、
 「高校時代はエースで4番、センバツに21世紀枠で出て3回戦まで行きました。卒業の後は家業の酒屋を手伝ってたんですが、25を過ぎてこれからの人生を考えたら、どうしてもプロになりたくなって……」
 …とかいった、“能力の伸びしろが無い”年齢的にも問題のある二流選手ばかり。たまに将来性のある若手選手が現れても、あまりに荒削りすぎて二軍で鍛えないと話にならなかったりして、ちっとも即戦力として使えなかったりするわけです。で、去年は“29歳、都市対抗野球で準決勝進出経験アリ”みたいな選手を無理矢理に採用した挙句、シーズン途中で不振の上にアキレス腱断裂…みたいなパターンに終わってしまったと(苦笑)。

 ……元々、この「世界漫画愛読者賞」のグランプリ選出方式には、以前「徹底検証! 世界漫画愛読者大賞」で指摘したような重大な問題点がいくつもあるわけですが(グランプリ信任投票のみその後に改善)去年と今年の応募者の顔ぶれを見る限り、“問題以前の問題”を抱えているように思えてなりません。つまり、グランプリに相応しい作品を読者投票で適正に選び出す以前に、グランプリに相応しい作品そのものが存在しないんです。
 今後、この賞を存続させてゆくのならば、グランプリに相応しい作品が書ける現役プロ作家をスカウトするか、若しくは賞金額と連載確約期間を削減して新人賞っぽくするべきでしょう。「連載確約+賞金200万&連載期間中のスタジオ維持費用(家賃、アシスタント給与など)最高1年負担」ぐらいが適正だと思うのですが……。

 最後に「総合人気投票」の投票行動公開ですが、駒木は以前から予告していた通り、『大江戸電光石火』に投票することにしました。
 完成度では『軍神の惑星』も捨て難く、更には『摩虎羅』にも「ひょっとしたら大化けするのでは……?」と思わせるものがありましたが、ある程度のプレッシャーを受けつつ長期連載するにあたって、最もハズレる可能性が低いと思われる作品を選ぶと、このような結果になりました
 しかし、グランプリ信任投票では、『大江戸電光石火』も含めて、いかなる作品が候補に選出されようと「不信任」で投票するつもりでいます。グランプリは“連載作品として及第点”の作品では格不足であるという判断です。
 

 
 ……というわけで、今回のゼミはこれで終了です。来週もお楽しみに。ではでは。

 


 

2003年度第1回講義
4月2日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第1週分・前半)

 業務縮小後1回目の講義をお送りします。
 しかし、月曜に講義を、火曜日休んで水曜にまた講義…ってパターン、よく考えたら以前と全然変わってないんですが(苦笑)、まぁこれからも講義はちゃんとやりますよ…というアピールになれば良いと思います。

 さて、装いも新たに“分割版”として帰って来ました「現代マンガ時評」ですが、タイトルの通り、今後はこれまでの内容を週2回に分割してお送りする事になります。正直言って、これまでのボリュームだと一晩で講義の準備するのはかなりキツいんですよね。ですので、講義回数を水増しする意味も込めて(苦笑)分割させて頂く事にしました。
 今後は、“前半”では「週刊少年ジャンプ」のレビューとチェックポイントを中心に、そして“後半”では「週刊少年サンデー」のレビューとチェックポイントを中心にお送りする事になります。勿論、その他の雑誌で発表された良作・注目作に関しても、レビューや「一口読書メモ」(今回から開始しました)の中で随時紹介してゆきたいと思っています。

 どうぞ、新しくなった「現代マンガ時評」をこれからも宜しくお願いします。

 ……それでは早速、本題に移りましょう。まずはいつも通り情報系の話題からです。

 今週号(18号)の「週刊少年ジャンプ」誌上において、同誌の月例新人賞・「天下一漫画賞」が、03年度4月期から「ジャンプ十二傑新人漫画賞」へリニューアルされる事が発表されました。

 この「ジャンプ十二傑新人漫画賞」は、各賞の賞金が「天下一」に比べて大幅増額(入選50万円→100万円、準入選30万円→50万円、佳作20万円→30万円、最終候補3万円→5万円)され、その月の最優秀作品に贈られる“十二傑賞”(賞金10万円加算+受賞作掲載確約)も新設されました。
 従来の規定では「佳作以上の作品の掲載確約」でしたので、これは新人に対する大幅な“門戸開放政策”と言えるでしょう。新人育成部門の強化は「ジャンプ」伝統のスタイルですが、ここまで月例賞が重視された事は恐らくこれまでなく、茨木新編集長の新人発掘における並々ならぬ意欲が窺えようと言うものです。

 懸念材料としてはデビューまでのハードルを低くした事で低水準の作品が掲載されてしまうかもしれない事でしょうか。でも、現在の“新人・若手枠”である「赤マルジャンプ」や代原作品のレヴェルを考慮すると、「どうせ駄作を載せるなら、埋もれた若手より可能性のあるド新人」…という気がしないでもないですね(苦笑)。
 しかし、これで困るのは“連載予備軍”の新人・若手さんたち。これまでに比べて掲載枠が狭まるのは目に見えてますし、“十二傑賞”受賞者が随時新たなライバルとして名を連ねるわけですから大変です。でも、編集部サイドはそうやって新人・若手のライバル心を煽るのが狙いなんでしょうね。いやはや、マンガ家さんも大変です。某パクリ作品とか某底抜け脱線スポーツ作品とか読んでると、「こんなので年収億単位か。オイシイ商売だな、オイ」…とか言いたくなるんですけどね。

 
 ──情報系の話題は以上です。それでは「週刊少年ジャンプ」関連のレビューと「チェックポイント」へ。
 今週は、新連載レビュー1本と代原読み切りレビューが1本の計2本のレビューをお送りします。そしてその後に「チェックポイント」です。どうぞ宜しく。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年18号☆

 ◎新連載『闇神コウ 〜暗闇にドッキリ〜』作画:加地君也

 今年の「ジャンプ」は変則的な連載入れ替えをするようで、4月になってようやく今年最初の新連載シリーズが開幕することになりました。
 その第1弾は、加地君也さんの『闇神コウ』昨秋に掲載された読み切り・『暗闇にドッキリ』をプロトタイプとした作品ですね。加地さん6年前の「天下一漫画賞」で佳作を受賞し、デビューを果たした古参の若手作家さん。長い間チャンスに恵まれていませんでしたが、ここに来てワンチャンスを掴んで連載デビューとなりました。
 ただこの作品、読み切り掲載時にはネット界隈では当ゼミも含めて芳しい評判を聞かなかっただけに、連載化に当たって不安も付き纏います。果たして、出来の方はどうだったでしょうか──?

 まずですが、アシスタントさんを確保したためか、読み切り時よりは完成度が上がっています。特にカラーページの色塗りはなかなかの腕前で、さすがにキャリアを感じさせてくれますね。
 ただ、デッサン力やキャラの描き分けなど、マンガにとって肝心な部分が未だ“発展途上”──有り体に言えばプロっぽくない印象を与えるレヴェルに留まっており、他の連載作品と比較すれば見劣りは否めないところです。
 これで個性的な絵柄ならば誤魔化しが利くのですが、残念ながら加地さんの場合はそうではありませんので、結果的に絵で随分と損をしているような気がします。

 次にストーリー、設定面についてですが、まず連載化にあたって舞台を平安時代から現代に修正したのは良かったと思います。作品の“ノリ”からして、時代物長編にするには無理がありましたので。
 しかし、肝心のストーリーテリング能力は、かなりの問題ありと言わざるを得ません。一言で言うと、加地さんは伏線を張るのが極端に下手で、ストーリー展開に唐突感と行き当たりばったり感が見え隠れしてしまうのです。
 例えば、突如敵役に変貌するヒロインの伯父。「実は極悪人だった」というシーン以前に、それをほのめかす伏線が張られていないんですよね(性格が悪いとの伏線はありますが、その後に主人公・コウが『姪思いの人』と発言して逆の伏線を張ってしまっています)。なので肝心のシーンで大変な違和感を感じてしまうのですね。
 また、準主役の骸錬師・芦屋路蔭のキャラ造型が非常に甘いのも気になるところです。恐らく作者の意向としては、このキャラを『アイシールド21』のヒル魔のような、“一見乱暴なだけに見えて実は良いところもある”偽悪人にしたいのでしょうが、現時点では「単なる悪人がストーリー展開に合わせて気紛れに何故か良い事をしている」風にしか見えません要は読者が感情移入出来ないキャラになってしまっているわけで、これは大きなマイナスポイントと言えるでしょう。

 総合すれば、絵は連載作品として平均以下、ストーリー面でも問題アリと、前途多難の船出になってしまいました。果たして短期間で弱点を修正する事が出来るのでしょうか。その辺り、再来週の後追いレビューで再度検討してみたいと思います。
 暫定評価は“連載作品落第”のB−としておきます。


 ◎読み切り『みんなで暮らせばいいじゃない』作画:ゴーギャン

 今週は『プリティフェイス』が締め切りに間に合わず、代原の掲載となりました。

 今回の代原作品・『みんなで暮らせばいいじゃない』の作者・ゴーギャンさん2人組の合作ペンネームで、第52回(2000年上期)赤塚賞の佳作受賞者。その受賞作を含めて2000年に2回代原による本誌掲載を果たしています。今回はそれ以来、約2年半ぶりの復帰作ということになりますね(代原ですが)。
 ちなみに、この2000年上期に手塚賞・赤塚賞を受賞した人たちは、尾玉なみえさん、小林ゆきさん、クボヒデキさんという、打ち切り作家か埋もれた代原作家ばかりという非常にアレなラインナップ。大丈夫でしょうか。

 ……まぁどうでもいい話はさておき、作品の内容に話題を移しましょう。

 まずですが、パッと見には小奇麗に見える絵柄ではないかと思います。ギャグ作家としてなら許容範囲内と言えるかも知れません。
 ただ、作画担当の方がイラスト畑からの出身なのでしょうか、主人公やライコスといった、いかにも一枚イラストに出て来そうなキャラクターの描写は比較的上手い一方で、モンスターやオバサンのような、いかにもギャグ作品的なキャラの描写が明らかにお粗末な仕上がりになっているのが気になります
 また、1コマごとの描き込みがゴチャゴチャしている上に、微妙にキャラと背景の寸法がズレているのも問題です。そういう点が読み難さに繋がり、更にそれがギャグの切れ味を鈍らせてしまう結果になってしまいました。

 ギャグの方も問題アリと言わざるを得ません1つ1つのネタに意外性が足りませんし、ボケとツッコミの間が異様にせっかちで、読者にしてみれば笑うに笑えないのです。何だか、売れない若手グループが緊張の余りネタを上滑りさせながらコントをやっているみたいで、ちょっと読んでいて辛かったです。
 少ないページになるべく沢山のギャグを放り込もうとする姿勢は評価できるのですが、無理に底の浅い大量のギャグを詰め込んでもそれは逆効果というものです。

 評価はC寄りB−としておきましょう。新人・若手ギャグ作家の人材不足が深刻な現在の「ジャンプ」、望まれているのはゴーギャンさんのような若手作家さんが“大化け”する事であるはずなのですが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感というか雑談】  

 いーなぁ、ワイルドガンマンズのハーフタイムショー(笑)。
 まぁ高校の試合はともかくとして、大学以上の試合ではハーフタイムショーも試合の重要な要素の1つですからね。アメフトの選手と共に鍛錬を積んで来たチアリーダーたちの晴れ舞台なんですよ。
 ハーフタイムショーなんて、TV中継だとまずカットになっちゃう部分なんで、もし良かったら皆さんも生観戦される事をお薦めします。野球をショーアップしたみたいな雰囲気でとても楽しめますよ。

 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 喘息持ちで、たびたび原稿の遅れる鈴木さん、巻末コメントによると今回も未完成原稿を載せる羽目になってしまったとか。でも、『HUNTER×HUNTER』で慣らされているせいか、全然違和感ないんですけどね。あ、いや、全く躍動感の無いアクションシーンにはいつも違和感感じまくってますが(苦笑)。

 ◎『ピューと吹く! ジャガー』作画:うすた京介【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今やってるギター大会シリーズ、奥が深いなぁ(笑)。60〜70年代の熱血マンガの可笑しい部分だけを抽出して、その上で21世紀で通用するギャグマンガに仕上げてますからねぇ。特に端役キャラの台詞がいちいちレトロな雰囲気で笑えて仕方ないです。


 ……「ジャンプ」関連の講義は以上です。いつもならここで終わりになるのですが、ここで今回から始まる新コーナーをお送りします。タイトルは「駒木博士の一口読書メモ」。要は色々な雑誌の「チェックポイント」と考えて頂ければ結構です。

駒木博士の読書メモ(4月第1週前半)◇

 ◎『エンカウンター 〜遭遇〜』作:小林ユウ/画:木之花さくや連載中断前の評価B−/雑感】

 このコーナーを新設するにあたって、やはりこの作品を真っ先に採り上げないわけにはいきませんね(笑)。「世界漫画愛読者大賞」グランプリと、当講座選定「ラズベリーコミック(年間最悪マンガ)賞」の二冠(苦笑)に輝いた『エンカウンター』、ついに半年の休載を経て再登場です。
 今回からクレジットに追加された原作者・小林ユウさんとは、元ゲーム雑誌編集者でライターの渡辺浩弐さんの別ペンネームとのこと。これは渡辺さんの著書『アンドロメディア』の登場人物から採ったそうで、その辺りの自己満足的な小細工は相変わらず……いやいや、止めときましょう(笑)。

 で、問題の内容ですが、原作者を入れ替えた甲斐があって、明らかにストーリーの体を成していなかった休載前よりはマシになっていますね。
 ただ、身分証1つで丸め込める警備員を気絶させた上に反撃を食らってピンチに陥るといったマッチポンプ的展開や、戦争相手国を呪いでやっつけるために何故か陸上選手に目をつけるという、「ショッカーが世界征服のために幼稚園送迎バスを襲撃」的なストーリーには苦笑を浮かべざるを得ませんでしたが。
 まぁ、問題外から“問題内”には潜り込めた感はありますので、今しばらくチェックを続けていきたいと思います。


 ……というわけで、今日の講義は全て終わりです。こんな感じで週2回ゼミをやっていこうと思いますので、どうか何卒。
 今週の後半分は金曜か土曜あたりにお届けする予定です。内容は「サンデー」のチェックポイントと「世界漫画愛読者大賞」の総括になると思います。それでは、また。


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