「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・1)

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講義一覧

4/25 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(4月第4週分)
4/18 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(4月第3週分)
4/11 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(4月第2週分)
4/3  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(4月第1週分)
3/27 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(3月第4週分)
3/20 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(3月第3週分)
3/13 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(3月第2週分)
3/6  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(3月第1週分)
2/27 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(2月第4週分)
2/20 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(2月第3週分)
2/13 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(2月第2週分)
2/6  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(2月第1週分)
1/30 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(1月第5週分)
1/23 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(1月第4週分)
1/16 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(1月第3週分)
1/9  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(1月第2週分)
1/3  
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(1月第1週分)
12/26 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(12月第5週分)
12/19 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(12月第4週分)
12/12 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(12月第3週分)
12/6  
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(12月第2週分)

 


4月25日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(4月第4週分)

 週に1度のゼミの時間です。
 いよいよゴールデンウィークという事で、今週から再来週くらいまでは、合併号などの、いわゆる“ゴールデンウィーク進行”となります。
 週刊マンガ誌は軒並み発売日が変動するのですが、とりあえずここでは主にレビューで扱っている2誌の発売日について。
 まず「週刊少年ジャンプ」は、来週月曜が祝日のため、次号は今週の土曜日発売で、これが合併号になります。
 次に「週刊少年サンデー」は、今号が合併号ですので、次号は再来週の水曜日ということになります。どうぞ、混乱する事の無いように気をつけて下さい。

 そう言えば、先々週辺りから終わる終わらないで混乱してしまってた『サクラテツ対話篇』ですが、案の定というか今週で打ち切り最終回となりました。藤崎竜さんは連載3作目にして2度目の打ち切り。残る1つが、あの『封神演義』でしたから、まだまだ週刊から追い出される事はないでしょうが、次回作で正念場になるような感じですね。

 では、今週分の作品レビューに移ります。今週のレビュー対象作は4作品(「ジャンプ」2作品、「サンデー」1作品、“その他”1作品)です。レビュー中の7段階評価の表はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年21号☆ 

 ◎読み切り『ヒカルの碁・番外キャラ読切シリーズ・倉田厚』作:ほったゆみ、画:小畑健

 不定期シリーズ連載の第5弾です。ちなみに次号で藤原佐為編が掲載されます。まだ和谷とか、葉瀬中編のキャラクターが結構残ってますので、まだしばらくこのシリーズは続きそうですね。(とか書いてると、佐為と和谷で終わり、とか発表されそうで怖いんですが)

 で、今回はプロ編、そして来るべき第2部のキーパーソンとなりそうな、巨漢強豪若手プロ棋士・倉田にスポットを当てた番外編です。

 しかし、今回はもはや囲碁マンガじゃなくて競馬マンガになってしまってますねぇ。囲碁の対局シーンが出てくるのは最後の方の数コマだけ。まぁそれでも、主人公のヒカルを絡めながら、ちゃんとプロ棋士・倉田のルーツを探るという筋立てになってますので、違和感はほとんど無いんですが。このあたりはいつもながら感心させられます。

 それにしても、このシリーズが始まるまで全く意識してなかったんですが、原作者のほったゆみさんって、かなりギャンブル系の話が相当好きみたいですね。少年マンガとしては、もはや異質と言っていいくらいです。ひょっとしたら、『ヒカ碁』が大団円を迎えた後は青年誌でギャンブルマンガでも始めるかもしれませんね。
 『ヒカ碁』の中のギャンブル描写としては、本編で詳しく描かれていた、碁会所で行われる“ニギリ”(賭け碁)が印象的だったんですが、今シリーズではさらにそれがエスカレートしている感があります。三谷編で麻雀(しかもイカサマの“ブッコヌキ”まで)、そして今回では競馬シーンがかなり詳しく描かれているのには、正直言って驚かされました。

 ただ、競馬学の講師として言わせて頂くと、ディティールにおいて若干のミスが見受けられますので、指摘させて頂きます。
 まず、教育実習が行われている5月〜6月に、秋のレースである「シリウスS」がメインの競馬新聞が出てくるのはおかしいです。それに、「シリウスS」は関西のレースですから、東京が舞台のこのマンガとは整合性がありません。(ただ、これはマンガ担当の小畑さんのミスかもしれません。ウインズの中の描写も、細かいところで結構ミスがありますので)
 それから、「ウインズ新宿で単勝に350万円買った奴がいる」というのは、ちょっと色々な点で無理があるかな、と。平場のレースで350万も単勝買ったらオッズがガクンと下がって、儲かるモノも儲からなくなっちゃいますし。まぁ少年誌である事を意識して、確信犯的に過剰演出に走ったのかもしれませんが。
 同じ意味で、ベテラン騎手がムチの持ち替えが出来ないほど苦手ってのも無理がありますね。それが勝負の決め手になるのも疑問符が付くところです。

 しかしそんな細かいミスをあげつらうよりも、作品全体の完成度を素直に評価するべきでしょうね。競馬のレース描写なんかも、「週刊少年マガジン」系の競馬マンガより余程リアルだったりしますし(笑)。
 評価はB+寄りのA−にしておきましょうか。

 

 ◎読み切り『HAT HAT HAT』作画:吉津遼

 『HUNTER×HUNTER』の代原です。今週は休載理由が、いつもの「作者都合のため」ではなくて「急病のため」とあるので、かなり切羽詰った事情がありそうです。

 それはさておき、この作品の作者・吉津遼さんは、第61回(2001年上半期)の「手塚賞」佳作と第58回(01年5月期)「天下一漫画賞」佳作の受賞者という、駆け出しの新人さん。「天下一──」の受賞作が増刊「赤マルジャンプ」に掲載されて以来の作品掲載という事になるのだと思います。

 それでは、この作品は詳細にレビューを。
 絵…というか、作風全体がそうなんですが、かなり年代モノの雰囲気を持っています。“昭和”というよりも“戦後”の香りがします。昭和30〜40年代のマンガの絵を今風にアレンジしたような感じでしょうか。多少クセがキツい気もしますが、立派な個性である事は間違いないので、今の内はこれで良いでしょう。絵のレヴェル自体は、新人としてはなかなかのものでしょう。

 次にストーリーなんですが、う〜ん…………。
 ページ数が少ない事もあるのですが、話の構成がいかにも無責任すぎです。5W1Hの説明もほとんど無いまま、何の脈絡も無い、ただワケの分からない荒稽無謄なアクションシーンが始まって、延々と続いて、最後にステレオタイプなオチがあって終わり。
 作者の「こういうモノが描きたいんだ!」という意欲は買えるのですが、その意欲が余りにも強すぎて、読者が置いてけぼりになっている感が否めません。「何がなんだか」と思ってる内にお話が終わってしまっては、感情移入のしようがないのです。

 評価はB−有り体に言えば、こういう作品を“独り善がり”と言うのでしょうね。悪くない素質を持っているだけに残念でした。今後はもう少し、読者に向けたサービス精神を持つように心がけてもらいたいものです。自分が「面白い」と思える作品を描く事も大事ですが、それが“自分だけ「面白い」”作品になってしまっては、雑誌に載せてお金を貰う意味は有りません

 

☆「週刊少年サンデー」2002年21、22合併号☆

 ◎新連載『一番湯のカナタ』作画:椎名高志

 『GS美神極楽大作戦!!』で大ヒットを飛ばし、その前後に発表された作品でも好評価を得ている椎名高志さんの連載復帰作になります。

 ストーリーの大筋は、「サンデー」本誌の表紙に載っていたキャッチコピーが的確なので、そのまま引用させて頂きます。
 “エイリアンご迷惑コメディー”
 このコピーに椎名さんの作風(ドタバタ、ちょっとお色気、派手なアクションetc……)をダブらせてもらえれば、作品そのものを読まなくても大体の雰囲気は分かって頂けると思います。逆に言えば、それだけで作品の大まかな形が想像出来るという事は、どれだけ椎名さんの作風が個性豊かで特徴的かという事を証明しているわけなんですが

 絵に関しては、当然ながら特に指摘する点も無いのですが、よくよく考えてみれば、椎名さんはこれだけたくさんの作品を描いている割には、キャラの描き分けがしっかり出来ているんですよね。マンガ家さんによっては、どの作品でも同じような顔が出てくる事があったりするのですが、椎名作品でキャラ顔のダブりというのは意外と少ないんじゃないでしょうか。

 そしてストーリーですが、これが完成度が高くて驚きます。いや、本当は驚いてはいけないんでしょうけど。
 まず、1ページに1つのペースで見せ場が有り、それもギャグありアクションありでバリエーションに富んでいて、しかもテンポも良いのです。伸び悩んでいる新人マンが家さんにとっては、この作品がバイブルになるんじゃないかと言う分かり易さが心憎いです。
 さらに、詳しい5W1Hの設定説明が必要なSFファンタジーでありながら、説明的なセリフが一切無く、全て自然なエピソードの流れの中でさりげなく情報が読者に提供されているのも、これまた見事としか言いようがありません。
 この第1回だけで、マンガ家・椎名高志の真骨頂を見たような気がします。今後、この作品がどのような展開を見せるか分かりませんが、たとえ1回限りだとしても、これくらい高い完成度の作品が描けるのであれば、椎名さんは一流マンガ家のポジションを維持していけることでしょう

 評価はとりあえずA−。今後、新キャラが登場して話が更に盛り上がっていくならば、当然評価が上がる余地は十分にあります。読むのが楽しみな作品がまた1つ増えました。

 

《その他、今週の注目作》

 ◎新連載『医龍-Team Medical Dradon-』(ビッグコミック・スぺリオール2002年10号掲載/作画:乃木坂太郎) 

 今回は「ビッグコミック・スペリオール」から注目作を紹介させていただきます。

 まず作者紹介。乃木坂太郎さんは、1999年に「少年サンデー」の月刊増刊でデビュー、その後、2000年11〜12月に「週刊少年サンデー」で『キリンジ』という作品を短期集中連載していますが、人気が出ずに長期連載には至らず。その後は主だった活動は伝わって来ませんでしたので、恐らく今作が1年5ヶ月ぶりの復帰、及び青年誌への移籍第1作になるのだと思われます。

 この作品は、一言で言えば医療モノ。それも「腐った大学病院医療に一石を投じる」というスタンスの作品です
 ここまでで「あれ?」と思われた受講生の方も多いと思います。そう、『ブラックジャックによろしく』と同じコンセプトなんです。
 こういう題材がカブった作品の場合、たいてい後発作品が二番煎じで“スカ”になってしまうのですが、この作品はなかなか侮れません
 といいますのも、この作品はシビアな問題を取り扱っている割に作品のムードが明るいのです。『ブラックジャックに──』の、時折顔を背けたくなるような暗さに比べると、まさに好対照。つまり、同じコンセプトながら作品の個性を維持できているわけです。
 また、主人公を敢えてスーパーヒーロー的な天才医師にしたところも正解でした。『ブラックジャックに──』のように、徹底的に業界の暗部にスポットライトを当てるのも正解ですが、リアリズムを維持した上で王道の勧善懲悪に持っていくのも1つの好手でしょう。
 『ブラックジャックに──』でささくれだった気分を、この『医龍──』で癒すという黄金パターンが出来そうで楽しみです。

 とりあえずの評価はA寄りのA−。是非、ご一読を。

 

 ……以上が今週分のレビューでした。それでは、また来週。

 


 

4月18日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(4月第3週分)

 えーと、現代社会学特論で大きなミスがあったのはお伝えした通りなんですが、こちらでもミスをやっちゃいましたね。
 「週刊少年ジャンプ」の『サクラテツ対話篇』、推測とお断りしながらも「最終回?」なんて書いてましたが、違いました。もっとも、“打ち切りウエーティングサークル”と言っていい掲載順位なんで、早かれ遅かれ……という気がしないではないですが。しかしこの状況で、どうやって話をまとめてゆくんでしょうか…?

 さて、今週は「少年ジャンプ」の月例賞・「天下一漫画賞」の審査結果発表から。

第67回ジャンプ天下一漫画賞(02年2月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
  
 審査員&編集部特別賞=2編
  ・『ステップエアー』(荒木飛呂彦賞)
   安里千春(18歳・沖縄)
  ・『FLASH BACK』(編集部特別賞)
   石川晋(18歳・東京)
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『冥』
   森田将文(22歳・愛知)
  ・『GU(GREAT UTOPIAN)』
   古形未賄(17歳・宮崎)
  ・『チャイルドポリス』
   古瀬結花(20歳・愛媛)
  ・『チョーキン』
   梅尾光加(19歳・東京)
  ・『オンユアマーク』
   細谷奈緒(22歳・東京)
  ・『軍事生物ナガレ様?』
   糸曽賢志(23歳・東京)

 最終候補の『冥』を描いた森田将文さんは、「天下一漫画賞」の募集ページで“公開稽古”をつけてもらっていた人ですね。01年12月期に引き続いての最終候補。評価が上がっていないのは残念ですが、2ヶ月で1本完成原稿を仕上げて来る(しかも担当編集のダメ出しを経て)というのは意欲的ですね。22歳という年齢は、マンガ家志望者にとっては若くない年齢ですが、頑張ってもらいたいものです。

 それでは、定例のレビューを。レビュー中の7段階評価の表はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年20号☆

 ◎読み切り『ラーマゲドン 拉麺最終戦争』(作画:脊川つい)

 今週の「ジャンプ」からは1作品。『HUNTER×HUNTER』の代原作品です。

 どうやらこの作品、02年1月期「天下一漫画賞」の最終候補(選外佳作)作品・『グルマゲドン 美食最終戦争』を改題したか、若しくは加筆修正したかという作品だと思われます。というわけで、作者の脊川ついさんは新人さん。年齢は24歳とのことです。

 というわけでレビューなのですが、この作品も作者の脊川さんも、まだ“仮免”教習中の段階ですので、ちょっとトーンを抑え気味にいきたいと思います。

 まず絵なのですが、上手・下手以前にサインペンかロットリングのような物で描いている事が気になりますね。
 それが悪いとは言いませんが、線に強弱が出ない分、どうしても見た目の印象は不利になりますよね。ミもフタもない言い方をすれば「未熟なのがバレてしまう」というか……。特に紙質の悪い雑誌ではモロです。
 ペンを使わない作家さんに桜玉吉さんがいますが、玉吉さんは高校から美術学校で勉強してきた人ですから別格です。余程の才能があって絵を描き慣れていないと、ちょっと難しいですよね。

 続いて内容ですが、一応これはナンセンスギャグというカテゴリに入れれば良いんでしょうね。まだ“バカになりきれていない”という感がありますし、話の辻褄が合わない部分が1〜2あったりもしますが、散発的にギャグの才能の片鱗らしきモノも見られますので、これは今後の修行次第というところなのでしょう。
 次の登場は赤塚賞で入賞した時くらいでしょうか。とりあえず次回作をチェックしてみたいですね。

 評価はB−。新人の習作原稿とすれば、まぁこんなものなのでしょう。

☆「週刊少年サンデー」2002年20号☆

 ◎新連載『史上最強の弟子ケンイチ』作画:松江名俊

 駒木自身は、この講義が始まる前の話ですので記憶が薄いんですが、「月刊少年サンデー超スーパー」の人気作で、本誌でも1度掲載された読み切りが好評だった『戦え! 梁山泊 史上最強の弟子』という作品のリメイク作という事になります。
 作者の松江名さんは、これが実質的に本誌初登場ということになります。叩き上げの3A選手がメジャーへの切符を掴んだ、みたいなものでしょうか

 それでは例によって絵とストーリーの評価を。
 まず絵なんですが、上手いようで所々粗いかな、といった感じでしょうか。園田健一さんにウヒョ助さん(「スピリッツ」で『駐禁ウォーズ』連載中)をミックスして2で割ったような、そんな絵柄です。
 しかし絵柄云々は別にして、少年誌の巻頭4色カラーで女の子の乳首が浮き出たコスチュームはマズくないんですかねぇ(^^;;)。

 次にストーリーなんですが、今回は主要キャラ2人の紹介をしただけで、ストーリー的には全く進展がありませんので、今回の評価は保留という事に。それでも、なかなか無駄のないストーリーテリングを見せてくれましたので、あと2週間ジックリと読ませてもらいましょう。

 評価は保留としたいんですが、一応Bとしておきましょう。

 ◎読み切り『爆裂アナ 黒木一鉄』作画:藤井敦

 今週のサンデーにはギャグ読み切りが一本掲載されました。作者の藤井敦さんは、昨年秋に月刊の方でデビューを果たした新人さんです。

 絵に関しては上手いわけではないですが、見づらいわけではないので、まぁ許容範囲といったところでしょう。
 そして肝心のギャグなんですが、一言で感想を言うと、
 「ジャンプの『ミスター・フルスイング』で合間合間に挟まっているちょっと寒めのギャグだけの作品」
 ……といったところ
でしょうか。爆発力の無い分だけ、外した部分のマイナス面だけが目立ってしまった感があります。
 テンポそのものは、他のサンデーの作家さんの作品と同じような「小ギャグ→ツッコミ」の繰り返し。そういう意味では「サンデー」向けの作品ではあるんですが、テンションの割にはギャグの破壊力が薄いのが、やや残念です。このパターンでギャグの破壊力が低いと、ゴマカシが利かないんですよね。
 総合するとこの作品、面白くも無ければつまらなくも無い、といったところでしょうか。

 評価はB−寄りのB。この作品も、次回作を読んでみたい、という感じでしょうか。

 ◎読み切り(?)『育ってダーリン!!(完結編)』作画:久米田康治

 かつて、作者の久米田さんが新境地を開拓しようとしたものの、見事に行き詰まった挙句に“大人の事情”で打ち切りを余儀なくされたラブコメ作品の完結編にあたる前後編の読み切りです。

 まぁ、何と言うか、一言で表現すると「無難にまとめたな」という感じでしょうか。作品に対する情熱を完全に失った中で、プロの作家さんが描くべきレヴェルを維持しているのはさすがというところです。
 もっとも、完結編の割には打ち切りになった続きを描いたわけではないですし、本当にこの作品を描く必要が、そして「サンデー」本誌に掲載する意義があったのかは疑問ですね。単行本発売の宣伝に使うなら、もうちょっとやり方があったでしょうに……。

 おっと、作品レビューというより、編集方針レビューという感じになってしまいましたね。久米田さんの気持ちも汲んで、評価は永久に保留ということにさせて頂きます。


 ……というわけで、ちょっと駆け足でしたが今週の演習でした。それでは、また来週。

 


 

4月11日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(4月第2週分)

 今週から心機一転、木曜にゼミを実施する事となりました。これからは木曜発売の雑誌に掲載された作品も、原則的に当日の内にゼミの題材として採用できるようになりました。
 また、これまでの「週刊少年ジャンプ」「週刊少年サンデー」のレビューも、一日ズレた事でより密度の濃いものに出来ると思います。これからも何卒よろしく。

 では、早速講義へ移ります。まず今週は、「少年サンデーまんがカレッジ」の審査結果発表が出ていますので、まずはそちらの紹介から。

少年サンデーまんがカレッジ
(02年2月期)

 入選=該当作なし
 佳作=該当作なし

 努力賞=1編
  ・『X-STYLE!』
   三谷菜奈(20歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=2編
  ・『剣士は姫を救う。』
   田中裕介(22歳・新潟)
  ・[ 山姫 ] 
   新野裕呼(21歳・岡山)

 ……翌月にグレードの高い「新人コミック大賞」を控えていた上、1ヵ月分の応募分しか審査の対象になっていなかったため、ちょっと寂しい結果発表になってしまいましたね。

 そう言えば、審査結果発表の隣のページに「橋口たかし先生も持ち込みからスタートしたんだ」と、まぁよくある“持ち込み歓迎”の告知が載ってましたね。同様のお知らせは他の雑誌でもよく見かけます。

 でもよく考えたら、メジャー誌の場合は持ち込みで素晴らしい作品を投稿しても、必ず新人賞に回されて、そこで審査を仰ぐ事になるんですよね。だから、持ち込みがデビューへの近道になるというと、別にそんなわけではないんです。
 確かに持ち込みの場合は、プロの編集さんからアドバイスがもらえるという長所もあるんですが、その一方で、その時手の空いてた人が原稿を見る事になるんで、自分と合わない編集さんが勝手に担当になってしまうという可能性も高いんですよね。それに、いかに“プロの編集さん”と言っても、「マガジン」とかの場合だと、入社間もない新人さんが持ち込みの担当なので、結局は近所の兄ちゃんに読んでもらってるのと大差なかったりします。それで「プロのアドバイス」と言われてもねぇって感じですよね。
 で、直接新人賞に応募した場合は、その作品を見て才能を感じ取ってくれた編集さんが担当になるケースが多いので、長期的に見た場合はこっちの方が得になるんじゃないかとも思えるんですよ。

 ですので、マンガ家を目指して修行している人は、敢えて上京してまで持ち込むよりも、近くの知人の講評を仰ぎながら新人賞に応募し続けた方が良いんじゃないかなあと、そう思います。
 ……んな事言って、「責任取れよ」と言われても取れないんですけどね。でも、画一的な見方をするのもどうか、という事なんですよ、ええ。

 と、余談が過ぎました。今日も講義の時間には限りが有るんですよ。サクサク行かないと。
 あ、2つほど連載終了のお知らせ。次回で「週刊少年サンデー」の『ARMS』が最終回となります。何だか典型的な大団円になりそうなムードですが、期待して待ちましょう。
 あと、こちらは推測でしかないんですが、「週刊少年ジャンプ」の『サクラテツ対話篇』も次週で最終回になりそうです。こちらは残念ながら、人気低迷の末の打ち切り。まぁ、アクの強いギャグマンガの多い今の「ジャンプ」に、ライトなドタバタコメディは合わなかったという事なんでしょうかねぇ。

 ……さて、それでは今週の読み切りレビューです。今週は対象作品が少なくて、楽できる残念だなと思ってたんですが、「ジャンプ」で代原読み切りが2本あって、結局はレビュー対象作が4本も出てしまいました。ちょっと気が遠くなりそうなんですが、サクサクとやって行きたいと思います。

 レビュー中の7段階評価の表はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年19号☆

 ◎読み切り『メルとも! E─之介』作:真倉翔/画:加藤春日

 唐突に、43ページという中編読み切りの登場です。
 原作者の真倉翔さんは、多くの方がご存知でしょう、ヒット作『地獄先生ぬ〜べ〜』で原作を担当していた元・マンガ家の原作作家さんです。
 真倉さんと言えば、『ぬ〜べ〜』でもお馴染みの、岡野剛さんとのコンビが有名なんですが、前作『釣りッキーズピン太郎』が不発・打ち切りに終わってからコンビを解消。そして今は、今回のパートナー・加藤春日さんとコンビを組んでいます。何だか再起に賭ける漫才師みたいな感じですかね。

 一方の、その加藤春日さんは、「ストーリーキング」出身で、これが本誌初登場となる新人作家さん。増刊号「赤マルジャンプ」で、真倉さん原作の『天然天国らんげるはうす島』が掲載されています。これから連載目指して頑張って行こうという時期になるんでしょうか。

 では、例によって絵からレビューを始めましょう。
 加藤さんの絵は、ちょっと癖がありながらも、かなり垢抜けた感じのタッチです。とにかく印象的なので、すぐに絵柄を覚えてもらえるという強みはありそうです。
 ただ、どうも動きを表現するのが余り上手ではない印象も拭えません。アクションシーンでも、なんだか“セル画が少なくて紙芝居状態のアニメ”を見せられているような気がします。アシスタントが居ないので仕方が無いのですが、背景も随分と手抜き気味。まだこれからの作家さんですから苦言を呈するのは程々にしますが、もっと精進して、もっと洗練された絵が描けるようになる事を願っています。

 次に真倉さん担当のストーリー部分です。
 今回の話は『ピン太郎』と同じパターンでした。主人公の男の子のもとに、外界からの仲間がやって来るところから始まって、ヒロインとの関係を絡めつつ、悪役をあの手この手でやっつけていくという話ですね。
 このパターンは、もう真倉さんが手の内に入れている状態なので、ストーリー全体の印象としては、ソツ無くまとまっているな、という感じです。及第点はあるんじゃないでしょうか。 
 ただ、余りにもソツが無さ過ぎて目新しさに欠けてしまったという点と、長期連載を経験した作家さんにありがちな“長期連載ボケ”(=作風が成功していた時期のモノで固定されてしまう)の傾向がある辺りが少々残念でした。
 今回の読み切りは、恐らく連載へのトライアルなんでしょうが、今のままで連載に持ち込んでも、長期連載になるかどうかは微妙のような気がしますね。ナニゲに平均レヴェルが高いんですよ、今の「ジャンプ」は……。

 評価は。つまらないわけでは無いんですが、オススメというわけでも……

 

 ◎読み切り『ボウギャクビジン』作画:郷田こうや

 2月第4週分でも、代原読み切り『偉大なる教師』が掲載されていた郷田こうやさんですが、またも『HUNTER×HUNTER』の代原作家として登場です。

 今回の作品で失礼ながら意外だったのは、割と女性キャラも上手に描けるんだな、という事でした。まぁ細かい事を言えばキリが無いんですが、ギャグ作家さんで今回のレヴェルの絵が描ければ、まず問題は無いでしょう。

 次に肝心のギャグの方ですが、これも段々と自分の作風を意識しながらも、新しい事をやっていこうという意気込みが窺えて、まずは好感です。
 しかし、余りにも同じパターンのギャグ(美人のお姉さんが、容姿とギャップの有りすぎる残酷な言動と行動をする)が続きすぎた上、オチも読めてしまう内容だったため、少々物足りなさが残ってしまいました
 習作原稿として考えるとマズマズの出来なんですが、それでも他の連載ギャグ作家さんのクオリティと比べると、ちょっと可哀相かなという感じがしますね。

 評価はB寄りのB−。進歩は見えて来てますので、後は自分なりの“必勝パターン”を見つける事でしょう。今は実力を蓄えて、1〜2年先の連載ゲットを目標に、とにかく作品を描き続けてもらいたいものです。

 

 ◎読み切り『しゅるるるシュールマン』作画:クボヒデキ

 『ピューと吹く! ジャガー』が休載のため、なんと中1週という詰まったローテーションでクボヒデキさんが再登場となりました。(クボさんのプロフィールに関しては3月4週分のゼミを参照してください)

 しかし、2週間前にも指摘しましたが、どこがシュールなんでしょうか、この作品は……
 シュールじゃありません。普通のギャグです。しかも3月中旬の“寒の戻り”くらいの微妙な寒さが漂う、普通のギャグです
 それに、たった7ページしか無いんですから、もっとギャグの密度を上げないとダメです。コマ割りも荒っぽい上、ネーム(セリフ全体)の量も少な過ぎ。これではちょっと……。

 評価は当然ながら。もういい加減、出来もしないシュールから足を洗って、別の分野を開拓した方がよろしいかと思いますが? 

☆「週刊少年サンデー」2002年19号☆ 

 ◎読み切り『キャットルーキーぶっとび番外編 しっぽの怪』作画:丹羽啓介

 サンデーの連続読み切りシリーズ最終週は、月刊誌の方で長期連載されている『キャットルーキー』の番外編が登場となりました。
 本編はプロ野球マンガなんですが、この番外編は、見事に時流に乗ったというか、オカルト・陰陽道系のアクション・ストーリーになっています。さすがに押さえる所は押さえているという感じですね。

 さて、レビューの本題へ。
 この作品は番外編ですから、本来は「連載中のキャラクターが、いつもと違う側面を見せてくれる」だけで及第なんですが、それを言い出すと、この講義の存在意義が無くなっちゃいますので、敢えて論評を加えたいと思います。

 まず絵なんですが、まぁこれはいいでしょう。長期連載されてる作家さんの絵について云々というのはさすがに……というところです。ただ、どうもオカルト物には合わない画風かな、とだけは言わせてもらいますね。

 そしてストーリーの方なんですが、主要キャラの過去の姿を野球と絡めて描く事で、まず番外編としての機能をフルに果たしている。これは良いと思います。
 また、ちゃんと伏線を張りつつ、それを消化させて無駄なく話を進めている辺りもさすが、といったところでしょうか。
 ですが、苦言を呈したい点も。「伏線→消化・解決」というパターンでカバーできなかった設定を、無理矢理に事後承諾的、もっと言えばご都合主義的に解決させてしまったのは、ちょっとどうかと思います。説明的なセリフも若干多かったような気がしますし……。

 しかしまぁ、番外編としてはこの位のデキで上等なのかもしれません。本編を読んだ事の無い人が多い「週刊少年サンデー」でわざわざ掲載する事自体に疑問を抱いてはしまいますが……。
 評価は。ファンの人なら1段階プラスといったところでしょうか。

 

 あ、今週から前・後編で掲載される『育ってダーリン!!』作画:久米田康治)は、来週に2話まとめてレビューします。
 と、時間が来ました。そんなところで、今日の講義を終わります。

 


 

4月3日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(4月第1週分)

 ここ1〜2ヶ月の新連載・読み切りラッシュも一段落ついて、今日のレビュー対象作品は2作品だけ、という事になります。
 その代わり、と言ってはなんですが、今週で「週刊コミックバンチ」が10週連続で行って来た、「世界漫画愛読者大賞」最終審査作品掲載が終了しましたので、その簡単な総括を行いたいと思います。

 それでは、まず「ジャンプ」「サンデー」の新規作品レビューなんですが、今週は「週刊少年ジャンプ」に新連載・読み切り作品が掲載されませんでしたので、こちらはお休み。「週刊少年サンデー」のレビューからスタートという事になります。
 レビュー中の7段階評価の表はこちらをどうぞ。今週から若干加筆させてもらっています。

☆「週刊少年サンデー」2002年18号☆

 ◎読み切り『ブカツ』作画:夏目義徳

 この作品は、「週刊少年サンデー」11号まで『トガリ』を連載していた夏目義徳さんの復帰第一作ということになります。中2ヶ月という、かなり短い間隔での復帰ですね。
 いやしかし、こういう場合って、「この読み切りを依頼する話って、『トガリ』の連載終了(打ち切り)の話題を切り出す時、ダシに使われたんだろうなぁ」などと思えて仕方なくなりますね(苦笑)。いや、もちろん邪推なんですが。

 ではレビューなんですが、まぁ元・連載作家さんに向かって絵を云々というのは余計なお世話でしょうね。年単位で週刊連載していた人にしては絵柄の線がスッキリしてないかな、とは思いますが、もうこれは作風という事なのでしょう。

 じゃあストーリーの方はというと、大した有力校でもないごく普通の高校バスケ部の、ちょっと日常からはみ出たエピソード、というところでしょうか。この基本的な設定に関しては、作者の夏目さんが強く希望したものらしく、欄外の「夏目義徳先生より」というメッセージ欄に以下のコメントが掲載されていました。

 全国や日本一を目指すチームじゃない、それ以外のチームの練習は無意味なのでしょうか。んなこたないと信じてます。昨日の自分よりうまくなっていたい。「好き」で「楽しく」「全力」、そんなブカツの姿を過去を思い出しつつ描いてみました。これからも常に今日より成長した明日を目指していたいと思います。

 このコメントの通り、“(校舎の)外周走り”という練習内容とか、“ロイター板使って擬似ダンクシュート”とか、練習の最後の集団コートランニングとか、妙に細かいミニバスケ用リングの描写とか、バスケ部経験者じゃなかったら描けないシーンが複数あって、作者・夏目さんの意欲を感じさせる作品ですね。
 ストーリーも、まぁ及第でしょう。突然後半残り10分から本気を出し始める必然性の無さや、やる気の無い顧問が主人公たちの味方になる動機付けがやや弱い気がしますが、致命傷というところまでは行っていません。
 ただ、平凡な人たちの日常生活モノというのは、話の広がりに限界があって、どうしても名作・佳作にはなり辛いんですよね。清水義範さんの小説・『柏木誠治の生活』くらい“究極の平凡”に挑戦しているなら、また話は別なのですが、それをマンガで表現するのはかなり難しそうですし……。

 評価は。決して悪い作品じゃありません。作者の夏目さんも、十分これからもメジャー誌でやっていける力量は持っていると言って良いと思います。ですが、やっぱりもう少し起伏に富んだ作品が読みたいですね。

 

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(週刊コミックバンチ18号掲載・世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品『熱血!! 男盛り』作画:南寛樹

 さて。ついに、と言いますか、とうとう、と言いますか、この「世界漫画愛読者大賞」の最終審査エントリー作品紹介も最後の10作品目となりました。
 作者の南寛樹さんは、以前、南ひろたつのペンネームで、「週刊少年サンデー」でギャグマンガを連載し、単行本も出している、今シリーズ登場の作家さんの中で最もメジャーな人、ということになります。その割にはメジャーっっぽい印象が全く漂わないのがアレですが。

 というわけで、この作品はギャグマンガです。しかも4コママンガ。まぁ、この題名で純情ストーリーモノなんて描かれた日には裸足で逃げ出しますが。
 今回の作品の内容は南さんお得意の、「むさ苦しい男キャラによるむさ苦しいギャグ」というヤツで、「サンデー」読者なら『漢魂(メンソウル)!』などでお馴染みの内容でしょう。
 そしてギャグの爆発力も往時のままで、ところどころ小爆発(個人的には拳骨野球ネタが好みでした)があるものの、爆笑には至らずといったところ。1つの雑誌の中でのアクセントにはなるものの、看板作品になるには程遠いレヴェルといったところでしょうか。

 というわけで、評価は雑誌アンケートでは「面白い作品」にも「つまらない作品」にも挙がらない、それなりの作品というところでしょうか。こういう賞レースでは、なかなか評価されにくい作品なのではないかと思います。というか、この作品に5000万やるなら、先に『モテモテ王国』ながいけんさんに5000万円あげて下さい。

 ……以上で、今回の「世界漫画愛読者大賞」の最終審査エントリー作品全10作へのレビューが終了しました。ここで、もう一度エントリー作全てを駒木のつけた評価も含めて振り返り、簡単な総括をしてみたいと思います。

 まず、作品と評価の一覧表から……

作品名 作者 評価
『満腹ボクサー徳川。』 日高建男 B
『飛将の駒』 大牙 B−
『アラビアンナイト』 長谷川哲也 B+
『がきんちょ強』 松家幸治 B+
『灰色の街』 江口孝之 B
『142cmのハングオン』 大西しゅう B
『エンカウンター -遭遇-』 木ノ花さくや B
『黒鳥姫』 葉山陽太 B
『逃げるな!!! 駿平』 野田正規 B−
『熱血!! 男盛り』 南寛樹 B

 全作品Bランク。つまり秀作・名作になりそうな作品は1本も無かった、という事になります。賞金5000万&連載1年を争う賞にしては不作であった、と言わざるを得ないでしょう。
 辛うじて“佳作”となりそうなB+評価作品が2編ありましたが、『アラビアンナイト』は作風が『蒼天の拳』と酷似しているために「バンチ」誌連載には問題点があり、『がきんちょ強』にも、「バンチ」と作風が合わない上、『じゃりん子チエ』の露骨なオマージュのためオリジナリティが無いという、これまた大きな問題点が潜んでいます。どちらも1年以上の連載となると、かなり厳しいのではないかと思います。

 個人的には、グランプリどころか、準グランプリ(賞金1500万円)に値する作品も無かったと思います。今回発表された10作品より数段面白いものが他誌で新連載されていますし……。
 そもそも、たかが1つの新連載作品を選ぶのに、どうしてここまで多額の賞金を懸けなきゃならないのかが不可解です。どうやら今年も第2回が開催されるようですが、第3回以降に関しては開催そのものから熟慮して頂きたいと思います。

 

 ……ちょっと辛らつな意見を述べたりしましたが、要は「もっと面白い作品を読ませてくれ!」っちゅう事です。読んでてワクワクするような、もしくは腹抱えて笑えるような作品をもっと読ませてもらいたいですね。
 では、今週はこの辺で。

 


 

3月27日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(3月第4週分)

 さて、今週は何かと時間が詰まっているので、手短にいきますね。レビュー中の7段階評価の表はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年17号☆

 ◎読み切り『ヒカルの碁・番外キャラ読切シリーズ・三谷祐輝』作:ほったゆみ、画:小畑健

 シリーズ4作目なんですが、ここまで読み進めて来て、何となくこのシリーズが「ほったさんが本当に描きたかったキャラの作品」と「編集部サイドから依頼を受けて描く事になった作品」に分かれているような気がしました。
 で、駒木が考えるに、前者の代表格が先週の奈瀬編で、後者のそれが今週の三谷編かな、と。
 ほったさんには珍しく、今週の作品は凡作に近いです。「これを描きたい!」という意気込みが先週に比べると非常に弱い気がするんですよね。本編直前のエピソードを描くという方式は塔矢アキラ編と同じだし、番外編のキモである、本編で見られなかったキャラクターの側面を描くという部分も不完全のような気がします。
 見せ場といえば、“修さん”が雀荘で雀ゴロのイカサマを暴くシーンくらいでしょうか。「近代麻雀」系ではお馴染みのシーンですが、これが小畑さんのリアルな絵で表現されると新鮮さがありますよね。ほったさんは麻雀にも造詣が深そうで、いずれ麻雀モノの作品も読んでみたい気がします。

 というわけで、今週分はB+寄りのという事で。

 

 ◎読み切り『しゅるるるシュールマン』作画:クボヒデキ

 今週は『HUNTER×HUNTER』が休載と言うことで、ギャグ読みきりが掲載されています。
 作者のクボヒデキさんは、以前から代原作家として本誌にも頻繁に登場、増刊号でも活躍されている若手作家さんとの事ですが、この講義が始まってからは初めての登場となります。

 今回の作品は、題名の通りシュールなショートギャグの連作形式で15ページというもの。まぁ、新人・若手の作品にはよくある形ですよね。
 ネットでこれまでの掲載作品の評判をピックアップしますと、そんなにネット評論家筋の点は低くないようですが、今回の作品、少なくとも駒木は落第点を付けざるを得ないと思います。

 そもそも“ギャグ”とは、人が持つ常識との奇妙な違和感を提示し、それを笑いという感情に転換させる作為的行動です。
 そして“シュールなギャグ”とは、その違和感の提示を極端なレベル持っていき、話の筋的には意味不明ながらも違和感だけで強引に笑わせてしまうようなものを言います。ちなみに、お笑い界などで、シュールなギャグが“お客を選ぶ”と言われるのは、極端な違和感から笑いに至る人がいる一方で、違和感以前に話の意味不明さに困惑してしまう人が多いからだと思われます。
 では今回の「しゅるるるシュールマン」がどうかと言うと、シュールと言ってる割には違和感の提示が弱く、なおかつ、話の筋の意味不明さはシュールそのものだったりするのです。まぁ、明快に言うと「シュールギャグとして失格」なのですよ。
 クボさんの実力最高値がどこまでのラインにあるか分かりませんが、このラインで満足しているようでは、連載など夢のまた夢です。もっともっと他の作家さんの作品を研究して、将来につなげて欲しいと思います。

 評価はB−一応、ギャグ作りの手順は踏まえてますので、問題外というわけではありません。動きの基本はマスターしたプロボクサー予備軍みたいなものですので、あとはもうパンチ力だけ。今が正念場と思って頑張って欲しいですね。

☆「週刊少年サンデー」2002年17号☆

 ◎読み切り『葵DESTRUCTION!』作画:井上和郎

 「週刊少年サンデー」のストーリー読み切りシリーズ第3段は、昨年から増刊号で読み切りを掲載している新人作家さん・井上和郎さんの作品です。井上さんは、『からくりサーカス』『うしおととら』藤田和日郎さんの元・チーフアシスタントさんだったとのこと。

 まず、絵はかなり好感度が高い今風の絵ではないでしょうか? 個人的には上手だなあと感じました。ひょっとしたら師匠の藤田さんより上手かもしれませんね(苦笑)。あ、キャラの描き分けがよく出来ているのは師匠譲りかもしれませんね。

 さて、ストーリーの方ですが、これは一言で表現するなら“技あり”の作品ですね。1つのアイデアを転がしまくって、良質コメディに仕上げきっているという形で、なかなかの力量の高さが窺えました
 この作品と作者の井上さんの最大のセールスポイントは、奇抜な設定を作ったら、それをとことんまで極端にしてしまったところにあります。38歳の父親の外見がどうみても小〜中学生の女の子に見えてしまう、という設定そのものは、他の誰かでも考えられそうですが、一度決めたその設定を全編に渡って活かしまくる。これが凄い。この辺が所謂“センス”というヤツだと思います。
 設定や話の広がり方を考えると、連載にしても面白い作品だろうと。あとはアンケート次第だと思いますが、良い結果を待ちたいですね。評価はA−

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(週刊コミックバンチ17号掲載・世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品『逃げるな !! 駿平』作画:野田正規

 いよいよこのシリーズも“トリ前”となりました。果たしてあと2週で、2002年を代表するような名作は出てくるのでしょうか?

 さて、エントリー9人目の作家さんは野田正規さんで、現職はマンガ家アシスタントとのこと。かつては『六三四の剣』などでお馴染みの村上もとかさんのアシスタントを長年務め、数年前には少年マガジン月例賞の佳作を受賞した経験もあるそうです。
 ……って、ここに来てまた“敗者復活組”なのですね。それが悪いわけじゃありませんが、やはり新鮮味には欠けますからねぇ。

 そして実際、この作品は、歯に衣着せず言うと新鮮味ゼロの作品でありました。なんだかもう、恐ろしく絵柄・作風が古いです。「コミックバンチ」というより「少年キング」といった風情。もしくは、昭和の時代の「週刊少年サンデー」でしょうか。
 これで話がよく出来ていれば、まだ“昔懐かし系”作品として評価できるのですが、それに関しても大概な作品であったと言わざるを得ないのが辛いところです。

 まず、絵。古臭いだけじゃなくて、プロとしてはかなり低調なレヴェルです。特に、かれこれ10年以上描いているはずの格闘シーンがリアリティに欠けている始末では……三十路を過ぎるまで一体何をやって暮らして来たか、ちょっと問い詰めたくなってしまいます。
 ストーリーも低調。序盤部分の主人公の子ども時代については、輪にかけて古臭い話、さらにデッサン狂いまくりの絵がありながらもまだマシでした。中盤以降、まさかキックボクシングマンガにかこつけた、中途半端なタイ観光案内を見せられるとは……。
 
作者がなけなしの金を叩いて行った格安タイ観光旅行を、“取材”と称して唯一の資料としている様が思い浮かびます。
 最大の見せ場である、主人公が格闘で敵を倒すシーンでの必殺技が金的蹴りというのもどうかと。それを別のキャラに「キックボクシングの才能がある」云々と言わせても説得力ゼロであります。だって反則中の反則ですよ、金的蹴り頭突き・肘撃ちが必殺技のボクシングマンガみたいなものです。

 さらにさらに。作中やインタビュー記事中で見られる格闘技への知識の薄さも致命的です。
 まず、少林寺拳法を「試合の無い格闘技」とした点。確かに、少林寺拳法には試合を行わない流派も多く存在しますが、ちゃんと大会をやっている流派も存在します。
 そして、「キックボクシングを国際式(普通の)ボクシングよりもファイトマネーで恵まれない」云々とインタビューで語っているのですが、これもやや浅薄な知識です。国際式のファイトマネーで、明らかにキックボクシングのそれより恵まれているのは重量級の世界タイトルマッチぐらいなものです。それにしてもキックの世界よりも国際式のほうが選手層が格段に厚いので、むしろキックボクサーの方がある程度稼ぎやすい世界です。
 普通、自分が好きな世界の話なら、もっと熱心に勉強して然るべきなのですが、結局は趣味の段階を超えていない。いい加減この上ない。一体、長年のアシスタント生活で何を学んできたのでしょうか? 

 このいい加減さはキャラ造形にも表われています。
 中盤以降の主要サブキャラとしてという名の自称・格闘家の大男が登場します。ビッグマウスなだけのデクの棒という典型的なヤラレキャラなのですが、これが『あしたのジョー』のマンモス西にそっくりなのです。
 “西”に似たキャラの名前が“東”。この安易さはどうでしょうか? 元ネタを知っている人間にとっては失笑モノの程度の低いパロディですし、知らない人間にはワケ分からない詰まらないキャラになってしまってます。

 よくこんな作品が最終選考まで残ったなと目を疑ってしまいますね。『痛快! マイホーム』の元・担当さんが推したんじゃなかろうか、などと邪推してしまいます。

 評価はC寄りのB−(前日から変更してます)。ここに来てこのシリーズで最低評価の作品が来るとは……(汗)。あと1週、果たしてどうなんでしょうか。ううむ、想像したくなくなって来ました。

 ……というわけで、ちょっとショートバージョンでお送りした今週のゼミでした。しばらく小休止状態になるかと思いますが、その分、来週以降は中身の濃いレビューに出来たらと思います。それでは、今週はこれまで。

 


 

3月20日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評(3月第3週分)

 さて、今週の演習です。ようやくジャンプの新連載ラッシュも終わりまして、忙しさも一段落というところでしょうか。

 ところで、2月第2週分の演習で採り上げた『ブラックジャックによろしく』(評価:)ですが、ジワジワと、それでも確実にブレイクしつつあるようです。この講義で絶賛した作品が幅広く評価されているのを見ると、我が事のように嬉しいですね。作者の佐藤秀峰さん、これからも頑張ってください

 では今日はまず、「週刊少年サンデー」の新人賞、「少年サンデーまんがカレッジ」の審査結果発表から。

少年サンデーまんがカレッジ
(01年12月・02年1月期)

 入選=該当作なし
 佳作=2編

  ・『G・S・W(ガンショットウーンド)』
   小栗聖示(23歳・京都)
  ・『花咲かパワー!!』
   葵琳果(20歳・埼玉)
 努力賞=4編
  ・『扉の向こう』
   西森生(22歳・愛知)
  ・『ONE』
   関俊昭(21歳・新潟)
  ・『GROWN UP』
   王子野尚(19歳・福岡)
  ・『LOVE★バトルらいたあ!!』
   柳沢直普(22歳・長野)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『アブラカタブラ』
   斎貴神楽(14歳・愛知)

 注目、というか目が行くのは14歳の受賞者さんでしょうかね。実力とかそういう事は別にして、完成原稿を仕上げて、それをプロの新人賞に応募してしまうところが凄いですよね。
 正直言って、14歳に少年マンガ業界のデビューに至るまでのドロドロさ加減が耐えられると思えないんですが、それでもまぁ、才能の芽が潰されないように祈っております。

 ……それでは、レビューの方へ。7段階評価の表はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年16号☆

 ◎読み切り『ヒカルの碁・番外キャラ読切シリーズ・奈瀬明日美』作:ほったゆみ、画:小畑健

 さて、番外読み切りシリーズ、(個人的な)真打ち登場であります。
 まぁ、個人的な感想は18日の「現代社会学」講義で出し切った感がありますので、ここではストーリーテリングの専門的な話を。

 ハッキリ言って、この番外シリーズの中で一番話を作り辛いキャラだと思うんですよね、この奈瀬明日美というキャラは。
 何せ、初登場の時には名前すら無かったエキストラですからね、奈瀬さん。ファン投票の高得票という、いかにも少年マンガ誌らしい理由でレギュラーに昇格したわけです。ああ、そう言えば『かってに改蔵』の“山田さん”も同じパターンですね。
 な、もんで、奈瀬さんには普通あるはずのキャラクターに与えられた“記号”が無いんですよね。話の中で与えられた役割がゼロなんです、本来。
 そんなポジションのキャラクターを使って、しかも主役で番外編を一本作るというのですから、これは大変な作業なんですよ。番外編やセルフパロディっていうのは、そのキャラの突出した部分をデフォルメして話を転がしていくのが基本ですからね。

 ところが。
 恐ろしい事に、これがこのシリーズ中一番の傑作に仕上がってるから恐ろしいです。
 本編の中で僅かに出来上がった奈瀬さんの性格(活発で勝ち気)と、彼女の生活背景(囲碁中心で他の高校生と接点が少ない)という少ない材料だけで、キッチリとヤマ場のあるストーリーを完成させているこの凄さ。その上、奈瀬さんだけじゃなくて、もう1人の目立たない脇役・飯島君をナニゲにクローズアップしてる辺りも含めて、もう、ただただ脱帽です。

 何て言うか、ほったさんみたいな才能を持った人がマンガ界にいてくれて良かったなあって、そうしみじみと思えるような作品でした。
 評価ですが、文句ナシの。実は、経済的な事情で単行本買えてないんですが、この奈瀬編だけのために、単行本買おうと思います(笑)。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年16号☆

 ◎読み切り『入来兄弟物語〜俺たちは燃え尽きない!〜』作画:荻晴彦

 作者の荻晴彦さんは、おそらく商業誌掲載歴ほとんど無しの新人作家さん。名前でネット検索すると、静岡大学漫画研究会製作の同人誌に同姓同名の作者名が載っていましたので、ひょっとしたら同一人物かもしれません。

 それにしても、このスポーツ・ノンフィクション物読み切りは、いい加減止めにしませんか? どうやったって名作になり得ない上、単行本化も難しいジャンルをダラダラと続けるのは得策じゃないと思いますが。
 マンガっていう媒体は、大抵のジャンルにおいて小説よりも名作を生む可能性の高いモノだと思ってます。(もっとも、現時点ではマンガ家さんの中に優れたストーリーテラーが少ないために、一部の優れた作家さんの作品を除いて圧倒的に小説優勢ですが)
 しかし、どうやってもマンガには向かないジャンルというものもありまして、1つは映像を使わないから効果のある叙述トリック物で、もう1つがこのスポーツノンフィクション短編なんですよね。
 スポーツノンフィクションというのは、取材対象(つまりスポーツ選手)の過去の出来事そのものよりも、自分自身のエピソードを語る時に滲み出てくる、取材対象の現在の心情や人生観の方が面白いわけです。
 ところがマンガでノンフィクションをやると、ただの再現フィルムになっちゃうんですね。それに、肝心の作家のアイデンティティが全然出てこないんです、マンガでは。

 前々から駒木は「マンガのスポーツノンフィクション物に名作無し」と言ってるのですが、それはそういう理由からなんです。向いてないんですね、マンガに。

 今回の話、まぁ事実を多少脚色したにせよ、定番のハートウォーミング・ストーリーに仕上がってます。入来兄弟が標準語喋ってるのが気持ち悪いですが(笑)。
 ですが、そもそも話自体がマンガに向いてないんで、高い評価はあげようがないんですね。評価。次回以降、このジャンルの話はレビューから除外するかもしれません。

 ◎読み切り『呪いのウサギ』作画:杉本ペロ

 「サンデー特選GAG7連弾」の最終回は、『ダイナマ伊藤!』を連載中の杉本ペロさんの作品です。

 さてこの作品、シリーズの最後に連載作家を持ってきて、格の差を見せつけてくれるか…と思ったんですが、うーむ……。
 結局、キャラクター変わっただけでギャグのパターンは『ダイナマ伊藤!』と変わらない上に、そのギャグの切れ味は『ダイナマ伊藤!』よりも鈍り気味。一体、何のためにこの作品を描いたのか、全く訴えかけるものが見られませんでした。残念です。

 この作品の評価はB−。スケジュール調整までして、あえて描かない方が、まだ良かったかもしれませんねえ……。

 結局、このシリーズでは、B+評価1本の他は、が1本、B−4本、が1本。
 ……な、なんだか寂しいですねぇ……。図らずも、現在の少年サンデー系新人ギャグ作家の層の薄さを露呈しただけに終わったような気がします、この企画
 やっぱり、ジャンプの赤塚賞みたいに、ギャグ専門の新人賞をやっていないところから来てるんですかね、この層の薄さは。

 

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(週刊コミックバンチ16号掲載・世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品『黒鳥姫』作画:葉山陽太

 シリーズ第8回は、第6回の大西しゅうさんに続く、純粋な新人さん・葉山陽太さんの作品です。

 まず、新人さんではどうしても問題が露呈されてしまうですが、やはりまだ熟練度が足りない印象がありますね。単調なコマ割りながら、そんなに単調さを感じさせない構図の取り方などに、ある程度のセンスが感じられますが、画力は未熟。いわゆる“動きのある絵”が描けずに、平坦な印象を与えてしまいます
 しかしまぁ、これからの人なわけですから、今後の努力に期待したいものです。

 さてストーリーの方ですが、大まかなシナリオは、「不治の病に侵された若い女性画家が、遺作を残すために病院と故郷を去る。そこで画材屋に勤める男性と出会って……」という、何と言うか「週刊モーニング」の新人賞受賞作で出て来そうなお話でした。変則的なコマ割りや、微妙に稚拙な絵というのも、いかにも「モーニング」的な印象を受けました。
 話の運び方などは、なかなか新人としては高水準の、これまた「モーニング」的なものだったのですが、惜しい事に大きなヤマ場の前にページ数が尽きてしまい、極めて中途半端な印象を与える事になってしまいましたせっかくのいい雰囲気がこれで完璧に台無しです。

 以前の講義でも述べましたが、この賞は連載を前提にしたコンペテイションということになっています。ですので、連載開始後を意識させる、「次回へ続く」な終わり方でも、それはそれで構いません。
 しかし、それ以前にこの作品は、大賞賞金5000万と連載1年以上の権利を賭けた、言わば人生を賭けたトライアウトなわけです。他の9作品を叩きのめすようなインパクトを読者に与えないといけないわけです。それこそ、全身全霊を賭けて、「この作品が生涯の最高傑作だ」という完成品を作る覚悟でなくてはなりません。そうであれば、キチンと読みきりの時点でメリハリをつけて、読者に感銘を与えるストーリーを提示しなければならないはずです。
 どうも葉山さんは、その辺の意識が極めて希薄と言わざるを得ません。でなければ、どうしてこんな勝負の時に未完成なストーリーを提出できますか? まぁ、純粋な新人さんという事で、その辺の覚悟も無いまま応募したのかもしれませんが、それはそれで他の作家さんに失礼な話ですよね。これはプロの新人賞なんですから。
 これでもし、「命を賭けた全力投球の作品です」というのであれば、それはそれで読者の心を意識する能力が致命的に欠如していると言わざるを得ません。

 葉山さんの潜在能力はB+級くらいあると思うんですが、この作品に関しての評価はB−寄りのBということにしておきます。

 何だか、このシリーズの作品読んでるうちに腹が立って来るんですよね。賞金5000万と連載1年以上保証っていう事の重みを、全然応募者が自覚していないような気がしてなりません。小説で言えば直木賞と日本ミステリー大賞を合わせたようなグレードなんですよ、この賞は。
 シリーズあと残り2回、せめて1作品くらいは誰にでも薦められるような作品が出てくることを祈っております。

 ◎読み切り『セラミック・レッグ』(月刊オースーパージャンプ4月号掲載/作画:緒方てい

 この講義でもたびたび採り上げてきました、『キメラ』緒方ていさんの読み切り作品です。
 ……というかこの作品、実は緒方さんがアマチュア時代、同人誌に寄稿していた作品のようなんです。(改稿、もしくはリメイクの可能性もありますが、緒方さんのスケジュール的に全面改稿は不可能と思います)
 マイナー誌や美少女系マンガ誌ではよくある話ですが、一応メジャー級のマンガ雑誌では珍しいケースですね。

 さてこの作品ですが、簡潔に言うと“典型的な同人誌マンガの佳作”といったところでしょうか。主役に1つ“目玉”の設定を作り、後は心地よい予定調和の世界で読者をホロ酔い加減にしてくれます。短編マンガのセオリーをキチンと踏襲している、極めて質の高い習作だと思います。多分、これを同人誌作品として駒木が読んでいたら、「下手なマンガ家より上手いね」という感想を述べていると思いますね。

 ただ、やっぱりこれはあくまでも習作プロの作品としては物足りないんですよね。評価はB寄りのB+というところでしょうか。しかし、「緒方さんならこれより落ちる作品は無いだろうな」と思わせてくれる、極めて意味深い作品であるとも思います。

 ……というところで、今日のレビューは終了です。来週は『ヒカ碁』の読切シリーズ、「サンデー」の読切シリーズ、「バンチ」の愛読者大賞シリーズと、読み切りばかり3作品になりますね。多少、こちらの負担も軽減されてきましたので、さらにきめ細かいレビューが出来れば、と思います。それでは、また来週。(来週に続く)

 


 

3月13日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評(3月第2週分)

 さて、演習のお時間です。
 今週も取り扱うモノが多いので、手早く行きたいと思います。
 まず、2002年1月期の「ジャンプ天下一漫画賞」の審査結果発表から。今回は佳作受賞作が出ています。

第66回ジャンプ天下一漫画賞(02年1月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=1編
  ・『呪いの男』(赤マルジャンプ2002春号に掲載)
   藤嶋マル(18歳・秋田)
 審査員特別賞=1編
  ・『かっ飛び1番店』(岸本斉史賞)
   武田佳之(23歳・山形)
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『The Journy with a servant〜イギリス旅情編〜』
   安生直人(23歳・埼玉)
  ・『ミミ』
   田井裕之(21歳・神奈川)
  ・『野狐わずらひ』
   犬屋敷馨介(20歳・北海道)
  ・『世界の海はオレのもの』
   竹崎大輔(19歳・東京)
  ・『けーちゃんの宝箱』
   寺田あとん(19歳・埼玉)
  ・『グルマゲドン美食最終戦争』
   脊川椎(24歳・千葉)
  ・『M.M.S(ミスターモンスター助六)』
   奈良阪兼太郎(合作/23歳・大阪/29歳・奈良)

 先月、「なかなか佳作以上が出ませんなあ」とか言っていたら、早速出ました(苦笑)。今更な話ですが、佳作以上はデビューさせなくちゃいけないので点が辛いんですね。消費者からお金を頂く“商品”になるかどうかを判断するとなれば、そりゃあ採点も厳しくなりますよねえ。
 でもその割に、本誌に掲載する代原のレヴェルは案外無頓着ですよね。そりゃあ白紙の本が出るかどうかの瀬戸際だから事情は察しますが……。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年15号☆

 ◎新連載第3回『少年エスパーねじめ』作画:尾玉なみえ《第1回掲載時の評価:

 尾玉作品の絶好調時を知る人間にとっては戦々恐々の3週間が終わりました(苦笑)。なにせ、ここまでのデキとアンケート結果で打ち切りかどうかが決まるわけですからね。
 ここまで3回の印象としては、手を変え品を変え色々やって、どうにかハイレヴェルのまま乗り切った、というところでしょうか。ただ、第1回に比べるとそれ以降は、ギャグの切れ味やインパクトの点でやや見劣りしてしまいますが……。
 尾玉さんは、理詰めよりも感覚的にギャグを繋げていくタイプの作家さんだけに、連載を続ける限り精神的な負担は大きいでしょうが、何とかもうしばらくはこのまま繋げて欲しいものですね。
 少し技術的な面も述べておきましょうか。今回の第3回では、従来の“ボケっ放し”だけでなく、“間”のギャグが多く見られました。これが、尾玉さんの計算ずくなのか、苦し紛れにひねり出したモノなのか分からないのがナンですが……。
 評価ですが、さすがにAは行き過ぎだと思いますのでランクを下げます。B+に近いA−という辺りが妥当ではないかと思われます。

 ◎読み切り(2回連続・後編)『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介《前編掲載時の評価:

 先週に引き続いての後編となります。作者お2人の経歴や前編の詳しい評価については先週分のレジュメを参照してください。

 後編はアクション部分、つまりアメフトのシーンが中心でした。やっぱりここでも村田さんの優れた画力が光っていて、ラインズマン同士の激しいコンタクトを上手く表現しているなど、多くの点で唸らされます。村田さんはスピードと迫力で勝負するシーンを描かせたら本当に上手いですよね。
 一方、ストーリーの方なんですが、やっぱり話をスムーズに見せるためにディティールを省略している点が目立って残念です。結局、アメフト部の2人が、手段を選ばすに部員を集めてまでアメフトにこだわっている動機すら明確に見えてきませんでした。…これ以上やると陰湿になってしまうのでやりませんが、細かい所まで挙げていったらキリが無い程のツッコミ処がありますよ
 厳しい事を言ってしまうと、こういう“手抜き”をしないと話をまとめられない人が原作専業でやっていくのはどうかと。同じ「ストーリーキング・ネーム部門」受賞者ということで、誌上では『ヒカ碁』のほったゆみさんと同列に扱われてますが、有り体に言って、ほったさんの方が番付が5枚以上違うような気がします。

 この作品、アンケート次第では連載になる場合もあるのですが、その時こそ、しっかりディティールまで設定とプロットを組んで、練りに練ったシナリオで勝負してもらいたいと思います。このノリのままで勝負した場合、あっという間に化けの皮が剥がれる事は目に見えていると思いますので。
 評価はで据え置き。村田さんの絵の実力だけならB+は確実なのですが……。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年15号☆

 ◎読み切り『なにがなんだかモリマッチョ』作画:カルーメン野口

 今週も「サンデー特選GAG7連弾」が2作品。本誌での掲載順にレビューしてゆきましょう。
 まず、この作品の作者・カルーメン野口さんは、2年程前から少年サンデー系雑誌で、散発的にギャグ読み切りを発表している新人さんです。
 ただ、“新人”という言葉が似合わないほど画風が古いです。昭和50年代のコロコロコミックというか、どことなくガモウひろし氏風というか……。

 で、中身なんですが、これが題名の通り「なにがなんだか」でして。狙ってる場所とかは、まぁそれなりに分かるんですが、どれもこれも魂のこもっていない小手先のギャグなんですよね。セリフをちょっと変にしてみたり、キャラの絵面をちょっとイジってみたら、すぐに読者に笑ってもらえると勘違いしている気がしてなりません。
 これが、先述のガモウひろし氏みたいに、「マンガ家が小学校のマンガクラブで描かれるようなネタを描いたらどうなるか」という特殊な狙いなら話は分かるんですが、この作品はそこまでバカになりきっていないので、恐らくそういうわけでもないでしょう。
 評価はでいいんじゃないかと。「BSマンガ夜話」なら、「見所は11ページ目最終コマの乳首だけですね」とか言われそうな作品です。

 ◎読み切り『4649! どヤンキーラーメン』(作画:水口尚樹

 引き続き「サンデー特選GAG7連弾」。今度は新人作家さんの登場です。
 ネットで検索してみても、ほとんど情報が無かったんですが、同姓同名なのか水口さん本人の作品なのかは不明ですがこんなのが見つかりました。題名『普通えもん』。たった2本の4コマなんですが、起承転結のメリハリとギャグの切れが秀逸です。評価A−以上。色々な意味で商業誌掲載は不可能でしょうけど、同人誌か何かでもっと読んでみたい作品です。

 おっと、今回評価するのは『普通えもん』ではありませんでした。『4649! どヤンキーラーメン』の方です。

 …この作品、なかなか面白いんですが、あるポイントで非常に損をしています
 それは、この作品におけるギャグのパターンです。この作品は、“ネタ振り→1度目のギャグ(寒い)→2度目のギャグ(本当の狙い)”というパターンが繰り返されて進行するわけなのですが、この方法だと、必ず5割以上のギャグは面白くないギャグになってしまいます。計算づくとはいえ、ちょっとこれは問題ですね。肉を切らせて骨を断つという考え方も一理あるのですが、これでは骨を断つ前に、肉を切らせすぎて出血多量で死んでしまいます。
 今後の方針としては、ちょっとリスクは高くなりますがシュールな不条理ギャグを試してみてはどうかと思います。ギャグの才能が無いわけではないようですので、もっとドギツイ表現にチャレンジするのも手かと思うのです。

 評価はB−に近いB。惜しいんですけど、総合的な評価をすると、こうなってしまいます。

 ◎読み切り『背番号は○[マル]』作画:あおやぎ孝夫

 今週から5週連続でストーリーマンガの読み切りも始まりました。レビューが大変ですが、頑張ります。

 作者のあおやぎ孝夫さんは、昨年休刊になった「コミックGATTA」で既に連載経験済み。キャリアから考えると中堅マンガ家さんということになりますね。「週刊少年サンデー」本誌には初進出とのこと。

 では作品の評価へ。
 絵に関しては、細かい専門的な所まではツッコめませんが、少なくとも見た目は綺麗な絵だと思います。ただ、どこかで見たようなタッチなんですが、ちょっと誰に似ているかまでは思い出せませんでした。
 ストーリーの方は、「部内の“ミソッカス”的存在だった主人公が、実は才能を秘めていて、それが開花する……」という、話全体としてみれば、野球モノ読み切りでよくあるパターンです。ですが、短いページの中で主要キャラの個性がちゃんと表現できている事、それとありがちな勧善懲悪モノではなく、非常に爽やかなエピソードにまとめている辺りは非常に好感が持てます。地味ですが技量が無いと出来ない事をサラリとやってのけている辺り、非常に素晴らしいと思います。
 相対的な技量は間違いなく連載作家のレヴェルに達しているでしょう。特に最近の「サンデー」は“おバカさん系”の過剰演出作品が目立っているので、あおやぎさんが連載陣の一角を占めれば、雑誌全体に良いメリハリが利くと思えるのですが。
 評価はA−。余談ですが、同業者(学校教員)として、部活の練習の時だけ人格が豹変する女の先生ってのは、妙にリアルで微笑ましかったです(笑)。

 

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(週刊コミックバンチ15号掲載・世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品『エンカウンター ─遭遇─』作画:木之花さくや

 このシリーズも7作目。いよいよ佳境に入った感があります。たった1話の読み切りで、作家さんの現時点での力量を分析しなければならないので、こちらとしても輪にかけてヘヴィーな作業になるんですが、それはそれでやり甲斐がありますね。

 さて、『エンカウンター…』の作者・木之花さくやさんは、2人合作のペンネーム。その正体(?)は、現役マンガ家の西野つぐみさんとDenjiroさん夫妻のセンが濃厚です。少なくとも、西野さんが主になって作品に関わっている事は、ご本人もご自身のウェブサイトで発表されていますし、絵柄も過去の作品のタッチと酷似していますので、まず間違いないと思われます。
 西野さんはマイナーともメジャーともつかないような商業誌(失礼!)で多くの作品を連載し、単行本も複数出されていますバリバリの現役作家さんという認識で良いでしょう。先週のこの講義で、エントリー作家さんをドラフト指名された新人野球選手に喩えたりしましたが、西野さんの場合は、既に台湾・韓国やアメリカのマイナーで活躍している“外国人枠”の新入団選手という事になるのでしょうか。

 では、作品について。まず絵の面ですが、これはもう、現役で活躍されている作家さんですから、注文する点はありません。見る人によって好き嫌いは出るでしょうが、絵において基本的な点で批判すべき箇所は無いですね。

 しかしストーリー面には問題が大いにあります。
 この作品、西野さん(と思しき人物)がインタビューで語ったところによると、「数年間設定を温めて来たストーリー」との事で、本当にこの作品へ力と気持ちを注いでいるのが感じ取れます。確かに、作者の「こんな話が描きたかった」という気持ちはストレートに伝わって来ます。
 しかし、どうなんでしょうか。「数年間温めて来た」というのは、どうも「『新世紀エヴァンゲリオン』を観て以来、数年間温めて来た」と、いうのが真相のようです。あちらこちらに『エヴァ』への影響が見受けられます。それはそれで良いのですが、それでも冒頭で、1992年だというのに、秘密組織の本部らしき場所の巨大画面映像が『エヴァ』のそれとソックリだったのには、いささか失笑しました。1992年と言えば、まだパソコンのハードディスクがMB単位だった頃の話。プレステ2と同性能の“スーパー”コンピューターが世界に1台あるかどうかの時代です。思い入れは分かるのですが、ちょっとリアリティに欠けた感が有りますね
 まぁでも、こういう些細な点をこれ以上ツッコむのは、揚げ足取るみたいでナニですので止めておきましょう。

 ストーリーで指摘すべき点は、もっと根本的な所にあるのです。ズバリ言うと、設定が複雑かつ説明不足な上に、話そのものが破綻しているのです。

 まず、主人公が子供時代にUFOに出遭って宇宙人にさらわれた結果、特殊な帯電体質になる、これは前提条件として構いません。話を立てる上では、計算された偶然は必然と同じですので。
 ただし、問題はここからです。舞台が10年後に移り、そこでいきなり「エンカウンター」なる秘密組織(『エヴァ』で言うところのネルフですね)がストーリー上に現れて、そこに所属する謎の少女─無痛症で超能力者(?)─が、主人公と「同調(シンクロ)する」云々と“その時点では意味不明な文言”を言い出したり、忽然と表われては姿を消したり。また、「(主人公の)能力に興味はあるが、手に余るようなら主人公を殺せ」と、主人公の能力が何かとか、それがどう手に余るのかすらサッパリ分からないまま「エンカウンター」から指示が出たり……。
 恐らく複雑な設定が、作者の頭にだけは存在するのでしょうが、余りにも説明不足で意味不明です。同じようなテンポで進む話に、『エヴァ』と同じガイナックス製作のアニメ『フリクリ』がありましたが、あちらはマニア向けである上に、シリーズ完結と同時にネタバラシが完了するのを前提としたお話。こちらは連載を前提にしているとはいえ、アンケートを前提にした読み切り作品です。不親切を通り越して、何か勘違いしてしまっている気がします。

 さらに、ストーリー上で因果関係が破綻している部分が、まま見受けられます。
 まず、主人公やその周囲の人間に、未知の菌が寄生するシーン。このシーンでは、主人公たちが縄文時代の洞窟へ行って、そこで主人公が帯電した静電気が洞窟の壁に反応して、そのショックで菌が蘇り、主人公の近くにいたために感電した人たちが気を失って、その間に菌が寄生することになっています。
 ですが、どうしてその洞窟に限ってそういう現象が起きたのか(だって、岩の壁ですよ?)という事や、宇宙から来たはずの菌がどうして縄文時代の遺跡に眠っていたのか、などの部分が全く説明されていません
 実はこれ、話作りの上で、レッドカード物の反則なのですね。話に登場する舞台装置は、必ず話の中で起こる出来事の伏線になっていなくてはならないのですよ。
 今回の話で言うと、その一連の出来事が洞窟で起こらなくてはならなかった理由が、何か1つ存在しないといけないのです。菌が寄生していた隕石がその洞窟の近くに落ちたシーンでも良いのです。何か、その洞窟という舞台と話全体を結びつける因果関係が無いと、話として失格なワケです。
 例えば推理小説で話をしますと、雪山で胸をナイフで刺されて人が殺された場合、何か1つ、その人を殺すのが雪山でないといけない理由が無いとダメなわけです。死亡推定時刻を判断しにくくさせるため、など。現実には「意味もなく」とか「何となく」という出来事は有りますが、フィクションの話で無意味な設定は、読者を混乱させるだけなので、ご法度なのです。
 また、その寄生した菌が、寄生主の人間を殺そうとすることは説明されていますが、何のために寄生主を殺そうとしているのかが全く説明がありません。これがホラーなら、「敵対する相手は謎(の人物、物体)でなくてはならない」という不文律がありますからO.K.なのですが、SF物である以上は、全ての謎を理論的に説明する必要があるわけで、これも反則行為にあたります。それに電気に関係する菌ならば、やはり電気に関連するやり方で全ての寄生主を殺すべきでしょうね。
 さらにクライマックスで、主人公が“特に理由も無く”奇跡を起こして問題を解決するシーンが出てきます。まぁ、これは昔から使われてきた手法ですので、ことさら声を荒げるのは間違ってるんでしょうが、今時、車田正美や石山東吉や桑沢アツオくらいしかやらない事をここでしなくても……と思ってしまいます。一見して“お利口さん系”のマンガなのに結末が“おバカさん”系というのは惜しいですよね。

 ……以上、細かい事を色々書いてきましたが、これは一見すると“面白そう”な作品であるからこその注文なのです。ハナから箸にも棒にもかからない作品ならここまで書きません。これらの課題を克服できれば、間違いなく名作候補になるだけに、非常に残念に思ったのです。

 この作品、言い方は悪いですが、読者を雰囲気で誤魔化してしまえば、大賞まで手が届くかもしれません。ただし、今のままで連載に踏み込めば、早かれ遅かれ破綻してしまうでしょう。それが非常に惜しい。
 『エヴァ』は、話が破綻する寸前の状態で、まるで北緯38度線で綱渡りをやるようにして、ギリギリ成立した話でした。そんな話に影響を受けて新たなストーリーを作り上げるのは並大抵の覚悟では出来ません。作者の木之花さんには是非、意気込みだけではなく覚悟も持って話作りに挑んでもらいたいと思います。返す返すも惜しい作品でした。再挑戦を待っています。
 評価は総合的に評価してです。

 ……以上、いつにも増して高ボリュームの演習になりました。次回は『ヒカ碁』番外編・奈瀬さん編なのですが、どうも恋の話らしいんですよね(慟哭)。うぅ、梅沢さんに続いて奈瀬さんもか…。

 まぁ、評価は客観的にいきます(笑)。とにかく来週をお楽しみに。(来週に続く)

 


 

3月6日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評(3月第1週分)

 えー、日誌の方ではお見苦しい場面がありました(笑)。すいませんね、どうも。

 さて、時間も無いので、早速レビューの方へ行かせてもらいます。7段階評価の表はこちらを。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年14号☆

 ◎新連載第3回『いちご100%』作画:河下水希《第1回掲載時の評価:B+

 第1回掲載時には、今後の方向性に期待をこめて高い評価をつけたのですが、どうやら駒木の意に反して、シナリオのクオリティ無視・ベタベタのラブコメ路線へ向かう模様ですね。まぁ、河下さんの作風でもありますので、それはそれで仕方ないのですが。
 しかし、果たして結末が明らかにミエミエのストーリーを、どう緩急・起伏をつけて料理していくのでしょうか。この手の話は、既に『電影少女』などでお馴染みなだけに、ライトなお色気だけでどう読者を引っ張っていくのか不安でもあります。いずれ訪れる「仮のヒロインとの別れ→真のヒロインへ乗り換え」というブラックな部分をどう描いていくかで、河下さんの“器”のようなものが見えてくるような気がします。
 それにしても、この作品のストーリー、『電影少女』の前半数十話を中抜きして湿気を抜いたような感じですね。作家間の個性の差もあるのでしょうが、時代が求めるものの差ということなのでしょうかね。
 評価は1段階下げます。
Bです。多分、半年くらいは引っ張るような気がしますけど、弟子の小林ゆきさんより先に打ち切られたらメンツ丸つぶれですね(苦笑)。

 ◎読み切り(2回連続・前編)『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介

 昨年度の「ストーリーキング」ネーム部門キング(大賞)受賞作品のマンガ化です。
 原作者の稲垣理一郎さんは、これまでは「ビッグコミックスピリッツ」系の雑誌で読み切りを数作発表している新人のマンガ家さんで、原作者としては初の商業誌掲載作ということになりますね。
 マンガ担当の村田さんのプロフィールについては、2月20日付演習内の、読み切り作品『怪盗COLT』のレビューを参照してください。

 さて、原作とマンガ担当が分かれた作品ですから、絵のクオリティについて述べるのは野暮な話です。村田さんの画力については既に『怪盗COLT』のレビューで述べていますし、ここでは割愛させて頂きます。一言で言うなら、「プロの作家として十分合格点」というところでしょう。

 問題のシナリオ部分についてお話をしましょう。
 この作品、「ストーリーキング」ネーム部門始まって以来初のキング受賞作(『ヒカルの碁』のほったゆみさんは準キング)だと記憶しているのですが、前編を読んだ限りは正直言って過大評価ではないかと思ってしまいます。
 問題点は大きく分けて2つ。
 1つ目は、お話の5W1Hが、えらく大胆に省略されている事です。
 この作品の設定はかなり不明確で、「なぜ、2人しか部員がいないアメフト部が試合をするのか」とか、「そもそも、中学校なのか高校なのか」とか、「相手チームのキャプテン(?)とアメフト部の2人はどのような因縁があるのか」とか、「主人公が俊足であることが、ここまで知られていないのは不自然だが何故か」などなど、話の根幹に関わる部分が全く説明されていません。
 恐らく、「読み切りだし、カットできる部分は全てカットしよう」と考えたのでしょう。確かにそれでテンポを上げる効果は果たしているのですが、違和感もかなり大きなものになってしまってます。
 2つ目は、作品内でのアメフトの扱い方について。
 前編を読んで抱いた印象なのですが、原作担当の稲垣さんは、アメフトが特に好きなわけではないんじゃないかと。いや、本当は大好きなのかもしれませんが、こちらに全くそれが伝わって来ないんですね。
 というのも、このマンガはアメフトマンガでありながら、アメフトそのものについての扱いが極めてぞんざいです。ルールの説明もほとんどなされていないため、アメフトを知らない人がこの作品を読んだところで、果たして理解できるのか心配になってきます。
 「難しいルール説明してもテンポ悪くなるだけだし、どうせ分かってもらえないよ」と考えたのでしょうか。ですが、それにしても不親切だと思います。

 この作品全体に漂うムードは「逃げ」なんです。
 確かに読み切りの中で詳しい設定を消化させようと思ったら、相当な技量や構成力が必要になって来ます。アメフトの(パッと見で)複雑なルールを読み切り作品の中で効果的に説明しようと思えば、それもまた難しい事だと思います。
 ですが、それを成し遂げてこそ初めて素晴らしい作品になるのではないでしょうか?
 作品のクオリティを下げないために、まず自分が楽をしてしまってはどうしようもありません。
 評価は
Bとしておきましょう。後半に期待を抱きつつも、課題は山積といったところでしょうか。

 ☆「週刊少年サンデー」2002年14号☆

 ◎読み切り『新型機動携帯シモべえ』作画:木村聡

 今週と来週は「サンデー特選GAG7連弾」が2本立てということで、レビューも2作品ずつ、ということになります。

 では、まずは“第3弾”のこの作品から。
 作者の木村聡さんは、デビュー間もない新人作家さんのようです。過去1度本誌で読み切りが掲載された事があるようですが……。
 さて、問題の内容なんですが。
 えー、何と言いますか、一言で言うと「子どもだまし」の作品ですね。正確に言うと、子どもは「ウンコ、シッコ、チンコ」の御三家ならぬ“コ”三家でしかだまされませんから、「子どもだませない」の作品、とした方がいいでしょうか。
 ギャグが全部“小手先”なんですよね。ただ単に力押しできる地力が無い事を棚に上げて「自分は技巧派だ」と勘違いしている節があります
 「週刊少年サンデー」のギャグ作家さんの中で技巧派と言えるのは、『かってに改蔵』久米田康治さんでしょうか。しかし久米田さんは、ギャグの質そのものもさることながら、とにかく1ページあたりのギャグ密度が濃いんですよね。情報収集に相当の時間をかけて、なおかつ、それを絶えず「どうネタに昇華すればいいか」を考えてないと出来ない芸当です。そして、残念ながら木村さんのこの作品には、それが全く無い、と。
 要は努力が足りないわけです。ぶっちゃけた話、ギャグ作家さんは、ストーリー作家さんが絵の技術向上にかける時間をそのままギャグの技術向上に費やす事ができるわけですから、それこそ画材にかける資金を書籍・通信費に注ぎ込むくらいの覚悟が無いと……。
 この木村さんには、もっと世の中あらゆる所にアンテナを張り巡らして、小手先じゃないギャグを編み出せるように努力してもらいたいものです。
 評価は
Cに近いB−

 ◎読み切り『煩悩寺のヘン!』作画:黒葉潤一

 「──特選GAG7連弾」の第4弾は、かつて本誌で『ファンシー雑技団』を連載していた黒葉潤一さんです。
 連載当時は現役大学生だった黒葉さんですが、卒業&連載終了後もマンガ家としての活動を続けていたようですね。
 ……そうして専業マンガ家になったことで、以前よりもレヴェルが向上しているかと思ったのですが、どうも横ばい、ひょっとすると地力が落ちてるんじゃないか、と思えてしまうのが今回の作品でした。捨て身のギャグを放っているのは分かるのですが、全部上滑りしてるような気がしてなりません。
 もっとも、黒葉さんの本来のスタイルというのは、複数の登場人物のキャラを立てておいた上で、1ページ程度のショートギャグを重ねてゆく形式でしたから、それと正反対のスタイル(少ないキャラで10数ページ回すスタイル)である今回の作品は、ちょっと黒葉さんには酷だったかな、という気もします。今回の設定を流用して、本来のスタイルで連載すれば、もう少し質の違ったものになるかも知れません。
 …とりあえず、今回の作品だけで判断すると、評価はB−になりますね。もっと精進しないと、連載復帰は難しいかも分かりません。

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(週刊コミックバンチ14号掲載・世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品『142cmのハングオン』作画:大西しゅう

 シリーズ6回目にしてようやく、この作品がデビュー作となる新人作家さんが現れました。20代前半という年齢は、マンガ家デビューにしてはやや遅い方ですが、まぁマンガ家の作風は年齢よりもキャリアに影響されますから、あとはいかに生活を維持しながらマンガを描き続けていくかでしょうね。緒方ていさんみたいに、サラリーマンのかたわら同人誌で腕を磨いた後に連載デビューというケースもありますので、是非頑張ってもらいたいものです。

 さて、作品のレビューなんですが……。
 まず初めに言っておかないといけないのは、やはり画力でしょう。正直言って、まだプロを名乗って良いレヴェルではありません。まぁ、この作品を描いている頃はアマチュアなのですから、仕方ないと言えばそうですが。
 しかし、ヒロインの女友達が一瞬男に見えてしまったりとか、一番の見せ場である、「ライバルのバイクを交わし、なおかつ転倒寸前のバイクを立て直すシーン」の描写が余りにも稚拙で、何がどうなったか絵だけでは分からないとあっては、やはりマンガとしては致命的と言わざるを得ないでしょう。
 駒木は、絵よりもストーリー・シナリオを重視して見るタイプのレビュアーですが、さすがにここまでレヴェルが下がると、やはり酷評してしまいますね。

 一方、ストーリーの方ですが、これはまぁ、ある程度は話作りの基本を押さえた上で、さらになかなかの勢いがついています。絵の稚拙さをある程度はカバーするようなモノには仕上がっているのではないかな、と思いますね。何よりも、自分の好きな題材を独り善がりにならないように留意して描こうとしている姿勢に好感が持てます。
 ただ、話全体の起伏が緩やかで、既成の作品の平均値を越えるようなインパクトを出せなかったのが悔やまれます。何というか、良い意味でも悪い意味でも若さに任せて描いている影響が滲み出たストーリーだった気がします。
 総合的に判断すると評価は
B−に近いB。この作品も、ちょっと受賞には届かない感じですね。でも、「ドラフト6位で入団した高校生ルーキー」みたいな雰囲気が漂っていて、「2年くらいファームで鍛えたら面白いかな」という気にはさせてくれる作家さんです。これからに期待という事で。

 ちなみに、これまでの5人のエントリー作家さんは、「元甲子園球児の草野球選手(地区予選級の実業団選手)が入団テストを受けに来た」ような感じでしょうかね。「良いモノはあるけど、手垢が付き過ぎちゃってるよなあ」という印象です。
 何とかあと4回で、最低でも「ドラフト外れ1位〜2位クラスの大卒ルーキー」みたいな作家さんが現れる事を期待したいと思います。

 さて、次回の演習ですが、ジャンプの方は新連載ラッシュも落ち着いて一段落になります。ただ、サンデーでは来週から5週連続新人読み切りシリーズが始まるとのことで、そっちの方にかなり忙殺されそうです。特に来週は「ギャグ7連弾」も2本立てですし、何だかまた大変になりそうです(苦笑)。
 まぁ、何とか頑張りますよ。それでは、また来週。(来週に続く)

 


 

2月27日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(2月第4週分)

 今週もゼミのお時間がやってまいりました。

 それにしても、皆さん、今日発売の「週刊少年マガジン」13号は読みましたか?
 詳しくレビューする余裕も意欲も無いんで、ここで簡単に扱っちゃいますが、『つんく♂物語』作画:杉山真弓)について。
 まぁ、この手の『○○物語』というヤツは、真実1:虚構9というのが常なんですが(大抵、デビュー直前に超オフレコの出来事が起こるので)、それにしても今回の『つんく♂物語』は酷かったですね。多分、真実1:虚構49くらいなのではないかと。

 これを描かされた、仕事の断れない立場にある新人作家・杉山真弓さんは、どうにも災難としかいいようがありませんね。ま、早いトコ売れて、この作品を“消した過去”にしちゃって下さい。
 それにしても、ナイナイの岡村が命名したはずの“モーニング娘。”というユニット名を、しれっとつんく♂の手柄にしてしまうのですから、いやはや恐ろしい。
 ちなみに、当時の雰囲気をリアルに味わいたい方は、駒木の拙文「今日の特集・モー娘。新メンバー決定(5回シリーズ)」をご覧下さい。こちらは真実8:邪推2ってところですが、まだマシでしょう。

 ……それでは、今日は扱う作品も多いので、とっととレビューに行っちゃいましょう。

 ※文中の7段階評価はこちらを。簡単に言えば、B+はマンガ好きに推奨の作品A−以上は、誰にでも推奨したい作品、と考えてください。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年13号☆

 ◎新連載『少年エスパーねじめ』作画:尾玉なみえ

 一部では連載前から大きな話題になっていた、尾玉なみえさんの新連載作品ですね。
 前作『純情パイン』(評価:読切時A/連載時Bでは、慣れない週刊連載と少ないページ数のためか、見事に打ち切りの洗礼を浴びた尾玉さん。しばし雌伏(無職)の時を経て、ようやく復帰を果たしました。

 さて、今回の『少年エスパーねじめ』ですが、以前掲載された同題名の読み切りとは大きく内容・設定を変えてきました。おそらく、「面白ければ何でもアリ」と開き直った結果だと思われますが、これが大成功でしたね。
 単刀直入に言って、大変面白いです。ハンパじゃなく笑えました。笑いのツボは人によって大きく違いますが、少なくとも、この第1回に関しては大半の人が支持してくれるのではないかと思います。

 で、この作品の面白さについて。
 ギャグマンガを分析する事は愚の骨頂と分かってるのですが、まぁそれをするのがこの講義ですので少しだけ。
 尾玉作品の魅力というのは、「ボケっぱなし」の展開なわけですね。もちろん、それを生かすための間のとり方や構図も秀逸ですが。
 日本のギャグ文化の基本として、登場人物を介してツッコミも入るのですが、尾玉作品のボケ役は、これを徹底的に無視します。聞く耳持ちません。『ピューと吹くジャガー』のジャガーさんが、まだ聞き分けが良いように感じる程、これを徹底させています。
 『純情パイン』連載時は、その全てが微妙に弱かったために失敗したのですが、今回は逆に全てが合格ライン。この調子で、せめて1年以上は持続できるように頑張って頂きたいものです。
 売れちゃえば原稿落としても大丈夫ですし。

 評価ですが、少なくとも今回はA評価にしても良いと思います。問題はこのパワーの持続性ですが、それは第3回の時に検討するという事で。

 ◎新連載第3回『あっけら貫刃帖』作画:小林ゆき《第1回掲載時の評価:B+

 巷ではあんまり良い評価を聞かないのですが、駒木の好感度は依然として高いです、この作品。もっとも、大物感の無さも相変わらずなので、ジャンプの看板作品に成長する見込みは薄いままですが……。
 何が駒木の好感度の源かと言いますと、この作品、ストーリーと設定が相当練られた節があるからなんですね。かなり先まで構想を立てた上でネームを切っているみたいで、行き当たりばったり感が皆無なんですよね。何と言うか、マンガを読んでいる感覚よりもライトノベルを読んでいる感覚の方に近いんですよ。
 最近特に痛感しているのが、少年マンガ作家さんのストーリー構成力の弱さでして、そこにこういうプロットを練って勝負してくるタイプの人が出てくると、自然と目に付くというわけです。
 大半の作品が打ち切り・尻切れトンボ終了になるのがジャンプ作品の宿命ですが、この作品は、何とか小林さんの考えているラストシーンまで読みたいものです。
 評価は
B+のまま据え置きです。大物感の無さが評価アップへの最大の障害になりましたが、個人的には大変期待度が高いです。

 ◎読み切り『ヒカルの碁・番外キャラ読切シリーズ・加賀鉄男』作:ほったゆみ、画:小畑健

 キャラクター人気投票で上位に食い込んだ、『中学囲碁部編』のバイプレーヤー・加賀鉄男のサイドストーリーですね。巧みに葉瀬中囲碁部の後日談にもなっている一石二鳥的な試みが、実に心憎いですね。ホント、ほったさんって、タダでは読み終わらせてくれません。

 それにしても、この回は完全にセルフパロディになってますね。ジャンプで発表せず、同人誌にして夏コミ売った方が良いような感じがするくらいですよ(恐ろしい行列できるでしょうけど)。名作家はパロディの名手でもあるんだな、とじみじみ実感する次第です。
 評価なんて野暮なんですが、前回と同じく
A−。この「番外キャラ読切」、次回は16号の奈瀬明日美編です。ツイニキタ─(゜∀゜)─! 

 ◎読み切り『偉大なる教師』作画:郷田こうや

 第54回赤塚賞で、島袋光年さんの猛プッシュを受けて佳作を受賞した、郷田こうやさんの読み切りです。『HUNTER×HUNTER』の代原なので、習作段階の作品を編集部が預かっていたものだと思われますが。
 郷田さんの受賞&デビュー作『グッドボール』は、本誌に掲載されていたので記憶に残ってるのですが、面白い、面白くないは別にして、15ページかけて1つのネタを勢い任せに引っ張ってゆく強引さが印象的でした。大化けすれば面白いかな、と思ったのを記憶しています。

 で、今回なんですが、有り体に言うと「永久に編集者の机で眠ってた方が良かったかな」と。ショートギャグにしてしまったせいか、現時点での唯一に近いウリの“強引さ”が翳ってしまったような気がします。
 多分、今は「何が面白くて、何が面白くねえかワカンネエよお」と呻いている時期だろうと思うんですが、早く自分なりの極意を身に付けてもらいたいものです。
 今は『ジャガー』『ボーボボ』『たけし』『サクラテツ』、そして今週からの『ねじめ』と、今「ジャンプ」ではギャグ作品が5作品も連載されていて、しばらく新人に連載枠は開きそうにありませんので、今の内にじっくりと力を蓄えて貰いたいと思います。
 評価は、ちょっと厳しく
C寄りのB−としましょう。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年13号☆

 ◎短期集中連載・最終回(第4回)『ダイキチの天下一商店』作:若桑一人、画:武村勇治)《第1回掲載時の評価:

 長期連載を賭けた短期集中連載が終了しました。この期間のアンケート結果を見て、本格連載か月刊への左遷かが決まる事になります。
 まずは、原作・若桑さんの取材力を評価したいですね。4回で全てのエッセンスを詰めなくてはいけなかったからでしょうか、若干の消化不良感が否めないのが残念ですが、弁当屋の内部事情という、手垢の付いていない内容を見つけてきた事は、やはり評価に値すると思います。
 ただ問題点も。最近の「サンデー」新連載は全部そうなんですが、どうも演出がオーバーで極端なんですよね。それも、個性を出そうというのではなく、表現力の拙さを補うために極端な演出にしているようなんですよ。これがどうも、駒木には腑に落ちないのです。

 ……と、いうわけで一長一短のこの作品、評価は据え置きでとします。個人的な見解としては、「連載になっても構わないが、敢えて読みたいとも思わない」というところでしょうか。

 ◎読み切り『ピー坊21』作画:佐藤周一郎

 「サンデー特選GAGバトル7連弾」の第2回です。
 この作品の作者・佐藤周一郎さんは、デビュー間もない新人作家さんのようで、本誌は初掲載になります。

 まず絵なんですが、多少デッサンが狂うなどの初々しさが漂うものの、拙くは無いと思います。メジャーデビュー直後のゆうきまさみさんを髣髴とさせるものがあります。と、いうことは、修行すれば相当上達しそうですね。これはまぁ、ちょっと甘いですが合格点をあげてもいいかと思います。
 ただ、課題は肝心のギャグの方に山積みです。
 今回の作品中で、少なくとも2ケタの“笑い所”が仕掛けられていたと思うのですが、その全てにおいて、駒木が笑うに至らなかったのは、やはり大問題でしょうねぇ。逆にこの作品読んだ皆さんにお訊きしたいのですが、笑えましたか、この作品?

 どうもこの佐藤さん、残酷なようですがギャグ作家を目指す事自体が間違っている気がしますね。ストーリーの構成力をつけて、コメディ作家に転身すれば芽が出るチャンスも大きいと思うのですが……。
 評価は
Cに近いB−。将来性っぽいものは感じますので、あとは精進次第でしょう。

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(週刊コミックバンチ13号掲載・世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品『灰色の街』作画:江口孝之

 消えたマンガ家&マンガ家予備軍敗者復活戦の様相を呈してきたこの企画も、ついに折り返しの第5回となりました。
 今回登場の江口さんは、バンチ本誌では経歴が不明だったんですが、どうやら「ヤングマガジン・アッパーズ」の第3回新人マンガ賞・奨励賞受賞20作品も受賞してますので、事実上の選外佳作?)コミックビンゴ第1回新人賞・佳作受賞&読み切り掲載という経歴を経ている、“消えかけ”のマンガ家さんのようです。ということは、今週も敗者復活戦ですか……。

 さて今回の『灰色の街』なんですが、江口さん自身もインタビューで語っているように、複数の作家さんの影響が複合的に表われているような感じですね。駒木はとりあえず、『はっぱ64』時代の山本直樹さんを感じたりしましたが。
 まず、絵は作風なのかもしれませんが荒いです。デビューから4年以上経ってますので、江口さん自身に上達する気持ちが無いのかもしれません。まぁ下手なりに個性は出てますので、売れた後に「BSマンガ夜話」で、いしかわじゅん氏に「絵が下手だ」と叩かれる覚悟をしているなら、このままでも良いのではないかと。
 ストーリーの方は、何というか、江口さんの受賞&掲載歴を如実に物語るように、マイナー誌向けのダークな話です。少年誌と青年誌の中間を行く「コミックバンチ」には、ちょっとそぐわない気がしますね。話自体は古臭いながら割と練られていますので力量はあるのでしょうが、残念ながら、今のままではメジャー誌で売れる事は無い気がします。

 評価は減点・加点入り混じっての評価というところでしょうか。これがデビュー作だというのならばまだしも、デビューから4年以上経過して、作風も自分で固めてしまった人という事を考えると、ちょっと大成は難しい気がします。

 しかしこの賞、大賞賞金5000万円なのですが、ここまで5作品見た感じだと、1/10でも高いくらいだと思ってしまいますねぇ。

 ◎連載第3回『キメラ』(「スーパージャンプ」掲載/作画:緒方てい

 『キメラ』の第3回は、急遽巻頭カラー&増ページになりました。「SJ」編集長の期待の表われでしょう。
 しかし、肝心の作品の方は、またしても期待外れと言わなくてはならないでしょう。もちろん、これが他の作家さんの作品なら絶賛に近いレビューを掲載するところなのですが、緒方さんはデビュー作が素晴らし過ぎたために、どうしても採点が辛くなってしまいます。

 これは第1回のレビューでも述べたのですが、大事なポイントなので、もう1度述べます。
 この作品最大の問題点は、やけに説明的なセリフ回しでしょう。複雑な設定を読者に伝えようとするあまり、どうしても意欲が空回りしてしまうんですね。
 マンガに限らず、ファンタジー系作品では現実世界とは全く別の世界が構築され、そこを舞台に話が展開してゆきます。そして、そのオリジナルの世界観を、如何に上手に説明するかに作者の技量が表われるものなのです。
 駒木が知り得る限りで、これに最も長けているのが小説家の宮部みゆきさんです。『ドリームバスター』で余すところ無く発揮された宮部さんのテクニックは一読に値すると思います。
 その点、『キメラ』の緒方ていさんは、経験不足のせいか、これがどうにも苦手なようです。見せ場での演出力は凄いものを持っているだけに、非常に残念でなりません。

 一応、今回で『キメラ』レビューは一時中断とさせて頂きます。次にレビューする時は、『キメラ』が大化けした時になると思います。評価は据え置きでB+

 ……と、今週は8作品のレビューを行いました。大変です、ハイ(苦笑)。
 来週も5〜6作品はレビューしなくちゃいけないようで、今から気が重たいのですが、頑張ります。
 それでは、今週のゼミを終わります。(来週に続く)

 


 

2月20日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評(2月第3週分)

 文化人類学ばっかりやってますが、演習もちゃんとやります。今週は忙しい時に、レビュー予定作品が多くて泣きそうですが(苦笑)

 まず、今週の動きを少々。
 1つ目。「週刊少年ジャンプ」の打ち切り作品は、なんと“大穴”『ライジングインパクト』でした。130話目ですが、終わり方からして“打ち切り”と言って良いでしょう。
 しかし、以前も短期打ち切りの後、山のような抗議によって、『BASTERD !!』以来の打ち切りからの復活を果たしたこの作品。またも打ち切り対象になるとは思っても見ませんでした。
 個人的には、『ライジング──』よりも打ち切るべき作品が、もっとたくさん有ったと思っているので、非常に惜しいのですが……。
 ……と、いうわけで、「打ち切りダービー」も不的中、と。こちらの方も絶不調です(苦笑)。どうにかなりませんかねぇ。

 2つ目。1月第4週分の演習でお知らせした内定の通り、小学館漫画賞受賞作が決定しました。
 少年マンガ部門の受賞作『犬夜叉』と受賞を争ったノミネート作は、『テニスの王子様』『クロマティ高校』だったようです。マガジン系は受賞しても辞退確実でしょうから、相手は『テニスの王子様』だったわけですね。ん〜、『テニスの──』も、確かに面白いんですが、どうもアテ馬にされたような気がしますな。少なくとも賞向けの作品じゃないでしょう。
 それにしても、秋田書店の作品が全く無視されてるのは、悲哀すら感じますね(苦笑)。まぁ、『エイケン』とかがノミネートされても、それはそれで問題でしょうが。

 さて、それではレギュラー企画のレビューへ。
 文中の7段階評価はこちらをどうぞ。

 ☆「週刊少年ジャンプ」2002年12号☆

 ◎新連載『いちご100%』作画:河下水希

 桂正和、高橋ゆたかと引き継がれていった、“話なんかどうでもエエから、とにかく絵の上手さでお色気担当”の3代目・河下水希さんの連載復帰作です。
 この“担当”の描いた作品は、ストーリーに期待してはいけないものなのですが、意外なことに(失礼!)、ちゃんとプロットが綿密に組まれているようで、好感が持てます。ストーリーを出し惜しみせず、1回目から話を進展させまくっているのも意欲を感じさせますね。
 そして何よりも、個性の出し難い日常劇なのに、主要キャラが性格面で完全に立っているのが素晴らしいです。河下さん、明らかに腕が上がってますね。引き合いに出して悪いですが、鈴木信也氏は彼女を見習うべきだと思いますね。奇抜な外見だけでキャラ分けしちゃあ、ストーリーテラーとしてはオシマイです。
 これからは一話完結型の、じれったいお色気ラブコメ劇が続いていくのでしょうか。しかし、この設定から『サラダデイズ』のようなシリアスラブストーリー路線へ向かっていくと、かなりの名作になるような予感がします。とにかく2話目が楽しみですね。
 あ、蛇足ですが、いちごパンツのドアップが、カラーページじゃなかったのは編集サイドの自粛なのでしょうか(笑)。
 おっとと、評価を忘れるところでした。評価は
B+第3回の再評価で大幅ランクアップも考えられます。要注目。

 ◎読み切り『ヒカルの碁・番外キャラ読切シリーズ・塔矢アキラ』作:ほったゆみ、画:小畑健

 ここで扱うのが失礼な程のクオリティを誇る、『ヒカルの碁』。いよいよ今週から読切シリーズがスタートです。
 あくまで番外編・サイドストーリーですから、驚くほどのお話ではなかったんですが、それでもただただ、「上手いなあ……」と思ってしまいます。まさに読み切りの教科書通りの展開、その上でキャラが既に立っているので、面白さに上積みがあるんですよね。いやはや、恐れ入りました。
 もう、詳しいレビューは必要ないと思います。美味い料理は『美味い』で充分なのと同様、この作品も『面白い』で充分だと思います。
 評価は番外編ということもあり、
A−。ちなみに、『ヒカルの碁』本編は、文句ナシのA評価作品です。

 余談ですが、ツボにハマって、大爆笑したのが、以下のやりとり。(予算不足でスキャナが買えないのが悔やまれます)

 「それにしても、さすがは「子ども名人戦」で優勝しただけのことはありますな」
 
「あんなもん、価値ないよ」

 わはは。一刀両断であります。ヤラレ役キャラにこんな事言われたら、中学生名人目指して、連日流血戦を展開している『365歩のユウキ!!!』はどうしたらいいんでしょうか。

 両作品の、そして作者のスケールの違いを見事に醸し出しているセリフ回しでありました。

 ◎読み切り『怪盗COLT』作画:村田雄介

 洗練された絵の上手さの割に、ちょっと見慣れない名前のこの村田さん、調べてみますとなかなかの苦労人でありました。
 まず1995年に、現在の「天下一漫画賞」の前身である「ホップ・ステップ賞」で入賞し、セレクション第17巻に収録されています。当時17歳。つまり、そこから起算するとキャリア6年強の23歳ということになりますね。
 ちなみに、同じ17巻に収録されている新人作家の中に、『幕張』の木多康昭氏がいます。木多氏の方が9歳も年上なのですが、同期です。まるで立川キウイみたいですね。
 ここでデビューを果たした村田さんは、98年に赤塚賞準入選&本誌掲載。ここから飛躍を目指したのですが、なかなか芽が出ず、これ以後は本誌掲載がありません。
 彼が売れなかった原因は、ギャグの割に絵が上手すぎるところにあったようです。当時のレビューサイトを閲覧しても、「彼の絵でストーリーマンガが読みたい」という感想がありました。

 そして今回の『怪盗COLT』。その期待通り、絵の上手さを活かした短編アクション・ストーリーでした。
 この作品でとにかく驚かされるのは、最近の少年マンガでは類を見ないスピード感。まるで『インディージョーンズ』シリーズを観ているかのような感覚にさせてくれました。
 ストーリーは単純で短いものですが、それもアクション映画の王道。問題ないでしょう。
 どうやら、6年間の伏臥は、彼を凄腕のマンガ家に成長させていたようです。
 とにかく、このスピード感と迫力の出し方は天才的です。「ジャンプ」も、とんでもない隠し球を持っていたものですねぇ。
 評価は、迷ったんですが
B+に近いA−14号から2号連続で、ストーリーキング入選作に彼が絵をつけた作品が発表されます。こちらも要チェックです。

☆「週刊少年サンデー」2002年12号☆

 短期集中連載第3回の『ダイキチの天下一商店』ですが、次号で最終回を迎えるため、レビューは来週に回します。

 ◎読み切り『笑福祈願ダルマイト・ガイ』作画:モリタイシ

 今週から始まった「サンデー特選GAGバトル7連弾」の第1回です。講義の題材が出来るのは嬉しいですが、最近、この手の読み切り連作・競作が多すぎます(汗)。
 作者のモリタイシさんは、駒木はチェックしてませんでしたが、先日まで『サンデースーパー』の方で『茂志田☆諸君!!』を連載していた、デビュー3年目のギャグ作家さんです。この作品で、本誌連載を賭けることになるのでしょうね。

 作品を読んで、まず思ったのが、「この人、ギャグマンガを分かってるな」ということ。最近のギャグ作家さんにしては珍しく、理詰めでギャグマンガを描く人ですね。こう言う人は、才能の枯渇が遅いので将来性があります。
 惜しむらくは、理詰めにした分だけギャグの爆発力が抑えられている事でしょうか。しかし、連載を前提にするならば、いつも全力投球よりも、八分の力を出し続けるような作品が求められるわけで、そういう意味ではうってつけの存在と言えるでしょう。
 それにしても、カワイイ女の子を描く事ができるのに、それを敢えて封印しているところに、何だか訳の分からない気概が感じられて良いですね。ギャグ描く人は、このくらい偏屈じゃないといけません。
 評価はとりあえず
B+。これが10週でも連続で維持できて、なおかつ1か月に1度以上、ホームラン級のギャグが飛ばせれば、A級のギャグ作家さんです。連載で観てみたい作家さんですね。

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品)『がきんちょ強』作画:松家幸治

 「世界漫画愛読者大賞」も4回目に突入です。
 今週掲載された『がきんちょ強』の作者・松家幸治さんは、8年前に赤塚賞準入選受賞を果たしながらも、活動に行き詰まって筆を折ったこともあるという苦労人……って、この企画に出てくる人は苦労人ばっかりですか。

 何だか、「漫画愛読者大賞」と言うより、「漫画家人生敗者復活戦」にした方が良いような気がして来ました。

 それはさておき、レビューなのですが。
 確かに活動に行き詰まるはずです。とにかく絵が古臭い。8年前どころか、20年前でも古臭く感じるであろう絵柄です。少なくとも少年マンガ向けではないですね。ある意味、「少年ジャンプ」デビューを目指さなくて正解だったかもしれません。
 そして作品全体の印象。編集部が用意した、この作品のキャッチフレーズは「現代版・火垂るの墓」なのですが、これは敢えて核心をズラしていますね。
 というのも、この作品、どう考えても『じゃりん子チエ』の世界観そのまんまなのです。パクりとは言いませんが、完璧にオマージュです。
 主人公は、チエとテツを足して2で割ったような性格の男子小学生。話の内容も、神社奉納の相撲大会があり、そこにアホみたいにデカい敵キャラが出場して……というもので、絶対どこかで観た事あるような話だったりします。
 ここまで露骨なマネをして、面白くなかったら怒り狂うところでしたが、幸か不幸か、これがなかなか面白いんです。面白さのツボまで『じゃりん子チエ』そっくりというのは、ちょっとどうにかして欲しいですが。

 面白い作品である以上、評価は高くなります。B+
 しかし、この作品、駒木は「コミックバンチ」じゃなくて、やっぱり「漫画アクション」か、もしくは「ビッグコミック」あたりで読みたい気がします。青年向けじゃなくて、大人向け。喩えは逆になりますが、『新潮』の新人賞にティーンズ向けラブコメが最終候補に残ったような違和感を感じてしまいますね。

 ……と、今週はこんなところでしょうか。
 次週は、「ジャンプ」で尾玉なみえさんの新連載に、『ヒカ碁』読み切りの2週目。「サンデー」では『ダイキチ』最終回とギャグ読み切り7連弾の2週目。他誌でも、「バンチ」の愛読者大賞に、「スーパージャンプ」の『キメラ』第3回と、盛りだくさん。今から頭が痛いです(苦笑)。

 それでは、今日の講義を終わります。

 


 

2月13日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(2月第2週分)

 今週も演習の時間がやってまいりました。
 今週は「週刊少年サンデー」にレビュー該当作がありませんが、その代わり、他誌から注目作を3つばかりピックアップして紹介します。

 まずは2001年12月期の「ジャンプ天下一漫画賞」の審査結果発表から。
 ひょっとしたら、「サンデーまんがカレッジ」も、今週辺り発表してたかも分かりませんが、故あって、今、手元に現物が無いため、引用できません。もし発表があれば次回にお知らせします。

第65回ジャンプ天下一漫画賞(01年12月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 審査員・編集部特別賞=2編
  ・『憑き人アレルギー』(秋元治賞)
   小月(19歳・大阪)
  ・『大空の少年コウ』(編集部特別賞)
   中西真智子(16歳・京都)
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『HAPPY BIRTHDAY TO 「U」』
   井原顕(22歳・奈良)
  ・『HEARTS』
   ミュウ・ミッチ(21歳・北海道)
  ・『MONO−GATARI』
   川田あや乃(23歳・千葉)
  ・『卑妖の国』
   森田政文(22歳・愛知)
  ・『best present』
   多田浩介(16歳・徳島)
  ・『米道中鍋栗毛』
   大民彰(21歳・埼玉)

 放っておいても新人候補生が集まる「ジャンプ」ですから、採点基準が厳しくなるのは当たり前なのですが、それにしても、ほとんどの月で“「特別賞」2編、他該当なし”みたいな気がします。
 受賞者に首都圏居住者が少ないところを見ると、持ち込みの有力新人は「手塚賞」「赤塚賞」へ回されてるんでしょうかね。「天下一──」は純粋に投稿オンリーの賞という事なのでしょうか。
 それにしても、年間20人以上「特別賞」以上の受賞者が出ていて、その中でデビューできるのは僅か。で、連載作家になるのはもっと少ないわけで……いやはや。
 まぁ、2流雑誌や成年向雑誌だと、もっと門戸は広いのかもしれませんが、そっちはそっちで同人誌経由で来た腕自慢が集まってますからねえ。
 何にせよ、非生産的行為で金を稼ぐというのは難しいものですよね。

 それでは、レギュラー企画の「新連載・読みきりレビュー」。文中の7段階評価はこちらを。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年11号☆

 ◎新連載『あっけら貫刃帖』作画:小林ゆき

 ジャンプ新連載シリーズの第1弾ですね。小林さんは、恐らくこれが初の週刊連載になるのではないかと思います。

 50ページという大ボリュームだったのですが、効果的に大ゴマを多用して、別の意味でページ数の多さを生かした仕上がりになっていて好感です。
 ちゃんと山場とオチもあり、主要キャラの紹介もさりげなく済ませ、なおかつ若干の謎を残して次回以降に繋げていますね。「新連載第1回」の基本をクリアしています。
 ただボンヤリ見てるだけだと気付かないかもしれませんが、主要キャラが主人公側2人と敵キャラ1人の3人だけなんですよね。これで立派に話を構成しているのも良いです。新人離れした力量を窺わせますね。
 さらに、女流作家らしいタッチの柔らかさも良い方向に出ていて得をしていますね。
 恐らく、このペースで行けば長期連載は間違いないところ。ただ、唯一惜しむらくは、何というか大物感が無い作品であるという事。ジャンプ連載陣の脇を固めることは出来るでしょうが、看板作品にはなり得ない雰囲気が漂ってしまってて、それだけが残念です。
 評価は文句無しの
B+。マンガ好きならチェックするべき作品だと思います。

《その他、今週の注目作》

 ◎新連載第2回『キメラ』(スーパージャンプ掲載/作画:緒方てい《第1回掲載時の評価:B+》

 期待の新人・緒方さんの『キメラ』2回目です。

 ………しかし、何と言いますか、「惜しい!」の一言です。本当に惜しい作品です。

 物凄く力量のある作家さんだという事は間違いありません。『キメラ』しか読んでいない方は贔屓目と思われるかもしれませんが、『キカイ仕掛け──』を読まれた方なら、必ず納得して頂けると思います。
 ただ、今の緒方さんは、せっかく作った見せ場を活かしきれていないだけなのです。
 第1回の主人公と父親(義父)との最後の会話のシーンもそうですし、第2回で村が全滅したシーンもそう。もっと効果的に、ダイナミックに表現できる方法があるのに、そこで躊躇して、小さくまとめて終わってしまっている気がしてなりません。(駒木ならどう演出するか、というのも頭にあるのですが、それはあまりに僭越なので止めておきます)デビュー作で出来ていた事が出来なくなっているというのは、一体どうした事でしょうか……。

 本来、駒木はここまで細かい所まで作家さんに要求しないのですが、“出来るのに出来ていない”というもどかしさが、キーボードに指を走らせてしまうのです。 
 緒方さんの公式ウェブサイトBBSによると、現在の「スーパージャンプ」の編集長が、緒方さんを非常に買っているようです。ただし、編集部サイドの意向を踏みにじりさえするのがアンケート結果という奴でして、これがどうなっているか、非常に心配です。
 今の『キメラ』は、振り子打法を封印されてスランプに陥っている新人時代の鈴木一朗(イチロー)のような作品です。もっとダイナミックに、もっと冒険をして、他の作家さんには真似できないような魅力的な作品を描いてもらいたいと、切に願っています。
 現時点での評価は
B+。先程の『あっけら貫刃帖』と同評価ですが、こちらは力を余しまくってのB+です。『あっけら──』の評価はこれより上がり難いでしょうが、『キメラ』はAまで突き抜ける余力があると信じています
 また再来週に第3回のレビューをやります。本当に期待してるんですから、頑張ってくださいよ、緒方さん!

 ◎新連載『ブラックジャックによろしく』(週刊『モーニング』掲載/作画:佐藤秀峰

 異色作を多く掲載し、そこから『ナニワ金融道』『ギャンブルレーサー』など数多くのヒット作・名作を産んできた「モーニング」ですが、ここに来て、また名作候補が生まれました。

 この作品の作家・佐藤秀峰さんは「ヤングサンデー」の新人マンガ賞出身。これまでも「週刊ヤングサンデー」連載の、海上保安庁の人命救助を描いた作品『海猿』が、原作付きとはいえスマッシュヒットとなった事もある、実力派の中堅作家さんです。97年春の「アフタヌーン四季賞」準入選受賞者にも「佐藤秀峰」さんがいますが、恐らく同一人物でしょう。
 現在は小学館と距離を置き、「近代麻雀ゴールド」で『示談交渉人M』を連載中です。(もっとも、週刊連載が始まったので、もうすぐ終了かもしれませんが)描き方は作品によって違いますが、命の儚さと尊さを主題にした作品を得意としているようです。

 さて、この『ブラックジャックによろしく』ですが、今回のテーマは題名でもお分かりのように、医者、それもインターンが主人公の物語です。
 せっかくの名作ですから、詳しいストーリーは実際に現物を読んでもらうとして、ここではポイントを紹介します。
 待遇・環境の面で非常に虐げられているインターン医の日常を大胆に描く一方で、正義を貫く者が必ずしも命を救えるとは限らないし、逆もまたありうるという、現実に潜む矛盾を大胆に突いている辺りが見事です。
 また、言い方は悪いですが、佐藤さんは死にかけの人間や破壊された人間を描くのが非常に上手い。これがこの作品の優れたストーリーにアクセントを加えています。恐らく、この人でなかったら、この作品は名作にはならなかったでしょう。非常に色々な意味で恵まれた作品といえます。
 評価は期待度もこめて
Aこの演習開始以来、初のA評価です。2002年を代表する名作になるかもしれません。自信を持ってお奨めします。是非、読んで下さい。

 ◎読み切り(世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品)『アラビアンナイト』(「週刊コミックバンチ」掲載/作画:長谷川哲也

 作者の長谷川氏は、マンガ家を目指して上京して13年前後。マンガ家さんのアシスタントなどを経て、マイナー誌で掲載・連載を経験している本職のマンガ家さんです。(詳しくはご本人のウェブサイトにて)
 小池一夫劇画村塾の出身ということで、どうしてもその影響が濃い作風ですね。先輩にあたる原哲夫氏が『蒼天の拳』を同誌で連載中なので、余計に印象がダブってしまうのですが。

 さて、作品の内容ですが。

 時代はイスラム帝国・ウマイヤ朝の末期。王朝の一族の中で生き残った2人の内の1人にして、後ウマイヤ朝・初代君主である、アブド・アッラフマーン(アブドゥル・ラフマーン)1世の逃避行を描いた歴史モノですね。
 駒木は高校の世界史教員ですから、この辺りも当然詳しいわけですが、まぁ「かなり渋い所を突いて来たなあ」というのが実感です。確かに、初期イスラム帝国史の中では抜群に面白いエピソードではあります
 ただ、マンガでは大人数で移動してますが、史実で逃避行をしたのはごく僅かな面々で、しかも早い段階で息子や弟らを失ってしまいます。アブド・アッラフマーンを含めて僅か3人で北アフリカ沿岸を横断し、イベリア半島に渡ったというのが実際の話です。そして、その行為に対する勇敢さを称えて、敵であるアッバース朝の2代カリフ・マンスールが「『クライシュ族のタカ』とは奴の事であろう」と側近に漏らしたというわけなのです。
 作品にアクセントを持たせるため、敢えてそこは史実を弄って、“大人数での大移動”としてしまったのでしょうが、やや安易過ぎた嫌いは否めませんね。弱者がいたぶられて、それを強い主人公が助ける、というパターンは、『北斗の拳』とまるっきり同じ。原哲夫氏が連載している雑誌に投稿する作品としては不味いような気がしますが、いかがなものでしょうか。

 しかし、作品全体のレヴェルとしては、なかなかのもの。即連載にしてもおかしくないレヴェルだとは言えます。先週までの2作品よりは、間違いなく番付は1枚上です。評価はBに近いB+としていいでしょう。
 ただ、この程度(失礼!)の作品を発掘するために大規模な賞を開催しているわけではないはずです。10年に1人とは言いませんが、最低でも1年に1人クラスの天才作家を発掘するための賞なのですから、もっともっと面白い作品が出てくる事を期待したいと思います。

 と、いうわけで今日の演習はここまで。来週からは「ヒカルの碁」番外編もスタートしますし、中身の濃い演習が出来そうです。
 また、引き続き「週刊少年マガジン」「週刊少年チャンピオン」など、主要マンガ誌の新連載作品と読み切り作品をレビューしていただける非常勤講師を募集中です。担当するマンガ誌は1誌でも構いませんので、是非ご応募ください。

 それでは、今日の講義を終わります。

 


 

2月6日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(2月第1週分)

 まずはお詫び。後夜祭の時に『キメラ』の第2回をレビューする、なんて書いてたんですが、よくよく考えたら「スーパージャンプ」は第2、4週発売だったのでした。学園祭のドタバタで頭が死んでたようです。申し訳ありません。

 さて、まずは情報から。
 まず1点目。来週から「週刊少年ジャンプ」は、3週連続で新連載が立ち上がります
 今回の新たに加わる連載陣は、掲載順に小林ゆき、河下水希、尾玉なみえの3氏。河下・小林の師弟コンビに、反骨マンガ家・“ジャンプの平沢勝栄”こと尾玉さん。一言で現すと異色トリオですねぇ。最近は新連載組の劣勢が続きますが、頑張ってもらいたいものです。
 ということで、その3作品と連載中の3作品が入れ替わる事になります。1つは、春まで一時休載の『ヒカルの碁』。あとは来週と再来週で2作品が最終回ということになりますね。
 どうやら1作品は『もののけ! にゃんタロー』でほぼ確定。あと1作品は『ソワカ』が有力というところでしょうかね。そうなると、去年の12月第5週分で行った『最終回ダービー』は○▲のタテ目で的中という事になるんですが……。
 しかし、『ヒカ碁』が春から再開ということは、次の新連載は4月スタート。来週スタートの連載は、最短で10回ということになりますね。いやはや、さすがジャンプシステム……。
 2点目。「週刊少年サンデー」の来週号(11号)で『トガリ』が最終回になるそうです。(情報元:最後通牒半分版さん)タイトロープな連載を1年以上続けてきましたが、ついに限界に。ちなみに駒木の評価はでした。

 では、レギュラー企画に。ジャンプで読み切り3本、サンデーで新連載1本と、数だけ見ればなかなかの豊漁ですが……?

 ※文中の7段階評価はこちらを。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年10号☆

 ◎読み切り『SWORD BREAKER』作画・梅澤春人

 「コミックバンチ」にインタビューが掲載され、すわ、移籍か? と思われた梅澤氏ですが、結局元の鞘に収まったようです。まぁ、「バンチ」の場合、新連載が立ち上がるペースが遅いので、順番を待っていたら『ブレーメン』の印税を使い果たしてしまいそうですが。まぁこちらは、喩えれば“ジャンプの鳩山邦夫”でしょうかね。

 さて、今回の作品のレビューへ。まぁ何と言うか、恐ろしいまでにコテコテの、剣と魔法のファンタジーです。
 ストーリーも、オーソドックスというかステレオタイプ。伝説の盾を持つ少年が魔力の宿ったその盾を駆使して、妖刀(神話時代に、伝説の盾と対立していた伝説の剣が分裂したもの)を持つ悪人をやっつけていくというストーリー。恐らく、新人がネームを持ち込んだら「コテコテ過ぎて話にならん」と言われそうな話です。
 で、肝心のその中身なんですが、“不思議と読める”作品になってます。
 梅澤氏の作品を以前から読んでいた人は分かると思うんですが、この人、とにかくマンガ(not絵)が下手なんですよね垢抜けてないというか、ドロ臭いというか。
 こんな人がコテコテのファンタジーを描いたら、どうしようもない駄作になってしまうと思ったのですが、ところが意外にもそうなってはいないんですね。ちゃんとお約束(必然性がある会話で世界観の説明をするetc…)が出来ているんですよ。もっとも、その設定の無茶さ加減とコテコテさ加減は苦笑するしかないですがね。
 このあたり、マンガの上手さや才能では梅澤氏より格段に上のはずの緒方ていさんが、『キメラ』の第1回でつまずいたのとは好対照ですよね。これが経験の差、という奴なのでしょうか。

 というわけで、失敗作にはなっていないので、評価はBとなります。梅澤氏の作品で駒木がB以上を付けるのは『酒天☆ドージ』(B+)以来。むう、評価つけてる自分が一番驚いてますよ。
 ただ、この後、こんな平板な話を1年も2年も連載されるとなると、さすがにゲップが出ますが。

 ◎読み切り『つなげたいよ』(作画:永峰休次郎

 久々、『HUNTER×HUNTER』の代原読み切りです。どうやらこれがジャンプデビューの新人作家さんみたいですね。
 しかしこの作品、15ページのギャグマンガなんですが、以前掲載された赤塚賞受賞作品よりも格段に面白いじゃないですか。ひょっとしたら次回の赤塚賞用に編集部が預かっていた作品かもしれませんが、こういう作品と新人さんこそ、賞金付きの賞をあげたいと思うんですが。
 具体的に面白いところを挙げるならば、前半のサイレント(セリフなし)部分でしょうかね。ここがテンポが良くてかなり良いです。その代わり、後半で少しダレたのが惜しいですが。
 問題は、連載になった時、このレヴェルを維持できるかどうかですね。もう少し作品を読ませてもらいたい作家さんです。評価は
B+

 ◎読み切り『抱きしめて! ベースボール・ラブ』(作画:セジマ金属

 こちらは『ピューと吹く! ジャガー』の代原。巻末コメントを読む限り、どうやら2人組の新人作家さんのようです。昨年49号において、やはり代原で同じ題名の作品を発表していますが、このゼミが始まる前でもあり、全然印象に残ってません(苦笑)。
 今回は(も?)6ページのショートギャグオムニバスなんですが、これが面白くない
 本気で面白くないギャグに、面白くない理由を求めるのは非常に困難なものですが、この作品はまさにそんな感じ。作者が2人がかりで勘違いしてるとしか思えないんですよねぇ。う〜む。
 こんなマンガに原稿料が6万円も出るのかと思うと、こうして毎日無給で講義してる自分が悲しくなります、ハイ。評価は
Cでいいでしょう。作者さんは、このままプロとしてやっていくのか、考え直した方が良いですね。

☆「週刊少年サンデー」2002年10号☆

 ◎新連載(短期集中)『ダイキチの天下一商店』作:若桑一人、画:武村勇治

 画担当の武村氏は、以前本誌で『マーベラス』を連載していた人ですね。『マーベラス』は、個人的には、まぁ好きな方の作品だったのですが、どうも人気が低迷していたようで、1年程で打ち切られてしまってます。今度は『風の伝承者』の若桑一人氏を原作に迎えての再挑戦となります。しかし、若桑氏も打ち切りが多い原作作家さんなんですよね。「サンデー」のアオリでは“最強タッグ”だなんて書かれてますが、実績を考えると“白星配給係”の方が近いかも。いやはや…。
 そして、今回の本誌復帰作は、恐怖のサンデーシステム・短期集中連載です。アンケートが良ければ後に本格連載、ダメなら月刊か増刊に左遷して半年で打ち切り。ジャンプシステムがギロチンなら、こちらは南米ギアナ流刑みたいなものでしょうか。

 では、前置きはこれくらいにして作品レヴューへ。
 大手チェーン店に乗っ取られそうな貧乏弁当屋を画期的なアイデアで立て直した旅の主人公、しかしその正体は、敵である大手チェーンの御曹司であった──という、お話(あ、ネタバレかな)なのですが、さすがに原作者付きだけあって、話作りの基本的要素はクリアしてます。見せ場も作れてますし、演出も難は無し。画の方も、キャリア8年目の中堅作家さんだけあって、問題なし。これならまぁ、良いんじゃないんでしょうか?

 ただ、キツい事を言わせてもらうと、つまらなくはないんだけど、とびきり面白くもないんですよね、これ。喩えるなら、町の大衆食堂でチャーハン食ってる感覚。分かります? 「不味くはないけど、美味くもないなあ。でも値段考えるとこんなもの?」なんて顔をちょっとしかめながら食べてる感じですよ。
 評価は
B。まぁ、連載陣の一角を占めるのは良いと思いますが、どうにも小粒な感じが否めません。
 

《その他、今週の注目作》

  ◎読み切り(世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品)『飛将の駒』(週刊コミックバンチ10号掲載/作画:大牙
 
 「世界漫画愛読者大賞」最終審査の第2週目です。
 作者の大牙氏は、現職こそ会社員ですが、かつて雑誌掲載も果たした事のある、元マンガ家の卵とのこと。先週の日高建男氏に続いて苦労人タイプの人ですね。
 絵の雰囲気は次原隆二氏ほんまりう氏を足して2で割ったような感じ。ひょっとしたら、両氏のアシスタントを経験していたのかもしれません。
 ストーリーは、将棋+ヤクザモノ。将棋を麻雀に変えると、「近代麻雀」3誌で頻繁に出てくる設定ですね。ヤクザの組長の孫が後を継がずに将棋指しになって…というもので、有り体に言えばよくある話です。将棋を麻雀に変えたら、即、「近代麻雀」でデビューできそうです(笑)。

 ただ、苦言を呈さなくてはならない点も。

 まず、キャラクター設定がかなり甘いんですね。典型的なバカな悪役だった将棋の対局相手が、突然賢いタイプのライバルに転じたり、常軌を逸するほど主人公を忌み嫌っていたはずの祖父(組長)が、特に理由も無く主人公を認めて死んでいったり……。
 ご都合主義というより、話が破綻してます。

 さらに、この作品はページ数が40ページを超えてるんですが、ちょっと間延びしてます。5ページは削れたかな、という感じがしますね。
 …と、まあこのへんを差し引いて、評価は
B−(Bに近いですが)としておきます。

 ……しかし、こんなレヴェルの作品があと8週続くんであれば、かなりイタい企画ですよね、このコンペテイションは。もっとこちらに衝撃を与えてくれるような天才作家がいないんでしょうかね? 期待と不安を抱きつつ、あと8週間見守っていきたいと思います。

 と、いったところで今週は終わりです。来週からちょっと中身が濃くなりますね。お楽しみに。

 


 

1月30日(水)演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第5週分)

 今週は「ジャンプ」「サンデー」ともに新連載も読み切りがありませんでした。「ジャンプ」は来週あたりから読み切りラッシュが始まりそうな感じがしますが、今週は結果的に“谷間”となってしまった感がありますね。

 しかし、「週刊少年チャンピオン」では高橋陽一氏の新連載が始まり、「週刊コミックバンチ」でも、10週連続の新人作家コンペテイションがでスタートしました。今週は、この2つの動きについてレビューをしておこうと思います。 

 また、現在、当講座では「週刊少年マガジン」、「週刊少年チャンピオン」など、主要マンガ雑誌の新連載・読み切りレビューを担当して頂ける非常勤講師を募集中です。謝礼等は出せませんが、協力して頂ける方はメールでご連絡を。

《その他、今週の注目作》

 ※文中の7段階評価はこちらを。

 ◎新連載『ハングリーハート』(週刊少年チャンピオン9号掲載/作画:高橋陽一

 先週の講義で「記号化とその再現」というお話をしましたが、この高橋陽一氏も、それが異様に下手なんですよね、正直言いますと。
 「365歩のユウキ!!!」の西条真二氏は、説明的なセリフを羅列する方法で下手さを誤魔化そうとして、無残に失敗しているわけですけど、高橋氏の場合は何でもかんでもオーバーに表現すれば良いと思ってるんですね。失笑されてるとも知らないで。
 主人公のライバルを設定するにしても、全員分の個性を編み出せないから、どうしても必殺技に頼ってしまう。主人公の設定ですら、内的心理とかを表現する技術が皆無なので、いつの間にか“友達をドライブかけて蹴り飛ばす主人公”とか、“ボクシングジム行く前に、医者に身長低すぎる事相談しろよ的な主人公”とか、そんなのになっちゃうわけですよね。
 で、今回も「んな歌、唄ってる暇あったらドブでもさらっとけ」とか、「女子サッカー部のコーチする前に、信号壊した事で、とりあえず自首しとけ」とか、「主人公の前に、作者の才能がハングリーだ」…などというツッコミが入ってしまう。で、主人公のキャラが立ったかというと、立ってない。とりあえず駒木は、“ジャイアンみたいな芸風のガキ”と判断しましたが、どうでしょうか。

 ……まぁ、ちょっと茶化し気味の評論になってしまいましたが、大きく的は外れていないと思います。
 結局のところ、高橋氏の最大の問題点は、
 「自分の才能を過信している」
 この一点
ですね。
 誰だろうが、絵描きだろうが文章書きだろうが、表現活動をする以上は、「これは面白いはずだ」と思って作品を発表するんですが、まぁ大抵の人は同時に、「でも果たして、この作品は面白いんだろうか?」と自問自答をする。その謙虚さというか疑心暗鬼的なものが作品にも反映されるんですね、普通は。
 ところが、ちょっとヒットをかっ飛ばしたマンガ家さんに多いんですが、「俺の描く作品は面白いに決まってる!」と、根拠の無い自信を抱いて突っ走る人が、まま見受けられるんですね。誰とは言いませんが、複数いらっしゃる。
 これで面白い作品だったら、それはそれで結構なんですが、そうじゃなかった時の悲惨さは目を覆うべき状態になります。さりげなく具体例を挙げますと、「キックボクサー」とか「サイレントナイト」とか「フォワード」とかですね。謙虚さが無い寒い芸人──西川のりおとか、ぜんじろう──が持つような雰囲気が漂ってしまうんです。
 で、この「ハングリーハート」も、おそらくそんな感じかな、と。もう一度3回目まで読んだ時点でレビューしますが、期待をするのは酷かと。
 いや、色んな意味で楽しめる作品なんですけどね、このレビューは真面目な作品レビューですので……。
 7段階評価は
B−。この作品、噂によるとアニメ化するらしいですが、それこそ『ホイッスル』をアニメ化したほうが、まだマシかと。ええ。

 ◎読み切り(世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品)『満腹ボクサー徳川。』(週刊コミックバンチ9号掲載/作画:日高建男
 
 「コミックバンチ」で、賞金総額1億円という前代未聞の大規模新人マンガ賞・「世界漫画愛読者大賞」の、最終審査シリーズが始まりました。
 最終候補者10人の読み切りを掲載してアンケートを採り、それでグランプリを決定すると言う方式のコンペテイションですが、この方式、「週刊少年ジャンプ」で2回やって大失敗してるんですよね…
 「ジャンプ」の時は、話作りが上手い人よりも、絵が小奇麗な新人が上位に食い込んでしまって、結局連載させた時に長続きしなかったんです。才能が図抜けていたかずはじめ氏だけは生き残りましたけど。
 今回は男性向青年誌での試みということで、「ジャンプ」の時とは少し状況が違いますが、果たしてどうなることやら。

 ……さて、今週はそのトップバッターとなる日高氏の作品ですが…。
 この日高氏、マンガ家を目指して上京してから修行すること15年という、前座12年の落語家・立川キウイ氏を髣髴とさせるような経歴の持ち主ですが、修行歴が長いだけあって、さすがに話作りや絵の基本は出来ています。問題点はありません。ただ……

 「ただ、それだけ」なんですよね。

 あまりにも教科書通り過ぎて、訴えてくるものが無いのです。15年間で苦い汁ばかり吸ってきたのでしょうか、思い切りが無いんですよね。本当に小さくまとまり過ぎてる気がします。
 例えば、この作品の敵役はプロレスラー上がりのボクサーなわけですが、そのプロレスラーを、どうして超巨漢の外国人レスラーや、無敵の格闘技世界チャンピオンなどの“大物”にしなかったのか。連載を見越して、設定を控えめにしたのかもしれませんが、いくらなんでも控えすぎのような気がします。

 ここまで苦労した人ですから、一度くらいは連載を持たせてあげたいな、とは思います。が、多額の賞金を上げて鳴り物入りでデビューさせるほどじゃないかな、というのが正直なところです。評価はB

 ………

 と、いうわけで今週のレビューは終わりです。

 そういえば、今週の「365歩のユウキ!!!」。最終目標が「中学生名人」という、マンガとしてはスケールの小さいところに落ち着いてしまって、ますますトホホです。
 マンガじゃ「中学生名人は、プロへの登竜門」なんて言われてますが、違います。登竜門は小学生名人です。中学生の時には奨励会か、その下部組織の研修会に入ってないと間に合いません。プロ試験一発勝負の囲碁とは違い、将棋は奨励会で6級(特例入会の年長者は3級や1級)から三段まで登りつめて、そこからリーグ戦を勝ち抜かないといけないので、とにかく時間がかかるんです。
 ……まったく、勉強不足にも程があるぞ。

 では、また来週。

 


 

1月23日(水)演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第4週分)

 さて、演習のお時間です。
 今週は、当講座注目の新連載、『キメラ』(作画:緒方てい)が始まりました。勿論、今日の講義でレビューをやります。お楽しみに。
 『キメラ』関連でお詫びです。先々週のこの時間で、「雑誌の発売は木曜」と書いてしまったのですが、発売日は水曜で、一部地域では火曜日には店頭に並んでいました。全くこちらの手違いでして、心からお詫び申し上げます。

 まず、今週は「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」の月例賞が発表になっていますので、受賞者を紹介しておきます。

第64回ジャンプ天下一漫画賞(01年11月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 審査員・編集部特別賞=2編
  ・『タイムカプセル』(鈴木央賞)
   山根大(23歳・京都)
  ・『ラジコンマン』(編集部特別賞)
   川口幸範(22歳・山口)
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『バウロア氷原騎士団』
   中島諭宇樹(22歳・千葉)
  ・『アニマルハート』
   星野友香(17歳・群馬)
  ・『ZERO』
   小林真依(19歳・大阪)
  ・『TIGER HEART』
   江幡喜之(24歳・東京)
  ・『心争心離学』
   青葉欧彦(17歳・北海道)
  ・『ボウリング☆スター』
   佐藤大輔(22歳・北海道)
  ・『召還士アリカ』
   沢田幸一(21歳・北海道) 

少年サンデーまんがカレッジ(01年11月期)

 入選=1編
  
・『ミリ吉四六』
   ささけん(26歳・東京)

 (選評)
 
絵・話ともに、凄まじいパワーを感じます。貴方のような人が、サンデーを変えていくのかもしれませんね。しかし、パワーだけでは週刊連載作家となるのは、難しいでしょう。これからはパワーだけでなく、絵・話を盛り上げる技術を学んでください。期待してます。

 佳作=2編
  ・『Doppel ganger』
   高枝景水(23歳・東京)
  ・『タイムダイバー』
   森尾正博(26歳・東京)
 努力賞=2編
  ・『僕の魔球』
   蒼志郎(25歳・神奈川)
  ・『マントがナイト』
   遠藤ガク(24歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=4編
  ・『二月刀』
   望田望(19歳・東京)
  ・『キリンがいるよ』
   ガンジー石原(26歳・愛知)
  ・『未確認物語』
   あづち涼(24歳・北海道)
  ・『人魚と金槌』
   國分真(24歳・兵庫)

 「まんがカレッジ」の方では入選作が出ました。しかし即戦力かというと、そうではないみたいですね。
 長期連載が多くて、なかなか新連載を立ち上げられないサンデーですから、なかなか週刊デビューは難しいのかもしれません。それにしても、「まんカレ」の受賞者は年齢が高いですね。そろそろツブしの利かない年齢で、ようやく担当が就いて修行開始というのは、ある意味罪作りのような気もしますが…。

 あと、これは各ニュース系ウェブサイトでも話題になっていましたが、昨年度の小学館漫画賞が内定になったようです。判明している受賞者・受賞作リストを掲載します。

◎少年部門
高橋留美子『犬夜叉』(「週刊少年サンデー」連載)

◎一般部門
原作:武論尊&作画:池上遼一『HEAT−灼熱−』「ビッグコミックスペリオール」連載)
特別賞:黒鉄ヒロシ『赤兵衛』「ビッグコミック」「ビッグコミックオリジナル」連載)

◎少女部門
吉田秋生『YASHA−夜叉−』(「別冊少女コミック」連載)
清水玲子『輝夜姫』「LaLa」連載)

◎児童部門
竜山さゆり『ぷくぷく天然かいらんばん』「ちゃお」連載)

 最近は「週刊少年ジャンプ」など、他社の雑誌から受賞する作品が多かったですが、今年は小学館色が強い印象がありますね。
 なお、少年部門で受賞の高橋留美子さんは、『うる星やつら』以来の受賞で、約20年ぶりなのだとか。歌手で言えばユーミンみたいな存在ですよね。マンガ家になるよりも、マンガ家でい続ける方が難しいとされるこの業界で、この息の長さ。いやはや、脱帽です。 

 それでは、レギュラー企画の「新連載・読みきりレビュー」。もうお馴染みですが、文中の7段階評価はこちらを。

☆「週刊少年サンデー」2002年8号☆

 ◎新連載第3回『365歩のユウキ!!!』作画・西条真二《第1回の評価B−

 読めば読むほど、「問題外」という単語が頭をチラつきます、この作品。
 瑣末なものを含めると、指摘すべき点は枚挙に暇が無いくらい集まるのですが、ここはポイントを絞ってお話しましょう。
 この作品の最大の問題点は、「記号化とその復元の失敗」です。
 「記号化(とその復元)」という言葉は、皆さんあまり馴染みが無いでしょうから簡単に説明します。これは、まず初めに、“話を進めるために都合が良かったり、読者に特定の反応を起こさせるための設定”を作り(記号化)、そこからキャラクターやエピソードの肉付け(復元)を行ってゆくことです。
 具体的な例を挙げると、『ドラえもん』がそうですね。

 ・頭が悪くて運動音痴でドジな主人公→のび太
 
・主人公をフォローする存在のロボット→ドラえもん
 
・ガキ大将、いじめっこ→ジャイアン
 
・ガキ大将の腰巾着→スネ夫
 
・マドンナ、優しくて可愛い理想的な女の子→しずか
 ・
主人公とすべて正反対の存在出来杉 

 ……と、まずキャラクターの演じる役割があって、その後に実際のキャラクターが生まれているわけです。さらにその後、「ジャイアンは歌が下手」とか、「しずかちゃんは風呂好き」とか、新たな設定が生まれていますが、それは連載が大分進んで、キャラクターがただの“記号の復元型”から脱皮してからの話になります。

 で、この時に気をつけなくてはいけないのは、その“記号”が説得力を持つように工夫しなくてはならないということです。
 もしも、ジャイアンがMr.オクレみたいな容姿だったら、どうでしょう? いくらセリフで「あ、乱暴者で、学校の先生も手を焼くガキ大将のジャイアンだ!」とか説明しても、誰も納得しないでしょう。しずかちゃんがジャイ子みたいな容姿でも同じことですね。
 …そして、「365歩のユウキ!!!」の致命的な欠陥はここにあるわけです。
 1月第2週のゼミで、森田みもりというキャラクターに「説得力が無い」と書きましたが、これは「教師も見て見ぬふりをする程の不良少女、将棋が非常に強い」という記号の復元に失敗しているということなのですね。小柄でチャーミングな容姿からは不良少女の印象はほぼゼロですし、将棋に関しても将棋部内で一番強い事は分かっていますが、それがどのくらいのランクになるのかは不明。この辺り、『ヒカルの碁』でプロや院生をモノサシに、登場キャラの棋力をさりげなく説明していたのと好対照ですよね。
 それに、何よりも一番質が悪いのは、作者の将棋に対する不理解・無知が“記号復元”の失敗を悪化させているという事です。
 何せこの作品、監修がいません。通常、囲碁・将棋・麻雀などテーブルゲーム系のマンガには、プロの監修役が就くのが通例なのですが、この作品ではそれが不在なのです。
 その結果、第2回では、ちょっと将棋を知っている人なら思わず絶句してしまうような盤面が誌面を飾るという、最悪の事態になってしまいました。今週の第3回も、7手詰の詰め将棋をひどく大袈裟に扱っていましたが、これなんか野球マンガで言えばショートゴロを捌いてファーストへ送球する程度の事です。それをあんなに大仰に描いても、白けてしまうだけです。「7手詰の詰め将棋を解いた。だから何?」と。
 とにかくこの作品は酷すぎます。何よりも、将棋マンガを描いてるくせに、将棋に対する愛情が全く見えてこないところが許し難いです。評価は1ランク下げて
。根本的なラインでのテコ入れを期待、ですね。

《その他、今週の注目作》

 ◎新連載『キメラ』(スーパージャンプ掲載/作画:緒方てい

 さぁ、期待の新作の登場です。新人賞で準入選を獲ったばかりの新人に、読み切りもナシでいきなり連載という破格の待遇。これは、デビュー作『キカイ仕掛けの小町』の評判の良さと、編集サイドの期待の表われなのでしょう。
 デビュー作『キカイ仕掛けの──』は、第二次世界大戦下の東南アジアが舞台でした。その内容は、看護婦アンドロイドと日本兵たちとの心温まる交流と、その直後にやって来る凄惨な悲劇を、絶妙なバランス感覚で描いたもの。藤子・F・不二雄先生のSF短編を読んだ後と同じようなインパクトと感銘を与えてくれた秀作でした。
 では、新連載作品『キメラ』、果たしてその出来はどうだったのでしょうか?

 ……と、『期待大!』な書き出しをしておいて、何だと思われるかもしれませんが、正直言って、かなりガッカリさせられてしまいました(汗)。
 『キメラ』は、なんとコテコテのファンタジー物でした。今時、少年誌でも流行らない伝奇系ファンタジーを、敢えて成年誌の「スーパージャンプ」に持ってきたわけなのですが、果たしてそれ自体が成功といえるかどうか…。この時点で大きなハンデを背負ってしまったと言ってもいいでしょう。
 また、ファンタジー物の難しいところは、作品固有の世界観と舞台設定を、いかに読者に噛んで含めて伝えてゆくかというところにあります。登場人物同士の会話で巧みに解説を試みたり、話の流れの中でさりげなく設定を小出しにしたりetc…。とにかく説明的にならないよう、独り善がりにならないような努力を惜しんではいけません。
 しかし、この『キメラ』では、かなり説明的なセリフが目立ち、余計に“コテコテのファンタジー”色が濃くなってしまいました。ハッキリ言って大失敗の範疇です。

 では、全く見所が無いかと言うと、そうでもありません。A級アクション映画を思わせる演出の技術などは、既に新人の領域を脱しており、こと演出力に関しては、既成の作家と比較しても相当上位にランクされるのではないかと思います。要は、演出に脚本が追い着いていないという事なのです。
 現時点での評価はB+。それもかなり
Bに近いB+です。とにかく、抜群の才能を持っている作家さんなので、それを持ち腐れにしないよう、頑張って頂きたいものです。
 この作品は、しばらく毎回レビューするつもりです。

 それでは、今週はこれで終わります。ではまた、来週の水曜日に。 

 


 

1月16日(水)演習(ゼミ)
現代マンガ時評(1月第3週分)

 今週も定例のゼミの時間です。
 しかし今週は、またも合併号の谷間でして、またも内容が薄くなってしまいそうです。申し訳ないですが、今日は短縮授業と言う事でお願いしますね。
 さて、今日は1作品だけのレギュラー企画です。(例によって、7段階評価表はこちらから)

 ☆「週刊少年サンデー」2002年6号☆

 ◎新連載第3回『焼きたて ! ! ジャぱん』(作画:橋口たかし《第1回掲載時の評価:B

 新連載第1回の時点で、この作品を酷評したんですが、駒木の周りの話を聞くと、意外と評判は悪くないようです。まぁ確かに、絵はかなりのレヴェルに達してますし、「バカだね〜、このマンガ!」…などと、気楽に読むだけならば毒にはならんかなあ、という感じもしないではないですね。
 しかし、真面目に読み解いていくと、やはり演出が酷すぎます、この作品。何だか、ハジケ具合が、ますます「ミスター味っ子」アニメ版に近付いていってますし、キャラクターがウンチク垂れる場面も、ただ単に説明的なセリフを連ねているだけで、見苦しいったらありゃしないです。
 さらに、主要キャラクター全員が変人で「ボケ」タイプなので、ツッコミ役不在というのも、この作品のイタさ加減を倍化させています。
 ここまでやられたら、少なくとも自分は楽しめません。正直言って、見るだけでも辛くなって来てます。
 恐らく、多くの人と評価にギャップが発生するでしょうから、敢えて評価は掲載しません。ただ、こんなのをマンガだと思われたら、マンガ界は不幸だなと思う今日この頃です。

 ………

 と、今日やらなくちゃいけない講義の内容はこれで終わってしまいました。
 ただ、これだけじゃあ、さすがにあんまりなので、少々雑談でも。

 マケラレンさんでも話題になってる通り、ついに「コミックバンチ」で不人気作品の打ち切りが本格化して来ましたね。
 既に韓国で発表済みだった『熱血紅湖』は別物として、純粋な意味での“打ち切り”第1号は、にわのまこと氏の『ターキージャンキー』と、池沢さとし氏の『痛快!! マイホーム』でした。
 前者の『ターキー…──」は、プロレスファンの駒木は好きな部類に入る作品だったのですが、他誌でも似たような設定の作品が連載されていて、ちょっとその煽りを食ったかな、と言う感じでしょうか。後者の『痛快!!──』は、正直言って遅すぎるくらいでしたけどね。
 しかし、気になるのが「第一部完」という、これまた政治家の公約並に信用度の低いレトリックが使われている事。よほど、“打ち切り”と言われる事にアレルギーがあるんでしょうかね。所謂“ジャンプシステム”を意識しすぎているような気がします。まぁ、毎週毎週ジャンプに当てつけるようなインタビューを載せているんですから無理もないですが。
 個人的な意見を言わせてもらいますと、ダメな作品は打ち切って当たり前だと思うんですよ。それこそ美少女系マンガ誌のように、連載2回目か3回目で、尻切れトンボのまま打ち切っても構わないと思います。
 問題になっている“打ち切り”というのは、アンケート結果が悪いという理由だけで、実は見どころのある作品が打ち切られてしまう事であって、駄作を打ち切る事とは全く違う話だと思うんですけどね。少なくとも、『痛快!!──』は、20話まで引っ張る理由は無かったと思いますよ。
 まぁそれにしたって、どこで駄作と佳作の判断を付けるかという問題が残っているんですけどね。いやはや、難しい問題です。

 ……と、本当に取り留めの無い雑談になってしまいましたが、今日はコレくらいにしておきましょう。来週からは雑誌も平常スケジュールに戻りますし、ソコソコ充実した講義ができるのでは、と思っています。では。 

 


 

1月9日(水)演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第2週分)

 こんばんは、皆さん。週1回のゼミの時間です。
 ……いきなりナンですが、先日、当研究室でこんなやりとりがありました。

駒木:なぁ、珠美ちゃん。
珠美:ハイ、何です博士?
駒木:今更な質問なんだけどさ、ジャンプの「BLACK CAT」ってさ、よくパクりパクりって言われるだろ? あれ、何のパクりか分かる?
珠美:え? 博士、ご存じなかったんですか?
駒木:…あ、冷たい目。いや、ご存知っていうか、いくら考えても分かんないんだよ。『烈火の炎』『幽☆遊☆白☆書』と似てるとか、『みどりのマキバオー』が途中まで『風のシルフィード』のSD版みたいだったとか、そんなのはすぐ判ったんだけど……。
珠美:(冷ややかな目で)そんな事じゃ、学生さんたちに失礼ですよ。っていうか、大恥です。
駒木:う……、分かったよ。悪かったから教えてくれ。聞くは一時の恥だと思って訊いてるんだ。
珠美:はぁ……(と溜息)。「カウボーイ・ビバップ」に決まってるじゃないですか。
駒木:!! ……ああ〜!(ポンと手を打つ)
珠美:ああ〜、じゃないですよ、まったくもう…。

 すいません。こんな奴が講義してました。
 まぁ、塾でも学校でもそうなんですが、授業や講義に一番必要なのはハッタリと危機回避能力だったりするのです。が、これはさすがに酷すぎました。反省です。こんな講師でよかったら、これからもよろしく。

 では気を取り直して、まずレギュラー企画の「新連載・読み切りレビュー」から……。(文中に登場する評価についてはこちらを参照)

☆「週刊少年ジャンプ」2002年6.7合併号☆

 ◎読み切り『トリコ』作画・島袋光年

  『世紀末リーダー伝たけし』の島袋光年が、連載の傍ら55ページの読み切りを描いていたとは驚きです。
 この作品、読むにつれて「ああ、この人はこういうのを描きたいんだな」というのが伝わってきます。
 『たけし』はギャグマンガなのですが、一時期シリアス・バイオレンス路線を模索した時期がありました。ただ、これを続けていく内に人気が低迷し、現在はシリアス路線の封印を余儀なくされていますが。
 “週刊作家が同時進行で描いた読み切りに名作無し”がマンガ界のセオリーなのですが、この作品は存外健闘しています。何よりも、随分とプロットが練られている感じがして好感が持てますね。55ページと長めの作品ですが、かなり絞り込んでの55ページ、というのが窺えて良い感じです。
 ただし、致命的な欠陥が1つ。
 この作品、色々なモンスターっぽい敵が出てくるのですが、一番強いはずの敵が全然強そうに見えません。これは受ける印象に個人差があるでしょうが、これが駒木個人だけでなく多くの人が抱く印象ならば、島袋氏のセンスを疑わなくてはならないでしょう。
 評価は
B+に近いB。ギャグの才能がまだ枯渇してないんですから、もう少しギャグマンガを続けて欲しいのですが……。 

☆「週刊少年サンデー」2002年6号☆

 ◎新連載『365歩のユウキ!』(作画:西条真二

 前作『大棟梁』では、「人気低迷で月刊に左遷→そこでもアッサリ打ち切り」という、サンデーの裏黄金パターンを喫した西条真二氏の新作となりました。短期集中連載じゃなくて本連載、しかも「歩武の駒」で成功できなかった将棋少年マンガに再び挑む、という、編集部サイドがかなり冒険して放った新連載ですね。まぁ、3つの新連載の内、1つくらいダメモトでいいか、と思ってるのかもしれませんが。
 で、内容なのですが、「小物の悪役が、説明的で内容の薄い長セリフを延々と喋った挙句に自滅する」という“西条節”が今回も炸裂しています。言い方を変えれば進歩が無い、ということでもありますが。
 さらに、“将棋部なのに不良の集まり、武闘集団”という設定も「何だかな」と。特に将棋部の部長が女の子なんですが、これがどこをどう見ても不良じゃない。どう見ても「男子部員にヤられまくってる」エロマンガの女の子な訳ですよ。いくら「中でも俺らと同級生(タメ)ながら部長をやってる森田みもりは教師も怖がって手出しができない、チャキチャキの江戸っ子」などと言われても、肝心の画の方に説得力が皆無では……。いや、よく読めばセリフも説得力皆無ですな。
 そういえば、前作の主人公は「リーゼント、染髪のマザコン大工見習」でしたな。個性的なキャラを描けばいいってもんじゃありません。
 第一、絵でほとんどを表現するはずのマンガ家が、陳腐なセリフに頼るようになったらオシマイですよ。
 ……というわけで評価は
B−。本当はC付けたいくらいですが、このおバカさ加減が好きな人もいるでしょうから。

 ◎新連載第3回『旋風(かぜ)の橘』(作画:猪熊しのぶ《第1回掲載時の評価:B

 「大ボケのくせに、何故か主人公が東大生並みの知能」、「道場が無くて、とんでもないところに連れて来られて、以下次号」など、相変わらずステレオタイプなおバカさん系の臭いも漂うのですが、それでも徐々に軌道修正を図っているような気がします。さすがに第1話のノリで週刊連載は限界があるでしょう。
 こういうテコ入れは歓迎なんですよ。あの『DEAR BOYS』(「月刊少年マガジン」連載の名作バスケマンガ。作画:八神ひろき)も始めは凄かったですからねえ。
 主人公はのべつまくなしにスカートめくりしてるわ、他の4人は部員不足だってんで、部室で麻雀してるわ、しかも部室が「スクールウォーズ」の1年目状態だわで、「どうすんの、コレ?」と思ってたんです。それがしばらくすると、結構極端に設定変えて成功してしまいました。成功してしまえば、「後から振り返ると笑い話だね」で済みますので、この辺はやったもん勝ち。
 ただし、この作品がどこまで良くなるかは、まだこれから次第。サンデーなら10数回過ぎてから面白くなるのもアリなんで、気長に追いかけていこうかな、という気になってます。評価は
のままですが、期待度は上昇という事で。

《その他、今週の注目作》

  ◎新連載『報復のムフロン』(週刊コミックバンチ掲載/原作:上之二郎 漫画:小野洋一郎

 ご時世に合わせての危機管理モノですね。主人公がお笑い芸人というところもユニークなんですが、それだけじゃなくて、多少クサいところはあるものの、しっかり話が練られているのが良いです。
 この作品を見てると、コミックバンチが目指す方向がなんとなく分かってきました。既存の作家の焼き直し作品で注目を集めて時間を稼ぐ間に、有能な新人を発掘してオリジナリティに富んだ作品を続々立ち上げていこう、ということなんでしょうね。どうも個人的には焼き直しばっかりで勝負しているように見えたバンチが好きになれなかったんですが、それならそれで積極的に応援してみたい気になります。
 評価は
B+。また評価を上げる時があれば紹介する事になるでしょう。

 以上で今週の時評は終わりなのですが、最後に受講生の皆さんへお知らせを。
 再来週の木曜日(24日)発売の「スーパージャンプ」で、緒方てい氏の初連載『キメラ』が始まります。一昨年末に発表したデビュー作『キカイじかけの小町』が大変素晴らしく、それ以来注目していた作家さんの作品ですので、皆さんも是非読んでみて下さい。
 ちなみに、その『キカイじかけの小町』ですが、評価をつけるなら
をつけます。読んだ瞬間、「これは藤子・F・不二雄先生の再来か?」と思ったものでした。あれから1年余。どんな作家さんに成長されているか、僕自身も楽しみです。

 それでは今日はここまで。明日は「フードバトルクラブ」企画の最終回です。最後までご愛顧を。

 


 

1月3日(木)演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第1週分)

 さて、一日遅れですが演習のお時間です。
 しかし、今週は雑誌の発売がほとんどなく、講義の材料が非常に少なくて困ってしまいます。頼みの綱の「週刊少年ジャンプ4・5合併号」も新連載・読み切り共に無く、書く材料が見当たりません(汗)。よりによって、こんな時に限って「HUNTER×HUNTER」が2週連続掲載ですよ、まったく…
 仕方ありませんので、レギュラー企画は休止。今日はその他の雑誌に掲載された注目作品をいくつか紹介しましょう。

《今週の注目作》

 ◎不定期連載(シリーズ読み切り)『不思議な少年』(週刊モーニング4・5合併号掲載/作画・山下和美

 個性の強い作品が多い「モーニング」の中でも、一際個性的で繊細な作画が印象的なのが山下和美さんの作品です。今回は古代ギリシアの哲学者・ソクラテスを題材にしたエピソードで、高校の世界史や倫理の授業でお馴染みの内容が色々出てきます。しかし、それでいて全然難解だったり冗長だったりしないのが、この作品の凄いところ。普通、「無知の知」なんて、なかなかマンガの中では咀嚼して表現できないんですが、それをアッサリとこなしてしまってる辺り、山下さんの才能の凄さと言うか、何と言うか。
 あ、個人的にはソクラテスと悪妻クサンチッペのやりとりが、いかにも人間らしくてホロリと来ましたね。
 まだコンビニや売店で並んでいると思いますので、是非手に取って、実際に読むことをお奨めします。評価
A−です。

 ◎新連載第3回『BANKERS』(週刊ヤングマガジン連載/作画・森遊作

 かなり珍しい、ギャンブルの“胴元”を主に扱った作品です。
 何故、“胴元”モノの作品が少ないかと言うと、そもそもギャンブル系マンガと言うのは、主人公が絶対的不利な状況に置かれるが、それを克服して見事報われる……というものだからです。胴元の立場に立って、そのまま安全パイで勝ち続ける主人公のマンガなんて、誰も読みたい思わない、というわけです。
 しかし、この作品は、その致命的ともいえる設定上の弱点を、カジノ荒らしを出現させる事でどうにか克服しました。それだけでも充分な評価を与えてあげねば、などと考えてしまいます。
 ただ、この作品の掲載誌には、あの福本伸行の『カイジ』が控えています。これは苦しい。果たして埋没することなく、長期連載を勝ち取れるのでしょうか? 興味は尽きないところです。評価は期待料込みでB+といったところですか。これからも注目です。

 ……と、今日は短いですが、諸事情ありまして、これで講義を終わりたいと思います。また来週、今度は大きなボリュームの講義をやりますので、どうぞお楽しみに。では、今日の講義はここまで。

 


 

12月26日(水)演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(12月第5週分)

 さぁ、今週もゼミの時間となりました。今週は先週と逆で、「週刊少年ジャンプ」がお休み(翌週分が今週金曜に繰り上げ発売)のため、「週刊少年サンデー」を対象としたゼミとなります。
 しかし、それだけでは余りにも内容が乏しいので、先週できなかった「週刊少年ジャンプ」の次回打ち切り予想を実施したいと思います。

 ……

☆「週刊少年サンデー」2002年新年4.5合併号☆

 ◎新連載「焼きたて!! ジャぱん」作画・橋口たかし

 形式上は新連載ですが、今年に短期集中連載されていた同名作品の再開です。
 「週刊少年ジャンプ」では、中堅作家の新連載を立ち上げる際には、まず同じ設定の読み切り作品を描かせ、そのアンケート結果を検討した上で話を進めることがありますよね。その「サンデー」バージョンが、この“短期集中連載→アンケート次第で連載再開”なのです。アンケート内容が良ければ、晴れて週刊連載ですが、もしも逆の結果となった場合は月刊サンデーに“左遷”され、それも半年ほどで打ち切られる、という悲劇が待っています。「ジャンプ」の10週打ち切りシステムばかりが目立っていますが、エゲつないシステムは「サンデー」にもあるのです。
 と、いうわけで、この作品は“勝ち組”になるわけなのですが、個人的な意見を言わせてもらうと、まさかこの作品が“勝ち組”に入るとは思いませんでした。自分の見識の無さを深く恥じる次第ですが、それでも言いたいことはあります。
 この作品、ハッキリ言ってしまうと、「ミスター味っ子」のアニメ版を、題材をパンに特化して再現しただけなのです。
 演出過多、分かり易すぎる予定調和の展開。確かに「ミスター味っ子」連載&放映当時には、その手の作品が受け入れられる余地があったと思うのですが、この21世紀ではどんなものでしょうか? ……まぁ、短期集中連載のアンケートが良かったわけですから、受け入れられていると判断できるのですが、それにしても……(汗)。確かに絵は綺麗ですし、とびきりつまらないわけではないのですが……。
 そういえば、今週「マガジン」で始まった作品は、「北斗の拳」の世界観で「西遊記」をやるような設定でした。そういうのが流行りなんでしょうか? 新人マンガ賞ではオリジナリティを求めているはずの編集サイドが、実際に連載を起こす段階で、既存の作品の焼き直しをしていたんでは……(汗)。
 7段階評価は、とりあえず私情を抜いて
Bに。それにしても、先週開始の『旋風の橘』もそうですが、イタい主人公のマンガが多いですねえ、「サンデー」って(苦笑)。

 ……

 新連載&読み切りレビューは以上。次に「週刊少年ジャンプ」の次回打ち切り予想へ移ります。
 さて、この予想なんですが、これは、あくまでも駒木ハヤト個人の予想です。考え方は人それぞれであることは当たり前ですので、ご自分の好きな作品が打ち切り予想だったとしても、気を悪くしないように。

「週刊少年ジャンプ」次回打ち切りダービー
(“枠順”は、新年第3号掲載順)

作品名 作者
  ROOKIES 森田まさのり
  遊☆戯☆王 高橋和希
  NARUTO 岸本斉史
  ONE PIECE 尾田栄一郎
  シャーマンキング 武井宏之
  テニスの王子様 許斐剛
もののけ!ニャンタロー 小栗かずまた
  BLEACH 久保帯人
  ヒカルの碁 ほったゆみ/小畑健
ソワカ 東直輝
サクラテツ対話篇 藤崎竜
  Mr.FULLSWING 鈴木信也
  ライジングインパクト 鈴木央
  BLACK CAT 矢吹健太朗
× ボーボボボ・ボーボボ 澤井啓夫
HUNTER×HUNTER 冨樫義博
  ストーンオーシャン 荒木飛呂彦
  こちら葛飾区亀有公園前派出所 秋本治
世紀末リーダー伝たけし! 島袋光年
  ピューと吹く!ジャガー うすた京介
  ホイッスル! 樋口大輔

 ★駒木ハヤトの見解★

 次回打ち切り開始は、恐らく2〜3ヵ月後。打ち切り該当作は、あと8〜10回程度の“命”となる。
 現連載陣のストーリーマンガ部門は、話に区切りがつくまでに時間がかかりそうな作品が多い。また、人気下位の作品には、打ち切り話を持ち出し難いベテラン作家がズラリと並んでいるため、どうやら“受難”は新連載作品とギャグマンガ部門に絞られそうだ。
 本命は、現連載陣から『世紀末リーダー伝たけし!』とした。最近人気低迷が顕著だし、内容のテコ入れが頻繁に起こり始めている。残念ながら、そろそろ連載終了のタイミングが見えてきた。
 新連載の3作品も有力候補。それぞれの作品に問題点がある上、現連載陣の層が厚く、前回の打ち切り戦線同様、新連載作品が全滅、ということも考えられる。
 伏兵としては、ここ数週間でアンケート順位がガタンと落ちた『ボーボボボ・ボーボボ』や、最早掲載されている方が珍しい『HUNTER×HUNTER』など。

 ……

 と、いうわけで、賛否両論ありそうな今日のゼミでしたが、いかがでしょうか? 感想・異論などありましたら、BBSやメールなどでよろしくお願いします。
 それでは、今日の講義を終わります。

 


 

12月19日(水)演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(12月第4週分)

 さて、水曜日は演習(ゼミ)・「現代マンガ時評」。
 いよいよ年の瀬ということもあって、合併号期間が始まりました。今週は「週刊少年サンデー」など数誌がお休みですので、「週刊少年ジャンプ」関連を中心としたゼミになります。

 それでは、まずレビューの前に、「週刊少年ジャンプ」の月例新人賞・「天下一漫画賞(01年10月期)」の受賞者、受賞作を紹介しておきましょう。実は先週号で発表されていたのですが、見落としてしまっていたのでした。申し訳ありません。

第63回天下一漫画賞(01年10月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 審査員・編集部特別賞=2編

  ・『ハンコ的英雄リンシャン』(小畑健賞)
   板倉雄一(19歳・神奈川)
  ・『デビルローン』(編集部特別賞)
   伊藤寿規(23歳・東京)

 最終候補(選外佳作)=6編
  ・『テンシとショウネン』
   天野洋一(20歳・岡山)
  ・『REAL HERO』
   原作:金沢陽嗣(24歳・神奈川)
   作画:内田朝陽(24歳・東京)
  ・『おじいさんの機械』
   亀野善寛(27歳・愛知)
  ・『雪ざんげ』
   根津愁(21歳・神奈川)
  ・『B−BOY』
   小田浩司(23歳・神奈川)
  ・『貫く者(スルー)』
   田川真理(18歳・東京)

 さて、それではレギュラー企画・『新連載・読み切りレビュー』です。レビューの最後に出てくる評価についてはこちらを参照のこと。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年新年3号☆

 ◎新連載第3回『サクラテツ対話篇』作画・藤崎竜《第1回掲載時の評価:B

 どうやら、一話完結型のドタバタギャグマンガ、というのが現在のスタイルみたいですね。『封神演義』からストーリー部分を抜いたような雰囲気、と言えば良いかと思います。
 読んでいて不快感はありません。爆笑も無い代わりに、つまらないと感じる事も有りません。なので、“アクは強いのに影が薄い”という、珍しい作品になってしまいました。
 藤崎竜氏とその作品群は、一般ウケはしない代わりに、女性同人誌サークルを中心としたコアな固定ファン層を抱えています。しかし、この『サクラテツ対話篇』が、これまでと同じように固定ファン層へ受け入れられるかというと、やや疑問です。近いうちにテコ入れをして、『ジャンプ』内での存在感を増す努力をしてゆかないと、意外と短命な連載になるかもしれません。
 最後に評価ですが、第1回の時と同じく
B。良くも悪くも平均点、といった感じでしょうか。

 ◎読み切り『まげちょん』作画:浅上えっそ

 先週の『SAVE THE WORLD』に続いて、赤塚賞佳作入賞作の掲載です。例によって代原なのですが、いつもの『HUNTER×HUNTER』休載対応ではなく、なんと“落ち”たのは『ホイッスル!』でした。珍しい事もあるものですが、これが連載終了への伏線にならないようにしていただきたいものです。
 さて、この『まげちょん』ですが、同じく赤塚賞佳作に選ばれた『SAVE THE WORLD』よりはレヴェルが高いと思います。が、ギャグマンガにしては、肝心の笑いの要素がイマイチであり、インパクト不足は否めません。
 それは赤塚賞の審査をされたマンガ家さんたちにも共通の思いだったらしく、審査結果発表の記事に掲載された講評はこんな感じでした。


 テンポがよい。テーマを短く、もっと絞り込んで(赤塚不二夫氏)


 キャラをちゃんと作れる人だと思う(小栗かずまた氏)


絵はキレイで上手いかも。でも、全体の空気が妙に古い(うすた京介氏)

 ……誰一人「面白い」とか「笑えた」とか言ってないんですよね。マンガとしては良く出来ているが、ギャグマンガとしてはどうか、といったところなのでしょうか。
 この作品を読んだ直後、「ピューと吹くジャガー」を読んだのですが、やはり歴然たる才能の差が有るな、と感じてしまいましたね。
 評価は
Bに近いB−というところでしょうか。作者の浅上さんには精進してもらいたいですね。

 ………
 今日はちょっと短いですが、これで講義を終わります。本当は、「ジャンプ」の次回打ち切り作を予測・検討してみたかったのですが、次回以降に延期、ということでご了承ください。
 さて明日は、競馬の香港国際ヴァーズに勝ち、デビュー50戦目の引退レースで晴れてG1馬となった、ステイゴールド号に関しての特別企画です。何と、いつもの講義に代わって、助手の栗藤珠美ちゃんによるショート・ストーリーをお送りします。お楽しみに。(本日の講義終わり)

 


 

12月12日(水)演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(12月第3週分)

 さて、毎週水曜日は「現代マンガ時評」
 週刊マンガ誌(少年ジャンプ・サンデー中心)の新連載作品と読み切り作品のレビューを行い、マンガ界のこれからを展望すると言う演習(ゼミ)です。
 ところで、先週に第1回の「現代マンガ時評」を行ったのですが、後からレジュメを読み返してみると、突然口調が「だ、である」口調になっていて、かなり偉そうな感じになってしまいました。ちょっとマンガ家さんに失礼だったかと反省しております。今回からは口調を改めますので、ご理解ください。

 では、今回のゼミを始めます。
 まず、今週分のレビューに移る前に、先週・今週で発表された新人賞(少年ジャンプ・サンデー系)の受賞者・受賞作を掲載しておきましょう。備忘録的なものですが、後々にこの「演習」でレビューする際に役に立つと思われますので。

第62回手塚賞&第55回赤塚賞(01年後期)

 ☆手塚賞☆(応募総数415編)
 入選=該当作なし
 準入選=2編
  ・『戦斧王伝説』(評点28/40)
   イワタヒロノブ(24歳・東京)
  ・『MONONOFU─モノノフ─』(評点25/40)
   ゆきと(22歳・高知)
 佳作=3編
 
 ・『ゼアミ』(評点25/40)
   小涼あぐり(20歳・兵庫)
  ・『うそごと』(評点24/40)
   結城ゆうき(22歳・東京)
  ・『JET SMASH─ジェットスマッシュ─』(評点22/40)
   守屋一宏(22歳・東京)
 最終候補=4編
  ・『空の下のココロのカタチ』(評点23/40)
   長谷川和志(25歳・兵庫)
  ・『WANNA BE A BE BOY』(評点18/40)
   伊藤史織(18歳・大阪)
  ・『想気獣』(評点18/40)
   中西真智子(16歳・京都)
  ・『ZERO』(評点16/40)
   山田大樹(17歳・埼玉)

 ☆赤塚賞☆(応募総数224編)
 入選=該当作なし
 準入選=該当作なし
 佳作=3編

  ・『まげちょん』(評点19/35)
   浅上えっそ(24歳・東京)
  ・『抽選内閣』(評点19/35)
   田代剛大(17歳・栃木)
  ・『SAVE THE WORLD』(評点18.5/35)
   堀たくみ(19歳・埼玉)
 最終候補=7編
  ・『魔術紳士(マジックジェントルマン)健三郎」(評点17/35)
   中根知之(23歳・愛知)
  ・『パーフェクトデブ』(評点16.5/35)
   佐藤治(22歳・埼玉)
  ・『キンダカートンポップ』(評点16/35)
   新妻克朗(23歳・東京)
  ・『女子高生はエキスパート』(評点16/35)
   高沢圭祐(26歳・群馬)
  ・『マネーイズマネー』(評点15/35)
   坂崎允柄(20歳・栃木)
  ・『Power BOY』(評点14/35)
   川村憲二(23歳・神奈川)
  ・『笑術バキューン!!』(評点14/35)
   大宅教史(24歳・北海道)

少年サンデーまんがカレッジ(01年9・10月期)

 入選=該当作なし
 佳作=4編

  ・『はりぼて』
   落合博和(26歳・栃木)
  ・『Body Complex』
   なるみなる(26歳・千葉)
  ・『どろんPA!』
   えんとっくん(25歳・埼玉)
  ・『ドリームらんちきゾーン』
   池田結香(25歳・東京)
 努力賞=3編
  ・『けろにょろ』
   深田マシュー(25歳・埼玉)
  ・『スルタンの弟』
   中道裕大(22歳・広島)
  ・『金好きこんちゃん』
   永沢明(24歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『魔女戦記』
   小川正人(22歳・福島)

 ……赤塚賞の審査委員に、4連載3打ち切り岡野剛が入っているのは、個人的には納得行かないのですが、まぁ人材難ということで仕方ないんでしょうか……。

 では、レギュラー企画の「新連載・読みきりレビュー」に移ります。文中の7段階評価はこちらを。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年新年2号☆

 ◎新連載第3回『ソワカ』作画・東直輝

 このレビューを書くために、改めて第1回から読み直してみたんですが、この第3回の時点で、既に随分と絵のクオリティが落ちているのが非常に気になってしまいます。このあたりの回数だと、普通はまだ連載前に書き溜めしている原稿のはずなので、こんなところでクオリティが下がっているのは大問題です。そう言えば、作者あとがきで「時間を下さい、お願いします」と懇願していましたね。何かトラブルがあったのかもしれません。
 しかし、何があろうと一定の仕事をするのがプロのマンガ家であるはずなので、評価は厳正に下します。
 まず、ストーリーがかなり間延びしている印象があります。最初の2回分を圧縮して第1回にするくらいでちょうど良かったのではないかと。『ONE PIECE』が最高に面白かった初期の、展開が恐ろしいまでにハイテンポで進む部分と実に好対照なので、単行本をお持ちの方は見比べてみて下さい。
 あと、やはり絵のクオリティ。アクションシーンが多いのに、動きに躍動感が無いのには閉口させられます。『忍空』『幕張』と似たような印象を受けたのですが、どうでしょうか? 例に挙げた2作品は、内容が良かったので絵のクオリティは目をつぶれましたが、こちらの方は展開が間延びしている上でのことですから、やっぱり読んでいて辛くなってしまいますね。
 と、いうところで7段階評価は
B−。今のところ、次回打ち切り候補最右翼、と申し上げておきましょう。しかし、こんな壮大な設定を打ち上げておいて……。

 ◎読み切り『SAVE THE WORLD』作画・堀たくみ

 例によって、『HUNTER×HUNTER』の代原です。今回はなんと、今日の冒頭で紹介した、赤塚賞の佳作受賞作が掲載されました。異例の本誌デビューです。
 しかし、内容は……(汗)。
 本当ならノーコメントで済ませたい気分なのですが、そうもいきませんから書きますが、「全てにおいて下手」としか言いようがありませんね。この作品で赤塚賞佳作なら、僕の友人S君が小学生時代に描いたマンガで準入選が獲れます。
 とにかく、シュールでもなんでも良いので、1回くらいは笑わせて下さい。評価は当然最低ランクの
C

☆「週刊少年サンデー」2002年新年2.3合併号☆

 ◎新連載『旋風(かぜ)の橘』作画・猪熊しのぶ

 スポーツ物少年マンガの主人公は、大きく分けて2つのパターンがありまして、
 「劣等生だが、人一倍努力を重ねるうちに、才能を開花させてゆく主人公。→物語の序盤では負けっぱなしだが、中盤辺りからメキメキ力をつけ始め、終盤には無敵状態に。
 ……と、いうパターンと、
 「物凄い才能を持ってはいるが、世間とズレていたりするために、周囲と色々な問題を起こしてしまう主人公。→物語の序盤から、エリートタイプのライバルを翻弄しまくり、たいした挫折も無く快進撃を続けてフィニッシュ
 ……と、いうパターンがあります。少年ジャンプでは前者のパターンが多く、サンデーでは後者のパターンが目に付くのですが、打ち切りまでの回数が短いジャンプで、カタルシスを得るまでに時間のかかる前者のパターンが多いのは興味深い話と言えますね。
 ちなみに、マガジンはこの中間と言えるのですが、マガジンには「ご都合主義」という悪しき伝統があり、“努力もせず弱いくせに、何故か勝ってしまう”という主人公が多かったりもします。
 さて、閑話休題。この作品は典型的な後者のパターン、しかもコメディタッチの作品です。しかし、実はこのタイプの作品、今のサンデーでは飽和気味なのです。特に『ファンタジスタ』『DAN DOH!! Xi』の2作品と傾向がダブっていて、読み手を非常に疲れさせてしまいます。しかも現時点では、様々な面で先発の2作品を上回るまでには至っておらず、これはかなりの苦戦を強いられると言わざるを得ません。決して悪い作品ではないのですが、連載開始の間が悪すぎたかな、という気がします。7段階評価は
B。平均点です。

 ◎読み切り『川口能活物語』作画・草葉道輝

 噂をすれば影ではありませんが(笑)、『ファンタジスタ』の草葉道輝氏によるノンフィクション・コミックです。
 しかしこの作品、「スポーツノンフィクションの『○○××物語』に名作なし」「週刊連載作家が同時進行で描いた読み切りに名作なし」のジンクスを地で行くような、典型的な凡作になってしまいました。これは作者の草葉氏が悪いのではなく、企画が悪いのです。仕方ありません。連載、頑張ってください(苦笑)。評価は、読み飛ばすのに苦ではないので
Bということで。

《その他、今週の注目作》

 ◎新連載『サユリ1号』(週刊ビッグコミックスピリッツ掲載)

 主人公の妄想と瓜二つの女の子との出会いや、幼馴染の女の子との恋愛感情も絡んだ軋轢など、いかにもスピリッツらしい“ライトにドロドロした”恋愛物語ですね。
 この作品、何かに似ているなと思ったら、初期の山本直樹作品(『はっぱ64』や『あさってDANCE』)と雰囲気が似てるんですね。ちょっと先が楽しみであり、怖い作品でもあります。
 期待度を込めて、評価は
B+

 ◎読み切り(月イチシリーズ連載)『せんせい・藤本義一編』(週刊コミックバンチ掲載/作画・岸大武郎

 岸大武郎氏といえば、かつて週刊少年ジャンプの専属マンガ家でした。しかし、この手の伝記物や、時には恐竜紀行物などという、どう考えてもジャンプ読者に受け入れられようが無い作品ばかり手がけていて、確かその後、ジャンプ系列誌に幾つか作品を描いていたのですがいつの間にか姿を消していたように記憶しています。
 それが、この『せんせい』という作品でコミックバンチに“拾ってもらって”いたのを発見して吃驚させられたのですが、それ以上に、マンガの腕が大層上がっていることに驚かされました。不遇にもめげず、弛まぬ努力。素晴らしい話ではないですか。
 今回の作品も見事なストーリーテリングで、見せ場の演出等も水準以上の出来。かつての岸氏の失敗でも分かるように、マンガでは難しい伝記物を見事に描ききっています。あの横柄で偉そうで中身の無い藤本義一が、岸氏の手にかかったら人情家の好人物に変身してしまうのですから大したものです。
 今回に関しては
A−評価。シリーズ全体でもA−に近いB+のランクを進呈します。

 ……

 と、今週は6作品をレビューしました。これからも、物理的事情の許す限り、レビューを掲載したいと思います。それでは今週の「演習」を終わります。明日は「法学」の続きを講義する予定です。(今日の講義終わり)

 


 

12月6日(木)演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(12月第2週分)

 え〜、まずはこの2日間、予告無く休講してしまったことをお詫びします。
 今後も、諸事情により休講することが少なからずあるとは思いますが、その時は、可能な限り前日までに予告させてもらいますんで、どうぞご了承を。
 ……
 さて、毎週水曜日──今週は水曜休講だったので木曜日ですが──はゼミを開講します。僕の本来の専門分野は競馬学とギャンブル社会学なんですが、土曜日に競馬学の講座を既に開講してますので、ゼミは別のテーマを設定しました。
 当講座のゼミは「現代マンガ時評」と題しまして、日々発行されるマンガ雑誌に掲載されたマンガの時評をしてゆきます。現在はまだ、通常の講義形式ですが、近い将来には双方向のゼミが出来れば、などと考えています。
 このゼミのコンセプトは、“これからのマンガ界を担うマンガ家と作品を発掘する”こと。その週の雑誌に掲載された、読み切り作品や新連載の作品をレビューして、その作品や作者の今後を占ってみたいと思います。
 もちろん、主な週刊マンガ誌の読み切り&新連載作品を網羅することが理想ではありますが、物理的な事情もありますので、当面の間は「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」に掲載された作品を中心に、その他の雑誌でも、特に注目すべき作品があれば随時取り上げてゆきたいと考えています。
 もしも、「マガジン」「チャンピオン」や青年各誌の読み切り&新連載作品のレビューを寄稿してくれる受講生がいらっしゃったら、是非申し出てください。詳しくはメール
談話室(BBS)にて。
 
 さて、それでは早速、今週分のレビューを行います。対象は読み切り作品と、新連載第1回ですが、さらに新連載第3回の作品についても“後追いレビュー”を掲載します。これは、新連載第1回で抱いた印象を修正する機会を得ると共に、第3回──ちょうど連載を打ち切るか否かを決定する分岐点とされている──の時点で総括することによって、その作品の今後を占う意味も含んでいます。
 また、それぞれの作品には、「A+」から「C」までの7段階評価を付け加えます。それぞれの評価の基準はこちらの通りです。
 最後に、レビューは出来るだけ客観的な姿勢で臨みますが、当然のことながら、若干の主観が混じることは否定できませんあくまでも一方向の角度から見たレビューと受け取ってもらえれば、と思います。

 ☆「週刊少年ジャンプ」2002年新年1号☆

 ◎新連載作品『サクラテツ対話篇』作画・藤崎竜

 前作『封神演義』で、メジャー作家の仲間入りを果たした藤崎竜の新連載。病的なまでにハイテンションな登場人物たちによるドタバタ劇、という、いかにも藤崎竜らしい作品。タイトルを決めた時点で一般ウケは諦めている節が無きにしも非ずだが、これが果たして支持基盤のマニア層に受け入れられるかは、現時点では疑問。……というか、初回で51ページも貰っているのに、話のコンセプトすら見えてこないのだからレビューのしようが無い(笑)。とりあえず、話の道筋が見えるまで詳しい評価は保留させていただく。とりあえず、読んでいて不快感は無かったので、7段階評価はB

 ◎新連載第3回『もののけ! ニャンタロー』作画・小栗かずまた

 どうやら前作の『花さか天使テンテンくん』と違い、完全なギャグマンガではなくストーリー(コメディ)路線で話を進めていくようだ。
 しかし、どうも『テンテンくん』と『地獄先生ぬ〜べ〜』を足して2で割った印象がするのだが、どうだろうか? まぁ、それはそれで構わないのだけれど、この作者が様々な意味において、前作から全く進歩が見られないのは大きな問題と言わざるを得ない。
 3週前からの連載3作品入れ替えで、前回の入れ替えで新連載になった作品が全て討ち死にしたように、現在のジャンプ連載陣はかなり粒が揃っている。このまま大きなインパクトを与えられないと、この作品も当然打ち切りの対象になりかねない。作者には前作の成功に奢らず、更なる進歩を強く求めたいと思う。7段階評価は、
Bに近いB−。 

 ◎読み切り『桃太郎の海』作画・吉田真

 今や当たり前になった『HUNTER×HUNTER』休載に伴う“代原”。しかし、これまで多くの代原が掲載されているが、そこから連載作家に出世した作家が皆無というのも寂しい話だ。
 さて、この作品はというと、題名のとおり、おとぎ話『桃太郎』のパロディなのだが、この作品は一体どう解釈すればよいのか? 
 ギャグマンガとしては、あまりにもギャグがお粗末だし、幼年向けの“絵本マンガ”としては、ちょっと対象年齢が高すぎる気がする。
 それ以上に問題なのは、一度通読しても、ストーリー(特にラストの辺り)がよく理解できないということ。こう言っては何だが、駒木に理解できないマンガが子どもに理解できるはず無いぞ。しかし、代原とはいえ、よくデスクや編集長が本誌掲載にゴーサインを出したものだ。この作者には、『まんが道』に出て来る、つのだじろうのデビュー秘話のくだりを読んで出直して来い、と申し上げておく。7段階評価は、甘めで
B−

☆「週刊少年サンデー」2002年新年1号☆

 ◎読み切り(前後編)II(ツヴァイ)』作画・石渡治

 読み切りなのに異様に多い登場人物、収拾不可能と思えるくらい大きなスケールのストーリー、説明セリフを多用しないと解説しきれない膨大な設定etc……。
 石渡治ともあろう大ベテラン作家が、これほどまで読み切り作品における禁忌(タブー)を犯しておいて、それでもギリギリ読める作品に仕上がっているというのが凄い。無意味に凄い。何というか、キャッチャーが決して捕れない140km/hのナックルボールのような作品だ。ベテランだからこそ許される、という微妙な作品で、恐らくこんなところで扱わない限り、あっという間に記録からも記憶からも消されてしまうのだろう。そういう意味では貴重なレビューとは言えまいか(笑)。7段階評価は
B

 ……

 と、いうわけでいかがでしたか? 今週は辛口のレビューが続きましたが、本当に良い作品であれば、どんどん褒めてゆきたいとも思っています。
 また、「私は駒木博士と違ってこう思った」というような意見をお持ちの受講生は、どうぞ談話室に書き込んでください。それでこそゼミというものですので。
 それでは、今日の講義はこれまで。(この項終わり)


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