「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・2)

※検索エンジンから来られた方は、トップページへどうぞ。


講義一覧

8/29 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (8月第5週分)
8/22&23 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(8月第4週分)
8/15 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(8月第3週分)

8/8  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(8月第2週分)
8/1  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(8月第1週分)
7/25 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」 (7月第4週分)

7/18 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(7月第3週分)
7/11 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(7月第2週分)
7/4  
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(7月第1週分)
6/27 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(6月第4週分)
6/20 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(6月第3週分)
6/13 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(6月第2週分)
6/6  
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(6月第1週分)
5/30 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(5月第5週分)
5/23 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(5月第4週分)
5/16 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(5月第3週分)
5/9  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(5月第2週分)
5/3  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(5月第1週分)

 

8月29日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第5週分)

 先週のゼミで実施した緊急特集に関しては、各方面から(刺激的なモノを中心に)様々な声を頂きました。
 1週間経って振り返ってみますと、その内容はともかくとして、このゼミの本来の趣旨である「良作・佳作を発掘し、その良い所を多くの人に伝える」という所から大きく逸脱していたと思います。この点は深く反省ですね。
 今後は原点に立ち戻って、自信を持って高評価が出せるような作品を見つけて紹介する事に力を注ぎたいと思います。これからもどうか何卒。

 また、今回から「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」の連載作品について、特筆すべき点のあった作品について述べる、「今週号のチェックポイント」を開始します。これにより、連載が進むにつれて段々“味”が出てきた作品についてフォローが出来るようになると思いますし、レビュー作品が少ない新連載の谷間期のゼミをいくらか充実させる事が出来ると思います。
 ただし、先程紹介した当ゼミの趣旨に則って、原則として“良くなって来た作品”だけを紹介しようと思っています。(A評価を付けていた作品を、B+やBに下げなければならないような事情が出てきた場合は別ですが……)

 さらに今週と来週の2回に渡って、「週刊少年ジャンプ」夏季増刊「赤マルジャンプ・2002SUMMER」の全作品レビューを行います。ただし、作品数が多いので、普段のレビューに比べると、かなり簡単な内容になってしまうと思われます。あらかじめご了承下さい。
 (前回の「赤マル」レビューに関しては、5月9日付ゼミのレジュメを参照)

 ……では、ゼミを始めましょう。

 まずは情報なんですが、今週は1つだけ。
 「週刊少年ジャンプ」の今週号(39号)で、正式に連載打ち切りがアナウンスされた『世紀末リーダー伝たけし!』の作者・島袋光年氏ですが、逮捕された件については起訴、そして同じ児童買春の別件容疑2件で再逮捕されました。裁判に向けての証拠固めのため、さらに拘置所(留置所)での取り調べが1ヶ月ほど続く事になりそうです。
 まぁ、裁判が始まってしまえば、事実関係を争わずに島袋氏がワビを入れて即日結審→次の公判で判決(おそらく執行猶予付き懲役刑)…という流れになりそうでありますが。しかし、ここまで大事になってしまったら、どのような形でも現役復帰はかなり難しくなりましたね。どこかで同じ事を言ったかも知れませんが、少なくともギャグ作家としては才能のあった人ですので、残念です。

 ……では、今週のレビューですが、新連載の谷間に入ってしまったため、今回の「ジャンプ」「サンデー」のレビュー対象作は、『──たけし!』打ち切りに伴う代原読み切り1作品しかありません。しかも、その代原を描いた作家さんが、島袋光年氏の猛プッシュでデビューを果たしたという経歴を持つ郷田こうやさん。何というか、凄まじいまでの因縁を感じさせるお話ですね(苦笑)。
 それではまず、この1作品のレビューと、今日から始まります「今週のチェックポイント」を合わせてどうぞ。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年39号☆

 ◎読み切り『青春忍伝! 毒河童』作画:郷田こうや

 ……というわけで、“しまぶーの忘れ形見”という有り難くない異名を戴く事になりそうな、郷田こうやさんの代原作品レビューです。

 郷田さんは第54回赤塚賞(01年上期)の佳作受賞者で、描いた原稿が代原として本誌に掲載されるのは、これで4回目という事になります。
 当ゼミでも、デビュー2作目の『偉大なる教師』と3作目の『ボウギャクビジン』についてのレビューを実施していますので、興味のある方はそちらもどうぞ。(レビュー詳細については2月27日付、及び4月11日付レジュメを参照)

 さて、今回の『青春忍伝! 毒河童』ですが、まず結論から言ってしまうと、“代原の域は越えているが、連載を前提とする作品としては不満”という微妙なレヴェルのギャグマンガという事になるでしょうか。
 まるっきり寒いギャグばかり…というわけではないですが、かといって多くの読者を何度も笑いに持っていく事は難しい…という、そんなレヴェルの作品です。ネタそのものは悪くないのですが、間の悪さなどが手伝って、完成度が鈍ってしまったのでしょう

 しかし、これを郷田さん本人の過去作品と比較すると、格段の進歩が窺えます。
 まず、絵柄がこれまでの作品に比べて一気に洗練されています。これまでの3作品では、極太線を多用した荒っぽさの残るタッチが目立ったのですが、この作品では個性を残したまま、オーソドックスなペンタッチに近付いていっています。ギャグマンガ家として重要な、キャラのディフォルメ絵も描けるようになって来ていますし、もはや「ジャンプ」系のギャグマンガ家としてはかなり上位の画力と言っても良いでしょう。
 またギャグの持っていき方も、以前の“同パターンネタ一本槍”型から脱皮して、色々なパターンのギャグを適当な密度で次々と繰り出せるようになって来ました。『偉大なる教師』のあたりでは、ギャグに対する迷いらしきものも見られたのですが、この試行錯誤が今になって活きて来ているような気がします。

 ただし、最初に触れたように、ここまでレヴェルアップを果たしても、まだまだ未熟な点も多くありますこれからの課題としては、間の取り方(ページをまたいでオチを見せる…など)の上達、もっとオチ部分にインパクトを持たせる事、そしてギャグのパターンを増やす事…などが挙げられるでしょう。
 その確率としては、現時点では何とも言えませんが、もしもこれらの課題の克服が果たせた場合は、最終的には「サンデー」の椎名高志さんのような名コメディ作家になる可能性もあると思います。郷田さんの更なるレヴェルアップに期待しましょう。

 評価はちょっと甘目かもしれませんが、B+寄りのB。とにかく次回作が楽しみな作家さんです。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介《第3回掲載時の評価:B+

 主人公・セナの視点を通じて、アメフトの基本ルールを読者にさりげなく伝えたポイント、秀逸です。
 ダラダラと試合を引き伸ばさないのも良い傾向ですし、連載5回目にして早くも“化ける”予感がして来ました。少なくとも今回だけならA−評価に値すると思います。

  

☆「週刊少年サンデー」2002年39号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎《開講前に連載開始のため、評価未了》

 語弊のある言い方かも知れませんが、相変わらず“人の死なせ方”が抜群に上手いですね。
 ある程度デジタル的に泣かせる話を量産できる才能というのは、異形ながら貴重だと思います。

 ◎『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫《第3回掲載時の評価:B

 やや良化の兆しです。今回みたいに、読者にストレスを与える一方で、少しずつ救いのある話が続けられるようになれば、画風が活きて来るのではないかと。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ《第3回掲載時の評価:A−

 回を追うごとに、どんどん良くなって来ています。レギュラーキャラ4人に、週代わりで準レギュラーキャラを交えていく作戦が功を奏している格好です。
 392〜394ページの辺りは個人的に完璧にツボでした。他の方はどう思われたのか知りたいところです。

 ◎『一番湯のカナタ』作画:椎名高志《第3回掲載時の評価:A−

 正直、ここ最近は息切れ気味だと思っていたんですが、新キャラ・ワネットの登場で一気に形勢逆転! 見事にテコ入れ大成功ですね。
 問題は、主人公・カナタの影が段々薄くなってゆく所なんですが(苦笑)、どうやってそれを克服してゆくか、椎名さんの手腕に期待しましょう。

 

 ……と、いうわけで、以上がレビューと「今週のチェックポイント」でした。

 それでは、これから「赤マルジャンプ」全作品レビュー(前編)です。前回と同様、本誌連載陣のショートギャグは対象外としました。

◆「赤マルジャンプ」完全レビュー(前編)◆

 ◎読み切り『電人タロー』作画:小林ゆき

 本誌連載デビュー作『あっけら貫刃帖』12回打ち切りの憂き目に遭い、一敗地にまみれた小林ゆきさんの復帰作です。
 連載終了からそう間が無かったのですが、少しタッチが変わったようですね。全体的に丁寧になってますし、特に女の子キャラのイメージが『あっけら──』の頃と随分違います。好みが分かれそうな絵柄というのは相変わらずですが、少なくとも悪くはなっていないと言えそうです。
 ただ、ストーリーが小じんまりとまとまり過ぎているのも相変わらずなのが痛いですね。具体的に説明するのが難しいですが、もう少しスケールの大きな話が描けるようになれば良いのですが……。

 評価は微妙ですが、B寄りB+というところでしょうか。

 

 ◎読み切り『アマツキツネ絵巻』作画:海図洋介

 昨年に『犬士ヒムカ』天下一漫画賞佳作を受賞し、本誌デビューを飾った海図洋介さんの1年ぶりの新作となります。
 デビュー当時から随分洗練されていた絵柄の方は、1年経っても健在。少なくとも絵だけ見れば、原作付きの作画担当作家が目指せるレヴェルです。
 ただし、ストーリーの方は、よく練られてはいるのですが、やや詰め込みすぎて中盤辺りでダレてしまうのが難点。特に、話全体のポイントとなる「ユタの筆」のエピソードの印象が随分とボヤけてしまったのは致命傷に近いです。
 もう少しシンプルに、読者に分かって欲しい部分だけ描いておけば、随分と印象が違ったかも知れません。
 評価は絵柄を加味してもBが限界でしょう。


 ◎読み切り『UN★TURBO』作画:吉田真

 第58回手塚賞(99年下期)で準入選を受賞、その後も散発的に「ジャンプ」系雑誌で作品を発表している吉田真さんの新作です。
 絵柄の方は、背景処理があまりにもお粗末ですし、幼いんだか老けてるんだか微妙な上、表情の変化が乏しい人物描写問題点が残っているような気がします。パッと見はそんなに不快感が残らないんですけどねぇ。
 ストーリーは、プロットがしっかり出来ているのか、綺麗にまとまっているようには見えます。ただし、先にストーリーありきで考えてしまったためか、主人公のキャラと行動から一貫性が欠けているのが残念ですね。
 絵柄、ストーリーともパッと見は良いんですが、中身的には今一歩。ちと厳しいかもですが、B−としておきましょう。


 ◎読み切り『40mmアイアン』作画:高野ひろ

 高野ひろさんは、「週刊少年ジャンプ」系の雑誌には初登場となる新人作家さん。恐らく女性作家さんですね。

 の方は、キャリア実質2年(プロフィールより)という事を考えると、線にも無駄が少なくてアマチュア臭さが感じられないのが良い感じです。ただし、表情の描き分けが全くと言って良い程出来ていないので、妙なぎこちなさが残っているような気もします。まぁこの辺りは、これからのキャリアが解決してくれる事でしょう。
 ストーリーは、典型的な悪役が、典型的な善玉に負けるべくして負ける……という、言い方は悪いですが、かなり使い古されたパターンを何のヒネりもなく流用したような感じで、独自色が全く感じられなかったのが非常に残念です。ワンシーンだけでも、ほとんど全ての読者を驚かせたり感動させたりする場面があれば良かったのですが……。
 評価はB−

 
 ◎読み切り『リ・サイクルZ』作画:安藤英

 第63回手塚賞(02年上期)で佳作を受賞、今回が受賞後第一作&デビュー作となる新人・安藤英さんの作品です。
 絵柄は鳥山明&尾田栄一郎両氏の影響が色濃く見られるものの、一応は別モノの画風には仕上がっているようです。ただ、良し悪しは別にして個性がキツい絵柄ではあるので、これを如何に作品に活かしていくのかが、今後の活動ではカギになってくるのではないでしょうか。
 ストーリーは、主人公の体を改造したポイントが、最後の戦闘で伏線になっているなど、“技あり”な部分が見逃せません。ただ、ご都合主義的な面が多々見られるので、今の状態で連載を始めたりすると、短期間でボロが出てしまいそうではあります。また、不必要な設定が多すぎる嫌いもあり、ちょっとセンスが古臭い気がしないでもありません
 評価はB−寄りといったところですね。


 ◎読み切り『TORA TAKE OFF !!』作画:ゆきと

 第62回手塚賞(01年下期)で準入選を受賞したゆきとさんの受賞後第一作&デビュー作という事になります。

 絵柄まだ完成手前という感じ。トビラのダンクシュートシーンなんかは、下手な人には描けないアングルでしょうから、実力不足というわけでは無さそうです。どうやらペンではなくロットリングを使っているようですが、それがプラスになっていないのが問題点でしょう。
 話も地味ながら、テンポ良く進んでいると思います。地区予選1回戦が舞台…というスケールの小ささは否めませんが、まぁ等身大のストーリーというところでコレくらいが丁度良いのかもしれません。
 唯一もったいない点が、主人公・トラが太ったままでスーパープレイを突然連発できるようになった理由付けが曖昧だったという所でしょうか。ここをもう少し丁寧に押えておけば、読者の感情移入度も高まったのではないかと思われます。
 評価は。連載獲得には、もう一押し欲しいところです。

 ◎読み切り『なるほど納得てんこもり !! おバカちん研究所』作画:日の丸ひろし

 第49回赤塚賞(98年下期)で佳作を受賞以来、増刊号や本誌の代原で度々作品を掲載している日の丸ひろしさんのショートギャグ作品です。
 この作品、マンガというよりも企画モノ的なショートギャグ数個によって構成されています。
 中には『ウォーリーを探せ!』(古!)的なオフザケもありますが、これは論外。メインの、お笑い芸人の“いつもここから”や“鉄拳”のような1枚絵+キャプションというギャグも、どうにも消化不良気味で話になりません
 絵柄やタイトルのセンスにも古臭さや世間とのズレも感じますし、どうも将来性も怪しい感じです。相当の意識改革が無ければ、このまま埋もれてしまう作家さんでしょう。評価は久々の

 ……というわけで、今週は目次順に前半の7作品のレビューをお送りしました。残るはまた来週です。

 では、今週のゼミを終わります。また来週この時間に 

 


 

8月22日(木)・23日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第4週分)

 今週もゼミを始めます。
 今週のゼミは、通常の内容に加えて、どうやら2ch掲示板で当講座のゼミ内容を含めて話題になっているという『がきんちょ強』関連の“緊急特集”として、
 「どうして『がきんちょ強』は『じゃりん子チエ』になれなかったのか?」
 ……という内容の講義を予定しています。講義日程が詰まり気味のため、2日にまたがる可能性大ですが、最悪でも金曜夜のテレホタイムには間に合うようにしますので、どうぞご注目下さい。

 あと、最近よく当ゼミについて頂くご意見として、
 「レビュー内の作者紹介に的外れな内容が多い」
 ……と、いうものがあります。
 これについては、毎回ある程度時間をかけて調査をかけているのですが、やはり長年専門的にマンガ評論をなさっている方たちよりは作家さんに関する知識量とキャリアが不足しており、時々誤りや曖昧な内容を含んだ事を述べてしまうケースが、ままございます。
 言葉通り駒木の不徳の致す所であり、ご指摘を受けるたびに本当に申し訳なく思っているのですが、いかんせん、今の駒木ではどうしようもならない部分もあります。ですので、もしも作家さんの情報について、ゼミで発表した内容よりも更に詳しい情報・知識をお持ちの方がいらっしゃるなら、是非駒木研究室までメールでお知らせ下さいませ。どうぞ、よろしくお願いいたします。

 ……それでは、気を取り直して講義へ。まずは情報系のお話ですが、今週は「週刊少年サンデー」系の月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」の6月期分の発表がありましたので、受賞者・受賞作を紹介しておきます。特に、今月は“入選”作が出て、受賞作の掲載が確定していますので、どうぞご注目を。

少年サンデーまんがカレッジ
(02年6月期)

 入選=1編
  ・『サブ・ヒューマンレース』
   小澤 淳(23歳・東京)
 
(「ここがポイント!!」〜本誌より引用)
 白昼夢のような異世界を描きつつも、リアルな若者の“渇き”を表現するのに成功しています。また、大ゴマや空間を大胆に使うことで感情を上手く演出している点も評価できます。エンターテインメントを意識しつつ、強いメッセージをさらりと流す作者の才気が見どころ。

 佳作=該当作なし
 努力賞=1編
  ・『higher higher』
   中馬孝博(23歳・福岡)
 あと一歩で賞(選外)=2編
  ・『Dragon Tattoo』
   寺本直子(22歳・島根)
  ・『パワー・パワー』
   町田哲也(26歳・東京)

 入選受賞作については、本誌か増刊に掲載決定、という事で、審査員サイドもべた褒めといった感じですね。当ゼミでも、本誌掲載の時は勿論、増刊で掲載になった場合でも、評価によっては「その他注目作」のカテゴリ内でレビューを掲載したいと思っています。

 次は「週刊少年ジャンプ」関連ですが、どうやら鳥山明さんが『ドラゴンボール』の続編か、非常に関係の深い作品の連載を開始する模様です。
 このには『──たけし!』の他にもう1作品(長期連載作品?)が終了して、都合2作品の新連載が立ち上げられるとの噂があるんですが、『ドラゴンボール』は、どうやら更にその後の新連載シリーズに回されるようですね。
 …と、いうことはですね、このままいくと、『ドラゴンボール』と『ワンピース』との、“新旧看板作品対決”が見られるわけですよ。まさに“夢のカード”
 この対決がどの位のレヴェルで争われるかはさておき、何だかボクシングのホリフィールドVSフォアマンとか、プロレスの馬場&ハンセンVS三沢&小橋みたいなマッチメークなんで、今からとても楽しみではありますよね。

 ……と、いうわけで情報系の話題は以上で、続いて今週分のレビューをお送りします。

 今週は「週刊少年ジャンプ」が合併号休刊のため、レビューもお休み。春にやった「赤マルジャンプ」レビューも、現在のところは考えていません。(受講生の皆さんのリクエストが多ければ考えますが……)
 「週刊少年サンデー」からは新連載1本と新連載第3回の後追いレビューが1本。計2本のレビューという事になりますね。若干数が少なめですが、今日はこの後に特集もありますので、どうぞご容赦を。

 文中の7段階評価はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年サンデー」2002年38号☆

 ◎新連載『きみのカケラ』作画:高橋しん

 「週刊ビッグコミックスピリッツ」で、『いいひと。』、『最終兵器彼女』とヒットを連発して来た高橋しんさんが、心機一転(?)して、少年誌に進出です。
 しかし、本誌18ページの「高橋しん先生より」を見るまで失念していたんですが、実は高橋さん、「週刊少年サンデー」は2度目の登場でした。
 前回登場は、今から6年前の1996年に前・後編計83ページで掲載された『有森裕子物語』。駒木、勿論この頃にはもうバリバリの「サンデー」読者だったんですが、作品が駒木のあまり好きではないスポーツ・ノンフィクション物だったため、相当な飛ばし読みをしていた模様です(苦笑)。
 しかし、この時には『いいひと。』連載中だったはずで、小学館もかなり無茶な事をさせるもんですねぇ(恐らく『いいひと。』を休載させたのだと思いますが)。だって、江口寿史氏なら1〜2年はかかりそうな仕事量ですよ、これ(笑)。
 まぁこの頃の高橋さんは、ちょうど“使い勝手の良い”新進気鋭の若手だったという事なんでしょうね。まるで、「ギャラ安い〜」とかボヤきながらハードスケジュールに追われる、売れかけの吉本芸人みたいな話です。

 …と、蛇足が過ぎました。作品の内容に触れてゆきましょう。

 まずはいつもながら独特の絵柄なんですが、適度にシリアスとデフォルメを使い分けていますし、世界観とミスマッチな絵柄でもないですので、これで良いんじゃないかと思います
 ただ、何でもそうですが、“独特”なモノというのは、熱心な支持者を生む一方で、存在すら嫌悪するようなアンチも生んでしまうので、青年誌よりも大衆受けする事が求められる少年誌では、以前より損をする事も多いかも知れませんね。

 次にストーリー
 まず目を引くのがオープニングですね。これは少し意識すれば判ると思うんですが、明らかに映画を意識しています。後々のストーリーの伏線になるようなインパクトの大きい“事件”を描いて、タイトルがバーン! ……という感じ。
 どちらかというと映画よりも連続TVアニメに近いマンガという媒体でコレをやって、果たして効果的に働くのかどうか、という事はさておき。とりあえず、そういう手の込んだ演出をやろうと考えて、実際にそれを立派な形でやってのけてしまった…という点に関しては素直に評価するべきなんじゃないかと思います。

 ただ、第1話のストーリー全体を俯瞰してみると、とにかく与える情報量が多すぎるのが気になるところです。
 ネームが多いのは高橋さんの作品ではよくある事なんですが、今回の作品は特に、とにかく読者が覚えておかなくちゃならないキャラやその設定が多すぎて、63ページを読み終えた時にはヘトヘトになってしまうんですね。
 これで下手糞な作家だと、「もういいや」で熱心に読む事を止めてしまうので、そうは疲れないんです。けれど、高橋さんの場合は、ちゃんと表現力が備わっているので無理矢理にでも読ませ切ってしまうんですよね。だから余計に疲れるんです。何というか、打球はどう見ても凡フライなのに、パワーだけでスタンドにギリギリ届いたホームラン、みたいな感じでしょうか。

 なので、本来の良い作品ならば、最終ページを読み終わった後には「続きが気になる。早く来週号読みたいなぁ」…と思わせるんですが、この作品は「やっと終わった…。とりあえずしばらく休ませて」と思わせてしまうんですね。これはちょっとさすがにマイナスかなぁ、と思います。
 いつも駒木は「とにかく話は贅沢なほどテンポ良く」なんて事を述べたりするのですが、この作品に関しては、第1話を3回に分けてちょうどいい感じになるんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか?

 ……まぁ、色々言いたいことを言いましたが、この『きみのカケラ』話のスケールも大きいですし、これでもう少し主役2人のキャラが立ってくれば、十分サンデーの主翼を担う作品になれる可能性はあると思います。
 ──というか、この作品が打ち切りになると、色んな意味でイタ過ぎると思うんで、何とか良作に育っていって欲しいと思います。

 とりあえずの評価はB+寄りのA−としておきましょう。ただし第3回では変動の可能性が大です。
 

 ◎新連載第3回『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫《第1回掲載時の評価:B

 さて、「サンデー」では久々のバスケットマンガ『ふぁいとの暁』の後追いレビューです。

 どうやらこの作品のスタイルは、「無茶な要求をされ続ける主人公が、決して笑顔を絶やさず、黙々と努力して課題を達成していくサクセス・ストーリー」で固まったような気がしますね。
 この形式は、かなり長期にわたって読者にストレスを与え続けて、ある程度まで話を進めたら反動でドーンとカタルシスを与えるタイプの話になります。で、ある程度主人公が強くなったら、今度は溜め込んだ実力で一気にその世界の頂点に登りつめていって、ハッピーエンドに繋がっていく…という話の進め方になるはずです。
 この形式は昔から色んなマンガで採用されてきたもので、駄作も多いですが、佳作・秀作も多いです。現在の「サンデー」連載作品では『DAN DOH!! Xi』が典型的なこのパターンのストーリーですね。
 ちなみにこの形式、短期で勝負をかけなくてはいけない「ジャンプ」の作品では少なくて(得てして、そういう数少ないこのタイプの作品が10回打ち切りになって、見るも無残な終わり方になるんですが)、比較的長期連載になりやすい「マガジン」では非常によく見られます。ただ、「マガジン」でこのパターンを採った作品は、どうもご都合主義がミックスされて、とんでもない駄作になってしまうケースが多いので、あまり好感が持てなかったりしますが。

 …まぁそういうわけでして、『ふぁいとの暁』は、かなり使い古されたパターンのストーリーです。それが悪いとは言いませんが、同タイプの作品が多数出回っている以上、何がしかこの作品の独自性を出していかないと凡作で終わってしまいます
 しかし、どうも現時点では、この作品の独自性はかなり弱いような気がしてなりません。作者のあおやぎさんは、主人公が要所要所で見せる(ある種、場違いな)笑顔を作品のシンボルにしようと努力されているようですが、これがむしろ話全体のシリアスさを削いでしまっているようで、逆効果になってしまっています。変に極端な演出をしろとは言いませんから、せめて深刻なシーンは深刻に感じられるように演出してもらいたいものです。

 評価はB−寄りBで据え置きです。現時点ではかなり苦戦が強いられそうです。何せ、今の「サンデー」にはスポーツ系連載作品だけで9作品もあったりしますから、その中に埋没しないだけでも大変だと思います。

 ……と、いうわけでレビューも終了。続いて、今週のゼミの目玉・緊急特集をお送りします。

 緊急特集! 「『がきんちょ強』は、何故『じゃりん子チエ』になれなかったのか?」 

 ……さて、冒頭で述べた通り、今週は緊急特集として、「週刊コミックバンチ」連載中の『がきんちょ強』作画:松家幸治)についての分析を行いたいと思います。

 ご存知の通り、『がきんちょ強』は、第1回「世界漫画愛読者大賞」で読者投票ポイント2位を獲得し、準グランプリを受賞した作品です。このゼミでも「世界漫画愛読者大賞」エントリー作(読み切り)掲載時と、新連載第1回にレビューを実施しました。(それぞれ2月20日分6月6日分レジュメに掲載)

 当ゼミでの評価は2回ともB+(漫画好きに推奨できる作品)。相当な数の問題点や、連載を続けて行く上での課題は山積みになっているものの、作者である松家さんの持っているセンスを高めに評価して、このランクをつけたのを記憶しています。
 しかしこの作品は、ネット世界での評判が回を追うごとに低くなり、ついには当講座に問い合わせ・指摘が来るまでになりました
 駒木自身も確かに、いつまで経っても連載開始当初以来の問題点や課題がクリアされない、現状の『がきんちょ強』に思うところがありましたので、談話室(BBS)にて、B+からB(商業誌の作品として及第点。可も不可もなし)への評価格下げをお知らせしました。ただ、それでもまだ巷の評判とはギャップが大きかった模様で、「『がきんちょ強』は不快でたまらない」という意見が多数派を占めているようでした。

 そういう状況に至って駒木は、「何故、ここまで『がきんちょ強』は嫌われるのか?」という疑問を持ち、その答えを出すために、この作品が強く影響を受けている名作マンガ・『じゃりん子チエ』(「週刊アクション」連載《完結》/作画:はるき悦巳との比較・分析を行ってみる事にしました。
 …そしてそんな比較・分析の結果、いくつかその疑問を解明させてくれそうな答えが見つかりましたので、ここで皆さんにその“研究成果”を報告させて頂きたいと思います。

 ──とまぁ、大袈裟な事を言いましたが、内容はそんなに大仰なものじゃありませんので、過大な期待と緊張は遠慮して頂いて、気軽に受講して頂ければと思います。

 ※注:8月23日発売・現時点で最新号での『がきんちょ強』では、これまでの路線からの大幅な転換が図られました。これについても分析の最後に述べますので、分析自体は先号までの内容について行ったものだとご承知おき下さい。


 1.『がきんちょ強』と『じゃりん子チエ』との関係

 まず、この分析の前提条件として、『がきんちょ強』『じゃりん子チエ』との関連性について説明しておきたいと思います。

 『がきんちょ強』の読み切りが「コミックバンチ」に掲載された時点で、既に気がつかれた方も多かったと思いますが、この作品は、『じゃりん子チエ』の影響をかなり色濃く受けています。

 まず、大阪かそれに近い地区の下町エリアが舞台で、登場人物の大半が関西弁(大阪の方言)で喋っているという点からして、かなり『じゃりん子チエ』に近いです
 さらに、『がきんちょ強』の読み切り・連載両方で描かれた町内小学生相撲大会のエピソードは、『じゃりん子チエ』でもかなり似たような話があり、名脇役であるヒラメちゃんが大活躍するエピソードとして、数多い『じゃりん子チエ』“サーガ”の中でも特に有名なものであります。

 そしてもう1点、これは意外と知られていないようですが、『がきんちょ強』の中で、鳥取出身のテキ屋が、語尾に「〜とっとり」をつけて話し、それを鳥取弁として通用させる…という事をやっているのですが、これも『じゃりん子チエ』で酷似した設定があるのです。
 それは、猫の小鉄とアントニオJr.が主人公になって猫の世界を描く『じゃりん子チエ』番外編の中での設定で、この番外編で地方の猫が喋る時は、“関西弁+語尾にその地方を表すフレーズ”になるのです。
 例えば東北の猫が喋る時は、
 「そんな事言うたらアカンがなズーズー
 となり、博多の猫が喋る時は、
 「どおしたどってん、早よ返事せんかいばってん
 ……と、いう感じになります。
 この“猫方言”を使う猫が登場するのは、『じゃりん子チエ』本編ではなく、別枠の単行本になっている『じゃりん子チエ番外編』『どら
猫小鉄』という別の単行本ですので、『じゃりん子チエ』を知らない人が偶然、この設定を知っているとは考え難いと思われます。まぁ、知っていたからといって、それを中途半端に人間の言葉で使ってしまう感覚には、いささかの疑問を感じますが。

 ──というわけで、『がきんちょ強』は『じゃりん子チエ』の影響をかなり色濃く受けているという事は間違いないと思われます。
 …それによく考えてみたら、作品タイトルも、両方とも「わんぱくな子供を表す5文字の言葉+主人公の名前」ですよね。もうこれは“影響”というよりも、確信犯的な強いオマージュ(または劣化コピー)と言ってしまってもいいと思われます。

 それでは、次のトピックからは、そんな酷似した設定・内容の両作品の中で明らかに異なる点を指摘しつつ、その中で『がきんちょ強』の問題点を浮き彫りにしていきたいと思います。

 2.『がきんちょ強』における、主人公と脇役の設定ミスについて

 『がきんちょ強』と『じゃりん子チエ』の間で異なる点として真っ先に挙げられるのは、何と言っても主人公とそのキャラクターでしょう。

 このポイントについては、両作品を見比べると一発で判りますので、あえて詳しくは述べませんが、『がきんちょ強』の主人公・は、『じゃりん子チエ』では主人公・チエの“愚父”テツにあたるキャラクターです。よく言えば怖い物知らず、悪く言えば好き放題・やりたい放題な傍若無人キャラ、という事になります。
 こういうキャラクターを主人公に持ってくるというのは、実はかなり危険な行為です。何故なら、このキャラは“劇薬”であり、放っておくと作品そのものまで壊しかねないからなのです。
 で、これだけ『がきんちょ強』に対して不快感を抱く読者が多いというのは、その“劇薬”(つまりアクの強い、強のキャラ)が中和されずに作品そのものに悪影響を与えているためだと思われます。

 一方の『じゃりん子チエ』では、この“劇薬”キャラ・テツのエグい部分を程よく中和させる事に成功しています
 これは『じゃりん子チエ』をよく読んで頂けるとよく分かるのですが、テツという登場人物は、これだけ怖い物知らず・傍若無人なキャラであるにも関わらず、作品に出てくる主な登場人物の中では相当弱い立場に置かれているのです。
 例えば、テツの一家での力関係を強い者順に並べていくと、
 「おバァはん→(チエ&ヨシ江で場合によって逆転)→小鉄→テツ→おジィはん」
 ……という形になります。テツは猫よりも弱いんです。
 一家以外での人間関係を考えても、花井拳骨(父)という最強キャラが控えていますし、普段はテツより弱い百合根(お好み焼き屋)も“有事”には酒に酔って天下無敵になります。ハッキリとテツより弱いキャラとなると、町のチンピラ・ヤクザやレイモンド飛田などの悪人・小悪人ばかりです。また、カルメラ屋2人組チエの担任・花井(息子)もテツより弱いキャラですが、テツがこの3人をイジめた場合には強烈なしっぺ返しが来るようにしてバランスを取っています

 ……このように、『じゃりん子チエ』では巧みにテツという“劇薬”を中和して上手く活かしているわけですが、先に述べたように、『がきんちょ強』では、それに大失敗してしまっています
 その理由としては、“劇薬”である強の傍若無人な行動にブレーキをかける役回りの脇役が極端に少ないことが挙げられます。
 現時点で強よりも明らかに力上位のキャラといえば、強のクラスを担任している学校の先生くらいしかいません。それにしても強が上手く追及を逃げ切ってしまうので、引き分けに持ち込むのがやっとです。
 また、本来なら強兄妹に対する“強大な敵”であったはずの居候先の母親と息子が、既に強に力負けして白旗状態強兄妹に意地悪するどころか、逆に強が居候先の母子をイビっている状態です(これも読者の不快感を煽った理由の1つでしょう)『じゃりん子チエ』で言えば、主人公・チエのポジションにいる強の妹にしても、強の乱暴狼藉をただ指をくわえて見ているだけの弱弱しいキャラであり、ブレーキ役を全く果たしていません
 こんな状態では、どんなに話を練ろうと「強が好き放題暴れて終わり、以上!」…という感じになってしまい、いくら“感動のエッセンス”を持ってきても、機能しません。侵入先の一家を惨殺して奪い取って来た金で人助けする話の『ねずみ小僧』みたいなもので、全く有り難くない感動話になってしまうのです。

 『がきんちょ強』の登場人物を使って、本当に面白いギャグを作るなら、強の妹をチエみたいな主人公にして、強の傍若無人振りを痛快に阻止するような話が良いでしょう。『じゃりん子チエ』そのまんまですが、そこまで設定を真似ておいて何を今更、という話です。
 
 
 3.一人称ドラマ『がきんちょ強』の限界

 当然の事だとツッコミを受けそうですが、『がきんちょ強』では、主人公・強は他のキャラとは完全に“格”の違う絶対的な主人公になっていて、話も一貫してずっと強の視点から描かれています。小説で言えば“一人称”のお話です。
 そのため、話の中心となるのも、ギャグの中心となるのも全て強であって、彼抜きでストーリーが進んだり、ギャグが放たれたりする事はほとんどありません。
 勿論、これはこれで構わないのですが、この形式では、ただでさえ印象の弱い脇役キャラが、どんどん影が薄くなってしまいますし、強の歯止めの利かない暴走ばかりがクローズアップされていく事になります。さらに、話やギャグの流れがワンパターンに陥ってしまうという欠陥にも繋がってしまっています。

 では、一方の『じゃりん子チエ』はどうかというと、実はこの作品、チエを一応の主人公にしながらも、場面場面で主役級キャラが代わってゆく“三人称”ドラマなのです。
 『じゃりん子チエ』では、実に数ページ〜10数ページという短いスパンで、次々に視点が変わり、その都度主役級の人物が変わっていきます。そうして何話分ものページ数を費やし、色々な場所で同時進行的に話が進行させた後、やがて沢山の登場人物が一斉に集まってドンパチが起こって大団円…というパターンとなります。
 この形式は、話を収拾させるのが大変な代わりに、限られたページ数で非常に多くのキャラクターやエピソードが活きて来る事になり、大変密度の濃い話になってゆきます。『じゃりん子チエ』の登場人物&猫が、揃いも揃って個性抜群なのは、実はそういうポイントがあったのです。

 ……ですから、『がきんちょ強』をもっと質の良い作品にするためには、強以外のキャラクターを主役級に据えた話を散りばめて、脇役のキャラをどんどん立てていく事が必要だと思われます。


 4.「ギャグ満載の人情モノ」になりきれない「人情味溢れるギャグマンガ」・『がきんちょ強』

 さて、これまで『がきんちょ強』と『じゃりん子チエ』にある、多くの共通点といくつかの相違点を挙げて来ましたが、ここで両作品に最も大きな違いを挙げて、この分析の締めくくりとしたいと思います。

 その“最も大きな違い”とは、小見出しに挙げた、「ギャグ満載の人情モノ」と「人情味溢れるギャグマンガ」との差であります。勿論、前者が『じゃりん子チエ』で、後者が『がきんちょ強』ということになります。

 『じゃりん子チエ』は、とても“笑い所”の多いマンガでありますが、実はギャグマンガではなくて人情モノマンガです。ストーリーの間に非常に多くのギャグが散りばめられていますが、最終的には人の心の暖かさを重視したドラマになっています。読者を感動させるべき所では、完全にギャグを抜いて感動させます。そのため、いくら作中で「フンドシから漏れたスカ屁以下のような…」という下品な表現が連発されても、読後感が爽やかなのです。
 しかし『がきんちょ強』は、そういった路線を目指しながらも、そこまで達していませんこれは主人公・強が暴走しすぎて人情どころじゃなくなっている事、さらにはギャグで読者を笑わせようとする方に作者の神経が回りすぎていて、人情味を効果的に生かしきれていない事から来たものだと思われます。せっかく人がホロリとしそうになっているところに下品なギャグが飛んでくるので、気分が台無しになってしまうんですね。

 そういうわけで、『がきんちょ強』はギャグと人情のメリハリが利いていないのです。これを何とかしない事には、多数読者の支持は得られないことでしょう

 

 ──と、思ったら、最新号(8/23日発売号)にて、『がきんちょ強』は大幅なイメージ転換が図られました。最後にこれについて述べておきましょう。
 

 5.『がきんちょ強』に未来はあるのか?〜人情路線への大転換 !?

 最新号の『がきんちょ強』は、これまでの話とは明らかに違う話が掲載されました。主人公・強が引き起こすエゲつないドタバタを描いた話ではなく、ほぼギャグを封印した人情モノマンガになっていたのです。

 ポイントは、強が学校の友人たちと空き地でサッカーをしている途中に、ボールが塀を乗り越えて人家の盆栽鉢植えを壊してしまうシーンです。
 これまでの『がきんちょ強』ならば、
 「強が蹴ったボールが盆栽を壊して、強が友人に罪をなすりつけて逃亡→担任登場、強さらに逃亡→最後に因果応報が巡って強に不幸が訪れる→次回へ続く」
 ……という形になるのですが、今回は違いました。なんと、傍若無人な強が友人を庇って、「自分がやりました」と言ったのです。これに感動した盆栽の持ち主が、強たちを招いて歓待し……という形で非常に心温まる話に展開されていきます。とうとうこれ以降、ほとんど最後までギャグらしいギャグは無く、ホロリとさせられっ放しで話が終わっていきます

 今回の話は、メタファー(暗喩)の利かせ方も見事で、非常に良質な話に仕上がっていました。なので、こういう話になっても評価はできるのですが、急に良い子になってしまった強に違和感を感じたのも確かです。萩原流行が『いいひと。』の主役を張るくらい、これはヘンな事なのです。
 この“強の改心”が、作者・松家幸治さんの確信犯的なシフトチェンジなのかどうかは分かりませんが、もし今後の『がきんちょ強』が同じ路線の話を続けていくという事になれば、これはもう別の作品の連載が今週から始まったと認識して良いと思います。
 その場合、これまでのように読者に不快感を与えるという事はなくなるでしょう。ただしその分、作品の持っていたインパクトも大きく削がれる事になります。事実、今回の『がきんちょ強』は、『じゃりん子チエ』というより、『三丁目の夕日』みたいな感じになっていました。

 ……結局、この“路線変更”は、『がきんちょ強』が「バンチ」の看板作品になることを諦め、ウェブサイト「OHP」のしばたさんが仰るところの“ごはん系”のポジションを目指して、ただ雑誌の片隅で細々と生き残る道を選択した、という事になるのでしょう。
 それが果たして良いのか、悪いのか。ここで結論を下す事は止めておきますが、脳天を突き抜けるような傑作を求めて止まないタイプである駒木には、何ともやりきれない思いが残ってしまったりしますね。


 ……と、いうわけで、今週号の路線変更もあって締まらない終わり方になりましたが、以上で今回の特集を終わります。

 次回のゼミは「ジャンプ」の代原レビューを中心にお送りする事になりますが、他にも何か佳作・良作が見つかれば、それも紹介したいと思います。

 では、また来週のゼミをお楽しみに。

 


 

8月15日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第3週分)

 さて、お盆、そして終戦記念の日にお送りする『現代マンガ時評』です。こんな日に「ジャンプ」の打ち切りがどう、とか、「バンチ」の編集姿勢がどう、とかいう妙に湿っぽい話をするのはアレなのですが(苦笑)、まぁ、いつも通りの平常心で講義を実施したいと思います。

 まずは情報系の話題から。今週は「週刊少年ジャンプ」系の月例新人賞・「天下一漫画賞」・6月期の審査結果発表が出ています。今月は久々にデビュー確定の佳作も出ているようです。では、例によって受賞者・受賞作一覧をご覧頂きましょう。

第71回ジャンプ天下一漫画賞(02年6月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=1編
  『だんでらいおん』
   空知英秋(23歳・北海道)
 《講評:天使の話はよくある話だがこれは新しかった。セリフ回し、ギャグの間などが上手く、今にも動き出しそうなキャラが生きていた。ただラストの盛り上がりが少々物足りなかった》 
 審査員・編集部特別賞=該当作無し
 最終候補(選外佳作)=6編
  ・『RHYTHM』
   相模恒大(19歳・北海道)
  ・『JET少年』
   村上洋之介(25歳・東京)
  ・『瑰詭草紙(きかいそうし)』
   渡辺柾明(23歳・山形)
  ・『サムライマスビーツ』
   奥村秦地(22歳・福岡) 
  ・『TIGERパンチャー』
   鈴木愛(25歳・北海道)
  ・『輔─タスク─』
   島悠子(21歳・神奈川) 

 佳作の『だんでらいおん』は、本来ならば冬の増刊号でデビューするはずなのですが、『世紀末リーダー伝たけし!』が急遽打ち切りになった事で、いきなりの本誌登場もあり得ます(ページ数は合いませんが、他にもう1作品取材休みが出た時は、どうにか掲載可能)。受講生の皆さんも、頭の片隅くらいには置いてもらいたいと思います。

 そして話は前後しますが、ここでも島袋光年氏逮捕関連の続報を改めてお伝えしましょう。
 島袋光年氏逮捕から約1週間になりますが、その間に連載中の『世紀末リーダー伝たけし!』の37・38合併号をもっての打ち切りと、単行本の発売中止が決定されました。単行本に関しては、恐らくこのまま絶版になるものと思われます。
 既刊の単行本(1〜24巻)については、発行部数が多いですので、今なら古本屋で入手するのは極めて容易でしょう。ただし、単行本未収録分については、近い将来“幻の作品”化する可能性が大です。ですから、『たけし』ファンやマンガ収集をなさっている方は、今の内にスクラップを取ってスキャニング等しておいた方が良いかと思います。

 ……情報系の話題は以上です。では、今週のレビューに移りましょう。
 今週は「週刊少年ジャンプ」から新連載第3回の後追いレビューが1本、そして読みきり1本の計2本。そして、今週合併号で休刊の「週刊少年サンデー」の代わりに、「週刊コミックバンチ」から『エンカウンター ─遭遇─』の後追いレビューをお送りします。都合、3本のレビューということになりますね。

 文中の7段階評価はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年37・38合併号☆

 ◎新連載第3回『SWORD BREAKER』作画:梅澤春人《第1回掲載時の評価:保留

 今日のレビュー1作品目は、第1回で評価を保留していた『SWORD BREAKER』からです。

 第1回のレビューでは、全体的に荒っぽい絵柄に注文を出しつつも、テンポが早くて読み応えのあるストーリーには及第点をつけました。評価自体は“ファンタジー世界編”での様子を見てから、という事で保留とさせてもらったんですが、マズマズの好ダッシュと言って良いものだったと思います。

 が。

 第2回、第3回とファンタジー世界での話が進むにつれて、この作品に対する期待が物凄い勢いで萎んでいってしまいました
 まず第2回、結局舞台は変わってもやってる事は不良を懲らしめてるだけ、という梅澤さんの話作りにおけるフトコロの狭さが露呈されてしまいました。
 さらに、続く第3回では、「説明的セリフの連発」及び「下手クソなアマチュア作家がやりそうな、コテコテの中ボス登場」という、“これだけはファンタジーでやっちゃダメだ”的な展開に突っ走ってしまう“惨事”

 今の時点で辛らつな判断を下すのは早計かも知れませんが、この『SWORD BREAKER』、当ゼミでお馴染みのファンタジー作品・『キメラ』(作画:緒方てい)からオリジナリティと表現力を差し引いたような、読んでいて居た堪れない作品になりそうな気がします。

 打ち切りを決めるアンケートは低年齢層が中心のため、果たして小・中学生がこの作品をどう評価するかは分かりませんが、この作品、少なくとも恵まれた終わり方はできないのではないかな…と思います。

 評価はB−に。設定やキャラクターで余程のテコ入れをしない限り、評価が覆る事はないでしょう。


 ◎読み切り『司鬼道士 仙堂寺八紘』作画:かずはじめ

 今週は代原ではない中編読み切りが1作品掲載されています。『MIND ASSASSIN』『明稜帝梧桐勢十郎』などでお馴染み、かずはじめさんの新作です。
 前作『鴉MAN』で痛恨の短期打ち切り終了となったかずさんですが、増刊号での試運転を経て、連載を念頭においた読み切り作品で本誌復帰となりました。果たして、作品のデキはどうでしょうか──?

 まずからですが、この人くらい作品ごとの絵柄変化が少ない人も珍しいですよね。まぁ、クセのあるタッチでもパッと見で下手には見えない絵なので、このままでも十分だと思いますけどね。
 あと、今回はいつにも増して背景が白っぽい感じがするのですが、これはまぁ、アシスタントの仕事量を削ったんでしょうね(苦笑)。半失業中の中、恐らく100万円に届くかどうかという原稿料で経費を使っていられないでしょうし(苦笑)、まぁこれも仕方ないかな、というところですね。

 さて、ストーリーの方。今回、この作品のレビューをするにあたって、マンガの奥深さのようなものを1つ勉強させてもらいました
 実は今回のお話、プロット・シナリオそのものは、極めてオーソドックスな、ちょっと悪く言うと「有望な新人マンガ家が新人賞に応募する作品のようなストーリー」という感じなのです。しかし、そういうやや平凡な話が、かずさんの手にかかると、立派な作品になってしまうから興味深いです。
 まず、話の展開に無理が全く無いという事。いつも駒木がゼミで言っている「作者の都合による話や設定の矛盾」が全く無いんですよね。これはもうトコトンまでにシナリオを練っている証拠です。一切妥協していません。
 で、そういう“ストーリーから作り始めた作品”というのは、ストーリー上の役割に応じてキャラクターを当てはめていくので、キャラ立ちが弱い事が多くなるのですが、この作品ではそれも及第点レヴェルまで克服しています
 そして、特にこの作品で素晴らしい所はセリフ回しです。この作品ではセリフの量がかなり多いんですが、それらが全て完璧なまでに喋り言葉で表現されているため、長ゼリフ独特のイヤらしさが全く無いのです。「ジャンプ」系作家さんは軒並みコレが下手なので、特に目立ちますね。
 その他のコマ割りや効果などの構成・演出も問題無し。かずさんの技量の程を見せ付けられた…という感じです恐れ入りました

 ただ、ストーリーそのものに新味が薄かったため、評価はA−くらいに落ち着いてしまいます。何というか、物凄く上手い漫才師が若手のネタをやったらどうなるか?…みたいなケースですからね、今回は。
 恐らくこの作品は冬以降の新連載候補に挙げられる事になると思います。ただ、かずさんの作品はことごとくまでに本誌連載になるとダメになってしまうので、ちょっと心配ですねぇ。いっその事、別出版社のメジャー月刊誌に移籍して、40〜50ページの月刊連載をした方が良いんじゃないか…と思ったりもするのですが、どんなものでしょうか。

《その他、今週の注目作》

 ◎『エンカウンター〜遭遇〜』(週刊コミックバンチ2002年29号より連載中/作画:木之花さくや《読み切り掲載時の評価:B/連載第1回掲載時の評価:保留

 ご存知、「世界漫画愛読者大賞」グランプリ受賞作です。今週号(36・37合併号)で連載8回目という事になりますが、ようやく作品の全体像らしきものが見えて来たので、後追いレビューをしてみたいと思います。

 …さて、この作品ですが──。
 このようなレビューを始めて8ヶ月になりますが、こういうタイプの連載作品は初めてです。
 どういう事かと言いますと、この作品は、作家さんが労力を費やすベクトルが「ストーリーテリングをする上で、手抜きをしたりそれを誤魔化す事」に全力を費やしているのですよ。何というか、言語道断です。
 …ハッキリ言って、ここまで酷い展開になっていくとは予想してませんでした。キャリアのある作家さんですから、一念発起して、もうちょっと気合の入った作品にしてくれるはずと、少しは期待していたのですが……。

 では、具体的にこの『エンカウンター』がどういう(ダメな)作品なのか、概説していきます。

 まず、連載開始から2ヶ月弱に渡って次々と伏線が張り続けられます。深まり続けるばかりの謎、そしてワラワラと現れる主人公たちを見つめる謎の人物。メチャクチャ伏線の数が多いです。ミステリ系マンガでもそこまで伏線引きません、というくらい多いです。その上、その伏線は7週間にわたって小出しで提供されます
 そして、それらの雑多な設定をその2ヶ月弱の間に忘れてしまうと、なかなか話に着いて行けなくなってしまいます。作者の木之花さん夫妻は「単行本でまとめて読んでくれ」と思ってるのかも知れませんが、単行本を買わない大多数の「バンチ」読者に重い負担を強います
 どうしてそこまでするのかと言うと、多分、話のポイントを小出しして間延びさせると、楽だからなんでしょう(苦笑)。最低1年分の話を用意しないといけないわけですし。間延びさせるためなら、いかなる小細工も読者の負担も辞さない、というのが木之花夫妻の姿勢のようです。
 これでもし、楽したいためでなければ、ただ単にセンスが無いだけです。まぁ、どっちにしろダメダメですね(苦笑)。 
 もはやどうでもいいんですが、これが以前、木之花さんが「バンチ」でコメントしていた「あっという間にできた単行本1冊分のネーム」だったら、非常に寒い事になりますねぇ……。

 またこの作品では時折、話に出て来る超常現象等を解説するためにマニアックなウンチクが挿入されます。が、難しい資料をキャラクターに棒読みさせる形ですので解説になってません
 こういうのが毎週続くにつれ、こちらの被害妄想と空耳でしょうが、「こっちはこれだけ調べて、こんなに博識なんだぜ、へっへー」という木之花夫妻の荒い鼻息が聞こえて来るようで、ストレスが異常に溜まって来ます

 でも、ここまではまだ我慢できます。どれだけ伏線を張ろうが大風呂敷広げようが間延びさせようが博識ぶろうが構いません。ちゃんと納得できる形で、「おお、これは面白いまとめ方だなぁ」と思わせてくれれば、少々の我慢はさせてもらいますよ。
 しかし今週の連載8回目、深まりまくった謎を解決し、超常現象の犯人を探り出したその方法は、「超能力で犯人を一発で検索」という、謎解き・伏線処理一切無視の荒業・“人間google”でした。
 この結果を目にした駒木、思わずその場で、
 「それまで読者に強いた負担は何やねん、伏線も全然処理しきってないし、そもそも2ヶ月も引っ張るような話かい!」
 ……と、はしたなくも関西弁で怒鳴り散らしたくなりました。

 さらに作品を読んでみると分かるのですが、犯人が判明してからもまだ2〜3週間引っ張るようです、木之花夫妻。いつになったらUFOとか、イングランド騎士団が発見したインダス遺跡の話になるのでしょうか……? いや、もう期待も何もかも打ち砕かれてしまった今ではどうしようもないのですが……。

 ……まぁそういうわけで、『エンカウンター』は、「この作品をこのネタで面白くしよう」という描き方ではなく、「このネタでできるだけ長い間引っ張ろう」という描き方をされています。で、話の展開が難しい場面では「この難しい場面をいかに面白く乗り切るか」ではなく、「この難しい場面からいかに逃げ出すか」を最優先に描かれています

 もうハッキリ言います。志が低すぎます。

 これ以上書いていると、こちらも受講生の皆さんも嫌な気分になるだけなので、とっとと評価に行きます。
 評価はB−。マンガとしての体は保ってますのでC評価はしませんが、志の低さに呆れ果てます。


 ……あと、「バンチ」を読んでいて気になるんですが、連載が進むにつれて、どんどん間延びしてゆくのは『エンカウンター』に限らず、他の作品もそうなんですよね…。特に、以前このゼミで高い評価を進呈した『報復のムフロン』『レムリア』も酷い事になっちゃってます。どっちも評価をB程度まで下げないといけないかな…という程です。
 どうもこれ、打ち切りが極端に少ない「コミックバンチ」のシステムが悪い方向に出ちゃってるような気がしてならないんですよ。作家が現状に甘えちゃうんでしょうね。「終わらせなければ良い待遇で仕事が続けられるぞ」って感じで。それじゃ本末転倒ですよねぇ。

 最近では「バンチ」の部数も減っていると聞きますし、どうにかしないと、本当に地盤沈下を起こしそうでヤバい気がします。

 

 ……と、今日は後半湿っぽい事ばかり言っちゃいましたが、どうかご容赦を。それでは今週のゼミを終わります。 

 


 

8月8日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第2週分)

 いやー、ビックリしましたねぇ。島袋光年氏、女子高生買春で逮捕。詳しくはすぐ後に述べますが、連載中のメジャーマンガ誌連載作家が不祥事で逮捕されたっていうのは、非常に珍しい事じゃないでしょうか。
 まぁ普通、週刊連載作家っていうのは週の休みが0.5日あれば良い方って聞きますから、本来なら出会い系サイト経由で女子高生漁ってる暇なんて無いんですけどねぇ(苦笑)。

 さて、ではゼミを始めましょう。今週のレビュー対象作は3本という事で、まぁ講義をする方にしても受講される人にしても丁度良い数ではないかと思います。

 では、まずは皆さんお待ちかね(?)の情報系の話題から。

 冒頭でもお伝えしましたが、昨日(8/7)、「週刊少年ジャンプ」で『世紀末リーダー伝たけし!』を連載中の島袋光年氏が児童買春の疑いで逮捕されました
 有名雑誌の現役作家逮捕という事で、8日付朝刊では各紙の社会面に記事が掲載されましたが、ここではBBSで情報提供して頂いた100bさんに敬意を表して読売新聞から引用する事にします。

 神奈川県警少年課と伊勢佐木署は7日、漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載中の漫画家・島袋光年容疑者(27)(東京都世田谷区玉川1)を児童買春・児童ポルノ処罰法違反(児童買春)の疑いで逮捕した。

 調べによると、島袋容疑者は昨年11月12日、横浜市神奈川区内のホテルで、同市内の女子高生(16)に現金8万円を渡し、みだらな行為をした疑い。

 島袋容疑者は携帯電話の出会い系サイトを通じて女子高生と知り合ったが、女子高生には偽名を使い、コンピューター会社員を名乗っていたという。

 島袋容疑者は、1996年にデビューした人気漫画家。翌97年から「週刊少年ジャンプ」に「世紀末リーダー伝 たけし!」を連載。昨年、同作品で小学館漫画賞(児童向け部門)を受賞している。
(読売新聞より)

 他紙の報道によると、島袋氏は警察の取り調べに対して既にいくつかの余罪を自供している模様です。しかしながら当講座といたしましては、ウルトラマンコスモスの一件もありましたし、とりあえず現段階では断定的な扱いをする事は避け、続報を待ちたいと思います
 とはいえ、こういう事態になってしまった以上、「ジャンプ」での『──たけし!』の扱いは厳しいものにならざるを得ないでしょう。既に9月発売予定の単行本が発売延期になり、集英社のウェブサイトからも『──たけし!』関連のコンテンツが削除されたという情報が入ってますし(情報元:『最後通牒・半分版』さん)、連載終了や無期限休止などの“処分”が近々発表されそうです。
 それにそもそも、一度逮捕されてしまったら、保釈(起訴の場合)、または釈放(不起訴の場合)されるまでの間(最短10日前後、最長40日以上)は勾留されてしまいますから執筆は不可能ですしね。
 どうやら、次週発売の37・38合併号は既に印刷・初期流通が済んでいる事もあり、『──たけし!』は掲載される模様ですが、これが事実上の最終回という事になりそうです。一説によれば、今のエピソードを終わらせたら完結という線で話が決まっていたそうですので、ある意味勿体無いことではあります。
 『──たけし!』終了後は、恐らく何週か代原や代原作家の短期集中連載で乗り切って、秋の新連載シーズンに備える事になるんではないかと思います。
 それにしてもこの事件、不謹慎な話ながら、これで次の打ち切り枠が1つ減るので、ボーダー上の作家さんにとっては“朗報”になっちゃうんですよね、いやはや(苦笑)。

 ……さて、情報をもう1つ。
 明日発売の『週刊コミックバンチ』最新号で、「世界漫画愛読者大賞」入選作の『満腹ボクサー徳川。』が連載開始となります。
 何と言いますか、まさに「ジャンプ新人海賊杯」と同じパターンになって来ましたよね。『満腹ボクサー徳川。』は、悪い作品とは思いませんし、連載にすれば平均点近辺を取り続けるであろう手堅い作品ですので、それはそれで良いんですが、自分で自分の雑誌の賞の価値を下げるような事は止めた方が良いような気がしますが……。
 

 ……では、今週のレビューへ。今週は「週刊少年ジャンプ」から新連載第3回の後追いレビューが1本、読み切りが1本、そして「週刊少年サンデー」から読み切りが1本。合計3本のレビューとなります。
 レビュー中の7段階評価についてはこちらをどうぞ。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年36号☆

 ◎新連載第3回『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介《第1回掲載時の評価:B+

 今週もセンターカラー&ページ増と、編集部のプッシュが続く『アイシールド21』の後追いレビューです。

 この3回目までで、主人公を含めた主要キャラ3人のキャラ立てをこなして、いよいよ次回からアメフトの試合に突入する事になるわけですが、確かにここまでの話の運び方やコマ割りなどはソツがありません上手いです。主要キャラ3人も、容姿・性格共にハッキリと区別されていますし、どの要素をもってしても、間違いなくプロの描く作品と言えると思います。

 ですが、この作品が「他のプロの描いた作品と比べて上位にランクされるのか?」と考えると、やはり少し首を傾げざるを得ません
 というのも、作品のノリがコメディからギャグにややシフトし過ぎているためなのか、どうにも1話ごとの見せ場がインパクトに欠けてしまうんですよね。「ここだ!」と言う所でヒル魔が出てきて場が茶化されてしまうような展開が続いているのです。
 あと、話のポイントになるのが、主人公・セナの「足が速い」という設定だけ、というのも気になります。要はワンパターンなんですね。まぁ、これも試合シーンに突入すれば幾分解消できそうではありますが……。

 一言で言えば、「名作になるまでのプラスアルファが足りない」というところでしょうか。それは即ち、アンケート葉書に記入される「面白かった作品3つ」に入るための決め手に欠けているということにもなります。
 作者のお2人にとっては、せっかくのビッグチャンスなんですから、是非とも活かしきって欲しいものです。

 評価はB+で据え置き。打ち切りへ突き抜けないためにも、よりインパクトのある話作りに励んでもらいたいと思います。

 
 ◎読み切り『イケてる戦隊ごきげんジャー』作画:原淳

 今週は『ホイッスル!』が休載のため、代原が掲載されました。それにしても最近の「週刊少年ジャンプ」は弛み過ぎです。当たり前のように毎週代原が載る雑誌なんてどうかしてますよ、まったく。

 ……まぁこんな事、ここで言ってもどうにもなりませんから話を進めましょう。今回の代原作家である原淳さんは、調べてみると意外と豊富なキャリアが浮かび上がってきました。
 まず「ジャンプ」での実績としては、本誌99年11号から01年45号に至るまでに5回代原が掲載されていて、さらに99年の春増刊にも読み切りが掲載されています。内容の大半は、今回と同じ戦隊モノパロディギャグマンガですね。
 そして、「ジャンプ」系雑誌で活動する以前には、エニックスの『ドラクエ4コマ』で作品を発表したり、今は休刊した「ギャグ王」で連載もしています。その連載作品で96年には単行本も出していますが、評判は芳しくなかったようで、現在は絶版となっているようです。
 ……それにしても、いくら人気がイマイチだったとは言え、他誌の連載作家が3年以上代原作家に甘んじているというのも、ある意味根性座ってる話だと思いますね。普段どのようにして生計を立てているのか、心配になってしまいます(苦笑)。

 では、作品の話に移ります。
 まずですが、ハッキリ言って上手くはありません。ただ、伊達に6年以上キャリアは重ねていないと見えて、下手なりに独自の絵柄が完成されているので不快には感じませんね。
 ただ、肝心のギャグの方も6年がかりで半端に低い水準のまま固まってしまっていては問題ですね。まぁ、他の「ジャンプ」代原ギャグ作家さんと比べると番付が1〜2枚上だろうか、という感じがしますが、この作品のすぐ後に掲載されている『ピューと吹く! ジャガー』と比べてしまうと、さすがにキツいです。
 この作品の(そして恐らく原さんの)最大の問題点は、間で笑わせるギャグが下手だという事です。間で笑わせようとしながら、ギャグの展開がせっかちなんですね。
 『──ジャガー』なんかを見てもらえれば分かると思いますが、大体、間で引っ張るギャグの場合は最低でも“間”をもたせるのに2コマ以上は使います。しかし、この作品では1コマ間を置いただけで、すぐにオチへ行っててしまうのです。これだと“溜め”が利かないので笑いようが無いんですよね。このポイントを良くするだけで、作品の完成度は大きく違ってくると思うんですが……

 評価はB−。『たけし』緊急打ち切りで代原作家さんにはたくさんのチャンスが回って来そうな気がしますので、原さんにも早いところリベンジしてもらいたいものです。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年36・37合併号☆

 ◎読み切り『白い夏』作:武論尊/画:あだち充

 マンガ界の超大物タッグによる中編読み切りの登場です。原作の武論尊さんは、昨年『ライジング・サン』で玉砕して以来の「サンデー」本誌登場となります。

 さて、作者お2人のプロフィールは余りにも有名すぎるので割愛するとしまして、早速作品の内容に話を進めましょう。

 あだちさんの絵についても言及する余地は無いですね。まぁ、「もうちょっとキャラの顔を他作品と描き分けたらどないや」と言いたくなりますが、これももはや、あだちさんの確信犯に近いようですので、追及するのは止めておきます。

 で、武論尊さんのストーリーの方ですが、こちらもベテラン作家さんにありがちな陳腐さが無くは無いのですが、それよりもよく練られたプロットに敬意を表するべきでしょう。回想シーンと現在のシーンでセリフをシンクロさせる小技も効果的ですし、何よりも50ページ以上のお話で全く間延びさせていないという点はさすがだと思います。
 しかし、この作品の最大の問題点は「少年誌にそぐわない」という事ですね。どう考えてもこの作品は「ビッグコミックオリジナル」に掲載されるべき作品のような気がします。やはり少年誌では、淡々と語られてしみじみと終わる話は向かないような気がするのですが……。

 評価は難しいところですが、「週刊少年サンデー」のマンガとしてはB+、青年誌や成年誌のマンガとしてはA−ということにしたいと思います。

 

 ……と、いうところで今週のゼミも終了です。次回は「サンデー」が合併号で休刊なんですが、その分、「コミックバンチ」などからレビュー対象作を引っ張って来られれば…と思います。では、また来週。

 


 

8月1日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(8月第1週分)

 さて、8月最初のゼミを実施するわけですが……。

 いやぁ、大変です。今週のレビュー対象作品が、「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」だけで6本あるんですよ。「ジャンプ」なんて連載4本も休んでるのに(から?)6本。
 しかし、いつからマンガ雑誌で「取材休み」の制度が始まったんでしょうねぇ。駒木の記憶が正しければ、メジャー少年週刊4誌の中では「マガジン」が最初で、それを他誌、特に現体制のジャンプが模倣しているような気がするんですが。そう言えば、いつだったか『激烈バカ』が取材休みになってて、「どこに、何を取材に行ってんねん」と大いに逆上した覚えがあります。
 前から気になってたんですが、青年や成年(not成年向)マンガ誌では、取材とか言い訳しないで、堂々と休載してますね。この辺は何でしょう、伝統の違いとかあるんでしょうか。誰かご存知の方がいらっしゃったら、談話室かメールでよろしく。

 ……と、無駄口叩いてないで、ゼミの方を進めていきましょう。今日はお話するような情報系の話題もありませんし、早速レビューの方へ。

 今日のレビュー対象作は、「週刊少年ジャンプ」から新連載1本と読み切り1本、そして「週刊少年サンデー」からは、新連載1本、新連載第3回の後追いレビュー1本、読み切りが1本、そして前号からの前・後編モノの総括レビューが1本。2誌合わせて6本のレビューを実施します。もう何だか泣きたいですが、やります。下手に来週回しとかにすると、「ジャンプ」に2本代原が入ったりして、結局今週と同じような事になったりしそうなんで……。

 レビュー中の7段階評価についてはこちらをどうぞ。


☆「週刊少年ジャンプ」2002年35号☆

 ◎新連載『SWORD BREAKER』作画:梅澤春人

 気が付いたら、もう中堅というよりベテラン作家になりつつある、梅澤春人さんの新連載が登場です。梅沢さんは、「週刊少年ジャンプ」では5回目の連載となります。

 さて、この作品は、本誌2002年10号に掲載された同名読み切り作品の連載リニューアル版です。(評価詳細に関しては2月6日付レジュメを参照のこと)
 前号から始まった『アイシールド21』と同じ形式ですね。「ジャンプ」としては定番の、そして当たり外れの差が極めて大きい連載立ち上げ方式です。果たして、この作品はどうなるのでしょうか──?

 ではまずいつも通り絵柄から。梅澤作品を読んでいるといつも気になるのですが、とにかく無闇に顔アップとバストアップのコマが多いんですよね。今回はまだ新連載第1回という事で、梅沢さんにしてはかなり凝った構図が使われたりしていますが(おまけに遠近感が結構グダグダなんですが^^;;)、これはあまり感心できる事じゃありません。
 どなたかは失念しましたが、とある有名なマンガ家さんがおっしゃるには「顔のアップとバストアップが多い作家は楽をしようとしているんだよ」との事。確かに他のそういう作品(どれがとはどうとは言いませんが、今週号の337Pから始まる連載作品なんかを見ても、言い得て妙なんですよね(笑)。
 あと気になる点をもう1つ作品を追うたびに不良の描写の現実感が無くなるのはいかがなものでしょうか? これ以上悪化すると、伝説の打ち切りマンガ『サイレントナイト翔』作画:車田正美の第1話冒頭みたいになってしまいそうで、ちょっと心配です。

 …と、絵柄の方はかなり苦言を呈させてもらったのですが、ストーリーの方はと言うと、読み切り時からの大幅なリニューアルが功を奏していて、まずは及第点というところでしょうか。冒頭のコテコテファンタジーさ加減にはいささか辟易しますが、現代劇に話が飛んでからはテンポが良くて“読ませて”くれますね。普通の作家さんなら何話か引っ張ってしまいがちな現代劇編を1話でケリをつけてしまったのは大変良かったと思います。ただ、またちょっと絵柄の話に戻りますが、年を追っても虎一の顔が老けないために時代の進行が分かり辛いのは問題だと思いますが。21歳の顔と30歳の顔が同じというのは、現実はともかくとして、マンガ的には良くないでしょう。
 結論としては、絵を中心に色々問題点は抱えているものの、とりあえず第1話は上手く乗り切った…というところでしょうか。ただ、今回はあくまでも本編から独立したプロローグ的な位置付けのため、どうにも全体的な評価が下し辛いという面があります
 よって、評価は現時点では保留とさせてもらいまして、第3回終了時点で判断をしたいと思います。

 

 ◎読み切り『CROSS BEAT』作画:天野洋一

 第63回手塚賞(02年上期)で、最高評点を獲得して準入選となった、天野洋一さん『CROSS BEAT』が本誌に掲載となりました。
 どうやら今回の本誌作品掲載は、連載陣の取材休みに合わせて実施する事がかなり前から決まっていたようで、天野さんが地元・岡山の地方紙からインタビューを受けたりもしています。(詳しくはこちら。それにしても、過去の手塚賞受賞者に挙げられたのが小林よしのり氏北条司氏、というのが、いかにも一般紙ですね《笑》)
 インタビュー記事などによると、天野さんは高校卒業後、岡山在住のままデザイナーの仕事を始め、その傍らでマンガの投稿を続けていたようです。「天下一漫画賞」募集のカットを描いていたとの情報もあり、担当もついていた事から、かなりの投稿歴が窺えます。年の割には意外と下積み長いかもしれませんね。

 ※談話室等で色々なご指摘を受けるのですが、ジャンプ系新人の情報をサンデー系新人のそれに比べて詳しく提供できるのは、ジャンプ系作家さんの情報を扱うウェブサイトの方が圧倒的に充実しているからなんですよね。駒木が把握している範囲で秀逸なサイトを挙げると、「シェルター」さん、「葵屋」さん、「KTRの趣味の館」さん。特に「KTR」さんは完成度が凄いです。
 どなたか、少年サンデー系の新人賞や掲載作品のデータベース・サイトをご存知の方がいらっしゃったら、駒木まで情報提供をよろしくお願いします。(何だか今日はお願い続きですね《苦笑》)

 では、作品レビューを進めていきましょう。
 まず絵柄ですが、投稿見習い期間が長かったためか、新人作家さんにしては手慣れた印象を受けます。特にデフォルメの上手さは新人の域を優に越えているのではないでしょうか。ただ若干、洗練された部分と荒削りの部分が混在していて、その部分だけはいかにもキャリアの浅さを感じさせますね。まぁ、十分合格点を出せるレヴェルだと思います。
 ストーリーの方は、ここ最近「マガジン」系を中心に増えてきた音楽モノ。このジャンルは、音が聞こえないマンガという媒体で如何に音楽を表現するかがポイントであり、腕の見せ所でもあるわけですが、天野さんは既存の作品を随分と研究されたようで、このポイントもソツなくクリアしています。敢えて難を言えば、『月下の棋士』や『ヒカルの碁』で良く使われる、実力者に褒めさせる事で物事の価値を表現する技法を使い過ぎているのが、まさしく玉にキズなのですが、まぁこれも許容範囲でしょう。
 しかし、話全体もソツなくまとめてはいるのですが、今ひとつ読者を引き込んだり、感動させたりするポイントに欠けていたような感じが拭えませんでした。クライマックスにかけての見せ場に魅力が薄いのです。これは、欠点を無くす事に全力を挙げた結果、長所を伸ばしきれなかったというところがあったからではないでしょうか。
 天野さんがこれから本誌連載を勝ち取るために必要なのは、まさにそこ、読者の心をグイッと掴むという事だと思います。せっかくここまでマンガに情熱を捧げて本誌掲載を勝ち取ったのですから、もう一息です。次回作、楽しみにしています。

 評価は、やや厳しいかもしれませんがB+としておきましょう。自分に足りないモノを早く見つけられるよう、頑張ってもらいたいものです。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年34号☆

 ◎新連載『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫

 「サンデー」本誌02年15号にて、『背番号は○』が掲載された、あおやぎ孝夫さんが連載を獲得して「サンデー」に凱旋です。『背番号──』掲載時は、当ゼミでも「ぜひ連載を」と言っていただけに、大変嬉しく思っています。(詳しい評価は3月13日付レジュメを参照)

 あおやぎさんは、今から約4年前の第43回「新人コミック大賞」に入選してデビュー。「月刊コミックGATTA」で連載を獲得していたのですが、残念ながら雑誌休刊により打ち切りとなり、「サンデー」に移籍して来ました。持ち前の爽やかな作風が連載でどこまで威力を発揮するのか、見ものです。

 絵柄に関しては、読み切り掲載時にも述べましたが、全く問題ありません。躍動感のあるバスケシーンの描写も巧みで、基礎画力の高さを感じさせてくれます
 しかし、ちょっと意外…というよりやや失望させられたのが今作のストーリーでした。前作のストーリーからも、あおやぎさんがステレオタイプな話が好きなのは分かっていたのですが、よりにもよって相当使い古された「主人公二軍・三軍から這い上がり型」シナリオで来るとは……。
 確かに他作品をオマージュにした名作マンガも多く存在するのですが、このタイプのシナリオで本当の名作というのは少ないんです。少し昔の作品で言えば『名門! 第三野球部』、今で言えば『Mr.FULLSWING』といった、多くの読者から失笑をもって迎えられてしまうようなモノばかりなんですよね。
 しかもこういう話は、あおやぎさんの画風と全く合わない泥臭い話になってしまうものなので、チグハグな印象を与えてしまいます。1回読んだだけで結論を急ぐわけには行きませんが、どうも悪い方向へ流れつつあるようで心配です。
 
 とりあえずの評価はB−寄りB「こんなはずじゃなかったのになあ」というのが、現在の駒木の本音です。ぜひ、あと2週間で駒木の鼻をあかすような方向へシフトしてくれる事を祈っています。

 
 ◎新連載第3回『いでじゅう!』作画:モリタイシ)《第1回掲載時の評価:

 7月18日付ゼミで1回目のレビューを行った、『いでじゅう!』の後追いレビューです。

 一言で言いますと、かなり良くなっています。……というより、モリさんが前から持っていた良い所が目立ち始めた、と表現した方が良いでしょうか。

 成功の要因は、主人公よりも目立つ変態系脇役キャラのキャラ立ちを最優先して、そちらを実質上の主役に据えてしまった思い切りの良さでしょうか。もうどう考えても主役は林田じゃなくて、オカマチョンマゲの藤原になっちゃってますからねぇ(笑)。
 あと、質の高いギャグを理詰めで計算して出せる、というギャグ作家でも誰もが持っているわけではないスキルが、回を追うごとに活かしきれるようになって来ています
 ギャグのバリエーションもセリフあり、絵あり、パロディありと多彩でお見事。まぁ、20代後半以上にしか分からない『キン肉マン』パロまでやっちゃったのは、是非は分かれると思いますが(個人的にはおもくそツボでしたけど)。

 これであとは、通勤・通学電車で読んでいると笑いを堪えるのに苦労してしまうようなホームラン級のギャグを量産できるかどうか。それさえ出来れば、『神聖モテモテ王国』(作画:ながいけん)の再来となりそうです。

 評価は迷うところなんですが、B+寄りのA−に大幅アップとさせてもらいましょう。これからの更なるレヴェルアップに期待です。

 
 ◎読み切り(前・後編もの)『まじっく快斗』作画:青山剛昌

 『名探偵コナン』青山剛昌さんが不定期で本誌に掲載するライフワーク的作品・『まじっく快斗』の登場です。

 『まじっく快斗』は、『名探偵コナン』の世界とリンクしている怪盗モノの作品。つまり、両作品で主人公が逆の立場になっているわけですね。
 まぁ、普段から原作抜きで『コナン』のストーリーやトリックを考えている実力派の作家さんが描いている作品なわけですから、こっちの方も内容の濃さには定評があります。ただ、今回はこれまでのシリーズを全く考慮せずに独立した読み切り作品としてレビューをしてみたいと思います。

 もう絵柄については、評価するまでもないキャリアと技術を持った作家さんですので割愛させてもらいます。
 で、ストーリーなんですが、熟練のテクニックを生かして高い完成度を持った作品に仕上げているのは、よーく分かります。伏線とその処理や、決して少なくないキャラクターを無理なく登場させるあたりなどは、並の作家さんでは無理でしょう。
 ただし、今回のシリーズ、どうも作者の青山さんの思考ベクトルが、「読者を満足させる」方向ではなくて、「読者を騙す」方向へシフトし過ぎたのではないかと思ってしまいました
 後から読み返さないと思い出せないような伏線が多すぎて(しかも前・後編ですし、この作品)、せっかくのラストシーンで感情移入し難いですし、しかも多くの伏線を詰め込みすぎたせいか微妙に話全体の流れに矛盾点が出て来てしまっているようにも思えます。もう少し気持ち良く騙して欲しかったなぁ、というのが正直なところですし、それがミステリのルールだと思うんですよね。

 評価はB寄りB+。昔のゲーム雑誌風のアオリで言うと、「青山剛昌ファンなら買い!」みたいな作品でしょうか(笑)。

 
 ◎読み切り『ミリ吉四六』作画:ささけん

 「少年サンデー」新人・若手読み切りシリーズ「荒ぶれ昇龍!」の第5弾、ラストを飾ったのは、01年度11月期「サンデーまんがカレッジ」入選受賞作、ささけんさんの『ミリ吉四六』です。
 ささけんさんは、2000年夏の「赤マルジャンプ」に作品を掲載していて、どうやらそれより前にもマンガ家として活動していたような節もあります。結構下積みキャリアの長い人のようですね。
 また、「うわの空・藤志郎一座」なる小劇団に参加している事も、調べてて判明しました。

  さて、『ミリ吉四六』受賞発表時の編集部選評は以下のようなもの。

 絵・話ともに、凄まじいパワーを感じます。貴方のような人が、サンデーを変えていくのかもしれませんね。しかし、パワーだけでは週刊連載作家となるのは、難しいでしょう。これからはパワーだけでなく、絵・話を盛り上げる技術を学んでください。期待してます。

 この作品を読んだ後、改めてこの選評を見てみると、確かに簡潔にこの作品の全てを言い当てているように思えます。ですから、もうレビュー終わらせたいんですが、疲れたし(笑)。

 ……まぁ冗談は止めにして、もうちょっと詳しくレビューをしてみましょう。
 まず絵は即戦力級に上手いです。絵そのものだけではなくて、トーンの使い方や構図の取り方などの細かい点も、若手作家さんとしては上手すぎるくらい上手いです。しかも、もう自分の絵柄を掴んでますから、どんな作品を描くにしてもそれなりの対応が出来るでしょう
 ストーリーの基本的な所も、キッチリと良く出来たスポ根モノに仕上がっていて、さすが入選受賞作といったところ。ただ、話がギャグにシフトし過ぎていたり、主人公の吉四六よりも、脇役の日野の方に読者が感情移入してしまいやすい構成のために、最後の吉四六が大活躍するシーンでもカタルシスを得難いといった辺りにまだ改善の余地がありそうです。選評でも手放しで褒めていないのはそういう点があったからなのではないかと思います。もう一磨き出来れば、一気に売れっ子にまで出世できそうな、荒削りの大型新人、といったところでしょうかね。

 評価はA−寄りのB+としておきましょう。早く次回作が読んでみたい作家さんの1人です。

 

 ……と、やっと6作品のレビューをする事が出来ました。これが再来週くらいになると、一気に楽になれるんですが、そうなったら今度はネタ不足ですからね。難しいものです。では、また来週。

 


 

7月25日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第4週分)

 さて、今週もゼミの時間となりました。

 実は今週、採用試験明けという事で、色々な企画やら『エンカウンター』の再レビューやらも考えていたんですが、この忙しさの前に全てご破算になってしまいました(苦笑)。
 今週はどうやら、レビュー3本というあたりで落ち着きそうです。珠美ちゃんが日誌で「レビューの本数が多い」って言ってましたが、結局普通の数になっちゃいましたね。まぁその分、来週はもっとエラいことになっちゃうんですけど……。(来週は「ジャンプ」で新連載1本「サンデー」で新連載1本、第3回1本、さらに読み切り2本のレビューが既に確定してるんです。これで他誌に佳作が掲載されたり、『HUNTER×HUNTER』や『ROOKIES』が落ちたりすると、さらにレビュー対象作が……
ひぃ

 まぁ、とりあえず今週はレビュー3本ということで、どうぞよろしく。ではまず、情報系の話題を軽く。

 先週にも少し触れましたが、「週刊少年ジャンプ」の打ち切り2作目は、やはり『NUMBER10』(作画:キユ)でした。
 当ゼミでの第3回時点での評価はBで、巷の評判も悪くありませんでしたから、本来ならば生き残ってもおかしくない作品だったんですが……。ただ、今の「ジャンプ」には『ホイッスル』が連載中な上に、同時期に連載が始まったのが『プリティフェイス』『ヒカルの碁・第二部』でしたから、かなり新連載立ち上げのタイミングが悪かったかな、という気はします。
 あと、作品のクオリティ的な事を言うと、やはりキャラ立ちとストーリーのインパクトが弱かった事でしょうね。端的に言ってしまうと、“『少林サッカー』少林抜き”みたいなマンガでしたから……。
 これでキユさんは2連載2打ち切りちょっと「ジャンプ」で週刊連載復帰は難しいかも知れませんね。ひょっとしたら、「チャンピオン」などの他社他誌への移籍もありうるかも知れません。

 ……今週の情報系ネタはこれくらいでしょうか。それでは時間も切羽詰ってますから、早速レビューへと移りましょう。

 今週のレビュー対象作は「週刊少年ジャンプ」からの2本と、「週刊少年サンデー」からの1本です。今週から前・後編で掲載の『まじっく快斗』は、来週の後編掲載を待って2回分まとめてのレビューを行います。
 レビュー中の7段階評価についてはこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年34号☆

 ◎新連載『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介

 「ストーリーキング」ネーム部門大賞受賞→3月に前・後編で本誌掲載…という経路を辿って週刊連載となりました、若手作家さん2人による大型新連載のスタートです。
 巻末コメントや「ストーリーキング」の募集カットなどを見ると、腕の良いアシスタントを編集部から紹介したり、念入りな取材を敢行したりしているようですね。これは実績の無い若手作家さんへの待遇としては破格のものであり、いかに「ジャンプ」編集部がこの作品に期待をかけているか分かろうというものです。
 恐らく、「ジャンプ」編集部はこの作品で『ヒカルの碁』に続く2匹目のドジョウを狙っているんでしょうね。比較的マイナーな競技がテーマだったり、「ストーリーキング」出身の原作者と絵の上手い作家のコンビによる作品だったり…と、状況的にはかなり似通ってる部分が多いですし。
 まぁ個人的な事を言わせて頂くと、駒木はアメフトのファンですので、これを機にアメフト人気が高まってくれれば嬉しいんですけれどもね。でも、ちょっとあざとい感じもしますよね(苦笑)。

 さて、お2人のプロフィールや読み切り版『アイシールド21』のレビューなどは、以下のリンクを辿ってご覧下さい。

 ◆村田雄介さんのプロフィールと、村田さんの読み切り『怪盗COLT』のレビュー……2月20日付レジュメ
 ◆
稲垣理一郎さんのプロフィールと、読み切り版『アイシールド21』前編のレビュー……3月6日付レジュメ
 ◆読み切り版『アイシールド21』後編のレビュー……3月13日付レジュメ

 ……長い間サボらずに仕事してると、いざという時に役立って、我ながらイイ感じです(笑)。

 では、レビューに移りましょう。

 まず絵柄に関しては何も注文つけなくてもいいと思います。むしろ、アシスタントを動員しているためか、以前よりもクオリティが上がっています
 しかし、今更気付いたんですが、村田さんも稲垣さんも(さらにはアシスタントさんも)、かなり鳥山明さんの影響を受けてますね。なんだか鳥山作品の21世紀版みたいな感じで、「いかにも『ジャンプ』だなぁ」って印象を受けました。

 そして肝心のストーリーですが……。
 実は読み切りの時点では、駒木はこの作品に対して、かなりの酷評をしていたんですよね。簡単に言うと、キャラと舞台設定の作りこみが浅過ぎる事と、作品全体のキーポイントであるアメフトの描写が甘すぎると指摘させてもらったんです。正直、これを連載に降ろすには相当荷が重そうだと思ったものでした。
 ところが、連載第1回を読んでみると、問題点のほとんどが解消されているじゃないですか! キャラクターや諸々の設定にも深みが出て来てますし、アメフト描写に関しても取材の効果が出たんでしょう、かなり印象度を増して来た感じがします。読み切りの時には、栗田とヒル魔が何故アメフトをやりたいのかすら描かれてませんでしたから、これは大きな進歩でしょう。
 読み切りからページ数の少ない週刊連載になった途端にスケールダウンする作品は多いんですが、その逆っていうのはあまり見た事がありません。この辺が若さゆえの柔軟さというところなのでしょうか。

 ただ、ここに来て新たな問題点も浮上しています
 まず1点目は、主人公より脇役の方が主役のようなキャラ立ちをしてしまい、主人公のサクセスストーリーにカタルシスが感じられ難い点。そして2点目は、読者の意表を突く場面が少ないために、ストーリーからやや平板な印象を受けてしまう点です。
 この辺りが“1匹目のドジョウ”である『ヒカルの碁』と違うところですね。これから第3回までにどうやって軌道修正してくるのか楽しみです。

 評価は、とりあえずB+としましょう。これからしばらく後には、いくつかの長期連載が終わりそうな気配ですので、あまり打ち切りの心配はしなくて済みそうです。それを考えると、キユさんってのは本当に間が悪い人ですねぇ……。

 ◎読み切り『もて塾恋愛相談』作画:大亜門

 今週は『シャーマンキング』の原稿が落ちて休載ということで、代原が掲載されました。
 この作品はどうやら、02年4月期の「天下一漫画賞」最終候補作・『もて塾へ行こう!』をベースに改稿、もしくは同じ設定を使い回して描かれた、新人さんの習作原稿のようです(結果発表のページに掲載されていたコマが、今回の作品では使用されていませんでしたので)こういう緊急事態がなければ掲載される事も無かったでしょうから、作者の大亜門さんは強運ですね。
 しかしこの作品、特徴のある題名だったので思い出しましたが、作家さんの名前がペンネームに変わっていたりもしたので、うっかり見逃すところでした(苦笑)。

 さて、それではレビューへ。

 まずは絵柄からですが、新人のギャグ作家さんにしてはなかなか作画が手慣れていますね。ギャグ作家としてなら十分プロで活動していける力は備えていると思います。大亜門さんの年齢が24歳という事を考えると、アマチュアなどで活動の経験があるのかもしれませんね。
 難を言えば、もう少し可愛い女の子が描ければ、大きな武器になるんですが、これは今後の課題という事なのでしょう。

 そしてギャグ全般の評価ですが、まず驚かされるのは、構図とテンポの巧みさですね。コマ割りやセリフ回しにおけるギャグマンガの基本形は完璧にマスターできています。ちゃんと見せ場では表現をオーバーにするなど、その辺りのセンスも非凡なものを持っていますね。あまりにも上手くまとめているので、やや古臭く感じてしまうほどです。新人なのに既にいぶし銀というのは非常に珍しいと思われます。
 キャラクターの数や設定作りも基本に忠実で、相当ギャグマンガの研究をした上でのこの作品、という事が伝わってきます
 ただ、惜しむらくは、読者のほとんどが馬鹿笑いできるようなホームラン級のギャグが無かった事で、それさえあれば立派に一人前のプロの作品に仕上がっていたはずなので非常に惜しいです。
 あと、既に『最後通牒・半分版』さんで話題になっていたんで恐縮ですが、冒頭のシーンにも触れておかなければなりませんね。この作品、1コマ目と2コマ目が完全に他作品のパロディで、しかも1コマ目で裸に剥かれている女の子キャラがどう見ても全員『あずまんが大王』主要キャラだったりするんですね(笑)
 こういう遊び心のパロディは、『ピューと吹く! ジャガー』なんかでもあったりするんですが、やっぱり人気連載作家だから許されるという面があったりしますので、新人・若手の内は控えて欲しいものです。

 評価は新人さんの習作としては高評価のを進呈。比べちゃアレですが、『シュールマン』のクボヒデキ氏よりはよっぽど将来性がありそうです。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年34号☆

 ◎読み切り『カラス〜the master of GAMES〜』作画:佐藤周一郎

 新人・若手読み切りシリーズ「荒ぶれ昇龍!」の第4弾は、これが本誌2度目の登場となる新人さん・佐藤周一郎さんです。

 佐藤さんが以前本誌に登場したのは「サンデー特選GAGバトル7連弾」の時で、『ピー坊21』という作品を発表しています。
 その時の詳しい評価は、2月27日付レジュメを参照してもらえればお分かりになると思いますが、「将来性は感じられるものの、ギャグ作家の適性は疑問」というものでした。今回はそれを自覚されてかどうか分かりませんが、ストーリーマンガに活路を求めて、44ページの中編作品に挑戦という事になりました。こういう器用なことが出来るわけですから、確かにマンガ家としての素質はあるんですよね…。

 絵柄はまだ、以前からの課題であるタッチの堅さ…というかアマチュア臭さが抜けきれていないのですが、5ヶ月前よりは幾らかレヴェルアップしています。あとは、前作はゆうきまさみさんの影響が見てとれたのに、今回はそれがほとんど無くなっているのが気になりますね。この間、他の作家さんのアシスタントなどをして画風が若干変わったのかも分かりません。

 そしてストーリー。まず、かなりストーリーの引っ張り方が強引なのは否定できませんね。舞台設定もかなり無茶ですし、状況説明も不足しすぎです。ただ、話そのものは比較的分かりやすい流れになっているので、読み難いという事はありません。これに関しては一応の評価が出来ると思います。あ、オチはとても面白かったですね。ここも評価できるポイントです。
 で、もう1点気になったのは主人公のキャラ造型です。「ゲームコントローラーを握った時だけ強気になれる、普段は弱気なただのゲーム好き少年」という設定なのに、場面場面で作者の都合により(笑)、突然シリアスなキャラになってしまうんですよね。これはストーリー展開の強引さも相まって、かなりの我田引水な印象を抱いてしまいました。
 結局これは、自分の描きたいストーリーをそのまま描きたいがために、色々な矛盾点に目をつぶってしまった結果なのだと思います。駒木も小説描くので分かるのですが、作者が想定していたストーリーを無理に押し通そうとすると、どこかで不自然な点が出てきてしまうんですよね。例えば、大したきっかけもないのに主人公とヒロインが恋に落ちたりとか、次々と殺人事件の容疑者が自殺していったりとか(笑)。
 「マンガはキャラクターだ」なんてよく言われますが、その路線のなれの果てである『BLACK CAT』を見ていると、やっぱりストーリーマンガには魅力のあるストーリーがまずありきで良いと思いますよね。ですが、やっぱりストーリーだけじゃダメなんですよ。登場人物の個性などと符合するような話作りをしないと、本物のストーリーにはならない気がします。

 評価は一応を進呈しましょう。現時点では連載までの道は遠いと思いますが、どんどん才能を磨いていって欲しいと思います。

 ……と、いうわけで今日のゼミは以上で終わります。来週のゼミをお楽しみに。ではでは。

 


 

7月18日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第3週分)

 特編カリキュラム中でも、ゼミだけは平常実施です。今週に入ってから受講生の数がジリジリ減っていて、メチャクチャもどかしい気分なんですけれども、これで休んでる受講生さんが復帰してくれれば……と思っています。どうぞよろしく。

 さて、まずは情報系の話題を手短に。
 まずは「週刊少年ジャンプ」の新連載シリーズのお知らせから。
 「ジャンプ」は、いつも直前になって新連載シリーズの発表をするので油断ならないのですが、まさか一番忙しい今週に来るとは(苦笑)。
 今回の新連載は2作品。共に今年「ジャンプ」本誌で読み切りが掲載された作品で、まず来週号(34号)から始まるのが、『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介)で、そして恐らく次々号(35号)から始まるのが『SWORD BREAKER』作画:梅澤春人)です。
 読み切り掲載時の当ゼミでの評価は共にB(プロの作品として平均点。可も不可もなく)でしたので、個人的には半分不安、半分期待というところですね。

 作品別のポイントも挙げておきますね。まず『アイシールド21』は、読み切りではイマイチ踏み込んでいなかったアメフトシーンをどう描ききるかで完成度が随分と変わって来るでしょう。
 あと、『SWORD──』の方は、もはやマンガ界では半ばタブーと言っていい“剣と魔法のファンタジー”ですから、余程目新しいものを提示していかないと、『ベルセルク』を曾孫コピーしたような劣化したモノになってしまいそうな気がします。それをどうにかするのは作家さんのストーリーテリング力なんですが……おっと、これ以上は作品を読んでからにしましょう(笑)。

 新連載に伴って、入れ替わりに最終回を迎える作品も2つ。1つは以前から打ち切りが確実視されていた『少年エスパーねじめ』作画:尾玉なみえ)で、今週もう最終回を迎えてしまいました。また、もう1作品は、どうやら紆余曲折の上に『NUMBER10』(作画:キユ)で落ち着きそうな感じに。『世紀末リーダー伝たけし』も一時期は人気的にヤバそうだったんですが、ここまで来たら今のエピソードが完結するまで思う存分描いてもらう方針のようです。
 ゼミを始めてから、以前より熱心に打ち切りレースを見ているわけなんですが、同じくらい人気の無い作品群から打ち切り候補を決める時、最後にモノを言うのは実績なんですよね。そういう意味では新連載作品は、とにかくスタートダッシュが大事ということになります。既連載作と競り合ったら負けますからね。そういう視点で、前回の新連載シリーズでスタートダッシュに大成功した作品を挙げるなら『プリティフェイス』ですね。こう言っちゃ、ミもフタもありませんが、やっぱり絵が上手い作家さんがお色気路線に行くと、何かと得なんですねぇ…。

 次に、「週刊少年サンデー」の月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」の結果発表がありました。

少年サンデーまんがカレッジ
(02年5月期)

 入選=該当作なし
 佳作=該当作なし

 努力賞=1編
  ・『くろの称号』
   衣笠絵里(24歳・大阪)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  ・『Make Money Spirit!!』
   肉団子(22歳・兵庫)
  ・『チープ・トリック』
   小林裕和(21歳・東京)
  ・『聖童のポートレイト』
   石井雅倫(19歳・大阪)

 1ヵ月分のみの発表ということで、やや低調な結果に。やっぱりこの辺に、「サンデー」の「ジャンプ」との新人開拓力の違いが出てしまっている気がします。こればっかりは構造的な問題なのでしょうね。

 さて、それでは今週のレビューへ。今週のレビュー対象作は、「サンデー」から2作品と、「週刊ビックコミックスピリッツ」から高橋しんさんの読み切り『LOVE STORY, KILLED.』をお送りします。

 文中の7段階評価はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年サンデー」2002年33号☆

 ◎新連載『いでじゅう!』作画:モリタイシ

 先週のゼミでもお伝えしました通り、「サンデー」では今週から新連載とベテラン作家さんの読み切りシリーズが始まりました。今週はその第1弾ということになります。

 この作品の作者・モリタイシさんは、「少年サンデー超増刊」出身の若手作家さん。今年の2月に本誌で読み切りが掲載されていますので、ご記憶の方もいらっしゃるかと思います。モリさんのプロフィールや、その作品の詳しい評価、さらに画力についてのコメントは、こちらのレジュメを参照してください。

 …というわけで今回は、作品全体の完成度などに限定して話を進めて行きたいと思います。

 まず、この作品はコメディに近いギャグマンガですね。ごく普通の学校が舞台で、ごく普通の少年を主人公にし、そこへ変態チックな脇役を多数絡ませることで笑いを呼ぶ…という手法がとられています。
 実はこの手法には先例が存在しています。かつて「週刊少年ジャンプ」に連載されていた『ボンボン坂高校演劇部』作画:高橋ゆたか)がそれです。『ボンボン坂──』も純粋なギャグというよりコメディに近いライトな作品で、連載中は絶えず中程度の人気を維持して、無事に完結に至りました。打ち切りが多い高橋さんの作品の中でも、珍しく成功した作品と言って良いでしょう。

 では、この作品も同じような経路を辿って、マズマズの成功を収めるのか、というと、現時点ではやや疑問が残ります。
 と、いいますのも、実は先例である『ボンボン坂──』は、ギャグそのものよりも、主人公とヒロインのラブコメ的要素がメインテーマだったのです。多くの読者も「ギャグは大して面白くないけど、恋の行方は気になるぞ」というスタンスで作品を楽しんでいたのではないかと思います。
 そもそもこの、“普通の舞台、普通の主人公にボケの脇役”というパターンは、あまり爆発的な笑いが期待できない設定なのです。他の成功しているギャグ作品をチェックして頂けると判ると思いますが、爆発的な笑いが期待できるようにするためには、まず第一に“主人公、または主役格が壊れている”という事が大事なんです。主役がボケて、重要な脇役がそれをツッコむ…という形がベストというわけです。

 もちろんこの不利なスタイルでも、その不利さを覆して、爆発的な笑いを期待できる破壊力十分のギャグが出来ていれば問題ないわけですが、この『いでじゅう!』の現時点の完成度では、「悪くない」程度の評価は出来るものの、残念ながら爆発的な笑いが期待できるレヴェルには至っていないようです。
 しかも、まだ作品の確固たるテーマが固まっておらず、読者がどのようなスタンスで作品に接すれば良いのかもまだ手探りの状態で、さらにはヒロイン候補も不在
 …う〜ん、どうも課題山積といった感がありますね。

 ただ、モリさんは理詰めでギャグが作れる知性派のギャグ作家さんですし、余り描かないだけで女の子の絵も上手です。これから上手くテコ入れ出来れば、作品の質が大きく変わってきそうな余地も残っているはずですので、もう少し様子をジックリ見てみたいと思います。

 現時点の評価はBということに。あと2週で評価が大きく変わる可能性がありますので、次々回のレビューもお楽しみに。

 

 ◎読み切り『ニポリの空』作画:小山愛子

 この作品は、5週連続の若手・新人読み切りシリーズ「荒ぶれ昇竜!!」の第3弾という事になります。
 作者の小山愛子さんは、昨年秋から「少年サンデー超増刊」でデビューを果たした若手作家さん。問題作『365歩のユウキ!』の作者・西条真二さんのアシスタントとしても活動中です。

 そんな小山さんの絵柄ですが、どことなく師匠の西条さんの影響も見受けられますが、ペンタッチそのものの個性が強いため、よくある“絵柄を見るだけで誰が師匠か判ってしまう”というパターンには陥っていません。「模倣から始めて一歩先を」を上手く実現できているのではないかと思います。
 その他の特徴としては、所謂“喜怒哀楽”の特に“喜”の表現力が豊かな事が挙げられますね。これが少年誌らしい明るいムードを醸し出す上では良い方向に働いていると思われます。

 そしてストーリーの方ですが、こちらは“とにかく若さに任せて勢い良く突っ走ってしまおう”という、良い意味にも悪い意味にも取れる開き直りを感じさせますね。
 冒頭部分で、“空を飛ぶ鳥を釣りざおで釣る”という、見慣れない設定をスンナリと説明出来ている辺りに才能を感じさせますが、全体的にキャラクター設定やエピソードの底が浅いために、ストーリー全体の説得力や印象度が薄れてしまったのが残念です。
 特に、ヒロイン・クーが献身的行動をしたり、一応の敵役であるウォン爺が“西条節”全開で主人公・ニポリを毒づきまくったりする事について、どうしてそういう行動をとるのかといった、キャラクターの動きについての動機付けが甘いところが痛いですね。ここで話全体の魅力が半減してしまってると言っても良いと思います。もう少しプロット段階で話を練っていれば、立派な作品になるところだったのですが……。

 評価はオリジナリティを買って、B+寄りのBという事にしておきましょう。とりあえずもう1作品読んでみたいと思わせてくれる作家さんだと思います。

 

《その他、今週の注目作》

 ◎『LOVE STORY, KILLED.』(ビッグコミックスピリッツ33号掲載/作画:高橋しん

 今回の注目作は、高橋しんさんの『最終兵器彼女』外伝、『LOVE STORY, KILLED.』です。

 有名な作家さんですから、プロフィールや絵柄についての説明は不要でしょう。レビューはストーリーについての評価を中心にしてゆくことにしますね。

 ではレビューを始めるんですが、この作品、まずは話全体の完成度は極めて高い、という事を先に述べておきましょう。
 これだけ重厚なストーリーを描ける作家さんは、現役プロの中でもそうはいないと思います。ですので、レビューはそのことを踏まえた上で
、この作品の中のやや細かい所にスポットを当ててみたいと思います。

 ……さて、で、この作品なんですが、高橋さん本人も暗に認めてますように、マンガとしては極めて異色な作品だと思います。
 中でも特に特徴的だと思えるのが、これから挙げる2つのポイントです。今から順を追って紹介・解説していきましょう。

 まず1点目としては、「この作品は極めて文学的(小説的)である」という事が挙げられます。しかも、まるでエンターテイメント色の無い写実主義的な内容となっています。

 もともと高橋さんはネーム力・話の構成力のある作家さんですが、今回はそれをとことんまで突き詰めたような仕上がりになっていますね。無機物を語り手とする事で徹底的にモノローグを増やし、それをストーリーテリングの中心に据えています。その結果、極めて3人称小説に近いマンガという形になりました。
 また、マンガのお約束と言っても良い、“クライマックスで読者にカタルシスを与えること”を真っ向から拒否して、エピソードの始まりから終わりまでを淡々と描いています。この辺り、まるで夏目漱石の後期や三島由紀夫の小説を思わせるような表現方法でした。
 ……ただ、これらの方法が、マンガの表現方法として果たして適切だったのかどうかについては、やや疑問が残ると思います。
 やはり、大前提である“お約束”を破るからには、それなりの覚悟というか、“そうでなければならない重大な理由”というものが無ければならないと思うのですが、そこが感じられないのです。見えて来るのは、「こんな話が描きたかった」という高橋さんの考えだけなんですよね。
 同じ悲劇的なエンディングにするのであっても、もう少し起伏に富んだストーリーを提示しても良かったのではないかと思います。そうすれば間違いなく2002年度を代表するような傑作読み切りになったはずなのですが……。
 「描きたい」というところから、更なる高みへと脱却する事の難しさは駒木もよく判っているのですが、もうバリバリのプロとしてヒット作も飛ばしている作家さんだけに、手抜きはしてほしくなかったなぁ…などと思ってしまうのです。

 そして2点目は、“死”の概念の描き方についてです。

 第一線で活躍している作家さんは、個々それぞれの“死”の描き方に対するスタンスを持っています。

 例えば、アニメ版『エヴァ』や『ふしぎの海のナディア』の監督を務めた庵野秀明さんは、“死”をとことんまで重たく描くことに長けた人で、どの作品においても、「人が死ぬ」=名場面と言ってもいいほどです。
 それと対照的に“死”を軽く、というか日常の一風景として描いてしまう作家さんが、『HUNTER×HUNTER』冨樫義博さんや『ガンダム』シリーズ富野由悠季さんです。特に冨樫作品は意識的に命を軽く扱って、それで本来の残酷さを少年マンガ用に薄めるように調整している節が見られたりします。富野さんは…天然でしょう(苦笑)。
 “死”の描き方が少し変わっているのが手塚治虫先生で、手塚作品では結構頻繁に“死”がテーマとして出てくるのですが、これが重くも軽くも無い等身大の“死”なんですよね。そして読者に質問を投げつけるんです。「命って何だ?」と。
 これを継承しているのが佐藤秀峰さんの『ブラックジャックによろしく』なんですよね。題名に違和感を感じさせないのは、そういうところも影響しているのでしょう。

 で、この『LOVE STORY, KILLED.』はどうかといいますと、滅亡寸前の地球、しかも戦場が舞台ということもあって、かなり命を軽く扱っているように見えます。勿論、それはそれでいいんですが、何だか、どうにも作品全体から漂う違和感が拭えないのです。
 それは何故かと考えてみたんですが、まずこの作品は、殺人の場面はあっても死体の描写が無いんです。そのせいか、死が“軽い”というより“希薄”なんですよね。つまり死を死として実感し難いのです。
 で、これは駒木個人の抱いた印象なんですが、高橋さんは、実は命を重いものだと考えているような気がするんです。でも、この作品では命を重く描いてはいけないわけで、そこで葛藤があったと思うんですね。で、その結果、命を重いままで“薄く”描いてしまったのではないかと。これが違和感の根源なのかな、と思っています。

 あと、この作品では“死”、つまり“殺す”描写の他に“犯す”描写も随所に見受けられます。戦争では殺人と強姦が付き物ですからそれはそれで正しいんですが、あくまでも事象としての重さは「殺人>強姦」でなければならないんですよ。物の理として。
 でも、この作品は「殺人≦強姦」というスタンスなんですよね。これは高橋さんが意識的に殺人行為を希薄に描いてしまった事と、レイプを殺人以上に嫌悪感を抱く行為だと認識しているからだと思うんですが、この事もどうにも得も言われぬ違和感を抱かせてしまう原因だったのではないかと思っています。もう少しご自分の心をコントロールして作品に転化していれば良かったのですが……

 今まで述べた事を一言で表現すると、「こんな重たいテーマの作品なのに、それを描くにあたっての作者の覚悟が足りない」というところでしょうか。そのため、話自体は素晴らしいのに、演出方法でズレを生じさせてしまって、読者にストレスを与えるものになってしまいました非常に勿体無いと思います。

 タラタラと述べてきましたが、ここで評価を。
 評価はB+寄りA−ということに。ベースはとても優れた話ですので、もっと評価する人もいらっしゃるかと思いますが、駒木は違和感とストレスを感じた以上、これより高い評価を与えるわけには行きません。


 ……と、少々冗長すぎた嫌いがありますが、今週のレビューは以上です。次週からレビュー対象作も増え、ますます充実した内容のゼミをお送りできると思いますので、どうぞお楽しみに。

 


 

7月11日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第2週分)

 また後でお話しますが、来週から「週刊少年サンデー」で新連載ラッシュが始まります。しかも新鋭・大物の実力派が揃っていてなかなかのラインナップ。楽しみではあるんですが、よりによって採用試験の直前に始まらなくても……。

 あと、直リンク付きで『ロロスポ』さんから質問されちゃったんでお答えしますが、駒木が「週刊少年マガジン」の新連載&読み切りレビューをやらない理由は、物理的な事情に加えて、どうも「マガジン」のマンガと駒木の感性が合わないからなんですよ(苦笑)。
 これは「マガジン」が絶好調だった時期からの悩みなんですが、どうもヒットしてるものも含めて大半の「マガジン」連載作品が、「マガジン」好きの方たちほど面白いと思えないのです。そのくせ、『真夜中の少女MAYA』作画:本島晴久)とか、『WARASI』作画:寺沢大介)とか、ヒット作家さんたちの“忘れてしまいたいであろう打ち切り作品”に妙にハマってしまったりするんですよね。ですので、「マガジン」作品に関しては客観的な評価をする自信が無いのです。出来れば、以前から言っているように「マガジン」レビュー専門の非常勤講師をお迎えしたいところなんですが……。
 現在の「マガジン」でしっかり読んでいるのは『はじめの一歩』『魁! クロマティ高校』の2作品だけです。さすがにこの2作品の面白さはよく判ります(笑)。
 あと誤解してもらっては困ってしまうんですが、この「現代マンガ時評」は、駄作をコキおろす講義ではなくて秀作・佳作を発掘する講義なんです。そんな事言ってる割には、B−やC評価をバシバシつけて、その内容を延々と批判したりしてますが(笑)、あくまでもそれはレビュー対象作がたまたま駄作であるだけで、好きでやってるわけではないんです。わざわざ労力を費やしてまで駄作のレビューはしたくありませんので、どうぞその辺をご理解くださいませ。

 ……と、私信が長くなってしまいました。取り急ぎ、情報系の話題からいきましょう。

 まず、「週刊少年ジャンプ」の月例新人賞・「天下一漫画賞」の5月期の結果発表から。

第70回ジャンプ天下一漫画賞(02年5月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 審査員・編集部特別賞=3編
  ・『B・A・K・A』(樋口大輔賞)
   吉田慎夫(16歳・島根)
  
・『Judge of king』
   白壱エルビ(17歳・神奈川)
  ・『DEAD MAN』
   ミュウ・ミッチ(22歳・北海道)
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『ピノキ夫。』
   桜井のりお(年齢&住所不詳)
  ・『Rain in the rain』
   黒岩もとし(22歳・宮崎)
  ・『SUMMER BOYS』
   宮崎あきら(23歳・東京)
  ・『夢黒』
   藤田純平(20歳・神奈川) 
  ・『郵便屋』
   藍(13歳・愛知)
  ・『天心』
   田代祐聖(19歳・栃木)
  ・『ファミリーシック』
   金村光太郎(18歳・香川)  

 今月は佳作こそ出なかったものの、なかなかの豊作だったようです。特に注目なのが13歳の最終候補ですよね。絵柄とか見ると、確かに13歳とは思えないレヴェルに達しています。あとは人生経験が少ない部分を、話作り・キャラ作りの上でどうフォローしていくかでしょうね。

 さて、次に「週刊少年サンデー」の話題を。
 「サンデー」は今、新人読み切りシリーズの真っ最中なんですが、さらに来週から新連載&ベテラン読み切りシリーズが開始されます。
 まず新連載のラインナップは、モリタイシさん『いでじゅう!』あおやぎ孝夫さん『ふぁいとの暁』、そして高橋しんさん『きみのカケラ』の3作品。
 モリタイシさんは、「少年サンデー超増刊」で月刊連載の実績があり、さらに今春に実施された「サンデー特選GAGバトル7連弾」からの本誌連載獲得となります。そのシリーズで掲載された7作品のうち、駒木が最高評価(と言ってもB+だったんですが)をつけた作家さんでもあり、個人的には非常に楽しみです。
 あおやぎ孝夫さんは、今年の「サンデー」15号で読み切り『背番号は○(マル)』が掲載されていました。恐らくここでアンケート上位を勝ち取っての連載獲得でしょう。こちらも読み切り掲載時に駒木がA−評価をつけた作家さんでもあり、期待しています。
 そして高橋しんさんは、もう受講生の皆さんもご存知ですよね? 「ビッグコミックスピリッツ」で『いいひと。』『最終兵器彼女』を大ヒットに導いた売れっ子作家さんです。初の少年誌での連載、しかもどうやらファンタジー物のようですが、どのようなストーリーになるか注目ですよね。

 そして読み切りのラインナップは、青山剛昌さんのライフワーク的作品・『まじっく快斗』(前・後編)と、武論尊さん&あだち充さんという豪華タッグによる『白い夏』の2作品。恐らくレギュラーの作品を休載させて調整しつつの掲載になるでしょうが、こちらも楽しみにしておきましょう。

 ……それにしても「サンデー」は勝負をかけてますね。最近部数低迷が囁かれる「マガジン」相手に猛追をかけに行ってるのか、それとも「チャンピオン」の猛追を防ごうとしているだけなのか(笑)。
 まぁ、どちらにしろ、面白いマンガが多く掲載されていれば、駒木はそれでいいんですけれどね。

 さて、それでは今週のレビューへ。今週は「サンデー」から読み切り1作品、そして「ビッグコミック・スペリオール」から新連載1作品を紹介します。文中の7段階評価はこちらをどうぞ。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年32号☆

 ◎読み切り『プレイヤー〜禁断のゲーム〜』作:若桑一人/画:田中保左奈

 「少年サンデー」の若手・新人読み切りシリーズ・“荒ぶれ昇竜!”の第2弾は、「少年サンデー超増刊」連載作品の本誌逆上陸です。
 原作の若桑一人さんは、今年の2月に本誌で『ダイキチの天下一商店』(評価:を短期集中連載してたので、受講生の方も記憶に新しいところでしょう。古くは『風の伝承者』で「サンデー」本誌連載作の原作を担当されてもいました。ただ、どうも多作の割にはヒット作に恵まれない人…という印象がありますね、残念ながら。
 絵を担当している田中保左奈さんは、元・椎名高志さんのアシスタントこの作品が本誌デビュー作となります。

 それでは早速レビューへ移っていきましょう。
 まずは田中さんが担当している絵の部分ですが、これは何と言うか、典型的なサンデー系の絵柄ですよね。どちらかと言うと、師匠の椎名高志さんよりも三好雄巳さん(「サンデー」の連載作家さん。代表作:『デビデビ』)の方に似ています。ひょっとしたら三好さんと何らかの繋がりがあったのかもしれませんね。
 技術的にはプロとしての合格点を楽々稼げそうなものを持っていると思います。他の連載作家さんに混じっても見劣りするどころか平均以上ではないかと思われます。
 個人的には、ヒロインの文乃が当講座助手の珠美ちゃんに似ているのが気になって仕方なかったですねぇ(笑)。もっとも、「胸だけは似てないなぁ」なんて呟いてたら、珠美ちゃんに思いっきり頭をドツかれましたが。

 で、次にストーリーなんですが……。
 ハッキリ言って、話の構成は上手いと思います。冒頭のエピソードでさりげなくキャラの紹介をやり、さらにクライマックスに繋がる伏線まで張っている辺り、芸の細かさというか、プロの仕事が光りますコマ割りとか話の展開もバッチリ決まってます。連載中の作品を読み切りで描くのは案外難しいんですが、普段から月刊連載でページ数の多い話を作っているためか、フォームの乱れが全くありませんでした。
 では、この作品が秀作なのか、というと実はそうとも言えない辛さがあるのです。
 何故かと言うとこの作品、作中で一番の見せ場であるはずのゲーム場面が練り込み不足なんですよね。一話完結型で『カイジ』みたいなマニアックなルール解説や心理戦が出来るはずがないので、無理も無いんですが、それにしてもゲームの内容が実質、サイコロを振るだけ、というのはちょっとアッサリし過ぎではないか、といった感じがします。
 これで『遊☆戯☆王』みたいに、ルールの後付けで勝負を決められても興醒めなのですが、せめてワンポイントくらい、主人公が純粋にゲームの戦術で作戦勝ちするシーンがあった方が良かったのではないかと思います。

 評価はB+。結果的に話が平坦になってしまったので、これでも甘めの評価になるんでしょうが、ストーリーそのものの構成力と、絵の見栄えは良かったので、プラマイ相殺してこの評価で良いんじゃないかと思います。

 

《その他、今週の注目作》

 ◎『ギラギラ』(ビッグコミックスペリオール掲載/作:滝直毅/画:土田世紀

 名作『あずみ』の実写映画化が決まり、さらに『本気のしるし』や『医龍』などの佳作・秀作が出揃って、にわかに水準が高くなっている「ビッグコミックスペリオール」ですが、今回、また期待できそうな作品が新連載ということになりました。題材はヤング〜大人向雑誌ならではのホスト業界のお話です。

 原作の滝直毅さんは、随分昔から手広くマンガの原作の仕事をされている方で、最近では『サラリーマン金太郎』のノベライズも担当したりもしています。ちょっと変わった所では、第1回「世界漫画愛読者大賞」で『満腹ボクサー徳川。』が最終候補に残った日高建男さんが、新人・若手の頃に出した単行本の原作を担当されてもいます。
 絵を担当する土田世紀さんは、既にメジャーシーンで長年活躍している作家さんですのでご存知の方も多いと思います。代表作は「週刊ビッグコミックスピリッツ」の『編集王』ということになるのでしょうか。原作付きの作品としては、「週刊ヤングマガジン」の『ありゃ馬こりゃ馬』原作:田原成貴)が有名ですね。今となっては原作者がいかれポンチになってしまって、作品もろとも闇に葬られそうなのが残念ではありますが(苦笑)。

 話のあらすじは、「若い頃はNo.1ホスト、しかし結婚と共に引退し、その過去を隠してサラリーマンになった主人公だが、30歳を過ぎた矢先にリストラの憂き目に。残ったローンを返すため、さらにリストラを知らない家族を養うために、かつてNo.1に君臨していたホストクラブに復帰して──」、というもの。ストーリーを詳しく説明し過ぎるとアレなんで詳述は避けますが、いかにも大人向マンガ雑誌らしい、分かり易いサクセス・ストーリーになりそうです。
 こういう王道パターンの場合、大事になってくるのが絵の力なんですよね。特にこの作品は題材がホストクラブですから、絵の力で目に見えない“男のフェロモン”的な部分を表現しなくてはならないわけですし。
 そして、この作品は土田世紀さんの絵が話とピッタリとハマってるんですね。土田さんは、自分で話作りをすると、とてつもなく救いの無い話になってしまいがちなんですが、明るめの原作と合わせると、それはそれで良い味が出るんです。これは人選の勝利ではないでしょうか。

 評価はA−ちょっと新鮮味に欠ける点が無きにしも非ずなので、少し評価を控えめにしましたが、ちゃんと楽しませてくれる作品になりそうです。あとはダレる事無く話を展開してもらえれば良いのですが……。

 

 ……というわけで、今週のレビューは以上です。来週は採用試験直前で原則休講なんですが、ゼミだけは実施しますので、どうぞよろしく。 

 


 

7月4日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第1週分)

 “ちゆインパクト”に次ぐ、“セカンドインパクト”(笑)が進行中ですが、カリキュラムは一応平常のものに戻ります。今日は木曜日付講義ということで、現代マンガ時評をお送りします。
 今週は「ジャンプ」、「サンデー」の両方に若手作家さんの中編読み切り作品が掲載されましたので、レビューのし甲斐があるゼミになりそうです。

 さて、まずは情報系の話題から。
 今年は雑誌の創刊・休刊が頻繁にあって慌しいのですが、また1つ休刊誌が。集英社の青年誌・「オールマン」が休刊(=事実上廃刊)するらしいとのことです。(情報元:最後通牒半分版さん)
 連載作品が揃って“まとめ”に入っていたり、それらの作品の次回単行本が軒並み「完結」となっていたりした
りしたところから判明した模様。まぁ、このゼミとはあまり関わりの無い雑誌だったんですが、比較的大手の雑誌と言う事でお知らせしました。

 あとは情報と言っていいのか分かりませんが、「週刊少年ジャンプ」系新人月例賞・「天下一漫画賞」7月期の審査員は冨樫義博さんと発表されました。相変わらずマンガの方は休載ばっかりなんですが、まさか賞の審査で復帰とは(笑)。この人の場合、体調不良で休載してるのか、ネームが描けなくて休載してるのか判断に苦しむところなんですが、少し前みたいに入院してるわけではなさそうですね。
 個人的には、多少休載しても練ったネームの作品が読みたいってタイプなんですが、でもさすがに最近は休みすぎだと思います(笑)。もう話の筋忘れてしまいそうだ……。

 それでは、今週のレビューに移ります。
 今週は「ジャンプ」から読み切り2作品、そして「サンデー」からも読み切り1作品をレビューします。いずれも新人さんか若手作家さんの作品。果たして将来のマンガ界を担える才能は現れたのでしょうか?

 文中の7段階評価はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年31号☆

 ◎読み切り『Elephant Youth!』作画:西公平

 今週のレビュー1作品目は、「赤マルジャンプ」で2回読み切り掲載の実績がある若手作家・西公平さんの作品です。
 作品と併せて掲載された自己紹介によると、新人賞には応募した経験はあるものの、受賞歴はナシとのこと。結構珍しいパターンです。よほど担当の編集さんが熱心に面倒を見てくれたんでしょうし、西さん本人も努力を続けたのでしょうね。
 ちなみに西さんは、福岡コミュニケーションアート専門学校のマンガ専攻卒業という経歴があるみたいです。代々木アニメーション学院を始めとするこの手の専門学校って、卒業生は多いんですが、モノになる人は100人に1人くらいなんですよね。何だか本当に珍しい出世コースを辿ってる人ですね(笑)。

 では作品の評価へ。
 まずに関しては、本誌初掲載の新人さんとしては十分及第点のレヴェルです。スクリーントーンに頼らず、積極的に自分の手で絵を描いてゆこうという意気込みが感じられますし、かといって無駄な線を極力カットする努力も怠っていません。立派なプロの仕事だと思います。
 この人、決して天才的な才能を持った…というタイプではないので、余程の努力家なんでしょうね。

 次にストーリーなんですが、これは率直に言うと「あと一押し」という感じでしょうか。
 ストーリーマンガを描く上での基本は大方マスターしていると思います。極力説明的なセリフを排し、舞台設定を大ゴマ1つでマンガ的に解説するなど、なかなかのものです。確かに台詞回しなどに少々アラも目立ちますが、嫌悪感を感じるほどではありません。
 ただし、1つだけ大きな問題点があります。これがこの作品の完成度を一気に落とし、佳作を凡作にしてしまう要素になってしまいました。
 それは、プロットと設定の立て方が、作者の都合を最優先に練られてしまっているという事なのです。
 例えば。
 この話は「無法地帯と化した地上の治安を取り戻すために活躍する少年たち」というのが基本的な設定です。恐らく作者の西さんは、その設定を考えてから具体的なストーリーを練っていったと思われます。
 この時大事なのは、基本設定をストーリーに組み込む際に、強引で非常識な事をしてはいけないという事です。具体的に言うと、この話の場合は「無法地帯と化した地上」という設定を実現するために、地上が無法地帯になるまでの経緯を無理の無い理由で表現しなくてはならないというわけです。
 しかし、このストーリーの中で為された説明は、「法治機関が地上に置かれなかったため」「政府が外を見捨てて一方的にシェルター内と外を遮断した」というだけ。これでは極めて不自然です。だって、常識的に考えても、人が住んでいる場所に法治機関が置かれなかったり、あっさり同じ人間を見捨てたりするのはおかしいですよね? 
 結局、「無法地帯の地上」という設定を描きたいがために、ストーリーで無理を通してしまったわけです。これでは話全体にリアリティが無くなってしまいますし、ご都合主義感が否めません
 これと同じ例は、他の場面でも見られます。カルキとハルオという2人のキャラを別々にしないと予定通りのシナリオにならないので、ハルオにむりやり走ってる電車から外へ飛び移らせたりしていますね。
 この辺は、話作りをする上で一番大変なところなのですが、一流と呼ばれる作家さんは、そこをクリアして名作・佳作を描きあげているわけですから……。
 ここまで努力して本誌デビューまでこぎつけたのですから、本当にもうあと一押しです。妥協する事無く、問題点の克服に挑んでいってもらいたいものです。評価はB寄りのB−としておきましょう。

 

 ◎読み切り『白い白馬から落馬』作画:夏生尚

 先々週掲載の『あつがり』に引き続いて、2002年上期の「赤塚賞」佳作受賞作の登場です。
 作者の夏生尚さんは、どうやらこれがデビュー作となる新人さんのようですね。「赤塚賞」は、グレードの割には佳作程度なら結構敷居が低いので、「赤塚賞」佳作が初受賞、というケースが結構多い気がします。

 というわけで、この作品も佳作受賞作ということで、あくまでも習作のレヴェルを超えるものではないと思います。
 ですので、レビューもちょっとトーンを控えめに、そして手短に

 形式は1ページのショートギャグを14本というもの。絵柄や形式は、かつて「週刊少年サンデー」に連載されていた『ファンシー雑技団』(作画:黒葉潤一)に似てるような感じでしょうか。新人のギャグ作家さんにしては絵が上手い方ですし、1本ごとに違う絵柄にチャレンジしてみようという意欲が感じられるのは、なかなか好感が持てます
 ただ、肝心のギャグが全くパンチ力不足で残念ですね。どうも起承転結の「転」とか「承」の部分を無理矢理オチにしてしまってるので、物足りないんですね。「まだ転がせるのになぁ」と思いながら読んでるうちに終わってしまった…という感じでしょうか。
 評価はC寄りB−。まだまだこれからですが、さらなる成長を期待しています。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年31号☆

 ◎読み切り『怪盗NAO!』作画:杉信洋平

 今週から「サンデー」では、5週連続で読み切りシリーズが始まりました。今日はその第1弾・杉信洋平さん『怪盗NAO!』のレビューをお送りします。

 杉信さんは、どうやらこれがデビュー作となる新人作家さんのようです。「サンデー」系の新人賞についてはデータベースが少ないので、正確な受賞歴は不明ですが、少なくとも当講座の開講(01年11月末)から「サンデー」系の新人賞を受賞したというデータはありません。
 後でまた指摘しますが、作風に妙なクセが見られますので、劇画系作家さんのアシスタントをしていて、その作家さんの推薦でデビューさせてもらった、という推測をしています

 では、作品の内容へ話を進めていきましょう。
 まず絵柄なんですが、これは最近の少年誌では珍しい劇画風の絵柄ですね。特に顔の描写は必要以上に細かく描き込まれていて、「このスタイルでやっていくんだ!」という気持ちが現れているように感じます。
 ただ、パッと見は上手い絵に見えるんですが、ところどころで妙にデッサンが崩れている箇所があって、それが目立って仕方が無いんですよね。特にディフォルメした絵で、顔の描写と首から下の描写のバランスが合っていないために、凄くブサイクに見える所があるのが残念です。
 あと、やたらに建物などの背景が上手いんですよね。こちらの方は「一見上手そう……」じゃなくて、本当に上手いんです。こちらは相当手慣れているみたいですね。
 こういう一種のアンバランスさから、どうも他の作家さんのアシスタントをやっているような印象を受けたりするんですよね。多分この人、背景を中心に担当しているアシさんなんじゃないでしょうか。人物描写は師匠を真似しようとして只今修行中、という感じがします。あくまで推測ですけどね。

 そしてストーリーなんですが、こちらはちょっと前途多難かなあ…という印象です。どうも、力を入れるベクトルを完全に間違えているような気がするんですよね。
 問題点は色々あるんですが、大きなものを3つばかり指摘しておきましょう。
 まず1つ目として、序盤が間延びしすぎているということ。少なくとも冒頭のドタバタコメディをしている8ページ分は必要ないでしょう。
 この部分の描写は、「主人公が最近明るくなった」という事を説明するためと、話の雰囲気を絵柄の印象よりも柔らかくするためにやってるんでしょう。しかし、ぶっちゃけた話、この話のテーマや内容を考えると、主人公を無闇に明るくする必要は無いですし、話も変にコメディタッチにする必要もありません。ページ数を浪費して、得たのは逆効果という最悪のパターンに陥ってしまいました。
 2点目。どうもこの人、『キャッツアイ』とか『シティーハンター』のような“北条式アクション・コメディ路線”を目指している節が窺えるんですが、それが全くモノに出来ていないのです。簡単に言うと、「コメディ」じゃなくて「ギャグ」(しかも下手な)になってしまっていて、シリアス気味の世界観をブチ壊してしまっているんですよね。そのため、話の全体的な印象がバタバタしているように映ってしまい、大きな損をしています。
 そして3つ目話のディティールがズサンなんですよね。1000年前の伝説の盗賊から譲ってもらった技術がどうしてあんなにハイテクなのか、とか細かい点でいくらでも突っ込みが入ってしまう。しかもそれらがストーリー全体での矛盾を引き起こしてしまってるだけに始末が悪いのです。

 とりあえず言える事は、まだ本誌に出てくるには力不足であるという事。そして、もっと真剣にマンガを描くという事を再検証してもらいたい、という事です。
 評価はC寄りのB−。あー、でもなんか、「世界漫画愛読者大賞」とかで出てきそうな話ですよね、これ(苦笑)。通称「ハエ」とか言われながら。

 ……と、いうところで今週のレビューは終了です。来週、再来週と、どこまで時間が取れるか分かりませんが、ゼミそのものは実施しますので、どうぞよろしく。

 


 

6月27日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(6月第4週分)

 さて、今週もゼミの始まりなのですが……。

 困りました。レビュー対象作がありません(苦笑)。
 なんと、「ジャンプ」と「サンデー」からはレビュー対象作が無しという事態に……。
 一応「ジャンプ」には、『ピューと吹く! ジャガー』の代原として、『しゅるるるシュールマン』がまた今週も載ってるんですが、先週お知らせした通り、今回からこの作品はレビューの対象から外す事にしましたのでレビューしません。

 ただ、先週予告しました通り、「週刊コミックバンチ」で、あの「世界漫画愛読者大賞」グランプリ受賞作『エンカウンター〜遭遇〜』の連載が始まりましたので、そちらのレビューを行いたいと思います。

 …と、いうわけで、たった1作品のレビューとなりましたが、事情が事情ですので、どうぞご理解下さい。

 さて、まずは情報系の話題を少しだけ。
 先週のゼミでも少しだけ関連情報をお知らせしましたが、今週発売の「週刊少年サンデー」30号で、『KUNIE』作画:ゆうきまさみ)と、『どりる』作画:石川優吾)の2作品が同時打ち切り最終回となりました。
 これに関して、ゆうきまさみさんが公式ウェブサイトで、「一敗地にまみれて」という、そのまんまの(笑)題名のコラムを発表しています。(情報提供:最後通牒・半分版さん)
 コラムの全文はリンク先を参照して頂きたいのですが、思い切り話の風呂敷を広げたところで打ち切りが決まってしまい、伏線も何もかも放棄して終わらせざるを得なくなってしまったようです。まさに「志半ばで…」と、いったところでしょうか。
 しかし、何気なく書かれたコメント、「長いことやってると、こんなこともあるですね」。これ、非常に贅沢な一言だと思えるのは駒木だけでしょうか?
 まぁ、ゆうきさんは個人的には大好きな作家さんですので、次回作を期待して待ちたいと思います。

 また、終了した2作品の穴埋めですが、これは来週から5週連続で読み切りシリーズが始まると予告されておりました。ですので、新連載が始まるにしてもその後という事になりそうです。

 ……さて、それでは今週のレビューへ。1作品だけですが、全力で頑張ります。文中の7段階評価はこちらをどうぞ。

 《その他、今週の注目作》

 ◎『エンカウンター〜遭遇〜』(週刊コミックバンチ2002年29号掲載/作画:木之花さくや

 もはやこの社会学講座とは切っても切れない関係となりました、この作品。第1回「世界漫画愛読者大賞」のグランプリ受賞作が、連載作品となって「バンチ」に再登場となりました。

 作者の木之花さくやさんのプロフィールと、「世界漫画愛読者大賞」エントリー作品となった、同名の読み切り作品の内容等については、3月13日付ゼミのレジュメを参照して下さい。

 さて、早速内容についてお話してゆきましょう。
 まず絵柄に関しては、特に問題は無いでしょう。さすがに長年キャリアを積まれて、連載も随分こなされている方だけあって、しっかりとした作画になっていると思います。ただ、いしかわじゅん氏に言わせると、「あんまり上手いとは思わない」だそうですが(笑)。

 そして次に、問題のストーリーです。読み切り掲載時は、話作りの基本がなっていなくてシナリオが破綻しまくっていたわけですが、果たして仕切り直しとなった今回はどうでしょうか?

 さて、もう結論から先に言ってしまいますが、「とりあえずはマズマズのスタートを切ったな」というところです。
 まず冒頭の巻頭カラーで、百年戦争の時代のイングランド人がインダス川流域で遺跡を発見して云々、という歴史的考証メチャクチャなクダリを見た時は果たしてどうなってしまうのやらと思いましたが、本編に入ってからは、読み切りの時のような無茶で強引なストーリー展開は影を潜め、かなり読み進め易い作品にはなっていました。
 そうなった理由としては、前回は1回で1つのエピソードを無理矢理決着させなければならなかったのに対して、今回は1年以上の連載と言うことで、じっくりとストーリーを展開させていけるという“ゆとり”があるからではないか、と思っています。恐らく、単行本1冊分で1つのエピソードを終わらせよう……などといった、ベテラン作家さんらしい構想があったりするのでしょう。
 ただ、これは逆に言えば、まだキッチリとした評価を下す事が出来るところまでストーリーが進んでいない、とも言えると思います。実際、この第1回は伏線を張るだけ張りまくっただけ、という感もあり、この伏線をどう収拾していくかを見届けないと、この作品の良否を判断するわけにはいかないような気がします。
 何しろこの作品には、読み切りの時に話を破綻させた“前科”があります。さらに今回でも、地下鉄の駅に入るだけで“電気酔い”のためにフラフラになっていた主人公が、その後には平気な顔して同じ地下鉄の線路を歩き回ってる…という矛盾をやらかしています。こんな事が他の伏線を処理する時に起こってしまったりすると、もう目もあてられぬ悲惨な事態に陥ってしまうでしょう。
 ですから、今回の評価は保留もう2〜3回様子を見て、いくつかの伏線を消化したところまで話がすすんでから、改めて評価を下したいと思います。

 あ、あと気になった点がもう1つ。
 この作品、新連載第1回ながら、ストーリー自体は読み切りの続きという事になっています。つまり、3ヶ月以上前に掲載された読み切りを、今の読者が読んでいる事が前提になっているわけです。これはちょっと不親切が過ぎると思うのですが、どうでしょうか? 
 駒木は当然の事ながら、読み切りを読んでいて、ストーリーも設定もほぼ頭に入っていますからスムーズに読めました。しかし、そうじゃない人(今回初見の人)にとっては、ひょっとしたら何もかもがチンプンカンプンだったのではないかと心配になってしまいます。
 何だか揚げ足取りみたいでアレなんですが、ちょっと気になったもので……。

 

 ……というわけで、唯一のレビューが評価保留という締まらない形になってしまいましたが、それも正確な評価を下すためですので、どうぞご理解ください。

 それではまた来週。来週は「ジャンプ」も「サンデー」も読み切りが掲載されますので、そちらのレビューが中心になると思います。 

 


 

6月20日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(6月第3週分)

 それでは今週のゼミを始めます。今週は「週刊少年ジャンプ」に代原が2つ掲載された事に加え、「週刊ビッグコミックスピリッツ」からも佳作を“発掘”できましたので、久々に充実したレビューをお送りできるのではないかと思います。

 さて、ではまず情報系の話題から。「週刊少年サンデー」の月例賞・「サンデーまんがカレッジ」3・4月期分の結果発表がありましたので、まずはそれからお送りしましょう。

少年サンデーまんがカレッジ
(02年3、4月期)

 入選=該当作なし
 佳作=1編
  ・『カムワケミ・クラマ』
   涌井良平(27歳・千葉)
 努力賞=4編
  ・『とかげ』
   山田幸司(24歳・東京)
  ・『Lost lonely wolf man』
   四位晴果(20歳・福岡)
  ・『THE KEY』
   岡田きじ(22歳・埼玉)
  ・『弥生』
   鳥居靖志(23歳・神奈川)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  ・『ミヤコオニ』
   島田佳則(20歳・大阪)
  ・『腹減り十文字』
   門品聡人(22歳・新潟)
  ・『俺はバカじゃない。』
   冨田雄太(20歳・千葉)

 さて、「サンデー」と言えば、ヒットメーカー・ゆうきまさみさん『KUNIE』が、次号30号で打ち切り(←恐らくですが)終了となります。
 編集部サイドも、「まさか、ゆうき作品がハズれるとは……」と思っていたのか、ズルズルとスローテンポで1年以上連載が続いた上での中途半端な打ち切り。うーん、これは「サンデー」の悪い面が出ちゃった感じですかねえ。
 さらに『どりる』作画:石川優吾)も間もなく終了しそうな感じで、どうやらしばらく後に新連載シリーズが始まるようですね。果たしてラインナップはどんな感じになるのでしょうか。

 打ち切り&新連載といえば、「ジャンプ」の次期打ち切り争いが、ますます熾烈になって来た感がありますね。今期新連載の内、『ヒカルの碁』と『プリティフェイス』はどうやら人気面から続行が濃厚。つまり以前からの連載作品がその分ワリを食う事になります。
 その上、打ち切り枠から除外と思われるベテラン勢の作品が軒並み人気低迷気味なので、人気中位の作品でも打ち切りの恐れがあるんですよね。今のところ、有力打ち切り候補なのが『少年エスパーねじめ』『世紀末リーダ伝たけし!』の2作品。巻末の作者コメントや話の展開から考えて、『──ねじめ』は“当確”と考えられます。さて、あと1作品はどれなんでしょうか。まさに戦々恐々ですねぇ……というか、『ねじめ』打ち切りとは何事ぞ! という人が結構いそうですね。コアなファンが多いのに、どうしてこうなっちゃうんでしょうかねぇ。

 さて、それではレビューに移ります。今回は「ジャンプ」から3作品、そして“その他”枠から「週刊ビッグコミックスピリッツ」の1作品をレビューします。
 文中の7段階評価はこちらをどうぞ。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年29号☆

 ◎読み切り『ジュゲムジュゲム』作画:いとうみきお

 2000年から2001年にかけて、『ノルマンディーひみつ倶楽部』を連載していた、いとうみきおさんの復帰作となります。
 いとうさんは、“和月組”と呼ばれる、和月伸宏さん連載『るろうに剣心』のアシスタント出身。そして1998年に増刊デビュー。資料不足のため、ひょっとしたら間違ってるかもしれませんが、ジャンプ作家の方では珍しく、手塚&赤塚賞や天下一漫画賞の受賞を経ずにデビューされている方のようです。
 増刊や本誌に読み切りを3作品掲載した後に『ノルマンディー──』で初連載。人気は中〜下位をウロウロしている感じでしたが、この連載は46回続きました。

 さて、作品のレビューに移りましょう。

 まず絵柄なんですが、以前に比べて若干洗練された感じがします。ただ、これは以前からの特徴なのですが、やや絵に動きが感じられ難いような気がします。多分これは“止め絵”っぽいコマやシーンが多いからなのだと思いますが。

 次にストーリーです。
 全体的に見て「要所要所に気を配っているな」という事が察せられる作品ですね。力作だと思います。冒頭にまず見せ場を持って来て、そこで同時に主人公やその能力をさりげなく紹介した辺りのテクニックは、正にプロの仕事と言えるでしょう。シナリオの流れも矛盾してませんし、ラストシーンも良い感じの演出がなされています。話作りの基本はちゃんと完成されています
 ですが、だからと言って「この作品は面白いのか?」と訊かれると、う〜ん……と首を傾げてしまうところだったりします。そうです。この作品は、上手いんだけれど面白くないのです。
 この作品の最大の欠点は、主人公と主人公の能力(グラナダの科学技術)に魅力が感じられないというところにあります。これは、主人公の“キャラ立ち”が不足している事と、設定の説明が不十分であった事が大きく関係しているのでしょう。謎の多い主人公も結構なのですが、せめてもう少し主人公絡みのエピソードを増やして読者の感情移入を喚起しないと、ストーリーの面白味が生きて来ないのではないかと思います。主人公がグラナダの科学技術を集めている動機を明らかにするなどすれば、もっと深みが増したと思うのですが……。
 後、シリアスなシーンに不釣合いなマンガ的表現が挿入されたり、冒頭の英語セリフが失笑するくらいお粗末だったのも減点対象です。これも読者の感情移入を阻害してしまっています。

 最終的な評価はBにしたいと思います。佳作・秀作の一歩手前という感じの作品で、この評価に留めざるを得ないのは非常に惜しい気がします。次回作でのリベンジを期待しましょう。

 
 ◎読み切り『あつがり』作画:菅家健太

 今週号はなんと4作品が休載。まるで「週刊ヤングマガジン」のような状態になってしまいました。一昔前の「ジャンプ」なら考えられないお話ですが、これも時代の流れなのでしょうか?

 さて、そんな休載ラッシュの中、代原が2作品掲載されました。まずはその内の1作品目、先日発表された赤塚賞(2002年度上期)で佳作を受賞した『あつがり』からレビューしていきましょう。
 作者の菅家健太さんは、おそらくこれがデビュー作となる新人作家さん。果たして、作品の出来栄えはどうなのでしょうか……?

 まずは絵柄なのですが、ハッキリ言って発展途上ですね。というか、サインペンでペン入れした作品に佳作を出しちゃう赤塚賞っていうのも、ある意味凄い話だと思いますが(笑)。
 当然これからは、つけペンの使い方などを覚えるところから修行しないといけないと思います。乗り越えるべき山はかなり高く、そして多いことでしょう。

 次に内容。これは赤塚賞受賞作ですので、一応はギャグマンガの範疇に入るのだと思いますが、どうもギャグ作品としてはかなりインパクトが弱い気がします。一応はボケとツッコミが成立していて、ギャグマンガのスタイルにはなっているのですが、ギャグがギャグになりきれていない感じがしますね。
 むしろこの作品、思い切ってノリを暗くして、ホラーにしちゃった方が良かったのかもしれません。全身火だるまの人間が身近な存在としてやって来る、という設定は、笑いというより恐怖というような気がしますし。
 総合的な実力は別にしてアイデアを着想する力はあると思いますので、あとはそれをどんな形でどう活かすか。これが菅家さんに課せられた課題だと思います。

 評価はB−前途は多難ですが、磨けば良いモノを持っている人だと思いますので、挫折すること無く精進してもらいたいですね。

 
 ◎読み切り『しゅるるるシュールマン』作画:クボヒデキ

 代原の2作品目は、なんと先週に引き続いて、問題(のある)作『しゅるるるシュールマン』です。このゼミでは4回目の登場となりますね。

 しかし、どうしてこんな低レヴェルの作品がこうも度々掲載されるのか、駒木は不思議でなりません。他に載せる作品が無いだけなのか、それとも担当者が懸命にプッシュしているからなのか……。

 ところで先日、とあるマンガ家志望の受講生さんからメールを頂きました。そこには、
 「自分は『しゅるるるシュールマン』が面白いとは思えないんですが、余りにも頻繁に掲載されるので、これは自分のギャグ感覚を修正しないといけないかと思っていました。でも、『現代マンガ時評』の評価を見たらちょっと安心できました(苦笑)」
 ……という内容が。
 そのメールを読んだ時の駒木の心境は、まさにこんな感じでした。↓

・゚・(ノД`)・゚・


 このゼミで前途有望なマンガ家の卵の方を救う事ができて、とても嬉しく思います(笑)。これからも頑張ってくださいませ。

 で、今回の『──シュールマン』についてのレビューですが……。

 相変わらずシュールには程遠い普通のギャグ。しかも勝負ネタで大コケしてしまい、比較的キレている小ネタが全然活きて来ないという最悪のパターンです。さらには離島に住んでる人に失礼な表現までやらかしてしまい、駄作以前のシロモノになってしまっています。

 それに、今回気が付いたのですが、クボさんは、ギャグをセリフだけに頼りすぎているような気がします。
 良く出来たギャグマンガを複数読めば判ると思いますが、優れたギャグ作品は、セリフで笑わせると同時に絵でも笑わせています。複合技です。これがギャグマンガの基本です。
 ところがクボさんは、「無表情で面白い事を言う」というのをシュールと大勘違いしているのか、それが全く出来ていないんです。これでは良い作品が出来るはずがありません。

 評価は当然ながらC今後、この『しゅるるるシュールマン』が掲載されたとしても、余程劇的な内容の変化が無い限り、もうレビューは行いません。これ以上この作品について述べる事は、駒木にも受講生の皆さんにも利益が無いと思いますので。

 

 《その他、今週の注目作》

 ◎『立位体前屈物語』(週刊ビックコミックスピリッツ2002年29号掲載/作画:河谷眞

 6月6日付ゼミで、小学館の「新人コミック大賞・少年部門」で大賞受賞作が出たとの結果報告をしたのですが、実はヤング部門にも大賞受賞作が出ていました。それが、この『立位体前屈物語』でした。
 作者の河谷眞さんは、現在30歳という遅咲きの新人作家さん。年齢などから他誌での実績がある可能性もありますが、残念ながら、少なくとも河谷眞名義で主だった活動実績を探し出す事は出来ませんでした。

 さてこの作品、体力測定テストでお馴染みの立位体前屈を1つの競技スポーツに仕立て上げてしまったらどうなるか? というテーマで一本の作品に仕上げてしまったと言う怪作です。
 普段、フードファイトを通じて、“スポーツらしくないものをスポーツとして認識する事の面白さ”を知っている駒木にとって、このアイディアはまさに我が意を得たり、といったところでありました。
 妙に細かい“スポーツ立位体前屈”の競技理論や、トレーニング理論の描写も素晴らしいですし、立位体前屈という、本来スポーツとは全く縁遠いモノなのに、話を「天賦の才能と体格の重要さ」という、スポーツにとって至極普遍的なところに持っていくあたりも見事です。
 そして、この作品で最も優れているところは、「本来スポーツじゃないものをスポーツにする時に生じる一種のバカバカしさ」という点を忘れていない、というところです。この作品をクソ真面目なスポ根モノとして描いてしまったら、読者の多くは引いてしまったでしょう。しかしこの作品は、内容の部分部分は真面目なストーリーマンガでありながら、全体を俯瞰してみると見事なナンセンス・ギャグマンガに仕上がっているのです。このセンスは只者じゃないな、といった感じです。
 絵柄と話の内容が妙にマッチしているのも見逃せません。どこまでが計算で、どこまでが偶然ハマったものなのかは判りませんが、とにかくこの作品は全ての要素において成功していると言って良いでしょう。

 評価は卓越したセンスとオリジナリティを高く評価してAを進呈。新人マンガ賞の読み切り作品としては間違いなく最高ランクに推せるものです。

 

 ……というところで、今週のゼミを終わります。次回はいよいよ、このゼミとは因縁の深い『エンカウンター』が新連載となります。当然レビューで扱う予定ですので、お楽しみに。 

 


 

6月13日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(6月第2週分)

 それでは今週のゼミを始めます。今はちょうど、新連載の谷間に入ってしまってまして、レビュー対象作品が少ない週が続いています。
 そういう時は、出来れば「ジャンプ」「サンデー」以外から面白い読み切りや新連載の作品を見つけて来ようと思っているのですが、そうは言っても限られた時間と予算の中で、なかなかA−以上の評価を付けられる作品なんて見つからないものでして……。
 そういうわけで、ちょっと小休止状態のゼミですが、どうぞご理解下さい。

 さて、まずは情報系の話題から。
 まずは「週刊少年ジャンプ」の新人月例賞・「天下一漫画賞」の審査結果発表から。手塚&赤塚賞を発表した翌週に月例賞を発表できるというのも、ある意味凄い話ですよね。やっぱり「ジャンプ」の新人は層が厚いんでしょうねぇ。

第69回ジャンプ天下一漫画賞(02年4月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 審査員特別賞=1編
  ・『ROCKET DIVER』(矢吹健太朗賞)
   マメ(23歳・兵庫)
 最終候補(選外佳作)=9編

  ・『天使の条件』
   大沼由尚(17歳・福島)
  ・『リセットBOY!』
   及川友高(25歳・東京)
  ・『ナナシの7』
   安生直人(23歳・埼玉)
  ・『ペットジェントル』
   大江慎一郎(20歳・愛知)
  ・『CaRRY MAN』
   新屋照美(21歳・愛知)
  ・『もて塾へ行こう!!』
   西村大介(24歳・埼玉)
  ・『ウサギマンX』
   小池号直輝(24歳・京都)
  ・『アイの言霊!!』
   士塚真司(21歳・大阪)
  ・『NOT A じょーく』
   山根章裕(23歳・大阪) 

 ちなみにこの回の審査員は、特別賞の名義をご覧の通り、矢吹健太朗氏
 これで総評に「もっとオリジナリティのある作品を!」とか書いてあったら、怒る以前に腹抱えて笑ったと思うんですが、さすがにそれはナシ。その代わりに「ストーリーも大事だけど、それより絵柄を磨くように」という内容が……。
 まぁ、矢吹氏らしいといえばそうなんですが、実際はそれとは逆(絵柄も大事だけど、やっぱりストーリー重視が吉)だっていうのは、矢吹氏も薄々気付いているでしょうに。それとも、「ネームなんか練らなくても、展開間延びさせまくっても、人気さえ維持できりゃ平気〜」という経験談から出てきた言葉なんでしょうかね、やっぱり(笑)。

 ま、皮肉はこれくらいにしますか。

 情報系話題をもう1つ。来週号の「週刊少年ジャンプ」29号で、『ノルマンディーひみつ倶楽部』いとうみきおさんが、読み切りで本誌復帰です。予告のカットを見たら、絵が洗練されて来た印象があるので、ちょっと楽しみですね。

 では、レビューに移ります。今週は「ジャンプ」から2作品ですね。レビュー中の7段階評価についてはこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年28号☆

 ◎新連載第3回『ヒカルの碁(第2部)』作:ほったゆみ/画:小畑健《第1回掲載時の評価:

 ハッキリ言って、もうレビューする必要も無いほど安心して読んでいられる作品なのですが、今回はちょっと目先を変えたレビューを。

 皆さんは「ヒカ碁」が第2部になってから、微妙に、そして明らかに各所でマイナーチェンジが施されているのにお気づきでしょうか? 
 中でも大きい変化は主人公のヒカルですね。顔つきや考え方などが随分と大人っぽくなっていますよね。『ナニワ金融道』でも、連載中断→再開後に主人公の灰原を明らかに“グレードアップ”させて、ストーリー全体の毛色を変えることに成功していましたが、ちょうどそんな感じです。
 まぁ、ヒカルとアキラの会話シーンだけは旧来の子どもっぽいヒカルが残っているのですが、これはアキラに消えてしまった佐為の代わりをさせているんですよね。よく考えたら、今やヒカルの周囲でヒカルより棋力が高いキャラってのはアキラくらいしか無いわけで。佐為編の時は直接の会話がほとんど無かった2人ゆえに出来る設定変更で、この辺りが非常に巧みです。
 また、何気なく登場した小道具の扇子もポイントですね。これはもちろん佐為の分身。この再開第3回の時もそうでしたが、妙手が浮かんだ時などのアクセントとして使用されるのでしょう。

 ただ、あと1つ注文をつけるとすれば、もう少し息抜きする場が、つまりコメディ的な場面がもう少し増えてくれば良いと思いますね。やっぱりストーリーマンガの王道はコメディですので。笑いがあってこそのリアルな日常。
 今のところは伊角クンと倉田プロあたりが“お笑い要員”になっちゃってますが、北斗杯編に入ると出番なくなりますしねえ。
 あ、あとヒロインキャラが欲しいところですよね。ひょっとしたら中国か韓国の若手でヒロインキャラが登場するのかもしれませんが。やっぱり個人的には奈瀬さん復活希望でございます。

 ……と、レビューだかなんだか分からなくなっちゃいましたけど、とにかく素晴らしい作品だって事は確かです。同人ネタが減るから人気が下がるかも、なんて向きもありますが、そんな低次元なレヴェルでこの作品が貶められる事の無いように祈っております。評価はもちろんAで据え置き。平成年代を代表する素晴らしい作品の1つです。

 ◎読み切り『しゅるるるシュールマン』作画:クボヒデキ

 さて、問題作です。いや、問題(のある)作品ですね(苦笑)。もうこのゼミでも3回目のレビューになりますか。
 この作品の何が問題かというと、やはり「作者がシュールギャグの何たるかを分かっていない」という点に尽きると思います。
 ギャグのキレ自体は若干ながら以前よりも良くなっているような気がしますが、それはシュールでも何でもなくて、ただ狙ってやってるギャグに過ぎないんですよね。シュールなギャグっていうのは、基本的には「おかしな人がおかしな人なりに普通の事をやる時に生じる“常識のズレ”から、自然発生的に笑いを生み出す行為」なわけです。
 で、その上級編が『ピューと吹くジャガー』ですね。あの作品は、基本的なシュールギャグをあざとく強調して、ハイアベレージで破壊力の高いギャグを量産しているわけです。

 じゃあこの作品のギャグはどんなギャグかというと、「おかしな人が、ただ笑いを取ろうとしてるだけ」というもので、これではシュールでも何でもなくて“ただのギャグ”なわけですよ。しかも大して面白くも無いし。ツボにハマる人はいるんでしょうけど、少なくとも今「ジャンプ」で連載されているギャグマンガと比べると、間違いなく相当下のレヴェルです。

 とにかく作者のクボさんが自分の勘違いから早く気がつく事。そうすれば活路も見出せるでしょう。それまでは高い評価は進呈できません。C寄りのB−

 ……と、いうわけで今週分のレビューは終了です。来週も2作品程度のレビューになると思いますが、どうぞよろしく。

 


 

6月6日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(6月第1週分)

 では、今週のゼミを始めます。
 今週はレビュー対象作が少なくて、ボリューム的には寂しいゼミになりそうですが、その代わりに情報系の話題が多くなりそうです。手間だけかかって実利の少ない構成になりそうですね(苦笑)

 さて、それでは早速情報系の話題から。

 まず、今週は「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」で、それぞれグレードが高い方の新人賞の審査結果が発表されています。いずれの賞も即デビューへ繋がる新人の登竜門ですので、ここに名前が挙がった新人さんは、これからに注目です。

第63回手塚賞&第56回赤塚賞(02年前期)

 ☆手塚賞☆(応募総数448編)
 入選=該当作なし
 準入選=2編
  ・『CROSS BEAT』(評点26/40)
   天野洋一(20歳・岡山)
  ・『とどろきJET』(評点24/40)
   辻井宏次(24歳・埼玉)
 佳作=2編
 
 ・『撃弾ビスケット』(評点21/40)
   安藤英(22歳・埼玉)
  ・『最弱拳銃士ルービック』(評点20/40)
   筒井哲也(26歳・神奈川)
 最終候補=7編
  ・『CIRCUS FIGHT!―サーカスファイト―』(評点18/40)
   照基朧丸(24歳・都道府県不明)
  ・『WW(ウォーキングウォー)復活事始め』(評点17/40)
   坂崎允柄(20歳・栃木)
  ・『アニ・ドク』(評点17/40)
   乾昌介(24歳・奈良)
  ・『STARTER CAT』(評点16/40)
   佐藤奈緒(22歳・埼玉)
  ・『TARNCE』(評点15/40)
   春日真(19歳・大阪)
  ・『ムネマサDRIVE !!!』(評点14/40)
   長谷川真澄(21歳・宮城)
  ・『RUSH!』(評点14/40)
   天草四郎時貞(22歳・岩手)

 ☆赤塚賞☆(応募総数261編)
 入選=該当作なし
 準入選=1編
  ・『K−1』(評点22/35)
   松本宗二郎(19歳・静岡)
 佳作=3編

  ・『オーラメイツ』(評点19/35)
   沢田幸一(22歳・北海道)
  ・『白い白馬から落馬』(評点18/35)
   夏生尚(21歳・神奈川)
  ・『あつがり』(評点16/35)
   菅谷健太(19歳・新潟)
 最終候補=3編
  ・『カリフラワー温泉」(評点16/35)
   長島永典(22歳・東京)
  ・『警部補 播湖欄』(評点15/35)
   下出真輔(22歳・兵庫)
  ・『It's My Life』(評点14/35)
   堀たくみ(19歳・埼玉)
  

第50回小学館新人コミック大賞・少年部門
(02年前期)

 特別大賞=該当作なし
 
大賞=1編
  ・『風』
   中道裕大(22歳・広島)

   →「少年サンデー超8月増刊号」に掲載決定
 入選=1編
  ・『Trouble Travel』
   谷古字剛(25歳・千葉)
 佳作=3編
 
 ・『S〜speed,stroke,and swim』
   石川義人(23歳・千葉)
  ・『サイゴノヒ』
   高橋直樹(23歳・東京)
  ・『隠密ゲームへの招待』
   高枝景水(23歳・東京)
 最終候補=3編
  ・『うちの母ちゃんナンバーワン!』
   幸田きよら(22歳・東京)
  ・『リプレイスチェンジ』
   岡春樹(21歳・東京)
  ・『LUCKY BOY』
   當摩健一(25歳・埼玉)  

 「小学館新人コミック大賞・少年部門」の方は、大賞受賞作が出ました。短期間では詳しい資料を得られなかったんですが、一説によると20数年ぶりの大賞だそうです。先週辺りから編集部がやたらとはしゃいでいるなと思ったらこういう事だったんですね。
 しかし、20数年も大賞を出さないっていうのも、ちょっとメチャクチャな気がしないでもないですが(笑)。
 受賞者の中道裕大さんは、昨年の9・10月期「まんがカレッジ」で努力賞を受賞。そこから約半年でここまで登りつめたわけで、才能を感じさせますね。

 他、佳作以上を受賞した方をGoogle検索かけてみたんですが、手塚賞佳作の筒井哲也さんは、ひょっとしたら昨年に「オールマン」や「別冊ヤングサンデー」で読み切りを発表している同名の作家さんと同一人物かも知れません。ただ、こちらも資料不足で特定は不可能でした。

  あと、気になった事と言えば、手塚賞審査員ほったゆみさん人知れず毒舌全開だった事ですかね。
 いや、厳しい厳しい。駒木がいつもゼミで言ってたような事を連発されてました。まぁ、ほったさんクラスになると、新人さんの考えるストーリーは稚拙で仕方がないんでしょうけどね。


 賞レース以外で情報系の話題をもう1件。
 「週刊モーニング」で連載中だった、現役落語家による4コママンガ『風とマンダラ』(作画:立川志加吾)が今週から無期限の休載に突入。先日、立川談志直系の前座衆6人が修行怠慢のカドで一斉破門になる事件がありまして、その影響と思われます。まぁ、それを考えると確かにマンガ描いてる場合じゃありませんよね。
 この破門事件については、また改めてどこかで扱ってみたいと思いますので、受講生の皆さんは頭の隅の方にでも入れておいて下さい。

 ……と、いったところで今週のレビューへ。
 ただ今週のレビューは、先程も述べましたが対象作品が少ないです。「週刊少年ジャンプ」から1作品と、「週刊コミックバンチ」から1作品の、計2作品となります。
 レビュー中の7段階評価についてはこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年27号☆

 ◎新連載第3回『NUMBER 10』作画:キユ《第1回掲載時の評価:B

 前回のレビューでは「既製の作品の影響が色濃い」と指摘させてもらいましたが、3回目まで読んでみてもその評価を覆すだけの材料は無かったように思えます
 一言で感想を述べると、「サンデーの『ファンタジスタ』をジャンプ風にしたような作品」という感じでしょうか。
 これは、キャラクターとストーリーの設定に、この作品独自の内容──つまり個性ですね──が欠けてしまっているという事なのでしょう。主人公のチームメイトである脇役たちのキャラクターがかなり弱いですし、メインのキャラクターにしてもサッカーに関する事以外の設定が見えてきません。この辺りが読者の感情移入を阻害しているような気がするのです。
 第3回では典型的な悪役キャラが登場しましたが、どうもそれが余計に「ありがち」感を強めてしまっているような気がしてなりません。

 ただ、場面ごとの演出はソツなく出来ていますので、読者に不快感を与えるところまで酷くなっていないのは救いといえます。早い内にどれだけ“化ける”ことができるかが、この作品が連載続行なるか否かのカギになりそうです。

 評価は、前回のB+寄りBから半ランク下げてBとさせてもらいます。
 追記:なんだか『ファンタジスタ』までレヴェルの低い作品に思われるような論調になりましたが、実際は違います。主人公の成長ストーリーでありながら、ライバルの強さの“デフレ”にチャレンジしたりなどの意欲的な部分を評価しています。(評価:A−寄りB+)

 《その他、今週の注目作》

 ◎新連載『がきんちょ強』(週刊コミックバンチ2002年26号掲載/作画:松家幸治

 因縁の(笑)「世界漫画愛読者大賞」の準グランプリ受賞作が新連載作品として再登場です。

 作者の松家さんの経歴については、2月20日付ゼミでも述べましたが、赤塚賞準入選→創作に行き詰まり、一時休筆……というもの。人生、何がどうするか分かりませんねぇ、まったく。

 では作品についての話ですが、これも読み切り掲載時に述べた通り、往年の名作『じゃりん子チエ』のオマージュ的作品です。チエとテツをドッキングさせたような主人公の強が中心となってエゲツないドタバタ喜劇を展開する……というもの。絵柄も含めて、いかにも“昭和”の香りのする作風になってます。古臭い、という批判は避けられないでしょうが、それはそれで個性的であるとも言えます。
 ギャグの切れ味も悪くありません。4コマやショートギャグではなくてストーリー形式の作品で、ここまで完成度の高いギャグマンガは、最近では珍しいくらいでしょう。小じんまりとしたモノですが、確かに才能は感じられるのです。この作品は。

 …ただし、この作品には欠点もあります
 例えば、この作品のオマージュとなっている『じゃりん子チエ』は、主役を務めてもおかしくないほど個性的なキャラを2ケタ以上擁し、さらに主人公抜きでもシリーズを組めるようなバリエーションを誇っていました。が、『がきんちょ強』は連載開始当初とは言え、まだそこまでにはほど遠いのが現状です。今はまだ才能だけで押し切ってますが、やがてネタ切れ・ワンパターンになると、非常に閉塞的な状況に陥ってしまうのではないかと思います。己の才能の枯渇とどう戦ってゆくか、というのが作者の松家さんに課せられたシビアな課題ではないかと思っています。

 評価は現時点ではB+。それがどこまで維持できるのか、また“大化け”があるのかも含めて、今しばらく見守っていきたいと思います。

 

 ……と、いったところでゼミを終わります。講義の実施遅れなどありました事をお詫びいたします。

 


 

5月30日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(5月第5週分)

 今日は“ちゆインパクト”後、初めてのゼミになりますので、新しい受講生の方たちのために改めてこのゼミについての説明をさせて頂きます。

 このゼミ・「現代マンガ時評」はその名の通り、新しく発表されたマンガについてのレビューを行う講義です。新人マンガ賞受賞者など、ニュース系の話題もお送りしますが、こちらは補助的なものと思ってください。

 現在は、駒木1人だけでゼミを担当しているため、「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」の2誌を中心に、他誌の注目作を若干扱うのみに留まっていますが、将来的には非常勤講師をお招きして他誌のレビューも実施する計画です。
 レビュー対象作品は、読み切り作品、新連載作品です。また新連載作品は、その後の編集部内の方針が決定すると言われる第3回にも再レビューを行います。また、前・後編の読み切りは原則として後編掲載後に2週分をまとめてレビューします。

 また、レビューの最後にはA+からCまで7段階の評価を付記しています。評価の基準はこちらを参照して頂ければと思いますが、端的に言えば、Bで「可も不可もなく」、B+で「マンガ好きにお薦め」、A−で「一般人にもお薦め」、Aで「文句なしの傑作」……となります。A+は10年に1度出ればいいレヴェルと考えてください。
 ちなみに、駒木のレビューと評価はストーリーや設定の整合性重視です。

 ……と、いったところでしょうか。それではゼミの本題へと移りたいと思います。

 まずは情報系の話題から。

 もうインターネット業界では既報も良いところなんですが、元「週刊少年ジャンプ」連載作家・しんがぎん氏が急逝されました。29歳の若さでした。死因等については、病死という以外に確定情報がありませんので、記述を控えることにします。

 このニュースは、例の「徹底検証! 世界漫画愛読者大賞」の講義と相前後して飛び込んで来まして、何とも言えない気持ちにさせられました。
 確かにストーリーテラーとしての才能には疑問符の付く作家さんでしたが、絵を描くのに関しては群を抜いた力を持っていらっしゃった人でもありました。いずれ原作者付きでメジャーシーンに復帰するか、とも思っていたのですが、残念な事です……。
 しかし今回の訃報に関しては、しんがぎん氏が同人や大学のサークル等で活発に活動されていたために、ネットニュースと言う形で多くの人に知られるという形になりましたが、よく考えてみれば、元「ジャンプ」連載作家さんの中で消息不明になっている──所謂「消えたマンガ家」になっている──人は随分いらっしゃるはずですよね。そういう方たちの中にも既に亡くなっている方もいるんだろうなぁ……などと考えると、ちょっとブルーになってしまいますね。マンガ家というのも大変な職業だと痛感させられます。

 しんがぎん氏の冥福をお祈り致します。

 

 それでは今週のレビューの方へと移らせて頂きます。今週のレビュー対象作品は、ちょっと寂しくて「ジャンプ」からの2作品のみ、と言う事になります。もう少し時間的に余裕が有れば、他誌からも1〜2作品紹介したかったのですが……。
 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年25号☆ 

 ◎新連載(連載再開)『ヒカルの碁』作:ほったゆみ/画:小畑健

 「佐為編」の最終回で予告された通り、6回の読み切り番外編を挟んで、連載が再開されました。今回がその第1回となります。

 もうすっかり完成された感のある作品ですので、改めてレビューするのもどうかという話なのですが、気後れせずに頑張ってみたいと思います。

 まずはですが、もうコレは文句のつけようがありませんよね。これだけの高いレヴェルや密度の作品を週刊ペースで発表できるというだけで驚異的でしょう。

 …と、それだけでは芸が無いので、今回改めてジックリと読んでみて気になった点を1つ。
 これは小畑さんとほったさん、どちらの意向か分かりませんが、この作品では、エキストラ的なキャラの表情が大胆に省略されているんですよね。中にはノッペラボウ状態の顔も見受けられます。
 でもこれは手抜きじゃないんです。表現上、凄く良い効果になっているんです。本当に強調したい主要キャラの表情がとても際立って見えるようになるんですよ。
 中でも特筆すべきなのが、「ジャンプ」本誌32ページ最終コマです。本誌をお持ちの方は是非開いて見てみて下さい。(予算不足のため、駒木研究室にはスキャナが無いのです。ご了承を)
 このコマには和谷を含めて7〜8人の人物が描かれているのですが、実際に表情が細かく描かれているのは川崎三段(ヒカルの対戦相手)1人だけ。そしてその表情が怯えを含んだ厳しい表情であるところから、瞬時に「ヒカル優勢、川崎三段劣勢」が見て取れるように記号化されているのです。
 これは非常にさりげないのですが、理詰めで計算し尽くしていないと出来ない、非常に優れた表現方法。この1コマだけでこの作品のレヴェルの高さが窺い知れるというものです。

 …と、絵に関してはこれくらいにしておきまして、ストーリーに関しても少々述べさせてもらいます。

 ネーム担当のほったさんの素晴らしい所は、とにかく脚本力の豊かさなんですよね。できる限り説明的なセリフを排した流れるような会話文の構成、さらにセリフとモノローグの使い分けもほぼ完璧です。主に堅苦しい表現なんかはモノローグにするわけなんですが、これが出来そうで出来ないものなのです。
 一番のネックになりそうな、囲碁の専門用語を使った記述も凄いんですよねえ。囲碁が分からない人でも、「何だか分からないけど、どうやらそういう事らしい」ということが分かるようなセリフ回しがなされているんです。これも相当計算づくでないと難しいんです。普通は『月下の棋士』みたいに、「氷室、3六飛か!」みたいな感じで終わらせてしまうんですが、手抜きしませんねぇ。凄いですよ。

 とりあえずしばらくはヒカルの高い実力を見せつけるようなエピソードが続く事になりそうです。そして、それが終わり次第、「日中韓Jr.団体戦」の国内予選に突入していくのでしょう。

 さて、全編褒めまくりのレビューになりましたが、批判するところが無いのですから仕方ありません。評価は文句ナシのA。逆に言うと、次の連載入れ替え時には現・連載作品がどれか打ち切りになるわけで……。いやはや、戦々恐々ですね。

 
 ◎新連載第3回『プリティ フェイス』作画:叶恭弘《第1回掲載時の評価:B−

 さて、続いては『プリティフェイス』の3回目についてのレビューなんですが、叶さんの経歴について新たな事実が判明しましたので、そちらの報告から。

 先週号(25号)の巻末コメントに、叶さん本人から「連載は10年ぶりで──」という旨の発言がありました。これは、これまで知られていた「デビュー10年目にして初連載」という経歴と食い違うものです。
 叶さんは、今から10年前の平成4年に「ホップステップ賞」(天下一漫画賞の前身にあたる月例賞)で賞を受けて、受賞作『BLACK CITY』で増刊号デビューしています。で、これまではこの時がマンガ家デビューだと思われていたのですが、今回の叶さんの発言はそれを覆すものとなりました。
 確かに当時の絵柄を見ると、新人離れし過ぎており(何せ、賞の発表ページの絵だけでファンレターが届いたらしいですから)他誌で既にデビュー済みだった方が自然と言えるかも知れません。
 ただ、どの雑誌でいつ頃デビューし、連載を持っていたのかまでは全く掴めませんでした。この件に関しては、また新事実が入り次第、このゼミでお伝えする事とします。

 さて、では作品のレビューへ。

 3週間読んでみて、やっぱり思うのは「絵が上手いよなぁ」という事。叶さんは、何と言いますか、マンガ的表現に優れている作家さんなんですよね。表情のデフォルメ表現がとても激しいんですが、その割には不快感を感じさせないんです。余程自分の絵に自信を持っているんだろうなあ、という事が伝わってきます。
 あと、前回のレビューで「強引過ぎる」と異を唱えた設定面も、巧みに微調整が図られていて良い感じになって来ました。というか、今回の冒頭で主人公に「しかし案外バレないもんだな。そっちの方が逆に驚くぜ」と言われてしまえば、もう笑うしかありません
 この人は、大風呂敷を広げておいて、それを畳むのが上手い人なのでしょう。本来なら褒められた事じゃありませんが、それはそれで職人芸ですよね。
 実は、前回レビューからの2週間で、叶さんの短編集『BLACK CITY』を古本屋で入手して読んでみたんですが、強引な設定を作ってしまう癖は、ジャンプデビュー以来ずっと引きずってきたものみたいです。
 ただ、叶作品で興味深いところは、設定や話の展開が強引な一方で、その強引さを、卓越した画力とストーリー運びの勢いの良さでカモフラージュしてしまっている、という点です。良い意味で誤魔化しが上手いんですね。
 こういう作風は非常に珍しいと思いますが、それが味になれば、逆にマンガらしくて良いのかもしれません

 まぁ少なくとも、続きを読んでみたいな、という気分にはなって来ました。評価も上げたいと思います。前回はB寄りB−でしたが、今回はB+へ。1段階半の上昇です。現在厳しい生き残り合戦ですが、まとまった話になるところまで続いてくれればなぁ、と思います。

 

 ……と、以上でレビューは終了です。今回は作品が少なかった分だけ密度を濃くするように努めましたが、どうだったでしょうか?

 次回は「ジャンプ」「サンデー」の他、「世界漫画愛読者大賞」準グランプリ作『がきんちょ強』についても扱う予定です。お楽しみに。ではでは。

 


 

5月23日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(5月第4週分)

 3日間の特別講義に引き続きまして、ここからはレギュラーのゼミを始めます。

 それではまず、情報系の話題から。
 「週刊コミックバンチ」31日発売号から相次いで「世界漫画愛読者大賞」受賞作が新連載となります。
 連載が開始されるのは、グランプリ受賞の『エンカウンター』の他、準グランプリ受賞作の『がきんちょ強』、最優秀4コマ漫画賞受賞の『熱血! 男盛り』の3作品。
 なお、この新連載攻勢に伴い、複数の作品が最終回を迎えることとなります。24日発売号ではマニア層を中心にコアなファンの多い『男たちの好日』が“第一部(青春編)・完”に。これに伴う反発がどこまで盛り上がるか、注目したいところです。

 ……今週、このゼミで扱わなくてはならない情報はこれくらいでしょうか。時間もありませんし、粛々とレビューの方を進行していきたいと思います。

 今週のレビュー対象作品は、「週刊少年ジャンプ」から1作品と、「週刊少年サンデー」から2作品の、計3作品となります。
 レビュー中の7段階評価についてはこちらをどうぞ。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年25号☆ 

 ◎新連載『NUMBER10』作画:キユ

 さぁ、注目のキユさんの登場です。
 連載デビューとなった前作『ロケットでにつきぬけろ!』が異様に豪快な終わり方で10週打ち切りとなり、さらに巻末コメントで編集部批判ともとれるメッセージを残した事で話題になった人──と聞けば「ああ、あの人か」と思い出す方も多いと思います。そう、あの人です。
 初めての連載が打ち切りになった新人作家には厳しい「ジャンプ」、しかも編集部批判をぶつけた張本人とあって、前作から読み切り掲載を挟んで2年のブランクがありましたが、ここに晴れて連載復帰となりました。果たして、作品の出来の方はどうでしょうか?

 まず絵柄からですが、さすがにプロらしく無駄の無いスッキリとした線で描かれていますね。
 ただ、どうにも読んでて違和感が否めないものがあって、どうした事かと何度も読み返してみたのですが、どうやらいくつか問題点も浮き上がって来ました
 まず、キャラの描き分けが少し甘いんです。似たようなパーツを使って描き分けをしているので、微妙にどことなく雰囲気の似たキャラクターばっかりになってしまってるんですね。ジックリ見ないと気にならない程度のものなので、余計に違和感を感じるんだと思います。
 それは表情の描き分けでも言える事で、この人の絵は、顔の上半分だけで表情を描き分けています。よく見ると、どのキャラも口をパカッと開けているんです。手元に「ジャンプ」がある方は読み返してみて下さい。本当にアホみたいに口がパカパカ開いてますんで。
 で、さらにもう1つ。この人の絵は動きがある絵と無い絵の差が極端なんですよね。下手すると、同じコマの中に躍動的な絵と静止画像が同居してたりして、これがまた違和感。
 結局は、上達が中途半端な状態で絵柄が固まってしまって、どうにもならなくなってる…という事なのでしょう。ヘタウマならぬウマヘタと言いますか。それもまた魅力、と言い切ってしまえばそれまでですけどね。

 じゃあストーリーは、といいますと、これもソツなくまとまってはいます。読んでて不快になる事は無いですし、及第点以上ということは確かでしょう。
 ですが、これにも「だが、しかし」を入れなくてはなりません。
 この作品、どうしても既製のサッカーマンガで見た事あるようなシーンが連発されてるような気がしてならないんです。もっと言うと、オリジナリティが全く感じられないストーリーと言うか……。「ああ、ここは『ファンタジスタ』だ」とか、「あ、これは『俺フィー』ね」とか、「おいおい、これ『FW陣』じゃないか」とか。別に特定の作品のオマージュというわけでもないのに、そう感じてしまうんですね。
 恐らくこれは、既製の作品を超えるだけのインパクトが不足しているためだと思います。野球のピッチングで言えば「手投げになっている」状態というか……。

 悪くは無いけど、とびきり良い作品でもない。こういう作品が一番扱いに困るところですよね。しかも今の「ジャンプ」は、ここ最近で最も激しいサバイバル競争が展開されている時期ですし……。
 とりあえずの評価はB+寄りのB。とりあえず、あと2回はじっくり様子を見てみたいと思います。 

 

☆「週刊少年サンデー」2002年25号☆

 ◎新連載第3回『鳳ボンバー』作画:田中モトユキ《第1回掲載時の評価:A−

 それにしても、ホントに熱いですねぇ、この作品
 実力のある人が真っ向勝負でバカをやると、本当に面白いマンガになるんだと、つくづく思い知らされます。
 第2回なんか、キャッチボールだけで見せ場作って引っ張る力技セリフなんか「プロか! プロなのかぁ!」だけなのに、何故かマンガとして成立しているこの凄さ(笑)

 それに加えてテンポも良いですね。1つ1つのイベントをジックリと濃く描いていますが、イベントとイベントの間をどんどん省略していってるので、メリハリが利いてます。この辺は前作・『リベロ革命!』で培った感覚なのでしょうね。
 これからの課題は、シーズンに入るまでのキャンプとか一軍争いとかに時間を取られたり、シーズンに入って、試合シーンになってからのテンポが悪くなって冗長にならないかどうかですが、その辺の課題も前作で既に克服済みなので、期待できるんじゃないでしょうか。

 何はともあれ、安心して読めそうな作品が1つ増えました。惜しむらくは、これが新人作家さんの作品じゃないという事なんですが、まぁその辺りは「ジャンプ」とは違うってことで仕方ないんでしょうね。
 評価はA寄りA−で据え置きです。

 ◎読み切り(前後編)『ガクの詩』作画:藤崎聖人、詩:三代目魚武濱田成夫

 非常に珍しい、というか初めての試みと思われる、『即興ヒップホップバトルマンガ』(なんじゃそりゃ)の登場です。もう少し分かりやすく言うと、“詩のボクシング”をライブハウス版にして、それをマンガにしたものと思ってもらえればいいかと思います。
 作品の要となる詩には専門の作家を用意するという辺り、「サンデー」編集部の意気込みが感じられるのですが、果たして作品の出来はどうでしょうか──?

 作画担当の藤崎聖人さんは、以前「コミックGATTA」で『蟲』というホラー作品を連載し、ブレイク寸前までいった新進作家さんです。残念ながら掲載誌が休刊となり、全てが宙に浮いた形になってしまったのですが……。
 そう言えばこの方、新人時代には「マガジン」で『LUNA SEA物語』を描いてた事もあったそうです。なんだか、昔ゴーストライターやってた作家さん、みたいな話ですね、いやはや。

 では、作品のレビューへ。

 まずはから。他の雑誌で描いていた時はどうか分からないんですが、さすがに「週刊少年サンデー」執筆陣に混じると、見劣りは否めないかなという気はしますね。どっちかというと「マガジン」系の荒っぽい絵柄、という感じでしょうか。「サンデー」でこれからやっていくとなると、多少のモデルチェンジが必要になってくるのではないかと思います。

 そしてストーリーなんですが、これがどうにも判断が難しいんですね。
 というのもこの話、作中に登場する詩を読者がどう受け止めるかによって、評価が大きく違ってくると思うんです。「ああ、この詩は良い詩だな」と思える人は、作品全体の印象も良くなるでしょうし、逆の場合なら救いようの無い駄作に見えてしまうでしょう。シナリオのベース部分が、実にオーソドックスな(悪く言えばステレオタイプな)ものだけに、余計に詩が作品の評価に影響すると思うんですね。
 しかも詩というのは、人によって受け止め方が全然違うと思うんで、駒木が個人的な感想を述べても意味が無いのかなと、そういう気がします。だから評価は保留させてもらおうかなと思います。
 ただ、詩の語呂的に、「これって、ヒップホップなのかなあ?」って印象は受けましたが。いや、これも駒木は「俺たち、ヒップホップの自信過剰な歌詞が大嫌いー!
(c)桜玉吉&肉柱ミゲル」な人間なんで、強く言えない所が辛いんですけどね。

 先に述べた通り、評価は保留です。ただ、シナリオ的には平凡なものなので、B+を上回る事は無いような気がするのですが。

 

 ……と、ちょっと駆け足でバタバタしましたが、今週のゼミがここまでです。また来週をお楽しみに。では。

 


 

5月16日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(5月第3週分)

 スケジュールがズレまくってしまって、申し訳ありません。体調は正直ですね。目の疲れが酷すぎて講義どころじゃなくなってしまいました。随時、調節していくんで、どうかお許しを。

 さて、今週は賞レースのニュースが多くありました。順番に紹介していきましょう。

 まずは「週刊コミックバンチ」の「世界漫画愛読者大賞」から。グランプリに「賞金5000万円と連載1年保証」を謳った、日本マンガ界史上最大のコンペテイションです。グランプリ賞金の高さ、また、最終審査を読者投票に委ねた事などが論議をかもしました。
 このゼミでも最終選考エントリーの全作品について詳細なレビューを実施しましたので、受講生の皆さんも、この賞についてはご存知の事と思います。
 で、このたび、この賞の最終選考結果(読者投票の開票結果)が発表されました。
 この結果を受けて、インターネット上では更なる論議をかもしているようです。駒木も個人的に述べたい事がたくさん有る結果になりました。
 そこで、この賞については20日付講義に時間を確保しますので、そこで「特別演習」という形で「世界漫画愛読者大賞」の話題について詳しく採り上げたいと思います。

 と、いうわけで、今日は主な受賞作の発表だけに留めておきたいと思います。

第1回世界漫画愛読者大賞(2001〜02年期)

 グランプリ=1編
 
『エンカウンター −遭遇−』(作画:木之花さくや)

 準グランプリ=1編(賞金1500万+作品契約)
 『がきんちょ強』 (作画:松家幸治)

 特別審査委員賞=1編(賞金500万)
  ・『アラビアンナイト』 (作画:長谷川哲也)
 最優秀4コマ漫画賞=1編(賞金500万)
  ・『熱血! 男盛り』 (作画:南寛樹) 

 受賞作『エンカウンター』のレビューは、3月13日付ゼミのレジュメに掲載されています。受講生の皆さんには、どんな作品がグランプリを獲ったのか、復習&予習の上で20日の講義に臨んでもらいたいと思います。

 次の話題は講談社漫画賞。以前、『カメレオン』が少年部門を受賞した時は、審査員全員が『ONE PIECE』を推したにもかかわらずの受賞で、いわゆる大人の事情が窺える結果でしたし、昨年も『ラブひな』審査員の反対を押し切って受賞するなど、こちらも何かと論議をかもす漫画賞であります。
 ただ、今年は「意外だけど順当」という声が大勢を占めているようですね。ただ、まだ最終候補作品(=大人の事情で受賞できない他社版権の作品)が発表されていないので、「ナンジャコリャ」的な結果かもしれませんが。
 結果は以下の通りです。選考過程については、また来週お知らせできればと思います。

 受賞作一覧はこちらです↓

◎少年部門
野中英次『魁! クロマティ高校』(「週刊少年マガジン」連載)
ハロルド作石『BECK』「月刊少年マガジン」連載)

◎一般部門
かわぐちかいじ『ジパング』「週刊モーニング」連載)

◎少女部門
よしながふみ『西洋骨董洋菓子店』(「WINGS」掲載)

 そして最後に、今週は「週刊少年ジャンプ」の月例新人賞「天下一漫画賞」の発表がありました。

第68回ジャンプ天下一漫画賞(02年3月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 審査員特別賞=1編
  ・『超絶籠技』(武井宏之賞)
   川口幸範(21歳?・山口)
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『プロトガンナー』
   空見宙也(25歳・埼玉)
  ・『サムライハート』
   岩本直輝(16歳・秋田)
  ※以上2作品は“入賞直前の最終候補”と別枠扱い
  ・『カタラズビト』
   あるまるみ(26歳・埼玉)
  ・『筆は剣より強し』
   柊えにし(24歳・大阪)
  ・『時限式666』
   船津雄史(17歳・大阪)
  ・『和尚合戦』
   中村友美(17歳・静岡)
  ・『Girl Friend』
   野寺寛(21歳・福岡) 

 特別賞受賞の川口幸範さんは、01年11月期にも特別賞を受賞している……はずなんですが、年齢が1歳若返ってるんですよね(苦笑)。まぁ、年齢詐称は手塚治虫先生もやってたことですけど、それにしてもこの場合は1歳ごまかして、何がやりたかったんでしょうか……?

 さて、情報系の話題は以上です。長者番付についても採り上げた方が良いのかも知れませんが、マンガ家さんって、スタジオを会社組織にしてしまうと納税額から稼ぎが見え辛くなるんですよねえ。数字だけ見ると誤解の元になるんです。だから、このゼミではあえて採り上げない事にします。

 では、今週のレビューを。対象作品は「週刊少年ジャンプ」から新連載と読み切り2作品、「週刊少年サンデー」から新連載3回目の1作品、そして他誌から読み切りの1作品をそれぞれ採り上げます。「サンデー」の前後編読み切り『ガクの詩』については、次回に2回分併せてのレビューを行う予定です。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年24号☆ 

 ◎新連載『プリティ フェイス』作画:叶恭弘

 「週刊少年ジャンプ」春の新連載シリーズの開幕です。昨年からの“打ち切り候補”に全てケリがついたところでの新連載とあって、なかなか生き残るための壁が厚そうですが、果たして今シリーズの作品レヴェルはどうでしょうか?

 まずは今シリーズの“先頭バッター”・叶恭弘さんの登場です。
 2週間前のゼミでも紹介しましたが、改めて叶さんの略歴を紹介しておきましょう。
 叶さんは約10年前にデビューを果たし、短編集『BLACK CITY』(絶版)も出している、キャリアだけなら中堅の作家さんです。ただ、ここ数年はイラストレーターとしての仕事が多かったこともあり、なんとこれが初の連載ということになります。筆を折ったわけでもなく、作品の評価が低いわけでもないのに、10年連載無し。こういう話はあんまり聞いたことがないですね。

 それでは本題へ。
 まず絵柄ですが、新人時代から画力に定評があり、その実績を買われてライトノベルの挿絵描きを務めていたわけですから、こちらはケチのつけようがありません
 シリアスタッチから何段階ものデフォルメタッチまで、同じキャラでも何種類も描き分けが出来ていて、技術の確かさを証明しています

 ただ、ストーリー。こちらはかなり危なっかしい、というのが第一印象です。
 連載予告のイラストからはラブコメかと思ったのですが、意表をついて「主人公が男の人格のままで女の外見になる」という、昔からよくある設定ながら、話を維持していくためには難易度の高いモノで勝負してきました。『名探偵コナン』なんかは、これの変形パターンですね。
 なぜ難易度が高いかというと、この設定のストーリーでは、主人公(と、ごく少数の理解者)がそれ以外の登場人物を全員騙しつづけなくてはならないわけです。となると、作者にはその“騙し”を維持できるだけの説得力を絶えず作品に反映させなくてはならない。その上、敵キャラにはバレないようにシッポだけは掴ませるようなヒントを与えて、話を展開させる定番のパターンも作らなくちゃならない。そして何より、似たような展開を延々と続けても読者を飽きさせてはいけない。これが難しいんですよね。『コナン』なんかでも、ここ最近はかなり“制度疲労”が出てきてますし……。
 で、この作品なんですが、これがどうにもご都合主義的・強引な設定が連発で、第1回にして早くも話全体の説得力を失い始めてしまっています。ストーリーそのものよりも、そっちの方が気になって仕方がありません。
 そもそも、男が顔だけ変えて体そのままで、女の子を演じようとしているだけでも無理ありますからねえ。声とか、毛とか、アレとか。特に声はマズいんじゃないでしょうか。どう誤魔化してるのか一言も説明無しですし。しかも家族と同居してるわけで、普通なら1日経たないうちにバレるでしょう? 
 考えれば考えるほど無理のある設定のこの作品、これからどうしていくんでしょうか。破綻は思ったよりも早いかな? ……という印象がしますが。

 評価はB寄りB−としておきましょう。打ち切りの場合、話を急展開させて、なし崩し的にハッピーエンドが迎えられそうなのが唯一の救いでしょうか(救いになりませんが)

 ◎読み切り『さとふ2002』作画:さとう○○○

 今週は『ピューと吹く! ジャガー』が休載で、短ページの代原が掲載されました。一時期、よく代原として掲載されていた『さとふ──』シリーズが久々の登場です。作者のさとう○○○さんは、このシリーズを中心に増刊などでも作品を掲載させている、若手ギャグ作家さん。そろそろ連載を狙ったキャンペーンを展開したいところですが──

 さてこの作品、風間やんわり氏風の個性的な絵柄がまず目に付くのですが、まぁこれは作品の足を引っ張っているわけでもないので、これでいいでしょう。ただ、本来ならこの絵柄が良い“味”となって、ギャグを引き立たせるようにしなくてはならないでしょうが。

 ギャグの方は、見る人によってはツボにハマりそうなレヴェルではあるのですが、ただオチの弱さが気になりますね。起承転結の「転」までは上手くいってるのに、最後で落としきれていないのが残念です。これでオチに威力がつけば、十分連載に耐え得るだけのパワーが出そうなので惜しいところですね。

 評価はB寄りB−。奇しくも『プリティ フェイス』と同評価になってしまいました(苦笑)。ううむ、マンガって奥の深いジャンルですなあ。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年24号☆

 ◎新連載第3回『一番湯のカナタ』作画:椎名高志《第1回掲載時の評価:A−

 さて、第3回となりましたが、今のところは一話完結型の“ほのぼのお色気コメディ”なので、改めて特筆すべき点はありません。全体的なクオリティも安定しており、作者の椎名さんの高い力量が窺い知れます。

 しかし、それにしてもこのマンガに出てくる女の子キャラクターは脱ぎますなあ(笑)。裸で見せても成人指定されない部分は全部見せてる感じです。しかも銭湯が舞台だけあって、女の子が自主的に脱いでいくのでヤラしさがありませんし。あ、女の子がみんな健康的な体型だから余計に良いのかもしれませんね。
 あ、この作品を読んでて分かったんですが、「週刊少年サンデー」のボーダーラインは、「乳首はOKだけど、トーンで色付けちゃダメ」だったんですね(笑)。そういえば、「からくりサーカス」とかでもそんな感じだった気がします。前々から「下着のデザインは凝れるだけ凝れ」っていう暗黙の了解があった事は知ってましたが、それにしても何とも言えない妥協点を探ってますね、「サンデー」編集部。

 あぁ、レビューになってない気がするんですが(笑)、とにかく、この作品は安心して読めます。中学生男子とかだと人前で読むのは恥ずかしいでしょうがね。
 評価はA−で据え置き。まぁ、一話完結型のコメディだと、“爆発力”が無い分だけ評価を上げ辛い面があるので、事実上の最高評価だと受け取ってくださって結構です。

 

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り『CRASY MANIAX』(「ヤングキング」2002年11号掲載/作画:安西信行

 「週刊少年サンデー」で『烈火の炎』を長期連載していた安西信行さんが、なんと少年画報社の青年誌「ヤングキング」に登場です。「ヤングキング」らしくない絵柄の表紙でビックリした受講生の方もいらっしゃるかも知れませんね。

 ……というわけで、絵柄は全く少年誌の頃から変わってません。特に主人公の顔の形が『烈火の炎』の花菱烈火に似ていたりしますので、『BSマンガ夜話』で、いしかわじゅん氏から「彼は綺麗な絵を書くように見えて、実は全然上手くないんだよ」とか言われてしまいそうです。
 でもまぁ、“パッと見が綺麗”な絵が描けるわけですから、マンガ家さんとして及第点以上なのは確かです。少なくとも駒木が文句言える立場ではありません。

 そしてストーリーなんですが、これがなかなか素晴らしいです
 「ヤングキング」らしい学園不良モノのエッセンスを散りばめながら、最終的にはオタク系マンガに仕上げ切る…という無理難題を成功させています。やや登場人物が多すぎるキライはありますが、人気投票を受けての連載化を前提にした作品でしょうし、これも許容範囲でしょう。
 前作『烈火の炎』が、冨樫義博さんの『幽☆遊☆白書』の露骨なオマージュだったため、安西さんのストーリー構成力に対する評価はこれまで低かったのですが、今回の作品はそれを覆すものと評価して良いような気がします。

 中でも特に評価したいのが、この作品における読者へのカタルシスの与え方です。
 よくマンガであるパターンとして、
 「弱い立場のキャラクターが悪役に絡まれる→悪役にヒドい事をされる→(読者のストレス溜まる)→弱いキャラが強くなるか、強力な味方キャラが助けに来て悪役どもを一蹴→(読者が気分爽快)」
 ……というパターンがありますよね。読者にストレスを与えて精神状態をマイナスにしておいて、一気にプラスに持っていくやり方です。マイナスからプラスに持っていく反動を利して、カタルシスを与える効果を増大させるという、まぁ古典的な方法ですよね。比較的簡単に話の構成が出来る“黄金パターン”ですので、今でもよく使われます
 ただ、力量が無い作家さんがよくやってしまうのが、読者にストレスを与えすぎて失敗するパターンなんです。悪役にヒドい事をやらせすぎちゃって、読んでる方が辛くなっちゃうんですよね。そういう作家さんに限って、肝心のカタルシスを与える描写が苦手だったりしますし。
 ところが安西さんは、この一連の作業が特に上手いんですね。努力の賜物というより、これは多分センスの問題でしょう。確かに読者にストレスは与えるんですが、やり過ぎない程度、“ギリギリの寸止め”で終わらせて、すかさずクライマックスへ持って行くんです。これだと最後のカタルシスだけが印象に残るので、非常にサッパリした爽快なストーリーになります。これは簡単なようで、なかなか難しい芸当だったりするんですよ。

 評価はA寄りA−。「ヤングキング」だとどうしても浮いてしまう絵柄がアレですが、まぁ前途有望な作品といえるでしょう。せっかく青年誌でやってるんですし、連載するならもう少しお色気要素を入れた方がウケも良いでしょうね。

 ……というわけで、レビュー終了です。
 それにしても、今週の「ジャンプ」「サンデー」読んでて感じたんですが、『いちご100%』『天子な小生意気』メチャクチャ面白くなりそうな雰囲気になってきましたね。これからの展開が楽しみです。それでは、今日の講義を終わります。

 


 

5月9日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(5月第2週分)

 さて、不安定な環境で申し訳ありませんが、講義はちゃんと実施します。しかも今週はちょっとした特別企画付ですので、どうぞお楽しみに。

 まず情報系話題から。「ちゆ12歳」さんからリンク貼られていたんで皆さんご存知かもしれませんが、「探偵ファイル」さんの、「週刊少年ジャンプ」のアンケートについての話が興味深かったので、こちらにも要旨を書きたいと思います。

◎「週刊少年ジャンプ」の発行部数は250万部(推定)。その内、アンケート葉書が返送されてくるのは約2万通(発行部数の約0.8%)。

◎しかし、その中でいわゆる「人気投票ランキング」に反映されるのは5000〜8000通。

◎なぜそれだけしか反映されないのかと言うと、ランキング集計の都合上、発売週の火曜日(公称の発売日当日!)までに届いた葉書のみで集計してしまうから。

◎新連載作品の場合、第1回で最下位になると、即刻打ち切り確定の場合も……

◎大御所作家の作品(『こち亀』、『ジョジョ』、『ROOKIES』、『H×H』)は、アンケートと打ち切りが原則として連動しない。特に『H×H』は休載が多すぎて正確なアンケートが取れない(笑)という理由もある。

◎人気上位の作品も5作品ほど固定されているため、実質は約10作品で打ち切りになる2〜3作品を争っていることになる。

 ……まぁ、ビデオリサーチの視聴率調査とかと比べると、まだまだ精度の高そうな標本調査という気がしますが、遠隔地だと速達で出さない限り“参政権”が無いというのは正直言って不公平感が否めませんね。

 しかも、どうやら人気上位常連作品以外は得票数3ケタの争いらしいんで、組織票が有効そうなんですよね。
 なので、打ち切られそうなマンガが好きな人たちは、署名運動とか地道な活動するよりも、毎週月曜日の朝に「ジャンプ」買って、即アンケート葉書をポストに突っ込んだ方が早いような気がします。
 ……なんか、頭抱える『ライジングインパクト』ファンの人が一杯出てきそうなニュースをお送りしました(笑)。

 さて、それではレビューに移ります。今週は「ジャンプ」が合併号で休みですので、本来は「サンデー」のレビュー対象作2作品だけなのですが、ちょっとした特別企画を用意しました。それは…
 「赤マルジャンプ2002年GW増刊」全作品レビュー
 ……です。将来の連載作家予備軍が作品を発表する増刊号に目を向けて、ブレイク寸前の才能を発掘するという企画です。
 ただ、全作品をいつものノリで解説してると、時間もスペースも足りません。ですので、ある程度大雑把なレビューになりますが、これはご勘弁願いたいと思います。

 レビュー文中の7段階評価の表はこちらから。

☆「週刊少年サンデー」2002年23号☆

 ◎新連載『鳳ボンバー』作画:田中モトユキ

 つい最近まで『リベロ革命!!』を連載していた田中モトユキさんの新連載が早くも登場です。前作はバレーボールマンガでしたが、今回は野球マンガで登場です。

 この作品は、2000年50号に掲載された、ほぼ同名の読み切りを連載作品にアレンジしたものになりますね。
 読み切りの時はまだ『リベロ──』を連載中で時間に制約があったようで、プロットを練り込んだ作品ではなく、単純なストーリーを高いテンションで押し切った作品でした。総合評価云々は別にして、実に爽快な作品だったのを記憶しています。

 そして今回の作品ですが、読み切り時代からのテンションの高さに加えて、ある程度は設定やストーリー的な厚みも加わり、キッチリと連載に耐え得るような作品にアレンジ出来ています。この辺りはさすがですね。

 それと前作の『リベロ──』の時も感じたのですが、この田中さんは、一見手垢が付いている題材から、見事にスキ間を突いて来るのが非常に上手なんですね。あ、これは褒め言葉ですよ。
 野球マンガというのは、もう戦後すぐから生まれた息の長いジャンルでして、それだけあって色々な設定の野球マンガが書き尽くされた感があります。第一、このジャンルの御大である水島新司さんが、片っ端から破綻ギリギリの設定でマンガを描きまくっていますし。今週の『野球狂の詩・平成編』なんて、勝ち投手が70代の岩田鉄五郎で、セーブが更年期の水原勇気ですからねぇ。
 で、この作品も『あぶさん』によく似た設定ではあるんですが、微妙にピントをズラしていて“類似品”という印象を与えません。“中学生でドラフト1位指名+父親と同じチームでプロ入り+進学校で高校生と兼業”という設定が、これまで有りそうで無かったからでしょう。

 さらにもう1つこの作品の良い所を挙げると、“心地よいバカさ加減”といったところでしょうか。
 駒木は原則的に“おバカさん系”の話は評価を下げるんですが、それは大抵の場合、演出力が不足している作家さんが、その弱点から逃げるためにそうしているからなんですよね。
 演出力がある人が正々堂々バカをやれば、やっぱりそれは面白いわけです。特にこういうタイプの作品はマンガにしか出来ないもので、他の媒体でやるとウソっぽくなってしまうんです。だから余計に貴重かと。

 ……なんか褒めまくりですが、短所が見当たらないから仕方ありません。敢えて言うなら、主人公の名前(鳳啓助)は狙いすぎのような気がしますけどね(笑)。
 評価はとりあえずA寄りのA−と言う事で。

 

 ◎新連載第3回『史上最強の弟子ケンイチ』作画:松江名俊《第1回掲載時の評価:B

 さて、連載第3回の後追いレビューです。

 3回目まで読んで、なんとなくこの作品のコンセプトが見えてきました。
 この作品、色々なゲストキャラや準レギュラーキャラが出てきますが、実質上は主人公とヒロインの2人だけの世界ですね。この2人を動かしていくために事件を起こしたり他のキャラを出してきたり……という感じです。
 さらにもっと言ってしまうと、どうもストーリー云々も、主人公が格闘技を身に付けて強くなっていくという本来のテーマも実はどうでも良くて、ヒロインの萌え要素を特に強調してマニア層(というか御宅族)のファンを惹きつけてしまえばヨシ! ……という意図が見えてくるんですが、コレは駒木の邪推なんでしょうかね?

 まぁ、そういう路線もアリだとは思うんですが、しかし他誌や「サンデー」の中でも萌えキャラのライバルは非常に多いのが現状です。しかも他誌の萌え系作品は複数ヒロイン制で、こちらは現状単独ヒロイン制。お色気インパクトの上でもやや弱いかもしれません。それに、このノリで週刊連載を続けていく上で、果たしてワンパターンに陥らないだろうかという懸念も生じます。
 厳しい事を言ってしまうと、これまで競争相手の少ない月刊増刊という環境で、ある意味温室育ちになっていたツケが、もうしばらくすると回ってくるような気がしてなりません。
 「サンデー」は長期連載が前提ですから、あともうしばらくの内に、いかに大きなインパクトを与える事が出来るかがカギになっていくでしょう。
 しかし、読んでいて不快感を与えない及第点以上の作品である事も確かです。評価はBで据え置き。とりあえずは「サンデー」の華一輪、といったところでしょうか。

◆特別企画:「赤マルジャンプ」完全レビュー◆

 ……というわけで、特別企画のスタートです。
 あ、“完全レビュー”と銘打っておいてナンですが、週刊連載作家さんたちによる番外編特集はレビューから除外します。評価する性格の作品ではないと思いますので……。

 ◎読み切り『翼人機ゼロイド』作画:岡野剛

 真倉翔さんとのコンビを解消して苦戦の続く岡野剛さんですが、今回もやはり持ち前の話作り力の無さがモロに出てしまっているかな、と。
 上手い絵と明るいノリで誤魔化そうとしてますが、説明的セリフのオンパレードはどうにかして欲しいです。岡野さんのキャリアの長さから考えたら、これはどうにかしないといけない課題だと思うんですが……。
 しかし、根本的な力量差は歴然なのに、同じような問題点を抱える『キメラ』(作画:緒方てい)よりもスッキリしているように見えるのは気のせいでしょうか?(苦笑) 緒方さんは個々のポイントでの演出力が高いために余計アンバランスな印象を受けるのかも知れません。下手なら下手で、岡野さんみたいにとことん下手に描けば良いってことなんでしょうかね? 
 評価はB−寄りのB

 

 ◎読み切り『逸者〜HAGUREMONO〜』作画:武藤健司

 今冬に発売された前号の「赤マルジャンプ」でデビューを飾った新人作家・武藤健司さんの2作目です。
 ストーリー的には及第点なのですが、画力がアクションシーンに追いついていないのが致命的です。これでは高い評価が出来ようがありません。
 また、重要サブキャラの子ども人魚(♂)も、どうにも作品の世界観を下手にブチ壊している気がして、違和感を感じてしまいました。とりあえず画力の向上が必須条件です。評価はB−

 

 ◎読み切り『CRIME BREAKER !!』作画:田坂亮

 1年前の「赤マルジャンプ」冬号で、原作付のマンガ担当としてデビュー、これが実質デビュー作となる田坂亮さんの作品です。最近、『NARUTO』の岸本さんの所でアシスタントを始めたようです。
 しかし、一言言いたい。
 「アンタ、アシスタントしてる場合ですか!」
 早いトコ、企画書とネーム上げて連載持ちなさい、連載を。
 絵は完全に新人離れしている美麗さ。現在のジャンプ連載陣に混じっても、間違いなく上位にランクされるでしょう。
 ストーリーも、一見難解に見えてギリギリの所でそうさせないバランス感覚が秀逸。思いがけないところが演出上の伏線になっていたりと、実に心憎いばかりです。
 この作品読むためにこの雑誌を買う価値あり。10年に1人とは言いませんが、少なくとも2年に1人の逸材です。評価は期待料を込めて正真正銘のAを進呈。あ、でも「コミックバンチ」に出してりゃ5000万貰えたのにね(笑)。

 

 ◎読み切り『SANTA!―サンタ―』作画:蔵人健吾

 7年前の95年に「月刊少年ジャンプ」のマンガ賞で受賞し、3年のブランクを置いてから赤塚賞で佳作を受賞。その後は主に増刊で、時には週刊本誌で読み切り作品を断続的に発表している蔵人健吾さんの新作です。
 絵もストーリーも及第点以上。設定はかなりベタですが、それでもある程度はヒネリが効いていて、コテコテ感はありません。これだけの技量があったら連載を持ってもおかしくは無いと思えるのですが、1つだけ致命的な欠点があります。多分大成できないのもその辺りに原因があるのかと。
 その欠点とは、「ネームの不味さ」セリフの端々に違和感があるんですよね。
 どういう違和感かと言うと、この人はセリフをト書きの要領で書いてしまうんです。
 例えばト書きで、
 ──彼らは、古代から伝説に残る「神の使い」と呼ばれる者たちであった。
 …という文章があるとします。普通はこれをセリフにする時は少々砕けた表現にして、
 「彼ら、昔から言い伝えなんかで『神の使い』って呼ばれてる人たちなんだ」
 …ってしますよね。これでもちょっと堅いくらいですが。でも、蔵人さんはそう言う時でも、
 「彼らは、古代から伝説に残る『神の使い』と呼ばれる者たちなんだ」
 ってやっちゃうタイプの人なんですね。これが積もり積もって大損害になっているんです。
 もっと小説やら話作りの上手い作家さんのマンガを読んで勉強した方が良いと思います。そこを直せばもっとよくなります。評価はB−寄りのB

 ◎読み切り『ミイラカイザー』作画:イワタヒロノブ

 去年秋の手塚賞で準入選。その作品が前号の『赤マルジャンプ』に掲載されたイワタヒロノブさんのデビュー2作目です。
 しかし、端的に言うと不快な作品でありました。
 稚拙で中身のないストーリーを質の悪いギャグで誤魔化して、ドタバタの出来損ないのような作品になってしまっています。中途半端に歴史関係の本を1〜2冊読んで時代考証をやったフリをしているように思えるのも、その不快さを増幅される原因でしょうか。
 とにかく全てが安っぽい。これはいけません……などと中島誠之助のような口調で言い捨てたい気分です。評価はB−寄りのC

 

 ◎読み切り『monochro stroke』作画:瀬戸蔵造

 「少年ガンガン」出身の若手作家・瀬戸蔵造さんの卓球マンガです。「ガンガン」では野球マンガを描いていたそうですが……。
 絵に多少の稚拙さが目立ちますが、何とか範疇内。ストーリーは等身大の青春ストーリーと言う感じでなかなか爽やかな出来。しかし、「ジャンプ」らしくないな、という印象も受けてしまいました。どちらかと言えば「マガジン」、もしくは「スピリッツ」、「モーニング」的な作風でしょうか。
 評価はB+寄りのB

 

 ◎読み切り『呪いの男』作画:藤嶋マル

 今年1月期の「天下一漫画賞」の佳作受賞作。もちろん作者の藤嶋マルさんはこれがデビュー作になります。
 若干18歳の作品としては、かなりレヴェルが高いと言えるでしょう。重要なキャラクターほど魅力的に描かれているのところにセンスを感じます。
 話自体は「ジャンプ」系でよくある話に見えるのですが、その“定番要素”を上手く噛みあわせているので既視感を感じなくてすみます。ラストシーンへの持っていき方も無理なく出来ていてお見事。このまま才能を磨いていけば、立派な作家さんになれそうです。評価はB+寄りのA−

 

 ◎読み切り『泥棒ネコライフ』作画:夕樹和史

 去年夏の「赤マルジャンプ」でデビューを飾った夕樹和史さんのデビュー2作目。
 ミもフタもない言い方ですが、八神健さんの“廉価版”的な作風なのが気になります。画力もまだまだですし、さらにギャグなのかコメディなのか分からない中途半端なプロットも問題ありです。まだまだマンガの何たるかを判っていない感じがします。もっと修行して出直してきて下さい、といったところでしょうか。評価はB−

 

 ◎読み切り『神斬蟲―かみきりむし―』作画:小涼おぐり

 昨秋の手塚賞佳作受賞者・小涼おぐりさんのデビュー作になります。受賞作とは別作品ですので、受賞後第一作にもなりますね。
 ん〜、どうも“典型的な「ジャンプ」系作品”という印象しか浮かんでこないんですが……。多分、徹頭徹尾、「ジャンプ」の読み切りでステレオタイプな展開を続けてしまった結果なのだと思います。何か、編集者の意向が大分反映されている気がしますね。
 デビュー作にしてはなかなかの出来だと言えますが、この雑誌の中ではインパクトが薄くなってしまった感があります。評価はB

 

 ◎読み切り『STAND BY ME』作画:中山敦支

 99年に手塚賞で最終候補となった後、しばらく雌伏の時を過ごして、このたび“スカウトキャラバン”出身作家としてデビューした中山敦支さんのデビュー作。
 絵は今風にかなり洗練されていてナカナカなものなのですが、ややストーリーが強引だったかもしれません。ヤマ場の展開が読めてしまいますし、『ワンピース』であったパターンでしたしねえ……。
 クライマックスの展開もかなり強引かと。“本気で人を好きになる”という瞬間が描ききれてないのは残念でした。評価はB寄りのB−

 

 ◎読み切り『ライジングインパクト〜succeed to the force〜』作画:鈴木央

 待望の続編兼番外編なのですが、かなり確信犯的にコテコテの勧善懲悪モノにしてしまいましたね
 主要キャラもほとんど出てこないままでしたし、なんだか“連続アニメの中途半端な映画化作品”を見ているような気がしてなりませんでした。
 これでは『ライパク』ファンはガッカリですし、そうでない人にとっても中途半端な駄作。せっかくの機会がこう言った形で終わってしまったのは残念でした。評価はB寄りB−

 

 ◎読み切り『抱きしめて! ベースボールラブ』作画:セジマ金属

 代原でもお馴染みの、新人若手コンビによるギャグ作品です。
 課題山積ですが、以前よりは大分良くなった気はします。ギャグマンガっぽくなってきたかな、という印象。ただ、どうにも「少年サンデー」みたいな作風になっちゃいましたね
 評価はB−

 

 ……ふう。やるんじゃなかった、こんな企画(苦笑)。長々とお送りしましたが、今日の講義はこれで終わらせて頂きます。

 


 

5月3日(金・祝) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(5月第1週分)

 皆さん、新歓祭はいかがでしたか? 駒木と珠美ちゃんの体を張ったパフォーマンス、喜んで頂けたら幸いです。

 さて、今日から再び通常講義に戻ります。当講座はゴールデンウィークとはいえ、キッチリ講義を実施しますので、受講生の皆さんも頑張って受講してください。

 …というわけで今日の講義は、新歓祭で実施が遅れていた、今週分のゼミ・『現代マンガ時評』を振替実施します。

 あ、今日は初めての受講生さんも多いようなので、改めてこのゼミについて簡単な説明をしておきましょうか。

 このゼミは、『現代マンガ時評』という名の通り、その週に発表された読み切りや新連載のマンガ作品に関するレビューを行うものです。
 “ゼミ”と言うからには、将来的には外部から非常勤講師等をお招きする事も考えていますが、現在は駒木1人で講義(レビュー発表)を行っています。
 駒木が現在レビューを担当しているマンガ誌は、「週刊少年ジャンプ」「週刊少年サンデー」の2誌。それに加えて、他のマンガ誌の注目作も併せてレビューを発表しています。
 新連載作品については、原則的に第1回と第3回にレビューを行います。これは、第3回までのアンケート成績で連載継続か否かが決まるとされる、週刊マンガ誌の編集方針に基づいたものです。ただし、「サンデー」の短期集中連載に関しては、第1回と最終回にレビューを行うこともあります。
 また読み切り作品については、前・後編などに分割されている場合、原則としてレビューは作品の完結後に1回だけ発表するものとします。

 ……という方針で講義を行いますので、よろしくお願いします。

 さて、それでは講義の本題に移りますが、今日はレビューの前に、情報系の話題を。

 まず、「週刊少年ジャンプ」・春の新連載シリーズのラインナップが発表されました。
 今回は3作品が新連載となります。次号24号が叶恭弘さん『プリティフェイス』、25号がキユさん『NUMBER10』、そして26号が『ヒカルの碁』(本編連載再開)です。
 前回のラインナップ(河下水希さん、小林ゆきさん、尾玉なみえさん)の時も「異色のラインナップ」と書いた覚えがあるのですが、今回は更に異色ですねぇ。
 次号から連載開始の叶恭弘さんは、デビューから約10年にして初の連載獲得となります。異例の遅咲きですね。
 叶さんは、これまで単行本は短編集『BLACK CITY』(絶版)を1冊出したっきりで、最近ではイラストレーターとしての仕事の方が多かったのですが、ここに来て突然の連載開始。デビュー当時から卓越した画力には定評があった作家さんなので、あとはいかに魅力的なストーリーを描けるかどうか、といったところでしょうか。
 そして、インターネット業界では有名人キユさん
 一昨年の34号から『ロケットでつきぬけろ!』を連載するも、わずか10回で打ち切り。作品の内容そのものよりも、ロケットのように突き抜けたストーリーの終わり方が話題となってしまいました。果たして今回はリベンジなるか、それとも再度、目次の最下位を突き抜けてしまうのか。こちらも注目ですね。
 ただ、この新連載作品、叶さんの作品が恋愛モノ、キユさんの作品がサッカーモノと、見事なまでに現在の連載作品『いちご100%』、『ホイッスル!』と題材がダブってしまっているんですよね。打ち切り即廃業必至の作家さんにこの試練! 「ジャンプ」編集部、ですな。
 ちなみに、この新連載に先立って最終回を迎えた作品は、『サクラテツ対話篇』『あっけら貫刃帖』の2作品。そして、おそらく来週にもう1作品が最終回を迎えるのではないかと思われます。『あっけら──』は当ゼミでB+評価(マンガ好きに推奨)をつけた作品で、かなり期待していたのですが、4回目辺りから急に話がダレ始めて気にはなっていたのです。小林さんには、また次回作でリベンジして頂きたいと思ってます

 情報をもう1つ。たびたび掲載作品のレビューをしている「週刊コミックバンチ」の発売日が、次号から金曜日に変更されます。このゼミは、通常は毎週木曜実施なので、今後は実質1週間遅れのレビューとなりますが、ご了承頂きたいと思います。

 と、それではいよいよ今週分の作品レビューに。
 ただし、今週は「週刊少年サンデー」が合併号のため、「サンデー」のレビューはお休みとなります。なお、次週分は『史上最強の弟子ケンイチ』の第3回レビューなどを予定しています。
 今週のレビュー対象作品は、「週刊少年ジャンプ」から2作品、「週刊コミックバンチ」から1作品の計3作品です。レビュー文中の7段階評価の表はこちらからどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年22、23合併号☆ 

 ◎読み切り『ヒカルの碁・番外キャラ読切シリーズ・藤原佐為』作:ほったゆみ、画:小畑健

 不定期読み切りシリーズの第6弾です。26号から本編の新シリーズが始まるため、このシリーズはこれが最終回となります。もう少し続くのかと思ったのですが、「本編で大きく扱えるキャラは本編で」という方針のようですね。

 さて、今回の藤原佐為編なのですが、やけにベタベタで、『名探偵コナン』の小学生グループ編みたいな展開だなと思ったら、欄外にコッソリとこんな一文が……

 「この作品は、昨年のジャンプフェスタで公開されたスペシャルアニメ『裁きの一局! いにしえの華よ咲け!!』を原型に、漫画としてリメイクしたものです」

 ……どうやら、短編アニメの絵コンテやシナリオをマンガに“おろした”作品のようですね。
 …ということは、厳密に言うと今作のシナリオの原作者は、ほったさんではないという事に。何だかヤヤコシイ話になってますねぇ。恐らく、26号以降の描き貯めに忙殺されて、新しいエピソードを練る余裕が無くなってしまったのでしょうけれども。
 余談ですが、このコマ割り担当の他にシナリオ担当を起用するという手法は、アメリカンコミックなどでよく見られるもので、日本でもさいとうたかをプロなどで実践されています。さいとうたかをプロなどは、さいとう氏本人はデューク東郷の目しか描かないと言われているくらい、分業化が徹底しているようです

 ではストーリーのレビューなんですが、一言で表現するならば、「短編アニメの功罪明らかな作品」といった感じになっていますね。
 まず短時間でストーリー全体を収めるがため、起承転結のテンポが極端に早く、さらにインパクトを強く与えるための見せ場1つ1つの演出──キャラクターたちの反応など──が過剰気味になってしまっています。元々『ヒカルの碁』は地味ながら的確な演出で“さりげないストーリーテリングの上手さ”が光る作品だけに、やや違和感が否めない感じです。
 さらに、アニメをマンガにおろしたために、セリフの量が過剰になってしまい、『ヒカ碁』にしては珍しく、やけにウンチク説明的な仕上がりになってしまった印象もあります。
 やはり、違う媒体の作品を無理矢理移植するというのは、どうも無理があった感が否めません

 ただ、良い点も1つ。今回の主役と言うべき藤原佐為のイキイキと喜怒哀楽を表現出来ている点、これは良かったと思います。この事で、番外編としてのギリギリのラインは守られたのではないでしょうか。

 評価は、今回に関してはB+寄りのBという事に。ともかく、もうすぐ連載再開の本編に期待ですね。

 

 ◎読み切り『踊れ! 刑事ダンス !!』作画:山田一樹

 最近、とみに休載の多くなった『ROOKIES』の代原作品です。今回は“作者都合”ではなく“急病のため”休載との事で、最近体調面が優れないのかもしれませんね。先週“急病のため”休載していた富樫義博さんは、本当に入院加療していたようですし(今号の巻末コメント参照)。

 この作品の作者・山田一樹さんは、現在「天下一漫画賞」の募集ページで“研修生”としてカットを担当している新人マンガ家さん。「天下一漫画賞」の選外から編集者に目をかけられ、そこからデビューを果たした叩き上げタイプのギャグ作家さんみたいですね。
 今回掲載された作品は恐らく、編集者との遣り取りの中で手渡された習作原稿という事になるのでしょう。

 まずからですが、一言で言うと下手ですよね。
 ギャグマンガの場合は、絵の上手下手が直接作品の出来に繋がらない場合が多く、本来なら絵が下手だからといってそんなに厳しいコメントは出さないのですが、今回に関しては、作品全体に影響が出てしまっているので少しだけ。
 この作品の持ち味はテンポとキャラクター同士のアクションのはずなのですが、それが稚拙な絵のために台無しになってしまっているのです。コマ割りは流れるように読んでもらうように出来ているのに、それを絵によって流れが堰き止められている感じで、これが肝心のギャグにも影響が出てしまっています。有り体に言うと「まだ絵が無い方がマシ」といった印象で、山田さんには是非、今後に向けて猛省してもらいたいところです。

 そしてギャグの出来色々なギャグのパターンを試しているのは良いのですが、どれも踏み込みが甘い感じがしますね
 セリフのギャグなら、もう少し畳み掛けるようにしなくてはならないでしょうし、絵で見せるギャグも、もっと極端に表現しなくてはいけないでしょう。
 また、この作品のメインギャグが20年前に流行った「いたずらガム」というのもどうなんでしょうか? 絶対、本来の「ジャンプ」読者層には理解されない、しかも地味なギャグだと思うんですけれども……。

 現時点の総合評価ですが、C寄りのB−という事で。まるで才能が無いわけではないのでしょうが、前途はまだまだ多難ですね。

 

《その他、今週の注目作》

 ◎新連載『レムリア』(「週刊コミックバンチ」2002年22.23合併号掲載/作画:岸大武郎

 「バンチ」が「少年ジャンプ」の元執筆陣から引き抜いた作家さんの中でも隠し玉中の隠し玉、岸大武郎さんの長編新連載がいよいよ登場です。

 岸さんは「バンチ」移籍後は『せんせい』という、ノンフィクションのシリーズ読み切り作品を発表していたのですが、このシリーズの評判が上々だったようで、遂にこの度、新連載枠獲得と相成りました。「週刊少年ジャンプ」時代は、発表する作品があまりに異色過ぎたために不遇をかこっていた岸さん、果たして今回の作品の出来はどうでしょうか?

 まず絵柄に関してですが、以前から岸さんの絵柄は“動”というより“静”の印象が強く、それが時には「動きの無い平板な絵」という批判を浴びる原因となっていました。
 今回でもその点が懸念されたのですが、以前よりも画力そのものが向上している事に加え、自分の絵の弱点を把握した上で、ある意味“ボロを出さない”ような作画を徹底しているため、以前ほど悪い印象は受けませんでした。小道具や機械類の描き込みもキッチリ出来ており、絵全般に関しては十分合格点を出して良いものと思われます

 そして圧巻なのはストーリーでした
 まず壮大な設定と世界観が、最低限のモノローグとキャラ同士の会話で説明できてしまっています。後の回で説明した方が良い部分は全て先送りにしているのも、この作品に関しては良い方向に出ていますね。
 さらに素晴らしいのは、キャラ同士による何気ない会話が、ほとんど全部、見事なまでに伏線となって第1話のストーリー全体に繋がっているという事です。伏線を張っておいて数話先でリンクさせる例は沢山ありますが、数多くの伏線をその回の内に消化させてしまうには、相当な力量がいるはずです。しかもそれが「伏線を消化不良にしておくと、第1話全体の印象に悪影響を与える」という判断に基づくものだと思わせるところが更に凄いです。いや、ホントに良い出来です。

 この作品の正確な評価を出すには、もうしばらく様子を見ないといけないでしょうが、この第1話だけでも岸大武郎さんの力量の片鱗を見せつけられた気がします。
 今回に関しての暫定評価は文句ナシの
Aひょっとすると「バンチ」の看板作品にまでなるかも知れません。しばらくの間、じっくりと吟味させて頂く事にします。

 

 ……というわけで、いかがでしたでしょうか? 当講座では毎週木曜日にこのようなゼミを実施しております。新受講生の方は、これからもどうぞよろしく。


トップページへ