「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・6)

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講義一覧

9/26(第70回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(9月第4週分・後半)
9/23(第68回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(9月第4週分・前半)
9/18(第64回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (9月第3週分・合同)

9/11(第59回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (9月第2週分・合同)
9/8(第57回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (9月第1週分・後半)
9/2(第56回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (9月第1週分・前半)
8/29(第55回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第5週分・後半)
8/27(第54回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第5週分・前半)
8/25(第53回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第4週分・後半)
8/23(第52回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第4週分・前半)
8/19(第51回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第3週分)
8/17(第50回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第2週分・後半)
8/5(第49回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (8月第2週分・前半)
8/3(第48回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (7月第5週/8月第1週分・後半)
7/29(第47回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (7月第5週/8月第1週分・前半)
7/25(第46回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (7月第4週分・後半)
7/24(第45回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (7月第4週分・前半)
7/22(第44回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (7月第3週分・合同)
7/12(第43回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (7月第2週分・後半)
7/9(第42回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (7月第2週分・前半)
7/4(第40回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第5週/7月第1週分・後半)
7/2(第39回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第5週/7月第1週分・前半)

 

2003年第70回講義
9月26日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第4週分・後半)

 いつもの事ですが、東京行き出発直前ということで時間的に恐ろしく切迫しております。
 よりにもよって、今日は「辰吉丈一郎復帰第2戦」→「芸能人スポーツマンNo.1決定戦」という、駒木にとっては見落とせないTV特番コンボがありまして、その影響で余計に時間が切羽詰っています(苦笑)。

 ……というわけで、今日はこれ以上無駄話無し&チェックポイント圧縮版でキビキビとお送りします。

 まずは情報系の話題から。「週刊少年サンデー」の次号・44号に『PUMP IT UP』(作画:大和八重子)が掲載されます。大和さんといえば、00年39号から01年16号まで連載されていた柔道マンガ・『タケル道』が有名ですが、今回はバレーボール物での挑戦となります。最近、「サンデー」公式ウェブサイトの“まんが家バックステージ”から名前が消え、安否(?)が気遣われていましたが、堂々と本誌にて復帰となりました。

 また、雑誌からの公式アナウンスはまだですが、次々週(45号)には夏目義徳さんの新作読み切りが掲載される予定だそうです。夏目さんといえば、当ゼミで扱った情報についてご本人光臨5月5日付ゼミ参照)という出来事があったのを記憶してらっしゃる方も多いでしょうが、この度、紆余曲折の末に「サンデー」へ読み切りで復帰という事になったそうです。
 こちらの情報に関しては、次週のゼミで詳しくお伝え出来ると思いますので、どうかお楽しみに。


 ……それでは、レビューとチェックポイントへ。今日のレビュー対象作は、短期集中連載の最終回・連載総括レビュー1本のみです。

☆「週刊少年サンデー」2003年43号☆

 ◎短期集中連載総括『ふうたろう忍法帖』作画:万乗大智【第1回時点での評価:B

 作品以上に作者のテンションの方が高いと一部で話題になった(笑)この作品も、全5回でフィニッシュとなりました。

 で、総括なわけですが、端的に言って「風呂敷を広げ過ぎて、畳むのがやっとで終わってしまった作品」という事になるでしょうか。設定の描写・説明とシナリオを消化するだけでページの大半を費やしてしまい、各キャラクターの内面を深いところまで描き切る事が出来なかったように思えます。そのため、戦闘シーンの単調さも相まって、全体的に平板なお話に終始してしまった印象があります。
 具体的な問題点を1つ挙げるとすれば、水忍=巫女・しずくと風太郎の関係ですね。この2人の擬似恋愛関係が作品全体のテーマに結びつく重要な要素であるのは間違いないところですが、残念ながらページ不足か、しずくの風太郎を想う心の描写が不十分に終わってしまい、作品全体の説得力というか“深み”が無くなってしまいました。
 また、風太郎が助けたインド人少女・ヴェーダのエピソードは蛇足だったように思えます。この部分を削っていれば、本筋の方をもう少し丁寧に描く事が出来たのではないでしょうか。

 ただしそういう状況の中でも、一応はストーリーを破綻無くまとめ、伏線も処理し尽くしたという技量は「さすが」と言えるものだと思います。惜しむらくは、その技術が、この作品を駄作・凡作になるのを回避するためだけに使われてしまった…という事ですね。

 最終的な評価はギリギリでB+といったところでしょうか。失敗作ではありませんが、成功しているとも言い難い微妙な作品ですね。また次回作に期待です。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「出身地自慢をして下さい」。当たり前と言えば当たり前なんですが、過半数が名所と名物(食べ物)という事になりました。しかし、モリタイシさんの「村なのにユニクロとかある」というのには少し笑えました。ちなみに駒木研究室のある兵庫県には村は1つもありません。全部市か町です。
 で、駒木の出身地…というか今も住んでる神戸ですが、ヤフーBBスタジアムという世にも恥ずかしい名前の球場があります(笑)。まぁでも、牛肉は美味いし(高いけど)、機能的な都市なんでメチャクチャ住み良いですけどね。あとは公共料金だけ安くなってくれれば。


 ◎『MAJOR』作画:満田拓也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 しかし、今週の展開は、普通なら新連載第3回くらいのネタですよね(笑)。初心忘れるべからずとは言いますが、忘れなさ過ぎるのもどうかと思いました。

  
 ◎『KATSU!』作画:あだち充【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 連載2年にして今更、香月が駒木好みのタイプ(微乳&スレンダー美人)という事に気付きました(笑)。ハナっから「他人のモノ」という認識があったので、完全にノーマークだったんですよねぇ。
 まぁそれはさておき、この作品のボクシングシーンって、地味ですが結構見応えありますよね。特に対戦者が無駄口叩かないのが緊迫感出てて良いです。『あしたのジョー』からの伝統なので仕方ないですが、日本のボクシングマンガって、戦ってる途中から対戦者同士がベラベラ喋り過ぎなんですよねぇ。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 毎度の事ながら、13ページでこの密度は凄いですよねぇ。何気なく凄い量の情報がページの至る所に……。
 それにしても、河合さんの描く女性競艇選手って、妙にリアルなんですよね。キャリアウーマン的な女っぽさが全身から滲み出てるというか。まぁ実在の女性競艇選手の大半は、マンガのように美しいとは言えま(以下自粛)

 

 ……というわけで、今日は簡単ですがこれまで。次回講義は火曜日くらいになると思います。ではでは。

 


 

2003年第69回講義
9月26日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第4週分・後半)

 いつもの事ですが、東京行き出発直前ということで時間的に恐ろしく切迫しております。
 よりにもよって、今日は「辰吉丈一郎復帰第2戦」→「芸能人スポーツマンNo.1決定戦」という、駒木にとっては見落とせないTV特番コンボがありまして、その影響で余計に時間が切羽詰っています(苦笑)。

 ……というわけで、今日はこれ以上無駄話無し&チェックポイント圧縮版でキビキビとお送りします。

 まずは情報系の話題から。「週刊少年サンデー」の次号・44号に『PUMP IT UP』(作画:大和八重子)が掲載されます。大和さんといえば、00年39号から01年16号まで連載されていた柔道マンガ・『タケル道』が有名ですが、今回はバレーボール物での挑戦となります。最近、「サンデー」公式ウェブサイトの“まんが家バックステージ”から名前が消え、安否(?)が気遣われていましたが、堂々と本誌にて復帰となりました。

 また、雑誌からの公式アナウンスはまだですが、次々週(45号)には夏目義徳さんの新作読み切りが掲載される予定だそうです。夏目さんといえば、当ゼミで扱った情報についてご本人光臨5月5日付ゼミ参照)という出来事があったのを記憶してらっしゃる方も多いでしょうが、この度、紆余曲折の末に「サンデー」へ読み切りで復帰という事になったそうです。
 こちらの情報に関しては、次週のゼミで詳しくお伝え出来ると思いますので、どうかお楽しみに。


 ……それでは、レビューとチェックポイントへ。今日のレビュー対象作は、短期集中連載の最終回・連載総括レビュー1本のみです。

☆「週刊少年サンデー」2003年43号☆

 ◎短期集中連載総括『ふうたろう忍法帖』作画:万乗大智【第1回時点での評価:B

 作品以上に作者のテンションの方が高いと一部で話題になった(笑)この作品も、全5回でフィニッシュとなりました。

 で、総括なわけですが、端的に言って「風呂敷を広げ過ぎて、畳むのがやっとで終わってしまった作品」という事になるでしょうか。設定の描写・説明とシナリオを消化するだけでページの大半を費やしてしまい、各キャラクターの内面を深いところまで描き切る事が出来なかったように思えます。そのため、戦闘シーンの単調さも相まって、全体的に平板なお話に終始してしまった印象があります。
 具体的な問題点を1つ挙げるとすれば、水忍=巫女・しずくと風太郎の関係ですね。この2人の擬似恋愛関係が作品全体のテーマに結びつく重要な要素であるのは間違いないところですが、残念ながらページ不足か、しずくの風太郎を想う心の描写が不十分に終わってしまい、作品全体の説得力というか“深み”が無くなってしまいました。
 また、風太郎が助けたインド人少女・ヴェーダのエピソードは蛇足だったように思えます。この部分を削っていれば、本筋の方をもう少し丁寧に描く事が出来たのではないでしょうか。

 ただしそういう状況の中でも、一応はストーリーを破綻無くまとめ、伏線も処理し尽くしたという技量は「さすが」と言えるものだと思います。惜しむらくは、その技術が、この作品を駄作・凡作になるのを回避するためだけに使われてしまった…という事ですね。

 最終的な評価はギリギリでB+といったところでしょうか。失敗作ではありませんが、成功しているとも言い難い微妙な作品ですね。また次回作に期待です。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「出身地自慢をして下さい」。当たり前と言えば当たり前なんですが、過半数が名所と名物(食べ物)という事になりました。しかし、モリタイシさんの「村なのにユニクロとかある」というのには少し笑えました。ちなみに駒木研究室のある兵庫県には村は1つもありません。全部市か町です。
 で、駒木の出身地…というか今も住んでる神戸ですが、ヤフーBBスタジアムという世にも恥ずかしい名前の球場があります(笑)。まぁでも、牛肉は美味いし(高いけど)、機能的な都市なんでメチャクチャ住み良いですけどね。あとは公共料金だけ安くなってくれれば。


 ◎『MAJOR』作画:満田拓也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 しかし、今週の展開は、普通なら新連載第3回くらいのネタですよね(笑)。初心忘れるべからずとは言いますが、忘れなさ過ぎるのもどうかと思いました。

  
 ◎『KATSU!』作画:あだち充【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 連載2年にして今更、香月が駒木好みのタイプ(微乳&スレンダー美人)という事に気付きました(笑)。ハナっから「他人のモノ」という認識があったので、完全にノーマークだったんですよねぇ。
 まぁそれはさておき、この作品のボクシングシーンって、地味ですが結構見応えありますよね。特に対戦者が無駄口叩かないのが緊迫感出てて良いです。『あしたのジョー』からの伝統なので仕方ないですが、日本のボクシングマンガって、戦ってる途中から対戦者同士がベラベラ喋り過ぎなんですよねぇ。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 毎度の事ながら、13ページでこの密度は凄いですよねぇ。何気なく凄い量の情報がページの至る所に……。
 それにしても、河合さんの描く女性競艇選手って、妙にリアルなんですよね。キャリアウーマン的な女っぽさが全身から滲み出てるというか。まぁ実在の女性競艇選手の大半は、マンガのように美しいとは言えま(以下自粛)

 

 ……というわけで、今日は簡単ですがこれまで。次回講義は火曜日くらいになると思います。ではでは。

 


 

2003年第67回講義
9月23日(火・祝) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第4週分・前半)

 講義、講義の連続でさすがにヘロヘロ状態の駒木です(苦笑)。どう話したらいいか判らないんじゃなくて、話さなくちゃいけない事が多すぎて、いくら時間があっても足りないって分だけ、まだ幸せなのかも知れませんが……。
 とにかく今月はミホノブルボンの調教のようにガンガン行きますよ。多分菊花賞が終わる頃には駒木もパンクしてるでしょうけど(苦笑)。

 さて、今週はレビュー対象作が増えそうなので、前・後半分割でお送りします。で、今日は前半という事で、今週月曜日発売の「週刊少年ジャンプ」の内容についてのゼミという事になりますね。
 まず、手短に情報系の話題から。新連載構成も一段落したという事で、来週から再び読み切り攻勢が始まるようです。
 で、その再開第一弾は、『AX 戦斧王伝説』作画:イワタヒロノブ)。そうです、あのイワタヒロノブさんが「ジャンプ」に戻って来やがりました。
 ……えー、最近来られるようになった受講生さんはご存知無いと思いますが、このイワタヒロノブさんは、当講座のこのゼミで2作品レビューして2回ともC評価という前途険しい若手作家さんでありまして、前作のレビューの際などは、勢い余ってミホノブルボン物語をお話するような激しい熱意で作品を酷評してしまい、「この作品がつまらないのは同意するが、このサイトの感想は叩き過ぎで不快」と2chに書き込まれた経緯があります(苦笑)。
 そういうわけでハッキリ言いまして、来週は自分で自分のことが不安であります。もし、今度もC評価を出さなければいけないくらいの駄作だった場合、どんな人間性を疑われる罵詈雑言を言い出すか判りませんので、受講生の皆さんはあらかじめご覚悟をお願いしたいと思います。(半分冗談、半分本気です^^;;)


 ──では、レビューとチェックポイントへ参りましょう。今日のレビュー対象作は、新連載1本と、新連載後追いレビュー1本の計2本です。時間の都合でチェックポイントはボリューム控えめになりますが、ご了承下さい。


☆「週刊少年ジャンプ」2003年43号☆

 ◎新連載『神撫手』作画:堀部健和

 秋の新連載シリーズ第3弾は、本誌掲載の読み切りが“昇格”し、初の週刊連載獲得となった、堀部健和さん『神撫手』です。
 堀部さんは、79年1月生まれの24歳。新人賞等の受賞歴が無いまま、ほりべたけお名義で「赤マル」00年冬(新年)号にてデビューし、翌01年春号でも作品を発表。その後、2年のブランクを経た今春、本誌15号で発表した今作と同タイトルの読み切りで復帰、連載獲得と相成りました。
 今年は、長期ブランク明けで初の連載を獲得した若手作家さんが何人もいらっしゃいましたが、この堀部さんのケースは、それに「ジャンプ」伝統の“読み切り掲載→アンケート成績良好で連載化”パターンを組み合わせたもの…ということになるのでしょうか。

 ……では、今回──連載第1回の内容についてレビューをしてゆきましょう。

 については、以前読み切り版が掲載された時にも「プロとしての最低ラインは軽く超えている」と評価したんですが、今回もそれは変わりありません。登場人物の美醜がハッキリ別れすぎている、または、全体的に線が細いために雑誌掲載時はインパクトが弱くなってしまう…などといった欠点も見受けられますが、及第点は出せるレヴェルにあるのではないでしょうか。
 ただ、ネット界隈の評判を見ていると、「絵柄が生理的に受け付けない」という声もいくつか挙がっています。恐らく、先ほど指摘した「美系キャラが美形過ぎる」点や、いかにも少年マンガらしくないペンタッチが、比較的高い年齢層の男性読者に嫌気されているのではないかと思います。この辺は“良し悪し”の問題ではなく“好き嫌い”の問題になって来るので難しいところですが、連載の続行・終了が読者人気で決まる以上は、何らかの対応策を考える必要もあるかも知れませんね。

 次に読み切り版では問題点が見受けられたストーリーと設定に関してですが、こちらも前回に比べると若干は改善されているようです。読み切り版で露呈した設定の矛盾を丁寧に練り直していった痕跡が窺え、これには好感が持てます。
 ただし、そういった努力を完全に帳消しにしてしまっているのが、この作品全体に漂う“現実感の無さ”です。勿論、これはエンターテインメントのフィクション作品ですから、ある程度は現実離れした部分もあって良いとは思います。しかし、そういう“フィクションならではの設定”というモノを描くならば、それ以外の部分はリアルに作っておかないと説得力が消え失せてしまうのです。

 例えば、水島新司作品に登場するキャラクター。これらの多くは荒唐無稽・常識範疇外だったりするのですが通天閣打法の坂田三吉なんて、今週の『ミスフル』でパクられたくらいです)、それでも野球の描写をリアルに描く事で妙な説得力が生まれ、作品も傑作と評価されるようになったわけですね。
 もっとも、最近の水島作品は一部で「老害マンガ」と揶揄されるようになっていますが、これは最近の作品では野球描写も含めて作品全体が荒唐無稽になってしまい、“妙な説得力”が無くなってしまったためだと、駒木は分析しています。(他の理由として、現実に即したプロ野球モノは、結末が先に見えてしまっているので興味が削がれる…というモノもありますが)

 ……で、この『神撫手』の場合、主人公を追う警察やいわゆる“悪の組織”といった、この作品において“リアル部分”を担当しないといけない連中の行動に全く現実感が無く、お約束的・ご都合主義に終始しているのです。特に主人公と悪の組織数十人との追いかけっこなんて、まるで昔のTV番組・「加トちゃんケンちゃん」でやってた探偵コントですよ(苦笑)。それにこの主人公、ピストルで撃たれた割にはエラい元気ですしねぇ。
 まぁ、そういう作品でもいわゆる“おバカ系”まで突き抜けられれば存在意義も出て来ようというものですが、残念ながらこの作品はそこまで行ってませんから……。あ、どっちにしろ、そういう作品はウチのゼミで高い評価は出せませんがね(笑)。

 というわけで、評価はB寄りB−ということにしておきましょうか。作品の質以上に人気の望めるタイプではないでしょうし(むしろ逆)、かねてから予想していた通り、打ち切りサバイバルレースでは苦戦必至という事になってしまうのではないでしょうか?


 ◎新連載第3回『戦国乱波伝 サソリ』作画:内水融【第1回掲載時の評価:保留

 3週連続新連載の最終週ということは、その第1弾の作品が連載3回目を迎える週でもある…というわけで、『サソリ』の第3回後追いレビューです。

 ここまで3回の構成を振り返ってみますと、第1話本編から独立した形のプロローグ第2話主人公・無太郎のキャラクターを強調するための一話完結型エピソード。そして今回の第3回キーパーソン・織田信長の紹介を兼ねたストーリー本編の冒頭部分という事になっていますね。
 一応は、1話ごとにミニ・テーマを設定し、メリハリの利いた構成になっているので違和感はありませんね。サブキャラの性格付けも(若干浅いですが)進んでおり、シナリオや設定の完成度の面では及第点を出せるものになってはいます。
 ただし、第3回時点でストーリーの本編がまだ始まっていないというのは冗長過ぎる感が有りますし、そのせいもあって、この作品独自のカラーというものを強く押し出せない状況にあると思います。つまり、この作品の持つ長所を思うようにアピール出来ていないんです。で、それはつまり「長所が目立たない」という短所があるのと同じなわけで、その結果、作品の評価自体も下がってしまうわけですね。

 内水さんは、本来ストーリーテリング力のある人だと思うんですが、今回はその実力が額面通りに作品へ反映されていない感じですね。何と言うか、非常に勿体無い感じがします。
 評価としては「問題点も多いが見所もある。ただし、その見所が埋もれてしまっている」ということで、B+寄りにしておきます。


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今月の「十二傑新人漫画賞」審査員は村田雄介さん。『アイシールド21』の作画担当者という事で、毎号、作画テクニックについて色々なアドバイスをしていましたが、誰かさんとかと違って含蓄が有りましたよね。
 今週のQ&Aであった、「資料はどのように集めたらいいでしょう?」という質問、その誰かさんにも訊いてみたかったですね。「マンガ喫茶」とか「衛星放送のアニメ」とかおっしゃられるんでしょうか。

 ◎『BLACK CAT』作画:誰かさん矢吹健太朗【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 普通の作品なら「ベタだけどグッジョブ!」と思えるネタが、この作品だとチョイ前の『かってに改蔵』のように

「あざとい!」

 ……と叫びたくなってしまうのは何故でしょうか(笑)。
 理由はさておき、日頃の行いは重要だと思いました。


 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 バトルも佳境に突入して白熱! ……と、言いたいところだったんですが。
 残念ながら、どうもここ数回で失速気味ですねー。技のバリエーションが少ないだけならまだしも、戦ってる当事者がちょっとお喋りし過ぎのような気がします。口で喋らせるよりも、戦闘しながらモノローグで自分の心境を吐露させた方が、お話的には緊迫感が出て来て良いんですが……。
 前にも言った通り、この作品は世界観と設定は完璧にちかい完成度なんで、絶対に成功させて欲しいんですけどね。

 ……というわけで、今日はこれまで。次回は金曜日に後半分をお届けする予定です。

 


 

2003年第63回講義
9月18日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第3週分・合同)

 先週に引き続き、今週のゼミも前・後半合同でお送りします。
 本当は月・火あたりに「ジャンプ」関連分だけの前半分をやろうかとも思ったんですが、他の講義との兼ね合いもあって、業務縮小前と同じスケジュールでやる事にしました。「サンデー」は今週もレビュー対象作がありませんし、バランス重視と言う事で何卒。

 さて、今週は「ジャンプ」、「サンデー」両誌ともに月例新人賞の結果発表がありましたので、そちらの方を紹介しておきましょう。

第4回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年7月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作なし
 十二傑賞=1編
 ・『一夜物語─ワ・ライラ・フラーファー─』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  臼田幸太(20歳・埼玉)
 
《矢吹健太朗氏講評:ストーリーがきちんとまとまっていて好感が持てた。しかし絵は修行が必要。読者が見やすい絵を描くように心掛けて欲しい》
 
《編集部講評:魅力的なキャラクターが作り出せている。ストーリーの展開も上手い。が、絵については要努力。線が荒く、読み難いシーンが度々見られた。ドンドン描いて画力をアップして欲しい)
 審査員(矢吹健太朗賞)特別賞=1編
  ・『ピンポンデビル』
   佐藤大輔(23歳・北海道)
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『FOURSICK!』
   生武剛(24歳・福岡)
  ・『東京B−BOY』
   葛西仁(24歳・東京)
  ・『平妖箸マスター万福』
   楽永ユキ(25歳・東京)
  ・『魔女の特別課外授業』
   鈴木祥高(21歳・神奈川)
  ・『エッジブリンガー』
   内野正宏(27歳・神奈川)
  ・『WILD RING』
   岡春樹(23歳・埼玉)

少年サンデーまんがカレッジ
(03年7月期)

 入選=1編  
  ・『侍フィーバー』(=「サンデー超増刊」12月号に掲載)
   柏葉ヒロ(24歳・埼玉)
 《講評:画力、物語構成とも完成度が高く、将来性を強く期待させる作品)
 佳作=1編
  ・『運命の人?』
   突飛(21歳・長野)
 努力賞=2編
  ・『HERO !!』
   カズミツ(20歳・兵庫)
  ・『新感ボディ ヒーロー HARUHICO』
   下出真輔(22歳・埼玉)
 あと一歩で賞(選外)=2編
  ・『無刀竜』
   古田童子(29歳・東京)
  ・『用心棒』
   梶野剛毅(23歳・愛知)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります。(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ※「ジャンプ十二傑新人漫画賞」
 ◎審査員特別賞の佐藤大輔さん…02年10月期「天下一漫画賞」で最終候補
 ◎最終候補の葛西仁さん…03年2月期「天下一」で最終候補。
 ◎最終候補の内野正宏さん…01年5月期&02年12月期「天下一」で最終候補
 ◎最終候補の岡春樹さん…03年上期「ストーリーキング」で最終候補。02年前期「小学館新人コミック大賞・少年部門」でも最終候補?

 ※「サンデーまんがカレッジ」
 ◎入選の柏葉ヒロさん以前、少女マンガ家としてデビューした経歴有りとのこと
(メールマガジン「まんカレ通信」での本人コメントによる)
 ◎努力賞の下出真輔さん…「週刊少年チャンピオン」の読者コーナーでイラスト担当の経験有り?
 ◎あと一歩で賞の梶野剛毅さん…02年後期「新人コミック大賞・少年部門」で最終候補

 募集していた時にさんざんネタにさせてもらいましたが、この月の「十二傑」審査員は矢吹健太朗さん「やはり」と言いますか「貴様、どこの口から」と言いますか、作品ごとの講評は勿論、総評にまで「オリジナリティが足りない」とか「個性が足りない」とかいったコメントが……。
 最近、やたらとTVで常識人ぶっているダンカンに「何抜かす。所詮お前も前科1犯やないか」と言いたくて仕方ない駒木ですが、今回の講評で同じような心境に至った、残念ながら落選となった応募者の方も、さぞかし多い事でしょう(笑)。
 まぁ、「今月は知欠矢吹先生が審査員か。じゃあ、どこかで見た事あるようなパッと見の映えるマンガが良いのかな」…と考えるのは至極自然ではありますが、人間は原則的に自分の事は棚に上げる習性を身に付けている所まで考えを巡らせるべきでしたね。事実、賞を獲ったのは「ストーリーや演出は出来ているが、画力はイマイチ」とされた作品ばかりなんですから……(苦笑)。
 とはいえ、こんな「内閣総理大臣・森喜朗」名義の国民栄誉賞みたいな有り難迷惑な賞を貰ってしまったお二方の将来も大いに危惧されるところで、駒木も少々心配です。特に、「矢吹健太朗特別賞」なるいかがわしい賞をヤフーBBのモデムのように押し付けられた佐藤大輔さんには、早いところ赤塚賞の佳作を獲るなどして身の潔白を証明して頂きたい所ですね。

 ところで、「まんがカレッジ」の方は2ヶ月連続の入選作誕生となりました。ただ、「新人コミック大賞」もそうでしたが、長期間出ていなかった上位の賞を突然連続してポンポンと出してしまっては、逆に値打ちが下がっちゃうような気がするんですけどね。まぁ、作品のデキが抜群に良ければ万々歳なんですけれども。
 
 ──と、駒木も“自分の事を棚に上げ系”の偉そうな事を放言したところで(笑)、更なる放言タイム・レビューとチェックポイントへ参りましょう。
 今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」の新連載1本のみ。先週と同じように、その後「ジャンプ」のチェックポイント→「サンデー」のチェックポイント…というように進行します。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年42号☆

 ◎新連載『サラブレッドと呼ばないで』作:長谷川尚代/画:藤野耕平

 「ジャンプ」秋の新連載シリーズ第2弾は、『ヒカルの碁』、『アイシールド21』に続く、「ストーリーキング」ネーム部門受賞者による原作作品・『サラブレッドと呼ばないで』です。
 原作の長谷川尚代さんは、ついさっき紹介した通り、第6回(00年度)「ストーリーキング」ネーム部門で準キングを受賞。今回と同じく藤野耕平さんとのコンビで、この時の受賞作で今回の連載作品と同タイトルの「サラブレッドと呼ばないで」でデビューを果たしています。
 作画担当の藤野耕平さんは、コアな「ジャンプ」読者の皆さんには、『ピューと吹く! ジャガー』の実写版でピヨ彦役を演じていたアシスタントの人…と言った方が馴染みが深いでしょうか。藤野さんも読み切り版の『サラブレッドと呼ばないで』でデビューを果たし、これが本誌初登場にして初の週刊連載となります。
 なお藤野さんは、最近では村田雄介さんのアシスタントとしても活動していました。原作付作品をマンガ化する現場で働いたという経験が、今回の連載では大きな武器になるかも知れませんね。

 ……それでは作品の中身についての話を進めて行きましょう。

 まずですが、さすがは作画担当者として“ご指名”を受けただけあって、これがデビュー2作目とは思えない出来映えになっていますね。アクションシーンや特殊効果、更にはギャグモードに入った時のディフォルメされた絵柄(うすた京介直伝?)など、「ジャンプ」の連載作家としての最低ラインはクリアしていると思います。
 ただ、気になるのがキャラクターの表情の硬さ特に目と口のパーツの描き方がワンパターンなところが気に掛かります。そのために、髪型が違うだけで顔のよく似たキャラが、どこでも同じような表情をしているように感じてしまうんですね。この辺はキャリアを考えると致し方ない気もしますが、減点材料には違いありません。

 あと、作画上のポイントで、当講座のBBSをはじめ様々なところで指摘を受けていたのが、主人公・大成の入学式のシーンで母親に振袖を着せていた事ですね。
 振袖は専ら未婚の女性が着る服…というのはトリビアでも何でもなくて(それでもあの番組なら65へぇくらい獲ってしまいそうで怖いですが)一般的な常識の1つですよね。が、これを作画担当が何の疑問もなく描き、編集サイドも何の疑問もなく載せてしまうというのは、如何なもんでしょうか(苦笑)。これをギャグのネタとして描いたならば、必ずどこかにツッコミが入るはずですからねぇ。間違いなくボーンヘッドとみていいでしょうね。
 まぁ、このミスを作品全体の評価に響かせるのは行き過ぎでしょうが、プロなんですからもうちょっとしっかりして欲しいものです。

 次にストーリーと設定についてなんですが、先に結論から言ってしまいますと、「『これまでの柔道マンガには無いような話にしよう!』という意気込みは認めるが、全体的に練り込み不足」…といったところでしょうか。ストーリー展開がマンガの“お約束”に頼りすぎていたり、キャラクターの行動が(彼らの性格ではなく)シナリオの都合に合わせられているために、逆にシナリオから自然さが欠けてしまいました。特に悪役がストーリー上の役回りだけで設定されているのが問題で、担任&柔道部顧問の須藤など、実在してたら行政処分必至の性格破綻者になってしまってます。中1の生徒に背負い投げされても、「これは技ありだー」とか言って負けを認めず、あまつさえ絞め技に入って失神させてしまうような31歳って凄い話ですよ(苦笑)。

 ……それに、そもそも主人公が柔道を嫌いになった本当の理由──オリンピックで金メダル確実と言われた両親が、銀・銅止まりになったのをバッシングされているのを見てトラウマになった──いう部分からして、相当に無理があるんですよね。
 普通、決勝で負けて銀メダルになった選手は「悲劇のヒーロー」扱いになって同情されますし、銅メダルも田村亮子選手の「『銅』は3位決定戦を勝って獲得するんで、文字通り『金と同じ』なんですよ」という言葉の通り、それ相応の扱いをしてもらえるはずです。まぁ多少のバッシングはあるでしょうが、それ以上にフォローする声が沸き上がるはずなんですが……。少なくともそれで7年も引きずるほどのトラウマになる…というのは、ちょっと考えられないですね。
 で、その「ちょっと考えられない出来事」を大前提にしてシナリオを構築しているので、どう見せ方をいじっても、どこかでお話に“歪み”が出てしまうんです。まぁ、その見せ方もかなり稚拙な面が目立っているんですが…。

 あと、原作者の柔道に対する認識が甘過ぎるのも気になりました。親譲りの怪力とおぼろげな記憶だけで、受け身も取れないズブの素人が綺麗に技を決められる…というのは、いかにマンガでも都合が良すぎる気がします。才能だけで技がかかるなら、現実のオリンピック選手がゼーハー息を切らしながら反復練習してるのは一体なんなんでしょう? 
 いや、これがいわゆる“トンデモ系”のお話なら何も言わないんですがね。でも、リアル路線でそれをやってしまったら『キックスメガミックス』と同じじゃないですか(苦笑)。

 この作品、ネット界隈では比較的好評で驚いたんですが、当講座の評価としてはB−寄りBが精一杯ですね。まぁ確かに雰囲気は良い作品ではあるんですが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 鷲尾との戦闘シーンを見ていると、和月さんの「バトルとは、細かい駆け引きではなく気持ちで戦うものなのだ!」…という信念めいたモノが窺えて興味深いですね。あと、「男ってモンは、惚れた女のためなら何でも出来る!」もですか(笑)。

 最近の少年マンガでは、

「○○がこうなって、ああなるから、▲▲になって、そうなるんだ! いけーッ!」
「な、なにぃ、まさか○○を▲▲にアレンジして使うとは……なんて発想力なんだ、ぐはぁ!」

 ──みたいな底抜け脱線ゲーム的戦闘が流行みたいですが、こういうのは技の駆け引きが勝ちすぎてキャラクターの心理描写が希薄になるので、駒木はイマイチ賛同出来ないんですよね。格闘技でもそうですが、一番大事なのは技の駆け引きじゃなくて、戦ってる当人同士の気持ちがこちらに伝わって来るかどうかなんですよ。そういう意味では、和月さんの考え方は理にも適っていると言えそうです。
 ただ、それにしても『武装錬金』は戦闘のテンポが少し悪いように思えますので、これは今後の課題ですね。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】

 結局、大工の兄ちゃんがムサシだったと。うーん、確かに肯ける答えではあるんですが、それだと工事の最中に会っているはずの栗田の反応が毎回過剰過ぎるんですよねぇ。まぁ、大工のムサシには興味無いって事なのかも知れませんが。
 しかしムサシ、高校をリタイヤ(休学?)したとはいえ、母校で堂々とタバコ吸ってて良いんですかね(苦笑)。まぁ教員経験者として言わせてもらいますと、中退した生徒が真面目に働いている場面を見たら、いくらタバコを吸ってても説教する先生はいないと思いますけどね。

 
 ◎『テニスの王子様』作画:許斐剛【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のラストシーン、真田が藤岡弘の生霊が憑依したかのように見事な薪藁斬りを見せていますが、このシーン、実は『バガボンド』のワンシーンをトレースしたものだそうです(失笑)。他のマンガからのトレースと言えば、つい最近も新人の読み切りで相次いで話題になりましたが、まさか準看板作品でも……! 
 まぁ他の作品や映画・写真集などを参考に作画するのは常套的手段ではあるんですが、いやしくも(本当にいやしいですが)「ジャンプ」の主力作家さんとあろうものが、他のマンガからバレバレのトレースをしなきゃ絵も描けないってのは心底情けない話だと思いますね。
 まぁ色々言いたい事はありますが、ここは一言に集約してコメントすべきでしょう。ハイ、皆さんも準備は良いですか? せーのッ!

まだまだだね。


 ◎『ごっちゃんです !!』作画:つの丸【現時点での評価:保留/雑感】

 最近、この作品読んでいると、「ごっちゃん、いなくてもエエやん」と思ってしまうんですが(苦笑)。ごっちゃんが絡んでいない相撲シーンにリアリティがあってよく出来ているので、逆にごっちゃんが絡んでくると白け気味になっちゃうんですよねぇ。元々ごっちゃんって、魅力的な主人公というわけでもないですし……。

☆「週刊少年サンデー」2003年42号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「自分のチャームポイントは?」。大体がウケ狙いか、照れてノーコメントって感じですか。まぁ今時チャームポイントなんて、B級グラビアアイドルぐらいにしか縁が無いでしょうからねぇ。
 駒木は……。んー、ここ6〜7年彼女が出来ないって事を考えると、無いんじゃないですか(笑)。

 ところで巻末には、編集者・吉元篤司氏の訃報が。ニュース報道によると、海でシュノーケリング中に溺れて亡くなったそうなんですが、確か駒木と同年代くらいの若い方だったみたいです。
 ご冥福をお祈りさせて頂きます。

 ◎『金色のガッシュ!!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今週から、バトル3箇所同時進行となりました。普通、これをやると読者が非常に混乱してしまうんですが、ここまで場所別でカラーを変えたら問題ないですね。
 ていうか、無表情でウマゴンをワシャワシャとかナゾナゾ博士&フォルゴレ組とか、相変わらず緊迫感が必要な場面で遊び心が多すぎますがな!(笑&褒め言葉) 『武装錬金』なら「うなれ俺の武装錬金!」って場面で、「よーし、キャンチョメ『チチをもげ』だ!」ってのは、いくらそういうマンガだと判っていても凄すぎると思いました。ハイ。

 
 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 『南国アイスホッケー部』がアイスホッケーをしないのと同じくらい柔道をしなかった井手高柔道部ですが、珍しく柔道すると思ったら1級試験とは。まぁ、これが初段試験で、今後彼らが黒帯着ける事になっても違和感有りますから、これでちょうど良い感じなんですけどね。
 そういや駒木のツレに初段持ってるヤツがいるんですが、そいつも中学生とか高校生ばかりが受けに来る会場を狙い打ちにして黒帯ゲットしてましたね(苦笑)。デビュー戦で勝った決め手が裏投げから肩固めというデタラメなヤツでしたが。


 ◎『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫【現時点での評価:B/雑感】 

 今週、掲載順が最後方からランクアップ。暁の新ライバル出現もありましたし、これはしばらく続行確定と見て良いんでしょうね。
 今後ある程度はカタルシスのある展開が続くでしょうし、これで持ち直せれば長期連載も射程に入ってくるんじゃないでしょうか。どうも新連載作品もコケ気味ですし、色々な要素に恵まれましたね。


 ……といったところで 今回はここまで。来週はレビュー対象作が増えそうなので、前後半分割でお送りする予定です。では。

 


 

2003年第59回講義
9月11日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第2週分・合同)

 今週のゼミは前・後半合同で行います。別にサボりたいからというわけではなく、今週はゼミの題材が少ない上に、合同版でやっておかないと他の講義が出来ない…という事情ですので、どうか宜しく。

 それでは、今週は(というか今週も)情報系の話題もありませんので、「ジャンプ」&「サンデー」各誌のレビューとチェックポイントをお送りしたいと思います。
 今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」の新連載作品1本のみ。その後、「ジャンプ」のチェックポイント→「サンデー」のチェックポイント…という感じでお送りします。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年41号☆

 ◎新連載『戦国乱波伝 サソリ』作画:内水融

 今週から始まった、秋の新連載シリーズ。まず第1弾は、内水融さんの少年忍者アクション物・『戦国乱波伝 サソリ』です。
 内水さんは00年5月期の「天下一漫画賞」で審査員特別賞を受賞した後、「赤マルジャンプ」01年冬号(新年発売)でデビュー。その後は、にわのまことさんの下でアシスタント修行を積みつつ作家活動も継続し、02年冬と03年春の「赤マル」でそれぞれ作品を発表しています。
 そしてこの度、(恐らくは「赤マル」03年春号での評価により)遂に週刊連載を獲得という事に。前作は古代中国を舞台にしたミステリー風味の作品だっただけに、今回の題材選択は正直驚きなのですが、果たしてどういった作品になりますか──?

 まずですが、以前「赤マル」で作品を拝見した時より、若干タッチが粗くなっているのが気になりますね。これまでとは桁違いに増えた仕事量に少々戸惑い気味なのでしょうか。
 あと、顔ごとの表情のバリエーションが若干不足気味なのも心配ですし、アクションシーンも他の連載作品と比べるとやや見劣りしてしまいます。「赤マル」レヴェルならこれでも十分合格点を出せるのですが、さすがに本誌連載となると、“中の下”くらいの評価にせざるを得ないでしょう。

 次にストーリーと設定なんですが、今回は“長編作品の第1回”というよりも、“本編から独立した読み切り形式のプロローグ”といった体ですので、ちょっと評価に困ってしまいますね(苦笑)。まぁとりあえず、今回は第1回分のみのデキ具合についてレビューする事にしまして、作品全体のストーリーについては次々週の後追いレビューで詳しく述べたいと思います。

 ……というわけで、第1回のストーリーについて。
 今回のお話、一見すると「ジャンプ」でありがちな単純なシナリオに見えるのですが、実のところは目立たない所でキチンと技巧が凝らされている、なかなかの佳品だったりします。どうしても多くなりがちな説明的セリフをスンナリ読ませるネーム力、“噛ませ犬”的な悪役を敢えて配置せずにアクションバトルを絡めたシナリオを成立させる構成力、自己満足に陥らない程度に成熟させた世界観など、なるほど、連載を獲得してもおかしくないだけのストーリーテリング力が窺える仕上がりです。
 ただし、それらの長所をキャラクター造型の甘さが打ち消してしまっているのが残念です。特にサブキャラの弱さが懸念材料で、犬千代となずなの重要サブキャラ2人が単なるストーリー進行補助の役目しか果たされていない…というのは、どう考えても今後に不安を残す材料と言えますね。

 先ほど述べた理由により、今週時点での評価は保留ということにしておきますが、今回を1本の読み切り作品として評価するとすれば、B+といったところでしょうか。
 こういうタイプの作品って、作品の出来そのものよりも低い評価に甘んじる傾向があるので、ちょっと心配なんですよね。実力派の若手作家さんだけに、“突き抜け→振り出しに戻る”のコースは歩ませたくないのですが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感など】

 本編の感想は先週と一緒ですので、ここでは割愛。今日は番外編について少々述べさせてもらいましょう。

 今回の番外編については、既にネット界隈でも賛否両論出ていますが、それにしても、これほど中身の無い話を“それっぽく”見せる表現力と言うのはやはり非凡だと思いますこれは皮肉ではありません。1ページ平均6コマが標準とされる今、たかが13ページで中身のある読み切りなんて描けるはずがないのです)。小説家でもストーリーテリング以上にレトリックの才能に恵まれた方がいらっしゃるんですが、久保さんはそのマンガ家バージョンといったところでしょうか。
 ただ、こういうタイプの作家さんは、『きみのカケラ』高橋しんさんのように、自分の才能に溺れて方向性を見失ってしまうケースがあったりしますので、やや心配ではあるのですがね(苦笑)。まぁ“大作家”になるまでは編集さんが手綱を放さないでいてくれるでしょうけども。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】

 「問題:ムサシとは誰の事か?」
 ……まさかこのマンガで、ミステリ作品でいうところの“読者への挑戦状”が出されるとは思いませんでした。でも駒木、こういうのって苦手なんですよねぇ(苦笑)。単行本読み返したり、処分する直前だった「ジャンプ」のバックナンバーを漁ったりしたんですが、結局判らずじまい。
 ミステリの基本として、一番最初の“犯人候補”である室サトシは圏外。まもり姉ちゃんのセリフから考えると、ムサシが登場したのはモン太が入部してからって話になりますが……そんな人いたっけ?
 一応候補としては、部室増築の際に登場した大工の兄ちゃんがいるんですが、それだと色々と矛盾点も出て来ますしねぇ。まぁ、“解決編”に期待ってとこですか。


 ◎『遊☆戯☆王』作画:高橋和希【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 おいおい、結局決着はカードバトルなんかい!(苦笑)
 まぁ冷静に見れば、カードバトル世界の物語を先に描いておいて、後のカードバトル描写に深みを持たせるっていうのは確かに面白い手法ではあります。ただそれでも、前フリにかける時間とすれば、ちと長過ぎじゃないかと思うんですが……。


 ◎『いちご100%』作画:河下水希現時点での評価:/雑感】

 恋のライバル出現云々言う前に、そろそろ本命決めんかい淳平!(怒)


 ◎『キックスメガミックス』作画:吉川雅之現時点での評価:/連載総括】
 
 1クール13回。見事なまでの突き抜けでした。まぁ妥当なところでしょう。
 結局のところ、肝心のテコンドー格闘シーンが、第3回の後追いレビューで述べた「テコンドーの名を借りた、ただのケンカ」の域を超えなかったのが全てでしょうね。
 しかし、これまでの作家生活の全てを否定された感のある吉川雅之さん、これからどうするんでしょうね。ご本人は復帰の意欲十分なようですが、客観的に見て今後の見通しは極めて厳しいと思います。


☆「週刊少年サンデー」2003年41号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「生まれ変わるならどんな動物になりたいですか?」。回答を見ると、人間をもう一度やり直すか、ノンビリ暮らせる動物(ペット系)になるかのどちらかみたいですね。
 駒木は「美人のお姉さんに飼われる家ネコ」。これしかありませんね(笑)。人間に生まれ変わるなら、今度はフェロモン含有量の高い男に生まれて来たいです(苦笑)。

 ◎『名探偵コナン』作画:青山剛昌【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 改めましてこんばんは。高木&佐藤編になると、途端に読み込む熱心さが増す駒木ハヤトです(笑)。こういう“イマイチな男が誠意を持って頑張るラブコメ”ってのに異様な共感を覚えるんですよねぇ(苦笑)。
 まぁ今回のシナリオ、犯人は誰だか判りませんが、高木君が鳥取へ行かなくて済むってのはお約束なんでしょうなぁ。


 ◎『MAJOR』作画:満田拓也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 うわー、まさか「異国の地に単身降り立った主人公は荷物を盗まれる」の法則から始まるとは思いませんでしたよ。ここから大リーグのマウンドに立つまで何年かけるつもりなんでしょうか(苦笑)
 あと、ヒッチハイク拒否した日本人はストーリー上の伏線になるんでしょうね。でも初登場でオープンカーってのも凄いなぁ。恐らくは花形満以来ですよ、そんな人(笑)。


 ◎『売ったれダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治【現時点での評価:A−/評価の変更】

 今回で更に迷走……。いつからこのマンガは『カイジ』みたいに命の遣り取りをするハードコアな作品になったんですか?(汗)  これが人気低迷のテコ入れ策なんだとしたら、激しく間違ってると思いますが……。
 とりあえず、A−という評価は、こういう作品のためにつけた評価ではないので、今回で一旦白紙撤回して保留ということにさせてもらいます。


 ◎『ファンタジスタ』作画:草葉道輝【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 んー、もうちょっと上手い見せ方が無かったもんですかねぇ、徹平のフリーキック直接ゴール最近は「チャンピオン」連載の『ORANGE』がとにかくアツいので、どうしてもそっちと比べてしまいます。
 勿論、“ヴァレンチノ監督に捧げるゴール”というドラマ性は素晴らしいんですが、この場合は巧いシュートよりも豪快なシュートの方がビジュアル的に良かったかも知れないですね。あと、ゴールが決まった瞬間からゴールに沸くシーンまでの“間”をもっと取った方が効果的だったように思います。せっかくの見せ場なんですから、もうちょっと演出面を凝って欲しかったですね。


 ……というわけで、今週はここまで。次回のゼミは来週水曜あたりになると思います。

 


 

2003年第57回講義
9月8日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第1週分・後半)

 さて、大変ご迷惑をおかけしましたが、講義再開です。今週は「フードファイター・フリーハンデ」なども実施できるように準備中なので、楽しみにしていて下さい。

 ではとりあえず、今日は先週分後半の「マンガ時評」から。とは言え、先週の「サンデー」は情報もレビュー対象作も無くて、チェックポイントだけの寂しい中身になってしまうのですが……。
 どうやら今週の「サンデー」も似たような状況なんですが、その時は時間もあるでしょうから、何か企画モノでも考えます。

☆「週刊少年サンデー」2003年40号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「大事な人に向けてメッセージを一言」。このコーナーで巻末コメントを扱うようになってから、一番デキの良い質問じゃないかと思います。メッセージの対象を限定しないところがミソですね。
 で、連載陣の皆さんの回答を見ると、過半数が「大事な人=読者」で、次に「大事な人=家族」の模様。ギャグ作家のお2人は、「大事な人=自分」という病みっぷりが見事ですね(笑)。
 駒木は……照れくさいから止めときます(笑)。

 ◎『MAJOR』作画:満田拓也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 巻頭カラー・高校編のエピローグですね。
 しかし、本当にヒロインとライバルと友人が報われませんな、このマンガ(苦笑)。特に正ヒロイン・清水薫の恵まれなさといったら、もう……。
 今週なんて、高校3年生なりに目一杯オシャレしてる所なんて可愛らしいじゃないですか。たとえ、これがもし実写だと、体育会系の体で服がパツンパツンになってるであろうとしても(笑)。

 来週からはアメリカ編ですが、どういうスタートになるんでしょうか。一番考えやすいのは、既にトライアウトを受けて、マイナーリーグに馴染んでる…という時点までタイムワープさせるパターンでしょうけど。


 ◎『売ったれダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治【現時点での評価:A−/雑感】

 もう完全に迷走始めちゃってますね……。せっかく文化祭編で良い感じだったのに、サブキャラを放棄してまでして、どうしてトンデモバトル物に方向転換を…。
 以前、評価の上方修正を検討していると述べましたが、とりあえずそれは無かった事に


 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 点数計算、合ってましたね(笑)。でも、先週の引きとの不自然さがありますから、先週分の原稿を上げてから気付いたという可能性も無きにしも非ずかと。

 それにしても、波多野が予選スベったのは驚きでした。いや、実は駒木、この賞金王決定戦で連載終了と思ってたんで(笑)。
 しかし、もう6年半もやってて、更に劇中時間で1年やるってのは凄いモチベーションですね。ここから色々なキャラの伏線処理とかをやっていったら連載500回も現実問題になって来そうです。
 

 ……と、今日は本当に短いですが、復帰明けと言う事でこれくらいにさせて頂きます。正直、今週号の「サンデー」は特筆すべきポイントが少なくて、チェックポイントを探すのに往生しました。(で、結局探し出せず)

 それにしても、毎週毎週「今週の『きみのカケラ』は高橋しん先生が体調不良のため休載します」と載せ続ける「サンデー」編集部の執念たるや、ある意味凄いモノを感じますね。そんな執念があるなら、もっと良い新連載作品立ち上げろや、と言いたくもなって……いやいや(苦笑)。

 


 

2003年第56回講義
9月2日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第1週分・前半)

 今週は、駒木が4日早朝から東京へ“1人研修旅行”へ行く関係上、ゼミを1日前倒しして実施します。こういう時に限ってレビュー対象作が2つあったり、紹介しなきゃいけない情報が結構あったりするんですから皮肉です。まるで麻雀で高い手が入った途端に親からリーチが……って、それは今日の駒木自身でしたか(苦笑)。

 ……というわけで、11面待ち・絶好形のイーシャンテンが6巡ツモれず、挙句に18000点放銃した講師がお送りする「現代マンガ時評」、スタートです。

 ──ではまず、情報系の話題から。4週連続新連載シリーズの余韻も覚めやらぬ「週刊少年ジャンプ」ですが、来週発売の41号から3週連続で秋の新連載シリーズが開始されます。

新連載シリーズ・今回のラインナップ

 ◎第1弾・41号より新連載
 …『戦国乱波伝サソリ』(作画:内水融)
 ◎第2弾・42号より新連載
 …『サラブレッドと呼ばないで』(作:長谷川尚代/画:藤野耕平)
 ◎第3弾・43号より新連載
 …『神撫手』(作画:堀部健和)

 ……3組4人の作者の皆さんは、いずれもこれが初の週刊連載となるフレッシュな顔触れです。先の新連載シリーズが中堅・ベテラン作家さん中心のラインナップだったのと比べると正に好対照ですね。
 作者の皆さんのプロフィールについては来週以降のレビューの中で詳しく紹介させて頂きますが、いずれもほぼキャリア3年程度の若手作家さんで、少々小粒な感が否めない所ですが、果たしてどうなりますか。個人的にはプロトタイプ読み切りのレビューで、
 『完成度が低い割には妙に読後感が良い作品なので、ひょっとすると連載化されたりする可能性もありますが、現状の力量で連載になっても突き抜けるのが関の山ではないでしょうか』(当講座03年3月13日付より)
 ……という厳しい評価を下した『神撫手』が、本当にアッサリと連載を獲得してしまったのが非常に心配なのですが(苦笑)。まぁ、この心配を裏切ってくれるような快進撃を期待しておきましょう。

 そして情報をもう1つ。先述の新連載シリーズの始まる「ジャンプ」41号では、『BLEACH』作画:久保帯人)が番外編との2本立て・センターカラーで掲載されます。
 『BLEACH』も、ここ最近は単行本の売上げも伸び、一時期は打ち切り候補の一角に挙げられていたという事が不思議なくらい快調ですね。こちらの番外編はページも少ないですし、レビュー対象作からは外しますが、チェックポイント等でコメント出来れば…と思います。

 ……では、情報系の話題はこれくらいにしまして、レビューとチェックポイントへ移りましょう。レビュー対象作は読み切り2本です。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年40号☆

 ◎読み切り『エキゾチカ』作画:武井宏之

 それでは、まずは現役連載作家さんに敬意を表しまして、武井宏之さんの作品・『エキゾチカ』のレビューからお届けします。

 武井宏之さんは1972年5月生まれの現在31歳。デビュー前から、当時『しあわせのかたち』を連載中だった桜玉吉さんのアシスタントを務めつつ、「ジャンプ」デビューを目指して修行。その甲斐あって94年下期の手塚賞で佳作を受賞し、“ジャンプ新人予備軍”の仲間入りを果たします。
 それからは当時『るろうに剣心』連載中の和月伸宏さんの下でアシスタント修行を積み、手塚賞入賞から2年後の96年に、現在の「赤マルジャンプ」にあたる、季刊の増刊号で遂にデビューを果たします。そして、その後にもう1度増刊で作品を発表した後、デビュー作の『仏ゾーン』をリメイクした作品で97年12号から連載を開始。この時は残念ながら2クール19回で打ち切りとなりますが、その1年後に連載開始された『シャーマンキング』では、見事に5年以上の長期連載&スマッシュヒットを決め、現在の地位を不動のものとしたのは皆さんもご存知の事でしょう。
 そして今回は意外にも、武井さんにとって本誌で始めての読み切り掲載となります。先週号(40号)の巻末コメントを見る限りでは随分と“難産”の末に生み出された作品のようですが、さて──?

 まずですが、これはもう何も口を挟む事はありませんよね。人物キャラは勿論のこと、この作品の“生命線”と言って良い、自動車やカーチェイスシーンの描写も(少なくとも“その道”の素人である駒木の目には)達者であったと思います。

 ただ、ストーリー&設定については、若干の苦言を呈さなければなりません。
 この作品、対象年齢が低い少年誌と言う事で、作中に登場する自動車やエキゾチックカーについての解説がかなり詳しくなされています。勿論、それはそれで良いのですが、限られたページの中では、当然の事ながらその分だけシナリオの充実度が犠牲になってしまった感は否めません。また、ストーリーにテンポとスピードを持たせるために大ゴマを多用したのも、この“シナリオ平板化”の原因になってしまったでしょう。
 結局のところ、そこまで題材についての解説をしないと「ジャンプ」のメイン読者層がついて来れないのなら、この作品は「ジャンプ」で描くべきではなかったのではないかと思います。説明的な内容をクドく感じさせない構成やネームなどには「さすが長期連載作家」と思わせてくれるだけの地力を感じるのですが、せっかくの才能をこういう部分で浪費して欲しくなかった…というのが正直なところですね。

 ──とまぁ、ネガティブな事も言いましたが、それでも全体的に見れば、(平板なシナリオを除けば)卓越した構成&ネーム力がキラリと光る、爽快なエンターテインメントになってはいたと思います。よって評価は“名作崩れの惜しい作品”と言う事でB+。今度は連載の合間とかではなく、ジックリと腰を据えて描いた短編を読んでみたいですね。


 ◎読み切り『超便利マシーン・スピンちゃん』作画:大亜門

 続いては、このゼミでもすっかりお馴染みとなりつつある、若手ギャグ作家・大亜門さんの作品です。
 この方に関しては、もうこのゼミでは4度目のレビューとなりますので、キャリアについてはごく簡単に紹介するに留めます。
 大亜門さんは、02年4月期「天下一漫画賞」最終候補を経て、同年に代原で2回本誌に登場。今年に入って「赤マル」03年春号で、今回の作品のプロトタイプとなる『スピンちゃん試作型』(題名までまさにプロトタイプですね)を発表し正式デビュー。そしてこの度、晴れて本誌に“凱旋”となったわけですね。いわゆる代原作家さんとしては、異例のハイペース出世だと思われます。

 ……さて、それでは内容について述べてゆきましょうか。
 については、ギャグマンガとしては許容範囲のレヴェルながら、正直な所、まだまだ改善の余地は残されていると思います。今後も精進して欲しいですね。
 ただ、未熟な画力なりに1人1人のキャラクターの外見の描き分けやマンガ的表現がキッチリと出来ていますので、全体的な印象としては現時点でも悪くは無いと思います。この人、意外と得な画風してますよね。

 そして肝心のギャグの出来映えですが、「赤マル」に引き続いて今回も一定以上のレヴェルに達しているのではないでしょうか。特に2箇所あった、同じテーマのギャグを立て続けに連発するシーンには、(笑わされながら)唸らされました
 ネット界隈で指摘されている通り、少々マニア度が過ぎるネタもありましたが、キャラクターの個性を生かしたオーソドックスなギャグもキチンと出来ており、既に完成度は連載作品並と申し上げて良いでしょう。惜しむらくは序盤の数ページと終盤の数ページでギャグの密度が若干薄かった点でしょうか。良い部分は抜群に良いだけに、こういう“ムラ”があるのが非常に残念に思えます。

 ということで総合評価ですが、若干の改善点を残しながらも、A−を出すだけの価値は十分にあるでしょう。今後は連載も視野に入れての活動に期待したいところですね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週の掲載順は実に絶妙でしたね。とりあえず最初の3作品でグッと読者のハートを鷲掴みにしておいて、そこからまた3作品を費やして絶妙のクールダウン(笑)。読み切りをニュートラルな姿勢で読んでもらえるように誘導できていて良い感じです。
 で、読み切り2作品の後は実力派3作品で「さすが『ジャンプ』、層が分厚い」と思わせておいて、次の作品で「でも、そろそろ巻末です。これからはこういう作品が続きますんで、ちょっと覚悟しててね」…と気付かせる。いやー、センスあるわ(笑)。ただ、そのセンスを新連載ラインナップを決定する時に発揮して欲しいと激しく願うんですが(苦笑)。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 人気投票の結果発表。早速、といいますか、予想外の高ランクを獲得した“ハァハァ三兄弟”長男・十文字が本編でもクローズアップされてますね。このあたり、いかにも「ジャンプ」です。まぁ、作家さんとしても、読者に好かれているキャラクターには自ずと愛着が湧いて来るでしょうしね。
 で、今回のラストシーンでは、いよいよキッカー候補登場。しかしアンタ、髪をセットしながら「スマートだぜ」って、出て来るマンガとやるスポーツ間違えてませんか?(笑)

 ◎『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
  
 今回も圧巻でした。いや、やっぱり凄いです尾田さん。
 何だかここ2週は、連載開始当初の、「『ジャンプ』を暗黒期から脱出させるのはこのマンガだ!」…と思わせてくれたインパクトが戻っていましたね。熱いセリフの応酬のことごとくに説得力があるんですよ。これはもう天賦の才ですね。恐れ入りました。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 巻末コメントでは高らかに“突き抜け回避宣言”。今年の「ジャンプ」は新連載作品の不作が続いただけに、これは素直に喜びたいところですね。
 さて、今回注目したいのは259ページ(作品としては9ページ目)蝶野攻爵の独白ですね。「盗人にも三分の理」じゃないですが、こういう部分がストーリーに厚みを持たせてくれるんですよね。ただ、今週は『ONE PIECE』が凄すぎたので、ちょっと霞んで見えてしまうんですが(苦笑)。

 ◎『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 こちらはこちらで見せ場タップリの内容。幸福を強調させておいたキャラを不幸のどん底に沈ませる…と言う、オーソドックスながらストーリーテリング力が無いと出来ないシーンをキチンと描き切っていましたね
 ただ、雛森と藍染の心の繋がりを強調するなら、過去の出来事を回顧するシーンも織り交ぜた方がより効果的だった気がします。1回しか使えない手だけに、ギリギリまで完成度を突き詰めて欲しかった…というのは贅沢に過ぎるでしょうかね。


 今週はこの他にも『NARUTO』『H×H』など、実力派作家さんの作品のデキが地力通りで非常に良かったように思います。ただ、その分だけ酷い作品の酷さも際立つわけなんですが……(苦笑)。

 ──それでは、今日はこれまで。次回の講義は旅行から帰って来た後になりますので、週末になりますかね。受講生さんたちには申し訳なく思うのですが、しばらく骨休みさせて頂きます。ではでは。

 


 

2003年第55回講義
8月29日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第5週分・後半)

 どうも。今週号の「サンデー」表紙の安倍麻美が、どう見ても元女子プロレスラーの美咲華菜にしか思えない駒木ハヤトです、こんばんは(笑)。
 安倍麻美も、笑った顔は姉ちゃんそっくりなんですけどねぇ。素の顔だとエラく印象が違いますな。

 ……さて、今日は情報系の話題もありませんし、早速レビューとチェックポイントへと参りましょう。
 レビュー対象作は2本。短期集中連載の第1回と読み切りが各1本という構成です。チェックポイントも続けてお送りします。

☆「週刊少年サンデー」2003年39号☆

 ◎短期集中連載第1回『ふうたろう忍法帖』作画:万乗大智

 今週から最近の「サンデー」では最早お馴染みとなった短期集中連載がスタート。ただし今回は若手作家さんでもギャグ作品でもなく、ベテラン・万乗大智さんが勇躍登場して来ました。
 既に皆さんも、万乗さんについては8年間の長期連載となった『DANDOH!!』シリーズ(原作:坂田信弘)でご存知の事と思いますが、かなり詳細なプロフィールが掲載された公式のウェブページが見つかりましたので、『DANDOH!!』以前の経歴等は、そちらと「まんが家BACKSTAGE」のプロフィールを併せて参照して頂ければ…と思います。
 公式ページの方は、万乗さんが取締役を務めている有限会社アーパスのサイト内ページなのですが、どうやらこれは親族(お兄さん?)の経営している会社みたいですね。その会社の事業案内に「漫画の原作/原画の企画立案」と「キャラクター商品の企画開発」があるところを見ると、この(有)アーパスが税金対策用の会社の機能も果たしていると言う事ですか。

 意外な所で生臭い部分が発見できたところで(笑)、今回の新作についてのレビューへと移りましょう。

 に関しては、既に8年も週刊連載している方ですから、あれこれと注文をつけるポイントはほとんどありませんね。多少個性のキツい絵柄のような気もしますが、「サンデー」読者はもう慣らされてしまっていますので問題にならないでしょう。
 ただ、今回の主人公、ちょっとダンドーと似過ぎなのが気になって仕方ないんですが……(苦笑)。

 次にストーリー&設定ですが、有り体に言えば『パーマン』のオマージュなんですよね、これ(笑)。ちゃんとアレンジを加えているので別物になってますが、ほとんどの設定のベースは『パーマン』です。ここまで上手くアレンジすると、元ネタがバレても“パクリ”とは思えないという好例ですね。ストーリー展開のテンポも良いですし、さすがは週刊連載8年のキャリアといったところでしょうか。
 しかし、シナリオそのものには設定過多の嫌いがありますし、破綻している部分もあるのが残念でした。“コピーロボット”と本人が入れ替わった事による混乱をちゃんと描いて欲しかったのもありますし、第一、「そこまでして風太郎を守りたいなら、あと3日くらい山の中で監禁しとけよ」というツッコミが避けれらないですからねぇ……。
 まぁ、この辺を第2回以降でどう収拾させるかも含めて、今後を注視してゆきたいと思います。

 評価はプラス・マイナス両面を考慮して、B+寄りBという事にしておきます。勿論、ストーリー上の矛盾点が解消された場合などは評価を上昇修正することになると思います。


 ◎読み切り『進学教室 !! フェニックス学園』作画:水口尚樹

 続いての読み切り枠は、現在「サンデー超増刊」で連載中の『進学教室 !! フェニックス学園』が読み切りの形で出張して来ました。
 作者の水口尚樹さんは、現在連載未経験の「サンデー」系若手ギャグ作家さんの中で最も活発に活動している人でしょう。昨年には本誌で読み切りを発表した後、この『──フェニックス学園』の増刊連載を開始。そして今年は、増刊連載の合間に19号から短期集中連載を経験しています。
 今回は本誌連載へ向けての正に試金石となる“勝負”でしょう。果たして、出来栄えはどうでしょうか?

 まずですが、前回の登場から間がないので仕方ないのですが、相変わらず萌えとは程遠い絵柄ですよね(苦笑)。それでも画力そのものは幾分向上していますし、以前よりも「ちょっとでも男臭さを和らげよう」という気持ちが窺える分だけ、まだ「サンデー」作家らしくなったというところでしょうか(笑)。

 一方、ギャグの冴えは見事と言って良い位に進歩していますねページ変わりの1コマ目にオチを持って来る視覚効果を上手く活用出来ていますし、緩急をつけた前フリとオチのインパクトも効果的に出来ています。特に今回はボケとツッコミの間が絶妙で、いわゆるギャグの“打率”が非常に高かった事に好印象を持てました。更に言えば、ネタがほぼ全て全年齢対応になっているのが良いんですよ。ネタを理解できる人が偏ると、どうしても支持層が限られてきますからね。

 敢えて欠点を探すならば、多少強引過ぎる展開がいくつか見られた点ですが、これも許容範囲といって良いものです。ほとんど欠点ナシの素晴らしい作品という事で、評価はAとしておきたいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「今、無性に食べたい物」。
 ……なんか皆さん、カロリーと脂質が強烈な食べモノばかりですねー(笑)。そんな食生活だと和月伸宏さんみたいになっちまいますよ
 とはいえ、食べたい物って、やっぱりコッテリした物になっちゃうんですよね。駒木も回答するなら、「ココイチのロースカツカレー・チーズミックス・ライス100g増量」って答えますし(笑)。ダイエット中なんで控え気味にしてるんですが、最近カツ系が食いたくて仕方ないんです。

 ◎『WILD LIFE』作画:藤崎聖人【現時点での評価:B+/雑感】

 今週、藤崎さん的にはサービスカット連発で「どうよ?」って感じだと思うんですけど、スイマセン、個人的には全然萌えませんでした(苦笑)
 まぁ少年誌的な限界があるのは百も承知なんですが、それでも何と言いますか、「服の上から聴診器当てるくらいやったら、他にする事一杯あるやろ!」…という感じなんですよね。いや、他に何をするのかはココでは言えませんが(笑)。
 やっぱり人には不得手な事があるものなんですねぇ。


 ◎『ロボットボーイズ』作:七月鏡一/画:上川敦志【現時点での評価:B−/雑感】

 うわ、正に絵に描いたようなタイアップ(笑)。個人的には、こういう企画というのは文字通りの“とってつけたような話”になっちゃうので好きじゃないんですよね。
 しかし今回、天馬が「いつも試運転は上手くいくけど、本番がダメで」なんて言ってましたけど、第1話を読む限りではとてもそういう風には……(苦笑)。いや、少しでも話の矛盾点を無くそうという努力は認めるんですけれどもね。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 当講座の談話室(BBS)で既に指摘があったんですが、賞金王決定戦の競走得点って、1着10点、2着9点、3着7点、4着6点、5着5点、6着4点ですから、予選の成績は波多野20点(5着、5着、1着)に対して洞口22点(2着、2着、6着)なんですよね。だから今回のラストの描写は誤りなんです。
 まぁ、ストーリー上、2人とも決勝に乗らない事には話にならないと思うんですが、河合さん、どう決着つけるんでしょうか?(苦笑)


 ……ということで、今月最後の講義をお届けしました。来月はいよいよ“積み残し講義消化月間”です。久しぶりにフル回転で腕を振るうつもりですのでご期待下さい。(ただ、月初は小旅行の予定があるんですがね)

 それでは、講義を終わります。

 


 

2003年第54回講義
8月27日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第5週分・前半)

 ようやく正常なカリキュラムになりました。まぁ本来なら、「ジャンプ」のレビューは月曜深夜に実施するのが筋なんでしょうが、当講座のレビューは時間をかけて吟味しないと話にならないので、こればかりはご勘弁願います。

 ところで最近になって気付いたんですが、「ジャンプ」って、登場人物紹介前回までのあらすじ紹介が無いんですよね。しかも、その割にはやたら登場人物が多くて、シナリオもやたら複雑(伏線、回想、時系列の入れ替えが多いもの)だったりしますし……。
 ひょっとしたら、この辺も単行本を買わせるためのテクニックだったりするのかも知れませんが(穿ち過ぎ?)、もうちょっと“雑誌派”の読者の事も考えて頂きたいなぁと思ったり思わなかったり……。
 受講生の皆さんはどう思われますか? 

 
 ──さて、この話題はとりあえず置いておきまして、今週も情報系の話題から。今週で『ROOKIES』(作画:森田まさのり)が時期外れの円満終了となった影響か、来週は読み切り作品が一挙2本掲載となります。

 まず1本目は、現在『シャーマンキング』を連載中の武井宏之さんによる49ページの特別読み切り作品・『エキゾチカ』。予告からは今一つ中身が掴めないんですが、どうやら車が絡んだアクション物になりそうです。
 普通、連載と並行して描かれた読み切りというのは出来がイマイチであるケースが多いんですが、果たしてどうなるでしょうか?

 2本目は、新人ギャグ作家・大亜門さん『超便利マシーン・スピンちゃん』。題名を聞いてピンと来た方もいらっしゃると思いますが、「赤マルジャンプ」03年春号に掲載された、『スピンちゃん試作型』の続編という事になりますね。
 以前にも“「赤マル」掲載→本誌読み切り→本誌連載”…というパターンが多く見られただけに、文字通りの正念場となる今回の作品の出来は非常に気になるところです。「赤マル」では即連載級のテクニックを見せてくれただけに、期待したいところではありますが、さてどうなるでしょうか。
 どうでもいい話ですが、今回の『スピンちゃん』本誌登場、一読者としては本当にメチャクチャ楽しみにしています。こんなに楽しみなのは尾玉なみえさんの本誌登場以来ですので非常に……心配です(苦笑)。

 
 ──それでは、レビューとチェックポイントへ。今週のレビュー対象作は読み切り1本のみですが、チェックポイントの方は色々とお話する事がありますので、ボリューム的にはご満足頂けると思います。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年39号☆

 ◎読み切り『LIKE A TAKKYU !!』作画:高橋一郎

 今週の読み切り枠は、新人・高橋一郎さんの卓球系ボクシングマンガ(!)『LIKE A TAKKYU !!』です。
 高橋さんは現在20歳02年下期の「手塚賞」で準入選を受賞し、その受賞作・『ドーミエ〜エピソード1』が本誌03年16号に掲載されてデビュー。このデビュー作が異色のシナリオ構成だった事から、一部で注目を集めたのは記憶に新しいところです。

 ……それでは、デビュー2作目となる今回の作品について、レビューをしてゆきましょう。

 まずはについて。有り体に言えば「第一印象でかなり損している絵柄」といったところでしょうか。
 本来、新人作家さんの描くマンガというのは、無駄な線や描き込みが多いものなのですが、高橋さんの場合は逆なんですよ。ちゃんと“マンガの文法”を理解し、描かなくてはならない部分をキチンと残す一方で、省略して良い部分は思い切ってゴッソリと削っているんです。これが出来るという事からして、高橋さんは間違いなく水準以上の画力(ただしマンガ限定の)を持っていると言って良いと思います。
 ただし、画力そのものに未だ発展途上の部分を残しているため、第一印象ではかなり雑な絵──言い換えると“実力のあるプロが手抜きをしているような絵柄”──になっています。この点についてはかなり残念でした。今後はもう少し見栄えのするペンタッチを開発する事が望まれます。それが難しいのであれば、独特の作風を活かして、いっそのこと原作者に転じるのも面白いかも知れません。
 あ、あと細かい点ですが、本誌222ページ(このマンガの30ページ目)の6コマ目、なんか両手で同時にパンチ打ってるように見えて変ですね。こういうミスも勿体無いです。

 次にストーリー&設定について。こちらも語るべき所の多い作品ですね。
 先に良かった点から述べてゆきましょう。まず、登場人物の数をギリギリまで絞り、更に主役格キャラの2人の過去や環境を掘り下げる事によって、そのキャラクターに“厚み”を持たせたのは良いですね。設定が説明じゃなくて描写になっているのも好感が持てます。
 また、シナリオそのものは、よくある“ヒロイン勘違い→主人公巻き込まれて災難型シナリオ&出来なきゃ嫌な男と付き合わなきゃいけないヒロイン特約付”のそれなんですが、これを卓球とボクシングでやってしまうあたりからも、高橋さんの非凡な才能の一面が窺えますね。
 ただし、反省すべき材料も残されてはいます。主人公のキャラクター造型の上で、トラウマという本来はもっと厄介な設定を軽はずみに出してしまった点、また、「楽しく生きる事が人生で一番大事なこと」という作品のメインテーマを語るのに冗長かつ説教臭くなってしまった点などがそうですね。これらのポイントは作品の根幹を為す部分だけに、それらのツメが甘くなってしまったのは非常に残念でした。狙いは全然悪くないだけに、あとちょっとした微調整でかなりの傑作になったはずなんですが……。

 さて評価ですが、作・画両面の完成度を考慮した場合、今回はB+が適当といったところでしょうか。しかし、高橋さんの持つ作画のセンスを考えると、近い将来“大化け”する可能性は極めて高いと思われ、今後において大変期待が持てる新人作家さんである事は間違いないでしょう。次回作がとても楽しみです。


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週号は話題のタネの多い号でしたが、「嫌事は極力言わない」の原則から、テニス版の念能力バトルはスルーの方向で。

 ◎『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ここ数週は回想編なんですが、これくらいテンポが速いと、やはり読み応え出て来ますね。ただ、回想編が適正なテンポという事は、当然メインストーリーは冗長になってしまってるわけで……。まぁ、冗長とは言っても手抜きしているわけじゃなくて、思い切り広げた風呂敷を思い切り丁寧に畳んでいるだけなんですが。
 今の“空島編”が終わってからで良いですから、いくつか数回で1エピソードになるショート・ストーリーを堪能してみたいですね。フランス料理フルコースの合間に出て来るシャーベットみたいなのを、是非お願いしたいところです。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/今週分のシナリオ構成分析等】

 今週、ネット界隈でやたらと叩かれていたのがこの『アイシル』でした。今週登場した超ステレオ型“アホでマヌケなアメリカ白人”の言動が癇に障ったのか、某巨大掲示板なんかではエラい言われようしてましたね。
 プロレス界の名言「悪役は読者の憎しみは買っても、怒りを買ってはいけない。憎い悪役なら客は彼を観に会場へ戻ってくるが、怒らせてしまうと客は二度と会場に帰って来ない」…なんてのがあるんですが、そういう意味において、今回は結果的にやや失敗だったのかも知れませんですね。
 ただ、この作品はリアル路線のように見えて、設定面では相当なディフォルメ(現実の極端化)が施されているんですよね。ですから、ステレオタイプなアホ白人が出た事を批判するのは「何を今更……」な話なんですよ。それに、これまでも恋ヶ浜や賊学といった“踏み台役”の相手チームのトップは、誰にでも判り易くて憎たらしいチンケな悪役でしたよね。そういう意味では今回のアホ白人も“前例踏襲”ではあったわけです。まぁネタが多少安直だったかも知れませんですが。
 今回の『アイシル』がの内容が人によって生理的・感情的に受け付けなかった…ってのは理解できるんですが、その感情に妙な理論武装をして作品の価値全体をぶっ叩くのは、ちと行き過ぎのような気がします。

 でも今回の『アイシル』は、ストーリーテリングの観点から言うと、もの凄い密度で色々な事をやってるんですよね。
 箇条書きにすると、こんな感じです。

 ●太陽高戦の翌日にNASA高戦をするという超ハードスケジュールを、コンディション的に五分で戦えるような常識的なスケジュールにするための“事件”を起こす。
 ●ただし、普通に延期するだけだと太陽側が泥門に出場権を譲った理由が消失するので、泥門が出場した場合じゃないと解決できないような“事件”を設定する。
 ●次回対戦相手と、関連する主要登場人物(NASA高監督)をキャラクターを含めて簡潔に紹介。
 ●NASA高監督のキャラクター紹介に絡める形で先述の“事件”を設定すると同時に、この人物を“判り易い悪役”であると手っ取り早く印象付ける。
 ●そのついでに、泥門側や主催者側に「打倒、NASA高!」となるような動機付けを行う。(特に主催者サイドの立場を泥門寄りに持っていくところが重要)
 ●NASA高監督の悪役っぷりがちょっとドギツかったので、読者の不快感を持続させない内にとりあえず“因果応報”させて溜飲を下げさせておく。
 ●しかし、ネタ自体は「アメリカ人の日本人差別」というシビアなものなので、その仕返しは“目には目を”ではNG。別の角度から、しかも笑いのオブラートにくるんで、今回のエピソード全体を「シリアスじゃなくてギャグなんですよ。肩の力抜いて受け取って下さいね〜」…と印象付けるように仕返しさせる。
 ●当然、仕返し担当は“毒をもって毒を制す”タイプのヒル魔。最近ちょっと影が薄かったので丁度良し。ただし、他のキャラも総出演で毒の強さを和らげさせるのも忘れない。
 ●どうせだから、ウェブサイト用のネタにもしてみよう。

 ……これを19ページでやってるんですから、駒木は四の五の言う前に「凄ェ!」と思います。多分、普通の作家さんなら今回のエピソードだけで4回分くらいのページ数を使っちゃうんじゃないですかね。


 ◎『ROOKIES』作画:森田まさのり【開講前に連載開始のため評価未了/連載総括】

 病気休養明けから電光石火のスピードで完結。かなり駆け足な展開の最終回でしたが、語るべき部分は語りきっている感じですので、確信犯的な駆け足だと言って良いと思います。(だって、延々と来年の夏までのストーリーを語られた上に、また笹崎と1年以上かけて試合されても困るでしょ?)

 連載全体の総括ですが、「ジャンプ」作品にしては非常に贅沢なページの使われ方をした作品だったと思います。
 この作品は、アンケート結果での打ち切りを免除されていたそうですが、森田さんはその“特権”を思う存分堪能出来たんではないでしょうか。何しろ、ニコガク野球部がマトモに野球始めるまでにとんでもない時間がかかってますからね。アンケート結果を気にしないといけない環境では絶対無理です、こんな展開(笑)
 ただ、ちょっとばかりその“特権”を堪能され過ぎたような気がしないでもないんですよね。これだけの長期連載で、チーム結成以来1回目の夏の甲子園予選で事実上完結しちゃうマンガって、やっぱりアンバランスですよ(笑)。

 ……というわけで、作品全体の評価はA−寄りB+としておきます。まぁ何はともあれ、森田さん、お疲れ様でした。しばらくはゆっくり休んで、大好きなボクシング観戦でも楽しんだら良いんじゃないですかね。


 ◎『ピューと吹く! ジャガー』作画:うすた京介【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 駒木、『さるかに合戦』に大爆笑。こういう客観視能力って、ギャグ作家さんには大事ですよね。


 ……というわけで、今日のゼミは以上です。
 吉川雅之さん、PRIDEグランプリ決勝を観に行けるのは、連載がもうすぐ終わっちゃうからですか? …といった疑問を投げかけつつ、ではまた(笑)。

 


 

2003年第53回講義
8月25日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第4週分・後半)

 週をまたいでしまいましたが、先週発売の「週刊少年サンデー」関連のゼミをお送りします。
 今日はレビュー対象作がありませんので、出来れば“読書メモ”もやってみたかったんですが、またそれでカリキュラムを遅らせてしまっては元も子もありませんので、大人しく短縮バージョンで済ませてしまいたいと思います。

 ──というわけで、今日のゼミに使用するテキストは、8月20日発売の「週刊少年サンデー」38号です。ええ、次号予告に今週号のグラビアを飾った安倍なつみの実妹喫煙・先天的な音痴が80年代アイドルを想起させると一部で評判の安倍麻美がデカデカと載っているヤツです。
 マンガ雑誌の表紙がその雑誌の売上げを左右すると言うのは、半ば業界内の常識だったりするのですが、雑誌によっては主力の連載作品のイラストが表紙を飾るよりも、アイドルの水着写真が載った時の方が売れ行き好調な時もあるそうで。多分、現場にしてみれば物凄いジレンマなんでしょうね(苦笑)。

 ……あ、せっかく次号予告ページを開けて頂いたんですから、ここで情報系の話題もお送りしてしまいましょう。

 まずは短期集中連載の情報から。『DANDOH!!』シリーズでお馴染みの万乗大智さん新作・『ふうたろう忍法帖』で早くも再始動です。
 万乗さんは以前から増刊等で忍者アクション物作品を描いていましたので、今回はその延長線上にある作品と言う事になるのでしょう。長期連載後の復帰作は、その作者の真価を問われる場になるだけに、これは是非注目したいところですね。まぁ、一部の人はヒロイン(?)の万乗パンツ露出必至のコスチュームに注目しているのかも知れませんが……(笑)。
 勿論、当ゼミでも第1回と最終回の2度、レビューを実施する予定です。

 次に読み切りの情報を。ここ2年ほど増刊・「少年サンデー超増刊」を中心に積極的に活動中の若手ギャグ作家・水口尚樹さんが、現在増刊で連載中の『進学教室!! フェニックス学園』を引っさげて本誌に登場します。水口さんは過去に本誌で読み切りと短期集中連載を経験しており、今回が3度目の本誌登場となります。実力的には現連載陣と遜色無いモノを持っているだけに、ここで結果を出して本誌連載への足がかりを得たいところでしょう。こちらも次週分のゼミでレビューをお送りします。

 さて次。月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」6月期分の結果発表が出ていますので、例によって受賞者・受賞作を紹介しておきましょう。

少年サンデーまんがカレッジ
(03年6月期)

 入選=1編  
  ・『サムライハート』(=「サンデー超増刊」10月号に掲載)
   今野明範(20歳・東京)
 《講評:勢いのある絵、ストーリーの構成力の高さ、魅力的なキャラクターとその心情の描写に、編集部一同、才能を確信しました)
 佳作=該当作なし

 努力賞=2編
  ・『宇宙パトロール トメオ』
   新井隆広(21歳・神奈川)
  ・『カオス・シュレティンガー』
   ゆうき美也子(23歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=4編
  ・『あまねくムオン』
   真鍋誠(22歳・大阪)
  ・『アソビマスター』
   畠谷洋二(21歳・千葉)
  ・『サムライ・ピエロ』
   塩村聖雪(22歳・東京)
  ・『パイパイ』
   坂本大(22歳・東京)

 今回の受賞者さんについての過去のキャリアは確認出来ませんでした。

 それにしても、久々に入選作が誕生しましたね。ちょっと調べてみたところ、昨年02年6月期の『サブ・ヒューマンレース』(作画:小澤淳)以来ですから、ちょうど1年ぶりという事になりますね。講評を読む限りでは、絵からストーリーからキャラクターからベタ褒め状態で、ここまでプッシュされると楽しみになって来ますよね。
 こちらの方は、増刊号をチェックしてみて、A−以上の評価が与えられると判断した場合のみ、「読書メモ」枠でレビューする予定です。


 ──それでは、チェックポイントをお送りします。レビューお休みの分だけ、いつもより幾分“増量”の方向で。

☆「週刊少年サンデー」2003年38号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 恒例、巻末コメントのテーマは、「放っておかれると、ずうっとやってしまうほどの趣味」。
 そんな趣味があったら仕事にならない週刊連載作家さんだけあって、煮え切らない答え連発でしたね(苦笑)。敢えて挙げるなら、寝る事考え事でしょうか。お疲れ様です、としか言いようがありませんな、しかし……。
 そういう駒木も、3月の業務縮小までは似たような状況だったわけなんですが、パソコンを繋いで講義準備をしていた関係上、ネットサーフィンは依存症レヴェルだったような気がします(今でもか^^;;)。
 あ、あとは麻雀ですかね。さすがに手積みで仲間とダラダラやってると飽きますが、フリー雀荘の全自動卓でテンポ良くサクサク打ってると、本当に延々とやってしまいます。恐ろしや、亡国の遊戯。

 ◎『金色のガッシュ!!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 いったいどういう感覚してるんだよー、この人(雷句さん)のギャグセンスはー(笑)。この大緊迫した場面でナゾナゾ博士、しかもビッグボイン。で、しかも空気をおもくそ弛緩させといて、それでも全体の緊迫感は落ちていないと言う離れ業。まさにグルービーじゃありませんか。
 しかし、こんなケッサクを出しちゃうと、黙ってないんでしょうなぁ、師匠が(笑)。

 ◎『KATSU!』作画:あだち充【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 小説や映画なんかでは、重要な場面を印象付けるために敢えて情景描写を挟んで間を持たせる事があるわけなんですが、あだちさんの作品もそういう場面って結構ありますよね。
 特に今回のは、全体のストーリー上でかなり大事な場面だっただけに、非常に効果的だったと思います。何かと批判めいた事を言われる作家さんですが、こういう部分はちゃんと評価しないとダメですよね。

 
 ◎『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』作画:中井邦彦【現時点での評価:/雑感】

 うあー、本気でエコロジー世界征服秘密結社とのパワープレイに突入ですか……。何て言うか最悪の事態。
 しかし、このマンガに出て来る絵の具現化能力って、『うえきの法則』の超能力からバリエーションを無くしただけなんですけど……。この連載決めた編集部のお偉方の皆さん、それ分かってたんですかねぇ?

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】

 この号が発売された直後からのネット界隈で、「小学生のパンチラが──」とかいう話題が全く出て来ないあたりに、
 「人間、慣れって怖いな」
 ……と思いました(笑)。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 学校時代には必ず1人はいましたよね、何らかのダメ職人が(笑)。
 そういや駒木も学生時代の一時期、中央競馬の未勝利戦ばかりを病的なまでに研究していた時期がありまして、その頃はかなり立派なダメ職人だったような気がします(笑)。毎週「週刊競馬ブック」を手際よく縮小または拡大コピーして家に持ち帰り、それを鮮やかにスクラップ処理。カッターナイフとスティック糊の使い方の鮮やかだった事(笑)。
 それで、その研究した未勝利戦の馬券回収率が50%無かったんですから、まさにダメ職人。まぁ、そのお蔭で競馬のイロハは身に付いたような気がしますけどね。


 ……といったところで、今日はこれまで。次回は今週の前半のうちに…とだけ申し上げておきます。

 


 

2003年第52回講義
8月23日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第4週分・前半)

 お約束の日から1日遅れで申し訳ありません。今週3回目の「現代マンガ時評」をお送りします。講義をやってもやってもスケジュールが遅れ気味というあたり、何か闇金の返済に追われてるような錯覚を覚える今日この頃です(笑)。

 しかも今日は年に3度の「赤マルジャンプ」全作品レビュー。喩えて言うなら、料理学校出たばかりの新人コックの作ったフルコースを立て続けに10回食べさせられた上に詳細な感想まで求められる…という、心身にモロ負担がかかる作業です。ハッキリ言ってご勘弁願いたいです(苦笑)。でも、たまにとんでもない傑作が埋もれてたりするので止められないんですよね。さて、今回はどうなりますか……。

 それでは、これよりレビューを始めます。今までと同様、現役連載作家さんによる番外編はレビューから除外しますのでご了承下さい。

◆「赤マルジャンプ」03年夏号レビュー◆

 ◎読み切り『脱走屋鉄馬』作画:小林ゆき

 巻頭恒例の“打ち切り作家枠”、今回は昨年の「赤マル」夏号以来、1年ぶりの登場となります、小林ゆきさんです。
 小林さんは『いちご100%』の河下水希さんの弟子格にあたる女流作家さん00年上期の「手塚賞」で佳作を受賞し、その作品でのデビューはならなかったものの、翌01年の「赤マル」春号にて『北が丘少年魂』でデビューを飾りました。
 その後の小林さんの“出世”ぶりは正にトントン拍子で、「ジャンプ」本誌01年41号で読み切り・『あっけら貫刃帖』を発表するや、翌02年の11号から同名作品の連載を開始します。新人の層が分厚いことでは業界随一の「週刊少年ジャンプ」、デビューから1年も満たない内の連載獲得は快挙と言って良いものでしたが、連載で読者の支持は得られずに残念ながら12回・1クールでの“突き抜け”となりました。
 それからは先述の通り、02年「赤マル」夏号に読み切りを発表したものの、それ以後は作品発表の機会も得られないままで現在に至ります。恐らくは、その間も新連載作品を決める編集会議にネーム等を提出しつつ、捲土重来を期していたのでしょうが、これほど短期間に激しい浮き沈みを経験した「ジャンプ」系作家さんも珍しいでしょうね。

 ……と、経歴紹介が長くなり過ぎました。早々に内容へ話題を移しましょう。
 まずですが、多くのキャラクターの顔デザインが、画力そのものよりも雑に見える絵柄になってしまい、見栄え的に大きく損をしてしまった気がします。目立たない背景や特殊効果などは(アシスタント任せかも知れませんが)キッチリ出来ていただけに、少し勿体無かったですね。
 次にストーリー&設定に関してですが、お話そのものは形になっているものの、キャラクター&世界観など設定面での作り込みが甘く、結果として場当たり的で薄っぺらいストーリーになってしまいました。ちょっと抽象的な言い方になりますが、登場人物たちの過去が感じられないと言いますか……。
 確かに、ストーリーの中でも「かつて○○という出来事があって…」などと語られているんですが、それ以外の部分が全く想像できないんです。よくSFで主人公が人工的な記憶を植え付けられたりするモノがありますが、作品丸ごとそんな感じなんですよね。せっかくのキャラクターが、1人の人間でなく“作り物の動く設定”になってしまっては、シナリオの魅力も半減です。こちらも絵と同様勿体無い仕上がりになってしまいました。
 評価はといったところでしょうか。今後はストーリーを考える前に、先にキャラクターを作ったりすれば面白くなるかも知れませんね。

 ◎読み切り『双龍伝』作画:山田隆裕

 山田さんのデビューは「赤マル」98年春号97年12月期『天下一漫画賞』で佳作を受賞していて、その特典によるものでした。この98年春号でデビューした作家さんは、他に矢吹健太朗氏現在『バンチ』作家になった小野洋一郎氏などがいます。豊作なのかそうじゃないのか判断つかないのがアレですね(笑)。
 さて、“同期の桜”たちが順調(?)に出世を果たしてゆく一方で、山田さんは「赤マル」99年冬号にデビュー2作目を発表するものの、それ以来は作品発表の機会に恵まれませんでした。今回は実に3年半ぶりの復帰作。人情としては、誰しも頑張って欲しいと思うところですが……。

 まずですが、画力そのものはかなり高いと思います。今回の「赤マル」はビジュアル(画力)重視の編集方針を採ったと聴きましたが、これを見ると確かに肯ける話です。
 ただし迫力のある動きが表現出来ていないために、マンガというより一枚絵の集合体みたいな印象がありますし、少年の顔を描くのが苦手なのか、肝心の主人公の顔デザインが妙に崩れてしまっています。せっかくの画力が作品の魅力になり切れていない感じでしょうか。
 ストーリー&設定に関しては「見るべき物が無い」と申し上げなければなりません。説明的セリフのオンパレードで、ストーリーそのものは何のヒネリも無い平板なもの。見せ場も“「ジャンプ」的ご都合主義”である、「気合だけで超サイヤ人化→必殺技炸裂して敵を一発K.O.」では寂しい限りです。また、“前王の父親が(元・国王ではなく)国で最強の武将”という不自然な設定など、細かい面でのアラも目立ちます。
 評価はC寄りB−。これでは今後の見通しも暗いと言わざるを得ないでしょう。


 ◎読み切り『SEA SIDE JET CITY』作画:北嶋一喜

 ここから終盤近くまでは、デビュー作、もしくはデビュー2作目の新人さんが続きます。
 北嶋さんは今月に18歳になったばかりの現役高校生01年8月期「天下一」で審査員特別賞を受賞した後、03年3月期「天下一」で準入選を受賞し、その受賞作で今回晴れてデビューとなりました。

 のレヴェルは、年齢やキャリアを考えるとなかなかのモノでしょう。しかも、何気に美人な女性看護士の描き方などを見る限り、色々なタッチの使い分けも出来るようで、将来も楽しみと言えそうです。ただ、今回の画風は少年マンガと言うより児童マンガのそれだけに、違和感が無いわけではありませんでした。
 ストーリー&設定は、分かりやすく単純過ぎず…といった感じでまとめられており、こちらも年齢やキャリアなりに懸命の努力をした跡が窺えます。ネームのセンスも非凡ですね。
 ただし、“周囲から劣等生扱いされた主人公が、空を飛ぶ事で擬似リベンジする”というメインテーマが、“悪者をやっつける”というサブテーマに“喰われて”しまい、結果として“空を飛ぶ”という最大の見せ場が中途半端になってしまったのは非常に残念です。また、発明品を狙うギャングの設定や行動に説得力が無かったのも減点材料ですね。中途半端に勧善懲悪的シナリオにせず、主人公が空を飛ぶ事だけにスポットを当てた話にすれば、もっともっと良い話が作れたような気がします。
 評価はB寄りB+。これで「天下一」の準入選はさすがに買い被り過ぎでしょう。この月(03年3月期)の応募者に「1ヶ月遅らせて(賞金と特典が大幅グレードアップした)『十二傑新人漫画賞』に応募しておけば良かった」…と思わせないための救済措置だったのかも知れませんね。


 ◎読み切り『オウタマイ』作画:梅尾光加
 
 梅尾さんは、02年2月期「天下一漫画賞」の最終候補を経て02年「手塚賞」佳作を受賞し、その受賞作・『甲殻キッド』03年春号の「赤マル」でデビュー。今回は連続登場と言う事になりますね。

 に関しては、まだキャラの描き分け(特に輪郭)などの課題を残すものの、前作に比べると大分アカ抜けて来たのではないでしょうか。大ゴマを連発したダイナミックな演出も新人の域を超えており、今後が楽しみな逸材と言えそうです。
 ストーリー&設定の面では、何と言っても歌と舞踊を退魔系バトル物に組み入れたアイディアが新鮮で秀逸です。歌を題材にした作品と言えばバンドやヴォーカリストのサクセスストーリーに偏りがちですが、見事なコペルニクス転回です。このオリジナリティは大いに評価できるポイントですね。多少強引ですが、主人公を退魔の世界に巻き込んだ手法も良いでしょう。
 ただ、シナリオの細かい部分ではアラも目立ちます。封印が解かれた魔物が学校に憑りつく理由付けが為されていないため、ストーリー後半がご都合主義的になってしまいましたし、そのために前半で張った伏線も伏線になり切れませんでした。また、スピーカーでガナった軽音楽と日本舞踊が自然なコラボレーションをしてしまうのは逆に不自然ではないでしょうか? 
 恵まれた画力と秀逸なアイディアがありながら、それを生かすだけのディティールを作り上げられなかったのが非常に惜しかったですね。ただし、評価の上ではオリジナリティの豊かさを大いに買いたいです。甘めですがB+寄りA−の評価を進呈します。
 
 
 ◎読み切り『Z−XLダイ』作画:暁月あきら

 続いては、過去の経歴全く不明の暁月あきらさんの登場です。ただ、あまりにも新人離れした画力と「漫画歴5年」というプロフィールから、以前に別ペンネームでプロ又は同人活動をしていた可能性は極めて高いと思われます。
 また、確証は持てないものの、02年3月期「天下一漫画賞」の最終候補に残った空見宙也さんの『プロトガンナー』に絵柄が似ており、ここで「ジャンプ」との接点を持った上でペンネームを変えてデビュー…というのが真相かも知れません。この件に関しては、もう少し調査をしてみる必要がありそうですね。

 さて、作品についてですが、先ほども述べたように、に関しては即連載級の腕前だと言えそうです。多少の“同人臭さ”は感じられますが、それも鼻につくほどではなく、これは大きなセールスポイントですね。
 次にストーリー&設定についてですが、暁月さんはこの題材を長年温めて来たのでしょう、キャラクターや世界観の設定にかなり太いバックボーンを実感させてくれます。特にヒロイン・若葉がエクセルを嫌いになったきっかけなど、かなりベタな話ではありますが随分と話に深みを持たせてくれますね。
 ただし、その設定やキャラを活かし切るだけのシナリオになっていないのが残念なところです。悪役が単純なパワープレイで主人公サイドに攻めて来るのも芸が無い感じですし、後半で主人公・ダイがエクセルとしての自分を思い出して真価を発揮するシーンも強引が過ぎる嫌いがありますね。また、“かつて人間で、その記憶の断片を持つエクセル”というオイシイ設定が消化不良になってしまったのが痛すぎます。
 野球で言えば、ノーアウト満塁のチャンスをゲッツー崩れの1点だけでチェンジにしてしまったような感じでしょうか。今回の「赤マル」は惜しい完成度の作品が多いですが、この作品は惜し過ぎます。評価はB+。同じ世界観でもう1作品くらい読んでみたいですね。


 ◎読み切り『黄金の暁』作画:岩本直輝

 今年4月に新設され、“月間最優秀作は漏れなくデビュー”という破格の特典が話題を読んだ「ジャンプ十二傑新人漫画賞」その栄えある第1回の佳作&十二傑賞(=月間最優秀賞)に輝いた岩本直輝さんが登場です。
 先ほどの北嶋一喜さんも現役高校生の18歳でしたが、この岩本さんも、その北嶋さんと誕生日がわずか1日違いの18歳。こういう“伸びしろ”のある新人さんを次々と確保出来るのが「ジャンプ」の強いところですね。

 については、人物キャラデザインの未熟さ、キャラクターが背景に溶け込んでしまうゴチャゴチャ感など、今後修正すべき点は多いでしょう。しかし、黄金竜の迫力ある描写など、多くのマンガ家志望者が練習を敬遠しがちな(それでいてマンガ家として必要な)部分に力を注いでおり、将来性は確かに十分感じられます
 ストーリー&設定も、全体的にまだ未熟さが窺えるものの、懸命にヒネりを加え、内容のあるシナリオにしようとする気持ちがビンビン伝わって来て好感は持てます。話の基本的な流れはベタなのですが、そこに鉱石獣というオリジナルの要素を加えて、ある程度の斬新さを生み出す事にも成功しています。
 ただし、作品の重要なテーマである“人間と鉱石獣は信頼関係で結ばれるべき”…という部分に説得力を持たせ切れなかったのが非常に残念でした。“信頼”というものは一朝一夕で成立するものではないだけに、もう少し主人公と鉱石獣の触れ合いにページ数を割けば良かったのではないか…と思います。
 以上、まだまだ未熟な点が多く、今回の評価はB+に留めます。が、岩本さんが将来に期待できる逸材である事は間違いなく、次回作以降にも注目したいところですね。


 ◎読み切り『HEAVY SPRAY』作画:相模恒大

 続いても「十二傑」組、5月期十二傑賞の相模恒大さんが登場です。
 相模さんは「天下一漫画賞」時代の02年6月期、03年1月期で最終候補に残ったものの賞には恵まれず、今回は三度目の正直での受賞&デビューとなりました。

 まずはなんですが、一応は見栄えがする画風ではあります。が、構図やキャラクターによって得手不得手の差が大きいようで、コマごとの完成度にムラがあるのが少し気になります。また、この作品で一番重要であるはずのスプレーアートやペンキアートの“作中作品”がお世辞にも魅力的なモノとは言えず絵が逆に作品のクオリティを押し下げてしまった感も否めません。
 一方のストーリー&設定も、残念ながら長所より問題点の方が圧倒的に多くなってしまっています。何より、スプレーアートの本質的な魅力を描き切れておらず、結局は「スプレーで落書きするのが大好きなイタズラ坊主のドタバタ劇」になってしまっているのが痛いです。
 更に言えば、「スプレーアート以前に、どうしてペンキ屋が突然大繁盛するんだよ」というツッコミは避けられないラストシーンなど、シナリオ上の問題はプロット段階にまで及んでおり、有り体に言って課題山積というところです。
 評価はC寄りB−。幸運でプロデビューは果たせたものの、現時点での実力は他の有望新人さんには及ぶべくもなく、今後は猛烈な努力と勉強が必要になって来るでしょう。


 ◎読み切り『ゲームブレイカー』作画:村中孝

 続いて登場の村中孝さんも、今回がデビューとなる新人さん。しかし、編集部への持ち込みから各新人賞の受賞を経ずにデビューを果たしたようで、過去の経歴等は不明です。新人賞を盛んに開催している「ジャンプ」でも、たまにですがアシスタント等をしながら原稿持ち込みだけでデビューしてしまう人もいますが、村中さんもそういうタイプの新人さんなのでしょうか。

 の完成度は非常に高いですね。絵そのものだけでなく、かなり“マンガを描く訓練”を積んでいる印象もあり、今すぐ連載しても大丈夫でしょう。ただ、多少「サンデー」的な画風であり、「ジャンプ」本誌に載った場合は微妙な違和感が出て来る可能性がありますね。
 ただ、ストーリー&設定の組み立て方には課題が残っていそうです。まず第一に基本的な設定にかなり無理がある上、その設定がエピソード全体に生かし切れていない(=設定の消化不良)ため、全体的に散漫な印象があります。また、肝心の見せ場・バトルシーンも、妙に緊張感が欠ける駆け引きや、後付け設定や姑息な小細工が勝利の決め手になるなど、スケールの小ささが目立ちます。
 アイディアそのものには良作・傑作を生み出せる可能性があると思われるだけに、この作品も非常に勿体無いですね。評価は画力の分を加点してもBが精一杯でしょう。

 ◎読み切り『アシハラ戦記 トウタ』作画:ゆきと

 ゆきとさんは01年後期「手塚賞」で佳作を受賞し、翌02年の「赤マル」夏号でデビュー今回が1年ぶりの登場となります。前回はバスケットボールをテーマにしたスポーツ物作品でしたが、今回は一転して日本の神話世界をモデルにしたファンタジー。なかなか果敢な挑戦ですね。

 に関しては、画力そのものは別にしてマンガの絵として見難いのが気になります。線の強弱のメリハリを持たせないままで背景やエキストラ的キャラを細かく描き過ぎているので、メインのキャラが目立たないんですよね。せっかくの絵の密度が逆効果になっている感じです。線や絵の取捨選択というのも、マンガを描く上での重要なテクニックのはずですから、今後はこのあたりに目を配ってほしいものです。
 次にストーリー&設定の面ですが、設定過多のために話の流れが重たくなってしまったようですね。次から次へと設定や情報を与えられたために、話の筋を理解し難かった読者の方も多いのではないでしょうか。作者自ら「わかりにくい話だと思いますが」とコメントしていましたが、言い訳する前にもう少しネームを練るのがプロのあるべき姿ではないかと思います。いざ連載を始めた時でも、巻末コメントで言い訳したところでアンケートや単行本の売上げは稼げないんですからね。
 あと、よくよく見ればキャラクターの態度や言動に細かい矛盾がありますし、瀕死の主人公が何の理由も無く大復活してしまう(というか、ちゃんとトドメ刺しとけよアサカド)という“反則モノのラフ・プレー”など、シナリオを見た目カッコ良く消化させるために各所で相当な無理をしているようにも思えます。
 やはりファンタジーを短編で描き切るのは至難の業ですね。「赤マル」春号の『天上都市』作画:中島諭宇樹)のように、設定を説明するのではなく描写するテクニックを開発しない限り、成功は難しいのではないでしょうか。それでも、一応話そのものに大きな破綻が無かったので評価はBとさせてもらいます。


 ◎読み切り『red』作画:福島鉄平

 ストーリー系の新人・若手枠のオーラスは、「ジャンプ」では珍しい移籍組の若手・福島鉄平さんです。
 福島さんは00年に「コミックフラッパー」誌でデビュー。翌年まで同誌や他誌に読み切り作品を発表していましたが、その後は「ジャンプ」系新人予備軍に転出。03年1月期の「天下一漫画賞」で最終候補に残った後、加地君也さんのアシスタントを経て、今回のデビューとなりました。

 まずですが、好き嫌いの分かれそうな絵柄ですよね(苦笑)。画力そのものも決して拙劣ではないでしょうが、画力秀逸とするには躊躇するようなレヴェルであるとも思います。どちらにしろ、少年マンガの王道的なストーリーとの相性は悪そうで、今後の「ジャンプ」での活動の幅はかなり限定されてしまいそうですね。
 ストーリー&設定については、さすがに他の新人さんに比べて一日の長と言いますか、シナリオの組み立て方には工夫の跡が感じられますね。ただし、その工夫が作品の魅力を増しているかと言えば、これはNoだと思います。
 まずマズいと思ったのが、説明的なセリフと必要以上に判り辛くした伏線でストーリーが展開して行くという構成です。これですと読者は、長くて小難しい設定を延々と読まされたかと思えば、その場では何が起こっているのか判らない事件を次々と見せられる…と言った具合で、ストレスだけが溜まっていってしまいます。伏線は鋭い人には先が読めるくらいの情報量を与える位がちょうど良いはずですから、もう少し伏線だと判り易い伏線を張るべきではなかったかと思います。
 2点目の問題点としては、シナリオの起伏が緩く、全体的にマッタリ過ぎる…という点でしょうか。敵が主人公の存在を把握しているのに、わざわざ主人公の方がノコノコと敵の方へ出向いていくというのはさすがに……。
 最後に3点目。この作品は人命の価値について意図的にモラル・ハザードを起こしたストーリーですよね。勿論、それはそれで別に構わないんですが、それでも作中に1人も常識的な感覚を持ち合わせたキャラがいないというのはさすがにヤバいと思います。
 どんなにエグい話でも、そこに1人でもマトモな感覚(殺人に対する嫌悪感、恐怖感)を持った登場人物がいれば、読者はそこを拠り所にしてストーリーに没入してゆけるんですが、この作品ではそれが出来ていないのです。何しろ、登場人物中で最も“こっち側”にいると思われる人が、惨殺死体を目の前に「ダメなんだよね血とか」などと言っているわけですから……。
 そのため、読者と作品の間に不必要な精神的距離が出来てしまい、主人公やストーリーに感情移入できなくなってしまうんですね。この作品を読んでいて不快感を催した方もいると思いますが、それは間違ってないと思います(笑)。
 評価はBが妥当なところでしょう。もう少し話の見せ方に工夫を加えればグッと良くなったはずだけに、これまた勿体無い作品と言えそうです。


 ◎読み切り『肉虎(マッスルタイガー)!』作画:山田一樹

 この「赤マル」夏号では唯一のギャグ枠。コッテリとしたストーリー物が続いた後の口直しといったところでしょうか。
 山田さんは新人賞の受賞歴等無いまま、「赤マル」01年春号でデビュー。その後、本誌の01年50号、02年22・23合併号に代原ながら作品を発表しています。よって今回は、増刊・本誌通じて1年数ヶ月ぶりの登場ということになりますね。

 まずですが、どうしようもないレヴェルだった1年前に比べると、まだマシにはなっていると言えます。しかし、不自然かつワンパターンな顔のアングルや表情といい、迫力のまるでないアクションシーンと言い、プロとしては依然として落第点の範疇に留まっています。これでは作品全体の雰囲気は“クサい芝居のコント状態”みたいなもので、当然、作品のクオリティにもかなり悪い影響を与えています。
 また、ギャグについても課題は多いです。ギャグの密度が薄い上に、同じネタのボケの繰り返しと間の悪いツッコミのオンパレードで“笑うに笑えない”状況が延々と続いてしまっています。特にラストシーンなどは狙いすぎて半ば意味不明です。
 敢えてセールスポイントを探すとすれば、2度出て来たブレーンバスターのシーンでしょうか。元々動きの無い絵のお蔭で、怪我の功名的に間が良くなりました。売れない芸人の漫才で、ネタの途中に妙な間が出来て笑いが生じる事がありますが、ちょうどそんな感じです。
 評価ですが、個人的な「笑える、笑えない」を抜きにして絵やギャグの技術面という事で考えると、やはりCということになってしまうでしょうね。1年以上かけての成長度がこれでは、今後の見通しも極めて厳しいでしょう。


 ◎読み切り『プリティフェイス 番外編』作画:叶恭弘

 トリは“終了長編作品・番外編枠”ということで、今回は6月に連載を終えたばかりの『プリティフェイス』の番外編が登場です。

 しかし、こうして新人・若手作家さんの中に叶さんの作品が混じると、何とも表現のし難い“格の差”が感じられるのが興味深いですね。今回は画力自慢の新人さんが終結した増刊号だったのですが、そこへ入っても叶さんの実力というのは一歩図抜けているように思えます。これは恐らく、叶さんは画力そのものも然ることながら、様々なマンガを描くテクニック──構図の取り方、ディフォルメの技術、不必要な線や背景の省略など──が非常に長けており、それが作品のクオリティに反映された…という事なのでしょう。
 シナリオそのものは、かなり“お約束”に甘えた、強引かつ陳腐なモノではあるのですが、長期連載で築き上げた各登場人物の奇抜なキャラクターが、この欠点をカバーしています。番外編の“特権”を余すところ無く活用した、したたかな作品ですね。
 これを読む限り、あと何回か番外編を読みたい衝動に駆られますが、そういうタイミングで惜しまれつつ去るのが華というもの。見事な引き際を演出した叶さんに拍手ですね。
 評価は読後感の良さの分だけオマケしてA−。ただし、この作品は長期連載の番外編だからこそ存在し得たモノですので、評価も“ご祝儀相場”として受け取ってもらえると幸いです。

 
 ※総評…あるオフレコ筋からの情報で、今回の「赤マル」はビジュアル(画力)重視の編集方針であると以前から聞いていたのですが、確かに画力(特に絵の見栄え)の点で言えば、過去最高レヴェルの水準にあったと思います。
 ただし、それがそのまま作品としての水準に繋がらないのがマンガの奥深い所。今回は画力とアイディアに恵まれながら、それをフルに活かすだけのストーリーテリング力に欠けるケースが相次ぎ、結果として“傑作になり損ねた凡作”のオンパレードになってしまいました。かつて冨樫義博さんが「今の新人は絵の勉強ばかりし過ぎ」というような事を言っていましたが、それを象徴するような「赤マル」夏号だったのではないでしょうか。

 あと、非常に気になったのは、新人さんのストーリー系作品のシナリオ構成が、全ての作品においてお互いに酷似していた事です。
 どの作品も、まず1ページ目にモノローグで作品世界の大雑把な紹介等があって、2〜3ページ目で扉絵が来ます。で、次ページから“掴み”になるような“事件”があって、それが一段落ついた後にはキャラクターと世界観の設定説明がしばらく続きます。ところが平和な一時もここまで。その直後には先の“事件”よりも深刻かつ、作品の核となる“大事件”が起こってストーリーが一気に動き始めます。この“大事件”では主人公か主人公に関わるキャラが命の危機に晒されますが、そこから何らかのきっかけで主人公が一気にパワーアップ(擬似超サイヤ人化)し、一気に問題が解決して大団円へ。しかもカッコよく決めた後にズッコケさせてオチをつける所まで各作品共通です。
 ……まぁ作品によっては多少の誤差がありますが、大体こんな感じですね。ここまで来ると、編集サイドが意図的にシナリオ構成に介入しているとしか思えません。いや、編集さんがシナリオに口出しするのは構わないのですが、それにしても余りにも画一的過ぎる気がしませんか? 何だか同じ企画書の固有名詞を変えただけのプレゼンを延々と聞かされているような気分にさせられ、ちょっとばかり不快感を覚えました(勿論、それで評価を揺るがせた訳ではありませんが)。新人さんにはもうちょっと自由にやらせてあげても良いんじゃないかと思うんですが……。


 ……というわけで、以上が「赤マル」夏号のレビューでした。回を追うごとにボリュームが大きくなっている気がしますが、もう気にしない事にしました(笑)。
 次回は可及的速やかに実施予定です。「サンデー」のチェックポイント中心のアッサリとした構成になると思いますが、今回のボリュームに免じてご了承願います。ではでは。

 


 

2003年第51回講義
8月19日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第3週分)

 「現代マンガ時評」タイムラグ解消シリーズ第2弾、今日は先週発売の「週刊少年ジャンプ」37・38合併号についてのゼミを実施します。
 なお8月第3週分は、「サンデー」が合併号休みのため前・後半分けずに今日1回だけの実施となります。なお、今週発売の「赤マルジャンプ」に関しては、8月第4週分・前半として恒例の全作品駆け足レビューを行いますので、どうかご期待下さい。

 ……それでは情報系の話題から。まずは月例新人賞・「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の6月期分の審査結果が出ていますので、受賞者・受賞作を紹介しておきましょう。

第3回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年6月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作&十二傑賞=1編
 ・『URABEAT』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  田村隆平(23歳・滋賀)
 
《冨樫義博氏講評:伏線の使い方は分かっているようです。説得力がもっと増すように、その張り方や作品で扱う知識に気を配ると良いのではないでしょうか》
 
《編集部講評:キャラクターは良い。ストーリーも最終候補作の中ではずば抜けて上手い。しかしせっかくのストーリーに画力がついていってないのが惜しい。どんどん描いて画力アップを!)
 審査員(冨樫義博)特別賞=1編
  ・『電波にチカラ』
   浅野裕美子(21歳・京都)
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『ミラくるトーイ』
   山下綾子(26歳・東京)
  ・『HERO SYNDROME』
   吉田慎矢(17歳・島根)
  ・『Blue Steady』
   田畠裕基(19歳・福岡)
  ・『風神と雷神』
   石川綾一(年齢・住所不明)
  ・『スカイランド』
   岩本章一(26歳・埼玉)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります。(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎佳作&十二傑賞の田村隆平さん…03年2月期「天下一漫画賞」で審査員(武井宏之)特別賞を受賞。
 ◎最終候補の吉田慎矢さん…02年9月期「天下一」に投稿歴あり。
 ◎最終候補の田畠裕基さん…01年8月期「天下一」で編集部特別賞を受賞。
 ◎最終候補の石川綾一さん…03年4月期「十二傑」でも最終候補。20歳、宮城県との記載あり。

 今回の審査員は冨樫義博さん。さすがはネームだけでマンガの原稿料を稼ぐ男と言いますか、「伏線の使い方は分かっているようです」…だなんてグルービーな講評が印象的でした。
 ところで、来月の「十二傑」も講評に注目です。「既存の作品の影響が強すぎる」などという、まるで江川卓が球数100を超えて球威の落ちたピッチャーを批判するようなスカしたコメントは、果たして出るのかどうか? 
 ……やっぱり、日頃から後ろめたい事をやってる人は、こういう所で寒い思いをするんですよね(笑)。

 余談はさておき、情報系の話題をもう1つ。次号39号では、読み切り作品・『LIKE A TAKKYU』作画:高橋一郎)が掲載されます。
 作者の高橋一郎さんは現在20歳。02年下期の「手塚賞」で準入選を受賞し、その受賞作・『ドーミエ 〜エピソード1〜』本誌03年16号でデビューを飾っており、今回はそれ以来の作品発表となります。
 前作は“新人賞対応”のトリッキーな構成の作品だっただけに、今回は正攻法で挑んだ場合にどれくらいのクオリティを維持できるのかを注目したいところですが……。


 ──それではレビューとチェックポイントへ。今回のレビュー対象作は読み切り1本のみ。チェックポイントも続けてどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年37・38合併号☆

 ◎読み切り『ネコマジンみけ』作画:鳥山明

 「ジャンプ」の読み切りシリーズ、今週はベテラン作家枠、しかも合併号という事で、3年ぶりに鳥山明さんの登場となりました。
 恐らく「ジャンプ」系作家さんでは一番有名な人だと思いますので詳述は避けますが、鳥山さん先々代の編集長・鳥嶋和彦氏に才能を見出され(というか、鳥嶋氏のシゴきに耐え)、台頭。『Dr.スランプ』、次いで『DRAGON BALL』と、メガトン級の超大ヒットを連発し、「ジャンプ」黄金期の立役者となりました。
 『DRAGON BALL』終了後は第一線から退き、短期集中連載や読み切りを散発的に発表する活動方針にスイッチ。現在は文字通りの悠悠自適生活を営んでいるようです。しかし最近も『DRAGON BALL』単行本の再編集版が発売され、現役「ジャンプ」連載作品に伍して売上げランキングに名を連ねるなど、未だにその影響力は衰えるところを知りません。別の業界で喩えると、B’zがセミリタイヤしたような存在…といったところでしょうか。

 ──それでは本題へ。第一線を退いた作家さんの“読み切りのための読み切り”をレビューするのは初めてに近いですので、果たして上手い論評が出来るか不安ですが……。

 まずに関して。以前はスクリーントーンをほとんど使わない事で有名だった鳥山さんも、最近はペン入れ後の工程をコンピューターで済ませているとのことで、いかにもそれっぽい仕上がりになっていますよね。それにしても、トーン削りのような細かい作業が使えないにも関わらず、そんなに平板な印象を与えない作画技術はさすがだと思います。
追記:受講生の方から、「コンピューター作画でも細かい作業は出来ます」という、よくよく考えたら至極当たり前でごもっともなご指摘を頂きました。全くその通りです。駒木の栄養不足で死にかけた脳がご迷惑をおかけしました。
 要は、鳥山明さんが複雑な作業をやってないのに、ちゃんとした仕事になってる。凄い…と言えばよかったんですよね)

 また、地味な要素ですが、登場キャラの容姿や服装が2003年対応(あくまで田舎の村の2003年ですが)になっているのに感心しました。ベテランの作家さんは、得てして勉強不足で時代遅れの作画をやってしまいがちなのですが、このあたりはさすがです。

 ただし悲しいかな、ストーリー&設定の方は、鳥山さんのマンガ制作に対するエナジーが、その全盛期に比べて大いに減退してしまったのをハッキリと感じ取れるものになってしまっていまいました。

 この「ネコマジンみけ」のような、最後にハッピーエンドで終わるエンタテインメント系作品において、その構成を考える上で最大のポイントとなるのは、“いかにクライマックスシーンで読者にカタルシスを与えるか”…という部分です。こういうエンタテインメント系の作品では、決まって主人公が悪者を倒して終わりになりますが、何故そうするかと言うと、それが読者にカタルシスを与えるのに一番手っ取り早いからなんですよね。勧善懲悪モノが古典の時代から脈々と受け継がれているのは、実はそういうわけなんです。

 で、ラストで読者にカタルシスを与えるためには2つの要素が重要になってきます。その1つ目は言うまでも無くクライマックスシーンそのもの。これが上手くいかないと、文字通りお話になりません。
 そして2つ目が、そのクライマックスシーンに至るまでに、読者の気持ちに適度な負荷、つまりストレスを与えておく事です。同じ料理を食べるにしても、空腹時と満腹時では感じる美味しさが違ってくるように、読者をカタルシスに飢えさせておき、クライマックスのカタルシス効果を増幅させる…というわけです。
 この作業は案外サジ加減が難しく、やり方を誤ると読者がシラけてしまったり、あまりのストレスに読むのを放棄されてしまったりするのですが、傑作・良作を構成する要素としては外せないモノでもあります。

 では、この『ネコマジンみけ』はどうかと言いますと、このカタルシスを与えるための2つの要素──特に“ストレス付加”要素が弱いんですね。話のテンポが早い事もあるのですが、ストーリー上に大きな“谷”も“山”も無いまま、何となく「めでたしめでたし」で終わっている…といった感じです。その結果、読後感こそ悪くないものの、非常にインパクトの弱い作品に終わってしまいました。
 実は、読者にストレスを与えるシーンを描くというのは、作家にとってもストレスが溜まる作業でもあります。何しろ自分が手塩にかけて育てたキャラを苛め抜くわけですからね。本当ならやりたくないんです。しかし第一線に立っている作家さんは、そこを「傑作を描いてやるんだ」という情熱でカバーして、その困難を乗り越えてゆくわけなんです。
 しかし今回の作品(敢えて言うなら『DRAGON BALL』以降の作品全て)を見る限り、今の鳥山さんにはこの、「重いストレスを乗り越えてでもカタルシスを追求するだけの熱意、気力」が、大きく減退してしまっているように思えます。今回に限らず、最近の鳥山作品の評判が今一つ芳しくないのは、このあたりに主たる原因があるのではないかと、駒木は考えています。

 さて評価ですが、絵柄など見所はあるものの作品全体のデキは不完全ということで、B寄りB+ということにしておきましょう。こういう状態で長期連載されても晩節を汚すだけだったでしょうから、鳥山さんが第一線を退いたタイミングは見事だったですよね。まぁ、そう出来るだけの財産を築けたというのが一番大きいのかも知れませんが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週、ネット界隈で聞いて一番面白かったネタが、『アイシールド21』神龍寺ナーガの監督が言った、
 「念のため言うとくぞ。他の誰かが同じ真似しよったら、滝壷に沈んでもらう。だが阿含だけは許される。それが実力の世界というもんだ」
 ……の、「阿含」「冨樫(義博)」に代えて読むとピッタリ来る…というものでした。確かにまぁ、そのまんまですけどね(笑)。
 ただ、実力があって優遇されるならまだ良いんじゃないですか? ……というのが駒木の個人的見解ですね。しょうもない作品が何かの弾みで売れて、シナリオ編集者任せ、作画アシスタント任せで人生何遍も遊んで暮らせる金を稼ぎ出した人もいますからねぇ。(このゼミ、現役作家さんも結構聴講されてるらしいので、こんな事言うと怒られそうですが)

 あと今週は、よりによって盆進行で修羅場状態の作家さんに4コマ(しかもお題つき)を競作させるという、見かけよりも大層恐ろしい企画が実施されていましたね。
 編集者も相手が相手だけに、「あのねぇキミ、起承転結って言葉知ってる? ていうか、やる気あんの?」…というツッコミを入れることなど出来るはずもなく、発表された作品は、そのまま作家さんたちの4コママンガを描くセンスと執筆当時のモチベーションがモロに反映されていましたね。絶対、嫌がらせですよコレ。普段、作家が締め切りを守ってくれずにプライベートの時間を削られてる編集者たちの復讐ですよ(笑)。

 で、各作品のデキ具合に関してですが、4コママンガとして一番“形”になっていたのは『ONE PIECE』ですね。尾田さん、本当にマンガ描くの好きなんですなぁ。
 その他、個人的に気に入った作品を列挙していきますと、『H×H』(緻密に計算された投げやり振りが素晴らしい)『ジャガー』(さすがは「ジャンプ」No.1ギャグ作家の貫禄)『シャーマンキング』(イヨッ、番外編の達人!←褒めてません)『BLEACH』(4コマ目に工夫が欲しかったが、狙いはヨシ)……といったところでしょうか。以下、次点に『武装錬金』と『アイシル』ですかね。
 ちなみに、デキがアレでナニだった作品については敢えて詳述しませんが、「“やおい”の題材になる作品は、本当の作者が描いたパロディ4コマまで、ヤマもオチもイミも無くなる」というトリビアを発見した気がしました。15へぇ。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 今週は、とりあえずこの作品を採り上げておかないといけないでしょうなー(笑)。とりあえずの長期連載ゴーサインが出て(どうやらアンケート結果はマズマズ良好だったようです)現場のテンションが上がったのか、ギャグと言いストーリーと言い、物凄い濃密な19ページでした。
 評価の再検討は、現在の“パピヨンマスク編”が終わってからにしたいと思いますが、現時点では期待以上のデキと言っていいと思います。

 ところで、どうも“パピヨンマスク編”は、突き抜けても尻切れトンボにならないような、10回前後で一区切りつくようなシナリオになってるようですね。前作の失敗で懲りたのか、それとも“白装束を着た”状態で臨んだ連載だったのか……。
 まぁ意図はどうあれ、それが心地の良いハイテンポを生み出し、今の好結果に繋がったのだと言えそうです。

 余談ですが受講生さんの指摘によると、ビジネスホテルに未成年の女の子が1人で泊まろうとすると、非常に怪しまれるそうです。まぁ駒木などは、それを聞くと逆に、偽の身分証明書でシレっと「21歳・ルポライター見習い」になりきる斗貴子さんなどを想像してワクワクしてしまうのですが(笑)。

 ◎『ROOKIES』作画:森田まさのり【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 今週の御子柴の満塁ホームランは、「サンデー」の『MAJOR』作画:満田拓也)でもあるような、実力不相応の奇跡が起きる、“『プロゴルファー猿』的ミラクル”なんですが、今回の場合は、何とかそこに必然性を持たせようとする森田さんの気持ちが伝わって来て、非常に好感を持ちました。
 こういう地道な努力が出来る人というのは良いですね。もっとも、それが行き過ぎるとミクロン単位で長さを揃えようとする散髪屋みたいになっちゃうんですが(苦笑)。


 ……ちょっと短いですが、次回は長丁場になりますんで、今日はこんなところにさせてもらいます。
 「赤マル」はまだジックリ読んだわけではありませんが、『プリティフェイス番外編』を読むと、「やっぱり惜しまれるタイミングで止めるのが華だな」…などと思ったりしますね。いや、この社会学講座はまだまだ続きますけどね(笑)。

 ではでは。

 


 

2003年第50回講義
8月17日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第2週分・後半)

 随分久しぶりの講義になりますね。もっとも、駒木は記念式典前後の公私多忙があって、全く久しぶりという感じがしないのですが(苦笑)。
 それにしても、去年までは式典があろうが何があろうが中4〜5日で講義を再開していた事を思うと、本当に自分がヘタレになってしまったものと痛感してしまいます。まぁ、去年までと同じ事を今まで続けようとしていたら、多分どこかで過労入院する羽目になってたと思いますが……。

 さてさて今日の講義の内容は、8月6日の水曜日に発売された、「週刊少年サンデー」36・37合併号についてのレビュー及びチェックポイントとなります。物凄いタイムラグがありますが、もしもまだこの号の「サンデー」が手元に残っておりましたら、逐一参照の上、受講して頂きたいと思います。
 蛇足ながらこの号の目印を申し上げますと、『金色のガッシュ!!』が表紙&巻頭カラー次号予告が安倍なつみのグラビア特集目次の次ページが吉岡美穂が自衛隊員募集ポスターのようなポーズをとっているアデランスの広告になっている奴です。
 ……しかし、少年誌に1ページ広告を掲載しようと考えたアデランスの意図が全く判らないですよね。“少年誌にヅラ”という、喩えるなら“「週刊新潮」にリカヴィネ”級のミスマッチを実現に導いた、アデランスの広報さんの前途を大いに案じてしまいます。


 まぁ、そんな事はさておき講義です。この号では改めて採り上げる必要のある情報もありませんので、早速レビューとチェックポイントをお送りしたいと思います。
 今日のレビュー対象作は、新連載第3回の後追いレビュー1本のみ。それに続いてチェックポイントもお送りします。どうぞ宜しく。


☆「週刊少年サンデー」2003年36・37合併号☆

 ◎新連載第3回『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』作画:中井邦彦【第1回時点での評価:

 というわけで、「週刊少年サンデー」夏の新連載第2弾・『楽ガキFighter』の後追いレビューをお送りするのですが……。

 この第3回まで読んでの率直な感想を申し上げます。まさか、ここまで酷い作品とは思いませんでした。駒木も長年、物理的事情が許す限り色々な駄作と出会って来ましたが、ここまで勢いに溢れた駄作となると、『サイレントナイト翔』作画:車田正美以来かも知れません。

 何しろ、主人公と敵対する事になった組織の目的が、
「一部の強大な人間が大多数のバカな弱者を導く、争いや環境破壊の無い理想の世界を、絵が具現化する筆の力で建設する」
 ……という、もしも組織の理念について述べた本が発売になった場合、まずと学会送りがまず間違いないようなモノなのです。まぁ要は世界征服を宣言しているわけですが、ここまで薄っぺらいエコロジー理念を述べたご高説を、駒木は初めて伺いました。環境保護を訴えながら石油を自宅に備蓄していたカントリー歌手、故・ジョン=デンバーも真っ青です。

 しかも、とりあえず百歩譲ってこの“理想”をアリと認めるにしても、そうすると今度はこのお話と組織の目的が全く噛み合いません。いやしくも世界征服を企もうという組織なのだったら、少し頭の足りない高校生を組織の仲間に取り込む前に、具現化した絵で国会議事堂くらい占拠してはどうかと思うのですが(笑)。
 悪の怪人組織ですら世界征服のために幼稚園バスをジャックするのは控えるようになったこの21世紀に、このハリボテのような世界観。ハッキリ言って、もうお手上げです。
 ひょっとしたら、今回のやりとりが主人公・ハユマを能力に目覚めさせるためのショック療法という筋書きかも知れませんが、それならそれで読者に致命的な誤解を抱かせてしまうような見せ方に大きな問題があるわけで、全くフォローも出来ません。

 以上のように、この作品はそのストーリーや、それを差支える土台の部分が既に倒壊してしまっています。思うに中井さんは、師匠の江川達也氏の悪い部分──ハッタリを重視する余り、ストーリーが平板になってしまう点──だけを引き継いでしまっているような気がします。しかもそのハッタリすら中途半端なのですから、文字通りお話になりません……。

 評価は勿論大幅ダウンです。世界観、ストーリーが完全に崩壊しているわけですから、評価も止むを得ないところでしょう。


◆「サンデー」今週のチェックポイント◆
 

 巻末コメントのテーマは、「自分って親に似ているなぁ…と思うところ」。面白いように見えて、実は答えにくい質問のようで、コメントも「顔」とちょっとした性格に分かれた感じになりましたね。藤田和日郎さんは隣のページにデカデカと掲載されているフリーダイヤルに電話したんでしょうか。
 駒木は「声」でしょうか。親戚からかかって来た電話のことごとくで父親に間違われる度にそう思います。


 ◎『史上最強の弟子ケンイチ』作画:松江名俊【現時点での評価:B+/雑感】

 設定のベタさ加減では定評のある(?)この作品ですが、またしてもベタなキャラが出ました。オッパイ星人の小学生!
 えー、女性の受講生さんに言っておきますが、男も12歳になりますと、大抵は程度の差こそあれ性に目覚めてますので、リアルな世界でこういうガキに出会った場合は、問答無用でグーパンチをくれてやるのが得策だと思います(笑)。
 ちなみにウチの珠美ちゃんは、抱きつかれる以前に胸のサイズが……(睨まれてるのに気付いて固まったらしい)

 
 ◎『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【現時点での評価:B/雑感など】

 作中に登場した「狗神大サーカス団」って、やっぱり最近「うたばん」に出てる「犬神サーカス団」から来てるんでしょうなー。“藤田和日郎さんから借りたビデオの「かくし芸大会」”といい、藤崎さんは相当バラエティー好きのようですね。
 ところで、連載開始以来、この作品はB評価にしていましたが、そろそろB+くらいに上げても良いかと思っています。絶対音感にこだわり過ぎた初期に比べると、着実に良化していると思いますし、この位が妥当だと考えます。


 ◎『天使な小生意気』作画:西森博之【開講前に連載開始のため評価未了/連載総括】

 4年に及ぶ連載も晴れてフィナーレ。やや唐突な締め括り方だったような気もしますが、読後感は悪くなかったと思います。
 この作品の良かった所としては、いわゆるヒーローやヒロインだけでなく本当に平凡な脇役にも脚光を浴びさせた事、そして少年マンガ的な“必殺技バトル”をほぼ完全に封印し、それでいてちゃんと迫力のあるバトルが成立させた西森さんのテクニックでしょう。
 惜しむらくは、所々でストーリーの精度が危うくなってしまった点。もう少し骨太なシナリオ展開ならば、ここ数年の「サンデー」を代表する作品にも成り得たと思えるだけに、残念ではありました。
 最終評価はA−。とりあえずは安心して人に薦められる良い作品と言えそうです。

 
 ……というわけで、やや短めですが今日はここまで。次回は「ジャンプ」37・38合併号のレビューとチェックポイントになります。どうぞ宜しく。

 


 

2003年第49回講義
8月5日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第2週分・前半)

 今日の講義が、とりあえずは記念式典前最後の講義になると思います。また、今日も式典の準備と平行しつつ…という感じですので、駆け足、駆け足で進行させたいと思います。どうぞ宜しく。

 まず、情報系の話題から。「週刊少年ジャンプ」の次号は夏の合併号ということで、様々な企画モノが用意されているようですが、読み切りの方も超大物作家さんの登場となりました。
 次号に掲載される読み切りは、『ネコマジンみけ』作画:鳥山明)。ご存知、『DRAGON BALL』で「ジャンプ」を史上最高の隆盛に導き、現在は悠悠自適の創作活動を続けている鳥山明さんが、特別ゲスト的な扱いながら久々に週刊本誌に登場です。
 作品の性質上、緊張感がビリビリと伝わって来る傑作というわけにはいかないでしょうが、肩の力の抜けた佳作にあれこれ言ってみるのも一興…ということで、次週のゼミではレビュー対象作として扱うつもりです。

 そして今日は話題をもう1つ。実際に「ジャンプ」を購読されている受講生の皆さんは大変驚かれたでしょうが、作者体調不良のために長期休載されていた『ROOKIES』(作画:森田まさのり)が、今週発売の36号から連載再開となりました。
 先週号の次号予告にさりげなく『ROOKIES』の名前が載ってはいたのですが、ちょっと意外なタイミングでしたね。中途半端なタイミングで『闇神コウ〜暗闇にドッキリ〜』が打ち切りになったのは、こういう事情があったわけですか。
 ストーリーも既に佳境に突入しているだけに、後はテンションを落とさず一気呵成にキメて欲しいものです。期待しましょう。

 
 ──それでは、速やかにレビュー&チェックポイントを。今日のレビュー対象作品は読み切り2本となります。そしていつも通り、その後にチェックポイントとなります。

 
☆「週刊少年ジャンプ」2003年36号☆

 ◎読み切り『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健

 2週連続で既製作品からの模写疑惑(というより確定に近いですが)が持ち上がるという、極めて憂慮すべき事態となっている「ジャンプ」読み切りシリーズですが、今週はどちらかと言えば間違いなく模写される側の(苦笑)、小畑健さんの登場です。今回は納涼という意味も込めて(?)ホラー作品での登場となりました。
 さて、今回の原作者・大場つぐみさんに関してなんですが、残念ながら詳しい事は全く判りませんでした。巻末コメントなどから、ネット界隈では「ジャンプ」系の新人マンガ家さんらしい…という受け止められ方をしているようですが、駒木も、新人さんかどうかは別にして、マンガ畑の住人の方であるとは考えています。

 では、作品の内容について述べてゆきましょう。

 まずですが、もうこれは何も口を挟む点はありませんね。少年誌作家にしてはリアルタッチな小畑さんの画風が、ホラー系作品になって更に栄えているような気がしました。

 次にストーリー&設定ですが、全体的な完成度はソコソコの水準に達しているものの、至る所で詰めの甘さが見受けられ、そのために“良作になり損ねた凡作”に終わってしまったような気がします。

 この作品のメインアイディアは、『ドラえもん』「独裁スイッチ」などに見られる、「平凡な人間が他人の生殺与奪を握ってしまった時、その人間と社会はどうなるか?」……という“もしも”のお話です。人が死ぬ(又は消える)という不可逆かつ重大な事象が簡単な作業で出来てしまえる…というギャップが得体の知れない恐怖を生み出すのがキモですね。
 ところが、この『DEATH NOTE』では、デス消しゴムという便利すぎるアイテムのために、その恐怖感が完全に帳消しになってしまっています。更に言えば、死んだ人間がそれこそマンガみたいに元通りに生き返ってしまうという非現実的な現象に、滑稽さすら感じてしまいます。これではダメなんですね。
 現実的なシチュエーションで非現実的な恐怖を描くからこそ、ホラーはホラー(恐怖)足りえるわけで、非現実的なシチュエーションでいくら怖い事をやっても、読者に恐怖感は植え付けられないわけです。

 そして、実はこの作品で一番怖いのは、主人公・鏡太郎の隠れた凶悪性だったりするのですが、これがどうにも作品中で描ききれていないのが、もう1つの惜しい所です。
 ストーリーの中で太郎は、終始怯えながらもシレっと嘘八百を並べてデス・ノートを守り通すわけですが、そこまでするための動機が上手く描かれておらず(「持っていた方が良いかな…」とは言ってますが、それだけでは弱いです)ノートを守り抜く事さえも不自然に映ってしまいました。その上、ラストシーンで18歳になった太郎は完全に悪人面になってるわけですが、その豹変振りも唐突過ぎて不自然なんです。恐らくは作者の大場さんの頭の中には理由が出来上がってると思いますが、それが読者サイドに伝わり切ってないんですよね。

 ……以上の事情により、この作品は“怖いはずなのに怖さが伝わって来ない、何だかちょっと分かり難いお話”になってしまいました。せっかく小畑健さんに絵を描いてもらったのに、勿体無い事しましたね。
 評価は絵の分だけ加点して、ギリギリでBでしょうか。

 
 ◎読み切り『世界しーん』作画:浅上えっそ

 先週の予告には掲載されていなかったのですが、今週は、『HUNTER×HUNTER』の取材休みで開いた枠を埋めるための15ページギャグ読み切りが掲載されました。
 作者の浅上えっそさんは、01年下期の赤塚賞で佳作を受賞し、その受賞作『まげちょん』で、同年末発売の本誌02年3号にて代原ながらデビューを飾っています。
 ただ浅上さんは、詳細は不明ながら90年代末に「手塚賞」で1回、「天下一漫画賞(現:十二傑新人漫画賞)」で2回、それぞれ最終候補まで残っており、相前後してアシスタント経験もあったようです。
 で、今回は約1年半ぶりの作品発表ということに。果たして出来栄えはどうでしょうか?

 まずについて。パッと見で言えば、多少の“同人臭さ”は残るものの、見栄えが良さそうな画風ではあります。アシスタント経験の賜物でしょう、背景の上手さも目を引く仕上がりです。
 しかし、よくよく見てみれば、この作品の絵は変なのです。集中線などの特殊効果と絵が全く合っていないために、動いているようで動きの無い、違和感アリアリのシーンが至る所に見られるのです。セル画の枚数が足りずにカクカク動いているアニメというか、物凄く芝居の下手なコントというか、とにかく変なんですね。
 その結果、読者がスムーズに読み進める事が出来ず、笑えるはずの場面でそれが出来難くなってしまいました。同じネタでコントをやっても、上手い人とそうでない人ではウケが違うのと一緒です。

 また、ギャグそのものにも今一つ“突き抜け”方が足りないような気がします。この作品は「しょうもないバカバカしい事を、クソ真面目にやれば面白い」…という、昔から使われているパターンを追求した作品なのですが、その肝心のクソ真面目さが今一つに終わってしまったように思えるのです。バカバカしい記録に挑戦させるなら、それこそ命の遣り取りをするくらいヒリヒリした緊張感でやらせないと、爆発力のあるギャグにはならないのです。

 ……というわけで、評価はC寄りB−。とりあえずマンガらしいマンガにならないと、連載獲得どころの話ではないと思います。僭越ながら猛省を促し、奮起を期待したいところであります。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 先月は、“「十二傑新人漫画賞」募集ページby矢吹健太朗”について、あれこれ好き放題述べたんですが、まさかそれが今月分の前奏曲に過ぎないとは、夢にも思いませんでした。

 矢吹さんはまだ“上手い(ように見える)絵”というセールスポイントがありましたので、それで引っ張れば良かったのです。しかし、それすら無い人が自分のセールスポイントを述べようとした場合は……。
 先週、集中線や書き文字による特殊効果について、ご本人が出来ていないテクニックを応募者に「やってみろ」と言ってのける無理難題を提出したかと思えば、今週は「名」と「迷」を誤植したとしか思えない“メイ台詞”についてルー大柴の顔面のようなネチっこさで解説した挙句、キャラ造型は、まずセリフから」という趣旨のミスリードを堂々と展開する傍若無人ぶり。今年に入って、「粋じゃねぇぜ」とか、「曲がったことが大嫌い」とか、見事なまでに性格をセリフで表した主人公のマンガが無残に突き抜けていった現実を全く顧みないアドバイスに、ワタクシ、口が南極2号のようになってしまいましたよ。

 ──誰か、誰かいませんか? このお方に「まだまだだね」と言ってくれる人は……!

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 ラスボスは、とんでもなく強くてとんでもなく悪い奴だった……というわけですね。王道パターンながら、これが案外難しいんです。しかし、根っからの悪人という奴から溢れる不快感というのは強烈ですなぁ。
 こういうキャラが不必要に動きすぎると、読むのすら嫌になる不快な展開になってゆくものなのですが、どうやらその辺のバランスも考慮してるみたいですね。


 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B/雑感】 

 すいません、先週から連続で登場です(苦笑)。
 “まるでHしてるような会話(セリフだけ)→実はマッサージしてました”…みたいな肩透かしは何度も見て辟易してますが、“まるでHしてるような会話→Hはしてないけど、それに準ずるようなビジュアル”というのは、作品の評価は別にして素晴らしい!(笑)
 これで表現規制水準が15年前(『バスタード』、『電影少女』の頃)のモノだったら申し分なかったんですが……とか、もうすぐ28の男が言う言葉じゃありませんな、しかし
 

 ……というわけで、今日のゼミはこれまで。
 今週の掲載順あたりから新連載4本もアンケート順位に影響され始めたような気がするんですが、見事に『武装錬金』とその他3作品で明暗分かれた形になりましたね。やっぱり何作品かは突き抜けちゃうんでしょうかねぇ。

 あ、冒頭でも言いましたが、次回のゼミは記念式典後になると思います。どうか何卒。

 


 

2003年第48回講義
8月3日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週/8月第1週分・後半)

 先日の番外編はどうも失礼しました(笑)。未だに頭が痛むのは、多分珠美ちゃんにドツかれたせいではなくて睡眠不足と眼精疲労のせいだと思うんですが、まぁ何とか講義終了まで保たせたいと思います。

 さて、今日は変則的な内容で、「サンデー」系の情報をお届けした後に、今週発売の「ジャンプ」&「サンデー」各35号のチェックポイントをお送りします。「サンデー」はレビュー対象作がありませんでしたので、今日はチェックポイントのみの扱いとなります。

 それでは、まず情報系の話題ですが、今日は最終回のお知らせをしなければなりません。約4年に渡って連載されて来た『天使な小生意気』作画:西森博之)が、次号36・37合併号をもって最終回となります。
 連載回数199回という中途半端な回数での終了ですが、長期連載作に関しては原則的に作者に最終回のタイミングを委ねるのが「サンデー」のスタイルですから、円満終了と見て間違いないと思います。正直言って、「あと1回で全てにケリを付けられるのか?」…と思ったりもしますが、心配するより期待して待ちたいと思います。

 
 ──情報系の話題は以上です。引き続き、「ジャンプ」と「サンデー」のチェックポイントをお送りします。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年35号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週の「ジャンプ」はビッグサプライズ連発。特に初っ端の『ボーボボ』アニメ化には、驚きを通り越して絶句してしまいましたよ。あのノリをどうやってアニメで表現するのか、ちょっと心配になっちゃいますね。

 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 第2回人気投票結果発表となりました。本誌でのポジションや単行本部数と全くそぐわない莫大な投票総数、更には明らかに“男尊女卑”の開票結果からも、このマンガの支持層が恐ろしく偏っている事が再確認される形になりましたね(笑)。

 あ、作品の中身についても語っておきましょうか。
 あのピッチャー、投げる角度が反則とか言う前に、顔が即退場級の反則だと思うんですが。
 もし駒木が選手なら、笑い死にしそうになって見送り三振確定ですね。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B/雑感】 

 いきなりの唯編突入個人的な話で恐縮ですが、駒木にとっては「臨むところよ!」ってところであります(笑)。
 しかし、このシチュエーション、微妙に『りびんぐゲーム』作画:星里もちる)の4巻あたりと被ってますね。あ、そういや唯と当時のいずみちゃんって1つ違いなのか。うあー、見えねー(苦笑)。

 ◎『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 既に『朝まで生テレビ』級の大討論になってます、ポンズは死んだか死んでないか…という話題について私見を。

 この論争のポイントは、384ページ最終コマのブラックアウトを、「ポンズの意識が飛んだ表現」とするか、「場面が転換した事を示す表現」とするかで解釈が変えられる…という事ですね。前者ならポンズは死んでますし、後者なら生きているわけです。
 で、個人的な意見を言わせて頂ければ、9:1くらいの割合で死んでるかな……と。ポンズというキャラは、これまでの冨樫さんのパターンからすればちょうど“死なせごろ”のキャラ──キャラはある程度立っているが、ストーリーの根幹には関係が無い脇役──ですし、あの一連のシーンで、他に死ぬ可能性のあるキャラがいないという事もあります。
 今回は“死なせごろ”の割にはファンの多いキャラだったために論議を醸したわけですが、冨樫さんなら平気でやっちゃいそうな気がするんですけどね。

 ◎『闇神コウ 〜暗闇にドッキリ〜』作画:加地君也現時点での評価:B−/連載総括】
 
 見事なまでに中途半端な期間で打ち切り終了となりました。連載期間は1クール半という事になるんですかね。まぁ、これほど納得の行く打ち切りも珍しいですね。
 加地さん本人は、失敗の理由を設定だと述べていましたが、駒木はそれよりも設定を物語上で演出する方法がマズかったんじゃないかと思っています。アクションシーンがワンパターンかつ予定調和の範囲に終始してしまいましたし、シナリオそのものも意外性が感じられませんでしたし……。
 どうやら加地さんは再起の意向を示しているみたいですので、とにかくゼロから立て直す覚悟で頑張ってもらいたいものです。

 評価はB−で据え置き。残念ながら失敗作という判断です。

☆「週刊少年サンデー」2003年35号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「ショックだった過去の落し物」。原稿を落とした(not原稿間に合わず)人が2人もいてビックリ。そんな『まんが道』の夢シーンみたいな話が本当にあるとは。しかもマンガ家ご本人が!
 駒木は雷句誠さんとほぼ同じでお気に入りの帽子駒木は幼少の頃からヤクルトファンだったのですが、関西地区ではヤクルトスワローズの帽子なんてどこにも売ってなく、冗談じゃなくて何年かがかりで見つけてやっと買ってもらったんですね。で、それを数ヶ月もしない内に電車で……(涙)。

 ◎『MAJOR』作画:満田拓也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 予想通りとは言え、ついに物語は佳境へ。しっかし、8年がかりの伏線というのも凄い話ですなぁ。
 でも吾郎よ、いくら日本人メジャーリーガーが存在しないというパラレルワールドだとしても、忘れていい人といけない人がいるんでないかい?(苦笑)

 ◎『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』作画:中井邦彦第1回掲載時の評価:B前回のレビューについて】

 受講生の方からご指摘があったんですが、前回(第1回)に登場した、ハユマが描いてしまった悪キャラは、D-メンの“悪属性バージョン”だったんですね。これならハユマの能力でも描けておかしくないわけで、その部分に関しては矛盾点は無くなりました。
 ただ、それでもシナリオ構成にある問題が全て解消されたわけではありませんので、評価は据え置きにしておきたいと思います。

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 タガ外れまくりの黒賀村編、佳境というより秘境へ辿り着きつつある感がありますね。何て言うか、「見てるか弟子ども! 俺はギャグセンスにおいても、まだまだ貴様らには負けん!」……という藤田さんの叫びが聞こえてくるような、そんな感じであります。
 しかしこの村、デキの悪いRPGに出て来る、シナリオライターの悪ノリだけで作ったような村なんですが、存在してて大丈夫なんでしょうか?(笑) 多分、戦争が始まったら、真っ先に消されるか、国が滅びても残ってるかのどちらかだと思います。

 
 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 モデム配りを2人一組でやってますと、頻繁に出ます、高みからの発言。

 「いや、こんな仕事で良い成績出したって自慢できるもんじゃないし、給料も変わらんし。運だよ、運」

 ……モデム配りのスタッフは、みんな「こんなクソ会社のクソ仕事、ろくなもんじゃねえ」…とか言いながら、成績が悪いと何故か凹むんですね。で、その日に調子の良かった方のスタッフから毎日のように飛び出るのがこの言葉。何て言うか、人間の心の闇を覗く思いです。

 ところで、女の子が「カワイイ」と言う女はブス…という定説について。これ、以前女友達に訊いてみたんですが、彼女曰く、
 「女が同性の容姿を誉める時はね、『カワイイ』じゃなくて、『あの子はキレイ』って言うのよ」
 …とのこと。なるほど、確かにそれ以後の経験上、その子の言った事は正しかったような気がします。『キレイ』って言葉は、高みから見た時には使わないんですね。何て言うか、女性の心の闇を覗く思いです。

 
 ……というわけで、今日のゼミを終わります。途中、何か誤解を招きかねない発言があったのは、多分、珠美ちゃんに『現代用語の基礎知識』の背の部分で頭をドツかれたせいだと思いますので、どうかご容赦を。

 なお、来週は記念式典の準備を先行させるため、通常の講義はイレギュラーになると思います。これもご容赦下さい。ではでは。

 


 

2003年第47回講義
7月29日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週/8月第1週分・前半)

 ウィンドウズの宿痾と言うべき強制終了により、2度目の講義準備中、駒木ハヤトです(苦笑)。

 ちなみに最初に準備した冒頭挨拶は、斗貴子さんの「エロスは程々に」発言についてでした。
 いやしくも高校教員を志す者が、マンガの世界とは言え現役女子高生にたしなめられて微妙な快感を覚えるとは何事だ……などという原稿を準備していたところ、往年のスタン=ハンセンのショートレンジ・ラリアットくらい絶妙のタイミングで強制終了が発動したのです。いやぁ、世の中よく出来てますね。

 それにしても、斗貴子さんに世界史教えてる学校の先生は大変です。多分、あのキャラなら、
 「古代ローマにおける直接民主制の問題点について、若干の疑問があるのですが、ご教授願えないでしょうか?」
 ……などと、バルキリースカート発動3秒前のような表情で詰め寄る事は間違いありません。多分、そうなったら答えられる質問も答えられんでしょうなぁ……

 ……………………

 ──と、妄想はこれくらいにしまして(笑)、また強制終了にならない内にゼミの本題へと話を変えていきたいと思います。

 まずは今日も情報系の話題から。「ジャンプ」の読み切りに関する情報が1つ入って来ています。

 来週発売の36号において、『ヒカ碁』の小畑健さんが早くも再始動『DEATH NOTE』というホラー作品の作画を担当します。ちなみに原作者の大場つぐみさんは、Googleで検索しても情報がまるで出て来ない謎の人物。恐らくは、36号で作品と併せてプロフィールが公開されると思いますが、こちらについても注目ですね。
 しかし、本当に小畑健さんの仕事量には感服します。あれだけ完成度が高い作画で、次から次へと作品を発表するわけですから凄い話です。

 ……さて、次に話は変わって「赤マルジャンプ」夏号について。いよいよ今週号の「ジャンプ」35号でラインナップが発表になりましたが、やはり今回は絵が比較的達者な若手・新人さんが揃っているみたいですね。他の企画モノもヴィジュアル重視の構成になってしますし、今の時点で恐ろしいほど『ボーボボ』番外編が浮きそうなのが、駒木的には大変に気になるところです(笑)。


 ──それでは情報はこれまでにしまして、レビューとへと移りましょう。今日は読み切り2本(うち1本は代原ですが)がレビュー対象作となります。
 なお、申し訳ありませんが、諸事情によりチェックポイントは今回に限り後半分回しにさせて頂きます。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年35号☆

 ◎読み切り『ボウボウHEAD☆カウボーイ』作画:森田雅博

 今週の読み切り作品は競馬モノ。競馬学が専門の当社会学講座としては厳しくも暖かい目で見たいところではありますが……。

 作者の森田雅博さんは、1979年6月16日生まれの24歳00年12月期の「天下一漫画賞(現:十二傑新人漫画賞)」で審査員(尾田栄一郎)特別賞を受賞し、翌01年の「赤マルジャンプ」夏号にて『ペース・メーカー』でデビューしました。
 森田さんは、「天下一」受賞時から一貫して競馬を題材とした作品にこだわり続け、今年1月の「赤マル」冬号に掲載された『蹄鉄ジョッキーっ!』、そして今作も競馬を題材にした作品となりました。少年誌における競馬マンガは、メジャー4誌全てにおいて大ヒット又はスマッシュヒット作品を出しているジャンル。最近はやや勢いに陰りが見えるとはいえ、狙いそのものは悪くないのですが、果たしてどうでしょうか。

 ではまずからですが、前作に比べてかなりの進歩が窺えます。新人特有の無駄な線が消え、垢抜けた見栄えのする絵が描けるようになったのではないかと思います。マンガ的表現もソツなくこなせており、基本的な力そのものは即連載クラスと申し上げて良いのではないでしょうか。

 …………しかし。ここに来て重大な“疑惑”が持ち上がっています。

 ──これは週明けから2ch掲示板などで話題になっているのですが、この作品のいくつかのシーンが、『焼きたて!! ジャぱん』『はじめの一歩』の中のシーンと酷似している…というのです。
 とりあえず、ネットで拾ったスキャン画像(間もなく消去される可能性が高いので)こちらのサーバーに移してアップしましたので、受講生の方もそちらをご覧下さい。
 ちなみにこの画像、本来なら色々と問題が生じる要素を多数含んでいるとおもわれますので、何かあれば即刻消します。閲覧はどうぞお早めに。また、こういう事をしている駒木が言うのもアレですが、変な使い方をしないようにお願いします。

☆問題のシーン集☆

 ……実際に見ていただけると分かるんですが、これはどれだけ贔屓目で見たとしても、“既製の作品から非常に強い影響を受けた”ものであると思って間違いないでしょう。真偽はどうあれ、読者から「パクりじゃねぇの、これ?」…などと疑われても致し方ないのではないかと駒木は考えます。
 非常に遺憾ながら、某『黒猫』に及ばず、この手の話はマンガ業界で度々疑惑が囁かれています。また、そういう疑惑の囁かれる作品が商業的に成功するケースも多く見られる現状でもあります。しかし、まだ発展途上の段階である新人作家さんがこういう行いをするというのは、善し悪し以前にして果たしてどうなんでしょう? 確かに「どうしても似てしまう」という事は往々にしてあるでしょう。しかし、物事には限度と言うものがあるはずです。これは技術云々というより、もっと根源的な「志」の問題だと思うのですが……。
(ついでに記す:この話題を検証していて知ったのですが、先週号掲載の『Continue』作画:星野桂)でも、他作品の模写及び主要キャラクターのデザインが酷似している事が指摘されています。これも実際に画像を見てみますと、確かに似せる必要のない所まで似ている部分が有りました。もう何て言うか……)

 ……さて、すっかりミソが付いてしまった感がありますが、ストーリー&設定についてもお話しておきましょう。

 今回のお話、確かに勢いがあって読後感も良く、いわゆる好感度の高いストーリーであるとは思います。そのためでしょう、ネット界隈での評価も印象度の上ではそれほど悪くはないようです。
 しかし、それだけでヨシとしないのがこのゼミの方針。その方針にしたがって深く読み込んでいきますと、この作品は中身の薄さを勢いで誤魔化しているという事に気付かされていきます。

 中でも最も大きなミステイクは、5億円馬・ジュテーム号が高い素質を持っているという伏線が全く無しに(それどころか「調教でも走らない」と明記されてます)、精神的な絆が生まれた“だけ”の進斬の馬を破壊する豪腕に耐えて激走してしまった…という矛盾でしょうね。
 しかも、そういう状況にも関わらず、5億円の超高馬に、デビュー以来0勝&馬をぶっ壊してしまう騎手を乗せてしまうしかもレースまで馬主にもそれを隠蔽する)調教師っていうのも、よくよく考えたら酷い話です。また、そういう騎手なら“馬殺しの花咲”みたいな仇名が付いていなければおかしいですし、周囲から単なるヘボ騎手扱いされているのも不自然極まりありません。それに、馬をぶっ壊している当の本人が、その事を全く無自覚というのも無神経が過ぎる話でしょう。

 あと、競馬マンガでありながら、競馬に関するディティールの大半が間違っているというのも大きな減点材料ですね。逐一指摘する時間がありませんが、実在しないデザインの勝負服や馬運車を見ただけで脱力モノですし、何よりもストーリーの根幹である“レース飛び入り参加”が実際は問題外で不可能(出走馬がパドックに出る時点で到着していない場合、無条件で出走取消&関係者はキッツーイ処分が確定というのが致命傷です。
 勿論、これはマンガですから、「現実を無視して話作りをするのがベスト」という場合には、それをやっても構わないでしょう。が、本来のタイムリミットである装鞍所集合時間を作品内のタイムリミットにしても十分に話は成立しますし、むしろそこからレース発走までに、進斬がジュテーム号に「お前は素質がある。俺がお前の力を引き出してやるから、俺を信じろ」…のような決めゼリフが言えますので、話がより盛り上がるはずです。敢えて現実のルールを無視して話作りをする必然性が全く見当たらないのです。

 まとめますと、この作品はストーリーの必然性を全く考慮する事無くシナリオを組まれているわけです。設定の後付けは、話の最初に遡った上で矛盾点の無いように行うのは最低限のルール。これが守れていないようでは、ちょっと……といったところですね。
 恐らく、今の技量で連載を獲得した場合は、間違いなく短期間でストーリーに破綻を来たしてしまうでしょう。もう少し、本格的な話作りを学んだ方が良いのではないかと思います。

 評価ですが、絵の“パクり”疑惑を抜きにして考えた場合、絵は合格点もストーリーテリング力に大きな問題アリということで、B寄りB−という評価になるでしょう。ただし、本音を言えば、文字通りの「論外」という評価こそ正当のような気がします。

 
 ◎読み切り『白い白馬から落馬』作画:夏生尚

 今週は久々に『ピューと吹く! ジャガー』が作者都合の休載。ということで、巻末にショートギャグの代原が掲載されました。

 作者の夏生尚さんは、02年度上期の赤塚賞で佳作を受賞。その受賞作が代原として本誌02年31号に掲載され、デビューとなりました。今回は、またしても代原ながら約1年ぶりの再登場になります。

 しかし今回の作品、代原ゆえに執筆時期が判らないのですが、1年前のデビュー作と絵、ギャグ共に進歩が全く無く、非常に物足りない仕上がりとなってしまいました。
 は確かに新人作家さんの描くギャグマンガとしては上出来の部類に入りますが、所々で下手と言うよりも雑な描写が見受けられるのが残念でした。
 ギャグに関しても、デビュー作の掲載時に指摘した、「“起承転結”の“承”や“転”の部分で無理矢理終わっていて、オチがオチになっていない」…という問題点が全く改善されないまま放置されていました。

 前回は新人賞への応募作、かつデビュー作でしたから大目に見なくてはならない要素もあったでしょうが、今回は新人とは言え、プロ作家として描いた作品なわけですから、擁護出来る材料は全くありません。残念ですが、駄作と言わざるを得ないでしょう。

 評価は前作と同じくC寄りB−。近頃は実力派の若手ギャグ作家さんの頭数が揃って来ていますから、このままでは夏生さんの前途は非常に厳しいものになってしまうでしょうね。


 ……以上で今日のレビューは終了です。ちょっと物議を醸しそうな内容ではあるのですが、このまま捨て置くのもどうかと思いましたので、重く扱ってみました。受講生の皆さんの忌憚の無いご意見を聞かせて頂けると有り難いです。

 では、後半のゼミもどうぞよろしく。

 


 

2003年第46回講義
7月25日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第4週分・後半)

 今年の夏のトレンドは、カメラ目線でお茶の間の皆さんに向かって「グルービー!」(挨拶)

 しかし、少年マンガ史上初めてじゃないでしょうか、闘ってる当の本人をバックに押しやっておいて、しっかりカメラ目線で決めゼリフ叫んでる人ってのは。何て言うか、究極の美味しいトコ取りテクニック。
 これからのコミケシーズンコスプレイヤーをローアングルから狙うアレな人の群れを見つけたら、その集団をバックにして立って、

 「グルービー!!」

 ……これです、これ。今年の夏はこれですよ皆さん。


 ──さて、東京旅行を控えて微妙にテンション高めな駒木ハヤトがお送りする「現代マンガ時評」、時間も迫ってますので、とっとと始める事に致します。

 今日は情報系の話題も特に有りませんので、いきなりレビューから。新連載1本と、新連載第3回後追いレビュー1本の、計2本となります。続いてチェックポイントも宜しく。

☆「週刊少年サンデー」2003年34号☆

 ◎新連載『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』作画:中井邦彦

 今年3作目の本格新連載が開始されました。この後、後追いレビューでお送りする『ロボットボーイズ』の上川敦志さんと同様、これが初連載となる若手作家さんの登場です。

 その作者の中井邦彦さん今年なんと35歳。随分と遅い連載デビューですが、どうやら中井さんは一昨年まで長年江川達也さんのアシスタントを務めていたらしく、そのために本格的なマンガ家としての活動開始が遅れていたようです。
 キャリアとしては、アシスタント時代の7年前に「小学館新人コミック大賞」で入選を受賞し、読み切りデビュー。その後も散発的に読み切りを発表していたようですが、今年になって増刊に掲載した同名の作品が認められた形で、今回の抜擢となりました。
 高校卒業後すぐに上京してマンガ家を目指していた…との事ですから、キャリアは17年。この経験がどこまで活かせるか、見ものと言えそうですね。

 では、内容をチェックしてゆきましょう。

 まずですが、いかにも今の「サンデー」っぽい、好感度の高い明るいタッチの絵で良いんじゃないでしょうか。(もっとも、「またこの絵柄かよ」という声も聞こえて来そうですが……)
 あと、アテナの筆やデビPのデザインなどに、『タルるート』時代の江川達也タッチの影響が見え、「なるほどなぁ…」と思わされたりしましたね(笑)。ていうかキャリアから考えると、ペン入れ以降の工程を代行した経験とかあったりするかも知れませんね。

 次にストーリー&設定について。

 今回の第1回は60ページ以上の長丁場になったわけですが、ややプロットがオーソドックス過ぎる嫌いはあるものの、ダレ場を作る事も無く手堅くまとめられているとは思います。が、そのストーリーの見せ方にかなり大きな矛盾点があり、これは大きな減点材料です。
 今回のストーリーでは、その前半で看護婦の変装をした謎の女性(姫乃美香)が、主人公・ハユマにペンを渡した上にウソをついて騒動を起こそうとするわけですが、これがまずいけませんこのウソ(幼馴染みに恋人がいて、ハユマの事は嫌い)が、読者からはすぐにウソだと判ってしまって白けてしまうのです。薄々と「これはウソだろうな」と判ってしまうようなモノだとしても、真実かどうかは土壇場まで判らないようにする演出は必須だったような気がします。
 また、このウソは作品内の世界でも“すぐにバレるウソ”であって、説得力が全くありません(美香も顔に冷や汗を浮かべてますので苦し紛れのウソだったのかも知れませんが、判り辛い上に前日から伏線を張っている割にそれでは不自然です)。一応、話の中では、
 ハユマがお見舞いに行くと、偶然幼馴染みと子供が戯れている→絵が描いていると思わなかった子供がはしゃいで絵を破る→ハユマ君、青春早合点(謎)
 ……という流れでハユマはウソを本当だと誤解してしまったわけですが、これは実現確率の極めて低い偶然によって発生した現象ですよね。これがさも“仕組まれた罠”のように描かれてしまうと、ちょっと何だかなぁ…といった感じです。

 他にも設定面で矛盾点──ハユマはデビPとD−メンしか描けないはずなのに、やけにスンナリと化物のラクガキを描いている──が見られるなど、どうも全般的にツメの甘さが目立ちます。クライマックスの見せ方が非常に上手くキマっているので、読後感は良い仕上がりになっているのですが、この調子で粗の多い話作りをされてしまうと、破綻したストーリーが半年以上続く惨事になってしまいそうで怖いです。
 評価ですが、ここまでシナリオ面で欠点がある作品に高い評価を出すわけにはいきませんので、とりあえずB−寄りBとしておきましょう。絵とラストの見せ場が良かった分のB評価だと考えて頂ければ。

 それにしても、マンガに出て来る小動物は、どうして口が悪くて関西弁なのが多いんでしょうか(苦笑)。たまには博多弁をガナりたてる、新日本プロレスのマスクマン・魔界2号みたいな小動物がいても面白いと思うんですが。

 
 ◎新連載第3回『ロボットボーイズ』作:七月鏡一/画:上川敦志【第1回時点での評価:B−

 当講座BBSでは、このところ連日この作品に関しての書き込みがあり、もはやここがネット界隈で一番『ロボットボーイズ』に注目しているウェブサイトになりつつあるわけですが(笑)、謹んで第3回の後追いレビューをお届けしましょう。

 第1回では、孤独な主人公に1人“仲間候補”が出来て…というところで「続く」になったわけですが、第2回、第3回もそのエピソードの延長上でストーリーが展開されてゆきました。
 で、ここまでのストーリーから推察するに、どうやらこの作品のコンセプトは、

 「ロボットを作るのは楽しい」
 「仲間と一緒に作ったらもっと楽しい(はずだ)」
 「ロボットコンテストは勝ち負けじゃない。いかに自分が作りたいロボットを作って自分が楽しめるかだ!」

 ……というものであるように思われます。
 で、この3つのコンセプトの内、最初の2つは“いかにも少年マンガ”という感じで良いのですが、最後の1つはどうなんでしょう? 
 よくスポーツ物で「勝利至上主義VS楽しめりゃ良い派」の内部抗争があったりしますが、必ずと言っていいほど前者が勝ちますよね。これは、「勝ち負けという客観的基準を基本にしないと話が描けない」…という大人の事情は勿論の事、「楽しめりゃ良い」っていう考え方は、心のどこかで“逃げ”に走っているからダメ…という要素が含まれているはずなんです。
 まぁ、この作品の主役たちがそういった“ダメ部員的逃げ”に走っているわけじゃないのは分かるんですが、果たしてそういうコンセプトでエンタテインメントが成立するのか…という事を考えると、やはり疑問符が付きます。どうも自分で墓穴掘っちゃったかなぁ……というのが正直なところですね。
 結局の所この作品は、主人公たちが「楽しい」と思える事を、そのまま読者も「楽しい」と思えるかどうかが今後のカギになって来るでしょう。実際、ネット界隈の評判を聞いていると、「ロボット作りが楽しそう」と思えた人からは高い評価が、そうじゃない人からは低い評価が出ているようではありますし……。

 あと、第1回で見られたような大きな矛盾点などは、第2回以降では見受けられませんでした。ただ駒木は、第1話の前半であれほどロボット作りが下手だった主人公が、第2話以降では立て板に水の如く、ロボットに関する知識とノウハウをベラベラと語っている事に未だにシックリ来ないんですれどもね(苦笑)。

 評価はまだ未知数の要素が多いながらも、今後において失敗する可能性が高い…ということでB−という事にしておきましょう。

 
◆「サンデー」今週のチェックポイント◆
 

 巻末コメントのテーマは、「重要視しているイベント」。誰一人として、「嫁さん(彼氏・彼女)の誕生日」という言葉が出て来ないあたり、皆さん不器用な人生を過ごされているようで(苦笑)。
 ちなみに駒木は「年末のタモリが出演する『徹子の部屋』」ですか。いや、本当は言いたいんですよ「彼女の誕生日」とか。しかし世の中には「無い袖は振れない」という言葉が御座いまして(嗚咽)。

 ◎『うえきの法則』作画:福地翼【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 運試しで2次予選って、ウルトラクイズかい(笑)。
 まぁ、こういう場合はトンデモな敗者復活戦があったりするんでしょうけどね。
 もし、これで「2次予選敗退で確定→打ち切り」だったらマンガ史上に残る大傑作(別の意味で)になるわけですが……。

 …………………………

 ……ひょっとしたら!?(ねぇよ)

 ◎『俺様は?』作画:杉本ペロ【現時点での評価:B− 

 うはは、最高だ阪神君
 駒木は兵庫県人のくせに阪神ファンじゃないんですが(20年来のヤクルトファン)、周囲の阪神ファンは皆さん本当に疑心暗鬼ですからねぇ。
 だって、早くもマジック出てるこの状況で、6対0で勝ってたのを6対2にされただけでマジギレしたりしますからね。「また点取られてるやないか!」…って風に(笑)。
 そりゃ野球なんだから点取られるよ…とか、阪神に序盤から6点取られたチームを応援してる俺はどうしたら? …とか、言いたくなるんですが、皆さん阪神君のように目が血走ってますから聞く耳が(苦笑)。

 とりあえず、阪神の選手の皆さんは、誰かお調子者が日本シリーズで三連勝しても「○○(パ・リーグ優勝チーム)はオリックスより弱い」とか言い出さないように気をつけて頑張って下さい(笑)。
 

 ◎『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫【現時点での評価:B/雑感】 

 駒木の母校は中・高ともにブレザーだったので、第二ボタン系の話には縁遠かったんですよね。だから、こういう話を見るとちょっと羨ましかったり。

 ところで、ここ数週間「すわ、次号で最終回?」と言いたくなるような“引き”のこの作品ですが、果たしてどうなりますか……。既に“定員オーバー”の状態だけに、そろそろ危ういと思ってるんですけどね。


 ……というわけで、今週分のゼミでした。週末は業務を完全にストップさせてしまうので、次回の講義は週明けになります。どうぞご了承を。

 


 

2003年第45回講義
7月24日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第4週分・前半)

 もう至る所でお礼を言ってますが、こういうものは言っても言い足りない事は無いので、ここでも言っておきましょう。延べ受講者数100万人突破となりました。これまでのご愛顧に感謝いたします今後ともどうか何卒。

 ……さて、今週末も公私共にハードスケジュールのため、講義もスピード進行で参りましょう。「その割には講義が1日遅れてるじゃないかよ」ってのは、三瓶とかダンディ坂野とかに「あなたの将来の展望は?」という質問をするくらい禁句です。

 まずは「週刊少年ジャンプ」の情報系の話題から。読み切りについては既に前回の講義で述べていますので、今日は34号で発表になった「ジャンプ漫画アイディア杯」の審査結果を紹介します。

第1回 ジャンプ漫画アイディア杯

※原作部門(応募総数945編)
 特別賞=1編
  ・『Z×2』
  竹田雄介(28歳・埼玉)
 最終候補(選外佳作)=5編
  ・『ゴールデン・オーキッド』
   藍住流(24歳・大阪)
  ・『乙女野高校ライディングチーム』
   小鳥遊恵(33歳・東京)
  ・『鉄腕ピエロ』
   江黒祐樹(20歳・神奈川)
  ・『小天狗ジョッキー』
   樋口明日人(38歳・埼玉)
  ・『GRACE OF ECARG』
   藤田明日(35歳・静岡)

※アイディア部門(応募総数324通)
 =最終候補作該当無し

 ……というわけで、今回は膨大な応募数に恵まれながらも、佳作以上の入賞作ゼロという非常に厳しい結果になりました。

 これは恐らく、応募者の大半が「絵が描けなくても気軽に応募できるマンガ賞」と考えていたのに対し、編集部側は「プロのマンガ家を凌ぐ知識・ストーリーテリング力を持つ即戦力を発掘するための賞」と考えていた…という認識のミスマッチのために起こった現象でしょうね。その結果、プロ意識に欠ける応募者の群れが死屍累々の山を築いたと。
 前にも言ったかも知れませんが、漫画原作者ってのは、少なくとも“ストーリー作りが上手くないプロ作家”以上の力量が求められるわけで、実はマンガ家になるよりハードルは高いんですよね。語弊がある言い方かも知れませんが、ちょっとしたライトノベル作家になるよりも難しいんじゃないかと思います(漫画原作者はマンガ家以上の才能を求められるが、ライトノベル作家はマンガ家並みのストーリーテリング力でも一応は勝負できるので)。
 今後はその辺が物書き志望の人たちに浸透しないと、ちょっとこの手の新人賞はいくらやっても上手くいかないでしょうね。

 
 ……さて、それではレビューへ参りましょう。今日のレビュー対象作は読み切り1本のみです。チェックポイントと続けてどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年34号☆

 ◎読み切り『Continue』作画:星野桂

 延々と続きます、「ジャンプ」の若手・新人育成シリーズ。今週は新人・星野桂さんの登場です。
 星野さんは受賞歴等が無いまま(本誌のカット描きなどはやっていたみたいですが)、今年の「赤マルジャンプ」冬号でデビュー今回がプロ2作目ということになります。
 ただ、後でも述べますが、キャリアに似合わない画力を持った人ですから、アマチュア実績かアシスタント経験があるのは間違いないところでしょう。何か情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、どうか駒木まで宜しく。

 ……というわけで、内容の方へ。

 まず、ついさっきにも言及したについてですが、これはデビュー2作目の新人さん…というのを抜きにしても立派なものです。前作に比べれば絵柄も少年マンガ対応に変わりつつありますし、これでもう少し線にメリハリがつけばもっと良くなるでしょう。
 ただ、正直言って“頑張り過ぎ”的な演出過多の嫌いがあるのも否めません。藤崎竜さんを思わせる手の込んだ背景処理や、トリッキーなコマ割りは確かに技術を感じさせてはくれます。しかし、それが作品の良さを引き出す方に作用しておらず、逆に読者が作品世界に没頭するのを妨げる読み辛さに繋がってしまったのは非常に残念でした。これを小説で言うならば、韻を踏んだり1行ごとの字数を揃える方に神経が行き過ぎて、肝心の叙述や描写が読み辛くなっているような感じでしょうか。
 要は、星野さんが欲張り過ぎなわけですね。自分が身に付けた技術を全て作品で吐き出さないと気が済まないんでしょう。その意気込みは買えるのですが、これがイラスト集ではなくてマンガである以上は、不必要なモノは削るのが常道と言うものでしょう。

 一方、ストーリー&設定の方は、まだまだ発展途上という感じだと思います。

 この作品は「空想(ゲーム)上の死と現実の死は違うんだよ」…という、シビアかつデリケートなテーマの上に乗っかっていますが、そのテーマそのものが上手く描き切れていないために、ストーリー全体の説得力が無くなってしまいました
 では何故、そうなってしまったのか? それは、現実の死を描くには、この作品の世界観とストーリーは余りにも現実離れし過ぎていたからなのです。現実の死が云々…などと言っているのが、どう考えても空想上のキャラクターだったりしますし、そもそも現実の世界なら「お化けが出る」と言っても出るわけ無いんですよね。

 あと、ストーリーの展開の仕方で言えば、次から次へと後出しジャンケンのように新しい設定が出て来て勝手に話が進んでいくパターンも頂けません。特に主人公のピンチの際に設定の後出しをして、「実はこうだったので大丈夫なんです!」…とやってしまうと、話のヤマ場がヤマ場にならないんですよね。そのため、読者が一番興奮すべきところで白けてしまう。これは非常に残念な事です。
 気付いた方もいるかも知れませんが、これは『遊☆戯☆王』のカードバトルで、毎週のようにご都合主義的にルールが追加されて優勢・劣勢が入れ替わっていたのと同じパターンです。ここで『遊☆戯☆王』の作品そのものをどうと言うつもりはありませんが、同じカードゲームを題材にした『カイジ』と比べた場合、劇中で扱われているゲームの醍醐味が、より深く描かれているのは2作品の内どちらか? ……と考えた場合、その答えは明らか過ぎるほど明らかですよね。

 まとめると、星野さんは、まだ自分の作品が不特定多数の人に読まれているという事実に対しての自覚が足りない。もっと端的に言えば、独り善がりで、客観的な視点で物を考える訓練が不足している…ということになるんでしょうね。
 それでもストーリーそのものが破綻しているわけではないですし、画力など評価すべき点も十分あります。そういった事情を総合すると、評価はB+寄りBといった辺りが妥当ではないかと思います。次回作に期待しましょう。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 今回で連載1周年。そういや、昨年連載開始の作品は、既に『いちご100%』とこの作品しか残っていないんですよねぇ。

 さて、今週で太陽スフィンクス戦が終了。ちなみに、正式なアメフトルールでは、最終クォーター終了時に同点の場合は、「オーバータイム」と呼ばれる15分の延長戦に入ります。
 ただし、この延長戦はサドンデス方式で、コイントスで先攻・後攻を決め、1点でも先に入れた方が勝ちになるというルール。タッチダウンを奪う所まで攻められなくても、フィールドゴールの3点で勝ちになってしまうので、どうしても先攻側が有利になるようです。
 とはいえ、この泥門VS太陽で考えた場合、フィールドゴールが滅多に決まらない泥門は圧倒的に不利なんですよね。延長無しの取り決めにしていた(?)のは、やっぱりヒル魔の策略だったんでしょうか(笑)。
(追記:アメフト通の受講生さんからご指摘を頂きました。オーバータイムはNFLの他は滅多に適用されない例外的なルールで、学生のアメフトでは引き分けのまま終了となります。そういや、5年ほど前の大学日本一決定戦《甲子園ボウル》で同点両校優勝があったのを思い出しました。
 駒木の頭には、「第1回のアメフトW杯で日本が延長で優勝を決めた」という記憶が強く残りすぎてまして、それが結果的にミスに繋がったみたいです。申し訳ありませんでした)

 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 受講生の方から矢のようなツッコミが入りましたね、キャプテン牛尾の「これが僕たちも初の公式戦」発言。本当なら、前年の秋季県大会から新チームになっているはずですし、春休みにも春季大会がありますので、本来ならばこれが3回目の公式戦になるわけです。
 まぁ、作品内ローカルルールという可能性もありますが、鈴木さんの普段の神経質ぶりならば、巻末コメントなどで言及があるはずですから、これはド忘れしてたんでしょうね(笑)。
 かの『ドカベン』でも、秋の国体を無視してしまっていた…という前例がありますし、この辺は結構難しい問題ではあるのですが。

 
 ──それでは、ちょっと短めですが今日の講義を終わります。週末は業務がストップしますので、出来れば明日に後半分のゼミが出来れば良いな…と思っていますが、どうなるでしょうか(苦笑)。

 


 

2003年第44回講義
 7月22日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第3週分・合同)

 受講生の皆さん、ご無沙汰&ご迷惑をおかけしました。本日から講義に関する業務を再開致します。
 さて、とりあえず今日は、先週分(「ジャンプ」&「サンデー」33号)の内容に関する情報及びレビューとチェックポイントをお送りします。先週土曜発売の「ジャンプ」34号の内容に関しては、情報の一部を除いて7月第4週分扱いにさせて頂きますので、どうぞご理解&ご了承下さい。

 
 ──それではまず、情報系の話題から。「ジャンプ」、「サンデー」共に月例新人賞の審査結果が発表になっていますので、例によって受賞者、受賞作を紹介しておきましょう。

第2回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年5月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し 
 十二傑賞=1編
 ・『HEAVY SPRAY』
(=赤マルジャンプ夏号に掲載決定)
  相模恒大(20歳・北海道)
 
《森田まさのり氏講評:スプレーペインティングという題材が新しい。見たこともない題材を扱った作品に出会うと、それだけで興味を惹かれます。ただペンキではなく、スプレーでなければならない理由があると、なおよかった》
 
《編集部講評:画力はある。ストーリーも勢いに任せて唐突になっている部分もあるが、その分テンポよくまとまっている。ラスト、スプレーで絵を描いているシーンはかっこいいのだが、完成した絵のすごさが伝わる表現に踏み込んでほしかった)
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『HAIR CUTTER 城生』
   林裕史(23歳・長野)
  ・『JIBUN』
   普津澤画乃新(18歳・秋田)
  ・『ゴーストジャッジメン』
   川島明人(19歳・神奈川)
  ・『ZINK』
   ナムさん(20歳・宮城)
  ・『BOMB BERRY』
   松長未央(20歳・北海道)

少年サンデーまんがカレッジ
(03年5月期)

 入選=該当作なし
 佳作=1編
  ・『いたって真剣!』
   直井俊樹(25歳・東京)
 努力賞=4編
  ・『美零憂』
   古谷淳(20歳・福岡)
  ・『練空師』
   吉田博(26歳・東京)
  ・『MOSO』
   中島徹(19歳・愛知)
  ・『コールとイグリス』
   渡辺義彦(21歳・千葉) 
 あと一歩で賞(選外)=該当作無し 

 今回、各賞で最終候補以上に残った皆さんの過去のキャリアについては以下の通りです。

 ◎十二傑賞受賞相模恒大さん02年6月期&03年1月期「天下一漫画賞」で最終候補。
 ◎最終候補普津澤画乃新さん00年9月期「天下一」で最終候補、01年7月期「天下一」で編集部特別賞
 
最終候補林裕史さん02年12月期「天下一」に投稿歴あり。
 
 ※この他にも過去に受賞歴等のある方がいらっしゃるかも知れません。もし情報をお持ちの方がいらっしゃるなら、談話室(BBS)やメールでお知らせ下さい。(特に最近のサンデー系新人賞は他誌出身の新人さんが多いので……)

 ところで、今回の「十二傑」は3度目の最終候補入りとなる相模恒大さんがデビュー権を獲得しました。「天下一」時代の基準なら特別賞止まりでデビューを果たせなかったでしょうから、まさに「十二傑」の狙いが形となりましたね。
 しかし、やはり「十二傑賞」受賞作の発表の場はもっぱら「赤マル」になるようですね。「赤マル」と言えば、もういい加減、盆休み前に発売される夏号のラインナップが決まってる時期でしょう。今のところ確定しているのは、「十二傑」組と『プリティフェイス』の番外編くらいだったと思いますので、残りのラインナップについても早く知りたいところですが……。
 小耳に挟んだ話だと、今回の夏号はビジュアル重視というか、比較的絵の達者な新人さんを多く起用したらしいと聞きました。絵が綺麗なだけじゃ困るんですが、絵に中身が追いついた作品ならば当然ながら期待大ですので、楽しみではありますね。

 
 ……さて、続いては新連載と読み切りの話題です。

 まずは「ジャンプ」から。新連載シリーズが一段落ついた後も、読み切りシリーズは引き続き継続中です。既に発売になった34号の『Continue』作画:星野桂)に続いて、35号でも競馬マンガ・『ボウボウHEAD☆カウボーイ』(作画:森田雅博)が掲載されます。
 作者の森田さんは、昨冬の赤マルでも競馬を題材にした『蹄鉄ジョッキーっ!』を発表しているのですが、その時は内容以前に競馬の知識不足が目立つ作品になってしまい、当ゼミでのレビューでも酷評する結果になっています。今回はその辺りがどこまで改善されているのかも含めて注目したいところです。

 そして「サンデー」では新連載の話題を。日付から言えば明日発売の34号から『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』作画:中井邦彦)が始まります。
 中井さんは江川達也氏のアシスタントを経て、01年ごろから「サンデー」系増刊号などで読み切りを数作発表。今回は増刊03年2月号に発表した同名作品の連載化ということになります。この2月号、かの当ゼミ最高評価作品・『美食王の到着』が掲載された号で、立ち読みながら繰り返し読んでたはずなんですが、恥ずかしながら記憶にありません(汗)。この度は、脳ミソの奥底から記憶を引っ張り出す作業をしながら、レビューに臨みたいと思います(苦笑)。

 
 ……それでは、レビューとチェックポイントをお届けしましょう。今回分のレビュー対象作は、「週刊少年ジャンプ」から新連載第3回の後追いレビュー1本と、読み切りレビュー2本(『ヒカルの碁』番外編は一括してレビューします)の計3本という事になります。その後、「ジャンプ」のチェックポイント、「サンデー」のチェックポイントの順でお届けすることになります。どうぞ最後まで宜しく。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年33号☆

 ◎新連載第3回『神奈川磯南風天組』作画:かずはじめ【第1回時点での評価:B+

 「ジャンプ」の大規模新連載シリーズのレビューも、今回でいよいよ最後となりました。『神奈川磯南風天組』の第3回後追いレビューです。

 さてこの作品、第1回の時点では「問題点は残されているものの、絵柄やネーム、作品を描くにあたっての姿勢などに評価できる点が多い」…として暫定評価B+としました。が、そこから2回分の展開を見る限りでは、ネガティブな要素ばかりが膨らんでいっている感が否めません。

 まず、主役格のワル2人(天堂寺&風間)のキャラ作りに成功していないところが気になります。前回のレビューでも述べた通り、“悪属性”のキャラクターを読者に受け入れられるようにするためには、“ただの悪人ではない魅力的な何か”を提示する必要があります。(最近の「ジャンプ」作品の中でそれを最も成功させている)『アイシールド21』のヒル魔で言えば、不言実行型の努力家である所や、心の深い部分では意外と情が深い所がそれにあたりますね。
 しかし、この作品では、1話に最低1場面は天堂寺と風間が“読者ウケ”するシーンがあるものの、取って付けたような感が否めません。「とりあえず、こうしておけば読者の心は離れないだろう」と、タカを括ってしまっている印象すらあり、違和感を強く感じてしまいます。
 また、天堂寺と風間のキャラ分けにも成功しているとは言い難いですね。現時点では、デビュー間もない頃のオセロよろしく白い黒い以外に区別する方法が無い状態で、このままでは良いストーリーを展開させようとしても上手くいかないでしょう。

 そのストーリーも、現在のところは一話完結型で進行中ですが、早くもワンパターン・マンネリの兆しが窺え、状況はあまり良いとは言えません。せめて1つ、漠然としたものでも良いですから、何か作品全体のテーマ的なモノを呈示できれば流れも変わって来ると思うのですが……。

 評価の方は下方修正してということにしましょう。ハッキリ言って現時点では失敗作の範疇に入る作品ではありますが、マンガ作りの技術はしっかりしていますので、これ以上評価を落とすわけにはいかないところです。

 
 ◎読み切り『ヒカルの碁・特別番外編』作:ほったゆみ/画:小畑健

 それでは続いて、いつの間にか当ゼミと随分関わりが深くなってしまいました(苦笑)、『ヒカルの碁』のレビューです。

 今回は番外編2本立てということで、1本目には本編の序盤に登場した、佐為(ヒカル)VSアキラの非公式対局第2戦を佐為からの視点で描いたもの2本目にはヒカルの後輩にあたる小学生院生2人を主人公にした短編と、共にサイドストーリー的な作品となりました。
 内容的には、本編では出し切れなかった細かい設定や後日談などを交えつつ、極めてオーソドックスなタイプのシナリオでアッサリとまとめた感じですね。まぁ、既に完結した作品の番外編ですから、ここで敢えて力を入れたシナリオにする必要もないでしょう。

 ただしそうは言っても、様々なシーンで施されたほったさんのストーリーテリングの技術には、やはり見逃せないものがあります。省略すべきシーンの略し方や、場面設定についても説明じゃなくてちゃんと描写になっている点など、まさにお手本。マンガ家やマンガ原作者を目指している人なら、それこそ穴が開くほど読み込むべき作品でしょう。

 そういうわけで、余り語るべき所もありませんので、もう評価に行きましょう。先に述べた通り、シナリオ自体はごくありふれた“後日談対応”のモノですが、そこに施されたほったゆみさんの技術や小畑健さんの卓越した画力の分だけ加点して、A−ということにしておきます。
 月並みな言葉ですが、お2人の次回作に期待したいところです。個人的には『哲也』みたいなバッタモンじゃない本格的な麻雀マンガを希望(笑)。でも少年誌じゃムリでしょうね。


 ◎読み切り『テラピー戦士マダムーン』作画:藤田健司

 今日のレビュー3本目は若手作家さんのギャグ読み切りです。正直、休み明けでここまでジャンルの違う作品を3つレビューするのは疲れますね(苦笑)。

 この『──マダムーン』の作者・藤田健司さんは、00年25号に『ハンター×ハンター』の代原として発表した『エゴの代償』でデビュー。その後、第54回(01年上期)赤塚賞で佳作を受賞し、その受賞作『チャタニイズム』で01年33号に“正式デビュー”を果たし、3週後の36・37合併号でも代原としてですが4コマの習作・『分割笑い』を発表しています。
 しかしその後は2年の空白があり、今回が復帰作となります。藤田さんの赤塚賞の同期には郷田こうやさんがいて、藤田さんもさぞかし忸怩たる思いだったと思いますが、こうして復帰を果たした以上は、追いつけ追い越せの精神で頑張って欲しいものですね。

 ──それでは、レビュー本題へ。

 まずですが、パッと見では汚く感じるかも知れませんが、ギャグ作家さん、それも若手としては相当高い技術水準にあるのではないでしょうか。老若男女&人間以外の描き分けもキチンと出来ていますし、細かい部分の演出なども良いです。即連載レヴェルと申し上げてよいでしょう。

 ギャグのデキ具合もかなり良いですね。一発ギャグがあったと思えば次は1〜2ページ引っ張ってオチに持っていくパターン…のように上手く緩急がついていますし、何よりも間の取り方が秀逸です。また、動的表現をフルに活かしたコマと止め絵のコマの使い分けも抜群に上手く、効果をあげています。
 惜しむらくは、マダムーン(月子ママ)が暴走し過ぎて、やや展開が強引になってしまった事。ギャグのためとは言え、「ちょっとそこでこの持って行き方は不自然じゃないかい?」…と思わせる場面がいくつかありました。

 あと、ネット界隈では他の作家さんの影響が濃いとする声も若干ありましたが(駒木も『高校アフロ田中』に雰囲気が似ていると思いました)、少なくともこの作品においては、他の作家さんの影響を受けつつも、そこから一皮剥けたオリジナルの作風になっていると思いますので、この件に関しては不問とします。

 評価はA寄りA−としておきましょう。今後の活躍に期待したい、実力派「ジャンプ」系若手ギャグ作家さんの1人だと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週は『ヒカ碁』番外編が掲載ということで、「ストーリーキング」の募集ページに、ほったゆみさんの『ネームの日々』が出張して来ました。その内容を要約すると、

 「絵はグダグダでいいから、ネーム力が判るように描きましょう。字はなるべく丁寧にすれば好感度大。某少年誌(駒木注:どう考えても某サンデーです^^;;)と違って年齢制限無いので、年イってる人も頑張って下さい」

 ……というもの。でもほったさんは応募時点でマイナーとは言えキャリア10年クラスの現役作家さんだった上に、しかも同じく現役マンガ家のダンナさんが影のスーパーバイザー役に就いていたので、普通の人とは相当事情が違うと思うんですが(笑)。
 しかし、既に諸説あるんですが、ほったさんのダンナさんって一体誰なんでしょうねぇ夫婦でマンガ家と言えば、弘兼憲史&紫門ふみ夫妻や、冨樫義博&武内直子夫妻とかが有名ですね。なんか夫婦2人とも大物ってパターンが多いですねぇ……って、そういや木ノ花さくや夫妻ってのもいましたね。これってやっぱり例が……いやいや(苦笑)

 

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−

 さて、この作品も今週からはチェックポイント枠での取り扱いという事になります。
 ストーリー面でのシリアスな話は次回以降に回しまして、いや〜、良いですねー、斗貴子さん! 奈瀬さんの御姿をもう拝めない今、もはやこの人抜きにしてどうやって「ジャンプ」を語れと言うのですか!(言い過ぎです)

 主人公をサポートする役のヒロインというだけならば、現在連載中の「ジャンプ」作品にも複数存在するんですが、この斗貴子というキャラは不思議と“女性”を感じさせるんですよね。言葉遣いも立ち振る舞いも中性的なんですけれども、全体としてみれば確かに女性なんですよ、いやホントに。
 これに関しては、物書き志望の身としても興味深いです。機会を作って、ちょっとジックリと考察してみたいですね。
 

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 いわゆる「アイシル信者」みたいに思われるのが嫌で、結構意識的にチェックポイントで扱う間隔を開けていたんですが、2ヶ月も開いてたとは気付きませんでした(苦笑)。

 で、いつの間にか太陽スフィンクス戦が大詰めになってるわけですが(笑)、今回出て来た“デビルバッツダイブ”、あれはセンターからボールを受け取ったクォーターバックが直接ダイビングするケースも多いんですよね。
 まぁ今回の場合は、試合の流れ上、助走して来たランニングバックが飛び込んだ方が良かったんですが、次の試合辺りではヒル魔の特攻ダイブってのも見てみたいところ。ランニングバック、ワイドレシーバー、ラインズマンと来たんで、そろそろクォーターバックにスポット当たる試合が描かれる頃合でしょうしね。

 ◎『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 前にも言ったかも知れませんが、久保さんはやっぱりネームの力がありますよね。脚本を書く力があると言いいますか。
 今回の、ルキアの本心を山田花太郎(←この名前だけは何とかしてくれ^^;;)を介して一護に伝えるシーンは特にお見事。ネット界隈では色々あって評判の悪い人ですが、才能はキチンと評価すべきなんではないかと思いますね。

☆「週刊少年サンデー」2003年33号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「本気でやるほどでもないが、プチチャレンジしたいこと」。微妙な質問ですなー。真面目に答えたら、モリタイシさんのように「何事も本気でしたいので、そのような事はありません」になっちゃうんですが。
 ……あ、ちょっと待てよ。高校時代にちょっとカジって挫折というか、放置したままのギターがあったな。ええ、何曲か弾き語り出来て、「駒木君、ギター上手!」と言ってもらえるくらいになるまでプチチャレンジしたいです(笑)。

 ◎『金色のガッシュ!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 う〜む、師匠譲りの見事な後付け炸裂ですね!(決め打ち)
 しかし、サンビームって人は良く出来た人ですなぁ。まぁ、それくらい出来た人じゃないとウマゴンのパートナーは務まらないでしょうけど。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のテーマ、物凄く心に突き刺さったんですが(苦笑)。だってホラ、心にウソ設定でも作らなきゃ、1年以上も他の全てをそっちのけで、しかも給料無しで毎日講義実施なんてやってられませんよ、ぶっちゃけた話(笑)。
 あと、競馬ファンには、「俺の予想は間違っちゃいない。俺の描いた理想的なシナリオを騎手と馬が守らなかっただけなんだ」…というウソ設定は欠かせませんよね。

 しかし、ダメなマンガ家とダメな編集者の打ち合わせは笑いました。『エンカウンター』とか『サイレントナイト翔』とかの打ち合わせシーンもこんな感じだったんでしょうか。車田正美氏が編集者と使い途の無いダメ設定をファミレスで打ち合わせているシーンなんか、想像するだけで笑い泣きできそうです。


 ……というわけで、今回はこれまで。事情があったとは言え、講義の間隔開けると辛くなりますね(苦笑)。

 次回講義は明日か明後日の予定です。では。

 


 

2003年第43回講義
7月12日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第2週分・後半)

 この中で、「林田桃里」みたいな事をした経験のある人、手を挙げて!(挨拶)

 ……どうも。その上、その語呂が悪い事に随分とヘコんだ経験がある駒木ハヤトです(笑)。まぁ、若さゆえの過ちは認めたくないものですよね。

 ──さて、今日は情報系の話題もありませんので、挨拶もそこそこに早速レビューとチェックポイントをお送りしたいと思います。
 レビュー対象作は、新連載作品の1本のみ。ちょっと寂しい内容になりますが、採用試験シーズンゆえ、どうかご容赦を。

 
☆「週刊少年サンデー」2003年32号☆

 ◎新連載『ロボットボーイズ』作:七月鏡一/画:上川敦志

 今年の「サンデー」は新連載が少ないと思っていましたが、調べてみたところこれが今年3作目の新連載ということに。しかもその内1本は、同一作者の作品入れ替え(『俺様は?』)ですので、実質的には『売ったれ ダイキチ!』とこの作品の2つだけになっちゃうんですね。
 最近の「サンデー」は粒揃いで読み応えがある割に、“一見さんお断り”的雰囲気が感じられるように思っていたのですが、どうやら原因はその辺にもありそうですね。まぁこればっかりは一概に良い悪いが言えないんですけれども。

 ところで、先週の情報コーナーで「作画担当の上川敦志さんは、新人女流作家の上川敦子さんと同一人物ではないか?」…などと言ったのですが、調査の結果、やはり同一人物だということが判りました。「女の人にロボット物が描けるの?」という先入観を持たれる事を予防するためらしいです。
 女流作家さんが男性名を使ったり中性的(男女どっちでも取れるような)ペンネームを使ったりする事はよくありますが、そこまで気を遣って女性である事を隠す必要なんてないと思うんですけどねぇ。別にジェンダーフリーがどうこうってわけじゃないですが、そこまで意識してマンガ読むような人なら、逆にちゃんと内容で判断してくれるような気がするんですが。
 あ、ちなみに現在の「サンデー」連載陣の中には、まだもう1人、男の名前を使った女流作家さんがいるそうです。(こちらは姓名判断でそうしたとのこと)

 作者のお2人のプロフィールについては、時間の関係上、ここでは割愛させて頂きます。「サンデーまんが家BACKSTAGE」のそれぞれのコンテンツ七月鏡一さん上川敦志さんに詳しく載ってますので、そちらを参照して下さい。

 ──さて余談はこれくらいにして、第1話の内容について述べていきましょう。

 まずから。基本的には不快感の少ない絵柄で良いんじゃないかと思います。ただ、いかにも「サンデー」にありがちな絵柄な上に、メインキャラクター3人の顔がほとんど同じ輪郭をしているため、どうしても没個性な印象を抱いてしまいましたね。あと、カラーの色塗りやロボットのデザインなどにも若干の課題が残っていそうです。この辺りはキャリアの浅さでしょうね。
 
 しかし、最近の「サンデー」のマンガは“笑顔の似合う可愛い系の少年”が主役の作品が多いですよねぇ。ここまで同じ系統のモノが続いたら、間違いなく編集方針としてそうやってると見て良いと思うんですが、これもあんまり続け過ぎるとパッと見の時点で飽きられてマイナスに働くような気も……。

 次にストーリー&設定に関してですが、これはちょっと“スタートライン”を後ろに置きすぎて失敗したような感が否めません。
 恵まれない環境、知り合いはいるものの孤立した状況で奮闘する、まだ力不足ながらも情熱だけは誰にも負けない主人公。そこから努力と友情で一歩一歩前進してゆき、最後には勝利を獲得する……。
 この図式は、確かに少年マンガのセオリー中のセオリーですよね。努力、友情、勝利ってヤツです。しかし、この作品の場合は、ちょっとそれが極端に行き過ぎのような気がします。

 例えば主人公の置かれている環境でお話をしましょうか。この主人公が通う学校は、奇しくも『MAJOR』聖秀学園とよく似ています。女子高から共学に変わった直後で男子生徒は望み薄な連中ばかり……。それでも『MAJOR』では、主人公が天才プレイヤーで、他の野球部員にも野球経験者や運動センスのある人間が何人もいたので何とかストーリーが成立する所まで頑張れたわけです。(それでも県大会ベスト8が限界でした)
 ですが、この作品の場合は、主人公はそれ以上に過酷な状況に置かれています。頭脳が命のロボット物にも関わらず、生徒はスポーツだけ万能の女子と落ちこぼれ・無気力の男子ばかり。更には主人公も天才と言うには程遠い“下手の横好き”止まり。いくらなんでもこれは“遠すぎ”なのではないかと心配してしまいます。何と言うか、近所の勇者と縁も所縁も無い少年が王様に呼ばれ、「金と最低限の装備やるから、友達誘って一緒に魔王倒してくれ」と頼まれるRPG状態なんですよね(苦笑)。
 ……で、大事なのはここからご都合主義や強引な展開も無しで、果たしてハッピーエンドに持ち込めるのかどうか。また、そこまで行く前に読者に飽きられないかどうか。しかしこの辺は極めて微妙だと思います。どうせ高専ロボコン映画との連動企画なんだから、思い切って高専ロボコンの話にしちゃった方が絶対に良かったと思うんですが……。何しろ高専ですから劇中時間で5年引っ張れます(笑)。

 あ、強引な展開と言えば、この第1話でも早速出てきちゃってますね。自分が作った二足歩行ロボットがマトモに進めないのを知ってるはずなのに、「これならどんな相手も目じゃねぇぜ!」と、何故か自信満々でロボット競技大会に出して当然のように敗北、しかもその後にたった3歩歩いただけで大喜び──というクダリ。熱血のように見えて、実はただのアホ丸出しな主人公が誕生しちゃってます(笑)。しかも脇役が、そこでそんなアホに「カッコいい」と(苦笑)。このツッコミ不在の様相はちょっと酷いですよ。
 ……まぁこのポイントで一番タチが悪いのは、作者サイドがこれで辻褄が合っていると思ってしまっている事でしょうね。こんな感じで話を進められたら前途多難としか言いようがありません。

 というわけで、暫定評価C寄りB−と辛めの採点をしておきます。題材そのものは斬新なだけに、勿体無いと思うんですが、このままいくと間違いなく失敗作になってしまうでしょうね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「どんな動物をペットに飼ってみたいですか?」犬・猫派と、固有名詞派と、キワモノ派に分かれてしまった感がありますね。しかし毛ガニって、それは養殖と言いませんか?(笑)。
 駒木は茶色のトラ猫さいえ入れば何も言う事はございません。そうです、数がたくさんいるからという理由で『子猫物語』の主役に抜擢された茶色のトラ猫です。
 ……ちなみに、何故ゆえ数がたくさんいた方が良かったのかは、近くの物知りな人に訊くか、当講座01年12月27日付の講義レジュメを読んで察して下さい。ちなみに知ってショックを受けても責任は負いませんのでどうか何卒。

 ◎『MAJOR』作画:満田拓也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ……というわけで、“勝負に勝って試合に負けた”的なサヨナラボーク決着となりました。まぁ一応は納まるところに納まったって感じでしょうか。
 で、吾郎は日本プロ球界も大学野球も拒否と言う事で、これはほぼ間違いなく単身メジャー挑戦なんでしょうね。いやー、やっと本編突入ですか!(笑) プロローグに8年半かけるとは、『アストロ球団』も真っ青ですね。
 ──とか言って、これでいきなりエピローグに入ったらどうしましょうか。また有り得そうですし(苦笑)。

 ◎『KATSU!』作画:あだち充【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ……な、何をいきなりセブンセンシズに目覚めちゃってるんだ、この妹は!(笑) プロフィールには「オッチョコチョイな小学生」とありますが、全く別人ですがな。レビュー対象作だったら酷評する所なんですが……。
 それにしても一番可哀想なのは、高速フォークを股間でキャッチしながら誰にも相手にして貰えないキャッチャー君でしょうね(苦笑)。女性受講生の皆さんには分かりようが無いですが、下からタマを突き上げられると痛さを通り越して気分悪くなりますからねぇ。宅八郎に顔中舐められるくらい気分悪くなりますんで、女性の方はそれでご想像を。


 ◎『天使な小生意気』作画:西森博之【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 やはり、究極の選択で欲張りであってこそ主人公と言うわけで。ゲンゾー君お見事でした。
 しかしこのマンガ、どのキャラクターも必要以上にカッコいいんですよねぇ。カッコつけるのもトコトンやればサマになって来ちゃうモンでして。そう言えば、故・山際淳司さんが描いた小説もそんな感じでしたね。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 モリさんの凄いところは、男女を問わずキャラクターの行動がとてもリアルに描けてる所なんですよね。
 講義冒頭で挙げた落書きにしても、桃里の行動パターン(真っ先に親友の女の子へ/次にはちょっと気になる男の子へ行くけど、必要以上に気を遣ってかえって疎遠っぽい/普通に付き合えるけどちょっと苦手なヤツは少考してとりあえずパス/恋愛対象外の男の子には全く意識しないままで結構馴れ馴れしかったりする)にしても、よく人間観察出来てるよなぁ…と素直に感心したりします。
 何でもこの作品は、連載当初の人気低迷を乗り越えて、今やアンケートは上位の常連組だそうで。こういうさりげない描写が出来ているからこそ、ジワジワと人気が上がって来たりするんでしょうね。


 ……時間の都合で端折りましたが、今週は他にも結構見所が一杯ありました。男の中の男ならぬ、悪の中の悪ことフェイスレス指令とか、駒木にとっては電話投票の通帳残高がエンジェルズシェアだとか。ホント、昔からの読者は楽しめる作りになってるんですけどねぇ。これからの「サンデー」、いったいどうしたもんでしょう。

 あ、来週のゼミは週の後半に合同版をお送りする予定です。採用試験直前ですので、どうかご了承を。ではでは。

 


 

2003年第42回講義
7月9日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第2週分・前半)

 「矢吹先生取材のため休載」の「取材」とは、やっぱり『マトリックス・リローテッド』を観に行くことなんでしょうか?(挨拶)

 ──しかし、「いくら自分が嫌いな作品でも、たびたび批判めいた事を言うのは控える」というのが当ゼミの方針とは言え、この度の「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の告知ページ色々な意味でガマンの限界を越えています(失笑)。特に「教えて! 矢吹先生!」のコーナーなんて、編集者が悪意を持って矢吹氏の能力の底の浅さを暴露するように誘導しているとしか思えないですからねぇ……。
 (キャラクターの造形をデザインする時のこだわりとして)他のキャラクターと同じ顔にならないように、ワンポイント(アクセント)を他のキャラと重ならないように入れるなどの工夫を考えます」
 …って、お前それはこだわりじゃなくて、仕方なく似た顔のキャラを描く時の誤魔化し方だろ! とか、
 (キャラクターの服装は)ファッション誌を参考にしたり、色々なデザインの資料を見ます」
 …って、お前服装までパクってんのかい! とか。(まぁ、完全オリジナルでコスチューム考える作家さんはさすがに稀でしょうが)もう爆笑オンエアバトルで500キロバトル狙えそうなネタのオンパレードですよ(笑)。

 それにしても、ここまでの3回は実力派の作家さんを審査員に選んでいたのにどうしてここに来て……いや、別にこの人じゃダメだとイッテルンジャアリマセンヨ(後半棒読み)。
 まぁ、今年に入ってから武井宏之さん、岸本斉史さんといったところが既に審査員を務めていますから、今回はローテーションの谷間になっちゃったんでしょうかね。でも、それならそれで稲垣理一郎さんを持ってくるとか、他の手段は色々あったように思えるんですけどねぇ。
 この感じで行くと、来月は和月伸宏さんあたりですかね。応募者へのアドバイスに「連載するなら西部劇は止めた方が良いです」、又は「読者は既に美形キャラには飽きているみたいです」…などといったマジ回答が掲載される事を期待しましょう。

 ……というわけで、いつになく毒舌モードで始まった今週のゼミですが(笑)、早速情報系の話題に参りましょう。

 創刊35周年企画で攻めまくる「週刊少年ジャンプ」、来週はファン待望の『ヒカルの碁・番外編』作:ほったゆみ/画:小畑健)が登場します。しかも2本立て・計53ページという豪華版です。
 今回は“完結編”でなく“番外編”と言う事で、これは「もう『ヒカ碁』は終わっているんですよ」という作者側のメッセージが含まれているような気がします。(こんな事を言うと、また何か変な反応がありそうなんですが^^;;)まぁ、深い事は考えずに、とにかく作品を楽しむ事に専念した方が良いんでしょうね。勿論、来週のレビューでこの作品は採り上げる予定です。

 来週号では読み切りが更にもう1本。若手ギャグ作家・藤田健司さん『テラピー戦士マダムーン』が登場します。藤田さんは3年前の赤塚賞佳作受賞者で、既に本誌デビューも果たしていましたが、今回は久々の登場となります。
 35ページと、ギャグ作品にしては長い部類に入る読み切りになりますが、果たして内容はどうでしょうか。こちらも来週のゼミのレビュー対象作となります。どうぞお楽しみに。


 ……それでは、レビューとチェックポイントへ行きましょう。今日のレビュー対象作は、新連載第3回の後追いレビューが1本と、読み切り(連載作品の特別編)1本の計2本となります。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年32号☆

 ◎新連載第3回『武装錬金』作画:和月伸宏【第1回時点での評価:A−

 それではまずは、気分良くレビュー出来る方からやりましょう(笑)。いつの間にかネット界隈では「今回の新連載4本の中では一番の有望株」という声が多数意見になりつつある、『武装錬金』の後追いレビューです。

 ……さて、第1回掲載時のレビューで駒木は、「この作品はマズマズの好スタートを切った」…という論調で締め括りました。キャラクターなどの設定面は非常に優れているものの、シナリオの細かい部分や演出面に若干の不安を感じたために、そうしたわけです。
 しかし、それからこの作品の各要素をデジタルに分解・分析してゆくうち、
 「ひょっとしたらこの作品はとんでもない可能性を秘めているのではないだろうか──?」
 ……と、思えるようになって来ました。

 確かに、第1回のレビュー時に指摘した幾つかの不安は未だに解消されていません。シナリオの進行も、プロローグを終え、序章が始まったばかりという段階では未知数の要素が多いでしょう。
 が、この『武装錬金』に関しては、今後紡がれてゆくであろうシナリオを周りから支える部分──即ち、舞台装置となる世界観や、キャラクターの設定とその配置──のことごとくが、現時点でほぼパーフェクトに組み上がっていているのです。要するに、この作品は既に「このままキャラクターを自然に、正確に動かしてゆけば、ほぼ自動的に傑作が出来上がっていく状態」にあるというわけで、パチスロで言うところの「フラグが立った」状態と言えます。ほとんどの方は「そりゃ言い過ぎだ」とおっしゃるでしょうが、この作品は日本マンガ史上に残る名作になる可能性を秘めているとさえ言える大変な“ダイヤの原石”だと、駒木は確信しています。

 ──と、ここまでベタ誉めして来ましたが、それでもまだ、この作品が名作となるために越えなければならない大きなハードルがあると思っています。先に「このままキャラクターを自然に、正確に動かしてゆけば、ほぼ自動的に傑作が出来上がっていく状態にある」と言いましたが、その「自然に、正確に動かしてゆけば」という条件を満たすために色々な問題点が残っているというわけです。
 そして悲しい事に、この“ダイヤの原石”はこれらの障害の前に原石のまま終わってしまう可能性の方が高いような気もしています(苦笑)。

 ──そのハードルのまず1つ目は、「週刊少年マンガ誌の限界」す。
 週刊ペースでハイクオリティなシナリオを展開させ続けてゆくのは、いくら経験豊富な和月さんと言えども至難の業でしょうし、それ以前に“少年マンガ”というジャンルには表現面での制約がついて回ります。それが理由でシナリオ展開の不自然さが出てしまった場合、この作品が本来持っている可能性は損なわれてしまう事でしょう。

 そして2つ目のハードルが「ジャンプシステムによる弊害」です。
 これはもう多言は無用でしょう。作家主導による“円満終了”が極めて難しい条件の中で、名作となるに相応しいエンディングに到達出来るかどうかは微妙と言わざるを得ません。

 ……以上のようにこの『武装錬金』は、非常に大きな可能性を秘めていながらも、最終的には可能性だけで終わらせてしまいそうなネガティブな外的要因を多く抱えた、大変に扱いの難しい作品であると言えます。
 正直な所、この題材は少年マンガではなくて、別の媒体でやって欲しいんですよね。ライトノベルとか、アニメとか。特に、『月姫』、『空の境界』の奈須きのこさんが小説版(又はビジュアルノベル版)『武装錬金』を書いたりなんかしたら、ゾクゾクするような大傑作に仕上がると思うんですが……。

 まぁとりあえずは“ストーリーテラー”和月さんのお手並み拝見といったところでしょうか。少なくとも、短期の打ち切りは無さそうな情勢ですので、ここは自信を持って頑張ってもらいたいと思います。
 評価はA寄りA−に少しだけ上方修正。今後のシナリオによっては更に上方修正する事も考えます。

 ◎読み切り『テニスの王子様 特別編・サムライの詩』作画:許斐剛

 今週の巻頭カラーになったのがこれです。「第0話」ということで、リョーマの父親・南次郎の青春時代を描いた、まさに特別編というような作品でした。

 で、その内容ですが、ファンの皆さんには申し訳ないんですが、端的に申し上げて「許斐剛という作家のポテンシャルを遺憾なく発揮した駄作と言うべき、ハッタリだけで後は何にも無い、文字通り“お話にならないお話”でした。

 シナリオの大筋自体は「ジャンプ」によくある、主人公が悪役らしい悪役を倒す“勧善懲悪シナリオ”で、まぁ一応は起承転結が成立してはいます。ただし、そのシナリオを成立させるために、全編に渡って非現実的な設定や無理のあるストーリー展開をやっているがために、最終的には極めて陳腐なB級・C級ドラマになってしまった感が有ります。

 何しろ、書類登録だけでプロになれるテニスの世界なのに、「プロになるためにアメリカに来る」とか、練習もしないのにテニスクラブに所属して揉め事起こすとか、まずその時点で有り得ません。(「そこをネタとして読む」というスタイルもありますが、当ゼミではNGです)
 他にも、あんな人格無茶苦茶なコーチのテニスクラブがどうして流行ってるんだ…とか、南次郎も10いくつもトーナメントを連勝して、しかも世界ランク1位のプレイヤーが出る位の大会で優勝してるのに、何故に1日経っても誰も知らないんだ…とか、普通の神経を持った作家さんなら「ここの矛盾点をどう解消しようか?」…と頭を悩ませる所を全部スルーしちゃってるんです許斐さん。
 
 この作品、色々な意味で罪深いですね。「ヒット作家になってしまったら、こんな作品描いても誰も文句言わないんだ」とか、「こんな作品描ける人でも億万長者になれちゃうんだ」とか、良からぬ事がどうしても頭を掠めてしまいます。
 評価はどうしようかと思ったんですが、これが新人作家さんの作品なら多分こうするだろう…ということで、Cとします。せめて、許斐さん本人が、この作品の出来を不本意だと思っている事を祈りたいです。

 
◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントでは、鈴木信也さんが2度目の病気休載のお詫びと「プロ野球&高校野球取材するぞ」宣言。しかし、『ミスフル』って、現実の野球を取材しても何ら参考にならない気がするんですが。

 ◎『シャーマンキング』作画:武井宏之【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 主要キャラ全員死亡で逆に緊迫感が無くなると言う、「ジャンプ」ならではの展開ですね(苦笑)。しかも新展開で直近の打ち切りが無くなったと読めるので余計に安心感が増してしまうと言うこの矛盾(笑)。
 しかし、もう何ヶ月も前に出たか分からないヤラレ役持って来られても、そんなの単行本買ってない人間には判別つかないので勘弁して欲しいですね。最近、読者がみんな単行本買ってるのを前提にしているような話作りをしている作家さんが多くて、ちょっと閉口します。

 ◎『ごっちゃんです!!』作画:つの丸現時点での評価:保留

 怖い先輩というのはこういうオチでしたか。でも、それだと細かい矛盾点がいくつか出るような……?
 この時点で全く相撲マンガになってないというのも含めて段々不安になって来ましたねぇ……。

 
 ◎『キックス メガミックス』作画:吉川雅之現時点での評価:C

 当講座の談話室(BBS)でテコンドーに詳しい方から話を聞いた後に今回を読むと、いかにこの作品のシナリオ展開が矛盾だらけか分かりますよね(苦笑)。
 談話室をチェックしていない方のために言っておきますと、いきなりカカト落としやサンドバッグを吹き飛ばすくらいの回し蹴りが出来るような人は、わざわざテコンドー習わなくても十分過ぎるくらい強いテコンドー選手になれるそうです(笑)。


 ……ん〜、ちょっと今日は論調がキツめになり過ぎましたかね(^^;;)。
 ちなみに来週はレビュー対象作3本という過密スケジュールなんですが、採用試験の勉強とかもあって、正直予定通り実施出来るか自信がありません。大幅な講義遅延も覚悟しておいて下さい。
 あ、今週の後半分は予定通り金曜頃に実施予定です。ではでは。

 


 

2003年第40回講義
7月4日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第5週/7月第1週分・後半)

 今月は採用試験の勉強と社会学講座の両立を目指してたんですが、早くも共倒れの様相(^^;;)。申し訳ないんですが、採用試験の方をコケさすわけにいきませんので、まだしばらくはマンガ時評オンリーのカリキュラムになります。どうかご容赦を。

 ──さて、それでは取り急ぎ今日も情報系の話題から。まずは来週から始まる「サンデー」の新連載についてのお知らせです。

 次号32号から、『ロボットボーイズ』作:七月鏡一/画:上川敦志)が始まります。まだ次週予告の紹介記事しか判断材料が無いのですが、何だかNHKのロボットコンテスト・高専大会を少年マンガにアレンジしたような作品という感じがします。
 原作担当の七月鏡一さんと言えば、現在「週刊ヤングサンデー」で連載中の『闇のイージス』の原作をはじめ、「少年サンデー」でも『ARMS』作画:皆川亮二の原案協力などを担当していた事でお馴染みの、ベテラン原作者さん。つい最近も『D−LIVE』海上自衛隊・潜水艦編のシナリオを担当されていたのを覚えている方も多いでしょう。
 一方の作画担当は、これが初めての本誌登場となる新人の上川敦志さん。ただこの方、ペンネームで検索してみても全く記事が出て来ないので、ひょっとしたら直前まで別ペンネームを使っていたのかも知れません。昨年の増刊のラインナップに“上川敦子”さんがおり、ひょっとすると、この人が女流作家である事を隠すために(少年マンガ界ではよくある事です)、名前を変えたのかも知れません。これについては来週までに調べておきますね。
 しかし、いきなりこんな抜擢なんて、これまで本誌に読み切り載せたり、増刊で連載してた新人・若手の皆さんの立場は一体……。


 ……それでは、次はレビューへ。今日のレビュー対象作は読み切り1本だけになります。チェックポイントと一緒にどうぞ。

☆「週刊少年サンデー」2003年31号☆

 ◎読み切り『ゴッドルーキー』作画:宇佐美道子

 「サンデー」2週連続の読み切りは、先日発表になった第52回(03年上期)「小学館コミック大賞・少年部門」の大賞受賞作・『ゴッドルーキー』です。作者の宇佐美道子さんは、現在武村勇治さんの下でアシスタント修行中の新人さんとの事。どうやらこれがデビュー作となるようです。
 先週も言いましたが、「サンデー」で増刊掲載を経ずに一足飛びで本誌デビューを果たすのは異例の事です。なので、掲載位置が巻末の“打ち切りウェーティングサークル”になってしまったのも仕方ない話なんでしょうかね(笑)。

 では、本題へ。まずですが、色々なタイプのキャラクターを描き分け、背景処理も手馴れているなど、基礎的能力と意欲は十分に窺える出来になっています。細部の描写などに若干改善するべき余地はありますが、この作品が新人賞への応募原稿である事を考えると、逆にこれくらいの方が「まだ上達の余地が有り、近い将来が楽しみ」…などと高い評価を受けたりするのかも知れませんね。
 ただ、このレビューでは“現時点の能力がプロとしてどの位のレヴェルに達しているか”というのが基準ですから、いくら新人さんの習作原稿とは言え、それなりの評価に留めなくてはならないでしょう。

 次にストーリー&設定。まず一通り読んでみて感じた第一印象は、「読後感の良さだけは損ねないようにして、あとの削れる所は全部削ったな」……というものでした。
 死後の世界の設定描写や主人公の心理描写といった、作品全体の要というべき部分に多くページを割いた一方で、ストーリー全体のボリュームはかなり抑え気味になってしまっています。特に、いわゆる起承転結の“承”の部分がギリギリまで削られており、人によっては「あれ、この話もう終わりなの?」…という感想を抱かせてしまうかも知れません。審査員の講評の中に「話が平板」というものがありましたが、それは恐らく、こういう部分を端的に表現したものだったのでしょう。

 この作品、確かにエピソード全体のまとまりは良く、雑誌に載っている10数作品の中のワンオブゼムとして読んだとすれば、極めて好感度の高い作品ではあると思います。そして、そういうマネが出来るという事は、宇佐美さんは“読者の求めているものを描く”という、商業作家にとってかけがえの無いセンスを備えていると言えるでしょう。
 ただし、この作品はストーリーの醍醐味というべき部分を大きく省略してしまっており、言わば“風呂敷を畳みやすいようにちょっとだけ広げて、そうして綺麗に畳んで見せただけの作品”…と言えなくもありません。細部まで目を通せばディティールに不自然な面がいくつも浮かび上がってきますし(講評の「不良の主人公が何故地獄じゃなくて天国に来たのか説明が無い」というのもその1つです)、ストーリーテリングのテクニックの面で言えば、まだ課題が残っていると言わざるを得ません。

 ……と、長所・短所が出揃ったところで最終評価ですが、まだ未熟な面は残っているものの、確かなセンスも感じられるという事で、B+としたいと思います。
 ただ、現状の力で連載を立ち上げた場合は、ストーリーテリング力の不足から、さほどしない内に破綻を来たす可能性の方が高いと思われます。せっかく「サンデー」には増刊での月刊連載というシステムがあるのですから、こういうタイプの人こそジックリと育てる必要があるのではないかと申し上げておきます。

 ところで、この「コミック大賞」では、一昨年まで“大賞”以上の受賞作は皆無に等しかったのですが、どうも昨年の上期から風向きが変わって、今回で2年連続“大賞”という大盤振る舞いに。さぞかし「サンデー」系新人のレヴェルが上がったのか……と思いきや、実はちょっとゴニョゴニョした話が有るとか無いとか。
 この手の新人賞で本当に大事なのは、受賞者した新人さんが後にどんな良い作品を生み出すかだと思うんですがねぇ。現に「ジャンプ」でも、かつて「天下一漫画賞」で難攻不落の“入選”を射止めた数少ない新人さんの中の1人が辿った道が、“テコンドーにこだわり過ぎて飼い殺し→その割にテコンドーについて全然勉強せず→『キックスメガミックス』”だったりするわけで……(苦笑)。
 まぁ結局は、受賞者さんが始めの第一歩で安住せず、絶えず精進する事が一番大事なんでしょうね。でもそれが一番難しいんですよねぇ。精進するって事は、ギリギリの自尊心を守りながら自己否定を繰り返す行為だったりしますから……。
 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「最近大爆笑した事は?」。うーん、なんか皆さん余裕ありませんなぁ(苦笑)。特に打ち切り間際(?)のあおやぎ孝夫さんに「……ないですね」とか言われると、笑うに笑えないんですが(苦笑)。
 駒木は、今週号の「ジャンプ」の『ピューと吹く! ジャガー』で大爆笑したのが一番最近でしょうか。あ、あと「タモリ倶楽部」の、アルバトロス・叶井俊太郎特集でもバカ笑いしましたね。思わず、自分でやった講義のレジュメを読み返してしまいました(笑)。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 
♪ソイソースかけー ゴハーン

 ……どんな歌なんだよ!(笑) ていうか、この歌詞で即眠りに落ちるような楽曲ってどんな楽曲なんだろう。

 ◎『売ったれダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治【現時点での評価:A−/雑感など】

 文化祭編も今回で終了。しかし、1エピソードに数話かけるスタイルが予想以上にハマった感じですね。文化祭編は見事に質の高い少年マンガになっていたと思います。
 ライバルに、主人公への妨害工作よりも正攻法の対抗策をメインに行なわせた事や、主人公たちがちゃんと努力して正当な結果を得ている事など、かなりポイントが高いです。あと1エピソード見て、それも良い出来だったなら評価をAに上方修正する事も考えないといけませんね少なくとも現時点では、今年の「サンデー」新連載の中では一番の“当たり”です。


 ……他にも採り上げたい作品がいくつかあるのですが、今週よりも来週以降にした方が良さそうなので、今週はここまで。

 なお、明日は臨時講義という形で、小林尊選手の3連覇がかかっている、ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権の速報をお届けする予定です。ではでは。

 


 

2003年第39回講義
7月2日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第5週/7月第1週分・前半)

 今週は『ミスフル』が急病休載のため代原1本。以前から恐れていた、突発的なレビュー作品急増が現実のものになってしまいました。しかも『HUNTER×HUNTER』の落っこち寸前の原稿を見ると、下手すりゃ代原2本になるところだったはず。うー、くわばらくわばら。
 ……しかしこれ、ひょっとすると、代原2本出すわけには行かない編集サイドが、休みたい冨樫さんを説き伏せてラフ原稿を描かせ、ギリギリで印刷所に放り込んだのかも知れませんねぇ(苦笑)。それが本当だとしたら、まるで手塚治虫時代の少年誌を髣髴とさせるような話になりますが(笑)。

 ……というわけで、今日はレビューが3本もあります。急いで講義に移りましょう。

 まずは情報系の話題。来週発売の「ジャンプ」32号は、創刊35周年記念特別号として、「ジャンプ創刊号大解剖」などの様々な企画モノが掲載されるようです。
 しかし、「ジャンプデータベース」で調べてみたんですが、創刊号から連載の始まっている作品が、なんと11回突き抜けしてるんですよね。早くも当時からジャンプシステムは健在だったわけです。で、更には創刊2年目の1969年は、この年に立ち上げられた新連載作品の全てが20回以内に終了というダイナミックこの上ない編集方針。いやー凄いわ、ジャンプ。
 意外と知られていないんですけど、あの『はだしのゲン』(作画:中沢啓治)も「ジャンプ」作品なんですよね(1974年から翌年まで69回連載)。本当に色々な事をやって、今の地位を築き上げたんでしょうねぇ。

 また、巻頭カラーは『テニスの王子様』の特別編・『サムライの詩』。巻末の次号予告によると、アメリカを舞台にした話のようですが、どんなストーリーなんでしょうか。
 一応この特別編もレビュー対象作にあたりますので、来週のこの時間に詳しく内容を紹介する事になると思います。

 ……それでは、レビューとチェックポイントへ。今週のレビュー対象作は、新連載1本、新連載第3回の後追いレビュー1本、そして代原読み切りが1本の計3本となります。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年31号☆

 ◎新連載『神奈川磯南風天組』作画:かずはじめ

 4週連続新連載もいよいよラストの第4弾。今週から登場したのは、かずはじめさん『神奈川磯南風天組』です。

 かずはじめさんは、1971年9月生まれの当年とって32歳になる女流作家さんです。神奈川県出身とのことですから、今回の連載は地元を意識した作品ということになるんでしょうか。
 かずさんは新人賞の受賞歴が全く無いまま、94年春の増刊で後の出世作となる『MIND ASSASSIN』でデビュー
 増刊号のラインナップ決定に関しては、既に掲載が確定した“シード枠”の新人賞受賞作が控えている上、残りの作品枠が決定されるまでには何回もの編集会議(セレクション)があると聞きます。そういう意味では、受賞歴が無いまま増刊デビューというのは、ある意味賞を獲るより凄いような気がしないでもないですね。

 そして同年開催された、かの悪名高き「世界漫画愛読者大賞」の前身・第1回「ジャンプ新人海賊杯」に、かずさんも『MIND ASSASSIN』でエントリーし、見事優勝。読者投票と作品のクオリティが噛み合わないのがこの手の賞ですが、少なくとも個人的には、この作品が優勝した事だけは極めて順当な結果だったと思っています
 で、この「新人海賊杯」の優勝特典として、『MIND ASSASSIN』は連載化されますが、ページ数に余裕の無い週刊連載はこの作品に合わず、27回で打ち切りに。しかしこの作品は、その後も「赤マルジャンプ」や「月刊少年ジャンプ」で連作短編の形で続編が描かれ、更にはノベライズ化やドラマCD化もされていますので、単なる打ち切り作品という評価を下すのは当たらないでしょう。

 その後は「赤マル」や本誌に読み切りを発表しながら、思い出したように週刊連載を始める…というパターンが続きます。連載作品の『明陵帝 梧桐勢十郎』(97年52号〜99年52・53合併号/全96回)『鴉MAN』(01年24号〜40号/全16回)はヒットにこそ至りませんでしたが、短編作品を含めた“かず作品”にはデビュー時から現在に至るまで根強いファンも多く、それが今回の連載復帰に繋がったとみて良いと思います

 ……というわけで、今回の新連載・『神奈川磯南風天組』のレビューへ移りたいと思います。

 まずからですが、独特ながら好感度の悪くないその画風は、以前に『司鬼道士 仙堂寺八紘』をレビューした時と全く変わっていませんので、絵柄そのものについて特筆すべき事は無いと思います。
 ただ、かずさんが描くのを得意とするタイプの人物(目つきの鋭いクールな男、ダサい悪人顔、清純系の女の子キャラetc…)と今回の作風(学園不良モノ)は結構マッチしているような気がします。これがもし計算した上での話だとすれば、かなりの慧眼であると思いますね。

 そして、ストーリー&設定について。

 今回の作品は、やや変則的ではありますが、現在「ジャンプ」で“空白地”となっていた学園不良モノですね。今や「マガジン」ですらオタク路線に転じつつある現在では、少年マンガの主流からかなり外れたジャンルになりますが、逆に“空白地”の利を生かせるかも知れません
 このジャンルの作品を描くにあたってのポイントは色々あります。普通に不良たちのありのままを描いていたら、「密着・警察24時」の「現代に巣食う魔物・キレる若者の実態」になっちゃいますので、これをエンタテインメント作品にするには、良い意味でのカモフラージュを施す必要があるわけです。
 中でも特に重要なものとしては、実生活なら読者の反発を買うはずの“ワルキャラ”に好感や親近感を抱かせる事が1つ。そして、リアル世界では殺伐としたワンパターンの日常生活に起伏を持たせ、義理人情を絡めた中身の濃い人間ドラマに仕上げる事がもう1つです。要は、不良少年たちの良い部分を中心に(良い部分“だけ”では不良じゃなくなるのでNGです)スポットライトを当てる作業をする事が大事になってくるわけですね。

 で、この作品の場合ではどうでしょう。まだストーリーに関してはプロローグの段階なので何も言えませんが、設定に関しては、少なくとも“その理想へ向けて努力しようとする姿勢”らしきモノは窺えます。
 風天組の悪事のハケ口を、いくらヤラれても悲壮感の無いバカキャラ・健人に求め、更にあちこちに「ただのワルではない」事を示す伏線を張って、読者の感情移入をスムーズに進行させようという試みが為されています。まだ現時点ではそれが成功しきれているとは言えませんが、進んでいるベクトルは間違っていないだけに、期待は持てるスタートと言えそうです。
 あと、これは以前にも述べましたが、かずさんはネームが非常に上手く、長ゼリフでもスラスラ読ませてしまう力を持っています。これが意外とバカに出来ないんですよね。

 ……さて、暫定評価ですが、現時点ではB+あたりが妥当なところではないでしょうか。ただ、流動的な要素も多いので、第3話時点で大きく評価が上下する可能性もあります。

 
 ◎新連載第3回『ごっちゃんです!!』作画:つの丸【第1回時点での評価:保留

 さて、第3回の後追いレビューですが、週を追うごとに「本当につの丸さんの作品はスロースタートなんだなぁ」…という思いが募っていきますね(苦笑)。
 ストーリーのテンポは遅く、しかも、その時点では意味不明なポイントが、1〜2回後になってようやくそれが伏線だったと判るような、そんな展開の繰り返しです。端的に言えば、作品のクオリティは置いておいて、読者アンケート結果に繋がらない要素ばっかりなんですよね(苦笑)。

 まぁ、このレビューはそういったポイントを抜きにするのが原則ですから、話の中身に論点を持っていくわけですが、それにしてもストーリーの進行が遅すぎるというのが実感です(苦笑)。単調ですぐに結果に繋がらない特訓シーンでも、高い技術に支えられたギャグを挟んでメリハリをつけてしまうあたりには、確かなつの丸さんの実力を感じるのですが、さすがにもう少し「あぁ、話が進んでいってるなぁ」という実感を持たせて欲しいところではあります。まぁ、『みどりのマキバオー』でも本格化まで随分と時間がかかりましたし、現時点ではとりあえず“待ち”の姿勢が一番なのかも分かりませんね。

 ……というわけで、申し訳ないんですが今回の評価も保留に。評価確定の際には「チェックポイント」でお伝えする事にします。

 
 ◎読み切り『スレンダー』作画:菅野健太

 冒頭でお伝えした通り、今週は『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也)が休載のため、代原が掲載されました鈴木信也さんは、以前にも持病の喘息が悪化して休載した事がありますが、やはり今回も同様のケースなんでしょうか。
 で、代原に選ばれたのは、これがデビュー2作目となる新人・菅野健太さん『スレンダー』です。菅野さんは、02年上期の「赤塚賞」で佳作を受賞して、その受賞作『あつがり』が本誌02年29号の代原となってデビュー。今回はそれ以来の作品発表という事になります。最近は代原掲載のケースも減っていて、菅野さんのようなポジションの新人ギャグ作家さんには厳しい情勢になっているようですね。

 それでは作品の評価に移りますが、やはり気になってしまうのがの拙さです。デビュー当時よりは若干良くなったとは思いますが、まだまだ技術不足は否めないところです。最低限レヴェルの“作者が伝えたい事を正確に読者ヘ伝える”事は出来ていますが、内容の幅を広げるためにも、もう少し画力を身につけてもらいたいですね。
 ただ、この作品は背景や集中線などの効果に関しては、まるで別人のようにソツなくこなしているんですよね。菅家さん、ひょっとしたら今はアシスタント修行をやってるのかも知れません。

 そしてギャグの方ですが、ネタの発想そのものは、デビュー作・『あつがり』と同様、“1つの物事を極端にエスカレートさせたヤツが、当たり前のように日常生活を満喫しようとしたらどうなるか”…という所にあります。前作は暑がり過ぎで人体が自然発火、そして今回はダイエットし過ぎて骸骨だけに…といった具合。ただ、前作はその発想をした時点で思考がストップしてしまい、ギャグというより中途半端なホラーのようなマンガになってしまったのは記憶に新しい(?)ところです。
 しかし今回は違いました1年の間に随分と“ギャグの方程式”的なモノを身に付けて来た努力の跡が窺えます。2ページ×2セットの豪快な“繰り返し技”や、骸骨人間という特殊なキャラでないと出来ないギャグなど、題材を上手く料理している感があります。惜しむらくは最後のオチの展開が甘かった部分で、ここさえキチンと出来ていれば、代原レヴェルを越えた作品になれたのに…と残念に思います。

 評価は、画力の分を少しだけ減点してB+寄りBに。とりあえず、菅家さんの作品をもう1つ2つ読んでみたいところですね。

  

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週の「ジャンプ」で一番笑った(しかも失笑した)のは、今週から始まった7月期「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の告知今月の審査員はあのパクリ芸人矢吹健太朗氏なんですが、そのページの端々から、「スイマセン、この人は絵を描くしか取り得が無いんです。どうか許してやって下さい」…という編集サイドの哀願の声が聞こえて来て、もう……(失笑)。

 しかし、そこまで開き直るんだったら、

 「質問:綺麗な絵のマンガを描くにはどうしたら良いですか?」
 「回答:自分より絵の上手いプロアシスタントを雇って下さい。特に可愛い少年や女の子を描くのが上手い人がオススメです」

 ……くらいまで開き直って欲しいものですが(無理)。

 ◎『こちら亀有区葛飾公園前派出所』作画:秋元治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 最近、かつてのような“男キャラ中心・硬派路線”へと回帰しつつあるこの作品ですが、そうなってみると改めて“老衰”ぶりが判ってしまうと言うか……。
 今回の競馬ネタも、まぁこれが『こち亀』のノリだから…と言ってしまえばそれまでなんですが、その余りの競馬への不勉強さにやや辟易してしまいました。厳然たる公営の地方競馬と、村祭りの草競馬を一緒にしちゃいけませんぜ、ダンナ。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:/雑感】

 なんか最近、回を追うごとにの出番が減ってますよね。今週なんか、勝手に実家へ帰ってるし(笑)。一番最後に出て来て一番影が薄いってのも何だか……。
 えー、この件について個人的な意見を言わせて頂きますと、非常に遺憾であります! ……ので、河下センセイにはどうにかして頂きたいと要求する所存で御座います。どうか何卒(笑)。

 ◎『★SANTA!★』作画:蔵人健吾【現時点での評価:B−/連載総括】

 『闇神コウ』との“打ち切りチキンレース”は、(恐らく)僅差でこちらが嬉しくない軍配を上げられる羽目に。
 “敗因”は色々と考えられるのですが、まとめて言えば、漠然としたスケールの大きな構想を、具体的かつ魅力のあるエピソードに“書き下す”事が出来なかった…という所になるんでしょうね。これはシナリオだけでなく、キャラクター造形、セリフのセンス、画力など、全ての面において言える事です。ファンの方には申し訳ないんですが、蔵人さんは、現時点では「ジャンプ」で週刊連載をするには実力が足りなかったとしか言いようがありません

 ここからもう一度出直すのは並大抵の事ではありませんが、ここまで長年頑張って来た人なのですから、いつの日かリベンジしてもらいたいものです。

 ◎『ピューと吹く! ジャガー』作画:うすた京介【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 いやー、やっぱりハマーは偉大ですなぁ(笑)。この人を勝手に動かしているだけでネタが出来上がっちゃうんですから……。
 いっそのこと、別の雑誌にハマーを主人公にしてもう1本連載立ち上げられませんかねぇ。『闘将(たたかえ)! ハマーさん』みたいな題名で。


 ──さて、長かった新連載攻勢も一段落。何とか峠を乗り切った感じです(苦笑)。なお、後半分は金曜日くらいに実施予定です。どうぞ宜しく。


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