「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・7)

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講義一覧

12/26(第99回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(12月第4週分・合同)
12/19(第98回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (12月第3週分・合同)
12/12(第96回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (12月第2週分・合同)
12/5(第93回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (12月第1週分・後半)
12/3(第92回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (12月第1週分・前半)
11/28(第90回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (11月第5週分・合同)
11/21(第87回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (11月第4週分・合同)

11/13(第84回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (11月第3週分・合同)
11/6(第83回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (11月第1〜2週分・合同)
10/31(第81回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (10月第5週分・合同)
10/24(第79回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (10月第4週分・合同)
10/17(第76回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (10月第3週分・合同)
10/10(第74回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (10月第2週分・合同)

10/6(第73回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (9月第5週/10月第1週分・後半)
10/2(第71回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (9月第5週/10月第1週分・前半)

 

2003年第99回講義
12月26日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(12月第4週分・合同)

 03年最後のゼミをお送りします……が、コミックアワードが終わった後の脱力感が未だ抜けておりません(笑)。自分の頭の中ではもっと大掛かりなイベントにしたいという思いもあるのですが、現状ではあれが精一杯です。というか、精一杯以上かも知れません。

 で、ここで主催者側から見た「コミックアワード」の感想等を少々。

 まず、一息ついた後に受賞作一覧を眺めてみると、やっぱり今年は不作だったんだな…と改めて実感してしまいました。審査中は候補作を絞り込む事に追われて気付きませんでしたが、いざ冷静さを取り戻してみると「う〜ん、これは……」と唸らざるを得ませんね。

 で、そんな中選んだグランプリは『美食王の到着』でした。いくら全体のレヴェルがどうあれ、この作品が本当に素晴らしい作品である事は間違いないと確信持って言えます。
 ただ、駒木がこれまで最初の増刊掲載時のレビューや講評で述べて来た事の中に、大きな誤りが一点ありました「叙述トリックをマンガの世界に持ち込んだ」…という部分です。
 恥ずかしながら、式典終了後にもう1度読み返してみて気付いたんですが、この作品で使われているトリックは、実は叙述トリックとは言えないものでした。文章と絵を巧みに組み合わせて読者にわざと誤った先入観を持たせるという、また別の種類のトリックだったのです。いやはや、とんでもないミスを犯したものです。本当に駒木ってアホですね。
 ……とはいえ、そのトリックが叙述トリックじゃなかったからと言って、『美食王の到着』が良く出来た作品である事実には何の揺らぎも無く、作品の価値が下がるわけでは有りません。なので、レビューでの評価(A+寄りA)も変更しませんし、「コミックアワード」で差し上げた賞ももそのままとします。
 藤田和日郎さん、そして受講生の皆さんにお詫び申し上げます。本当にすみませんでした。

 ……あと、ラズベリーコミック賞は、去年と違って受賞作や有力候補作がファンの多い作品だったので、正直言って心苦しかったですね。ただ、やる以上は開き直るしかありませんので、思い切りやらせてもらいました。こういう賞って、大物相手に対する風刺の意味合いもありますので、『テニスの王子様』ファンの方は「我らが許斐センセイは大物だ!」と、むしろ誇りに思ってもらっても良いくらいです。(まぁ絶対に思わんでしょうけど^^;;)
 とりあえず、この手の賞というのは回数を重ねてこそですので、やれる限り毎年やりたいと思ってます。出来ればもう2〜3ほど部門賞を増やしてみたいのですが、先程述べたように物理的な限界もあり、難しいところではありますね。
 まぁとにかく今は毎週コツコツとレビューを続けるしかないですね。これを怠っていては「コミックアワード」そのものが成立しないわけですし……。

 ──さて、それでは気持ちも新たに、今週のゼミを始めたいと思います。まずは情報系の話題から。最初に、先週時間が無くて翌週回しになっていた「サンデー」系月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」9・10月期分の審査結果を紹介しておきます。

少年サンデーまんがカレッジ
(03年9・10月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=該当作なし
 努力賞=2編
  ・『落ちこぼれの白虎』
   ハタアサ子(18歳・茨城)
  ・『四苦八苦』
   奥長浩子(25歳・千葉)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  ・『ある夜のヒーロー』
   あづち涼(25歳・北海道)
  ・『BIRTH DAY』
   中谷祐太(14歳・兵庫)
  ・『妖草紙』
   赤池真美(26歳・山梨)
 最終候補=1編
  
・『ウィンブルドンヒーロー』
   岩田有正(23歳・愛知)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります。(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎あと一歩で賞のあづち涼さん…01年11月期「まんがカレッジ」でも“あと一歩で賞”。また、18禁ゲームの原画家として活動した経験あり。

 この他、Google検索で判明した事は、努力賞のハタアサ子さんウェブ上での創作活動経験者だったり、選外の赤池真美さん講談社のコミック通信講座出身だったり…といったところ。
 ちなみにあづち涼さんのウェブサイト(直リンク張りませんが、名前で検索すれば一発で出ます)の日記によると、あづちさんは遂にまんが家目指して上京するとの事。画力は十分水準に達しているわけですから、それを武器にガンガン攻めて行ってもらいたいものです。

 情報2つ目「ジャンプ」から読み切りに関するニュースをご紹介します。
 年明け・1月5日発売の6・7合併号にて、『World 4u_』作画:江尻立真)が掲載されます。これは今年の25号に掲載された同名・同作者による読み切りの第2弾。今回も『世にも奇妙な物語』形式のホラー連作短編だと思われます。
 前作の当ゼミでのレビューでは、「作・画ともに地力は感じられるが、シナリオを凝り過ぎたためにかえってホラーの醍醐味が薄れてしまった」…という事でA−寄りB+の際どい評価でした。果たして今回はどうなるでしょうか? 注目したいところですね。

 ……それではレビューへ。今週は「ジャンプ」にしろ「サンデー」にしろ、見所が多かったように感じたんですが、実はレビュー対象作は1本のみ。「ジャンプ」年末新連載シリーズの第3回後追いレビューです。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年新年4・5合併号☆

 ◎新連載第3回『銀魂』作画:空知英秋【現時点での評価:B

 前期新連載が全滅のため、打ち切りサバイバルレースを争う相手全てが長期連載作品という過酷な状況に置かれている今期の新連載作品ですが、その中でも一番厳しい立場にいるのが、恐らくこの『銀魂』と空知英秋さんでしょう。以前にも似たような事を言った覚えがありますが、これって「有望新人プロボクサーのデビュー戦の相手がいきなり日本ランカー」みたいな話ですからねぇ……。
 もしこれが本当にボクシングの話なら、そんなマッチメイクをしたジムの会長に、「そんな、会長! いきなりコイツを潰す気ですか?」と、マネージャーが止めに入りそうなシチュエーションなんですが、今の「ジャンプ」はどうやら、マッチメイク担当が『あしたのジョー』の白木葉子お嬢様みたいな人のようで……。

 とはいえ、もうゴングが鳴ってしまった以上、後には引けません。というわけで、連載の今後を占う第3回の後追いレビューです。

 まずなんですが、相変わらず線が不安定なのが惜しいですね。初回に比べると、全般的に幾分進歩の跡が窺えるんですが、今度は線の不安定さで実際の画力よりも下手なように見えてしまっています。
 しかし、女の子描かせたら案外達者ですね、空知さんは。男キャラが大概むさ苦しいだけに、一際良い意味で目立ってます。この辺を上手くアピール出来れば、読み手の反応も良くなると思うんですが。

 ただストーリー・設定については、相変わらず世界観やキャラクターの個性付けが曖昧で迷走気味です。しかも、どうやらその問題の根源はかなり深い所にあるんじゃないかと思えて来ました。
 というのも、空知さんの描くマンガの最大の魅力「話の本筋を脱線して繰り広げられるドタバタ劇」なんですが、この魅力を活かそうとすればするほど、当然の事ながら作品そのものはドンドン迷走して行っちゃうんですよね。かと言って、キッチリとしたストーリーを追いかけて行けば、空知さんの“味”が出なくて間延びしてしまいますし、まさに「あちらを立てればこちらが立たず」な状態というわけです。言い換えると、「無理をすれば道理が引っ込むが、無理をしないと道理もクソも無い」といったところでしょうか。
 しかも非常に厄介な事には、その事を空知さんご本人も気付いてそうなんですよね。で、「どうすりゃ良いんだろう?」と迷いながらも、抜本的な対策が見出せないまま、流されるがままに話を迷走させているような気がするんですよ。ハッキリ言って重症です。やっぱり時期尚早でしたね、この連載は。

 ここから活路を見出すとなると、もう完全に開き直るしかないでしょうね。それこそ以前の『幕張』みたく、確信犯的に刹那的なウケ狙いをハイスパートで繰り出して、「中身は無いけど、何だか面白い」と読み手に思わせるような作品にしてゆくしかないでしょう。(もっとも、第3回時点でそんな事を言ってる時点で、「ジャンプ」では致命的な出遅れなんですが……)
 ただ、そういう作品は、いくら刹那的な「面白い、面白くない」の次元では高評価を得られても、当ゼミが掲げる「よく構成が出来ている作品かどうか」という判断基準で評価をした場合は点数を厳しくせざるを得ません
 そういうわけで、今回も評価はB+寄りBに止める事にします。前回レビューに比べると、絵などの面で若干改善したように思えるので、0.5ランク評価を上げておきました。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 久々に巻末コメントへのコメントを少しだけ箇条書きで。

 ・岸本斉史さん…うん、フグは良いですよね。というか、フグそのものよりも、鍋の最後に食う雑炊が一番好きなんですが、駒木は。あの雑炊の味がインスタントで出せたら、毎日買って食いたいくらいです。
 ・つの丸さん……いや、そんな巻末コメント読んで応募してくるような人はカリスマになれんでしょう(笑)。

 あと今週号では、毎度恒例・年末進行の合間に絶対落とせない仕事を増やして、日頃泣かされている作家にリベンジするぞ企画・現役連載作家4コマ競作スペシャルがありました。
 しかし今回は輪にかけて出来が酷いですねぇ……。さすがにギャグ系作家さんは水準のモノを出して来ましたけれど、ストーリー系作家さんのは半分以上が4コママンガにすらなってないというか。特に今年度ラズベリーコミック賞作家さんのは何ですかアレ(´Д`;)。この場であんまり悪口は言いたくないですけど、余りにも余りにもですよ。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】

 いやー凄いわ、今回。もう凄いとしか言いようが無いです。何だか詳しく検証したらアラが見つかりそうなプレーだけれども、「そんな細かい事考えずに読め!」と言われたらそうせざるを得ないような凄味がありました。
 しかし、今回の内容を見てると思うんですが、やっぱりこの作品って、単行本で読むより雑誌サイズで読んだ方が良いんですよね。週刊マンガ誌特有の悪い紙質も、この作品に限っては何故か合うんですよ。ただ、それだと商業的な実績には繋がらないんですよね……。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B/雑感】

 いやー凄いわ、今回。もう凄いとしか言いようが(以下略・笑)。
 各女子キャラの萌え要素が完全に仕上がり切ってるので、今回みたいな余興のような話でも十分に作品として成立しちゃうんですよねぇ。
 しかし、いくら何でも「いかん!! パンツのせいで客が暴徒と化した!!」ってのは色々な意味でダメ過ぎるでしょう(笑)。

 
 

☆「週刊少年サンデー」2004年新年4・5合併号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「このお正月にやろうと思ってること」。
 んー、ボケられそうにない質問だけに、回答も皆さん普通になさってますねー。そんな中でウケ狙いに走ったと思われる川久保栄二さんの回答が全然ギャグになっていないあたり、さすがは『十五郎』の作者といったところですか。
 駒木は正月くらい箱根駅伝見てノンビリ過ごしたかったんですが、どうやら2日から連発でモデム配りに狩り出されそうです(涙)。

 
 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 密度の濃いハイスパートなギャグ連発で、非常に良かったんじゃないでしょうか。絵が荒れてたのは相当ネームに苦しんで時間ギリギリになっちゃったんですかね?
 しかし、色々やった割には肝心の(?)おみくじ引くのを忘れているのは勿体無かったですね。ベタながら結構面白いネタが作れそうではあるんですけど……。

 ◎『きみのカケラ』作画:高橋しん)【現時点での評価:B−/雑感】

 10回限定の“最終章”という事で、今回から連載再開。まぁいわゆる一つの敗戦処理というヤツですね。
 しかし、そんな状況でありながら更に風呂敷広げようとするってのはどういう……(汗)。そりゃ、これだけ空白期間が開いたら普通に話を繋げても判り辛いのには違いないんですが、でもねぇ……。どうしてこの作品がこんな事になったのか、分かってらっしゃるんでしょうかと、ちょっと問い掛けてみたいですね。
 あと、エロと暴力描写には耐性の強過ぎる駒木でも、今回の“児童ポルノ&それを素で覗いてる親父”ってのは、「うわー、大丈夫かコレ」と思いました(笑)。ああいうシーンってのは、覗いてる方(♂)が覗かれている方(♀)と同年代かそれ以下じゃないと、相当インモラルになっちゃいますよね。

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 あんなエグいシーン(自動人形の血まみれ分解)でも、人間じゃなかったらモザイクもかからんのですかねー
 今週は「ジャンプ」の『武装錬金』とかでもグロ規制のモザイクがあったんですが、出来ればああいう類のモザイクって止めて欲しいんですけどね。理由はどうあれ、作者の意図を歪めるような規制はかけて欲しくないです。特に駒木も小説家を志しているだけに余計感じます。
 ただ、そういうショッキングなシーンが小さい子供にトラウマを植え付けちゃうのも事実ではあるんですよねー。駒木も幼少の頃、『ダッシュ勝平』で、主人公の仲間たちがヤクザに真剣でバッサバッサ斬られるのを見て、かなりショックを覚えた記憶がありますし。7〜8歳まで高校で「バスケやってたらヤクザに斬られなくちゃならんのか」と本気で心配してましたからね(笑)。う〜ん、やっぱり難しい問題ですよねぇ。

 ◎『ファンタジスタ』作画:草葉道輝【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 スポーツでは、有力選手を試合に投入する事を“カードを切る”なんて言いますが、スポーツ物のマンガでは逆なんですよね。有力選手を完全燃焼させて退場させる事が“カードを切る”ことになるんですよ。
 そういう意味で、今回の展開は素晴らしいです。このタイミングでグロッソという“カード”を切った草場さんの決断力に拍手を贈りたいですね。


 ……というわけで、今年最後のゼミをお送りしました。来年のゼミは、「赤マルジャンプ」冬号の完全レビューから始動することになると思います。ではでは。

 


 

2003年第98回講義
12月19日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(12月第3週分・合同)

 「コミックアワード」の準備の合間を縫って、今週のゼミをやっておきます。本当なら前・後半に分けなければならないくらいのボリュームがあった週なんですが、とりあえずこんな状態なので、レビュー中心で簡単に実施しておきます。情報系の話題は次週回し、チェックポイントについても連載終了になった『神撫手』の総括だけとさせてもらいます。
 たくさんお話したい事もあるんですけどね……。何とか時間の都合をつけたかったのですが、無念です。

 では、もう早速レビューへ行っちゃいましょう。今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」からは新連載1本と新連載第3回の後追いレビューが1本、更には代原ギャグ読み切りが1本。そして「サンデー」からも新連載1本計4本となります。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年新年3号☆

 ◎新連載『LIVE』作画:梅澤春人

 「ジャンプ」の年末新連載シリーズ最終・第3弾は、『SWORD BREAKER』の連載終了以来、約1年ぶりの復帰となる梅澤春人さんの新作が登場です。

 梅澤さんの「ジャンプ」デビューは89年ですから、キャリアは14年余りという事になりますね。いつの間にか、現在の「ジャンプ」連載陣では重鎮クラスのベテランになっているんですね。
 梅澤さんと言えば、真っ先に不良・暴力モノが連想されますが、デビュー作は意外にもSFモノの『酒呑☆ドージ』。これは翌年に連載化されますが、残念ながら15話・1クールで打ち切りに終わります。
 そして翌年、現在の作風の原点とも言える作品・『HARELUYA』の連載をスタートさせますが、これも10回・1クールで打ち切り。本来ならこれで“デビュー以来2連続短期打ち切りは「ジャンプ」追放”というルールが適用になるところでしたが、打ち切りが決まった後の連載終盤で人気が急上昇。急転直下、短いインターバルを置いて続編を連載する事が決定します。この時に仕切り直しで連載されたのが、梅沢さんの代表作となる『BφY−HARELUYA II−』で、これは92年末から約6年にも及ぶ長期連載になりました。
 『BφY』の連載終了後も意欲十分の梅澤さんは、1度の読み切り発表を挟んで、99年末からは『無頼男─ブレーメン─』の連載を開始します。ここでも連載当初は『BφY』で培った梅澤さん独特の世界観が支持を受けましたが、徐々に尻すぼみの状態となり、約1年半後に打ち切り終了となりました。
 その後、一時期は「コミックバンチ」との繋がりをアピールするなど、自信の立場も含めて流動的な時期もありましたが、結局は02年から「ジャンプ」で活動再開。今度はファンタジーという未知の分野に挑戦し、『SWORD BREAKER』の読み切り発表、そして連載開始となりますが、こちらは敢え無く16回の短期打ち切りに。そしてそれから1年、今回の新連載となるわけです。

 さて、作者のプロフィール紹介はこれくらいにしまして(クソ忙しい時に限って、ベテラン作家のプロフィールを作らなくてはいけない悲劇^^;;)、作品の内容についてお話してゆきましょう。
 まずはなんですが、さすがにキャリアをここまで重ねた作家さんが、そうそう絵柄を変える事が出来るはずもなく、この作品でも“いつも通りの梅澤春人”といった感じになっています。いや、むしろ以前よりも手抜き(無意味な顔アップやバストアップ)が減って、読み易くなっている…と言えるかも知れません
 梅澤さんは元々、それほど絵の達者なタイプの作家さんではないのですが、第1回の絵柄を見る限りでは、“連載作家として標準レヴェル”くらいの評価は出せそうです。

 次にストーリーと設定なんですが、こちらは「随分とまた開き直ったもんだなぁ……」というのが第一印象でした。
 というのも、主役格のキャラクター2人は、設定こそ新しくしたものの、これまでの梅澤作品のパターン──トンガリヘアーの乱暴者と、無造作ヘアーの正義感だけ強い大人しい少年──を綺麗にトレースしています。しかも“乱暴なのは悪魔だから”という理由付けまで物凄い開き直り振り。徹底した自己分析と、デジタル的に“ウケる要素”を追求しようという姿勢がヒシヒシと窺えます。
 それでいて、作品全体のスケールはグッと押さえられ、お話そのものとしては不良モノにドタバタコメディの要素を交えた日常劇です。こちらも「大きなスケールのストーリーならではの醍醐味を犠牲にしても、ここは手堅く読者の支持を固めてゆこう」…という意図が見え隠れしています。

 つまりこの作品は、過去の梅澤作品の縮小再生産で生まれたモノなんですね。野球で言えば、ノーアウトからフォアボールで出たランナーを、2回の送りバントで3塁まで送るような、そんな手堅い作品です。
 勿論、これは技術が熟練したベテランでなくては出来ませんし、ベテラン作家なら全員が出来るというものでもありません。1回目の送りバントでダブルプレーを献上してしまう作家さんも結構多いのです。そういう意味においては、梅澤さんはまだ、往時の実力を維持したまま頑張っている……と言えるでしょう。
 ただし、こういう手法で生み出された作品は、人気作足りえても、なかなか名作には及びません。作品のスケールを犠牲にしている以上、シナリオのクオリティにも限界が出て来るからです。作風こそ全く違いますが、この作品は『魔法先生ネギま!』と同系統の“名作崩れの人気作”になるタイプの作品なんですね。

 …そういうわけで、暫定評価はB+。この作品がソコソコの人気を獲得できれば幸いですが、そうでなかった場合、それは「ジャンプ」作家・梅澤春人の能力的限界を意味する事になるでしょう。ナニゲに大変シビアな連載となりそうですね。


 ◎新連載第3回『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健【現時点での評価:保留

 さて、今週からは後追いレビューも開始。というわけで今回は、未だに「大場つぐみって誰よ?」という声が止まない『DEATH NOTE』のレビューをお届けします。
 しかし、本当に情報が漏れて来ない所を見ると、これは「ジャンプ」内部でも緘口令が敷かれているんでしょうね。次期連載改変対象のタイトル並に厳重なシークレットって、そこまで隠さなくちゃいけない人が正体なんでしょうか? これで「マガジン」みたいに編集者がペンネーム使って原作やってたら白ける事この上無いんですが、まさかねぇ(苦笑)。

 と、無駄口はコレくらいにしておきまして、内容について。絵の流麗さは相変わらず文句の付けようが無いので、ストーリーについてだけ述べたいと思います。
 単刀直入に言って、心理描写の巧みさで度肝を抜かれた第1回に比べると、その後の2回では、ややスケールダウンした感が否めません。第1回のレビューでも言及しました、主人公敵役・Lとその周辺の描写に現実感が無さ過ぎるのもありますが、どうもシナリオ展開が淡白な気がするのです。
 この手のお話で、何が読み手を作品世界に引き込むかというと、実は巧みな駆け引きよりもアクシデントなんですよね。予測不可能だった出来事が突然発生し、登場人物が読み手と一緒に悩み、苦しみ、そして最後は読み手より一歩先を行って問題を解決する。この過程を経る事によって、読み手は作品世界とキャラクターに感情移入が出来るものなのです。
 ところがこの作品は、主人公も敵役も利口過ぎて、どんな出来事が起こってもお互いに「それは想定内の出来事だ」ってやっちゃうんですよね。すると読み手としても、「はぁ、そうなんですか」となってしまい、今一つ感情移入し切れないまま、シナリオだけが淡々と進行してしまうんです。これは非常に勿体無い事です。もうちょっと主人公・ライトが激しい動揺に追い込まれるようなシナリオでも良かったと思うんですが……。

 あと、もう1つの問題点としては、作品内で人がバンバン死にまくっている割には、一度たりとも“最期の瞬間”が描かれていないため、イマイチ恐怖が伝わって来ない…という事も挙げられます。通帳の残高だけが動いているお金の遣り取りみたいなもんで、生々しさが伝わって来ないんですよね。命のペーパー商法と言いますか。
 こう言うと、必ず「少年誌だから」云々…となるんですが、だったら『HUNTER×HUNTER』はどうなるの? …という話ですからね。そこを上手くやっていくのも、一流のプロに求められる部分だと思うのです。

 こんな事言っちゃミもフタもないですが、この作品が福本伸行原作だったら、どれくらい凄い作品になったんだろう? …なんて考えてしまいます(苦笑)。それくらい、演出の仕方によっては大傑作になるような素材ではあるんですけどね。大場さんのストーリーテリングの懐が狭いのが、つくづくも残念です。
 評価はA−寄りB+ということで。当然ですが、今後の動向次第では格上げも格下げも検討します。

 ◎読み切り『夢泡釣団〜ビートルズ編〜』作画:やすべえ

 今週は『Mr.FULLSWING』が作者都合休載のため、先週に続いて代原の出番に。先日発表になった第59回(03年下期)「赤塚賞」で佳作を受賞した『夢泡釣団〜ビートルズ編』が掲載されました。
 本来なら本誌に掲載されるようなクオリティの作品ではないはずなので、こういう場で論評するのは可哀想ではあるのですが、ルールですので仕方ありませんね。

 まずですが、一言で言うと稚拙です。ヒット作を研究した跡も窺え、決して根本的に下手クソというわけではないのですが、線の頼りなさは如何ともし難いものがあります。また、全体的なメリハリが狂っていて、実情以上に下手なように見えてしまうのが惜しいですね。
 ここはひとつ、担当さんの指導の下で画材選びから勉強して、上達目指して頑張ってもらいたいと思います。

 で、ギャグについても「未だ修行前」…といった感じですね。“ボケ”の部分に関しては、僅かながらも天性のセンスを感じさせてくれるのですが、それを間の悪過ぎて単調なツッコミが全て台無しにしてしまっています
 これは、駒木の下手な論説を聞くよりも、是非とも巻末の『ピューと吹く! ジャガー』と読み比べてもらった方が、随分と話が早くなると思いますが(苦笑)、1つ1つのボケを引き立たせてこそツッコミであって、ただ単に「なんでだよ!」とか「マジかよ?」とか言ってるのは、話の腰を折っているだけなんですよね。その辺を改善する事が、とりあえずの重要課題になって来ると思います。

 評価はC寄りB−ということで。そう言えば、ネット界隈ではよく、「『赤塚賞』の佳作でこんなの?」…なんて意見を目にするんですが、まぁ「赤塚賞」の佳作なんて、大概こんなものですよ。悲しいかな、「赤塚賞」の佳作が「十二傑新人漫画賞」の最終候補と互角以下なのが現状なのです。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『神撫手』作画:堀部健和【現時点での評価:B−/連載総括】

 秋シリーズの新連載は、遂に全作品枕を並べて討ち死にとなりました。“3作品3突き抜け”というのは、ここ最近でも記憶に無いですね。
 さて、この作品についてですが、まぁ連載開始前から危惧していた通りになったな…というところです。根本的なストーリーテリング力が足りない若手作家に、読み切りの時点で破綻している作品の連載化を強行したところで成功するはずが無いんです。これは作家の責任であると共に、編集サイドの責任でもあるでしょう。
 しかし、『旋風の橘』を思わせる脈絡の無い露骨なテコ入れには、野次馬的な視点では楽しませてもらいました(笑)。ただ、堀部さんには二度とこういう事にならないよう、猛省&精進をお願いしたいところです。
 最終評価はC寄りB−で据え置きとします。

☆「週刊少年サンデー」2004年新年2号☆

 ◎新連載『怪奇千万! 十五郎』作画:川久保栄二

 当ゼミでは既報の通り、今週から久々に「サンデー」で大型の新連載シリーズが組まれる事になりました。
 その第1弾となる今週からの新連載は、川久保栄二さんの『怪奇千万! 十五郎』です。これは、昨年まで増刊や本誌読み切りで『医術師 十五郎』として発表していた作品を、大幅モデルチェンジして連載化したものですね。

 毎度ながら「サンデー」系のデータベースが乏しい(特に増刊の)ため、『医術師 十五郎』以前の川久保さんのキャリアはほとんど判りませんでした
 ただ、駒木がどこからともなく小耳に挟んだ未確認情報によると、川久保さんは約10年前から少年誌(この時も『サンデー』?)で活動していた…という話もあるそうです。短期連載も経験済みなんだそうですが、駒木はこの時期、余り熱心にマンガを読んでいたわけではありませんでしたので、恥ずかしながら全く記憶にありません。絵柄が絵柄だけに、読んでさえいれば別ペンネームでも覚えているはずなんですが……。
 オフィシャルの情報は、間もなく『サンデーまんが家バックステージ』で公開されるとは思いますが、この未確認情報の真相をご存知の方、もしいらっしゃいましたらどうか宜しく。

 ……では、内容についてお話してゆきましょう。

 まずなんですが、やはり(悪い意味で)独特過ぎる絵柄が気になって仕方ないところですね。特に首から上のデッサンが必要以上に崩れまくっていて、更に顔のアングルのバリエーションが乏しいので、物凄く違和感を感じてしまいます。他の部分は変じゃないので余計に目立ちますね。
 あと気になるのが、リアクション(ズッコケ、電撃浴びてガイコツ丸見えetc……)がいちいち古臭いという事でしょうかね。こういう所を見ると、やっぱりこの人、隠れバテレンならぬ隠れベテランなんじゃないかと疑ってしまうわけですが。

 しかし、そんな絵のアラなんてどうでも良くなってしまうほど酷いのがストーリーと設定です。
 もう設定やストーリー展開のツッコミ所はありとあらゆる場所に、それこそt.A.T.u東京ドームコンサートで空席を探すように簡単かつ大量に見つかるわけなんですが、それより何より、ストーリーを構成する大前提が根元から腐っているんですよ、この作品は。一言で言えば、「もう抜くしかないほど悪化した虫歯」状態です。いや、「生まれながらにして差し歯」と表現した方が妥当でしょうか。

 具体的に説明しましょう。そもそもこの作品は、駒木の敬愛する仲間由紀恵様が主演あそばされている(笑)ドラマ・『TRICK』のように、“怪奇現象”とされているモノが実はトリックである事を暴く…という部分を核にしたお話のはずです。少なくとも、第1話の途中の展開までは、そう受け取れるシナリオになっていました。が、実際の展開は終盤になって逸走を始めます。なんと、
 「怪奇現象の正体は、実はこういう怪奇現象でした! これにて一件落着!」
 ……などという、思わず「オイオイ、それは全然解決してへんがな!」…などと、素に戻ってツッコミをカマしてしまうようなエンディングを迎えてしまったのです。これは『名探偵コナン』で言うなら、密室殺人事件が「犯人は、壁を通り抜ける超能力を持つコイツでした!」というオチで終わるようなモノで、文字通り「お話になってない」状態です。

 前シリーズ『医術師 十五郎』の頃から、ミもフタもない問題解決法が目立っていましたが、今回はミステリ仕立てになっている分だけ、余計にその破綻振りが目立ってしまいました。正直なところ、「こんなマンガ、よく載せたな」というのが実感です。
 (半ば信じ難い事に)これでも前シリーズは増刊号でトップクラスの人気を誇っていたそうなんですが、それにしてもやっていい事といけない事はあるだろうと、制作サイド各方面に物申したい所存です。
 評価は当然ながらCとします。しかし、こういう作品に出会うと思いますね、「よし、来年の『コミックアワード』も『ラズベリーコミック賞』は外せんな」と(笑)。


 ……というところで、今週のゼミはここまで。いよいよ明日の深夜は2周年記念式典です。準備作業が難航しているため、開始が若干遅れるかも知れませんが、どうか年に1度のお祭りを楽しみにお待ち下さい。

 


 

2003年第96回講義
12月12日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(12月第2週分・合同)

 今頃になって、「コミックアワード」の開催予定日まで10日を切っている事実に気が付き、愕然としている駒木ハヤトです(苦笑)。武井宏之さんが最新単行本の中で、読み切り『エキゾチカ』が、締め切り3週間前まで全くの手付かずだった…という裏話を日記マンガ形式で激白してましたが、今の当講座の状況も似たようなモンだとお考え下さい(苦笑)。来週早々から、いや今から修羅場確実です。
 ……しかし、武井さんの描いた日記マンガ、どことなく“初代師匠”の桜玉吉さん『漫玉日記』シリーズを彷彿とさせた作風だったのが興味深かったです。武井さんと言えば、現在「ジャンプ」で活躍中なこともあって“和月組(=和月伸宏門下)”という括りで扱われるケースが多いですが、今回のマンガだけ見たら明らかに“桜玉吉門下”って感じでしたね。(もっとも、武井さんが在籍していたのは、まだ『しあわせのかたち』の頃でしたが)

 ──さて。それでは時間も切羽詰っておりますし、情報系の話題からお届けしましょう。今週は内容が盛りだくさんです。

 まずは新人賞の話題から。今週は「サンデー」では03年度後期「新人コミック大賞」少年部門の、「ジャンプ」では月例新人賞・「ジャンプ十二傑新人漫画賞」10月期分の審査結果発表がそれぞれありましたので、ここでも受賞者・受賞作を紹介しておきましょう。

第53回小学館新人コミック大賞・少年部門
(03年後期)

 特別大賞=該当作なし

 
大賞=1編

 ・『エッグノック』(=本誌または増刊に掲載決定)
   
ネモト摂(27歳・千葉)

 《選評要約:「画力は文句無しにプロ級。ただし、深刻なテーマなので青年向きの印象も。今後は少年誌での連載を意識したキャラクター作りを」(高橋留美子さん)「構成力、画力ともに、このまま雑誌に載っていても全く違和感のない作品。後は本人がどのような作家を目指すか」(あだち充さん)「完成度が高くて良い作品。ラストの展開が新鮮で、しかも内容に驚かされた。色々考えさせられるストーリーだった」(青山剛昌さん)「見事なドンデン返しにやられたという感じ。平凡に見えるストーリーだが、ラストシーンで作者の高い能力が窺える」(史村翔さん)

 
入選=2編
  ・『あたま』(=増刊に掲載決定)
   麻湧(23歳・北海道)
  ・『炎火のこぶし』(=増刊に掲載決定)
   ハセガワユージ(20歳・東京)
 佳作=2編
 
 ・『ロードオブメッセンジャー』
   高野裕也(20歳・東京)
  ・『たけし爆発5秒前』
   大塚真史(22歳・神奈川)
 最終候補=3編
  ・『DONBE』
   下下下下下下(=さかしたさげお)(25歳・埼玉)
  ・『影繰り』
   ゆうき美也子(23歳・東京)
  ・『快適ウソライフ』
   名久井幸恵(25歳・東京)

第7回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年10月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作&十二傑賞=1編
 ・『遊蕩☆法師』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  里谷竜希(24歳・神奈川)
 
《久保帯人氏講評:絵もキャラも表情も良い。ただ、中盤に主人公が嫌味になるのが少々印象が悪い》
 
《編集部講評:アップの際の顔のゆがみが気になる。ただし、妙な迫力と勢いが感じられる。)
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『─青─』
   杉田尚(22歳・北海道)
  ・『NARIKIRI』
   肥田勝典(27歳・埼玉)
  ・『MIND DISC』
   奥山祐美(22歳・茨城)
  ・『その少年は見てた』
   西嶋賢一(23歳・埼玉)
  ・『Zの男』
   坂井ユウキ(24歳・新潟)
  ・『日本製少年』
   山下実(23歳・福岡)
  ・『トレーサー』
   由城アラタ(21歳・東京)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります。(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ※「新人コミック大賞」
 ◎入選の麻湧さん…01年度「ストーリーキング」ネーム部門で最終候補、また「天下一漫画賞(現:ジャンプ十二傑新人漫画賞)」02年11月期でも最終候補
 ◎佳作の高野裕也さん「まんがカレッジ」02年12月&03年1月期で努力賞
 ◎佳作の大塚真史さん「まんがカレッジ」03年4月期で佳作
 ◎最終候補のゆうき美也子さん「まんがカレッジ」03年6月期で努力賞。
 ◎最終候補の名久井幸恵さん過去に「まんがカレッジ」で努力賞に入賞経験アリ(期別不明)

 ※十二傑新人漫画賞
 ◎最終候補の肥田勝典さん矢吹健太朗さんのスタジオでアシスタント。
 ◎最終候補の山下実さん99年8月期、00年3月期、01年11月期に「天下一漫画賞」への投稿歴があるそうです。(受講生さんから情報を頂きました)

 「新人コミック大賞」の方は、「サンデー」の月例賞出身組や「ジャンプ」からの移籍組など、過去に何らかの実績のある“新人予備軍”さんたちの活躍が目立ちました。
 また、大賞受賞のネモト摂さん別ペンネームで既にデビュー済みではないか? という声がネット界隈から複数挙がっており、どなたかの調査結果を待ちたいところです。
 しかし、3人同時に受賞即デビュー決定とは、少なくとも当ゼミが開講されてからは初めての珍しいケース。積極的に新人をデビューさせていこうという方針の表れなのか、それともただ単に“タマ不足”なのか判らないんですが、「まるで『ジャンプ』の新人賞みたいだな」…と思ったりしました(笑)。

 なお、今週の「サンデー」では、秋に発売されたルーキー増刊の“ルーキートライアル”優勝者の発表もあり、先週の「読書メモ」枠でレビューさせてもらった『河児』作画:四位晴果)が見事“ルーキーキング”受賞作となりました。個人的には極めて順当な結果だと思ったりしているのですが、何はともあれ、四位さんおめでとうございました。

 さて、「サンデー」関連情報はまだあります。以前から噂に挙がっていた、この冬からの新連載情報が公式アナウンスされましたので、こちらでも紹介しておきます。

「サンデー」新連載ラインナップ

 ◎第1弾・新年3号(次週発売)より新連載
 …『怪奇千万! 十五朗』(作画:川久保栄二)
 ◎第2弾・7号より新連載
 …『暗号名はBF』(作画:田中保佐奈)
 ◎第3弾・11号より新連載
 …『こわしや我聞』(作画:藤木俊)
 ◎第4弾・12号より新連載
 …『思春期刑事ミノル小林(かなり仮)』(作画:水口尚樹)

 ……今回のラインナップは、全員が今回初の週刊連載となるフレッシュな顔触れとなりました。
 ──って、何だか同じような事を以前言った事があるなと思ったら、秋の「ジャンプ」新連載シリーズ紹介の時でした(苦笑)。ちなみにその時新連載された3作品は全部打ち切りor打ち切り濃厚になってますが、こちらの4作品の行く末も大変気になるところですね。
 また、4・5合併号からは『きみのカケラ』作画:高橋しん)が超久々の連載再開となります。連載中断後にアシスタントが大幅(というより全員?)入替になるなど、バックステージでは表向きの「体調不良のため休載」だけでは括れないドタバタがあったようですが、何とか1年がかりでリスタートの態勢が整ったようです。中断前はアンケートが最下位クラスだったという噂も聞いた事がありますし、他にも問題が山積されたままですが、ここらで一発、大ヒット作家の意地を見せてもらいたいものです。

 
 ──それでは、今週分のレビューへ。対象作は「ジャンプ」から新連載1本と代原読み切り1本、そして「サンデー」から読み切り1本計3本となります。
 なお、今週の「チェックポイント」は諸事情のため、必要最小限の内容に留めさせて頂きます。
 

☆「週刊少年ジャンプ」2004年新年2号☆

 ◎新連載『銀魂』作画:空知英秋

 「ジャンプ」年末新連載シリーズ第2弾は、このシリーズ中唯一のルーキーとなる空知英秋さんの登場です。
 空知さんは今年24歳になりますが、キャリアはまだ1年強の新人作家さん。ここ最近の「ジャンプ」では異例の抜擢ですね。実は、これが「ジャンプ」系の新人さんでは初めての“当講座開講後デビューの連載作家”誕生だったりします。
 そんな空知さんのデビューは、先ほども申し上げた通り1年強前の02年9月同年6月期の「天下一漫画賞」佳作受賞作『だんでらいおん』が本誌02年42号に掲載されたもので、いきなりの本誌デビューでした。その後、本誌03年17号に読み切り『しろくろ』を発表したのを経て、今回の連載獲得となりました。
 デビュー以来、強運にも恵まれて順調過ぎとも言える出世街道を歩んで来た空知さんですが、果たしてチャンスを実らせる事が出来るでしょうか──?

 まずはですが、一応基本的な作画力は認められるものの、さすがに「連載作家」というカテゴリで見た場合、若干の物足りなさが否めません
 以前の作品でも指摘したディフォルメ技術にしても(やや改善の傾向が見られるものの)拙いですし、全体的にキャラの表情が硬いのが特に気になります。微妙な感情の起伏を表現出来ていないと言いますか、顔色の“色数”が絶対的に足りていないという印象があります。
 また、アシスタントを使いこなせていないのか、背景処理も作業量が足りていない気がします。やはりこの辺りはキャリア不足が響いている感じですね。

 そして、デビュー以来定評のあったストーリー・設定についても、初の連載で勝手が狂ったのか、少なくとも第1回を見た限りでは長所より短所の方が目に付く内容に終始してしまっています。
 特にマズかったのが世界観の骨組みとなる舞台背景ですね。現実の世界における日本の開国──外国船と外国人(異人)の来訪による鎖国解消&社会変動──を、宇宙船と宇宙人(天人)による出来事にしてみた…という発想は悪くないのですが、いかんせん設定の練り込みが足りなさ過ぎた感じです。例えば、廃刀令や武士の没落などといった社会変動。何故ゆえ宇宙人の日本進出で、現実の歴史と同じような現象が起こったのか? ……という部分が極めて想像し難く、読み手が作品の世界観になかなか溶け込んでいけないんですね。
 また、主要キャラクターに関しても、現時点では設定の練り込み不足は否定出来ないところで、有り体に言って「見切り発車にも程がある」といった感じです。
 セールスポイントとしては、こちらのデビュー以来定評のあった台詞回しやギャグのノリの良さ、更には“判る人には判る”絶妙の小ネタなどが挙げられるのですが、これらも残念ながら世界観の構築をしくじったために上滑りしているのが現状です。逆に言えば、これから設定の後付けが上手くいって世界観が安定すれば、今度は長所が活きて来るようになるのですが……。

 個人的に空知英秋さんは大変好きな作家さんですし、実力もあると思ってはいますが、残念ながら今回の連載に関しては時期尚早だったんじゃないかと思います。あと1年くらいアシスタント修行を積んで、“連載作品のイロハ”を学んでから挑戦して欲しかったです。
 暫定評価は、これでも甘めと言われるかも知れませんが、長所の部分を一応加点してBとします。奇跡の大逆転を祈って、あと2回じっくりとチェックしてみたいと思います。

 
 ◎読み切り『ハガユイズム』作画:越智厚介

 今週は『ピューと吹く! ジャガー』が作者都合の休載で、ショートギャグの代原が掲載されました。前回の『ジャガー』休載の際にも“代打”を務めた、越智厚介さんの『ハガユイズム』が登場です。
 越智さんは03年上期の「赤塚賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入り。そして先述の通り、前回『ジャガー』が休載になった03年44号で今回と同名の別作品で“仮デビュー”を果たしています。

 で、今回の作品ですが、内容的には前回レビューした際10月2日付講義。例の『戦斧王AX』(作画:イワタヒロノブ)をレビューした日ですが、ウザくなければ復習を推奨)と全くと言って良いほど変わっていませんので、多言には及ばないと思います。
 とにかくギャグの密度が薄い上に、オチがワンパターンで意外性不足なんですよね。起承転結の“起”か“承”あたりで小ギャグをカマして勢いをつけ、更にオチで大ネタをブチかます…というくらいの密度でも良いんじゃないでしょうか。裸になるのがオチではなく、序盤で全裸になった上で笑わせる…という“井手らっきょ方式”を試してみるなど、工夫の余地は幾らでもあるはずです。
 絵はギャグ作家としては悪くないだけに、あとはネタだけですね。もっとも、そこが最もセンスが問われる部分なんですが……。
 評価は前回から据え置きでB−としておきます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『サラブレッドと呼ばないで』作:長谷川尚代/画:藤野耕平【現時点での評価:B/連載総括】

 連載当初はネット界隈の評価も高かったこの作品ですが、残念ながらジリ貧状態のまま1クール突き抜けとなってしまいました。
 敗因大局観に欠けたシナリオ構成という事になるのでしょうか。タイトルに相応しいエピソードをたった1話で放棄してしまったり、その場のウケ狙いでメインストーリーの進展を遅らせてしまったりと、知らず知らずの内に序盤で泥沼にハマっていたんでしょう。なまじ実力があったがためにヤラれてしまったという、珍しい失敗のパターンでしたね。
 最終評価はBということで。当ゼミ的には、後半無難にまとめたという事で若干の加点です。次回作は正統派の学園コメディなんかどうでしょうか。期待しています。

☆「週刊少年サンデー」2004年新年2号☆

 ◎読み切り『カズマ来たる!!』作画:万乗大智

 新連載シリーズ前の景気付けというわけでしょうか、今週は『DAN DOH !!』シリーズでお馴染みの万乗大智さんによる読み切りが掲載されました。万乗さんは、今年の8月から9月にかけて、『ふうたろう忍法帖』を短期集中連載しており、まさに「意欲的」という言葉の似合う活動を続けています。
 万乗さんの過去の履歴については、その短期集中連載の際に紹介しました、万乗さんのお兄さんによる公式プロフィールと、「まんが家BACKSTAGE」のプロフィールに詳しいので、ここでは省略させて頂きます。まぁ、キャリアの大半が『DAN DOH !!』シリーズである…という解釈で良いんじゃないかと思いますが。

 それでは内容についてですが、については前作から3ヶ月しか経っていませんし、今日ここで特に言うべき事はありません。やや個性がキツいながらも、マンガの作画技術はちゃんと出来上がっているので安心して読めます。
 ただ、これも前回指摘させてもらったんですが、主人公がまたダンドーと似過ぎというのは、ちと芸が無さ過ぎて印象が良くないですね。微妙に髪型を変えるくらいなら、思い切って容貌をガラっと変えて欲しかったですね。

 で、やや問題アリなのがストーリーと設定です。
 まずシナリオですが、36ページの作品としては若干“容量オーバー”だった気がします。シリアスなテーマを深く描き切れるだけの余裕が感じられず、ドラマとしてはやや平板な展開に終始したのは否めないでしょう。副作用的にテンポは良くなりましたので読後感は悪くないのですが……。
 また、設定もシナリオ圧縮のアオリを受けたのか、かなり強引で消化不良に陥っている感があります。まるで質の悪い学園TVドラマに出て来るような“悪徳校長”もそうですし、第一、主人公の教師が少年である必然性が全く感じられません。その主人公の過去についてのエピソードもいかにも取って付けたようで、盛り上がるどころか逆に“白け”を生んでしまったような気もします。
 原作付きの超長期連載をやった後に完全オリジナルで短編を描く…というのは確かに難しい作業ではあると思うのですが、もうちょっとページ数に見合ったスケールのまとめ方を意識された方が良いのではないかと思いますが……。

 評価は、お話に余りにも見どころが少ないので、厳しくB寄りB−とさせてもらいます。
 個人的な印象ではこの話、TVドラマ版『ごくせん』+『魔法先生ネギま!』みたいな印象を受けました。で、それなのに主人公の口調が『風天組』の野津ケンなので、余計に違和感を感じてしまうんですよね(苦笑)。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「通信販売で買ったもの」。
 なかなか買い物に行く時間もとれない連載作家さんということもあり、日用品が割と多かった印象がありますね。あとは食べ物やマンガ制作に使用するモノなどですか。何だか俗っぽ過ぎて面白みに欠ける気も(苦笑)。
 駒木はクレジットカードが無い(というか、現状の身分や収入では審査に通らない)事もあって、あまり通信販売は利用した事はありませんね。敢えて挙げるなら、コンサートやスポーツのチケット類などでしょうか。やっぱりこれも面白くない回答だなぁ……(苦笑)。

 あと、『美鳥の日々』関連の大ニュースとは、やはりアニメ化でしたね。最近増えている地方ローカル局系の深夜枠になりそうです。駒木が小耳に挟んだ噂話だと、とりあえず放送期間は1クール限定のようですね。
 この枠で放映されるアニメは、TVでアニメを流すというよりも、熱心な“固定客”にDVDを買ってもらう方が大事なので、その分アニメ作画も相当力が入っているみたいですね。以前紹介した『銭』(作画:鈴木みそ)第1巻のアニメ業界編が思い出される話です。

 ◎『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』作画:中井邦彦【現時点での評価:/連載総括】

 相当な不人気だったのでしょう、「サンデー」としては異例の短期打ち切りとなりました。ただ、さすがにこの作品については、「打ち切られて残念ですね」と言うよりも、「『旋風の橘』の再現が避けられて良かったですね」と言いたくなってしまいますが(苦笑)。
 作品の内容については、もうフォロー出来る要素が全くありません。ありとあらゆる設定がグダグダなので、それに引きづられるようにストーリーもグダグダになってしまったとしか。短編を長編にリライトする際の難しさを色々な意味で教えてくれた作品…という事になるのでしょうか。
 これが中井さんの師匠の江川達也さんなら、いくら中身の無い話でもハッタリとエロで誤魔化して、ウヤムヤのままにソフトランディングして終わらせてしまうんでしょうけどね(笑)。

 
 ……さて、今週分はこれでご勘弁願います。次週は出来るだけ早い内にゼミをやってしまい、週末の「コミックアワード」に備えたいと思います。では。

 


 

2003年第93回講義
12月5日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(12月第1週分・後半)

 久々の前・後半分割実施となりました、今週の「現代マンガ時評」、後半分をお送りします。
 今日の“後半”では、予告しておりました通り、今週発売の「週刊少年サンデー」関連の情報やチェックポイントをお送りした後、来る、今年で第2回となります「仁川経済大学コミックアワード」関連の話題をお送りします。どうぞ最後まで宜しく。

 では、「サンデー」関連の情報から。
 次週発売の04年新年2号では、読み切り『カズマ来たる!!』(作画:万乗大智)が掲載されます。長期連載を終了させたすぐ後にも関わらず短期集中連載を敢行した万乗さんですが、年を越さない内にまた読み切り。本当にそのバイタリティーには脱帽ですね。

 ところでネット界隈では、やたら具体的な新連載4本のラインナップに始まり、長期休載中のアレが復活スタンバイに入ったとか、更には来週号で予定されている『美鳥の日々』の重大発表の中身まで様々な噂が飛び交っていますが、不気味な事に公式情報は現時点で何も出て来ていません。何だか嵐の前の静けさと言いますか、奄美諸島辺りまで来ている台風の情報を、本州からNHKニュースで聞いているような感覚ですね。
 そんな駒木も色々な所(例えば“関係者の知り合い”を名乗る方とか)から色々な噂を小耳に挟んだりしているのですが、最近は談話室(BBS)ですら軽口を叩けないような環境になっちゃってますので、今のところは自粛しときます(苦笑)。ただ、駒木が聞いた話も飛び交っている噂話と大差無いので、確定情報がリークされているのか、又は同じ出所から真実味のあるデマがばら撒かれているのかのどちらかでしょう。
 そういうわけで、まぁここは公式発表があった時のお楽しみという事で。

 ……では、早速チェックポイントから参りましょう。

☆「週刊少年サンデー」2004年新年1号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「今、有り余るほどの力があります。さて、何をしますか?」
 ……何か面白い事を言わないといけないような口調のお題ですね(笑)。しかし、その期待に(多分無意識で)答えて下さったのが、河合さん久米田さんの急造コンビ。「18ページ描きます」と河合さんが言ったところに、すかさず久米田さんがじゃあ俺17ページ描くと(笑)。1ページ減ってるところが何とも。
 しかし、藤田和日郎さん「普段から有り余ってるので、マンガ描く事で力抜いてる」ってのは凄いですね。さすがは富士鷹ジュビロっていうか。
 駒木なら、栗本薫さんのような猛スピードで新人賞用の長編小説を2週間で1〜2本仕上げたいですね。「30枚書き上げて時計見たらまだ5分しか経ってない」ってのを一度体験してみたいものです。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】

 「そういや、沢村と美鳥の初恋話って出てないね」
 「あー、そう言えばそうっスね。やっちゃいますか、次あたりでチョチョイと。……あーすいません、コーヒーおかわり」

 ……みたいな、ファミレスでの編集と作家さんの何気ない遣り取りから生まれたようなエピソードでしたね、今回は(笑)。やけにアッサリ肩透かしで終わった感じでしたが、これまでのこの作品のパターンからすると、この初恋の女の子が本当に成長して戻って来るってのも有り得ますからね。
 あ、誰か物好きな方に訊かれそうなんで先に答えておきますが、駒木の初恋はやっぱり実ってません(苦笑)。というか、大学生になってから初恋の人に同窓会で会ったら、コギャルキャラクター時代の小倉優子みたいになってたので、実らなくて正解だったと思います(笑)。

 ◎『結界師』作画:田辺イエロウ【現時点での評価:A/雑感】

 前回と今回のエピソードで、いつの間に良守って時音に“バリバリ片想いモード”になったんだろう? って、かなり違和感感じてしまったんですが……。2人の関係は、いわゆる“友達以上恋人未満”の戦友で、そこから長い間かけてジワジワと恋愛モードに持ち込むもんだと思い込んでたんですけどね。う〜む……。
 これは駒木だけの感覚なのかも知れませんが、田辺さんって自分の張った伏線の威力を少し過信してるような気がするんですよね。以前にもお話したように、時々話の展開が唐突に思える時があるんです。これが作品全体のクオリティを落とす要因にならなければ良いんですが……。


 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 “アイスバーン”の数が「まんがコース」より多いのが「テキストサイトコース」だったりするんですが(笑)。また、そのアイスバーンに突っ込んで行って転倒・再起不能になる人の多い事、多い事……。
 駒木も滑り始めの頃はジャリジャリのアイスバーンに突っ込んでコケそうになりましたが、要所要所で雪が残っている所を見つけて、今でも何とかやっております(笑)。しかし、このコース、滑り始めてから何年も経つのにゴールが来ないなあ……。

 ◎『売ったれ ダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治現時点での評価:保留中/中間まとめ】

 この『ダイキチ』も「コミックアワード」の審査対象になりますので、ここで再評価をしておきます。
 さて、この作品の第1回をレビューした時に、駒木はこの手の“業界ハウツー・薀蓄モノ”を描く時に留意すべき3つのポイントを挙げました。即ち、

 1.作品で紹介される薀蓄に説得力があるか。
 2.薀蓄はストーリーを引き立てるために存在しており、主客転倒していないか。
 3.主人公側の成功(勝利)に必然性があり、ご都合主義になっていないか。

 ……以上の3点。で、連載開始当初はコレがキチンと出来ていたからこそ、当ゼミでもA−の高評価を出していたわけなのです。が、現在の「松筑プロジェクト」編に突入してからは、これらのポイント──特に“1”と“3”の達成度が極めて怪しくなっています。これでは、とてもじゃないですが良作・佳作相当の評価を下す事など出来ません。
 本当はB−くらいまでに落としても良い所なんですが、連載当初のアドバンテージを相殺させなくてはバランスが取れませんので、ここは評価としておきます。


 ◎『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫現時点での評価:/連載総括】

 で、こっちは遂に連載終了。「鳥人間コンテスト」に出て来る人力飛行機のように、着水寸前で長期間粘っていたこの作品も、残念ながらここまででした。
 今回は登場キャラの後日談を羅列するという、典型的な最終回パターンだったわけですが、この期に及んでも一部キャラクターの区別がつきにくいんですけど駒木は(苦笑)。
 やっぱりこの辺の部分が絶えず作品全体の足を引っ張ってしまった所がありましたよね。似たような外見で似たようなタイプのキャラクターが次から次へと追加されても、シナリオに深みが出るどころか逆効果ですよ。次回作ではこの辺にもっと気を配って頂きたいものです。
 最終評価はB−寄りということで。


 ……というわけで、レギュラー企画はここまで。続きまして、これまで時間等の都合で評価をお届け出来なかった作品の簡単なレビューを2作品ほど、ここで「読書メモ」としてお送りします。

◇駒木博士の読書メモ(12月第1週)◇

 ◎『河児』作画:四位晴果/「週刊少年サンデーR(03年特別増刊号)」掲載

 「コミックアワード」最終エントリー1作目は“新人賞”枠から。「サンデー」版「赤マルジャンプ」とも言うべき、ルーキー増刊からの登場です。

 ……この増刊号、発行部数が僅少なのか、大手コンビニでですら入手困難だったりするのですが、今年はその手の増刊号を何故か大量に入荷する書店を見つけまして、何とか購入する事が出来ました。
 しかし、実際に読み始めてビックリしました。どの新人さんの作品も、申し訳無いがデキが酷い!(苦笑)
 この増刊には“ルーキートライアル”として、新人さんの描いた作品が20本掲載されているのですが、読んでて辛いと言ったらもう……。まず過半数の作品は絵がグダグダで、アマチュア級と言ったらアマチュアに失礼なレヴェルです。で、シナリオもシナリオで、普段このゼミで「こんな工夫の無いコテコテのお話が…」と言っているような作品ですら随分マシに見えてしまうという、(逆の意味で)物凄い事になっていました(汗)。全体的に言って、「赤マルジャンプ」が光り輝いて見えるくらいの水準…と申し上げれば大体の感じは判っていただけるでしょうか。
 ……なもので、駒木も読んでいる最中は「ひ〜、勘弁してくれー。こんなマンガに金払いたくねえぞー」などと心の中で悲鳴を上げておりました。いくら“仕事”とは言え、マンガを読むという事でここまで苦痛を感じなければならんのかと、そう思ってしまいました。

 ──ですが、物事諦めずに最後までやってみるもんです。全20本のラス前・19番目にとんでもない逸材が埋もれておりました。それがこの『河児(←「こうじ」と読みます)でした。プロ野球マンガで、低調なレヴェルの入団テストに参加した主人公がメジャー級の豪速球を披露して関係者の度肝を抜く…というシーンがありますが、図らずも駒木も、この作品と作者の四位さんに度肝を抜かれてしまいましたよ。

 まず。デビュー作だけあって、まだまだ線の力も弱く未完成な部分も多く残していますが、一応の水準はギリギリでクリアしています。そして何よりも、人間よりも老河童(主人公の育ての祖父が河童なんです)などの妖怪の方が達者に描けるという部分に強く惹かれます。こういう“武器”を持っているというのは、今後の活動の幅を大いに広げてくれる事でしょう。

 そして素晴らしいのがストーリーと設定でした。
 まず凄いのが「人間と妖怪が共棲している社会」という特殊な設定を僅か数ページで描写出来ている事。この世界観構築能力は明らかに新人の域を超えています。また、導入部分も極めて秀逸で、読み手をわずか数ページで作品世界に没入させる事が可能になっています。
 シナリオそのものは、家族愛をテーマにした比較的使い古されたストーリーラインなのですが、回想シーンの混ぜ方や台詞回し、更には『BLEACH』を思わせる高度な演出力がこれまた新人離れしており、全く“使い回し”感を感じさせません。
 問題点としては、世界観の描写に1つだけ大きなキズがある事(敢えて人間と妖怪が共棲する事になった理由が描かれていない)が挙げられるのですが、その部分を減点するにしても、それ以外のファクターで積み重ねた得点の方が遥かに勝っています。

 評価はA寄りA−。最近の“新人不況”の中で、とんでもない風雲児が出現しました。来年の四位さんの動向には、受講生の皆さんも是非ご注目を。


 ◎『PLUTO』作:手塚治虫/画:浦沢直樹/「ビッグコミックオリジナル」連載中

 そして最後は、受講生さんからのリクエストに応え、「仁川経済大学賞(グランプリ)」の“ワイルドカード”枠としてこの作品を。まさか当ゼミで(半ば形式上とはいえ)“手塚治虫”のクレジットが入った作品を紹介する事になるとは夢にも思いませんでしたが……。

 もう浦沢直樹さんの画力やストーリーテリング力に関しては、頭に“超”が付くくらいに有名で定評がありますので多言は避けますが、やはりこの作品でも浦沢さんの実力が遺憾なく発揮されています
 浦沢さんの凄い所というのは、ストーリーの進行と世界観の描写を同時に、しかも巧みにやってのける事。特に世界観の描写の大切さを心底理解しているのが強く伝わって来て、非常に好感が持てます。人間とロボットが完全に共棲している事だけでなく、そういう社会に潜むある種のイビツさまでが読み手に伝わる工夫が施されており、これはもう感服するのみですね。
 勿論、シナリオの出来も秀逸です。読み手が混乱しない程度に複雑という、絶妙のサジ加減なミステリーになっていますし、“原作:手塚治虫”という看板に臆する事無く100%“浦沢直樹色”を出し切っている度胸もナニゲに凄いですよね。

 惜しむらくは、ストーリーの進行が連載期間に比べてゆったり過ぎるという所でしょうか。浦沢直樹作品は単行本になった際の完成度が最優先されるらしいので仕方ないんですが、それにしても序盤の“布石”に時間を使い過ぎなような気がしないでもありません。
 時期的な問題もあって難しかったでしょうが、出来れば『20世紀少年』を一段落させてから始動させて欲しかったという思いがあります。
 それでも評価はを出さなくちゃ失礼でしょう。堂々たる今期グランプリ候補作です。

 
 ……というわけで、今期(02年12月〜03年11月)のレビューが全て出揃いました。レビューした作品の総数はなんと122本。よくもまぁ、これだけやって来たもんですね(苦笑)。
 さて、今年の「仁川経済大学コミックアワード」ですが、今回からは新たにギャグ作品を対象にした賞、

 ◆ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞
 ◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞

 ……以上2つの部門賞を新設します。賞の概要については追って説明しますが、今後はストーリー作品とギャグ作品は、グランプリを除いて別々に審査される事になります。
 これにより各賞の“重み”が目減りする可能性もありますが、正直言ってギャグ作品とストーリー作品のクオリティを同列で比べるのは大変に困難ですので、ご理解を賜りたいと思っております。

 では、以下に各部門賞のノミネート資格保持作品、及び「仁川経済大学賞(グランプリ)」と「ラズベリーコミック賞」のノミネート作品の一覧を掲示します。
 なお、各部門賞においては、“ノミネート資格保持”という事で、ここに挙げる作品はまだ最終ノミネート作ではありません。「コミックアワード」の直前に“優秀作品賞”という形で最終ノミネート作品を発表する予定ですので、どうぞご承知置き下さい。

※各部門ノミネート(資格保持)作一覧※

仁川経済大学賞(グランプリ)
 …“グランプリ”という名の通り、この1年の間に当ゼミでレビューした作品の中で最も優秀な作品に送られる賞。
 ノミネート資格は、“ジャンプ&サンデー”の名の付く各部門賞の受賞作と、「ジャンプ」、「サンデー」両誌以外のレビュー対象作の中でA評価(但し、連載作品については最新に発表された評価)を獲得した作品。

●(ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞受賞作)
●(ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞受賞作)
●(ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞受賞作)
●(ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞受賞作)
●(ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞受賞作)
『最強伝説黒沢』作画:福本伸行/「ビッグコミックオリジナル」連載中)
『PLUTO』作:手塚治虫/画:浦沢直樹/「ビッグコミックオリジナル」連載中)

◆ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞
(※ノミネート資格保持作品)
…「週刊少年ジャンプ」系と「週刊少年サンデー」系の雑誌で長編連載されたストーリー作品が対象。
 ノミネート資格は対象作品の内、A−以上の評価(但し、連載中に評価が変更されている場合は最新に発表されたもの)を得た作品。

『武装錬金』作画:和月伸宏
  《以上、「週刊少年ジャンプ」連載》
『結界師』作画:田辺イエロウ
  《以上、「週刊少年サンデー」連載》

◆ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞
(※ノミネート資格保持作品)
…「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」系の雑誌に掲載された読み切り、または短期集中連載のストーリー作品が対象。
 ノミネート資格は、長編作品賞と同じく評価A−以上。

『ドーミエ 〜エピソード1〜』作画:高橋一郎
『しろくろ』作画:空知英秋
『詭道の人』作画:内水融
『天上都市』作画:中島諭宇樹
『ヒカルの碁・特別番外編』作:ほったゆみ/画:小畑健
『オウタマイ』作画:梅尾光加
『プリティフェイス 番外編』作画:叶恭弘
『NOW AND ZEN』作画:加治佐修
 《以上、「週刊少年ジャンプ」系雑誌に掲載》
『美食王の到着』作画:藤田和日郎
『結界師(本誌掲載読切版)作画:田辺イエロウ
『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志
『河児』作画:四位晴果
 《以上、「週刊少年サンデー」系雑誌に掲載》

◆ジャンプ&サンデー・最優秀ギャグ作品賞
(※ノミネート資格保持作品)
…「週刊少年ジャンプ」系と「週刊少年サンデー」系の雑誌に掲載された全ギャグ作品が対象。
 ノミネート資格はA−以上の評価(但し、連載作品については、連載中に評価が変更されている場合は最新に発表されたもの)を得た作品。

『スピンちゃん試作型』作画:大亜門
『超便利マシーン・スピンちゃん』作画:大亜門
『超便利ロボスピンちゃん』作画:大亜門) 
『テラピー戦士マダムーン』作画:藤田健司
 《以上、「週刊少年ジャンプ」系雑誌に掲載》
『黒松・ザ・ノーベレスト』作画:水口尚樹) 
『進学教室 !! フェニックス学園(週刊本誌読切版)作画:水口尚樹
 《以上、「週刊少年サンデー」系雑誌に掲載》

ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞
(※ノミネート資格保持作品)
…「週刊少年ジャンプ」や「週刊少年サンデー」の本誌や増刊において、両誌の週刊本誌で長期連載(=短期集中でない連載)を経験していない作家の発表した読み切り・短期集中連載作品または初の長期連載作品が対象。ただし、その作者が他誌で長期連載経験があっても有資格とする“大リーグ新人王方式”を採用。
 ノミネート資格はA−以上の評価(但し、連載作品については、連載中に評価が変更されている場合は最新に発表されたもの)を得た作品。

『ドーミエ 〜エピソード1〜』作画:高橋一郎
『しろくろ』作画:空知英秋
『詭道の人』作画:内水融
『天上都市』作画:中島諭宇樹
『オウタマイ』作画:梅尾光加
  《以上、「週刊少年ジャンプ」系雑誌に掲載》
『結界師(週刊本誌読切版)作画:田辺イエロウ
『結界師』作画:田辺イエロウ
『河児』作画:四位晴果
  《以上、「週刊少年サンデー」系雑誌に連載または掲載》

◆ジャンプ&サンデー・最優秀新人ギャグ作品賞
(※ノミネート資格保持作品)
…「週刊少年ジャンプ」や「週刊少年サンデー」の本誌や増刊において、両誌の週刊本誌で長期連載(=短期集中でない連載)を経験していない作家の発表したギャグ作品(初の長期連載作品含む)が対象。ただし、その作者が他誌で長期連載経験があっても有資格とする“大リーグ新人王方式”を採用。
 ノミネート資格はA−以上の評価(但し、連載作品については、連載中に評価が変更されている場合は最新に発表されたもの)を得た作品。

『スピンちゃん試作型』作画:大亜門
『超便利マシーン・スピンちゃん』作画:大亜門
『超便利ロボスピンちゃん』作画:大亜門) 
『テラピー戦士マダムーン』作画:藤田健司
 《以上、「週刊少年ジャンプ」系雑誌に掲載》
『黒松・ザ・ノーベレスト』作画:水口尚樹) 
『進学教室 !! フェニックス学園(週刊本誌読切版)作画:水口尚樹
 《以上、「週刊少年サンデー」系雑誌に掲載》

◎ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)
…映画のアカデミー賞に対するゴールデンラズベリー賞をモチーフにした、最悪な作品を表彰する賞。対象作はレビュー対象にした全作品で、あらゆる意味において“最悪”(not最低)な作品を選出する。ただし、ノミネート及び審査基準は駒木ハヤトの独断。

『少年守護神』作画:東直輝/「週刊少年ジャンプ」掲載)
『テニスの王子様 特別編・サムライの詩』作画:許斐剛/「週刊少年ジャンプ」掲載)
『キックスメガミックス』作画:吉川雅之/「週刊少年ジャンプ」連載)
『楽ガキFighter 〜HERO OF SAINT PAINT〜』作画:中井邦彦/「週刊少年サンデー」連載中)
『AX 戦斧王伝説』作画:イワタヒロノブ/「週刊少年ジャンプ」掲載)
『ツバサ』作画:CLAMP/「週刊少年マガジン」連載中)

 ……こうしてみると、今年の「ジャンプ」と「サンデー」の傾向がおぼろげながら見て取れて興味深いですね。
 今年の「コミックアワード」は12月20日、21日に実施予定です。どうぞお楽しみに。また、勿論次週も「現代マンガ時評」は実施しますので、そちらも宜しく。では。

 


 

2003年第92回講義
12月3日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(12月第1週分・前半)

 いつの間にか師走です。まだ高校で非常勤講師をやってた去年の今頃には、まさか今年の12月時点でヤフーのモデム配ってるとは夢にも思いませんでしたが、事実は小説より奇なり。でも、どうせ小説より奇妙な現実なら、もっと良い現実が見たいんですが……。
 それはさておき、師走と言えば年末進行。連載をお持ちのマンガ家さんは、ちょうど今頃から地獄モードに突入でしょうか。しかもそういう最中に各出版社で謝恩会なんかが行われるから本当に始末が悪いですよね(笑)。どうして出版業界がそんな自縄自縛的な慣例を作り上げてしまったのか、素朴な疑問を抱いてしまうのですが……(苦笑)。

 さて、そんな中でもマイペースでお送りしております、今年の当講座。ゆったりとしたタイミングで今週分のゼミを始めたいと思います(申し訳無)。
 今週は第2回の「仁川経済大学コミックアワード」関連の事もやらなくてはなりませんので、前・後半に分けてお送りする事にします。今日の“前半”では「週刊少年ジャンプ」関連の情報・レビュー等を、週末にお送りする予定の“後半”では「週刊少年サンデー」関連の情報・チェックポイントと「コミックアワード」関連の企画をやる予定です。どうぞ宜しく。

 それでは、まず「ジャンプ」に関連した情報系の話題からお送りします。今週は03年下期「手塚賞」&「赤塚賞」の審査結果発表がありました。例によって受賞者と受賞作を紹介しておきましょう。

第66回手塚賞&第59回赤塚賞(03年下期)

 ☆手塚賞☆
 入選=該当作なし
 準入選=1編
  ・『ダー!!! 〜便所の壁をブチ破れ〜』(=04年01号に掲載)
   吉田慎矢(18歳・島根)
 佳作=4編
 
 ・『ブレイブハート』
   滝沢いづみ(21歳・神奈川)
  ・『ヘンテコな』
   千坂圭太郎(18歳・京都)
  ・『MosquitoPanic』
   中西まちこ(18歳・京都)
  ・『I ディアー』
   黒木亮(21歳・北海道)
 最終候補=3編
  ・『警泥 ─ケイドロ─』
   内海謙一(21歳・兵庫)
  ・『突撃! ダダダ団』
   山瀬綾斗(26歳・東京)
  ・『electrify』
   舘原晴秋(23歳・宮城)

 ☆赤塚賞☆
 入選=該当作なし
 準入選=1編
  ・『BULLET CATCHERS』
   夏生尚(23歳・神奈川)
 佳作=2編

  ・『夢泡釣団 〜ビートルズ編〜』
   やすべえ(21歳・埼玉)
  ・『みなしごひろしのプロレシアンドリーム〜入門編〜』
   水溜三太夫(24歳・東京)
 最終候補=5編
  ・『あふれてるぜLOVE』
   吉田覚(21歳・新潟)
  ・『THE 研修 ─ザ・けんしゅう─』
   清水雄介(21歳・東京)
  ・『モモヒキ革命児風少年シモモ』
   平野正臣(29歳・東京)
  ・『田舎ののの』
   日丸屋和良(18歳・福島)
  ・『忍者J』
   りゅーじ(27歳・静岡)

 ◎手塚賞準入選の吉田慎矢さん03年6月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補
 ◎手塚賞佳作の滝沢いづみさん「月刊少年ジャンプ」02年9月増刊号に読み切りを発表。
 ◎手塚賞佳作の中西まちこさん01年下期&03年上期「手塚賞」で最終候補、01年12月期「天下一」で編集部特別賞を受賞
 ◎赤塚賞準入選の夏生尚さん02年上期「赤塚賞」で佳作。02年31号、03年35号で本誌に代原で読み切りを発表。
 
赤塚賞最終候補の平野正臣さんうすた京介さんのアシスタント。03年3月期「天下一漫画賞」に投稿歴アリ。
 
赤塚賞最終候補の日丸屋和良さん03年度上期「赤塚賞」で最終候補。

 「十二傑新人漫画賞」と比べて見劣りがしないようにするためか、今回から賞金が大幅アップした「手塚賞」&「赤塚賞」の両賞。ただし、応募作のレヴェルは「“再挑戦組”に支えられて何とか現状維持」…といったところでしょうか。
 ただ、この両賞が出身でヒット作(長期連載作品)を出した作家さんが長年出ていない現状(『手塚賞』の場合、同賞出身で最後の“勝ち組”が94年下期武井宏之さん。『赤塚賞』は98年上期村田雄介さん──但し、その3年前に月例賞で入賞済──が最後)を鑑みると、駒木個人的にはこの2つの賞、そろそろ潮時なのではないかという気もしているのですが……。特に「手塚賞」は「ストーリーキング」という後継の新人賞が確立された事ですし、何らかの策を講じないとせっかくの「手塚治虫」という看板が倒れてしまいそうです。
 多分いないでしょうが、もし受講生さんの中に関係者の方が混じっていらっしゃったら、どうか御一考をお願いしたいところでありますね。

 ……それでは、「ジャンプ」今週号分のレビューとチェックポイントへ。レビュー対象作は新連載1本、読み切り1本の計2本です。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年新年1号☆

 ◎新連載『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健

 「ジャンプ」の年末新連載シリーズ第1弾は、読み切りからの“昇格”となりました、少年誌では異色のサスペンスホラー作品・『DEATH NOTE』です。

 作者のプロフィールですが、まず原作の大場つぐみさんに関しましては、残念ながら全く詳細不明というのが現状です。ここ数年の「ジャンプ」系新人賞の受賞者リストにその名前は無く、Google等で検索してもこの作品に関する以外の所で名前は出て来ていません。
 通常「ジャンプ」では、その作家さんの“ジャンプデビュー”の際にはプロフィールを公開するのが常であり、それを考えると大場さんが新人マンガ家さんであるという“線”はまず消えます。となると、別分野での実績を残したクリエイターさんという事になるのですが、それなら著書などを介してネット上に名前が残っているはずで、どうにも不自然です。
 となると、この大場つぐみという方は、“有名作家(マンガ家or小説家)の別ペンネーム”と考えるのが最も自然なような気がします。例えば、『いちご100%』連載中の河下水希さんは、かつて桃栗みかん名義で少女マンガを描いていた事で有名ですが、同様の例は過去にも多数ありました。あくまでも推測の域を出ませんが、大場さんの場合もそのパターンなのではないでしょうか。
 ただ、今回は作画担当者付の原作ということで、正体探しをするにしても手がかりが非常に少ないのがアレですね。恐らくはご自身か業界関係者がリークするまでは、真相は闇の中…という事になりそうです。

 一方、作画担当の小畑健さんについては多言を要しませんね。『ヒカルの碁』(原作:ほったゆみ)で念願の大ヒット作を輩出したベテラン作家さんです。
 小畑さんは1985年下期の「手塚賞」で準入選受賞者ですから、キャリアは丸18年。この時期の増刊号掲載作家リストが散逸しているので正確なデビュー時期は確定出来ませんでしたが、本誌初登場は88年46号に掲載の読み切り『CYBORGじいちゃんG』で、一般的にはこれがデビュー作として認識されているようです。ちなみに、この時は土方茂というペンネームでした。
 そして翌89年22号から、この『CYBORGじいちゃんG』で連載デビューを果たしますが、残念ながら31回で終了。その後も原作付作品を中心に何度も読み切りや連載作品を発表しますが、いずれもヒットには至りませんでした。しかし、その卓越した画力は誰もが認めるところで、早くその実力相応のヒット作が出る事を望んでいたファンも少なからず存在していました。
 そんな小畑さんにとって念願の大ヒット作となったのが、先述した『ヒカルの碁』です。99年2・3合併号から中断を挟んで約4年半のロングランとなったこの作品は、連載開始間もなくから人気を集め、名実共に小畑さんの代表作と言える名作となりました。
 そして、『ヒカルの碁』終了後にも精力的な活動を続ける小畑さん、今回は読み切り発表を挟んでわずか半年での連載復帰となりました。果たしてこれが第2の代表作となるか……といったところでしょうか。

 ……さて、それでは『DEATH NOTE』の内容について述べてゆきましょう。

 に関しては何も口を挟む事はありません。というより、とても口を挟めません(苦笑)。この小畑さんの絵に関しては、「文句言うなら、お前が週刊ペースでこの絵を描いてみろ」という反論が成り立つような気さえします(笑)。

 次に、読み切り版では問題が見受けられたストーリー&設定ですが、こちらは格段に良くなっています

 基本的な世界観や設定そのものは読み切り版と変わりないのですが、主人公をアクの強いキャラクターに変更させた事で、一気にストーリーが良い方向へ転がりだしましたね。中途半端に天才的な頭脳と自意識過剰なプライドを持った“自称・優等生”が、心の中で飼っていた“闇”を短期間で膨張させる様がヒシヒシと伝わって来て(サスペンスホラーとして)非常に良い感じです。
 またこの“闇”の描写が非常に巧みなんですよね。何と言いますか、藤子・F・不二雄先生のSF短編を髣髴とさせるような、妙にリアルで生々しい人間の暗黒面が見事に描かれていて、大変に素晴らしいと思います。
 あと、脚本面もスムーズで良いですね。特に死神・リュークが心の中で言い放った「やっぱり…人間って…面白!」というセリフが効果抜群です。このセリフのお蔭で、読者は主人公に過度な感情移入をする事なく、客観的なスタンスを維持したまま作品を読み込めるのです。この主人公って変に生々しいですから、下手に感情移入すると自己嫌悪含みの不快感を抱いてしまう恐れがあるんです。それを回避できたというのは、非常に意義があるセリフだったと思いますよ。

 ただ惜しむらくは、その直後のラスト2ページ。ICPOの会議をインターネット中継で眺めている謎の人物…というシチュエーションにリアリティが無いため、それまでのリアルさの反動で急に白けてしまった所
 これは第2話以降の展開如何ですが、ここを発端にストーリーのクオリティが急降下する可能性もあり、未だ予断を許さない情勢と言えます。

 ……そういうわけで、今回時点の評価は保留。ただ、ラスト2ページに入るまでなら十分A評価に値する、極めてレヴェルの高い作品です。不安を抱きつつも期待して次回以降を読んでみたいと思います。


 ◎読み切り『ダー!!! 〜便所の壁をブチ破れ〜』作画:吉田慎矢

 今週の読み切りは、この号で結果が発表された「手塚賞」の準入選作が早速登場。受賞即本誌掲載という、新人作家さんにとって最高のスタートとなりました。
 作者の吉田慎矢さん現在18歳で現役高校生。勿論これがデビュー作となります。

 まずについてですが、これがデビュー作、しかも年齢が18歳という事を考えると、及第点は出せるのではないかと思います。動的表現や迫力のあるシーンなどの描写はソツなく出来ており、マンガ的表現の基礎能力は備わっていると判断して良さそうです。
 ただ、全体的な画力は未だ発展途上です。構図も凝り過ぎていて逆に見辛いシーンもあります。顔のアップやバストアップを不用意に多用しているのも、手抜きしているように見えて余り歓迎出来ませんね。

 次にストーリー&設定ですが、全体的なクオリティは別にして、いかにも新人賞を受賞しそうな、背伸びしていない素朴なお話ですね。ボクシングを題材にしたダメ主人公の成長ストーリーは、これまでにも無数に描かれて来ましたが、この作品もその前例を綺麗に踏襲したオーソドックスなシナリオです。
 逆に言えば新味が無いとも取れるのですが、冒険を捨てて完成度を取るという選択は、分相応で妥当だったんではないかと思います。この作品は結果的にデビュー作になってしまいましたが、執筆当時は“新人予備軍”の単なる習作原稿だったのですからね。

 「手塚賞」に限らず、この手の新人賞はどうしても“お山の大将と井の中の蛙たちの青臭い自己主張合戦”の趣となります。各地の“村一番レヴェル”の作家志望者たちが、「俺って凄いんだぜ」という自己アピールを作品の中に必要以上に込めてしまうからです。
 ですが、そんな「俺って凄い」も、プロである審査員の皆さんにとってみれば、ほとんどが“単なる勘違い”なわけでして(笑)、審査している内に大概ウザくなって来る事もあるとか無いとか。なので、そういう中にこういうサッパリした作品──悪く言えば陳腐な作品が混じっていると、その反動で必要以上に良く見えてしまうものなのだそうです。
 そういうわけで、今回は(プロの描いた作品としてなら内容的に指摘したい部分は山ほど有りますが)これで良いと思います。ただ、このクオリティをデビュー2作目に持って来られても、今度は読者が納得しないと思います。吉田さんにはここをゴールだと思わず、もっともっと精進してもらいたいですね。せっかく賞金が100万円も貰えたのですから、そのお金を資本にして良い作品を作り上げていって欲しいと思います。

 あと蛇足ながら、細かい部分について若干の苦言を。
 まず題名。いくら作品の内容に即したタイトルとは言え、「便所」は無いんじゃないでしょうか(苦笑)。「便所」という言葉が持つパワーというのは凄くて、どんな作品でもギャグマンガっぽく感じられてしまうんですよね。今回の場合はただ単に「壁をブチ破れ」でも良かったくらいだと思います。
 また、肝心のボクシングが、映画『ロッキー』ばりの“ボクシング風ドツき合い”に終始したのも残念でした。さすがにアゴへ“ベストパンチ”まともに喰らって立ち上がるってのは、人間業じゃありませんので。あと、最後のワン・ツー、右ストレートのはずが右フックにしか見えないのは気のせいでしょうか?

 評価はBとしておきましょう。とりあえず次回作で真価を問いたいと考えています。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントについて箇条書き形式で雑感。

 ・澤井啓夫さん…松屋で牛丼(牛めし)とめかぶ……。どうして「ジャンプ」作家さんって食生活がジャンクで必要以上に安上がりなんでしょうか(苦笑)。もうちょっと良いモン食いましょうよ。
 ・冨樫義博さん…で、こちらも(笑)。もうどうせなら、スタジオか自宅に専属のカレー専門料理人雇ったらどうですか。毎日「どっちの料理ショー」で出て来るような豪華カレー作ってもらって下さい。

 ◎『こちら葛飾区亀有公園前派出所』作画:秋元治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 何て言うか、外国のB級バラエティー番組で大阪が紹介されたらこんな感じになるんだろうなーと(笑)。細かい部分は勿論のこと明らかに違うんですが、根底に流れている精神みたいなものは妙に似ているような気もする…という感じでしょうか。
 ただ、大阪人というか近畿の人間は、別にあそこまで東京人を嫌ってないので安心して旅行しに来て下さい(笑)。

 ◎『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 捨てキャラに近い扱いかな…と思っていたナックルなんですが、また冨樫作品の脇役らしい面白いキャラになってますなー。「はずしたら俺死ぬぞこれオイ」とか「信じるぞコラァァ!!」とか、セリフも良い味出し過ぎ(笑)。
 しかもそこで終わらせずに、キッチリと話をもう一歩進めてしまうところが冨樫流なんですよね。(と、不特定多数の別の作家さんに無言のメッセージw)


 ……というわけで、前半分は以上。後半は週末の競馬学講義前に何とかする予定でいます。

 


 

2003年第90回講義
11月28日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(11月第5週分・合同)

 またしても遅くなりましたが、今週のゼミを始めます。「ジャンプ」の発売日からほぼ1週間経って「今週のレビュー」なんて言ってるのもアレなんですが……。

 さて、そういうわけで時間がありません。まずは先週から溜め込んだ分もある情報系の話題から。

 まずは受講生の皆さんも注目しているであろう、「ジャンプ」年末(雑誌的には04年新年)新連載シリーズのラインナップが発表されましたので、こちらでも改めて紹介しておきます。

新連載シリーズ・今回のラインナップ

 ◎第1弾・新年1号(次週発売)より新連載
 …『DEATH NOTE』(作:大場つぐみ/画:小畑健)
 ◎第2弾・新年2号より新連載
 …『銀魂』(作画:空知英秋)
 ◎第3弾・新年3号より新連載
 …『LIVE』(作画:梅沢春人)

 ネット界隈の噂では、今年2回目の新連載4本か…という説もありましたが、とりあえずオフィシャルでは“標準モード”の新連載3本ということに。
 ただ、だからと言って打ち切りも3本で断定できるかと言うと微妙な所なんですよね。前回の改変では新連載3本で打ち切り2本でしたので、今回はその逆で打ち切りが1本多くなるかも知れませんし。掲載順などを見ても、今期の新連載の生き残り2本(『サラブレッドと呼ばないで』&『神撫手』)が“瀕死状態”なのは明白ですし、場合によると4本打ち切りもあり得ます。まぁ3本入れ替えで片方が生き残るにしても、ぶっちゃけ『闇神コウ─暗闇にドッキリ─』と同じパターンになるのは目に見えてますが……。

 で、新連載のラインナップですが、有り体に言えば、「『ジャンプ』の僅かな“残弾”を惜しげも無く投入して来たなぁ…」という感じですね。小畑健さん、梅澤春人さんといった固定ファンの多いベテラン作家さんに加えて、ネット界隈でも評判の高い若手・空知英秋さんをぶつけて来るとは思い切ったモンです。
 しかし、現在のラインナップの中に初連載の若手作家さんが飛び込んでいくのは大変ですよねぇ。ライバルが小畑&梅澤両氏に加え、『ごっちゃん』、『ミスフル』あたりになりますから……。生き残るにはハンパじゃないパワーが必要になると思いますが、新人・若手が育たないと「ジャンプ」はどうにもなりませんので、そういう意味でも空知さんには頑張ってもらいたいものです。

 なお、次週発売の「ジャンプ」新年1号には、読み切り『ダー!!! 〜便所の壁をブチ破れ〜』作画:吉田慎矢)が掲載されます。
 吉田さんは03年6月期『十二傑新人漫画賞』で最終候補まで残ったのが“最高位”の新人さんで、勿論これがデビュー作。6月時点で17歳ということですので、現在は現役高校生でしょうか。題名や次週予告のカットでは一体どんな作品か全く判らないのですが、ページ数から言ってストーリー系作品のようですね。

 ……さて、先週のゼミで扱う予定だった「ジャンプ」系の新人賞・「ストーリーキング」03年下期の審査結果が発表になってしますので、こちらの受賞者・受賞作を紹介しておきましょう。

第10回ストーリーキング(03年下期)

 ◎マンガ部門
 キング=該当作無し
 準キング=1編
 ・『みえるひと
』=「赤マル」掲載決定
  岩代俊明(25歳・東京)
 《講評:とにかく見やすいのが印象的。コマ割りもキッチリされていて絵柄にも好感が持てる。前半のストーリー展開が淡々とし過ぎているのでリズムに気をつけて欲しい。迫力ももっと欲しいところ》
 奨励賞=該当作なし
 最終候補(選外佳作)=7編
  ・『FANNY STORY』
   森田将文(23歳・東京)
  ・『蹉跌』
   雪田鉄蔵(26歳・京都)
  ・『HIGH SPEED GIRL』
   福代ゆりか(18歳・島根)
  ・『僕とお面』
   佐倉茶太郎(19歳・千葉) 
  ・『料理や』
   西誠(17歳・千葉)
  ・『one armed abyss』
   西島麗(17歳・宮城)
  ・『ぶ霊んますたあ』
   岸のりこ(19歳・栃木)   

 ◎ネーム部門
 キング=該当作無し
 準キング=1編
 ・『いのちやどりしは

  高野勇馬(25歳・兵庫)
 《講評:文楽という馴染みの薄いジャンルに挑戦し、その面白さを演出出来ていた点を大きく評価した。あとは主人公が文楽に興味を持つ理由の弱さ等、キャラクターをじっくり描く意識を高めて欲しい》
 ・『桐野佐亜子と仲間たち

  二戸原太輔(21歳・福岡)
 《講評:「能力バトル」という設定自体はそれほど新鮮ではなかったが、戦闘場面におけるレベルの高いアイディア力と、キャラの“強さ”を確実に演出する力を感じさせた。ただし「能力とは何か」という部分の説明が不足していたのが残念》
 奨励賞=該当作なし
 最終候補(選外佳作)=6編
  ・『羽ばたく音楽』
   大館貴子(33歳・埼玉)
  ・『ROGUE』
   陽祐(20歳・兵庫)
  ・『一つ結び』
   山本春助(18歳・長崎)
  ・『霊飼いの宿』
   赤羽潔(27歳・東京)
  ・『鬼丸王』
   黒犬のしっぽ(36歳・東京)
  ・『長靴を履いた猫』
   宮田英俊(23歳・兵庫)

 受賞者の皆さんのキャリアは以下の通りです。

 ◎マンガ部門最終候補の森田将文さん01年11月期、02年1月期、02年7月期、03年1月期の「天下一漫画賞(現:十二傑新人漫画賞)」で計4回最終候補。
 ◎ネーム部門最終候補の黒犬のしっぽさん02年度、及び03年上期「ストーリーキング」でも最終候補。

 なお、マンガ部門準キングの岩代俊明さんは、活発に同人活動もしていたようで、Googleで名前を検索すると所属サークルのウェブサイトに飛べたりします。
 そこでは18禁マンガも描いた事があったような記述が載っていましたが、まぁ「ジャンプ」では成人誌出身の真倉翔さんが活躍していたりしてますので、これは問題にならないでしょう。大事なのは、これから商業媒体で優れた少年マンガが残せるかどうかです。講評を見る限りでは、まだまだ課題が残っているような感じですが、恐らく来春の「赤マル」に掲載されるデビュー作の出来映えに注目してみたいところですね。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年52号☆

 ◎読み切り『ぷーやん』作画:霧木凡ケン

 今週の読み切りは、知る人ぞ知るベテラン下積み作家・霧木凡ケンさんが登場です。
 間もなくデビュー12周年となる霧木さんのデビューは1991年、霧木さんが弱冠15歳の時。これまでのキャリアは『シェルター』さんの『霧木凡ケン作品リスト』に詳しいので、そちらを参照して頂ければ…と思いますが、これまでに「ホップ☆ステップ賞(現:「十二傑新人漫画賞」)」入選「赤塚賞」準入選増刊号に作品掲載6回週刊本誌に作品掲載2回…というキャリア相応の実績を残しています。
 そして今回は3年ぶり3度目の本誌掲載。悲願の連載獲得へ向けて、文字通り三度目の正直なるか…といったところでしょうか。

 まずについてですが、どうも全体的にシックリ来ません。致命的なミスは無いのですが、所々でデッサンが崩れている所があったり、表現が上手くいっていない所があったりします。「赤マル」春号で初めて霧木作品をレビューした際には、「これも霧木さんの“味”なのかな……」とも思いましたが、今作の絵柄を見てみると、それだけで片付けてはいけないような気がしてきました。
 デビュー12年にして、まだ絵の技術的な面で課題が残っているというのは、やはり頂けませんね。正直な所、「同期・後輩がどんどん追い抜いて行ってる中で、一体これまで何やってきたんだ」という話になるわけですから。

 スト−リーにも問題がありますね
 話の展開は最初から最後まで不条理そのものなんですが、作中の登場人物全員が(そして恐らくは霧木さんも)、全くこの筋書きを不条理だと実感していないんですね。本来ならツッコミ役を配置してギャグマンガにならなきゃおかしいくらいの不条理な筋書きなんですが、スタイルそのものは純然たるストーリー作品なんですよ。だから読み手にとっては得も言われぬ違和感を感じてしまうわけです。作品世界に没入していけないんですね。
 ストーリーテリング力が云々…ということよりも、むしろ作者視点が読者視点と大きく乖離している事の方が問題ですね。これは作者の霧木さんが気付かない限りは、そして気付いたとしても12年分のノウハウを放棄してゼロからリスタートしない限りは修正出来ないものだけに、非常に辛いところでしょう。
 あ、あと作風が「週刊ビックコミックスピリッツ」の『π』に似てしまってるのもヤバいですね。「スピリッツ」も読んでいるような高年齢層読者──おそらくこの作品で最も支持を集める可能性の高い読者層──は、「あ、似てる」と感じた時点で、この作品を二番煎じ扱いしてしまうでしょうから。

 評価はギリギリでB−というところでしょうか。正直言って、連載に耐えられるクオリティとは思えません。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントについて箇条書き形式で雑感。

 ・稲垣理一郎さんジャンプフェスタとクリスマスボウルが日程と時間帯まで一致した事に大ショック。そりゃショックでしょうなぁ(苦笑)。ていうか、誰かスケジュール調整してやれよって話なんですが。
 まぁアレですよ、鶴の一声でジャンプフェスタの日程がズラせるくらい偉くなって下さい、稲垣さん。
 ・つの丸さん…分裂前の全日って、何度目の分裂なんだろう…とかマニアな疑問を抱いたんですが、まぁ先週に三沢モドキのキャラを出してる所から考えると2度目の分裂(現ノア勢離脱)なんでしょうね。でも、良い環境で仕事してるなあ(笑)。 
 ・高橋和希さん…で、ここにもプロレス・格闘技ファンが1人(笑)。今年は駒木の地元神戸で猪木祭があるんですが、こっちも他のイベントが気になって生観戦なんて行ってられませんからね(笑)。
 ・うすた京介さん「うまい棒の人」とか言われてますね、多分(笑)。コンビニの店員さんって、それほどお客さんの顔を覚えてないって話を聞いた事ありますけど、大の大人が頻繁にうまい棒を買いまくってたら、さすがに覚えられてるでしょう。

 あと、今週は『BLACK CAT』の人気投票結果発表があったんですが、発表された票数が全て4の倍数だったという事が2ch掲示板で話題になりました(笑)。確かに偶然にしては出来過ぎですなぁ、これは。
 まぁ、この手の人気投票が実勢を現していないというのは以前から指摘されている所ではあるんですが、編集部ももうちょっと気遣えよと(苦笑)。

 ◎『戦国乱波伝 サソリ』作画:内水融【現時点での評価:B/連載総括】 

 残念ながら1クール打ち切り。いわゆる“突き抜け”となりました。
 数話完結のエピソードがそれぞれ盛り上がりきる前に終わってしまったり、キャラクターが立つ前に一旦退場してしまったりと、全般的に非常に勿体無い展開に終始しましたね。もし早い段階で打ち切りが確定していたのなら、それも仕方ないと思うのですが……。
 ただ今回の作品は、元々からして内水さんの持ち味が出せるような題材では無かったですからね。ミステリ要素を交えた“知能派”のストーリーで実績を得て連載を獲得したのに、連載でいきなり“肉体派”ストーリーに転向ですからね。上手くいく方がおかしいです。
 とりあえず次回作は自分の持ち味を遺憾なく発揮できるような題材で勝負してもらいたいものです。
 最終評価はBということでいいでしょう。読み流すだけなら不満は無い作品でしたので、これくらいが妥当でしょう。

☆「週刊少年サンデー」2003年52号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「今までで一番怖かった体験は?」。
 やはり答えがバラけましたね。ただ、出題者が一番期待していたであろう、オカルト的な恐怖体験はほとんどゼロで、多くは物理的な命の危機と締め切りの危機についてのエピソードになったようです。
 個人的に「うわ、怖ぇ!」と思ったのは、「締め切り1日前にネーム未完成」のモリさんと、「インコがササミ状になって生きてる夢を見た」田辺さんの各エピソード。あ、でもモリさんの場合は、締め切りって言っても「モリさんが聞かされてる締め切り」ですからね(笑)。ひょっとしたら本当にギリギリの締め切りから考えると数日余裕があったかも知れません。
 「ジャンプ」とかどうしてるんでしょうかね。いくら編集が「先生、明日の朝イチで印刷所に突っ込まないと落ちます!」って言っても、冨樫義博さんに電話で問い合わせられたらオシマイのような気がするんですが(笑)。「え? もう来週号の原稿やってるの?」とか言われたりして。

 
 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 この作品の面白い所は、体育会系の部活を舞台にしていながら、キャラクターの人間関係は限りなく文化系に近いという事ですね。体育会系がベースなので印象は明るくて健康的になりますし、それでいて人間関係が文化系で等身大スケールなので幅広い支持が期待出来ると。
 ラブコメに偏り過ぎ…という意見も確かにあるんですが、ここまでそういうキャラ構成になったら、そっちに流れないとむしろおかしいような気がします。あと、恋愛というのは物語を構成する要素としては基本中の基本ですしね。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】

 で、この作品も巧い。今回は物凄くコアな題材なんですが、ギリギリの所で一般人の感覚から外れていないので(つまり、一般人から見たらおかしい事は、キチンとおかしい事として描けている)いわゆる“オタク臭”が漂って来ないんですね。しかも、ディティールもほぼ正確に押さえているので、“そっち系”の人が見ても「知ったかぶりしやがって」という批判はほとんど出て来ないと思います。
 しかし、この作品で一番の善人は間違いなく高見沢くんですね(笑)。暴走&事後承諾癖があるのは問題ではありますが。

 
 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 「彼の人生は死んだのだ。ナルミにとって彼の人生は、もう彼のものではないのだ」
 ……こういう重いフレーズがスッと出て来るところが凄いんですね、藤田さんは。ここまで人の命の価値ってのを実感させられる筆力というのはやはり稀有だと思います。
 少年マンガの古典的な設定として、主役に「不殺」を守らせるってのがあるんですが、これは命の価値を重んじているようで、実はそうでもないんですよね。どちらかと言うと、命の価値について考える事から逃避しているわけで、その辺を作者自身が理解していないと薄っぺらい作品になってしまうんです。
 

 ……さぁそして、次週は『ふぁいとの暁』が最終回。ここに来て激しい“大量粛清”の予感がしますが、その次に打ち切られる作品、そして入れ替わる新連載は一体誰なんでしょうか。注目ですね。

 さて、今週で11月分のゼミは終了。これで今年の「仁川経済大学コミックアワード」の審査対象期間(02年12月〜03年11月)が終了した事になります。
 そこで、次週のゼミでは評価保留中の作品に暫定または最終評価を下し、ノミネート予定でまだレビューが済んでいない作品についての「読書メモ」を実施します。そして最後に、各部門のノミネート資格保持作品を発表する予定です。
 なお、今年の「コミックアワード」は12月中旬(場合によっては下旬)に開講2周年式典として実施予定です。そこで改めて最終ノミネート作品(=各部門の優秀作品賞)を発表した後、各部門の最優秀賞&グランプリを選出したいと考えています。部門によっては、駒木の頭の中では既に内定が出ている作品もありますが、イベント当日までのお楽しみ…ということで何卒。

 


 

2003年第87回講義
11月21日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(11月第4週分・合同)

 いつもながら想定外の時間的“押し”が入っております。どれくらい押しているかと申し上げますと、この冒頭部分を準備している時点で、既に次号の「ジャンプ」がコンビニに並びつつある……という有様です。最終回になった作品名とか次期新連載のラインナップも言えますが黙っときます(苦笑)。
 今週号(月曜発売)の『H×H』のトビラに描かれている絵が先週号の『ボーボボ』だったことで、「“落ちる”“落ちない”の瀬戸際って本当にギリギリなんだな」と判明したわけですが、当講座もそんな所は見習わないように頑張らなければいけません。最近毎日謝ってる気がしますが、本当に申し訳ありません。

 そういう事情もありまして、今日は情報系の話題は割愛させて頂きます。「ストーリーキング」の受賞者と過去の履歴紹介は次週分に回させてもらいます。
 あと、次号(土曜発売)の読み切り『ぷ〜やん』(作画:霧木凡ケン)は、今年の「赤マル」春号に掲載された『少年青春卓球漫画ぷーやん。』のリメイク作品です。これも詳しくは次週分のゼミで紹介しますが、霧木凡ケンさんは来月でデビュー丸12年を迎える“マンガ家版・永遠の若手”。念願の連載獲得なるか、注目の読み切りと言えるでしょう。

 ……それでは、今週は「サンデー」が合併号休みのため、レビューとチェックポイントは「ジャンプ」のみとなります。レビュー対象作は読み切り1本のみ
 ただし、それだけではアレですので、一部翌日振替になる事を覚悟で『読書メモ』をお送りしたいと思います。今回は、年末予定の「第2回仁川経済大学コミックアワード」に“ワイルドカード”としてエントリーさせるための簡易レビューを行います。慌しくて恐縮ですが、最後までどうぞ宜しく。

 
☆「週刊少年ジャンプ」2003年51号☆

 ◎読み切り『家庭教師ヒットマン REBORN』作画:天野明

 今週の読み切りは、これが「ジャンプ」本誌初登場となる天野明さんの新作が登場です。
 天野さんは、「ジャンプ」ではルーキー扱いながらも、既に01〜02年にかけて「週刊ヤングマガジン」の本誌や別冊で短期ながら2度も連載を経験しています。キャリアだけならば、中堅に足を踏み入れかけの若手ということになるでしょうか。
 天野さんの「ジャンプ」でのキャリアは、02年11月期の「天下一漫画賞」で最終候補(ただし別ペンネーム)が最初。翌々月に「最終候補まであと一歩リスト」に名を連ね(てしまっ)た後、「赤マルジャンプ」03年春号で「ジャンプ」デビューを果たしました。今回はそれ以来の新作発表となります。
 しかし、青年誌とはいえ他誌で連載まで持った人を月例新人賞の予備選考で叩き落すとは、さすがマンガ家の世界はシビアですよね。

 それでは、内容についてお話をしてゆきましょう。

 まずですが、とりあえず大きな問題点は無いと思います。さすが連載経験者だけあって、ディフォルメ、特殊効果、背景なども含めて普通のルーキーに比べると一枚上手の実力を認める事が出来ますね。
 敢えて注文をつけるならば、主役級のキャラにもう少しアクが欲しいところですね。特にヒロインなんか、何だか鈴木央さんの作品に出てくる脇役女子キャラみたいでしたし(苦笑)。

 続いてストーリー&設定について。
 「赤マル」に載った前作は、「ジャンプ」を意識しすぎたのか、先週紹介した“王道フォーマット”をなぞっただけで終わってしまった感があったのですが、さすがに今回は独自色を出して来ましたね
 シナリオのスタイルは、古くは『ドラえもん』などの藤子F作品、「ジャンプ」では『まじかる☆タルるーとくん』(作画:江川達也)などで見られた、“異世界からの訪問者”タイプですね。ダメ主人公がその訪問者の力を借りて強く生まれ変わってゆく…というお話がセオリーです。
 で、この手の作品では、いかにその“訪問者”を自然に作品内の現実世界に取り込むかが大きな関門となるわけですが、この作品では若干の強引さが否めないものの、何とかギリギリでクリア出来ているように思えます。主人公のダメっぷりや、それを改善するための手段もなかなかよく練られています。このアイディアなら連載化されても十分対応可能でしょう。巧いです。

 ただ、惜しむらくは主人公のライバルの設定ですね。ハッキリ言いますと、この作品はここで物凄く損をしてます。ウチの評価で言うなら2段階以上の減点材料です。
 というのも、ライバルの器量と実力って大事なんですよ。主人公が乗り越えるハードルが高いほど、それを乗り越えた時のカタルシスが大きいわけで、この作品のように、姑息なだけで実力の無い小悪人が相手だと、主人公がそんな奴を乗り越えた所で全然爽快感が得られないんです。
 あと、『BOYS BE…』じゃあるまいし、学園の高嶺の花がアッサリと主人公に振り向くってのも、ちょっとご都合主義じゃないですかね。まぁ、あのシーンを無くしちゃうと作品として成立しなくなってしまうので、難しいところではあるんですが……。

 評価はB+設定を練りに練れば、ひょっとすれば連載で大化けする可能性のある作品ですが、現時点では完成度が低いのが残念です。ただ、今の天野さんの実力で、その「設定を練りに練る」事が出来るのかと言うと、ちょっと疑問なんですよね。今後の奮起に期待したいところなのですが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週も巻末コメントについて箇条書き形式で雑感。

 ・久保帯人さん「ルキア強いなー」って、何を今更(笑)。でも、作家さんは案外読者の好きなキャラって読めないものらしいですけどね。
 ・長谷川尚代さん…足が攣ったのは、年のせいじゃなくて運動不足だと思います…って、同じような事を少し前にも内水融さんに言った気が(笑)。やっぱり週刊連載始めると引き篭り気味で運動不足になるんでしょうなー。
 ・冨樫義博さん…こんなところにも加治佐修さんの名前が! うーむ、神出鬼没だなぁ。これからもあちこちの作家さんのコメントに登場したら面白いですね。


 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】 

 あー、いかん。この作品、楽しすぎる!
 「テイクアウト」の部分に精一杯の自己主張をするアルバイト店員さんに少し萌え(笑)。

 しかし今回は、カズキやその周辺の人たちの“ローカル常識”は、この作品世界の中でも常識の埒外にある事が判明して少し安堵しました。一般人まで皆が皆、蝶野やキャプテン・ブラボーを平然と受け入れられても困りますんでね(笑)。

 
 ◎『ごっちゃんです!』作画:つの丸【現時点での評価:B+/雑感】 

 函館商船大学の先輩の1人が、どうみても三沢光晴なのに爆笑。しかし、そこまで似せるなら、「ハッキリ言って」とか「異様に」とかの口癖までパクって欲しかったなぁ。「アレ」だと長州力になっちゃいますよ、縁起でもない(笑)。

 ◎『神撫手』作画:堀部健和【現時点での評価:B−/雑感】 
 
 うわー、凄ぇ分かり易いテコ入れ!(苦笑)
 こんな露骨なやり方、『旋風の橘』以来久々に見ましたね(笑)。
 しかしなぁ、この中途半端な絵柄でお色気路線やられても、セックスレスに悩む奥様がダンナの気を引くためにエッチな下着とスケスケのネグリジェを着て誘惑しているような感じで、逆に痛々しいんだよなぁ(苦笑)。もっとエロを追求するのか、それとも寸止め感を追求するのか、どっちかにしてくれと言いたくなっちまいますね。


 ◎『神奈川磯南風天組』作画:かずはじめ【現時点での評価:B/連載総括】 

 少しは粘ったんですが、敢え無く2クールで打ち切り。やっぱりこの人、長編連載になると脆いですよねぇ。

 結局のところ、この作品は確固たるテーマが不在のままダラダラと続いてしまったのがマズかったですよね。なので、読者が作品世界に感情移入出来ないまま、いつの間にか終わってしまったと。
 最後のエピソードも、何だか敗戦処理感が滲み出ていて、ちょっと読むのも辛かったです、正直。
 最終評価はB−ということにしておきましょう。最後のページに「次回作にご期待下さい」の文言もありませんし、どうやら週刊本誌のかずはじめ作品はこれが見納めですかね。

◇駒木博士の読書メモ(11月第4週)◇

 ◎『ツバサ』作画:CLAMP/「週刊少年マガジン」連載中

 高校や大学で漫研やそれに近い部活に所属していた人ならばよく分かるでしょうが、その年代のマンガ家・小説家志望の中には、筆力も無いのにやたら意欲だけが空回りしたヤツってのがいます。で、そういうヤツに限って、必要以上にキャラクターや世界観の設定に凝りまくった、“(自称)独創的かつ壮大なスケールのファンタジー”を描き始めます。
 しかし所詮は力量不足のアマチュアの悲しさか、そういう作品の大半は途中で頓挫してしまうのがオチで、よしんば描き上がって公募の新人賞に投稿されたところで、第1次選考でハネられて終わりです。何故なら、その手の作品というのは、作り手側の思い入ればかりが強くて、読み手の意思を無視した自己満足に終始してしまうからなんですね。
 『なぁゲームをやろうじゃないか』作画:桜玉吉)の単行本2巻の中で、わざとそんな“独創的なオリジナルファンタジー”が描かれているのですが、まさにアレがそんな感じですね。

 ……で、前置きが長くなりましたが、この『ツバサ』。この作品は、そんな“独創的かつ壮大なオリジナルファンタジー”を、プロとして水準以上の技量を持った作家さんがやってしまったモノです。しかも、本来ならば一読の下で読み捨てられるようなクオリティに終わるはずが、プロの力業によって、とりあえずは“読めてしまう”デキになってしまったという、極めてレアな作品なのです。
 ですから、これは俗に言う「駄作」とはちょっと違います。映画で言うなら、「根本的にダメな脚本を、豪華キャストや演出で必死にフォローしよう頑張ったものの、結局は頑張りきれなかった準A級ハリウッド映画」みたいな感じでしょうか。「ゴールデンラズベリー賞」にノミネートされそうな作品…と言えば分かり易いですかね。駒木は以前から「この作品は『ラズベリーコミック賞』の候補です」と公言して来ましたが、まぁそれはそういうわけなんです。

 作品の内容について具体的な“ダメポイント”を挙げるとすると、まずはキャラクターですね。
 名前と外見を他の作品から流用(パラレルワールドという設定らしいですが)するのは別に構わないんですが、やり方が不味過ぎます。次から次へとキャラクターを出しまくったために、“ご新規さんは”キャラクターの名前と顔が一致できないわ、“常連さん”は「え? このキャラがこういう設定?」と混乱するわで、せっかくの試みが完全に裏目に出ているんですよね。
 また、登場人物が多過ぎるために、各キャラの描写が消化不良に終わってしまっています。見えて来るのは作者の自己満足的“オリジナルな”設定ばかりで、ちっとも感情移入出来ないんですよね。

 またシナリオも、愛着のあるキャラを苛めきれないのか知りませんが、どうも起伏が緩くて平板なんですよね。初めから主役ご一行様が強すぎて、シナリオ上に設定された“障害”が全然障害になってないんですよ。
 勿論、「ジャンプ」式の能力インフレバトルをやられても辟易するしか無いのですが、それでも“実質ゼロ成長”では、シナリオを楽しめと言われても楽しめないわけです。ゲームでも、いきなり最強装備から始めたら、あっという間に飽きが来てしまいますが、それと同じですね。

 そして、何よりも世界観や設定の諸々が、全然読者の感情移入を促す方向に働いていないんです。駒木の価値観が歪んでいるせいなのかもしれませんが、この作品を読んでいると、つまらないアイドルタレントがつまらない話をして一人で笑って、「これって面白くないですか、キャハハ」とやっている所を見ているような、そんな錯覚を覚えてしまうんですよね。

 ただ、繰り返して言いますが、これだけ致命的な欠陥を抱えていながら(そりゃそうです、本来なら新人賞1次選考落選するような題材ですから)、一応は最後まで読み切れるだけの作品になっているのが恐ろしいというか、何と言うか。同種の作品に『きみのカケラ』作画:高橋しん)がありましたが、地力のある作家さんは、“負け戦”が確定してからも、実際に敗北宣言をするまでに長期間引っ張れてしまう分だけ、後から来るダメージも大きくて悲劇的ではありますよね。
 まぁCLAMPさんの場合は、並行して多種多様な雑誌での活動している分だけ、この失敗で喰らったダメージも分散出来てまだマシですよね。高橋しんさんなんて、「体調不良のため休載」とやってしまった以上、他の雑誌で連載始めるわけにも行かず、エラい事になってますから(苦笑)。

 『ツバサ』の評価ですが、作品全体のクオリティをデジタルに総合するとB−寄りBあたりになりますかね。先に言った通り、単なる駄作では終わっていませんので、評価もそれなりのモノになります。勿論、読者の立場としての「面白い、面白くない」は、また全然別の話になりますが。

 ……というわけで、今日のゼミはこれまで。本当はまだ「読書メモ」で採り上げるべき作品が残ってるんですが、それは次週以降の宿題とさせてもらいます。

 


 

2003年第84回講義
11月13日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(11月第3週分・合同)

 ……気がついてみたら、1週間ぶりの講義になってしまいました。開講以来初。本当に申し訳ありません。
 講義をしていなかった1週間も、講義の内容は色々と練っていたのですが、プライベートでの多忙も重なり、今一つまとまり切らずに時間だけが過ぎておりました。これが以前ならとにかく見切り発車で講義を開始していたのですが、さすがに2周年ともなるとモチベーション維持も辛くなっている我が身を痛感します。
 今後は、ボリュームは小さくとも、可能な限り週2回は講義を実施するよう心掛けますので、どうか何卒。講義休止中も毎日来校下さった3000人以上の皆さん、申し訳ありませんでした。

 ──それでは、無理矢理気を取り直して今週のゼミを始めましょう。まずは情報系の話題から。「週刊ジャンプ」の月例新人賞・「十二傑新人漫画賞」9月期の審査結果発表がありましたので、こちらでも受賞者等を紹介しておきます。

第6回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年9月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作なし
 十二傑賞=1編
 ・『ストリンガー』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  田中顕(27歳・東京)
 
《村田雄介氏講評:今回の応募作品の中では一番“揺ぎ無い主人公像”が描けている。見開きや雑誌面のような演出も効果的》
 
《編集部講評:写真で悪人を倒すアイディアが面白い。だが展開が早すぎるために、その爽快感があまり伝わらないのが難点。作品を客観視し、意図を判りやすく、効果的に伝える工夫が必要)
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『One Summoner』
   高岸彰(24歳・埼玉)
  ・『LOVE IS! BATTLEFIELD』
   鬼団子(19歳・大阪)
  ・『からくり地蔵』
   船津雄史(19歳・大阪)
  ・『サンタクロース物語』
   門脇由(17歳・鳥取)
  ・『ストリゴイ』
   佐野正明(22歳・愛知)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります。(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎十二傑賞の田中顕さん…「週刊少年サンデー超増刊」01年9月号より『スクープ!』(原案:池上正樹)を短期連載の経験あり。
 
現在、村田雄介さん(今回の審査員!)のスタジオでチーフアシスタント。また、『ろくでなしBLUES』連載時から森田まさのりさんのスタジオで、『ARMS』連載時には皆川亮二さんのスタジオでもアシスタント。
 ◎最終候補の船津雄史さん…01年5月期&02年3月期&03年3月期「天下一漫画賞」で最終候補
(今回4度目の最終候補)

 ……今回最高評価を獲得してデビューの権利を掴んだのは、アシスタント歴(最低でも)7年以上、しかも月刊連載経験もアリという異色のキャリアを持つ田中顕さんでした。
 しかし今回気になるのは、受賞者が審査を担当したマンガ家のチーフアシスタントという事ですよね。とんでもなく密接な人間関係です(苦笑)。実際のところは判りませんが、あまり見ていて気持ちの良い話ではありませんねぇ、これは。
 元々「ジャンプ」の月例賞は、その受賞者の多くが既に担当もついている人だったりしますので、公募の新人賞と言うより内輪のコンペテイションを公開でやってるようなモノだったりします。ただ、さすがに受賞者が審査員のチーフアシというのは……。まぁもっとも、この件で一番可哀想なのは、外野から邪推の対象にされてしまう田中さん本人なんですが……。

 せめて編集部サイドも、審査員のアシスタントの作品は翌月回しにするとか、その位の配慮があって然るべきだと思います。実際に審査結果が人間関係に左右される事が有るのか無いのかは別にして、「コネで受賞?」と受賞者が疑われてしまう風評被害だけでも防止する必要があると思います。(それとも、こんな考えを抱くのは駒木だけでしょうか^^;;)

 ──次に読み切り等の話題を手短に。
 まず、「週刊少年ジャンプ」の次号(51号)には『家庭教師ヒットマン REBORN』(作画:天野明)が掲載されます。作者の天野さんは「週刊ヤングマガジン」系列の雑誌で短期連載も経験した“中途採用組”の若手作家さん。「ジャンプ」系列では今年の「赤マル」春号以来2度目の登場となります。
 「週刊少年サンデー」では新連載・読み切りの情報はありませんでしたが、早めの年末進行突入で今週号が合併号のため、次号の発売は2週間後になります。購買読者の受講生さんは、どうぞお気をつけて。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年50号☆

 ◎読み切り『KING CRIMSON』作画:西公平

 今週の読み切りは、これが1年5ヶ月ぶりの登場となる西公平さん。毎週のように読み切りが掲載される「ジャンプ」でも、こうも“順番待ち”の若手・新人さんが多いとなると、なかなか再登場もままならないようですね。
 「赤マルジャンプ」ですら、掲載を賭けたプレゼンにも相当数の作品がエントリーされると聞いた事がありますし、西さんのように本誌に複数回読み切りを載せられるだけでも、まだ恵まれている方なのかも知れません。

 そんな西さんは、この秋でデビュー3年目に突入したばかり。00年9月期の「天下一漫画賞」で最終候補に残って“新人予備軍”入りした後、受賞歴の無いまま「赤マル」01年夏号でデビュー。その後、「赤マル」同年冬号にも作品を発表、そして翌02年31号で初の本誌進出を果たしました。
 ここまでは順調な“出世”を果たして来たのですが、残念ながらそのチャンスを連載獲得に活かす事が出来ず、今週に至るまでの長いブランクを経験する事になってしまいました。なお、現在は『神奈川磯南風天組』連載中のかずはじめさんのスタジオでアシスタントをしているようです。(今号のかずさんの巻末コメントにて確認)

 ……では、作品のレビューを。

 に関しては、「若手作家さんとしては」という限定付になるでしょうが、及第点はつけられるでしょう。一部で「『H×H』のようだ」と言われた白っぽい画風も、決して手抜きではありませんので、これで良いと思います。
 ただ、集中線の使い方がマズいのでしょうか、「ここが見せ場!」というコマに限って動きや迫力が感じられず、何だか止め絵っぽく見えてしまった場面が多々有りました。これは残念でしたね。
 また、今回は話の性質上仕方ないのですが、魅力的な女の子キャラもデザイン出来るようになってもらいたいところです。(この先ずっと横山光輝『バビル2世』的な超硬派路線で行くと言うなら別ですが……)

 ストーリー・設定では、「意識して「ジャンプ」の王道路線のアンチテーゼを目指すぞ」…という意欲的な試みが成されていて、これは興味深いです。

 今年の「赤マル」夏号レビューの際にも指摘しましたが、実は「ジャンプ」の(特に若手・新人さんの)読み切りには一種のフォーマットのようなものがあり、大半の作品はそれに乗っかってプロットが作られています。
 具体的に説明すれば、こんな感じですね。

冒頭:モノローグで作品世界の大雑把な紹介等があり、次の見開きで扉絵とタイトル。
     ↓
序盤:“掴み”になるような“事件”
発生、それが一段落ついた後には、ギャグ等も交えながら、キャラクターと世界観の設定説明がしばらく続く。
     ↓
中盤:ところが平和な一時もここまで。先の“事件”よりも深刻かつ、作品の核となる“大事件”が起こって一気にクライマックスへ。
     ↓
終盤:主人公、又は主人公の身近な人物が命の危機に晒されて大ピンチ。敵役、得意の絶頂。
しかし、そこから何らかのきっかけで主人公が一気にパワーアップ(超サイヤ人化)し、一気に問題が解決
     ↓
エピローグ:基本的には大団円
。しかし、カッコよく決めた主人公が最後の最後でズッコケて、これがオチになる。

 ……まさに王道、まさに起承転結といった感じですね。このフォーマットを使うと、どんな出来の悪い作品でも流し読む分には“読めて”しまうので、特に「絵は上手いがストーリー考えるのは苦手」という若手・新人さんに重宝されています。
 ただ、それはぶっちゃけ「グダグダのシナリオを誤魔化しているだけ」だったりしますので、このフォーマットはある意味「駄作製造機」になっていたりするのです。もっとも、このフォーマットをベースに独自色を出して成功している実力派作家さんも多数いらっしゃるので、一概に悪いとは言えないんですけどね。

 ──で、この『KING CRIMSIN』では、このフォーマットが、完全にとまでは言いませんが、かなりの部分で無視されているんですよね。特に“終盤”では安直な「大ピンチ→超サイヤ人化」を全く使わず、それどころか主人公サイドが全くピンチに陥らないままで、読者にカタルシスを与える事に成功しています。これはナニゲに凄い事だったりします。
 また、主人公の設定も非常に巧みです。根っからのアンチヒーローでありながら、“絶対的な強さ”という要素で読者に魅力を感じてもらえるような工夫が成されています。最後に正義感を少しだけ萌芽させて救いを持たせるのも憎い演出ですね。(ただ、『こんなやつの血で刀を汚す必要はない』は少しやり過ぎだと思いますが)

 ただ惜しむらくは、1年5ヶ月前の前作にも見られた、ストーリー展開の強引さが未だ改善されていない点でしょう。
 まず序盤で不良相手のケンカと兵法を結びつけたのもかなり強引ですし、終身刑以上の罪人が子供にホイホイと従う所に至っては相当な無理があると言わざるを得ません。また、敵役が余りにも簡単に主人公・一徳の平凡な兵法にハマってしまうのも、ややご都合主義ではないかと思われます。
 これらの失策のため、せっかくの絶妙なプロットやキャラクター設定が上手く活かせずに終わってしまいました非常に勿体無いと思います。今後はプロットからネームに落とし込む時に、もっともっと練りこんで欲しいところです。

 評価は非常に迷うところですが、短所が長所を上回ってしまっている…と見なしてB+にしておきます。個人的には、“王道フォーマット”を無視しているという時点でかなりポイントが高いんですが、こればかりは仕方ありませんね。その分、次回作に期待したいと思います。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週から時間の許す限り「ジャンプ」でも巻末コメントについて雑感を少々。箇条書きで失礼。

 ・澤井啓夫さん……駒木の経験上、喫煙率の高い職場は労働条件が過酷である確率が極めて高いのですが、やはりここのスタジオもそうなんでしょうか?(笑)
 ・稲垣理一郎さん……連載1年にして初の栄養ドリンク(しかも効き目弱いヤツ)というのは健全すぎて凄いですね。大抵の作家さんはユンケル中毒、エスタロンモカ中毒だったりするんですが。分業制は作者の健康維持にも貢献するようですね。
 ・つの丸さん……アシスタント募集に関する御礼ですか。と言う事は、「アシスタント新規採用=連載まだまだ続行」という判断で良いんでしょうかね。
 ・武井宏之さん……う〜む、加治佐修さんの居酒屋ぶっちゃけ発言が聞いてみてぇ(笑)。
 ・内水融さん……辞書的な意味で冷徹に判断すればするほど、あなたの作品の掲載位置は打ち切り濃厚なんですが(涙)

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B/雑感】

 皆さんが注目したであろう、新キャラ・ちなみの“あざとさハイパーインフレ”は敢えて放置。それよりも文化祭で上映した映画のストーリーが知りたい駒木だったりします(笑)。だって凄く面白そうじゃないですか。いや、河下さんも全く考えてないと言う事は薄々判ってますけれども(苦笑)。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】 

 恥ずかしながら、今回は読んでる最中、ずっと顔がニヤケっ放しでした。斗貴子さん、苦手のギャグ部分で大活躍! ブラボー!
 しかし、「ののしって下さい!」/「このブタ野郎 !!」のコンボにはシビれたなぁ(笑)。「僕にも『ブタ野郎』とののしって下さい」と言い出したヤツが全国で1万人はいるはず。いや、駒木は言いませんよ?
 ストーリーの方は、まさに怒涛の展開。一見安易に見えた蝶野(孫)の蘇生は、カズキの錬金戦士エントリーの動機付けに繋がってたんですね。ここからどう見せていくのか、純粋に楽しみです。


☆「週刊少年サンデー」2003年50.51合併号☆

 巻末コメントのテーマは、「自分で法律が作れるなら、どんな法律を作りますか?」。
 答えがバラけるかな……と思いきや、「1週間を8日に」という“週刊連載締め切り延長法案”が雷句誠、青山剛昌、福地翼の3氏から提出されました(笑)。似たようなニュアンスの法案もいくつか出されており、やはり週刊連載最大の敵は、アンケートでも編集者でもなく締め切りである事をヒシヒシと痛感してしまいました。
 しかし、恐れながら申し上げますが、今でも締め切りに追われている人は、1週間を8日にしようが10日にしようが、また必ず締め切りに追われると思います(笑)。えぇ、人間ってそんなもんですよ。
 駒木の希望する法案は、やはり「ギャンブル全面解禁」でしょうかね。少なくとも公営ギャンブル関連法の「学生・生徒・未成年者は投票券の購入・譲受が出来ない」という憲法違反の条文はどうにかしたいところです。

 
『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 ミウラさんとベリ子のキスシーンを目撃した皮村の発想の飛躍し具合が、まさにリアル男子高校生そのもので大爆笑でした。「どいつもこいつも、陰ではヤリまくっとんやー!」みたいなね(笑)。
 ここでは何度も言っていますが、本当にモリさんって高校生キャラ心境描写は天才的に上手いですよね。たとえそれがこのマンガのクオリティに直接には結びついていないとはしても(笑)。

 ◎『結界師』作画:田辺イエロウ)【第1回掲載時の評価:A/雑感】

 先週の第3回後追いレビューで、「主人公が甘党だという伏線が張られていない」と言ったんですが、その後受講生さんから「卵焼きが砂糖入りの方が好きだったり、メシと一緒にコーヒー牛乳飲んだりしてますけど?」……というご指摘を頂きました。確かにそうですね(苦笑)。
 しかし、見落としてた人間が言う事じゃ無いですが、それをキャラ付けに発展させるなら、もっと極端な演出をするべきだと思うんですよね。先週にも同じような事言いましたが、コーヒー牛乳にガムシロップをドボドボかけるとか、砂糖入り卵焼きに更に砂糖をまぶすとか、そこまでしてようやく読者全員に気付いてもらえると思うんですが、どうでしょうか。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 キター! 河合“ムッツリスケベ”克敏流・寸止めセミヌードキター!
 その上、回りくどく波多野と接触する理由を探す青島さんメチャ萌えであります。こういう男好きのする葛藤(笑)を、ファンサービスも兼ねてアイドルキャラに裸で独白させるというのは、さすがとしか言いようがありませんな!(←何を興奮してんだ)


 ……というわけで、今週のゼミは以上。最後がアレですが、目次の順番でチェックポイントを採り上げているので気にしないように。
 来週は「サンデー」が合併号休みですから、「読書メモ」でもやってみましょうか。ボチボチとご期待をば。

 


 

2003年第83回講義
11月6日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(11月第1〜2週分・合同)

 今年も早いもので11月に突入。今月末には当講座も開設2周年になるわけですね。我ながら(呆れる意味で)よくやったもんだと思いますが、これもひとえに受講生の皆さんのお蔭です。改めまして今後とも何卒。
 で、“周年記念”となると、当然やらなくてはいけないのが「仁川経済大学コミックアワード」。昨年に引き続き、今年もこの“世界で最も権威もヘッタクレもないマンガ賞”を実施予定です。まだ構想段階ですが、今回からは部門賞の数も増やし、より内容の濃いイベントにしたいと考えています。ご期待下さい。

 ──さて、ではゼミを始めましょう。まずはいつも通り情報系の話題から。今週は「ジャンプ」の読み切り情報が入っていますので紹介しましょう。
 「週刊少年ジャンプ」の次号(50号)に掲載されるのは『KING CRIMSON』作画:西公平)。西さんはデビュー3年目の若手作家さんで、02年31号以来の本誌登場となります。それ以来、何人も連載レヴェルの有望若手・新人作家さんが登場していますし、西さんとしては“先輩”として負けられないところでしょう。新作の出来に期待したいところです。

 なお、「サンデー」関連の情報で、特にここで採り上げるべきモノはありません。ただ、今年分下期の「新人コミック大賞」の1次選考結果発表が掲載されたり、早くも来週から合併号だったりと、年の瀬を感じさせるあれやこれやが見受けられたのが印象深かったですね。

 …それでは、今週もレビューとチェックポイントをお送りしましょう。今週は新作の掲載が無く、「サンデー」の新連載第3回後追いレビューが1本のみという、少し寂しい内容になりますが、その分チェックポイントでいくらか補完できれば…と思います。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年49号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週は巻末コメントが“豊作”でしたね。作品が行き詰まった上に担当交代でぶっ壊れ、井上和郎さんの作品世界に迷い込んでしまったような人とか、車上荒らしを捕まえて自分がハンターになってしまった人とか、娘が『ボーボボ』のサービスマンのモノマネをするようになったのを真剣に悩む父親とか、下手な読み切りよりも面白かったような気が(笑)。でもまぁ、息子ならまだしも娘が「サービス!」ってやらかした日にゃ、確かに気が気じゃないですよね。
 あ、あと少食になっても体重が減らないという内水融さん原因は運動不足だと思います。余った時間で踏み台昇降など如何でしょうか。

 ◎『NARUTO』作画:岸本斉史【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 

 ちょっとここ数回、個人的には不満が残るんですよね、この作品。
 というのも、敵がわざわざ最弱の刺客からよこしたり、わざわざ手加減状態から戦い始めたり、更には敵がそれを後になっていちいち言い訳したり…って、コレって20年以上前の「ジャンプ」セオリーじゃないですか(苦笑)。駒木、『キン肉マン』のキン肉マンVSステカセキングの辺りを思い出しちゃいましたよ(笑)。
 まぁ王道と言えば王道なんですが、もうちょっとヒネっても良かったんじゃないかと思うんですが。普段から期待している作品だけに尚更そう思ってしまいましたね。

 
 ◎『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 

 いやー、それにしても電波な人の描写をさせると上手いですなぁ、冨樫さん。喫茶店でコーヒー飲みながら会話させるだけで、そのキャラがどれだけ異常か判るようになってるってのは、やっぱり凄いですよ。良い作品っていうのは、こういう技術の積み重ねから出来上がるもんだとしみじみ思います。
 で、巷で話題のネフェルピトーが開発しようとしてる“修理”の力。一見、「ジャンプ」王道の“ドラクエ式蘇生路線”導入を思わせる話ではあるのですが、冨樫さんの作風から考えると、どう考えても一筋縄ではいかない気配が(苦笑)。そもそも、生き返すのが目的じゃなくて、何度でも殺すのが目的なんですから、それを考えただけでも“黒い”ですよね。
 しかし驚いたのは、ネット界隈の論調を俯瞰してみても、既に「ただ生き返すだけとは思えない」という意見が主流になっている事。ようやく冨樫さんの思惑が読者に浸透しつつあるようですね(笑)。


 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B/雑感】

 この期に及んで第5のヒロイン登場。どうやら唯の二軍降格に伴う人事のようで、駒木はショボーンです(苦笑)。でもまぁ、とりあえずの打ち切りは逃れたと言う事なんでしょうから、お喜び申し上げなくてはなりませんか。
 で、今度の名前は端本ですか。真中の対極として端本…ということなんですね、きっと。個人的には東南西北に続く三元牌シリーズ(白発中で、中は真中)を期待していたのですが、残念でした。
 

 ◎『こちら葛飾区亀有公園前派出所』作画:秋元治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 

 確かに深夜とかCS放送ならウケそうです、「冥曲ノ調」。現実にマンガのようなコアなチャレンジャーが集結するかは別にして。
 ところで、以前は確かに「民放各局で放送を自粛すべき曲(=要注意歌謡曲)リスト」という意味での放送禁止歌というものはあったんですが、最近は解禁傾向にありますよね。かけた瞬間に抗議が殺到するような曲でない限りは、ほぼフリーパスになりつつあるようです。(とは言え、ゴールデンからプライムタイム辺りでは「金太、マスカット切る、痛そう」あたりからアウトになりそうですが)
 この流れで嬉しかったのは、カラオケでも放送禁止歌が歌えるようになった事ですね。例えば、なぎら健壱『悲惨な戦い』とか。この調子で、映画スター時代の梅宮辰夫が若気の至りで出した『シンボルロック』とかも解禁になってもらいたいもんです。

☆「週刊少年サンデー」2003年49号☆

 ◎新連載第3回『結界師』作画:田辺イエロウ)【第1回掲載時の評価:保留】

 「サンデー」で今年開始の新連載3本が掲載順ワースト3を独占する中、そろそろ身の上がヤバくなって来た編集長派社員の皆さんも期待する(?)、新鋭・田辺イエロウさんの新連載・『結界師』が第3回を迎えました。お約束通り、後追いレビューを実施します。

 ──それにしても、この作品は隙が無いですねぇ。敢えて回を改めて採り上げなくてはならないようなポイントが見当たらなくて困ってしまいます(苦笑)。
 にしても、全くクオリティが落ちていませんしねぇ。また、単なる画力だけじゃなくて、コマ割の構成も十年選手のように手馴れているのが末恐ろしいです。むしろ手馴れが過ぎて画面が淡白になり、逆にそれで損しているぐらいかも知れません。
 ストーリー面にしても、丁度痒いところに手が届くというか、展開の緩急のつけ方が絶妙なんですよね。読者が刺激を求め始める3回目から数話完結型に移行したりとか、ちょっとミステリ風味を絡ませて次週への“引き”まで上手くまとめるとか。この辺の感覚が天才的なのか、それとも良い担当さんやブレーンに恵まれているのか、そのどちらともなのか、いずれかでしょうね。
 ただ惜しむらくは、伏線の使い方が苦手なのか、新しい設定を提示する際に、どうしてもとってつけたような感じになってしまう所でしょうか。例えば主人公・良守が超甘党なんて部分は、前2回でいくらでも伏線を張る機会があったと思うんですよね。学校で食う昼メシを大量の菓子パンにしたりとか、休み時間にチョコレート食わせたりとか。キャラ設定を立てる時に、あらかじめそういう“遊び”の部分を作っておけば、いくらでもストーリーの導入に使えたと思うんですが。

 ただ、全体的に見れば、この作品は(少なくとも現時点では)十分秀作の範疇に入ると思います。評価はA−寄りA
 勘案すべき問題としては、最近の「サンデー」の新連載が、どれもこれも回を追うごとにヘタれていく傾向にある事くらいでしょうか。特に最近に『ダイキチ』がフリーフォールしたばかりですので、ちょっと心配です。今回のエピソードはまだ良いとして、この次のエピソード辺りが今後を占うカギになって来そうですね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「ストレスが溜まってきたら何をしますか?」。
 一見して良い質問だと思ったんですが、それ以上に難しい質問だったようで、作家さんたちの回答は抽象的な答えでお茶を濁すかボケに回るかに分かれてしまいました。まぁ、あだち充さん「溜まるたびに何かしてたら仕事になりません」というのが正鵠を射ている気がしますね。
 駒木の場合は、やはり「麻雀を打つ、又は普段やらないギャンブルをする」「格闘技の生観戦をする」でしょうか。これをダブルでやって、しかもギャンブルでプラス収支になった日には、ストレスなんか初期状態に戻っちゃいますね(笑)。あと最近は「東京へ貧乏旅行へ行く」が加わりましたか。あ、でもやってる事は一緒だな(笑)。
 でも、一番ストレスが溜まっていたであろう去年の今頃は、貧乏暇ナシでそれどころじゃなかったんですよね。確かあの頃は「甘い物+コーヒー大量摂取しながら読書」で代用してたのかな。そりゃ、踏み台昇降で5〜6kg絞れるくらい太るわな。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 やはり「特報」はアニメ化決定のニュースでしたね。しかし、紹介されたアニメ版のキャラデザインは……(涙)。何か、何か顔の輪郭がみんな変だよぅ……

 そしてマンガ本編では“女の戦い”ついに決着ナニゲにこの作品の中でも屈指の名勝負だったような気がするのは駒木だけでしょうか。まぁ何はともあれ、青島優子選手、優勝&SG出場決定オメデトウございます。ついでに、ペア旅行の権利を獲得した3着の櫛田千秋選手もオメデトウございます(笑)。
 しかし、優子&クッピー先輩の海外旅行って、いかにも珍道中になりそうなんで、是非見てみたいところです。河合さん、単行本巻末のオマケ企画とかでやってくれないもんでしょうか。

 ◎『うえきの法則』作画:福地翼【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今週の内容はスッキリしていて、それでいて読み応えもあって良かったと思います。こういう展開なら、ずっと応援したくなるんですけどね、この作品も。
 せめてもうちょっと例の、「あーなってこーなってこうだ!」系バトルが影を潜めてくれれば良いんですが、それやっちゃうと、もはや『うえきの法則』じゃなくなっちゃいますからねぇ。


 ◎『売ったれ ダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治現時点での評価:保留中/解説など】

 3週に渡って続いたカシノ編も終了。最後まで、現実感皆無のストーリー展開でしたね。特に最後の「風が吹くかどうかの確率は1/2」って、何ですかそれ?

 あと、博識な皆さんは既にご存知でしょうが、現実世界ではルーレットの出目をコントロールできるようなディーラーは存在しません。というより、そんな技術は全く使い道が無いので、身に付けよう思うディーラーさえほとんど存在しないはずです。
 だって考えてみて下さい。出目を自由に操れるディーラーがいるカシノで大金を賭けるバカがいると思います?(笑) カシノに利益が出るどころか、「あそこでルーレットは賭けるな」って風評が伝わって、たちまち閑古鳥が鳴いてしまいますよ。ですから、もし奇跡的に出目を操れるスキルを持てたとしても、その瞬間、そのディーラーは永遠の失業が確定してしまうのです。
 カシノを運営する側、そしてゲームの進行を担当するディーラーが最も気を使う事は、“ゲームの公正確保”と“悪質な客の見極めと管理”です。また、それがカシノ側にとっても、客の側にとっても一番望ましい事なんですよね。

 ……しかし、本当にこのマンガってトンデモ系に針が振れちゃったんですね。連載当初のノリなら、ここは確率論に基づいたギャンブルの攻め方をネコ先生が講義するような形になったと思うんですが、いやはや。


 ……というわけで、今週のゼミを終わります。
 ところで、今週辺りから再来週前半まで身辺が慌しくなりますので、あまり頻繁に講義が出来なくなると思います。ご了承を。

 


 

2003年第81回講義
10月31日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(10月第5週分・合同)

 今週は久々にレビュー対象作ゼロか…という感じでしたが、ネット界隈のネタバレ情報の通り、『スピンちゃん』が本誌再登場となりました。
 しかし謎なのが、代原でもないのに前号の「次号予告」で告知が無かった事ですよね。これまでは、取材休み分穴埋めのための“準代原”でもキチンと告知がされていたんですが……。
 ひょっとして、『風天組』の取材休みが急遽決まってしまい、次号予告の締め切り時点では掲載作品が決まってなかったとか……? 『スピンちゃん』作者の大亜門さんによる巻末コメントも大人の事情を匂わせるモノでしたし、そんなドタバタ劇が起こった可能性もゼロじゃないと思うんですが、どうなんでしょうか。

 さて、それでは情報系の話題から……なんですが、先週に引き続いて今週も確定情報は無し。ちょっと寂しいですね。
 ただ、「サンデー」次号予告にあった、『モンキーターン』の“スーパー特報”予告は、どうやらアニメ化の告知になりそうですね。ちょっと前にスポーツ新聞でフライング情報が流れていたこともありますし、多分間違いないと思います。これで「“純”、痛恨のフライングでパパに!」とかだったら、それはそれで大爆笑なんですけど。
 ……しかし、このマンガ、主人公の憲二はもう25歳なんですが、結構モテるクセに全然その手の出来事があった雰囲気を感じられないのは、直接的なエロ表現はご法度の河合克敏作品(笑)だとしても、さすがに不自然な感じがしますよね。まぁ、悪い先輩に色々な遊び場に連れ回されている情景は容易に目に浮かぶので、その道のプロのお姉(以下自粛)。


 ──などと、つまらない事を言ってないで、レビューとチェックポイントへ参りましょう。先に述べましたが、今日のレビュー対象作は「ジャンプ」からの“準代原”読み切り1本のみです。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年48号☆

 ◎読み切り『超便利ロボスピンちゃん』作画:大亜門

 「赤マル」春号の2本立てで颯爽とデビューした『スピンちゃん』も、細かくタイトルを変えつつも今回が本誌2回目・都合3回目の登場。前回の登場から2ヶ月しかたってませんし、読み切りって感じがしませんね。
 で、そういう事情もありますので、作者の大亜門さん(“大”が苗字で“亜門”が名前みたいです。『BASTARD!!』の登場人物・ダイ=アモンの当て字でしょうか)のプロフィールは、9月2日付講義での前作『超便利マシーンスピンちゃん』のレビューを参照してもらう事にして、今回は割愛させて頂きます。

 それでは本題へ。しかし、今回の作品は果たしていつ描かれたのか判らないので、前作との比較対照がし難いですね(苦笑)。下手すりゃ前作執筆前に描かれた原稿かも知れませんし、ここは「前作に比べると」云々という言い方は止めた方が良いかも知れません。

 そう言った事も踏まえながら、まずはについてから。普段は「ギャグマンガにしては許容範囲だが改善の余地アリ」という感じで素っ飛ばしていますが、今日は少し詳し目に述べる事にしましょう。
 1コマ1コマ丹念に眺めてみますと、とりあえず感じるのは作者のスピンちゃんに対する愛情ですね(笑)。まぁ笑いをとる手段として、という意味合いもあるんでしょうが、他のキャラクターと比べると表情の変化などの描き込みが全然違います。「どんな社会性のないダメ人間でも、ロボットと小さい女の子は大好きですから」というセリフは、作者が読者経由で自分自身へ向けて放った、ブーメランのようなセリフなのでしょうか。
 ただ、そうなると他のキャラクターの描き方が物足りなく感じてしまうわけで……。特に12ページ目の5コマ目のような、同じコマで表情の変化を表現する所などには、まだまだ技術が不足している所が露呈されています。
 また、画力不足によって絵が全体的に止め絵っぽく見えてしまうのも、今後の改善の余地でしょうね。部分部分では動的表現も出来ているのですが、さりげない会話シーンなどで口を止めたまま喋っているように見えてしまうのです。作者本人もそれを判っているようで、意識的に正面を向いて喋るシーンを少なくしたりしているのですが、そういう“逃げ”の姿勢は余り好ましくないですね。
 代原作家スタートでせっかくここまで頑張ったのですから、来るべき連載獲得に向けて、もうちょっと画力の向上を目指してみては如何かと思うのですが……。

 しかし一方、ギャグについては、ほとんど文句のつけようのない良いデキになっています。連載作品級です。完全に主役級の3人(スピン、じいさん、透瑠)のキャラを掴んでいるようで、今後もネタ切れの心配も無さそうですし、既に熟練の域に達しようとしています。また、ギャグの“命”である間も絶妙で、相変わらず高いセンスを窺わせてくれますね。
 それに加えて今回は、「違和感で笑わせる」という、ギャグにおける基本というべきスタンスから出て来たネタ(簡単に言えば“ベタ”なネタを中心にまとめられており、非常に好感が持てます。「ジャンプ」の旧作からのマニアックネタも良いんですが、やはり元ネタを知らないと素直に笑えないギャグというのは諸刃の剣ですからね。
 ただ、惜しむらくは今回も最後のオチが弱かった事でしょうか。ラストが決まるか決まらないかで印象度が大分違ってくるはずですので、ここはもっと力を注いで欲しいポイントです。

 評価は少し甘いかも知れませんが、今回もA−ということにしておきましょう。これだけの作品、もうボチボチ連載化も考えないと、ちょっと可哀想な気もします。もう少し画力がついたらゴーサインを出しても良いんじゃないでしょうか?

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週の掲載順、『BLACK CAT』の直後に『HUNTER×HUNTER』ですか。ほんの数ページ差でシビアさ違い過ぎですがな(苦笑)。
 最近は『NARUTO』『武装錬金』もシビアな命の遣り取りを展開していましたが、やはりこういうシーンって、作者の個性と言うかポリシーのようなモノが一番ハッキリと現れますよね。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/中間まとめ】 

 今回で第1エピソード・“蝶野編”が終了。分量的には、これでピッタリ単行本2巻分になるんでしょうか?

 それにしても、自他共に認める“ハッピーエンド至上主義者”の和月さんらしく、カタルシス十分のエンディングでしたね。“ラスボス”の蝶野攻爵にまで救いを与えて、主人公側の主要キャラには犠牲者ゼロハリウッド式エンターテインメントの王道ですね。
 あと、今回のラストシーンですが、本来なら「斗貴子さんが助かるかどうか」という部分にスポットを当てがちなんですが、どうせミエミエの展開になるなら…と、敢えて先にハッピーエンドを確定させたのが成功でしたね。これで読者が何の邪念も無くカズキに感情移入する事が出来るようになりました。さすがです。

 さて、以前お約束した通り、“蝶野編”終了時点での中間暫定評価をしておきましょう。
 世界観やキャラクターの設定は文句無しの満点レヴェル。先述したラストシーンも大変素晴らしいです。ただし、戦闘シーンが冗長であること──最後の蝶野との戦闘シーンを大幅カットするなどして改善の兆しが窺えますが──と、ギャグの挟み方がやや過剰過ぎ、肝心なシーンでの緊張感を欠いてしまった…などの問題点もあります。
 結局はそれらの長所と短所、どちらを重く見るかという話ですが、当ゼミとしては「長所の素晴らしさが短所を何とかフォローしている」という見解のもと、A−の評価を出す事にしました。ただしこれは作品の持つポテンシャルからすれば最低ランクの評価であり、今後短所が改善された場合は大幅な評価アップをする余地も残されています。なので、この作品については今後も“要観察”ということにしておきたいと思います。

 
 ◎『ごっちゃんです!!』作画:つの丸【現時点での評価:保留/現時点での評価確定】 

 さて、こちらもどういった作品かが固まって来たようですので評価を出しておきましょう。
 全体的には、派手さは無いものの、ソツの無いスポ根マンガに仕上がっていると思います。この辺は、『みどりのマキバオー』時代に鍛えられた重厚なストーリーテリング力が、今なお活きているということなのでしょう。『マキバオー』の後、短期打ち切りが続いたにも関わらず、根強いファンが多く残っていると言うのもこの辺に理由があるのかも知れませんね。
 しかし、この作品のネックは主人公の“ごっちゃん”こと後藤で、彼だけが作品の世界観から完全に浮き上がってしまってるんですよね。まぁ、ここで正統派の熱血系主人公を配置したらしたで、今度は平凡なだけのスポ根になってしまうので難しいところなんですが……。ホント、つの丸さんという作家は、自分から敢えてハンデを背負うのが好きですよね。

 ……そういうわけで、まとめです。基本的には地味ながら重厚なストーリーを評価できるものの、主人公の設定に大きな構造的欠陥を抱えている…ということで、評価B+としておきます。


 

☆「週刊少年サンデー」2003年48号☆ 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「住んでみたいと思う国」。
 圧倒的支持を受けたのは日本でした。皆さん現実的過ぎ(笑)。まぁ気持ちは判りますけどねー。日本に住んでいるけど、気の向いた時に海外へ行って長期滞在も……っていうのが一番の理想かも知れません。ただ、日本は税金高いですよね(苦笑)。登記上の本社はグランドケイマン諸島に……って、それはソフトバンクBBのダミー子会社でしたか(笑)。


 ◎『金色のガッシュ !!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 

 作品最強のギャグメーカー・ナゾナゾ博士&キッドが一転して感動の嵐の中、永遠の別れ
 こういうシーンを見ていると、雷句さんは“泣かせ”のテクニックをデジタルに理解しているんだな…とつくづく思いますね。読者の喜怒哀楽を自由自在に操れるっていうのは正に天賦の才能だと思います。最近、やっとこの作品がクオリティに見合った評価をされるようになって、駒木個人としても嬉しく思いますね。


 ◎『売ったれ ダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治現時点での評価:保留中/解説など】
 
 先週に引き続いて、デジタルな観点からギャンブル講座を。

 今回出て来た、「ルーレットで6回赤が出た後に、もう一度赤が出て7連続になる確率」は2分の1か2の7乗分の1か…という話について少々お話を。まずこの場合、単独の結果はその前後の出目と全く関係が無いはずですので、確率はダイキチの言う通り、2分の1が正解です。ディーラーさんは何か言ってますが、少なくともデジタルな観点からは答えは出ています(笑)。
 また、7回ルーレットを回して7回連続で赤が出る確率は1/128。確かに珍しいと言えるかも知れませんが、この程度の確率の出来事は当たり前のように起きてますので、賭けるのを躊躇するような場面ではありません。30回連続で赤、とかだったらさすがに気色ばみますが、それならそれで「このルーレットは赤に出目が偏るようになっているのではないか?」と疑わなくてはならない所です。

 まぁこの作品では、“運の流れ”のようなオカルト的視点からギャンブルを描いていますので、あんまり口を挟むと逆に興醒めですかね。でも、このマンガって、商売のノウハウをデジタル的な観点からレクチャーするマンガだったような気がするんですが(笑)。


 ……それでは今日はここまで。今週は明日に「ジャンプ」が発売になりますので、皆さん買い逃しの無いよう。「あれ? もう『ジャンプ』出てたの?」とか思ってる内に、ネタバレ話に巻き込まれたら不幸ですもんね(笑)。

 


 

2003年第79回講義
10月24日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(10月第4週分・合同)

 今週もゼミは前・後半合同版でお送りします。また、今後も他の講義との兼ね合いで、こういうケースが増えそうな感じですね。以前からの受講生さんは、今年の春までのパターンに戻ったものだと考えて下さっても結構です。

 さて、そういうわけで、今日も今週発売の「ジャンプ」と「サンデー」両誌の内容について、ゼミを実施します。
 で、まずは情報系の話題……といきたいところなんですが、今週は両誌とも読み切り、新連載ともに公式の告知がありませんでした。一応、2ch経由の情報として、次号の「ジャンプ」に大亜門さん『スピンちゃん』が再登板…という話を聞いているのですが、駒木が実際に確かめたわけではありませんので断言は避けておきますね。(まぁほぼ確実な感じですけど)

 ──では、無駄に引っ張ってもアレなんで、早速レビューとチェックポイントに行きましょう。今週のレビュー対象作は「ジャンプ」から読み切り1本、「サンデー」から新連載1本の計2本です。チェックポイントも一緒にどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年47号☆

 ◎読み切り『NOW AND ZEN』作画:加治佐修

 今週の「ジャンプ」読み切り枠は、初の週刊連載が1クール打ち切りに終わってしまった加治佐修さんの復帰作です。
 加治佐さんは「赤マルジャンプ」99年夏号でデビュー。その後「赤マル」00年冬(新年)号、本誌00年45号に読み切りを発表しますが、その後は岸本斉史さんのスタジオでアシスタントを務め、キャリアが一時中断されます。
 しかし、加治佐さんは昨02年の年末新連載シリーズで突如抜擢され、03年2号から『TATTOO HEARTS』の連載を開始します。2年も前に発表した読み切りの連載化ということで注目を集めましたが、残念ながら14回で打ち切りに。“粋”をテーマにした作品でありながら、粋じゃない結末を強いられる屈辱に甘んじてしまいました。
 そして、先ほど述べましたが、今回のこの作品がそれ以来の復帰作。リスタートはどのような塩梅になったのでしょうか?

 まずについては、全く問題ないですね。先の連載の時から画力は「ジャンプ」連載作家の水準に達していましたので、当たり前と言えば当たり前ですが。また、今回は“岸本斉史色”が若干薄れたような感じで、加治佐さんオリジナルの味が出て来て良いんじゃないでしょうか。
 敢えて注文をつけるなら、全体的に言って絵柄がやや華やかさに欠けるところでしょうか。特に今回はキャラクターの大半が男(しかも非美男子系)だった事もあって、それがより一層際立ってしまった気がします。次回作では、読者の目を惹き付けるようなヒロインが見てみたいですね。

 ストーリー&設定についても、大きな減点材料は有りませんね。プロット自体は「ジャンプ」の読み切り王道パターンなんですが、そこに色々な設定や伏線を散りばめて、“ありきたり感”を和らげる事に成功しています。特に、この手のプロットで最も描き方の難しい“擬似超サイヤ人化”の部分を、ただ主人公が激昂するだけではなく、工夫を凝らしてまとめたのは高ポイントです。
 欠点を挙げるとすれば、タイムスリップの描写に既存の作品の影響が色濃く現れている点や、集中力という地味な能力を強さの指標にしてしまったために、今一つインパクトを欠けさせてしまった点が挙げられるでしょう。
 ただ、これらが作品の完成度を大きく損ねているかと言えば、それは違うと思います。いくら既存作品の影響が濃いって言っても、タイムスリップを絡めた話はどうしても藤子F作品っぽくなってしまいますし、「ジャンプ」で秒単位のタイムワープの描写をすると、絶対に「キング・クリムゾン」って言われてしまいますしね(笑)。

 ……そういうわけで、評価は少し高めにB+寄りA−ということにしておきます。ぶっちゃけた話、駒木の個人的な「面白い、面白くない」で言ったら後者の方になってしまうんですが、それで評価を落とさないのが当ゼミのスタンスですので、この評価を献上いたします。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 
 
 今週号、本当はこの作品のネタで平和に盛り上がって終わって欲しかったんですけどねぇ(苦笑)。

 しかしまぁ、今回も恐ろしいくらい芸が細かくて中身の濃い19ページでした。以下、見所を箇条書きで。

●最近またグングン絵が上手くなってますね、村田さん。
●テレビ中継がBSデジタル放送だったり、(観客が)すごい入ったね」と栗田に言わせる割に、客席後方が空席だらけだったりするあたりが、悲しいくらいアメフト界の現状を表現しててリアリティ満点(苦笑)。
●まもり姉ちゃん、さりげなく各所で萌え担当。
●グルービーだぞ、『取り返しのつかない入れ墨』
ヒル魔とアポロ監督の悪口合戦を、映画の字幕風に意訳するとこうなる↓
 「まー、お前の小っちぇえナニじゃあ、ションベン垂れ流すくらいしか使い途無ェか!」
 「何だと? 我が“アポロ号”は、日本の発射も出来ない貧相なロケットと違ってモノが違うんだよ!」
 「ほー、じゃあよ〜く見せてもらおうじゃねぇか!? そのペンシルロケット“アポロ号”とかをよォ!」
 「ふざけるな! クソしてる時に勢い余ってナニが便器に“着水”する悩みも分からんくせに偉そうな口叩くな!」
 「何言ってんだ、そこのメス蟻さんも『アンタみたいな短小なんて願い下げよ』っておっしゃってるぞ、オイ!」
 ……ちょっと長すぎますが、こんな感じでしょうか。しかしヒル魔、結構英語出来るんですな。ただし、実用性は高いようで低そうですが。

 
 ◎『いちご100%』作画:河下水希現時点での評価:/雑感】

 少年誌ラブコメの定番、寸止めキター!(笑) いやー、やっぱりコレがあってこその少年誌ですよ。ええ。

 昔、コージィ城倉さんが「近代麻雀」で描いたマンガで、ラブコメを描いている作家とアシスタントが、麻雀で次回分のシナリオ制作権を争う……という話がありました。
 主人公とヒロインを早いところHさせたいアシスタントが暴走させたシナリオを、作家がギリギリのところで寸止めに持っていく…という筋で話が展開していくんですが、最後の最後、もうどうにも“イン”を阻止出来ないような所でバトンを受け取った作家がとった寸止め作戦は、「2人がHしようとしている所にセスナを墜落させる」でした。ラストシーンは、呆然と自分の家の消火活動をを眺める全裸に毛布だけの主人公とヒロイン…というシュールな絵。

 ……で、何が言いたいのかと言うと、河下さんも、どうせやるならそこまでやってくれと(笑)。東城とのH阻止するためなら空襲警報鳴らすくらいの覚悟でお願いしたいと思います(笑)。


 ◎『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 まぁ、アレですよ。ポンズが死んだか死なないかで騒いでた我々は甘かったと。自分の好きなアイドルがまだ処女だと言い張るくらい甘かったと。トルコ風アイスクリーム・メイプルシロップ&練乳かけくらい大甘だったと。そういうわけですよ、ええ。

 とにかくこの作品が異様なのは、“キャラクター生死のボーダーライン”が極めて低い事ですね。普通のお話なら間違いなく死なない、もし死なせるならストーリーのヤマ場で感動的に死なせるキャラを、いとも簡単に舞台から消してしまうんですよ。なので、危機一髪の場面で助っ人が現れて命が助かる…という、“ご都合主義だけど、カタルシスの大きさ故に許されるお約束”も一切ありません。「普通に考えたら、死ぬよな」という場面で本当にキャラクターを殺してしまうんですね。
 以前の“ポンズ生死不明事件”や今回のポックル虐殺が話題になっているのは、知らず知らずの内に我々読者が抱いている、「ポックルくらいの“ランク”のキャラクターなら、命だけは助かるだろう」という固定観念みたいなものを、冨樫さんが本気で揺るがしにかかっているからなんでしょうね。言ってみれば、普通のエンターテインメント系のお話に、スプラッタやホラー専用の特殊な“ボーダーライン”──主人公を含めて全員死亡も厭わない──を持ち込もうとしているわけです。
 でも多分冨樫さんは、「何を今更。このマンガがそんなマンガだって事は前々から作品の中で言ってきたでしょ」とか思ってるはずですよ、きっと(笑)。何のために、これまであれだけ人をバタバタ殺したと思ってるんだ…とかボヤいているかも知れません。

 でも普通、こんな危ない事を考える作家さんはいないんですけどね(笑)。作家にとって頭痛めて考えたキャラっていうのは、言ってみれば女の人がお腹痛めて生んだ赤ちゃんみたいに可愛いものですし。もし“割り切り上手”な人がそんな危ない考えをしたとしても、そんなシナリオ作りのための“切り札”を1つドブに捨てるような芸当、なかなか出来るものではないんですよ。
 そういう意味では、冨樫さんは本当の天才なのか頭脳回路の配置がおかしい人なのか、どちらかだと思います(笑)。まぁ、包丁で一刀両断される瞬間のポックルの手の描き方なんかを見ると、恐らく両方なんじゃないかとか思ってしまいますが。

 で、以上の点から推測すると、今後はゴンとキルア以外のキャラクターは、いつ誰が死んでもおかしくないと思います。
 キルアはゴンというキャラを引き立たせるために便利過ぎる存在ですので簡単には殺せないでしょうが、現在大ピンチのカイトは勿論、「グリードアイランド編」に登場しなかったクラピカレオリオ、さらにはヒソカ旅団メンバー、ハンター協会のお歴々なんかも“危ない”ですね。
 この作品の世界観が“そういうモノ”だと分かった以上はもう、何があっても驚けません。そもそも「ジャンプ」という雑誌の初代看板作品の一角が、主人公含む小学生を大量虐殺して救いようの無いエンディングを迎えた『ハレンチ学園』だったわけなんですから、何でもアリと言えばアリなんですよね。 


「週刊少年サンデー」2003年47号☆

 ◎新連載『結界師』作画:田辺イエロウ

 さて今週の「サンデー」は、これがこの雑誌、今年の新連載第4弾になる『結界師』の登場です。
 田辺さんは昨年の「ルーキー増刊」でデビューした後、増刊と本誌で今回の連載のプロトタイプとなる同タイトルの読み切り作品を発表し、その実績が認められての連載獲得となりました。サンデー作家の連載獲得までの道のりとしては、トントン拍子と言って良いでしょうね。
 あ、詳しいプロフィールは、もうすぐ田辺さんのページが出来るであろう、「サンデー」公式ウェブサイト内の「まんが家バックステージ」で公開されると思います。

 では、内容へ。
 については、読み切り版の時にも言いましたが、田辺さん、本当に達者です。無駄な線が全く無く、新人ながら絵の法は既に完成の域ですね。とりあえずは減点材料全くナシです。
 しかもこの作品、キャラクターの表情が穏やかなせいでしょうか、いかにも「サンデー」っぽい絵柄に感じるんですよねぇ。何だか、初日からクラスに溶け込んでる転校生を見てるみたいで、妙な感覚に陥ります。

 設定は、過去2回の読み切り版をほぼ踏襲して来ましたね。特に問題のあるモノではなかったので、変にイジるよりは逆に良かったんではないかと思います。というか、主人公がまたショタ笑顔だったらどうしようかと思いましたが、杞憂に終わって幸いです(笑)。
 ストーリーの方は、読み切り版では回想シーンとしてしか描かれていなかった“過去編”からスタートさせて来ましたね。登場人物のキャラ立ちには過去を語らせるのが一番手っ取り早いんですが、それをプロローグを兼ねて、ストーリーに絡ませるアイディアは秀逸だと思います。
 シナリオそのものも、既に形としてあったものに肉付けしたわけですから、高い完成度に仕上がっています。「敵を倒す」という目的のその先にヤマ場を持って来たのは、盛り上げ方としても良いやり方だと思いますし、また、登場人物の行動や動機付けに全く無理な点が見られなかったのも素晴らしいんじゃないでしょうか。

 とりあえず今回は、読み切り版で作った“貯金”を非常に上手く活用して最高のスタートダッシュが切れたのではないでしょうか。勿論、マンガ家としての基礎能力の高さも特筆すべき物だと思います。
 ただし気になるのは、この作品の世界観のスケールが非常に小さいで、これからどうやって話を長編向けのシナリオへ広げて行く事が出来るのか、現状ではそれが心配です。
 よって、今回限りという区切りでは十分A評価に値するだけのデキではあるものの、第3回以降まで慎重に様子を見るという意味も込めて、ここでは評価保留としておきます
 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「むちゃくちゃ眠くなったらどうしますか?」。
 ほとんど皆さんが「寝ます」という回答。まぁごもっともですね。
 これは駒木も毎日朝5〜6時まで研究室で講義の準備やってるから分かるんですが、そういう状態になったら寝るしかないんですよね(苦笑)。「ここで寝たら人生終わり」という時以外は、眠気と戦うよりも少し寝た方が結局は効率的だったりします。
 では「人生終わり」の場合はどうするか。これは安西さんの「モカ(=眠気覚まし薬「エスタロンモカ」飲んだ後に熱い緑茶」でしょうね。薬の効き目が切れた後には倍増した眠気地獄が待ってますので多用は禁物ですが……。
 しかしこれが昭和20年代前半とかだったら、やっぱり回答の大半は、「ヒロポン。よい子はマネしちゃだめだぞー」…とかになるんでしょうか。

 ◎『売ったれ ダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治現時点での評価:保留中/解説など】

 今週から『100万$キッド』というサブタイトルがつきましたこの作品ですが(嘘)、ここでカジノ……じゃなかったカシノ・ミニ講座と参りましょうか。

 今回のクリア条件はチップを5倍に増やすこと。具体的に言えば銅チップ1000枚を5000枚にするというわけですね。当講座の昨年12月18日付講義でも採り上げた通り、元来カシノのギャンブルは“一攫千金”性が低くて短期決戦に向いていませんから、これはなかなか厳しい条件と言えます。
 この場合、やはり一番大事なのは種目選択ですね。賭け金の回収期待値は勿論のこと、「賭け金を一晩で5倍にする」という条件に適したギャンブルを選ばなくてはいけません。例えばスロットマシーン。まず他の種目に比べて回収率が低いですし、“数万倍の大当たりか、あっという間の大ハズレ”という性質のギャンブルは条件に全くマッチしておらず、この場合では最も選んではいけない種目の1つ、という事になります。

 では、今回の条件に向いている種目は何が挙げられるでしょうか? まず、一番確実にチップが増やせる種目ならばブラックジャックでしょう。やはりカードカウンティングという必勝法(=期待値が100%を超えるプレイ方法)が存在するというのは非常に大きいです。この必勝法を実践できるだけの技術と知識があることが前提ですが、まずはこれを選択してチップを増やしておきたいところです。幸いにもバカヅキが来れば一気にクリアまで狙えます。逆にツキが無くても取り返しのつかない大負けは考え難く、最初のステップとしては最適の種目と言えそうですね。
 一気に5倍程度までチップを増やすというのなら、最も向いている種目は、恐らく瞳子がチョイスしたクラップスでしょう。実質的な回収期待値99%以上という数字も魅力ですし、カシノ系ギャンブルの中では比較的チップの変動が激しい(=大勝ちしやすい)のも魅力です。瞳子のようにある程度出目がコントロール出来るのならば(とは言っても、そんなもんマンガの中だけですが。)今回のチャレンジに最も向いた種目と言えるかも知れません。
 で、大吉が選んだルーレットはどうでしょう? ネコ先生が「これだけはダメ」と言うように、回収期待値はカシノ系種目で最低ランク(95〜97%)な上に戦術性に乏しく、ギャンブルとしてはかなり分の悪いモノと言えそうです。しかし、ルーレットは最高で36倍の配当が望める、つまり賭け金次第では課題の一発クリアが狙える“ハイリスク・ハイリターン”な種目でもあります。大吉のように知識も技術も無いプレイヤーにとっては、下手に無い知恵を絞るよりはルーレットでイチかバチかの勝負に出た方が良いかも知れません
 そういうわけで、一見無謀にも思える“ルーレット36倍一点勝負”というのは、実は意外に有効な作戦だったりします。ただし、この作戦は1回の大当たりでクリア出来なければ意味がありません。期待値の低いギャンブルで勝つには超短期決戦しか道は無いのです。(そういう意味では、チマチマと賭ける大吉のやり方は最悪です)
 36倍狙いを実行するとして、配当チップ5000枚を受けるのに必要な賭けチップは139枚。1000枚の“軍資金”では、チャンスは7回しかありません。理論上の勝率は18.42%(17.03
%の間違いでした)さぁ、皆さんならどうしますか? 

 ……え、駒木ならどうするか、ですか? そうですねー。自分はギャンブルをプレイする事以外でチップを増やす事を考えますね。ルールはあくまでも「チップを増やす」ことであって、「チップをギャンブルで増やす」ことではないのですから、いくらでも方法はあるはずですよ(ニヤリ)

 
 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 トビラの女子王座ベスト6揃い踏み、現実の競艇でもこんな美人揃いなら、もっとお客さん増えると思うんですけどねぇ(禁句)。

 
 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 「ちなみにサンデー編集部でも編集長派と副編集長派ってのがいてね、骨肉の権力争いをしてるのよ」
 ……って、本当に生々しい!(笑) いや、これはマジでシャレにならんような気がするんですが、大丈夫なんですか久米田センセイ(と、その担当さん)!


 ──ふう。今日は疲れました(苦笑)。カリキュラムが遅れに遅れてご迷惑おかけしていますが、出来れば懲りずに明日も来校して頂ければ幸いです。

 


 

2003年第76回講義
10月17日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(10月第3週分・合同)

 今週の「サンデー」の表紙と巻頭を飾った星井七瀬さんが、その勢いで「うたばん」にまで進出して1stシングル・「恋愛15シミュレーション」を唄いましたが、いやぁ強烈でしたね皆さん。
 何て言ったら良いんでしょう。浅田美代子二世と言いますか、安倍麻美・ザ・グレートと言いますか、歌の形を借りた合法ドラッグと言いますか。もう、とにかく凄かったですね。また、楽曲のクオリティまで歌い手の歌唱力に合わせてメルトダウンしてるのも脅威的でした、ハイ。
 コレはもう、星井七瀬がもっと売れっ子になった後、バラエティ番組で“恥ずかしい過去”としてネタにされるためだけに発売されたCDと解釈した方が良いですね。まぁこんな小ネタのために、莫大な宣伝費用が蕩尽されたり担当者数名が左遷されたりするのかと考えると、思わず般若心経を唱えながら拍手を打ち、十字を切った後に合掌したくなりますが。
 とにかく駒木は、この曲を聴いてたら涅槃へ逝っちまいそうで怖いです。飲食店など、職場で有線放送がかかる場所でお勤めの方は、しばらくの間警戒態勢をお取りになるよう、忠告申し上げます。

 ──以上、挨拶。今週のゼミを始めます。諸々の事情により、今週分は前後半合同でお送りします。

 まずは情報系の話題から。今週は「ジャンプ」・「サンデー」両誌で月例新人賞の審査結果発表がありましたので、受賞作等を紹介しておきましょう。

第5回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年8月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作なし
 十二傑賞=1編
 ・『サクラ前線北上中』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  森田和博(22歳・岡山)
 
《許斐剛氏講評:話の展開、絵も含めてスピード感がピカイチ。バトルシーンに卓球を使ったアイディアも面白かった》
 
《編集部講評:設定は面白いのだが、それを生かしきれずに単なるバトルになってしまっている。何を描きたいのかハッキリさせて欲しい。画力はあるが、もっと線をソフトにして見やすい絵を)
 審査員(許斐剛賞)特別賞=1編
  ・『聖火』
   大前貴史(22歳・兵庫)
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『レイニーレイニー』
   吉田純也(17歳・福岡)
  ・『APOLLO』
   川田暁生(25歳・東京)
  ・『武心略記』
   高山憲弼(22歳・大阪)
  ・『サッカー』
   松井優征(23歳・埼玉)
  ・『BUTTLE KUN-FU GENERATION』
   成瀬奏(23歳・東京)

少年サンデーまんがカレッジ
(03年8月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=1編
  ・『ハルのアメ』
   田村光久(23歳・埼玉)
 努力賞=1編
  ・『真心 ─マシン─』
   清水元英(17歳・埼玉)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  ・『理想はおあずけ。』
   中崎しいな(19歳・福岡)
  ・『to pick a fight』
   牧俊介(25歳・神奈川)
  ・『人がいい人が好き』
   町田哲也(27歳・東京)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります。(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ※「ジャンプ十二傑新人漫画賞」
 ◎最終候補の川田暁生さん…00年12月期「天下一漫画賞」で最終候補。
 ◎最終候補の高山憲弼さん…03年2月期「天下一」で編集部特別賞
 ◎最終候補の成瀬奏さん…03年1月期「天下一」に投稿歴。本誌の懸賞当選者発表ページのカット描き経験あり。

 ※「サンデーまんがカレッジ」
 ◎佳作の田村光久さん…99年に「にいがたマンガ大賞」で入選
(普通のマンガ賞で言う選外佳作)の経験あり?
 ◎あと一歩で賞の町田哲也さん…02年6月期「まんがカレッジ」でも“あと一歩で賞”

 ……「十二傑漫画賞」8月期の審査員は許斐剛さん。先月の矢吹健太朗氏のように、講評で身の程をわきまえない発言連発か……と思いきや、ギリシアのデルフォイ神殿で“汝自身を知れ”と教わったかのように、全ての入賞作を徹頭徹尾褒め倒し。それともこの人、本気で「うわー、この人たち本当に俺より上手い」と思ったんでしょうか。
 まぁただ、「許斐先生総評」の「もっと簡潔にすればよりよい作品になるはずです」…という所に何かを感じなくもないわけですけどね(笑)。

 ──さて、今日は新作の話題も2つあります。まずはおめでたい新連載の話題から。「週刊少年サンデー」の次号・47号より、田辺イエロウさん『あやかし方陣伝 結界師』がスタートします。
 この作品は、かつて増刊・本誌に掲載された読み切り・『結界師』の長期連載化。本誌掲載時には、当ゼミで“A寄りA−”の評価を出した作品だけに、駒木ハヤト個人的にも非常に期待の一作です。最近の「サンデー」の新連載のアレがナニで、特に『楽ガキ』が著しくナニだったしする現状、「サンデー」の近未来を賭けた新連載と言っても過言では無いと思います。初の連載ですからプレッシャーも大きいでしょうが、何とか頑張って欲しいものですよね。

 最後に「ジャンプ」の読み切り情報を。次号・47号に『NOW AND ZEN!』(作画:加治佐修)が掲載されます。
 皆さんご存知でしょうが、加治佐さんは今年、長年の苦労が実って『TATTOO HEARTS』で初の連載獲得を果たすも、1クール突き抜けとなった若手作家さん。さすが「ジャンプ」と言いますか、短期ブランクでの再出発となりました。
 現在の「ジャンプ」連載陣でも、初連載が短〜中期の打ち切りに終わった人が半数くらいいるわけですので、加治佐さんにはここからが本当のスタートだと思って、奮起してもらいたいですね。

 
 ──それでは、レビューとチェックポイントへ。今週の対象作は「ジャンプ」から読み切り1本のみです。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年46号☆

 ◎読み切り『人造人間ガロン』作画:中島諭宇樹

 今週の読み切りは、デビュー2作目にして本誌初登場となる中島諭宇樹さんの『人造人間ガロン』です。

 中島さんは佐賀県出身の24歳。珍しい名前ですが、これが本名とのこと。高校時代から本格的にマンガ家を志し、同人誌を作るなどしていたらしいですね。
 そして大学進学と共に上京し、大学の漫研を拠点に本格的な創作活動へ。学生生活を続けつつプロを志向し、01年11月期に「天下一漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りを果たした後、02年度「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞その時の受賞作『天上都市』は「赤マルジャンプ」03年春号に掲載され、これがデビュー作となりました。このデビューと前後して、つい最近まで村田雄介さんのスタジオで『アイシールド21』のアシスタントを務めていたのも一部で有名な話ですね。

 ……実は、今回のレビューにあたっては、中島さんの学生時代の知り合いとおっしゃる方が2人も情報を提供して下さいました。非常に興味深いエピソードや履歴も教えて下さったのですが、この中には“作家・中島諭宇樹”というよりも“人間・中島諭宇樹”についての、いわゆるプライバシーに関わったものが多く、今回は紹介を見合わせて頂いた情報もありました。
 しかしこの手の情報は、知名度が上がって“公人度”が増してゆくに従い、なんとなく解禁されてゆくものですので、時期を見計らって紹介してゆければ…と思います。中島さんはそれくらい(=有名になってゆく)だけのポテンシャルを持った作家さんだと思いますしね。

 ……では、作品の内容へ話を進めてゆきましょう。

 は、最近流行の作風からは外れているものの、それがかえって独特の雰囲気を生み出していてプラスに働いているのではないかと思います。
 キャラの顔の表情とアングルが単調、また所々で雑な箇所が見受けられる…など、未完成な面もまだいくつかありますが、一応基礎的なスキルが出来上がっているのと、巧みにカモフラージュされているのとで、大きなキズにはなっていません。ただ、欠点が目立たないからといって、「もういいや」と現状に甘える事なく、更なるスキルアップを目指してもらいたいものです。
 あと、これは個人的な印象なのかも知れませんが、ヒロインはもう少し可愛い(美人系でも可)キャラにした方が作品の雰囲気が華やかになって良かったんではなかったと思います。どうもこの作品の主役級キャラは、外見・性格共に、他の作品のキャラをモデルにしているみたいなんですが、少なくとも外見は若干ミスマッチだったような気がしないでもありません。

 次にストーリー・設定に関して。
 中島さんの最大の持ち味と言えば、前作『天上都市』で見せつけた、他の新人・若手とはスケールの違う“世界観構築能力”ですが、今作もこれが見事に発揮されています。「世界観」と言っても、なかなか判り辛いところがあるでしょうが、誤解を恐れず端的に言えばそれは「物語世界におけるオリジナルな常識」というヤツです。ヘンな世界観が舞台ではヘンな話でも大丈夫…みたいなもんで、世界観は使い方によっては凄まじい武器になります。ただし、これを「設定の集合体」と誤解してしまうと、いわゆる“設定厨”状態になってしまうんですよね。
 この作品で言えば、冒頭で人間味溢れる思考回路を持ったロボット(アンドロイド)が、如何に人間の生活に溶け込んでいるか…という風景が描写されていたりしますが、このシーンが世界観描写の最たるものですね。ここで呈示された諸々の“常識”が作品のテーマと直結し、作品全体の魅力に繋がっているわけです。
 ただし、今回に限って言えば、そこまで世界観を構築していても、「アンドロイドにも心がある」という重いテーマを消化しきれず、結果、作品の完成度が今一つだったような気がします。細かい設定を巧みにセリフのやり取りで素っ飛ばし、シナリオ上でかなりの無茶もしたりしているわけですが、それでも散漫な印象が否めませんでした。特にヒッツァー博士の思考が理解し辛く、クライマックスの盛り上がりを若干欠いてしまった感がありましたね。

 ですから、この作品は(少なくとも中島さんレヴェルでは)凡作ということになります。もっとも、これが凡作というのはかなり贅沢な話ではあるのですが。
 評価は迷うところですが、“傑作・良作”とまではいかないとして、A−寄りB+というところにしておきます。この中島さんの持ち味が次回作以降、もしくは長編連載になってどう生かされるのか、今後の動向にも注目ですね。


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントでは岸本斉史さんの結婚報告が。披露宴に出席したらしい武井宏之さんからも祝辞コメントが掲載されました。先週号の休載は結婚準備と新婚旅行休みだったんですかね。だとしたら編集部も粋な計らいをするものです。
 しかし、超多忙な生活を4年もやっている岸本さんが、どうやって結婚するまで愛を育む余裕があったのか、下世話な話ながら尋ねてみたいものでありますね(笑)。

 ◎『テニスの王子様』作画:許斐剛【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 普段、このコーナーでは極力批判めいた言動は避けるようにしてるんですが、それにしても凄いですなここ数回は
 どう考えてもガムじゃなくて本当の風船に見える何かを膨らませたまま、いっこく堂真っ青の腹話術で対戦相手を毒づく丸井とか、ネットを支えるポールを通過した後、その真横にある審判台を通過して相手コートに突き刺さる意味不明の魔球を操るジャッカルとか、常勝テニス軍団と言うより大道芸人大集合ですがな、こりゃ。
 当講座談話室(BBS)でも話題にしましたように、この作品、実は小・中学生男子人気がメインなのですが、今のファンが10年くらい経って、本棚から単行本を引っ張り出して来たら、どんな心境になるんでしょうかね(笑)。

 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ついでにこっちもやっちゃいましょうか(笑)。
 高校野球モノでは、予選の勝ち上がり過程で暴力野球チームが出て来る事はよくあるんですが、ただしこの作品ではハッキリ言って引っ張り過ぎです。こういう相手は2〜3回でチョチョイとやっつけちゃうから爽快感があるんであって、大層に描かれても間延びするだけだと思うんですがねぇ……。
 まぁこれでアンケートが少し落ちてきたら、嫌でも試合進行は早くなると思うんで(笑)、とりあえずその辺に期待しましょうか。


「週刊少年サンデー」2003年46号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「人に言われた心に残る言葉」。結構色々なバリエーションの回答が寄せられて、なかなかの良問でしたね。中でも、「おまえが休んでいた間は、本当に授業しやすかった」(あおやぎ孝夫さん)「お前と遊ぶなってウチの親に言われたよ」(井上和郎さん)…といった自虐ネタが個人的にヒットでした。
 駒木はやっぱり、生徒から言われた「先生、1年間有難うございました」でしょうね。あと、初任校の教頭から言われた「PTAの会議で会った保護者の人が、『ウチの子が駒木先生の授業が面白いと言ってます』…って言うとったぞ」でしょうか。教職って努力が報われないのが当たり前の仕事ですので、ごく稀に褒められた時はとても嬉しいもんです。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 「登場人物のキャラ立ちについて」という、制作現場での最重要事項をネタにしてしまう発想が素晴らしいですね(笑)。しかもそこにライトお色気を挟んで人気取りにも抜かりなし、という良い意味でのあざとさが出て来ました。
 今ふと思ったんですが、今の「サンデー」でアニメ化が一番近い作品って、案外コレかも知れないですね。元々が『ハイスクール奇面組』のオマージュ的作品なのですから、十分にその素地はあると思いますが……。
 あーあと、今回一番笑えたのは冒頭の「ヘンな夢」でしたね。5日連続モデム配りで死んだ頭では、一瞬、本当にマイナーチェンジしたのかと錯覚しましたよ(笑)。

 ◎『WILD LIFE』作画:藤崎聖人【現時点での評価:B+/雑感】

 宝生さん、いくら切羽詰ってるからっていっても、
 「このホースをマンコウ(公)に!」
 ……は如何な物かと。そりゃ鉄生も「え…」とか躊躇しますわな。こんな非常時にそんな過激なプレイなんてねぇ。
 でもそこで「じゃ、ちょっと失礼して」だったら、即日評価をA−に格上げしようと思いましたが、残念でした(冗談です)。

 
 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 駒木もあります、ダメフィルター。
 「ラブソングを歌っていても、ちっともラブ感が出ないフィルター」
 と、
 「ジッと瞳を見つめているつもりが、何かの理由で怒ってて睨んでいるようにしか見えないフィルター」
 が。ぶっちゃけ、深刻なフィルターです(苦笑)。特に前者は本気で萎えます。一度、熱唱してる側で女の子全員に歌本読まれてみなさい。生ビールをピッチャーで注文したくなりますから、ホントに。

 
 ……といったところで、いつもなら「失礼」になるところですが、今日は久しぶりに「読書メモ」をやってみたいと思います。採り上げる作品は、ある意味で当講座とよく似た雰囲気のあるあの作品です。

◇駒木博士の読書メモ(10月第2週)◇

 ◎単行本『銭』1巻作画:鈴木みそ/「月刊コミックビーム」02年11月号〜03年8月号収録分

 開講当時から左フレームのリンク集に氏のウェブサイト『ちんげ教』を(勝手に)載せている事で既にお分かりかも知れませんが、駒木は随分以前(中学生の頃)から、まだコラムニスト兼イラストレーターだった頃からの鈴木みそさんのファンだったりします。本当に凄く面白ぇんですよ、当時のコラム。単行本化されてないのが不思議なくらいで。(ちなみに駒木が一番好きなコラムは、「ドンブリ一杯のウンコをいくらなら食うか」というテーマについて社会学的に考察した一本。しかもイラスト付
 で、そんな文字書きとしても十分すぎる才能がある人が達者な絵でルポマンガを描いたら駄作になるはずがないわけで、この作品も文句無しの傑作に仕上がってます。何と言いますか、「駒木博士の社会学講座」ならぬ「鈴木博士の経済学講座&ドラマ劇場」みたいなモンでして、駒木のやってるような単なるウンチク語りだけじゃなく、そこにエッセンスとしてドラマが入っているのが凄いんですよね。遥か格下とは言え、似たような事を続けている立場としては、もう感服するしかありません。
 で、また劇中の台詞回しがさりげなく上手いんですよ。特に1巻の最後の方で、グレた娘が仕事中毒の父親にキツい事言うシーンが秀逸です。よく出来すぎてて、ある意味リアリティが無くなりかける位に素晴らしいやり取りが展開されていますので、是非単行本を買って確かめて下さいまし。大型書店かマンガ専門店で探してみればあると思いますんで。
 連載開始が昨年11月ということで、残念ながら今年の「仁川経済大学コミックアワード」の対象作からは外れてしまうんですが、評価つけるなら勿論Aです。

 
 ……というわけで、今週はここまで。今後も木曜あたりに前後半合同でやる機会が多くなると思いますが、どうぞご理解の程を。

 


 

2003年第74回講義
10月10日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(10月第2週分・合同)

 お待たせしました。今週分のゼミを実施します。もう「ジャンプ」の内容などは既に記憶が薄れている方もいらっしゃるでしょうが、もう一度古新聞・古雑誌の山の中から引っ張り出して頂ければと。

 ではまず、情報系の話題を1本。日付的には明日発売になる次号(46号)の「週刊少年ジャンプ」に掲載される読み切り情報です。
 その作品は『人造人間ガロン』作画:中島諭宇樹)。作者の中島さんは、今年ゴールデンウィーク発売の「赤マルジャンプ」春号で鮮烈なデビューを果たした期待の新人作家さん。つい最近までは『アイシールド21』のアシスタントも務めている事で知られていました。「ストーリーキング」マンガ部門の準キング受賞者でもありますね。
 今回のアンケート結果次第では連載獲得も考えられるでしょうから、非常に重要な意味を含んだデビュー2作目と言えそうです。果たしてどうなりますか──?

 さて、今日は合同版でやらなければならない事も多いですし、無駄口利かずにレビューとチェックポイントへ参りましょう。ちなみに今回もチェックポイントはショートバージョンで失礼します。
 レビュー対象作は「ジャンプ」が新連載第3回と読み切りが各1本の計2本、「サンデー」が読み切り1本の計3本となります。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年45号☆

 ◎新連載第3回『神撫手』作画:堀部健和【第1回掲載時の評価:B

 今回の新連載シリーズ関連のレビューも、いよいよこれで最後になります。
 新連載と言えば、第3話までで続行か打ち切りかの判断が下されるというのは有名な話ですが、アンケートが誌面構成(掲載順)に反映され始めるのは8話目くらいからなんですよね。なので、ここからしばらくは誰の目から見ても打ち切り確実な作品が掲載順上〜中位をキープするため、色々な憶測が飛ぶ期間でもあるんです。
 まぁ、ここは「次回打ち切り作品予想期間」と思って、色々な考察を深めてみてはいかがでしょうか。

 あー、結局余談をしてしまいました(苦笑)。『神撫手』について述べてゆきましょう。

 新連載から3週間。一部で「絵が真っ白になって来た」と言う非難も出ていますが、やはり問題があるのはストーリーと設定についてだと思われます。

 とにかく設定とストーリーの整合性が杜撰なのが頂けません。特に第2話で公開された「神撫手の能力は1日1度まで」という設定と第1話の内容(1日に2回も能力が使用されている)が矛盾している点は、「いくらなんでも」なボーンヘッドです。
 また、シナリオも大局観を欠いていてダメです。設定を説明するためだけや、脈絡もなく新キャラを1人増やすためだけにチープな内容のストーリーを組んでおり、既に「2手パス」の状態です。本来なら“怪盗モノ”の醍醐味になるであろう、攻める方(怪盗)と守る方(美術館・警察)の駆け引きや捕物劇もこれまで皆無に近く、善悪の概念を超えるような“生涯のライバル”も不在とあっては、前途多難どころか難破寸前といったところではないでしょうか。

 評価はほぼ1ランク落としてC寄りB−とします。まだ結果は判りませんが、結局のところ読み切り版のレビューで警告した通りになってしまいそうですね。


 ◎読み切り『URA BEAT』作画:田村隆平

 今週の読み切りは「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の6月期佳作・十二傑賞作品の掲載です。「十二傑」受賞作の本誌掲載は初とのことですが、秋は「赤マル」が発行されないシーズンですから、時期的にも恵まれたんでしょうね。
 作者の田村隆平さん23歳「ジャンプ」系新人としては遅咲きの部類だと思います。駒木がデータとして把握できている受賞歴は、この「十二傑」佳作03年2月期の「天下一漫画賞」審査員(武井宏之)特別賞だけなのですが、「ジャンプ」の紹介ページによると以前「ストーリーキング」ネーム部門で最終候補まで残った経験があるとのこと。
 しかし駒木が調べたところによると、一昨年(第7回、『アイシル』がキング受賞)までの受賞者リストに“田村隆平”の名前はありません。となるとペンネームを変えたか、3年以上前に投稿していたかのどちらかになるわけですが……。ひょっとしたら高めのデビュー年齢というのも、この辺りに理由があるのでしょうか?

 謎はさておき、内容についてお話してゆきましょう。

 まず、受賞時から散々指摘されているについてからですが……。
 まぁ確かに稚拙な面も多く目立つものの、それほど酷くはない…という印象です。むしろ、マンガ独特の表現技法は既に連載作家レヴェルと言って良いほど突出しており、総合的に評価すればギリギリ及第点くらいは出せます。普通の読者ならともかく、プロの編集者が「画力がついていってない」とコメントするのは如何な物かと思いますが。
 少なくとも田村さんに根本的な絵の才能が無いというわけでは無さそうで、今後アシスタント経験を積み、一線級のプロの人から知識やテクニックを学べば、少なくとも「連載作家としては下手な方」位のレヴェルにまでは辿り着けると思います。現在画力に定評のある作家さんで、デビュー作の絵がグダグダだった人なんてゴマンといますので、ここは次回作以降に期待したいところです。

 次にストーリーと設定について。こちらも判断が非常に難しいですね。評価出来る部分と出来ない部分が複雑に絡み合っていて、果たして総合的にどのような評価を下したら良いのか、その落とし所が難しい…と言うのが第一印象です。
 そんなややこしい話の前に、現在の田村さんを一言で表現すると、「才能はあるが、実力が足りない」という事になります。RPGに喩えて言えば、現在のパラメータは並以下だとしても、“レベル”が上がっていくにつれてグングンとその値が伸びてゆくと予想される人…といったところでしょうか。
 もう既にネット界隈を中心に色々指摘されているように、シナリオにはかなりの穴が見受けられます。張りっぱなしで処理しきれていない伏線、ご都合主義的な設定など、修正すべき点は多く存在します。
 しかし、田村さんの優れている所は、「良く出来たマンガとはこういうものだ」ということが感覚的に(←ここ重要)理解&習得出来ている点です。具体的に言えば、ストーリーの展開させ方、演出、台詞回しなどが天才的に上手い、ということになります。現在はシナリオの不備が目立って「良く出来た作品っぽい作品」に終わってしまっていますが、これにストーリーテリング力がついてくるようになると、本当の「良く出来た作品」が描けるようになるでしょう。
 紹介ページによると、好きな作家は冨樫義博さんとゆうきまさみさんという事ですが、確かに玄人好みの作品を志向しているような感じですよね。

 とりあえず、今回の作品は加点・減点激しく相殺させてB+ということにしておきます。今後に注目の作家さんがまた1人増えた…というところでしょうか。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 談話室(BBS)でも指摘があったように、この作品、世界観ぶち壊し寸前になるくらいギャグが挟まれているんですよね。
 結局のところ推測するしかないんですが、ひょっとしたら和月さん、『金色のガッシュ』みたいな爆笑ギャグと感動的ストーリーの融合を意識しているんじゃないかと思うんですが。ただ『ガッシュ』では、主人公は基本的にギャグメーカーではなく、“ギャグ担当”のキャラがボケるのを傍観しながら静かにツッコむ…みたいな感じでバランス取ってるんですが、『武装錬金』は主人公が最強のギャグメーカーになっちゃってますからね。そのせいで一番白熱しているシーンに水を差してしまったりと、多少損している部分があるかも知れません
 まぁ、最近の掲載順低迷を考慮しても打ち切り候補になるのは次期以降でしょうから、今後の軌道微調整に期待しましょう。

「週刊少年サンデー」2003年45号☆

 ◎読み切り『大蛇(オロチ)』作画:夏目義徳

 さて、今日のメインイベントですね。既に作者の夏目さん実施の“コラボレーション企画”にビックリされた方もいるかも知れませんが、駒木もビックリしています(笑)。いや、「社会学講座のパロディをやります」とは聞かされていたんですが、雰囲気似過ぎです(笑)。

 ──では、こちらは“本家”らしく正調・「現代マンガ時評」といきましょう。

 夏目さんの経歴についてですが、今回は夏目さんから“公式”のプロフィールを提供して頂きましたので、そちらを紹介しておきます。

1994年:『ダンクシュートは打てないけれど』が「少年サンデーまんがカレッジ」10月期にて佳作受賞(ちなみに受賞が発表された号の『MAJOR』は、おとさんがギブソンから頭にデッドボールを受けた回。)
1995年:『雨天笑遊記』が「小学館新人コミック大賞少年部門」で入選受賞。「増刊少年サンデー超」9月号に掲載され、デビュー。
1996年:『雨天笑遊記 稲穂の章』が週刊少年サンデー8号に掲載/『スパナ』が「増刊少年サンデー超」8月号に掲載
1997年:『止めれるモンなら』が「増刊少年サンデー超」3月号に掲載

---アシスタント(メインは皆川亮二さんのスタジオ)・大学の卒業制作・就職(コナミ関連企業でTVゲームのデバッグやデザインなど担当)などでしばし活動中断---

2000年:『ひらき屋OPEN』が「増刊少年サンデー超」1月号に掲載/『トガリ』を「サンデー」本誌にて、短期連載を経て本格連載開始
2002年:『トガリ』連載終了&『ブカツ』を「サンデー」本誌に掲載

 ……ここで下手な感想を述べてしまうと、またご本人からご指摘を受けそうなので止めておきますが(苦笑)、『MAJOR』って、色々な意味で凄い作品だと思いました。

 では、いよいよ内容の方へ。作者ご本人が見ているのを知っててレビューするのはこれが初めてなんですが、「本人の前で出来ないようなレビューはしたくない」と言う事は以前から考えていましたので、臆する事なく全力でぶつかっていきたいと思います。

 まずはから。明らかに他の掲載作品とは“色”の違う、暗い(黒い?)絵柄が非常に印象的です。こういう場では目立ってナンボという部分もありますので、こうして差別化を図るのは良い考えだと思います。ただ、残念ながらやっぱりこの紙質では見難い箇所が出てしまいますよね。
 あと、バックボーンの豊かな作家さんですから、当然画力そのものは問題ないのですが、今回はアクションシーンで多少分かり辛い場面があったのが気になりました。具体例を挙げれば、“大蛇(オロチ)”が犬を助けたシーンで肝心の犬をキャッチした瞬間が抜けていた点、または戦闘中に敵がヒロインを狙ったシーンで、ヒロインがコマから外れていたために距離感が掴めず、本当に敵がヒロインを狙っているように見え難い点などでしょうか。
 この作品はテンポが非常に速く、限られたコマ数で多くの場面の描写をしなければならないので、確かに描き辛い部分はあったと思います。が、ただでさえ黒が勝った見難い絵柄だっただけに、もう少しその辺に気を遣ってもらえれば良かったのではないか…と思います。

 次にストーリーと設定について。“原案”は別の人が担当したとのことですが、それでもストーリーに関する最終的な責任は夏目さんにあると思いますので、ここではそういう扱いをさせてもらいます。
 一読後、まず思ったことは「よくここまで“贅肉”を削ぎ落としたもんだなぁ……」という事でした。「シナリオを破綻無く仕上げた」と言うよりも、「シナリオを破綻しようが無い所まで仕上げた」といったところでしょうか。これは簡単に見えて、実は相当なエネルギーを要する作業ですので、こういった部分は“キチンとしたプロの仕事”として認めなければならないと思います。
 ただ、残念ながら「いくら何でも削り過ぎ」といった感も否めず、序盤は展開が早すぎて戸惑ってしまいましたし、“大蛇”を追う組織やそのリーダーが全く正体不明のまま終わったのも如何なものかと思います。後者については、ヒロインの一人称的視点ならそれでも構わないんですが、三人称的視点にしている以上は、ある程度世界観の呈示をやっておかないと不親切だと思います。
 また、シナリオそのものがオーソドックス過ぎるくらいにオーソドックスな、厳しい言い方をすれば“徹頭徹尾どこかで見たようなお話”だっただけに、どこかワンポイントでも“これが夏目義徳オリジナルだ!”…というような要素を混ぜる必要があったのではないかとも思います。

 評価の方はB+ということにしておきます。お世辞抜きで、作品の完成度には「さすが」と思わせるモノがあったと思いますので、今度はもっとスケールの大きさを感じさせるような作品が見てみたい…というのが、一読者としての願望です。


 時間の都合で「サンデー」のチェックポイントはお休みとします。巻末コメント(「1日だけ他の人に変身出来るなら、誰になりたいですか?」)夏目さんの「連載作家になりたい」がMVPでしょうね(笑)。久米田康治さんのお株を奪うような“自虐ネタ”はお見事でした。
 しかし、他人が変身したいと思うような人物って、実は華やかさの裏で物凄くキツい努力をしているはずなんですよね。それを考えると、そうそう軽はずみに「○○になりたい!」って言えなかったり。

 以上、1日だけ変身したいのは「仲間由紀恵さんの付き人、またはマネージャー」の駒木ハヤトでした(笑)。

 


 

2003年第73回講義
10月6日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第5週/10月第1週分・後半)

 前回のゼミでの大失策について、受講生さんからもいくつかの叱咤や激励を頂きました。
 いやしくもメディアリテラシーについての講義を受け持っておいて、自分がそれに失敗したというのは本当に情けない限りで、穴が有ったら入りたいとは正にこの事でありました。
 今後はこれまで以上に情報の取り扱いには留意して講義を行ってまいりますので、どうか今後とも宜しくお願い申し上げます。

 では、日付の上では先週となってしまいました、9月最終週&10月第1週のゼミ後半分をお届けします。

 まずは今日も情報系の話題から。
 既に先週のゼミでも簡単にお知らせいたしましたが、「週刊少年サンデー」次号03年45号に、夏目義徳さんの新作読み切り・『オロチ』が掲載されます。
 「サンデー」の公式ウェブサイトから“夏目義徳”の名前が消え、同誌と夏目さんとの絶縁が取り沙汰されたのが今年の5月。この噂を紹介した当講座に、実は以前から当講座をチェックして下さっていた夏目さんご本人から、「『サンデー』とは絶縁したわけではなく、一旦距離を置いただけ。専属契約の無いフリーの立場なので、他誌での活動も目指しているところなのです」…という旨のメールを直接頂いたのは記憶に新しいところですが、その言葉(『サンデー』と絶縁したわけではない)の通り、本誌の読み切り枠で「サンデー」に再登場ということになりました。
 今回の“復帰”にあたり、またも夏目さんからわざわざメールを頂きましたこの件で当ゼミの情報の信憑性が損なわれるのを懸念されたということで、本当に有り難いお話です。(そうやって守って頂いた信頼を自分で壊してりゃ世話ないですが)
 ネット上のメールに関するマナー上、夏目さんからのメールの文面全てを紹介するわけにはいかないのですが、今回の読み切り発表については、
 「フリーの立場で色々な雑誌での活動を模索して来たが、結果として一番早く話がまとまったのが『サンデー』の読み切りだった」
 ……という事だそうです。「サンデー」とは一旦距離を置いたとはいえ、これまでの経緯(夏目さんがデビュー以来『サンデー』一筋だった事など)を考えると、それでもまだ「サンデー」が他の雑誌に比べて関係が深い雑誌であろうという事は容易に想像がつくところですし、この“復帰”も妥当と言えば妥当な話なのかも知れませんね。
 まぁ本当に詳しい事情は駒木にも知る由はありませんし、もし知ってても公にする事ではないでしょうから、これ以上の詮索は止めておきますが、とりあえず今は「ブランクを余儀なくされていた元メジャー少年誌の連載作家さんが、無事活動再開を果たした」という事実を喜びたいと思います。
 なお、駒木が夏目さんに「受講生の皆さんに何かメッセージがあれば」とお願いしたところ、快くコメントを下さいましたので、紹介させて頂きます。

 漫画は載せるまでは漫画家の仕事ですが、載ってからは読者のものですので自由に判断してください。批判も結構。だって読んだ人だから。一番イタイのは、やっぱ読まれないことですからねー。
 読者の皆さんの意見を聞いて参考にするので、よろしくお願いします。

 駒木にも「遠慮なく自由にレビューして下さい」と言って下さってますので、全力で審美眼を研ぎ澄まし、ガチンコ勝負させてもらいたいと思います。その上でA評価を出せれば本当に嬉しいですね。期待して発売日を待ちたいと思います。

 ……それでは今日もレビューとチェックポイントへ。レビュー対象作は読み切り1本のみ。カリキュラム遅延のため、チェックポイントも少なめでご容赦を。
 

☆「週刊少年サンデー」2003年44号☆

 ◎読み切り『PUMP☆IT★UP』作画:大和八重子

 突如として始まった、元連載作家さんによる読み切りシリーズ、今週は大和八重子さんのビーチバレー物作品が登場です。
 つい先日「まんが家バックステージ」から名前が消えてしまい、詳しいプロフィールが分からなくなってしまったのですが、大和さんは90年代後半から「サンデー」系雑誌でプロ野球実録モノの読み切りを数作品発表していたようです。その後は「サンデー」本誌で本格的な創作活動へシフト。00年に柔道マンガ『タケル道』で短期集中連載、更には長期連載を獲得します。
 しかしこの連載は半年ほどで無念の打ち切り。それからは増刊で散発的な活動をしていましたが、本誌には『タケル道』の連載終了以来2年半ぶりの登場になりますね。

 元連載作家さんですから当たり前と言えば当たり前ですが、に関しては何も問題は無いですね。ただ、顔の輪郭のバリエーションが乏しくて違和感を感じるのですが、まぁそれは些細な事でしょう。

 しかし、ストーリーと設定かなり問題が多いような気がしますね。

 まず注文をつけたいのはキャラクターデザインの面ですね。よりにもよって「週刊少年サンデー」で、頭が悪いジャニーズ系アイドル的な男受けの悪いキャラを主役に据えるのは正直どうなんだろうと。
 しかも、本来なら男子・男性読者の感情移入を引き受けるはずのバレー部主将・山之内が、実は性格が捻くれてるだけのヘタレで、全く共感出来ない人物になってしまっていますからねぇ……。これでは、「“お近づきになりたくない”キャラが勝手に砂にまみれてるだけ」の48ページです。
 
 また、シナリオ面でも大きな問題があります誰が主役なのかイマイチ分からないボヤけたフォーカス一体何を読者に見せたいのか分からない軸の無いプロットなど、ストーリーテリング面ではごく基本的な内容が出来ていないんですよね。
 多分、大和さん的には「努力」をテーマにしたかったのでしょうが、話を全体的に俯瞰してみると、「チャラチャラした男前のアイドルは、ビーチバレーの天才だった」「努力してもダメなヤツはダメ」という部分しか伝わって来ないんですよね。これじゃイカンですよ。

 こんな偉そうな事を言うのはアレだと思うんですが、この作品、もうちょっとネームを練る余地があったんじゃないかと思います。評価はB寄りB−としておきます。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「学生時代の部活は何でしたか?」。美術部漫研が多いのは当たり前(しかも漫研より美術部が多いのが重要)として、運動部経験者が大半だというのは興味深いですね。やっぱり積極的な学校生活を経験していないと、リアリティのある人間関係はなかなか描けないという事なんでしょうか。
 駒木は、まず小・中とバスケ旧日本軍の空爆用爆弾のような使い道の無い秘密兵器に終始しました。
 で、高校に入ってからは体力の限界を感じて運動部から離れ、SF研究部という名のマンガ&ライトノベル&テーブルトークRPG同好会に。週3回の活動の帰りはヲタトークをしながら集団下校…という、我ながら香ばしさを感じるクラブでした(笑)。
 ……まぁそれだけ仲が良かったって事なんですけどね。女子比率が高いクラブでしたから、ある程度は華やかさもありましたし。

 ◎『金色のガッシュ !!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 

 今週の話、コレ凄いですよ。
 要は「惚れた女のためなら命を張れる」って事なんですが、これは当たり前と言えば当たり前の話だけに、見せ方が難しいんですよね。で、このお話の場合は、どう頑張っても悲劇にしか辿りつかないんですが、その悲劇のヒーローとヒロインが他の誰よりも強い。しかも自分の弱さをパートナーを想う力でカバーしているので余計に強いんです。
 事前にあったキャラ設定が後から作ったシナリオと噛みあい、しかも優れたネーム力がそれを補強する。まさに物語の理想形ですね。

 
 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 ヤキチと桃里の“いい雰囲気”描写、上手いなぁ(笑)。バイトの職場とかで必ずありますよね、こういうのって。
 しかし、ヤキチって28歳で駒木と同い年なんですが、高校生から見たら28歳ってこんな頼もしい感じに見えるんですかねー。だって、駒木ってこんなですよ?(苦笑) まー、こんなだから自分の家族どころか彼女も随分長い間いないんでしょうが。

 
 ……さて、今日はこんなところで。次回のゼミは水曜か木曜に実施したいと考えてます。では。

 


 

2003年第71回講義
10月2日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第5週/10月第1週分・前半)

 講義の実施が予定より遅れております。
 折からの体調不良の上に、例の金とネタ目当ての虚業が最近立てこんでおりまして、講義に費やせる時間とエネルギーが思い切り削られてしまっている現状です。
 そういうわけで、大変申し訳ないんですが、予定していたカリキュラムはしばらく遅延する事になると思います。この状態に満足していないのは駒木も同じですので、どうかご理解下さい。

 で、今日はゼミの今週前半分を実施します。本当なら合同版でお送りしたいところなのですが、今週はレビュー対象作が多くて、なかなかそうも行きません。本当、忙しい時に限ってやらなくちゃいけない仕事量が増えるんですよねぇ。しかもあんなクズみたいな作品に(ぼそ
 

 まずは軽く情報系の話題から。先の改変で連載枠が1つ増えたものの、今度はローテーションで連載陣に取材休みを入れて連載枠を確保するようになった「ジャンプ」。次号も新人さんの読み切りが掲載されます。
 次号(45号)に掲載されるのは、03年6月期「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の佳作&十二傑賞受賞作・『URA BEAT』(作画:田村隆平)です。この回の審査員を務めた冨樫義博さんが「伏線の使い方が分かっている」と評した作品だけに、シナリオ面に期待が持てそうですね。
 しかし予告イラストは『テニスの王子様』をちょっと上手くしたような感じですね(笑)。これで編集部の講評は「せっかくのストーリーが画力について行ってないのが惜しい」なのですから、この回の講評を書いた編集者は、各方面に色々な意味で余りにも失礼だと思います。まるでかの人気連載作品は、ストーリーがダメだから絵がダメでも関係無い…と、言っちゃいけない本当の事を言っているのがバレバレじゃないですか! 

 ──さてここで問題です。この件で一番失礼なのは誰でしょう?

 
 それでは取り急ぎレビューとチェックポイントへ。先ほど紹介した通り、今日のレビュー対象作は3本あります。新連載第3回の後追いレビューと、読み切りレビュー、代原読み切りレビューがそれぞれ1本の構成です。

 
☆「週刊少年ジャンプ」2003年44号☆

 ◎新連載第3回『サラブレッドと呼ばないで』作:長谷川尚代/画:藤野耕平【第1回掲載時の評価:B

 恐らくここ数年の連載作品の中で、「タイトルだけではどんなマンガか分からない作品第1位」に輝きそうな柔道マンガ・『サラブレッドと呼ばないで』が連載第3回を迎えました。
 いや、でもこのタイトルは正直イカンですよ。タイトルだけで内容が判らないだけならまだしも、明らかに別ジャンルの作品と誤解されてしまいますからね、これでは。
 だって、逆に『ジュードーボーイ』という題名の、そういう名前の競走馬が活躍する競馬マンガがあったらどう思います?(苦笑)

 まぁそれはとりあえずさておき、内容についてです。
 ここまで3回を見る限り、1回ごとのエピソードを構成する力は確かに感じられます。随所に散りばめられているコメディ的パートもなかなかの出来ですし、なるほど、雑誌の1作品として軽く読み飛ばす限りでは、なかなか好感度の高い作品に仕上がっていると言えるでしょう。
 しかし、その1回単位のエピソードの構成やギャグを成立させようとする余り、作品全体を支える設定や世界観、更にはシナリオの重厚さを次々にブチ壊してしまっているのは大変な問題です。特に、第1回であれほど「サラブレッドと呼ばないで」と柔道を嫌っていた主人公が、この第3回では既に柔道大好き少年になってしまっているのが不自然でなりません。これでは「サラブレッドと呼んでくれ」です。

 そういうわけで、現状では「ストーリーキング・ネーム部門出身作品」という肩書きとは程遠い内容になっていると言わざるを得ません。少なくともストーリーテリングの面では、この部門の“先輩”である『ヒカルの碁』や『アイシールド21』には及ぶべくも無いというのが、この作品の今の姿です。
 よく巷では「ストーリーキング・ネーム部門出身作家の作品は当たる」と言われています。駒木も以前はそう思っていたのですが、どうやら違うのではないかと最近思い始めました
 というのも、この部門出身で成功した原作者さんは『ヒカルの碁』原作者・ほったゆみさんと『アイシールド21』の原作者・稲垣理一郎さんだけなのですが、このお2人は“受賞時点で既にプロのマンガ家だった”という共通項があるのです。特に『ヒカ碁』の場合は、ほったゆみ(=堀田かよ)さんと夫──手塚治虫先生のアシスタント出身でキャリア20年クラスの現役作家・堀田あきおさん──との事実上の合作だったと言いますから、バックボーンの豊かさはケタ違いです
 (追記:複数のご指摘を頂きまして、上記の情報はガセネタだと判明しましたので、訂正させて頂きます。関係各位にお詫びいたします。申し訳ありませんでした。)
 ですから、結局のところ凄いのは「ストキン・ネーム部門」ではなく、作品を成功させた作家ご本人…という事になるわけなんですよね。で、この「サラブレッドと呼ばないで」は、その作家ご本人が(少なくとも現時点では)どないにもならんというわけなのでしょう。

 最後に評価ですが、長所・短所を差し引きしてみると、やはり初回のB−寄りB評価のまま据え置きということになりますか。初回の評判が良かったので、1クール生き残りはあると思いますが、長期連載となると疑問符がつくでしょうね。


 ◎読み切り『AX 戦斧王伝説』作画:イワタヒロノブ

 さぁ、この時間が遂にやって参りました。当ゼミでは『シュールマン』のクボヒデキ氏と並ぶ“駄作メーカー”・イワタヒロノブさんの登場です(苦笑)。このレビューに関しては、ちょっと私情じみた文言が混じるかも知れませんが、どうか大目に見て下さいまし。

 イワタさんは01年3月期「天下一漫画賞」で最終候補まで残り“新人予備軍”入りを果たした後、01年下期「手塚賞」で準入選を受賞同年末の「赤マルジャンプ」でデビューを果たしています。ちなみにこの時の受賞作は、今回の作品のプロトタイプとなった作品です。
 その翌年には「赤マル」02年春号と本誌02年49号でそれぞれ読み切りを発表するなど、精力的な活動を続けましたが、そこから約1年にもわたるブランクへ突入。今回が復帰作という事になりますね。

 それでは作品について述べてゆきますが、まぁ結論からハッキリ言いますと1年前から進歩ゼロですね(苦笑)。絵、ストーリーテリング、歴史考証、全てがグダグダなまんまです。まぁ今頃デビュー作の焼き直しを持って来るという発想からして既に進歩が無いわけなんですけれども……。

 まずですが……どこから指摘してゆきましょうか(笑)。全体的に下手なので、挙げだすとキリが無いんですよねぇ……。
 一番いけない部分としては、動きがあるようで特殊効果と絵が噛み合っていないので、ダイナミックさを狙ったシーンが“チープな止め絵+集中線”になってしまってるところでしょうか。数年前の予算不足な地上波深夜アニメみたいな感じがします。
 これ以上具体的な話をするのは止めておきますが、出来損ないの『バスタード』みたいな作風はそろそろどうにかした方が良いでしょうね。

 ストーリー&設定に関しても、満遍なくダメダメです。
 あんまり詳述してしまうのもアレですので簡潔にまとめますが、コメディとギャグの区別がついていない点そのために、本来ならシリアスなはずのストーリー全体が吉本新喜劇的な“ドタバタギャグ+申し訳程度の人情噺”になってしまっている点意味もなくトリッキーなコマ割りで大ゴマを不用意に乱発している点“起承転結”の“起承”が長過ぎてクライマックスの盛り上がりが圧迫されている点(ページ配分の失敗)キャラクターの行動や動機付けが極端過ぎてリアリティを欠いてしまっている点バトルシーンが単調な点などが問題のあるポイントです。
 「自分が面白いと思うものを描いてゆく」という志は大変立派ではありますが、それならもっと他人に伝わるように努力するのが商業作家というものでしょう。

 最後に、当講座らしく歴史考証についても言及しておきましょう。

 まず、ドイツの伯爵令嬢だというのに、主人公の名前・マーガレットは英語読みになっちゃってますね。まーたやっちゃってますよ、この人は(失笑)。しかもセリフのあちこちに英語がバンバン出て来ますし。まぁ映画『ジャンヌダルク』もフランスが舞台の英語劇でしたけれどもね(笑)。

 また、歴史上根本的なミスとして、「祖父・都市エビスハイムの市長/父・伯爵(貴族)」という家族関係は100%あり得ません
 都市というのは、そもそも貴族制・封建制から独立した存在として生まれたものですので、都市の市長は有力市民(大商人など)から選挙等で選ばれます。つまりは庶民代表ですね。都市は市長の指揮による自治を許される代わり、領主たる貴族や皇帝に忠誠と納税の義務を負いますが、この領主と市長というのは全くの別物です。日本で言えば天皇と県知事くらい違います。
 で、その庶民の家筋から生まれた子が、いかに戦功を上げたとは言え、たった一代で大貴族の範疇に入る伯爵にまで出世するなんて、これもあり得ません。庶民出身の傭兵となると、出世街道のスタートラインは食い詰めた下級貴族(田舎の弱小領主クラス)率いる傭兵隊の平隊員ぐらいになります。で、その隊の中で出世して副長になり、さらに隊長が作り話のような活躍をして大出世したオコボレにあずかって、ようやく城代か領主クラスでしょう。爵位なんて夢のまた夢です。貴族と言うのは生まれ育ちで人を判断するからこそ貴族ですので、そもそも大出世というのは起こり難いメカニズムになっています。

 次に時代背景から考証を加えてみましょう。「17世紀」、「ヨーロッパ中を巻き込んだ大戦」と言うと、三十年戦争(1618〜1648)以外に有り得ませんから、その2年後ということは、この話の舞台は1650年のドイツという事になりますね。
 ここで注目してもらいたいのが、「当時のヨーロッパでは常備軍が確立しておらず、アルバイト制で戦う兵士…『傭兵』がたくさんいた!!」という言葉です。これが実は高校教科書クラスの初歩的な大凡ミスです。
 この時期はヨーロッパ的には既に絶対主義時代に突入しており、王権が強大だったフランスには強固な常備軍が存在していました。第一、三十年戦争でドイツを破ったのは、ルイ13世が築き上げたフランス常備軍です(笑)。もっとも、ドイツは領邦国家(ミニ国家の集合体)だったために常備軍は存在しえず、また三十年戦争は元々ドイツの内戦だった事もあり、皇帝はヴァレンシュタインら腕利きの傭兵を重用しました。ですから「ドイツの戦争は傭兵頼みだった」くらいの記述が適当だったと思います。

 また、細かい話ですが、この頃の都市は、人口過剰の為に市街地が城壁の中に収まり切らない事が多々ありました。ですから当時の実態を厳密に採用すると、このお話自体が成立しなくなってしまいますね(苦笑)。
 更に細かい話を言うと、傭兵崩れの群盗が都市や村を襲うのは、実は14世紀の百年戦争からの日常茶飯事的出来事だったりします(この辺は佐藤賢一さんの歴史小説に詳しいです)。ですから、マーガレット嬢も、普通に暮らしていれば傭兵がただそれだけで危険人物だというのは判ってるはずなんですけどね。
 まぁそんな事を言い出したら、そもそも1000人規模の群盗なんて存在するはず無いんですが。(普通に暮らすだけで、一体どれくらいの食料や消費財が必要になるのか!)

 ──これらの事は、読者である受講生の皆さんは知らなくて良い事ばかりです。が、実在の歴史を扱った作品を描こうとする作者ならば、必ず勉強しておかなければならない事です。歴史の知識があるからこそ描けるディティールの描写が、作品のリアリティやストーリーを際立たせてくれるのです。付け焼刃の知識をバックボーンにお話を作っても、結局はそれ相応のクオリティにしかならないのです。現実にそうなっているでしょう?

 評価は当然Cです。僭越ながらイワタさんには「マンガ家辞めるか、死ぬほど勉強するかどっちかにしろ」と言わせてもらいたいと思います。


 ◎読み切り『ハガユイズム』作画:越智厚介

 先ほどのレビューで力尽きた感もありますが(苦笑)、今週は『ピューと吹く! ジャガー』が作者都合休載のため、代原が掲載されました。
 作者の越智厚介さんは、03年上期「赤塚賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りを果たした21歳。今回が代原ながら暫定デビューという事になりますね。
 今回の作品、「赤塚賞」の応募作と同じ題名なのですが、ページ数が明らかに違うため、同名別内容の作品と考えた方が自然でしょうね。ひょっとしたら、応募作から“使えそう”な7ページをより抜いたのかも知れませんが。

 については、画力そのものはギャグマンガなら十分合格点でしょう。ただ、コマ内に余白が多すぎる事が影響しているのか、画力の割には妙な違和感を感じる回数が多かったように思えます。ちょっと残念ですね。

 ギャグの方は、有り体に言って「まだまだ」といったところでしょう。“オチのコマまで長いネタ振り→ネタ振りとのビジュアルの落差で笑わせようとするオチ”のオンパレードで、さすがに最後の方には飽きが来ます。また、ネタの構成を考えると、わざわざ1ページ1ネタにする必要は無かったように思えます。前フリを濃縮して4コマにまとめるか、または前フリを2〜3ページまで引っ張ってオチを強調した方が良かったでしょうね。あと、オチのバリエーションも増やすべきでしょう。

 一応はギャグマンガの体を成しているので、評価はB−くらいが妥当だと思います。


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 あちこちの「ジャンプ」評論サイトで評判の今回ですが、確かに原作、作画とも良い出来ですよね。パンサーの設定描写はほぼ完璧ですし(アニメの古典・空中走りは少々やり過ぎですがw)、アメリカ人キャラの描き分けもリアリティが感じられて好感が持てます。アメリカの青春スポーツ物映画って、こういうキャラ出てきますよね(笑)。
 あと、梅雨時の天気予報並にアテにならない事で有名な巻末の次回予告に、「米戦決戦前夜! 栗田がムサシの過去を語る!」などと。さぁ、このエピソードはいつ公開されるのか!(笑)

 
 
『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ここ最近ずっと思ってるんですが、久保さんの演出力は「ジャンプ」連載陣の中でも目立って来てますね。シナリオそのものが行き当たりバッタリ&単純&どこかで見たような話であるために、残念ながら傑作までには届かないんですが、そういう話をここまで面白く見せるというのは皮肉じゃなくて素晴らしいです。
 レビュアーとしてではなく、一読者としては本当に楽しませてくれる作品になりましたね。かつて打ち切り候補だったのがウソみたいです。


 ◎『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 

 で、もっと凄いのがこのお方ですよ(笑)。冨樫さんの凄いところは、上手く演出しているところを「こんなの当たり前に出来ますよ」という風にサラリとやってしまう事なんですよね。
 更に言えば、そもそも主人公のゴンというキャラクターは、少年マンガの主人公としてはかなり珍しいタイプなんですよね。「正義の心を持つ少年」ではなくて、「『正義』という言葉が意味するところに近い性質の心を持つ少年が、実は正義も悪も意識ぜず天然のまま生きている」という設定なんですよ。こういうキャラって本当に手綱捌きが難しいんですけど、よく矛盾なく動かせてるもんです。駒木も小説書く時は、こういう所を真似できるようになりたいと思いますね。


 ──というわけで、今回は以上。イワタヒロノブ作品については、今後は原則的にスルーした方が良いかも知れませんね。史上2人目の逆殿堂入りです。
 次回ゼミは……多分週末になりますかね。どうかしばしお待ちを。


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