「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・9)

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講義一覧

6/25(第25回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第4週分・合同)
6/18(第24回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第3週分・合同)
6/11(第23回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (6月第2週分・合同)
6/4(第21回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第6週〜6月第1週分・合同)
5/27(第19回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第5週分・合同)
5/21(第17回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第4週分・後半)
5/20(第16回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第4週分・前半)
5/14(第15回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第3週分・合同)
5/7(第12回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (5月第2週分・合同)
4/30(第9回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第5週〜5月第1週分・後半)
4/29(第8回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第5週〜5月第1週分・前半)
4/24(第7回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第4週分・合同)
4/16(第5回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第3週分・合同)
4/9(第3回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (4月第2週分・合同)
4/1(第1回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (3月第5週〜4月第1週分・合同)

 

2004年度第25回講義
6月25日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第4週・合同)


 コノヤロ波多野! 羨ましいぞ畜生!

 ……冒頭からとりあえず叫んでみました(笑)。ご機嫌如何でしょうか、駒木ハヤト(これでも教員)です。
 さて、カレンダーの日付を1日ごとに×で潰していくという、サマワに派遣された自衛隊員みたいな日々が続いた地獄の6月もいよいよ終盤。何とかここまで辿り着きました。
 今頃になって、自分が高校で担当しているクラスの1つが過去数年で“最凶”のクラスだと判明し、4月にノイローゼ寸前へ陥った自分は決して間違ってなかった…などと、すっかり間違った方向性への自信を深めたりもしておりますが(苦笑)、レビューの方向性だけは間違えないように今週も頑張ります。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎「週刊少年サンデー」次号(31号)には、読み切り『ミッションX』作画:我妻利光)が掲載されます。
 我妻さんはこれまで増刊を中心に活動して来た若手作家さん。確認した限りでは、月刊増刊の02年1月号、03年6月号、そして昨年秋のルーキー増刊に読み切りを発表しています。
 この中でも昨秋の読み切りは駒木も拝読したのですが、絵・話とも正直「……(汗)」というレヴェルでして、今回週刊本誌に抜擢されたのは素直にビックリさせられました。果たして今回の本誌登場は、短期間で実力を一気に向上させての快挙なのか、はたまた大人の事情による“怪挙”なのか、その辺りも含めて慎重に吟味したいと思っています。

 ★新人賞の結果に関する情報

 ※「ジャンプ」25号で発表済みながら採り上げるのを忘れていた、第11回「ストーリーキング」の審査結果を紹介しておきます。

第11回ストーリーキング(04年上期)

 ◎マンガ部門
 キング=該当作無し
 準キング=該当作無し
 奨励賞=該当作なし
 最終候補(選外佳作)=3編
  ・『社員食堂』
   畑部千晶(21歳・奈良)
  ・『フウライボウ』
   松本圭二(20歳・東京)
  ・『0の戦士』
   久保咲(18歳・宮崎)

 ◎ネーム部門
 キング=該当作無し
 準キング=該当作無し
 奨励賞=2編
  ・『実況!!』
   中館真人(22歳・北海道)
  ・『ラッキーナナ』
   佐野隆次(27歳・静岡)
 最終候補(選外佳作)=6編
  ・『少年弁護士 正義!』
   沼田明美(22歳・東京)
  ・『スペース・ウォリアーズ』
   柴方剛堅(24歳・山形)
  ・『100』
   浅田衛(14歳・静岡)
  ・『THE BLACK SMITH』
   谷原潤子(28歳・大阪)
  ・『札の声を聞け!!』
   前田希(30歳・高知)

 受賞者の皆さんのキャリアは以下の通りです。

 ◎マンガ部門最終候補の久保咲さん02年「ストーリーキング」ネーム部門で奨励賞

 ……最近では「手塚賞」に代わって、ストーリー系新人の登竜門的存在になっている「ストキン」ですが、今回は残念ながら不作に終わった模様ですね。まぁ去年から年2回開催になってますし、たまにはこういう事もある…ということで。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載第3回後追い1本
 「サンデー」:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年30号☆

 ◎新連載第3回『地上最速青春卓球少年 ぷーやん』作画:霧木凡ケン【第1回時点での評価:C寄りB−

 についての所見(第1回からの推移)
 簡潔に言って、「短所を中心に現状維持」…といったところでしょうか。
 やはり気になるのは第1回の時にも指摘した動的表現と表情の硬さ。前者は「この場面はこういう動きをしている最中だからこういうポーズを取るはずだ」という検証が出来ていない、そして後者は輪郭と顔のパーツとのバランスが全く取れていない…という、それぞれ技術的なモノが原因だと思われます。霧木さんのキャリアの長さを考えると、これは相当に根深い欠点と言っていいでしょう。
 正直、この絵でアクションやお色気をやられても、ただ閉口するしかありません。


 ストーリー&設定についての所見(第1回からの推移)
 こちらも絵と同様、欠点──作品のコンセプトが見えて来ない、登場人物のキャラクターが弱い──を中心に悪い意味でほぼ現状維持といったところでしょうか。
 この作品、いかにも「少年ジャンプ」的な要素(=主人公に敗れた敵役は“悪の組織”内で失脚してピンチに陥るが、そこを主人公に助けられて“正義と友情パワー”に目覚め味方になるその元・敵役が次章でさっそくヤムチャ化する真のライバルは善悪を超越したスーパーマンスポーツ対決では、そのスポーツ本来のテクニックではなく超能力的な必殺技を争うetc…が多数取り入れられ、雰囲気だけなら悪くないんです。ただしキャラクター設定が弱く、作品の方向性も漠然としているために、一連の出来事に必然性が感じられずに“ただ段取り踏んでます感”みたいなモノを強く感じてしまうんですよね。何と言うか、中身の無いハリボテの“「少年ジャンプ」っぽい作品”で終わってしまっているというか……。
 ──ひょっとしたら、こういう作品を「遺伝子組み替えマンガ」(by『吼えろペン』)と言うのかも知れないな…と思ってしまいましたが、如何でしょうか。
 

 現時点での評価
 本来なら第1回の評価(C寄りB−)据え置きが妥当なのかも知れませんが、不完全ながら「少年ジャンプ」っぽい要素を取り込めた点を一応評価してB−にしておきます。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週号から『HUNTER×HUNTER』が連載復帰。しかし「さすが冨樫義博」というか、いきなりネーム状態ですなぁ。1ヶ月以上も時間貰ってコレなんですから、相当にアイディアが煮詰まってるんでしょうねぇ……。まぁそれでもネームを人前に出す以上は、キチンと内容のあるネームになっているあたりも「さすが冨樫義博」ですが。
 あ、ちなみに来週号は「作者都合のため休載」だそうです(苦笑)。

 ところで、最近また気になっているのが『武装錬金』のバトルシーンにおける中身の薄さ。ぶっちゃけ、他の誰もが「この作品ダメだ」という事になっても「いやいや、まだまだ」と言うであろう駒木が物足りなさを感じているという事は、他の読み手の方はもっと物足りなさを感じているはずですので、これは本当に心配です。

 で、レビュアーの習性で、今の『武装錬金』に何が物足りないかと色々考えてみたのですが、

 ●作者サイドに「少年マンガなんだから、大掛かりなバトルシーンを入れなければならない」という思いが強過ぎて、シナリオを引き立てるためのバトルではなく、バトルとバトルを繋ぐためだけのシナリオになってしまっている──即ち、シナリオとバトルシーンの主客転倒

 ●バトルが単なる必殺技の応酬がメインになっていて、戦っている登場人物の内面描写が(一応なされてはいるが)甘くなっている。間延びを避けたいのは分かるが、過去編を積極的に入れないと、戦っている登場人物に感情移入出来ず、当然バトルにも感情移入出来ない。

 ●主人公・カズキの戦う理由付けが曖昧かつ受動的で、「戦わされている」感が否めない。具体的かつ確固たる信念や己の存在意義ごと敵にぶつけてこそ内容に“厚み”が出る。

 ●メインヒロイン・斗貴子さんがストーリーに全然絡めていない。それどころか、カズキとのパワーバランスまで崩れ気味で存在感が無くなる一方。作品中で最大のキーパーソンを冷遇しては成功するはずの作品も成功しない。

 ……などといったシャレにならない“緊急”クラスのセキュリティホールを次々と見つけてしまいました(汗)。作品の方向性を完全に見失ってる感じすらして、ハッキリ言ってヤバいですね。パピヨン編後半の“貯金”を勘案してもA−評価維持が精一杯といったところでしょうか。
 とにかく急務なのは、カズキと斗貴子さんのキャラクター強化。いっそのこと、しばらく2人きりで山篭り修行でもさせた方が良いんじゃないかと(笑)。 
 

「週刊少年サンデー」2004年30号☆

 ◎読み切り『ベースボールエンジェル』作画:清水洋三

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 
1970年生まれの今年34歳
 判明した最も古い活動歴は、93年から「ビッグコミック」系一般誌に連載された『ABフリャー』作:家田荘子の作画担当。「週刊少年サンデー」では94年に連載された(ただし15週&未単行本化)原作付作品『SHOUT』の作画担当が確認出来る限りの“初仕事”。
 96年からは月刊増刊で『WONDER SCHOOL BOY』を連載開始。この作品は00年までのロングランとなる。
 01年4・5合併号からは週刊本誌で『ナイトラヴァーズ』作:文月剣太郎)が連載となるが、同年33号までで打ち切りとなり、活躍の場は再び増刊へ。02年から03年にかけて『蒼空のグリフォン』を連載した。
 今回は『ナイトラヴァーズ』以来、約3年ぶりの週刊本誌登場となる。

 についての所見
 独特な画風がどうしても気になってしまう嫌いもありますが、全体的には「さすが10年選手」という水準に達していると思います。好感度の高い美少年・美少女キャラだけでなく、悪役顔やコミカルなディフォルメ表現にも長けており、さすがは若手時代から原作付作品を任されて来ただけの事はありますよね。
 敢えて問題点を挙げるとすれば、やや動的表現が
ぎこちないところでしょうか。それでも構図の取り方を大胆にする事によって上手くフォロー出来ているようですし、この辺りにもキャリアを感じさせてくれます。

 
 ストーリー&設定についての所見
 シナリオ自体は、よく新人・若手作家さんが使うような手垢の付いた一本調子のもので物足りなさも残りますが、設定や演出に工夫を凝らしているので凡百の作品とは一味違った仕上がりになっていますね。
 冒頭の少ないページ数でキッチリと登場人物のキャラ描写が出来ていますし、設定の提示も上手くストーリーの中に溶け込ませて、“説明っぽくない説明”になっていて良い感じです。わざとキャラに勘違いさせて本来なら無理のあるストーリーの無理を無くすという技巧も見逃せない点ですね。
 また、運動音痴の少年に運動神経抜群の天使を単純に乗り移らせるだけでなく、ちゃんと気持ちの入った努力をさせているのも、読み手の好感度を高める働きをしていると思います。ただ、非常に惜しいのは天使・ラシャに体を乗っ取られた少年・獅子雄の心的描写が物足りなかった事でしょうか。必死に喰らいつくラシャ(に乗っ取られた自分)の姿を見て、ただアドバイスを送るだけではなく、「自分が打ちたい!」と思わせるような心の葛藤を描いておけば、もっと良くなったのではないかと思うのですが……。
 それでも、全体的な完成度はかなりのものです。これでもう少しオリジナリティのある骨太なシナリオであれば、なお良かったのですが……。
 
 
 今回の評価
 非常に悩ましいんですが、A−寄りB+にしておきます。これでどこかワンポイントでもあと一押しあれば、自信を持ってA級評価が出来たのですが、手垢のついたシナリオで基礎点が低いところに若干の減点材料があるため、こういう結果になりました。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「幼かった頃の自分に言ってやりたいセリフは?」。
 ……何だかコメントし辛い回答ばかりですねぇ(苦笑)。しかし橋口たかしさん「漫画家になるんだったら、海賊モノのファンタジーを描け」というのは、いかにもこの人らしいと言うか(笑)。でも、「そもそもお前にあの『ONE PIECE』が描けるのかよ?」…という全国からのツッコミが聞こえて来そうで……いや、駒木は言ってませんよ?
 ちなみに、駒木が子供時代の自分にかけてやりたい言葉は「泣くな!」でしょうか(笑)。7〜8歳までは少しイジめられてはすぐに泣く弱虫なガキでしたので、性根を叩き直してやりたい所存です。

 連載作品で気になった作品と言えば、やはり『モンキーターン』でしょう。“正々堂々と二股をかける主人公”という新機軸、果たしてどういう結末が待っているのか目が離せませんなぁ(笑)。
 まぁ波多野については以前から「好きな女の子が2人いるんですけど」…なんて能天気な発言をしてましたから、今回の行動も決して唐突な印象は無いわけですが、このシチュエーションは色々な意味で危険すぎるだろうと(笑)。
 まぁ、2人が逃した新幹線は博多・東京行きの最終ってわけじゃないので、次回冒頭シーンは手堅く新幹線の中で葛藤する波多野だったりするんでしょうけどね。でもその新幹線、翌朝の新幹線だったりして(笑)。

 ……というわけで、今週はここまで。漸く精神的負担も軽くなりそうなので、来週からは積極的な講義実施が出来そうですのでお楽しみに。
 あ、明日は競馬学特論がありますので、そちらもどうか何卒。

 


 

2004年度第23回講義
6月18日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第2週・合同)

 今週は、この期に及んで『MAJOR』アニメ化…という微妙な情報がネット界隈を駆け抜けたかと思えば、椎名高志さん『絶対可憐チルドレン』短期集中連載が決定…というこれまた微妙な情報が作者ご本人からリークされたりと、何かと微妙な1週間となっていますね。
 それにしても『絶対可憐チルドレン』、あの読み切り版の高いクオリティをもってしても昨年末からの連載枠獲得争いでは不遇も不遇、更には再三のダメ出しの末に(ページ数だけは破格なものの)短期集中連載止まり…という、全くもって不憫この上ない扱われように、駒木は胸の詰まる思いであります。
 この際、椎名さんには是非とも全身全霊を捧げて傑作を描いて頂いて、現在の怪奇千万な「サンデー」の編集体制に一撃喰らわせてやってもらいたいもの
です。

 それともう1件、当講座とも縁の深い(?)夏目義徳さんが、6/28発売の「増刊モーニング」に原作付の作品を発表するそうです。昨秋「サンデー」に発表した『オロチ』以来の復帰作という事になりますね。
 「モーニング」は講談社の一般向雑誌ですが、これは移籍云々という事ではなく、専属契約の無いフリーな立場を活用した活動の一環だと思われます。作家を新人の内から囲い込んでしまう「週刊少年ジャンプ」とは違って、大抵の雑誌や出版社は掛け持ち可能なんですよね。まぁ逆に言えば、先週の鈴木央さんみたいな「ジャンプ」から「サンデー」への進出は正真正銘の“移籍”で、これはかなり珍しいパターンになるわけですが。

 ……と、期せずして前フリのはずが情報系の話題コーナー出張版になってしまいました(笑)。まぁ雑誌の公式アナウンスじゃない情報ですし、たまにはこんなのも良いんじゃないか、という事で何卒。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎「週刊少年サンデー」次号(30号)には、読み切り『ベースボールエンジェル』作画:清水洋三)が掲載されます。
 清水さんは、96年頃から増刊や週刊本誌で『ワンダー・スクール・ボーイ』、『ナイトラヴァーズ』(作:文月剣太郎)、『蒼空のグリフォン』…といった作品を連載している中堅作家さん。今回は『ナイトラヴァーズ』以来、約3年ぶりの週刊本誌登場となります。今回は清水さんにとって新境地となる野球マンガにチャレンジするようですね。

 ★新人賞の結果に関する情報

第13回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年4月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(本誌か増刊に掲載決定)
  ・『師匠とぼく』
   川口幸範(25歳・長崎)
 《小畑健氏講評:独特な設定のディティール、妙な味のあるキャラクターと、面白い世界が構築出来ている》
 《編集部講評:画力、デザイン力には目を見張るものがある。独特の世界観があるのも良い。が、物語の展開がまるで分からない。もっと読者の側に立ったストーリー作りを)
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『暴走英雄伝セツナ』
   瀬島基弘(23歳・東京)
  ・『ONIKAGRA』
   白壱エルビ(19歳・神奈川)
  ・『インスタントスレンダー亮平』
   KAITO(19歳・神奈川)
  ・『ラッシュ』
   山根章裕(24歳・東京)
  ・『DEVIL BLADE』
   野田宏(22歳・福岡)
  ・『SHADOW』
   広瀬かつき(26歳・埼玉)
  ・『市立明南高校ラグビー部キャプテン遠山桜太の夏の終わり』
   傘野大介(22歳・福岡)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の川口幸範さん…01年11月期「天下一」で編集部特別賞、02年3月期「天下一」で審査員(武井宏之)特別賞、02年12月期「天下一」で審査員(秋元治)特別賞をそれぞれ受賞。また、03年11月期「十二傑」にも投稿歴あり
 ◎最終候補の白壱エルビさん…02年5月期「天下一」で審査員
(樋口大輔)特別賞を受賞
 ◎最終候補の山根章裕さん…02年4月期「天下一」でも最終候補

 ……今月の十二傑賞は、“新人予備軍”暮らし苦節2年半、特別賞3回受賞の苦労人・川口幸範さんに。講評を見る限りではストーリー面を中心に課題も残されていそうですが、頑張って来た甲斐があったというものですよね。
 その他にも今月は「天下一漫画賞」時代からの投稿歴を持つ人が複数見受けられました。「ジャンプ」“新人予備軍”の層って本当に分厚いですねぇ……。

 ──あ、そうそう、実は『ストーリーキング』04年上期の審査結果が既に25号で発表されていたのですが、紹介するのをウッカリ忘れておりました。準キング以上の受賞作が無かった事もあって注目度も低かったのですが、怠慢と言われても仕方ないですね。申し訳ありません。
 ちょっと今週は時間の都合で無理なのですが、次週のゼミで紹介したいと思います。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載第3回後追い1本/代原読み切り1本
 「サンデー」:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年29号☆

 ◎新連載第3回『D.Gray-man』作画:星野桂【第1回時点での評価:B+寄りB

 ●についての所見(第1回からの推移)
 基本的には現連載陣に混じっても標準レヴェル以上…という事を前提にしておいての話ですが、どうも第2回あたりから微妙に作画のクオリティが落ちて来ている…いや、一部未熟な面が表面化しているような気がします。
 特に違和感を感じたのは遠見のアングルから描かれた人物と、千年伯爵やAKUMAなどの“異形のモノ”系の作画。特に主人公の対AKUMA兵器などは質感が全く感じられず、まるで別の素人さんが描いてしまったかのようです。
 この辺の苦手分野の克服が、これから星野さんがホンモノの一流作家になれるかどうかの分水嶺と言っても過言では無いと思います。いつになるか判りませんが、この連載を全うするまでには、今回指摘させて頂いた苦手分野が解消されている事を望みます。 

 ストーリー&設定についての所見(第1回からの推移)
 第1回時点では設定過多と、それに伴うストーリーの消化不良を指摘しましたが、残念ながら第3回時点ではその問題点が更に顕在化してしまっているようです。

 まずは設定。主人公をはじめとするキャラクターや、AKUMAと千年伯爵などのメインアイディアについて、読み手の興味を引く努力が完全に不足しているのではないでしょうか。ただ小難しい設定を羅列しただけ…といった感じで、肝心の“人間”が描かれていないように思えます。語弊覚悟で喩えるなら、キャラに魅力の無い『ツバサ』と言いますか……。

 そのため、ストーリーにも魅力が出て来ないんですね。今週号では主人公の過去編が出て来たわけですが、主人公がどういう人物かが描かれていないのに、過去を描かれても共感のしようがありません。先にキャラを立て、感情移入させてからなら高い演出効果が得られたと思われるだけに残念です。
 しかもこの過去編、肝心の「どうして主人公は生まれながらに対AKUMA兵器を持っているのか?」…という謎は放ったらかしで、「AKUMAの魂が見える」という、実はそれほど重要でない設定の理由を描いたもので、演出上、非常にバランスが悪くなってしまっています。
 また、「ジャンプ」では連載継続の分岐点となる第3話のシナリオが、結局は第1話のほぼ焼き直しといった内容というのも如何なものかと。主人公のキャラが固まってない状況で新展開されても…というのも確かなのですが、せめてもう少し工夫が欲しかったところですね。

 ……と、かなりメチャクチャに言ってしまいましたが、それでも作品を盛り上げようという作者サイドからの意図は感じられますし、その意図を実現させようと色々な演出も為されてはいます。ですから、この作品も一度ツボにハマれば大化けする余地もあると思うのですが、現状ではその“ツボ”を作れていないようにも思えるのです。

 現時点での評価
 ここまで設定・ストーリーが空回りしてしまっては、残念ながら大幅な評価ダウンは避けられないところでしょう。
 第3回時点の評価はB−。絵の見栄えの良さがアンケートに繋がれば話は別ですが、今のところでは、他の新連載作品もろとも1クール突き抜けの公算がかなり大きそうな気がします。
 

 ◎代原読み切り『オレがゴリラでゴリラがオレで』作画:ゴーギャン

 ●作者略歴
 「ゴーギャン」は本名不詳のコンビによる合作ペンネームで、00年上期「赤塚賞」で佳作を受賞した時の年齢は23歳と27歳。単純に4年を足すと、現在は27歳と31歳ということになる。
 「ジャンプ」での活動は全て代原読み切りで、これまで00年28号(「赤塚賞」の受賞作掲載)、00年44号、03年18号の3回、作品を発表している。
 今回は約1年ぶりの“復帰”となるが、作品そのものは以前に描かれて編集部預かりになっていたモノとのこと(巻末の作者コメントより)

 についての所見
 パッと見には小奇麗な人物作画が出来ているのですが、マンガを成立させるための表現技法が稚拙で、ゴチャついた一枚絵の羅列にしかなっていないのが残念です。せめて動的表現やディフォルメなど、ドタバタ系のギャグマンガの生命線となるテクニックを最低水準に持って来ないと辛いでしょう。
 ただ、絵柄そのものは「ジャンプ」では他に見ないタイプですし、可愛い女の子キャラが描けるというのは大きな武器だと思います。現状では“宝の持ち腐れ”な状態ですが、この辺の長所を活かす事の出来るところまで技術の方がレヴェルアップ出来れば面白いですね。


 ギャグについての所見
 ハッキリ言って厳しいです。
 ボケもツッコミも上滑りに次ぐ上滑り。「どうすれば人間は笑うのか」というメカニズムを全く習得出来ていないのでしょう、全編通じてキャラクターたちがアテも無くただドタバタしているだけで終わってしまっています。
 一応はメリハリを付けようとして、“前フリ→大ゴマでオチ”という展開に持っていってはいるのですが、全く意外性が無くオチていない“ギャグとは言えない何か”を「これがギャグです! オチです!」とアピールしているだけに終わっていて、正直見てて辛いですね。

 とにかく、今作のギャグにおける問題点を挙げてくれと言われたら、「全部」としか答えようが無いです。この作品がいつ脱稿したものか分かりませんが、現時点ではこの問題点がいくらかでも解消している事を祈るばかりです。

 今回の評価
 何とかギャグマンガとしての体裁だけは整っていますので、C寄りB−としておきます。とにかく自分の“笑わせパターン”を確立しないと、正式デビューも覚束ないでしょう。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週は掲載順半ば、『アイシールド21』、1つ飛ばして、『BLEACH』『武装錬金』と、期せずして実力派作家さんによる涙腺刺激テクニック競演となりました。しかもそれぞれがプロの仕事がキチンと出来ていて「さすが」の一言なのですが、やはりこういうのって作風というか性格が出ていて面白いですよね(笑)。
 正攻法も正攻法、良い意味でも悪い意味でもあざとく読み手の涙腺を刺激させに行ったのが『BLEACH』で、正攻法を敢えて避けて婉曲的に攻めたのが『武装錬金』、そして表現が難しいのですが“裏口”から地味〜に迫ったのが『アイシールド21』といったところでしょうか。
 で、この場合、商業的成功に繋がるのはやっぱり『BLEACH』で、この作風の差は3作品の単行本売上げにも如実に反映されているかと思われます。レビュアー視点からすれば一筆啓上差し上げたい所もあるのですが、一読者の立場からすれば、ストレートに感情を揺さぶってくれる方が読んでて心地良いですよね、確かに。
 
 で、今週は先程1つ飛ばした『BLACK CAT』がついに最終回。センターカラーということで、これは円満完結という解釈で良いんでしょうね。
 さて、この作品を端的に総括するとすれば、「カーボンコピーを繋ぎ合わせたオブジェのような“オリジナル”作品」といった所でしょうか。
 もう言い尽くされているように、この作品は多くの既存作品からアイディアを違法スレスレで拝借しています。それも、そのアイディアの本質を見極める事が出来ずに見様見真似止まりに終わっていたと言って良いでしょう。ただ、その見真似が異様に上手かったのは認めなければなりません。それが他はともかく見栄えだけは秀逸な作品となり、ソコソコの商業的成功を収めた要因になったのだと思われます。
 しかし、やはりと言うか既存作品からのカーボンコピーに頼り過ぎた弊害もあちこちに見受けられました。他作品からのアイディア拝借だけでは乗り切れない場面では途端にストーリーテリング能力の不足を露呈し、更には連載当初の設定──しかも作品の根幹を成す重要な──が、いつの間にか破棄&変更されるボーンヘッドも。全体的に見れば、とても4年間もの長期連載を全う出来た作品とは思えないクオリティだったと言わざるを得ないでしょう。
 この作品の最終評価はB−寄りB。ファンの方には申し訳ありませんが、有り体に言って、名作崩れの人気作ならぬ駄作崩れの人気作といったところでしょうか。

「週刊少年サンデー」2004年29号☆

 ◎読み切り『タマ!!!! 〜真夏のグランドスラム〜』作画:小山愛子

 ●作者略歴
 資料不足のため、生年月日・年齢は不明。
 西条真二さんのスタジオでアシスタント修行の後、01年に「サンデー超増刊」でデビュー。その後も意欲的に新作を執筆し続け、増刊を主戦場にして断続的に読み切りを発表する一方で、02年33号で週刊本誌進出03年夏からは増刊での短期連載も果たす。
 今回は丸2年ぶりの本誌での作品発表となる。

 についての所見
 デビュー以来、密度の濃い活動をしている若手作家さんだけあって、マンガの記号としての絵を描く技術は一応及第点に達していると思います。動きの激しいテニスシーンもソツなく描けていましたね。
 ただ、人物作画の造型には粗さが感じられる他、表情がセリフや動きと合っていない場面も見受けられるなど、未だ垢抜けない要素も見受けられます本誌で連載を勝ち取るにはもう一押し欲しいかな…といったところですね。
 
 ストーリー&設定についての所見
 荒唐無稽な設定・ストーリーを、ハッタリと付け焼刃の専門知識、そして説明的なセリフでもって押し切ろうとする…という、いかにも西条真二門下っぽい作品ですね。
 ただ、このパターンで当の西条さんが短期打ち切りの山を築いているように、正直言って、これはあまり賢いやり方ではありません。設定にリアリティや説得力を持たせる努力をせず、ハッタリやセリフだけで既成事実にしたところで読み手を納得させる事なんて出来るはずがないわけですからね。
 まぁごく稀に荒唐無稽さとハッタリのキレの良さが化学反応を起こして、いわゆる“バカ映画”的なカルト人気を得る事もあるでしょうが(例えば『鉄鍋のジャン!』)、それもあくまで“人気作”であって、作品そのもののクオリティが高いという事にはならないでしょう。

 ……しかし04年15号に載った『HOOK!』(作画:鹿養信太郎)もそうでしたが、最近の「サンデー」の編集サイドは、1つのスポーツと、そのスポーツとは全く関係ない別の事柄を強引に結び付ける作品を好む傾向があるようですね。
 まぁ確かに奇抜でオリジナリティのある設定になるかも知れませんが、それにしても“詐欺師の能力=魚釣りの能力”や、“虫取りの能力=テニスの能力”などといった設定でヒット作が出せると本気で思っているのかどうか、この作品の本誌掲載にゴーサインを出した三上編集長並びに担当編集者氏にお訊きしたい気持ちで胸が一杯であります(笑)。
 
 今回の評価
 ストーリーと設定が崩壊している以上、評価も落第点を付けざるを得ません。B−が妥当ですかね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「ビックリした時、つい出てしまう言葉」。
 誰だ、このテーマを採用したのは(笑)。こんなもん、「うわぁ」とか「わっ」としか答えようがないでしょうが。ボケるにしても苦しいし……。で、実際、そんな感じになったみたいですね(苦笑)。

 連載作品については、どの作品もいつも通り良かったり悪かったり薄っぺらかったり最終回へ向かって突き進んだり…という感じで特にコメントしたい作品は少ないんですが、そんな中でも「やっぱり凄ぇなぁ」と思えてしまうのは『からくりサーカス』
 エンターテインメントのテクニックとして、平穏な日常を殊更強調しておいて、そこから一気にドン底へ叩き落す……といったモノがあるのですが、今回の展開はまさにそれ。しかも、さんざん感情移入させておいたキャラたちをゾナハ病に罹患させるという鬼の所業。いや〜、素晴らしいんだか恐ろしいんだか。ヌルい作品も多い中で、こういう作品も当たり前の顔して長期連載出来てる「サンデー」という雑誌は、何と言いますか妙な懐の深さがありますよね。

 ……といったところで今週はこれまで。とりあえずあと1週間は現状のペースで我慢して下さい。ではでは。

 


 

2004年度第23回講義
6月11日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第2週・合同)

 どうも皆様、他人の名前を使って「週刊少年ジャンプ」の「もくじ川柳」に載るという地味で陰湿な嫌がらせを思いついてしまった、最近精神が荒む一方の駒木ハヤトです(笑)。
 今週も遅くなりましたが、何とかゼミを実施出来ました。何だかスランプ気味なんで、いつにも増して行き届かない内容になるかも知れませんが、どうかお察し下さい。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(29号)より、『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦)が連載再開となります。今回もいきなり37ページ巻頭カラーという物凄いボリュームで、相変わらずのモチベーションの高さを感じさせてくれます。
 どうでもいい話ですが、最近の『HUNTER×HUNTER』なら何か月分に相当するんでしょうか、このページ数(笑)。

 ◎「週刊少年サンデー」次号(29号)には、読み切り『タマ!!!! 〜真夏のグランドスラム〜』作画:小山愛子)が掲載されます。
 小山さんは西条真二さんのアシスタント出身。西条さんが「サンデー」作家だった01年秋に増刊で「サンデー」デビューを果たし、それ以来、増刊での短期連載などを経験、週刊本誌でも02年33号に『ニポリの空』を発表しています。
 今回は随分と久々の本誌掲載という事になりますが、キャリアからすればそろそろ週刊連載が欲しいところ。このチャンスを活かせれば良いのですが……。

 ★新人賞の結果に関する情報

第67回手塚賞&第60回赤塚賞(04年上期)

 ☆手塚賞☆
 入選=該当作なし
 準入選=2編
  ・『華火輪凛』
   高原佑典(21歳・東京)
  ・『未来は俺等の手の中』
   服部昇大(21歳・大阪)
 佳作=2編
 
 ・『マタゴ』
   山田大樹(20歳・埼玉)
  ・『XXX WITH NO NAME』
   田畠裕基(19歳・福岡)
 最終候補=5編
  ・『究極変化ドッジボーイズ』
   高山憲弼(23歳・大阪)
  ・『豚勇記』
   前田竜幸(23歳・福岡)
  ・『ラフ・メイカー』
   一ノ瀬十良(23歳・新潟)
  ・『ザンシン ─残心─』
   オゼキダイスケ(24歳・東京)
  ・『みんなのヒーロー カラフルメン』
   高橋翁(24歳・埼玉)

 ☆赤塚賞☆
 入選=該当作なし
 準入選=1編
  ・『KESHIPIN弾』
   吉原薫比古(19歳・神奈川)
 佳作=1編

  ・『バッタがくたばった』
   小川友里(18歳・神奈川)
 最終候補=5編
  ・『KON☆SOME!』
   野中陽介(22歳・東京)
  ・『告白日和』
   てらだゆうじ(18歳・埼玉)
  ・『クレイジー忍者 ニャン丸〜ONLINE〜』
   ピン坊(23歳・北海道)
  ・『エレクトニックゴチカ』
   カノ(26歳・埼玉)
  ・『こんばんわ赤ちゃん』
   大石花丈(23歳・広島)

少年サンデーまんがカレッジ
(04年3・4月期)

 入選=1編
  ・『しざんさす』
(=増刊秋号に掲載決定)
   関戸雄太(22歳・東京)
 《講評:熱いパワーがビンビン伝わって来る作品。絵の力強さ、テーマの明確さ、魅力的なキャラと素晴らしい点が多く、編集部でも絶賛の嵐だった》  
 佳作=3編
  ・『大江戸快足飛脚便』
   あづち涼(26歳・東京) 
  ・『コカトリス』
   池田由里(19歳・東京)
  ・『サムライウィンド』
   村上恵一(20歳・長野)
 努力賞=3編
  ・『かっきーん! ほうそうぶ』
   柴田朋見(21歳・福岡) 
  ・『だちんなれ』
   ぼたん(22歳・三重)
  ・『シングルアクション』
   弓場一帆(21歳・奈良)
 あと一歩で賞(選外)=該当作なし

  受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ※手塚賞
 ◎佳作の山田大樹さん…01年下期「手塚賞」で最終候補。
 ◎佳作の田畠裕基さん…01年8月期「天下一漫画賞」で編集部特別賞、03年6月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補
 ◎最終候補の高山憲弼さん…03年2月期「天下一」で編集部特別賞、03年8月期「十二傑」で最終候補
 ※赤塚賞
 ◎最終候補の大石花丈さん…00年8月期「天下一」で最終候補
 ※サンデーまんがカレッジ
 ◎佳作のあづち涼さん…01年11月期、03年9・10月期「まんカレ」で、あと一歩で賞。過去に18禁ゲームの原画家としての活動経験も。

 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載1本/新連載第3回後追い1本
 「サンデー」:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年28号☆

 ◎新連載『地上最速青春卓球少年 ぷーやん』作画:霧木凡ケン

 ●作者略歴
 1976年3月8日生まれの現在28歳
 91年8月期「ホップ☆ステップ賞」で入選を受賞翌92年冬(新年)号の増刊号にて、弱冠15歳でデビュー。また、92年上期「赤塚賞」で準入選を受賞
 その後は増刊では92年夏、99年夏、02年冬(新年)、03年春の各号に、週刊本誌では00年16号、01年27号、03年52号にそれぞれ読み切りを発表。
 今回は「赤マル」03年春号、および週刊本誌03年52号に掲載された読み切りの連載化。「ジャンプ」系作家でデビュー以来13年を経ての連載獲得は、確認出来る限りでは文句無しの最長記録。

 についての所見
 12年以上のキャリアがあるだけあって、作画にはかなり手慣れた印象があります。カラー着色や背景処理、“数秘術”のビジュアル演出などにはプロとしての技術を感じさせてくれました。
 ただ、そんなセールスポイントを帳消しにして更にマイナスにまで落とし込んでしまったのが人物作画の拙さです。単なる一枚絵としての人物デザインは別にしても、キャラの表情やポーズが硬いためにセリフや動きと顔が合っていませんし、動的表現も全然出来ていません。肝心の卓球シーンに全く迫力が感じられず、こう言っては何ですが、物凄くマヌケな印象を受けました。
 あとはディフォルメも上手くないですね。そのせいで、余計にキャラの表情が硬いような印象を受けてしまいます。

 ──結局のところ、いわゆるアシスタント的な技術は身に付いているのに、マンガ家としての技術はサッパリという有様。ちょっとこれは辛いですねぇ……。

 ストーリー&設定についての所見
 こちらはプロトタイプ版読み切りから設定・ストーリーを若干変更させて来ましたね。それはそれで良いのですが、新キャラ追加やお色気の強化といった付け焼刃的なモノに終始していては、その効果も限定的と言わざるを得ません。
 何よりもマズいのは、コンセプトが中途半端極まりないと言う事。リアル路線にしては設定がトンデモ過ぎますし、かと言ってトンデモ系の割にはあたかもリアル路線であるような演出が施されている場面もあったりし、一体この作品をどう解釈すれば良いのか図りかねてしまいます。
 また、メインアイディアであるはずの“数秘術”も、シナリオの中で活きているどころか“大いなる蛇足”という状態。作品のクオリティを上げる方向には全く働いていません。しかも、その存在意義の薄い設定をこねくり回したせいで登場人物のキャラクターを掘り下げる余裕が無くなってしまい、主人公以下主要キャラの人間描写がどうしようもなく不完全になってしまいました。

 作品のクオリティを上げようとして設定をこねくり回したは良いものの、気がついたら逆にクオリティを下げてしまっていた…というのは、プロの作家さんでもスランプに陥るとままあるケースだそうですが、この作品の場合は新連載第1回でそれにハマってしまった感じですね。非常に不幸なケースと言えそうです。

 現時点での評価
 初見ではもう少し高い評価を想定していたんですが、ジックリと吟味してみると加点材料がほとんど無い事に気付いてしまいました(苦笑)。
 かなり際どい判断を迫られましたが、とりあえずはC寄りB−。当然ながら、この調子で3回目まで行ったら“死刑宣告”も考えなければならないでしょう。
 
 

 ◎新連載第3回『家庭教師ヒットマン REBORN!』作画:天野明

 についての所見(第1回からの推移)
 
相変わらず緻密さに欠けると言うか、雑な印象が否めない絵柄ですね。まだ手を入れる余地があるのに、「まぁマンガになってるし、これでいいや」と描き込むのを止めてしまっているような“手抜き感”が漂っていて、印象があまり良くないです。
 今週号の「ジャンプ」があれば、先頭からパラパラとめくってみて下さい。すぐ前に載っている『ボーボボ』と同化して見える一方で、更にその前後に載っている他の作品群から浮いて見えちゃってます(苦笑)。それくらい絵柄が泥臭いわけですね。

 ストーリー&設定についての所見(第1回からの推移)
 まず、第1回の時に指摘した、“お助け能力”のバリエーションの無さは第2回の“ジャンプ弾”で一応解決されています。これで銃以外の武器を登場させれば何とか読者を飽きさせないような工夫も出来そうですし、このファクターにおける減点材料は解消されたと判断して良さそうです。(もっとも、加点材料にするほど秀逸なアイディアが見られたわけではありませんが……)

 で、これでこの設定をストーリーに上手く絡められれば良かったのですが、何だか逆にストーリーの出来がどんどん悪くなって来ているようにしか……。
 単刀直入に言えば、非常に場当たりでその場凌ぎ的なエピソードばかりなんですよね。第2回で“死ぬ気弾”絡みで説教臭い話を見せたかと思えば、第3回は“死ぬ気弾”を濫用しておいて「お前の力で勝ったんだ」。これでは説得力皆無でしょう。メインストーリーをどの方向に持っていくか(マフィアのボスになるのかorヒロインとの恋愛成就を目指すのか)も曖昧ですし、残念ながら非常に感情移入のし辛いストーリーになってしまっていますね。

 何と言いますか、第1回とは別なパターンの“読み切りを連載化して失敗した作品の典型例”を見せられたような感じです。最近の「ジャンプ」新連載作品の不調を象徴するような見切り発車という感じです。 

 現時点での評価
 “弱含み”から“本当に弱い”作品になってしまった…ということで、B−に格下げします。余程の事が無いと、今後の見通しは極めて厳しいものになりそうです。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週は時間が無いのでサッパリ目に。それにしても、この期に及んでデッサン教室に通う村田雄介さんは色々な意味で凄いですな。いくら原作別とはいえ、どれだけ速筆なんだよ……。

 その村田さんの描くアイシールド21』は、人物を変えて“凡人、天才に挑む”王城ホワイトナイツの章。今回は勤勉な天才こと進に挑む桜庭のお話。けど桜庭だって女の子にモテるという面では明らかに天才なんですけどね。……やっぱり雪光を応援したくなるなあ先生は(笑)。
 それはさておき、昨今の少年マンガのセオリーとして、「主人公は最初からある程度ズバ抜けた才能が無いと人気が出ない」というのがありまして、実際にこの作品もそのセオリーに乗っかって小早川セナという主人公がいるわけですが、この“天才VS凡人”のエピソードは脇役を使って上手いことやってますよね。
 まぁ駒木も含めて読者の99.9%以上は凡人なわけで、そんな大多数の読者に共感と憧れを抱かせられるような“勤勉な凡人”というキャラを前面に押し出せているあたり、やはり稲垣さんのセンスの良さというのは素晴らしいモノがあると思うんですよ。
 当講座の談話室(BBS)でも賛否両論な『こち亀』ですが、駒木は内容云々は別にして「大阪の阪神競馬場」という部分に閉口でした(^^;;)。まぁ甲子園球場は大阪にあると思っている人が少なくないわけですから、それはそれでリアリティがあるとも言えるんですが、明らかな事実誤認をカマされてもなぁといった所ですね。(ちなみに阪神競馬場の所在地は兵庫県宝塚市。宝塚記念というレース名はダテじゃないのです)
 あ、ちなみに我が仁川経済大学の「仁川」も、阪神競馬場近くにある仁川(にがわ)であって、お隣の国の国際空港がある都市の事じゃありません。昔、韓国の大学のウェブサイトと間違われて思わず笑ってしまった事がありますが、中には同じ誤解をした挙句、差別用語入りで誹謗中傷する阿呆がいて、これは大概にして欲しいです。

 さて、今週は『少年守護神』(作画:東直輝)が打ち切り終了となりました。何と言うか、見事なまでに“突き抜け”らしい“突き抜け”を見たような感じですね。
 よっぽど早い段階で打ち切りが決まったんでしょうか、序盤で中途半端に広げた風呂敷を、それ以上広げる事も出来ず、かと言って1クール終わるまで畳む事も許されず…といった具合で、短期連載とは思えない間延び感漂う悲惨な作品になってしまいました。
 敗因はそれこそ腐るほどあるわけですが、突き詰めていくと、読み切り版『少年守護神』を描いてしまったのがそもそものケチのつけ始めだったんですね。これも自業自得と言えるんでしょうか(苦笑)。

☆「週刊少年サンデー」2004年28号☆

 ◎読み切り『ブリザードアクセル』作画:鈴木央

 ●作者略歴
 1977年2月8日生まれの現在27歳
 94年8月期「ホップ☆ステップ賞」で佳作を受賞(霧木凡ケンさんの3年後輩!)翌95年の増刊春号にて受賞作『Revenge』が掲載となり、デビュー。
 その後、「赤マル」96年冬(新年)号に読み切りを発表後、秋には週刊本誌初進出を果たす(96年46号)。それから1年のブランクを経験するが、「赤マル」98年冬(新年)号で復帰後、同じく98年52号より『ライジングインパクト』で初の週刊連載を獲得
 この作品は一旦15回で打ち切りとなるも、連載終了間際の人気上昇と読者からの大量の嘆願によって、約3ヶ月後に打ち切り時のエピソードをキャンセルして異例の連載復活。この“第2期”『ライジングインパクト』は、02年12号までで打ち切られたが、130回の長期連載となる。
 打ち切り後の復帰作はいきなりの週刊連載で、02年45号から開始となった『Ultra Red』。ただしこれも3クール34回で無念の打ち切りとなって、この連載終了を機に「週刊少年ジャンプ」との専属契約を解除。03年からは「ウルトラジャンプ」、「ヤングジャンプ」といった集英社の系列誌の他、小学館の「IKKI」誌にも読み切りを発表するなど幅広い活動を展開していた。
 今回は「週刊少年サンデー」移籍第1作ということになる。

 についての所見
 これまでのどの作品でも見たようなデザインの顔が目に付く(顔のパーツのバリエーションが少ない)という嫌いはあるものの、背景処理、動的表現、シリアスとディフォルメの使い分け、コマ割りや構図の取り方など、マンガの絵に必要なファクターは軒並み悠々で合格点ですね。まぁあの「ジャンプ」で通算3年連載していた人ですから、こんな所で駒木が敢えて申し上げる事でもないわけですが。

 ストーリー&設定についての所見
 少年マンガでは極めて珍しい、フィギュアスケート(しかも男子)を題材にした作品となりました。手垢の付いていない題材というのは、それだけで魅力ですから、まずは「よくぞ見つけてきたなぁ」といったところでしょう。
 また、マイナージャンル作品の“宿命”である専門的なウンチクの解説も、必要最小限の内容で、更には半ば反則っぽいですが)上手い演出を交えてストーリの中で嫌味無くまとめられておりこれもポイントは高いですね。

 シナリオに関しても技術の豊かさを感じさせてくれますね。「格闘技のセンス=フィギュアスケートのセンス」という確信犯的なトンデモはさておき、結構“料理”の難しい諸々の設定をストーリーの中で巧みに活かし切っており、地味ながらも良い仕事をしています
 ただ、これは限られたページ数を考えると致し方ない…というより意識してそうしたのでしょうが、シナリオのボリューム、特に主人公の葛藤や気持ちの揺れ動きといった読み手の心をストレートに打つ要素が薄くなってしまったのは残念でした。一言で表現すれば「お前、いきなり上手い事いきすぎ」といったところで(笑)、こういう内容ではどうしても評価するにあたっての基礎点が低くなってしまいます。
 お話の完成度としては低くないのですが、悪い意味の安全運転に終始したという印象が拭えませんでした。やっぱり1回くらいは助手席に乗ってる人間が思わず手すりを掴むくらい果敢にカーブを攻める場面があって欲しいですよね。

 今回の評価
 十分な技術は感じさせてくれるのですが、これを良作レヴェルとまで言っていいのかは疑問が残るところで、典型的なB+作品と考えるべきでしょう。「鈴木央、健在!」をアピールするには十分だが、それ以上でもそれ以下でもない…という感じですね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「オリンピックに出るならどの種目?」。
 超文化系のマンガ家さんにとって、自分がオリンピックに出るなんて想像もつかないらしく、回答は極めて低調になってしまいましたね(苦笑)。ほとんど全員が辞退かウケ狙いという……。
 駒木も文化系度では似たようなものですが(笑)、出られるなら出たいので少し考えてみましょう。
 まず、夏か冬で言えば。冬にも「カーリング女子代表の皆さんと知り合える」という特典がありますが、皆さん大体もう既婚者なのでねぇ(笑)。夏だと選手も多いですし、そもそも夏ですし、色々楽しそうじゃないですか(うわー、不純)
 ただ、問題はどの競技で出るかなんですよねー。自分が他の一流アスリートに混じってスポーツやってる光景が全く想像できない(笑)。まぁコッソリと近代五種くらいに出て、人知れず最下位取っときますか

 さて、作品について。まずは拷問のような競馬編がようやく終了した『ワイルドライフ』。ここまで杜撰な取材・構成をした競馬(をテーマにした)マンガは空前絶後でしょうなぁ。
 最終ページに描かれた馬券に印字されている金額が1枚あたりの購入上限額を超えてるところからしても作者・編集者揃って競馬素人ってのは明白で、それでいて最低限の勉強すらやらず、付け焼刃の取材内容を妄想で膨らませてネーム切ったわけですから、まぁ当然の帰結とも言えるわけですが。……しかし、こういうのを見せられると、多分他のテーマを題材にした時も(というか獣医関連の描写も)似たようなクオリティだったんだろうなぁと想像出来ちゃうんですよね。
 なわけで、今回をもってこの作品の評価をB−に下方修正します。最近のストーリーにすらなってないエピソードも含めて、あんまりにも酷すぎます。
 蛇足ですが、藤田和日郎さん『からくりサーカス』の中に錬金術の設定を用いるにあたって、関連書籍を10数冊読破して「とりあえず軽く予習(藤田さん)」(藤田さん)」したそうです。まぁジュビロイズムをマンガ界のスタンダードとするのは乱暴ですが、一流の人は一流の努力をするわけですよね。

 さて、口直しに『いでじゅう!』を久々に採り上げましょう。
 今回は連載開始以来、ほぼ初のマジ柔道シーンが見られた事だけでもビックリなわけですが、相変わらず後方で小さく載ってるサブキャラの芸が細かくて良いですなあ。皮村なんてウルフマンにドツかれたキュービックマン状態になってるし。やっぱりこの人、80年代「ジャンプ」が大好きですよね(笑)。
 そういやゼミでは言ってなかったと思うんですが、モリタイシさんの短編集『茂志田☆諸君!!』は、相当にアブない内容ですが(笑)、『いでじゅう!』よりもクオリティ高いかも知れません。大きな本屋にしか置いてないと思いますが、フィーリングが合いそうな人は是非。

 最後に『モンキーターン』。好事魔多しという事で、波多野のエースペラがダメになっちゃって大変……という展開になりそうですね。しかしこれ、競艇ファンにはともかく、少年誌の読者をターゲットにする内容じゃないよなあ。普通、プロペラより青島さんだろう!(笑) 

 ……さて、遅くなってすいませんでした。あと2週間ほどこんな調子になりますが、ご勘弁を。ではでは。

 


 

2004年度第21回講義
6月4日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第6週〜6月第1週・合同)

 6月、祝日無いのダルいから、適当に祝日作ろうよ。ほら、4日休みだったら3連休になるよ、虫歯予防デー。……などと言いたくなる今日この頃、如何お過ごしでしょうか。『スピンちゃん』が打ち切りになってヤケのヤンパチ状態の駒木ハヤトです。
 いやー、ついにやってしまいました。開講以来初のA評価作品1クール打ち切り。以前「サンデー」では『一番湯のカナタ』『売ったれダイキチ!』が、好調だった序盤から急に崩れて半年打ち切り…なんて事がありましたが、今回は「コミックアワード」のギャグ新人作品賞受賞作品だけに、ちょっとショックを隠せない感じです。
 ネット界隈では打ち切りを惜しむ声が相当多いような気もしますので、単行本バカ売れ→重版に次ぐ重版→急転直下敗者復活! ……みたいな話にならんでしょうか(笑)。最近の『銀魂』の扱いが異様に良いのも、実はそれに似た話だった…なんて話も聞いた事ありますし、全く非現実的な話じゃないはずなんですが。

 ……まぁ、また駒木が言ってるよ、みたいな感じで聞き流して下さい(笑)。それでは、今週のゼミを始めます。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎既報ですが、「週刊少年ジャンプ」次号(28号)より、『地上最速青春卓球少年 ぷーやん』作画:霧木凡ケン)が新連載となります。
 霧木さんについてはご存知の方も多いでしょうが、今年でデビュー13年目となる、「ジャンプ」、いや日本マンガ界を代表する“永遠の若手”。15歳のデビュー以来、増刊・週刊本誌に合わせて9作品の読み切りを発表していますが、連載は今回が初めて。広島の赤ゴジラ・嶋選手を彷彿とさせるような下積みの末の晴れ舞台です。
 ただ、昨年以来「ジャンプ」では、長いキャリアを持つ若手作家さんの初連載作品が軒並み短期打ち切りに遭っており、否応無しに心配させられてしまうのが何とも……(汗)。今回の新連載作品も、プロトタイプの読み切りのデキが今一つだったように思えますので、余計に心配になってしまいます。果たしてどうなる事でしょうか。

 ◎「週刊少年サンデー」次号(28号)には、読み切り『ブリザードアクセル』作画:鈴木央)が掲載されます。
 なんと、『ライジングインパクト』鈴木央さんが「サンデー」に電撃移籍です!
 『ウルトラレッド』打ち切りに伴う“バイバイ・ジャンプ”の後も「ウルトラジャンプ」など「ジャンプ」系雑誌に作品を発表していた鈴木さんですが、専属契約の無い身軽さを活かしての「サンデー」進出という事になったようです。
 次回予告のアオり文やタイトルから推測するに、フィギュアスケートを題材にした作品と思われます。どうでもいい話ですが、物凄い季節感してらっしゃいますな、鈴木さんって(笑)。

 ……ところで、増刊サンデーの夏号のラインナップ、新人・若手に混じって、「週刊少年チャンピオン」で『ORANGE』を連載していた能田達規さんの名前が小さく載ってますね。能田さんが実は以前から「サンデー」と繋がりがあった…という噂は耳にしていたのですが、まさか本当に作品が掲載されるとは。
 いやしかし、それにしても、この扱いは余りにも酷すぎるような気がするんですが。ファンの人怒るぞ。

 ★新人賞の結果に関する情報

第54回小学館新人コミック大賞・少年部門
(04年前期)

 特別大賞=該当作なし
 大賞=該当作なし
 
入選=2編
  ・『ADAYA』(=本誌または増刊に掲載決定)
   英吉(20歳・群馬)
 
《選評要約:「勢いはある。しかし見せ場の絵が分かり難く、説明も不親切。ラストシーンももう一工夫欲しい」(高橋留美子さん)/「荒さの中に、ハッタリの利いた表情やアクションなどの可能性が感じられる」(あだち充さん)/「結構面白かった。絵も迫力があり、セリフも良い。ただ、舞台を大都会にすればもっと良かったし、ギャグの時には絵を柔らかくした方が良い」(青山剛昌さん)/「よく出来ている。個性的な絵が魅力的だが、見易くする努力も必要かも。総合的な創作力は持っていると思う」(史村翔さん)

  ・『HAPPY SMILE!!』(=本誌または増刊に掲載決定)
   川村好永(26歳・埼玉)

 《選評要約:「オーソドックスな設定で読み易かった。主人公の人形っぽさは初登場シーンからもっとアピールを」(高橋留美子さん)/「それなりのまとまりはあるが、ネタの料理方法に新鮮味が無かった」(あだち充さん)/「割と良かった。見せ方も上手いし読み易い。ただ、主人公が強すぎ、敵が弱すぎる。主人公に弱点があれば良かったかも。また、ありがちな話という感じがする。(青山剛昌さん)/「平均的な感じ。主人公のキャラは面白いが総合的なレベルアップが望まれる」(史村翔さん)

 
佳作=2編
 
 ・『青少年と紫少年』
   内田あゆみ(17歳・熊本)
  ・『カワズの神様』
   今山我楽多(20歳・茨城)
  ・『ヒーロー』
   清水翔平(22歳・京都)
 最終候補=2編
  ・『その手で掴むもの』
   岡田きじ(24歳・埼玉)
  ・『鬼喰い』
   瀬戸カズヨシ(24歳・東京)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎入選の川村好永さん…00年6月期「ジャンプ天下一漫画賞」で最終候補、03年2月期「サンデーまんがカレッジ」であと一歩で賞。

 ……今回は全体的に小粒で即戦力ゲットならず…といったところでしょうか。しかし、入選作の選評を見ていると、何だか「赤マル」に載ってそうな作品みたいに思えてならないんですが(笑)。

 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年27号☆

 ◎新連載『D.Gray-man』作画:星野桂

 ●作者略歴
 1980年4月21日生まれの現在24歳
 新人賞の受賞歴は無く、「赤マル」03年冬(新年)号でデビュー。週刊本誌進出はその約半年後、03年34号で、これがデビュー2作目。今回は1年弱の沈黙を破っての新連載開始となる。

 についての所見
 デビュー以来、絵の達者さには定評のある星野さんですが、やはり今回も綺麗に映える絵柄は健在といったところです。以前に比べると随分と“マンガの絵”になって来ており、その点では進歩も窺えます。
 ただ、これも過去作で指摘した部分なのですが、線のメリハリが弱いためにキャラクターのビジュアルが今一つインパクト不足になってしまっていますし、凝った構図や表現技巧も逆に見辛さを助長する方向へ働いているように思えます。マンガの絵は読み手に情報を与えるための記号ですから、その記号が判別し辛いのでは、それがいくら綺麗に描かれた“記号”だとしても、それは減点材料になってしまいます。

 ストーリー&設定についての所見
 とにかく「設定過多」、「消化不良」という2フレーズに尽きると思います。この辺もデビュー作の課題が解決されておらず、残念なところですね。

 別に凝った設定が多いというのが悪いわけではありません。『エヴァンゲリオン』然り、一連の奈須きのこ作品然り、異様に凝った設定連発の作品の中にも、多くの人が名作と認めるものだって多く存在しますしね。
 ただ、それはその設定がキチンとストーリーのクオリティを上げるように働いているからであって、シナリオの質・量が設定に負けてしまった場合は、その設定の完成度が作品のクオリティの高さに繋がるどころか、その逆になってしまうわけです。
 そう言う意味において、今回の第1話はまさにそのパターンにハマってしまった…といったところ。ストーリーのヤマ場を盛り上げたり、主要キャラクターを掘り下げたりするはずのページ数を設定の説明に費やしてしまったために、随分と中身の薄いシナリオになってしまいましたね。
 こういう場合はまずストーリーの盛り上がりを優先し、設定の提示はとりあえずストーリーに即した必要最小限のモノに留めるべきでしょう。どうせしばらくしたらシナリオの進行が一旦落ち着く場面が来るのですから、詳しい設定の提示はその時にやれば良いのです。

 それでも、ストーリーの展開させ方や演出に全くセンスが感じられないというわけではありません。今回も、本来ならばギブアップ者が続出しそうな程の“読み辛さ要素”を含んだ作品ではあるのですが、一応最後まで読ませ切るだけの勢い、力は感じさせてくれました。これが短所のフォローではなく強力な長所になった時こそが、星野さんが一流のマンガ家さんになる時なのだと思います。今後の成長に期待します。

 現時点での評価
 現時点では、前作と同じくB+寄りBの評価が妥当だと思われます。これで今後、設定に見合うだけの充実したストーリーが展開されるようになれば、評価の大幅上昇も考えられるのですが……。
 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 いつも通り巻末コメントから……とは言え、今回はあまりネタが無い感じなんですが。
 稲垣理一郎さんは、先週発表のトーナメントが意外な方向へ流れる…という“読者への挑戦状”。先週駒木がやった予想は、あくまでも正攻法のものですので、あれからどれだけズレるのか、逆に楽しみになって来ましたね。
 一方、今週終了の『スピンちゃん』とのマッチレースを制した形になった『未確認少年ゲドー』岡野剛さん第2部突入を告知する事実上の“勝利宣言”。久し振りの1クール突破だけに、本当に嬉しかったんでしょうね。駒木も競争相手が違っていたら素直に祝福出来たんですが……(苦笑)。

 さて、作品についての話。
 『こち亀』は定番の両さんが大原部長を一生懸命ダマすネタでしたが、この手のネタで一番気の毒なのは、部長の奥さんだよなぁ、と思ったり。いつも戸惑ってる顔してるような気がします(笑)。
 『いちご100%』なんか天地とさつきにフラグが立ちましたか?(笑) まぁそれはそれで良いとして、綾VSつかさの決着はどうつけるのか、ますます心配に。ゴジラVSガメラみたいなモンですよ、これ。
 他の作品についても喋る事もあるのですが、いつも言ってるのと同じ内容になりそうなので割愛します。

 そして、講義冒頭でもお伝えした通り、今期打ち切り第一号は『無敵鉄姫スピンちゃん』作画:大亜門でした。ここで連載総括しておきましょう。
 この作品に反映された大亜門さんの技術の高さは以前のレビューで申し上げた通りで、それは打ち切り間際になってからも大筋では変わらなかったと思います。最終回のまとめ方などを見ても、下手なストーリー作家顔負けの構成力も見てとれますし。
 ただ、回を追うに連れて、セリフの応酬によるギャグ、しかも対象年齢層の高いネタの割合が増え、ビジュアルのインパクトで獲る笑い──特に「ジャンプ」のメイン読者層が好みそうな──が質・量共に物足りなくなったのは事実としてあると思います。
 また、読み切りで十分な助走をつけて連載開始した事もあったのでしょう、連載開始間もない時点でギャグの構成が“定番・御存知化”、つまりワンパターン化してしまったのも問題だったのではないかとも思います。つまりはファンの新規開拓が十分でないままに、固定ファンをターゲットにした作品作りをしてしまったのではないかと。これでは、ギャグ作品は特に長いスパンで面倒を見てくれる「サンデー」ならまだしも、アンケート至上主義の「ジャンプ」においては苦しかったと思います。この辺が商業誌でマンガを描くことの難しさと言えそうですね。
 最終評価ですが、打ち切りの原因となった減点材料を考慮しても、まだA−はあるでしょう。1クール打ち切りとはいえ、次回作に期待出来る作家さんです。
 

☆「週刊少年サンデー」2004年27号☆

 ◎読み切り『緋石の怪盗アルバトロス』作画:若木民喜

 ●作者略歴
 資料不足のため、生年月日及び正確なキャリアは不明。
 ネット上の検索で確認できた最古のキャリアは「サンデー」月刊増刊01年3月号で発表した『キャプテン スイートハート』。その後、増刊では02年2月号、同年9月号、04年2月号での作品掲載が確認されている。
 今回の作品は、昨年発表の『情報怪盗アルバトロス』のリメイク作品。

 についての所見
 何だか色々な雑誌の色々な作家さんの影響を受けているようにも思えますが、画力そのものは高いと思います。「サンデー」の連載作品と見比べても全く遜色なく、今のままでも十分連載で勝負できるレヴェルの実力に達していると言えるでしょう。
 ただ、敢えて1点だけ指摘するとすれば、絵柄に“毒”が無さ過ぎなのではないか…というところ。まぁ作風に合った絵柄だと言えなくもないのですけどね。

 ストーリー&設定についての所見
 シナリオの内容そのものは、予定調和的でヌルいライトノベルのような緊張感の無いものと言わざるを得ませんが、伏線の張り方やヤマ場へ向けた展開のさせ方、演出などはキチンと“プロのお仕事”が出来ていたと思います。読み手に与える読後感も悪くなかったのではないかと思います。
 ただし、メイン登場人物がかなり無茶苦茶な行動をするようなキャラであったにも関わらず、「そういうキャラでも魅力的に感じてもらおう」と、読み手の感情移入を誘う試みが欠けていたのは残念でした。何だか作中世界とこちら(読み手)側の間に距離感があったように思えたのは気のせいでしょうか。
 それと、読み切りにも関わらず、まるで連載作品のような構成にしているのは感心出来ません。「この続きはまたいずれ……」のようなラストにするだけならまだしも、謎を置きっ放しにして「完」にしてしまうのは余りにも無責任です。 

 今回の評価
 画力の分だけ加点をしてB+寄りBとしましょう。決して悪い作品ではなく、このまま連載しても中堅下位くらいの地位をキープ出来そうな感じではあるのですが、逆に言えば1〜2年の連載期間中、万年Bクラスに甘んじてしまいそうな作品でもありますね。もう少しテコが入れば印象も変わってくるのでしょうが……。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「仕事中のBGM」。
 プロの作家さんに言わせると、「ネーム作業を除けば、マンガ描きはある意味単調なデスクワーク」らしいですから、やはり作業中には少しでも刺激が欲しいのでしょうね。ほとんどの方が何かしら音を流れるようにしているみたいです。
 で、多いのは「ラジオ・テレビつけっぱなし状態」という回答。仕事中偶然に聴いたラジオ番組にハマって、そのラジオのパーソナリティーと交友が出来た…なんて話も聞きますし、「サンデー」作家さんに関わらず、そういうケースも多いんでしょうね。
 ちなみに駒木研究室もAMラジオを点けっ放しである事が多いです。やはり深夜放送がメインになるのですが、講義の準備中に夜が明け、宗教番組が流れ始めると、ちょっと物悲しくなります。で、その番組のスポットCMで最近とんと姿を見ない生島ヒロシが怪しげな金融商品の紹介をしていたりすると、余計に物悲しくなります。

 さて、作品について。まず『金色のガッシュ!!』ビクトリーム外伝のギャグ特集。無責任な提案をしてしまうと後々大変…という典型例ですな(笑)。しかし、「復活を検討」って、こういう意味での復活を望んでたわけじゃないでしょうに(笑)。
 『結界師』中身の濃い構成に、相変わらずの力量の高さを感じさせてくれます。準備期間を十分に置いて、いよいよメインストーリーの開始…といったところでしょうか。田辺さんは、数少ない「サンデー」系の実力派若手作家さんだけに、ここらでもう一段階の飛躍をしてもらいたいと思うのですが……。

 ……さて、今日は時間も詰まり気味ですので、この辺で失礼します。来週は若干時間に余裕が取れそうなのですが、果たして体力に余裕があるかどうか。まぁ様子見ながら頑張ります。

 


 

2004年度第19回講義
5月27日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第5週・合同)

 今週もゼミ実施が遅れたのは、打ち切りサバイバルレースの3番手候補がいきなり先頭でゴール板を突き抜けるらしいという事がショックだったから…というのはナシですか? どうも、駒木ハヤトです(苦笑)。
 ……まぁ詳細は次週の本誌を直にご覧頂くとして(駒木も正直まだ信じたくないので^^;;)、とっととゼミへと参りましょう。今週は「サンデー」にレビュー対象作がありませんでしたので、合同版とさせて頂きます。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎既に先週までに既報ですが、「週刊少年ジャンプ」次号(27号)より、『D.Gray-man』作画:星野桂)が新連載となります。
 星野さんは新人賞を経ずにデビューした“裏街道”組。「赤マル」03年冬(新年)号にデビュー作を掲載後、週刊本誌03年34号で本誌初進出を果たし、その後1年弱経って突如、初の連載枠獲得。何とも順調過ぎる出世ぶりですが、やはりここからが正念場という事になるのでしょう。デビュー以来の2作品では、シナリオや設定構成にやや粗い面が見られただけに、期待半分・心配半分といったところでしょうか。

 ◎「週刊少年サンデー」次号(27号)には、読み切り『緋石の怪盗アルバトロス』作画:若木民喜)が掲載されます。
 ざっと検索エンジンで調べたところによると、若木さんは02年頃から増刊でたびたび読み切りを発表している若手作家さん。今回の作品は、増刊の月刊最終号となった04年2月号に掲載された『情報怪盗アルバトロス』のリメイクではないかと思われます。 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載1本&読み切り1本
 「サンデー」:レビュー対象作なし。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年26号☆

 ◎新連載『家庭教師ヒットマン REBORN!』作画:天野明

 ●作者略歴
 「赤マル」デビュー時、公式プロフィールで生年月日非公開だったため、現在のところ年齢不詳・調査中。
 01〜02年にかけて「週刊ヤングマガジン」誌、同誌別冊にて短期連載を2度経験後、「ジャンプ」系へ一新人として移籍。
 「ジャンプ」系若手として最初のキャリアは02年12月期「天下一漫画賞」最終候補(名義はおやつおやお。その後、天野明名義で更に一度投稿歴があるが、受賞を待たずして「赤マル」03年春号にてジャンプデビュー。
 週刊本誌初登場は03年51号で、今作のプロトタイプ読み切り。紆余曲折はあったものの、ジャンプデビュー後はトントン拍子での連載獲得となる。

 についての所見
 
短期とは言え、メジャー系雑誌で連載経験があるだけあって、全体的な完成度は低くないと思います。構図の取り方なども手慣れており、単調さが感じられないのも良いですね。
 キャラクターデザインに関して言えば、主要キャラとモブ(群集)キャラとで意識的に手の入れ具合を変えて、主要キャラの方が引き立つような工夫も為されていますね。これは後で述べる欠点にも繋がってしまう嫌いはあるのですが、主要キャラを読み手の頭に馴染ませるという観点から見ると、なかなかの策だと思います。

 ただ、作品を通して見てみると、どことなく全体的に少しずつ手を抜いているように見えてしまうのが気になります。
 これは本当に手を抜いているわけではないのでしょうが、根本的なペンタッチがやや粗いのと、動的表現や表情の作り方に微妙に違和感があるために、そのように見えてしまうのでしょう。連載を続けていく内に絵柄が整っていく余地もあるのでしょうが、とりあえずのところは「ギリギリで及第点の範囲ながら、現在の連載陣では下位クラス」という評価を下さざるを得ません。

 ストーリー&設定についての所見
 古くは『ドラえもん』等の藤子F作品、「ジャンプ」では『まじかるタルるーとくん』作画:江川達也)を髣髴とさせる、「主人公のダメな少年の下へ、異世界から“特殊能力付加能力”を持った助っ人がやって来る」というコンセプトの作品ですね。
 主人公が密かに恋焦がれるヒロインがいたり、やたらと乱暴なライバル(いじめっ子)キャラがいて…というあたりも過去作を踏襲していますので、これは確信犯的に“攻めて”来たな…という印象がありますね。とはいえ、単なるアイディア流用ではなく、過去の作品の根本的な部分を分析した上で別物として再構成出来ているのは好感が持てます。

 ……ですが、そうやって手間をかけて練りに練った設定のデキが良いのかと言えば、「?」マークがついてしまうのが苦しいところです。
 一番の問題点は、ドラえもんの“ひみつ道具”にあたるアイテムが、原則“死ぬ気弾”に限られてしまうところ。これでは、一話〜数話完結型のストーリーに大きなバリエーションを持たせる事が出来ません。いくらシナリオを工夫しても、最後に“死ぬ気弾”で解決してしまうのであれば、ワンパターンの謗りを免れる事は出来ないでしょう。
 また、“死ぬ気弾”の設定もかなり苦しい部分がありますよね。死んだ後に生き返るのが判っているのに、毎回「死ぬ前にこうしてりゃ良かった」と後悔するというのは結構な無茶だと思うのですが……。
 それに加えて、ヒロインと敵役キャラの設定についても、この系統の作品の“仕様”とは言え、ステロタイプに過ぎてある種の“安っぽさ”も感じてしまいますね。ストーリー上の役割に応じたキャラクター付けが不完全なのでしょう。

 ……というわけで、今回の時点では、典型的な「読み切り作品の連載化失敗パターン」にハマってしまっているような気がしてなりません。第1回のデキそのものとしては悪くないのですが、弱含みの要素を大きく含んでいる設定と言えそうです。

 現時点での評価
 「このまま行くと失敗するであろう」…という弱含みの要素をどこまで現時点の評価に折り込むかで迷える所ですが、「普通に一読する上では苦にならない作品であろう」ということで、暫定評価Bとします。
 ……それにしても、「上手くすれば成功するかも」という作品は、大抵の場合上手くいかないというのは何故なんでしょう(苦笑)。まぁ今回は読み切り版の時点で構造的な欠陥に気付ききれなかった駒木のミスジャッジだった気がしないでもないですが……。

 ◎読み切り『HIP☆HOP☆HOP』作画:大石浩二

 ●作者略歴
 新人賞受賞等のキャリアが無いまま、週刊本誌03年24号(先々週号)にて、『HUNTER×HUNTER』の休載枠を穴埋めする“準代原”で暫定デビュー。今回はそれに続く2度目の“準代原”発表となる。

 についての所見
 
前作と同様、人物作画はギャグ作品として許容範囲ギリギリながら、背景処理やベタ貼りのスクリーントーンの使い方は落第点レヴェル…といった感じですね。
 これでも何か1つでもセールスポイント(=良い意味で個性的な要素)があれば、また印象も違って来るのでしょうが、現時点では「ただ絵が少しヘタクソなギャグ作家さん」という印象しか持てないですね。

 ギャグについての所見
 今回は1ページ単位のショートギャグではなく、15ページのオーソドックスなギャグ作品となりました。
 まず、今から考えると前作との共通項と言える部分である、「どうからどう見ても変なヤツが、自分だけはマトモな人間だと思ってそのように振舞う」…という設定は、笑いに繋がる違和感を喚起するのに適したモノで良いと思います。ウッチャン・ナンチャンが作るコントに、こういう系統のネタが多いですよね。
 しかしながら今回の作品に関しては、微妙に各所でツッコミが弱かったり、間が詰まり気味で笑う前に話が展開してしまったりした印象もありました。まぁこの辺の感じ方は人それぞれですし、ネタの運び方自体は悪くないとも思えますので、かなり判断が難しい部分ではありますね。ですが、少なくともまだまだ良くなる余地を残した作品であるとは言えそうです。

 今回の評価
 色々総合すると、前回より少しだけ上、B寄りB−ぐらいが妥当かなと思います。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 いつも通り巻末コメントから。
 時期的なものでしょう、GW休みの使い方についての話題が多かったですね。限られた日数ながら、皆さん充実した骨休みをされたようで。しかし、「両親はトドのように寝てるし、姉は金をせびって来るし」…という空知英秋さんは災難でしたなあ。
 「印税入ったんでしょ、ちょっと頂戴」
 「バカ、初刷りの印税なんざ、借金返済で消えちまうよ」

 ……といった生々しい会話が展開されたのでしょうか(笑)。噂を聞く限りでは、『銀魂』1巻はかなり際限なく増刷がかけられているようですので、今度は税金対策が大変に……って余計なお世話過ぎますか(笑)。

 あと、「“蜂蜜”という言葉を聞くだけで『くまのプーさん』を思い出す」というのは矢吹健太朗さん。そういや駒木の家にもありました、プーさんの絵本が。
 しかし今では、“蜂蜜”という言葉を聞くと、彼氏から望まれるがままに蜂蜜プレイを敢行した知り合いの女の子を思い出してしまう駒木であります(笑)。

 次に作品について。
 まず『BREACH』この期に及んで夢に主人公が出て来ないメインヒロインってどうよ? ……などと思ってしまいますなぁ(笑)。いやはや、本当にこの作品って主人公とヒロインの関係が淡白なんだよなぁ。昔はさておき、今現在自分を命がけで助けてくれようとしているヤツに惚れんかい! …とゲキを飛ばしたくなるのは駒木だけなのでありましょうか。
 『アイシールド21』では、秋大会の組み合わせ発表。見開き2ページでトーナメント表っていうのは『幽☆遊☆白書』でありましたね。ただ、あれは文字ばっかりのある意味物凄い演出でしたが。
 トーナメント表を見る限りでは、デビルバッツの相手は1回戦・網乃サイボーグス→2回戦・夕陽ガッツ→3回戦・毒播スコーピオンズ(テーマは敵チーム研究によるアイシールド封じ?)→準々決勝・柱谷ディアーズ(小柄・スピード系選手同士対決?)→準決勝・西部ワイルドガンマンズ→決勝・王城ホワイトナイツ…となりそうですね。この後に関東大会(多分決勝だけ)、クリスマスボウル、それからひょっとしたら日本人オールスターズによる世界大会(というかVSアメリカ代表)があってフィニッシュでしょうか。……一体何年かかるんだろう? 『ミスフル』なら10年かかるぞこんなもん(笑)。
 最後に『いちご100%』、扉絵で駒木の“メガネっ娘属性”を再確認出来て良かったです(笑)。あ、本編の方は、「真中エエカゲンにせえ」の一言で。

☆「週刊少年サンデー」2004年26号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「選挙に出馬するとすれば、どんな公約を掲げますか?」。
 さすがは社会の用意したレールをわざわざ踏み外してアウトローかつツブシの利かない人生を過ごしているマンガ家さんとあって、「そんなのどうでもいい。強いて言えば1週間を7日からもっと伸ばしてくれ」…というのが本音のようで(笑)。面白そうな質問だったんですけど、消極的な答えが多くて残念でした。
 駒木はやはり「カジノの合法化」でしょうね。ラスベガスみたいなカジノホテルや、マカオみたいなカジノ遊覧船なんかを是非。まぁやり方間違えると、韓国の某所みたいな、カジノの脇に質屋と中古車買取屋が軒を連ね、ついでに車を売ったカネもスって帰れなくなったオヤジだらけ…という世も末な場所になっちまうんですが。

 さて、作品についてのコメントを。
 今週は『金色のガッシュ』『結界師』『からくりサーカス』と、“泣かせ”テクニック競演といった趣になりましたね。で、今回はベテランの底力というか、「弟子に負けてたまるか」というジュビロイズムが炸裂した藤田和日郎さんに軍配…といったところでしょうか。セリフも凄いですが、演出力も凄いです。さすがだ。
 ところで駒木はマンガ家志望でもないのに「まんがカレッジ」のメルマガに登録しているわけですが(笑)、今週のマンガ家志望者と作家さんとのQ&Aコーナーは、決めゼリフを上手くキメられるようになるにはどうしたら? …という質問に藤田和日郎さんが答える回でした。
 で、その回答とは、

「例えば映画を観るでしょ? その中でカッコいいセリフだ、と思ったらメモるワケよ。小説なんかもそう。自分流にアレンジしてどんどんメモる。格言集や今流行ってる言葉の本も名ゼリフの宝庫だし、それをいっぱい見ていると『あのキャラに言わせたいなあ』とかアイディアが浮かんでくるんだね。やっぱりそれしかないと思うし、ひとりじゃなにも浮かんでこない。とにかくひとつひとつのセリフをおろそかにしないで、じっくりキャラに当てはめていこう」

 ※以上、メールマガジン「まんカレ通信」39号より引用

 ……という、「この人だから許される」というモノでした(笑)。そうかー、藤田さんでもそうやってたのかー…などと思える辺りがこの人の人徳と言うか、作家として積み重ねて来たモノの大きさと言うか。これを「ジャンプ」のYさんとか、「サンデー」のAさんとかFさんとかが言ったらシャレになりませんな。
 どうでもいい話ですが、この発言の「セリフ」を「アイディア」に、「メモる」を「パクる」にしたら、完全に「ジャンプ」のYさんの作品になってしまう気がするのは……。

 あと『ワイルドライフ』は、激しく殺意を抱きましたがもうどうでもいいです。というか、このマンガが世に出る寸前にハルウララが気力振り絞って2着…といった辺りは微笑ましい出来事だなと。あの馬、極端に臆病なのが問題なんですよね。

 最後に『美鳥の日々』ですが、着々と円満完結に向けたフラグが立ってますね。一応のタイミングとしてはアニメ終了の6月末があるんですが、果たしてどうなんでしょうか。打ち切りが定期化されてない「サンデー」はタイミングが読みにくいです。(あれ? 同じような事を少し前に話したかな?)追記:前の週に言ってました(笑)。健忘症もいいとこです^^;;

 ……といったところで今週のゼミはここまで。週末はダービーでお会いしましょう。

 


 

2004年度第17回講義
5月21日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第4週・後半)

 うわ、
 

 ……ということで、駆け足気味に今週後半分のゼミを実施させて頂きます。明日は高校講師の仕事も半ドンでありますし、こちらも競馬学特論がありますし……。
 いやまぁ、巷の熱血サラリーマンの皆さんに比べたら、これでも時間には余裕ありまくりなんでしょうが、これまで「睡眠時間は2時間で上等。とりあえず翌日の仕事は気力でカバー!」…という感じだったのが、「すいません、寝させて……。6時間は寝ないと体はともかく心が折れそう……」という感じになってしまってまして、結果的に活動時間が1日辺り3〜4時間減っているという(苦笑)。

 自分も人の子だなあと、今更ながらにバカな自覚をしたりしております。至らない点ばかりで恐縮ですが、どうか何卒。


 「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ※今週は特記すべき公式アナウンス情報はありませんでした。 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
  「サンデー」:新連載第3回後追い1本/読み切り1本 

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年サンデー」2004年25号☆

 ◎新連載第3回『道士郎でござる』作画:西森博之)【第1回掲載時の評価:保留

 についての所見(第1回時点からの推移)
 絵柄がすっかり固まっているベテラン作家さんの作品ですし、第1回のレビューで述べた事以外には特にお話する事も無いですね。
 
 ストーリー・設定についての所見
 第3回になって、ようやく非常に漠然とながら話の方向性が固まって来ましたが、それにしてもここまでのストーリー内容の薄さは如何ともし難いところです。「間延びさせているのに間延び感を感じさせない」というかなりネガティブな演出力で致命的な欠点にはなっていませんが、さすがにこのペースで回を重ねていくと辛いような気がします。
 ただ、これは理詰めのテクニックなのだと思いますが、主人公の性格や次の行動を全く予測不可能なモノにし、兎にも角にも読み手の興味をそそるような展開にしているのは上手いと思いますね。とりあえず次回を読みたくなる状態が維持出来るならば、いずれ話を急展開させた時に人気アンケートへダイレクトに反映させる事が出来ますし。もっとも、どこかで話が盛り上がらなければダメなんですが……。

 あと、ちょっと注目しているのが、読み手に不快感を喚起するような不良ザコキャラを無数に出しておきながら、作品全体の不快感は存外高くないという点です。他の不良系ザコキャラが出て来る作品よりも展開が泥臭くないんですよね。
 これは、余りにも“ザコ臭”が強いので感情移入すらしたくなくなるのか、読み手が不快に感じる前にカタルシスを得られるようにしているのか、ともかくこれは興味深いポイントですね。

 ともかく、もうちょっとストーリーが動いていかないと、その場凌ぎで読み手の興味は維持出来ても、大きなインパクトを与える事は出来ないのではないでしょうか。ともかく今後の展開に注目&期待ですね。

 現時点での評価
 本当はもうしばらく「保留」で様子を見たいんですが、『ごっちゃんです!!』みたいに数ヶ月引っ張るのもアレですから、暫定評価を下しておきます。
 とりあえずの評価はB+。確かな技術は感じられるのですが、それを持ってしてもシナリオの貧弱さ(若しくは過度のスロースタート)をフォロー出来ていないというジャッジです。勿論、しばらく様子を見た後に評価の変更も検討します。

 ◎読み切り『天国の本屋』作:松久淳&田中渉/画:桐幡歩

 作者略歴
 ※松久淳さん&田中渉さん
 松久さん1968年12月23日生まれの35歳で、『天国の本屋』シリーズ等の文章の執筆担当。他に松久さん単独の名義で小説を発表・出版している。
 田中さんは1969年3月20日生まれの35歳で、松久さんとのコンビでは原案と挿絵を担当。こちらも単独名義でイラストレーターとして活躍中。

 ※桐幡歩さん
 03年前期「小学館新人コミック大賞・少年部門」で入選受賞。受賞時22歳で、現在は23歳か。
 この時の受賞作・『魔法使いの卵』増刊「少年サンデー超」03年9月号に掲載されてデビュー。今回はそれ以来の新作発表となる。

 についての所見
 デビュー2作目、プロとしてのキャリア半年では仕方ない面もありますが、全体的に見てまだ荒削りというか、絵柄が洗練されていない印象がありますね。一本一本の線に、もう少し自信が篭って来ると印象も違ったものになるのではないかと思いますが……。
 あと、マンガ独特の表現技法も開発途上といったところでしょうか。全般的に絵がイラスト的で、マンガになり切れていない感じがしました。嫌味の無い絵柄ではありますので、その長所を生かせるような技術習得に励んでもらいたいところですね。

 ストーリー・設定についての所見
 原作小説未読のため、マンガ化にあたって原作の内容にどれくらい手を入れたのかが判らないのですが、第一印象からすると、「マンガにしては平凡な設定の平凡なお話になってしまったなぁ……」といったところでしょうか。
 同じ題材の同じストーリーでも、媒体ごとの相性みたいなものがあったりしますからね。今回の作品、文学系の小説としては奇抜なアイディアだったかも知れませんが、マンガとしては逆にありがちな設定なんじゃないかと思います。

 また、ページ数の制約と桐幡さんの演出力不足のためでしょう、今回のストーリーは展開が各所で唐突だったような気がします。行き当たりばったりで幾つかの出来事が起こっている内に、気が付いたら御都合主義的にハッピーエンドになっていた…といった感じがしました。
 これでもう少し読み手にシナリオ上の要所を印象付けられるような技術が身に付いたなら、御都合主義なりに読後感の良さが目立つ佳作になったのではないかと思うのですが……。
 
 今回の評価
 典型的な「悪くはないんだけどなぁ……」という作品じゃないでしょうか。これでも甘めかも知れませんが評価Bとしておきます。正直、小説のマンガ化という難しい仕事を、デビュー2作目の新人さんに任せたのは時期尚早の感が否めませんでした。残念です。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「人生で1つだけリセットするなら、どんなことですか」。
 さすがは“勝ち組”のメジャー誌連載作家さんだけあって、これまでの人生にとりあえずは満足してらっしゃるご様子。羨ましいなあ(笑)。
 駒木は……ここでマジな答えをすると皆さんが引いてしまうと思うんで、そういう回答は控えます(笑)。……そうですね、勢い余ってナリタブライアン−マヤノトップガンの1点でズドンと勝負してしまった96年の天皇賞(春)、これをリセットしたいですね。

 ……では、連載作品に少しずつコメント。

 いつの間にか『焼きたて! ジャぱん』よりも正統派の料理マンガっぽくなってしまってる『結界師』。やっぱり地味なんですが、それでも奥の深い作品ではありますよね。

 『ワイルドライフ』については「もう敢えて何も申しますまい」なのですが、中央競馬の新馬戦から3連勝する馬って、実はその時点で凄いんですよね。十分エリートなんですよ。
 まったくもって、どういった取材をやってその設定にしたのか、ちょっと伺ってみたいと(笑)。

 ここに来て動向が気になるのが『美鳥の日々』。なんだか重要サブキャラがどんどん“卒業”しつつあるんですよね。まぁ元々展開がイレギュラーな作品ではありますが、ひょっとして、アニメ終了と共に円満終了? ……なんて憶測をしてしまいたくなりますよね。

 で、最後に『かってに改蔵』
 ……すいません、駒木も4月から随分とかわいそぶってしまってます(苦笑)。今後は気をつけます。


 ──というわけで、自分の態度も省みつつ、今週のゼミを終わります。来週も木曜以降の講義実施になってしまうかな…と。ご了承下さい。

 


 

2004年度第16回講義
5月20日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第4週・前半)

 とりあえず今週前半分、「週刊少年ジャンプ」25号についての「現代マンガ時評」をお送りします。

 ……いきなりですが、ここで前フリ部分を利用して、2ch界隈等で囁かれている「ジャンプ」打ち切りサバイバルレース・未確認ホット情報を。当講座のBBSでも次期打ち切りについての話がよく出ているので、改めて講義で紹介しておこうかなと。
 ただこのお話、これまでの実績からすると、かなりの信憑性はあるものの、あくまで未確認情報なので、信用するのもそれなりにして下さいね。

 で、2ch界隈では既に次号の掲載順情報が流れていたりするわけですが、それによると動向が注目されていた『武装錬金』3週連続で掲載順が中堅クラスで、いよいよ安全圏に抜けた格好です(3週連続中堅ランクの直後に「不人気のため打ち切り」というケースは皆無に近い)。土俵際の魔術師ぶりは今期も健在ですね。
 一方の巻末は、今期の終了有力候補とされている『BLACK CAT』『少年守護神』の両作品が。いよいよ点灯している信号の黄色に赤みがかかってきたかなぁといった感じです。
 注目の3番手争いは『未確認少年ゲドー』『スピンちゃん』の新連載作品によるマッチレースの様相。ただ、『H×H』一時休載というアクシデントがあって、すぐに3作品目の打ち切りがあるのかどうかも含めて、情勢は極めて混沌としていますね。

 ……とまぁこんなところでしょうか。それにしても今の「ジャンプ」の打ち切り争いは厳しいですなぁ。これだけメンツが揃っている時に、わざわざ3作品入れ替えをやらなくても良いと思ったりするんですが……。

 では、戯言はこれくらいにしておきまして、マジメにゼミを進めてゆきたいと思います。


 「週刊少年ジャンプ」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」の次期新連載シリーズが次週発売の26号から開始となります。

新連載シリーズ・今回のラインナップ

 ◎第1弾・26号(次週発売)より新連載
 …『家庭教師ヒットマンREBORN』(作画:天野明)
 ◎第2弾・27号より新連載
 …『D.Gray-man』(作画:星野桂)
 ◎第3弾・28号より新連載
 …『地上最速青春卓球青年 ぷーやん』(作画:霧木凡ケン)

 今期も“標準モード”の3作品。全員が初の週刊連載枠獲得ですが、「ヤングマガジン」からの移籍組あり、前作の読み切りで他作品からのトレースが指摘された人あり、デビュー13年目の“永遠の若手”ありと、見る人が見ればフレッシュさよりも“濃さ”を感じさせるようなラインナップになりましたね(笑)。

 ……というわけで、次週から『家庭教師ヒットマンREBORN』(作画:天野明)がスタートします。
 天野さんは先述の通り、01〜02年にかけて「ヤングマガジン」の本誌や別冊で短期連載の経験があります。現「ジャンプ」連載陣では『いちご100%』の河下水希さんが他誌からの移籍組ですが、生え抜きの新人で誌面を構成するのが創刊以来の原則である「ジャンプ」にとって、これはやはり異例の経歴になるでしょうね。
 ただ、天野さんはそんな過去の経歴を捨てて、一新人として月例賞最終候補から「赤マル」を経てここまで辿り着きました。これは大相撲で言うところの大学相撲出身で前相撲からデビューしたようなもので、ここまで来るまでには並大抵ではない苦労もあったと思います。今回の作品、プロトタイプとなった読み切りのレビューでは、「現時点の完成度は低いものの、連載で大化けする可能性も有り」…とした駒木にしても、これは楽しみな新連載です。勿論、次週でレビューをお送りします。

 ★その他公式アナウンス情報

 ◎最近また休載が目立っていた『HUNTER×HUNTER』ですが、今週号(25号)に30号まで休載する旨の告知がありました。
 ハンター試験編の終盤からストーリーの要所要所で“長考”を挟む事があった冨樫さんですが、ここでまたも作戦タイム突入となりました。巷の反応は色々ですが、駒木としては「せめて連載再開後はいい話を読ませて下さい」といったところでしょうか。

 

 ※今週前半分のレビュー&チェックポイント
 ●今週前半分のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年25号☆

 ◎読み切り『賈允作:内水融

 ●作者略歴
 正確な生年月日データは散逸して不明。
 00年5月期「天下一漫画賞」にて審査員(ほったゆみ)特別賞を受賞して“新人予備軍”入り後、「赤マルジャンプ」01年冬号にて『POT MAN』でデビュー
 その後、にわのまことさんのスタジオでアシスタント修行を積みつつ作家活動も継続し、「赤マル」01年冬号、03年春号にて読み切りを発表
 本誌初登場はいきなりの週刊連載で、03年41号から連載開始となった『戦国乱波伝サソリ』(03年52号まで、1クール12回打ち切り)。今回は連載終了明けの復帰作となる。

 についての所見
 
デビュー当初は随分と絵に問題を抱えた作家さんだったと聞きますが、今回の作品を拝見する限りではそのような過去の痕跡を窺わせる余地すら無いですね。『サソリ』の頃よりも更に画風が洗練されて来たのではないでしょうか。特にヒロインの造型が良いですね。
 演出面でも研究の末に導き出した理詰めのテクニックがあちこちに見受けられ、内水さんが努力を積み重ねて来たという過程が感じ取れます。今や絵は内水さんの大きな武器になった感がありますね。
 敢えて注文をつけるとすれば、人物の表情のバリエーションをもう少しつけて欲しい…といったところでしょうか。人物の表情というのは一種の記号ですから、ある程度のパターン化は仕方ないですが、そのパターンをもう少し増やせば更に良くなると思います。

 ストーリー&設定についての所見
 『戦国乱波伝サソリ』の失敗に懲りたのでしょうか、前々作・『詭道の人』のような、内水さんお得意の路線──古代中国(のような国)を舞台に、ミステリ風味を織り交ぜた“策略・トリック系”シナリオ──でリベンジ…という事になりましたね。そして率直に申し上げて、この試みは成功だったと思います。やはり“直球勝負”よりも変化球で攻めた方が持ち味が活きる作家さんだと思います。

 特に評価したいポイントは、謎解きとエンターテインメントのバランスが上手く取れているところですね。
 ストーリーの中に謎解き要素を盛り込むと、当然の事ながら読者に提示できる情報に制限が出来、その分だけエンターテインメントに徹する事ができなくなってしまいます。しかし、この作品はストーリーの中軸から謎解きを外し、シナリオ上の強力なスパイスとして作用させる事に成功。その結果、エンターテインメント要素の質を落とさないまま、謎解き要素を入れる事が出来たのではないかと思います。
 策略のアイディアそのものはやや平凡でしたが、見せ方を工夫していたので手垢のついた感じは余りしませんでしたね。盗賊団側が策略に引っ掛からざるを得ない状況を作り上げたのは上手かったと思います。

 また、ストーリーの展開も無理を生じさせないように配慮した様子が窺え、好感が持てました。やや盗賊団の能力設定が軽過ぎた感もありますが、ページ数やエンターテインメント要素との兼ね合いを考えると、これくらいでも仕方ないかなぁとも思います。策略合戦になってしまうと、余計中途半端な話になってしまったでしょうし。
 それよりも、主人公が危険を察知して対処する間もなくの敵襲、一時撤退後からほとんど間を置かない反転攻勢(ネット界隈では「盗賊なんだから、女は誘拐即レイプだろう」なんて主張も見受けられますが、それはそれでちょっと解釈に悪意が……^^;;)など、出来るだけストーリーからヌルい展開を排しようという意図などに意識の高さが窺えます。

 セリフ回し等の演出面も良いですね。単調になりがちなセリフの遣り取りを、上手く場面転換を織り交ぜて緊張感を維持させており、絵と同様に研究・努力の跡が窺えて良い感じです。

 一方、問題点となるのは主人公の設定でしょうか。キャラクターが『封神演義』の太公望に似ている・・・というのはさておき(笑)、やたらに“ご陽気”で、昼行灯的な性格が少々とってつけたような感じになってしまったかも知れません。
 また、主人公の行動──自分の理想のために、目的はどうあれアッサリと国を捨てた──が果たして多くの読み手を納得させる事が出来るかどうかも、やや疑問が残ります。
 ただ、この辺は読み切りゆえの消化不良といったところで、これを連載化した場合は、後付け設定で主人公の性格形成の過程を描写したり、主人公の行動が果たして本当に正しいのかどうかの哲学論争を展開するなどして、逆に話に深みを持たせる事が出来るかも知れません。(この種の哲学論争を真正面から展開して大成功を収めた作品が、かの『Fate/staynight』です)
 勿論、今回は読み切り作品としての評価付けになりますので、指摘した点は減点対象になりますが、ここを“災い転じて福と為す”…と出来るのならば、この作品を敢えて連載作品として読んでみたい気もしますね。もっとも、「週刊少年ジャンプ」の作品に向いているかどうかは別問題になりますが……。

 今回の評価
 先週の『PMG-0』同様、かなり微妙な判断を要求されてしまいましたが、今回も技術点重視で採点し、ギリギリA−とさせてもらいます。好き嫌いで言えばかなり意見が分かれそうな作品ですから、「ちょっと待ってくれ」という意見もおありかと思いますが……。
 絵にしろ、ストーリーにしろ、演出にしろ、キチンと理詰めの技術で高水準の表現が出来ているのが、当ゼミ的にはポイントの高いところになるんですよね。余りにも穿たない見方をしていると、かえって穿った見方になってしまうという典型例でしょうか(笑)。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 まずはいつも通り巻末コメントから少々。
 「電動歯ブラシにハマっている」という久保帯人さん、ハマるのは結構ですが、あんまり強い振動で磨き過ぎるとマジで歯を根本から痛めてしまいますので注意した方が良いですよ、と申し上げておきます。
 口内炎3箇所同時発生で弱っている空知英秋さん、ちょっと沁みますが、リステリンでうがいをすると、口の中が消毒・殺菌されるせいか治りが早いようですよ、とこちらも申し上げておきます。……昨年歯医者に通ってから、やたらと口内のケアに詳しくなった駒木です(笑)。

 さて、連載作品について少しずつコメントを。

 まず巻頭カラーで人気投票結果発表の『ボボボーボ・ボーボボ』。意外と……と言っては失礼ですが、この作品って、主人公の票が伸び悩んで主要脇役がトップを占める…という、超人気作パターンの投票結果なんですね。しかし首領パッチ、この大差は凄いな……。

 1週限りのカジノ編となった『アイシールド21』。いわゆるインターミッション的なエピソードだったんですが、読んでて「今回の話、結構奥が深いな」と。何と言うか、この作品全体の方向性が圧縮されたような構成だったんですよね。
 前提の設定も、主人公たちの行動内容もトンデモなのに、ディティールだけがやたらと細かくてリアルという。この作品の“トンデモ・リアリズム”は、どうやらこの辺りに根源がありそうな気がします。
 作品中のギャンブル描写については、21歳未満の主人公たちが堂々とプレイしている事を除けば、ほぼパーフェクトです。クラップスのルールやブラックジャックのカウンティングの解説がやや大雑把でしたが、特に間違った事は言ってません。むしろクラップスで客側が集団でバカ騒ぎしている所なんてリアルそのものですし、ちゃんと取材した成果が出ているように思えます。最終的に勝ちを収めた種目が期待値100%越え可能なブラックジャックで、しかもヒル魔がカウンティングの名手なんてのは渋くて良いですね。
 ちなみに実際のカウンティングは、場に出た全てのカードを覚えるのではなく、エースからキングまでの13種類のカードを3つないし4つのグループに分類し、そのグループごとの枚数を差し引きしてプレイヤー側に有利な局面を探り出して、そこでドカンと大勝負する…という作戦です。
 カジノ側もカウンティング対策には結構力を入れていて、カードが偏る前の段階で新しいデッキを組み直したり、明らかにカウンティングをしている客(ヒル魔並に頑張っていても、突然賭け金をドカンと上げたりすると、一発で怪しまれます)にはお引取り願ったりするわけですが、まぁそれを言ったらいつまで経ってもカジノで2000万儲けるのは無理ですから仕方ないですね(笑)。

 そして『DEATH NOTE』は、いよいよ話が社会全体に波及。ここに来て風呂敷が一気に広がって来ていますが、果たしてこの収拾難易度の高い場面でどんな展開を見せてくれるか、今後に注目ですね。

 『無敵鉄姫スピンちゃん』エロビデオの森、この報われない努力が素晴らしい!(笑)。よくぞここまでネタをひり出したもんだと心底感心しました。ちなみに個人的なヒットは『自慰帝王』。何の事と思ったら、『GTO』なんですよね(笑)。他誌の作品挙げて大丈夫? …などと訊きたくなってしまいます。

 ……というわけで、前半分を何とかお送り出来ました。出来れば明日、「サンデー」の内容を採り上げた後半分をお送りしたいと思います。体力と気力が保てればの話ですが……。

 


 

2004年度第15回講義
5月14日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第3週・合同)

 またしても遅くなってしまいましたが、今週分の「現代マンガ時評」をお送りします。さすがに月曜発売の雑誌のレビューを木曜や金曜の夜中にやるというのはマズいと自分でも判ってはいるのですが……。
 兎にも角にも、心身ともにイッパイイッパイの状況ですので、本当に申し訳無いんですが、今しばらくのご辛抱を。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新人賞の結果に関する情報

第12回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年3月期)

 入選=該当作無し
 準入選&十二傑賞=1編
(=本誌か増刊に掲載決定)
 ・『魔人探偵脳噛ネウロ』
  松井優征(23歳・埼玉)
 《講評:読者の意表を突く展開、魔人のキャラクター、魔人と少女の掛け合いの面白さなど、強烈な独自性を感じさせる作品。演出にも光るものが。画力は今後の向上に期待》
 佳作=1編
(=増刊に掲載決定)
 ・『鬼より申す!』
  原野洋二郎(24歳・神奈川)
 
《講評:画力・演出力とも高いレベルにある。話もまとまってはいるが、一方で尻すぼみな印象もあるのが残念。桃太郎がモチーフの作品だが、次回はオリジナルテーマの作品を》
 審査員
(河下水希)特別賞=1編
  ・『ANIDRO』
   普津澤画乃新(18歳・秋田)
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『修羅隠世絵巻』
   佐藤真由(20歳・埼玉)
  ・『Artifitial Life』
   西嶋賢一(23歳・埼玉)
  ・『AKAZUKINかりん』
   菅原たけし(30歳・宮城)
  ・『スカイハンド』
   成瀬葵(24歳・東京)
  ・『From Dusk Till Dragon』
   生樹誉也(23歳・埼玉)
  ・『アニマリスト!!』
   小笠原崇志(25歳・静岡)
  ・『シューティングムーン』
   夕火悠(22歳・愛媛)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎準入選&十二傑賞の松井優征さん…03年8月期「十二傑」で最終候補。
 ◎審査員特別賞の普津澤画乃新さん…00年9月期「天下一」で最終候補、01年7月期「天下一」で編集部特別賞、03年5月期「十二傑」で最終候補
 ◎最終候補の佐藤真由さん…03年12月期「十二傑」でも最終候補
 ◎最終候補の西嶋賢一さん…03年10月期「十二傑」でも最終候補
 ◎最終候補の菅原たけしさん…03年10月期「十二傑」に投稿歴あり。
 ◎最終候補の成瀬葵さん…03年8月期「十二傑」最終候補、03年1月期「天下一」に投稿歴あり、本誌の懸賞当選者発表ページのカット描き経験のある
成瀬奏さんと同一人物?
 ◎最終候補の小笠原崇志さん…03年7月期「十二傑」に投稿歴あり。

 ……今月はやたらと最終候補作が多いと思っていたら、過去の経歴が出るわ出るわ(笑)。あと、佳作の原野洋二郎さんについては、アニメーターで同姓同名の人がいらっしゃるようです。
 それにしても、「十二傑」にリニューアル後、初の準入選が出ましたね。評点でもキャラクターとオリジナリティが◎で、ストーリーと演出が○。何だか当ゼミ向けの作品のような気がするので楽しみではあります。多分本誌掲載になるでしょうし。……しかし、それにしても最近の「ジャンプ」はオカルト路線を重視してるんでしょうか、「青マル」の『みえるひと』といい、「赤マル」の『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』といい、“そっち方面”の作品が目立ちますよね。
 

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(25号)には、読み切り『賈允作:内水融)が掲載されます。
 内水さんは03年52号まで『戦国乱波伝サソリ』を連載していたばかりで、先日読み切りを発表した長谷川尚代&藤野耕平コンビに続く早期の戦線復帰になりますね。
 今回は、昨年の「赤マル」で発表した『詭道の人』のような中国古代史モノになりそうですね。『サソリ』の際は消化不良感の否めない1クール打ち切りだっただけに、本来の持ち味(策略、トリックの構築能力)を活かした作品を期待したいところです。

 ◎「週刊少年サンデー」次号(25号)には、読み切り『天国の本屋』作:松久淳&田中渉/画:桐幡歩)が掲載されます。
 この作品は同名の小説シリーズのコミック化という事ですが、『天国の本屋』はシリーズ最新第3作が小学館からの出版で、しかも今年6月に映画公開を控えており大人の事情の匂いが否が応でも漂って来ます(笑)。まぁ一種の企画モノと考えた方が良いんでしょうね。
 ちょっと調べたところ、この作品は、天国にある不思議な書店“ヘブンズ・ブックサービス”を舞台にした少女と少年の純愛小説との事。シリーズ第1作はマイナー出版社からの発行のために当初は全く注目されず、絶版・廃棄処分寸前になっていたそうですが、最近注目されつつある“書店発”の地道なアピールによってシリーズ3作合わせて50万部のベストセラーになったとか。
 駒木はこの手の“小型で薄いハードカバーの恋愛小説本”というのはコストパフォーマンスの観点から敬遠しがちで(笑)、作品の存在自体も知らなかった位なのですが、ここは恥を忍びつつも全くなニュートラルな視点からレビューをしてみようと思っています。
 なお、この作品のコミック化を担当する桐幡歩さんは、03年前期の「小学館新人コミック大賞・少年部門」の入選受賞者。その受賞作『魔法使いの卵』増刊03年9月号にてデビューを果たしている新人作家さんです。


 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り2本
 「サンデー」:レビュー対象作なし。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年24号☆

 ◎読み切り『PMG-0』作画:遠藤達哉

 ●作者略歴
 正確な生年月日データは散逸して不明だが、99年3月高校卒とのことで、今年度(〜05年3月)24歳になるはず。
 99年度「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞し、その受賞作『西部遊戯』が「赤マル」00年春号に掲載され、デビュー。
 週刊本誌初進出は00年51号『月華美刃』。その後、01年21・22合併号にも『WITCH CRAZE』を発表したが、ここでキャリアは突如中断。今回が3年ぶりの復帰作となる。
 

 についての所見
 
遠藤さんの絵は以前から洗練されたタッチで、新人離れした実力の持ち主という印象がありましたが、今回改めて拝見してみても、印象は変わりませんでした。人物作画に留まらず、背景やディフォルメ、動的表現等も合格点以上総合的な技量は既に連載作家クラスと申し上げて良いでしょう。
 今回などは、演出の一手段として敢えてラフな絵柄を織り交ぜるなど、“小技”も利かせており、芸の細かさも窺えます。この辺はやり過ぎると嫌味になりますが、今回は許容範囲ではないかと思います。


 ストーリー&設定についての所見
 まず、演出全般とセリフ回しなどの言語センス、これは素晴らしいの一言に尽きます。その凄さたるや、逆に演出過多を心配しなくてはならない程で、こちらも「ジャンプ」現連載陣に混じっても十二分に渡り合えるだけの実力が既に備わっているのではないでしょうか。
 この演出とセリフ回しは、展開のヤマ場を数多く作り上げる必要の有る週刊連載では非常に重要なファクターです。そういう意味において、遠藤さんは「ジャンプ」の若手作家さんの中でも最も連載向きの人材ではないかと思ったりもします。

 ただ、今回の作品は少なからず課題も残されていて、これが非常に惜しい所です。

 まずシナリオ。55ページでも何とかギリギリ収まったというような凄いボリュームで、それでいてダレる場面無しのハイテンション、しかもアクションシーン満載というモノでした。
 こういう中身の濃いシナリオを作り上げられるだけで、それは凄い事でもあるのですが、さすがにここまでハイスパート一辺倒だと、やや一本調子感も出てしまったんじゃないかな、とも思います。出来ればもう少し展開に緩急をつけ、「動→静→動」のメリハリを付けた方が良かったのではないでしょうか。クライマックスの“動”の部分は、その直前のシーンが“静”だと良い感じにギャップが出て、“ハラハラドキドキ感”がもっと増すはずですので。

 次に設定について。
 まず、徹底的に設定の“説明”を排し、その代わりにストーリー展開の上で必要最小限の内容だけを“描写”、もしくは登場人物による必然性を持たせた“語り”で表現する…という方向性は、基本的には間違っていないと思います。ただ、完全に“説明”を排するというのは、長期連載では非常に有効なテクニックになるのですが、一話完結の読み切りでそれをやると、読み手が情報不足に陥って混乱を助長する結果になってしまいます。説明の無い設定がポンポン飛び出しても、「これはこの世界観では常識なんだな」と割り切って読む事が出来れば不自由しないのですが、それは読み手に好意を強いるという事ですから、やはり褒められた事ではありませんね。
 そして、主人公の設定についても一言。遠藤達哉作品では題材・ストーリーに関わらず主人公は勝ち気でバイオレンスなヒロインという事になっているわけですが、今回の場合はシナリオ(特に主人公の過去やバックボーン)と主人公の性格が合っておらず、しかも先述の設定の提示不足も相まって、とってつけた感じが出てしまったのは非常に残念でした。ヒロイン像が固まっているのなら、やはりそれに見合った過去やバックボーンを作ってあげるのが筋ではないでしょうか。

 今回の評価
 絵と演出・セリフ回しは即連載級、ただしシナリオ・設定には難もアリ…という事で非常に悩ましいジャッジを強いられてしまいました(笑)。
 ただ、問題点があるといっても、今回の場合は高い技術の使い方を誤った…という感じで決して実力が無い故のミスというわけではありません。その辺は凡百の若手によるB級作品と区別して扱わなければならないでしょう。
 かなり迷いましたが、今回は「甘過ぎる」とのご批判を覚悟しつつも“技術点”を最大限に評価して、A−を出したいと思います。

 先程も申し上げましたが、遠藤さんは週刊連載向きの技術を持った作家さんですので、未熟な面には目を瞑って、週刊連載に抜擢するのも面白いのではないかと思います。ただし、その際には今以上のシナリオや設定の練りこみが必要になって来ますけどね。


 ◎読み切り『兄弟仁義』作画:大石浩二

 ●作者略歴
 当ゼミ開講以来のデータでは、新人賞の受賞歴、過去の週刊本誌&増刊掲載共に無く、経歴は全く不明。今回がデビュー作と思われる。

 についての所見
 
今回の9ページ作品だけで、実力の程を正確に把握するのは難しいですが……。
 まず、人物作画は多少未熟な面も見受けられますが、ギャグ作品としては許容範囲でしょう。どことなく“ヘタウマ”っぽい雰囲気もありますし、4コマやショートギャグで活動していくのなら、これも一つの味でしょう。
 ただ、背景の描き込みやトーンの使い方などの部分は正直厳しいかなと。特にトーンは全てベタ貼り状態で、これはとてもプロの仕事ではありません。
 総合すると、絵は及第点にやや足らず、減点の対象…といったところでしょうか。

 ギャグについての所見
 今回のネタを見る限りでは、かなり意識的にシュールなギャグを狙っていっているようですね。オチの時点で敢えて落とさず、読み手に笑い所を考えさせるような渋い展開で攻めているネタもあり、なかなかのセンスを感じさせます。
 ただ、未だコンスタントに読み手を笑わせるためのメカニズムというか、自分の“勝ちパターン”を探し出せていないようで、ネタのクオリティや方向性にかなりのバラツキがあったのは残念でした。まだセンスに実力が追いついていない、といったところでしょうか。

 今回の評価
 ギャグのセンスはあるものの、現時点での絵を含めた総合力はまだ“要修行”のレヴェル…ということで、今回はB−としておきましょう。ただ、これでシュールギャグのパターンを掴んでしまえば、物凄い“ホームランバッター”になる可能性も秘めていると思われ、その意味ではもうしばらく後に是非新作を拝見したいところでもありますね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントでは、岸本斉史さんと和月伸宏さんが故・横山光輝さんへ追悼のコメント。駒木からも改めてご冥福をお祈りさせて頂きます。どんな優れた歴史教育者よりも偉大な方だったと思います。個人的には『バビル2世』のストイックなストーリー展開が非常に印象的でした。
 ……さて、他の方のコメントですが、朝夕のジョギングを始めたという村田雄介さん、それにしても週刊作家らしくないヘルシーさですね(笑)。というか、朝夕ジョギング出来るぐらいスケジュールに余裕があるという方が驚きです。
 一方、毎日のように悪夢にうなされて寝起きが悪いのが東直輝さん。やっぱり夢の内容は担当編集からの「残念だけど、今日の編集会議で決まったよ……」という報告を受ける夢なのでしょうか。

 さて、作品についても少々。
 いつの間にか連載3周年の『Mr.FULLSWING』。そうですか、「短期打ち切りには惜しい作品だなぁ。でも終わりそう」と思っていたのがもう3年前になりますか(笑)。
 まぁ駒木も含めて色々と批判される事も多いこの作品ですが、実は大まかなストーリーそのものは、スポーツ系マンガの王道そのものなんですよね。そういう意味では、エンタメとしての基本線は押さえているとも言えるのですが、基本線さえ押さえておけば後はどうでもいいって事も無いわけで(苦笑)。
 今のペースで言えば向こう5年分くらいのストーリー上の伏線が既に張られているのですが、果たしてどこまで状況が許してくれるのでしょうか……。

 『アイシールド21』「死の行進」編が終了。いわゆる“特訓編”としては、内容のボリュームや展開のテンポなど諸々含めてなかなかの好バランスだったんではないかと。次回からはカジノ編ですが、現実のアメリカの法律では21歳未満のカジノ立ち入りは不可となっています、念のため。
 まぁこのマンガの世界観だと、脅迫手帳1冊で日本の国連常任理事国入りも出来そうな感じですから(笑)、これくらいであれこれ言うのは野暮ってもんでしょう。……ただ個人的には、こういう「所詮マンガだから」というエクスキューズを確信犯的に利用しちゃうのは、あんまり感心出来ないんですけどね。言ってみれば、法律のグレーゾーンみたいなもんですから。

 あと今週号では、奇しくも『NARUTO』『武装錬金』『BLACK CAT』の3作品で“敵キャラ一気に殲滅”というストーリーでした。誰がどうとは言いませんが、3者の(というか主に2者と1者の)実力差が、それこそカズキとホムンクルス蝶・成体の力量差くらいハッキリしていたなぁと思いました(笑)。

☆「週刊少年サンデー」2004年24号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「ひとつだけ超能力がもらえるなら、何を選びますか」。
 作家さんの回答では結構答えが割れたのですが、「サンデー」が誇るムッツリスケベ・河合克敏さんを筆頭に、透視能力が3票でトップとなりました(笑)。しかし、皆さんいい年して……(苦笑)。
 駒木は色々便利な予知能力……と言いたいところですが、未来を先に知ってしまうというのはデメリットも大きいので、予知はちょっと遠慮したいなと。馬券が100%当たるのは、ある意味魅力なんですけどね。
 あ、「物凄いスピードで素晴らしい文章が書ける能力」なんか良いですね。うん、欲しいですこの能力(笑)。

 さて、作品についてもコメントを少々。
 今週は『MÄR(メル)』スカスカ感溢れるバトルシーンがネガティブな意味で話題沸騰のネット界隈でしたが、個人的に一番頭を痛めたのは『ワイルドライフ』でした。何と言うか、『風のシルフィード』のデキの悪い時を思い出すというか薄っぺらい取材内容だけを頼りに、付け焼刃の知識でネームを書き殴っているのが丸判りで不快感を禁じ得ませんでした。
 少し前の牛肉ネタもそうですが、最近のこの作品は取材内容を何の工夫も無くマンガの形で紹介して一丁上がり…みたいなパターンが多いんですよね。スーパーで買った惣菜を客に出す三流居酒屋じゃあるまいし、貴方にプロとしての矜持は無いのですか? …と質問したくなります。まぁ担当が担当(あの冠茂編集)ですから、どこまで作家さんにイニシアティブがあるのか判りかねる部分もあるのですが……。

 苦言ばっかりで終わらせるのもアレなので、最後に今回も見事な後付けが炸裂した『からくりサーカス』で口直しを。
 「本当の天才とは生まれながらに備わった、優れた才能のことではない。努力し続ける才能のことを言うのだ」……という“天才の定義”ですが、各分野の“天才”の人たちの話を聞くと、まさにこの定義に当てはまる人たちばかりなんですよね。最も素質に恵まれた人が他の誰よりも真剣に仕事に取り組んでいるんですから、そりゃあ業界の第一人者になるわなぁ…といったところです。
 そういう人たちの話を聞くにつけ、自分の凡人ぶりを思い知らされますね、いやホントに。もっともっと精進しないとイカンです。

 ……と、自己反省したところで今週はこれまで。来週も体調と相談しながらの講義実施となりますが、どうか何卒。

 


 

2004年度第12回講義
5月7日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第2週・合同)

 何やかんやでやっぱりやってしまう、合併号休み恒例の「赤マルジャンプ」全作品レビューをお送りします。

 毎回疲れた頭と体にムチ打って全部の作品にレビューをつけてはネット界隈の顰蹙を買うの繰り返しで、本当自分でも大概考えろと思うんですが、やっぱり何やかんやで全部の作品に一言以上言いたくなってしまうんですよね。特に今回は毎年A級評価の作品が出る春号ですし。……まぁそれだけ作家さんからの(正&負もしくは腐の)パワーがこちらに伝わって来るだけの何かが「赤マル」にあるという事なんでしょう。
 で、「赤マル」に構っている分だけ「サンデー超増刊」の方はワリを食ってしまうわけなんですが、こちらは今まで通り、傑作・注目作を中心に通常カリキュラムの中で紹介する事にしたいと思います。今回発売のGW号でもいくつかそういう作品も見つけていますしね。

 ……というわけで、「赤マルジャンプ」04年春号のレビューを始めます。いつものように連載作品の番外編はレビューから除外させてもらいます。あと、講義準備時間短縮のため、レビューはいつもよりアッサリ風味な部分もあると思います。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

◆「赤マルジャンプ」04年春号レビュー◆

 ◎読み切り『ALL THE WAY DOWN』作画:森田まさのり

 ●作者略歴
 1966年12月22日生まれの現在37歳
 84年上期「手塚賞」で佳作を受賞(森田真法名義)し、受賞作『IT'S LATE!』が「フレッシュジャンプ(注:80年代に出版されていた、「ジャンプ」版「月刊サンデー超増刊」のような若手作家の登竜門的月刊誌)に掲載されてデビュー。その後、85年上期「手塚賞」でも佳作を受賞し、86年から87年にかけて当時の「少年ジャンプ」季刊増刊で3回の掲載を果たす。
 週刊本誌初登場は87年50号掲載の『BACHI−ATARI ROCK』。これがリメイク、改題の末に連載化されたのが『ろくでなしBLUES』で、8年9ヶ月間・422回(88年25号〜97年10号)にも及ぶ長期連載に。
 その後、1年ほど読み切り中心のマイペースな活動を続けた後、98年より『ROOKIES』を連載(98年10号〜03年39号、途中中断あり。通算239回)
 今回は連載終了以来初の作品発表。ちなみに『ろくでなし──』連載終了後にも「赤マル」でオールカラー5ページの読み切りを発表した事がある。   

 についての所見
 
「自分にこの人の絵をどない語れっちゅうんや!」…と逆ギレしたくなりますね(笑)。人物作画といい、見る人が見れば一発で後楽園ホールと判る背景描写といい、こういう企画モノ的な作品でも一切手抜きナシ。さすがです。
 ただ、どうでもいい話ですが、ボクシングの興行では後楽園ホールがギッシリ超満員になる事はありません(笑)。まぁこのへんはストーリーも含めてファンタジーなのかな…とも思ったり。

 ストーリー&設定についての所見
 5ページという条件上、ギリギリまでネームを削り、何とかストーリーを詰め込もうとした努力の跡が窺えますね。モノローグとイメージ映像を駆使して最小限のコマ数で設定とシナリオの消化を狙っています。ただ、さすがにこの内容で5ページは厳しかったような気もしますが……。

 ところで今回のシナリオ、何だか既視感があったので記憶を巡らせて見ると、どうやら名作・『まんが道』に出てくる“作品中作品”の1つと題材やプロットが似ていました。まぁ細かい内容は全然違うので、偶然似たアイディアが数十年のタイムラグで天から降って来たのでしょう。
 ちなみにその“作品中作品”、足塚先生が「漫画少年」の加藤編集長から「一晩で2ページ代原描いてくれ」という無体な注文を受けて描いたもの。ちなみにこの『まんが道』では、若き日の石ノ森章太郎さんが一晩で32ページの別冊読み切りを描いたりとか強烈なエピソードが満載です。もし冨樫義博さんが昭和30年代の作家さんだったら、トキワ荘から過労死する若手作家が出てたかも知れません(笑)。

 あ、余談ついでに今回のストーリーについて述べておきますが、実際のプロボクシングでは、今時こんな面倒臭い八百長は一切行われていないはずです。(八百長で連敗中の)落ち目な日本人ボクサーよりも、タイあたりの国内ランカー選手を呼んで来て噛ませ犬やらせた方が手堅いですし(東南アジア人噛ませ犬ボクサーのお仕事振りは閉口するくらい徹底してます)、勝たせた選手の出世にも効果的ですからね。
 まぁこの辺は“素人目にはリアリティのあるファンタジー”という事で不問とするべきなのでしょう。ただ、熱心なボクシングファンの森田さんがこんな安易なネタ作りをするというのは如何なものかとは思いますが。

 今回の評価
 プロのお仕事が為された作品で、完成度も高いのですが、A級評価を出すには躊躇する……ということでA−寄りB+とします。

 
 ◎読み切り『ゴーウエスト!』作画:いとうみきお

 作者略歴
 1973年3月26日生まれの現在31歳
 和月伸宏門下のいわゆる“和月組”出身で、デビューは「赤マル」98年夏号掲載の西部劇・『ロマンタジーノ』(伊藤幹雄名義)。  
 週刊本誌進出は99年10号(デビュー作の同名続編)で、同年49号にも西部劇・『トランジスター』を発表。
 翌00年には『ノルマンディーひみつ倶楽部』で初の週刊連載を獲得(00年24号〜01年20号、46回)
 その後1年のブランクがあって、02年29号に読み切り・『ジュゲムジュゲム』で復帰。この作品が改題・連載化されたのが『グラナダ ─究極科学探検隊─』(03年1号〜16号、1クール16回打ち切り)
 今回は約1年ぶりの復帰作となる。

 についての所見
 
2度の連載を経験した作家さんですから、作画の粗がどうこうといった点は無いですね。
 ただ、スタジオの台所事情がアレだったのでしょうか、背景の描きこみが若干甘く、心なしか若干大味な印象を受けてしまいました。

 ストーリー&設定についての所見
 戦いに生きる格闘バカを主人公にした、いわゆるB級アクション映画的、直球勝負なシナリオですね。確かに中途半端な趣向を凝らして消化不良に終わるよりも、こちらの方が逆に完成度が上がる場合もあります。
 ただ、シナリオに技巧を凝らす努力を放棄する以上は、その“直球”の球速を上げる、つまり読み手のカタルシスを最大限引き出さない事には単なる「単純なお話」で終わってしまいます。そしてこの作品はまさにその「単純なお話」で終わってしまった感が強いです。

 “敗因”となったのは、恐らくキャラクターの数を必要以上に増やし過ぎ、そのせいで“ラスボス”との戦闘が淡白になってしまった所でしょう。このせいで“直球”の球速が落ち、単なるハーフスピードの棒球になってしまったのではないでしょうか。
 また、メインアイディアである“ロトン”の設定が、作品の魅力を増す方に活かされず、ストーリー展開の潤滑剤の役割に留まってしまったのも大きな問題だったと思います。これがもし“格闘バカが拳一つで語り合う話”であれば、ベタながら良い意味でのバカさ加減が出て来て印象も大きく違って来たのではないかと思うのですが……。

 今回の評価
 典型的な“プロの作家が描いた凡作”ということでB評価とします。この作品に価値を見出すとすれば、前作『グラナダ』で患ってしまった“設定過多病”から立ち直るリハビリ効果ぐらいでしょうか。……まぁとにかく全てをリセットしたいとうさんの次回作に期待しましょう。 

 
 ◎読み切り『窯神』作画:岩本直輝

 ●作者略歴
 
1985年8月5日生まれの現在18歳
高校卒業したばかりですね。
 02年1月から「ジャンプ」への投稿活動を開始、02年3月期及び7月期「天下一漫画賞」で最終候補に残って“新人予備軍”入り。その後、リニューアル第1回の「十二傑新人漫画賞」03年4月期で佳作&十二傑賞を受賞し、受賞作『黄金の暁 ─GOLDEN DAWN─』でのデビュー権を獲得
 実際にデビューを果たしたのは「赤マル」03年夏号。今回はそれ以来2度目の作品発表となる。

 についての所見
 
前作に比べると、大分無駄な線が無くなってスッキリして来ましたね。さすが10代、進歩が早いです(笑)。
 ただし、プロ作家の絵として評価した場合、まだまだ粗い部分も見られます。特に人物作画、しかも顔の部分が歪んでいるものも見受けられ、このあたりは未だ改善の余地を残していると言えそうです。

 ストーリー&設定についての所見
 先程の『ゴーウエスト!』と同じく“直球勝負”系、しかも随分と使い古されたストーリーラインをベースにしたシナリオですね。全くの他人である男性を勝手に片想いの相手の恋人と誤解する…というプロットの、余りの手垢の付き具合に閉口した読み手もいただろうと思います。

 ただ、この作品はそういった欠点だけが目立つ作品ではなく、セールスポイントもあるのが嬉しい所です。
 特筆すべきなのが、ヤマ場での主人公の心情描写。これも昔から使われているパターンだと言われればそうなのかも知れませんが、しかし人間の弱い部分と強い部分をリアルに、そして堂々と描き出した技量は積極的に評価しなければならないと思います。
 また、設定を下手な説明ナシに物語の中へ溶け込ませた事、そして安易なバトルに頼らず人間ドラマを描いた事なども評価すべき点だと思います。ベタで単純な話に見えて、なかなか奥の深い作品です。

 今回の評価
 未だキャリア不足を主因とする課題も残されているものの、順調に才能が育っているのが窺えますね。
 評価は、少々甘めかも知れませんが、心情描写の出来の良さを買ってB+寄りA−とします。まだ週刊連載を任せるには時期尚早かも知れませんが、地道に実力をつけ、未来の看板作家目指して頑張ってもらいたいものです。

 
 ◎読み切り『爆走妖精ロンタ』作画:岩渕成太郎

 ●作者略歴
 1982年11月21日生まれの現在21歳
 03年上期の「赤塚賞」で佳作を受賞し、“新人予備軍”入り。今回がデビュー作。

 についての所見
 
デビュー作、しかもギャグ作品という事を考えると大目に見たくなるのですが、それでもやはり未熟な点が目立ちますね。
 特に動的表現や、集中線などの特殊効果の使い方にぎこちなさが残っており、根本的な画力の無さがそれを更に際立たせてしまっている…という感じです。
 そもそもが幼さを感じさせる画風ですので、もうちょっと洗練されたタッチが描けるようにしてゆくべきだと思います。

 ギャグについての所見
 まず評価出来るのは、とにかくギャグの密度を上げようとする姿勢と、セリフ回しで笑わせるギャグの技術でしょうね。不発に終わったネタもあって手放しで褒める事は出来ないのですが、なかなかの言語感覚の持ち主だと思います。
 ただ、裏を返せば、読み手を笑わせるのに言葉に頼り過ぎの面があり、間やアクションで笑わせる方の技術には幾らかの物足りなさが残ります。それでも、進むべき方向性は間違っていないように思えるので、今後の技術向上に期待する余地はあるでしょう。

 今回の評価
 全く見所ナシというわけではないのですが、やはり未熟な面が目立ってしまいますね。画力の減点を差し引いてB寄りB−としておきます。こちらは少し厳しいかな?
 あと、言語センスで笑わせる作品を追求する場合、問題になってくるのが空知英秋さんとの作風バッティングでしょうね。特に空知さんの場合は人情噺を交えて単なるギャグで終わらせないだけの技量があるだけに、現状の岩渕さんでは正直相手にならないのでは…と思ってしまいます。道半ば、先は未だ遠し…といったところでしょうか。

 
 ◎読み切り『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之) 

 ●作者略歴
 西義之名義での活動歴は、『アイシールド21』初期のアシスタントとしてのものが確認されるだけで、作家としてのキャリアは確認できず。ただし、手塚賞・赤塚賞の告知ページに載っていた「第57回(99年上期)手塚賞準入選」という経歴から、99年デビューの若手作家・多摩火薬さんと同一人物と考えられる。もしそれが事実なら、手塚賞受賞(99年春)当時22歳なので、現在26〜27歳ということになる。  
 《付記:多摩火薬さんのプロフィール》
 99年上期「手塚賞」準入選を受賞し、受賞作『サバクノオオクジラ』が「赤マル」99年夏号に掲載され、デビュー。その後、小畑健さんのスタジオでアシスタントを務めつつ執筆活動を続け、「赤マル」01年春号で『ARROWS』を発表。しかし、その後の活動は不明。

 についての所見
 
多少粗さも感じますが、それ以上に「個性的」という印象の方が強いですね。作品の系統にもよりますが、今の絵柄をベースに線を洗練させてゆくと、現在の「ジャンプ」作家さんでは他にいないような作風だけに、これは大きな武器になると思います。
 「せっかくのサービスシーンもこの絵柄では……」という声もあるようですが、個人的には、今回のような“エロを感じさせないサービスシーン”の方が、世界観にマッチしているような気がしないでもないです。

 ストーリー&設定についての所見
 主人公2人(ムヒョ&ロージー)のキャラクターと魔法律関連の世界観が大変に秀逸です。それぞれの設定は全くのオリジナルというわけではないのですが、“偽悪人の弁護士と良識派の助手が主人公の法律相談モノ”をオカルト風味に変換する…というアレンジが極めて独創的で、それがそのまま作品のオリジナリティに繋がっていますね。
 また、設定や世界観の描写もスムーズで、それもシナリオ上の伏線としても利用するなど、若手離れした技巧も感じられます。少なくとも「赤マル」で甘んじるレヴェルの作品ではありません。手塚賞の佳作受賞作を週刊本誌に載せるぐらいならこっちを…と思ってしまうくらいですね。

 欠点としては、ページが足りなくなったのでしょうか、依頼人である女生徒の心理描写が不足しており、クライマックスの展開がやや強引になってしまった所でしょうか。シナリオの持っていき方自体は問題なかったのですが、そのせいで説得力を欠いてしまいました。そこを押さえていればほぼ完璧だっただけに惜しかったですね。 

 今回の評価
 先述の欠点のせいで画竜点睛を欠いた印象がありますが、それでも総合的に見て非常に高い水準にある作品だと思います。とりあえずの評価はA寄りA−ということにしておきましょう。
 長編としてのプロットを上手く練られれば、十分週刊連載に耐え得る作品だと思いますので、あと1〜2回読み切りで試運転した後、順調なら連載に踏み切るのもアリだと思います。


 ◎読み切り『天空の司書』作画:やまもと明日香

 ●作者略歴
 1980年7月10日生まれの現在23歳
 プロとしての活動履歴は無いが、インターネット上での情報によると、数年前から「ジャンプ」への投稿活動をしていたという説も。今回がデビュー作で、恐らくは持ち込み作品が編集会議を通過したのだろうと思われる。  

 についての所見
 
「技術はまだまだですが、勢いに任せて描き切りました」という作者の声が聞こえてきそうな作画でしたね(笑)。全体的に見て、ちょっと稚拙な面が目立ってしまいましたか
 具体的に指摘すると、線の細い太いにメリハリが無いのと、本来細かい描写が必要な部分の仕上げが特に荒っぽくなっているのを感じますね。その結果、見辛さ、読み辛さを感じてしまうのではないかと思います。

 ストーリー&設定についての所見
 本の世界の中に入って冒険する…とか、いわゆるエリート養成学校モノとかいった、よくあるパターンを寄せ集めて作ったプロットですね。ただ、その割に手垢がついた感じが余りしないのは、恐らく主人公の「体育会系から文化系(しかもガリ勉メガネ系)への転身」…という設定が新鮮だったからでしょう。
 そのシナリオの展開そのものは悪くないのですが、主人公が司書を志した動機となる回想シーンを後回しにしたのはハッキリ言って失敗だったと思います。主人公の言動に本来あるはずの説得力が感じられず、せっかくのセリフに説教臭さが感じられてしまいました(もっとも、セリフ回し自体も少々カッコつけ過ぎだと思いますが……)。
 この際、最初に回想シーンを持って来て主人公の思想・行動に説得力を持たせ、クライマックスで更に回想シーンのヤマ場を持って来てシナリオを盛り上げる…という形にすれば印象も見違えたのではないかと思います。

 今回の評価
 決して悪い作品とは思わないのですが、絵の見辛さと前半の説教臭さが足を引っ張って、読み手の印象を損ねる作品になってしまった感じですね。評価はB寄りB−ということにしておきましょうか。

 
 ◎読み切り『新地球人ひゅう』作画:吉田真

 ●作者略歴
 99年下期「手塚賞」で準入選を受賞し、その受賞作『キンダガーデン ─KINDERGARDEN─』が「赤マル」00年冬(新年)号に掲載されてデビュー。受賞当時25歳ということなので、現在は29〜30歳。 
 その後、やや空白期間があって、週刊本誌02年1号に『桃太郎の海』が代原掲載「赤マル」02年夏号に読み切り『UN☆TURBO』を発表した。今回はそれ以来、1年9ヶ月ぶりの新作発表となる。

 についての所見
 
リアルタッチとディフォルメの使い分けがさりげなく出来ていたり、動物の作画もソツなくこなせていたりと、ナニゲに技術を感じさせてくれますね。
 注文をつけるとすれば、人物の顔の輪郭にもう少しバリエーションを持たせれば良いんじゃないかという事と、所々で背景やディティールに粗い部分が見られるという事でしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 まず、ナンシーのような生徒(さすがに顔はヤマンバではありませんが)を多数抱える所に勤務する身としては非常に心の痛い作品でした(苦笑)。

 ……まぁそれはさておき、シナリオと設定の完成度はかなりの水準に達していると思います。特に主人公の能力(動物と会話できる)がストーリーによく活かされているのが良く、スムーズに読み込んでいけます。また、設定やその描写についても上手くまとめられていますね。
 ただ、惜しかったのが最後にナンシーが改心する場面。後者の屋上から落ちそうになった時に隠していた弱みが出る…というのは良いのですが、そこからウサギを持って帰って飼うところまで改心するというのは飛躍し過ぎじゃないでしょうか。ストーリー上はお約束のパターンだけに、読み飛ばしていると誤魔化されてしまいそうですが、こういう“甘え”は、特に若手の内は今後のためにも良くないと思います。

 今回の評価
 長所、短所それぞれということで評価はB+に。もともと淡々としたストーリーになる作風の人だけに、今回のように主人公のキャラが淡々としている方が良いですね。「少年マンガは主人公が熱血していないといけない」…なんてセオリーに惑わされず、独立独歩でやってもらいたいものです。

 
 ◎読み切り『Kick!コータ!!』作画:村瀬克俊

 ●作者略歴
 03年11月期「十二傑新人漫画賞」で佳作&十二傑賞を受賞(受賞当時24歳)し、その受賞作『福輪術─ふくわじゅつ─』が04年2月発売の「青マルジャンプ」に掲載されてデビューしたばかり。

 についての所見
 
「十二傑」受賞時から画力の高さには定評のある作家さんだけあって、今回もなかなか見事な作画を見せてくれました
 ただ、ちょっと気になるのが人物の表情の硬さと、動的表現のぎこちなさ。特に動的表現に関しては、全身の動きを表現しなければならない所で手や足のパーツしか動いているようにしか見えない場面もあり、これは今後の課題と言えそうですね。
 あとは格闘シーン、絵だけで表現出来ない部分をセリフで補完させるのはセオリーですが、せめてそのセリフの内容と絵に矛盾が無いように描写してもらいたいものです。どう見てもパチョレック・スミスがローキックをマトモに喰っている場面があるんですよね。

 ストーリー&設定についての所見
 格闘技好きの駒木から見ると、細かい部分で指摘したい所は山ほどあるのですが、まぁマンガの世界のお話ですし、明らかな事実誤認でも無い限りは不問とすべきなんでしょうね(笑)。ただし、もうちょっとディティールを補強するような取材や勉強に励んで下さい…とは申し上げておきます。

 で、シナリオについてですが、オーソドックスな格闘技モノ読み切りのストーリー──伸び悩んでいる主人公が、リング内外で苦闘の末に怖いもの知らずの強豪に逆転勝ちする──ですね。随分と使い古されたパターンですが、“偉大なるマンネリ”という言葉もありますし、キッチリと読み手のカタルシスを喚起するシナリオになっていますから、これはこれで良いんじゃないでしょうか。むしろ、デビュー2作目にしては手堅くまとめた方だと思います。
 ただし、主人公・孝太の心理描写がやや甘く、気持ちと行動が一致していない部分が見られる事など、何気ないところで割と大きな欠点もあったりします。冒頭とクライマックスを繋げる「こんなもんだぜ俺の可能性」の伏線も、意味が有るようで実はほとんど意味が無く(しかも微妙に語呂が悪い)、自己満足に終わってしまっているのも残念な部分です。
 シナリオにヒネりを利かせようという意欲は買えるのですが、それは諸刃の剣である事をもっと意識して、シナリオの完成度を上げる努力を怠らないようにしてもらいたいものです。 

 今回の評価
 オーソドックスながら好感度の高いシナリオ、ある程度しっかりしている作画と、いわゆる「『面白い』と感じさせる作品」にはなっているのですが、当ゼミ独特の採点基準では減点材料もままあり、評価はB+寄りBになってしまいます。

 
 ◎読み切り『吉野くんの告白』作画:坂本裕次郎

 ●作者略歴
 1980年4月18日生まれの現在24歳
 01年5月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。その後、03年上期「手塚賞」で準入選を受賞し、週刊本誌03年29号に受賞作『KING OR CURSE』が掲載されてデビュー
 その後、04年2月の「青マルジャンプ」で『デス学!!!』を発表し、今回はそれ以来3度目の作品発表となる。

 についての所見
 
今回がデビュー3作目ですが、すっかりアカ抜けて来ましたね。特に今回は少年、マッチョ、変態2種(笑)、美少女と、色々なパターンの人物作画が出来ていて、これはポイント高いですね。
 全体的に線が細い上、ちょっとコマの中の空き部分が大きくて、“スカスカ感”があるのが気になる部分ですが、これももうちょっと絵柄が洗練されて来たら一種の個性になってゆくのでしょう。

 ギャグについての所見
 コメディかギャグがジャンル分けが難しい作品ですが、公式にはスラップスティック(=いわゆるドタバタ喜劇)という事ですので、ストーリーよりギャグの要素を重要視すべきだと判断しました。

 というわけで、ギャグについてですが、わざわざスラップスティックと“公式発表”しているだけあって、非常に小気味良いテンポで話やギャグが展開していってますね。しかも時には間を持たせて緩急をつけてもいますので、一本調子に陥る事も避けられています。
 しかも勢いだけではなくて技術的な面にも裏付けがあります。ページをまたいでオチを持って来る手法や、ツッコミを強行突破してのボケの畳み掛けも上手く使われていますね。
 そして特筆すべきは大ゴマの使い方。本来なら小さいコマを幾つも使わないと出来ない遣り取りを、1つの大ゴマの中で済ませているのでテンポが良いんですよね。
 そんな中で課題を挙げるならツッコミでしょうか。今回はボケのキャラが濃すぎたので致し方ない部分もありますが、もうちょっとツッコミで転がす笑いも追求して欲しかったです。

 ちなみに個人的に爆笑モノだったのは、「この銃弾がヤツを貫く確率100%ォオオオ!!!」でした。そんな「青マル」読者にしか判らんようなネタをわざわざ織り込まんでも(笑)。

 今回の評価
 デビュー以来、色々なタイプの作品にチャレンジしているみたいですが、その甲斐あってか、ストーリー系でもギャグ系どちらでも通用する“スイッチヒッター”に成長しつつありますね。今後に期待です。
 さて、今回の作品の評価ですが、技術点を高く見てA−としましょう。ただ、読者を選びそうな作品ではあるので、この評価に不満な方もいらっしゃいそうですが……。

 
 ◎読み切り『鳥獣奇画』作画:角石俊輔) 

 ●作者略歴
 03年4月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。当時21歳で、現在は22〜23歳。 デビューは04年2月発売の「青マルジャンプ」に発表した『歌歌』今回がデビュー2作目となる。  

 についての所見
 
「青マル」掲載のデビュー作の時にも絵の稚拙さを指摘しましたが、今回もやはり難アリですね。少しはマシになった部分もあるのですが、動的表現、集中線などの背景処理が上手く出来ていない場面が多く見受けられます。これをどうにかしない事には、週刊連載云々を言える所まで行けないでしょうね。

 ストーリー&設定についての所見
 前作の時も思ったのですが、角石さんの描く世界観は、原則的に性善説なんですね。今回の敵役妖怪はさすがに例外でしたが、普段は悪事を働いている連中でも、いざとなったら心のアツい部分が顔を覗かせて、主人公の味方をしてくれる……というパターンが多いようです。
 確かにこのパターンは、ドラマなどでもよく使われたりするのですが、読み手に爽快感を与える反面、善意や正義のバーゲンセール状態になってしまうので、作品を安っぽく見せてしまう側面もあると思います。あらかじめキャラクターの内面を丹念に描いておかないと、急に悪役が善玉にクラスチェンジしても値打ちが出て来ないんですよね。
 あと、主人公の“擬似スーパーサイヤ人化”の発動条件が「自分の料理にケチを付けられる事」というのも如何なものかと。……まぁ説得力の無い説教臭い正義についてのご高説をブチ上げられるよりはマシなのですが、これも作品の値打ちを安くしてしまっている感が否めません。

 「こういう話を描けば読み手は良い気持ちになれる」というところのセンスはバッチリなのですから、今後はそのシナリオに説得力と重厚さを増す努力をしてもらいたいと思います。

 今回の評価
 サジ加減が難しいですが、ストーリー・設定は『ゴーウエスト!』と同等と見るも画力の分だけ減点、しかし『天空の司書』よりは総合的に上という事で、B−寄りBくらいでしょうか。もうちょっと微妙なクラス分け基準が欲しくなってきますね(笑)。

 
 ◎読み切り『スカイフィッシャー楽丸』作画:阿部国之

 作者略歴
 1980年7月24日生まれの現在23歳
 02年7月期の「天下一漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。今回デビュー
 追記:河下水希さんのスタジオでアシスタントの経験があるそうです)

 についての所見
 
デビュー作とは言え、1年半の“予備軍”期間が活きているのか、「赤マル」作品としては及第点以上のデキにはあると思います。もうちょっと個性というかインパクトの強い絵柄になれば更に良いと思いますが、これは次回作に向けての“宿題”ですね。

 ストーリー&設定についての所見
 冒頭の世界観や設定の描写、そしてキャラクターと行動の整合性といったストーリーテリングの技術には目を見張るものが感じられます。特に悪役の予定調和を排したキレっぷりには、ある種のセンスを感じましたね。悪役の悪っぷりは、ある一線を超えると逆に嫌らしさが無くなったりするんです。
 ただ、今回はシナリオに注文がつきますね。被害者である“海の神”が加害者的な扱われ方に終始してしまったために違和感が抜けませんし、せっかく整合性を保って描かれた主人公たちのキャラクターが、単なる悪ガキの域を抜け出していないので、微妙に感情移入し辛かったりもします。また、ラストシーンで何の理由も無く主人公が旅に出るというのは如何なものかと。“お約束”の展開にも多少の理由をつけないと、とても強引に感じてしまいます。

 今回の評価
 一定以上の技術は備わっているのですが、今回はその使い方を間違えてしまった…という所でしょうか。今度は仲間や編集さんとも相談して、良いシナリオを練ってもらいたいと思います。力はある人です。
 今回の評価はBとしておきます。

 
 ◎読み切り『GIMMICK』作画:森本尚司

 ●作者略歴
 1979年11月27日生まれ、現在24歳
 新人賞の受賞歴は無く、「赤マル」02年夏号で『MAP’s』にてデビュー。今回はそれ以来1年9ヶ月ぶりのデビュー2作目となる。  

 についての所見
 
02年夏号のデビュー作の際にも指摘したのですが、一見上手そうに見える絵柄ながら、実は動的表現や表情の変化にかなり難があるんですよね。2年弱の空白期間に何も出来なかったのか…と、ちょっと苦言を呈したくなってしまいますね。

 ストーリー&設定についての所見
 いやー、見事なまでに『武装錬金』第1話ですね(まぁ『武装錬金』第1話のプロットもオリジナリティ満点の話じゃないんですが)。それは言い過ぎにしても、いかにも「ジャンプ」のトレンドを追いかけたシナリオと言えそうです。
 まぁプロですから、トレンドに迎合するのも一つの立派な見識だと思います。ただし、それをするならシナリオ、設定を練る方にもエネルギーを費やしてこそ本当のプロだとも思うんですよね。
 あからさまに怪しい人物がそのままラスボスだったり、一人相撲を取るだけとって主人公の足を引っ張る特殊工作員(必然性の無い変装と、その変装をする意味すら無くす無責任な言動、戦ってもこの上無く役立たず)の暴走など、工夫の足りない所が多過ぎます。 

 率直な感想を言わせて頂くと、今回のお話は『武装錬金』矢吹健太朗イワタヒロノブ合作で描いたようなシナリオだったと思います。そういうのが好きな人には申し訳ないですが、当ゼミの評価基準に照らし合わせると最低に近い点数をつけざるを得ません。 

 今回の評価
 売れセンを追求するなら存分にやって頂いて良いと思います。ただし、するならするでもっと絵柄を磨き、読み手のカタルシス、読後爽快感、好感度を高めるような手法を身につけないと苦しいんじゃないでしょうか。
 今回の評価は赤点ギリギリのC寄りB−です。

 
 ◎読み切り『HURL KING』作画:新井友規

 ●作者略歴
 1983年3月12日生まれの現在21歳
 02年11月期「天下一漫画賞」で審査員(鈴木信也)特別賞を受賞し、“新人予備軍”入り。その後、03年12月期「十二傑新人漫画賞」で十二傑賞を受賞し、受賞作デビュー権獲得。今回はその権利を行使してのデビュー第1作となる。  

 についての所見
 
ミもフタも無い表現で言うと、『スラムダンク』を目指したが、実力が足りなくて『キックスメガミックス』に似てしまった……みたいな感じでしょうかね(笑)。もうちょっと画力全般を磨かないと、今後の活動では厳しい面もあろうかと思います
 とはいえ、かの井上雄彦さんもデビュー当時と今では全然絵柄が違いますからね。日々憧れの人目指して精進してもらいたいものです。 

 ストーリー&設定についての所見
 こちらもネット界隈では主人公が『スラムダンク』丸パクリ…なんて評価もありましたが、どちらかと言えば『美鳥の日々』の沢村ではないかと(笑)。
 プロットとしては、これもかなり手垢のついた“不良素人運動部入部モノ”なんですが、このお話としてはヒロインも適度に性格が悪いのが、かえってプラス要素になったのかな、という気がします。これが真面目なストーリーだと居た堪れませんが、コメディだとノリが軽くなって素直に楽しめるようになるのではないかと。
 ただし、シナリオは単純で内容も薄いですし、柔道マンガのようで全然柔道していない…といった弱含みの要素もありますね。まぁ一長一短といったところでしょう。

 今回の評価
 評価はとしておきます。デビュー作、しかも月例新人賞の受賞作掲載ならこのレヴェルでも御の字でしょう。
 ちゃんとプロのマンガ家としてのお仕事が出来ていますから、「十二傑」受賞も肯けます。ただ、ここから連載級の実力を身につけるまでには、高いハードルをいくつも越えなければならないでしょうが……。

 
 ◎読み切り『ごっちゃんです!! ─完結編─』作画:つの丸

 ●作者略歴
 連載作品の完結編ということで、ここでは割愛します。詳しくは『ごっちゃんです!!』第1回レビューのレジュメ(03年6月20日付講義)をご覧下さい。

 についての所見
 
既に過去のレビューで述べた事も多いので、細かい話は割愛しますが、やっぱりこの人、絵は上手いですよね。特に動的表現が達者で、相撲シーンがとても迫力があってしかも見易いです。『マキバオー』で培った実力というのは、かくも凄かったのかと改めて認識させられます。

 ストーリー&設定についての所見
 登場人物や世界観、設定の描写・説明を一切しないで済む完結編ですから、他の「赤マル」掲載読み切りと比べるのはアンフェアですが、よくぞ限られたページ数でここまでボリュームのあるシナリオを詰め込んだな…と素直に感心します。
 ラストシーンの国技館で、平成27年5月場所で純太が横綱として優勝している写真の額が登場するんですが、こういうさりげない部分を使って状況描写や後日談を入れているのが心憎い演出です。

 ただまぁ、こういう特殊な事情で超高速ストーリー展開したからこそ、これだけレヴェルの高い完結編になったとも言えるわけで、ケガの功名と言えば良いのか、エネルギーを注ぐベクトルが違うと言えば良いのか……。

 今回の評価
 これが番外編的ストーリーなら、今回のエピソードの単独評価も出来るのですが、今回は週刊連載の延長上にある完結編ですからねぇ……。敢えて評価は差し控えさえてもらいます。その代わり、週刊連載終了時点でB寄りB+とした作品通じての評価をB+に上方修正しておきましょう。


 ※総評…毎年ハイレヴェルにある春号ということもあって、A−評価3作品と豊作でした。そこまでいかない作品でも及第点以上の技術が感じられるものも多く、全体的なレヴェルは今年もかなりの高水準だったと思います。
 ただ、あと少し工夫をすれば、もっと完成度が高くなったのに…という惜しい作品も目立ちました。「ジャンプ」系の若手作家さんは、年に何度も作品を発表出来るわけでもないですから、少ないチャンスを生かすためにも、トコトンまで内容や設定の練り直しをしてもらいたいところですね。 


 ……というわけで、今回も何とか乗り越えられました(笑)。来週からの、いつもの内容のゼミもどうか宜しく。ではでは。

 


 

2004年度第9回講義
4月30日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第5週〜5月第1週分・後半)

 2日連続のゼミ実施となります。
 ……色々前口上を考えたりしたのですが、どうにもまとまらんので、とりあえずレビュー行きます(笑)。

 本日分は「週刊少年サンデー」22・23合併号の内容についてのゼミです。「ジャンプ」については前日分講義レジュメをご覧下さい。


 「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 今週は新人賞の結果発表、新作掲載の公式アナウンスはありませんでした。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
  「サンデー」:新連載1本/読み切り1本 

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年サンデー」2004年22・23合併号☆

 ◎新連載『道士郎でござる』作画:西森博之

 作者略歴
 
1963年11月23日生まれの現在40歳

 「週刊少年サンデー」ウェブサイトの公式プロフィールによると、デビューは87年の「増刊サンデー」で発表した『プー太郎』
 その後3年間の詳細な経歴は不明ながら、90年に『甘く危険なナンパ刑事』で初の週刊連載を獲得(90年12号〜37号)。そして同年40号より開始の『今日から俺は!』がヒットし、97年47号まで7年にも及ぶ長期連載となって「サンデー」内での地位を確固たるモノとする。
 その後も短い間隔で次々に週刊連載を務め、98年から99年にかけて『スピンアウト』(作:春風邪三太)、99年から03年にかけて『天使な小生意気』を発表する。『天使な──』では、01年度に小学館漫画賞・少年部門を受賞(同賞同部門の同時受賞作に『名探偵コナン』)。
 今作は5回目の長期週刊連載獲得となる。これは現役「サンデー」作家の中では第2位の記録。(1位はあだち充さん

 についての所見
 相変わらずの良い意味でも悪い意味でも独特な絵柄ですね。ひょっとすると目の肥えた読み手には、やや粗いと思われる部分が多いかも知れません。
 ……とはいえ、ここまでキャリアを重ねて来た作家さんだけあって、マンガの表現手段としての力は問題ありませんね。やや動的表現がぎこちないような印象も見受けられますが、これを目ざとく減点材料にしてしまうのには躊躇を覚えます。
 キャラクターデザインに関しての印象としては、キャラによって美醜のコントラストが物凄くハッキリしているなぁ…といったところでしょうか。前作『天使な小生意気』では、この辺がストーリー・設定と上手く噛みあって、作品の成功の一因になった(外見と中身のギャップを大きくして読み手に感銘を与えた)のですが、今回は果たしてどうなるでしょうか。
 
 ストーリー・設定についての所見
 今回の時点ではシナリオがまだプロローグ段階にあるので、ストーリーに関しては述べるべきポイントが見当たりません(笑)。成功した後の次回作で短期打ち切り査定が免除されているのか(推測)、かなり“まったりムード”の展開になりそうですね。
 基本的な設定──“サムライ・ニッポン”かぶれの外国人(又は帰国子女)キャラと現代日本とのギャップを描いたコメディ──は、過去にも色々な作品で使われて来たアイディアですね。ただ、長期連載作品の主人公でその設定というのは珍しいと思います。
 使い古されたアイディアを使う事自体は悪くないと思いますが、使い古された設定は読み手にも先の展開が丸分かりになるわけで、その中でいかに新味を出していくかは大きな課題になると思います。ベタなパターンの中で、どんなテーマを表現するのかがカギになるでしょう。

 今回の評価
 シナリオに関する評価が未だ出来ない状況ですので、とりあえずは保留としておきます。

 ◎読み切り『グッドラックノストラダムス』作画:武村勇治

 作者略歴(武村さんの公式サイト等による)
 1970年生まれとのことで、今年34歳
 山田貴敏さんのスタジオでアシスタント修行後、94年に増刊でデビュー。その後、95年に読み切りを一度発表した後、96年から98年まで『あらかると』を増刊に連載
 週刊本誌初進出は99年、企画モノの『川上憲伸物語』で、同年末より『マーベラス』を週刊連載する(00年1号〜47号)。
 その後、「ヤングサンデー」誌に進出(01年4月〜9月)するも、「少年サンデー」に復帰し、02年には短期集中連載で『ダイキチの天下一商店』(作:若桑一人)を発表。これが『売ったれ ダイキチ!』に改題・リニューアルの上、03年に長期連載化される(03年22・23合併号〜04年8号)
 今回は連載終了以来の復帰作となる。

 についての所見
 キャラクターデザインのバリエーション、シリアスとディフォルメのコントラスト、その他もろもろの表現技法など、「サンデー」作家さんの中でも高いレヴェルにあると思います。ディフォルメを極端にし過ぎて、過剰なドタバタ感を与える嫌いもありますが、今回の作品では悪い方向には出ていないでしょう。 

 ストーリー・設定についての所見
 まず、設定はユニークでしたね。「占い」、「予言」を題材にしながら、そこから全く逆方向へ話を展開させてゆくというのは、意外性も相まってかなり新鮮に感じました
 ただ残念ながら、その設定とストーリーやキャラクターが全く噛みあっていないのは大きな減点材料になります。特にノストラダムス堂の兄ちゃんが、主人公の父親から未来の大事さを教わって、どうして詐欺師紛いのエセ予言師にならないといけないのか…という辺りに無理があり、スムーズに感情移入してゆけないのは痛いですね。
 また、キャラクターの設定も、よくよく考えると無茶苦茶な人物ばっかりで、正統派のヒーロー話は勿論、アンチヒーロー系の話にもなり切れていないような印象が窺えました。惜しい所まで行ってると思うんですけどね。

 あと、どうでもいい話ですが、素手であんな強烈なパンチを繰り出していると必ず拳をぶっ壊してしまうので、せめてオープンフィンガーグローブくらいは着けさせましょう(笑)。
 
 今回の評価
 設定に大きな矛盾点があり、作品の完成度としては低くなってしまいました。ただ、絵の好感度は高いですし、深い事を考えずに楽しむ事は難しくない作品でもありますので、B+寄りB評価としておきましょう。ただ、これを連載化して成功させるには、かなりのマイナーチェンジが必要になって来ると思いますが。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「もし祝日が作れるなら、何の記念日にしますか」。
 ……という事だったのですが、暦の上での休みとは無縁、それどころか年末年始、お盆、GWには無体な強行スケジュールまで押し付けられるマンガ家さんたち。出て来るのは提案よりも愚痴の方が多いようで……。
 駒木は……何の記念日かはさておき、6月に1日くらい祝日欲しいですね(笑)。

 さて、それでは連載作品についての雑感を。

 久々にコメディ色を強くした『結界師』、良い感じです。やっぱりこういうのは、シリアス系エピソードの間に挟む“箸休め”だからこそ効果的なんですよね。全体的に絵柄をディフォルメにしたのも気が利いてます。
 ただこの作品、1つ1つのエピソードの完成度は申し分無いのですが、物語全体の“軸”が無いのが気になります。主人公サイドの大目標みたいなものが有れば、グッとストーリーも締まって来ると思うんですけどね。

 物語の“軸”と言えば、序盤の迷走を乗り越えて立ち直り気配をみせているのが『こわしや我聞』ですね。ベタな路線ではありますが、我聞と国生さんの関係をクローズアップするようになってから徐々に良くなって来たように思えます。まだ全体的に洗練する余地は残っていますが、この調子で頑張ってもらいたいものです。

 『焼きたて!! ジャぱん』、もはや文句をつける気力も失うくらいの惨状ですが、「コミックビーム」5月号よりも回収すべき雑誌がここにあると申し上げたいと。
 
 惨状と言えば『思春期刑事 ミノル小林』も、復調への糸口が掴めない現状でしょうか。こちらの作品は水口尚樹さんの実力は確かだと分かっているだけに、忸怩たる思いで一杯です。

 ……というわけで、今週の感想は以上なんですが、最後にペンディングしていた『怪奇千万! 十五郎』の作者情報と連載総括を。

 まず昨日の講義冒頭で少し述べた川久保栄二さんの過去についてですが、どうやら駒木が以前から聞いていた噂──約10年前に週刊本誌で短期集中連載経験アリ──は本当の話だったようです。(情報元は2ch掲示板の『十五郎』追悼スレ「恐怖の追跡 〜あの人たちは今?〜」漫画編特別部門04年4月分。もっとも、実際に掲載誌を確かめようが無いので、確定情報にはならないのですが……)
 その短期連載作品とは、94年10号から7回に渡って連載された『無限・ゼロ <∞ ←→ 0>』というプロ野球マンガ。ピッチャーの主人公は年俸1円、ただし打者1人を抑えるごとに倍々プッシュ…という設定の作品とのこと。実際に読んだわけでもない作品にあれこれ言うのは反則ではありますが、いかにも川久保さんらしく、「俺の考えた設定は面白いはずだ!」…という根拠の無い自信に満ち溢れてるなと(笑)。
 結局、この作品では長期連載獲得に至らず、川久保さんは10年近くにも及ぶ雌伏期間を強いられるわけですが……しかし、本当に言葉が出ないですね(苦笑)。人生色々考えさせられますよ、ええ。

 で、それはさておき『十五郎』の連載総括へ。……とは言っても、この作品の総括とは即ち、「この作品のどこが一番マズかったのかを探す作業」になるわけですが(笑)。あ、そういうの嫌な人はスルー推奨です。
 まぁ結局のところ、この作品の敗因は、エンターテインメントを成立させる上で非常に重要である、「主人公サイドが抱える(物理的または精神的な)欠損を、課題・試練を克服する事で解消する」…というポイントを余りにも軽視し過ぎた所にあるんじゃないかと思います。
 ……いや、軽視というか、完全スルーですね。何しろこの作品では、「怪奇現象の理由が判らない」という“欠損”を、何ら課題・試練を克服する事無く、主人公の「だって怪奇現象だから」という一言で“解消した事にしてしまう”のですから始末に負えません(苦笑)。まさに読者置いてけぼり、作者自己満足の極みです。

 ──というわけで、最終評価はやっぱりCと言う事で。しかし、この作品に関しては怒りを通り越してむしろ哀れみすら覚えてしまいますね(苦笑)。準備期間1年置いてこれだもんなぁ……。

 
 ……というわけで、今週のゼミはここまで。来週は合併号休みですので、「赤マル」レビューを中心にお届けする事になると思います。では。

 


 

2004年度第8回講義
4月29日(木・祝) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第5週〜5月第1週分・前半)

 駒木も噂を小耳に挟んだだけだった川久保栄二氏の過去が、ここに来てどうやら遂に判明! ……というニュースが2ch掲示板の片隅をコッソリと駆け抜ける中、いかがお過ごしでしょうか。「現代マンガ時評」のお時間がやって参りました。今週は前・後半に分けてお送りします。
 詳しくはまた後半の日に「チェックポイント」でお話しますが、本当に川久保さんは10年前に週刊本誌で「短期集中連載→長期連載ならず」になっていたそうで。……何と言いますか、普通なら「不屈」という言葉が似合う話でも、こういう結末を迎えてしまうと「不憫」としか言いようがないですよね。
 「コミックビーム」誌の名物編集長・奥村勝彦氏は、見込みの無いマンガ家志望者には容赦なく「向いてねえから辞めな」と引導を渡し、真っ当な道を歩ませる事にしているそうですが、「サンデー」にそういう人が……いや、もう何も言わないでおきましょう(苦笑)。

 ──それではゼミを始めます。今日は前半分ですので、「週刊少年ジャンプ」22・23合併号に関する内容に限定してお送りします。


 「週刊少年ジャンプ」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(24号)には、読み切りPMG−0』作:遠藤達哉)が掲載されます。そう、あの知る人ぞ知る“「ジャンプ」の秘密兵器”が満を持し(過ぎ)ての登場です。
 遠藤さんは第5回(99年度)「ストーリーキング」マンガ部門準キング受賞者「赤マル」00年春号の受賞作掲載デビューの後、週刊本誌でも00年51号と01年21・22号の2度、読み切りを発表していましたが、それから今まで忽然と我々の前から姿を消していたのです。
 今回は実に3年ぶりの復帰という事になりますが、過去作のクオリティを考えると大いに期待が持てそうです。あとはブランクの影響がない事を祈るだけですね。
 ……いやはや、憂鬱なはずのゴールデンウィーク明けに楽しみが1つ出来ました。勿論、レビューは公平な視点でやりますが、個人的には、もう再起は無いと諦めてた作家さんだけに、新作を読めるというだけで素直に嬉しいです。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週前半のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り2本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年22・23合併号☆

 ◎読み切り雨女、晴れ男』作:長谷川尚代/画:藤野耕平

 作者略歴
 ※長谷川尚代さん
 00年度「ストーリーキング」ネーム部門準キングを『サラブレッドと呼ばないで』で受賞、この作品が「赤マル」01年冬(新年)号に掲載(画:藤野耕平)され、原作者としてデビュー。なお、この作品は03年に週刊連載化(03年42号〜04年2号、1クール13回打ち切り)
 今回は連載終了後以来の復帰作。

 ※藤野耕平さん
 マンガ家としてのキャリアは、先述した長谷川尚代さんとのコンビでの漫画担当のみのため割愛。
 アシスタントとしての活動は豊富で、うすた京介さん、村田雄介さんのスタジオで活動。なお、実写版『ピューと吹く! ジャガー』でピヨ彦役を務めた事は一部で非常に有名。  

 についての所見
 
基本的には、適度で堅実な描き込みが施された見栄えのする絵で良い感じですね。前作に比べると、リアルタッチの精度に磨きがかかったような気もしますし、原作付作品の漫画担当としての風格が備わって来たように思えます。ネット界隈の一部では「小畑健の影響受けすぎ」という意見もあったようですが、そういう注文をつけられる事自体が実力の表れと言っても良いのではないでしょうか。
 ただし一点だけ指摘を。人物作画の顔、特に輪郭の造型がキャラ数の割にはバリエーションが少なく、やや単調に思えてしまいました。また、リアルタッチを多用したせいでしょうか、表情の変化がやや硬くなってしまったような気もします。

 あと、どうでもいい話ですが、主人公のクラスの応援旗に描かれていたキャラクターはHTB(北海道テレビ)“onちゃん”ですね。これは、HTBの看板番組「水曜どうでしょう」のファンだと公言していた長谷川さんのアイディアなんでしょう。
 まぁ、公私混同してまで応援したい気持ちにさせる番組ですし、駒木は何も言いませんけどね(笑)

 ストーリー&設定についての所見
 まず高く評価したいのは長谷川さんの脚本力。台詞回しが本当に上手いんですよね。内容があるのに、スムーズに読み飛ばせるという、セリフのお手本のような見事さでした。冷静に見るとかなりクサいセリフも混じっているのですが、ノリの軽さも手伝って鬱陶しさは皆無でした。
 シナリオも上手くまとめてますね。本来なら盛り上げようと思っても難しい内容のプロットなんですが、ともすれば突飛とも言える設定を交える事によって、キッチリとエンターテインメントに仕上がっています。まぁ、その設定の突飛さが感情移入を妨げるデメリットもあるでしょうが……。
 あと、主人公のキャラ立ちも成功していましたね。「クラスにすぐ馴染める転校生」という役どころがストーリー展開のスムーズさに繋がったのも良かったです。
 惜しむらくはラストシーン。ここでもう一発セリフが決まれば、なお良かったんですけどね。

 今回の評価
 少々の欠点は指摘できるものの、シナリオ・設定・脚本の完成度はかなりの高水準。ここはA−を進呈しておきたいと思います。
 これからも今回並みの設定やシナリオが描けるのであるならば、いずれ訪れるであろう2度目の連載では、前作とは違った結果になるのではないかと思います。


 ◎読み切り『STARTING OVER』(作画:鈴木新

 作者略歴
 デビューは「赤マル」00年春号。新人賞の受賞者ではないようなので、最終候補→“新人予備軍”経由か、もしくは持ち込みからの抜擢かと思われるが詳細は資料不足のために不明。
 その後は学業と平行しての断続的な作家活動がしばらく継続。「赤マル」01年冬号、そして週刊本誌02年40号に読み切りを発表。今回は1年半ぶり2回目の本誌登場となる。

 についての所見
 前回のゼミで「画力が大幅に変わっていて期待が持てそう」と申し上げましたが、謹んで訂正させて頂きます(笑)。どうやら、プリクラ慣れしたコギャル並の“奇跡の一枚”だったみたいですね(苦笑)。
 まぁ確かに前作より改善された部分もあるのですが、根本的な画力には余り進歩が見られないのが残念でした。ちょっとディフォルメを施そうとすると、たちまち顔の造りが人間じゃなくなってしまいますし、全身像を描いた時のバランスもおかしいです。
 既に各方面から指摘をされているように、有名「ジャンプ」系作家さんの影響が大いに感じられる作風ですが、残念ながら“劣化コピー”にすら届いておらず、敢えて言うなら“粗悪品”としか申し上げる事が出来ない実力に留まっています。

 ストーリー・設定についての所見
 えーと、前回のゼミで「大化けの期待が持てそう」と申し上げましたが、謹んで(以下略)。
 ……確かに、前作の“箸にも棒にも引っ掛からなさ”に比べると、若干の進歩は窺えます。特にクライマックスの“擬似スーパーサイヤ人化”のあたり(今更それをやるのはどうか? という疑問はさておき)ただ単に「主人公激怒→お約束でパワーアップ」というパターンでお茶を濁さなかったのは悪くなかったと思います。
 しかし、問題なのはそこに至る前〜中盤の持って行き方で、目立つのは自己満足極まりない中途半端に凝った設定(というか固有名詞)の紹介と間の悪いギャグばかり。登場人物のキャラクターを掘り下げたり、本当の意味で設定を練ってストーリーの精度を上げたりする作業を怠ってしまっていては、せっかくクライマックスで見せ場を持って来てもダメですよね。
 また、シナリオや設定の一部も既製の「ジャンプ」作品の影響を強く受けているようですが、こちらも基本的な実力が備わっていないために付け焼刃以前で終わってしまっています。厳しく言うなら、「真似するんなら、もっとちゃんと真似てみろ」といったところでしょうか。

 今回の評価
 レビューの内容からもお分かりになるように、ハッキリ言って落第点です。ただ、C寄りB−をつけた前作よりは少しだけでも改善の跡が見られますので、少し甘くしてB−評価としておきます。ただ、このままでは前途多難ですね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 時間短縮を考え、今回からしばらく雑記形式でダラダラやってみるテスト。見辛いようなら、また以前の形式に戻します。

 はじめに巻末コメントから。
 まず「神戸土産の『神戸プリン』が超ウマかったので神戸に住みたい」という久保帯人さん、神戸は確かに住みよい街ですのでお薦めしますが、『神戸プリン』はあくまで土産物なので、神戸市民がそれを食べてるわけじゃありません。つーか、駒木も20年以上神戸に住んでますが、食った事なし。
 あと、「ネーム詰め込みすぎだ、と初代担当に怒られた夢を見た」という和月伸宏さん、ぶっちゃけ言うと駒木も同感です(笑)。いや、詰め込み過ぎというか削り過ぎというか。シナリオの中身は備わっているんだから、もっとクドくなるくらい演出に力を入れてもバチ当たらないと思うんですけどね。あとはしつこいようですが、日常編をもっと重要視して下さい。連載続けばですが(涙)
 ちなみに『武装錬金』、2chで毎週正確な掲載順情報を教えてくれる人によると、次号の掲載順は一気に中位へ上昇だそうです。ただ、過去そういう不自然な順位上昇があった直後に打ち切られた作品が複数あるということで、またも2ch界隈で大揉めに(苦笑)。
 連載の開始と終了の情報は(連載開始直前になって他誌に似た内容の新連載を持って来られたり、連載終了と同時に作家を引き抜かれたりするのを防止するため)編集部にとっても最重要機密だそうなんですが、ホントにこういう長期の宙ぶらりん状態は勘弁して欲しいですよね(苦笑)。

 しかし今週、各方面で話題沸騰だったのが『DEATH NOTE』の、異様に気合入りまくったテニスシーン。また次の掲載順が『テニスの王子様』だったので、余計に趣を増幅させていたという(笑)。しかし、本職のテニスマンガが、リアリティではサスペンス作品のたかが1シーンのテニスシーンに明らかに負けているというのは……。
 まぁ、『キャプテン翼』『アストロ球団』を錬成したようなマンガにリアリティ求める方が間違ってるのは先刻承知なんですがね(笑)。

 そして最後はすっかり中堅の風格が出て来た『銀魂』今週は内容よりも欄外の作者紹介(by大西編集)の方が巷の話題に。いや、内容も良かったんですけどね。
 しかし笑ったのが、この作者紹介・「綾ちゃんよりつかさちゃんが好き」というコメントを扱った感想サイトが、そろいも揃って「だったらフローラよりもビアンカ派ですねきっと」と言及していた事。つかさ=金髪(&勝ち気系ヒロイン?)=ビアンカという理屈なんでしょうか。駒木はさすがにそこまでの発想は出来ませんでしたです。
 ちなみに駒木は「フローラを躊躇無く選べる奴とは友達になりたくない」というくらいのビアンカ原理主義者ですが、『いちご100%』では南戸唯派です(笑)。まぁ、綾かつかさかと訊かれたら、やっぱり後者ですけどね。

 ……というわけで、とりあえず前半分をお送りしました。金曜までには後半をお送りしますので、今しばらくお待ちを。

 


 

2004年度第7回講義
4月24日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第4週分・合同)

 ギリギリの日程、ギリギリのコンディションの中、ようやく実施に漕ぎ付けました、今週の「現代マンガ時評」です。
 ちょっと今週は精神的に追い詰められていた時間が長いので、マンガを吟味する余裕があまり無かったりしたのですが(こういう時に限ってレビュー対象作4本ですし)、精一杯やりますので、至らない点も含めてどうか宜しく。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(04年2月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=該当作なし
 努力賞=3編
  ・『リソウル』
   北原勇希(24歳・東京) 
  ・『3タコ』
   坂本大(23歳・東京)
  ・『サイコダイバー』
   田中宏子(22歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  ・『カイの仮面』
   畠谷洋二(22歳・千葉)
  ・『サムライ ソージ』
   弩(25歳・東京)
  ・『その名は超人 デビルサタン』
   足立真一(25歳・東京)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎努力賞の坂本大さん…03年06月期「まんがカレッジ」であと一歩で賞。
 ◎あと一歩で賞の畠谷洋二さん…03年06月期「まんがカレッジ」でもあと一歩で賞

 ……あと、“足立真一”という名前で検索すると、4〜5年前に活躍していた美少女系プロ作家さんがヒットしたんですが、まぁこれは明らかに別人でしょうね。
 今回は、総評を見る限り「全体的にネーム力、演出力不足」といったところでしょうか。確かにこの2つの要素は読者にインパクトを与える上で非常に重要な点でもありますし、特に週刊連載で読者を飽きさせないためには不可欠の要素ですからね。
 ただ、「ジャンプ」にも「サンデー」にも、この2つの要素だけを武器にその場凌ぎを繰り返している作家さんも多いんですよね。また、それが商業的にはビックリするくらい当たった作家さんもいたりするから困ったものなんですが(笑)。
 

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(22・23合併号)には、読み切りSTRATING OVER』作:鈴木新)が掲載されます。
 鈴木さんは週刊本誌02年40号に『DAI-TEN-GU』を発表して以来、1年8ヶ月振りの新作になります。前作に比べて絵柄が大幅に変わっているところを見ると、大化けの期待も持てそうです。期待しておきましょう。

 ◎また、同じく「週刊少年ジャンプ」次号(22・23合併号)には、読み切り『雨女、晴れ男』作:長谷川尚代/画:藤野耕平)が掲載されます。
 昨年、連載するも1クール打ち切りとなった『サラブレッドと呼ばないで』の長谷川&藤野コンビがここに来て復活。今回はスポーツ物では無さそうですが、果たしてどのような新味を見せてくれるのでしょうか。

 ◎「週刊少年サンデー」の次号(22・23号)からは新連載『道士郎でござる』作画:西森博之)がスタートします。
 西森さんは皆さんもご存知の通り、『今日から俺は!』『天使な小生意気』でスマッシュヒットを叩き出している作家さん。どうやら「サンデー」では、直近で長期連載を達成すると新連載の立ち上げもスムーズみたいですね。過去の実績なら互角以上ながら、近年ヒット作に恵まれていない椎名高志さんの復帰がなかなか実現しないのとは好対照です。

 ◎また、この「週刊少年サンデー」の次号(22・23合併号)には、読み切り『グッドラックノストラダムス』作画:武村勇治)が掲載されます。
 武村さんは、かつて『マーベラス』『売ったれダイキチ!』作:若桑一人)で2度の週刊連載経験のある作家さん。今回は若桑さんとのコンビを解消しての復帰作となりますね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…4本
 「ジャンプ」:読み切り2本
 「サンデー」:読み切り2本 

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年21号☆

 ◎読み切りMosquito Panic』作画:中西まちこ

 作者略歴
 名前が初めて「ジャンプ」に掲載されたのは、当時まだ16歳だった01年。「手塚賞」01年下期で最終候補「天下一漫画賞」01年12月期で編集部特別賞を受賞して“新人予備軍”入りを果たす。
 その後、1年余りのブランクがあって、「手塚賞」03年上期で最終候補、そして03年下期の「手塚賞」で佳作を受賞し、その受賞作が今回のデビュー作となる。
 

 についての所見
 
まず、細い線がゴチャつくという、デビュー間もない新人さんにありがちな“症状”が目立ちますね。こういう画風でも卓抜した実力が伴えば個性になるのですが、そうでなければ見辛いだけになってしまいます。もう少し自信を持って線が引けるようになるまで練習してもらいたいですね。
 この点とやや関連しているのですが、タッチのシリアスさと等身のディフォルメが一致していない(簡単に言うと顔がデカ過ぎる)場面が多々見られ、それが見辛さに拍車をかけてしまったような気がします。
 そしてもう1点、細かい所ですが気になったのが顔のパーツのバランス。目と口が不自然に大き過ぎて違和感を感じてしまいました。


 ストーリー&設定についての所見
 主人公が突然ミクロの世界の住人になって……というプロットは、昔からよく見られるものですね。そういう意味では目新しさは余り感じませんでしたが、ヒロインの設定はそれなりに練られていたので、まぁここは一長一短、差し引きちょっと短めというところでしょうか。
 ただし、世界観の設定やストーリーの運び方は強引過ぎる所が多かったように思えます。「何が何でも描きたい」という気持ちが伝わって来る場面が数ヶ所あって、そこは確かに見所があるのですが、それらの場面を繋いでいる部分が上手く整理出来ていないように感じました。
 また、作品のメインテーマである「夢」も消化不良気味に終わってしまいましたね。肝心の主人公の「夢」が全然形になっていないので、感情移入しようと思っても出来なかったのが痛い所でした。

 今回の評価
 新人賞の受賞作掲載、しかも「手塚賞」佳作レヴェルでは仕方ありませんが、やはり実力不足は否めない所です。本来ならB評価くらい出せる“持ち点”がある作品なのですが、細かい減点材料が積み重なって最終的にはB−くらいでしょうか。


 ◎代原読み切り『ハロー地蔵堂!!』(作画:新妻克朗

 作者略歴
 「天下一漫画賞」01年7月期で最終候補に残り“新人予備軍”入り。同年秋には「赤塚賞」01年下期でも最終候補に。
 翌年、「赤塚賞」02年下期に『純情ハート♥乙女道』で佳作を受賞。今回は代原ながらデビュー作となる。02年11月末の「赤塚賞」受賞発表当時24歳なので、現在は25〜26歳か。

 についての所見
 人物作画、背景処理ともにギャグマンガとしても「まだまだ」という印象ですね。どことなく小栗かずまたさんを彷彿とさせる画風ではありますが、新妻さんの絵はアクションもこじんまりとしていますし、人物キャラ造型にしても、人ではなく“人とみなせるモノ”の域から抜け出せていないように思えます。この辺は要精進ですね。

 ギャグについての所見
 まず、15ページの作品の割にギャグの密度が薄過ぎるくらい薄いのが大いに気になりました。特に序盤などはギャグらしいギャグに辿り着くまでに3ページも消費しており、これではちょっと……。
 また、ページあたりのコマ数が少ない事もあって、話の流れ自体もえらく淡白に思えてしまいましたね。ラストの持って行き方は、多少強引ながら上手い構成になっていたと思いますので、そこまでにギャグで盛り上げておけば、全体的な印象も随分と違って来たように思えるのですが……。
 次回作では「中身の濃さ」という面に的を絞っての巻き返しに期待したいところです。

 今回の評価
 ラストは綺麗に決まっていたものの、ギャグマンガとしてのデキを見れば、やはりB−程度に落ち着いてしまうのではないでしょうか。今度は胸を張って正規枠で発表出来るような新作を期待したいところです。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 時間の都合で今回は「ジャンプ・イン・ジャンプ」の特別企画──『ボーボボ』と『デスノート』のコラボ企画についてのみ。

 ……いやー、しかし面白いながらシビアな企画でしたよね。大筋の内容やネーム・構図が既に決まっている中で、それでも僅かに裁量権が残された部分だけで自分の個性をアピールしなくちゃいけないわけで。何と言うか、プロ作家としての資質も問う試みですよね。しかも、2人の作家さんはそれを見事に成し遂げたんですから、心から賞賛を贈りたいところです。
 そう言えば落語の世界でも、同じ古典落語のネタなのに、違う落語家さんが演じると全く別物に感じてしまう事がよくあるんですが、それも同じような理屈なのかと改めて気付きました。基本的な筋は共通でも、ディティールにその人なりの個性が出て来るんですね。

☆「週刊少年サンデー」2004年21号☆

 ◎読み切り『地球防衛バッパパーマン』作画:森尾正博

 作者略歴
 本格的なキャリアの開始は01年11月期の「サンデーまんがカレッジ」で佳作受賞から。ちなみに受賞当時26歳で、現在は28〜29歳。
 その後、雌伏期間を経て月刊増刊03年9月号でデビュー(?)。また、増刊では03年12月号から04年2月号(月刊としての最終号)までの僅か3回ながら『伝説の帰宅部 Returner』を連載。今回が週刊本誌初登場。

 についての所見
 キャリアの短さを感じさせぬ非常に洗練された絵柄で、大変に好感が持てます。ディフォルメや変則的な構図も厭わずにチャレンジし、それを見事に描き切っているのも素晴らしいですね。この画力なら、現在の「サンデー」でも即連載級と言って問題無さそうです。
 ただ、絵柄のテイストはどちらかというとマンガマニア向け月刊誌のそれに近いような気もしますので、読み手によっては「オタク臭い」と思われてしまうかも知れませんね。まぁ逆に言えばツブシが利き易い絵という事になりますか(笑)。
 
 ギャグについての所見
 ギャグのパターンとしては、天然ボケ系のキャラが複数好き勝手に動き回り、それを“良識派”のツッコミキャラが捌いていく…というもの。舞台やTV番組のコントでよくあるパターンですね。
 ただ、この作品の場合は余りにもボケが暴走し過ぎていて、ツッコミが完全に負けてしまったような気がします。ボケのテンポは良いので、この作品と波長の合う読み手にはこれでも満足出来るでしょうが、幅広い支持を得るかどうかは微妙ではないかと。
 もうちょっとボケを際立たせるような指摘、ツッコミを繰り出せるようになれば一気に雰囲気が変わると思います。更なる研究を重ねて、連載獲得へ向けて頑張ってもらいたいものです。 

 今回の評価
 ギャグの構成だけで言えばB評価ですが、画力の分だけ上方修正を加えてB寄りB+とします。
 ただ、現在の作風を考えた場合、純粋なギャグ作品よりもコメディタッチの日常劇などの方が展望も開けるような気がしますが……。

 ◎読み切り『もみあげキャプテン』作画:大塚じんべい

 作者略歴
 今回がデビュー作。資料不足もあり、過去のキャリアは確認できず。
 なお、今号の2日後に発売されたゴールデンウィーク増刊にてデビュー2作目を発表。

 についての所見
 全体的に見て稚拙な部分が目立つものの、不思議と読み辛さは感じさせないように思えました。もう少し絵柄がこなれて来ると、いわゆるヘタウマ系の作風として認知される所までは行けるのではないでしょうか。

 ギャグについての所見
 ギャグマンガにおける基本的な技術は概ね出来ているように思えます。ギャグのバリエーション・密度も及第点以上でしょう。ちゃんと研究した上で描かれた作品で、その点では好感が持てます。

 しかし、この作品のギャグが優れていると思えるのかと言うと、正直、首を捻らざるを得ません。

 その理由を見つけるために何度も読み直してみたのですが(嫌な作業ですね^^;;)やはりツッコミが弱いのではないか…という結論に辿り着きました。この作品のツッコミの多くはボケの状況を説明しているだけで、本当の意味のツッコミにはなっていないんですよね。
 同じギャグの密度であっても、ただ単にボケを羅列するだけのモノと、「ボケのインパクトでウケる→すかさずツッコミでもう1度ウケる→そこから更にもう一度ボケで大きなウケを狙う」…というモノとでは内容が大きく違って来ます。かなりのセンスを要求される高等テクニックですが、是非とも身に付けて欲しいですね。
 
 今回の評価
 「笑える、笑えない」は別にして、基本的な技術は出来ていますので酷評は避けたいと思います。こちらは絵が稚拙な分だけ減点してB寄りB−とします。

 

 ……今週も「十五郎」を語る余裕が無くなってしまいました。まぁ、もはや敢えて語らなくても良いような気がしないでもないですが(苦笑)。
 来週はゴールデンウィーク突入と言う事で、出来れば前・後半に分けてお届けしたいと思ってます。では。

 


 

2004年度第5回講義
4月16日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第3週分・合同)

 覚悟はしていましたが、今回の“二足のワラジ”は非常に履き難いワラジのようです(苦笑)。これまでの社会学講座が、真っ当な社会生活を犠牲にして成り立っていた事を改めて痛感したりしています。
 ただ、高校の非常勤講師は、暇な時はとことん暇だったりもしますので、その間隙を突けば、こちらの仕事も色々と出来るんではないかと思っとります。

 さて、それではお待たせしました、今週の「現代マンガ時評」をお送りします。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新人賞の結果に関する情報

第11回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年2月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作なし
 十二傑賞=1編
 ・『WOODMANザッパー』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  鬼団子(19歳・大阪)
 
《武井宏之氏講評:視野をより広げれば、より良いものが描ける。色々な体験をして、次は違うジャンルの作品を》
 
《編集部講評:発送の着眼点は良い。ただ、そのアイディアを読者にアピールする工夫がもっと必要。主人公・敵の双方にもっとキャラクターを作って、読者が感情移入出来る要素を作ろう)
 審査員
(武井宏之)特別賞=1編
  ・『プリンス・オブ・サナミヤコ』
   木村孝昭(23歳・東京)
 最終候補(選外佳作)=4編

  ・『ROBOT SUMO』
   菅原暁(21歳・岩手)
  ・『SAMURAI goes west』
   山添泰平(21歳・京都)
  ・『成分ミルク』
   魚森しなん(25歳・東京)
  ・『サービス戦隊アフター5』
   高橋英治(24歳・兵庫)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の鬼団子さん…03年9月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補。

 ……しかし、武井さんや編集部からの講評を見るにつけ、今月はかなりの大不作だったのかな、という気がします。十二傑賞にしても、「次は別のジャンルの作品を」とか「もっとキャラクターを作って、感情移入出来る要素を」とか、本誌や増刊に掲載させる作品に出すコメントとは思えませんもんね(苦笑)。
 しかし、十二傑賞の“デビュー特典”というのも、受賞作掲載にこだわらず、単なるデビュー確約でも良いと思うんですけどね。「手塚賞」出身作家さんのデビュー作は、受賞作ではなくて受賞後第一作だったりする事も多いですし、どうせデビューするのなら満足の行くクオリティでデビューした方が、誰にとっても幸福のような気がするんですが。

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(21号)の連載陣読み切り企画・「ジャンプ・イン・ジャンプ」は、『DEATH NOTE風 ボボボーボ・ボーボボ』作:澤井啓夫/画:小畑健)と『ボボボーボ・ボーボボ風 DEATH NOTE』作:大場つぐみ&小畑健/画:澤井啓夫)の2本立てです。
 ……いやー、企画最終週にしてやってくれますなぁ「ジャンプ」編集部!(笑) やっぱり、この辺の柔軟な発想が、いかにも「ジャンプ」らしくて良いですね。
 しかし、これはレビューどうしましょうか(笑)。あまりにも企画色が強い作品であれば、レビューから除外してチェックポイントで扱う事になるかも知れません。

 ◎また、「週刊少年ジャンプ」次号(21号)には、読み切り『Mosquito Panic!』作画:中西まちこ)が掲載されます。
 この作品は03年下期「手塚賞」佳作受賞作で、受賞当時弱冠18歳の中西さんは今回がデビュー作。この03年下期の「手塚賞」、「赤塚賞」の受賞作はやたらと本誌掲載されており、この作品で代原掲載を含めると5作目。その割には、当ゼミを含めたネット界隈の反応はイマイチだったりもするのですが、今回は果たしてどうなるでしょうか。

 ◎「週刊少年サンデー」の次号(21号)には、読み切り『もみあげキャプテン』作画:大塚じんべい)が掲載されます。
 大塚さんについては資料不足もあり、受賞歴や過去の活動歴などが皆目不明なのですが、どうやら新人ギャグ作家さんのようですね。

 ◎また、同じく「週刊少年サンデー」の次号(21号)には、読み切り『地球防衛バッパパーマン』作画:森尾正博)も掲載されます。
 森尾さんは01年11月期の「サンデーまんがカレッジ」で佳作を受賞、その後、月刊増刊03年9月号でデビューし(?)、同年12月号からは『伝説の帰宅部 Returner』を短期連載していました。今回が週刊本誌初登場となりますね。
 ちなみに森尾さんは「まんカレ」佳作受賞発表時(02年1月)で26歳でしたから、現在は28〜29歳。デビュー年齢の比較的高い「サンデー」でも、あまり見られない晩年デビューですね。

 ※今週のレビュー(今週もチェックポイントはお休みします。ご了承下さい。なお、『怪奇千万! 十五郎』の連載総括については次週以降にお送りします)
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り1本/前・後編読み切り総括1本
 「サンデー」:読み切り1本 

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年20号☆

 ◎読み切り『BLEACH番外編(−17話) 逃れゆく星々のための前奏曲』作画:久保帯人

 作者略歴
 1977年6月26日生まれの26歳
 デビュー
は「赤マルジャンプ」の前身にあたる季刊増刊の96年夏号に掲載の『HEARTED MACHINE』(当時は本名の久保宣章名義)。新人賞の受賞歴等は確認できず、恐らくは“新人予備軍”から編集会議をクリアしてのデビューと思われる。
 その後、週刊本誌96年36号、97年51号に読み切りを発表した後、1年半以上のブランクがあって、99年34号より『ゾンビパウダー』で初の週刊連載獲得(27回・2クールで打ち切り終了)
 その後、「赤マル」01年冬(新年)号に発表した復帰作・『BLEACH』が、週刊本誌01年36・37合併号より週刊連載化。一時期は打ち切りの危機も経験したが、現在は中堅以上の地位を確保し、今や連載3年目も半ばを突破して現在に至る。
 

 についての所見
 
まぁ、今更になって特筆すべき事は何もありませんね。
 ややクセがありながらも、長期連載のキャリアと確かな技術に支えられた完成度の高い絵だと思います。今回の番外編はページ数の割に登場人物がかなり多かったですが、端役も含めてキッチリと描き分けも出来ていたので全く読み辛さはありませんでした。


 ストーリー&設定についての所見
 本編のメイン〜重要サブキャラの過去の姿にスポットを当てて、簡単なエピソードを描きながら本編の設定補強もしてしまうという、「まさに番外編」と言うべき作品でしたね。特に目新しさは無い構成ではあるのですが、ここしばらくの「ジャンプ」番外編では当たり前の事すら出来ていない作品が目立っていましたので、何だか必要以上にホッとしてしまいました(笑)。
 そんなわけで、全体的にはセオリーに則った手堅い仕上がりになっていたと思います。ただ、ややフューチャーさせる登場人物の数を欲張り過ぎ、1人1人の心理描写がやや甘くなったかな…という感もあります。今回のエピソードでは脇役扱いのルキアの心理が一番深く描けてるというのも、バランスという面から考えると疑問が残りますしね。

 今回の評価
 完成度の高い、まさに“プロのお仕事”がキチンと出来ている佳作ですね。本当ならもっと高い評価を出したいところですが、番外編ゆえのシナリオのボリューム不足もありますし、今回は厳しめにA−寄りB+ということにしておきましょう。


 ◎読み切り(前・後編総括)『桐野佐亜子と仲間たち』作:二戸原太輔/画:叶恭弘

 作者略歴
 ※二戸原太輔さん
 03年下期「ストーリーキング」ネーム部門準キング受賞。結果発表(03年11月末)当時21歳。今回はこの時の受賞作掲載で、なおかつデビュー作となる。

 ※叶恭弘さん
 1970年12月16日生まれの33歳
 「ジャンプ」作家になる以前のキャリアの存在も噂されているが、詳細は不明。「ジャンプ」系のキャリアにおいては、「ホップ☆ステップ賞」(=「十二傑新人漫画賞」の前身の前身)92年1月期において、『BLACK CITY』で入選を受賞この作品が季刊増刊92年秋号に掲載されて「ジャンプ」デビューを果たす。
 その後は94年から1年〜2年に1度のペースで季刊増刊を中心に作品を発表、その傍らで小説本の挿絵も担当するなど、寡作ながら幅広い活動を続ける。
 02年24号からは、「ジャンプ」初の連載となる(叶さん自身による、『ジャンプ』デビュー以前の連載経験を窺わせるコメントが存在)となる『プリティフェイス』の週刊連載が開始。この作品は03年28号まで約1年間続き、「赤マル」03年夏号では、この作品の事実上の完結編となる『プリティフェイス番外編』を発表。
 個人名義での最新作は「赤マル」04年冬(新年)に掲載された『Snow in the Dark』

 についての所見
 「ジャンプ」を代表する腕達者の叶さんを捕まえて、駒木が何も言う事などありません(笑)
 前作『Snow in the Dark』に比べると、やや粗いような気がしないでもないですが、「見易さを第一に心掛けた」(叶さん)という事から、純粋な絵の完成度よりも“マンガの記号としての絵”という部分を意識したのではないでしょうか。
 ただ1点だけ、前編の佐亜子が落ちて来た鉄骨を足で受け止めるシーン最初に振り上げた足は左足なのに、次のコマで蹴り上げているのは右足になっているように見えるんですよね。弘法も筆の誤りというヤツでしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 まず全体の構成についてですが、やや展開が強引で、その割にはページを使い過ぎて大味になったような印象がありました。しかし、伏線や“起承転結”など基本的な要素はきちんと押さえられており、総合的には及第点程度の出来にはなっているのではないでしょうか。
 それ以外の部分で評価出来る点は演出面、特に“小ネタ”のディティール部分の表現は優秀だったと思います。『マネーの虎』風“次回予告”など、パロディ的な描写が特に上手いみたいですね。ただ、少しばかり設定の提示が描写より説明に偏っている気もしましたね。何とか演出で誤魔化せているのではないかと思うのですが、賛否分かれそうなポイントではあります。

 他に重要なポイントとしては“天啓”についての設定がありますね。これについては、既製の作品からかなり露骨なアイディア流用があったと指摘する声もあがっているようですが、個人的には特定の作品の“パクり”というよりも、少年マンガの定番パターンに独自の名前を付けて新品扱いにしたようなモノだという気がします。
 で、この設定は実際の所、なかなか奥が深そうではあります。上手くやれば頭脳プレー、駆け引きの応酬といった複雑で高度なバトルシーンも展開できそうです(もっとも、やり過ぎると“底抜け脱線ゲーム”状態になりますが……)。
 ただ、今回の作品では、実際に登場した能力がミもフタも無いくらいに強力だったために、結局は単なるパワーゲームになってしまったのが残念でした。佐亜子の“重力法則無視”という能力に致命的な弱点が1つでもあればアクセントが利いて良かったのではないかと思うのですが……。
 

 今回の評価
 今回は、叶さんの画力に助けられてB+寄りといったところですね。
 この手の作品は、わざわざ原作者を起用しなくても腕の良いマンガ家さん1人で描けてしまいます。今後も二戸原さんがこの路線でもって原作者として活動しようとするのなら、かなりのスキルアップを果たす必要があるでしょう。

☆「週刊少年サンデー」2004年20号☆

 ◎読み切り『ゴーストロジック』作:浜中明/画:ネモト摂

 作者略歴
 ※浜中明さん
 02年に実施された「サンデー原案・原作ドリームステージ」読切原作部門の大賞受賞者。03年5月の結果発表時で26歳なので、現在は27歳前後
 デビュー作は「ドリームステージ」の受賞作・『ソフィアの掟』画:中道裕大)。今回はそれ以来となる新作発表で、週刊本誌初進出。

 ※ネモト摂さん
 「小学館新人コミック大賞・少年部門」03年下期に『エッグノック』で大賞受賞。その際、ネット界隈では、複数のマンガ情報系サイトから「過去に何らかの媒体で見た事がある絵柄だ」との声があがるも、結局は詳細不明。年齢は03年末の受賞当時で27歳
 (現時点で確認出来る資料に基づく)デビューは、月刊増刊「少年サンデー超(スーパー)」04年2月号で、作品は受賞作『エッグノック』。原作の浜中さん同様、今回がデビュー2作目で週刊本誌デビューとなる。

 についての所見
 「新人コミック大賞」受賞当時から高い評価を受けていたネモトさん、確かに「サンデー」系新人作家さんとしてはトップクラスの実力があると思います。背景処理や細かい部分などの完成度が特に高く、デビュー前は長期間アシスタントの経験があった事を窺わせますね。
 ただ今回に限っては、人物の表情の描写を失敗しており、違和感を感じる場面が多々有りました。キャラの表情が違うという事は、即ちマンガを構成する記号を間違えているという事です。これではどれだけ素の画力が高くても、マンガの完成度を評価する上では減点材料になってしまいます。
 
 ストーリー・設定についての所見
 昔から数多く描かれている“ニセ超能力・怪奇現象解明モノ”プロットですね。ただし、その使い古されたフォーマットに「本物の幽霊が、自分のニセ幽霊の謎を解明する」というヒネリの利いたアイディアを交える事で、新鮮味を出す事に成功しています。既製作品のアイディアに独自色を加えて別の作品に仕上げる事の出来た好例と言えるでしょう。“犯人探し”の謎解きも単純過ぎず、複雑過ぎずで良いんじゃないでしょうか。
 ただ、主人公を巡る人間ドラマとニセ怪奇現象の謎解きの両方を充実させようとして、逆に両方とも中途半端になってしまったかな…という気がします。思い切って智と夢子の日常描写を大幅カット、その分だけ謎解きパートに多くのページを割くのはどうだったでしょうか。最初からオカルト否定派の幽霊とオカルト肯定派の少女のコンビによるオカルト探偵モノ…ということにしておけば、随分と簡潔で分かり易い設定になりますし、エンターテインメント性も維持できると思うのですが。

 今回の評価
 決して悪くはない作品ではあるものの、複数の箇所で無視出来ない減点材料がありましたので、B+寄り評価としておきます。


 ……というわけで、今週分のゼミをお送りしました。しばらくはこのペースでお付き合い下さいませ。ではでは。

 


 

2004年度第3回講義
4月9日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第2週分・合同)

 罰ゲームで負ったダメージも癒えましたので(笑)、今週の「現代マンガ時評」をお送りします。
 さて、今週から講義の構成を、わずかですがマイナーチェンジしております。これは高校講師復帰に伴う準備時間減少による影響をを少しでも軽減させるための措置です。あんまり変わっていないように思えるかもしれませんが、レジュメのフォーマットを毎週使い回す事が出来るので、これで随分楽なんです。
 実は同じ「高校の非常勤講師」という肩書きでも、1年前までの職場に比べ、今度の職場では仕事量が3倍程度に増えています。ハッキリ言って講座の存続自体も一考しなければならない位です。まぁここまでご支持を頂いている当講座、駒木にもまだやり残している事もありますし、今のところ閉講は全く考えてませんが、それならそれであちこちの無駄な部分を見直さなければ早晩破綻を来たしてしまいます。
 以前に比べるとやや淡白で事務的に感じられるかも知れませんが、こうでもしないと講義の実施自体が難しくなってしまうのが現状です。どうか悪しからずご了承下さいませ。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(20号)の連載陣読み切り企画・「ジャンプ・イン・ジャンプ」は、『BLEACH特別編』作画:久保帯人)。死神たちに過去にスポットを当てた外伝的エピソードになるようです。
 『BLEACH』の番外エピソードは03年41号の『a wonderful error』以来2作目ですが、今回は比較的まとまったページ数でもありますし、定評のある演出だけではなく、中身の濃いシナリオにも期待したいところですね。

 ◎「週刊少年サンデー」の次号(20号)には、読み切り『ゴーストロジック』作:浜中明/画:ネモト摂)が掲載されます。
 原作担当の浜中明さんは、一昨年に募集された「サンデー原案・原作ドリームステージ」読切原作部門の大賞受賞者。03年5月の受賞当時26歳という事ですから、普通に考えれば現在27歳ということになりますか。受賞作・『ソフィアの掟』が増刊に掲載(画:中道裕大)されて以来の「サンデー」登場のはずですから、今回が週刊本誌デビューという事になりますね。
 作画担当のネモト摂さんは、「小学館新人コミック大賞・少年部門」03年下期の大賞受賞者。受賞当時(03年12月)27歳ですから、浜中さんと同い年くらいでしょうか。
 こちらも受賞作が増刊掲載になって以来の作品発表ですから、浜中さん同様に週刊本誌デビューですね。「サンデー」系若手・新人作家の中でも指折りの実力派コンビですから、今作にも期待が持てそうです。

 ※今週のレビュー(物理的事情により、今週のチェックポイントはお休みします)
 ●今週のレビュー対象作…5本
 「ジャンプ」:新連載第3回後追い1本/読み切り2本
 「サンデー」:新連載第3回後追い1本/読み切り1本
 

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年19号☆

 ◎新連載第3回『少年守護神』作画:東直輝【第1回掲載時の評価:C寄りB−

 (受講生の皆さんへ:この作品は評価Cとなりました。結果的に読み手の感情を損ねる論調のレビューになっている恐れがあります。この作品のレビューをご覧になるかどうかは皆さんでご判断下さい。

 についての所見(第1回からの推移)
 心なしか、シリアスタッチの絵や動的表現全般が第1回に比べて粗くなっているように思えます。前作『ソワカ』の時ほど酷くはありませんが、週刊連載ペースでの作画レヴェルの安定が相変わらず課題になっているのではと思います。
 また、ヒロイン級キャラ2人の顔のパーツ(シリアスバージョン)が似てしまっているのも少し気になります。特に姫様&くの一という好対照な立場の2人だけに……。
 全体的には「決して下手ではないが、ゴチャゴチャしていて印象を悪くしがちで損な絵柄」といったところでしょうか。

 ストーリー&設定についての所見(第1回からの推移)
 メインのシナリオ進行よりも、世界観を無視した暴走気味のギャグにページ数が割かれてしまっており、第1回時点より迷走の度合いが増してしまっているようです。シリアス部分とコメディ部分のメリハリが全く効いていないので、結果として中身の薄いシナリオと場違いのギャグだけが残ってしまっています。シナリオが停滞するだけならまだしも、メインキャラを深く掘り下げる作業も余り進行しておらず、有り体に言って、ここ2回はページの無駄遣いと申し上げざるを得ないでしょう。
 この過剰なギャグ連発、恐らくは『ミスフル』『武装錬金』などのコメディ色が強い既存作品を意識したのでしょうが、残念ながらそれらの作品の表層部分(ストーリー系作品に、キツめのギャグを交える構成)だけを真似するに留まっており、まさに文字通りの付け焼刃に陥ってしまっています。そもそも、わざわざ賛否両論激しい作品の影響を受けなくても…と思ってしまうのですが。

 現時点での評価
 正直迷うところですが、及第点だった絵のクオリティが若干落ち、ストーリーが悲惨な崩壊状態とあっては評価も止むを得ないところでしょう。
 中堅層が充実し、打ち切りボーダーラインが異様に高くなっている現在の「ジャンプ」では次期打ち切り候補最有力と申し上げる他ありません。


 ◎読み切り『BLACK CAT特別編』作画:矢吹健太朗

 作者略歴
 1980年2月4日生まれの現在24歳
 98年1月期「天下一漫画賞」審査員特別賞を受賞し“新人予備軍”入り。
 「赤マル」98年春号にて『邪馬台幻想記』でデビュー。当時、弱冠18歳。同名のリメイク作品を週刊本誌98年36・37合併号に発表し、その後連載化(99年12号〜27号 変則2クール打ち切り)
 復帰作は週刊本誌99年46号掲載の『STRAY CAT』。これが改題の上で連載化されたのが現在連載中の『BLACK CAT』(00年32号〜)
  なお、小畑健さんの下でアシスタント経験あり

 についての所見
 今更ながら、以前からの定評通り、洗練された好感度の極めて高い絵柄と言えるでしょう。いわゆる“マンガの文法”的な表現技法についても、満点とは言えないものの合格点はアッサリ出せるだけの実力はあると思います。
 ただし、余りにも絵柄が洗練され過ぎているために、本来洗練されてはいけない部分(不気味さやグロテスク表現等)まで洗練されてしまっているような気もします。分かり難い比喩で恐縮ですが、駒木にとって矢吹さんの絵の綺麗さというのは、脱色&着色料で色付けされた缶詰のサクランボみたいな、ある種の違和感を内包した綺麗さに思えてならないんですよね。

 ストーリー&設定についての所見
 先に結論を言わせて頂くと、現役長期連載作家さんの描く作品としては、非常にお粗末なシナリオと断ぜざるを得ません。以下、ミもフタも無い講評になりますが、不快でなければお付き合いを。

 まず頂けないのが、前半から中盤にかけて演出の乏しい説明的なセリフ、モノローグが延々と続いてしまう点ですね。短編作品なら、ある程度は文字による設定説明を入れるのも仕方ないですが、それにしても工夫が無さ過ぎではないでしょうか。
 中でも特に引っ掛かったのが、敵のアジト探しを1コマで終わらせてしまった場面。序盤であれだけ豪快にページを浪費しておきながら、肝心な所をここまで端折るとは、いやはや……。
 しかも、シナリオの内容そのものも、「『力無き正義は無力なり』を地で行く向こう見ずの阿呆が、ノコノコ敵のアジトにおびき寄せられて犬死寸前→御都合主義的にお節介な元殺し屋が現れてタイミング良く救出」…という、お世辞にも良質のエンターテインメントとは言えない代物。改めて矢吹さんのストーリーテリング力の足りなさ加減に驚かされる思いです。
 ……しかしそれよりも驚きなのは、プロトタイプ段階から数えると4年以上も執筆している作品の極めて重要な裏設定を、ここに至るまでロクに考えていなかったという事ですね(笑)。普通、話のネタにでも考えたりするだろうと思うんですが。
 何と言いますか、ここまでドライかつ刹那的に週刊連載を続けられるというのも一種の才能と言って良いのかも知れませんね。まぁ臓器で言えば盲腸みたいな才能ですが。

 今回の評価
 総合点を合格点レヴェルの絵で引っ張り上げて、それでもB−が精一杯といったところでしょう。


 ◎代原読み切り『暴走特急山手線外回り』作画:夏生尚

 作者略歴
 生年月日は不明ながら、新人賞受賞時の年齢から考えると、現在23歳。
 「赤塚賞」02年上期で佳作を受賞し“新人予備軍”入り。週刊本誌02年31号、03年35号に代原枠で読み切りが掲載されて仮デビュー。
 その後「赤塚賞」03年下期に再応募、準入選を受賞。受賞作『BULLET CATCHERS』が04年14号に掲載されて正式デビュー。今回の作品は、03年秋から今年にかけて執筆された習作原稿と推測される。

 についての所見
 元々ギャグ作家さんとしては合格点以上の画力を持つ夏生さんですが、今回は敢えて自分の得意な絵柄を捨て、1つの作品内で様々なタッチに挑戦したみたいですね。いかにも習作原稿らしい試行錯誤の跡が窺えます。ただ、そういった意欲は買えるのですが、それが作品全体の質を押し上げる方向に働いているかは疑問です。
 あと、主人公以外の人物描写がややなおざりだったような感もあります。ギャグマンガなので、これも狙いの一つだったのかも知れませんが、もうちょっとリアリティのある乗客にした方が良かったような気がしました。
 
 ギャグについての所見
 まず、駒木がこの作品を一読しての印象は、「何だか無理してるなぁ……」でした。
 この作品の中で夏生さんは、「笑いを引き出す一番の近道は、受け手に違和感を感じさせる事だ」と考え、違和感を出そう、出そうと頑張っているように思えます。その発想は間違っていないのですが、絵同様、その意欲が完全に空回りしてしまっているように思えてなりません。ネタになってないシチュエーション(ごく日常的な舞台、確固たるボケ役不在)でいくらオーバーなツッコミをキメても、笑えるどころか逆に痛々しくなってしまうんですね。
 これで優先座席を狙うお婆さんが本当の奇人変人だったりしたら、そのボケっぷりに主人公がツッコミを入れる形できちんとしたネタになるんです。でも、この作品の場合、そこまで行ってないですからね。

 今回の評価
 色んな事にチャレンジしてみよう…という、いかにも習作原稿らしい作品ですが、そのチャレンジがことごとく失敗に終わっている以上、高い評価は出せません。本来の実力が全く発揮されていないと言うことで、ここは厳しくC寄りB−としておきます。
 しかし、せっかく正式デビューを果たしたのに、こういう形で勢いに水を差されるとは夏生さんも良い迷惑ですね(苦笑)。

☆「週刊少年サンデー」2004年19号☆

 ◎新連載(シリーズ再開)第3回『DAN DOH!!〜ネクストジェネレーション〜』作:坂田信弘/画:万乗大智【現時点の評価:B+

 についての所見(第1回からの推移)
 今回は特に申し上げる事項はありません。問題点も含め、既に現在までの評価(B+)に折込済みです。
 ただ、今回の14〜15ページ目・完全にアシスタント任せにしたと思われるパーティ会場の俯瞰光景は、よくよく見るととんでもなく出来が酷いので、今後こういうケースではアシスタントさんの使い方をもうちょっと考えた方が良いと思います。

 ストーリー&設定についての所見(第1回からの推移)
 第2回での意表を突く新庄プロの死去に、「おぉ、これはこの作品も新味が出て来たか?」…と驚かされたのですが、第3回ではいつも通りの泥臭い悪役登場で、やっぱり『DAN DOH!!』は『DAN DOH!!』だなと思い知らされました(笑)。
 この手のシナリオ(泥臭い悪役を正義の主人公が懲らしめる)は、テレビドラマでも多数採用されるように、確かに読み手にカタルシスを与える上では手っ取り早い方法ではあります。ただ、「悪役」という記号を与えられただけの人間味の乏しいキャラクターというのは、シナリオ全体を安っぽくしてしまうという欠点も抱えているので、こういった長編エンタメ作品のメインキャラとして起用するのは上策とは思えません。
 まぁこのマンガは以前からずっとこういうタイプの敵役が多く採用されていますので、今回のコレが改めて減点材料になる事はありませんが、やはりどうしても「退場させるキャラクターを間違えてるんじゃないですか?」と申し上げたくなってしまいますね。良質の人間ドラマを拒否してまで展開するストーリーとは思えないんですよね……。

 現時点での評価
 B+評価で据え置きです。ここに来てやや弱含みかなという気はしますが、連載期間の長い作品ですし、そう神経質に評価の上下を検討しなくてもいいと思っています。


 ◎読み切り『犬ちゃん』
作画:河北タケシ

 作者略歴
 資料不足のため、年齢と新人賞受賞歴は未判明。
 デビューは02年春の増刊号「サンデーR」のルーキートライアルにて。その後、増刊03年4月号に作品を発表している。今回が週刊本誌初登場。

 についての所見
 やや印象が淡白な感じもしますが、週刊本誌の中に混じっても違和感は無く、ギャグ作家としては問題のない実力に達しているのではないかと思います。
 ただ、今回は似たような系統のキャラクターばかりだったので、次回以降には様々な年齢層や顔立ちのキャラクターを見てみたいところです。
 
 ギャグについての所見
 人間が人間を犬として飼う、というシチュエーションはエロ系作品でよく使われるのですが、そういうダウナーで淫靡な設定を、上手く少年誌のライトな雰囲気のギャグマンガに転化出来ていると思います。「思わず2本足で走っちゃったよ」のような、設定の裏を自ら突いたネタ作りも出来ていますし、河北さんがギャグについての技術と理論を持っている事が窺えます
 ただ、今回の作品では、(ケンちゃん)のキャラ付けがやや不安定だったのが惜しかったですね。「どこまで犬で、どこまで人間か」という線引きが今イチ曖昧だったので、幾つかの箇所で作品世界に没入し切れない部分があったように思えました。

 今回の評価
 セールスポイントも複数あるが、問題点も同じ位あるということで、B+評価とします。先程言ったように、センスと技術は感じられますので、今後に期待です。


 ……というわけで、今回はここまでです。こんなクソ忙しい週にレビュー5本は地獄でした(苦笑)。新連載もこれでケリがつきましたので、来週からはしばらくノンビリ行きたいと思います。では。

 


 

2004年度第1回講義
4月1日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第5週〜4月第1週分・合同)

 年度は改まりましたが、内容はこれまでと変わらぬ「現代マンガ時評」のお時間です。いい加減、有名無実になった「分割版」のタイトルをどうにかしようかとも思ったんですが、いつでも分割して出来るようにという事で、このままで行かせてもらいます。

 では今週も情報系の話題から。次週発売の「ジャンプ」、「サンデー」(それぞれ19号)はそれぞれ読み切りが掲載されますので、その情報を紹介しておきましょう。

 まず「ジャンプ」からですが、今週号から始まった綴じ込み付録・「ジャンプ・イン・ジャンプ」、第2弾は『BLACK CAT特別編』(作画:矢吹健太朗)です。今回はスパイクと……じゃなかった、トレインとスヴェンの出会いを描いた“第0話”的な作品になるようです。
 この手の作品と言えば、昨年度のラズベリーコミック賞受賞作・『テニスの王子様特別編 サムライの詩』をどうしても思い出してしまうのですが(笑)、果たしてどういった作品になるのでしょうか。色々な意味で非常に楽しみです。 
 また、この「ジャンプ」19号からは、『桐野佐亜子と仲間たち』(作:二戸原大輔/画:叶恭弘)が前・後編の形で掲載されます。
 この作品は「ストーリーキング」03年下期のネーム部門準キング受賞作。「ストキン」ネーム部門と言えば“マイナージャンル物”という印象が強いのですが、この作品は少年マンガ王道の“能力バトル物”。作画担当の叶さんもこの手の作品はお手のものだけに、こちらは純粋な意味だけで大きな期待が持てますね。新人原作者さんのお手並拝見と参りましょう。
 なお、前・後編に分かれた作品の場合、レビューは後編の終了を待って行います。特に次週はこのままいくとレビューの本数がとんでもない事になりそう(読み切り以外に新連載後追いレビューを2本予定)ですので、どうかご理解を賜りたいと。
 そして「サンデー」には、読み切りギャグ作品・『犬(ケン)ちゃん』(作画:河北タケシ)が掲載されます。
 河北さんは02年3月発売の「サンデー増刊R」に掲載された「第1回ルーキートライアル」でデビュー。その後03年には月刊増刊で作品を発表していますが、今回が本誌初登場という事になりますね。増刊休刊中における“新人・若手救済事業”の一環といったところでしょうか。

 ……というわけで、情報系の話題は以上。レビューとチェックポイントに移りましょう。
 今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」から新連載第3回後追いレビューが1本と読み切り1本の計2本です。

 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年18号☆

 ◎新連載第3回『無敵鉄姫スピンちゃん』作画:大亜門【第1回掲載時の評価:A寄りA−

 春の新連載シリーズ第2弾・『無敵鉄姫スピンちゃん』も、今回が“節目”の第3回センターカラーという事で、後追いレビューを実施します。

 で、ここまで3回ですが、まぁ一言で「極めて順調」という事で良いんじゃないでしょうか。読み切り版以来の確かな技術、ツッコミの巧さは未だに健在ですし、今回などは“間”でギャグを獲るといった、若手作家さんとは思えない渋いテクニックも光っていました。
 また、前回レビューの際に出した課題である「ネタがマニアック過ぎる」という点もかなり修正出来ているようです。これなら作品が読者を選んでしまうような事にはならないでしょう。
 「ジャンプ」のギャグ作品と言えば、『河童レボリューション』(作画:義山亭石鳥)『純情パイン』(作画:尾玉なみえ)のような、新連載と共にノロノロビームを浴びる作品──読み切り発表は極めて順調だったのに、新連載第1回時点で急失速し、第6回あたりから打ち切りへ向かって急加速する──が少なくないのですが、この作品は例外と考えて良さそうですね。

 現状、あとの問題はネタ切れだけですね。まぁ、今くらいスピンちゃんの表情で遊ぶだけの余裕があればしばらくは大丈夫だと思いますが、なるべく長く、このままぶっ壊れない程度に頑張って欲しいと思います。
 評価はA−寄りAで据え置きとしておきましょう。


 ◎読み切り『麻葉童子』作画:武井宏之

 今週から始まった現役連載作家限定の読み切り企画ですが、トップバッターは武井宏之さんの『麻葉童子』。これは現在連載中である『シャーマンキング』の外伝で、主要キャラの1人であるハオの幼少期にあった大きな出来事を描いた話、という事になりますか。
 武井さんのプロフィールについては、昨秋に読み切り・『エキゾチカ』を発表した時から特に変化は無いようですから、その時の講義レジュメ(03年9月2日付)を参照して頂くとしまして、早速レビューへと移りましょう。

 まずに関しては何も言う事無しですね。「水木しげるの21世紀版」とでも言いますか、殺伐とした中に一カケラの愛嬌が混じった画風が作品の内容とマッチしていて、大変良い雰囲気を醸し出しているように思えます。
 どうも武井さんはこの作品のおかげで“祟られ”てしまったようで、「もう二度とこの作品は描きません」と公言してしまいましたが、困った事に(?)、この人の画風はこういった作品で最も映えるような気がしてなりません。

 次にストーリーと設定についてですが、こちらも現役長期連載作家としての実力が遺憾なく発揮されていると申し上げて良いでしょう。完成度の高いプロット、ネーム量が凄まじく多いにも関わらず、それを読み手に負担を感じさせないだけの高い文章力、更には世界観を描写しながら読み手の関心を一気に“持って来”た冒頭のシーンの演出力など、その卓越した技術には唸らされっ放しでした。
 ただ惜しむらくは、ページ数の割にシナリオのボリュームがあり過ぎ、要所要所の展開が必要以上に駆け足になってしまった事でしょうか。キャラクターの行動に関する動機付けが不十分に終わってしまい、特にクライマックスあたりで多少唐突な展開になってしまったように思えるのです。
 また、この作品では婉曲的な表現が非常に多く、これが余計にページ数を食ってしまう結果を招いてしまったようですね。婉曲的な表現というのは、ページ数を過剰に浪費し、更には読み手が内容を理解するのを妨げますが、その代わり“何だか分からんがカッコいい雰囲気”を醸し出す抜群の演出効果も生み出します。使いようによっては非常に効果的な技法ではあるのですが、今回のような32ページの短編読み切りでは、デメリットの部分も大きかったのではないでしょうか。

 評価はA−寄りのB+というところで。『シャーマンキング』本編も最終章突入という事ですから、今度は連載を抱えていない状態で腰を据えて描いた読み切りを拝読してみたいものですね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 空知英秋VS大西編集の舌戦は、巻末コメント欄と編集後記欄をも巻き込んでエスカレート。……もう仲が良いのは分かったから、楽屋オチはこれくらいにしといた方が良いと思いますよ、ええ。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】

 思いも寄らぬポイントで新ヒロイン出現!?
 ……などといった煽り文句が良く似合う急転直下の展開になりました。単調になりつつあった展開を一気に動かすという意味では、タイミングにしろ手段にしろ、大変に巧みですね。
 しかし、ネット界隈のあちこちから「何だかラストシーンが2週間前の『いちご100%』みたいだ」という指摘が聞こえて来たのには、「やっぱり皆、同じ事考えてるんだなあ」と思ってしまったり(笑)。あーあと、「新キャラよりも王城の女子マネの方が萌え」…という声があったのも以下同文ですね(笑)。『ヒカ碁』の奈瀬さんや記録係さんといい、ヒロイン候補は意外な所から現れたりするものですよね。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B+寄りB/雑感】

 登場シーンから「そこまでされたら、もう何も言えません」だった新キャラ・こずえ嬢ですが、その設定がまた強烈無比! いや〜、参りました色んな意味で(笑)。
 しかし、本来は男子中・高生(この作品のメイン読者層!)の特性である“年中無休エロ妄想”を、よりにもよって萌え系女子高生キャラに移植するとは何と言う荒業! こんなマネをされては、読み手は強制的にこのキャラに感情移入せざるを得ないではありませんか!
 ……いやはや、河下水希恐るべしであります。シナリオの中身を充実させる以外の才能にはとことん長けた人ですね、この人は(一応褒めてます)。

 ◎『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 で、『いちご100%』の次にこの作品ですよ。ちょっとは考えて目次作れよ編集部も(苦笑)。

 しかし冨樫さん、“王”が登場してからノリノリですなぁ。ノリノリになればなるほど残酷に人が殺されていくのはどうかと思いますが(笑)。前回あたりからまた下書き原稿が目立ってますが、それでも時間の限界までキッチリ描こうという気持ちが原稿の端々から感じられます。相当モチベーションが高いんでしょうね。


 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】
 
 掲載順実質最後尾キチャッター! という事で、半年振りの「打ち切りサバイバルレース」本格参入が確実視されておりますこの作品。
 ただ、「展開が締めに入った」というのは半分当たりで半分間違いではないかと思うんですよね。というのも、今回でL・X・Eが、「北関東周辺がテリトリー」という異様にローカル色の強い小規模団体だと判明したわけで、これはL・X・E壊滅後も次のホムンクルス系秘密結社を出現させる事の出来る伏線にも働くんですよ。“秋水、修行の旅”の伏線も残したまんまですし、まぁ風呂敷を広げるのか畳むのかは今回の時点ではまだ決まってないのではないかと。
 個人的にはまだまだやって欲しい事が一杯残ってますので(カズキ×斗貴子さんにスポットを当てた日常編とか)、何とかここを生き延びてあと1〜2年ほど引っ張って欲しいところなんですが……。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「好きなファストフード」。
 年収が数千万〜億といった売れっ子マンガ家さんでも、食生活は意外に質素というか貧相…というのは、「ジャンプ」の巻末コメントをつぶさに観察しているとよく判る事ですが、今回の質問でも「そんなのばっかり食べてるので、もううんざり」(満田拓也さん)を代表に、皆さんかなりのジャンクフード・イーターのようですね。
 しかし、水口尚樹さん、マクドばっかり食ってたら内蔵がビーフパテみたいになりますよ(苦笑)。

 ……とか言う駒木も、ファストフードというかB級、C級グルメは大好きでして、公営ギャンブル場の“旅打ち”の際にも、必ず何かファストフード系を買い食いしていますしね。
 まず、マクドダブルチーズバーガー、朝メニューのホットケーキソーセージマフィン。ただし脂肪とカロリーが凄いので、好きな割には余り食べられません。朝メニューは営業時間的に食べる機会も少ないですし。
 丼物チェーン店は“松屋派”牛めしに別売りのキムチを投入して食うのが堪らなく好きです。
 あと、ファストフードかどうか判りませんが、ミスドのドーナツは全般的に好きですし、ドトールのサンドイッチやケーキもコーヒー飲むついでに頼んでしまったりします。「週刊競馬ブック」や「週刊プロレス」読みながらミルクレープ食ったりしています。……しかし、そんなのでよく体重65kg未満をキープ出来てるよな、自分(笑)。
 ギャンブル場系では、マイフェイバリットは廃止して二度と食えなくなった西宮競輪場のホルモン焼きで、あとは……多すぎるので書き切れませんね。また余裕がある時、文化人類学として講義でもやりますか(笑)。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:A−寄りB+/雑感】

 アニメ開始記念巻頭カラー、まさか、かの怪作・『葵ディストラクション』とのセルフ・コラボレーション企画で来るとは(笑)。物凄い内向けのアピールもあったもんですなあ。この手の企画と言えば、『ドラえもん』の「ぼく桃太郎のなんなのさ」が、原作では『バケルくん』とのセルフ・コラボレーション企画でしたね。
 ただ今回の企画、同じ作者の作品ですから当たり前ですが、どこかで見たようなキャラクターがバッティングしただけ…みたいになっちゃってるのも否めない所で。難しいところですなあ。
 しかし、この手の企画をあだち充作品でやると、キャラクターが判別不可能になるんでしょうね(笑)。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:B+寄りA−/雑感】

 ありましたなあ、部活動紹介 ウケ狙いで勝負に出るか、手堅く真面目にまとめるか運命の分かれ道。まぁ、笑うのは簡単だけど笑わせるのは難しい…と言う事で、狙った部は大概失敗に終わるものなんですが。

 駒木の所属していたSF研究部みたいな怪しい文化系クラブにとっては、新入部員を確保出来るかどうかは生命線ですので、現役の頃は毎年苦労させられました。男子部員ばかりで演台に昇ったら「ヲタ系のイタい部活だ」という事で(半分正解なんですが^^;)人が寄って来なくなるし、逆に女子部員を投入したらしたで、いわゆる腐女子が集まって来て異様な雰囲気のクラブになっちゃうしで、サジ加減が難しかったですね(笑)。
 それでも駒木が入部する数年前までは、男子部員中心の硬派な部活だったらしいんですよね。どうやって人を集めてたんだろう、謎だ……。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ……えーと、今回の喫茶店でのアレ、シチュエーションや詳細はかなり違いますが、駒木も似たような体験があります(苦笑)。
 もっと正確に言うと、駒木の2つの失恋体験──「突然呼び出されて喫茶店で別れを告げられた(例のバレンタインデー失恋)」「目当ての女のコが、どうやら駒木の仕事仲間の方が好きらしく、その結果『ごめんなさい』」──が見事にミックスされたようなシーンでした。ハハハ……(力ない笑い)。
 だからこそ言えるのですが、今回の洞口ジュニアの心理描写、これは極めてリアルです(爆)。さすがに繁華街で喧嘩はしませんでしたが、絶望感を感じたのは同じでしたね。
 いやはや、『H×H』で何人キャラが殺されても動じない駒木ですがこのシーンには動揺を禁じ得ませんでした(笑)。河合さん、アンタは恐ろしい人だよ(苦笑)。

 ……というわけで、今週はここまで。近い内に、現在連載中の作品の評価再検討とかやりたいんですが、時間取れそうに無いですね。結構作品間の序列付けとかややこしい問題もありそうですし、これは今後の課題でしょうかね。 


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