駒木:「2回の予定で始めたこのシリーズも、やっと今日で最終回だね」
珠美:「なんだか、夏休みの夏期講習みたいな感じになっちゃいましたね(笑)」
駒木:「まぁ、秋以降の本格的な競馬シーズンで、少しでも役に立ててもらえば……だね」
珠美:「そうですね。……あ、この2週間、この講義の冒頭でお伝えして来たサンデーサイレンスなんですが…。結局、残念なことになってしまいました…」
駒木:「最後は安楽死じゃなくて、衰弱死って形だったみたいだね。でも眠るような最期だったとも聞くし、関係者が最後の最後まで諦めずに頑張ってくれたという証拠だと思いたいね。今は、とにかく日本を競馬の一流国に押し上げてくれた名馬の冥福を祈る事にしよう」
珠美:「はい。関係者の皆さん、お疲れさまでした。私からもサンデーサイレンス号のご冥福をお祈り申し上げます──」
駒木:「……さて、ここから馬券の話に持っていくのは、ちょっとギャップがある気がするけど、とにかく本題に移ろう。今日も話さなくちゃいけない事がたくさんあるしね」
珠美:「ハイ。それでは、今日は“穴党”──馬連で50倍以上の高配当をアグレッシブに狙いに行くような方のための馬券学基礎講座、そして最後に、馬券の買い方による賭け金の回収期待値についてのお話をしてみたいと思います」
駒木:「それじゃあ、“穴党”向け講座から始めようか。採り上げるテーマは、先週の最後に紹介した通りの3つだよ」
実戦編3:“穴党”向け実戦講座
3−1:少数の勝ち組と多数の負け組──それが“穴党”の真実
珠美:「これなんですけど、ギャンブルにおいては当たり前のような話ではないんですか?」
駒木:「まぁ、そうなんだけどね。でも、それは仲間内の麻雀やカジノのギャンブルみたいに、賭け金に対する胴元の取り分が、ゼロだったり極めて少ないギャンブルだけにあてはまるものでね。賭け金の25%以上がザックリと差し引かれる日本の競馬では、普通は勝ち組は出てこないんだよ。出て来るのは小負け組か、大負け組」
珠美:「うー…、夢の無いお話ですねー(苦笑)」
駒木:「でも、条件付で例外なのが、この“穴党”と呼ばれる人たち。レースを絞って、明らかに間違った馬券の買い方をしなければ、確率は高くないんだけど、収支をプラスに持っていける可能性があるんだよ。だから、『回収率90%だろうと負けは負け。こちとら、金儲けるためにギャンブルしとんのじゃい!』って人は、“穴党”以外に生きる道は無いんだよね。
ただし、これだけは忘れて欲しくないのは、“穴党”っていうのは、リスクがメチャクチャ高いという事。確かに勝ち組が存在する一方で、“本命党”や“中穴党”じゃ考えられないような低回収率の大負けをする可能性があるという事なんだ。これは、今日の講義の後半で、具体的な数字を挙げつつ述べていくので、どうか注目して欲しい。
“穴党”の醍醐味は、あくまで“少ない投資で多くの利益”であって、負けてもシャレで収まる範囲でチャレンジするのが鉄則だからね。絶対に生活を脅かすような賭けをするのだけは止める事。日本の競馬みたいな、呆れるほど賭ける立場の分が悪いギャンブルで無茶して人生破綻なんて、本当に馬鹿馬鹿しいからね」
珠美:「……と、いう事ですので、どうぞよろしくお願いしますね」
3−2:「○倍の馬券を当てた」事よりも、「賭け金を○倍に増やした」事に注目しよう!
駒木:「さぁ、ここからは具体的な話に移っていくんだけど、ただ、“穴馬の見つけ方はこうだ!”…みたいな話が出来ないのが辛いよね(苦笑)。…ていうか、それが分かってたら、僕はもっと楽な生活が出来てるはずだからねぇ……」
珠美:「そう言えばそうですよね(笑)。馬券の必勝法の本を書いたと言われる本がたくさんありますけど、よく考えたら本当の必勝法なんてどこにもありませんものね」
駒木:「大体、大穴馬券に繋がるような穴馬っていうのは、普通、常識から考えたら実力が明らかに足りないような馬だからね。その実力差を覆す僅かな可能性があるような馬──例えば、ごく限られた条件に限って信じられないような好走をする馬──を見つけて、さらにその僅かな可能性が実現する事に賭ける。これが“穴党”のスタイルなわけだからね。
そんなモノにマニュアルなんて作りようが無いし、もうこれは、自分なりのオリジナルな穴馬の見つけ方を追求してもらうしかない。僕が出来るのは、ほんの少しのお手伝いに過ぎないんだよねぇ」
珠美:「確かに、穴馬券の当て方なんて、説明できませんものね」
駒木:「実力馬が凡走するケース…とかなら、いくらかは説明できるんだけどね。でも、その逆は難しいんだな。
……と、話が横道に逸れた。“『○倍の馬券を当てた』事よりも、『賭け金を○倍に増やした』事に注目しよう!”…というテーマに話を戻そう。
これはね、よく“穴党”の人が陥りがちな事なんだけれども、万馬券、つまり100倍以上の配当のある馬券を的中させると、『とんでもない額を儲けた!』って感覚が先走っちゃって、本当はどれくらい儲けたのかって事が頭からすっ飛んじゃうんだよね(苦笑)。
ほら、万馬券当てた人って、『150倍の馬券当てたぞー!』とは言うけど、『万馬券当てて、賭け金を30倍にしたぞー』とは普通言わないじゃない」
珠美:「あー、そういえば……」
駒木:「よほど腹の据わった“穴党”ギャンブラーじゃない限り、万馬券になる組み合わせを中心に馬券買ったりしないはずなんだよね。大体、30〜50倍くらいの馬券を多目の額で買って、万馬券は100円台の少額馬券で押えるって人が多いと思うんだよ。それか、ボックスや総流し馬券で“引っ掛かる”って感じ。
…でね、“穴党”の人に多いと思われる買い方で説明すると、中心となる組み合わせを1000円で3点、それからちょっと当たる可能性の低いと思われる組み合わせを500円で2点、そして万馬券狙いで200円を3点。これで買った馬券の合計は…」
珠美:「4600円ですね」
駒木:「で、200円の馬券の内、150倍の馬券が当たったとする。払戻金の総額は?」
珠美:「30000円…ですか」
駒木:「馬券自体は150倍だけど、儲けは賭け金総額の何倍になる?」
珠美:「えーと、ちょっと待ってくださいね…(電卓を叩いて)、え? 約6.5倍ですか?」
駒木:「そう。大儲けしたようで、実はそれだけしか賭け金は増えてないんだよ。これじゃ、“中穴党”の人が3点均等買いで20倍の中穴馬券を当てるよりも分が悪くなっちゃうんだよね(苦笑)。
これが例えば、150倍の馬券を500円買っていたとしよう。でも、それでも75000円にしかならない。確かに7万円以上儲けてるし、とんでもない大ホームランに見えるけど、4600円に大しての倍率は?」
珠美:「75000、割る、4600…と。…約16.3倍ですね」
駒木:「つまりは16レース分強の賭け金というわけだね。……こんなの、2〜3日馬券が全く当たらない日があったら、あっという間に溶けちゃうよ。中央競馬のスケジュールで言うと1週間か2週間だ」
珠美:「あらら…それじゃ、せっかく万馬券当てたのに、意味が無くなっちゃいますね」
駒木:「そうなんだ。“得した気分”は味わえるけど、得はしてないんだよね(苦笑)。で、気分だけが先行してて、気が付かないうちに負けが込んでいる。怖いんだ、こういうのが。
さっき、『8点買いの押さえで150倍の万馬券的中』と『3点均等買いで20倍的中』なら後者の方が上だって話したよね。で、この2つのケース、どっちが実現するのが簡単だと思う?」
珠美:「えーと、3点で20倍の方がまだ簡単だと……」
駒木:「僕もそう思う。そんなに簡単に万馬券が当たるなら苦労しないよ。
…つまり、万馬券当てても賭け金が10倍前後になるような買い方をしている人は、“気分だけの穴党”であって、本当の“穴党”じゃないって事なんだ。勝ち組に回れるような“穴党”になりたいのなら、賭け金がせめて30〜40倍になるような買い方をしなくちゃね。」
珠美:「でもそれって、大変そうですね…」
駒木:「大変だね(苦笑)。まぁ、そう簡単にギャンブルでは勝たせてもらえないって事だよね。
これでもし、『そんなの出来ないよ。俺はチョイ負けで良いや』…って言うんなら、悪い事は言わない。今すぐ“中穴党”に鞍替えするべきだね」
3−3: 『穴馬券は当てに行くな。儲けにいけ』
駒木:「……と、いうわけで、さっきのテーマからこう繋がって来るわけ。賭け金を何十倍にも増やそうと思ったら、何点も馬券を買ってちゃ間に合わない」
珠美:「“穴党”の人も点数を絞っていかなくちゃいけないってことですか…」
駒木:「そういう事。だって、元々当たる方が珍しいから穴馬券になるんだよ。それを毎レース当てようとして、買い目を5点も10点も増やしていくのは、よく考えたら矛盾してるよね。
だから、60倍位の馬券を2点買いとか、万馬券必至の軸馬から3点買いとか、そういう買い方が必要になって来るよね。1回当たったら、1ヶ月くらい的中が無くても大丈夫…みたいな買い方」
珠美:「うわー、大変ですー(苦笑)」
駒木:「こういう時に馬単が役に立つ。『これだ!』っていう穴馬を頭(1着)に指定してしまえば、ヒモ(2着)はある程度上位人気の馬でもノルマは十分達成できるよ。その代わり、“ウラ”(1、2着が逆の馬券)なんか買っちゃいけないよ。そういう当てようってスケベ心が天敵なんだからね(苦笑)。勝ち組を目指す“穴党”の人は、とにかく人気薄を軸にして馬単勝負!」
珠美:「それを考えると、馬単の導入というのは有り難いんですね」
駒木:「そうだね。“何週間かに1回、たまたま当たった時に儲かる”って事を前提に考えると、これほど効果的な馬券は無い。的中を第一に考えた時は、これほど厄介な馬券も無いんだけどね(笑)。
まぁ本当なら、三連複とか、南関東公営で導入されてる三連単が一番お得ではあるんだけどさ。でもそれだと『半年に1度当たれば大儲け』になっちゃうからね(苦笑)。そんなに人間って気長な生き物じゃないと思うから」
珠美:「(苦笑)」
駒木:「まぁ、そういうわけで、“穴党”を選ぼうって人は、そういう覚悟を持って競馬に挑んで欲しい。“気分だけ穴党”っていうのは、儲からない割に賭け金がかさんで行くっていう、ギャンブルでは一番危ないパターンだからね。
恐らく、『お馬で人生アウト』になる人は、馬券の基礎も知らないのに大金を突っ込む“本命党”か、この“気分だけ穴党”のどちらかだと思うんだ。これらのタイプの人が、お金に行き詰まって、これまで負けた分を取り戻そうとして、間違った賭け方のままで更に大金をぶち込むようになったら、もうオシマイ。後は自殺か犯罪者か……。
そういう事にならないように、釘をさしておくね」
珠美:「ま、この講座で他人の意見を聴いてみようって思われた受講生の方たちなら安心だと思いますけど♪」
駒木:「ん、そうだね」
実戦編4:確率論から見た多点数買いの危険と“本命党”の限界 駒木:「……というわけで、いよいよこのシリーズも最後の講義になるね。
ここでは、これまでたびたび述べてきた、馬券の買い目を絞るの大切さや、“本命党”の回収率の限界、それから勝ちに行くためなら穴馬券がいかに大事か…という事について話してみようと思う。」
珠美:「えーと、まず『買い目を絞る』というのは、“本命党”にしろ“穴党”にしろ、2〜3点以内に留めておかないと、高い回収率は期待できないというお話でしたね」
駒木:「そう。馬連の4頭6点ボックスとか、5頭10点ボックスとかよく言われるけれども、回収率の観点から考えると、実はこんなのは問題外に近いんだよ。多くの人間から均等にお金をむしり取ろうとする、JRAの陰謀みたいなもんだよ(笑)」
珠美:「それから『“本命党”の限界』というのは、“本命党”の買い方だと、どうしても回収率は80%程度が限界になってしまうという事、そして『勝つためには穴馬券が大事』というのは、今の競馬のシステムでは極端な穴狙いが、黒字達成のための唯一の道筋、ということでしたね」
駒木:「そういうことだね。本命狙いに徹する限り、かなりレースを厳選して、正しい馬券の買い方を徹底しても、回収率は80%台がやっと。90%に乗るのはかなり難しい。穴馬券については今日の前半で述べた通りだね。
……で、これらの事は、ほとんどが確率統計の話で説明できる。数字が全てを物語ってくれるんだね」
珠美:「それでは早速、数字の話をお願いします。私も楽しみです」
駒木:「じゃあ、始めるよ。……まずね、日本の馬券のように、ほぼ一定の期待値──胴元(JRAなど)に収められる額を差し引いて、馬券を買う側に戻ってくる賭け金の割合──が決まっているギャンブルの場合、非常に長い目で見たら、収支は必ずこの期待値に収束されてゆく。日本の競馬で言えば75%弱だね。
これを『大数の法則』と言って、1回ごと試行の結果を予想するのは困難だけど、充分な回数の試行がなされた場合、その総合的な結果は、完全に確率から予想できる…って事さ。ちょっと難しいかな?」
珠美:「えーと、ちょっと待ってください。それじゃあ、どんな買い方をしても、同じ事になっちゃいませんか? 何回も馬券を買えば、回収率は75%に近付いていくんでしょう?」
駒木:「まぁ、何十年、何百年とやってれば、あるいはそうなるかもしれない。でも、1年単位とか数年単位では、ちょっと話が違ってくるんだ。
難しい話は省略するけど、実はね、馬券の買い方によって、この『大数の法則』に支配されるまでのスピードが随分と違って来るんだよ。つまり誤魔化しが効くって事」
珠美:「誤魔化しですか(笑)」
駒木:「確率は本来、絶対的なものだからね。誤魔化すくらいしか為す術は無いんだよ。
……でね、『大数の法則』に一番支配されやすい馬券の買い方というのが、“的中確率を上げる替わりに、儲かる額を減らす買い方”なんだよ。要は、的中率の高い本命狙いに徹したり、的中率を上げるためにバンバン買い目を増やしていくという事。
……ここで話が繋がったでしょ?」
珠美:「あー、なるほど。つまり、買い目を増やすな、本命ねらいは止めようっていうのは、『大数の法則』から逃れるための努力なんですね」
駒木:「そういうわけ。まぁ、それ以外にも理由はあるんだけど、とりあえずそれは置いておこう。
……例えば、珠美ちゃんとかだと、次に挙げるような馬券の買い方をよくしてるんじゃないかな? 本命馬券で賭け金を確保して、中穴馬券で儲けを狙う買い方」
本命〜中穴サイドの4頭の馬連ボックス買い
(100円×6点、計600円)
6.0倍(100円)→当たれば600円(±0円)
6.0倍(100円)→当たれば600円(±0円)
7.4倍(100円)→当たれば740円(+140円)
14.8倍(100円)→当たれば1480円(+880円)
24.7倍(100円)→当たれば2470円(+1870円)
37.0倍(100円)→当たれば3700円(+3100円) |
珠美:「……あ、ありますねー」
駒木:「馬券の成績が酷く悪かった頃の僕の買い方と同じなんだけど(苦笑)。この買い方ってね、とても的中率が高そうに感じるんだよ。本命も中穴も押えているし、万全に思えちゃう。でもね、期待値をセオリー通り約75%と仮定した場合、的中率は45%にしかならない」
珠美:「え?」
駒木:「しかも、詳しい計算式は省略するけど、馬券が当たった場合の平均配当は991円にしかならない。つまり、24倍とか37倍とかの馬券で儲けるつもりでいても、実のところは的中率45%で賭け金を約1.65倍にしようとしているに過ぎない。これじゃ、馬連じゃなくて複勝だ(苦笑)」
珠美:「えー! そんなに割に合わないんですか?」
駒木:「合わないねえ。もっとショッキングな数字を教えてあげようか? この“的中率45%で賭け金1.65倍”を目指す買い方を500レース続けたとして、黒字になる確率はどのくらいだと思う?」
珠美:「えーと、0.1%くらい、ですか?(汗)」
駒木:「そんなにあったら苦労しないよ(苦笑)。正解は、約0.00000000018%。ざっと考えて55億人に1人の割合だ」
珠美:「…………(絶句)」
駒木:「これでも手加減してるんだよ。本当なら500レース分なんて、確率統計の試行回数から考えると少な過ぎるくらいなんだ。
その代わり、この買い方だと、極端な額を負けるという事も少ないんだけどね。ほぼ全ての人が回収率70%台に落ち着く計算になる」
珠美:「えーと、博士、私の回収率はもっと低いんですけど……(苦笑)」
駒木:「それは、確率統計からちょっと外れた話になる。
今は全ての組み合わせの期待値を75%で計算したけれど、実際の競馬はもっと複雑だからね。馬の強さに対してオッズが低すぎる状態になったり、その逆もある。だから、人気が先行している1番人気の馬から馬券を買ったりすると、期待値はもっと下がるんだよ。
それに珠美ちゃんはレースを絞らないでしょ? そうすると、期待値が75%よりも随分低い、割に合わない馬券も買わされてるはずなんだ。ほら、あるだろ? 『いくら買っても当たる気がしない馬券』とか。レースを絞っていると、そういう馬券を買わないで済むから、実質期待値はもっと上がるんだけどね。
…珠美ちゃんの場合、さっきの買い方をしても的中率は期待値通りの45%に達していないんじゃないかな、と思うんだよ。45%って言ったら、ほぼ2レースに1度当たる計算だ。1日12レース全部買ってるなら、いつも5〜6レースは当たってないといけない」
珠美:「そんなに当たってませーん(苦笑)」
駒木:「じゃあ例えば、的中率が45%じゃなくて、37.5%だと仮定すると、回収率は60%前後に収束される事になる。75%に届く確率なんて0.1%程度。珠美ちゃんの場合、今年はスランプ状態みたいだから、まぁ60%をちょっと切っててもおかしくはないね」
珠美:「じゃあ、レースを絞らないといけませんね」
駒木:「まずはね。でも、こんな6点買いだと、いくら的中率を上げても限界がありそうだ。この買い方で、例えば的中率を何とか50%に上げたとしても、回収率90%を達成できる確率は2%余り。大体80%台前半で限界がやってくるね。普通に馬券を買ってて、6点買いで的中率50%なんて夢の数字だよ。それでもこの始末だもの」
珠美:「なるほど…だからもっと効率の良い買い方をしなくちゃダメってことですね」
駒木:「そう。だから点数を絞って、的中率を少し下げる代わりに、儲ける額を増やす。まぁそれでも、本命中心の買い方をしている限り、回収率90%は至難の業だと思うけどね。オッズを見れば分かるけど、本命サイドの馬券って不利なオッズになり易いしさ」
珠美:「そこで“中穴党”へって話なんですね」
駒木:「うん。これは確率じゃなくて僕の経験に基づく話だから信頼度はイマイチなんだけども(苦笑)。
実は、この講義で紹介した“中穴党”の買い方っていうのは、本来なら“的中率25%強で、当たった場合は賭け金の3倍弱の回収が期待できる”って買い方なんだけど、これにデータの読み方や展開予想なんかの馬券の基本をマスターして、さらに1日3〜5レース程度に絞って狙いを定めたら、的中率は30%以上にまで上げることが可能なんだ。この場合、回収率は90%以上が期待できるし、的中率を33%まで上げる事が出来たら、ほとんどプラマイゼロだろうけどトータル黒字まで期待できる。
この謎を解明するには、非常にややこしいデータ分析が必要になって来るだろうけど、とにかく“中穴党”の買い方は、馬券の基本さえマスターすれば一番健全なギャンブルになり得ると思ってくれて良いよ。まぁ、確率の話じゃないから信用されなくても仕方ないけどね(苦笑)」
珠美:「……では最後に“穴党”の方たちの期待値についてお話してください」
駒木:「これも数字を出せば一目瞭然だと思うから、そうするね。
ここでは“的中率1.5%で、当たった場合は賭け金の49.4倍が望める”というパターンの賭け方を500回繰り返すとするね。これも期待値は約75%で固定されているよ。
この場合、トータル黒字になる確率は、なんと13.61%にもなる。10人に1人強だね。さすがに期待値75%の状態で倍以上の収益を求めようとすると苦しいけれども、さっきの55億人に1人と比べると雲泥の差だよね」
珠美:「全然違いますねー」
駒木:「だから、これが『大数の法則』を誤魔化す方法なわけ。穴狙いは偉大なり、なんだよ。
ただし、やっぱり危険も大きい。“本命党”や“中穴党”では考えられないような大負けだって考えられるからね。この買い方の場合、的中率が1.5%から1%に落っこちただけで、全体の4割以上の人が回収率50%を割ることになる。ちょっとしたスランプが命取りになるんだよね。その分、少しでも的中率が上がれば儲けもデカいんだけど、こちらの方はどうだろう? 僕は“穴党”の人間じゃないからよく分からないけど、賭け金を50倍にする馬券を当てる確率を1.5%から2.5%(大抵の人が楽々黒字計上できる数字)にするのは、かなり難しそうな気がするしなぁ…」
珠美:「私には真似できそうに無いですね(苦笑)」
駒木:「僕にも無理(笑)。特に僕は、セミプロの馬券師が絶好調から崩れていって、行方不明になった様子を見ているからね(苦笑)。
……最後に、戒めも兼ねて『気分だけ穴党』の人の馬券についても話をしておこう。
このタイプの人たちはこんな馬券を買うんだったよね」
穴狙いの変形8点買い(賭け金計4600円)
37.0倍(1000円)→37000円(+32400円)
37.0倍(1000円)→37000円(+32400円)
49.3倍(1000円)→49300円(+44700円)
73.9倍(500円)→36950円(+32350円)
73.9倍(500円)→36950円(+32350円)
147.7倍(200円)→29540円(+24940円)
147.7倍(200円)→29540円(+24940円)
295.3倍(200円)→59060円(+54460円) |
駒木:「……この場合、期待値75%で固定すると、的中率7.75%、的中の時は賭け金を9.41倍させる事になる。これだけ穴狙いしてるのに、結局10倍に届かないんだよね(苦笑)。
で、この買い方を500回繰り返すと、黒字になる確率は1%に満たないし、回収率90%に乗る確率も10%未満。逆に回収率60%を切る人だって出てくるから、“穴党”の悪いところだけを強調したパターンだね、これじゃ。同じ穴馬券を買う人でも、さっきの50倍狙いのパターンと大違いだ」
珠美:「なるほど……」
駒木:「その上、このタイプは賭け金もかさむしね。『少ない投資で多くの利益』っていうのが“穴党”の本道なのに、そこからどんどん外れていってしまう。
でね、中央競馬だけでも、この額を賭け続けていくと、まず1年間で100万円は負ける計算になる」
珠美:「100万円!」
駒木:「それにこれは的中率7.75%、つまり1日12レース中、平均して1回はこういう馬券を当てる事の出来る人の場合だ。さっきも言ったように、穴馬券買いというのは、ちょっとしたスランプで回収率がガクっと下がるからね。そうなると……」
珠美:「考えたくありませんね(苦笑)」
駒木:「まぁそういうわけで、勝ちたい人は覚悟を決めて“穴党”。健全に遊びたい人は、テクニックと知識を身に付けて“中穴党”。難しい事考えずに楽しみたいって人は、多少の負けを覚悟して“本命党”。どういうスタイルにしても、くれぐれも間違った賭け方をしないようにして下さい。これが当講座からのアドバイスです」
珠美:「……というわけで、博士お疲れさまでした」
駒木:「うん、珠美ちゃんもご苦労様。次回はまだ何も考えていないけど、やっぱり競馬について何か講義をしようと思ってます。では、また来週」
|