「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

5/29(第26回) 社会調査「ヤフーBBモデム配りアルバイト現場報告」(3)
5/27(第25回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(5月第5週分・前半)
5/24(第24回) 
競馬学特論「G1予想・優駿牝馬(オークス)編」
5/23(第23回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(5月第4週分・後半)
5/20(第22回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(5月第4週分・前半)
5/17(第21回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(5月第3週分・後半)
5/15(第20回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(5月第3週分・前半)
5/10(第19回) 
競馬学特論「G1予想・NHKマイルC編」
5/9(第18回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(5月第2週分合同)
5/5(第17回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(4月第5週/5月第1週分・後半)
5/3(第16回) 
競馬学特論「G1予想・天皇賞(春)編」
5/2(臨時) 
メディアリテラシー概論「『ヒカルの碁』終了に関する噂話検証(暫定版)」
5/1(第15回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(4月第5週/5月第1週分・前半)

 

2003年第26回講義
5月29日(木) 社会調査
「ヤフーBBモデム配りアルバイト現場報告」(3)

◎前シリーズ(「潜入レポ」)のレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回
◎今シリーズ(「現場報告」)のレジュメはこちらから→第1回第2回第3回

 当講座の看板講義・「現代マンガ時評」をも凌ぐ人気シリーズとなってしまったこの「モデム配り現場報告」、1ヶ月ぶりの再開と相成りました。
 ただ、再開したとはいえ、時間や諸々の事情のためにどれくらいのペースで講義が出来るかは駒木本人も分かっていませんので、その辺りはどうか宜しくお願いします。

 さて、この1ヶ月で、モデム配りの現場の状況も色々と様変わりしてゆきました
 まず、都市圏在住の方は既にご存知でしょうが、5月からモデム配りスタッフのユニフォームが全国の現場で一斉に新スタイルに変更されました。これまでは私服の上にロゴ入りの白装束(ベンチコート、ウインドブレーカー)を着る、いわゆるパナウェーブ研究所スタイルだったわけですが、5月からはソフトバンクから貸与された真っ赤なボタンダウンシャツに改められました。それだけではありません。ほぼ時を同じくして、ブースに立てる看板やモデムを入れる紙袋まで赤で揃えられ、今度はまるで文化大革命中の中華人民共和国みたいになってしまいました。
 この喩えを現実に照らし合わせると、孫正義社長はさしずめ毛沢東といったところになりますか。確かに頭のハゲ具合はどことなく似ています。ひょっとしたら本当に毛沢東の霊が憑依してるのかも知れません。これで今後、孫社長が公の場で「大躍進」とか「五カ年計画」とかいった単語を使い出した時は本格的に疑ってみるべきでしょう。
 しかしこの話、『ヒカルの碁』と同じようなエピソードなのに、どうしてこんなに禍禍しく感じるんでしょうか。不思議ですね(゜▽゜)

 ──で、この貸与された制服なのですが、これがどこかの会社のADSL用モデムに似て非常に粗悪な出来なのが大変に困りモノだったりします。

 まず、“紅衛兵仕様”の赤いシャツですが、これがポリエステル65%・綿35%のゴワゴワした布を、3回も着ればボタンが緩んでしまうような粗悪な縫製で仕上げた中国製(!)の品。洗濯すれば派手に色落ちするのは言うまでもなく、うっかり白いシャツなどと一緒に洗ってしまうと、瞬く間に色移りしてしまいます。
 また、更に曲者なのが同時に貸与されたズボン(男性スタッフはチノパン、女性スタッフはストレッチパンツ)です。股下のサイズは表記より5cmも短いわ、女性スタッフ用のパンツは下着がハッキリ透けるくらい薄い布地で出来てるわで、とても着れたもんじゃありません。これらのパンツはユニクロ製だそうですが、いくらユニクロでもこんな粗悪品を大量生産するとはにわかに信じられず、スタッフの間では「このズボンを作ったのは本物のユニクロではなくて、ニとロが漢字で書かれた“ユ二ク口(ゆにくくち)”じゃないのか」などと噂になったりしました(嘘です)。

 しかも、このユニフォームは、先程から述べているように“貸与”です。“支給”ではありません。ですので、離職の折には派遣会社経由で返却しなければならない事になっています。恐らくはネットオークションで転売するのを防ぐためだと思われますが、アンナミラーズの制服じゃあるまいし、どこをどうしたら売れても無いのに変装して電車に乗るB級アイドルのような勘違いが出来るのでしょうか、ソフトバンク株式会社。
 第一、そうやってユニフォームを返却してもらったからといって、そんな中学生時代のズリネタくらい利用価値の失せた中古品をどう処分するのか、激しく疑問であります。よく廃用になったバス車両がアジア諸国で再利用されているのをTVなどで見たりしますが、これで数年後、どこぞの難民キャンプあたりでヤフーBBのロゴの入った赤シャツを着ている若者とかがCNN経由で映し出されたら、それはもう脱力する事請け合いです。いや、それよりも
 「お、ヤフーBB、ソフトバンク系だっけか、あの会社。やってたなぁ、駅前の馬鹿キャンペーン。モデム配ってたあいつら、一体今頃何してんだろう?」
 ……などと「今は昔」とばかりに懐古したりするのかも知れませんが。

 さて、ユニフォームの話題はこれくらいにしまして、もうちょっとディープな話へと移りましょう。
 この1ヶ月で現場のスタッフたちも一様に驚嘆した出来事といえばやはり、我々の金ヅル役を懸命に務めてくださっている孫正義社長率いる、ソフトバンク株式会社の3月期決算でありました。

 もう既に新聞・ネット各媒体でゲップが出るほど報じられておりますが、連結決算の最終損益が999億円という、999で確率変動絵柄での大当たり超高額赤字決算となりました。赤字の最たる理由は、この講義のテーマであるモデム配りキャンペーンに掛かった莫大な経費。まぁ当然の事ではあるのですが、「それにしても、そんなに金をジャブジャブ使ってたのか…」と、当事者の一員ながら呆れ返るばかりであります。
 ちなみに、この赤字額を聞いた時のスタッフの反応は、
 「それやったら、あと1億円スタッフに分配して、キッチリ大台に乗せたらんかい!」
 ……というものでした。そんな薄情な? いや、だって仕方ないでしょう。スタッフとして働いていても、ヤフーBBに入会されたお客さんから「ありがとう」と感謝された事は一度としてなく、逆に「どないなっとんねん」と言われた事は数知れず…といった具合ですから、スタッフというスタッフが“アンチ・ソフトバンク”へとシフトしてゆくのも、また自明の理というものです。
 
 ところで、この決算報告や後のマスコミ向け発表などで、このキャンペーンの実態について、いくつかの数字が公表されました。ここで、その中でも重要と思われる材料を、いくつかピックアップして紹介してみましょう(注:元記事が行方不明になってしまったものもありますので、細かい数字等が間違っていましたら、ご指摘願います)

・6月には有料会員数が200万人を突破し、モデム配りキャンペーンの経費を考えない損益分岐点を突破。
・来年3月までに400万人以上の会員を獲得見込みであり、そうなれば大幅な営業黒字が見込める。
・ここ数ヶ月における、新規会員獲得にかけた経費は、新規会員1人あたり平均3万7千円。
・最大2ヶ月の無料期間限りでの解約率は30〜40%
・有料会員1人から1ヶ月で回収できる粗利は平均2000円ほど。
・03年度(〜04年3月)は、無料キャンペーンやモデム配りの営業部門に力を注ぐ(←!)
・03年4月期の前月比会員増加数は18万4000人。シェア拡大は続くものの、東西を併せたNTTとの月間会員増加数の比較では遅れをとった。

 ……とまぁ、こんなところでしょうか。

 しかしこれを見ると、駒木が最初の研修の時に聞かされた情報が、いかにソフトバンクに都合よく操作されていたか一目瞭然です。
 ここで駒木が研修の時に聞いた話はこんな感じでした。

(03年1月時点で)新規会員数は1日10000〜15000人のペースで増加中。これはNTTと比較すると30倍以上のハイペースである。
・無料期間中の解約率は6%前後。

 今となってはもう笑うしかない、まさに「大本営発表━━━(゚∀゚)━━━ キター!!」…な話ですよね。冷静に考えたら、坂下千里子が「私、着痩せして見えますけど、実はDカップなんです!」と主張するくらい無理がある話なんですが、それでもこんなクソネタを一瞬でも信じかけた自分が非常に恥ずかしいです。冷たいプールで泳いだ後の縮み上がったチンチンを見られるくらい恥ずかしい。

 ──さてさて、バカ言ってないで、発表事項の分析をしてみます。

 まず、6月には“キャンペーン経費を除外した”損益分岐点を突破する…という話から。これはもう皆さんもお気づきと思いますが、少なくとも現時点では、「キャンペーン経費云々…という文言が入っている限り損益分岐もクソも無い」…と言わざるを得ません
 何しろ、会員1人から回収できる粗利は1ヶ月2000円であるにも関わらず、入会させるのに必要な経費が37000円もかかっているのです。しかも、その37000円の中には無料期間限りで解約した人たちの経費は含まれていないと考えられ、その分のロスを回収するには相当の期間を要します。

◎モデム配りアルバイト 豆知識・10◎

 新規会員獲得に必要な経費の内訳は?

 「新規会員を1人獲得するのに必要な費用は、平均約37000円」 
 ソフトバンクが発表し、ニュースにも採り上げられたこの数字ですが、これを聞いたほとんどの方は、
 「どうしてそんなに費用が掛かってるんだろう?」
 ……と思われたのではないでしょうか?

 しかし現場で働き、様々な情報を耳にしている人間にしてみれば、この数字は至極納得のゆくものだったりします。
 勿論、スタッフといえども下っ端ですから、確信的な情報を得られるわけではありません。が、門前の小僧がお経を読むように、末端スタッフもある程度の資金の流れくらいは把握できるようになります
 それでは以下、新規会員獲得に関わる経費の中身について大まかな解説をしてゆきます。ただ、機密漏洩と見なされてしまうと面倒ですので、バックヤードでの噂話としてお話する事にします。まぁ実際のところ、その程度の内容ですしね(笑)。

 1.量販店等へのバックマージン

 これは前シリーズ(「──潜入レポ」)で採り上げた事がありましたね。パラソル(ブース)を設置させてもらい、スタッフの人件費も一部負担してもらっている量販店への見返りというわけです。
 金額は店やソフトバンクとの契約によって異なるようですが、通常の12Mプランで10000〜12000円程度、月額基本料金990円上乗せの「無線LANパック」でその1.5倍程度が相場のようです。ただし、ひょっとしたら現在はもう少し金額が増えているかも知れません。そしてこのマージンは、獲得したご新規さんが無料期間中限りでキャンセルした場合でも支給されます。
 また、その新規会員さんが無料期間終了後も契約を継続した場合は、更に追加ボーナス的なマージンが支給されているようです。

 2.派遣会社へのバックマージン

 キャンペーン業務をほぼ丸投げで下請けしている派遣会社にも1件あたりナンボのバックマージンが支給されています。
 派遣会社がSV(スーパーバイザー)にノルマを課し、SVはそのノルマを“目標”などと言ってスタッフに転嫁する図式を前シリーズでお話しましたが、それはこういう理由があるからなんですよね。
 こっちの金額の方は、末端スタッフには徹底的に伏せられているために全く不明なのですが、そのオコボレ的なモノがSVにも支給されている(全盛期は末端スタッフにも少しだけ支給された)事を考えると、結構な額になっている事は間違いないと思います。

 3.スタッフの人件費

 やや規模が縮小された今でも末端スタッフは全国で数千人いると思われますが、そのスタッフ1人あたりの日当・平均10000円強もソフトバンクは負担しています
 もっとも、これも前シリーズでお話したように、量販店で働いているスタッフの人件費に関しては、その多くを店側が負担しており、そういう意味ではソフトバンクも上手くやっていると言えます。
 ただ、前シリーズの「閑散編」に登場しそうな暇な店に、人件費ソフトバンク完全負担の“無線LAN獲得応援スタッフ”を追加派遣していますので、せっかく節約した費用を右から左に無駄遣いしている状態だったりします。

 4.無料期間中の月額基本料金&BBフォン通話料

 本来ならば、これが経費の最たるものでなければおかしいんですけどね(笑)。
 ソフトバンクが負担しているのは、月額基本料金約3550円/月(無線LANパックは+990円)2ヶ月分と、原則一律3分7.5円のBBフォン通話料が同じく2ヶ月分。まぁ、最近は固定電話をそれほど使わない家庭が増えていますから、普通は新規会員1人あたり8000円くらいで済むのではないでしょうか。
 ただし、4月末まではBBフォン通話料が金額無制限で無料だったため、中には数十万円分の“タダ通話”をした猛者も結構な数にのぼっており、平均金額はもうちょっと上がると思います。

 ……この他、備品一式の制作費モデムの流通経費など、細かい経費は多岐に渡ります。また、4月からは「お友達紹介キャンペーン」が始まっているので、今後は更にソフトバンクの負担は大きくなってゆくでしょう。
 更に、無料期間中限りで解約した人に掛かる経費には、3850円の工事・登録費用返却されたモデムの配送料なども掛かって来ますので、経費は1人あたり40000円を越えます
 無料期間限りでの解約率が30%強という事は、有料期間まで継続してもらった会員さん2人で、無料期間限りで解約した元・会員さん1人の経費を負担する計算になりますから、実質的な新規会員獲得費用は、1人あたり60000円弱粗利で言えば2年半分に相当する金額となります。

 ……いやはや、完全な意味でこの事業が黒字に転換する日は、まだまだ遠そうですね。


 ──それでもまぁ、ソフトバンクの発表を信じるならば、6月で「事業を続ければ続けるほど赤字が膨らむ」という状況から脱せるわけで、とりあえず一息ついた事になるでしょうか。
 それで余裕が出て来たのでしょうか、今後の会員数見通しも「04年3月で400万人以上(=1ヶ月あたりの会員増加数13万人以上)と、かなり控えめなものとなっています。NTTを始めとする同業他社の無料キャンペーンの影響や、何よりも今後ADSLへの乗換えが見込めるユーザーの絶対数が閉山寸前の炭鉱の如く枯渇を始めているのを考慮した結果でしょう。

 そしてその推測を裏付けるように、モデム配りキャンペーンにおける新規契約者数は、5月に入ってから物凄い勢いで落ち込んでいるようです。
 末端スタッフの駒木が把握できる状況はごく限られていますが、それでも知る限りの情報を総合してみますと、目一杯健闘している所でギリギリ現状維持、酷いところになると前月比で30%以上のマイナス見込みという物凄い状況に追い込まれています。
 特に悪化しているのが、これまで平日の3〜5倍ほどの数字が出ていた土・日・祝日の成績で、現在では平日並み〜2倍がせいぜいといったところに落ち着いてしまっています。この傾向は、5月3日からのゴールデンウィーク後半戦から始まって現在に至っていますので、決して統計上の誤差というわけでは無さそうです。

 この新規獲得数激減の傾向が来月以降も続くのかどうかはまだ未知数ですが(2月にも同様の現象があったが、3月・4月は現状維持で推移したので)少なくとも今後は新規獲得のペースが落ちる事はあってもその逆はあり得ないと断言できそうです。
 よって、「04年3月で会員400万人」という見込みが達成できるかどうかは微妙と言えます。もっとも、条件は同業他社もほぼ同じですから、NTTがヤフーを再び大きく引き離すというケースもあまり考えられません。なので今後は、FTTH(光ファイバー通信)事業との競合既存ADSLユーザーの奪い合いも含めた、各社による激しい消耗戦が展開される事になるのではないでしょうか。

 そんな状況にありながら、まだまだこのモデム配りキャンペーンは続行されるようで、なんでも今後回収予定のモデムレンタル料を事実上前借りしてキャンペーン経費を捻出するそうです。
 「自転車操業もスケールがデカくなると、立派に聞こえるもんだな」…などと考えを巡らしつつ、明日もまたモデム配りに出勤するため、今日はここまでにしたいと思います。

 ちょっと今日はシビアな話ばかりでしたので、次回は聞いてて気楽な話題をお届けするつもりです。どうぞ宜しく。(次回へ続く

 


 

2003年第25回講義
5月27日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第5週分・前半)

 最近5号分の「ジャンプ」スクラップ作業のせいで右手がすっかり凝ってしまった駒木です、こんばんは(苦笑)。
 「ジャンプ」と「サンデー」に関しては、雑誌を処分する際に、資料として残したい部分だけスクラップ処理をする事にしているのですが、特に骨が折れるのが読み切りの全ページ切り抜きです。特に50〜60ページクラスの中編となると、それ1作品だけで15分くらいかかってしまうので大変なんですよね。で、最近の「ジャンプ」はご存知の通り毎週読み切りが掲載されているわけで、その労力たるや……(苦笑)。
 「何もそこまで……」と思われる方も多いと思いますが、読み切りの多くは単行本に掲載されないままになってしまいますから仕方ありません。まぁ後から国会図書館へ通わなくて済む…と無理矢理思うしかないですね(笑)。

 ──さて、それでは今週もゼミの開始です。

 まずは情報系の話題から。今週は読み切り情報を1件だけ。そろそろ以前から噂されていた大量(4作品?)の連載入れ替えが始まりそうな予感がするのですが、今は“嵐の前の静けさ”という事なんでしょうか。

 そんな嵐の直前である次号(27号)に掲載される読み切りは、『未確認少年ゲドー』作画:岡野剛)。
 岡野さんは、長期連載&スマッシュヒットとなった『地獄先生ぬ〜べ〜』の作画担当という事で皆さんもご存知の事でしょう。その後の岡野さんは連載の短期打ち切りが2回とやや低迷気味なのですが、1年以上のブランクを経て久々の本誌復帰という事になりました。最近は原作者をつけずに“ソロ活動”を続けている岡野さんですが、そろそろ連載復帰への突破口を見出したいところではありますよね。

 
 ……それではレビューへ。今回も、ここ最近の定番である“読み切りレビュー1本+チェックポイント”の流れでお送りします。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年26号☆

 ◎読み切り『ゴールデンシュート鳥越』作画:郷田こうや

 もう第何弾なのかも忘れてしまいそうな、「ジャンプ」の読み切りシリーズ。今週は郷田こうやさんのギャグ作品が登場です。
 郷田さんは、01年に赤塚賞佳作受賞&デビューを果たしてから、なんとこれで6回目の本誌掲載(うち代原としての掲載が4回。他に増刊で1回掲載)。「ジャンプ」では特定のギャグ系新人さんが一定期間に“優遇措置”を受けるケースがあるのですが、郷田さんの場合はそれの“デラックス版”という感じがしますね。まぁ作品のデキまでデラックスかどうかは別なのですが(苦笑)。

 ……さて、まずはからですが、今回は臨時アシスタントを使うほどのハードスケジュールだった影響か、ここ2〜3作よりもやや粗さが目立っています。それでもギャグ作家さんとしては十分通用する水準にはあると思いますが。
 あと、細かいところで目に付いた点は、本誌で言えば287ページの“リアル顔”画力が上がれば、それだけ絵で見せるギャグのバリエーションも増えるという典型例ですね。ただ、今回の場合は「とりあえずやってみた」感が否めず、笑いに結びつき辛いのが残念でしたが。

 そして、この“リアル顔”の例にとどまらず、今回もギャグに関しては全般的にやや物足りなさが否めませんでした
 郷田さんの作品を読んでいると、いつも「努力と試行錯誤はしているんだな」…という何かは感じさせてくれます。今回はギャグ作品としては異例の多ページ(41ページ)という事もあり、様々なバリエーションのギャグを散りばめようという意図がヒシヒシと伝わって来ます。
 しかし、これで意欲が読者の笑いに繋がれば最高なのですが、それがなかなか上手くいかないのがギャグマンガの難しさ。特に郷田さんはいつもこの点で苦労しており、そして今回もまた、いつもと同じような苦労を抱え込んでしまった気がします。
 過去の作品も含め、郷田さんのギャグ作品に出て来る主人公は、一見個性的であるように感じるのですが、実はその逆なんですよね。“笑顔の眩しい毒舌美女”とか“普通の高校にやって来た忍者”とか、いつも奇抜な設定1つは用意されてはいるのですが、それ以外の部分が全くボヤけてしまって、いわゆる「キャラが立っていない」状態になってしまっているのです。
 よくストーリー作品で「キャラクターが命」…などと言われますが、ギャグにとってもキャラ立ちは非常に重要な要素です。同じギャグ・フレーズでも、何の変哲も無い一般人に言わせるのと、そのネタが似合う(または全く似合わない)キャラクターに言わせるのとでは全く“威力”が異なって来るのです。
 この事を説明するのに最も適当な例が、TV番組の「笑う犬」シリーズで以前あった『小須田部長』。このコントでウッチャン演じる小須田部長は、そのキャラに相応しいヘタレっぷりで笑いを獲ったかと思えば、時にキャラに全くそぐわない頼もしさを見せて、そのギャップでまた笑わせましたよね。しかし、これで小須田部長がごく平凡な普通のサラリーマンだったら、これほど面白いコントにはならなかったはずです。普通の人が無理難題を押し付けられて困っているだけの詰まらないモノになっていた事でしょう。
 で、郷田さんの作品は、それに似た状態になってしまっているわけです。まぁ出て来る人物は平凡で普通の人ではありませんが、ギャグ世界においてはかなり没個性なキャラクターである事は確かだと思います。この点をどうにかしない限り、いくらギャグのネタを練っても、作品全体のクオリティは改善しないのではないかと思います。

 評価はB−としておきましょう。諸々の素質は感じさせる作家さんだけに、このまま燻って欲しくないものです。とりあえず次回作に注目してみます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『BLACK CAT』作画:矢吹健太朗【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ウワァ……(絶句)。
 アンケート人気が下がると、萌えキャラ出現イベントや主人公縮小イベントなど、何か“仕掛ける”と言われている矢吹さんですが、今回はイヴの人魚コスプレとは……。
 しかし、日頃からパンチラ・セミヌード披露で男子中高生のハートを掴んで離さない某作品よりも、露出の小さいこちらの方がずっとあざとい気がするのは何故でしょうか?(苦笑)

 ◎『★SANTA!★』作画:蔵人健吾【現時点での評価:B−/雑感】 

 今回のバトルのオチ、これはギャグなのか真剣なのか、どう解釈したらいいんでしょうね?(苦笑)
 真面目にやってるとしたら、ちょっと手の施しようの無いくらい勘違いしてるとしか思えないんですが……。

 ◎『プリティフェイス』作画:叶恭弘【現時点での評価:B+/雑感】 

 前号の巻頭カラーから一転、掲載順が実質ブービーに。ストーリーも風雲急を告げるものですし、どうやら連載終了が間近と見て良いみたいですね。
 今回のクライマックスはネット界隈でもなかなか好評。叶さん、ストーリーの演出力にはやはり非凡なものがありますよね
 あと数回でどのようなドラマティックな幕引きをしてくれるのか、最後まで注目してみたいと思います。

 

 ……と、今日はアッサリ風味のボリュームですが、こんなところで。今週はゼミ以外の講義も充実させるつもりですので、どうかご容赦を。

 


 

2003年第24回講義
5月24日(土) 競馬学特論
「G1予想・優駿牝馬(オークス)編」

 駒木ハヤトです。「オークスやダービーぐらいは珠美ちゃんを交えて……」などとお約束していたのですが、申し訳有りませんが、今日も色気のまるで無い、駒木単独の短縮版講義となります。
 その理由を申し上げますと、金曜日付講義の遅れも然る事ながら、モデム配り仕事関連のあれやこれやが足を引っ張りまくっているからなんですよね(苦笑)。さすがに土曜夜から予想を始めて、長丁場の講義を実施するのは至難の業としか言いようが無いです。
 で、このまま行くと来週のダービーも極めて厳しい日程を強いられそうで、下手すると休講まであるかも知れません。その場合は日曜付でレース回顧をする事になるかと思います。あらかじめご承知置き下さい。

 ──では、時間がありませんので、早速出馬表と、駒木と珠美ちゃんの印をご覧頂きます。

優駿牝馬(オークス) 東京・2400・芝

馬  名 騎 手
    ポップコーンジャズ オリヴァー
アドマイヤグルーヴ 武豊
スティルインラブ
ピースオブワールド 福永
    センターアンジェロ 石崎隆
  タイムウィルテル 吉田豊
  × シーイズトウショウ 池添
    メイプルロード 渡辺
    トーセンリリー 柴田善
  × 10 オースミハルカ 川島
    11 コインオブスター 田中勝
× 12 ヤマカツリリー 安藤勝
    13 マイネヌーヴェル 横山典
    14 シンコールビー 佐藤哲
×   15 メモリーキアヌ 角田
    16 チアズメッセージ 蛯名
    17 チューニー 後藤

取消

18 アイシースズカ 小野

 またしても……という感じで、駒木と珠美ちゃんの本命&対抗がダブりました(苦笑)。2−3の決着だけは有り得ず、恐らくは万馬券決着になるんじゃないでしょうか(笑)。

 ……と、冗談(?)はさておき、まずはレースの概況から。
 まぁこれは皆さんもそうお考えでしょうが、桜花賞で好勝負を繰り広げたスティルインラブとアドマイヤグルーヴの再戦ムード…というのがまずベースになって来ると思います。そこへ2歳女王・ピースオブワールドや、何頭か現れた新勢力が一角を崩すかどうかがカギになって来るでしょう。ちょっとシャレた言い方をすれば、“仮初めの二強ムード”…といったところでしょうかね。

 ステップレースのレヴェルですが、やはり例年通り桜花賞直行組が最有力である事には疑いを挟む余地はありません。ただし、今年の桜花賞はいかにもマイラータイプの馬が上位に入線しているため、その辺りを見極める必要があると思われます。
 トライアルレースは波乱に次ぐ波乱で、どうにも結果を信頼し辛い印象が否めません。常識的に考えれば、せいぜいが掲示板止まりだろうという事になりそうなのですが、大穴を開けるのは得てして過小評価されたトライアルホースだけに、慎重な取捨選択をしたいところではあります。

 展開逃げ1頭で先行馬も少なく、スローペースから遅めの平均ペースといったところではないでしょうか。ただし、若い牝馬だけのレースでもありますし、何頭かの馬が掛かり気味に暴走……なんて事も十分考えられます。
 例年のオークスは追込馬が有利のようですが、今年の追込馬は典型的な他力本願型──ハイペースで展開ハマり待ち──の馬がほとんどですので、こちらも慎重に判断する必要がありそうです。

 それでは、例によって1頭ずつ簡単にコメントを付けてゆきます。

 1番・ポップコーンジャズ。スイートピーS2着馬。新馬戦圧勝の後、休み明けでトライアル2着と非凡なセンスを窺わせる馬です。ただし今回は一気の相手強化に加え、いわゆる“二走ボケ”への懸念や距離・展開面での不安もあり、かなりの苦戦を強いられそうですね。
 2番・アドマイヤグルーヴ。前走はスタート直前にゲートに突進し、体制を立て直す直前にゲートが開いたために大出遅れ。結果的にこれが致命傷となりました。しかし実力は十二分に証明できましたし、今回は明らかなプラス材料となる距離延長。さすがに1倍台の単勝オッズには閉口させられますが、優勝候補最右翼である事は間違いありません。
 3番・スティルインラブ。桜花賞では見事に中団から末脚の切れ味良く抜け出して、一冠を獲得しました。これまで経験した最長距離が1600mというのが不安ではありますが、実力的にはこちらも一枚図抜けており、堂々たる優勝候補です。
 4番・ピースオブワールド。圧倒的な強さで2歳女王に輝いたこの馬がターフに舞い戻りました。阪神JFでの強さはまさに別格と言うべきもので、地力だけならここでも十分に通用するでしょう。問題は骨折による6ヶ月のブランクですが、経歴にキズがつく危険を承知で敢えて出走して来た以上は、それなりの走りが出来るようにキッチリ仕上げて来たと判断するべきだと考えています。
 5番・センターアンジェロ。アネモネS勝ち馬ですが、桜花賞でトップクラスの壁にブチ当たってから今一つ伸び悩みの兆しが窺えます。ここで通用するための強調材料はほとんどありません。
 6番・タイムウィルテル。とにかく陣営が強気なのがこの馬です。これまでの戦績は正直言って奮いませんが、長距離向けと思しき血統、そして「デビュー以来最高(秋山調教師)」という出来の良さで上位進出を目指します。
 7番・シーイズトウショウ。桜花賞2着馬です。ジリ脚傾向があるものの、クラシック戦線で絶えず善戦を続けているのは立派の一言です。ただし、今回は2400mの距離が問題。父・サクラバクシンオーでは、どうしても不安が先につきまとってしまいます。
 8番・メイプルロード。桜花賞を感冒で取り消した後、必死に立て直そうと頑張ってはいますが、なかなか目処が立ちません。今回も苦戦必至ですね。
 9番・トーセンリリー。今回の出走馬中唯一の逃げ馬。そういう意味では面白みもあるのですが、残念ながら地力の面で大きく見劣ります。
 10番・オースミハルカ。チューリップ賞勝ちが示すように、なかなかの実力を備えた馬ですね。しかしながら、この馬は気性に問題を抱えた上、騎手が乗り替わり。G1の経験もまだ乏しい若手騎手に、この難しい馬とレースが乗りこなせるかどうか、極めて微妙です。
 11番・コインオブスター。収得賞金800万で滑り込みました。抽選を潜り抜けてきた馬は大穴を開けるのが競馬のジンクスですが、実力的にはかなり見劣りしてしまいますね。
 12番・ヤマカツリリー。桜花賞は最後に失速して4着。しかしながらフィリーズレビュー勝ちは未だに栄光の残る勲章です。ただし今回の問題は距離。克服すれば展開絶好だけに大穴の立役者となる事も考えられるのですが、さてどうなるでしょうか?
 13番・マイネヌーヴェル。穴人気となり期待された桜花賞は10着惨敗。やはり好走には展開の恵まれが必要になってくるでしょうが、今回のレースでその恵まれがやって来る可能性は低いと思われます。
 14番・シンコールビー。フローラS勝ちで、一介の条件馬がシンデレラのようにオークス馬候補へと変身を遂げました。ただ、500万条件戦で惨敗続きだった馬だけに、“フロック”の4文字が頭をチラつきます。とりあえず今回は様子見が妥当と思われますが……。
 15番・メモリーキアヌ。今年のオークスにおける“台風の目”的存在ですね。メンバーに恵まれたとはいえ、スイートピーSの圧勝はお見事でした。忘れな草賞での結果も勘案すると、このメンバーに入っても掲示板圏内くらいの実力はありそうです。ただ、馬券の範囲に入るかどうかは別の話です。
 16番・チアズメッセージ。桜花賞でシンガリ負け、そして条件戦レヴェルのスイートピーSでも伸び切れず4着と、どうも最近は伸び悩みの傾向があるようです。陣営もすっかり意気消沈といったところで、今回は“記念出走”の意味合いが濃いのではないでしょうか。
 17番・チューニー。クイーンS勝ちを引っさげて桜花賞に挑んだものの12着惨敗。その後に上積みした強調材料も少なく、どうにも推し辛い存在になってしまいました。
 18番のアイシースズカは感冒のため、金曜日の時点で出走取り消しとなりました。

 ……というわけで、以上が出走馬へのコメントでした。では最後にフォーカスを紹介して講義を締め括ります。

 駒木は馬連2-3、2-4、3-4、2-6の4点。
 珠美ちゃんは馬連2-3、2-12、3-12、2-4、2-7、2-10の6点。最近の珠美ちゃんは結構アグレッシブに穴狙いに出てますね。まぁ結果は出てないんですが(笑)。

 では、皆さんの健闘を祈ります。レース後にまたお会いしましょう。


優駿牝馬 結果(5着まで)
1着 スティルインラブ
2着 17 チューニー
3着 14 シンコールビー
4着 12 ヤマカツリリー
5着 センターアンジェロ

 ※駒木ハヤトの“敗戦の弁”
 冗談が冗談で終わらなくなるとは……_| ̄|○
 まさか本当に万馬券決着になるとは思わなかった(苦笑)。やっぱり滅多な事は言っちゃいけないなぁ。「言葉は発した時点で黒魔法になる」というセリフをどこかで見た事があるんだけど、まさにその通りに。
 というか、いつもいつも「〜〜だから注意すべし」という部分だけ当たるのは如何なものか。そして、それを全く予想に反映していない自分も如何なものか(苦笑)。ダービーでは余計な事を言うのを絶対に止そう(笑)。
 しかし、やってくれましたな武豊。久々に騎乗ミスらしい騎乗ミスを見せられた気が。出遅れた上に、そのせいで序盤で不利を受けたら勝てるレースも勝てなくなるわなぁ、そりゃあ。
 それにしても、2着〜5着はどう評価したら良いんだろう……。この時点で夏のクイーンSとか秋のローズSで頭抱えてる自分の姿が目に浮かぶような(苦笑)。
 スティルインラブはこれでメジロラモーヌ以来の牝馬三冠に王手。ただ、どうなんだろう? いくらなんでもそこまでの馬という風には思えないんだけれども……。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 アドマイヤグルーブのアオったスタートを見た瞬間に頭の中が真っ白になりました(苦笑)。正直、何も言う気力も無いです……。
 あ、博士、来週こそは印が被らないように、お願いしますね(苦笑)。

 


 

2003年第23回講義
5月23日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第4週分・後半)

 後半の部、スタートです。何とか今週はほぼ正常な日程で講義が実施できました。

 さて、今日も早速情報系の話題から。

 まずは「サンデー」以外の話題を。
 今年初冬から春にかけて、当ゼミでエントリー作完全レビューを実施した第2回「世界漫画愛読者大賞」ですが、今週発売の「バンチ」誌上で最終結果発表がありました。
 注目の、読者投票第1位作品『摩虎羅』作:茜色雲丸/画:KU・SA・KA・BE)のグランプリ信任投票の結果“不信任”となり、今回はグランプリ該当作無しという事になりました。
 その他の結果を簡単に紹介しておきますと、準グランプリ(賞金1500万円)に先述の『摩虎羅』、そして残る最終エントリーの7作品が賞金100万円の“入選”、その他に読者選考会で落選した内の3作品が賞金50万円の“佳作”となりました。
 この賞、賞金総額1億円を謳っていたのですが、実際に支払われる賞金は2350万円グランプリの5000万円を別にしても半分以上の賞金が宙に浮いた形となるわけで、どれだけ今回の賞レースが不作だったかがよく判ろうと言うものです。
 それは主催者側もよく理解しているようで、次回からこの賞は大幅リニューアル(規模縮小?)されるとの事元々からして構造的欠陥の塊のような漫画賞だっただけに(←詳しくは02年5月20日付講義・「徹底検証! 『世界漫画愛読者大賞』」を参照)仕方ないと言えばそうなのですが、意欲だけは十二分に窺える試みだっただけに残念ではありますね。
 なお、今回の「世界漫画愛読者大賞」については、別タイトルの講義として、または当ゼミ内で詳しい考察を行なう予定です。どうぞお楽し……とは言えませんね、さすがに(苦笑)。

 さて、次は「サンデー」系の情報。月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」の3月期審査結果が出ていますので、受賞者・受賞作を紹介しておきます。

少年サンデーまんがカレッジ
(03年3月期)

 入選=該当作なし
 佳作=2編
  ・『一射入魂』
   大塚志郎(20歳・東京)
    ・『鋼鉄盗人』
   飯島潤(27歳・東京)
 努力賞=5編
  ・『ギャロウィン』
   白石テツマサ(22歳・神奈川)
  ・『地獄TAXi』
   HIROSHI(21歳・京都)
  ・『パスorラン』
   高橋たいら(23歳・熊本)
  ・『Tennis Bpys』
   川村隆信(22歳・東京)  
  ・『ビバ・スイマー部』
   浜崎智弘(25歳・埼玉)
 あと一歩で賞(選外)=該当作無し 

 今回の受賞者さんたちのキャリアは以下の通りです。(名前で調査してますので、同姓同名の別人の可能性が僅かながらに残っています)

 ◎佳作の大塚志郎さん02年6月の「ビッグコミックスピリッツ・増刊新憎」で読み切り発表。また、02年10月にはNHK教育の「真剣10代しゃべり場」に出演
 ◎佳作の飯島潤さん96年増刊夏号及び、「赤マルジャンプ」98年夏、99年春、00年春号で読み切り掲載(注:99年以前に「ジャンプ」系新人賞で受賞の可能性が有りますが、確認できませんでした)


追記:受講生の方から、飯島さんが95年4月期の「ホップ☆ステップ」賞で佳作を受賞していた…との情報を証拠物件付で(!)頂きました。有難う御座います。ちなみに、この95年4月期には当時16歳の村田雄介さんが入選を受賞しています。逆にいえば村田さんも、『アイシル』で成功するまでに7年以上掛かってるわけですね)
さらに追記:その後の追加調査で飯島さんは第44回赤塚賞《96年上期》で準入選を受賞していた事が判明しました。ちなみにその受賞作がデビュー作です)
もう1回追記飯島さんのデビューは、92年初版の単行本・『ホップ☆ステップ賞セレクション』10巻でした。当時の「ホップ☆ステップ賞」では、月ごとの最高評点獲得者は単行本でデビュー出来る特典があったようで、増刊や本誌で作品を発表していないのに単行本のラインナップに名を連ねている新人作家さんもいらっしゃっいました)

 今回の「まんカレ」、「総評」では編集者代表と思しき方による「まんがのドラマはキャラクターが全て。設定や事件の目新しさに読者は感情移入してくれません」豪快な決め打ちが。まぁ確かにキャラ立ちしてないストーリーの大半は駄作ですが、“全て”はさすがに言い過ぎじゃないかと思ったり思わなかったり。
 でもまぁ多分、『なぁゲームをやろうじゃないか』作画:桜玉吉)の2巻に載っている『アコンカグア』(注:確信犯的にクソつまらなく描かれた、ファンタジー物の“作品中作品”)みたいな作品ばかりが寄せられてストレス溜まってたんでしょうね(笑)。

 
 ……情報系の話題は以上。今日はちょっと喋りすぎた感がありますので、さっさとレビューに行っちゃいましょう。現時点で既に、本日の駒木の睡眠時間が4時間を割る事が確定しています。
 今週のレビュー対象作は2本新連載第3回の後追いレビューと、短期集中連載の総括レビューです。チェックポイントも続けてどうぞ。 
 

☆「週刊少年サンデー」2003年25号☆

 ◎新連載第3回『売ったれ ダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治【第1回掲載時の評価:A−

 短期集中連載時からのリニューアルが功を奏し、上々のスタートを切った…と、第1回のレビューで申し上げたんですが、第2回と第3回に関して言えば、最初に比べて若干パワーダウンしてしまったと言わざるを得ません
 その理由はハッキリしています。1回あたりのページ数が減ったのに、第1話と同じテンポで一話完結型のエピソードに無理やりまとめようとしてしまったからです。

 こういう話は、途中に主人公が悪戦苦闘すればするほどクライマックスが盛り上がり、更にはリアル感が出て来るものなのですが、20ページ前後のボリュームでは、かなりご都合主義的に主人公が成功してしまわないとページ的に間に合わないんですよね。つまり、規定のページで収まるように上手く構成すればするほど、ストーリー展開が不味くなってしまうというジレンマが出て来てしまうわけです。
 この“症状”は、以前『MIND ASSASSIN』作画:かずはじめ)でも見られたもので、重症に陥ると打ち切りに直結しかねない厄介なモノだったりします。一話完結型から数話完結型に改める事で、ある程度症状は和らぐのですが……。
 あとは、早い段階で悪役らしくないライバルを出現させる事が成功への近道かな…という気がします。こういうお話って、“いかにも”な悪役が出て来ると一気に安っぽくなってしまいますんでね。(短期集中連載の時はそれでかなり損をしていた気がします)

 ただし評価は、近い内に数話完結型に移行するであろう事を考慮して、ほぼ据え置きのA−としておきます。ただし、あと5回ほど様子を見て良化の兆しが見えなければ、格下げも検討します。

 ◎短期集中連載総括『黒松・ザ・ノーベレスト』作画:水口尚樹【第1回掲載時の評価:A−

 短期集中連載は5回目で終了となりました。同じ短期集中でも回数がまちまちなのはどういう事なんでしょうね、しかし。まぁ、水口さんは増刊で連載中なので、最初から1ヶ月限定という予定だったのかも知れませんが。

 さて、内容についてですが、やや最終回で失速気味だったものの、なかなかのハイレヴェルを維持したままで5回を乗り切ったのではないかと思います。水口さん独特の“間”の良さに加えて、主要キャラクターがキチンと立っていたのも成功の決め手でしょう。特にキャラ立ちの点は、これまで短期集中連載された他の作品と比べてもかなりのアドバンテージを持っていると思います。
 ただし、第1回の時からの短所である、ボキャブラリーが若干拙いという部分が克服されておらず、全編笑いっぱなしという所までは行かなかったのが残念ではありました。今後はこの問題点を解消する事が出世への近道となるのではないでしょうか。

 評価はB+寄りA−で据え置きとします。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 今週の巻末コメントのテーマ「初めてファンレターを貰った時の感想」。もはや手の施しようの無い(笑)久米田さんを除いては、皆さんボケる事も無く素直なお答え。
 駒木もファンレターではありませんが、講義について良い評価をして頂いたメールを貰った時は大変に嬉しいものです。最近、またご返事出来ない状態が続いていますが、全部しっかり読んで有り難がってますので、どうか何卒。

 ◎『MÄR(メル)作画:安西信行【現時点での評価:B/雑感】 

 何か甘酸っぺえキスシーンで盛り上がってますが、あの勢いだったら、キスというよりヘッドバッドではないかと思われますが(笑)。お互いの前歯と前歯がぶつかって、キスしちゃった云々とか言ってられない痛みが走ってるはずだと思ってしまったり。
 そういや、『じゃじゃ馬グルーミンup!』作画:ゆうきまさみ)での駿平とひびきの前歯衝突は微笑ましかったですよね(笑)。

 ◎『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【現時点での評価:B/雑感】 

 瀬能のセリフが象徴するように、上手くツッコミ所を笑い所に変えるようになって来ましたね、この作品。まぁある意味、読者がいちいちツッコミを入れる気力も失せて来たという事もありますが(笑)。
 最近は絶対音感の設定が全くと言って良いほど出てこなくなりましたが、その分だけ主人公がキチンと努力するようになって来てドラマが盛り上がるようになりましたね。下手に主人公に能力を与えても面白い話が出来るわけではない事を逆の意味で証明した作品と言えそうです。

 ◎『KATSU!』作画:あだち充【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 香月の親父さんがジム生に課したハードルがどれ位厳しいか、ちょっと検証。

 ◎東日本の新人王……新人王戦はキャリアの少ない(4勝以下)プロボクサーによる階級別トーナメント。階級によるが、東日本新人王になるには3〜5連勝が必要。しかも、大抵各階級に1人は将来の日本ランカー〜世界チャンプ級がエントリーしているので、最低でも日本ランカー並の素質が必要。
 ◎日本ランキング5位……日本ランカーになるには、全日本新人王(東日本新人王になって、西日本新人王との決定戦に勝つ)になるか、デビューから6勝してA級ボクサーになった後、日本ランカーとの直接対決で勝つ必要有り。5位以内になるには、ランカーになった後に日本やアジア諸国のランカー相手に勝たなければ難しい。
 ◎10連勝……デビュー以来10連勝なら、最低でも日本チャンピオンになって1〜2回防衛済みか。デビューして何勝かしているボクサーなら、下手すれば世界に手が届く。
 ◎コミック大賞受賞……年2回の「サンデー」系新人賞。大賞が出るのは10年に1人とも言われる。
 ◎ミドル級世界チャンピオン……ミドル級は世界クラスでは最も層が分厚い階級の1つで、恐ろしくハイレヴェル。ただし、日本では事実上の最重量クラスで層が薄く、世界クラスとのギャップが激しい。ゆえに、日本人がミドル級で世界チャンピオンになる事は天地をひっくり返すほど難しいが、これまででただ1人、あの「ガチンコファイトクラブ」の竹原慎二だけがその天地をひっくり返すような偉業を達成している。

 これに比べたら、インターハイ優勝というのは確かに大分簡単と言えそうですね。このマンガの世界じゃなければ…の話ですが(笑)。
 大体が、高校のボクシングは技術云々よりラッシュ・ラッシュらしいんですよね。2分3ラウンドですし、ちょっと攻め込まれていると、すぐにレフェリーストップがかかってしまいますから……。まぁこの辺が、現実をどこまで反映させるかのさじ加減の難しさですよね。

 ……というわけで、最後はマンガ時評なのかボクシング関連講義なのか判らなくなってしまいましたが、これも社会学講座らしいってことでご容赦を。ではでは。

 


 

2003年第22回講義
5月20日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第4週分・前半)

 今週前半分のゼミをお送りします。最近「現代マンガ時評」ばっかりだな…とご不満をお持ちの受講生さん、申し訳ありません(苦笑)。
 実はここしばらく公私共にゴチャゴチャしているので、ちょっと意識的に講義回数を減らしています。それでもそろそろアクセル踏もうと思ってますので今しばらくお待ちを。

 では、今日も情報系の話題から。今週は「週刊少年ジャンプ」系の月例新人賞・「天下一漫画賞」3月期の審査結果が発表されましたので、受賞者・受賞作を紹介しておきましょう。

第80回ジャンプ天下一漫画賞(03年3月期)

 入選=該当作無し
 準入選=1編
  ・『SEA SIDE JET CITY』
   北島一喜(17歳・富山)

 
《講評:背景の描き込みの量、質ともに高レベルで、熱意が伝わった。コマ割りと、アングルに大変工夫がこなされていて、演出の効果はかなり評価できる。セリフの言い回しにもセンスを感じる。ストーリーをもう少し練って欲しい》
 佳作=該当作無し  
 審査員&編集部特別賞=該当作無し
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『アメイジング・ヒーロー』
   黒岩基司(23歳・宮崎)
  ・『KING』
   福田光(20歳・三重)
  ・『タイム☆トリッパーズ』
   高野紗代(19歳・愛知)
  ・『HURD QUINN』
   ミュウ・ミッチ(23歳・北海道)
  ・『KOU』
   田村喜広(27歳・大阪)
  ・『罪人ジゾウ』
   船津雅史(18歳・大阪)
  ・『砂塵の桜』
   朱柳限(18歳・北海道) 

 今回最終候補以上に残った皆さんの、過去の受賞歴等は以下の通りです。

 ◎最終候補の黒岩基司さん02年5月期「天下一」で最終候補、02年度「ストーリーキング」ネーム部門で最終候補
 ◎最終候補のミュウ・ミッチさん01年12月期&02年5月期「天下一」で最終候補
 ◎最終候補の船津雅史さん01年5月期&02年3月期「天下一」で最終候補

 ──最終候補の壁をなかなか越えられない人たちがいる一方で、初受賞でいきなり数年ぶりの準入選という17歳も……。今回の「天下一」は、まさに実力社会を象徴したものとなりました。
(補足:その後、受講生さんのご指摘により、準入選の北島一喜さんも、01年8月期「天下一」で審査員《許斐剛》特別賞を北嶋一喜名義で受賞していたことが判明しました。ご協力有難うございました)

 そして既報通り、「天下一漫画賞」は03年3月期をもって廃止され、それに代わって「ジャンプ十二傑新人漫画賞」が新設されました。「毎月必ず1名デビュー」という破格の“特典”の影響は大きく、既に締め切られた4月期には「手塚賞」に匹敵する数の応募作品が寄せられたとかどうとか。
 しかし、「手塚賞」では毎回数人がデビュー出来たりしますので、(デビューする事だけを考えるなら)ひょっとしたら今は「十二傑」よりも「手塚賞」の方が穴場かも知れませんね。少なくとも、ギャグ作品なら間違いなく「赤塚賞」の方が受かり易いでしょう。ナニゲにこういう所から運命が分かれてしまう事もよくある話ですので、投稿を考えられている方は熟考をお薦めします

 そして今日は情報をもう1つ次号の読み切りについてです。
 次号(26号)掲載の読み切りは『ゴールデンシュート鳥越』。その作者は、もうこのゼミでもすっかりお馴染みの新人・郷田こうやさんです。
 郷田さんは今年だけでも既に「赤マル」冬号と本誌17号に作品を発表済み。このペースは新人さんとしては異例のものと言って良いと思います。ただ、最近の郷田さんは画力も上達して非常に意欲を感じさせる活動振りではあるのですが、どうも肝心のギャグ構成力の方がまだ発展途上(というか伸び悩み)なのが気になっています。次週のゼミでは、その辺にも深く踏み込んだレビューをお送りしたいと思います。

 
 情報系の話題は以上です。続いて本日分のレビューへ移りましょう。
 今日のレビュー対象作は読み切りの1本で、その後にはチェックポイントもお送りします。あと、今回も簡単ながら「読書メモ」もやりますので、そちらもご注目下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年25号☆

 ◎読み切り『World4u_』作画:江尻立真

 今週号も読み切りは“新人・若手枠”。今回は実に4年ぶりの作品発表となる、現在は尾田栄一郎さんのアシスタントも務めている江尻立真さんの登場です。
 先週のゼミでもお話しましたが、江尻さんは金沢大学の漫研出身で、在学中はアニメ製作などの本格的な同人活動も手がけていたようです。で、それと相前後して99年にはマンガ家としてプロデビューを果たしています。ただし、キャリアは「赤マルジャンプ」に限られており、本誌は今回が初登場になりますね。

 ──では本題へ。

 まず目に付くのが絵の綺麗さですね。キャラ絵は勿論、背景までも細かく、それでいて過剰にならない程度にキッチリ描き込まれていて、非常に好感が持てます。デフォルメ等のマンガ的表現も問題なく出来ていますし、「ジャンプ」系の新人・若手作家さんの中では間違いなくトップクラスの画力と言えるでしょう。
 注文をつける点とすれば、タッチが細い線だけでメリハリが無く、しかも動きの少ないコマが圧倒的に多いために、作品全体の迫力が弱くなってしまった所でしょうか。やはりマンガは見た目のインパクトが重要な部分がありますので、次回作ではこの辺りを修正していって欲しいと思います。

 ストーリーは、かつての「ジャンプ」長期連載作・『アウターゾーン』作画:光原伸)を思わせる、日常を舞台にしたショート・ホラー物。冒頭・中間・ラストで語り部が登場する辺りからはTVの「世にも奇妙な物語」の影響も強く感じますね。
 今回は2つのエピソードがオムニバス形式で描かれたわけですが、両方とも起承転結・伏線の構築及び処理が丁寧に練られていて、“力作”という言葉が良く似合う仕上がりになっています。さすが“元・映像作家”だけあって、場面転換や言語表現にも工夫の跡が見られて良い感じです。
 ただし、これはページ数の関係もあるのでしょうが、今回は「上手く見せたい」、「キッチリとした構成を完成させたい」…という意気込みが強過ぎた感が否めません。特に気になったのがクライマックスが高度な“考えオチ”になっている部分でした。怖いという感情はストレートに脳みそと感覚に訴えてこそ出て来るものですから、怖さを表現する部分で読者に論理的な思考を求めてしまっては、せっかくの練ったシナリオも威力半減といったところなのです。
 また、根本的な問題として、これをマンガで表現する意義があるのかどうか…という点にも疑問を感じます。駒木が思うに、この作品のエピソードはマンガ向きではなく、小説やアニメまたは実写でこそのお話だと思うのですが……。

 評価は非常に迷ったんですが、A−寄りB+に留めたいと思います。地力そのものは既に連載作家さんのそれだと思いますので、次回作に期待しましょう。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『プリティフェイス』作画:叶恭弘【現時点での評価:B+/雑感】 

 連載1周年巻頭カラーでお祝いムード……と思いきや、急展開&人気投票の結果発表が単行本回しという事で、一部では「次期打ち切り確定」などと囁かれる羽目に……。いや、実際のところは判らないんですが。
 ただ、“○周年記念巻頭カラー”の直後に連載終了というパターンも以前にありましたし、一話完結形式の作品での急展開は最終回への布石であるのは1つのセオリーですから、終わってもおかしくはないとは思います。
 個人的には安心して読める“ごはん系”作品として、もうしばらく継続させて欲しかったりするんですけどね。

 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 今晩は。今回の天国に物凄〜〜く感情移入出来てしまうのが酷く悲しい駒木ハヤトです(笑)。もう何年も恋愛で全く良い思いをしていないので、こういうのってズキズキと堪えるんですよね(苦笑)。……まぁ、このマンガの世界では、何話か引っ張って天国の取り越し苦労…って展開になるんでしょうが。
 しかし、久々に擬似最終回ネタを見たような気が。ただ、ネタそのものよりも「マジ、シャレになんねー」の方が笑えたりするのがアレですね(笑)。

 
 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:/雑感】
 
 河下センセイ、メイド系ウェイトレス衣装+ミニスカート+ニーソックスは反則です(笑)。
 でも、実社会でも町の洋菓子店でメイド系制服の店員さんっているんですが、仕事熱心のあまり無愛想な人が多くて、あまり可愛くないんですよね。まぁ最近はメイドコスプレ喫茶なんてのが出来て、プロの仕事として可愛さを演出してくれる店も出て来ましたけど。

 ところで、最近のこの作品はストーリー的にも大分骨太になって来た感がありますね。次に採り上げる時までこのテンションが持続していればB+への格上げも検討したいと思います。

◇駒木博士の読書メモ(5月第4週前半)◇

 ◎『覇王〜Mahjong King's Fighters〜』作画:木村シュウジ/『近代麻雀』連載中

 今回は、近頃一部で大いに話題を振りまいた作品を紹介します。
 この作品は、日本プロ麻雀連盟が公認&協力の下、実在する連盟所属のプロ雀士がフィクションの世界の中に登場し、主人公と共に業界を挙げての麻雀トーナメントで戦いを繰り広げる…というもの。
 まぁそれだけなら水島新司作品の麻雀版みたいなもので、それほど目新しさも無いわけなのですが、今回、とあるキャラクターが登場する事で一気に作品全体のボルテージが急上昇しました。
 その“とあるキャラクター”とは、なんとあの哭きの竜! まさにマンガならではと言いますか、強烈な事をしてくれるもんです(笑)。だってこれ、他のマンガで喩えるなら、『はじめの一歩』で、一歩の対戦相手が矢吹丈…みたいなもんですよ。反則だとは思いながら、先が気になって仕方ないじゃないですか。
 ……というわけで、麻雀に詳しい受講生さんは今後の展開にご注目を。駒木の予想では、井出洋介もどきのキャラが理屈こねながらコテンパンに負かされると見ましたが。


 ……では、今日はこの辺で。また後半でもどうぞよろしく。

 


 

2003年第21回講義
5月17日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第3週分・後半)

 久々の週内ゼミ後半実施となりました(ギリギリですけど)。そして今週は、これも久々にレビュー対象作ゼロという事に。講義する方としては楽なんですが、やっぱり拍子抜けすると言うか何と言うか……。
 なので、今日は業務縮小前から積み残しになってた課題を消化してしまおうと思っています。講義の後半にご注目を。

 今週は特に情報もありませんので、早速講義の本題へと移りたいと思います。まずは「サンデー」のチェックポイントからお送りしましょう。

☆「週刊少年サンデー」2003年24号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻頭の注目はミニモ……もとい、『金色のガッシュ(ベル)!』カードゲーム。何と言いますか、「そこに目をつけたか!」…と言いたくなってしまいますね(笑)。目指すはやはり、億単位のカードを売り尽くした「ジャンプ」の某作品でしょうか。
 『ガッシュ』は意外と単行本が売れていなかったりしますので、こういう所で商業的に成功させたいと言う気持ちは分からないでもないんですがねぇ。でも正直言って、何か違うだろうと思ったり思わなかったり……。

 ◎『焼きたて!! ジャぱん』作画:橋口たかし【現時点での評価:/雑感】
 
 電子レンジに猫の話って、アレは作り話だったんですか。「マクドのコーヒーこぼして火傷したから賠償金よこせ」…とか、「タバコ売りやがって、おかげで肺ガンだ! 金払え!」…とか、アメリカって日本では『ギャンブルレーサー』(作画:田中誠)の世界でしか見られない理屈が通じる国なので、それもアリだと思ってたんですけどね。
 しかし、アメリカならヤフーBBはいくら賠償金払う羽目になるんだろう(笑)。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 この作品の皮村と林田のやりとりって、ティーンエイジャー男子の行動を結構リアルに表現してて、思わず微苦笑しちゃうんですよね。
 そういえば、中〜高校生活で、自分の片想いの相手をトップシークレットにしちゃうのは男子だけみたいですね。女子は仲良しグループでは結構開けっぴろげにしちゃって、当事者以外は応援に回ったりするそうで。
 しかし冷静に俯瞰してみると、片想いの相手を悟られまいと必死になるニキビ面の男ってアホそのものなんですよね(苦笑)。でもどうして開き直れないんでしょうなー。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 以前の『神聖モテモテ王国』(作画:ながいけん)を思わせるような、投稿コーナー新設。当面の打ち切り回避を祝していいのやら、『うわ、縁起悪りぃ』と引くべきなのやら、分かりませんな(笑)。
 それにしても「久米田先生の悩み」、これボケ辛いなぁ(苦笑)。ハガキ来なかったらどうすんだろう。
 ところで、受講生の皆さん、もし仲間由紀恵さんに「私を取るか、『社会学講座』を取るかどちらかにして」…と言われたら、どう答えるべきだと思いますか?(笑)

 ◎『天使な小生意気』作画:西森博之【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回の格闘シーン&決めゼリフ、カッコいいなぁ。
 普通の少年マンガの場合、“必殺技の名前唱えて何か分からんけどズドーン!” …で逃げられるんですが、この作品の場合はそれが出来ないわけで、西森さんは結構大変な思いをされてるんじゃないかと思ったりします。“必殺技ズドーン”よりも10倍難しくて10倍地味だったりするんですが、せめて当ゼミくらいはその地味な努力を評価しなくちゃと思わされます。お見事でした。

 

◇駒木博士の読書メモ(5月第3週後半)◇

 ……というわけで、今週は久しぶりに「読書メモ」の実施。今回のターゲットは、皆さんにレビューをお待たせしていたこの作品です。

 ◎『魔法先生ネギま!』作画:赤松健/「週刊少年マガジン」連載中【現在まで評価未了/レビュー】

 もう特別な説明は不要でしょう。『ラブひな』で一世を風靡した赤松健さんが新たに立ち上げた連載作・『魔法先生ネギま!』が当ゼミに登場です。

 さて、この作品、赤松さんのウェブ日記によりますと、第1回から『ラブひな』を上回るアンケート結果をマークし続け、既に1年先まで見据えた構想を検討中との事。
 何と言いますか、日本中の週刊連載マンガ家さんの羨望の眼差しを集めてしまいそうな勢いですよね(笑)。

 ですが、まぁそれも内容を読めば理解出来ます。作者の赤松さんには多少失礼かも知れませんが、この作品は(前作・『ラブひな』と同じように)“名作”になる事を一番初めの段階から放棄されている代わり、全てのパワーが、“人気作”になるような方向性で注ぎ込まれているのです。具体的に言えば、複雑で起伏に富んだストーリーや先の読めない展開で読者を引き込むのではなく、読者の最大公約数的な意見を正確に掴んだエンターテインメント(ベタベタのラブコメ、萌えキャラ、ライトなお色気など)を提供する事だけに徹した作品…という事ですね。
 このようなマンガに対する姿勢は、邪道と言ってしまえば確かにそうでしょう。内容の濃いストーリーと技巧を求める当ゼミでは、たとえこの作品が日本一の人気作に出世したとしてもAやA−といった評価を与える事は出来ません
 しかし、それとは別の部分において、「それはそれで凄い」という思いも強く抱かされるものでもあるのです。

 普通、メガヒット作品を世に出した作家さんは、その成功に溺れて客観的な判断力を欠くようになってしまいます。その後に新作を描くにしても、そのメガヒット作で成功したと思われる部分を抽出し、記号化し、それを再構成する事しか出来なくなるのです。簡単に言うと、キャラクターの名前と舞台設定をマイナーチェンジさせただけの焼き直しした作品しか描かなくなり、しかもそれが正解だと信じて疑わなくなるわけです。それが読者の目にはどう考えても不正解に映る駄作だったとしても…です。
 こうなったが最後、その“大御所”作家さんが新しく立ち上げる連載は短期打ち切りの連続となります。そして、挙句の果てにはメガヒット作のリメイクに逃げ込んで、かつての支持層のノスタルジーに訴えるしか術が無くなってしまうのです。ここでは具体的な名前は挙げませんが、いくつかの青年誌・成年誌(not18禁)でマンガを読まれる方には、誰がそういうタイプの作家なのか、すぐにお分かりになると思います。
 以前、小林よしのりさん「2作品以上ヒット作を出せる作家は天才だ」…みたいな事を述べてらっしゃいましたが、それはこの辺りにも理由があるのだと思います。それまでの成功に至ったプロセスを一度放棄し、再び白紙の状態からヒット作を描く作業を始めるだけの意欲と力がある人と言うのは、やはり天才的な才能を持っている人なのでしょうから。
(ただし、長い間バカの一つ覚え的に同じような作品を描き続けている内に、読者の世代が一回りして偶然2度目のヒット作が生まれてしまう…という例外的なパターンもあります。誰とは言いませんがギャラクティカ某→某流星拳ですね《笑》。
 また、この発言の当事者である小林よしのりさんについては、“天才”と呼ぶには駄作が多すぎるような気がしないでもないですね。もっとも、これは人によって考え方が異なるでしょうが──)

 で、そういう意味で言えば、赤松健さんはそのような「2度のヒット作を生み出せる天才」の典型例という事になると思います。決して自分の過去の成功に溺れず極めて冷静な自己&現状分析を行う事が出来、その上、他のヒット作からも参考になる部分はどんどん取り入れていこうという謙虚な姿勢も窺えます。これは地味ながら間違いなく天賦の才と言えるものでしょう。
 いつになるか分かりませんが、赤松さんには青年誌あたりで骨太の長編ストーリー作品に挑戦してもらいたいです。単なる“人気作家”でキャリアを終わらせてしまうには惜しい才能であると、駒木は思えてならないのです。

 ……とはいえ、今回の作品そのものの評価は、先に挙げた理由からB+止まりです。これは当ゼミの評価基準からも譲れないところですので、もうどうしようもありません。ただし、“究極のB+評価”と言うべきものであると思います。

 ──今週の講義は以上です。やっと1つ課題をクリア出来ました(笑)。次週も出来れば週内実施できればいいですね。ではでは。

 


 

2003年第19回講義
5月15日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第3週分・前半)

 日付だけなら中4日も開いてしまったんですが、振替講義の加減で実質はあまり休めてません(苦笑)。キツいです、正直。

 いや〜、先週の講義は疲れました(笑)。結局、全作品を真面目にレビューしたのと同じ形になっちゃいましたしねぇ。今日はレビュー1本とチェックポイントなんですが、「あれ? レビュー1本だけで良いんだ」…みたいな感覚ですよ(笑)。
 まぁ、たまには無茶するのも一興、ということで……。

 
 さて、今週も次号の「ジャンプ」に掲載される読み切り作品の情報から。しばらくは毎週こんな感じになりそうですね。
 「週刊少年ジャンプ」次号(25号)に掲載されるのは、『World 4u_』作画:江尻立真)。作者の江尻さんは、99年冬(新年)号の「赤マルジャンプ」でデビューし、同年夏号にも作品を発表していましたが、それから4年ぶりの復帰作となります。
 とりあえずザッと調べてみましたところ、江尻さんは金沢大学の漫研出身で、学生時代にはアニメ製作(監督・絵コンテ)などの本格的な同人活動もしていたようです。で、現在は上京して尾田栄一郎さんのアシスタントを務めているとのこと。雌伏していた間にどれほど力を貯えたのか、ジックリと見せて頂きたいと思います。

 しかし、「赤マル」やら本誌の読み切りやらのラインナップを振り返りますと、「ジャンプ」ってやっぱり新人・若手の層が分厚いですよねぇ。人材不足なのは「連載作家」であって、「作家」は溢れるほどスタンバイしているのがよく判ります。
 それを考えれば、連載枠を減らして新人や若手にチャンスを与える現在の編集方針って、理に適ってはいるんですよね。まぁそうやって載った読み切りがスカだった場合は物凄く印象悪いんですが(苦笑)。

 そして今日はニュースをもう1本。「ジャンプ」の至る所をよく観察してらっしゃるような受講生さんはお気づきでしょうが、「ジャンプ」のオフィシャルな発売日が毎週月曜日に切り替わったようです。
 元々、「ジャンプ」は(一部地域を除いて)事実上月曜発売だったわけですが、ようやく実態と一致するようになったわけです。しかし、何故これまでそうしなかったんでしょうか。色々と読者には関わりの無い所で問題があったのだと思いますが……。

 
 ──では、レビューとチェックポイントに移ります。先に紹介しましたように、今日のレビューは読み切り1本分のみ。「チェックポイント」も続けてどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年24号☆

 ◎読み切り『GRAND SLAM』作画:杉本洋平

 今週の読み切りは、本誌デビューとなる若手作家・杉本洋平さんの登場です。
 杉本さんは現在23歳。新人賞の受賞歴等は有りませんが、01年冬(新年)号の「赤マルジャンプ」でデビューし、同年夏号にも作品を掲載しています。先程の江尻立真さんと2年違いながら同じようなキャリアですね。

 ……では、まずからレビューしてゆきますが、恐らくはほとんどの方がパッと見の絵柄に「?」マークをつけたと思います。勿論、画風という部分も影響しているのでしょうが、それよりも基礎的な技術のいくつかが習得出来ていないような気がしてなりません。
 特に「これは……」と思ってしまったのが、グラウンドの土の描き方と距離感の描写ですね。野球場の地面が、まるで西部劇でガンマンが打ち合いするような荒野になっちゃってますし、ピッチャーマウンドからバッターボックスまで何十mも離れているように見えてしまうのも、ハッキリ言って頂けません。
 このミスは画力もそうですが、取材不足も祟っているように思えます。他の野球マンガを研究するのは当然の事ながら、実際に野球場に足を運んで写真撮影やスケッチを敢行するくらいの手間ヒマはかけるべきでしょう。

 次はストーリー・設定について。
 ストーリーは野球マンガにおける1つの王道とも言える、「読者にストレスを溜めさせる→主人公が豪快なホームラン」…というパターンでした。
 この形式は、一見すると工夫が無さげで単純な筋書きではありますが、実はこれ自体には問題はありません。これまでにも『ブル田さん』作:高橋三千綱/画:きくち正太)や、『ジャイアント』作画:山田芳裕)のように、単純なシナリオを上手く演出して成功した傑作もありますし、ジャンプでも(傑作とまでは言えないものの)『Mr.FULLSWING』がマズマズの成功を収めています。ですからこの作品も、むしろ良い所に目をつけた…と言って良いのではないかと思います。ですから、現にこの作品を読んで爽快感を抱かれた方もいらっしゃったのではないでしょうか。

 しかし、そんな方たちには失礼ながら、この作品には、肝心の演出面に“キズ”があります。既に出揃った感のあるネット界隈の評判では、“賛否両論おしなべて不評”だったのも、ひょっとするとその辺が理由かも知れません。

 まず、主人公の行動に一貫性がやや欠けている事が1点目です。
 バッティングセンターではポリシーに従って、決してスイングしない主人公が、どうして練習台でバッターボックスに立っている時はブンブン振り回すのか、この辺が不可解なんですよね。単純な筋の話ですから、ここで読者に不可解さを抱かせてしまうと、最後の爽快感が削がれてしまって苦しいわけです。
 実戦でスイングは一切せずに、バーベル放り投げる代わりに素振りでもやらせていれば、多少は印象が違ったかと思いますが……。

 2点目。これはひょっとすると駒木だけなのかも知れないので遠慮がちに言いますが、最後の勝負で打った球がフォークボールっていうのは、どうかと思いませんか?
 こういう野球モノっていうのは、全精力を注ぎ込んだ豪速球を、全身全霊のフルスイングで打ち砕くからカタルシスがあるんであって、相手を欺こうとするフォークボールが勝負球で良いんでしょうか? 
 それに、主人公は速球に目が慣れた訳であって、フォークボールは全く対応外のはずですし、見えているはずの速球を1回打ち損じているのもどうかと思うんですよね。力み過ぎて大空振りというのなら、ベタながらアリなんですが……。

 喩えでまとめてみますと、非常に活きの良い魚を仕入れて来て、そのまま刺身で出せば美味いものを、下手に火を通して失敗した…みたいな作品という事になりますか。素材は良かっただけに残念です。
 評価は諸々の加点・減点を考慮してBとしておきましょう。次回作はもっと“熱い作品”を見てみたいものです。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『テニスの王子様』作画:許斐剛開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 ここまでやるなら、「11人いる!」までやらなくちゃ(笑)。この辺り、まだ許斐さん自身は「一応リアル路線だから」とか思ってるのかも知れませんね(ホントか?)。
 失礼ながら、初めて原画を見たアシスタントさんたち、よく笑いを堪えた!…と心から賞賛を送りたい気分であります(笑)。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 

 なんつーか、本当に芸が細かいですなぁ。
 3箇所あるロングショットの工事シーンでは、ナニゲにレギュラーメンバーたちを「ウォーリーを探せ」状態で仕事させてるし、別のシーンでは、「ヒル魔は栗田以外の前では辛そうに練習してる所は見せない」…というさりげない演出が為されているし。
 ただ、ちょっと最近気になるのが、リアル路線とマンガ的表現のバランスが狂い始めているところですね。今回出て来た太陽スフィンクスなんて、これ『遊☆戯☆王』と『ミスフル』の合体みたいな設定じゃないですか。まぁ、栗田に『余!?』とかツッコミ入れさせている内はまだまだ大丈夫だと思いますが(笑)

 ◎『ROOKIES』作画:森田まさのり開講前に連載開始のため評価未了/解説等】

 今週の展開は、ストーリーテリングの観点から見ると、とんでもない大冒険に踏み出したと言える凄いものです。完全に予定調和を排し、試合の勝敗も含めて混沌とさせてしまいました。
 で、そこまでするからには、大多数の読者を納得させるような、それでいて“見え見え”でない結末に持って行かなければなりませんこれからの数回は、ひょっとすると作品全体のクオリティを決めてしまうような大事なものになるかも知れませんね。要注目です。

 
 ……というわけで、今日の講義はこれまで。後半はレビュー対象作がありませんが、何かやります(笑)。ではでは。

 


 

2003年第19回講義
5月10日(土) 競馬学特論
「G1予想・NHKマイルC編」

 駒木です。またも珠美ちゃん抜きで申し訳ありません。
 今日あたりは無茶すれば正式版の講義も出来たのですが、わざわざ今回のNHKマイルで無茶するのもなぁ……などと思うに至り(笑)、短縮版でお送りする事にしました。
 まだ予断を許さない状況ですが、オークスとかダービーくらいは珠美ちゃんを交えて華のある講義にしたいと思っていますので、お楽しみに。

 さて、それでは早速出馬表と予想印をご覧下さい。

NHKマイルC 東京・1600・芝

馬  名 騎 手
×   ニシノシタン 吉田豊
ヒューマ 藤田
エイシンツルギザン 横山典
    クレンデスターン 江田照
    タイガーモーション 石崎隆
    エコルプレイス 松永
    ギャラントアロー
サクラタイリン 蛯名
× マイネルモルゲン 柴田善
    10 ジャズアップ 二本柳
×   11 ユートピア 安藤勝
  12 ゴールデンキャスト 武豊
    13 シェイクマイハート 小林淳
    14 ホーマンアピール 田中勝
  × 15 ワンダフルデイズ 福永
    16 ウインクリューガー 武幸
    17 エースインザレース 池添
    18 トーセンオリオン オリヴァー

 久々に駒木と珠美ちゃんで印が割れました。今回は競馬専門紙でも各トラックマンで印がバラバラになっていますから仕方ないですよね。

 しかし、番組編成上の問題で仕方ありませんが、G1なのにメンバーの大半が重賞未勝利というのはどうにかしてもらいたいものです。特に今年はクラシックでも通用するような大器が不在で、ただでさえ小粒なメンツが揃いがちのNHKマイルCがさらに“小粒揃い”になってしまいました。
 元々このレースは、外国産馬春の王者決定戦の意味合いが強かったわけですが、今やダービーが外国産馬に解放され、しかも外国産馬自体がかつて程の勢いが無くなってしまったために、G1レースとしての存在意義自体が揺らいでいるような気がします。グレード格下げ(一旦廃止して、G2の代替レースを新設)か、ダート競走へのチェンジが望ましいと思ったりするのですが……。

 ステップレース別のレヴェルですが、これも今回は横一線でしょう。ややアーリントンCのレヴェルが低いかな…程度で、クラシック組はオール2桁着順、毎日杯組もスローペースのレースとあっては参考にもなりません。この点も、予想を難しくしているポイントであるような気がします。

 展開は逃げ馬3頭に先行馬が2〜3頭ですから、ハイペース必至の流れとなるでしょう。元々が差し・追込有利のデータとなっているこのNHKマイルC今回も逃げ・先行馬には受難のレースとなりそうです。
 ただ、展開有利の後方組にはコンディション不安や能力不足の懸念がある馬ばかりで、こちらも不明確な部分が多過ぎます。恐らくは中位前後の馬たちによる力比べの展開になると思っているのですが……。

 では、今日も駆け足で18頭にコメントをつけていきましょう。

 1番・ニシノシタン。3つのステップレースを皆勤しながらも、なかなか頭に突き抜けられません。ただ、前走は中山芝1600の外枠という悪条件が響いていますし、2走前に見せた差し戦法が成功すれば一発あるかも知れません。
 2番・ヒューマ。ここまでオール連対でやって来た、このレース屈指の昇り馬です。中間の気配も良く、控えるレースが得意なだけに、十分期待が持てそうです。ただ、今回は相手が揃うだけに、ちょっとした事で戸惑うと大敗する可能性もあるでしょう。一番人気ながら全幅の信頼を置くのはどうでしょうか。
 3番・エイシンツルギザン。1着と5着を交互交互に取り続ける困った馬。順番から言えば今回は5着なんですが(笑)、2度の5着は成長途上と出遅れが響いたもの。今回スムーズに中位あたりが確保できれば、当然一発やってもおかしくありません。
 4番・クレンデスターン。皐月賞でも悪い意味で浮いていたこの馬、ここに入っても強さを感じさせるところまで行きません。調子も今一つみたいですし、苦戦は必至でしょう。
 5番・タイガーモーション。2歳時の有力馬も皐月賞は17着と尻すぼみ気味。陣営も半ば諦め気味といった雰囲気で、今回でダメなら早熟タイプだったと結論を下さなければならないようです。
 6番・エコルプレイス。アーリントンCから間が開いた分だけ、やや不安が否めません。また、今回苦戦が予想される逃げ脚質ゆえ、戦績ほど高く買い被れないのが正直な所です。
 7番・ギャラントアロー。ステップレースを人気薄の逃げで連続2着。共に速めのペースを単騎先頭に持ち込んでいるだけに、テンのスピードには自信を持っていそうです。ただし、今回ばかりは展開が味方してくれそうにありません。後続から早め早めにプレッシャーを掛けられて苦戦させられそうです。
 8番・サクラタイリン駒木の本命馬です。前走のNZトロフィーで休み明けながら見せ場タップリの3着。この中間では動きが見違えており、脚質上のメリットもあって、かなりの活躍が期待できそうです。問題は早い時計の決着になった時、瞬発力勝負に耐えられるかどうかですが……。
 9番・マイネルモルゲン。この馬もタイガーモーションと同様に2歳時にはブイブイ言わせたクチです。前走、相手に恵まれながらも久々に勝利を収めて意気軒昂ではあるのですが、この馬も本質的には先行脚質。果たして厳しい流れに耐え切って、粘り切る事が出来るでしょうか?
 10番・ジャズアップ。半端なダート馬では、さすがに芝のマイル戦で通用する見込みは薄いでしょう。
 11番・ユートピア。クラシック級の強豪が揃った毎日杯の2着馬。本質的にはダート向きながらも芝でもやれる事は確かなようです。ただし、前走はスローペースの単騎逃げ。今回のようにハナを切れるかどうかすら保証出来ない状況で、能力をフルに発揮できるかどうかは疑問です。地力だけなら1,2を争うと思うのですが……。
 12番・ゴールデンキャスト。2歳時にエイシンチャンプらを直線一気で葬り去った、ききょうSの栄光が未だに生きている感じですね。今回もなかなかの人気を背負っているようですが、中間の動きは全く冴えていなかったようです。体調が万全でないまま、果たして末脚の復活は実現するのでしょうか?
 13番・シェイクマイハート。展開は向きそうですが、さすがに実力が足りなさそうです。
 14番・ホーマンアピール。この中間、軽い故障で調整が頓挫してしまいました。その影響か、追い切りの動きも今ひとつで、今回はどうやら活躍は望み薄のようですね。
 15番・ワンダフルデイズ。この馬も2歳時は結構な名を馳せた馬で、クリスタルCも制してはいるのですが、どうも1600mは距離が長過ぎるようです。善戦はするかも知れませんが、果たして馬券の対象になるまで活躍できるでしょうか?
 16番・ウインクリューガー。伏兵的な存在でアーリントンCをを制した馬ですが、先行脚質の不利を乗り越えてまでしてこのレースで活躍できるかと言うと……。
 17番・エースインザレース。ダート戦線でもクラシックでもお馴染みの逃げ馬です。やはり今回は序盤〜前半の競り合いでスタミナを消費してしまう分だけ、大きく不利を被る事になるでしょう。
 18番・トーセンオリオン。ステップレースでは2レースともソコソコのレースをして入着。展開が向きそうな今回では期待が持てそうではあるんですが、陣営はかなり距離に不安を持っているそうです。

 ……というわけで、コメントが出揃いました。以下、フォーカスをお披露目して、講義を締め括りましょう。

 駒木は8、3、2の馬連BOXと久々の3連複
 珠美ちゃんは、馬連で2-3、3-12、2-12、3-8、3-9、3-15の6点です。

 では、皆さんの健闘ををお祈りします。


NHKマイルC 結果(5着まで)
1着 16 ウインクリューガー
2着 エイシンツルギザン
3着 マイネルモルゲン
4着 11 ユートピア
5着 17 エースインザレース

 ※駒木ハヤトの“敗戦の弁”
 みっともない惨敗だなぁ……。
 まずは展開の読み違え。淀みの無い流れで、しかも超縦長の隊列になっちゃったんで、狙ってた中団待機の有力馬が軒並み追走でスタミナ浪費して脱落。で、底力だけでどうにか出来る馬がいない顔触れだけに、追込み馬も不発。
 これで3−9の決着だったら、まだ納得出来たんだけど、この成績じゃあなぁ……。イカン。もう一度修行のし直しだ。
 ちなみに、今日駒木はこのレースを神戸の某フリー雀荘で対局中に観戦し、対面のオヤジに馬連万馬券もろともトップまで持って行かれた事をご報告申し上げます(苦笑)。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 私は悔しい悔しい2着3着でした(涙)。ま、博士と同じく展開を読み違えてしまったので、これでも上出来だと思うんですけど。でも、ワイドの配当(25.7倍)見ると、ちょっと頭がクラクラしますね(苦笑)。
 あ、でもこのレース、マークシートの記入を1マス間違えていたら的中だったんですねー
(笑)。こういう時に限って、何度もチェックしてから自動券売機に入れてたりするんですよね(苦笑)。

 


 

2003年第18回講義
5月9日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(5月第2週分合同)

 さて、中3日開けて再びゼミのお時間です。
 談話室(BBS)では未だに『ヒカ碁』問題で喧喧囂囂やってますが(苦笑)、こちらではもう過去は振り返らずに、未来を見据えて講義をやっていこうと思ってます。

 ……ということで、今週のゼミは、「ジャンプ」と「サンデー」の合併号休みを利用した、恒例の「赤マルジャンプ」全作品レビューをお送りします。
 ただ、こんな企画を立てると、
 「『サンデー』の増刊やルーキー増刊は特別扱いしないくせに、どうして『赤マル』だけ贔屓するんだ!」
 …というお叱りの声も聞こえて来そうで恐縮モノではあるのですが、“合併号休みに年3回発行”というのが結構重要なファクターだったりします(笑)。多すぎず、少なすぎず、ちょうど題材に困ってる時に発売されてしかも「サンデー」のルーキー増刊と違って、どこの本屋やコンビニでも買えてしまうとなれば、自然と特別扱いになってしまうんですよねぇ。
 まぁ「サンデー」系増刊の方も、A−以上の評価がつけられそうな作品は極力チェックしていきますので、「サンデー」派の受講生の方も、とりあえずは現体制でご了承下さいませ。

 ──では、早速全作品レビューをお届けしたいと思います。ただし、いつもみたいに詳細なレビューをやっていると時間と身が保ちませんので、どちらかと言えば「チェックポイント」の論調に近いようなスタイルで講義を進めて行こうと思いますので、どうか何卒。
 なお、例によって連載作品の番外編はレビューから除外します。ほとんどエロマンガのテイストに近い『苺十割』や、本編よりも面白いと評判の『ふんばりの詩』とか、語り所は結構あるんですけどね(笑)。

◆「赤マルジャンプ」03年春号レビュー◆

 ◎読み切り『沙良羅』作画:やまもとかずや

 巻頭カラーは、もはや「赤マル」名物となった“打ち切り作家枠”。今回は初連載作(そして初突き抜け作)『I'm A Faker!』以来、約1年半ぶりの新作発表となる、やまもとかずやさんの登場です。
 やまもとさんは96年10月期の「天下一漫画賞」で準入選を受賞し、その受賞作・『君が見た地球』で、本誌97年7号にてデビュー。その後、98年と01年に増刊で、00年には本誌でそれぞれ読み切りを発表し、先ほど述べましたように01年に連載を獲得…という経歴を辿って現在に至ります。

 『I'm A Faker!』の連載時はやや粗いと思われた絵柄が大分アカ抜けて来たのがまず目に付きます。アクションシーンや“異形の者”の描写もキッチリなされていて、ブランクがダテでなかった事を匂わせます。
 ただし、ストーリー・設定の方でやや難が。
 アクションシーン以外で人の気配を必要以上に排してしまったために舞台設定に現実感が薄れてしまった事、そしてヒロイン・沙良羅の心情描写の掘り下げが甘くてラストシーンに感情移入させ辛くなってしまった事が読み応えを損ねる結果になってしまった気がします。主役を妖怪の少年から沙良羅に変えてみれば、ずっと奥の深い作品になった気がしますが。
 評価はB+寄りB。素材は良かっただけに惜しい作品と言えそうです。

 ◎読み切り『バクハツHAWK !!』作画:天野明

 天野明さん2001〜02年まで「週刊ヤングマガジン」と系列雑誌で活動していた作家さんで、短期ながら2本の連載(『ぷちぷちラヴィ』、『MONKEY☆BUSINESS』)も経験しています。
 その後、天野さんは「ヤンマガ」を離脱し、一新人として「ジャンプ」に移籍。02年11月期の「天下一漫画賞」では、おやつおやお名義で最終候補になったのを経て、今回が「ジャンプ」移籍デビュー作となります。

 に関しては、さすが元・連載作家、全く問題ありません。無駄な線を排除できているあたりにキャリアを感じさせます。ただ、少年誌向けのペンタッチを意識するあまり、“古臭い少年マンガ風”になってしまった気もしますが……。
 ストーリー・設定に関しては、残念ながら大いに難ありです。この話、冒頭と結末だけ先に決まっていて、後から間の部分を作ったと推測できるのですが、そうやって冒頭と結末をこじつけるために相当な無理をやってしまっています
 特に主人公と敵役の兄弟子を巡り合わせるための手順が矛盾だらけで、この時点でお話として破綻してしまいました。普通、会いたくないヤツが鎖に繋がれてたら、わざわざ会わずに迂回するでしょうに。
 この手の作品は同じパターンの失敗が多いですよね。「“『ジャンプ』っぽい作品”だから大丈夫だろう」でタカを括るのではなくて、ストーリーを繋げるためにいかに必然性のある出来事をでっち上げるか…という部分をもっと意識するべきでしょう。
 評価はC寄りB−

 ◎読み切り『少年青春卓球漫画ぷーやん。』作画:霧木凡ケン

 3本目は「ジャンプ」の誇る(?)永遠の若手作家こと、霧木凡ケンさんの登場です。
 霧木さんのデビューはなんと12年前15歳の初投稿作・『ななせ君のバカ』(きりきけんいち名義)が91年8月期「ホップ☆ステップ賞」でいきなり入選を果たし、この作品が増刊92年冬号に掲載されてデビューとなります。
 その後も92年上期の赤塚賞で準入選を受賞して本誌掲載となるなど、ここまでは順調な出世コースを辿ったのですが、ここから途中5年間の空白があったり、2度の本誌掲載も連載に繋がらないなどして一気に“苦労人路線”を突き進むようになってしまいました。
 なお、今作品は約1年半ぶりの復帰となる読み切りとなります。

 絵柄個性的ながら、一定以上の技量を窺わせるものと言えるでしょう。ただし動的表現に問題点があり、全体的に変な“間”が生じてしまうのが、やや気になるところです。(これも霧木さんファンにはたまらない点なのでしょうが)
 ストーリー・設定は、小じんまりとした内容ながらなかなかまとまっていると思います。ただ、ハッピーエンドなオチを除けば、青年誌の連載ギャグマンガの1回分を抜き出したような感覚が残ってしまいました。
 これはどういう事なのかと言いますと、登場人物が読み切りにしては多過ぎるのがまず1つで、そして話の趣向が、多くの人を楽しませるよりも固定ファンに“いつものヤツ(楽しみ)”を提供する方向に流れてしまっている気がするのがもう1点です。実力は感じられるものの、読み難くてインパクトが大きくないというわけですね。
 この作品、恐らくは昔から霧木さんの作品を読んでいる人たちにとっては手堅く楽しめた作品だと思います。ただし、ニュートラルな立場から俯瞰すると、やはり物足りなさもあるわけです。
 評価は、これもB+寄りB


 ◎読み切り『スピンちゃん試作型』作画:大亜門

 さて、ここからはキャリアの浅い新人作家さんがしばらく続きます。
 大亜門さん02年4月期の「天下一漫画賞」で最終候補に残り(西村大介名義)、その後現在のペンネームに改名して、「ジャンプ」本誌02年34号で代原ながら『もて塾恋愛相談』でデビューを果たします。その後、同年44号でも「天下一」の応募作・『もて塾へ行こう!』が再び代原として作品が掲載されていますね。
 にもかかわらず、今回「赤マル」で新人扱いされているのは、恐らく「代原は正式なキャリアに含めず」という不文律が「ジャンプ」編集部に存在しているのでしょう。つまりは編集部的には今作が大亜門さんのデビュー作ということになっていると思われます。

 で、この作品を読んだ率直な感想は、「この作者、化けた!」…というところでしょうか。いつもながら分かり難い喩えで言いますと、フットボールアワーが第2回のM−1でブレイクしたような感じです。
 大亜門さんは、デビュー時から新人に似合わないほど高いギャグ構成力を持っていたテクニシャンだったのですが、なかなかそれが爆発的な笑いに繋がらないもどかしさがありました。が、今回は個性的なキャラクターを練りこんだ事によって、作品の完成度が飛躍的に増しています
 中でも特筆すべきなのは、漫才の高等テクニックであるボケの畳みかけ(ボケ→ツッコミ→それを強引にスルーして更にボケ…というパターン)を巧みにマンガに応用している点で、見事なまでにテンポの良い展開で31ページを押し切ってしまいました
 残る懸念は、この質の高さが週刊ペースで維持できるのかという事と、全年齢に通じるネタの割合をもう少し増やせるかどうかという所になるでしょう。しかし、現時点で既に週刊連載にゴーサインを出して良い位のレヴェルには達しています。評価はやや迷うところですがA−寄りAとします。


 ◎読み切り『甲殻キッド』作画:梅尾光加

 続いてはこの作品がデビュー作となる梅尾光加さんの登場です。
 梅尾さんは02年2月期「天下一漫画賞」で最終候補に残った後、02年下期「手塚賞」で佳作を受賞。今回はその受賞作でデビューと言うことになります。
 「手塚賞」や「赤塚賞」の佳作は、「天下一」で言えば特別賞〜最終候補に相当するもので、受賞作が代原以外で掲載されるケースは意外と少ないんですよね。そういう意味では“新人マンガ家追っかけにとっては嬉しいお話だったりします。

 “新人さんの習作原稿にしては”という但し書きを付ければですが、十分に合格点だと思います。見た目で違和感を感じる場面はほとんど見られませんでしたし、背景や擬音効果の力量もなかなかのものです。ただ、ややタッチが独特すぎて好き嫌いが分かれそうな絵柄であることと、キャラの顔の描き分け(特に若い男の)が甘い部分今後の課題となるでしょうね。
 ストーリー・設定は、大まかな所では少年マンガの王道を全うしていて、読後感の良い仕上がりにはなっています。ただ、脱皮する特殊体質の実態がやや曖昧(明らかにストレスが増している時点で脱皮の兆候が無かったりする)であったり、主人公がヒロインに対する愛情の深さを“怒り爆発→準サイヤ人化”の時点までで表現し切れていなかった部分があって、ややエピソード全体の説得力を欠いてしまったような気もします。
 評価はやや甘いかも知れませんが、Bとしておきましょう。

 ◎読み切り『あかねの纏』作画:落合沙戸

 続いては、先程の梅尾さんと同じく、02年下期の「手塚賞」で佳作を受賞し、今回デビューを果たした落合沙戸さんの作品です。ただし、落合さんの場合はこのデビュー作は受賞作ではなく、受賞後第一作という事になります。

 一言で言えば達者ですね。今回の「赤マル」は絵が上手い人が多くて表現に困ります(苦笑)。注文をつけるところとすれば、ペンの代わりにロットリングを使っているために、やや迫力に欠ける部分が見え隠れしたところでしょうか。当ゼミでは「ピーコのファッションチェック」の「サンダル履く時は素足で」くらいしつこく言ってますが、「ジャンプ」の紙質で細いロットリングを使うのはデメリットの方が大きいので感心できないんです。(よく見たら、ペン使ってらっしゃいました。謹んで訂正いたします)
 ストーリー起承転結がしっかり出来ていますし、見せ場の殺陣や主人公の特殊能力についての描写もキッチリ出来ていて、完成度の高い話になっています。ただし、ミステリ系作品としては致命的なまでに犯人とトリックがバレバレで、読みながら興醒めさせてしまう結果になったのは残念でした。これで松坂屋の用心棒をスケープゴートにして、主人公側の誰かが犯人だったりすれば、即連載クラスの力量だと言えたのですが……。
 評価は諸々の加点・減点を総合してB+。それでも、次回作くらいで本誌に“プロトタイプ型”読み切りを載せて、連載枠獲得を狙うくらいの実力はあると思います。


 ◎読み切り『SECOND SWIMMER』作画:後藤真

 こちらも今号デビューの作家さん、後藤真さんです。
 後藤さんは02年7月期の「天下一漫画賞」で最終候補に残ったという経験はありますが、これまで賞レースとは無縁の存在。しかしスタートラインに立ってしまえば条件は同じ。19歳とまだまだ若いですし、腰を据えて頑張って欲しいものです。

 は「天下一」で“画力◎”を獲得しただけあって、年齢・キャリアを感じさせない緻密な描き込みが特徴的です。ただ、マンガ的な表現や構図、背景と人物のバランスなどで不慣れな点がまだ見られます。描き込む線の取捨選択が出来るようになれば、連載作家さんたちと遜色ないレヴェルまで行けるのではないかと思います。
 しかし、ストーリー・設定には改善の余地が大いにあると言わざるを得ません。冒頭から拙い台詞回しシリアスな空気を台無しにする下手なギャグ表現が目立って、読者の感情移入を阻害していますし、肝心要・ラストの競泳シーンの展開が完全に破綻しています。携帯電話のトリックに無理がある上に、泳いでいる最中のエースの心的描写が矛盾だらけで、もはや意味不明です。「読者をアッと言わせよう」という意気込みは十分に感じられるのですが、残念ながら今回は空回りしてしまったようです。
 評価は文字通り「お話になってない」ですので、厳しくCとしておきます。

 ◎読み切り『詭道の人』作画:内水融

 さて、残るは5作品。どんどん進めていきましょう。
 内水融さん00年5月期の「天下一漫画賞」で審査員(ほったゆみ)特別賞を受賞した後、同年冬の「赤マル」でデビュー。その後、01年冬号にも作品が掲載されて、今回が2年ぶり3度目の「赤マル」登場となります。

 この人もに関しては大丈夫そうですね。どうやら以前は「画力に難アリ」との評判だったそうなんですが、2年間の修行の成果が出ているという事になりますね。老人に化けた夷吾の体が、「肌まで老人」と言うには若々し過ぎた…という問題点もありますが、ギリギリでご愛嬌の範疇でしょうか。
 そしてストーリー・設定は、「天下一」で、ほったゆみさんが特別賞に推しただけあってなかなかのものです。歴史についても基本的な考証はキッチリ押さえていますし、老いと若返りを逆手に取った“詭道”のトリック構成力も良かったです(たとえそれが、勘の鋭い人にはバレバレのものであったとしても)。また、そのトリックのタネが敵役への復讐に繋がっているあたりが技アリといった感じです。
 惜しむらくは、台詞に世界観を壊すような表現が目立ってしまったところ。古代中国に「HEY!」はやっぱりマズいんじゃないかと思います。
 評価はA−。次回作には、トリック構成能力を活かした探偵モノなんてのはどうでしょうか。「ジャンプ」で推理モノは鬼門ではあるのですが、設定さえ誤らなければ良い作品が描けるだけの能力があると思うのですが……。

 
 ◎読み切り『Play StYle ANTHEM』作画:中山敦支

 中山さんは99年に弱冠15(6?)歳で「手塚賞」最終候補に残った後、01年に実施されたスカウトキャラバンで“スカウト”され、「赤マル」02年春号でデビュー。今回は1年ぶり2度目の作品掲載となります。
 ちなみに、南日本新聞ウェブサイト中山さんを紹介した記事がありましたので、リンクを張って置きます。しかし、記事には鹿児島在住のマンガ家さんのアシスタントをやっているとありますが、一体どなたなんでしょう……?

 まずに関しては、画力云々という以前に、極めて完成度の高い少年誌向けの絵柄に仕上がっています。写真をトレースして背景を描く…というような緻密さは見られませんが、それも含めて極めて好感度の高いタッチだと言えそうですね。今回のヒロインはいわゆる萌え要素も高そうですし。
 ストーリー・設定に関しても、なるほど、こちらも完成度も好感度も高い仕上がりになっています。やや展開が駆け足に過ぎ、ご都合主義に走っている嫌いはありますが、キチンと起承転結も成立していて、ストーリーテリングに関する基礎的な力は認められます
 ただ、これは相当意地悪な見方かも知れませんが、今回の話は、既成作品の良い所だけを抽出して再構成しただけで、オリジナリティが完全に欠落してしまっていたような気もするのです。喩えるならメロンパンの端っこだけを固めて作った菓子パンみたいなもので、「美味しい事は美味しいのですが、それはパンとしてどうなのか?」と言いたくなってしまうんですよね。
 確かに今回の話は読んでいて面白いでしょう。読後感も爽やかでしょう。そういう意味では、現時点でも中山さんは人気作家になる素質は十分にあると言えそうです。しかし、今のままでは“名作崩れの人気作”しか描けないようになってしまいそうでもあるのです。楽をせずに自分にしか出せない魅力を試行錯誤する気持ちを持って欲しいと思います。評価はB+としておきましょう。 


 ◎読み切り『ドスコイン〜遊星から来たあんちくしょう〜』作画:風間克弥

 今号2本目のギャグ作品の登場です。作者の風間克弥さんは、02年9月の「天下一漫画賞」で最終候補に残って“新人予備軍”の仲間入りを果たした後、今回で晴れてデビューとなりました。

 まだ粗さと素人臭さが目立ちますが、ギャグ作品ですから、それほど目くじらを立てるものでもないでしょう。これでリアルな絵柄とのコントラストが出来るようになればギャグ表現に広がりが出て来るのでしょうが、まぁデビュー作からそれを求めるのは酷でしょうから、今後の課題という事にしておきましょう。
 で、肝心のギャグですが、風間さんはセリフの言い回しで攻めるタイプの作風のようですね。テンポも悪くないですし、現時点でもソコソコの水準にはあると思います。しかし、風間さんは理詰めで笑いを取れるタイプでは無さそうですし、小さなギャグを積み重ねるというスタイルですので、爆発力という面でも物足りなさが残ります
 評価はB。とりあえず次回作に期待しておきましょう。


 ◎読み切り『二山高Cメン』作画:瀬戸蔵造

 「月刊少年ガンガン」出身という、「ジャンプ」では異色の経歴を持つ瀬戸蔵造さんの、1年ぶりとなる「ジャンプ」2作目の登場です。今回も前作・『monochro stroke』に引き続いて卓球を題材にした作品となりました。「ガンガン」時代は野球マンガを描いていたそうなので、卓球に固執しているわけではなさそうですが……?

 まず残念なのがでした全体的に線やデッサンが粗く、どうしても雑っぽい印象を抱かせてしまいます。特に動的な表現を狙った場面がことごとく止め絵のようになってしまうのはいただけません。何よりも、この1年で目立った画力の向上が見られない事が一番の懸念材料でしょう。現状に満足するにはまだ早過ぎると思いますが。
 ストーリー・設定は……というか、このマンガがギャグ作品なのかコメディなのか、正確に判断できません(苦笑)。まぁ多分コメディだと思うんですが、何だか“突き抜けてない『泣くようぐいす』”を読んでいるような感覚にとらわれてしまいました(笑)。まぁストーリー作品としてもギャグ作品としても、内容の密度が薄いような気がしますが……。作者の狙いが技量不足から読者に伝わりきっていない感じで、有り体に言って“ちょっと寒い”出来になってしまったようですね。
 評価はB−としておきましょう。


 ◎読み切り『天上都市』作画:中島諭宇樹

 今回の「赤マル」のトリを務めるのは、これがデビュー作となる中島諭宇樹さん現在『アイシールド21』の村田雄介さんの下でアシスタント修行をしているみたいですね。(『アイシル』2巻の巻末スタッフ紹介に名前あり)
 中島さんは、01年11月期の「天下一漫画賞」で最終候補に残って“予備軍”入りした後、第8回(02年度)「ストーリーキング」マンガ部門で準キング(=他賞の準入選相当)を獲得。今作『天上都市』はその受賞作となります。

 今回、この作品を一読して抱いた感想は、
 「凄い。才能のスケールが違いすぎる」
 ……でした。絵がどうとか、ストーリーがどうとか細かい点をいちいち指摘するのが馬鹿らしくなってしまう位の“才能の塊”を見せ付けられ、(良い意味で)ア然としてしまいました。
 何よりも素晴らしいのが、現実とは全く違う“もう1つの現実世界”を、矛盾・破綻を生じさせる事なく、過剰に状況説明的にならず、それでいて裏設定で自己満足に陥る事もないままで描き切ったという点です。「ジャンプ」系の新人作家さんたちが陥りがちなワンパターンの勧善懲悪モノの範疇から大きく飛び出し、立派に完成された1つの物語を紡ぎ出したその天賦の才には、思わず嫉妬すら覚えてしまうほどです。
 勿論、まだ修正すべき点も残っています。例えば、エファが空中戦で使う武器の描写が分かり難かった点や、エファとゼオの口論がやや取って付けたような感じに陥ってしまった点など。今回は余りに設定やストーリーの起伏のつけ方が決まっていたために目立ちませんでしたが、今後は更に完成度の高い描写を目指してもらいたいと思います。
 少々の減点材料はありますが、評価は文句ナシの個人的には「ジャンプ」では5年から10年に1人の逸材だと思っています。ただ、中島さんの作風は、規定ページ数や週刊連載といった制約がある中ではフルに生きて来ないような気がしますので、連載を立ち上げるにしても、当初は「『赤マル』巻頭カラーまたは巻末で毎号60〜100ページ」…のようなパターンでジックリ才能を育ててゆく形が良いのではないでしょうか。

 ※総評…今回は大豊作と言って良いでしょう。即連載級の作品が2つ3つ見られましたし、ゆくゆくは連載作家を目指していけそうな有力新人も複数いる事が確認できました。
 これまで「『ジャンプ』では新人が育っていない」というのが定説でしたが、今回の「赤マル」でそれが大きく覆されたのではないでしょうか。今年の「ジャンプ」では長期連載作品が終わり、暗黒時代の再来を危惧する声もありますが、駒木は自信を持って「そんな事はない!」…と声をあげたいと思います。あとは素質ある人たちが世知辛いマンガ業界の風に吹き飛ばされてリタイヤしてしまわない事を祈りつつ、今回のレビューを締め括らせてもらいます。
 

 ……というわけで、実質3日がかりの講義、いかがでしたでしょうか?(苦笑)。多分夏号以降は、レビューをするにしても前後半に分けたいと思います(笑)。

 次週からはレギュラー通りの構成に戻ります。そちらもどうぞお楽しみに。ではでは。

 


 

2003年第17回講義
5月5日(月・祝) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第5週/5月第1週・後半)

 またも週をまたいだゼミ後半の実施となってしまいました。毎週のように冒頭で陳謝してる有様で情けないのですが、今回は例の臨時講義がありましたので、どうかご理解を頂きたいと思います。

 ──というわけで今回は、先週発売の「週刊少年サンデー」を中心とした講義という事で、宜しくお願いします。

 では、例によって初めは情報系の話題から。まずはこの度新設された、応募者30歳未満限定のマンガ原作者新人賞・「サンデー原作・原案ドリームステージ」の審査結果からお伝えしておきましょう。
 「週刊少年ジャンプ」主催の「ストーリーキング」に影響を受けたと思われるこの新人賞、4つの部門に総数782作品の応募があり、応募条件に縛りが多かった事を考えると、なかなかの盛況だったようです。では、受賞者と受賞作を紹介しましょう。

第1回サンデー原案・原作ドリームステージ

 ◎読切原作部門(応募総数430編)
 大賞=1編
 『ソフィアの掟』(=マンガ化されて本誌または増刊掲載)
  濱中明(26歳・東京)
 《講評:バトルの秀逸なアイデア・ソフィストというオリジナリティ溢れる設定・わかりやすく書かれたドラマと文章・魅力的なキャラクターなど、選考委員の中でも圧倒的な支持を集めた作品。》
 入選=該当作なし
 佳作=1編
 
・『悪路王偽伝』
  保坂歩(21歳・宮城)
 最終候補(選外佳作)=4編
  ・『BATTLEカイト』
   住友里江(26歳・東京)
  ・『エスケープ・フロム・コンビニ』
   真坂和義(23歳・神奈川)
  ・『(題名なし)』
   片本晴康(24歳・大阪)
  ・『クイズランド』
   廣海好(28歳・三重)

 ◎スペシャリスト部門(応募総数102編)
 大賞=該当作なし
 入選=該当作なし
 佳作=該当作なし
 最終候補(選外佳作)=1編

  ・『すべての山に登れ』
   青木瑠依(25歳・東京)

 ◎ネーム部門(応募総数109編)
 大賞=該当作なし
 入選=1編
 『ワンハンドウイナー』(=マンガ化されて本誌または増刊掲載)
  柴山政日郎(29歳・愛知)
 《講評:よく練りこまれた秀逸なドラマと大胆でメリハリのきいた構成が評価され、文句なしの入選受賞》
 佳作=1編
 
・『白澤記』
  小原なつみ(22歳・愛媛)
 最終候補(選外佳作)=該当作なし

 ◎キャラクター部門(応募総数141編)
 大賞=該当作なし
 入選=該当作なし
 佳作=該当作なし
 最終候補(選外佳作)=2編

  ・望月洋輔(19歳・兵庫)
  ・内田有紀(23歳・栃木)

 若年層を対象にした新人賞とはいえ、受賞者は20代後半がズラリと並びました。さすがに原作者新人賞ともなれば、やはり小説家と同様に学校を出て、ある程度の社会経験を積んだ人でないと“味”が出ないんでしょうか。
 受賞作のうち、大賞と入選の2作品はマンガ化されて掲載されます。「サンデー」本誌に掲載された場合は勿論、増刊掲載の場合も特筆すべき作品は当ゼミでもレビュー対象にします。

 さて、今日はもう1つ、駒木がネット閲覧中にふとした事から入手した情報を紹介します。

 その情報とは、昨年まで約1年間本誌で連載されていた『トガリ』で「サンデー」読者にはお馴染みの夏目義徳さんの動向について。
 夏目さんご本人が運営されている公式ウェブサイト・「SeS homepage」内のBBSで夏目さん(ハンドルネーム:SeS)自身が明かしたところによりますと、夏目さんはつい最近「少年サンデー」及び小学館から決別し、新たな活躍の場を模索する事になったそうです
 既に「週刊少年サンデー」公式サイト・「Webサンデー」内の「まんが家バックステージ」からは夏目さんの手記が過去ログも含めて削除されており、事態の深刻さを物語っています。夏目さん曰く、「(単行本は)もう永遠に増刷されることはないでしょう」との事です(ひえ〜)。
 どうやら夏目さんは『トガリ』の連載終了後から新作のネームを練っていたそうですが、この1年間は1つの作品に対して、“編集からダメ出し→言われた通りに修正→別の箇所にダメ出し”…という、典型的な飼い殺しパターンにハメられていたそうです。
 人材の飼い殺しがあるという事については、確かに以前からいろいろな噂を耳にしていたのですが、まさかそういう事が連載作家さん相手にも行われているとは……。何だか業界の暗部を見せられたようでゾッとしますね(苦笑)。

★追記★

 この「夏目義徳さん、小学館と決別」について、夏目義徳さんご本人からメールを頂きました。(!) 知らない事は恐ろしいというか、なんと夏目さんは当講座を受講して下さっていたそうです(苦笑)。
 このゼミで採り上げた作家さんからメールを頂いたのは、実はこれが初めてじゃないんですが、嬉しい一方で「オイ、見てないと思って偉そうな事言っちゃったよ」…などと心臓ごと恐縮してしまいますね、しかし(^^;;)。

 ……で、夏目さんがおっしゃるには、決して編集部や小学館との関係が険悪になったという事実は無くて、(1年間同じ作品のネームを修正し続けていた事も含めて)マンガ家として当たり前の活動をして来た結果、残念ながら作品発表の機会が得られなかっただけ…という事だそうです。
 ですから、夏目さんが小学館を離れられるという事も、「専属契約を結んでいないフリーの自由業者が、これまでの取引先と距離をおいて新規開拓に乗り出した」というだけであって、それ以上でも以下でもないと解釈すべきなんだろうと思います。まぁ「バックステージ」のログ削除はさすがにシビアだと思いますが(苦笑)。

 というわけで、上記の発言に誤解を招く表現をしてしまった事を認め、この追記をもって訂正したという事にさせて頂きます

 ちなみに夏目さんは、現在文字通り心機一転、新作のネームに着手してらっしゃるそうです。月並みな言葉しか述べられませんが、新天地での活躍を期待します。頑張って下さい!

 
 ──さて、いささかショッキングなニュースではありましたが、気を取り直してレビューの方へ行きましょう。
 今日のレビューは新連載の1本のみ。その後の「チェックポイント」も合わせてどうぞ宜しく。

☆「週刊少年サンデー」2003年22・23合併号☆

 ◎新連載『売ったれダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治

 (短期集中連載を除けば)「サンデー」では久々の長期連載が今週から始まりました。『MÄR』以来ですから、ほぼ4ヶ月ぶりになりますか。
 原作担当の若桑さんは小学館系マンガ誌で幅広く活動している原作作家さんで、「サンデー」でも『風の伝承者』画:山本智)などで活躍しています。
 そして作画担当の武村さんは、94年に増刊でデビューし、その後は打ち切り作品ながら『マーベラス』で本誌連載も果たしており、そろそろ若手から中堅に差し掛かるくらいのキャリアを持つ作家さんですね。この1年は企画モノや読み切りが中心の活動でしたが、この作品で晴れて本誌へと帰還を果たした形となりました。
 なお、この作品は昨年春に本誌で短期集中連載された『ダイキチの天下一商店』がベースになっていますが、実際には“主人公の名前以外総取換え”状態で、全く別物の作品が始まったと解釈した方が良さそうですね。

 ……では、本題へ。

 については全く問題無いでしょう。むしろ以前に比べて絵柄が少年誌っぽくなり、より好感の持てる絵柄になっています。特に良い味が出ているのがデフォルメ表現で、派手ながら嫌味の少ない描写になっているのが素晴らしいと思います。
 最近「サンデー」ではノリの良い作風の作品が増えたため、余り目新しさが感じられないのは不運でしたが、安心して見ていられるのは間違いありません。

 そしてストーリーと設定についてですが、こちらもとりあえずは合格点を出せる仕上がりになっているのではないでしょうか。
 こういう“業界ハウツー・薀蓄モノ”の作品では、以下に挙げる3つのポイントが重要です。すなわち、

 1.作品で紹介される薀蓄に説得力があるか。
 2.薀蓄はストーリーを引き立てるために存在しており、主客転倒していないか。
 3.主人公側の成功(勝利)に必然性があり、ご都合主義になっていないか。

 ……これらのどれが欠けていても、作品の魅力は激減し、ただ単に作者が読者に知識をひけらかしているだけのイヤミな作品になってしまいます。
 この系統の作品は、成功した場合には『ナニワ金融道』作画:青木雄二)のようにインパクトのある名作となる事も可能なのですが、短期打ち切りになる作品も多く、成功させるには意外と難しいジャンルと言えそうです。
 で、この『売ったれダイキチ!』の場合ですが、少なくともこの第1話では3つのポイントを全てクリアしています
 やや筋書きがオーソドックス過ぎる嫌いはありますが、中身の濃い薀蓄がその物足りなさをカバーしており、全体としてはシンプルながらも説得力のある仕上がりになっていると思います。

 また、目立たない所ですが、コマ割り等の構成力も相当なものです。今回は60ページ以上もあったのですが、冗長さを感じさせませんでした。このポイントについても高い評価をしなければいけないでしょう。

 というわけで、今回の時点での暫定評価A寄りA−シナリオのオリジナリティ等で少し減点しましたが、なかなかの好発進です。ただ、真価が問われるのはこれ以降ですので、今しばらく注視しておきたいと思います。
 最後に個人的な話ですが、鯉と鮎の話モデム配りに応用させてもらいたいと思います(笑)。デッカイ声で「いかがですか〜」と連呼するのは控えめにしてみようかな…などと思ったり思わなかったり。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントは「泣ける映画」について。思ったより皆さんベタですねー。さすがにマンガ家始めてからはマイナー映画とか観る時間が作れないんでしょうか。
 ちなみに駒木は、あのアルバトロスが今度公開する映画の題名が『えびボクサー』で、内容もそのまんまだった事に笑い泣きしました。

 あと、今週号は『MAJOR』でも『ふぁいとの暁』でも、身を賭して監督に逆らう主人公のライバルが描かれてましたが、ネット上で「『MAJOR』ではここまで3年かけたのに、『ふぁいとの暁』ではいともあっさり……」みたいな発言があったのには思わず吹き出しました(笑)。

 ◎『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【現時点での評価:/雑感】 

 いつの間にやら、すっかり中堅位置に固定されたようで。しばらくは安泰みたいですね。確かに読み易い雑誌向けの作品になっていると思いますが。
 で、今回のポイントはモノクロ1ページ目の4コマ目楳図かずお風の「ギヤアー(ギャァーじゃなくて)(ギャァーじゃなくて)を見ると、改めてこの作品が「マガジン」のマンガじゃなくて小学館のマンガだという事に気付かされます(笑)。でも、感じ出てるよなぁ(笑)。

 ◎『MÄR(メル)作画:安西信行【現時点での評価:B/雑感】 

 チェスの階級で敵をランク付けするシステム、どこかで見た事あるなと思ったら、かつての「サンデー」の人気作・『ダッシュ勝平』作画:六田登)であったんでした。まぁ20年以上前の作品ですから、パクりとかそういう以前に、「駒木、お前そこまでチェックしてるのかよ!」…ってな話だと思いますが(笑)。
 いや、実は駒木、『ダッシュ勝平』に触発されてバスケ始めた変なヤツなんですよ(笑)。高校でバスケ部に入ったら丸腰でヤクザと戦わなくちゃならないのかとマジで怯えていた6歳の駒木が我ながら懐かしいです(苦笑)。

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 ついに! ついに! ……ってな感じで「次号へ続く」合併号でこんな引きをカマすなんて、藤田さんは意地悪だ(笑)。
 それにしても、このシーンまでに読者を何年待たせたんだよ、この人は(苦笑)。
 

 ……というわけで、このゼミも次回へ続く…と。
 次回のゼミはお約束通り、「赤マルジャンプ」のレビューが中心になると思います。駒木は既に火曜日にゲット済みですが、今号は佳作・良作揃いでビックリしました。未読の皆さんは是非最寄のコンビニか書店でどうぞ。

 


 

2003年第16回講義
5月3日(土) 競馬学特論
「G1予想・天皇賞(春)編」

 今週はいつにも増して時間が押していますので、簡易版でお送りしたいと思います。
 では、出馬表と駒木研究室予想陣(笑)による印をご覧頂きましょう。

天皇賞 京都・3200・芝

馬  名 騎 手
    ファストタテヤマ 安田
    アルアラン 本田
× イングランディーレ 小林淳
× ツルマルボーイ 横山典
  × トーホウシデン 田中勝
    イエローボイス 岩田
ダンツフレーム 藤田
    トシザブイ
    マイネルアンブル 蛯名
    10 トップコマンダー 四位
    11 ヒシミラクル 角田
12 ダイタクバートラム 武豊
    13 エリモシャルマン 池添
×   14 サンライズジェガー 後藤
    15 マイネルプレーリー 村本
16 タガノマイバッハ 安藤勝
    17 アクティブバイオ  福永
    18 シースルオール 佐藤哲

 少なくともここ10年では最低レヴェルの寂しい天皇賞となってしまいました。例年は本命ムードが匂うレースではあるのですが、こういう混戦ムードの時には結構荒れたりする事もあるので、注意が必要です。
 また、近年では純粋なステイヤーよりも長距離のこなせる中距離馬が優勢になっていますが、こういうレヴェルの低いレースの場合、得てしてステイヤーが復権を果たす事も有るので、これも注意が必要でしょう。今回のメンバーで言えば、イングランディーレヒシミラクルあたりになりますね。(もっとも、実力が足りていればの話ですが)

 ステップレースの中では、阪神大賞典がややハイレヴェルで、それに大阪杯組が続くといったところでしょうか。日経賞組はややメンバー的に物足りません
 昨年から活躍しているダンツフレームツルマルボーイの扱いが問題になって来ますが、この2頭が上位を占めた宝塚記念は、昨年のG1戦線の中でもかなりヌルいメンバーだったという事を忘れてはいけないでしょう。昨年の実績によるアドバンテージはほとんど無く、新興勢力と互角程度の実力だと見ています。

 展開は、純然たる逃げ馬不在の上に差し・追込の馬がやたらと多く、奇襲の逃げ戦法やアクシデントが無い限りはラスト1000mまでは超スローペースで推移するのでは…と思います。その後は早仕掛け気味に捲っていく馬に瞬発力勝負に賭ける差し馬が急襲する形になるのではないでしょうか。
 マトモに考えれば、差し馬も何頭か圏内に入って来るとは思いますが、先行馬が上手くペースを作って直線で抜け出してしまった場合、人気薄先行馬の“行った行った”なんてケースも考えられます。駒木は買いませんが、馬連3-16なんてのはそういう展開になった場合は最も可能性がありそうな組み合わせですね。

 さて、後は簡単に講釈を垂れて早々に講義を締めたいと思います。

 駒木の本命はダイタクバートラムとしました。単勝前売り2.0倍で、勿論1番人気。ここまで買われるとは思いませんでしたが、確かに好走する可能性は一番高い馬です。父・ダンスインザダーク譲りの瞬発力が炸裂することを期待しましょう。
 2番手にはタガノマイバッハを抜擢しました。果たして距離が保つかが心配ですが、展開的に最も有利な馬です。
 そして3番手評価がダンツフレーム。こちらも距離適性が懸念材料なのですが、比較的前でケイバが出来る分だけ上位に据えました。
 以下、脚質的に不器用ながら瞬発力は随一のツルマルボーイ、そして先行脚質のステイヤー・イングランディーレも圏内。復調が伝えられるサンライズジェガーですが、唯一の勲章が実力査定に全く役立たないアルゼンチン共和国杯なのが気になります。
 穴人気を集めそうな02年菊花賞組のファストタテヤマヒシミラクルですが、メンバー的に奇跡を再現するには厳しすぎるのではないかと考えて無印としました。

 フォーカスは馬連BOXで12、16、7の3点に、元返しの押さえで枠連2-6を追加します。

 なお、珠美ちゃんは馬連3-12、12-16、3-16、7-12、4-12、5-12の6点です。

 それでは簡単ながら講義を終わります。皆さんの幸運をお祈り申し上げます。


天皇賞 結果(5着まで)
1着 11 ヒシミラクル
2着 14 サンライズジェガー
3着 12 ダイタクバートラム
4着 ツルマルボーイ
5着 ダンツシアトル

 ※駒木ハヤトの“敗戦の弁”
「おいおい、帽子の色は合ってるけど勝負服の柄が違うって。あ〜あ〜2着3着かよ。でも印の上ではそうだけど、馬券買ってないから当たってもどうしようもないぞコレ。でも何だ、5着までの着順だけなら結構惜しいハズレに見えちゃうじゃないか。まったく、みっともねぇなぁオイ」
 ……以上、レース直後の心の声を再録してみました(笑)。実はモデム配り現場の量販店のテレビ売り場で盗み見してたんですが、その後の仕事、テンションの上がらない事といったら(苦笑)。
 「低レヴェル混戦の時はステイヤーに注意」と言っておきながら予想の中身が違ったわけですが、これ実は、いつぞやの菊花賞のマチカネフクキタル──つまりは中距離馬が超スローの瞬発力勝負だけで勝負になってしまうケース──を頭に入れていたんですよ。でも、結局はロングスパート合戦が始まってヒシミラクルの展開になっちゃったわけですが。何だか決まり手だけならオグリキャップの引退レースみたいでしたね(笑)。
 まぁ今回は多忙を極める中の予想だったので仕方ないと思ってます。来週も忙しいんですが(苦笑)、こちらは何とか……

 ※栗藤珠美の“反省文”
 もう何も言い訳できませんね(苦笑)。今回は本当に完敗でした。ヒシミラクルはともかく、サンライズジェガーは全く頭に無かったです。
 来週はNHKマイルカップ。難しいレースが続きますけど、どうか良い予想が出来ますように…… 

 


 

臨時講義(番外)
5月2日(金) メディアリテラシー概論
「『ヒカルの碁』終了に関する噂話検証(暫定版)」

 まず始めにお断りです。
 今日の講義はハッキリ言って見切り発車です。いつも以上にライブです。
 普段なら、駒木は講義の草案が浮かんでから時間を掛けて構想(笑い所とか下ネタとか)を練ったりするのですが、今回に限ってはクオリティを削ってでもタイムリー性重視の姿勢でお送りしたいと思います。今回の講義が“臨時講義”であって番外扱いになっているのはそういうわけです。「ニュース解説」で扱っても良かったんですが、ボリューム的にそぐわない事もあって、こちらに回す事にしました。

 ……さて、早速本題です。

 昨日付のゼミ・「現代マンガ時評」でもお届けしましたように、「週刊少年ジャンプ」連載の人気作品・『ヒカルの碁』が、今週発売の21・22合併号を最後に、突然とも言えるタイミングで連載終了となりました。
 当講座ではこの連載終了に対し、「作者の終了希望を編集部に飲ませた、いわゆる円満終了」と断定しました。内容的にも(「ジャンプ」作品という事情を除けば)納得出来るものでしたし、今回の完結についての有力情報も2ヶ月前の時点から流されていたからです。(実際に終わるまでは未確認情報なので当講座では紹介していませんでしたが)

 しかしながら、今回の最終回が「ジャンプ」的に不可解なものであった事から、ネット界隈では流言とも言うべき噂がいくつか流布されてしまいました。

 その中でも代表的なモノが、「『ヒカ碁』は韓国関係者の圧力によって潰された」…などという、口に出したり考えたりするだけで脳味噌が腐りそうな噂です。
 この説を採る人たちは、主人公が最後の勝負で敗れて悔し涙に暮れ、しかも韓国が優勝して日本が最下位になり、更にはそのまま尻切れトンボ的に連載まで終わってしまったのを「不可解」だとして噂の根拠にしているようです。
 が、『ヒカルの碁』では第一部の佐為編も主人公・ヒカルが塔矢アキラに負けて終わってます。これは、主人公が敗戦を糧に成長していく姿を暗示させて締め括る…という、話作りにおけるセオリーの1つです。第2部でもこれを踏襲したという見方は当然あって然るべきでしょう。

 第一、現在のアジアにおける囲碁の勢力図は、つい数日前に終了した第2回CSK杯囲碁アジア対抗戦で日本チームが劇的な優勝を飾るまでは、韓国勢の国際棋戦23連勝という状況にありました。韓国は約3年にわたって世界囲碁界で無敵状態だったのです。
 で、それとは対照的だったのが日本勢でした。その間の国際棋戦では、日本のタイトルホルダーたちが惨敗を繰り返し、あまつさえプロ九段が“囲碁発展途上国”アルゼンチンのアマ6段に完敗するという醜態を晒したりもしていました。
 ですから、『ヒカ碁』で韓国が優勝して日本が最下位に終わるのも当たり前なのです。むしろ、あわや韓国・中国を負かすところまで日本チームを健闘させたのも幾らかやり過ぎと言える位です。

 勿論、ここで述べた事がこの噂を100%否定する根拠に成り得ない事は駒木にも判っていますが、「噂を鵜呑みにするには危険だぞ」…と思わせる材料くらいにはなるのではないかと思います。それに、元々この噂を100%肯定する根拠が無いのですから、メディアリテラシーの観点からして、こんなもんをハナから信じる方がおかしいわけなんですが。

 ……とまぁ、噂の大半はこのように最初から欠陥を抱えた上に、すぐにでもある程度の反証を呈示できるものばかりなのですが、ここに来て1つ、よりタチの悪い話が表に出て来ました。
 既にニュースサイト経由でご存知の方も多いと思いますが、テキストサイト・「正義@星」にて、以下のような記事が掲載されました。以下、同サイトのコンテンツ・「貴様ら! お前らの言うことを聞いてみませんか?」4月29日付記事・「ヒカルの碁」を原文ママで引用します。

集英社内では有名らしいですが、突然終わったヒカルの碁。
もともと原作のほったゆみと描画の小畑健が印税半分づつ、という契約で書いていたのですが、ほったゆみは当然囲碁がわかるが、小畑健はわからない。それで終了にいたったようですな。
・・・というとわけがわからないので話を整理しましょう。
ほったゆみは彼氏がいましたが、小畑にずっとモーションをかけていたらしいのです。ただ小畑のほうはすでに結婚しているし、その気はないと拒んでいた。でもほったゆみが懲りずにモーションを。。。という、まさに気まぐれオレンジロードみたいな(違うか)男女の関係があったわけです。

そんなことがしばらく続き・・・ほったゆみが彼氏と別れてしまいました。先月の話です。
いままでストッパーとなっていた彼氏の存在がなくなった女、というのはどう動くと思いますか?当然、タガが外れているわけですから走りまくりなわけです。でも小畑のほうはそれでも拒否し続けた。

そんなゴタゴタが最高潮に達したある日・・・「あなたいったい何なのよ!」と女がぶちきれ、「じゃぁもうやめようか」→連載終了ということのようです。

特別編をやるといっているのは、ジャンプの場合3週間先までネームを作っているので、当然あと1週分くらい余裕があるわけです。特別編は、そのキープ分を多少いじくって出すだけ(笑)だそうですよ。

そうそう、おまけ情報。ヒカルの碁のアシスタントがBLACKCATの矢吹の元に移籍するらしい。きっと絵が変わるぞ。(笑)要注目だ!

↑なんだかいろいろ言われているようだが(笑)ネタ元は信頼できるところですわ。なぁおまえ。

 ……読んで頂ければ分かると思いますが、かなり衝撃的なお話ですね。まぁフィクションだったら典型的なソープオペラなんですが、現実の話とすれば非常にアレな感じです。
 で、衝撃的なニュースほど伝播も早いというわけで、恐らくはこのニュース、既に1〜2万人が目にする事になったんではないかと思います。

 ただ、駒木はこの記事に関しては初めから懐疑的でした。
 と言いますのも、この「正義@星」の管理人である二階堂豹介さんは、あの「探偵ファイル」さんと関わりが深い人(寄稿までしています)、今回の情報もそのラインから入手したんではないかと推測したからです。
 「探偵ファイル」さんと言えば、昨年春に「ジャンプ」関連の裏情報を流して話題を読んだものの、その内容に著しく信憑性を欠いていたために論議を醸したウェブサイトです。当講座でも昨年6月にメディアリテラシー特論「『探偵ファイル・電脳探偵マル秘レポート』に対する論題〜“宮村優子裏ビデオ”解題」という講義を実施したので、古参の受講生さんはご記憶かと思います。

 そういうわけで「これは怪しいぞ……」と思っていたところ、フリーライターのARMさんが運営する「Office ARM」の日記コンテンツARM(1475)の雑記帳ダッシュ」の5月2日付に、このような記事が書き込まれていました。こちらも該当部分を原文ママで引用します。

【ヒカ碁が終わった理由のアレ】
 俺ニュースさんとこで見てどれどれと件のサイトを訪問してみたら、あまりにもアホらしい話で大笑い。まさかちょっと前に底辺ライター(苦笑)の間で流れていた冗談話を、本気で関係筋の話と思い込んでいる人間(しかも同業かよ(笑))が居るとは思わなかったけど。韓国陰謀説もアレ気味ですがこっちの説は始めから冗談(個人的には悪質な誹謗と思っているけど)と判っているだけに始末に負えないというか。

 ご覧になれば一目瞭然ですが、これは先ほどの二階堂さんの記事を全否定したものです。

 こうなれば問題はどちらの記事が信用できるかに掛かっているわけですが、どうですか? 皆さんはどちらの話を信用しますか?
 ここで駒木が決め打ちしてしまってはメディアリテラシーの意味が無いので個人的意見に留めますが、駒木は後者の“全否定意見”を有力視しています。元々が“肯定意見”側の心証が良くないところに、(五十歩百歩にせよ)“全否定意見”の方が多少具体的な話になっているのがまず一点。そして、世の中、自分に関係ないゴシップを否定する事ほど無益な行為は無いにも関わらず、敢えてその無益な行為をやったという事実を重く見たいと思います。
 まぁ世の中、自分の都合の良い事しか信じようとしないものですから、「どうぞご随意に」なんですけどね(苦笑)。

 ただ、駒木はゴシップが結構好きなクチなんですが、今回の“ネタ”には辟易しています。笑えないゴシップほど醜いものはありませんゴシップを公にする以上は、せめて「そういう事にしとこう。その方が面白い」という話であって欲しいものです。

 このテーマに関しては、詳しい事情が判明すればまた追って講義を実施しますので、どうぞ宜しく。 (この項終わり?)

☆追記☆

 この講義を実施した直後、超特ダネのメールを頂きました。(メールには本名を含め、詳しい素性が書かれていましたが、なるべく伏せてくれとの事でしたので、これだけしか書けません。しかし、九分九厘信頼できる情報というだけはお伝えしておきます。ご本人さんは、本当はこんな追記を書かれるのも大いに迷惑なのだと思いますが、悪辣な噂を否定するためにはこの手段に訴えるしかないと思い、駒木の独断で強行しました。全ての批判等は駒木にぶつけて下さい

 DMなので全文公開は避けますが、要旨を箇条書きにすると以下の通りです。

 ・『ヒカ碁』終了は1〜2月から関係者などに漏れ始めていたが、トップシークレットだった。
 ・もともと『ヒカ碁』は佐為編で完結する予定だった。というか、ほったゆみさんが終わらせたかった。
 ・しかし、そこまでの過程でアニメ化が決定し、アニメ放映期間内の間だけ、連載を続行する事が決定した。
 ・03年春での連載終了は、第2部開始時点からの決定事項であった。
 ・駒木が「現代マンガ時評」の中で推測した事は大方的中している
(やった!笑)
 ・当然、今回の一連の噂は余りに酷いもので、問題外である。

 ……以上です。さて、皆さんはどう判断されますか?

 


 

2003年第15回講義
5月1日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(4月第5週/5月第1週・前半)

 先週あたりからゼミの実施ペースまで遅れ気味になっており、申し訳ありません。説明し始めるとキリが無いような事情が山ほどあるのですが、ここで不満を言っても仕方が無いので止めておきます。まぁ要は、忙しい上にテンション下がる事ばっかり起こってると認識して下さい(苦笑)。
 あ、言い忘れていましたが、来週は「ジャンプ」「サンデー」共に合併号休みとなるため、ゼミは週1回にまとめる事になると思います。内容は「赤マルジャンプ」についてのレビューなどをお送りする予定です。

 さて、皆さんもご存知のように、今週の「ジャンプ」では『ヒカルの碁』最終回というビッグサプライズがありましたが、それは「チェックポイント」のコーナーで詳しくお伝えする事にしまして、まずは情報系の話題からお届けしましょう。

 最近の「ジャンプ」では、空いた連載枠の穴埋めの意味もあって読み切り攻勢が続いていますが、次号(24号)でも45ページの野球マンガ・『GRAND SLAM』作画:杉本洋平が掲載されます。
 作者の杉本さんは01年に増刊デビューした23歳の若手作家さんで、今回が本誌初掲載。茨木新編集長による新人・若手の育成強化策に乗っかった形ですが、果たしてこのチャンス活かす事が出来るでしょうか。次々週のゼミにてレビューしますので、こちらもご注目下さい。

 さて、それでは本日分のレビューとチェックポイントをお届けします。なお、レビュー対象作は読み切りの1作品のみとなります。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年22・23合併号☆

 ◎読み切り『dZi:s』作画:樋口大輔

 このところ新人・若手の読み切りばかり載っていた感のある「ジャンプ」ですが、今週は『ホイッスル!』でお馴染みの樋口大輔さんが登場となりました。
 樋口さんは男性名のペンネームを使っていますが、実は女流作家91年11月期の「ホップ☆ステップ賞」において来住大介名義で佳作受賞し、翌年春の増刊・「スプリングスペシャル」でデビュー。ですからキャリアは10年以上になるんですね。資料によると昭和41年の5月10日生まれとのことですので、「H☆S賞」受賞時は26歳で、現在はもうすぐ37歳という事になりますか。
 で、デビュー後は散発的(1〜2年に1度ペース)に増刊や本誌に読み切りを発表し、98年から02年まで『ホイッスル!』を連載(その後、「赤マル」で完結編発表)。今回が復帰第1作ということになりますね。

 さて、それではレビューの本題へと移りましょう。

 いつもなら絵とストーリーに分けてお話するわけですが、連載入れ替えの激しいメジャー誌で長期連載を経験した作家さんを捕まえて、今更「絵がどうこう」…などというのも失礼なので、ストーリーと設定面に絞ってレビューしたいと思います。まぁ「絵は悠々と合格点以上」ということで。

 で、そのストーリーと設定なのですが、こちらもさすがに長期連載経験者の地力と言うべきか、なかなか芸の細かい演出を要所要所で見せ付けてくれます。この辺りはさすがといったところでしょう。
 ちなみに個人的には、瞬がヤタガラスをロリコン扱いする場面(つまり、自分が女子中学生の彼氏を好意も無しに演じているという事を示す伏線)や、暴言を吐かれた舞が一瞬でビル一棟分の電源をダウンさせてしまうシーン(事態の深刻さを体感させる効果)、そしてシンプルながらも迫力のあるアクションシーン(特に1回目のガン・アクションはクライマックスへの伏線にも)などが印象に残りました。

 ただ、残念だったのは、基本的なシナリオの出来がやや物足りなかったところでしょう。勿論、「赤マル」や新人賞レヴェルの作品からすれば一枚も二枚も格の違う完成度だと思うのですが、レヴェルの高かった演出面と主客が転倒してしまったような感が否めませんでした。
 中でも一番の問題点は、クライマックスのご都合主義的展開という事になるでしょう。いくらなんでも「原理は良く分からんが復活できた」というのは余りにも乱暴です。まぁ「たかがマンガでそこまで求めるのはどうか」という声もごもっともですが(笑)、やはりお話作りのルールとして、何でもいいからもっともらしい理由をでっち上げるべきだったと思います。
 あと、“一見して主人公の頼れる味方が、実は悪者”という、結構高度なセオリーを採用してはいるのですが、短編読み切りでシンプルな設定を強いられた悲しさか、やや簡単に展開が読めてしまったのも残念でした。2時間サスペンスドラマですぐに犯人が分かってしまう配役と言いますか、中尾彬が出て来た瞬間に、「あぁ、コイツが女の首絞めて殺しよるんやろな」…みたいなね(笑)。

 最終的な評価ですが、「見所のある作品ではあるが、良作・傑作には及ばず」というところで、A−寄りB+ということにしておきましょう。
 ただ、連載作品として設定を複雑化すれば、もっと良い作品になる余地はあると思います。長期連載作品が立て続けに終わって、地盤が緩みがちの「ジャンプ」ですから、ハズレの多い新人・若手新連載枠を1つ削ってでも、樋口さんのような安定感のある中堅作家さんに脇を固めてもらうのも良い策ではないかと思うのですが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 『NARUTO』『テニスの王子様』、両方とも分身技が決め手になっているんですが、片方は唸らされて、もう片方は笑わされるのは何故なんでしょう?(笑)

 ◎『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 この作品、話が追いかけ易くなって見せ場の密度が上がると、クライマックスが近い事がすぐに判るので便利ですね(笑)。
 しかし、初期の頃には展開にもっと切迫感があったような気がするんですが、やはり5年以上も連載しているとギリギリのレヴェルでバテが来るんでしょうか。

 ◎『ヒカルの碁 第2部(北斗杯編)』作:ほったゆみ/画:小畑健【現時点での評価:A/連載総括】

 一部で噂されていましたが、「ジャンプ」では(第2部だけを見れば)異例の短期での円満終了となりました。
 唐突とも言えるラストシーンなどに打ち切りを疑う声もありますが、この作品を商業的に打ち切る理由なんて全く有りませんし、終わり方にしても「ジャンプ」作品という事を抜きにすれば十分考えられる範囲です。
 第一、この先の展開を考えると、主人公・ヒカルの実力が中途半端過ぎてどうにもやり辛いんですよね。
 考えられる道としては、時間を5〜6年素っ飛ばして、七段あたりまで昇段したヒカルたちを描くか(『ドラゴンボール』方式)、それともプロ・アマオープンの阿含・桐山杯辺りで“奇跡の快進撃”を演じるヒカルが準決勝・決勝で塔矢親子と相対するか(『月下の棋士』方式)
 しかし両方ともリアル路線を採用する『ヒカ碁』ではかなり無理がある展開で、原作のほったさんが納得するとは思えません。まぁ結局は作品としての潮時という事だったんでしょう。今のタイミングが惜しまれながら去るギリギリのポイントのような気がしないでもないですし、ここは黙ってお見送りをするべきなんでしょうね。

 作品全体としては、やや北斗杯編が蛇足になった感もありますが、十分にマンガ史に残る名作の1つとしてカウントされるべきだと思います。同時期の「ジャンプ」作品でも、この作品より人気のある作品はいくつかありますが、作品の質という面では決して見劣りする事は無いと思っています。
 囲碁という難しい題材、しかも週刊少年誌という舞台でここまでクオリティの高い作品を提供してくれた作者のご両人には、改めて「有難う御座いました。そしてお疲れ様」と申し上げたいと思います。
 

 ……チェックポイント対象作が2作品のみと、ちょっと寂しくなりましたが、今日はこの辺で。ゴールデンウィークは色々切羽詰ってますので、後半の実施も遅れると思いますが、どうか何卒気長に……。


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