「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

3/31 社会調査「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」(6)
3/30 
社会調査「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」(5)
3/29 
競馬学特論「G1予想・高松宮記念編」
3/28 
社会調査「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」(4)
3/27 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(3月第4週分)
3/26 ギャンブル社会学特論「麻雀・競技プロの世界」(5)
3/23 
社会調査「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」(3)
3/22 競馬学概論「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(10)
3/21 社会調査「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」(2)
3/20 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(3月第3週分)
3/19 ギャンブル社会学特論「麻雀・競技プロの世界」(4)
3/17 社会調査「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」(1)
3/16 
政治学概論「統一地方選直前アラカルト」

 

3月31日(月) 社会調査
「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」(6)

過去のレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回

 この講義、そして現体制最後の講義となりました。昔からの受講生さんやビジターさん放ったらかしで、駒木は勝手に万感の思いなんですが、ウチの研究室のメンバーは講義の最後に花束渡すとか、そういう気の利いた事はしてくれないようです(苦笑)。

 ──あ、ところで行って来ましたよ、ヤフーBBスタジアム。モデム……じゃなかった、自由席入場無料の上に季節外れの花火まで打ち上げるって言うんで、家族と一緒に行って来ました。
 しかも、やっぱりやってました、モデム配りキャンペーン。以前から同僚のスタッフたちと、「ひょっとしたら、やるかも?」とか「でもまさか、本当にやるの?」とか言ってたんですが、グッズ売り場の隣やら入場門の中やら、あちこちで大キャンペーンやってました
 更に恐ろしい事には、駒木が登録している派遣会社のパラソルが! 駒木、研修会で見た事のあるSVがブースで“声かけ”しているのを見た時は、その場で思わず卒倒しそうになりました。何しろ、駒木の自宅から球場までは徒歩20分強。「お前のために用意したパラソルだ。よろしく頼む」と言われているような気がしてなりません。
 あと、駒木の会社の他にも、ネクサスと思しき頭の悪そうなキャンギャルやスタッフが大勢いたりしたので、今年のヤフーBBスタジアムは、人材派遣各社による新規契約争奪バトルロワイヤルが行われる事になりそうです。もっとも、わざわざ野球観戦したついでにADSLに入会する人なんぞそういるはずもなく、しかも普段のオリックスの試合なんて閑古鳥が鳴いていますから、そんなバトルロワイヤルの結果、全員オーバー・ザー・トップロープで失格…なんて可能性も十分あり得そうですが。

 そして5回裏終了後の花火大会(グリーンスタジアム時代から、オリックスの試合では時々花火をやります)では、点火スイッチを押す役として、日本で一番金持ってるハゲこと、孫正義ソフトバンク社長が登場。神戸空港建設を強行して神戸を破産に導こうとしている矢田神戸市長と、伝統ある球団を僅か数年で日本一のダメチームに貶めた岡添オリックス球団社長を両脇に従えた姿はまさにズッコケ3人組非常に趣深い花火大会でありました。
 ちなみに試合の方は0−4でオリックスが惨敗ピッチャーを全くサポート出来ないザル守備や、徹底して無料(0点)にこだわるその姿勢は、まさにヤフーBBを象徴しているように思えました。ひょっとしたらその内、球団ごと買い取るかも知れません。というか本当にやりそうです、あのハゲは。

 
 ……おっと、閑話休題。話が盛り上がった所で水を差すようで恐縮ですが、今日の本題は球場見聞記ではありません。正直言って、今日が最終日でなければそうしたいのですが、事情が事情だけに仕方ないですね。
 今日の講義テーマは、「ヤフーBBって、本当のところはどうなの?」…ということで、モデム配りキャンペーンの詳しい内容について突っ込んだ話をしてゆきたいと思います。最後まで、どうか何卒。


 ──さて、これまで講義中に「モデム配りキャンペーン」と称して来た、現在展開されているヤフーBBのADSL新規契約獲得キャンペーンは、正式名称を「3つの0円キャンペーン」と言います。
 で、この「3つの0円」とは、

 1.ADSL通信料最大2ヶ月0円
 2.BBフォン通話料最大2ヶ月0円
 3.無料設置サポート0円

 ……以上3つの事を言います。意外と知らなかった方もいらっしゃるでしょう。何しろ、「何をやってるのか?」…とパラソルに近付いて足を止めようものなら、たちまちスタッフが目を輝かせて突撃して来るのですから、現場でおちおち様子なんか眺めてられませんものね。

 まぁそういうわけで内容の解説をしてゆきます。

 まず1点目はお分かりになりますよね。要はADSL繋ぎ放題の費用が最大2ヶ月、つまり利用開始月とその翌月無料になるという事です。これにはモデムレンタル料やNTT回線使用料も含まれていますので、但し書き無しの0円です。

 次に2点目のBBフォン通話料ですが、これはつまり、ヤフーBBのインターネット電話サービス・BBフォンの通話料が同じように最大2ヶ月無料になるという事です。
 例外として184・186や0570などのNTT独自のサービス番号を使うと無料にはなりません(NTTから通話料が請求されます)が、普通に電話をかけるならば一切通話料はかからないと考えてもらえれば結構です。これは比較的電話代の高い国際通話や携帯・PHSにかけた場合でも同じで、ヤフーとソフトバンクがヒィヒィ言いながら貴方の電話代を負担してくれます。海外在住の恋人がいらっしゃる方などは、どうぞ徹夜でのテレホンセックスに励んで頂きたいと思います。「1万人集団テレホンセックスでソフトバンク大損害!」…などといった愉快なニュースがCNNのこぼれ話から配信される事を今から期待しております。
 ……あ、馬鹿な事ばかり言ってて忘れるところでしたが、無料キャンペーン中もNTTのアナログ基本使用料(通常1750円)はちゃんと請求されますので、どうかご注意を。

 そして3点目無料設置サポートとは、モデムと電話機・パソコンの接続やパソコンの設定変更といった、基本的な設定をする出張サポートの代金をソフトバンクが負担するというものです。ヤフーと契約するユーザーは圧倒的に初心者・初級者が多いので、こういうサービスでそういう客層の不安を解消する必要があるわけですね。
 しかし、この無料サポートは、無料になる範囲がかなり厳しく制限されていまして、「ついでにこれもやっといて」…などと言ってしまうと数千円の費用を請求される事もしばしばです。「3000円ポッキリは大概ポッキリで済まない」みたいなものですね。ですので、実際に無料サポートに来てもらう際には、「タダで終わる範囲までで結構」と言っておく必要があるかもしれません。

 あと、「3つの0円」には入っていませんが、通常3850円かかる、電話回線をADSL用に変更する局内工事費用も、最大2ヶ月の無料期間中は立て替え払いとなります。この工事費用は無料期間終了後には、3ヶ月目の料金と一緒に請求される事になりますが、もし無料期間中に解約した場合は、その費用はヤフーBBが立て替えたまま負担する事になります。
 それから、解約の際には配られていたモデムを送り返すわけですが、この送り返す返送費用も着払いでヤフーBBが負担する事になっています。つまり、無料期間中で解約した場合、お客さんが負担する費用は原則的に全くのゼロという事になります。

◎モデム配りアルバイト 豆知識・8◎

 無料キャンペーンが受けられない場合

 しかしながら以下の場合、無料キャンペーンが一部、もしくは全く受けられません。

 1つ目はISDNの場合。この時は先にISDNからアナログ・ADSLへの局内回線工事をする必要があり、その費用は有償(5800円)です。そうやって工事を済ませてしまえば「3つの0円」が適用されますが、もし何らかの障害があってADSLが利用不可となった時の補償は全くありません。
 2つ目は光収容(電話線が光ケーブルに変更されている状態)の時で、この場合は工事費をヤフーBBが一部負担(8100円引き)して通常の局内工事と同額にしてくれますが、その代わりに「3つの0円」は適用されません。

 この2つのパターンは、キャンペーンスタッフにとっても大きな“壁”になっています。ISDNの場合は8割方諦め、光収容の場合は原則NGというのが現状です。

 
 ──とまぁこのように、ハッキリ言って、かなり力の入ったキャンペーンと申し上げても構わないでしょう。契約1件ごとに数万円のバックマージンが発生していると前にお話しましたが、その上に2ヶ月間無料で通信料と電話通話料を負担しているわけですから大変なものです。
 恐らく新規契約客1人にかけた費用を回収するためには、少なくともその人に1〜2年は継続して使ってもらわないといけないでしょう。よく「赤字覚悟、出血大サービス」なんて言葉が使われますが、本当に全盛期のブッチャー並に大出血している会社も珍しいものだと思います。大抵は全盛期のキラー・トーア・カマタみたいに血糊の入ったコンドーム使ってたりするんですが。

 んで、どうしてそんな無茶なキャンペーンを展開しているのかと言いますと、このブロードバンド事業は経営に行き詰まり気味のソフトバンクが、これまで虚業で稼ぎ倒して来た全ての財産を投げ打って起死回生を目指すという、捨て身・イチかバチか・ヤケのヤンパチの大勝負だからなんですね。全財産を注ぎ込んで、ブロードバンド業界でヤフーが天下を取れば勝ち。取れなければソフトバンクもろともアウトになるわけです。
 この前、ソフトバンク並びにヤフーBBが虎の子のヤフー株を時価総額800億円分売り払ったというニュースがありましたが、それもその一環です。バクチで言えば、種銭に詰まったのでとりあえずクルマを1台売った…みたいなもんですね。何しろ、敵に回したのが天下のNTTですから、そんなに悠長な事はやってられません。世界大戦期のドイツにおけるシュリーフェン・プランや電撃戦みたいに短期決戦を仕掛けないとどうしようもないわけです。
 史実によると、大抵短期決戦を仕掛けた方が負けになるんですが、果たしてこの勝負はどうなるでしょうか。駒木はヤフーがADSLで天下を取る頃には光ファイバーの時代になっていると思っていますが(笑)

 まぁそれはさておき、とりあえず無料キャンペーンそのものの内容に関しては、納得のゆくモノだと考えて差し支えないと思います。
 しかし、こういうキャンペーンは良い所だけ強調して悪い部分を隠すのが常套手段。さらに「タダほど怖いものは無い」という言葉が示す通り、無料期間が終了してからの話も気になるところです。実際のところ、ヤフーBBの料金設定はどのようになっているのでしょうか? 次はその部分について検証してみましょう。

 まずはヤフーBB発足当時に大問題となった申し込みから開通までの期間ですが、これは今では10日〜2週間程度が目安という事になっています。駒木はこれまで随分な数のクレーマーと接客して来ましたが、「いつまで経っても開通しない」という苦情は無かったので、どうやら本当に頑張っているみたいです。なお、この「10日〜2週間」は他のプロバイダーと比較しても同等かやや速いくらいです。
 ただしヤフーは事務処理が恐ろしくお粗末です。料金を数ヶ月請求し忘れるなどといった、新聞4コママンガの主人公みたいなそそっかしい事を平気でやります。ですので、万が一、いや千が一くらいの割合でそれが悪い方向へ出た際には、とんでもないトラブルに巻き込まれる可能性がある事も否定出来ないと付け加えておきます。

 ……次に料金。無料期間終了後、ヤフーBBを利用するにあたって必要な費用は以下の通りです。(12Mの場合。費用はいずれも税抜

初期費用(利用3ヶ月目の料金と同時に徴収)

 NTT契約料&局内工事料 3850円

月額固定費用(=ADSLの接続費用)

 通信料金(ADSL&ISPサービス料)

2480円

 モデムレンタル料金

890円

 NTT回線使用料※4月からの改訂料金 東 168円
西 176円
 無線LANパック使用料(任意選択)
  
(LANカードレンタル費用)

990円

固定費用合計

通常契約 3538円
(関東)
3546円
(関西)
無線LANパック契約 4528円
(関東)
4536円
(関西)

BBフォン通話料(=IP電話通話料)

 BBフォン加入者同士

無料

 国内通話(固定電話・全国一律・3分間) 7.5円
 国際電話(アメリカ本土・3分間) 7.5円
 注:アメリカ本土以外への国際通話は地域により規定の(それほど安くない)料金が請求されます。
 携帯電話への発信(1分間) 25円
(昼間・夜間)
20円
(深夜・早朝)
 PHSへの発信

最初の1分20円→その後1分毎10円

 通常契約の場合に限って言えば、モデムレンタル料込みの月額固定料金は業界内でも最安値レヴェルです。
 ただし、最近になってプロバイダー他社も一斉に料金を値下げにかかっており、ヤフーより10円安いパナソニックhi-hoや、KDDIとマイラインプラス契約をすればヤフーと同額になるDIONなど、ヤフーに並びかけるプロバイダーも出て来ました。他の大手業者も月額3000円台に設定しているところが大半で、料金面のアドバンテージはほぼ無くなって来たというのが現状です。
 特にDIONは3ヶ月無料モデムレンタル料、NTT回線使用料は除く)サービスや、無料期間中に解約した場合に工事費など費用の大半を返金するサービスを実施しており、“打倒・ヤフー”の急先鋒的存在になっています。現時点ではPR戦略が拙劣で恵まれた条件を活かし切れていませんが、いつ大ブレイクしてもおかしくない状況にはなっています。

 料金表の中で気になるのは、同業他社に比べてべらぼうに高いモデムレンタル料ですね。一般的にレンタル料は500円が相場なのですが、ヤフーの場合は8割以上も割高になっています。しかもレンタルではなく買い取ってしまおうとすると4万円以上という信じられない費用が必要で、事実上割高なレンタル料を強制的に払わされ続ける事が前提条件になっています。
 これはどうやら、純粋な通信料金を安く設定するために、モデムレンタル料を“第2の通信料金”と位置付けているからではないかと思われます。事実、最大8Mサービスと最大12Mサービスの料金を比較すると、同じモデムを使用するにも関わらず、何故かレンタル料が200円も値上がりしており、その不可解な料金設定を裏付けるものとなっています。
 つまり、広告などで大々的にアピールできる部分を実態以上にダンピングし、その分目立たないところでキッチリ穴埋めしているというわけです。現実には、そういう細かい所に全く無頓着なビギナー層にしか相手にされていないので今のところ大きな問題にはなっていませんが、どう考えても反則スレスレのラフ・プレーなんじゃないかと思います。まぁ、「そんなの、写真屋の“プリント0円、現像料据え置き”みたいなもんでしょ?」…と言われればそれまでですけれども。

 あと、無線LANを使用する場合には完全に割高になります。どう考えても1000円弱のレンタル料は暴利としか言いようがありません。ここも目立たないところでキッチリ稼ごうとするヤフーBBの体質が見え隠れしますね。
 元々ヤフーのモデムは、ルータ機能がついておらず、原則としてモデム1台につきパソコン1台しか接続出来ないというユーザーを舐めた設計になっています。この無線LANパックは、「ヤフーのモデムでも2台以上同時接続出来ます!」…という触れ込みで出来たものですが、ハッキリ言ってユーザーの足下を見た料金設定としか言いようがありません。
 ところで、ヤフーは「ルータはサポート外」とか「無線LAN契約をしないとLANカードはは使用できません」…などとしていますが、実はヤフーのモデムにも接続できるルータや、互換性のあるLANカードが既に量販店で出回っています。つまり金儲けのタネを無くしたくないがためにユーザーを騙しているわけです、ヤフーは。特にLANカードはレンタル料を考えるとかなり割安な価格で購入できるそうなので、お悩みの方は一度量販店の販売員さんに相談される事をお薦めしておきます

 また、他のプロバイダーに先駆けて開始したIP電話ですが、こちらは今のところ先行した分のアドバンテージを生かして業界トップのサービスを維持しています。以前は恐ろしいほど悪かった音質も、現在ではかなり問題が解消されているそうです。さすがは品質テストを有料で展開するヤフーBB文句言われた所だけはキッチリ修正してきます。
 ただしIP電話に関しては、NTTが本気でヤフーを倒すために立ち上がりましたヤフー以外の大手プロバイダー8社と業務提携し、“ヤフー包囲網”を完成させてしまいましたので、現在あるヤフーのアドバンテージがいつまで保つかは全く分からない情勢です。

 料金面の話をまとめますと、ヤフーBBの料金設定は現時点ではまだ業界内で優位に立っていますが、差は相当詰められてしまっている…という事になります。また、割高な部分は結構割高なので、変に妥協すると泣きを見る結果になってしまうので注意して下さい。

 ……では最後に、データ通信の品質やサポート体制などのサービスの質全般についてもお話しておきましょう。

 まず独自に開発したADSLの通信網ですが、“品質はそれほど悪くない”というのが実情ではないかと思われます。業界内では“中の上”くらいと聞いています。普通に使っている分には大丈夫だと申し上げておきます。
 ただし、新規契約を取りたいがために、フレッツADSLなどでは電話局から遠くて断られるような家庭でも平気で契約を結んでしまうため、そういう家庭ではIP電話がすぐ切断されるなどのトラブルが絶えないようです。(IP電話は約300kbbsの速度が常時維持できないと回線が切断されます)

 そして通信の品質と対照的にボロボロなのが、ご存知・カスタマーサポートの劣悪さです。
 サービス開始時に「フリーダイヤルも用意しないくせに客を待たせる」、「折り返し電話すると言っておいて、全く掛かって来ない」、「専門的な話が出来るスタッフが常駐してない」…などといった世紀末的にお粗末なサポート体制で大顰蹙を買ったヤフーBBですが、現時点においても若干の改善が図られただけで、間違いなく業界ダントツ最低レヴェルの悲惨な状況が続いています。
 まず、カスタマーサポートは原則的に繋がりません。順番待ちですのでお待ち下さいという旨のコールがあるのですが、平気で30分は待たせてくれます。ヤフーBBの顧客層である中高年の方たちにとって電話で30分待ちというのは全くの常識外ですから、当然待ち切れません。で、その苦情をパラソルに持ち込んで来てしまうので、駒木たちが迷惑するわけですね。なお、サポートダイヤルが比較的繋がり易いのは平日の朝9時頃と深夜23時頃だそうですが、そんな事を言い出している時点で無茶苦茶です。
 もっとも、首尾良く電話が繋がった後の対応は以前より若干マシになったようで、「行き届いたサポートでした」という感想を述べられる方もいるくらいです。が、それでも全般的には「当たりハズレが激しく、もっぱらハズレ」…というのが現状のようです。電子メールのサポートを利用しても定型文のコピペと思しき内容のメールが送られてくるだけのケースも多く、個別の詳しい応対は全く期待出来ないと申し上げておきましょう。

 要は、ヤフーBBを利用される場合は「故障したら早急な復旧は絶望的」という認識を持たなければならないと思います。パソコンのハードディスクと一緒で壊れたらアウトです。
 「でも壊れる確率って微々たるものでしょ?」…とおっしゃる方もおられるでしょうが、ヤフーのモデムは値段だけでなく初期不良率も高いのが特徴と言われています。というのも、ヤフーは解約・返却されて来た中古モデムを動作チェックもせずにそのまま詰め替えて出荷しており、本来ならバルク品扱いになるような物まで新品として店頭に並んでいるのです。明らかに「こりゃマズい」というモデムはハネられますが、その基準もかなり甘いと聞いています。そりゃあ、返却された何十万台ものモデムを廃棄処分にするのはアレですが、それを杜撰な管理で再利用するのはもっとアレのような気がしますが……。


 さて、いよいよ総括です。
 結局のところ、ヤフーBBのADSLを利用する事は、ソーテックの格安パソコンを買うみたいなものだと考えれば良いのではないかと考えています。もし無事に利用できるならば、なかなかの質で格安のサービスを受ける事が出来ますが、“ハズレ”を引いたが最後、強烈な“安物買いの銭失い”感を体験する羽目になる……といったところでしょうか。
 駒木の個人的な雑感を述べさせて頂きますと、「こんな経営方針が軽薄で虚飾にまみれた会社に業界No.1を取らせるのはいかがなものか?」…といったところでしょうか。勿論、現在の盟主・NTTの殿様商売振りも大概ですが、有り体に言ってブッシュの方がフセインよりマシ…みたいな印象を抱いています。まぁ理想はNTTやソフトバンクよりマシな第三勢力が現れて来る事でしょうが……。

 
 というわけで、この講義もこれにて一応の幕とさせて頂きたいと思います。駒木は今後もしばらくこのアルバイトを続けるつもりですので、もし何か新展開があれば当講座で続編をお送りします。ちょっとだけ期待してお待ち頂けると幸いです。

 それでは、講義を終わります。御清聴有難うございました。 (この項終わり)

 


 

3月30日(日) 社会調査
「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」(5)

過去のレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回

 3ヶ月ぶりの“インパクト”を巻き起こし、更に開講以来1、2を争う大好評を頂いているこのシリーズも、いよいよあと2回となりました。
 本当なら2ヶ月・15回くらい引っ張りたい題材なのですが、カリキュラム大幅改編前の年度末という事で、致し方ありません……というか、自分で決めたカリキュラム変更に足引っ張られるなんてマッチポンプもいいところなんですが(苦笑)。
 しかも今回と次回は講義の間隔が詰まっているため、正直言って前4回ほどの内容を維持出来るかどうか、我ながら心配です。精一杯頑張りますが、至らない部分はどうか温かい目で宜しくお願いしたいと思います。

 ──さて、今回の内容は、SVことスーパーバイザーの生態と実態について。このキャンペーンにおけるキーパーソンたちにスポットを当ててみたいと思います。


  ……ではまず、SVたちの1日の勤務内容から紹介してゆきましょう。一部推測が混じりますが、これはスタッフとSVは基本的に仲が悪いので、SVの裏事情はなかなかスタッフに漏れて来ないためです。

 まずSVの勤務シフトは原則として休み週1回、つまりは週6日フルタイム勤務です。パチンコで言えばボロ負け必至の厳しい設定ですが、まぁ見た目以上にヤクザなこの業界、こういうのも当たり前なんでしょう。
 で、SVの仕事は一般スタッフの管理・監督ですから、自然と始業時刻・終業時刻は駒木たちより早く始まって遅く終わる事になります。
 まず朝、自分が担当しているスタッフからの始業報告を受ける所からSVの仕事は始まります。時には携帯メールによる業務連絡が10時過ぎに届く事もありますので、実際はもう少し早い始業時刻なのかも知れません。
 その後は、オフィスでデスクワークをしたり、例の研修会に出席する事もあるようですが、普段は自分の担当パラソルを巡回するのが主な仕事になります。1つのパラソルには大体30分〜1時間くらい滞在し、スタッフの指導や連絡事項の伝達などを行います。
 で、これが夜まで続き、20時になるとスタッフからの終了と成績の報告を受けます。気になるスタッフには直接電話をかけて明日以降に繋げておきます。
 そして最後に、派遣会社の本部へ担当エリアの成績を報告します。実はSVたちは派遣会社から「各パラソルで月に○○件契約を取ること」…みたいな感じでノルマが課せられており、もしも件数が伸び悩んでいる場合などは本部の社員やチーフ格のSVから恫喝されることもあるようです。

 ……と、こうしてSVの1日は終わるわけですが、振り返って見ますと、SVはかなりストレスが溜まる仕事を強いられているように思えます。休みの少ない長時間労働、しかも会社とスタッフの板挟みになるという苦しいポジションで、見るからに中間管理職の悲哀を感じさせる存在と言えます。
 しかし、これで「顔で笑って心で泣いて」を地で行く仕事振りをされるならば、駒木も拍手喝采で労をねぎらいたい気持ちで一杯になるでしょう。が、悲しいかな、まず大前提として、そんな人間のよく出来た人はこんな御無体な仕事に辿り着く前に、別のちゃんとした仕事に就いている…というのが実際のところだったりします(まぁ、ごく稀によく出来た人がいて、そういう方には本当に頭が上がりませんが)。要は、その溜まったストレスのはけ口を一般スタッフに求めてくる訳です。一言で言えば弱い者イジメですね。

 まず、SVの常套手段として、自分が課せられたノルマを一般スタッフに“努力目標”とかもっともらしい名前を付けて押し付けて来ます
 駒木は普段、前々回の“閑散編”でお送りしたような、平日では1日2件契約が取れるかどうかの量販店で働いています。他の量販店ではエースクラスのベテランスタッフでさえ、あまりの人通りの少なさに絶句するような過疎の店です。
 ところが担当SVは、そんな実態を知らないのかそのフリをしているのか、「1日目標4件ね」などと平然と言い放ちます。ビックリしたこちらが「いや、それはちょっと……」と意見しても、「ホラ、目標は高く設定しないと働き甲斐が無いでしょう」などと言って相手にしてくれません。「目標は高く」と言っても、ヴァンフォーレ甲府がJ1制覇を目指すような目標立ててどうするのか、白目を剥いたボブ=サップ同伴で尋問してみたい衝動に駆られます。
 で、そんな勝手に立てられた目標など、当然の事ながら達成できないわけですが、そうなったらそうなったで「どうして目標に向けて努力しないんだ」と理不尽な言い方でこっちを追及するのですから堪りません。

 まだそれだけなら可愛いモノですが、あまり成績の良くない新人スタッフ──全国的に不振の今は、成績の良い新人などそうはいませんが──がいる時などは、直接パラソルを訪れてネチネチと陰湿な“指導”を展開してくるのですからタチが悪いとしか言いようがありません。
 かく言う駒木も、仕事を始めて1週間ばかり経った頃にこの“洗礼”を受けました。それまで「似合っててカッコいいね」などとお世辞を言い垂れていた服装を突然「だらしないから不快だ」などと言われたり、挙句の果てには「口が臭いからお客が寄って来ない」とかあんまりな事を言われたりして(まぁその日に限ってクリームチーズツナサンドなど食って、歯を磨くのを忘れていた駒木も少し悪いかなとは思いますが)久しぶりに明確な殺意を抱かされました。
 ひとしきり“ダメ出し”された後は、勧誘方法のレクチャーなのですが、これも人前でSV演じるところの“一番タチの悪い意地悪な客”相手にロールプレイ(模擬接客)させられるなど、新人の技術向上よりもSVのストレス解消を念頭に置いた“指導”が延々と続くのです。この時に味わう精神的屈辱は並大抵のモノではありません。
 しかもそうやって散々偉そうな事を言ったくせに、そのSVが実際に本物のお客さんを勧誘しようとすると、1時間かけても1件の契約も獲れないのですから笑わせてくれます。「今から契約取るから、ちゃんと見とけよ」としきりにアイコンタクトしておいて、それでいてお客さんにアッサリと逃げられた瞬間を目の当たりにした時は、思わず「Ya───ha───!」と雄叫びを上げながら、火炎放射器片手に閑散とした店内を走り回りたくなったものでした。

 その一方で、前回“混乱編”のように好成績を挙げたりすると、一瞬で掌を返して「いや〜、素晴らしい! もう駒木さんは安心して見ていられますよ」…などと、心にも無いような美辞麗句を次から次へと発してくるのですから、本当に始末が悪いです。
 そういう研修を受けているのか、SVの一般スタッフに対する態度は文字通りの“アメとムチ”が基本スタイルです。それはそれで別に構わないのですが、明らかに“ムチ”を使う時にしか感情がこもっていないのがすぐに判ってしまうのが、スタッフたちをより一層ムカつかせるのです。
 また、スタッフたちはSVの預かり知らないところで独自の情報網を確保しており、SVがどの店でどのスタッフ相手にどういう事を言ったかという情報は、その日の内に同じSVが担当しているパラソルのスタッフたちに知れ渡ります。なので、SVがウソやデマカセを言っているとすぐにバレるのですが、伝わって来る情報の大半がその類であるのが大変に愚かしいです。

 しかし、駒木が所属している派遣会社はまだマトモな所なので、SVのスタッフに対する嫌がらせもこれでまだ大人しい方だったりします。これが、この講義にもたびたび登場しているタチの悪い派遣会社になったりしますと、SVの質もハンパな悪さではありません
 例えばスタッフが“ボウズ”を出した時などは大変です。SVはそのスタッフの胸倉を掴んで壁に押し付けるなり、「お前、ふざけんなよ。1日やって0件ってどういう事だよ」…などと言って罵倒します。えぇ、立派な暴行罪ですね。
 またそれ以外にも、3回“ボウズ”を出したスタッフが参加させられる“0件研修”と呼ばれる、ただスタッフを辞めさせるように仕向けるだけのイベントが設定されていたりします。さすがは社員イジメでは定評のある光通信の子会社でありますね。

 こういう事をやっていますと、スタッフの方も暴行や“0件研修”怖さにとんでも無い事をやらかし始めます。
 「0件になるよりは……」と思考停止した頭で公衆電話から備え付けの電話帳を持ち出し全く関わり合いの無い他人の氏名、住所、電話番号を申込書に記入して契約を1件獲得した事にしてしまうのです。一時期、エムティーアイという販売代理店がテレアポ先に無理矢理モデムを送りつけて問題になった事がありましたが、その中にはこの“ハローページ作戦”で送付されたモデムもあったはずです。勝手にモデムが郵送されて来て、しかも勝手に局内工事が実施された…という体験をした方がいらっしゃるなら、多分それは“ハローページ作戦”です。 

◎モデム配りアルバイト 豆知識・7◎

 無断モデム送りつけ代理店・エムティーアイ

 去年の秋から今年の初頭にかけて、ヤフーBBの加入を勧誘する電話があった直後に、頼んだはずの無いモデムが送りつけられて来る…という出来事が全国で頻発しました。受講生さんの中にも“被害”に遭われた方がいらっしゃるでしょうが、これはソフトバンクBBが業務委託をした販売代理店・エムティーアイによるキャンペーン活動です。
 実は駒木もこのエムティーアイに困らされたクチでして、その際は大変に往生しました。何しろ、「では、まず資料だけでも送付しましょうか?」…と言っていたにも関わらず、資料ではなくてモデムだけが送られて来たのですから……。

 ただ、エムティーアイのキャンペーンは、そうして送付したモデムの大半が返品されて来ただけでなく、“ネクサス佐藤方式”と同様、消費者センターへの苦情の対象となり、今では下火になっているはずです。
 しかし、もしも皆さんの御宅にエムティーアイを名乗る会社から電話があった際には、「全く興味有りません」と言って電話を叩き切ってしまって下さい。話が長引くほどヤヤコシイ事になります。

 余談ですが、このエムティーアイ、我々パラソルキャンペーンにとっても鬱陶しい事この上ない存在なのです。と言うのも、恐ろしい額になったモデム返送料に値を上げたエムティーアイは、最近になって「モデム返却は最寄のパラソルキャンペーン会場にて」…などと言い始めたのです。勝手に糞をしておいて、他人にケツを拭かせるこの傍若無人ぶり、まさにソフトバンクの商売を象徴しているような気がしないでもありませんが、いかがなもんでしょうか。

 
 ──と、いうわけで、今回はスタッフの不倶戴天の敵、スーパーバイザーについてお話をしてみました。本当はまだまだ言い足りない位なのですが、こういう場で私怨を撒き散らすのはどうか…と思うので、この場ではこれ位にしておきます。まぁまた業務縮小後にコッソリお話する事にしましょう。個人的感情を喋るには、今はちょっと人が多すぎます(苦笑)。
 まぁ今日は気の重い話で恐縮ですが、このキャンペーンの暗黒面を垣間見て頂けたのではないか…と思っています。

 それでは次回はいよいよ最終回。「で、ヤフーBBって、実際はどうなの?」…という皆さんにも興味深い部分に突っ込んでみたいと思います。どうぞお楽しみに。では、また明日。 (次回へ続く

 


 

3月29日(土) 競馬学特論
「G1予想・高松宮記念編」

駒木:「いよいよ春のG1シーズン開幕だね」
珠美:「『ついこの前有馬記念だったのに』っておっしゃる方も多いんでしょうね(笑)」
駒木:「僕なんか、『ついこの前までテイエムオペラオーとか走ってたのに』って感覚だよ(笑)。
 今年はどのカテゴリもイマイチ盛り上がりに欠ける印象があるのは残念だけど、このG1シリーズからニュー・ヒーローが出てくれれば良いね。もっとも、極端な人気薄の馬に突っ込んで来られるのは勘弁願いたいけれど(苦笑)」
珠美:「そうですね、穴馬として狙っている時だけ、来てもらいたいですよね(苦笑)。
 ……さて、それでは皆さんには、まず出馬表と私たちの予想印をご覧いただきましょう」
 

高松宮記念 中京・1200・芝

馬  名 騎 手
ビリーヴ 安藤勝
ショウナンカンプ 藤田
    マンデームスメ 中館
  テイエムサンデー 秋山
    エアトゥーレ 四位
    テイエムサウスポー 安藤光
    ゴールデンロドリゴ 佐藤哲
    ジェミードレス 菊沢徳
× ディスターピングザピース 武豊
    10 キーゴールド 内田浩
  11 エコーエディ ヴァルディビアJr.
    12 カフェボストニアン 松永
    13 ネイティブハート 石崎隆
    14 ナムラマイカ 村本
  × 15 リキアイタイカン 武幸
    16 シベリアンメドウ 川島
×   17 アグネスソニック デムーロ
× 18 サニングデール 福永

駒木:「開幕早々18頭立てかぁ。これもちょっと勘弁して欲しいね(苦笑)。1頭、1頭コメントをつける身にもなって欲しいよ」
珠美:「大変ですが、頑張って下さいね(笑)。……ではまず、ざっとメンバーを見ての感想と言うか概況を一言お願いします」
駒木:「はいはい。そうだねぇ……、正直言ってちょっと寂しいメンバーかな。日本勢で素直にG1級と呼べるのは1枠の2頭くらいなものだし、その内1頭はスランプ中だ。他の14頭の中に2着候補、3着候補はたくさんいるけど、かなり小粒なのは否めないね。
 じゃあ外国勢はどうかと言うと、日本のスプリントレースにおける外国勢の実績から考えると、こっちも不安要素の方が大きい感じがするよね。まぁ、外国馬を一蹴したサクラバクシンオーやタイキシャトルたちに比べると、さすがに今年のメンバーはいくらか落ちるはずだから、今回に限っては外国馬もいくらか通用する余地は残されているはずだと思ってるんだけど」 
珠美:「余り景気の良いお声は出て来ませんね(苦笑)。……では、レース展開はどうなるでしょう? やっぱりハイペースですか?」
駒木:「少なくとも想定の範囲ではペースが落ち着く要素は全く無いね。逃げ馬が3頭、出来るだけ前に行きたいタイプが5頭もいる。ショウナンカンプが単騎でマイペースになった場合でも、前半3ハロン33秒台半ばの速い平均ペースだろう。
 で、今回は差し馬も多いし、馬によってスピード能力の差も大きそうだから隊列は縦長になるんじゃないのかな。中京の1200は言うほど内・外の有利・不利が大きくないから、意外と紛れが少ないレースになると思う。問題はそういう展開になって、差し馬が届くかどうか──というか、前の馬が止まるかどうかだろうね。止まらなきゃ、差し馬はお手上げ。でももし止まったらゴール前の馬群大移動もアリ。この辺りは個人の判断だろうね。僕は『8頭もいりゃあ、どれか2頭くらい止まるだろう』とエエ加減に考えてるけど(笑)」
珠美:「私は『1頭くらい伸びて来る差し馬がいるわよね』って考えました(笑)。どうなるか不安です(苦笑)。
 ──それでは博士には、今日も枠順に従って1頭ずつコメントをつけていただきます。ではまずは1枠の2頭から。いきなりG1馬2頭が登場しますが、いかがでしょうか?」

駒木:「いきなり真打ち登場だね。ちょっと心の準備が欲しいところなんだけど……(苦笑)。
 まずは最内枠のビリーヴ。この馬ねぇ、ピーク時の実力なら間違いなく一番上だと思うんだよ。ところが香港遠征から調子を崩してしまって、この中間で必死の立て直しをする羽目になってしまった。結局はギリギリ間に合ったような間に合わなかったような、メチャクチャ微妙な感じ(苦笑)。少なくとも阪急杯の前とは全然違うみたいだけど、果たしてどうなるか。まぁ軸馬にするのは危険だけど、馬券の対象にはしなければならない馬だと思うよ。
 で、隣の枠にショウナンカンプ。単勝1倍台は行き過ぎにしても、まぁ1番人気は妥当なところだろうね。ただ、ハイペースでガンガン飛ばしてどこまで粘れるかって馬だから、馬連の連軸にはあまり向かない馬かもしれない。それほど実力が図抜けているってわけじゃないしね」
珠美:「博士はショウナンカンプに本命を打ってらっしゃいますが、意外と厳しめのコメントですね」
駒木:「調子が万全ならビリーヴに本命打ったんだけどねぇ。だけど、現時点で各ファクターを総合するとショウナンカンプ以外に本命は有り得ないんだよ。まぁ結局は『他に適役がいない』っていう、日本の総理大臣を支持する時と同じ理由だね(苦笑)」
珠美:「なるほど、分かりました(笑)。では、次に2枠の2頭をお願いします。私は個人的にテイエムサンデーの評価が気にかかるところなんですが……(苦笑)」
駒木:「まずはマンデームスメからね。去年の秋にオープン入りした時は相当期待されたみたいだけど、今となっては……だね。調子そのものは文句が無いんだけど、地力で通用する事を証明する強調材料がまるで見つからない。苦戦だね。
 珠美ちゃん期待のテイエムサンデー、確かに良い末脚持ってるし、調子も抜群に良い。一発穴を開けるのはこういう馬なんじゃないかな。ただし、競馬新聞の馬柱を見るからに、これまで随分とヌルいレースしかしていないのが大いに気になる。前半33秒台のペースに乗っかって、果たしてなし崩しに脚を浪費されやしないか非常に心配だね」
珠美:「なるほど……。トップクラスの超ハイペースは未体験なんですね。何だか嫌なことを聴いてしまった感じです(苦笑)。
 でも、気を取り直して3枠の2頭。こちらは人気薄の枠になりましたが……」

駒木:「フランスでG1を2着したエアトゥーレ。このモーリスドギース賞は、昔シーキングザパールが勝ったレースでもあるんだけど、シーキングザパールとこの馬の違う所は日本での実績が乏しい事だろうね。どうも日本でやるスプリントではスピード不足が否めないみたい。これが引退レースだし、悔いの無いレースだけはやってもらいたいね。
 テイエムサウスポーはこのメンバーに入ったらやっぱり力不足だろうねぇ。買える要素が全く無いんだよ」
珠美:「……次は折り返し地点の4枠です。こちらも人気薄の2頭が同居していますが……」
駒木:「ゴールデンロドリゴ典型的な入着級の馬だね。でも
ある程度メンバーが揃うと掲示板から外れてしまうところを考えると、微妙に力が足りないのかな。
 ジェミードレス距離が短すぎる印象だね。ベストのマイルでも牝馬G3級なのに、スプリントG1はちょっと難しいね」
珠美
:「……さて、次は5枠ですね。いよいよ外国馬が登場します。舌を噛みそうな名前ですけど(笑)、博士、よろしくお願いします」
駒木:「えーと、ディスタービングザピース…か(笑)。まぁ外国馬に関しては正直よく分からないんだけど、2頭いる外国馬のうち、芝実績の乏しいこっちの方が人気してるのはちょっと驚いた。まぁ確かにG2を3連勝というインパクトの高い事をやってのけてるんだけどね。
 これは6枠のエコーエディもそうだけど、この馬が日本勢の3番手・サニングデールより強いかどうかが最大のポイントだと思う。サニングデールを将来のG1馬だと思っているような人なら外国勢は思い切って無視していいと思うし、逆ならば外国勢はショウナンカンプに次ぐ存在にならなきゃおかしいと思う。僕がどう思ってるかは、印を見れば一目瞭然だね(笑)」
珠美:「私はユタカマジックを期待して×印をつけましたけど、他は印の通りですね(笑)」
駒木:「……で、もう1頭のキーゴールドは、どう考えてもオープン特別級だね。ちょっとどころか大いに力が足りなさそうだ」
珠美:「6枠新聞の印やオッズを見る限り、何だか微妙な感じがしますけれども、いかがでしょうか?」
駒木:「確かにね(笑)。エコーエディはさっき言った通りだね。ただ、去年のドバイでG1を2着してるのはプラス材料だろうね。ここ最近は成績が今一つなんだけど、ハイペースに耐えられるならば十分にチャンスはあると思うよ。
 カフェボストニアンは秋に復帰してから結構着順をまとめてるんだけど、これはどうなんだろう? どうも戦って来たメンバーが軽いような気がするんだけどね。あと、この中間がかなり急仕上げ気味なのが気になる。前走で負った外傷が響いてしまった形だね」
珠美:「7枠からは3頭になります。大変でしょうけど、頑張ってください。でもこの枠は人気薄ばかりになっちゃいましたね」
駒木:「地方代表……とは言っても、単に地方在厩なだけだけど、ネイティブハート。ステップ競走のオーシャンSを勝っての権利獲得だね。まぁこの馬、オープン特別なら上位だし、重賞でもいつもソコソコには来るんだ。だから一世一代の大駆けをするくらいの可能性は残ってると思うよ。ただし、その確率は相当低い事は間違いない。
 ナムラマイカはコメント不要だね。力が足りない。
 リキアイタイカンについては、ちょっと予測不可能だからなぁ。来る時はどうやっても来るし、来ない時はまるで来ない(苦笑)。ただし、G1だと頑張っても3着が精一杯みたいな感じがするけどね。今回のメンツならギリギリ2着までかな」
珠美:「さぁ、やっと最後の8枠に辿り着きました(笑)。大外には2番人気のサニングデールがいますが、どうでしょうか?」
駒木:「まずはシベリアンメドウ。しばらく見ない内に随分と落ちぶれちゃったなぁ、この馬。芝にダートに、スプリントにマイルに節操無く使われちゃって……。陣営も『土砂降りになってくれたら有り難い』って、物凄い注文つけちゃってるしねぇ(笑)。まぁ大苦戦だね、今回は。
 困ったのがアグネスソニックの取捨。3歳春までの実績も、今年に入ってからのレース振りも、とにかく微妙なんだよなぁ。何やかんや考えて、一応日本勢の4番手って扱いにしてみたんだけど、う〜ん、どうだろうね。大物感が全く無いものなぁ……。
 で、大外のサニングデール。秋のスプリンターズSはチグハグなレースだったから度外視するとしても、しょうもない取りこぼしが多かったり、ショウナンカンプにまるで歯が立たないのが気になって仕方が無い。典型的な穴人気タイプだね。ただ、以前に比べると着順もまとまって来たし、成長しているのは間違いないと思う。まぁどっちにしろこの馬にとっては最大の正念場だろうね」
珠美:「お疲れ様でした。では最後に、まとめとフォーカス(馬券の買い目)をお願いします」
駒木:「とりあえずショウナンカンプの逃げに期待。ただし今回は逃げに厳しい展開だし、期待半分不安半分。
 ショウナンに続くのが外国勢2頭。ハイペースに戸惑って後方ズルズルの大惨敗が怖いんだけど、今回の日本勢も結構弱点があるからチャンスも十分有ると思う。
 で、もしも外国勢がダメなら、やっぱりビリーヴとサニングデールの2頭が台頭して来るだろうね。地力ならビリーヴ、調子と上がり目ならサニングデール。
 フォーカスは、馬連2-11、2-9、9-11、1-2の4点。他に枠連の1-8も気になるんだけど、ちょっと倍率が低すぎるね。馬連4点で妥協させてもらおうかな。2-18で決まっちゃったら、もう諦めるしかないね(苦笑)」
珠美:「私もショウナンカンプの逃げに期待したんですが、2着争いは展開的に差し馬が来るんじゃないかと期待しています。一応、対抗にサニングデールですが、テイエムサンデーとかリキアイタイカンの追い込みが楽しみです。逆に先行馬のレースならビリーヴとかディスターピングザピースが面白いと思います。馬券は
馬連2-18、2-4、4-18、1-2、2-9、2-15の6点で勝負です」
駒木:「……よし、これで終了だね。長い講義、ご苦労さん」
珠美:「博士こそ、お疲れ様でした。それでは皆さんも頑張ってくださいね♪」


高松宮記念 結果(5着まで)
1着 1  ビリーヴ
2着 18 サニングデール
3着 15 リキアイタイカン
4着 テイエムサンデー
5着 ゴールデンロドリゴ

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 実は、講義の最中から「外国馬、やっぱりコケるんじゃないの?」…という疑念が頭を離れていませんでした。結果、嫌な予感大的中。素直に日本馬だけ買ってたら3点でゲット出来てたんだよなぁ。外国馬の取捨選択以外はほとんど間違えてないのに、それが致命傷だったとは、いやぁ参った。
 で、レースそのものは、なかなかの中身だったんではないかと。ただ、G1で1分8秒を切れなかったのはちょっと不満かなぁ。まぁ、タイムなんて新潟競馬場でレースすればいくらでも詰められるんだけど。 

 ※栗藤珠美の“反省文”
 馬券の軸にしていた馬がバテてしまうのと同時に、2着候補にしていた馬が殺到してしまうって、なんて皮肉なんでしょうね(苦笑)。
 結果的にはショウナンカンプの本命が安易過ぎたと思います。気合を入れなおして、桜花賞頑張ります。

 


 

3月28日(金) 社会調査
「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」(4)

 過去のレジュメはこちらから→第1回第2回第3回

 お待たせしました。モデム配り潜入レポの4回目をお送りします。
 ネット界隈で話題にして頂いたおかげでしょう、あり難い事に各方面から駒木も知らなかった情報を色々と教えてもらいまして、大変に感謝しております。提供して頂いた情報は随時講義の中で活用させてもらいますし、メールを頂いた方には4月に入ってからまたご返事を差し上げるつもりです有難うございました。
 なお、前回の講義レジュメの「モデム配りアルバイト豆知識・5」に追記をしていますので、未見の方はそちらもどうぞご一読下さい。

 ……さて、今日は前回の“閑散編”に引き続いて“混乱編”繁盛店の日曜日という、モデム配りキャンペーンにとって最も忙しいシチュエーションを舞台に、アルバイトたちの1日の流れを再現してみたいと思います。


 “混乱編”と言えども、出勤時刻は変わらず11時から。始業15分ほど前から三々五々(とは言っても2人ですが)、キャンペーンスタッフたちが店へとやって来ます。
 “閑散編”の時と違うのは、クルマを店の駐車場に止めた時に、朝の10時台からほどよくスペースが埋まっているという事でしょうか。繁盛店の場合は近隣にもホームセンターや飲食店があるので、その相乗効果もあってお客さんの出足が非常に早いのです。このあたり、朝は有閑マダムならぬ“有閑ジジ・ババ”の散歩コースに過ぎない、“閑散編”の舞台になるような店とは大違いです。
 あと、“閑散編”の時には「出勤が始業時刻ギリギリでも結構平気」…などと言いましたが、繁盛店の場合は概して店側の監視がキツく、毎朝店長やキャンペーン責任者への挨拶が義務付けられている店も多いようです。まぁ中学生の朝礼と同じく5分前くらいに滑り込めば大丈夫だと思いますが……。

 さて、そうしてこの日もモデムやパンフレットを陳列し、いつも通りに仕事を開始するわけですが、この“混乱編”では始業早々にして「さすがは繁盛店!」…という場面が訪れます。
 何と、キャンペーンの準備している側から「申し込みしたいんですが……」と申し出てくるお客さんが現れるのです。いわゆるパチンコ用語の“お座り一発”というヤツで、この日入っているアルバイトたちは労せずして“ボウズ(1日の契約件数ゼロの事。由来はフィッシング用語)を回避する事が出来るのです。
 ただし、だからと言って安心するわけには行きません。繁盛店の場合は店側のプレッシャーがキツく、求められる数字も流行っていない店とは全くレヴェルが違って来ます。その上、繁盛店の店長は体育会系バリバリの厳しい人が多いので、1日の件数が伸び悩むと激しく叱責される場合もしばしばです。もしも平日などに“ボウズ”を記録してしまえば最後、店長室に軟禁されて鈴木宗男ばりの恫喝が加えられる事も覚悟しなければなりません。
 こういう厳しい店長だから繁盛店になるのか、それとも繁盛店と呼ばれるほどの成績を維持するためには厳しい店長でないといけないのかはよく判りません。しかし、キャンペーンスタッフにとって繁盛店で勤務する事はかなりのプレッシャーを伴う事だけは確かだと言えます。(ただし、もしも優しい店長のいる繁盛店に勤務できた場合は天国ですが……)

 “お座り一発”分のお客さんの接客を終えると、いつも通りに“声かけ”を開始します。「いらっしゃいませ! ──どうぞ、いかがですか?」…というアレです。
 しかし、客と客のインターバルが数分開く“閑散編”と異なり、人の波が1日中途切れず、声を止めるヒマが無いのが繁盛店の休日の特徴です。お客さんの姿を認めるたびに腹式呼吸全開で“声かけ”をしていると、たちまち息切れと腹筋痛を起こします。
 これが“閑散編”の場合は、ヒマな時間を利用してモデムをダンベル代わりに(またこれがダンベル体操に程良い重さなんです)腕の筋肉を鍛える事が出来たりし、果てにはなかやまきんに君みたいな気分になって「ハッ! 筋肉モデム!」とか「お客さんの上腕二頭筋、キレてるキレてるッ!」とか叫び出したくなるのですが、“混乱編”の場合は腕の筋肉の代わりにノンストップの腹式呼吸によって効率的に腹筋が鍛えられます
 ただ、腹筋が鍛えられるのは良いのですが、困るのは“声かけ”の文言のバリエーションです。バカみたいに同じセリフばかり叫んでいられませんので、新しいパターンを開発しつつ“声かけ”をしていかなければなりません。この際に研修の時に貰ったマニュアルが役に立てば良いのですが、かのネクサス謹製のマニュアルには、

「ご家族の喜ぶ顔が目に浮かびます!」

 ……などといった、この世と思えぬ恥ずかしい言葉が散りばめられており、全く参考にならないのです。ご家族の困惑する顔ならいくらでもに目に浮かぶのですが、そんなキャバクラで「俺、結婚してんねん」と言うようなバカ正直な事など言ってられません。

 ──まぁそれでもなんとか3〜4パターンの短い“声かけ”を使い回しておりますと、さすがに人通りが多い繁盛店、数十分に1人くらいのペースで興味を示すお客さんが現れます。先程のパチンコの喩えで言えば“リーチ”がかかった状態です。
 “リーチ”がかかった際の接客手順としては、まず「インターネット、なさいますか?」または「パソコンお持ちですか?(どちらかと言えば高齢者向)…などと訊いてターゲットの絞込みを行います。インターネットが出来る環境でないと時間をかけて勧誘しても徒労に終わるだけなので、初めに一番肝心な事を訊いておくわけです。逆に言えば、強引なキャンペーンスタッフに絡まれた際には「パソコン持ってない」と冷たく言い放てば簡単に断る事が出来ますので、どうぞご活用下さい。

 お客さんがネットユーザーであると判れば、今度は現在の接続方法(ダイヤルアップ/ISDN/他社ADSL等ブロードバンド)を尋ねます。
 ここで「ダイヤルアップ」という回答が得られますと、“リーチ”は信頼率の高い“スーパーリーチ”に発展した事になります。この時はここぞとばかりに、
 「2ヶ月全くの無料でお試し出来ます!」
 どうせタダでキャンセル出来るんですから、どうぞ持って帰って下さい」
 アカンかったら着払いでモデム返せますし、お金要りませんから申し込んでみて下さい」
 ……などといった殺し文句がいくらでも使えるのです。「“タダで解約”以外にセールスポイントは無いのか!」…と言われるかも知れませんが、事実その通りなのですから仕方ありません

 逆にISDNやADSLとの回答を得た場合は苦戦必至となります。ISDNの場合はまず初めに有償工事(ISDN回線→アナログ回線への変換)が必要になり、「無料お試し」というわけにはいきません。また、ADSLの場合は現在契約中のプロバイダから半強制的に解約される上に2週間ほどダイヤルアップ接続を強いられます。
 こういう条件では、お客さんにその場での即申し込みを決断させるのは非常に難しく、大抵の場合は「家で検討するからパンフレットだけくれ」と言われてアウトになります。
 ここで「ヤフーのブロードバンドはどこにも負けない高品質ですよ!」…と言えれば状況も変わってくるでしょうが、そんな事、ソフトバンクが許しても最高裁判所が許してくれません。去っていくお客さんの背中を見送りながら、「おのれ孫正義、その頭の毛ェむしったろか」と怨念を脳内に溜め込む事になるのです。

 で、もしお客さんが申し込みの意志を示した場合は、即座に申込書とボールペンを取り出します。お客さんの気が変わらない内が勝負です。
 申込書はこの手の書類としてはかなり簡略化されたもので、住所・氏名・電話番号・NTT回線名義人を書くだけでよく、印鑑も要りません。当然の事ながら身分証明はしてもらいますが、レンタルビデオ屋の会員証を作る時より数段杜撰なものです。

◎モデム配りアルバイト 豆知識・6◎

 契約時のいい加減な身分証明

 “ネクサス佐藤方式”での「身分証明できるものありますか、無ければ構いませんけど」…という物凄いセリフが証明するように、このキャンペーンの身分証明はかなり危ないものが多いです。
 申込書を書いてもらう段階まで来て、「身分証明書忘れたからまた来るわ」…と言われてしまうのを避けるため、運転免許証や健康保険証だけでなく、クレジットカードなど住所が確認出来ないものでも名前が判れば“可”とされています。
 また、以前は信じ難い事に同じ名刺を2枚提示すれば身分証明された事になっていました。「普通、他人の名刺は2枚持ってないだろう」という理屈です。ただ、これは適当な名刺をデッチあげてモデムを受け取り、それをよりによってヤフーオークションに出品する猛者が続出したために、今ではNGになっています。
(注:モデムだけ入手しても、電話線の局内工事をやらないとADSLは使えないため、申し込み無しにタダで使用する事は不可能です。お気をつけて)

 あと、現在では申し込みは「18歳未満の学生は不可」という事になってしますが、これまた信じ難い事に、これに関しても以前は規定がありませんでした
 この規定が出来たきっかけは、駅パラのスタッフが“佐藤方式”を使って小・中学生へ手当たり次第にモデムをバラ撒いたら、訳も分からずモデムを押し付けられたその子供たちが速攻で駅のゴミ箱へモデムを捨ててしまい、その結果エラい事になったから…だそうです。
 研修でその話を聞いた時、駒木は「規定を作る前に、やる事いっぱい有るんとちゃうんか?」…と思ったりしたものです。 

 書類に記入してもらっている間に、お客さんの居住地区の電話局にポートが空いているか(=すぐにADSLが開通するか)を調べて、それがO.K.なら晴れて契約成立です。申込書を小切手を扱うように丁寧にしまい込み、スタッフ仲間と笑みを交わします。

 ……こうして、そんな一連の作業を1日中繰り返し、件数を稼いでゆくわけです。
 正直言って、お客さんに説明している途中は苦痛も感じます
 「値段は安いけど、カスタマーサポートに電話、繋がりませんよ」
 とか、
 「今やったらDIONが3ヶ月無料ですから、そっちの方がお得ですよ」
 ……とか言いたくなってたまりません。この講義のために全ての物事を客観視している反動がこういう時に回って来るのです。自業自得と言うべきか、魂だけは売っていないと誇るべきか、一体どうすれば良いんでしょうか。

 ──ところで、このキャンペーンには駒木たちスタッフの活動にブレーキをかける“障害”がいくつか存在します。これについても、ここで少し紹介してみましょう。

 まずは、コレは“障害”なんて言っていいのか判りませんが、既に契約したもののトラブルを抱えて思うようにサービスを楽しめていないお客さんたちのクレーム処理、かれが第一の“障害”です。
 本来、トラブル処理は電話のカスタマーサポートが担当しているのですが、ヤフーBBと言えばご存知の通り、なんと言っても至らないサポートが最大の特徴です。大抵の場合はサポートダイヤルが30分以上の順番待ちになるため、「いつまで待たすんや」と業を煮やした人たちがパラソルを営業所と勘違いしてやって来ます。で、これが結構な時間を食わされるのです。
 この場を借りて皆さんに申し上げておきますが、モデム配りキャンペーンのスタッフは、モデムを配る業務以外の研修はほとんど受けていません。いや、酷い派遣会社になるとモデム配りの研修すら満足に受けさせないまま現場に放り込んでいることすらあります。「光ファイバーよりヤフーのADSLの方が速いです」などと、「巨人はロッテより弱い」みたいな事まで平気な顔して言うドアホウもいます。
 ですので、パラソルに「ちゃんとやってるのに繋がらないのはどうしてだ?」…などといった抽象的な苦情を、しかもモデムと電話機を風呂敷に包んで「壊れてないか見てくれ」などと持参するのは止めて下さい。お願いします。そんなの手に負えません。

 2つ目の“障害”は、プロバイダー他社による同様の新規契約キャンペーンです。特に現在3ヶ月無料キャンペーンを展開しているDIONNTT(Bフレッツ、フレッツADSL)は、土・日になると多くの量販店に美人スタッフを派遣して勝負に出て来ます。
 その「どう考えても顔で選んでるやろ」と言いたくなるようなハイ・クオリティな顔の造りをした御姉様方を遠目から拝見していると、いい年した男2人で汗水垂らして頑張っているこちらがバカらしくて仕方なくなり、思わず「ヤフーBBはどうでもいいんで、僕を2ヶ月無料でお試しして下さい! いかがですか?」…と“声かけ”をしたい衝動に駆られます。
 また、これら同業他社のキャンペーンはヤフーのそれと違って、人件費は全額会社負担の上にバックマージンに加えて場所代(謝礼)も払っているケースが多いため、量販店は他社の方に肩入れする事もよくあります

 ──え、そんな事すぐに判るのかって?

 ええすぐに判ります。店員さんが、
 「ADSLのプロバイダーご紹介しましょうか。どうです、サポートの行き届いたところなんか?」
 ……って言うのですから、少なくともヤフーが薦められていない事だけはよ〜く判ります、ハイ。

 
 ──というわけで、朝から晩までただひたすら勧誘をし、時にはクレーマーや同業他社と戦って、忙しい1日が過ぎ去って行きます。
 首尾良く、良い成績が出たりなんかしますと、いつもは厳しい店長もご満悦で冗談の1つでもカマしてくれます。「冗談顔だけにして、祝儀くれ」という言葉を飲み込み、うやうやしく礼をした後はとっとと退勤します。
 店から出た頃には、例によってSVから電話がかかって来ますが、成績の良い日はありったけのボキャブラリーを駆使してお世辞を連発して来ます。“ボウズ”の時には無愛想な声で、こちらが何を言っても「あ、そうスか」としか返さない不遜な態度とは大違いです。なもんですから、聞いてもムカつくだけな歯の浮くようなお世辞を遮って「お前、スタッフを“歩く数字”にしか見てないやろ。ホンマ最低やな」と吐き捨てたくなります。
 結局、この日も適当な応対で電話を叩き切り、これで晴れて自由の身となります。「まぁ今日成績良かったから、明日くらい“ボウス”でもエエか。気楽に行こ」…などと思いながら、家路に着くのでありました……。

 
 ──というわけで、前回と今回でキャンペーンスタッフの日常をご覧頂きました。次回はスタッフ共通の不倶戴天の敵、SVことスーパーバイザーについて色々なお話をさせて頂きます。どうぞお楽しみに。  (次回へ続く

 


 

3月27日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(3月第4週分)

 いよいよ現カリキュラムでは最後の「現代マンガ時評」となりました。
 先週お知らせした通り、来週からも週2回に分けて同様の講義を実施する予定ですが、これまでのような「レビュー長いよ!……しかも多いよ!」という、胸焼けがするような大ボリュームのゼミはあまり見られなくなるんではないかと思います。どうぞ最後までじっくりとお楽しみ下さい。

 ──では、今日も情報系の話題から。

 まず初めに、今週は「週刊少年サンデー」系月例新人賞「サンデーまんがカレッジ」の審査結果発表がありましたので、例によって受賞者・受賞作をお知らせしておきます。

少年サンデーまんがカレッジ
(02年12月・03年1月期)

 入選=該当作なし
 佳作=2編
  
・『AVENGER』
   川柳呼人(19歳・福岡)
    ・『TRANCE』
   長蔵啓丸(18歳・静岡)
 努力賞=4編
  ・『D・D・D』
   高野裕也(20歳・東京)
  ・『はなちゃん』
   吉田時計店(22歳・京都)
  ・『髪師バツ』
   平吹雅浩(26歳・宮城)
  ・『ZEN』
   梶川卓郎(27歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=4編
  
・『DAIVE!』
   佐伯玄太(21歳・愛媛)
  ・『オロチ』
   宇佐美道子(22歳・東京)
  ・『ジェットボ−イ』
   片岡堅(23歳・埼玉)
  ・『あぁ、塾通い』
   福井祐介(26歳・東京)

 2ヶ月合併の募集だった事もあり、今回の「まんカレ」は豊作だったようです。佳作の2人はまだ10代ですし、将来が楽しみですね。新人が連載デビューするまでは長い時間がかかる「サンデー」ですので、若いという事は大きな武器になると思います。
 今月は受賞歴無し&地方在住の受賞者さんが多いんですが、これは12・1月期ということで、首都圏在住の人たちはコミケに専念していたか、アシスタント先の年末進行で力尽きて自分の作品どころじゃなかったんでしょうかね(笑)。

 では次の話題に。
 先週のゼミでも「未確認情報」という扱いながら既に紹介した情報ですが、「週刊少年ジャンプ」の新連載シリーズのラインナップが決定しましたので、正式にお知らせしておきましょう。

 ◎18号(4月1日発売号)より新連載
  ……『闇神コウ 〜暗闇にドッキリ〜』作画:加地君也
 ◎19号(4月8日発売号)より新連載
  ……『SANTA!』作画:蔵人健吾

 加地君也さんは今から6年前の97年3月期「天下一漫画賞」で佳作を受賞し、同年「赤マルジャンプ」でデビュー。
 しかしその後はチャンスに恵まれず、増刊で1回、本誌で2回読み切りを発表しただけだったのですが、ようやくの連載獲得となりました。
 今回の連載作は昨秋に本誌で発表した『暗闇にドッキリ』のリテイク版ですが、読み切り発表当時にネット界隈で囁かれた「既成の作品の影響が強すぎる」「パターンにハマリ過ぎてて新鮮味が無い」…といった課題をどう克服するかが“突き抜け”回避へのポイントとなるでしょう。

 一方の蔵人健吾さんも、キャリア8年にしての初連載獲得という“苦労人型”の若手作家さんです。95年に「月刊ジャンプ」の新人賞で入賞した後、98年の「赤塚賞」で佳作を受賞して「週刊少年ジャンプ」に“移籍”。その後は増刊、本誌で断続的に読み切りを発表していました。
 今回の連載作は「赤マル」02年春号に掲載された同名の読み切りのリテイク版。当ゼミの読み切り版に対するレビューは「絵もストーリーも及第点以上。しかしセリフの言葉遣いが致命的に下手」…というものでした。こちらも課題を克服できているか、注目したいと思います。


 ……さて、情報はそれくらいにして、そろそろレビューへと移りましょう。今週は「週刊少年ジャンプ」から読み切りレビュー2本、「世界漫画愛読者大賞」のレビュー1本の計3本をお送りします。勿論、“チェックポイント”もお送りしますので、そちらもどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年17号☆

 ◎読み切り『しろくろ』作画:空知英秋

 今週の「ジャンプ」では新人作家さんの読み切りが2本掲載されました。
 まずは、昨年秋に「天下一漫画賞」佳作受賞作・『だんでらいおん』で鮮烈なデビューを果たした、現在の「ジャンプ」系新人作家さんの中で一番の注目株・空知英秋さんの新作からレビューをお送りしましょう。

 まずからですが、正直言ってちょっと粗いかな…という印象があります。もっとも、これは「3週間で51ページ」というハードスケジュールがモロに響いてしまったものでしょう。収入源の乏しい新人作家さんにアシスタントを豊富に使える余裕など無いでしょうし、物理的な事情には勝てなかったというところでしょうか。
 しかしながら意識的に手抜きをした部分は無く、必要な箇所では比較的細かい描写や変わったアングルにも挑戦しようという意気込みが感じられるのはプラス材料です。前作の課題の1つであったデフォルメ表現にも若干の進歩が見受けられます。あとは同じデビュー作からの課題である“無駄な線の多さ”がもっと解決されて来れば、ずっとプロらしい絵柄になって来るでしょう

 次にストーリーの方ですが、やはり注目すべきはデビュー作でも存分に見せつけた、新人離れした脚本とコメディの才能でしょう。この『しろくろ』でも、下手な小説家を上回る言葉遣いの使い分けや、ギャグ作家真っ青の“間”の良さで読者を作品世界に引っ張り込んでくれます。
 また、今回のような“ノリの良い”話は、下手に笑いに走りすぎるとコメディを飛び出してギャグマンガになってしまい、逆に興醒めになってしまう事があります。しかしそれも適度にシリアスな空気を交えてギリギリのところでストーリー作品の枠内に収まらせており、その辺りのセンスも注目に値するところです。

 ただ、問題点もあります。51ページの終盤まで話の核心が見えて来ず、さらには話のノリが良すぎるために、読み疲れや若干の中だるみ感がどうしても出て来てしまったのです。
 まぁこの点に関しては、逆にコテコテでワンパターンの話を51ページで見せられても酷く苦痛なので、大変に難しい所ではあります。が、もう少し話のテンポに緩急をつけ、話の前半で伏線を張って後半でまとめる…など改善の余地はまだ残されていると思います。新人作家さんにしては厳しい注文になりますが、既に新人の域を越えている空知さんならば、近い内に克服してくれると期待しています。

 評価ですが、絵の粗さとストーリーの中だるみをやや減点し、それでも類稀な才能を評価してB+寄りA−の評価を進呈したいと思います。間違いなく一流の才能を持った逸材です。「ジャンプ」編集部には、この人を埋もれさせたり潰したりしないよう、格別の配慮をお願いしたいと思います。

 ◎読み切り『野球狂師の詩』作画:郷田こうや

 読み切り2本目はギャグマンガ。あの島袋光年氏に才能を見出されたという特異な経歴を持つ、郷田こうやさんの登場です。
 郷田さんは00年から代原作家として度々本誌に登場していたのですが、今冬の「赤マル」掲載を経て、遂に正規枠での本誌読み切り掲載となりました。以前、「週刊少年ジャンプこの1年」(第2回)の中でも採り上げましたが、98年に「ジャンプ」でいわゆる代原制度が確立されて以来、本誌で連載を獲得した代原作家は未だゼロ(注:南寛樹さんが「週刊少年サンデー」と「週刊コミックバンチ」で連載獲得の記録あり)。郷田さんがこの忌まわしきジンクスを破る事ができるかどうか、今後も注目ですね。

 さて、それではレビューの本題へ。

 もう郷田さんの作品はこのゼミで相当な回数レビューしていますが、回を追うたびに絵が着実に上達しているのに感心させられます。アシスタント修行をしているのか、背景の描写も相当手慣れているようですし、今回は馬の描写という難しいテーマに挑戦するなど、意欲的な姿勢に大変好感が持てるところです。

 ただ惜しむらくは、絵に比べて肝心のギャグ技術の上達が今一つなところでしょう
 郷田作品の以前からの欠点であった、ギャグのバリエーションが少なくて一本調子な点については、まだまだ不完全ながら徐々に良くなって来ています。しかし、今度はギャグに対するツッコミが単純すぎてそこで笑いが取れず、結局またワンパターンに感じてしまうようになってしまいました
 また、“間”がイマイチ良くないのも気になります。コマ割りなどの構成力が洗練されておらず、この辺りもギャグの勢いを削ぐ結果に繋がっているような気がします。

 というわけで、この作品については、絵は及第点をあげられる出来なのですが、ギャグマンガとして肝心な部分はまだまだ新人・若手の域を脱するところまでいっていません。
 ここで本来ならば奮起を促すべきところですが、郷田さんの場合はキャリアと発表した作品の数から考えると、そろそろ“頭打ち”と判断せざるを得ない時期に差し掛かっているのではないでしょうか。幸いにも画力はついているのですから、原作者をつけてストーリー作品にチャレンジするなど、色々な可能性を探ってみるのも面白いと思うのですが……。
 評価はB−としておきましょう。


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントでは矢吹健太朗氏がCGを勉強するためパソコン購入と報告。「ネットはしません」宣言「そりゃあ自分の悪口パクリ糾弾記事読まされるだけだもんな」と納得する一方で、「もしもエロゲーやり始めた挙句、『同人ゲームだし、パクってもいいか』とか言って金髪・白セーターの女吸血鬼とかメガネの似合うカレー好きのエクソシストとか双子で赤髪の美少女メイドとか出しやがったら殺す!」……と決意を新たにした駒木でした。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:/雑感】
 
 高校生の男子にとって、自分の部屋に女の子が同居するシチュエーションにおけるメリットとデメリット……うはぁ、複雑すぎますって(笑)。
 よく考えたら、『りびんぐゲーム』作画:星里もちる)の中で同じ悩みを抱えた20代後半の不破雷蔵も大層苦しんでらっしゃいましたなぁ。
 駒木の部屋? そんなもん、10年分の「週刊プロレス」と「週刊競馬ブック」で埋もれてて、女の子が入れる状況にありませんがな。

 ◎『TATTOO HEARTS』作画:加治佐修【現時点での評価:B+/連載終了に当たっての総括】

 先週の『グラナダ』に続いて、こちらも“突き抜け”終了。
 この作品、悪くは無いんですが、それ以上に良くなかった…という感じでしょうか。連載が始まった時は『Ultra Red』より早く終わるとは思ってませんでしたが、余りにもインパクトが尻すぼみになってしまいましたね。
 全話通じて読んでみますと、キャラクターが“設定”の域を越えられなかったのが致命的だったような気がします。一言で言えば、キャラクターが粋じゃなかったんですね。
 最終評価はということで。
 

☆「週刊少年サンデー」2003年17号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『金色のガッシュ!!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 「怒りに任せて復活&パワーアップ」とか「都合の良すぎるタイミングで味方登場」とかいった、少年マンガのベタベタなパターンも、見せ方次第によって説得力が随分と違うもんだと思わせてくれますね。
 特に恵とティオの登場なんて、ナゾナゾ博士の性格がアレでなければ今回みたいに出来なかったわけで、連載作品というのは、やっぱり積み重ねてナンボなんですね。面白い作品は何をやっても面白いし、ダメな作品で何をやってもダメなわけですね。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】 

 さ、さすがに指チュパは……(絶句)
 しかしまぁ“何をやっても可愛くなってしまう少年キャラ”が上手い少年誌作家っていうのも珍しいですね。明らかに何かが間違っとるような気がします。

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 見せ方次第で説得力が違うのパート2。
 力量のある人に全力で悪役を描かせるとこうなるんですなー。本当に底の知れない悪くて嫌な奴。それでいて「読みたくない」と思わせるような嫌悪感は湧かないのがまた凄い。
 藤田さんは今でも十分評価されていると思いますが、それでももっと評価されるべき作家さんだと考えてるのは駒木だけでしょうか?

 ☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.8 『ちゃきちゃき江戸っ子花次郎の基本的考察』作画:赤川テツロー

 いよいよこの「世界漫画愛読者大賞」エントリー作完全レビューも最終回です。実は1週目の『軍神の惑星』を読んで、「これが平均レヴェルくらいならイケる!」と思ってゴーサインを出したんですが、実はこれが1、2を争う作品だったという……(溜息)。
 まぁ詳しい総括は来週辺りにやるとしまして、今週分のレビューをやってしまいましょう。

 今週のエントリー作の作者・赤川テツローさんは、東京都出身の44歳。今から20年以上前に赤塚賞の最終選考に残り、それが縁で「週刊少年ジャンプ」の増刊でデビュー。その後、幼年少女誌に移籍して連載を獲得するも、極度のスランプに陥ってしまい、ここ最近は読み切りを散発的に発表しながらアルバイトで食べている…との事。「世界漫画愛読者大賞」お馴染みの、“消えた若手マンガ家敗者復活戦”パターンですね。

 では作品の内容へ。形式としてはショートギャグなので、手短に行きましょう。

 絵柄は赤川さんのキャリアを象徴するように、マンガというよりも絵本的というか、キャラクターイラスト的なもの。かなり個性的な画風といって良いのではないかと思います。特に下手だとは思いませんが、現代のマンガに向いている絵ではないのかな……という気はしますね。
 で、内容ですが、これはタイトル通り江戸っ子である主人公の“江戸っ子らしさ”を羅列的に描写し、考察するというものです。狙いとしては読者に「あぁ、そういうのある、ある」と思わせて笑いを取りたかったのでしょう。テツandトモ風に言えば『江戸っ子が○○なのはなんでだろう〜』…という感じなのでしょうね。
 しかし、致命的なのは、この作品は「あぁ、あるある」ではなくて「で、それで?」になってしまう所です。既に手垢がつきまくったネタをこねくり回しただけで新鮮味が全く有りませんし、どこを面白く見せたいのか…という作者の主張が全然伝わって来ないのです。

 読者審査員の銀次さんにお聞きしたところ、この作品は編集部サイドも読者サイドも評判が芳しくなく、どうして最終審査に残ってしまったのか、今になっても不思議だとの事です。読者審査員の方は仕方無いにしても、プロの編集者が何となくで決めちゃうのはプロとしていかがなものかと思うのですが……。
 評価はC寄りB−とします。

 ・「個別人気投票」支持しないに投票。(この作品が1年以上の連載に耐えられるとは思えません)

 ・「総合人気投票」「グランプリ信任投票」でこの作品を支持することはありません。

 全作品総括と総合人気投票については、来週中に何らかの形でお届けする予定です。

 
 ……というわけで、このスタイルでの「現代マンガ時評」はこれにて終了です。長い間ご愛顧有難うございました。また4月からも別の形でお目にかかりますので、どうぞ宜しくお願いします。ではでは。

 


 

3月26日(水) ギャンブル社会学特論
「麻雀・競技プロの世界」(5)

※過去のレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回 

駒木:「さて、日付上は3日ぶりの講義だね(笑)」
順子:「実際はダブルヘッダーなんですよね(笑)。博士、病気の方はもう大丈夫なんですか?」
駒木:「おかげ様で。まだシックリ来ない部分もあるんだけど、これはもう4月に入ってから治すしかないね。まぁ今日はTV生出演の椎名林檎さんが観れたり、仲間由紀恵さんに萌えたり出来たから元気充分だよ(笑)」
順子:「土曜日の講義レジュメ見ても思ったんですけど、博士って、単純な理由でバカみたいにテンション上がりますよね(笑)
駒木:「おい、バカってなんだよ、バカって(苦笑)」
順子:「あれ博士、今週の『サンデー』読まなかったんですか? 『バカ』は褒め言葉なんですよ(笑)」
駒木:「まったく、口だけは達者なんだからなぁ(苦笑)。……まぁいいや、本題へ移ろう。
 今日がとりあえずこのシリーズの最終回。先週までのプロ団体分裂史の続きをやって、その後でプロ団体の現況について簡単に喋っていこうと思ってる」
順子:「せっかく講義に馴染んで来れたと思ったら、またお別れなんですね(苦笑)」
駒木:「まぁ業務縮小後はどうするか全然決めてないからねぇ。でも、もしまた麻雀関連講義をやる時には講義に出てもらうから、その時は宜しく」
順子:「は〜い、頼まれました(笑)」
駒木:「それじゃ、話を進めるよ。1996年に最高位戦から麻雀(麻将)連合ミューが分離独立した後、最高位戦はまた例によって質より量の大量新規採用をやって、団体規模を持ち直した。
 プロ連盟設立騒動の時の飯田・金子両プロのような超逸材はともかくとして、現Aリーグの村上淳プロ最強位を獲った長村大プロ(現:プロ協会)みたいな若手実力派も発掘して、最高位戦は健在をアピールしていったわけ。
 ところが、それから6年経った2002年、つまり去年になって最高位戦はまたまた2つに分裂する
順子:「またですか(苦笑)。……というか、それは雀荘でバイト始めてからの話なんで、さすがに知ってますけど(笑)」
駒木:「出来た団体は日本プロ麻雀協会。これが事実上、最高位戦を乗っ取るような形で設立された。代表はマンガ原作者としても業界内では有名な土井泰昭プロだね」
順子:「乗っ取りですか。そこまではわたしも知りませんでしたけど……」
駒木:「何しろ最高位戦の正式名称『最高位戦日本プロ麻雀協会』なんだから、日本プロ麻雀協会の名前は、実はそのまんまなんだよ。この分裂劇が一筋縄じゃいかないのは、それだけ見ても一目瞭然だろ?(苦笑)
 最高位戦というのは、もともと竹書房が主催した長期リーグ戦だったわけで、それがプロ団体化した後も繋がりは深かったんだよね。「近代麻雀」に後援店の広告載せてもらって資金稼いだりとか。ところが、最高位戦の中では大ベテランの人たちを中心に、あまり竹書房を良く思っていない人たちもいたわけ。で、それが原因で団体が割れちゃった
順子:「あの〜、一言言わせてもらえるとですね、メチャクチャカッコ悪いんですけど、その分裂って(苦笑)」
駒木:「あーあ、言っちゃったよ(苦笑)。……でもまぁ気持ちは分かる(笑)。ファン無視も甚だしいし、第一、講談社や小学館とかじゃなくて、どう考えても大手じゃない竹書房が原因で仲違いだなんて、スケールが小さ過ぎるよね(苦笑)。しかしまぁ、狭い業界ほどよく揉めるって言うから、分裂するのも仕方ないと言えば仕方が無い。
 でね、この分離・独立が“乗っ取り”という理由は、新団体であるプロ協会が竹書房の全面協力を得て、しかもそのオフィスが、それまで最高位戦がオフィスとして使っていた所だったからなんだよ。これは土井代表が元・最高位戦専務理事で実務を取り仕切っていたかららしい。つまり、『元々俺が切り盛りしてたオフィスなんだから使わせろ。スポンサーの竹書房からも支持を取り付けてんだ』…って理屈なんだな」
順子:「もの凄い理屈ですね、それも(苦笑)」
駒木:「これが通っちゃうから凄い業界だね。一般常識的には、ソバテンのドラくらい通らない理屈なんだろうけど。
 可哀想なのが最高位戦だった。人材的にはAリーグプロの大半が残留したから被害は大きくなかったんだけど、長年使ってきたオフィスが無くなって“ホームレス団体”になってしまった。一時期は団体の連絡先が090から始まる携帯電話番号だったりしたんだよ(笑)」
順子:「そんな、今時の一人暮らししてる学生じゃないんですから……(笑)」
駒木:「そうだよなぁ(笑)。でも、そうやって今も生き延びてるんだから、最高位戦って凄い団体だよ、色々な意味で。
 ……とまぁ、こういうわけで日本に6つ目のプロ団体が出来上がって現在に至る。……ふぅ、これでやっと歴史を語り終えたね」
順子:「知ってても役に立たない歴史ばかりでしたけどね(苦笑)」
駒木:「お願いだから3週間分の講義を否定するようなセリフはよしてくれないか(苦笑)。
 ……じゃあ最後に、現在活動中のプロ6団体がどんな活動をしているかを話して、講義を締め括る事にしようか」
順子:「は〜い。じゃあ、まず活動開始順ってことで、最高位戦からお願いします──」
駒木:「何と言うか、“象が踏んでも壊れない団体”って感じだね(笑)。去年、シーズン途中にプロ協会への選手大量離脱があったと思ったら、シーズン終了時には80人近くの大所帯に戻ってるんだからビックリする。まぁ、例によって高いのは受験料だけのプロ試験で水増しされた下部リーグのレヴェルがどんなものかは想像に難くないけれども(苦笑)。
 ただ、離脱の影響が小さかったAリーグのレヴェルだけは、さすがに老舗団体の重みを感じさせるね。古久根現最高位、飯田プロ、金子プロの3人がいて、イキのいい若手が何人か残ってたら最低限の威厳は保てるだろうね。あとはやっぱり分裂しない努力をしてもらいたいもの。団体の目標である、『麻雀の楽しさを広く深く理解してもらう』を達成するためには喧嘩ばかりしてたら何にもならないしね。
 あともう1つ注文をつけさせてもらえるなら、老舗の割には普及活動と地方支部活動が昔から弱いのが気になるところだね。まぁ、ただのリーグ戦が発展した団体だから、公式戦以外の活動は二の次になっちゃうのは仕方ないけれども……」
順子:「だんだんマジメな話になって来ましたね。何だかわたしの講義じゃないみたいです(笑)。じゃあ次はプロ連盟についてお願いします〜」
駒木:「ある意味で一番プロ団体らしいのはここかも知れないね。何て言うか、将棋や囲碁の世界に少し近い感じ。不完全だけど段位制度も確立しているし、アマチュアの段位免状制度まで作られてるしね。
 また、順位戦参加プロ約150人に加えて、第一線から退きながらも他のプロ公式戦に出場したり、地方で支部活動をやっている“フリークラス”プロもベテランを中心に結構多い。プロの資格を得た後も地方で活動を続ける人も多いし、何と言うか縛りが緩い団体かな。他の団体だと、東京でやるリーグ戦に参加しないとプロでいられない事が多いから。まぁ何にせよ、安定した団体運営が出来てるのは良い事だ。
 ただ、難点を言わせてもらうと、所属プロの人数の割に華のある選手が少ないかな。有名なのは一部のベテラン選手か、清水香織プロとか二階堂姉妹みたいな美人女流プロ数人だけだものね。下部リーグのレヴェルについても課題が多いし、あとはどこまで質を高められるかってところじゃないのかな。ハードと看板(段位免状の署名は灘麻太郎会長、小島武夫最高顧問、畑正憲相談役という豪華メンバー)はしっかりしてるんだから、あとは若手が奮起するだけ
順子:「要約すると『割とがんばってる』ってことみたいです(笑)。じゃあ次は一〇一競技連盟をお願いします」
駒木:「ここは本当に“孤高の存在”だよね。普遍という概念から程遠い独特のルールの中で、少数精鋭の運営がなされてる。順位戦参加選手に何故か昔から最高位戦との掛け持ち選手が多かったのも特徴。
 あと、ここは普及活動やプロ候補育成活動もシッカリしている方。少なくとも可愛いオネエチャンをフリーパスでプロにしたりする志の低い事はやってないはずだよ。ただ、ルールとストイックさが敷居を高くしてしまっていて、意気込みほど普及が進んでいないのも事実だね。
 余談だけど、神戸は団体創立者・古川凱章さんの準地元だけあって、一〇一系のフリー雀荘がいくつかある。ただ、その店のルールは赤6枚入りで全然一〇一してないから面白い」
順子:「私がバイトしてるお店の商売敵ですね。どことは言いませんけど(笑)。
 ……じゃあ次は麻将連合ですね」

駒木:「ギャンブルとしての麻雀を事実上否定した、ウチの講座としては『なんだかな〜』な団体だね(苦笑)。でもまぁ、中国式麻将の国際普及とか、初心者向け麻雀教室の実施とか、全国的なアマチュア・プロ候補育成活動とか、やってる事には筋が通ってるね。まぁ代表(井出洋介プロ)に似て優等生的って事なのかな。もっとも、井出さんは意外と初心者に教えるのが下手だって評判らしいけどね(苦笑)。
 懸念材料としては、マイナー雑誌『月刊プロ麻雀』の枠内に閉じこもっちゃってて、あまり表舞台に出て来ないという事と、あとは目標とか理念のレヴェルが高過ぎるせいか業界内の賛同者があまり増えてくれない事が挙げられるかな。人間が仙人を目指して霞だけで生きようとしている…みたいなところがあるように思えるんだよね」
順子:「さぁ、博士の口が滑って来たところで(笑)、次は日本プロ麻雀棋士会ですね」
駒木:「ここは余り喋る事無いんだよなぁ(苦笑)。元々は女流ばかりの華やか〜な団体を目指していたのが全くの企画倒れに終わって、それで止む無くインディーズ団体として再出発したばかりの団体だからね。所属“棋士”も10人程度しかいないし、どうしたってまだまだこれからの団体だよ」
順子:「女流ばかりの団体ですか。正直、目の付け所は正しいと思いますけどね〜」
駒木:「ところが麻雀界の場合、女流はある程度若くて綺麗な人じゃないと意味が無いんだよ(苦笑)。大きな声じゃ言えないけど、オバサンプロは女流とは扱ってくれないみたい(苦笑)」
順子:「む〜、でも結局は男の世界ですもんね〜、麻雀界って
駒木:「恥ずかしながら……ね」
順子:「……それじゃ、最後に新しい方のプロ協会について、どうぞ」
駒木:「まだ出来たばかりの団体にあれこれ注文するのは筋違いだろうけど、何て言うかプロ連盟の逆って感じがあるね。知名度のある若手プロは揃っているんだけど、選手層や団体のバックボーンはまだまだってとこ。
 特にAリーグのメンツがねぇ。元々最高位戦でB〜Cリーグだった選手が平気な顔してトップ争いしてるのは、見ててあんまり気持ちの良いもんじゃないね。Bリーグなんか、最高位戦で一番下のC2リーグで万年下位争いしてた人までいるんだもんなぁ。
 まぁ、マスコミと太いパイプがあるのは大きな武器だけど、早いところ選手たちの実力の底上げをして業界内の評価を上げないと、いつか頭打ちになりそうな気がするなぁ。そうならないように願ってはいるけどね」
順子:「何だか、どの団体も一長一短ってところですか?」
駒木:「そうなっちゃうね。業界そのものの勢いがアレなんだから、団体1つ1つの勢いが伸び悩むのも仕方ないとは思うんだ。でもまぁ、若手の選手の間では団体の垣根はほとんど無いって言うし、近い内に大同団結があれば良いと思うよ。それかせめて囲碁の世界みたいに、いくつかの団体が1つの舞台で勝負するような形を整えないとね」
順子:「なるほど〜。その内、阿佐田哲也が小学生に憑依する話の少年マンガとか出て来たら面白いですね(笑)」
駒木:「『ヒカルの碁』じゃないんだから(苦笑)
 ……まぁそういうわけで、ちょっととりとめもないけど今回のシリーズはこれにて終了。皆さん、御清聴ありがとうございました」
順子:「ありがとうございました。それじゃ、またお会いしましょう〜♪」 (この項終わり)

 


 

3月23日(日) 社会調査
「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」(3)

 過去のレジュメはこちらから→第1回第2回

 故有って、この講義の準備を始めたのが26日未明になってからなんですが(苦笑)、チャチな病に悩まされている内に、またしても“インパクト(受講者数急増)が起こってしまいました(笑)。あと1週間で業務縮小しようって時にこういう出来事があるあたり、いかにもウチらしい話ですね。
 『がんばれ!! ゲイツ君』さん「ラーメンマンさん」みたいな言い方でアレですが)からいらっしゃった方、はじめまして。もしよろしければ、正式なトップページから見て下さると嬉しいです。左フレームから過去の講義レジュメなどが読めますので、どうぞ宜しく。結構色々な事やってますんで(笑)。

 ……さて、今日の講義からは“実戦編”。普段モデム配りのスタッフたちはどのようにして働いているのか、つまり「モデム配りスタッフの1日」を紹介してゆこうと思います。
 ただしこの仕事、配置されたパラソル(ブース)付近の客数によってその内容が大きく異なってしまいますので、この度は今回の“閑散編”と次回の“混乱編”の2回にわけてお送りする事にします。
 というわけで、今日はまず“閑散編”から。では早速いってみましょう── 


 ──モデム配りアルバイトの始業時刻は11時(一部では10時から)で、決して早くはありません。時間とモデム入り紙袋をぶら下げる手が空いている買い物客を狙ったキャンペーンですので、どうしても昼前からサラリーマンの仕事帰りを狙った時間になるのです。夜のお仕事ならぬ真昼のお仕事といったところでしょうか。とは言ってもみのもんたみたいにスーパーの棚から商品が消えるまでココアを薦めたりもしませんし、それを信じてココアを飲みまくって危うく死にかけた大橋巨泉なんてどうでもいい話です。

 で、駒木の登録している派遣会社では、主に電器量販店の店内でキャンペーン活動を行う事になっています。
 つまり家電製品やパソコン、周辺機器を買い求めに来たお客さんに、商品のついでにヤフーBBを薦める…というわけですね。

◎モデム配りアルバイト 豆知識・4◎

 量販店と“駅パラ”

 恐らく受講生の皆さんが多く目にしているはずの、鉄道駅構内でのパラソル・キャンペーン(通称:『駅パラ』は、主にあの悪名高き“佐藤方式”(前回参照)で有名なネクサスなどのガラ悪い系・派遣会社が担当している事が多いのが特徴と言われています。逆に量販店内のブースを担当しているのは“まだマシ”な会社であるとのこと。
 何故そうなっているのか理由はよく分かりませんが、業界内の噂では「その手のガラの悪い会社は粗相をやらかすので、イメージを気にする量販店に嫌がられている」…などとまことしやかに囁かれています。まぁ、せっかくの顧客に無理矢理&問答無用でモデム渡されたら、イメージを気にする量販店としては溜まったもんじゃないでしょうし、これは当たらずとも遠からじといった所ではないかと思います。
 これは逆に言えば、もしこのキャンペーンでヤフーBBを試してみようと思っている方は、駅パラではなくて量販店で申し込みをする方が無難であると言えます。駅パラの全てがマズいとは言いませんが、キャンペーン内容についてキチンとした説明をしてくれない可能性が非常に高いです。(第一、駅構内で立ったまま長い説明なんて聞いてられませんし……)

 まぁそういうわけで、駒木も“職場”となる量販店に出勤します。量販店は既に営業中ですので、お客さんと同じ出入り口からの入店となります。出勤時刻の目安は始業10分前辺りで、メンツが揃い次第担当SVに出勤報告をする事になっているのですが、実際に見張られているわけでもありませんので、余程の常習でない限りはギリギリに出勤しても大目に見てくれると思います。
 店に入ると、まずは中にあるブースへ直行し、そこでユニフォームのブルゾンやベンチコートを着込みます。ユニフォームは複数で着回しする上に原則として洗濯をしないので、どの服も微妙に汚れているのが何とも貧相です。また、サイズが1種類(フリーサイズ)しか無いために、ガタイの大きな男性スタッフなどは1日中大リーグ養成ギプスをつけているような苦行を強いられます。
 普段LLサイズを着る駒木もこれは大変に苦痛で、体調不良の原因となった背中の凝りは、どうもここから来ているとしか思えないのです。これが訴訟国家アメリカなら裁判で38億円くらい請求できそうですが、日本の裁判制度だと、まず訴状に貼る印紙代で破産してしまいそうなので止めておきます。
 とはいえ、ソフトバンクもせっかく800億円分もヤフー株を売りさばいたのですから、3億円くらいかけて全スタッフにオーダーメイドのユニフォームを配布するくらいの気風の良さが欲しいところです。いやそれよりも、「日本のIT産業の事を考えるんやったら、その800億円で死ぬまで隠居して暮らせ、孫正義!」……と言う人も多いんじゃないかと思います。いや、駒木は言いませんよ、言いませんとも。

 ユニフォームに身を包んだら、店のバックヤードから在庫のモデムを運び出し、ブースの設営作業に移ります。展示用のモデムを引っ張り出して目立つ位置に設置して、残りのスペースはパンフレットやモデム入りの紙袋をズラリと並べて準備完了です。
 時計を見れば11時ジャスト。さぁ、いよいよキャンペーン開始です。店を訪れるお客さんに向けて声をかけ、振り向いたお客さんをターゲットに勧誘をする……

 ……はず、なのです、が…………。

 声が出ません。というか、出せません。お客さんが目の前を通らないのです。そうです、今日は“閑散編”。舞台はお客さんの少ない量販店です。

 そうそれは、ただっ広いだけで閑散とした店内
 そこにいるのは、何をするでもなくただ過剰に配置された販売員とパートさん
 そして、空しく流れる威勢の良い販促BGM

 モデムの紙袋をぶら下げ、パンフレットを持ったまま呆然と立ちすくむ駒木の脳裏に浮かぶのは、かのクソゲーム屋の姿です。

 「あぁ、どうして自分が仕事で関わる店というのは、いつもこんななんだろう……」

 駒木が働いた職場は、退職後3年以内に倒産するか上司が逮捕される運命にあるのですが、それがまた猛威を振るいそうだな…などと諦念が湧いて来ます。

 しかし、それでも数分に1組の割合くらいでお客さんが目の前を通りますので、その時はデッカイ声で呼びかけをします。この“声かけ”の文言はスタッフ個人によってそれぞれの“型”がありますが、標準タイプは大体こんな感じです。

 「いらっしゃいませ! ヤフーBB、只今無料キャンペーン中です! インターネットと電話代が2ヶ月無料になるキャンペーンです。いかがですか?」

 今こうして字面で冷静に振り返ってみると、結構小ッ恥ずかしくなってしまいますが、それでも実際にやっている時は別にそう感じません
 何故なら、一生懸命やってると恥ずかしくないんです……というわけではなくて感情を一切込めてないので恥ずかしいもクソも無いのです。声をかけた相手の95%以上に無視されるか露骨に嫌な顔をされるかなのに、いちいち感情込めて一生懸命やってたら神経が破綻してしまいます。
 余談ですが、この“声かけ”をやっている時は、まるで繁華街のポン引きになったような錯覚を覚えます。
 「インターネットとご家庭の電話、2ヶ月無料! どうですか?」
 というセリフの内容が、
 「イヨッ、そこの社長! どうスか、エロ動画バンバン見放題!」
 ……という風に思えて仕方ないのです。まぁどうでもいいと言えばどうでもいいんですが。

 ……とまぁこのように、お客さんの少ない店では数分に1回機械的に“声かけ”をする他は、原則的に何をするでもなく立ちっぱなしで時が経つのをただ待ち続ける事になります。これが暇で暇で仕方有りません。食いついてきたお客さんにキャンペーンの説明をしていると30分なんてあっという間なのですが、何もしないで立っている30分はとにかくクソ長く感じます。一応はスタッフ仲間と雑談する事も出来ますが、喋ってばかりというのも具合が悪いので、もっぱら無言で立ちっ放し状態になってしまいます。
 特に大変なのは、仕事を始めたばかりで身も心も慣れていない頃でしょう。立ち仕事に慣れていない足が悲鳴をあげる一方で、とにかく時計の針が進むのが遅くて遅くて気が狂いそうになります。気が付いたら2分間に3回くらい時計を見ていたり、重症になると「俺は今、一体何をしているんだろう?」…などと哲学してしまい、インナースペースに埋没しそうになります。駒木も一度、酷く暇な時にこれまでの多彩な失恋遍歴を回顧してしまい、思わず近くにあった大型電気炊飯器に頭をぶつけて死にたくなったりしました。

 こうして生き地獄のような数時間が経過したところで、ようやく休憩の時間です。休憩時間は9時間拘束の内の1時間。契約書上は昼休み扱いですが、大抵の人は60分を2〜3回に分けて休みを摂ります。体力と気力に余裕のある前半をノンストップで乗り切り、後半を休み休み乗り切る…というのが標準的なパターンなのです。
 大抵の量販店では、休憩時間中は店外へ出ても良い事になっているのですが、中には防犯上の都合などでそれが出来ない場合もあり、そういう場合は店内の休憩室で量販店の店員さんに混じって休憩を摂ることになります。
 販売員さんのスタッフに対する態度は店によって随分と異なるようですが、この“閑散編”の舞台になるような量販店では、“お客さんの少ない中、共に頑張る戦友同士”と認めてくれるようで、概して親切にしてくれます。こちらが苦戦していても、
 「いやぁ、お客さん少ないから仕方ないよ」
 ……などと逆に同情してくれたりもします。

 ただ、ちょっと勘弁して欲しいのは駒木がいるそばでシャレにならない話を始められてしまう事です。

 「このままだと3月決算が……。とにかく前年比は越えないと店が危ないぞ」

 「余ってる商品あるんで、“展示品処分”って事で値段下げて売りますか。売れたら展示品補充するってことで」

 「値札、やっぱりインパクト出すために値下げ前の値段は高めに書いた方が良いですよね」

 ……などなど。
 中でも一番困ったのが、本部の偉いサンと副店長が店長について「年下にはガツンと言えるが、年上の部下に頭が上がらないんだよ」とか「あんまり自分から率先して引っ張っていけるタイプじゃないよな」…などとプロファイリングを始めた時でした。
 この時駒木はすぐ横にいたのですが、「へぇ〜そうなんですか」…などと相槌を打つわけにもいかず、どうしようか困ってしまったものです。裏話と言うものは能動的に入手するから楽しいのであって、偶然耳にしても困惑するだけなのだな…としみじみ実感しました。駒木もこれからは、水野先生とボンちゃんがどうとか、TV番組・「とくダネ!」は、司会者の頭部が実は一番の特ダネであるとか、ムツゴロウさんが実は牛肉の缶詰を売ってるとか、そんな事はあまり軽はずみに喋らないようにしようと思います。

 そんなわけで、客数の少ない量販店でのキャンペーンは、単調ながら淡々と時間が過ぎてゆきます。平日の場合、スタッフ2人が1日頑張って平均2件程度の契約を取れれば御の字といったところでしょうか。この場合、下手をすると、契約のために勧誘したお客さんの数よりも、カスタマーサポートが繋がらないのに業を煮やして駆け込んで来たクレーマーの方が多い…なんて事もあります。
 この程度の契約件数ですと、店にはメリットが有りません。しかし、先に言ったように店員さんは同情してくれますし、店長も客数が少ないのを後ろめたく思っているので、よほどの悪人でない限りは苦虫を噛み潰したような顔をしながらも納得してくれます。許してくれないのはソフトバンクBBとその手下たるSVくらいなものですが、これはまた次々回あたりに詳しくお話する事にしましょう。

◎モデム配りアルバイト 豆知識・5◎

 モデム配りキャンペーンをする上での量販店のメリット・デメリット

 ヤフーBBのキャンペーンをしている量販店は、ただ場所を貸しているわけではありません。

 まず、量販店側はそこで働くスタッフの人件費を負担しています。これはソフトバンクBBと折半しているとの説が有力ですが、量販店が全額負担しているとの説もあります。
 本来、スタッフと量販店の間に雇用契約は成立していないのですが、これによって少なくとも店側は「雇っている」という考えを持ち、スタッフを他のアルバイトと同じように指導・監督するようになります。ソフトバンクBBにしてみれば、人件費が軽減される上に手薄になりがちなスタッフの管理もしてくれるというわけで、まさに一石二鳥というわけです。

 とはいえ、店に負担だけ被せるわけにもいきませんので、ソフトバンクBBはスタッフが店内で獲得した件数に応じてバックマージンを店に支給しています。
 この額は色々な条件によって異なるようですが、駒木が色々と聞いた話を総合すると、契約1件につき10000〜15000円程度ではないかと思われます。電器量販店でその額なら安物のデジカメ1台分の粗利くらいには相当するでしょうから、そんなに悪い条件ではありません。

 つまり店側は、スタッフの人件費(1日2人で20000円強)の半分または全額を負担する替わりに、1件10000〜15000円のバックマージンを受け取るという投資を行っているわけです。
 先に「1日契約2件程度では店側にメリットが無い」と言ったのはそういうわけです。大の大人がドタバタやって儲けが1万程度では屁の足しにもなりません。

 それにしてもソフトバンクの金の遣い方は凄まじいですね。この他にもスタッフが所属する派遣会社などにも歩合報酬が出ているはずですから、1件新規契約が成立するごとに数万円のマージンが発生しているんじゃないでしょうか。契約者200万人を突破するまでに一体いくらかけてるんでしょうかね。


追記:駒木と“同業者”の方から具体的な情報を頂きました。その方の勤務している派遣会社と量販店では、「人件費は全額店が負担。ただし、バックマージンが人件費を下回り、赤字になった場合は差額をソフトバンクが負担」…というルールになっているとのことです。
 また、別のルートから聞いた話によると、バックマージンの額は通常の契約で10,000円/1件、無線LANパックだと15,000円/1件だそうで、それから考えると1日2〜3件が損益分岐点ということになりますね。

さらに追記:別のスタッフさんからも情報を頂きました。その方の勤務する量販店では、「人件費は店とソフトバンクBBの共同出資(折半?)で、バックマージンが通常12000円前後/1件、無線16000円前後/1件」との事です。やっぱり量販店によって契約内容が違うんですね。

 ……業務終了は11時開始の場合、9時間後の20時となります。量販店の閉店時刻もちょうどそのあたりなので、タイミング的には悪くないでしょう。
 終了15分前から撤収作業を始めます。モデムを再びバックヤードに片付け、書類などの整理をして、量販店の担当者(または店長)に認印を押してもらいます。派遣会社には電話や携帯メールで実績を報告し、ソフトバンクBBにも成績集計専用回線を使って同様の報告をします。最後にユニフォームを脱いで、やっと業務終了です。
 しかしこれで終わりではありません退勤した頃にSVから暗に「成績が悪いやないかボケ」と詰問する電話がかかって来ます。が、そこはそれ、お客さんへの“声かけ”で鍛えた感情のこもらない応対で適当に受け流し、とっとと電話を叩き切ります。こうして後味の悪さを感じながらようやく1日が終わるのです。

 
 ──さて、いかがでしたでしょうか? 以上が“閑散編”でした。次回の“混乱編”もどうぞご期待ください。ではでは。 (次回へ続く

 


 

3月22日(土) 競馬学概論
「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(10)
最終章・ミホノブルボン(前編)

※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)ライブリマウント編(第4回〜第6回)フラワーパーク編(第7回〜第8回)ムーンリットガール編(第9回) 

駒木:「阪神大賞典の勝ち馬はダイタクバートラムです(挨拶)」
珠美:「受講生の皆さん、講義が遅れてしまい、申し訳ありません。……って、博士、いきなり初めから自虐的なギャグはちょっと……(苦笑)。やっぱりまだ熱がおありになるんじゃないですか?(汗)」
駒木:「37.8℃だろ。微熱だ、そんなもん。まぁ熱のせいでテンションが高いのは否定しないけどね(笑)」
珠美:「そんなことで大丈夫なんですか……?」
駒木:「今日のテーマの事を考えたら、大丈夫じゃなくても大丈夫になるよ。ミホノブルボンは何しろ僕のフェイバリットホースだからね。とりあえずの最終章ってことで僕のワガママを通させてもらったわけ」
珠美:「これが最終章なんですよねー。受講生さんからは『まだこの馬が出ていない』…のようなリクエストが来ると思うのですが……(苦笑)」
駒木:「その時は『続・“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝』をやるさ(笑)。まぁ業務縮小後も競馬学講義は準レギュラーの位置付けで続行する予定だしね」
珠美:「なるほど(笑)、分かりました。……では、そろそろ講義の本題の方へ移ってゆきましょう。まずは今日のテーマとなります、ミホノブルボン号の成績表をご覧いただきましょう

ミホノブルボン号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

91.09.07

新馬戦

/13

小島貞

(ホウエイセイコー)

91.11.23 500万下 /10 小島貞

(クリトライ)

91.12.08 朝日杯3歳S(G1) /8 小島貞 (ヤマニンミラクル)
92.03.29 スプリングS(G2) /14 小島貞 (マーメンドタバン)
92.04.19 皐月賞(G1) /18 小島貞 (ナリタタイセイ)
92.05.31 日本ダービー(G1) /18 小島貞 (ライスシャワー)
92.10.18 京都新聞杯(G2) /10 小島貞 (ライスシャワー)
92.11.08 菊花賞(G1) /18 小島貞 ライスシャワー

駒木:「いつ見ても悔しいんだけど、『画竜点睛を欠く』とは正にこの事だね。最後の菊花賞に勝っていれば、恐らく『無敗伝説の三冠馬』とか言われて殿堂入りも間違いなかったのに、最後の最後で力尽きてしまった。そのせいで、今ではイマイチ知名度も人気も伸び悩みで、この企画に名を連ねる羽目になってしまった(苦笑)」
 つい先日亡くなったエアシャカール『三冠に一番近かった馬』と言う人もいるけど、僕はやっぱり手前味噌もあるけどミホノブルボンをそれに推したい。エアシャカールはダービーの時点で三冠の夢は断たれたけれども、ミホノブルボンは菊花賞の最後の直線半ばまでは三冠の夢を繋いでいたわけだからね」
珠美:「……と、早くも駒木博士のミホノブルボンに対する溺愛ぶりが表面化したところで(笑)、ミホノブルボンの歩んで来た道のりについてお話していただきましょう」
駒木:「じゃあまず、デビューに至るまでの話ね」
珠美:「あら、いつもはデビュー戦からお話を始めるんですけど、やっぱり意気込みが違いますね(笑)」
駒木:「もう茶化すのは勘弁してくれ(苦笑)。……ミホノブルボンは、北海道門別の原口圭二牧場に生まれた。牧場はその名の通り、個人経営で中小規模の牧場だった。
 失礼ながら、原口圭二牧場の経済状況はそれほど良くなかったらしい。というのも、この馬の血統は父・マグニテュード、母は元・南関東公営の下級条件馬・カツミエコー、母の父はシャレー。母系の血統の貧弱さもさる事ながら、その母馬にマグニテュードを種付けした理由が、『(当時人気種牡馬の)ミルジョージの種付け料が高すぎるので、同じミルリーフ系の血統で、種付け料が一番安いマグニテュードを』…という話だったんだから恐れ入る(苦笑)。まぁ原口場長は『確信犯で“安馬カップル”を作って一発を狙った』って言ってたらしいけど、資金が潤沢にあったらそういう発想すら沸かないと思うから、まぁ似たようなもんじゃないかな思う」
珠美:「こんな事を言ってしまってはなんですけど、『ヒョウタンから駒』だったんですね(笑)。でも、そういう話ってあるんですねー」
駒木:「今でも……というか、馬産地の経済が低迷している今だからこそ、同じような試みが増えているかもしれない。例えば、フジキセキは高くてアレだからエイシンサンディつけとけ…とかね(笑)」
珠美:「妙にリアルなのが怖いです(苦笑)」
駒木:「また、それがたまにハマるから競馬は怖いんだよね。ミホノブルボンと同じく皐月賞とダービーの二冠馬だったヒカルイマイなんか、繁殖牝馬1頭きりしかいない兼業牧場で『じゃあ適当に種付け料の安いシプリアニ(種牡馬名)でもつけとけや』ってところから産まれたんだもの。あと、オグリキャップも似たようなもんだね。ダンシングキャップなんて、オグリがいなかったら、『お前、誰?』の世界だよ」
珠美:「それが競馬の面白さでしょうけどね。サンデーサイレンスやブライアンズタイムの仔ばかりが活躍していても、あまり嬉しくありませんものね」
駒木:「まったく」
珠美:「……では博士、それからミホノブルボンはどのようにしてデビューまで至ったのですか?
駒木:「生まれたミホノブルボン──当然、当時はまだミホノブルボンじゃないんだけど、面倒臭いからこのまま続行ね。ミホノブルボンは、普通の仔馬と同じようにやんちゃで放牧地を走り回る生活を続けていたんだけれども、ある時栗東トレセンから訪ねて来た1人の調教師がミホノブルボンを見初める。スパルタ調教で鳴らした故・戸山為夫調教師だ」
珠美:「そこで『この馬は走るよ!』…ですか。まるで少年マンガみたいですね(笑)」
駒木:「いや、『2つくらいは勝ってくれるんじゃないのかな』って(笑)。だから戸山師が馬主さんに仲介して売った馬代金は700万円。まだバブリーだった時代としては、しかも中央競馬に入厩させようとする馬につける値段としては、決して高くはない金額だったんだ。
 まぁ考えたら当たり前だよね。こんな三流血統の馬を『G1級だ!』って言っちゃったら、たとえそれが本当でも『戸山先生もヤキが回った』とか言われるに違いないし(苦笑)」
珠美:「(笑)。……そう言えば、ホクトベガも似たような話があるって聞いたことありますね。今の1000万条件まで行ってくれるだろう…とか」
駒木:「これだから競馬は奥が深いんだよ。どれだけキャリアのある調教師でも仔馬がどこまで出世してくれるかは判らないってね。そう言えば、あのシンザンもクラシックシーズンに入るまでは大きい所を狙える馬とは思われてなかったみたいだからね。まぁだからこそ、競馬は波乱が起こって、ギャンブルとして成立するんだろうけど」
珠美:「──さて、そうしてミホノブルボンは栗東の戸山為夫厩舎の所属になったわけですよね。
 ところで博士、最近から競馬の勉強を始められた受講生さんには戸山厩舎の独特さというものが今一つピンと来ないと思うんですが、解説していただけますか?」

駒木:「あ、そうか。戸山先生が亡くなってもう10年だものねぇ。よし、それじゃあ『戸山厩舎ミニ講座』だね。
 さっき言ったけれども、戸山調教師はとにかくスパルタ調教の人だった。一言で言えば、『馬の強さは調教量に比例して増してゆく』という考えを頑なに守り続けた人だったね。
 だから、とにかく管理馬には調教、調教、また調教ハードトレーニングに耐え切れなくなって壊れてゆく馬は数知れずで、そのために素質馬を集める過程で随分と損をして来た節がある。そりゃあ、いくら『鍛えたら強くなるんだ』って言われても、故障されたら元も子も無いわけだからね。スパルタ調教をしなくても、故障無しで素質の8割が開花するならそっちを選びたくなるのが馬主人情ってもんさ。
 僭越ながら、1/500口の馬主である僕もやっぱり『とにかくレースにたくさん出てくれ』って思うよ。全く話にならない成績の馬だったらまだしも、無事ならオープン入りしそうな馬なら別の先生にお願いしたいところでもある。
 ……まぁでも、僕なら戸山先生に預かってもらえるって事になったら舞い上がって『よろしくお願いします』って言っちゃうかな(苦笑)」
珠美:「(笑)」
駒木:「話を戻そう。そういうわけで、戸山調教師って人は本当にスパルタ調教一筋だったんだけれども、かといって何も考えずにビシバシ馬をムチで叩いてたわけじゃなかった。どうしたら脚元に負担を与えずに激しい調教が可能になるのだろう…という事を絶えず研究して来た人でもあったんだ。
 で、その“スパルタ+脚元に優しい”調教を目指して、色々とJRAに働きかけた結果出来たのが、今ではごく当たり前になったウッドチップコースや坂路コース。その効果たるや絶大で、未だに残っている“関西馬優位”の流れが出来たのは、10数年前に出来たこれらのコースが大きな原因だったと言われているよ。
 特に戸山調教師は坂路コースがお気に入りで、坂路が出来てからは管理馬の大半を坂路で調教するようになった。ミホノブルボンも勿論その中の1頭だね。あ、ちなみにブルボンの前の年に二冠馬になったトウカイテイオーも坂路調教で強くなった馬の1頭だね」
珠美:「今では坂路調教で強くなる馬は普通に多くいるんですけどね。美浦にもウッドチップコースと坂路コースがありますし」
駒木:「ウッドと坂路で関西馬が強くなり過ぎたんで、あわてて関東でも設置されたんだよ。素質馬がこぞって栗東へ入厩する流れを止めるためには設備で追いつくしかなかったわけ。その甲斐あってか、今では少しずつだけど東西の差は詰まってるみたいだけどね。一時期は関東の競馬ファンの間では『とりあえず関西馬から狙っとけ』っていう格言めいたものがあったけど、今ではそんなに言われないしね」
珠美:「……さて、戸山厩舎と言えばスパルタ調教…というお話でしたが、その他にも所属の騎手やスタッフについて色々なエピソードがあると聞いたことがありますけど……」
駒木:「そうそう。まず騎手起用方法ね。戸山厩舎ではとにかく、戸山調教師の弟子2人、小島貞博騎手(現:調教師)と小谷内秀夫騎手(現:調教助手)しか使わない…という“鉄の掟”みたいなものが決められていた
 これは、戸山調教師が騎手時代に頻繁に乗り替わりにあった辛い経験から来ているものなんだけど、他の厩舎が武だ、岡部だって言ってる頃でも全く動じなかったのは立派だったと思う。ただそうやってチャンスをあげるだけじゃなくて、普段は厳しすぎるほど厳しい師匠だったって言うから、本当の意味で弟子思いの人だったんだろうね。
 あと、ミホノブルボンの頃の“番頭役”にあたる調教助手筆頭は、今や世界に名だたる森秀行調教師。森調教師の合理主義的なやり方は元・戸山厩舎とは思えないかも知れないけど、その根底には戸山イズムみたいなものが流れているはずだよ」
珠美:「森厩舎も坂路調教メインでスパルタ主義って言われてますものね。騎手の起用方法は違いますけど……」
駒木:「そうだね。戸山調教師が亡くなって、レガシーワールドが森厩舎の所属になった後、騎手がそれまでの小谷内騎手から河内騎手(現:調教師)に乗り替わった時は随分とやるせない思いをしたもんさ。いくらそれが競馬界ではごく当たり前の事としてもね」
珠美:「そうですね……」
駒木:「……というわけで、いよいよデビューを間近に控えたミホノブルボンの話に突入してゆくんだけど、残念ながらそろそろ時間だ」
珠美:「あら、本当ですね……」
駒木:「結局、1回で終わらせるどころかデビューまで行かなかったなぁ(苦笑)。まぁいいや、続きは業務縮小後、不定期にやるってことで」
珠美:「…分かりました。来週は高松宮記念予想ですね」
駒木:「外国馬が急遽参戦してきて難しくなりそうだけど、何とか頑張ってみようと思う。
 ……それじゃ、今日はここまで。ご苦労様」
珠美:「お疲れ様でしたー」 (次回へ続く

 


 

3月21日(金・祝) 社会調査
「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」(2)

 過去のレジュメはこちらから→第1回

 折からの不摂生と強行軍が祟りまして、振替講義&体調悪化でシャレにならない事態に陥っております(苦笑)。特に起きた途端から猛烈な眼精疲労から来る鈍痛に襲われて、ヒイヒイ言わされてます。多分2日ほどで治るとおもうんですが……。
 で、今、実は22日の深夜なんですが、熱を計ったら37.8℃ありました。ギリギリ活動できそうな微熱であるのがある意味妬ましいです(笑)。男の微熱って、まるっきりサマになりませんね、しかし。

 さてさて、今回はモデム配りバイト潜入レポの2回目。バイトに入る前の5時間研修の模様をお届けします。


 前回お届けしたように、余りにもアッサリと採用が決まってしまって面食らう駒木。しかし、ここまで来たら「すいませんシャレでした」と引き下がるわけにもいきません。
 第一、時給1350円はどこまでも魅力的です。時給と言えば、700円と750円を巡る攻防が当たり前の昨今、いくらソフトバンクのやってる胡散臭い仕事とは言え、貰えるものは貰いたいのが人情だったりします。

 そういうわけで、登録会から数日後、駒木は再び某派遣会社の小会議室にいました。仕事を始めるにあたって、とりあえずは必要最小限の知識とノウハウを新人に身に付けさせるための研修会がここで行われるのです。
 この研修会は5時間。しかもこれに関しても1350円の時給が出ます。総額6750円は、あのクソゲーム屋の時給(750円)で言えばほぼ日給の9時間分に相当します。「資本主義における云々…」というフレーズが思わず頭を掠めました。

 で、駒木が参加した研修会に同席した“研修生”は総勢10人余り。意外にも年齢層が高めで、大体駒木と同年代(20代後半)か若しくは少し上くらいでした。女性参加者の指には大抵結婚指輪がはまっており、普通のアルバイトの集まりにありがちな“キャピキャピ感”のようなモノは一切感じられません。
 ただ、その代わり「この人たち、学校出てから今まで何してたんだろう」的な視線各々から各々へ伸びており、そういう意味では、場末の結婚紹介所から斡旋されたお見合いパーティみたいな重苦しい雰囲気が辺りを支配しているような気がしました。もし幼子がいたら、多分5分と同じ空気を吸ってられないと思います。

 そして、そんなイヤゲな空気が充満しきったその時、ドアが開かれてスーツ姿の男性が5人登場。洋服の青山の撮影でも始めるのか…と一瞬思ったもののそんなわけもなく、この人たちが今日の研修を担当するSV(スーパーバイザー)と告げられました。

◎モデム配りアルバイト 豆知識・1◎

 SV(スーパーバイザー)って?

 街中や量販店などでモデム配りが行われているブース(これをパラソルと言います。各ブースにビーチパラソルみたいなのをおっ立てているので)を観察してみますと、スタッフ2人でやっている小規模な所と、キャンギャルを大挙はべらした大規模な所がある事が分かります。
 で、このSVとは、前者の小規模パラソルに配置される上級スタッフで、1人のSVが数ヶ所(5〜10くらい?追記:4〜5くらいだそうです)のパラソルを掛け持ちして、一般スタッフたちの指導や管理を担当します。身分上に格差は無いとの事ですが、事実上は駒木たちの直接の上司という事になります。後の回で述べますが、このSVが良い人かそうでないかで仕事中に負うストレスが格段に違ってきます。
 SVはソフトバンクBBから業務委託を受けた派遣会社の契約社員で、登録者から適当な人をピックアップしたり、一般スタッフから使えそうな人を登用したりしているようです。ただし、中にはスタッフ歴1ヶ月で抜擢された人もおり、その登用基準は謎に包まれたままです。

 ちなみに、キーステーション構内などの大規模パラソルではSVではなくAD(アシスタントディレクター)がパラソルごとに1人配置され、ほぼ常駐でSVと同様の業務を行うそうです。やはりADと人間関係がこじれると被るストレスはハンパではありません。むしろ常駐される分だけキツいのではないかと思います。

 しかし姿を現したSV5人衆は、自己紹介と、今日の参加者はこの5人の中で誰かが担当するという事を告げると、ほとんどはそそくさと退出してゆきました。残る最年配の、恐らくチーフ格と思しきSVがただ1人残って研修開始となります。

 で、研修の趣旨は大きく分けて2つです。

 1.モデム配りの業務で最低限必要な知識を学習する。
 2.ヤフーBBとソフトバンクがいかに素晴らしい会社であり、優れたADSLのプロバイダーであるか理解する。

 ……ここで気になるのは、やはり2番目の項目ですよね。この場合、本当にソフトバンクとヤフーが素晴らしい会社・プロバイダーであれば全く問題無いわけですが、そうでなかった場合は明らかな情報操作、もっと言えば洗脳になります。約10年前に流行った「修行するぞ修行するぞ修行するぞ」と言うヤツです。
 研修を担当するSVは派遣会社の契約社員ですが、実際にソフトバンクへ出向いて徹底的な研修を受けており(ついでに言えば孫正義社長と“謁見”して激しく舞い上がっており)事実上ソフトバンクの見解を代弁していると見て間違いありません。この辺、まるでカルトな新興宗教みたいで激しくアレです。

 で、このSV、研修会の冒頭で(恐らくはマニュアルに則って)我々に、
 「この中に、もうヤフーBBに入っている方、いらっしゃいますか?(3人が挙手) では、いかがですか、使ってみて?」
 ……などと問い掛けます。恐らくは
 「いや、特に問題無いですよ。便利です」
 …という言葉を期待しての問いだと思われます。引っ込み思案の日本人です。いくらなんでも初対面の人間相手には、悪く思っていても「いや、まぁソコソコ」…などと言葉を濁すであろうという想定なのでしょう。
 しかし──

 「いやぁ〜、BBフォン(ヤフーBBが提供するインターネット電話の名称)使ってると、しょっちゅうブツッって切れるんですよ」

 「最大12Mって言っても、あんまり速度出ないんスよねぇ」

 「モデムが故障して、カスタマーサポートに掛けても全然繋がらなくて、『どういうこっちゃねん』と思いました。結局、自力で何とかしましたけど」

 
 ……おぃおぃ(汗)。
 隣で聞いてて、思わず「ちょっとは歯に衣着せろや、大人なんやから」…などと思ったりしました。ウソです。「このネタ頂き」と思いました。

 思わぬジェットストリームアタックを喰らったSVは、巧みに「素晴らしい! そこまで嫌な思いをしても応募して下さったんですね!」…などと切り返していましたが、顔色が一瞬、オネエチャンと歩いているところを嫁に発見された野々村誠みたいになっていた事を駒木は見逃しませんでした。
 こうして早くも目的達成が危ぶまれることとなった研修会ですが、その後も懲りないSVは次々と“ヤフーBBマンセー”なデータを我々に提示します。ここで教えられた事は以前、当講座のニュース解説で紹介した事があったと思いますが、ここでお詫びさせて頂きます。

 あれ、嘘っぱちでした。すいません。後の取材活動で色々と裏話を仕入れましたので、そちらを紹介する事で罪滅ぼしとしたいと思います。

 まず、1日に15000〜20000人の新規申込者がいるという話。
 この数字がいつの数字であるかは分かりませんが、公式発表による1ヶ月あたりの利用者増加数を見てみると、明らかに数が合いません。(ただ、これは後で話す解約率も影響しているかも知れませんが)
 しかも、確かに秋のキャンペーン当初は物凄い数の申し込みがあったそうですが、この研修会が行われた2月を境にして急速にペースが落ち込んでおり、現在では往時の1/3〜1/5といったところ。パラソルの数も目減りしているので、とてもじゃありませんが1日に全国で15000人以上というのは考えられない数字です。

 次に、お試し期間中の解約率は6%前後という件ですが、これはとんでもない詐称です。
 この仕事を請け負っている会社の中にはロクでもないところがあって(しかもそういう会社に限って光通信─ソフトバンク系列通行人に強制的にモデムを押し付ける手口のマニュアルまで作成して活動していました。その名も考案したSVの名前と所属派遣会社名を取って「ネクサス・佐藤方式」と言います。

◎モデム配りアルバイト 豆知識・2◎

 ネクサス・佐藤方式によるモデム配り手順

◎スキの有りそうな通行人を探し、キャッチセールスのノリで近付き、「インターネットとかしますか?」と話し掛ける。
   ↓
◎「あ、ハイ」などと通行人が答えると、「じゃあこれどうぞ」などと言って問答無用でモデム入りの袋を手渡す。
   ↓ 
◎思わぬ展開に通行人がパニくっているタイミングを狙って申込書を手渡し、「じゃあ名前と住所と電話番号ここに書いて下さい。身分証明書とかありますか? 無かったら別にいいですけど」と一方的に告げる。
   ↓
◎書類に記入が終わったら「じゃあ」と、キャンペーンの説明など一切せずに立ち去ってゆく。

 ……このネクサス・佐藤方式は、キャンペーン初期に「最も成績の上がっている会社のマニュアル」という事で脚光を浴びました
 しかし、しばらく後になって60%を超える大量の解約があったり、消費者相談センターに数千件の苦情が殺到したニュースが新聞で報じられてソフトバンクの株価が急落したりするなど、親会社に莫大な損失を与えてしまい、今では過去の遺物となっています。

◎モデム配りアルバイト 豆知識・3◎

 解約されると、ソフトバンクBBはどの位困る?

 最大2ヶ月のお試しキャンペーン中に解約を申し出ますと、1ヶ月3543円の基本料金とBBフォン通話料、さらにADSL切り替え工事代金3850円と着払いによるモデム返送料がソフトバンクBBの負担となります。
 勿論、モデムレンタル料などは取りはぐれても損にはならないのですが、ADSL・ISP通信料・電話通話料の一部やNTT回線使用料、そして工事代金とモデム返送料は全てヤフーが負担する羽目になります。
 解約者1人に対する平均負担額は分かりませんが、例えば少なめに見積もって1日2000人のペースで解約されているとすると、1週間で1億円前後の損金が出ているはずです。月に5億円以上の金が無駄になっているわけですね。ソフトバンク的にはどうか分かりませんが、普通の会社なら傾き過ぎて芸術モニュメントになってしまいますよね。

 そしてトドメには「今、ADSL業界はヤフーが6割のシェアを持っていて、NTTは2割ほどに過ぎない」などと放言するに至ります。これも各種ニュースを読めば大嘘である事がすぐに分かるネタで、東西のNTTを併せたADSLの顧客数はヤフーのそれを上回っています
 とにかくソフトバンクはNTTと険悪な仲になっているので、仕方ないと言えば仕方ありませんが、ウソならもっと上手くつけと思いますね。

 ……で、要はそうやって、「ヤフーBBは素晴らしい」とスタッフに思い込ませ、何の躊躇いもなく勧誘ができるようにしよう…というのが、この研修最大の目的と言うわけです。
 いや、本当にコレはヤバいんじゃないかと思います。駒木も数日間ですがダマされそうになりましたし。ウソがウソを呼んで強引に顧客を増やし、その結果が繋がらないカスタマーサポート…というのはどうなんでしょうね。

 
 そんなこんなで5時間の研修会が終わります。最後に派遣されるパラソルのある量販店を斡旋されてその日は全て終わりです。

 では、次回からは「モデム配りスタッフの1日」という感じで迫ってみたいと思います。ではでは。 (次回へ続く

 


 

3月20日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(3月第3週分)

 では今週もゼミを始めます。
 日々の講義に手間取られて4月以降のカリキュラムについて詳細を発表できないでいるのですが、このゼミは4月以降も現体制に近い形で継続します。ただし、毎週2回(火・金?)に分けて、こちらの負担を軽減させる替わりに速報性が高まる形を採らせて頂く事になると思います。
 とりあえず今日を含めてあと2回、全力で頑張りますのでどうか何卒。

 ……それでは、今週もまず情報系の話題からお知らせします。

 1点目は、先週にもお伝えした高橋しんさんの動向。既に「週刊少年サンデー」をお読みの方はご存知の通り、高橋さんが作画・連載中だった『きみのカケラ』今週の15号を最後に無期連載休止という扱いになりました。
 ストーリー的には尻切れトンボになっているため、今のところは再開を前提にした連載休止ではないかと思います。

 そういえば、「週刊コミックバンチ」で連載休止中の、「世界漫画愛読者大賞」と当講座選定「ラズベリーコミック賞」の2冠(笑)・『エンカウンター ─遭遇─』作画:木之花さくや)が来週号から再開されて“しまう”んですよね。
 「バンチ」編集部にとっては大失敗の精算、木之花夫妻にとっては今後のマンガ家生命を賭ける一大リベンジになるんでしょうが、個人的には「もう勘弁」と言いたいところです(苦笑)。

 次に「週刊少年ジャンプ」の連載改編についてです。
 これはまだ駒木が実際に確認していないため、100%確定した情報とは言えないのですが、まず終了する作品が、今週既に終了した『グラナダ ─究極科学特捜隊─』作画:いとうみきお)に『TATTOO HEARTS』作画:加治佐修)を加えた2作品。そして、それに入れ替わって新連載となるのが、加地君也さん蔵人健吾さんの初連載組2人とのこと。打ち切られる2作品は、残念ながら共に1クール“突き抜け”という事になりますね。 
 加地さんは昨秋に本誌で発表した読み切り・『暗闇にドッキリ』が、そして蔵人さんはこれまで長年コツコツと積み重ねてきた実績が認められての連載獲得ということになりますが、果たしてどうなるでしょうか。以前の読み切りの評価から考えれば、実力的に連載は荷が重いという感が否めませんでしたが……


 ──それでは今週もレビューを始めましょう。今週も先週と同じく「ジャンプ」の読み切りと「世界漫画愛読者大賞」組の計2本、そして“チェックポイント”ということになります。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2003年16号☆

 ◎読み切り『ドーミエ 〜エピソード1〜』作画:高橋一郎

 プロトタイプ読み切り攻勢の続く最近の「ジャンプ」ですが、今週も新人・高橋一郎さんの作品が本誌掲載となりました。
 高橋さんは1月に20歳になったばかりで、昨秋の第64回手塚賞で準入選を受賞。今回の『ドーミエ』はその受賞作となります。
 ただ、この作品掲載に至る経緯としては、高橋さんは「次回作のネームが『ドーミエ』より良ければそちらを掲載」と言われていたそうで(赤塚賞受賞者のウェブサイトからの情報)、そういう意味では嬉しくも悔しい本誌デビューということになるのでしょうね。

 ……では作品の内容をいつも通り分析・評価してゆきましょう。

 まずはから。
 この絵柄に関しては読者の人たちの中でも意見が相当分かれると思われます。特に、「いくらなんでも絵が雑すぎる」という感想を抱かれた方も多かったのではないでしょうか。確かに、背景や顔の描写でところどころ大雑把過ぎる部分があるのは確かです。
 しかし、繰り返し繰り返し見てみると、要所要所ではキチンと描き込みがなされていますし、動的表現や擬音のバリエーション、更には音を絵で表すやり方など、現代のマンガで使用される表現技法は一しきりマスターしている事が窺えます。表面的に見ていると錯覚してしまいますが、マンガ家としての基礎的な実力は充分備わっていると言えそうです。また今度、たっぷりと作画に時間をかけた作品を読んでみたいですね。

 残るストーリーや設定に関してですが、これは率直に言って、「うわ、難しいなコレ」…といったところですね(苦笑)。もう1年以上レビュー活動を続けていますが、評価を下す難しさで言えば1、2を争うところだと思います。
 何しろ、とにかく話の流れがトリッキーです。手塚賞の講評にも「奇想天外に話が進んだ。切り口が斬新(高橋和希さん)」、「話に説得力はないが、物語の二重構造などストーリー作りには可能性が感じられる(手塚プロダクション)とあるように、オリジナリティだけで規定のページを引っ張ってしまった感があります。
 そんな“仕掛け”のためにシナリオのボリュームが薄くなり、物足りないと言えば物足りないのですが、それでも奇抜な設定特有の自己満足が感じられない事や、ネームなどの文章力に非凡なセンスが感じられる事など、評価できる部分もかなりたくさんあります。

 結局のところ、この作品は何よりも作者の将来性と可能性を感じさせるところに意義があるのであり、恐らくは高橋さん本人も「私はこういう事が出来ます」というアピールの意味合いを込めて執筆されたのではないかと思います。
 評価は保留……と言いたいところですが、期待料込みでB+寄りA−を進呈しておきましょうか。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 最近、「ジャンプ」のチェックポイントは毎週困らされます。ほっといたら毎週同じ作品ばかりチェックしてる…なんてことになりかねないからです(苦笑)。

 ◎『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のは、少年マンガとしてコテコテのパターンの集合体みたいな内容ですね。それでもちゃんと“パクり”以上のモノになっているあたり、誰かさんとは地力が違うと言うか(笑)。
 とりあえず今が作品の“旬”だと思うので、早め早めにストーリーを展開させて円満終了に持ち込んでもらいたいと思います。(まぁ無理でしょうけど)

 ◎『こちら葛飾区亀有公園前派出所』作画:秋元治《開講前に連載開始のため、評価未了》

 そう言えば、昔の『こち亀』ってこんな感じだったよな……と思わせる今週でしたね。ただ、全盛期ならもっとオチがオチらしくなっていたと思うので、確かにこのあたりに衰えらしきものが有るのではないかと感じさせられました。
 まぁ、国が歌舞伎を保護するみたいに、『こち亀』も「ジャンプ」と温かい目を持ったファンに保護されたら良いと思います。この作品と秋元さんにはそれくらいの資格はあるでしょうし。

 ◎『グラナダ ─究極科学捜索隊─』作画:いとうみきお【現時点での評価:B−/連載終了にあたっての総括】

 “ノルマン現象”の再現ならず。突き抜けてしまいました。
 結局、敗因は読み切りの設定を不用意に引っ張りすぎたって事でしょう。そこからドミノ倒しみたいに事態が悪化してしまったと思われます。
 打ち切りが決まってからの“敗戦処理”だったのかも知れませんが、過去編を冒頭に持って来て、その後に“青年編”を始めたら結果が変わっていたかも知れません。あ、でも「ありきたり」とか言われそうだなぁ……。
 この作品より切られるべき作品はあると思いますが、この作品が切られない理由が無い…というところに最終的な評価は落ち着いてしまうんですかね。
 最終的な評価はB寄りB−と、少しだけ上げておきます。

☆「週刊少年サンデー」2003年16号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週の「サンデー」は全体的に豊作。時々こういう週があるので「サンデー」読者は辞められんのですよね。
 あとは『コナン』『犬夜叉』を越えるカリスマ的な看板作品だけなんですけどねぇ……。『ガッシュ』以外にもう1つか2つ“タマ”が欲しいところです。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【第3回時点での評価:A−/雑感】

 昔から、何故かマンガでは悪人が5階建てのビルに刺客を配置して立て篭もるわけですが(苦笑)。
 今回の“ザ・ガマン”的展開も使い古されてはいるんですが、『あしたのジョー』+『勃ち往生』は新手だったんでは。2chのサンデー板で「でもカウパー腺液が出ないあたり『サンデー』の限界だな」とかいう意見があって笑えたんですが、往年の「ジャンプ」では『ジャングルの王者ターちゃん』で“恥ずかしい液”そのものも出してた事を考えると、確かにそうかも知れません(笑)。まぁ、個人的には精液が出ようが腺液が出ようが、男の体から出る液には興味が無いですけど。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】 

 ……と思ったら、「サンデー」は擬似精液ならオッケーみたいです(爆笑)。

 まぁそれはさておき、相変わらず安心して読ませてくれますね。評価はB+のままですが、高値安定のB+です。

 ◎『きみのカケラ』作画:高橋しん【現時点での評価:B−/連載中断に当たっての総括】 

 ……というわけで、連載休止です。
 何というか、「作者が何を言いたい&やりたいのかがハッキリしてない」のが(少なくとも少年誌的には)激しくNGだったのだな……と感じてます。あと余分な“遊び”が多すぎて、間延びしてないのに間延びしている風になったのもいけなかったのかな…と。
 ゆうきまさみさんではないですが、長い間マンガ家やってると、こういう事もあるもんです。とりあえずキッチリ養生して下さい…と言いたいです。

 

☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.7 『東京下町日和』作画:山口育孝

 この企画もあと2週です。「やんなきゃ良かったのに」という言葉を内へ外へと浴びせつつ、今週もレビューを続行します(苦笑)。

 今週のエントリー作・『東京下町日和』の作者・山口育孝さんは43歳。18年前に青年誌でデビューし、短期連載2回を経験した後に活躍の場を求めながらアシスタントをしていた…という経歴があるそうです。ただし、10年前に廃業してからは普通の会社員としてマンガとは縁の無い生活をしていたとのこと。今回は一念発起しての現役復帰ということになりますね。

 さて、作品の内容なのですが、とにかく言える事は絵にしろストーリーにしろ古臭いという事です。もう既にネット界隈でも同じような意見が嫌と言うほど出て来てますが、駒木も他に表現のしようが無いくらいそう思います。何と言いますか、「20年〜30年ぐらい前のマンガのありがちな姿」という企画なら拍手喝采を浴びたであろう、骨の髄まで70〜80年代風に染まった作品ですね。

 しかし一言で「古い作品」と言っても、名作クラスの作品となると、いくら古い時期に描かれた作品でも古臭くないんですね。例えば藤子・F・不二雄先生の『ミノタウロスの皿』なんかは、30年以上前の作品ですが全く古臭くありません(10年位前にアニメ化されましたが、これも超名作です)し、他の先生方の名作も然りです。
 しかし、凡作や名作まがいの単なる人気作になったりすると、大抵の場合は古臭く感じてしまうんですね。これは恐らく、当時の感覚で「まぁ今の読者ならこんなのがウケるだろう」…みたいな感じで描かれたからではないかと思います。名作クラスの作品は時代を越えた斬新さと質の高さで「今」を無視出来ますが、それ以外の作品にはそれが出来ないのでしょう。(例外的に「早く生まれすぎた作品」というのがありますね。これは「今」のピントを合わせ損なったという事になりますか)

 で、何が言いたいかといいますと、「この作品は凡作だよ」って事です(笑)。20年前の感覚で「今の若者にはこういうのがウケるだろう」とやっちゃったんだろうと思います。斬新さは勿論、ストーリーもパターンそのものですし、好材料は見当たりません。
 作者の山口さんが10数年前に売れっ子になれなかったのは、ひょっとすると当時から作風が古臭かったからなんじゃないかと思ってしまいましたが、どうなんでしょうか?

 評価はB寄りB−あたりになりますか。一応、パッと見が小奇麗なので、感情に任せて評価を下げるわけにも行かないんですよね。

 ・「個別人気投票」支持しないに投票。(支持する理由が全く見当たりません)

 ・「総合人気投票」「グランプリ信任投票」でこの作品を支持することはありません。

 いよいよ来週で最後なんですが…………「総合人気投票」でもらえる5票分の参政権が思い切り重くのしかかりますねぇ。まぁ消極的な意思表示として「まだマシ」な作品に5票を投じたいと考えています。

 それでは今週のゼミはこれまで。来週は現体制最後の「現代マンガ時評」ですが、気負わずにいつも通りやりたいと思います。では。

 


 

3月19日(水) ギャンブル社会学特論
「麻雀・競技プロの世界」(4)

※過去のレジュメはこちらから→第1回第2回第3回

駒木:「この講座じゃ毎度の事だけど、今回のシリーズも何やかんやで回を重ねて来てるなぁ(苦笑)」
順子:「わたしは仕事をしてるって実感が湧いてきて嬉しいんですけどね(笑)。『お前、ただ適当に相槌打ってるだけちゃうんか』という説はあるでしょうけど(苦笑)」
駒木:「んー、順子ちゃんは珠美ちゃんと違ってまだ一学生だからねぇ。雀荘に関する話では活躍してもらうつもりだけど、まぁ気楽にやってくれたらいいよ」
順子:「わっかりました〜♪」
駒木:「……というわけで、今回は先週からの続き。麻雀プロ団体の…というより、最高位戦分裂の歴史の続きだね」
順子:「いつも分裂するのは最高位戦ばかりなんですか(笑)」
駒木:「何故かそうなんだよね。まぁ麻雀界の新日本プロレスみたいなもんで、大所帯になればそれだけ分裂する要素が強まるって事なんだろうけど。……あ、でもプロ連盟は所属選手が多いわりにはほとんど分裂してないね。理由については色々と推測できる材料はあるんだけど、でもこれはまだ研究の余地がありそうだなぁ」
順子:「(各団体の所属プロ選手名簿を見ながら)わたしの印象ですけど、何だか最高位戦出身のプロの人って目立ちたがりっぽい人が多いような……」
駒木:「そういうところが意外と核心を突いてるかも知れないなぁ(笑)。でもまぁ、ここでは下手な決め打ちをカマすのは止めておこう。
 ……で、プロ団体分裂劇の続きなんだけど、1981年に日本プロ麻雀連盟が出来て、1985年に最高位戦がプロ団体化した後の10年ほどは比較的平穏に行ってたんだ。分裂劇とは関係無いところで出来ていた一〇一競技連盟を加えた3団体体制がずっと続いていた。まぁ、この間も雀鬼会というアレでナニな団体が生まれたりしているわけなんだけれども、それはプロ団体じゃないんで今回の話からは省く」
順子:「アレでナニな団体(笑)」
駒木:「…第1打の字牌切り禁止とか、戦術上一応は肯ける規則もあるんだけどねぇ。でもまぁ、トップの人とその取り巻きがその、なんだ……
順子:「博士、もう何も言わないでも分かってる人には分かってると思います(笑)」
駒木:「そうか(笑)。まぁ雀鬼会について何も知らない受講生さんは、『近代麻雀ゴールド』を読みながら2ch掲示板・麻雀板の雀鬼会関連スレをチェックしてみて下さい。
 で、プロ3団体時代ね。この中で一番動きが派手だったのは、やっぱり選手の大量離脱があった最高位戦。流出した選手の穴を埋めるためにたくさんの新人を補充して何とか体裁を整えた。質より量の選手補充には批判があったらしいんだけど、それでもその中に飯田正人プロとか金子正輝プロのような、現在でも第一線で活躍している人たちがいた事を考えると、まぁそれなりに意義はあったような気もするね」
順子:「飯田プロと金子プロですか。麻雀は強いんだけど、勤めてる雀荘がなぜか潰れちゃう人たちですね(笑)」
駒木:「順子ちゃんの知識って本当に偏ってるよなぁ(苦笑)。
 まぁそうやって最高位戦は頑張っていたわけなんだけど、これが1996年になって激震に見舞われる。最高位戦のトッププロで世間的に最も知名度の高いプロ雀士の1人・井出洋介プロが、親しい選手を連れて最高位戦を離脱して新団体を作ってしまった。これが“麻雀連合(後に中国語に倣って『麻将連合』と改称)ミュー”だね」
順子:「あ、井出さんはちゃんと知ってますよ。東大出身のプロ雀士っていうのがウリの人ですよね」
駒木:「そうそう。その東大の卒業論文まで麻雀をテーマにしてしまったって事でも有名だね。
 ちなみに、僕も大学の卒論を競馬をテーマにして書いちゃったんだけど、実は井出プロの影響が結構あったりする(笑)。『井出洋介が麻雀なら、自分は競馬で!』ってね」
順子:「そうだったんですか〜(笑)。で、博士の論文のタイトルってどんなだったんですか?」
駒木:「えーとね、『イギリス近代競馬における上流階級と庶民の接点についての考察』
順子:「な、長!」
駒木:「長くて難しそうなタイトルの方が有り難味があるからね(笑)。原稿用紙50枚分の論文だったんだけど、締め切りとプライベートな用事に追われまくって、結局は実質4日で仕上げたのかな。勿論、構想は随分前からあって、資料調べもしていたんだけど、危なかった(苦笑)」
順子:「そんな感じで中身は大丈夫だったんですか?(苦笑)」
駒木:「ゼミの教授に気にいってもらってたから(笑)。まぁ、論文の前にゼミの発表でイギリス近代競馬について採り上げてたのも良かったのかな。あと、文系の学部ってのは、卒業論文の審査に関してはかなりヌルいんだよね。だから、受講生さんの中に『卒論どうしよう』とか思ってる人がいるかも知れないけど、大丈夫。自分が書きやすいテーマで書きゃあ文句言われないって」
順子:「参考になります(笑)。わたしの卒論はまだ3年後ですけどね」
駒木:「あぁイカンイカン、今日は話が横道に逸れまくってるなぁ。
 で、井出プロの独立・新団体設立だ。最高位戦はこれでまた、せっかく大所帯に戻ったのにゴッソリと選手が抜けちゃう事になる」
順子:「分裂の理由は何だったんでしょうか?」
駒木:「プロ連盟の時みたいに“事件”絡みではなかったらしい。でも井出プロの談話を総合してみると、麻雀とプロ雀士に対する考え方の違いなんだろうなぁ…とは思うね」
順子:「考え方ですか?」
駒木:「井出プロは『本来、麻雀とは金銭を賭けないで行うゲームだ』という認識があって、『麻雀プロを名乗る以上は、賭け麻雀以外の手段で食わなくちゃいけない』という理想があったらしい。それが最高位戦の人たちと合わなくなっちゃったんじゃないのかな」
順子:「『麻雀はギャンブル用のゲームじゃない』って言いたかったわけですね」
駒木:「そういう事だね。ところが現実問題として、プロの選手も賭け麻雀を打つ。だからせめて、自分と自分に共感してくれる人たちだけは、賭け麻雀から逃れた所で活動をしたいと思ったんじゃないかなぁ」
順子:「なるほど〜」
駒木:「でもねぇ、井出プロって、抱いてる理念は素晴らしい割には、最高位戦の頃から競技麻雀に対する姿勢がセコいんだよな。だから個人的にはイマイチ好きになれない」
順子:「セコい?」
駒木:「だってさぁ、『最高位戦時代は、優勝が難しくなった時点から、Aリーグから落ちないようにする事だけを考えてわざと消極的に打ってました』…みたいな事を公言しちゃうんだよ。それは正論だとしても、果たしてプロとして相応しい行為なのかと言えば物凄く微妙だと思う」
順子:「確かにあまりホメられた話じゃない気がしますね(苦笑)」
駒木:「合理的で良いじゃないって人もいるだろうけどね。でもまぁ、個人的にはプロの勝負師って、もっとヒリヒリするようなアツい雰囲気の中で戦って欲しいと思うわけだよ。
 ……とりあえず、そんなわけで最高位戦は2回目の選手大量離脱を喰らってしまう。だから仕方ないからまた新人選手の大量採用だ(苦笑)。更に、『運を極力排したルール作りを』と公言して憚らない井出洋介・麻雀連合に当てつけるように、リーチ一発と裏ドラを採用したルールを導入する。まぁ名目は『多くの人が親しんでいるルールに変更して親近感を増してもらおう』ってところにあったらしいんだけど、このタイミングはどう考えても……ね(苦笑)」
順子:「なるほど(笑)。でも、わたしは一発・裏ドラ有りの方が普通だと思うんですけど……」
駒木:「僕もそう思うよ。まぁ、競技麻雀が出来た当時はまだ一発・裏ドラは“インフレ・ルール”扱いだったから仕方無いにしても、平成に入ってまだ古い規則と価値観に縛られてもねぇ。
 確かに一発・裏ドラは運任せの要素なんだけど、でもそれを言ったら表ドラも運任せだからねぇ。『運を極力排する』っていうなら、ドラは廃止して翻牌をポンして1翻付くってルールも見直すべきだよね。配牌からドラの役牌3枚ってシチュエーションなんか、運任せもいいところだしね。しかもそれが1回出たら、もうその半荘ではリカバー不能だし」
順子:「どうせなら赤牌とか入れちゃっても……(笑)」
駒木:「案外そういう時代も来るかも知れないよ。少なくとも、赤牌を採用したタイトル戦なんかはいつ出来てもおかしくないと思う」
順子:「“レッドドラゴン杯”みたいな名前が付くんでしょうね(笑)」
駒木:「……とまぁそういうわけで、麻雀プロ団体は4つになった。この“麻将連合”の現在の姿については、また次回にお話する事にして今回はすっ飛ばすね。
 ……で、この騒動からしばらくして、ひっそりと5番目の団体が誕生する。日本麻雀愛好クラブ、現在の日本麻雀プロ麻雀棋士会だね。元・プロ連盟の女流トッププロ・浦田和子さんと、同じく女流プロの高橋純子さんが中心になって設立された団体だ。ただ、何と言うかこの団体は物凄くインディーズでね(苦笑)。今の時点でもほとんど活動内容が捕捉されていないのが現状だね」
順子:「この団体はどうして誕生したんですか?」
駒木:「いや、これが全く分からなかったんだよねぇ。多分、仲の良い女流プロ2人が意気投合して作っちゃった…ってのが一番考えられるセンだと思うんだけど(苦笑)」
順子:「なんですか、それは?(苦笑)」
駒木:「何もわざわざ、こんな商売にならない業界でインディーズ団体作らなくても良いと思うんだけどね。でも出来たものは仕方ないわな(笑)。
 ……さぁこれで5つまで団体が出揃った。あとは去年出来たばかりの日本プロ麻雀協会だけなんだけど……」
順子:「お時間ですか?(笑)」
駒木:「中途半端な所で終わってしまって面目ないけどその通り。来週が3月最終週になっちゃうから、何としても次回で終わらせるつもりだけどね」
順子:「分かりました。それじゃ、また来週ですね。お疲れさまでした」
駒木:「ご苦労様」 (次回へ続く) 

 


 

3月17日(月) 社会調査
「ヤフーBBモデム配りアルバイト潜入レポ」(1)

 随分と思わせぶりにお待たせしてしまったモデム配り潜入レポ、ついにスタートです。
 で、この講義ですが、業務縮小直前の3月末までに終わらせるために週3回のハイペースで進行させてゆく予定です。恐らくは現体制最後になるであろうシリーズ物講義、どうぞ宜しくお付き合い下さい。


 さて、まずは今回のテーマである、ヤフーBBのモデムを配る仕事がどのような組織によって担われているか…という話から始める事にしましょう。

 あのヤフーが興したADSLブロードバンド事業である“ヤフーBB”ですが、実はこの事業を実際に展開しているのはヤフーではなく、ソフトバンクBB株式会社という、ソフトバンク全額出資の子会社です。まぁヤフーもソフトバンク系列の会社ですから両社は兄弟のような緊密な関係であると言えますが。25歳未満の方に分かり辛い比喩で恐縮ですが、『タッチ・背番号のないエース』でタッちゃんが死んだ弟に代わってマウンドに立つ…みたいなものでしょうか。
 で、今回採り上げるモデム配り&無料キャンペーンは、ソフトバンクBB株式会社の営業部が企画・運営している販売促進業務の一環…という事になります。ただし実際の活動は、ソフトバンクBBに委託された全国の大手人材派遣会社によって代行されているため、この会社が表舞台に出て来ることはありませんが。
 ですから、このモデム配りアルバイトの求人をかけているのは、ソフトバンクBBではなくて業務を代行している人材派遣各社です。アルバイト雑誌などで「ADSLのキャンペーンスタッフ募集」という求人が色々な会社の名義で掲載されているのは、実はそういうわけなんですね。

 しかしこれは、実際にアルバイトをする立場からすれば困った事に繋がってしまうのです。と言いますのも、どの派遣会社を経由するかによって、待遇などの重要な部分で大きな“当たり外れ”が出のです。
 まず、派遣会社によって時給からして違います。受講生の皆さんもコンビニでアルバイト求人誌を複数購入し、「ADSLキャンペーンスタッフ募集」という求人を探してみればすぐに分かると思いますが、募集をかけている会社によって時給の額が100円単位のズレがあるはずです。
 たかが100円ではありますが、全く同じ内容の仕事をして給料に差があってはたまりません。1日実働8時間で800円/日の違いですから、月に20回勤務するとすればその差1万6000円。普通、同じ会社の同部署の同期で給与格差がこれだけあったなら、社宅に住む奥様同士で殺し合いに発展してもおかしくありません。

 この他にも派遣会社によって色々と異なる点が出て来るのですが、それはまた追って話してゆく事にします。それでは、そろそろ駒木の体験談の方に話題を移してゆきましょう。

 そういうわけで、駒木も例外なく大手人材派遣会社の求人広告経由で、このアルバイトに応募しました。
 今回は取材活動も兼ねていますから、今から思えば“ネタ”になりそうな派遣会社を選べば良かった…と思っていますが、当時は内部実態にも疎かった上、とりあえず預金残高が逼迫していましたので、求人誌で捕捉出来たいくつかの会社の中で一番時給が高いところを選びました(笑)。以前、「アルバイト時給案内」の講義で紹介した通りの時給1350円このご時世にしてはヤクザな金額です。
 …あ、ここで言っておきますが、講義内では駒木が登録している派遣会社の名前などの固有名詞は全て伏せます。暴露記事みたいに思われてしまうのもアレですし、第一、駒木はまだ潜伏中ですんで、個人特定されたらヤバいんですよね。最近、「誰が見てるか分からない」というのが冗談で済まない状況になりつつありますので、どうぞご容赦願います。(まぁ話の中に実名が出て来ない派遣会社を想像すれば、会社名は業界内の人にはバレちゃうと思うんですが^^;;)

 さて、まずは求人広告の連絡先に電話をかけてアポ取りです。応募者が多いのか、丁寧ながらも機械的な淀みない応対で、登録(=面接)日の指定と当日にあたっての指示を伝えられました。
 まぁこの時点では特に変わったこともありません。履歴書を用意しなくて良いから、簡単な略歴をメモった物を持って来てくれ…と言われた事くらいでしょうか。キャンペーン会場の急増と併せるような条件不問の大量採用をしている事が窺えてちょっと苦笑いです。27歳・男という自分の立場からして、採用段階で落とされたらどうしようか…などと考えていましたが、そんな事も無さそうで一安心。

 そして登録の当日。会場は神戸にある派遣会社の支店で、小会議室という形容が似合いそうな部屋へ案内されます。ここでまず履歴書代わりに簡単なプロフィールを書かされ、モデム配り応募者以外の人と混じって派遣のお仕事についての基本事項のレクチャー。話の内容は全く覚えていませんが、レクチャーを担当した女性社員の方が、深夜番組で眉一つ動かさずにアダルトビデオを紹介してそうなエロハイソな雰囲気だったのが非常に印象深かったです。
 レクチャーが終わった後、モデム配り以外の仕事に登録した人はOA能力の見極めを行うとかで、そそくさと退出。駒木1人が取り残されてしまいました。で、何をやらされるのかと言えば「一般常識テスト」。で、どんな常識を問われるのかと身構えていたら、こんな問題が……。

 ◎次の計算を解き、答を記号から選びなさい。
 (1) 63+48=?  あ・101 い・111 う・121 え・131
 (2) 5×8+10÷2=? あ・25 い・35 う・45 え・55

 ……何だか自分自身が物凄く貶められたようで非常に堪えます。

 思わず、「ワタクシ、一応は教員免許など持ってますんで、こういうのはチョット……」などと言いたくなりました。
 この手の問題は、「週刊少年ジャンプ」15号で、かけ算・割り算は足し算・引き算に優先して処理することを知らなかった事実を暴露してしまった、『BLACK CAT』でお馴染みの矢吹健太朗大先生に回してあげて欲しいと思います。

 釈然としない気持ちのままテストを終えると、会議室から出されて簡単な面接。これは何事も無く終了し、最後に業務内容の研修を受ける日を告げられて、その日は御役御免となりました。薄々分かっていたものの、非常にアッサリした展開で拍子抜けが否めません。終電を逃した女の子に「家まで送って」と言われて送ってあげたら、本当に送ってあげただけで終わってしまった…みたいな感じです。誰ですか、「でも、いつもの事でしょ?」とか言った受講生さんは。

 ……こうして駒木は非常に呆気なくモデム配りアルバイトに採用されてしまいました。これまで色々なアルバイトに応募して来ましたが、ここまで手応えが無いまま採用されたのは久しぶりです。こんなので日給換算1万円強の仕事がゲット出来るなら、ハローワークに日々通っている人たちの苦労は何なのだ…と理不尽な思いにかられたりしました。

 しかし、「何事も無く」というフレーズが通用したのはここまででした。追って参加した業務内容研修から、ソフトバンク系列特有の香ばしい匂いがプンプンと立ち込めて来たのです。これについてはまた、次回に詳しくお送りしましょう。 (次回へ続く

 


 

3月16日(日) 政治学概論
「統一地方選直前アラカルト」

 構内掲示板をご覧になればお分かりのように、いよいよ明日からモデム配りアルバイトの潜入レポートをお送りするわけですが、今日はローテーションの谷間という事で、単発の講義を行います。
 実はカリキュラムがニッチもサッチもいかなくなった時用の予備日として置いておいたのですが、講義の題材の予備は全くキープしていませんで、直前まで非常にドタバタしておりました(苦笑)。
 
 で、何とか講義が成立しそうなだけの題材が掻き集められた題材が、間もなく行われる4年に1度の統一地方選挙についてのもの。ご存知、全国の地方自治体の首長や地方議会議員の選挙がほぼ同日に一斉実施される地方自治の大イベントで、前回は東京都知事選では急遽出馬を決めた石原慎太郎氏が、大阪府知事選では磐石の構えで2選を目指した横山ノック氏がそれぞれ圧勝するなどの結果となりました。何と言いますか、たった4年前なのに隔世の感がありますよね。
 駒木も当時はまだ大学の卒業式を終えたばかりの身でした。折しも選挙当日はバイト先の塾で催された内輪の“卒業者送別バーベキューパーティ”の日。しかし幹事の不手際もあり、肉は足りないわ、それを焼く鉄板の火力は不足しているわ、ビールは生温いわ、その上駒木は失恋したばっかりだわで、非常に心を荒ませたのを覚えています。もっとも、当時一番心が荒んでいた人は横山ノックだったんでしょうが。

 さて、今年の統一地方選も、事実上の続投宣言をした石原慎太郎都知事の“防衛戦”を目玉に、各知事選でも多くの国会議員経験者が出馬を表明して、「まぁそりゃあ、政府と国会があんなんじゃあ、国政やる気な無くなるわな」…などといった世論を集めています。
 駒木が住む地域でも市会議員選挙と県会議員選挙が同時に行われるとあって、最近では最寄の駅で盛んに街頭演説が行われています。ただ、前回選挙時の神戸空港問題のようなディープな争点が今回は無く、張り切っているのは候補者陣営の皆さんと某宗教団体くらいで、どうにもやや寂しい選挙前哨戦となっているのが現状です。
 数少ない楽しみを挙げるならば、泡沫候補的な若手無党派候補の動向くらいでしょうか。自分をアピールする材料が若い年齢しかないという、「お前らは渋谷でパンツ見せながら歩いている浜崎あゆみの紛い物か」と問い掛けたくなるような人たちがウヨウヨと現れています。年を取ってもストリッパーでやっていけるだけAV女優の方がまだマシです。
 そんな中でも特筆すべき立候補予定者は、駒木の住む選挙区から出て来る私立高校のオーナーの息子というボンボン候補で、

 ◎地元の公立中学を卒業。
   ↓
 ◎地元の高校へ進学するも、馴染めずに中退
   ↓
 ◎建築現場で働きながら大検受験、合格。
   ↓
 ◎親のカネで、寄付金の額のみで合格が決まる四流大学へ入学し、卒業。
   ↓
 ◎コネを駆使して地方議会・国会議員の私設秘書に滑り込む。
   ↓
 ◎勤めて何年もしない内に市会議員になりたいと言い出して退職、出馬表明。

 ……という、えも言われぬ泡沫臭を醸し出していて、密かに地元市民の注目を集めています。ちなみに唯一の公約は「市会議員定数削減」歩んで来た半生と同じで後先を全く考えてないのがイカしていますね。

 そして、選挙を控えて候補者陣営のテンションが上がっているのは、何も駒木の住む神戸だけではありません。他の自治体でも選挙での当選を目指す人たちが色々な試みをしようとしています
 ここでとある新聞記事を見て頂きましょう。時期が時期だけにアレかも知れませんが、産経新聞のアホ社員1人にビビる事自体がアホらしいので、いつも通り自然体でいきます。

 携帯メールで若者ゲット―。激しい前哨戦が繰り広げられている石川県議選で、携帯電話を使い出馬予定者の政治姿勢やプロフィルをPRする新手法の動きが出てきた。ターゲットは政治離れが指摘されて久しい若者。メールは告示日以降、公選法の「文書図画の頒布」に該当するため、四月三日までの短期作戦だが、携帯電話が必需品となっている若者層へのメール攻勢は、果たして若者の心をつかむことができるか。(北國新聞ウェブサイト3月15日更新分より)

 なんと、選挙の事前運動として、候補者の情報や政策などを盛り込んだメールを送信するというお話です。

 加賀地区の現職陣営は十五日夜から、メール作戦を開始する。後援会員約三十人が一斉に、選挙区内の友人や知人に携帯電話でメールを送付。メールには出馬予定者のキャッチコピーやイメージ写真、政治信条、経歴などが盛り込まれる。五千人を目標にメールを送り続ける作戦だ。(引用先前掲と同じ)

 知り合いに片っ端からメールで「どうぞよろしく」というメールを送付して、支援する候補を知ってもらおうという試みですね。
 記事に挙がった候補はメール運動の他に携帯用のウェブサイトも開設して事前運動を進める他、同様のメール運動を採用した候補者陣営もあり、選挙運動のIT化が進んだ事を象徴する出来事と言えそうです。

 ……しかし、ミもフタもない事を言って恐縮ですが、これってスパムメールって言いませんか?

 まぁ、送信先が知り合いに限定されてますから大きな問題にはならなさそうですが、一方的なメール送信が迷惑には変わりないような気がしますが……。少なくとも駒木がそんなメールを送られたら、その候補だけは投票の選択肢から抜かします。

 ──さて、石川でそんな事があったと思ったら、岩手ではメール事前運動とか細かい仕事が必要無いような大物候補が出馬を事実上表明しています。

 みちのくプロレスのザ・グレート・サスケ社長(33)は、朝日新聞社の取材に、県議選盛岡選挙区での立候補について「使命感に燃えている」と前向きな態度を見せた。14日の立候補説明会にも代理が出る予定。立候補する場合は、特定政党の支援は受けない方針だ。(朝日新聞ウェブサイト《岩手版》3月14日付記事より。太字強調は引用者による)

 立候補の動きを見せたのは、所属していた団体の代表がいつまで経ってもギャラを払ってくれないのに腹を立て、地元で地域密着型プロレス団体・みちのくプロレスを興して早10年余。東京進出したかと思ったらチケットの売り上げを仲介業者に持ち逃げされたり、毎年のように主力選手と仲違いして離脱されたりしながら頑張って来たザ・グレート・サスケ選手です。
 その政治手腕や人徳の程については全く不明なものの、岩手県内での知名度だけなら小沢一郎クラスである事を考えると、中選挙区制の県会議員選挙では現時点で既に当選確実と言っていいかも知れません。
 プロレスラーの選挙出馬と言えば、現・国会議員の馳浩(衆院・自民党)大仁田厚(参院・自民党)や、元職のアントニオ猪木(参院・スポーツ平和党)が有名ですが、落選候補をざっと思い出してみれば、参院比例区での高田延彦、堀田祐美子、佐山聡(初代タイガーマスク)木村健吾、衆院小選挙区の高木三四郎(自由連合から自費で出馬)など多くに及びます。また、地方でも北海道で元ストロングマシーンズ総裁のKY将軍ワカマツ(本名:若松市政)が市会議員を務めていたこともあり、プロレスラーとしての知名度とパフォーマンス力は極めて選挙向きと言えそうです。そう言えば、アメリカでも2年間ジェシー・ベンチュラが州知事をやっていた事がありましたね。
 まぁ、神戸に住んでいては当地の評判が分かりませんので、今後どのような動きが見られるかは続報を待ちたいところですが、注目のニュースとは言えそうです。

 しかし、選挙や議員活動って覆面被ったままでも出来るんですねぇ。それなら“政党ゴレンジャー”とか立ち上げて、抵抗勢力と戦う…なんてのも可能なようです。勿論、キレンジャー議員カレーが好きで、なおかつ1回中の人が変わらなくちゃいけませんが。
 その内、議員や内閣が変身ヒーローばっかりになったら凄いですね。内閣と呼ばずに“戦隊”と呼んだり、毎年2月か3月には必ず内閣改造があるとか。勿論、北朝鮮が攻めてきたら巨大ロボットに搭乗して自衛隊を指揮します。もしもロシアが攻めてきたら愛国戦隊内閣が成立するに違いありません。国家も君が代から「愛国戦隊大日本」に変更です。オリンピックの表彰式でも日章旗と共にテーマソングが鳴り響きます。

 ……まぁ冗談はさておき、選ばれた知事さんや議員さんにはよりよい国づくりをして頂きたいものですね。

 え? この社会学講座でも来年度の講師選挙をやってみたらどうか?

 いやいや、それは出来ない相談です。だって、そんな事をしたら、4月からこのウェブサイトは「珠美博士の社会学講座」になるに決まってるじゃないですか。おい、誰だ、「そっちの方が良いや。珠美ちゃん萌え〜」とか言ってるヤツは後で研究室に来なさい。

 ……それでは何とか講義らしくなったところで、終わりにしたいと思います。明日からのモデム配りレポートをどうぞお楽しみに。ではでは。 (この項終わり)


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