「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

2/26(第91回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(2月第4週分・合同)
2/23(第90回) 
人文地理「駒木博士の東京旅行記04’冬 コミケ67サークル参加挑戦の旅」(5)
2/19(第89回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(2月第3週分・合同)
2/17(第88回) 
人文地理「駒木博士の東京旅行記04’冬 コミケ67サークル参加挑戦の旅」(4)
2/12(第87回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(2月第2週分・合同)
2/10(第86回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(1月第6週/2月第1週分・合同)

 

2004年度第91回講義
2月26日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第4週分・合同)

 『ハヤテのごとく!』の単行本が売れ行き好調で、早々に重版が決定したみたいですね。
 ……もっとも、若手作家さんの初単行本は、初版部数を相当抑え気味にしたりしますので、実勢を把握するには2巻以降の初動(第1週売上げ)次第という事になるでしょう。これで初週のトーハン売上ランキングがベスト10に乗っかるようになれば、堂々たる「サンデー」の主力クラスになるわけですが、果たしてどうなるでしょうか。
 他誌ですが、これと似たようなパターンだったのが昨年の『銀魂』でしたね。1年前の今頃は『ごっちゃんです!!』と壮絶な打ち切り争いをしていたわけですが、今やすっかり「ジャンプ」の安定株。世の中、一寸先は闇と言うか光と言うか……。

 ──などと、1年前の今頃は郊外の寂れた電器量販店でモデムを配ってた現役高校講師がお送りする、今週の「現代マンガ時評」です。


  「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年サンデー」では次号(14号)「サンデーGAGフェスタ2005」として、
 『キングさん』
作画:福井祐介
 『やってくる!!』作画:河北タケシ
 『たまねギィィ!!!』作画:突飛
 ……の、以上3作品が掲載されます。
 まず、最初のお二人は週刊本誌デビュー済。福井さんは、昨年の「爆笑王決定戦」で“爆笑王”となって、週刊本誌04年41号で受賞作掲載デビュー。河北さんは、これまでに2度の週刊本誌を果たしています。
 唯一、今回が週刊本誌発動上となる突飛さんは、03年7月期「まんがカレッジ」で佳作を受賞し、04年秋のルーキー増刊でデビュー…という経歴を持っています。

 ……正直、増刊レビューでもないのに若手さんのギャグ作品を3つも一気にレビューするのは、かなり精神的に厳しい作業なのですが(苦笑)、まぁなんとかやってみたいと思います。
 
 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:短期集中連載総括1本&読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年12号☆

 ◎新連載『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征

 作者略歴
 1981年1月31日生まれの現在24歳
 03年8月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残って“新人予備軍”入り。その後、04年3月期「十二傑」で、今作と同タイトルの作品で準入選(十二傑賞)を受賞、「赤マル」04年夏号で受賞作デビューを果たす。更に週刊本誌04年41号にも同じく今作と同タイトルの作品を発表し、今回はこの一連の実績が認められての連載獲得となった。
 なお、新人時代は澤井啓夫さんのスタジオでアシスタントを務めていた。

 についての所見
 読み切り版の掲載された昨秋と同様に、線が見るからに粗く、未だに見た目の冴えない絵柄です。ロングショットからの人物作画などは、どう考えてもプロとして落第点の拙さですし、そういう点では「悪い意味での平行線」を辿っていると言えるのではないでしょうか。
 ただ、ネウロの顔や手など、“異形”のデザインには非凡なモノを感じさせてくれますし、アシスタント技術で培った特殊効果や背景処理も概ねソツなくこなせていると思います。松井さんは根本的に画力不足というわけでなく、得意分野と不得意分野が極端に分かれているという事なのでしょうね。

 総合的に見れば、「『ジャンプ』の週刊連載作品としては、赤点スレスレの及第」…といった辺りになりますか。
 

 ストーリー&設定についての所見
 まずは設定ネウロと弥子の馴れ初めや、弥子がネウロのペースに巻き込まれていく過程が、読み切り版に比べて随分と練り込まれていますね。読み手に与える説得力は段違いで、これはお見事でした。
 そして、画力の拙さを感じさせない高度な演出も随所で光っています。とにかく画面にアクセントとインパクトを持たせようという強い意思が誌面の端々から感じられて、大変好感が持てました。
 また、連載当初から中長期的な視点でプロットが立てられているのも、個人的には良い判断だと思います。週刊連載は読み切りと比べてページ数の制約が大きいですし、早い段階の“脱・一話完結型”はプラスになってもマイナスにはならないでしょう。

 ただ、これらの加点材料をゴッソリ帳消しにした上に、更に減点せざるを得ないのが、この作品の重要な要素であるミステリ部分のお粗末さ。読み手によって評価の分かれる部分ではあるでしょうが、これを「完成度の高いミステリ作品」と断言するのは、さすがに無茶ではないかと思います。

 まず、“事件発生→即、解決編”という流れがもたらす、ドラマ性の薄さという構造的欠陥は、今回の“喫茶店の殺人”でも露呈してしまいました。いくら特殊なタイプの作品とはいえ、ストーリー性を完全に無視しても良いという理屈にはならないでしょう。読み手の気持ちを作中世界へいざなう為にも、せめて挿話の体を成す程度のシナリオは用意して欲しいところです。

 そして、それ以上に拙いのがメインの謎解き部分……いや、これはもう既に謎解きですらありませんね。むしろ“謎造り”と言うべきものです。
 作中でネウロがやったのは、“謎解き”と称して前提条件無視の何ら証拠の無い勝手な推論を提示しているだけ。それに後から、その推論に見合った犯人とトリック、更には過去の出来事まで創造して辻褄を合わせているのです。
 これは、ハッキリ言って大反則の“後出しジャンケン”です。ミステリの鉄則とも言える“意外なトリック”と“意外な犯人”は、本来、深読みすれば真実に辿り着けるような伏線も提示した上で、それをストーリーの中でミスリードさせるように持って行って実現させるものです。この作品がやっている事は、何の伏線も無い設定を後から出して意外さを演出しているだけ。そりゃ意外ですよ、何にも無い所から突然犯人とトリックが沸いて出て来たら
 でもそれをやってしまうと、極端な話、どんな犯人でもどんなトリックでも成立してしまいますよね。極端ついでに極論を言えば、十五郎が出て来て「怪奇現象だ」と宣言しても、夜神月が毒殺に見せかけてデスノートを書いていたとしても、辻褄は合ってしまうわけです。1つしか存在しない正答を求めて思考を巡らすのが本来の“謎解き”なのに、これでは……。
 作者の松井さんは読み切り版の時に「本格的なミステリではありませんが、気軽に楽しんで下さい」という旨のコメントを残していました。しかし、読者はともかく作者が製作過程において気軽になるのはイカンと思うのですが、如何でしょうか。

 ──確かにこの作品は、巧みな設定構築と高度な演出によって、ミステリ要素抜きでもキャラクターや作品の雰囲気を楽しめるような造りにはなってはいます。ですが、やはり“謎解き”を作品の柱に据えた作品である以上、その柱がグラグラでは、作品全体の価値も大きく揺らいでしまうというものです。

 現時点の評価
 今後、ネウロが合格点を付けるような「香ばしい謎」を巡るシナリオになってどうか…という未知の魅力は残されていますが、現時点では長所より短所先行と言わざるを得ず、評価はB+止まりとなります。オリジナリティもありますので、ポテンシャルはそんなに低くないと思うのですが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 やはり巷に流れたネタバレ通りの衝撃展開となった『DEATH NOTE』いずれ行き着く所はココしかなかった…という着地点ではありますが、本当にそこに着地させちゃって良かったの? …という話のような気も。冷静に見ると、余りにも救いの無いストーリーですしねぇ。

 一方で、『アイシールド21』異様にアツい展開に。最近やや間延び気味だっただけに、結果的に物凄いメリハリがついた形になりました。本来一番冷静なキャラを心底焦らせて、読者にも危機感を伝える…というテクニックは見事ですね。
 次のプレーはゴールラインまで残り1〜2ヤード。長身ラインズマンが相手で、デビルバッツダイブもままならないこの状況、果たしてどのような逆転劇を見せてくれるか注目ですね。
 ところで、ネット界隈で「あと2秒でどうやって逆転?」…とかいう声がよく聞かれるのですが、アメフトは残り時間がゼロになっても、そのプレーが終了するまで(タッチダウン成立の場合は、トライフォーポイントのプレーまで)試合は続行されるのです。あと1秒残っていれば、最大8点まで追加出来るので、それ故に時間とタイムアウトの使い方が大変重要になって来るわけです。また、この秒単位の時間を巡る攻防が、アメフトの大きな魅力の1つでもあるんですよね。時は金なりを地で行くスポーツです。

 『武装錬金』は、カズキVSブラボーが決着。フィジカル面で足りない力をメンタル面で補完するという、熱い戦闘シーンの鉄則が貫かれているのは良かったとは思います。ただ、これだけの因縁の対決ですから、もうちょっとシーソーゲームを展開させてもバチは当たらなかったような気も……。
 まぁ連載開始以来、戦闘シーンになるとアンケート成績が落っこちる傾向のある作品ですから、作者サイドが遠慮しちゃってるのかも知れないですね。でも、それならバトルやる意義がどんどん薄れていってしまいませんかね。

 そして今週で最終回となった『未確認生物ゲドー』序盤から巻末近くの掲載順を維持したまま4クール。往年の『ノルマンディーひみつ倶楽部』を彷彿とさせるような、長期低空安定飛行でしたね。
 連載の総括としては、まず前半の“『地獄先生ぬ〜べ〜』路線”では、昔取った杵柄でソコソコ安定したクオリティを維持出来ていたと思います。ただ、後半に変なバトル物にマイナーチェンジしてしまってから、一気に迷走してしまったかなと。有り体に言って、岡野さんの“打ち切り作家級”のストーリーテリング能力が見事なまでに露呈された…と、そんな感じでしたね。
 最終評価は、画力で加点してBということにしたいと思います。

☆「週刊少年サンデー」2005年13号☆

 ◎短期集中連載・最終回総括『あやかし堂のホウライ』作画:金田達也《原案協力:藤田和日郎》

 についての所見(第1回時点からの推移)
 第1回時点と比較して…という部分では、特に申し上げる事も無いですね。もうちょっとタッチが洗練してくれれば…と思ったのですが、お師匠さんがお師匠さんだけに、まぁ仕方ないでしょう。
 ネット界隈では、「余りにも藤田和日郎に似すぎ」という意見も聞こえてきますが、まぁ原案協力にご本人のクレジットが入っている“プロディース”作品である事ですし、「故・青木雄二一門のマンガのようなもの」と解釈するのが吉だと思っています。
 

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 こちらは、正直なところガッカリさせられてしまいました。05年度最初の“大ガッカリ”です。

 設定面では、増刊版の登場人物のほとんどを引き継いだ割には、踏み込んだキャラ描写が出来ず、アヤカとホウライ以外の扱いが極めて中途半端に。特にホウライの性格描写が非常に甘く、肝心のクライマックスシーンが完全な御都合主義になってしまいました。
 ストーリーも、増刊連載版と比べて明らかに“薄味”で、最後まで週刊連載の少ページに対応し切れずに終わってしまったような……。最初のエピソードは増刊版の第1話を2話に“希釈”してしまったため、盛り上がるポイントがチグハグに。2番目のエピソード・“火走り”編にしても、余分な内容が多過ぎて、肝心のメインシナリオがピンボケ気味だったように思えました。

 藤田和日郎直伝の演出・戦闘シーンの盛り上げ方など、見所も多分にあったのですが、それも作品のクオリティを上げるどころか、何とか下げ止めるので精一杯といったところ。残念ながら、今回の短期集中連載は失敗と断ぜざるを得ません。

 最終評価
 短期集中連載版にはA寄りA−の高評価をつけていましたが、この度はフォローの余地がありません。評価はBに大幅下降修正とさせて頂きます。


 ◎読み切り『蹴闘男』作画:飯島潤

 (受講生の皆さんへ:この作品は評価Cとなりました。結果的に読み手の感情を損ねる論調のレビューになっている恐れがあります。この作品のレビューをご覧になるかどうかは皆さんでご判断下さい。

 作者略歴シェルターさんの「週刊少年ジャンプデータベース」を参考にさせて頂きました。管理人の高円寺Qさん、お気に入りの作家さんにいつも低い評価をつけてしまってすみません^^;;)
 75年6月25日生まれの29歳。
 91年若しくは92年に、当時の月例賞「ホップ☆ステップ賞」で、『必殺!! 家族戦隊家族マン!』が月刊最高得点で入賞。この作品が翌93年発売の「ホップステップ賞SELECTON」10巻に掲載され、デビュー。
 新人賞の受賞歴としては、「ホップ☆ステップ賞」92年4月期で審査員(井上雄彦)特別賞、95年4月期で佳作をそれぞれ受賞。96年上期「赤塚賞」では準入選を受賞している。
 雑誌デビューは、季刊増刊96年夏号に掲載された「赤塚賞」受賞作・『彼と彼女のヒーローと悪役な関係』。翌97年16号には本誌デビューを果たしたが、これが「ジャンプ」作家としては唯一の週刊本誌掲載となった。
 その後も「赤マルジャンプ」に98年夏号、99年春号、00年春号と3回作品を発表するが、それからは長期のブランクを強いられ、やがて「少年サンデー」へ一新人として移籍する事に。
 「サンデー」系新人としては、「まんがカレッジ」03年3月期で佳作を受賞して“予備軍入り”。翌04年に隔月増刊GW号『神様♡お手ェェっ!!!』を発表して再デビューを果たした。
 今回が「サンデー」系新人としては初の週刊本誌進出。「ジャンプ」時代を含めても、メジャー誌の週刊本誌に作品を発表するのは97年以来8年ぶりとなる。

 なお、坂本眞一さんや、いとうみきおさんのスタジオでアシスタント経験アリとの事。

 についての所見
 線はスッキリと見易いですし、アシスタント的技術も確か。10数年のキャリアは伊達ではない…といったところでしょうか。
 ただ、人物作画で大きな問題点が。正面からのアングルを必要以上に多用している上、表情とポーズのバリエーションが余りにも少な過ぎます。『ミスフル』の鈴木信也さんの絵を更に固くしたような感じでしょうか。
 特に、正面から同じポーズの似たような顔の選手が殺到するサッカーシーンなどは、ファミコン版「キャプテン翼」のような極めて微妙な光景に……。有り体に言って「見栄えのする下手な絵」になってしまっているようです。

 ストーリー&設定についての所見
 最近、特によく目にするようになった、『SLAM DUNK』系サッカーマンガですが、内容の至らなさ加減に関しては、最近ではこの作品が恐らく最右翼でしょう。10数年のキャリアを持ってしてもコレなのか、10数年経っても芽が出ないからコレなのか、ともかくも「酷い」の一言に尽きる内容でした。

 まずは設定。キャラクター設定と場面設定のほぼ全てにおいて現実感が希薄で、更にその無理っぽさを捻じ伏せるだけの説得力が皆無と来ています。
 喩えて言えば、『Mr.FULLSWING』『ぷーやん』『ハングリーハート』の悪いエッセンスだけが集約されたような設定…と、いったところでしょうか。何とも言えない相性の悪い設定群が、作品内で微妙なハーモニーを奏でて、大変な事になっています。
 その辺が端的に現れていると言えるのが、『蹴闘男(シュートゥメン)という語呂の悪い造語でしょう。サッカーというより、むしろキックボクシング選手に捧げる方が妥当な難読語のニックネームを、作中世界だけでなく堂々と作品タイトルにまで使ってしまうこのセンスには閉口させられます。

 ストーリーも、要約すれば(得体の知れない3人組が)来た、見た、勝った」で終わってしまう、カタルシスの薄い内容に終始。何の苦労も駆け引きも無く、ただ突撃プレイを掛けたら10点差をひっくり返して勝ちました、女の子にもモテました…というこのシナリオで、飯島さんは一体何を伝えたかったのでしょうか?
 そして、本来ならば、そういうシナリオを補強するために力を入れなければならないサッカーに関する描写も、この作品では完全におざなりです。各選手が一斉にボール目掛けて駆け込んで来るという、まるで小学生が休み時間に校庭でやるような試合、しかもこれを有名高校スカウトの前でやってるというリアリティの無さ。これはもう既にサッカーマンガの体を成していないと言わなければならないでしょう。 

 今回の評価
 ……というわけでして、『少年守護神』以来、久々に出てしまいました死刑宣告。今年度最初の評価Cであります。霧木凡ケンさんもそうでしたが、若手のままで変にキャリアを積んでしまうと、感性が微妙に歪んでしまうんでしょうか……。

 さて、初めて評価Cのレビューに触れて、気分を悪くされた方、申し訳ありません。今回みたいにストーリー・設定において褒める要素が全く無い場合、こういう事になってしまいます。
 これが「ラズベリーコミック賞」の表彰式なら、ちょっとはブラックユーモアのオブラートに包む事も出来るのですが、ゼミはあくまでクソ真面目にマンガ作品を徹底分析する試みなので、時々こういう救いの無い事態が起こります。こちらも好きでやってるわけではないので、どうぞご理解をば。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 『MAJOR』が今週で連載500回の節目を迎えました。まぁ色々とツッコミ所のある作品ではありますが、小学生編・中学野球編・海堂高校編・聖秀学園編・米3A編…と、長編作品6本分のストーリーを全うした上に、ここから更にもう一花咲かせようというのは、やっぱり凄いですよ。
 で、どうやら次回からは大リーグ編ではなく、野球W杯編に突入しそうな予感。なるほど、その舞台でギブソンと対決させようというわけですか。しかし、結局メジャーリーグを殆ど描かないんですね、タイトルが『MAJOR』なのに……。
 あ、あと、清水姉はミニスカ姿に色気が無いのが逆に良いと思うのですが、賛同者はいらっしゃるのかどうか(笑)。

 『ハヤテのごとく!』は、余りにもベタな天然ドジ系メイドさん登場。涙目で睨むところで萌えを誘う所なんて、本当にあざといんですが、それでも畑さんが描くと許せてしまう何かがありますね。
 これはきっと、「ベタな表現を読者が期待する通り描く能力」みたいなモノが、畑さんの脳に備わってるんでしょう。ゼニになる才能ですねぇ。

 ……というわけで、今週はここまで。先週から1本レビューを準備するのに3〜4時間かかってしまって、大変往生してます。細かい事をあれこれ考えるより、「コミックアワード」の時みたいに一気にバーッとやっちゃうのが一番だとは、大脳新皮質では分かってるんですけどね……。
 このままだと、来週もご迷惑をかける事になるかも知れませんが、どうぞ気長にお待ち下さい。

 


 

2004年度第90回講義
2月23日(水) 人文地理
「駒木博士の東京旅行記04’冬 コミケ67サークル参加挑戦の旅」(5)

  ◎前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回

 どうも、心は既に春の旅行に翔んでいってる駒木です(笑)。次から次へ旅行記の題材が貯まりつつあり、嬉しいやら大変やら。
 さて、その春旅行ですが、「ながら」の指定席券を首尾よく確保出来まして(季節柄か、コミケ前後にしては非常に入手が楽でした)、いよいよ具体的なプランを立てる段階に入っております。今回は18日の夜行で上京、途中2泊して21日の夜行で帰神というプランで、東京では19日から21日まで滞在します。
 現時点で考えてるプランは……

 ◎19日
 早朝:築地市場で朝食
 午前:松戸競輪場で日本選手権競輪観戦
 午後:(同上)
 夜間:定番・後楽園ホールでボクシング観戦

 ◎20日
 午前:閉店直前企画・「談話室滝沢」で1000円のコーヒー呑みながら優雅に読書。
 午後:雀荘「little msn」3度目の訪問
 夜間:後楽園ホールでキックボクシング初生観戦

 ◎21日
 終日:始発で出撃・コミケットスペシャル4(一般参加)

  ……と、こんな具合です。ちょっとキツめの日程になりますが、これくらい充実してるぐらいが丁度良いでしょう(笑)。どうせ一人旅ですから、日程変え放題ですし。
 宿は例の「アワーズイン阪急」です。以前にも半分冗談で提案しましたが、もし受講生さんで宿泊される方がいらっしゃったら、夜に大浴場ロビーで「湯上りミニオフ会」なんてのも面白いかも。宜しければBBS(談話室)等でお声をおかけ下さい。人数によって対応を考えましょう。

 ──と、告知をしたところで旅行レポートへと参りましょう。今回は12月28日の正午過ぎ、秋葉原駅を発った所からスタートです。レポート文中においては文体は常体、人物名は現地で実際にお会いした方以外は原則敬称略とします。


 正午を過ぎ、いよいよ暇潰しも限界に達した感。ここで一旦、ホテルのある大井町駅へ戻る事にした。チェックインは14時からだが、まず駅前の銀行で、本を売る時に必要な500円玉(釣銭)の確保をして、その後はホテル近くのブックオフを回ったりしている内に時間が来るだろう…という腹づもりである。
 秋葉原駅から大井町駅までは、JR京浜東北線で15分ほど。夜行で使った青春18きっぷがまだ生きているので、ここも当然フリーパスだ。たかが200円前後の運賃でも、1日で何度となく利用すれば、浮いた金額も結構大きくなる。
 横浜方面の電車のロングシートに腰を下ろすと、自然に大きな溜息が出た。朝の5時前に東京に着いてから7時間弱、さすがに体がキツくなって来ている。
 それもそのはず、早朝からここまでの間で、軽く4時間以上は歩いているのだ。駒木の歩行ペースは時速5キロ弱だから、単純計算で20キロほど歩いている計算になる。というか、何だ20キロって。これじゃ旅行じゃなくて行軍だ。

 15分の“小休止”は瞬く間に終わり、大井町駅のクソ長い階段を昇って外へ。まずは予定通り、駅前の銀行密集地帯へと向かう。
 ……が、ここで問題が発生。この駅前にある銀行の支店・出張所は、規模が小さくて窓口が無かったり、両替機が置いてなかったりするのである。
 漸くマシな支店を見つけたかと思えば、「両替機の使用は当行のキャッシュカードか、両替専用カードをお持ちの方に限ります」だの、「窓口での両替は当行に口座をお持ちのお客様に限らせて頂きます」だの、不躾な張り紙がしてあったりする。駒木のメインバンクは三井住友銀行。大井町駅周辺では、デパートの1階にATM数台を設置しているだけの弱小勢力であった。さすがは略せず発音すると太陽神戸三井住友銀行、神戸では強いが東京では見事に日陰者だ。
 しかし、確かに少し前から窓口での両替に手数料を取るようになって面倒になったとは聞いていた。だが、まさか両替機も“一見さんお断り”の時代になっていたとは……。
 そういや、ここ4年ぐらいは金銭を直接扱う仕事ってしてなかったもんな。ヤフーBBのモデム配りも、あれはタダでモノを押し付ける仕事だったから釣銭・両替とは全く無縁だったし。SV(スーパーバイザー)も、「お金を扱うと仕事がメチャクチャ面倒になるからね」って言ってたなぁ。
 ただ、その割には、金銭以上に扱いが面倒なはずの個人情報を平気で取り扱わせてたんだが。1人暮らしの女子大生の住所と電話番号眺めてニヤけてたスタッフを見た時は、本気で色々な意味で心配になったぞ俺は。

 閑話休題。
 そんなわけで、いきなり計画は頓挫。これが100円玉だったら、ゲームセンターだのパチンコ屋だので何とかなるのだろうが、500円玉となると銀行以外では難しい。
 とりあえずは他の銀行が無いかと電車の線路沿いに歩いてみたが、銀行を見つける前に次の駅へ辿り着きそうな勢いだったので、敢え無くUターン。大変不毛な気がするものの、先刻乗って来たばかりの京浜東北線を1駅戻って品川駅まで行く事にする。
 ところが品川駅に着いてからがまた大変だった。あらかじめコンビニで地図を立ち読みし、近くに銀行が複数ある事は確認していたのだが、やっぱり殆どがATMだけの出張所。結局、窓口で両替をしてくれる銀行を見つけるまでに小一時間歩き回る羽目になってしまった。たかが両替に、どうしてこんな……。

 やっとの事で大井町駅に戻った頃には、時刻は既にチェックイン可能な14時を過ぎていた。フラフラの足どりでホテルのフロントへ歩を進め、チェックインを済ませて二晩お世話になる部屋のキーを受け取る。
 エレベーターに乗り、5階にある客室に雪崩れ込むや、荷物を放り捨て、上着を脱ぎ散らかしてベッドに倒れ伏した。何か、もう丸一日分のエネルギーを使い果たした気分だ。朝飯食って、秋葉原で本屋を冷やかして、釣銭両替しただけなのに、どうしてこれだけ疲れにゃならんのだ。
 とりあえず15時まで伏臥し、やや気力も戻った所で最上階にある大浴場へ。やはり疲れた体を癒すには広い風呂が一番である。
 貸し切り状態でただっ広い浴槽を占有し、夜行乗車で風呂に入れなかった昨晩の分までアカを落とす。これがカルキ臭い水道水の風呂ではなく、温泉だったら言う事無いのだが、まぁ1泊5500円のビジネスホテルにそれを求めるのは筋違いというものだろう。
 客室に戻ってからは、“夜日程”訪問先であるコスプレ雀荘・「little msn」へ出発するまでの2時間、仮眠を摂る事にした。これから3日ほどマトモに寝られる見込みが全く無いため、こういう空き時間は貴重な睡眠時間にしないと体が保たない。

 そして17時過ぎ、仮眠明けの眠い目を擦りつつ逗留先を出立。またしてもJR京浜東北線で、午前中に足を踏み入れたはずの有楽町駅へ向かう。
 有楽町駅から雀荘のある東銀座まで、朝通った道を逆走する。日も暮れた銀座は活気があって、さすがは“夜の街”といったムードが漂う。
 そんな人行く街角を歩いていると、外国人旅行者の姿がやけに目に付く。それも駒木のような、カジュアルスタイルのグループが多いようだ。物価のバカ高い日本の中で、更にバカみたいに金のかかる銀座ではさぞかし居心地が悪かろうと思ったが、まぁ日本人観光客がパリのシャンゼリゼ通りを闊歩してるようなものかと思い、納得した。
 そんなこんなで東銀座まであと数分という所で時計を見ると、まだ18時前。雀荘が開くのは18時30分のはずなので、微妙に余裕がある。昼メシを抜いたので、ちょっと小腹も減っていた。……とはいえ、銀座で時間を潰すのに手頃な店など知っているはずもなく、偶然視界に入ったマクドナルドに入る。本日2回目だ。
 バブル崩壊後とはいえ、とんでもない地価には変わり無いのだろう。銀座のマクドはウサギ小屋のような狭さで、他の店にあるようなテーブルとイスは無く、スナックにあるような細長いカウンターテーブルが敷地内に所狭しと並んでいた。禁煙・喫煙の分煙なんて気の利いたサービスも無くて、満員の店内は昭和年代の喫茶店のように紫煙が充満していた。
 割引キャンペーン中のビッグマック単品とホットコーヒーをトレイに載せ、何とか空席を探して腰を下ろすと、すぐ右隣にはアジア系と思しき若者の旅行者グループが座っていた。4人グループの内、3人はバリューセットをパクついていたが、残り1人が食っていたのは何とコンビニ弁当。さっきからハンバーガーの匂いに混じって、何か変な香りがするなと思ってたら、これか。
 おいおい、と思って店員の方を見てみるが、全く意に介している様子は無い。どうやらよくある光景のようだ。まぁ、お願いしようと思っても、まず何語が通じるのかすら判らんもんな。
ちょっと短いですが今回はこれまで。次回は雀荘特集です。

 


 

2004年度第89回講義
2月19日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第3週分・合同)

 今年の「小学館漫画賞」、既にBBSの方では児童部門の『ケロロ軍曹』誤記問題で一盛り上がりしたのですが、こちらで採り上げるのをすっかり忘れておりました。
 もう皆さんもご存知でしょうが、少年部門は「週刊少年ジャンプ」連載中の『BLEACH』が、功労賞的な審査委員特別賞を『こち亀』がそれぞれ受賞となりました。少年部門の「ジャンプ」作品単独受賞は『SLAM DUNK』以来10年ぶりという事になりますね。

 そして今週になって、小学館の各マンガ誌で詳細が発表されていますが、少年部門で惜しくも落選となった“対抗馬”は「マガジン」代表『魔法先生ネギま!』と、「サンデー」代表『MÄR(メル)』だった模様です。まぁ読者の立場から有り体に言ってしまえば、“商品”色の強いマンガの中から一番“作品”っぽいモノが選ばれたのかな? ……といった感じですね。
 しかし去年のこの賞では、『鋼の錬金術師』と『焼きたて!! ジャぱん』同時受賞という、トヨタとライブドアを同じ規模の会社として扱うような非常に独特な価値観を我々に見せ付けてくれたわけですが、今回はやけに大人しい決着ですね。競争相手が同じ一ツ橋系の集英社「ジャンプ」だから意地を張らなくても良かったのか、それとも審査員のお歴々に『MÄR』の中身が余程嫌われたという事なのか。まぁどっちにしろ『烈火の炎』でも受賞を逃している安西信行さんには少々気の毒な話になってしまいました。

 ──それにしても、『ネギま!』が「小学館漫画賞」ノミネートなんて大ネタ、「講談社漫画賞」ノミネート作家・久米田康治さんなら絶対に放っておかないはずなんですが、勿体無いですねぇ……。


  「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年サンデー」では次号(13号)『蹴闘男 最強蹴球野郎列伝』作画:飯島潤)が掲載されます。
 飯島さんは元々「ジャンプ」系の若手作家さんで、デビューはなんと93年。今年でキャリア12年目、かの霧木凡ケンさんに匹敵する“万年若手”という事になりますね。
 「サンデー」への移籍が明らかになったのは、03年3月期「まんがカレッジ」での佳作入賞で、翌04年には増刊に読み切りを発表しています。勿論、今回が週刊本誌初登場です。
 「ジャンプ」時代に遡っても、週刊本誌に読み切りを発表するのは97年16号以来、実に8年ぶりとなる飯島さん。今回が間違いなく今後の作家人生を占う大舞台になる事でしょう。 

 ★新人賞の結果に関する情報

第21回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年12月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
  ・『斬』
   杉田尚(23歳・北海道)
 《大場つぐみ氏講評:2005年の現代に誰もが刀を持っているという設定にはやや無理が感じられた。その発想に説得力が有ればそのミスマッチも魅力的になるのだろうが》
 《編集部講評:画力は今一歩だが個性的なタッチ。話はまとまっているが、現代を舞台に刀で闘うというシチュエーションを上手く描けていない。設定を踏まえた演出が必要》
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『ダンジョンマスター』
   俊輔(24歳・福岡)
  ・『ブラインドブラインド』
   吉田由壱(22歳・神奈川)
  ・『銀板の横綱』
   我孫子今日太郎(26歳・東京)
  ・『ブロイラー・ガール』
   手羽先チキン(21歳・東京)
  ・『鬼人伝』
   阿部正則(19歳・東京)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の杉田尚さん…03年10月期&04年8月期「十二傑」で最終候補。04年3月期「十二傑」にも投稿歴あり。
 ◎最終候補の我孫子今日太郎さん…04年6月期「十二傑」でも最終候補。04年2月期「十二傑」に投稿歴あり。
 ◎最終候補の手羽先チキンさん…04年8月期「十二傑」でも最終候補。

 今月の十二傑賞は、3度目の最終候補エントリーの杉田尚さんがゲット。念願のデビュー権獲得となりました。
 そして今回の審査員は大場つぐみさん。画力についての言及が殆どナシという、いかにも噂になっている“中の人”っぽい講評が大変気になって仕方ありません(笑)。……まぁ原作者という立場での審査ですから当たり前と言えば当たり前なんですが。

 ★その他公式アナウンス情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」の不定期連載(長期休載中)作品『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦)の「ウルトラジャンプ」誌移籍&連載再開が、このたび同誌公式ウェブサイト上で発表されました。(公式サイト:『スティール・ボール・ラン』スペシャルコーナー※音が鳴りますので注意公式アナウンスによると、05年4月号にプロローグ編が掲載、そして5月号より本格連載開始になるとの事です。
 鳴り物入りで連載開始、一時は主力作品並のプッシュを受けていた感のある『SBR』でしたが、連載開始1年で大きな方向転換を余儀なくされる事となりました。やはり“短期集中31ページ連載の繰り返し”という形式に無理があったのか、それとも単行本の売上不振など商業的理由のためか。理由はどうあれ「週刊少年ジャンプ」読者としては残念なお話になってしまいましたね。
 物理的な事情もあって、今後は頻繁にこの作品をゼミで採り上げるのは難しくなりますが、何か大きな動きがあれば積極的にクローズアップしてみたいと思います。
 
 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:新連載1本&読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年11号☆

 ◎新連載『ユート』作:ほったゆみ/画:河野慶

 作者略歴
 
ほったゆみさん
 1957年生まれで、今年48歳になる。
 85年、「まんがタイムファミリー」にて同じくマンガ家をしている夫との合作でデビュー。87年には「ビッグコミック賞」で佳作を受賞し、「ビッグコミック」系雑誌や競馬マンガ誌でマンガ家として活動。
 98年、第2回「ストーリーキング」ネーム部門で準キングを受賞したのを機に原作者に転向。99年2・3合併号より『ヒカルの碁』(画:小畑健)を連載開始すると、これが連載期間4年半にも及ぶロングラン・大ヒット。この作品は日本のみならず東アジア各国でも人気を博し、若年層への囲碁文化の普及にも大きな貢献を果たした。
 今回は『ヒカルの碁』終了以来、1年半の沈黙を破っての新連載開始となる。

 河野慶さん
 1977年5月31日生まれの現在27歳
 99年12月期「天下一漫画賞」(現在の「十二傑漫画賞」の前身)で佳作を受賞。その翌年、「赤マル」00年春号にて、受賞作『左ききのサリー』が掲載されてデビュー。
 その後はマンガ家としてのキャリアは中断したが、ライトノベルの挿絵を担当するなど、イラストレーターとしての活動をする事もあった。今回は約4年半ぶりのマンガ家復帰作となる。

 についての所見
 高度に線の洗練された、非常に完成度の高い絵ですね。老若男女・美醜の描き分けも申し分なく出来ていますし、背景処理や特殊効果などにも一切ソツがありません。
 敢えて気になる点を探してみれば、人物の描き方にやや強めのディフォルメがかかっており、その分リアリティに欠ける点が挙げられるでしょうか。ただ、それもあくまで“個性”の範疇内と思われ、クオリティに与える影響は殆ど無いでしょう。個人的な好き嫌いを除けば、減点材料になる箇所は皆無に近いです。

 ストーリー&設定についての所見
 こちらのファクターも、「流石は『ヒカ碁』のほったゆみ」…といったところでしょうか。冒頭から抜群のテクニックによって、読み手をグイグイと作品世界に引き込んでいってくれます。
 何気ない会話や情景の描写を作中世界の設定提示へ繋げてゆく手際の良さがまず印象的。そして、やや引っ込み思案の主人公・雄斗をアクシデントに巻き込んで行く際に、アクの強い脇役・吾川を上手く触媒に使っているのも見逃せないポイントです。
 また、それに関連して、読み手に不快感を与えかねない“汚れ役”は全て脇役・端役に回し、主役格2人(雄斗&和也)の好感度を下げないように配慮出来ているのも素晴らしいです。この辺は「ジャンプ」の若手作家さんたちに是非とも見習って頂きたいところであります。
 そして、構図の取り方や演出の入れ方も憎らしいほど理に適っています。今回は本来なら単調になりがちな会話シーンが多かったのですが、それを多様なアングルからのカットを使ったり、場面転換の頻度を上げたりして適度なアクセントをつけていますね。
 まったく何でしょうか、この痒い所に手が届き過ぎるほど行き届いた手の尽くしようは。ちょっとそこらの作家さんとは次元の違う技術力です。

 ただ、今回はプロットとストーリー展開の中で、2点ばかり不自然な箇所が見受けられました
 まず1点目、雄斗が東京のスピードスケート事情について余りにも無知である事。そして2点目は吾川の言動が余りにも強引に過ぎる場面があった事です。
 これは恐らく、ストーリー内で読み手に提示する情報量を増やそうとするが余り、ストーリーと設定説明の主客が転倒してしまったために起こったものでしょう。一言で表現するなら、お話の中に作者の都合を反映させ過ぎた…といったところでしょうか。
 ただ、このキズも、果たして「作品のクオリティを大きく下げる致命的な欠陥」とまで言って良いのかとなると……。次回以降に後付けでフォロー出来そうな部分でもあるだけに、現時点で大きく減点するには躊躇を覚えてしまいますね。

 現時点の評価
 ……というわけで第1回の暫定評価は、ほったさんのテクニック面を大きな加点材料としてA寄りA−としておきます。ただ、レビュアーの価値観によって大きく評価が分かれそうな内容でもありますので、確信めいた判断は出来かねますね。

 ◎読み切り『サムライ手芸部』作画:楽永ユキ

 作者略歴
 
代原暫定デビューのため生年月日不詳。ただし、「十二傑」最終候補時の年齢から換算すると、現在26〜27歳。
 03年7月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入り。今回が代原掲載による暫定デビューとなる。 

 についての所見
 見事なまでに線が洗練され、少なくとも見た目においては大変上手に見える絵になっています。それぞれのコマを1枚のイラストと見るならば相当な水準に達していると言えるでしょう。
 ただ、今回の作品を見る限りでは老若と美醜の描き分けが余り出来ておらず、全ページを通じてどこか一本調子な感もありました。敵役をゴリラの擬人化キャラにしていますが、それも“非常に顔立ちの整ったゴリラ”であり、本質的な美醜のコントラストにはなっていません。ひょっとしたら作者ご本人もその辺を判っていて、だからこそのキャラ造型なのかも知れませんね。
 ジャンルによっては(例えば18禁系)こういう絵柄でもな全く問題無いのでしょうが、少年マンガ家を目指すならば、この点の克服も1つの課題と言えるのではないでしょうか。 

 ギャグ(及びストーリー&設定)についての所見
 「15ページ・代原」というフォーマットはギャグ作品のそれなのですが、公式には「コメディ」とあります。よって、ギャグ・ストーリー共に評価の対象とします。

 ──というわけで、様々な角度から内容を吟味した上で感じた事は、「実に中途半端な作品だな」…と。物凄く小さい風呂敷を広げかけたかと思ったら、すぐに手仕舞いしてしまったような、そんな印象を受けました。
 ストーリーは辛うじて起承転結の形を成立させただけで、読み手を感動させたりカタルシスを感じさせたりする中身の濃さは全くナシ。「コメディ」と謳っている以上は“規定ルーチン”であるギャグにしても、いくつかあったネタを具体的な笑いに結び付ける事が出来ていません。
 世界観や設定は目新しさも感じさせてくれたのですが、ここまでストーリーとギャグが弱いと、少々のオリジナリティではフォローになりませんね。惜しいといえば惜しい、惜しくないと言えば全く惜しくない、
そんな作品でした。 

 今回の評価
 評価は、「パッと見の画力で何とか読ませる」ということでB−寄りBとしておきます。ただ、画力以外の要素にもうちょっと見所が出て来ないと、「赤マル」掲載以上の展開は難しいのではないでしょうか。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 さて、今週の「チェックポイント」は、この号で連載10回となった『ムヒョ』の評価再検討からお送りします。

 ◎『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之
 旧評価:A−寄りA新評価:A−寄りA(据置)

 今回から新展開という間の悪さで、今回も暫定評価という事になってしまいました。まぁ1クール打ち切りが無かっただけでもヨシとすべきなんでしょう。
 さて内容についての話を。第5話辺りまでは確かに少ページ・一話完結型の弊害で、Aクラス評価とするには物足りないストーリーでした。が、それ以降は構成と演出のレヴェルが一気に上がり、早くも一皮剥けた印象です。藤田和日郎作品を髣髴とさせるクライマックスの“泣かせ”の持って行き方は、既に「ジャンプ」でもトップクラスの水準でしょう。
 今週からは、また別のストーリーテリング技術が求められるシナリオになっているのが気になる点ではありますが、ここまでの内容を見る限りでは不安より期待先行させて良いのでは…と思っています。
 この次は、連載20回時点で評価の見直しを実施します。

 他の作品については、時間が時間ですので今週は割愛します。“嵐の前の静けさ”的なエピソードが多かったので、敢えて今週に採り上げなくても、次号以降いくらでも語る機会はあるでしょうしね。特に『DEATH NOTE』は、ネット界隈で流れているネタバレが本物なら、とんでもないお祭りになるはずですから……。

☆「週刊少年サンデー」2005年11号☆

 ◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 今週で『KATSU!』が、やや唐突な最終回となりました。いかにも中途半端な完結のさせ方は色々な類推を呼びますが、作家さんの“格”や連載期間などから考えると、編集部からの打ち切りは考え辛いでしょう。あだち充作品としては商業的に成功したとは言い難いですし、作者サイドから手仕舞いに入ったとしても不自然では有りません。
 しかしこの作品、最後までストーリーの軸が一定せずにブレまくってましたね。純粋にボクシングを描きたいのか、恋愛を描きたいのか、人間ドラマを描きたいのか、その辺りの作者の「これがやりたい」という気持ちが読み手側に伝わって来なかったように思えました。
 で、その辺の不安定要素がインパクトの弱さに繋がり、ひいては商業的成績にも影響していったんではないかと、個人的に考えています。
 最終評価はB+としておきましょう。しかし、次回作も「少年サンデー」なんですかね?

 他の作品については、こちらも時間が無いので大幅に割愛しますが、『いでじゅう!』「初めて彼女が出来た男子高校生の舞い上がりっぷり」の微笑ましいリアリティには、自分の10数年前を思い出して身悶えました(笑)。「ビッグコミックスペリオール」の『漫歌エロチカ派』作画:相原コージ)に登場する“秘密結社”風に言えば、鳴り物・大太鼓まで引っ張り出しての大喝采です。
 こういうのは、作者本人の体験や身近な人から聞いた話がネタ元になるケースが多いと思うんですが、それにしても再現度の高い描写ですよね。実に感心します。

 ……さて、取り急ぎ…という感じでしたが今週はここまで。来週は時間がたっぷり取れますので、もうちょっと早い段階で何とかしたいと思います

 


 

2004年度第88回講義
2月17日(木) 人文地理
「駒木博士の東京旅行記04’冬 コミケ67サークル参加挑戦の旅」(4)

  ◎前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回

 お待たせしました。「コミックアワード」に労力を奪われて、気がついたら何と約1ヶ月ぶり。旅行記の4回目をお送りします。

 しかし、こうしてノロノロと年末の旅行を云々している内に、春休みの旅行の準備を進めないとならない時期に突入してしまいました。本当に月日の流れは早いものですねぇ。
 この春は、今のところ東京にコミケットスペシャル合わせで2泊5日の旅行をしようと思っており、既に宿の予約も完了しております。後は格闘技観戦、ギャンブル場来訪、美味い店巡りなどの“オプショナル・ツアー”をどれだけ組むか…といったところ。機会があれば、受講生さんたちと交流する場等も設けられれば…と思ったりもしているのですが、まぁこの辺りはまだ未定ということで。
※誤解を招かないように言っておきますが、春のコミケットスペシャルは一般参加です。夏は当選すれば評論カテゴリでサークル参加する予定ですが……。

 それでは、旅行記の続きへ。今回は28日の午前9時前、築地市場から銀座へ向かう道すがらからスタートです。レポート文中においては文体は常体、人物名は現地で実際にお会いした方以外は原則敬称略とします。


 築地市場に別れを告げた駒木は、再び銀座方面へ向けて歩き始めた。往路に利用した道と多少ズレた筋から築地を出たために多少迷ったが、最近は方向音痴なりに「大まかな東西南北さえ間違わなかったらゴールから遠ざかる事は無い」「道が判らなくなったら表札で住所を調べてコンビニで地図を立ち読みしろ」…という危機管理(?)が出来るようになっていたので大事には至らず。
 それどころかこの度は、かの竹田輪業(「水曜どうでしょう」の原付長距離走破ネタで使われたスーパーカブを買ったバイク屋)の前を偶然通りがかり、「おお、一人『東京ウォーカー』だな」…などと、番組ファンでしか理解出来ない用語を駆使して感慨に耽ったりする余裕もあった程である。

 これが少し前までの駒木だったら悲惨だった。自分の居場所が判らなくなると、直進するのが怖くて(どんどん目的地から遠ざかっている気がするから)デタラメな右折・左折を繰り返すわ、根拠の無いUターンをして目的地寸前で引き返すわで、本当にもうどうしようもなかった。何の変哲も無い郊外の一角が、駒木にとってはクノッソス宮殿も真っ青の大迷宮になってしまうのだ。京都とか札幌みたいな条坊制の都市に生まれなくて本当に良かったと思う。
 ちなみに、駒木が学生時代最も苦手意識の強かった科目は地理である。「なんだお前、地理歴史科の教員免許持ってるじゃねえか」…と言われるかも知れないが、社会科は科目の種類と幅が広いので、全科目オールマイティに教えられる人の方が稀なのだ。世界史の授業を一度も担当しないまま定年を迎える日本史の先生も結構多い。
 ……ここだけの話だが、社会科の教員に思想の偏った人が多いのは、案外こういう所から来ているのではないかと思ったりもする。世界史の勉強を怠ったまま日本史ばかり研究していると、日本という国を世界の他の国と比較対照出来なくなるので、歴史認識が主観に囚われて大きく傾いてしまうのではないだろうか。まぁよう知らんけど。 

 さて、銀座のメインストリートに復帰した後は、元来た新橋方面ではなく、逆方向の有楽町方面へと向かった。ここからは一本道なので迷いようが無い。日が明るい時間帯の繁華街特有の味気なさが全面に滲み出たビル街を歩く。昔、“コンクリート・ジャングル”なんて言葉があったが、季節柄もあって、ジャングルというより枯れ木ばかりの雑木林といった趣だ。
 ちなみに、この逆ルート選択は別にどうという事でも無く、「同じ風景を2度見たくない」という心底どうでもいい理由による。旅というモノは、とにかく新鮮味が無いと面白くないものだ。事実、最近は東海道線を鈍行で東京まで行ったり、「ながら」に乗るのも段々飽きて来ている。今だったら、むしろ新幹線で普通に移動する方がかえって新鮮かも知れない。「うわー、座席広ぇ!」とか、「速いよ、速過ぎるって!」とか、今は懐かし「電波少年」でヒッチハイクしていた芸人が久し振りに飛行機に乗った時のようなリアクションを取れる自信がある。
 やがて数寄屋橋を通り過ぎ、JR有楽町駅前へ。遠く周囲を見回せば明らかに都心っぽいのだが、ふと近くを見れば寂れた地方都市の駅ビルみたいな建物もあって、何だか不思議な気分にさせられた。駅のガード下の風景なんて、どちらかと言えば山手線というより山陽電鉄という感じだもの。
 そう言えば、この時にその前を通り過ぎた有楽町駅前の「吉野家」が、例の牛丼一夜復活デー(2月11日)のマスコミ取材用店舗になっていて驚いた。確かにどう転んでも行列が出来るであろう立地条件の店ではある。

 さて、ここまでほぼ予定通りに行程をクリアして来たわけだが、実はこれから夕方までの予定は全くの空白状態になっていた。いつもなら競馬なり競輪なりに出かけるのだが、前回のレポートでも述べたように、今回の旅行のポリシーは「コミケ以外では並ばない」だ。それを考えた場合、年末年始の混雑した公営ギャンブル場は御法度なのである。
 今から考えたら、ここから東京ビッグサイトに行き、コミケ会場の前日設営に参加していれば良かったのだと思う。見聞も深まり、鈍った体を鍛え直す運動にもなって一石二鳥だったのだ。だが、その時の駒木は情けない事にそこまで知恵が回らず、ほとんど惰性で上野・大宮方面の京浜東北線に乗り込んでいた。向かう先は……もう言わなくても判るだろう。

 

 …………

 ……………………

 

 ────秋葉原の朝は、遅い(「野生の王国」久米明調で)。
 ……と、いうわけで駒木は秋葉原に来ていた。ここで渋谷とか池袋とかいった選択肢が全く出て来ないのが我ながら悲しい所であるが、もう体に染み付いてしまった習性なので気にしない事にする。
 ただ、平日の午前9時半という時間帯に着いてはみたものの、見事なまでに、ビルというビルがシャッターで閉ざされていたのには参った。「10時頃までは開いてる店は少ないだろうな」と覚悟はしていたが、これほどまでとは。道を歩いているのはビジネスマンと、駒木と同様早く来過ぎて行き場を失くして徘徊している中国人旅行者くらいである。まったく、この界隈では、日本の標準時より2時間遅れの“アキバ標準時”が通用しているのだろうか。

 しかし、ただ立ち尽くしていても仕方ないので、運動がてら駅周辺を散策し、暇と体脂肪を消費する。最近、秋葉原に本格的なレプリカ武器・防具屋が出来たというので探してみたのだが、地図と住所を控え忘れてた事もあって発見ならず。世界史の授業のネタにでも…と思っていたのだが、まぁ仕方あるまい。
 ……と、小一時間ばかりウォーキングをし、日本標準時が10時を回ったところで、徐々に街に生温い活気が漲り始めた。改めて駅前に戻り、駅ビルの100円ショップで2日後のサークル出展に使う小道具などを仕入れた後、中央通り方面へ。
 TVゲームは随分前から卒業状態、パソコンゲームもType-moon関連しかやらず、マンガの守備範囲も原則的にメジャー系商業誌まで…という駒木にとって、実の所、秋葉原はそれほど自身の需要に即した街とは言えない。が、それでも誰の目も気にせず、“そっち系”の店に出入り出来るというのは素直に嬉しいものだ。何しろ、神戸にいたらいつどこで生徒や教え子と出くわすか判らないので非常に怖いのである。コミケカタログを買いに然るべき店へ行くだけでも、細心の注意とちょっとした覚悟が必要になって来る。教師になるという事は、そういう事なのだ(ホントかよ)。
 結局は買い物こそしなかったが、それでも中古同人誌売場では、十万単位の値がついた無名時代の武内崇さん(『Fate』『月姫』の原画担当)の同人誌という、自由主義経済の縮図のようなブツを目の当たりにするなど、なかなか意義深い見聞をさせてもらった。超プレミア・マンガ本の代表格と言えば、250万の値がつくとも言われる、『最後の世界大戦』(作画:藤子不二雄)の初版本が有名だけれども、その内にはそれ以上の値がつく同人誌も出て来るんだろうな。

 ──その後も暇を持て余し、神田方面まで足を伸ばして本屋巡りなどしている内に、気が付けば正午を過ぎていた。これで漸く長い長い旅の半日を消化したわけだ。
 空費した時間と歩き回った距離ばかりが雪だるま式に膨れ上がる不毛な旅行は、この先もまだまだ続く。(次回へ続く

 


 

2004年度第87回講義
2月12日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第2週分・合同)

 どうも、この時期になると、何故か17年前のファミコン版「ドラクエ3」発売日前後の事を思い出す駒木ハヤトです。17年前なんて、今、高校講師として駒木が授業を受け持っている生徒が生まれた頃なんですよね。そりゃ年も取るはずだなあ。

 当時駒木は小6で、発売日は平日の水曜・2月10日。当時はTVゲーム専門店自体が殆ど存在せず、ゲームといえば電器量販店かデパートの“おもちゃ売場”で買うというのが相場。予約も出来ません。
 よって子供たちは親に「ちゃんと毎日家で勉強しますから」などとマニフェストの1つでも発表してご機嫌を取り、キープしていたお年玉の残りを託して朝から駅前のデパート等に並んでもらうわけです。ちなみに駒木のマニフェストは「ファミコンは週3日、1日1時間までにする(但し、連休時等除く)でしたでしょうか。まだ高橋名人の威光が健在だった時代です。ラスボスのダンジョンに入ってからエンディングが終わるまで数時間を要する現在では考えられない話ですね。
 まぁそういうわけで発売日当日、子供たちは学校でまだ見ぬ「ドラクエ3」の話題に花が咲かせました。あの数々の悲劇を生んだ復活の呪文がバッテリーバックアップに変更される件について、かなりの希望的観測を語っていたのを思い出します。まぁ結局それは希望的観測に過ぎず、従来の「じゅもんがちがいます」に代わって禍禍しい呪いのテーマに打ちのめされる事になるのですが。
 あ、中にはごく稀に、学校をズル休みして昼頃には既にロマリアでポイズントードと激闘を繰り広げてた奴もいましたね。ですが、そういう奴は羨ましがられるわけでもなく、陰では軽蔑されていたような記憶があります。小学校はムラ社会。規律を乱す奴は自然と嫌われてしまうのです。時々呑み会等で、「子供時代に学校休んでフライングしてた話」を自慢気にする人がいますが、それはむしろ“残念・切腹系”の話なので、今後はご一考下さい。
 一方、発売日当日のデパート前も凄かったそうです。PTA総会でもこれだけ集まらんだろうという数の親御さんが整理券を求めて行列を成し、中には家族ぐるみでお付き合いしている他家の奥様の為に行列をループしまくる人も続出。コミケのシャッター前が郊外の町に出張して来たような壮絶な光景があったとかどうとか。そう言えば、東京の電気街では発売日前夜から、それこそコミケの入場待ちクラスの大行列が出来ており、朝のワイドショーなどで取り上げられて、今で言うところのフィギュア萌え族(仮)叩きによく似たニュアンスで白い目を向けられていました。
 そうやって手に入れた「ドラクエ3」に、帰宅直後から貪りついたのは言うまでも有りません。前もって発売日当日と翌日の建国記念日はゲーム時間無制限の許可を取り付けており、寝食を忘れて勤しんだものです。ちなみにパーティ4人目の女魔法使いに初恋の女の子の名前を入れるという、“結婚式の余興で「てんとう虫のサンバ」”くらいベタな真似をしたのも懐かしい思い出です。その初恋の子がコギャル時代の小倉優子みたいなイタい短大生になって同窓会に姿を現し、駒木を愕然とさせるのはそれから7年後のお話です。

 ……とまぁ、長々と昔話をしましたが、この話で駒木が一体何を言いたかったかと申しますと、「世の中変わらないなぁ。ついでに俺も」という事で(笑)。30前にもなって毎週「ジャンプ」と「サンデー」を熟読して批評までしちゃってるバカな野郎ですが、今後ともどうか何卒。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(11号)より『ユート』作:ほったゆみ/画:河野慶)が、次々号(12号)より『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征)が連載開始となります。

 やや例年に比べて時期が早いですが、今年度最初の新連載シリーズが開幕です。今回は久々の複数作品開始という事で、ヒット作連発に甘えない「ジャンプ」の積極的姿勢が窺えます。

 まず『ユート』は、『ヒカルの碁』で大ヒットを飛ばした原作者・ほったゆみさんの「ジャンプ」2作目。囲碁を扱った前回に引き続いて今回もマイナージャンルであるスピードスケートを題材にチョイスして来ました。
 一方、作画担当者の河野慶さんは99年12月期「天下一漫画賞」佳作受賞者。しかし「赤マル」00年春号で受賞作デビューを果たした後にマンガの方は休筆状態に入り、今回は実に約5年ぶりの復帰、しかも初の連載獲得という事になります。ブランクの間もジャンプノベルの挿絵を担当するなど画力には定評があるようですが、マンガの実力の程は未知数。これは注目と言えそうです。

 次に『ネウロ』は、「赤マル」→本誌で読み切り連続発表からの連載という、最近では『スピンちゃん』や『ムヒョ』と同じコースを通っての連載獲得となりました。
 読み切り版が人気を博しての連載獲得なのでしょうが、長期を通じてレヴェルの高いトリックを量産出来るかどうか、また、長期的展望に立ったストーリー展開が出来るかどうか…という課題をどう克服するかがカギになるでしょう。こちらも長期間注目しなくてはならない作品ですね。 

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(04年11月期)

 入選=該当作なし
 佳作=1編
  ・『KUGUTU!』
   板木達也(17歳・広島)
 努力賞=6編
  ・『恋の応援歌
   小川公世(19歳・鹿児島)
  ・『機械仕掛けのダンデライオン』
   川縁芳乃(14歳・三重)
  ・『ハドウ』
   中谷祐太(15歳・兵庫)
  ・『INSTANT』
   杉浦由依(21歳・東京)
  ・『オンバブの木』
   中橋隆元(24歳・三重)
  ・『桃と煙とサングラス』
   飯島浩介(26歳・神奈川)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『けつよ〜血餘〜』
   松尾星二(26歳・愛知)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎努力賞の小川公世さん03年4月期「まんがカレッジ」であと一歩で賞
 ◎努力賞の
川縁芳乃さん04年5月期「まんがカレッジ」であと一歩で賞
 ◎努力賞の
中谷祐太さん03年9・10月期「まんがカレッジ」であと一歩で賞
 ◎努力賞の飯島浩介さん「月刊少年ガンガン」02年8月号のショートギャグ企画に掲載歴あり(?)

 ……今回は10代受賞者が4名…という話でしたが、うち3名は過去にも入賞歴のある“新人予備軍”の皆さんでした。とはいえ、10代前半の身でキチンと2作目を完成させたというのも凄い事には変わり無いんでしょうけどね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:読み切り1本&新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから(←今週、少し加筆してます)。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年10号☆

 ◎読み切り『FULL COAT』作画:池田圭司

 作者略歴
 77年2月24日生まれの間もなく28歳。
 「週刊少年ジャンプ」系の新人賞の受賞・入賞歴は無く、これが「ジャンプ」デビュー。ただし、同姓同名の人物が01〜02年に「ビッグコミックスピリッツ」系の新人増刊で数回読み切りを発表しており、これが同一人物なら2年余のブランクを作っての雑誌移籍となる。
 ※「スピリッツ」系新人の「ジャンプ」移籍例としては、『アイシールド21』原作者の稲垣理一郎さんがいる。

 についての所見
 
見るからに緻密さに欠け、どうしても稚拙に見えてしまう絵柄ではありますね。各所で顔の輪郭と目・鼻・口のパーツのバランスが狂っているように、デッサン能力にやや難があると見ました。ただ、ディフォルメ表現は雑な中に技術というか、既存の作品の研究成果を感じさせる部分もありますね。
 一方、背景・特殊効果などには全く見苦しさは見られません。どうやらアシスタント歴の長い若手作家さんにありがちな画風──人物作画以外の部分だけ技術が確か──と言うべきなのでしょう。

 総合的に判断すれば、画力は「ジャンプ」では何とか及第点クラス…という水準でしょうか。

 ストーリー&設定についての所見
 まず、単なる勧善懲悪系のお話にせず、FW志望の選手がDFの適性に目覚めてゆく…という、ちょっと普通の所から視点を変えて作ったプロットは新鮮だったと思います。ライバル役も敢えてありがちな小悪人にせず、純粋にテーマをサッカーだけに絞ったのもスッキリしていて良かったでしょう。
 ただ、この試みも「目新しさを出す」という事以外にはクオリティに良い効果を与える事は余り出来なかったかな…という印象もあります。後で似たような事を述べますが、見せ場ではもっと絵で説得力を持たせるようにして欲しかったですね。今回のシナリオでは、どうしても読み手に与えるストレスとカタルシスの幅が小さくなりますので、問答無用でインパクトを与える場面がもうちょっと欲しかったです。

 あと、今回の問題点として挙げられるのは主人公のキャラ設定でしょうか。
 この作品の主人公は最近の「ジャンプ」読み切りのトレンドになりつつある、桜木花道・悪ガキ系主人公ですが、この系統のキャラクターが作品全体にもたらすデメリット──読み手の主人公への感情移入を阻害する──をフォローし切れていないのが残念です。この手の第一印象が悪い人物に魅力を持たせようとするのなら、余程の“意外な一面”を見せないといけないはずです。下手をすれば読み手が敵キャラを応援したくなる…という逆転現象が起きてしまいます。
 この作品では一応、“難病の弟を思う兄”という一面をアピールし、その辺への気遣いも見せてはいるのですが、肝心のサッカーに対する真摯な姿勢がほとんど描かれておらず(友人が「誰よりも努力してた」と一言セリフでフォローを入れたのみ。危うく見逃す所でした)、目に見えるのはオチャラケたプレーで失敗するシーンばかり。ディフェンダーとしての素質を示す伏線も明らかに不足しており、監督のセリフだけで無理矢理「そういう事にしている」ように見えてしまいます。
 先にも述べたように、もう少し絵で表現する事に神経を遣って欲しいです。絵で情報・伏線を提示し、見せ場もセリフより絵で読み手を説得するという、言ってみればマンガで最も大事な部分にもう少し目を向けては如何かと思うのですが……。プロットやストーリーの組み立てには手馴れた物も感じさせてくれますので、この辺が改善されれば随分と印象の違う作品になると思います。

 今回の評価
 評価はBとしておきます。ただ、今回は実力不足ゆえの低評価というわけではなく、作品が本来持つポテンシャルを表現する事に失敗した故の評価です。その辺を修正した次回作が描かれる事を期待します。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 一昨日のこのコーナーでも述べましたが、今週も冴えに冴えていたのが『銀魂』。こうして見ると、脚本力と演出力というのがマンガにとって如何に大事なものかがよく分かります。現状、この作品の評価はあまり高くしていないのですが、こういう話が月1〜2ペースで量産されるようになったら、A−への上方修正というのも考えるつもりです。

 そして久々の“確変”に入りそうな気配の『武装錬金』。最近はおざなりな敵キャラの扱いと物足りないバトル描写の連続で、正直どうしたもんかと思っていたのですが、漸くの復調気配です。
 しかし、いつも思うんですが、せっかく“核鉄の治癒能力”というモノがあるんですから、もっと命を削るようなギリギリのバトルをやっても良いと思うんですけどね。最近のバトルを見ていると、バトル中心のストーリーにしてはヌルい戦いが多過ぎたように思います。和月さんは上昇志向なら新人以上という人ですから、その辺も分かってらっしゃると思うのですが……。

☆「週刊少年サンデー」2005年11号☆

 ◎新連載第3回『兄踏んじゃった』作画:小笠原真

 についての所見(第1回時点からの推移)
 相変わらずマンガというよりもイラスト的な絵柄ですね。更に、人物の表情が必要以上に硬くワンパターンなため、どうにもぎこちなさが残ります。一つの“味”ではあるのですが、その“味”も余りにワンパターンでは飽きてしまいます。

 ギャグについての所見(第1回時点からの推移)
 こちらも第1回以来の問題点がそのまま改善されず残っている感じですね。ハイスパートでボケを畳み掛けるという発想は良いのですが、そのボケの1つ1つが弱い上に、それに対するツッコミが輪にかけて弱く、全編を通じてギャグのキレの無さだけが目立つ最悪の展開になってしまっています。
 今回のラストのように、ネタフリからページ跨ぎ大ゴマでオチ…といった、ギャグの見せ方に関しては技術が備わっていますので、ネタのクオリティさえ洗練されれば状況は一変するでしょう。とにかく今は、1週間という時間をギリギリまで使って、1つ1つのネタを練りに練って欲しいと思います。

 現時点での評価
 評価はB−に据え置きとします。現時点ではキャリアの浅さがモロに出ているとしか言いようがありません。この劣勢を覆せるだけの成長力が小笠原さんに備わっていれば良いのですが、今後、今以上に締め切りに追われるようになるだけに、心配の種は尽きません。

 ◎読み切り『トイレの怪人』作画:佐藤将

 作者略歴
 生年月日・年齢等不詳。
 今回が本誌初登場。当講座開講(01年12月)以降の「週刊少年ジャンプ」・「週刊少年サンデー」系新人賞、及び03年以降の増刊における掲載歴は確認できず、異なる名義で活動していない限りは、これがデビュー作ということになる。

 についての所見
 背景の描き込みやトーンに濃い色を使い過ぎ、人物作画が背景に埋没してしまう場面がいくつか見受けられましたが、画力そのものにはそれ程の問題点は無いように見えました。人物作画も整ってますし、あとはキャリアが解決してくれるでしょう。

 ギャグについての所見
 とにかく目を見張るのが言語感覚の良さ。セリフの1つ1つに工夫を凝らしている跡が窺え、大変好感が持てます。また、モノローグや擬音と絵を上手く噛み合わせる演出の上手さが全編に渡って光っていますね。もしこれがデビュー作ならば、かなりのセンスの持ち主と考えて良いでしょう。
 ただ、惜しい所と言うか、改善の余地を残す点もありました。まずはギャグのテンポが良過ぎて、ツッコミが流れ気味になってしまった点、そして話の展開が余りにも無茶で、余りの現実感の無さのために読み手を笑いに集中出来ない環境に置いてしまった点です。さすがに学校の地下に古墳を改造した便所というのは、余りにも絵空事過ぎると思えたのですが……。  

 今回の評価
 評価は欠点を差し引いてB+とします。それでも現在の「サンデー」系若手ギャグ作家さんの中ではトップクラスのセンスを持っている事に疑いを挟む余地は無く、今後の飛躍が大いに期待出来ます。今月末発売の増刊号に読み切りが載るようなので、出来次第では“読書メモ”枠ででも紹介するつもりです。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 今週のトピックスと言えば、やはり遂にカップル成立となった『いでじゅう!』でしょう。もうちょっと今の微妙な関係で引っ張るかな…と思ったのですが、間延びするぐらいなら…と、バレンタインを機に話を大きく動かして来ましたね。
 今後は“カップル成立後のラブコメ”という、少年マンガでは余り類を見ないパターンに突入してゆきますが、モリさんの実力ならその辺もソツの無いストーリーテリングを見せてくれる事でしょう。とは言っても、ここまで来たら後は円満完結のタイミングを図るだけになっちゃうんですが、せめて完結までに皮村と中山ちゃんだけは幸せになってもらいたいですなぁ。

 それにしても今週傑作だったのが『道士郎でござる』開久三高カツアゲ理論
 
何と言うか、もうこのジャイアンと青木雄二と福本伸行がミックスされたような、強烈にもっともらしくて胡散臭い論理展開がたまりません。西森さんはこのマンガを一体どうしたいんでしょう?(笑)
 そう言えば、現実にも大阪の方には学校名と制服だけでハンパな不良が逃げ出すような学校があるらしいのですが、関東エリアにもそういう学校ってあるんですかね。まぁウチのBBSがそういう話題で盛り上がってもアレなんで、大っぴらに教えて頂かなくて結構ですが(笑)。

 あと今週は『MAJOR』もマイナーリーグ編のクライマックスという事で渾身の一本でした。力勝負でバットを砕くという定番の決着も、画力が伴っているので説得力がありますし、そこに挿入されたサンダースのモノローグが良い味を出してますね。こういう、盛り上がってる所で客観的な状況の俯瞰を入れるのは個人的に大好きな表現技法の1つです。

 ……というわけで何とか「コミックアワード」で出来た時差が解消出来ました。この調子だと来週は旅行記もお送り出来そうです。それでは、また数日中に。

 

 


 

2004年度第86回講義
2月10日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第6週/2月第1週分・合同)

 「コミックアワード」後、最初の講義をお届けします。まずはその準備で遅れに遅れてしまった、先週分のゼミからです。
 先週号の「ジャンプ」「サンデー」など、既に処分してらっしゃる方もおられるでしょうし、わざわざ10日遅れでやる事は無いと思いますが、これも次の「コミックアワード」のためという事で(笑)。後々、年間総括をキチンとするためには欠番を出すわけには行かないという事情があるわけです。

 ……ところで、「コミックアワード」では2日目の表彰式が後半分翌日順延になるという不始末をしでかしてしまい、本当に申し訳有りませんでした。
 直接の理由は、新人&短編の両部門の審査がメチャクチャ難航してしまった事。表彰式内で申し上げたように、目の前に増刊号と週刊本誌の読み切りスクラップを置き、1作品読み返しては唸り、また1作品読み返しては悩み…といった具合で。
 毎年、必ず1部門は悩む羽目になるのですが、今年は2部門に跨って難航してしまいまして、本当に困りました。やっぱりこういうのって、多人数の合議・投票制にして、権利と責任を分散した方が明らかに楽ですね。権利はともかく、責任を1人で被るというのはメチャクチャなプレッシャーがありました。まぁその分楽しいという面もあるんですけどね。
 ──とはいえ、ネット界隈で話題として採り上げて頂いたのは、大抵がほぼ順当に決まったグランプリとラズベリーという理不尽(苦笑)。まぁ悩んだ両部門は正直言って小粒な印象がありましたけどね。

 ……さて、前口上はこれくらいにしまして、ゼミを始めます。ただ、1週遅れという事情がありますので、情報系の話題は週末実施予定の2月第2週分に全て回す事にします。今日はレビュー1本とチェックポイント少々の“簡易版”という事で何卒。


 ※1月第6週/2月第1週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:レビュー対象作無し

 ※7段階評価の一覧表はこちらから(←今週、少し加筆してます)。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年9号☆

 ◎読み切り『征次郎の道』作画:長友圭史

 作者略歴
 81年2月16日生まれの間もなく24歳。
 00年11月期「天下一漫画賞」で最終候補
に残り“新人予備軍”入りした後、4年間の空白期があったが、04年10月期「十二傑新人漫画賞」で佳作・十二傑賞を受賞。今回は十二傑賞の特典を行使しての受賞作デビューとなる。

 についての所見
 「十二傑」の講評で「表情がやや堅い」というコメントがありましたが、確かに細かい表情の変化を描写するのがやや苦手にしているような感じはありますね。極端から極端への変化はバッチリなのですが……。
 とはいえ、総合的な画力は明らかに新人離れしており、特に背景処理や特殊効果などは連載作家さんのそれにヒケを取らない程の出来映えでした。恐らくはこの空白期の4年間にアシスタント修行等、プロ作家としての修練をみっちりと積んでいたのでしょう。
 作品の要となる柔道シーンも、動感溢れる描写を見せてくれました。ただ、ドラゴンスクリューが明らかにドラゴンスクリューじゃないのには苦笑い。これ以外にも作品の端々からプロレスに対する認識の浅さみたいなのが見え隠れしており、柔道はともかくとして、プロレスの知識の方は「WWEにハマってます」程度しか無いんじゃないかなぁ…と思ってしまったりしました。

 ストーリー&設定についての所見
 まず、スポーツ系作品にありきたりな熱血&バカ系主人公・征次郎だけでなく、“サブ主人公”的なキャラクター・ステファンを配置したのは上手かったと思います。2人のキャラクターに目標を達成させる事で読み手に与えるカタルシスも割増されますし、ストーリーの奥深さもいくらかは増したのではないでしょうか。
 ただ、それでもプロットそのものは、単純な勧善懲悪モノ&格闘技モノ読み切りにありがちな“悪役の陰湿な攻め→主人公のハートに火が点いて一発逆転”に留まっていて平凡さ・陳腐さは否めません。また、わざわざその陳腐なプロットに落とし込むために、ストーリーラインの流れをかなり強引にしてしまっている面も見受けられます。折角の奇抜な設定が、逆にストーリーの不自然さを演出する…という勿体無い作品になってしまったようです。

 また、“メイン主人公”・征次郎の性格や行動パターンが悪い意味で主人公らしくなかったのも気になりました。悪役の設定をかなり陰湿なキャラにし、何とか釣り合いを取ろうとはしているのですが、それでも結局は“どっちもどっち”といったところに落ち着いてしまったような……。
 何しろ、クライマックスの柔道シーンを冷静な視点で俯瞰すると、「柔道に対する真摯さに欠ける自分勝手な少年が、柔道に対する真摯さの余り人間性が欠如した教師をプロレスまがいの必殺技でK.O.する」…ですからね。これでカタルシスを目一杯感じろという方が無茶というものです。
 エンターテインメント性を追求するのなら、むしろ何か理由をつけてステファンに試合をさせた方が良かったかも知れませんね。まぁそうなると題名もプロットも大幅に変わってしまうわけですが……。

 今回の評価
 絵の達者な分だけ0.5ランク加点して、評価はBとしておきます。う〜ん、何だか、“地元の特産物をふんだんに使った、見た目鮮やかな平凡な醤油ラーメン”みたいな惜しい作品でしたね。

◆「ジャンプ」05年9号のチェックポイント◆ 

 この号から『NARUTO』は第2部開始。時間を進めて違和感無く主人公の能力インフレを実現…といったところなのでしょうが、ビジュアル的&内面的にはドラスティックな変化は無いみたいですね。
 それ考えると『DRAGON BALL』の悟空の急成長(というか身長急上昇)というのは、色々な意味で思い切った決断だったんでしょうね。

 さて、この号は何と言っても『銀魂』ギャグと人情噺のバランスが非常に良かったです。最後に2人が「ありがとう」と声を重ねる所なんか、いかにも名作映画のワン・シーンでありそうな場面で、心底唸らされました。
 お登勢婆さんの若い頃の話もそうでしたが、空知さんは元々脚本がべらぼうに上手くて、演出も達者ですから、真面目にちゃんとしたショート・ストーリーを描いたら、ギャグ以上に上手いんですよね。もっとこういう“読ませて”くれる話が読みたいですね。(とか思ってたら、この次号で見事な正統派人情噺を見せてくれました。グッジョブ!)

 あと、『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』は今回のエピソードも上手く“泣かせ”のツボを押さえていましたね。読み切り版や連載当初はその辺のツボが微妙にズレていたように思えたんですが、見事に修正して来ました。連載を進める内に作家さんの技量が上がっていくというのは、見ていてとても気持ちが良いものです。

 それはそうと『いちご100%』。もうここまで来たら、淳平とヒロイン様御一行は一夫多妻制の国に移住するくらいしか丸く収める方法は無いんじゃないかと思ったりするのですが(笑)。

◆「サンデー」05年10号のチェックポイント◆

 この10号、既に次号の内容を知っている段階になると、逆に話がし辛いですねぇ。特に『いでじゅう!』あたり(笑)。
 あと、「この作品、ちょっといい話があると必ず人死にが出ますよね。今度はどうなんでしょう?」…と言いたかった『からくりサーカス』も、次号でそのまんまな展開になりつつありますし。
 そういや、今ふと思ったんですが、『金色のガッシュ!!』人死に(というか魔界強制送還)が出る呼吸みたいなものって、何となく『からくりサーカス』に似てません? さすが師弟関係だなぁ…なんて勝手に思ったりしているのですが。

 まず誌面前半で目についたのが『結界師』。今回は今後に向けてのネタ振りで、ストーリーそのものは殆ど進行が無かったんですが、その分、見た目で読者に印象付けるために至る所で思わせぶりな演出が効かされてましたね。こういう“良い誤魔化し”が出来るのは、やはり一流の才能というヤツなんだと思います。
 ……えー、その辺が今一つピンと来ない方、現在「サンデー」には『東遊記』という格好の比較対照が御座いますので、そちらと見比べて技術の差を感じ取って頂ければ宜しいのではないかと。

 あと、誌面後半で目に付いたのが『D-LIVE』。駒木より随分先に「C-WWW」さんが指摘されていたのですが、今回のロコのはしゃぎっぷりってのは、完全に“ツンデレ系”ヒロインですよね(笑)。何だこのキャラクターの破天荒な転がし方は…と思わず笑ってしまいました。
 確かに皆川さんの作品は変な所で堅物系の登場人物が意外な一面を見せるという特徴が有りますが、今回は何か別の作家さんの生霊が憑いたかのような(笑)。いや、まぁ凄ぇ面白いんですがね。

 ……といったところで、アッサリ風味で先週分の「現代マンガ時評」をお送りしました。この連休中に、今週分のゼミもやって、遅れをリカバーしたいと思います。
 あ、ニュースサイト経由で飛んで来た方も、宜しければアンテナなどに追加して頂いて、今後も暇な時にでも受講してもらえると嬉しいです。なかなか新しい講義が始まらない時は、昔のアーカイブなんかもチェックして時間を潰してもらえれば尚のこと嬉しいです。一応、過去の講義レジュメは、量だけなら京極夏彦さんの単行本1.5冊分くらい貯まってると思いますので、暇は潰せるでしょう。
 ただ、さすがにあんまり昔になると随分なクオリティだったりするので、その辺はご容赦を。若気の至りに加えて、週7回のペースで無理矢理に講義をデッチ上げていて、しかも受講者(アクセス)数が1日100人未満なのをいい事に、好き放題喋ってますので……。

 ……まぁそんなこんなで、今後とも何卒。さしあたり、また週末にお会いしましょう。


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