「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

3/31(第100回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(3月第5週/4月第1週分・合同)
3/30(第99回) 
人文地理「駒木博士の東京旅行記04’冬 コミケ67サークル参加挑戦の旅」(7)
3/26(第98回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(3月第4週分・合同)
3/17(第97回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(3月第3週分・合同)
3/13(第96回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(3月第2週分・合同)
3/10(第95回) 
人文地理「駒木博士の東京旅行記04’冬 コミケ67サークル参加挑戦の旅」(6)
3/6(第94回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(2月第5週/3月第1週分・後半)
3/4(第93回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(2月第5週/3月第1週分・前半)
3/2(第92回) 
人文地理・ギャンブル社会学「駒木博士の東京旅行記04’冬 コミケ67サークル参加挑戦の旅」(特別番外編)

 

2004年度第100回講義
3月31日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第5週/4月第1週分・合同)

 ほとんど反則ですが、日付上は月末実施……という事で、年度講義回数100回を何とか達成出来ました。今年度は公私多忙で講義回数が随分と減ってしまいましたが、ご愛顧有難う御座いました。
 来年度も、どうぞ宜しく。

 さて、本当ならこの冒頭挨拶で、「ライブドアとフジ・サンケイグループの攻防戦は、まるで『ジャンプ』のバトル系マンガみたい」という話をしようと思ったのですが、時間も気力も足りない状況ですので、また別の機会に。
 まぁ株式会社というシステム自体、『DRAGON BALL』の元気玉みたいなもんですからね。「オラにみんなのカネを少しだけ分けてくれ!」……なんか嫌なマンガになりますな。
 そうなるとスカウターで判明するのは総資産額でしょうか。なら駒木はゴミ呼ばわりされますねきっと。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(18号)『TEAM』作画:宮本和也)が掲載されます。
 宮本さんは、04年下期「手塚賞」準入選受賞者。ただし、受賞作掲載ではなく、受賞後第1作でのデビューとなります。
 最近の「ジャンプ」ではデビュー即週刊本誌掲載というケースは随分と減っていますが、今回の措置は期待の現れ…と解釈して良いのでしょうか?

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(18号)より『うえきの法則プラス』作画:福地翼)が連載開始(再開)となります。
 昨年の『DAN DOH!! ネクストジェネレーション』に続く、アニメ化に伴う円満終了作品の連載復活ですが、今回は果たしてどうなる事でしょうか。最悪の経路を辿った『DAN DOH!!──』の二の舞だけは避けてもらいたいところですが……。
 この作品については、レビューは他の新連載作品と同様に実施しますが、事実上の第二部開始という事ですので、お話しする内容は第一部からの推移を中心にしたものになると思います。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年17号☆

 ◎読み切り『ふるさとさん』作画:郷田こうや

 ●作者略歴
 生年月日は資料不足のため不明。ただし01年上期「赤塚賞」入賞時23歳なので、この春で27歳となる
 01年上期「赤塚賞」で佳作受賞その受賞作『グッドボール』が週刊本誌01年27号に代原として掲載され、暫定デビュー。その後、02年度に3度の代原掲載を経て、「赤マル」03年冬(新年)号にて正規枠デビューを果たす。また、03年度には17号、26号にそれぞれ読み切りを発表している。
 今回はそれ以来、2年弱のブランクを経ての復帰作となる。

 についての所見
 
画力そのものは、ギャグ系作家さんとしては十分合格点を出せるものだと思います。男子、女子キャラの造型も(「ジャンプ」っぽくありませんが)好感度の高いデザインで、ディフォルメ技術もなかなかのものでしょう。デビュー以来、郷田さんの絵柄をずっと追いかけていますが、以前に比べて固さが取れてきた印象がありますね。
 しかし、今回の絵はいかにも線が粗く、また背景処理がやや手抜き気味で、それで見栄え的に大きく損をしているように思われます。多分、絵コンテや下書きを描くような感覚でペン入れをしてしまっているのが良くないのだと思いますが……。

 ギャグについての所見
 ギャグの見せ方、つまりテクニック面については、こちらも合格点クラスです。単なるボケ・ツッコミは勿論、ページ跨ぎのオチ、1コマの中での複数のセリフの遣り取り、“間”で笑いを狙う手法など、多彩なバリエーションのギャグで長丁場の31ページを埋め尽くしてくれました。
 また、以前の作品の欠点だった、登場人物のキャラクターの弱さが随分と解消されており、この点も評価出来るポイントです。

 ただ、ツッコミが“ボケを説明しているだけ系”で、全般的に物足りなかったのと、ビジュアルで見せるギャグが今一つインパクト不足だったのではないでしょうか。折角のテクニックが、大きな笑いに繋げる事が出来ていなかったように思えるのです。
 特にビジュアル・インパクト狙いのギャグは、構図・演出──特にロングショットとアップの使い分けが出来ていれば、大きく印象が違ったものになったと思われるだけに、残念でなりません。

 今回の評価
 テクニックはしっかりしており、読み手によっては十分笑いを獲れる作品に仕上がっていると思いますが、駒木個人の評価としては、絵が粗かった分の下方修正も酌んでBとしておきます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 去年に色々話題を呼んだ「ジャンプ・イン・ジャンプ」が今年も登場。今週は『BLEACH』のゲームブック形式の尸魂界編復習企画と、7ページのショート番外編、そして雑多な企画諸々でした。
 番外編の誕生日話は、確か昔『シティハンター』でも同じようなエピソードがあったと思いますが、そこは演出力では「ジャンプ」随一の久保さん、キッチリと“久保流”で魅せてくれました。歌唱力のある歌手なら、カヴァー曲にもオリジナリティを持たせられるようなものでしょうかね。

 『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』は、どうやら以前の感動系ショートストーリーに回帰したようですね。大人の事情で軌道修正しかけたものを中断した…といったところでしょうか。
 今回のエピソードは、主人公2人が事務所に戻って来た…という話が中心でしたので消化不良気味でしたが、次回以降には以前の高クオリティに戻ってくれる事を期待しましょう。

 『魔人探偵脳噛ネウロ』は、ちょっととんでもない方向へ行ってしまいましたねぇ……。もうミステリ風味も何も素っ飛んでしまって、「今週の殺人鬼さん」を紹介してるだけのマンガになっちゃいました。今回のエピソード、トリックなんかどうだって良くなってますからね。
 何だか「ラズベリー」の5文字がチラつくようになって来ましたが、次号からの新エピソードはどうなるんでしょうか。こちらは楽しみというより怖いですね、様々な意味で。

 今週の『ユート』で最後に出て来た「スピードスケートじゃない」競技は、見たところショートトラックっぽいですね。ザッとネットで調べてみると、ショートトラックは北海道以外でも小学生の競技会が開かれているようです。ひょっとしたらショートトラック競技のマンガになってゆくんでしょうか?

☆「週刊少年サンデー」2005年18号☆

 ◎新連載第3回『見上げてごらん』作画:草場道輝

 についての所見(第1回時点からの推移)
 
特に大きな変化はありません。絵柄はさておき、テニスを題材にした作品に必要なテクニック等で、不足しているモノは見当たらないと申し上げて良いでしょう。
 欲を言えば、この作品オリジナルの趣向があれば……と思いますが、既存の作品によって蓄積されたノウハウや、長年のキャリアで培った構図や演出の技術を的確に活用している点は好感が持てます。 

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 今回でプロローグ的なエピソードが終了しました。メインシナリオを進行させながら、ごく自然な形で今後に繋がる伏線張りや設定の提示が為されており、この辺は「さすが長期連載経験者」…といったところでしょうか。
 ただ、そのメインシナリオが余りにも手垢の付いたものに終始したのには、やはり物足りなさが否めませんでした。言ってしまえば、平凡な若手作家さんが描く読み切り作品のような、序盤の時点で結末までの展開が読めてしまう、しかも本当にその通りの結末を迎える平凡なストーリーだったと思います。
 しかも、そんなお話を1回読み切りではなく、3週間もかけてしまったわけで、これはストーリーの密度という観点でも不満が残ってしまいました。

 結局のところ、この作品には「他に無いセールスポイント」と呼べる点が見当たらないのです。ソツなく必要最低限の水準はクリア出来ていたとしても、加点材料が無くては、「悪くない作品」ではあっても「良い作品」にはなり得ないでしょう。 
 
 現時点での評価
 評価は据え置きでBとします。
 この作品についても、第10回終了時点で評価の修正を実施します。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週はまず、連載第10回になった作品の評価見直しから。

 ◎『兄踏んじゃった』作画:小笠原真
 旧評価:B−新評価:B
(据置)

 作品の内容に変化が見られず、評価も変えようなし……という事になりました。個人的には数週間に1度くらいは笑える所もあるのですが、どのみち、その程度の頻度では厳しいですね。
 ただ、ツッコミのセリフや、一発ギャグ系のネタの見せ方が僅かながら改善されたような気もしており、それが気のせいであるかどうか確かめるためにも、あと10週経過観察してみたいと思います。

 さて、『MAJOR』は急転直下というか、これだけ長年引っ張っておいた割には簡単過ぎる幼馴染みカップル成立となりました(笑)。体育会系も行き着くところまで行くと、構造的にラブコメが成立出来ないのかな……などと考えてしまいました。この辺、『いでじゅう!』とは沢山の意味で好対照ですね。

 あと、心底どうでもいい話とは思うのですが、『ブリザードアクセル』の扉ページ、吹雪の決めポーズがゴルゴ松本の「命!」にしか見えないんですが、どうすれば良いんでしょうか?

 ……どうやら目がおかしくなっているみたいですので、今週はここまでにしたいと思います(笑)。では、また来週。いよいよ新学期が始まって公務多忙になりますが、出来る範囲で頑張ります。

 


 

2004年度第99回講義
3月30日(木) 人文地理
「駒木博士の東京旅行記04’冬 コミケ67サークル参加挑戦の旅」(7)

◎前回までのレジュメはこちらから→ 第1回第2回第3回第4回第5回特別番外編第6回

 旅行や、その後の日程調整で3週間ぶりの旅行記となりました。改めて申し上げますが、こちらは昨年末の旅行記です。コレに出て来る「コミケ」は先日のコミケットスペシャルでなくて、04年の冬コミですので宜しく(笑)。

 お待たせしている春旅行記は、冬旅行記終了後に引き続いて開始しますが、こちらもネタ満載といった感じで、今から「夏までに終わるのか?」と、戦々恐々であります。
 コミケットスペシャルの感想も、ネット界隈では既に出尽くされた印象がありますが、それでもまぁ数万人の参加者の中でもかなりレアなエピソードを仕入れてますので、どうぞお楽しみに。

 ……それでは、今回は12月29日の午前10時すぎ、りんかい線・国際展示場駅前のコミケ一般入場待機列内からスタートです。レポート文中においては文体は常体、人物名は現地で実際にお会いした方以外は原則敬称略とします。


 みぞれ混じりの雨は、いつしか雪に変わっていた。平均気温が都心部より低く、晴れていても重装備で臨まなければノックアウト必至な冬の有明。この仕打ちは不摂生と不健康が擬人化したような体にとって、非常に過酷なモノである。
 コミケにかかれば、台風だって逃げてゆく……とは、以前本当にあった話だそうだが、今年の気合の入ったシベリア寒気団はそこらの台風以上に強敵で、さしものコミケも撃退出来なかったようだ。
 ちなみに、こうしてコミケ当日に雪が降ったのは86年の冬コミ以来18年ぶり、しかも開会中の降雪は30年弱の歴史の中で初めての出来事らしい。その、18年前に雪が降った時の会場は平和島の東京流通センター大会議場で、狭い会場から溢れた人が寒さに打ち震え、降雪の中で準備にあたったスタッフも大変な苦労をしたそうだ。
 特に当時のスタッフの中には今でもトラウマになっている人もいるそうで、そんな“被災者”は、「あの平和島で雪の降った冬コミは……」という話題を持ち出すと、たちまち「やめてくれ〜」と耳を塞いで逃げ出していくという。

 ──どうして駒木がこんなに18年前の事情に詳しいかと言うと、すぐ隣の列に並んでいたベテラン参加者たちが、懐かしそうに昔話をするのを聞いていたからである。まさに歴史の語り部と言うべき人たちだが、このような含蓄のある話を聞いていても、まるで尊敬の念が沸いて来ないのは一体如何なる理由からであろうか。

 さて、時刻は10時過ぎ。徹夜組・始発組から一般参加者の入場が既に始まっており、待機列は順次ビッグサイト方面へ誘導されてゆく。とは言っても、並んでいる人数が膨大で事故の恐れがあるため、移動はある程度の人数ごと区切られた“一個中隊”単位となる。よって、待たされたり、少し移動したり、また待たされたりで、結局なかなか進まない。
 しかも不幸な事に、駒木の並んでいた“中隊”は、一度屋根つき通路の方面へ誘導された後、どうやらスタッフに存在を忘れられたようで、30分以上経っても全く館内へ誘導される気配が無い。その間、容赦なく雪と寒風に攻め立てられ、体中の体温がどんどん奪われてゆくのを自覚する。これはヤバい。放っておくと間違いなく風邪を引く状況である。一刻も早くホテルに戻って風呂に入り直したいが、ホテルの大浴場が開くのは5時間後の午後3時。進退窮まれり。寒さの余りに神の領域が見えかけた。

 が、結局は正気を保っていられるギリギリの所で漸く場内へ誘導され、安堵。少しずつ歩いているだけでも随分と気分が違うもので、ビッグサイトへ続く長い階段を昇りきり、逆三角形の建物が見えた辺りでは既に「何とかなる」と思えるから不思議だ。
 西4ホール・企業ブースから入場。その前にある屋外・コスプレ広場は荒天のため閉鎖されていた。ただ、開場されていたらされていたで、いつもと変わらない熱気溢れる会場になっていたんだろうな。特にカメラ持った人たちの熱気で。
 企業ブース内は、コミケ初日と思えない程の大混雑。既に時刻は11時を回り、開会直後のラッシュは過ぎているはずなのに、明らかに人が飽和状態になっている。雪を避けたい人が屋根を求めて屋内に集まっているのもあるだろうが、純粋に普段のコミケより人が多い感覚がした。事実、この冬コミは久々の2日間開催とあって、これまで3日間に分散されていた参加者が凝縮され、夏コミよりも1〜2万人/日多い一般参加者が訪れたらしい。(冬は夏より参加者が少ないのが普通)
 今回はType-moonの出展が無いため、とりあえず会場内を冷やかしつつ回ってみるが、売られている商品は余りにもレア過ぎて、全く食指が動かず。通りがかった「週刊少年マガジン」のブースで、持ち込み原稿の感想を述べている編集さんの顔が、隠そうとしても隠し切れない苦笑になっているのを見て思わず“もらい苦笑い”。編集部の中の人も大変だ。
 一般的な感覚からすれば、全国の腕自慢の集うコミケ会場は逸材の宝庫だと思われるかもしれない。だが、“腕自慢”である大手サークルの作家さんは、既に商業ベースで活躍中だったり、同人活動だけで既に十分売れっ子…という人たちばかり。しかも最近は同人作家のイラストレーター志向が強まっているとも聞く。そんな状況で、わざわざ編集部から作家・作品への要求の厳しい(つまり同人活動と真逆のスタンスを求められる)「マガジン」に“逸材”が原稿を持ち込むのは稀なはずである。ここ数回、「マガジン」は同様の企画を続けているみたいだが、果たしてどれくらいの実績を得られたのか、ちょっと知ってみたい気分だ。

 そして、物的な収穫の無いまま企業ブースを離脱し、階下の同人誌即売スペースへ。とはいえ、この日は女性向(いわゆる『やおい本』)中心のサークル配置、野外に列が伸びているような大手サークルに並ぶ気力も無し…という事で、“島”エリアをのんびりと巡回してみる。
 それにしても驚いたのが、『おおきく振りかぶって』の女性向サークルが急増していた事。何と言うか、トレンドの移り変わりが実にタイムリーだ。あと、「ジャンプ」系は相変わらずの大盛況。本の内容がどういった行為で大盛況なのかは余り想像したくないが、まぁ好きでなさっている事なのだから、まぁ、うん。
 それとは対照的に元気が無いのが「サンデー」系サークル。超有名作を扱うサークルは根強く手堅いが、中堅以下の作品を扱う所が少ない印象。まぁ『クロザクロ』の女性向18禁なんかあった日には、どう扱っていいか判らないわけだが(笑)。
 そんな代物見つけてしまった日には、まったく放っておくのもアレだし、かと言って「自分、マンガ評論のサイトをやってまして、夏目義徳さんからメッセージを頂いた事もあるんですよ」とか報告するわけにもいかんし、ましてや色々な意味で夏目さんご本人に言えるわけもなし。知ってる作家さんの作品のやおい本ってのは、知人の彼女の浮気場面みたいなものなんだな、とワケの判らない感想を抱いたりした。

 そんなこんなで、西館、東館への通り道にある委託コーナー、そして喧嘩売られてるのかと勘違いする程に広い東館を順番に見て回る。途中、シャッター前サークル(大手中の大手。順番待ちの列を外へ無限大に伸ばす事を前提にした配置)の前を通りすがると、机に業務用のデカいゴミ袋が2つぶら下げられているのを見かける。
 そこに何が入っているのかと思えば、何とそれぞれに万札と千円札が無造作に満載されていた。駒木の脳内で、『ラピュタ』のムスカ大佐が「見ろ、カネがまるでゴミのようだ」と言っているのが聞こえる。噂には聞いていたが、実際に現物を目の当たりにすると強烈だ。初めてこの様子を見た国税とか税務署の人は卒倒しそうになっただろうな。

 ……と、一通り回った所で午後2時過ぎ。夕方からの“夜日程”の事もあるし、それ以上に風呂に入りたくてたまらないので、未練なくビッグサイトを退出。いよいよ明日はサークル参加だ。どこをどう考えても不安が先立つ初参加だが、まぁどう転んでもネタにはなるのだし、場を目一杯楽しもう。

 相変わらず雪の降る中、早足で駅まで戻り、りんかい線で大井町まで逆戻り。時間帯が早いせいか混雑もしていない。駅の構内にある10分100円のインターネットサービスで、社会学講座の談話室に簡単な報告。しかし、我ながら公衆の面前で見易いページじゃないなウチは(笑)。会社でコッソリ見ている受講生の方、くれぐれも後方確認を忘れずに。
 ホテルの自室に戻ったら、即、部屋のエアコンを全開にしてアンダーウェアを着替え、15時になるや否や大浴場へ直行。普通に一番風呂だと思って飛び込むと、既に先客が湯船でくつろいでいた。入湯時に「ウヒョー! あったけー!」とか奇声をあげないで良かったと安堵する。と同時に、「お前も来年30なんだから、そういう事を言おうとするのも止せ」と自分を戒める。
 ……それにしても朝からコミケに行って、昼から堂々と風呂に入るなんて、コレほど贅沢な過ごし方もあるまい。社会に全く貢献せず、非生産的行為に終始し、しかも寒空の下で額に汗して働いている人を尻目に暖かい湯船に浸かって全身を脱力させる事が出来るという喜び。それも1泊たった5500円のホテルでこれを実現しているという。これが贅沢でなくて何が贅沢か。ホリエモンが六本木ヒルズに女子アナを集めて合コンを開いたと聞いても全く羨ましくないぞ。多分、ホリエモンもこちらを全く羨ましくないと思うだろうが。

 しかし、そう風呂でのんびりとはしていられない。午後4時開始の“夜日程”が待っているのだ。今度のスケジュールは去年も赴いた、プロレスの超オフレコトークライブの観覧。このために、山手線のちょうど裏側・JR大塚駅近くにある会場まで出向かなければならない。
 首都圏在住の方なら分かると思うが、大井町で3時から風呂に入って4時に大塚…というのは、かなりタイトな設定である。再び防寒具で身を包んで、骨が崩壊寸前の折り畳み傘を手に外へ。
 30分強の行程でJR大塚駅に着いた時には既に午後4時。去年の経験で、開会が10〜20分は遅れるイベントだと知ってはいたが、さすがに焦る。しかも会場の場所が去年と違っていて、場所も簡単な地図でしか確認していないのだ。
 そんな状況に、重度の方向音痴の人間を放り込んだら一体どのようになるかは、想像するに易しであろう。10分後、駒木は怪しい店が並ぶ路地裏に迷い込み、くたびれた礼服を着たオッサンに、先刻入ったそれとは全く違うであろう風呂を薦められていた

 必死の思いで会場を探り当てたのが午後4時20分過ぎ。聞くと、会場が4時を回ってからで、今イベントが始まったばかりだと言う。今回ばかりは主催者のルーズさに助けられた格好だ。
 イベントで話された内容は、2ch掲示板も含めて完全オフレコが徹底されているので割愛。全日本女子プロレスの経営者・松永一族の逸話とか、05年3月末現在で物凄いタイムリーな話も聞けたのだけれど、ここは主催者の皆さんに仁義を通しておく事にする。
 トークライブは途中休憩を挟んで、21時半まで約5時間に及んだ。ただ、去年の終了時刻は23時10分には遠く及ばず、こちらとしては「せっかく時間を気にしないで良い日なのに」という気分も少々。

 イベントが終わった頃には雪も止み、寒さも峠を越した感。晩飯をどこで食おうかと考えた挙句、ふと新宿に立ち寄ってみたくなり、そこで二夜連続のラーメン晩餐を摂って、しばし夜の歌舞伎町を散策。
 立ち並ぶ雑居ビルのテナントを見てみれば、秋に一斉摘発を受けて滅亡寸前に追い込まれたと言われる某非合法映像ソフト小売業界の販売店が、早くも看板の灯をともしていた。この逞しい復興の兆しには大いに感嘆させられた。浜の真砂は尽きるとも、世に○○の種は尽きまじ…といったところか。

 ホテルに戻ったのは、この日も日付の変わる一歩手前。本日3度目の入浴を済ませ、目覚ましをセッティングして、さてこれから晩酌タイム…といったところで、やはり疲れが一気に出て来て不意に昏倒。この旅行、不眠気味の方にお薦めです。(次回へ続く

 


 

2004年度第98回講義
3月26日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第4週分・合同)

 遅くなりましたが、旅行明け最初のゼミを行います。
 今週は旅行だの何だのと公私共に多忙で、時間が破滅的に不足しておりますので、取り急ぎ講義を進行させてしまいます。「チェックポイント」で時間調整を図るケースも出て来ると思いますが、どうか悪しからず。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(17号)『ふるさとさん』作画:郷田こうや)が掲載されます。
 郷田さんは02年に代原暫定デビューを果たした後、ハイペースで増刊、週刊本誌に読み切りを相次いで発表していた若手ギャグ作家さん。ここ1年半ほどは活動休止状態で、駒木も人知れず安否を心配していたのですが、今回週刊本誌で晴れて復帰となりました。

 ★新人賞の結果に関する情報

第13回ストーリーキング(04年末期)

 ◎マンガ部門
 キング=該当作無し
 準キング=1編
  ・『アナグマ』
(=「赤マル」05年春号に掲載決定)
   矢部臣(23歳・神奈川)
《講評:今回の応募作の中では画力の高さが目立った。また、ストーリーにも先を期待させる力があった。どちらの力にも、より一層磨きをかけ、精進して欲しい》
 最終候補(選外佳作)=5編
  ・『銀』
   八木あゆみ(19歳・東京)
  ・『アクトレス・シャトヤンシー』
   安堂友子(24歳・広島)
  ・『ヒンドランスダッシュ』
   遠藤学(27歳・東京)
  ・『リアルソウル』
   小野俊輔(25歳・茨城)
  ・『隼の守護神』
   野寺寛(24歳・福岡)

 ◎ネーム部門
 キング=該当作無し
 準キング=1編
  ・『good×badチョイス』
   栗山武史(24歳・和歌山)
 特別賞=1編
  ・『DRUMLINE』
   本寄直助(19歳・新潟)
 最終候補(選外佳作)=5編
  ・『あの空越えて』
   渡辺直樹(25歳・東京)
  ・『ブレイクシュート』
  ・『キーボーイ』
  ※2作同時最終候補
   小嶋武史(27歳・山形)
  ・『アルビニズム・ヒーロー 〜名も無き国の竜〜』
   祝ホーリー(14歳・三重)
  ・『バスケットボールホリッカーズ』
   大平平太(22歳・神奈川)

 受賞者の皆さんのキャリアは以下の通りです。
 ◎マンガ部門最終候補の野寺寛さん…02年3月期&8月期、03年1月期「天下一漫画賞」でも最終候補。
 ◎ネーム部門最終候補の
小嶋武史さん…04年5月期「サンデーまんがカレッジ」であと一歩で賞(選外)。02年には「週刊少年マガジン」の新人賞で入賞経験?
 
ネーム部門最終候補の祝ホーリーさん川縁芳乃名義で、04年5月期「まんがカレッジ」であと一歩で賞、04年11月期で努力賞。(情報有難う御座いました)

少年サンデーまんがカレッジ
(04年12月・05年1月期)

 入選=1編
  ・『YUNGE!』
(=週刊本誌、または本誌に掲載決定)
   麻生羽呂(24歳・東京)
《講評:画力やキャラ設定は高いレヴェルにある。ただし、1コマの中に複数の要素を入れ過ぎる癖のため、読み辛くなっている。ページ、コマ、見開きの効率的な使い方が欲しい》
 佳作=2編
  ・『ずっと大切な場所』
   中川将道(26歳・高知)
  ・『忍者くん!』
   小森香奈(21歳・埼玉)
 努力賞=6編
  ・『ピカ』
   高橋かず(26歳・茨城)
  ・『魔球X』
   緒方雄一(20歳・神奈川)
  ・『そうるぼいす』
   瓦龍樹(21歳・大阪)
  ・『ヤクシャ』
   松延寛(27歳・東京)
  ・『アイキュードー』
   西尾洋一(22歳・大阪)
  ・『TOKYO RUCKER PARK』
   河野洋介(26歳・神奈川)
 あと一歩で賞(選外)=該当作なし

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎入選の麻生羽呂さん…メールマガジン「まんカレ通信」の受賞者インタビューによると、「これが3度目の投稿で、前回は努力賞を受賞した」とのこと。01年11月の開講以来のデータに、麻生羽呂名義の受賞者は無く、別ペンネームを使用していたものと思われる。

 ……「ストーリーキング」は2部門とも準キングが出ました。『アイシールド21』稲垣理一郎さん以来(コアな所では中島諭宇樹さん岩代俊明さんという“原石”も出ましたが)、ちょっと「ストキン」出身者はあまりパッとしない状況が続いていますんで、ここらでドカンと来てもらいたいモンですね。
 一方の「まんカレ」は、2か月分合同の審査という事もあって、かなりの豊作になった模様。この賞の入選は、「ジャンプ」の月例賞では佳作か十二傑賞と同等の水準なので、過度の期待はアレかも知れませんが、受賞作紹介のカットを見る限りでは即戦力級の画力が期待出来そうで楽しみです。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:新連載第3回1本&読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年16号☆

 ◎読み切り『RARE GENE4』作画:夕樹和史

 作者略歴
 79年生まれで今年26歳。誕生日は非公開。
 00年12月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。翌年、「赤マル」01年夏号にて『福楽木町怪盗奇話』を発表し、デビューを果たす。
 その後、「赤マル」には02年春号にも作品を発表したが、その後今回に至るまで3年のブランクを経験。
 この復帰作は勿論、週刊本誌初登場。

 についての所見
 線が全般的に細い上に洗練されておらず、見た目に雑だと感じる絵柄ではあると思いますが、キャラクターの描き分け、動的表現などはソツなくこなせており、画力そのものには問題は無いと思われます。ただ、背景の描き込みが甘い部分が随所で見受けられたのが残念でした。
 問題点としてはディフォルメ表現の使い方というか、その認識が、いわゆる商業誌(プロ)のスタンダードなマンガの文法から大きく外れている所ですね。簡単に言うと、ディフォルメを、使う事が表現上好ましい場面で使うのではなく、作者が使いたい所で好き勝手に使っているだけ…という所が頂けないかなと。読み手がこの違和感を受け入れるためには、相当の度量と労力を強いる事になると思います。

 ストーリー&設定についての所見
 後で述べるように、根本的な部分を間違ったライトノベルのようなノリのお話でしたが、プロットそのものは結構練られているのを感じます。駒木ぐらい若手・新人読み切りを無駄に読み込んでいる人間にとっては、多分に“「ジャンプ」若手読み切りフォーマット”的な段取り臭さを感じますが、その段取りをキチンとこなせている事を評価すべきでしょう。
 ただ、そのプロットを充実させるためのエピソードが貧弱だった事は否定出来ません。やたらと軽いノリのギャグ・コメディは、本来必要であったドラマ性を殺いでしまい、単なるページの穴埋めに終始した感がありました。また、大きな“盛り上げ処”であったはずの、回想シーンと最後の“擬似超サイヤ人化”シーンの脚本と演出に工夫が見られなかったのも不満です。

 そして、先に少し述べましたが、キャラクターや世界観の設定についても、必然性の欠けた過去作から取って付けたようなモノが多かったように思えます。特に、主人公側が義賊をやっている事に対する動機付けが非常に甘く、読み手がなかなか主人公に感情移入出来ない状況が生まれてしまったのでは……と思います。

 今回の評価
 画力・プロットの完成度が及第点以上に達していますし、評価はギリギリでBとしておきます。作品のクオリティそのものより、読者に対して「この作品を好きになってもらうにはどうしたら良いのか?」という意識が希薄である…という印象が強かったです。
 実はこの作品、東京旅行中にお会いしたとある方からお薦めを頂いた作品なんですよね(苦笑)。こういうニュアンスでレビューをするのは非常に心苦しいのですが、レビューは自分が設定した評価基準を厳格に守らないと成立しませんから、「ご容赦下さい」と申し上げるしかありません。好き勝手にモノを言うのも大変です(笑)。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週は時間の都合もあって『武装錬金』のみピックアップ。
 作者側主導でシナリオを手仕舞いにかかるという、この作品では何度となく見た光景にまたも突入しつつあるのが、読んでてちょっと辛いですね(苦笑)。本当、この作品は盛り上がらない戦闘シーンが色々な面で悪影響を与えていて、それが大変にもどかしいです。
 あと、駒木はこの作品のコメディ部分は高く評価しているのですが、今回ぐらいシリアス度の高い展開で能天気にギャグを連発されると、さすがにどうかなという面も。人気狙いなら、ここではギャグよりもストロベリーを提案したいのですが。
 まぁでも、戦士・毒島の余りにも分かり易い“素顔美少女”伏線は良し! 何だか知らんがとにかく良し! 
 ……これで意表を突いて素顔がアレだったら、『H×H』のビスケの一件みたいな話になるんでしょうが、さすがにそこまではやんないでしょうね。やる必要全く無いし(笑)。 

☆「週刊少年サンデー」2005年17号☆

 ◎新連載第3回『ブリザードアクセル』作画:鈴木央《第1回時点の評価:B+

 についての所見(第1回時点からの推移)
 特に述べなければならない…というような点はありません。競馬用語で言うところの「良い意味での平行線」ではないでしょうか。
 ただ、紙質の悪さのせいか、線が雑っぽく見えるのも相変わらず。この辺り、掲載誌をチェックしながら少しずつ修正してもらえればと思います。

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 第3回で主人公以外の主要登場人物をクローズアップし、シナリオに幅を持たせるための気の利いた試みが為されていますね
 バレエとフィギュアスケートの融合…という発想もオリジナリティがあって、なかなかのものだと思います。意地悪な見方ですが、競技人口の少ない種目を題材にする事によって、誇張した表現などでリアリティを欠いた場面をを目立たなくする効果も得られるでしょう。
追記:受講生さんから「フィギュアスケートとバレエは、そもそも密接な関係を持っている競技であり、それで『オリジナリティがある』とは言えないのではないか」とのご指摘を頂きました。駒木の知識不足から誤った解釈をしてしまった事を認め、お詫びします。
 該当箇所を「フィギュアスケートをバレエと絡めて描かれた作品は、少年マンガとしては珍しいと思いますので、目新しさという点では高く評価できますね」と修正させて頂きます。評価の変更は行いません。

 ただ、主人公・吹雪のキャラ設定が少々変わり者過ぎて、主人公らしくない(=読者の支持を集め辛い)面があるのは否定出来ないところでしょう。天然ボケ系の主人公は頻繁に見受けられますが、そのコントロールを失敗して連載も失敗する…というパターンも結構ありますので、今後とも気をつけて欲しい要素では有ります。
 また、マイナースポーツ物には欠かせない、題材となるスポーツの魅力を読み手にアピールするための工夫が余り感じられないのも気になります。冠茂編集プロデュース作品のように、あんまり説明的なアピールをされてアレですが、フィギュアスケート競技について、読者の興味を引く部分をもっとアピールしてもバチは当たらないと思います。

 現時点での評価
 評価は若干の上方修正として、A−寄りB+とします。マンガとしては随分と内容の濃い作品になりつつありますが、まだ“フィギュアスケート物”としては物足りない部分も残っていますので、Aクラス評価は見送った次第です。
 次回の評価変更は、例によって第10回終了時点にて行います。

 ◎読み切り『父さんとオモチャ達』作画:クリスタルな洋介

 (受講生の皆さんへ:この作品は評価Cとなりました。結果的に読み手の感情を損ねる論調のレビューになっている恐れがあります。この作品のレビューをご覧になるかどうかは皆さんでご判断下さい。

 ●作者略歴
 生年月日は不詳だが、新人賞入賞時の年齢から計算すると、現在24〜25歳
 04年にギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で最終候補に残り“新人予備軍”入り。04年9・10月期「まんがカレッジ」でも佳作を受賞。今回がデビュー作となる。

 についての所見
 普通に普通のイラストを描けば、それほど下手な作家さんではないと思うのですが、今回の作品の絵はとにかく見辛かったです。上手・下手以前に不特定多数の人に見てもらうような絵になってない、といったところでしょう。
 構図の取り方、陰影の処理、トーンの使い方、ディフォルメのさせ方など、全ての表現技法が絵を見辛いモノへと誘導しているような気がしてなりません。何がどう描かれているか判別し難いというのは、マンガの記号としては致命的な欠陥と言わざるを得ないでしょう。

 ギャグについての所見
 こちらについても、根本的な欠陥を指摘しなければならないようです。
 このマンガ、形式としては巷によくある、「変な人が変な事をする様子を描いて笑いを誘う」タイプの作品なのですが、この中の「変な人が変な事をする様子を描く」という“手段”が、本来の“目的”である「笑いを誘う」に全く繋がっていません。
 いくら違和感が笑いの根源とは言え、ここまで“違和”が突き抜けてしまっては、笑うどころじゃない…といったところ。まるで全く別の文化の国か星で描かれたマンガのような気がしてしまいました。

 何と言うかこの作品、変な人が変な事をする様子だけが淡々と描かれている…という、とんでもないマンガになってしまってますよね。アレな病院に強制入院させられそうなアレな人が好き放題暴れまわっていて、それを周囲が静止する事も出来ずに途方に暮れている物語。これでは笑うどころかドン引きじゃないでしょうか。

 ギャグが全く描かれていないギャグ作品となれば、これは白紙答案も同然。評価としても、真っ白なページを眺めた時と同じ点数を付けざるを得ないでしょう。
 
 現時点での評価
 
……というわけで、絵もギャグも救いよう無しで、評価は文句無しの。さすがにこの作品は一切のフォローのしようがありません。
 積極的にギャグ系作家の“ダイヤの原石”を発掘しようと頑張っている林編集長就任後の「サンデー」ですが、こういう石ですらない物も売り物にしようとされては困ります。せめて最低限度の判別だけは済ませてから雑誌に掲載させて欲しいと願うばかりです。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 先程、「ジャンプ」のチェックポイントで、『武装錬金』のシリアスな場面におけるギャグの挟み方についてお話をしましたが、『金色のガッシュ!!』ウンコティンティンについても、個人的には「どうなのコレ?」…といったところでありました。まぁ、こちらは純粋なギャグとしても十分面白いので、それはそれで良しという話ではあるのですがね(笑)。
 しかし、「サンデー」が誇るお子様向け作品で、言葉責めと羞恥プレイとは、マンガという表現媒体はどこまでも奥が深いですなぁ。この調子で、「全ての『サンデー』連載作品のヒロインに『ウンコティンティン』と言わせるぞ大会」みたいなのを開いて頂きたく……と、何だか周囲から突き刺さる視線が痛いので、これ以上は止めておきましょう。

 ところで、ミズノと『MAJOR』がタイアップしたり、桃屋と『ジャぱん』がタイアップしたりと、まるで制作費節約のために宿泊先のホテルとタイアップする大阪ローカルの深夜放送みたいな最近の「サンデー」。今週はセガと『ハヤテのごとく!』がタイアップする事になりました。
 ただ、この作品が他の2作品と違うのは自己防衛のためのタイアップというところですよね。「死せる『ときメモファンド』、生ける『ムシキング』を走らす」といったところでしょうか(笑)。いや、「ときメモファンド」は死んでませんけど(自己防衛)。頑張れ、コナミ!(自己防衛)
 いや、それにしても、あの「ときめきメモリアル・オンライン」、あれじゃあまるで出会い系サ…うわ、珠美ちゃん何をするやめ………

 

 ──突然失礼しました。講座助手の栗藤珠美です。諸般の事情により、駒木博士にはチョークスリーパーで眠って頂きました。ちょっと泡を吹いていますが、これも生きている証ですのでご心配なく(微笑)。
 大変僭越ながら、この場は駒木博士の代理として、受講生の皆様に講義締め括りの挨拶を務めさせて頂きます。次週はまた、旅行記とゼミをお届けする予定です。では、失礼致します。

 


 

2004年度第97回講義
3月17日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第3週分・合同)

 昨日までの1泊旅行の疲れがまだ残っていて少々ヤバいのですが、最低限のノルマだけでも…ということで、今週のゼミを実施します。
 しかし今週は、「忙しい時に限ってレビュー対象作品が増える」というジンクスが発動し、「ジャンプ」で代原2本掲載という頭の痛い事態になってしまいました。『ミスフル』の場合は、作家さんが喘息持ちだそうなので、これは致し方ないのですが、タイミングが……。

 レビューの質が荒れてしまわないよう頑張りますので、最後までどうか何卒。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(16号)『RARE GENE 4』作画:夕樹和史)が掲載されます。
 夕樹さんは、00年12月期の月例賞で最終候補に残って“新人予備軍”入りし、01年夏と02年春の「赤マル」に読み切りを発表している若手作家さん。今回は3年ぶりの「ジャンプ」登場にして、初の週刊本誌登場となります。
 02年春号に掲載された作品の出来は…………、と言葉を濁してしまいたくなるレヴェルでしたが、さてこの3年でどこまでスキルアップが成されているでしょうか。

 ◎「週刊少年サンデ−」では次号(17号)『父さんとオモチャ達』作画:クリスタルな洋介)が掲載されます。
 この作家さんは、「爆笑王決定戦」最終候補、「まんがカレッジ」04年9・10月期に佳作受賞という経歴がありますが、今回がデビュー作。随分と若手ギャグ作家さんの発掘に力を入れている様子の林新体制「サンデー」ですが、またしてもデビュー即本誌掲載の新人さんが登場となりました。

 ★新人賞の結果に関する情報

第22回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年1月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
  ・『DRUG BOY』
   小林マコト(22歳・山梨)
 《空知英秋氏講評:画力が高い。ストーリーも描けているが、主人公のキャラが弱く印象が薄い。何か1つ“とっかかり”が欲しい。キャラを作りこむ意識をもっと高く。》
 《編集部講評:絵は評価出来る。しかし設定が説明不足で、その設定ゆえの面白いエピソードが欲しい。また、話の印象が暗すぎるので、何か明るい要素も》
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『件名666』
   木村吉見(24歳・東京)
  ・『SPIRITUAL PEOPLE』
   松本直也(22歳・東京)
  ・『うぐいす改』
   船津雄史(20歳・大阪)
  ・『大正鬼族』
   西島賢一(24歳・埼玉)
  ・『ANDROID FRIEND』
   肥田野健太郎(18歳・新潟)
  ・『ダイレクトッ!』
   坂本充祥(25歳・東京)
  ・『リオのサーカス』
   高橋良幸(22歳・埼玉)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の小林マコトさん…04年5月期「十二傑」で最終候補。
 ◎最終候補の船津雄史さん…01年5月期&02年3月期&03年3月期「天下一漫画賞」、および03年9月期「十二傑」で最終候補。04年1月期にも投稿歴あり。

 
◎最終候補の肥田野健太郎さん…04年6月期「十二傑」にも投稿歴あり。
 ◎最終候補の坂本充祥さん
…04年7月期「十二傑」にも投稿歴あり。
 ◎最終候補の高橋良幸さん…03年4月期、04年6月期、04年9月期「十二傑」にも投稿歴あり。

 今月の審査員は空知英秋さん初めての審査という事もあってか、非常に詳細で力の入った講評が大変印象深かったです。
 それにしても、いくら文字数を確保するためとはいえ、句読点を省略したり、敬体(です、ます)を一部常体(だ、である)に転換させたりの力技には、ちょっと苦笑い。でも、そこまで熱心に講評をしてもらって、投稿者の皆さんも幸せですよね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…4本
 「ジャンプ」:読み切り3本
 「サンデー」
:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年15号☆

 ◎読み切り『斬』作画:杉田尚

 作者略歴
 81年6月28日生まれの23歳。
 03年10月期の「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。その後、1年余りに及ぶ投稿生活の末、04年12月期「十二傑」で十二傑賞を受賞。今回は、同賞の特典である受賞作掲載&デビュー。

 についての所見
 
プロフィールページのカットや扉絵を見る限りでは、得意な構図の一枚絵はソコソコ“見れる”ようですね。ただ、残念ながらマンガの絵としては技術が全く足りていないという印象です。
 まず全体的に線のメリハリが効いておらず、背景に人物作画が埋没気味。その人物の造型も、リアル風とマンガ風がどっちつかずになっていて違和感が否めません。
 特殊効果・背景処理に関しても至らない部分が多いようです。動的表現こそ見苦しくないように出来ているとは思いますが、遠近感のズレた構図と背景作画は見辛くて見栄えが良くありません。
 あと、全ページを通じてトーンに頼らないのは一向に構わないのですが、数少ないトーンを使った場面を見る限りでは「使わない」のではなく「使えない」ようにしか見えないのは頂けません。この辺りは、今後アシスタント経験を積むなりして、みっちりと鍛えこむべきでしょうね。

 ストーリー&設定についての所見
 まずストーリーについてですが、辻斬り犯人のドンデン返しも含め、かなり手垢の付いたプロットではありますが、まとまってはいます。新人賞の応募作品という事を考えると、これくらい背伸びしない方が良いのかも知れないですね。
 とはいえ、そんなストーリーも、脚本と演出の拙さですっかり台無しに。モノローグは必要以上に説明的なのに、肝心な部分に限って説明が足りていない印象です。バトルシーンも、戦闘に関する駆け引きに乏しい上にセリフも工夫の無い“ゴルァ系”一辺倒では……。
 
 あと、「十二傑」の講評でもありましたが、“現代でも帯刀を許された社会”というメイン設定、これに説得力が全く無かったのもマイナスでしょう。「何故、危険を圧してでも刀を持たなければならないのか?」…という疑問に答えられるだけの理由付けがあると無いとでは、世界観の完成度は大きく違って来るはずです。 

 今回の評価
 評価はB−。今回は課題は山積といった内容でした。とりあえずは、早い内に実力のある作家さんのアシスタントに就いて、技術習得に励んだ方が良いと思われます。

 ◎読み切り『ハピマジ』作画:KAITO

 ●作者略歴
 作者ご本人運営のウェブサイト掲載のプロフィールによると、1984年8月15日生まれの現在20歳
 同人活動を経て、03年より「ジャンプ」への投稿活動を開始。04年4月期「十二傑」で最終候補に残って“新人予備軍”入りし、週刊本誌04年48号にて代原暫定デビュー。

 についての所見
 「ジャンプ」のギャグ系新人さんには珍しい、スッキリと洗練された絵柄が相変わらず印象的です。画力そのものも、正式デビュー前の新人作家さんとしては相当の高水準と言えるでしょう。
 人物の描き分けやディフォルメについても、バリエーションがやや少ないものの、コントラストがハッキリしていて高い効果を挙げています。陰影を上手く使った表現も良いですね。
 前作で指摘した背景の密度についても、白さが目立たないようになって来ています。欲を言えばモブ(群集)をもう少し真面目に描いて欲しいのですが、まぁこれに関しては、つの丸さんという“先駆者”がいらっしゃいますので、減点材料にする必要はないでしょうね。

 ギャグについての所見
 前作に比べて、更にギャグのスキルも上がっているようですね。“間”で笑わせるギャグは相変わらず健在で、今回は更にギャグのテンポが良くなり、大ゴマの使い方にも進歩の跡が窺えます。冒頭で登場した巨大消しゴムが、後々に伏線として効いて来る辺りは実に気が利いていますし、セリフ回しも巧みになって、ツッコミも冴えるようになっていました。
 惜しむらくは、冒頭の3〜4ページでギャグの密度が薄く、“掴み”があまり上手くいっていなかった点でしょうか。やはり冒頭に一発大きめのをカマせるかどうかで、作品全体のクオリティも随分と違って来ますからね……。 

 とはいえ、実力的には既に代原作家の域を超えており、「ジャンプ」系若手ギャグ作家さんの中でも、5本の指には入る逸材と申し上げて過言ではないでしょう。このまま連載を狙っていってもらいたい逸材の1人です。

 今回の評価
 評価は思い切ってA−を出しましょう。作者ご本人のウェブサイトによると、どうやらこの『ハピマジ』シリーズがこれが最後だそうですが、次のシリーズで是非、正式デビューと連載を目指していってもらいたいです。

 ◎読み切り『肉ガリ ─NIKUGARI─』作画:大江慎一郎

 ●作者略歴
 1981年10月11日生まれの現在23歳
 02年4月期「天下一」で最終候補に残り“新人予備軍”入り。2年半のブランクを経て、「赤マル」05年冬(新年)号にて『メガネのベクトル』でデビュー。今回はデビュー作以前の習作原稿が代原として掲載された模様。

 についての所見
 デビュー作以前の作品なので仕方ないですが、やはり全体的に線が粗く、随分とゴチャついた印象があります。背景処理も、やや雑な斜線や集中線が目立って見栄えが良くありません。
 あと、表情の変化に意外とバリエーションが少ないのも気になった点ですね。ディフォルメも余り効いていませんし、絵のクオリティは物足りない水準に留まってしまっていると言わざるを得ないでしょうね。

 ギャグについての所見
 全体的に観て、問題点が目立つ作品です。

 まず、ページ数の割にネタの絶対数が少な過ぎます。終盤に、ほぼ2ページギャグ無しという場面がありましたが、これは勿体無さ過ぎでしょう。
 次に、肉体や肉そのものをギャグのネタにするのは良いとしても、ネタの掘り下げ方が甘いので、上手く笑いに繋げられていない感がありました。もっと、普通の人と肉ガリのギャップを徹底して追求するとか、工夫がもう少し欲しかったですね。
 そして、ギャグのテクニック面では、ツッコミがやや甘かったように思えました。デビュー作のボケっ放し・ツッコミ無視のオンパレードよりは随分マシでしたが、ボケた所を指摘するだけでなく、ツッコミそのもので笑いを取れるようになれば、もっと内容も充実して来ると思います。

 今回の評価
 評価はB−としておきます。今回はデビュー前の習作ですから仕方ないにしても、次までこれと同じレヴェルでは、前途は厳しい事になりそうです。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 『アイシールド21』では、相変わらずの密度で新キャラ紹介と、インターミッションのプロローグを1回に納めてしまいました。新キャラ・陸なんて、かなりな後付け設定なんですが、これを違和感無くまとめてしまう力技はさすがです。
 さすが、と言えばラストの悪魔版・まも姐さんですね。素のキャラとのギャップを利用してインパクトを生み出すのは、ストーリーテリング上のセオリーなんですが、それを完璧にやっちゃってます。次号は面白いモノが見れそうですね。

 『ONE PIECE』は、漸く全ての主要な設定・伏線が揃ったようですね。それにしても大きな風呂敷を広げる作品になっちゃったもんです。それでも、とにかくシナリオの完成度が高いので、ほとんどケチのつけようが無いんですよね。
 このまま行くと、ルフィ一行から離脱したウソップとニコ・ロビンも、本人さえ望めば復帰も出来そうな感じですが、さてどうなるんでしょうか。

 さて、先週辺りから、『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』では、第三者に解説させて主人公の能力の高さをアピールする…というパターンが多用されているのですが、これが余りにもわざとらしくて少々閉口。作者の西さんは、そういうのが上手い作家さんのアシスタントを務めていたはずなんですが……。
 最近思うんですが、西さんって、意外と「ジャンプ」っぽいバトル描写は苦手なんでしょうかね? 人情噺やっていた頃と脚本が随分とぎ
こちなくなっているのが気になるところです。 

 最後は『ピューと吹く! ジャガー』……の読者企画・『ピューと吹き出す! ジャガー』の方を。すいません、ヒネクレ者で(笑)。
 でも入選した3作品とも、やたらとレヴェルが高くて笑うやら驚くやらなんですよね。特にツッコミがどれも秀逸で、「売れない若手ギャグ作家さんは、これ見て勉強しなさい」と言いたくなるくらい。こういう猛者を相手にしなくちゃならない「ジャンプ」作家さんは大変ですね。

 
☆「週刊少年サンデー」2005年16号☆

 ◎新連載見上げてごらん』作画:草場道輝

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 1971年1月1日生まれの現在33歳
 「週刊少年サンデー」公式サイトによると、デビューは月刊増刊の97年6月号
 週刊本誌では99年35号から04年14号までファンタジスタ』を長期連載。また、02年2・3合併号と04年37号には、サッカー選手の実録モノを手がけている。

 についての所見
 確かな経験と技術に裏打ちされた、完成度の高い絵柄である事に疑問を差し挟む余地は無いと言って良いでしょう。今回は“専門外”のテニスが題材ですが、今回に限って言えば、実戦シーンもソツなくこなせているように見えます。
 ただ、いつまで経ってもアカ抜けない画風は、やはり読者を選んでしまうでしょうね。「好き・嫌い」というよりも、「普通・嫌い」が分かれる絵柄ではないかと思います。

 ストーリー&設定についての所見
 こちらのファクターについても、積んだキャリアがそのまま作品の完成度に繋がっているのではないかと思います。冒頭で主人公の周辺環境や人物像がスムーズに把握出来るように配慮が成されているのは、さすがです。
 とはいえ、シナリオと主要設定のことごとくが、既存の作品、特に若手作家が描く読み切り作品で、いかにもありがちなモノ──他のスポーツ出身の選手が、その別のスポーツで培った才能を活かして非常識で痛快な活躍をする/メンタル面の弱さが響いて実力を発揮できない脇役が主人公の助けを借りて才能を開花させる/悪役が如何にも「主人公に倒されるために出てきました」的な小悪党だったりする──ばかりだったのは、如何なものでしょうか。正直な所、随分と陳腐で安っぽいお話になっちゃったなぁ…といったところです。

 今後しばらくの内に、どれだけ「この作品ならでは」という新機軸を打ち出せるかどうかが、成功か失敗かの分岐点になってゆくのではないでしょうか。逆に言えば、今のままでは誌面の後半で“その他大勢”として埋没していく可能性が極めて高いと思われます。 
 
 現時点での評価
 基本的な部分はキッチリ出来ていますのでB評価としておきます。ただ、これは「面白い、面白くない」とは別物の評点です。
 ……それにしても、剣道が絡んでいるところといい、『旋風の橘』に出て来たような髪型の新入部員が出て来たところといい、何だか前編集長の残留思念のようなモノを感じる作品ですね(苦笑)。聞いた話によると、ストーリー系の新連載作品は、この作品までが三上体制時代に企画されたものらしいですが……。


◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 さて、今週の「チェックポイント」は、『あおい坂』の評価再検討からお送りします。実は先週で10回になっていたのを失念してたんですが(苦笑)、今回で1回戦が終了したという事で、ちょうどキリが良くなりました。

 ◎『最強! 都立あおい坂高校野球部』作画:田中モトユキ
 旧評価:A−新評価:B+

 今回で1段階の下方修正となりました。
 評価ダウンの最たる理由は、「作品の端々から漂う大雑把さ」です。試合シーンの構成にしろ、人物の内面描写にしろ、余りにも緻密さに欠ける印象があり、Aクラス評価を下すにはクオリティ不足…という判断をしました。
 特に試合シーンは、(1球単位ではなく)1打席単位で組み立てられた試合展開を、あらかじめ想定した通りにただなぞっているだけに見え、一本調子に感じました。これはあおい坂チームの初期能力が高く設定され過ぎている事もあるのでしょうが、芸の無いパワーゲームだったように思えます。
 あと、これはどうしようも無い事ですが、この作品は余りにも出た時期が悪かったですね。この作品の足りない所を全て兼ね備えた『おおきく振りかぶって』という偉大な存在が、同時代に鎮座しているわけですから。

 なお、この作品については、とりあえず今回で評価確定とします。今後は大きくテコ入れが入った時などに限って評価の見直しを行います。

 ……あと、今週は色々と言いたい作品も多いのですが、また皆さんの心をザワつかせるのもアレですから、心から良かったと思えた『結界師』をピックアップ。戦闘シーンのモンスターデザイン・駆け引き描写・演出等全てがビシッとハマり、非常に見栄えしていて実に良い感じです。
 画力のある作家さんというのは、結構数多くいらっしゃるのですが、その画力を作品のクオリティに直接繋げられる人というのは少ないと思うんです。田辺さんはそんな数少ない有能な人の1人だと自信を持って推せる人ですね。頑張ってもらいたいです。

 ……というわけで、旅行前最後の講義を終わります。次回講義は週明けになりますが、どうか何卒ご了承下さい。

 


 

2004年度第96回講義
3月13日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第2週分・合同)

 すいません、週が明けてからの講義実施となってしまいました。
 講師先の仕事が一段落ついて、これまで緊張しっ放しだった自律神経が一気に脱力を始めてしまったのか、急激に体がおかしくなってしまいました。視神経の凝りが頭部全体に回っている感覚で、目を使うと眼球の奥から鈍い痛みがジンジンやって来るという……。しかも目ばかりじゃなくて、頭はキリキリするわ、鼻は花粉症状態だわ、歯茎も熱持って腫れだすわで少々ビビりました。
 結局、丸2日間、ほとんどネットを最低限度に留め、安静に過ごして何とか現在は小康状態です。普段はネット依存の上に、歴史本の休憩に小説を読む位の活字中毒ですので、メチャクチャ暇に……。

 まだ目の腫れが引いておらず、時々冷やしながらの講義準備ですが、短時間集中で乗り切りたいと思います。最後までどうぞ宜しく。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(15号)『斬』作画:杉田尚)が掲載されます。
 この作品は04年度12月期「十二傑新人漫画賞」の十二傑賞受賞作。杉田さんは最終候補3度目にしてのデビュー権獲得となりました。いきなりの本誌デビューですが、このチャンスを今後に活かせるような作品を期待しましょう。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本&読み切り1本
 「サンデー」
:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年14号☆

 ◎新連載第3回『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征

 についての所見(第1回時点からの推移)
 全体的な印象は前回レビュー時点のまま。「『ジャンプ』の週刊連載作品としては、赤点スレスレの及第」…という総合評価も変更はありません。

 特に気になるのが、線が不安定な上に細いという点。ロングショットからの構図での見栄えの悪さの原因になっていると思うのですが、これがペン使いの拙さを余計に目立たせている気がしてなりません。
 あと、スクリーントーンの使い方など特殊効果も徐々に荒れて来ているのが気掛かりです。初の週刊連載、しかもミステリ物というハードな条件で、色々と厳しい事もあるでしょうが、連載初期で一番の踏ん張り所なので頑張って欲しいです。 

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 今週の第3回で、連載第1回から引っ張っていた密室殺人事件の謎解き(?)がありました。が、正直言って期待外れの低クオリティだったと言わざるを得ません。
 何しろ、犯人限定の決め手は遺留品のコンタクトレンズと安っぽい誘導尋問。しかも尋問のキッカケは「コンタクトレンズを片方だけ着けている」という、かなり無理のある展開でした。
 密室トリックの物証も現場に置き去りという杜撰さで、“謎を後付け出来る”という反則技が使える恵まれた条件を全く活かせていません。これでは、後出しジャンケンで負けている状態ですね。

 ただ、これは作者サイドも分かっているのでしょう。第1回ではネウロに「美味そうな謎」「なかなか香ばしい気配」と言わせていたものを、今回謎を食った後では「薄味だった」と“下方修正”させてしまっています。作者ご自身が、今回のネタで良しと思っていないのは救いではありますね。
 とはいえ、連載準備段階から時間をかけて練ったはずの今回のネタがこのクオリティでは、とても「次回以降には期待出来る」とは言えません。“人間が描けていない”という、ミステリ物でありがちな欠点も抱えており、ここに来て早くも行き詰まったかな…という印象です。

 現時点の評価
 評価はBに下方修正。今後の展開如何によっては、“不合格点”のB−評価に落とす事も考えなければならなさそうです。早めのテコ入れか、トリックのクオリティアップを望みます。

 ◎読み切り『怪盗銃士』作画:岩本直輝

 ●作者略歴
 1985年8月5日生まれの現在19歳
 02年1月から「ジャンプ」への投稿活動を開始。約1年の“新人予備軍”生活を経て、「十二傑新人漫画賞」03年4月期で佳作&十二傑賞を受賞受賞作『黄金の暁 ─GOLDEN DAWN─』にて「赤マル」03年夏号でデビュー。
 その後は「赤マル」04年春号、夏号の2度読み切りを発表し、今回が週刊本誌初登場。

 についての所見
 デビューから今回で4作目、作品を重ねる毎に着実な進歩が窺え、非常に好感が持てますね。線が洗練され、すっかり“プロ仕様の絵”になっている辺りは、デビュー作を知る者としては感慨深いものがあります。
 特に人物作画から角張った所が無くなったのは大きいです。女の子キャラが随分と艶っぽくなって来たのも、作風を広げる上ではプラスになるでしょう。

 ただし、顔の造型のバリエーション、特に美少年・美少女系顔の描き分が今一つで、登場人物1人1人の印象がやや薄れてしまったのは残念でした。また、構図の取り方でアップとロングショットの使い分けが上手くなく、「どこに注目すべきか」という情報が読み手に伝わり難くなってしまっているのも減点材料です。
 個人的な見解としては「良いモノ沢山持ってるのに勿体無いなぁ……」といったところ。デビュー以来2年の成長振りからして、まだ伸びしろはあると思うのですが。 

 ストーリー&設定についての所見
 まず、プロットが実によく練られているのが好印象でした。序盤と終盤をリンクさせる伏線の張り方と言い、ただ悪者を倒して一件落着…とせず、登場人物が幸せになる事を“ゴール”に設定した所と言い、平凡な若手・新人作家が決して超えられない“壁”を、いとも易々と越えている印象があります。戦闘シーンの盛り上げ方もアクセントが付いていて良かったのではないでしょうか。
 これらの長所は必ずや連載獲得・人気獲得の武器になる要素ですから、どんどん伸ばしていってもらいたいです。

 ただし、こちらのファクターについても、そんな長所を相殺してしまうような短所がいくつか見受けられ、これまた非常に勿体無い事になってしまっています
 まずは設定過多。ストーリーの中で必然性のある設定の提示をしようと頑張ってみた形跡は見受けられますが、それにしても消化不良の感が否めません。本来なら、設定やストーリーに深みを持たせる役割を果たすはずの回想シーンも、いかにも取って付けたような感じになってしまい、結果的に作品の完成度を下げる方向へと働いてしまいました。
 そして、もう1つ問題なのは、主人公の性格。ストーリーの内容や設定とマッチしておらず、ちょっと不自然でしたね。始めに主人公のキャラありきでストーリーを組み立てていったのか、読者ウケしそうな主人公を追い求め過ぎて墓穴を掘ったのか分かりませんが、不幸な生い立ちを持った人間だったら、もうちょっと陰のある所があった方が良かったでしょう。

 今回の評価
 長所だけを抜き出せば、十分Aクラス評価が可能な作品ではあるのですが、看過出来ない短所も少なくなく、今回の評価はB+とさせてもらいます。
 ただ、潜在能力は抜群のモノを感じさせてくれますので、今後の動向には目が離せない作家さんです。次回作での成功を大いに期待しましょう。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 長かった準々決勝が決着した『アイシールド21』。喜びをストレートに絵で表現した扉ページを見てますと、やっぱり「ここぞ」という時には画力がモノを言うなぁ…なんて思ったりしますね。
 ところで、これでデビルバッツは都大会ベスト4。実在のケースに当てはめて言うと、これでクリスマスボウルの出場校を決める関東大会への出場権を獲得した事になります。つまり、都大会準決勝の西部戦と、決勝の王城戦のどちらかは負けても大丈夫なわけですね。さて、原作者の稲垣さんは、どういった“オプションプレー”を考えているんでしょうか。今後はこの辺も注目と言えそうですね。

 『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』は、落ちこぼれキャラのロージーが潜在能力開眼…という一幕。ストーリーを大幅にテコ入れした以上、キャラ設定も大胆に弄るべし…といったところなのでしょうか。
 それも、先に回想シーンでムヒョの突然の能力開眼を描いておいて、似たようなシチュエーションでロージーにも同じ事をさせる…と、上手く伏線を張って説得力を持たせてますね。この辺はさすがです。まぁ多少分かり辛い伏線ではありましたが……。

 そして、『武装錬金』「ブラボー生きてました」という、正直言って脱力の展開へ。確かに武装錬金が作動している以上、生きていないとおかしいんですが、さすがにこのヌルさは……どうなんでしょうかね。「生死不明で姿を消す→主人公のピンチに突如復活」というフェニックス一輝パターンも確かにアレですけど(笑)。
 それにしても、エピソードを重ねる毎に生死に対するシビアさが薄れていっているのが気になります。VS再殺部隊編に入ってから、バトルシーンが全然命懸けって感じがしないもんなぁ……。

 

☆「週刊少年サンデー」2005年15号☆

 ◎新連載『ブリザードアクセル』作画:鈴木央

 ●作者略歴
 1977年2月8日生まれの現在28歳
 94年8月期「ホップ☆ステップ賞」で佳作を受賞し翌95年の増刊春号にて受賞作『Revenge』が掲載となり、デビュー。
 その後、「赤マル」96年冬(新年)号に読み切りを発表後、秋には週刊本誌初進出を果たす(96年46号)。それから1年のブランクを経験するが、「赤マル」98年冬(新年)号で復帰後、同じく98年52号より『ライジングインパクト』で初の週刊連載を獲得。15回打ち切り後、最終回間際の人気急上昇で連載再開…という異例の経緯を辿り、二部合計145回の長期連載となった。
 その後、02年45号から『Ultra Red』を連載するも、3クール34回で無念の打ち切り。この連載終了を機に「週刊少年ジャンプ」との専属契約を解除。03年からは「ウルトラジャンプ」、「ヤングジャンプ」といった集英社の系列誌の他、小学館の「IKKI」誌にも読み切り、連載作品を発表するなど幅広い活動を展開。
 「サンデー」初登場は04年28号で、今作のプロトタイプとなる同タイトルの作品を発表している。今回は勿論、「サンデー」で初の連載作品となる。

 についての所見
 主要登場人物の造型が、どれもこれも過去の鈴木央作品で見た事のあるタイプのモノばかりなのが気になりますが、画力そのものは、やはり元・長期連載作家の面目躍如といったところ。これだけ動きのあるシーンが多くありながら、違和感を全く感じさせないのはさすがです。
 ただ、今回に関しては、若干ですが線が粗く感じられました。目の錯覚か杞憂であれば良いのですが……。

 ストーリー&設定についての所見
 昨年発表の読み切り版から大幅に設定を変更。「4回転半ジャンプが出来る少年が主人公」という1点を除いては、全く別物のお話になりました。ただし、出来上がったモノを俯瞰すると、これは英断と言えるのではないでしょうか。
 まず、主人公の性格のバックボーンを固めるやり方が上手いですね。冒頭にまず、主人公の行動全般についての動機付けとなる短くて分かり易い回想シーンを持って来る辺りなどは憎い演出と言えるでしょう。
 また、その回想シーンで描かれた主人公の複雑な家庭環境や、「武器は4回転半ジャンプだけ」というイビツな主人公の才能など、後々ストーリーを盛り上げるのに役立ちそうな伏線も既に配備済み。連載開始数話でお話が行き詰まるという事態は考えなくても良さそうですね。

 しかしながら、余りにもステロタイプな前半の“主人公空回り劇”といい、余りにも陳腐な後半の“小物感”漂う敵役をギャフンと言わせるスケートシーンといい、ストーリーの内容については不安の残るスタートになってしまっています。奇をてらい過ぎるのも問題ですが、余りにベタ過ぎるのも如何なものかと。
 お約束に頼るのも良いですが、せめて少しぐらいは新鮮味のある展開を見せてもらわないと、高い評価は付け辛いですね。第2話以降で新味が出て来るのを期待したいと思います。

 現時点での評価
 長期連載経験者の確かなテクニックは感じさせるものの、これといったセールスポイントには欠ける作品…というところで、暫定評価はB+とします。ただ、かなり流動的な要素も多いですので、次回以降のレビューでは大幅に評価が変動する可能性もあります。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 「友を救うか、世界の人類を救うか」という、『HUNTER×HUNTER』の世界なら「回答しない」が正解になるような問題がテーマとなった『金色のガッシュ!!』。答えは予想通り「どっちも助ける」だったわけですが、ガッシュが余りにも気持ち良く他力本願を宣言したのには、笑っちゃいけないけど笑ってしまいました。
 せめてその場限りの勢いでもいいから、ここは「俺が何とかする!」…と言う所じゃないのか、などと思ってしまった駒木は、どうやら島本和彦病に冒されているようですね(笑)。

 ……あぁ、他の作品についても喋りたいんですけど時間がありません(現時点で月曜日の朝5時です^^;;)。
 とりあえず、大人の事情に満ち溢れた『焼きたて!! ジャぱんですよ!』と、10代の甘酸っぱい恋心を遺憾なく描いた『いでじゅう!』『MAJOR』、そしてとにかく凄い事になっているのが誌面中から伝わってくる『クロザクロ』、そしてその直後から始まる、余りにも対照的な絵柄と内容の『ハヤテのごとく!』を通して読んでみると、「サンデー」もいつの間にか懐の深い雑誌になったんだなぁ…などとしみじみ思いました(笑)。

 ──とりあえず、今日はこれくらいで勘弁して下さい。今週のカリキュラムもまた変則的になりますが、また追って連絡します。では、ひとまず失礼します。

 


 

2004年度第95回講義
3月10日(木) 人文地理
「駒木博士の東京旅行記04’冬 コミケ67サークル参加挑戦の旅」(6)

 ◎前回までのレジュメはこちらから→ 第1回第2回第3回第4回第5回特別番外編

 先週は特別番外編ということで、いつもとは違った趣向でお送りしましたが、今日は正調の旅行記に戻って第6回です。
 もう来週には春旅行に出発しますので、記憶が上書きされない内に、話をガンガン先に進めていきましょう。

 今回は12月28日の午後11時すぎ、雀荘「littlemsn」前からスタートです。レポート文中においては文体は常体、人物名は現地で実際にお会いした方以外は原則敬称略とします。


 雀荘というスペースは、体感時間の流れが早い。あっという間に閉店時間の23時を迎えていた。
 今回などは、駒木が来ると知って駆けつけて下さった人と、麻雀もそこそこにとある業界の濃い話をしていたものだから、特に時が経つのが早かった。事情があって、その人の素性や話の内容はお伝え出来ないのが残念だ。

 店を出て、またJR有楽町方面へ。今日だけでこの道を歩くのは往路・復路合わせて3回目だ。こういった所にも、この旅のメチャクチャさ加減が見え隠れしている。
 夜の街並みは、蛍光看板やネオンも映えて、さすがは銀座といったところ。ただ、普通にメシを食えるような店は既に閉店時刻を迎えていて、やや途方に暮れる。これでも体力に余裕があれば、JRと私鉄を乗り継いで「ミスターデンジャー」へステーキを食いに行くのだが、さすがに今日は……。
 結局夕食は、大井町まで戻って駅前のラーメン屋で簡単に済ませてしまった。せめて晩飯くらいは美味い物を思いっきり食いたいのだけれど、まぁ朝に築地で天丼食ってるし、我慢するしかないか。

 逗留先のホテルに戻ると、もう日付が変わる直前。それにしても長い1日だった。夏の旅行ほどではないが、さすがに20代も終わろうかとしている人間のする旅じゃないなと反省する。もっとも、その反省も神戸に戻って2週間もすれば忘却の彼方へと運び去られてしまうのであるが。
 部屋に戻ると、休息もそこそこに、スウェットの上下に着替えて最上階の大浴場へ直行。午前1時で風呂が終了してしまうので、ゆっくり入ろうと思ったら急がねばならぬというジレンマである。このあたり、個室にバスタブがない不便だが、でもまぁビジネスの個室風呂なんて、どんな時間に使えても使いたくないものな。

 最上階のロビーには、備え付けの自動販売機で買ったと思しき缶ビールで湯上りの一杯を楽しむビジネスマンの姿が目立つ。コミケ前日とはいえ、初日には夜行で来てその足で直行という人が多いのか、“らしい”人の姿は余り見られない。
 ロビーでバスタオルの整理をしていた、このホテルで働いているオバさん2人の会話が聞こえて来た。

 「今日は思ったより(仕事は)楽ね」
 「でも明日はアレよー」
 「あ、明日はアニメの。わー、大変だわ……」

 ……すいません、ご迷惑かけます(苦笑)。しかし「アニメの」って、これほど簡潔でイヤゲな表現もあるまい。このホテルとコミケ客との戦いの歴史を感じる会話であった。

 ◎3日日(12月29日)

 風呂から上がったら、日付は29日。この旅行で初めて心の底からくつろげる時間帯になった。一眠りしたら寒空の中、コミケに突撃しなければならないのだが、だからこそ重要な安息の一時である。
 いつもの旅行なら、ここで自販機かコンビニで仕入れて来た酒で晩酌となるのだけれど、前夜に「ながら」の中で3本缶リキュールをチャンポンしているだけに、ここは一夜自重。替わりに階下のコンビニで買ったデザートをパクつく。どちらにしろ体脂肪率に良くない食生活だが、まぁこれだけ歩いたんだから、少しは甘いものを補充しておいてもバチは当たるまい。

 人心地つくと、ベッドに寝そべった状態でテレビ番組をザッピング。無料でNHKBSが観られるのも有り難い。ただ、これだけ旅慣れても感覚が慣れないのが、西と東のチャンネルの違いだ。
 箱根の山を越えた事の無い方はピンと来ないだろうが、近畿地方では以下のようなチャンネルになっているのだ。

 1or2ch→NHK総合
 4ch→毎日放送(TBS系)
 6ch→朝日放送(テレビ朝日系)
 8ch→関西テレビ(フジテレビ系)
 10ch→よみうりテレビ(日本テレビ系)
 12ch→NHK教育

 ……どうだ、この中途半端なシャッフル(笑)。使うチャンネルは変わらず、しかも8chが西と東で同じだったりするので、余計に“別物”という感覚が育たない。故に、テレビをザッピングしていると、4、6、10のチャンネルは7割の確率で間違える。
 あと、深夜番組の放送時間や内容がまるで違うというのも難儀な点だろう。テレビ局は、どこも東京キー局と在阪系列局の仲が険悪なので、深夜番組は近畿地方だけ独自制作番組が幅を利かせている。中には抜群に面白い番組もあり、善悪の判断は一概には出来ないのだが、よくよく調べてみれば「近畿地区以外全国ネット」という名物番組が結構あったりして、他地方の人同士の会話に付いていけない時もあるのが辛い。

 この日はどの番組を観たんだったっけか。全く記憶に残っていないのは、どういう番組か把握せずにバシバシとチャンネルを変えまくっていたからだろう。
 そして、そうやってダラダラとしている内に、例によって気が付かないうちに疲れと睡魔に襲われて昏倒。東京旅行では、マトモに掛け布団を着て寝た事が無い。大抵は夜中の4時頃に一旦目が覚めて、歯だけ磨いて寝なおす……というパターン。いつか風邪引きそうで怖いんだが、どうしてもこうなっちゃうんだよなぁ。

 さて、このコミケ初日、特に長蛇の列を並んでまで買いたいような目当てが無い事もあり、起床は8時前とした。昨年の3日目、朝10時頃に行列が大きく動き始めてからビッグサイト前に着き、結構あっという間に会場入り出来たという経験から弾き出した結論……だったのだが、これがすぐ後に大きな悲劇を呼ぶ判断となる。
 起床後は直ちに大浴場へ。朝風呂を、思う存分手足の伸ばせる広い風呂で満喫できる幸せ。これが出来るから、このホテルは止められんのだ。タオル、バスタオルも入浴の度に新しい物を貸してくれるのも、さりげない良サービスである。敢えて欲を言えば、脱衣所の鏡台&ドライヤーにヘアブラシと櫛が欲しいのだが、まぁこれ以上の要求は過度の贅沢だろう。1泊5500円だし。

 すっかり頭も体も覚醒して、準備万端。身支度を整えて、いざ出発だ。同じ部屋でもう1泊するので、かさばる荷物は置き去りにし、手荷物はショルダーバッグ1つにまとめた。バックパックは余りにもオタクっぽくなるので避けたいという無駄な抵抗。
 意気揚揚と外に一歩出て、ここで愕然。結構本格的な雨が降っているじゃないか。しかもみぞれ交じりで、気温の低いビッグサイト近くだと雪になりそうな……。
 実は駒木、荷物軽量化の為に小さい折り畳み傘1本しか持参していなかった。まさか、この日に限ってこんな悪天候になろうとは。
 しかし、降ってしまったものは仕方が無い。とりあえずは奇跡的に雨が止む事を期待しつつ、ホテルと同じビルにテナントで入っているマクドナルドへ。2日連続の朝マックなのだが、これは不思議と飽きが来ない。貧乏舌もこういう時は役に立つ。
 オーダーしたのは、ホットケーキのバリューセットにソーセージマフィンの単品。たまに食べるからこそ許される、炭水化物・脂肪コテコテのメニューである。

 小一時間店内で粘ってみたものの、雨は強くこそなれ弱くなる気配が見えない。もはやこれまでと、意を決して大井町駅へと向かう。
 既に10時前という事で、りんかい線の駅構内はお宅族で満ち溢れていたが、それでも特別混雑しているという気配ではない。よりにもよって、こんな日にお台場に行こうという血迷ったカタギのカップルがいて、まるで新宿歌舞伎町の風林会館に迷い込んでしまった“おのぼりさん”のように、不安げで所在無さげにしていたのが微笑ましかった。
 10分程度の乗車の後、国際展示場駅に到着。この時点ではまだ、「寒いんだから、とっとと入場するか」などと余裕をぶっこいていたのだが、駅から一歩外に出た時点で愕然とさせられる光景に出くわした。

 正体不明の人だかり。
 寒さに震える人、人、人。
 本来なら、参加者を駅前から列最後尾に誘導する役目を負っているはずのスタッフが、メガホンを持ち、余裕の無い声で何か叫んでいた。

 「えー、現在、列最後尾は駅前です!」

 ……呆然とする駒木の目の前で、確かにリアルタイムで4列縦隊の待機列が形成されようとしている。おいおい、勘弁してくれ、何のための“時差出勤”なんだよー……。

 とはいえ、ここまで来て今更後には引けない。風が吹けば折れ曲がりそうなガタの来た折り畳み傘を広げ、湯冷めするために温めたような体を、氷雨降り注ぐ有明の寒空に晒す。
 そして、まるで『げんしけん』2巻に出て来たような光景を目の前に、いくら自分が斑目に似ているからと言って、手を骨折する所までは真似すまいと心に誓ったのであった。(次回へ続く

 


 

2004年度第94回講義
3月6日(日) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第5週/3月第1週分・後半)

 一昨日に引き続いて、今週のゼミをお送りします。 
 今日お届けするのは、「サンデー」14号の内容についてのレビューとチェックポイント。ただ、レビューが3本という物理的事情がありますので、チェックポイントの方はボリューム控えめとなります。ご了承下さい。


 ※今週後半のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「サンデー」:読み切り3本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年サンデー」2005年14号☆

 ◎読み切り『キングさん』作画:福井祐介

 ●作者略歴
 生年月日は不明ながら、04年春募集の「爆笑王決定戦」応募時には27歳で、そこから換算すると、現在は27〜28歳
 02年12月・03年1月期の「サンデーまんがカレッジ」で最終候補(あと一歩で賞)に残り“新人予備軍”入りした後、ギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で最高ランクの“爆笑王”を受賞。その受賞作『吉田ジャスティス(激闘編)』が週刊本誌04年41号に掲載されてデビューを果たす。
 今回は、約半年振りの新作でデビュー2作目となる。

 についての所見
 デビュー作の制作から半年以上立っているはずですが、相変わらず拙い画力のまま留まっています。
 まず、人物がやたら小じんまりと描かれている上に線のメリハリが弱く、物凄くゴチャついて見えてしまいます。更に以前からの欠点である遠近感のズレが今回も修正されておらず、ハッキリ言って非常に見難いです。
 画力にはこだわらないギャグ作品とはいえ、この水準でプロと名乗るのは相当無理があるのではないでしょうか。

 ギャグについての所見
 ギャグの見せ方そのものは、ちゃんと形になっていますね。
ページ跨ぎの一発ギャグ、“間”を意識した見せ方、絵を使ったギャグと文字で使ったギャグの使い分けようとする意識等々…。この辺は、デビュー時点からある程度形にはなっていたとはいえ、技術そのものは決して「サンデー」連載作家クラスと見劣りするものではありません。

 しかし、そのテクニックを実際に読み手の笑いに繋げる手立てが余りにも至っていない印象がありました。
 まず、「絵についての所見」でも述べた画力の拙さのために、ビジュアルで見せるギャグで作者の意図する効果が全く得られていません。コマ割りや構図の取り方も理に適っておらず、笑おうにも笑えない誌面構成になってしまっています。
 また、ネタそのものもインパクトの弱さが目立ちます。この作品は、主役以外の登場人物がいかに「笑える変人」であるかを笑ってもらおう…という意図で制作されていると駒木は思っているのですが、その“変人度”が微妙に大きく足りないんじゃないかと思うのです。
 例えば、“某”という名前で笑いを狙ったシーンがありますが、文字や読みの違和感で笑いを獲るなら、もっとヒネりようがあったはずです。かつて『伝染るんです』で登場した伝説的なネタ・「新しい字を発明しました」のように、発想次第では大きな可能性のある題材なんですが……。

 今回の評価
 今回は画力の低さが、ギャグのクオリティまで大きく押し下げた…というジャッジでB−とします。
 現在の福井さんの作品は、言ってみれば“喋りだけ変に手馴れている、笑えないお笑い芸人”のようなもの。もっと画力を高め、ネタ1つ1つを極限まで練りこむ努力を極めなければ、今後相当高い壁にぶち当たる事になるでしょう。


 ◎『やってくる!!』作画:河北タケシ

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 
年齢と新人賞受賞歴は未判明。
 デビューは02年春の増刊号「サンデーR」のルーキートライアルにて。その後、増刊03年4月号05年春号、週刊本誌04年19号、49号にて読み切りを発表している。

 についての所見
 河北さんの画力の確かさは、既に以前の読み切りで証明済みですが、今回も洗練された線で安定した作画を見せてくれました。
 ただ、今回は低年齢層読者を意識し過ぎたのか、やや大雑把に見える(実際はそんな事ないのですが)絵柄だったようにも思えます。また、本来は色々な造型の人物を描ける力を持っている人だけに、それを今回“封印”してしまったのも残念でした。実力をフルに発揮出来ないような題材にしてしまったかな…といったところです。

 ギャグについての所見
 ギャグの見せ方についても、以前から全く問題が無いですので安心して読めます。ネタフリからオチ、ツッコミから更なるボケ倒し……と、流れるようなコンビネーションでスムーズに話が展開されて行っています。
 ただ、今回はページ数の割に大ゴマを多用し過ぎて、ネタの密度が随分と薄くなってしまったかな…といったところ。これで小ネタが多ければ良かったんですが、どうも“打数”が少なくて、その分“安打数”の絶対数も少なくなってしまったような、そんな風に思えました。

 今回の評価
 評価はBとしておきます。個人的に、河北さんの作風は、もうちょっと対象年齢層を上げた方が良い結果に繋がると思うんですが……。次回作では、また別の試みを見てみたいですね。

 ◎『たまねギィィ!!!』作画:突飛

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容です)
 
「まんがカレッジ」入賞時の年齢から換算すると、現在22〜23歳
 03年7月期「まんがカレッジ」で佳作を受賞
し、“新人予備軍”入り。福地翼さんのスタジオでアシスタント修行を積みつつ活動を続け、04年秋のルーキー増刊「サンデーR」にてデビュー。
 先日発売の隔月増刊05年春号にも読み切りを発表しているが、週刊本誌にはこれが初登場。

 についての所見
 何となく「サンデー」っぽくない雰囲気ではありますが、洗練された画風で、好感度の高い絵柄だと思います。ディフォルメなどには、明らかに今風というか、最近の人気作を研究した跡が窺え、センスの新しさも目を引きます。
 欲を言えば、もうちょっと“毒気”と言いますか、醜いモノを読み手に「醜い」と思わせるだけのエグい表現技法を身につけて欲しいところ。作者が「これは変なモノだ」と描いたものが、読み手を本能的に「ウワッ、これ変!」…と反応させるようなものになれば、ギャグのクオリティも、もっと上がってゆくと思います。

 ギャグについての所見
 こちらもギャグの見せ方は問題無いでしょう。先にレビューした2作品で出来ている事は、この作品でもキチンと出来ていました。1コマ当たりの密度も濃く、ページ数の割にはネタの数もしっかりと仕込まれていましたね。
 ですが、勿体無いのはタマネギ(ヲニヲン平八)の設定が中途半端で、そのために作品全体のインパクトも中途半端なものに留まってしまった点。もっとタマネギならではのネタ──無意味に周囲の涙を誘うとか、牛丼食って「お前、それ共食いじゃないのか」とか──を追求したりする余地があったんではないでしょうか。
 この作品と同系統のネタに『クロマティ高校』のメカ沢ネタがあります。比べちゃ可哀想な気もしますが、やっぱりネタの掘り下げ方といい、演出といい、明らかに格の差があるような気がしますね。

 今回の評価
 こちらも評価はB。ギャグ作品は、「自分は笑えないけど、他の人はどうだろう?」…と思いながら採点するので、どうしても評価点は真ん中(B〜B+)に寄ってしまいます。
 しかし、これは若手ギャグ作家さん全般に言える事なんですが、1コマ1コマ、1ネタ1ネタをもっと大事に、限界ギリギリまで練りこむ事を厭わないで頂きたいな…と。打率10割を目指すくらいじゃないと、連載で成功するのは難しいわけですからね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 今週は『D-LIVE』が100回記念という事で、いつもの“指定席”を離れて誌面前半でセンターカラー。おかげで、どこに載ってるのかと随分と探しました(笑)。
 で、お話の方は、予定調和的ながら、心地良い結末をシッカリと読ませてくれる高クオリティ。大の大人の男が、内心でコッソリと子供みたいにハシャいでる姿を克明に描いてくれるこの作品が、段々大好きになって来ている自分がいます(笑)。

 あと、最近ずっと気になってるのが、『クロザクロ』ビックリ人間路線。今週も、「うわ、すごーい」と、K−1の谷川プロデューサーのような気の抜けた声を上げてしまいそうになるビジュアルの人たちが6人も登場です。
 ピーコが見たら卒倒しそうなファッションといい、彼らが行動を共にしている理由が一休さんでも思いつかなさそうな6人の統一感の無さといい、本当、「王様のレストラン」の松本幸四郎みたいな声と仕草で「素晴らしい!」と言いたくなりますね。最終ページ柱に「はたして敵か味方か?」と煽ってありますが、敵になるより味方になる方がもっと嫌な気がするのは駒木だけでしょうか(笑)。
 とりあえず右から順番に、スタジャン筧利夫美形安田大サーカスメンヘルプリキュアと命名してみました。真ん中の3人が、紙吹雪撒き散らしながら体を張ったコントをする…という内容の同人誌が読んでみたいです。

 ──などと、作者ご本人が見てる前でこんなネタ喋って大丈夫か? ……といった疑問を孕みつつ、今週のゼミを終わりたいと思います。では、また。

 


 

2004年度第93回講義
3月4日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第5週/3月第1週分・前半)

 今週は、「サンデー」で読み切り3本掲載という修羅な編集方針のため、ゼミは2日に分割して実施したいと思います。
 とりあえず、今日は情報系の話題と「ジャンプ」関連の話題をお届けして、「サンデー」の内容に関しては明日という事にさせて頂きます。

 ところで、近頃ネット界隈を大いに賑わせた話題といえば、久米田康治さんが「週刊少年マガジン」で新連載を立ち上げるというニュースですね。『ネギま!』の赤松健さんも日記で公言していましたし、これは確定情報と見ていいでしょう。
 ただ、これを“移籍”と表現していいのかどうかとなると少々微妙なんですよね。そもそも「サンデー」系の作家さんは、「ジャンプ」のように専属契約を結んでいませんので、活動は自由なんです。これは『クロザクロ』の夏目義徳さんが講談社の「モーニング」で活動したり、『絶対可憐チルドレン』の椎名高志さんも、同じく講談社の「マガジンアッパーズ」で活動したという事でも明らかです。

 もっとも、久米田さんの場合、『改蔵』の終わり方が終わり方だっただけに、小学館や「サンデー」編集部と険悪な関係に陥った可能性は大いにあるでしょう。その後の編集長が交代したとは言え、去年の段階で赤松健さんへの根回しが行われている事を考えると、それよりも早く「マガジン」の話がまとまっていた…と考えた方が妥当のような気がします。
 ……それにしても、この業界はダイナミズムに溢れていますね。そう言えば…なんて言ったら失礼ですが、久米田さんの陰に隠れて、霧木凡ケンさんの「ヤングガンガン」移籍という情報も入って来ています。この後すぐにお伝えする鈴木央さんの件もありますし、それぞれの思惑と市場原理が絡み合って、人材が絶えず動いている事を改めて思い知らされますね。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(14号)『怪盗銃士(シーフガンナー)作画:岩本直輝)が掲載されます。
 岩本さんは、リニューアル直後で激戦を極めた03年4月期「十二傑新人漫画賞」で十二傑賞を受賞し、これまで増刊にて3度の読み切り掲載を果たしている新進気鋭の若手作家さん。現在まだ19歳で将来性も十分、今回の週刊本誌初進出をきっかけに、次世代の「ジャンプ」主力作家を狙いたいところです。

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(15号)より『ブリザードアクセル』作画:鈴木央)が、次々号(16号)より『見上げてごらん』作画:草場道輝)が、それぞれ連載開始となります。
 昨年、「サンデー」への電撃移籍を果たした鈴木央さんが、その移籍第1作の連載化で登場。草場さんはテニス物に初挑戦ということになりますね。

 ※今週前半のレビュー&チェックポイント
 ●今週前半のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年13号☆

 ◎新連載第3回『ユート』作:ほったゆみ/画:河野慶

 についての所見(第1回時点からの推移)
 特筆すべき変化は見られず、安定して高いクオリティが維持されていますね。純粋な新人ではないとはいえ、これがマンガ家としてデビュー2作目で、しかも初の週刊連載だと考えると、これは相当凄い事なのではと思います。

 ただ、河野さんにとって悲劇なのは、立場上どうしても、ほったさんの前作『ヒカルの碁』と比べられてしまう事でしょうね。小畑健さんと同じ土俵に上げて比較されるなんて、作家さんの立場からしたらたまったもんじゃないでしょう(笑)。
 あと、必要以上にマンガっぽい絵柄が、最近のトレンドから微妙にズレているような気もします。相当に読者を選ぶ絵柄である事は確かで、そういう点では損をする作風であるとも言えるでしょうね。

 ストーリー&設定についての所見(第1回時点からの推移)
 こちらのファクターに関しても、第1回から引き続き、高度に安定。卓越した演出力とストーリーテリング能力でグイグイと“読ませて”くれます。
 “短期打ち切り免除特権”があるのか、「ジャンプ」作品としては、かなりスローペースのストーリー展開ですが、駒木には冗長さを感じるところまでには至っていないと感じられました。

 ところで、凡百の作家がこのようなマイナーなジャンルを題材にした作品を描いた場合、作品序盤は説明的なセリフや過剰なウンチクが羅列され、読み手を辟易させてしまうものです。が、さすがは『ヒカルの碁』の原作者と言うべきか、この作品ではそんな無粋な要素は皆無に近いと言って良いでしょう。
 それが出来ている理由は、作中において、自然な形で価値基準の目安(スラップスケートとノーマルスケートの違い/500mのタイム)を提示しているから。現実のスポーツでも、「詳しい競技ルールを知らなくても競技を楽しめるよう導けるかどうか」というのは、ビギナー獲得のために大変重要なんですよね。

 そんな中、敢えて僅かな問題点を探すとすれば、作品全般に段取り臭さと言いますか、登場人物の言動の中に作者の意図があからさまに表れ過ぎている点。これは「過ぎたるは及ばざるが如し」といったところで、スキルが高過ぎるほど高い、ほったさんならではの短所ではないでしょうか。

 現時点の評価
 評価はA寄りA−で据え置きとします。当ゼミの評価基準である、演出や設定・ストーリーの完成度については、殆どケチのつけようが有りません。
 ただ、ほったさんがどれだけ趣向を凝らしても、「子供のスケート競走のどこが面白いの?」…と言われてしまえば、「ハイ、それまでよ」…となってしまうんでしょうね。「作品の『良い・悪い』と、『面白い・面白くない』は全く別」という、当ゼミと同じジレンマを抱えた作品と言えそうです。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 『DEATH NOTE』は今週で第1部・完。しばらく休載の後、“L”の後を継ぐ“M”と“N”の2人がライトを追い詰める第2ラウンドが開始される事になりそうです。
 それにしても、今回出て来た海外の児童施設は、やけに浦沢直樹作品っぽい世界観でしたね。こういう良い意味のハッタリは個人的に好きですねえ。

 先週、カズキVSブラボーが決着した『武装錬金』は、早くもブラボー退場と言うサプライズ。確かに、作品の中でブラボーが果たすべき役割は全て果たした感もありますが、『DEATH NOTE』並に思い切った決断ですよね。
 ただ、欲を言えば、どこからどうやっても感動間違いなしの展開なんですから、もう少し勿体つけても良かったんじゃないかと思います。今週はブラボーが命を賭して子供たちを守る事を決意した所で「続く」にして、あと1〜2回かけてブラボーの過去篇を描いて、その上でジックリと今生の別れを描く…ぐらいで丁度良かったような。

 あと、マンガ以外では「十二傑新人漫画賞」の審査過程が公開されていて、大変興味深かったですね。
 紹介されていた選考過程は、まず編集さんで下読み(=一次審査)を行い、それを月替り審査員の作家さんに送付して第二次選考。で、実際に受賞作を決定する最終選考には作家さんは直接参加せず、編集さんが合議して序列をつける…と、いった具合。
 駒木はこれまで勝手に、最終選考は作家さんも同席して実施していると思っていたんですが、作家さんが直接担当するのは二次審査だけなんですね。時々、いかにも編集ウケしそうな陳腐でベタな展開の作品が、十二傑賞どころか佳作まで獲る事もあるのですが、なるほど、それにはそういう事情があったんですね。

 ──さて、とりあえず今日はここまで。明日は「サンデー」の若手作家ギャグ作品3連発。ちょっとした大仕事になりますが、頑張ります。ではでは。

 


 

2004年度第92回講義
3月2日(水) 人文地理・ギャンブル社会学
「駒木博士の東京旅行記04’冬 コミケ67サークル参加挑戦の旅」(特別番外編)

  ◎前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回

 今週も、いつまで経ってもコミケ67前日が終わらない旅行記のお時間がやって参りました。

 さて、今日は東銀座のコスプレ雀荘「littlemsn」での模様をお送りする流れです。で、どうせならそこからフリー雀荘についての一般的な話にも振ってしまおう…と言う事で、当講座アルバイト・麻雀分野専攻の一色順子を交えての特別番外編とさせて頂きます。
 まぁ要は、レポートも兼ねながら、業務縮小(03年3月)までやっていた麻雀関連講義をやってみようという試みです。「試み」が成功した試しの無い社会学講座ですが、たった1日のご辛抱という事で、どうぞお付き合い下さい。


駒木:「……というわけで、今日は久々の2人体制だ」
順子:「どうもー、一色順子です。……ホント、おととし秋のG1予想大会の優勝特典が、まさかここまでズレこむなんて思いもしなかったですよ(苦笑)」
駒木:「ここ2年、麻雀どころじゃなかったり、講義どころじゃなかったりしたからねぇ」
順子:「(苦笑)」
駒木:「まぁそういうわけで、今日は『littlemsn』の話をしつつ、フリー雀荘全般の話もやろうというわけだけれども……」
順子:「…で、ぶっちゃけ、どうだったんです? 夏に行って、4ヶ月開けてまた行ってみての変化とか」
駒木:「うん、まぁ夏の時点では正直な所、フリー雀荘として成立してるかどうかギリギリの線だったと思うんだけど(笑)、この4ヶ月の内に色々な面で随分と整備されて来たかなって感じだね。期間を考えたら、長足の進歩を遂げているって言って良いんじゃないかな」
順子:「まあ、そうじゃなかったら、また春に行こうなんて思わないですもんね(笑)」
駒木:「開店当初から変わった点としては、まず雀卓6〜7卓のうち3卓が、テンリーダー(点棒自動カウント装置)付きになってたね。ただ、最近の機種なのに、わざわざその中で誤差が起こりやすいヤツが導入されてたのには苦笑したけど」
順子:「ああ、ひょっとして、『アモスモンスター』ですか?(笑) あれ、すぐに接触悪くなるんですよねー」
駒木:「さすが雀荘メンバー、即答だな(笑)。まぁでも、夏の開店当初は、テンリーダーどころか、100点棒が1人10本標準配備タイプで人力カウントも大変だったんだから」
順子:「あれ、フリー雀荘御用達の500点棒も無かったんですか? それは大変でしたねー」
駒木:「東1局の親番で2600点オールなんか和了ろうもんなら、卓上に100点棒が18本並ぶわけだからねぇ(笑)。ケースから溢れんばかりの100点棒(笑)。
……まぁ、昔、大学の近くにあった学生向け雀荘はそんな感じだったから、懐かしさもあったけどね」
順子:「でも、4ヶ月で新機種3台導入ってスゴいですねー。雀卓って結構な値段しますからね」
駒木:「あと、原則有料だったドリンクも、僕が行った時点でコーヒー・お茶類がセルフサービスで無料になってた。で、これは今年からドリンクサーバーが導入されて、ソフトドリンク類はフリーになったみたいだね」
順子:「それは、フリー雀荘だったら普通ですけどね」
駒木:「それでも、超年代モノの寂れた雀荘が、たった半年で現代風のフリー雀荘の体裁を整えたんだから、これは評価しないとね。利益を顧客へ積極的に還元する姿勢ってのは好感が持てるじゃないか」
順子:「ゲーム代、高いですもんね(笑)。東風戦800円でしたっけ? 普通は東南戦で400円以下ですから、単純計算で4倍ですもんね」
駒木:「まぁ4人中、最低1人以上はゲーム代払わないメンバーが入って、しかも喋ったり長考したりしながら打ってるから、単純計算じゃ済まないんだけどね。料金設定上、客層が若手サラリーマン中心で、営業時間も限定されてるみたいだし。普通のフリー雀荘なら、昼間から学生とか年配の人とかの集客が望めるんだけどね。
 ただ、普段タダで美味いアイスカフェオレ飲みながら1ゲーム300円で打ってる身としては、『これはこれ、それはそれ』と割り切らないと厳しいモノがあるのは確か。まぁ『談話室滝沢』の1000円コーヒーみたいなもんで、その場と雰囲気をキープするための対価じゃないのかな」
順子:「なるほど(笑)。……それで、お店の方は繁盛してましたか?」
駒木:「そんなに行きつけてるわけじゃないから、実際の所は判りようが無いけどね。でも、僕が行った12月28日は、フリー常時3〜4卓とセット(4人組のお客さんの貸卓)が1卓立ってたから、平日にしては繁盛店の部類に入るんじゃないのかな。
 それと、8000円でゲーム券(800円金券)11枚が買えるっていう、回数券サービスみたいなのをやってたんだけど、その日に僕が確認しただけで3人がお買い上げ。常連さんをガッチリとキープしてるなぁと思いつつ、お酒が呑める店の『ボトルキープ入ります』みたいな光景だなぁとも思いつつ(笑)」
順子:「(笑)。……でも、それだけで売上げ24000円ですか。薄利多売のフリー雀荘業界としては結構な金額ですよ、それ。1卓を1日中動かして、本走入ったメンバー(店員)からも給料からゲーム代巻き上げて、それでやっと届く金額ですもん」
駒木:「うん、だから“少なくない数の常連さんが力強く支えてる店”って印象を受けたね。開店当初はどうなるやらと思ったけど、この分なら何か大きなトラブルでも無い限りは順調に推移してゆくんじゃないのかな。ただ──」
順子:「ただ?」
駒木:「お店と常連さん同士の仲が良すぎて、そこに入っていけないビジターの肩身が狭くなっちゃってるような…ね。初めて店に来た人が、『また来よう』ってなり難い環境になりつつあるかも知れない。」
順子:「ああ、なるほど(苦笑)。フリー雀荘って、放っておくと、なじみのメンバーで馴れ合いになっちゃいますからねー」
駒木:「それもメリット・デメリット両面あるんだけどね。馴れ合う事によって、店と常連客の間の結束力って言うか、帰属意識が強くなるわけで。常連客のリピート率が高くなるし、店側・常連側双方にとって快適な環境が出来上がってゆくしね。
 特に、あんまり流行ってない店の場合、店と常連がある程度馴れ合ってないと、経営が成り立たないからね(笑)」
順子:「常連がほとんど裏メンバー(接客はしないが、アルバイトとして客に混じって麻雀を打つ店員)になっちゃってる店とかありますもんね(笑)」
駒木:「僕が学生時代よく行ってた雀荘なんか、誰か客が来ると、店のマスターが常連に片っ端から電話かけて呼びつけてたもんなぁ。で、常連も店の電話が鳴ると、さも当然のように電話に出て応対する(笑)」
順子:「気がつくと、常連客がメンバーとして働いてたり?(笑)」
駒木:「ああ。ようやく立った1卓のメンツが、駒木、マスター、先月まで常連客だったメンバー、先月までメンバーだった常連客…って事もあったりしたなぁ」
順子:「それ、もうフリー雀荘じゃなくて、メンバー固定雀荘ですね(笑)」
駒木:「だね(笑)。……ただ、こういう馴れ合いが度を越すと、ビジターにとってはメチャクチャ厳しい環境になる。経験した事のある人なら判るだろうけど、初めて入ったフリー雀荘って、ただでさえ居心地悪いのに、そこで店員と常連が必要以上に和気藹々とやっててごらん。本当に居た堪れなくなるよ(苦笑)」
順子:「確かに(苦笑)」
駒木:「で、その常連客も永久に常連ってわけじゃないからね。大学生は卒業したら大抵その街から出て行っちゃうし、社会人も転勤とか結婚とか、雀荘通いを止めるきっかけはいくらでもある。そうなると、店の経営状況はどんどんジリ貧になるわけだ。これが馴れ合いのデメリットだね」
順子:「わたしがバイトしてる店は、メンバーに『お客さんとは節度をわきまえて接するように』って言われてるんですけど、そういう意味もあるんでしょうね、きっと」
駒木:「最近じゃ、『必要以上にお客さんと親しくなるような接客はさせません』って公言してる店もあるくらいだからね。そういう意味では、店側と常連の馴れ合いに関しては、デメリット面が重視されるようになって来ているのかも知れないね
 ……ただ、意外と注目されてないのが、常連客同士の馴れ合いね。これも実は店と常連の馴れ合いと同じようなデメリットがあるんだよ。特に常連3人にビジター1人で卓を囲んだりすると、ビジターからすれば、まるで3人で組まれてるような錯覚すら覚える。これ、かなりキツい状況だよ」
順子:「なるほどー……」
駒木:「それなのに、さっき言ったような“店と客の馴れ合い禁止令”が出てる店でも、この常連客同士の馴れ合いについては黙認しちゃってる例がとても多い。メンバーは『必要以上の接客禁止』だから無愛想だし、常連は常連で勝手に盛り上がっちゃってるしで、ビジターはすっかりカヤの外に置かれちゃう。それに加えてドリンクが不味かったりすると、『二度と来るか!』って思うよ」
順子:「ひょっとしてそれ、博士の体験談ですか?(笑)」
駒木:「ぶっちゃけ言うと、そう(苦笑)。しかも、日本で3本の指に入るくらい有名な店の支店
順子:「そこまで言うと、判る人には判っちゃいますね(苦笑)」
駒木:「判ったら判ったで構わないよ。僕は事実を述べてるだけだし。
 ……結局、馴れ合いってのは麻雀対局中のお喋りから派生するもので、その対局中の会話は度を過ぎると口三味線(トークの内容で他の対局者を騙す行為)に繋がるんだから、店側がしっかり指導しないとダメだよね」
順子:「そうですねー。でも、『littlemsn』の場合、メンバーさんと常連さん同士の馴れ合いって言うか、交流がウリなんじゃないですか? それを制限しちゃったら、ただゲーム代が高いだけのノーレート雀荘になっちゃう気が……」
駒木:「うん、良い所に気がついたね。『littlemsn』の場合、店と常連、または常連同士が仲良くなる事によるメリットが、店の存在意義に関わるくらい大きい。だから、いくらそれが同時に店にとってデメリットになる恐れがあるからといって、おいそれと『対局中のトークはご遠慮ください』ってわけにはいかない」
順子:「困りましたね(苦笑)」 
駒木:「そうだねぇ。でも、対策が無いわけじゃない。店側の努力次第では、ビジターの居心地を良くして、早い段階で常連客に取り込んでしまう事も可能なんじゃないのかな」
順子:「出来るんですか、そんな事?」
駒木:「出来ない話じゃないよ。普通に繁盛店がやってる事を見習えば良いわけ。
 ……例えば、これはもう既にやってるかも知れないけど、遅くとも3回目の来店までには、そのお客さんの名前を覚えておくとかね。店にいる店員の誰か1人が覚えておけば、あとは復唱するだけだで済むから難しい事じゃない。客なんて単純なものだから、店に入るなりすぐに『○○さん、いらっしゃいませ』って言われると、『自分も常連になったんだ』って錯覚するもんだよ(笑)」
順子:「メイド喫茶みたいに『おかえりなさいませ〜』っていうのはどうです?(笑)」
駒木:「面白いかも知れないけど、ビジターの疎外感は一層高まるかもね(苦笑)。
 ……あとは、やっぱり接客面全般だろうなぁ。今でも頑張ってると思うんだけど、まだまだ改善の余地はあるんじゃないのかな。色々と条件が難しいだろうけれど、『この人に任せておけば、ビジターさんでも安心』っていう感じの、明るくて人当たりの良い接客が天職みたいなスタッフさんが男・女で各1人常駐している状況が欲しい。
 コスプレした女の子と麻雀打つ事がどうしてもクローズアップされがちだけど、ビジター対策という事に限定したら、むしろ店に一歩足を踏み入れてから麻雀打ち始めるまでの間が大事だと思うんだよ」
順子:「でも博士、それは言うのは簡単なんですけど、実際そういうスタッフ揃えるとなると、ホントに難しいんですよー(苦笑)」
駒木:「まぁそれもそうか。……んー、だったら客の側からの対策だ。これから『littlemsn』へ行こうって人は、最初の内は、出来れば2人以上で連れ立って行くのが良いね。これだったら最悪、連れと喋ってたら間が保つし、気まずい思いをする恐れも全く無いだろうし」
順子:「あー、そうですね。普通の雀荘だと、親しい友達同士で同卓するのはコンビ打ち対策で原則NGですけど、この店みたいに、お金賭けない麻雀だったら関係ないですもんね」
駒木:「で、スタッフの人とか他の常連さんと打ち解けて、店の雰囲気に溶け込めて来たら、今度は1人で行ってみると。そういうパターンが、店にとっても客にとっても一番得をするんじゃないのかな」
順子:「なるほどー、そんな感じですね」
駒木:「なので、もし受講生さんで、『興味は有るんだけど、なかなか勇気が出なくて……』という人がいたら、是非とも3月20日にどうぞ(笑)。どうやらキックボクシングのチケットが獲れなさそうなので、多分昼過ぎから晩までいると思うんでね。一度、1卓4人全員が『社会学講座』繋がりなんてのも実現させてみたいし」
順子:「最後は告知と宣伝ですか(笑)」
駒木:「……まぁ、そんなこんなで、ちょうど良い時間になったかな。ちょっと取りとめの無い話になっちゃった感もあるけど、まぁその辺はご容赦願おう」
順子:「いつものことですしねー(笑)」
駒木:「次回からは普通の旅行記に戻るんで、またどうか何卒。……じゃあ、これで講義終わり、と」
順子:「お疲れ様でしたー」
次回へ続く


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