「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

4/14 現代社会学特論「椎名林檎、高らかに現役復帰!(8)」
4/13 競馬学特論「G1予想・皐月賞編」
4/12 行動社会学「駒木博士の縁日アルバイト日報(4)」
4/11 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(4月第2週分)
4/10 現代社会学特論「椎名林檎、高らかに現役復帰!(7)」
4/9  行動社会学「駒木博士の縁日アルバイト日報(3)」
4/8  
集中講義・現代社会学特論「椎名林檎、高らかに現役復帰!(6)」
4/6  競馬学特論「G1予想・桜花賞編」
4/5  
文化人類学「『フードバトルクラブ3rd』TV観戦レポート(2)」
4/4  文化人類学「『フードバトルクラブ3rd』TV観戦レポート(1)」
4/3  
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(4月第1週分)
4/2  
行動社会学「駒木博士の縁日アルバイト日報(2)」
4/1  集中講義・現代社会学特論「椎名林檎、高らかに現役復帰!(5)」

 

4月14日(日) 集中講義・現代社会学特論
「椎名林檎、高らかに現役復帰!(8)」

 ※アクシデントのため、この回のレジュメを消失させてしまいました。いずれ再執筆しようと思いますが、とりあえず、このままで放置させていただきます。

 この回は、過去の東芝EMIのアーティスト売り出し戦略のミスについて、例を挙げて述べました。椎名林檎さんのバイオグラフィーそのものについては余り記述をしていない回ですので、この回の講義を受講していなくても十分話についていけると思います。次回分のレジュメへ

 


 

4月13日(土) 競馬学特論
「G1予想・皐月賞編」

駒木:「今週も競馬学はG1予想。明日の皐月賞について、例によって珠美ちゃんと話をしてゆくよ」
珠美:「よろしくお願いします♪」
駒木:「さて、時間も無いし、早速予想に移ろうか」
珠美:「ハイ。……でも博士、今週の皐月賞は本当に予想が難しいですね」
駒木:「うん、確かにそうだ。先週の桜花賞も難しかったけど、あれは強い馬を探すのに苦労するレースだった。ところが今週は強い馬だらけで、今度は比較的力の劣る馬を絞り出す事が難しい。むしろ今週の方が難しい気がするね」
珠美:「…本当にそうですよね。どの馬も強そうに見えてしまって、予想を立てるのが本当に大変でした。もう、どれもこれも目移りしちゃって……」
駒木:「そうだよね。…でもさ、こういう時こそ、買い目は出来るだけ絞らなきゃダメなんだよ。難しいレースって事は、正直言って、的中する確率って高くないだろ? そういう時に『絞れないから』って言って、10点も15点も買うって言うのは大怪我の元。正直感心できないんだ」
珠美:「……(ぎくっ)」
駒木:「あらら、ひょっとして図星ついちゃったかな?(苦笑) あのね珠美ちゃん、こういう時って言うのはね、麻雀の勝負どころでの戦略によく似てるんだよ」
珠美:「……麻雀です…か?」
駒木:「そう。麻雀でね、こっちが思いっきり手を広げて役を作ってたら、いきなり親からリーチが入った。自分の手元には危険牌が山ほどある。しかもベタオリしない限り安全牌はゼロ。さぁどうしようか? ……こういう場面。
 ……で、こういう時はね、中途半端が一番いけない。ベタオリ…つまりもう勝負を投げてしまうか、1つ1つ危険牌を切っていくか、そのどちらか。思い込みに近い薄弱な根拠と推測を元にして、それでもロンされる可能性の低い牌から順番に勝負していくしかないんだ。
 こういう時の競馬も、まさにそんな感じ。目をつぶって、有力馬を1頭、1頭と叩き切って行く。これしかないね」
珠美:「はぁ……。いつも馬券を買い過ぎて痛い目に遭っている私には耳の痛いお話です(苦笑)」
駒木:「まぁでも、競馬は結局当たった者勝ちだからね。偉そうな事言ってても、当たらなきゃ、それはもう価値が無いのと一緒だから、何とかして当てに行くというのも正しい姿ではあるんだよ。
 ……さぁ、もう時間が無い。出馬表を見ながらの解説に移ろうか」
珠美:「ハイ。皐月賞は中山競馬場の芝コース内回りの2000mで争われます。それでは、出馬表をご覧下さい」

皐月賞 中山・2000・芝内

馬  名 騎 手
× バランスオブゲーム 田中勝
    ノーリーズン ドイル
    サスガ 安藤勝
    メガスターダム 松永
    メジロマイヤー 中館
    シゲルゴッドハンド 柴田善
    ダイタクフラッグ 江田照
× アドマイヤドン 藤田
  タイガーカフェ デムーロ
10 ローマンエンパイア 武幸
11 タニノギムレット 四位
12 モノポライザー 後藤
    13 ゼンノカルナック 福永
    14 ホーマンウイナー
× 15 ヤマノブリザード 岡部
    16 ファストタテヤマ 安田
    17 マイネルリバティー
× 18 チアズシュタルク 蛯名

駒木:「さっき言ったように、もう目をつぶって叩き切ったような有力馬には『注』を付けておいたよ。馬券は買わないけど、勝ってもおかしくないと思う馬」
珠美:「でも、今週は博士と私で随分と印が変わっちゃいましたね」
駒木:「う〜ん、でもこういう時は珠美ちゃんの正統派予想の方がアテになったりするからね(苦笑)。まぁ、予想の当たらない分、緻密な解説でフォローさせてもらうよ(笑)」
珠美:「(微笑)……ハイ、では1枠から順番に、有力馬を中心に解説して頂きます。では、まず1枠の2頭からお願いします」
駒木:「1番のバランスオブゲーム。いきなり有力馬だね。前哨戦の中で一番メンバーが揃った弥生賞を逃げ切り勝ち。スローペースに他の馬をハメたとは言え、見事な勝ち方だったよね。その実力はここでも通用しそうだよ。でも今回は逃げられないし、道中で良い位置をキープするのにも苦労しそうだ。その辺の不利をどう克服するかがカギなんじゃないかな?
 2番のノーリーズンは、前走で化けの皮が剥がれた感じがするね。今回は見送りかな」
珠美:「ハイ。次は人気薄の2枠ですが、何か特におっしゃりたいことは有りますか?」
駒木:「……そうだねえ。3番のサスガは決め手不足、4番のメガスターダムは、本質的に2000mは長そうだね。年末に重賞勝った時とメンバーの質も違うし。共に見送りが妥当だね」
珠美:「3枠も人気薄ですけど、2頭とも前走は大き目のレースを勝ってますよね。これは?」
駒木:「あー、そうだね。ただ、メジロマイヤーの勝ったきさらぎ賞は、そんなに強調できるようなハイレベルじゃなかったし、シゲルゴッドハンドの勝った若葉Sも、人気馬の凡走に助けられた感も強かった。それに今回は逃げ馬に優しい流れじゃ無さそうだしね。大穴開けるとすればこんな馬たちなんだろうけど、果たしてどうだろうか?」
珠美「……なるほど、分かりました。さぁ、いよいよ有力馬が顔を出し始めます。4枠の2頭はいかがでしょうか?」
駒木7番のダイタクフラッグ、これも先行馬だよね。うーん、ちょっと回りで同タイプの馬に囲まれるから、レースはし難いだろうなあ。実績も強調できるものが無いし、こりゃあ苦戦だね。
 で、2歳王者の8番・アドマイヤドン。前走の凡走は、何かと理由があるから度外視はしていいと思うんだ。でも、どうも追い切りの動きは完調には戻って来ていないらしい。普通のレヴェルならば、それでも黙って推すんだけど……。うーん、2着以内ってのは、ちょっと難しいかな。ワイド馬券なら(可能性が)あるかもしれないけど」
珠美:「次は5枠ですね。博士は2頭ともに印を打っておられますが…?」
駒木:「9番タイガーカフェね、好走と凡走を繰り返すようなこんなタイプ、怖いんだよねえ(苦笑)。感じとしては、5年前のサニーブライアンに近いものがあるね。前走で瞬発力を見せつけているし、他の有力馬に比べて前々でケイバが出来るのも強み。地力勝負では辛いけど、レースの流れ如何では、ひょっとしたら…の思いはある。
 10番のローマンエンパイア。やっぱり凄いよ、この馬。前走は騎手のエラーで2着になっちゃったけど、これまで対戦してきた相手とか考えると、4戦3勝2着1回ってのは凄すぎるくらいの成績だよ。問題は鞍上がまたポカをしないかどうかというのと、馬場の荒れた部分を通らされるとヤバいって事くらいかな。実力的には間違いなく最右翼だよ」
珠美:「……次も有力馬が2頭。6枠です。ここには前日時点での1番人気・タニノギムレットがいますね」
駒木:「うん。最後まで◎にしようかどうか迷ったんだけど……。タニノギムレットの持ち味は安定感だね。どこからでもどんな時でも34秒台の末脚を炸裂させて来る。これまでのレースを観る限りで死角は少ないように思えるんだけど、ただ、これまで対戦してきた相手が今ひとつインパクトに欠けるのが気になった。弥生賞組より積極的に上に評価できる材料が見当たらなかったんだよ。だから敢えて2番手評価。……でも、こういう時にアッサリ勝っちゃうんだよな(苦笑)。
 12番のモノポライザー。この馬がカギだね。さっきの喩えで言うと、危険牌中の危険牌。麻雀知ってる人向けに言うと、場に1枚切れているドラのダブ東ってとこ。もうアッサリ勝たれても仕方が無いんだけど、僕は事実上無印の『注』にした。休み明けはやっぱり不利だし、これまでの3戦が、いかにも対戦相手に恵まれた緩いレースだったからね。こういう時にいきなり厳しいレースに混じると、リズムが狂って惨敗するケースが多いんだ」
珠美:「今日の博士の予想は、ちょっと大胆ですね…。さて、次は7枠の3頭なんですけど……」
駒木:「ゼンノカルナックホーマンウイナーは多くを語らなくていいよね。ちょっと力不足だと思う。
 15番のヤマノブリザードだけど、この馬の前走は他の馬にブロックされて行き場所を無くしてしまったがための5着。実力負けじゃないから、人気の落ちた今回は逆に不気味だよね。実力の裏付けもあるし、これは軽視できないよ」
珠美:「最後に8枠ですね」
駒木:「この枠もファストタテヤママイネルリバティーに関しては力不足だと思う。
 で、大外のチアズシュタルク。この馬は、いわゆる“裏街道の王者”だよね。メンバーの比較的軽い重賞を渡り歩いてここまで来たって感じ。タニノギムレット相手に1/2馬身差っていうのは評価できるし、展開も割と向くんだけど……。うーん、この馬の取捨選択は最後まで迷ったんだけどね。まぁ、皆さんは買ってやってください(笑)」
珠美:「……ハイ、以上で解説は全て終わりました。最後は馬券の買い目を紹介ですね。まず、博士からお願いします」
駒木:「10、11、15のBOXに、9-10、1-10。本線以外は中穴ばかりになっちゃったね」
珠美:「私は……1、10、11、12のBOXに、10と11から8、15、18に流します。ええと、12点ですね(苦笑)」
駒木:「まぁ、こんな難しいレース、皆さんはくれぐれも無理しないように。それでは、今日の講義を終わります」
珠美:「ありがとうございました♪」


皐月賞 結果(5着まで)
1着 ノーリーズン
2着 タイガーカフェ
3着 11 タニノギムレット
4着 ダイタクフラッグ
5着 メガスターダム

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 コーシロー、お前ってヤツは……(絶句)。弥生賞の時にヤマノブリザード相手にやった事を逆にヤラれてどうすんだ。マンガのチンケな悪役か、キミは。
 まぁ、こんな結果となってはどうしようもないんだが。安全牌だと思って切ったら国士無双に当たった気分だよ(苦笑)。◎をタニノギムレットにしたところで2着3着だしね。タイガーカフェに印打って、モノポライザーを叩き切ったのがせめてもの抵抗ってとこか。
 2週続けて、伏兵が展開に恵まれて抜け出すレースが続いてるなあ。勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなしってこの事だね。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 私の推した馬、タニノギムレット以外ボロボロじゃないですか……。いつも競馬学のお仕事をしているのに…。もう、ただただショックです。
 もう、自信喪失気味です。次はどうにか当たりますように……。 

 


 

4月12日(金) 行動社会学
「駒木博士の縁日アルバイト日報(4)」

 この講義、あと2回で終了予定としてるんですが、果たしてどうなる事やら、現時点で駒木自身も分かってません(苦笑)。まぁ、この手の講義というヤツは大抵行き当たりばったりという事で……。

 今日の講義では2〜3日分くらい進められたらと思います。受講してない講義がある方は、こちらのレジュメをどうぞ。
 →第1回第2回第3回

 では、以下レポート本文です。本文中は文体を変更してお送りします。


 3月27日(水)

 前日の夜からこの日の朝にかけて、神戸ではややまとまった雨が降っていた。このアルバイトは屋外仕事。雨が降れば、当然の事ながら仕事は中止になる。
 2日間の慣れない仕事と、夜中の社会学講座の仕事の疲れでダルさが極まっている身体の事を考えると、休みが欲しいのはヤマヤマである。が、給料まで休みになってしまうので、それは正直言って勘弁してもらいたい。まったく痛し痒しである。

 比較的弱い雨が降ってはいるが、現場責任者Hさんの指示に従って、この日も10時出勤。天気予報では、午後から天気は回復に向かうとのことで、どうやらそれに望みを賭けているらしい。
 というわけで、とりあえず雨が止むまでは、景品類が雨に濡れてダメになっていないかチェックしたり、テントの天幕にたまった水を地面に落としたり、そのついでに思い切り頭からその雨水を被ってしまったりする。俺はドリフ大爆笑か。

 正午前になって雨が止む。どうやら午後から営業できそうだという事になって、昼食を挟んで本格的に業務開始となった。
 今日の駒木の担当は、射的“ジャンボ輪投げ”。水仕事をしないで済むだけ、楽と言えば楽な仕事か。
 
 射的に関しては多くの説明は必要無いだろう。コルクの弾丸を詰めて、数m先の的を撃つアレである。

 今回の縁日では、的の景品は倒れればプレゼントする事になっているのだが、景品の中には「どう考えてもこりゃ倒れんわ」という物があって、まるで晩年の小錦のように次から次へと攻撃を受け流してしまう。
 それならそれで良いのだが、景品の中には倒れやすい物もあって、それらに関しては、当たり前だがバンバンと倒されてゆく。その結果、あっという間に景品のストックからは倒れやすい景品が底を尽き、的となる景品を陳列する棚には、どこからどこを眺めても、ズシンと重心が座っている景品ばかりになってしまった。

 こうなるともういけない。陳列棚は、中世ヨーロッパのコンスタンティノープルか、はたまた昭和の日本の風雲たけし城かというような難攻不落の城砦と化してしまった。
 で、こういう状況になると、
 
弾が的に当たる倒れないでも、当たってるからもう少しで倒れるはず追加料金払ってでも狙ってやろう
 ……
という図式が成立する。これによって、なけなしの小遣いを叩いて次のチャンスに賭ける小学生が続出してしまうのである。
 「くっそー、当たってんのに倒れへん〜」「もう少しやのに〜」などと呻き声を上げながら、月の小遣いを蕩尽してゆく男の子達。そんな光景を眺めていると、思わず「もうそれくらいで止めとき」という言葉が出かかるが、立場上、そんな事を言うわけにもいかない。
 「ごめんな。一所懸命頑張ってるけど、君の努力は無駄なんや。もう棚にはほとんど倒れる景品は無いんやで」……などと思いながら小学生達を眺めていると、何だか自分が、実は彼氏持ちのキャバクラ嬢に入れ揚げて金からモノから貢ぎまくっている男を、部屋の奥から眺めながら心で泣いているフロアマネージャーのような気分になってきて、非常に物悲しくなって来た。
 今日の教訓。「射的はキャバクラである」
 特に見返りを求めず遊び程度に嗜むのは良いが、下手にのめり込むとロクな事にならない。ああ、まさにそのまんまじゃないか。しかも、上手いヤツはどんな時でもアッサリ“的”をオトしてゆくところまで同じだ。

 担当したもう1つのブースは“ジャンボ輪投げ”
 これは普通の輪投げと違い、点数を書いたボーリングのピンを的にして、そこに縄で作った大きな輪を投げ入れてゆくゲームだった。3投しての合計得点で特等〜5等までの景品を出す。
 このゲーム、的のボーリングピンを外すと0点になってしまうので案外難しい。しかもお客の大半が小学校就学前の小さい子どもなので、全然点数が伸びない。これもゲームというよりも、ただの集金マシーンである。大神源太も真っ青だ。

 そうやって「あ〜残念〜、0点やから5等やね」などと、一番安い商品を渡そうとしていた時、現場責任者のHさんがフラっとやって来たかと思うと、的から外れて地面に落ちていた縄の輪を1つ取り上げて、ヒョイっと9点の的に放り込んだ。そして、駒木の方に「分かってるな」と目配せをして、颯爽と消えていった。9点だと、5等ではなく4等にステップアップする。目配せの目的はそういう事なのだ。
 ただ、当の子どもはポカーンとしている。それもそのはず、Hさんは前にも述べたと思うが、子ども相手の仕事をしているよりも、Vシネマ『ミナミの帝王』に出ている方が自然な風貌をされているのだ。その子にしてみたら「怖いおじさんが何かした」としか思えなかっただろう。
 浅田次郎さんの著書の中で、借金の回収に来たヤの付く自由業の人が、空いた時間に公園へ行き、そこにいた子ども達と、「よーし、次はおじちゃんの番だぞー」とか言いながらはしゃぎ回っていた……というエピソードを思い出してしまった。

 今日は何だか変な日だな。雨の後の冷たい風に体を震わせながら、駒木はそんな事を思ったりした。

 そう言えば、昨日は子連れの父親と母親との間にある態度の違いを感じ取ったのだが、今日は射的に孫を連れて来た祖父と祖母との間にも、結構態度に差がある事に気が付いた。
 まず祖父、これは「猟犬を連れた猟師」だ。
 ジイチャンは、孫が何かを成功させる事に喜びを感じるらしい。だから射的でも成績に徹底的にこだわる。猟師は猟犬が仕事に成功した時にしか褒めないのと同様、ジイチャンは孫が何かやり遂げた後じゃないと褒めない。孫が失敗したりすると平気でダメ出しするし、ついには自分が銃をぶん取って、若い頃に三八式歩兵銃で鍛えたと思しき腕前を披露しようとしたりする。
 一方の祖母は「公園で野良猫にエサをやる人」
 オバアチャンは、もう孫が楽しそうに何かをしているだけで十分満足。射的の弾が3発中3発とも威嚇射撃みたいな状況になってしまおうとも、「あぁ、微笑ましい」とばかりにニコニコ。
 しかし、家に戻ったら嫁をドロボウ猫のように扱ってるんだろうなあと思うとブルーになるんだが。家族って複雑な社会共同体だなぁ。

 「そう言えば」をもう1つ
 昨日にも少しは感じたのだが、「俺って、ひょっとして知らない内に、子どもとか中高生のあしらい方が上手くなってるんじゃないか?」と思い始めたのだ。
 「それってどういう事?」と訊かれると難しいが、要は子どもを相手にした時は、口と体が勝手に動いてるのである。幼児や小学生が思いっきり“子どもワールド”な質問をぶつけて来ても、左脳が考える前に右脳が答えを弾き出して、それが立て板に水の如く流れ出すのだ。塾の新人講師時代、こう言うのが一番苦手だったのだが。
 自分で一番驚いたのは、子ども向けの乗り物遊具に高校生or中退と思しき茶髪の兄チャンたちがチョッカイをかけて、挙句にぶっ壊しかねない雰囲気になった時。いつの間にか足が勝手にその現場に駆け出して、その上、口からは「壊されたらかなわんから、降りてくれるか」とか何とか言い放っていた。
 虫の居所が悪ければ、ウォークマンの音漏れを指摘した老人を傷害致死させてしまいそうな連中相手に自分もよく言ったと思うが、その言い方のどこが良かったのか、その連中がスゴスゴと退場してしまったのにもっと驚いた
 何だろうなあ。いつの間にか、体の髄まで子どもや生徒相手の仕事をする事が染み着いてしまったらしい。これまでは、「自分ほど、子どもとコミュニケーションとるのが出来ない教員なんていないよなあ」とか思っていたのだが、どうやら合格ラインギリギリの所までは達していたらしい。現場を離れて初めて分かった自分の成長。何というか、毎日色んな事を発見させられるなあ、この仕事は。

 そうこうしている内に、この日の仕事も終わり。朝に水被ったせいで体が冷えている。風邪引かなかったらいいんだが……


 またも1日分しか進みませんでした……。
 どうやら予定より1回多くなりそうです。どうも申し訳ありません。では、また次回。今度は月曜日の予定です。(次回に続く

 


 

4月11日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(4月第2週分)

 今週から心機一転、木曜にゼミを実施する事となりました。これからは木曜発売の雑誌に掲載された作品も、原則的に当日の内にゼミの題材として採用できるようになりました。
 また、これまでの「週刊少年ジャンプ」「週刊少年サンデー」のレビューも、一日ズレた事でより密度の濃いものに出来ると思います。これからも何卒よろしく。

 では、早速講義へ移ります。まず今週は、「少年サンデーまんがカレッジ」の審査結果発表が出ていますので、まずはそちらの紹介から。

少年サンデーまんがカレッジ
(02年2月期)

 入選=該当作なし
 佳作=該当作なし

 努力賞=1編
  ・『X-STYLE!』
   三谷菜奈(20歳・東京)
 あと一歩で賞(選外)=2編
  ・『剣士は姫を救う。』
   田中裕介(22歳・新潟)
  ・[ 山姫 ] 
   新野裕呼(21歳・岡山)

 ……翌月にグレードの高い「新人コミック大賞」を控えていた上、1ヵ月分の応募分しか審査の対象になっていなかったため、ちょっと寂しい結果発表になってしまいましたね。

 そう言えば、審査結果発表の隣のページに「橋口たかし先生も持ち込みからスタートしたんだ」と、まぁよくある“持ち込み歓迎”の告知が載ってましたね。同様のお知らせは他の雑誌でもよく見かけます。

 でもよく考えたら、メジャー誌の場合は持ち込みで素晴らしい作品を投稿しても、必ず新人賞に回されて、そこで審査を仰ぐ事になるんですよね。だから、持ち込みがデビューへの近道になるというと、別にそんなわけではないんです。
 確かに持ち込みの場合は、プロの編集さんからアドバイスがもらえるという長所もあるんですが、その一方で、その時手の空いてた人が原稿を見る事になるんで、自分と合わない編集さんが勝手に担当になってしまうという可能性も高いんですよね。それに、いかに“プロの編集さん”と言っても、「マガジン」とかの場合だと、入社間もない新人さんが持ち込みの担当なので、結局は近所の兄ちゃんに読んでもらってるのと大差なかったりします。それで「プロのアドバイス」と言われてもねぇって感じですよね。
 で、直接新人賞に応募した場合は、その作品を見て才能を感じ取ってくれた編集さんが担当になるケースが多いので、長期的に見た場合はこっちの方が得になるんじゃないかとも思えるんですよ。

 ですので、マンガ家を目指して修行している人は、敢えて上京してまで持ち込むよりも、近くの知人の講評を仰ぎながら新人賞に応募し続けた方が良いんじゃないかなあと、そう思います。
 ……んな事言って、「責任取れよ」と言われても取れないんですけどね。でも、画一的な見方をするのもどうか、という事なんですよ、ええ。

 と、余談が過ぎました。今日も講義の時間には限りが有るんですよ。サクサク行かないと。
 あ、2つほど連載終了のお知らせ。次回で「週刊少年サンデー」の『ARMS』が最終回となります。何だか典型的な大団円になりそうなムードですが、期待して待ちましょう。
 あと、こちらは推測でしかないんですが、「週刊少年ジャンプ」の『サクラテツ対話篇』も次週で最終回になりそうです。こちらは残念ながら、人気低迷の末の打ち切り。まぁ、アクの強いギャグマンガの多い今の「ジャンプ」に、ライトなドタバタコメディは合わなかったという事なんでしょうかねぇ。

 ……さて、それでは今週の読み切りレビューです。今週は対象作品が少なくて、楽できる残念だなと思ってたんですが、「ジャンプ」で代原読み切りが2本あって、結局はレビュー対象作が4本も出てしまいました。ちょっと気が遠くなりそうなんですが、サクサクとやって行きたいと思います。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年19号☆

 ◎読み切り『メルとも! E─之介』作:真倉翔/画:加藤春日

 唐突に、43ページという中編読み切りの登場です。
 原作者の真倉翔さんは、多くの方がご存知でしょう、ヒット作『地獄先生ぬ〜べ〜』で原作を担当していた元・マンガ家の原作作家さんです。
 真倉さんと言えば、『ぬ〜べ〜』でもお馴染みの、岡野剛さんとのコンビが有名なんですが、前作『釣りッキーズピン太郎』が不発・打ち切りに終わってからコンビを解消。そして今は、今回のパートナー・加藤春日さんとコンビを組んでいます。何だか再起に賭ける漫才師みたいな感じですかね。

 一方の、その加藤春日さんは、「ストーリーキング」出身で、これが本誌初登場となる新人作家さん。増刊号「赤マルジャンプ」で、真倉さん原作の『天然天国らんげるはうす島』が掲載されています。これから連載目指して頑張って行こうという時期になるんでしょうか。

 では、例によって絵からレビューを始めましょう。
 加藤さんの絵は、ちょっと癖がありながらも、かなり垢抜けた感じのタッチです。とにかく印象的なので、すぐに絵柄を覚えてもらえるという強みはありそうです。
 ただ、どうも動きを表現するのが余り上手ではない印象も拭えません。アクションシーンでも、なんだか“セル画が少なくて紙芝居状態のアニメ”を見せられているような気がします。アシスタントが居ないので仕方が無いのですが、背景も随分と手抜き気味。まだこれからの作家さんですから苦言を呈するのは程々にしますが、もっと精進して、もっと洗練された絵が描けるようになる事を願っています。

 次に真倉さん担当のストーリー部分です。
 今回の話は『ピン太郎』と同じパターンでした。主人公の男の子のもとに、外界からの仲間がやって来るところから始まって、ヒロインとの関係を絡めつつ、悪役をあの手この手でやっつけていくという話ですね。
 このパターンは、もう真倉さんが手の内に入れている状態なので、ストーリー全体の印象としては、ソツ無くまとまっているな、という感じです。及第点はあるんじゃないでしょうか。 
 ただ、余りにもソツが無さ過ぎて目新しさに欠けてしまったという点と、長期連載を経験した作家さんにありがちな“長期連載ボケ”(=作風が成功していた時期のモノで固定されてしまう)の傾向がある辺りが少々残念でした。
 今回の読み切りは、恐らく連載へのトライアルなんでしょうが、今のままで連載に持ち込んでも、長期連載になるかどうかは微妙のような気がしますね。ナニゲに平均レヴェルが高いんですよ、今の「ジャンプ」は……。

 評価は。つまらないわけでは無いんですが、オススメというわけでも……

 

 ◎読み切り『ボウギャクビジン』作画:郷田こうや

 2月第4週分でも、代原読み切り『偉大なる教師』が掲載されていた郷田こうやさんですが、またも『HUNTER×HUNTER』の代原作家として登場です。

 今回の作品で失礼ながら意外だったのは、割と女性キャラも上手に描けるんだな、という事でした。まぁ細かい事を言えばキリが無いんですが、ギャグ作家さんで今回のレヴェルの絵が描ければ、まず問題は無いでしょう。

 次に肝心のギャグの方ですが、これも段々と自分の作風を意識しながらも、新しい事をやっていこうという意気込みが窺えて、まずは好感です。
 しかし、余りにも同じパターンのギャグ(美人のお姉さんが、容姿とギャップの有りすぎる残酷な言動と行動をする)が続きすぎた上、オチも読めてしまう内容だったため、少々物足りなさが残ってしまいました
 習作原稿として考えるとマズマズの出来なんですが、それでも他の連載ギャグ作家さんのクオリティと比べると、ちょっと可哀相かなという感じがしますね。

 評価はB寄りのB−。進歩は見えて来てますので、後は自分なりの“必勝パターン”を見つける事でしょう。今は実力を蓄えて、1〜2年先の連載ゲットを目標に、とにかく作品を描き続けてもらいたいものです。

 

 ◎読み切り『しゅるるるシュールマン』作画:クボヒデキ

 『ピューと吹く! ジャガー』が休載のため、なんと中1週という詰まったローテーションでクボヒデキさんが再登場となりました。(クボさんのプロフィールに関しては3月4週分のゼミを参照してください)

 しかし、2週間前にも指摘しましたが、どこがシュールなんでしょうか、この作品は……
 シュールじゃありません。普通のギャグです。しかも3月中旬の“寒の戻り”くらいの微妙な寒さが漂う、普通のギャグです
 それに、たった7ページしか無いんですから、もっとギャグの密度を上げないとダメです。コマ割りも荒っぽい上、ネーム(セリフ全体)の量も少な過ぎ。これではちょっと……。

 評価は当然ながら。もういい加減、出来もしないシュールから足を洗って、別の分野を開拓した方がよろしいかと思いますが? 

☆「週刊少年サンデー」2002年19号☆ 

 ◎読み切り『キャットルーキーぶっとび番外編 しっぽの怪』作画:丹羽啓介

 サンデーの連続読み切りシリーズ最終週は、月刊誌の方で長期連載されている『キャットルーキー』の番外編が登場となりました。
 本編はプロ野球マンガなんですが、この番外編は、見事に時流に乗ったというか、オカルト・陰陽道系のアクション・ストーリーになっています。さすがに押さえる所は押さえているという感じですね。

 さて、レビューの本題へ。
 この作品は番外編ですから、本来は「連載中のキャラクターが、いつもと違う側面を見せてくれる」だけで及第なんですが、それを言い出すと、この講義の存在意義が無くなっちゃいますので、敢えて論評を加えたいと思います。

 まず絵なんですが、まぁこれはいいでしょう。長期連載されてる作家さんの絵について云々というのはさすがに……というところです。ただ、どうもオカルト物には合わない画風かな、とだけは言わせてもらいますね。

 そしてストーリーの方なんですが、主要キャラの過去の姿を野球と絡めて描く事で、まず番外編としての機能をフルに果たしている。これは良いと思います。
 また、ちゃんと伏線を張りつつ、それを消化させて無駄なく話を進めている辺りもさすが、といったところでしょうか。
 ですが、苦言を呈したい点も。「伏線→消化・解決」というパターンでカバーできなかった設定を、無理矢理に事後承諾的、もっと言えばご都合主義的に解決させてしまったのは、ちょっとどうかと思います。説明的なセリフも若干多かったような気がしますし……。

 しかしまぁ、番外編としてはこの位のデキで上等なのかもしれません。本編を読んだ事の無い人が多い「週刊少年サンデー」でわざわざ掲載する事自体に疑問を抱いてはしまいますが……。
 評価は。ファンの人なら1段階プラスといったところでしょうか。

 

 あ、今週から前・後編で掲載される『育ってダーリン!!』作画:久米田康治)は、来週に2話まとめてレビューします。
 と、時間が来ました。そんなところで、今日の講義を終わります。

 


 

4月10日(水) 集中講義・現代社会学特論
「椎名林檎、高らかに現役復帰!(7)」

 さて、今日は前日付講義の振替実施との“ダブルヘッダー”でして、時間を短縮してお送りすることになります。

 過去のレジュメはこちら↓
第1回第2回第3回第4回第5回第6回

 

 というわけで、時間短縮講義の今回は、椎名林檎さんがデビューを決めてから関係者に受けた、それはもうイタイ仕打ちについて、少々お話をして次回に繋げたいと思います。

 「ミュージック・クエスト」で上位入賞、そして東芝EMI所属のアーティストになった林檎さん。デビューが決まったとなれば、次に決めなくてはならないのは、「デビュー曲はどうするのか、そしてどうやってそれを売っていくのか?」という部分でした。
 この時既に林檎さんは、後に世に出す事となる曲の大半を、既に作詞・作曲済みでした。つまり、もう素材は出来上がっているわけで、後はこれをどうやって売っていくかという一点に絞られているはずでした。

 しかし、この時まだ林檎さんは知らなかったのです。

 東芝EMIというレコード会社が、とことんまでアーティストの売り出しが下手糞であるという事を。

 この辺の詳しい話については、また後日、林檎さんがデビューしてからの話でタップリ時間を取って述べたいと思います。今はこの時に林檎さんが被った屈辱についてのお話をします。

 ……「椎名林檎デビュー・企画会議」の席上で、林檎さんは、それこそたくさんの歌の歌詞、譜面、デモテープを持参して来た事でしょう。高校を辞めてまで音楽に打ち込んできた、林檎さんの10代の努力と才能の結晶がそこに詰まっていたはずです。
 しかし、林檎さんの才能を買って自社のレーベルにスカウトしたはずの東芝EMIの関係者は、林檎さんとその曲に対する猛烈なダメ出しを行います。
 このダメ出しの全容については、さすがに駒木と言えども把握する事は出来ませんでしたが、以前、林檎さん自身がインタビューで語っていたエピソードについてお話しましょう。

 問題となったのは、『月に負け犬』という歌の冒頭の部分でした。当然、歌詞は林檎さん自身の作詞です。

 好きな人や物が多すぎて 見放されてしまいそうだ
 虚勢を張る気は無いのだけれど取分け怖いこと等ない

 この歌は結局、売上ダブルミリオンの偉業を成し遂げた2ndアルバム・「勝訴ストリップ」の中に収録され、日の目を見る事となったのですが、当時の関係者が出したダメ出しがこんなの↓でした

 

「だからさぁ、虚勢を張るのか張らねえのか、一体どっちなんだよ?」

 

 ……おお、神を神とも恐れぬこの所業!
  このような、売れない新人漫才師のボヤキ漫才ネタのような暴言を吐いた関係者は許してはなりません! 今すぐ社史編纂室へ更迭すべきであります!
 我々が払ったCD代の中から、こんなヤツの給料が出ていたのかと思うと、こやつを綾辻行人著『殺人鬼』の世界へ送り込んでやりたい気分で一杯になりますね、しかし。

 で、このダメ出しに一番傷ついたのは、当然の事ながら、作詞者である林檎さん本人でした。
 彼女は傷つき、苦悶しました。しかしやがて、その苦々しい思いを昇華させ、1つの歌を作り上げます。これが同じく「勝訴ストリップ」に収録されている曲の1つ、『アイデンティティ』なのです。前半部分の歌詞を以下に紹介しましょう。

 是程多くの眼がバラバラに何かを探すとなりゃあ其れなり
 様々な言葉で各々の全てを見極めなくちゃあならない
 正しいとか 間違いとか 黒だとか 白だとか

 何処に行けば良いのですか
 君を信じて良いのですか
 愛してくれるのですか
 あたしは誰なのですか
 怖くて仕方が無いだけななのに・・・

 こういった衝突が繰り返された結果、林檎さんは全ての事に嫌気が差し、97年1月、知人の移住先であるイギリスへ向かって日本を旅発ちます
 そしてそこで3ヶ月、独り苦しみぬいて、彼女が語るように世知辛い世の中へ戻っていく事を決心するのです。

 まったく、せっかくの素晴らしい才能をどうしてくれようか、というエピソードでありました。しかし、これもまだ、その後の事に比べると前フリに過ぎなかったのです……。

 ……というところで、今日は時間となりました。次回の講義は日曜日の予定です。では、今日はこれまで。(次回へ続く

 


 

4月9日(火) 行動社会学
「駒木博士の縁日アルバイト日報(3)」

 こちらも一週間ぶりの講義になります、行動社会学講義です。時間もないので、サクサク本題に移る事にしましょう。

 この講義を未受講の方はこちらのレジュメをどうぞ。
 →第1回第2回

 では、これから日報(レポート)本文です。文中は便宜上、文体変更を行います。


 3月26日(火)

 今日から縁日本番。勤務は10時からで、営業時間は11時から18時前後とのこと。ちなみに駒木のシフトは休みナシで6連勤だ。
 ここ数日、ようやく寒さも和らいで来て過ごしやすくなって来たのは幸いだ。「暑さ寒さ阪神タイガース(去年までの)は彼岸まで」とはよく言ったものである。

 勤務開始と同時に、今日の担当・配置言い渡し。
 駒木は「ザリガニ釣り」「金魚すくい」を担当することに。どうやら男はナマモノ要員で採用されたのだと、ここでようやく気が付く。「ザリガニ釣り」は、希望する客にザリガニ1匹お持ち帰りしてもらうので、ザリガニを素手で掴める事が前提になるのである。そりゃ、普通の女の子じゃ無理なはずだ。

 まず水槽にカルキ抜きを混ぜた水を張り、酸素ポンプ挿入。そこへ養殖場から運ばれてきたザリガニや金魚を投入していく。

 金魚は、小学校の給食で1クラス分の冷凍ミカンを入れていたモノのような厚手のビニール袋に詰められて集団就職して来た。こちらは金の卵ならぬ金の魚だが。
 しかし同じ金魚でも、金魚すくい用に回されるか、それともピラニアのエサ用にペットショップに回されるかで運命が大きく違ってくるものだ。まるで旧日本陸軍で内地勤務とガタルカナル行きに分かれるような格差である。

 一方、ザリガニは期日指定の宅急便で護送されて来た。
 もちろんダンボールに直でザリガニを入れているわけではなく、駅売りのミカンや天津甘栗が入れるのに使うような赤いビニール網袋に詰め込まれている
 もうなんだか、バラエティ番組で「1坪の土地に、人はどれだけ入る事ができるか」というお題のため、ギュウギュウ詰めにされて苦悶しているお笑い芸人を見ているかのようだ。上島竜兵なら帽子を床に叩きつけて「訴えてやる!」と吠え出す事はまず間違いないスシ詰状態。
 そんなザリガニを一匹一匹手掴みで袋から出しては、水入りバケツへ放り込んで洗浄し、その後水槽へ。
 実は駒木、26年間生きてきてザリガニを素手で掴むのはこれが2回目、しかも約20年ぶり。公立高校野球部の甲子園出場回数のような頻度だが、やろうと思ってやれば出来るもので、自分でも驚くくらいスムーズに作業は進んだ。
 ただ少々困った事に、過酷な輸送の中で片方のハサミがもげてしまったザリガニが少々混じっている。ハサミが無いザリガニなんて、ザリガニ釣りには極めて不向き。というか、商品にならんではないか。
 どうしたものかと思い、現場責任者のHさんに尋ねてみると、「エエから水槽に入れとき」と言う。疑問に思いつつも、言われた通りにしてしばらく観察すると……。

 詳細の描写は避けるが、ザリガニの社会は文字通りの「弱肉強食」である事は深く理解した。非脊椎動物の世界はシビアだ。
 で、そんなザリガニを釣るための釣り竿(細い棒にタコ糸を括りつけて裂きイカをその先に結んだ物)をスタンバイして準備完了。いよいよ営業開始である。

 時刻は午前11時過ぎとあって、既に親子連れの買い物客がチラホラと。春休みとあって、数は少ないが小学生の集団なんてのも見られたりする。
 その手の子ども客に効果絶大なのがザリガニである。まるで「ジャパネットたかた」の社長が直々に実演販売をしているかのように人がワラワラと集まってくる
 まぁ、集まってきた子どもの内の約半数は、ザリガニ水槽を見た途端、故・鈴木その子を初めて生で見たような反応をして脱兎の如く逃亡してゆくが、それでも歩止まり効果は抜群。「ザリガニ釣りはちょっと……。でも、金魚なら」と、次々にザリガニの横にある金魚すくいのブースへと吸収されてゆく。見事な“撒き餌→一本釣り”の構図だ。新宿歌舞伎町でいかにベテランのポン引きが「お兄さん5000円ポッキリ! イイコト出来るよ!」…などと言ってもこうはいかない。恐るべしはザリガニの魔力である。

 そんなわけで、開店当初から金魚すくいは盛況。最高6人同時プレイというヘヴィーな状況にてんてこ舞いになる。なにせこっちも今日が初めて。だから手際が随分と悪いのだ。
 だが、そんなカキイレ時であろうが、嫌でも目に付く人たちがいる。何もしなくても駒木に無言でケンカを売って来る連中である。
 それは、ブサイクな男とメチャクチャ美人な女性の若夫婦。子ども連れも多い。百歩譲って美男美女のカップルなら許せるが、えてしてそう言うのは少なくて、大抵が中川家の兄弟間の外見と性格の差並の違和感に満ちた組み合わせなのだ。もう何というか、子ども連れの同伴出勤的な、明らかに間違った光景がそこかしこに点在してたりする。
 ……そういう情景を見て思った本音を、ここで余すところ無く吐露しようと思ったが、さすがにイメージ的にアレなので、差し控えさせて頂く。が、こっちは季節はずれのハッピを着て時給750円で働いているのである。しかも隣で座ってる5つ年下のバイト仲間の女の子は、相変わらず「お前は俺のオンナか」と言いたいくらいタメ口全開だ。そんな状況であるから、ネズミが100匹単位で殺せそうな、禍禍しい負のストレスに満ちた呪詛を吐いたとしても、それはどうかお許し願いたいと思う。

 しかし、そんな子連れ若夫婦を見ていて思うのだが、子どもとこの手の遊びに付き合っていて、父親と母親で余りにも態度・姿勢が違うのには驚いた。
 父親、つまり男が子どもの遊びに付き合っている態度を単語1つで説明すると、「義理」なのである。もうなんか、いかにも面倒臭そうで、その死んだ目が「これが俺の役割だから、仕方ナシにやってるんですよ」とか、「たまにはこんな事もしないと、カミさんの機嫌が悪くなるんですよ。特に夜の」とか語ってるのである。
 一方の母親。これはもう、「慈愛」の一言に尽きる。
 子どもが何をやっても、どんな状況に至っても優しく温かく包み込むような、温かい空気に満ちている。これは凄いな、と実感した。何というか、見えない赤い糸ならぬ見えないヘソの緒で母親と子どもが繋がってる感覚さえ覚えるのだ。さすがは自分の腹を痛めて産んだ仲と言うべきか。
 いや、母の愛は偉大だな、などとガラにもなく考えた次第。やっぱり男はアカンですよ。タネツケするだけじゃどうにもならんです。競走馬と同じように、父親が同じだけでは兄弟と認めたらアカンとか、そういう民法改正もアリだと半分本気で思った。

 ……などと、何故か「“金魚すくいの兄ちゃん”をやりながら家族愛について考える」という、複雑怪奇な心理状態のまま、時間は過ぎてゆく。
 ザリガニ釣りに客が来た時は、釣り方をいちいちレクチャーしてあげないといつまで経っても釣れないので付きっきりになるし、金魚すくいの方もどうした事か、金魚すくいに使うあの、ほら、紙を張った枠みたいな道具、それの紙の部分がやたらと丈夫で、いつまで経っても終わらないため、客がどんどん溜まってゆく。だから、絶えず適度に忙しい状況が続き、体感時間が短く感じる。これはある意味有り難かった。

 それにしても金魚すくいの客の相手をしていて一番笑えたのは、「一番必死に金魚と相対する客は、子どもから道具を取り上げた母親」だったことだ。
 自分の子どもが余りにも手際が悪いのに業を煮やし、「ちょっとお母さんがお手本見せてあげるから」と、無理矢理バトンタッチしたが最後、もう二度と子どもは道具に触らせてもらえない
 その様子はまさに、髪の毛を明るい茶色に染め、家事そっちのけで友人と昼間からカラオケに勤しむバカ嫁を睨みつける姑のような鬼の形相。一心不乱に金魚を追い続けるのだ。ダンナが浮気してもここまで執拗に追及しないだろうというくらい、金魚を追い詰める追い詰める。

 そんな光景を見てると、やっぱり大人が一番遊びに飢えてるんだよな、とシミジミ思った。だから暴利なテラ銭を貪られても公営ギャンブル場やフリー雀荘にオッサンたちが集まるのだろう。

 ようやく時計の針が18時を回った。営業終了である。
 色々な事をやり、色々な事を考えた1日が終わった。そして、これがあと5日も続く。やや気の遠くなるような思いをしながらも、何故か心は不思議な満足感に満ちていた。


 ……というわけで、バイト2日目の様子をお届けしました。次回は金曜日です。では、今日はこれまで。(次回に続く

 


 

4月8日(月) 集中講義・現代社会学特論
「椎名林檎、高らかに現役復帰!(6)」

 なんやかんや有りまして、1週間ぶりの「現代社会学特論」となります。
 この講義、実は4月までに終わる予定だったんですが、高校の仕事との兼ね合いで講義時間が減る事を考えたりすると、どうも今月下旬くらいまでかかるんじゃないかと思ってます。
 まぁ、この講義はそんなに不評というわけでは無さそうなので、ボチボチ進めて行けばいいかな、と思っております。

 過去5回分のレジュメはすぐ下のリンクからジャンプしてください。全て既にアーカイブに収録済みです。

 ◎第1回第2回第3回第4回第5回

 
 
前回は、いよいよ本格的にソロ・アーティストへの道を歩み始めた椎名林檎さんに、一発屋メーカー・ヤマハの魔の手が! 危うし、林檎姫!!
 ……という内容でした。しかし、コースタルシティって、どういう意味なんでしょうね(まだ言ってる)。

 プロデビューへの直通ルートと言うべき、ヤマハ主催「ミュージッククエスト1996」に出場した林檎さん。福岡予選の段階で、既に複数のレコード会社からスカウトを受けていたのは前回の講義でも述べましたが、そのバックステージのゴタゴタをよそに、彼女は「ミュージッククエスト・ファイナル」──つまり全国決勝大会に出場します
 この時、初めて彼女は「椎名林檎」という名前を使用しています。まさにこの時が彼女にとって重要なターニングポイントとなったと言って良いと思われます。
 そんな林檎さんの「ファイナル」での結果は、惜しくも優秀賞。唄った曲目があの『ここでキスして。』ということを考えると、彼女をグランプリにしなかった審査員の余りの耳の悪さに、「お前らステカセキングに鼓膜でも破られたんか」とツッコミを入れてしまいたくなりますね。しかしまぁ、当時はバックバンドが現在の凄腕メンバーではありませんでしたし、完成度という事を考えると、まだ見劣りするものがあったのかも分かりません。

 ちなみにこの時のグランプリは谷口崇。彼は前年の「ミュージッククエスト・ファイナル」でも優秀賞を受賞しており、悲願のグランプリ受賞でありました。しかし彼はそのままヤマハからプロデビューしたものの、オリコンシングルチャート最高97位と、一発屋にすらなりきれずに低迷を続けています。デビュー直前が生涯最高のピークだなんて、阪神タイガースのドラフト1位指名選手みたいで、何だか物悲しいですね
 このあたり、ヤマハ入りを蹴って別の道を歩んだ林檎さんとまさに好対照ですよね。谷口さんには、林檎さんの代わりの人身御供になってもらったような気がして来て、何だか申し訳ない気分になってしまいます。『北の国から』の田中邦衛みたいに、ヨレヨレのボストンバッグからカボチャを取り出して「これでもどうぞ」と言いたい気分で一杯です。

 この「ミュージッククエスト・ファイナル」の後、林檎さんは結局、東芝EMIに所属することになります。これで彼女は、自らが敬愛してやまないブランキー・ジェット・シティ(現在は解散)と同じレーベルの一員となりました。その時の彼女の気持ちは想像するに難くありません。
 ですが、まだ10代後半で世間の荒波に揉まれた事の無かった彼女に、音楽業界の、そして芸能界の“闇”が襲い掛かります

彼女の挫折と苦悩の日々が始まったのでした──。

 

 …どの世界でも同じですが、特に芸能界は「強きを助け、弱きをくじく」が幅を利かせた世界です。

 例えば、某大物お笑いタレントS氏の話。
 今では大阪に豪邸、東京には高級マンションを居に構えるS氏にも、当然の事ながら新人時代がありました。この講座の受講生の皆さんならご承知でしょうが、新人のお笑いタレントなんて、芸能界ではゴミ同然であります。大体が「間違って死なせちゃったら番組終わるから、命だけは助けてやるか」レヴェルの扱いでありまして、簡単に言うと人間とみなされていないのが実情だったりします。

 で、そのS氏、新人の頃にとあるTV番組に出演する事となりました。当然、収録現場では番組のディレクターに挨拶をするわけですが、この時そのディレクターは、S氏の「おはようございます、今日はよろしくお願いします」という清々しい挨拶に対して、いかにもウザそうな顔を浮かべ、アゴだけで「あっち行け」と指図したそうです。まるで「ゴミクズが。俺に気安く挨拶するな」と言わんばかりに。その時のS氏の屈辱感はいかばかりか。しかし、これも業界の掟でありました。先程も言いましたが、新人のお笑いはゴミ箱の中の紙クズ同然の扱いなのです。

 ですがそんな屈辱に耐えつつ、S氏は徐々に売れ始めて“若手有力お笑いタレント”のポジションを手に入れます。まだギャラは低いままとは言え、「俺はこの業界で食っていけるぞ」と自覚できて幸せな頃であります。
 で、ちょうどその頃、S氏は業界人が集うパーティに出席しました。するとそこには、アゴでS氏をあしらったあのディレクターがいるではありませんか。当然S氏はその姿に気付きますが、どうしたものかと迷ってしまい、その場に立ちすくみます。するとどうでしょう、そのディレクター氏はスタスタとS氏の下に歩いて来るではありませんか! それを見て、何をされるのだろうかと身構えるS氏、しかしディレクターはそんな緊張するS氏に微笑みかけると、

 「いや〜、Sくん、最近頑張ってるじゃないの」

 と言い放つや、ポンポンと肩を叩くではありませんか。そして「若手の頃、俺が育ててやったの覚えてるよね?」と目で語ってニヤリと笑ったという事です。S氏、当然の事ながら、「ああ、これが芸能界なんだな」と実感したそうです。

 しかも、まだこのS氏の話には続きがあります。
 それからまたしばらく経ちますと、S氏の業界内の肩書きから“若手”の2文字が取れ、代わりに“大物”がくっつくようになります。新人の頃には信じられなかった高額のギャラを貰い、後輩芸人からも慕われるような存在になっていました。
 そんな大物・S氏にまたもや業界内パーティに出席する機会がやって来ました。それももう、「出席させてもらう」立場ではなく「招待されて」という立場です。
 S氏がパーティ会場を見回してみますと、あぁ、やっぱりいました、あのディレクター氏。いや、今や彼も出世してプロデューサーになっていましたが。
 そのプロデューサー氏、今回も目ざとくS氏を見つけるや、今度は小走りで近寄って来て……

 「いや、Sさん! いつもお世話になっておりますぅ〜!!」

 と、腰を直角に曲げて最敬礼。

 地元の有力後援者を前にした鈴木宗男のような態度でありました。

 この時のS氏、「もう呆れて笑うしかなかった」と述懐しています。そして、「あぁ、やっぱりこれが芸能界なんだな」と思った事でしょう。

 ……とまぁ、このように芸能界というのは世間の世知辛さを濃縮したような世界であります。
 ですから、現在の“ダブルミリオンセラー・椎名林檎”にはとても言えないような事でも、当時、ヤマハのオーディション上がりのド新人だった椎名林檎さんにはナンボでも言えてしまったりしたのです。
 そんなわけでしたから、東芝EM Iの関係者と林檎さんの間に衝突が起きるのは不可避でありました。そしてそれが、林檎さんが一時デビューを断念して海外へ脱出するという最悪の事態にまで発展してしまうのです……。

 と、いうところで、今日は時間となりました。なんだか今日は椎名林檎さんの話題よりも別の話題の方が詳しくなってしまいましたが、次回はちゃんと林檎さんにスポットを当てた講義にしますので、どうぞよろしく。では、また続きは明後日に。 (次回へ続く

 


 

4月6日(土) 競馬学特論
「G1予想・桜花賞編」

駒木:「さて、今週は正式なスタイルで競馬学特論だ。珠美ちゃんと一緒に、明日の桜花賞の予想をしていこう」
珠美:「ハイ。いよいよ本格的なG1シーズンに突入ですね。でも、今年の桜花賞は難しいですよね……」
駒木:「まったくだね。ただでさえ例年難しいレースなのに、たまったもんじゃないよね(苦笑)。おまけに明日は馬場状態が微妙と来た。不確定要素だらけで、今でも逃げ出したい気分だよ(苦笑)」
珠美:「私もです(苦笑)」
駒木:「…まぁ、これも仕事だから頑張ろうか(笑)。じゃあ、出馬表と僕らの予想を皆さんに見てもらうとするか。とりあえずこの表ではやや重以上に悪化した馬場であることを前提に予想させてもらったよ。良馬場の時の予想は、また最後に紹介すると言う事で…」

桜花賞 阪神・1600・芝

馬  名 騎 手
× スマイルトゥモロー 吉田
× キョウワノコイビト 松永
シャイニンルビー 岡部
タムロチェリー 蛯名
    カネトシディザイア 河内
    ブルーリッジリバー 四位
    オースミバーディ 坂井
オースミコスモ 後藤
    アイノブリーズ 岩田
    10 マチカネテマリウタ
    11 ミスイロンデル 小牧太
    12 サンターナズソング 柴田善
    13 シェーンクライト 福永
    14 ツルマルグラマー 川原
    15 アローキャリー 池添
  × 16 チャペルコンサート 熊沢
  × 17 ヘルスウォール デムーロ
  × 18 サクセスビューティ 藤田

珠美:「今年の桜花賞は、主役不在・フルゲート18頭の激戦になりました。それでは博士には、1枠から順番に有力馬を中心に解説して頂きます。それでは、まず1枠の2頭から…」
駒木:「今週から仮柵を取り外したんで、内ラチから2頭分くらいは、とても走りやすいはずなんだ。その上、内枠有利の阪神1600mでしょ。否応なしに注目は集まるよね。
 で、まずスマイルトゥモロー。500万下、G3と2連勝しているんだけど、これまでは色々な面で恵まれていたかなって気はする。実績を額面通り受け取り難いんだよね。でも、瞬発力がありそうだし内枠だしね。『ひょっとしたら……?』という未知の魅力はあるよ。
 キョウワノコイビトは末脚の鋭さに欠ける分、今ひとつパッとしない戦歴になってしまってる。安定感は抜群なんだけどねえ。今回は、激しい先行争いを内ラチ沿いに追走して直線半ばで先頭。んで、そのまま粘り込みと行きたいところだろうね。僕の読みでは、必ず一度は見せ場を作れるチャンスが来ると思ってるんだけど、さてどうだろうか?」
珠美:「…ハイ、では続く2枠の馬2頭をお願いします。博士も私も、2頭とも重い印を打っていますけど」
駒木:「3番のシャイニンルビー、この馬の評価が難しくて……あ、この馬というより、この馬が勝ったクイーンCの評価が難しいんだけどね。タイムの面ではハイレヴェルだし、メンバー構成を振り返るとそんなに高い水準でもない。ソツの無いレースをしたとも言えるけど、理想的過ぎる流れに恵まれたレースだったとも言える。プラス・マイナス両方の材料があるんだよ。結局は18頭中随一の末脚を評価して、対抗の評価にさせてもらったんだけど。……あ、それとこの馬には、岡部騎手の桜花賞初制覇が懸かってる事にも注目だね。
 タムロチェリーは、とにかく気難しい馬だから。ツボにハマったらとんでもない力を出すんだけど、それには道中揉まれない事が必須条件なんだ。今回、4番枠を引いて、馬場の良い所は通れそうなんだけど、思いっきり内ラチ沿いでいじめられそうだからねぇ。外を回ったら回ったで、荒れた馬場が応えそうだし…。少なくとも連複の軸には出来ない馬って事になるかな。敢えて単勝で勝負に出るのも面白いかもしれないけど」
珠美:「博士の話で思い出しましたけど、岡部騎手って、まだ桜花賞を勝っていないんですよね。毎年この話を聞くたび、不思議に思えて仕方が無いんですけど…」
駒木:「柴田政人さん(現・調教師)が引退間際までダービーだけ勝てなかったりとか、騎手には何故か勝てない大レースっていうのがあるよね。岡部騎手も、もうあと現役生活は1年、2年だろうから、出来たら勝つところを見てみたいんだけどねぇ。…でも、こればかりは勝負事だからね」
珠美:「…そうですね。武豊騎手も、ダービーだけ勝てない年月が続いたと思ったら、アッサリ2連覇しちゃったりとか、ありましたものね。何だか複雑です……。
 あ、では次に3枠の2頭をお願いします。博士も私も無印なんですけど、私は×印をつけるかどうか、最後まで悩みました。博士はいかがでしたか?」

駒木:「僕も似たようなもんかな。一応、馬券対象の最終候補には挙げていたよ。
 …じゃあ、まずカネトシディザイアからね。前走のフィリーズレビューで人気を背負ったりして評論家筋の評価は高い馬ではある。けど僕からすると、どうも地力そのものが一線級に足りない気がしてならない。この馬、阪神ジュベナイズフィリーズで10番人気7着か。大体、ポジション的にはこんなところなんだと思うよ。あくまで入着候補。
 で、ブルーリッジリバー。前走フィリーズレビュー4着だね。ただでさえ差し馬不利の阪神1400m、しかも先行馬が残るレースだったことを考えると、この馬は着順以上の評価をしていいと思う。でもね、この馬はヒヅメが平らなんで、道悪になると二束三文なんだよ。あくまで良馬場が前提になってくるね」
珠美:「当日の馬場状態が気になりますよね…。明日の天気は、朝の9時ごろまで雨、そして昼過ぎから晴れという予想です。本当に微妙ですよね(苦笑)。
 では、次に4枠をお願いします」

駒木:「まずオースミバーディーね。前走は全く精彩を欠いた走りだったから、これは度外視していいと思う。でもこの馬って、好走してる時って人気薄の時ばかりなんだよね。これって、確固たる実力の裏づけが無いって事でもあるんだよ。『二度ある事は三度ある』とも言えるんだけど、世の中そんなに甘くないよって言いたくもなる。
 そして同一馬主・染め分け帽のオースミコスモ。この馬のセールスポイントは安定感と道悪上手。展開的には決して恵まれているわけではないんだけど、道悪だったら、他の馬が末脚を殺されてもがく中をただ一騎、スルスルと抜け出してしまいそうな気がする。だから、道悪前提ならこの馬が本命って事になるね」
珠美:「今回は、私も博士も本命が同じ馬なんですよね。これって、有馬記念以来ですよね。縁起悪……いや、なんでもありません(苦笑)」
駒木:「…まあいいけどさ(苦笑)。
 で、次は5枠、6枠なんだけど、ちょっとこの枠の4頭は力不足って気がするね。だからここは割愛させてもらおう。
 …というわけで7枠。ただここも、シェーンクライトツルマルグラマーの2頭は格下感が拭えないね。で、残るはアローキャリー。スンナリ逃げたら渋太い馬なんだけどねえ。でも、今回は逃げ馬に同厩舎のサクセスビューティがいるんだよ。で、池添騎手には悪いんだけど、どう考えても彼は“勝負ジョッキー”じゃないんだよね。穿った見方をすると、いかにも因果を含めやすい騎手を選んだかなって気がするんだ。だから、今回に関してはハナに立てずに失速してしまう可能性が極めて高いと思う」
珠美:「……というわけで、博士は5、6、7枠の馬は全馬無印ということになりました。では、いよいよ最後、大外の8枠3頭なんですけど……」 
駒木:「前にも話したと思うけど、とにかく阪神1600m芝コースは外枠が絶対に不利。余程図抜けた力が無い限り、『外枠だから』という理由だけで消せるくらい不利なんだよ。
 で、今回8枠に入った3頭は、一応どれも有力馬ではあるんだけど、とてもじゃないけど、以前8枠から連対したキョウエイマーチやフサイチエアデールほどの力があるとは思えないんだよね。逃げる最外枠18番のサクセスビューティは、当然ハナを切るまでに随分距離損を被るだろうし、チャペルコンサートヘルスウォールに至っては、ずっと馬場の荒れた外を追走させられる羽目になる。これではちょっとねぇ」
珠美:「一応、どの陣営もそんなに大外枠を気にはしていないみたいですけど……?」
駒木:「そりゃ、走らせる立場にしてみたら、枠順だけで勝負を投げるわけにはいかないしさ。それに、管理馬ゆえの贔屓目ってヤツもある。とにかく、この大外枠3頭に関しては、もし2着までに残ったら『敵ながら天晴れ』とカブトを脱ぐしかないだろうね」
珠美:「以上で一応は全有力馬を紹介したことになりますね。…あ、忘れないうちに良馬場の時の印をお願いします」
駒木:「そうだね。じゃあ、下に表を出すよ」

3番 シャイニンルビー
8番 オースミコスモ
2番 キョウワノコイビト
4番 タムロチェリー
× 6番 ブルーリッジリバー
× 1番 スマイルトゥモロー

珠美:「本命と対抗が入れ替わって、ブルーリッジリバーが2着候補に追加されてますね。なるほど……」
駒木:「馬券の方は、いつも通り◎○▲の3点ボックスが本線で、あとは◎から印の付いた馬へ流すパターンだね」
珠美:「私は、また手を広げすぎだと叱られちゃいそうですけど、1、3、4、8番の6点BOXと馬連2-8。押さえに枠連で4-8ですね」
駒木:「これで当たったら大きいね(笑)。まぁ、期待しないで待っていようか(笑)」
珠美:「皆さんも頑張ってくださいね〜♪」


桜花賞 結果(5着まで)
1着 15 アローキャリー
2着 ブルーリッジリバー
3着 シャイニンルビー
4着 カネトシディザイア
5着 17 ヘルスウォール

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 まぁ、アレだね。山内調教師が「まさか」って言ったくらいだから、こっちが当たるはずないよね、アローキャリー。それに馬体重発表の時点で僕の予想は終わってたから、むしろよく2着3着まで格好がついたな、と。
 今回に関しては、良馬場のブルーリッジリバーについて言及した事と、8枠の3頭を完全に見切った事で勘弁してくださいな。また、皐月賞で頑張るんで、よろしく。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 私の◎と○はどこへ行っちゃったんでしょうか……(苦笑)。またボロボロに外れちゃいました。
 オースミコスモ、散々でしたね。途中で不利を受けた上、一番馬場の荒れた所走らされてましたものね…。タムロチェリーはずうっと後ろのままでしたし……。
 何だか自信喪失しちゃいそうです。これからまだG1レース続くのに、不安です……。

 


 

4月5日(金) 文化人類学
「『フードバトルクラブ3rd』TV観戦レポート(2)」

  さて、諸事情あったとはいえ、日付が随分すぎてしまいました(これを書いている時点で7日の午後)。
 更新が遅れた直接的な理由がフードファイト関係者出席者とのオフ会(+取材活動)だったという事で、ご勘弁願いたいと思います。

 では、今日は「フードバトルクラブ3rd」レポートの後半部分。準決勝と決勝戦のレポートと戦況分析を述べていきたいと思います。
 ※予選、1stステージ部分のレポートはこちらをクリックしてジャンプしてください。

 では、以下のレポート文中では敬称略、及び文体変更を行います。


 ☆準決勝 「スピード・シュートアウト」

 ※ルール:マッチレース形式「シュートアウト」のスプリント・ヴァージョン。
 まず参加6選手による組み合わせ抽選が行われ、2人ずつ3組に振り分けられる。これがそのまま対戦カードとなる。
 対戦形式は以下の通り。
 ・1セット1食材の早食い勝負を4セット行う。
 ・勝敗は4セットの完食タイムの合計による。合計タイムが早い選手が決勝進出。
 ・対戦している両選手の合計タイムの差が30秒開いた時点で、たとえ競技中でも“コールドゲーム”となる。
 
(例:A選手とB選手の対戦で、第1セット終了時点でA選手が10秒リードしている場合、第2セットでA選手が完食してから20秒経過してもB選手が完食出来ない場合、合計タイムの差が30秒を超えるため試合終了となる)
 ・テーマ食材は、1セットごとに6つの食材(後述)の中から抽選で決定する。
 ・完食タイムは、スタートの合図があってから、完食後に選手が自テーブルの時計のストップボタンを押すまでとする。
 そして、テーマ食材は以下の6種類。
 ・親子丼2杯(=1kg)
 ・ステーキ4枚(=1kg)
 ・稲庭うどん4皿(=1kg)
 ・ウーロン茶ペットボトル1.5L
 ・ギョーザ10皿70個(=1.05kg)
 ・チーズケーキ5皿15個(=1.05kg)

 それでは、これから各試合の模様を、選手プロフィールも交えながら紹介する。文中で登場する「2001年フリーハンデ」については、こちらを参照して頂きたい。

◆第1試合◆
白田信幸VS山本晃也

 第1試合は、これがマッチレースでは初対戦となる屈指の好カード。
 白田信幸は2001年度「大食い選手権・新人戦」でメジャーデビュー(準優勝)した、2001年デビュー黄金世代の1人にして大将格。身長193cm体重86kgという大柄な体格から“ジャイアント白田”、“大食い大魔神”などの異名をとる。
 デビュー当初こそスピード不足から胃袋を余して負けるケースが見られたが、その後間もなくして急速に早食い力を身につけて一気に台頭。2001年秋シーズンでは、「フードバトルクラブ2nd」、「大食い選手権・スーパースター頂上決戦」、「FBCキングオブマスターズ」とメジャー大会3連勝の偉業を成し遂げ、今や自他共に認めるフードファイト界最強の男。
 今大会は“大食い系選手”というイメージから苦戦が予想されたが、予選、1stステージともに小林尊を上回る記録をマークしてのトップ通過。ペットボトル早飲みに唯一の弱点を残すものの、ここに来て彼の死角は極めて少なくなっている。
 2001年のフリーハンデ値は、総合67(1位タイ)、早飲み59(4位タイ)、スプリント62(6位)。

 山本晃也は、バラエティ番組内の大食い企画出身で、その後にメジャーシーンにデビューした異色のフードファイター。メジャーデビューは「フードバトルクラブ2nd」(準決勝敗退)で、彼も2001年デビュー黄金世代の1人。
 彼の武器は、6kg強という一流選手並の胃容量をバックボーンにした早飲み・早食い。特に強いのが早飲み競技で、早食いでもお茶漬けやカレーなどの飲み込み易い食材で好成績を残している。早食い力が要求される「フードバトルクラブ」では毎回上位に食い込み、特に「FBCキングオブマスターズ」では決勝進出(3位)を果たしてトップグループの一角に堂々食い込んだ。
 今大会は、予選では1位相当成績をファールで潰した後に4位通過、1stステージではスポーツドリンク3位、寿司3位、カレー1位と、“遠回り”を強いられながらも安定した実力を発揮して準決勝進出を果たしている。
 2001年のフリーハンデ値は、総合64(4位タイ)、早飲み61(1位)、スプリント64(2位タイ)。

 バックステージのエピソードだが、試合前、いつもは余裕綽々のはずの白田がややナーバスになっていたと言う。それもそのはず、彼は年末の「FBCキングオブマスターズ」の3回戦(早飲み・スプリントのタイムレース)で山本に敗れている上に、今回が初の一騎撃ち。白田にとってみれば、むしろ1stステージで破っている小林尊が相手に回った方が気が楽だったろう。メジャー大会4連覇に向けて、最大の正念場がやって来た。
 一方の山本、1stステージでは寿司部門で白田の後塵を拝しているものの、この準決勝に寿司は無い。6つの食材の中で明らかに不利なのはチーズケーキくらいで、逆に山本の方に絶対的有利なペットボトルもある。そして何より無欲で王者に挑んでいけるチャレンジャー精神を持てるのが大きい。
 両選手の精神状態に微妙な温度差を残しながらも、戦いの狼煙は舞い上がる。

  ★第1セット〜餃子70個〜

 第1セットは餃子。「FBCキングオブマスターズ」の3回戦では餃子35個でタイムトライアルが行われているが、その時のタイムは山本・44秒92、白田・48秒04。しかし、今大会では大幅な記録更新が相次いでおり、このタイムはほとんど参考にならない。

 スタートと同時にわずかながらリードを奪ったのは山本。一気に餃子を口に掻きこんで勝負をかける。一方の白田は水を使わずに勝負したためか、ややリズムが悪い。5皿完食時点までは数個ほど山本がリードしていた。もし、これが従来の「シュートアウト」ならここで勝負は決まっていたはずで、白田はある意味ルールに救われた格好に。
 終盤、トップスピードの持続力と、体格差で上回る白田が際どく逆転。1分30秒98で完食し、一本目を先取。しかし、山本も約2秒差で続き、ここはほぼイーブンの結果に。
 ※第1セット結果※ 白田信幸2.10秒リード

 

 ★第2セット〜ウーロン茶ペットボトル1.5L

 ここで山本得意のペットボトルが登場。あまり大きく差をつけられない食材ではあるが、それでも現在のビハインドなら十分逆転できる範囲。当然、ここはトップスピードで飛び出した。
 一方の白田、このペットボトルだけは研究が不徹底だったと吐露。競技の様子を見ている限りでは、確かにペットボトル捌きがいかにも未熟だった。逆にいえば、これからの研究次第ではタイムが大幅に短縮できるという事でもあるが……。
 結局、ここは山本の勝利。タイムは手動計時で12秒前後。自己ベストとはならなかったが、現時点での実力は発揮できたといえよう。
 白田は約4秒遅れて完飲。しかし、あのペットボトル捌きで16秒台とは恐れ入る。白田はどの競技ででも、何か我々を驚かせてくれる。

 ※第2セット結果※ 山本晃也4.49秒リード→累計・山本2.39秒リード

 

 ★第3セット〜餃子70個〜

 ここで再び餃子がテーマ食材に。関係者筋の話によると、山本陣営は「ここでどうして餃子なんだ」と運の無さを嘆いたという。一方の白田は「(餃子と決まった時点で)自分がリードできるのは間違いないと思った」と、失いかけていた余裕が蘇る。まさに明と暗。

 このセット、前半戦はほぼ互角。だが、5皿目で山本のスピードがやや鈍ったのを見逃さず、白田が一気に差を広げにかかった。その後の勢いの差は詰まらず、白田9皿63個完食時点で差がほぼ2皿に広がる。
 白田が大差をつけて、まず完食。タイムは残念ながら不明。TVでの様子では、すわ、1分を切ったか? と思われたが、どうやら微妙に数箇所カットされていたようで、恐らく1分20秒台のタイムではないかと思われる。ずば抜けて素晴らしいタイムとは言えないものの、この勝負所でタイムが落ちないのが白田の真骨頂。
 山本、必死で進みゆく秒針に抵抗するが、なかなか餃子が入ってゆかない。以前の「シュートアウト」でも3セット目で勢いが落ちた事があったが、ここでもそのパターンを繰り返してしまった。完食して時計のストップボタンを叩いたが、その直前にビハインドが30秒に達していた。無論、ここで間に合っていても白田相手に1セットで30秒以上の差をつけるのは不可能なので、どっちにしろここで勝負は決していた。

 ※第3セット結果※ 白田信幸のアドバンテージが30秒を超えたため、試合終了。勝者は白田信幸。

 白田、1stステージの小林尊に続き、早飲みとスプリントのチャンピオンクラスに勝利。最高の“手土産”を手にして決勝戦進出を果たした。

 

◆第2試合◆
土門健VS小林尊

 第2試合は、彗星の如く現れた早飲みのニューヒーロー・土門健と、早食い世界王者・小林尊との注目の対決。

 土門健は今大会がメジャー大会デビュー戦になるルーキー。彼は徹底的にペットボトル早飲みのテクニックを追求し、“土門スタイル”というペットボトル捌きの新技を引っさげてフードファイト界に登場した。
 今大会は、予選こそ6位に甘んじたものの得意のペットボトル早飲みでは遺憾なく能力を発揮。スポーツドリンク1.5L部門で彼は、4秒88という常識外れのスーパーレコードを樹立。文句なしの1位通過で準決勝にコマを進めた。

 フードファイト・ウォッチャーの方で小林尊を知らない方はいらっしゃらないと思うが、この機会に改めて彼の経歴を紹介しておこう。

 彼のメジャーデビュー戦は2000年度の「大食い選手権」スーパースター戦。この大会の新人枠で出場した彼は、当時のフードファイト3強であった赤阪尊子、岸義行、新井和響を撫で斬るように破って、デビュー戦でいきなりメジャータイトルを獲得する。その端正な顔立ちと野性味溢れる豪快な食べっぷりは、たちまち一般層やフードファイト・ウォッチャーの人気を集め、現在に至るフードファイト・ブームの原動力ともなった。
 そして翌2001年の春シーズンは、小林尊の絶頂期となった。小林はまず、「フードバトルクラブ1st」を圧勝で征してメジャー大会2連勝を達成。返す刀でネイサンズ・ホットドッグ早食い大会に出場すると、ここでも12分でホットドッグ50本という前人未到の大記録を達成して“世界王者”の称号を獲得した。まさに当時の彼は無敵であり、永遠に彼を超える者は現れないとすら思われた。
 だが秋シーズンに入ると、彼は手に入れたばかりの王座を、白田信幸に1つずつ筍の皮をむしられるように奪われていった。
 まず「フードバトルクラブ2nd」、彼は準決勝までは春と同じ“無敵のプリンス”であった。しかし小林は、決勝戦の牛丼60分大食い勝負で白田相手に思わぬ、そして生涯初めての敗北を喫する。更にその直後の「大食い選手権」は、体調不良のため欠場を余儀なくされて戦わずして失冠の憂き目に。捲土重来を期した「FBCキングオブマスターズ」でも成長した白田の総合力の前に歯が立たず、準優勝に終わる。この再度の敗戦は、早食い・スプリント競技では無敗を維持したままの失冠とはいえ、明らかにフードファイト界の盟主が入れ替わった事を示す出来事であった。
 そして今大会、まるで小林のために設けられたようなスプリント競技のトーナメントであるにもかかわらず、2つの勝ちあがり過程では共に白田の先行を許し、スプリントでの無敗神話も崩壊の時を迎えた。小林にとってフードファイト人生最大の正念場を目の前に、まずは早飲み系ニューヒーロー・土門の挑戦を受ける。
 2001年のフリーハンデ値は、総合67(1位タイ)、早飲み60.5(2位)、スプリント65(1位)。

 この2人の対決、何より注目されたのはテーマ食材決定の抽選であった。実はバックステージで「食べる方のトレーニングは積んでいない」と関係者に吐露していた土門。彼の立場にしてみれば、確率1/6のペットボトルを何回引き当てる事が出来るかに全てが懸かっていた。そして外野の我々にしてみても、土門×小林のペットボトル対決は是非見てみたい試合だった。
 だが、無常にも抽選用のダーツが刺さったのは、的の「チーズケーキ」と書かれた部分であった──

 ★第1セット〜チーズケーキ15個

 胃容量のバックボーンが無い土門にしてみれば、まだ胃袋に余裕がある早いラウンドでは何とか小林に喰らいつき、抽選でペットボトルが当たるのを待つしかない。一方の小林は、勝負に紛れが来ない内に一発で決めてしまいたいところだったろう。
 試合開始。意外と言っては失礼だが、1皿目は土門もほとんど互角に試合を進めている。今回採用されたチーズケーキがフォークに刺さらない食べ難いタイプのものだった事も作用したか。
 だが、“普通の人が普通は食べない量”に入ってからは、やはり現時点での力量差が大きく現れてしまう。よく考えてみれば、スプリント競技では、あの赤阪尊子ですら子ども同然の扱いをされてしまうのが小林尊という選手なのである。土門には悪いが、ここで差が開かなければおかしいのだ。
 結局はワンサイド・ゲームに。小林が完食後30秒経過しても、土門は13個半ほど完食したところ。真剣勝負の現実はいつも残酷だ。だからこそ、稀に起こる奇跡は、我々の目に目映く輝くのであるが……。

※第1セット結果※ 小林尊のアドバンテージが30秒を超えたため、試合終了。勝者は小林尊。 

 小林尊、磐石の決勝進出。決勝では今や宿敵となった白田信幸が待っている。

 

◆第3試合◆
加藤昌浩VS高橋信也

 第3試合は、「フードバトルクラブ」常連2人の対決。しかし、意外な事にこれも初対決となる。

 加藤昌浩は「フードバトルクラブ1st」でメジャーデビューを果たした選手。年齢のためであろうか、あまり意識される事は無いが、彼もまた2001年デビュー黄金世代の1人に挙げる事が出来る。
 「フードバトルクラブ」出身の選手は、どうしても早食い系選手という印象があるが、彼は大食い系競技を得意とする異色のタイプ。早食い競技ではボーダーラインスレスレを行き、「ウェイトクラッシュ」などの大食い系競技で一気に上位に進出する…というパターンが彼の持ち味だ。早食い力のバックボーンが無いまま「フードバトルクラブ」2度の準決勝進出は快挙とも言える。
 また、彼は活躍の範囲が広いことでも知られている。地方の非メジャー大食い競技会を転戦して好成績を挙げているし、2001年秋の「大食い選手権・スーパースター頂上決戦」にも予選出場していたとの情報がある。(どうやら稲川祐也、渡辺人史、別府美樹に次ぐ4位だったとの事)
 今大会、彼は苦手の早食い系トーナメントとあって苦戦が予想されたが、これまで隠れされていたペットボトル早飲みの才能を開花させてペットボトル部門2位で準決勝に進出。早飲みで山本晃也越えを果たした事は高い評価を与えて良いだろう。
 2001年のフリーハンデ値は、総合61.5(10位タイ)、早飲みはランク外(データ不足のため)、スプリント54.5(15位)。

 高橋信也は「フードバトルクラブ1st」でメジャーデビューを果たした、2001年デビュー黄金世代の1人。早食い系競技に重きを置いた活動ながら、大食いにもある程度対応できるゼネラリストで、活躍は多岐に渡る。
 デビュー戦の「フードバトルクラブ1st」では、白田信幸・射手矢侑大・山本晃也を欠いたメンバー構成ながら準優勝を果たし、「大食い選手権・新人戦」では、今度は白田・射手矢と共に決勝に進出(3位)。ネイサンズ・ホットドッグ早食い大会の日本予選でも決勝に進出し、小林尊に次ぐ2位の成績を挙げている。まさにゼネラリストとは彼のような事を言うのであろう。
 ただ、ここ最近はトップグループの一角を占めながらも優勝争いからは蚊帳の外に置かれている感が否めなくなっている。薄れつつある存在感をどこまで取り戻せるかが、今年の彼の課題になってゆくだろう。
 今大会の彼は、予選11位、1stステージ寿司5位、カレー2位という成績。しかもカレーは射手矢のファールに助けられた形で、準決勝進出者6名の中で、最も苦しい勝ち上がり過程を潜り抜けてきた。この苦闘がどこまで報われるだろうか。
 2001年のフリーハンデ値は、総合63(7位タイ)、早飲み59(4位タイ)、スプリント63(4位タイ)。

 スプリントカテゴリのハンデ値に9.5ポイント差のある両者。早食いオンリーでは加藤に勝ち目がないだけに、何とか1度でもペットボトル勝負に持ち込みたいところだったが……

 ★第1セット〜チーズケーキ15個

 無常にも、テーマ食材はチーズケーキに決定。こうなってしまうと、第2試合の土門×小林戦のように、明らかな力の差が結果となって表われてしまう。クレバーな高橋の事だ、ペットボトルが来る前に勝負をつけてしまう算段だったのだろう。鮮やかなスパートを決めて、大差をつけた。加藤はなんとか第2セットに勝負を持ち込みたかったが、完食直前にビハインドが30秒を超えてしまった。

 ※第1セット結果※ 高橋信也のアドバンテージが30秒を超えたため、試合終了。勝者は高橋信也。 

 決勝戦3つ目の枠を手に入れたのは高橋信也。準決勝は多分に運に恵まれた部分もあったが、その強運も彼の持ち味のはず。その運を決勝にまで持ち込むことが出来れば、悲願のメジャータイトルが見えてくる。

 

 ☆決勝 「ザ・スピードマスター」

 ※ルール:詳細は以下の通り
 ・10種類のテーマ食材が設定され、1つのテーマ食材ごとに競技を行なう。
 ・出場者の3選手は、各々のテーブル前でスタンバイ。スタートまでの間、テーブル上の食材(皿など)をテーブル上の範囲でセッティング可能。
 ・スタートの合図と同時に3選手同時に競技開始。各選手のテーブルの端にボタンが設置されており、各選手は完食した後、ボタンを押す。ボタンを最も早く押した選手がそのテーマ食材・飲料の勝者となる。
 ・食材を食べ残したり食べこぼした場合はファールとなって、最下位に降着となる。
 ・先に5勝した選手が優勝となる。(誰も5勝しないままに10戦終了した時は、最大13戦まで延長戦を行う予定だったらしい)

 決勝のレギュレーションは、分量が1kg以下ばかりの超スプリント戦。根本的な能力はもちろんの事、プレッシャーに負けない強靭な精神力が要求される、見た目以上にシビアな競技形式。慎重さと大胆さのバランスを上手く取る事が出来た選手が勝利を掴み取れる。

 ★第1戦:寿司10皿20カン(=500g)

 白田・小林互角のスタート。しかし、高橋は勝機が薄いと判断して試合を放棄。
 残る両者の争いは、もはや「コンマいくつ」差の領域。14カン辺りまでは小林がほんの僅かだけリード。しかし、最大8カンまで口に入れる事の出来る白田が「最後の4カン」で一気に逆転。まずは貴重な1ポイントを獲得した。

白田 信幸 15秒97完食 1勝
小林 尊 16秒53完食 0勝
  高橋 信也 (試合放棄) 0勝

 

 ★第2戦:シューマイ5皿25個(=450g)

 この第2戦も、高橋は試合放棄。徹底した“退却戦”で後半戦に勝負をかけたようだ。
 またしても残された白田と小林。両者の明暗を分けたのは食器選択だった。
 箸を選んだ小林が皿の上で転がるシューマイにリズムを狂わされる一方で、フォークを選んだ白田は後半からコツを掴んで一気にスピードを上げた。最後は1皿に近い大差がついて、白田が2勝目。

白田 信幸 30秒44完食 2勝
小林 尊 21個完食 0勝
  高橋 信也 (試合放棄) 0勝

 

 ★第3戦:水ペットボトル1リットル

 ここも高橋は試合放棄。白田もスタートからしばらくは競技を続けたが、小林のスピードを見て利あらずと手を止めた。小林が労せずして1勝。しかし実力で得た1勝ではないためか、表情は険しいまま。

小林 尊 6秒58完飲 1勝
  白田 信幸 (試合放棄) 2勝
  高橋 信也 (試合放棄) 0勝

 

 ★第4戦:ちくわ3本(=495g)
 第4戦にして、初めて高橋が試合に参加。ようやく三つ巴の戦いが実現した。
 1本目は小林が先行。ちくわを競技で食べた経験がある分のアドバンテージか。
 しかし2本目から一気に白田が差を詰めて瞬く間に逆転。一方の高橋は遅れ始め、途中で諦めた。
 3本目、小林は「横方向に食べる→丸めて一気に口へ詰め込む」という作戦を採ろうとしたが、白田の方が明らかに早い。白田、この勝負は早食い能力が勝因の完勝だった。

白田 信幸 40秒53完食 3勝
小林 尊 2本完食 1勝
  高橋 信也 1本完食 0勝

 

 ★第5戦:ステーキ3枚(=750g)
 この食材を苦手とする小林、“盟友”高橋に全てを託して無念の試合放棄。
 だが、白田のスピードは高橋のそれを完全に上回っていた。あっという間にステーキ半枚以上の差がついてしまい、高橋は無念そうに食器をテーブルに置く。白田、早くも4勝。優勝へリーチをかけた。

白田 信幸 1分29秒46完食 4勝
高橋 信也 1枚完食 0勝
  小林 尊 (試合放棄) 1勝

 
 ★第6戦:イチゴ3皿24個(=480g)
 以前、イチゴが競技に使用された時はフォーク使用が義務付けられたが、今回は手掴みで争われた。
 こういう形式になると強いのは小林。両手を同時に使うフォームで次から次へとイチゴを口に放りこみ、口内で一瞬の内に磨り潰して飲み込んでゆく。片手しか使わなかった白田と、磨り潰さずに飲み込もうとした高橋は微妙にタイムをロス。この決勝、小林は初めて彼らしい勝ち方で2勝目を獲得。

小林 尊 14秒79完食 2勝
白田 信幸 22個完食 4勝
  高橋 信也 19個完食 0勝

 

 ★第7戦:杏仁豆腐3杯(=500g)
 単独でフードファイトに使用されるのは、恐らく初めてであろう杏仁豆腐。敢えて似たタイプの食材を挙げると、お茶漬けあたりだろうか。
 タイムロスの出にくい食材だけに、ここも1秒未満の争い。3人がほぼ同時に杏仁豆腐を掻きこんで行く。しかし、こういう接戦になると体格(口の大きさ)で勝る白田が有利。3杯目を一気に口に流し込んでボタンを押した。小林もほぼ同時にボタンを叩くが0.4秒遅れていた。万事休すか? 
 だがその時、レフェリーから“物言い”。よく見ると白田の足もとに靴で踏み潰された杏仁豆腐が確かにある。赤旗、記録無効。白田はもぎ取ったはずの優勝を剥奪されてしまった。一方の小林は、まさに命拾い。遅れていた高橋も赤旗が揚がり、彼も記録無効となった。

小林 尊 14秒04完食 3勝
白田 信幸 1位降着(13秒64) 4勝
高橋 信也 ─── 0勝

 

 ★第8戦:牛乳・瓶900ml
 900ml入りの瓶ということもあって、かなり大きい瓶での完飲勝負。口の大きな白田は完全に瓶の口をくわえ込む事が出来たが、小林と高橋にはそれが無理。使用されていたのがこの900ml瓶だった時点で勝負は見えていた。瓶をくわえたまま垂直に立てて牛乳を一気に口とノドに流し込んだ白田が完勝。正真正銘の5勝目を獲得して、ここに初代スピードマスター・白田信幸が誕生した。

白田 信幸 8秒14完飲 5勝
  小林 尊 ─── 3勝
  高橋 信也 ─── 0勝

 

 圧倒的な“小林尊有利”という下馬評を覆して、初代スピードマスターの座に就いたのは白田信幸だった
 すでに昨年末の「FBCキングオブマスターズ」の時点で早食い・早飲みでもトップグループ入りを果たしていた白田だったが、それでも今大会で早食いトップ2の小林尊と山本晃也を完封してしまったのには正直驚いた。
 彼の驚異的なパフォーマンスを支える最大の武器は、フードファイトをするために生まれてきたような恵まれた体であろう。“食材を口に入れた時点で完食”という現行ルールが生き続ける限り、彼の早食い系競技における体格的アドバンテージは絶大なものとなる。
 ウォッチャーの中には、「口が大きいから勝てた」と、彼の能力を不当に過小評価する向きがあるが、これは正しくない。どんな競技でも体格・体質に恵まれた選手が有利なのは当たり前で、それも含めて才能なのである。その上で、例えば舩橋稔子のように体格で恵まれない選手が結果を残した時は、いつも以上に賞賛すれば良いだけの話なのである。
 ところで、圧勝に見えた彼の決勝でのパフォーマンスだが、実は見た目以上に際どい接戦であった。第1戦の寿司は、おそらく10回同様の競技をすれば最低2〜3回は小林尊が勝っただろうし、第2戦のシューマイも食器選択に差が無ければ危なかった。「タラ・レバ」は禁物なのを承知で敢えて書くが、もしも第1、2戦を小林に獲られていた場合、恐らく第6戦のイチゴ終了時点で現実とは逆に、小林がリーチをかけていた事になる。そうなればかなりの確率で、勝利の女神は小林に微笑みかけていたはずだ。まさに勝負は水物なのである。
 思い返してみれば、今大会ほど白田に運が味方した競技会は無かった。ルール設定、試合展開、勝負の綾、全てが白田有利に作用した。例えば決勝での並び順。白田は他の選手の動向を見られる上で有利な最後方のポジションにいた。これはただ単純にカメラアングルの都合で、身長の高い人間ほど後ろに回されただけだったと言うから恐れ入る。こういう強運が勝手に白田の方へ降り注いでいくのだから、他の選手にとっては処置無しだったろう。
 白田はこれでメジャー競技会4連勝。まさに無敵の快進撃である。これまでにも、赤阪尊子や小林尊が不動の王者(女王)として君臨している時期はあったが、安定感で言うと白田の安定感はその上を行く。果たして無敵の王者を破る人間はいつ現れるのか? ある意味これは、業界全体の行く末を占う話題でもあり、非常に興味深い。

 三度準優勝に甘んじた小林尊。今回、これまでの競技会で彼の体全体からオーラのように滲み出ていた凄みがやや薄らいでしまったように感じたのは気のせいだったろうか? これはただ単に、他の選手の研究が進んだ結果、小林と他選手との差が詰まって来ただけなのかもしれないが……
 また、回を追うごとに厳しくなっていくペナルティ規則も、彼の勢いに水を差している要因だ。彼の食べ方は良い意味でも悪い意味でも荒っぽく、ワイルドである。それに手かせ・足かせをハメてしまうような現在の規則は彼にとってかなり苦痛であろうと思われる。だが、絶えず揺れ動くルールに対応できてこそ一流選手である。一念発起して箸捌き、ナイフ・フォーク捌きに磨きを掛けるくらいの意気込みを持つことを期待したい。
 いよいよ残る彼の主要タイトルは、ネイサンズ・ホットドッグ早食い大会のみになった。追い込まれた手負いの元・王者がどのようなリベンジに向かうか、大変期待している。

 3位に終わった高橋信也。彼も自らコメントを出しているが、完全に作戦ミスから来る惨敗である。ただでさえ効果が疑問的な“撤退戦術”、これを実力下位の人間がやってしまっては逆効果である。これでは他の選手を助ける事にはなれど、苦しめる事にはならない。
 ただでさえ、今回の決勝はちょっとした事で順位の入れ替わるシビアなレギュレーションであった。トップの選手がファール→記録無効となった時の事を考えると、2着争いに参加する事がいかに大事か分かるだろう。それを自ら3位に甘んじる戦術を採用してしまってはどうしようもない。
 そもそも高橋には、以前から油断したりすぐに諦めたりする悪い癖が見受けられる。これがチャンピオンクラスの選手ならまだ分かるが、彼は相撲で言えば小結・関脇クラス、まだまだ上を目指して貪欲にチャレンジしなければいけない立場なのだ。それに彼はフードファイトのトーナメント・プロである。プロ選手なら1円でも多額の賞金と1つでも上の順位を目指して、手段を選ばない覚悟でもっと貪欲に立ち向かう気概が無くてはいけない。今の高橋に必要なのは、クレバーさではなくてガムシャラさであると、一言ご忠告申し上げる。


 ……以上で、今回のレポートは終了です。このレポート作成にご協力いただいた関係諸氏に厚く御礼を申し上げます。それでは、今日の講義を終わります。(この項終わり)

 


 

4月4日(木) 文化人類学
「『フードバトルクラブ3rd』TV観戦レポート(1)」

 今日から2日間は文化人類学講義をお送りします。

 先日2日、春のフードファイト・シーズンの最後を飾る、TBS主催のメジャー大会・「フードバトルクラブ3rd〜ザ・スピード」が放送されました。
 今大会は、メジャー大会初のスプリント&早飲み競技オンリーのトーナメント戦で、特にこれまでマイナーな存在に甘んじていた早飲み競技にスポットが当たった大会でありました。その大胆なレギュレーション設定の効果もあり、何人かのニュー・スターも出現したようです。
 今回の講義はその「フードバトルクラブ3rd」のTV観戦レポートです。
 この文化人類学で扱っているTV観戦レポでも、実は「大食い選手権」のレポートは、“ネット局の都合でTV観戦出来なかった人のための実況レポ”という意味合いを強くしています。しかし、この「フードバトルクラブ」に関しては、日本に居住する限り観ようと思えば観られる放送環境であるため、フードファイト・ファンの皆さんは、もう既に放送をご覧になっていることと思います。
 ですので、「フードバトルクラブ」レポは、競技内容の再現よりも、むしろ勝因・敗因などの戦況分析にややウェートを置いたものにしたいと思います。あくまでTV観戦レポートですので、どうしても推測を交えたものになりますが、極力正確な分析を心がけますので、どうぞよろしく。

 それでは、以下からレポート本文に移ります。文中は人名敬称略、文体を常体に変更します。なお、文中内の記録に関しては、「プリンス山本/大食い・早食い伝説」管理人のiGUCCiさんの了承を得て、同サイトから転用させて頂きました。厚く御礼を申し上げます。


 ☆プレ・ステージ(予選) 「ボトル・アタック」

 ※ルール:1瓶180mlのコーヒー牛乳10本(=計1.8L)の早飲みタイムトライアル。10瓶全てを完飲し、ゴール地点にある時計のストップボタンを押した時点のタイムが、その選手の持ちタイムとなる。
 ただし、1瓶でも瓶にして10mm以上の飲み残しか飲みこぼしがあった場合、記録は無効となって全選手のトライアル終了後、再トライアルを行う。再トライアルの記録も無効となった場合は「記録なし」となって失格。
 出場者は書類選考通過及び主催者推薦の100名。タイム上位20名が1stステージ進出となる。

 恐らくメジャー大会初の、純粋早飲み競技で争われる今回のプレ・ステージ。
 早食い能力に長けた選手は、早飲みでもある程度のパフォーマンスを発揮できる事は確かだが、それでも一般の認識以上に選手ごとの得手・不得手が分かれているものだ。この辺りは、「2001年・フードファイターフリーハンデ」を参照して頂ければ、各選手の早食い力と早飲み力の微妙なアンバランスさが把握できる事と思う。早飲みは早食いと似て非なる競技なのである。
 したがって、今回のプレ・ステージは戦前から波乱必至の様相を呈していたが、フタを開けてみるとやはり、従来のスプリント・早食い競技では絶対見られない展開が眼前に呈される事となった。

 波乱は第1ヒート(10人ごとに第10ヒートまでトライアルが行われた)から始まった。ここには新井和響、高橋信也、加藤昌浩といった準決勝・決勝進出経験者が名を連ねたのだが、彼らを相手に回して新鋭・植田一紀がヒート2位に食い込み、場内は早くも騒然となる。
 続く第2ヒートも驚きの展開に。ここは今回員数合わせ要員として参加したお笑い芸人・プロレスラーのみで構成されたヒートだったが、普段から早飲みを芸の1つとしてTV出演している、漫才トリオ“安田大サーカス”のヒロが29秒48でヒート1位&暫定総合1位となった。また、お笑いコンビ“ストロングマイマイズ”の渡辺剛士も、飲み残しで無効となったものの29秒26をマークし、“フードファイター越え”を楽々と達成してしまう。
 これで動揺が走ったのか、以後のヒートでは有力選手たちの飲み残し→記録無効が相次ぐ。小林尊、山本晃也、小国敬史の“2001年早飲みトップ3”をはじめ、立石将弘、「大食い選手権」新人戦3位の河津勝といったところも再トライアル回りとなってしまった。
 しかし、その中でも実力を遺憾なく発揮する選手もいた。白田信幸射手矢侑大である。白田は26秒68で総合首位の好記録をマークし、射手矢も苦手意識を払拭する好パフォーマンスで悠々と1stステージ進出を確定させた。
 そして最後に、1回目のトライアルで記録無効となった選手の再トライアル。ここでの失敗→記録無効は即失格となるとあって、各選手慎重な競技に終始。それでも小林尊は27秒91で総合2位の記録をマークし、健在をアピールした。山本晃也、小国敬史、立石将弘らもプレステージ通過。だが河津勝は、好記録をマークしながらも再び記録無効となって失格。1回目などは29秒台をマークしていただけに悔やまれる試技失敗だった。

順位 選手氏名 タイム
1位 白田 信幸 26秒68
2位 小林 尊 27秒91
3位 射手矢 侑大 28秒79
4位 山本 晃也 29秒09
5位 ヒロ 29秒46
6位 土門 健 29秒54
7位 駿河 豊起 29秒86
8位 渡辺 剛士 30秒92
9位 新井 和響 33秒22
10位 植田 一紀 34秒17
11位 高橋 信也 35秒56
12位 立石 将弘 35秒57
13位 青木 健志 36秒11
14位 渡辺 勝也 36秒81
15位 山根 優子 37秒22
16位 木村 登志男 38秒12
17位 柴田 綾太 38秒21
18位 加藤 昌浩 38秒85
19位 高橋 明子 40秒08
20位 小国 敬史 40秒44
以上20選手が1stステージ進出
21位 渡辺 高行 40秒85
22位 渡辺 宏志 41秒10
23位 三井田 孝敏 41秒42
24位 福元 哲郎 41秒47
25位 山形 統 41秒81
26位 平田 秀幸 41秒91
27位 関 絵梨 42秒45

 ※21位以降のタイムは、TV画面に映った細かい文字を読み取ったものを転記したため、実際のものと若干のズレがある場合があります。
 
 新人や異色選手の台頭が目立ったプレ・ステージだったが、終わってみれば2001年フリーハンデのトップ4が上位を独占した。これは能力云々もあるが、競技に対する真摯な姿勢の現われでもあろう。
 トップ通過は白田信幸。大食いの王者が、早飲みでもその能力の高さを見せつけた。決して瓶から飲みこぼすことの無い大きな口と、大量の水分流し込みにも耐え得る強靭なノド。まさに天賦の才に恵まれて先勝を果たした。
 2位には小林尊。一時は失格・緒戦敗退の危機もあったが、再トライアルでキッチリ結果を残した。タイムでは白田に敗れたが、これは慎重な競技に徹した分もあり、致し方ないか。
 3位には“早飲み不得意”との下馬評のあった射手矢侑大が堂々名乗りをあげた。これはもちろん彼の努力・研究の結果が最たる理由だろうが、他にもペットボトル飲料の競技と瓶飲料の競技との適性差もあるのではないだろうかと思われる。この事については後で述べよう。とにかく、彼の復帰と好パフォーマンスに賛辞を送りたい。
 4位は山本晃也。だが、無効になった1回目の記録は25秒60で、これは総合1位相当。やはり早飲み力に関しては間違いなくトップクラスで、さすがは早飲みのパイオニアといったところ。

 4位までとは対照的に、5位以下はガラリと様相が一変。新人や早飲みの得意な選手が上位に名を連ねる一方で、新井和響が9位、そして高橋信也、立石将弘、小国敬史といったところは2桁順位に甘んじる結果になった。この辺りが早食いと早飲みの違いといったところなのだろう。
 中でも気になるのは、以前ペットボトル早飲みで好パフォーマンスを見せた高橋信也、小国敬史の低迷である。特に小国はボーダースレスレの20位通過と、薄氷を踏むような事態に陥った。
 これは、先に射手矢の戦評でも述べた、“ペットボトルと瓶の差”に大きな理由が存在するのではないかと思われる。
 まずペットボトル早飲みに必要なものは、ペットボトルごと飲料を吸い込む力と、吸い込みで凹むペットボトルをいかに捌くかというテクニック、そして1リットル以上の飲料を一気飲み出来る肺活量である。一方、瓶早飲みに必要な能力は、自由落下で落ちてくる飲料を口で受け止め、それを開けたノドへ一気に流し込む力。瓶は小さいものが多いため、肺活量はそう重要ではあるまい。つまり、両者の間では、要求されているモノが異なるのである。
 もちろん、“飲む”という基本的な行動は同じなので、ペットボトルと瓶でそう極端に差が出るという事は考え難い。だがそれでも、「フードバトルクラブ」での極限レヴェルでの争いになると、ある程度の適性差が結果に現れてくるのだろう。
 即ち、射手矢や新井といったところは瓶適性が高く、高橋と小国はペットボトル適性が高いという事になろう。そして、白田、小林、山本(晃)の3人は両方に適性・スキルがあるというわけだ。何気ないところでこの3人の凄さを再確認させられる。

 さて、ボーダーラインからこぼれた選手の中には、「FBCキングオブマスターズ」準決勝進出者・山形統の姿があった。前々から早飲み力に疑問のある選手で、今回のレギュレーションでは苦戦を強いられると思われたが、その危惧が現実になってしまった。1stステージに進出したならカレー早食いで上位の記録が期待できただけに、惜しまれる敗退である。また捲土重来を期待したい。

 

 ☆1stステージ 「トライアングル・レコ−ズ」

 ※ルール:ペットボトル入りスポーツドリンク1.5L→寿司20皿40カン(=1kg)→カレーライス2皿(=1kg)の順にタイムトライアルを行ない、各食材の完食(完飲)タイム上位2名が勝ち抜けで準決勝に進出する。
 なお、タイムのカウントは、スポーツドリンクはペットボトルを持ち上げた瞬間から完飲してペットボトルの底で時計のストップボタンを押す瞬間までで、寿司とカレーは時計のスタートボタンを押した瞬間から完食してストップボタンを押すまでとなる。
 試技はプレ・ステージの順位下位から個別に行ない、これを各食材3巡するまで続ける。ただし、何回でも試技をパスする事も出来る。
 なお、スポーツドリンクはペットボトルにして10mm以上の飲み残し・飲みこぼし、寿司は食材の床への落下、カレーは20g以上の食べ残し・食べこぼしがあった場合はファールとなり、その試技の記録は無効とされる。
 放送されなかったが、“足切り”ラインが設定されていたようだ。スポーツドリンク30秒、寿司1分30秒、カレーは暫定首位選手のタイム+1分を超える記録になった場合、その部門は2回目以降の挑戦が出来ないルールが存在したらしい。

 それでは、以下に各部門(食材)ごとの記録とレポートを掲載してゆく。今回の番組はカットされた部分が多く、記録と放送内容の整合性が欠けているのだが、レポートはあくまで放送内容中心に、そしてそれを補完する程度に記録を参考にした記述を追加する形式とする。

◎スポーツドリンク1.5Lの部◎

 1巡目。まず先行して記録を出したのが、お笑い芸人の渡辺剛士とヒロ。共に14秒30という「FBC」のペットボトル1.5Lレコードを叩き出して、プレ・ステージの好成績がフロックでは無い事を証明した。
 有力選手の1巡目は、軒並みパスかファールで記録が残らずで、結局この2人が暫定首位となる。
 しかし、各選手とも感覚が掴めて来た2巡目、とんでもない記録が次々と生まれていった。まず新人で予選14位の渡辺勝也が、体を揺らしながら飲む独特のスタイルで11秒65をマークしたが、これは序の口。続いて試技を行った同じく新人で予選6位の土門健は、なんと4秒88というスーパー・ハイレコードを叩き出して場内の空気を一変させる。この常識ハズレの記録の前には、小林、白田らフードファイト界のスーパースターたちも、ただ唖然・呆然とする他なかった。
 それでもタダでは起きないのが歴戦の強者。小林尊がパス戦術を撤回して果敢にチャレンジ。しかしこれは飲みこぼしによるファールでノーカウント。ここまでで2巡目が終了した。
 最終の3巡目、予選18位の加藤昌浩がここで大噴火。2人目の10秒切りを達成し、9秒25。暫定2位に踊り出た。その後、ヒロが3回目のチャレンジで記録を伸ばすも10秒61止まり(放送ではカット)。昨年度の早飲み王者・山本晃也も自己ベストを大幅更新したが、それでも10秒台前半まで。
 これで大勢判明かと思われたが、小林尊が再度チャレンジ。今度は完飲し、7秒88のタイムを出すが、飲み残ししが多く、無念のファール。最後に白田信幸もチャレンジしたが、開始直後に飲みこぼしてファール。フードファイト2強は共に記録なしに終わった。

順位 選手氏名 タイム
1位 土門 健 4秒88
2位 加藤 昌浩 9秒25
以上2名、準決勝へ進出(勝ち抜け)
3位 山本 晃也 10秒33
4位 ヒロ 10秒61
5位 渡辺 勝也 11秒65
6位 渡辺 剛士 14秒30
7位 高橋 明子 14秒95
8位 小国 敬史 16秒19
9位 青木 建志 (未確認)
10位 駿河 豊起 28秒11

 スポーツドリンク部門は、脅威の早飲み系新人・土門健の圧勝に終わった。
 彼の勝因は、何と言っても“土門スタイル”とも言うべきペットボトル捌きである。強く吸い込むと凹んで飲み難くなるというペットボトルの弱点を、「一気に吸い込み→ボトルを一瞬膨らまして飲料の流れを良くする→自由落下してくる飲料を飲み干し、更に残りを素早く吸い込む」という見事なテクニックで克服。これまでのペットボトル早飲みの常識を覆すことに成功した。
 この“土門スタイル”は、まさにコロンブスの卵というべきもので、記録云々よりもこのスタイルを生み出した事そのものに大きな価値がある。今後、各選手の研究が進めば5秒前後の記録も不思議では無くなって来るだろうが、たとえ土門がこの競技での覇権を失っても、そのスタイル確立という栄光は永遠に色褪せる事は無いだろう。
 2位通過は、早食い・スプリント系の今大会では伏兵的存在だった加藤昌浩。彼は早食いよりも大食いで力を発揮するタイプの選手だが、ペットボトル早飲みでもトップクラスの能力を持っていることを見せつけた。どうやら、この結果に一番驚いたのは加藤本人だったようだが、運だけではこの記録は出せない。高い実力の現われというべきで、もっと誇って良いと思う。
 昨年の早飲み王者・山本晃也は3位に終わった。本人は現時点で最高の結果だと言うが、試技の様子を見る限りは、ペットボトル捌きなどにまだまだ改善の余地がある。今後の更なる飛躍を期待したい。
 大健闘だったのは新人勢。ヒロ、渡辺勝也、渡辺剛士らが好パフォーマンスを見せつけた。彼らもまだペットボトル捌きに改良の余地があり、まだまだ記録は伸ばせそうだ。
 意外だったのは小国敬史の伸び悩み。前回よりわずかにタイムは詰めているが、今回のハイレヴェルについていけず、放送ではカットの憂き目に遭ってしまった。

◎寿司40カン部門◎

 1巡目。この競技は既に幾度となく行われ、記録の目安も大方できているだけに、2位以内の狙える実力者以外は敬遠ムード。少数精鋭の争いとなった。
 まず戦いの口火を切ったのは、元祖早食い王者・新井和響。寿司は得意食材の1つだけに、ここで準決勝進出を決めたいところだったろう。しかし、気持ちが先走ったのか食べ方にチグハグさが目立ち、タイムは53秒54。実力から言えば40秒台後半は出せるところだったが……。
 他の選手は様子見かパス。次に挑戦したのは、現在のレコードホルダー・小林尊。ますます冴えを見せる動きと寿司丸呑み能力を遺憾なく発揮し、40秒36と自己ベストを更新。続く白田信幸も挑戦し、こちらは44秒53。しかしこれも歴代3位の好記録だ。もう“白田=早食い苦手”という認識は誤りである事を、この1回のパフォーマンスだけで証明してしまった。
 2巡目。目標となるタイムが出たところで、いよいよ他の有力選手たちも試技に挑み始める。まず、高橋信也が挑戦。だがこれは51秒56と、自己ベストマークも全体としては振るわず。
 続いて山本晃也のチャレンジ。寿司は苦手食材だが、これまで幾度と無く好結果を出している食材でもある。そして今回も42秒06をマークして暫定2位へ。これはさすがといった感。さらに射手矢侑大も試技へ。以前から寿司早食いは特に得意というわけでは無かったが、それでも47秒26をマークし、暫定4位ながら実力をアピールする。
 そしてトップ2人の2度目の試技へ。まず小林尊がほぼパーフェクトなパフォーマンスでついに30秒台一番乗り。36秒60で自己ベスト及び「FBC」レコードを更新。だが、これもわずか数分の“大記録”だった。
 満を持して登場した白田信幸は、おそらくスプリント競技では生涯最高とも言えるパフォーマンスを展開。後に自画自賛してしまうような素晴らしい内容で36秒14をマーク。ついに早食いでも小林尊を上回ってしまった。
 3巡目。3位以下の選手は、パスするか、または記録を伸ばせず終わる。この時点で白田・小林両者の準決勝進出が決定したが、2人とも果敢にチャレンジ。だが、さすがに集中力が途切れたのかタイムが伸びず(小林53秒53、白田38秒80)、結局2巡目までの記録で確定となった。

順位 選手氏名 タイム
1位 白田 信幸 36秒14
2位 小林 尊 36秒60
以上2名、準決勝へ進出(勝ち抜け)
3位 山本 晃也 42秒06
4位 射手矢 侑大 47秒26
5位 高橋 信也 51秒56
6位 新井 和響 53秒54

 大食い王者・白田信幸が、スプリント競技の花形・寿司早食いで初の“小林越え”達成。タイムもきわめて秀逸で、早食い・スプリントでもついに王座に手を掛けた。
 そして2位通過は小林尊。自身も自己ベストを約7秒更新してはいるものの、それだけにこの敗戦は余計にショッキングなものと言う事になるのではないか。

 さて、結果的にはコンマ5秒差の接戦となった両者の戦いだが、両選手の試技の中身はかなり異なる。
 まず白田のトライアルは、大きな口という自分の体格的なアドバンテージを最大限に利した戦い振りであった。
 彼はとにかく初めの4カンと最後の4カンが早い。普通の選手では信じられない話ではあるが、彼の口は4カンの寿司でも満杯状態にならないのだ。初めの4カンはともかく、本来一番苦しいはずの最後の4カンを、ほぼトップスピードで強行突破できるのだから、これは強い
 事実、2回目のトライアルでは、36カン完食時点のタイムは小林よりも1秒程度劣っていた。それを一気にひっくり返して0.5秒のオツリが来るのだから、この体格差、恐るべしである。
 もちろん、寿司早食いの基礎能力である嚥下力も、以前に比べて相当の成長を見せている。そうでなければ年末から3ヶ月で23秒(!)もタイムを詰められるはずが無い。
 一方の小林の持ち味は抜群の嚥下力。昨年のネイサンズ・ホットドッグ早食い選手権・日本予選で初公開され、周囲の度肝を抜いた“寿司一気飲み”は未だ健在。“中間疾走”のスピードは未だナンバーワンであることは間違いない。
 そしてこの事から、奇妙な現実が浮き彫りになる。
 スタートとラストが早い白田、そして中間疾走が早い小林。この事から考えると、40カンまでの超スプリント戦は白田が有利となり、それ以上(2分〜5分)のスプリント戦は、中間スピードで勝る小林が有利となる。そしてまた、試合時間5分を超えるような早食いの戦いになると、トップスピード持続時間の長い白田に勝機が芽生えて来る
 つまり、大食いの王者である白田は超スプリントの王者でもあるが、スプリントの王者ではないという事だ。陸上競技で言えば、10000mのチャンピオンが60mでもチャンピオンになれるのに、100mから400mまではトップになれない、というような話。全くもって奇妙な話であるが、この辺りがフードファイトという競技、そして白田の能力の奥深さと言うところだろうか

 さて、スポーツドリンク部門に続き、連続して次点に泣いたのが山本晃也。年末に比べると、彼も24秒ものタイム短縮に成功しているのだが、それをも上回る白田・小林のパフォーマンスの前に屈した形となった。ただ、関係者筋の話によると、山本本人は照準を最後のカレーライスに合わせていたようだ。その辺りのギリギリのところで、上位2人との集中力の差が出てしまったのかも知れない。
 射手矢侑大、高橋信也も、自身の持ちタイムを10秒〜20秒単位で詰めているものの、ボーダーラインには遠く及ばず。昨年春の段階ではスピードで圧倒していた白田に大差をつけられている現実。これを見せ付けられた両者の心境はいかばかりか。
 それにしてもショッキングなのは、新井和響がトップから17秒差の最下位に終わってしまった事だった。後にも述べるが、彼は今回、カレーライス部門でも惨敗を喫して敗退している。世界の頂点に立ってからわずか2年で、彼はスプリント競技のトップグループからアッサリとこぼれてしまった。力が衰えたと言うわけではない。タイムも詰めている。しかし、他の若手選手との差が開いてゆく……。
 大変言い辛い事だが、これはもう、若手トップ選手との間に根本的な能力の差があるとしか言いようが無い。
 野球の王・長嶋然り、自転車の中野浩一然り。世界的偉業を残した第一人者は、引き際もまた見事であった。彼もまた、そろそろ晩節を汚す前に第一線を退く時が来ているのではあるまいか。
 駒木はもう、下位でもがく新井の姿を見るのは苦痛だ。新井本人は、まだ自分が不死鳥のように蘇る日が来ると信じているのだろうが、もしもそれが出来ないと自覚した時は、もう潔く後進に道を譲ってほしい。選手としてではなく、フードファイト界の第一人者の1人として業界に貢献する道もあるだろう。彼にはそれが出来ると駒木は信じているのだが……

◎カレーライス2杯部門◎

 この時点で“宙ぶらりん”状態で残っている選手は16名。うち、「2001年フードファイターフリーハンデ」のスプリントカテゴリで60ポイントオーバー、つまり決勝進出出来る能力を持つと思われる選手は6名も残っている。しかし、準決勝進出枠は2つしか残っていない。まさに潰しあい。フードファイト史上最も過酷なタイムトライアルがここに始まった。
 放送ではカットになっているが、ほぼ全員の選手がこの難関にトライしていった。だが、やはりフードファイト実績の無い早飲み系選手では力不足は否めなかった。結局新人選手の最高位は安田大サーカス・ヒロの8位。ここまで波乱を巻き起こしてきた彼らも、一流選手たちの“洗礼”を受けた形になってしまった。
 さて、これ以降は放送された内容を中心に、上位選手の戦い振りをお送りしていこう。
 1巡目
 小国敬史が59秒47と、いきなり1分の壁を破る好記録をマークすると、続く立石将弘が56秒60を叩いてすぐさまトップに立つ。しかし、まだまだ記録ラッシュは止まらない。高橋信也が51秒22、山本晃也が50秒25と連続して記録を更新し、暫定の2位、1位に。最後に射手矢もチャレンジしたが、これは56秒28で3位。
 2巡目
 記録ラッシュは続く。トップバッターの小国が45秒96で一気にトップへ浮上。立石も48秒13で2位へ食い込む。
 ところがここでも山本(晃)が凄い。39秒43と一気に時計を詰めて再びトップへ。射手矢も47秒14で続き(放送カット)、1巡しない内に上位5人の順位が激しく入れ替わった。
 そして運命を決める3巡目。まず小国が味変用にマヨネーズまで繰り出して記録短縮を図るが、これは逆効果に(放送カット)。立石も記録を伸ばせず終了(これもカット)。
 上位5名の次なる挑戦者は、2回目の試技をパスして勝負を懸けた高橋(信)。記録を伸ばした選手の食べ方を見て即座にフォームを修正し、45秒65と記録を伸ばし、際どく2位に浮上した。
 トップ通過が確定した山本(晃)はパス。残るは暫定4位の射手矢侑大のみ。射手矢は、明らかにこれまでの自身や他選手のトライアルと別次元のハイスピードで飛ばすが、その分やや食べ方が荒くなってしまった。タイムは36秒72と出たが、食べこぼしと食べ残しが規定値を超えたため、ファール・記録無効。無念の1stステージ敗退となった。

順位 選手氏名 タイム
1位 山本 晃也 39秒43
2位 高橋 信也 45秒65
以上2名、準決勝へ進出(勝ち抜け)
3位 小国敬史 45秒96
4位 射手矢 侑大 47秒14
5位 立石 将弘 48秒13
6位 新井 和響 1分03秒42
7位 木村 登志男 1分11秒52
8位 ヒロ 1分22秒95
9位 山根 優子 1分50秒62
10位 植田 一紀 1分51秒54
11位 高橋 明子 1分54秒10
12位 渡辺 勝也 1分58秒20
13位 駿河 豊起 2分05秒06
14位 渡辺 剛士 3分07秒74

 壮絶なタイムアタック争いを制し、準決勝進出最後の枠を射止めたのは山本晃也高橋信也
 まず山本(晃)は、これは順当とも言える実力通りの勝利。胃の中に水分1kgと固形物2kgを入れた状態からのレコード樹立は、さすが「キングオブマスターズ」ファイナリストといったところか。
 一方の高橋(信)は、3位とコンマ3秒の僅差の上、他選手のファールに助けられての薄氷の勝利。これまでの早食い系競技でなら、ゆうゆうと2位を確保できる力関係だったのだが、ここに来て大分差が詰まってきた印象がある。他の選手の突き上げに少々戸惑い気味のようだ。

 惜しくも次点となったのは小国敬史。年末の次点では早飲み系選手の印象が強かったが、この数ヶ月ですっかり早食い系選手に脱皮した感がある。今回は試技する順番に恵まれず、絶えず目標とされる立場に置かれると言う不利もあった。今回の敗戦は負けてなお強しと言える価値ある敗北。これからの成長に期待したい。
 99%掴んでいた準決勝行きの切符を手放す羽目になったのが4位の射手矢侑大。ここのところ、彼が勝負運に恵まれないのがちょっと気にかかる。しかし彼の早食い力の向上は確かに目覚しかった。秋シーズンでの巻き返しに期待したい。
 5位は立石将弘。スポーツドリンクと寿司を完全にパスしてカレーライスに挑んだが、その賭けは実らなかった。彼なりの能力は発揮できているだけに致し方ないところではあるが……。
 以下は大差離れて1分台の記録に。ここで新井和響を紹介しなければならないのが非常に辛いところだ。3回チャレンジして3回目に自己ベストを記録したが、5位の立石と15秒遅れというのは、やはり寂しい。


 ……と、とりあえず前半部分のレポートをお送りしました。後半に関してはまた明日付の講義で。(明日に続く

 


 

4月3日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(4月第1週分)

 ここ1〜2ヶ月の新連載・読み切りラッシュも一段落ついて、今日のレビュー対象作品は2作品だけ、という事になります。
 その代わり、と言ってはなんですが、今週で「週刊コミックバンチ」が10週連続で行って来た、「世界漫画愛読者大賞」最終審査作品掲載が終了しましたので、その簡単な総括を行いたいと思います。

 それでは、まず「ジャンプ」「サンデー」の新規作品レビューなんですが、今週は「週刊少年ジャンプ」に新連載・読み切り作品が掲載されませんでしたので、こちらはお休み。「週刊少年サンデー」のレビューからスタートという事になります。
 レビュー中の7段階評価の表はこちらをどうぞ。今週から若干加筆させてもらっています。

☆「週刊少年サンデー」2002年18号☆

 ◎読み切り『ブカツ』作画:夏目義徳

 この作品は、「週刊少年サンデー」11号まで『トガリ』を連載していた夏目義徳さんの復帰第一作ということになります。中2ヶ月という、かなり短い間隔での復帰ですね。
 いやしかし、こういう場合って、「この読み切りを依頼する話って、『トガリ』の連載終了(打ち切り)の話題を切り出す時、ダシに使われたんだろうなぁ」などと思えて仕方なくなりますね(苦笑)。いや、もちろん邪推なんですが。

 ではレビューなんですが、まぁ元・連載作家さんに向かって絵を云々というのは余計なお世話でしょうね。年単位で週刊連載していた人にしては絵柄の線がスッキリしてないかな、とは思いますが、もうこれは作風という事なのでしょう。

 じゃあストーリーの方はというと、大した有力校でもないごく普通の高校バスケ部の、ちょっと日常からはみ出たエピソード、というところでしょうか。この基本的な設定に関しては、作者の夏目さんが強く希望したものらしく、欄外の「夏目義徳先生より」というメッセージ欄に以下のコメントが掲載されていました。

 全国や日本一を目指すチームじゃない、それ以外のチームの練習は無意味なのでしょうか。んなこたないと信じてます。昨日の自分よりうまくなっていたい。「好き」で「楽しく」「全力」、そんなブカツの姿を過去を思い出しつつ描いてみました。これからも常に今日より成長した明日を目指していたいと思います。

 このコメントの通り、“(校舎の)外周走り”という練習内容とか、“ロイター板使って擬似ダンクシュート”とか、練習の最後の集団コートランニングとか、妙に細かいミニバスケ用リングの描写とか、バスケ部経験者じゃなかったら描けないシーンが複数あって、作者・夏目さんの意欲を感じさせる作品ですね。
 ストーリーも、まぁ及第でしょう。突然後半残り10分から本気を出し始める必然性の無さや、やる気の無い顧問が主人公たちの味方になる動機付けがやや弱い気がしますが、致命傷というところまでは行っていません。
 ただ、平凡な人たちの日常生活モノというのは、話の広がりに限界があって、どうしても名作・佳作にはなり辛いんですよね。清水義範さんの小説・『柏木誠治の生活』くらい“究極の平凡”に挑戦しているなら、また話は別なのですが、それをマンガで表現するのはかなり難しそうですし……。

 評価は。決して悪い作品じゃありません。作者の夏目さんも、十分これからもメジャー誌でやっていける力量は持っていると言って良いと思います。ですが、やっぱりもう少し起伏に富んだ作品が読みたいですね。

 

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(週刊コミックバンチ18号掲載・世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品『熱血!! 男盛り』作画:南寛樹

 さて。ついに、と言いますか、とうとう、と言いますか、この「世界漫画愛読者大賞」の最終審査エントリー作品紹介も最後の10作品目となりました。
 作者の南寛樹さんは、以前、南ひろたつのペンネームで、「週刊少年サンデー」でギャグマンガを連載し、単行本も出している、今シリーズ登場の作家さんの中で最もメジャーな人、ということになります。その割にはメジャーっっぽい印象が全く漂わないのがアレですが。

 というわけで、この作品はギャグマンガです。しかも4コママンガ。まぁ、この題名で純情ストーリーモノなんて描かれた日には裸足で逃げ出しますが。
 今回の作品の内容は南さんお得意の、「むさ苦しい男キャラによるむさ苦しいギャグ」というヤツで、「サンデー」読者なら『漢魂(メンソウル)!』などでお馴染みの内容でしょう。
 そしてギャグの爆発力も往時のままで、ところどころ小爆発(個人的には拳骨野球ネタが好みでした)があるものの、爆笑には至らずといったところ。1つの雑誌の中でのアクセントにはなるものの、看板作品になるには程遠いレヴェルといったところでしょうか。

 というわけで、評価は雑誌アンケートでは「面白い作品」にも「つまらない作品」にも挙がらない、それなりの作品というところでしょうか。こういう賞レースでは、なかなか評価されにくい作品なのではないかと思います。というか、この作品に5000万やるなら、先に『モテモテ王国』ながいけんさんに5000万円あげて下さい。

 ……以上で、今回の「世界漫画愛読者大賞」の最終審査エントリー作品全10作へのレビューが終了しました。ここで、もう一度エントリー作全てを駒木のつけた評価も含めて振り返り、簡単な総括をしてみたいと思います。

 まず、作品と評価の一覧表から……

作品名 作者 評価
『満腹ボクサー徳川。』 日高建男 B
『飛将の駒』 大牙 B−
『アラビアンナイト』 長谷川哲也 B+
『がきんちょ強』 松家幸治 B+
『灰色の街』 江口孝之 B
『142cmのハングオン』 大西しゅう B
『エンカウンター -遭遇-』 木ノ花さくや B
『黒鳥姫』 葉山陽太 B
『逃げるな!!! 駿平』 野田正規 B−
『熱血!! 男盛り』 南寛樹 B

 全作品Bランク。つまり秀作・名作になりそうな作品は1本も無かった、という事になります。賞金5000万&連載1年を争う賞にしては不作であった、と言わざるを得ないでしょう。
 辛うじて“佳作”となりそうなB+評価作品が2編ありましたが、『アラビアンナイト』は作風が『蒼天の拳』と酷似しているために「バンチ」誌連載には問題点があり、『がきんちょ強』にも、「バンチ」と作風が合わない上、『じゃりん子チエ』の露骨なオマージュのためオリジナリティが無いという、これまた大きな問題点が潜んでいます。どちらも1年以上の連載となると、かなり厳しいのではないかと思います。

 個人的には、グランプリどころか、準グランプリ(賞金1500万円)に値する作品も無かったと思います。今回発表された10作品より数段面白いものが他誌で新連載されていますし……。
 そもそも、たかが1つの新連載作品を選ぶのに、どうしてここまで多額の賞金を懸けなきゃならないのかが不可解です。どうやら今年も第2回が開催されるようですが、第3回以降に関しては開催そのものから熟慮して頂きたいと思います。

 

 ……ちょっと辛らつな意見を述べたりしましたが、要は「もっと面白い作品を読ませてくれ!」っちゅう事です。読んでてワクワクするような、もしくは腹抱えて笑えるような作品をもっと読ませてもらいたいですね。
 では、今週はこの辺で。

 


 

4月2日(火) 行動社会学
「駒木博士の縁日アルバイト日報(2)」

 講義の内容にボーンヘッドがあったり、「ニュース解説」の文体がグチャグチャになっていたのに12時間以上経つまで気付かなかったりと、最近どこかおかしい駒木です(苦笑)。
 まぁ、少しおかしい人間じゃなかったら、こんなハードな大学の仕事を無給で引き受けたりしてませんが。

 さて、今日は行動社会学講義の2回目。1回目は時間に追われて中途半端な所で終わってしまいましたが、今日はもうちょっとマトモな内容にしたいと思ってます。

 前回未受講の方はこちらのレジュメを→第1回
 それでは、レポート文中は文体を変えてお届けします。


 3月25日(月)・続き

 昼食後の仕事は、軽作業も終わって内職のような手作業へ。縁日定番の小道具作りである。

 駒木がまず担当したのは、ヨーヨー釣りの釣り針作り。カーテンをカーテンレールに引っ掛けるような金具の小型版みたいなヤツが、薄い紙で作られたコヨリで結んであるアレである。受講生の皆さんもかつて幼い頃、たかがヨーヨー1つの重みに耐えられずに、海ならぬ水槽の藻屑となって沈んでいった金具を恨めしそうに眺めた記憶があるであろう。そう、あのアレである。あぁ、正式名称が無いモノを言葉だけで説明するのは何と面倒臭い事であろうか。
 そしてその釣り針を、なんと100%素人の駒木が作っているのだ。小学校の家庭科で、教科書を入れた瞬間に取っ手を残して床めがけてフリーフォールする手提げ袋を作ってしまった駒木が、である。今度はヨーヨーが飛び降り自殺してしまう釣り針を作ってしまうのかと思うと、良心の呵責に苛まされる。
 釣り針の材料はシンプル。小さい金具と、細切れにした半紙の短冊(1×10cm大)が1枚。この短冊を半分に折って金具に引っ掛け、コヨリを作ってゆく。
 2〜3個作るうち、どうして幼少のころ手にしたヨーヨー釣りの釣り針が、往年のバカTV番組・「ザ・ガマン」の東大勢のごとく余りにも早く力尽きていったのか、しみじみと理解できた。
 何せ作ってる時点で、もうコヨリが半分千切れてるのだ。試し斬りの段階で刃こぼれしている日本刀を売りつけるようなものだ。もしくは本番前に風呂……いや、これはさすがに下品すぎて言えない。
 前々から縁日のゲームなんて、大概そんなものだと思ってはいたが、いざそれで商売する側になると、いっぺんに気が重くなる。
 だからせめて、受講生の皆さんにここでご忠告申し上げる。「ヨーヨー釣りは詐欺だと思え」。もしヨーヨーが1つも釣れなくても、それはあなたやあなたのお子さんの過失ではない。釣り針を作った兄ちゃんの責任である。

 次にあてがわれた仕事は、この“釣り堀”ゲームで渡す景品の小袋作り。“釣り堀”とは、マグネットの釣り竿でオモチャの魚を釣るという、典型的なお子様向けゲームであり、当然用意する景品も小学生低学年以下向けの内容になる。
 中身は、プラスティック製の簡単な玩具がメインで、そこへ駄菓子2つ(うまい棒&20円程度の袋駄菓子)とスーパーボール2個が入っているという構成。ゲーム代は1回300円だが、当然景品で元は取れない。まぁ、これは当然だ。そんな地味な慈善事業どこにあるのか
 しかし、他のバイト仲間と無造作にスーパーボールを袋に放り込んでいると、にわかにドラマ「ちゅらさん」のエピソードを思い出した。あのドラマ、ヒロインが初恋の相手と結ばれるきっかけになったのがスーパーボールだったのだ。
 作業をしている机を俯瞰すると、透明ゴミ袋の中にスーパーボールが10円ガム自動販売機のような状態で大量に納められている。そしてそれを紙袋へ無造作に。
 ……嗚呼、一生の思い出を粗製濫造しているのか、俺は。

 どんな業界でも、一度裏側に入ってしまうとユメもチボーも無い展開になるものだが、言わば“夢を売る”商売でこの現実は結構イタい。
 それに追い撃ちをかけるように、現場責任者・Hさんから追加アイテムが“配給”された。
 「…うわ」
 「……………?」
 驚く駒木、それと対照的に呆然とするのは、駒木より6つ年下の男子アルバイター・M君だ。
 このリアクションの差の理由は、追加アイテムの内容にある。その商品とは「おそ松くん」クリアシールであった。
 「これ、今の子どもやったら、何が何やら分からんのとちゃうか?」
 苦笑してお互いの顔を見合うアルバイターたち。N君などは「だって俺も知りませんよ」みたいな顔をしていた。ましてや就学前の子どもたちは、「おそ松くん」の存在すら知らないだろう。産まれた時には手塚治虫先生が既に鬼籍に入っていたというのが、今の小学生世代なのだ。よく考えてみたら、年が20前後も違うんだよなあ、などと考えてしまった。
 それと同時に、これらの景品の仕入先を思い浮かべると、「倒産」とか、「在庫一掃」とか、「社長が首吊った」とか、「一家離散」とか、色々なキーワードが浮かんで来て、ちょっと引いてしまうではないか。

 散った夢を掻き集めて、リサイクルして売る商売なのか、コレは。因果だなあ。

 結局、そうこうしている内に全ての準備作業が終了。明朝到着する金魚などの生物系を除いて、全てのスタンバイが終了した。一応完成した仮店舗に幕を張ってロープを巻き、部外者をシャットアウト。これで本日の仕事は終了した。

 では、明日以降のレポートのためにも、今回の縁日で準備したアトラクション・露店を紹介しておく。
 まず“水物”系から。定番の金魚すくい、スーパーボールすくい、ヨーヨー釣り。そして今回はザリガニ釣りなんて昔懐かしいものもある。
 駒木の世代にとって異色なのが、キャラクター(人形)すくい。スーパーボールの代わりに仮面ライダーアギトやらアンパンマンなどの小型ソフビ人形をすくい上げるというヤツである。スタンバイしている水槽を見ると、アギトやアンパンマンに加えて、ウルトラマンやドラえもんにおじゃ魔女どれみ、さらには変なおじさん(志村けん)までが一緒に混じっていて、異様にシュールな混浴風呂の様相を呈している。この光景を見て、子どもが何も違和感を感じないのが不思議でならない。
 続いて景品がもらえるゲーム。射的、輪投げ、そして前出の“釣り堀”。これはまた後日詳しく述べよう。
 さらにくじ引き。物凄く即物的なので、ちょっと面食らったのだが、まぁご時世だわな、と割り切った。4種類あって、「アンパンマンくじ」「仮面ライダーアギトくじ」「モーニング娘。くじ」「とっとこハム太郎くじ」。ここもエラい混在ぶり。まさかつんく♂も、自分がプロデュースしたグループが、こんなコラボレーションを形成するとは思っていなかっただろう
 くじ引きだけあって、特等や1等の景品は結構豪華だ。中でも目を引いたのは「仮面ライダー京本正樹コレクション」。このオヤジ、関係者の葬式でお宝グッズを拝借していったカドで、業界から鼻ツマミになっているのだが、裏でこんな仕事をしていたのか、ううむ。

 後はミニ・アトラクション系。まずはこの手のイベントでお馴染みの“フワフワ”。巨大なビニール風船の中で子どもが飛び跳ねて遊ぶアレ。
 駒木、何故かこの“フワフワ”を毎日営業終了後に畳む役を仰せ付けられてしまった。
 運営会社の社長さんの指導の元で一度やってみたが、これがメチャ重い。よくよく聞いてみると、なんと重量は170kgほどあるそうだ。たかが風船みたいなものと思っていたらとんでもなかった。畳む作業の最後に、その170kgの“フワフワ”をロールパンを作るみたいに丸めていく行程があるのだが、これなんか武蔵丸相手にぶつかり稽古するみたいなものだ。仮想・武蔵丸に対する駒木は175cm65kg。とんでもない役を与えられたものである。
 社長さんから「よろしくな」と言われて会釈をしながら、高校の職場で“生徒の自転車係”を仰せ付けられて目を輝かせて喜んでいた若手教員を思い出した。彼ならこの仕事も「俺って、頼られてる!」なんて思いながらイキイキと仕事するんだろうなあ。俺にゃ無理だ。
 さらに遊園地でよくある、ライオンなどの動物型の機械が四足歩行しているように自走するヤツが2台。
 最後に紹介するのは、「レッツゴー・アンパンマン」なるミニ電車。3m四方くらいの枠の中に八の字型の線路を敷き、そこに子どもが乗るのがやっとくらいの小さい座席がついた電車が走るもの。電車には録音テープが内蔵されていて、「こんにちは! アンパンマンです! 僕と素敵な旅をしようよ!」とアンパンマンが子どもに呼びかける仕組み。戸田恵子さん、こんな仕事でも全力投球。良い人だなあ。
 ところでこのミニ電車、「レッツゴー・アンパンマン」という名前とはいえ、アンパンマンが電車に変身したわけではなく、SLマンという、いかにもアンパンマンイズムに溢れたキャラクターがアンパンマンとお客を乗せて走る設定になっている。
 だが、SLマンとは言っても、当講座の受講生はご存知無いだろうと思われるので、ちょっと紹介。SLマンと言うと、インターネット業界の人はこういうのを思い浮かべるかもしれないが、そうではない。

 (すいません。修正前に凄い不謹慎なリンクミスしてしまいました。謹んでお詫びしてネタごと削除いたします。申し訳ありませんでした) 

 
 正しくは↓

 この、機関車トーマスのバッタモンみたいな親しみ溢れるキャラクターがSLマンである。子どもには大人気のようなので、要チェックだ。

 …とまぁ、以上の店やアトラクションに囲まれて、1週間のアルバイトが始まる。そこでどんな事が起こったのかは、また次回以降にて。


 ……というわけで、今日の講義はこれで終わります。次回は講義のスケジュールの都合で来週月曜日にて。(次回に続く

 


 

4月1日(月) 集中講義・現代社会学特論
「椎名林檎、高らかに現役復帰!(5)」

 にわかに“講義のコスタリカ方式”となった感じの当講座ですが、今日は現代社会学特論であります。ますます完結までの道のりが遠くなった気がしますが、重ねて気長にお付き合いください。

 過去のレジュメはこちら→第1回第2回第3回第4回

 前回は、まだ本名:椎名裕美子の頃の女子高生・椎名林檎さんが、音楽活動に専念するため、ついに高校を辞め、ピザ屋でアルバイトしながらバンド活動している内に……というところまでお話したのでしたね。
 それにしても、よく考えてみれば凄いですなぁ、椎名林檎がバイトしてるピザ屋。まぁ大体、ブレイク前の芸能人・アーティストはアルバイトを体験しているものなのですが。藤井フミヤなんか、アルバイトどころか元・国鉄職員ですし。
 それで思い出したんですが、福岡には凄い都市伝説がありますね。

「福岡のとあるライブハウスで、当時新人の長渕剛がライブしていた時、観客席から『カッコいいなあ』とか何とか言いながら観ていたのが、後のチェッカーズ。で、ライブの後、彼らが『あの曲がどう』とかダベっていた、ライブハウスの向いにある喫茶店の雇われマスターが、大学を中退して故郷に帰ってたタモリだった」

 ……というもの。微妙に時系列がズレている気がするので、都市伝説の範疇を越えないでしょうけど。

 …まぁ、そんな話はさておいて、林檎さんの話の続きです。
 先に紹介した通り、彼女は日常のほとんどを音楽活動に捧げ、バンド練習やボイストレーニングで、文字通りの“一所懸命”な毎日を送ります。
 この頃の林檎さんは、既にいつプロデビューしてもおかしくないだけのアーティストとしての能力は持っていたらしく、当時ボイストレーニングの講師だった波多江顕亮氏は、
 「私の中ではむしろデビューは遅すぎたと思っている。あれだけ声が出た17歳のときに世に出ても良かったのに」
 と、取材に訪れたライターに語っていたそうです。なんでも、音域は軽く3オクターブに達し、その上、高音・低音共に特徴ある“色”が感じられると、個性も十分であったとか。確かにローティーンでデビューするアーティストが多い今なら、彼女のデビュー(19歳)は遅すぎたといえるかもしれません。ただ、波多江氏は更にこう語ります。
 まあでも、その後の挫折や海外での暮らしがいいほうに作用したのかもしれないし、こうして活躍していることは素直にうれしいですよ」
 彼のコメントに混じる言葉“挫折”。これがやがて、林檎さんの10代後半を象徴するようなキーワードになってゆくのですが、それはまた後のお話。今は、彼女の福岡アマチュア時代の総決算となる快挙と、それにまつわるエピソードを紹介してゆきましょう。

 バンド“マーベラス・マーブル”でヤマハ主催「ティーンズ・ミュージック・フェスティバル」で奨励賞を獲得した林檎さんは、更に同じヤマハ主催のオーディション・イベント「ミュージック・クエスト」に参戦します。この「ミュージック・クエスト」はプロ志望者のためのオーディションで、成績優秀者には事実上プロデビューが確約されるという、非常に重みのあるものでした。
 このオーディションの福岡大会で優秀な成績を挙げた林檎さん率いるバンドは、ここで複数の音楽ディレクターの目に留まり、デビューを持ちかけられます。この時は特にオーディション主催者のヤマハからのプッシュが強かったそうですが、なんと林檎さんはこの誘いを頑なに拒否したそうです。「ヤマハでは私の才能を活かしてくれない」と。
 何だ、この生意気な小娘はとお思いの方もいらっしゃるでしょう。しかし、これは正しかったと断言できます。
 と、言いますのも、このヤマハというレコード会社は、とにかく“一発屋”を多数輩出してしまう事で定評のある会社なのです。1曲インパクトの強い歌で売り出し、ブレイクさせるのは上手いが、そこで終わりまるで天下りの無い高級官僚みたいな話であります。

 これを裏付けるデータとして最も有効なものが、1970年から20年間に渡って開催された「世界歌謡祭」という、やはりこれもヤマハが主催していた国際的音楽イベントです。
 この「世界歌謡祭」は日本を含む世界中から新進ミュージシャン(当時はアーティストなんていう言い方はしませんでしたよね)が招待出場し、大会の最後にはグランプリ以下、各賞の表彰式が行われました。
 で、問題なのは、この「世界歌謡祭グランプリ」受賞者なのです。
 この「世界歌謡祭」に出場している日本の歌手は、ほぼヤマハ所属で占められた上、お手盛りの審査によって、実力に関係なく半ば無理矢理「グランプリ」を与えられたため、極めて異色な受賞者リストが出来上がってしまったのです。これが、「世界歌謡祭グランプリ受賞、しかし今では誰もシランプリ」などと揶揄される由縁であります。
 ではここで、「世界歌謡祭グランプリ」に輝いた日本人、もしくは日本語の曲を唄ったミュージシャン達をざっとリストアップしていきましょう。

第1回

ヘドバとダビデ
「ナオミの夢」

第2回 上条恒彦と六文銭
「出発の歌」
第4回 小坂明子
「あなた」
第5回 浜田良美
「いつのまにか君は」
第6回 中島みゆき
「時代」
第7回 サンディー
「グッドバイ・モーニング」
第8回 世良公則&ツイスト
「あんたのバラード」
第9回 円広志
「夢想花」
第10回 クリスタルキング
「大都会」
第11回 伊丹哲也&サイドバイサイド
「街が泣いてた」
第12回 アラジン
「完全無欠のロックンローラー」
第13回 明日香
「花ぬすびと」
第14回 磨香
「冬の華」
第15回 トムキャット
「ふられ気分でRock'n' Roll」
第16回 尾崎和行&コースタルシティ
「…洋子」
第17回 小野健児
「明日行きの列車」
第18回 武内千佳
「ノー・ノー・ノー」

 


 …………………………

 

 どうですか、コレ?

 

 もうね、この表を作っていて泣きそうになりましたよ。「誰? これ誰? ていうか、コースタルシティってそもそもどういう意味?って歯を食いしばりながらまとめさせて頂きました。恐るべし、世界歌謡祭。
 この一覧表を見ていると、ヘドバとダビデ、小坂明子、アラジン、円広志、トムキャットなどといったところが超メジャー・ミュージシャンのように思えて来てしまいます。ましてや、世良公則中島みゆきなどは、ここにリストアップしては逆に失礼なのではないかとすら危惧してしまう次第です。場末のアダルトビデオショップで、飯島愛のビデオを見つけてしまったような、そしてついでに飯島恋まで見つけてしまったような気まずさが漂って来ます。

 これを考えると、林檎さんがヤマハを拒絶したのはまさに英断であると思われます。当時は既に世界歌謡祭は廃止されていましたが、もしも林檎さんがヤマハ入りし、世界歌謡祭が廃止されずに残っていたら、
「第28回グランプリ・椎名林檎とゴールデン街 『歌舞伎町の女王』」
 ……などという
汚名が日本音楽史に刻印されていたのは確実でありました。危ない、危ない。

 というわけで、ナニゲにアーティスト人生最大の危機を脱出した林檎さんは、間もなくして、ついにソロ・アーティストとしての道を歩み始めるのです──(次回へ続く 


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