駒木博士の社会学講座
仁川経済大学社会学部インターネット通信課程
社会学講座元アルバイト・ 一色順子の「駒木ハヤトの近況報告」 |
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2010年12月27日(月) |
またまたご無沙汰です! 5ヶ月ぶりでごめんなさい。博士はノロウイルスにやられながらも、何とか元気に頑張ってます。受け持ちの生徒の停学日数は合計59日 になったそうです。オッス、オラ59日!って言ってあげたら、やっぱり水揚げ5日目のサバみたいな目をしながら明るく 微笑んでくれましたから大丈夫だと思います(笑)。 というわけで、冬コミの告知です。ギリギリになっちゃいましたけど、今回も何とか新刊を出すことができました!
3日目(
12月31日・
金曜日)東・P-58b 「駒木研究室」 ……で、お待ちしております! 旧刊の在庫も ある程度は用意してます。どうか何卒! |
※現在準備中です。 |
☆最近の講義一覧表☆ |
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08年度講義 | |
4/3 (第1回) |
犯罪学特殊講義 「駒木博士の裁判傍聴記」(3) |
5/6 (第2回) |
犯罪学特殊講義 「駒木博士の裁判傍聴記」(4) |
6/2 (第3回) |
犯罪学特殊講義 「駒木博士の裁判傍聴記」(5) |
6/7 (第4回) |
犯罪学特殊講義 「駒木博士の裁判傍聴記」(6) |
3/30 (第5回) |
特別演習 「『バクマン。』のバクマン。」(1) |
06年度講義 | |
4/15 |
人文地理 「駒木博士の05年春旅行ダイジェスト」(2) |
5/13 |
人文地理 「駒木博士の05年春旅行ダイジェスト」(番外編) |
07年度講義 | |
4/21 (復活第1回) |
演習(ゼミ) 「現代マンガ時評」(古味直志特集) |
10/4 (復活第2回) |
犯罪学特殊講義 「駒木博士の裁判傍聴記」(1) |
11/4 (復活第3回) |
犯罪学特殊講義 「駒木博士の裁判傍聴記」(2) |
◆構内掲示板◆ | |
※01年11月の開講以来、長年ご愛顧を頂いておりました当講座、仁川経済大学社会学部インターネット通信課程ですが、『現代マンガ時評』を含む全ての定例講義を終了することになりました。長らくのご愛顧、本当に有難うございました。(詳細はこちらよりどうぞ) ※今後の講義予定やコミケットでの活動につきましては、その都度この「構内掲示板」内にてお知らせします。アンテナ等に登録の上、更新情報の捕捉をお願いします。 |
☆最近の講義☆
※以前の講義はアーカイブにあります。
2008年度第5回講義 |
約10ヶ月のご無沙汰でした。もうお詫びの言葉も見つからないとはこの事で。随分と見切りをつけた受講生の方もいらっしゃるのではないかと思いますが、まだ講義も続けますので、今後とも何卒。ここまで来たら10周年の時には何かやりたいですしね。
さて、講義再開に当たって、どんな題材で行こうか迷いました。『ポートピア連続殺人事件裁判』は、再開するにはファミコンゲーム『キャプテン翼』的に言えば、ドライブタイガーツインシュートぐらいのガッツを消費するので、ちょっと厳しい。なら採用試験の合格体験記か引越関連のドタバタでも……と、思ったんですが、何かそれもツンデレの真髄を解さない三流作家がヒロインに「アンタのために○○したんじゃないんだからねッ!」と言わせるぐらい安直過ぎやしねぇかと、構想練る前から萎え気味で、面白い事がちっとも浮かばない。どんな事書こうかとボンヤリ考えながら、新研究室に導入されたケーブルテレビのCS放送をザッピングしてると、いつの間にかフィル・テイラーが10何度目かのダーツ世界一になる所とか、萩原聖人がプロ3人を相手にダンラスからの連荘&親ッパネでトップを強奪する所を30分以上凝視していたり(笑)……って笑い事じゃ無いですね。 ☆「毎週読者アンケートで順位をつけられ、人気が無ければ10週で打ち切り」「(背景の打ち切りマンガの最終コマに挿入されたキャプション)第一部 完」「(同じく)ご愛読ありがとうございました!」(第1回・単行本1巻25ページ)
一番最初は、やはりこれ。「ジャンプシステム」最大の特徴とも言うべき10週打ち切り制度です。まぁこの制度については既に周知の事実になっていますし、「10週突き抜け」という造語が出来上がってしまってるぐらいなので、敢えて長々と喋る必要はないでしょう。これを補完するような内情話はこの後どんどん飛び出します。ガモウ……いや大場だけはガチです。 ☆「さっきお前が言ってた『デスノート』の原作の人だってどこかで書いてたぜ。何か仕事しないと5年後には飢えて死にますって」(第1回・単行本1巻25ページ)
……さぁそして2番目に早くも作者本人からの暴露が来ました!(笑) ガモウ……じゃなかった、大場さんは、大成功にも関わらず餓死の危機と戦っていたようです。 ☆「マンガ家目指して一生食えるのは……(略)……0.001%、10万人に1人ぐらい」(第1回・単行本1巻26ページ)
もうこの辺は込み入った話のオンパレードですね。ちっともページが進みません(苦笑)。 ……と、ここまで延々とシビアな話をしている内に、随分なボリュームになってしまいましたね。もうちょっと喋りたいんですが、高校の仕事の新学期を控えて、なかなか無茶も出来ませんので、ひとまずここで置きます。続きがいつになるか判りませんが、この講義シリーズは結構興が乗り易いので、1日、2日暇が出来たら突発的にまたやるかも知れません。最悪の場合は夏コミの新刊でしょうか。いつも待たせて申し訳有りませんが、アンテナに登録するなり、たまに覗いてみるなり、チェックを宜しくお願いします。では、今日はこの辺で。有難うございました。(次回へ続く) |
2008年度第4回講義 |
過去のレジュメはこちら→第1回/第2回/第3回/第4回/第5回 (前回からの続きです) 検察官の「以上の事実を証明するため、証拠等関係カード記載の通り、証拠を申請いたします」という決まり文句で冒頭陳述が終わると、裁判長はすかさず「弁護人、ご意見は?」 と尋ねます。 ……と、回りくどい解説を済ませたところで、今回の法廷ではどのような遣り取りが行われたのか、追いかけてみましょう。 「――弁護人、ご意見は?」 ――はい、何言ってんだか分かりませんね(笑)。では、受講生の皆さんのために、この遣り取りを彼らの心中を察しつつ日常会話風に超訳してみましょう。 裁判長:「さて弁護人、まさかこの期に及んでゴネたりしないよねぇ。不同意はやめてよ?」
こういう遣り取りが成立する背景には、「裁判を引き延ばして嬉しい人は(殆ど)居ない」という事実と、裁判官の勤務査定基準として「裁判を迅速に片付ける事」が重要である…という事情が絡んでいます。もっとも刑事担当の裁判官の場合は「高裁や最高裁で判決が大きく覆るような誤審をしないか」という評価基準がより重要なので、事実認定が際どい部分の審理にはそれなりに時間をかけますが、民事担当の裁判官に到っては、裁判の度にしつこく和解&裁判打ち切りを求める人もいるぐらいです。
「――それでは、撤回されたものを除いた証拠を採用して取り調べます。検察官は採用された証拠の要旨について説明して下さい」
そんな退屈な証拠概要読み上げの中で、傍聴人の目を引く数少ない場面なのが凶器などの証拠現物が登場する時でしょう。
「これは、貴方が被害者の山川さんを刺したのに使ったナイフに間違いないですか?」
……こうして延々と検察側の証拠調べ手続が続きます。このくらい込み入った事件になると証拠の数も多く、全ての証拠の概略を説明するだけでも1時間以上はかかってしまいます。この間、検察官以外の当事者は何をしているかと言うと、特に必要な時以外は何もしないし、出来ません。裁判官同士や弁護人と被告人が小声で“業務連絡”をする場合がありますが、その時を除いては表情を表に出さず、ジッとこのお経読みが終わるのを待ち続けます。被告人も、ここでの態度が悪いようなら「反省の様子なし」と受け取られかねませんので、神妙にしているケースが大半です。
……こういった感じで検察側の長い証拠調べて続きが終わると攻守交替、今度は弁護側の証拠調べ手続に入ります。こちらも否認事件の場合などは、検察側の証拠に対抗する形で冒頭陳述を行い、無罪である事を立証するための証拠や、検察側の証拠が誤りであると証明するための証人尋問を申請するのですが、この裁判のように被告人が罪を認めている大半のケースでは冒頭陳述は省略され、 「弁1号証は、被告人が拘置所で書いた反省文です。犯行後発覚した事実や誤解していた事などを踏まえて、自らの犯した罪について省みた内容がしたためられております。弁2号証は、山川さんの甥であります俊之氏宛の謝罪文です。ただ、こちらは俊之氏が逮捕・勾留中という事もありまして、俊之氏の担当弁護人を介して渡して頂きました。まぁそのような問題がありまして、未だに返事は頂いておりません。弁3号証から6号証は贖罪寄付の証明書です。被害者のお2人に親族と呼べる方が殆どいらっしゃらず、俊之氏もああいう事になっておりますので、被害弁償という形ではなく贖罪寄付という形で、父母を幼くして失くした遺児の支援をしている団体4つに25万円ずつ計100万円です」 贖罪寄付というのは、文字通り罪を償いたいという気持ちを態度とカネで示すための制度です。通常は特定の被害者が存在しない犯罪や、厳罰を求める被害者が示談に応じず賠償金を受け取ってくれない場合に行われます。今回は殺人事件ですから、本来ならば遺族と示談交渉の上で被害賠償金を渡す事になるのですが、被害者2人に家族がおらず、数少ない親戚も塀の中という特殊な事情があったため、こういう形になった模様です。
「――あとは情状証人ですが、被告人の養父母に、被告人の普段の生活態度と今後の監督について訊きたいと考えております」
「では、検察官に弁護側の証拠と証人の申請に対しての意見を伺います」 然るべく、というのは「裁判官のご判断にお任せしますので勝手にして下さい」という意味なのでしょう。立場上賛成するのもおかしいので、こういう微妙な表現になります。 ……さて、時間の都合もあり、この日の裁判はここで打ち切られて証人尋問などは次回に回される事になりました。
「では……次回は、準備面で色々あるでしょうから1ヶ月半ほど先にしまして、◇月14日の午前10時から午後5時まで全日行うのはいかがでしょう? 弁護人は証人の方の都合などもあると思いますが大丈夫ですか?」 これぐらい大きな事件の裁判になると、既に裏で打ち合わせが済んでいて、日程もスンナリと決まりますが、小さい事件の場合は裁判官や弁護士がその場でスケジュール帳を取り出して、その場で交渉となります。まるで歯医者の予約を決めるような感じなのですが、当の被告人は交渉に参加させてもらえません。裁判は基本的に同じ曜日で行われる事になっていますので、弁護士の都合が悪かったりすると1〜2週間まとめて延期になったりしますし、そこに夏休みや年末年始などが挟まると悲惨な事になるのは以前の講義で採り上げた通りです。中には日程をギュウギュウに詰め込もうとして検察官・弁護士双方からクレームをつけられる裁判官もいて、この辺は関係者の仕事に対する態度と協調性が垣間見える、ナニゲに“深い”シーンだったりします。 というわけで、この日の裁判はこれで終了。講義も一旦中断という事にさせて頂きます。次回は出来れば今月中に。ただ、ボチボチ公私共に忙しい時期に入りますので、どうなる事やら。更新情報はまた追って連絡させてもらいます。では、次回も宜しく。(次回へ続く) |
2008年度第3回講義 |
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約1ヶ月のご無沙汰でした。この間、マンガ業界では一ツ橋界隈でキナ臭い動きがあったようですが、内部事情は詳しく知らない上に、知っている情報を喋った所でまたウソつき扱いされるので言いません。ただ、「ヤングサンデー」は編集長が「週刊少年サンデー」と交換トレードになった前後から、絶えず業界筋で休刊の噂はあったようです。主力作品がメディアミックスに成功してたので踏ん張れてたみたいですが、小学館の中でも似たような読者層の雑誌がいくつもある中で、存在意義が薄かったという事なんでしょうね。コンビニのマガジンラックでも、同じ木曜発売の「ヤングジャンプ」や「モーニング」の裏に隠れてしまって、どこにあるか判らないという事がよくありましたし。 ……おっと、冒頭から脱線失礼しました。裁判傍聴記と言いながら、全然傍聴記になってない企画の第5回ですが、今回は刑事裁判の進行について解説する試みの2回目です。前回は起訴状朗読から罪状認否までについて説明しましたので、その続き、証拠調べ手続から解説してゆきます。前回のジャイアン起訴状の成功に味を占めて今回は、テレビゲーム世界では恐らく日本一有名な殺人事件の裁判を再現と言うか、創作しつつ講義を進めていく事にします。 あくまで架空の事件を基にした創作ですので、色々アレかも知れませんが「多少誇張してあるが現実も概ねこの通り」というぐらいを目標にやってみます。最後までどうか何卒。
異人館を連想させる赤レンガ造りが印象的な神戸地方裁判所。その中でも最も大きな101号法廷では、現職刑事による連続殺人、それも自ら犯した殺人の捜査を担当し、しかも捜査中に第2の殺人を犯すという、前代未聞の展開を遂げた事件の第2回公判が開かれようとしていました。
定刻となり、裁判官3人が入廷しました。地方裁判所では、傷害や窃盗などの刑罰が「懲役○年以下」という罪は基本的に裁判官1人の「単独審」ですが、殺人は「死刑・無期または5年以上の懲役」ですから3人の「合議審」で行われます。ちなみに高等裁判所では3人(例外的に5人)の合議、最高裁の大法廷ともなると15人の裁判官がズラリと並びます。
撮影が終わると被告人である元刑事が刑務官によって引かれて入廷して来ました。本来は裁判官の前に連れて来られるのですが、今日は撮影があったので後からの入廷です。スラックスにジャケットというフォーマルな格好ですが、例によってネクタイやベルトといったロープの役割を果たす物については身に付けていません。
「では、被告人は証言台の前で立って下さい」
冒頭陳述も起訴状と同様に独特の書式で記された書類なのですが、ここでは検察官の“丁寧語変換読み下し文”の体裁で紹介する事にしましょう。冒頭陳述はそのコピーを裁判官や弁護側にも渡す事になっているので、法廷で朗読する時はかなりの早口&棒読みです。但し、検察官によっては
まくし立てるような長い朗読が終わり、検察官が着席しました。この間、隣にいるもう1人の検察官も、3人いる裁判官も、弁護人も、そして被告人も、言葉一つ発する事無く、表情も全く変えませんでした。対照的なのは傍聴席に陣取った記者たちで、ノートにメモを採る者や、中には法廷外との連絡を取るためか頻繁に退席と着席を繰り返す者もいます。 (突然ですが、ボリュームが膨らみすぎたため、ここで一旦中断します。出来るだけ早く続きをやりますので、しばらくお待ち下さい/次回へ続く) |
2008年度第2回講義 |
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前回までは裁判所ガイドをお送りしましたが、いよいよ今回から法廷の中の話に移ります。
まず、開廷の前。検察官、弁護士(=法律上は「弁護士」資格を持った「弁護人」)が法廷の両サイドにある所定の席に着きます。
開廷時刻直前になると、被告人が法廷の奥の扉から刑務官に引っ立てられて来ます。服装はまちまちで、見かけも小ざっぱりした人から河川敷で長年暮らしている人のように荒んでいたりと様々ですが、ズボンのベルトが無く(首吊り自殺防止のため)、代わりに腰縄に手錠というスタイルは共通。前回までの講義でも触れましたが、この腰縄・手錠、見慣れない内はインパクト抜群で、「ザ・罪人」という先入観を抱いてしまいそうになります。
例外は、証拠隠滅や逃亡の可能性、娑婆に出した際の危険性が無いという事で被告人が保釈された、または悪質でない交通事故のように最初から拘置されていない場合。そういう時は、被告人も僕たち傍聴人と同じ入口から法廷に入り、弁護人席や弁護士の前にある被告人用の長椅子に自分から座ります。この場合、刑務官の監視は付きません。危ないようにも思えますが、そうして危なくない人だけが身柄拘束を解かれるわけです。
……で、ここで裁判長入廷、書記官か廷吏が「ご起立願います!」となるのですが、たまに誰かが遅刻して定刻に始まらないという事があります。同じ裁判所の他の裁判が長引いた、とか止むを得ない理由が大半ですが、時には弁護士が時刻を間違えていて裁判所の近所にある事務所から猛ダッシュで飛んで来る…とか、
酷いのになると在宅起訴で自宅から通っていた道路交通法違反の被告人が、事もあろうに判決公判に遅刻して来たなんて事も。
そんな慌しい人の動きの中、傍聴席に目を遣れば、廷吏に促されて何やら書類に署名捺印している人の姿を見かける時があります。これは証人として呼ばれて来た人で、色々なパターンがありますが、多くは被告人の家族です。こういうケースに限らず、事件の当事者やその身内は最前列に座っている事が多いので、空いている法廷で傍聴する時は2列目より後ろに座る事をお勧めします。 ――さて、相も変わらず冗長になりましたが、ここからが裁判の始まりです。
第1回公判の場合、裁判長はまず被告人を証言台の前まで来させ「人定質問」を行います。氏名・本籍地と現住所・職業が起訴状に書かれているものと一致するか、要するに本物の被告人に違いないかというチェックを行うわけです。 人定質問が終わると、検察官による起訴状の朗読が始まります。起訴状は、それぞれの公判で裁かれる事件の概略が書かれたものであり、裁判官が公判の前に受け取る唯一の書類でもあります。故に公正な裁判を期するため予断や先入観を挟みそうになる内容(被告人の前科や身上経歴、調書の内容等)が書 いてはいけないので、比較的あっさりした文面になっています。例えばこんな感じでしょうか。
……我々が幼少の頃から親しんだジャイアニズムも、裁判にかかればこのような物々しい話になってしまいます。文面が異様に硬いのは、フォーマットや語彙が基本的に何十年も前から使い回しされているからです。「手拳(しゅけん)」や「強取(ごうしゅ)」などといった言葉は法廷で無ければ聞く事も無いでしょう。但し、裁判員制度が開始されるのを機に、この大時代的な書式も平易な文体に改められる事が決まっています。
ここで大事なのは、裁判で罪に問われるのは、この起訴状記載の内容のみであって、ここに載っていない余罪については処罰の対象外になるという事です。例えば覚せい剤取締法違反事件の場合、たとえ何年も前から常習的にクスリを購入・使用していると判明している場合でも、起訴状に載っている内容が「1度の使用と、その使用目的の所持」ならば、罪に問われるのは、その1回限りの犯罪事実のみ。別の機会の使用や所持についても罰したい場合は追起訴しなければなりません。 起訴状の朗読が終わると、裁判長から被告人に対して黙秘権の告知が行われます。
……と、かなり丁重な言葉遣いをする裁判長が多いです。相手がまだ推定無罪だからなのでしょうが、先述のように知能の発達に問題がある人も時々いますので、せめて「丁寧に噛んで含んで説明した」という既成事実を作っておきたいという思いもあるのでしょう。
……と、黙秘権が使えますよとガイドがあった所で、裁判長は被告人に尋ねます。
ここで被告人が「間違い有りません」と言えば、その時点で裁判の焦点は有罪か無罪かではなく、有罪を前提とした上で刑罰の軽重を問う事になります。検察側証拠の真贋については争わず、検察側は「コイツはこんなに酷い奴なんですよ」、弁護側は「そうは言っても彼、今は後悔して反省してますし」と一方的に自分の言い分を主張し合い、裁判官は双方の意見を聞いた上で過去の判例に基いた相場に従って半ば機械的に判決を出す……という流れになるので、実質的に事実関係を争うものではありません。その後の裁判はどちらかと言うと流れ作業に近くなります。
逆に被告人が公訴事実を認めない、あるいは「○○については認めますが、△△のような事はしていません」と、全部または一部を否認すると、一気に雰囲気はキナ臭くなって来ます。このような裁判は「否認事件」と呼ばれます。検察が主張する「事実」と被告人・弁護人の主張する「事実」、そのどちらが本当の「事実」なのかを裁判所に認定してもらう戦いになるわけで、先ほどのケースとは緊張感がまるで違って来ます。審理に要する時間や回数も一気に膨れ上がります。時には年単位の長期戦になり、これが「日本の裁判は長い」と言われる所以です。 以上、人定質問から罪状認否までが裁判の第一段階である「冒頭手続」と呼ばれるものです。ここから本格的な審理を行う「証拠調べ手続」に入りますが、長くなってしまったので今日はここまでとしておきます。次回はあんまり長引かないようにしたいと思いますが、喋っている内に言いたい事が一杯出てくるのが何年たっても治らない悪い癖ですね。次回は未定ですが、5月中には必ず。 では、今日はこれまでとします。笑い処の少ない講義で失礼しました。(次回へ続く) |
2008年度第1回講義 |
同人誌版の作製から始まった日常・非日常のあれやこれやに追われて年度が変わってしまいました。申し訳ないというか情けないというか……。ともかく、今年度も何回やれるか分かりませんが、頑張りますのでどうか何卒。 ……などと、雑談で舌先と指先が滑らかになって来たところで本編へ参りましょうか。今回は社会学講座メンバーの東京地裁探訪の後編。裁判所のランチ事情に迫ってみたいと思います。 珠美:「……博士、こっちです!」 順子:「……着きました――って、広いですねー! うわ、コンビニもある! しかもちゃんとしたファミリーマート(笑)。ヤ○○キとかじゃない!」 順子:「――って、入ってみたら、普通のセルフサービス式の食堂でした。残念(苦笑)」 駒木:「んじゃ、とりあえず外に出ようか。出る時は何のチェックも無くてただ自動ドアから出るだけ。で、2人は昼からまた傍聴する? 僕はもうちょっと見ていくつもりだけど」 ――というわけで、東京地裁ガイドをお送りしました。次回からは、いよいよ本格的に裁判の模様をお送りするつもりでいます。次はせめて葉桜が綺麗な内にと思いますが、さてどうなりますやら。気長にお待ち頂ければと思います。では、また近日お会いしましょう(次回へ続く) |
2007年度第3回講義 |
過去のレジュメはこちら→第1回
約1ヶ月のご無沙汰でした。いや、今回は1ヶ月で済んだ、と言うべきでしょうか(苦笑)。定例講義を終えて以来、月日の流れるスピードがやたらに速くて困ります。
――とまぁそういうわけで、受講生の皆さんには、その辺りの緩いノリも含めて「あ、裁判所って気楽に入れる所なんだな」と実感して頂ければ幸いです。裁判傍聴未経験者の方から頂く質問のダントツ第1位が「裁判所って、普通の人でも入れるの?」だったりしますので、今回はその疑問にお答えする意味も込めての企画であると解釈してもらえれば……と思います。 駒木:「……えー、只今2007年8月某日、午前9時半を少し回ったところです。受講生の皆さん、おはようございます」
……というわけで、東京での裁判所レポート、前半の模様をご覧頂きました。あ、失礼しました。栗藤珠美です。駒木博士は突然、体調不良を訴えられたため、急遽私がこの場の代役を務めさせて頂きました。でも、結構大丈夫そうでしたので、次回の講義の際には元気な姿を見せて下さると思います(微笑)。 |
2007年度第2回講義 |
何やかんやでほぼ半年振りの講義となってしまいました。本当に申し訳有りません。 ――さて、ウォーミングアップがてらの前置きはこれくらいにしましょうか(笑)。
今回のシリーズは、講義の表題の通り、駒木がこれまで傍聴して来た刑事裁判のレポートです。最近では各メディアやネット界隈で色々な人の裁判傍聴記が掲載されておりますので、概略は説明不要でありましょう。ただまぁそこは駒木がやる事ですので、内容も横道に逸れつつ、重箱の隅を執拗に突っつきつつ、という事になるかと思います。何卒気長にお付き合い下さい。 では、本編に入りましょう。今回はプロローグ代わりに、駒木が初めて傍聴をした裁判の話を中心にお送りします。 初めて見た裁判は、覚せい剤(取締法違反)で捕まった男の判決公判だったと記憶しています。
開廷の数分前、少し寂れた映画館の座席に似た傍聴席に腰を下ろし、見慣れぬ法廷をあちこち見回していると、不意に裁判所の“業務用エリア”と通じるドアが開き、前と後ろを制服の刑務官に挟まれた被告人が入廷して来ました。風貌は意外とこざっぱりとしていて、服もごく一般的な普段着の類。確かイトーヨーカドーかダイエーで売ってそうなデザインのトレーナーとベージュのチノパンだったでしょうか。ただし、チノパンの本来ベルトが通されている部分には腰縄が巻きつけられていて、その縄の先にはメッキの剥げかけた鉄製の手錠に拘束された男の手首があったわけですが。
思えば、駒木が裁判傍聴にハマっていったのは、この時の感情の揺れ動きがきっかけだったのかも知れません。日常の世界からほんの少し足を踏み入れた所に、手を伸ばせば届きそうな距離に、非日常的な空間が広がっている。それを知った。発見した。
法律では裁判が行われている時に限り、勾留され身柄拘束を受けている刑事被告人も、その戒めを解かれる事になっています。刑務官は手馴れすぎた緩慢な手つきで腰縄を解き、ほぼ身体の自由を取り戻した被告人に座席を勧めます(手錠は裁判官入廷と同時に解かれる規則)。
予定の時刻になると、法廷の奥、他のエリアより2mほど高くなっている部分、つまりは裁判官席の方から慌しい足音が聞こえ、間もなく閉まっている時は壁の役割も果たすドアがガチャリと開くと、漆黒の法服に身を包み、関係書類を脇に抱えた裁判官が姿を現しました。今回は比較的軽い犯罪を扱うので、地方裁判所の裁判でも担当判事は1人だけです。その瞬間、法廷内に居た関係者――書記官、検察官、弁護士、廷吏と呼ばれる事務員、そして被告人と刑務官が一斉に起立。釣られるようにして傍聴席の人たちも立ち上がります。そして裁判官のぞんざいな礼に、皆はやはりぞんざいに従い、着席。ここまで約10秒。全てが初めての駒木はワンテンポ遅れました。 「主文。被告人を、懲役1年6月に処する――」
この時の裁判長の声は、マイク越しにしてギリギリ聞き取れるぐらい小さく、それでいて鋭い視線のせいか、不思議と重みが感じられるものでした。
そして、主文の言い渡しが終わると、今回の裁判で認定された罪となる事実、そして今回の量刑を課した理由の告知に移りました。あらかじめ用意された印刷物を朗読するだけとあって、早口で棒読みです。しかしその中で「当公判廷が認めた罪となるべき事実は以下の通り」とか「フェニルメチル・アミノプロパン」などと聞き慣れない言い回しや言葉が次々と飛び出して来るのが、この時の駒木にとってはいちいち新鮮でした。ちなみにフェニルメチル・アミノプロパンとは、覚せい剤・メタンフェタミンの正式名称です。
ここまでを見届けたところで、駒木の呼吸器官から自然とふぅ〜と大きな息が吐き出されます。実は傍聴席に座ってから、ここまで10分も経っていません。判決公判は、よほど大きな事件や証拠調べが揉めた事件でも無い限りは数分で終わってしまいます。ただ、この時の駒木にとっては、秒単位で人生初めてお目にかかるシーンの連続だったわけで、現実に適応出来ないまま時間を過ごした疲労感はハンパではなかったのです。 ここに至って駒木は、これまで特に疑問も無く抱いて活きた「犯罪の少ない安全な国・ニッポン」という認識を大きく揺るがせつつ、今日は果たしてどれほど初めての経験をする事になるのだろうと、半ば途方に暮れる思いで再び法廷に目を向けたのでありました。法廷に備え付けられた時計は、17時の終業まで、まだあと3時間50分ある事を示していました―― ……というわけで、第1回の講義をお届けしました。ちょっとまだ、どういったノリで進めたらいいものか掴み切れていなかったりするのですが(笑)、まぁその内ボチボチと慣れていきたいと思います。 次回ですが、これから傍聴する方へのガイダンスも兼ねて、意外と知られていない裁判所の中についてお話しようと思います。基本的には誰でも自由に入って行けるはずなのに、不思議なほど知られていない建物の中身に迫ります。それでは、また。今度こそは近い内に再び皆さんにお会い出来るよう努力したいと思います。(次回へ続く) |
2007年度第1回講義 |
受講生の皆さん、お久し振りです。前回の講義からもうすぐ1年という所までお待たせしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
ちなみに「押尾学」でググッた時の関連検索項目を見ると、「奥菜恵 押尾学」というフレーズが、「押尾学 矢田亜希子」より前に出て来るのが微笑ましくて良いですね。他にも「押尾学 暴走族」「押尾学 刺青」「押尾学 名言」「押尾学 伝説」など話題に事欠きません。 ――さて、段々と調子が戻ってまいりました。このように、さりげなく下衆なベクトルへ脱線して行くのが本来の当講座であります。
では、本当に久し振りに「現代マンガ時評」の看板を掲げる事にしましょう。今回はその「“将来の人気作家を発掘した時の高揚感”を味わわせてくれる素晴らしい読み切り」を描いた新人作家こと、古味直志さんの特集です。 さて、今日の講義で採り上げる古味直志(こみ・なおし)さんのプロフィールを紹介しておきましょう。「現代マンガ時評」のテンプレを使うのも1年ぶりなので、色々と見苦しい点が出て来ると思いますが、ご了承下さい。 ●古味直志さん略歴 ……やはり目に付くのは、松井優征さんの『魔人探偵脳噛ネウロ』以来2人目・2作目となる「十二傑」準入選という経歴でしょうね。松井さんが受賞した時の作家審査員は、賞を大盤振る舞いする傾向のある(過去3回審査を務めた回で準入選2人、佳作1人が出ている)河下水希さんですから、事実上の「十二傑漫画賞」史上最高評価作品と言えるかも知れません。 ――さて、それではこれから古味さんのデビュー作『island』と、今週号のジャンプに掲載された『恋の神様』のレビューをお送りしましょう。作品が掲載された雑誌をお持ちの方は、是非とも手元に現物を置きつつ受講なさって下さい。 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。 ◎読み切り『island』(作画: 古味直志/「赤マルジャンプ」07年冬号掲載) ●絵についての所見
まず、細くはあっても弱弱しさを感じらせない安定した描線。新人作家さんがこういう画風を志した場合、どうしても線のブレや無駄な書き込みが目立って粗さや稚拙さが浮き彫りになってしまうのですが、古味さんの絵はそれが殆ど感じられません。恐らくは細心の注意を払いながらも確固たる自信を持って作画に当たっているのでしょう。
人物の描き分けや感情表現、ディフォルメも達者です。
背景や動的表現も大変安定していますね。これは高校の美術部からマンガ専門学校という経歴がモノを言っているのでしょう。既にアシスタント修行を相当期間積んだ人の水準に達しています。
総合的な画力は既に連載作家級と言って良いでしょう。画風は鈴木央さんを彷彿とさせる雰囲気ですが、もっと色々な作家さんのエッセンスが取り混ぜられているような感じがします。
●ストーリー・設定についての所見
ですが、それよりも優れた才能を感じさせてくれるのは演出力です。現実世界とは一線を画した世界観を、冒頭最小限のページ数で提示する事に成功したのも然ることながら、とにかく見せ場での演出に、読み手側に有無を言わせぬ説得力が感じられます。実は数箇所で矛盾や不自然さを感じさせる場面・設定があるのですが、ずば抜けた“魅せる力”で矛盾点すら既成事実化して押し切ってしまっています。
あとは、巧拙以前に“味”を感じさせてくれるのがキャラクター設定。
――と、ここまでベタ褒めで来ましたが、残念ながらこの作品にはフォローしようの無い構造的欠陥が存在します。
●今回の評価
◎読み切り『 恋の神様』(作画:古味直志/「週刊少年ジャンプ」07年20号掲載) ●絵についての所見 まず、4色カラーの表紙が好印象です。学生時代に培った技術の賜物でしょうか、彩色も手馴れていますし、画面構成もユニークですが違和感がありません。圧倒的にインパクトが強いはずの背景を出しゃばらせず、主人公とヒロインの存在感が削がれていないのも良いですね。ただ、2人の影がどこにも描かれていないのは御愛嬌でしょうか(笑)。 この作品のディフォルメや絵柄には、明らかにあずまきよひこさんの影響が見てとれますが、それでも技術をキチンと消化し、自分の絵柄に取り込む形でこれを反映させているので猿真似をしているという印象はありません。むしろ「模倣から一歩先の創造」を実現し、地力の向上に繋がっていると素直に評価したいです。 プロとしては初挑戦となるアクションシーンも、大胆な構図やカット割りを駆使して見事な仕上がりです。大袈裟だったり、過度にコメディタッチであるところに拒否反応を示す人も居ないとは限りませんが、「基本的にコメディだし、そもそもマンガ的表現だから」という釈明で融通の利く範囲内で収まっているでしょう。 あと、特筆すべき点としては、背景やモブを描く際に不要な部分を省略する事の上手さ。そして、定規で引いた線やスクリーントーンの模様などの「機械的な描写」とフリーハンドの線で描かれた「ファジーな描写」の使い分けの妙。人物作画と背景処理が非常にバランスよく溶け込んでいるので、とても見栄えが良くなります。 欠点らしい欠点は殆ど見当たらず、総合的に見ても好感度の極めて高い、マンガとして完成された秀逸な絵と言って良いでしょう。小畑健さんや村田雄介さんのように絵の技術だけでメシが食えるレヴェルには達していませんが、古味さんの絵も作品の主役たるストーリーを立派に支える最高の“助演俳優”としての役割は存分に果たしていると思われます。
●ストーリー・設定についての所見
この作品に関しても、非常に高いレヴェルの演出力が光っています。 前作で披露した人物の描写力も引き続き素晴らしいです。主人公の「少女マンガ好き」にしても、ヒロインの「神に惚れられている」にしても、その設定は人物のキャラクターを構成する一要素の域を超えないものに留められ、最後にはその人物の設定ではなく性格、人柄がストーリーを左右する要素になるよう計算されています。
そして、この作品で特に秀逸なのは、人物、特に主人公の心理描写でしょう。 前作で課題となったクライマックスの見せ方も今回は上手くいっていました。もはや物理的な段階となった“困難な恋”を克服するシーンは、バトル物マンガで言う所のボスとの戦闘シーンの役割を果たし、ストーリー全体の大きなヤマ場になっていますし、前作のレビューで述べたエンターテインメントの基本を押えるための“作業”としても理想的な形になっています。 今回は欠点らしい欠点は無し。敢えて言えば、ヒロインが主人公を遠ざけようとする手段が若干不自然であるという点が挙げられますが、これも作中で主人公によって「推測による擬似既成事実化」という高度な演出が施されているのでミスにはなっていません。「矛盾点が無いのではなく、矛盾点を意識させないのが傑作」というセオリーを地で行っているような素晴らしい作品です。
●今回の評価 ……以上レビューでした。もう少し何か付け足そうかとも思ったのですが、蛇足になりそうなので止めておきます。ただ一言、「古味直志さんに今後とも注目を」と申し上げて、復活第1回の講義を終わらせて頂きます。ご清聴有難うございました。 |
残務処理シリーズ” 第2回講義 |
約1ヶ月のご無沙汰でした。未だモチベーションの再構築は成らず……という感じですが、ここを逃すとズルズル夏までいってしまいそうなので、ショック療法も兼ねて自分に一度ムチ打っておきたいと思います。
さて、今日は前回の続きで名古屋途中下車編……のはずだったのですが、第2回の講義をお届けしてから、とんでもない事実が判明しました。実は名古屋に途中下車したのは05年の春ではなくて04年の冬旅行だったという(苦笑)。春旅行の時は疲れの余り爆睡していて、気がつけば大垣だった事を思い出しました、後から。年4回5回と同じような旅行をしてるとはいえ、人間の記憶と思い込みは怖いというか、駒木が阿呆というか。 「カフェレストラディッシュ」は、JR中央本線または地下鉄の鶴舞駅が最寄駅。そこから小さな商店街を抜け、住宅街に少し分け入ること数分の距離にある。
さて、どうにかして目的の住所にやって来ると、昭和の香りを漂わせる、煉瓦造り風鉄筋建ての小さなビル(アパート?)が出迎えてくれる。ここの1階が「カフェレスト ラディッシュ」である。
店内に入ると、普通の喫茶店の倍はあろうかという広いフロア、そして所狭しと並べられている新聞各紙とバリエーション豊かな雑誌の山が目に入る。この辺も昭和の喫茶店の“作法”が頑なに守られている。勿論、ちょっと時代を外れ、しかも微妙に欠巻があるマンガ単行本も所蔵されているのは言うまでもない。 「──何処から来たの?」
一瞬で“「どうでしょう」バカ”認定! 王大人の死亡確認より手早くて確実だ!
こうして実に手際の良い出迎えを受けた駒木は、店内のほぼ中央右側にパーテーションのようなモノで仕切られた、4人掛けと2人掛けのスペースへと案内された。そこの壁には一面の「水曜どうでしょう」グッズや関連書籍が所狭しと並べられており、スタジオジブリから贈呈されたイラスト入り色紙まである。ここがいわゆる“「どうでしょう」席”と呼ばれる番組収録で使用された座席である。
「どうでしょう」席には、既に先客がいた。東京から来たという、やはり番組ファンのカップルであった。聞いたところによると、旅行の最終日、午前中に帰京する前の最後の訪問先としてここを選んだという。
しばらくすると、注文したモーニングセットが運ばれて来た。サイフォンで立てた本格的なブレンドコーヒーに、ボリュームたっぷりのポテトサラダを具に挟んだ自家製のサンドウィッチ。勿論美味い。これで330円というのだから名古屋、そして「ラディッシュ」恐るべし。
食後暫くして(“かあちゃん”に「本当にそんなに沢山食べられるの?」と念を押されたw)、待望の名古屋名物・小倉トーストが到着。厚切りトーストにたっぷりとマーガリンを塗り、その上に茹でた小豆がこれまたたっぷりと載っている。
こうして駒木の幸せな一時は終わった。退店する際には、再び“かあちゃん”が厨房から出て来てくれて、「沢山食べてくれてありがとうね」とお礼を言われてしまった。 ──というわけで、いかがだったでしょうか。錆付いた指先での突貫工事だっただけに、長らくお待ち頂いた皆さんにご満足頂けるようなモノではないとは思いますが……。 それではまた次回、今度は「デンジャーパーティ・レポ」の続きでお会いしましょう。(この項終わり) |
“残務処理シリーズ” 第1回講義 |
過去のレジュメはこちら→第1回 3月下旬頃から開始する予定だった“残務処理”シリーズですが、新学期も始まってから漸くの再開となりました。本当は新学期“まで”に終わる予定だったんですが、一度切れたモチベーションをもう1回繋ぐのがここまで辛いとは、我ながら計算外でした。せっかく区切りを付けたのに、また嫌々作業してたら意味無いですしね。 JR有楽町駅から、東京メトロ銀座駅へ向かう地下道に降り、そこから東銀座駅への連絡通路を突き進む。数百メートル行って歌舞伎座方面の出口から地上へと出ると、雀荘littlemsnは目と鼻の先の距離にある。 まず、以前から当講座を受講して下さっている女子メンバーの深幸さんにご挨拶し、それから別のメンバーさんの卓で東風戦を1回。そこで「駒木」という名前が連発されるうち、こちらの存在に気付いてくれた受講生の方が2人、声を掛けて下さった。しかし、名前呼ばれてるから気付け、というのも我ながら無茶苦茶な待ち合わせ方法だったと思う。お出で下さったお二人、どうもすいませんでした。 その後は、麻雀を打っては待合室で雑談…の繰り返しで、数時間があっという間に過ぎていった。初来店だった2人の受講生さんも楽しんで頂けたようで何より。 3名で1キロ以上の肉を消化した後、また車に乗せて頂く。途中でもう1人の受講生さんとはお別れし、一路、大井町「アワーズイン阪急」へ。実はここで、別の受講生のSさん(注:談話室の方でも常連さんなのですが、とりあえずハンドルネームをイニシャルにしときます)と合流して“コミケ前夜・湯上りミニオフ会”をやる事になっていたのだが、それをNさんにお話すると急遽、参加表明をして下さった。幸いにもキャンセル空室があり、晴れて3人での湯上りオフとなった。待ち合わせ時間だけ設定し、各自のタイミングで入浴して、1日の疲れと汗を流す。 そして翌朝、疲れが癒えないと悲鳴を上げる体を無理矢理引き起こして5時過ぎ起床。身支度を整えて、始発の次のりんかい線で国際展示場駅へ向かう。携帯のメールを見ると、既にSさんは始発でビッグサイトに到着しているようである。 さて、この日の「コミケットスペシャル4」は、「24時間耐久」というコンセプトの下、一般参加者の力も借りながら24時間の内に会場設営から撤収まで済ませてしまおう……という凄まじいイベントだった。同人誌即売は何と1&2部の完全入れ替え制で、更に初期コミケで併催されていた参加者手作りのイベントも“一昼夜限定”で復活するという、正気の沙汰とは思えない「企画の煮こごり」である。 そんな駒木も、会場に着くなり当たり前のように待機列へ誘導された。本当は第1部には目ぼしいサークルが無かったので、午前中は併催イベントでまったりしようと思っていたのだが、イベントへ誘導するスタッフもおらず、雰囲気的には「列に並ぶのが当たり前」な感じ。まぁ時には適当に流されるのも一興か、と思い、普段通り待機列の人となる。 こうして駒木は列に並んだまま即売会第1部開始の8時を迎えた。この日の会場は西館のみで、サークル数も1部あたり1700と、いつもより格段に少ない(申し込みと開催の時期が中途半端過ぎて、サークルが集まらなかったらしい)。大きな混乱も無く、参加者は目当てのサークルのスペースへと並んでゆく。 しかし今日1日は長い。21時までイベントは続くが、まだ昼前である。とりあえず体勢を立て直すためにも休憩しようと、ホールの外に出て缶コーヒーで一服。すると、後ろにある植え込みの奥の歩道を無表情でゾロリゾロリと歩く集団が。まるでレミングの自決のようだ。 その後は併催イベント会場へ。全体のイメージだけ先に言うと、マンガに出てくる高校の文化祭みたいな、やたらに意匠を凝らしながらも、どことなくチープな香り漂う展示や模擬店の集合体である。飲み物を売っていると思ったらDr.ペッパーとジョージア・マックスだったりして、遊び心の余り需要と供給のバランスを欠いた経営方針(?)が笑いを誘う。 それからも色々と併催イベントにチェックを入れてゆく。日本酒を飲みながら昭和の同人誌やテレビゲームが楽しめる酒場やフリーマーケットといった“正統派”もあれば、共産主義嗜好を趣味として馬鹿にしつつ楽しんでしまおうという人々の秘蔵VTR上映会、または独り円周率を朗詠するだけの人などの“キワモノ系”まで多種多様。こういう色々な人たちが一箇所に集う事の出来る機会を与えてくれるのが“コミケ”の本質なのだな、と実感した。 回れる所を全て回った所で、第2部の待機列へ。昨晩“湯上りオフ”をやったSさんと合流して、色々と喋りながら時間を潰した。 さて、待機列に並ぶ人数は、増えた分だけ離脱する人が出る……という感じで、終始20〜30人程度をキープ。作家本人のmixi日記をモバイルからチェックした人から、どうやら「今向かってる」のはビッグサイトではなくて作業机だという事が判明すると、スタッフも「時間内に頒布が開始出来る保証はありません。覚悟の上で並んで下さい」と広報をするようになった。 果たして20時45分、列の先頭から大歓声が沸き上がる。その直後、事情を察した待機列の全員から歓声とスタンディング・オベーション。しかしそれは、ここまで粘り抜いた自分たちに対する喝采であったかも知れない。「俺たちは勝ったんだ! 人生は負け組だとしても、少なくともここでは勝った!」という究極の局地的勝利の咆哮である。 間もなく時計の針は21時を指した。「コミケットスペシャル」閉会。撤収作業が進む中、会場を後にする。さすがに高揚感が無くなると強烈な疲労が体を蝕む。もう寄り道する気も起こらなかった。 ……と、ここでいつもの旅行では一気に帰神まで素っ飛ばして「完」になるのだが、この旅行はここでは終わらない。帰途半ばで半日に及ぶ寄り道をする事になるのである。次回、旅行記最終回・「水曜どうでしょう」聖地探訪編をお楽しみに。(次回へ続く) |
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