「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

1/15 犯罪社会学「イギリス王子、大麻吸引発覚」
1/14 
基礎演習「当講座の今年の方針について」
1/13 現代社会学「クラブ・スナック業界、明朗会計で生き残りへ」
1/12 
競馬学概論「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(2)
1/11 言語学概論「正しいヤジの飛ばし方」
1/10 
文化人類学「『フードバトルクラブ・グランドチャンピオン戦』TV観戦詳細レポート(4)
1/9  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(1月第2週分)
1/8  
文化人類学「『フードバトルクラブ・グランドチャンピオン戦』TV観戦詳細レポート(3)
1/7  
文化人類学「『フードバトルクラブ・グランドチャンピオン戦』TV観戦詳細レポート(2)
1/5  
競馬学概論「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(1)
1/4  
文化人類学「『フードバトルクラブ・グランドチャンピオン戦』TV観戦詳細レポート(1)
1/3  
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(1月第1週分)
1/2  文化人類学「『フードバトルクラブ・グランドチャンピオン戦』決勝放送直前レビュー」
※1/1の講義は、2001年12/31日分と合同してます。

 

1月15日(火)犯罪社会学
「イギリス王子、大麻吸引発覚」

 今日は犯罪社会学の講義です。
 犯罪社会学といえば、田原成貴元調教師を思い出す受講者の方もいるでしょうが、彼の話題は先日の「シリーズ完結編」をもって終了と言う事にしておきます。ごく最近、またツッコミ処満載の雑誌記事やら本人のコメントやらが出回ってるみたいですが、まぁこれ以上掘り下げても、柏原芳恵の「ついに脱いだ!」くらいマンネリになりそうな気がしますしね。今度田原成貴について講義する時は再犯で実刑判決が出た時ということで。

 ………

 最近のロイヤルファミリーの話題と言うと、敬宮愛子内親王誕生に沸く日本の皇室一色、という感じだったのですが、ここに来て元祖・ロイヤルファミリーのイギリス・ウィンザー王家からニュースが届きました。
 しかし、このニュース、タダゴトではないゴシップだったのです。

 チャールズ英皇太子と故ダイアナ元妃の二男ヘンリー王子(17)が大麻の吸引や飲酒をしていたことが13日明らかになった。未成年者の飲酒などは法律で禁止されており、「警察が捜査する」との報道もある。英王室は「家族で問題を解決した」と王子の素行に対する国民の心配を打ち消そうとしている。

 英国内の報道によると、王子は16歳だった昨年、父親のチャールズ皇太子に友達とのパーティーなどで飲酒や大麻を吸引したことを認めたという。皇太子は王子にロンドン市内の診療所を訪ねさせ、飲酒や麻薬の中毒の恐ろしさを教えた。診療所長は「王子は中毒の怖さを理解した様子だった」と述べている。
(毎日新聞より) 

 なんと、次期皇太子候補のヘンリー王子が、飲酒はおろか、大麻(マリファナ)に手を出していた、というお話です。
 大麻と言いますと、数ある麻薬・ドラッグの中でも入門編に当たるモノでして、「ココから入っておけば、まず間違いない」という存在です。
 この辺の事情に疎い受講生の皆さんに理解いただけるよう、歌手とその持ち歌で喩えると、椎名林檎=「ここでキスして」、宇多田ヒカル=「First Love」、桂雀三郎=「ヨーデル食べ放題」…といったところでしょうか。

 大麻は入門編とはいえ、麻薬には変わりありませんので、大抵の国では所持・使用などは違法です。しかし国によっては、もっと危ない麻薬に手を出させないように、大麻を解禁しているというところもあります。代表的なのはオランダですね。
 皆さんオランダと聞くと、チューリップとか巨大風車とか、“牧歌的”という言葉がよく似合うものばかりを連想されますが、実際は違います。マフィアと用心棒と大麻の国だったりします。特に首都のアムステルダム近辺は危ないです。かつて格闘技・プロレス団体のリングスに参戦していた用心棒兼レスラーが、銃器でハチの巣にされたという理由で、永久に欠場する羽目になった事がありました。ヤバいんです、本当に。
 そんなオランダには、“コーヒーショップ”という店が多くあります。しかし、扱っているのはコーヒーではありません。大麻です。オランダの人たちは、このコーヒーショップで、国から許された範囲の中で大麻を購入・使用する事ができるわけです。
 駒木は実際にコーヒーショップの様子を見たことがありませんので、正確な描写は難しいのですが、オランダを代表する格闘家の1人、ジェラルド・ゴルドー選手が『紙のプロレス』誌のインタビュー記事で語ったところによると、
 「俺は17歳でコーヒーショップを経営していたが、店内で俺以外全員がマリファナでキマってるところを見て、嫌になって止めた」
 とのことです。ちなみに、このゴルドー選手は、試合中にヤバくなった時、相手の目に指をマトモに突っ込んで窮地を脱する、という力技を得意とする選手です。そんな彼が「嫌になって止めた」というのですから、まぁ察しがつくというものですね。

 ……と、こんな風に言うと、ヘンリー王子は廃人同然のように思われるかもしれませんが、そうでもありません。
 直木賞作家にして、かつて業界で鳴らした企業舎弟だった浅田次郎氏は、当時の経験から大麻使用時の状況についてこう述べておられます。

 大麻は広義では麻薬の一種でありますが、いくら常用しても麻薬のように禁断症状が現れることはありません。ただひたすら陶酔し、ハッピーになるだけですから、その効果は麻薬よりむしろアルコールに近いといえます。
 むしろ誰にも共通していえるのは、ちょうど「酒グセのいい酔っ払い」の状態で、快活になり、幸福感いっぱいになる。全く罪のない『愛好者』そのものであります。

 ………

 ともあれ、大麻の薬物的効果などは、麻薬や覚せい剤に比べたらまるでお話にならない、おもちゃのようなものでありますから(以下略)

 …さすがに入門編だけあって、効果の方も入門程度のようですね。イギリス王家も、とりあえずは安泰というものです。ヘンリー王子も思う存分トリップしてもらいたいものですね。

 ところで、先にご登場いただいたゴルドー選手は、こうも言っておりました。

 「マリファナを吸ってる内はまだ子どもってことだ。それをやらなくなった時が大人になった時さ」

 なるほど。成人式で暴れたポンカスどもはマリファナ吸ってたんですな。そりゃテンション高いはずですね。

 さて。時間がきました。講義を終わりましょう。ま、何はともあれ、ヘンリー王子には、いつまでも少年の心を忘れずにいてもらいたいものですね。 (この項終わり) 

 


 

1月14日(月・祝)基礎演習
「当講座の今年の方針について」

 え〜、今日はですね、諸事情有りまして中途半端な時期になりましたが、この「仁川経済大学社会学部インターネット通信過程」の、今年の方針について説明したいと思います。ちょっと堅い話になるかと思いますが、まぁお付き合いください。

 ……ところで、今日は成人式でしたね。
 去年は成人式を妨害したアホ学生が、告発・逮捕されてブタバコに放り込まれるという微笑ましい光景が見られましたが、今年も全国中でドキュソというか、厨房というか、
ポンカスどもが色々とやらかしたみたいですね。
 まず、昨日に沖縄の那覇市であったこの出来事。

 13日午後、那覇市民体育館で開かれた那覇市の成人式は酒の持ち込みなどをめぐり、一部の新成人らと警察官、市職員がもみ合いとなり、那覇署は交通検問中の警察官にワゴン車で突っ込むなどした高校生を含む18-19歳の少年六人を公務執行妨害容疑で、警察官の警告を無視し、近くの交差点内で他の車両の進行を妨害した新成人の男一人を道交法違反(安全運転義務違反)容疑で現行犯逮捕した。(琉球新報より)

 そして、今日あったこの騒動。

 宮崎市の市民文化ホールで14日行われた成人式で、新成人の男性2人が君が代斉唱中、ステージに駆け寄り、持っていたクラッカー2発をステージに向けて鳴らした。
 市教委によると、午前11時の開式直後、出席者全員が起立して君が代を斉唱する中、1階席にいたスーツ姿の男性2人がステージまで数メートルの所まで駆け寄り、クラッカーを鳴らした。音楽教諭1人が壇上で歌っていたが、クラッカーはステージに届かなかった。2人は市職員に注意され、退場したが、その後にホール2階席へ戻った。
 式典には1743人が出席。クラッカーでほかの出席者が騒がしくなることもなく、予定通り30分で終了した。津村重光市長は祝辞の中で、クラッカーのことには触れなかった。市教委の野間重孝生涯学習課長は「式が中断しなかったので、警察に被害届は出さない」と話している。 
(時事通信より)

 ……沖縄の方は酒を会場に持ち込もうとして、それが出来ないと判るや逆ギレ。で、今日の騒動ではクラッカー鳴らして式を妨害。
 まぁ、その、天カスよりも利用価値が低くて、チンカスよりも知名度の低いポンカスどものやることですから、「大人になれ」とか「社会のルールとは」とか、言う気にはなりませんけどね。ただ、1つ言わせてもらうとですね、

 お前ら、去年とネタ被っとるやないか!!

 …っちゅうことですわ。
 ……そもそも世の中、何にしろ“カブる”という事なんて、大抵がロクなことではないんです。
 レッサーパンダの帽子もそう。この人もそう。女性受講者も多いので、どことは申しませんが、
もそう。もそう。ロクでもないことばっかりです。彼らがやった事が良いか悪いかはこの際置いておいて、せめてオリジナリティに富んだ行動をとれと言いたいですね。
 …ん? 何? 言いたい事があるなら言っていいよ。ふむふむ、このサイトのデザインにはオリジナリティがありませんね、こことそっくりですよ……?

 ………。

 ………………。

 …そういや最近の「侍魂」はどう思う? 健さん卒業した後どうすんのかね?  

 ………………………………。

 …………………………………………………。

 まぁ、アレだよ。野球ゲームの操作方法がどれも「ファミスタ」と同じ、みたいなもんさ。
 細かい事は気にするな。

 …………さて。
 とにかく、コイツらポンカス新成人は中途半端なんですよ。ギャグで「やることなすこと中途半端」と言ってる、元アニマル悌団・おさるの芸風くらい中途半端です。
 大体が、「これくらい騒いでも、まぁ人生に関わるような罰は受けないだろう」と分かった上でやってるのがミエミエでね、これが一番腹が立つ。なんか、駅のトイレで監視つけてタバコ吸ってスリルを味って悦に入ってる高校生(ズボンずり下げ、ワイシャツ裾出し)くらい見苦しいんですよね。
 「酒呑ませろや、オラ〜」とやるなら、どうして自分の就職先の入社式でやらないのか? クラッカー鳴らすなら、どうして極真空手の百人組手会場でやらないのか? ……結局、そういうシチュエーションでやるとシャレにならないからやらんのでしょう。だから見苦しいと言ってるわけです。駒木は高校でも生徒たちに言ってますよ。「タバコ吸ったくらいでいい気になるな。んなもんタダの自己満足や。ホンマの不良は、雀荘で、1000点200円の麻雀打ちながら“テンパイタバコ”吸うとるもんや」ってね。

 だから、どうせ妨害するなら、集団で江頭2:50プレイをやるとか(10数人が上半身裸で市長に物申す)集団で藤井隆をやるとか(10数人の体の一部がhot! hot!)、もっと奇抜に、それでいて魂を込めてやってもらいたいもんです。

 ………

 ところで、駒木も6年前に成人式を迎えました。
 6年前、などと言うと大して昔に思えませんが、それでもモーニング娘。のメンバーの大半が小学生だった頃…と考えると、それはそれで感慨深いものがあります。ただ、その頃でも中澤裕子だけは22歳だった、という事実はそれ以上に印象的ですが。
 駒木も成人式に参加しました。ただし、市主催の成人式ではありません。出席する価値を見出せませんでしたので、友人と2次会だけ合流しました。
 「成人式にあたり、普段と違ったフォーマルな格好でビシッとケジメをつけて……」
 などと言われても、バイト先の塾でスーツにネクタイがユニフォームだった駒木にしてみれば、「せっかくの休日くらいはカジュアルで過ごしたい」というのが実感でして、「どうして休みにスーツ着て、わざわざ市長の挨拶聴かにゃならんのだ」というのが本音。また、成人式と言えば級友たちとの再会ですが、会いたい奴とは普段から会ってた駒木にしてみれば、「わざわざ撲殺したい奴の面など拝みなくもない」というのが真相だったりするのです。だから、市主催の成人式など出る気が全然ありませんでした。

 では、駒木はどんな成人式に参加したかというと。

駒木ハヤト主催
1人だけの成人式in阪神競馬場

 コレですよ、コレ。
 まぁ、正確にはその日、開催してたのは京都競馬場で、阪神競馬場は馬券売ってただけなのですが。
 ええ、非常に実りのある成人式でしたよ。市長の挨拶と比べたら、椎名林檎と椎名桜子くらいの差がありました。
 その日は「平安ステークス」という重賞レースがあったんですが、このレースで駒木は本当に学ばせて頂きました。
人生甘くないぞ、と。馬券で飯は食えんぞ、と。
 このレース、勝った馬がアドマイヤボサツという有難い名前の馬でして、駒木は菩薩様に人生を教えていただいたというわけです。市主催の成人式では有り得ない事です、コレ。
 え? キミも今日、競馬場で成人式を迎えた? おお、いい心がけだね。で、どうだった?
 ……ふむ。福永のゼンノカルナックから流してバイト代全部スッた? ……はぁ、なるほどね。観たよ、シンザン記念。確かに酷かったねえ、あのレースの福永。あんな勝負所でミスしたら勝てるレースも勝てないよな。…でも、アレだよ。相田みつをも言ってたじゃないか、「つまづいたっていいじゃないか、福永だもの」ってさ。ああ、これは「勝てなくたっていいじゃないか、渡辺だもの」って使い方もあるから。…まぁ、キミも頑張って。月並みだけど、うん。

 ……とまぁ、もしも来年以降に成人式を迎えられる受講者の人がいるなら、是非、そのへんのことを含めてね、成人の日を迎えてもらいたいものであります。

 ……じゃあ本題の…って、あれ? もうこんな時間?
 …まいったなあ。講義時間のほとんどが過ぎちゃったよ。

 えーと、今年も出来る限り面白い講義をたくさんやります!

 以上、終わり!(この項終わり)

 


 

1月13日(日)現代社会学
「クラブ・スナック業界、明朗会計で生き残りへ」

 世紀を隔てて使い古された言葉ではありますが、日本は今、不景気です。
 皆さんもご存知の通り、駒木は公立学校の教員をやって糊口をしのいでいますが、ここ1年余りは、さすがの親方日の丸といえども、安閑とはしていられない状況。教諭や常勤講師の方々のボーナスは、牛丼の価格のように下落を続けていますし、駒木のような非常勤講師の時給だって、長い間横バイです。おかげで、去年の年収は6桁に収まってしまいました。
 ましてや民間となると、その不況の影響は激烈で、駒木が仁経大の院生の頃にバイトをしていた店は、軒並み潰れてしまってます。去年なんかは、既に潰れてた所でアルバイトをやりましたし。

 そして、民間の中でも、モロに不況のあおりを受けているのが、所謂“お水”の世界です。
 先日、読売新聞に、このような記事が掲載されました。

 約3万5000店のスナックやクラブが加盟する全国社交業環境衛生同業組合連合会(本部・東京)が不況で遠のく客足を取り戻し、各店の生き残りを図ろうと、これまでは「無粋」とされてきた料金の明示指導に乗り出す。料金表示板は同組合が作製しており、名付けて「信頼マーク付き料金表」。不当な料金請求とわかれば、料金返却を指導する厳しさで臨む。

 飲食料金の明示が無く、お勘定をする時になってからその日の会計が分かるというのがルールであったスナックやクラブが、『明朗会計』をウリにして顧客の取り戻しと新規開拓を図ろうというニュースです。

 表示板は不燃性ボードでB4判。青地に「明朗会計、楽しい憩いの場」「優良加盟店」と記し、各店が水割りやビールなどそれぞれの価格を書き込む。

 表示より高い料金を請求された時のために各都道府県組合の連絡先も明記。全加盟店での掲示を目指す。 

 表示板の材質まで詳しく報道されたところを見ると、この記事を書いた記者は、相当熱心にスナック・クラブに通っていそうですが、それはさておき。
 この企画、CMで言うところのJAROのような自主規制までやろうとしているところを見ると、業界全体が本気で“構造改革”に乗り出す構えのようです。

 実は駒木、このような明朗会計のスナックに行ったことがあります。
 あれは昨年だったでしょうか。駒木がその頃勤務していた高校で、職員同士の呑み会があったのですが、その2次会に、大先輩のH先生が馴染みのスナックへ、駒木たち若手たちを連れて行ってくれたのです。そして、そこがちょうど、このような明朗会計の店だったのでした。
 その店は、ママさんの方針で昔からそうしていたとのことですが、確かにとても安心して、楽しい一時を過ごすことが出来た事をよく憶えています。当時としては、やはり珍しいタイプのお店でしたが、今から考えると、随分と時代を先取りしていたというわけです。

 しかし、よくよく考えてみれば、これまで「無粋」だとか根拠不明の理由で料金を明示していなかったのが変だったのかも分かりません。

 事実、この“『明朗会計』作戦”を実行した、スナック・クラブの連合会長さんは、このように述べています。

「いくら取られるかわからない店で飲むのもステータスだったが、今はそんな時代ではない。安いか高いかではなく『はっきり』させることが重要だ」

 確かに、“料金不明瞭”の代表的存在であった寿司屋にしても、最近では皿の色や枚数で値段が分かる回転寿司が主流になってしまいました。他の飲食業界などでは、言わずもがなです。今や、『明朗会計』は現代社会の必須条件と言っても過言ではありません。

 第一、実際にお金を支払うまで、料金が分からないままでは、色々な支障が出てしまうでしょう。
 もしもNHKの受信料が、クラブみたいに不明瞭な会計方式だったら、トラブル発生は必至です。

 どうなるかと言うと、ある日いきなり集金人がやってきて、数万円の受信料を請求されたりするのです。で、「俺はそんなに請求されるほど観てないぞ!」と抗議したら、

 「アンタ、毎週教育テレビの『フランス語講座』観てるでしょ? あの番組、ウチのNo.1の、遙ちゃん出てるんだよね。井川遙ちゃん。それにアンタ、『おかあさんといっしょ』の『バジャマでおじゃま』、ビデオ撮ってるでしょ? それねえ、オプションで別料金なんだわ。ま、サクサク払ってくれる?」

 ……などと、どう見ても集金人には見えない哀川翔似のお兄さんが言うのです。そのお兄さんの手は根性焼きだらけで、しかも指だけでは10まで数えられません。そこでスンナリ払わないと、いつの間にか円ではなくペリカで生活する身分になっているかもしれません。

 嫌なの例をもう1つ。料金が時価のマンガ喫茶。読んだ作品ごとに料金を請求されるのに、その料金が判らない。
 「うわ、しまった! やっぱり『野望の王国』は高かったのか! それとも、懐かしさでつい読んでしまった『冒険してもいい頃』が高いのか?」
 ……などと後悔すること請け合いです。

 さらに絶対嫌なのが、高級クラブみたいな公衆トイレです。まず座ってン万円。所謂チャージみたいなモンです。
 で、用を足すのは別料金。この時、大か小かで相当値段に格差があります。トイレによっては、便秘か下痢かで値段が違うかもしれません。ほら、ドンペリも色が違うと値段が違うでしょ?
 さらに、トイレットペーパー1回使用につき、数千円。しかも、どこからともなくウォシュレットの使用を勧めるアナウンスが聞こえてきますが、使用料はフルーツ盛り合わせみたいに高かったりします。
 2回目以降は、馴染みの便器を指定(指名)できますが、これも別料金。さらに、そのトイレへ行く事を前提にして、食事から予約する事も可能です(同伴)最終的に、その便器をお持ち帰りできるかどうかは、あなたの腕次第。

 …………。

 講義してて鬱になりました。

 とりあえず、スナックやクラブ経営者の皆さんは、明朗会計で頑張ってください。 (この項終わり)

 


 

1月12日(土)競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(2)
1995年4歳牝馬特別(現:フィリーズレビュー)/1着馬:ライデンリーダー

駒木:「今日採り上げるレースは、先週扱った阪神大賞典からちょうど1年前の、桜花賞トライアル・4歳牝馬特別(G2)だよ」
珠美:「地方競馬所属のライデンリーダーが勝ったレースですね」
駒木:「そう。今や地方競馬と中央競馬の敷居は大分低くなっていて、毎週のように地方競馬の馬と騎手が中央競馬を賑わせているけれど、それはつい最近の事でね。ちょうどそのターニングポイントになったのが、このレースなんだよ」
珠美:「私はよく知らないんですけど、少し昔は地方競馬の馬が出られるレースって、随分限られてたらしいですね」
駒木:「今のように、地方競馬所属のまま、全てのG1レースに出走するチャンスが与えられたのは、実はこの1995年からなんだ。それまで地方競馬の馬が出られる中央競馬のレースといったら、随分と数が限られていてね。夏の各競馬場で行われる、「○○オープン」ってレースが数レースと、あとはオールカマー(G2)と、ジャパンカップ(G1)くらいだったんじゃないかな。ひょっとしたら見落としがあるかも知れないけれど、まぁそんなもんだった」
珠美:「それじゃ、中央競馬に出たい地方競馬の馬はどうしてたんですか?」
駒木:「中央競馬に完全移籍するしかなかった。オグリキャップみたいにね。地方競馬の関係者は、自分たちが発掘して、手塩にかけて育てた馬を黙って手放すしかなかったわけだから、よく考えたら随分な時代だよな」
珠美:「今から考えると信じられませんね」
駒木:「まぁ、そんな事を振り返るのも、また競馬学の醍醐味さ。じゃあ時間も無いし、レース回顧に移ろうか。珠美ちゃん、資料の紹介をよろしく」
珠美:「ハイ。このレースが行われたのは、1995年の3月19日でした。この4歳牝馬特別は、現在のフィリーズレビュー(G2)の前身で、条件も現在と同じ芝の1400mです。ただ、このレースは通常、阪神競馬場が使用されるんですが、この年は、1月の阪神・淡路大震災の影響で阪神競馬場が使用不可能だったために、京都競馬場で行われることになりました。また、このレースは桜花賞トライアルで、上位3着までの馬に桜花賞の優先出走権が与えられます。
 この年の4歳牝馬特別はフルゲートの16頭で争われました。有力馬としては、まず中央勢から紅梅賞→バイオレットSと、オープン特別を連勝したエイユーギャルや、前走の500万特別で0.8秒の大差で逃げ切ったマークプロミス、さらには前の年のデイリー杯3歳S(当時)に勝ったものの、年明けから成績が伸び悩んでいたマキシムシャレードなどがいました。そして、笠松競馬からライデンリーダー。この時、10戦10勝だったんですね。凄い……」

駒木:「それも大抵のレースは1秒以上の大差だったからね。ダートの走りは半端じゃなかったよ。ダートレースの価値が上がった今なら、桜花賞挑戦じゃなくて、ダート路線でジャパンダートダービーあたりを目指してたんじゃないかな。ダートレースの価値が上がるのはこの年の下半期からでね。ライブリマウントやホクトベガといったあたりが地方競馬のダートレースで大暴れしてから、ダート路線が注目されるようになったんだ。だから、当時はまだダートレースの価値は低かった。それを考えると、ますますレア度が高いレースだよね、コレ(笑)。
 で、このレースの下馬評なんだけど、一言で言うと、『ライデンリーダーをどう扱うか』の一点に尽きたんだよね。珠美ちゃんに紹介してもらった通り、中央所属の有力馬はやや小粒な感が否めない。だから、ライデンリーダーの笠松での戦績を考えると、上位争いは間違いないところだったんだけど……。でも実のところ、評価はかなり分かれてたみたいだね。」
珠美:「それは、『地方競馬の馬だから……』という、偏見みたいなものがあったから、ですか?」
駒木:「ん〜、近からずとも遠からじ、だね。笠松競馬っていえば、あのオグリキャップを輩出した所だし、その前の年はその妹のオグリローマンが、兄貴と同じように笠松から中央に移籍して桜花賞を勝ってる。だから『笠松の馬=中央でも走る』っていう認識はあったんだよ。それにこの年は、既に弥生賞で北関東公営のハシノタイユウが3着に滑り込んで、皐月賞の出走権を獲得していた。だから、『地方競馬の馬、侮るべからず』という認識も有ったはずなんだよ。
 だから、結局のところは、『ダートばかり走ってる馬が芝コースでどうか』という定番の懸念と、あとは『地方競馬の馬を認めたくない』っていう中央競馬ファンのプライドが正当な評価を邪魔したってところじゃないかな。今でも似たような事はあるだろうけど、当時は今と比べるべくも無いくらい、そんな感情は大きかったからね」
珠美:「なるほど、分かりました。だから単勝2番人気という微妙な評価だったんですね」
駒木:「そういうことだね。…あ、当日の馬体重が14kg減ってたってのもあったかな。後から考えると、勝つためにギリギリの仕上げをしてたってことなんだろうけど」
珠美:「意外と複雑な話ですね(苦笑)。それではレースの回顧に移ります。
 スタートは少しバラけたくらいで、ほぼ順調でした。そして、序盤からエイユーギャル、マキシムシャレードといった有力馬が先行集団を形成します。競り合う形になったせいか、ペースは速めでした。ここで、ライデンリーダーはちょっとモタつくんですよね?」

駒木:「そう。安藤(勝)JKが、手綱を懸命に押して付いて行こうとしていたんだけど、なかなかスピードが乗らなくてね。多分、初めて体験する芝のスピードに戸惑っていたんだと思う。ただ、この時点では、典型的な“初めての芝で失敗するダート馬”の走りにしか見えなかったけどね。ホント、競馬って結果論だと何とでも言える(苦笑)」
珠美:「1400mの短距離戦だけあって、レース展開はシンプルです。3コーナーで一度、やや隊列が長くなるんですが、4コーナーではもう一度馬群が詰まります。ほぼ10馬身以内に、ほとんどの馬が一塊になっていました。ライデンリーダーは少し差を詰めて4馬身ほどの差ですね」
駒木:「この時点でも、『ああ、ちょっとは頑張るな』程度。まさか、この直後からとんでもない大逆転があるとはね」
珠美:「ハイ。直線に入って、レースの様相は一変します。直線入り口で人気のエイユーギャルが先頭に立って、一瞬は押し切るかと思われたんですが、その時、馬群の外に飛び出たライデンリーダーが、突然物凄いスピードでスパートを開始します。その勢いはケタ違いで、先頭のエイユーギャルを並ぶ間もなく交わしてしまします」
駒木:「この時の実況が、あの杉本清さん。『ライデンリーダー、来たぞ来たぞ来たぞ! ライデンリーダー、これは先頭に立つ勢いだ!』ってね。ビデオを何十回も観たからよく憶えてるよ。で、『先頭に立つ勢いだ』って来て、次の瞬間には『抜け(だし)た〜! ライデン!!』と一足飛び。『交わした』を言う間もなく抜け出してたんだ。で、杉本さんはその後あまりの衝撃に数秒絶句(笑)。そして『これは強い、恐れ入った』と。晩年の“杉本節”の中でも屈指の名実況だね。実況を再現するだけでレースが分かる」
珠美:「結局、直線だけで3馬身1/2の差がついてしまいました。これは完全に力の差、ですか?」
駒木:「だね。この時、僕の知り合いの人が生でレースを観てたんだけど、曰く、『1頭だけ別次元。他の馬が止まって見えた』だって。生で観てた人が言うんだから間違いない」
珠美:「2着にはエイユーギャル、3着はデビュー2戦目のタニノルションが入りました」
駒木:「1番人気の馬が2着に入っている、というのも価値がある。実力勝負で負かした、ということだからね」
珠美:「このレースで、ライデンリーダーの評判は凄く上がったんでしょうね。そのへんの話も含めて、その後のお話をして頂きましょう」
駒木:「うん。このインパクトだからね。この瞬間に桜花賞の1番人気は決まったも同然だった。けどそれは、桜花賞では徹底的にマークされることを宿命付けられる瞬間でもあったんだ。桜花賞はメチャクチャ厳しいマークに遭って、結局4着。そして、この4着で出走権を獲得したオークスでは、逃げが不発に終わって大敗。
 この後、笠松に凱旋してダートのレースを圧勝するんだけど、それがライデンリーダーの最後の輝きだったのかもしれないね。早熟のワカオライデン産駒ということもあって、この後は自分の能力の減退と戦う事にもなるんだ。秋も中央競馬に挑戦して、ローズS(G2)をなんどか3着。現在の秋華賞にあたる存在だったエリザベス女王杯の出走権を獲得したんだけど、もう本番では通用する力は残っていなかった。その後は、もう輝いていた頃のライデンリーダーじゃなかったから、語るのは止めておこう。
 結局はG2レース1勝しか出来なかった馬だったけど、そんな記録以上に、今の中央・地方ボーダレス時代を切り開いてくれた事が素晴らしいよね。いい馬だったよ、ホントにね」
珠美:「ハイ、ありがとうございました」
駒木:「珠美ちゃんもお疲れ様。来週からは、2、3回にわたって、サイレンススズカについて語ってみようかな、と思う。お楽しみにね」(来週へ続く

 


 

1月11日(金)言語学概論
「正しいヤジの飛ばし方」

 新年の大食い週間も終わったところで、講義も通常のスタイルに戻したいと思います。次回の大食い関連講義は3月〜4月頃になるでしょうが、それまでの間、別の話題でよろしければどうぞ受講してください。

 さて、今日の講義は社会学から少々外れますが言語学について。まぁ、そもそも経済大学なのに社会学部がある仁川経済大学ですから、このくらいの脱線は、まだ脱線に入らないと思います。

 突然ですが、受講生の皆さんは他人から正面きって悪口を言われたり、所謂フレームメイルを受け取った事がありますか? 経験ある方、挙手を。
 ……ふむふむ。ある程度の手が挙がりましたね。……挙がった事にしましょう。本当は分かりようがありませんが。
 まぁ、インターネット上で何らかの言論活動(ウェブサイト運営、BBS書き込み、ML投稿etc…)をしている以上は、かなりの確率で1度くらいはそういう“痛い目”に遭っているんじゃないかと思います。そういう駒木も、これまで数通のフレームメイルを受け取っています。
 ただ、この手のメールというやつは、どうも感情に文章力が追い着いていない、つまりは駄文が多かったりします。例えば、約1年前に駒木の元へ届いたフレームメイルの全文がこれです。↓

頭の悪いおバカちゃんこと駒木君に捧げる言葉

バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!!!!!!!
 自己中なHP作るのもいい加減にしやがれ!!
 てめえは良かれと思ってやってるんだろうが、他人が見たら思いっきり気分を害する事がわからねぇのか!?
それで良く教師が勤まるな。貴様などに学生を教える資格など元来ないわ!! 
 貴様には天誅がいずれ下るであろう!
 人にものを教える前に、まず貴様が幼稚園からやり直せ!! 
 貴様のような性格捻じ曲がり性悪野郎は、即刻逝ってよし!!!!!!!!!!

 …まぁ、こんなシロモノでも心理的に大きな打撃を受ける人もいるんでしょうが、何しろメールを受け取ったのはこの駒木ですから、ショックを受けるどころか、余りの文章力のお粗末さに辟易してしまうわけです。「アンタなあ、どうせやるならもっと真面目に書きなさいよ」と。
 で、どうしたかというと、当時運営していた『最後の楽園』で晒した挙句、このようにして根性を叩きなおしてやったんですが。

 この件に限らず、とかくフレームメールや悪口を書いた文書というのは、文章力やボキャブラリーが貧困でいけません。例えば、こちらで報じられたニュース(↓)などの場合……

 岩手県立高校の男性教諭(44)=盛岡市在住=が教え子の女子生徒宅にファクスで「死ね」などと書いた脅迫文を送り付けたとして、盛岡東署が県迷惑行為防止条例違反の疑いで盛岡区検に書類送検していたことが8日、分かった。教諭は容疑を否認しているという。
 県教委などによると、男性教諭は昨年2月から4月にかけ5回にわたり、「死ね」「学校をやめさせろ」などと書いた脅迫文7通をファクスで教え子の女子生徒宅に送付したという。教諭は女子生徒の母親と指導をめぐってトラブルがあったという。 

 44歳ですから、教員歴ざっと20年ですか。毎日のように言葉を操っているはずの教員が、いざ悪口を書いてよこすとなると、「死ね」「学校をやめさせろ」……。
 余りに文章力が無さ過ぎて、悪口が脅迫文と間違えられて逮捕までされてますし、これは酷い。
 こんな人でも多分、教壇に立っている時は、それなりにマシな言葉を喋っていたと思うんですよ。でもそれが、こういう時にはグダグダになる。
 要は、悪口を言う時に、自分の感情が先走ってしまって、頭が追い着かないんですな。言ってみれば、娘にやり込められた桂ざこばのような惨状になってしまうわけです。余裕が無いんですね、ハッキリ言うと。

 これは何に限らずそうなんですが、心に余裕が無いと、物事は成功しません。完全に行動が上滑りしてしまうんですね。フレームメイルにしてもそう。「相手をやっつけよう」という気持ちが先走りすぎて余裕が無いから、ありきたりの、使い古された、陳腐な罵り言葉しか出てこないわけです。これでは無闇にトラブルを増やしてしまうだけなのです。
 じゃあ、どうすれば良いのか、という事ですけれども、一口に悪口道……こう言っては響きが悪いですから、ちょっとニュアンスを変えて「ヤジ道」ということにしましょうか。一口にヤジ道といっても奥が深いわけで、本来なら1回の講義で済む話ではありませんが、今日はその触りだけでもお話したいと思います。
 余裕を持ったヤジ・フレームの飛ばし方、これは簡単に言うと、第三者が聞いて笑えるかどうか、であります。聞いた本人はムッとするかもしれないが、それを小耳に挟んだ第三者は思わずプッと噴き出すようなヤジ・フレーム、これが望ましい。そもそも、どうやったって笑えないヤジやフレームは、どこか根本的なところから問題があって、ヤジ・フレーム、及びその発言者に正当性が無いわけなのですよ。つまり逆に言えば、笑えるヤジ・フレーム以外は撒き散らすんじゃないよ、単なる社会のゴミなんだから、ということなのです。

 おっと、講義時間が無くなって来ました。足早に実践に移りましょう。
 ヤジ・フレームの本場といえば、これは間違いなく競輪場で、良質のヤジが多数採取できます。競輪場には、高度経済成長〜オイルショック〜バブル景気〜平成不況という戦後の荒波を乗り越えてヤジ道を歩んできた、ヤジの生き字引的な方がいて、我々若輩者に北斗神拳並の一子相伝で、ヤジ道を伝授して頂けます。
 例えば、昨年末の甲子園競輪場にて。
 とあるレースにおいて、「逃げイチで捲りに行って届かず3着」という、とんでもない愚行を犯した選手がいました。競輪を知らない人にはサッパリでしょうが、「小池栄子と優香と広末涼子と後藤真希と吉澤ひとみと高橋愛と木之本さくらに囲まれて、『どれでもどうぞ』状態だったのに、躊躇して全員に逃げられた」のと同程度の失敗と思って頂ければ、その愚かさが分かると思います。
 で、そんな愚行を目にしまして、さすがに温厚な駒木もブチギレました。思わず、
 「何やっとんじゃ、このアホンダラ!」
 などと、はしたない言葉を発してしまったわけです。しかし、これは今から思えば情けないヤジであります。
 一方、年季の入ったヤジの達人は違います。余裕を持って、その下手を打った選手が自転車のスピードを落とし、控え室へ引っ込もうと気を許したその時、

 「お前、親孝行やのう! 親父にいくら儲けさせたんや!? ええこっちゃ、親孝行! …ってふざけんな、ボケ!」

 などと、浴びせるわけです。分かりやすく書き下すと、「お前、親父にわざと負けると連絡してたやろ。それで親父は車券で大儲け。ええ親孝行やのう、ワ〜レ〜」となるわけなのですね。駒木が飛ばしてしまったヤジとは深みが違います。
 しかし、この手のものはまだ序の口です。
 今は亡き別冊宝島の「競輪打鐘読本」には、こんなヤジが収録されています。

 「三宅の知恵遅れ〜!」

 事情を知らない方が聞くと、ギョッとするかもしれませんが、競輪ファンなら、このヤジを聞いた瞬間に世界中の三宅さんからただ1人、岡山の三宅伸選手を想起させ、なおかつ彼のレース運びや、ちょっと“抜けた”感じの顔を思い浮かべて大爆笑するという、芸術的な逸品であります。選手の不甲斐なさを端的に責めながら、強烈なブラックユーモアにもなっている。まさにヤジのお手本ですね。
 ただ、これを無闇に真似をすると単なる差別発言になってしまうあたり、「大盛ねぎだく、ギョク」並に素人にはお奨めできないのでありますが。

 ……とまあ、一言でヤジ・フレームといっても奥が深いわけです。生半可な考えでやってしまうと取り返しのつかない事になるということだけでも分かってもらえると、幸いです。
 受講生の皆さんには、くれぐれも当講座に向けて、フレームメイルなど書かないよう、忠告申し上げます。晒し上げますよ。(この項終わり) 

 


 

1月10日(木)文化人類学
「『フードバトルクラブ・グランドチャンピオン戦』
TV観戦詳細レポート(4)

 講義が遅れてしまい申し訳ないです。高校教員の仕事が詰まっていて、モニターの前で力尽きてしまいました。
 そして、お詫びが1つ。この講義で第2回の中で、古賀さくらさんの名前が間違っておりました。訂正してお詫びいたします。申し訳ありませんでした。
 それでは、この講義の最終回。「ザ・キングオブマスター」の準決勝と決勝のレポートです。
 (レポート文中は敬称略、文体変更)


◎準決勝◎

 《試合形式》
 第1回から「フードバトルクラブ」の準決勝で採用されている、「シュートアウト」。1対1・2本先取の早食い対決で、対戦カードは抽選で決定される。
 食材はカツ丼、ステーキ、寿司、シューマイ、稲庭うどん、プリンの6種類。対戦する両者で1回戦ごとに抽選を行い、当選した選手が食材の決定権を持つ。その後、ルーレット抽選で試合時間(3分または10分)を決定する。

 第1回の小林×新井戦、第2回の小林×射手矢戦、岸×山本戦など、見応えのある試合が続出する、「フードバトルクラブ」の醍醐味を見せ付けてくれる試合形式。何かと批判の声が上がる「フードバトルクラブ」だが、素直に観ていれば、素直に楽しめる企画だと思うのだが……?
 今回は対戦カードを決める抽選会が初めて公開された。しかし、その中で肝心の部分であるクジの開封シーンが見えなかったために、いらぬ疑惑を生み出してしまった。たとえ対戦カードの決定が“演出”だったところで、どうということは無いのだが、ただでさえ批判の対象にされるこの番組、制作サイドの方には充分な配慮をお願いしたい。この手の疑惑で一番損をするのは、体を張って闘っている選手なのだから。
 それでは、1試合ごとに詳細レポートをお送りする。

新井和響

VS

山本晃也

 新旧早食い系選手頂上対決、そして「いきなり! 黄金伝説」の再戦となった。その時は一方の新井が体調不良、もう一方の山本も実戦慣れしていない新人の頃というわけで、両者の勝負付けには程遠い戦いだったと言わざるを得ない。しかし今回は両者体調ほぼ万全の状態で臨む最高の舞台。今大会、いや早食い・大食い界屈指の好カードが実現した。
 この「シュートアウト」での成績は双方0勝1敗。新井は第1回で小林相手に0−2、山本は第2回で岸義行(今回不出場)を相手に1−2というスコアを残している。

59 1回戦・シューマイ(10分) 65

 開始早々、両者が猛烈な主導権争い。両者とも胃の容量に限界があるタイプだけに、早めにセーフティリードを奪って胃の温存を図りたいところ。
 結果、主導権を奪ったのは山本。序盤戦で4つの差をつけて、相手の出方を窺う。新井はしばらく抵抗していたが、残り2分になって敗勢を自覚し箸を止めた。“早食い瞬発力”で勝る山本の完勝となった。

 ところで、この1回戦の新井の敗因分析だが、彼の食べるスタイルに問題があるのではないかと思われる。
 彼はあまり口が大きくないために、大きな食材になると小刻みに咀嚼して胃に流さなくてはならない。かつて“ラビット食い”と呼ばれた由縁である。
 しかし、小林や山本といった、食材をダイナミックに飲み込むタイプの早食い選手が登場して来ると、この“ラビット食い”は時間的にロスが出始めている。このあたりが、今大会の3回戦で6位に終わった要因なのだろう。
 体格(?)的なハンデゆえの“ラビット食い”だけに、矯正は困難を極めるだろうが、早食い王座奪回には、脱“ラビット”を達成するしかない。

50 2回戦・寿司(3分) 56

 “ヤラセ”疑惑も含めて論議をかもしたこの食材選択だが、これはこれで全く間違ってはいない。
 山本は確かに「寿司が苦手」と公言しているが、決して食べられないわけでもスピードが遅いわけでもない。第2回の「フードバトルクラブ」予選では、山本の方が良いタイムを叩き出しているし、同大会の準決勝では、実際に寿司対決を経験している。勿論、山本のスポーツマンシップゆえの食材選択ではあろうが、決して勝負を捨てた選択ではない。いわんや、“ヤラセ”疑惑などもってのほかである。

 試合は両者伯仲の好勝負となった。
 短期決戦、駆け引き無し、胸突き八丁のせめぎあいが続く。始めの1分はわずかに新井優勢で、山本も必死に追いすがるが、2カンの差が縮まりそうで縮まらない。
 中盤戦も2カン差がキープされたまま、壮絶な競り合いが続く。だが、残り1分を切ったところで異変が起こる。
 この「シュートアウト」の寿司対決、通常の寿司早食い勝負とは違い、軍艦巻きを含むネタの違う寿司が1人前ずつ配られる試合形式であり、食べるリズムを一定にする事が非常に難しい。しかも軍艦の海苔が寿司の飲み込みを阻害するのだ。そして、それが勝敗を分けた。
 突如、新井が口一杯に寿司を頬張ったまま、苦しみだした。むせこんで口の内容物を飲み込むことが出来なくなってしまったのだ。決して詳細な敗因を語らぬ新井ゆえに全容は知りようが無いが、恐らく海苔がノドに引っ掛かってしまったのだろう。
 結局、新井は態勢を整える事が出来ず、無念のタイムアップ。念願の決勝進出は成らなかった。反対に、山本は前回大会の敗戦を乗り越えて、悲願の決勝進出だ。

 

白田信幸

VS

山形統

 奇しくも1回戦の再戦となった。1回戦では白田が中盤以降盛り返して山形を押し切っているが、「やりにくい相手」という印象は白田の脳裏に刻み込まれているだろう。しかし、白田の地力上位は揺るぎの無いところ。落ち着いていけば、自ずと勝利は近付いてくる立場にあった。
 一方の山形はリベンジのチャンスであると同時に、最も勝利の可能性のある対戦相手を引き当ていた。いくら早食い系トップクラスの実力を持つ山形とはいえ、他の早食い系選手は世界レヴェルである。まだスタートダッシュに難のある白田相手なら、正攻法での勝利はともかく、“蹴たぐり”をかます位なら可能性はあったのだが……

 ちなみに過去の「シュートアウト」成績だが、白田は1戦1勝(第2回で加藤昌宏相手に2−0)で、山形は初めての「シュートアウト」体験となる。

25 1回戦・プリン(10分) 21

 試合時間は10分、しかし勝負は30秒で事実上決した。甘味系を得意とする白田が、唯一の弱点であるスタートダッシュで山形に勝ったのだ。余裕を持って様子見の出来る3〜4個の差をつけて、牽制に持ち込んだ。
 こうなれば、あとは白田のマイペース。山形が仕掛ければ、山形が食べた同数を口に運び、リードを保つ。大食い勝負に持ち込むまでも無く、白田が1本目を制した。

10 2回戦・ステーキ(10分)

 またしても試合時間は10分。2回戦が10分に決まった時点で、もはや勝負は決してしまったと言える。
 序盤戦、今度は山形が主導権を握った。ステーキ半枚程度のリードを確保して、快調に飛ばす。しかし、時間はまだまだ残っていた。
 3分経過の時点で、まだ辛うじて山形はリードを保っていた。この時の白田が、本当のトップスピードとは思えないが、それでも抽選次第では山形にも勝ち目があったことになる。
 形勢逆転は4分過ぎ。白田が枚数で1度並ぶと、その後はあっけなかった。もがくように抵抗する山形を余裕綽々でいなした白田、堂々の決勝進出。山形はトップどころとの地力の差が出た格好。乗り越えるべき壁は厚く、険しく、そして高い。

 

高橋信也

VS

小林尊
1

 「シュートアウト」では初対決ながら、TVのメジャー大会では3度目の対戦となる。(過去2戦は小林がいずれも勝利)
 共に大食いをスポーツとして認識し、自らをアスリートと自覚するプロ志向の高い選手。それだけあって、両者とも勝負に対する執念とそれを支える自己分析は極めて高いレヴェルにあり、この試合も両者の能力と戦術の限りを尽くした凄絶な戦いとなった。
 シュートアウトでの実績は、小林は2戦2勝(第1回は新井に2−0、第2回は射手矢に2−0)で、高橋が1戦1勝(第1回に赤阪と対戦し、1引分けの後、赤阪のドクターストップで勝利)となっている。

1回戦・ステーキ(3分)

 小林が事実上試合放棄し、高橋が労せずして先勝。
 これは、小林が「ステーキ」で「3分」という条件が高橋絶対有利で、それ以外の条件ならほぼ2連勝できると判断、胃を温存したためである。
 よく似たパターンとして、第2回の白田×加藤戦にもあったが、あの時は地力で劣る加藤が、白田の胃へ負担をかけるために採った苦肉の策であり、今回の“戦略的撤退”とは似て非なるものと言える。
 しかし、このような過度の牽制による“試合放棄”は、観ていて気分の良いものではないのも確か。レギュレーションの調整により、ある程度は勝負することを義務付けるべきではないかとも思う。

73 2回戦・寿司(3分) 79

 両者による寿司対決は「TVチャンピオン」の『ホットドッグ早食い世界選手権』日本予選の2回戦以来。その時は小林が脅威の“寿司早飲み”を初披露し、勝利を収めている。
 双方手慣れた食材だけあって、快調なペースでスタートダッシュを決める。互角。高橋にしても、3分勝負ならば少しは勝機がある。そしてそれを掴めばジャイアントキリングだ。小林もそれをさせじとテンションを高める。双方裂帛の気迫はペースを限りなく高い所まで押し上げた。第1試合(新井×山本戦)のスコアと見比べて欲しい。2カン食いが困難な条件でこの数字は驚異的である。
 1分を過ぎた頃から僅差ながら小林がリードし、2分過ぎでは2カン差。あとは徐々に差が開いてしまったが、高橋も最後まで勝負を諦めなかったのは立派だった。

57 3回戦・シューマイ(10分) 70

 両者の現時点での力量差が完全に現れてしまったのが、この3回戦だった。
 ここまで来れば、もう小細工は無しの真っ向勝負。ただ、惜しむらくは高橋絶対不利の10分勝負だったことか。しかし、それでも1、2回戦とクジ運に恵まれていたのだから、それまでで勝負をつけられなかった以上、こういう事はあって当たり前。
 序盤から僅かに小林がリードするが、これはもう、この日最後の勝負。牽制するまでもなく、小林はトップスピードを維持して高橋を引き離す。中盤からは余裕が出たのか、新井式の“ラビット食い”を見せて、体に負担をかけない形にシフトチェンジ。それでも差はもう詰まらなかった。
 終盤、既に大勢決したところから小林は敢えて追い撃ちをかけた。完膚なきまでに高橋を叩きのめし、格の差を高橋の頭に植え付ける非情なる戦法。究極のレヴェルまで勝負に徹した小林、王座奪回に向けて最高の形で決勝に臨む。
 敗れた高橋、今回も地力の差を跳ね返す事は出来なかった。果たして今後、彼はどのような道を歩んでゆくのか。長い目で追いかけてみたいものだ。

◎決勝◎

 《試合形式》
 
準決勝から約10日のインターバルを置き、胃の状態を完全リセットしての最終決戦。
 競技はカレー10kg完食勝負。1皿500gのカレーを、最も早く20皿完食した者が優勝。形式上は早食いだが、10kgという量は人間の限界に迫る数字であり、これは事実上の超大食い戦。これまでの大食い競技の中でも類を見ない特殊な形式と言えよう。 

 決勝を前にしての、3選手の心境はいかばかりか。
 小林にしてみれば、第2回決勝で試合開始早々主導権を手放してしまった反省から、全力でスタートを決めに行きたいところ。10kgの分量は何とかこなせる範囲だけに、とにかくペースを握りたい。
 白田は固形物を10kg胃に納めた経験があるだけに、完食に関しては何の不安も無い。怖いのは小林の逃げ切りだけで、前回のように主導権は奪えないにしても、せめて1杯差程度のビハインドで逆転のチャンスを窺いたいところだろう。
 胃容量が10kgに満たない山本にとって、このレギュレーションはかなり厳しい条件。とにかく持ち味の早食い力で行ける所まで行くしかないと考えたのではないか。特攻精神で頂点を目指す。


 試合開始。各選手落ち着く間もなく、最初からトップスピード。
 1皿目の完食第1号は山本(37秒)。以下数秒ずつ遅れて小林、さらに白田。それでも3者の差は10秒程度に過ぎない。
 2皿目も山本がトップで完食。だが、リードは全く広がらない。依然として小林、白田は10秒以内の差でマークしている。
 3皿目、早くも山本がペースダウンし、1皿70秒前後に。残りの2人は50秒前後で食べているので逆に10秒の差がついた。
 4皿目、今度は小林のペースが1皿70秒前後に。だが、白田は依然として50秒/皿のペースを保つ。ここで勇躍、白田がトップに立った。白田の望んでいた序盤での主導権確保が今回も実現した形に。
 これ以降、白田は1皿50秒、小林と山本は1皿70秒の“ラップタイム”が続く。1皿毎に20秒の差が開き、3皿につき1皿の差が開く。8分経過時点で、ついに3皿にまで差が広がった。その差1.5kg。この時点で早くも大勢は決してしまった。なんと恐るべき白田の底力か。
 小林、山本共に、11〜12皿完食の13分過ぎからさらにペースダウン。もっとも、これは落ちるべくして落ちたペースであって、この時点でもペースの一切落ちない白田の方が凄すぎるのである。この時点で、白田は悠々と17皿目の半分を平らげていた。その差は3kg前後。決勝クラスにおいて、この短時間でついた差としては史上最大のものではないか。
 小林が懸命に15皿目を口に運び、山本が14皿目でもがき苦しんでいた18分56秒、白田は規定の20皿を完食した。1皿平均のタイムは56.8秒。恐らく空前絶後となる大記録で、白田はメジャー大会3度目の優勝を果たした。

 白田はこの優勝で、誰もが認める完全無欠の王者となったと言えよう。1年以上に及んだ小林尊時代の終焉、そして白田時代の到来である。恵まれた体格と口の大きさ、そして磨きのかかった早食いと大食いの能力。他の選手たちがどれだけ努力しようと辿り着けない高みに彼はいる。
 彼の最大の特徴は、スタートダッシュがそれほど早くない代わりに、そのペースがいつまで経っても落ちないところにある。言ってみれば、マラソンランナーのような大食い選手、それが白田信幸だ。早食いでも強く、大食いならばなお強い。この偉大なる超人を破る人間は果たして現れるのか? それが大食い界の今後を占うキーポイントとなるだろう。
 小林はこの敗戦をどう受け止めるか。しかし、準決勝までの戦い振りは、まさにチャンピオンのそれであった。少なくとも早食いの領域では白田に見劣りするようなパフォーマンスは見せていなかった。決勝で残酷なまでに差が開いたのはトップスピードの持続力と、絶対的な胃の容量の差だった。これを如何にして克服するかが、これからの彼に残された大きな大きな課題である。
 山本は絶対的な胃の容量に限界がある以上、こういった結果になるのは仕方の無いところ。徹底した胃容量の拡大がこれから彼が活躍するための必須条件だ。

 


 以上が、今回のレポートでした。
 それにしても「フードバトルクラブ」に対する、大食いファンの敵意にも似た悪感情には驚くべきものがあります。そしてもう一方の「TVチャンピオン」には、「TV東京はお金を使わなくて謙虚でいい」や「大食い選手たちを大事に扱っている」などの意見を持って支持する声が高いようです。
 別にTV東京はお金を使わないのではなくて「使えない」だけで、TBSもゴールデンタイムのスペシャル番組では平均程度の制作費しかかけていません。それにTV東京だって大食い選手に対する酷使は、時折目を覆う場面があります(例えば、今回の「ラーメン駅伝」は殺人行為にも似た企画でした)。それなのに、両番組に対する声にこれだけの差が有るのは、TBSがイメージ戦略に失敗しているとしか言いようがありません。
 視聴率戦争ではTBSが勝利し、今しばらくは「フードバトルクラブ」も安泰でしょうが、最後の最後で番組を支えてくれるはずの大食いファンにソッポを向かれていては、せっかくのビッグ・プロジェクトも形無しです。このサイトを関係者が読んで頂いているとは確信できませんが、もしも受講者の中に番組関係者の方がいらっしゃったら、今一度、謙虚にイメージ戦略を再考するようお願いいたします。この「フードバトルクラブ」無くしては、大食い界の更なる興隆もありえないと思いますので……。

 おっと、最後に長々と話しすぎました。
 この大食い特集──文化人類学講義は、また春の大食い特番シーズンに再び実施いたします。大食いファンの方も、そうでない方も、また受講して頂くようにお願い申し上げて、この講義を終わります。(この項終わり)

 


 

1月9日(水)演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第2週分)

 こんばんは、皆さん。週1回のゼミの時間です。
 ……いきなりナンですが、先日、当研究室でこんなやりとりがありました。

駒木:なぁ、珠美ちゃん。
珠美:ハイ、何です博士?
駒木:今更な質問なんだけどさ、ジャンプの「BLACK CAT」ってさ、よくパクりパクりって言われるだろ? あれ、何のパクりか分かる?
珠美:え? 博士、ご存じなかったんですか?
駒木:…あ、冷たい目。いや、ご存知っていうか、いくら考えても分かんないんだよ。『烈火の炎』『幽☆遊☆白☆書』と似てるとか、『みどりのマキバオー』が途中まで『風のシルフィード』のSD版みたいだったとか、そんなのはすぐ判ったんだけど……。
珠美:(冷ややかな目で)そんな事じゃ、学生さんたちに失礼ですよ。っていうか、大恥です。
駒木:う……、分かったよ。悪かったから教えてくれ。聞くは一時の恥だと思って訊いてるんだ。
珠美:はぁ……(と溜息)。「カウボーイ・ビバップ」に決まってるじゃないですか。
駒木:!! ……ああ〜!(ポンと手を打つ)
珠美:ああ〜、じゃないですよ、まったくもう…。

 すいません。こんな奴が講義してました。
 まぁ、塾でも学校でもそうなんですが、授業や講義に一番必要なのはハッタリと危機回避能力だったりするのです。が、これはさすがに酷すぎました。反省です。こんな講師でよかったら、これからもよろしく。

 では気を取り直して、まずレギュラー企画の「新連載・読み切りレビュー」から……。(文中に登場する評価についてはこちらを参照)

☆「週刊少年ジャンプ」2002年6.7合併号☆

 ◎読み切り『トリコ』作画・島袋光年

  『世紀末リーダー伝たけし』の島袋光年が、連載の傍ら55ページの読み切りを描いていたとは驚きです。
 この作品、読むにつれて「ああ、この人はこういうのを描きたいんだな」というのが伝わってきます。
 『たけし』はギャグマンガなのですが、一時期シリアス・バイオレンス路線を模索した時期がありました。ただ、これを続けていく内に人気が低迷し、現在はシリアス路線の封印を余儀なくされていますが。
 “週刊作家が同時進行で描いた読み切りに名作無し”がマンガ界のセオリーなのですが、この作品は存外健闘しています。何よりも、随分とプロットが練られている感じがして好感が持てますね。55ページと長めの作品ですが、かなり絞り込んでの55ページ、というのが窺えて良い感じです。
 ただし、致命的な欠陥が1つ。
 この作品、色々なモンスターっぽい敵が出てくるのですが、一番強いはずの敵が全然強そうに見えません。これは受ける印象に個人差があるでしょうが、これが駒木個人だけでなく多くの人が抱く印象ならば、島袋氏のセンスを疑わなくてはならないでしょう。
 評価は
B+に近いB。ギャグの才能がまだ枯渇してないんですから、もう少しギャグマンガを続けて欲しいのですが……。 

☆「週刊少年サンデー」2002年6号☆

 ◎新連載『365歩のユウキ!』(作画:西条真二

 前作『大棟梁』では、「人気低迷で月刊に左遷→そこでもアッサリ打ち切り」という、サンデーの裏黄金パターンを喫した西条真二氏の新作となりました。短期集中連載じゃなくて本連載、しかも「歩武の駒」で成功できなかった将棋少年マンガに再び挑む、という、編集部サイドがかなり冒険して放った新連載ですね。まぁ、3つの新連載の内、1つくらいダメモトでいいか、と思ってるのかもしれませんが。
 で、内容なのですが、「小物の悪役が、説明的で内容の薄い長セリフを延々と喋った挙句に自滅する」という“西条節”が今回も炸裂しています。言い方を変えれば進歩が無い、ということでもありますが。
 さらに、“将棋部なのに不良の集まり、武闘集団”という設定も「何だかな」と。特に将棋部の部長が女の子なんですが、これがどこをどう見ても不良じゃない。どう見ても「男子部員にヤられまくってる」エロマンガの女の子な訳ですよ。いくら「中でも俺らと同級生(タメ)ながら部長をやってる森田みもりは教師も怖がって手出しができない、チャキチャキの江戸っ子」などと言われても、肝心の画の方に説得力が皆無では……。いや、よく読めばセリフも説得力皆無ですな。
 そういえば、前作の主人公は「リーゼント、染髪のマザコン大工見習」でしたな。個性的なキャラを描けばいいってもんじゃありません。
 第一、絵でほとんどを表現するはずのマンガ家が、陳腐なセリフに頼るようになったらオシマイですよ。
 ……というわけで評価は
B−。本当はC付けたいくらいですが、このおバカさ加減が好きな人もいるでしょうから。

 ◎新連載第3回『疾風(かぜ)の橘』(作画:猪熊しのぶ《第1回掲載時の評価:B

 「大ボケのくせに、何故か主人公が東大生並みの知能」、「道場が無くて、とんでもないところに連れて来られて、以下次号」など、相変わらずステレオタイプなおバカさん系の臭いも漂うのですが、それでも徐々に軌道修正を図っているような気がします。さすがに第1話のノリで週刊連載は限界があるでしょう。
 こういうテコ入れは歓迎なんですよ。あの『DEAR BOYS』(「月刊少年マガジン」連載の名作バスケマンガ。作画:八神ひろき)も始めは凄かったですからねえ。
 主人公はのべつまくなしにスカートめくりしてるわ、他の4人は部員不足だってんで、部室で麻雀してるわ、しかも部室が「スクールウォーズ」の1年目状態だわで、「どうすんの、コレ?」と思ってたんです。それがしばらくすると、結構極端に設定変えて成功してしまいました。成功してしまえば、「後から振り返ると笑い話だね」で済みますので、この辺はやったもん勝ち。
 ただし、この作品がどこまで良くなるかは、まだこれから次第。サンデーなら10数回過ぎてから面白くなるのもアリなんで、気長に追いかけていこうかな、という気になってます。評価は
のままですが、期待度は上昇という事で。

《その他、今週の注目作》

  ◎新連載『報復のムフロン』(週刊コミックバンチ掲載/原作:上之二郎 漫画:小野洋一郎

 ご時世に合わせての危機管理モノですね。主人公がお笑い芸人というところもユニークなんですが、それだけじゃなくて、多少クサいところはあるものの、しっかり話が練られているのが良いです。
 この作品を見てると、コミックバンチが目指す方向がなんとなく分かってきました。既存の作家の焼き直し作品で注目を集めて時間を稼ぐ間に、有能な新人を発掘してオリジナリティに富んだ作品を続々立ち上げていこう、ということなんでしょうね。どうも個人的には焼き直しばっかりで勝負しているように見えたバンチが好きになれなかったんですが、それならそれで積極的に応援してみたい気になります。
 評価は
B+。また評価を上げる時があれば紹介する事になるでしょう。

 以上で今週の時評は終わりなのですが、最後に受講生の皆さんへお知らせを。
 再来週の木曜日(24日)発売の「スーパージャンプ」で、緒方てい氏の初連載『キメラ』が始まります。一昨年末に発表したデビュー作『キカイじかけの小町』が大変素晴らしく、それ以来注目していた作家さんの作品ですので、皆さんも是非読んでみて下さい。
 ちなみに、その『キカイじかけの小町』ですが、評価をつけるなら
をつけます。読んだ瞬間、「これは藤子・F・不二雄先生の再来か?」と思ったものでした。あれから1年余。どんな作家さんに成長されているか、僕自身も楽しみです。

 それでは今日はここまで。明日は「フードバトルクラブ」企画の最終回です。最後までご愛顧を。

 


 

1月8日(火)文化人類学
「『フードバトルクラブ・グランドチャンピオン戦』
TV観戦詳細レポート(3)

 さて、このシリーズも早、第3回。本来なら今日で最終回の予定でしたが、思うように講義が進行せず、1回延長となりました。今日は敗者復活戦と3回戦の模様をレポートします。
 (レポート文中は敬称略、文体変更)


◎敗者復活戦◎

 《試合形式》
 1、2回戦の敗者16名が対象。選手は早食い(天むす20個)ブロックと大食い(ラーメン3杯分の大盛)ブロックに分かれ、各ブロック完食タイム上位1名、計2名が3回戦に進出する。
 ブロック分けは選手が希望のブロックを秘密投票で選択。どの選手がどのブロックに来るかは試合開始まで知らされないまま、対戦に臨むことになる。
 なお、ここより大会2日目(1〜2回戦の翌日)となる。

 敗者復活戦は16名が参加予定だったが、6名が棄権し、出場者は10名となった。それでは、各ブロックの模様をレポートする。
 余談だが、この敗者復活戦を「1回戦敗退の射手矢を救済するためのインチキプラン」という、訳の分からない批判を加える者がいるようだが、射手矢を救済するためなら、そんなまどろっこしい事をせずに1回戦の組み合わせを細工すればいい話で、的外れもいい所だ。批判を加えるのは結構だが、無責任な言動は慎んでもらいたいものである。

早食いブロック“fast”(天むす20個)

順位 選手氏名 タイム(完食数)
1位 山形 統 50秒39
2位 加藤 昌宏 (11個)
3位 駿河 豊起 (10個)
4位 平田 秀幸 (9個)
5位 キングコング・バンディ (6個)
6位 ハン・チンユ (5個)

 早食い力で大きく勝る山形の順当勝ち。序盤こそ各選手横一線だったが、口に入れた物をのどへ流し込むスピードでは山形が一枚も二枚も上手だった。
 加藤は赤坂ら大食い系選手との競合を恐れてこちらへ回ったか。しかし、大食いブロックに回っていた方がチャンスがあったのかもしれない。げに勝負は水物だ。
 3位以下の選手は、残念ながら地力不足。

 

大食いブロック“much”(大盛ラーメン1.5kg)

順位 選手氏名 タイム
1位 柿沼 敦夫 2分30秒29
2位 射手矢 侑大
3位 河津 勝
4位 赤阪 尊子

 「“大食い”にしては量が少ない」との批判があったが、この直後から3回戦と準決勝があるのだから仕方あるまい。前日に行ったら行ったで、今度は2回戦失格組が大きく不利なわけで、これが最もベターな策だったことは間違いの無いところ。

 スピードでは圧倒的に上位のはずの射手矢が、ここでも酷く苦戦する。河津、柿沼といった格下相手を引き離せず、予断の許さない戦いが続く。赤阪は、この設定(1.5kg完食のタイムレース)では得意の長期戦に持ち込めず、序盤から遅れ始める。やはり赤阪は「TVチャンピオン」の試合形式が向いている。
 中盤以降も射手矢は差を広げる事が出来ない。それでも辛うじてトップは確保していたが、苦手の飲料系のスープ、そして熱さにも苦しみ、土壇場でペースダウンしてしまう。河津は何とか振り切ったものの、それまで具とスープを均等に食べていた柿沼が最後の最後で大逆転。1回戦に続いての大波乱となった。
 タイムは2分30秒台で、1杯分あたり50秒という極めて平凡なタイム。いかに射手矢のペースが狂わされていたか分かろうというものだ。引退問題に揺れる射手矢、悔やんでも悔やみきれない惨敗となった。

 ……以上により、山形統柿沼敦夫の2名が3回戦進出を果たした。

◎3回戦◎

 《試合形式》
 4種類の食材(ラーメン2杯、餃子35個、ペットボトル入りウーロン茶1.5kg、寿司40個、計約4kg)の早食い合計タイムを競う、個人メドレー方式。出場選手10名中、合計タイム上位の6名が準決勝に進出する。

 放送では全選手の詳細なタイムが分からなかったが、山本晃也選手のマネージャーである、ハンドルネーム・iGUCCiさんが、現場で観戦した際に各選手のタイムを記録しており、ネット上でも公開されている。今回はiGUCCiさんの許可を得て、このタイム一覧表を引用させてもらうことする。(下の「タイム表」と書かれた部分をクリックすると、新しいウインドウからタイム表が表示される)

 タイム表

 以下は各選手の競技状況。タイム表と照らし合わせながらご覧頂きたい。

 小林が4種目中、餃子と寿司でダントツの“区間賞”を獲り、2位の白田に40秒の差をつけて楽々と1位通過。さすがは早食い世界一、といったところで、他選手との地力の差を嫌というほど見せつけた。
 特に印象深かったのは餃子。1回ペナルティ(食材を床に落下させると再挑戦となる罰則)を被った後のリトライで、水を一切飲まず餃子35個を掻きこむように口に雪崩れ込ませた。並外れた嚥下力無しには出来ない芸当で、このあたりは既にアスリートの域に達している。
 2位には、早食いスペシャリストの最右翼・山本がランクイン。10人のトップを切って競技に臨み、後の9人に目標にされる形でこの結果は立派。ウーロン茶早飲みでは、小林を抑えて“区間賞”を獲得。ドリンク系での強さを遺憾なく発揮した。
 3位通過は白田。早食いのスペシャリストたちを相手に回して、各種目平均以上のタイムを叩き出した。以前の白田には、食が遅く(あくまでもトップクラスと比較しての話だが)胃容量を余してしまう印象があったのだが、この半年余りで苦手意識はすっかり解消されたようだ。大食い選手中随一の胃容量と消化能力を誇る“偉大なる巨人”が、早食いという武器も手に入れた。まさに鬼に金棒、白田に早食い。最強のライバル・小林への迎撃体制は整った。
 4位には大健闘の山形。敗者復活戦をこなした不利を乗り越えての好成績は賞賛されていい。
 苦手意識をもっていたラーメンで、山形本人もまさかの“区間賞”獲得。これは大きな自信になっただろう。ドリンク系の凌ぎ方を覚えさえすれば、早食いのトップも争える有力選手となるはずだ。
 5位は高橋。医者の反対を圧して、骨折した右手を使用し続けた。パッと見にはいつもと変わらない食べっぷりに見えたが、各種目でのタイムが、トップどころに比べてほぼ均等に遅れているところを見ると、影響が無かったわけではなさそうだ。
 次点には大きく差を開けたものの、合格ラインギリギリの6位だったのは、なんと新井。得意の寿司では山本を抑えて3位になったものの、ラーメンとウーロン茶で大きくタイムをロスし、この結果となった。これまで意識すらしなかったドリンク系での脆さが露呈された形で、これを次回の「フードバトルクラブ」までに如何に克服するかが、彼の現役生活にも関わる問題となってくるだろう。
 惜しくも次点・7位に終わったのが小国。選手キャリアの浅さがモロに出てしまった格好だ。射手矢を葬り去ったドリンク早飲みでは3位にランクインしたが、ラーメンと寿司では大きくタイムを落とした。まだこれからの選手だし、精進して頑張ってもらいたい。
 意外だったのが立石。序盤のラーメンで失敗したリズムの狂いが最後まで響いたか? 本来なら3分台は望める選手のはずで、やや残念な結果となった。
 田澤、柿沼の両選手は、ここに入ってしまっては見劣りがするのも仕方が無い。人間の領域と神の領域の境界線に立たされた人たち、ということなのだろうか。


  今日はここまでです。明日は水曜日で演習(ゼミ)ですので、このレポートは1日休み。明後日に準決勝と決勝のレポートを掲載して、この「文化人類学」講座を締めたいと思います。それでは講義を終わります。(この項続く

 


 

1月7日(月)文化人類学
「『フードバトルクラブ・グランドチャンピオン戦』
TV観戦詳細レポート(2)

 本来、日曜に講義の予定でしたが、1日遅れとなってしまいました、「フードバトルクラブ・ザ・キングオブマスターズ」のTVレポート第2回となります。
 今日は2回戦の模様を、各選手の略歴を交えながら紹介したいと思います。
 (レポート文中は敬称略・文体も変えます)


◎2回戦◎

 《試合形式》
 オークション形式の個人トライアル形式競技・「ハングオーバー」。
 制限時間とメニュー(食材・単位数あたりの重量)がはじめに発表され、選手はオークション形式で、勝ち抜けるために完食しなければならない数量を競り上げていく。“落札”した数量を制限時間内に完食すれば3回戦進出。失敗した場合は即失格となる。
 12名中8名が3回戦に進出し、4名が失格。3回戦進出者が8名に達した時点で未挑戦者は失格となるが、失格者が4名に達した時点で、未挑戦者は“不戦勝”扱いとなる。

挑戦者名 食材・落札数・制限時間
立石将弘 冷やし中華(500g)8杯・10分

選手略歴および挑戦状況

 立石の本格的な大食いデビューは、2001年春の第1回「フードバトルクラブ」。小林尊、高橋信也と共に決勝に進出するも3位に終わっている。
 以後、「TVチャンピオン」2001年新人戦では準決勝敗退の4位、同じく「TVチャンピオン」の『ホットドッグ早食い世界選手権』日本予選でも3位(決勝進出)と、第一線で活躍するものの、優勝争いとなると地力不足が露呈する格好になっている。“最強のバイプレイヤー”的な存在か。
 今回は過去2回の好成績により出場枠を得た。1回戦では関沢晴夫なる無名選手が相手で、難なく2回戦進出を果たしている。

 このチャレンジでは、白田と競り合って落札した立石。しかし、10分で8杯はかなり難儀な数量。立石本人も「7杯までにしたかったが、出来るだけ最初の方に(3回戦へ)抜けておきたかった」と本音をポロリ。
 1分15秒で1杯というボーダーラインゆえ、最初からトップスピードで飛ばし、粘りこみを図る作戦の立石。1杯目は38秒、2杯目以降もボーダーラインを上回るスピードで飛ばす。
 しかし、重量がある上に温度が低い冷やし中華は、立石を大いに苦しめる。4杯目を61秒、5杯目は1分37秒と、大きくペースダウン。6杯目では体が痙攣を始め、極限状態の様相を呈した。
 一瞬『失敗』の2文字が脳裏を横切るが、ここからが立石の本領だった。7杯目は1分30秒とペースアップ。8杯目も前半で築いた“貯金”をフルに生かし、最後は体の震えと戦いながらも余裕残しでフィニッシュ。堂々たるパフォーマンスで3回戦進出を果たした。

結果:9分38秒完食→3回戦進出

 

挑戦者名 食材・落札数・制限時間
小林尊 コーヒー牛乳(180g)25本・5分

選手略歴および挑戦状況

 略歴・1回戦の勝ち上がり過程は1回戦レポートを参照。

 総量4.5リットル、ボーダーライン1本あたり12秒と、早飲みと胃袋の容量に相当の能力がなければ苦しい分量。しかし本人は余裕綽々といったところで、さすがはプリンス小林である。
 その余裕振りを裏付けるように、スタート直後から1本5〜6秒の猛ペースで、瞬く間に空瓶の数を増やしてゆく。これには口やかましい実況席サイドも、驚きを通り越して呆然たる状況。
 最後までペースは衰えることなく、口元には余裕の微笑さえ浮かべていた小林。きっとトップスピードを出すまでも無いところだったのだろう。王座奪回へ手応え十分、圧巻のパフォーマンスだった。

結果:2分15秒完飲→3回戦進出

 

挑戦者名 食材・落札数・制限時間
白田信幸 パンケーキ(55g)34枚・20分

選手略歴および挑戦状況

 略歴・1回戦の勝ち上がり過程は1回戦レポートを参照。

 総量1870g、1枚あたり約35秒のボーダーラインは、白田にとっては余りにも楽な条件となった。各選手の間に、“最後の1枠”対策として、実力者の白田を早く抜けさせておく意向が働いたためと思われる。後の方になればなるほど“落札数量”は高騰するため、その時に数量を競り上げる実力者がいては、残りの選手が不利となるからだ。

 よって、このチャレンジは、白田が理想とする「たくさんの量を美味しく食べる」姿そのものになり、その様子は早食いというよりも、むしろ優雅な朝食に似た風景となった。
 終始落ち着いたペースで、しかもナイフとフォークを華麗に捌きながら、楽々と完食。小林と対照的ながら、それでも白田の能力を示すに充分なチャレンジであった。

結果:13分37秒完食→3回戦進出

 

挑戦者名 食材・落札数・制限時間
新井和響 卵焼き(75g)29切れ・5分

選手略歴および挑戦状況

 大食い・早食い選手としても、主力クラスの中では赤坂尊子に次ぐキャリアを誇る新井だが、彼のTVデビューは「TVチャンピオン・激辛王選手権」だ。第1回から3回連続出場し、第3回では優勝も果たしている。カラシまみれのおでんならぬ、おでん入りのカラシを完食した時の衝撃は、未だに記憶に新しい。
 その後、大食い・早食いに転向した新井は、ここでも高い能力を発揮する。当時は赤坂と中嶋広文(引退)の全盛期で、優勝には手が届かなかったものの、「TVチャンピオン」決勝進出や、『ホットドッグ早食い世界選手権』準優勝(優勝は中嶋)などの好成績を収めている。
 彼の全盛期は1999年から2000年にかけてで、特に2000年は「TVチャンピオン・早食い選手権」優勝、そして念願の『ホットドッグ早食い世界選手権』でも優勝を果たし、早食い世界一の名を欲しいままにした。
 しかし2001年からの新勢力の台頭には押され気味で、小林尊の前に『ホットドッグ──』の王座防衛に失敗するなど、第一線から徐々に退く情勢になって来ている。が、つい最近にも、寿司60カン早食いのレコードタイムを樹立するなど、早食い王座奪還にも意気軒昂だ。
 現在はタレント活動も開始、その温和な人柄に人望も高く、大食い界のスポークスマンとしての役割に期待がかかる。
 今大会は、春の第1回で準決勝進出を果たすなどの好成績により出場権を得た。1回戦では河津勝を問題にせず圧勝している。

 さて、肝心の2回戦だが、放送ではほとんどがカットされていて、その様子を窺い知る事は出来ない。だが、寿司と形状のよく似た卵焼きゆえ、新井にとっては楽な食材だったと思われる。とはいえ、総量2kg強、ボーダーライン1切れ約10秒のところを、完全な余裕残しでクリアしたのだから凄いことには変わりは無い。これを放送しなかった番組側の姿勢に疑問を呈したい程だ。

結果:2分40秒完食→3回戦進出

 

挑戦者名 食材・落札数・制限時間
山本晃也 カッパ巻き(100g)25本・10分

選手略歴および挑戦状況

 山本の本格的な大食いデビューは、他の選手と比べてやや異色で、テレビ朝日系「いきなり! 黄金伝説」の中の大食い企画の“素人大食い自慢”役。これは大食いタレントと対戦するための所謂“やられ役”なのだが、彼はそれまでの素人とは違っていた。なんと、その大食いタレントを相手に圧勝し、企画そのものを不成功に終わらせてしまったのだ。
 さらに同番組内の企画で、当時の早食い王者・新井和響に勝利して大食い界に激震を走らせる。ただ、同番組は、“ヤラセ”疑惑の絶えない、大食い界では評判の悪い番組だったため、その能力に疑問を持つ向きも多かった。が、そんな疑惑を払拭したのが2001年秋の第2回「フードバトルクラブ」だった。彼は大食い界のトップスターを相手に、その卓越した能力を発揮。準決勝で岸義行(今回不出場)に敗れたものの、山本ここにありをアピールした。
 今大会は、その準決勝進出の実績により出場権を獲得。1回戦は無名の釘抜孝行を相手に楽勝して2回戦にコマを進めた。

 彼のチャレンジも放送では大半がカット。24秒で1本というボーダーラインを問題にせずクリアしているから、相当のパフォーマンスだったのだろう。放送時間の関係とはいえ、惜しいことである。

結果:7分41秒完食→3回戦進出

 

挑戦者名 食材・落札数・制限時間
高橋信也 ソーセージ(25g)80本・10分

選手略歴および挑戦状況

 大食い歴はそれ以前からと聞くが、TV公式戦デビューは2001年春。第1回「フードバトルクラブ」準優勝、「TVチャンピオン」2001年新人戦3位と、いきなり主力選手の仲間入りを果たしている。
 その後も「TVチャンピオン」の『ホットドッグ早食い世界選手権』日本予選で準優勝など、好成績を残して今大会に堂々の参戦。しかし、この大会の直前に利き腕の手首を骨折しており、大きなハンデを負う事となった。1回戦は奥山順一相手に勝利しているが、主力選手が相手となる2回戦以降に不安を残すこととなってしまった。

 2回戦のソーセージは、総重量こそ2kgながら、ボーダーライン7.5秒に1本という、なかなかのレヴェル。特に今回は利き手の故障があり、かなり微妙な条件設定であった。
 チャレンジ開始からしばらくは、左手にフォークを持ち、片手で食べるスタイル。しかし、これは水を飲む際に一旦フォークを置かなければならない上、テンポも悪い。いつもの高橋ならばこなせなくはないはずのボーダーラインよりも、相当下回るラップタイムで前半が終了。前回(餃子293個を制限時間17秒前にクリア)と同様の苦戦に、場内の雰囲気も重苦しくなる。
 残り3分になったが、ソーセージは約半数残っている。このままのペースでは成功は不可能と見た高橋は、ついに痛む右手に箸を持ち(後にフォークに持ち替え)、ラストスパートに賭ける。痛みと早食いの苦しみに顔をゆがめながら、懸命にペースを上げる。本来のリズムを掴んだ高橋は順調に皿の上のソーセージを平らげ、遂に残り14秒で完食。綱渡り状態ながら意地の3回戦進出を果たした。

結果:9分46秒完食→3回戦進出

 

挑戦者名 食材・落札数・制限時間
小国敬史 大粒イチゴ(20g)146個・5分

選手略歴および挑戦状況

 略歴・1回戦の勝ち上がり過程は1回戦レポートを参照。

 秋の第2回「フードバトルクラブ」では、この「ハングオーバー」で無謀なボーダーライン設定のため敗退した小国は今回に捲土重来を期す。だが、今回も残り2つの進出枠を巡って競り上がったボーダーラインの前に窮地に立たされた。前回(豆腐20丁・6.4kgを10分)ほどではないが、総重量約3kg、1個あたり約8秒のボーダーラインは一筋縄では行かない数字。
 開始早々、小国はイチゴを口に入るだけ詰め込み、一気に飲み込む策に出た。確かに少しずつ食べて入られない数ではあるが、口をジューサーと化し、時折水で流し込む姿には鬼気迫るものがあった。
 ペースを一度落としたら、立て直しは難しいと思ったのだろう、最後まで“全力疾走”でイチゴを一心不乱に口に放り込んだ小国。そしてそれは正しい答だった。終わってみれば4分30秒完食。余裕があるようで、ペースをどこかで緩めていたら間に合わない数字だっただろう。
 強豪・射手矢を破っての1回戦突破、そして“1人リベンジ”達成で2回戦突破。誰よりも中身の濃い戦いを消化した小国、胸を張っての3回戦進出だ。

結果:4分30秒完食→3回戦進出

 この時点で7人連続成功。残る3回戦への枠は1つとなった。
 秋の第2回大会では失格者が相次ぎ、大量の不戦勝者が出たが、今回はその逆。残された5人の選手は戦わずして崖っぷちに立たされた。自然と“落札数量”は高騰し、失格者が続出する。

挑戦者名 食材・落札数・制限時間
加藤昌宏 チャーハン(300g)14杯・20分

選手略歴および挑戦状況

 加藤のメジャー戦歴は2回の「フードバトルクラブ」に限られる。本選出場には申し分ない実力を持ち、秋の第2回では体重増加競技の「シュートアウト」で、新井、立石、山形といった上位どころに競り勝って準決勝進出(白田と対戦し敗退)を果たすなど、主力選手の一角を形成する選手である。早食いよりも大食いで力を発揮するタイプで、将来的には「TVチャンピオン」など大食い系競技会での活躍も期待される。
 今回はその成績により出場権を獲得、1回戦では石森修を下した。

 しかし今回のチャレンジは、総重量4.2kg、ボーダーラインは1杯あたり約1分25秒。早食い力のある選手ならいざ知らず、スピードに限界のある加藤には酷過ぎるチャレンジとなった。大量のチャーハンを持て余し、志半ばでの敗退である。

結果:7杯完食の時点で時間切れ→失格

 

挑戦者名 食材・落札数・制限時間
柿沼敦夫 生春巻き(75g)27本・5分

選手略歴および挑戦状況

 彼の目立った活躍は春の第1回「フードバトルクラブ」本選進出くらいか。相当大食い番組を見慣れた人間でも、「どこかで見たことある顔」程度の認識ではないか。しかし、彼がこの後、大波乱の立役者になることになるとは……。
 出場権はその第1回の本選出場によるもの。1回戦で海外枠のハン・チンユを下している。

 5分間で約2kg、1本あたり約11秒というボーダーライン。こなせない分量ではないが、1回戦で寿司+ラーメン+ケーキというへヴィーなメニューを課せられ、体調が狂っていたのかもしれない。放送ではほぼカットになったのでチャレンジ内容を知る事は出来ないが、10本の時点で時間切れであるから、まともに勝負できていなかった。

結果:10本完食の時点で時間切れ→失格

 

挑戦者名 食材・落札数・制限時間
田澤康一 チーズケーキ(70g)20個・10分

選手略歴および挑戦状況

 田澤の戦歴は、「TVチャンピオン」2001年新人戦本選出場(2回戦敗退)、第2回「フードバトルクラブ」本選出場(1回戦敗退)など。デビューした時期が悪すぎたきらいはあるが、主力選手と比べると、“その他大勢”の域を出ないのが現状。総合的な地力の強化が求められる。
 1回戦では、田澤と同じく第2回「フードバトルクラブ」の1回戦組である駿河豊起と対戦。寿司早食いの持ちタイムは駿河が上位だったが、それを逆転しての勝利を果たしている。

 “落札”した結果は、総重量1.4kg、1個あたり30秒のボーダーライン。残された選手が半ば戦意喪失気味だったからだろうか、大食いとしても早食いとしても非常に楽な条件となった。田澤はこれを制限時間半分以上残して楽々完食。恵まれた形ではあったが、3回戦最後の1枠を獲得した。

結果:4分36秒完食→3回戦進出

 ……以上で3回戦進出の8選手が決定した。
 最後に、未挑戦のまま失格となった2選手の略歴を紹介しておこう。

 ◎武田昌子……「TVチャンピオン」スタート前後から現役で、なんとキャリアは赤坂尊子以上という大食い界の大ベテラン。最近の戦歴では第1回「フードバトルクラブ」本選出場(1回戦途中棄権)が主だったところ。非公式戦(バラエティー番組)ながら、つい最近も2分間の早食いで赤坂を破るなど、ますます意気盛ん。1回戦では、やや格上の平田秀幸と対戦したが、平田が途中棄権したため、武田が2回戦に進んでいた。

 ◎キングコング・バンディ……アメリカンプロレス往年の名レスラー。勿論大食いは本業ではない。第2回「フードバトルクラブ」では海外推薦枠で本選出場。「シュートアウト」で新井和響を上回る記録をマークし、プロレスラーの大食い力の豊かさを知らしめた。1回戦では古賀さくら相手に苦戦したが、古賀の途中棄権により2回戦進出を果たしていた。今大会では、各選手の食いっぷりに対する驚きを、いかにもプロレスラーらしい豊かな表情で表現し、番組に彩りを添えた。


 以上で今回分のレポートを終わります。以下、次回に続きます。(この項続く

 


 

1月5日(土)競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(1)
1996年阪神大賞典(1着:ナリタブライアン)

駒木:「さて、今日から『競馬学概論』が始まります。題名を見ての通り、1990年代に行われたレースの中で、“名勝負”と呼ばれるものを振り返る企画です。で、『特論』の時と同様、この『概論』でも助手の珠美ちゃんに聞き手として手伝ってもらいます。それじゃ、改めて挨拶を」
珠美:「ハイ、助手の栗藤珠美です。引き続きよろしくお願いします♪」 
駒木:「さて、ここからはざっくばらんな口調に。…で、この講義では、レースそのものも当然振り返るんだけれども、それよりもそのレースが行われた当時のファン心理とか、競馬界全体の雰囲気とかにシフトを置いて回顧していきたいと思ってるんだ。例えば、馬券を買った人の心理状態とか、レース直後の競馬場の雰囲気とかね」
珠美:「あ、それは面白いかもしれませんね。私みたいに競馬歴の浅い人間は、どうしても知識がレースの内容だけに偏ってしまいますから」
駒木:「そうなんだよね。そもそも、この講義をやろうと思ったのは、若い人と……僕もまだ若いんだけどさ(笑)、若い人と少し昔の競馬の話をしていると、どうも噛み合わない事が多いんだよね。どうしてかな、と思ったら、知識がレースの内容、それも結果を知ってから観たレースVTRの中身に限られてるからなんだよ。彼らにとって、そのレースや出てくる馬というのは、あくまでもビデオの中だけの存在。別世界の住人なんだよね。アイドルと言ってもいい。でも、僕らは違うわけ。同じ時代を共に生きて、ウンウン唸りながら馬券を買って、感情移入しながらリアルタイムで見てた。言ってみれば“等身大のお付き合い”をしてるんだよね。その差は大きいよ」
珠美:「そう言えば、博士とトウカイテイオー号の話をした時、認識にギャップがあったのを思い出しました」
駒木:「そうそう。あの、1年ぶりに出走したトウカイテイオーが勝った有馬記念(1993年)の話ね。今じゃ“感動の名シーン”扱いになってるけど、その場にいた競馬ファンの多くは、実のところ感動するどころじゃなかった。“穴馬”トウカイテイオーに勝たれて頭抱えてたんだよね(笑)。『こんなんじゃ、年越せない』って(笑)。騒いでたのは、馬券を当てた人か、ヤケクソでロマンに浸るしかなかった人だけなんだよね」
珠美:「そうだったんですね(苦笑)」
駒木:「ま、そんなわけで、レース以外の部分にも目を向けて、競馬を語ろうじゃないか、ということ。G1レースだけじゃなく、色々なレースに目を向けていきたいと思ってるので、どうぞよろしく。……それじゃ、そろそろ本題に移ろうか。珠美ちゃん、進行よろしく」
珠美:「ハイ、分かりました。それでは始めますね。第1回の今日採り上げるのは、1996年の阪神大賞典(G2)です。ナリタブライアンとマヤノトップガンが壮絶なマッチレースを繰り広げた、超A級の名勝負として有名です」
駒木:「もう6年経つんだね。早いもんだ。その頃、僕はまだ20歳だったし、珠美ちゃんは当時15歳だから中学生か(笑)。ということは、リアルタイムでは知らないね?」
珠美:「ハイ。この直後に仁経大付属高校に入学して、それから初めて競馬を覚えたんで、ちょうど入れ違いの形になりますね。
 ……えーと、それじゃ、このレースについての資料を読み上げますね。このレースは1996年の3月9日に行われました。阪神大賞典は、原則として阪神競馬場の芝3000mで争われる、日本を代表する長距離レースの1つですね。毎年G1レース「天皇賞・春」(京都・芝3200m)の6週間ほど前に行われるので、そのステップレースとしても重要視されています。この年の阪神大賞典は、比較的お客さんの少ない土曜日に行われたんですが、それでも約6万人の入場者で、阪神競馬場の土曜日入場者レコードとなりました。たくさんのファンの人たちが、これから始まろうとする名勝負を今か今かと待ち構えていた、というところだったんでしょうか。
 このレースには10頭が出走しました。有力馬としては、その2年前に、史上5頭目のクラシック3冠を達成したナリタブライアン、前年度の菊花賞と有馬記念を勝ったマヤノトップガン。…この2頭がマッチレースをするんですね。他にはG2レース優勝の常連で、前年度のこのレースでナリタブライアンの2着になったハギノリアルキングや、マヤノトップガンが勝った菊花賞の2着馬トウカイパレス。さらには地方競馬のチャンピオンホース・ルイボスゴールドや、阪神芝3000mのレコードホルダーだったノーザンポラリスなどがいました。
 以上です、博士。」

駒木:「はい、珠美ちゃんご苦労様。まぁ大体、今、珠美ちゃんが紹介してくれた通りなんだけど、少し現実とニュアンスが違うところが有るね」
珠美:「えっ!? どこでしょうか?」
駒木:「『たくさんのファンの人たちが、これから始まろうとする名勝負を今か今かと待ち構えていた』…というくだりね。ここがちょっと違う
珠美:「あら、そうなんですか? ちょっと意外……」
駒木:「だろうね。最近は阪神大賞典といえば一騎討ちの名勝負、という感じになってるから。まぁ、このレース以前から一騎討ちの形で決着する事は多かったけど、戦前からマッチレースの“名勝負”を期待するようになったのは、このレースから後の事なんじゃないのかな。つまりは、それだけこのレースがエポックメイキングなものだったわけなんだけれども」
珠美:「観客動員が土曜日のレコードだっていうんで、皆さん随分期待されたんだなあって思っていたんですけど(苦笑)、ちょっと違うんですか」
駒木:「この頃は、オグリキャップから始まった競馬ブームが、まだギリギリ続いていたからね。有名な馬やレースがある日には、放っておいても驚くくらいの人が来るような時代だったんだよ。
 それに、この『入場者レコード』のタネ明かしをするとね、今でこそ土曜日にもG1やG2を結構たくさんやるようになったけれども、それまでの中央競馬では、重賞は原則として日曜日だけだったんだよね。例を挙げると、1993年に土曜日に行われた重賞は21で、その内障害レースが8つ。一方、2001年には40の重賞が土曜日に行われていて障害レースは9つ。その中身も全然違う。これはね、この年(1996年)からJRAが、土曜日のレース内容を充実させる方向へ方針を転換したからなんだ。その目玉が阪神大賞典だったわけ。それで入場客数のレコードを作ったんだから、まさに面目躍如ってところだろうね。もっとも、この年のレースが盛り上がりすぎたせいで、『やっぱり阪神大賞典はTV中継も充実している日曜日だな』ってことになっちゃったんだけど」
珠美:「(笑)」
駒木:「それから、今から考えるとブライアンとトップガンの一騎討ちは必然だったように思えるけれども、当時はとてもそんな空気じゃなかったよ。せいぜいが『この2頭で仕方ないかな、馬券的には面白くないけど』ってところで、それでもブライアンとトップガンの2頭には、みんな半信半疑だったんだよ。そんな複雑な心境の中、『それでもまぁ観に行くか。ブライアンとトップガンが生で観れるし』というお客さんで競馬場が埋まったってのが現実(微笑)。まぁ、現実なんて、えてしてそんなもんだよね(笑)」
珠美:「何だか俄かには信じられませんね(苦笑)。私たちの世代にとっては、『“あの”ナリタブライアンと“あの”マヤノトップガン』ですから……」
駒木:「あぁ、そうか。例の2頭についても説明しなくちゃいけないんだな。
 まずナリタブライアン。これは有名な話だから、珠美ちゃんも少しは知ってると思うけど、改めて説明するね。ブライアンは3歳(注:年齢は新表記に修正してます)で3冠を獲った後、有馬記念を完勝、返す刀で翌年の阪神大賞典──このマッチレースの前年のだね──も、ハギノリアルキングに8馬身差で圧勝している。春の天皇賞もまず間違いないと思われていたんだけど、股関節炎を発症してリタイヤ。春シーズンを棒に振ってしまったんだ。で、復帰は秋の天皇賞なんだけど、ここからがブライアンの苦悩の始まりだった。その天皇賞は12着で、続くジャパンカップが6着。マヤノトップガンが勝った有馬記念でも伸びを欠いて4着に敗れている。凄い頃のブライアンを知っている人にとって、それは信じられないし信じたくない、悪夢のような情景だったよ。珠美ちゃん世代に分かりやすく言うと、グラスワンダーがスランプだった頃あったでしょ? ちょうどアレみたいなもの。いや、やっぱりあれより衝撃的だったかな」
珠美:「ああ、そう言ってもらえると、なんとなく分かる気がします」
駒木:「そんなブライアンが、『今度こそ復調したぞ』という前評判で乗り込んで来たのが、この阪神大賞典だったんだ。確かに、調教の動きもこれまでとは雲泥の差だったし、『どうやら今度こそは本物かな』とは、みんなも思っていたはずなんだ。でもね、これまでもそうやって3度連続で裏切られてきたわけだから、どうしても半信半疑になっちゃったんだよね」
珠美:「話には聞いてましたけど、改めてお聴きすると新鮮です」
駒木:「そう?(笑) まぁいいや。で、もう1頭のマヤノトップガンね。珠美ちゃんに紹介してもらった通り、この馬はその前の年の菊花賞と有馬記念を連勝しているんだけど、この年の菊花賞は不作でねえ。全然説得力の無いレースだったよ」
珠美:「昔はよく、『皐月賞は速い馬、ダービーは運の強い馬、菊花賞は強い馬』って言ったそうですけど?」
駒木:「物事には何でも例外ってモンがある(苦笑)。その年はサンデーサイレンス産駒の第1世代だったんだけどねぇ、どうも大粒なようで小粒でね。
 具体的に言うと、大将格になる予定だったフジキセキ皐月賞前に脱落。その代わりに皐月賞を勝ったジェニュインは典型的なマイル〜中距離の馬で、菊花賞じゃなくて天皇賞・秋に行ってしまう。で、ダービー勝ったタヤスツヨシは、秋の時点で早くもピークを過ぎちゃっててね、マンガのタイトルになぞらえて『ツヨシしっかりしなさい』って書かれる始末でね。結局、菊花賞の1番人気はオークス馬のダンスパートナー。何と牝馬だよ、牝馬(苦笑)。まぁ、多分に物珍しさも影響してたんだけど、それにしても限度がある。
 で、マヤノトップガンは、そんな牡馬連中に混じって、重賞未勝利・トライアルG2連続2着で3番人気を背負って菊花賞を勝つ。このレースはよ〜く覚えているよ。何せ、“1着−3着4着5着6着7着8着”で馬券を外したから(苦笑)。最強の抜け目が炸裂さ」
珠美:「(しばらく爆笑)……すいません、でも…可笑しくって(笑い泣き)」
駒木:「まぁ、珠美ちゃんもいずれ体験したらいい。きっと腰が抜けるから(笑)。
 ……で、そんな菊花賞を勝って勇躍、有馬記念へ。でも、このレースでトップガンは12頭中6番人気。いかに菊花賞に価値を見出せなかったか分かろうというものだよね(苦笑)。んで、この有馬記念、トップガンは奇襲の逃げ戦法でまんまと逃げ切る。ブライアンや女傑・ヒシアマゾンといった有力馬が軒並み凡走するのを尻目にね。喩えて言うなら、頼りないマンハッタンカフェっていうかな、そんな感じ(苦笑)。だから、いくらG1を2つ勝ったからって、どうにもこうにもピンとこない。『何だよ、それ』ってのが正直なところだったね。
 そんなわけで、この阪神大賞典は、確かにナリタブライアンとマヤノトップガンの2頭が実績ではずば抜けているんだけど、どうも信頼しきれない面が大いにあったんだよ。2頭とも“沈没”ってのは無いにしても、ハギノリアルキングかトウカイパレスくらいは2着に飛び込んできてもおかしくないなって雰囲気はあったよ。だから、まさかこんな名勝負になるとは想像もつかなかった。その証拠に、馬連のオッズは最初3倍近かったんだよ。徐々に下がっていって、最後には2.1倍になったけど、それでも1度たりとも2倍を切る事は無かった。マッチレースが予想される時は、大体2倍を切るからね。その上でも、この“名勝負”が意外な結果だった事がよく分かる」
珠美:「そんな状態から名勝負が生まれるなんて、分からないものですね…」
駒木:「いや、むしろそんな状態だったから名勝負になったのかもね。騎手も潰しあいをしようとせず、自分の馬の力を試したいと思ったからこそ実現した
、正々堂々たる真っ向勝負。そんな感じがするね」
珠美:「ハイ、分かりました。……では、レースの方に話を向けましょうか。このレース、博士は生で観戦してらっしゃるんですよね?」
駒木:「そう。普段は滅多に土曜日には競馬場に行かないんだけど、この日ばかりはね。僕もまんまとJRAの策略に乗せられたクチさ(笑)。
 ……あ、そうそう。この時印象深かったのが返し馬の時でね。ブライアンに乗ってた武豊JKってのは、返し馬の時、意識的に観客のいる方向へ馬を持っていくことが多いんだけど、この時もそんな感じでね。外ラチ一杯をゆっくりと歩いていってた。そうしたら、ナリタブライアンが僕が見ている真正面で立ち止まってね、ジィ〜っと観客席の方を眺めたんだよ。馬が。『うわ、ブライアンと目が合った!』てなもんで、客席が大いにどよめいた。勿論、僕もその中の1人だったよ」
珠美:「うわあ……いいなぁ。うらやましいです」
駒木:「だろ?(笑) 僕にとっても貴重な体験だったよ。さぁ、それじゃあレースの回顧に移ろうか」
珠美:「ハイ。それじゃあスタートから順番に」
駒木:「そうだね。まずブライアンが凄く良いスタートを切ってね。それだけでも『ああ、今日のブライアンは違うな』って思わせるに充分な1シーンだったよ」
珠美:「しかし、ハナに立ったのは逃げ馬・スティールキャストでした。ナリタブライアンは一旦下げて、ちょうど真ん中辺りから。マヤノトップガンはそのすぐ前を走っているような格好になりました」
駒木:「そうだね。多分、武豊JKにしてみれば、勝っても負けても、相手はトップガンただ1頭、という気持ちだったのかも知れない。で、トップガンの騎手……あの田原成貴なんだけどさ(苦笑)。彼も、トップガンの力を試すためにも.『ブライアン? 来るなら来い!』って心境だったのかもね。でも、それは直接話を聞いたわけではないから、あくまでも推測だよ」
珠美:「…分かりました。そんな隊形でレースは2周目の第3コーナーまで淡々と進みます。ここまでは、よくあるパターンのレースなんですよね」
駒木:「そう。まったくそう。この時点でも、まだ名勝負になるとは全く思っていなかった。それどころか、何とも言えない緊張感が漂っていたよ」
珠美:「始めに仕掛けたのはマヤノトップガンの方でした。残り800mの時点でスルスルと順位を上げてゆき、早々と先頭に立ちます。そこへ間髪入れず、ナリタブライアンも外々を回って並びかけてきます。遂にマッチレースの始まりですね」
駒木:「2頭に何とか食い下がろうとしたノーザンポラリスが、全然付いていけないんだよ。他の有力馬も後方から伸びてくる気配は無いし、この時点になって、ようやくみんなが『このレースはただ事じゃない』と気付き始めた。地鳴りのような歓声が沸き起こったのを、とても印象深く覚えているよ」
珠美:「2頭はピッタリ馬体を合わせたまま、最後の直線に入って来ます」
駒木:「まさにデッドヒートの追い比べ。こういう展開だと、先に仕掛けたトップガンの方が不利なんだけど、そんなことお構いなしに粘る粘る。本当に凄いよね。
 あ、そうだ。この時、僕の隣で見てた若い男が、万単位で買ったマヤノトップガンの単勝馬券を握っていてね。そいつがエキサイトするする(笑)。僕は2頭の馬連1点買いだったから、的中は確定してたんだけど、ブライアンにはちょっとした思い入れがあってね。期せずして応援合戦が始まった(笑)」
珠美:「生々しい話、ありがとうございます(笑)」
駒木:「そのための企画だからね(笑)。さあ、レースの結末にいこうか」
珠美:「そうですね。そのいつまで続くかというデッドヒートの競り合いだったんですが、最後の最後でナリタブライアンが頭だけ前に出て、ついに復活の1勝をあげました。2着は当然、マヤノトップガン。3着以下は大きく離されました。9馬身差で地方競馬のルイボスゴールドが滑り込みます」
駒木:「誰も3着なんて見てなかった(笑)。本職の競馬記者の人たちも、うっかり見落としてたくらいだからね。いかに2頭のマッチレースに目を奪われていたか、よく分かる」
珠美:「私はビデオでしか観てませんけど、それでも凄いなって思いますものね」
駒木:「うん。あと、ナリタブライアンが勝ったってのも良かった。これは個人的な心情は抜きでね。この場合、どっちが勝った方が後味が良いかって、やっぱりナリタブライアンの復活劇っていう付加価値が付いた分だけ、こっちの方が良いと思うんだよね。言っちゃ悪いけど、トップガンが勝ってたら、ここまで印象深いレースだったかどうかは分からないね」
珠美:「様々な要因が積み重なって、生まれるものなんですね、名勝負って」
駒木:「多分ね。名勝負になり損ねたレースの方が圧倒的に多いわけだし」
珠美:「では最後に、このレースの後のブライアンとトップガンについてお願いします」
駒木:「うん。この後、2頭は天皇賞・春へ直行する。そこでは勿論、マッチレースの再現が予想されたんだけど、世の中、そう簡単に物事は運ばないものでね。3コーナーで2頭が並んだところまでは良かったんだけど、トップガンが早々と失速。抜け出したナリタブライアンも、当時は伏兵の域を出なかったサクラローレルに交わされて2着。今度はとても後味の悪いレースを演出する事になってしまったんだ。僕は僕で、阪神大賞典で増やしたお金を全額1点買いに注ぎ込んで、あえなく惨敗(苦笑)。二度と大本命の1点買いに大金を賭けるのは止めようと心に誓ったよ(笑)。
 さらにその後は、また詳しく採り上げる時が来るだろうけど、ブライアンは1200mの高松宮杯に出走して、その直後に故障を発症して引退。一方のマヤノトップガンは、その後立て直して、翌年の天皇賞をレコードタイムで勝つことになる。ホント、人生万事塞翁が馬だよね」
珠美:「……ハイ。貴重なお話を有難うございました」
駒木:「珠美ちゃんもお疲れ様。でもアレだね、この企画は長い講義になってしまうねえ。次からは2日にまたがることになるかもね」
珠美:「……そんな感じですね(汗)」
駒木:「まぁ、その辺は馬なりでいくってことで。おいおい決めていきましょう。それでは、今日の講義を終わります」(来週へ続く

 


 

1月4日(金)文化人類学
「『フードバトルクラブ・グランドチャンピオン戦』
TV観戦詳細レポート(1)

 さて、今日の講義は一昨日の講義の続編に当たります。前回は放送前のプレビューでしたが、今日は放送を踏まえてのレポートと言うことになります。ただし、長丁場のトーナメント戦。レポートは長文になることが予想されますので、2回ないし3回に分けての講義となります。
 それでは1回戦から順を追ってレポートしてゆきます。ただし、これはあくまでも「TV観戦レポート」ですので、記録等は放送で明らかになったものに限定しています。ご了承ください。また、現場で観戦された方の情報提供も大歓迎です。別途メールにてどうぞよろしく。
 (レポート内敬称略。文体も変えます)


◎1回戦◎

 《試合形式》
 1対1の3kg早食いマッチレース。寿司40カン(1kg)に4種類の食材(各1kg。ラーメンor天むすor餃子orスポーツドリンク)の中から抽選で2品目(重複あり)が加えられる。
 組み合わせは抽選で決定。ただし、秋の大会の上位2名はシードとなり対戦しない仕組み。 

 《レポート》
 出場者24名中、第一線で活躍している選手は約10名といったところ。残りの選手は、日本各地の大食い大会を制しているとはいえ、員数合わせの感が否めない。よって、組み合わせ抽選が勝敗に大きく影響することになってしまった。
 ただし、秋の大会で員数合わせ要員だった小国敬史が予選を突破したように、思わぬ“掘り出し物”が出現する可能性も少なくない。なので、この人選で主催者サイドを責めるのは的外れであろう。もっとも、シード選手が2名というのはいくら何でも少なすぎで、出来れば8名程度のシード選手を設定して欲しかった。これなら有力者同士の潰しあいは避けられるし、ノーシードにも若干の有力者が残る事になるので、実力伯仲の試合も少しは観ることが出来ただろう。

 出場したのは24名だから全部で12戦行われた事になるが、ここではTVで詳しく放映された3試合に絞ってレポートしたい。

白田信幸

VS

山形統

 競技品目は寿司+餃子+餃子
 白田は、大食い界の2大メジャータイトル「TVチャンピオン」「フードバトルクラブ」の2冠王者。巨体を生かしたパワフルな大食いと早食いで、今や実力ナンバーワンの呼び声も高い。
 一方、早食いを中心に日本大食い界主力選手の一角を形成する山形。タイトル歴は無いものの、「フードバトルクラブ」上位入賞の常連。
 2人の“格”から言えば、サッカーの天皇杯でJ1王者とJ2王者が対決するようなものだろうか。
 試合は、持ちタイムでは劣るはずの山形が先行する意外な流れ。予想外の展開に白田も若干ペースを乱され、中盤までは調子が上がらない。今になって思えば、今大会で白田が最も危なかったシーンがここだった。
 一時は、文字通り“ジャイアントキリング(番狂わせ)”が見られるか、と思われたが、最後の最後で地力の差が出た。最終的にはやや差がついて白田の勝利となった。

 

射手矢侑大

VS

小国敬史

 競技品目は寿司+スポーツドリンク+スポーツドリンク
 射手矢は「TVチャンピオン」2001年新人王のタイトルホルダーで、現2冠王者・白田に土を付けた数少ない選手。秋の「フードバトルクラブ」では、当時の王者・小林尊に準決勝で惜敗している。
 一方の小国は、実質デビューが秋の「フードバトルクラブ」という新人選手。しかし、その時の予選で9位という好成績を収めており、実力は主力選手と互角以上。今回は地方の大食い大会で優勝して出場権利を掴んだ。
 試合内容だが、序盤の寿司では持ちタイムの差が出て、数個の差ながら射手矢がリードを奪う。しかし、射手矢にとって未知の、飲料系早飲みになって様相は一変。小国との差が見る見るうちに詰まってくる。スポーツドリンク2本目になってデッドヒートとなり、最後はほんの僅か、数10ml差で小国が逆転。大食い史上に残るジャイアントキリングを達成した。
 勝負の明暗を分けたのは、品目を決定する抽選に尽きる。射手矢にしてみれば、「スポーツドリンクが2つ来ない限り大丈夫」という心境だっただろうし、小国にしてみれば「スポーツドリンクが2つ来ないと勝ち目は薄い」という思いがあっただろう。毎回抽選が明暗を分ける「フードバトルクラブ」だが、今回もその“魔力”を発揮した格好になった。

 

小林尊

VS

赤阪尊子

 競技品目は寿司+餃子+餃子
 小林は、まさに“日本大食い界の顔”。2000年の「TVチャンピオン」オールスター戦でデビュー即優勝と言う離れ業を演じるや、「ホットドッグ早食い世界選手権」、「フードバトルクラブ」初代王座など、世界の主要タイトルを総ナメした。日本初の大食いトーナメントプロとしても知られ、昨年の獲得賞金は1300万円以上。しかし、昨年秋には「TVチャンピオン」を体調不良で欠場し失冠。「フードバトルクラブ」も王座防衛に失敗して、一時の勢いに翳りも見えて来ている。
 赤阪は主力選手の中では最もキャリアの長い大ベテラン。「TVチャンピオン」で数度に渡り王座に就き、現在も「TVチャンピオン・甘味大食い女王」のタイトルホルダーという超の付く実力者。誰もが彼女を見て大食い選手を目指し、そして彼女をいつの日か越えたいと願う。まさに大食い界の至宝という存在が彼女である。ただし、最近は新勢力の台頭に押され、第一線からの後退を余儀なくされている。
 試合は、ここ1年の世代交代の流れを残酷なまでに象徴するような内容となった。序盤から小林がグングン引き離して、寿司の時点で勝負が決まってしまった。2人の間に早食いのスピードで歴然たる差があるのは端から承知の上だが、それにしても赤坂の全盛期から大食い試合を見てきている者にとって、赤坂がまったく勝負にならず惨敗するのはショックなことこの上ない。
 最後は餃子約100個の差がつくワンサイド・ゲーム。時代も女王のプライドも何もかも飲み込んで、小林が2回戦進出を決めた。

  この他9試合が行われ、2回戦進出の12名が決定した。以下は2回戦進出者の氏名一覧(五十音順)。

 新井和響、小国敬史、柿沼敦夫、加藤昌宏、キングコング・バンディ、小林尊、白田信幸、高橋信也、武田昌子、田澤康一、立石将弘、山本晃也


 ……時間の都合で、今回はここまで。以下、次回に続きます。明日は土曜日で競馬学の日ですので、続きは日曜日となります。それでは今日の講義を終わります。(この項続く

 


 

1月3日(木)演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第1週分)

 さて、一日遅れですが演習のお時間です。
 しかし、今週は雑誌の発売がほとんどなく、講義の材料が非常に少なくて困ってしまいます。頼みの綱の「週刊少年ジャンプ4・5合併号」も新連載・読み切り共に無く、書く材料が見当たりません(汗)。よりによって、こんな時に限って「HUNTER×HUNTER」が2週連続掲載ですよ、まったく…
 仕方ありませんので、レギュラー企画は休止。今日はその他の雑誌に掲載された注目作品をいくつか紹介しましょう。

《今週の注目作》

 ◎不定期連載(シリーズ読み切り)『不思議な少年』(週刊モーニング4・5合併号掲載/作画・山下和美

 個性の強い作品が多い「モーニング」の中でも、一際個性的で繊細な作画が印象的なのが山下和美さんの作品です。今回は古代ギリシアの哲学者・ソクラテスを題材にしたエピソードで、高校の世界史や倫理の授業でお馴染みの内容が色々出てきます。しかし、それでいて全然難解だったり冗長だったりしないのが、この作品の凄いところ。普通、「無知の知」なんて、なかなかマンガの中では咀嚼して表現できないんですが、それをアッサリとこなしてしまってる辺り、山下さんの才能の凄さと言うか、何と言うか。
 あ、個人的にはソクラテスと悪妻クサンチッペのやりとりが、いかにも人間らしくてホロリと来ましたね。
 まだコンビニや売店で並んでいると思いますので、是非手に取って、実際に読むことをお奨めします。評価
A−です。

 ◎新連載第3回『BANKERS』(週刊ヤングマガジン連載/作画・森遊作

 かなり珍しい、ギャンブルの“胴元”を主に扱った作品です。
 何故、“胴元”モノの作品が少ないかと言うと、そもそもギャンブル系マンガと言うのは、主人公が絶対的不利な状況に置かれるが、それを克服して見事報われる……というものだからです。胴元の立場に立って、そのまま安全パイで勝ち続ける主人公のマンガなんて、誰も読みたい思わない、というわけです。
 しかし、この作品は、その致命的ともいえる設定上の弱点を、カジノ荒らしを出現させる事でどうにか克服しました。それだけでも充分な評価を与えてあげねば、などと考えてしまいます。
 ただ、この作品の掲載誌には、あの福本伸行の『カイジ』が控えています。これは苦しい。果たして埋没することなく、長期連載を勝ち取れるのでしょうか? 興味は尽きないところです。評価は期待料込みでB+といったところですか。これからも注目です。

 ……と、今日は短いですが、諸事情ありまして、これで講義を終わりたいと思います。また来週、今度は大きなボリュームの講義をやりますので、どうぞお楽しみに。では、今日の講義はここまで。

 


 

1月2日(水) 文化人類学
「『フードバトルクラブ・グランドチャンピオン戦』決勝放送直前レビュー」

 ワタクシこと、当講座の専任講師・駒木ハヤトの専攻は、皆さんご存知の通り競馬学・ギャンブル社会学なのですが、実は“裏の専門分野”というものも持っていたりするのです。しかも2つ。
 1つは、現在公立高校で教えている世界史、そしてもう1つは“大食い”であります。

 所謂、素人参加の大食い番組がTVで放映されるようになって10年余。その“大食い”のメジャー化はめざましく、全国各地での大会やTV番組内でのトーナメント大会は激増の一途。昨年からはTBS主催で賞金1000万円という大規模なトーナメント戦・「フードバトルクラブ」も開始され、今まさに“大食い”は大ブームの時を迎えました。勿論、「フードバトルクラブ」に関しては、番組開始の経緯や番組内の演出方法など、手放しで喜べない事情があることもまた事実ですが、大食い・早食いのスポーツ化やプロ選手の輩出など、“大食い”業界の発展に与えた影響は非常に大きなものがあると言えるでしょう。
 そんな「フードバトルクラブ」の、2001年度成績優秀者及び各地方の大食い大会優勝者による“グランドチャンピオン戦”の模様が、先週と今週に放映されます。録画中継のため、既に結果は出ているのですが、厳格なかん口令が敷かれており、ごく一部の関係者以外はその結果を知る由もありません。駒木も含めて、大多数の人間は、明日放送される後半戦の行く末を知らない状態にあります。
 また、つい最近“大食い”に興味を持たれた人の中には、各選手の能力などを知らないがゆえに、この大会をどう楽しめばよいのか分からない方も多いと思います。
 そこで、番組放送まで24時間を切った今日の講義は、今回の「フードバトルクラブ」後半戦の出場選手紹介と、トーナメントの展望をお送りします。TV観戦のお供に、是非今回の講義のレジュメをプリントアウトして、パンフレット代わりに利用してもらえればと思います。

 ……

 さて、それでは本題に進みます。
 まずは出場選手紹介なのですが、10人を超える有力選手を細かく紹介していては、とても間に合いませんので、まず能力相対評価表付きの選手一覧表を掲載し、その上で簡単な解説を加えたいと思います。
 評価はS、A、B、Cの4段階。紹介する12人の選手の中で序列をつけ、各評価3人ずつ(一部例外あり)になるように振り分けました。ただし、「早食い力」の「飲料」部門はデータ不足のため、飲料系種目の実戦経験をある程度こなしている選手だけ、評価を掲載しました。

選手名
(五十音順)

大食
い力
早食い力 総合
評価
固形 飲料
新井和響 B S A
小国敬史 B(?) B A B
小林尊 S S S S
白田信幸 S A S
高橋信也 B A B
田澤康一 C C C
立石将弘 B B C
山本晃也 B S S A

敗者復活戦出場の有力選手(2名が復活)

赤坂尊子 A C B
射手矢侑大 S A B S
加藤昌浩 A C B
山形統 C B C

 「大食い力」とは、文字通り「たくさんの食物を胃に納める力」で、“胃力”という言い方もします。制限時間30分以上の競技でその力の効果が発揮され、また、60分を超える競技になると、ほぼこの能力だけで勝負が決まります。
 一方の「早食い力」は、「食物を飲み込み、早く胃に納める力」です。言ってみれば“嚥下力”というところでしょうか。例えば、寿司の早食いでは、Sクラスの選手になると2〜3回噛んだだけで2カンの寿司を飲み込む事が出来ます。“食べる”という時限を超越した、まさに人間離れした力です。
 この「早食い力」、10分以内の競技では「大食い力」よりも勝敗に与える影響は大きいでしょう。また、「大食い力」がモノを言う制限時間の競技でも「早食い力」に長けていれば、試合の主導権争いで優位に立てますし、自分の胃の容量ギリギリまで食物を詰め込めますので、その分有利でもあります。
 そして「総合評価」は、各選手の大食い競技における力量のランクです。よほど競技の規定が特異なものでない限り、このランク付けの通りに勝敗は決します。即ち、この表で言うとSランクの3人が優勝候補ということになります。
 その意味で言えば、先週放送された1回戦で、小国選手が射手矢選手に勝利した事がいかに大変な番狂わせかお分かりになると思います。あの試合は、「寿司40カン+スポーツドリンク2リットル」という、飲料早飲み得意の小国選手有利のルールとなったために起こった出来事でした。

 さて、各選手の力量を把握してもらったところで、いよいよ今回の大会展望に移ります。
 ただし、駒木も今回の競技規定を全て知っているわけではありませんので、この展望には推測の要素も多く存在します。もしも推測が外れた場合は展望と結果が大きく異なる可能性もありますが、その場合は前記の選手一覧表をご覧の上で対応してもらいたいと思います。
 (展望本文中は敬称略です)


★敗者復活戦(敗退者16名中2名が3回戦へ)★

 競技の内容が完全に判らない上、棄権者も多数出そうなので精密な予想は出来そうに無いが、出来る限りの展望をしてみよう。
 参加選手は多いものの、能力的には選手一覧表に掲載した4選手が抜きん出ている。事実上、この4人が2つの椅子を奪い合う事になるだろう。
 まずトップ抜けは射手矢で間違いないところ。1回戦敗退で一度切れたモチベーションが回復していれば、力量差は明らか。ここで復活のノロシを上げておきたいところだろう。
 その一方で白熱しそうなのは2位争い。短時間で決着をつける“早食い”系種目なら山形が圧倒的に優勢だが、“大食い”の要素が濃くなるほど赤坂、加藤が有利になる。また、勝負がもつれて大接戦となった時は赤坂が有利ステーキ1枚を5秒で口内に押し込める底力は、ここぞという時に生きて来よう。

★3回戦(10名中6名《?》が準決勝へ)★

 先週放送分での予告VTRを観る限り、飲料系を含む様々な種類の食材が登場する“早食いタイムトライアル”方式ではないかと思われる。もし、そうでないにしても、“早食い力”がモノを言う競技になるだろう。
 1回戦のようにマッチレース形式ならお手上げだが、全体の順位を競う形式なら小林、白田、射手矢(復活すれば)の3人はほぼ当確で、山本、新井も有力候補。残る枠1つ、6位争いを演じそうなのが小国、立石、高橋。復活していれば山形もギリギリ圏内か。純粋な能力比較では高橋優勢も、今回は利き腕骨折の大ハンデがあり、逆にやや劣勢。横一線の攻防も、小国が勢いに乗って6位滑り込みと見るが…

★準決勝(6名中3名《?》が決勝進出)★

 準決勝はもはや定番となった、1対1の早食い3本勝負・「シュートアウト」。食材の詳細は不明だが、わんこそば(山本が蕎麦アレルギーのため使用不可)とシュークリームが変更になる程度で、ステーキや丼モノ、デザート、あるいは飲料系の“大食い・早食い定番品目”がリストに並ぶ事になるだろう。
 この競技は、組み合わせ決定時と競技中の抽選が大きく影響するので非常に展望が難しいが、最終的には選手一覧表内の“総合評価”の差で勝敗が決するのではないかと思う。
 また、この競技は“早食い”系種目だが、3本目にもなると、“大食い力”がモノを言う。新井や山本といった早食い得意の選手は、2本連取が勝利への絶対条件となる。

★決勝戦★

 競技内容は、おそらく麺類か丼モノの60分勝負だろう。非常にハイレヴェルの、早食いのスピードで60分突っ走るような試合が観られるはずだ。
 準決勝の勝者予想がほぼ不可能のため、こちらの展望も難解を極めるが、おそらく“総合評価”Sランクの3人、小林、白田、射手矢のうちの誰かが残っているだろうから、その中から優勝者が出ると見て間違いあるまい。
 問題はSランク3人の中の能力比較だが、前回のような体調管理の失敗が無い限り、小林の優位は揺るがないと見ている。大食いプロ選手第1号の意地とプライドを見せてもらいたいものだ。
 白田は前回のように序盤でリードする試合運びが出来れば連覇の目も充分あるが、思うような展開に持ち込めるかどうかがカギ。また、小林不在時には当然優勝候補の筆頭だ。
 やや地力で劣るのは射手矢。マトモな勝負ではラスト10分で競り負けてしまうだろう。勝つためには、小林と白田を競らせてペースを乱させ、その隙を突きたいところだ。しかし、3強の一角が崩れて一騎打ちの形になれば、当然苦しい試合となる。勝利の女神は彼に微笑むか──?


 ……と、こんな感じになりました。果たして結果はどうなるのでしょうか? 楽しみですね。
 ところで当日は、テレビ東京系でも「大食い選手権」の正月特番が放送されます。どちらを生で見てどちらをビデオ録画するか迷うところですが、是非両方ともチェックしてもらいたいと思います。
 それでは、ちょっと変わった形になりましたが、今日の講義を終わります。(数日後の回顧編へ続く


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