「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

3/15 文化人類学「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・地区予選TV観戦レポート&決勝大会展望(2)」
3/14 文化人類学「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・地区予選TV観戦レポート&決勝大会展望(1)」
3/13 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(3月第2週分)
3/12 
ギャンブル社会学特殊講義「西宮競輪場“最後の日”観戦レポ〜世界で一番幸せなバッドエンド〜(3)」
3/11 
ギャンブル社会学特殊講義「西宮競輪場“最後の日”観戦レポ
〜世界で一番幸せなバッドエンド〜(2)」

3/10 
ギャンブル社会学特殊講義「西宮競輪場“最後の日”観戦レポ
〜世界で一番幸せなバッドエンド〜(1)」

3/9  
競馬学概論「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(9)
3/7  法学(一般教養)「日本国女帝誕生へ向けての諸問題」(6)
3/6  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(3月第1週分)
3/5  
教育心理学(教職課程)「卒業シーズンにおけるいくつかのエピソード」
3/4  
メディア表現論「マンガ喫茶の“ポルノコミック”規制へ」
3/3  現代文化特論「将棋界の一番長い日(2)」
3/2  
競馬学概論「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(8)
3/1  現代文化特論「将棋界の一番長い日(1)」

 

3月15日(金) 文化人類学
「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・地区予選TV観戦レポート&決勝大会展望(2)」

 ※昨日の講義を受講されていない方はこちらからお読みください。

 まず、昨日の講義の訂正から。札幌大会で2位になった須藤明広選手の名前が複数箇所において間違っておりました謹んでお詫びして訂正させていただきます。

 今日の講義も、昨日に引き続いて「全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦」の地区予選の模様と、それを踏まえての決勝大会の展望をお送りします。
 どうぞTV観戦の参考資料としてお使いください。

 それでは以下からレポート本文になります。レポート文中は文体を常体に変え、選手名も敬称略とします。偉そうに語っているように見えますが、文章の性格上柔らかい文体では合わないのです。どうかその辺りをご了承ください。


◆大阪(近畿・中国・四国)地区予選◆

 大阪予選に関しては、以前「なにわ大食い選手権」としてTV放映された際にレポートを行っているので、詳細はそちらを参照して頂くとして、ここでは記録とプロフィール等の紹介に留めることにする。
 大阪大会の詳細はこちら(2/14付講義)をクリック。

 ☆1回戦・ジャンボたこ焼き30分勝負

 ※ルール:5個1皿(=200g)のジャンボたこ焼きを、30分以内にどれだけ食べられるかを競う。参加者は書類審査通過の31名。2回戦に勝ち抜けるのは3名。

 競技内容の詳細についてはレポート(2/14付講義)参照。 

1位通過 山本卓弥 30皿(6.0kg)
2位通過 舩橋聡子 23皿+3個(4.72kg)
4位繰上 楊木田圭介 17皿(3.4kg)

 ※楊木田は予選4位タイだったが、3位選手の辞退か、若しくは番組側の事情で繰り上がり。

 それでは、1回戦通過3名の簡単なパーソナルデータを。

 ◎山本卓弥…18歳、169cm56kg。どことなく射手矢侑大を思わせる風貌。典型的な大食い体型。
 紹介VTR中の大食いパフォーマンスでは、回転寿司30分73皿という高レヴェルの数字を叩き出した。ちなみに、昨年の「大食い選手権」予選での記録5傑は、白田85皿、高橋78皿、立石74皿、射手矢69皿、稲川63皿。

 ◎舩橋聡子…23歳、158cm40kg。風貌だけなら、中学生とも見紛うような小柄。こちらも典型的な大食い体型。
 紹介VTRでの大食いパフォーマンスは、15分でご飯モノを2.5kgというもの。現在のレヴェルでは特筆するほどでもなかろうが、今回の場合、他地区の選手たちと比較すれば上位にランクされる記録といえる。

 ◎楊木田圭介…19歳、183cm80kg。白田(193cm86kg)は例外として、大食い選手としては大柄な方だろう。
 大食いパフォーマンスでは、ドライカレーを30分で3.6kg。こちらも現在の大食い界では平凡な記録だが、他の地区では充分勝負になる数字だけに、よりによって大阪大会に出場してしまったのは不運としか言いようが無い。

 ☆2回戦(地区代表決定戦)・ぜんざい30分勝負

 ※ルール:1杯50gの白玉入りぜんざいを、30分でどれだけ食べられるかを競う。最下位1名が脱落。

 競技内容の詳細についてはレポート(2/14付講義)参照。 

1位通過 山本卓弥 104杯(5.2kg)
2位通過 舩橋聡子 83杯(4.15kg)
3位落選 楊木田圭介 48杯(2.4kg)

 トップで地区代表を決めたのは山本卓弥だった。30分5.2kgという、甘味大食いタイトルホルダーの赤阪尊子と同格かそれ以上のハイスコアを叩き出しての圧勝。しかもまだ完全に余裕残しというから恐れ入る。満腹感が増幅される甘味での記録だけに、数字以上に価値のあるパフォーマンスと言える。
 2位通過の舩橋聡子も余裕残しでこの数字。現在女性大食い実力No.2である岩田美雪を上回る実力を秘めていると考えて良さそうだ。
 3位落選の楊木田。記録そのものは大食い競技にしては平凡なものだが、名古屋や福岡では優勝ラインにも匹敵する数字だけに惜しい。とにかく相手が悪かった。

 ☆地区大会決勝・カレーうどん60分勝負

 ルール:カレーうどん(重量未発表だが、かなりのビッグサイズ)を60分以内にどれだけ食べられるかを競う。ただし、スープは残しても良いという「大食い選手権」ルールが適用される。

 競技内容の詳細についてはレポート(2/14付講義)参照。

優勝 山本卓弥 15杯完食
準優勝 舩橋聡子 10杯完食

 山本卓弥が、地区代表決定戦に引き続いての圧勝で地区チャンピオンの座に輝いた。
 実はこの日は地区代表決定戦とのハシゴ収録で、なんと彼はぜんざい5.2kgを平らげた数時間後にこの記録を残した事になる。しかも本人はまだ胃に余裕があるというのだから末恐ろしい。
 この競技で使用されたカレーうどんは、とにかくビッグサイズ。それに加えて、カレーうどんが普通のうどんよりスープが残し辛い事を考えると、この15杯と言う記録は、通常のうどんなら軽く20杯以上は行く数字である。
 今回のパフォーマンスを考えると、現時点でも間違いなく「大食い選手権」オールスター戦決勝進出レヴェルで、潜在能力だけなら“最低でも”射手矢侑大クラス。あわよくば白田信幸・小林尊レヴェルまで到達しそうな才能を持っていると言える(それを考えると、番組内での白田の賛辞はリップサービスではなく本音だと思われる)
 今回の他地区チャンピオンと比較すると、頭1つどころか体全体が1つ2つ分抜きん出ている。文句ナシで優勝候補の筆頭で、余程の事が無い限り決勝大会でも圧勝劇が見られるであろう。
 唯一の弱点は、まだ巨大な胃袋を時間内に満腹にできるほどのスピードが未開発であるところだが、これも今回の選手レヴェルを考えると問題にならない。とにかく能力の絶対値が違いすぎる。
 準優勝の舩橋は、山本卓弥のビッグパフォーマンスにワリを食った形だが、それでも他地区の代表と比べると実力は抜きん出ている。この新人戦のみならず、打倒・赤阪の一番手としての末永い活躍を期待したい。

◆福岡(九州)地区予選◆

 ☆1回戦・明太子イス取り勝負

 ※ルール…第1から第3までの3つのテーブルが用意され、それぞれ明太子関連の食材が置いてある。用意された食材は、第1テーブル・明太子&ご飯(計1.0kg)、第2テーブル・明太子シューマイ(700g)、第3テーブル明太子ウインナー(400g)。
 書類選考を通過した30名の参加者は、まず第1テーブルからスタートし、食材を完食すれば第2テーブルに進出。しかし第2テーブルには席が10脚しか無く、この席が埋まった時点で、残りの20名は失格となる。
 同じ要領で第2テーブルで競技が行われ、第3テーブル着席の時点で7名に絞られる。そして第3テーブルをクリアした選手上位5名が地区代表決定戦に進出となる。

 複雑な競技形式だが、これも名古屋大会と同じく、大食い能力よりも早食い能力を問う競技だと言えよう。しかし福岡大会では、名古屋大会のような不始末は起こらなくて済んだ。だがこれは、競技形式が優れているわけでも何でもなくて、余りの低レヴェルのために、早食いが早食いにならなかっただけだ。「早食い」とは全員が完食を前提とした争いなので、完食できない者が多いと早食いとしての競技が成り立たないのである。
 なにしろ3つの食材の重量累計2.1kgをクリアできたのが僅かに4名。なんと地区代表決定戦への進出枠が埋まりきらなかったのである。「大食い選手権」関係者も、余りのレヴェルの低さに頭を抱えたに違いない。1回戦で見所があった選手は、トップ通過の嘉数千恵くらいなものだった。

1位通過 嘉数千恵 2.1kg完食
(順位は第3テーブルクリア順)
2位通過 白勢貴浩
3位通過 安楽与司春
4位通過 中林修一

 では、例によって、地区代表決定戦進出者の簡単なプロフィールを紹介しよう。

 ◎嘉数千恵…32歳、155cm50kg。
 名古屋大会では、ペースが掴めずに1回戦敗退も、福岡まで遠征して見事にリベンジ。本業は看護婦。一応は大食い向け体型であり、その点でも期待できる。
 ◎白勢貴浩…24歳、185cm90kg。
 大学時代はアメフト部に所属。体系的には大食い向きではないが、部活時代に「めし練」で仕込まれた大食いがどこまで通用するかがカギ。
 ◎安楽与司春…39歳、176cm84kg。
 体型から大食い適性が有るとは言えなさそうであるし、年齢も消化能力に衰えが見られる頃。苦戦必至か。
 ◎中林修一…30歳、172cm112kg。
 こちらも医者から肥満気味と指摘される程であり、胃の容量的に期待しづらい。

 ☆地区代表決定戦・焼き餃子45分1本勝負

 ※ルール…1皿10個・70gの焼き餃子を、45分間でどれだけ食べられるかを競う。上位2名が決勝大会に進出。

 序盤戦、中林が好スタートを決め、約2分で5皿完食一番乗りを果たす。しかし間もなく嘉数がトップに立ち、8分経過の時点で10皿完食1番乗り。後続からは白勢が追い上げ、水で流し込む作戦で追随する。中林は早々に3番手まで後退し、残る安楽は独自のペースで追走。
 15分経過。1位嘉数(19皿)、2位白勢(14皿)、3位グループ・中林、安楽(12皿)。
 この時点で既に嘉数のワンサイドゲーム。下位の2人はもちろん、2位の白勢までスローダウン。白勢は水を多用しすぎたツケが回って来たか。
 残りの30分、焦点は嘉数の記録一点に絞られることとなった。
 35分経過。1位嘉数(29皿)、2位白勢(19皿)、3位グループ・中林、安楽(15皿)。
 100個の差をつけられた白勢、「(100個差は)考えないように頑張ります」と開き直りか諦めか。
 嘉数は38分で30皿の大台に乗せ、さらに記録を伸ばしにかかる。そして44分で340個に到達。この時、白勢はようやく200個に到達していた。そして間もなく、制限時間が終了。九州地区代表は嘉数千恵と白勢貴浩に決定した。

1位通過 嘉数千恵 34皿+5個(2.415kg)
2位通過 白勢貴浩 20皿+6個(1.442kg)
3位落選 安楽与司春 15皿+7個(1.099kg)
4位落選 中林修一 15皿+6個(1.092kg)

 地区チャンピオンは嘉数千恵。相手に恵まれすぎて平凡な記録に終わったが、終盤の様子からもまだまだ余裕が窺え、さらに記録の上積みが期待できる。
 ただし、ここまで3kg以上の世界を経験していないのは問題で、果たして決勝大会で高いレヴェルに巻き込まれた時、上手く対応できるかどうかがカギとなるだろう。
 2位通過の白勢は、序盤で水を多用したためとはいえ、「大食い選手権」本戦進出者としては余りにもお粗末な記録。決勝大会では大苦戦を強いられることだろう。
 3位以下の2人については多言を要しない。結局、1回戦で2.1kgに苦しんでいた姿が全てだったのだろう。

 

◎決勝大会展望◎

 さてここからは、地区代表10選手による決勝大会の展望及び優勝者予想を行う。
 まずは、ここで5つの地区大会を勝ち抜いてきた10人の選手をもう一度まとめて紹介しよう。以下の表をご覧頂きたい。

地区大会順位

選手氏名

地区大会記録
札幌大会1位 河津勝 鮭茶漬4.95kg
札幌大会2位 須藤明広 鮭茶漬3.15kg
東京大会1位 皆川貴子 玉子焼3.10kg
東京大会2位 久保仁美 玉子焼2.91kg
名古屋大会1位 羽生裕司 きし麺2.675kg
名古屋大会2位 近藤菜々 きし麺2.30kg
大阪大会1位 山本卓弥 カレーうどん15杯
大阪大会2位 舩橋聡子 カレーうどん10杯
福岡大会1位 嘉数千恵 餃子2.415kg
福岡大会2位 白勢貴浩 餃子1.442kg

 ここに挙げた記録の中で、余裕残しでマークされた記録は東京2位の久保、大阪1位の山本、福岡1位の嘉数のもの。
 また、名古屋大会は時間前に繰上げ終了で、2位の近藤は2.5kg程度までは記録を伸ばせた可能性がある。
 さらに大阪2位の舩橋は、この記録の前にぜんざいを4kg以上胃に納めている事を考えなければならない。

 ……と、以上の点を踏まえた上で、決勝大会の展望に移ることにしよう。

 まずは決勝大会の内容だが、これは今までの慣例から考えると、比較的容易に想像がつく。
 第1ラウンドは、30分で2.5kg程度の完食勝負(完食出来ない者が脱落する形式)だろう。そしてその後は1日2〜3ラウンドのペースで45分ないし60分の無制限勝負(完食量下位1〜2名が脱落する形式)が食材を変えながら繰り返されて、それが上位3名まで絞り込まれるまで続く。無制限勝負でのボーダーラインは、前半戦が2.5kg程度、準決勝では4kg近くの攻防になるのではないだろうか。
 そして決勝は3人による60分間の麺類(ラーメンorうどん・そば)大食い勝負のはずだ。「大食い選手権」始まって以来、ほぼ毎回行われてきた伝統の競技形式である。

 この推測が当たると仮定すると、まず2.5kgの完食が難しい選手は第1ラウンド通過すら覚束ない。それを考えると、ここで福岡2位の白勢がかなり危ない。他に北海道2位の須藤、そして名古屋組の羽生と近藤も際どいところだろう。
 第2ラウンド以降は耐久戦である。まず真っ先に第1ラウンドで苦戦しそうな4人が脱落候補と見て間違いない。また、東京1位の皆川も、胃容量に明らかな限界があり、意外に早く限界が訪れそうだ。以上、消去法で5人が消え、そして残ったのも5人。
 今度は残った5人の内でのサバイバルレース。まず実力がずば抜けているのが大阪代表の2人。安定して4kgオーバーの記録を叩き出せるのだから、まともに行けば、まず決勝進出は間違いないところだろう。
 最後の1つの枠を争うのが河津、久保、嘉数。
 スピードで勝るのは河津で若干有利
だが、胃容量の勝負になった時は久保や嘉数にもチャンスが巡ってくるかも知れない。
 決勝戦は恐らく大阪大会の再戦になるだろうが、山本の実力上位は覆し難い。恐らく、決勝戦は山本のワンマン・ショーになるのではないだろうか。焦点はどれだけ彼が記録を伸ばせるか、といったところだろう。

 今回の大会では5つの地区大会が行われたが、これはこれまでの「大食い選手権」最大の問題点であった、“予選の段階で本戦の展開が読めてしまう”という点を是正するために行われたものではないかと推測している。要は「フードバトルクラブ」対抗策の一貫である。
 ただし、今回は余りにも安易に出場者と本戦出場者を増やし過ぎたために、大阪大会を除いて選手全体のレヴェルが著しく低くなってしまった。もし大阪大会までレヴェルが低かった場合、優勝を「フードバトルクラブ」で2回戦にすら進んだ事のない河津にさらわれる可能性が極めて高く、そうなると「大食い選手権」の価値が大きく揺らぐところであった。この点は番組スタッフの間で大いに反省してもらいたい。(話の流れ上、河津が優勝できない事を前提に話をしている事をご容赦願う)

 決勝大会の放映は3月21日(木・祝)。受講生の方で「TVチャンピオン」が視聴可能な方は、是非、ニューヒーロー誕生の瞬間を確かめて頂きたいと思う。


 ……以上が今回のレポートでした。今後、4月初頭まで断続的に文化人類学の講義が続きます。他の講義共々、どうかよろしく。
 それでは、今日の講義を終わります。(この項終わり)

 


 

3月14日(木) 文化人類学
「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・地区予選TV観戦レポート&決勝大会展望(1)」

 さぁ、いよいよ春のフードファイト・シーズンが始まりました。これから2週間ほどの間に、「大食い選手権(新人戦)」と、「フードバトルクラブ3rd」の両メジャー大会の模様がTV放映されます。
 フードファイトを文化人類学として研究対象にしている当講座でも、当然これらの競技会に関する講義を行います。フードファイト・ファンの皆さんはもちろん、これまで余り興味が無いという受講生の皆さんも、是非受講された上で、充実したフードファイト・ウォッチングに励んで頂きたいと思います。

 今日から2回の予定で、14日に放送された「全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦」の地区予選の模様と、それを踏まえての決勝大会の展望をお送りします。

 以下からレポートになります。レポート中は選手名は敬称略・文体を常体に変えます。


◆札幌(北海道・東北)地区予選◆

 ☆1回戦・コロッケ25個早食い勝負

 ※ルール:5個1皿(=400g)のコロッケ5皿25個(総重量2kg)の完食タイムを競う。
 参加者は書類選考通過の30名。6組に分かれて競技が行われ、完食タイム上位5名が代表決定戦に進出。制限時間は45分間で、もしも完食者が5名に満たない場合は、45分間での完食数の多い者が順に勝ちあがる。

 45分で2kgという条件は、一人前の選手なら楽勝の条件で、トップクラスの選手なら5分前後でクリアしてしまう数字と言える。だからこそ、番組側も「早食い勝負」というフレーズを用いたのだろう。
 しかし、競技開始から間もなくして見せ付けられた光景は、“たった”2kgのコロッケに悪戦苦闘し力尽きていく選手たちの姿であった。
 とにかく完食者が現れない。第1組からは制限時間時間ギリギリで大山康太1人が完食を果たしたが、これでもまだマシな方であった。
 威勢の良い言葉だけ吐いて、次から次へとタイムオーバーしてゆく選手たち。いや、“選手”という言葉を使うことすらためらわれる。先日放送された「デブ王選手権」の出場者より食が細い“大食い選手”とは何たる体たらくか。
 出場者中、まともなパフォーマンスを見せたのは最終組の河津勝だけであった。しかし河津は昨年度の「フードバトルクラブ」出場経験者で、厳密に言うと今大会の出場資格は無い人物である。
 どういう事情で彼が出場に至ったかは知る由も無いが、とにかく彼が出て来てくれて良かった。そうでなければ余りにも悲惨な予選会になるところであった。
 結果、時間内完食者2名に加えて、21個(1.68kg)完食者3名が、地区代表決定戦進出を決めた。だが、河津の言う通り「(大会に)出てくるなら完食くらいしなくちゃ」というところであろう。

1位通過 河津勝 14分44秒完食
2位通過 大山康太 44分07秒完食
3位タイ
通過
金田浩司 21個完食
手塚欽昭
須藤明広

 以下、地区代表決定戦進出者の簡単なパーソナルデータを紹介する。ただし、今回は出場者PR用のVTRが製作されなかったため、ごく簡単なものにさせて頂いた。

 ◎河津勝…29歳、182cm74kg。
 メジャーデビューは「フードバトルクラブ2nd」(1stステージ22位敗退)。年末の「キングオブマスターズ」にも出場したが、クジ運に恵まれず1回戦で新井和響と対戦する羽目になり、当然のように惨敗。敗者復活戦では健闘はしたものの、4人中3位敗退に終わっている。2001年度フリーハンデ値50ポイント(42位)。

 ◎大山康太…24歳、175cm107kg。
 声優・歌手の桜井智熱狂的ファンという奇異なキャラクターは確かに目立つが、肝心の大食い適性はといえば肥満体質でもあり極めて疑問。“大食い自慢の一般人”の範疇を越えられるか?

 ◎金田浩司…30歳、173cm94kg。
 ◎手塚欽昭…28歳、170cm110kg
 ◎須藤明広…29歳、177cm110kg。
 以上3名は、職業が漁師というところから、MCの中村有志に“魚三兄弟”と命名される。体型は典型的な肥満体型で、こちらもフードファイターとしては前近代的な体型。1回戦での記録も平凡であるし、どこまでやれるか……。

 ☆地区代表決定戦・鮭茶漬45分間おかわり勝負

 ※ルール…1杯350gの鮭茶漬を、45分間でどれだけ食べられるかを競う。上位2名が決勝大会進出決定。

 フードファイトに使用される食材の中では、最も食べ易いものであるお茶漬け。かつて山本晃也が、5.2kgを3分余りでクリアしてしまった事もある、“好記録メーカー”の食材である。
 では、競技の模様を伝えられる限り紹介しよう。
 スタート早々、河津が楽々と先頭に立つ。現役トップクラス選手と比較すれば明らかに見劣る河津も、このメンバーに入るとさすがに実力が違う。あっという間に後続に2杯以上の差をつけてしまう。以下、須藤、金田、手塚、大山の順で序盤戦は進行。1回戦2位通過の大山、原因不明の大ブレーキで最下位スタート。
 15分経過。1位河津(11杯)、2位グループ手塚・須藤(8杯)、4位金田(7杯)、5位大山(4杯)。
 これまでスプリント系の種目しか体験した事の無い河津、独走状態になりながらも、大食い競技における自分のペースが掴めない様子。しかし他の選手はというと、ペースが掴めないどころか、既に満腹状態になってスローダウンして早くも胃袋の限界。地区代表決定戦にして何たる惨状か。最下位で完食量の少ない大山はスローながら食が進んでいるが、あくまでもジリジリ。
 35分経過。河津と大山以外は手が完全に止まっていて、食べている2人にしてもペースは極端に落ちている。河津は目標を15杯完食に置いていたが、ここに来て微妙なペースとなる。
 40分経過。手が止まっていた選手の内、金田がおもむろに動き出して8杯目を完食。これで杯数だけなら2位タイに浮上だ。スローペースながら食べ続けていた大山はここで力尽き、脱落が決定的に。河津はようやく14杯目をクリア。序盤のハイペースが嘘のように停滞を強いられている。
 終了1分前。焦点は2位争い。追い上げる金田と、振り払おうとする須藤。その行方は、終了直前に須藤が9杯目を完食して勝負有り。河津は結局15杯完食ならず。

1位通過 河津勝 14杯+50g(4.95kg)
2位通過 須藤明広 9杯(3.15kg)
3位落選 金田浩司 8杯+100g(2.90kg)
4位落選 手塚欽昭 8杯+30g(2.83kg)
5位落選 大山康太 6杯+20g(2.12kg)

 河津が格の差を見せつけ、楽勝で地区王者の座に就いた。やはりこのメンバーでは力が違い過ぎた感がある。ただし、食材が水分中心のお茶漬けという事を考えると、この記録にはやや不満が残る。ある程度の大食い適性は示したが、トップクラスと伍すためには、やや実力不足は否めないところ。
 2位通過は須藤満腹感を圧してラストスパートを決めた気迫は評価できるが、それでもまだ“フードファイター”というより“大食い自慢”の範疇だろう。決勝大会では苦戦必至と言わざるを得ない。
 3位以下には特筆すべきものは無い。予選1回戦の惨憺たる有様が全てであった。

 

◆東京(関東・北信越)地区予選◆

 ☆1回戦・カレーパン途中下車勝負

 ※ルール…都電浅草線の貸切車両に乗り込み、駅から駅までの間(1〜2分間)にカレーパンを1個(=80g)ずつ完食してゆく。次の駅に停車するまでに完食できなければ失格。ただし、10個までは「5駅先に進むまでに5個完食」のパターンを2セット行う。
 参加者は書類選考通過者の21名。地区代表決定戦進出枠の5名に絞られるまで競技が続行されるサバイバル形式。

 後で述べる名古屋大会と共に、今回から予選に採用されたサバイバル形式。大食い力だけでなく、ある程度のスピードを要求するもので、恐らく「フードバトルクラブ」を意識したものであるといえる。
 ただし、この形式には問題点も多い。これは、実際に問題点が噴出して一部で話題になった名古屋大会のレポートで詳しく述べる事にしよう。

 胃に溜まりやすく、早食いに向かない事では定評のあるカレーパンだけに、総重量1kg前後で脱落者が相次ぐ。予選段階ゆえの選手間の能力のバラつきもあったのだろう。最終的に20個完食の時点で規定の5人に絞られて競技終了となった
 結果的に通過条件となったのは、総重量1.6kg。時間は停車時間を含めて平均2.5分とすると、50分程度という事になるか。スプリントのインターバルトレーニングのような形式だったが、競技時間的には一応大食いの範疇で、大食い系フードファイターとして最低限度の能力を持っているかどうかを見極めるには、まずまず適した条件といえる。

●チェックポイント毎の通過人数状況●

 スタート(21名)→5個(20名)→11個(19名)→12個(16名)→15個(15名)→16個(14名)→17個(9名)→19個(6名)→20個(5名=終了)

上位5名生き残り 碓井高貴 20個(1.6kg)完食
久保仁美
皆川貴子
佐藤清
西林伸晃

 以下、東京地区代表決定戦進出者の簡単なパーソナルデータを。

 ◎碓井高貴…31歳、170cm64kg。
 どことなく新井和響に似た風貌。一応、大食い向きの体型ではあるか。
 ◎久保仁美…21歳、154cm42kg。
 典型的な大食い体型。本人も競技終了後に「まだ(胃には)余裕がある」と笑顔で答え、大器の片鱗。
 ◎皆川貴子…32歳、164cm39kg。
 なんと2児の母。こちらも体型は大食い向きの超スレンダー体型で、胃の容量には期待が持てそう。
 ◎佐藤清…28歳、175cm72kg。
 カレーとパンが大好物で、毎日「3個だけ」カレーパンを食べているという“カレーの猛者”。
 ◎西林伸晃…38歳、181cm100kg。
 5人の中で唯一の肥満体質。大食い体型の選手が2人勝ちあがっているだけに、やや苦しいか?

 ☆地区代表決定戦・玉子焼き45分食べまくり勝負

 ※ルール…1皿あたり卵5個使用の玉子焼き(=350g)を45分間でどれだけ食べられるかを競う。上位2名が決勝大会進出。

 玉子焼きは、噛みやすく柔らかいため、比較的食べ易い食材といえる。今回は350gひとかたまりのビッグサイズゆえに早食いは難しく、大食い選手権にふさわしいテーマ食材となった。
 トップクラス選手の参考記録としては、1口サイズのだし巻き玉子ではあったとはいえ、新井和響が2.0kgを2分40秒で完食するという、素晴らしいスプリント・レコードがある。

 序盤戦。まず皆川が、1皿目を1分21秒でクリアして勢いよく飛び出す。以下は久保、碓井、佐藤、西林の順。
 5分経過。1位皆川(3皿)、2位グループ・久保、碓井、佐藤(2皿)、5位西林(1皿)
 味変化が出来ない(?)条件下で、味の単調さに各選手苦しめられる。特に甘いタイプの玉子焼きだけに、余計苦しいようだ。
 大食い体型の女性2名が快調に先行。男性陣は碓井が何とか食い下がる形で前半戦は推移。
 22分30秒経過。1位グループ・皆川、久保(6皿)、3位グループ・碓井、佐藤(5皿)、5位西林(3皿)。
 この辺りで佐藤、西林の手がストップ。早くも限界到達で脱落濃厚。
 上位陣にも異変が訪れる。8皿目の皆川、7皿目の佐藤の2人が胃の限界が近いことを訴え、ペースダウン。一方の久保はまだ余裕たっぷりで、上位2位に入る事だけを考えている様子。
 やがて碓井が3位で置かれるようになり、こちらも脱落濃厚。これで地区代表争いの大勢は判明し、焦点はトップ争いに絞られた。
 40分経過して間もなく、皆川、久保ともに8皿目をクリア。しかし余裕の無い皆川に比べて、久保は依然として余裕綽々だ。
 ところが、トップ通過は久保かと思われた44分過ぎ、突然皆川が脅威的なラストスパート。久保は余裕が仇になって、それに対応できなかった。皆川がトップを死守したまま競技終了

1位通過 皆川貴子 8皿+300g(3.10kg)
2位通過 久保仁美 8皿+110g(2.91kg)
3位落選 碓井高貴 7皿(2.45kg)
4位落選 佐藤清 5皿+240g(1.99kg)
5位落選 西林伸晃 4皿+10g(1.41kg)

 東京地区チャンピオンは皆川貴子。胃の限界を圧してのラストスパートは立派であった。しかし、3.1kgという記録は、「大食い選手権・新人戦」では本戦進出ギリギリのレヴェルであり、大威張り出来るものではない。決勝大会のハイペースにどう対応してゆくかがカギになりそうだ。
 決勝大会での期待度なら、むしろ2位通過の久保仁美の方が高い。結局最後まで胃の限界を感じさせなかっただけに、記録の伸びも期待できる。課題はハイレヴェルの争いになった時にスピードで対応できるかどうかだ。
胃の容量は優れていても、胃を余してしまうなら宝の持ち腐れである。どちらにしろ、決勝大会が楽しみだ。
 3位以下の選手たちは力不足としか言いようが無い。2kg前後で胃の限界を訴えるようでは、今後の大成も難しいだろう。

 

◆名古屋(中部・北陸)地区予選◆

 ☆1回戦・天むすび太鼓打ちサバイバル勝負

 ※ルール…1個50gの天むすを、15秒間隔で打ち鳴らされる太鼓と太鼓の間に完食してゆく。15秒後、次の太鼓が鳴るまでに1個完食出来なければ失格。
 参加者は書類選考通過の30名。地区代表決定戦進出枠の5名に絞られるまで競技が続行されるサバイバル形式。

 競技会収録直後から、一部参加者の間で不満が爆発していたのがこの1回戦であった。
 形式の上では、東京大会とほぼ同じのサバイバル形式なのだが、名古屋では1個ごとのインターバルが短かったために、構造的に潜む問題点がモロに噴出してしまうこととなった。

 まず最終的に、この名古屋大会1回戦の通過条件となった条件の問題。これが天むす1.6kgを8分でというもので、明らかに早食い競技の範疇である。「大食い選手権」の予選としては明らかにおかしい条件だ。

 さらに、この形式ではフードファイトに必要な基礎能力である「胃の容量」を正確に見極める事が出来ない。これは大問題である。
 「フードファイトクラブ」を観ていればよく分かるが、いくらスプリント・早食いを得意にしている選手でも、水分込みで最低3〜4kg分以上の胃の容量を持っている。そうでないと競技に耐えられないためである。今回の1.6kg程度なら、素人に毛の生えたような能力しか持たない人間でも無理矢理胃の中に詰め込む事は可能で、そうすると、本格的な競技に出た時になって一気に化けの皮が剥がれたり、最悪の場合には嘔吐や呼吸障害という身体的な影響も懸念される(そして実際にそうなった)。
 これらの点から考えると、予選段階では、地味でも良いから純粋に胃の容量を競う形式にすべきではないかと思う。

 さらに問題点がもう1つ。この形式だと、ちょっとしたアクシデントで15秒時間切れ→失格になってしまい、本来実力を持つ者がオミットされてしまう可能性がある。事実、この大会で1回戦敗退した嘉数千恵が福岡大会で地区チャンピオンになるなど、あってはならない逆転現象が起こっている。予選というものは、優れた者を選抜するよりも、明らかに実力で劣った者を振るい落とす役割を果たすべきであり、この点もやはり大問題であった。

 …が、何はともあれ、このような問題点を噴出させながらも、競技会として一応成立したとは言える。
 サバイバル形式自体は、アレンジの仕方を工夫制限時間を5分毎に区切り、60分以上の競技を想定して食材の量を決定するなど)すれば面白い競技にする事も可能だと思うので、もっとスタッフ会議でアイデアを練って欲しい。個人的には「フードバトルクラブ」との差別化を図るカギがこの形式に隠されていると思っているので、大変期待している。

 では、この1回戦の競技状況と、地区代表決定戦進出者の簡単なパーソナルデータを以下に記す。

●競技の進行状況●

 スタート(30名)→10個(29名)→15個(20名)→25個(10名)→29個(7名)→30個(6名)→32個(5名=決定)

上位5名生き残り 羽生裕司 32個(1.6kg)完食
原田満紀子
近藤菜々
夏目由樹
大石裕子

 ◎羽生裕司…23歳、174cm78kg。
 職業は高校の体育教員。職場の同僚からは「お前じゃ無理だ」と言われたが、根性で奮起する。
 ◎原田満紀子…32歳、164cm54kg。
 面長の顔にサングラスという風貌で、周囲から“女・岸義行”と呼ばれる。確かに自他ともに認めるソックリさんだ。体型的にも大食い向けで、期待を持たせる。
 ◎近藤菜々…23歳、154cm50kg。
 ◎夏目由樹…31歳、162cm43kg。
 ◎大石裕子…30歳、161cm47kg。

 予選のあり方が杜撰だった割には、というか、スレンダーの大食い体型を持つ選手が揃った。これで1回戦の内容は悲惨だったが、何とか形にはなったかと思われたのだが……

 ☆地区代表決定戦・きしめん45分おかわり勝負

 ※ルール…1皿300gのきしめんを、45分間でどれだけ食べられるかを競う。上位2名が決勝大会進出。

 スタート早々、近藤を除く4選手が、制限時間を無視したハイペースでガンガン飛ばす。先手を取ったのは羽生で、初めの1杯を45秒でクリア。しかし2杯目から大石が逆転し、彼女が序盤戦のペースを握る。2番手に羽生、以下は原田、夏目、近藤。近藤は唯一、ハイペースに乗らずに独自のペースでチャンスを窺う格好。
 5分経過。1位グループ・大石、羽生(5皿)、3位グループ・原田、夏目(4皿)、5位近藤(3皿)。
 5分で1.5kgはさすがに早い。「フードバトルクラブ」の「ハングオーバー」並のハイペース。これが持続できればとんでもない記録になるが、これはさすがに無謀か。早食い系競技で勝ち抜いてきた新人選手たちだけに、戦い方が大食いに対応できていない印象。番組にゲスト出演していた白田信幸と赤阪尊子も、食べ方が大食い用のモノになっていないと指摘していた。
 競技の状況としては、1位グループの2人が依然ハイペースで飛ばし、その様子を窺いながらピッタリマークする原田、やや遅れ始める夏目、あくまでマイペース追走の近藤、といった感じ。
 10分経過。1位グループ・大石・羽生(7皿)、3位原田(6皿)、4位グループ・夏目、近藤(5皿)
 ここで1位グループの2人が早くも息切れ。やはり序盤の頑張りはオーバーペースだったようだ。これを見た原田が着実に差を詰める。まだ羽生はスローダウンしながら食べる力が残っているが、大石は完全に動きが止まった。そして、いつの間にか近藤が7皿完食。僅差の4位に追い上げて来ていた。
 しばらく時間が経った後、完全に動きの止まっていた夏目と大石は体調不良を訴えて途中棄権。オーバーペースが消化器に負担をかけていたようだ。
 このあたり、1回戦の構造的な欠点による悪影響がモロに出て来ている。胃の基礎能力を競わず、中途半端な早食い競技で選んだ選手を大食い競技に出してしまったツケがここで回ってきた格好だ。
 35分経過。1位グループ・羽生、原田(8皿)、3位近藤(7皿)。
 上位2人の記録が、10分経過時からほとんど伸びていないように、羽生と原田も胃容量の限界のようだ。ただ1人スローペースで追い上げる近藤。ビハインドが1皿を切った。
 それから間もなくして、敗勢を悟ったのか体調不良か、原田が途中棄権を申し出た。これで5人中3人が棄権し、残るは2人。自動的に地区代表が決定し、ここで競技は繰上げ終了となった。

1位通過 羽生裕司 8皿+275g(2.675kg)
2位通過 近藤菜々 7皿+200g(2.30kg)
途中棄権 原田満紀子 棄権のため記録なし
途中棄権 大石裕子 棄権のため記録なし
途中棄権 夏目由樹 棄権のため記録なし

 名古屋大会は、前代未聞の3人リタイヤという後味の悪い結末になった。これには色々な見方があるだろうが、やはり1回戦の構造的欠陥が少なからず影響しているだろう。
 地区チャンピオンは羽生裕司。結果的に最初の10分だけで代表の座を手中にした格好で、適性は大食いというより早食いの方にある選手と思われる。ただ、それにしても胃の容量が2kgソコソコで限界になるのでは非常に頼りなく、基礎能力に大きな不安がある。
 2位で代表の座に滑り込んだのが近藤菜々。ソルトレーク五輪のショートトラックで、5人中4人が転倒して唯一難を逃れた最下位選手が、漁夫の利で金メダルをせしめた事が話題になったが、形としてはそれに似ている。
 乱ペースに巻き込まれなかった判断力は見事だが、それにしてもスピードが遅すぎる。1回戦で早食い競技をクリアしているのだから、もっとスピードが出るはずであろうが、今回の記録はやはり平凡。決勝大会ではどこまで巻き返せるかがカギだろう。


 ……というわけで、3つの地区大会の模様をお送りしました。明日は残る2つの地区大会のレポートと、決勝大会の展望をお送りします。
 それでは、また明日。(明日に続く

 


 

3月13日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評(3月第2週分)

 さて、演習のお時間です。
 今週も取り扱うモノが多いので、手早く行きたいと思います。
 まず、2002年1月期の「ジャンプ天下一漫画賞」の審査結果発表から。今回は佳作受賞作が出ています。

第66回ジャンプ天下一漫画賞(02年1月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=1編
  ・『呪いの男』(赤マルジャンプ2002春号に掲載)
   藤嶋マル(18歳・秋田)
 審査員特別賞=1編
  ・『かっ飛び1番店』(岸本斉史賞)
   武田佳之(23歳・山形)
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『The Journy with a servant〜イギリス旅情編〜』
   安生直人(23歳・埼玉)
  ・『ミミ』
   田井裕之(21歳・神奈川)
  ・『野狐わずらひ』
   犬屋敷馨介(20歳・北海道)
  ・『世界の海はオレのもの』
   竹崎大輔(19歳・東京)
  ・『けーちゃんの宝箱』
   寺田あとん(19歳・埼玉)
  ・『グルマゲドン美食最終戦争』
   脊川椎(24歳・千葉)
  ・『M.M.S(ミスターモンスター助六)』
   奈良阪兼太郎(合作/23歳・大阪/29歳・奈良)

 先月、「なかなか佳作以上が出ませんなあ」とか言っていたら、早速出ました(苦笑)。今更な話ですが、佳作以上はデビューさせなくちゃいけないので点が辛いんですね。消費者からお金を頂く“商品”になるかどうかを判断するとなれば、そりゃあ採点も厳しくなりますよねえ。
 でもその割に、本誌に掲載する代原のレヴェルは案外無頓着ですよね。そりゃあ白紙の本が出るかどうかの瀬戸際だから事情は察しますが……。

 

☆「週刊少年ジャンプ」2002年15号☆

 ◎新連載第3回『少年エスパーねじめ』作画:尾玉なみえ《第1回掲載時の評価:

 尾玉作品の絶好調時を知る人間にとっては戦々恐々の3週間が終わりました(苦笑)。なにせ、ここまでのデキとアンケート結果で打ち切りかどうかが決まるわけですからね。
 ここまで3回の印象としては、手を変え品を変え色々やって、どうにかハイレヴェルのまま乗り切った、というところでしょうか。ただ、第1回に比べるとそれ以降は、ギャグの切れ味やインパクトの点でやや見劣りしてしまいますが……。
 尾玉さんは、理詰めよりも感覚的にギャグを繋げていくタイプの作家さんだけに、連載を続ける限り精神的な負担は大きいでしょうが、何とかもうしばらくはこのまま繋げて欲しいものですね。
 少し技術的な面も述べておきましょうか。今回の第3回では、従来の“ボケっ放し”だけでなく、“間”のギャグが多く見られました。これが、尾玉さんの計算ずくなのか、苦し紛れにひねり出したモノなのか分からないのがナンですが……。
 評価ですが、さすがにAは行き過ぎだと思いますのでランクを下げます。B+に近いA−という辺りが妥当ではないかと思われます。

 ◎読み切り(2回連続・後編)『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介《前編掲載時の評価:

 先週に引き続いての後編となります。作者お2人の経歴や前編の詳しい評価については先週分のレジュメを参照してください。

 後編はアクション部分、つまりアメフトのシーンが中心でした。やっぱりここでも村田さんの優れた画力が光っていて、ラインズマン同士の激しいコンタクトを上手く表現しているなど、多くの点で唸らされます。村田さんはスピードと迫力で勝負するシーンを描かせたら本当に上手いですよね。
 一方、ストーリーの方なんですが、やっぱり話をスムーズに見せるためにディティールを省略している点が目立って残念です。結局、アメフト部の2人が、手段を選ばすに部員を集めてまでアメフトにこだわっている動機すら明確に見えてきませんでした。…これ以上やると陰湿になってしまうのでやりませんが、細かい所まで挙げていったらキリが無い程のツッコミ処がありますよ
 厳しい事を言ってしまうと、こういう“手抜き”をしないと話をまとめられない人が原作専業でやっていくのはどうかと。同じ「ストーリーキング・ネーム部門」受賞者ということで、誌上では『ヒカ碁』のほったゆみさんと同列に扱われてますが、有り体に言って、ほったさんの方が番付が5枚以上違うような気がします。

 この作品、アンケート次第では連載になる場合もあるのですが、その時こそ、しっかりディティールまで設定とプロットを組んで、練りに練ったシナリオで勝負してもらいたいと思います。このノリのままで勝負した場合、あっという間に化けの皮が剥がれる事は目に見えていると思いますので。
 評価はで据え置き。村田さんの絵の実力だけならB+は確実なのですが……。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年15号☆

 ◎読み切り『なにがなんだかモリマッチョ』作画:カルーメン野口

 今週も「サンデー特選GAG7連弾」が2作品。本誌での掲載順にレビューしてゆきましょう。
 まず、この作品の作者・カルーメン野口さんは、2年程前から少年サンデー系雑誌で、散発的にギャグ読み切りを発表している新人さんです。
 ただ、“新人”という言葉が似合わないほど画風が古いです。昭和50年代のコロコロコミックというか、どことなくガモウひろし氏風というか……。

 で、中身なんですが、これが題名の通り「なにがなんだか」でして。狙ってる場所とかは、まぁそれなりに分かるんですが、どれもこれも魂のこもっていない小手先のギャグなんですよね。セリフをちょっと変にしてみたり、キャラの絵面をちょっとイジってみたら、すぐに読者に笑ってもらえると勘違いしている気がしてなりません。
 これが、先述のガモウひろし氏みたいに、「マンガ家が小学校のマンガクラブで描かれるようなネタを描いたらどうなるか」という特殊な狙いなら話は分かるんですが、この作品はそこまでバカになりきっていないので、恐らくそういうわけでもないでしょう。
 評価はでいいんじゃないかと。「BSマンガ夜話」なら、「見所は11ページ目最終コマの乳首だけですね」とか言われそうな作品です。

 ◎読み切り『4649! どヤンキーラーメン』(作画:水口尚樹

 引き続き「サンデー特選GAG7連弾」。今度は新人作家さんの登場です。
 ネットで検索してみても、ほとんど情報が無かったんですが、同姓同名なのか水口さん本人の作品なのかは不明ですがこんなのが見つかりました。題名『普通えもん』。たった2本の4コマなんですが、起承転結のメリハリとギャグの切れが秀逸です。評価A−以上。色々な意味で商業誌掲載は不可能でしょうけど、同人誌か何かでもっと読んでみたい作品です。

 おっと、今回評価するのは『普通えもん』ではありませんでした。『4649! どヤンキーラーメン』の方です。

 …この作品、なかなか面白いんですが、あるポイントで非常に損をしています
 それは、この作品におけるギャグのパターンです。この作品は、“ネタ振り→1度目のギャグ(寒い)→2度目のギャグ(本当の狙い)”というパターンが繰り返されて進行するわけなのですが、この方法だと、必ず5割以上のギャグは面白くないギャグになってしまいます。計算づくとはいえ、ちょっとこれは問題ですね。肉を切らせて骨を断つという考え方も一理あるのですが、これでは骨を断つ前に、肉を切らせすぎて出血多量で死んでしまいます。
 今後の方針としては、ちょっとリスクは高くなりますがシュールな不条理ギャグを試してみてはどうかと思います。ギャグの才能が無いわけではないようですので、もっとドギツイ表現にチャレンジするのも手かと思うのです。

 評価はB−に近いB。惜しいんですけど、総合的な評価をすると、こうなってしまいます。

 ◎読み切り『背番号は○[マル]』作画:あおやぎ孝夫

 今週から5週連続でストーリーマンガの読み切りも始まりました。レビューが大変ですが、頑張ります。

 作者のあおやぎ孝夫さんは、昨年休刊になった「コミックGATTA」で既に連載経験済み。キャリアから考えると中堅マンガ家さんということになりますね。「週刊少年サンデー」本誌には初進出とのこと。

 では作品の評価へ。
 絵に関しては、細かい専門的な所まではツッコめませんが、少なくとも見た目は綺麗な絵だと思います。ただ、どこかで見たようなタッチなんですが、ちょっと誰に似ているかまでは思い出せませんでした。
 ストーリーの方は、「部内の“ミソッカス”的存在だった主人公が、実は才能を秘めていて、それが開花する……」という、話全体としてみれば、野球モノ読み切りでよくあるパターンです。ですが、短いページの中で主要キャラの個性がちゃんと表現できている事、それとありがちな勧善懲悪モノではなく、非常に爽やかなエピソードにまとめている辺りは非常に好感が持てます。地味ですが技量が無いと出来ない事をサラリとやってのけている辺り、非常に素晴らしいと思います。
 相対的な技量は間違いなく連載作家のレヴェルに達しているでしょう。特に最近の「サンデー」は“おバカさん系”の過剰演出作品が目立っているので、あおやぎさんが連載陣の一角を占めれば、雑誌全体に良いメリハリが利くと思えるのですが。
 評価はA−。余談ですが、同業者(学校教員)として、部活の練習の時だけ人格が豹変する女の先生ってのは、妙にリアルで微笑ましかったです(笑)。

 

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(週刊コミックバンチ15号掲載・世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品『エンカウンター ─遭遇─』作画:木之花さくや

 このシリーズも7作目。いよいよ佳境に入った感があります。たった1話の読み切りで、作家さんの現時点での力量を分析しなければならないので、こちらとしても輪にかけてヘヴィーな作業になるんですが、それはそれでやり甲斐がありますね。

 さて、『エンカウンター…』の作者・木之花さくやさんは、2人合作のペンネーム。その正体(?)は、現役マンガ家の西野つぐみさんとDenjiroさん夫妻のセンが濃厚です。少なくとも、西野さんが主になって作品に関わっている事は、ご本人もご自身のウェブサイトで発表されていますし、絵柄も過去の作品のタッチと酷似していますので、まず間違いないと思われます。
 西野さんはマイナーともメジャーともつかないような商業誌(失礼!)で多くの作品を連載し、単行本も複数出されていますバリバリの現役作家さんという認識で良いでしょう。先週のこの講義で、エントリー作家さんをドラフト指名された新人野球選手に喩えたりしましたが、西野さんの場合は、既に台湾・韓国やアメリカのマイナーで活躍している“外国人枠”の新入団選手という事になるのでしょうか。

 では、作品について。まず絵の面ですが、これはもう、現役で活躍されている作家さんですから、注文する点はありません。見る人によって好き嫌いは出るでしょうが、絵において基本的な点で批判すべき箇所は無いですね。

 しかしストーリー面には問題が大いにあります。
 この作品、西野さん(と思しき人物)がインタビューで語ったところによると、「数年間設定を温めて来たストーリー」との事で、本当にこの作品へ力と気持ちを注いでいるのが感じ取れます。確かに、作者の「こんな話が描きたかった」という気持ちはストレートに伝わって来ます。
 しかし、どうなんでしょうか。「数年間温めて来た」というのは、どうも「『新世紀エヴァンゲリオン』を観て以来、数年間温めて来た」と、いうのが真相のようです。あちらこちらに『エヴァ』への影響が見受けられます。それはそれで良いのですが、それでも冒頭で、1992年だというのに、秘密組織の本部らしき場所の巨大画面映像が『エヴァ』のそれとソックリだったのには、いささか失笑しました。1992年と言えば、まだパソコンのハードディスクがMB単位だった頃の話。プレステ2と同性能の“スーパー”コンピューターが世界に1台あるかどうかの時代です。思い入れは分かるのですが、ちょっとリアリティに欠けた感が有りますね
 まぁでも、こういう些細な点をこれ以上ツッコむのは、揚げ足取るみたいでナニですので止めておきましょう。

 ストーリーで指摘すべき点は、もっと根本的な所にあるのです。ズバリ言うと、設定が複雑かつ説明不足な上に、話そのものが破綻しているのです。

 まず、主人公が子供時代にUFOに出遭って宇宙人にさらわれた結果、特殊な帯電体質になる、これは前提条件として構いません。話を立てる上では、計算された偶然は必然と同じですので。
 ただし、問題はここからです。舞台が10年後に移り、そこでいきなり「エンカウンター」なる秘密組織(『エヴァ』で言うところのネルフですね)がストーリー上に現れて、そこに所属する謎の少女─無痛症で超能力者(?)─が、主人公と「同調(シンクロ)する」云々と“その時点では意味不明な文言”を言い出したり、忽然と表われては姿を消したり。また、「(主人公の)能力に興味はあるが、手に余るようなら主人公を殺せ」と、主人公の能力が何かとか、それがどう手に余るのかすらサッパリ分からないまま「エンカウンター」から指示が出たり……。
 恐らく複雑な設定が、作者の頭にだけは存在するのでしょうが、余りにも説明不足で意味不明です。同じようなテンポで進む話に、『エヴァ』と同じガイナックス製作のアニメ『フリクリ』がありましたが、あちらはマニア向けである上に、シリーズ完結と同時にネタバラシが完了するのを前提としたお話。こちらは連載を前提にしているとはいえ、アンケートを前提にした読み切り作品です。不親切を通り越して、何か勘違いしてしまっている気がします。

 さらに、ストーリー上で因果関係が破綻している部分が、まま見受けられます。
 まず、主人公やその周囲の人間に、未知の菌が寄生するシーン。このシーンでは、主人公たちが縄文時代の洞窟へ行って、そこで主人公が帯電した静電気が洞窟の壁に反応して、そのショックで菌が蘇り、主人公の近くにいたために感電した人たちが気を失って、その間に菌が寄生することになっています。
 ですが、どうしてその洞窟に限ってそういう現象が起きたのか(だって、岩の壁ですよ?)という事や、宇宙から来たはずの菌がどうして縄文時代の遺跡に眠っていたのか、などの部分が全く説明されていません
 実はこれ、話作りの上で、レッドカード物の反則なのですね。話に登場する舞台装置は、必ず話の中で起こる出来事の伏線になっていなくてはならないのですよ。
 今回の話で言うと、その一連の出来事が洞窟で起こらなくてはならなかった理由が、何か1つ存在しないといけないのです。菌が寄生していた隕石がその洞窟の近くに落ちたシーンでも良いのです。何か、その洞窟という舞台と話全体を結びつける因果関係が無いと、話として失格なワケです。
 例えば推理小説で話をしますと、雪山で胸をナイフで刺されて人が殺された場合、何か1つ、その人を殺すのが雪山でないといけない理由が無いとダメなわけです。死亡推定時刻を判断しにくくさせるため、など。現実には「意味もなく」とか「何となく」という出来事は有りますが、フィクションの話で無意味な設定は、読者を混乱させるだけなので、ご法度なのです。
 また、その寄生した菌が、寄生主の人間を殺そうとすることは説明されていますが、何のために寄生主を殺そうとしているのかが全く説明がありません。これがホラーなら、「敵対する相手は謎(の人物、物体)でなくてはならない」という不文律がありますからO.K.なのですが、SF物である以上は、全ての謎を理論的に説明する必要があるわけで、これも反則行為にあたります。それに電気に関係する菌ならば、やはり電気に関連するやり方で全ての寄生主を殺すべきでしょうね。
 さらにクライマックスで、主人公が“特に理由も無く”奇跡を起こして問題を解決するシーンが出てきます。まぁ、これは昔から使われてきた手法ですので、ことさら声を荒げるのは間違ってるんでしょうが、今時、車田正美や石山東吉や桑沢アツオくらいしかやらない事をここでしなくても……と思ってしまいます。一見して“お利口さん系”のマンガなのに結末が“おバカさん”系というのは惜しいですよね。

 ……以上、細かい事を色々書いてきましたが、これは一見すると“面白そう”な作品であるからこその注文なのです。ハナから箸にも棒にもかからない作品ならここまで書きません。これらの課題を克服できれば、間違いなく名作候補になるだけに、非常に残念に思ったのです。

 この作品、言い方は悪いですが、読者を雰囲気で誤魔化してしまえば、大賞まで手が届くかもしれません。ただし、今のままで連載に踏み込めば、早かれ遅かれ破綻してしまうでしょう。それが非常に惜しい。
 『エヴァ』は、話が破綻する寸前の状態で、まるで北緯38度線で綱渡りをやるようにして、ギリギリ成立した話でした。そんな話に影響を受けて新たなストーリーを作り上げるのは並大抵の覚悟では出来ません。作者の木之花さんには是非、意気込みだけではなく覚悟も持って話作りに挑んでもらいたいと思います。返す返すも惜しい作品でした。再挑戦を待っています。
 評価は総合的に評価してです。

 ……以上、いつにも増して高ボリュームの演習になりました。次回は『ヒカ碁』番外編・奈瀬さん編なのですが、どうも恋の話らしいんですよね(慟哭)。うぅ、梅沢さんに続いて奈瀬さんもか…。

 まぁ、評価は客観的にいきます(笑)。とにかく来週をお楽しみに。(来週に続く)

 


 

3月12日(火) ギャンブル社会学特殊講義
「西宮競輪場“最後の日”観戦レポ
〜世界で一番幸せなバッドエンド〜(3)」

 今日で最終回です。いつにも増して馴染みの無いテーマの講義で恐縮です。
 ※第1回はこちら、第2回はこちらから。
 レポート文中は、文体を常体にしています。


 N君対応の場内案内及びホルモン焼試食を終え、いよいよレース観戦に復帰。
 駒木はもちろんだが、競輪初体験のN君も車券を購入する。買い目を交えた具体的なレクチャーも考えたのだが、止めておいた。やはりギャンブルは自分の考えで勝負してこそギャンブルなのだ。それにN君は競馬を多少嗜むので、一応は感覚的に公営ギャンブルは理解しているはずだ。
 第一、駒木の予想が当たらないのだから、気を遣ったところで同じである。事実、第5レース、第6レースと大ハズレ。偉そうに講釈垂れていたら大恥ものだった。ちなみにN君もハズレ。こういう時はビギナーズラックが炸裂しそうなものだが、そんなに甘くないか。

 第7レース、A級の決勝戦。(競輪には選手の強い順にS、A、Bと3階級あって、この日の“記念競輪”ではS級とA級のレースが組まれている)
 ここでまた兵庫県の選手登場。地元A級選手エース格の1人、寺元哲也だ。しかもおあつらえ向きに、近畿ラインの“自力型”・川島聖隆は、放っておいても暴走気味に先行するタイプの選手である。他のラインにも暴走特急みたいなヤツがいるが、今日に限って言えば暴走にかける意気込みが違うはずだ。
 と、いうわけで寺元絶対有利。いや、有利だろうが何だろうが、寺元と心中するつもりで車券を買うのが兵庫の競輪ファンと言うものだろう。ちなみにN君は和歌山県人なので、寺元縛りからは除外だ。
 レースは、「これぞまさに競輪!」という素晴らしい展開になった。注文通りに川島が暴走気味にスパートを開始。そして後続からの追撃は寺元がことごとく撃退(“マーク型”選手は、他の選手に体当たりするようにして、本当に撃退してしまう)して、最高の形で最後の直線へ。寺元がキッチリ前の川島を交わして優勝、川島もよく粘って2着。素晴らしい近畿のワン・ツーである。
 道中はしっかり仕事をし、1着を獲る。また、それだけでなく、レースを引っ張ってくれた“自力型”を2着に残してやって恩義に報いる。寺元は“マーク型”として最高のレースをして、西宮のラストランを締めくくった。当然、ファンからはスタンディング・オベーション。
 最高の雰囲気の中、客席からはどこからともなく、
 「オイ、このレースをメインにした方が良かったんとちゃうか?」
 という声が聞かれるようになる。駒木もそう思った。
 実は、メインレースのS級決勝には兵庫県の選手が勝ち進めなかったのである。兵庫県は伝統的にトップクラスの選手層が薄い。こればかりは最後の最後までどうにもならなかった。
 客の中には「賞金ごとメインと入れ替えろ」と言う人まで現れて、これにはさすがに笑った。A級決勝の1着賞金は67万5千円、そしてS級決勝の1着賞金は315万円。いくらなんでも、そりゃ入れ替えすぎだろう。

 競輪場が非常に幸せなムードになる中、レースは粛々と進行する。N君にはラインと選手の並び順だけ教え、後の車券検討は彼自身に任せることにしたが、なかなか当たらない様子。
 第7レースまで大活躍だった兵庫県の選手たちも、トップクラスのS級のレースになると、途端に不甲斐なくなった。まだ第9レースではラインの強い“自力型”に引っ張ってもらって2着に食い込んだが、第10レースでは兵庫県の若きエース・中村美千隆が沈没。今日の温かいファンも、さすがにこの不出来なエースには、マンガの砂漠風景で出てくるサボテン並にトゲトゲしたヤジを飛ばしていた。
 駒木などはボンヤリと、
 「S級は、最後の最後まで兵庫の選手はダメなんだろうなあ」
 と思っていたのだが、本当にそうなってしまった。A級選手が大活躍だっただけに、本当に惜しい。兵庫県の競輪場が無くなるこれから、地元競輪場の無い彼らはさらに苦労するだろうが、どこかでプロ根性のようなものを見せつけて欲しいと思う。

 そしていよいよ最終11レース、S級決勝。競輪ファンなら誰でも知っているが、一般人は誰も知らないようなメンバーが揃っている。この「社会学講座」でお馴染みの題材に喩えれば、競馬の騎手なら横山典・松永幹夫、フードファイターなら高橋信也、立石将弘といったランクの選手たちが集まっている。……ううむ、余計にワケが分からないかもしれないな。
 兵庫県の選手はいないが、せめて近畿ラインの選手たちに頑張ってもらいたいというのが客席全体の希望。しかしてそれは、いともアッサリと実現してしまった。
 最近地力急上昇中の“自力型”・村上義弘が、果敢に先行に打って出て、何とS級の錚々たる面々を脚力だけで完封して逃げ切ってしまったのだ。しかも近畿ラインの上位3着独占。これにはさすがの駒木も大いに驚かされた。7レースで“マーク型”の理想的なレースが観られたと思ったら、今度は“自力型”にとって最高のレースだ。今日の競輪はちょっと上手く出来すぎていて怖い。
 駒木、このレースの車券(11.3倍)を的中して、本日のトータルで、ほんの少しプラス。ただ、収支云々よりも、西宮競輪最後のレースを的中で飾れた感慨の方が深いのだが。ちなみにN君は残念ながら裏パーフェクト。ビギナーズラックは最後まで炸裂せず。まぁ、地元の和歌山競輪場でリベンジしてもらいたいものだ。

 全レースが終了後、S級決勝の表彰式と、西宮競輪の閉幕セレモニー。これまでが通夜だとしたら、これは告別式ということになるのだろう。いよいよ最後のお別れである。普段には無い事だが、大半の兵庫県所属選手がセレモニーに出席していた。
 優勝したのが京都の選手ということもあり、盛り上がりも中くらいの表彰式。しかし、抜け目無いと言うか容赦無いというか、賞状やカップを手渡す西宮市長や阪急電鉄の偉いサンには容赦なく罵詈雑言をぶちかます観客。
 「市長、お前が辞めぇ、コラァ!」
 「オイコラ、阪急電鉄! お前ン所が家賃取りすぎるから(競輪場)潰れたんやぞ!」(西宮競輪の運営サイドは、スタジアムの使用料として“大家”の阪急電鉄に年間6億円以上も要求されていた)
 ……結局のところ、行動や言動に誠意の見えない人間に厳しいのが競輪ファンなのである。行動や飛ばすヤジが過激すぎるので誤解されるが、性根の部分は温かい人が多い。まぁ、甲子園競輪場では、心無いヤジを飛ばすのをライフワークにしている困った人もたまにいるが。

 表彰式が終わってセレモニーへ。とうとう本当の本当に最後の最後である。
 ここでよせばいいのに、また西宮市長が出てきて挨拶をおっぱじめた。当然、客席からは先にも増して激しいヤジが飛ぶ。よくよく考えてみれば今の西宮市長は“死刑執行のボタン”を押す役を押し付けられただけなので、同情の余地も無い事は無いのだが、その挨拶文に「断腸の思いで廃止を決断した」などと、心にも無い言葉が混じっていては、罵倒されても仕方ないよな、と思う。
 やがて挨拶が終わったが、なんと客席からは御愛想の拍手もゼロ。本当にゼロであった。かつて、ファンから酔っ払いが道ばたで吐いたゲロを見るような目で毛嫌いされたオリックス・土井正三監督の辞任挨拶でも、パラパラとは拍手があったものなのに。これにはさすがに失笑が沸いた。
 逃げるように市長や阪急電鉄の偉いサンが退場した後、兵庫県選手による最後のファンサービス・選手のレース用ユニフォームの観客席への投げ入れ。まるでバブル当時の東京証券取引所のような騒ぎになったが、駒木はこれをゲットできず。中には4つもガメている客もいたというのに。ホント、駒木はこの手のツキが全く無い。塾講師時代、年数回の宴会のたびにある、上司の財布から現金大放出・生徒には見せられない超即物的抽選会で、一度たりとも景品・現金をゲットできなかった忌まわしい思い出が蘇った。これは、恐らくもう一度同様のファンサービスが行われるであろう、再来週の甲子園競輪ファイナルイベントに望みをかけるしかあるまい。

 全てのイベントが終了しても、なかなか帰ろうとしない客たち。やはり名残が惜しいのだ。
 そこへまず、選手たちがケジメをつけるように、入退場門近くに整列して一同、礼。「53年間ありがとうございました」の言葉に思わず胸が詰まる。ああ、ついに終わってしまった。今日1日で得た、一杯の幸せな気分の中に一抹の寂しさが影を落とす。

 外野席を出て、スタジアム出口へと向かう。当然のことながら、例のホルモン焼屋も、廃業寸前の状態で踏みとどまっていた予想屋のジイさんたちも店じまいしていて、場内は閑散としていた。
 そう言えば、午前中に駒木が近くを通り過ぎた予想屋のジイさんは、「今月限りで隠居や」と憮然とした表情で言っていた。ジイさんだけではない。食堂・屋台なども全て、今月末の場外発売終了を最後に廃業だ。店の人たちは、これからどうやって生活の糧を得ていくのだろうか。この事だけが心配でならない。

 しかし、この日の全体的な印象は爽快そのものだった。最後の最後を素晴らしいレースで締めくくってくれた選手の皆さんには心から敬意を表したいと思う。

 そして帰宅後、深夜。
 いつも通りインターネットを繋げていて、ふと思い立ってヤフーオークションの競輪関連商品を検索してみる。
 すると、そこには「レース用ユニフォーム」の出品がズラリと並んでいた。どうやらこの日にセレモニーで配られたモノを早速オークションに横流ししているらしい。
 まるで香典返しを売り飛ばすような行為。やっぱり、競輪ファンはロクデナシだなあ、なんて思いながら、ウィンドウ右上隅の×印を、静かに左クリックした。 (終) 


 ……と、いうわけでレポートも終了です。時間と体調不良に追われて、必ずしも満足の行くレポートとは行かなかったのですが、これはこれで、時間を置いた後に読み返せば味わい深いモノになるんじゃないかと、勝手に思っていたりします。
 とにかく、駒木の一方的な嗜好に付き合っていただき、誠に恐悦至極でありました。厚く御礼を申し上げて、この講義を締めたいと思います。(この項終わり)

 


 

3月11日(月) ギャンブル社会学特殊講義
「西宮競輪場“最後の日”観戦レポ
〜世界で一番幸せなバッドエンド〜(2)」

 
 ※第1回はこちらから。
 レポート文中は文体を常体にしています。


 入口手前で競輪新聞売りのバアさんから『競輪研究』を買う。値段は競馬新聞と同様、税込で410円なのだが、バアさんから買うと何故だか400円で買える。また、昼の2時過ぎからは、帰った客から50円だか100円だかで回収した新聞を250円でリサイクルしていた。
 また、西宮では、競輪場から新聞売りのバアさんたちに赤鉛筆が大量に渡されていて、新聞を買った客に無料で配っている。このご時世に赤鉛筆と言うのも、また“いかにも”な感じだが、ボールペンを忘れてきた時には結構重宝した。この日も1本受け取ったが、使わずにカバンにそっと忍ばせておいた。今日受け取る物は、全てメモリアルグッズだ。

 最後まで場違いに容姿レヴェルの高かった切符モギリ嬢の間をすり抜け、場内に入場。メモリアルデーで、更に記念競輪決勝日でもあり、客の数はここ1年で一番多いような気がする。1日入場者数6000〜7000ペースといったところか。いつもは問答無用でガラガラの特別観覧席も、今日ばかりは午前中で完売寸前だ。
 ただし、これもあくまで「ここ1年で」の話であり、駒木が競輪を始めた7年前ならば、五・十日の平日開催でもこれくらいの客は来ていたような気がする。それに、西宮競輪の全盛期は、入場人員が5万人を超える日もあったそうだというから恐ろしい。当時の言葉では、
 「(客は)野球で5千人、競輪で5万人」
 と言ったそうだ。阪急ブレーブス(現:オリックスブルーウェーブ)は、とことん人気が無い球団だった。客寄せに、当時全盛期だった盗塁王・福本豊とサラブレッドを競走させたりしたが、大して話題にもならなかったと聞く。馬と走らせるなら、まだ中野浩一と競走させた方が西宮らしかったのにと思う。

 駒木が入場したとほぼ同時に第2レースがスタートしていた。レースの様子を横目で見ながら、早速第3レースの予想を立てる。
 競輪の予想は複雑で難解で、そして非常に面白い。
 競輪と言う競技は、タテマエ上は9人による個人戦の自転車競走なのだが、実際には、選手たちは各々即席のチーム(これを『ライン』という)を結成してレースをする、事実上の団体戦なのだ。

 (以下、競輪についての解説。難解かも知れないが、ここを理解できないと、何も見えてこないので、是非ご一読願いたい)
 ラインは原則的に、風圧を真正面で受けながら果敢にレースを引っ張ったり(逃げ・先行)、後方からタイミングよくダッシュして他の選手をゴボウ抜きしたり(捲り)する“自力型選手”1人と、その“自力型”の後ろにへばりつき、風圧を避けて体力を温存し、最後の直線だけで勝負をする“マーク型選手”1〜3人から構成される。
 大抵、“自力型選手”は体力・脚力自慢の若手選手であり、“マーク型選手”は体力や脚力は衰えたものの、一瞬のスパート力とテクニックに長けた中堅・ベテラン選手であることが多い。が、当然例外もあって、5年程前だろうか、一番下のクラスで、還暦を過ぎた選手が“自力型”をやっていてたまげた事があった。喩えて言えば、ケーシー高峰が「爆笑オンエアバトル」に出演して、500キロバトル稼ぐくらいの感覚である。
 話を戻す。レース中、“自力型選手”は“マーク型選手”を最後の直線で有利なポジションに連れて行く代わりに、道中レースがしやすいよう“マーク型”に色々サポート・ガードしてもらう。共存共栄というわけだ。
 そして、同じラインを組むなら気心知れた仲間の方が良いというわけで、ラインは顔を合わせる機会が多い、つまり住んでいる地域が近い選手と組む事が多い。親密度は、
 練習仲間>同じ都道府県>地区(近畿、中国など)>近隣地区(近畿と中部、中・四国と九州など)>西日本同士、東日本同士
 ……といった順番になる。この図式だと、有能な選手が多い都道府県・地区は非常に有利なので、選手の間では、自分たちの地域から有望な選手を育てようという気持ちが強い。そして、その事が更に選手同士の結束を強くするわけだ。
 また、“マーク型”が2人以上いる場合は、“自力型”のすぐ後ろに付く方が有利(最後に抜かなくてはならない人数が減るから)になる。この場合、当たり前だが、原則的に能力が上の選手に有利なポジションが回ってくる。
 また、メンバーの組み合わせによっては、“マーク型”だけのラインが出来たり、ラインが組めずに単独行動を強いられる選手も出てくる。この場合は、他のラインの一番後ろに混ぜてもらったり、時には他のラインの“自力型”選手をぶん取ってしまったりもする。
 こうして、レースの途中まではライン同士の対抗戦として、そして最後の直線からは、それを踏まえた上での完全な個人戦に突入する。これが競輪と言う競技なのだ。

 ……こんな複雑な前提条件を頭に叩き込んで、9人がどのようなラインを組み、どういう順番で並び、そしてどういうレースをするかという事を考えるのが競輪の予想である。もちろん、選手の能力がレースの勝敗に最も影響を与えるのだが、いくら能力が高くても弱いラインしか作れない選手は、明らかにレースでは不利になる。この辺のサジ加減が難しい。
 そして、もう1つ競輪の予想を難しくするのが、選手間の人間関係だ。
 選手たちは、ラインを組んだ選手との今後の関係を良好にするために、競走中も大いに気を遣う。選手の機嫌を損ねると、次以降にラインを組んだ時の成績に影響するからだ。自分勝手なヤツに進んで協力しようと思わないのは一般社会と同じである。
 だから、“自力型選手”は、“マーク型選手”にも勝てるチャンスが回ってくるよう、多少は自分を犠牲にしてレースをするし、逆に“マーク型選手”は、その“自力型選手”の献身に応えて、レースの途中で自分のラインの“自力型”を裏切るような行為は慎む。
 この傾向はライン内における、普段からの人間関係の密接度に比例して強くなる。例えば普段から一緒に練習している2人がラインを組み、後輩が“自力型”で、先輩が“マーク型”の場合など、後輩の“自力型”は先輩を勝たせるために特攻隊と化す。自分は9着に負けてもいいから、先輩に勝ってもらおうとすら考える時もある。半分八百長みたいな話だが、客もそれを見越した上で車券を買うので問題ない。逆に後輩が先輩を見捨てて自分勝手な競走をした場合など、
 「あの野郎は命の恩人でも引っ張らねえヒデエ野郎だ」
 と、言う事で退場の際に罵詈雑言を浴びせられる。選手の側も少なくとも、仕事をサボって、嫁がタンスに隠していた生活費を持ち出して車券買っているオッサンには言われたくないだろうが、これが競輪の掟なのだ。
 このように競輪とは、本当に人間臭い競技なのである。また、それが魅力でもあるのだが。

 ややこしい話ばかりで恐縮だが、もう1つ。この日の「西宮競輪最後の日」という事実も、レースの予想に影響する特殊な条件となる。
 もともと競輪では、その競輪場の地元選手を優遇すると言う不文律が存在する。先に「ライン内の“マーク型”の並び順は実力で決まる」と述べたが、地元選手は実力差を覆して有利なポジションを得られるのである。
 この不文律は選手間だけの問題ではない。レースの対戦メンバーを決める胴元の側までが、地元選手が有利になるように気を遣う。もちろんこれも客は把握した上で車券を買う。
 ましてや、この日は兵庫県の選手にとって、地元の競輪場が無くなるという、これ以上無いメモリアルな日であり、その不文律が極限にまで適用される。有り体に言うと、「地元選手が勝つためなら、何をしても許される日」なのである。そして、兵庫県の“マーク型選手”と同じラインを組む“自力型選手”にも目に見えないプレッシャーがかかる。このシチュエーションはもう既に、レースの名を借りた性格診断テストなのである。プロ野球で言うなら、年間最多ホームラン記録がかかった、大阪近鉄・ローズ選手と対戦しているピッチャーの感覚とよく似ている。王監督が野球博物館から持ち出した日本刀を構えて、ベンチで仁王立ちしていない限り、直球で勝負したいというのが実感だろう。

 長々と難しい説明をして恐縮だった。ここで話がようやく戻る。これだけ前もっての話をしておかないと、ビギナーに話が通じないというのだから、競輪がどうしてマイナーなギャンブルになってしまったのか、非常に良く分かる気がする。
 駒木が予想している第3レース、ここには兵庫県の重鎮・橋本彰文が出走する。9人のメンバー中、能力は3番手というところだが、何より今日のシチュエーションを考えると、そんな力関係なんてどうでもいい。同じラインの“自力型”である三橋政弘(和歌山)が、近畿同士のよしみで捨て身のレースをするに決まっている。三橋はここでは力不足だが、だからこそ逆に迷い無く自分を犠牲に出来るはずである。というか、ここで特攻かけなかったら人間失格だ。
 で、実際のレースもそういう形になった。三橋がどう考えてもスタミナの保たない地点から先行し、果敢にレースを引っ張ってゆく。ラスト半周で三橋が力尽き、他のラインが差を詰めてきたら、今度は橋本が三橋を捨てて自力でラストスパート。これも本来はご法度の“番手捲り”だが、今日は特別。これが吉本興業の宴会ならば、新人芸人が木村常務のヅラを取って、素の頭をペチペチと平手打ちしても一向に構わない位の無礼講なのである。
 結果、橋本が1着、2着には橋本のすぐ後ろにいた同じラインの選手が流れ込んだ。地元選手の台本通りの快勝に、外野席の選手入退場門付近に陣取ったファンから大いに拍手喝采が沸く。いつもは「ボケ」か「アホ」か「コジキヤロー」しか言わない客も、今日はやけに温かい。
 この様子を見て、何だか本当に馴染みの人間の通夜に出席しているような感覚になって来た。人が死んでしまえば少々の悪事など帳消しになるように、西宮の競輪ファンも、色々な事は水に流して名残を惜しもうとしているのだろう。
 そう言えば、ここ最近、マスコミや競輪関係者が西宮競輪を語る時に、
 「西宮はファンの声援が温かくて……」
 と、口を揃えて言っていた。どう考えても“温かい声援”というより、“ヤケド必至の熱湯のような罵声”だったのだが、これは、横山やすしが死んだ途端に“暴力沙汰の絶えない不良漫才師”から“伝説の名漫才師”に昇格したようなものなのだろう。人間は往々にしてそういうところがある。勝新太郎しかり、小渕恵三しかり。その内、オサマ=ビンラディンも世界史の教科書で民族自立運動の英雄になるんじゃないだろうか。

 続く第4レース、これも兵庫県の選手が出走する。しかも2人。彼らが例によって即席で結成する“近畿ライン”には、出走9人中実力最右翼の“自力型”布居寛幸が出走する。普通にレースすれば、まず布居が勝ち、同じラインの選手が2着、3着を独占しそうな組み合わせだけに、尚の事、期待が高まる。オッズを見ればもちろん、布居と兵庫県選手との組み合わせの車券が売れに売れている。 
 ところが、だ。何を思ったか布居はスパートを躊躇してしまい、気が付いたら他の選手に囲まれて身動きが取れなくなってしまった。いくら強い選手でもこうなってはオシマイだ。
 「おいおいおいおい…」と思っていたら、今度は布居のすぐ後ろを走っていた兵庫県選手の船出進が、急遽“マーク型”から“自力型”に宗旨換えしてドッカーンと奇襲攻撃を決めてしまったではないか。確かに、船出はたまに自力でレースをしたりするが、それで結果になかなか繋がらないから“マーク型”をやっているわけで……
 思わぬ事態に慌てふためく内に、船出と、その後ろにマークしていた同じ兵庫県の塚本芳大がワン・ツーを決めてしまった。車番連勝単式で約25倍の中穴車券。まさかこんな展開になると思っていなかった駒木は痛恨の取り逃がし。
 またも大騒ぎの外野席・選手入退場門付近。兵庫県選手への歓声と、“某特撮関係者の葬式の時、焼香もソコソコにお宝グッズを根こそぎ持って帰った某俳優K”のような不義理でだらしないレースをした布居への、沸き立つ油をぶちまけるような熱い罵詈雑言。まるで2ch掲示板実況スレのようなお祭り騒ぎである。
 しかし、今日出走の兵庫県選手の、その気合の入り方がハンパじゃないのがヒシヒシと伝わって来る。これが普段から続いていりゃあ、もう少し兵庫県の競輪事情もマシだったんじゃないかとも思うが、これはまぁ野暮な発想なんだろう。

 ここで、前日チャットで誘っていた某MLの知り合いN君が合流。なんとN君はこの日が初めての競輪。彼にとっては最初で最後の西宮競輪場となるのだが、当然のように全く実感が無いようだ。まるで、大して親しくも無い親戚の通夜と葬儀に連れて来られたような感覚なんだろう。号泣する遺族の後ろで、為す術無く数珠を片手に立ち往生している様子が思い浮かんできた。駒木が誘っておいてナンだが、ちょっと酷な事をしてしまったのかもしれない。
 とりあえず、競輪のルールやレースの流れを最低限のものだけレクチャーし(詳しく説明しても混乱するだけなので)、レースごとの合間には競輪場の中を案内する。しかし、去年の今頃、競輪場スペースの大半が、リストラに伴い閉鎖されてしまったので、案内すべきスポットが大分減ってしまった。だからあっという間に見所が無くなってしまう。これはこれで悲しい話だ。
 最後に、前日チャットで話していた、場内入口付近のホルモン焼屋に案内した。京阪神の公営ギャンブル場には多くのホルモン焼き屋があるのだが、ここの店のホルモン焼は、ちょっと使っている肉が違う。
 普通、ホルモンと言うと牛の腸の部分だが、こういう高級でない場所では、「ホルモン=“放るもん”=捨てるようなクズ肉の部分」というワケで、何のどこの肉だか分からない串焼きがホルモン焼と呼ばれる。大抵の店は鳥のどこかの内臓を使っているのだが、ここの店は牛肉らしい肉のホルモン焼が食べられる。これが美味い。
 とはいえ“放るもん”だけに、素の状態では食えたモンじゃない。ニンニク風味のキツい焼肉のタレをドップリ漬けて食うのがポイント。不思議な美味さが出てくるのである。1串100円也。

 さて、N君を案内したこの店は、駒木も西宮競輪に来るたびにホルモンを買いに行っていて、その結果、顔を覚えてもらって時々オマケしてくれた事もある位の顔なじみであった。
 この日も颯爽と店の前へ行き、ホルモンを注文。いつもは1〜2本だが、今日は一生の食べ納めになるので5本注文。N君も釣られるように3本購入していた。
 いつもはほとんど店の人と会話しない駒木だが、今日はさすがに一言かける事にした。
 「もうこの店も終わりやねぇ」
 すると、店のオバチャン(40代後半くらい)も商売とはいえ、愛想良く応対してくれる。両手には、お好み焼きを作るようなコテ。やはりお好み焼きを焼くような鉄板に手際よくホルモン串を押し付けてゆく。
 「そうよ〜。もう今日は飽きるくらい食べていってねー」
 「もう、そらタップリと食わせてもらうわ」
 「お兄ちゃん(駒木の事)には、よう来てもらったもんねぇ。ありがとうねー」
 このやりとりを聞いて、隣にいたN君が噴き出した。
 「駒木さん、顔覚えられてるじゃないですか!」
 彼にとって、20代半ばの駒木が競輪場のホルモン焼屋で顔なじみという事実は、それなりに衝撃だったらしい。まぁ、一般人としては当たり前の反応だな、と思うが。
 苦笑する駒木をよそに、店のオバチャンが言葉を続ける。
 「そうよ〜。男前の顔はすぐに覚えるんよ〜」
 注意しておくが、関西弁エリアのオバチャンの言う「男前」ほどアテにならない褒め言葉は無い。なにせ、散髪から帰ってくるたびに、
 「あら〜、男前にしてもろて〜」
 と言うのが常套句なのである。無造作ヘアだろうが、パーマかけようが、丸刈りにしようが、スキンヘッドにしようが、無条件で“男前”である。アメリカ空軍のアフガン空爆でも、もう少しばかり節度があろうかというものだ。
 余談になるが、以前、20代の男性なら経験があるだろう、やけに馴れ馴れしい電話のキャッチセールス攻撃を食らった時、こんなやりとりがあった。

 

「はじめまして! あなたがオットコマエのハヤト君ですか?」

「………ハァ?」

 何度かこの手のキャッチセールス的な電話を受けた事があるが、これがピカイチであった。普段は目や耳にする機会が無いだけで、実は女のナンパも大概は“寒い”という事実に気付かされたものだった。

 余談から話を“オバチャンの「男前」話”に戻そう。
 「男前」が関西弁エリアでは「アホちゃうか」級の常套句である事に加え、普段の競輪場での客層は、過半数が年金受給者という恐ろしい高齢社会なのである。もし、競輪場の客が100人の村だったら、20代の男は駒木1人だけになってしまう。だから、競輪場で駒木が「男前」と言われるのはむしろ必然に近い。
 そして、調子付いた関西弁のオバチャンのお世辞がエスカレートするのも、また必然。
 「いやー、ウチの娘と結婚させたいぐらいやわ〜」
 …と、ついにホルモン焼と一緒に娘まで売り始める始末。
 お世辞とは承知しつつも、ここまで言われたら悪い気はしない。が、ここで機転を利かせてオチをつけるのが関西弁エリア住人の義務である。
 「いやいや、娘さんを競輪やるような男と結婚させたらアカンでぇ」
 「ハハハ。そう言えばそやねー」
 やはり競輪の常連客は、どこまで行ってもロクデナシなのである。ただし、愛すべきロクデナシであるが。
 最後に「それじゃあ」と簡潔に別れを告げ、店を立ち去った。恐らくもう一生会う事は無い人なんだろうなあ、とちょっとしみじみする。これもまた、人生か。(続く

 


 

3月10日(日) ギャンブル社会学特殊講義
「西宮競輪場“最後の日”観戦レポ
〜世界で一番幸せなバッドエンド〜(1)」

 初めに少しばかり前口上を。
 実は、この西宮競輪廃止関連の講義については、これを題材にした駒木執筆の短編小説を掲載する予定でした。裏事情を言ってしまうと、プロットも完全に出来ていて、後はキーボードを打ちつけるだけだったのです。
 しかし、土壇場になって計算が狂ってしまいました。
 というのも、今回の短編小説は、この出来事が“救いようの無い悲劇”であることが前提条件でした。そして事実、“最後の日”直前までそのような結末を迎えようとしていたのです。
 ところがその“最後の日”に西宮競輪場で一日を過ごした後で、湧き上がってくるのは少しの寂しさと、それを包み込んで覆い隠してしまうような温かい満足感でした。
 もう2度と競輪が行われる事の無い西宮スタジアムを背中に家路へ就きながら、「競輪ファンをやっていて、本当に良かった」と思える、そんな“最後の日”だったのです。
 もうこうなってしまっては、救いようの無い悲劇は描けません。事実を歪めてまでセミ・ドキュメンタリー小説を描けるほど、まだ自分の感覚はスレていないのです。
 というわけで、急遽、このようなレポートの形で講義をお送りする事になりました。
 受講生の方の中に、競輪ファンや競輪の知識を持っている人がそう多いとは思えませんが、だからこそ、この日の模様を様々な人に伝えたいと思うのです。
 かつて西宮競輪場という、過激で汚くて、でも人情味のある素晴らしい鉄火場があったという事。そして、この競輪場とそこに関わる人たちが、その終末をどのようにして受け止めたかという事を。
 記録は廃棄され書庫の隅に追いやられ、記憶は風化されやがて消えてゆくものです。でも、それを承知で伝えたい、そんなレポートをお送りします。

 ……こんな小洒落た口上を書いておいてナンですが、本文のテイストはいつも通りですので、安心してください。気楽に楽しんで、もしよければ頭の隅にでも引っ掛けておいてくださるなら幸いです。
 ※文中敬称略、文体を敬体から常体に変更します。


 情けない話から始めるが、実はこの日、駒木が競輪場に到着したのは第2レースの発走直前であった。要は遅刻である。密かに狙っていた、オリジナルクオカードが当たるラッキーカード(クジみたいなもの)も先着3000名に届かず、ゲットできなかった。
 前もって講義で扱う予定を立てておきながら遅刻。まるで恩人の葬儀に間に合わず、対面した時は壷に入っていた、くらいの不義理である。本当に自分はバカなヤツだと思う。
 ただ、言い訳をする材料くらいはある。一番大きな原因は、実はここの講義に難儀して、朝方まで起きていたことなのだが、それに加えてこの日は朝からバタバタしていたのだ。

 この日の朝、自宅を出る寸前のところで、1月まで勤めていた職場(某公立高校)から電話があった。もう7割方諦めていた、世界史講師の仕事の打診である。
 原則的に仕事運に恵まれていない駒木は、いつも諦めた頃になって講師の仕事が舞い込む。過去2度仕事が舞い込んだ時は、アルバイト雑誌を買って帰って来たところだった。特に去年などは、前日にフリーターで1年間過ごす事を決心した矢先の出来事であった。
 後から聞いた話だが、昨年の時は土壇場で人が足らなくなり、校長が知り合いの校長に“すぐに紹介できる人材”を求めたところ、そこに駒木の名前が出てきたとの事だ。その「知り合いの校長」とは、駒木が1度目の仕事にありついた職場の校長であった。しかも、心臓発作で倒れた正規教員が奇跡的な回復を見せたため、たった2ヶ月しか勤めていなかった駒木の名前と顔が「知り合いの校長」の脳裏に浮かんできたのは偶然に近かったはずである。タイトロープに次ぐタイトロープ。それが無ければ、今年も仕事は無かったはずだ。今から考えてもゾッとする。
 そして3度目の今年は、西宮競輪最後の日に仕事の打診である。何というか、極めて印象深い日に印象深い出来事が起こるものだ。この調子で素晴らしい女の子との出会いでも起きないものかと一瞬思ったが、西宮競輪場でフリーの若い女の子を見つけるなんて、サハラ砂漠のド真ん中でよく冷えたメッコールを拾うようなもんである。裏切られるのが分かっている期待は抱かない内に捨てておく事にした。

 自宅から西宮競輪場(=西宮スタジアム)までは、電車等を乗り継いで1時間ほどかかる。しかし、駒木が初めて西宮競輪に行った時は震災直後で(近畿地方の競輪ファンには『松本整の番手捲り』で有名な、かの『震災復興競輪』だ)、阪急電車が一部不通状態のため、途中から代替バスに乗り換えて西宮北口駅に辿り着いたのだった。
 皮肉な話ではあるが、駒木が西宮競輪に通った7年間で一番活気に溢れていた時期がこの、通うのに一番不便な頃だった。
 あれから復興の名のもとに様々な新しい近代的なビルが建ち、それまでの古い町並みは一掃された。西宮競輪場は、辺りが“震災後”に移り変わってゆく中で、頑なに“戦後”を守り続けた場所でもあった。
 しかし、それも今日限りだ。
 建物は関西学生アメフトのメッカとしてしばらく残るだろうが、それもいつまで続くやら。近い内にスタジアムを叩き潰して、大規模な総合病院を建てるという噂まである。スリルを売り物にしていた場所に安心を売り物にする施設を建てたところでロクなものにならないと思うのだが。「あそこの病院は、昔競輪場があった場所のせいか、手術の当たり外れが激しくてねえ」なんて言われるようになるのが目に見えている。後でも述べるが、西宮競輪場の別名は「ルーレットバンク」である。出来た病院が「ルーレット病院」と呼ばれてはシャレにもなるまい。
 少なくとも駒木は、1年中ホルモンを焼いていたような所で自分の内臓を療養したくは無い。

 そうこう考えている内に競輪場にやって来た。
 スタジアムの壁には「53年間ありがとうございました」の垂れ幕が。53年前と言えば総理大臣が吉田茂だった頃の話だ。入口手前で新聞を売ってるバアさんが小学生だったことになる。
 ……いかん、ヘンな想像力を働かせると車券に響く。雑念は払って、とりあえず中に入る事にする。(続く

 


 

3月9日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース(9)
1998年スプリンターズS/1着:マイネルラヴ

駒木:「ちくしょー、ネタが無いぞー!
珠美:「は、博士…大きな声でそんな事を…。それに、『ネタ』って言い方は……(汗)」
駒木:「実は、来週にまとめて映像資料を入手することができそうなんだけど、今週はその谷間なんだよね。せっかく映像が観られるのに、それを入手する前に講義するわけにいかないじゃない(苦笑)。
 で、入手できるレース以外で、手元に映像資料が残っていたり、当時の様子を克明に記憶しているレースを探すとなると非常に骨が折れた(苦笑)」
珠美:「そういうわけでしたか(苦笑)。それで、今日扱うレースは……1998年12月のスプリンターズステークス(以下、スプリンターズSと略)ですね。
 ……なるほど、約3年前だったら当時の様子もよく覚えてるわけですか(笑)」

駒木:「おいおい、助手だったら、もう少し聞こえが良いようにフォローしてくれよ(苦笑)。
 まぁ、そう言われると反論できないけど(苦笑)、一応テーマを決めた上で題材にしたんだからね。行き当たりばったりってワケじゃないぞ」
珠美:「テーマですか?」
駒木:「そう。今日観るレースは、有名な競馬格言の1つ『競馬に絶対は無い』っていうのがテーマなんだ」
珠美:「そう言えば、よく聞く言葉ですね。これは勝負事全体に言えることかもしれませんけど……」
駒木:「でも競馬は特にそうだよ。そもそもギャンブルってのは、確率100%という要素があると成立しないものだから、必ず波乱の目はある。それに加えて、競馬は人間じゃなくて別の生き物が絡んでくるわけだからね。同じ人間の考えや行動でも予測不可能なのに、馬のする事が分かりっこない。そうだろ?」
珠美:「ええ、まぁ…確かに」
駒木:「『どうして今更そんな事言うんですか?』って顔してるね(笑)。でもさ、競馬やってる人って、よく言うじゃないか。『このレースは堅い。鉄板だ!』とか『絶対大丈夫! 勝てるって!』とかさ。珠美ちゃんも競馬場とかウインズ行ったら聞く言葉じゃないかな?」
珠美:「そういえば、皆さん言ってますね(笑)。……確かにそうですね」
駒木:「だろ? 気持ちは分かるけど、矛盾してる事この上ない。だから今日の講義は、そんな『絶対だ!』みたいな事を二度と言わないよう戒める意味で、このレースを採り上げたんだ。芝短距離の日本競馬史上最強馬・タイキシャトルが、まさかの3着敗退を喫して馬連の対象から外れてしまったレースをね。
 事実、僕はこのレース以来、競馬の予想をする時に『絶対』と言う言葉を使わないようになったんだ。ちょっとした授業料を払ったおかげでもあるけど(苦笑)」
珠美:「そうだったんですね。分かりました。あ、私は当時、仁経大付属高校の生徒でしたからレースは観てても馬券は買ってませんでした。ちょうど仁経大編入飛び級入試の勉強中でもありましたし。ただ、『馬券買えなくて良かった〜』って思った覚えはありますね(笑)」
駒木:「まぁ、そういうわけで、レースの紹介をしてもらえるかな?」
珠美:「ハイ、分かりました。……このレースが行われたのは、先程も言いましたが1998年12月の20日でした。まだこの頃は冬のレースだったんですよね。
 このスプリンターズSは昭和42年に創設されたレースですなんですが、当時はまだ短距離レースの地位が低く、あまり大きな扱いはされなかったようです。昭和59年のグレード制導入の際も、初めはG3格付けでした。それでも、その後短距離レースの地位向上と共にグレードも上がってゆき、1990年からG1に格上げされました。なお、1994年から海外調教馬にも開放されていますが、これまで上位に入った馬はいません。
 現在は秋シーズンに施行時期がずらされてますけど、レースの条件は長い間変わらないままですね。中山競馬場の芝外回り1200mです。ただし、今年は東京競馬場の改修工事の影響で、新潟競馬場で行われますけれど」

駒木:「まず、短距離路線の地位云々って言うのは、つい最近までのダート競馬を思い浮かべてくれればいいと思う。つい十数年前までの競馬は、あくまで中長距離がメインであって、短距離は従属物に過ぎなかったんだよ。
 それから施行時期の話。JRAってのは、矛盾に満ちた競馬法は変えようとしないくせに、レースの条件とか施行時期はコロコロ変えるよね。競馬ファンはともかく、厩舎関係者はたまったもんじゃない。
 例えば宝塚記念。『3歳馬の出走が見込めない時期に行うのはいかがなものか』ってクレームがあって、わざわざ中京と阪神の開催を入れ替えるまでして今の時期に移転されたんだ。だけど少し考えてみたら、どんな時期であれ、ダービーで目一杯走ったトップクラスの3歳馬が宝塚記念に大挙出走するなんて有り得ない事くらい分かりそうなもんだけどね。案の定、以前にも増してファンからのクレームがつくようになってしまった
 この時期変更で一番災難だったのは、宝塚記念に出走した馬とその厩舎だった。秋シーズンとのインターバルが1ヶ月近く短くなった事で、夏場の調整を失敗する馬が相次いでしまったんだな。JRAも慌てて札幌記念を別定のG2にしたりして、臨時ステップレースを組んだけどね。
 ……で、このスプリンターズSに関してだけど、12月の中山競馬場っていうのは、とにかく馬場が荒れていてねえパンパンの良馬場が理想の馬には鬼門みたいなレースだった。スギノハヤカゼとかマサラッキとかは、レースに出てくる前から終わってたような印象があったものね」
珠美:「……それでは、この時のレースの有力馬を紹介します。出走馬は16頭だったんですが、イギリスから来日したボルショイ号がレース前の最終調整で骨折してしまい、出走を取り消し。結局レースに出たのは15頭でした。
 まず、単勝オッズ1.1倍というダントツの1番人気がタイキシャトル。戦績は12戦11勝2着1回、この時点で8連勝中、G1は国内外合わせて5連勝中という凄い馬でした。戦績の詳細については、また後で博士に解説していただきましょう。
 2番人気はシーキングザパール。でも、単勝オッズは10.5倍だったんですね。タイキシャトルに先立つ事1週間、フランスのモーリス・ド・ギース賞で日本調教馬初の海外G1制覇を達成した馬です。前年のNHKマイルカップも勝っていて、G1を2勝していることになりますね。前走のマイルCSは8着。実力以上の惨敗で、道中掛かり気味だったことと、本質的に1600mは長すぎたことが敗因とされています。
 3番人気はワシントンカラー。ダートを中心に使われていた馬ですが、昨年のこのレースを3着、そしてこの年の高松宮記念を2着と、芝の1200m戦でも通用することを戦績で実証していますが、G1無冠では、海外で活躍している2頭に比べて見劣りするのは仕方の無いところだったのかもしれませんね。
 これ以下になると、もう単勝オッズは20倍以上です。(旧)4歳限定の1200m戦重賞を2勝しているトキオパーフェクトや、当時はまだ全盛期に突入する前のエイシンバーリンが4、5番人気でした。
 ……このレースを勝ったマイネルラヴは7番人気だったんですね。前年の朝日杯3歳S(当時)でグラスワンダーの2着に健闘した以後はG3・セントウルSを1勝だけ。確かにこれでは単勝人気が低迷するのも仕方ないところでしょうか。
 ……私からは以上です、博士」

駒木:「うん、ありがとう。じゃあ、細かい点の解説だね。
 まず、タイキシャトル。デビューが(旧)4歳の4月ってあたりがいかにも藤沢和雄厩舎だけど、初めから短距離志向の馬だったから、焦らずに仕上げたのは正解だったんだろうね。本格化前に、オープン特別で1度だけクビ差2着に負けてるけれど、あとはもうありとあらゆる条件で重賞・G1勝ちを収めている。
 G1デビュー戦になった(旧)4歳のマイルCSについては、サイレンススズカ三番勝負の時に扱っているから、そちらを参照してもらうとして、それからがとにかく凄い。
 まず、前年のスプリンターズSを能力の差で圧勝。年が変わって5月の京王杯をレコ−ド勝ち、安田記念は不良馬場の中、海外の強豪を相手にこれまた完勝。満を持して乗り込んだフランスのジャックルマロワ賞でも、慣れない直線コースを克服して見事に快挙達成。そして、調整が難しいはずの帰国緒戦でもビッグサンデー以下を全く相手にせずに5馬身差で連覇。もうパーフェクトとしか言いようのない成績だったね。シンザンも、シンボリルドルフも、ナリタブライアンも、テイエムオペラオーも、ここまで完璧な成績は残していない。まさに史上最強馬だった。このレースの直前気配も抜群で、死角らしい死角は全く無かったんだよ。それが負けちゃうんだからねえ……。
 あと、シーキングザパールについても少し解説しておこうか。珠美ちゃんが紹介してくれた通り、この馬は日本調教馬初の海外G1制覇を達成したんだけど、実は世間的には、『G1制覇』の第一報が伝わるまで全くのノーマークだった。1週間後に出走を控えたタイキシャトルの方に皆が注目してたからね。だから、ニュースが入って来た時は半ばパニック状態さ。
 今となっては信じられないけれど、当時は国内でNo.1じゃない馬がヨーロッパのG1を勝つなんて、到底考えられない話だったんだよ。特にこれより少し前、ダンスパートナーサクラローレルがチャレンジに失敗していたから、日本の競馬ファンは大きなコンプレックスを抱いていたんだね。タイキシャトルでも『この馬なら、どうにかならないものかなあ?』って半信半疑だったくらいだもの。
 ドバイワールドCで2着馬を出したり、香港国際レースでG1馬がいっぺんに3頭も出るようになった今とは、まったく感覚が違っていたわけ。これがたった4年前だもんなぁ……」
珠美:「そういえば、私が競馬を観始めた5年前は、『いつか海外で日本の馬が活躍できたらいいなぁ……』って感じでしたものね。まるで受験生が『東大に入れたらいいなぁ……』って思うように」
駒木:「ほんとにね。夢物語がたった数年で現実だもんな……。
 あぁ、時間が無いや。レース回顧を急ごう」
珠美:「ハイ。1200mのレースですから、あまり時間はかからないと思いますけど(笑)。
 レースはシンコウフォレストとエイシンバーリンの2頭が、競り合いながらハイペースで引っ張る形になりました。その後ろに本来は逃げ馬のトキオパーフェクトが控えて、それらをマークする形でタイキシャトルがいました。そして、タイキシャトルをさらにマークする形でマイネルラヴとワシントンカラーが馬なりで追走。シーキングザパールは最後方からの追走になりました」

駒木:「これが全盛期のエイシンバーリンなら、競り合うことも無く、単独で超ハイペースを演出しただろうけどね。この当時じゃ、これが限界だったんだろう。あと、シンコウフォレストは、この年の高松宮記念を勝ってるんだけど、秋に入ってから大スランプでね。ちょっとこのレースでは勝ち目が薄かった。
 タイキシャトルは絶好位だよね。観ていて『これは間違いない。絶対に圧勝だ』と思ったよ。でも、『絶対』は無かったんだね。
 シーキングザパールは最後方か。スプリント戦は先行有利だから、武豊JKもかなり勇気のある決断をしたもんだ。さすがは“追い込みの武豊”といったところかな」
珠美:「位置取りが落ち着く間もなく、早くも勝負処を迎えます。まず、早々とタイキシャトルが捲り気味に先頭に並びかけますが、この時、馬体を合わせるようにマイネルラヴも一緒に上がってゆきます。ワシントンカラーは、ここでやや置かれ気味。最後方のシーキングザパールは、ようやく順位を上げていきましたが、まだ後ろの方でした。
 直線入口。タイキシャトルが先頭に立とうとしますが、マイネルラヴの方が脚色が良く、先頭を譲りません

駒木:「ここで初めて、タイキシャトルの様子がいつもと違う事に気が付いた先週の講義で話に出した、京都新聞杯のナリタブライアンとよく似てる感じでね。いつもはスパっと切れるはずのラストスパートで、やけにモタモタしてるんだ
 この時の岡部JKのコメントを見ると、この時のタイキシャトルはご機嫌斜めで、ずっと怒った状態でムキになって走っていたらしい。『そんなの聞いてねえよ』ってのが実感だったけど(苦笑)」
珠美:「それでもタイキシャトルは差し返そうとするんですが、直線半ばでついに力尽きます。そこへ矢のように飛んできたのがシーキングザパール。デビュー以来12戦して2着を外した事の無かったタイキシャトルが3着に敗れた瞬間でした」
駒木:「この時は阪神競馬場のターフビジョンで観てたんだけど、まさに場内騒然と言うか、何と言うか。一言で表現するなら『勘弁してくれ〜』って感じだったね」
珠美:「1着がマイネルラヴ、2着シーキングザパール。なんと万馬券なんですね」
駒木:「そう。タイキシャトル一本被りだったからね。僕もタイキシャトルからの流し馬券しか持っていなかった。
 で、これ以来、『競馬に絶対は無い』ということを実感して、どんなに強い馬が出て来たとしても、その馬が絡まない馬券も最低1点は買うようになった。そう言う意味では、僕にとって非常に教訓になったレースだったね」
珠美:「わかりました(笑)。それでは、その後のお話をお願いします」
駒木:「タイキシャトルはこれで引退。で、シーキングザパールは、翌年以後も高松宮記念2着とか、一応の活躍を見せた後にアメリカへ渡って、1回レースに使われた後、繁殖牝馬になった
 マイネルラヴは……うーん、この後はサッパリだったなあ。このレースで全ての力を使い果たしちゃったのかもしれないね。ワシントンカラーは未だに現役。重賞でも活躍してるね。脇役に徹する立場になったけど、健在なのは素晴らしい限り。
 あとは……そうだなぁ。このレースは6番人気で荒れ馬場が応えて惨敗したマサラッキが、パンパン馬場の高松宮記念に勝ったくらいかなあ。
 ちょっとパッとしないけど、そんなところ」
珠美:「……ありがとうございました」
駒木:「珠美ちゃんもお疲れ様。来週はナリタブライアンが挑戦した、1996年の高松宮記念を採り上げる予定だよ。それじゃ、今日の講義を終わります」(来週に続く)

 


 

3月7日(木) 法学(一般教養)
「日本国女帝誕生へ向けての諸問題(6)」

 えー、毎回毎回間隔の開くこの講義ですが、意外と評判が良いようで驚いております。
 こんな事、実際に高校で世界史を教えている人間の言う事ではないのですが、こういう笑い所の少ないガチガチの歴史講義なんて面白いと思ってくれているのだろうか、と前々から疑問に思っていたんですが……。
 多分、学校の授業では聴いた事が無い話が出て来るのが興味深いのだと思うんですが、本来学校の授業ではこういう話を主にしないと駄目なんですがねえ。駒木が実際に学校で授業する時は時間が許す限りはこの手の話をするようにしてますが、それでも教科書の内容を消化するだけで手一杯だったりします。
 本当に文部科学省というのは何をする省庁なんですかねあ、サッカーくじの胴元業務がありましたな。

 さて、未受講及び、講義内容を忘れたと言う方はレジュメへの直リンクを用意しておきますので、まずそちらからどうぞ。
 《レジュメ第1回/第2回/第3回/第4回/第5回

 あと、受講生の方から質問が有りました。
 「大正天皇は庶子だという事を聞いたことがあるのですが、本当でしょうか?」
 ……という質問です。
 簡潔にお答えしますと、本当です。明治天皇は側室を持った最後の天皇で、大正天皇は側室の子になります。旧皇室典範によると、庶子の皇位継承順位は、全ての嫡子の後という事になるのですが、明治天皇には嫡子がいなかったため、庶子の中で最も継承順位の高かった大正天皇が即位したと言うわけです。
 お分かりになりましたでしょうか?

 では、講義の方へ移らせて頂きます。
 前回は、ドイツ第一帝国(神聖ローマ帝国)とオーストリア王位の帝位&王位継承権事情について講義をしていましたが、1256〜73年の大空位時代で時間切れとなったのでした。
 そもそも法学の講義でダラダラと歴史の話をするのもどうかと思いますが、今しばらくのお付き合いを。

 ドイツ王国並びに神聖ローマ帝国を構成する数百の領邦君主たちが、自分たちの勢力維持のため無力なドイツ国王・ローマ皇帝を選出しようとした挙句に訪れた“大空位時代”。これを現代日本で喩えると、自民党の派閥抗争による過度の牽制から、一番権力に程遠い、保守系無所属の西川きよしが総理大臣に選ばれるようなものでして、自業自得とはいえ、さすがの領邦君主も大いに反省したのでした。
 このような領邦君主間の過度な牽制を避けるため、有力領邦君主が中心になって国王&皇帝選出ルールの改定を進めました。また“大空位時代”になった時に、お隣のフランスなどから侵攻されたりするとシャレにならないからです。
 これが明確な形になったのが1356年に、時のローマ皇帝・カール4世から発せられた「金印勅書」というものでした。教科書・参考書でも漏れなく掲載されているので、名前だけは知っている人も多いかと思います。
 この「金印勅書」の中身は、簡単に言うと国王&皇帝選出のための新ルールブックです。
 これまで振り返ったとおり、旧来のルールでは、全ての領邦君主に“選挙権”があったために混乱が絶えなかったのです。特に初期では、全ての領邦君主が一堂に会して、1人1人が壇上で皇帝候補を指名していたといいますから、随分まどろっこしい事をしていたものですよね。
 「金印勅書」ではその反省点を踏まえ、選挙権を7人の有力領邦君主に限定(選挙権のある領邦君主を“選帝候”と呼びます)し、彼らの投票(というか会議)で皇帝を選出することになったのでした。
 これにより混乱は収拾し、皇帝はキチンと帝国内の諸侯の中から皇帝に相応しい人が選ばれる事になったのです。あくまでもタテマエ上は、ですが。

 ……前回の講義から、この神聖ローマ帝国皇帝の話を日本の総理大臣の話に喩えることが多いと思われているでしょうが、この喩えが一番シックリくるんですよね。
 で、「金印勅書」についても同じ事が言えるわけなんです。
 この選帝候の皇帝選出会議というやつ、これは今風に言うと、自民党の大物政治家が密室で会議をして次の総理大臣を決めるようなものなのです。
 密室で選ばれた総理大臣が大抵無力なマリオネットであるように、選帝候から選ばれた皇帝も、おしなべて無力な存在でありました。そりゃそうです。選帝候の立場からしてみれば、自分たちの力を削いでしまうような政治力・軍事力を持った強い皇帝を選ぶはずがありません。なるべく利用しやすくて、選帝候たちより力の弱い領邦君主を選んで皇帝に据えたというわけです。

 ……とまぁ、そうしてドイツ・神聖ローマ帝国では、“領邦君主中心主義”と言っても良いような、独特の政治制度が確立します。
 これによって、とりあえず帝国内の情勢は安定します。カリスマ的な指導者がほとんど現れなかったために国そのものが発展できなかったという犠牲を払いつつも、それと引き換えに低成長の安定を手に入れる事が出来たというわけです。

 しかし、ここからがややこしい話なのです。
 ここまで説明した制度の性質を考えると、「金印勅書」以後の神聖ローマ皇帝位は、領内の中小領邦君主でタライ回しにされるはずなのですが、史実はその見通しと大きく異なってしまいました。
 なんと、15世紀の半ば頃からずっと、たった1つの領邦君主の家系が皇帝位を独占してしまうのです。選挙によって選ばれるはずの皇帝が、事実上世襲の皇帝であると言う、わけの分からない事態が訪れます。
 その混乱の主役となる家系とはハプスブルク家。神聖ローマ帝国消滅後もオーストリア皇帝として君臨し、1918年に帝政が廃止されるまで世界史の表舞台に立ち続ける超有名な家系です。

 ハプスブルク家に初めて神聖ローマ帝位が“タライ回されて”来たのは1273年。そう、大空位時代後の初代皇帝として、ハプスブルク家のルドルフ1世に白羽の矢が立ったのです。当時は「金印勅書」制定前ですが、有力領邦君主の談合で皇帝が決まっていたのは当時からの話だったようです。
 ただし、選ばれた理由は“軍事的に無力で人畜無害”という、いかにも神聖ローマ的なもの。当時のハプスブルク家は、現在のスイスのごく一部に領土を持つ、ただの田舎領主に過ぎませんでした。
 ですから、ルドルフ1世が「皇帝即位」の一報を受けた時、彼は喜ぶどころか憤然として「人を馬鹿にするにも程がある。そのような戯言をおっしゃるものではない」と使者に告げたと言われてますから、その身分不相応さが想像出来ようというものです。
 この時ハプスブルク家が手に入れた皇帝位は、残念ながら2代限りで手放す事になってしまいます。と、いうのも、無力という事が買われて(?)帝位に就いたルドルフ1世が意外にもやり手の君主であり、わずか1代で、真の意味で皇帝に相応しい存在に登りつめてしまったからです。歴史の世界では“ハプスブルク=オーストリア”なのですが、オーストリアに確固たる領土を築いたのも、ちょうどこの前後でした。
 矛盾めいた話ですが、当時の流れからして、神聖ローマ皇帝位に相応しい人間は皇帝になる事は出来ません。帝国を代表する領邦君主に成り上がったハプスブルク家から皇帝位が剥奪されたのは当然の話だったのです。

 では、どうしてその後、再びハプスブルク家に皇帝位が巡ってきたかと言いますと、数百年経過して、ハプスブルク家がすっかり没落していたからなのでした。分かり難いようで分かり易い話ですよね。なんだか、男が最愛の妻をさておいて浮気するに至る一見複雑な感情が、「実はヤりたいだけ」という分かり易い一言で説明できてしまうのと似て……いるかどうかは皆様の解釈にお任せしましょう(笑)。
 何はともあれ、再びハプスブルク家に皇帝位が戻ってきたのは1438年のことでした。没落したが故の帝位奪還だったのですが、この後、ハプスブルク家と神聖ローマの運命は複雑にうねってゆきます。

 まずハプスブルク家ですが、こちらは帝位奪還以後、急速に勢力を拡大してゆきます。
 といっても、武力で領土を拡大したわけではありません。この頃からのハプスブルク家における“お家芸”とも言われる、“政略結婚→遺産相続により領土拡大”の黄金パターンが見事にハマりまくったのです。
 気が付けば、ハプスブルク家の領土には、ゲルマン時代からのフランスの要所であるブルゴーニュ公領や、広大なスペイン王国までもが加わっていました戦わずしてヨーロッパ最大の大領主。作り話なら出来すぎていて、文字通り“お話にならない”出来事が起こってしまったのです。まさに事実は小説より奇なりというべきでしょうか。

 次に神聖ローマ帝国全体に関わる事情の変化です。
 ハプスブルク家が急速に力をつけていった頃から、帝国の東にあったハンガリーとオスマン=トルコが帝国領を侵し始めたのです。その勢いの差たるや歴然で、東方の雄は怒涛のように西へ西へと押し寄せて来ました。
 まさに国家存亡の危機。こうなっては悠長に皇帝位をタライ回ししている場合ではありません。帝国を守るためには帝国内で最も実力を備えた領邦君主を皇帝にする必要がありました。
 この時、実力最右翼にあったのが、充実著しいハプスブルク家でした弱小ゆえに帝位に就いたと思えば、今度は最強ゆえに帝位に就く。何という運命のいたずらでしょうか。こうして、ハプスブルク家は、本来なら再び剥奪されるはずの帝位を守る事が出来たわけです。
 
 そして最後にもう1回ややこしい話が。
 この後、神聖ローマ帝国は辛うじて国家存亡の危機を脱するのですが、この頃から皇帝位の価値が急速に落ち始めます。
 もともと神聖ローマ皇帝は名誉職に近いものだったのですが、この頃のハプスブルク家の皇帝は、皇帝の持つ数少ない実権を領邦君主に“分配”し、実利を捨てる代わりに帝位をハプスブルク家に保証されるように工作します。
 簡単に言えば、皇帝位を「わざわざ手間をかけて選ぶまでも無いモノ」にしてしまったわけです。「決めるの面倒だから、もうハプスブルク家で良いや」という状態にしたわけですね。これが15世紀の末辺りの話です。
 これ以後、選帝候による皇帝選挙は、ハプスブルク家単独立候補による無投票当選が延々と続く事になります。ただ一度だけ、スペイン・ハプスブルク家の国王が神聖ローマ皇帝を兼ねようとした時に、それを阻止しようとしたフランス王・フランソワ1世が対立候補として立候補し、世界史上に残る壮絶な“実弾”の飛び交う買収合戦が展開された事がありましたが、この時もハプスブルク家が多額の借金までして帝位の防衛に成功しています。つまり、これがハプスブルク家による帝位世襲制度の確立です。

 ……と、歴史のマニアックな話をしている内に、またしても大幅に時間オーバーとなりました。これから「法学」じゃなくて「歴史学」にしようか、などと考えつつ、また近日実施の第7回講義に続きます。 (この項続く)

 


 

3月6日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評(3月第1週分)

 えー、日誌の方ではお見苦しい場面がありました(笑)。すいませんね、どうも。

 さて、時間も無いので、早速レビューの方へ行かせてもらいます。7段階評価の表はこちらを。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年14号☆

 ◎新連載第3回『いちご100%』作画:河下水希《第1回掲載時の評価:B+

 第1回掲載時には、今後の方向性に期待をこめて高い評価をつけたのですが、どうやら駒木の意に反して、シナリオのクオリティ無視・ベタベタのラブコメ路線へ向かう模様ですね。まぁ、河下さんの作風でもありますので、それはそれで仕方ないのですが。
 しかし、果たして結末が明らかにミエミエのストーリーを、どう緩急・起伏をつけて料理していくのでしょうか。この手の話は、既に『電影少女』などでお馴染みなだけに、ライトなお色気だけでどう読者を引っ張っていくのか不安でもあります。いずれ訪れる「仮のヒロインとの別れ→真のヒロインへ乗り換え」というブラックな部分をどう描いていくかで、河下さんの“器”のようなものが見えてくるような気がします。
 それにしても、この作品のストーリー、『電影少女』の前半数十話を中抜きして湿気を抜いたような感じですね。作家間の個性の差もあるのでしょうが、時代が求めるものの差ということなのでしょうかね。
 評価は1段階下げます。
Bです。多分、半年くらいは引っ張るような気がしますけど、弟子の小林ゆきさんより先に打ち切られたらメンツ丸つぶれですね(苦笑)。

 ◎読み切り(2回連続・前編)『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介

 昨年度の「ストーリーキング」ネーム部門キング(大賞)受賞作品のマンガ化です。
 原作者の稲垣理一郎さんは、これまでは「ビッグコミックスピリッツ」系の雑誌で読み切りを数作発表している新人のマンガ家さんで、原作者としては初の商業誌掲載作ということになりますね。
 マンガ担当の村田さんのプロフィールについては、2月20日付演習内の、読み切り作品『怪盗COLT』のレビューを参照してください。

 さて、原作とマンガ担当が分かれた作品ですから、絵のクオリティについて述べるのは野暮な話です。村田さんの画力については既に『怪盗COLT』のレビューで述べていますし、ここでは割愛させて頂きます。一言で言うなら、「プロの作家として十分合格点」というところでしょう。

 問題のシナリオ部分についてお話をしましょう。
 この作品、「ストーリーキング」ネーム部門始まって以来初のキング受賞作(『ヒカルの碁』のほったゆみさんは準キング)だと記憶しているのですが、前編を読んだ限りは正直言って過大評価ではないかと思ってしまいます。
 問題点は大きく分けて2つ。
 1つ目は、お話の5W1Hが、えらく大胆に省略されている事です。
 この作品の設定はかなり不明確で、「なぜ、2人しか部員がいないアメフト部が試合をするのか」とか、「そもそも、中学校なのか高校なのか」とか、「相手チームのキャプテン(?)とアメフト部の2人はどのような因縁があるのか」とか、「主人公が俊足であることが、ここまで知られていないのは不自然だが何故か」などなど、話の根幹に関わる部分が全く説明されていません。
 恐らく、「読み切りだし、カットできる部分は全てカットしよう」と考えたのでしょう。確かにそれでテンポを上げる効果は果たしているのですが、違和感もかなり大きなものになってしまってます。
 2つ目は、作品内でのアメフトの扱い方について。
 前編を読んで抱いた印象なのですが、原作担当の稲垣さんは、アメフトが特に好きなわけではないんじゃないかと。いや、本当は大好きなのかもしれませんが、こちらに全くそれが伝わって来ないんですね。
 というのも、このマンガはアメフトマンガでありながら、アメフトそのものについての扱いが極めてぞんざいです。ルールの説明もほとんどなされていないため、アメフトを知らない人がこの作品を読んだところで、果たして理解できるのか心配になってきます。
 「難しいルール説明してもテンポ悪くなるだけだし、どうせ分かってもらえないよ」と考えたのでしょうか。ですが、それにしても不親切だと思います。

 この作品全体に漂うムードは「逃げ」なんです。
 確かに読み切りの中で詳しい設定を消化させようと思ったら、相当な技量や構成力が必要になって来ます。アメフトの(パッと見で)複雑なルールを読み切り作品の中で効果的に説明しようと思えば、それもまた難しい事だと思います。
 ですが、それを成し遂げてこそ初めて素晴らしい作品になるのではないでしょうか?
 作品のクオリティを下げないために、まず自分が楽をしてしまってはどうしようもありません。
 評価は
Bとしておきましょう。後半に期待を抱きつつも、課題は山積といったところでしょうか。

 ☆「週刊少年サンデー」2002年14号☆

 ◎読み切り『新型機動携帯シモべえ』作画:木村聡

 今週と来週は「サンデー特選GAG7連弾」が2本立てということで、レビューも2作品ずつ、ということになります。

 では、まずは“第3弾”のこの作品から。
 作者の木村聡さんは、デビュー間もない新人作家さんのようです。過去1度本誌で読み切りが掲載された事があるようですが……。
 さて、問題の内容なんですが。
 えー、何と言いますか、一言で言うと「子どもだまし」の作品ですね。正確に言うと、子どもは「ウンコ、シッコ、チンコ」の御三家ならぬ“コ”三家でしかだまされませんから、「子どもだませない」の作品、とした方がいいでしょうか。
 ギャグが全部“小手先”なんですよね。ただ単に力押しできる地力が無い事を棚に上げて「自分は技巧派だ」と勘違いしている節があります
 「週刊少年サンデー」のギャグ作家さんの中で技巧派と言えるのは、『かってに改蔵』久米田康治さんでしょうか。しかし久米田さんは、ギャグの質そのものもさることながら、とにかく1ページあたりのギャグ密度が濃いんですよね。情報収集に相当の時間をかけて、なおかつ、それを絶えず「どうネタに昇華すればいいか」を考えてないと出来ない芸当です。そして、残念ながら木村さんのこの作品には、それが全く無い、と。
 要は努力が足りないわけです。ぶっちゃけた話、ギャグ作家さんは、ストーリー作家さんが絵の技術向上にかける時間をそのままギャグの技術向上に費やす事ができるわけですから、それこそ画材にかける資金を書籍・通信費に注ぎ込むくらいの覚悟が無いと……。
 この木村さんには、もっと世の中あらゆる所にアンテナを張り巡らして、小手先じゃないギャグを編み出せるように努力してもらいたいものです。
 評価は
Cに近いB−

 ◎読み切り『煩悩寺のヘン!』作画:黒葉潤一

 「──特選GAG7連弾」の第4弾は、かつて本誌で『ファンシー雑技団』を連載していた黒葉潤一さんです。
 連載当時は現役大学生だった黒葉さんですが、卒業&連載終了後もマンガ家としての活動を続けていたようですね。
 ……そうして専業マンガ家になったことで、以前よりもレヴェルが向上しているかと思ったのですが、どうも横ばい、ひょっとすると地力が落ちてるんじゃないか、と思えてしまうのが今回の作品でした。捨て身のギャグを放っているのは分かるのですが、全部上滑りしてるような気がしてなりません。
 もっとも、黒葉さんの本来のスタイルというのは、複数の登場人物のキャラを立てておいた上で、1ページ程度のショートギャグを重ねてゆく形式でしたから、それと正反対のスタイル(少ないキャラで10数ページ回すスタイル)である今回の作品は、ちょっと黒葉さんには酷だったかな、という気もします。今回の設定を流用して、本来のスタイルで連載すれば、もう少し質の違ったものになるかも知れません。
 …とりあえず、今回の作品だけで判断すると、評価はB−になりますね。もっと精進しないと、連載復帰は難しいかも分かりません。

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(週刊コミックバンチ14号掲載・世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品『142cmのハングオン』作画:大西しゅう

 シリーズ6回目にしてようやく、この作品がデビュー作となる新人作家さんが現れました。20代前半という年齢は、マンガ家デビューにしてはやや遅い方ですが、まぁマンガ家の作風は年齢よりもキャリアに影響されますから、あとはいかに生活を維持しながらマンガを描き続けていくかでしょうね。緒方ていさんみたいに、サラリーマンのかたわら同人誌で腕を磨いた後に連載デビューというケースもありますので、是非頑張ってもらいたいものです。

 さて、作品のレビューなんですが……。
 まず初めに言っておかないといけないのは、やはり画力でしょう。正直言って、まだプロを名乗って良いレヴェルではありません。まぁ、この作品を描いている頃はアマチュアなのですから、仕方ないと言えばそうですが。
 しかし、ヒロインの女友達が一瞬男に見えてしまったりとか、一番の見せ場である、「ライバルのバイクを交わし、なおかつ転倒寸前のバイクを立て直すシーン」の描写が余りにも稚拙で、何がどうなったか絵だけでは分からないとあっては、やはりマンガとしては致命的と言わざるを得ないでしょう。
 駒木は、絵よりもストーリー・シナリオを重視して見るタイプのレビュアーですが、さすがにここまでレヴェルが下がると、やはり酷評してしまいますね。

 一方、ストーリーの方ですが、これはまぁ、ある程度は話作りの基本を押さえた上で、さらになかなかの勢いがついています。絵の稚拙さをある程度はカバーするようなモノには仕上がっているのではないかな、と思いますね。何よりも、自分の好きな題材を独り善がりにならないように留意して描こうとしている姿勢に好感が持てます。
 ただ、話全体の起伏が緩やかで、既成の作品の平均値を越えるようなインパクトを出せなかったのが悔やまれます。何というか、良い意味でも悪い意味でも若さに任せて描いている影響が滲み出たストーリーだった気がします。
 総合的に判断すると評価は
B−に近いB。この作品も、ちょっと受賞には届かない感じですね。でも、「ドラフト6位で入団した高校生ルーキー」みたいな雰囲気が漂っていて、「2年くらいファームで鍛えたら面白いかな」という気にはさせてくれる作家さんです。これからに期待という事で。

 ちなみに、これまでの5人のエントリー作家さんは、「元甲子園球児の草野球選手(地区予選級の実業団選手)が入団テストを受けに来た」ような感じでしょうかね。「良いモノはあるけど、手垢が付き過ぎちゃってるよなあ」という印象です。
 何とかあと4回で、最低でも「ドラフト外れ1位〜2位クラスの大卒ルーキー」みたいな作家さんが現れる事を期待したいと思います。

 さて、次回の演習ですが、ジャンプの方は新連載ラッシュも落ち着いて一段落になります。ただ、サンデーでは来週から5週連続新人読み切りシリーズが始まるとのことで、そっちの方にかなり忙殺されそうです。特に来週は「ギャグ7連弾」も2本立てですし、何だかまた大変になりそうです(苦笑)。
 まぁ、何とか頑張りますよ。それでは、また来週。(来週に続く)

 


 

3月5日(火) 教育心理学(教職課程)
「卒業シーズンにおけるいくつかのエピソード」

 いつの間にか3月。卒業シーズン真っ只中ですね。
 我が仁川経済大学でも、間もなく本科生の卒業式が行われます。駒木は直接関係していませんが、仁川キャンパスの方は大忙しなんじゃないかと思います。
 あ、当インターネット通信過程は単位認定もありませんので、卒業もありません入学も卒業も受講生の任意で、という方針ですのでよろしく。

 卒業シーズンというのは、すなわち別れのシーズンでもあります。これまで会えるのが当たり前だった人との別れが待っています。卒業式の時は「どうせ近所だし、また会えるよね」と思っていても、卒業してしまうと不思議なほど会えないものです。
 だからでしょうか、卒業間際になりますと“駆け込み告白ラッシュ”が発生し、学校の至る所で『BOY’S BE……』や『サラダデイズ』のようなシーンが見られるようになります。
 正確な統計を取ったことはありませんが、男から女子への告白は軒並み返り討ち、女子からの告白は余程でない限り成功、というところではないかと思います。
 ……ええ、男はそういう生き物ですので。場面は『サラダデイズ』でも、男の頭の中は「コミック・ペンギンクラブ」だったりしますから、ご承知おきを。
 また、卒業式の日は、教員が合法的に生徒と恋に落ちる事のできる解禁日でもあります。まるで鮎釣りみたいでアレですが、禁断の恋で盛り上がっても喜ぶのは「カラフルBee」の編集くらいでしょうから、やはり皆に祝福されるのが吉と言えましょう。

 駒木にも卒業シーズンの思い出が色々あるのですが、やはり一番印象に残っているのは、塾のバイトを大学卒業と共に引退して約1年後のことです。
 講師時代に世話を焼いた生徒が卒業するということで、講師OBとして塾主催の“合格祝賀会”に参加をしました。生徒も駒木も、そして元の同僚・上司とも懐かしい対面が実現し、非常に良い時間を過ごす事が出来ましたその時はその時で良かったのです。しかし……。


…………………………………

 

 数週間後、新聞の三面記事に「学習塾教室長・生徒のスカートを盗撮」という記事が。

 

…………………………………

 

 まさか、こんなところで永久の別れになるとは。

 
 ……人生万事塞翁が馬であります。会える人には、会えるうちに会っておきましょう。

 あ、生徒と教員・講師との別れで思い出したんですが、駒木も勤務先を転々としている関係上、生徒との別れも頻繁に起こるわけでして、その都度、印象深い出来事が起きたりもします。

 つい先日も、約10ヶ月教室を共にした生徒から、「お別れの手紙」みたいなものをもらいました
 いくら駒木でも、高校の現場で下ネタ・芸能裏話ネタ全開で授業するわけには行きませんが、それでも全般的にはこの講座のノリで授業をしております。例えば、「この王様は妹を食っちゃったんだよ」とか、教育委員会から厳重注意を受けそうな放言もカマしてしまっています。
 そのせいもあるのでしょう、駒木の授業は他の先生方に比べて極めて異色であるらしく、印象深い分だけ、生徒たちからこのような身分不相応な扱いをしてもらったりするのです。
 そうして手紙などをもらえるのは本当に有りがたいのですが、困った事に文面の中で書かれているのは「電車にパンチを放ってはねられたバカ学生の雑談が面白かったです」とか「バレンタインチョコの値段の見分け方、参考になりました」とかばかり。肝心の世界史についての感想は皆無に近く、「俺は10ヶ月間、漫談しに教壇に上がってたのか」と、机に突っ伏して呻きたくなったりします。

 かくのごとく、どうも「生徒と先生の別れ」というのは、双方のギャップが激しくて、お互いに印象に残っている部分が違いすぎる事が多いようです。

 例えば、塾時代にお世話になった上司(永久の別れじゃない方)のエピソードで、こんなものがありました。
 その先生が、10年前の卒業生の同窓会に招待された時の事です。
 宴もたけなわになった頃、元教え子の1人が「先生、昔、私に酷い事言ったでしょう!」と絡んできました。その上司は、暴言を吐いた記憶は全く無かったので、慌てて否定したのですが、元教え子は引き下がらず、
 「先生、私が高校合格の報告電話した時、『おめでとう』やなくて、『ウソやろ!?』て言うたでしょ! 私、めっちゃ傷ついたんやからね!」
 と、詰問してきました。上司、顔面蒼白となり、逮捕直前の徳島県知事のように完全否定したそうですが、当時を知る他の教え子から次々と証言が続出し、同窓会はいつしか雪印食品の記者会見の様相を呈したとの事。

 ……この話を聞いた当時は笑っていられたんですが、今となっては、もう笑えなくなってしまいました。同窓会行く時には覚悟を決めて行かなくちゃなあ、などと考えております。

 受講生の皆さんも、同窓会に参加する時には、恩師をこの手の昔話で詰問するのは止めてあげてください。意外と忘れるモノなんですよ、言ってる事。
 あぁ、お願いですから昔の罪を捏造して、二次会費用を奢らせるなんてマネは止めるように。ホントにシャレになりませんので、ハイ。

 ……と、自業自得ながら風向きがヤバくなったところで、今日はこの辺で講義を打ち切りたいと思います。
 ま、じゃあ、そういうことで(汗) (この項終わり)

 


 

3月4日(月) メディア表現論
「マンガ喫茶の“ポルノコミック”規制へ」

 3日付講義の振替実施に引き続き、今度は4日付の講義です。振替講義からの連チャン講義になりますので、多少ボリュームに難があるかもしれませんが、ご了承を。
 「かもしれない」というのは、講義がどのくらい長くなるのか、この期に及んでまだ掴めていないからです。現在、時計の針は5日の午前3時50分を指しております。間もなくラジオからは「おはようございます」という声と共に宗教の講話が始まります。トラック運転手と共に働く大学講師・駒木ハヤトでございます。

 さて、今日の講義は駒木に関わりの深いマンガ喫茶についての話題です。
 受講を始めてから間もない方はご存知でないかも分かりませんが、駒木は以前3ヶ月ほどマンガ喫茶でアルバイトをしていた事がありました。アルバイトとは言え、週4〜5日8時間以上の勤務でしたので、ほとんど契約社員に近い状態でしたが。
 学校関係の仕事が舞い込んだため、残念ながら短期間で退職してしまったのですが、趣味が競馬・競輪・競艇・麻雀という理解ある社長や上司に恵まれ、なおかつ、勤務時間中でも店内のマンガ読み放題という緩やかな規則のおかげで大変充実した仕事をさせてもらいました。こんな事でもなければ、『じゃりん子チエ』や『大甲子園』を全巻制覇するなど容易ではなかったはずです。また、あと半年でも勤めていたら『こち亀』や『ゴルゴ13』も完全制覇していたかも分かりません。
 時給は750円でしたが、ずっとマンガ喫茶にいると考えると、実質時給は1000円以上。これまでアルバイトを含め、2ケタにも及ぶ職種を経験してきましたが、中でも1、2を争うオイシイ仕事でありました。

 ……それにしても、この年で職種を約10ほど経験しているのもナニな話ですが。今、駒木が何らかの犯罪を起こすと、「元教員が」とか「職を転々とし」とか「ギャンブルが好きで」などというネガティブ常套句が新聞紙上を飾る事はほぼ確実です。

 …まぁ個人的な話はそれくらいにしておいて。
 今回、講義の教材となるニュースが以下に引用するものです。少々長いですが、割愛しながら紹介しましょう。

 大阪府は4日、店内で各種の漫画本を楽しめ、中高生にも人気がある「漫画喫茶」を対象に、有害図書に指定されたポルノコミックの貸し出し規制に乗り出す方針を固めた。18歳未満への有害図書の販売などを禁じた府青少年健全育成条例を新年度中に改正し、店内で中高生らにポルノコミックを読ませることを禁止する考え。過剰な性情報による悪影響を防ぐためとしており、都道府県初の試みという。

 漫画喫茶は、1時間400円前後の料金で店内にそろえた大量の漫画本が読み放題とあって、府内では約10年前から年々増え、現在は少なくとも数十店舗が営業しているという。

(※中略※)

 ……これらの有害図書は、18歳未満への販売や貸し出しなどが規制され、罰金30万円以下の罰則規定もある。しかし、規制対象は書店やレンタルビデオ店などに限られており、漫画喫茶は対象外だった。

 府は4日午後の定例府議会で、自民党の若林勝雄府議の代表質問に対し、漫画喫茶を規制対象に加えるなどの条例改正作業を始める方針を示す。「有害図書のポルノコミックを置く店が少なくなく、中高生らへの悪影響が懸念される」(青少年課)としている。(読売新聞より)

 要するに、マンガ喫茶でもレンタルビデオ店のように、他と隔離された“アダルト・ゾーン”を設定するように条例改正へ動き出す、というニュースです。 

 このニュース、色々とツッコミ処満載なのですが、それにしても大阪府庁というのはヒマ人の集団なのでしょうか? まぁ、今の知事が府の財政再建よりも大相撲大阪場所の土俵に上がる事の方に御執心ですから、部下も部下なら上司も上司、といったところなのでしょうが。本当に返す返す、あの毛布搭載の選挙カーさえなければと思ってしまったりします。

 まぁ、済んでしまった事は仕方ありません。脱線する時間も有りませんし、本題へと急ぎましょう。
 では、このニュースのポイントなんですが、まず、マンガ喫茶に客として来る中高生に配慮して、というところからピントが狂っています。
 なにせ、マンガ喫茶に中学生や高校生はほとんど来ません。1時間約400円という料金が高すぎるのです。また、多くのマンガ喫茶が繁華街の雑居ビルで開店されていることもあり、なかなかティーンエイジャーが近寄れない雰囲気が漂っているのです。また、客層も意外と女性が多く、その前でエロマンガを物色できる男子中高生は、そういないと思うのですがね。
 ですから、中高生を意識して“ポルノコミック”を隔離するべきだ、という意見は、居酒屋が、「子どもの客を意識して、お子様ランチを作るべきだ!」と言い出すようなものなのです。
 んな事してるヒマあったら、もっとマシなカクテル作らんかい、白木屋!
 マライア・キャリーってなんやねん!……あ、失礼。今は大阪府に物申していたところでした。

 また、最近のマンガ喫茶はインターネットカフェを兼ねているケースが多いですので、エロマンガは隔離されても、パソコンの方で洋モノ無修正画像見放題、という逆転現象も見られる事になりそうです。
 なんだか、フリー雀荘に警官が乗り込んできて、店ぐるみで1000円札と同価値の1万点棒や1枚500円相当のカジノチップを奪い合いしている前で「最近、この辺は物騒なので気をつけてください」と忠告している状況が眼に浮かんで来ました。
 確かに、この手の雀荘話はよく聞く話ですので、マンガ喫茶のこれもアリだと言えばアリなのですが。
 余談のさらに余談ですが、駒木が以前懇意にしていた雀荘のマスターは、毎年警察に挨拶に行っている内に懇意となり、バイクの無免許運転で事故った時も見逃してもらっていましたそんなもんです、世の中って。

 しかしそもそも、いわゆる“ポルノコミック”が中高生に悪影響を与える、というのはどういう理屈なんでしょうかね。悪影響といって、どんな悪影響が出るのか、是非後学のためにも拝聴したいところですが。
 大体、性犯罪者は未成年者よりもいい年したオッサンの方が多いわけですから、35歳以上の男性にセクハラを助長するような映画やマンガを規制する方が、まだスジが通っていると思います。26歳の駒木がこんな字面の青臭い事を言いたくないのですが、大人の方が子どもよりも偉くて分別があるという前提条件からどうにかしないと、良くなりませんな社会は。多分、全国の9割の大人は、えなりかずきよりも人間出来てないと思いますし。

 駒木の考えるところでは、むしろ性に関する情報が堰き止められるほうが問題だと思われます。
 と、いいますのも、駒木の古い知人に、中学生時代に1人でできる性欲の処理の仕方を知らなくて、婦女暴行に及びかけたヤツがいるのです。幸いと言うか何というか、当時彼には彼女がいたので、無事和姦に持ち込んだようですが、一歩間違えていたら、駒木は同級生にレイプ魔を持つところでした。その彼女は「アソコが臭う」というミもフタも無い理由で男に捨てられたと和姦男から直接聞きましたが、是非、ノーベル平和賞なり国民栄誉賞なりで、この“性のジャンヌ=ダルクの”名誉回復をしてあげたいものであります。
 ちなみにその和姦男、駒木と同じ学習塾でバイトを始め、そのまま就職。上司の覚えも目出度く、現在では若き幹部候補として、いくつかの教室(支店)を束ねるエリアマネージャーを務めています。
 何度も言いますが、そんなもんです、世の中って。

 最後に。このニュースでは一切触れられていませんが、大半のマンガ喫茶は経営難に喘いでいます。設備投資に資金がかかる上に、客単価が低く(およそ700円程度)収益性も低いマンガ喫茶は、すでに斜陽産業なのです。駒木がバイトしていた店も去年閉店してしまいました。
 そんな弱りかけのマンガ喫茶業界に追い撃ちをかけるようなこの条例。大阪府は都道府県初の条例だと誇らしげですが、駒木は条例のゴールデンラズベリー賞でも創設して、大阪府に差し上げたい気持ちで一杯です。

 では、今日の講義はこの辺で。本家ゴールデンラズベリー賞は、やっぱり『パールハーバー』に獲ってもらいたいですね。(この項終わり)

 


 

3月3日(日) 現代文化特論
「将棋界の一番長い日(2)」

 講義の実施がズレ込み、申し訳ないです。どうもここしばらく、気力が低下していまして……。しばらくバタバタする日が続くと思いますが、なるべく休講しないようにしますので、よろしく。

 さて、今日は金曜日の講義の続きです。前回の講義内容については、何よりもレジュメを読んでいただいた方が早いと思いますので、未受講の方はこちらをどうぞ。

 ………

 というわけで、今日は「将棋界の一番長い日」の本題へと入っていくことにしましょう。

 A級順位戦最終局は、10人のA級在籍棋士が一斉に人生を賭けた大勝負に関わるわけですから、観る者にとっても、色々な楽しみ方があります。
 一番分かりやすいのは、ご贔屓の棋士を応援するパターン。将棋ファンの方は、大抵はご自分と同年代の棋士、または同郷の棋士を応援する傾向が強いようです。まぁ、中には“麻雀・ギャンブル好きつながり”で先崎八段を応援する人もいるかもしれませんが。ただ、B1所属の元名人・中原永世十段を“ストーカー繋がり”で応援する人は、ほとんどいないと思われます

 かく言う駒木も、普段は神戸須磨出身の谷川九段を陰ながら応援させて頂いているのですが、この最終局の時ばかりは、いささか事情が異なってきます。谷川九段よりもさらに注目すべき棋士が存在するのです。

 それは、若手・中堅棋士が中心のA級順位戦の中、異彩を放つ存在である超ベテラン棋士・加藤一二三(ひふみ)九段その人であります。なんと御年62歳中学生の時にプロデビューを果たすや、“名人”1期を含む多くのタイトルを獲得し、いまなお第一線で活躍している業界随一の老雄です。長年の棋士生活の中では、A級順位戦からは5回陥落していますが、その度に1つ下のB1順位戦(『鬼の棲家』と呼ばれるメンツの濃いリーグ戦)から復帰という、そちらの方でも偉業を成し遂げています。
 将棋のプロには2段階の定年制があり、その内、順位戦C2リーグから陥落した場合の定年は60歳です。つまり加藤九段は、定年を過ぎてなお、順位戦の最高ランクで戦っているという凄い人なわけです。
 もっとも、ここ数年は年齢的なものからでしょう、棋力の衰えが目立つようになり、ここ数年は毎年のようにA級残留・陥落争いを強いられるようになって来ました。しかし、危ない危ないと言われるたびにギリギリで踏みとどまっている腰の重さも、加藤九段の魅力といえます。
 さらにこの人、野球で言えば長嶋茂雄タイプの天才でありまして、長嶋氏よろしく、この人も奇行・逸話には事欠きません。
 例えば食事。毎回同じ出前を注文するため、昼・夜ともウナギや特上寿司という日が数年単位で続くそうです。これは、加藤九段本人が食事に頓着しない人で、メニューを考える事が面倒臭いからだそうなのですが、昼・夜と目の前で鰻重食われた日には、対局者の方がゲンナリしてしまったことでしょう。また、去年の『一番長い日』には、昼に特上寿司を頼んでおいて一口も食わず、夜にまた注文するというパワープレイを披露して、さらに残留も決め、ファンを沸かせた事は記憶に新しいところです。
 その他にも、エアコンが大嫌いで、寒がりの対局者と1日中エアコンのスイッチ争奪戦を繰り広げたりとか、その他、大人気ない奇行・逸話には事欠きません。
 しかし、これらは全て盤上の行方に集中し過ぎてしまうゆえの事で、逆に言えばそれだけ将棋一筋だったという事でもありますが。何はともあれ、この人が将棋で死ぬまでメシが食えるというのはこの上ない幸せであることでしょう。

 その加藤九段、今年も残留を賭けた大一番に望むことになりました。NHKBSの生放送では応援FAXの数が第1位となるなど、駒木のみならず全国の将棋ファンの注目も大きかったのですが、残念ながら今年は大事な対局に敗れ、B1陥落ということになってしまいました。
 年齢的にはもう“上がり目”が無いため、今後のA級復帰は極めて微妙と思われますが、来年以降も頑張ってもらいたいものです。

 他の対局では、自力優勝のかかった森内八段が見事に勝利を収めて名人挑戦権を獲得。しかしその一方で、自力残留のかかっていた先崎八段は、現役実力No.1の羽生五冠に敗れてB1陥落となるなど、やはり今年も悲喜こもごもの最終戦となりました。

 ところで将棋界には、順位戦とはまた別の、人生のかかったリーグ戦が存在します。

 その名は奨励会三段リーグ。プロへの最終関門のリーグ戦です。マンガ『月下の棋士』1〜2巻で、30歳の子持ち奨励会員・鈴本永吉が救急車で運ばれたり小便漏らしたりしながら戦った、あのリーグ戦です。
 実際の三段リーグは、それまでの関門をくぐり抜けて三段まで昇段してきた20数人(変動有り)がエントリー。日程の都合により総当りではなく各18戦で行われ、組み合わせは抽選で決定します。
 リーグ戦は半年かけて行われ、20数人の中でわずかに上位2名のみが、プロへの切符を掴むことができます(3位2回で、C2リーグを落ちた状態からプロ入りも可)。その上、プロ入りは原則26歳までという年齢制限もあり、対局場で20代半ば同士が将棋人生を賭けた星を潰し合う光景は、まさに修羅場そのものです。

 状況がなかなか掴めない方には、離婚届を挟んで対峙する壊れかけの夫婦が10組以上ズラリと並んでいる状況を思い浮かべて頂ければ良いでしょう。ハイ、思い浮かべてください。右から順番に、明石家さんま&大竹しのぶ、川崎麻世&カイヤ、田代まさし夫妻、そのまんま東&かとうかずこ………。
 駒木なら10分も同じ部屋にいられません。

 さて、その三段リーグ、今期(平成13年度後期)のリーグ戦も既に佳境。年齢制限による退会確定者も出ており、プライベートライアンの前半のように壮絶な状況になっています。また、現在昇段ボーダーライン上にいる遠山三段がまた問題です。彼は寝坊が原因で不戦敗1を献上しており、このまま行くと「人生寝坊でパァ」。何というか、遠山三段の将来は、4度結婚4度離婚し、その度嫁の財産を蕩尽し続ける“文学界の坂本龍一”こと高橋源一郎の人生並に波乱万丈なものになりそうです。

 順位戦や三段リーグの情報は、ウェブサイト「将棋順位戦データベース」が詳しいですので、興味のある方はそちらをどうぞ。読み応えタップリの良サイトです。

 ところで、今回の講義を進めていまして、思ったんですが。
 『今日の特集』時代からの読者・受講生の方ならお馴染みかと思いますが、駒木は兵庫県で公立高校の教員採用試験を受験し続ける身であります。
 しかも、駒木が受験している“高校地理歴史科・世界史専門”というのは、恐ろしく競争率が高く、去年の場合は151人受験して採用が僅かに1人という、バカにしてるような狭き門です。受かるまでに平均6回(=6年)。バイクの限定解除じゃないんですから、いい加減にしてもらいたいです。
 さらに試験は1年に1度きり。合格すれば一生の職と年金が確保できますが、合格できないと、ずっと1年以内の短期採用を繰り返しながら試験を受けつづける羽目になります。また、この試験にも年齢制限があり、大体30〜40歳辺りで人生がパァになります。大抵、教員というのはツブシが効かないですからねぇ。

 ……なんだか気が滅入ってきたところで、講義を終わらせてもらいます。また、明日付けの講義からハリキッて行きますので、どうぞよろしく(この項終わり)

 


 

 3月2日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース(8)
1994年菊花賞/1着:ナリタブライアン

駒木:「この講義も8回目になるんだね。題材に困るかなとも思っていたんだけど、まだしばらくは大丈夫そうだ(笑)」
珠美:「あら、今日はナリタブライアンですね。この講義では2回目の登場になりますか?」
駒木:「最近、どうも湿っぽい印象のレースばっかりだったんで、今日は豪快なレースをと思ってさ。90年代のレースで豪快なレースを探していると、どうしてもナリタブライアンが出て来るんだよ。さすがは『20世紀の名馬100』第1位ってところかな」
珠美:「差を広げて勝ったレースが多いですものね」
駒木:「それだけじゃない。3コーナーから大外を捲っていって、全く次元の違う走りで勝っちゃうんだ。ブライアンの全盛期の強さは、少なくとも印象だけならテイエムオペラオーの比じゃなかったよ。全盛期が短かったのが、本当に悔やまれる」
珠美:「前にもお話したかもしれませんけど、ナリタブライアンが走っていたのは私が中学生の頃ですから、リアルタイムでは知らないんですよね。残念です(苦笑)。
 …あ、それに、この菊花賞は三冠達成のレースですよね。私が競馬を観るようになってから、まだ三冠馬が出てないので、とても悔しいんですよ。チャンスがあったはずなのに、三冠達成の瞬間を観てなかった事が(苦笑)」

駒木:「あぁ、少しは分かるよ、その気持ち。僕も競馬を観始めた頃は、キャリアの長い人たちから散々ミスターシービーやシンボリルドルフの話を聞かされたものだから。『三冠達成の瞬間ってのはなぁ…』みたいにね(笑)。で、僕に自慢してた人たちも、若い頃には、もっと年配の人から『シンザンの時は……』とか聴かされていたわけだから、因果が巡り回ってる感じだね(笑)」
珠美:「(笑)」
駒木:「じゃあ、前フリで長くなってもアレなんで、早速レースの紹介に行こうか。珠美ちゃん、よろしく」
珠美:「…ハイ。このレースは1994年11月6日に行われました。この菊花賞は、昭和13年にイギリスのクラシックレース・セントレジャーの日本版として始められた長距離レースです。本家セントレジャーは廃れちゃいましたけど、日本のクラシック三冠レースの最終関門として抜群の存在感を誇っていますね。当然と言うか、グレード制が始まった時からG1の格付けを得ています。
 ちょっと特殊なのが出走資格で、資格があるのは現在で言う3歳、しかも牡・牝限定です。去勢されたセン馬は出られません。これは、クラシックレースが繁殖用馬の選定という性格を持っているためだとされています。また、2001年から限定的に外国産馬にも開放されましたが、この当時は内国産馬限定のレースでした。
 歴史が長いだけあって、距離やコースは数度の変更を経ていますが、現在は京都競馬場の芝コース外回り3000mで固定されています。
 では、この1994年の菊花賞に出走した有力馬ですが、まずは何と言ってもナリタブライアンですね。この年の皐月賞・ダービーを圧勝した二冠馬です。ただし、秋緒戦の京都新聞杯でまさかの2着敗退を喫しています。この辺りは、後で博士に解説してもらいましょう。ちなみに、この前年の菊花賞馬・ビワハヤヒデは、ブライアンの父親違いのお兄さんにあたりますね。これも後で解説して頂きます。
 ナリタブライアンが強すぎて、少々影の薄いライバル馬たちですけど、一応の対抗格に挙げられていたのが2番人気のヤシマソブリンですね。ダービー3着の後、秋緒戦のオープン特別・福島民放杯を、古馬を相手にレコード勝ちで飾っています。トライアルレースを経由しない、いわゆる“裏街道”組ですね。
 3番人気がエアダブリン。皐月賞の後に頭角を現して、あっという間にダービー2着にまで登りつめた馬です。ただし、秋の2レースは、格下のはずの馬にも先着を許して3着、3着。人気を落としたのも、そのあたりに原因があったのかも分かりません。
 そして4番人気がスターマン。神戸新聞杯を勝って注目を集めるや、トライアル・京都新聞杯でナリタブライアン相手に大金星を挙げた馬です。ただ、データによると、距離適性に不安があるとのことで、人気を落としたとされていますね。
 あとは…セントライト記念でエアダブリンを破った5番人気のウインドフィールズまでが“有力馬”になるんでしょうか? 一応、私からはここまでということで……」

駒木:「はーい、ご苦労様。それじゃあ、少しばかり解説をしておこうかな。
 まずはナリタブライアンがスターマンに負けた京都新聞杯か。…これはこれで、丸々1回講義にしてもいいくらいの題材なんだけど、まぁ要は『競馬に絶対は無い』を地で行くようなレースだったね。
 夏を無事に過ごして、仕上がりも見た目はキッチリ出来ているように見えたナリタブライアン。相手はほとんどがダービーまででコテンパンに負かした馬ばかり。だから『これは鉄板、絶対大丈夫』…だということになって、単勝オッズがなんと1.0倍だよ。確か約7割の単勝支持率になってたような気がする。
 でも、外見はともかく、中身は仕上がってなかったんだろうね。休養明け緒戦では絶対に仕上げて来ない大久保正陽厩舎でもあったし。というわけで、最終コーナーの捲り脚も、直線の伸びも、ちょっといつもの精彩が無かった。それでも当面の敵であるエアダブリンは競り落としたんだけど、内から“蹴たぐり”をかましてきたスターマンに出し抜けを食ってしまったわけ」
珠美:「じゃあ、負けたといっても、そんなにナリタブライアン陣営は動揺したわけじゃなかったんですね?」
駒木:「そういうこと。そりゃ確かに不安材料にはなったけど、この敗戦で気を引き締めた分だけ逆にプラスじゃないか、とも言われてたくらい。『ブライアン、ピンチ』って言ってたのは、競馬初心者とネタに困ったスポーツ新聞くらいだったんじゃないかな(笑)」
珠美:「なるほど、分かりました(笑)。あと、ブライアンのお兄さん、ビワハヤヒデについてですけど……」
駒木:「ああ、はいはい。ビワハヤヒデは、ブライアンと同じように、圧勝ばかりでG1を3勝した馬だったんだけどさ。どうにも勝ち方に華が無くてねぇ。三冠レースを2着、2着、1着。さらにデビュー以来15戦連続連対(2着以内)とか、かなり凄い記録も作ったんだけど、2番手抜け出し一辺倒の戦法のせいか、どうにも人気が無くてね。いや、僕は大好きだったんだけどね。で、今では競馬の昔話にもなかなか出て来なくなってしまった。
 けど当時は、この年の有馬記念で兄弟対決が実現するんじゃないかと、大騒ぎになっていた。よくありがちな“どっちが強いか”論争も盛んに起こっていたんだよ。
 ところが、この菊花賞の1週間前、秋の天皇賞で、ビワハヤヒデはレース中に屈腱炎を発症、5着に負けてそのまま引退してしまった。兄弟対決も永遠に叶わないまま。
 …で、もうこうなったら弟には兄貴の分まで頑張ってもらわないと仕方が無い、みたいな感じでね(笑)。まぁ、そんなに期待を膨らませなくても、肩の力を抜いて走ったら勝てそうな感じではあったんだけど。
 以上、今ではあまり知られていないドラマでした」
珠美:「(笑)。ありがとうございます」
駒木:「あとは、ブライアン以外の有力馬についてだけど、まぁ、ハッキリ言って2着争いだった。唯一怖いのは、スターマンによる京都新聞杯の再現だったんだけど、スターマンは中距離系の血統の上に、切れ味勝負のスピード型だったからね。やっぱり不利だろうという見方が強かった。だから4番人気だったんだよねぇ」 
珠美:「じゃあ、もう三冠達成のお膳立ては出来ていたって感じですね」
駒木:「だね。…というか、そんなパターンでもないと、三冠ってなかなか達成できないものだからねぇ。力関係が偏っていないと無理だからさ。いくら強い馬がいても、その馬と同じくらい強い馬が同世代にいたら、三冠は難しいだろうしね」
珠美:「そのへんは、かなり運も関わってくるというわけですね。分かりました」
駒木:「うん、それじゃレースの回顧に行こうか」
珠美:「……ハイ。レースは開始早々、意外な展開になりました。なんと、出走馬中で唯一の1勝馬・スティールキャストがハナに立つや、大逃げを打ちます。リードはあっという間に広がってゆき、最大では10数馬身にもなりました」
駒木:「最近は出なくなったけどね、大逃げする馬。……ああ、去年のマイネルデスポットがそうか。
 でも当時は、メジロパーマー、ツインターボといった大逃げでG1や重賞を獲った馬が複数いた頃だったから、大逃げそのものは珍しくなかったんだ。それよりも、大逃げする馬が出ると、平均ペースで縦長の展開になるだろ? この展開は実力がある馬が有利な展開なんだよ。そう言う意味では、むしろナリタブライアンに絶対有利な流れでもあったわけ」
珠美:「え、でも去年のマイネルデスポットみたいに逃げ粘られるという不安は?」
駒木:「ほとんどゼロだったね(笑)。同じ大逃げでも、去年のは超スローペースで、この頃の大逃げは、大体が平均ペース。これもよくある話だからさ、当時は。逃げ潰れるツインターボの姿がファンの目に焼き付いている頃のお話だから(笑)。
 ……ただ、この逃げていたスティールキャストの母馬が、3200mの頃の天皇賞・秋を大逃げで逃げ切ったプリティキャストなんだよね。この“血”というやつが、どうにも不気味だったのは認めよう(笑)」
珠美:「スティールキャストの後ろは、ウインドフィールズで、あと3頭ほどが2位集団を形成。ナリタブライアン他、有力馬はそこから更に10馬身以上後方でした。これって、先頭から30馬身くらい離れてません?
駒木:「そう…なるね。まぁ、ナリタブライアンの南井JKは馬の力を信じてたし、他の馬の騎手は、とにかくナリタブライアンをマークしておかないと話にならないので、心中覚悟というわけ。これが本当に“集団自殺”になっちゃったのが去年の菊花賞だったけど」
珠美:「有力馬では、ヤシマソブリンはブライアンの1馬身前に。スターマンは逆に1馬身後ろですね。エアダブリンはそれよりも後ろ。ただし、レース後のコメントでは『前に行けなかった』という岡部JKの談話があります。
 ……そしてレースは後半戦へ。依然として縦長の展開のまま、勝負所・坂のある3コーナーに差し掛かります。この時点でも、まだスティールキャストのリードは10馬身以上。……ホント、心臓に悪いレースですね(苦笑)」

駒木:「いや、でもそこから有力馬が一斉に伸びて来てたからね。『よっしゃぁ、ついに来た!』って感じ。もっとも、4コーナー回っても10馬身近くリードあったから、ほんの少しはビビッてたけど(笑)」
珠美:「やっぱり怖かったんじゃありませんか(笑)。
 ……でも、直線に入って間もなく、スティールキャストは力尽きて後退。それに代わって、有力馬5頭による先頭争いへ移ります。一瞬、各馬は横一線になったような気がしたんですが…」

駒木:「なったような気(笑)。まぁ、的確な表現だね。並ぶ間もなく、ナリタブライアンが先頭に立って、あとはぶっ千切ってしまった。もう別次元の強さだったねぇ。ついた着差が7馬身。しかも馬場状態が稍重なのにレコードタイム。もう、常識という常識を全部ブチ破っての三冠達成だったね。負けた馬の陣営も、ただただ呆然とするしかなかったんじゃないかな」
珠美:「2着はヤシマソブリン、3着にエアダブリン。以下、ウインドフィールズ、スターマンと続きます。有力5頭が掲示板独占。さっきの博士のお話の通り、平均ペースで縦長の展開は、実力馬に有利なんですね」
駒木:「特にこの時は極端だったからね。とにかくこのレースは百聞は一見に然ずの典型。まだ見た事が無い人は、競馬場とかにあるディスクボックスか、G1レース年鑑のビデオとかで1回観てみるべきだね。お奨めは杉本節が入ってるフジTV(関西TV収録)版だよ」
珠美:「……じゃあ、それでは最後に、登場した馬のその後を……」
駒木:「ナリタブライアンは、もう説明不要だね。この後、有馬記念へ直行して、そこでもヒシアマゾン以下を3馬身1/2千切って圧勝。年明けも阪神大賞典を圧勝して、無敵の快進撃が永遠に続くと思われたんだけど……後は悪夢の故障、そしてこの講義の第1回で扱った、あの名勝負に繋がってゆく。
 で、あとの馬なんだけど……。エアダブリンは、G1こそ獲れなかったけど、一応は第一線で活躍する。でも、ヤシマソブリンはこれ以後、故障もあって目立った活躍が無い。ウインドフィールズもパッとせず。スターマンも暮れの鳴尾記念を勝ったっきり。…どうも不振の世代だったねえ。ダート路線に転向したキョウトシチーが出世したくらいかな。
 三冠馬が生まれた世代っていうのは、どうも三冠馬以外の馬はパッとしないことが多いみたい。ある意味それは必然でもあるんだけど、でもやっぱり寂しいよね」
珠美:「……ハイ、ありがとうございました」
駒木:「うん、お疲れ様。それじゃ、また来週よろしく。今日の講義を終わります」

 


 

3月1日(金) 現代文化特論
「将棋界の一番長い日(1)」

 毎年3月初旬には、将棋のプロ公式戦・A級「順位戦」最終戦が行われる、別名「将棋界の一番長い日」と呼ばれる日があります。

 「順位戦」とは、プロ棋士の公式戦の中でも根幹をなす重要なリーグ戦です。このリーグ戦は、最下層のC2リーグから順に、C1、B2、B1、Aという5段階に分かれていて、毎年各リーグの上位と下位数名ずつが規則(細かいので割愛)に従って、入れ替わっていく仕組みになっています。マンガ『月下の棋士』にも出てきましたので、雰囲気だけはお分かりの方も多いでしょう。
 あ、『365歩のユウキ!!!』だと、今のペースでは連載が100年続いてもアマチュア赤旗名人戦くらいまでしか進展しないでしょうから、参考にならないと思います。

 さて先程、「公式戦の根幹」という表現をしましたが、これはどういう事かといいますと、この「順位戦」は将棋界最高のタイトルである“名人”位の挑戦者決定リーグであると同時に、段位決定から対局料のランク付け、さらには現役生活の続行まで絡んでくるからなのです。
 では、これらを少しずつ説明していきましょうか。

 まず、“名人”位挑戦者決定リーグとしての「順位戦」ですが、これは、そもそも「順位戦」が“名人”位の挑戦者決定戦として開始されたという経緯があります。
 ただし、実際に挑戦者決定リーグとなっているのは最上位のA級だけで、それ以下のリーグは“予選の予選”ということになります。サッカーに喩えるなら、A級がJ1で、以下、B1リーグがJ2、B2リーグがJFL…という感じでしょうか。デビューした棋士は、まず原則的にC2リーグからスタートして、1年で1回のリーグ戦を戦いながら昇格を目指して戦うわけです。
 その中でA級リーグは僅かに定員10名の、まさに選ばれた者たちによるリーグ戦です。このリーグに在籍していないと、“名人”位挑戦は絶対にありえません。
 他に6つあるタイトル戦は、理論上ではデビュー間もない新人やアマチュアにも獲得のチャンスは有るのですが、この“名人”位だけは、現“名人”とA級棋士10名だけにチャンスが与えられるのです。なので、「A級棋士である」ということは、将棋界の中でこれ以上無いステータスになります。ですから、B1リーグ以下の棋士はA級リーグ入りを目指して、A級リーグに在籍する棋士は優勝(“名人”挑戦)とA級残留を目指して血眼になって「順位戦」を戦い抜くわけです。

 次に段位決定などについてですが、プロ棋士に与えられる段位(四段〜九段)は、ほぼ「順位戦」のランクと連動しています。
 プロになった時は全員四段ですが、それからリーグを1つ上がるごとに段位が1つずつ上がってゆき、A級リーグに上がった時点で八段となります。(九段はタイトル歴や、八段昇段後の勝ち数が条件。また、他の段位も勝ち数による昇段がある)
 そして、プロ棋士に支給される基本給や、「順位戦」などの対局料も、在籍しているリーグのランクに従って支給されます。在籍しているリーグが違うだけで、他の対局で全く同じ成績を挙げている人と収入が違ってくるわけで、これはプロとしては非常にシビアなルールです。本当の意味で生活に直結するリーグ戦なわけです。
 また、最下級のC2リーグで3回成績下位をとってしまうと、“フリークラス”に陥落となり、強制引退に王手がかかります
 そこではC2リーグへの厳しい復帰条件を与えられ、それを10年以内にクリアできないと、早い話がクビになってしまいます。小・中学生の頃から全てを捨てて将棋一筋にかけ、それを平均20歳前後まで続けてやっと掴み取ったプロの座も、早ければ13年でクビというわけです。こんな事言ってはナンですが、将棋のプロから将棋を取ってしまっては、植木屋でなくなったバカボンパパみたいなものですので、「クビ=人生終わり」に近いです。

 ……と、まぁこのように、プロ棋士たちが全てを賭けて戦う棋戦といっても過言ではないのが、この「順位戦」というわけです。
 それゆえに5つある各リーグでは、昇格・降格のかかる終盤戦になると、それこそ悲喜こもごものドラマが展開されます。
 まず昇格争いは、1度チャンスを逃すと1年かけてゼロからやり直しですから、普段は温厚な人でも鬼のような形相で将棋盤に向かう事になります。
 そして降格争いでは、それこそ人生を賭けた崖っぷちの戦いですから、盤上を眺める表情は、まるで死地に赴く兵士のような悲壮なものになります。
 まさに人間ドラマのるつぼこの“震える”勝負に、当事者はもちろん、傍から様子を観る者も魅了されるわけです。

 その中でも、特に極上の人間ドラマが見られるのが、最上級・A級「順位戦」です。
 在籍10名の中で、“名人”挑戦は当然1名、そしてA級陥落は2名。この「2名陥落」という微妙な条件が、さらにこの人間ドラマを味わい深いものにしてゆきます。
 実力拮抗のA級「順位戦」は、毎回微妙に星が割れるのが常となっています。上位は上位でダンゴ状態、下位は下位でダンゴ状態になるのです。そのため、大半のケースで、最終戦まで優勝争いと陥落争いに決着がついていない、という状態になります。優勝はともかく、陥落争いについては、この「陥落2名」という微妙な条件が生んだドラマと言って良いでしょう。主催の毎日新聞も粋で酷な事をするものです。伊達に経営不振で社員を食うや食わずの給料で働かせていませんよね。
 そんなわけで、A級「順位戦」の最終戦の勝敗は、A級在籍棋士全員、そして将棋界にとっても非常に大きな意味合いを持つことになります。
 例えば、今年の場合は5局中、4局が優勝と降格に絡んできます。

 ・森内八段VS藤井九段
 …森内八段が勝てば優勝。負ければ佐藤九段の成績次第で優勝か同点プレーオフ。
 ・佐藤九段VS森下八段
 …佐藤九段が勝ち、森内八段が負ければ同点プレーオフ
 ・羽生五冠(タイトル5つを保持)VS先崎八段
 …先崎八段は、勝てば残留し、負ければ陥落。
 ・加藤九段VS三浦八段
 …負けた方は即降格。勝った方は、先崎八段が負ければ残留。勝たれると降格。

 ……と、いった感じです。これでも例年に比べると、まだ争いが絞られている方、というのが恐ろしいですね。
 また、直接優勝や降格に関わっていない人でも、勝敗によって来年の「順位戦」での期首順位が左右されますので手が抜けません。(降格争いで同点の場合、順位が下の方が降格するため)

 以上のように、余りにもリーグ終盤戦の勝敗がシビアなために、公平を期すため全9戦の対局のうち、第8局と最終第9局は同日に行います特に最終局は同日同時刻に東京の将棋会館で行われるため、非常に注目度が高くなります。
 そうしている内に、いつの間にか1年に1度のこの日を「将棋界で一番長い日」と呼ぶようになり、近年ではNHKBSで生中継も行われるようになりました。それだけこの日に起きる人間ドラマに関心が集まっているという事でしょう。
 ですから、今日NHKBS第2放送を観ていた受講生の方で「どうしてむさくるしいオッサン10人を、延々と面白そうに中継してるんだ?」とか、「昼メシにアンパンとコーヒー牛乳を食ったとか知って、何が楽しい?」と思われた方、事情はこういうわけなのです。人生かけた大一番だからこそ、10人のオッサンにも、昼食のアンパンとコーヒー牛乳にもスポットライトが当たるわけです。人間ドラマがあることを前提にすると、「(人生かかってるのに、)パンとコーヒー牛乳かよ!」という、三村マサカズのようなツッコミも生きてくるというわけですね。
 …それを踏まえて、駒木も1つやりましょうか。
 
森内さん、外食かよ!
 あ、今のは全国で500人くらいにしか受けないギャグでした。千駄ヶ谷あたりでは評判良かったのよね、このネタ。

 ……しかし、冒頭の3行を説明するだけでこの文章量はどうしたものでしょうか。まぁ、大学の講義なんてこんなモノでしょうけど、それにしても自分の文章の長さに呆れ返る気持ちです。申し訳ない。

 そして、もう1つ申し訳ないことに、講義時間が終わってしまいました笑い所もロクに確保できないままで申し訳有りませんが、以下次回ということで。明日は競馬学概論ですので、続きは明後日に。 (続く


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