「社会学講座」アーカイブ

 ※検索エンジンから来られた方は、トップページへどうぞ。


講義一覧

2/15 文化人類学「2001年度・フードファイターフリーハンデ(1)〜早飲みの部」
2/14 
文化人類学「『TVチャンピオン大食い選手権・春の新人戦近畿予選TV観戦レポート」
2/13 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(2月第2週分)
2/11 
後期試験(解答発表)「続・或るモー娘。ファンからの手紙(解答編・2)」
2/10 
後期試験(解答発表)「続・或るモー娘。ファンからの手紙(解答編・1)」
2/9  競馬学概論「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(6)
2/8 
 法学(一般教養)「日本国女帝誕生へ向けての諸問題」(5)
2/7 
 スポーツ社会学特論「元スポーツ選手・引退後の行方」
2/6 
 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(2月第1週分)
2/5  競馬学概論「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(5)
2/4  
労働経済概論 「モーニング娘。新メンバーの給料は8万円 !?」
2/3 
 仁川経済大学学園祭・後夜祭(社会学部インターネット通信過程の部)
2/2 
 競馬学特殊講義「女性のための競馬場デートガイダンス(前編)」「女性のための競馬場デートガイダンス(後編)」(特別講師:栗藤珠美)

 

2月15日(金) 文化人類学
「2001年度・フードファイターフリーハンデ(1)〜早飲みの部」

 今日から3回の予定で、「2001年度・フードファイターフリーハンデ」をお送りします。
 「フリーハンデ」とは、もともと競馬で、競走馬の能力を客観的に数値化&順位付けするものです。最近では、更に客観化を厳密にした「クラフィシケーション」も盛んに行われるようになってきました。
 本来の「フリーハンデ」に使用される数値は、競走馬がレースで課せられる負担重量です。そして、「フリーハンデ」の対象になった競走馬全てを同時に走らせて、ゴール前で横一線になるように負担重量に差をつけたらどうなるか、という感じで数値化します。よって、数値(負担重量)が大きければ大きいほど能力も高い、という事になります。
 さらにこの数値は、本来同時に走る事の無い、世代の離れた競走馬の能力比較にも使用されるため、非常に有益なものになっています。例えば、1970年と2000年の最強馬の能力を比較すると、同数値なので互角……というように。

 で、今回の試みは、この「フリーハンデ」を、早食い・大食い選手の能力比較に適用しよう、というものです。以下は、今回の「フードファイターフリーハンデ(以下:FFFハンデ)」を設定するにあたっての規定になります。

◎数値は本家の「フリーハンデ」に倣って、競走馬の負担重量風のものを使用します。重量の単位は、最近ではポンド換算が主流ですが、ここでは旧来のキロ換算の数値を使用します。ただし、競馬と違って、キロという単位に意味は有りませんので、「〜ポイント」と呼ぶ事にします。数値は0.5ポイント刻みです。
 ポイント設定の大まかな目安としては、
 ・50ポイント……フードファイター(大食い選手)と、大食い自慢の一般人との境界線
 ・60ポイント……「フードバトルクラブ」「大食い選手権(オールスター戦)」決勝進出レヴェル
 ……と、します。ちなみに、常識外れのビッグパフォーマンスが無い限り、65ポイントを超える事は有りません。

 また、選手間のポイント差については、
 ・0.5ポイント差……ほとんど互角だが、僅かに優劣が生じている状態
 ・1ポイント差……優劣が生じているが、逆転可能な範囲
 ・2ポイント差以上……逆転がかなり困難な差

 ……と、解釈してください。

◎今回の「FFFハンデ」の対象となる競技会は、以下の通りです。
 ・「フードバトルクラブ1st」
 ・「フードバトルクラブ2nd」
 ・「フードバトルクラブ・キング・オブ・マスターズ」
 ・「大食い選手権・九州横断ニューフェイス決戦」
 ・「大食い選手権・スーパースター地上決戦」
 ・「大食いスーパースター史上最大のチャレンジマッチ」
 ・「打倒赤阪! 甘味大食い女王選手権」
 ・「早食い世界一決定戦(ネイサンズ・国際ホットドッグ早食い選手権・日本代表予選)」
 ・ネイサンズ・国際ホットドッグ早食い選手権

 ・他、TV放映された競技会の中で、駒木ハヤトが特に重要と認めたもの

各選手のポイントは、「FFFハンデ」対象競技会における、ベストパフォーマンスを採用します。
 そのため、直接対決で敗れている選手の方が、「FFFハンデ」では高い数値を得ている場合もあります。その場合は、敗れた選手が他の競技会で、よりレヴェルの高いベストパフォーマンスを見せた、ということになります。

◎ハンデは以下に挙げる6つのカテゴリに分けて設定します。
 早飲み/スプリント(5分以内)/早食い(5〜15分)/早大食い(15〜30分)/大食い45分(30〜59分)/大食い60分(60分以上)

選手個人に与えられるポイントは、6つのカテゴリの中で最高値となったポイントを採用します。
 
これにより、早食い選手と大食い選手との間での、間接的な能力比較が可能になります。

◎他、細かい点については、その都度説明します。

 以上、「FFFハンデ」の規定を踏まえてもらった上で、今日は『早飲み』カテゴリのフリーハンデと解説を掲載します。解説文中は敬称略・及び文体変更を行います。


「2001年度・フードファイターフリーハンデ」
〜早飲みカテゴリ〜

順位 ハンデ 選手氏名
61 山本 晃也
60.5 小林 尊
60 小国 敬史
59 高橋 信也
  59 白田 信幸
56.5 山形 統
55.5 立石 将弘
  55.5 新井 和響
  55.5 射手矢 侑大
10 55 田澤 康一
11 53.5 柿沼 敦夫
12 49 駿河 豊起

 ※主な競技結果※

FBCキングオブマスターズ
1stステージ第10試合

ハンデ
()は他競技での最高値

選手氏名
58(60) 小国 敬史
55.5 射手矢 侑大
FBCキングオブマスターズ
2ndステージ・コーヒー牛乳チャレンジ
ハンデ
()は他競技での最高値
選手氏名
60.5 小林 尊
FBCキングオブマスターズ
3rdステージ・ウーロン茶早飲みゾーン
ハンデ(上位5名)
()は他競技での最高値
選手氏名
61 山本 晃也
60(60.5) 小林 尊
60 小国 敬史
59 高橋 信也
59 白田 信幸

 早飲みなどの、いわゆる飲み比べ競技は、かなり以前から日本の食文化の中に根付いていた。学園祭などでは「コーラ一気飲み大会」などが頻繁に行われ、時には痛ましい事に死者まで出している。また、少し意味合いは違うが、酒の呑み比べなどは、それこそ酒の発明から現在に至る、数千年にも及ぶ歴史を持つはずである。

 それなのに、これまでの10年余に及ぶ大食い競技の歴史の中で、飲み比べ競技がクローズアップされることは稀であった。これは恐らく、「TVチャンピオン」が、長時間競技・大食い競技偏重で競技会を実施して来た事に、直接の原因があったと思われる。
 飲み比べ競技というものは、短時間なら早食いよりも人体への影響は少ないが、長時間になると、尿意を催してもトイレに行けない等の制約により、逆に固形物を食べるよりも体に良くないものである。よって、30分〜60分勝負が主流の「TVチャンピオン」では、実施しようと思っても出来なかった、というのが真相というところだろう。

 と、そこへ、主に早食い能力を競う「フードバトルクラブ」が産声を上げた。これは即ち、飲み比べ競技が市民権を得るための条件が整った事でもあった。
 だが、慣習とは恐ろしいもので、「フードバトルクラブ」でも、当初から純粋な早飲み競技が行われたわけではなかった。が、体重増量競技「ウエイトクラッシュ」において、短時間で体の負担を抑えて体重を増加するテクニックとして「液体を飲むこと」がクローズアップされるようになり、年末の“キング・オブ・マスターズ”で、ついに早飲みが1つの競技として採用されるに至った。

 2001年度の時点では、早飲みはまだ、あくまで補助的な役割に過ぎなかったが、今年春の「フードバトルクラブ」では、新人の応募条件として早飲みビデオ映像が必須条件となるなど、早飲み競技の地位は、ここにきて急上昇を見せている。これからの「フードバトルクラブ」では、早食いと早飲み両方をこなせるようにならなければ、頂点を極めるのは難しくなってくるだろう。

 それでは、ここからは選手個人に焦点を当てて解説していくことにする。 
 2001年は、多くの大物ルーキーが現れて、これまでの勢力図を一変させたが、山本晃也もまた、その大物ルーキーの1人である。
 彼の早食いでの戦歴は次回に譲るが、早飲みにおいてでも、彼はデビュー当初から、特筆すべきパフォーマンスを幾度となく見せつけて来た。
 “キング・オブ・マスターズ”では、1stステージから驚異的なパフォーマンスを見せていたが、圧巻だったのは3rdステージの烏龍茶1.5L一気飲みであった。類稀な吸引力でペットボトルを“吸い潰し”て、そのまま息継ぎも無しで強引に烏龍茶を体内に流し込み、2位の小林に2秒近い差をつけて“区間賞”を獲得した。早飲みに関するなら、間違いなく今、最も能力の高い男である事は間違いない。

 早食い世界王者・小林尊は、早飲みでもやはりチャンピオンクラスであった。彼の飲み方は独特で、ノドを完全に開けて、そこへ滝のように液体を流し込む飲み方をする。ここまで至るのに、さぞかし猛烈な訓練を要したとは思われるが、“流し込み”では“吸い込み”の山本には勝てないのは自明の理で、今後は新たなるテクニックの開発が急務となろう。

 早飲み時代の到来を告げるメッセンジャー役となったのが小国敬史であった。彼は早食いでも非凡な才能を持ってはいるが、現時点ではまだトップクラスには至ってはいない。こんな選手は、これまでなら出世がなかなか望めなかったところだが、早飲みの才能が活かせるようなレギュレーションになった今回、射手矢侑大相手にジャイアントキリングを達成し、一気に一流選手の仲間入りを果たした。今年、60ポイント以上を獲得した選手の中で、唯一、早飲みのポイントが個人のポイントに採用された選手である。これからも早飲みを主武器に、トーナメントを荒らしてゆく事だろう。

 高橋信也、白田信幸といった早食い・大食いのトップスターも、1.5Lの烏龍茶を一気飲みでき、早飲みでも高いポテンシャル持っていることが判明した。訓練次第で上位3人に食いついていける余地は充分だ。

 山形統、新井和響、射手矢侑大、立石将弘といったところは、早食い能力に比べて、早飲み能力が伸び悩んでいる選手たちである。小国や彼らの姿を見ていると、フードバトルの世界の奥深さを思い知らされてしまう。

 田澤康一、柿沼敦夫のハンデ値は高めに映るかもしれないが、ラーメン2杯と餃子35個を経ての烏龍茶一気飲みだけに、タイムが伸び悩んでも一般人レヴェルは凌駕していると判断した。
 駿河豊起の記録は、「フードバトルクラブ2nd」の『ハングオーバー』でのもの。また、“キングオブマスターズ”1stステージでは、河津勝、釘抜孝行もスポーツドリンク早飲みを経験しているが、資料不足のため対象外とした。


 …というわけで、今回は以上となります。
 次回の文化人類学は明後日。スプリントと早食いカテゴリのフリーハンデを掲載します。
 それでは、今日の講義を終わります。(続く

 


 

2月14日(木) 文化人類学
「『TVチャンピオン大食い選手権・春の新人戦』近畿予選TV観戦レポート」

 さて、今日は忌むべきバレンタインデーであります。
 個人的には、「男に刺されないための別れの告げ方講座」でもやろうかと思ったのですが、まぁ人前で出来る話では無いな、と思いまして、断念しました。
 あ、別に駒木が女性を刺した、というわけじゃありませんよ。自分で自分を刺したくなったりはしましたが。

 今日から3〜4回にわたって、文化人類学(大食い)の講義となります。(土曜日は競馬学概論を実施します)
 
春の大食い番組シーズンも近付いて来ました。観る立場の私たちも、この講義を通じて、徐々にテンションを高めていきたいと思います。

 まず今日は、「TVチャンピオン大食い選手権・春の新人戦」の近畿地区予選の模様をお送りします。これは、テレビ大阪のみで放映された番組・「なにコレ !?」内の企画である、『なにわ大食い選手権』TV観戦レポートとなります。
 今回から始まった地区予選シリーズ。一部の地方予選では、運営上かなりの不手際があったとも聞きますが、近畿地区予選では大型新人も現れ、素晴らしい大会になりました。後でじっくりレポートをご覧頂きます。

 そして明日からは、おそらく世界初の試みであろうと思われる「フードファイター・フリーハンデ」(2001年度版)をお送りします。
 詳しくは講義当日にお話しますが、競走馬の強さを客観的に表すため、能力値を負担重量で数値化する“フリーハンデ”を、人間の大食い・早食いでやってみようという試みです。つまり、大食い選手の2001年度のパフォーマンスを数値化し、順位付けするというわけです。
 競馬に詳しくない人は分かり難いと思いますが、それは受講してからのお楽しみという事で……

 それでは、今日の講義、「大食い選手権・春の新人戦」の近畿地区予選のTV観戦レポートです。例によって、レポート中は選手の敬称略、及び文体の変更を行います。


 ☆1回戦・ジャンボたこ焼き30分勝負

 ※ルール:5個1皿(=200g)のジャンボたこ焼きを、30分以内にどれだけ食べられるかを競う。参加者は書類審査通過の31名。2回戦に勝ち抜けるのは3名。

 従来の予選システムで言うところの、「にぎり寿し30分勝負・in桃太郎寿し」にあたる競技。いわば“予選の予選”か。
 スタートダッシュこそ各選手勇ましいが、やはりそこは玉石混交の予選段階。瞬く間に大きな差が生じてくる。
 飛び出したのは2人。山本卓弥舩橋聡子。この両者が頭1つ以上リードを奪う。前半15分で3kgを突破。新人ということを考えると、決して遅いペースではない。
 15分経過時点で3kg越えはその2人。以下、2kg台に10人がひしめき合い、3つ目の椅子を奪い合う格好。
 山本・舩橋の競り合いは20分過ぎまで続くが、徐々に山本が優位に立つ。
 残り5分。1位山本(25皿)、2位舩橋(22皿)で、3位グループは14〜15皿で数名がデッドヒートの争い。
 以後は大勢に変化無く、山本、舩橋の順でフィニッシュ。混戦の3位争いでは、楊木田圭介が最後の椅子に滑り込んだ。

1位通過 山本卓弥 30皿(6.0kg)
2位通過 舩橋聡子 23皿+3個(4.72kg)
3位通過 楊木田圭介 17皿(3.4kg)

 それでは、1回戦通過3名の簡単なパーソナルデータを。

 ◎山本卓弥…18歳、169cm56kg。どことなく射手矢侑大を思わせる風貌。典型的な大食い体型。
 紹介VTR中の大食いパフォーマンスでは、回転寿司30分73皿という高レヴェルの数字を叩き出した。ちなみに、昨年の「大食い選手権」予選での記録5傑は、白田85皿、高橋78皿、立石74皿、射手矢69皿、稲川63皿。

 ◎舩橋聡子…23歳、158cm40kg。風貌だけなら、中学生とも見紛うような小柄。こちらも典型的な大食い体型。
 紹介VTRでの大食いパフォーマンスは、15分でご飯モノを2.5kgというもの。現在のレヴェルでは特筆するほどでもなかろう。

 ◎楊木田圭介…19歳、183cm80kg。白田(193cm86kg)は例外として、大食い選手としては大柄な方だろう。
 大食いパフォーマンスでは、ドライカレーを30分で3.6kg。こちらも現在の大食い界では平凡な記録。

 予選での順位が、そのまま本戦に反映されるケースの多い「大食い選手権」、しかも紹介VTR中のパフォーマンスから、山本の優位は揺るがないところだろう。
 残る他の2人だが、舩橋は体型からも、ある程度の大食い適性は期待できそうだ。しかし楊木田は、記録面も含めて“素人大食い自慢”の延長上にあるように思われた。何はともあれ、2回戦での戦い振りに注目だ。

 

 ☆2回戦・ぜんざい30分勝負

 ※ルール:1杯50gの白玉入りぜんざいを、30分でどれだけ食べられるかを競う。最下位1名が脱落。

 1杯の容量が少ないため、3名ともハイペースの序盤。20杯(=1kg)到達までは、ほぼ横一線。
 5分経過。1位舩橋(29杯)、2位山本(28杯)、3位楊木田(25杯)。
 10分経過。1位舩橋(41杯)、2位山本(40杯)、3位楊木田(35杯)。
 ここから山本が突如、ペースアップ。舩橋を逆転し、グングン差を広げてゆく。一方、楊木田は40杯を境にスローダウン。早くも限界か。
 15分経過。1位山本(69杯)、2位舩橋(58杯)、3位楊木田(41杯)。
 楊木田の様子を見て、大勢判明を悟った舩橋は、65杯から意図的なペースダウン。数時間後の決勝に備える作戦へ。しかし、胃に余裕のある山本はペースを落とさない。
 25分経過。1位山本(89杯)、2位舩橋(68杯)、3位楊木田(43杯)。
 ラストは舩橋も再び箸を取って記録を伸ばすが、それ以上のペースで山本が飛ばし、差を広げてフィニッシュ。

1位通過 山本卓弥 104杯(5.2kg)
2位通過 舩橋聡子 83杯(4.15kg)
リタイヤ 楊木田圭介 48杯(2.4kg)

 15分〜25分それよりも、25分〜30分の食べるペースが早いという大物振りを見せ付けて、山本が堂々のトップ通過。生理学上、大食いの難しい甘味でこの記録は立派。しかも本人曰く、随分と胃を余しての結果というから恐れ入る。恐らく、小林、白田、射手矢らのように、褐色脂肪細胞が極めて発達していて、満腹中枢と直結する血糖値が上がらない“特異体質”なのだろう。
 2位の舩橋も余裕残しで4kgオーバーなのだから、こちらの記録も高い水準だ。
 参考資料として、今年1月に放送された「TVチャンピオン」特番で行われた『甘味大食い女王・お正月スペシャル決戦』の『おしるこ60分無制限勝負』での記録を併記しておこう。赤阪7.2kg、岩田5.6kg、別府5.4kg、浜島4.4kg、山口4.0kgである。
 念のため言っておくが、今回は30分、1月の記録は60分の記録である。単純に倍計算出来るものではないが、舩橋は、現時点でも女性大食いランキング2位の岩田美雪と、ほぼ同程度の実力を持っていると判断できよう。
 3位敗退となった楊木田。記録が伸び悩んだのは、大量の甘味によって血糖値が上がってしまったからだろう。つまり、やはり彼は、胃袋の大きい普通の人だった、という事か。10年前のレヴェルなら本戦出場も可能だっただろうが、現在のレヴェルでは到底通用しない。

 

 ☆予選決勝・カレーうどん60分勝負

 ルール:カレーうどん(重量未発表だが、かなりのビッグサイズ)を60分以内にどれだけ食べられるかを競う。ただし、スープは残しても良いという「大食い選手権」ルールが適用される。

 粘度の高いカレースープが麺にまとわりついて冷めにくいため、自然と勝負は熱さとの戦いとなる。舩橋は何とか克服できたが、山本は熱さに苦しみ、水を多用する作戦を実行。胃には負担がかかるが、熱さはこれでクリア。1杯目こそ遅れをとったものの、2杯目では舩橋と並ぶ。
 序盤戦は、ほぼ横一線のまま推移。
 15分経過。1位山本、2位舩橋。完食数は共に4杯だが、わずかに山本が先行。
 ここから徐々に差が開きだす。5杯目完食時点では、まだ差は小さかったが、7杯完食タイムでは、先行する山本と、追う舩橋との間に分単位の差が着いた。
 驚いた事に、ここから山本のペースが上がりだす。一方の舩橋はペースが落ち、この時点で大勢は決した。
 30分経過。1位山本(8杯)、2位舩橋(7杯)。差は僅かだが、食べるペースは明らかに違っている。
 45分経過。1位山本(11杯)、2位舩橋(9杯)。ここで舩橋、ついに箸が止まった。しかし、山本はお構いなし。
 55分経過。1位山本(13杯)、2位舩橋(9杯)。
 さらに信じられない事に、山本が55分を過ぎてからペースが上がりだす。これにはゲスト解説の赤阪尊子も呆然。脅威の新人がここに登場した。その名は山本卓弥。

優勝 山本卓弥 15杯完食
準優勝 舩橋聡子 10杯完食

 山本が、荒削りながら抜群の才覚を見せつけ、圧勝で近畿地区王者に輝いた。最後の最後にペースが上がった事でも分かるように、これはまだ、胃を余しての記録。2回戦からの連戦である事、さらに、ドンブリの大きさや(スープを残しづらい)カレーうどんという食材を考慮すると、これは「大食い選手権」本戦でも決勝クラスの記録と考えて良いだろう。
 これがデビュー間もない新人というのだから恐れ入る。これから訓練でスピードを身に着けさえすれば、少なくとも射手矢クラス、下手をすれば小林、白田と肩を並べるところまで行くかもしれない。もちろん、現時点でも新人戦なら優勝圏内である。
 準優勝に終わった舩橋。さすがに相手が悪かったとしか言いようが無い。ただし、先述したように、女性大食い選手としては岩田美雪クラスの逸材である事は確か。低く見積もっても、「甘味大食い女王選手権」なら、楽々本戦決勝まで進出できる実力の持ち主であろう。これからの活躍に期待大である。


 ……と、いうわけで、いかがでしたでしょうか。
 恐らく、決勝に残った2人が本戦出場になると思われます。近畿地区の方はもちろん、そうでない方も、是非この両者を応援して頂きたいと思います。


 ★追記(2/15)★

 レポートを脱稿してから、大食いワンダーランド」
のBBSでこのレポートについて書き込んだところ、1回戦に出場したと自称する方から、とんでもない証言を得ました。
 放送では、1回戦で成績上位3名が2回戦に進出したように演出されていましたが、実情は「上位7名から
テレビ的に面白い人が3名、2回戦に選抜される」テレビ的に面白い人が3名、2回戦に選抜される」という、とんでもない話だったそうです。1位の山本選手、2位の舩橋選手は順位通りでしたが、楊木田選手は3位から大きく離れた4位タイの成績だったとの事。
 この証言が100%事実という証拠は有りませんが、証言者が自分のゼッケン番号を明かしていることや、証言の具体性から、かなり信憑性の高いものだと思っております。
 TV大食い番組界の良心と自他共に認めていた「TVチャンピオン」での成績不正疑惑。正直言ってショックでありました。
 唯一の救いは、優勝した
山本卓弥選手が圧勝していた事で、彼の実力や優勝に疑問符を付けなくて済みました。で、彼の実力や優勝に疑問符を付けなくて済みました。
 まさか「TVチャンピオン」本戦で大胆な不正を行う事は無いでしょうが、注意深く放送内容をチェックしておきたいと思います。


   それでは、今日はこれまで。また明日の講義をお楽しみに。(明日に続く) 

 


 

2月13日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(2月第2週分)

 今週も演習の時間がやってまいりました。
 今週は「週刊少年サンデー」にレビュー該当作がありませんが、その代わり、他誌から注目作を3つばかりピックアップして紹介します。

 まずは2001年12月期の「ジャンプ天下一漫画賞」の審査結果発表から。
 ひょっとしたら、「サンデーまんがカレッジ」も、今週辺り発表してたかも分かりませんが、故あって、今、手元に現物が無いため、引用できません。もし発表があれば次回にお知らせします。

第65回ジャンプ天下一漫画賞(01年12月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 審査員・編集部特別賞=2編
  ・『憑き人アレルギー』(秋元治賞)
   小月(19歳・大阪)
  ・『大空の少年コウ』(編集部特別賞)
   中西真智子(16歳・京都)
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『HAPPY BIRTHDAY TO 「U」』
   井原顕(22歳・奈良)
  ・『HEARTS』
   ミュウ・ミッチ(21歳・北海道)
  ・『MONO−GATARI』
   川田あや乃(23歳・千葉)
  ・『卑妖の国』
   森田政文(22歳・愛知)
  ・『best present』
   多田浩介(16歳・徳島)
  ・『米道中鍋栗毛』
   大民彰(21歳・埼玉)

 放っておいても新人候補生が集まる「ジャンプ」ですから、採点基準が厳しくなるのは当たり前なのですが、それにしても、ほとんどの月で“「特別賞」2編、他該当なし”みたいな気がします。
 受賞者に首都圏居住者が少ないところを見ると、持ち込みの有力新人は「手塚賞」「赤塚賞」へ回されてるんでしょうかね。「天下一──」は純粋に投稿オンリーの賞という事なのでしょうか。
 それにしても、年間20人以上「特別賞」以上の受賞者が出ていて、その中でデビューできるのは僅か。で、連載作家になるのはもっと少ないわけで……いやはや。
 まぁ、2流雑誌や成年向雑誌だと、もっと門戸は広いのかもしれませんが、そっちはそっちで同人誌経由で来た腕自慢が集まってますからねえ。
 何にせよ、非生産的行為で金を稼ぐというのは難しいものですよね。

 それでは、レギュラー企画の「新連載・読みきりレビュー」。文中の7段階評価はこちらを。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年11号☆

 ◎新連載『あっけら貫刃帖』作画:小林ゆき

 ジャンプ新連載シリーズの第1弾ですね。小林さんは、恐らくこれが初の週刊連載になるのではないかと思います。

 50ページという大ボリュームだったのですが、効果的に大ゴマを多用して、別の意味でページ数の多さを生かした仕上がりになっていて好感です。
 ちゃんと山場とオチもあり、主要キャラの紹介もさりげなく済ませ、なおかつ若干の謎を残して次回以降に繋げていますね。「新連載第1回」の基本をクリアしています。
 ただボンヤリ見てるだけだと気付かないかもしれませんが、主要キャラが主人公側2人と敵キャラ1人の3人だけなんですよね。これで立派に話を構成しているのも良いです。新人離れした力量を窺わせますね。
 さらに、女流作家らしいタッチの柔らかさも良い方向に出ていて得をしていますね。
 恐らく、このペースで行けば長期連載は間違いないところ。ただ、唯一惜しむらくは、何というか大物感が無い作品であるという事。ジャンプ連載陣の脇を固めることは出来るでしょうが、看板作品にはなり得ない雰囲気が漂ってしまってて、それだけが残念です。
 評価は文句無しの
B+。マンガ好きならチェックするべき作品だと思います。

《その他、今週の注目作》

 ◎新連載第2回『キメラ』(スーパージャンプ掲載/作画:緒方てい《第1回掲載時の評価:B+》

 期待の新人・緒方さんの『キメラ』2回目です。

 ………しかし、何と言いますか、「惜しい!」の一言です。本当に惜しい作品です。

 物凄く力量のある作家さんだという事は間違いありません。『キメラ』しか読んでいない方は贔屓目と思われるかもしれませんが、『キカイ仕掛け──』を読まれた方なら、必ず納得して頂けると思います。
 ただ、今の緒方さんは、せっかく作った見せ場を活かしきれていないだけなのです。
 第1回の主人公と父親(義父)との最後の会話のシーンもそうですし、第2回で村が全滅したシーンもそう。もっと効果的に、ダイナミックに表現できる方法があるのに、そこで躊躇して、小さくまとめて終わってしまっている気がしてなりません。(駒木ならどう演出するか、というのも頭にあるのですが、それはあまりに僭越なので止めておきます)デビュー作で出来ていた事が出来なくなっているというのは、一体どうした事でしょうか……。

 本来、駒木はここまで細かい所まで作家さんに要求しないのですが、“出来るのに出来ていない”というもどかしさが、キーボードに指を走らせてしまうのです。 
 緒方さんの公式ウェブサイトBBSによると、現在の「スーパージャンプ」の編集長が、緒方さんを非常に買っているようです。ただし、編集部サイドの意向を踏みにじりさえするのがアンケート結果という奴でして、これがどうなっているか、非常に心配です。
 今の『キメラ』は、振り子打法を封印されてスランプに陥っている新人時代の鈴木一朗(イチロー)のような作品です。もっとダイナミックに、もっと冒険をして、他の作家さんには真似できないような魅力的な作品を描いてもらいたいと、切に願っています。
 現時点での評価は
B+。先程の『あっけら貫刃帖』と同評価ですが、こちらは力を余しまくってのB+です。『あっけら──』の評価はこれより上がり難いでしょうが、『キメラ』はAまで突き抜ける余力があると信じています
 また再来週に第3回のレビューをやります。本当に期待してるんですから、頑張ってくださいよ、緒方さん!

 ◎新連載『ブラックジャックによろしく』(週刊『モーニング』掲載/作画:佐藤秀峰

 異色作を多く掲載し、そこから『ナニワ金融道』『ギャンブルレーサー』など数多くのヒット作・名作を産んできた「モーニング」ですが、ここに来て、また名作候補が生まれました。

 この作品の作家・佐藤秀峰さんは「ヤングサンデー」の新人マンガ賞出身。これまでも「週刊ヤングサンデー」連載の、海上保安庁の人命救助を描いた作品『海猿』が、原作付きとはいえスマッシュヒットとなった事もある、実力派の中堅作家さんです。97年春の「アフタヌーン四季賞」準入選受賞者にも「佐藤秀峰」さんがいますが、恐らく同一人物でしょう。
 現在は小学館と距離を置き、「近代麻雀ゴールド」で『示談交渉人M』を連載中です。(もっとも、週刊連載が始まったので、もうすぐ終了かもしれませんが)描き方は作品によって違いますが、命の儚さと尊さを主題にした作品を得意としているようです。

 さて、この『ブラックジャックによろしく』ですが、今回のテーマは題名でもお分かりのように、医者、それもインターンが主人公の物語です。
 せっかくの名作ですから、詳しいストーリーは実際に現物を読んでもらうとして、ここではポイントを紹介します。
 待遇・環境の面で非常に虐げられているインターン医の日常を大胆に描く一方で、正義を貫く者が必ずしも命を救えるとは限らないし、逆もまたありうるという、現実に潜む矛盾を大胆に突いている辺りが見事です。
 また、言い方は悪いですが、佐藤さんは死にかけの人間や破壊された人間を描くのが非常に上手い。これがこの作品の優れたストーリーにアクセントを加えています。恐らく、この人でなかったら、この作品は名作にはならなかったでしょう。非常に色々な意味で恵まれた作品といえます。
 評価は期待度もこめて
Aこの演習開始以来、初のA評価です。2002年を代表する名作になるかもしれません。自信を持ってお奨めします。是非、読んで下さい。

 ◎読み切り(世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品)『アラビアンナイト』(「週刊コミックバンチ」掲載/作画:長谷川哲也

 作者の長谷川氏は、マンガ家を目指して上京して13年前後。マンガ家さんのアシスタントなどを経て、マイナー誌で掲載・連載を経験している本職のマンガ家さんです。(詳しくはご本人のウェブサイトにて)
 小池一夫劇画村塾の出身ということで、どうしてもその影響が濃い作風ですね。先輩にあたる原哲夫氏が『蒼天の拳』を同誌で連載中なので、余計に印象がダブってしまうのですが。

 さて、作品の内容ですが。

 時代はイスラム帝国・ウマイヤ朝の末期。王朝の一族の中で生き残った2人の内の1人にして、後ウマイヤ朝・初代君主である、アブド・アッラフマーン(アブドゥル・ラフマーン)1世の逃避行を描いた歴史モノですね。
 駒木は高校の世界史教員ですから、この辺りも当然詳しいわけですが、まぁ「かなり渋い所を突いて来たなあ」というのが実感です。確かに、初期イスラム帝国史の中では抜群に面白いエピソードではあります
 ただ、マンガでは大人数で移動してますが、史実で逃避行をしたのはごく僅かな面々で、しかも早い段階で息子や弟らを失ってしまいます。アブド・アッラフマーンを含めて僅か3人で北アフリカ沿岸を横断し、イベリア半島に渡ったというのが実際の話です。そして、その行為に対する勇敢さを称えて、敵であるアッバース朝の2代カリフ・マンスールが「『クライシュ族のタカ』とは奴の事であろう」と側近に漏らしたというわけなのです。
 作品にアクセントを持たせるため、敢えてそこは史実を弄って、“大人数での大移動”としてしまったのでしょうが、やや安易過ぎた嫌いは否めませんね。弱者がいたぶられて、それを強い主人公が助ける、というパターンは、『北斗の拳』とまるっきり同じ。原哲夫氏が連載している雑誌に投稿する作品としては不味いような気がしますが、いかがなものでしょうか。

 しかし、作品全体のレヴェルとしては、なかなかのもの。即連載にしてもおかしくないレヴェルだとは言えます。先週までの2作品よりは、間違いなく番付は1枚上です。評価はBに近いB+としていいでしょう。
 ただ、この程度(失礼!)の作品を発掘するために大規模な賞を開催しているわけではないはずです。10年に1人とは言いませんが、最低でも1年に1人クラスの天才作家を発掘するための賞なのですから、もっともっと面白い作品が出てくる事を期待したいと思います。

 と、いうわけで今日の演習はここまで。来週からは「ヒカルの碁」番外編もスタートしますし、中身の濃い演習が出来そうです。
 また、引き続き「週刊少年マガジン」「週刊少年チャンピオン」など、主要マンガ誌の新連載作品と読み切り作品をレビューしていただける非常勤講師を募集中です。担当するマンガ誌は1誌でも構いませんので、是非ご応募ください。

 それでは、今日の講義を終わります。

 


 

2月11日(月・祝) 後期試験(解答発表)
「続・或るモー娘。ファンからの手紙(解答編・2)」

 さて、今日も後期試験の解答発表の続きです。

 ところで、今、この講義を受講してる人は、この後期試験に至るまでの“サイドストーリー”をご存じなかったんですよね。

 9月16日の「特集」 プリントその1 
9月23日の「特集」 プリントその2 その3

 こちらを読めば万全かと。

 さて、今日は“最強タッグ”と“七番勝負”の結果レポートを公開します。“彼”からの力作を、とくとご覧あれ。

今日のプリント

 さぁ、皆さんの出した回答は正解していたでしょうか?
 恐らく、「あぁ、単位とか関係無い講義でよかったね」という結果じゃないかと思います。駒木も予想できませんでした。

 では、今日の講義はこれで終わり。明日は講義だけ1日お休みを頂きます。また水曜日のゼミでお会いしましょう。(この項終わり)

 


 

2月10日(日) 後期試験(解答発表)
「続・或るモー娘。ファンからの手紙(解答編・1)」

 昨年の12月に、実は後期試験と題して、受講生の皆さんに宿題を出していました。覚えておいででしょうか?
 それは12月7日分の講義でした。駒木と奇妙な交流のある、モー娘。ファンから時折送られてくる奇妙な手紙についてのお話でした。
 で、その時「出題」したのはこちらのプリント“モーニング娘。最強タッグ決定リーグ戦”なる企画の案内でした。当講座では、このリーグ戦の勝敗当てを試験として出題したのでした。

 それから長い間、空白があったのですが、ようやく“出題者”の彼からメールが届きました。今回は、2回にわたってそのメールを紹介し、講義に替えたいと思います。

 まず、今日は1回目。リーグ戦の詳細な勝敗をダイジェスト形式で記してある文章を紹介します。
 “彼”曰く、「マスコミの観戦レポートを再編集したもの」で、HTML文書を、メールの添付ファイルで送ってきたものです。
 それでは、
こちらのプリントから答え合わせを。かなり難解な解答でしたが、どれくらい正解されたでしょうか? 

 明日は2回目。いよいよ優勝チームの決定です。それでは、また、明日をお楽しみに。 (この項続く) 

 


 

2月9日(土) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(6)
1997年フェブラリーS(1着:シンコウウィンディ)

珠美:「さて、来週は今年初めてのJRAG1競走・フェブラリーステークスです。もちろん、当講座では『競馬学特論』で直前予想をやりますが、今日はその直前ということで、5年前のフェブラリーステークスを採り上げます。G1に格上げされた年のレースですね、博士」
駒木:「そうだね。この2年ほど前から、地方と中央の交流が盛んになって、全国中の競馬場でダート重賞競走が行われるようになったんだよ。そして、このフェブラリーステークスが中央競馬ダート重賞の目玉として、この年からG1に格上げされたんだ
珠美:「当時のダート競走って、どんな位置付けだったんですか?」
駒木:「今でこそ、だいぶ“芝=ダート”に近付いてきてるけど、これ以前の日本の競馬では、明らかに“芝>ダート”だった。ダート競走は、あくまでも芝コース競走の補完的役割でね。まず、中央競馬でデビューした馬は、芝コースで走る事が前提だった。“ダート馬”っていう言葉には、『芝のレースでは通用しない落ちこぼれ』っていうイメージが強かったね。
 そんなわけで、“ダート重賞戦線”どころか、随分長い間、重賞レースはG3が3つだけ。根岸ステークス、ウインターステークス、そしてフェブラリーステークスの前身であるフェブラリーハンデ。これらのレースが、お情けで実施されていた。
 しかし、昔からアメリカではダート競走が主流だし、この前の年、1996年にはドバイのワールドカップも始まった。地方競馬との交流を盛んにする動きも高まったし、そんな国内外の情勢を勘案して、ダート競走のさらなる充実化が図られる事になったんだ。それがこの直後から始まる統一グレードの制定と、フェブラリーステークスのG1レース格上げだったってわけ。ダート重賞の数も飛躍的に増えた。
 後から話すけど、この頃はまだ情勢が混沌としていてね。ダートの充実化も見切り発車に近かった先にレースのグレードを上げておいて、後から馬のレヴェルを近づけていこうって意図がミエミエだったなぁ。だから随分と評判も悪かった。
 でも、今から考えると、それは大正解だったんだけどね。この無茶をやってなきゃ、たった5年でダート世界最高レーティング馬が誕生するはずが無かったし。JRAもたまには良い事するよね(笑)」
珠美:「(苦笑)。じゃあ、今のダート競馬のスタイルが確立されようとしていた頃のお話ですね?」
駒木:「そういうわけ。それじゃ、珠美ちゃん、レースの紹介をお願い」
珠美:「ハイ、わかりました。
 このレースは、1997年の2月16日に行われました。先程、博士から説明があった通り、このフェブラリーステークスは、以前はフェブラリーハンデキャップというハンデ戦のG3競走でした。昭和58年(1984年)創設ですから、比較的歴史の浅いレースという事になりますね。
 その後、1994年に別定のG2・フェブラリーステークスと改称・格上げされ、ライブリマウントホクトベガといった“砂の王者”を輩出して来ました。そして、この年からG1に昇格ということになったんですね。
 条件は、東京競馬場ダートの1600m。ただし、コースの関係上、スタート直後の100m余りは芝コースを横切ることになります。
 さて、記念すべきG1昇格元年のフェブラリーステークスの出走馬は、フルゲートの16頭となりました。地方競馬からの挑戦が3頭、それを迎え撃つ中央勢が13頭という構成でした。
 人気上位の馬を追って行きますと、1番人気がストーンステッパー。前年の秋から短距離ダート競走5連勝中の昇り馬ですね。根岸ステークス(G3)と、重賞に格上げされていたガーネットステークス(G3)の勝ち馬でした。
 2番人気はバトルライン。デビュー以来11戦全てダート戦という、生粋のダート馬ですね。重賞勝ちは無いんですが、前年新設された(旧)4歳限定ダート重賞・ユニコーンステークスで1位入線・10着降着という記録があります。
 3番人気がトーヨーシアトル。この馬はバトルラインとは逆に、デビュー以来、ずっと芝のレースに使われて来ていたんですが、900万下(現1000万下)条件で頭打ちになったのを契機にダートへ転身。そこから、重賞2勝を含む3連勝で、勇躍乗り込んできました。博士のお話からすると、昔のダート競馬は、主にこういう馬が引っ張っていたんですね。
 4番人気はイシノサンデー前年の皐月賞馬ですね。もちろん、芝のレースを中心に使われていましたけど、時折ダート競走にも出走。前年の秋には交流重賞のダービーグランプリを勝っています。この年は、芝のG3・金杯(現:京都金杯)を勝ったんですが、前走のダート交流重賞・川崎記念では6着に惨敗。そのショックを引きずりながらの連闘でした。
 5番人気がビコーペガサス。芝の短距離馬として活躍していて、1200mのG1レースで2着が3度もありました。ダート競走はこれが4戦目ですが、(旧)3歳時には、条件戦とはいえ、ライブリマウントを5馬身千切って勝った事もありました。
 そして、6番人気が、このレースを勝つことになるシンコウウィンディです。この馬も芝のレースでデビューしたんですが、早い段階で見限ってダート戦線へ。中央・地方と転戦して、重賞を2勝しています。隠れた実力馬というところでしたね。
 ……ちょっと長くなりましたけど、私からは以上です」

駒木:「うん、ありがとう。こちらから補足をしておくと、当時のダートチャンピオン・ホクトベガは、前週の川崎記念に出走したため、こちらは不出走。その前の代のチャンピオン・ライブリマウントは出走していたけれど、もう峠は過ぎてて、残念ながら“別の馬”になっていた。また、地方競馬の馬は、この年は大不作。所謂“馬場掃除”担当だった。
 で、このレースは、これからのダートレースのあり方を占うレースでもあったんだよ。と、いうのも、さっき言ったように当時は『芝>ダート』だったわけで、『ダートの最強馬といっても、芝の強い馬がダートに来たら勝っちゃうんじゃないの?』という疑問がまとわりついていたんだ。
 だからこのレースでは、純粋なダート巧者が強いのか、ダートもこなせる芝のチャンピオン級が強いのか、それをハッキリさせる必要があったわけだよ。
 勢力図から言えば、芝陣営のイシノサンデー&ビコーペガサスVSダート陣営・ストーンステッパー&バトルライン&トーヨーシアトル&シンコウウィンディ…という感じだね。単勝人気を見ていると、当時のファンはダート陣営を支持していたようだけれども」
珠美:「なるほど、分かりました。では、レースの回顧に移りますね。あ、ちなみに、このレースは不良馬場で行われました。
 スタートはほぼ横一線。でも、逃げ馬候補の一角・カネツクロスが控えてしまったので、ペースはやや遅めに。一団の馬群の中から、押し出される形でバトルラインやストーンステッパーなどが先行グループに行きました。そのすぐ後ろにシンコウウィンディがマークする形でした。“芝陣営”の2頭はその後ろからになりました。
 レースは馬群一団のまま、勝負処へ。ストーンステッパーとバトルラインが早め先頭に立ち、それをシンコウウィンディとビコーペガサスが内外から追いすがる形になりました。ここでイシノサンデーはスムーズさを欠いて後退して行きました。
 直線の攻防ですが、前半のペースが遅かったせいでしょうか。前の2頭が競り合ったまま粘りこみを図ります。そこへ、内からシンコウウィンディが差し込んで来ました。一方、ビコーペガサスは脚が止まります。博士、これは?」

駒木:「ビコーペガサスにしては、早め早めの競馬をし過ぎてスタミナを浪費した事、1600mという距離が微妙に長い事、そして、当日の不良馬場が、体の小さな(432kg)この馬には堪えた事。色々な要因が複合した結果だと思うよ」
珠美:「……そうして芝のチャンピオン級を振り切ったダート馬3頭のせめぎ合い。まずバトルラインが脱落、そして残りの2頭の競り合いは、最終的にシンコウウィンディの勝ちでエンディングを迎えます。G1初代王者はシンコウウィンディでした
駒木:「この馬、無茶苦茶でね。その前の年には、隣で競り合ってる馬に走りながら噛み付きに行くくらい、気性が荒かった。それをブリンカーで矯正して、噛み付きに行くエネルギーを走りに転化させたんだね。そして、実績の割には人気が下の方だったのも幸いした。自分の思うようなレースが出来たからね」
珠美:「それで博士、結局、ダートのレースはダート馬が強い、ということで落ち着いたんですか?」
駒木:「一応はね。これ以後、ダート馬と芝馬の住み分けが進んだのは確かだよ。今では、芝で好成績を挙げている馬でも“ダートに挑戦する”って表現を使うだろう? その認識は、このレースから始まったと言って良い。
 ただしこの時期は、さっきも言ったようにまだ情勢が混沌としていてね。この翌年のフェブラリーステークスは、芝のG3くらいしか実績の無いグルメフロンティアがダート馬を完封してしまう。真の意味でダートの地位が確立されたのは、その翌年。当時の地方競馬陣営の副将格・メイセイオペラが中央の馬をアッサリ捻ってしまったあたりからかな」
珠美:「なるほど。わかりました」
駒木:「……あぁ、でもこのレースから、もう5年経つんだね。なんか、感慨深いモノがあるよ…」
珠美:「? 博士、どうかされたんですか?」
駒木:「いや、何。実はこのレースの2日前にね、当時4年8ヶ月付き合ってた女の子に思いっきりフられたんだよ(苦笑)」
珠美:「2日前? …………!! 博士、それってバレンタイン……(絶句)」
駒木:「彼女の名誉のためにディティールは割愛するけど、それで酷く落ち込んでね(笑)。でも、翌日には競馬がある。当時は一番競馬の研究に熱心だった時期だったから、涙をこらえて徹夜でレースの予想をしてた」
珠美:「凄い根性ですね(苦笑)」
駒木:「いや、中身はボロボロさ(苦笑)。次の日からレースというレース、全部外れ。そりゃそうだ。平常心と程遠い状態で予想が当たるはずが無い。
 でも、日曜のフェブラリーステークスだけは、随分前から狙い馬を決めていた、それがシンコウウィンディだったんだ」
珠美:「じゃあ、当たったんですか?」
駒木:「本線的中当たった時は泣いたね。『ああ、これで俺は生きていける。俺は生きてて良いんだ』って(笑)。今から考えたら大袈裟だけど、当時はそれくらい追い込まれていたんだな。
 だから、僕は、シンコウウィンディには一生頭が上がらない(笑)。北海道に足向けて寝られないんだよ(笑)」
珠美:「なんだか、物凄い青春の一ページですね(苦笑)」
駒木:「(笑)。まぁ、最後のは蛇足だったね。じゃあ講義を終わろうか。お疲れ様」
珠美:「ハイ、ありがとうございました」

 


 

2月8日(金) 法学(一般教養)
「日本国女帝誕生へ向けての諸問題」(5)

 さて、長い間お休みしていた法学の講義を再開します。実は、「ちょっとインターネット通信過程では堅すぎるかな?」と思い、反響が無ければこのまま打ち切ってしまおうかとも考えていたのです。
 しかし、談話室で受講生の方から再開を求める声を頂いたので、続きをやる事にしました。なんと去年の12月21日以来。受講生の方は勿論でしょうが、駒木も内容を忘れかけていました(苦笑)
 と、いうわけで、時間に余裕のある方は、レジュメを閲覧してから受講して頂きたいと思います。
 《レジュメ第1回/第2回/第3回/第4回)》

 さて。それでは講義に入ります。
 前回までは、世界中の主要な君主国の王位継承についてのお話をしているところでした。中国、ローマ帝国、イギリス、フランスと来て今日は、ドイツ王国並びにドイツ第一帝国であるところの神聖ローマ帝国、そして、その後継国家であるオーストリア帝国の話をします。

 前回、フランスの前身・フランク王国の話をした際、フランク王国が3つに分裂したという事に触れました。即ち、フランス、ドイツ、イタリアの成立(870年)です。

 そして、ドイツの歴史はここから始まります。
 当時のドイツという国は、極めて変則的な国でありました。1つの「ドイツ」という王国の中に、無数の小独立国があり、それぞれが独自の君主を戴いていたのです。
 当時はフランスでも分裂傾向が強く、国王といえども、直轄領を出れば権力が完全に浸透していなかったのは前回お話した通りですが、ドイツの場合はそれが究極的なレヴェルまで到達していました。
 1つ1つのミニ国家(領邦と呼びます)が、主権と外交権を持つところまで進んでいたのです。今の日本に喩えるなら、自治体ごとに独立しているような感じでしょうか。そんな事になると、直ちに長野県と東京都が戦争始めそうな気がしますが、まぁそういう事も頻繁にあったようです。

 しかし、ここで問題が。
 領邦の数は数百、しかもそれは、ほぼ現在のドイツの領域内にひしめき合っているのです。と、いう事は、面積や国力も数百分の一ということになるわけです。まぁ、どの領邦も均等に分かれていたわけではありませんでしたので、中には比較的大きな国や、それこそ吹けば飛ぶような国もあったわけですが。
 ここで思い出して頂きたいのは、この領邦の集合体のすぐお隣には、フランスやビザンツ帝国などがデンと鎮座しているという事です。これらの強大国と比較すれば、ドイツ国内の領邦なんて、まさに月とスッポン同じ“自由”の付く政党でも、自由民主党と、自由連合や青年自由党くらいの差があるわけですね。
 これでは、もしフランスやビザンツが色気を出して、「領土を広げたい」などと思った時にはひとたまりもありません。数百の領邦は、それこそタマネギの皮のように毟り取られてしまいます。
 なので、領邦の君主たちは、他国にハッタリを効かせるために、「ドイツ王国」という“箱”と、「ドイツ国王」という“顔”を用意したのです。

 長い話になって恐縮ですが、つまりドイツ王国という国は、成立当初から形式的な存在であったというわけです。そして国王の存在も

 というわけなので、ドイツ国王は継承方法も独特です。
 なんと、国王は世襲でなく、領邦君主が集まって選挙で決めるという方法が採られました。議院内閣制の首相指名と似ているかもしれません。
 だから、この国の王位継承は、厳密にいえば王位の“継承”ではありません。正確には“改選”です。「ドイツ王国」という張子の虎を、できるだけ虎っぽく見せることの出来る人を随時選んでいったわけですね。少なくともタテマエ上は。

 そんな特殊な状況の中、ドイツでは、その時その時の情勢によって様々なタイプの国王が王座に就きました。

 まずは強い国王。領邦の中でも大きい領邦の君主だったり、軍事的才能やカリスマ性の高い人物ですね。
 ドイツ国王という存在の役割を考えると、こういうタイプが必ず国王に就かなければならないのですがね。でもそれは、わが国の歴代総理大臣を回顧して頂ければ、あくまでもそんな事はタテマエだと分かっていただけるでしょう。事実、この手のタイプは少ないです。
 強い国王の代表的存在はオットー1世でした。ドイツ国内をガッチリ固め、隣国にも大きな影響を及ぼしました。その結果、フランク王国の分裂から空位になっていた、旧西ローマ帝国の皇帝位を教皇から認めてもらう事に成功します。これが神聖ローマ帝国の成立(962年)です。これ以後、少なくとも教科書世界史では「神聖ローマ帝国≒ドイツ王国」という扱いになります。

 次に、先とは逆に弱い国王
 強い国王を戴くという事は、逆に言うと、各領邦君主の力が削がれてしまう事になってしまいます。そうなると、面白くない人間も多いわけで、特に隣国との関係が良好な時には、出来るだけ弱い領邦の君主を国王に据えて、ドイツという国を文字通り張子の虎にしてしまうのです。何だか、ますます日本の首相みたいですね。
 ところが歴史とは分からないもので、この“弱い国王”から、この国を代表する王家・ハプスブルク家が台頭したりするのです。
 そうなると、案外武部農林水産大臣あたりを総理に据えると、凄い総理になるかもしれませんね。まぁ2000%無いでしょうけど。
 ところで、このパターンの最たるものが1256年から73年に至る、大空位時代といわれるものでした。
 この17年間は、実は国王(兼皇帝)は2人も選挙で選ばれているのですが、なんとその国王はイギリスとスペインの貴族でして、ほとんどドイツ本国を訪れる事無いままで統治期間を終えています。つまり、事実上の空位時代というわけです。
 これは、「ドイツの領邦になるべく口出ししない国王を…」という領邦君主の意向を見事に反映させたものですね。日本で言えば村山首相みたいなものでしょうか。

 最後に、世襲の国王
 先程も言いましたが、この国の国王は世襲ではなくて改選されます。
 しかし、日本の代議士でも世襲議員がいるように、こちらの選挙でも世襲国王がいるわけです。最初に挙げた“強い国王”にカテゴライズされる国王が、自分の力が強い内に選挙を行い、自分の息子を共同国王にしたりして世襲を実現させる事もあったりしたのです。
 このケースの代表的な例がハインリヒ4世親の七光りで国王&皇帝になったはいいが、領邦君主の猛反発を食らい、危うくクビになりかけた国王です。カノッサの屈辱事件で有名ですね。 

 とまぁ、こんな感じで、非常に奇妙な形でドイツという国は存続してゆきました。しかしこれでは、「ドイツという国を作ってハッタリを効かそう」という目的から外れてしまうケースも多々見られました。これでは本末転倒です。
 そこで、新しいシステムが始動します。時に1356年。

 ……と、ちょっと長くなってきたので一旦切りましょう。また続きは来週か再来週に。 (この項続く

 


 

2月7日(木) スポーツ社会学特論
「元スポーツ選手・引退後の行方」

 珠美ちゃんに日誌の方でも書いてもらいましたが、ニュース性のある話題が入ったので、時間割変更です。予定の講義は随時実施していきますので、どうかご了承を。

 さて、今日の講義は“消えてしまった、元・有名スポーツ選手”のお話です。
 消えた(消えかけた)芸能人の話は以前、工藤兄弟でやりましたが、よく考えてみると、“消える”のは、芸能人よりもスポーツ選手の方が圧倒的に多いはずなのです。なにしろ、スポーツ選手のほとんどは引退を経験するのです。現役中に亡くなるという痛ましいケースを除けば、いくら“生涯現役”と言っても限界はあるのです。
 そして、引退した選手の大半は、それを境に表舞台から姿を消します。文字通り「引」いて「退」いてしまうわけです。
 そんな引退した元・スポーツ選手の大半は、それこそ我々の記憶の中からも“引退”してしまい、彼らの名前と姿を再び見かけることは無くなります。
 
ですが、ごくたまにブラウン管や活字の世界でヒョッコリ顔を出してくる人も出現します。

 五輪開幕を前に、地元アメリカではまたしてもトーニャ・ハーディング(32)の話題がマスコミをにぎわしている。94年リレハンメル五輪で起きたケリガン殴打事件の“主役”。そのお騒がせぶりは、いまだ健在だ。
 先月中旬、ワシントン州の裁判所に、ハーディングの家主から立ち退きを求める訴状が提出された。
 訴えによれば、ハーディングは1195ドル(約11万円)の家賃を滞納し、遅延利息を含めた4530ドル(約60万円)を期限までに支払わなかった。そのため家主は出ていくよう再三求めたが居座っているため、裁判を起こしたという。
(夕刊フジより)

 駒木もこのニュースを目にするまで、その存在を完全に忘れていました、トーニャ・ハーディング
 一時期は明石家さんまのスポーツバラエティ特番で若手芸人と絡んでいたり、全日本女子プロレス入りが内々定段階まで進んだのにポシャったりと、日本でも活発に金の荒稼ぎ活動をしていたようでしたが、確かにここ最近はサッパリ音信普通の状態でしたね。まさか、こんなベタな展開になっているとは思いませんでした。そして、その詳細はと言うと、

 その後、プロ転向したが失敗。車の販売会社に勤めたり、バーテンダーをしたが長続きせず、最近では生活費にも困っていたという。
 地元の知人は「彼女は有名すぎて、堅気の仕事には採用してもらえなかった」と同情するが、別の知人は「毎晩のように煙もうもうのバーに出没し、ビールをあおっていた」と証言。「彼女にできるのは、さっさと家を出ることだけ」とあきれている。
(同上)

 ……と、ことごとくベタな内容です。事業失敗、雇われても失敗、んで、無職。ここまでベタベタだと、敢えてコメントするまでも無いですね。
 ただ、この記事の情報元がちょっと気になります。

 ナショナルエンクワイラー誌によれば(後略) (同上)

 ナショナルエンクワイラーといえば、東スポの海外ニュースソースになっているという、アメリカのD級マスコミ誌です。いや、夕刊フジに記事が採用されているのでC級くらいには格上げされているのかもしれませんが。
 皆さんはご存知無いかもしれませんが、アメリカのマスコミというのは、まともなモノとそうでないモノの格差が極めて大きいのです。
 ハワイのワイキキなどといった、半分日本のような所でも、ちょっと裏に回ると現地人向けのコンビニなどがあったりします。で、そこの新聞・雑誌コーナーを見ると、結構な数の新聞が並んでいます。
 その新聞のほとんどはタブロイド版で、大抵「東スポ」と「夕刊フジ」&「日刊ゲンダイ」を足して2で割ったような体裁。そして、一面トップにはこんな見出しが。

 「エルビス=プレスリーの生存判明!」

 「予知能力を持った150歳老婆が、アメリカの未来を予言!」

 「ギトギトのピザを毎日腹いっぱい食ることで痩せるダイエット法発見!」
 
 ………ナショナル・エンクワイラーも、こんな有象無象のマスコミの1つです。ですから、今回の記事は信用して良いものかどうか……。
 ま、駒木は信用しますが。その方が面白いですし。

 ところで。
 我が日本のスポーツ界にも、典型的な“栄光から転落一途”の人生を歩んでしまった人がいます。

 その名は、第34代横綱・男女ノ川(みなのがわ)。そう、日本の国技・大相撲で最高位まで登りつめた人です。
 この男女ノ川、現役時代から奇行が目立った人だったらしいのですが、引退後、親方になる資格を得たのに突如廃業して、こともあろうか大政翼賛会から帝国議会衆院選に出馬して落選(大政翼賛会の候補者は、意外とよく落選してたのです)。
 その後は悲惨です。探偵業を始めるも、体がデカ過ぎて(現役時193cm、154kg)尾行が出来ないのですぐに失敗。やがて生活に困るようになり、ついには行き倒れになっているところを発見されて養老院に保護されます。見るに見かねた相撲協会がカンパを募ったのですが、それも瞬く間に使い果たしてしまい、最後は料理屋の下足番として69歳で没
 何と言うか、安田忠夫がバンナに負けていたらこうなったのかも、と思わせる末路ですね。いやはや。

 ……とまぁ、日米を代表する「スポーツ選手・転落の人生」を振り返って来ましたが、このまま終わってしまっては、あまりにも後味の悪い講義になりますので、最後は「一発逆転の人生」を歩んだ人を採り上げて締めておきましょう。ちょっと実名を挙げるのは支障があるので“X氏”としておきますが。

 X氏は、中学卒業直後に某大手プロレス団体に入団。その後、海外修行等を経て若手トップ選手として活躍、ついにはジュニアヘビー級のタイトルも獲得します。
 しかし、脚の故障から引退を余儀なくされ、マットから一時姿を消します。
 その後、事業を立ち上げますが大失敗。ついには道路工事などの単純肉体労働で食い繋ぐ状態に。
 それでもプロレスへの思いは断ちがたく、どうにかコネを頼って、今は解散している某新興女子プロレス団体のコーチ役に就任。そこで、彼と同じく浪人状態だった男子レスラーと協力して現役復帰を果たしますが、ファンの受けは最悪。格闘技系プロレス団体へ挑戦状を叩きつけようとするも門前払いを食らうなど、苦悶の日々が続きます。
 しかしX氏は諦めません。「よし、それなら自分で団体を興そう」と、新団体の設立を計画します。アメリカでセミリタイアしていた、かつての後輩レスラーをスカウトするなど、人材は何とか揃えたものの、肝心の資金は無一文の状態。それでも考える前に動くX氏、当時雇われ店長をしていた風俗店のレジから(※自主規制)当座の資金を揃えます
 そうして出来上がった団体は、「すぐに潰れる」という大方の予想を覆して大ブレイク。興業の失敗で恐ろしい額の借金を抱えたりしますが、タレント活動などもして何とか乗り切ります。
 その後、過激な試合スタイルが響いて生命に危険が及んだため一時引退するもやがて復帰。しかしかつての部下たちと対立し、自分の興した団体と袂を分かつ事になります。
 それでも挫けないX氏、定時制高校に入学して話題をさらい、それまででもプロレス界でも五指に入っていた高い知名度をさらに高めます。そして、その知名度と好感度を活かし、遂には参院選に出馬、見事当選を果たしたのです──

 ……どうですか、この一発逆転。素晴らしいですね。

 それでは、「例の風俗店には金返したのか?」という疑問だけは晴れる事無く、今日の講義を終わります(この項終わり)

 


 

2月6日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(2月第1週分)

 まずはお詫び。後夜祭の時に『キメラ』の第2回をレビューする、なんて書いてたんですが、よくよく考えたら「スーパージャンプ」は第2、4週発売だったのでした。学園祭のドタバタで頭が死んでたようです。申し訳ありません。

 さて、まずは情報から。
 まず1点目。来週から「週刊少年ジャンプ」は、3週連続で新連載が立ち上がります
 今回の新たに加わる連載陣は、掲載順に小林ゆき、河下水希、尾玉なみえの3氏。河下・小林の師弟コンビに、反骨マンガ家・“ジャンプの平沢勝栄”こと尾玉さん。一言で現すと異色トリオですねぇ。最近は新連載組の劣勢が続きますが、頑張ってもらいたいものです。
 ということで、その3作品と連載中の3作品が入れ替わる事になります。1つは、春まで一時休載の『ヒカルの碁』。あとは来週と再来週で2作品が最終回ということになりますね。
 どうやら1作品は『もののけ! にゃんタロー』でほぼ確定。あと1作品は『ソワカ』が有力というところでしょうかね。そうなると、去年の12月第5週分で行った『最終回ダービー』は○▲のタテ目で的中という事になるんですが……。
 しかし、『ヒカ碁』が春から再開ということは、次の新連載は4月スタート。来週スタートの連載は、最短で10回ということになりますね。いやはや、さすがジャンプシステム……。
 2点目。「週刊少年サンデー」の来週号(11号)で『トガリ』が最終回になるそうです。(情報元:最後通牒半分版さん)タイトロープな連載を1年以上続けてきましたが、ついに限界に。ちなみに駒木の評価はでした。

 では、レギュラー企画に。ジャンプで読み切り3本、サンデーで新連載1本と、数だけ見ればなかなかの豊漁ですが……?

 ※文中の7段階評価はこちらを。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年10号☆

 ◎読み切り『SWORD BREAKER』作画・梅澤春人

 「コミックバンチ」にインタビューが掲載され、すわ、移籍か? と思われた梅澤氏ですが、結局元の鞘に収まったようです。まぁ、「バンチ」の場合、新連載が立ち上がるペースが遅いので、順番を待っていたら『ブレーメン』の印税を使い果たしてしまいそうですが。まぁこちらは、喩えれば“ジャンプの鳩山邦夫”でしょうかね。

 さて、今回の作品のレビューへ。まぁ何と言うか、恐ろしいまでにコテコテの、剣と魔法のファンタジーです。
 ストーリーも、オーソドックスというかステレオタイプ。伝説の盾を持つ少年が魔力の宿ったその盾を駆使して、妖刀(神話時代に、伝説の盾と対立していた伝説の剣が分裂したもの)を持つ悪人をやっつけていくというストーリー。恐らく、新人がネームを持ち込んだら「コテコテ過ぎて話にならん」と言われそうな話です。
 で、肝心のその中身なんですが、“不思議と読める”作品になってます。
 梅澤氏の作品を以前から読んでいた人は分かると思うんですが、この人、とにかくマンガ(not絵)が下手なんですよね垢抜けてないというか、ドロ臭いというか。
 こんな人がコテコテのファンタジーを描いたら、どうしようもない駄作になってしまうと思ったのですが、ところが意外にもそうなってはいないんですね。ちゃんとお約束(必然性がある会話で世界観の説明をするetc…)が出来ているんですよ。もっとも、その設定の無茶さ加減とコテコテさ加減は苦笑するしかないですがね。
 このあたり、マンガの上手さや才能では梅澤氏より格段に上のはずの緒方ていさんが、『キメラ』の第1回でつまずいたのとは好対照ですよね。これが経験の差、という奴なのでしょうか。

 というわけで、失敗作にはなっていないので、評価はBとなります。梅澤氏の作品で駒木がB以上を付けるのは『酒天☆ドージ』(B+)以来。むう、評価つけてる自分が一番驚いてますよ。
 ただ、この後、こんな平板な話を1年も2年も連載されるとなると、さすがにゲップが出ますが。

 ◎読み切り『つなげたいよ』(作画:永峰休次郎

 久々、『HUNTER×HUNTER』の代原読み切りです。どうやらこれがジャンプデビューの新人作家さんみたいですね。
 しかしこの作品、15ページのギャグマンガなんですが、以前掲載された赤塚賞受賞作品よりも格段に面白いじゃないですか。ひょっとしたら次回の赤塚賞用に編集部が預かっていた作品かもしれませんが、こういう作品と新人さんこそ、賞金付きの賞をあげたいと思うんですが。
 具体的に面白いところを挙げるならば、前半のサイレント(セリフなし)部分でしょうかね。ここがテンポが良くてかなり良いです。その代わり、後半で少しダレたのが惜しいですが。
 問題は、連載になった時、このレヴェルを維持できるかどうかですね。もう少し作品を読ませてもらいたい作家さんです。評価は
B+

 ◎読み切り『抱きしめて! ベースボール・ラブ』(作画:セジマ金属

 こちらは『ピューと吹く! ジャガー』の代原。巻末コメントを読む限り、どうやら2人組の新人作家さんのようです。昨年49号において、やはり代原で同じ題名の作品を発表していますが、このゼミが始まる前でもあり、全然印象に残ってません(苦笑)。
 今回は(も?)6ページのショートギャグオムニバスなんですが、これが面白くない
 本気で面白くないギャグに、面白くない理由を求めるのは非常に困難なものですが、この作品はまさにそんな感じ。作者が2人がかりで勘違いしてるとしか思えないんですよねぇ。う〜む。
 こんなマンガに原稿料が6万円も出るのかと思うと、こうして毎日無給で講義してる自分が悲しくなります、ハイ。評価は
Cでいいでしょう。作者さんは、このままプロとしてやっていくのか、考え直した方が良いですね。

☆「週刊少年サンデー」2002年10号☆

 ◎新連載(短期集中)『ダイキチの天下一商店』作:若桑一人、画:武村勇治

 画担当の武村氏は、以前本誌で『マーベラス』を連載していた人ですね。『マーベラス』は、個人的には、まぁ好きな方の作品だったのですが、どうも人気が低迷していたようで、1年程で打ち切られてしまってます。今度は『風の伝承者』の若桑一人氏を原作に迎えての再挑戦となります。しかし、若桑氏も打ち切りが多い原作作家さんなんですよね。「サンデー」のアオリでは“最強タッグ”だなんて書かれてますが、実績を考えると“白星配給係”の方が近いかも。いやはや…。
 そして、今回の本誌復帰作は、恐怖のサンデーシステム・短期集中連載です。アンケートが良ければ後に本格連載、ダメなら月刊か増刊に左遷して半年で打ち切り。ジャンプシステムがギロチンなら、こちらは南米ギアナ流刑みたいなものでしょうか。

 では、前置きはこれくらいにして作品レヴューへ。
 大手チェーン店に乗っ取られそうな貧乏弁当屋を画期的なアイデアで立て直した旅の主人公、しかしその正体は、敵である大手チェーンの御曹司であった──という、お話(あ、ネタバレかな)なのですが、さすがに原作者付きだけあって、話作りの基本的要素はクリアしてます。見せ場も作れてますし、演出も難は無し。画の方も、キャリア8年目の中堅作家さんだけあって、問題なし。これならまぁ、良いんじゃないんでしょうか?

 ただ、キツい事を言わせてもらうと、つまらなくはないんだけど、とびきり面白くもないんですよね、これ。喩えるなら、町の大衆食堂でチャーハン食ってる感覚。分かります? 「不味くはないけど、美味くもないなあ。でも値段考えるとこんなもの?」なんて顔をちょっとしかめながら食べてる感じですよ。
 評価は
B。まぁ、連載陣の一角を占めるのは良いと思いますが、どうにも小粒な感じが否めません。
 

《その他、今週の注目作》

  ◎読み切り(世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品)『飛将の駒』(週刊コミックバンチ10号掲載/作画:大牙
 
 「世界漫画愛読者大賞」最終審査の第2週目です。
 作者の大牙氏は、現職こそ会社員ですが、かつて雑誌掲載も果たした事のある、元マンガ家の卵とのこと。先週の日高建男氏に続いて苦労人タイプの人ですね。
 絵の雰囲気は次原隆二氏ほんまりう氏を足して2で割ったような感じ。ひょっとしたら、両氏のアシスタントを経験していたのかもしれません。
 ストーリーは、将棋+ヤクザモノ。将棋を麻雀に変えると、「近代麻雀」3誌で頻繁に出てくる設定ですね。ヤクザの組長の孫が後を継がずに将棋指しになって…というもので、有り体に言えばよくある話です。将棋を麻雀に変えたら、即、「近代麻雀」でデビューできそうです(笑)。

 ただ、苦言を呈さなくてはならない点も。

 まず、キャラクター設定がかなり甘いんですね。典型的なバカな悪役だった将棋の対局相手が、突然賢いタイプのライバルに転じたり、常軌を逸するほど主人公を忌み嫌っていたはずの祖父(組長)が、特に理由も無く主人公を認めて死んでいったり……。
 ご都合主義というより、話が破綻してます。

 さらに、この作品はページ数が40ページを超えてるんですが、ちょっと間延びしてます。5ページは削れたかな、という感じがしますね。
 …と、まあこのへんを差し引いて、評価は
B−(Bに近いですが)としておきます。

 ……しかし、こんなレヴェルの作品があと8週続くんであれば、かなりイタい企画ですよね、このコンペテイションは。もっとこちらに衝撃を与えてくれるような天才作家がいないんでしょうかね? 期待と不安を抱きつつ、あと8週間見守っていきたいと思います。

 と、いったところで今週は終わりです。来週からちょっと中身が濃くなりますね。お楽しみに。

 


 

2月5日(火) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(5)《サイレンススズカ三番勝負・3》
1998年天皇賞・秋/1着馬:
オフサイドトラップ

駒木:「さて。いよいよ『サイレンススズカ三番勝負』も今日でフィナーレだね」
珠美:「…ハイ。今日は、サイレンススズカの最期のレースになった、1998年の天皇賞・秋についてお話して頂きます。
 ……でも、なんでしょうね。『引退レース』じゃなくて『最期のレース』と言わなくちゃいけないのが、何だか悲しいです」

駒木:「うん。こんな事言っちゃうのは、本当ならいけないんだろうけど、このレースだけは早いところ忘れたいくらい嫌いなレースなんだよね。
 僕が競馬を真面目に勉強するようになって丸10年。…これを短いと取るか長いと取るかは、受講生の人たちに任せるけれども、まぁ僕の年齢(26歳)を考慮して欲しい。…で、この10年間で観てきたG1レースは200ほどにもなるんだけれども、ハッキリ言って、その200の中で最低のレースだね、この天皇賞は
珠美:「………」
駒木:「まぁ客観的な解釈は、この講義を聴いてもらって、何らかの手段でレースの映像を観てもらって、それから受講生個人個人でしてほしい。僕はあくまで、僕なりの判断材料を提供するだけにしよう。
 じゃあ珠美ちゃん、このレースの紹介をしてくれるかな?」
珠美:「ハイ。このレースが行われたのは1998年11月1日でした。
 この天皇賞というレースの歴史を辿ると、明治末から各競馬場で行われていた『帝国御賞典』まで遡ります。その後、昭和12年に東と西で年1回ずつ施行される現在のスタイルが出来上がり、昭和22年秋から『天皇賞』という名前で定着しました。
 原則的に、春は京都競馬場、秋は東京競馬場の芝コースで行われます。距離は昭和58年までは春・秋とも3200mでしたが、中距離戦線の充実を図るため、翌59年から秋の天皇賞のみ2000mで行われるようになりました。
 また、昭和55年までは、1度『天皇賞』を勝った馬は出走できない“勝ち抜け制”が存在していたり、長年外国産馬の出走が不可能である(平成12年から部分解禁)など、独特のルールがあったことでも知られていますね」

駒木:「“勝ち抜け制”とかのルールは、『天皇陛下から賞典(盾)を賜る』というところから来ていたらしいね。『重複して賞を賜るなど恐れ多い』とか、『日本の天皇の賞なのだから、外国産馬に賞を与えるのはいかがなものか』…とかね。まぁ、色々な意味で日本人らしいレースだね(笑)」
珠美:「…このレースに出走したのは12頭。サイレンススズカは、先週採り上げた宝塚記念の後、3ヶ月休養。秋緒戦の毎日王冠を勝ってこのレースに臨んでいました。
 その他の有力馬と言えば、宝塚記念組のメジロブライト、シルクジャスティス、ステイゴールド、サンライズフラッグといったところでしょうか。サンライズフラッグは朝日チャレンジCと毎日王冠を連続3着、その他の3頭は、京都大賞典に出走してメジロが2着、シルク3着、ステイ4着という結果になっていますね。
 また、このレースを勝つことになるオフサイドトラップは、夏のローカルG3レースを2連勝して、このレースに挑戦していました」

駒木:「サイレンススズカが勝った毎日王冠の2着馬は、あのエルコンドルパサー。まぁ、当時はまだ発展途上の(旧)4歳馬だったんだけど、今から考えると、マイペースの逃げでエルコンドルパサーを2馬身半離して勝ってるんだから凄いよね。あと、5着には故障明けのグラスワンダーがいた。
 一方、宝塚記念組が揃って討ち死にした京都大賞典の勝ち馬は、当時(旧)4歳のセイウンスカイ。この後、菊花賞で見事な逃げ切り勝利を果たすんだけどね。でも、それはまだ1週間後のお話。メジロ、シルク、ステイの3頭は、『2400m以上で真価を発揮する馬だし、(旧)4歳に負かされたのも頼りないからなあ…』って思われていた。オフサイドトラップなんて論外に近い存在だった。結局、宝塚記念の再戦ムード、しかもエアグルーヴはエリザベス女王杯に回って不出走。『このレースもサイレンススズカで仕方ないな』って感じのレースだったね。
 …あと、そう言えばこの年の秋シーズンは、武豊JKに乗り馬が集まっていてね。前週の秋華賞をファレノプシスで勝っていたし、(旧)4歳牡はスペシャルウィーク、古馬中・長距離がサイレンススズカとエアグルーヴ。短距離はタイキシャトルの天下だったけど、対抗勢力筆頭のシーキングザパールに乗っていた。一体、いくつG1を勝つんだろう、なんて言われてたよ。でも、結局勝ったのは秋華賞だけ。ミスらしいミスも無かったのに、勝てなかった。勝負事って、ホントに難しいよね」
珠美:「……簡単だったら良いんですけどね、馬券も当たりますし(苦笑)。…じゃあ、レースの回顧に移りましょうか、博士?」
駒木:「ああ、そうだね。気が重いけど(苦笑)」
珠美:「このレース、逃げ馬はサイレンススズカの他にサイレントハンターがいたんですが、スピードの絶対値が違いましたね。最内の1枠からサイレンススズカがハナに立ってあっという間に大逃げの形になりました。2番手のサイレントハンターも3番手以下を離して、この馬も大逃げしているのと同じような形に。物凄い縦長の展開でしたね」
駒木:「とにかくペースが速いんだよ。最初の600mが34秒6で、1000mが57秒4。今となっては永遠の謎だけど、このペースでサイレンススズカは逃げ切れたんだろうかね? とにかく『無謀』と言って良いような超ハイペースだったよ。……でもこの時、リアルタイムでレースを観ていた人は、ただただ『凄い』と思ってた。逃げ切ってしまう事を前提条件としてレースを観ている人が大半だったはずだよ」
珠美:「3番手以下は比較的固まっていましたね。まずオフサイドトラップがいて、やや下がってステイゴールド、メジロブライト。その後ろはほぼ団子状態。シルクジャスティスとサンライズフラッグはその後方に待機していました」
駒木:「メジロブライトがちょっと前過ぎるかな、という程度で、あとは順当。ステイゴールドも若干前過ぎるけど、先頭との差を考えると、まぁこんなもんでしょう」
珠美:「レースは3コーナーから4コーナーへ。レースを観ていた大半の人が、サイレンススズカの快走を信じて疑わないでいたその時、事故は起こりました。サイレンススズカが左前脚を骨折して急ブレーキ。そのまま競走を中止しました」
駒木:「…この時のどよめきと言うか悲鳴を、どう表現したらいいんだろうね。何というか、空気が歪んでしまったというか……。『世界観が一瞬でガラリと入れ替わった副作用が、空間全体に及んでいた』…とか言えば小説っぽくなるのかな。
 ……あと、この時、僕は阪神競馬場のターフビジョンでレースを観ていたんだけど、どこかのバカが『やった〜(サイレンススズカが)バテた〜』とか叫んでいやがってね。本気でぶん殴りたい衝動を必死で抑えていた。これからサイレンススズカが味わう苦痛をそいつにも味合わせてやりたかったよ」
珠美:「………回顧を続けます。止まったサイレンススズカを交わして先頭に立ったのはサイレントハンターでした。が、あまりにも突然サイレンススズカが下がってきた影響で、馬も騎手も慌てたのでしょうか? ハミが外れてスピードが落ちてしまいます。一気に馬群が詰まり始めました。
 こうなると3番手にいたオフサイドトラップが有利でしたね。直線で先頭に立ちます。追いすがるのはステイゴールドで、あとはサンライズフラッグが後方大外から追い上げていましたが、ビハインドが大き過ぎました。メジロブライト、シルクジャスティスは全くの不発でした。
 早めに抜け出したオフサイドトラップ。ステイゴールドが一瞬交わす勢いだったんですが、肝心なところで内にササる悪い癖が出てしまいました。結局、オフサイドトラップが1馬身1/4の差をつけて1着でゴールしました

駒木:「先頭、2番手がアクシデントで圏外になった時点で、オフサイドトラップは、前半1000mを1分1秒程度のスローペースで逃げているも同然だった。これ以上無い展開利さ。でもね、でもこの馬は、それでもG1を勝てる力を持った馬ではなかった。勝っちゃいけなかった。本当なら他の馬にズブリズブリと差されて3着か4着にならなくちゃいけなかったんだ。
 ところが現実はどうだ? メジロやシルクは世紀の大凡走、ステイゴールドは内にササって、しかもそれを蛯名JKが立て直せないお粗末な事この上ない。ぶち壊しだよ、ハッキリ言って。これじゃあサイレンススズカが可哀想だ」
珠美:「………」
駒木:「それと、もう1つ忘れられない事。レースが確定した直後、フジTVのインタビューに答えた、オフサイドトラップの柴田(善)JKが言い放った第一声が酷かった。彼ね、仏頂面でぶっきらぼうにこう言ったよ。『笑いが止まりませんね』って。
 僕はこのインタビューを家に帰ってから観て、競馬場であのバカに抱いたのと同じような、殺意にも似た怒りが湧いてきた。だって柴田(善)JKは、サイレンススズカが死んだ事も含めて『笑いが止まらない』と言ったんだ。サイレンススズカが死んだ事で、心から悲しむ人がどれくらいいると思ってるんだ? 競馬に携わる人なら、すぐに想像出来そうなものなのに。少なくとも、全国ネットのTV中継で吐く言葉じゃあない。最低の発言だよ。
 そりゃ彼は優れた騎手だし、技術面に関してはリスペクトもしている。でも、この言葉は一生許せない。そして柴田善臣という人間そのものもね。
 1頭の偉大な馬が命を絶つには、馬も人もお粗末過ぎたレース、それがこの天皇賞だった。僕が『このレースは最低だ』といった理由が少しは理解してもらえただろうか」
珠美:「……私からは発言を控えさせてもらいます。では、このレース以後のお話をお願いします」
駒木:「まず、サイレンススズカは左前脚粉砕骨折で安楽死処分。今のところ、G1レースで非業の死を遂げた最後の馬になるのかな。
 勝ったオフサイドトラップは、この後、有馬記念へ。でも距離も向かないし、力も足りないわけだから、当然のように惨敗した。引退後は種牡馬になって、初年度産駒は今年デビューのはず。
 ステイゴールドは説明不要だね。内にササっても立て直してくれるパートナーに恵まれて、3年後に国際G1勝ちを果たす。そのパートナーがサイレンススズカの武豊JKってのも意味深だね。
 メジロブライトはこの後もG1でそれなりの活躍はしたけど、スペシャルウィーク世代の突き上げに屈して脇役に甘んじる事になる。シルクジャスティスはこの後も不振を極めて、挙句の果てには故障を発症して引退。晩年は寂しかったねえ。サンライズフラッグも、これ以後はスランプに陥ったまま引退する。
 結局、この後の競馬界を引っ張っていったのは、サイレンススズカの屍を越えていった馬たちじゃなくて、エルコンドルパサーやグラスワンダーといった、サイレンススズカに胸を貸してもらった若駒たちだった。この2頭のおかげで、サイレンススズカは犬死にしなくて済んだと言っていい。何というか、運命って複雑なものだよね」
珠美:「…ハイ、ありがとうございました。博士、来週は…?」
駒木:「再来週がフェブラリーS。それを考えて、G1昇格元年・1997年のフェブラリーSを振り返ってみようと思う。それじゃ、今日はこれまで。珠美ちゃんもご苦労様」(来週に続く)

 


 

2月4日(月) 労働経済概論
 「モーニング娘。新メンバーの給料は8万円 !?」

 さぁ、今日から通常講義です。
 せっかく多くの人が来てくれているし、椎名林檎のデビュー前秘話を10回連続で、とか色々考えたんですが、いきなり受講生を絞ってしまうのもどうかと。
 まぁしばらくは、昨日に発表した通り、社会情勢を睨みながら、“小ネタ”や以前からの続き物を1〜2週間お届けしてゆきたいと思います。
 講義内容については、要望があれば反映させたいと思ってますので、談話室等で申し出てください。

 さて、今日の講義は、久々のモー娘。関連です。
 よくよく考えてみると、昨年11月末の講座開講以来、採り上げたタレントといえば、ヒステリックブルーとか工藤兄弟とか、本気で「どうでもいい」と思えるような人たちばかりでしたね。
 モー娘。関連は、後期試験が最初で最後、それ以前となると、「今日の特集」時代。それにしたって、新メンバーについて5回も盛り上がった後は“大いに語って”以来となるわけですか。我ながら、講義の題材の歪みっぷりに失笑してしまいますね。
 今回の講義は、とある新聞記事を参考にしてスタートしましょう。

 夢にまで見た芸能界はやっぱり甘くはなかった――。
 昨年8月、「モーニング娘。」の4回目の追加メンバーに選ばれた小川麻琴(14)に引退説が飛び交っている。
「彼女が両親にもう辞めたいと言い出しているんです。“仕事はメチャメチャ忙しいのに、月に8万円しかもらえない”とか“このまま続けていく自信がなくなったし、普通のコに戻りたい”と言っているという話です」(芸能プロ関係者)
 (日刊ゲンダイより) 

 よりによって小川。よりによって、新メンバーの中で、自分に一番根拠の無い自信を持っていると思われる小川中2にして高橋尚子似という深みのある顔が、モー娘。の中で異様に浮いているあの小川です。
 新メンバーの中では、一番の実力派として加入したはずなのに、いつの間にか紺野に先にブレイクされている昨今。こりゃまた、リアルな…と、思ってしまいますね。
 ただ、この「芸能プロ関係者」なる人物、

「13人いるメンバーの中で、常に脚光を浴びるのは後藤真希と安倍なつみの2人で、そのほかのメンバーは単なる引き立て役ですからね。スターを夢見ていただけに、その反動も大きかったということでしょう」(前出・芸能プロ関係者) (同上)

 …などと、日本の打ち上げるロケット並に軌道の外れた事を言っているので、この発言は先物取引のセールスマン以上に信じられません。恐らく、「辞めたい」云々はガセだと思って良いでしょう。

 とはいえ、記事中の「給料が月8万円」というのは、近からじとも遠からじ、という気がするのです。

 なにしろ、売り出し中の歌手・アイドルたちの給料が著しく安い、というのは、20年以上前のピンクレディー時代から伝わる芸能界の伝統でもあるのです。
 Speedの所属していた(旧)ライジング・プロは、利益を脱税していた分も含めて豪快にタレントに分配していたみたいですが、これはあくまでも例外
 先程のピンクレディーの例を挙げると、2人の月給が100万の大台を越えたのは最後の数ヶ月だけで、絶頂期はサラリーマンの給料に毛の生えた程度しか貰えていなかったようです。
 他にも、「チェッカーズは上京当初、月給5万だった」とか、「川村ひかるが、『ゲームウェーブ』で携帯電話爆破されたり、体張ったロケやってた頃は月20万弱だった」、さらには「アルフィーの高見沢は、デビュー当初、貧乏のあまり餓死しそうになった」などなど、この手の話は枚挙に暇が有りません。
 現実に、当のモー娘。も、「LOVEマシーン」で大ブレークを果たした頃、主要メンバーの給料は手取りで月15万円だったとか。この頃、モー娘。が人気絶頂にも関わらず、石黒、市井と相次いで脱退していったのは記憶に新しいところです。脱退の理由と安月給を結びつける物的証拠はありませんが、その方が解釈はしやすいですよね。

 ただ、これは給料を支払っている事務所にも事情というものがあります。
 事務所がタレントを1人(1組)、大々的に売り出そうとした場合、億単位の経費を使います。タレントをブレイクさせるためには、「まず投資ありき」なのです。
 ですから、タレントが首尾よく売れ出した後も、しばらくの間は、当初の経費回収と当面の利益確保に徹さなくてはなりません。いつ、何があるか分からない芸能界、悠長に高い給料を支払っている暇は無いのですね。
 それを理解せずに、歌と同じようにトーンの外れた声でギャースカ騒ぎ出したのが鈴木あみだったわけです。彼女の離脱騒ぎの際、芸能界関係者が揃って「吉野家コピペ」のような反応をしたのは、実はそういう理由なのですね。

 しかし、そのタレントの人気が安定飛行に入ると、今度は移籍や独立をされる方が怖くなってきます。そうなると、タレントの給料は、飛躍的に上がったり歩合制になったりします。
 事実、モー娘。の年長組(飯田、安倍など)は、昨年発表の「高額納税者リスト」に名を連ねていて、いつからか月給が100万単位に跳ね上がっていることが分かります。そして、給料が上がったと思われる時期から離脱者がゼロになり、なおかつ市井が出戻りを画策するという生々しい事態に。

 いやあ、資本主義って素晴らしいですなあ。

 ……と、いうわけで、モー娘。ファンの皆さんは、歌に合わせて「フォウ! フォウ!」といった野太い声をあげる前に、小川真琴さんへ「給料上がるまでもうちょっと頑張れ!」と、声をかけてあげてほしいと思いますね。

 ところで、新人が金銭的に恵まれないというのは、他の業界でもよく耳にする話です。

 例えばマンガ家業界では、「新人の原稿料は大手で1ページ1万円」というのが相場(「コミックバンチ」は2万だそうですが)。諸経費やアシスタント人件費などを考えると、週刊連載でも原稿料では赤字で、利益確定は単行本発売後とのこと。それまでは編集部から借金して食い繋いでいかなくてはならないようです。
 小説業界もっと悲惨で、一部の人を除けば、副業を持っていないと食べていけません。

 スポーツ業界でも話は似たようなもの。
 ボクシングは、世界王者にならない限り専業は無理です。最下級の4回戦では、年数回しかない試合のファイトマネーが手取り4万円。しかも現金支給は稀で、大抵は自分の試合のチケットで支払われます。日本タイトルマッチも無いようなマイナー興業のチケット、それを現金化しない限りは無給同然なのです。
 プロレスにしても、まともに給料が出るのは一部の大団体で、大半の弱小団体に所属しているレスラーは副業を持っています
 アレクサンダー大塚選手が、「PRIDE」の自分が上がるリングを組み立てていたというのも有名な話ですね。
 プロ野球選手も二軍選手になると、バット代だけで年間数百万円必要なのに年俸は500万程度。スポンサーから大量にバットが支給される有名選手から、「このバットは使えない」と捨てられるバットを譲ってもらっているとかいないとか。
 Jリーグの下位チームはもっと悲惨。
 ヴァンフォーレ甲府
なんかになると、選手全員の年俸総額が6000万円で固定されていたりします。選手の層が厚くなればなるほど、選手の懐は寒くなる。「アツくなるのに寒くなるとは、これいかに」……などと、オチを付けている場合ではありません。
 例外はギャンブル系スポーツ(特に中央競馬、競輪、競艇)ですが、これらのスポーツは、選手になることが極めて難しいですし、「同期で1人以上死んだ奴がいる」のが当たり前という危険一杯の世界。中央競馬の武幸四郎騎手が、周囲の批判を省みず合コン三昧にふけるのも理解できなくは無い話です。ただ、それ以上に「お前の兄貴はなあ」と、小半日くらい説教をしてやりたい気分にもなりますが。

 ……と、新人“薄給”悲話は各分野で見受けられますが、最も強烈なのは、やはり吉本の若手お笑い芸人でしょう。

 最近はもうちょっと上がっているようですが、若手芸人が小劇場で1度舞台に立ってもらえるギャラは、なんと交通費込みで500円です。…いや、源泉徴収を引かれますので450円ですね。家と劇場を往復するだけで赤字です。
 以前、吉本お笑い芸人の収入についてアンケートを取ったところ、こんな結果が出たそうです。

 ・芸人の中で年収100万円以下……約90%
 ・年収100万円以下の芸人の内、年収が実は10万円未満の者……約90%

 ………ヴァンフォーレ甲府の年俸総額で一個師団が組めそうです。

 大半の芸人が“100万円の壁”を越えられないまま散っていく中、幸いにして売れっ子になった芸人でも、数年間はモー娘。中堅メンバー並の薄給が続きます。そして、そこからさらに安定飛行に入って、ようやく吉本の正式な契約タレントとなって、長者番付の道を歩むようになるわけです。

 ですが、ここまで来ても。
 1年1度のギャラ交渉で、「(ギャラ)上げてください」と言うと、とんでもないことになります。
 交渉相手の重役さんは、立ち上がってスーツを脱ぐと、ファイティングポーズを取り、

 「やんのか、ゴルァ!」

 …と、一喝するそうです。

 吉本に移籍した鈴木あみの将来を懸念しつつ、今日の講義を終わります。 (この項終わり)

 


 

2月3日(日)
仁川経済大学学園祭’02冬・後夜祭
(社会学部インターネット過程の部)

 ただ今、2月4日午前1時をもちまして、学園祭メインイベント「ちゆデー」を終了させて頂きました。
 「ちゆデー」の模様はこちらでご覧いただけますので、また後でじっくりどうぞ。

 さて、通常業務復帰第一弾は「後夜祭」としまして、学園祭のご報告と、今後の講義の方針をお伝えしようと思います。もし、今回の学園祭で当講座に興味を抱かれた方は、是非、今後の受講に向けての参考にして頂きたいと思います。

 まずは学園祭のご報告から。
 今回の学園祭は、「ちゆ12歳」さんの2000万ヒット記念「ちゆデー」を実施しました。「ちゆ」さんにも招待状を送付したところ、「ちゆ12歳」サイトで告知して頂き、その結果、非常に多数の来場者に恵まれました。
 2月4日0時現在の速報値で、延べ1700人の方にご来場いただいていますし、「Read Me!」のカウント数でも、2日間の合計が1463という、大変高い数字を記録しております。休日の深夜という足元の悪い時間に、多数の方に足を運んで頂きまして、感謝の念に絶えません。
 本当に、ありがとうございました。これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

 では、次に今後の講義についてですが、学園祭以後の講義予定は以下の通りになります。
 (講義予定時刻は、あくまで目安です。最大24時間のズレがあるとご承知おきください。また、ニュース性のある話題があった場合、それに関した講義を急遽実施すする場合もあります。その場合、予定の講義は順延されますので、悪しからずご了承ください。)

 2月4日(月) 労働経済概論
 「モーニング娘。新メンバーの給料は8万円 !?」
 ※2月4日深夜に更新予定。(時間に余裕が出来た場合、繰り上げ実施の場合有)

 2月5日(火) 競馬学概論
 「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(5)《サイレンススズカ三番勝負・3》」
1998年天皇賞・秋/1着馬:
オフサイドトラップ
 
※2月5日深夜更新予定。土曜日が学園祭当日で、実施出来なかった分の代替講義です。

 2月6日(水) 演習(ゼミ)
 「現代マンガ時評(2月第1週分)」
 ☆レビュー予定作品:『SWORD BREAKER』(週刊少年ジャンプ10号掲載予定/作画:梅沢春人)、『ダイキチの天下一商店』(週刊少年サンデー10号より短期集中連載開始予定/作:若桑一人、画:武村勇治)、『キメラ』(スーパージャンプ連載中《第2回》/作画:緒方てい←雑誌発売日は来週でした)他、注目作のレビューを掲載予定。
 ※2月6日深夜更新予定。

 2月7日(木) 法学(一般教養)
 「日本国女帝誕生へ向けての諸問題(5)」
 ※2月7日深夜更新予定。長らく中断していたシリーズの再開です。今回は神聖ローマ帝国とオーストリアの王位継承権についての話題を。
 第4回までの未受講者は、ぜひアーカイブにてレジュメの通読を願います。

 2月8日(金) 後期試験
 「続・或るモー娘。ファンからの手紙(解答編・1)」
 ※2月8日深夜更新予定。昨年12月7日に実施した後期試験の解答発表です。長いレポートが届いていますので、2〜3回に分けてお送りします。

 2月9日(土) 競馬学概論
 「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(6)」1997年フェブラリーS/1着馬:シンコウウィンディ(予定)
 
※2月9日深夜更新予定。毎週土曜の定例講義です。

 2月10日(日) 後期試験
 「続・或るモー娘。ファンからの手紙(解答編・2)」
 
※2月10日深夜更新予定。金曜日の続きです。

 ……このような予定で講義を進める予定です。是非、今後とも、当講座をよろしくお願いします。

 それでは、これで堅い話は終わりにして、後夜祭らしく、しばしご歓談を。珠美ちゃんに何か言いたい事がある人は、このチャンスを逃さないように(笑)。

 では明日から、また講義にて……。

 


 

平成14年2月2日 
競馬学特殊講義
(講師:栗藤珠美)
学園祭・ちゆデー仕様です。

女性のための
競馬場デートガイダンス
(前編)

 みなさん、改めまして、はじめまして&こんにちは♪ 栗藤珠美です。今日は私が講義を担当します。
 科目は「競馬学特殊講義」。ちょっと馴染みが薄い人も多いと思いますけど、よろしくお願いしますね♪

 さて。

 競馬のことをあまり知らない人は驚かれるでしょうけど、今、週末の競馬場へ行くとカップルだらけです。

 もちろん、「焼酎焼けの赤ら顔、その手には赤ペン、馬券では赤字計上」なんていう、愛国戦隊大日本に狩られちゃいそうなアカだらけの小父様もいらっしゃいますけど、そんな方たちは、もうすっかり少数派。
 全体の雰囲気は、お台場みたい…とは、さすがにいきませんけど、少なくとも東京・秋葉原や大阪・日本橋とは雲泥の差になりました。

 でも、いくら時代が変わったと言っても、競馬場は競馬場です。大前提としてギャンブルをする場所なのですから、自然と空気は殺伐としたものになってしまいます。

 ですから、競馬場の入場門をくぐった時は、三原じゅん子&コアラ夫妻を思わせるアツアツさだったカップルも、最終レースの頃には、楽屋裏の林家ペー&パー子夫妻を思わせる寒さが漂ってきていたりするのです。
 目をテンパらせて競馬新聞を睨む彼氏、それをまるで、最前列に座った足の不自由な女の子に「立て」と冷たく言い放つ浜崎あゆみのような視線で眺める彼女……。
 そんな情景を眺めていると、

 「ああ、彼氏の目はテンパってるけれど、このカップルはもうすぐ流局なのね」

 …なんて思ってしまいます。

 でも、よく考えてみると、それは若い2人にとって大きな不幸。それに、“競馬のせいで破局”だなんて、ちょっと悲しすぎます。

 と、いうわけで。
 今日は私、栗藤珠美が、競馬場デートで破局にならないための特別ガイダンスをお送りします。一応、女性の立場に立ったガイダンスですが、男性の方も、競馬場で彼女をミスリードしないためにも、ぜひ受講されることをお奨めします。

 では、始めますね。

 ●レッスン1 競馬場デートに誘われたら…

 貴方の彼氏が競馬好きの場合、早かれ遅かれ競馬場デートに誘われる日が来るはずです。
 もちろん、「え〜、そんなトコでデートなんて嫌。」と断ることもできます。けれど、その彼氏と末永くお付き合いしたいなら、やっぱりお互いの趣味を理解しておくことも大事ですよね。1度くらいはお誘いに乗ってあげてもいいのではないでしょうか?

 さて、競馬場デートに誘われたら、まず彼氏に訊いておかなければいけないことがあります。
 まず、当然の事ですがデートの日付。それと、デートで利用する競馬場の名前も教えてもらいましょう。

 で、日付が土曜・日曜だったらいいのですが、もしこれが、平日の昼間だったら問題です。この場合、あなたが連れて行かれようとしているのは、間違いなく地方競馬場です。

 地方競馬場にも素晴らしい点はいっぱいあるのですが、反面、とてもアクの強い場所でもあるのも事実です。少なくとも、初めての競馬場デートで行くような所ではありません。来日したての外国人が鮒寿司を食べさせられるようなものです。
 こんなセンスの無い彼氏とは付き合ってはいけません。悪いことは言いませんから、直ちに別れを告げて電話を切りましょう。

 日付が週末ならば、ひとまず安心です。でも、そこで油断してはいけません。
 彼氏との電話を切った後、競馬好きの知り合いに電話をかけて、行く予定の競馬場と、その日に行われるレースについて質問してみましょう。

 もし、「色々バリエーションがあって、初心者でも楽しめるよ」という答が返ってきたなら、まずは合格です。期待してください♪
 でも、「ん〜、この日は大して面白いレースが無いなあ」と言われた場合、貴方の彼氏はギャンブルする気満々です。貴方よりも馬券に夢中です。「自分が楽しみながら、デートにもなって一石二鳥」…なんて思ってますから、用心してデートに臨んでくださいね。
 
 あと、デートの時の服装をアドバイスしてくれる彼氏なんかはポイント高いですね。

 競馬場は、夏暑くて冬寒いという、フォークソングに出てくる安アパートのような気候です。しかも、キャパシティに対して椅子の数が圧倒的に少なくて、どうしても床や地面に直接座ることが多くなります。

 なので、「出来るだけ涼しい格好で(冬なら暖かい格好で)、椅子に座れないからズボン穿いてくる方がいいよ」なんて、さりげなく言ってくれる彼氏だと理想的ですよね。

 ●レッスン2 競馬場に入る前に…

 さぁ、貴方はデート当日を迎えました。彼氏とどこかの駅前で待ち合わせて、競馬場へ向かいます。

 ……と、ここで、彼氏の手元を注視してみましょう。

 一番オーソドックスなのは、競馬新聞を持っているケース。タブロイド版で、見慣れないデザインなので、すぐに判ります。
 この場合、「それって競馬新聞だよね? ひょっとして、たくさん馬券買うの?」とか訊いてみましょう。

 模範的な回答は、
 「いや、これは習慣だから(苦笑)。今日はデートだから、ちょっと遊ぶだけだよ。こういう時に必死に馬券買っても勝てないだろうし」

 …といったところでしょうか。
 身の程をわきまえた、気持ちのいい発言
ですね。

 これが、
 「おう、当然。今日はバッチリ儲けて、夜はゴチソウ食わせてやるからな」

 …なんていう、威勢だけ充分なセリフになると困りものです。
 この場合、今日のデートは彼氏同伴の日光浴だと割り切って下さい。
 後は、奇跡的な確率で彼氏が大儲けすることでも祈りましょう。ま、多分、気合が空回りして散々でしょうけどね。

 次に、手ぶらの場合。
 このパターンは両極端です。1つは「今日はデートだから、馬券はほとんど買わずにエスコートに徹するよ」という意思の表われ。
 そしてもう1つは、「俺は馬を見るだけで馬券が当たるんだ」という、勘違いしたお方

 注意すべきなのは、もちろん後者のケース
 「すご〜い、○○君って見る目あるんだ」
 …なんて、調子の良いことを言うのは厳禁です。こんなことを言ったが最後、吉澤ひとみにウインクされたモーヲタのようにつけ上がりますので。ここはちょっと冷たくあしらっておくのが、将来のためにも得策です。

 最後にスポーツ新聞の場合。

 この場合、「あれ? 競馬のことばっかり載ってる新聞じゃないの?」みたいな感じで訊いておきましょう。
 ただし、
 「あれ? 『競馬ブック』じゃなくて東スポ?」

 …なんて、具体名を出してはいけません
 例え知っていてもダメ
です。
 
そんなの、ラブホテルに初めて来たはずなのに、やたら場慣れしている女の子みたいなものですので。

 で、彼氏の反応が、「いや、いつもこの新聞使ってるから」というのなら、まあO.K.ですけど、
 「だって、競馬新聞高いじゃん。410円だよ」
 …って言うような彼だったら、ちょっと大変
です。
 大抵はそういう人に限って、1レースで何千円も馬券を買ったりしちゃいます。金銭感覚がボロボロなんですね。
 極端な話、別れるタイミングを計った方がいい
かもしれませんね。

 あ、言い忘れてましたけど、午前中からのデートの場合、お昼ごはんはお弁当を作っておいた方が良いですよ。
 競馬場の食べ物って、高いくせに美味しくないですから。競馬場近くのコンビニでも、食べ物類はすぐに売り切れちゃいますし、ここは貴方が腕を振るってポイントを稼いじゃいましょう♪

 

 ……きーんこーんかーんこーん………

 ──あら、チャイムの音。
 じゃあ、1時間目はここまでにしまして、続きは休憩の後の「後編」で。

 それでは、また。
 (後編はすぐ下にあります)

 


 

平成14年2月2日 
競馬学特殊講義
(講師:栗藤珠美)

女性のための
競馬場デートガイダンス
(後編)

 それでは、2時間目の講義を始めます。みなさん、引き続きどうぞよろしく♪ 

 

 ●レッスン3  さあ、競馬場です

 いよいよ競馬場の入場門をくぐる時がやって来ました。

 ここであなたは、競馬場が思ったよりも綺麗で垢抜けていることに、少しビックリするはずです。
 でもそれが、外れた馬券のお金が姿を変えたものだと考えると、ちょっと引いてしまいますよね。

 ところで、実はここがポイントの稼ぎ時

 ちょっとオーバーなくらい、競馬場が綺麗であることを褒めましょう

 すると彼氏は必ず、初孫を褒められた大工の棟梁のような反応を見せてくれるはずです。
 競馬好きの人が、競馬を知らない人に競馬場を褒めてもらうと、本当に嬉しいんですよ。

 そして、競馬場に入場した後、彼氏が貴方をどこに連れて行ってくれるか、というのも大事なポイントです。

 意外と知られていませんけど、競馬場は馬の競走と馬券の販売だけをしている場所ではありません。

 ちょっとした博物館やメモリアルホールみたいなのがあったりしますし、馬のぬいぐるみなどを売っているグッズショップだって何軒もあります。競馬観戦以外に楽しめる場所はいくらでもあるのです。
 でも、馬頭観音へ行って、今は亡きご贔屓の競走馬に線香をあげる…
というのは、さすがにちょっとどうかと思いますけど。

 でも、少なくとも、真っ先に馬券の自動販売機に並んだりする彼氏は、やっぱりサービス精神に欠けると言っていいんじゃないでしょうか? 

 一番最悪なのは、栄養ドリンク専門の売店へ直行して「リポビタンD」を買い、しかも売店の小母様と顔見知り、というパターン。

 実在するから怖いです

 

 ●レッスン4 馬券を買う時は──?

 たとえ、馬券が主目的ではない競馬場デートでも、やっぱり馬券を買わないわけにはいきません。
 それに、100円でも馬券を買った方が、買わないよりもレースが楽しめるのも事実ですしね。

 大抵の場合、彼氏が貴方に「少しでもいいから、馬券買ってみない?」という言い方でアプローチしてきます。
 この場合、「それじゃあ、せっかくだから…」みたいな感じで、承諾しておけば大丈夫です。
 「ちょっと嫌かな」と思っても、断ったところで2人の間の空気が悪くなるだけですので、妥協してください。男女関係はギブアンドテイクですよ。

 馬券を買うとなると、彼氏は熱心に馬券の種類や的中条件などを説明してくれるはずですが、あなたが買うべき馬券は決まっています。それは、

 単勝(1着になる馬を当てる馬券)
 複勝(3着以内に入る馬を当てる馬券)

 …の、2種類です。
 そして、馬券を買う馬を選ぶ時も、「なんか強そう」とか、「名前がカワイイから」などの、できるだけバカっぽい理由で選びましょう。

 …これには、初々しさを演出するということもあるのですが、一番の理由は、「彼氏の馬券が外れて、あなたの馬券が的中した場合」のための予防線です。彼氏に言い訳のチャンスを与えてあげましょうってことです。

 男性の方は、必ずと言っていいほど、お金と一緒にプライドも賭けて馬券を買っています
 ですので、馬券で自分の彼女に負けちゃうのは、本当に許せないことなんですよね。

 こんなの、女の視点からしてみると、バカバカしいことこの上ないんですけど、菩薩のような心で理解してあげましょうね♪
 
 ですから、初めての競馬場デートの時に、女の子は本気で馬券を買ってはいけません。

 それに、必ずと言っていいほど、初心者の貴方のほうが、自称“中・上級者”の彼氏よりも馬券の才能に恵まれていますからね。
 これは不思議ですけど、世の中そんなものみたいです。

 でも、貴方がそこまで気を遣ったのに、ブチブチと負け惜しみを言う彼氏、これは最低ですね。

 この前も私、目撃したんです。馬券が外れたことを2回も3回も悔しがって、
 「当たってたら、3万円だったのによ〜」
 とか彼女に愚痴ってる男。

 それだけじゃないんですよ。その男の彼女は、100円だけ買った馬券が当たったんで、嬉しそうに当たり馬券を眺めてたんですね。するとその男、
 「何、そんな小さい額当ててニヤけてんだよ。そんなの、ちっとも凄くねえよ」
 …って、彼女を毒づいたんですよ!
 私、思わず、持っていた3色ボールペンで、男の後頭部を思いっきり突き刺そうかと思っちゃいましたよ! もう、絶対許せません!

 もし、そんな男だったら、私に代わって鉄拳制裁をくれてやって下さいね。そのままお家に直帰してもO.K.です。

 ●最終レッスン 戦いすんで…

 そんなこんなで日も暮れて。

 最終レースも終わり、時刻も16時半を過ぎました。長かった競馬場デートもおしまいです。

 さて、今日のデートはいかがでしたか?

 きっと、彼氏の性格について、これまで見えなかった色々な所が分かったんじゃないかと思います。
 ギャンブルは人間の本性を丸裸にします
からね。

 もしも、「やっぱりステキだわ」って彼氏だったら、どうぞお幸せに。
 帰りは満員電車
ですから、思う存分抱きついてあげてください♪

 でも、ひょっとしたら、「こんな人とは思わなかったわ」という気持ちになって、彼氏と別れてしまう人もいるかもしれません。
 けれど、それはそれで仕方ないと思います。むしろ、ギャンブル狂の彼氏と別れることができて幸せだと思ってくださいね。

 あら? 確かこの講座は、「競馬場デートで彼氏と破局しないための講座」だったんでしたっけ?

 ……ま、別れるカップルは、どう頑張ってもいつか別れますしね。
 見切りは早い方が良い
ってことで…。

 とりあえず、バーチャル・バーチャルネットアイドル栗藤珠美は、競馬場でデートをするカップルを応援したりしなかったりしています。


トップページへ