「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

3/31 行動社会学「駒木博士の縁日アルバイト日報(1)」
3/30 
競馬学基礎論「緊急企画〜検証・新賭式(馬単・三連複)馬券」
3/29 集中講義・現代社会学特論「椎名林檎、高らかに現役復帰!(4)」
3/27 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(3月第4週分)
3/26 集中講義・現代社会学特論「椎名林檎、高らかに現役復帰!(3)」
3/25 集中講義・現代社会学特論「椎名林檎、高らかに現役復帰!(2)」
3/23 
競馬学特論「G1予想・高松宮記念編」
3/22 文化人類学「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・決勝大会TV観戦レポート(2)」
3/21 文化人類学「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・決勝大会TV観戦レポート(1)」
3/20 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(3月第3週分)
3/19 集中講義・現代社会学特論「椎名林檎、高らかに現役復帰!(1)」
3/18
 現代社会学「駒木博士推薦・囲碁&将棋界女流プロ名鑑」
3/17 
競馬学概論「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース”(10)

 

3月31日(日) 行動社会学
「駒木博士の縁日アルバイト日報(1)」

 さて、日付は既に4月1日に変わっていますが、これから31日付の講義を実施します。狙いもクソも無い不可抗力のモノですが、これが当講座のささやかなエイプリル・フールイベントだと菩薩のような慈悲深い心で考えて頂ければ、と思います。

 当講座を頻繁に受講されている方はご存知でしょうが、特にこの1週間は講義の実施が遅れに遅れて御迷惑をおかけしました。この振替講義も、そのツケが最終的に回ってきたようなものです。
 で、どうしてこんな事になったかと言うと、これも熱心な受講生の方はご存知でしょうが、私・駒木はこの1週間、地元の駅前で“春休み縁日”の短期アルバイトをしておりました。金魚すくいやら射的やらの急ごしらえの露店で子どもや親子連れの応対をする、有り体に言うとテキ屋的なお仕事と言う事になりますね。
 しかも2ヶ月以上もの間、昼間の仕事をしていなかった所へいきなり7連勤という、猿にアレを覚えさせるような仕打ちを体に強いたものですから、恥ずかしながら体がガタガタになり、その分、夜にあるこの大学の仕事に影響が出てしまったというわけです。

 しかし、そんな代償を払っただけの甲斐のある充実した1週間ではありました。この短い期間で楽しい事も辛い事も含めて様々な体験をし、また、色々な事を考える機会にも恵まれました。
 と、いうわけで今日の講義は、そんな駒木が体験した事を受講生の皆さんに少しでもおすそ分け出来たら、と思い、急遽企画したものであります。ただ、コンセプトは真面目ですが、講義のノリはいつも通りですので、気楽に楽しんで頂ければと思います。

 レポート文中は文体を常体に変更します。


 3月25日(月)

 朝9時、現場到着。とにかく眠い。
 この日の早出のために、わざわざ前日の講義を休講にしたのだが、色々と雑務があって、結局4時間弱しか寝ていないのである。まぁしかし、そんなの高校の仕事をしている時も似たようなものなので、それで泣き言を言うわけにもいかないか。
 現場は“買物広場”と名付けられているオープンスペースで、周囲をダイエー、大丸、そして地元のデパート(専門店街)という大型店舗に囲まれた上、すぐに近くには飲食店も多数あるという、この界隈で最も人通りが見込める場所であった。確かに“縁日”をやるには最も適していると言える。
 駒木が到着した時には、既に数台の小型トラックが機材を積んだ状態でスタンバイしており、関係者らしき男性たちが慌しそうに動き回っていた。それを遠巻きにして眺めている男女の若者が10名ほど。どうやら彼らが1週間仕事を共にする仲間という事なのだろう。パッと見で彼らの容姿を確認してみると、総じて年が若そうだ。求人広告に掲載されていた年齢条件が「20〜29歳迄」だったので、ひょっとすると駒木が最年少に近くなるのではないかとかんがえていたが、どうやらそれとは逆の展開になりそうだ。

 間もなくして社員のHさん登場。面接の時からこのイベントを独りで仕切っている現場責任者である。大体年恰好は30代半ばから40歳位といったところで、子ども相手の商売をするよりも、大阪の大国町界隈で10日1割の利息を取り立てているほうが似合いそうな強面の男性だ。必要な時には、たとえ年下相手であろうと丁寧な態度をとる事の出来る人なので、特にそんな印象を抱いてしまう。世の中、本当に怖い人ほど普段は物腰が穏やかなものなのである。ただ、今から考えてみると、Hさんの場合は、怖いのは顔だけの“悪役商会”タイプなのかもしれないが。
 そのHさんの指示に従って、いよいよ仕事開始。今日の仕事は、露店の設営と機材&物品の搬入。営業は明日からだ。
 露店は本格的なものではなくて、学校の運動会で本部関に使われるようなテントを建て、それを仕切って“店のようなもの”にする形になる。まぁ、我々は“本職”じゃないのだし、大事なのは外見よりも機能と経済性なのだからそれで良いのだろう。
 まずはそのテントの組み立て。当然力仕事だ。慣れない仕事ではあるが、力仕事なら昨年、デパ地下にある洋菓子店のバレンタイン商戦応援要員をやったことがあるので、多少の肉体労働なら耐えることはワケが無い。総重量1トンのチョコレート入りダンボールを目の前にして、「ハイ、じゃあコレを倉庫に運んでね」と言われた時の事を考えれば、テントの3つや4つなんて……というわけだ。


 チョコレートで思い出した完全な余談だが、よくバレンタイン・デーには、ニュース等で「ジャニーズ事務所に4トントラック2台分のチョコレートが──」などと報道されるが、これらのチョコレートは原則、全て廃棄処分されるのだそうだ
 何てもったいない、とか、ファンの気持ちを踏みにじって、などと言われそうな話だが、理由を聞くと納得も得心も行く。
 というのも、ファンからのチョコレートには何が入っているか分からないため、危なくてタレントに渡せないのである。
 ファンからのチョコレートの多くは手作りだ。手作りのチョコには、心を込めて色々な材料が入れられるそう。色々なモノが、だ。
 そう、ちょっとクレイジーな女の子たちは、時々血迷ってとんでもないモノをチョコの中に混入するのだ。
 髪の毛ならまだ御の字
で、唾液、さらにはシモの方の毛や、公言できない類のブツまでが入ったチョコレートを「食べてください」と送りつけてくるのだ。コレは怖い。
 まだ百歩から千歩譲って、メチャクチャ可愛い子の唾液入りなら耐えられる向きもあるだろうが、ピンクハウスを着た千代大海や雅山のような外見をした女の、怨念のこもった汗入りチョコを「食べて」と言われたら、身の毛もよだつ。これにはさすがのキムタクも「ちょっと待て、話を聞こう」だろう三八式歩兵銃を突きつけられた方がまだマシだ。小泉純一郎でも「構造改革は止めるから助けてくれ」と哀願する事は間違いない。
 それでもまだ、胃袋がギリギリ受け付けるモノならシャレで済むが、毒物の混入されたチョコだって送られて来かねない。ファンの名を騙った悪質なイタズラというケースだって考えられるのだ。
 それを考えると、チョコを廃棄処分するというのも致し方無しなのである。受講生の方も、知り合いや親族のジャニース・ファンがチョコを送ろうとしていたら、やんわりと止めてあげた方がいい。本当にチョコレートを送りたかったら、彼らが出没する店に足繁く通ってナンパされるのを待った方がまだ望みがある。


 さて、余談が過ぎた。話を元に戻そう。
 バイトの男手と、このイベントを運営する会社の作業員の人たちで、次々とテントを建ててゆく。ただの骨組みがたちまちテントに化けていくのは、ある意味壮観だった。しかし、この手の話を高校の職場で話したら最後、定年退職まで「テントなら駒木先生」などと言われる事は請け合いなので、黙っておく事に決めた。「テントなら駒木」って、なんかマイナー芸人マニアみたいな言われ方だな。確かに高校は義務教育じゃないけどさ。

 テントの組み立てが終わったら、今度は景品などを陳列する棚や机などの準備。もう仕事内容は軽作業しか残っていないようだ。楽は楽だが、ちょっと拍子抜け。まぁ、時給750円で丸1日重労働だったら、それはそれで訴訟モノだけれども。
 この棚作りの辺りから、短期バイトの男女が入り混じって作業をするようになるのだが、ここでちょっと(個人的に)萎えるような事態が起こり始めた
 どう見ても3つ4つ年下の女の子が、駒木に対して平気でタメ口なのである。それも、もう半年くらい一緒に仕事をしているような馴れ馴れしさで「それ取って」とか「あれ持って」とか平気で要求してくるのである。
 駒木は全身ドップリ文化系に漬かってしまっているが、ローティーンをガチガチの体育会で過ごし、その後も比較的礼儀に厳しい部や職場にいた影響で、この手の馴れ馴れしい雰囲気に慣れていないのだ。
 タメ口は高校の生徒も使ってくるのだが、それはある種の親しみが込められてのもので、フォーマルな時にはちゃんと敬語を使ってくる。今回のケースは、「コイツにはタメ口で充分」風なのだ。「うわ、ひょっとして俺、舐められてる?」などと思い、にわかに陰鬱な気分になる。
 まぁ、自分の常識は他人の非常識、逆もまた然りなので、たとえそれでムッとしても表には決して出さないことにしている。特に女の子は“タカちゃん先輩”みたいな物凄い日本語表現をしたりするので、これで怒るのは筋違いだろう。だから、「うわー、新鮮」などと心の中で無理に小躍りしてみて気を紛らわせたりする。

 昼食の時間になった。近くには食事できる店が多すぎるくらいあり、かなり迷ったが、結局は勝手知ったるミスドに決定する。
 店内に入ると、短期バイトの女の子の内3人ほどが別卓にいた。知り合って2時間強で既に食事を共にするグループが出来てしまったらしい。しかも派閥に分かれて。なんて人間関係作るのが早いのだろう、女の子たちって。多分、モー娘。の辻と加護もそんな感じで仲良しになったんだろうな、などと思いながら、宮部みゆきさんの「地下鉄の雨」を呼んで時間を潰した。


 ……と、ここまで書いてきたんですが、毎度の事ながら、ものすごくボリュームが膨らむ事が分かってきたので、一旦ここで切ります。で、しばらくは椎名林檎さんの現代社会学特論と交互交互、1回おきに講義を実施する事にします。(水・土は除く)
 では、この講義は次回、火曜日にて。(次回に続く) 

 


 

3月30日(土) 競馬学基礎論
「緊急企画〜検証・新賭式(馬単・三連複)馬券」

 こんばんは。講師の駒木ハヤトです。
 当大学キャンパス中に数多く潜んでいると思われる珠美ちゃんファンには悪いのですが、今日も駒木1人で講義を行う事になりました。来週の桜花賞予想では、ちゃんと2人で講義をやりますのでね。

 さて今日の講義は、当講座では初めてとなる「競馬学基礎論」。一部公営競馬では今春から、JRAでも今年6月の福島開催で試験導入され、翌7月から本格導入される“新賭式”馬券──馬番連勝単式、馬番三連勝複式馬券──についての検証を行おうというものです。
 要は「競馬学概論」の資料整理が全く間に合わなかっただけなのですが、それでも何とか受講生の皆さんの期待に応えられるよう、多少なりとも実用的な講義にしたいと思います。

 ……では、改めて“新賭式”馬券発売に至る経緯の解説から講義を進めていきたいと思います。

 “新賭式”馬券は、文字通り、日本の競馬ではこれまでに無かった新しい種類の馬券で、昨年2月の競馬法施行規則改正により実現するところとなりました。
 この新しい馬券の導入に関する動きは、昨今の長期化した不景気による馬券売上額減少に歯止めをかけたいとするJRA・国側の意向が反映された形となっており、その分、今回導入される新種の馬券は高配当が望める刺激的なものとなっています。よって、馬券を購入する競馬ファンにとっては非常に興味をそそられるものとなっていると言えるでしょう。

 ところで、新しい種類の馬券で思い出されるといえば、1999年末に導入された“ワイド(拡大連複)”です。
 これはフランスで発売されている“ジュムレ=プラッセ”をモデルにした馬券で、1〜3着馬のうち2頭をピックアップできれば的中となる、比較的的中しやすい上にソコソコの配当も望めるという馬券でした。
 この“ワイド”馬券は、以前から評論家筋で導入を期待する声もあり、導入を決めたJRAと南関東公営競馬も大規模なキャンペーン活動を行ったのですが、フタを開けてみると肝心の馬券売上の方はイマイチ。発売当初こそ物珍しさもあって売上は若干伸びたのですが、一月もしない内に、“意外と当たり難い割には配当が低い”という構造的な欠陥が露呈されてしまい、たちまち伸び悩んでしまいました。
 つまりは儲からない馬券的中よりも、滅多に当たらなくてもいいから高額配当を、というのが競馬ファンの願いだったというわけです。

 そんな“ワイド”馬券の失敗に追い撃ちをかけるように、深刻化した大不況が競馬ファン、特に高額購入者の懐を直撃。馬券売上高は減少の一途を辿り、さしものJRAも事業縮小の憂き目に遭ってしまいます。競馬ファンの方なら、ここしばらくの間にJRAのファンサービスが微妙に悪くなっている事にお気づきではないかと思います。

 と、そうしたジリ貧傾向に歯止めをかけるべく、満を持して登場したのが、今回の“新賭式”馬券なのです

 これまで、特に昭和時代の日本の公営ギャンブルでは、“いかに高額配当が出ないようにするか”というのが運営側のテーマになっていました。
 これは、「高額配当を求めてギャンブル熱が高まるのを阻止しよう」という、バクチの胴元としては本末転倒な発想によるもの
です。
 そもそも日本は先進国でも稀に見るギャンブル文化後進国であり、国ならびに国民全般のギャンブルに対する蔑視と誤った認識は目を覆うばかりの惨状であります。
 最近でこそ多少は緩和されましたが、わが国では「ギャンブル=悪」であるとか、「ギャンブルをする人間は人格破綻者である」とか、とかくギャンブルとその愛好者に対する姿勢は悪意に満ちています。そのくせジャンボ宝くじなどといった、世界で稀に見る危険極まりないギャンブルを「ギャンブルでなくてクジである」などとのたまわって放置しているのですから、処置無しです。
 旧来の馬券に関する発想もそうでした。「高額配当の出る馬券は国民の射幸心を煽るので良くない」などとされ、6枠式連勝単式や8枠式連勝複式などといった奇妙キテレツな馬券が発売されてきました。
 で、その結果はと言えば、馬券購入者は低い倍率で多額の儲けを出すために多額の賭けに走るようになり、生活破綻者が続出。それによって更にギャンブルに対する認識は悪化の一途を辿ってしまったのでした。悲劇としか言いようがありません。

 ちょっと話が逸れましたか。
 まぁそういう経緯もあり、日本で今回のように配当倍率100倍以上の、いわゆる“万馬券”の続出が見込まれる“新賭式”馬券が発売されるという事は、極めてエポックメイキングな出来事なのです。逆に言えば、それだけJRA側も、そのJRAの収入をアテにせざるを得ない日本政府が追い詰められているという事にもなるのですが。

 まぁしかし、何はともあれ事態が好転するのは喜ばしい事です。過程はどうであれ、こうして我々が利益を享受できるのは幸せな事なのですから。

 それでは、いよいよこの“新賭式”馬券についての検証を行ってゆきましょう。新しく発売される種類の馬券のメリットとデメリット、そして正しい活用法を講義していきたいと思います。

 ◆馬番連勝単式馬券(略称:馬単・二連単)

 この馬券は、従来までの“馬番連勝(複式)馬券”のマイナーチェンジ型で、レースの上位2頭を着順通りに当てなければ的中にならない方式のものです。この馬券の発売に従い、これまで「馬連」という略称で呼ばれて来た“馬番連勝複式馬券”は、「馬複」と呼ばれるようになります。
 これまでの“馬連”では、例えば“1−2”という馬券を買った場合、上位2頭のの馬番号が1番と2番なら、どちらが1着でどちらが2着だろうが関係なく的中になっていました。着順の前後を問わない連勝複式ゆえの話でした。
 しかし、この“馬単”では“1−2”の馬券なら、1着が1番の馬で2着が2番の馬でなければならず、1着馬が2番で2着が1番の場合は“2−1”の馬券でなければ的中になりません。いわゆる連勝単式の“裏目”というヤツです。
 1、2着を順番通りに当てる、この“連勝単式”は、既に競輪、競艇、オートレース、そして一部の公営競馬で導入されており、公営ギャンブル愛好家の中では比較的馴染みの深い形式と言えます。
 よって、この講義を受講されている方の中にも、既にこの馬単馬券を体験済みの方がいらっしゃるかと思われますが、この場を通じて、改めてこの形式の馬券について深く知識を得てもらいたいと思います。

 まず、この馬券の最大のメリットは、やはり配当が“馬複”に比べて高くなるという事でしょう。単純に考えても、馬券の組み合わせが“馬複”の2倍なのですから、配当もざっと2倍になるというわけです。さらに、上位2頭の組み合わせの内、人気が低い方が1着になった場合は“裏目”で、配当はさらに高くなります。
 例えば、一昨年の宝塚記念から昨年の宝塚記念に至るまで続いた「テイエムオペラオー=メイショウドトウ」馬券は、馬連(“馬複”)でもそのほとんどが2倍程度の低配当になりましたが、今回導入される“馬単”なら、人気の低かった方のメイショウドトウが1着になった昨年の宝塚記念ではある程度高い配当が期待できたというわけです。

 反対にデメリットはと言うと、当たり前の事ですが的中する確率がガクっと下がります。特に、これまでは意識しないでも済んだ“裏目”での不的中が増え、ストレスが溜まる事請け合いであります。競馬なんてモノは、もともとが動物相手のファジーな競技。これの正確な着順を当てようと言う方がおかしいわけで、“馬単”なんて難しい馬券の的中がそうそうある方が不自然なのです。
 さらに、購入する馬券の組み合わせ数(点数)が増えるため、投資金額もそれに比例して増えてしまったりします。つまり、的中が難しい上に投資金額が増えていくという悲惨な状態に陥りやすくなる諸刃の剣が、この“馬単”馬券といえるでしょう。
 また、これは当大学の本拠地である兵庫県の公営競馬(園田・姫路)における“馬単”の傾向なのですが、“馬単”は、人気サイドの組み合わせの配当が極めて低い傾向にあります。特に1番人気→2番人気の組み合わせなど、“馬複”の配当とほぼ同じ、なんてこともあります。要は、本命党に向かない馬券なんですね。

 というわけで結論です。
 この“馬単”は、穴党のための勝負馬券という認識でいれば良いと思います。本命党の方は“馬複”を購入した方が期待値は高いですので、そちらをお薦めします。“馬単”は、配当の高い“裏目”を狙ってこそ華と言えるでしょう。“馬複”を基本に、穴馬から1着流しで数点勝負馬券を狙うのが賢い買い方です。

◆馬番三連勝複式馬券(略称:三連複)

 さて、こちらは日本の競馬では初めての試み、そして公営ギャンブル全体でも、競艇と、一部の競輪場でのみ(しかもそちらには、もっと刺激的な“三連単”があるので人気が無いまま)発売されているレアな形式、それが“三連複”であります。

 この“三連複”は、レースの上位3着までの馬を順位に関係なく的中すればO.K.となります。馬券に少し詳しい方に分かり易くなるように言えば、従来の馬連3頭ボックスでワン・ツー・スリーを決めれば的中というわけです。
 ただし、この三連複は、とりあえず16頭立て以内のレースに限られます。これ以上の頭数で三連複をやると、馬券の組み合わせが増えすぎて射幸心を煽りすぎるからだそうです。売上増を狙ったゆえの三連複導入なのに、肝心のG1レースでは18頭立てが多くて、“三連複”を発売できない。アホですな。

 この馬券のメリットは、なんといってもやはり高配当でしょう。多頭数になった時の馬券の組み合わせの数がハンパではありません。それに、馬券の対象になる上位3頭のうち、1頭だけでも人気薄が飛び込んだ場合は高配当の可能性があります。
 また、全部の組み合わせの数が膨大になる割には、こちらが買う馬券の組み合わせの点数は、さほど多くならないのも特徴です。例えば、A、B、C、D、Eという5頭の絡む全ての組み合わせの馬券を購入する場合は、
 「ABC」「ABD」「ABE」「ACD」「ACE」「ADE」の6種類となります。これは従来の馬連で5頭全ての絡む馬券を買った場合の10点よりも、まだ少ないのです。
(訂正:5頭の場合は10通りで、“馬複”ボックスと同数でした。三連複の組み合わせが少ないのは4頭ボックスまでです)
 よって、三連複のメリットは、少ない投資で莫大な利益。これであります。

 ただし、デメリットも当然あります。
 中でも最大のデメリットは「とにかく当たらない」という事になるでしょう。
 これまでの、上位2着を当てる形式でもかなり難しかったと言うのに、そこへもう1頭増えるわけですから……。
 また、少頭数のレースの場合は、意外と配当が伸び悩む事が予想されます。出走頭数が10頭を割るレースの場合など、1番人気の組み合わせで、配当が10倍を割るケースが十分考えられます。これだけ難しいのに配当の面で報われないなど、ハッキリ言って拷問に近いものがあります。

 ですから結局、この三連複馬券もまた、従来の“馬複”馬券などと併用しつつ、いわゆる“ボーナス狙い”で一穫千金を狙うのが得策と言えるでしょう。ナメてかかって、いたずらに購入点数・金額を増やすとドツボにハマる可能性が大です。絶対に“大怪我”する事の無いように自らを戒めたいものですね。

 
……と、こうして、今日は“新賭式”馬券の分析をしてみました。やはり的中の難度が高い分だけ、より長期的かつ理性的な馬券戦術を立てる必要があるでしょう。JRAに儲けてもらいたいのはヤマヤマですが、かといって当講座の受講生がJRAの策略に呑まれて大金を失う事の無いように気をつけてもらいたいものです。
 では、今日はこの辺で講義を終わります。また来週からは通常の競馬学講義のスケジュールに戻りますので、どうかよろしく。 

 


 

3月29日(金) 集中講義・現代社会学特論
「椎名林檎、高らかに現役復帰!(4)」

 昨日は臨時休講で失礼しました。今日から再開です。

 ところで、この集中講義なんですが、このまま行くと、多分、全8〜9回くらいで終了という事になりそうです。ただ、講義予定をご覧になれば分かるように、レギュラー講義や文化人類学が目白押しで、日付的には再来週くらいで最終回という事になるかと思います。気長にお付き合い下さい。

 過去のレジュメはこちら→第1回第2回第3回

 前回は、芸能界デビューを目指し、一時はアイドルデビューまで視野に入れて活動を始めたものの、挫折。結局はバンド活動から正攻法での芸能界入りを目指すようになっていった……というところまでお話をしました。
 と、いうわけで今回は、福岡でプロデビュー目指して奮闘していた椎名林檎さんについてのお話になります。

 ホリプロ・スカウトキャラバン応募などの活動と並行して、林檎さんは福岡では有名な進学校に入学&軽音楽部に入部してバンド活動を本格化させました。
 その活動は多岐に渡り、部活外活動も含めて9つのバンドを掛け持ちするという、良い意味での欲張りな性格を浮き彫りにさせます。
 9つもバンドを掛け持ちするわけですから、当然バンドによって担当パートも異なって来ます。特にアマチュアバンドは絶えずリズム隊(ドラムスやベースなど)が人材難であります。林檎さんも歌や鍵盤楽器だけではなく、様々な楽器にチャレンジするようになりました。
 そして、この時の活動がプロデビューした後も活きています。林檎さんがプロデビュー後に自分の楽曲で担当した楽器は、ギター、ピアノ、キーボード、ドラムス、ベース、ハープシコード、ピアニカ、“なんちゃってお琴”……etc。なんと鍵盤系を中心に、バンドの主要パート完全制覇。楽器も出来るシンガーソングライターは多いですが、ここまでのゼネラリストは珍しいでしょう。

 余談ですが、先程「バンドはリズム隊が人材難」と述べた通り、街角やライブ会場の“メンバー募集用掲示板”には、至る所に「Ba、Dr(ベース、ドラムス)求ム!」という紙が張り巡らされています。特に、かつてのバンドブームの頃は、当方ボーカル。ギター、ベース、ドラムス募集!」という告知が音楽雑誌のメンバー募集コーナーに掲載され、「そんなにお前はお山の大将になりたいのか」と、良識ある読者の顰蹙と失笑を大いに買ったものでした。今風に言えば、「牛鮭定食でも食ってろ」というところでしょうか。
 そして、ちょうどバンドブームと相前後して、オカルト業界では「前世の仲間と再会」ブームが巻き起こったのでした。

 これは、主要キャラクターたちが前世で仲間同士だった、という設定の少女マンガ『僕の地球を守って』が火付け役になったもので、往時はオカルト系雑誌からティーンズ向け雑誌に至るまで、様々な雑誌の文通・投稿欄に「前世の仲間を探しています」という、春になれば増えそうな人系の投書が多数寄せられて、ちょっとした社会問題となってしまいました。
 まさか当講座の受講生に“探してた”方はいらっしゃらないと思いますが、ひょっとしたら“友達が仲間を探し始めて、それ以来疎遠になった事がある”方くらいはいらっしゃるかも分かりませんね。大体、“友人がアムウェイにハマって勧誘を受け、断ったら疎遠になった事がある”方と同じくらいの割合だと踏んでますが。
 ところでこの“前世の仲間探し”系投書、興味深い事に軽く過半数を超える高い割合で、「私は前世は戦士でした」と名乗っていたそうです。そして他の職業の仲間を探している、といった内容が続くのです。
 TVゲームのRPGやテーブルトークRPGをプレイした事がある人なら分かると思いますが、この手のファンタジー系のストーリーでキャラクターがパーティを組む時は、戦士がリーダー的存在の看板キャラになる事が多いのです。
 つまり、この“仲間探し”投書、バンドの「当方ボーカル─」と根源は似ている、というわけです。やってる事が歌を唄う事妄想の彼方へ旅発つ事という違いはあるにせよ。

 ……って、毎度の事ながら、どうしてここまで話題がズレますかね、自分。ズレるのはキダ・タローのヅラだけで充分なんですが。
 まぁ、そろそろ閑話休題して、話の筋を戻しましょうね。

 …と、そういうわけで9つのバンドを渡り歩く、上に「スーパー」が付く音楽少女となった林檎さん、その幅広いバンド活動の中でも、最も力を注いでいたバンドが“Marvelous Marble(マーベラス・マーブル、以下M・Mと略)”でした。
 M・Mは林檎さんが高校1年生の時に結成され、地元の「ハード・ビート」というライヴハウスでステージ・デビューを果たします。既に当時、ディーバ(歌姫)としての才能の片鱗を覗かせていた林檎さんは、ここでも激賞されます。
 ライヴのお客さんからは「(余りの上手さに)鳥肌が立った」「(歌を聴いていると)涙が出てきた」と高い評価を受け、また身内の間でも「礼儀正しいしっかりした女の子」と、人間性も含めて可愛がられるといった具合で、あっという間に福岡のアマチュア・バンドシーンの中で高い地位にのし上がっていきます。
 そうして腕を磨き、やがて福岡のM・Mから全国のM・Mへ。椎名裕美子率いるM・Mは、ヤマハが主催する19歳以下のアマチュアバンド&シンガーの全国的コンペテイション・「ティーンズ・ミュージック・フェスティバル」に出場し、福岡予選を勝ち抜いて全国大会に進出。さらにそこで奨励賞を獲得します。
 ちなみにこの時のグランプリは、あのaiko。どうですか、この数奇な巡り合わせ。なんだか、「部屋の古雑誌を整理していたら、飯島愛がAV女優だった頃のグラビアと、さとう珠緒のヌードグラビアが同時に見つかった」くらいの微妙な感慨深さがありますね。
 
 ここまでの活動で、林檎さんはプロデビューに向けての手応えを大きく感じたのでしょう。やがて林檎さんは音楽活動に集中するために高校を中退。自ら背水の陣を敷いて、ピザ屋のアルバイトをするかたわら、音楽活動へさらに力を注ぐようになりました。
 退路を絶ってまでして自らの信じた道を生きようとする林檎さんの下に、アマチュア生活最大のヤマ場が訪れたのは、それから間もなくしての事でした──

 本当はもう少し続けたかったのですが、時間が来ました。続きはまた来週ということで。 
 では、今日の講義を終わります。(次回に続く) 

 


 

3月27日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(3月第4週分)

 さて、今週は何かと時間が詰まっているので、手短にいきますね。レビュー中の7段階評価の表はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年17号☆

 ◎読み切り『ヒカルの碁・番外キャラ読切シリーズ・三谷祐輝』作:ほったゆみ、画:小畑健

 シリーズ4作目なんですが、ここまで読み進めて来て、何となくこのシリーズが「ほったさんが本当に描きたかったキャラの作品」と「編集部サイドから依頼を受けて描く事になった作品」に分かれているような気がしました。
 で、駒木が考えるに、前者の代表格が先週の奈瀬編で、後者のそれが今週の三谷編かな、と。
 ほったさんには珍しく、今週の作品は凡作に近いです。「これを描きたい!」という意気込みが先週に比べると非常に弱い気がするんですよね。本編直前のエピソードを描くという方式は塔矢アキラ編と同じだし、番外編のキモである、本編で見られなかったキャラクターの側面を描くという部分も不完全のような気がします。
 見せ場といえば、“修さん”が雀荘で雀ゴロのイカサマを暴くシーンくらいでしょうか。「近代麻雀」系ではお馴染みのシーンですが、これが小畑さんのリアルな絵で表現されると新鮮さがありますよね。ほったさんは麻雀にも造詣が深そうで、いずれ麻雀モノの作品も読んでみたい気がします。

 というわけで、今週分はB+寄りのという事で。

 

 ◎読み切り『しゅるるるシュールマン』作画:クボヒデキ

 今週は『HUNTER×HUNTER』が休載と言うことで、ギャグ読みきりが掲載されています。
 作者のクボヒデキさんは、以前から代原作家として本誌にも頻繁に登場、増刊号でも活躍されている若手作家さんとの事ですが、この講義が始まってからは初めての登場となります。

 今回の作品は、題名の通りシュールなショートギャグの連作形式で15ページというもの。まぁ、新人・若手の作品にはよくある形ですよね。
 ネットでこれまでの掲載作品の評判をピックアップしますと、そんなにネット評論家筋の点は低くないようですが、今回の作品、少なくとも駒木は落第点を付けざるを得ないと思います。

 そもそも“ギャグ”とは、人が持つ常識との奇妙な違和感を提示し、それを笑いという感情に転換させる作為的行動です。
 そして“シュールなギャグ”とは、その違和感の提示を極端なレベル持っていき、話の筋的には意味不明ながらも違和感だけで強引に笑わせてしまうようなものを言います。ちなみに、お笑い界などで、シュールなギャグが“お客を選ぶ”と言われるのは、極端な違和感から笑いに至る人がいる一方で、違和感以前に話の意味不明さに困惑してしまう人が多いからだと思われます。
 では今回の「しゅるるるシュールマン」がどうかと言うと、シュールと言ってる割には違和感の提示が弱く、なおかつ、話の筋の意味不明さはシュールそのものだったりするのです。まぁ、明快に言うと「シュールギャグとして失格」なのですよ。
 クボさんの実力最高値がどこまでのラインにあるか分かりませんが、このラインで満足しているようでは、連載など夢のまた夢です。もっともっと他の作家さんの作品を研究して、将来につなげて欲しいと思います。

 評価はB−一応、ギャグ作りの手順は踏まえてますので、問題外というわけではありません。動きの基本はマスターしたプロボクサー予備軍みたいなものですので、あとはもうパンチ力だけ。今が正念場と思って頑張って欲しいですね。

☆「週刊少年サンデー」2002年17号☆

 ◎読み切り『葵DESTRUCTION!』作画:井上和郎

 「週刊少年サンデー」のストーリー読み切りシリーズ第3段は、昨年から増刊号で読み切りを掲載している新人作家さん・井上和郎さんの作品です。井上さんは、『からくりサーカス』『うしおととら』藤田和日郎さんの元・チーフアシスタントさんだったとのこと。

 まず、絵はかなり好感度が高い今風の絵ではないでしょうか? 個人的には上手だなあと感じました。ひょっとしたら師匠の藤田さんより上手かもしれませんね(苦笑)。あ、キャラの描き分けがよく出来ているのは師匠譲りかもしれませんね。

 さて、ストーリーの方ですが、これは一言で表現するなら“技あり”の作品ですね。1つのアイデアを転がしまくって、良質コメディに仕上げきっているという形で、なかなかの力量の高さが窺えました
 この作品と作者の井上さんの最大のセールスポイントは、奇抜な設定を作ったら、それをとことんまで極端にしてしまったところにあります。38歳の父親の外見がどうみても小〜中学生の女の子に見えてしまう、という設定そのものは、他の誰かでも考えられそうですが、一度決めたその設定を全編に渡って活かしまくる。これが凄い。この辺が所謂“センス”というヤツだと思います。
 設定や話の広がり方を考えると、連載にしても面白い作品だろうと。あとはアンケート次第だと思いますが、良い結果を待ちたいですね。評価はA−

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(週刊コミックバンチ17号掲載・世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品『逃げるな !! 駿平』作画:野田正規

 いよいよこのシリーズも“トリ前”となりました。果たしてあと2週で、2002年を代表するような名作は出てくるのでしょうか?

 さて、エントリー9人目の作家さんは野田正規さんで、現職はマンガ家アシスタントとのこと。かつては『六三四の剣』などでお馴染みの村上もとかさんのアシスタントを長年務め、数年前には少年マガジン月例賞の佳作を受賞した経験もあるそうです。
 ……って、ここに来てまた“敗者復活組”なのですね。それが悪いわけじゃありませんが、やはり新鮮味には欠けますからねぇ。

 そして実際、この作品は、歯に衣着せず言うと新鮮味ゼロの作品でありました。なんだかもう、恐ろしく絵柄・作風が古いです。「コミックバンチ」というより「少年キング」といった風情。もしくは、昭和の時代の「週刊少年サンデー」でしょうか。
 これで話がよく出来ていれば、まだ“昔懐かし系”作品として評価できるのですが、それに関しても大概な作品であったと言わざるを得ないのが辛いところです。

 まず、絵。古臭いだけじゃなくて、プロとしてはかなり低調なレヴェルです。特に、かれこれ10年以上描いているはずの格闘シーンがリアリティに欠けている始末では……三十路を過ぎるまで一体何をやって暮らして来たか、ちょっと問い詰めたくなってしまいます。
 ストーリーも低調。序盤部分の主人公の子ども時代については、輪にかけて古臭い話、さらにデッサン狂いまくりの絵がありながらもまだマシでした。中盤以降、まさかキックボクシングマンガにかこつけた、中途半端なタイ観光案内を見せられるとは……。
 
作者がなけなしの金を叩いて行った格安タイ観光旅行を、“取材”と称して唯一の資料としている様が思い浮かびます。
 最大の見せ場である、主人公が格闘で敵を倒すシーンでの必殺技が金的蹴りというのもどうかと。それを別のキャラに「キックボクシングの才能がある」云々と言わせても説得力ゼロであります。だって反則中の反則ですよ、金的蹴り頭突き・肘撃ちが必殺技のボクシングマンガみたいなものです。

 さらにさらに。作中やインタビュー記事中で見られる格闘技への知識の薄さも致命的です。
 まず、少林寺拳法を「試合の無い格闘技」とした点。確かに、少林寺拳法には試合を行わない流派も多く存在しますが、ちゃんと大会をやっている流派も存在します。
 そして、「キックボクシングを国際式(普通の)ボクシングよりもファイトマネーで恵まれない」云々とインタビューで語っているのですが、これもやや浅薄な知識です。国際式のファイトマネーで、明らかにキックボクシングのそれより恵まれているのは重量級の世界タイトルマッチぐらいなものです。それにしてもキックの世界よりも国際式のほうが選手層が格段に厚いので、むしろキックボクサーの方がある程度稼ぎやすい世界です。
 普通、自分が好きな世界の話なら、もっと熱心に勉強して然るべきなのですが、結局は趣味の段階を超えていない。いい加減この上ない。一体、長年のアシスタント生活で何を学んできたのでしょうか? 

 このいい加減さはキャラ造形にも表われています。
 中盤以降の主要サブキャラとしてという名の自称・格闘家の大男が登場します。ビッグマウスなだけのデクの棒という典型的なヤラレキャラなのですが、これが『あしたのジョー』のマンモス西にそっくりなのです。
 “西”に似たキャラの名前が“東”。この安易さはどうでしょうか? 元ネタを知っている人間にとっては失笑モノの程度の低いパロディですし、知らない人間にはワケ分からない詰まらないキャラになってしまってます。

 よくこんな作品が最終選考まで残ったなと目を疑ってしまいますね。『痛快! マイホーム』の元・担当さんが推したんじゃなかろうか、などと邪推してしまいます。

 評価はC寄りのB−(前日から変更してます)。ここに来てこのシリーズで最低評価の作品が来るとは……(汗)。あと1週、果たしてどうなんでしょうか。ううむ、想像したくなくなって来ました。

 ……というわけで、ちょっとショートバージョンでお送りした今週のゼミでした。しばらく小休止状態になるかと思いますが、その分、来週以降は中身の濃いレビューに出来たらと思います。それでは、今週はこれまで。

 


 

3月26日(火) 集中講義・現代社会学特論
「椎名林檎、高らかに現役復帰!(3)」

 現代社会学特論講義も第3回となりました。とりあえずは今週中に一区切りつけたいと思っているのですが、こればかりは諸事情と相談になりますので、果たしてどうなることか…。

 過去のレジュメはこちら→第1回第2回

 さて、前回は椎名林檎さんが、幼少の頃から傾倒していたバレエとピアノを断念してしまったところまでお話しました。今日はその続きになります。

 バレエを断念せざるを得なくなってしまったショックの余り、もう1つの習い事であるピアノも止め、ついには不登校にまで陥ってしまった林檎さん。しかし、周囲の人たちのバックアップもあり徐々に立ち直りを見せ、やがて彼女は中学校の演劇部に新たな道を見出すようになりました。
 演劇部での林檎さんは、役者よりも劇作家や舞台設計などの方に魅力を感じていたようです。林檎さんのコンサートでは、看護婦ルックといった衣装に加え、SM用ムチ、コンドーム、タンポン、拡声器といった、ただ品目を羅列するだけなら人格を疑われそうな小道具など、いつも非常に凝った舞台装置や演出などが注目されていますが、この辺りのルーツは中学校の演劇部時代にあるようですね。
 ……こう書くと、中学校の頃から看護婦ルックでコンドームをバラ撒いてSMムチを同級生に振り回していたように思えますが、そう言うことはなかったはずです。多分。

 そして、林檎さんが再び音楽の道へ進み始めたのも、この演劇部での活動がきっかけでした。
 部活動でとある劇をする事になった時の事です。顧問の先生が、林檎さんにこんな注文を出しました。
 「ここにセリフがあるんだけど、このセリフ、実は歌なんだ。これに曲をつけてくれないかな?」
 ……本当は博多弁だったんでしょうが、このあたりが再現ドラマの限界ですね。まぁ、こういうドラマティックなシーンは標準語の方がそれっぽく聞こえるから良いとしましょう。地方の学校の先生が標準語を使う時ほど気色悪い事はないということはさておいて

 どうやらこの出来事が直接の契機になって、林檎さんは作詞・作曲に“目覚め”て、現在の職業であるシンガーソングライターへの道を進み始めます。「今度はこの道でプロになるんだ」と決心し、その手始めとして学校の音楽仲間と共にバンドデビューも果たしましたアーティスト・椎名林檎は、この頃誕生したというわけです。

 ちなみにシンガー・椎名林檎が初めて人前でバンドプレイを披露したのは中学校の学園祭の時でした。この時はまだコピーバンドの段階。演じた曲はJUDY AND MARYの曲や、ZARDの「負けないで」などだったそうです。
 …しかし、椎名林檎さんが「負けないで」
 
何だか、五木ひろし森進一がNHKでチャゲ&飛鳥の「SAY YES」を唄った時のような違和感がありますねぇ。
 凄かったですよ。五木ひろしがコブシを利かせながら、「♪よっけいなっ、こっとなどっ、なっいよっねぇ〜」と熱唱
 そのコブシが余計だ
とツッコミを入れたくなりましたが。

 ところで、この時の学園祭では当然の事ながら林檎さんの歌は大好評。この時、林檎さんの歌を聴いた幸運な目撃者も口を揃えて「彼女は上手すぎるくらい上手かった」と証言しています。
 そんなものですから、予定されていた4曲の演奏後にはアンコールまで自然発生。こうなったら、それに応えるのがスジと言うか、常識なのですが、これが校内で厄介な問題になってしまったそうです。
 というのも、当時林檎さんが通っていた中学校は極めて校則が厳しい学校で、例えば体育で授業開始に間に合わないとスクワット200回などといった体罰が執行されていたそうです。
 そして、この文化祭でのアンコールに応えた事も、「約束が違う。教師に逆らうとは何事ぞ」と、今後の校内でのバンド活動を禁止されてしまったという事です。なんと馬鹿げた行為でしょうか!
 こんな時代錯誤な話、左翼がかった父兄と弁護士が1人ずついれば、朝日新聞やニュースステーションあたりから火が点いて、やがて5人程度の教員に処分が下ったと思うのですが。そうなれば、処分を受けた連中は出世への道が断たれ、最終的にはそれらの教員の生涯賃金と退職金が削減されて税金の節約にもなったんですがねぇ。
 アウトローな同業者(学校教員)として言わせてもらいますと、校則を厳しくするのは教育熱心でもなんでもなくて、ただ単に教員が生徒指導で楽をしたいだけなんですよね。
 本当の生徒指導というのは、完全にケース・バイ・ケースなんですよ。例えば、生徒が万引きをしたとしても、その生徒の環境や情状などを勘案して、木目細やかな指導をしなくちゃならんのです。ですが、当たり前の事ながら、それには異様な労力がかかったりするわけです。
 この負担はハンパじゃない。いちいち対処していくと自分の“やりたい事”も出来ない。なので、校則を厳しくして、手っ取り早く「ルールはルールだ」と強引にねじ伏せ、あまつさえ体罰で服従させる。本当にアホウな話です。
 ちなみに、“自称・教育熱心な教師”の多くの“やりたい事”は、授業でも生徒指導でもなく、自分が顧問を務める部活動の運営だったりします。そりゃ、1つのチームの監督となって大勢の人間を意のままに動かせるんですから、そりゃ楽しいでしょうよ。特にそういう器の小さいお方にとっては。
 あ、でも、そんなアホウじゃなくて、ちゃんとした人徳ある先生も多いんですよ。少なくとも駒木が勤務している学校に今、そんなアホウはいません

 閑話休題。
 とまぁ、こんな紆余曲折に満ちた日々を送りながらも、林檎さんは無事に中学校を卒業し、高校に入学します。
 しかし、高校に入学しても、林檎さんの頭の中は「将来どのようにして芸能界にデビューするか?」のただ1点。複数のバンド及びパートを掛け持ちし、アーティストとしての腕を磨きつづけました。
 ですから“芸能界デビュー”とは言っても、当然の事ながら本格化シンガーとしてのデビューが第一志望でしたが、その道はあまりにも険しいものです。間もなくして手段を選ばなくなった林檎さんは、こんな事を考え始めました。

「アイドルデビューもアリでしょ」

 ……こうして、林檎さん、いや女子高生・椎名裕美子はホリプロスカウトキャラバンにエントリーしてしまいました。反町隆史がジャニーズJrにいて、ジャニーさんに掘られる前に脱退したというエピソードくらいインパクトの強い過去と言えます。
 当時と今では、人に与える印象が全く違った彼女ですが、持ち前の歌唱力(マライヤ・キャリー《!》を熱唱)などをフルに活かして九州予選を突破。ついに本戦(決戦大会)にまで進出します。
 ちなみに、その時のエントリーシートがこちらです↓

 ……いやはや、色々な意味で感慨深い履歴書であります。
 まず顔の垢抜けなさ加減に強く我々の心に訴えかけるものがありますが、それよりも体のサイズです。
 身長164cm、体重50kgでスリーサイズが87、60、88。ここでまず、軽く無茶してますよね。
野球で言えば、3打数4安打で三振1つみたいな数字です。デビュー後のジャケット写真を見る限り、豊かなバストサイズは詐称してないとして、このサイズで体重50kgって、他の内臓はどこへ行っちゃったんでしょうか? ちょっくらアメリカへ飛んでホーキング博士に教えを乞いたい気分です。
 その他にも、「尊敬する人」や「好きなタレント」の欄には一般知名度の低いガイジンが羅列されていたり、「スポーツ」に何故か「クロール、平泳ぎ(飛び込み可)」などと印字されている辺り、無闇に読む人をハラハラさせますが、トドメは「志望動機・自己PR」です。

 私は人に流されない。周囲に私のような洋楽マニアは余りいない。でも私は私らしく、歌詞を和訳して、独りで泣いたり、耳コピーして弾き語りをしている。マライアに会いたい。

 えー、改めて言っておきますが、これは「ホリプロ・スカウトキャラバン」のエントリーシートです。
 自分が心から敬愛するアーティストの隠したい過去を暴き立てておいて、更に一言付け加えるのも心苦しいのですが、マライアに会う前にマラリアに罹ってないか調べた方が良いような文章であります。
 ……残念ながらというか、このエントリーシートを見れば当たり前と言うか、このスカウトキャラバンで椎名裕美子嬢は落選。アイドルの道は断たれてしまいました。
 余談ですが、この年のグランプリは上原さくら。駒木、上原さんも少しだけファンなのですが、どうにもこうにも、“モー娘。初期メンバーが落選したオーディションで通った平家みちよ”みたいな印象が拭えませんね。

 この一件で懲りたのかどうか判りませんが、以後、林檎さんはバンド活動に専念。正攻法での芸能界進出を目指し始めます。
 そして、それはそう間を置かずに現実味を帯びていくのですが、それはまた次回の講義という事で。(次回に続く

 


 

3月25日(月) 集中講義・現代社会学特論
「椎名林檎、高らかに現役復帰!(2)」

 ほぼ一週間ぶりの現代社会学特論講義となりました。今週は、水曜日と土曜日を除いて、原則的にずっとこの講義を実施する予定でいます。

 さて、時間も詰まっています。それでは早速、講義の本題へと移ることにしましょう。
 前回は椎名林檎さんの復帰決定についての簡単な解説を行いました。詳しくはこちらからレジュメをご覧下さい。

 前回の講義の最後に述べたように、今でこそ日本を代表するJ-popアーティストの1人となった林檎さんですが、そこに至るまでの道筋は、決して平坦なモノではありませんでした。今日からしばらくの間、彼女の生い立ちを時系列に沿って、順に振り返ってみる事にしましょう。

 椎名林檎こと、本名(旧姓)椎名裕美子さんは、1978年11月25日、埼玉県に生まれました。(小学校に上がる前に、静岡に転居)
 同じ誕生日の有名人には、ダチョウ倶楽部の寺門ジモン(腕立て伏せマニアの方)がいます。以上、役に立たない豆知識でした。
 あと、彼女にはお兄さんがいます。もう有名な話ですが、彼女を追いかける形でデビューした、アーティストの椎名純平さんです。

 それではまず、幼少〜少女時代の話から。三つ子の魂百までといいますが、この時期のエピソードの中に、林檎さんのデビューまでの軌跡を語る上で欠かせないものが数多くあります

 分野に関わらず、特定の技能に天才的な才能を発揮する人は、おおむね幼少の頃からその技能の訓練を始めているものです。
 いくつか例を挙げてみますと、世界トップ・プロゴルファーのタイガー=ウッズ選手が物心つく前からゴルフクラブを握っていたり、シアトル・マリナーズのイチロー選手が、小学校低学年から熱心な指導・練習に明け暮れていたり、など。芸術分野でも、マンガ家の故・手塚治虫先生が幼少の頃からビックリするほど上手なスケッチ・写生などを残していたりします。
 音楽の分野でも、世界的に著名な音楽家たちは、幼少の頃から本格的なレッスンを受けている事が常であります。もっとも、日本のバンド系アーティストの多くは中学・高校デビューだったりしますが、やはりそういう人たちは、プロの中ではそれなりの評価しか受けられない事が多いように思えます。
 最近、J-popシーンが女性アーティスト上位になりつつある1つの要因として、男性は幼少の頃から本格的に音楽系の“習い事”をする機会に恵まれないからではないか、などと駒木は考えていたりするのですが、どうでしょうか? まぁ、この辺りはもっと研究の必要があるでしょうが。

 ちょっとズレた話を戻します。今回の話の主役・椎名林檎さんもまた、幼少期から音楽の本格的レッスンを受けていた女性アーティストの1人なのでした。
 彼女がレッスンを受けていたのはクラシックバレエピアノでした。中でもピアノは、習っていた先生よりも上手だったという逸話もあるくらいで、当時から既に才能の片鱗を見せていたようです。ピアノと林檎さんの関係については、マキシシングル版「幸福論」のジャケット写真に、子どもの頃にピアノ発表会に出た時の光景が採用されていますので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
 また、林檎さんが作曲・編曲した歌の多くで、伴奏中のピアノのメロディが重要なアクセントの役割を果たしている事が多く、彼女のピアノに対する思い入れが察せられようというものです。

 そういうわけで、林檎さんの幼少〜少女期前半は、まさにピアノとバレエに明け暮れた数年間だったと言えます。
 その思い入れ振りを物語る逸話としてはこんな話があります。それは、
 とある年の初詣の時です。当時、まだ幼い林檎さんは、こんなお願い事をしたそうです。
 「自分のしたい事が自由に出来る人間になりたいです。ピアノとクラシックバレエでのちのち生きていきたいと思っているから、お願いします」
 ……駒木も実は、幼い頃から「文章や小説を書いたりするライターになりたいです」なんてお願いしてましたが、それでメシを食うどころか、逆に経費を支払っている上に命を削っております。全く、才能の差というものは残酷なものです。

 まぁ、それはさておき。
 こんな林檎さんのエピソードを述べていますと、まるでバレエとピアノ以外は何も考えない気難しい女の子だったように思えるかもしれませんが、言うほど“視野”が狭かったわけではなかったようです。
 当時、近所に住んでいた人の評価では、林檎さんは「礼儀正しいしっかりした女の子」だったそうですし、レッスンで習う“お堅い”音楽以外だけでなく、母親が聞いていた俗っぽい歌謡曲も大好きだったようです。特にザ・ピーナッツが大好きで、それはマキシシングル「ギプス」のカップリングで収録した「東京の女」(ザ・ピーナッツのカバー曲)に表われています。
 また、当時は緊張するとすぐに赤面する癖があり、その様子から「リンゴちゃん」という、後の芸名に通ずるニックネームが付けられたということです。今から考えると信じられないエピソードですが、やはり当時はまだ、音楽の得意な1人の女の子だったのですね。(芸名を「リンゴ」にしたのには、「英語圏でもちゃんと理解してもらえる名前だから」と言う理由もあったそうですが)
 あ、余談ですが、近畿地方で「林檎さん」を「リンゴさん」と書くと、椎名林檎ではなくてハイヒール・リンゴになってしまいますので気をつけましょう
 「僕はリンゴ姫のファンです!」などと書くと、最強にイタい人になってしまいます。

 ……とまぁ、こうして順風満帆な小学生時代を過ごした林檎さんですが、静岡から福岡に移住して中学に入ったところで、人生最大の挫折を味わう事になってしまいます。
 それは、これまでの林檎さんのアイデンティティとも言えるバレエとの別れでした。

 ここで林檎さんのファンの方、もしくはCD等をお持ちの方は、一度彼女の全身像が写っている写真をご覧になってください。複数お持ちの方は、片っ端に全部。
 それらを並べて見て、お気づきでしょうか? 林檎さんの写真には完全な直立姿勢のものが一枚も無いのです。言われてみれば、という感じでしょうが。
 実はこれ、偶然ではありません。林檎さんは完全な直立姿勢がとれないのです。
 というのも、林檎さんは生まれながらにして先天性食道閉鎖症という重い病気に侵されていたのです。
 このいかにも仰々しい名前の病気は、文字通り生まれながらにして食道が閉鎖している病気で、全く物を口から飲み込むことが出来ません。生後間もない時期でも自分のツバすら飲み込むことが出来ず、もちろん哺乳も出来ません。それどころか、閉鎖した食道が気管に繋がっていることもあり、その場合は胃液が肺へ流れ込み、肺炎を併発してしまう恐れすらあります。
 ですので、この病気が判明した時点で、直ちに手術が行われます。もちろん、林檎さんもそうでした。
 この時の手術は、背中を大きく切り裂き、肩から腕を湾曲させざるを得ないほどの大手術でした。
 その結果、林檎さんは成長するに連れて左半身と右半身のバランスが完全に歪んでしまい、未だに直立姿勢がとれないというわけです。
 この後遺症は、日常生活には支障をきたす事はありませんでしたが、体のバランスを求められるバレエでは絶望的なハンディキャップでありました。これまで少女時代の大半を費やして来たバレエでのどうしようもない挫折。このショックは察するに余りあります。
 そのためでしょう。林檎さんはバレエはもちろん、並行して習っていたピアノも辞め、あまつさえ中学校を不登校になってしまいます。もう、彼女の心はボロボロでした

 そんな林檎さんの、生きる気力を奪い尽くすほど深かった心の傷。でも、そこから彼女は人生の再スタートを切って動き始めます。
 打ちひしがれた彼女の心を蘇らせたもの、それは、彼女が一度捨てたはずの音楽だったのです── 次回に続く

 


 

3月23日(土) 競馬学特論
「G1予想。高松宮記念編」

 こんばんは。講師の駒木ハヤトです。
 通常、この競馬学特論の講義は、助手の珠美ちゃんと対談形式で行うのですが、今回は諸事情により、余りにも時間がありません。(実は、現在翌24日の朝5時半を回っています)。
 ですので、今回は予想の発表と、有力馬の簡単な解説に絞って、“時間短縮バージョン”として講義を進めていきたいと思います。ご了承ください。
 それでは、早速予想の発表です。

12番 トロットスター
9番 アドマイヤコジーン
5番 ショウナンカンブ
14番 ディヴァインライト
× 10番 エアトゥーレ
× 16番 スティンガー

 本命はトロットスターに打ちました。
 実は、今回の高松宮記念、スプリント戦としてはかなりメンバーの層が薄いです。生粋のスプリントタイプで目ぼしい実績を挙げている馬は、この馬くらいしか見当たりません。ハイペースで一応は展開も向きますし、体調も戻って来たとあっては、主力の座は揺らぎません。

 対抗はアドマイヤコジーン。
 G1レース・朝日杯3歳S(当時)の覇者であるこの馬、G1制覇直後に故障に見舞われて長期の休養を強いられました。復帰後もメンタル面での問題が発生し、途中でレースを止めてしまうケースが多々見られました。
 しかしここに来て、明らかな復調気配。前哨戦・阪急杯(G3)を3馬身1/2差で圧勝し、たちまち最有力候補の1頭に名を連ねています。
 純粋なスプリンターでないこの馬が、果たしてスプリントG1戦の流れに対応できるかという点や、ハイペースの中を先行グループで追走して余力が残るかどうかなどの懸念材料はありますが、地力の面で話をすると、出走馬の中では明らかに上位です。

 単穴・▲印はショウナンカンブ。ダートから芝に転向して1200mレースを2戦し、いずれも抜群のスタートダッシュからの粘りこみで逃げ切り勝利を飾っています。まだ実績は足りませんが、生粋のスプリンターである事は強調材料と言えます。
 ポイントは、ハイペースでレースを引っ張り、なおかつ他の馬に絡まれた場合、いかに凌ぐかでしょう。が、ハイペースで飛ばす事により他の馬のスタミナを浪費させ、巧みに粘りこみを果たす事も十分考えられます。メンバーが比較的手薄なここは、大出世のチャンスです。

 これ以降はちょっと総合力で差のある“伏兵”たちです。まず、2年前のこのレース2着馬・ディヴァインライト。最近のスランプを考えると、年齢的な事もあり推し辛いのですが、また展開に恵まれて最内コースをすくう事が出来れば、また2着に突っ込み位の可能性はあります。
 不気味な存在がエアトゥーレです。前走の京都牝馬Sに敗れた事で評価が下がっていますが、実力・実績的には他の馬に対して引けをとりません。人気薄だけに一発も十分考えられます。
 1400m左回りに強いスティンガーですが、2000mを超えるレースでも健闘しているところからも1200mは明らかに不向きでしょう。1400mのレースというのは面白いもので、スプリンターでもマイラーでも活躍できるようになっています。ですので、1400mの京王杯スプリングC2連覇という記録も大して強調材料にはなりません。かなり人気になる存在かもしれませんが、これはあくまで押さえとしておきたいです。

 買い目は5、9、12のBOX。それと押さえに12-14、10-12、12-16の以上6点。ただし、オッズ的に妙味が薄いので、押さえの3点のうちいくらか削る事も考えなければならないでしょうね。

 ちなみに、珠美ちゃんの予想印は以下の通りです。

12番 トロットスター
9番 アドマイヤコジーン
16番 スティンガー
14番 ディヴァインライト
× 6番 サイキョウサンデー
× 8番 メジロダーリング
× 5番 ショウナンカンブ

 僕の予想と似ているようで似ていないような感じでしょうか。

 では、今日はこれで終わる事にします。次回以降は、またじっくり時間をかけて予想をお届けしたいと思います。それでは、皆さんも頑張ってください。


高松宮記念 結果(5着まで)
1着 ショウナンカンプ
2着 アドマイヤコジーン
3着 16 スティンガー
4着 15 リキアイタイカン
5着 12 トロットスター

 ※駒木博士の“勝利宣言”
 ○▲的中。辛勝だなあ……。
 トロットスターは、ここまで負ける要素が見当たらないんだけど、やっぱり競馬は波乱のスポーツだよね。
 競馬学的に言えば、スティンガーの走りは“中距離以上に適性のある馬が短距離を走った時の走り”だと覚えておいてください。「距離適性が合わない」とは、ああいう事です。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 ううぅ……(涙)。フェブラリーSの時に「博士に勝ちました!」なんて言ってたら、キッチリお返しされちゃいました……。2着3着って、やっぱりショックですね(苦笑)。
 それにしても、いつもは実績不足の昇り馬を軽視している博士が、ショウナンカンプを▲にしているんですね…。この辺りのカンの働きがキャリアの差なんでしょうか…。

 


 

3月22日(金) 文化人類学
「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・決勝大会TV観戦レポート(2)」

 昨日に引き続き、文化人類学講義です。前日の講義(第1〜3ラウンドのレポート)を未受講の方は、まず先にこちらをクリックして、レジュメを閲覧してください。

 では、今日は第4ラウンド(準決勝)と決勝戦の模様と、簡単な大会総括を掲載します。最後までどうぞお付き合いくださいませ。
 また例によって、レポート文中は敬称略・文体変更を行います。ご承知おきください。


 ☆第4ラウンド 桑名宿・蛤カレー食べまくり勝負

 ※ルール:1皿300gの蛤入りカレーを、45分間でどれだけ食べられるかを競う。出場4名中、記録上位3名が決勝戦に進出する。

 第3ラウンド終了から5時間後の競技。消化能力に難のある選手には堪えるタイム・スケジュールだ。
 須藤は「(第3ラウンド)の餡巻きが胃に残ってるんですよ」と苦笑しながら本音を吐露。河津も、競技に支障無い程度だが、未消化の餡巻きが残っているようだ。一方、久保は「完全消化」宣言だが、このラウンドの食材・カレーが苦手と顔をしかめる。偏食気味の舩橋だが、カレーはまだ得意な方らしい。

 第1、3ラウンドに引き続いて、スタートダッシュを決めたのは河津。1皿1分と、まずまずのスピードを披露。しかし、他の3選手も遅れる事無くピッタリとマーク。3皿完食時点で、やや須藤が遅れた以外はほぼ横一線。
 あっという間に全員5皿完食。その順番は、河津、久保が全く同時で、舩橋、須藤も差はそう無い。
 10分経過。1位グループ・久保、河津、舩橋(6皿)、4位須藤(5皿)。
 トップ争いはますます熾烈に。久保と河津が文字通りのデッド・ヒート。舩橋も半皿差で追いすがる。しかし、この辺りから須藤が遅れ始める。やはり地力の差が大きい。
 15分経過。その直後、トップグループの3者がほぼ一斉に9皿完食。その差、河津→久保間が10秒、久保→舩橋間が4秒。既に須藤がスローダウンし、3人の決勝進出は決まったも同然だが、激しい競り合いはスプーンを動かす手を止めさせない。
 22分経過。11皿完食一番乗りは舩橋。しかし、相変わらずその差は僅かだ。須藤は8皿完食時点で完全に手が止まった。
 13皿完食時点でのトップは再び河津。トップが目まぐるしく入れ替わる。河津はこの時点でクルージングに入り、後は様子見か。一方で、この時やや遅れていた久保が13皿完食で並ぶ。久保はまだスプーンを止めない。表情は依然笑顔で、まだ余裕か。
 35分経過。12皿完食時点で小休止していた舩橋が動き出して13皿完食。だが、トップの久保は14皿を完食し、なおも笑顔。まさに「東京の微笑み」。個人的には「フードファイト界のモナ=リザ」と呼んでみたい。
 44分経過。1位久保(14皿)、2位グループ・河津、舩橋(13皿)、4位須藤(8皿)。
 もう大勢は決していた。須藤はリタイヤだけは避けたいと、最後まで競技を続けたが、20分以上の間、ほとんどカレーが口に運ばれることは無かった。

1位通過 久保仁美 14皿+α(4.2kg強)
2位通過 河津勝 13皿+α(3.9kg強)
舩橋稔子 13皿+α(3.9kg強)
4位落選 須藤明広 8皿+α(2.4kg強)

 トップ通過は久保。順位にこだわらないマイペース型の選手だが、このラウンドは全体の記録が伸び悩んだ事もあり、少し“区間賞”を狙っていたようだ。
 久保は、どのラウンドでも平均4kg程度の記録をマークしており、安定感という上では申し分ない。問題は、負けない試合運びを要求されるこれまでとは違い、今度は勝つための戦いが求められる事である。果たして決勝戦で、これまでと違った久保が見せられるかどうかがカギ。
 接戦の2位通過は河津と舩橋。
 河津は依然として、胃の限界を悟らせぬクレバーな試合運びが光る。しかし、決勝は完全に胃の容量勝負。彼の限界はどの辺りか?
 舩橋は、第3ラウンドの後遺症か、本来の実力を出せず終いだった。明日の決勝までにいかに体調と精神面を整えるかがポイント。
 ここで脱落となった須藤。敗因はズバリ胃容量の差。実力上位の選手が思わぬアクシデントで消えてゆく中、渋太く生き残ってきたが、運も実力もここまで。しかし、記録よりも記憶に残る懸命の頑張りは、大会全体に彩りを添えた。

 

 ☆決勝戦 京都・しっぽくうどん無制限勝負

 ※ルール:しっぽくうどん(1杯あたり具・麺300g、出し汁300g)を60分間で何杯食べられるかを競う。最も完食量の多い選手が優勝。また、うどんの出し汁は飲まなくてもよい「大食い選手権」ルールが適用される。

 長時間の60分、しかも慣れない熱いうどんという事で、各自スロー気味のマイペースでの序盤戦に。
 例によって1杯目のトップは河津。しかし当然、舩橋と久保も差無く追走。
 2杯完食のトップも河津。ここまで所要時間は約4分。もちろん他の2人も負けてはいない。特に舩橋は、好物のうどんとあって、今日は快調のようだ。
 10分経過。全員4杯完食で横並び。
 5杯完食トップは舩橋。ここに来て、本来のスピードの差が出て来たか。河津もペースを上げたいところだが、とにかくうどんが熱い。徐々に追い上げてきた最下位・久保との差も縮まってきた。
 舩橋6杯完食もトップ(14分30秒)。ここから更に差が広がってゆく。また、2位がわずかながら久保に入れ替わる。河津、早くも苦戦か。
 20分経過。1位舩橋(8杯)、2位グループ・久保、河津(6杯)。
 舩橋が2杯差をキープしたまま、10杯完食一番乗り。中盤戦を支配してゆく。
 30分経過。1位舩橋(11杯)、2位グループ・久保、河津(8杯)。
 ここまで余裕を見せていた舩橋だが、ここからスローダウン。そろそろ胃の中でうどんが膨らみ始める頃である上、序盤戦から熱さ対策で水を多用して来たツケが回って来たようだ。
 40分経過。1位舩橋(11杯)、2位久保(10杯)、3位河津(9杯)。
 ペースの落ちた舩橋、ようやく12杯完食も、ここで完全にストップ。まだ箸の止まらない久保と河津との差が徐々にではあるが詰まってきた。
 しかし河津も10杯完食で小休止。河津の小休止はいつもの事だが、今回は余裕の休止ではなく、本当に限界が近い様子。
 45分経過。1位舩橋(12杯)、2位グループ・久保、河津(10杯)。
 箸が動いているのは久保1人だけ。11杯完食を果たして、いよいよ差が詰まってきた。舩橋もリードを広げたいが、完全に満腹状態になっており、体が食べ物を受け付けない。
 50分経過。1位舩橋(12杯)、2位久保(11杯)、3位河津(10杯)。
 河津がここで最後の力を振り絞り、ラストスパートで勝負に出るが、もう限界が来ていた。時計が53分経過を示した時、静かに箸を置いた。記録を残すためにリタイヤはしないが、河津の勝負はここで終わった。
 55分経過。ついに久保が12杯完食とし、完食杯数では舩橋と並んだ。だが、ここから舩橋が最後の力を振り絞って、再び箸を取った。いよいよ大詰めだ。
 57分経過。舩橋、ついに13杯完食。再び差は1杯近くにまで広がった。
 59分経過。舩橋の手は止まらない。久保も全く手は止まらないのだが、差を縮めるだけのペースアップが出来ない。ようやくここで「勝負あった」。
 カウントダウンが始まる。久保が苦笑いしながら「ダメー、勝てない〜」と言いたげに首を振る。河津は半ば呆れた表情で戦況を見守っていた。1人、舩橋は最後まで真剣な表情でうどんを口に運んでいた。そして訪れた、大食い選手権史上、最も小柄なチャンピオンが誕生した瞬間。進行役の中村有志が、静かに舩橋の手を上げた──

優勝

舩橋稔子

13杯+少量

準優勝

久保仁美

12杯+α

3位

河津勝

10杯+α

 「大食い選手権」第5代新人王は舩橋稔子。2年前の岩田美雪に続く、2人目の女性新人王の誕生となった。
 実力No.1の山本卓弥が失格となった事で、どうしても損な役回りを演じなければならない立場だが、それでも山本以外のメンバーとの実力比較では、おおむね順当な結果と言えるだろう。また、他の選手には悪いが、番組的にも“一番救いのある”結果になったとも言える。
 これで舩橋は秋のオールスター戦への切符を掴んだ事になるが、しかしトップクラスの大食い系フードファイターに囲まれると、どうにも小粒な印象は否めない。今大会の結果で推測される胃容量は5kg強。実力は岩田美雪、別府美樹クラスと考えて良く、胃容量10kgオーバーのトップクラスとの対戦では苦戦は必至だろう。何せ、「大食い選手権」トップ2の白田や射手矢は、たとえ6kgの食材でも早食い・スプリントの範疇に入れてしまう選手なのである。
 準優勝は久保仁美。絶えず余裕を窺わせる戦い振りで、胃容量の限界は最後まで完全に推定できなかった。しかし、余裕が残っているようでも、決勝の終盤戦はガクンとペースが落ちており、ポーカーフェイスの下で、それなりに満腹感と戦っていたのも確かであろう。大まかに見て、舩橋と互角程度の地力ではないだろうか。もし、胃容量にまだ余裕があるにしても、もっとスピードを身につけないとトップクラス入りは難しい。
 第3位は河津勝。各ラウンドでは、胃容量を悟らせないクレバーな戦い振りが光ったが、残念ながら決勝では限界を露呈してしまった格好に。恐らく最大胃容量は4.5kg強。この胃容量では「フードバトルクラブ」でも「大食い選手権」でも覇権を争うには中途半端で、これから余程の進境が見られない限り、残念ながら今回がメジャー大会での最高順位となる可能性が高い。
 当初は低レヴェルが懸念された今大会だが、決勝進出者3名のレヴェルならば、以前の大会と比較してもそんなに遜色は無かった。今回は“一般人以上フードファイター未満”の選手が多く見られたのだが、今となっては新人戦らしくて、それも良かったのかもしれない。

 

◎大会総括◎

 今回の「大食い選手権」は、これまでの大会運営を見直し、巧みで内容の濃いマイナーチェンジが図られた、充実した競技会だった。
 特に、多人数(10人)の選手が旅を共にし、ライバル心と友情を育みながら競技を繰り返すという“ロードムービー”方式は、往年の名番組「アメリカ横断ウルトラクイズ」に相通ずるものがある。この方式では、大会そのものの基本にはフードファイトを置きながらも、放送で前面に押し出すのは選手たちの人間模様であり、視聴者の感情移入と感動を喚起する上でも非常に効果的であった。
 このマイナーチェンジにより、「大食い選手権」は「フードバトルクラブ」との明確な差別化を実現し、なおかつフードファイトに対するイメージアップにも一役買った。まさにTV東京の底力と言うべきで、これからも「大食い選手権」はフードファイト界で高い支持率を維持していくであろう事を、我々に確信させた。
 だがその一方で、画竜点睛を欠くような不手際が2点あり、それは非常に残念であった。
 1つは名古屋地区大会1回戦でのルール設定の失敗、そしてもう1つは山本卓弥ドクターストップ事件であった。もう2件とも個々のレポートで詳しく述べているので、敢えて再び詳述はしないが、これらの反省点を踏まえて、さらに充実した大会運営を願いたい。特に、かつて中嶋広文や小林尊との関係を悪化させて絶縁状態に陥った過ちを、山本卓弥との関係で繰り返さない事を切に願う。

 ※「山本卓弥ドクターストップ事件」については、新事実が明らかになりました。前日付講義第3ラウンド総括に「追記」を執筆しましたので、そちらをどうぞ。


 というわけで、「大食い選手権」レポートでした。次回の文化人類学は4月上旬の「フードバトルクラブ3rd」関連講義になると思います。それでは、今日の講義を終わります。(この項終わり)

 


 

3月21日(木・祝) 文化人類学
「『TVチャンピオン・全国大食い選手権・日本縦断最強新人戦・決勝大会TV観戦レポート(1)」

 それでは予告通り、文化人類学の講義を行います。先週と同じく、2回に分けての講義となります。
 まず、第1回の今日は第1ラウンドから第3ラウンドまで、そして明日の第2回は準決勝、決勝戦の模様と大会の総括をお届けします。
 この文化人類学講義は、大変熱心な受講生がいらっしゃる一方で、履修を拒否する受講生も少なくないと聞きます。ですので、このままこのフードファイト関連の講義を当講座の中で行うのかどうかも含めて現在検討中です。
 ただ、駒木にとって、フードファイト研究は競馬学・ギャンブル社会学と同じくらい大事な専攻分野ですので、当講座で扱わなくなった場合も、別のウェブサイトを開設し、そこで研究成果を発表する事になると思います。
 この件については、いずれまたこの講義の中でご報告します。とりあえず、少なくとも4月当初放送の「フードバトルクラブ3rd」までは、当講座でレポートを発表する予定でいます。

 ……では、これからレポート発表に移るのですが、その前に一点「お断り」です。
 この「大食い選手権・日本縦断最強新人戦」で、大阪地区2位で決勝大会に進出した舩橋選手のフルネームを、これまでこの講座では「舩橋聡子」としてきました。これはテレビ大阪放送「なにわ大食い選手権」での字幕スーパーに従ったものです。
 しかし、本日放送分の「大食い選手権」では、名前が「舩橋稔子」となっていました。どうやらこちらの方が正しいようです。
 よって、今後この講義中でも表記を「舩橋稔子」で統一する事にします。あらかじめ、ご了承ください。

 それではレポートに移ります。例によって文中敬称略、文体を常体に変更しますが、こちらもご了承ください。

 また、先週放送分のレポートはこちらをクリックしてどうぞ。


 ☆第1ラウンド・箱根宿 豆腐おかわり勝負

 ※ルール:1丁250gの絹ごし豆腐(冷奴)を、45分間でどれだけ食べられるかを競う。参加10名中、記録上位7名が第2ラウンド進出。

 スタートダッシュを決めたのは河津。久保、近藤らも好スタートを決めるが、わずかに河津が早い。須藤、山本、羽生などもトップグループに肉薄。接戦の序盤戦。
 5分経過。1位グループ・河津、羽生、山本(9丁)、4位グループ・須藤、皆川、舩橋、嘉数(8丁)、8位グループ・久保、近藤(7丁)、10位白勢(6丁)。
 10丁一番乗りはやはり河津。次いで、山本、羽生、皆川、舩橋、須藤、近藤、久保、嘉数、白勢の順。
 15分経過。1位グループ・河津、山本(13丁)、3位グループ・皆川、舩橋、久保、嘉数(12丁)、7位須藤(11丁)、8位グループ・羽生、近藤、白勢(10丁)。
 いつの間にか羽生が大ブレーキ。トップ争いから一転して残留争いだ。
 この辺りから、外気の冷たさ(気温1℃台の野外会場)と冷奴の冷え具合が選手の体温を奪うようになり、苦しみだす選手も。その影響が顕著なのは河津と嘉数。
 そんな2人を尻目に、完食数をグングン伸ばすのが大阪大会代表の2人。山本1位、舩橋2位にそれぞれ浮上。やはり地力の差が現れて来たか。
 30分経過。1位山本(18丁)、2位舩橋(16丁)、3位グループ・河津、皆川、久保、嘉数(14丁)、7位グループ・須藤、近藤(13丁)、9位白勢(12丁)、10位羽生(10丁)。
 山本と舩橋の箸は止まらない。山本は悠々と20丁到達だ。舩橋は競技前「豆腐は嫌いです」と語っていたが、そんな事を微塵も感じさせない健闘が光る。競技中の舩橋曰く、「これまで(生きて来た中で)食べた豆腐(の量)よりも、ずっとたくさん食べてます」
 40分経過。1位山本(23丁)、2位舩橋(21丁)、3位グループ・河津、皆川、久保、嘉数(15丁)、7位グループ・須藤、近藤、白勢(14丁)、10位羽生(11丁)。
 ここに来て、突然ボーダーライン上の嘉数がリタイヤ宣言。詳細は不明だが、体温低下が影響していたのか。
 42分経過。1位山本(25丁)、2位舩橋(21丁)、3位久保(17丁)、4位皆川(16丁)、5位グループ・河津、須藤、近藤、白勢(15丁)、9位羽生(11丁)※嘉数は棄権
 羽生は既に脱落確定。残る1ラウンド落選者は1名。ボーダーライン上での熾烈な争いが続く。
 残り1分になって、余力を残していた河津が猛烈なラストスパート。あっという間に安全圏まで突き抜けた。残る3人による争いは、わずかながら白勢が遅れをとって貧乏クジを引かされた格好に。

1位通過 山本卓弥 26丁(6.5kg)
2位通過 舩橋稔子 21丁(5.25kg)
3位通過 久保仁美 18丁(4.5kg)
河津勝
5位通過 須藤明広 16丁(4.0kg)
皆川貴子
近藤菜々
8位落選 白勢貴浩 15丁(3.75kg)
9位落選 羽生裕司 11丁(2.75kg)
途中棄権 嘉数千恵 棄権のため記録なし

 大阪大会代表の華麗なるワン・ツーフィニッシュ。予選で見せた実力の違いを見せつけた。
 特に1位通過・山本のパフォーマンスは際立っており、やはり優勝候補筆頭の下馬評が誤りでなかった事を証明した。
 2位通過・舩橋の記録も、流動食に近い豆腐とはいえ5kgオーバーで頼もしいもの。これから先にも期待を持たせる記録であった。
 3位通過の2人は、記録こそ同数ながら戦い振りは対照的だった。まず久保は、スローなマイペースで着実に完食数を増やしていく典型的な大食いタイプ。そして一方の河津は、満腹中枢が刺激される前の前半戦で完食数を稼ぎ、後半戦は他選手の様子を見ながら通過枠を確保するという、早食い系のクレバーな戦い振り。どちらも胃容量の限界を見せない戦い振りということで、何とも(悪い意味でなく)不気味な印象を与えた。
 胃容量に限界がありそうな5位タイ通過の3名・須藤、近藤、皆川は、恐らく自己最高となる重量をクリア。やはりソコソコ高いレヴェルのペースになると、引っ張られる形になるのだろうか。
 8位落選の白勢は、予選から懸念されていた胃容量の限界が露呈された格好。力不足ゆえ、致し方無しか。
 9位落選の羽生も胃容量の限界。中途半端な早食い力だけで決勝大会進出を果たしたが、やはりここでは通用しなかった。
 決勝進出(ベスト3)有力候補の1人、嘉数が早くも姿を消した。あと3分余り、何が耐えられなかったのかは不明だが、体に別状は無いようで何よりだった。秋のオールスター戦では通用しないだろうが、甘味大食い女王選手権など、準メジャー大会での再登場を熱望したい。

 

 ☆第2ラウンド 丸子宿・とろろ汁45分かきこみ勝負

 ※ルール:1杯250gのとろろ汁かけ麦飯を、45分間でどれだけ食べられるかを競う。出場7名中、記録上位5名が第3ラウンド進出。

 食べ易い食材であるとろろ汁。各自出足は早い。山本、久保、須藤ら30秒で1杯完食する者も。
 序盤戦は久保と山本が好発進でペースを作る。舩橋もすぐに追い着いて来て、トップグループ入り。
 5分経過。トップグループの山本、舩橋、久保が8杯完食で並ぶ。1ラウンドでペースメーカーを務めた河津は出遅れ気味の序盤戦に。
 10分経過。このラウンドでも大阪大会代表2名が上位独占の様相。トップはやはり山本で14杯、2位に舩橋13杯。
 25分経過。1位山本(17杯)、2位舩橋(13杯)、3位久保(13杯)、4位河津(12杯)、5位須藤(10杯)、6位近藤(7杯)、7位皆川(1杯で停滞)。
 皆川、ここで競技続行不可能を伝え、途中棄権。これで残る落選枠は1つ。またしても波乱含みのサバイバルレースに。
 30分経過。山本は余裕を残した状態で23杯を完食。なんと2位の舩橋(15杯)から8杯差だ。しかも口直しの味噌汁まで6杯完食という大物ぶり。
 一方で、2位争いと残留争いが接戦になってゆく。久保が15杯、近藤が10杯をそれぞれ完食。
 35分経過。残留争いが激しい。河津13杯、須藤12杯、そして近藤が11杯完食へ。「追い込まれる須藤、追い上げる近藤」という図式は、地区こそ違うが地区代表決定戦の状況そのままだ。
 すでに満腹感との戦いになっている須藤だが、持ち前の粘り強さを発揮して13杯完食と、再び近藤を突き放す。そして河津は、またしてもここから鮮やかなスパートを決めて14杯完食とし、安全圏をキープし続ける。
 40分経過。残留争いは須藤と近藤の一騎討ちに絞られた。須藤1杯リードのまま、激しく静かなバトルが続く。
 一方で、トップ独走は山本。安全圏を確保した選手がクルージング(身の安全を第一に考えた意識的なスローダウン)に転換する中、彼1人だけが手を緩めない。なんと完食数29杯。重量換算で7.25kgと、「大食い選手権」の45分競技レコードを達成。(従来の記録は射手矢侑大の6.7kg《2回》)カレー並に食べ易い食材とはいえ、これはお見事。
 残留争いは最後まで熾烈を極めたが、大食い競技はやはり先行有利。ギリギリのところで須藤が近藤を抑えきった

1位通過 山本卓弥 29杯(7.25kg)
2位通過 舩橋稔子 17杯(4.25kg)
3位通過 久保仁美 16杯(4.0kg)
4位通過 河津勝 15杯(3.75kg)
5位通過 須藤明広 14杯(3.5kg)
6位落選 近藤菜々 13杯(3.25kg)
途中棄権 皆川貴子 棄権のため記録なし

 山本が、実力の次元が違うところを見せつけて2連続のラウンドトップ通過。結果的にこれが今大会のベストパフォーマンスになった。競技終了後、山本自身は「ちょっと食べ過ぎたかな?」とコメントしていたが、本当に辛そうな印象は無かった。だが、悲劇は10数時間後に訪れる。
 2〜4位・舩橋、久保、河津の3名は、下位の2名とは記録以上の実力差を見せつけて、余裕残しの通過。中でも特筆すべきは連続2位通過の舩橋。マイペースで食べている内に、自然と2位をキープしているように、このメンバーの中ではスピード上位である事を証明している。しかし、山本との地力の差は如何ともし難い印象だ。
 5位で辛うじて通過枠を確保したのは須藤。やはり大食い体質(優秀な消化能力を持った痩せ型)ではない人間が、メジャー大会で戦うというのはいかにも厳しい。これは逆にいうと、須藤と同じような体型・体質の藤田操がどれだけ偉大かを示す材料でもあるのだが。
 惜しくも脱落の近藤は、名古屋大会から懸念されて来た、大食い競技におけるスピード不足が敗因か。しかし、終盤で箸が止まっている選手に追い着けないというのは、やはりそれなりに近藤自身も満腹状態に至っているのであって、やはりこれは地力の差なのだろう。
 早々に途中棄権の皆川は、消化能力に問題ありか。大食いとは、ただ物を食べるだけではなく、消化能力にも長じていないと大成は難しい。だが、ここは“リセット”(試合直後に嘔吐して胃を空にする隠語)をせずに正々堂々と戦い、散っていった彼女の潔さも評価すべきであろう。開始当初は“リセット”が当たり前だったと言われる「大食い選手権」だが、少なくとも今回の選手たちは大変潔かった。これこそ真のフードファイト精神というものだろう。

 以上が大会初日。今大会は第1、2ラウンドが初日(2/16)、第3、4ラウンドが2日目(2/17)、決勝が3日目(2/18)に行われている。収録日をここまで詳細に公開するのは珍しいが、これは、視聴者にクリーンな番組制作が求められている事を自覚しているTV東京の自覚の現われと見たい。

 ☆第3ラウンド 知立宿・大あん巻き30分15本完食勝負

 ※ルール:あん巻き1皿3本(黒餡、白餡、抹茶餡各1本=計400g)を5皿(=合計2kg)、30分以内に完食しなければならない。第4ラウンド進出の人数制限は無く、完食者全員が第4ラウンドに進出できる。

 スタート前、「大食い選手権」の番組現場責任者から、山本卓弥のドクターストップが宣言される。
 「医師の診断の結果、昨日の第2ラウンド分の内容物が消化されていないので、念のためドクターストップと判断した」と理由のアナウンスがあったが、これは極めて疑問の残る判定であった。この件に関しては、ラウンド総括で詳しく述べる。

 甘味は好き嫌いが大きく分かれる食材でもある。今回のメンバーで言うと、餡を得意とするのは久保で、苦手なのは須藤と舩橋。特に舩橋は最も嫌いな食材という事で、苦戦が予想されるスタート。
 序盤から飛び出していったのは河津で、1皿完食55秒というハイペース。どうやら、血糖値の上がりやすい甘味という事を意識して、満腹感が来るまでに完食してしまおうという“クレバーな力技”に出たようだ。
 1皿完食タイムは、河津55秒、須藤2分34秒、久保2分56秒、舩橋3分19秒。須藤はいつも序盤戦だけは早い。いかにもオールドタイプの大食いらしい戦い振りだ。
 河津のペースがなかなか落ちない。2皿目完食タイムは3分31秒。重量を考えると早いとまでは言えないが、さすが「フードバトルクラブ」出身選手らしいところを見せる。
 10分経過。1位河津(14本)、2位グループ・須藤、久保、舩橋(7本)。もう河津はあと1本で完食だ。
 12分ちょうどで、河津が余裕の完食一番乗り。他の選手に大差をつけた。
 以下はやや遅れた。ただ久保は笑顔を絶やさず、終始余裕残しのまま。4皿・17分29秒→5皿完食・23分11秒でクリア。須藤もまだ余裕を持ったまま23分54秒でクリア。

 1人残された舩橋は大苦戦。後半になって極端にペースが落ちた。4皿完食時点で24分34秒。かなり際どいことになって来た。苦手の餡が食欲を蝕む。
 残り3分で残るは2本。1分30秒で1本を食べきったが、雰囲気はいよいよ危なくなってくる。同郷・山本のアドバイスや、周囲の声援を武器にして流し込みを図るが、口に運ぶ回数は、反対側の手に持ったお茶の方が多い。カウントダウンが始まる。緊迫した状況。しかし、もうダメかと思われた瞬間、口の大きさギリギリの一かけらを口に押し込んで、無事完食。タイムは29分59秒。薄氷を踏む思いで舩橋、第4ラウンド進出。観衆、スタッフ、そしてライバルの選手一同までが拍手で彼女の健闘をねぎらう感動的な場面が訪れた。

1位通過 河津勝 12分00秒完食
2位通過 久保仁美 23分11秒完食
3位通過 須藤明広 23分54秒完食
4位通過 舩橋稔子 29分59秒完食
失格 山本卓弥 ドクターストップ

 河津が作戦通りの速攻を決めてトップ抜け。彼がどこまで余力を残してクリアしたのかは分からないが、ソコソコの早食い能力があることは示された。これなら「フードバトルクラブ」でもソコソコまでは進出できるだろう。
 久保は恐らく、後半からは完全なクルージング状態だったのだろう。「美味しい物をたくさん味わって食べる」という思想信条は、胃容量こそ全く違うが、現王者・白田信幸と同じものだ。
 須藤は恐らくイッパイイッパイの数字だろう。しかし、札幌地区大会でコロッケ2.0kgを完食できなかった体たらくを考えると、幾分かの進歩は窺える。
 舩橋がここまで苦戦するとは意外であった。というのも、大阪地区大会の地区代表決定戦で、ぜんざい4kg余りを苦にせず完食していたからだ。この辺りの味覚は微妙なものなので、「ぜんざいなら何とか耐えられる」という感じなのかもしれないが。しかしそれにしても、ここで舩橋が敗退していたら、この大会全体が非常に締まらない悲惨なものになるところであった。彼女の底力と、敵味方を忘れて彼女を応援した選手達のフェアプレー精神を称えたい。

 さて、問題の山本卓弥ドクターストップ問題である。
 「大食い選手権」では、昨年から選手の体調管理に対する意識を高めており、これまで2日制で行われていた大会日程を3日制に改めるなどの策を講じている。今回のドクターストップ事件も、予選段階からの度重なる選手の途中棄権を踏まえての事と推測できなくはない。しかし、結果的にこの判定は極めて疑問の残る判定であった。
 このドクターストップに関しては、事もあろうか、番組サイドは主原因を「山本の自己管理能力不足」に置こうとしているようだが、これは筋違いな事甚だしい。失敗の責任転嫁を図るのはTV東京に限らず、TV局全てに蔓延する悪癖だが、TV東京と「大食い選手権」は似たような問題で“前科”(小林尊絶縁事件)があるだけに、この“再犯”についての批判は免れまい。

 まず、今回のドクターストップまでの経緯についての、番組現場責任者からの声明をまとめると、以下の通りになる。

 「前日の第2ラウンドで、山本は7.25kgもの記録を残した。しかし、この大記録が体に負担をかけていないかどうか念のため、一夜明けた第3ラウンド前に病院の診察を受けた。その結果、食べ過ぎにより、まだ未消化の内容物が残っていた事が判明した。
 山本自身は体に変調を覚えているわけでもなく、第3ラウンド以降への戦意も充分あるが、診察の結果を受けて、体調を考慮し念のためドクターストップとする事にした」

 では、この判定に関する疑問点を列挙していこう。
 まず一点目。「果たして7.25kgという記録は、選手が希望してもいないのに、敢えてドクターの診察を受けるほどのものであったのかどうか?」というものだ。
 確かに、この7.25kgという記録は、「大食い選手権」では桁外れの記録ではある。また、山本は規定の食材以外にも味噌汁6杯やその他ドリンクを口にしているので、実際に胃に入れた重量は8kgを超えているだろう。
 しかし、「フードバトルクラブ」の「ウェイトクラッシュ」では体重増加10kg以上を果たした選手が複数いるし、その彼らがその後に体調の異常で棄権したという前例は無い。
 また、昨年度の「大食い選手権」の新人戦では、射手矢侑大が、今回のとろろ汁かけ麦飯より明らかに消化の悪そうなカツ丼6.7kgを完食しているが、彼にはドクターの診察があったという情報は無いし、さらに翌日の決勝で、当時のレコードとなるラーメン20杯を完食し、見事優勝を果たしている。さらに射手矢は、秋の大会でも準決勝で真珠炊き込み御飯6.7kg完食の翌日、決勝でラーメン27杯強を完食している。
 これらの前例を踏まえると、果たして体調不良との自覚が無かった山本に、敢えて医者の診察を受けさせる必要があったのかどうか、極めて疑問であるといえよう。
 二点目。「『消化器内に未消化の内容物が残っている』という事は、果たしてドクターストップの理由となり得るのか?」という点も、甚だ疑問である。
 選手が胃の内容物を消化しきれずに敗退する例は、これまでの「大食い選手権」でも数多く見られた。今回も第2ラウンドの皆川がそれで途中棄権を申し出ている。
 しかし、胃の内容物が消化されていないからといって、競技開始前に失格を宣告された例はこれまで無かった。事実、この先の第4ラウンドで須藤が「餡巻きが消化されていないんですよ」と訴えるシーンがあったが、それで失格判定は無かった。一晩明けた後と5時間後という条件の違いこそあれ、症状は全く同じである。いや、むしろ自覚症状と不安を訴えた須藤の方が重症である。これは著しい不公平とは言えまいか。
 そもそも、ドクターストップとなる明確な基準が存在しない方が問題だ。もちろん、完全マニュアル化など出来るようなものではないが、せめてガイドラインくらいは作っておくべきではなかったか?
 三点目。「この『ドクターストップ』は、本当に『ドクターストップ』と言えるのか?」と言う事も疑問である。
 番組サイドから発表された声明では、「ドクターストップ」とは言いながら、山本を診察した医者は「食べ過ぎのため、未消化の内容物が残っている」と診断しただけで、その医者がドクターストップを進言したとは一言も触れられてはいない。むしろ、現場責任者が独断で決定した節さえ窺える。これでは「ドクターストップ」ではなく、「レフェリーストップ」である。しかも、「大食い選手権」では公式審判員を置いていないので、本来は「レフェリーストップ」はあり得ない。
 もちろん、大会全体の責任の所在は、番組制作サイドの現場責任者にあるので、この判断が不正であるとまでは言えない。だが、このグレーゾーンの判定を「ドクターストップ」などと“詐称”して、もっともらしく見せるのはどうか。いくら善意による行為とはいえ、勇み足にも限度があるというものだろう。
 四点目。「『念のため』という言葉はどこまで許されるのか?」
 先に挙げた現場責任者の声明概要の中に、赤字で強調した通り、2箇所「念のため」というフレーズが登場する。「『念のため』医者に見せ、『念のため』ドクターストップとした」という使われ方をしている。
 しかし、この「念のため」という日本語は厄介なもので、下手をすると全ての行動に足枷をはめることが出来る言葉でもある。極端な話をすれば、ちょっと頭痛がするだけで、「念のため」失格にすることが出来てしまうのだ。失格にすることは簡単ではあるが、それによって予想される不利益を天秤にかけて使うべき言葉なのである、この「念のため」という言葉は。
 最後に五点目。「食べ過ぎを責めて翌日失格にするくらいなら、どうして当日の内に止めなかったのか。もしくはルール設定を『無制限』で放置しておいたのか」
 「大食い選手権」の競技形式は、大まかに分けて2つしかない。“完食勝負”と“無制限勝負”である。今回の予選からは“サバイバル勝負”も始まったが、これも一応は“無制限勝負”の範疇に入る。
 そして、問題の第2ラウンドも“無制限勝負”であった。“無制限”と謳っている以上、今回の山本のように、勝ちぬけがほぼ確定していても、記録を伸ばすため時間内一杯まで競技を続行する選手もいて当たり前である。以前にも新井和響ら、そういう選手も多くいた。
 そういうルールを決めておいて、食べ過ぎたら医者に見せてドクターストップ裁定、しかも「自己管理も大切だから」と選手に責任転嫁。なんたる無責任か!
 今回の“事件”の最大の原因は、このルール整備問題にある。選手の健康管理に気を配るなら、自己管理を促す以前に、記録の上限を6.0kg程度に決めておいたり、30分経過以降に最下位選手とある程度の差がついた時点でトップ選手を勝ちぬけさせる“コールド勝ち”制度を創設するなり、色々な方法があっただろう。

 今回の「大食い選手権」は、全体として素晴らしい大会であり、素晴らしい番組でもあった。しかし、この「山本卓弥ドクターストップ事件」だけが、唯一、しかもどうやっても償いようの無い大きな汚点になってしまった。今後、二度とこのような事のないように、番組サイドに猛省を促すと共に、山本卓弥選手のこれからの競技生活に幸多からん事を祈りたい。

◎追記(3/24)◎

 この「山本卓弥ドクターストップ事件」について、岸義行公式ウェブサイト「大食いワンダーランド」内のBBSで、同BBS管理人のアリスさん(=現役フードファイターの別府美樹さん)の書き込みがあった。
 アリスさんはそこで、「大食い選手権」のTV局側ディレクターに直接聞いた談話の要旨を公開してくれた。詳しくは実際にそのBBS・「ティールーム」を見て頂ければ良いのだが、その書き込みが流れた後にこの追記をご覧になる受講生のことも考えて、この非公式談話のポイントだけを抜粋して掲載する。
 談話のポイントは以下の通りである。

 ・第2ラウンド終了後、山本卓弥選手本人から「膨満感がある」という自覚症状が運営サイドに伝えられた。彼にとって、食後に膨満感を覚えたのは初めてのことだったようだ。
 ・その訴えを受けて、第3ラウンドの時間を繰り下げて、山本選手を病院に連れて行き、診察させた。
 ・レントゲン撮影の結果、胃に食べ物が詰まっている状態であったため、医師、番組スタッフ、本人の合議の上でドクターストップが決定した。
 ・診察後、消化(促進)剤を服用したところ、数時間後に体調は改善し、第3ラウンドの収録時には餡巻きをもぺろりと平らげていた。

  ……以上がポイントである。
 この談話が100%真実だとすると、先に駒木が挙げた疑問点の1から3までは解消されることとなる。本人が同意の上、という事を考えると「念のため」続行断念という第4の疑問点も、ここでは追及を避けた方が良かろう。
 ただ、このような事態を避けるためのルール整備が今後の課題である事は間違いなく、また、誤解を招くような編集・放送をしてしまった番組制作サイドの責任は免れる事は出来ないだろう。
 とりあえずは、山本選手個人の気持ちが踏みにじられたわけではなかった事を素直に安心したいと思う。

 


 ……以上が第1回分のレポートでした。次回をお楽しみに。では、今日の講義を終わります。 (次回に続く)  

 


 

3月20日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評(3月第3週分)

 さて、今週の演習です。ようやくジャンプの新連載ラッシュも終わりまして、忙しさも一段落というところでしょうか。

 ところで、2月第2週分の演習で採り上げた『ブラックジャックによろしく』(評価:)ですが、ジワジワと、それでも確実にブレイクしつつあるようです。この講義で絶賛した作品が幅広く評価されているのを見ると、我が事のように嬉しいですね。作者の佐藤秀峰さん、これからも頑張ってください

 では今日はまず、「週刊少年サンデー」の新人賞、「少年サンデーまんがカレッジ」の審査結果発表から。

少年サンデーまんがカレッジ
(01年12月・02年1月期)

 入選=該当作なし
 佳作=2編

  ・『G・S・W(ガンショットウーンド)』
   小栗聖示(23歳・京都)
  ・『花咲かパワー!!』
   葵琳果(20歳・埼玉)
 努力賞=4編
  ・『扉の向こう』
   西森生(22歳・愛知)
  ・『ONE』
   関俊昭(21歳・新潟)
  ・『GROWN UP』
   王子野尚(19歳・福岡)
  ・『LOVE★バトルらいたあ!!』
   柳沢直普(22歳・長野)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『アブラカタブラ』
   斎貴神楽(14歳・愛知)

 注目、というか目が行くのは14歳の受賞者さんでしょうかね。実力とかそういう事は別にして、完成原稿を仕上げて、それをプロの新人賞に応募してしまうところが凄いですよね。
 正直言って、14歳に少年マンガ業界のデビューに至るまでのドロドロさ加減が耐えられると思えないんですが、それでもまぁ、才能の芽が潰されないように祈っております。

 ……それでは、レビューの方へ。7段階評価の表はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年16号☆

 ◎読み切り『ヒカルの碁・番外キャラ読切シリーズ・奈瀬明日美』作:ほったゆみ、画:小畑健

 さて、番外読み切りシリーズ、(個人的な)真打ち登場であります。
 まぁ、個人的な感想は18日の「現代社会学」講義で出し切った感がありますので、ここではストーリーテリングの専門的な話を。

 ハッキリ言って、この番外シリーズの中で一番話を作り辛いキャラだと思うんですよね、この奈瀬明日美というキャラは。
 何せ、初登場の時には名前すら無かったエキストラですからね、奈瀬さん。ファン投票の高得票という、いかにも少年マンガ誌らしい理由でレギュラーに昇格したわけです。ああ、そう言えば『かってに改蔵』の“山田さん”も同じパターンですね。
 な、もんで、奈瀬さんには普通あるはずのキャラクターに与えられた“記号”が無いんですよね。話の中で与えられた役割がゼロなんです、本来。
 そんなポジションのキャラクターを使って、しかも主役で番外編を一本作るというのですから、これは大変な作業なんですよ。番外編やセルフパロディっていうのは、そのキャラの突出した部分をデフォルメして話を転がしていくのが基本ですからね。

 ところが。
 恐ろしい事に、これがこのシリーズ中一番の傑作に仕上がってるから恐ろしいです。
 本編の中で僅かに出来上がった奈瀬さんの性格(活発で勝ち気)と、彼女の生活背景(囲碁中心で他の高校生と接点が少ない)という少ない材料だけで、キッチリとヤマ場のあるストーリーを完成させているこの凄さ。その上、奈瀬さんだけじゃなくて、もう1人の目立たない脇役・飯島君をナニゲにクローズアップしてる辺りも含めて、もう、ただただ脱帽です。

 何て言うか、ほったさんみたいな才能を持った人がマンガ界にいてくれて良かったなあって、そうしみじみと思えるような作品でした。
 評価ですが、文句ナシの。実は、経済的な事情で単行本買えてないんですが、この奈瀬編だけのために、単行本買おうと思います(笑)。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年16号☆

 ◎読み切り『入来兄弟物語〜俺たちは燃え尽きない!〜』作画:荻晴彦

 作者の荻晴彦さんは、おそらく商業誌掲載歴ほとんど無しの新人作家さん。名前でネット検索すると、静岡大学漫画研究会製作の同人誌に同姓同名の作者名が載っていましたので、ひょっとしたら同一人物かもしれません。

 それにしても、このスポーツ・ノンフィクション物読み切りは、いい加減止めにしませんか? どうやったって名作になり得ない上、単行本化も難しいジャンルをダラダラと続けるのは得策じゃないと思いますが。
 マンガっていう媒体は、大抵のジャンルにおいて小説よりも名作を生む可能性の高いモノだと思ってます。(もっとも、現時点ではマンガ家さんの中に優れたストーリーテラーが少ないために、一部の優れた作家さんの作品を除いて圧倒的に小説優勢ですが)
 しかし、どうやってもマンガには向かないジャンルというものもありまして、1つは映像を使わないから効果のある叙述トリック物で、もう1つがこのスポーツノンフィクション短編なんですよね。
 スポーツノンフィクションというのは、取材対象(つまりスポーツ選手)の過去の出来事そのものよりも、自分自身のエピソードを語る時に滲み出てくる、取材対象の現在の心情や人生観の方が面白いわけです。
 ところがマンガでノンフィクションをやると、ただの再現フィルムになっちゃうんですね。それに、肝心の作家のアイデンティティが全然出てこないんです、マンガでは。

 前々から駒木は「マンガのスポーツノンフィクション物に名作無し」と言ってるのですが、それはそういう理由からなんです。向いてないんですね、マンガに。

 今回の話、まぁ事実を多少脚色したにせよ、定番のハートウォーミング・ストーリーに仕上がってます。入来兄弟が標準語喋ってるのが気持ち悪いですが(笑)。
 ですが、そもそも話自体がマンガに向いてないんで、高い評価はあげようがないんですね。評価。次回以降、このジャンルの話はレビューから除外するかもしれません。

 ◎読み切り『呪いのウサギ』作画:杉本ペロ

 「サンデー特選GAG7連弾」の最終回は、『ダイナマ伊藤!』を連載中の杉本ペロさんの作品です。

 さてこの作品、シリーズの最後に連載作家を持ってきて、格の差を見せつけてくれるか…と思ったんですが、うーむ……。
 結局、キャラクター変わっただけでギャグのパターンは『ダイナマ伊藤!』と変わらない上に、そのギャグの切れ味は『ダイナマ伊藤!』よりも鈍り気味。一体、何のためにこの作品を描いたのか、全く訴えかけるものが見られませんでした。残念です。

 この作品の評価はB−。スケジュール調整までして、あえて描かない方が、まだ良かったかもしれませんねえ……。

 結局、このシリーズでは、B+評価1本の他は、が1本、B−4本、が1本。
 ……な、なんだか寂しいですねぇ……。図らずも、現在の少年サンデー系新人ギャグ作家の層の薄さを露呈しただけに終わったような気がします、この企画
 やっぱり、ジャンプの赤塚賞みたいに、ギャグ専門の新人賞をやっていないところから来てるんですかね、この層の薄さは。

 

《その他、今週の注目作》

 ◎読み切り(週刊コミックバンチ16号掲載・世界漫画愛読者大賞・最終審査エントリー作品『黒鳥姫』作画:葉山陽太

 シリーズ第8回は、第6回の大西しゅうさんに続く、純粋な新人さん・葉山陽太さんの作品です。

 まず、新人さんではどうしても問題が露呈されてしまうですが、やはりまだ熟練度が足りない印象がありますね。単調なコマ割りながら、そんなに単調さを感じさせない構図の取り方などに、ある程度のセンスが感じられますが、画力は未熟。いわゆる“動きのある絵”が描けずに、平坦な印象を与えてしまいます
 しかしまぁ、これからの人なわけですから、今後の努力に期待したいものです。

 さてストーリーの方ですが、大まかなシナリオは、「不治の病に侵された若い女性画家が、遺作を残すために病院と故郷を去る。そこで画材屋に勤める男性と出会って……」という、何と言うか「週刊モーニング」の新人賞受賞作で出て来そうなお話でした。変則的なコマ割りや、微妙に稚拙な絵というのも、いかにも「モーニング」的な印象を受けました。
 話の運び方などは、なかなか新人としては高水準の、これまた「モーニング」的なものだったのですが、惜しい事に大きなヤマ場の前にページ数が尽きてしまい、極めて中途半端な印象を与える事になってしまいましたせっかくのいい雰囲気がこれで完璧に台無しです。

 以前の講義でも述べましたが、この賞は連載を前提にしたコンペテイションということになっています。ですので、連載開始後を意識させる、「次回へ続く」な終わり方でも、それはそれで構いません。
 しかし、それ以前にこの作品は、大賞賞金5000万と連載1年以上の権利を賭けた、言わば人生を賭けたトライアウトなわけです。他の9作品を叩きのめすようなインパクトを読者に与えないといけないわけです。それこそ、全身全霊を賭けて、「この作品が生涯の最高傑作だ」という完成品を作る覚悟でなくてはなりません。そうであれば、キチンと読みきりの時点でメリハリをつけて、読者に感銘を与えるストーリーを提示しなければならないはずです。
 どうも葉山さんは、その辺の意識が極めて希薄と言わざるを得ません。でなければ、どうしてこんな勝負の時に未完成なストーリーを提出できますか? まぁ、純粋な新人さんという事で、その辺の覚悟も無いまま応募したのかもしれませんが、それはそれで他の作家さんに失礼な話ですよね。これはプロの新人賞なんですから。
 これでもし、「命を賭けた全力投球の作品です」というのであれば、それはそれで読者の心を意識する能力が致命的に欠如していると言わざるを得ません。

 葉山さんの潜在能力はB+級くらいあると思うんですが、この作品に関しての評価はB−寄りのBということにしておきます。

 何だか、このシリーズの作品読んでるうちに腹が立って来るんですよね。賞金5000万と連載1年以上保証っていう事の重みを、全然応募者が自覚していないような気がしてなりません。小説で言えば直木賞と日本ミステリー大賞を合わせたようなグレードなんですよ、この賞は。
 シリーズあと残り2回、せめて1作品くらいは誰にでも薦められるような作品が出てくることを祈っております。

 ◎読み切り『セラミック・レッグ』(月刊オースーパージャンプ4月号掲載/作画:緒方てい

 この講義でもたびたび採り上げてきました、『キメラ』緒方ていさんの読み切り作品です。
 ……というかこの作品、実は緒方さんがアマチュア時代、同人誌に寄稿していた作品のようなんです。(改稿、もしくはリメイクの可能性もありますが、緒方さんのスケジュール的に前面改稿は不可能と思います)
 マイナー誌や美少女系マンガ誌ではよくある話ですが、一応メジャー級のマンガ雑誌では珍しいケースですね。

 さてこの作品ですが、簡潔に言うと“典型的な同人誌マンガの佳作”といったところでしょうか。主役に1つ“目玉”の設定を作り、後は心地よい予定調和の世界で読者をホロ酔い加減にしてくれます。短編マンガのセオリーをキチンと踏襲している、極めて質の高い習作だと思います。多分、これを同人誌作品として駒木が読んでいたら、「下手なマンガ家より上手いね」という感想を述べていると思いますね。

 ただ、やっぱりこれはあくまでも習作プロの作品としては物足りないんですよね。評価はB寄りのB+というところでしょうか。しかし、「緒方さんならこれより落ちる作品は無いだろうな」と思わせてくれる、極めて意味深い作品であるとも思います。

 ……というところで、今日のレビューは終了です。来週は『ヒカ碁』の読切シリーズ、「サンデー」の読切シリーズ、「バンチ」の愛読者大賞シリーズと、読み切りばかり3作品になりますね。多少、こちらの負担も軽減されてきましたので、さらにきめ細かいレビューが出来れば、と思います。それでは、また来週。(来週に続く)

 


 

3月19日(火) 集中講義・現代社会学特論
「椎名林檎、高らかに現役復帰!(1)」

 さて、今日から集中講義として「現代社会学特論」を開講します。
 5回前後、もしくはそれ以上の回数にわたっての講義になるかもしれませんので、あらかじめこの集中講義の実施方針をお伝えしておきます。

 まず、明日水曜日から土曜日までは、演習、文化人類学(大食いレポ)、競馬学特論の講義予定があらかじめ入っておりますので、そちらを優先させます。
 また、日曜日以降も、単発の講義を実施できる時は極力そちらを実施します。これは講座全体のマンネリ防止策と思って頂ければ結構です。
 ですので、この現代社会学特論は、“頻度の高い不定期実施”と考えて頂ければ結構です。感じとしては、3月一杯で終わらせられれば良いな、というところでしょうか。受講生の方は、どうぞ気長にお付き合いください。

 それでは講義の方へ移ります。


 今日の講義の後、次回まで中4日開くということですので、今日はプロローグ的なお話からさせて頂きましょう。

 当講座のリニューアル前のニュースコーナーで採り上げた事を覚えている方もいるでしょう、今月4日、スポーツ各紙の芸能欄で一斉に「椎名林檎、復帰!」のニュースが報じられました。

 人気シンガー・ソングライター椎名林檎(23)が3日、公式ホームページ(HP)で歌手活動を再開することを発表した。林檎は00年の11月、ギタリストの弥吉(やよし)淳二(33)と結婚。昨年3月、シングル「真夜中は純潔」を発売してからはアーティスト活動も休止し、7月には男児を出産していた。同HPでは「お待たせしました。椎名林檎が、音楽制作を再開致しました」と記されている。(日刊スポーツより)

 以前から、病気でひっくり返って入院→活動短期間休止、などといった“休み癖”のあった椎名林檎さん(敬称は「さん」で統一します)でしたが、今回は産休&育休とはいえ1年という長期間の休み。いや、“最新”シングル『真夜中は純潔』発売の際も、当時妊娠中の林檎さん自身は姿を一切現しませんでしたので、公の場から姿を消して1年半ということになります。
 これは、駒木も含めて、椎名林檎ファンにとって、それは長い長い空白でした。

 マキシシングル『真夜中は純潔』は、東京スカパラダイスオーケストラや、世界的アコーディオン奏者coba(小林靖宏)といったゲストをバックに従え、表題曲を含む3曲が収録された豪華な作品。椎名林檎ファンや業界関係者の中でも評判が極めて評判が高く、「椎名林檎ここにあり」を印象付けたものでした。
 しかし、今の音楽シーンにおいて、楽曲が良いからといってそれが直接セールスに結びつくケースは稀であります。CD発売日前後の音楽番組に出演するなどして、効果的なプロモーション活動を展開しなければ、爆発的ヒットは望み薄なのです。
 その点において、妊娠中の体調を考慮してTV・ラジオ等への出演を自粛していた林檎さんと『真夜中は純潔』は大きな不利を被っていたと言えます。
 さらに発売時期が悪すぎました。なんと同日には宇多田ヒカルと浜崎あゆみのアルバムが発売されていたのです。
 林檎さんとモロにリスナー層が重複する2人のディーバ(歌姫)が同時にアルバム発売とあっては、本来『真夜中は純潔』に期待できるはずのセールスも削られてしまうのは明白です。結局、この『真夜中は純潔』は、宇多田・浜崎とファン層の違う、モーニング娘。後藤真希のソロデビューシングル『愛のバカやろう』の前に敗退。悲願のオリコンシングルチャート1位獲得はなりませんでした。

 ……というかですね、宇多田ヒカルと林檎さんは同じ東芝EM Iなのに、どうしてわざわざ所属アーティスト同士を潰しあうような真似をしますかね、まったく。
 これじゃまるで、民主党が自民党に勝てそうな選挙区に限って、共倒れ必至の対立候補を擁立して来て顰蹙を買う社民党みたいな話
じゃないですか。まぁ、この場合、宇多田ヒカルは週間アルバムチャート1位を獲得していますから、この喩えが正確であるとは言えませんが、しかしそれにしても酷い。『愛のバカやろう』以前に、東芝EM Iがバカやろうだ! ついでにファンクラブ運営会社もバカやろうだ!と叫んだ椎名林檎ファンは数多かったと思います。
 言いたい事はもっとたくさんありますが、東芝EM Iの度重なる愚行に関しては、またこの現代社会学特論の中で色々と追及するつもりでいますので、とりあえず今はこれで流しておきましょうか。

 …とにかく、このような不本意な形のまま、音楽&芸能活動を中止していた林檎さんが遂に復帰するわけですから、ファンにとってこれほど喜ばしい事はありません。
 しかも、先述のニュースの中では、

 林檎はすでに新曲の制作に取りかかっているが、作品の詳しい内容や発売時期については「3月中旬にHPでお伝えします」と説明した。(同上)

 ……とあり、嫌が応にも期待は高まります。

 そして、昨日3月18日、ついにこの「新曲」についての公式情報が公開されました。

 昨年7月に長男を出産し、活動を休止していたシンガー・ソングライターの椎名林檎(23)が、復帰第1作として5月27日に2枚組カバーアルバムを発売する。18日、公式ホームページ上で発表した。

 タイトルは「唄い手冥利〜其の壱〜」で、古今東西の有名曲18曲を2枚組で収録予定。現段階では、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」、ザ・ビートルズ「YER BLUES」、シャンソンのスタンダード曲「枯葉」、マリリン・モンロー「I WANNA BE LOVED BY YOU」、ジャニス・イアン「LOVE IS BLIND」の5曲の収録が決定している。編曲も自ら務め、すでにレコーディングも始めているという。 
(報知新聞より)

 ……あ、あの、ちょっといいですか?

 ……………

新曲と違うやん(´Д`;)

  ………い、いや、贅沢を言ってはいけません。いけませんとも。そう! 贅沢は敵だ! 欲しがりません勝つまでは! 月月火水木金金であります! 起きて半畳寝て一畳。チョコボール向井でお馴染みの駅弁○ァックは半畳あれば出来るのであります! 鳥肌実、41歳厄年!

 …………はぁはぁ、ぜぇぜぇ。
 すいません、取り乱しまして。
 それにしても東芝EM I、商売だけは上手いというか何というか。

 …熱心なファンの受講生の方ならご存知でしょうが、椎名林檎さんは、デビュー1年くらいの頃から「オリジナルアルバム3枚出したら、ソロアーティストとしては引退」を公言しております。
 これは、誰よりも椎名林檎さん本人が、自分のシンガーソングライターとしての全盛期の限界を自覚している故の“英断”なわけですが、この“英断”は、CDセールスで儲けたいレコード会社にとってはたまったもんじゃないわけです。しかも既にオリジナルアルバムは2枚出されていまして、もう後が無い。何せ、これまでのパターンを考えると、あとシングル1〜2枚出したら、次のアルバム作っちゃいそうですし。
 それを考えると、このカバーアルバム発売という作戦は、見事な延命措置と言えるのではないでしょうか。まぁ、ファンクラブが潰れてしまった今、林檎さん本人の意向がサッパリ伝わってこないので、滅多な事は言えないのですけれども。
 …しかし、

 なお今回のアルバムについては、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどでのプロモーションを一切行わない方針。すべての情報は同HPで発表していく予定で、ファンの前に姿を現すのはまだ先になりそうだ。

 …と、こんな事をされては、ますます意気は消沈するばかりです。GIZAstudio所属のアーティストじゃないんですから、せめてマスコミ露出を控えている理由だけでも説明して頂きたいものです。

 が、何はともあれ、椎名林檎さんの復帰は、ファンにとってもJ-pop界にとっても慶事である、これは間違いありません。今回の“仮復帰”は、ボクシングで王座転落した元チャンピオンがノンタイトルマッチで復帰するようなものだと解釈して、温かく見守ってゆきたいと思います。
 よく考えてみれば、デビュー当時やそれ以前の林檎さんの事を考えると、こうして大々的にマスコミで扱ってもらえるだけでも有り難い話といえます。
 そう、彼女のここまでの半生は、波乱と苦難に満ちたものだったのです──


 ……と、「知ってるつもり」か「いつ見ても波乱万丈」みたいな“引き”が出来たところで、次回に続きます。次回の現代社会学特論は日曜日、椎名林檎さんの幼少期からデビュー前までのエピソードを中心にお話してゆきます。それでは、また。明日は「現代マンガ時評」のゼミです。そちらもどうぞよろしく。(次回に続く

 


 

3月18日(月) 現代社会学
「駒木博士推薦・囲碁&将棋界女流プロ名鑑」

 どうも、こんばんは。『ヒカルの碁』番外キャラ読切シリーズ・奈瀬明日美編を読んで、ますます奈瀬さん萌えに突入してしまいました、駒木ハヤトです。もちろん、研究室のパソコンで「なせあすみ」を変換すると、一発で「奈瀬明日美」と出ます。ちなみに「いがわはるか」を変換すると「伊川はるか」になります。わはは、誰なんだよ、伊川はるか。共産党から出てる市会議員候補の名前みたいだぞ。
 あー、話戻します。奈瀬さんです、奈瀬さん。
 もうね、碁会所行くといって、わざわざ歌舞伎町の雑居ビルに堂々と入っていくところからしてツボ突きまくりですよ。しかも友人からデート相手として押し付けられた同い年(16歳)の男連れて。なんて勇ましい! しかも素で「碁会所は雀荘と同じで大人の遊び場だからね」なんて言って、日常会話用語に「雀荘」がインプット済みなのをサラリと暴露する素晴らしさ。これで16歳、しかも超美人ですよ! どーですか、お客さん!

 ……んで、その碁会所はビルの7Fにあるんですが、雑居ビルに入ってるテナントは、1Fから順に、テレクラ、ファッションへルス、スナック、ファッションマッサージ、お見合いパブ、エロビデオ屋。

 もう最強です、このビル

 平成なんだか昭和なんだか分からんようなテナントの構成がお見事です。っていうか、こんなに摘発される要素と放火される要素が満載なビル、歌舞伎町でもそうはお目にかかれません。
 しかも碁会所の名前は「道楽」。もう名前見た時点で、横山やすしみたいなオヤジたちが缶ウーロン茶100本賭けて碁を打ってる光景が目に浮かぶんですが、実態はもっと強烈。予算不足でスキャナーが無いのが本当に惜しまれます。簡潔に表現すると、客の平均前科数が、一般的な大学入試の合格倍率を超えそうな客層なんですよ。
 さらにツワモノなのが席亭(店主)で、奈瀬さんが
 「打つのは私だけで、彼は見学なんですけど」
 って言ったら、即答で、

 「見学ぅ? ジャマくせえ、お断りだね」

 新規の客に、しかも女の子に向かって「ジャマくせえ」。普通、言えませんよ。極真のパチモンみたいな、場末の空手道場じゃないんだから。
 そこへ、普段は碁じゃなくてシャブか何か打ってるような客たちが、さらに追い撃ちかけるように、
 「マスター、見学させてやれよ。カワイ子ちゃんまで帰っちゃうじゃねェか」
 「そうだよ、せっかく来たんだ。追い返すことねェぜ」
 「打つのが女の子だけならなおさらええよなァ」
 と物騒な言葉の3連打。もうコレ、集団レイプ寸前の様相ですよ。
 いや実際、マンガ家によっては、ここから本当に陵辱シーンが展開されそうな、そして夏コミで頒布されそうな勢い
です。
 それでも奈瀬さん、お構いなしのポーカーフェイスで、『麻雀放浪記』の出目徳のようなオヤジと碁を打ち始めるや、あっという間に負かしちゃうんです。そりゃ、天下の日本棋院・院生1組と町のゴロツキですから、実力の差は歴然なんですが、普通、ちょっとはビビるでしょ? でも、物怖じも遠慮も全くなし。それどころか、

 「よ──し、カッコイイとこ見せちゃうぞ」

 と、吉野家に家族連れでやって来て特盛り頼んじゃうパパみたいな、メチャクチャ頼もしいモノローグ大炸裂!
 もうこの、「碁会所でイカついオッサンをコテンパンに負かす」=「カッコイイ」という感性が本当に素敵です。きっとこの娘、駒木がフリー雀荘で鮮やかに国士無双なんてアガった日にゃあ、「すごーい!」なんて言って狂喜乱舞してくれそうで、もう、体の一部に色んな物が溜まってしまいそうで、たまりません。変な日本語ですが気にしないように。書く方も読む方も勢いです、こんなもん。

 ……で、そんな駒木好みに歪んだ感性が同年代の男に通じるわけもなく、自分のキャパシティの限界を悟ったデート相手はスゴスゴと退場。奈瀬さんは奈瀬さんで、
 「フツーの子とつきあうの難しいわ。私、とうぶん院生でいる」
 と、自分と世間一般とのズレを実感し、己の人生の機微を悟ったのが話全体のオチという、アウトロー路線全開なフィナーレが最後まで感涙モノでした。

 ……いやはや……こんな娘が現実にいたら、相性バツグンなんだけどなぁ……はぁ。

 は! 

 いけないいけない。現実からの逃避はいけません。いくら理想の少女が現れたとはいえ、それはあくまでも2次元の世界の話。駒木は3次元の住人なのですから、それなりのところで妥協しなければなりません

 と、いうわけで。ここまでが前フリでした。

 今日の講義は3次元の世界で活躍する、美人囲碁棋士と、それに関連して将棋の美人女流棋士を紹介しようというものです。
 現実問題、さすがに奈瀬さん級という方はなかなか見つかりませんが、それでも彼女に匹敵するような才色兼備のプロ棋士の方達はたくさんいます。

 まずは囲碁界から。囲碁界のNo.1アイドルと言えば、長年その地位は梅澤由香里さんが独占し続けて来ました。『ヒカルの碁』の監修も務めており、一説によれば奈瀬さんのモデルではないかとも噂される方です。
 しかし梅澤さんは、残念ながら今年、某Jリーガーと結婚されてしまい、全国の囲碁ファンを大いに落胆させました。梅澤さんの公式ウェブサイト・「Yukari House」では、結婚式の模様を写した写真もアップされており、男どもの悔し涙を誘います。
 しかしめでたい事に、囲碁界には早くもポスト梅澤と言うべき、新たなアイドル棋士がスタンバイしております。
 その名は万波佳奈さん。なんとまだ18歳にしてプロ歴2年。リンク先の写真は映りがイマイチで残念ですが、この4月からNHK教育の「囲碁の時間」でレギュラーを確保されましたので、是非、動く万波さんをご覧頂けたらと思います。
 なにしろ、万波さんの最大の魅力は声、声なのです! 彼女の“アニメ声”と言うべき可愛い声を是非、お聴き頂きたいと思います。4月からは、日曜日の正午にはNHK教育にチャンネルを合わせてくださいませ。
 この他にも、知名度や露出こそイマイチながら、井澤秋乃さんや、渋澤真知子さんなど、若くて今後の飛躍が楽しみなプロ棋士の方はたくさんいらっしゃいます。囲碁というだけで敬遠気味だった方も、こういう所から囲碁の魅力に触れ始めるのも一策だと思います。

 ところで、「棋士」と呼ばれるのは、囲碁だけではありません。将棋を指す人も「棋士」と呼ばれます。
 そして将棋には、そのものズバリ「女流棋士」という独立したカテゴリがあり、囲碁よりも多くの女性が第一線で活躍されておられます。しかも、こちらも美人揃いです。
 まず、現在知名度No.1なのが、NHK教育の「NHK杯将棋トーナメント」の司会を務めておられる中倉彰子さんです。こちらも、実物の方が綺麗に見える方ですので、番組でチェックして頂きましょう。また、彼女の妹さんの宏美さんもプロ棋士です。
 この他、美人として定評があるのが高橋和(やまと)さん。リンク先はまたしても喧嘩売ってるような酷い写真ですが、公式応援サイトをご覧になれば彼女の美貌を(もちろん棋士としての魅力も)堪能できる事と思います。ダイヤルアップの人にとっては破滅的に重たいサイトですが、そこはそれ、歯を食いしばって耐えましょう。
 さらに、最近人気赤マル急上昇(死語)な女流棋士が坂東香菜子さんですね。まだデビューから半年なんですが、コアなファンの数は増加の一途を辿っております。何しろ、まだ15歳(今月末に16歳に)という年齢とギャップのある大人びた美貌。さらに、バストのサイズが控えめなところもコアな男性層の大脳新皮質を刺激するようです。
 ちなみに、駒木が最もお気に入りなのが矢内理絵子さんです。弱冠17歳で女流王位を獲得するという、女流トップクラスの棋士で、現在22歳。タイトルを獲った10代の頃から素敵だったんですが、20歳を過ぎてから「可愛い」から「美しい」に脱皮された印象があり、ますますファンになってしまいました。TVの露出は少ないのが残念ですが、陰ながら応援させて頂いております。

 囲碁や将棋と聞いて「オヤジくさい」とだけ思ってるそこの男性諸君! あなたは大きな損をしております。今後は心を入れ替えるように。
 また、女性受講生の方、今日は美人棋士を採り上げましたが、当然、囲碁・将棋界には美少年・美青年棋士も多数いらっしゃいます。囲碁ならこちらを、将棋ならこちらをご覧になって、イイ男探しに勤しんで頂きたいと思います。
 それでは、今日の講義はこの辺りで。(この項終わり)

 


 

3月17日(日) 競馬学概論
「90年代名勝負プレイバック」〜“あの日、あの時、あのレース(10)
1996年高松宮杯/1着:フラワーパーク

駒木:「1日遅れての競馬学概論、今日は予告していた通り、1996年の高松宮杯──今は高松宮記念と呼ばれているけど──を題材にする事にしたよ。ちょうど来週が今年の高松宮記念だし、タイムリーな話題という事で」
珠美:「この1996年の春に、私は仁経大付属高校に入って、それから競馬を観るようになったんです。だからこのレース、この時は5月開催だったんで、ちゃんとTVか競馬場の大画面で観てるはずなんですけど、まだ本当に競馬について何も知らない頃だったんで、全然リアルタイムで観ていた実感が無いんですよね……」
駒木:「競馬をする人なら、皆が体験する道だからね(苦笑)。で、観てたはずなのに観てた感覚が無いから悔しいんだよね。」喩えるなら、まだ小さい頃にオフクロと一緒に入ってた女湯の様子が思い出せない、みたいな…
珠美:「……博士、その喩えは下品です…」
駒木:「そうだ、珠美ちゃんはオヤジさんと男湯に入ったこ……」
珠美:「ありません! それに講義中なのに、研究室でやるような雑談は止めてください!」
駒木:「…おい、ちょっと待て、それじゃ研究室でそんな話してばかりいるように思われるじゃないか!」
珠美:「……レースの紹介に移らせて頂きます」
駒木:「おいおいおいおい(狼狽)」
珠美:「(毅然と無視して)このレースが行われたのは、1996年の5月19日でした。
 高松宮杯は1970年に創設された、中京競馬場で最もグレードの大きなレースです。創設当初は、宝塚記念から約1ヵ月後に行われる芝2000mの中距離戦で、その時その時の超一流馬が出走する、夏競馬の名物レースでした。グレード制導入時はG2の格付けだったんですね」

駒木:「ローカル開催のG2にしては出走馬のレヴェルも高くてね。今の札幌記念みたいな存在だったと言ったら分かりやすいかな? 
 1974年にはハイセイコー、1977年にはトウショウボーイ、そして1988年には当時(旧)4歳で、クラシック登録が無くて裏街道驀進中だったオグリキャップが出走して、みんな勝ってる。特にハイセイコーの時は、もうとんでもない人出で、半ばパニック状態だったとか聞くよ。
 そして1994年と95年は、ナイスネイチャとかマチカネタンホイザとかいった“イマイチ”系名馬が、ここで悲願の勝利を飾って話題になった。特にナイスネイチャの時なんか、ステイゴールドの香港国際ヴァーズの時に匹敵するくらいのインパクトと感動があった」
珠美:「それが、この年から5月の中京開催で実施されるようになって、さらに距離が1200mに短縮された上でG1レースに昇格したんですよね」
駒木:「でも、この条件変更は不評でねえ。
 当時、JRAは短距離レースの地位向上を目指していたんだ。で、それに伴うレースプログラム大幅変更の一貫として、このレースに一種の“白羽の矢が立った”形になったわけだね。スプリンターズSの春版ってわけ。
 でもね、前にも話したかも知れないけれど、当時の短距離レースは中・長距離のレースよりも一段下に見られていたんだ。それを無理矢理、夏の名物レースを春の短距離G1にしてしまったものだから、当時の競馬雑誌には毎週のように『JRAに物申す』投書が掲載されていたよ。
 でも、結果的にこの年の高松宮杯が短距離レースの地位を確立する、文字通り画期的なレースになった。いや、天皇賞の枠を巡ってクロフネとアグネスデジタルのファン同士が揉めた時も思ったけど、やってみないと分からないものだね、競馬ってさ」
珠美:「その辺の話は、また追ってお話して頂きましょう。
 …現在は、2000年のレースプログラム改変に伴って3月の中京開催へと、さらに時期が繰り上げられて実施されています。そして、今では外国の調教馬も出走できる国際競走となっています」

駒木:「先週採り上げたスプリンターズSが9月にズラされたのと対応しているわけだね。何故、そういう事になったのかは、いつも言ってるようにJRAの変な癖としか言いようがないけどさ」
珠美:「この年の高松宮杯の出走馬は13頭でした。
 では、いつものように、単勝人気順に有力馬の紹介をしてゆきます。まず、1番人気がヒシアケボノ。当時活躍されていた横綱・曙を名前の由来にした通り、馬体重550kgを超える巨漢馬で、前年スプリンターズS勝ち馬です。ここまで6勝のうち、1200mのレースが5勝と、この距離を特に得意にしていました。前走はシルクロードSで3着に敗れていますが、馬体の仕上がりが遅い大型馬の休み明けということで、敗戦にも評価は下がったわけではなかったようです。
 そして2番人気は、なんとあのナリタブライアン。この講義の第1回で扱った阪神大賞典の後、天皇賞・春2着を挟んで、スプリントのレースに参戦してきました。このブライアンの挑戦に関しては、後で詳しく博士に解説して頂きます。
 3番人気がフラワーパーク。当時は(旧)5歳馬だったんですが、デビューが(旧)4歳の秋と遅れに遅れました。しかし、その後はトントン拍子に条件戦を勝ちあがり、前走のシルクロードSでヒシアケボノらを好タイムで完封。一気にG1の有力馬に登りつめました。
 4番人気が、スプリンターズSの2年連続2着馬・ビコーペガサス。重賞勝ちはG3が2勝だけと、なかなか勝ち運には恵まれませんが、戦績以上の地力を評価されての4番人気というところでしょうか。
 これから先は単勝オッズ10倍以上になりますね。5番人気がシルクロードSで2着に食い込んだドージマムテキ。重賞勝ち鞍こそG3を1勝しているだけですが、幅広い距離条件で活躍し、当時ではファンの間でお馴染みのバイプレイヤーでした。それから、6番人気のフジノマッケンオーは皐月賞やダービーでも健闘したという実力馬です。しかし、得意なのは1600m以上のレースで、このレースは自身の距離適性との戦いでもあったようです。
 ……私からは以上です、博士」

駒木:「……うん、ありがとう。まず、上位人気馬の層が若干薄いように感じるのは、これはまだ芝スプリント戦線が整備されてなくてレース数が少なかっただけ。今のスケジュールだったら、もうちょっとマシに映ったんじゃないかな、と思う。
 で、やっぱりこのレースのポイントはナリタブライアンだよね。
 今では当然の話だけど、当時も中・長距離馬と短距離馬の“棲み分け”は確立されてて、いくらそのカテゴリのトップクラスと言えども、お互いの縄張りを荒らすことはしなかった。あるとしても、2000m前後が得意な中距離馬が1600mのレースに出てきたり、逆にマイラーが中距離のレースにチャレンジして来るって程度。これは今でも時々見られる話だから、実感できると思うけど。
 だから、長距離のチャンピオンであるナリタブライアンがスプリントのレースに出走するという事が判明した途端、競馬界はそれこそひっくり返るような騒ぎになった。有り体に言うと、賛否両論おしなべて不評ってところでね、『いくらなんでも無謀すぎる』、『時代逆行も甚だしい』と、特に“良識派”と呼ばれてた硬派の競馬評論家の間で評判が悪かった」
珠美:「でも、どうしてナリタブライアンの関係者は、そんな批判を圧してまでこのレースを使おうと考えたんでしょうね?」
駒木:「それは永遠の謎……と言いたいところだけどね。まぁ、レースを使いながら馬を仕上げてゆく大久保正陽厩舎だからね。純粋にここを叩き台にして宝塚記念に臨もうとしたというのが、一番考えられるセンだね。ナリタブライアンは収得賞金を稼ぎ過ぎていて他に出るレースが無かったし。
 それに、やっぱり『1200mから3200m、オールカテゴリのチャンピオン』という肩書きが欲しくないといったら嘘になるだろうね。また、当時は『中長距離>短距離』という認識があったから、『長距離馬が短距離に出るハンデを考えても、地力の差で何とかなるんじゃないか?』という思いもあったんだろうし。第一、長距離のチャンピオンが短距離の大レースに出るなんて事、ここ数十年無かったから、実際にやってみないと本当のところは分からなかったっていうのもあるんだよ。先に挙げた“良識派”の人たちも含めてね。
 『長距離馬が1200mを走るなんて、マラソン選手が100m走に出るようなものだ』『いやいや、距離を考えると、400mの選手が100m走に出るようなものだから、実力がずば抜けていれば充分対応できる』……とか、まぁブライアンが出走を決めてからレースまでの2週間は、激しい論議が絶えなかった。30年ほど昔に活躍して、長距離、短距離、ダートまでまんべんなく走った、競馬史上に残るゼネラリスト・タケシバオーを引き合いに出す人までいた。
 当時は僕もただの競馬ファンだったわけだけど、傍から観てても楽しかったね。競馬ってのは、レースそのものよりも、その手の議論の方が楽しい時も多々あるし
珠美:「博士はどういう立場のお考えだったんですか?」
駒木:「『やってみなくちゃ分からない』(笑)」
珠美:「(笑)。博士らしいですね」
駒木:「そうかい(苦笑)? …まぁそれはさておき、こうして出走についての賛否を議論している内は楽しいだけで済んだんだけど、実際にエントリーして来て、いざ予想をする段になると、これがメチャクチャ難しい事に気が付いた。本命にするのは冒険だけど、無印にするのはもっと冒険だからね。例えば珠美ちゃん、全盛期のテイエムオペラオーがジャパンカップダートに出てきたら、どうする?」
珠美:「うわぁ……それは、ちょっと考えたくないですね(苦笑)」
駒木:「だろ?(苦笑) だからこのレースの予想には、専門紙の評論家はもちろん、どこにいる競馬ファンまでも、ウンウン頭を悩まさせられた。結局ナリタブライアンは、予想紙の印は2番手の“○”から4番手の“△”が中心。単勝オッズの2番人気は期待料込みでってところだろう。
 ……まぁ、というところで、実際にレースを振り返ってみようか」
珠美:「まずはスタートですが、1、2頭出遅れた馬はいましたけど、有力馬はナリタブライアンも含めて五分のスタートでした。そこからまず、当時スタートダッシュ日本一と言われた馬・スリーコースが先頭に立ってハイペースで飛ばしてゆきます。フラワーパークは、それを悠々と追走して2番手。そのすぐ後ろからヒシアケボノとビコーペガサスがペースを上げながら3番手、4番手。ナリタブライアンは五分のスタートから、徐々に他の馬に遅れるような形で、道中は10番手あたりを走っていました。これはどうしたんでしょうか?」
駒木:「VTRを見てみると、鞍上の武豊JKは特に手綱を押している様子は見えない。馬なりなんだね。恐らくブライアンはいつも通り走ってる感覚なんだけど、いつもの中・長距離のレースとはレース全体のペースが違うから、形として遅れてしまったように見えたんだろうね」
珠美:「レースはこのままコーナーを回って最後の直線入口まで流れてゆきます。しかし、いつもは最終コーナーで捲り気味に追い上げていくナリタブライアンが、この日は上がってゆけません。結局、馬群の内側に包まれる形になって、順位はほぼそのままで直線に入ってゆきます」
駒木:「中・長距離のレースなら、3〜4コーナーでバテる馬が多くなって、逆にブライアンはスピードを上げる。だからいつもは大外捲りが利いたんだけど、短距離レースってのは、なかなか馬がバテてくれないからね。簡単に言うと勝負所が違うんだよ。ブライアンはそれに対応できなかったって事だね。中京競馬場の直線は平坦で短い。結果的にこれが致命傷になった」
珠美:「直線に入って先導役を務めていたスリーコースが後退、勝負の行方はフラワーパーク、ヒシアケボノ、ビコーペガサスの3頭に絞られた形になりました。逃げるフラワーパークを後の2頭が追い詰めますが、やがて逆に差が広がってゆきます。2着争いは、ややコーナーで外に膨らんだヒシアケボノの内を掬う形でビコーペガサスが伸びて来て、これを征します。ナリタブライアンは、直線になってようやくグングン差を詰めてきますが、上位3頭の影を踏むのが精一杯でした。
 フラワーパークが1分7秒4という、当時としては好タイムで1着。リニューアル後の初代勝ち馬に輝きました。2着にビコーペガサス、3着ヒシアケボノ、そしてナリタブライアンは4着でした。以下、フジノマッケンオー、ドージマムテキと、大まかには人気順にまとまりましたね」

駒木:「ナリタブライアンも、明らかに格下の馬にはキッチリ先着して最低限の面目は保ったね。このレースの結果、1200mのレースでは、
 『短距離のチャンピオン級>長距離のチャンピオン級>短距離の二線級』
 …という力関係なんだ、という確固たる認識が生まれた。そして、『ナリタブライアンでダメだったら、もうダメだな』って感じで、これ以降、中・長距離のチャンピオンが高松宮杯やスプリンターズSに挑戦することは無くなった。このレースをきっかけに、日本の競馬では完全に中・長距離馬と短距離馬の棲み分けが確立されたことになる。まさに画期的なレースだったんだよね」
珠美:「それでは、このレースで活躍した馬のその後について解説をお願いします」
駒木:「まずナリタブライアンは、この直後に屈腱炎を発症してしまって、引退。種牡馬になったけど、2シーズン供用されたところで、残念ながら病死している。
 フラワーパークは、この年が全盛期で、暮れのスプリンターズSも、エイシンワシントン以下を僅か数cm差の写真判定で勝って勲章をもう1つ加えることになる。
 対照的にヒシアケボノはこれ以降大スランプに陥ってしまい、それを脱する糸口も見えないまま、惨めにターフを去る羽目になる。父馬がウッドマンの馬に時々見られるケースらしいんだけど、可哀想な晩年だったね。
 ビコーペガサスは、これ以降も惜しいレースを続けたけど、結局G1は未勝利で引退。あとは、ドージマムテキが(旧)10歳まで走っていたのは印象深い話だよね」
珠美:「…ハイ。博士、ありがとうございました」
駒木:「はい、お疲れ様。次回は競馬学特論の方だよね。例によって直前予想をお送りする予定です。それでは、また来週」


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