「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

10/31 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(10月第5週分)
10/30 歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(18) 

10/28 
歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(17)
10/27 マーケティング概論「無料の公衆電話登場」
10/26 
競馬学特論「G1予想・天皇賞(秋)編」
10/25 特別企画・仁経大校内FMラジオ放送採録
珠美と順子のミッドナイトムーンライト」(第1回)

10/24 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(10月第4週分)
10/23 
歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(16)
10/21 
歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(15)
10/20 
伝統文化論「江戸落語界出世事情」(2・最終回)
10/19 
競馬学特論「G1予想・菊花賞編」
10/17 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(10月第3週分)
10/16 
歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(14)

 

10月31日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第5週分)

 今週は完全な“新連載の谷間”というわけで、代替企画を考える羽目になってしまいました。
 先週の時点では、「週刊少年サンデー」の新人増刊号から1〜2作品拾い上げてみようか…なんて考えていたんですが、肝心の雑誌現物を買いそびれてしまいました(苦笑)。
 店頭に大量の在庫が残っていた事に油断して放っておいたら、今週に入って一斉に返本されてしまったみたいです。新古書店で見つけ次第、何とかしたいと思っていますが……。

 ──というわけで、仕方ないので今回は別の企画にさせてもらいました。
 先週金曜日に発売された、「週刊少年ジャンプ」特別編集増刊・「読むジャンプ」から、第11回ジャンプ小説大賞の入選作・『そして龍太はニャーと鳴く』(作:松原真琴)のレビューをお送りしたいと思います。
 「マンガ時評」で小説のレビューをする事自体が“反則”ですし、小説家を志望している駒木が小説をレビューするなど、おこがましいにも程があるとは思うんですが、どうか今回だけはご勘弁願います。レビュー対象作も、描かれた当時はアマチュアさんの作品だったわけですから、ギリギリセーフかな…という気がしますしね。

 ──というわけで、まずは情報系の話題を1つだけ。

 このゼミでも以前から度々採り上げて来ました島袋光年氏の買春事件ですが、ついに横浜地裁で判決公判があり、最終的な決着を見ることとなりました。
 注目の量刑は、懲役2年執行猶予4年。予想通りの執行猶予付き判決となりました。今後は島袋氏の作家活動に注目が集まる事になるのでしょうが、少年マンガ作家としてはほとんど前例の無いケースだけに、集英社など出版業界がどのような対応を見せるのかがカギとなりそうです。

 ……それでは、レギュラー企画のレビューから行います。今週は「週刊少年ジャンプ」から代原読み切りのレビュー1本のみですが、“チェックポイント”と合わせてお楽しみ下さい。
 レビュー中の7段階評価の表はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年48号☆

 ◎読み切り『抱きしめて! ベースボール・ラブ』作画:セジマ金属

 今週は『ピューと吹く! ジャガー』が休載のため、代原のギャグ短編読み切りが掲載されました。
 作者のセジマ金属さんは、若手ギャグ作家さん2人の合作ペンネーム。昨年から今回の同題名のギャグ短編を、本誌(代原)や「赤マルジャンプ」誌上でたびたび発表しています。ちなみに今回で、本誌では3回目の登場となります。

 さてそれでは作品の内容について述べてゆきましょう。

 まず絵柄は、心なしか以前より若干レヴェルが上がったような気がします。ギャグマンガですし、これならもう問題ないでしょう。ただ、中途半端な頭身のデフォルメが若干の垢抜けなさを醸し出しているのは、やや問題でしょうか。

 そして肝心のギャグの内容ですが、こちらは合作デビュー以来の問題点が全く是正されておらず、非常に残念なデキになってしまっています。何しろ、ギャグの基本中の基本である“起承転結”が出来ていないのですから、良い作品になるわけが無いのです。
 今回は都合5本のショートギャグで構成されていましたが、そのほとんどにおいて、本来なら“転”、つまり最大のネタフリが来る部分でオチが来てしまっているのです。つまり“起承結”です。しかも、オチてしまった後にもう一度オチ──しかも先のモノより弱い──が来てしまうので、肝心の所で笑えません
 ショートギャグと言うのは、話を“ハードランディング”させてナンボなのですが、この作品は完全な“ソフトランディング”。言ってみれば“起承結終”といったところでしょうか。そのためにこの作品は、ネタそのものの馬鹿馬鹿しさを“笑われて”はもらえますが、“笑わせる”ことは出来ないのです。これでは『──ジャガー』に取って代わることなど不可能です。

 評価はC寄りB−。とにかくギャグ作りの基本に立ち返って猛特訓しない事にはどうしようもありません。チャンスのある内に少しでも巻き返す事が出来るよう、祈っておきたいと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『遊☆戯☆王』作画:高橋和希《開講前に連載開始のため、評価未了》

 一番最後のページ、確かに「この男は…一体 !!」なんですが、マンガ的表現のレヴェルを遥かに超越した謎の男に対して、遊戯がクソ真顔でモノローグをブチかましているのが非常に笑えます。
 元からヤンキー口調の癖に仲間を呼ぶ時は“クン”付けだったりしてお茶目さ全開の遊戯君ですが、もうちょっと肩の力を抜いて、ツッコミ入れるなり、とりあえず驚いてみるなり、出来る事からコツコツやっていくべきだと思いますが。

 …などと、「変ドラ」さんの「白ドラ」みたいな事を言ってみました(笑)。

 ◎『ボボボーボ・ボーボボ』作画:澤井啓夫《開講前に連載開始のため、評価未了》

 小学生相手のギャグマンガなのに、『キン肉マン』が元ネタの大ギャグをやってしまうあたり、いい根性してるなぁと関心。しかし、トコロテンに頭突きされても効くんですかね、実際のところ(笑)。

☆「週刊少年サンデー」2002年48号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『金色のガッシュ !!』作画:雷句誠《開講前に連載開始のため、評価未了》

 先週から一転して、今回からマジモード突入ですね。これがまた、ビリビリ来る位の緊張感が伝わって来て良い感じです。絵柄だけ見ると、決して器用な感じは窺えないんですが、雷句さんって意外と芸達者なんですよね。

 ◎『うえきの法則』作画:福地翼《開講前に連載開始のため、評価未了》 

 こちらは、まるで「ジャンプ」のマンガを見ているかのような展開に……。読んでて「ハンター試験第3次ですか?」とか言いたくなりました。
 しかしこの作品も大概、かつての名作の影響受けまくりですよね。『BLACK CAT』ほど中身がグダグダじゃない分だけ救いがありますが、回を追うごとにオリジナリティが減退していくのは読んでいて辛いです。

 ◎『一番湯のカナタ』作画:椎名高志《第3回掲載時の評価:A−

 椎名さんが完全に吹っ切れた感じですね。話のベースはテコ入れ以前と同じなんですが、『GS美神極楽大作戦 !!』以来の“煩悩路線”が見事に決まっていますよね。主役のリョウが硬派な分だけ、独自色も出てますし。
 特に秀逸なのは最終ページ最終コマ。やっぱりセイリュートのセリフがズバっと決まってるんですよねぇ。


《その他、今週の注目作》

 ◎『そして龍太はニャーと鳴く』(「週刊少年ジャンプ」特別増刊「読むジャンプ」掲載《小説》/作:松原真琴

 先に紹介しました通り、「週刊少年ジャンプ」系の小説新人賞・「ジャンプ小説大賞」の入選作『そして龍太はニャーと鳴く』のレビューをお送りします。

 まず、この小説のポイントは、何と言っても題名です。『そして龍太はニャーと鳴く』。“狙って”はいるものの、いかにも「狙ってます」的なあざとさが感じられず、語呂も良い上に、これから読もうとする人への好奇心をそそらせるという、本当に素晴らしいタイトルと言えるでしょう。
 小説の1、2次審査(下読み)にあたる人は大抵、題名と梗概(あらすじ)、そして冒頭の数枚で大体の評価をしてしまうそうですが、そういう意味で言えば、これほど下読みを潜り抜けるのに適した作品は無いとも言えます。また、最終審査でもこのセンスは高い評価をされたはずで、ひょっとするとこの小説が入選に届いたのは半分以上は題名のお陰なのではないかと思わせるほどです。

 余談ですが、題名だけで審査員の度肝を抜いてしまった小説の代表例としては、第1回ファンタジーノベル大賞受賞作で、直木賞候補にもなった、酒見賢一さん『後宮小説』が挙げられます。
 どの審査員の先生方も一様に、その題名と冒頭の1行、いきなり「腹上死であった、と記載されている」と描かれているのを見た時点で「これは傑作だ」と確信させた…との伝説が残っている名作です。実際、全部読んでも傑作です。

 毎月毎月、マンガ新人賞のタイトルをチェックしてはレジュメに転記していて思うのですが、やはり入選作には入選作を獲るだけのタイトルが命名されていて、最終候補止まりの作品にはそれなりのタイトルしか付いていないんですよね。全体的なセンスが題名に集約されると言うか何と言うか……。
 だとすると、初めに題名ありき、ではなくて全体的な才能あってこそのこの題名なのかも知れません。
 

 ……さて、話を戻して小説の内容について述べさせてもらいましょう。

 文体は一人称、しかも『我輩は猫である』以来、日本文学の王道パターンと言うべき動物を擬人化させた一人称です。宮部みゆきさんの出世作・『パーフェクトブルー』も、犬視点一人称のミステリ小説という事で有名です。
 この動物視点は、ごく普通に話を進めるだけで擬人法特有のユーモラスな雰囲気が醸し出されるので、ある意味得と言えば得なんです。得なんですが、その代わり先人、しかも日本の文学界を代表する大物作家さんによって使い古された技法でもありますので、上手く使いこなせなければ二番煎じどころか出涸らしのようなカスカスの小説になってしまうのです。正に諸刃の剣ですね。
 しかし、この小説は見事にその難関もクリアしています。ともすれば、猫世界の描写に力を入れ過ぎて本筋のストーリーの陰がやや薄くなるくらいの念入りな描写で読者を惹き込んでいます。
 そして、この描写を支えているのがレヴェルの高い文章力です。会話文にも地の文も嫌味が無くて、なおかつ滑らかで読みやすいんですよね。文字通りのライトノベル──心地良い軽さを持った小説──になっています。

 時々ライトノベル作家で“軽さ”と“軽薄さ”を取り違えてる方っていませんか? 文章力が足りないのをノリだけで誤魔化そうとしているのが一発で分かってしまう人
 具体的に言うと、会話が冗長なボケとツッコミの連続で、かと思えばやたらと説明的な記述が多かったりする小説を描く人と言えばお分かりになるでしょうか(駒木もそんな偉そうな事言えないんですが)。
 ──ですが、この『そして龍太は──』は、そんな要素が微塵も感じられないのです。褒めすぎるのもアレですが、一般向けの一流エンターテインメント系作家さんが“敢えて”ライトノベルを描いているような、そんな感覚すら窺えるのです。

 ただ、問題点が皆無かと言うと、やはりそういうわけでもありません。まぁ、新人賞の作品ですから当たり前と言えば当たり前なんですが。
 まず1つは、先にも述べましたが、猫世界の描写に力が入り過ぎて、肝心の本筋が弱くなってしまった事。ただ、これも審査員の先生方にしてみれば「背伸びしてない辺りが新人らしくてヨロシイ」という結論になったようなんですが。
 そしてもう1点は、全体的にやや説明不足の嫌いがある事。駒木の個人的なジャッジでは“ギリギリセーフ”なのですが、読む人によっては不親切な小説だと思われてしまうかも分かりません。“危うい”んですよね。全編通して、何となく。

 …とまぁ、問題点も有るにはあるのですが、それでも凡百のライトノベル作家の方々と比べると、その才能の差は歴然としていると思います。次回作はこの作品の続編だそうですが、別の機会にでも本格的なエンターテインメント長編小説を読ませて頂きたい、そんな願いを抱かずにはいられません。

 評価なんて、さすがにおこがまし過ぎて付けられません。ただ、自分より年下の人にこんな作品を描かれて、ジェラシーすら感じてしまう位良い作品だと思った…という事だけ言い添えておきますね。

 
 さて、今回のゼミは以上です。次回も“新連載の谷間”なんですが、他の雑誌から注目作を引っ張ってくるなりして、質・量をキープしたいと考えています。では、また。

 


 

10月30日(水) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(18)
第2章:オリエント(12)〜
4王国の分立

※過去の講義のレジュメはこちら
第1回第2回第3回第4回(以上第1章)/第5回第6回(以上インターミッション1)/第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回


 前回は、メソポタミア辺境の小王国から、短期間ながらオリエントの覇者にまで昇り詰めたアッシリア帝国の歴史を概観してみました。
 そして今回は、このアッシリア帝国を倒し、更にはその後のオリエント世界に割拠した4つの王国について述べることにしましょう。
 その4つの王国とは、まず1つ目がメソポタミアの東、イラン地方からやって来た騎馬民族がまとまって出来上がったメディア王国。次に2つ目が、ハンムラビ王の時代以来、メソポタミア地方の中心地として栄えたバビロニアを首都に持つカルデア王国。3つ目が小アジアの西端からアナトリア半島全体に勢力を広げていったリディア王国。そして最後の4つ目が、衰えつつも依然として存在感を発揮していた古代エジプト王国であります。
 以上、これら4つの王国がアッシリア以後のオリエント世界を支配する事になったのでありました。

 それではこれより、これら4つの国それぞれの歴史について、簡単ながらお話してゆくことにしましょう。

 まずはメディア王国から。この国では文書を遺す習慣が無く、未だに余り詳しい事が分かっていないのでありますが、可能な範囲でお話します。

 この国は先に述べた通り、元々はメソポタミアとは縁の薄いイラン系の騎馬民族たちが統合して出来たものですが、このメディアの民族そのものは紀元前10世紀頃から存在したと言われています。
 但し、この民族は紀元前7世紀に至るまで他民族の支配下にあり、アッシリアが強大化した後は、その属領になっていたりもしました。
 しかし、アッシリアのオリエント支配にほころびが見え始めた紀元前7世紀後半には事実上の独立を果たし、周囲の民族を臣従させるなどして勢力を伸ばしてゆきました。ちなみに、この時メディアの支配下に置かれていた民族の中に、後にこの国を滅ぼして最終的なオリエントの覇者になるペルシア民族がいました。
 そして前回にもお話した通り、メディア王国は同時期に建国したカルデア王国と同盟を結び、アッシリア帝国を滅ぼして更にその勢いを増してゆきます。最盛期(紀元前6世紀前半)には、その領土は現在のアルメニアからイランの大部分、そしてアフガニスタンの西端に至る広大なものとなりました。今回採り上げた4つの王国の中では飛びぬけて広い領土を有していた事になります。

 しかし、最後にはこの広い領土が逆に仇となりました。要は目立ち過ぎたわけです。

 紀元前550年、この国の強さに恐れを抱くようになった同盟国カルデアが、当時急速に力をつけつつあったペルシアに働きかけ、メディアを挟み撃ちにします
 その結果、戦いはペルシアの圧勝に終わり、メディア王国は呆気なく滅亡。新たに興ったペルシア帝国に吸収されることとなったのでありました。

 
 次にカルデア王国であります。本拠地がバビロニアであった事から、ハンムラビ王のバビロニア王朝“古バビロニア王国”とし、この国“新バビロニア王国”とする呼び方もあります。
 この国は、古バビロニア王国時代からの住人・アムル人と、シリアの歴史で紹介したアラム人の2つの民族によって構成されていました。この講義の第14回で述べた、カッシート族を経てエラム人の手に渡ったメソポタミアを、異民族から奪回したのもこの人々です。

 このバビロニア一帯、紀元前8世紀終盤〜7世紀初頭のアッシリア全盛期には、当時のオリエントの他地域と同じように、その大帝国の支配下に置かれ、厳しい占領政策を敷かれていました。しかし、先程から述べていますように、紀元前7世紀アッシリアの混乱に乗じて独立を回復すると、間もなくしてメディアと同盟を結び、これを滅ぼします。この時、カルデア王国はオリエントを代表する国となったのでありました。

 カルデア王国の領土は、基本的にはメソポタミア中・南部の限られた範囲に留まっていましたが、この国の最盛期であるネブカドネザル2世王(在位:紀元前605〜562年)の時代には、エジプトを破り、ユダ王国を滅亡させるなどして、その勢力圏を一気に押し広げました第16回で述べた“バビロン捕囚”が実施されたのもこの時です。

 また、ネブカドネザル2世の時代には、様々な建築物が築かれた事でも知られています。その中でも、“世界七不思議”の1つと言われた“バビロンの空中庭園”が非常に有名であります。
 この空中庭園、今風に言えば、ビルの屋上に出来た庭付き植物園でありました。ホームシックに悩んでいた、同盟国・メディア王国から嫁いで来た王女のために、王がメディアから植物を取り寄せて作らせたと言われています。血なまぐさい戦争や強制移住をやった王にも、一片のロマンチシズムはあったと見えます。

 しかし、このカルデア王国もネブカドネザル2世の死後は急速に衰退します。経済力を背景にした豪商たちが政治にも口出しするようになって、国が乱れたとも言われています。
 その最期の時は、紀元前539年に訪れました。カルデア王国は、かつての同盟国・ペルシア帝国によって占領され、その11年前にカルデアの陰謀の前に滅びたメディア王国(これも元々は同盟国ですが)と同じ運命を辿る事になったのでありました。


 そして3番目に採り上げるのは、アナトリア半島、つまり現在のトルコ共和国がある地域を支配したリディア王国であります。
 リディアの人々は、かつてアナトリア半島に栄えた、あのヒッタイト族の末裔と言われており、半島の西端でひっそりと暮らしていました。が、紀元前7世紀、アッシリアの衰退や異民族(アジア系騎馬民族のスキタイ人など)の侵入などによりアナトリア半島が大混乱に陥ると、これに乗じて領土を一気に広げ、大規模な王国を建設するに至ったのでありました。

 このリディア王国は、その地理的条件からギリシアとの交流・交易があり商業が盛んで、更には貴金属が採取出来たこともあり、世界で初めて鋳造貨幣を発行した国として知られています。これらの貨幣、始めは金と銀の合金で、後には100%金貨の貨幣も発行しています。

 ただ、リディア王国は他の国のように国力や歴史的なバックボーンに乏しく、対外的には終始受身の姿勢を強いられました。建国間もなくから東隣のメディア王国からの侵攻を受け、長年の防衛戦争を強いられました。
 この戦争の時は、戦闘中に、当時は不吉の兆しと言われていた日食が起こり、休戦→和解を果たし命拾いをしましたが、そのメディアがペルシアに滅ぼされると、万事休す。このリディアも紀元前546年にペルシアに滅ぼされる事となったのでありました。


 最後にエジプトについても少し述べておきましょう。
 エジプトについては、第10回から第12回までの3回でお話しましたので繰り返して詳述しませんが、紀元前8〜6世紀は、古代エジプト王国の中でも“末期王朝”と呼ばれる衰退期にあたりました。
 そのため、アッシリアが侵攻してきた時もその勢いに抗えず、一時期は下エジプトが征服される憂き目に遭ってしまいました。しかし、さすがのアッシリアも本拠から遠くはなれたエジプトの支配は楽でなかったらしく、その支配は永続せずに間もなく独立を回復しています。アッシリアが滅亡する寸前には同盟を結んでさえいました。
 アッシリアの滅亡後も、長年、独立だけは維持しつつオリエント4強の一角を占め続けたのですが、この国もまた、ペルシア帝国の餌食となって、紀元前525年には属州化されてしまうのです。


 ……と、ひどく駆け足でありましたが、アッシリア滅亡後に栄えた4つの王国の歴史についてお話をしました。
 いよいよ次回は古代オリエント史のフィナーレです。この4つの王国を猛烈な勢いで飲み込んでいった新興国・アケメネス朝ペルシア王国についてお話をします。それでは、また次回に。(次回へ続く) 

 


 

10月28日(月) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(17)
第2章:オリエント(11)〜
アッシリア帝国

※過去の講義のレジュメはこちら
第1回第2回第3回第4回(以上第1章)/第5回第6回(以上インターミッション1)/第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回第14回第15回第16回


 前回までの数回は、バビロニア帝国滅亡後(紀元前16世紀以降)のメソポタミア文明地域の様子を地域ごとに分けて述べてゆきました。
 そして今回は、それらの地域史の中でたびたび登場した、アッシリアという国の歴史についてお話したいと思います。紀元前7世紀に、短期間ながらオリエントの完全統一を達成したという大帝国であります。

 このアッシリアは、メソポタミアの北の辺境・ティグリス川上流域にある都市・アッシュルを中心とする国で、その歴史は殊のほか深く、紀元前21世紀に建国されています。
 しかし紀元前21世紀と言えば、メソポタミアではウル第3王朝が全盛の時代。そのため、建国当時のアッシリアは、南にある強大な領域国家の様子を恐々窺いつつ、半ば属国のような立場で生き続ける弱小国でありました。
 ただ、アッシュルという都市は、メソポタミア、シリア・パレスティナ、アナトリア半島の主要都市との交易をするのに有利な地理条件にあったため、建国当初は商業で栄えたそうであります。特にアッシリア産の錫はアナトリア半島との交易で莫大な利益を生み、ヒッタイトがアナトリアで力を増してアッシリア人を追放するまでの数百年間、大量の銀を本国にもたらしたと記録に残っています。

 このようなアッシリアの“下積み”時代は約1000年にも及ぶのですが、その間にも時には優れた君主が現れて、存在感をアピールしています。
 その中でも特に興味深いエピソードが残されているのは、かのハンムラビ王の時代にバビロニア王国と丁丁発止の駆け引きを繰り広げたと言う傑物・シャムシ=アダド1世という王についてであります。
 ただ、この王様を有名にしているのは、政治や外交の表舞台での活躍よりも、本来なら目の届かないところでで発揮されていた、自分の息子に対する過保護と“教育パパ”振りでありました。

 中でも特に王の手を煩わせたのが、2人いた息子の内の次男坊、つまりは第2王子で、王からこの“馬鹿息子”に対する手紙が山のように発掘されています。
 例えば、いざ他国の王家から王女を后に迎えようとした時などは特に大変でありました。やれ「結納金は幾らが良い」という手紙を送ったり、かと思えば、すぐにその額の倍以上の支度金を王のポケットマネーから捻出するわ、挙句の果てには関係者への祝儀まで送り届けさせる始末
 で、その第2王子が結婚した後も全く成長の跡が窺えないと悟るや、次から次へと叱咤激励の手紙を送ってハッパをかけます。

 お前の兄は戦場に出て敵将を討ち取ったのだ。しかしお前は、日がな女たちに囲まれて収まりかえっているではないか。お前も勇気を出して戦場に出て“男”となれ。兄のように名声を得てみよ。

 しかし、兄と比較されてスネてしまったのか、この王子の行状は一向に良くならなりません。そこで王は更に手紙を書いてよこしたのでありました。

 お前はいつまで私が手を引いて歩かせねばならんのだ。お前はまだ子供か。一人前の男ではなかったのか。ヒゲも生えていない若造とでも言うのか。いつまでお前は仕事を怠けるつもりか。お前の兄が大群を率いて戦場に馳せ参じる様を見ているはずだ。お前はせめて宮殿や家事の管理ぐらいやってみろ。

 ……まるでテキストサイト管理人に送りつけられた中傷メールのような罵詈雑言の羅列であります。が、南方では着々とハンムラビ王による征服活動が進んでいるという当時の周辺事情を考えると、このシャムシ=アダド1世王の焦りも痛い程よく分かるものであります。
 そして結局、シャムシ=アダド1世が没した後のアッシリアは、瞬く間にハンムラビ王に攻められ、敢え無く属国化されてしまったのでありました。
 この後もアッシリアの苦難の歴史は続き、バビロニアが滅んだ後も、すぐさま強大化したミタンニ王国によって、やはり属国となる事を強いられてしまうのです。

 その流れがやや変わり始めるのは、紀元前14世紀半ばの事アッシュール=ウバリト1世という王は、この国をミタンニの属国から独立させ、国力増強と軍国化を開始します。ここから、後のアッシリアの強大な軍事力が培われる事になるのであります。
 ただし、かと言って、そう簡単に状況が一変したわけではありません。それからの約500年間は、戦勝によって領土を増やしたかと思えば、あっという間にその領土を失って後退する…という、一進一退の時代が続くのです。売れない演歌歌手の半生記を見ているかのような停滞振りですが、ここままアッシリアの歴史が終わらないのは、冒頭で述べた通りであります。

 紀元前9世紀、いよいよオリエント世界にアッシリア帝国の時代が到来したのでありました──

 後にオリエントの覇者となるアッシリアの、そのベースとなる部分を築き上げた王は、アッシュルナシルパル2世(在位:紀元前883〜859)“アッシリアの狼”という異名を与えられた、その石像に遺された鷲鼻で冷徹な表情が今なお見る者の恐怖をそそる専制君主であります。
 アッシュルナシルパル2世が行ったのは、強化・整備された軍隊による征服活動と、その占領地に対する徹底的な恐怖政治でありました。
 彼の手によって占領された国々の被征服民たちは、住み慣れた土地から引き離されて、この時期に建設されたばかりの新首都・カルフー(現在のイラクにあるニムルード)に強制移住させられました。故国への愛着を奪い、反抗のモチベーションを奪おうとする厳しい政策であります。これは、前回イスラエル王国の歴史を扱った時に採り上げた通りであります。
 更に厳しかったのが、反乱を起こした占領地やその首謀者達に対する処罰でした。女・子供に至るまで皆殺しにするのは当たり前。処刑された遺体の皮を剥ぎ、それを城壁に貼り付けていったり、人柱や首柱が築かれたり、生きたまま業火の中へ放り込む…といったような残虐な処刑が当たり前のように行われたようであります。幸運にして生かされた人々も、奴隷の身分に落とされたり、目や鼻や耳をくり抜かれたり削ぎ落とされたりしたのでありました。
 そして、この世界史上類を見ない激烈な占領政策は、これ以後、アッシリアに代々引き継がれていく伝統的な政策になってゆきました。

 その後は、ごく一時期内政が混乱した事もありましたが、アッシリアは紀元前8世紀以降、飛躍的な発展を遂げてゆく事になります。厳しい占領政策にも関わらず、各地での反乱は絶えませんでしたが、そのことごとくを力で捻じ伏せて、被征服民に付け入る隙を与えませんでした。
 そんなアッシリアがいよいよ絶頂を極めるのが、ティグラト=ピレセル3世(在位:紀元前744〜727)の治世で、この時代には、これまでの占領政策以外にも、大規模な行政改革軍制改革が実施されています。
 アッシリアは元々から複数宰相制官僚による行政組織綿密に組織化された軍隊を持つ、完成度の高い中央集権国家だったのですが、この時期になると、広がり過ぎた領土を効率良く治めるためにも諸々の改革が必要だったようであります。特に軍制改革では初めて異民族出身の兵士が採用され、この国のグローバル化が進んでいた事を窺わせてくれます。(もっとも、この軍隊の多国籍化は軍のまとまりを欠く原因となり、後のアッシリア衰退の一因となるのでありますが……)
 そして、この偉大な先王の“遺産”を引き継いだ子や孫たちは、バビロニアやイスラエル、更にはエジプトといった古代オリエント史を代表する強国らを次々と飲み込んでゆき、エサルハッドン王(在位:紀元前680〜669)の時代には、遂にオリエント世界の大半を統一する事に成功します(紀元前671年)。なお、その息子であり後継者であるアッシュール=バニパル王は、膨大な粘土板文書を納めた大図書館を建設した事で有名です。

 こうして栄華を極めたアッシリア大帝国でありましたが、その絶頂を深く味わう暇も無く、間もなくして衰退への道を辿ってゆくことになります
 衰退の理由は様々ありますが、まずは厳格な占領政策にも関わらず、国内各地で反乱が頻発した事が挙げられます。反逆者にどれだけ残虐な罰を与えようと、それは被制服民のアッシリアに対する敵愾心を煽るだけの意味しか持たなかったのであります。
 そしてそこへ新興勢力がメソポタミアに現れた事がアッシリアを更に窮地に追い込みました。折悪しく、王室の後継者争いが揉めていて国内が不一致状態であったのも大きく影響したようです。また、先ほど述べた軍制改革のもたらした統率力の減退もそれに拍車をかけました。
 日本の平家一門豊臣家の時もそうでしたが、どれだけ天下を極めようと、一旦ベクトルが衰退の方向へ向かい出すと、その転落のスピードは極めて速いものであります。アッシリアの場合は友好国や忠実な属国を確保する作業を完全に怠っていましたので、特にその傾向が強くなったようであります。
 そんなアッシリアの滅亡は紀元前609年。その3年前に首都ニネヴェ(カルフーから2度遷都されている)が陥落しており、事実上はそこでアッシリアは国家としての機能が破壊されています。アッシリアを倒したのは、バビロニアに建設されたカルデア王国と、イランから西へと進撃してきた新興国・メディア王国の連合軍であります。
 アッシリア帝国は、天下統一からわずか60年での滅亡となりました。1500年の歴史を持つ国としては余りにも呆気ない最期と言えるでしょう。

 アッシリアの滅亡後のオリエントは、先ほど挙げたカルデアとメディアを含めた4つの大国が割拠する“四国時代”に突入します。その時代のあらましについては、また次回に譲る事としましょう。次回へ続く

 


 

10月27日(日) マーケティング概論
「無料の公衆電話登場」

 講義開始早々いきなりですが、まずはこちらのニュースをご覧下さい。

 10円玉もテレホンカードもいらないタダで使える公衆電話が、24日、札幌にお目見えしました。ただし、15秒間の時間が必要です。
 無料の公衆電話が設置されたのはJR札幌駅の「パセオ」です。東京にあるインターネット関連会社が、全国に先駆けて札幌でサービスを本格的に始めました。
 電話は液晶画面のタッチパネル方式になっていて、相手先の番号をダイヤルすると、まずこのように音声と画像で15秒間の広告が流れ、その後、相手先を呼び出す仕組みです。相手先が固定電話の場合は全国どこでも最長で9分間携帯電話の場合は1分間、無料で話せます。24日は札幌駅に隣接する西側通路に2台と、地下に1台設置されました。(北海道テレビニュースより)

 15秒のCM映像を観る代わりに、数十円分の電話代を、そのスポンサーに負担してもらう事が出来るという、何とも我々ユーザーに有り難い機能を搭載した公衆電話が登場した…というニュースでした。
 どうやらこの電話機、制限時間を過ぎると自動的に回線が切れる短時間通話専用電話機のようですが、それでも自宅や待ち合わせ相手への簡単な連絡などには非常に有効に活用できそうです。
 「携帯電話が1分」とか聞くと、随分と短時間のように思えますが、これも使い方次第です。何しろ日本最強のフードファイター・白田信幸選手なら、1分で寿司60カン(1.5kg)は楽勝で完食出来るのです。1分あれば何だって出来ます。いずれ、この電話機から60万の英語教材を売りつける猛者も現れる事でしょう。
 不可能なのは「おもいっきりテレビ」の人生相談くらいなもの。魔の「奥さん1人? じゃあCM行くから」攻撃は余りにも強大であります。

 ……まぁ、そんな冗談はさておきまして、この電話機のように、我々はCM・広告と接する事によって様々な恩恵を得て生活をしています
 普段我々はそんな事を意識しませんが、それは広告が余りにも日常生活に浸透しすぎているため。呼吸したり屁をしたりするのと同じ感覚で広告を見聞きしているので、気が付かないだけなのです。

 まず、広告から得ている恩恵の最たるものと言えば、民放のテレビCMが挙げられるでしょう。スポンサーがCMを流す事と引き換えに番組制作費を提供しているからこそ、我々はタダでテレビ番組を楽しめるわけです。
 例えば、サッカーのW杯中継。CS放送なら幾らかの受信料を支払わなければならないところを、試合直前とハーフタイムに、アメリカ空軍の絨毯爆撃の如く流れるCMのお陰で、我々はタダで観戦する事が出来たわけです。
 それを考えれば、かつてのオウム真理教のマントラよろしく我々を洗脳せんばかりに流された

♪ヤンヤワヤワエッオッオイ〜アッエ〜エオ〜

……という、何故キリンビールのCMでコレなのか分からない、意味不明のハミングも許せようというものです。

 テレビCMに並んで我々が恩恵を受けていると言えば、雑誌広告が挙げられるでしょう。特に紙質の良いグラビア雑誌やゲーム雑誌などの場合は、広告が無ければ雑誌の定価が数倍に跳ね上がるとさえ言われています。これは、全編広告のような車情報誌やアルバイト雑誌などでは特に顕著な事でしょう。
 では、雑誌広告がどの程度の金額を出版社に提供しているのでしょうか? ここで少し具体例を紹介しましょう。これは「週刊ファミ通」に連載されていた『おとなのしくみ』作画:鈴木みそ)で採り上げられていたもので、年代が97年とやや古いのですが、それを除けば極めて正確な数字です。
 「週刊ファミ通」の場合、面積比で最も高額なスペースが裏表紙1ページ200万円で、その次が表紙をめくってすぐの見開き2ページ250万円です。その他は、最初の見開きをめくった所にあるもう1つの見開き2ページ225万円で、目次の隣の1ページ115万円他のカラーページは一律1ページ100万円ですが、時折見られる折込型の特殊なものは“時価”とのこと。
 ……まぁ、全て合わせると数千万は下らないでしょうね。これだけの金が、エンターブレインの利益となり、または間接的に購買者の財布へ還元されていると言うわけです。勿論、これは「ファミ通」のようなメジャー雑誌だからこその数字であって、マイナー誌の場合はもっと安いはずです。確か、「近代麻雀」誌のモノクロ広告なら1/4ページで数万円という安さだったと記憶しています。今は潰れた雀荘のマスターから直接聴きました。

 この他、CMによる消費者への還元で少し変わったものと言えば、一時期アメリカで流行した“無料パソコンというものがありました。タダでソコソコの性能のパソコンを配る替わりにハードディスクに腐るほどCMがインストールされていると言う、結婚条件で言えば「玉の輿だけど姑と同居」みたいな、痛し痒しな製品だったと記憶しています。
 また、かつてファミコン・ディスクシステムの書き換えで、広告付のゲームと言うものもありました。確か、広告付のゲームは書換料が100円引きだったはずです。そして、その広告は何故か永谷園。お茶漬けとディスクシステムとの間に如何なる関係があったのか、もし解明出来ればノーベル賞間違いナシの深遠な謎がそこに秘められていたのでした。
 …まぁ、社長の息子が「ゼルダの伝説」が好きだったのか、社長本人が「燃えろ! 野球拳」が好きだったのかのどちらかだと思いますが。

 ……とまぁ、色々な場面において、我々は広告による恩恵を得て生活をしています。
 しかしそれならば、もっともっと様々な商品に広告を掲載すれば、我々はもっともっと経済的な生活が出来るのではないでしょうか?

 例えば、現時点で既に値下がりしようの無いところまでデフレが進んでいるファストフード。これにも牛丼のドンブリに広告を掲載するとか、ハンバーガーの包装紙に広告をプリントするなどで、更なる値下げが望めそうです。
 但しこの場合、食べ物が相手でありますから、スポンサーが限定されるのが難点と言えるかも知れません。TOTOのウォシュレットなどは言語道断ですし、ピンクの小粒・コーラックの広告を掲載してしまった日には、食べた側からケツの方へ下ってしまいそうで気が気ではありません。

 ちょっとヒネったところでは、寄席や演芸なんてのはどうでしょう。漫才や落語のどこかで15秒なり30秒なりの生CMを入れてもらうわけです。その代わりに木戸銭はロハ(無料)。
 しかし、これも演者によっては逆効果になってしまうという欠点も有ります。

 例えば、昭和のいる・こいるの場合、

 「いや〜この商品は良いよ! なぁ?」
 「あー、はいはいはいはいはい、そりゃ良かった」

 ……となってしまい、ちっとも有り難くありません

 ましてや、立川談志などに至っては、

 「……いいですか、こんな商品をね、買うヤツは馬鹿なんです」

 ……などと言って、そのまま舞台を降りてしまう事は確実であります。

 まぁ、中にはデフォルトでCMをやっているオール阪神・巨人の例(「♪車にポピー!」)がありますし、投機目的で綾波レイの等身大フィギュアを買って大損こいた事で有名な、借金まみれ夫婦漫才師・太平かつみ&尾崎小百合みたいに、どんな仕事でも目一杯やる人もいますので、これは人選次第で何とかなるかと思われます。

 本来高額な費用がかかるところを軽減させるという意味では、冠婚葬祭などもCMを導入してしまえば良いでしょう。結婚式なら披露宴で、式に関連した業者にスピーチしてもらうわけです。

 結婚式場の担当者は続いて結婚する人向けのお薦めプランなどをアピールし、ハネムーン担当の旅行会には国内&海外旅行のお得プランなどをPRして頂く。中には富士ラテックスから担当が馳せ参じるカップルなどもあり、「さすが新婚、お盛んだなぁ」…などと出席者を感嘆させたりするのも一興でしょう。
 恐らくそんな新婚夫婦は、その新居も広告まみれになっているはずです。恐らく寝室の天井には、タモリがニンマリと笑ってユンケルを掲げてる広告とか、ケインコスギが「ファイト! 一発!」と叫んでる広告とかがデカデカと掲げられているに違いありません。

 ただ、冠婚葬祭でも困ってしまうケースもあります。お葬式です。参列者を前にして、
 次の葬儀のご用命は、私たち○○祭典をよろしく」
 とか、
 人間、いつ死ぬか分かりませんから、前もって墓くらいは建てておきましょう。お子さんも親孝行のためにどうぞ」
 ……などと言うわけにもゆきませんので。まぁ、この辺は研究の余地が有ると思います。

 
 …とまぁ、そんなこんなで長々と話して来ましたが、そろそろ時間となりました。このあたりで講義を締めさせて頂きます。
 最後に。広告付のエプロンを着用した、無料の若くて美人のメイドさんを派遣してくれる業者の方がいらっしゃいましたら、すぐに駒木研究室までご一報を。(この項終わり)

 


 

10月26日(土) 競馬学特論
「G1予想・天皇賞(秋)編」

駒木:「さて今日は、いつもより輪にかけて時間が無いんで、かなりの駆け足になるよ」
珠美:「ごめんなさい。昨日付の、私の特別企画が足を引っ張る形になってしまいました…」
駒木:「いいんだよ、どうせ大スランプ中のヤツの予想なんか、誰も聴きたいと思ってないだろうから(笑)。
 ……とりあえず、各馬の短評を述べていって、最後にまとめる形で行こう。珠美ちゃんの出番が大分削られちゃうけど、今週は我慢してもらうね」
珠美:「ハイ、分かりました(笑)。…それでは出馬表を先にどうぞ」

天皇賞(秋) 中山・2000・芝外

馬  名 騎 手
ナリタトップロード 四位
    アグネスフライト 勝浦
    トラストファイヤー 江田照
    アラタマインディ 飯田
    テンザンセイザ 田中勝
エイシンプレストン 福永
  ツルマルボーイ 河内
× × シンボリクリスエス 岡部
    ブレイクタイム 松永
  × 10 テイエムオーシャン 本田
    11 イブキガバメント 横山典
    12 ゴーステディ 吉田
    13 トーホウシデン ペリエ
  14 エアシャカール 武豊
    15 アグネススペシャル 蛯名
16 ダンツフレーム 藤田
×   17 サンライズペガサス 柴田善
    18 ロサード 後藤

駒木:「それじゃ早速始めようかな」
珠美:「ではまず、1枠の2頭からお願いします」
駒木:「ナリタトップロードは、自分よりも格上の馬が次々とリタイアしていって、やっと格付け最上位になれたね。でもそれが、馬場状態的にも枠順的にも微妙な時に回ってくる辺りがいかにもこの馬らしい(苦笑)。実力はあるんだから、あとはそれを全開できるかだけだろうね。
 アグネスフライトは1年7ヶ月振りじゃどうしようもないね。トウカイテイオーの有馬記念でも1年ぶりだったし」
珠美:「次は2枠の2頭なんですが、これは力が足りませんか?」
駒木:「トラストファイヤーアラタマインディね。うん、力不足。競馬に絶対は無いけど、この2頭を1着や2着の候補に推せるだけの根拠がどこにも見当たらない」
珠美:「では3枠の2頭を。やっぱりここではエイシンプレストンが注目になりますか?」
駒木:「そうだね。まずテンザンセイザは、ちょっと苦しいかな。G3級というジャッジが妥当だと思う。
 エイシンプレストンは、日本だとイマイチ勝ち切れないのが微妙な所だよね。ステイゴールドみたいな海外限定日本最強馬なのかも知れない。ただし、今回のメンバーなら少なくとも実力は5本の指には入るから、その5本の中の何番目になるかが問題だと思う」
珠美:「次は4枠ですね。取捨選択が難しい馬が2頭揃いましたが?」
駒木:「この2頭がいなければ、予想がどれだけ楽だったか(笑)。ただし、切れ味勝負のツルマルボーイと、ジワジワと伸びて来て届くかどうかがカギのシンボリクリスエスとは、タイプがかなり違う。予想する人はそこを十分考えて欲しいね」
珠美:「取捨選択は後回しですか(笑)。では先に進みましょう。5枠の2頭です。これも悩ましいですね(苦笑)」
駒木:「この2頭がいなければ……って、もういいか(笑)。
 ブレイクタイムは初めての2000m挑戦だね。ここでポイントになるのは、この馬が本質的にはスプリンターなのか、マイラーなのかどちらだろうか…ということ。マイラーだったら、2000mならギリギリ辛抱できる。ヤマニンゼファーの例もあるしね。で、結論から言うと、僕はこの馬はマイラーだと思う。ただし、肝心の能力面の裏付けがイマイチ甘いかな…という気もする。
 テイエムオーシャンの前走は豪快だったけど、相手に恵まれた感が強かったから度外視ね。去年の有馬記念から考えると、“牝馬では最強、牡馬と混じるとG3級”っていう感じだったんだけど、それがひと夏越してどこまで成長してるかがカギだろう。馬体が40kgも成長してたのは確かにプラス。これも人によって結論が分かれそうだね。詳しくはこれも後で」
珠美:「では6枠の2頭を。2頭とも人気薄ですが……?」
駒木:「イブキガバメントは去年のこのレースで4着。有馬記念の時にも注目してたんだけど、その時はイマイチだったね。とにかく決め脚だけが取柄の馬だから、ペースが遅くなって馬群が密集しないとダメなんだけど、今回はそうもなりそうにないね。何故か?
 それは、ゴーステディが平均ペースで逃げるから。いい感じで話が繋がったなぁ(笑)。……まぁ、ゴーステディはペースメーカーで終わっちゃうだろうね。有力馬の内、何頭かが凡走するとしても、少なくとも2〜3頭はこの馬を交わせるくらいの走りはするはずだから」
珠美:「…7枠からは3頭ずつになりますが、いっぺんいお願いしますね」
駒木:「トーホウシデンはペリエ騎手ってのが気になるよなぁ。去年は大分痛い目に遭わされた(苦笑)。ただ、今回はさすがに苦しいかな。菊花賞2着といっても“谷間の世代”の、しかも“ごっつぁんゴール”的な2着だったし。これで勝ったら本当にペリエ・マジックだ。
 エアシャカールは、宝塚記念の時に言ったように、このクラスの馬にしては瞬発力が無さ過ぎる。中山の良績は3歳春以前のものだし、参考にするには弱いかな。ただ、とにかく早めに抜け出して粘るしかない馬だから、東京じゃなくて中山になったのはプラスと言えそうだね。
 アグネススペシャルはオールカマー2着ってのが最大の勲章か。でも、今年のオールカマーはローカルG3も真っ青の低レヴェルだったしなぁ……。これも見送りが賢明」
珠美:「では最後に8枠の3頭を」
駒木:「ダンツフレームの単勝オッズを見てビックリした。いくら前走がアレだったからと言って、この低評価は無いだろうという感じ。“マイル路線で今ひとつ”…という印象が強いけど、本質的には中距離以上で力を発揮する馬だと思う。今年の宝塚記念は強かったし、3歳時にはジャングルポケットと互角の勝負をしてたんだから、もっと高く評価されて良いんだけどなぁ。
 サンライズペガサス典型的な“G2大将”なのかな。瞬発力だけでは通用しないレヴェルになると、着順が伸び悩む傾向があるよね。G1でも2着候補にはなる馬だろうけど……。あと、今週の追い切りは不満だね。
 ロサードは、もうG1クラスとは勝負付けが済んでるかな。個人的には好きなタイプの馬なんだけど、実力がねぇ。
 ……まぁ、こんなところかな」
珠美:「…ありがとうございました。それでは、今から総括をしていただきますね。まず、東京から中山に変更になった事で変化した点はありますか?」
駒木:「東京の芝2000だと、外枠は完全にアウトなくらい不利だったんだけど、中山だと逆だね。内枠の馬がインに封じ込められて苦戦する可能性もある。
 あとは、皐月賞の傾向から言うと、直線が短い割には意外と追い込みが決まり易い。でも逃げ・先行もよく決まる。まぁ、『直線短いから追い込み不利』って考えると痛い目に遭うだろうね」
珠美:「展開はどうでしょうか。先ほど、ゴーステディが平均ペースで逃げるとおっしゃいましたけど?」
駒木:「陣営が断言してるね。『平均に早いペースで行って粘り込む形がベスト』だって。だから、スローペースにはならずに、ある程度縦長で淀みの無い流れになるかな。そうなると、スピードよりも地力というか、総合力の勝負になりそうだね。まぁ、このメンツだと、上がりの時計も早くなりそうだけど。
 展開そのものは、脚質がバラけてるからスムーズだろうね。展開で有利・不利はあまり分かれないと思う。ナリタトップロードがどういう作戦を採るかくらいかな、迷いそうなのは。思い切って2番手に出るか、それとも追い込みにかけるか。まぁ小器用な馬だから、スムーズに走れれば、どっちにしろ好走できそうだけど」
珠美:「では、そろそろ結論に移りましょうか。博士の印の根拠を教えて下さい」
駒木:「僕の予想は、頭の中で主観的なランク分けをやってみるんだよね。
 で、今回の場合、第1集団はナリタトップロードとダンツフレーム。言うならばこれが“G1を勝てる馬”クラス。ちなみに、テイエムオペラオーとかジャングルポケットみたいな馬は“G1を勝つ馬”クラスね。だから1ランク下。そういう意味では、今回のレースは粒揃いだけど、必ずしもハイレヴェルってわけじゃないんだよね。まぁ、先週の菊花賞よりは雲泥の差だけど。
 第2集団が“G1で好走するかもしれない馬”クラスで、ここにはツルマルボーイ、サンライズペガサスがいる。
 で、エイシンプレストンは香港なら第1集団だけど、日本で走る時は第2集団との中間に収まるって感じ。
 エアシャカールは、実績だけなら第1集団なんだけど、僕のランク付けでは第2集団のケツに何とか張り付いてるってところ。展開に恵まれてナンボだね。テイエムオーシャンも似たような感じかな。いや、年季の分だけエアシャカールより少し後ろ。やっぱり牡馬に混じると力が少し足りないかな…という判断だね。
 問題は比較材料の少ないシンボリクリスエス3歳のトップクラスがこのレースに挑戦すると、結構な確率で好走したりするんで困るんだ。ただ、これまでの実績から判断すると、第1集団にはとても入れられない。第2集団でどの位の位置を占めるかってところだろう。個人的には“エアダブリン2世”と思ってるんで、ジワジワと差してくるけど届かず3着ってのを期待してる(笑)。
 ……というわけで、第1集団の2頭で◎と○。印を分ける決め手になったのは、ナリタトップロードの“切羽詰ってます”的な境遇だね。これから中山の馬場が悪化する一方という事を考えると、ナリタトップロードがフルに実力を発揮できるチャンスはこれが最後だと思うんだ。だから、今回は勝負を賭けてメイチの仕上げで来てると読んで◎。あとは、これまで散々見せてきた本番での弱さがどうか。G2レースで見せるような強さがあれば、自ずと勝利は近付いて来ると思う。
 あと▲と△は非常に迷った。香港だったらスンナリ決まってたんだけど、ここは中山だし。ただ、強引かもしれないけど、エイシンプレストンの“G1を勝っている”という事実を重く見た。言ってみれば、漠然とした格の差だね。まぁ、後は野となれ山となれ、だね」
珠美:「私は博士の考えと少し違って、若干先行・好位グループが有利かなと思って、あとはそれに実績を重視したファクターを加味して結論を出しました
駒木:「それじゃ、最後に馬券の買い目だね。僕は1、16、6の3頭BOX&3連複。△以下の馬も狙いたいけど、ジッと我慢する。当たればデカイね。僕の買い方だと、ダブルで的中したら年間トータルプラスはほぼ確定的になるから、当てたいけれどね」
珠美:「私は1-6、1-14、6-14、1-16、1-10、1-8の6点としておきます」
駒木:「それじゃ、駆け足になっちゃったけど、これで終了だね。後は神のみぞ知る…だ」
珠美:「そうですね。騎手の皆さんとお馬さんに頑張ってもらいましょう!」
駒木:「では、講義を終わります。ご苦労様」


天皇賞 結果(5着まで)
1着 シンボリクリスエス
2着 ナリタトップロード
3着 17 サンライズペガサス
4着 14 エアシャカール
5着 13 トーホウシデン

 ※駒木博士の“戦い済んで……”
 印だけなら×−◎的中だけど、まぁ仕方ない。これまでのG1レース3つで買い目抑えた分だけ負け額も減ってるし、これで“行って来い”と思わなくちゃね。
 今回は、ある程度実力の拮抗した有力馬が揃った時は、細かい能力差とか全体の展開よりも、自分のケイバが出来るかどうかに懸かって来るもんだと痛感。ダンツフレームもエイシンプレストンも道中で後手踏んだら、あっけなくノーチャンスになってしまったし……。
 そういう意味では、結構苦しいレース運びだったナリタトップロードが2着に喰い込んでるって事は、やっぱりこの馬、ここに入ると一枚上なんだろうね。
 勝ったシンボリクリスエスに関しては、“エアダブリン2世”という失礼な表現を撤回しないといけないかな。ただ、今回は先に抜け出せたというポイントがあったので、真の評価は次走だね。

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 6点目ですけど、的中は的中です。素直に嬉しいですねー♪ でもまだ、先週の損害補填にはまだまだなんですけどね(苦笑)。
 あーでも、心臓に悪いレースでしたー(笑)。

 


 

10月25日(金) 特別企画
仁経大校内FMラジオ放送採録
「珠美と順子のミッドナイトムーンライト」(第1回)

 
 ◆オープニングテーマ:『something new』(Swinging Popsicle/アルバム「Fennec !!」より)
※権利上の問題で、採録では歌の部分がカットされています。ご了承ください。

ナレーション(珠美)「『珠美と順子のミッドナイトムーンライト』。この番組は、あなたのウェブ生活をサポートする、ANSI(アスカ・ネットワーク・サービス)の提供でお送りします」


珠美:「夜遅く、キャンパス内でお仕事中、お勉強中の皆さんこんばんは。今日から始まりました、真夜中の校内FM放送『ミッドナイト・ムーンライト』、パーソナリティの栗藤珠美です」
順子:「こんばんは〜、一色順子で〜す。……それにしても、始まっちゃいましたね〜、珠美先輩」
珠美:「始まっちゃったねー。私たちがラジオのパーソナリティなんて考えもしなかったけれど…」
順子:「でも、始まるのは良いんですけど、『聴いてる人、いるの?』って感じなんですけど(笑)。だってこれ、校内放送なのに深夜放送なんですよ(笑)。どう考えても無茶でしょ、夜の11時から校内放送っていうのは!」
珠美:「ごめんねー。ほら、だって私、昼間は寝てるからー(苦笑)」
順子:「そんなこと言っても、私たちを知らない人には何が何だかサッパリ分かりませんよ(笑)。……そう言えば、わたしたち、自己紹介もまだですよ。すっかり舞い上がっちゃってシロウト丸出しですよ〜(苦笑)」
珠美:「そうね(苦笑)。えーと、私たちは普段、社会学部インターネット通信課程のアシスタントをしています。私が卒業生で駒木研究室助手の栗藤珠美で、」
順子:「私がアルバイトで社会学部1回生の一色順子です。そこで私が火・水曜、珠美先輩がそれ以外の5日間、神戸の須磨にある、講師の駒木ハヤト博士の研究室で働いてるんですけど……」
珠美:「ハイ。ここの勤務シフトが、駒木博士の都合で毎日夜勤になってるんで、私は昼間寝ているんですよー…っていうことを言いたかったんです(笑)」
順子:「私たちについてもっと詳しい事を知りたい人は、今すぐ近くのインターネットが繋がっているパソコンで、http://dr.komagi.comにアクセスしてくださいね。“ドクター駒木ドットコム”です。そこに私たちのプロフィールが載ってます」
珠美:「なぜか身長と体重まで載っているという(笑)」
順子:「そうなんですよね〜。プロフィールに身長・体重載せるからって聴いた時はビックリしましたよ〜。それでも『仕方ないな〜』って思って正直に答えて、後から珠美先輩のプロフィールを見たら、身長・体重に“(自称)”って付いてて、またビックリしましたよ(笑)。なんだ、正直に答えなくても良かったんだ〜って思って……」
珠美:「え、あ、いや、あれは自称じゃなくて正直に答えてるの! それを勝手に博士が“自称”って付けたのよ、ホントに!」
順子:「え〜、でもそれは、わたしも博士を支持しますけどね〜(笑)。どう考えても体重39キロっていうのはサバ読……」

珠美:「この番組では、リスナーの皆さんからのメールを募集しています!

順子:「あ、あの……?」
珠美:「この時間帯に果たして本当にリスナーがいらっしゃるのかどうか確かめる意味も含めて、今からメールを募集します。まだ放送に不慣れな私たちを助ける意味でも、どうか皆さんからの暖かいお便りが欲しいな♪ …と思っています。私たちへの激励、質問、ご相談、何でも結構です。お気軽にどうぞ」
順子:「た、珠美先輩……」
珠美:「もしよろしければ、今いらっしゃるお部屋の電話の内線番号も書き添えて下さいね。ひょっとしたら、私たちと電話でお話できるかも知れませんよ♪
 メールアドレスはhayatokomagi@hkg.odn.ne.jpまでどうぞ。インターネット通信過程のウェブサイト・『駒木博士の社会学講座』にある、『博士直通メール』からも投稿できますが、駒木研究室と共通のメールアドレスなので、タイトルに必ず『ミッドナイトムーンライト』宛であることを明記してくださいね。お待ちしてます♪」

順子:「…珠美先輩、使わないはずの台本読んで、ごまかしましたね?」
珠美:「ね、順子ちゃん、メール欲しいよね?」
順子:「…怖いわ〜、この人。これじゃ駒木博士も大変……」
珠美:「どうしたのかな、順子ちゃん? あんまり訳の分からないこと言ってると、リスナーの皆さんが混乱しちゃうわよ?」
順子:「あ〜、欲しいで〜す、どんどん送って下さ〜い。お待ちしてま〜す(棒読み)」
珠美:「それではここで1曲お送りしましょう。私たちの上司で、この後、電話でゲスト参加していただく予定の駒木ハヤト博士からのリクエストです。
 ……博士からのメッセージによると、『少なくとも題名は珠美ちゃんにピッタリです。“は”の字にアクセントをつけて読んで下さい』…という曲、椎名林檎さんの…ま、『真夜中は純潔』…って、何ですかこれー!」

順子:「(爆笑) さすが博士。ズバリじゃないですか(笑)。まるで、こういう流れになることを予測してたかのような(笑)。
 …それでは曲の間からメールを受け付けますので、どうぞよろしく。椎名林檎さんで『真夜中
純潔』です」
珠美:「…信じられない」


 ◆1曲目:『真夜中は純潔』(椎名林檎/シングル「真夜中は純潔」より)


順子:「……というわけで、ホントならここで『お便りのコーナー』なんですけど、今日は1回目ですから、用意してるメールが無いんですよね〜。だから今日はメールが届くまで、引き続きフリートークです」
珠美:「話題をガラっと変えてお送りしますね!」
順子:「曲の間に、ドトールのミルクレープ・セットで買収されちゃいました(笑)。だから話題を変えますね(笑)。
 ……で、さっき私たち、『インターネット通信課程は毎日夜勤』って言ったじゃないですか」

珠美:「ありがとう。本当に変えてくれたのね(笑)。
 ……そうそう。講師の駒木博士が昼間に高校で講師のお仕事をしてることと、“テレホーダイ時間”に合わせるという意味で、駒木研究室は毎日夜中に仕事をするんです」

順子:「これも初めて聞いたときはビックリしました。だって“逆9時5時”ですもんね。21時から5時の8時間勤務」
珠美:「大体1年前に、インターネット通信課程を始めることになって、その時に私の勤務時間を決めたのね。でも、大学でも前例がないことだったから、大変だった記憶があるかな。だって、通勤の都合もあるじゃない? ほら、私は電車で通ってるから。博士はご自宅がすぐ近くだから良いんだけど……」
順子:「珠美先輩は、下手に早く仕事が終わっても帰れない(笑)」
珠美:「そう(苦笑)。夜中の12時過ぎたら朝まで電車が無いのよ。まるで陸上の孤島ね(笑)。…だから、始発に乗れるだろうっていう5時を退勤時刻にして、そこから逆算して8時間ということになったのね」
順子:「なるほど〜。そういうことだったんですね。
 ……でも、そんな生活じゃ、何かと不便じゃないんですか? 完全に昼夜逆転じゃないですか。わたしは週2日だし、学生だから何とかなりますけど…」

珠美:「ん〜、でも意外と何とかなるものよ。順子ちゃんが来てからは週2日お休みがもらえるようになったし」
順子:「え〜、でもどんな生活してるのか知りたいですー。前からちょっと気になってたんですけど……」
珠美:「そんな、人前で話すことじゃないと思うんだけど(笑)」
順子:「まず、朝早くに仕事が終わりますよね。お家に帰るのが6時半ごろですか?」
珠美:「残業が無ければそんなところね。でも、ご飯は研究室で食べてしまってるんで、部屋に帰ったらシャワー浴びて寝るだけ。だから7時台には就寝ね。それからお昼過ぎに起きて、軽く食事してしまうと、それから夜の9時までは自由時間だから、普通に何でも出来ちゃうかな。少し無理すれば12時ごろから動き回れるし」
順子:「あ〜、ホントですね。意外と規則正しい感じです」
珠美:「でしょ? それで出勤前にしっかり目の食事を摂って、夜食用に簡単なお弁当とかを用意して。家にいる時は出勤前にお風呂に入って気合を入れて、それからお仕事ね。
 …お休みの日は、火曜日は1日中家で寝て過ごして(笑)、水曜日は朝から夜まで1日中起きて園田競馬行ったりして過ごしてるかな」

順子:「園田競馬行ったりって(笑)。普通そこは『カレとデート』とか言いませんか?」
珠美:「そういう人がいる時は、2人で園田競馬場(笑)。そういう人、もうずっといないけどねー(苦笑)。なかなか良い出会いが無くて」
順子:「ん〜、なんとなく判る気がします(苦笑)」
珠美:「判らなくて良いんだけど(苦笑)。仁経大の学生の頃は、周りがそんな人ばっかりだから良かったんだけど、卒業した途端にパッタリといなくなっちゃったのよね。みんな、卒業したら普通の社会人になっちゃって」
順子:「でも、社会人になってからも園田競馬に通ってる人だと、趣味が合っても別の意味で大変じゃないですか?(笑) それは普通に考えると仕事してないって事ですから(笑)」
珠美:「よく考えたらねー(苦笑)。あー、でももういいの。私は長期戦で考えてるから(笑)。
 ……じゃあ1曲聴いて気分転換しましょう。川本真琴さんで『愛の才能』アルバムバージョン……才能、私も欲しいなぁ(苦笑)」

順子:「(笑)」


◆2曲目:『愛の才能』(川本真琴/アルバム「川本真琴」より)


順子:「珠美先輩、珠美先輩、曲の間に、ホントにメールが来ましたよ。凄いですね〜」
珠美:「あ、ホントだー。…ありがとうございますー」
順子:「良かったですね、ホントに聴いてくれている人がいて(笑)。
 ……えーと、メールを送ってくれたのは、経済学部3回生の匿名希望さんです。男の方ですね。

 『珠美さん、順子さん、こんばんは。今日はレポートを仕上げるためにゼミ室で徹夜しています。ラジオをチューニングしていたら偶然、エアチェックできたんでビックリしました。
 実はいつもインターネット通信課程の方も受講させてもらっています。今日はお2人の声を聴くことが出来て感激です。これからも頑張ってください。
 追伸:珠美さん、菊花賞の結果はショックでしたね。天皇賞は頑張って財布の中身を補充して下さい』

 ……本当に受講生の方ですね(笑)。珠美先輩の財布の中身まで知ってるとは、なんて熱心な(笑)」
珠美:「(苦笑)。もぅねー、ホントに大変なのよ、今」
順子:「財布の中身がですか?」
珠美:「そう。来月15日のお給料日までもう大変(苦笑)。
 …このラジオが流れてるのは仁経大だから、間違いなく競馬の話が通じると思うけど、あの日は武豊騎手が絶好調だったのね。ま、1着の回数が5着以下の回数より多い人だから、いつも絶好調って言えばそうなんだけど、その日は特に凄くて」

順子:「武豊騎手って、珠美先輩、理想の男性像に挙げてましたよね(笑)」
珠美:「そう(照笑)。ま、全部武豊騎手から馬券を買っているわけじゃないんだけれど、その日は朝からずーっと武豊騎手が乗っていた馬が2着以内に入ってたのね。だから、私もずっと追いかけていたの。そうしたらどんどん馬券が当たって。万馬券はさすがに無理だったんだけど、24倍の馬券が当たったりとかして絶好調だったのよ」
順子:「うわ〜凄い!」
珠美:「その流れで菊花賞よ。武豊騎手が乗るのが、1番人気のノーリーズン。ここまで来たら『ここは勝負に行っちゃえ!』って、思うじゃない?」
順子:「うん、うん」
珠美:「で、儲けた分も、元々財布にあった分もまとめて券売機に…」
順子:「うわ〜」
珠美:「そうしたら、ゲートが開いて5秒もしない内に、武豊騎手がノーリーズンから落馬しちゃって……」
順子:「馬券が紙くず、ですか?(苦笑)」
珠美:「気がスゥーっと遠くなったかな(苦笑)。一瞬、亡くなったお婆ちゃんの顔が浮かんだ気がしたわね」
順子:「(爆笑)」
珠美:「……匿名希望さん、ありがとうございます。でも、もう財布の中身を挽回するには手遅れかも知れません(苦笑)」
順子:「…それじゃ、またここで1曲お届けしましょう。曲の後には、今日の電話ゲスト・駒木ハヤト博士の登場です。
 曲はサッカーのW杯でお馴染みのこの曲、ポルノグラフティで、『MUGEN』。韓国戦の不正ジャッジを思い出しながらお聞き下さい(笑)」  


◆3曲目:『MUGEN』(ポルノグラフティ/シングル「MUGEN」より) 


順子:「…それでは、ここで電話ゲストをお呼びしたいと思います。私たちの上司であり、社会学部インターネット通信課程の専属講師・駒木ハヤト博士です。博士、こんばんは〜」
珠美:「こんばんは〜」
駒木:「もしもし、こんばんは〜。ちゃんとやってる? 駒木研究室からはラジオ聴けないんで、詳しい事がよく判らないんだけど……」
珠美:「ハイ、なんとか頑張ってますー」
順子:「博士の曲リクエストのメッセージ、お見事でした〜(笑)」
駒木:「ハハハ。やっぱり、そういう展開になった?」
順子:「は〜い、なりました〜(笑)」
珠美:「なりましたー、じゃないでしょ! まったくもー」
駒木:「まぁ、珠美ちゃんも22歳になったんだから、そろそろ大人の対応を覚えないといけないよね」
珠美:「って言うか、27歳にもなって、あんなメッセージを書いて送ってくる博士に言われたくありませんけど。
 ……それより、本題というか、ご用件があるんですよね? ちょっと“巻き”が入ってますし、早速お願いしたいんですが……」

駒木:「あー、はいはい。……ええとね、今日は、来る11月30日と12月1日に開催予定の、インターネット通信課程開設1周年記念イベントの告知をするために、こうして出させてもらいました。
 まだイベントの正式名称は決まってないんですが、内容は決定しています。まず、この1年間ゼミで採り上げたマンガ作品を表彰する、『仁川経済大学コミックアワード』の発表が1つ。そして、もう1つが、この『ミッドナイトムーンライト』の公開生放送
珠美順子「エー!!」
駒木:「あれ、言ってなかったっけ?」
順子:「聞いてないですよ〜」
珠美:「初耳です」
駒木:「じゃあ、コスプレしてもらう事も聞いてない?」
珠美:「こ、コスプレですか?」
順子:「耳とか猫手袋とかして『にょ』とか言うんですか?」
駒木:「あー、コスプレはしてもらうけど、それじゃない(笑)。まぁ、分かる人にだけ分かってもらうとすると、珠美ちゃんには『あなたを、犯人です』とか言ってもらう事になるかな(笑)」
珠美:「……?」
順子:「で、私はホウキか何か持って、ずっと笑ってなきゃいけないんですか(笑)」
駒木:「鋭いけど、そこはまだ未定。まぁ、これはイベントの時のお楽しみだね。
 他にも、来場してくれた皆さんにはプレミアムグッズをお配りする計画もあるので、是非当日はお誘い合わせの上、ウェブサイトにアクセスして下さい」
珠美:「私たちも色々やらされるみたいですけど、楽しいイベントになりそうですね。ラジオをお聴きの皆さんも、どうぞよろしくお願いしますね。
 ……これで一応、博士の出番は終了したんですが……」

順子:「……え〜と、この後にあるもう1つのコーナーに、駒木博士にも参加してもらいたいんですけど、いいですか?」
駒木:「はいはい。構わないよー」
順子:「それじゃあ、いきましょう。『トゥー・コールド(too cold)』のコーナー!」(BGM:「ドラゴンクエスト」の竜王変身登場テーマ)
珠美:「このコーナーは、リスナーの皆さんから寄せられた、日常に潜む、思わず鳥肌の立つような寒〜い会話を紹介するコーナーですが…」
順子:「今日はまだ投稿が来てないので、駒木博士にネタの見本を聞かせてもらおうと思います。実は博士には前もって、いくつかの見本を作ってもらってました。さっきのやりとりが白々しかったのはそのためです(笑)」
珠美:「それじゃ、時間も押してますので早速、1本目をお願いできますか?」
駒木:「はいはい。とりあえず、『寒い会話を』って言われたんで、用意したんだけどね。これは僕の知り合いが、高校生の時、憧れだった女の子との初デートの時にやっちゃった実話です」

:「あのな、ちょっと聞きたい事あるんやけど……」
:「何?」
:「えーとな、答えにくい質問かも知れんけど、出来たら答えて欲しいねん」
:「んー、何かなー?」

:「お前、まだバージンか?」

珠美:「博士……(溜息)」
駒木:「……あれ? 寒い会話でしょ、コレ?」
順子:「寒いって言うか…、まぁ確かに寒いんですけど、寒いというより最低なんですけど、コレ。実話って言うのが特にイタいです」
駒木:「う〜ん、ひょっとして、もっと笑えるヤツとか、そういうのがご希望?」
珠美:「ハイ、ご希望です」
駒木:「じゃあ、これも実話。僕がまだ20歳手前で塾の新人講師だった頃にあった会話

生徒(♀):「ねー、駒木先生」
駒木:「何?」

生徒(♀):「先生って、SMAPの香取慎吾に似てるよね」

珠美順子「え〜〜〜〜〜〜〜?」
駒木:「な、なんだよー、自分で言ったわけじゃないんだからさー。それに『寒い会話』だろ? 自分で寒いって言ってるから良いじゃないかー」
順子:「だから笑えないんですって、博士のネタは!」
珠美:「博士、今すぐ謝ってください、い・ま・す・ぐ、ご本人と全国中のファンの皆さんに謝ってください!」
順子:「ほら、早く!」
駒木:「どうしてここまで部下に言われなきゃいけないんだよ……。
 えーと、申し訳有りませんでした。謹んでお詫びし、発言を撤回させて頂きます。これでいい?」
順子:「私たちが求めてるのは、そういうシビアなのとか、シュールなのじゃなくて……まぁ、それでも良いんですけど、もっと素直に笑えるものの方が良いかなって……」
駒木:「ひょっとして、嘉門達夫のネタみたいなの? 例えば…」

:「誕生日おめでとう。これ、プレゼント」
:「うわー、ありがとう♪ 今すぐ開けていい?」
:「いいよ」
:「(ガサゴソ)……うわぁ、高そうな口紅ー。本当に貰っていいの? 何かお返ししなきゃ…」

:「いや、少しずつ、(口紅を)返してもらったらいいからね……」

駒木:「…こういうの?」
珠美:「こういうのです(笑)」
順子:「初めからこれを例に出せば良かったんですね。博士に頼ったのが間違いでした」
駒木:「酷い言われようだなあ……」
珠美:「ま、そういうわけで、こういう『寒〜い会話』をどんどん送ってくださいね。メールの宛先は、さっきお知らせしたメールアドレスと同じです。タイトルに『寒〜い話』と書いて下さいね」
順子:「それじゃあ博士、ありがとうございました」
駒木:「はいはい。お役に立てなくてごめんね」
珠美:「いえいえ(苦笑)。ありがとうございました。
 ……それでは、またここで1曲聴いていただきます。少し懐かしいナンバーから、奥居香さんで『ハッピーマン』です」


◆4曲目:『ハッピーマン』(奥居香/シングル「ハッピーマン」より) 


珠美:「…というところで、そろそろお別れの時間になりました。何だか今日はずっとドタバタしてばかりでしたね。申し訳有りませんでした」
順子:「これからも頑張りますので、また聴いてくださいね。メールもよろしくお願いします」
珠美:「それでは、また近い内にお会いしましょう。お相手は栗藤珠美と」
順子:「一色順子でした。それではまた〜」


◆エンディングテーマ:『風がそよぐ場所』(小松未歩/シングル「風がそよぐ場所」より)

ナレーション(珠美)「『珠美と順子のミッドナイトムーンライト』。この番組は、あなたのウェブ生活をサポートする、ANSI(アスカ・ネットワーク・サービス)の提供でお送りしました」


※番組からのお知らせ:公開生放送に際して、インターネット通信課程の受講生の皆さんからもメールを募集します。駒木研究室のメンバーに質問したい事やメッセージなどは『お便りのコーナー』、寒い会話のネタは『トゥーコールドのコーナー』または『寒い話』とタイトルに明記して、送ってください。匿名で結構ですので、よろしくお願いします。ただし、全てのメールを紹介できるわけではありませんので、あらかじめご了承ください。

 


 

10月24日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第4週分)

 今週もレビュー対象作が少なくて、ゼミを構成するのにも四苦八苦です(苦笑)。最近の「ジャンプ」は、一時期に比べて連載作品の入れ替えも代原の掲載も減ってますから、どうしてもこういう事になってしまいますね。
 特に来週は、もし代原が無ければレビュー対象作がゼロという事態に……。まぁいざとなったら、「サンデー」の増刊辺りから有望な新人作家さんの作品を発掘してみようか…とか、色々考えてはいますが。

 ──それでは、本題に移りましょう。まずは情報系の話題からですが、今日は1点だけ

 この社会学講座では既にお馴染み、「週刊コミックバンチ」系のコンペテイション・イベントである「世界漫画愛読者大賞」の、今年度分の応募総数が発表になりましたので、お伝えしておきましょう。
 今回は募集期間を1年とし(前回は半年)、応募作品を増やす事で作品レヴェルの底上げを図ったわけですが、いざ蓋を開けてみると応募総数は117作品ということに。何と前回(215作品)の約半数強に留まってしまいました。
 この117作品の中から、グランプリ候補作の10作品(最低賞金100万円)と佳作16作品(賞金50万円)が出るわけで、恐らくこの手の漫画賞としては空前絶後の低競争率という事になりそうです。
 「世界漫画愛読者大賞」は、完成原稿以外に3話分のネームを用意しなくてはいけないので、敷居が高い賞であると言えばそうなんですが、それにしてもこの応募の少なさはどうでしょうか。よほど第1回受賞組の不振が嫌気されてるんでしょうねぇ。「連載1年保証」と言っても、人気が芳しくなければ強制休載で飼い殺しにされるって事が『エンカウンター』の不振で露呈されてしまいましたし……。
 「バンチ」には、「応募数は減ったが、第1回がハイレヴェルだった影響を受けてレヴェルそのものは上がっている」…という旨の、支持率の低い総理大臣がやる所信表明演説並に苦しい弁明をしてましたが、恐らく舞台裏では悲鳴が上がっていることと思います(笑)。
 とまぁこんな状態で、果たしてマトモな漫画賞になるかどうかは激しく疑問なのですが(前回も“マンガ人生敗者復活戦”の様相でしたし)、当ゼミでは第2回も全作品レビューをする方向で考慮中です。候補の10作品中、せめて1作品だけでも素晴らしい作品が出て来る事を今から祈っておきたいと思います。

 それではレビューと“チェックポイント”に移りましょう。今週のレビューは、「ジャンプ」から第3回の後追いレビューを1本お送りします。チェックポイントと併せてどうぞ。
 レビュー中の7段階評価の表はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年47号☆

 ◎新連載第3回『Ultra Red』作画:鈴木央《第1回掲載時の評価:B+

 第1回掲載時に“構成などは水準以上だが、ストーリーそのものがベタ過ぎる”というコメントをさせてもらったんですが、この第3回を読み終わった後に抱く感想もこれと同じです。
 格闘シーンや主人公のバックボーン作りなどは、反則スレスレながらも“マンガの文法”を守っているために、不快感は感じられません。話のテンポも間延びしていませんし、鈴木さんのこの作品に対する真摯な気持ちが窺えます。
 しかし、これらのポイントを加味した上でも、ストーリーにオリジナリティが無いですし、展開が単純過ぎます。何しろ、のべつまくなしに敵が現れては、主人公がそれを倒してゆくだけなのですから、話もクソもあったもんじゃありません。言い方は悪いですが、エロマンガのエロを格闘に挿げ替えて作った格闘マンガみたいな感じになってしまっています。

 そして何よりも問題なのは、第3回に至っても、この作品の根底にあるテーマが見えて来ないというところです。
 果たして主人公の最終目的は何なのか。そしてその目的を達成するための第一歩となるものは何か。これが全く読者に提示されていないため、余計に散漫な印象を与えてしまうのです。
 長期連載を経験した事のある作家さんが、このパターンにハマってしまったのは大変意外なのですが、このまま行ってしまうと間違いなく、人気下降→短期打ち切り…というケースになってしまいますので、早急な改善が望まれるところです。(というか第3回までで判断されるとすれば、もう手遅れなのですが)

 評価は前回のB+から、B−寄りに大幅ダウンとさせて頂きます。
 しかし、秋の新連載2本が2本とも低評価というのは少し寂しい話ですよね。どちらか1作品でも大化けしてくれば良いんですが……。


 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『こちら葛飾区亀有公園前派出所』作画:秋元治《開講前に連載開始のため、評価未了》

 久しぶりに『こち亀』らしい『こち亀』を見たような気がします。5年位前までは、毎週こんなノリだったはずなんですけどねぇ。
 しかし、安い寿司に群がる褐色の肌をした外国人たちって、これ表現的にセーフなんでしょうか? まぁ、一応、「日焼けですから」で誤魔化せる範囲だと思いますけれども、ちと軽率な感がありますね。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希《第3回掲載時の評価:

 作品そのものは評価を上げるほど“大化け”してないんですが、ヒロイン1号の西野つかさが大化けしましたなぁ(笑)。多分、今週でヤラれてしまった男子の数は数万人じゃ利かないような気がしますが。あ、駒木も含めて(笑)。
 こういうヤンチャなキャラのヒロインが健気(けなげ)になると、破壊力ありますなぁ。これが100%計算だったら凄いですが、果たしてどうでしょうか。

 ◎『プリティフェイス』作画:叶恭弘《第3回掲載時の評価:B+

 何だか回を追うごとに乱堂(由奈)が、“女の子に化けた男”から、“男の心を持ち合わせた女の子”に変わっていってる気がするんですが(笑)。ていうか乱堂、女言葉使いこなし過ぎ(笑)。
 作者の叶さんも予想外の長期連載モードになってますが、果たしてどういう結末にするんでしょう? ひょっとしたら、打ち切りが決まった時点でいつでも完結に向かっていけるようにストーリーを準備してるのかも知れませんが……。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年47号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『金色のガッシュ !!』作画:雷句誠《開講前に連載開始のため、評価未了》

 相変わらず笑わせてくれます、フォルゴレ&キャンチョメ編自信を持ってケツ丸出し出来るのが素晴らしい!
 …ただ、このコンビの話の場合、下手にお涙頂戴系の感動話に持っていくよりも、素直に笑わせることに専念した方が良いんじゃないか…とも思います。 

 ◎『うえきの法則』作画:福地翼《開講前に連載開始のため、評価未了》 

 植木がビーズ爆弾に向かって突っ込んでゆくシーン、これは渾身の名シーンではあるんですが、出来ればこのシーンで終わって「次回へ続く」が良かったですね。惜しい場面でした。

 ◎『旋風の橘』作画:猪熊しのぶ《第3回掲載時の評価:

 詳しく内容を語ると酷い言葉しか出て来ませんので、一言だけ。

 オイ、テコ入れするにもやり方ってモンがあるやろ!

 政治の世界で、自民党の中でダイナミックな首相交代をする事を“擬似政権交代”とか言いますが、この作品は“擬似打ち切り”ですねぇ。曲がりなりにもここまで10か月積み上げて来た全てが、今週で台無しです。こんな事で良いのかなぁ……。

 あ、結局色々喋っちゃいましたね(笑)。

 
 ……さて、今週のゼミはここまでなんですが、ここで1つお知らせを。
 当社会学講座では、来月の末で開講1周年を迎えるにあたり、記念行事を実施する予定です。
 で、その行事の一環として、このゼミの1年分の総まとめ的企画をやろうと思っています。その名も、

「第1回 仁川経済大学コミックアワード」

 ……この1年間のレビュー対象作の中から優秀な作品などを選んで、(勝手に)表彰させて頂く…というわけです。
 まぁ、他のマンガ専門ウェブサイトさんに比べると、当ゼミの守備範囲は狭いも良い所なんで、恐らくは日本で最も権威も格式も歴史も価値も無いマンガ賞になる事は確実なんですが、とにかく“やったモン勝ち”でやってみようと、そう思っています。
 一応、今のところ考えている賞は、“仁川経済大学賞(グランプリ)“「ジャンプ」・「サンデー」コミック大賞”“最優秀新人作家賞(初連載作品、又は連載未経験作家の読み切り作品を描いた作家さんが対象)、そして裏グランプリこと“ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)…などです。また、詳しいシステムなどが決まり次第、このゼミでお知らせしたいと思っています。どうぞ、ご期待下さい。

 それでは、今週のゼミを終わります。また来週をお楽しみに。

 


 

10月23日(水) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(16)
第2章:オリエント(10)〜
シリアとパレスティナ《続》

※過去の講義のレジュメはこちら
第1回第2回第3回第4回(以上第1章)/第5回第6回(以上インターミッション1)/第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回第14回第15回


 今回は、前回時間オーバーでお話しきれなかった古代イスラエル王国の歴史の続きをお送りします。

 
 紀元前930年頃、約30年の治世を終えて世を去ったソロモン王の後を子が継いでからは、イスラエル王国の政情は急速に安定を失って、わずか5年後には南北に分裂してしまいます。以後、北部をイスラエル王国、南部をユダ王国と呼びます。
 この分裂劇のそもそもの原因は、ソロモンの治世に課せられた重税に対する民衆の不満が爆発した事でありました。ソロモンの時代に耐えられた事が耐えられなくなったという事は、恐らく新王には人望が欠如していたようであります。ソロモンは政治的には凡庸ながらも人柄だけは優れていたようでありますが、子供には人柄さえも遺伝しなかったのでしょう。

 そんな分裂後のイスラエル・ユダ両王国は、政変が繰り返されて次々と王朝が交代したイスラエルと、ダヴィデの子孫によって比較的安定した政権が維持されたユダとで対照的な歴史を歩んで行きます。
 特にこの頃のイスラエルの混乱振りは目も当てられない程でありました。王室の内輪揉め、フェニキアから嫁いだ后が持ち込んだ宗教とパレスティナ土着の宗教との対立、軍隊による国王暗殺など、国家が傾くような出来事がのべつまくなしに発生している印象さえあります。酷い時には7日で滅んだ王朝もあったそうですから、現代のアフガンやカンボジアも真っ青といったところでありましょう。
 そして、そんな当時のメソポタミアは食うか食われるかの戦国の世。国内の統治すらままならないダメ国家がいつまでも存在出来るわけがありません紀元前722年、この頃ダムを突き破った大洪水のように猛烈な勢いで侵略戦争を繰り広げていたアッシリアが、遂にイスラエル王国をその毒牙にかけてしまいました
 このアッシリアは、征服した土地の民族の一部を本国へ強制移住を課し、替わりに本国からアッシリア人を植民させるという政策を採っていたため、イスラエルは国だけでなく民族丸ごと蹂躙されるという屈辱を味わう事になりました。
 実はこの時の強制移住と植民が、やがてキリスト教成立の際に深く関わる事になりますので、頭の片隅にでも置いていただけると幸いであります。

 さて一方のユダ王国は、イスラエル王国が滅亡し、更に南へと迫り来るアッシリアのプレッシャーを感じつつも、しばしの安泰を謳歌していました。
 が、紀元前7世紀終期にアッシリアが滅び、代わってエジプトやバビロニアに誕生したカルデア王国がユダ王国に激しく詰め寄ると、さしもの王国も急速に衰え始めます。それから間もなくしてダヴィデ王以来の首都・イェルサレムがカルデア軍によって陥落し、ユダ王国も遂に滅亡します(紀元前586年)。
 そして征服されたユダの人々(=ユダヤ人)は、140年前のイスラエル王国民と同じように強制移住させられ、遠く離れたバビロンで民族ごとでまとまった生活を強いられます。これが有名な“バビロン捕囚”と呼ばれるものであります。

 そんな屈辱の日々の中で、バビロンで暮らすユダヤ人の間で1つの宗教が確立されます。それがあのユダヤ教であります。
 既にご存知のように、ヘブライ人にはモーセの時代から土着の信仰のようなものが存在していました。そして紀元前7世紀後半のヨシュア王の時代に、ヤハウェという神を信じる一神教が確立されてもいたのですが、それがこの時期に、「神に救われるのはユダヤ人だけである」という“選民思想”などの重要な教義が加わったのであります。強制移住と敵地・バビロンでの集団生活という特殊なシチュエーションが、民族の団結心と屈辱感を呼び起こし、それが民族独自の宗教に対する信仰心を強める方向へ昇華したのでありましょう。
 そんな悲劇の民・ユダヤ人も、数十年後にカルデアを滅ぼしたペルシアの王によって帰国を許され、その頃にはすっかり浸透したユダヤ教と共に故郷へと戻って行きます。間もなくして首都・イェルサレムは再建されて、そこにユダヤ教の神殿も建てられました。
 その後、紀元前5世紀頃にはユダヤ教の教典・旧約聖書も編纂され、ユダヤ人とその宗教はますます栄える事になるのですが、この繁栄もまた永遠ではありませんでした。彼らのその後の苦難の歴史については、また別に語る機会がある事でしょう。

 …さて、今日は短めですがここまで。次回は、これまでも度々名前が挙がっています、古代オリエントを代表する軍事超大国・アッシリア帝国についてお話をしたいと思います。(次回へ続く

 


 

10月21日(月) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(15)
第2章:オリエント(9)〜
シリアとパレスティナ

※過去の講義のレジュメはこちら
第1回第2回第3回第4回(以上第1章)/第5回第6回(以上インターミッション1)/第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回第14回

 
 前回はエジプトから舞台と時間を戻しまして、ハンムラビ王時代の後のメソポタミアについてお話をしましたが、今回はやや舞台を変えて、シリア、パレスティナ地方の大まかな地域史をお送りします。

 まず、この地方の古代史の担い手になった人々を紹介しますと、彼らはバビロニア王国を建てたアムル人と同じく、メソポタミアとアラビア砂漠の中間地帯からやって来たセム系の民族でありました。

 その中でも、アムル人に続くセム系民族の第2陣となったのがカナーン人と呼ばれる民族であり、更に彼らの内で、現在のレバノン周辺でいくつかの都市国家を建設した人々をまとめてフェニキア人と言います。
 彼らは紀元前2500年頃、つまりまだメソポタミアに領域国家が誕生していない頃からレバノンに住み着いていたようで、早い内から古代エジプト王朝と交流をしていたとの記録も残っています。どうやら隠れた“先進民族”だったようであります。

 フェニキアの人々は他の地域と異なり、最後まで統一国家を形成しませんでした。しかしそれでも、レバノンの各地それも海沿いに、シドン、ティルス、ウガリットなど多くの都市国家を建設し、大規模な海洋貿易や、イベリア半島や北アフリカ地方への植民活動で大きな実績を挙げていました。世界史上でもかなり早い時期に分類される海洋民族であります。
 そんな彼らが扱った貿易品目は多岐に渡り、当時は極めて貴重とされた染料や、高級木材であるレバノンスギが特に有名でありました。
 そして海洋貿易や植民活動を営む以上、フェニキア人は航海術も極めて発達していました。大変信じ難い話ですが、何とこの当時にアフリカ大陸を一周したという記録すら残っているのであります。
 …この“怪挙”に関しては紀元前5世紀の歴史家・ヘロドトスですら疑いを持っていたようです。が、その報告の中に、南半球では太陽が北中した…という、体験せねば絶対に思いつかないような貴重なレポートが記されており、皮肉な事にもこれが決め手となって、このアフリカ大陸一周は真実であると認定されています。
 それにしてもヴァスコ=ダ=ガマのインド航路開発から2000年以上前にこの偉業。古代人の才能の豊かさにはつくづく舌を巻いてしまいます。

 また、フェニキア人は独自の文字・フェニキア文字を持っていました。
 これは、古代エジプトの象形文字を簡素化したシナイ文字と呼ばれたものの改良バージョンで、22種類の文字からなるアルファベットの原型でありました。これに母音を追加されたものがギリシア文字となり、それが現行のアルファベット26文字へと発展してゆく事になります。つまり、現在使われている言語の多くはフェニキア文字をルーツとしているわけで、それを考えると我々はフェニキア人に足を向けて寝られないやら、「よくも受験勉強をヤヤコシくしてくれたな、この野郎!」とイチャモンをつけたいやら、複雑な心境に陥ってしまうものであります。

 フェニキアは統一国家を持っていませんでしたので、その歴史の終わりもかなり曖昧ではありますが、紀元前9世紀頃からアッシリア(この国に関しては次々回に述べます)の圧力を受けて衰退し、やがてペルシアなどの大国に吸収されてゆく事になります。しかし、この民族が建設した植民地はその後も繁栄を続け、これからも世界史に深く関わってくる事になります。


 さて、このフェニキア人の住んでいたエリアの東、現在のシリアがある地域には、同じくセム系のアラム人が都市国家群を形成していました。当時の都市国家で有名なものには、現在でもその名が残っているダマスクスなどが挙げられます。
 彼らもフェニキア人と同様に商業を盛んに行う民族でありましたが、内陸に住んでいた関係上、陸上貿易が中心だったようです。
 文字に関してもフェニキア人と同様に独自のアラム語アラム文字を持っていました。そしてこの言語は、陸上貿易の物産と共にメソポタミアからペルシア(イラン)方面へ広く流布し、紀元前6〜1世紀頃までこの地方の国際言語として大活躍しました。
 アラム人の都市国家は、これもやはりアッシリアの侵攻にさらされて、やがて滅亡の時を迎えますが、アラム民族はその後もメソポタミアの各地に散らばり、亡国の商業民族としてたくましく生き抜いていったようであります。何と言いますか、商売人の生命力の強さといったら、古代から現代まで変化が無いものでありますね。


 そしてこの時代・地方にまつわる歴史で一番最後に紹介するのが、パレスティナ地方に住んでいたヘブライ人──後のユダヤ人、現在のイスラエル人の祖先にあたる人々です。

 彼らのルーツもまた、セム系民族が原住地から北へと移動してきた人々なのですが、その構成はやや複雑になっています。
 まずベースとなるのは、フェニキア人と同系統のカナーン人です。実はカナーン人はレバノン(フェニキア)よりもこちらの方が“本場”で、長い間パレスティナ地方はそのものズバリ、“カナーン”と呼ばれていたようです。
 そしてそこへ、同じくセム系の民族の中でもエジプトに定住していた人々・ヘブライ族が、ある時期(紀元前1250年頃と推定)突然パレスティナへ逃れ、艱難辛苦の末に、当地のカナーン人と合流します。この出来事が旧約聖書で言うところの“出エジプト”、映画『十戒』でも有名な、預言者モーセに率いられた人々の逃避行の物語であります。

 このエピソードは非常に有名で、旧約聖書でも特に大きく扱われている出来事なのでありますが、歴史学の観点から見た場合、その実態は“非常に微妙”なモノであったと言わざるを得ません
 どうやら新王国エジプトの第18王朝(トトメス3世、アメンホテプ4世《アケナテン》、ツタンカーメンらの治世)から第19王朝(ラムセス2世らの治世)へ移行した際に、それまでエジプトに住んでいたヘブライ族への対応が非常に厳しいものとなり、その結果へブライ族がパレスティナへ移住をしたという事は確かなようです。
 しかし、モーセという人物の実在からして不明ですし、その“出エジプト”そのものの規模も、それほど大きなものではなかったのではないか…というのが妥当な“線”とのことであります。

 …と、何はともあれ、こうして2つの民族が合流して新しい民族が誕生しました。これがヘブライ人という事になります。
 ただし、当時のパレスティナにはヘブライ人の他にも色々な民族が存在していました。中でも、ヒッタイトを滅ぼした“海の民”の一派と思われるペリシテ人は、鉄の鋳造技術を身に付けていたこともあり、ヘブライ人にとっては宿敵でもあり、貴重な交易相手でもあったようです。
 余談ですが、さっきから頻繁に使用している“パレスティナ”という名称は、“ペリシテ人の土地”という意味であるそうです。それを考えると、全くペリシテ人と系統の違うアラブ民族が“パレスティナの解放”を求めているというのは、奇妙と言えば奇妙でありますね。ひょっとしたら“イスラエル(ヘブライ)に対抗する者”という意味で使用しているのかも分かりませんが……。

 こうして誕生したヘブライ人たちですが、始めの内は狭義の意味で言うところの国家を持たずに、士師という宗教指導者をリーダーとする緩やかな共同体だったようです。
 しかし紀元前11世紀後半、モーセの十戒を記した石板(とされるもの)を封印した“契約の箱”という神器をペリシテ人に強奪される事件(後に返却される)が発生し、この頃から民族全体を政治・軍事の両面から保護してくれるような王を待望する動きが高まります。指導者たちもこの動きを無視する事が出来ず、ほどなくして士師の推薦により王が擁立され、ヘブライ人による統一国家・イスラエル王国が成立します。(紀元前1020年)
 ところがこの時に擁立された王が“とんだ一杯食わせ者”。出来たばかりのイスラエルを私物化してしまったのでありました。
 と、ここで登場するのが、少なくとも名前だけは有名なダヴィデであります。伝承では牧人となっていますが、恐らくは有能な軍人で、大変な人気があったとされています。ダヴィデは始め、彼の人気を妬む王の魔手から逃れるために、ペリシテ人支配地へ亡命を強いられますが、やがて士師勢力を味方につけた上でクーデターを敢行イスラエル王国の2代目の王として君臨したのであります。

 ダヴィデは政治でも軍事でも有能な、まさに理想的な指導者で、結果的に彼の治世がイスラエル王国の全盛期に相当します。国内はまとまり、対外戦争により領土も拡大します。あのペリシテ人たちも、この頃にイスラエル王国へ吸収される事になります。また、後の聖地・イェルサレムが都に定められたのもこの頃です。 
 ただ、そんなダヴィデにも(悪い意味で)1つの醜聞が残っています。それは、とある軍人の妻に愛情を抱いてしまったダヴィデが、その軍人の上官に命じて、軍人を戦死が免れないような激しい戦闘に参加させて彼を死なせ、未亡人となった妻を自らのものとした…という話であります。伝承によると、この行為は神の怒りに触れ、やがて生まれた長子を神の力で死なせる羽目になった…ということであります。生々しい話ではありますが、どんな英雄も1人の人間である事を再確認させてくれる趣深いエピソードでもありますね。

 そのダヴィデは在位40年(紀元前1000〜960頃)で亡くなり、その後を次子・ソロモンが継ぎました。
 ソロモンは父・ダヴィデの遺産を引き継ぎ、まずまず無難な統治を行ったようであります。文献によると、戦車1400台、騎兵だけでも12000人と言う当時としては破格の軍事力を有していたとのことでありますから、当時の国力の豊かさが窺えます。
 しかし、だからといってソロモンが有能な王だったかと言えば、そうでもなかったようであります。極上の牛肉をソコソコ美味いステーキにすることくらい誰でも出来るのと同じで、彼は要するに親の遺産を食い潰しながら天寿を全うした幸せな人、という評価が妥当なようです。
 事実、ソロモンの没後、“遺産”を全て使い果たしたイスラエル王国の命運には俄かに暗雲がたちこめるようになってまいります

 ……予定の範囲までは進みませんでしたが、講義時間がオーバーしていますので今日はここまでとします。次回はイスラエル王国史の続きを述べます。(次回へ続く

 


 

10月20日(日) 伝統文化論
「江戸落語界出世事情」(2・最終回)

 前回のレジュメはこちらから。

 えーと、前回のレジュメを見直していて、我ながらその文面にトゲがあるように感じたんですが、よく考えたら落語家さんたちを全て敬称略にしちゃってたんですよね。
 本来なら“さん”付けするのが当講座のスタイルなんですが、どうも個人的に落語家さんの芸名に“さん”はそぐわないような気がするんですよね。実際、落語業界内では“さん”付けではなく、“師”や“兄(アニ)”付けですからね。
 でも、落語家さんたちに面識の無い駒木が“師匠”とか“兄さん”も無いでしょうから、どうしても呼び捨てにしかしようがないかな…と。なもんで受講される方は、講義中の落語家さんの名前には、無言の敬意が隠れてると思って聴いて下さると幸いです。

 
 ……さて、そんな前回は、相撲の花田ファミリーのそれと比べたら、同じ“桂”でも米朝小枝くらいスケールの違う海老名ファミリーの確執の話題から始まって、果てには東京落語界の出世事情についてのお話をしてまいりました。
 そして今回は、その話の流れから行き着いた話題である、落語家の出世について独自のハードルを設けている団体・落語立川流について述べてゆくことにましょう。

 前回に散々述べましたので重ねて詳しくは言いませんが、落語家の出世と言うのは原則的に年功序列であります。前座を3年から5年で2ツ目、2ツ目を10年前後務めれば、ほぼ漏れなく真打ちに出世出来ます。勿論、それまでにドロップアウトする例も少なからずありますが、少なくとも落語か漫談か世渡りのどれかが上手ければ、誰でも15年で最高位まで辿り着けるというわけです。

 しかし、実はかつて一時期、東京落語界の最大手団体・落語協会では“真打昇進試験”なる制度が実施されていた頃がありました。
 年功序列だけで真打ちを“粗製濫造”していては権威に関わるので、真打ち候補の2ツ目を連れて来て協会のお歴々の前で落語を一席演らせ、その出来で昇進を判断しよう…というものでありました。

 ところがこの試験、その第1回から合否の判定を巡って揉めに揉めます。
 といいますのもこの時、試験を受験した2ツ目10人中、8人合格して落ちたのは2人だったのでありますが、その2人が、合格した8人と違って各方面の演芸新人賞を受賞するなど、芸の腕前に定評があった2人だったのであります。これでは「何だよ、試験ったって、見てるのは芸じゃなくてソイツの世渡りかよ」…となるのが必定でありまして、このままスンナリと収まるはずがありません。(事実、この試験は第2回以降もスンナリと収まらず、結局今では制度ごと廃止されてしまっています)
 特にこの件で憤慨したのが、落選者の1人・立川談四楼の師匠である立川談志でありました。彼はこの事件の以前から、落語協会とその理事長であり彼の師匠でもある柳家小さんとの確執が囁かれていましたが、この件が最終的な契機となって、とうとう一門ごと協会を脱退、新団体の設立をしてしまいます。そして、この時生まれた団体が落語立川流であります。

 こうした経緯で生まれた新団体、しかも団体の長が“あの”立川談志でありますから、この落語立川流は、当然のごとく落語協会とはその趣を一線も二線も画した団体になりました。
 その特徴は色々と挙げられるのですが、中でもやはり特筆すべきものが、独自の昇進制度でありましょう。これは脱退→独立の理由が理由だけに当然と言えば当然でありますが……。

 さて、そんな立川流の出世・昇進制度は完全実力主義であります。他の団体のように「名実」の「名」が先行するのではなくて、「実」が備わってから「名」を与えよう…というシステムであります。これには勿論、落語協会に対する痛烈な皮肉が含まれているのは言うまでもありません。
 で、独立当初の昇進内規は、
 前座→2ツ目…古典落語50席マスター
 2ツ目→真打ち…古典落語100席マスター

 ……というものでありました。
 この制度において昇進を望む弟子は、その意志を家元(注:立川流は家元制なので、師匠である立川談志を“家元”と呼ぶ)に伝え、昇進基準をクリアしているかどうかの審査を受ける事になります。もっとも、「落語50席」とは言っても全ての噺を演じるわけではなく、50席リストアップした一覧表を家元に渡し、指示された何席かの噺を演じて判断を仰ぐことになるそうでありますが。

 ところで、やれ50席だ、やれ100席だ…などと聞きますと、我々一般人はギョッとしてしまいますが、実はこの基準自体は厳しすぎるといったものではありません
 所属団体に関わらず、前座は1ヶ月に1席の割合で噺のレパートリーを増やしていくよう努力するのが普通ですから、初めの3ヶ月は“噺家以前”と仮定しても、単純計算で4年半で条件はクリアとなります。これだと既存の団体と大して変わらないペースですし、事実、この基準だった頃の前座は皆さん4年以内(出世頭の立川志の輔に至っては1年9ヶ月)で2ツ目昇進を果たしています
 そして、真打ちの落語100席というのも“立派な”真打ちとしての標準的なレパートリー数であり、ごくごく真っ当な基準であったと言えましょう。

 しかし、重ねて言いますが、この団体の長は“あの”立川談志であります。ごくごく気まぐれに、いきなり無理難題を弟子に吹っかける事で有名なこの家元は、何かにつけて次々と前座から2ツ目への昇進基準を厳しくしてゆきます。
 まず昭和63年頃、新しい2ツ目(現在その方は真打ちになっていますが)が出囃子の太鼓が下手糞なのに憤慨し、まず“出囃子の太鼓・鳴り物”が基準に追加されました。
 それから平成に入りますと、「落語なんてのは、ただ喋ってるだけの芸じゃねぇ」…という家元の鶴の一声で、“音曲(小唄、端唄、都都逸など)、次いで“日本舞踊”、更には“講談の初歩(講談の初舞台用演目である『三方が原軍記』)までが、「本職みたいにキッチリとか、それほど大した事は要求してない。ただ、”らしく”できりゃ、まずはそれでいいんだ」という条件ながら、随時追加されてしまいました。
 結局、現在の昇進基準は以下のようになっております。

 前座→2ツ目…古典落語50席+出囃子の鳴り物+音曲+舞踊+講談の初歩
 ※談志一門の真打ちに弟子入りした前座に関しては、それぞれの師匠が決めた厳しい基準+家元の追認で2ツ目昇進。
 2ツ目→真打ち…2ツ目の昇進基準+古典落語100席+α(家元曰く、『落語100席演れて、唄って踊れて、独演会満員に出来りゃ文句はねぇよ』)

 …この昇進基準ハイパーインフレに驚き、恐れ、そして脱力していったのが当時の前座衆です。何しろ、日に日に条件が厳しくなってゆくわけですから、モチベーションも下がると言うものです。実際、新基準が採用されてからは2ツ目昇進が長らく途絶え、前座生活7年、8年という者も続出する有様でありました。
 それでも粘り強く基準達成を目指した弟子たちには、それなりの評価を与えるのが立川流の姿でありまして、新基準制定後にも、談志一門からは5人の2ツ目が誕生しております。中には先程述べましたように8年以上かかって昇進を果たした者もいて、その苦労が忍ばれます。
 ただ、この新基準と一連の出来事が「立川流の前座は長い間前座でいるのが当たり前」という風潮を生んでしまい、前座が何年経っても2ツ目に上がる努力を本腰入れてやらないようになり、やがて家元の逆鱗に触れる事になるのでありますが、これはまたすぐ後でじっくり触れる事にしたいと思います。

 ……と、ここまでお聴きになった方は、「なんだ、それでも一所懸命やってりゃあ、それほど理不尽な思いをするわけじゃないじゃないか。後でやる苦労を先払いしてるんだから丁度良い」…なんておっしゃられるかも知れませんが、それが一筋縄で行かないのが立川流なのであります。
 何しろ、重ね重ね言いますが、この立川流の総帥は“あの”立川談志、そう、余りに個性的な価値観を持ち、金にウルサい事は自他共大いに認めるところであり、尚かつ異様に気まぐれで、トドメには怒った時の気性の激しさたるや富士山の噴火に匹敵する…というあの御仁なのであります。
 そして、談志一門に入って落語家を志すという事は即ち、この大変な家元の弟子を1年365日休まず何年も何年も勤め上げるという事なわけで、ある意味こちらの方が落語や芸の稽古よりもずっと大変な所業となります。

 で、どのくらい大変なのかといえば、「前座が2ツ目になるまでの間に、大抵1度か2度は破門される」…というシャレにならないもの。
 普通、この業界の“破門”と言えば、1度目はあるが2度目は無いと言うほど厳しい処分でありまして、これが繰り返されると言うのは、常識から考えればとんでもない話であります。どのくらいとんでもないかを別の業界で喩えて表現するならば、
 「とある暴力団の組員が、組長の“片腕”になる頃には、ほとんどの者が本当に片腕になっている」
 …といったところでありましょうか。
 何と言いますか、ワビを入れるにも程があるというお話ではありますが、談志一門に入る者たるや、この辺りはもう織り込み済み。特にこの責苦から卒業を果たされた真打ちの方たちは、前座から「大変です師匠、破門されちゃいました!」と相談を受けても、
 「まぁいつもの事だ、頑張れや。じゃな!」
 …と、たった一言でオシマイであります。まぁ、それもキチンと家元の怒りを解く努力をすれば復帰が叶うという経験則から出た気楽なアドバイスなのではありますが、まぁそれくらい独特の世界というわけです。

 ではここで、最近2回の前座破門騒動がどんなものであるかをご紹介しておきましょう。ちなみに、後の方で紹介する分は現在進行形であります。

 まず1つ目は今から2年前に勃発した“上納金未納騒動”であります。

 これは先に落語立川流の独自システムである“上納金制度”を説明せねばなりませんね。
 立川流は、先に説明した通り家元制度を採用しておりまして、他の業界の家元制度と同様に、弟子入りした者は家元に上納金を支払います。今は倍増したとか言われていますが、この騒動が起こった当時では前座なら月1万円でありました。(注:希望する著名人に“立川流限定落語家免許”を与える、通称“Bコース”などはもっと高い)

 で、この額、他の稽古事に比べると安過ぎる位の額ではあります。が、これを実際に納めるのは、日本においてインドネシアかフィリピン並の所得基準を強いられている前座衆であります。彼らにとっての1万円とは、普通の人の10万円に等しい価値を持つ金でありまして、そうそう簡単に支払えるものではありません。
 で、どうなるかと言えば、払えないものは払えませんから滞納です。幸か不幸か、この騒動の直前まで家元が上納金の管理を他の関係者に一任し、その関係者が管理を放ったらかしにしていたために、前座衆は長年にわたって上納金を滞納し、「事実上廃止された制度」という認識で、のほほんとした日常を過ごしておりました。
 まぁ、5年も滞納して催促されなければそう思うのも当然でありますが、しかし、何度も何度も言いますが、立川流の家元は“あの”立川談志であります。彼の手にかかれば、自分の管理不行き届きを棚に上げ、
 「やい前座、5年間溜めた上納金、耳揃えて払え! 今すぐ払えないヤツは、遅延損害金含めて3倍付けで○○日までに払え! でなきゃ破門だ!」
 ……と言うことなど造作も無い事であります。
 そして実際に事はそのように運び、前座衆は帝国金融に追い込みをかけられた町工場の社長のように慌てふためきつつ、半泣きならぬ全泣きで金策に走る羽目になったのでありました。当然の事ながら、兄弟子たちは助けてくれません。逆に「テメェの師匠が金にウルサい事くらいちゃんと覚えとけ、このクズ!」と罵られる始末でありました。
 結局この騒動で、親からも女からも“むじんくん“からも上納金を引っ張って来れなかった3名が破門となり立川流から脱退しました。その内2人はコネを頼って、それぞれ芸術協会と円楽党へ鞍替え。もう1人は大道芸人をやりながら未納分132万円(!)を納めて復帰する道を選びました。

 ちなみに、その3人の中で円楽党に転身した落語家が、今年真打ちに昇進した三遊亭全楽前名:立川国士舘)であります。鞍替え再入門から2年での超スピード出世でありました。
 彼は円楽党に入ると同時に、立川流での長期間の修行を認められて2ツ目に昇進するという、プロボクシングで言うところの6回戦デビューを果たし、その際には三遊亭安楽という高座名を貰っています。ポックリ逝ったら“安楽死”だな、オイ」というシャレの利いた粋な名前であります。
 しかしいくら“8年年功”の円楽党とはいえ、節操の無さ過ぎるこの“昇格人事”に、業界中から冷たい視線が集まったのは言うまでもありません。通算キャリアから考えると、確かに円楽党の真打ちとしては十分なものなのですが、それにしたって…という話でありました。
 ただ、やはり一番恐縮していたのは本人で、これでも真打ち昇進を1年以上遅らせてもらったというのだからビックリであります。

 閑話休題。
 そして2つ目の騒動が、今年の5月に火が点き、未だに鎮火せず延焼中の「前座全員破門事件」、つまり先に採り上げた「立川流の前座は長い間前座でいるのが当たり前」という風潮に起因する騒動であります。

 この騒動の理由は極めて単純明快。弟子たちは「前座生活が長いのが当たり前」と思っていたが、師匠は「ンなもん、精進してとっとと2ツ目に昇進してみろ」と思っていたという、認識のギャップであります。
 で、いつまで経っても2ツ目の“ふ”の字も見えてこない前座衆の怠慢が家元の逆鱗に触れ、
 「いつまで前座でくすぶってんだ。やる気ねえなら破門だ!」
 ……という風に相成った次第なのです。
 この時は“最後のチャンス”として、急遽2ツ目昇進試験が実施されたそうなのですが、合格する者どころか箸や棒に引っ掛かる者もいない結果に終わり、敢え無く当時の前座6人が全員破門となってしまいました。このアオリで、兼業マンガ家として「モーニング」に連載を持っていた立川志加吾休筆及び食い扶持の喪失を強いられたのは有名な話であります。
 (注:破門された6人の内1人は間もなく復帰。理由は不明鞄持ち用に一番下っ端の前座だけ復帰を許されたとの事)

 で、現在、上に“元”が付いた前座衆の皆さんは、1日も早い復帰を目指して日々稽古に励んでいます。前座としての雑務から解放されてしまったために、その分だけ密度の濃い修行が出来ているようでありますが、復帰のメドは未だ立っていないようであります。
 ただ、当の家元・立川談志は、設定したハードルをクリアした者から随時復帰させる腹積もりでいるようですから、元前座衆の皆さんは是非、家元の気が変わらない内に復帰&2ツ目昇進を果たしてもらいたいものであります

 そういうわけで、
 「こぶ平もいっ平も、揉めるんやったら唄って踊れて古典100席演れて独演会満員に出来るようになってからにせんかい、このドアホ!」
 ……と言いたいがために、2週にわたって延々お話してきたこの講義、これで幕にしたいと思います。オチはありませんが、これにて失礼いたします。(この項終わり)

 


 

10月19日(土) 競馬学特論
「G1予想・菊花賞編」

駒木:「さて、今週もG1予想なんだけど、競馬は絶不調だわ、体調は悪いわで、困ったもんだよ(苦笑)」
珠美:「ちょ、ちょっと博士、いきなりそんな事で大丈夫なんですか……?」
駒木:「実は大丈夫じゃないんだけどね(苦笑)。予想の方も難しくて、正直言って本当に困ってるところ」
珠美:「先週と違って確固たる本命馬がいませんものね。やっぱりダービーの上位3頭が出走していないことが影響しているんでしょうか?」
駒木:「うん、全くその通り。具体的に言えば、春の主役だったタニノギムレットが引退して、前哨戦で一番強い勝ち方をしたシンボリクリスエスが天皇賞へ流れたよね。で、その替わりに台頭して来るような新勢力がアドマイヤマックスくらいしかいないし、それだって休み明けとは言え、旧勢力の中堅どころと言っていいバランスオブゲームに負けてるわけだから、どうにも景気が上がらない。
 …結局、春までならタニノギムレットの2着争いをしていたような連中による、あんまりレヴェルの高くない戦いってわけでね。こういう、傑出馬がいない故の混戦模様ってテンション下がるよねぇ(苦笑)。……まぁ、出て来た馬には罪は無いんで、こういう事をあんまり言い過ぎてもアレなんだけどね」
珠美:「それに加えて、またお天気が微妙な感じですものね」
駒木:「そうなんだ。しかも今回も微妙って言うか、馬場が悪くなるのか持ち堪えるのか判らない感じでね。多分、ギリギリ良馬場か、悪くなっても稍重止まりだと思うけど
 第一、重馬場とか不良馬場になっても、18頭全部が重以上に悪化した馬場でレースした事が無いから、フタを開けてみるまで判らないんだよね(苦笑)。もうレース前から不確定要素ばっかり増えてくるよなぁ。もうカンベンして欲しいよ(苦笑)」
珠美:「でも、泣き言ばかり言ってちゃダメですよ、博士。たくさんの受講生の皆さんに注目して頂いてるんですから、講義をする以上は責任を果たしてもらいますからね!」
駒木:「そうだね。出来る限りの事を精一杯やってみよう。予想の方は珠美ちゃんの方が好調みたいだから、僕は能書き担当って事でね(笑)」

菊花賞 京都・3000・芝外

馬  名 騎 手
    ナムラサンクス 橋本美
    ヒシミラクル 角田
    アドマイヤドン 藤田
    ダイタクフラッグ 太宰
    キーボランチ 熊沢
ノーリーズン 武豊
    ファストタテヤマ 安田
×   ダンツシェイク 河内
  レニングラード 池添
  × 10 ヤマノブリザード 柴田善
  11 タイガーカフェ 蛯名
× × 12 ローエングリン 岡部
    13 バンブーユベントス
    14 メガスターダム 松永
    15 シンデレラボーイ 福永
16 バランスオブゲーム 田中勝
    17 マイネルアムンゼン 嘉藤
18 アドマイヤマックス 後藤

珠美:「……それでは今日も博士に枠順に沿って1頭ずつ解説していただきましょう。まずは1枠の2頭、ナムラサンクスヒシミラクルから。共に人気薄の馬ですが……」
駒木:「ナムラサンクスは神戸新聞杯3着馬だね。調子も良いみたいだし、本来なら穴で一考…ってところかも知れないんだけど、その神戸新聞杯の負け方がハッキリし過ぎていたからなぁ。戦績とか血統を見るとモロ中距離馬って感じもするし、コレって言う長所も少ないしで、あんまり強くは推せないよね。
 ヒシミラクルは1000万条件なら大威張りなんだけど、さすがにオープンでは格の差に負けてしまいそう。調子だけならデビュー以来最高なんで、陣営は随分と期待してるみたいだけど、常識から言ってこの馬が2着以内に飛び込むとは考え難いかな」
珠美:「1枠については人気相応の評価といったところでしょうか。
 次は2枠アドマイヤドンダイラクフラッグの2頭を。アドマイヤドンは前売り単勝5番人気に推されています」

駒木:「アドマイヤドンか……。春までは、この馬には随分と期待して来たんだけど、今になって考えると少し買い被りすぎだったのかもね。今回になって地力を見直す向きもあるんだけど、う〜ん……。まぁ、このレースで全てが判るね。これでダメなら、もう一生ダメだ。
 ダイタクフラッグは、夏の過ごし方を失敗しちゃったね。馬体の成長どころか、体調まで狂わせちゃって……。ナリタブライアン産駒には頑張って欲しいけど、今のこの馬に多くを求めるのは酷」
珠美:「そう言えば、博士はダービーの回顧の際に『朝日杯組のレヴェルがそんなに高くなかったんじゃないか』とかおっしゃられてましたものね」
駒木:「それでも、ひと夏過ごして大きな成長が窺えたらまだ良かったんだけどね。ただ、今回は体調を戻すのが精一杯で成長どころじゃない気がするんだよね。まぁ、そういう事」
珠美:「……では、いよいよ3枠ですね。キーボランチと、前売り単勝オッズ1番人気のノーリーズンです。私はこの馬を本命にして勝負させていただきます」
駒木:「キーボランチについてはもう良いよね。唯一の勲章であるのが京都新聞杯の2着。でも、このレースは正直、大したレースじゃなかったからね。
 で、ノーリーズンだね。実績馬に武豊騎手という、1番人気必至の組み合わせで、実際、このレースでは主役級の馬ではあるんだけど、僕個人的には、そこまで過大な期待を寄せるのはどうかという気がするんだ」
珠美:「やっぱり、若葉Sとダービーの大敗が気になるんでしょうか?」
駒木:「いや、その2戦については敗因がハッキリしてるし(道中の不利とレース中の骨折)、あんまり気にしていない。むしろ気になってるのは前走の神戸新聞杯ね。ダービー2着馬のシンボリクリスエスに完敗の2着ってのが気になるんだよ。これで“シンボリクリスエス>ノーリーズン”という式が成立するとすれば、皐月賞馬だからと言って、『G1馬だから格上』という評価が出来なくなっちゃうんだよね。
 差し馬ってのは走りにムラがあるのが相場だから、惨敗の場合はそれほど気にしなくて良いんだよ。けど、惜敗の時は実力通り走った上での負けだから結構重たいんだよね」
珠美:「…なるほど。でも私はいつも通り武豊騎手を信じることにします(笑)。
 では次に4枠の2頭を。ファストタテヤマダンツシェイク、共に人気薄ですね」

駒木:「まずファストタテヤマは、春の時点で勝負付けが済んじゃってるね。成長も見込めてないし、苦戦必至。
 ダンツシェイク戦績の割には面白い馬だと思うよ。スタミナも瞬発力も、一介の条件馬とは思えないものを持ってると思うし。2着争いまでならチャンスはありそうな気がするね。問題はイレ込みってことになるのかな」
珠美:「私にとっては、博士のダンツシェイクへの評価は意外だったんですけど、確かに新聞を読み返してみると上がり3ハロンで33秒台出してたり、面白いレースをしてますね。
 …では5枠の2頭、レニングラードヤマノブリザードはどうでしょう? 共に単勝オッズ10倍台なんですが…」

駒木:「レニングラードは、未知の魅力だけなら抜群だね。キャリア浅いなりに安定して結果を出してるのが好感持てるし、距離が伸びるのも良い材料だと思うよ。ただ、神戸新聞杯の4位入線(5着に降着)が目一杯の実力だとすると全く勝ち目は無い。それがどうかだよね。
 ヤマノブリザード、この馬は個人的には見限りたくないんだけど、3歳になってからのレース振りは確かに良くないんだよね。余程展開やら何やらを味方につけないと2着争いは辛い気がするなぁ。掲示板くらいは訳無いと思うんだけど」
珠美:「ヤマノブリザードも朝日杯組ですしね。でも、私は巻き返しにほんの少し期待しています(笑)。
 では次に6枠ですね。皐月賞2着馬のタイガーカフェと、宝塚記念3着馬のローエングリンです。共に実績馬なんですが、人気では大きく差が出てしまいました。タイガーカフェは単勝29.3倍の穴馬で、ローエングリンは3番人気に支持されています。これはどうしてでしょう?」

駒木:「タイガーカフェの場合、皐月賞2着が人気薄のものだったから、せっかくの実績もフロックと思われてしまって、なかなか人気が上がらなかったんだよね。それを考えると狙い目ではあるんだけど、この馬は乗り難しいんだなぁ。末脚に切れが無いんで、仕掛けるタイミングが厳しいんだよ。それにこの馬も夏の過ごし方に少し疑問が残る。
 ローエングリンは宝塚記念の3着がまだ素直に評価されてるね。ただ問題は、菊花賞ってレースは、本来逃げ馬が圧倒的に不利なレースでね。それこそセイウンスカイみたいに実力がズバ抜けているか、去年のマイナルデスポットみたいに、極限まで展開に恵まれるか、そのどっちか位しか活躍の余地が無いんだよ。だから問題は、どういうレースをするかだろうね。スタートで遅れるか何かして逃げない方が余程勝ち目が残りそう」
珠美:「例によって、私の印を打った馬にどんどん悲観材料が見つかってるんですが(苦笑)、今は聴かなかった事にして次に行きましょう(笑)。
 いよいよ佳境に突入です。7枠からは3頭。バンブーユベントス、メガスターダム、シンデレラボーイです。メガスターダムは4番人気ですね。ニホンピロウイナー産駒の長距離馬ということで話題を呼んでいるようですが……」

駒木:「その前にそれ以外の2頭について触れておくね。バンブーユベントスは既に春の段階で勝負付けが終わって得るし、シンデレラボーイは前走の結果が酷いね。2頭ともG1の舞台には力不足じゃないかな。
 で、メガスターダムだね。普通ニホンピロウイナー産駒なんてのは、1800mから1mでも超えた時点で用済みになっちゃうんだけど、この馬は例外中の例外だね。相当母系からの遺伝が強かったと見た。
 しかしこの馬、戦績だけ見たら立派なんだけど、G1レースではどれも勝ち負けには全然絡んでないんだよね。見事なまでの流れ込みって言うか…。いや、勝ったレースにしても、何だか流れ込みの延長線上みたいな勝ち方してるな(笑)。今回は結構な評価を受けてるみたいだけど、この4番人気ってのも、傑出馬不在の中で実績だけで見込まれたっていう、流れ込みみたいな支持のされ方だよね(笑)。ちょっと買い被られてるなぁって気がしないでもない」
珠美:「こういうタイプの馬って、珍しいですよね」
駒木:「珍しいね。勝っても評価されないくせに、流れ込みの入着が主に評価されてるんだもの(笑)。でも、こんな事言ってて1着に来られたらバツ悪いなあ(苦笑)」
珠美:「そうですねー、あまり想像したくないですけど……(苦笑)。
 では最後に8枠を。バランスオブゲーム、マイネルアムンゼン、そして2番人気のアドマイヤマックスですね。
 私も博士も人気の割にはバランスオブゲームの評価が高いですね。私は展開利を重視したんですが、博士はどうでしょうか?」

駒木:「朝日杯組だし、いわゆるトライアルホースだしと、本当ならバランスオブゲームは馬券を買わない馬なんだけどね。ただ今回は傑出馬不在で、なおかつ調教などから成長が見込めそうだと判断して、他の同レヴェルの馬から半歩リードって意味で▲印を打った。ただ、僕の判断では、ノーリーズンとアドマイヤマックスが頭1つ抜けてると思ってるんで、これはあくまでも3番手候補の筆頭。だから言うほど高い評価をしてないんだよ。
 マイネルアムンゼンは前走が恵まれだけに、ちょっと推し辛いね。若い乗り役に良い経験させてやりたいってところじゃないかな。
 アドマイヤマックスは僕の本命なんだけど、これは前走からの大幅な変わり身を見込んでの評価。でなけりゃあ、バランスオブゲームに負けた馬にそんな評価しないよ。2歳の時にはクラシック候補の呼び声も高かった馬だし、今回の相手ならどうにかならんかなぁ…ってところ。でも今となっては、素直にノーリーズンに◎打っときゃ良かったかなぁ…なんて思うけど(苦笑)」
珠美:「博士、迷いが出てますね(笑)」
駒木:「いやぁ、今、半年振りの大スランプ中でね。本当に予想がチグハグなんだよ。だから僕の予想は反面教師的に受け取ってもらった方が良いかも知れない(苦笑)。
 ……じゃあ、最後に買い目の公開。僕は6-18 16-18 6-16の3点、及び6-16-18の3連複1点。△以下の印を打った馬に関しては、あくまで参考ね」 
珠美
:「私は6-16 6-11 11-16 6-18 6-12 6-10の6点です。11-16なんて、凄いことになります(笑)」
駒木:「もう何でもいいや、当たってくれ!(笑)」
珠美:「(笑)。と、博士の魂の叫びが出たところで講義を終わらせていただきますね。お疲れ様でした」
駒木:「珠美ちゃんもご苦労様。それじゃ、レース後の“敗戦の弁”でお会いしま……って、違う!(笑)」
珠美:「もう完全に気持ちがネガティブになってますね(苦笑)


菊花賞 結果(5着まで)
1着 ヒシミラクル
2着 ファストタテヤマ
3着 14 メガスターダム
4着 アドマイヤドン
5着 16 バランスオブゲーム

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 15時前から雨が土砂降りになって、装鞍所で出走馬が少し暴れてるのを見た時からイヤ〜な予感がしてたんだよねぇ。でも、まさかねぇ…。
 それにしても長い間競馬観てると色々な事がありますなぁ(苦笑)。“猿も木から落ちる”ならぬ“武豊もノーリーズンから落ちる”。馬から落ちても手綱を放さずに、最後まで落馬再騎乗を狙ってたあたり、さすがに武豊…といったところなんだけど、人力じゃ1馬力には勝てんよなぁ。
 で、それに他の騎手が動揺したわけじゃないけれど、レースそのものも、ここ最近のG1レースでは記憶に無いくらい締まりの無い散々なレースになっちゃったしね。逃げ馬は暴走するわ、人気の差し馬は仕掛け遅れちゃうわで無茶苦茶。
 その挙句、ダメモトで早仕掛けしたヒシミラクルが、乗った角田騎手が「奇跡ですね」って言うくらいの恵まれで押し切り。その上、京都巧者なんだか道悪巧者(良馬場発表だったけど、どう考えてもレース直前には稍重〜重まで悪化してた)なんだか知らないけど、他の馬が止まったところへサイボーグ009から加速装置を貸してもらったかのようなファストタテヤマの鬼脚。勘弁して下さい、いやホントに。
 …この馬券を当てた方、もしいらっしゃったら、どういう予想でこの結論に至ったかお教え願えますか? 素直な気持ちで勉強させて頂きたい。
 あ、でも「これはレーシングプログラムの文面から…」とか言われても困りますが(笑)

 ※栗藤珠美の“反省文”

 (余りのショックのため、ノーコメント)

 


 

10月17日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(10月第3週分)

 目に見えて『SWORD BREAKER』の掲載順位が下がりつつある今日この頃、受講生の皆さんはいかがお過ごしでしょうか?(笑) 今週もゼミのお時間がやってまいりました。
 もうそろそろ次回打ち切り作品を決める編集会議が開かれてる頃だと思うんですが、この作品はファインモーション並に大本命でしょうねぇ……

 さて、そんな話は置いておきまして、今日もまず情報系の話題から。

 まず「週刊少年サンデー」系の月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」8月期分の結果発表がありましたので、受賞者・受賞作を紹介しておきましょう。

少年サンデーまんがカレッジ
(02年8月期)

 入選=該当作なし
 佳作=1編
  
・『花田エキスプレス!!』
   松清妙子(21歳・京都)
 努力賞=3編
  ・『ねじ巻きポッコ』
   工藤柾人(25歳・千葉)
  ・『ねば・ぎぶあっぷ』
   峯健吾(18歳・大阪)
  ・『せわやきジャック』
   大塚真史(20歳・神奈川)
 あと一歩で賞(選外)=4編
  
・『一途の道なり』
   登屋博(26歳・宮崎)
  ・『Believe of ghost!!』
   高嶺こがね(14歳・熊本)
  ・『タイプカプセル』
   宇佐広美(18歳・大阪)
  ・『かたなひめ』
   平山昌吏(27歳・東京)

 ……この賞としては、比較的豊作の部類でしょうか。ただ、受賞者の年齢構成がアンバランスなのが気になりますが……。
 この手のマンガ賞には、時々14歳前後の中学生から応募があって、最終選考まで残ったり(残してもらったり?)するのですが、その後が続いていないんですよね。まぁ、中学生や高校生に連載させるわけには行かないので、編集部も本腰入れて育てる気は無いのかも知れませんけど。

 では、次の話題。これは「ニュース解説」のコンテンツで既に紹介済みですが、こちらでも改めて。
 今週の15日、今年の夏に児童買春の疑いで逮捕・起訴されていた「ジャンプ」系のマンガ家・島袋光年氏の初公判がありました。島袋氏が容疑を完全に認めているため裁判上の争点は無く、検察側からの論告求刑があって即日結審しました。
 求刑された量刑は懲役2年。この種の犯罪の量刑としては“相場”の範囲内であり、島袋氏が既に社会的制裁を受けている事などを考慮すると、執行猶予付きの判決が予想されます
 しかし実刑は免れるとはいえ、マンガ家としての復帰があるかどうかは極めて微妙と言えるでしょう。特に島袋氏の場合は児童・少年向けマンガでしか勝負できないような作風のため、前途は極めて多難です。決して才能が無い作家さんではなかったですから、このまま廃業というのは寂しすぎる気がするのですが、う〜ん……。
 

 …まぁくらい話題はこれ位にしておいて、今週のレビューを始めます。今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」と「サンデー」から連載3回目の後追いレビューが各1本ずつ計2本です。“チェックポイント”も実施しますのでよろしく。
  レビュー中の7段階評価の表はこちらをどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年46号☆

 ◎新連載第3回『A・O・N』作画:道元宗紀《第1回掲載時の評価:B−

 恐らくは今年の「ジャンプ」新連載作品の中では一番の問題作であろう、『A・O・N』の後追いレビューです。

 第3回まで読んでみて判ったことは、とにかくこの作品は長所と短所がひどく混在している…という事です。

 まず長所から挙げておきますと、見せ場と決め台詞は毎回見事に決まっているということ。先週の“チェックポイント”でも採り上げましたが、第2話の最終ページなどは間違いなく一級品でした。この辺の嗅覚というか感覚は確かなモノを持っているとは思います。

 しかし、その長所を打ち消して余りある程の短所が存在する事も確かなのです。特に2点の致命的な欠陥が、この作品の完成度を台無しにしてしまっています

 1点目は、とにかく読者に不親切である事。読者に与えるべき情報が肝心な所で不足しているために、設定や状況がなかなか正確に把握できませんし、主人公への感情移入も難しくなってしまっています。
 例えば、第1話の時点でプロレスリング赤鴉の“インチキ・プロレス”の実態を軽く描いておくとか、主人公ギュンの強さのバックボーンをさりげなく示しておくだけで全く違った印象の話になったはずです。
 そして何よりも問題なのは、作者の道元さんに、この種の構成力や話作りの基本的なセンスが根本から完璧に欠落しているという事です。力のある人がたまたま失敗しているのではなくて、力の無い人が必然として失敗しているのですから、どうしようもありません

 2点目は、第1回の時にも指摘しましたがプロレスシーンの描写が非常に稚拙であるという事。特にこの第3回では、対戦している2人が蹴り合っている以外に何が起こっているのか全く判読できませんとにかく無茶苦茶判り難いんです。
 更にマニアックな事を言えば、このマンガの格闘シーンは、プロレスとしても通常の格闘技としても微妙に不自然で、リアリティがあるようでありません。有り体に言えば底が酷く浅いんですよね……。
 この作品、プロレスファンの読者には非常に評判が悪いんですが、その根源はこの辺りにあるのかも知れませんね。

 で、評価なんですが、プロットの完成度や設定の整合性を重視する当ゼミでは、いくら魅力的なシーンがあってもこういう作品に高い評価を出すわけには行きません。この作品は賛否両論が極端に分かれているようですが、当ゼミとしては“否”の立場に立たせて頂いて、B−の評価とします。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆
 

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介《第6回掲載時の評価:A−

 先週まででセナとデビルバッツを散々持ち上げておいたところで、今週は「でも実はね…」といった感じで適当な所まで“デフレ”を敢行しています。賛否分かれる所かも知れませんが、駒木は素直に上手いと思いますね。
 あと、ホワイトナイツの“バカ”こと大田原が、監督からアドバイスを受けた瞬間に歯を剥き出しにして笑うシーンがあるんですが、コレはどこかで観たことあるな…と思っていたら、宮崎アニメの手法なんですよね。しかもパクリ云々と言う低次元な話じゃなくて、ちゃんと“咀嚼”と“消化”をした上で自分のモノにしちゃってます。いやはや、恐れ入りました。
 もうA−の評価でも低すぎると思いますので、今回から評価をAに上げます。このまま「ジャンプ」の看板作品まで成長していってもらいたいものです。

 ◎『BLEACH』作画:久保帯人《開講前に連載開始のため、評価未了》

 2週連続の“チェックポイント”登場ですが、今回の構成も、王道パターンに少しのケレンを交えて良い感じに仕上がっています。ひょっとしたら更なる長期連載へのゴーサインが出て、気合が入りまくってるんでしょうかね?

 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也《開講前に連載開始のため、評価未了》

 今やってる練習試合は、特訓で上がった主人公たちの能力を客観的基準で評価する試みで、少年マンガではよくある“定石”なんですが、さすがに無茶し過ぎでは(苦笑)。…ていうか、去年までの十二支高校が弱かったのが全く信じられないんですが(笑)。
 これからこのマンガは“平成の『アストロ球団』高校生編”と解釈しないと、読んでられませんね(苦笑)。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年46号☆

 ◎新連載『D−LIVE』作画:皆川亮二《第1回掲載時の評価:A−

 まずは第1回掲載時レビューの訂正から。
 前回のレビューでは、「マンガ原作者の横溝邦彦氏を原案に起用して──」という旨述べましたが、今回になってシナリオ担当のクレジット氷室勲氏に変わっていまして、これは誤りだったようです。
 この作品はどうやら、皆川さんが決めた設定に従ってエピソードごとに原作者がシナリオを執筆し、それをまた皆川さんがマンガ化する…という手法が採られているようです。日本では珍しい分業システムですね。作品の質と量に影響なくマンガ家さんの負担を減らすという意味では、なかなか面白い試みかも知れません。

 ただ、このシステムだと、ストーリーがシナリオライター任せになってしまい、皆川さんの個性が出難くなってしまう可能性があります。その上、半年〜1年と連載を続ける内に深刻なマンネリズムに陥ってしまう恐れもあり必ずしも最善のシステムにはならないのではないかと思います。
 マンネリに陥らないためには、皆川さんもシナリオに積極的に参加して、小さなエピソードを積み重ねながら大きなドラマも展開させてゆく形式──例えば『MASTERキートン』のような──を採用する必要があるでしょう。それで遅くとも2〜3年程度で幕引きが出来れば尚良いのではないでしょうか。

 あとは前回のレビューでも指摘しましたが、シナリオを圧縮するために、どうしてもセリフに頼りがちになってしまう点が少々問題ありと思います。話の中身が濃くなければ、その分マンネリに陥るまでの速度も上がるわけですから、もう少し構成に気を配ってもらえれば…と思います。

 評価ですが、前回はB+寄りA−だったんですが、一旦B+に落としておいてしばらく静観したいと思います。前作の『ARMS』も、ある程度話が進んでから一気にクオリティが上がった感がありましたので、今回もそれを期待したいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『史上最強の弟子 ケンイチ』作画:松江名俊《第3回掲載時の評価:

 連載半年にして、ともすれば多すぎる位のキャラクターが全てこなれて来て、逆にそれが魅力になって来ましたね。クローズアップするキャラを頻繁に変えることでマンネリも防いでますし、どうやら軌道に乗ったようです。
 今回から評価をB+に上方修正。人気もソコソコは確保しているようですし、長期連載モードに入って更にどうなるか注目したいと思います。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎《第3回掲載時の評価:B+

 フィギュア専門店で、ちょっと旬の過ぎた2ch用語を連発するオタクたちの表現が見事!(笑) ただ、敢えて注文を出すなら、彼らはもっと“バックパック装着率”が高いんですけどね(笑)。
 しかし井上さんって、何のてらいもなくベタな話が描けるんですよね。これもある意味一種の才能かも知れません。

 ◎『一番湯のカナタ』作画:椎名高志《第3回掲載時の評価:A−

 やっぱり今週のハイライトシーンは、セイリュートの
 「嫌いになるぞ!」
 …なんでしょうね(笑)。見事な決めゼリフです。

 ところで最近気付いたんですが、ここしばらくの椎名さんはずっと、「『GS美神極楽大作戦!』と違う作品を描こう!」…と意気込み過ぎだったんじゃないのかなぁ、なんて思うんですよ。
 でも椎名ファンの大多数は『GS美神…』のノリを期待しているみたいなんですよね。だから、なかなか『カナタ』の人気が伸びなかったんです。
 椎名さんも人気を上げるためにテコ入れを連発するんですが、根本的な部分に踏み込んでまでテコ入れしていないので、事態がドンドン悪化していって…というのが、ここしばらくのちょっとしたスランプ状態の実態だったんじゃないかと思います。
 前回からの方向転換によって、この根本的な部分に踏み込んで行けるのかがこれからのカギなんでしょうね。


 ……といったところで今回はここまで。次回からまた新連載の谷間期に突入しちゃうんですよね。また何か企画考えないといけませんかね。
 では、また来週。

 


 

10月16日(水) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(14)
第2章:オリエント(8)〜ヒッタイト、ミタンニ、カッシート

※過去の講義のレジュメはこちら
第1回第2回第3回第4回(以上第1章)/第5回第6回(以上インターミッション1)/第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回


 前回で一応、古代エジプトの歴史については一段落ということで、今回からは再びメソポタミア地方の歴史についてお話してゆきましょう。
 このメソポタミアの歴史については、紀元前1600年頃、古代バビロニア王国が滅びるところまでお話しています。(記憶が薄れている人は第7回、第8回の講義を復習して下さい)
 しかし今回はやや時計の針を戻しまして、そのバビロニアを滅ぼしたヒッタイト王国(某大河少女マンガで有名ですね)や、そのヒッタイトと同時代にメソポタミアで栄えたミタンニ王国、カッシート人の王朝の衰亡について、やや駆け足で追いかけてみようと思います。

 ヒッタイトの人々がメソポタミアの歴史の中に姿を現すのは、紀元前20世紀頃とされています。彼らはアナトリア半島(現在のトルコ共和国)一帯を領土にして王国を形成しましたが、元々その周辺に住んでいたわけではないようです。

 これは、彼らが使っていた楔形文字(ヒッタイト語)が、シュメール人やセム系民族の使った文法ではなく、インド=ヨーロッパ系──インド、イラン、スラヴ、ギリシア、ラテンなどの各民族──の文法に極めて近い事が決め手となりました。
 ちなみに、ヒッタイト語解読の足がかりとなったのは、「パンを食い、水を飲む」という意味の短文でした。この短文は『パン』の部分だけが既に解読済みのシュメール単語で書かれており、そこから「『パン』と来りゃあ、次は『食う』だろう。んで、パンを食ったらノドが渇くから『水を飲む』だったりして」……などと手前勝手な推測をしてみたところ、なんとその推測が大当たりで、そこからこの言語がインド=ヨーロッパ系の文法だと判明し、全てのヒッタイト語解読が進んでいった…などという凄い話が残っています。
 ただ、このヒッタイト語を解読したフロズニーという学者はその後、また大胆な決め打ちを仮説としてギリシアの古語の解読に挑みましたが今度は大失敗。晩節を汚したまま寂しく世を去ったそうであります。

 そんなヒッタイト人の故地について、詳しい事は分かっていません。しかし、インド=ヨーロッパ語を使う民族の発祥の地現在の中央アジア〜ロシア南部周辺ではないかとされており、遥か昔の先祖はそこに住んでいたのではないかと思われます。
 で、そうしてアナトリア半島に定住を決め込んだヒッタイト人ですが、民族全体による統一国家に成長するのは紀元前17世紀に入ってからでありました。彼らは、当時まだメソポタミアでは全く普及していなかった製鉄技術を持ち、その技術がもたらした鉄製武器は絶大な威力を誇りました。
 ヒッタイトは、国家誕生から間もなくして古代バビロニア王国を滅ぼすなど、その勢力を急激に高めました。ただ、何故かバビロニアを支配する事無く彼らは撤退してしまい、メソポタミア統一はなりませんでした。更にはその後、国内でクーデターが頻発したり、近隣に敵対勢力が現れるようになり、今度は急速に衰微。紀元前1400年頃には一時滅亡同然の状態に陥ります。
 が、シュピルリウマ1世という国王の時代(紀元前1370〜36頃)にヒッタイトは息を吹き返します。彼は巧みな外交戦略を得意とし、後にお話するミタンニ王国との戦争でも、周辺国をまとめて同盟国にして戦いを有利に進めて勝利。ミタンニを事実上滅亡に追い込み、ヒッタイトはメソポタミア地方でも有数の強大国となります。
 そしてそれから後はエジプトとの関わりが深まりますかのラメス2世との間で争われたカデシュの戦いがありましたが、終戦後は平和外交がなされていたようであります。(ここでエジプト新王国時代と、この時代のメソポタミアがリンクする事を把握して下さい)

 …と、このように繁栄の時を謳歌していたヒッタイトですが、その最期は非常に呆気ないものでした。
 紀元前1200年頃、ギリシア地方ではドーリア人という北方民族の侵入があり、そのアオリを受けてギリシアから弾き出された諸民族“海の民”と呼ばれる)がオリエント地方へ一気に来襲したのであります。
 突然の異民族の来襲に対し、エジプトではこれを何とか食い止めることに成功しましたが、アナトリア半島のヒッタイトは為す術無く、津波のような民族移動に飲み込まれてしまったのでありました。ヒッタイトは忽然とメソポタミアから姿を消し、その歴史もそこで途絶えるのです。

 
 次にミタンニ王国についてお話しましょう。
 ミタンニ王国を構成していたのは、主にフルリ(フリ)という、セム系でもインド=ヨーロッパ系でもない系統不明の民族でありました。(参考書ではインド=ヨーロッパ系とされている場合がありますが、これは古い誤った学説であります)
 フルリ人は、ウル第3王朝の頃(紀元前2114〜2004年)からメソポタミア各地に散らばっていましたが、その内のメソポタミア北部に住んでいた人々がまとまり、紀元前1500年頃にその地に建国されたものがミタンニ王国だと思われます。
 ミタンニ王国については、その首都・ワシュガニの遺跡が未だ発見されていないために、その姿は隣国ヒッタイトや、王室同士で姻戚関係のあった新王国エジプトの文献資料から類推するしかなく、まだ謎の部分が多く残されています
 少ない史料の中から判明している歴史的事実を辿っていくと、彼らは戦車(馬車)を用いた戦法で紀元前1400年頃に全盛期を迎えたものの、その技術が他国に流出した事が命取りとなり、やがてヒッタイトによって滅亡に等しい大打撃を受けたという事が分かっています。

 
 そして最後に、バビロニアを中心としたメソポタミア南部を支配したカッシート人についてですが、これはミタンニ王国以上に詳しい事が判っていません。カッシート人が初めて文献に登場するのは、まだバビロニア王国が健在な紀元前1740年頃で、この時はバビロニアを攻撃するも、見事に撃退されています
 あとは、後の時代に残されたバビロニアの王名表から年代を類推してみますと、ヒッタイトが古代バビロニア王国を滅ぼして撤退した直後、紀元前1595年から約440年もの間、カッシート人はバビロニア王国の支配者としてその名を歴史に刻んでいます。新王国時代のエジプトとの国交もあったようですが、どちらかというと受動的な立場を強いられていた節もあります。元々が粗野な民族だったせいか、その辺の駆け引きはどうも上手くなかったようであります。
 最終的に彼らをバビロニアから駆逐したのは、遥か昔、ウル第3王朝の滅亡の一因ともなったエラム人でした。そしてそのエラム人も間もなくしてメソポタミア南部の現地勢力に一掃され、ようやくバビロニアはメソポタミアの人々の手に戻ります

 ……以上が、主に紀元前16世紀〜12世紀までのアナトリア半島〜メソポタミアの歴史でした。この後のメソポタミア地方は、建国から1000年以上の時を経て強大化したアッシリア帝国によって席捲される事になるのですが、これはまた後のお話です。
 次回は、これまであまり目を向けてこなかった、シリア、パレスティナ地方の諸国家・諸民族についてお話をしたいと思います。段々ややこしくなって来ますが、出来る事なら、各自で参考書を当たるなりして、混乱する事の無いようにして下さい。(次回へ続く


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