「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

11/14 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(11月第2週分)
11/13 文献講読(小説)「駒木博士のショート・ショート発表会」(3/全3回)
11/11 特別演習「第2回世界漫画愛読者大賞への道」(1)
11/10 文献講読(小説)「駒木博士のショート・ショート発表会」(2/全3回)
11/9  競馬学特論 「G1予想・エリザベス女王杯編」
11/8  スポーツ社会学「マスターズリーグ・2002〜03年シリーズ開幕プレビュー」(3)
11/7  
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(11月第1週分)
11/6  スポーツ社会学「マスターズリーグ・2002〜03年シリーズ開幕プレビュー」(2)
11/4  文献講読(小説)「駒木博士のショート・ショート発表会」(1/全3回)
11/3  
スポーツ社会学マスターズリーグ・2002〜03年シリーズ開幕プレビュー(1)
11/2  競馬学概論 「仮想競走・20世紀名馬グランプリ」(2)
11/1  歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(19)

 

11月14日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(11月第2週分)

 困った事に、今週はレビュー対象作が無くなってしまいました。これまでは必ず「ジャンプ」の代原レビューや、他誌の注目作をレビューをお送りして来たのですが、今週はそれも果たせませんでした。申し訳有りません。
 ただし、“チェックポイント”は平常通り実施しますし、今週は、12月1日に実施予定の当講座1周年記念イベントで開催する、当ゼミ1年間の総決算・「仁川経済大学コミックアワード」のノミネート作発表も行いますので、どうか1週間ご辛抱を願いたいと思います。

 では、まず情報系の話題から。今週は「週刊少年ジャンプ」系の新人月例賞・「天下一漫画賞」9月期の結果発表がありましたので、受賞者及び受賞作を紹介しておきましょう。今月は、デビュー確定となる佳作受賞作が出ていますので、いつにも増して要注目ですね。

第74回ジャンプ天下一漫画賞(02年9月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作&審査員(久保帯人)特別賞=1編
  『獏』(=「赤マルジャンプ」03年冬号に掲載)
   田中靖規(19歳・和歌山)
 
《講評:画力は抜群。説明のためのセリフが多すぎて読みにくい部分が多少あるが、それに勝る世界観の面白さがある》 
 《久保氏講評:面白い。デザイン力・演出力に優れていて、印象的な画面が描けています。とても才能がある人だと思いました。》
 最終候補(選外佳作)=5編
  ・『Silver』
   小倉祐也(23歳・東京)
  ・『忍者派遣会社IGAプロダクション(略してIGAプロ)』
   風間克弥(23歳・東京)
  ・『山主─やまあるじ─』
   岡本圭一郎(20歳・東京)
  ・『燕は夜飛ぶ』
   中村友美(18歳・静岡) 
  ・『あとづけボクシング。 』
   惣戸重敬(20歳・東京)

 19歳という若さ&地方在住のルーキーながら画力抜群という、まさに才能の塊のような“期待の新鋭”が登場したようですね。
 この受賞作は増刊掲載も決定していますし、追ってレビューを実施しようと思います。「説明のためのセリフが多すぎて……」という部分が、当ゼミの評価基準からすると気になりますが、それ以上の魅力が窺えるとのことですので、期待して待ちたいと思います。

 さて、今日は「週刊少年ジャンプ」系の原作者新人賞新設のニュースもお送りしておきましょう。
 今回新設されたのは、「ジャンプ漫画アイディア杯」
 この賞は2つの部門から構成されており、1つが原稿用紙21〜50枚の読み切り原作用小説・シナリオの“原作部門”で、もう1つが原稿用紙20枚以内の体験・題材で描く“アイディア部門”です。
 ……何というかコレは、先に「週刊少年サンデー」で新設された、「サンデー原作・原案ドリームステージ」のそのまんまパク……いやいや(苦笑)。まぁ、どこのマンガ雑誌も考える事は同じということでしょうね。
 実は駒木も、こんな賞が新設されたら応募しようと思って、フードファイトを題材にした少年マンガの原案を温めていたんですが、残念な事にこの賞が始まる前にフードファイトブームが萎んでしまったのでお蔵入り必至になってしまいました(苦笑)。まぁ、こういうのも縁ですから仕方ありませんよね。

 では、情報はこれくらいにしまして、先に“今週のチェックポイント”をお送りしましょう。
 今週からこの“チェックポイント”では、各作品のチェックごとに、それが「作品の再評価」なのか単なる「雑感」なのかを明示しておきたいと思います。これは、作品の各要素をデジタルに分析した結果と単なる感想を不用意にゴチャ混ぜにしてしまうと、有らぬ誤解の元になると判断したためです。
 今週は、「仁川経済大学コミックアワード」ノミネートに先立った“駆け込み評価変更”もありますので、いつもより若干ボリュームが大きくなりますが、冗長にならぬよう留意しますので、どうぞ最後までお付き合い下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2002年49号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介第12回掲載時の評価:/作品の再評価】
 
 まず気になったのが、トビラ前のカラー1ページ目。彩色のミスか画材の選択ミスか、輪郭の黒線がボケていて締まらない絵柄になってしまっています。トビラ絵のクオリティは高い水準なので余計に不可解なのですが……。
 とりあえず、この点に関しては“要観察”とします。

 ストーリー面は相変わらず高水準をキープ出来ていますね。特にキャラクター能力の設定が厳格に守られているため、試合展開がとても自然に流れているのが印象的です。
 また、敵側サイドに桜庭という、成長の余地を残した“裏・主人公”を配置して、話に深みを持たせているというセンスは高く評価すべきでしょう。
 評価はで据え置きとします。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【第3回掲載時の評価:/作品の再評価】

 ここまでで連載ほぼ半年ですね。
 ヒロイン3人の性格的な描き分けがキチンと出来ていて、それぞれに魅力的な印象を与えるような要素を持たせる事に成功しています。これは評価できます。
 ただ、それに対して主人公が比較的没個性ですし、話の中身がキャラに追いついていない印象が否めません。主人公とヒロイン3人とのボディコンタクトばかりがクローズアップされていて、それ以外の部分がそんざいになってしまっているんですよね。もう少し掘り下げた話を描いて欲しい気もします
 現時点での評価はB+寄りBとします。

 ◎『SWORD BREAKER』作画:梅澤春人【第3回掲載時の評価:B−/雑感】

 もはや、打ち切りが確定したのは間違いないでしょう。話が一気に“まとめ”に入っています。
 しかし、普通これだけスケールのデカい話だと、“○○の戦いはまだ始まったばかりだ!”パターンの終わり方になるんですが、とにかく手段を選ばず完結させてしまおうという、無駄なエネルギーの使い方はハッキリ言って“漢”ですよね(笑)。肩がぶっ壊れても全力投球で敗戦処理に望むピッチャーみたいです。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年50,51合併号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『金色のガッシュ !!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため、評価未了/雑感】

 ハイスパートの格闘シーンが熱いですなぁ。
 こんな激しいバトルを見ていると、ちょっと往年の『DRAGON BALL』を思い出してしまいます(言い過ぎかな?)。
 この作品、今でも評価されていると思うんですが、それでもまだまだ正当な評価がされていない気がします。「サンデー」編集部も、この作品を看板作品にするくらいプッシュしてもバチは当たらないと思うんですがねぇ。

 ◎『焼きたて !! ジャぱん』作画:橋口たかし【第3回掲載時の評価:保留/作品の再評価】 

 ずっと評価を保留にして来ましたが、ここで一応の判断を下しておきたいと思います。

 まず評価すべき点は、卓越した画力と見せ場シーンの演出力ですね。連載開始当初のレビューでは「あまりにもアニメ版『ミスター味っ子』に酷似している」と苦言を呈しましたが、それでもそれをキチンとやれる実力は認めなくてはならないでしょう。
 ただし、話の中身が根本的に「新しいパン作る→審査員ビックリ」の繰り返しで、先に挙げた演出力に“おんぶに抱っこ”というのは大きな問題だと思いますし、敵役キャラのバックボーンが弱いのも話の中身を希薄にしてしまっています。ドタバタも結構ですが、それを更に映えるようにするための努力を惜しんでもらいたくないところです。
 評価ですが、当ゼミの基準に沿って判断すればB+寄りのBというところが妥当な線ではないでしょうか。「読んでいて楽しい」と思われる読者の方も多いでしょうが、それだけでは当ゼミが言うところの“良い作品”ではないのです。

 ◎『きみのカケラ』作画:高橋しん【第3回掲載時の評価:B+/作品の再評価】 

 今回で連載も13回目なんですが、ますます作品のクオリティが深刻になってしまっています。

 とにかく作者サイドから読者に与えられる情報が極端に少ないのが大問題です。未だに主人公たちの具体的な目標や、とりあえず為すべき事がハッキリしてませんから、読者側がどの辺りにピントを合わせて読み込んでいけばいいのか判らないのです。作者と読者の意識の齟齬が激しいんですね。誤解を恐れず端的に表現すれば、この作品は“作家の独り善がりの塊”なのですよ。

 評価は一気にB−まで落とします。ちょっと挽回が難しくなって来た印象ですが、果たして……。

 ◎『鳳ボンバー』作画:田中モトユキ【第3回掲載時の評価:A−/作品の再評価】 

 ようやくストーリーが大きく動き出しましたが、キャンプ編は“暴れんボール”が出て来る辺りまでの展開が冗長に過ぎた気がします。別のチームのキャンプに武者修行するエピソードがありましたが、これは無かった方がスッキリしましたね。連載当初のレビューで「途中でテンポが遅くならなければ……」と言ったんですが、モロに危惧が的中してしまいました。
 このテンポ遅れは評価ダウンの材料とします。A−評価からB+評価へ1ランクダウンさせますね。

 ◎『旋風の橘』作画:猪熊しのぶ【第3回掲載時の評価:B/作品の再評価】 

 ハッキリ言って、この作品はもう死に体です。
 伏線を張るだけ張っておいてテコ入れのためにそれを全て放棄したり、真面目な剣道マンガの体裁でありながら、真面目な剣道シーンを描く能力が無くて荒唐無稽に逃げてしまったり。まさに“やってはいけない事”のオンパレードで、巷で不評の声が聞こえるのも仕方ないと思います。

 評価はもはやCの段階まで落として良いと思います。もうここは潔く幕を引くのが、猪熊さんの将来から考えても得策だと思うのですが……。


 ……さて、以上が今週の“チェックポイント”でした。

 それでは続きまして、当講座の開講1周年記念イベントで実施します、「仁川経済大学コミックアワード」のノミネート作品発表に移ります。
 この賞は、開講以来約1年間レビューしてきた作品の中から特に優秀な作品を、講師・駒木ハヤトの独断で決めてしまおうという、まぁ権威も価値もヘッタクレも無い賞であります。心ある受講生の方にはご理解頂けると思いますが、これは“壮大なシャレ”のようなものでありますので、どうぞ素直に楽しんでもらえれば……と思います。

 では、まず各賞の紹介を。今回は以下の賞を用意しました。

 ◎仁川経済大学賞(グランプリ)
 ◎ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞
 ◎ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞
 ◎ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞
 ◎ラスベリーコミック賞(最悪作品賞)

 当ゼミは「週刊少年ジャンプ」と「週刊少年サンデー」の作品を中心にレビュー活動を行っていますので、どうしても両誌に掲載された作品を対象とする賞が多くなりますが、ご理解下さい。両誌以外の作品をほとんど扱っていないのに、オールカマーの賞を濫発するのは筋違いだと思いますので……。

 というわけで、これから各賞のノミネート作品を発表します。

◎仁川経済大学賞(グランプリ)◎

 この賞は“グランプリ”という名の通り、この1年の間に当ゼミでレビューした作品の中で最も優秀な作品に送られる賞です。
 ノミネート資格は、この後紹介します“ジャンプ&サンデー”の名の付く3つの賞の受賞作と、「ジャンプ」、「サンデー」両誌以外のレビュー対象作の中でA評価(但し、連載作品については最新に発表された評価)を獲得した作品とします。

※ノミネート作品一覧※

 ●(ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞受賞作)
 ●(ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞受賞作)
 ●(ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞受賞作)
 ●『ブラックジャックによろしく』作画:佐藤秀峰/「週刊モーニング」連載)
 ●『立位体前屈物語』作画:河谷眞/「週刊ビッグコミックスピリッツ」29号掲載)


◎ジャンプ&サンデー・最優秀長編作品賞◎

 この賞は、「週刊少年ジャンプ」系と「週刊少年サンデー」系の雑誌で長編連載された作品を対象にしたものです。
 ノミネート資格は、「ジャンプ」、「サンデー」に連載されたレビュー対象作品の内、A−以上の評価(但し、連載作品については最新に発表されたもの)を得た作品です。

※ノミネート作品一覧※

 ●『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介
 ●『ヒカルの碁(第2部)』作:ほったゆみ/画:小畑健
 ●『少年エスパーねじめ』作画:尾玉なみえ
  以上、「週刊少年ジャンプ」連載
 ●『一番湯のカナタ』作画:椎名高志
 ●『いでじゅう!』作画:モリタイシ
  以上、「週刊少年サンデー」連載


◎ジャンプ&サンデー・最優秀短編作品賞◎

 こちらは「ジャンプ」、「サンデー」系雑誌に掲載された読み切り作品、または短期集中連載作品が対象です。ノミネート基準は長編作品賞と同じく評価A−以上です。

※ノミネート作品一覧※

 ●『ヒカルの碁・番外編(奈瀬明日美)』作:ほったゆみ/画:小畑健)  
 ●『怪盗COLT』作画:村田雄介
 ●『CRIME BREAKER !!』作画:田坂亮
 ●『呪いの男』作画:藤嶋マル
 ●『司鬼道士 仙堂寺八紘』作画:かずはじめ
 ●『だんでらいおん』作画:空知英秋
  以上、「週刊少年ジャンプ」系雑誌に掲載
 ●『葵DESTRUCTION!』作画:井上和郎
 ●『背番号は○(マル)』作画:あおやぎ孝夫
 以上、「週刊少年サンデー」系雑誌に掲載


◎ジャンプ&サンデー・最優秀新人作品賞◎ 

 この賞は、「ジャンプ」や「サンデー」の本誌や増刊で連載経験の無い作家さんの発表した、読み切り作品または初連載作品が対象になります(注:他誌で連載経験があっても有資格とします)ノミネート資格はこれまでと同様にA−以上です。

※ノミネート作品一覧※

 ●『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介
 ●『怪盗COLT』作画:村田雄介
 ●『CRIME BREAKER !!』作画:田坂亮
 ●『呪いの男』作画:藤嶋マル
 ●『だんでらいおん』作画:空知英秋
  以上、「週刊少年ジャンプ」系雑誌に連載または掲載
 ●『葵DESTRUCTION!』作画:井上和郎
 ●『背番号は○(マル)』作画:あおやぎ孝夫
  以上、「週刊少年サンデー」系雑誌に掲載


◎ラズベリーコミック賞(最悪作品賞)◎

 映画のアカデミー賞に対するゴールデンラズベリー賞をモチーフにした、最悪な作品を表彰する賞です。対象作レビュー対象にした全作品で、あらゆる意味において“最悪”(not最低)な作品を選出します。ノミネート基準は駒木の独断です(笑)。

※ノミネート作品一覧※

 ●『しゅるるるシュールマン』作画:クボヒデキ
 ●『旋風の橘』作画:猪熊しのぶ
 ●『365歩のユウキ!!!』作画:西条真二
 ●『エンカウンター 〜遭遇〜』作画:木之花さくや


 ……以上が、「仁川経済大学コミックアワード」のノミネート作品発表でした。この中からどの作品が各賞を受賞するのか、どうぞ楽しみにお待ち下さい。

 では、今週のゼミを終わります。

 


 

11月13日(水) 文献講読(小説)
「駒木博士のショート・ショート発表会」(3/全3回)
第3話:『とりあえず』

 アメリカの日本大使館に設けられた会談場に、日本の首相とアメリカの大統領が、それぞれ側近やSPを引き連れて姿を現した。
 これからここで行われる会談、これはとりあえず「日米首脳非公式会談」ということになるのだが、実質的な協議は既にこれまでの会談で終了してしまっている。なのでこの場は、「仕事も一段落ついたので、とりあえず余った時間でお茶でも」という意味でセッティングされた、ささやかなティー・パーティと言った方が的確である。
 『──総理、とりあえずはお疲れ様でしたな』
 まずはホスト役のアメリカ大統領が、やや南部訛りのアメリカン・イングリッシュで日本の首相をねぎらう。その言葉は即座に通訳から日本語で首相に伝えられる。満足そうにうなずき、「いや、まったく」などと言いながら笑みを浮かべる首相。

 今回の会談は、核開発が噂される中東の某独裁国家へ対する処遇について、日米間でとりあえずやっておくべき事を決めておこうというものであった。
 こんな風に言ってしまうと簡単な話に聞こえてしまうのだが、事務レベルでの根回しを含めると、実に数ヶ月単位の時間が費やされている。何事に対してもとりあえず武力を行使したいアメリカが、何事もとりあえずは穏便に事を運びたい日本と意見を合わせようというのは、そうとりあえず簡単に出来る話ではなかったのである。

 『今回は骨の折れる会談でしたからな。まぁ、日本にお帰りになったら、とりあえずゆっくりして下さいよ』
 「ええ。まぁ、帰国したらとりあえずは記者会見やら色々しなくちゃいけない事があるんですが、その後は家に帰って、“とりあえずビール”といきたいもんですな」
 この首相の言葉に、大統領が興味深そうな顔をした。
 『ほほぅ、“とりあえずビール”ですか』
 「ええ。日本では、仕事から帰って来ると、靴と靴下を脱いでネクタイ緩めてリラックスして、とりあえず冷やしておいたビールをグイッとやるんですよ」
 『おぉ、それは大変美味でしょうなあ』
 「あ〜、美味いのなんの。冷えたビールは風呂上りに呑むのも美味いんですが、私はやはり、仕事から家に帰ってすぐに……というのが一番ですな。これに簡単な料理とプロ野球中継があれば最高なんですが、まぁ今は独身ですからそこまではなかなかね」
 『なるほど。日本にはそういった習慣があるのですな。我々アメリカ人には羨ましい話ですよ』
 「いや、大統領もとりあえず試しに一度やってみてはいかがですか? 外国の方は家の中で裸足になったり服装を崩したりすることに抵抗があるかも知れませんが……」
 『いやいや、そういう事に関係なく、我々合衆国の男性にとって、そのような事は到底不可能なのですよ──』
 大統領は一瞬言葉を区切って顔をしかめた。
 『我が国ではですな、仕事を終えた男には、“とりあえずワイフにアイ・ラブ・ユーと告げる”という無理難題が待ち構えておるのです』
 この一言に、まずアメリカ側が大爆笑となり、通訳を経て日本側も笑いの渦に包まれた。
 「ハッハッハッ。なるほど、それは大変だ」
 『そういうことなのですよ。総理、何か名案はありませんかな』
 「うむ。ではとりあえず、私に倣ってもう一度独身になるところから始めるというのはいかがか」
 再び大爆笑。これでは首脳会談というよりも、アメリカのホームドラマである。
 『ハハハ。じゃあこの会談が終わったら、とりあえず副大統領と今後の善後策について考えておきましょう』
 笑いが絶えない中、大統領がこう言ったところで、首相の秘書官が「総理、時間です」と告げ、会談はここでお開きということになった。
 『──それでは、とりあえずそういうことで』
 「ええ、まぁとりあえず」
 最後にこんな言葉が交わされた後、両首脳の間に固い握手が交わされ、日米首脳会談は全日程を終了した。2人の首脳は互いに側近と談笑しながら、別々の出入り口から会談場を退出していった。

 

 ──それから間もなくして、サウジアラビアの米軍基地から2機の爆撃機が飛び立った。日米首脳会談で取り交わされた、「件の独裁国家に対し、とりあえず1度だけ空爆して様子を見よう」という合意事項に従ってのことであった。
 この空爆は、とりあえず国境線近くの軍事施設が目標とされ、とりあえず2機合わせて5発の爆弾が落とされて、その内1発が近くの集合住宅を誤爆した。

 その結果、とりあえず27人の尊い命が失われた。

 


 

11月11日(月) 特別演習
「第2回世界漫画愛読者大賞への道」(1)

 今回から不定期で、ゼミ「現代マンガ時評」の特別カリキュラムを実施します。
 講義テーマは表題にある通り、「週刊コミックバンチ」系のプロ・アマ混合コンペテイションイベント・「世界漫画愛読者大賞」について。昨年、「賞金総額1億円」を謳い文句に、業界史上最高賞金額のマンガ賞として創設されたビッグイベントです。

 受講生の皆さんもご存知の通り、当講座では昨年度の第1回からこの賞の模様を追いかけており、最終審査進出作品のレビューや、賞そのものについての検証を行って来ました。(未受講の方は1月30日付以降の「現代マンガ時評」や5月20日〜22日のレジュメを閲覧されることをお薦めします)
 そんな一連の講義の中で駒木は、この「世界漫画愛読者大賞」について、かつて「週刊少年ジャンプ」で開催されていた同種イベント・「ジャンプ新人海賊杯」と比較検討しながら複数の問題点をピックアップさせて頂きました。
 それらの問題点とは即ち──

 ◎読み切り作品からでは連載に適した作品を選ぶ事は難しい。
 ◎ストーリー(中身)よりも絵柄(見栄え)が投票行動に影響する。
 ◎一般読者の投票で、本当に作品や作家の良し悪しを判断できるのかどうか疑問。

 
 ……などといったものであり、その問題点が悪い方向へ展開していった場合に発生するであろう、

 ◎鳴り物入りで連載開始された受賞作・読者投票上位作品の人気低迷・早期打ち切り。
 ◎後になって読者投票順位が伸び悩んだ作家の作品が連載された際、投票順位上位の作家や作品よりも人気が出てしまい、賞全体の価値や威信が低下する。

 ……といった事態に至る危険性を指摘させて頂きました。

 そして結局、非常に残念なことに、これらの危惧はほぼ全て現実のものとなってしまったのです──

 グランプリ受賞作で“連載最低1年”の特典を獲得した『エンカウンター 〜遭遇〜』作画:木之花さくや)は、壮大な設定を消化することがままならないまま、連載当初から人気が低迷。しかし特典があるために打ち切りも出来ず、今は連載保証期間を消化するためだけの長期休載に突入しています。
 本来なら今週発売の50号から連載復帰の予定ですが、49号の次号予告に『エンカウンター』の名は有りません。この「コミックバンチ」は、以前から規定事項をなし崩しに“無かった事”にしてしまう傾向があり、今回もこのまま“休載期間延長→「諸般の事情のため」打ち切り”になる可能性も捨てきれません。
 今からそういう事を言ってしまうのはアレですが、もし、そのような事になった場合は、「世界漫画愛読者大賞」の価値が大きく揺らぐ事は避けられないでしょう。

 読者投票2位の準グランプリ作で連載を勝ち取った『がきんちょ強』作画:松家幸治)も、打ち切りこそ免れているものの巷の人気は伸び悩んでいます。キャラ設定の欠陥や作品中に見られる度を越した“毒”のために、特に熱心な「バンチ」読者層から強い反発を呼び、“不快マンガ”との烙印を押されてしまったのです。
 現在は“毒”を封印して純粋な人情ドラマ路線への方向転換がなされていますが、そのテコ入れの内容と目的(人気取り)が余りに露骨過ぎたために、“アンチ『ガキ強』”層の反発は増すばかり。今では「新規読者開拓には役立たず、熱心な読者にとっては不満の種」という、一種の“お荷物”的存在となってしまっています。

 また、読者投票9位ながら「4コマ漫画部門賞」の名目で連載されることとなった『熱血 !! 男盛り』作画:南寛樹)に関しては、連載開始以前から「どうして投票下位の作品が、4コマ漫画だからといって無条件で“救済”されなければならないのだ」という批判を浴びてしまいました。
 連載開始以後は、『エンカウンター』や『がきんちょ強』ほどの反発は浴びていないものの──これも投票結果からすればおかしい話ですが──未だ、この作品が“救済”された意義を評価する声はほとんど聞こえて来ないのが現状です。

 と、こうして受賞作組が苦戦する中、読者投票では5位に甘んじて連載を勝ち取れなかったはずの『満腹ボクサー徳川。』作画:日高建男)が、何故か突然“敗者復活”となって連載が開始となりました。
 人気投票の順位からすれば“苦戦必至”であるはずのこの作品ですが、いざ連載が始まってみると、読み切り版からのマイナーチェンジが功を奏したのか、やや地味ながらも安定したストーリー運びで着実に人気を獲得。さすがに「バンチ」を代表する看板作品とまでは行きませんが、コアな読者の間では“連載陣・主力の一角”という評価で定着しつつあるようです。

 ……このように、第1回の「世界漫画愛読者大賞」は、悲しいまでに先に挙げた危惧(受賞作・上位作の人気低迷/連載予定の無かった下位作による逆転現象が現実のものとなってしまいました。それどころか、グランプリ・準グランプリ作は「バンチ」全体のレヴェルを引き下げてしまう“デフレ現象”を引き起こした…との声も多く聞かれるくらいです。
 まさに、絵に描いたような大失敗イベントの規模や注目度が大きかっただけに、余計に痛々しい結果となってしまったと言えるでしょう。

 

 ──しかし、このような“逆風”の中にも関わらず、今年も第2回の「世界漫画愛読者大賞」が開催されています
 今回は応募総数がほぼ半減(第1回:215作品→第2回:117作品)し、常識的に考えれば厳しい展開が予想されるこの賞ですが、「バンチ」編集部サイドは昨年同様、極めて強気な姿勢を崩しておらず、色々な意味で興味深い賞レースとなっています。
 そして、今回から始まるこのシリーズの講義は、そんな第2回「世界漫画愛読者大賞」について、賞レースの進行に沿いながら、その都度考察を加えていくという形でお送りしよう……というものです。
 ただ、考察と言いましても、まだ作品の内容が全く公になっていませんので、極力断定的な言い方は避け、問題点と期待できる点を併記する形で慎重に述べてゆきたいと思います。過激な論調を期待されている方にはご期待に添えないと思いますが、どうがご容赦ください。

 それでは、今回は「バンチ」48号に掲載された、「全応募作品完全データ分析」から色々な考察を加えてゆきましょう。

 まずは無難な所から。性別年齢です。誌面ではパーセンテージで表示されていましたが、実感が湧き難い数字ですので、ここでは実数に換算してお送りします。

 初めに男女別比率から。

 ◎男性……103作品(88%)
 ◎女性……14作品(12%)

 編集部からのコメント、「男性が圧倒的多数を占めるという予想通りの結果になりました」…とあるように、これは納得出来る数字のような気がします。
 ただ、現在の「バンチ」はいかにも“男臭い”雰囲気がありますので、若干それを中和させる意味でも、ここで梅川和実さん『ガウガウわー太』の他にもう1人くらい女流作家さんが加わっても良いような気もしますから、それを考えると、やや残念な比率と言えなくもありません。単純に計算すると、入選10作の内に女性応募者の作品が1作品入ることになりますが、果たしてどうなるでしょうか。

 次に年齢別比率を紹介しましょう。

 ◎10代……3または4作品(3%)
 ◎20代……53作品(45%)
 ◎30代……29作品(25%)
 ◎40代……13作品(11%)
 ◎50代……3または4作品(3%)
 ◎不明……15作品(13%)

 編集部のコメントでは「ちょっと残念なのが、10代の方々の投稿が少なかったこと」とありますが、この賞の目的──すぐにでも長期連載が可能な即戦力の発掘──を考えると、これはこれで良いような気がします。経験の浅い新人さんをいきなり厳し過ぎる環境に置くと言うのは、どうにも酷ではないでしょうか。

 それよりも気になるのは、30代以上の応募者の多さです。
 これがもし、他誌などでプロ活動を経験した作家さんの応募が多かったのならばプラス材料であると言えるでしょう。そのメンバー次第によっては、一気に賞のレヴェルが上がる事が予想されます。(ただし、第1回のような“消えた漫画家の卵・敗者復活戦”が繰り返されるならば問題ですが)
 しかし、これらの高年齢応募者の大多数が「これまでマンガなんか描いた事ないけど、賞金も高いし一丁やってみるか」系の新人さんたちだった場合は、あまり良い材料とは言えなくなります。今まで成功したマンガ家さんのほとんどが、20代の内に何らかの形でプロデビューを果たしている事を考えると、期待できる作品の数が一気に萎んでしまうからです。
 高年齢でのデビューと言うと、『ナニワ金融道』青木雄二さんが思い浮かびますが、青木さんも『ナニ金』のずっと以前に新人賞入賞と雑誌デビューを果たしていますし、日本の戦後マンガ史を振り返ってみると、青木さんそのものが例外中の例外的存在です。やはり日本のマンガ業界では“才能は若い内に芽を出しておけ”というのが鉄則と言って差し支えなく、それを考えると“高年齢ルーキー”と聞くだけで、大きな不安を抱いてしまうのです。
 しかし、まだ応募者の氏名・ペンネームが全く判明していない今現在で結論を出すのは時期尚早でしょう。これはまた、選考の進行に沿って再び検証する事にしたいと思います。

 それではいよいよ話の核心、作品のスタイルやジャンルについて論を進めていきましょう。

 まずは通常のストーリー作品と、4コマなどのショートギャグであるフリースタイルの応募作品数比率から紹介しましょう。

 ◎ストーリー作品……81作品(69%)
 ◎フリースタイル……36作品(31%)

 コメントによると、編集部サイドはフリースタイルへの応募が少ないと感じたようです。
 しかし、「少年ジャンプ」系の新人賞である手塚賞(ストーリー作品専門)と赤塚賞(ギャグ専門)の応募者比率が、およそ“手塚2:赤塚1”ということを考えると、これは極めて妥当な数字ではないでしょうか? ストーリー作品の中にもギャグマンガが相当数含まれていることを考えると、まだフリースタイルの応募が多いとさえ言える位です。やはりある種の“お手軽感”が強いせいでしょう。

 ただ、このフリースタイル部門の“お手軽感”は、裏を返せば全体のレヴェルの低下を誘発する危険性もはらんでいます
 そして事実、それを裏付けるようなコメントが誌上に掲載されています。

「しかし、競争率という観点からみれば、フリースタイルの方が断然有利。しかもページ数が少なく、3話分のネームも必要とされないことから、素人の方の応募が比較的多いようです。となれば、数字以上に有利と言えるでしょう」

 ここで注目すべき点は、“新人”ではなくて“素人”という言葉が使われている事です。この“素人”を、コメントの文脈も含めて素直に受け取れば、“受賞を争う水準に達していない人”と解釈して良いと思います。そういう応募者が「比較的多い」という事は、応募された30数作品の中の相当数が問題外の作品であると言えるのではないでしょうか。となれば、これは非常に憂慮すべき事態です。
 そう言えば、47号に掲載された応募作品の全タイトルの中に、かなりの数の“無題・題名なし”が含まれていました。その多くが“『○○』他”という書かれ方をしていた事から考えると、タイトル無し作品の多くはフリースタイル部門への応募作と考えて良さそうです。この種の賞レースにおいてタイトルを書かないと言うのは、それだけで失格にされてもおかしくないボーンヘッド。まさに「素人の方の応募が比較的多い」状況を証明しています。
 この事実から考えるに、フリースタイル部門は36作品の応募ですが、実質は30弱、もしくはそれ以下の数による争いになってしまったようです。入選10作品の中でフリースタイル部門に与えられる枠は1作品のみですが、それを差し引いても“お寒い状況”。後は、この少数の“実質候補作”の中に、飛びぬけてハイレヴェルの作品が混じっている事を祈るばかりです。

 フリースタイル部門についてお話したついでに、部門内の4コママンガ作品と、それ以外のスタイル(1ページ物など)の比率についても紹介しておきましょう。

 ◎4コママンガ作品……15作品(42%)
 ◎4コマ以外の作品……21作品(58%)

 4コマ以外の作品については、編集部コメントの中に「斬新なコマ割で描かれた作品、コマという概念さえ取っ払った作品」があったと言及されており、相当奇抜な作品もあったようです。そんなタイプの作品は“当たり外れ”が大きいでしょうから、可能性は低いながら“当たり”が出た場合の事も考えて、とりあえずは注目と言えますね。

 では、最後にストーリー作品のジャンル別比率の紹介と分析を行いましょう。
 ストーリー部門の応募総数は81作品。これを「バンチ」誌上で発表になったグラフから計算すると、このような感じになります。

 ◎ファンタジー……23または24作品(29%)
 ◎時代劇……12作品(15%)
 ◎ギャグ……12作品(15%)
 ◎スポーツ……6または7作品(8%)
 ◎SF……5作品(6%)
 ◎ラブコメ……5作品(6%)
 ◎その他……17作品(21%)

 ちなみに、第1回の入選作のうち、4コマ部門賞の『熱血! 男盛り』を除いた9作品を、このジャンル分けに沿って分類してみますと、以下のようになります。これも参考資料としてお話を進めてゆきましょう。

 ◎スポーツ……3作品(格闘2、バイク1)
 ◎ギャグ……1作品
 ◎SF……1作品
 ◎その他……4作品(極道+将棋1、イスラム史+アクション1、日常生活2)

 まず、やはり目に付くのは、最も多くの応募作を集めたファンタジー物でしょう。一時期に比べ、最近はマンガ家志望者たちの“ファンタジー熱”も沈静化したとは言われていますが、やはり根強い人気を誇っているようです。また、新人応募者特有の大作主義も影響していると思われます。この種の賞レースでは、新人ほどスケールの大きな話チャレンジしたがる傾向があるのです。

 しかし、いきなり話の勢いを挫いてしまいますが、現在のマンガ界においてファンタジー物は一種のタブー扱いをされているのです。
 これには2つの理由があります。1つは、既に『ベルセルク』作画:三浦建太郎)や『BASTARD !!』作画:萩原一至)といった、極めて高いレヴェルのメガヒット作品が存在し、しかも両作品とも未だ“現役”であること
 つまり、今のコミック・シーンでファンタジー物に挑むという事は、この両作品に戦いを挑む事を意味するのです。これは相当の至難の業で、つい最近も「週刊少年ジャンプ」で『SWORD BREAKER』(作画:梅澤春人)が撃沈してしまったのは記憶に新しいところです。
 そういうこともあり、マンガ家の卵が担当にファンタジー物の企画を出しても、「今はもう、『ベルセルク』と『BASTARD !!』があるからねぇ」…などと一刀両断されるという話も聞きます。
 もう1つは、ファンタジー物をマンガで描く事の難しさが挙げられます。ファンタジーは、現実世界でない1つの世界を創造し、その中で多くのキャラクターを操縦してストーリーを積み重ねてゆくジャンルであり、極めて高い能力が要求されます。そう簡単に描けるものではありません。
 ましてや、ページ数に厳しい制限のある公募のマンガ賞では、規定の枚数の中で空想世界の設定を読者に説明しなければなりませんし、せいぜい短い1つのエピソードを描くだけで精一杯。作品の魅力を伝えきれないままでページが尽きてしまうケースが極めて多いのです。

 ……そういうわけで、ファンタジーは“応募作の最大勢力にして駄作の最大勢力”なのです。今回「──愛読者大賞」では、23〜4作品のファンタジー作品の応募がありましたが、その大半は“望み薄”と考えた方が良さそうです。これは、第1回の入賞作品にファンタジー物が無かった事からも分かります。
 勿論、僅かな確率ながら『ベルセルク』級の傑作が応募されている可能性もありますが、それにしてもせいぜい1作品といったところでしょう。ただでさえ応募作品数の少なさが心配されている今回の「──愛読者大賞」にとって、この約20作品のロスは痛手としか言いようがありません。

 では、ファンタジーの次に応募が多かった時代劇はどうでしょうか?
 これは、「バンチ」では創刊当時から時代劇の作品が度々連載されている事から、応募者が“狙い目”だと感じた影響があったのかも知れません。そんな計算のもと、綿密にプロットを練った作品で賞に挑んだ“やり手”の応募者がいるならば、大きな期待が出来ますね。
 しかし時代劇も、緻密な時代考証や剣劇シーンの描写など、他のジャンルに比べて高い技量を要求されるジャンルではありますし、“半ば妄想のような新撰組物語”や、“高年齢応募者によるポルノまがいの時代劇”などの典型的な駄作が多く集まる傾向もあります。それを考えると、この時代劇もまた“当たり外れ”が極端に分かれそうな予感がしますが、どうでしょうか? これも審査が進むにつれて、全容が露わになることしょう。

 12作の応募があったギャグマンガについては、個々の作品を実際に読んでみないと分からない部分が多すぎますので、現時点ではコメントを差し控えさせて頂きます。応募者の中に現役のプロ作家さんがいるかどうかも含めて、別の機会に検証してみたいと思います。

 スポーツ物の中では格闘物が多かったようですが、これは時代劇と同様に「バンチ」の編集方針を意識して狙い撃ちしたものと思われ、そういう意味ではリサーチ能力に優れた応募者の人が多かったという事になります。格闘物は、比較的話が作りやすいジャンルでもありますし、これに関してはかなりの期待が出来そうな気がします

 第1回のグランプリ作・『エンカウンター』を生み出したSF物に関しては、複雑な設定を組んで大掛かりな話を作らなければならない事を考えると、ファンタジーとほぼ同じ傾向であると考えても良さそうです。よって、このジャンルに関しても大きな不安を抱いてしまいます
 また、先述の『エンカウンター』に加え、『レムリア』作画:岸大武郎)も短期打ち切りの憂き目に遭っている事を考えると、「バンチ」とSFというのは相性が悪いのかも知れませんね。

 ラブコメは、絵柄や設定などで大きなセールスポイントが1つあればヒットが望めますので、ある意味この賞に向いているジャンルかも知れません。ただし、「バンチ」の読者層が「週刊少年サンデー」や「週刊少年マガジン」で連載されているようなラブコメ作品を求めているかどうかは微妙なところですね。これは“やってみなければ判らない”といったところでしょうか。

 実は、駒木が個人的に期待しているのは“その他”のジャンルです。他の応募者がやって来ないようなモノに挑戦しようという意気込みだけでも評価できるというものですし、前回の入賞作品の中で、このカテゴリから出た作品が一番多かったのも注目です。
 このカテゴリについても、実際に作品をあたってみないと判らない部分が多いですので、また別の機会に詳しく述べる事にしたいと思います。

 
 ……と、今回は、応募者や応募作品の傾向について取り止めも無くお話して来ました。今日述べた事が果たしてどこまで的を射ているか、正直言って戦々恐々といったところなのですが、受講生の皆さんに評価して頂ければ幸いです。

 このシリーズの第2回は、今のところ来週早々に実施する予定です。その講義では、「バンチ」49号で急遽発表されたグランプリ選出方法の改訂について扱う予定です。どうぞご期待下さい。 (次回へ続く

 


 

11月10日(日) 文献講読(小説)
「駒木博士のショート・ショート発表会」(2/全3回)
第2話:『神様代行』

 夕方だというのに、千鳥足気味に路地裏をうろつく男がいた。名を伊田原一郎という。
 髪は3ヶ月床屋に行っていないのでボサボサ。顔からはゴマのような短いヒゲが生え始めている。使い古したカミソリでヒゲを剃ったので1日保たなかったのだろう。その上、額の真ん中には深い皺が刻まれており、これがまた痛々しい。
 貧乏しているために身なりもパッとしない。この男、実年齢は三十路に足を踏み入れたばかりであるが、誰が見ても5つや10は上乗せしてみたくなる雰囲気を醸し出している。

 ここまで聞けば、この男が現在どのような境遇にあるかが誰にでも容易に想像出来ることだろう。そしてまた、これも恐らく誰もが想像する通り、彼は今日、朝からハローワークに行って職探しに失敗し、その後ワンカップの自動販売機前にへばり付いてヤケ酒をあおり、そのために電車賃が無くなったので、電車で3駅先の安アパートへ歩いて帰る途中である。当然のことだが、自分の部屋に帰っても彼を待つ者は誰もいない。
 
 「──ぐっ」
 伊田原は突然歩みを止めて胸を押さえ、その直後、近くの壁際に駆け寄ってうずくまった。
 「げえええぇっ」
 ツマミも無しで空きっ腹に安酒を注ぎ込んだせいだろう。胃液と酒の混合物がノドを逆流して口から噴出し、コンクリートの壁にシミを作った。むせ返るような臭いが更に吐き気を誘発し、伊田原は咳き込みながら2度、3度と“ヤケ酒だったもの”をぶちまけた。
 10分くらいそうした後、ようやく吐き気が収まった伊田原は、立ち上がって再びフラフラと歩き始めた。吐いたせいで酔いは随分収まったのだが、今度は酒で吐いた直後特有の体のだるさと戦わなくてはならなくなった。足取りが覚束ないのはそのせいである。
 また、酔いが醒めて正常な思考が徐々に回復してくると、今の自分の状態を客観視してしまい、自己嫌悪に陥る。
 「畜生。何やってんだ、俺ぁ……」
 ここで自らの愚かさを実感し、心を入れ替えるような人間なら、彼もこのような境遇に至ることはなかっただろうが、この男、何にでも責任転嫁する傾向があった。
 「──くそっ、こうなったのもあのジジィのせいだ。ロクに仕事もしねぇで、『贅沢言わずに何でもいいから働け』とか抜かしやがって畜生」
 ……まずは、今日ハローワークで面談した職員に。
 「──『選り好みせずに、肉体労働でも一度やってみてはどうですか』だぁ? 仕方ねぇだろ、親が重いモン持てねえように俺を作っちまったんだからよぉ」
 ……次は産んでくれた両親に八つ当たりである。
 「──大体、国がいけねぇんだ、国が。不景気になっても何もしやがらねぇで。政治家が悪い、政治家が」
 ……ちなみにこの男、「どうせ1票なんかで何も変わるわけねぇだろぅ」などと言って、選挙にはほとんど行ったことが無いのである。そのくせ、選挙事務所に食い物をたかりに行ったことは何度でもあるような輩なのだ。
 その後も伊田原は、やれ小泉だ、やれビンラディンだ、などと難癖をつけ続け、しばらく後にようやく最終的な結論に至った。
 「──大体なぁ、神様とかホトケ様とか言いやがって何もしねぇじゃねえか。何が“様”だ。ちゃんと仕事してから“様”付けろバカ。俺が神だったら、まだもうちょっとマシな世界にしてやるってんだよ」

 ──と、その時である。

 「じゃあ、代わりにやってみるか?」
 突然、聞き慣れない男の声が伊田原の耳に届いた。
 「────!?」
 声の主を探してキョロキョロと辺りを見回してみると、伊田原の斜め前の壁に、1人の男がもたれかかっていた。容姿・身なりは伊田原と同じくらいうらぶれているが、唯一違う点として、手には何故か妙に節くれだった杖が握り締められている。
 「……あんた、神になりたいって言ったよな。神そのものは無理だけど、その代わりにはしてやれるぜ」
 その男はそう言って、伊田原の側にやって来た。しかし、当然の事だが伊田原は警戒の姿勢で男を出迎える。
 「何だよ、お前ぇ」
 だが、男は伊田原の詰問に動じることなく答える。
 「この辺に住んでる人間だよ。言ってみれば『神様代行』だな」
 「か、『神様代行』だぁ?」
 「あんたは知らないだろうけど、世界は日本人の誰かが1年ずつ交代で神の代わりをやってるんだよ」
 「で、お前がその代行?」
 「そう。これがそのための杖」
 男が手に持った杖を掲げてもう一方の手で指し示した途端、辺りに大きな笑い声が響き渡った。伊田原が腹を抱えて笑い始めたのである。
 「──ひーっひっひっ……お前、冗談上手いな」
 「やっぱりな。そう簡単に信じてもらえるはずないわな」
 「どうやって信じろってんだよ、お前みたいなパッとしねぇヤツに突然ンなこと聴かされてもよぉ」
 今度は怒りを込めた口調で答える。馬鹿にされていると伊田原は思っていた。
 「ん〜、じゃあ証明してやるよ。あんた、体でどこか調子悪い所無いか?」
 「調子悪いところだぁ? あぁ、貧乏でカップラーメンか50円のハンバーガーしか食ってねぇからか知れねえけど、最近クソが出ねえんだよクソが。便秘だ、便秘」
 「じゃあ、それを一発で治したら信用するかい?」
 「信用するも何も、まずやってみろ、このバカ」
 すると『神様代行』の男は、伊田原の言葉に「バカは余計だよ」と口を挟みつつも、持っていた杖を天にかざし、
 「神の名において、この男の体に生の力を蘇らせたまえ!」
 ……と、一声叫んだ。その途端、伊田原の顔色が一変する。 
 「──ッ! ……お、おいおいおい、べ、べべ便所、便所!」
 「なぁ、俺のこと、信じてくれたか?」
 「バカ、ンな事より、クソがしてぇんだ。便所だよ、便所!」
 「信じてくれるなら、俺の部屋のを貸してやってもいいぜ。すぐ近くだ」
 「分かった、分かったから早く行けよ、オラ!」
 「はいよ。1名様、ごあんな〜い」
 「殺すぞ、手前ェ!」

◆─────◇

 「──で、俺に1年間『神様代行』をやってみろって言うんだな?」
 腸に溜まった一週間分のモノを排出したばかりの伊田原は、より一層やつれた顔をして“現:『神様代行』”の男に言った。
 「そういうわけ。任期の1年が終わったのは良いんだけど、代わりがいなくてね。ちょうど探してたところだったんだよ」
 「でもよぉ、自分で言うのもなんだが、俺で大丈夫なのか?」
 「ぷ。あんた、逆ナンパされた童貞みたいな事言ってるな」
 「うるせぇ。さっきからお前、一言多いんだよ」
 「大丈夫だよ。俺を見りゃあ、自分と似たような人間でも出来るってことくらい分かるだろ。いざとなったら、本物の神様とやらが降りて来るらしいから、安心してやりゃあいい」
 「その神様とやらは、仕事もしねぇでどこにいるんだよ。おかしいじゃねえか。人間に仕事任せて自分はトンズラってよぉ」
 「俺に訊かれたって、知らないよ。俺は前の『代行』に聴いた事をそのまま伝えてるだけだから」
 「頼りねぇなぁ……。しかし、『神様代行』が、また酷い所に住んでるなぁ。これじゃ、俺の部屋より酷いくらいだぜ。……まぁ電気とガスは出なくなったけどよ」
 伊田原は辺りの部屋を見渡しながら呆れ口調で言った。6畳一間のその部屋は確かに寂れていた。最低限の家具や電化製品と、極端に狭いユニットバスが数少ない救いと言えそうなものだった。
 「仕事が仕事だから目立つわけにいかないんだと。このアパートだと、朝寝て夜起きる連中ばかりが住んでるから都合が良いんだよ。何でも、大昔は洞穴に住んでたって言うから、これでも恵まれてる方らしいぜ」
 「そりゃあ“下には下がいる”って話じゃねえか」
 「そう言うなって。メシだけは不自由しないんだぜ。神の力で1日3回食い物が出せるんだよ。卓袱台の上に皿とドンブリが乗っかってるだろ。あれに出る。……そうだ、あんた、一度やってみ。杖を天井に向けて、『神の名において、我に日々の生きる糧を与えたまえ』って言えばいい。簡単だろ? ほら」
 と、『神様代行』に杖を渡された伊田原は、しばらくの間しげしげと杖を眺めていたが、やがて意を決したのか男に言われるがままに杖を掲げ、
 「か、神の名において、我に…日々の…生きる糧を与えたま…え」
 と、途切れ途切れに呟いた。どうやらまだ照れがあるらしい。
 しかし、声は小さくとも効果はたちどころに現れた。卓袱台の皿とドンブリが一瞬光ったかと思えば、そこには分厚いステーキと大盛のカツ丼が盛り付けられていた。 
 「うわ! 本当に出た!」 
 驚く伊田原。それを眺めていた『神様代行』の男が嬉しそうに口を開いた。
 「な、出ただろ? 自分が心の奥底で食べたいと思ってる物が出てくる仕組みになってるらしいんだ。だけどあんた、随分な注文だな。成人病になるぞ」
 「放っとけ、バカ」
 「で、まぁこの調子で杖使って、テレビでも観ながら1年間、せいぜい世の中良くしてくれたらいい。『神の名において』って前に付けて、適当に言ってれば何か起こるようになってるからさ。時間だけは有るんだから色々試してみるんだな」
 「いい加減だなぁ、オイ」
 「それで良いんだよ。ただし、言っておくけど具体的な内容しか通じないようになってるからな。『世界を平和にしたまえ』みたいな漠然とした内容じゃダメだ」
 「この世から病気を無くせってのもダメか」
 「ダメ。さっきあんたにやったみたいに、1人に限定して体に生命力を注ぎ込むことは出来るけど、まとめては無理。あと、誰々死んじまえってのも無理。それは神じゃなくて死神の仕事らしいんだな。神が出来るのはプラスの力を与えることだけらしい」
 「なんだよ、それじゃあロクなこと出来ねぇじゃねえか」
 「まぁ、あくまで『代行』だからな。でも、やり方次第によっては大仕事も出来るんだぜ。ほら、鎌倉時代にモンゴルが攻めて来た事あったろ。元寇ってヤツ」
 「あぁ、そういやあったな。アレか、神風が吹いて船沈めたとか何とか」
 「そう、それ。その神風、どうやらその時の『神様代行』がやった大仕事らしい」
 「ホントかよ!」
 「ああ。ほら、日本って小さい島国のくせに他の国に攻められたりとか、少ないだろ? どうやら歴代の『神様代行』が頑張ったおかげらしいぜ」
 「じゃあなんでアメリカに戦争で負けたんだよ」
 「前の『代行』から聞いた話じゃ、その時の『代行』が神風特攻隊の応援ばっかりしてたらしい。要はバカだったんだな」
 「……」
 「まぁ、そういうわけで1年ここで頑張ってくれ。1年経ったら、さっきの俺みたいに次を探していいからさ。で、見つかったら御役御免だよ。」
 「お、おいちょっと待て、『ここで』ってどういうことだよ」
 「そりゃあ、代行って言っても神様がフラフラ出歩いたらマズいだろう。1年365日、24時間この部屋に引き篭もって仕事するんだよ。なぁに、メシは好きな物が出るし、自分で自分に生命力入れときゃあ運動しなくても健康体のまんまだ。ちょっと不自由するだろうけど、頑張ってな」
 「おいおいおいおい! ンな事聞いてねぇぞ。俺はやらねぇからな」
 「さっき、メシ出す時に1回力使っただろ? 1回力使ったら仕事を引き継いだことになるんだよ」
 今や“前・『神様代行』”となった男は、そう言ってニヤリと笑った。
 「聞いてねぇぞ!」
 「言ったら杖使わなかっただろ? 俺も1年前そうやって騙されたんだよ。まぁせいぜい頑張ってくれや」
 「畜生!」
 伊田原は叫び声をあげるや、杖を放り出して玄関のドアに飛びついた。が、その瞬間、伊田原の全身に青白い光がほとばしり、彼は「ギャッ」という悲鳴と共に弾き飛ばされた。
 呻き声を漏らしながら床に這いつくばる伊田原を見下ろすようにして、男が飄々とした声で話し掛ける。
 「あ〜、言ってなかったけど、逃げようとすると“神罰”が下る仕組みになってるからな。あと、ここは携帯も圏外になってて通じないから無駄な事するなよ」
 「……なぁ、頼むよ。いくら独り身って言ったって、身内がいないわけじゃないんだ。1年も行方不明になったら大変な事になっちまうよ」
 「大丈夫だよ。2、3日連絡取れないで怒るようなヤツでも、1年経ったら『よく生きてたな』って泣いて喜んでくれるからさ」
 「……そ、そん時の理由はどう言やぁいいんだよ」
 「細かい事気にするんだなあ。そんなの、『神隠しに遭った。よく覚えてねぇ』とでも言っておけば大丈夫だって。嘘は言ってないだろ?」
 「う、うぅ……」
 「まぁ、そういうわけだ。じゃ、俺行くからな。あ、ちゃんとメシは残さず食えよ。生ゴミも出せないんだから残すと大変だぞ」
 男は、何か憑き物が降りたような爽やかな声でそう言い放つと、“神罰”のショックでうずくまったままの伊田原を置き去りにして、部屋を出て行ってしまった。
 独り残された伊田原の耳には、壁越しに聞こえる男の「さぁ〜、久しぶりのシャバだあ」といいう能天気な声が聞こえていた。

◆─────◇

 ──新しい『神様代行』が決定してから2時間後。

 1人の少年が泣いていた。
 彼は、つい先刻に母親を亡くしたばかりであった。
 母親は不治の病に冒され、長年闘病生活を送っていたが、ついに天に召されたのである。
 少年は母親の回復を願い、ずっと祈りつづけていた。
 「神様、お母さんをどうか助けてください」
 しかし、その願いは叶えられなかった。
 感極まって、少年は叫んだ。
 「どうして助けてくれなかったんだよ! 神様なんかいないんだ、バカヤロー!」

 ……しかし、少年の言っている事は間違いである。 
 神様はちゃんといる。普段は訳有ってあまり仕事をしないのだが、代わりに『神様代行』が仕事をすることになっている。
 ただし、少年の母親が今わの際にあったちょうどその時、『神様代行』はステーキとカツ丼大盛をヤケ食いし、その勢いでフテ寝してしまった後だったのである。

 


 

11月9日(土) 競馬学特論
  「G1予想・エリザベス女王杯編」

駒木:「さて、G1予想だ。最近の講義レジュメ読んでて気が付いたんだけど、自分、事あるごとに『このレースは大金賭けちゃダメだ』とか言ってるんだな(笑)。
 けど、よく考えたら大金賭けられるレースなんて、ほとんど有り得ないんだよなぁ。なんて不毛なセリフを吐いて来たんだろう」
珠美:「ま、実際に堅かったり大荒れしたりで大変なレースが多いんですけどねー(苦笑)。でも、今週も馬券的にはそんなレースになりそうですね」
駒木:「そうだねぇ。秋華賞ほどじゃないにしてもファインモーション一本被りで、人気サイドが絞り辛い割にはオッズが低くて大変だね」
珠美:「やはり、ここに入ってもファインモーションは断然ですか?
駒木:「だと思う。そりゃあ、古馬相手だから、前よりは多少厳しいはずだけど、それでも牡馬の一線級と互角に戦える馬がいないわけだからね。そういうレヴェルの相手なら、何とかなっちゃうんじゃないかなぁって思ってるよ」
珠美:「詳しくはまた、1頭ずつ紹介する中でお願いしますね。では、まずは改めて出馬表と私たちの予想印をご覧下さい」

エリザベス女王杯 京都・2200・芝外

馬  名 騎 手
× レディパステル 蛯名
    ビルアンドクー 武英
    スマイルトゥモロー 吉田
    ブルーエンプレス 武幸
ダイヤモンドビコー ペリエ
ローズバド 後藤
×   ジェミードレス 菊沢徳
    シルクプリマドンナ 藤田
    ユウキャラット 池添
  10 タムロチェリー 和田
    11 チャペルコンサート 熊沢
12 ファインモーション 武豊
    13 トーワトレジャー 田中勝

駒木:「頭数少なめで、有力馬もかなり限定されてる感じだね。ただし、その代わりに低額オッズという最大の敵が立ちはだかる事になるわけなんだけど……」
珠美:「それでは、いつも通り博士に枠順に沿って解説をして頂きます。ではまず1枠1番のレディパステルから。昨年のオークス馬ですね」
駒木:「去年のこのレースで僅差の4着か。その時は現役牝馬の中でも最強クラスだと思ったものだったけれど、それ以降は入着するも未勝利で少し寂しい成績だね。陣営も『成長がやや物足りない』とか言ってるし、どうやらこのレースが正念場になりそうだ。ファインモーションに負けるのは仕方ないにしても、せめて際どい2着争いをするぐらいじゃないとね。
 タイプとしては、真ん中から少し後ろで待機して直線勝負。今回のレースだと、ファインモーションに交わされた先行馬を更に交わせるかって事になるのかな。展開としては悪くない。あとは、先行するダイヤモンドビコーと、この馬の後ろから来るローズバドとの力関係だね。僕の評価としては、この2頭には少しだけ足りないって感じかな。上位馬が凡走した時の補欠第1位ってところかな」
珠美:「では、次に2枠2番のビルアンドクーを。1000万条件からの超格上挑戦ですが……」
駒木:「う〜ん、1000万条件を勝ち切れない馬に出て来られてもねぇ。距離経験が1800mまでしかないのもプラスとは言えないだろうし、好走は難しいかな」
珠美:「やっぱりそうなっちゃいますね。では3枠3番のスマイルトゥモローを。今年のオークス馬で、そのオークス以来の実戦となりますが……」
駒木:「6ヶ月の休養明けだね。この中間は1回頓挫があったけど、慎重に再調整されて来てるから体調には余り問題が無いだろうと思う。あとはブランクによる精神的な影響と、根本的な力関係になるね。 
 その力関係だけど、やっぱり今年の3歳牝馬戦線の低レヴェルを考慮しないといけないだろうね。“オークス馬”っていう額面をその通りに受け取るのは難しいよねぇ。展開的にローズバドとポジションが被っているんだけど、末脚勝負で勝てるとは言い辛いものね」
珠美:「ブランクの影響についてはどうでしょうか?」
駒木:「表向きの陣営コメントは強気なんだけど、別の時には本音をポロリと漏らしてる『順調度の差は大きいだろうね』って。だからまぁ、“(影響が)無いとは言えない”ってところじゃないかな。
 勿論、今年のオークス馬っていう実績を重視して、この馬に高い評価を与えるのもアリだよ。ただ僕は、色々と細かいマイナス要素が重なっている感じがするんで、ちょっと敬遠したいところ」
珠美:「4枠からは2頭ずつになりますね。よろしくお願いします」
駒木:「ブルーエンプレスは、言っちゃ悪いけど“引退直前の思い出作り”に出走して来ただけかなって気がする。常識的に言って狙い辛いよね。
 ダイヤモンドビコーは、一時期の不調から完全に脱出できた感じだね。G1レースでの出走実績が無いのがアレだけど、牝馬の中なら文句無しのトップクラスであることは間違いない。鞍上がペリエっていうのも強みだね」
珠美:「ダイヤモンドビコーは展開的にも向きそうな感じがしますね。苦も無く逃げ馬を目標にして、直線で抜け出しそうですし…」
駒木:「それがそうとも言えない。何しろファインモーションが相手だからねぇ。この馬がファインモーションよりも地力で明らかに勝ってるなら別だけど、先に抜け出したところを更に目標にされそうな感じだからねぇ。一度交わされた馬は脆いから、ゴール前で差し馬に捕まって3着って可能性も少なくないんだよね」
珠美:「なるほど……。結局は地力をどう評価するかですね」
駒木:「そうだね。ここまで話したんで、あとは皆さんの判断に任せることにするよ」
珠美:「分かりました。では、次に5枠の2頭ですね」
駒木:「ローズバドは牝馬G1レース3連続2着なんだねぇ。やっぱり極端すぎる脚質で損をしてるんだろうなぁ。一番強いレースをしても、勝てるとは限らないからね、競馬って。
 この馬も一時期はスランプに陥ってたんだけど、どうやらここに来て復調著しいみたい。何でも、前走も調子は良かったんだけど、叩き合いの時に他馬の騎手からムチで顔を叩かれて戦意を喪失しちゃったらしい。そういう事があるって話には聞いてたけど、本当にあるんだね、そういう駆け引きが。
 今回は、勝ち負けは難しいにしても、競り合いに負けた先行馬を交わして2着に上がる確率は一番高そう。ダイヤモンドビコーの時に言った事の逆だね。末脚だけなら現役牝馬の中でも最強にランクされる馬だし、差し馬同士の叩き合いでは負けないと思うよ。
 ジェミードレス成績的に地味なんだけど、牡馬相手のレースで善戦している辺りに見所を感じるね。前走の府中牝馬S(2着)は決してフロックとは思えないし、2着争いなら面白い存在と言えるんじゃないかな。ただ、2000m前後に距離の壁がある気がするので未知数な部分も多いと言える。期待はしても信用するのは避けた方が良さそうだ。微妙な存在だなぁ」
珠美:「次は6枠ですね。当講座の予想で参考にさせていただいている『競馬ブック』紙上では、ユウキャラットの評価が高いのが目に付くんですが、博士の評価はいかがでしょうか?」
駒木:「その前にシルクプリマドンナね。復帰後は惨憺たる結果が続いていて、正直言って『辞めどころを見失ったかな』って感じなんだけど、今回もキツそうだね。レースを使っても使っても気合が上向かないらしい。出口が見えないスランプってのは辛いねぇ。
 で、ユウキャラットだ。前走は僕も期待していたんだけど、陣営に言わせると『まさかの太め残り』だったらしい。
 まぁそれはそれで良いとしても、まず3歳馬の中でもトップクラスに足りない馬が、ここに来て簡単に通用するとは思えない。それに、マイペースで逃げられるって言っても、ダイヤモンドビコーとファインモーションの2頭にペースメーカーに使われちゃうんだよ。そりゃあペースを攪乱して20馬身くらいの大逃げをカマすっていうなら話は別だけど、相手はペリエと武豊だからなぁ。池添騎手ってのは、デビュー当時から逃げ馬に乗せると上手いんだけど、今回ばかりは役者が違うって感じかな」
珠美:「これで、ユウキャラットの鞍上がペリエ騎手で、ダイヤモンドビコーが池添騎手だったら、どうします?」
駒木:「難しい質問をするなぁ(苦笑)。……ん〜、でもファインモーションがいるからね。考えに考えて×印っていうところかな。多分、馬券の人気もそういう形になると思う」
珠美:「……なるほど、分かりました。変な質問してしまってすいません(笑)。
 では、7枠の2頭。人気薄の3歳馬なんですけど、実績は積んでますよね。どうでしょう?」

駒木:「2歳牝馬チャンピオンとオークス2着馬がこの評価ってのは寂しいね。特にチャペルコンサートは皆、見限り早すぎるよ(苦笑)。
 タムロチェリー直前気配が抜群に良いらしいねぇ。そんな事を聴いちゃうと、また狙いたくなっちゃうんだよなぁ(笑)。さっきの話じゃないけど、これがペリエ騎手だったら狙ってたかもしれない。ファインモーションとの馬連で万馬券になるしね。
 ただまぁ、気性やら距離やら展開やらローズバドたちとの相手関係やら、問題は山積みだからね。穴狙い専門の人に『どうですか、これ?』ってお伺い立てる程度かな。
 チャペルコンサートは、ここに来て少し伸び悩みかな。もう少し楽な相手関係のレースで、正確な実力査定をしてみたいんだけど。まぁ今回は見送りが妥当かな。僕はこの馬の地力に関して以前から疑問を持っているし」
珠美:「では、大外8枠の2頭についてお願いします」
駒木:「ファインモーションは、もう文句の付け所が無いね。さっきも言ったように、G3級の牡馬相手に苦戦する程度の牝馬には負けないくらいの地力を持ってると思う。展開的にも厳しく揉まれ込むなんて事は考え辛いし、結局はちょっと直線で抜け出すまでに時間がかかる程度の“苦戦”で済むんじゃないかな。
 でもねぇ、このレースには嫌な思い出があるんだよね。4年前、鉄板中の鉄板だったエアグルーヴが何を思ったかモタついて3着。競馬には絶対が無いから、この馬もそうかも知れない。まぁ、神のみぞ知るだね。
 トーワトレジャーは3歳で一度、秋華賞3着まで体験しながら、一時は1000万条件でくすぶってたんだね。それがここに来て、牡馬混合のローカル重賞で実績を挙げてG1戦線に復帰してきたわけか。まるで売れなくなったアイドルが演歌歌手に転身して、そっちの方で紅白に復帰した…みたいなもんだね。ある意味、応援したくなっちゃうような馬だねぇ。
 でも、前走から斤量5キロ増の上に休み明け、しかも急仕上げとなると、応援しようと振り上げた手を下げざるを得なくなっちゃうね(苦笑)。残念だけど、ここは入着候補がやっとじゃないかな」
珠美:「……ありがとうございました。それでは最後に買い目を発表して終わりにしましょう」
駒木:「僕は12を軸に、5、6、7への3点流し。当てにいくなら1-12なんだろうけど、配当の期待値から考えて7を優先した。これがどう出るかだね。最近の不調から考えると、ドンピシャで1-12になったりして(苦笑)」
珠美:「じゃあ私はそれも押さえまして(笑)、5-12、6-12、5-6、1-12の4点で。5-6が18倍しかつかないのが少し不満なんですけど、仕方ないですね」
駒木:「じゃあ、そういうわけで講義を締めくくろう。あ、来週はちょっと所用があるんで、マイルCSの予想に関しては休講する予定なんだ。申し訳ないけれども、どうかご容赦を」
珠美:「では、今度は再来週にお会いしましょう♪」


エリザベス女王杯 結果(5着まで)
1着 12 ファインモーション
2着 ダイヤモンドビコー
3着 レディパステル
4着 13 トーワトレジャー
5着 ユウキャラット

 ※駒木博士の“勝利宣言?”
 やっと正真正銘の的中なんだけど……この配当じゃねぇ(苦笑)。
 まさかあそこまでスローペースになるとは思わなかった。レース自体の上がり3ハロンが33秒台じゃ、追い込み馬は用無しだものねぇ。
 それにしてもファインモーション。今日のレースを観てると、“女ナリタブライアン”って感じがする凄い馬。有馬記念の悩みが1つ増えてしまったかな?

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 秋に入ってから4戦3勝です! これで菊花賞の……ああ、もう止めましょう、その事は。実はまだ金額は赤字だって事も含めて(笑)。
 これだけ好調なのに、マイルCSがお休みなのは惜しいです(苦笑)。博士にお願いして、短縮講義でもしてもらいましょうか……。

 


 

11月8日(金) スポーツ社会学
「マスターズリーグ・2002〜03年シリーズ開幕プレビュー」(3)

 ※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回

 昨日の夜に、前回紹介した札幌と東京による公式戦がありまして、東京が5−1で快勝しました。(詳細はこちらから)
 札幌は、懸念された通りの投手陣の薄さが響いて点を失い(特に打ち込まれたのが期待の川口だった事が誤算でしたが)、その上に東京の50代投手陣を相手に僅か6安打と押さえ込まれ、正に完敗。
 逆に東京は、不安視された打線が繋がって着実に各回にて加点し、西崎、渡辺の救援陣を温存する事も出来て満点の出来。特に、昨シーズン活躍できなかった選手たちがオフに自主トレに励んだ成果を結果に繋げるケースが目立ち、ファンや他のチームにモチベーションの高さをアピールするところとなりました。
 これで東京は開幕2連勝。全16戦ということを考えると、これで十分“開幕ダッシュ成功”と言えると思われます。

 ……さて、今回は残り3チームの紹介と戦力分析を中心に講義を進めてゆきたいと思います。
 では、今日も北から南、東から西…という順番で、名古屋エイティデイザーズから紹介してゆきましょう。


◆名古屋エイティデイザーズ◆

 ◎チーム紹介◎ 
 チーム名の由来は、名古屋弁の「やっとかめ」(標準語で『久しぶり』の意)を漢字に直した「八十日目」から。正式には“80D'sers”と書きます。
 要はアメリカのプロスポーツのチーム名である“49ers(フォーティナイナーズ/ゴールドラッシュの1849年に由来)”や、“76ers(セブンティシクサーズ/独立宣言の出された1776年に由来)”を、超ローカル版にしたチーム名というわけですね。
 どうでもいい話ですが、49nersと80D'sersを中途半端に合体させてしまうといけません“49D'sers”四十九日になってしまいます。三途の川渡りきってどないするねん。
 昨年は、大不振だった札幌の陰に隠れて目立ちませんでしたが、実は勝った試合は13連敗中の札幌から挙げた3勝のみに終わっていて、3勝12敗1分4位に終わってしまいました。チーム打率.261防御率5.12も誇れる数字ではありません。
 …そんなチームの状態を一番憂いていたのは、どうチーム監督にして、元中日・大洋で監督を務めた近藤貞雄氏「このままでは死ぬに死に切れん」と、ほぼ平均寿命に達した人としては極めてシャレにならない意気込みを見せ、他のどのチームよりも補強に力を入れ、昨年とは全く違う存在に生まれ変わろうとしています。
 

 ◎主な選手紹介(選手一覧はこちらから)◎

 ※投手※
 目玉は何と言っても新加入・今中(元中日)と宣銅烈(元韓国プロ→中日)の2人。特に今中は31歳で引退から1年という、存在そのものが反則スレスレの即戦力。4回以降、特に終盤で力を発揮してくれるでしょう。
 問題は昨年のA級戦犯たちである旧戦力ですが、大幅なリストラと敢行し、一応平均戦力は上がっています。小刻みの継投・継投で失点を出来るだけ防いで、先に挙げた2人の“大型新人”に繋げたいところでしょう。

 ※野手※
 昨年、ほぼフル出場で打率.400をマークした彦野(元中日)が、今年から30代選手の出場規則改訂で4回以降の出場になるのは痛手ですが、札幌から昨シーズン本塁打王(3本)の斉藤浩行(元広島、中日、日ハム)の獲得に成功して見事にこれをカバー。田尾(元中日)などのビッグネームも名を連ね、なかなかの重量打線を形成できそうです。
 守備に関しては、田野倉(元中日)の昨シーズン8失策が目立ちますが、他の選手はマズマズ。これも地味ながら安定はしていそうです。

 ◎展望◎
 年を取ったかつてのビッグネームより、現役を退いて間もない“若手”選手の方が使える…といった、マスターズリーグのセオリーに忠実な補強のお陰で、戦力にはかなりの上積みが見られます。開幕戦のVS大阪戦でリズムに乗れれば、あるいは上位進出もあり得るかも知れません。少なくとも、昨年のような不覚は取らないことでしょう

◆大阪ロマンズ◆

 ◎チーム紹介◎
 チーム名の由来は文字通りの「ロマン」。それも“男のロマン”と、「個性と感情を重んじる思潮」である“ロマン主義”とのダブルミーニングで、更には選手たちのロマンスグレーの髪の毛や、「浪速」の「浪」が「浪漫」の「浪」である事も関連しているとか。とにかく、何が何でもロマンみたいです。
 監督は、17年前に阪神タイガースを日本一に導き、フランスナショナルチームの代表監督も務めた吉田義男氏。実は阪神の監督としては、優勝させた後の成績がズタボロなのですが、その後に阪神の監督になった野村克也氏が思い切り泥を被ってくれたために、それは全然目立っていなかったりします。このあたりは人徳の勝利でしょうか。
 昨年度は、使える選手、特に30代の選手を固定レギュラーとして惜しみなく使い、13勝2敗1分で見事に優勝チーム打率.363は驚異的でした。徹底した勝利至上主義が実を結んだ形になりましたが、それはまた、30代選手出場制限の制度を作り出す原因ともなってしまいました。どうやら大阪ロマンズは、マスターズリーグの理念と勝負の板挟みにされてしまったようです。

 ◎主な選手紹介(選手一覧はこちらから)◎

 ※投手※
 昨シーズンの3本柱・村田辰美(元近鉄)中西(元阪神)と野田(元阪神、オリックス)は今年も健在。既に開幕戦にも出場し、2年連続の防御率1点台を目指して奮闘中です。野田は30代で出場制限にかかりますが、中西が今年40歳で出場制限の適用を受けなくて済むのが大きく、これで野田はストッパー役に専念出来るようになりました。
 しかし、この3人以外の戦力は極めて心細く、何らかの事情で3本柱の継投が不可能になった場合は、まとまった失点を覚悟しなければならないでしょう。ハイレヴェルながらバランスを欠いた戦力といえます。

 ※野手※
 昨年の主力メンバーは基本的に残留。ただし、昨年の首位打者&最多安打打者・佐々木誠(元ダイエー、西武、阪神/打率.516)と、同じく最多安打打者の亀山(元阪神)は30代のため、4回からの出場になり、これは戦力ダウンとなってしまいました。ただ、亀山の代役として入団した“世界の盗塁王”福本(元阪急)は、開幕戦で早速3打数2安打をマークしており、その穴も埋まりそうです。
 40代以上の選手も層がぶ厚く石嶺(元オリックス、阪神)や、昨シーズンMVPの小川亨など、名実共に兼ね備えた名手揃いです。
 守備も他チームに比べてエラーが極端に少なく、高水準。完成度は極めて高い野手陣です。

 ◎展望◎
 佐々木と亀山の出場制限以外は優勝当時の戦力をほぼ維持しており、今年も優勝候補の筆頭であることは間違いありません。ただし、序盤戦で2連敗、3連敗をしてしまうと致命的なだけに、何とか第2、3戦はモノにしたいところでしょう。3本柱以外の投手陣がいかに踏ん張るかが大きなカギとなりそうです。

◆博多ドンタクズ◆

 ◎チーム紹介◎ 
 チーム名の由来は、文字通り“博多どんたく”から。これは地元野球ファンに公募して命名されました。監督は西鉄黄金時代を築き上げた名投手にして監督であった稲尾和久氏
 昨年の成績は、惜しくも大阪に競り負けて11勝5敗で2位。しかし、チーム打率.296とチーム防御率2.83が示す通り、極めてバランスの良い戦力が光りました。
 また、このチームは“ワケあり”の選手を入団させることで知られており、昨シーズンは“黒い霧事件”で冤罪を被って永久追放になった池永(元西鉄)や、元甲子園優勝投手にして、今やゴルフ界のドンとなったジャンボ尾崎(元西鉄)の動向が話題となりました。
 今年もこの2人は残留し、さらに“ミスターマンション麻雀”東尾(元西武)が入って、どんどん怪しいチームと化していっています

 ◎主な選手紹介(選手一覧はこちらから)◎

 ※投手※
 エースは昨シーズン25回1/3を投げて防御率0.71をマークした大野(元広島)で、今年も6試合前後の登板が見込まれます。
 これに続くのが新規加入の西村(元ヤクルト、近鉄)で、東京の西崎や名古屋の今中と同様、大いに期待が出来そうです。
 この他にも短いイニングなら安定した成績を残せるセットアッパーたちが集結しており、極めて安定した投手力が光ります。今年も大いに期待できそうな布陣が完成しました。

 ※野手※
 大阪と同様、野手はほぼ固定のレギュラーによって構成されています。爆発力こそありませんが、3割台を打てるバッターが揃っており、非常にこちらも安定度が高い打線と言えるでしょう。中でも松永(元オリックス)、若菜(元大洋など)が主力となりそうです。
 ただし、こちらも岸川(元ダイエー)や藤本(元ダイエー)など30代のレギュラーがおり、3回までこの穴を埋める代役が欲しいですね。一応、新規加入の40代前半の選手はいるのですが、いずれもブランクが長く、現役時代の実績にも乏しいため実力は未知数。ここは昨年不振に終わった選手たちの奮起が望まれるところです。
 守備も安定しており、堅実。本当にバランスの取れたチームです。

 ◎展望◎
 戦力は現状維持ながら、投手力を中心にバランスの取れた構成となりました。短期決戦のリーグ戦だけに、どう転ぶか分かりませんが、地力勝負になれば必ず上位に食い込む事が出来るのではないかと思います。


 ……というわけで、以上が5チームの紹介でした。
 最後に、駒木の独断による順位予想ですが、やはり戦力的な面を考えれば大阪が有利でしょう。開幕戦の黒星が気になりますが、昨年も同様の展開で優勝しただけに、V2の可能性大と見ます。
 2位もやはり昨年同様福岡でしょうか。総合力が高いチームですので、逆転優勝もありうるかもしれません。
 3、4位争いをするであろう台風の目が東京と名古屋ですね。共に弱点を抱えつつも長所を活かした野球で上位も狙えそうです。特に昨年屈辱的な成績となった名古屋がどこまでやれるか注目したいところです。
 札幌はやはり厳しいでしょう。選手たちが元巨人らしいスロースターター振りを発揮しているのが、逆に微笑ましいくらいです。投手陣が踏ん張らない限りは昨年の二の舞になってしまいそうな気がしますね。

 ……まぁ、順位などは別にして、とにかく野球そのものを楽しむのがマスターズリーグの醍醐味であります。CS放送が視聴可能な方は勿論、お近くで試合があるという地方の方は是非、観戦されることをお薦めします。

 それでは、長くなりましたが、今日の講義を終わります。(この項終わり)

 


 

11月7日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(11月第1週分)

 今週も(恐らく来週も)“新連載の谷間”が続行中です。今週あたりは、他の雑誌からも注目作のレビューをしようかとも思ったのですが、「ジャンプ」と「サンデー」以外の雑誌でレビューする作品に関しては、今のところ原則的に自信を持って皆さんにお薦めできる作品に限定していますので、なかなか該当作が見当たらないんですよね(苦笑)。

 とりあえず今週は体調的に切羽詰ってる事もありますので、レビュー1本と“チェックポイント”のみということにさせて頂いて、来週には1周年記念イベントの「第1回仁川経済大学コミックアワード」のノミネート作品発表でもやろうかなと考えてます

 それと、時間割表を詳しくチェックされている方はもうお気付きでしょうが、来週の月曜日付講義(火曜未明実施分)から、第2回「世界漫画愛読者大賞」の事前特集を開始します。週1回か2週間に1回くらいのペースで最終審査開始まで追いかけていこうと思っております。
 で、とりあえず1回目は、先週号に掲載されていた応募者・応募作のグラフなどから様々な分析をしてみたいと思っています。毎週木曜しか受講されていない方も、是非ご注目下さいませ。

 では、今週は情報らしい情報もありませんし、早速レビューと“チェックポイント”の方へ移りたいと思います。


☆「週刊少年ジャンプ」2002年49号☆

 ◎読み切り『碼衣の大冒険』作画:イワタヒロノブ

 今週は『BLACK CAT』と『ピューと吹く! ジャガー』が取材休載で、その代わりに若手作家さんの中編読み切りが掲載されました。
 今号で本誌デビューを飾ったのは、第62回手塚賞(2001年下期)で準入選を受賞し、受賞作を含めて2度「赤マルジャンプ」に作品を発表したことのあるイワタヒロノブさんでした。プロフィールによれば、名古屋市出身で来月26歳になるとのこと。
 当ゼミでは、5月の「赤マルジャンプ」完全レビューにて、プロ2作目となった『ミイラカイザー』を簡単にですがレビューしています。(5月9日付レジュメ参照)
 その時の『ミイラカイザー』はとにかくデキが酷く、このゼミでは極力使わない事にしている「(読んでて)不快」という言葉を思わず使ってしまう程の低クオリティでした。それを考えると、今回本誌デビューを勝ち取った事が不思議でならないのですが、果たして“リベンジ”は成ったのでしょうか──?

 ではまず絵柄の評価から。 一言で表しますと、下手な上に雑という惨憺たる状況です。

 まず、線が安定していません。人の顔アップですら、コマやページごとにデッサンが狂いまくっていて、プロの絵とは到底思えません。素人の高校生でももっと上手い人が一杯います。
 しかも、ただデッサンが狂ってるだけではなくて、顔のアングルが正面から見たアングルばっかりです。見上げるアングルとか見下ろすアングルの顔は1つか2つしか見当たりません。敢えて描くのを避けているとしか思えませんね。何と言いますか、怒りとか呆れるとかを通り越して、「こんなんで、よくぞ本誌まで辿り着けたものだ」と感嘆してしまいます。
 また、デフォルメも下手。砕けた感じを出すために、デフォルメ絵は太字のサインペンか何かでペン入れしてますが、それではただ絵が荒っぽくなっているだけで、“擬似デフォルメ”の状態です。
 まだあります。致命的なミス3ページ目にありました。コマ割りがグチャグチャで、普通は「車がやって来る→避けきれない→死を覚悟→車通り過ぎる」としなければならないシーンで、「車が通り過ぎる→死を覚悟する」になってしまってるんです。これではプロとかアマとか関係なく、マンガ描きとして失格です。ハッキリ言って、ネーム段階でダメ出ししない担当も担当だと思いました。

 まぁそれでもストーリーが良ければ構わないんですが、こちらの方も情けない程グダグダで、最早手の施しようがありません。

 まず、イワタさんの創作に対する基本的な姿勢が端的に表われている部分として、キャラクターのネーミングが挙げられます。
 まぁ、当て字に近い日本人名は許しましょう。肉欲棒太郎とか売二(うり・ふたつ)まで認知されてしまうのが日本のマンガ文化ですから(笑)。しかし、舞台がドイツのはずなのに、出てくる名前がドイツ系じゃないのが複数登場するというのは、どう考えてもダメです。いくら青木雄二さんでも日本人の名前にジョンイルとかは使いませんでした。
 ベッケンバウアーをバッケンベウアーにしてるのは1万歩譲って許可するとしましても、ヒロイン格のレイシェルからして酷い名前です。この“レイシェル”は、時々ファンタジー系の媒体で見受けられる名前ですが、一般的な女性のファーストネームとして使われるのはレイシェルではなくて“レイチェル”であり、しかもこれは英語読みです。(ドイツ語読みは“ラーへル”
 それから5ページ目の隅っこに載っている、主人公一家の略系図に出てくる名前も変です。レイシェルの両親はフランツフランソワという事になっていますが、フランソワは“フランツ”のフランス語版(語源は同じですが綴りが若干違います)である上に男の名前です。女性の名前ならフランソワーズ、ドイツ語読みでフランツィスカが正しいのです。(追記:この名前の表記に関しては、日本語の人名対応表を参考にしたのですが、これとは別に、ドイツ人にしてドイツ語・日本語・英語のトリリンガルである、「スラッシュドットジャパン」管理人Oliver君にBBSにて指摘を頂き、訂正を施しました。こんな事なら初めからOliver君に監修を頼んどけば良かったと今更ながらに反省^^;;)
 ……こんな事を言うと、「そんな細かい事指摘してやるなよ」とか言われてしまいそうですが、これは大事な事なんですよ。どれだけ緻密に作品を描いてゆこうかという気持ちがこういう箇所に表われるのです。少なくとも、一流の作家さんなら、「フランソワとフランツからレイシェルが生まれる」なんてバカな真似はしません。 

 そして、シナリオ本編の方もメチャクチャです。
 まず、20世紀初頭のドイツが世界一の科学国なんて誰が決めたんでしょうか? 嘘話だから嘘の設定で良いわけではありません。
 話のシナリオそのものも、45ページ作品としては極めて中身が薄いです。謎掛けと謎解きがあるわけでもなく、ハッキリとした起承転結があるわけでもなく。突然味方と敵が神出鬼没に現れて、なし崩し的に薄っぺらいストーリーが進行するだけ。見せ場であるはずのバトルシーンも、ファーストコンタクトで決着してしまって、迫力も何もあったものではありません。
 台詞回しもお粗末極まり有りません。特に酷いのが敵役ヨハンのセリフで、伏線も動機付けも無視して話を展開させるためだけのセリフを吐くため、読み込めば読み込むほど混乱してしまうのです。

 最後にもう1点、根本的な失策としては、ギャグとコメディの区別が全く出来ていないという事。シナリオ的にはギャグというよりコメディなんですが、実際は作品の世界観を歪める情けないギャグのオンパレード。もうこれではどうしようもありません。お手上げです。

 …しかし、本当によくこんな作品が本誌のセンターを飾ったものだと思います。プラスの意味で評価出来るポイントが全くありません。
 評価は。当ゼミの見解としましては、土壇場で『しゅるるるシュールマン』に匹敵する駄作が登場したかな…という感じでしょうかね。無論、連載化などもっての外です。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『SWORD BREAKER』作画:梅澤春人《第3回掲載時の評価:B−

 ここまで作品全体から「打ち切り決定しました」とアピールするマンガも珍しいといえば珍しい気がしますね(笑)。話を大幅に中抜きして、唐突に最後の決戦に突入のようです。まるで初期の『しあわせのかたち』(作画:桜玉吉)みたいで、悲壮感を突き抜けて微笑ましくさえ感じてしまいます。
 しかし、“聖闘気”「コロナ」と読ませるって、モロに車田正美作品ですねぇ。そう言えば、今回敵を殴り殺したシーンは如何にも車田チック。変な意味で開き直ったか、梅澤さん。

 

☆「週刊少年サンデー」2002年49号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 ◎『D−LIVE !!』作画:皆川亮二《第3回掲載時の評価:B+

 今回はシナリオ担当がいないので、皆川さんが完全に話を担当しているようです。そのせいか、前回までより大分セリフがスッキリしている感じがしますね。やはり文章のシナリオと、直接ネームで起こす話とでは感覚が違うんでしょう。
 エピソード毎にサブキャラを変えていっているというのは、『ギャラリーフェイク』(作画:細野不二彦)と似た形式ですね。しばらくサブキャラを増やしていって、こなれて来たキャラから再登場させるといったところでしょうか。これなら、徐々にでもクオリティが上がっていきそうですね。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎《第3回掲載時の評価:B+

 相変わらずコテコテのラブコメですねぇ。それを全くひるむ事無く描き切っている井上さんも凄いといえば凄いです。これで卑屈に描いてたらここまでクオリティ維持できませんもんね。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治《開講前に連載開始のため、評価未了》
 
 すいません、授業で同じネタのヘヴィーローテーションやらさせてもらってます(笑)。でもね、言わせてください。こっちだって5回同じ事喋るのは辛いんですよ。でも、試験問題が一緒である以上、授業の内容も変えるわけには行かないんですよ。そこの所、どうかご理解を。

 ◎『鳳ボンバー』作画:田中モトユキ《第3回掲載時の評価:A−

 いやぁ、やっとこの作品の持ち味が出て来ましたね。ここ3〜4ヶ月、このままズルズル間延びしたらどうなる事かと思いましたが、やっと新展開になりそうです。今後ともテンポの良い話になる事を期待しましょう。
 一応まだ評価はA−のままですが、随分弱含みになった感じでしょうか。新展開で失敗した時には評価を下げる事も考えます。

 ◎『一番湯のカナタ』作画:椎名高志《第3回掲載時の評価:A−

 と、透視装置! 男の浪漫キター!(爆)
 ……というのは3割くらい冗談で(笑)、やっぱり椎名さんは男の煩悩に正直なマンガを描かないと持ち味が出ないみたいですね。それをご本人もようやく自覚されたらしく、ノリがとても良くなっていますね。この調子なら、人気挽回も難しい事では無いと思います。


 ……さて、今週の分は以上です。
 それではまた来週。木曜は勿論、月曜の特別演習にもご期待下さいませ。

 


 

11月6日(水) スポーツ社会学
「マスターズリーグ・2002〜03年シリーズ開幕プレビュー(2)」

 ※前回のレジュメはこちらから。

 今日11月6日に開幕となりました、プロ野球マスターズリーグ。その開幕戦からしていきなり、ホームランありサヨナラタイムリーありの非常に白熱したゲームが繰り広げられたようで、これでこそ当講座で扱った甲斐があったというものです。
 さて今回からは、開幕後となってしまい、少々遅きに失した感がありますが、参加5チームの紹介と戦力分析をし、リーグの展望を行いたいと思います。ただ、クソ真面目にやっても面白くない話になってしまうと思いますので、多少は砕けた感じで講義を進めてゆくつもりです。マスターズリーグに興味のある方は勿論、ちょっとした話のネタを仕入れたいという方も是非どうぞ。

 では、北の札幌から順番に、南へ南へ下る形でチームを紹介してゆきましょう


◆札幌アンビシャス◆

 ◎チーム紹介◎ 
 チーム名の“アンビシャス”は、かのクラーク博士の名言・「少年よ、大志を抱け(ボーイズ・ビー・アンビシャス)」に由来。来年より東京から移転する日本ハムファイターズに先駆けて結成された、札幌ドームを本拠地とする初の野球チームです。監督は元ロッテ・中日監督の山内一弘氏
 昨年は、全部で16試合しかないのに開幕13連敗という、まさに悪夢のような大連敗(プロ野球の140試合制に換算すれば114連敗!)を体験しました。結局、最終成績は2勝14敗の最下位
 ただ、その代わりと言ってはナニですが、連敗を脱出した14試合目(VS名古屋最終戦)は、まるで優勝したかのような大騒ぎだったとか。また、最終戦では東京の守護神・渡辺久信に初黒星をつけるサヨナラ勝ちを収めるなど、全く意味の無いところで殊勲の星を挙げるお茶目なチームでもあったりします。
 昨年の不振の理由は、チーム防御率6.73という数字から分かるように惨憺たる“投壊”にありそうです。更にはチーム本塁打僅かに4本という長打力不足も響いています。
 この不振には、まだ昨年の開幕前は同窓会気分が抜けていなかったため、選手選びにも気合が入っていなかったという事情もあったようです。
 そんな反省を踏まえ、今年は山内監督が進退を賭けてチームを大改造。立派に大人気無いチームに生まれ変わりました。

 ◎主な選手紹介(選手一覧はこちらから)◎

 ※投手※
 主力となるのは、津野(元日ハム・名古屋からトレード)、宮本(元巨人)、そして昨年まで現役で今年からマスターズ新加入の橋本(元巨人)の30代トリオでしょう。ただし、今年から序盤の3回に30代の選手が使えないため、そこをどう乗り切るかがカギとなります。
 40代以上で戦力になるのは西本(元巨人)くらいで、しかも11月は出場できない見込み。4年のブランクを経て今年からマスターズ入りとなった川口(元巨人)頼みのローテーションを強いられそうです。他の選手は去年の成績から考えると、相当の失点を覚悟しないといけないでしょう。
 総合的に言って多少補強はされたものの、一線級選手の層の薄さが問題になっています。

 ……しかし前々から思ってましたが、広島に13年いたのに巨人には4年しかいなかった川口が、引退後一貫して「元巨人」と主張しているんですよね。何と言いますか、広島ファンの人たちに対してかなりいい度胸してると思います。広島で川口の身に何があったんでしょうか。

 ※野手※
 昨年マスターズリーグでプレイした18人中、最も打率が高かったのが、今年還暦の辻(元大洋)で.400(しかも規定打席外)という末期的な貧打線。唯一の30代野手・高嶋(元・オリックス)も昨年は惨憺たる成績で、新加入のは高木(元大洋)と、あのクロマティ(元巨人)がどこまでやれるか、ということになりそうです。ただ、クロマティに関しては、「出場は5試合程度。打つのは大丈夫だが、全く走れない(山内監督・談)という不安すぎる材料があります。
 守備に関しては40代前半が多い分だけ有利と言えるかも知れませんが、昨年の成績を見ていると結構エラーも多いのが目に付きます。“丈夫なザル”というのが的確な比喩表現でしょうか。

 ◎展望◎
 多少の補強は果たしたものの、選手層の薄さは未だ如何ともし難く、苦戦は免れそうにありません。数少ないチャンスを逃さないで戦って、せめて最下位脱出を図りたい…といったところでしょうか。

 
◆東京ドリームス◆

 ◎チーム紹介◎
 チーム名の由来は文字通りの“夢”。本拠地は東京ドームで、監督はヤクルトや日ハムなどで指揮を執った土橋正幸氏ヤクルトを今の阪神タイガースのようなおんぼろチームにしてしまった事は、古くからのヤクルトファンにとっては未だに語り草だったりします。留任させて大丈夫でしょうか。
 昨年は、開幕から中盤までは優勝争いを演じたものの、終盤失速して10勝6敗の3位チーム防御率3.08は非常に立派ですが、チーム打率.265、同本塁打3本という貧打が泣き所でした。投手の好投を見殺しにしてしまうケースが多かったわけですね。
 また、東京を本拠地にしていながら、元巨人の選手が少ないと言うのも特徴です。地域に密着してるんだかしていないんだか分からない、微妙なチームですね。

 ◎主な選手紹介(選手一覧はこちらから)◎

 ※投手※
 時速150キロのストレートを武器にセーブ王を獲得した守護神・渡辺久信は今年も健在。そこへ更に昨年まで現役だった西崎(元西武)が加わって、大リーグばりのセットアッパー&クローザー陣が完成しました。ハッキリ言って、今でも台湾なら現役でも平気で通用しちゃいます。
 そして、この2人だけでなくベテラン陣も期待十分。昨年、15回1/3を自責点ゼロに抑えて最優秀防御率投手となった45歳の大川(元ヤクルト)の他にも、防御率0点台〜2点台の選手がウジャウジャ。文句なしで5球団一の投手力と言って良いでしょう。

 ※野手※
 心配なのは、やはり打線。昨年は有名選手を集めながら看板倒れの感が否めませんでした。今年の目玉は何と言っても40歳のデストラーデですが、前半の5試合程度の出場で帰国してしまうそうで、今年も後半がカギになるでしょう
 そして守備不安なのが捕手で、昨年は軒並み50代以上だったため、敵チームの盗塁をアホみたいに許してしまうという羽目になりました。今年は40代の芹沢(元ヤクルト)が加入していますが、実力的にどうでしょうか?

 ◎展望◎
 とにかく投手陣が踏ん張らない事にはどうにもなりません。何とか7回まで抑えきって、8回から西崎→渡辺と繋ぐ黄金パターンに持ち込みたいところです。
 優勝するかどうかはともかくとして、今年も善戦健闘はできそうですね。


 ……さて、とりあえず2チームの紹介を終えましたが、今日はここで時間となってしまいました。ですので急遽、金曜日に時間を確保しまして、次回で残り3チームの紹介をやりたいと思います。では、また明後日。(次回へ続く

 


 

11月4日(月・休) 文献講読(小説)
「駒木博士のショート・ショート発表会」(1/全3回)
第1話:『イシャイラズ』

 
 画期的な薬が開発された。いわゆる万能薬である。

 薬は化学薬品で、とある国立大学の研究チームによってその合成に成功したものであった。もっとも、そのチームが開発していたものは全く別の薬品だったという。
 偶然その“レシピ”を見る機会のあった専門家に言わせると、「世紀の大天才か、さもなくば同じ程度のバカでなければ思いつかないような調合」だったそうで、同業者の間では、「親の金にモノを言わせて裏口から大学に滑り込んだオーバードクターが、二日酔いの頭で混ぜる薬品を間違えて作ったのであろう」というのがもっぱらの評判であった。

 しかし、そのプロセスはどうあれ、出来上がったものは素晴らしいものであった。何しろ万能薬である。
 薬の効能は、簡単に言えば異常な細胞を正常な細胞に作り変えてしまうというものであった。つまり、体で異常の有る部分を、そうあるべき状態に修復するという働きをするということである。癌のような内臓の病気はもちろん、傷や打撲、骨折などといった外科的な問題にもテキメンに効果を発揮する。脳にも作用するため、躁鬱病や痴呆症などの対症療法にも使えてしまう。そして、その効能がミもフタもないものだけに、普通の薬なら有るはずの副作用も全く無い。まさに、これ以上万能という言葉が似合うものが無いような薬であった。
 ただし、この薬にも欠点というべきものが1つだけあった。投与後に効き目が表われるまでに12時間程度要するという事がそれだ。即ち、それまで保たない患者は助けようがないということである。とはいえ、そういう患者はこれまでも助からなかったわけなので、薬事業界内でも「それは仕方ないだろう」の一言で片付けられた。中には「そこまで助けていたら、世界は死に損ないの人間で埋まってしまうから、それで良いんだ」などと言ってはばからない口の悪い輩までいた。
 そして、半ば余談だが、この新薬にはおおよそ薬らしくない名前がつけられていた。
 本来はタイ人とスウェーデン人の名前を混ぜっ返したような長い横文字の仮称があったらしいのだが、いつの間にか“イシャイラズ”という名で呼ばれるようになった。早い話が「医者要らず」である。研究チームの教授が医学部の教授連中に何か恨みに思っている事あったからだとか、研究員の1人が学部時代に医学部の学生に女を寝取られた事があったせいだとか、様々な噂は立ったが、真相は結局分からないままであった。

 ……そんな具合に薬事業界が浮き足立つ中で、その新薬開発の報せは政界にも速やかに伝えられた。当然の事ながら、そのニュースは伝わるなり与野党問わず全ての議員の間で大きな波紋を呼んだ。特に色めき立ったのは首相以下内閣関係者である。慢性的な財政赤字と膨れ上がるばかりの医療費問題に終止符を打つチャンスがやって来たというわけだった。
 そして、時の首相が行動力“だけ”は優れていた人物だったものだから、機を見るにつけ敏とばかりに発案された政府方針が、生中継のテレビカメラの前で発表となった。新薬“イシャイラズ”の即時承認と、病院はおろか一般の薬局での販売を認めるというのがその内容だった。それは、開発されたばかりの新薬に通常用意されている“ハードル”の10や20を一気に飛び越えさせてしまうような大胆なものではあったが、その大胆さ故にマスコミをはじめ国民世論は大いにこれを支持した。
 だが、これにいきり立ったのが首相が党首を務める最大与党の厚生族──いわゆる医師会などをバックにして選挙と資金集めを行っている議員たち──であった。彼らは「“イシャイラズ”は開発されたばかりで安全性に問題がある」という名目で激しく抵抗したが、その裏には新薬のために文字通り用無しになってしまう医者たちの圧力がある事は明らかであった。
 それを察していた首相はどこまでも強気だった。各社の世論調査で政府方針が圧倒的な支持を得ると分かるや、「国民の命を己のエゴで弄ぶとは言語道断」と、抵抗勢力の議員を党から除名した上で、いきなり解散総選挙に打って出た。党幹部はおろか、官房長官にすら相談無しの独断専行であった。しかし、この状況で彼を咎める者などいるはずも無かった。

 総選挙の結果は、予想通り政権与党の大圧勝であった。300ある小選挙区のほとんどを制しただけでなく、比例代表でも90を超える議席を獲得した。野党は辛うじて労組と関わりの深い第1党が数十議席を確保した他は壊滅状態。特に、与党を除名された議員たちで結成された新党からは1人の当選者が出ない大惨敗であった。
 そして、この結果に自信を深めた首相は、更に大胆な政策を提示した。それは驚くべき内容であった。

 まず、現在ある医療機関や医師制度、更にそれに関する法律を一旦全て廃止する。つまりこれは、日本から“病院”や“医師”という言葉が消滅するという事である。そして、その上で“イシャイラズ”でカバーできない医療行為──“イシャイラズ”が効き始めるまでの延命医療、または産婦人科や心療内科など──に関しては、それらを新たな医学的専門職とする免許制度をスタートする。
 薬事医療についても同様となった。“イシャイラズ”が開発された以上、それまでゴマンと有った各種の薬はその役目を終える事になるのだから、これも当たり前の話であった。これからの薬事医療とは、タダみたいな値段で“イシャイラズ”を供給するだけの事業を指すことになった。
 更にはトドメとばかりに、この諸改革で浮いた莫大な医療予算を、そのままそっくり史上最高規模の減税に充てるという財政出動も併せて発表された。一説には、首相が会食の席で秘書官に「支持率100%にする方法、何か無いかな?」…と訊いた時に返って来た答えを、そっくりそのまま実行に移したと言われている。この減税案に対して、経済担当大臣がさすがに無茶だと抗議をしたが、怖い物無しになってすっかり舞い上がっていた首相の答えは「大臣更迭」であった。

 これらの諸法案は、マスコミによって「医師廃止法案」という俗称が付けられて、国会に上程された。反対勢力は皆無であった。野党は既に無力化していたし、議員個人で抗議するにしても、その術は離党届や議員辞職届を提出する事くらいしか残されていなかった。ただ1人だけ、国会議事堂内で2週間ハンストをやって廃止寸前の病院に担ぎ込まれた無所属議員がいたが、これは笑い者にされただけで終わった。搬送された病院で“イシャイラズ”のお世話になったからである。
 と、こんな状況の中で、医師廃止法案は目にも留まらぬスピードで本会議へ上程された。議員辞職願提出者と欠席者が併せて数十名という異様な雰囲気の中で採決が行われ、衆議院、参議院共に全会一致で可決。その直後に、混乱の収拾を図るために再度の衆議院解散が宣言されて、国会は散会した。


 ──それから数時間後。

 東京発新大阪行きの新幹線の車内に、公務を終えたばかりの首相が乗り込んでいた。これから地元へ戻り、選挙の準備にとりかかるというわけだ。隣の席には秘書官が座り、その2人を取り囲むようにして屈強なSPたちが護衛にあたっていた。
 と、そこへ「あのぅ……」と、乗客と思しき1人の青年が声をかけて来た。飛行機と違い、新幹線は政府専用列車というわけにはいかない。
 その男は、身長だけならSPたちと並ぶほどだが横幅は半分くらいしか無いような痩せっぽちの体型で、両手をブカブカのパーカーのポケットに突っ込んでいた。いかにも不健康そうな青白くて貧相な顔。
 「どうしました?」
 SPの1人が、一応警戒の姿勢を解かないままで青年に尋ねた。これが人並の体つきをした男なら、有無を言わさず門前払いにしたであろう。「この痩せぎすが相手ならば、万が一何かあっても大丈夫」という判断である。
 「……首相と、握手させてもらいたくて…」
 「いや、それは…」
 さすがにSPが諌めようとすると、青年は甲高い声で叫ぶようにして哀願した。
 「お願いです! ボク、首相の政策に感動したんです。是非、握手をさせてもらいたいんです!」
 「そう言われてもねぇ……」
 SPが、この少し変な青年を体良く追い返す方法を考えながら、のらりくらりと応対していると、すぐ側でその遣り取りを聴いていた首相が声をかけた。
 「まぁいいじゃないか。わざわざ会いに来てくれたんだ。握手ぐらい良いだろう」
 己の任務に忠実なSPたちはしばらく食い下がったが、最後は根負けして青年を首相の前に通した。お目当ての人を目の前にして、この時ばかりは青年の青白い顔がにわかに紅潮した。
 「……うむ、わざわざ有難う」
 そう言って、窓際の席に座っていた首相が身を乗り出して青年の前に身を乗り出した。それに応えて青年が右手を差し出した。
 ──だが、その手は素手ではなかった。

 首相の悲鳴が車中に響き渡るのと、青年がSPに取り押さえられたのはほぼ同時だった。青年の右手に握られていた医療用のメスが、そのすぐ側に転がっていた。メスは血染めになっていた。
 首筋をメスで掻き切られて呻く首相の隣の席で、ほとばしる血飛沫を浴びながら秘書官が放心状態で座っていた。さらにその側では青年が、呼吸も出来ないほど強く押さえつけられながらも気味の悪い甲高い笑い声をあげていた。
 後で判明する事だが、この青年は、医師廃止法で職を失う事になった開業医を父に持つ、医大志望の浪人生であった。それまでの人生を全て否定され、家族の生活と将来まで奪われて悲嘆に暮れた末の凶行との事である。

 一転して修羅場と化した新幹線車内に、SPや関係者たちの怒号が響いた。頚動脈をメスで斬りつけられた首相は既に意識を失っていた。“イシャイラズ”が使える場面では無いことは明らかだった。

 しばらくして、緊急事態を知らされた車掌からの車内アナウンスがスピーカーから流れ出た。それは、今となっては全く意味を持たない内容のアナウンスであった。

 「この車内に、お医者様はいらっしゃいませんか? お医者様はいらっしゃいませんか──?」

 


 

11月3日(日・祝) スポーツ社会学
マスターズリーグ・2002〜03年シリーズ開幕プレビュー(1)

 つい先日、今年のプロ野球が全日程を終了しました。
 しかし、半年以上に及ぶシーズンのクライマックスであるはずの日本シリーズは、4試合とも初期設定をデタラメにいじった「ベストプレープロ野球」のような展開で巨人の圧勝。熱狂的な巨人ファンを除く世の野球ファンを大いに落胆させる結果になってしまいました。
 そして最早、世間の関心は既にストーブリーグへ。松井の大リーグ移籍や契約更改、更には「次に『ジャンプ』で打ち切られるのは『ソードブレイカー』と何か?」…などといった、野球そのものとは関係の無い話題にばかり注目が集まるようになってしまいました。

 しかし、思い違いをしてはいけません。まだ野球シーズンが終わったわけではないのです。いや、プロ野球はこれからシーズン・インすると言っても過言ではないでしょう。

 そうです。かつての名選手たちによる夢の競演・プロ野球・マスターズリーグが今年も開催されるのです。

 ──さてここで、「マスターズリーグなんて知らないよ」という方のために、若干の解説を行いましょう。

 このプロ野球マスターズリーグは、高齢化社会に生きる年配者を励ます事や、野球界の底辺拡大を目指す事などを基本理念に定めて2001年に結成された、日本プロ野球のOB選手たちによる“OB戦ペナントレース”です。
 その形式は、総勢200名以上のOB選手が札幌アンビシャス、東京ドリームス、名古屋エイティデイザーズ、大阪ロマンズ、福岡ドンタクズの全国5球団に分かれ、他球団4チームと各4試合総当り・計16試合のリーグ戦を行って“OB球団日本一”を決定するというかなり本格的なもの。現役のプロ野球同様に、首位打者や最優秀防御率投手などといったタイトル争いもあり、昨シーズンのMVP・小川亨選手(大阪ロマンズ所属)には、「モスクワ・サンクトペテルブルク3泊5日(←短!)夫婦ペア旅行&旅行記特番TV放映という、称えられてるんだか馬鹿にされてるんだか晒し者にされてるんだか判らない、極めて微妙な賞品&特典が贈られました。
 また、苦戦が予想される興行収益の面も、CS放送のスカイパーフェクTVによる全試合完全中継と放映権料の提供というバックアップを受けて抜かりなし。まさに夢の野球リーグ戦、それがマスターズリーグなのです。
 今年の開幕戦は11月6日、東京ドームで行われる“黄金カード”・東京ドリームスVS大阪ロマンズ戦。既に先発投手も、村田兆治(東京・元ロッテ)中西清起(大阪・元阪神)と発表され、そのボルテージは上がる一方です。

  ……どうですか、このプロ野球マスターズリーグ。野球に興味のある受講生の皆さんには、その魅力を感じ取って頂けたのではないでしょうか。

 ──え? 
 …確かに少しは面白そうだが、所詮は年寄りの冷や水なんだろう? レヴェルの低い試合じゃ、結局飽きちゃうんじゃないの……?

 なるほど、その不安はごもっともです。
 かく言う駒木も、昨年の今頃は皆さんと同様の危惧を抱きつつ、恐る恐る状況を窺っておりました。

 何しろ“往年の名選手”とは言え、40代後半から50代のOBが中心で、中には60代の“超OB”まで名を連ねる選手層でしたので、
 「おいおいこれじゃ、“プロ野球OB夢の競演”というよりは、“プロ野球OB草野球大会”になっちゃうんじゃないの」
 とか、
 「金取って野球見せて、それが『たけしのスポーツ大将』以下だったらシャレにならんよなぁ」
 …とかいった感想を抱かざるを得ませんでした。

 また、シーズン開幕直前に新聞で紹介された、大阪ロマンズ所属となった某投手に、
 「今でもバリバリやれる。時速100キロは出ると思うよ」
 ……などと、長年の居酒屋経営で培ったビール腹を披露しつつ語られた日には、大映テレビ製作のドラマに憎まれ役で出演した斉藤洋介のごとく頭を抱えてしまったものでした。

 そして、シーズンが開幕してからも、その不安は続きました。億単位の金が動いている大規模プロジェクトにも関わらず、監督・コーチ・選手の皆さんは同窓会気分でいらっしゃったために、プレイの実態も酷い有様だったのです。
 五十肩でサイドスローを余儀なくされた投手から放たれる“天然チェンジアップ”を、萎えた足腰のために打ち損じる打者。しかし結果はモタついた守備にも助けられてショート内野安打……という具合。せめてもの見せ場は、「代打・川藤→豪快に三振」という、吉本新喜劇・島木譲二の大阪名物バチバチバンチ並の“お約束”の場面が上げられる程度だったのです。
 勿論、中には、50歳を過ぎて時速140キロの直球と時速130キロ台の高速スライダーを操る、超人・村田兆治のような方もいらっしゃいましたが、それはあくまで例外的な存在でした。打者がパワー不足のためにホームランは出ず、その一方で野手の肩が弱すぎて毎試合盗塁ラッシュ。まるで全チームが創立当初のナムコスターズのような惨状だったのです。

 これを見て駒木は、「あ〜あ、これじゃせっかくのマスターズリーグも企画倒れだ」…などと思ったものでした。

 が、それは早とちりだったのです。

 リーグ戦が進行するに連れ、参加している監督や選手たちの目の色が明らかに変わっていったのでした。やはり長年修羅場をくぐって来た勝負師たちの熱き血潮は、そう簡単に冷え固まるものではなかったのです。マスターズリーグが、一気に面白くなってゆきました

 まず、ベンチ内の雰囲気明らかにガラが悪くなりました。
 普段、我々は直接耳にする事は出来ませんが、プロ野球の両軍ベンチからは、絶え間なく相手チームへの野次が飛び交っているのです。それも、観客席から放たれる、
 「おいディアス!(注:元ロッテの乱闘が得意な巨漢外国人選手) アントニオ猪木がなぁ、『大阪城ホールで待ってる』て言うとったで〜!」
 とか、
 「佐野〜!(注:元近鉄のハゲ投手) パンチョさんからズラ見繕ってもらえ〜!」
 ……とかいったユーモア精神に溢れる野次ではなく、とても人前では披露できない、放送コードをケイン・コスギの跳び箱ジャンプのように高々と飛び越えたエゲツない野次が、1塁側と3塁側の間で交錯しているのです。
 そして、この下品極まりない野次が、リーグ中盤以降のマスターズリーグでも復活したのでした。これは、肉体はともかくとして、精神状態は完全に現役時代の真剣勝負モードに戻った証でもあったのです。

 そしてそれから間もなくして、勝負に徹する余り、選手の起用方針からマスターズリーグの基本理念が忽然と消え去りました。
 マスターズリーグでは、主戦力である高年齢選手をサポートする意味で、限られた人数だけ30代の“若手”選手の起用が認められていました。しかし、リーグ開幕当初は、現役を退いて間もない選手ばかりではマスターズリーグの意味が無い…という事で、各球団とも控えめに30代選手を起用していました。(但し、東京ドリームスは序盤戦から30代選手を使い過ぎてペナルティを喰らうと言う大人げの無さを発揮していましたが)
 ところが、これも中盤戦以降になりますと、レギュラー選手は30代と40代前半選手の比率が急上昇し、それに連れて内容も本物のプロ野球にそうヒケを取らないところまで充実するようになりました。
 それもそのはず、各球団のレギュラー選手の中には、つい数ヶ月前まで米独立リーグで4番を打っていた佐々木誠(大阪)や、同じくその年まで台湾プロ野球で投手コーチ兼エースとして活躍していた渡辺久信(東京)がいたのです。特に渡辺久信に至っては、時速150キロの剛速球を武器にストッパーとして毎試合のように登板するという、プロレスで言うなら有刺鉄線バットのような反則技を披露して6セーブを挙げ、各球団とマスターズリーグファンの顰蹙を買っていました

 ……こうして、中年のオッサンたちが年甲斐も無く暴れまくる豪快な場となったマスターズリーグは、中盤から終盤にかけて大いに盛り上がりまくりました。
 最終結果は、東京・大阪・福岡による熾烈な三つ巴の接戦の末、大阪ドリームスが13勝2敗1分の好成績で初代王者の座に就くと共に、賞金3000万円を獲得その山分け方法を巡って球団内が紛糾すると言う、非常に生臭いフィナーレを迎えたのでありました。

 
 ……さぁ、いかがでしょうか? これで皆さんにもマスターズリーグの面白さがお分かり頂けたと思います。
 ではそうなったところで、次回のこの講義では、今年のマスターズリーグの展望を、各球団の戦力分析など交えつつジックリとお送りしたいと思います。

 では、明後日の第2回講義に続きます。(次回へ続く

 


 

11月2日(土) 競馬学概論
  「仮想競走・20世紀名馬グランプリ」(2)

 ※ 第1回の講義の模様は、こちらをご覧下さい。

駒木:「さて、1ヶ月ぶりの講義だけど……。珠美ちゃん、“宿題”は済ませて来ただろうね? 『20世紀名馬グランプリ』の予想だよ」
珠美:「う……(汗)。えーと……」
駒木:「え、ひょっとして、まだ? ダメだよ、冒頭で発表する予定だったのに…」
珠美:「そんなコト言われても、私には難しすぎて、手のつけようが無かったんですよー……」
駒木:「まぁ、確かに難しい課題ではあったんだけどねぇ……。まぁいいや、とりあえず簡単な出馬表だけ出しておこう」

20世紀グランプリ 中山・2500・芝

馬  名 騎 手
エアグルーヴ ペリエ
エルコンドルパサー 蛯名
オグリキャップ 安藤勝
グラスワンダー 的場
サイレンススズカ 河内
シンザン 栗田勝
シンボリルドルフ 岡部
スペシャルウィーク 武豊
テイエムオペラオー 和田
10 テンポイント 鹿戸明
11 トウカイテイオー 安田隆
12 ナリタブライアン 南井克
13 ハイセイコー 増沢
14 マヤノトップガン 田原
15 メジロマックイーン 内田浩
16 ライスシャワー 田中勝

珠美:「……だって、このメンバーでどうやって絞れって言うんですかー! 三冠馬が3頭もいますし、出走馬のG1勝ちを全部足したら63もあるんですよ。勝って当たり前の馬ばかりの競走なんて、予想できるはずありません!」
駒木:「逆ギレされても困るんだけどなぁ(苦笑)。……じゃあこうしよう。僕が用意した予想用資料を出すから、それを参考にしてくれたら良い」
珠美:「資料…ですか?」
駒木:「うん。もしこのレースが実施されたとするなら、競馬新聞の厩舎コメントがどんな感じになるか想定してみたんだよ。“馬の調子はピークで”っていう仮定だから、調教風景の想定は意味が余り無いんだけど、コメントなら多少は差別化できそうだと思ってね」
珠美:「あ、それはちょっと面白そうですね。とりあえず見てみたいです」
駒木:「それじゃ、紹介するね。『この人はこんな言い方しねぇ』とかいうツッコミが入るかも知れないけど、それは競馬新聞的な下手な要約だと諦めてもらおう(笑)」

[1]○エアグルーヴ(ヒケはとらない):伊藤雄師「凄いメンバーの中に牝馬1頭だけど、良い乗り役にも乗ってもらえるしヒケは取らないと思う。最内枠でも、揉まれてどうという馬でもないし、ソコソコの位置に構えてチャンスを窺う形になるんじゃないか」
[2]◎エルコンドルパサー(勝つのは自分):蛯名騎手「錚々たるメンバーが揃ったけれど、こっちだって他の馬が出来なかった事をやって来たという自負がある。勝つのは自分だと信じてレースをするよ。位置取りは自在な馬だけど、この相手だし、前に行けるに越したことはないだろう」
[3]○オグリキャップ(奇跡の再現を):安藤勝騎手「まさかもう一度この馬に乗れると思っていなかったから感激している。相手は強力だが、この馬の強さだって大したものだと思うし、あのレース(90年有馬記念)の再現が出来ればいいと思っている」
[4]○グラスワンダー(コース適性抜群):尾形充師「この中に入ったら、さすがにウチの馬も胸を借りる立場になるんだろうが、相性抜群の有馬記念と同じ条件でレースが出来るので気後れは全く無い。上手く4コーナーで外に持ち出せれば」
[5]○サイレンススズカ(とにかく行くだけ):橋田師「逃げ馬にとって、コーナーが多い中山の2500mはプラスだろう。ダービー(7着)の時とは気性面が全然違うから距離も心配していない。とにかくこの馬の持ち味を生かして行けるところまで行ってもらいたい」
[6]◎シンザン(期待大):栗田勝騎手「シンザンで有馬記念には乗れなかったので、同じ条件のレースと聞くと期するものがある。どんなレースになるかは乗ってみないと分からないが、結果は良いものになるだろう。期待大だよ」
[7]◎シンボリルドルフ(自信ある):岡部騎手「相手がどうとか関係なく、とにかく自分は彼(ルドルフ)に気分よく走ってもらうように専念するだけ。勿論、そうすれば良い結果を出せるだけの自信はある」
[8]○スペシャルウィーク(地力見劣らぬ):白井師「メンバーを見て、正直大変だとは思う。それでも中には何度か負かした馬もいるし、地力じゃ見劣らんのじゃないかと思っている。この馬の流れになってくれれば」
[9]○テイエムオペラオー(四角で置かれねば):岩元師「G1を7勝もしてくれた馬だし、相手関係に関しては全く心配していない。ただ、最近ズブくなって勝負処でモタつくところがあるので、それが不安と言えば不安。最後の4コーナーで置かれなければ良いのだが」
[10]○テンポイント(速い馬いるが):鹿戸明騎手「前々でケイバをして早目に抜け出すのがこの馬のパターンだが、今回は速い馬がいるみたいだね。それでも控えるレースでも十分対応できるはずだから心配はしていない。とにかくスムーズなレースがしたいね」
[11]○トウカイテイオー(親子対決楽しみ):松元省師「デキに関しては何も言う事はない。(シンボリルドルフとの)親子対決は我々の立場からでも楽しみだし、それでこっちが先着出来れば尚更良いね。道中はある程度脚を貯めておいて、競り合いに持ち込めれば勝機は十分にあるよ」
[12]◎ナリタブライアン(互角以上):村田助手「デキは全盛期の頃にまで戻っている。いつものようなマクるレースでどこまで通用するかは未知数だが、ここに入っても力は互角以上だと思う。アクシデントさえ無ければ好勝負」
[13]○ハイセイコー(距離大丈夫):増沢騎手「菊花賞と有馬記念で2着があるし、距離は大丈夫。それほどゴチャつく事もないだろうからスムーズなケイバが出来るはずだ。相手は強いが、恥ずかしいレースにはならないだろう」
[14]○マヤノトップガン(チャンスはある):坂口大師「思わず怖気付いてしまうようなメンバーだけど、この馬にもチャンスは有ると思っている。鞍上を信頼して思い切ったレースをしてもらうつもり」
[15]○メジロマックイーン(雪辱果たしたい):池江師「中山の2500mでは悔しい負け方をしているので、今回で何とか雪辱を果たしたい。どんなレースでも出来る馬なので、なんとか流れに乗って欲しいもの」
[16]△ライスシャワー(相手強い):飯塚師「このメンバーに入ると、さすがに相手が強いかな、というところはある。1頭強い馬に喰らいついて、ギリギリのところで交わすレースをしたい」

珠美:「……えーと、博士…」
駒木:「ん、何?」
珠美:「何だか、コメントを読めば読むほど絞り切れなくなって、余計に混乱しちゃうんですけどー…(汗)」
駒木:「う〜ん、そう言えばそうかもね(笑)。まぁ、もうこうなったら、直感でパパっと決めちゃえば? 考えれば考えるほど混乱するのは誰でも一緒だと思うしね」
珠美:「……ハイ。じゃあ、もう女のカンで決めさせてもらいます(苦笑)」
駒木:「じゃあ、僕たち2人の予想印を付けて、もう一度出馬表を公開しよう」

20世紀グランプリ 中山・2500・芝

馬  名 騎 手
    エアグルーヴ ペリエ
× エルコンドルパサー 蛯名
× × オグリキャップ 安藤勝
    グラスワンダー 的場
    サイレンススズカ 河内
  シンザン 栗田勝
シンボリルドルフ 岡部
  スペシャルウィーク 武豊
  × テイエムオペラオー 和田
  10 テンポイント 鹿戸明
    11 トウカイテイオー 安田隆
12 ナリタブライアン 南井克
    13 ハイセイコー 増沢
    14 マヤノトップガン 田原
×   15 メジロマックイーン 内田浩
    16 ライスシャワー 田中勝

駒木:「うわぁ、バラバラだ(笑)。ルドルフとブライアンが◎と○っていうのは共通してるけど、他は完全に意見が分かれちゃったね」
珠美:「そうですねー。私は素直に強いと思っている順番に印を打っていったんですけど。打ってるうちに、全部の馬に×印を付けそうになって慌てて止めたんですけどね(笑)。
 博士はどんな基準で印を打たれたんですか?」

駒木:「ん〜、一応大まかな強さのランク付けを設定して、その上で展開を大幅に加味して決めた。馬番で言うと、道中の展開は、

 5─10、(7、13)、2、(15、3)、(1、8、11、12)、16、4、(6、9)─14

 ……こんな感じかな。
 これだけの馬が揃ったら、後ろからレースする馬はまず勝ち負けにならないと思うんだ。前が止まらないからね。シンザンを思い切って無印にしたのはそういうわけ。ブライアンは実力的には最右翼だと思っているけど、仮想コメントでも書いたように捲り戦法がどこまで通用するかがポイントだね」
珠美:「超ハイペースで先行馬総崩れってパターンは考えられないですか?」
駒木:「並の名馬ならそれもアリかな…だけどね。数十年に1頭クラスの馬なら、暴走しっ放しでも粘り切ってしまう気がするんだよ。第一、テンポイント勝った有馬記念なんてトウショウボーイと2頭まとめて暴走してるんだからねぇ。そのテンポイントより格上の馬が今回は走ってるわけだから、やっぱり先行有利は揺るぎ無さそうだね」
珠美:「なるほど……。色々な考え方があるんですねー。
 さて、それではいよいよレースになるわけですけど……」

駒木:「ゴメン。それなんだけど、仮想コメントを作るのに時間がかかり過ぎちゃって、今日は時間が足りなくなってしまったんだ(苦笑)。また来週辺り、平日で特別枠を作ってレース当日の模様を詳しく仮想してみようと思うんで、それまで待ってもらいたいんだ」
珠美:「博士も他人の事言えないじゃないですか(苦笑)」
駒木:「いやぁ、面目ない。その分、次回はクオリティの高いものにするつもりなんで、どうか期待して欲しい」
珠美:「……ということですので、大変残念ながら今日の講義はここまでとなりました。また次回をお楽しみに。それではお疲れ様でした」
駒木:「はい、ご苦労様。今日の講義を終わらせてもらいます」(次回へ続く

 


 

11月1日(金) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(19)
第2章:オリエント(13)〜
アケメネス朝ペルシアの建国と発展

 ※過去の講義のレジュメはこちら
第1回第2回第3回第4回(以上第1章)/第5回第6回(以上インターミッション1)/第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回第14回第15回第16回第17回第18回


 9月の末から13回にわたってお話を続けてきました古代オリエント史でありますが、今回で一応の区切りとなります。また、これを機にこれまでのレジュメを通して閲覧して頂き、より歴史全体に対する理解を深めて頂けると幸いであります。

 さて今日は、最終的に古代オリエント世界を統一することになる、アケメネス朝ペルシア帝国(王国)の建国からそのオリエント統一までのお話をしてゆきたいと思います。

 最近はあまり“ペルシア”という名前を使わなくなりましたが、この言葉は古代から現代に至るまで、現在のイラン地方を示す地名として使われていました。
 この“ペルシア”という地名が使われ始めた正確な年代の確定は難しいところですが、紀元前9世紀頃のアッシリアの記録から、それまで“アンシャン”と呼ばれていたイラン地方を指す言葉として、新たに“パルスア”という固有名詞が登場します。恐らくはこれが“ペルシア”の語源になったのでありましょう。
 そしてこのペルシアは、紀元前8世紀頃にはアッシリアの侵攻を受けて属国化し、その後は、前回までの講義でも述べました通り、新興国家・メディア王国の属国となります。紀元前670〜660年頃には後の王朝の基礎となるイラン人の王家が成立したと推測がなされていますが、当時はまだ地方政権の一君主に過ぎなかったはずであります。

 この無名同然の地方政権が、東の中華帝国と並ぶ世界を代表する巨大国家にまで成長したきっかけを作ったのは、キュロス2世という王が歴史の表舞台に現れた時でありました。

 古代ギリシアの歴史家・ヘロドトスの残した記録を信じるならば、キュロスは当時ペルシアの宗主国であったメディアの王家の血を引いているそうであります。以下、彼にまつわるエピソードについてしばらく時間を取ってお話しましょう。
 彼の母は、メディア王国の王女であったところを、父王が彼女に関する不吉な夢を見たとの理由で追放同然にペルシア王家に嫁がされ、そこで王妃となった人物でありました。その第一子がキュロスというわけです。悪い表現を恐れず言えば、キュロスは生まれながらにして“捨て子の落とし子”という難儀な宿命を背負ってこの世に現れた事になります。
 そしてまた、キュロスが産まれてからも受難は続きます。「娘の産んだ子がメディアを滅ぼす」という不吉な夢を見たとの理由で、本国からキュロス暗殺の命を受けた人物が派遣されるに至ったのであります。
 この危機的場面は幸いにも、キュロス暗殺命令を受けたメディア王の側近・ハルパゴスがその実行を躊躇い、密かにとある羊飼いの夫婦──先に赤子を亡くしたばかりの──にキュロスと赤子の亡骸を交換させ、キュロスを殺したと欺いたために最悪の事態には至りませんでした。しかし、幼年期のキュロスは自分自身の素性を知らないまま、ただの牧童として育ってゆく事になったのでありました。

 それから10年の年月が経ちました。
 羊飼いの息子として育ったキュロス少年は、成長するに連れて、明らかに非凡なその才能を隠すところなく発揮し始めます。その姿は、羊飼いと言うよりも王者に相応しいものであったと言われています。
 キュロスの噂は瞬く間にペルシアやメディアの王家の知るところとなり、調査の結果、彼が殺されずに済んだペルシアの王子であることが判明しました。年月が問題を解決させたのでしょうか、ここに至ってメディア王もキュロスの助命と王子への復籍を容認し、ここにペルシアの王太子・キュロスが誕生したのでありました。その後、キュロスの父にしてペルシア王であったカンビュセス1世が亡くなり、キュロスは遂に王座に就きますこれがキュロス2世(在位:《ペルシア王として》紀元前559〜《アケメネス朝ペルシアの王として》紀元前550〜530)であります。

 ペルシア王となったキュロス2世は即位後から、因縁深き宗主国・メディア王国の打倒を画策し、着々と準備を重ねてゆきました。
 メディア王国と同盟関係にありながら、その国力に危機感を抱いていたカルデア王国との協調関係を水面下で密なものとし、更にはメディア王国からも精鋭部隊のヘッド・ハンディングに成功します。
 この精鋭部隊の隊長こそが、赤子のキュロスの命を助けた、王の側近ことハルパゴスその人でありました。彼はキュロスの生存が明らかとなった際、王の命に背いた罰として、我が子を殺され、しかもその肉を我が子の肉と知らずに食わされるというエゲツない目に遭っており、密かに復讐の機会を探っていたのでありました。
 かくして紀元前550年、当時オリエント最強を誇ったメディア王国は、キュロス2世率いるペルシアによって滅ぼされることとなります。メディアの領土は全てペルシアに併合され、現在のアルメニアからイラン、アフガニスタン西端に至る巨大な領土を持つ“新生”ペルシアが建国されました。この新しいペルシアの事を、これ以後に建国される複数の“ペルシア”と名付けられた国と区別するためにアケメネス朝ペルシアと称します。これは、元々のペルシア王家の伝説上の創始者の名がアケメネスといったところに由来しています。
 その後、キュロス2世率いるアケメネス朝ペルシアが次々とオリエントの諸国家を征服していったのは、前回の講義で述べた通りであります。紀元前547年にはリディア王国を、紀元前539年にはカルデア王国を滅ぼして、これらの領土を併合していますキュロス2世がアケメネス朝の基礎を築いたのは疑いの無いところでありましょう。

 そんなキュロス2世の30年に及ぶ治世は、戦いに次ぐ戦いで占められたようであります。主な国を滅ぼしたとはいえ、オリエントには未だペルシアを宗主国として認めない小国が多数存在していたのです。そしてまたその最期も、ペルシアに歯向かう遊牧民との戦争において、王自ら勇敢に戦った末の戦死と言われています。
 こう言いますと、さもキュロスは花よりも血の臭いを好む残忍な王のように思えてしまいますが、その人柄は非常に温厚で情に厚い人であったとされています。一度矛先を交えた国であったとしても、征服した相手の王には極めて寛大な態度で接し、カルデアの元の王が亡くなった際には国葬をもって遇したと言いますから大したものであります。勿論、そうする事で被征服民を懐柔する狙いもあったでありましょうが、彼の戦死後に反乱らしい反乱が起きていない事実を見ると、キュロス2世が王として魅力的な人物であった事は確信を持って良さそうです。

 キュロス2世が死んだ後は、既にバビロニアの太守として実地で帝王学を学んでいた長男・カンビュセスが即位してカンビュセス2世(在位:紀元前530〜522)となります。当時のペルシアでは長男には自分の父親の名を授けるという伝統があり、そのため、キュロス2世の父親の名を譲り受ける事になったのでありました。
 カンビュセスは、その短い治世の中でアフリカ地方の征服とその経営に力を注ぎました。中でも古代エジプト王国を征服(紀元前525年)し、支配した事は前回の講義で述べた通りであります。
 彼は遠征を失敗させたり、エジプトの旧支配者層への配慮を損ねたために、必要以上にその評を貶められていますが、実際のところは先代・キュロス2世の政治方針を踏襲した、それなりに優秀な人物であったようであります。これは、彼が治世の大半において本拠地を留守にしていたにも関わらず、全国的な支配に揺らぎが無かったことでも明らかであります。
 カンビュセスは紀元前522年、彼の弟・パルディヤの反乱の報に接し、急遽本拠地に帰還する途中で客死します。カンビュセスを非難する者たちは、エジプトの神聖な牛を殺した祟りだと言いますが、今ではカンビュセスがその牛を殺した事さえも事実と異なると判っています。当然の事ながら、彼の死因は病死と考えるのが妥当でありましょう。

 さて、王弟の反乱という国家の一大事に、肝心の王を失ったペルシアは、これまでの安定した統治から一転、大混乱となりました。こういう時には血統よりも実力がモノを言う社会になるのは世の必定でありまして、この時も王座を手に入れたのは王弟・パルディヤではなく、先王カンビュセス2世から見れば曽祖父の弟の4代孫という遠縁にあったダレイオス1世(在位:紀元前522〜486)でありました。
 ダレイオスは、王位継承権を持つパルディヤを“既に先王・カンビュセスに歯向かい殺されていたパルディヤの名を騙る者”として、王位継承者ではなく叛徒であると宣言、半年の戦いの末に彼を破り、王座を半ば強奪する形で王位に就きます。分かる人だけ分かるように言いますとエヴァ3号機を使徒とみなして殲滅を命じた碇ゲンドウみたいな事をしたわけであります。
 このようなダレイオスの“王位簒奪”を、各地の実力者が納得出来るはずなどありません。彼らはそれぞれ王を自称して、反・ダレイオスの兵を挙げるところとなりました。しかし力に勝るダレイオス1世は、1年の内にその全てを鎮圧し、その支配を確固たるものにします。この辺りはまさに“格の差”と言うに相応しいものでありまして、事実、この後のダレイオスは並みの王位簒奪者に似合わない類稀な政治的センスを発揮して、アケメネス朝ペルシアの黄金時代を演出する事となったのでありました。

 そんなダレイオス1世の行った治績の中で最も有名なものが、王都スサ(現在のペルシア湾岸・イラン・イラク国境付近の都市)に鎮座するダレイオスに全ての権力が集約する中央集権体制の確立であります。彼は、それ以前に栄えた大国であるアッシリアやメディアの制度を参考にしつつ、独自の支配を進めていったのであります。
 ダレイオスは、即位後自ら征服活動を行って広めた広大な領土──トラキア(ギリシア東部のエーゲ海沿岸一帯)からインダス川西岸に至るまで──を治めるため、領地を20以上の州に分割してそれぞれをサトラップと呼ばれた知事に統治させました(サトラップ制)。実はカンビュセスの代までは実現できなかった全国からの徴税制度がダレイオスの代に実現するのですが、それもこの支配制度の確立と無関係ではないと思われます。
 しかもサトラップが二心を抱いた場合の用心として、“王の目”“王の耳”と呼ばれた監督制度・スパイ制度や、“王の道”と呼ばれる駅伝通信制度を完備させて万全を期しました。鉄壁の支配であります。
 そしてまた、この支配を支えた強固な軍隊も特筆すべきものであります。中でもダレイオス親衛隊“不死の1万人隊”は長年無敵を誇った精鋭部隊でありました。

 ところで、ダレイオスの時代には、イラン地方発祥の宗教・ゾロアスター教の普及が進みました。
 この宗教は、紀元前12世紀頃にゾロアスターを創始者に始まったものでありまして、善神“アフラ=マズダ”と悪神“アーリマン”の対立をテーマとしたもので、他の宗教に先立って、いわゆる“最後の審判”の思想を導入した事でも知られています。
 ゾロアスター教はこの後も存続し、やがてはペルシア地方のみならず中国にまで流布されてゆくこととなります。この宗教に関しては、また別の機会に述べることになるでしょう。

 最後に、古代ペルシアの文字についても、少々のエピソードをお話しておきましょう。
 古代ペルシアの文字は、メソポタミア文明のそれと同様の楔形文字であります。しかも、このペルシア語の解読によって他の楔形文字を用いた言語が解読できるようになったために、この時代の言語学研究の中でも最重要の位置付けが為されています。
 このペルシア語解読の先鞭をつけたのは、ドイツの高校教師・グローテフェントでありました。彼は、ペルシア王宮で発見された碑文を、ササン朝時代(226〜651年)のペルシアで使われた言語と同様の文法であると見抜き、その上でパズルを解くかのように楔形文字をアルファベット化してペルシア語13文字の解読に成功したのでありました。発見された碑文が非常に限定されていた事を考えると、これでも奇跡に近い偉業であります。
 グローテフェントに続いたのが、言語学者にしてイギリス陸軍将校であったローリンソンで、彼は赴任先のペルシアで、高さ120mの断崖に刻まれた巨大な碑文──古代ペルシア語のみならず、エラム語とアッシリア語も対訳で刻まれていたロゼッタストーン的なもの──を発見し、上官の理解を得て軍務の傍らに研究を始めます。この碑文は、その地名からベヒストゥーン碑文と名付けられました。
 ローリンソンは、中世のイスラム教徒ですら破壊を断念したと言う断崖絶壁に命綱も無しでよじ登り、少しずつその碑文を写し取って解読に挑みます。そして彼はペルシア語の完全解読に成功し、後のエラム語やアッシリア語、更には他の楔形文字言語の解読に大きく貢献する事になったのでありました。

 ──このようにして、古代オリエント世界はアケメネス朝ペルシアの手によって完全統一が成されました。これにて古代オリエントの歴史は一応の終幕となります。
 ただ、この鉄壁の支配を誇ったペルシア帝国も、ダレイオス1世の晩年にはギリシア遠征(=ペルシア戦争)に失敗し、更にダレイオスの死後には優れた後継者に恵まれなかったため、国勢は徐々に先細りになっていってしまいます。そして建国から220年経った紀元前330年には、マケドニア生まれの英雄・アレクサンドロス(アレキサンダー)大王の前に滅ぼされることになるのでありますが、それについてはまた主客を入れ替えて、マケドニアとアレクサンドロスの歴史を語る時に詳しくお話することに致しましょう。

 
 さて、次回からは舞台を地中海世界に移しまして、ギリシアとローマの歴史を中心に述べてゆく事になります。ますます面白さを増す歴史の物語にどうぞご期待下さい。 (次回に続く


 今回をもちまして、この「学校で教えたい世界史」は、しばらくのお休みを頂きます。今のところ、再開は11月の第4週辺りを予定しておりますが、詳しくはまたお伝え致します。なお、再開後のこの歴史学講義は、週1〜2度の実施にペースを落として実施する予定です。受講生の皆さんには御迷惑をおかけしますが、悪しからずご了承下さい。 


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