「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

8/27(第46回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第4週分・合同)
8/23(第45回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・『赤マルジャンプ』04年夏号特集」
8/20(第44回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第3週分・合同)
8/19(第43回) 人文地理「駒木博士の04年夏の旅行記・ダイジェスト版(2)」
8/17(第42回) 人文地理「駒木博士の04年夏の旅行記・ダイジェスト版(1)」
8/12(第41回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第2週分・合同)
8/6(第40回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(8月第1週分・合同)
8/5(第39回) 競馬学特殊講義「駒木博士の高知競馬観戦旅行記」(8・最終回)
8/3(第38回) 競馬学特殊講義「駒木博士の高知競馬観戦旅行記」(7)

8/2(第37回) 
競馬学特殊講義「駒木博士の高知競馬観戦旅行記」(6)

 

2004年度第46回講義
8月27日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第4週・合同)

 いよいよ夏休みも最終週後半……というか、社会人にもなってこの時期まで夏休みというのが恵まれ過ぎているわけではありますが、それでもいよいよ『げんしけん』の笹原妹みたいなのが教室中に一杯溢れる職場に強制送還されるのかと思うと、背筋に冷たい物が走ります(苦笑)。
 また来月から3ヵ月半ほど、週1回ペースがやっとの講義日程に戻ると思いますが、そこらへんの事情も踏まえて頂いてどうか何卒。

 なお、冬コミ用の原稿は既に進行中です。どうやら余りの分厚さに頭がクラクラしそうな本になりそうですが、汚名返上及び読み応えのある内容にすべく鋭意努力中ですので、こちらもどうか何卒。

 ──では、今週のゼミをお送りします。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」では次号(40号)より、『Wāqwāq』作画:藤崎竜)が新連載となります。
 一昨年の『サクラテツ対話篇』以来、「ジャンプ」の第一線を離れていた藤崎さんですが、いきなりの週刊連載復帰となりました。
 ちなみに2ch掲示板で流れている非公式情報によると、今期の新連載はこの1作品のみになる模様。終了する連載作品も、次週で最終回を迎える『シャーマンキング』と、もうしばらく後に何か1作品が終わる程度になるとのことで、随分と小規模の入れ替えになるんですね。
 ……いや、こういう事を言っても意味が無いとは判ってるんですが、本当に大亜門さんは運が無いと思いました。

 
 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーGAGまんが新人賞
「爆笑王決定戦」

 爆笑王=1編

 ・
吉田ジャスティス(激闘編)(=週刊本誌41号に掲載決定)
   
福井祐介(27歳・東京)

 《選評:ツッコミキャラ皆無なのに、主人公吉田ジャスティスの自己完結ギャグは炸裂しまくり。ボケの一つ一つに読者がツッコミ入れずにはいられない。引き込むテンポの良さに大いなる可能性を感じます》

 準爆笑王=1編
  ・『絶対正義ロボット ノーメン』
   下出真輔(22歳・埼玉) 
 佳作=1編
  ・『学園戦隊ファンタジアン』
   橋本時計店(23歳・東京)
 最終候補=5編
  ・『河童巻き』
   佐藤将憲(21歳・東京)
  ・『かせげ!! マオウ様』
   クリスタルな洋介(24歳・秋田)
  ・『SM進化論』
   内藤みえこ(16歳・愛知)
  ・『どいつもこいつも筋肉くさい!』
   福井祐介(27歳・東京都)=爆笑王受賞作とのWエントリー
  ・『演歌寿司投手 コブシ』
   溝口直樹(33歳・愛知)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎「爆笑王」の福井祐介さん…02年12月・03年1月期「まんカレ」であと一歩で賞。
 ◎「準爆笑王」の下出真輔さん…03年7月期「まんカレ」で努力賞&「週刊少年チャンピオン」の読者コーナーでイラスト担当の経験有り?
 ◎最終候補の佐藤将憲さん…04年6月期「まんカレ」で努力賞

 ……というわけで、最高ランクの「爆笑王」受賞者が出ました。週刊本誌登場も既に決定という事で、編集サイドのかなりのイレコミ具合が伝わって来ますね。……あ、でもそう言えば審査員は三上編集長だったはずですので、職権を行使しただけとも言えるわけですか(笑)。
 しかし今回の賞レースは、「サンデー」系の新人賞にしては“新人予備軍”の名前が目立ちますね。ひょっとして担当編集さんから「応募作少なくて穴場だから、挑戦してみたら?」とか言われたんでしょうか(笑)。

 
 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:読み切り1本/代原読み切り1本
 「サンデー」:(短期集中)新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年39号☆

 ◎読み切り(「第1回ジャンプ金未来杯」エントリー作品)『切法師』作画:中島諭宇樹

 作者略歴
 1979年7月21日生まれの現在25歳
 01年11月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りした後、02年度の「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞し、翌03年の「赤マル」春号にて受賞作・『天上都市』が掲載され、デビュー。
 週刊本誌初登場は03年46号掲載の『人造人間ガロン』で、今年に入ってからは2月発売の「青マルジャンプ」で『ホライズンエキスプレス』を発表している。
 なお、デビュー後しばらくまで、村田雄介さんのスタジオでアシスタントを務めていた。

 についての所見
 
以前から若手作家としてはトップクラスの技量を誇っていた中島さんだけあって、今回も実に安定した絵を見せてくれました。村田雄介門下ならではの細かい描写や動物系・怪物系キャラの造型も立派なもので、他の連載作品と比較しても全く遜色無いレヴェルに達していると言えるでしょう。
 敢えて注文をつけるとすれば、少年・少女系キャラの顔の描き分けをもう少し明確にして欲しいという点と、前作でも指摘した見開き基準のコマ割りで一部見辛い部分があるのを修正して欲しい…といったところでしょうか。後者に関しては、パッと見でコマ全体に目が行くような構図にすれば何とかなると思いますので、次回までに修正してもらいたいものです。

 ストーリー&設定についての所見
 初の時代劇という事で、どういう作品になるかと思っていましたが、結局は時代劇風ファンタジーという、フタを(扉ページを?)開けてみれば、いかにも中島さんらしい作品になりましたね。

 さて、中島さんお得意の世界観作りは今回も好調で、数多くの設定が矛盾無く1つの作品世界に集束してゆく様は壮観でありました。設定提示はページ数の加減もあって、セリフなど文字による“説明”が中心になりましたが、これを主人公の時代背景相応の持って回ったセリフ回しと上手く噛み合わせて嫌味無くクリアさせており、大変な工夫の跡が窺えます。
 また、今回は主要登場人物の数を絞り、キャラクターの掘り下げに力を注いだのも特筆すべき点ですね。ただ、それでも若干キャラ造型が中途半端な印象が残ったのも事実で、これは今後の課題になるのではないでしょうか。

 一方、シナリオに関してですが、こちらは残念ながら少々物足りない完成度だったように思えました。プロットはよくまとまっており、好感度は低くないと思われるのですが、ページ配分が……。設定提示とキャラクターを掘り下げるのに労力とページ数を費やしてしまったために、起承転結の“転”と“結”がボリューム不足になってしまったような気がしてなりません。
 特に中島作品は、ダイナミックな演出で意表を突くクライマックスの盛り上げ方が持ち味なだけに、このページ配分は痛かったと思います。あと10〜20ページもあれば、同じシナリオでも随分と違った仕上がりになっていたと思うのですが、今回はちょっと計算が甘かった感じですね。

 今回の評価
 評価については、高い技術を認めつつも、作品の完成度を揺るがす大きな減点材料があったという事でA−寄りB+。中島さんにはアンカーとしてビシッと大会を締めて欲しかったんですが、こうなっては仕方ありませんね。

 
 ──さて、「金未来杯」のエントリー全作品が出揃った所で、簡単にですが総括をやっておきましょう。

作品名 作者 評価
『プルソウル』 福島鉄平 (A−寄り)B+
『タカヤ −おとなりさんパニック!!−』 坂本裕次郎 B+
『BULLET TIME −ブレットタイム−』 田坂亮 (B寄り)B−
『ムヒョとロージーの魔法律相談所』 西義之 A−
『切法師』 中島諭宇樹 (A−寄り)B+

 (あくまで個人的な観点での話で恐縮ですが、)A−評価が1作品、更にはあと一歩でAクラスに届くB+評価が3作品と、なかなかの粒揃いだったとは言えると思います。昔行われた「黄金の女神杯」の時と比べても、全作品の平均点の比較なら随分とこちらの方が上ではないでしょうか。
 ただ残念だったのは、今回のエントリー作に本来持っているポテンシャルを発揮しきれなかった作家さんが複数見受けられたという事。今後の作家人生を揺るがす可能性の高いコンペテイションなのですから、もっと設定やシナリオを練りこんで欲しかったです。
 恐らくこの中から1〜3作品程度が連載作品に昇格するのでしょうが、その時には今回至らなかった点を改善させて、もっともっと良い作品にグレードアップさせてもらいたいと思います。

 さて、蛇足ながらここで優勝予想を。
 ここはやはり、最高評価を付けた『ムヒョ』を…と言いたい所なのですが、前にも述べた通り、この手の賞は余程抜きん出た存在でもない限りは、「中身よりも絵のパッと見の美しさ優先」という、まったくもってミもフタも無い基準で優勝が決まってしまうので、逆に『ムヒョ』は不利だと思っています。むしろ『ムヒョ』とは真逆のタイプ──お話が分かり易くて絵が綺麗な、いわゆる読むのに疲れない作品が有利でしょう。
 というわけで、駒木の優勝予想作品は『切法師』とします。でも、競馬のG1予想みたいにスパッと外れそうだなぁ。いかにも論理の展開が、外れた時の競馬予想っぽいぞ、我ながら(笑)。

 ──以上、「金未来杯」関連の話題をお送りしました。またレビューとチェックポイントに話題を戻します。

 

 ◎読み切り『トイレ競走曲〜序走〜』作画:吉原薫比古

 ●作者略歴
 生年月日は未公開だが、04年上期の「赤塚賞」受賞当時に19歳で、現在は19〜20歳という事になる。
 03年8月期、04年1月期「十二傑新人漫画賞」の「あと一歩で最終候補」リストに名前が載っており、この前後からマンガ家を志望していた事が窺える。
 04年上期「赤塚賞」で準入選を受賞して“新人予備軍”入り。今回が代原ながら(暫定)デビュー作となる。
 

 についての所見
 
画力をさほど要求されないギャグ作品という事を考慮しても、まだ全体的に稚拙な面が目立ちますね。人物作画は粗いなりに形になっているように思えるのですが、背景・特殊効果等にキャリアの浅さがモロに出ている感じで、素人臭い印象が拭えないでいます。
 せめて下手ではない程度までは上達して欲しいところですね。今後に期待しましょう。

 ギャグについての所見
 「赤塚賞」準入選だけあって、ネタの見せ方や話の転がし方はちゃんと出来ていると思います。ボケの緩急のつけ方やインパクトのある表現の方法、更にはツッコミのタイミングなど、笑い所を作る技術はある程度の水準に達しているのではないでしょうか。
 ただ、惜しむらくは肝心のネタそのものが弱いという事。狙いは何となく分かるのですが、まだまだ読み手の意表を突けていない感じです。基本的に「笑い」というものは、突然起こった予想外の出来事による違和感が脳に反応して起こる生理現象なのですから、その辺りを踏まえたネタ作りをして欲しいと思います。

 今回の評価
 技術点を少し上乗せして、B寄りB−としておきます。ただ、ギャグ作品の文法は収得済みみたいですから、大化けの可能性もあるのではないでしょうか。今後に期待しておきましょう。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 巻頭カラーは『武装錬金』。しかし新連載第1回以来ようやく通算2度目、しかも「連載1周年突破記念」という微妙なタイミングの巻頭カラーというあたりに“大事にされてない感”が漂ってはいるのがアレですね(苦笑)。
 ……でもまぁ、この作品がキャラクター人気投票が開催出来るところまで生き残ったというのは感慨深い話で。03年度連載開始組では唯一の存続作品になっちゃいましたしね。
 と、ここで話ついでに人気投票の順位予想もやってみましょうか。
 まず1位は鉄板中の鉄板で斗貴子さん。これはまぁ確定でしょう。作者の和月さんは少々不満のご様子ですが、こっちにしてみれば「このマンガは斗貴子さんあってこそだと早く気付け」と言いたい所です(笑)。もうこれは順位じゃなくて2位との票数差が焦点ですね。
 で、2位から4位はそれぞれ逆転の目も有るでしょうが、パピヨン、カズキ、ブラボーの順と予想。以下、ベスト10圏内にエンゼル御前、岡倉、六舛、まひろ、早坂姉弟、ちーちん&さーちゃんがダンゴ…といったところではなかろうかと。大浜は性癖をバラされた上に順位伸び悩み…という悲惨な結果になると見ましたが(笑)。

 ──しかし、今週の「ジャンプ」は雑誌全体でまとめて“確変”に入ったような感じで大変読み応えがありました。『ONE PIECE』、『アイシールド21』、『DEATH NOTE』、『BLEACH』、『銀魂』と、掲載順上位の作品のほとんどが持ち味出しまくりの好内容で唸らされっぱなしでした。

 そんな中、とんでもない“やらかし”方をしてくれたのが『ぷーやん』ですね(苦笑)。卓球なのにテニス式の点数カウント、しかもテニス式としても勝負のつけ方が間違っているという、「お前暑さでドタマやられたんか?」と言いたくなるような異次元空間がそこに。
 ただ、どうやら以前にはちゃんと11点制による試合シーンが登場しているらしく、今回は壮大なスケールのギャグだったらしいです(笑)。スケールの壮大なギャグは、外した時のダメージも壮大だな…などと、しみじみと思ったりしました。

 そして『スティール・ボール・ラン』は今週で第2クールが終了。しかしこの作品、2ndステージになってレース的要素が薄まった途端、一気に間延びしてしまった感がありますね。せっかくキャノンボール物にしたんですから、レースならではのスリリングな展開をもっと織り交ぜて貰いたいんですが……。
 駒木のこの作品に対する評価は、レース物ならではのスピード感やストーリー進行のテンポの良さ、更には『ジョジョ』シリーズで膨れ上がった設定を上手くダイエットした事を高く評価してのものでしたので、その材料が霧散してしまった以上は、少しは評価を落とさなければなりません。
 現時点における新評価はA−としておきます。

 

「週刊少年サンデー」2004年39号☆

 ◎短期集中新連載『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志

 ●作者略歴
 1965年6月24日生まれの現在39歳
 「まんカレ」で「サンデー」系新人となり、週刊本誌89年14号掲載の4コマギャグ作品『Dr.椎名の教育的指導!!』でデビュー。このシリーズを90年にかけて不定期連載(全14回)するのと平行して、野辺利雄さんのスタジオでアシスタント修行。
 90年に入ってからは、月刊増刊にて読み切り連作形式の作品『(有)椎名百貨店』を連載開始。この連載は90年4月号より91年5月号までの全14回で終了したが、これ以降も事実上の不定期連載として連作短編は増刊等に掲載され続け、『(有)椎名百貨店』のタイトルは椎名さんの短編集の書名として引き継がれる。
 週刊本誌では91年30号より、『(有)椎名百貨店』内の1作品として描かれた『極楽亡者』を連載用にリメイク・改題した『GS(ゴーストスイーパー)美神 極楽大作戦!!』を連載開始。これが連載期間8年以上・一説に単行本発行部数の累計5000万部を突破したと言われるほどの大ヒット作となる。なお、この作品はTV・映画アニメ化され、連載中の93年には小学館漫画賞少年部門を受賞している。
 99年41号に『GS美神──』の連載を終了した後も精力的な執筆活動を続け、「サンデー」週刊本誌での連載だけでも『MISTERジパング』(00年14号〜01年46号)『一番湯のカナタ』(2002年21・22号〜2003年2号)の2作品を手がけており、また連載期間の合間には、「サンデー」の月刊増刊、「サンデーGX」誌、「マガジンアッパーズ」誌等で読み切り・短期集中連載作品を多数執筆している。
 今作は「サンデー」月刊増刊03年7月号に掲載された同タイトル作品の連載リメイク版。本来は週刊連載用作品としてプレゼンに出された企画だが、それが一度暗礁に乗り上げた末に短期集中連載作品として蘇った…という複雑な経緯での週刊本誌登場。   

 についての所見
 長いキャリアの中で洗練された個性的な絵柄は今回も健在でした。バリエーション豊かな表情や許容範囲内で大袈裟なディフォルメ表現、そして極めて安定感のある質の高いアクションシーンなど、読んでいて「さすが」と言いたくなる場面はいくつもありました。
 ただ、今回はチルドレンの3人の等身が各所でバラバラになっており、全く安定していなかったのが非常に気になりました。キャラを見分ける記号としてダメというわけでは無いのですが、これは珠にキズでしたね。

 ストーリー&設定についての所見
 絵の方には珠にキズがつきましたが、こちらの方は結論から言えばほぼ完璧。久し振りに「傑作とはこういう作品なんだ」と認識を新たにしてくれたような素晴らしい出来だったように思えます。
 冒頭から全く無駄の無い設定提示と登場人物紹介のあった後は、49ページという限られたボリュームの中で緊張→緩和→緊張→緩和(オチ)という非常にメリハリの利いた展開が、テンションだけは落ちないままで最終コマまでキッチリと続きます。これだけでも凄いんですが、シナリオもそれ自体よく練られている上に、ちょっと深めのテーマまで消化不良を起こす事無く描き切っているという、最高級の完成度。いやはや、恐れ入りました。
 キャラクター等の設定面についても、今回の時点では少々物足りない点があるものの、ほとんどの登場人物のキャラ分けは明確に出来ており、やはりこれも合格点の水準と言って差し支えないでしょう。また、設定を読み手に提示する際、絵による“描写”と文字による“説明”を実にバランス良く使い分けている事に大変感心させられました。
 
 現時点の評価
 僅かな欠点を差し引いても、A−寄りの評価は譲れないところ。これでも厳しく採点したくらいです。
 この作品が「サンデー」読者に広く受け入れられるかどうかは、読み手の趣味嗜好などの諸条件に左右される事になるのでしょうが、少なくともストーリーテリングに関わる技術面に関しては限りなく満点に近いデキだと思います。比べるのもアレですが、新人・若手作家さんたちの短編作品とは完全に格が違う感じです。
 なお、この作品は短期集中連載ですので、次回レビューは3週間後の最終回掲載時となります。それまでしばしの間、この素晴らしい作品を心から堪能させて頂こうと思ってます。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「何回も繰り返し聞く、お気に入りの一曲」。
 さすがに連載陣の皆さんの回答は気持ち良いくらいにバラバラ。全くダブり無しという事になりました。作業中に音楽を聴く事が多いであろうマンガ家さん、さすがにこの辺りは流行に左右されないこだわりが出て来るんでしょうね。
 駒木は……色々候補が有るんですけどね。椎名林檎さんの『幸福論』、ポルノグラフティの『サウダージ』、小松未歩さんの『傷あとをたどれば』
Swinging Popsicleの『サテツの塔』、戸川純さんの『諦念プシガンガ』……なんか、段々とマイナーになっていくな(笑)。
 まぁここは一つメジャーなところから、原盤を1.3倍早回しにして一青窈みたいな声になった『瞳をとじて』という事にしておきましょうか(ぉ)

 さて、ちょっと講義が長引いて来ましたんで、こちらの連載作品の方はちょっとアッサリめに。……とは言っても、採り上げるのは話が「天下一品」のスープくらいにコッテリしている『モンキーターン』なわけですが(笑)。
 福岡の夜は燃え上がったのかどうかという大問題はとりあえず打っ棄っておきまして、本当に青島優子という人は、自分の意図とは全く関係ない所で、付き合っている男を根っこの部分からダメにしてゆきますね(苦笑)。昔、ここで述べた「青島優子サゲマン説」は、やっぱり当たっていたと確信いたしました。当たっていても全然嬉しくないですが。
 しかし、ここまでドロドロした人間ドラマが展開出来るという事は、この作品のキャラ設定が優れているという証拠なんですよね。いやー、河合さんって凄いなあ(全然褒めてるように聞こえません)

 ……というわけで、今週のゼミは以上です。来週は藤崎竜さんの新連載に『東遊記』の第3回後追いレビュー。難しそうな作品ばかりが対象で大変そうですが、何とか頑張ります。では。

 


 

2004年度第45回講義
8月23日(月) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・『赤マルジャンプ』04年夏号特集」

 大変お待たせしました……というか、お待たせし過ぎてもう誰も待っていないような気がしますが、年3回の恒例行事、「赤マル」全作品レビューをお送りします。

 ……しかし、今回の「赤マル」は『DEATH NOTE』4コマに全部持っていかれたような気がしてなりませんね(笑)。「そういう事じゃないんですよ」「そんな事言ってるんじゃないんですよ」は、極私的今年度最高の名セリフになりました。
 いや、駒木もね普段から思ってたんですよ。写真週刊誌とかのグラビアとかね。バカみたいな笑顔で丸出しされても、そんなの嬉しくないですよ私は。そういう事じゃないんだ…………と、いう風に応用も利きますし(利かすな)

 ──まぁバカはこれくらいにしまして、レビューを始めます。今回も読む人によって評価が分かれそうな作品が多そうですが、あくまで数多の評価のワンオブゼムとしてお楽しみ下さい。
 なお、いつものように連載作品の番外編はレビューから除外させてもらいます。「そういう事じゃないんだ」とか言われてもこればかりはご勘弁を(笑)。あと、講義準備時間短縮のため、レビューはいつもよりアッサリ気味にするようにします。

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

◆「赤マルジャンプ」04年夏号レビュー◆

 ◎読み切り『しーもんきー』作画:叶恭弘

 ●作者略歴
 1970年12月16日生まれの33歳
 「ジャンプ」作家になる以前のキャリアの存在も噂されているが、詳細は不明。
 「ジャンプ」系作家としてのキャリアは、「ホップ☆ステップ賞」(=「十二傑新人漫画賞」の前身の前身)92年1月期において、『BLACK CITY』で入選を受賞この作品が季刊増刊92年秋号に掲載されて「ジャンプ」デビューを果たす。
 その後は週刊本誌93年12号で本誌デビューを果たし、更に94年から1年〜2年に1度のペースで季刊増刊、週刊本誌に作品を発表(ちなみに週刊本誌には94年49号と00年25号の2回掲載。後者の方は原作者付作品)その傍らで小説本の挿絵も担当するなど、寡作ながら幅広い活動を続ける。
 02年24号からは、「ジャンプ」初の連載となる(叶さん自身が「10年ぶりの連載」と発言)となる『プリティフェイス』の週刊連載が開始。この作品は03年28号まで約1年間続き、「赤マル」03年夏号では、この作品の事実上の完結編となる『プリティフェイス番外編』を発表。
 復帰作は「赤マル」04年冬(新年)に掲載された『Snow in the Dark』で、今年には「ストーリーキング」ネーム部門受賞作・二戸原太輔さん原作の『桐野佐亜子と仲間たち』のマンガ担当も務めた(04年19号〜20号掲載) 

 についての所見
 
今回も「ジャンプ」系作家トップクラスの画力を見せつけてくれました。しかもカラー原稿とかを見ると、何だかまた達者になられたような気もするのですが、錯覚でしょうか。
 「一目惚れするくらい可愛い(しかも猿だと判っても惚れてしまうくら可愛い)女の子」という難題が難題にならないというのが叶さんの凄い所で、さぞかし羨ましがっている同業者の方も多いのではと思います。

 ストーリー&設定についての所見
 前作『Snow in the Dark』は、『プリティフェイス』以前を思わせるシリアスなお話でしたが、今回はまた一転して『プリフェ』系の“お気楽お色気コメディ”に戻って来ましたね。器用ですねぇ(笑)。
 ただ、今作のシナリオは“お気楽”系にしても、少々脱力が過ぎるかな……という印象が残りました。主人公の前に次々と障害が待ち構えている割には、それが全てハリボテのようにスカスカで、ことごとく御都合主義的・なし崩し的にストーリーが展開してしまってるんですよね。こう言っては語弊があるかも知れませんが、まるでエロマンガみたいなお話でした(笑)。「赤マル」で言えば45ページからHシーンが始まれば、そのままそっち系の雑誌で通用してしまうような、“ストーリー二の次にし過ぎ”な作品だったように思えます。
 まぁ、雑誌の一作品として楽しむだけなら、勿論これだけでも十分でしょう。ただ、誰もが認める傑作と言うには物足りなさが否めないところですね。 

 今回の評価
 画力を最大限に評価してB寄りB+とします。当ゼミの評価では前作より低いですが、週刊連載するにしては、シリアス系よりこっちの方が向いているかも知れないですね。客観的な数字にも繋がりそうな気もしますし。

 ◎読み切り『あかねの末』作画:落合沙戸

 ●作者略歴
 1977年7月25日生まれの現在27歳
 02年後期「手塚賞」で佳作を受賞し、「赤マル」03年春号にて『あかねの纏』でデビュー。04年に入ってからは、2月発売の「青マルジャンプ」で『いのちやどりしは』作:高野勇馬)のマンガ担当を務めた。

 についての所見
 
原作付作品を任されるだけの事はあって、全ての要素において及第点・合格点を出せる水準の絵だと思います。
 ただ、1つ贅沢を言えば、もう少し絵柄にアクが欲しいところ。技量の割に個性が弱いと言うのは、商業作家としては損な話だと思いますので……。

 ストーリー&設定についての所見
 「ジャンプ」では珍しい幕末の時代物ですね。史実に忠実というよりは巷の幕末物読み物の世界観に忠実、といった感じですが、幕末物愛好家が激怒する内容の幕末モノ大河ドラマが放映されている昨今(笑)、あまりその辺を五月蝿く指摘するのは良くないでしょう。むしろ、曲がりなりにもしっかりした知識がバックボーンとして作品を支えている事を評価すべきだと思います。
 ストーリーもよくまとまっていると思います。ただ、全般的にやや優等生的過ぎる面があるのが残念でした。敵役サイドの主人公に対する扱いがヌル過ぎた印象があり、その分だけ緊迫感に欠ける予定調和的な内容になってしまったような気がしますし、クライマックスにもう少し読み手の感情を揺さぶるような大きな見せ場が欲しかったところです。

 今回の評価
 新人・若手作家さんの作品としては相当の完成度だとは思うのですが、A評価を出すには躊躇するところで、B+と言う事にしておきましょう。

 ◎読み切り『冒険王』作画:後藤竜児

 ●作者略歴
 ※資料が手元に無く、生年月日は不明です。ご了承下さい。
 デビューは99年6号掲載の『はだしの教師』。詳細は不明だが、代原掲載による暫定デビューの可能性が高い。また、01年29号にも同タイトルの代原を発表している。
 現時点で正式デビュー作の可能性が高いのは、「赤マル」01年夏号に掲載された、これも同タイトルの『はだしの教師』
 それからは2年半のブランク(高橋和希さんのスタジオでアシスタントを務めていた)があって、週刊本誌04年13号で『ハッピー神社♥コマ太』を発表。復帰を果たす。
 今回はそれ以来、約半年振りの復帰となる。

 についての所見
 
トーンのベタ貼りや大袈裟なポーズなど、至る所に師匠・高橋和希さんの影響が見てとれますね。ただし、これらの特徴は、高橋さんの垢抜けた絵柄だからこそ見栄えするものであって、正直な所、現在の後藤さんの画力では逆効果(=見栄えが悪くなる)になってしまっているように感じます。
 また、人物のポーズや表情のバリエーションが少なく、動的表現もぎこちなさが残っています。これらはマンガの記号としての役割を果たす部分ですから、当然の事ながら大きな減点材料になります。

 ギャグについての所見
 まず、“間”の取り方や小ネタの使い方などには進歩が窺えます。個人的な笑う・笑えないは別にして、明確な笑い所は作れていますね。
 ただ、勿体無いのがツッコミの弱さ。天然系のボケ役が暴走しっ放しでは、どうしても単調になってしまいます。ましてや今回は31ページもあるわけですから、もうちょっと展開に緩急が欲しかったところですね。長めのセリフによるツッコミで獲る笑いがあれば、全体的な印象も随分と変わって来たでしょう。
 あと、これは笑える要素が少なかったから余計に感じる事なんでしょうが、読み手の感情移入の対象になるであろうツッコミ役の少年に全く救いが無い展開というのも、もうちょっと何とかして欲しかったところです。

 今回の評価
 前作(C寄りB−)ほど悪くはないと思いますが、画力の稚拙さなどを考えると、及第点には足りないかな…という印象。少々厳しいですがB−としておきます。


 ◎読み切り『WoodManザッパー』作画:鬼団子

 ●作者略歴
 1984年7月27日生まれの現在20歳
 03年9月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入りした後、04年2月期「十二傑」で十二傑賞を受賞。今回はその受賞作掲載の特典によるデビュー。

 についての所見
 
色々な構図やシーンに挑戦しており、“デビューを目指す新人”としての意欲的な姿勢は窺えますが、“プロの一作家”として見ると、やはりまだ力量不足が目立っている感じですね。
 線が洗練されておらず、ただでさえゴチャついて見えるところに人物作画と背景の区別が曖昧なのが痛いですね。人物が背景に埋没して見えてしまって見難くなってしまいました。また、人物作画も顔と体のパーツのバランスが狂っている場面もあり、どうしても稚拙な絵柄に映ってしまいます。あと、主要キャラ以外の人物デザインに手を抜き過ぎです。オバQみたいな人間はさすがにやり過ぎでしょう。
 「十二傑賞」の採点表で「絵」の項目に○印がついていたように、決して根本的に画力が無いわけではないでしょうから、次回作でのパワーアップに期待したいところです。

 ストーリー&設定についての所見
 呪いの大樹VS人間…というシチュエーションはオリジナリティが高く、プロットの内容も悪くないのですが、残念ながらそれを支える世界観が曖昧だったのが痛いです。
チェーンソーを使った林業が栄えている時代に、斧を持った木こりが派遣されるというところから説得力がありませんし、全体的に見ても、時代や地理的な設定が非常に貧弱です。そのため、読み手には“何だか分からないどこかの世界”としか映らず、感情移入がし難くなってしまっているのではないでしょうか。
 また、感情移入し難いと言えば、主人公のキャラクター設定も掘り下げが甘いのも問題ですね。読み手との“距離感”が最後まで詰まらないままで、登場人物たちがストーリーを転がすための“駒”の役割にしかなっていないように見えてしまいました。 

 今回の評価
 目の付け所は悪くないのですが、結果として今回は独り善がりな作品になってしまったかな…というところでしょうか。評価はB−とします。

 ◎読み切り『ニライカナイより』作画:田村隆平

 ●作者略歴
 1980年4月19日生まれの現在24歳
 03年6月期の「十二傑新人漫画賞」で佳作(十二傑賞)を受賞し、受賞作『URA BEAT』が週刊本誌03年45号に掲載され、デビュー。今回がそれ以来10ヶ月ぶりの新作発表となる。

 についての所見
 やや線にメリハリが足りない印象で、特にロングショットのシーンで人物描写が粗い場面がまま見受けられますが、背景がスッキリしていて見易く、ディフォルメ表現にも見所があるなど長所もあり、ギリギリで及第点は出せるような水準には達していると思います。
 今後は苦手なシチュエーションを中心に修練を積んで、もっとしっかりした絵柄を身に付けてもらいたいですね。

 ストーリー&設定についての所見
 主要登場人物のキャラクターが立っているのがまず高ポイントですね。導入部分の構成も非常に上手くいですし、冒頭シーンからスムーズに繋がった主人公たちとシーサとのコミカルな遣り取りも、ギャグマンガのテクニックを取り入れてテンポ良く仕上がっています
 が、それ以降、ストーリーの核心に入ってゆく後半部分の展開が頂けません。全く前触れも無く「こういう事実があったんだ」と伏線を後付けしてしまう強引なストーリー展開をカマしてしまっては全てが台無しです。また、シーサの内面心理描写(つまり絶対に嘘をつけない部分)がストーリー展開と矛盾しているのに至っては、シナリオ上の致命的な欠陥と言わざるを得ないでしょう。この辺り、デビュー作で指摘された、理詰めでお話を組み立てる技術の未熟さが今回もモロに出てしまったかな…というところですね。
 ラストシーンも、形だけは上手くまとまっているのですが、それまでに積み上げて来たモノがモノだけに、狙った効果が得られているとは言い難い状態です。なまじ前半が良かっただけに、本当に勿体無いですね。

 今回の評価
 シーサが道案内を始めるところまでならA−評価、それ以後はストーリー完全崩壊でC評価という、非常に複雑怪奇な作品ですね(苦笑)。間を取ればB評価くらい出しても良いのでしょうが、全体を通してみた場合、失敗作には違いありませんので、ここは厳しくB−とします。


 ◎読み切り『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征

 ●作者略歴
 1981年1月31日生まれの現在23歳
 03年8月期の「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入りを果たした後、04年3月期「十二傑」で準入選(十二傑賞)を受賞。今回はその特典としての受賞作デビュー。

 についての所見
 確かに洗練されていない荒削り部分も見受けられ、現時点ではいかにも見栄えの悪い画風にもなっていますが、マンガを描く上で押さえるべき部分は押さえており、画力そのものは低くないのではないでしょうか。むしろ個性的という部分ではプロとして活動してゆく上ではプラスに働くでしょう。
 今後は現在の画風を維持したまま、より細かい部分を洗練していってもらいたいと思います。

 ストーリー&設定についての所見
 事実上の主人公・ネウロのキャラクターと設定が非常に独創的で、これがそのまま作品全体の魅力に繋がっていますね。特に「“謎”が食料」→「だから“謎”を探さなくてはならない」→「そのために探偵をやる」……という持って行き方は秀逸でしょう。
 ただ、ネウロを支える重要な“助演女優”である弥子のキャラ造型がやや弱かったかな、という気がします。これで弥子がネウロの助手になった動機付けがもう少し説得力のあるものになっていればもっと良かったのですが。「推理小説の最後だけ読むのが好きな少女が、ネウロによって本格的な謎解きに引き込まれ……」と言われても、ネウロのやっている謎解きは、その「推理小説の最後だけを読む」のと同じようなもんですからね。

 さて、ストーリーの根幹を担うミステリー部分に関しては、正直言ってかなりの問題アリとせざるを得ません
 トリックに関しては、まぁ確かにかなり荒唐無稽なモノだとは思いますが、それでも今回程度の“トンデモ度”のトリックなら本格物の推理小説でも結構使われていますので許容範囲でしょう。
 しかし、犯人と犯人が殺人に至った動機が余りにもトンデモ過ぎます。多くの容疑者候補の大人がいる中で子供が犯人…という発想そのものは悪くないのですが、今回の内容では、それを読み手に納得させるだけの説得力が大きく欠けています(ギャグでやっているのであれば、話は別ですが、それならそれであの場面はギャグを挟む所ではないでしょう)。9歳の少年を殺人犯に仕立て上げるのであれば、9歳児の子供目線で心理描写と動機付けを組み立てる必要があるはずです。

 とにかく、アイディアを思いついたまま採用するのではなく、キチンと説得力を持たせる努力を惜しまないで欲しいですね。ここさえ良くなれば、松井さんはとんでもない傑作を生み出す余地のある才能の持ち主だと思いますので。 

 今回の評価
 非常に高く評価出来る部分もある一方で、減点材料とせざるを得ない部分もある…という加点・減点の幅が大きな作品で、色々差し引きした結果B+とさせてもらいます。ただ、同じB+評価でも、このような「大きなキズのある傑作のなり損ね」と「ちょっとキズのある佳作の小品」では意味合いが全く異なります。よって、この作品の場合は“かなり強含みなB+”とご理解下さい。

 

 ◎読み切り『狗童』作画:岩代俊明

 ●作者略歴
 デビュー時にプロフィールが公開されていないため、生年月日は不明だが、昨秋の「ストーリーキング」受賞時には25歳。
 同人での創作活動を経て、03年下期「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞し、受賞作『みえるひと』が04年2月発売の「青マルジャンプ」に掲載され、デビュー。今回はそれ以来の新作発表となる。

 についての所見
 驚きました。前作『みえるひと』(の「ストキン」応募)から1年弱、まるで別人が描いたかのような見事な上達振りです。人物作画、背景、特殊効果と全てにおいて見事なまでに洗練された絵柄、扉ページのカラー着色まで含めて、即連載レヴェルの水準に達しています。
 ここに至るまでにどれほど地を這うような努力をして来たのでしょう。それを考えるとこちらが地に平伏したくなるくらいです。
 敢えて言えば今回はバトルシーンが少々分かり辛いのが珠にキズになるのでしょうが、だからといってそれを減点材料にするのもどうかな、という程度だと思います。

 ストーリー&設定についての所見
 こちらもデビュー作からの成長振りが物凄いです。荒削りだった“素質”が、眩しいまでに光り輝く“才能”に磨かれた…という感じでしょうか。
 とにかく素晴らしいのが演出力ですね。世界設定を綺麗に描写した冒頭シーンが大変印象的ですし、本来なら冗長な印象を与えかねない、長いセリフの遣り取りで行われる設定や状況の提示も全くクドさを感じさせません。セリフ回しのセンスも良いですし、回想シーンの挟み方も絶妙。クライマックスの盛り上げ方もお見事で、読み手の感情に訴えかけるテクニックを完全に自分のモノにしています。

 ただ、大ゴマを多用した演出でページ数を食ってしまったため、シナリオのボリュームが若干薄くなってしまったのは、やはり見逃せないウィークポイントでしょう。
 また、「才能」という言葉の使い方も少し気になりました。「才能が問題ではない」と言われても、難しい技を使えるようになった時点で、それはもう立派な「才能」ですからね。もうちょっと別の表現を使えば、もっと良くなったと思います。

 今回の評価
 文句ナシの秀作です。少々の欠点を差し引いたにしても、A−の評価を出したいです。
 これだけの演出力があれば、もうすぐにでも週刊連載にゴーサインを出しても良いくらいですが、どうせならこの演出力に食われないぐらい中身の濃いシナリオを立て、満を持して打って出て欲しいですね。
 現在週刊本誌で活躍中の「金未来杯」組に肉薄する、次世代エース候補の逸材ですね。今後に期待です。

 

 ◎読み切り『味覚師ツムジ』作:宇水語/画:佐藤雅史

 ●作者略歴
 ※宇水語さん
 誕生日が8月9日で専業のマンガ原作者である事以外は不明。過去の経歴も不明だが、「週刊少年ジャンプ」系の雑誌では今回がデビュー。

 ※佐藤雅史さん
 1975年6月28日生まれの現在29歳
 02年下期「手塚賞」で準入選を受賞するも、ここまで約2年デビューする機会に恵まれず。高橋和希さんのスタジオでアシスタント経験あり
 今回が原作付作品ながらデビュー作となる。

 についての所見
 先ほどの後藤竜児さんもそうでしたが、こちらも師匠・高橋和希さんの影響をモロに受けた画風ですね。ただ、影響を受けただけで本質的な画力までは受け継いでいないようですが……。
 そもそも高橋和希さんの描く人物キャラは一様にディフォルメが施されており、本来人間として有り得ない造型の髪型や顔に描かれているんですよね。高橋さんは高い画力の裏付けがあったからこそ、それらを破綻なく描き切る事が出来たわけですが、これを本質的な画力が無いまま真似しようとすると、デッサンの狂った“高橋和希もどき”になってしまうんですよね。残念ながら、この作品もそうです。
 ただ、アシスタント出身者だけあって、背景処理や特殊効果は達者ですね。それでもやっぱり、高橋流のトーンベタ貼りが気になって仕方ないんですが……。

 それにしても、一昨年の手塚賞の結果発表時に掲載されたカットは、ここまで酷くなかったように思えたんですが……。そのカットが“奇跡の一枚”だったのか、それともアシスタント先で変な手癖がついてしまったのか、どちらかなんでしょうね。

 ストーリー&設定についての所見
 わざわざ原作者を起用して、どんな料理モノ作品を見せてくれるのかと思ったら、1ページ目からいきなり『ミスター味っ子』からアイディア借用とは恐れ入りました。色々な意味で。厳密に言えばこれでもパクりではないのでしょうが、これは『ふしぎの海のナディア』と『アトランティス』の関係くらいのグレーゾーンだと思います。
 更に、その後のラーメンスープの化学調味料云々…というのは『美味しんぼ』で10数年前から使い古されたパターンの劣化コピー。料理マンガの黄金パターンだから…というエクスキューズを認めるにしても、オリジナリティの極めて乏しい内容と断ぜざるを得ません。

 メインシナリオに入ってからも、ストーリー展開はやや迷走気味。名店が流行らなくなった理由が、店主未亡人の技術不足からいつの間にかスープの問題に摩り替わっていますし、そのスープの秘密にしても「物凄い山奥にある水源から毎日スープに使う分だけ水を汲んでいた」というかなりトンデモな内容。揚げ足取りは避けたいのですが、そんな大掛かりな仕事やってたら普通は気付くやろ、と思ってしまいました(笑)。
 料理マンガは大概トンデモな内容で、それが許されるだけの懐の深さのようなモノがあるのは分かるのですが、ここまで稚拙な内容だと……。

 一応、起承転結の付け方など最低限のストーリーテリング力はあると思うのですが、それにしてもシナリオの質が貧弱過ぎです。ましてや専業原作者の作品でこれというのは、その存在意義すら問われかねない失敗作と言わねばならないでしょう。 

 今回の評価
 ギリギリでマンガとしての体を成している…ということで、C寄りB−。このようなお話で世に出てしまう原作者、そしてそんな原作でもないとデビューできないマンガ家。失礼ながら、前途は多難としか言いようが有りません。

 

 ◎読み切り『アンサンブル』作画:神海英雄

 ●作者略歴
 1982年7月27日生まれの現在22歳
 ここ数年の各新人賞の受賞者・最終候補者リストに名前が挙がっておらず、ペンネームを変えたわけではなければ、編集部持ち込みからプレゼンを潜り抜けて、今回デビューを果たした事となる。

 についての所見
 有り体に言って画力そのものも物足りませんし、画材のチョイスも良くない事もあり、まだ全体的に垢抜けない絵柄に見えてしまいます。これがデビュー作ですから仕方ない面もあるのですが、未だアマチュアの延長線上かな…といったところです。
 アマチュアの延長線上と言えば、作中にたびたび出て来るディフォルメが漫研の会誌っぽいというか、表現が極端過ぎて、ちょっと気になってしまいます。ただ、今回に限って言えば、作品世界のノリの軽い雰囲気を表現するのに役立っている側面もあり、減点材料とまでは行かないでしょう。 

 ストーリー&設定についての所見
 学園・部活動モノということで、“仕様”上壮大なスケールの大作…というわけには行きませんが、それでもこの小さな作品世界を丁寧に描けていると思います。更には。各所に読み手に身近さを感じさせる試みが為されており、非常に好感が持てました。
 また、主要登場人物のキャラクターがよく立っているのも良いですね。ややステロタイプという気がしないでもないですが、“作者に動かされている感”が全く感じられなかったですから、これは相当なセンスでしょう。

 ただシナリオは、上手くまとめているものの、やや手垢の付き過ぎた内容だったかな、というところです。ノリの軽い世界観が、本来必要だったはずの緊迫感を削いでしまった感も否めないでしょう。どちらかと言えば、マンガよりも演劇向けの脚本・演出だったかも知れないですね。

 今回の評価
 相当なセンスを感じさせる部分も複数あるのですが、絵やシナリオには物足りない部分もあり、全体としてはB+評価が妥当かな、といったところです。
 果たしてこの作品が連載向けかどうかという事は別にして、この手の正統派の学園ドラマは「ジャンプ」では空き家状態になっている枠ですから、この路線をしばらく続けてみるのも面白いかも知れませんね。

 

 ◎読み切り『リアクション!!』作画:岩田崇

 ●作者略歴
 1982年1月16日生まれの現在22歳
 「十二傑新人漫画賞」04年1月期で十二傑賞を受賞。今回はその特典による受賞作掲載・デビュー。

 についての所見
 「十二傑」の編集部講評で「絵柄は個性的だが魅力的ではない」という旨の記述がありましたが、さすが上手い表現だと思います。
 リアルタッチの絵を志向しているのは分かるのですが、人物デッサンなどの美術的な技術が伴っていないために、全体的に見て違和感だらけの絵柄になってしまったような印象があります。リアルタッチのままディフォルメ表現を狙うなど、興味深い試みも見受けられるのですが、まずは基礎的な画力をつけてもらいたいと思いますね。

 ストーリー&設定についての所見
 少年マンガでは馴染みの薄い合気道をテーマに据えた高い独創性、更には読み手に強烈なインパクトを与える奇抜なキャラクター設定など、良い評価の出来る部分が非常に目立って見える作品ですね。コメディ部分のテンポの良さも光っています。
 ただ、合気道関連のウンチク解説がやや冗長だったり、キャラの濃過ぎる登場人物が暴走してしまってストーリーがドタバタすぎる脱線気味の内容になってしまうなど、長所がそのまま短所に直結してしまっているとも言えます。まさしく諸刃の剣といったところでしょうか。 
 次の機会には、もう少しマトモな筋書きのお話が読んでみたいですね。それにキャラクター造型の上手さが噛み合えば、もっと良くなるでしょうし。 

 今回の評価
 画力の分を差し引いて、B−寄りといったところでしょうか。良い所もあるんですけどね。
 ただ、現状だと、絵だけでギブアップしてしまう読者も出て来そうですので、幅広い読者の支持を集めるには、まず絵柄改造が最優先事項ではないかと思いますが……。

 

 ◎読み切り『空中図鑑』作画:田中靖規

 ●作者略歴
 1982年11月17日生まれの現在21歳
 03年9月期「天下一漫画賞」で佳作を受賞し、当時の規定である「佳作以上は受賞作掲載確約」の特典で、「赤マル」03年冬(新年)号に受賞作『獏』が掲載され、デビュー。
 その後、04年2月発売の「青マルジャンプ」で2作目を発表し、今回はそれに続くデビュー3作目。

 についての所見
 デビュー時のアクの強さが影を潜め、随分と少年マンガらしい絵柄になって来たのでは…と思います。背景処理などの表現技法にもソツがなく、基本的には及第点以上の水準に達していると思います。
 ただ、アクション・バトルシーンにやや躍動感が欠ける印象もあります。これは今後克服すべき課題でしょうね。

 ストーリー&設定についての所見
 デビュー以来、大掛かりな設定にシナリオの中身がついて来れない“設定負け”の傾向が強い作家さんでしたが、残念ながら今回もその傾向が色濃く出てしまっているように思えます。
 今回に至っては、設定の説明が一通り終わったと思ったら、突然敵役が現れてバトルに突入してやっつけて終了…という、ハッキリ言ってどうしようもない内容のストーリーで、これはさすがにマズいんじゃないでしょうか。
 あと細かい所ですが、冒頭の主人公のモノローグから考えると、最後のヒロインのモノローグはストーリー上の辻褄が合わないんですよね。こういうケアレスミスも残念な所でした。

 今回の評価
 評価はB−とします。今回は余りにもストーリーに内容が無さ過ぎました。デビュー作、2作目より明らかに悪くなっており、ちょっとしたスランプなのかも知れませんね。

 

 ◎読み切り『大石浩二を1匹見かけたら30匹はいると思え!』作画:大石浩二

 ●作者略歴
 プロフィール未公開のため、生年月日は不明。
 週刊本誌04年24号にて、代原掲載による暫定デビューを果たし、それ以後も26号、31号にそれぞれ代原掲載を果たしている。
 今回は初の「赤マル」進出で、正式デビュー作という事になる。

 についての所見
 
これまで掲載された代原作品に比べると、かなりの進歩の跡が窺えます。まだ稚拙な点も残されてはいますが、ギャグ作品としてなら及第点の範疇に入って来ました。

 ギャグについての所見
 今回は4コマ、または8コママンガにフォーマットを固定した作品となりました。最近の「ジャンプ」では連載作品の番外編以外には見られない形式ですが、大石さんの場合、ツッコミ不在でボケっ放しのギャグが持ち味なだけに、通常形式よりもこちらの方が持ち味が出るような気がします。
 ギャグの内容については、ネタ1本ごとに異なるタイプのギャグを持って来るという意欲的な構成がまず目を引きました。なかなか懐の深い作家さんかも知れません。ギャグそのものについては、まだ当たり外れが大きいものの、得意の“間”で笑わせるギャグは今回も決まっていたように思えます。贅沢を言えば、もっとシュールさが出てくれば良いですね。

 今回の評価
 一連の代原作品よりは数段上の内容で、B寄りB+くらいまで評価を引き上げても良いんじゃないかと思います。史上2人目の代原作家出身の「ジャンプ」連載作家へ向けて、今後も精進を重ねていって欲しいですね。

 

 ◎読み切り『解体心書』作画:岩本直輝

 ●作者略歴
 1985年8月5日生まれの現在19歳
 02年1月から「ジャンプ」への投稿活動を開始。約1年の“新人予備軍”生活を経て、「十二傑新人漫画賞」03年4月期で佳作&十二傑賞を受賞受賞作『黄金の暁 ─GOLDEN DAWN─』にて「赤マル」03年夏号でデビュー。
 その後は「赤マル」04年春号にデビュー2作目を発表。今回はそれ以来の新作。

 についての所見
 デビュー以来順調に上達を重ね、随分と垢抜けた好感度の高い絵柄になって来ましたね。動物や植物なども上手く描けていますし、可愛い女の子が描けるようになったのもプラス材料でしょう。
 ただ、動的表現や表情のつけ方にまだぎこちない部分が残されており、そのためアクションシーンでは違和感を感じてしまう事もありました。せっかくここまで上達したのですから、この弱点も克服してもらいたいです。

 ストーリー&設定についての所見
 前作に続き、今回も人間の心をテーマに据えたストーリー。読み手の感情へストレートに訴えかける事の出来るテーマですから、この方向性は間違っていないと思います。シナリオの内容そのものも悪くはないでしょう。
 ですが、今回は心拳医術の設定説明に追われて、肝心の登場人物の心的描写が疎かになってしまったのではないでしょうか。そのため、せっかくのシナリオやクライマックスの見せ場も今一つ効果が上がらなかったように思えました。
 また、主人公や敵役のキャラ設定が特殊で有り体に言えば変人だったので)読み手が感情移入し難い状況になってしまいました。ヒロインのキャラクターもやや掘り下げ不足で主人公の魅力不足をリカバーする事が出来ず、この辺りもストーリー全体が消化不良に陥ってしまった要因の一つに挙げられるのではないでしょうか。
 やっぱり主人公は、読み手が心情的にシンクロ出来るキャラじゃないとストーリーも活きて来ませんよね。

 今回の評価
 前作はA−評価を獲得した作家さんではありますが、残念ながら今回は評価が精一杯といったところです。次回作では主人公のキャラ造型に留意して、本来の持ち味を活かせるような作品を見せてもらいたいですね。


 ※総評…A−評価は1作品に終わりましたが、B+評価が5作品。ここしばらく不作続きだった夏号にしては、なかなかの粒揃いだったと言えるでしょう。
 また、低い評価に甘んじた作品も、「良い作品を描いてやろう」という意欲が感じられるものが多く、「とりあえず載ればいいや」的な作品がほとんど見受けられなかったのは、レビュアーとして嬉しい出来事でした。


 ……大変遅くなりましたが、以上、夏の「赤マル」レビューでした。今週分のゼミは週後半に合同版でお送りする予定です。

 


 

2004年度第44回講義
8月20日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第3週・合同)

 旅行記にもケリがつきまして、ようやくこちらの仕事にとりかかれます。ゼミだけ受講されている、推定400人の皆さん、大変お待たせ致しました。
 さて、今週はご存知の通りイレギュラーな状況になってしまっていますので、こちらの方も変則的なスケジュールでお送りします。
 まず、今日はレギュラー版の「現代マンガ時評」として、今週発売の「週刊少年サンデー」関連の講義を。そしてまた明日、明後日あたりにレギュラー枠とは別に、「赤マル」夏号の全作品レビューをお送りする予定です。


 「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 『絶対可憐チルドレン』の情報は先週のゼミでご報告しましたので、今週はナシという事で。次号から4回の短期集中連載です。
 あと、『絶対可憐──』に関しては、作者の椎名高志さんご本人の談話によると、何らかの形での続編掲載が既に内定しているようです。週刊本誌がダメになった場合は「GX」か「ヤンサン」あたりになるんでしょうか。

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(04年6月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=1編
  ・『Go!! Snow Boarder's』
   麻倉愛菜(18歳・神奈川) 
 努力賞=4編
  ・『ワンダフル・ボン』
   川村博之(25歳・京都)
  ・『栄養専門学校』
   小笠原真(26歳・大阪)
  ・『スラムの猫』
   佐藤将憲(21歳・東京)
  ・『ぺってん』
   福島太郎(22歳・福岡)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『そして僕らはここにいる、桃太郎X』
   浅倉ポム王(18歳・鳥取)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎佳作の麻倉愛菜さん…03年11月期「まんカレ」で努力賞&03年4月期「まんカレ」であと一歩で賞。
 ◎努力賞の小笠原真さん…03年12月期「十二傑新人漫画賞」に投稿歴あり?

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「サンデー」:新連載1本/読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年サンデー」2004年38号☆

 ◎新連載『東遊記』作画:酒井ようへい

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 
02年3月発売の「増刊少年サンデーR」(ルーキー増刊)に酒井洋平名義『シブヤペインターズ』を発表した…というのが、現在確認している最古の経歴。
 02年内の活動履歴は資料不足のため、これ以外は不明だが、月刊増刊03年8月号に今作と同タイトルのプロトタイプ作品を発表している。
 週刊本誌は今回が初登場。

 についての所見
 メリハリの利いていない弱々しい線、明らかに美術的なバックボーンの感じられない不自然な人物造型など、稚拙な部分が目立ってはいます。ただ、キャラクターの描き分けや背景・特殊効果などは良く出来ており、“マンガの記号としての絵”という観点から見れば、不自然でない仕上がりにはなっているのではないでしょうか。結論として、「根本的な画力ほど見苦しくない絵」だとは思います。
 しかし戦闘シーンでは、派手な動きを表現しようとしたものの、画力不足のために何が起こってるのかよく判らないコマが多々見受けられました。戦闘シーンが最大の見せ場になるタイプの作品だけに、これは大きな課題と言えそうですね。

 
 ストーリー&設定についての所見
 読めば一目瞭然、「週刊少年ジャンプ」の王道バトルファンタジーを彷彿とさせる世界観・設定の作品ですね。まぁ有り体に言って、
 『ONE PIECE』+『DRAGON BALL』+『HUNTER×HUNTER』÷3(以上)
 ……といったところでしょうか。担当編集が、「サンデー」で「マガジン」方式の作品プロデュースを推し進める事で知られるあの冠茂という事を考えると、これはもう確信犯的な企画と判断して良さそうですね。

 こういう“企画先にありき”で偉大なる先人の後を追いかけた場合、「真似出来たのは上辺の格好だけ」……というケースが非常に多いのですが、しかしながらこの作品は、現時点では意外にも(と言っては失礼ですが)上手くやれているようです。
 必要最低限かつ必要不可欠な世界観や設定の描写が出来ていますし、セリフ回しにもなかなかのセンスを感じさせてくれます。また、説教臭くなりやすいテーマ──「夢」を、敵キャラとの戦闘のテーマと被せる事によって嫌味を消した手法は特筆モノ。更には主人公の動機付けを「幼い頃からの夢」というシンプルなものとし、それに説得力を持たせたシナリオの積み上げ方も見事でした。
 そして、これらのテクニックを支える演出全般も十分合格ラインでしょう。ただ、ラストシーンで安易に説得力の無いお涙頂戴に走ってしまったのは残念でした。確かに過去の名作を振り返ってみても、このシーンはお涙頂戴の別離シーンがよく似合うわけですが、それならそれでキッチリ読み手の感情を揺さぶる脚本・演出を用意するべきでしょう。この辺りが次回以降のカギになって来そうですね。
 
 現時点の評価
 そういうわけで、この作品は若干の課題は残しているものの、なかなかの好スタートを切ったと判断して良さそうです。
 が、今回はあくまでプロローグ的なお話。問題は次回以降も過去の傑作顔負けの良質なシナリオが展開出来るかどうかでしょう。今回と同じかそれ以上のクオリティを次回以降も繋げてゆけるならば、『ONE PIECE』級の大ヒットになるかも知れません。ただし、次回以降尻すぼみになるならば『★SANTA!★』のような悲惨な末路を辿る事になるでしょう。ある意味、今後の「サンデー」の(もっと言えば三上編集長と冠茂編集の)命運を握った作品と言えそうです。
 暫定評価は一応A−としておきますが、第2話以降の出来如何では容赦なく減点をブチかます覚悟です。

 ◎読み切り『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』作画:曽山一寿

 ●作者略歴(インターネット百科事典・ウィキペディアによる)
 1978年9月24日生まれ現在25歳
 第47回(00年後期)「小学館新人コミック大賞・児童部門」で佳作を受賞
 01年に読み切りで掲載された今作と同タイトルの作品が連載化され、好評のまま現在に至る。同作品の他、『探偵少年カゲマン』(作:山根あおおに)を「別冊コロコロコミック」誌に連載の経験あり。
 今回の作品は、“「サンデー」出張版”としての番外編的な扱いか。

 についての所見
 いかにも「コロコロコミック」という感じのアクの強い画風ですね。“ジュニア版どおくまん”みたいな絵は色々な意味で強烈な印象を与えてくれます。
 これは、「コロコロ」メイン読者層の小さい子供にインパクトを与えるには、これくらいの極端なキャラクターデザインやディフォルメが必要だという事でしょう。まぁ逆に言えば、読者層の違う「サンデー」では浮きまくってるわけですが(笑)。
 画力そのものはお世辞にも高いとは言えなさそうですが、ギャグを引き立てるための背景処理・特殊効果は「さすが」と言えるレヴェル完全に子供向けのギャグに特化した絵柄と言えそうです。


 ギャグについての所見
 「サンデー」公式サイトの宣伝文句によると、現在の「コロコロ」の人気No.1作品との事ですが、なるほど“間”の取り方といい、テンポの良いセリフ回しといい、確かな技術を感じさせてくれますね。ネタ振りから贅沢な大ゴマを使ったオチへの持って行き方も達者で、テクニック面は一流と言って良いだけのものがあります。
 ただ、さすがに大人(思春期以降の少年層含)が読むにあたっては、やや知的センスに欠ける、他愛が無さ過ぎる内容・ネタだったような気がしますね。まぁ完全にターゲットを小学生以下に絞った作品でしょうから、“計算づくの子供だまし”でも決して悪くは無いのですが、“全年齢基準”で考えるとなると、物足りない部分もあるわけで……。 
 
 今回の評価
 いやー、20代後半の大人がこの作品を評価するのは難しいですよ(苦笑)。男子小学生目線なら評価Aでもおかしくないぐらいなんですが……。
 ただ、当ゼミでは、これまでも少年向けの作品を大人目線で評価して来たわけで、この作品も例外扱いするわけにはいかないでしょう。よって、技術点を最大限に評価しつつも、“読者層を極端に選び過ぎる”という部分で大幅に減点し、最終評価はA−寄りB+に留めたいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「好きな夏のデザートは?」。
 作家さんの間では、夏限定ということもあってかスイカカキ氷(特に宇治金時)が“2強”を占める結果になりました。しかし何故に宇治金時なんでしょうか? 微妙に高級感があるからですかね。
 駒木は、カキ氷をお金出して食べるのは好きじゃないんですよね。「原材料・水」と思うと勿体無く思えて(笑)。スイカも種が鬱陶しいから余り好きじゃありませんし……。今やオールシーズンのデザートですが、やっぱりアイスクリームかな。

 『史上最強の弟子 ケンイチ』は、ここに来ていきなり美羽に“幼馴染み”の萌え要素が追加されました(笑)。うわー、後付けくせぇ…などと思いつつ読んでいたら、どうやら本編シナリオにもリンクしている模様。一石二鳥狙いですか。
 『いでじゅう!』は連載100回達成。連載当初から方向性が固まるまでのフラつき加減を知る者としては感慨深いものがあります。ただ、『茂志田☆諸君!』時代のハジけっぷりから考えると、この作品の大人しさにはまだまだ物足りなさもあり、今後の発展に期待というところです。ラブコメも良い味出てるんですが、やっぱりモリさんは本質的にはギャグ作家のはずですから。
 『うえきの法則』はいきなりの急展開。何だかストーリーが一気に収束されていますが、この強引なやり方は微妙にキナ臭いですね。緊張感の高め方は悪くないんですが……。果たしてこの作品の行く末は?

 ──といったところで本日はここまで。これから取り急ぎ、「赤マル」レビューに取り掛かります。では。

 


 

2004年第43回講義
8月19日(木) 
人文地理
「駒木博士の04年夏の旅行記・ダイジェスト版(2)」

 この度、本講義の内容に関して、駒木が「コミケット66」3日目において準備会の定めたルールに違反した行動をとった事、及び不特定多数の方を不快にする内容の記述があった事、並びにこの件に関連した当講座談話室(BBS)の管理に不行き届きにより、結果として皆様に大変なご迷惑をお掛けした事をお詫びいたします。

 なお、講義内容の内、今回問題になった箇所については、該当部分の削除および追記の執筆という措置で対応させて頂きました。今回、皆様から頂いたご批判・ご意見の内容の幅広さを鑑みるに、どのような措置を取ったとしても全ての方に納得して頂ける事にはならないと思いますが、何卒ご理解を賜りたいと思います。

04年8月30日 駒木ハヤト

 ※更に追記※
 駒木に「急遽余った3枚目のサークルチケット」を譲って頂いたサークルさんのウェブサイトBBSに嫌がらせの書き込みをした人間が現れました。それに伴い、トラブル防止の観点から一部文面の修正の措置を行いました。
 今回の件において、ルール違反を犯したのはあくまで駒木ハヤトであります。大多数のコミケ参加者の皆さんの名誉を汚すような非常識な行動は慎んで下さい。

04年9月1日 駒木ハヤト

 ◎前回までのレジュメはこちらから→第1回

 今日もダイジェスト旅行記をお送りします。早いところ「現代マンガ時評」もやらなきゃいけないし、ずっとやりたい書き物も溜まったままなんですが、本当にどうしましょうか(苦笑)。

 まぁ愚痴こぼしている暇もないですので、取り急ぎ2泊5日の東京旅行のダイジェストリポートをお送りします。昨日も言いましたが、この行程を絶対に真似しようと思わないように。まぁ多分、講義聴いている内に真似したいとも思わなくなると思いますが。
 ──では、レポート本文へ。いつも通り文体は常体で人名は原則敬称略とします。


 ◎東京旅行(8月12日〜16日)

 1.出発まで

・初めから判っていた事ではあるが、とにかく準備時間が無くて焦った。
・訪問する場所が場所なので、服とかはTシャツ中心に数を揃えて行けば大丈夫なのだが、問題はそれ以外の部分。山のようにある訪問先の住所と交通手段のチェック、コミケの下調べ、そして現地でお世話になる人へのメール書きや「現代マンガ時評」の講義。どれだけ能率的に作業をこなしていっても物理的に時間が足りない。
・出発直前になって、最初の目的地である松戸競輪が、この時期ナイター競輪だった事に気が付く。急遽、立川競輪の再訪に切り替えることにする。
・コミケの下調べをタイムリミットギリギリまで。カタログは重くて持参出来ないので、訪問予定のサークルを付属の地図に書き写す作業をする。それほどヘヴィーな参加者ではないので、訪問先は本当に数えるほどしか無いのだが、少しでも場所を間違えてメモってしまうと、当日どうしようもなくなるので神経を使う。
・12日19時頃に自宅を出発。仕事&レジャー兼用の肩掛けカバンに加えて、本格仕様のリュックサックも投入して万全の態勢。今はまだ軽いこのリュックが、最終日には一体どうなっている事やら。

 2.いざ東京へ

・東京までの行程は、定番の「ムーンライトながら」。在来線を三ノ宮→米原→大垣と乗り継いで、そこからの「ながら」は特急用車両。東京駅着は午前4時42分。
・まずは三ノ宮から米原までの新快速。座り心地の良いイスで問題は無いはずなのに、何故か今日はいきなり尾テイ骨が痛む。おまけにエアコンが効き過ぎてて寒いんですが。
・米原から大垣までは特に何も無し。「相変わらず関ヶ原は何もない所だなあ」なんて考えながら本を読む。今回の旅行では『壬生義士伝』から『2人のガスコン』のコンボ。しかし『壬生義士伝』には参った。在来線の車中なのに泣けてきて仕方がない。
・大垣では1時間弱の待ち合わせ。駅近くのコンビニでソフトドリンクと酒の肴を買う(酒は念のため、三ノ宮で買ってあった)。近くに酒屋でもあるのだろうか、酒類を売ってはいけないコンビニらしく、不満の声を漏らす旅行客もいた。
・23時19分に「ながら」は大垣を出発。上り路線の場合、半分以上の客は名古屋近辺から乗って来るので、しばらくはガラガラ。これが下りだと(指定席券を持っていない客が乗って来る)小田原からトイレにも行けない有様になるから段違いである。
・しかし、「ながら」に乗るたび感じるのだが、この電車の座席、駒木の体格と微妙にミスマッチしているようで居心地が悪い。あと身長が10cm低くて、肩幅が少し狭かったら快適なんだろうが。
・よって、これまでと同様に今回も行きの夜行では寝付けず。無理矢理体を横向きにして眠ろうと試みるが、悪戦苦闘の末、ハッキリと自覚出来る睡眠時間は1時間もあったかどうか。そもそも普段は朝も5時くらいになってから眠気を催す体内時計をしているので、根本的な問題は自分自身にあるのかも知れない。
・熱海駅から「ながら」は一部自由席車両になり、始発電車の役目を果たす。結構な人が乗って来て驚いた。だってまだ3時台だよ。
・日付変わって13日の4時34分、品川着。駒木はここで降車。東京の第一歩を踏みしめる。別のホームには山手線を待つ乗客が既にチラホラ。この時間から電車が動いてるんだもんなぁ。やっぱ東京は凄ぇや。

 3.持て余す時間

・さて、ここからどうやって時間を潰すか。今日(13日)はコミケには参加せず、立川競輪→後楽園ホールでボクシング観戦という流れになるのだが、競輪場が開くのは10時台。あと5時間半も余っている。宮島でもそうだったが、早朝は遊び場所が無いから苦手なのだ。
・幸いにも今日は「ながら」で使った「青春18きっぷ」が日付一杯まで生きている。JR乗り放題の利点を活かして、この時間でも出来る事を1つ1つこなしてゆく事にする。
・まず向かうのは、この日の午後にチェックイン予定のホテル「アワーズイン阪急」。言わずと知れた駒木の常宿である。品川から京浜東北線に乗って次の大井町駅で降りて徒歩1分。
・勿論この時間ではチェックイン不可。ただしチェックイン予定の客は荷物を無料で預かってもらえる。日中不要な荷物をリュックサックの方に詰めてフロントへ。残されたカバンの中には貴重品類と移動中に読む文庫本2冊だけ。これで随分と身軽になった。
・午前5時になったかどうかの大井町周辺はまだ眠っている状態。りんかい線の国際展示場方面の始発は5時40分なので、まだコミケ参加者の姿も見えない。ここはそそくさとJRの駅へ退散する。
・次に向かう先は新宿。15日の“夜日程”で訪れるプロレス会場の下見と朝メシを食うのが目的。立川競輪へのアクセスも良い(中央線快速停車駅)し、早朝からでも暇が潰せる場所も多い。
・品川まで戻ってから山手線へ乗り換えて新宿駅へ。東口から夜明け直後の歌舞伎町へ。さすがの不夜城も眠気が隠せない時間帯だが、徹カラ明けの若者、仕事明けの水商売、まだ営業中のホスト、寝苦しそうなホームレスと、人の多さはさすがといったところ。
・まずはプロレス会場の確認。今回の会場は新宿コマ劇場近くのビルにあるキャバレー。プロレスファン以外の人はビックリするだろうが、定休日の日曜日を使ってたびたびプロレスの興行が行われているのだ。
・幸いにもすぐに会場は確認でき、近くのマクドへ。旅に出ると、何故か朝マックが食いたくなる。ホットケーキセットに単品でソーセージマフィンを付ける。実はマクドの全メニューの中でこの2つが一番のお気に入り。
・小一時間ほどそこで過ごしたが、まだまだ時間を持て余しているので、ここは定番のマンガ喫茶。テレビやネットでニュースを確認したり、読みかけだった『ヘルシング』を6巻まで読み切って1時間と15分で退出。
・これで漸く午前8時。まぁこれなら立川へ行っても大丈夫な時間帯だと判断して、中央線で移動開始。さすがにお盆期間の朝だけあって、悠々座れる程度の乗車率。これが京葉線なら大変なんだが。

 4.まずはサクっと立川競輪

・立川駅で電車を降りると、キヨスクで競輪新聞(青競)を買う。それからはボチボチと駅前を散歩……している内に何故か競輪場に来てしまう。
・この時点でまだ時刻は9時過ぎ。さすがに入場門にはシャッターが閉まっているが、どうやら特別観覧席希望の客は先に入場して入場券発売の10時まで並ぶ事が出来るのだそうだ。おいおい、やってる事と時間帯がコミケとダブってるよ(笑)。
・ただし、さすがは競輪場。並んでるのは熟年以上のオヤジさんばかりだ。20代の若者は駒木だけじゃないか?
・それにしても、まさかこんな所で明日以降の予行演習が出来るとは。行列に並ぶばかりの旅行にしたくないからコミケ初日をトバしたんだけどなぁ。
・小一時間待機した後、2階ホームストレッチ側の特別観覧席に入る。入場料は昨年来訪時より値下げされていて破格の500円。これでコカ・コーラのカップ式自動販売機がタダで利用出来る上にスポーツ新聞も無料配布という破格の待遇。他のギャンブル場なら最低2000円以上はするサービス内容だが、ここらへんがさすが業界一を誇る競輪のメッカ。
・さて、いよいよ競輪だが、実は車券を買うのは去年の夏にこの立川に来て以来1年ぶり。西宮・甲子園が廃止になってから、すっかり競輪とは縁遠い生活になってしまっていた。一応、大レースはテレビ中継で見ているが、それとこれとは全く次元の違う話だからなぁ。
・案の定、最初からカンが狂いまくっていて車券戦線は不調。立川競輪場は予想が難しいバンクではあるのだが、それ以前の問題といった感じ。堅めの配当は当たるので大負けはしないのだが、勝てる気が全くしない。
・そこで、第6レースから、宮島競艇でハマった“3連単少額穴買い戦法”を今一度。
・不発。
・“夜日程”との兼ね合いもあり、残り2レースを残して競輪場を離脱。無料送迎バスに乗って立川駅へ。

 5.続いて向かうは水道橋。

・立川駅からは神田で乗り換えて大井町へ。ボクシングを観ているとチェックイン期限の22時までに戻れない可能性があるので、ホテルでチェックインだけ済ましておく事にしたのだ。(本当は電話を一本入れれば良いのだが、ホテルの電話番号メモってくるの忘れた)
・フロントにはズラリと順番待ちの列が。ほぼ全員が男女問わずコミケ帰りの御宅族と見分けのつく人達なのが何ともはや。さすがは大井町駅徒歩1分。「女性のお客様、8月12日〜15日までは大浴場が大変混雑しますので、早めのご利用を」という張り紙が生々しい。そりゃ大井町の安ビジネスホテルに女性客が大挙して泊まるなんて、コミケくらいしかないものな。
・部屋に荷物を置いたら即退出。この辺りからいよいよ時間との戦いが始まる。大井町→秋葉原→水道橋と乗り継いで、後楽園ホールのある東京ドームシティまで。
・試合開始までの僅かな余り時間を利用して、近くにある「週刊少年ジャンプ」のグッズショップへ立ち寄ってみる。やはりと言うか、商品はガキ向け&腐女子向けにほぼ特化されている印象で、『武装錬金』なんかは出来の悪いピンバッジ数種とポスターくらいしか置いてない。ポスター買ってもなぁ。あと、『アイシールド21』関連グッズが結構多かったのは素直に嬉しかった。
・結局、店は冷やかしただけで後楽園ホールに舞い戻る。3000円の自由席を買って、いざ入場。
・この日の興行は「A級ボクサー賞金トーナメント」の1回戦(準決勝)。そう、『はじめの一歩』で幕之内一歩がエントリーしたアレである。タイトル戦線に絡んでいる選手はなかなか出て来ないが、マンガの通り、様々な思惑があって日本ランカーもエントリーしているので刺激的なカードが並ぶ。
・いつもの事なので、ある程度予想はしていたが、それにしても判定決着の試合が多い。見応えのある攻防ならまだしも、膠着気味の試合が延々とフルラウンド続くのは勘弁して欲しかった。結局、1試合を除いて全部判定決着になり、休憩無しの3時間半興行になった。深刻な睡眠不足の影響が出て来て、もうフラフラ。
・夕食は、後楽園ホールに来たら必ず寄るDDTステーキ。ただ、今回初めて見たDDTの練習生らしき店員の兄ちゃんが怖いんですけど。K-1の天田ヒロミ似の容姿に無愛想な接客って、それだけで犯罪モノだ。落ち着いて食えねえよ。
・水道橋からは夕方と逆コースで大井町までUターン。しかし今日はよく電車に乗ったなぁ。計算してみると、朝に品川に着いてから1900円分も乗っていた事になる。これだけでほとんど「18きっぷ」の元が取れてるじゃないか。

 6.束の間の休息(その1)

・ホテルに戻ったら余裕で22時過ぎ。部屋に戻るや否や、服を脱ぎ散らかしてベッドで大の字。もうこの時点で意識が飛びそうだ。ああ疲れた。でもこの日は東京滞在の3日間で、まだ一番楽な日程だったりするんだよな。
・人心地ついた後、軽装に着替えて最上階の大浴場へ。自動販売機コーナーを兼ねたラウンジ(のような場所)には、これまた沢山の同好の士の皆さんが。しかし、ここ使えるかも知れんなあ。今年の冬はコミケ参加する受講生さんにもこのホテルに泊まってもらって、初日の夜に風呂上がり懇談会とかやるか(笑)
・ここの大浴場は本当に広いので大変に嬉しい。というか、この風呂があるから常宿にしているようなものだ。これでサウナが有ったら完璧なのだが、まぁそこまで無理は言うまい。
・備え付けの体重計に乗ってみたら体重64.3kg。体脂肪率は17%くらい。広島旅行で大分絞ったと思ったが、まだベストウェイトには遠い。もう少し腹回りを何とかしないとなぁ。
・とか何とか言いつつ、ラウンジの生ビール自動販売機で風呂上がりの一杯。春に泊まった時、次来た時は肴にしようと思っていた自販機の「おでん缶」は、残念ながら撤去されてしまったらしい。ひょっとして冬季限定? でも今置いておけば絶対大人気だったのに。
・自室に戻ると、もう日付が変わっていた。明日は5時起きで始発に乗ってコミケ一般参加予定なので余り無茶は利かないが、0時45分からタモリ倶楽部があるので、せめてそれまでは……と思う内に昏倒していた。壮絶に東京の第1日終了。

 7.灼熱の有明

・5時起床。神経が張り詰めているせいか、睡眠不足でも起きなきゃいけない時に起きられる。そういや、昔バイト先の塾の慰安旅行でハワイに行った時も4泊6日で合計睡眠時間10時間無かったもんな。帰国した後、時差ボケとのWパンチで死んだけど。
・軽く身繕いをし、自販機でペットボトルの茶を買ってホテルを出る。並びながら食うためカバンに詰めた朝飯は、夜行で食べ切れなかった菓子パンと他少々。前日の夕食が遅い上にステーキだったりしたので、これで十分動けるという判断。
・始発前の大井町駅(りんかい線)は予想通りかなりの人。ただ、2年前にコミケとM−1グランプリのバッティングについて講義をした時にスタッフ経験者やベテラン参加者から取材した話に比べると、これでも交通の分散化が進んで混雑が緩和されているのかも。一番端の車両なんかはガラガラだったもの。
・10数分の乗車で国際展示場駅へ。これで運賃320円ってのはどうなんだよと毎回思う。本来ならそれくらい採算が取れない路線という事なんだろうな。コミケ客が落とす年間数億円の運賃が無かったらどうなるんだろう?
・駅を出たらスタッフの誘導に従って東館方面へ。本当に朝から(前夜から?)スタッフの皆さんご苦労様です。
・辿り着いた待機場所は既にとんでもない人の数。駒木が始発で来た以上、先客の皆さんは夜間来場者、要は徹夜組ということなのだろうけど、本当によくやるよなと思う。そこまでしてもサークルチケットやスタッフ代理チケットで入場する数万人の後ろという事なんだから不毛としか言いようが無い。
・さあ後は並ぶだけだ。2日目という事もあって、幸いにも周囲は男女比1:1程度。さすがに8列縦隊で男だらけで密着したくないのが偽らざる本音。
・用意したパンを齧り、読みかけの文庫本を開き、とにかく移動開始時刻を待つ。水分補給はトイレの事もあるので、開会までは汗をかいた分を補充する最低限のものに留める。
・8時前後から日差しがキツくなってくる。今回は帽子とタオルを用意して防備してはいるが、やはり厳しい。東京都もコンビニのエロ本を覆うくらいなら、待機場所を覆うドームでも作ってくれ。
・9時半を過ぎ、ようやく会場内への移動準備開始。滞りなく誘導されてゆき、やがて開会宣言、拍手。
・ホールに入って目指すはやはり人気サークル。そこは冬コミ2日目で昼前から並んで2時間待ち&売り切れ続出だったサークルで、果たして始発組で並んだらどうなるかという実験である(建前上)。
・列に着いた地点は、冬の時よりもかなり前の位置。それでもすぐ横に並んだベテラン参加者は、手持ちのトランシーバー(!)で、仲間に「大体1時間待ち」と報告。最終的な所要時間は1時間10分。失礼ながら、凄いけど全く凄くない能力の典型例だと思う。
・一仕事終えた後は、興味のあるジャンルを中心に場内をまんべんなく巡回。女性向中心の日なので食指が動くような場面は少ないが、スポーツ関連のエリアで正統派の同人本をいくつか購入。
・格闘技本のサークルで15日の興行戦争の話になり、「PRIDEも新日のG1の決勝もトバして、新宿でDDT観ます」と話したらバカウケ。そりゃキャパが2ケタ違う会場だもんな。我ながら物好きにも程がある。
・続いて西館へ。まず企業ブースのTYPE-MOONブースへ行って混雑具合と商品の残り具合の確認。中途半端なタイミングで並んでも、強制牛歩戦術を強いられている間に甘い見通しで設定された限定数が続々減ってゆき、やがて大行列を残したまま売り切れに至る…というエンドレスハメ殺しに遭う事は、過去の“TYPE-MOON行列黒歴史”から承知していたので(事実、コミケ初日に並んだ人は悲惨な目に遭ったそうだ)、あくまで今日は下見だけ。
・果たして、ホールの外に延々と連なる“大蛇の列”と商品売り切れ続出のダブル攻撃が眼前に。正午過ぎだというのに、既に商品は「タイガーストラップ」と「セイバー萌え萌えバスタオル」しか残っていない。ダメだこりゃ。2時間3時間待ってストラップ1個じゃ話にならん(さすがにバスタオルはねぇ^^;;)冬コミは2日目で全商品完売だったし、これは明日もダメかもなぁ。
・続いて西館1・2ホールへ。主なサークルの傾向は予想出来るがとりあえず…という感じで歴史ジャンルのエリアへ足を伸ばす。案の定、ほとんどのサークルでは歴史上の英雄が掘った掘られたの大騒動。当方、そういうのはゲイマシンガンズで間に合っております。
・かなり満遍なく回ってみたが、正統派の歴史マニア系サークルは今回ほとんど見当たらず。まぁここで授業用ネタを探すのが間違いか。
・西館を出て、再度東館へ戻ってしばらく巡回したところでビッグサイトから退場。まだ午後1時過ぎだが、今日は“夜日程”がテンコ盛りなので一度ホテルに戻って休んでおかないと体が保ちそうにない。
・りんかい線で大井町へ。中途半端な時間帯ゆえ、混雑はさほどでも無いが、お台場から乗って来た一般人の視線が白いのを感じる。しかし今日はこちらが圧倒的なマジョリティなので堂々と黙殺する。

 8.怒涛の“夜日程”

・ホテルに戻って、心身ともに脱力しながら同人誌(幸いにも健全)を広げていたら、ホテルの清掃スタッフに急襲され、心底ビビる。14時前後が一番危険なので、今後コミケで『アワーズイン阪急』に連泊する人は気をつけよう(笑)。
・このホテルは15時から大浴場が使える。“夜日程”にあたり、とりあえず朝からの疲れと汚れを取っておく。浴場には、やはりコミケから引き上げたばかりの客が数人いた。考える事は一緒だ。
・体重計に乗る。昨夜に比べて体重1.1kg減。コミケダイエット効果絶大。
・部屋に戻って外に出られる格好に着替えた後、カバンの中身を軽くしてホテルを出る。同じホテルに連泊していると荷物管理が楽なのが良い。
・まず手始めに、大井町から品川まで電車移動し、「藤子不二雄A展」開催中の品川プリンスホテルへ。ホテルの宴会場を1フロア丸々借り切るという豪気な展覧会だ。入場料900円(前売り・インターネット予約で700円)。
・展示内容は古今・メジャーマイナー問わず幅広い作品の原稿や、作中に登場したアイテムの現物(再現品)など。ヌンチャクドライバーの余りの現実感の無さに声を失い、テラさんこと寺田ヒロオ氏からの人柄を偲ばせる細かい文面の手紙に感嘆する。
・マニア筋では伝説となってる短編作品『明日は日曜日そしてまた明後日も……』を初めて読む。今から30年以上前に“ひきこもり”を描いたという時代を先取り過ぎた作品で、噂には聞いていたが胃が重くなるような内容。もし遠い未来、この作品とF先生の『劇画オバQ』しか現存しなくなったら、藤子不二雄という作家はどういう人たちだと認識されるのだろう。
・展示ブースから少し離れたところで、『忍者ハットリくん』『怪物くん』『プロゴルファー猿』『笑ウせぇるすまん』の上映会。『怪物くん』のカラー版最終回など結構レアな回を上映していた。さすが。
・既に疲れが全身を回っていて、座って観ていると睡魔に襲われるのだが、それを追っ払ってくれたのが『プロゴルファー猿』の猿VSドラゴン竜。ドラゴンのミもフタも無い、ツッコミを寄せ付けない正々堂々かつ破天荒なパフォーマンスが強烈過ぎる。これにかかったら、『DANDOH!!』もごく普通のゴルフマンガだ。
・アニメ上映で40分くらい粘ったこともあり、ここでかなり時間を費やしてしまう。まぁそれだけ面白かったという事なのだが。
・品プリを出て、再びJR品川駅へ。ここから秋葉原を経由して総武線で亀戸まで。10数分の間にまた睡魔に襲われ、寝過ごしそうになる。ギリギリの体調だと自覚し、この時点で一度は「明日のコミケ最終日は10時過ぎからノンビリ出かけて、TYPE-MOONは諦めよう」と決心する。
・亀戸からは東武亀戸線で2駅先の東あずま駅へ。支線独特の寂れた雰囲気が漂う駅。神戸近辺の人には山陽電鉄か神戸電鉄の夜間無人駅を思い出してもらえれば。
・ここから徒歩数分のところにあるのが、往年のデスマッチ専門レスラー・松永光弘氏がオーナーシェフとして腕を振るうステーキハウス「ステーキハウス・Mr.Danger」。プロレスラー経営の飲食店は数あれど、ここほど評判が良い店は他に聞かない。駒木も一度行ってみようと思っていて、何とか時間の作れたこの日に訪問したという次第。
・土曜日の夕食時間帯だけあって、店内はテーブル席・座敷席も含めて超満員。家族連れも来ており、単なる“レスラーの店”ではなく、既に地元の名店としての地位を固めている事が窺える。
・ただ1席空いていたカウンター席に座る。店内に掲示された興行ポスターや有刺鉄線(!)、そして待ち客用の新聞と雑誌が東スポと「紙のプロレス」というところが、いかにもプロレスラーの店だが、それが無ければ本当に普通の店だ。店員の教育も行き届いていて、非常に好感度が高い。
・厨房の奥では、現役時代と変わらぬ容貌で鉄板と格闘する松永光弘氏の姿が。セミリタイヤして既に長いが、一目で彼だと判る姿を維持しているサービス精神は立派。
・注文したのはステーキ250グラムのセット(ライス、スープ、サラダ付)で、これにビール中ジョッキを追加しても2000円でお釣りが来る。これでもアメリカ牛肉の輸入がストップして値上げしたという。
・ミディアムレアで焼いてもらったステーキは、なるほど確かに柔らかくて美味い。メチャクチャ美味い。DDTステーキと同じく、本来は硬い脂身の少ない部位をテンダーライザーで筋切りしているんだろうが、こちらの方が味は数段上。仕込みと焼き方の技術が全然違うんだろうな。以前、水道橋にあった支店が「味が水準に達していない」という理由で支店の看板を剥奪された(後に閉店)事があったらしいが、なるほど、そういう味に対する妥協の無さが見事に現れている。
・胃袋を満足させて、再び東あずま駅へ。しかし逆戻りするのではなく、ここから東武線で浅草まで出て、地下鉄都営浅草線で東銀座駅へ。そう、本日の“夜日程”最終目的地は、話題のコスプレ雀荘・littlemsnだ。オープン前後から色々ゴチャゴチャ言ってはみたものの、やはり実際の所を見ておかないとハッキリした事を言えないしね。
・詳しいレポートは、後日実施予定の講義にて。ただ1つ言える事は、決して悪い店じゃないという事。自分から(空気を読みつつ)積極的に行動すれば、ちゃんと楽しめるようになっている。学生時代に仲間内で賑やかにやった麻雀を女の子入りで出来るお店…と言えば分かりやすいだろうか。
・ただし、やはりネックは高い場代(コスプレ店員さんと打って800円)で東風戦というコストパフォーマンスの低さ。今の場代なら、せめて箱下トビ無しにしたり、東南戦(通常半荘)のタイムリミット制(制限時間が来た時点で最終局)を導入するくらいで丁度良いのではないか。一考してみて下さい。>お店の方
・店内では、コスプレ店員さんとお客さんに1人ずつ当講座の受講生がいるという、プチオフ会状態(笑)。わざわざ駒木の来店にシフトやスケジュールを合わせて下さったようで、本当に有難うございます。
・戦績は東風戦3回で1.1.3着。ツキにも恵まれ過ぎるくらい恵まれ、辛うじて面目は保てたかなというところ。
・麻雀中、携帯にメールが。懇意にして頂いているベテランサークル参加者のCさんから、急遽余ったサークル入場チケットを分けて頂けるという願ってもないオファーが。7時半国際展示場駅集合という条件は体調的に極めて厳しいものの、当然ここは二つ返事。
・気がつけば時刻は日付が変わる寸前に。うわー、こんなので明日体が保つかなあ。
・ちょうど勤務時間が終了したという、当講座受講生の店員さん・Mさんに新橋駅まで案内して頂く。極度の方向音痴である駒木が深夜の街を徘徊したらとんでもない事になっていたので、これには心底感謝。
・駅までは、やはりマンガの話や開催中のコミケの話に華が咲く。Mさんは明日、『武装錬金』のパピヨンのコスプレで場内を練り歩くとの事。……こういうのは男装の何と呼ぶんだろう? 駒木と同じく、誰からも褒められない努力を惜しまない方と見た(笑)。受講生さんにも講師のバカさ加減が伝染ってしまうのか、そういう資質のある人が当講座に集って来るのか。
・新橋駅から京浜東北線に乗って、この日最後の電車移動。あと7時間後には、寝て起きてホテルをチェックアウトしてないといけないのかと思うと気持ちが萎えかける。明日に授業4コマの仕事を控えた夜のような心境。

 .束の間の休息(その2)

・ホテルに着いたら15日の0時20分過ぎ。大浴場が1時までで閉まるため、慌てて直行。意外かも知れないが、これでも風呂好きで、汗を流さないと寝られないタイプ。
・風呂から上がり、自室に戻って缶チューハイで束の間のくつろぎを得ていた時、コミケ会場で買った申込書に全く目を通していない事に気がついた。申込み締め切りまで全く余裕が無いので、旅行中に下書きだけでも済ましておく予定だったのだが、“夜日程”が過酷過ぎて失念していた。
・というわけで、おもむろに書き始めたのだが、時計の針が1時半を回った辺りでいよいよ抗し難い眠気が襲われ、志半ばで昏倒。

 10.連続真夏日ストップ。但し雨。

・15日午前6時前、目覚ましで一旦起床。一風呂浴びて出陣しようと思っての時刻設定も、体が「風呂よりも寝させろ」と全力でアピールして来たので、6時半まで睡眠続行。
・30分後起きた時、思った事。
「神戸に帰してくれんか。出来れば新幹線で早急に」……多分、宿屋で一泊してもスライムの一撃で死ねるくらいのHPだったと思う。瀕死の重傷でも一晩でリカバリー出来る勇者ご一行は凄ぇや。
・今日はもうチェックアウト日なので荷物も持ち出さなくてはならない。リュックに前日買った同人誌や読了した文庫本等、神戸に帰るまで必要無い物を新たに詰め込むと鬼のような重さ。これで踏み台昇降したらメチャクチャ鍛えられるだろうなあ。
・というわけで、コインロッカー探し。しかしホテル地下のロッカーも、大井町駅や国際展示場駅のロッカー全てが満杯。さすがに始発から1時間半経つと厳しいようだ。こんな事なら昨日寝る前にホテル地下のロッカーに放り込んでおけば良かった。
・途方に暮れつつも、ほぼ定刻でCさん&Cさんのダンナさんと合流。長蛇の列をスルーして、開会2時間前にビッグサイト入り。恐るべしサークル参加。そりゃチケットが売買の対象になるわ。 
・会場入り後は、ご夫妻のサークルのスペースがある東館へ。チケットを頂いた以上は色々とお手伝い……したかったのだが、右も左も判らない状況では無理だった(涙)。逆に冬コミ参加へ向けて当日準備の事について色々と質問してしまい、かえってご迷惑をおかけしてしまう。申し訳有りません&有難う御座いました。
・そしてリュックをご夫妻の更なるご厚意で預かって頂き、駒木は単独行動を開始。この日は大手サークルに並ぶ予定は無かったが、千載一遇のチャンスという事で、昨日一旦は諦めたTYPE-MOON(企業ブース)へ行く。
追記:これ以降、10時ちょうどの開会宣言の前に事前待機列へ並び、一般参加者よりも早く商品の購入をする場面が登場しますが、サークルチケット入場者によるこの行為は、オフィシャルなルールでは禁止事項という事になっています。皆さんはくれぐれも真似をしないようにお願いします。勿論、駒木も今後このような行為は慎みます》
・企業ブース前は既に数十人程度の列。とは言え、全企業のブースひっくるめてこの程度なら楽勝も良い所だろう。一般参加して地獄を見た大勢の人達、申し訳無い。どうせ次回からは、サークル入場しても自分のブースの準備でそれどころじゃないんだから、今回だけは大目に見てくれんか。無理か。
・列移動開始までの10数分、ものの見事に熟睡してしまい、スタッフさんに起こされる。もう止まったらダメな状態。
・開会数十分前、TYPE-MOONに並ぶ人だけ別の列に隔離される。それまでの行列がほぼ半減。さすがコミケ生まれコミケ育ちのメーカー、愛され方が違う。愛され過ぎて困っている感も無きにしも非ずだが。
・高い所にいるせいか、風雨が殊更に厳しい。前に並んでいる『メルティブラッド』のシオンのコスプレをしたお嬢さんはいかにも寒そうだ。駒木も持っていた折り畳み傘が度々裏返って面倒な事に。やっぱりコミケ最大の天敵は雨だなあ。
・TYPE-MOONの人が出て来て、販売商品と購入限定数の通達。今回は3日目まで全ての商品を残していたものの、やはり超品薄のようで、恐らく大量発注していたであろうストラップ(限定3)を除いた商品は、紙袋を含めて全て限定1とのこと。厳しいなあ。
・10時に開会宣言があり、同時に物品販売開始。近くの企業ブースの「ここはTYPE-MOONさんじゃありません!」というミもフタもない注意喚起が響き渡る中、駒木もグッズセット(下敷き&テレカ/うちわセット/ストラップ/紙袋)を無事ゲット。
・混乱の度合いを増しつつある企業ブースを後にして、西館の1・2ホールへ。こちらも大手同人ゲームソフトサークルの新作を求める長蛇の列で大混雑。しかしそれを巧みに捌く凄腕のスタッフが頼もしい。
・(有)コミケットがイベント運営の人材派遣とか始めたら、あっという間に業界最大手にのし上がるに違いない。食えない新人アニメーターの副業とか、代アニを出たは良いけど定職に就けな……いや、これ以上の想像は生々し過ぎるので止めておこう。
・駒木は大手サークルはパスして、速やかに館内へ。素晴らしい同人ゲームを作っている新鋭サークル・無銭舞さんに直行。体験版をプレイしてみれば分かるだろうが、“三日月版”とは言え、これで500円は安いよ。
・ふと見ると、「探偵ファイル」のブースに行列が。そう言えば、夏目義徳さんがグッズのイラストデザインをしてたんだっけ。しかしなぁ、「探偵ファイル」だしなあ(苦笑)。
・混雑度合いが危険水域なので、とりあえず一旦西館から離脱。東館へ戻る。
・東館は東館で壮絶な混雑。壁際サークルに伸びた列が通路を圧迫していて、あちこちで満員電車のような危険な状態になっていた。さすがコミケ3日目。
・とりあえず、ウラシマモト(島本和彦氏の個人サークル)など目星をつけておいたサークルをザッと回る。
・その後、“入居予定”の評論・情報ジャンルのエリアへ。男性向サークルのエリアよりは若干少ない人通りにホッとする。「落語立川流」で新刊2冊を購入。小ゑん(談志の二ツ目名)を満賀に、朝太(3代目志ん朝の前座名)を才野に喩えた『まんが道』のパロディ漫画に爆笑。あと、「『笑点』のやおい本が出ているという噂。しかも木久蔵が攻めというシチュエーションはシャレにならないではないか」…というネタ記事に大爆笑。確かにシャレにならんわ。
・時刻は正午過ぎ。ここでふと「『探偵ファイル』に夏目さん来てるかも」と思い、再び西館へ。しかし、入場規制がかかっているようで通路が制限されてて、やや道に迷う。
・気がついたらコスプレ広場近くに来ていた。コスプレイヤー専用入場口の方を見たら、颯爽と入場しようとしている全身タイツ風コスのパピヨン発見(笑)。マスクで顔が判らなかったので声をかけるのは躊躇してしまったが、よく考えたら人違いが発生するような衣装じゃないよな。絶対Mさんだよ。すいません、ご挨拶出来ませんでした。
・結局、もう一度エントランスへ引き返してから再び西1・2ホールへ。「探偵ファイル」前は行列も引いていたが、残念ながら夏目さんの姿は発見出来ず。とはいえ、ウェブサイトに載っていた写真でしかご尊顔を仰いだ事が無いので、ひょっとしたら見落としていたかも知れないが。
・というわけで、空振りのまま三度東館へ。長時間の有酸素運動で全身の脂肪が燃えまくっているのが分かる。
・しかし、さすがに疲労困憊となって、東館に辿り着いたところで床にしばしへたり込む。周りは戦利品を交換する男子諸君の群れ。こういう事が大っぴらに出来るのも、この日この場所限定だろうなぁ。コミケ会場は“心のヌーディストビーチ”と言うべき特殊空間だ。
・立って歩ける元気が出た所で、Cさん夫妻のスペースに戻って、店番中のCさんと雑談がてら、冬の社会学講座サークル参加へ向けての作戦会議。オフセ本を出すなら、最初は1冊&200部程度にしておくのが得策であること、それに加えてコピー本を用意出来れば更に良い事など。
・とにかく、駒木研究室で本を出して、果たしてどれくらい売れるのか全く読めない。100部刷るのも200部刷るのも費用面で大して変わらないので200部刷るつもりだが、需要がどれくらい有るのやら。現状では、1%の確率で200部完売、数%の確率で100部以上売れて完売の目処立つ、残り90数%の確率で納品されたダンボール箱のまま宅配便送り…という予測が妥当だと思うのだが。
・今のところ、刊行を予定しているのは「『現代マンガ時評』04年度総集編」。レビューの再録に、普段の講義では喋れない主観的感想を含めた追記を加えた内容にするつもり。当講座を知らない一見さんは勿論、受講生さんも追記で楽しめるような本に出来ればと思っている。
・本当は02年度版から出そうと思ったのだが、最近当時のレビューを読み返してみて、「こりゃあ酷い。一見さんにはとても見せられん」と痛感させられ、軌道修正。「水曜どうでしょう」のDVD全集方式で、まず現在の完成された状態をお見せして、それから恥ずかしい過去をご覧頂く…という事にした。
・コピー本は全く内容未定。ボリューム的には「モデム配りレポ」シリーズが最適なのだが、あれはコピー本で出すには忍びない内容だからなぁ。隠れファンの多いクソゲーム屋奮戦記のディレクターズカット版か、「マンガ時評」特別版か。まぁこれは申込みの当選を待ってアンケートでも採るか。
・結局、15時30分くらいまでお邪魔した後、預かってもらっていたリュックを引き取って失礼する。今日買った同人誌をリュックに詰め込むと脂汗の滲む重さに。少なくとも手で持つのは辛くなって来た。宅配便使おうかなあ。でも家族の前で開梱するような代物じゃないからなぁ(苦笑)。
・遂にコミケが終わってしまった。「祭りの後」ならではの何とも形容しがたい寂寞感が全身を襲う。
・それでもまだ旅は終わらない。“夜日程”のある新宿へ向けて、行商人のようなリュックを背負って駒木は行く。

 11.トラベラーズ・ハイの中で

・国際展示場からは、敢えて新宿とは逆方向の大井町へ。りんかい線からJRに乗り換え、一旦品川で下車。ここの駅構内(改札入った内側)にあるコインロッカーにリュックを預ける。これで帰りの夜行に乗る寸前まで重たい荷物とは無縁でいられる。
・品川から山手線で新宿まで。朝からビッグサイト内のコンビニで買い食いしたオニギリ2個しか食ってないので、さすがに空腹感が。時間も余ってるし、座ってしばらく休憩したいので、安上がりで長居出来るドトールへ。小一時間、コミケ申込書の読み物に目を通したりしながら過ごす。
・店を出た後は、前々日に下見した試合会場へ。道のあちこちに警官が立って警備中。裏ビデオ屋が目の前にあるのに全く無視している辺りに大人の事情の存在を察知する。まぁ昨年には、その手の店は随分厳しい摘発を喰らったそうではあるが。
・程なく、今日観戦するDDTプロレスの試合会場である「新宿クラブハイツ」に到着。普段はグランドキャバレーとして営業している店だが、ステージ部分にリングを置くとプロレス会場に早変わり。ただ、客席は普段営業で使っているボックス席で、やはり雰囲気が他とは違う。
・買ったチケットは自由席だったが、指定席の数が少なかったようで、普段の試合会場なら特別リングサイド席くらいの距離にある席に陣取った。
・駒木が座った席の横に、“G−VIP席”なるチケットの売られていない席とテーブルが。何だと思っていたら、新宿の有名ホストクラブ「愛」の社長さんの招待シートだった。元「愛」のホストでDDTでプロレスラーとして頑張ってるゴージャス松野との兼ね合いだったようで、社長さんは松野の試合後に5万円ほどチップを握らせていた(笑)。
・何気なく、テーブル備え付けの(キャバレー営業時の)メニューを開けてみると、明らかにゼロを1つ欲張ってる価格設定に思わず笑ってしまった。まぁそういう所だから納得はするけど、ポッキーとかポテトチップスが1,100円ってやっぱり凄ぇよなあ。
・試合内容については、駒木もよく拝見しているプロレス観戦記サイト・「Exetreme Party」さんの観戦記を参照。やっぱりこの日も男色ディーノが美味しい所を1人占めしまくり。相手レスラーはセクハラされるわ良い所を持って行かれるわで大変だ。
・興行は20時スタートでなんと22時45分まで。23時30分まで試合後の選手を交えた納涼会があったのだが、夜行の時間を考えるとそれどころではないので、後ろ髪を引かれながら会場を後にする。
・晩飯を食う時間すらないので、コンビニでメシを買って夜行の車内で食う事に。本当、最後の最後まで慌しい。
・新宿からは山手線で品川まで。発車まではやや余裕があったが、それでも荷物をロッカーから出したりトイレを済ましたりしていたら良い時間に。
・乗ったのは「ムーンライトながら91号」の禁煙席窓際。この「ながら91号」は期間限定の臨時列車で、使われている車両が古いのがネックながら、全席が終点大垣まで指定席なので気兼ねしない事と、正規便に比べて大垣着が1時間早いという利点もある。指定席券も比較的取り易いし、下り便ならこちらの方をお薦めしたい。
・発車前に食事を済ませてしまう。そうしないと力尽きて今にも寝てしまいそうなのだ。
・ダイヤが乱れていて、発車が数分遅れたが、やはり23時59分に発車。意地でも品川で日付変更線は跨がない覚悟らしい。そんなに品川─横浜間の運賃収入が惜しいかJR。
・新宿で買った横浜までの切符、「青春18きっぷ」、「ながら91号」の指定席券を窓際の目に付く所に置いて検札を待っていたが、疲れの余り気を失う。気がついたら列車は既に熱海を過ぎていて、傍らには16日付で押印された「18きっぷ」と指定席券が。どうやら起きる気配が無いので、車掌が勝手に検札していったらしい(笑)。
・疲れと睡眠不足が限界に達していたのだろう、今回ばかりは苦手の夜行でもスンナリ眠れる。たびたび起きてしまうのは仕方ないが、それでも眠りは結構深いような気がする。
・実は名古屋で「ながら」を降りて、「水曜どうでしょう」ファンの聖地として名高い藤村ディレクターの実家「カフェレスト・ラディッシュ」を訪問するプランもあったのだが断念する。ちなみに断念の理由は「もう死にそうだから」
・気がついたら大垣に着いていた。時刻は6時前。もう大半の乗客が下車していて、駒木も慌てて荷物をまとめて列車から降りる。
・大垣からは米原まで普通列車に乗る。9両編成の「ながら91号」から連絡するのに、何故か3両編成のボロ車両。出遅れが響いて当然のように米原まで立ちっ放し。JRは俺を殺す気かと思う。
・米原からは一転、長い車両編成の新快速。こちらは難なく座席を確保して、あとは三ノ宮まで悠々のラストスパート。
・やっと過酷な旅も終わろうとしていた。しかし今回ばかりは、スケジュールを詰め込むのも大概にしないと、旅行を楽しむどころじゃなくなるな、とさすがに反省。
・一人旅も大概飽きて来たので、今後の旅では時間限定の同行者を募集したいところ。駒木と一緒に「ミスターデンジャー」で飯を食い、littlemsnで麻雀をし、同じホテルで風呂と晩酌を楽しみたいという奇特な方がいらっしゃるなら、年末は是非お会いしましょう。その他の方もビッグサイトでお会いしましょう。


 ……いやー、こうして振り返ってみると、本当に無茶な旅行してますね。何しろ、旅行から帰って来てから3日経ちますが、外出しようという気が全く起きないので、本当に体が動くのを嫌がっているんだと思います。

 では、明日から「現代マンガ時評」の準備にとりかかります。「サンデー」や「赤マルジャンプ」のレビューをお望みの方は、今しばらくお待ち下さい。(この項終わり)

 


 

2004年第42回講義
8月17日(火) 
人文地理
「駒木博士の04年夏の旅行記・ダイジェスト版(1)」

 数日のご無沙汰でした、駒木ハヤトです。
 今日からは、駒木の旅行記を楽しみにして下さっているごく一部の受講生さんのリクエストにお応えしまして、この夏に敢行した2つの旅行について、簡単なレポートをお送りする事にします。
 本当は(偏った個人的な)話題満載なので、どうせ旅行記をやるならジックリお届けしたい気持ちも有るのですが、この夏は1泊2日の広島旅行、中1日半開けて2泊5日の東京旅行…という長期・超濃密な旅行だったため、いつものペースでやっていると余裕で年越ししてしまいます(笑)。……ですので、今回は各訪問先ごとに箇条書きで感想等を書き連ねてゆく形式でお送りします。
 今日はまず前半戦として広島旅行の簡易レポートを。例によって文体は常体で人名は原則敬称略とします。


◎広島旅行(8月9日〜10日)

 1.出発まで

・今回の旅行も例によって夜行列車の旅。9日0時39分三ノ宮駅発の「ムーンライト山陽」で広島方面へ向かう。
・特筆すべきでない諸事情のため、1時間半ほど余裕を見て三ノ宮着。結局時間が余ってしまい、出発まで駅近くのマンガ喫茶で過ごす。
・受付で“佐藤秀峰が描く、明らかに精神的に正常じゃない人”みたいなオッサンに絡まれそうになる。初っ端から幸先悪過ぎ。
・読んだのは、以前から通しで読んでおきたかった『ヘルシング』(作画:平野耕太)。エロ作家時代から作風がまるで変わっていない事に素朴な感激。4巻まで読んだところでタイムアップ。

 2.「ムーンライト山陽」車内

・出発前日、何とか確保出来た指定席は喫煙席。雀荘以外ではタバコの煙と臭いに神経質な駒木だが、幸いにも車両内で喫煙する人はほとんどおらず。
・車両はシュプール号仕様でデッカイ荷物置場が。そこを寝台代わりにする剛の者登場。そしてそれを何事も無く黙認する車掌。どっちもすげえ。
・車内では例によって読書。読みかけの『マークスの山』上巻を読破し、下巻へ。本当は到着後の事も考えて寝たいのだが、やはり眠れず。缶ビール1本程度では睡眠導入剤にもならず。
・終点は下関の列車だが、広島でゴソっと降りる客が出る。駒木は次の停車駅・宮島口まで居残り。
・5時51分に宮島口着。駒木以外に家族連れ含めて数名降りる。自分の事は棚に上げて、「こんな早朝から何するつもり?」と言いたくなる。

 3.宮島にて

・宮島へ渡る船の始発は6時20分。それまで間があるので宮島口の駅のトイレで歯磨き&髭剃り、そして宮島競艇場の入口を下見。本当に駅から歩いてすぐの所にある。
・船乗り場に行ってみると、桟橋には既に10人以上の観光客が。「朝イチの船で宮島に渡る」という、無意味な目的を抱いて全国から集まった同志がここに(笑)。
・宮島までの所要時間は僅かに10分。乗船歓迎と船内諸注意のアナウンスが終わった2分後に「間もなく到着です」のアナウンス。寄席でネタに入る前に雑談していたら持ち時間が終わってしまった落語家みたいだ。
・というわけで6時30分宮島着。「青春18きっぷ」で改札をくぐる。当然のごとく、周辺の店はどこも開いていない。コンビニも無い。仕方ないので他の観光客ともども厳島神社方面へ歩く。
・「記念撮影なら○○写真館だっちゅ〜の」と描かれた看板、糞を撒き散らしながら公衆便所のトイレットペーパーを食う鹿、その横で戯れるカップルなどを目撃。朝っぱらから宮島は濃いなぁおい。
・20分ほど歩いて厳島神社着。時間だけはあり余っているので、近くの歴史的建築物を見て回る。ビジュアル的に「すげー」という建物ではないので、どうにもリアクションに困る。イマイチ伸びきれないローカル若手芸人を連れて来てレポートをさせてみたいという、サディスティックな衝動に駆られた。
・厳島神社は朝7時から“営業”。300円支払って入場。天井近くには寄付金を出した人たちの名前を記した板が金額順に掲示されている。まさに“古今東西・寄付金番付”。上位争いは数千万台の攻防で、中途半端な寄付金総額が抜きつ抜かれつのデッドヒートを物語る。
・おみくじを引く。幸いにも「吉」で、“勝負事”の欄には「必ず勝つ」という信じられない文言が。しかし「必ず」ってのが胡散臭ぇなあ。
・神社参拝を終えると、本格的にやる事が無くなった。神社の宝物殿が午前8時開館。それまで半時間以上余っている。予想はしていたが時間持て余しまくり。
・仕方ないので近くの小さい神社やら宮島水族館(開館前)を歩いて見て回る。道では近くの国民宿舎に泊まっていると思しき、浴衣姿の観光客に度々出会う。この人たちもやる事無いんだろうなぁきっと。
・日差しがきつくなり、クソ暑くなって来た。動くのも億劫になり、宝物殿前のベンチに座って読書しながら時間が来るのを待つ。目の前にお寺があるが、何やら慌しく葬式の準備をしている。どうやら寺のすぐ向かい、宝物殿の隣にある雑貨屋のご主人(ご隠居?)が亡くなられたらしい。観光客向けの寺でも正規業務もやってるようだ。
・そうこうしている内に宝物殿が開く。入館料またしても300円。ただ、ここは歴史好きには入場料払っても見る価値はありそう。学校の教室くらいの大きさの部屋に、現物の太刀や鎧兜を中心に、日本の中世から近世にかけての文化財が色々陳列されていた。
・とはいえ、いくら粘ってはみても15分程度で観覧終了。宝物殿を出ると、いよいよする事が無くなった。商店街に行ってみるも、まだ開店準備中で営業は9時からのようだ。今から宮島口へ戻っても競艇が始まるまでまだ3時間はあるし、文字通り行き場を無くす駒木。
・結局、宮島の駅(桟橋)まで歩いて戻って来て、ベンチに座ってまた読書。わざわざ観光地まで来て、二重人格の連続殺人犯を追う警察小説読んでどうすんだ。本当に何やってるんだろうな。
・9時になったのを見て、またボチボチ歩いて商店街へ。もみじ饅頭(敢えて餡子入りではないヤツ)を立ち食いしたり、焼き牡蠣を食ったりする。食ってみて、「牡蠣ってこんなに不味い食いモンだったっけ?」…と思ったが、よくよく考えたらシーズン外しまくりだった事に気が付く。こんなの12月のプロ野球選手に試合させるようなもんじゃないか。というか、こんな時期に牡蠣なんか食って腹は大丈夫なのか俺。
・駅前に戻ると、鹿煎餅売りの露店が出ていた。鹿も知恵をつけていて、客が煎餅を買った瞬間に大挙して襲撃して来る。こう言うと何だか長閑だが、実際にはヒッチコック映画のような壮絶な光景。殺気だった鹿の群れに包囲された家族連れが、ベンチの上に避難したものの行き場を無くし立ち往生していた。子供は恐怖の余り泣き出す始末。しかし、朝のトイレットペーパーに悪戯するヤツといい、そんなに口寂しくなるくらい飢えてるのか宮島の鹿。
・結局、3時間ほどの滞在で宮島を出発。本当に気合を入れて島中全てのスポットを巡るつもりで無ければ、これくらいで十二分に観光出来てしまうという事だろう。

 4.宮島競艇

・また10分の乗船時間で宮島口に戻る。競艇の1レース開始までには随分と時間があるので、電車の方の駅に戻って、駅弁の「あなごめし弁当」を買う。1470円と値段は張るが、受講生さんからもお薦めを頂いただけあって美味い。穴子の良い所だけが出ている感じ。
・競艇場はかなりの広さ。しかし客数はお世辞にも多いとは言えない感じ。2階の一般スタンド席に終日いたが、満席には程遠い。「まぁ1レース前だしな」と思っていたら、最後までほとんど客数変わらず。競艇のメッカ・メディナと言うべき都市の近くに住んでいるから感覚が麻痺していたが、地方の競艇場なんてのはこういうもんなのだろう。
・しかし、何度となく地元のお客さんに声をかけられる。どうやら若者がいるのが大層珍しいらしい。話を聞いていると、昨日の成績とか明日の展望とかが頻繁に出て来る事から、ここはどうやら開催日は毎日来るという年金生活者層で成り立ってる競艇場のようだと判る(笑)。
・競艇の方は、最初1、2レースを順当に外すも、その後ふと厳島神社で引いた胡散臭いおみくじを思い出し、「まぁシャレで大穴狙ってみるか」と普段はやらない3連単の穴舟券などを戯れに買ってみたら、2点で72.8倍的中。余りの事に喜ぶ以前に声を失う。神様、いきなりそんな事やられても心の準備が出来てないんですけど。つか、100円ずつしか買ってないし。
・この後も大穴こそ無いが、まぁ当たる当たる。普段は2連単でもロクに当たらないのに3連単(2〜4点買い)が5レースも的中。頭の中で想像した通りにレースが運び、ちょっとズレた時は接触・転覆事故で辻褄を合わせてくれるという恐ろしい展開の連続。思わず大鳥居の方へ向かって一礼。結局、今回の旅行費が浮いた形になって全レース終了。とんでもない所で臨時収入があったもんだ。

 5.広島市街〜就寝

・宮島口駅からはJRで広島駅まで。
・広島駅からは市電に乗ってホテルのある八丁堀近くまで。広島の市電に乗ったのは当然初めてだが、駅(停留所)と駅の間が余りに短くて笑える。次の駅よりも次の交差点の方が遠いってどういう事だ。翌日の市内観光は市電の1日パスでも買って…と思っていたが、これなら十分に徒歩圏内だろう。
・ホテルは繁華街を端から端まで抜けていった所にあるビジネスホテル。まだ夕方になったばかりだが、ボチボチと客引きが出始めている。当然の事ながら完全無視。
・泊まるのは風呂無し(大浴場利用可)のシングルルームで、宿代はネット予約割引で3780円。カプセルホテル並の値段だが、これでもちゃんとしたビジネスホテル。しかし、風呂が無いのは初めから承知していたが、トイレと洗面所まで1フロア共同なのは想定外でちょっとブルー。
・部屋備え付けのテレビを点ける。時間的にはちょうど夕方のニュース枠。当たり前の話だが広島ローカルの話題ばかりで面食らう。スポーツニュースはスポーツというより広島カープ関連ニュース+αといった構成。元・広島の選手が活き活きと解説を務めていた。大阪圏で言うと元・阪神の中田良宏みたいなポジションか。なるほど、こうやって広島人はカープファンになっていくわけだな。
・オリンピック関連ニュースでは元・ヴィッセル神戸の永島が現地レポーター兼キャスターをやっていた。アテネでは今、温泉の足湯──フットバスが流行という話題を終始台本を噛みながらレポートし、オチは「これで疲れをフットバス!」……永島、悪い事言わんから神戸に帰って来い。
・午後7時過ぎになってから近くの市街地へ(正式な地名がよく判らない)。晩飯にお好み焼きを食うためだが、結局はどこに美味い店があるのか判らず、愚行と知りつつも地元民が寄り付かない味処として有名な「お好み村」へ行く。まぁよく考えたら、どういうのが本物の広島風お好み焼きなのか知らない人間なのだから、どこへ行っても基本的には一緒なのだ。
・適当に店を選び、通常の肉+焼きソバのお好み焼きにネギとイカ天をトッピングしたのを注文。併せて注文したチューハイはちゃんと焼酎と炭酸水から作る本格派で好感。お好み焼きの味も(個人的な感覚では)しっかりしていた。帰ってから調べてみたら、「お好み村」の中では上位クラスの店だったらしい。まぁ素人判断なりに正答を得たという事か。
・ホテルへ直行するのが惜しくて、周辺を歩いていたら、全国チェーンの点5フリー雀荘発見。時間的には十分余裕があるのだが、酒が入ってる事と、競艇でバカ勝ちした金を失った時の精神的ショックを考えてこの日は回避。ギャンブルは何事も負け前提という基本ポリシーが我ながら悲しい。
・ホテルに戻って一息ついた後、風呂へ。「大浴場」とは名ばかりで、せいぜい中浴場くらいの広さの風呂場だが、クソ狭いユニットバスに比べたら随分とマシだろう。ただ、この日はインターハイで遠征中の高校生が大挙して泊まっていたため、洗い場は混んでるわ浴槽の湯は濁っててヌルいわで散々。早々に退散する。
・部屋に戻る時に気付いたが、大浴場前の注意書き看板、他の地方なら「入れ墨のある方の入浴お断り」とある所が「彫り物を入れられた方──」となっていた。かの業界では、「入れ墨」という単語は罪人が罰として入れるモノとして忌避されると聞いた事があるが、この辺りの気配りはさすがに『仁義なき戦い』のお国柄。
・風呂上がりには、近くのコンビニで仕入れたビールとチューハイで晩酌。夜行でほとんど寝てない事もあって、アルコールが程よく回ると共に睡魔が襲い掛かって来て、そのまま熟睡。

 6.旅行2日目午前、市内敢行観光へ

・旅行2日目(8月10日)は午前9時起床。8時間くらいは寝た事になるか。強行日程が多い駒木の旅行としては、かなり体調に余裕のある朝。
・この日は広島城→原爆ドーム&平和記念公園&資料館を回るというスケジュール。まだ腹も減っていないので、朝飯を食う場所を探しながら、目的地へ向けてボチボチ歩いていく事にする。
・それにしても、この日のクソ暑いこと。ものの10分程度歩いているだけで汗だくになる。誰もが「でぶや」出演タレントの気分を味わえる、不快指数MAXの1日。
・とりあえず、方向音痴でも道を間違えないよう、路上の案内地図をいちいち確認しつつ、バス道沿いの大通りを歩いたり、地下街に入ってみたりしながら広島城へ。この時点で朝飯抜きで昼に今一度お好み焼きを食うという計画に切り替える。
・しかし広島に入ってから食ったのが、もみじ饅頭、焼き牡蠣、「あなごめし弁当」、お好み焼き。ここまで地元名物に特化した食生活というのも我ながら如何なものかと思う。
・やがて広島城に到着。「城」とは言っても、建築物は原爆で根こそぎ焼失してしまっているので(何しろ原爆ドームから悠々徒歩圏内なのだ)、現在は再建された天守閣が聳え立つ他は城跡という名の空き地。ただし、城跡の一角には広島護国神社が建てられている。
・護国神社を形式的ながら参拝した後、天守閣へ。入場料300円で、最上階の展望台までは各階に広島城関連の資料が展示されている。地元の小学生の自由研究の取材によく使われるようだ。昭和30年代の再建とあって、空調は効いてないし階段は急だしでバリアフリーからは程遠い造り。駒木と入れ違いに足の不自由そうな年配の観光客が家族で来ていたが、果たして大丈夫だっただろうか。
・天守閣まで登ってみると、休憩用のベンチで朝っぱらからカップルがイチャついていた。ベンチごと展望台から放り投げてやろうかと思う。
・広島城を出て、再び地下街を経て原爆ドームへ。さっきの天守閣でもチラホラ見たが、広島は外国人観光客が多い。人種・民族のバリエーションも幅広く、黒いチャドルを着けたイスラム系の女性の姿もチラホラ。至極単純に「暑くないですか?」とお訊きしたくなる。
・原爆ドームについては説明不要だろう。ただ、老朽化による崩壊を避けるために、前面にビッシリ補強の鉄パイプがハメこまれているのが目に付く。これがまた余計に痛々しい。
・ふと見ると、原爆ドームをバックに御陽気ポーズで記念撮影をしている日本人観光客がいて、思わず張り倒したくなる。空気を読め、空気を。
・原爆ドームの周りををぐるりと回って平和記念公園へ。色々なモニュメントがあり、それぞれに観光客と遠足か何かでやって来た小学生たちが集まっていた。
・それから平和記念資料館へ。入場料50円。学校関係の団体客は原則無料という事で、極限まで敷居を低くした運営に核兵器廃絶への強い意識を感じさせる。
・駒木は小学3年生の時の担任が広島出身で、しかも社会の授業で全身火傷を負った原爆被害者の写真を「これでもか、これでもか」とばかりに見せる物凄い人だったので、資料館の原爆関連の展示物はむしろ「手緩いな。この程度でアメリカ人に原爆の惨さが伝わるのか?」…という印象。
・ちなみにその先生は、低学年のガキに頻繁に暴力を振るう一方でロリコンの気もあるという、別の意味でも物凄い人だった。当然の如く職場で居場所を無くし、10年以上前に北海道で採用試験を受け直して本州を離れたっきり音信不通になったと聞く。せめてもう一度お会いして、当時の体罰の御礼にセルゲイ=ハリノートフ式のパウンド(マウントポジションからの顔面パンチ)をお見舞いしたいのだが、今頃どこで何をなさってらっしゃるのやら。
・そういうわけで、駒木は原爆関連以外の戦争関連資料の方が興味深かった。例えば戦時中の新聞紙面のパネルとか見ると、当時の朝日新聞は本当に体制ベッタリの極右新聞だったんだなと改めて実感してみたり。
・というわけで、資料館見学をもって市内観光終了。時計を見るとまだ12時を回ったばかり。駒木の弾丸ペースで観光をやると、1日仕事が半日以下で終わってしまう。

 7.2日目午後。フィールドワーク、そして神戸へ。

・また徒歩で数十分、泊まったホテルの近くまで戻る。目指すは昨日スルーしたフリー雀荘。ギャンブルのためと言うよりフリー雀荘研究の一環(という事にしておく)。一応この夏に1本フリー雀荘関連の講義をやるつもりなので、名目ばかりの話では無いのだが。
・というわけで、雀荘についての詳しい話はまた後日。半荘3回やって収支の方は若干のマイナスだが、目標は「昨日の競艇の勝ちを帳消しにしない程度」という、参院選の自民党並にヘタレなものだったので、これは悠々クリア。というか、厳島神社のおみくじ効果は1回限りだったのだな。
・麻雀の後、予定通りお好み焼き。ちなみに昨日とは別の店。味は少し違うが、駒木の貧乏舌では大きな違いを見出せない。
・市電でJR広島駅へ。帰りは18時20分発の岡山行に乗り、岡山、姫路、明石で乗り換える約5時間の旅になる。
・出発までの時間が中途半端に余っているので、駅近くのデパートの大きな本屋で時間を潰す。前から探していて見つからなかった川柳川柳師匠の自叙伝を購入し、あとはプロレス関連本を立ち読みしたりして過ごす。
・いよいよ広島ともお別れ。1泊2日だがなかなか充実した旅だったと思う。東京旅行と比べると密度の面で見劣りしてしまうが、これはまぁ仕様みたいなもんだから仕方が無い。
・帰りの車中では残念ながら特筆すべき事はなし。夜行ではなく在来線を利用すると、乗客の大半が通勤・通学客だったりするので、どうしても“濃い”エピソードとは縁遠くなる。今年の春の東京旅行だったか、大垣から熱海までの数時間、延々と大声で放送禁止用語連発の愚痴をこぼし続ける電波系の婆さんに遭遇したが、まぁそんな程度である。
・帰宅したのは日付が変わったかどうかの深夜。1泊2日とはいえ、8月9日の0時過ぎから8月10日の0時直前までなのだから、ほぼ1泊4日ということになる。
・そして中1日半おいて、次はいよいよ東京旅行だ。恐ろしい密度のスケジュール、果たして全てこなせるのだろうか……。


 ……というわけで、今日は広島旅行編をお送りしました。レジュメが読み難くて申し訳ありません。
 さて、いよいよ次回は東京旅行編。良い子は決して真似しちゃいけない怒涛の強行日程が駒木ハヤトに襲い掛かります。では、また明日。(次回へ続く

 


 

2004年度第41回講義
8月12日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第2週・合同)

 旅行と旅行の合間を縫って、今週分のゼミをやっておくことにします。しかし、またこういう週に限ってレビュー対象作が4本ってのはどういう事なんだろう(苦笑)。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(39号)では、「金未来杯」最終第5弾となる読み切り『切法師』(作画:中島諭宇樹)が掲載されます。
 中島さんは、「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞し、昨年の「赤マル」春号にその受賞作『天上都市』が掲載され、デビュー。その後も週刊本誌、特別増刊「青マルジャンプ」で相次いで新作を発表しています。
 スケールの大きい世界観が持ち味の中島作品ですが、今回は初の戦国時代モノという事で、これまでとは違ったカラーの作品になりそうですね。新味が引き出されるのか、それとも相性の悪いテーマでポテンシャルが発揮されずに終わるのか。どちらにしても注目の一作と言えそうです。

 ◎「週刊少年サンデー」では次号(38号)より、『東遊記』(作画:酒井ようへい)が新連載となります。
 この作品は、月刊増刊03年8月号に掲載された同タイトルの読み切り作品の連載化。酒井さんは週刊本誌初登場にして長期連載獲得という大抜擢ですね。

 ◎「週刊少年サンデー」では次々号(39号)より、『絶対可憐チルドレン』(作画:椎名高志)が短期集中新連載となります。 
 もう既にこのゼミでは何度となく採り上げた作品ですので、多言は無用だと思いますが、稀代の名作読み切りが紆余曲折を経てようやく週刊本誌登場です。
 ここに至るまでのサンデー編集部内における椎名さんの冷遇されっぷりから見ると、相当の反響を得られないと長期連載昇格は難しそうな情勢ですが、そんな逆境を跳ね返すような傑作を期待したいと思います。
 
 ◎「週刊少年サンデー」では次号(38号)に、『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』(作画:曽山一寿)が掲載されます。
 この作品は01年頃から「月刊コロコロコミック」、「別冊コロコロコミック」で連載されているもので、非常に珍しい児童誌から少年誌への“出張”ということになりますね。
 ……しかし、『クロザクロ』とか『モンキーターン』とかが載ってる雑誌に小学生以下向のギャグ作品が載るってのも凄いなあ(笑)。


 ★新人賞の結果に関する情報

第15回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年6月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(本誌か増刊に掲載決定)
  ・『CRUSH』
   松本祐介(22歳・兵庫)
 《和月伸宏氏講評:画力は高いレベルにある。磨いていけば更に伸びるだろう。しかしストーリー・演出といった面はまだまだで、更なる努力が求められる》
 《編集部講評:作家としてのセンスは感じられるものの、ストーリーが単純過ぎ、あっけないという印象。世界観や主人公の強さに説得力が無く、もっと物語に工夫をするべきだ)
 最終候補(選外佳作)=5編

  ・『!堂々卓球武!』
   松原利光(18歳・和歌山)
  ・『マシュー』
   池長和也(21歳・鳥取)
  ・『Mare』
   吉原雅彦(22歳・埼玉)
  ・『WIZARD』
   葉月シュンスケ(21歳・福岡)
  ・『ストロベリー フィールズ フォーエバー』
   安孫子今日太郎(25歳・東京)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の松本祐介さん…03年4月期「十二傑」で最終候補。
 ◎最終候補の松原利光さん…03年5月期「十二傑」に投稿歴あり。
 ◎最終候補の我孫子今日太郎さん…04年2月期「十二傑」に投稿歴あり。

 ……今回はかなりの“凶作”だったようで、講評で「ストーリーや演出はまだまだ」/「世界観に説得力が無い」随分な言われようの作品が十二傑賞受賞となってしまいました。恐らくドングリの背比べの中から画力優先で選んだものと思われますが、それにしても、ここまで扱き下ろしておいて増刊に載せるってのも凄い話ですね(笑)。
 まぁ、同じアレな作品なら、伸びしろの無い若手よりも少しでも将来性に期待出来る新人の方を…という気持ちも判るんですが……。

 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…4本
 「ジャンプ」:読み切り2本
 「サンデー」:新連載第3回後追い1本/読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年37・8合併号☆

 ◎読み切り(「第1回ジャンプ金未来杯」エントリー作品)『ムヒョとロージーの魔法律相談所』作画:西義之

 作者略歴
 1976年12月27日生まれの現在27歳
 西さんを含む4人組ユニット・多摩火薬として『サバクノオオクジラ』で99年上期「手塚賞」準入選を受賞し、これが「赤マル」99年夏号に掲載され、デビュー。
 しかし、多摩火薬はその後解散し、個人活動へ以降。西さんは村田雄介さんのスタジオで『アイシールド21』のアシスタントを務めた後、04年「赤マル」春号にて今作と同タイトル・同一世界観の作品を発表し個人名義初の作品掲載を果たす。
 なお、今回が多摩火薬時代を含めて初の週刊本誌掲載。
 
 についての所見
 
根本的にリアリティを拒否した画風のため、パッと見は随分下手に見える絵ですが、実際は線の乱れが少ないですし、アシスタント修行で会得した特殊効果・背景処理の技術も上々です。見た目で損をしていますが、マンガ的な技術としては合格ラインと言えるでしょう。
 ただ、将来の週刊本誌連載を目指すにあたっては、もう少し読み手に好感度を与える(=実際はどうあれ上手に見える)絵柄にしていってもらいたいところでもありますね。線の細太のメリハリをつけて欲しいですし、可愛い女の子の描き方の研究もしてほしいです。連載作品ではヒロイン的なキャラが不可欠でしょうし、その場合は一発で読み手を惹き付けるだけのビジュアル的魅力が必要になって来るでしょうから……。


 ストーリー・設定についての所見
 「赤マル」に載った前作の同タイトル作品をレビューした時にも述べましたが、やはりこの作品の魅力はオリジナリティの高い世界観に尽きると思います。一つ一つの要素は既製の作品でも多く見受けられる設定なのですが、それを巧みに組み合わせ、全く新しい別モノの作品に仕立て上げています。
 ほとんどのパターンを使い尽くされた昨今、オリジナリティのある作品を描くならこの方法しか無いと言われてはいるのですが、それをキッチリやり遂げているのは、やはり立派と言えるでしょう。
 ただ敢えて1つ注文を出すならば、もうちょっと裏設定をしっかり創り込んで、この良く出来た世界観にもう少し現実感を持たせるよう工夫をしてもらいたいですね。そうすればもっと良くなると思います。

 また、あまり目立たない部分ではありますが、脚本(ネーム)・演出・構成でも確かな技術を感じられます。説明的なセリフを排して設定の“描写”をする事が出来ていますし、見せ場の迫力ある演出も上々です。また、その見せ場に多くページを割けるような構成が施されているのもお見事。
 来週登場の中島諭宇樹さんもそうですが、新人時代に『アイシールド21』のアシをするというのは、ストーリーテリングを勉強する上で非常に効果的なのかも知れませんね。『アイシル』は理詰めで計算された脚本・構成に、独創的かつ挑戦的でダイナミックな演出を施した作品なわけで、よく考えてみたら、これほどテクニックの盗み甲斐のある作品もそうは無いでしょう。(まぁあくまで駒木の推測ですけどね)

 ただ、1つ残念だったのは、シナリオ上の肝である、「相談者の少女・カヤが霊となった同級生・ノブオをストーカー扱いしている事実」を強調して読み手に伝える事に失敗しており、作品全体の説得力を不用意に欠いてしまった事ですね。
 実際には、

ムヒョ:「で? 家の異変は、ノブオの霊がまたストーカーに来ているせいだと?」
カヤ:「うん…時期もピッタリ合うしー」 

 ……という、カヤがノブオをストーカーだと認識していた事を証明する会話がある事から、シナリオ構築上の過失はゼロに近いのですが、それが読み手に伝わり難いような描き方をしてしまったのは、やはり減点材料にせざるを得ないでしょうね。もう一度、当該シーンのコピーを貼り付けてでも強調すれば良かったのに…と思います。

 今回の評価
 ……というわけで、長所・短所共に認められる作品ではありますが、それでも高い技術とセンスに支えられた長所のインパクトがいくつかの短所を完全に上回っており、A−の評価は譲れないところです。
 さて、この作品は、これまでに「金未来杯」で掲載された3作品と比較しても互角以上のクオリティだとは思います。ただ、「金未来杯」のような読者投票形式のコンペテイションの場合、パッと見の良い絵柄の作品が重厚なシナリオの佳作よりも高い評価を得てしまう傾向があるため、苦戦を強いられる可能性が高いのではないでしょうか。

 ◎読み切り『TRANS BOY』作画:矢吹健太朗

 作者略歴
 1980年2月4日生まれの現在24歳
 98年1月期「天下一漫画賞」審査員特別賞を受賞し“新人予備軍”入り。その4ヵ月後、弱冠18歳にして「赤マル」98年春号・『邪馬台幻想記』でデビュー同名のリメイク作品を週刊本誌98年36・37合併号に発表し、その後連載化(99年12号〜27号 変則2クール打ち切り)
 連載終了から約5ヵ月後、週刊本誌99年46号掲載の『STRAY CAT』で復帰し、これが『BLACK CAT』に改題されて連載化。00年32号から04年29号まで185回の長期連載作品となる。
 今回は『BLACK CAT』連載終了以来の新作。

 についての所見
 以前、『BLACK CAT』の特別編でも同じ事を言いましたが、洗練された好感度の極めて高い絵柄で、もっと言えば洗練され過ぎて“毒”が足りないくらいの画風だと思います。今回出て来た凶悪犯や宇宙人も、やはり何と言うか“異形度”が物足りないように感じられたのですが、如何でしょうか。
 また、これは最近ようやく具体的な個人的結論に至った事なのですが、矢吹さんの構図のとり方、これが(普通の作家さんと違って)コマ1コマが独立したイラストを繋ぎ合わせてようやくマンガとして成立させているように見えて仕方が無いんですよね。これは多分、矢吹さんが人物の見せ方(動き、ポーズ、アングル等)に対して無頓着で、ただ無意識の内にイラスト的な見栄えを重視して描いているからなんじゃないかと勝手に思っているんですが、どうなんでしょう? 駒木は絵については門外漢ですから、読者目線だけで結論づけられない専門的な所は、そのスジの方に助言を頂きたい所ではありますが……。 

 ストーリー&設定についての所見
 前回レビューした『BLACK CAT番外編』のシナリオが余りにもアレだったので正直かなり心配していたのですが(笑)、今回は存外(と言ってはさすがに失礼か)よく出来たプロットになっていると思います。伏線やビジュアルトリックも組み込まれていますし、これはなかなかのクオリティだと言っても良いでしょう。
 ただ、惜しむらくはこの秀逸なプロットを活かし切るだけの構成、演出、脚本が余りにもお粗末で、これが非常に残念でなりません。説明的なセリフが多過ぎて少々興醒めでしたし、前半にシナリオ構成上不必要な会話や場面が多過ぎたためにページが詰まり、トリックのネタ公開や主人公の心情描写といった肝心要のヤマ場が随分と薄味になってしまいました。せっかくの高級食材を料理の段階でダメにしてしまったようで勿体無いですね。
 ──この辺り、矢吹さんが18歳でデビューした後、修行期間が殆ど無いままで週刊連載と言う異様な環境に放り込まれたツケなのかな、と思ったりします。限定されたページ数でキッチリ完結させるような話を創る作業なんて、ほとんどやった事無いでしょうからね。……でもまぁA級の作家さんは、長期連載でもページ数とかエピソード毎の起承転結とかを意識した作品作りをしてるんでしょうが。

 今回の評価
 十分合格点級の画力やプロットがありながら、そのアドバンテージを活かす事無く失点を重ねてしまった…というところでしょうか。B寄りB+くらいが妥当ではないかと思います。
 ……蛇足ですが、今回みたいにネット界隈で支持率の極端に低い作家さんの作品でこういう評価を出すと、必ず「あいつ分かってねえ」みたいな物言いをされるんですが、ここでの評価はファクターごとに加点・減点してデジタルに採点したものであって、幾つも欠点を抱えた作品でもそうそう酷い評価にならない事だけは判って欲しいと思います(笑)。こっちだってねえ、イヤイヤ評価つけてる時もあるんですよ。でも好き嫌い排除が鉄則ですからね。
 Bくらいの評価をつけた作品のレビューを読んで、「駒木のヤツ、あいつの作品を褒めてる、クソだ!」とか言う人がたまにいらっしゃるんですが、B+までの評価というのは「短所が長所を上回ってる作品」なんで、決してポジティブな評価をしているわけじゃないんで、そこんとこ何卒。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今期の新連載作品は掲載順が安定しない事もあって、サバイバルレースの情勢が全く不明なんですが、12回目で掲載順7位の『家庭教師ヒットマンREBORN!』はさすがに生き残り当確でしょうか。
 当初の『ドラえもん』『タルるーと』路線を破棄し、サブキャラクターを大幅増員してのドタバタに方向転換したのがプラスに働いた…と見るべきなんでしょうね。最近は死ぬ気弾も京子ちゃんも全く陰に隠れた存在になっちゃいましたし(笑)。
 ただ、作品のクオリティ的にはセリフのトンチが利いていない『銀魂』みたいな感じで、評価の上方修正をするには躊躇を覚えてしまいます。どうしようもない所から、ハマる人はハマる作品にはなったと思いますが……。

 で、当講座の談話室(BBS)でも指摘があった、『テニスの王子様』最大の見せ場でスマッシュを打つリョーマの指が6本あるという物凄いミスがありました。これ、リョーマは豊臣秀吉の生まれ変わりという伏線でしょうか(笑)。
 しかし、今回の件だけでなく、最近のこの作品は以前にも増して腑抜けて来たような印象があるんですよね。昔は「デタラメにも五分の魂」みたいな感じがしたんですが、この頃はもう何か適当に技の名前付けてグァーっとやっとけばいいや、みたいな……。連載開始から4年半、そろそろ作品の寿命なのかも知れませんね。

 

 「週刊少年サンデー」2004年37号☆

 ◎新連載第3回『クロザクロ』作画:夏目義徳【第1回時点での評価:保留

 ●についての所見(第1回からの推移)
 第1回のレビューで述べた内容に付け加える事は無いですね。ただ、もう少し絵が安定して来れば…とは思います。コマごとに絵のクオリティが上下するので、やっぱり気になってしまうんですよね。
 余談ですが、今回登場の転校生、『P専嬢のダリア』の主人公・ダリア姐さんの若かりし頃、みたいな感じでしたね(笑)。

 
 ストーリー&設定についての所見(第1回からの推移)
 第3回までで大まかな世界観は明らかになったものの、ストーリーの全貌判明には程遠い…といったところでしょうか。それでも1回ごとの“引き”はキッチリ出来ており、読み手の興味を損ねない配慮は為されていますね。ここまでのストーリーも、理詰めで練られていると思います。
 ただどうなんでしょうか、いくら読み手の興味を持続させるような構成にしてあるとはいえ、ここまでプロローグ的な話を長く続けるのはかなりの冒険のような気もします。ストーリー展開の起伏が余りにも緩やか過ぎて、全体的に薄味なお話になりつつあるような……。
 あと、見せ場はもっとインパクトの強い演出を施しても良いのではないでしょうか。少年誌ゆえの表現規制もあるかも知れませんが、どうせエグい内容の作品なのですから、それをとことんまで追求するべきではないかと思います。「自分はこういうマンガが描きたいんだ」という気持ちをシーンの1つ1つに叩きつけていくような激しいアイデンティティの発露。そういうのをもっと見せてもらいたいですね。
 連載開始前に夏目さんからは「8割の読者に嫌われる作品です」というコメントを頂きましたが、まだ現状ではそこまで好き嫌いが分かれるほど極端な内容にはなっていないように思えます。それこそ、編集部が対処に困るくらいのエゲツない演出を施してみるのはどうでしょうか。そうすれば自然とストーリーの起伏も大きくなってくるでしょうし、死中に活路を見出す事も可能になると思うのですが……。
 
 現時点の評価
 またストーリーが進行していないので、現時点でも評価をつけるのを躊躇うところですが、あまり先延ばしにするのもアレですから、とりあえずの暫定評価という事でB+としておきます。勿論、今後の展開次第で評価は大きく変動する事があります。

 ◎読み切り『大久保嘉人物語』作画:草場道輝

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 1971年1月1日生まれの現在33歳
 「週刊少年サンデー」公式サイトによると、デビューは月刊増刊の97年6月号
 週刊本誌では99年35号から04年14号まで『ファンタジスタ』を長期連載。また、02年2・3合併号には今回と同種の企画モノ作品『川口能活物語』を発表している。

 についての所見
 相変わらず…と言っては失礼でしょうか、決して洗練された画風ではないものの、長年サッカーマンガを描いてきた経験と技術の染み付いた、しっかりした絵であると思います。
 ただ、平山相太は病気でやつれてたとはいえ、圧倒的に似てませんね(笑)。最初、「この貧相なアホ面は誰だ?」と本気で迷ってしまいました。

 
 ストーリー&設定についての所見
 扉ページのクレジットを見ると、どうやら取材は草場さんではなくて別の方がなさったみたいですね。それを草場さんがマンガ化した…というわけですから、これは事実上の原作付作品ということになりますか。
 内容は、恐らく大久保選手に興味のある人なら誰もが知りたかったであろうと思われる、代表落ち前後の舞台裏。普通にテレビや新聞を読んでいるだけでは知り得なかった情報も取材によって引き出されていて、なかなか読み応えのあるストーリーになっていると思います。ただまぁ、これも本当に実際のところはどうだったのかは、僕らには知る由も無いわけですが(笑)。かつて「マガジン」に掲載された『モーニング娘。物語』を見ても明らかなように、こういう企画モノは“良い話”を作るためには結構な無茶をしたりしますからね。
 個人的には、今回の話はノンフィクションではなくて、事実をモデルにしたフィクションのエンタテインメント作品として短期集中連載で読んで見たかったですね。シナリオ自体はそれくらい良く出来ていますし、そのシナリオの魅力を活かしきるにはもっとページ数が必要だったのではないかと思うんですが。 
 
 今回の評価
 今回も先週と同じく評価無しという扱いにしたいと思います。それでも、この手の企画モノにしては本当に良いデキだったと思いますね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「オリンピックで注目の競技・選手は?」。
 作家さんの回答では柔道が最多回答。それを野球が猛追、サッカーは意外に伸び悩み…といったところでしょうか。
 駒木はスポーツなら何でも、特にちょっとマイナーなくらいの競技が好きなので「とりあえず全部」と言っておきます(笑)。強いて挙げるなら、プロの競輪選手が銭カネ抜きで敢えて報われない戦いを挑む自転車競技でしょうか。あと、個人的に望ましい結果は「隠れた実力者の番狂わせ」「絶対王者の磐石の防衛」ですね。それこそ選手の国籍関係無しでそういうシーンが見たいなと思います。

 さて、連載作品は『結界師』から。もう作者が楽しんで設定を創ってるのがよく分かる、爺さんと婆さんの青春ストロベリートーク炸裂!(笑) いやー、良守君、やっぱりキミの前途は厳しいようだぞ。
 ストーリーも、のほほん系の挿話かと思ったら、作品のメインシナリオに絡む話題に急接近という意外な展開。なるほど、よく考えてますね。

 『ワイルドライフ』は、先週から『じゃじゃ馬グルーミンup!』の“あぶみさん争奪戦”を彷彿とさせる展開でしたが、やっぱりと言うか何と言うか、この作品らしいお定まりの方向にあっさり収束していっちゃったなあという印象。まぁこの辺が逆にライト読者層の支持を集めているのかも知れませんが……。

 そして今週で『暗号名はBF』が最終回となってしまいました。当講座のBBSでも連載終了を惜しむ声が上がっているようですが、確かに短期打ち切りには少々惜しい作品ではあったかな、という感はありますね。
 ただ、例によって漏れ伝わる話を聞くと、いわゆる数字で現れる客観的な成績がシャレにならないくらい低かったそうで……。ぶっちゃけ、作品のクオリティは別にして商業的な成功が見込めないので切られた…という事なんだろうと思います。
 さて、作品の総括ですが、全体としては無難にまとまった佳作だとは思いますが、所々で設定の綻びが見受けられる上、シナリオが予定調和の域から脱し得なかったのが伸び悩みに繋がったのではないでしょうか。あと、キャラクターの掘り下げも若干足りなかったような気がしますね。嫌われる要素が少なかった代わり、好かれる要素も少なく、“空気マンガ”化してしまったのではないかと分析しています。
 最終評価はB+としておきましょう。

 

 ……いやー、長かった今日の講義は(笑)。皆さんもお疲れ様でした。それでは、東京に行って参ります。皆さんもお盆休みを満喫して下さい。では。

 


 

2004年度第40回講義
8月6日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(8月第1週・合同)

 お待たせしました。今週のゼミをお送りします。

 先週、『焼きたてジャぱん!』のTVアニメ化情報をお届けしたばかりですが、今週は「ジャンプ」連載中の『BLEACH』のアニメ化が決定という情報が入って参りました。放送枠はテレビ東京系18:30からという事で、なんと『ジャぱん』と同じ曜日の30分前つまり直前の枠)から放送という超ニアミスの事態に。
 いや、前々から思っていましたが、節操無いですなぁテレビ東京。30分差でこの組み合わせは何ですか?(笑) 国政選挙のゴールデンタイムに平然と「日曜ビッグスペシャル」を放送する非メジャー系テレビ局の面目躍如といったところでありますね。
 ……それにしても、連載初期は人気が伸び悩み、一時は明らかに打ち切り候補に挙がっていたであろう作品がここまで“出世”するとは、なかなか感慨深いものがありますね。月並みな言葉ではありますが、この作品の魅力を知る者の1人として、アニメ版も是非とも成功してもらいたいものです。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(37・38合併号)では、「金未来杯」第4弾となる読み切り『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(作画:西義之)が掲載されます。
 この作品は、「赤マルジャンプ」04年春号に掲載された同名作品の事実上の続編にあたるもの。アンケート結果が良かったのでしょうか、堂々の本誌昇格となりました。
 作者の西義之さんは、多摩火薬という合作ペンネームで「手塚賞」準入選を受賞した4人組の一員。ユニット解散後は『アイシールド21』の村田雄介さんのスタジオでアシスタントを務めていました。個人名義の作品としては、先述の「赤マル」版『ムヒョと──』に次ぐ2作目となります。

 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(37・38合併号)では、読み切り『TRANS BOY』(作画:矢吹健太朗)が掲載されます。
 約2ヶ月前に『BLACK CAT』の連載を終えたばかりの矢吹健太朗さんの復帰作が早くも登場です。次回予告からはどういった作品なのかは全く判りませんが、これほどの短いスパンで大幅に作風が変わる事は考え辛いですから、恐らくは“良い意味でも悪い意味でも矢吹剣太朗”といった作品になるのではないかと思います。
 しかし次回予告のカットを見てて思ったんですが、矢吹さんは本当に“イラストは”文句ナシに上手いんですね。

 ◎「週刊少年サンデー」の次号(37号)には、『大久保嘉人物語』(作画:草葉道輝)が掲載されます。
 今週掲載の『福原愛物語』に続く、オリンピック代表選手のノンフィクション企画第2弾。今回は『ファンタジスタ』草葉道輝さんがマンガ化担当です。以前スポーツ物を描いていて、現在手が空いている作家さんを狙い撃ちしてますね(笑)。
 こちらも作品の性質上、レビューでは形式的な扱いになると思います。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」:読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年36号☆

 ◎読み切り(「第1回ジャンプ金未来杯」エントリー作品)『BULLET TIME −ブレットタイム−』作画:田坂亮

 作者略歴
 1977年7月9日生まれの現在27歳
 新人賞を経ないまま、「赤マルジャンプ」01年冬号にて『TRIGGER!』(作:高田義孝)のマンガ作画担当者としてデビュー。単独名義としては、「赤マル」02年春号掲載の『CRIME BREAKER』がデビュー作で、今回はそれ以来の作品掲載で週刊本誌初登場となる。
 なお、現在は岸本斉史さんのスタジオでアシスタントを務めている。
 
 についての所見
 クセの強い画風ですが、基本的には相当の画力を持っている作家さんだと思います。現役アシスタント(しかもスタジオ内で主力クラス?)だけあって、背景処理・特殊効果のレヴェルもかなりのもの。デビュー作がいきなり原作付作品だった…というキャリアは伊達では無いようです。
 ただ、線が必要以上に細かく、メリハリに欠ける画風は珠にキズ。リアルタッチで細微な絵を、まだマンガ用の絵に変換し切れていないような気がします。今回は主要キャラクターの描き分けが若干甘かった事もあり、読み辛い場面もまま見受けられました。
 また、今回は後述するネーム過剰もあってロングレンジからの構図が必要以上に多く、絵が細かい割に演出上の効果が上がっていないようにも思えました。画力が作品のクオリティに繋がりきっていないようで残念でした。 


 ストーリー・設定についての所見
 結論から先に言うと、色々な意味で消化不良で終わってしまった失敗作と断ぜざるを得ません。

 まず読み切り作品にしては細かい設定が多過ぎます。ストーリーを成立させるために必要な範囲を超えた設定を捌き切れず、お話を読んでいるというより、設定を詰め込まれているような気分になった方もいらっしゃるのではないでしょうか? 
 しかも、これだけ細かい設定を立てておいて、肝心のメインキャラクター設定がなおざりになっているのは大きな減点材料です。ストーリーを成立させるための“記号”としてのキャラ設定は豊富にあるのですが、彼らの人間的魅力を醸し出すような描写が欠けている感は否めませんでした。
 まとめると、せっかく練りに練った設定が、読み手を作品世界に没入させる手段になっていない…という事ですね。設定を立てる事そのものが目的化しているようで、この点は非常に残念でした。

 しかも、その悪性の設定過多が脚本、つまりネームの方にも悪影響を与えてしまっているようです。本来絵で描写しなければならない部分は当然のように、更には絵で描写出来ている部分までも逐一セリフやモノローグで説明してしまっているために、とにかく全編文字だらけになってしまいました。立てた設定は全て情報として提示しないと気が済まなくなってしまったのでしょうか、ちょっと異常な量のネームだったように思えます。
 セリフの中には前作同様かなり気の利いた遣り取りもあり、根本的な文章力やセンスは悪くないはずなのですが、今回は説明的なセリフの大波に飲み込まれてしまいました。本当に勿体無くて仕方ありません。

 シナリオ面も今回は不満が残る出来でした。凝った構成にしようという気持ちが勝ち過ぎて、それが逆にストーリーの判り辛さに繋がってしまっています。加えて、クールな雰囲気を醸し出す事に力を注ぎ過ぎたのか、全般的に緊迫感に欠ける展開になっているのも頂けない部分ですね。

 今回の評価
 実は、「金未来杯」にエントリーした5人の作家さんの中で、駒木が内心最も期待していたのがこの田坂さんの作品でした。前作で見せつけてくれたA級のポテンシャルを今回も見せ付けてくれると信じて疑わなかったのですが……。
 今作の評価は敢えて厳しくB寄りB−とします。持ち前の高い才能を発揮する方向性を完全に間違えているようで、今後も含めて心配でなりません。これが次回作で「駒木なんぞに心配される筋合いじゃないわ」という事になるよう、心から祈っております。
 


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週はサプライズ展開があった2つの作品から。
 まず『ONE PIECE』遂に船を下りるメンバーがウソップに確定という急転直下の展開に。確かに強さのインフレから取り残され、シリアスなバトルシーンには絡めなくなってはいましたが、日常シーンにおけるツッコミ役としては貴重な存在だっただけに、「思い切ったなぁ」というのが率直な感想ですね。
 どういった結末になるか全く予想もつきませんが、とにかく次回に注目というところで。 

 そしてもう1つのサプライズ展開は、やはり『DEATH NOTE』。竜崎Lを殺すのでなく、“そっち”に行ったか…というところでしょうか。しかし、段々と展開が前提条件無視の無理のある展開になって来ましたね。そりゃ、ほとんど伏線も張らずに事件を起こせば読者の意表を突く事は出来ますが、果たしてそれでどこまで破綻無く切り抜ける事が出来るやら……。
 こういう展開になるのなら、ライトもLも中途半端な天才ではなく、麻雀マンガの金字塔『バード』(作画:青山広美)のように、世界最強クラスの超天才による超絶バトルにしてしまった方が良かったかも知れませんね。それならば、どんな常識外れな事をやっても「夜神月(もしくは竜崎L)ぐらいの天才なら、これくらいは造作も無い事だ」という殺し文句で片付けられるようになるんですが。

 『こち亀』名物キャラ日暮が4年に1度の出番到来。駒木が「ジャンプ」読者になったのは今から16年前ですから、リアルタイムで5回(今年、4年前、8年前、12年前、16年前)見ている事になるのかな。
 しかも4年に1度という超レアなキャラクターの割には、いつもアッサリ風味で「あれ、もう終わり?」…と言いたくなるようなエピソードなんですよね。「名物に美味い物無し」というのはこのマンガにも適用されるルールのようで(笑)。
 特に今回は時差ボケ系のネタが無かったのが寂しかったですね。例えば、ちょうど4年前は慎吾ママが大ブレイクしていたんですから、「おっはー!」と、暑気払いになるクソ寒い挨拶でもしてくれれば、いかにも『こち亀』らしくて良かったんじゃないかと。え、そんなの面白くない? いやだって、『こち亀』って基本的に面白くな(以下自粛)。

  

 「週刊少年サンデー」2004年36号☆

 ◎読み切り『福原愛物語』作画:あおやぎ孝夫

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 「週刊少年サンデー」ウェブサイトの公式プロフィールによると1970年代生まれとのことだが年齢は不詳。
 第43回(98年後期)「小学館新人コミック大賞」で入選を受賞。その後しばらくのキャリアは不明だが、01年からは小学館発行の月刊誌「コミックGATTA」で『ジョカトーレ』の連載を開始。だが、同年「GATTA」誌が休刊となり連載終了の憂き目に。
 翌年には「週刊少年サンデー」に移籍。週刊本誌02年15号で読み切り『背番号は○(マル)』を発表した後、同年35号から04年1号まで『ふぁいとの暁』を連載していた。
 今回は連載終了後初の週刊本誌登場となる。

 についての所見
 2年前の「サンデー」移籍の時点で、既に完成度の高い作画が出来ていた作家さんですから、今回も取り立てて言うべき事は無いですね。十分に合格点の出来にあると思います。
 特に今回は福原愛さんの幼児時代から現在までを追う…というストーリーと毒の無いあおやぎさんの画風が見事にマッチした感があり、好感度の高い仕上がりになっていたのではないでしょうか。どこまで狙った人材配置なのか判りませんが、これは成功でしたね。

 
 ストーリー&設定についての所見
 スポーツ選手の実録モノをここで採り上げるのは久し振りですが、改めて思うのが「この手の作品に名作は無いな」という事ですね(苦笑)。物語性を無視し、取材した題材の中から採り上げた人物を極力肯定するものを寄せ集めて、それを時系列に添って並べてゆくだけ。これでは良質のエンターテインメント作品など出て来るはずがありません。
 誤解の無いように言っておきますが、これは作家さんが悪いのではなくて、マンガを使って気安くタイアップしてやろう、なんていう安易な企画が悪いんです。これだけ“大人の事情”で塗り固められてしまったら、どんな力量のある作家さんでも、名作を作り上げる事は不可能に近いでしょう。まぁ現実に炎尾燃とか富士鷹ジュビロとかいれば別なんですが(笑)
 
 
 今回の評価
 そういうわけで、今回からこの手の企画モノの読み切り(特に一定以上のキャリアのある作家さんの作品の場合)は原則評価無しという扱いにしたいと思います。低い評価出して、訳知り顔で「こういう作品描いてちゃいけない」なんて言うのは、キチッとプロのお仕事をしている作家さんに失礼ですしね。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「冷蔵庫にいつも入れておきたい物は?」。
 当たり前の話ですが、回答にアルコール系が無いというのが、いかにもマンガ家さんらしくて面白いですね(笑)。マンガ業界でも堂々と「酔っ払いながら作品描いてる」と公言してるのは、赤塚不二夫さん車田正美さんくらいでしたっけ? 
 駒木は……研究室の仕事ではホットドリンクばかり飲んでるので、あまり答えが浮かばないんですよね。食べ物で言えば、食パンと、それに塗るバターとかジャムとか蜂蜜とかですかね。ただ、夜中に食ってると太るんだよなあ。炭水化物と糖質と脂質の塊みたいなもんだから。

 さて、連載作品はアッサリめにやっときましょう。
 今週の『いでじゅう!』は、まさにモリタイシさんの持ち味フル回転といった感じでしたね。いつものラブコメ風エピソードだけではなく、『いでじゅう!』以前の初期作品で冴えまくっていた絶妙な間で繰り出されるギャグも随所で決まっていて、緩急のついた良い展開だったと思いますね。
 しかし、これを見てると、今週号の「サンデー」を『武装錬金』の世界に持っていきたくなりますな(笑)。そういうシチュエーションだけでギャグSSが1本書けそうです。

 ……では、今週はこの辺で。来週は旅行の合間を縫って、何とかゼミだけでもやりたいと思っています。

 


 

2004年第39回講義
8月5日(木) 
競馬学特殊講義
「駒木博士の高知競馬観戦旅行記」(8・最終回)

 ◎前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回

 今週は「現代マンガ時評」を後回しにして、こちらの方を優先的に進めているわけですが、ここに来て連日講義を実施しているにも関わらず、日に日に出席者数が落ちている事実が判明し、最終回を前にすっかり意気消沈の駒木ハヤトで御座います(苦笑)。
 この講義の原稿を準備中の只今8月4日深夜、ちょうど台風11号がやって来ておりまして、研究室の外は激しい風雨が吹きすさんでおります。とりあえず外へ飛び出して、『パタリロ』の「陰陰滅滅」ごっこでもやってみましょうか。……いや、順子ちゃん本気じゃないから。真顔で「ハイどうぞ」ってドア開けるの止めてくれないか。

 ──まぁそんな感じで、この度打ち切りが決まったTBS系「はぴひる!」の担当ディレクターのような士気でレポート最終回をお届けします。ここまで来たんですから、行き掛かり上せめて最後までお付き合いを。

 旅行初日の午後4時半過ぎの高知競馬場からレポート再開。いつも通り文体は常体、人物名は原則敬称略とします。


 払戻窓口(といっても、自動払戻機が並んでるだけだが)に辿り着くと、これがまたとんでもない事になっていた。

 1番人気の決着だったから人が多いのは分かる。しかも普段とは文字通り桁の違う人数が来場しているのだから、大行列になって当たり前だ。
 しかしなんだ、この毒蝮三太夫が言うところのクソババァの群れは。今日初めて観光バスに乗って競馬場に来ましたと、東京アメ横・大阪黒門市場系の服装で力強くアピールしているオバさんたちがここに一体何の用だ。貴方たちは駒木みたいにスレた競馬ファンとは違って、馬券の買い方も知らないまま、ただ純粋にハルウララの応援をしに来たんじゃなかったのか。なんでハルウララ外して馬券買って当ててるねん

 しかもこの人たち、駒木が競馬慣れしていると見えたのだろう、何の断りも無く、次々と質問して来るからたまらない。

 「ねぇねぇ、これ、当たってるんかな?」
 ……うわー、馬単15点買いですかお母さん。一応当たってますけど、競馬初めてにしては蛭子能収みたいな物凄い買い方してますな。
 「これ、ナンボになるんかな?」
 ……7.4倍の馬連1000円と11.3倍の馬単500円ですから全部で13000円くらいですか。え? 購入総額が11500円だから1500円ほど儲かって良かった? それは何よりですね。しかし、競馬初めてにしては凄い金額張ってますな。失礼ですけど、今日貴方が家に置いてきたお宅のご主人さん、昼ご飯何食べてらっしゃったんでしょうね。松屋? 吉野家? 
 
 いやー、世知辛い世知辛い。駒木が言うのも筋違いだけど、あんたたち、ちょっとは空気読みなさいよ!(男色ディーノ風に)。
 結論。渡る世間は鬼ばかり。橋田先生、貴方は正しかった! どうぞ末永く、赤木春恵が泉ピン子を苛め抜き、子供に反抗された角野卓造が貴重な毛髪を振り乱しながらヤケ酒を飲むようなお話を書き続けて下さい。

 ──というわけで、現代社会の世知辛さを痛感した駒木は、この後も自動払戻機のタマ(現金)切れという、普通ではお目にかかれない事態で更に時間を食われながらも何とか払戻しを終え、駅前デパート4階特設ブース・冬物最終大バーゲン会場を彷彿とさせる修羅場を離脱したのであった。
 そして高知競馬場から退出。多少名残惜しい気持ちはあれど、かと言って名残を惜しむ余裕も無いというのが正直な所。既に事実上の旅行開始から20時間を過ぎ、かなり体力的にも追い詰められて来ている上に、これから時間を潰して夜行で帰らなければならないのだ。誰だこんなプラン考えたヤツは? ……多分、日頃からうだつの上がらない、例えばヤフーBBのモデム配りなんかで糊口を凌いでいるヤツに違いない。

 疲れ果てた体を引きずるように、高知駅行の無料バス乗り場へと歩く。普段なら競馬場前までバスが来てくれるのだが、今日は混乱を避けるために(多分、バスツアー客が間違えて乗らないためだろう)随分と外れた所まで歩かなければならない。道端では、ツアーコンダクターと思しきスーツ姿の人たちが「○○交通社のツアーの皆さんは、あちらの駐車場までお願いしま〜す!」…とか懸命に叫びつつ、トランシーバーで誰かからの指示を仰いだりしていた。この人たちも大変だなあ。
 臨時のバス停車場でしばらく待つと、路線バスタイプの大型バスがやって来た。ところが停車するなり運転手が降りて来て、係員と運行ルートの確認を始める。どうやら臨時増便で駆り出された人らしい。大丈夫なのか。でもまぁ、バスだったらいつか目的地に着くから大丈夫か。これが飛行機とかだったら怖いけど。「こっち行ったら北朝鮮ですから、入ったら撃ち落とされます。気をつけて下さいね」とか。

 数分後、満員の乗客を積んでバス発車。駒木は何とか座席をキープし、往路では荒天のせいで窓が曇って見えなかった車窓の風景を楽しみながら、駅前に着くまで束の間の休息を摂る。
 窓から見える風景は、「これぞ四国」と言うような風光明媚な田舎道。たまにパチンコ屋やレンタルビデオ屋の広告看板があるのが哀愁をそそる。それにしてもシケた所に競馬場建ててるなあ。まぁ住宅街のすぐ近くにギャンブル場が建っている兵庫県が特殊なケースなんだろうけど、そりゃあ客も来んわと思ってしまう。

 道路の混雑もあって、市街地に入るまで30分以上かかっただろうか。バスはようやく高知駅の1キロほど手前、“はりまや橋前”の停留所に到着し、駒木はここで下車した。駅前で飲食店や商店が最も多く集まるとされるのがこの辺りだ。時刻は間もなく18時といったところ。これから帰りの夜行が出るまで、5時間ほどをこの界隈で過ごさなければならない。
 いつもの東京旅行ならば、“夜日程”と称して格闘技観戦や落語観賞、麻雀で旅費稼ぎを狙って逆に散財…などといったプランを組み、夜行までの時間を効率的に潰すのであるが、ここは地方都市高知。後楽園ホールも演芸場も点5のフリー雀荘も無いのである。さぁ、どうしたものか。
 それでも、ボケっとしていても仕方がないので、とりあえず歩き出す。しばらく行くと、1/4スケールにしたお堀の大橋のようなモノが見えてきた。どう考えてもショボい見てくれに、やたら真新しい塗装が痛々しい。どうやらこれが“観光名所・日本3大ガッカリ”として名高いはりまや橋らしい。う〜む、確かにガッカリだ。別にこれを観に来たわけじゃないのにガッカリだもの(笑)。
 それからしばらく周辺を歩き回ってみたところ、商店街らしきものを2つ3つ見つけたが、それも地元の人の生活と密着した店ばかりで途方に暮れる。しかもどの店も18時半を過ぎた辺りから続々とシャッターを閉めてゆくではないか。おいおい、もう町全体が店仕舞いかよ!
 ……気がつけば、周りで開いている店は、居酒屋コンビニと、何故かあったCoCo壱番屋ぐらいしか無くなっていた。まさか高知がここまで田舎だとは思っていなかった。県庁所在地だという事で少し甘く見ていたかも知れない。うーん、これからどうしようか。

 とりあえず腹も減ったのでココイチに入る。よく考えたら、今日は早朝に車中でパン食ってからは、鯨カツとホルモン焼きしか食っていなかった。今日の競馬新聞を見たりして今日の記憶を反芻したりしながら、ロースカツカレー・チーズミックス・ライス100g増量を平らげる。さすがチェーン店、カレーの味は神戸と寸分も違わない。
 店内にいたのは小一時間くらいだっただろうか。時刻はまだ19時台。あと3時間チョイをどうにかして潰さなければならない。
 こういうハンパな時間を潰すにはマンガ喫茶が一番なのだが、マクドナルドやドトールコーヒーすら見当たらないこの町に、果たしてマンガ喫茶なんかあるのだろうか。イスラム教圏で豚カツ専門店を探すようなものじゃないのか。
 それでも時間が余っている事だけは確かなので、暇潰しも兼ねて暇潰しスポットを探す(不毛だなオイ)。まずは一旦高知駅前に戻ってみるが、もう駅構内の喫茶店も閉店しており、そこから追い出されたと思われる10数人の旅行客が近くの待合所(ベンチと自動販売機があるだけの場所)で途方に暮れていた。適切な喩えじゃないと思うが、まるで難民か避難民のようだ。
 さすがにここで3時間を過ごすのはバカバカしいので、駒木は駅の外に出て再び歩き出す。まず、市街地と反対側の駅前はどうなってるのだろうと駅前の歩道橋を渡ってみたが、驚くほど真っ暗だったのに怖気づいて即引き返す。恐らくは閑静な住宅街なのだろう。だが、それにしても歩道橋の上から俯瞰してもコンビニすら見当たらないのには参った。数キロ先にパチンコ屋かカラオケボックスのネオンサインが光っているのが見えたが、まるでスモッグで真っ黒に曇った都会の夜空に鈍く光る月明かりのような不気味さだけを感じる。
 再び1キロの道のりを引き返し、あらかたシャッターの閉まった“はりまや橋前”へ。あっちへウロウロ、こっちへウロウロしながらマンガ喫茶を探す。人通りも少なく、こんな所にマンガ喫茶があるのか、あったところでマトモな店があるのかと不安になる。最近の極限まで設備の整ったマンガ喫茶しか知らない人はピンと来ないだろうが、3年くらい前までは「物凄い」としか形容しようのないマンガ喫茶があったりしたものだ。「飲物、食事無料」と謳っていて、中に入ってみたら電気ポットとカップラーメンとインスタントコーヒーと紅茶のティーバッグが置いてあったり。
 結局、都合1時間は捜し歩いただろうか。メインストリートから少し外れた所に、白木屋と魚民とカラオケボックスが同居しているという、微妙に流行から取り残された“準都会”を象徴するようなビルがあり、そこの1フロアにマンガ喫茶があるのを遂に発見した。料金設定が多少割高なのは気になったが、最新型の設備が整っているようだった。とりあえずしばらくは時間が潰せそうなので速やかに入店する。

 入店早々、受付の娘さんから「当店は会員制ですので、入会料をお支払い下さい。会員証をお作りいたします」などと言われる。神戸からの旅行者に高知のマンガ喫茶の会員証も無いので断ろうとしたら、入会しないと利用出来ないというお答え。腑に落ちないなぁと思いつつも、たかが数百円の入会金でアルバイトの女の子を困らせるのもアレなので、渋々入会する。でもお嬢さん、「ご利用ポイントに応じて様々なサービスが御座います」って、それはギャグで言っていたのか?
 ただ、最初でいきなり躓いたが、店内の設備はかなりの内容でこれは満足。フリーのソフトドリンクも充実しているし、地方都市の店にしては頑張っている方だろう。個人的にはミニッツメイドのグレープフルーツがあるというのが高ポイント。
 とりあえずここでは料金を気にしながら1時間ほど、留守中にチェックできなかったインターネットの巡回を中心に過ごす。わざわざ金払ってるんだから、未読のマンガ読んでりゃ良いのに…とセルフツッコミしながらも止められない職業病。

 店を出た時点で、夜行の発車まで1時間強。これくらいなら、コンビニで立ち読みしたりして何とか暇潰し出来そうだ。24時間ほぼ不眠不休で体にかなりキているのだが、もう帰りの夜行で寝るための睡眠薬代わりだと開き直って体を酷使する事にした。さすがにこれだけ疲れておけば、トドメの缶チューハイ1本で安らかな眠りに就けるだろう。
 高知駅に戻ったのは22時半ごろ。駅前は、駒木と同じ夜行に乗る旅行客がウロついているのを除けば、すっかり閑散としてしまっている。とても県の中心部にある駅とは思えないが、高知駅の時刻表を見たらそれも肯ける。この時点で、もうほとんどの電車が終わっているのである。駒木が乗る「ムーンライト高知」が上り線では正真正銘の最終便で、その前に出る土佐山田行の普通電車は、何と1両編成のワンマンカーだ。
 その普通電車が発車して間もなく、「ムーンライト高知」が入場するというので、いよいよホームに入る。改札を青春18きっぷで通過。今朝、三ノ宮から高知まで乗って来た日付の18きっぷで帰りのホームをくぐるというのは変な感覚だが、これこそ0泊2日弾丸旅行の醍醐味である。本来なら、高知から神戸まで行く場合は、23時前に高知駅を出てから土佐山田駅で日付が変わるまでの運賃1580円が余計にかかるのだが、今回のプランならその分が節約出来るのである。これぞ普通の人にはお薦め出来ない、体を犠牲にした極限の交通費節約策だ。

 「ムーンライト高知」普通指定席の座席は、簡易リクライニングシートと呼ばれる旧式のイスで、座り心地は決して良くない。いつもの駒木ならとても寝つけないところだが、疲労困憊の今日はさすがに眠れそうだ。発車間もなく、先程立ち読みしたコンビニで仕入れた缶チューハイを呷ると、あっという間に睡魔が襲い掛かって来た。おお、素晴らしい。生まれて始めて夜行列車で熟睡出来……
 ……と、意識を失い、次に目覚めた時には既に岡山を過ぎていた。時刻は午前4時。5時間弱眠っていた事になる。上出来だ。
 この後の事については、多言を要さない。その後、1時間半ほど読書と車窓を楽しんで、午前5時半に三ノ宮に到着。高知では売ってなかった「週刊少年ジャンプ」と「週刊競馬ブック」を手に入れて、フラフラと家路に就いた。家では入浴の後、夕方まで爆睡したのは言うまでも無い。

 しかし、今回の旅行は色々な意味で“濃かった”。往路のデタラメ極まりない移動手段、高知競馬場で立て続けに見た異様な光景の連続、そして疲れた体を引きずって辿り着いた高知駅前で必死に試みた暇潰し。不毛と言えば不毛だし、充実していると言えば充実していただろう。
 だが、受講生の皆さんに言っておく。こんな旅行、絶対マネするな。間違いなく後悔するぞ。


 ……というわけで、高知競馬旅行記でした。全8回のうち、主役であるハルウララが出て来たのは結局1回だけでしたね。本当にどうしようもないレポートでしたが、少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。(この項終わり)

 


 

2004年第38回講義
8月3日(火) 
競馬学特殊講義
「駒木博士の高知競馬観戦旅行記」(7)

  ◎前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回

 今日は高知競馬場でハルウララとその弟妹が同じレースで対決するというイベントがあったわけですが、併せて関係者からハルウララの引退も発表されました。ただし来年の3月、今年と同じ黒船賞当日に引退という、鬼が「水曜どうでしょう」の藤村ディレクターのように派手に笑いそうな先の遠いお話。それでもこのニュースはテレビなどでクソマジメに報じられ、それを見た駒木は力なく笑う他ありませんでした。
 それにしても豪快な焼畑農業というか、1年ごとに結果を出さないと即廃止、という苦しい台所事情がヒシヒシと伝わって来る話で、駒木は気が気じゃありません。プロレス業界などでも、自団体の目玉レスラーが引退する時には半年以上かけて引退カウントダウン・シリーズを全国展開し、カネを稼げる内に根こそぎ稼ぎきってしまうわけですが、大抵その直後から集客も収益もガタ落ちするのが普通ですからね。妹のミツイシフラワーじゃ“次期エース”には役不足(新用法)ですし、普通に考えると来年3月にハルウララ引退レースで大入り満員、再来年か3年後の3月には高知競馬廃止を惜しむ人で大入り満員…という悲しい結果になりそうです。
 個人的には、高知競馬場は地方競馬の良い所を残した素晴らしい所だと思っていますので、何とか存続していってもらいたいんですが……。

 ──まぁ湿っぽい話はとりあえず置いておいて、春のお祭りのお話を再開しましょう。今日でいよいよ主役登場です。
 旅行初日の午後4時過ぎの高知競馬場からレポート再開です。いつも通り文体は常体、人物名は原則敬称略とします。


 黒船賞の出走全馬がゴール板を駆け抜けたのを確認するなり、駒木は馬券発売窓口へ向けてダッシュした。勿論、最終レースの馬券を買い求めるためである。メインレースが終ったことで、これまで前売窓口だけでしか買えなかった最終レースの馬券が、全ての馬券発売窓口で買えるようになるのだ。
 駒木が駆けつけた時点で、各窓口には10数人ほどの列。これなら25分程度で順番が回って来るので、十分間に合うだろう(メインレース終了から最終レースの馬券発売締切までは30分以上ある)。そう、この日でさえ、機敏に立ち回ってさえいれば、長々と行列の中で立ち尽くさずとも、最終レース前にちょっと並ぶだけでハルウララ馬券を買う事は出来たのだ。やはり鉄火場はトロい人間が泣きを見てしまうのである。まぁ一番泣きを見るのは、駒木のように頭の回らないヤツなのではあるが。

 さて、ハルウララ馬券は既に購入済みなのにも関わらず、こうしてまた馬券発売窓口に並んでいるのは他でもない。ハルウララ以外の馬の単勝馬券を買ってちょっと儲けてやろうという、空気の読めていない上に世にも浅ましい作戦を実行するためである。
 朝から全国中で買われ続けたハルウララの単勝馬券の額は億単位にもなる。当然の事ながら、ハルウララはダントツの単勝1番人気。しかしハルウララがこの日のレースを勝つ確率は、たとえ武豊騎乗であっても極めて低い。これは即ち、本来なら単勝1番人気に推されるはずの馬が、本来の力関係では考えられない高いオッズに甘んじているという事である。実質的な回収期待値は遥かに100%を超えているだろう。これを狙わずして何を狙おうというのか。たとえ高知競馬場にいる全員を敵に回してもやってやる。

 ……などと思っていたら、場内モニターに映し出された他の馬の単勝オッズが意外と低い!(笑) あれだけ馬券の売れてたハルウララのオッズが1.9とか2.0倍ってどういう話なんだ。これって単勝に投じられた総額数億円の内、半分以上がハルウララ以外の馬に賭けられているって事になるぞ。
 どうやら、ここでも皆が考えている事は一緒だったらしい。ハルウララの馬券を“グッズ”や“お土産品”として購入する一方で、新聞の馬柱に◎や○印のついていた馬の単勝を“勝負馬券”として買っていた連中が全国にゴマンといたようだ。駒木が言うのもアレだが、世知辛いにも程がある(涙)。
 結局、本来の本命馬で、結果的にこのレースの勝ち馬となるファストバウンス号の単勝最終オッズは4.0倍になった。これでも本来のオッズよりは随分と高いのだろうが、計算上は単勝支持率約18.5%で、ざっと数千万円の投票があった事になる。ハルウララも異常投票なら、これも異常投票だよなあ。株で言う仕手戦みたいなもんか。

 別のモニターテレビにはオッズ情報でなく、パドックの様子を中継放映しているものもあった。パドックには大勢のギャラリーが溢れかえっていて、臆病なハルウララがイレこみやしないか…などと心配していたが、数ヶ月来のフィーバーでこれくらいは慣れてしまったのか、大人しく周回を重ねていた。
 せっかくだからハルウララの外見的特徴でも……と思ったのだが、ちょっと小さめのサラブレッドという以外に語る事無し(笑)。そりゃまぁ同じ種類の馬だけ集めて競走してるんだから当たり前と言えば当たり前か。これが馬じゃなくてキリンとかだったら、「毛は他と違って黄色に黒の斑が入っていて、あと、バカみたいに首が長いです」とか言えたのだが。
 ……やがて騎手控え室から、最終レースに出場するジョッキーたちが姿を現した。遠征騎手用の貸し勝負服を着た武豊も照れ気味にはにかみつつ登場。係員から形ばかりの諸注意を受けた後、ハルウララの下へと向かい、そして跨る。この時、武豊は「スタートが決まれば逃げるつもりです」と宗石調教師に告げたそうである。先行有利の馬場状態もそうだが、ハルウララの臆病な気性や、瞬発力に欠ける感のある近況を考慮しての作戦提示だろう。さすがは新人時代「歩く競馬四季報」と呼ばれた男、気の進まない仕事であっても、多忙の合間を縫って最低限のリサーチはキッチリ入れている。

 ハルウララ他、出走各馬が本馬場へ入場したのとほぼ同時に、駒木は馬券購入を終えてゴール板前へと移動した。後ろでは急ごしらえの櫓が建てられており、そこで実況アナウンサーが大声を張り上げていた。どうやら全国ネットでレースの模様を中継するらしい。
 しかし重賞レースをスルーして最下級条件のレースを全国中継とは、ミッキー・ロークがメインイベントで猫パンチを披露した“伝説の”ボクシング興行を思い出させるエピソードだよなぁ。でもまぁ今日は野暮ったい事言うのは禁止か。曲がりなりにも高知競馬のPRになってるんだから、ヨシとしないといかんわな。
 それにしても場内の空気が妙に緩くて居心地が悪い。普通は、どんなに大レース前で浮かれムードになっていても、ギャンブル場特有の緊張感みたいなものも残っているものだが、今日は競馬場というよりタレント出待ち中の空港ロビーみたいな感じがする。ハルウララを外した馬券握って独りでドキドキしてるのがバカみたいだ。

 そうこうしている内に、出走時刻がやって来てファンファーレが鳴る。大レース御馴染みの手拍子も無し。今日来ている客の大半は「今日が競馬場来るの初めて」という超ビギナーなので、「大レースの時はファンファーレに合わせて手拍子しなくちゃいけない」という、競馬初心者でも身に付けている(誤った)知識すら持ち合わせていないのだ。
 ハルウララもゲート入りはスンナリと終り、スタート態勢が整った。

 ゲートが開く
 
ハルウララ、見事に出遅れる。

 
逃げるどころか中位辺りをキープするのが精一杯。騎手のスタート失敗というより、根本的にダッシュ力が足りないのが出負けの原因だろう。
 鞍上の武豊は、この時点で早くも敗戦を確信したそうだが、駒木も「ああ、こりゃアカン」と思った。現時点におけるハルウララの実力では、後ろから行ったのでは最後に追い上げても到底先頭には届かない。
 後から聞いた話だが、実はこの時高知競馬所属の騎手たちは、涙を呑んでスタートからハルウララを徹底的に負かしに行っていたとのことだ。「ウララに勝たせたいのはヤマヤマだが、落下傘みたいにやって来た中央の騎手に手柄を奪われるのを許すわけにはいかない」…というわけである。
 とはいえ、場内の雰囲気はあくまで穏やか。そんなギスギスした駆け引きが起こっているとは知る由も無いギャラリーからは、「ガンバレー」などといった無邪気な声援と拍手が飛ぶ。まるで小学校運動会の徒競走の世界
 レースは淡々と展開し、バックストレッチからやがて3コーナーへ。ここで「せめて見せ場でも」と思ったのだろう、武豊が強引にゴーサインを出して進出を開始。ただし直後に終了(笑)。馬群の中でもがきながらズルズルと後退して行き、間もなくゴールしようかという先頭集団からは大きく離されていった。それでも客席からは相変わらずの無邪気な声援。それに後押しされるというより、温かく包まれながら、ハルウララはブービーの10着でゴールした。これで都合106連敗という事になる。

 ──さて、祭りは終わった。
 馬券も一応当たったし、とっとと払戻しに行って、混雑しない内に帰ろうか……などとレーストラックに背を向けて歩き出した途端、何故か場内から巻き起こる大歓声と拍手。何事かと思って振り返ると、何とハルウララと武豊がウイニング・ランの要領でコースを余分に1周し、ホームストレッチに戻って来てギャラリーからヤンヤの喝采を浴びているではないか。

 前代未聞のルーザーズ・ラン

 いやー、しかしこの発想が見事だ。さすが武豊、役者が違う。普通の騎手なら、まずこんな事考えないし、考えたにしても(そいつがとんでもない阿呆でもない限り)行動に移そうなんて思わないだろう。
 これは、武豊ほどの超一流騎手にしか許されない、また、意図的に自分の存在感を抑える事の出来る武豊だからこそ可能だったパフォーマンスだったはずだ。もしこれを後藤浩輝あたりがやったとしたら、「あのバカ、自分が目立つ事しか考えねえ」とか言われたに違いない。

 ルーザーズ・ランを見届け、「いやー、事の良し悪しは別にして貴重な体験をしたなぁ……」などと心地良い余韻に浸りながら、今度こそ的中馬券払戻機の方へ向かう。
 しかし、そこで見た光景は、そんな幸せな余韻をブチ壊すのに十分過ぎるインパクトを持っていた。次回へ続く

 ※次回で完結予定です。最後まで宜しく。 

 


 

2004年第37回講義
8月2日(月) 
競馬学特殊講義
「駒木博士の高知競馬観戦旅行記」(6)

 ◎前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回

 高知旅行レポの6回目をお送りします。
 ……しかし、今年3月22日の高知競馬レポを執筆・掲載しているウェブサイトは数多くあれど、4ヶ月以上引っ張って未だにハルウララが出て来ないレポートというのは、多分当講座のこのレポートだけでしょう(笑)。なんでしょうか、30前の兄ちゃんが小難しい能書き垂れながら高知駅前と競馬場内をウロウロしているだけで5回も引っ張ってしまうというこの力技は。マワシ取られてからの貴ノ浪みたいな。
 ただ、そろそろピッチを上げないと色々な意味でシャレにならないのも事実でありますので、せめて次回あたりには何とか“主役登場”という事にしたいと思っております。とりあえず今しばらくバカの戯言にお付き合い頂ければと、このように思っております。どうか何卒。

 では、時は旅行初日の午後2時過ぎ、場所は相変わらず高知競馬場からスタートです。文体は常体、人物名は原則敬称略とさせて頂いてます。


 ホルモン焼きで空腹とストレスを紛らわせた駒木は、再び勝算の無い馬券戦線に復帰するため、観戦スタンドへと戻って来た。
 この段階で既に入場制限も行われているようだったが、実のところ、それほど深刻な混雑が起きているとは思えない。確かに普段の高知競馬場では考えられないほどの客入りなのだろうが、まだスペースには十分余裕があった。これなら園田競馬の年末年始開催の方が混んでいる位だし、競馬ブームの頃、G1レース当日の阪神競馬場で体験した殺人的混雑に比べると、「混雑」と言うよりちょっとした「雑踏」のレヴェルである。
 ただ、前売の馬券発売窓口だけは相変わらずの長蛇の列で、30年前の人がタイムスリップしてこの光景を見たら、「あれ? 競馬場でトイレットペーパーでも売ってるの?」と思うような状況が続いている。並んでいる人の顔には明らかに疲労の色が浮かんでいて、「自分はこんな所まで来て何しているんだろう」と自問自答しているようにさえ見える。駒木も最終レースの馬券をゴミ箱に放り捨てながら同じ自問自答をする事があるが、多分それとは別の類のものだろう。
 一連のハルウララフィーバーで、「競馬場内は大混雑で、長時間並んだにも関わらず馬券が買えない人もいた」…という報道もあったようだが、実際はそうではなかったのだ。混んでいるのは窓口だけ。普通に競馬と馬券を楽しむだけなら、別に何の支障もありはしない
 この事からだけでも、いかにハルウララフィーバーというものが、高知競馬、いや競馬業界全体にとって特殊な事象であったかが窺える。これは競馬ではなくハルウララという存在だけにスポットが当たった現象で、それでいてカネだとか諸々のドロドロした部分だけは競馬業界全体で引き受ける羽目になっているという歪んだ構図。
 まぁこんなのは競馬だけでなく、どんなプロスポーツでも起こりうる話だ。相撲の若・貴フィーバー然り、女子プロレスのビューティペアとかクラッシュギャルズのブームも似たようなもんだろう。問題は、そうやって右も左も判らず集まって来た人を、いかに“正しい方向”へ導いて行くかで、これが大変に難しい。例に挙げた大相撲や女子プロレスの現状がそれを物語っている。競馬界でもオグリキャップの時に大きく顧客を増やしたが、結局は定着させ切れないまま、ジリ貧状態になって現在に至っている。
 今回のハルウララの場合はどうだろうか。残念ながら高知競馬の盛り上がりは、この3月22日をピークに一過性で終わってしまうような気がしてならない。主催者の高知競馬は物理的な処理能力限界のためにフィーバーを無事に乗り切る事だけで精一杯という感じだし、かと言って業界内外から高知競馬をサポートしようという動きも無い。それどころか武豊が「このハルウララフィーバー、ちょっとおかしいんじゃないですか?」みたいな事を言った途端に、彼の提灯記事専門ライターが競馬雑誌に長々と批判記事を垂れ流して足を引っ張る始末である。
 まぁ騒動に巻き込まれて迷惑を被った武豊が愚痴をこぼすのは仕方ないにしても、虎の威を借る狐が虎の代弁者の風情で好き勝手言うのは正直閉口した。高知競馬の騎手や厩舎スタッフの皆さんが、どんな思いでギリギリの経済状況に置かれながらも自分たちと愛する馬の居場所を守ろうとしているのか。高知空港から競馬場まで悠然とタクシーで乗り付けて重役出勤して来るような狐さんには、きっとその辺は死ぬまで分からないんだろう。

 ……とまぁ「週刊競馬ブック」の購読者以外にはチンプンカンプンな苦言はさておき、レポートを続ける。
 この日の高知競馬は、後半にメイン級のレースを畳み掛ける贅沢な構成になっていた。中央500万下条件馬と高知準オープン馬との交流競走、全国の競馬場から選抜された若手騎手が腕を競う「全日本新人王争覇戦」、そして交流重賞・黒船賞があって、事実上のメインレース・ハルウララ出走レースへと続く。
 何もたった1日にこれだけの目玉レースを放出しなくても…という考えも一瞬頭をよぎるが、よく考えたらこれほど馬券の売上げが見込める条件(万単位の来場者&馬券の全国発売)が揃う日など他にあるはずもないので、馬券が売れる日に何でもやってしまえ…という発想は決してナシではない。ましてや3月は収支決算にとって非常に大事な年度末。道路工事とガス工事と電気工事と水道工事を立て続けにやるようなものだと思えば、まぁ納得がゆくというものだ。

 しかし、そんな中でも駒木の馬券戦線は停滞気味である。まぁ年がら年中停滞している戦線なので、「南部戦線異常なし」というところではあるのだが、それにしても忸怩たる思いである。
 第7レースの交流競走は的中させたものの、何のヒネリも無い馬連1番人気の決着で確定オッズは4.2倍。今日前半の損失補填には程遠い。
 第8レースの全日本新人王争覇戦は、ハングリー精神旺盛な地方競馬の騎手が乗った先行馬・モエロイイオンナ号から狙ったところ、4コーナーで急失速して10着惨敗。「雨で湿気て燃えられませんでした」とオチまでついた。いらんわ、そんなオチ
 ちなみにこのレース、中央競馬所属騎手のワン・スリーフィニッシュ。表彰式を見てると、何だか今年のF1レースでフェラーリ勢が上位独占した時と同じような脱力感が。勝った騎手には罪は無いが、やっぱり興醒めというか何と言うか……。

 ──などとやっている内に、もうメインレースの黒船賞ではないか。早いなあ、時間が経つのは。モデム配ってる時はあんなに進みが遅いのに。
 さて、黒船賞の出走メンバーは第2回で紹介した通りだが、やはり実力上位の中央所属馬を軸に考えるのが無難だろう。実力最右翼はノボトゥルーだが、不良馬場という事を考えると、逃げ馬のディバインシルバーから狙ってみるのが馬券的には面白い。
 ……などと考えていたら、この2頭の組み合わせの馬連オッズは何と2倍台の圧倒的1番人気。そうですか、考えてる事は皆一緒ですか。
 レース前から半分負けたような気持ちになりながら、ディバインシルバー軸の馬連で、ノボトゥルー、ノボジャックの中央馬2頭と、身内贔屓も多少込めて兵庫所属のホクザンフィールドに流す3点買い。馬単で攻め切れないのは、午前中に逃げ・先行馬の不発に散々痛め付けられた後遺症である。こういう時に限ってアッサリ逃げ切ったりするものだと言う事は経験上よく知り抜いているのだが、もう儲けとかはどうでも良いから目先の的中が欲しい気分になっていた。

 で、結果は──

 1着:ディバインシルバー(逃げ切り)
 2着:ノボトゥルー
(4角捲り)
 3着:ホクザンフィールド
(追込届かず)

 ノーコメント。

 

 (ご愛読有難うございました。駒木博士の次回作にご期待ください!)

 

 ……と済ませたいくらい心底脱力した馬連2.7倍の決着。博才が無いにも程があるぞ駒木ハヤト!
 しかし、残念だったのは出場騎手が日本を代表する名手ばかりだったにも関わらず、不良馬場のために駆け引きも何にも無い単調なレース展開になってしまった事だった。まぁ、ひょっとしたら素人目には判らない部分で熾烈なバトルがあったのかも知れないが。

 しかし、メインレースの余韻に浸っている暇は無い。ハルウララの出走する最終レースに向けて、駒木は本日最後の馬券作戦に着手したのであった。詳しくは次回を待て!(大袈裟に次回へ続く


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