「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

3/30(第120回) 社会調査「ヤフーBBモデム配りアルバイト最終報告」(1)
3/29(第119回) 競馬学特殊講義「駒木博士の高知競馬観戦旅行記」(1)
3/27(第118回) 
競馬学特論「駒木研究室競馬予想No.1決定戦〜04年春シリーズ・暫定第2戦・高松宮記念」
3/26(第117回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(3月第4週分・合同)
3/19(第116回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(3月第3週分・後半)
3/16(第115回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(3月第3週分・前半)
3/12(第114回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(3月第2週分・合同) 
3/9(番外) 
人文地理「続々・駒木博士の東京旅行記」(7・最終回)
3/6(第113回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(3月第1週分・合同)

3/2(第112回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・『青マルジャンプ』特集」

 

2003年第120回講義
3月30日(火) 社会調査
「ヤフーBBモデム配りアルバイト最終報告」(1)

◎第1期(「潜入レポ」)のレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回
◎第2期(「現場報告」)のレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回

 「総受講者数200万人突破記念講義シリーズ」の第2弾は、何故か半年ごとに蘇る当社会学講座の人気講義シリーズの“最終章”です。
 既に「観察レポート」で再三お伝えしてますように、駒木は先日遂にこの仕事から離職し、晴れて“元スタッフ”になっております。今後はバックヤードの噂話などを収集する事も難しくなりますので、成り行き上、このシリーズも続行困難という事に相成りました。駒木本人としても名残惜しくはありますが、せめて綺麗に幕引き出来ればなぁ…と思っております。どうか皆様、最後まで宜しくお願い申し上げます。

 というわけで始まりました最終シリーズ、今日の第1回目は、恐らく受講生の皆さんが一番興味のある事柄と思われる、例の顧客情報流出についてのお話をさせて頂きます。
 この話題については、最近になって同業他社でも同様の不祥事が発生しましたね。そのニュースを耳にした時は思わず、「アッカよ、お前もか」などと、まるで古代ローマの英雄みたいな言葉を口走りそうになったのでありますが、それにしても我らがソフトバンク=ヤフーBBは不祥事の部門においても業界のトップランナーであったのかと改めて感慨に耽る今日この頃であります。
 “後発組”のアッカの場合はそうでもありませんでしたが、他はともかく自は認めるADSL業界最大手・ヤフーBBの顧客情報に関してはマスコミの関心も高く、事件発生当初は新聞各紙で大きく報じられた事は皆さんもご存知でありましょう。実はその頃、駒木研究室には複数のマスコミから取材依頼が舞い込み、都合の合った所とは電話取材に応じたりもしたのですが、残念ながら駒木がお話した内容が報道に反映される事はありませんでした。不良企業に天誅を下すお手伝いをしようというこちらの善意が実らず非常に残念であります。
 どうも先方は、駒木のような末端スタッフにまで全会員の個人情報にアクセスする事が出来たのではないかと考えて駒木にコンタクトを取って来たようです。しかし、いくらあのソフトバンクでも、そんな一兵卒に核のボタンを委ねるようなマネなどするはずもなく、訊かれたこちらとしても素気無く否定するしかありませんでした。第一、そんな事が出来るなら「出来ちゃいますよ」と1年前に講義で喋ってます
 欲しかった言質が取れず、受話器越しに残念そうな声を漏らす記者さんの事を思うと胸の奥底から込み上げてくるモノもありましたが、「申し訳無いが、無い袖は振れんのです」と、心の中で泣いてお詫び申し上げた次第です。
 ……ただ、そんな核兵器級のネタこそありませんが、プラスチック爆弾くらいのネタは駒木でも持ってたりするのがソフトバンクの恐ろしいところ。今日はそんな「末端スタッフから見た、現場レヴェルにおける杜撰な情報管理の実態」についてお話したいと思います。
 今から話す内容には結構危ない内容が含まれておりますが、危険を放置するよりはそれを喚起する意味でもお話した方が良いだろうと判断しました。これをご覧の皆様にはくれぐれも悪用厳禁でお願いしたいと思います。
 しかし「悪用厳禁」とか言いますと、違法性の高いファイル交換ソフトやバックアップソフトを大っぴらに紹介しておいて、「悪用厳禁」の一言で済ませてしまおうとする某企業を連想してしまうのですが、まぁ因果は巡ると言う事でどうか一つ。

 ──さて、お話を始めましょう。駒木が勤務していたような電器量販店の“パラソルブース”でヤフーBBに申込む場合、お客さんは所定の申込書に必要事項(住所、氏名、電話番号等)を記入する事になります。現在使用されている申込書は複写式になっており、スタッフはその場で複写された方を控えとしてお客さんに手渡し、原本の方をお客さんの目の前で受理して、これで店頭での手続きは完了となるわけです。
 お客さんの目に届くのはここまでです。大抵の場合、お客さんは安心しきった表情で「ありがとう、後はお願いね」などといったお声をかけて下さったりもします。しかし、その後の申込書とその記載事項──即ち、個人情報の扱いを目の当たりにしたら、果たして先程と同じような安堵の表情を浮かべる事が出来るでしょうか──?

 手続きを完了したお客さんをブースから送り出すと、接客に当たったスタッフは、まず申込書記載事項の中からお客さんの氏名と電話番号を“顧客名簿”のような別紙に控え、申込書の方はその日の内に量販店の担当者(大抵はOAコーナーのチーフ)に手渡します。担当者は申込書の内容をウェブ上でソフトバンクに送信して“公式エントリー”の作業を行い、その後、申込書は量販店の管理するファイル等に綴じられて店内に保管されます。
 ただ、「店内に保管」と言うと聞こえは良いですが、別の角度から見てみると、これは申込書がソフトバンク=ヤフーBBの目の届かない所に持っていかれるという事に他なりません。ヤフーBB側が各量販店の店員について調査しているわけはありませんし、量販店はADSL各社(DION、OCN他)も含めて様々な会社から日替わりで派遣スタッフを受け入れています。その日に何人のどういう人が勤務しているかは、店側も完全には把握出来ていない場合も多いです。そういう中に大事な顧客の個人情報を残しておくと言う事は、“保管”ではなく、もはや“放置”に近いと申し上げて良いのではないでしょうか。
 実は、電器量販店の大きな悩みの一つ内部の人間による商品の万引きがあります。時にはデジカメが箱ごと1ダース盗まれるといった大胆な犯行も行われたりしており、量販店では「万引きは客を疑う前に身内を疑え」というのが鉄則になっています。
 勿論、量販店側も色々な策を講じ、店員の勤務時間中外出禁止や退勤時の私物チェック等といった、校則の厳しいお嬢様学校真っ青の施策も採られていますが、それでも盗難は後を絶ちません。今、こうやって駒木が喋っている時にも、店長からの「万引きされたデジカメ、(どうせお前が犯ったんやろうから)責任とって弁償せえ」という理不尽な要求に絶句する店員が全国各地で発生していたりするのです。ハッキリ言って、いつ個人情報の“万引き”があってもおかしくはありません
 各量販店の“パラソル”では、一月あたり30〜150ほどの新規契約が獲得されます。既にキャンペーン開始から1年以上経過している店もありますから、多い所では既に1000件を超える個人情報が“保管”されているという事になります。一連の事件のような何百万件といった規模ではありませんが、それでもまとまった数の個人情報が絶えず流出の危険に晒されている事は確かです。
 問題は、この危険性をソフトバンク=ヤフーBB側が気付いているかどうかなのですが、情報流出からしばらくして(あくまで「しばらくして」です)クレジットカード番号の記入欄があるタイプの申込書を完全破棄するよう指示がありましたので、どうやら薄々と気付いてはいるようです。もっとも、孫社長の頭髪じゃあるまいし、そんな危険を薄々と感じられても困るわけですが。

 また、申込書引渡し前にスタッフによって控えられた“顧客リスト”の扱いも、恥ずかしながらかなりいい加減です。これは全国のスタッフを勝手に代表して駒木が皆さんにお詫び申し上げておきます。
 しかしながら、これには理由がございます。各量販店のヤフーBBスタッフには店頭の“パラソル”ブース以外、貴重品を保管するような物──鍵付きのロッカーやケースなどは与えられておらず、更衣室すら貸してもらえない場合もあるのです。女子スタッフが人知れずトイレで着替えていた…なんて悲惨なケースも聞いた事があります。
 そういう状況ですから、名簿などの書類も結局は店頭のブース内に“保管”するしかありません。当然、封筒に入れるなどして目隠しをし、極力人目のつかない所に置く事になるのですが、それでも限界があります。いつだったでしょうか、(ロッカーが無いので)ブース内にカバンを置いておいた駒木が、巡回に来たSV(=スーパーバイザー)から、「こんな所にカバン置いておいたら誰が盗って行くか分からんから、せめて貴重品だけは手元に持っとけよ」…などと注意を受けた事があったのですが、その「こんな所」に1000人分の“顧客名簿”が“保管”されているのですから、これは笑えない笑い話です。
 そもそも、その情報を“管理”する我々末端スタッフも、第1期シリーズ第1回および第2回のようなエエ加減極まりない採用&研修で現場へ送り出されていますので情報漏洩に対する危機意識が高いわけがありません。それどころか、独り暮らしと思しき若い女性(NTT回線名義人が女性本人でマンション暮らしだと簡単にそう推測出来る)の申込書を眺めてニヤけてた危ないヤツもいて、その時はちょっと本気で心配になりました。
 今更こんな事を言うのもナニですが、もうちょっと派遣会社もスタッフ採用時にジックリと面接してもバチは当たらないような気がします

 ──というわけで、今日はいきなり核心に迫った話をしてみました。ちょっとアクセルを吹かし過ぎたような気がして、駒木も今頃になって背中が薄ら寒いのですが、事実は事実ですし、こういう事を言わせるような杜撰な情報管理をしている方が悪いのですから、ここは胸を張って皆さんの反応を窺いたいと思います。
 さて、このシリーズの次回は、ちょっと大人しめに現在行われている無料キャンペーンの内容についてお話をしてみたいと思います。これからADSL導入をお考えの方は是非お見逃しなく。ではでは。 (次回へ続く)

 


 

2003年第119回講義
3月29日(月) 
競馬学特殊講義
「駒木博士の高知競馬観戦旅行記」(1)

 予告通り本日から「総受講者数200万人突破記念講義シリーズ」の開幕です。要は講義回数が増えるだけなんですが(笑)、本格的に忙しくなる前の最後の一仕事という事で、出来る限り頑張ってみたいと思います。どうか何卒。

 ……というわけで、本日はその第1弾として、高知競馬場観戦記の1回目をお送りします。勿論、あの3月22日、ハルウララ号が武豊鞍上で出走して全国的にニュースで報道された、あの日の高知競馬です。
 ニュースでの報道は“外野目線”といいますか、「非・競馬ファンによる非・競馬ファンのためのハルウララレポート」みたいな感じだったのですが、この旅行記では「10年モノの競馬ファンから見た高知競馬withハルウララレポート」という感じで行きたいと思います。“外野目線”と“競馬ファン目線”とのギャップや、ニュース報道と現実の乖離振りを楽しんでもらえると嬉しいです。
 それ故、多少専門的なお話もする事になりますが、競馬ファンではない人でも楽しんで頂けるような作りにはしたいと思ってますので、皆様方もどうか最後まで宜しくお願い申し上げます。

 そしてこれも予告しておりました通り、ここで受講生の皆様へ「200万アクセス御礼プレゼント」を実施いたします。
 この3月22日、駒木が結構必死な思いをして買って来ましたハルウララの単勝馬券(高知競馬場発行の“純正品”)5名の方にプレゼント致します。
 「決して当たらない」という事で、一般的には交通安全のお守りとしても重宝されているそうですが、ご利益を拡大解釈すると色々な意味のお守り(食中毒防止、麻雀の放銃防止、嫌いな作家にファンを装って送り付けてヒット作防止etc…)になるでしょうから、どうぞドシドシご応募下さい。
 応募はメールでお願いします。他のメールと区別するため、タイトルに「ハルウララ馬券希望」と書いたものだけ受け付けます。当然1人1通まで。ハンドルネームとアドレス変えて複数応募する、なんてのは2通以上当選した場合、非常に恥ずかしい思いをするので止めましょう。
 で、メールへの記入事項ですが、これは応募されたメールの中から厳正な抽選の上、こちらから当選者の皆さんにのみ改めて発送先(ご本名、ご住所)を問い合わせるメールを送付しますので、応募のメールには特に必要事項はありません。ただし、駒木のモチベーションが上がるような激励などを頂けると、この単純なバカは大変に喜びますので宜しければ何卒。締め切りは4月5日の0時必着。遅刻の場合は、応募者少数で“定員割れ”になった場合以外は一切救いませんのでお気をつけて。

 ……では、前置きが長くなりましたが、レポートを始めます。例によってレポート中は文体を常体、人名等は原則敬称略にしております。
 なお、レポートは21日夜に自宅を出るところから始めますが、旅行自体は22日0時39分に三ノ宮駅を発つ夜行列車から始まる…という事で、最初は“0日目”からのスタートとさせてもらいます。そして、いつものパターンからいくと、本日分のレポートでは競馬場まで辿り着けないであろう事を、あらかじめ申し上げておきます(笑)。


 ◎0日目(3月21日)

 出発は19時前。夕食もそこそこに最寄駅までの徒歩の行程が腹ごなしの運動になるという慌しい旅行の幕開けとなった。0泊2日の弾丸旅行に相応しいといえば相応しいのだが、実はこの早出は不可抗力だったりする。
 というのも、この旅行の数日前からモデム配りやら何やらで忙しく、肝心の「青春18きっぷ」を入手し損ねていたのである。これまでなら随分前に購入して備えていたのだが、この度は1枚(5日分)の正規購入ではなく、2日分だけ金券ショップで短期レンタルしようと考えていて、後回しにしていたら後回しにし過ぎたという次第。何と言うか、幸先悪過ぎである。
 幸先が悪いと言えば、この日は体調を考慮して夕方まで自宅で静養し、競馬も電話投票で済ませていたのだが、その電話投票が見事なまでの裏パーフェクトで、専用口座の残高がほとんど尽きる結果になってしまっていた。何だかリングシューズの紐が切れたのを発見したテリーマンはこのくらい不安だったのだろうかと思うくらい不安になって来た。別に悪魔超人とかと戦うわけでもないのにだ。

 それでも閉店寸前の金券ショップで「青春18きっぷ」2日分を何とか入手し、時計を見ると19時30分。夜行までは5時間も余っている。時刻と言い、余った時間の長さと言い、実に中途半端である。
 5時間何するでもなく時間を潰すなんてのは耐えられないので、夜でも開いてて適当に時間が潰せる所は……と一思案した結果、フリー雀荘マンガ喫茶が思い浮かぶ。ここで「映画館の最終上映」とか「行きつけのバーで軽く一杯」とか出て来ないのが駒木の冴えない所である。
 で、「マンガ喫茶で5時間っていうのも、料金考えたら無駄遣いの極みだな」と考え、3時間半程度を雀荘、それ以降をマンガ喫茶で過ごす事にした。
 ──賢明な受講生の皆さんは既にお気づきだろうが、本当に無駄遣いの極みなのはフリー雀荘で負けるパターンだったりするわけだが、それに駒木が気がついたのは1回目の半荘の清算中の事であった。やる前から負ける事考えるヤツがいるかよ、というのはアントニオ猪木の名言だが、たまには考えた方が良い時もあるというのが、この日駒木が学んだ教訓である。

 
 ◎初日(3月22日)

 ……と、そうやって、すっかり心を荒ませた状態で、駒木は旅行初日をJR三ノ宮駅の駅構内で迎えた。旅行前から既に懐具合の心配をしているという、何とも締まらないというか情けない出発直前の佇まいである。
 周囲を見回すと、飲み会帰りと思しき人たちの姿が多くを占める中、バックパックに飲み物と軽食を詰めたコンビニ袋という、いかにも夜行列車客っぽい格好の人たちもチラホラと見受けられる。恐らくは駒木と同じ列車に乗る人たちだろう。ひょっとしたら、この中にも高知競馬を観に行く人もいるのかも知れない。

 さて、この旅行で駒木が利用する列車は「ムーンライト高知」。京都─高知間を7時間20分ほどで結ぶ夜行快速だ。
 この列車、あくまで「快速」であって特急じゃないので「青春18きっぷ」でも利用できるというのがミソである……のだが、実はこの「ムーンライト高知」、原則的には全車グリーン席(指定席料金が高額の上、「18きっぷ」使用不可で極めて運賃割高)で運行されており、「18きっぷ」の使える普通指定席は「18きっぷ」シーズンのみ、しかも1両64席しか提供されないので、路線のマイナーさと相反してかなり座席の確保し難い列車だったりする。それを証拠に、駒木は指定席券発売日である1ヶ月前に「みどりの窓口」へ駆け込んだが、三ノ宮─高知間の座席が確保出来たのは復路の高知発の便のみで、往路は数度のキャンセル待ちトライも空しく、とうとう買いそびれてしまったのである。
 ……などと言うと、「あれ、じゃあアンタどうやって高知まで行くのさ」という話になるのだが、何事でも裏道はあるのである。この辺の話を詳しくやると、何だか似非鉄道旅行マニアの薀蓄話みたいになってアレなのだが、今後高知競馬へ「18きっぷ」で行こうと思われている方へのレクチャーの意味も込めてじっくりやる事にしよう。
 実はこの時期の「ムーンライト高知」は、岡山まで「ムーンライト山陽」(京都─下関)「ムーンライト松山」(京都─松山)という同様の夜行快速が連結されており、そこまでは「ムーンライト山陽・高知・松山」という合併したての銀行みたいな呼ばれ方で運行されている。で、この中の「ムーンライト山陽」は、4両編成236席が全て普通指定席になっていて、座席確保が非常に簡単なのだ。で、今回高知へ行くに当たってはこれを最大限利用する

 つまりはこういう事だ。まず三ノ宮─岡山間を「ムーンライト山陽」の指定席で行き、「青春18きっぷ」を利用する。ただし午前3時過ぎ着の岡山で2時間以上も始発を待っていてはラチが開かないので、ここからは必要最小限の区間(岡山─阿波池田間)だけ追加料金(2800円)を支払って「ムーンライト高知」のグリーン車に乗車する。細かい話だが、この区間ならグリーン席の料金は“短距離割引”と言う事でかなり格安になっている。
 指定席券の効力が切れる阿波池田駅では、「ムーンライト高知」の10分後に始発の鈍行が発車するという、列車本数の少ない四国エリアでは奇跡的なアクセスがあるので、今度はそれに乗って高知を目指す。勿論この区間は「18きっぷ」でフリーパスだ。この場合、「ムーンライト高知」より到着が30分ほど遅れるが、まぁ許容範囲だろう。
 ただ、この行程には大きな落とし穴がある。朝の3時過ぎと5時半頃に失敗絶対不可の乗換えを強いられるので、ほぼ徹夜必至になってしまうのだ。特に岡山で寝過ごしてしまうと、「ムーンライト高知」の車両から切り離された上に広島直行…という物凄い惨事が待っている。しかも、ここまで苦労して料金面では夜行バスと大して変わらない(乗車駅や「18きっぷ」の使い方によっては割高かも)という衝撃の事実まである(笑)。まぁお薦めはしないが、一応参考までに。

 そんなゴクドーなアクセスだけ紹介してもアレなので、ここで蛇足ながら、京阪神圏又は首都圏からの高知までの真っ当なアクセスも紹介しておこう。
 まず京阪神から高知までのアクセスから。金に糸目をつけないなら、伊丹─高知間の航空便だろう。離陸したと思ったら着陸しているという、有り難味があるようで薄い高速アクセスである。
 安上がりに済ませるなら、「ムーンライト高知」のほかにもバスがある。バスは京都、大阪、神戸(三ノ宮)からそれぞれ高知への昼行、夜行便が出ていて、運賃は片道6500〜5500円程度は高知港と大阪南港を結ぶ航路で、料金は雑魚寝の2等船室で片道5000円。ただし、各港からキーステーションまでは別の交通機関を利用する必要がある。バスは利便性が高く、船は曲がりなりにも横になって眠れるというのが長所といったところか。
 東京方面からは、余程の物好きか貧乏旅行希望者か鉄道好きでない限りは、飛行機(羽田─高知間)夜行バス(東京・新宿─高知)の選択が賢明だろう。特に飛行機の場合、航空各社の大幅割引サービスでチケットが取れた場合は夜行バスより割安になる事もある。夜行バスは片道12500円が相場。ただし、所要時間約12時間の“地獄の旅”になるので根性と覚悟が必要になるかと。
 どうしても「18きっぷ」で安上がりに行きたいという人は、東京駅から昼間の東海道線を乗り継いで京都まで行き、そこから「ムーンライト高知」を使うという方法がある。この場合だと、費用は「18きっぷ」2日分+指定席券で計5110円。随分と割安になる代わりに、京都まで休憩無しで乗り継いでも最低18時間余りの所要時間がかかる。高知競馬場到着まではほぼ丸1日かかる。そんな状態では、第1レースの時点で恐らく廃人同然だろう。
 もし駒木なら、東京を朝10時半頃に出て大阪まで「18きっぷ」で行き、そこから南港まで行ってフェリーで高知まで行くルートを採る。更に所要時間は延びるが、これなら夜は横になって寝られるので疲労度は比じゃないはず。後は同じ船室にイビキをかく輩がいない事を祈ろう。費用は「18きっぷ」1日分+フェリー運賃+キー駅〜港までの運賃で8000円弱
 また、高知駅周辺は結構多くのビジネスホテルが軒を連ねているので、余程の事が無い限り宿の確保には事欠かないだろう。今回のハルウララ騒動でも駅周辺のホテルがパンクしたという話は聞かなかった。飛行機で前日午後に乗り込んで、軽く高知城等を観光して1泊、翌朝ゆったりと競馬場へ…なんてのも考え得るパターンである。

 閑話休題。旅行レポートに戻ろう。
 そういうわけで、とりあえずは「ムーンライト山陽」の指定席に潜り込むと、例によって読書タイムの開始である。今回の“旅のお供”は、かの名作『風と共に去りぬ』
 じゃじゃ馬なお嬢様とキザな皮肉屋の相手役という、未だに例の絶えないベタな組み合わせの主役による物語だが、その元祖的な存在とあって、さすがと唸らせられる内容。また、奴隷解放宣言直前の黒人奴隷が、どうやって白人社会に溶け込んでいたのかが細かく描かれていて、そっちも興味深かった。

 そうする内に列車は、明石、加古川、姫路と兵庫南西部のキー駅を次々と通過して、いよいよ岡山方面へ。ここに来て、未だ前日までの睡眠不足が抜けきらない上、乗車以来ずっと細かい活字を追いかけていたので駒木も徐々に眠たくなってきた。ヤバい。広島直行か?
 高知競馬へ行こうとしたが宮島競艇行ってた
、なんて話になったらシャレにならな……いや、シャレにはなるか。ハルウララの馬券買いに行って、もみじ饅頭持って帰ったら笑いは取れそうだ。絶対やらないけど。
 仕方ない、ちょっと危険だが岡山直前で猛烈な睡魔に襲われない内に軽く仮眠を摂っておくか。携帯電話をマナーモードのまま午前3時でアラーム設定をして、リクライニングシートを倒して目を瞑った。岡山手前で起きろよ自分、と強く脳ミソに言い聞かせながら。


 ……というわけで、やはり行きの車中で終わってしまいました(苦笑)。まぁ、高知競馬場までのアクセス講座もやったんで、どうかご容赦を。次回は何とか競馬場まで辿り着けるはずです。お楽しみに。(次回へ続く

 


 

2003年第118回講義
3月27日(土) 
競馬学特論
「駒木研究室競馬予想No.1決定戦〜04年春シリーズ・暫定第2戦・高松宮記念」

 諸事情により、講義の準備開始がドバイワールドカップの終了とほぼ同時刻になってしまいました。毎度毎度、開始時刻の遅い講義でご迷惑をおかけしております。アドマイヤドンの惨敗グセがここに来て出るとは残念至極であります。
 ……しかしまぁ、当たらない予想を極力遅く出すという意味では、迷惑を最小限に留めているという見方も出来ますか(笑)。まぁ、笑いのタネにでもなれば幸いです。

暫定第2戦・高松宮記念(中京・1200芝)
馬  名 騎 手

 下段には駒木ハヤトの短評が入ります。

        ホーマンアピール 大西
3歳前半は重賞戦線で活躍するも、復帰後2走は共に2ケタ着順で完敗。デキの良さでどこまで順位を上げられるかだろう。入着まで。
×       ギャラントアロー
前走で思わぬ大敗を喫したが、強引に逃げても粘り切る底力は依然としてファンの支持を集める。今回も先行激化が予想される展開をいかに乗り切るかがカギに。
サニングデール 福永

前年の2着馬が漸く完全復調。今回は展開もハマりそうで、一気に主役へと踊り出た。1200mのスペシャリストだけに、このレースがこの馬にとって春の総決算。モチベーションも高そうだ。

 

      シルキーラグーン 小林淳

昨秋から一気の本格化で遂にG1にまで辿り着いた。条件は厳しいが、道中でロス無く脚を貯められれば直線一気の大駆けまで。

    ×   アタゴタイショウ 藤田

ローカル専門の“善戦マン”が、前哨戦での大健闘の余勢を駆ってG1登場。ポイントはやはり先行ジリ脚をどう克服するか。

        サクラタイリン 二本柳
条件戦を一気に脱出し、久々のオープン復帰。NZトロフィーでギャラントアローに詰め寄った経歴はいかにも不気味だが……
  × シーイズトウショウ 中館

もうフロックとは言わせぬ前走の力走は印象鮮烈。斤量1キロ減で、CBC賞勝ちと同条件のコースとなれば期待も高まる。先行に固執せず、自在性のある脚質を活かせれば。

デュランダル 池添

昨秋の短距離チャンプがいよいよ始動。ぶっつけ本番は先にある目標(安田記念)を見据えた行動とも受け取れ、ここは試走の意味合いも強かろうが、実力最右翼だけに到底無視は出来ぬ。問題は直線一気に向かない小回りコースをどう克服するかだが……?

        ワンダフルデイズ 太宰

追い込み一辺倒ながら、時折素晴らしい伸びを見せて良績を挙げるクセ馬タイプ。デキも良いが、末脚の信頼度がハッキリしないのが弱味。

    ×   10 カフェボストニアン 岡部幸

G2、G3クラスなら上位を賑わすが、G1では頭打ちの感も。ジリ脚ゆえ先行粘り込みが身上だが、今回の展開では果たして……?

        11 モンパルナス 赤木

赤木騎手のG1初挑戦はこの馬から。しかし、デキも下降気味、厳しい展開予想とあっては到底強気に出れぬ。

      × 12 ウインクリューガー 武幸

高知競馬から中5日での連闘・強行軍。1400ダートを叩いてスピードへの対応を図るが、初めてづくしの条件の中でどこまでやれるか。実績は文句ナシなのだが……。

        13 フルブラスト 本田

果敢な格上挑戦の意気込みは認めるが、ダート向きの傾向あるだけに、この条件は余りにも厳しそう。

        14 フィールドスパート 野元

休み明け以来、5連続二ケタ着順で惨敗中。もはや上積みも求め辛く、終いからのケイバでどこまで順位を上げるかが興味の対象に。苦戦必至。

  15 テンシノキセキ 横山典

ビリーヴを苦も無く差し切った昨秋のセントウルSの記憶が未だに鮮やか。休み明けを叩いて体調もすごぶる良好で、このメンバーでも地力は有力候補の一角。ただ最近目立つようになったジリ脚の傾向は心配材料。

  ×   16 リキアイタイカン 竹之下
忘れちゃいけない昨年の3着馬。近走不振だが、「忘れた頃の一発」が絶えず気になる怖い怖い追い込み馬。人気薄だけにかえって怖さも。
×   17 サーガノヴェル 小牧太

強烈なスピード内包するも、極度の気性難が出世を阻んで来た。外枠利して揉まれない流れは思っても無いチャンス。ノーマークの利も加え、大穴劇のヒロインを狙う。

 

×     18 キーンランドスワン 四位

相手強化の壁に突き返された格好の前走。デキは全く悪くないが、ここではさすがに格負けしそう。左回りコースの実績に乏しいのも懸念材料で。


●展開予想
(担当:駒木ハヤト)

 純粋な逃げ馬はギャラントアローのみ。前走同様、強引にでもハナを切っていくだろう。単騎ゆえにマイペースの逃げが打てる可能性もあるが、前々でレースをしたい馬の位置取り争いに巻き込まれて厳しい展開になる可能性が高い。ちなみに逃げ脚質の連対は、このレースが今の条件に変わって以来、ショウナンカンプの1頭だけ。
 さて、そういった事情からペースそのものはかなりのハイペースになる可能性が大。特に位置取り争いが厳しい好位勢は、どの馬も息切れの懸念がつきまとう。むしろ先手を取り切れずに中位程度からのケイバを強いられた馬の方に勝機がありそうだ。
 ハイペースとなれば、やはり気になるのは後方からの直線一気だが、さすがに小回りの中京コース。差し、追い込みは直線入口で10番手くらいのポジションが欲しいところ。いかにもサニングデールが恵まれそうな話だが、最後方近い位置から仕掛けるデュランダルに果たして勝機は……?

●駒木ハヤトの「負け犬エレジー」●
《本命:サニングデール》
 

 フェブラリーSに引き続き、手堅いにもほどがあるフォーカスになって申し訳無い(苦笑)。
 単勝人気上位の馬は出来るだけ軽視しようと頑張ってみたのですが、諸々のファクターから考えるとサニングデールから行かざるを得ません。1200mオンリーのスペシャリストという事で、このレースが勝負駆けという気配もプンプン匂って来ますし、何よりも展開に恵まれ過ぎといったところ。
 シーイズトウショウは敢えて中位程度までポジションを下げざるを得なくなった場合を想定しての○印。桜花賞やCBC賞での好走例を見るまでもなく、好位粘り込みよりもむしろ、中団からの差し込みに魅力を感じさせる脚質ではあります。問題は乗り慣れない、しかも逃げたがりの鞍上がどういった作戦を採るかですが……。
 実力ナンバー1のデュランダルは、明らかに目標は安田記念と見て、ここは評価を落としました。テンシノキセキも地力は認めるものの、差して味のあるタイプではなく、脚質に融通が利かないという事で連下まで。×印2頭はイレギュラーな展開になった場合に台頭。

駒木ハヤトの購入馬券
種別 フォーカス 購入金額 オッズ
(28日未明時点)
単勝 100円 4.0
馬連 3-7 100円 9.3
  3-8 100円 7.4
  7-8 100円 11.9
  3-15 100円 13.8
  3-17 100円 131.8
  2-3 100円 13.6
馬単 3→7 100円 16.9
  3→8 100円 16.7
三連複 1-4-10 100円 11.9


●栗藤珠美の「レディース・パーセプション」●
《本命:デュランダル》

 有力馬が多くて目移りしてしまうこのレースですけれども、やはりここは、休み明けでも秋の短距離チャンピオンに敬意を表してデュランダルを本命にさせてもらいました。サニングデールも迷ったんですが、実績の差でこっちを選びました。博士と本命被るのも怖いですし(笑)。
 ちょっと穴狙いで面白いと思うのが8枠の3頭ですね。印が足りなくてサーガノヴェルだけ無印になってしまったのですが、こっそりプライベートで狙いたいところです(笑)。

栗藤珠美の購入馬券
種別 フォーカス 購入金額 オッズ
(28日未明時点)
単勝 100円 3.8
馬連 3-8 100円 11.7
  8-15 100円 17.5
  3-15 100円 13.8
  7-8 100円 11.9
  8-18 100円 53.7
  8-16 100円 412.9
馬単 8→3 100円 13.4
  8→15 100円 27.4
三連複 3-8-15 100円 18.7


●一色順子の「ド高め狙います!」●
《本命:サーガノヴェル》

 差し、追い込み有利ってことは誰でも分かるレースなんですけど、それだけに強い差し馬はどれも人気になってて、わたしとしては困ったところですね〜(苦笑)。デュランダルもサニングデールも、もうちょっと人気薄になると思ったんですけど甘かったです。
 ……というわけで、ちょっと今回は無茶を承知で大穴狙いに走ってみます。前々走でサニングデールに先着している、地力だけならどの馬にも負けないサーガノヴェルから。中央の騎手になってから少しスランプ気味の小牧太騎手ですけど、こういう時にガツンとカマしてくれるのが一流のジョッキーだと思いますしね。
 でも、サーガノヴェル、ちょっと人気しなさすぎじゃないですか? なんだかオッズ見てると怖くなります(笑)。

一色順子の購入馬券
種別 フォーカス 購入金額 オッズ
(28日未明時点)
単勝 17 100円 66.1
馬連 3-17 100円 131.8
  16-17 100円 1778.3
  3-16 100円 359.2
  8-17 100円 197.3
  5-17 100円 620.7
  10-17 100円 403.1
馬単 17→3 100円 420.8
  17→16 100円 4105.3
三連複 3-16-17 100円 3004.3

 
●リサ=バンベリーの「ビギナーズ・ミラクル!」●
《本命:デュランダル》

 駒木博士も珠美サンも順子サンも、みんな口を揃えて「難しい、難しい」って言ってるんですよね、今日のレース(苦笑)。そんなのワタシに分かるわけないんで、本当はやっちゃいけないと思いながら、馬の名前で決めちゃいました。デュランダルとサーガノヴェルなんて、いかにもファンタジーっぽくてカッコいいですよね。で、そのノヴェルのタイトルが日本語で「天使の奇跡」というコトで(笑)。
 あとの3頭はトライアルレースの上位の馬と昔のG1ホースです。今日もこれで当たっちゃったらゴメンナサイですね。

リサ=バンベリーの購入馬券
種別 フォーカス 購入金額 オッズ
(28日未明時点)
単勝 100円 3.8
馬連 8-17 100円 197.3
  8-15 100円 17.5
  15-17 100円 261.1
  3-8 100円 7.4
  7-8 100円 11.9
  8-12 100円 205.7
馬単 8→17 100円 256.9
  8→15 100円 27.4
三連複 8-15-17 100円 437.8

 図らずも、4人の印が変に偏った感じもしますが、そこは駒木研究室ということで、どうかご容赦を。でも、順子ちゃんの買い目はオッズを見るからに恐ろしいですね(笑)。さて、結果はどう出るか、お楽しみに……。

 


高松宮記念 成績

1着 サニングデール
2着 デュランダル
  ×     3着 18 キーンランドスワン
×       4着 ギャラントアロー
  × 5着 シーイズトウショウ

単勝3 430円/馬連3-8 740円/馬単3-8 1500円/三連複3-8-18 5490円

 ※駒木ハヤトの“勝利の雄叫び”(単勝・馬連・馬単的中)
 3連複はハナ、ハナ差で残念でしたが、久々にドンピシャの的中でした。今度は現実の馬券も馬単で当ててます(笑)。
 しかし、ここまで戦前の予想通りに展開が流れるG1っていうのも珍しいのではないかと。差し馬が2頭、素直に実力を発揮してくれるってケースは、実は結構珍しかったりするんですけどね。まぁ上手い事いってくれてホッとしました。これからも、ここまでが「春の珍事」とか言われないように頑張りますんで何卒。
   

 ※栗藤珠美の“喜びの声”(馬連のみ的中)
 今回も的中……なんですけれども、また馬単を当て損なってしまいました(苦笑)。
 もう駒木博士がどうとか言っている場合じゃありませんね。本格的なスランプにならない内に、まずは自分を顧みないといけないなと痛感しています。再来週からのクラシックシーズン、気を引き締めて頑張りますので、どうか応援宜しくお願いしますね。

 ※一色順子の“終了しました……”(不的中)
 サーガノヴェルは15着。馬が「走るのイヤ」って言ってるパターンにハマっちゃいましたね。まあ、1番人気と2番人気の決着だと、わたしの予想は出番が無いので仕方ナシです。
 でも、再来週は荒れることの多い桜花賞。去年の菊花賞みたいに、一発狙ってます。期待してて下さいね〜♪

 ※リサ=バンベリーの“ハッピー・ハッピー・グッドラック”(馬連のみ的中)
 また、当たってしまいました(笑)。当たる時はどんな予想しても当たっちゃうんですね(苦笑)。
 でも、今日のレースで一番カッコ良かったのは、やっぱり2着のデュランダルでした。あの直線のスパートは、ちょっと鳥肌が立ちました。また春のレースに出て来るそうなので、追いかけてみたいと思います。

暫定第2戦終了時点での成績

  前回までの獲得ポイント 今回獲得したポイント 今回までの獲得ポイント
(暫定順位)
駒木ハヤト 1410
(1位)
2670 4080
(1位)
栗藤珠美 700
(2位タイ)
740 1440
(2位タイ)
一色順子 570
(4位)
0 570
(4位)
リサ=バンベリー 700
(2位タイ)
740 1440
(2位タイ)

 (ポイント・順位の変動について)
 単勝人気上位2頭による決着とあって、穴党の一色順子を除く3名が的中を果たした。中でも、サニングデールに◎を打った駒木ハヤトは単勝、馬単のボーナスも獲得して首位を守ると共にリードを広げた。まだまだ大きな差ではないが、とりあえず今期の主導権を握ったと判断して良さそうだ。

 


 

2003年度第117回講義
3月26日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第4週分・合同)

 旅行等の取材活動で講義の間隔が開きましたが、今日から高校の仕事が始まる4月上旬まで、目一杯カリキュラムを組んで頑張る所存です。どうか何卒。

 さて、今日は今週発売の「週刊少年ジャンプ」17号、および「週刊少年サンデー」17号の内容についてゼミを行います。
 まずは今週も情報系の話題から。「ジャンプ」の読み切り企画についての話題が入って来ています。
 前週のゼミで既報の通り、今週号までで『スティール・ボール・ラン』(作画:荒木飛呂彦)が連載中断になるのに伴い、次号から連載作家陣による4週連続の読み切りシリーズが始まります。とりあえず次号掲載の第1回は武井宏之さん『麻葉童子』。タイトルからもお判りになるように、『シャーマンキング』の外伝です。
 今回の読み切りは32ページの綴じ込み付録ということで、何だかマンガ黎明期の別冊付録を髣髴とさせる企画ですね。『まんが道』(作画:藤子不二雄A)では、突発的に発生した別冊の仕事に追われて憔悴しまくる後の大御所マンガ家の皆さんが登場するのですが、今回の企画における各作家さんのスタジオの様子はどうだったのか、遠巻きにでも拝見してみたいところです(笑)。1週取材休みを貰ったとは言っても、通常時の2倍近いページ数ですからねぇ……。

 ……それでは、今週分のレビューとチェックポイントへ。レビュー対象作は、「ジャンプ」から新連載と新連載第3回の後追いが各1本、そして「サンデー」から新連載が1本、都合3本ということになります。

 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年17号☆

 ◎新連載『少年守護神』作画:東直輝

 「ジャンプ」の新連載シリーズも今週でラスト。東直輝さんの連載再復帰作・『少年守護神』のレビューです。

 東さんは1978年3月生まれということですから、26歳になったばかり。駒木より3つ(2学年)年下と知って、ちょっと驚きました。
 東さんのマンガ家としてのキャリアは、「これでもか、これでもか」という投稿活動から始まります。1997年6月期、1998年1月期、2月期の「天下一漫画賞」で相次いで最終候補まで残り、第2回「ストーリーキング」準キング、98年上期「手塚賞」で佳作をそれぞれ受賞と、1年弱の間に「ジャンプ」系新人賞の全てで一定の結果を出すという離れ業を見せます。
 その意欲は当然の事ながら編集サイドにも通じ、週刊本誌98年47号で遂に読み切りデビュー。約3ヶ月後には「赤マル」に「ストーリーキング」の受賞作掲載、翌99年春には連載枠獲得と、まさにトントン拍子の出世を果たしてゆきます。
 しかし、その意欲は読者の心にまでは響かなかったのか、この時の連載作『CHILDRAGON』は1クール12回で打ち切り。同じ回の「ストーリーキング」でネーム部門準キングとなった『ヒカルの碁』とは余りにも対照的な結果に終わり、一敗地にまみれた格好になります。
 それでも東さんの創作意欲は衰えず、「赤マル」00年春号、週刊本誌00年49号、「赤マル」01年春号と、相次いで読み切りを発表し、01年年末からは『ソワカ』の連載を開始。が、これも2クール22回での短期打ち切りに終わり、意欲が客観評価に繋がらないという、実力社会の恐ろしさをまたしても痛感する結果になってしまいます。
 しかし東さんはそれでも活動のペースを緩ませず、03年12号に今回の連載のプロトタイプとなった読み切り版・『少年守護神』を発表。当講座での評価は相当に低かった(C評価&ラズベリーコミック賞ノミネート)のですが、アンケート又は編集サイドの評価が良好だったのでしょう、この度の連載獲得となりました。
 ……しかし、こうしてキャリアをまとめてみますと、何と言うか、周囲に「彼は頑張ってるし、何とかしてあげたい」と思わせてしまうような仕事っぷりですよね(笑)。穿った見方でも何でもなく、編集部受けの良い作家さんなんだろうなぁ…と思います。

 ──とはいえ、やはり作品の内容は別の話。今回も読み切り版同様、残念ながら厳しい事も述べなくてはならなくなりそうです。

 まずからですが、基本的には描き込まれた見応えのある絵柄だと思います。若干、シリアスタッチとマンガタッチの区別が曖昧で妙になった部分(やたら目の大きなシリアス女の子キャラ)も見受けられますが、「ジャンプ」連載陣に混じっても標準的なレヴェルには達しているのではないでしょうか。前回、大顰蹙を買った現代風のコスチュームデザインも一応修正されており、減点箇所は多くないと思います。
 ただ、コンピューターを使って彩色されたと思しきカラーページは、ちょっとどうなのでしょう? 多分、背景が人物作画と合っていないんだと思うんですが、「ジャンプ」でやるなら、もうちょっと試行錯誤してからにして欲しかったような気もしますね。

 次にストーリー・設定ですが、こちらはシナリオの破綻していた読み切り版のプロットを踏襲してしまったため、端的に言って、かなり無茶苦茶な内容になってしまっています。
 微に入り細に入った指摘をしてしまうと、またお叱りを受けるでしょうから控えますが、シナリオ全体において、出来事の起こり方やキャラクターの行動が不自然で、末期的な御都合主義に陥ってしまっています。一応はシナリオの“ツッコミ所”を無くす配慮が為されているのですが、大元のストーリーが破綻していては折角の努力も……。
 また、読み切り版からそのまま引き継いだ設定も、上手く活かされているとは思えません。特にヒロインの特殊技能である「心を揺さぶる歌」の使い方が非常に勿体無く思えました。せっかく最初に合戦シーンがあるのですから、そこで伏線っぽくヒロインに唄わせてみれば面白かったんですが。まぁそれをやると「何だか和製『マクロス』ですね」という声も聞こえて来そうですけどね(笑)。
 あと、ひょっとするとこれら以上に問題なのかも知れないのがギャグの挟み方ですね。『銀魂』のように確信犯的な試みでも無い限りは、重厚なシナリオの中で雰囲気や世界観をブチ壊すようなギャグをおみまいするのは読み手を困惑させるだけのような感じがします。ギャグをカマす時に場の空気を読まなくちゃいけないのは、日常生活だけでなく、こういう時も一緒なのでは…と思ったり思わなかったり。

 というわけで評価はC寄りB−。読み切り版に比べて改良の跡も窺えますので“死刑宣告”は控えましたが、前途は多難だという印象は変わりません。
 どうも次号で『武装錬金』が掲載順実質最下位になっちゃうようなんですが、次の入れ替えでこっちが生き残って『武装錬金』が切られたら立ち直れなくなりそうな気がします(苦笑)。

 ◎新連載第3回『未確認少年ゲドー』作画:岡野剛【第1回掲載時の評価:保留

 そしてこちらは新連載シリーズのトップバッター・『未確認少年ゲドー』。今後の運命を分けると言われる第3回時点での後追いレビューです。

 さて、ここまで3回の内容は、『地獄先生ぬ〜べ〜』スタイルの、少人数のレギュラーキャラにゲストキャラ(未確認生物)を絡めていく…といった、一話完結型のコメディで進行していますね。大方の予想通りといったところでしょう。
 それにしても、このようなタイプの設定では、閉塞感と言うか悪性のマンネリ感が出て来ないかと懸念していたのですが、現在のところはマンネリを“手堅さ”に転化し、何とか上手く乗り切っているように思えます特に良いのがキャラクターと世界観が確立されている点で、この辺は『ぬ〜べ〜』時代に身に付けたメカニズムを上手く応用出来ているのでしょう。設定を流用した“劣化コピー”状態ではなく、アイディアの良い所だけを拝借し、独自のモノに出来ていると思います。
 ただし、作品の構造上仕方ない部分もあるのですが、シナリオの起伏のつけ方が余りにも大人しいような気がします。簡単に言うと、話の内容が淡白過ぎるんですね。もうちょっと緊迫感のようなモノを持たせても良いんじゃないかと思うんですが……。
 バトル物のようなハラハラドキドキ感を出すのが難しいならば、本気で読み手を感動させるような“泣かせ系”のストーリーをぶつけてみるのはどうでしょう。とにかく、読み手の感情に訴えかけるようなストーリーでインパクトを与えない事には、打ち切りサバイバルレースを切り抜けるのは簡単ではないと思います。

 評価は、読み切り版や第1回時より若干の上積みがあったという事でB+にしておきます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントで、大亜門さん「“先生”と呼ばれるのに抵抗があったが……」という若手作家さんらしいモノが。でも確かに、マンガ業界内では“先生”というのは役職名みたいなところがありますよね。祝うつもりも無いのに出す祝儀みたいなもので、敬うつもりも無いのに呼ぶ「先生」みたいな感じでしょうか。
 ちなみに、駒木は“業界外”の人間なんで、敢えて原則“さん”付けにし、本当に尊敬している作家さんにだけ“先生”と付けるようにしています。

 ……でもよく考えたら、本当に「先生」って大した敬称じゃないんですよね。だって駒木も行く所行けば「先生」って呼ばれるくらいですから、価値無ぇったらありゃしない(笑)。生徒にとっては、ひょっとすると部活の「先輩」よりも格下だったりするかもですね。 

 ◎『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦【現時点での評価:A/第1期総括】

 最後は『みどりのマキバオー』の有馬記念を思わせるような展開で、主人公・ジャイロ=ツェペリが1stステージ優勝となりました。この辺の澱みの無い演出はさすがといった所ですね。
 ここまでの印象としては、31ページ連載の利点を活かし切ったページ配分や、レース物のスピード感と爽快感を重視したストーリーテリングが非常に光っていたと思います。相変わらずの“荒木理論”には多少閉口する場面もありましたが(そもそも足が萎えている人が馬を御そうと思っても、「進め」の合図も出せないでしょう、ジョジョ君?)、それも世界観の一要素と見なさなければならないでしょう。まさか、「人間があんな速度で走れるわけが無い」とか言って、この作品を全否定するわけにもいかないでしょうし。

 と言う事で、評価はA−寄りAで据え置き。現時点では当ゼミの今年度No.1長編作品という事になりますね。


 ◎『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 遂に“王”が誕生したわけですが、生まれながらにしての容赦無さ過ぎな暴虐さが、往年の鳥山明チックでシビれますねぇ。やっぱり本当の敵役はベラベラ喋っちゃいけないんですよね。喋らせなきゃ悪役だと判らないようなキャラばっかり出すマンガもありますが、まぁ…うん。(長井秀和風に)
 ここ最近はゴンVSナックルで結構冗長な感じがしたんですが、ひょっとしたらこの辺のアイディアを練る為の時間繋ぎだったんでしょうかね。これまではストーリーの要所になると休載が増える一方だったんですが、妥協策と言うか急場の凌ぎ方を編み出したようですね(それもどうかという話ですが)。

☆「週刊少年サンデー」2004年17号☆

 ◎新連載(シリーズ再開)『DAN DOH!!〜ネクストジェネレーション〜』作:坂田信弘/画:万乗大智【前シリーズ終了時の評価:B+

 再三お知らせしていたように、今週から“アニメ化に伴う復活”という特殊なケースで、『DAN DOH!!』の新シリーズが連載開始となりました。足掛け8年でやっと終わらせた作品を、商業的な理由とは言えもう一度蘇らせるとは、恐るべしマンガ業界ですよね(笑)。

 さて、今回は特殊なケースですので(何しろ一度連載総括までしちゃった作品です)、作者紹介は省略し、レビューに関しても、前シリーズまでの内容を念頭において、後追いレビューというか、チェックポイントのようにサラリといきたいと思います。第3回のレビューも一応はやりますが、こちらも同じくと言う事で何卒。

 ……というわけで、新シリーズの内容についてですが、今シリーズは「ネクストジェネレーション」というタイトルとは裏腹(?)に、前シリーズ終了からほぼ間もない時点から、キャラクターもそっくりそのまま引き継いでのリスタートとなりました。新庄樹靖の“ネクストジェネレーション”たるダンドー、という事なんでしょうかね。
 ストーリーについては、未確定部分が多いものの、シリーズ通じての主要キャラ&ライバルキャラ総出演による“オールスター戦”という流れになりそうですね。これは典型的な大長編作品の総決算企画と言うべきもので、以前からのファン層を満足させると共に、実は作者が一番楽しんでいる…という色々な意味で贅沢な企画だったりします。『大甲子園』(作画:水島新司)を見れば判りますよね?(笑)
 まぁ、この作品でそれをやったところで、果たしてどれ位の「サンデー」読者がついて来れるのかは微妙ではありますが、それでも“打率”の高い企画ではあると思います。歴代のキャラクターを出すだけでシナリオが薄っぺらくなるとアレですが、普通にやっていれば少なくとも大ハズレは無いでしょう。

 ただ、今回のエピソード──ダンドーがチンケなヤクザと賭けゴルフして圧勝──はちょっと頂けないかなぁ…とも思います。主要キャラ紹介を最優先させるため、敢えて中身の薄いシナリオでお茶を濁したとも言えるのですが、8年以上引っ張った作品の再出発となるべき回を、そんな悪い意味で陳腐なシナリオにしてしまうのは如何なものでしょうか。全英オープン準優勝の天才少年に相応しい華々しい再登場シーンが欲しいと個人的には思いました。

 評価は、とりあえず今回だけで8年分の評価を揺るがせるのもどうかと思いますので、保留の意味も込めてB+で据え置き。まぁ、真価が問われるのは“オールスター戦”か、その前の新庄VSダンドーに突入してからでしょうね。

 
◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「すぐに挫折してしまった挑戦って、ありますか」。
 
やはり習い事系、ダイエット・運動系が多いみたいですね。中には「会社勤め」、「社会人」というのもあって、さすがはマンガ家さんだ…と思わせてもくれます。そう言えば、かの藤子・F・不二雄先生も会社勤めを超短期で挫折したんでしたよね。
 しかし、藤田和日郎さんが、下描きナシでいきなりペン入れから始めてるってのは本当だったんですね。とやかく言う前に凄ぇと思います(笑)。

 ちなみに駒木の挫折はアコースティックギター。定番ですね(笑)。Fコードとかは何とかクリア出来たんですが、アルペジオとかスリーフィンガーが全く……(苦笑)。時間が出来たらもう一度基礎から練習し直したいんですが、時間が出来るなんて有り得ないですからねぇ。

 連載作品については、特に語りたいモノが無かったので今回はパスさせてもらいます。いや、低調だったというわけじゃなくて、ただ単にネタ不足だっただけの話です(笑)。

 次週のゼミについては、他の講義も増える関係上、週後半に合同版で実施する事になると思います。では。

 


 

2003年度第116回講義
3月19日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第3週分・後半)

 モデム配り関連講義の続編でもそろそろ始めようかと思っていたんですが、とりあえずレギュラー講義を済ませておかないと……と言う事で、今日はこちらを。週明けから色々バタバタしちゃいますので、やるべき事だけ今の内…てな感じです。

 というわけで、今日は今週発売の「週刊少年サンデー」16号を教材にゼミを実施します

 まずは新連載についての情報から。
 既に連載開始だけは決まっていた『DAN DOH!!』シリーズの続編ですが、いよいよ次週発売の17号からスタートです。
 タイトルは『DAN DOH!! 〜ネクストジェネレーション〜』。勿論、作者は前シリーズまでと同じく、原作が坂田信弘さん、マンガ担当が万乗大智さんです。……もっとも、回を追うごとにゴルフ描写がトンデモ化していっているこの作品、果たして本当に坂田さんが原作書いているのかどうか、色眼鏡で見たくなってしまうのですけれどもね(笑)。
 なお、アニメの方はテレビ東京系で土曜日の朝9時半からの30分枠で放映とのこと。パンチラ御法度のテレ東でこの作品(というより万乗パンツ)がどう扱われるのか、久米田康治さんも興味津々のアニメ版『DAN DOH!!』は4月3日スタートです。

☆「週刊少年サンデー」2004年16号☆

 ◎読み切り『ダグラーバスタークウ!』作画:松浦聡彦

 今週から「週刊少年サンデー」は創刊45周年特別企画月間。巻頭から大小様々な特別企画が誌面を飾っていますが、その1つがこの読み切り。久々に松浦聡彦さんが週刊本誌に登場という事となりました。

 では、例によって作者紹介です。今週分前半の大亜門さんに続き、この松浦さんも幸か不幸かネタに事欠かないキャリアを積んでおられるので、じっくりとお話させて頂きます。

 まず、松浦さんのデビューは「少年サンデー」月刊増刊の94年2月号という事ですから、キャリア丸10年ということになりますね。ベテラン揃いの「サンデー」の中でも、もう中堅という扱いで差し支えないと思います。
 デビュー後しばらくは(「サンデー」系のデータベースが今一つ充実していないため)松浦さんのイマイチ正確な動向が掴めないのですが、96年には『ワープボーイ』(原作:荒尾和彦)で週刊本誌連載デビューを果たしていますので、「サンデー」系の若手作家さんとしては比較的順調な“出世コース”を辿っていたのでしょう。ただし、この原作付き連載デビュー作は残念ながら短期で終了。松浦さんの本格的な活躍は翌年、『タキシード銀』の連載開始を待たなくてはなりません。
 その『タキシード銀』は97年15号から00年7号に渡る約3年間の長期連載になり、松浦さんの「サンデー」読者における知名度はこれで一気にアップします。この作品に“ヒット作”というフレーズを用いて良いかどうかは微妙でしょうが、安定したクオリティで連載陣の脇を固めていた印象が強く残っています。

 ──しかし、これからの松浦さんの歩みは苦闘の歴史そのものでした。

 まずは連載終了の余韻も未だ鮮やかな00年17号より、サバイバル冒険モノ作品・『ブレイブ猿S(モンキーズ)』を連載開始しますが、これはわずか19回で終了の憂き目に。連載作品の新陳代謝の鈍い「サンデー」では異例の短期打ち切り。「ジャンプ」で言えば1クール・9回光速突き抜けに匹敵する“惨敗”でした。
 しかし、これくらいではまだ松浦さんの“実績点”は消えておらず、翌01年、松浦さんはなんと『北斗の拳』で有名な大御所・武論尊さん原作作品のマンガ担当に起用されます。しかし、「ジャンプ」では原哲夫のポジションに松浦聡彦とは、さすがは「サンデー」と言うか血迷ったか「サンデー」というか……。まぁぶっちゃけ、コメントに困るお話ですよね(笑)。
 で、その名も『ライジング・サン』なる、題名からして元自衛隊員の原作者の思想信条が現れまくった作品は、前・後編形式の読み切りで“試運転”された後に連載となりますが、武論尊のネームバリューも人気に繋がらず、掲載順は低迷。しかも読み切り版のラストシーン(主人公がゼロ戦に乗ってホワイトハウスにカミカゼアタック)が、この年起こった全米同時多発テロの内容と図らずもシンクロしてしまい、単行本の発売が自粛延期されてしまうという嫌なオマケまでついてしまいました。結局、この作品も24回で打ち切りとなり、果てには、当時まだ青臭い文章でアクセス数1日10〜20の弱小テキストサイトを運営していた駒木ハヤトなんぞにネタにされてしまう羽目になってしまいます(笑)。
 これと前後して、松浦さんは創刊間もない系列誌・『サンデーGX』『ビッグコミックスペリオール』誌で活動していましたが、「サンデー」週刊本誌からは今回の再登場まで2年半もの間、遠ざかっていたことになります。これをきっかけに再び「サンデー」に足場を築く事が出来るのか、この読み切りは重要な試金石と言えそうです。

 ……というわけで、作品の内容についてお話してゆきましょう。

 まずですが、技術的な面で駒木が口を挟む余地は全くありませんね。さすがは濃密なキャリアを経て来た作家さん、これは恐れ入りましたといった所です。
 ただし一点だけ。細かい目のトーンが週刊本誌特有の紙質の悪さの前に潰れてしまい、いくつかの場面が少々見苦しくなってしまったように思えます。久々の事でウッカリしていたのかも知れませんが、その辺のきめ細かい配慮があれば完璧だったのに……と、少々残念に思いました。

 ストーリー・設定の方も、キャリアに裏付けられたテクニックが各所で見受けられ、好感度の高い作品に仕上がっていると言えます。特にページ数に合わせたキャラクターの人数やシナリオのボリュームの絞り込み方が秀逸で、読み手に作品内容の理解について負担をかけないでよう見事に配慮されています。この辺のバランス感覚はさすがですよね。
 ただ、プロットや各種設定などは、これまでにも数多の作品で散々使い古されて来たものが大半を占め、目新しさ(読み手に与えるインパクト・感銘の度合い)は相当低かったように思えます。主人公・クウの持つ“犬並みの嗅覚”という能力でどれくらいインパクトを与えられたかがカギになるのでしょうが、それにしても非常に斬新とは言い難いモノでしょうし……。
 また、シナリオのボリュームを必要最低限に絞り込んだのは良いにしても、少々展開がスムーズ過ぎたような気もします。あまりにも主人公にとって都合の良い展開が続いたのではないか…と思うんですよね。もう少しピンチらしいピンチに遭っていれば、悪人をやっつけた時のカタルシスも大きかったような気がするんですが。

 さて、評価です。作品の完成度を大きく損ねるような欠点は見当たらないものの、安全策を採り過ぎてこじんまりとした作品になってしまった……と言う事で、B+としておきます。いわゆる「名作崩れの人気作」っぽい所もありますし、これくらいが妥当ではないかと。
 蛇足ですが、この作品を連載化しようとした場合は、余程多くの「この設定でこういう話が描きたい!」…というようなアイディアを用意しておかないと、たちまちネタ切れ、失速してしまうような気がします。特に主人公が生死を彷徨うようなシビアなシナリオがどれくらい作れるかがポイントになるのでは…と思います。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「忍者になれるとしたら、どんな忍法を使いたいですか」。
 
この形式が始まってから、指折りの奇問ですね。しかし、切実な願いを日頃から抱いている連載作家の皆さん、堂々と「雲隠れの術」がトップとなりました。やっぱり編集さんから身を隠したいっていうのは、手塚治虫時代からの伝統なんですね(笑)。
 駒木は──困ったな、あんまり忍法そのものを知らないんですよねぇ。でもまぁ、とにかく不眠不休で動けるような忍法があったら是非会得したいと。……ただ、そういうのって、いかにもドーピング系の忍法になりそうで怖いですね(笑)。白い粉を溶かした液体を注射で……とか。

 
 ◎『史上最強の弟子 ケンイチ』作画:松江名俊【現時点での評価:B+/雑感】

 必殺技が無い主人公の格闘マンガって、実は相当描くのって難しいはずなんですよね。どうしても地味になりがちだし、技の名前叫んで見開きページでドカーン! ……みたいな楽も出来ませんし。
 それを考えたら、今回のエピソードっていうのは、何の変哲も無い“箸休め”的な話に見えて、実は結構凄い事をやっているような気もします(笑)。


 ◎『こわしや我聞』作画:藤木俊【現時点での評価:B/雑感】

 しかし、この期に及んでミスターベーターもどきが悪役って……(汗)
 しかもこれって、「ジャンプ」でもつい最近『銀魂』でやったネタ(しかも外し気味)だったわけなんですが、どうしてまたわざわざ被せますか?
 シナリオも、何だか大雑把な『D−LIVE!!』みたいになっちゃいましたし、どんどん迷走が進んでいるような気もします。このまま行くようだと、早い段階での評価下方修正も検討しなくてはならなくなりそうです。

 
 ……というわけで、ちょっと短いですが、今日はこれまで。
 しかし、敢えて大きく採り上げませんでしたが、『十五郎』の露骨かつ微妙なサービスカットは失笑モノでしたよねえ(^^;;)。……しかしこの作家さん、喋り言葉の語尾か小道具でしかキャラ付けが出来ないんでしょうか。駒木にとってはそっちの方が気になってしょうがなかったですね。まぁ、もうすぐ打ち切りでしょうから、気にするだけ無駄なんですが。

 次週のゼミは、旅行やらモデム配りやらで忙殺されるので、多少遅れるかもしれません。どうか何卒。

 


 

2003年度第115回講義
3月16日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第3週分・前半)

 ……いきなりですが、

会社で当社会学講座を受講する時は、部屋を明るくして上司から離れて受講して下さい。

 ……などと言ってみたくなる、3月第3週前半のゼミをお送りします、駒木ハヤトです(笑)。
 詳しくは後ほどのレビューでお送りしますが、それにしても見事なカラーページの無駄遣いもあったもんですね。1ページに人物作画3カットで笑いも取って原稿料倍! 集英社の経理さんも眉をひそめる新連載がスタートした今週の「週刊少年ジャンプ」を対象に、本日のゼミを行いたいと思います。「サンデー」関連の内容については、また週の後半という事で。

 ……さて、今週は公式アナウンスによる情報系の話題はありませんが、ネット上の信憑性の高い未確認情報によると、『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦)が来週号で1stステージ終了&一時休載となるとのこと。連載再開は6月頃とのことで、どうやら10週程度の31ページ連載と“充電休載”を繰り返すスタイルを採る事になるようです。
 「ジャンプ」では以前、『BASTARD!!』(作画:萩原一至)と『レベルE』(作画:冨樫義博)を月イチ連載にしていた事がありましたが、この情報が間違いでなければ、それ以来の変則連載スタイル採用となりますね。また、ここ2週ほどクライマックスっぽい流れになっている『銀魂』(作画:空知英秋)も、これで『SBR』の31ページが空くとなると、さすがに次期入れ替えまでは安泰っぽい感じがします。
 まぁ本来、この手の情報は大事を取って公式アナウンスまで紹介しないで待つんですが、注目度の高い作品の動向でもありますので、紹介させて頂きました。あくまでも駒木本人が公式情報を見聞したわけじゃありませんので、その辺りはご承知置き下さい。

 ……それでは、今週の「ジャンプ」掲載分のレビューとチェックポイントをお送りしましょう。レビュー対象作は、新連載1本と読み切り1本の計2本となります。

 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年16号☆

 ◎新連載『無敵鉄姫スピンちゃん』作画:大亜門

 「ジャンプ」春の新連載シリーズ第2弾は、当講座も期待の新鋭ギャグ作家・大亜門さん『無敵鉄姫スピンちゃん』です。
 大亜門(苗字が“大”のようですが、語呂が悪いので原則フルネームでいかせてもらいます)さんの当ゼミにおける作品レビューは、何とこれで6回目。受講生の皆さんにとってもすっかりお馴染みかと思いますが、今回は新連載1回目という事もありますし、語るネタにも事欠かない人でもありますので、改めてじっくりとプロフィールを紹介させて頂きます。

 大亜門さん77年5月29日生まれという事ですから、現在26歳。「ジャンプ」の若手作家さんとしては、キャリアの割に年長者という事になりますか。
 大亜門さんのキャリアのスタートは02年4月期の「天下一漫画賞」。本名(?)の西村大介名義で最終候補に残ったところから始まります。ちなみにこの際には、月替り審査員の矢吹健太朗さんから「既存の作品の影響が強い」という痛恨のコメントを頂戴しています。
 確かにこの時の作品、主人公がどう見ても『男塾』の江田島平八のパロディ…というミもフタもない作品だったわけですが、よりにもよって(以下略)

 ──さて、それで闘志に火が点いたのかどうかは判りませんが、この直後から大亜門さんはハイペースで習作原稿を「ジャンプ」編集部に持ち込み、代原の形ではありますが02年34号にて「ジャンプ」デビューを果たします。主人公は先述の投稿作品に続いて偽・江田島平八、しかも冒頭に『あずまんが大王』のキャラと思しき女の子たちが裸に剥かれて登場…という、「天下一」の時の出来事を知る者からすると開き直りもいいとこな作品でしたが、何はともあれ、これで仮デビューとなりました。また、その後同年44号でも、代原(「天下一」の最終候補作)掲載を果たしています。
 それからも大亜門さんは精力的な執筆活動を続け、翌年には「赤マルジャンプ」03年春号にて正式デビュー。この時の作品は、今回の新連載のプロトタイプとなる『スピンちゃん試作型』どうでもいい事ですが、この作品は当講座の第2回「コミックアワード」にて、「ジャンプ・サンデー最優秀新人ギャグ作品賞」を受賞しています。
 これで好評を得たのか、週刊本誌03年40号と48号で、正規読み切りとして『スピンちゃん』シリーズの続編を相次いで発表。このような、どう見ても「『スピンちゃん』で連載狙ってます」と言いたげなアピール活動が実を結び、遂に今回の連載獲得となりました。
 また、いわゆる代原作家から週刊本誌連載を獲得したのは今回が初のケース。これに準じるケースとしては、「ジャンプ」を離れ、「週刊少年サンデー」と「週刊コミックバンチ」で週刊連載を果たした南寛樹(南ひろたつ)さんがいますが、南さんについては何を言ってもカドが立ちそうですので、ここはノーコメントとさせて頂きます(笑)。

 ……というわけで、長くなりましたが以上がプロフィール紹介。それでは今回の新連載作品について述べさせて頂きます。

 まずはからですが、昨年に読み切りを発表してからの短期間に随分と上達しているのが窺え、正直言って驚かされました。シリアス、通常のマンガ用、そしてディフォルメと3種類の絵柄が使い分けられており、それがギャグにも活かされて良い結果に繋がっています。前作で指摘した動的表現やセリフを喋っている時の表情の不自然さもほとんど解消されており、気がついたら歴代の「ジャンプ」系ギャグ作家さんの中でも中〜上位クラスの画力にまでなっているように思えます。
 課題を挙げるならば、肝心のスピンちゃんの作画が若干ぎこちない所でしょうか。普通の人間とは容姿の造りが根本的に違うために、大亜門さんもまだ戸惑っている部分もあるのでしょう。この辺は連載を続けながら手に馴染ませていくしかないですね。

 そしてギャグについてですが、例によって個人的な“笑った/笑えなかった”は別にしても、確かな技術に支えられたハイレヴェルな作品だと思われます。特にツッコミが上手いのがポイントで、これが展開の単調さを避けたり、一つのネタから多くの“笑い所”を作り出したり…という結果に繋がっているのではないかと。
 また、入念な“試運転”を経てからの連載化だけに、完全にキャラクターが出来上がっているのもセールスポイントでしょう。読み切り版から若干のマイナーチェンジがあったようですが、これは連載にあたっての“初期化”と言うべきものと捉えた方が良い感じですね。あと、透瑠が読み切りと違って“ビュティ化”してしまっているのは、読み切り版でその役目を担当していたゲストキャラが今回不在だったというのが影響しているのだと思います。
 問題点としては、やはりマニアックに過ぎるネタがどこまで幅広い層に受け入れられるか…といった所でしょうね。一応はネタ元が判らなくても違和感だけで笑わせる事が出来るように配慮出来ていますが、これは間違いなく不安材料ではあります。このへん、駒木個人は全てのネタが完璧にストライクだったので、余計に一般層の反応が読めないんですよね(笑)。

 評価はA−をつけた読み切り版よりも進歩が窺えるという事で、A−寄りとします。低年齢層にある程度受け入れられれば、長期連載も狙える逸材だと思うのですが、さてどうなるでしょうか。

 
 ◎読み切り『ヘンテコな』作画:千坂圭太郎
 
 続いては新人作家さんの読み切り作品、03年下期「手塚賞」佳作受賞作・『ヘンテコな』が登場です。先週のゼミでも申し上げた通り、「手塚賞」佳作受賞作の本誌掲載は珍しいケースです。
 なお、この「手塚賞」受賞で新人作家の仲間入りを果たした千坂さんは受賞時18歳。今春高校卒業かそれより1学年上という事になりますね。

 ……それにしても今回のこの作品、絵柄といいシナリオといい何故か既視感が強いと思ったら、高校時代に読んだSF研究部(という名の漫研&ライトノベル研&TRPG研)の会報に載ってたマンガと小説と感じがソックリだったからでした(笑)。
 同様のクラブに在籍経験のあった方なら理解して頂けると思うんですが、RPG系ファンタジー世界観が問答無用の“お約束”になっている所と言い、会話全般や出来事の起こり方が異様に段取り臭い所と言い、ザコ悪党のセリフが一様に“ゴルァ系”だったりする所と言い、戦闘が“一発ズドン”で片付いてしまう所と言い、至る所から漫研の甘ったるい匂いみたいなものが溢れ出てるんですよね(笑)。
 しかし、そんなアマチュア臭い作品でも、やり方次第で「ジャンプ」にも載ってしまう…というのは、ある意味で非常に興味深いですね。本当に「ジャンプ」ってのは懐深いですねぇ。……まぁ、そのままで連載まで行けるかどうかは極めて微妙でしょうが。

 さて雑感はさておき、例によって作品の内容を細かく分析してゆきましょう。

 まずですが、全体的に画力が未完成なのは仕方ないにしても、ディフォルメの使い方が全くなってないのが気になります。シリアスな場面(特に戦闘シーン)で不用意にディフォルメキャラが描かれているケースが非常に多く、強い違和感を感じてしまうんですね。
 実はこの辺もいわゆる“漫研の甘ったるさ”の1つでして、普段は勝手に自分の意図を理解してくれる身内にばかり作品を読んでもらっているためか、「マンガの絵は読み手に話を理解させるための記号」と言う根本的なルールが徹底出来ていないんですね。まぁ千坂さんがそういうクラブに所属していたかどうかは判りませんが、読者の好意を期待し過ぎているという点では同じ事だと思います。
 あと、コマ割りもちょっと酷いですね。見せ場での大ゴマの使い方は上手く出来ている部分もありますが、その他の場面では、どう考えても「ページ数が詰まってますので、とりあえず沢山のコマを押し込めてみました」というようなページが見受けられます。もっとネームを練りこんで欲しかったです。

 次にストーリー・設定についてですが、まずメインアイディアである「ヘンテコ」の設定全般は、そのネーミングも含めて良かったのではないかと思います。というか、このアイディアだけで「手塚賞」佳作まで行ってしまったような気がしないでもありません。
 ただ、他の部分はやはり未熟さが目立つ形になってしまいました。冒頭の雑感で述べた部分に加え、ストーリーの展開や設定の説明をセリフのみに頼り過ぎている点や、「家族」というテーマを活かしきれなかった点(「家族のために盗みを働いて当然」という主張を無条件で是とするのは如何なものか?)、そして主人公の父親が死ぬシーン等の“見せ場”を効果的に見せる演出力の不足など、問題点は山積です。

 ……そういうわけで、良く言えば「荒削り」、悪く言えば「実力不足」というのが、現状の千坂さんが立っているポジションではないかと思います。まずはマンガを描くにあたっての意識をプロ仕様に変えないと、「ジャンプ」での飛躍は難しいでしょう。
 さしあたっては、技術の確かな連載作家さんのアシスタントに潜り込むなどして、基本的な所からマンガ描きの技術を徹底的に仕込んでもらうと良いのではないでしょうか。好感度の高い主人公・ヒロインを描くセンスはある人だとは思いますので、技術さえ身に付ければ大化けも有り得ると思います。

 評価はB−。もうちょっと高くても良いような気もしますが、技術面を重視して採点するとこの辺に落ち着いてしまうんですよね。
 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週も空知英秋さんと編集さんのバトルは続行中。打ち切り回避したとなったら、筆も滑らかですなあ(笑)。
 空知さんがコメントで、

 「僕の担当は家に来ると冷蔵庫を勝手に物色するチンピラ編集者です。全ての指を突き指しろお前は」

 ……とやったと思えば、担当さんも例の柱スペースで、

 「なぜか電話が繋がらず連絡が取れない空知英秋先生の作品が読めるのは週刊少年ジャンプだけ!!」
    ↓(8ページ後に)
 「電話料金きちんと払えよ!! 空知英秋先生に応援のファンレターを!!」

 ……などと、オチまでつけて逆襲。絶対仲良いだろお前ら、と言いたくなるような連携プレーが見事ですね(笑)。今週の『銀魂』は笑い所が少なかったので、こういう所で小ネタを利かせたんでしょうか。

 あーあと、今週の巻末コメントでは、
 「最近仕事場でクイズが大流行。で、雑学王の私が圧勝中。アシスタント諸君、更なる難問でかかってこい!」(許斐剛さん)
 「ペットのハムスターがご臨終に。一番辛かった2年間を一緒に過ごしてくれた仔でした。サンキュ」(和月伸宏さん)
 ……の2つを見て、「うわー、こんな短い文章にでも人格って滲み出るものなんだな」と思ったりしました(笑)。
 まぁ、そう言う駒木はこれから気をつけても手遅れなぐらい人格疑われてると思うんですが。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】
 
 大方の予想を覆す自力決着でこのエピソード完結となりました。いやー、やっぱ実力派の作家さんが描くエピソードの展開予想は至難の業ですね。駒木も精進せねば……。
 ただ、エピソードそのものは、やや駆け足に過ぎたかなという感じもします。先週と今週の2回分のシナリオは、3〜4回にジックリ分けた方が話に深みが増してもっと良くなったような気もします。連載序盤で戦闘を間延びさせて失敗した教訓なんでしょうけど、過去の回想や心的描写はもう少しジックリ読ませて欲しいです。

 ところで、斗貴子さんの「スパルタンだけど、完全な冷血漢になり切れない部分」の描写は秀逸でしたよね。特にカズキの腕を切り裂いておいて、自分も痛そうにしている表情を挟むのが絶妙です。しかし、それでもいくら本気度を示すためだとはいえ、身内に目潰しはやり過ぎだろうと(苦笑)。


 ◎『ごっちゃんです!』作画:つの丸【現時点での評価:B+/連載総括】 

 数少ない03年度生き残り組の一角も、低迷する人気には勝てず、3クールで打ち切りとなってしまいました。巻末コメントによると、『サバイビー』の時のように単行本最終巻での加筆修正があるみたいですね。
 やはりこの作品最大の“敗因”は、主人公のキャラクターが作品の世界観から浮いてしまったという点でしょうね。主人公を除いては地味ながら良質な相撲マンガになっていただけに、非常に惜しい所でした。

 最終確定評価は、打ち切りが濃厚になった終盤でやや展開が拙速になった分を差し引いてB寄りB+としておきます。


 ……というわけで前半分でした。後半分は週末になると思いますが、どうぞ宜しく。

 


 

2003年度第114回講義
3月12日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第2週分・合同)

 「ギラン・バレー症候群に酷似した免疫系の原因不明の病気」みたいな厄介な病気の手術(と言うか、免疫系の病気で外科手術?)を、民間の普通の総合病院でやっちゃう影にはどのような深遠な裏設定が? ……などと、とりあえず思ってみた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか駒木ハヤトです。

 さて、今週は情報系の話題が多いので、取り急ぎ本題へと移りましょう。

 まずは新人賞の話題から。今週は「ジャンプ」、「サンデー」共に、月例新人賞の審査結果発表がありましたので、こちらでも受賞者・受賞作を紹介させて頂きます。

第10回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年1月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作なし
 十二傑賞=1編
 ・『REACTION』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  岩田崇(21歳・京都)
 
《岸本斉史氏講評:キャラを少なく絞って分かりやすく見せている。キャラの性格と合気道というスポーツの特徴を上手く噛み合せているのが面白い》
 
《編集部講評:ストーリー作りが上手い。それぞれのキャラがドラマに巧みに絡み合っていて読ませる力がある。弱点は画力。絵柄は個性的だが魅力的ではない。読者に好かれる絵柄を目指して欲しい)
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『CLEANER─クリーナー─』
   泉朝樹(18歳・沖縄)
  ・『卓球王』
   路地方瑕王(21歳・新潟)
  ・『NEW FUTURE』
   久米利昌(22歳・栃木)
  ・『合戦場の絵師』
   江藤俊司(21歳・福岡)
  ・『ジャンキーヒーロー』
   小林真依(21歳・大阪)
  ・『星の花』
   土田健太(22歳・千葉)

少年サンデーまんがカレッジ
(03年12月・04年1月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=4編
  ・『VAN !!』
   佐多啓文(25歳・埼玉)
  ・『バウンサー』
   ガネコマサル(20歳・福岡)
  ・『雨男─Dancin' Chaser─』
   早川直希(24歳・愛知)
  ・『GREAT THIEF』
   ひらかわあや(18歳・島根)
 努力賞=1編
  ・『機鳥 The Machine Bird -KITORI-』
   桜樹英樹(19歳・奈良)
 あと一歩で賞(選外)=4編
  ・『黄金のクロス』
   高橋拓也(24歳・神奈川)
  ・『SHINOBI』
   佐伯玄太(22歳・愛知)
  ・『ホーンアイデンティティ』
   指音ゆう(24歳・京都)
  ・『スカイブルー』
   峯松隆人(18歳・兵庫)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ※「ジャンプ十二傑新人漫画賞」
 ◎最終候補の江藤俊司さん…03年06月期「十二傑新人漫画賞」で投稿歴アリ。
 ◎最終候補の小林真依さん…01年11月期、02年10月期「天下一漫画賞」、03年4月期「十二傑」でも最終候補
 ◎最終候補の土田健太さん…01年度「ストーリーキング」マンガ部門で奨励賞を受賞。

 ※「サンデーまんがカレッジ」
 ◎佳作の佐多啓文さん…02〜03年にかけて、「週刊少年ジャンプ」のカット描き経験アリ(?)
 ◎あと一歩で賞の佐伯玄太さん…02年12月・03年1月期「まんがカレッジ」でも“あと一歩で賞”

 ……今回は、飛び抜けた逸材には恵まれなかったものの、“新人予備軍”発掘という観点から見ればなかなかの豊作…といったところでしょうか。

 
 続いては、読み切りの話題。次週発売の「ジャンプ」、「サンデー」では、各誌1本ずつ読み切りが掲載されます。

 まず、「ジャンプ」16号には03年下期「手塚賞」佳作受賞作・『ヘンテコな』(作画:千坂圭太郎)が掲載されます。
 「手塚賞」関連では通常、受賞作がそのまま掲載されるのは準入選以上のみのケースが多いのですが、今回は佳作受賞作の本誌掲載という異例の抜擢となりましたね。

 一方、「サンデー」の16号に掲載されるのは、『ダグラーバスター クウ!』(作画:松浦聡彦)。かつて『タキシード銀』をスマッシュさせ、最近では系列誌の『サンデーGX』でも連載されていた松浦聡彦さんが、“創刊45周年記念特別読み切り”という名目で久々の週刊本誌復帰となりました。
 「創刊45周年記念」で何故松浦さんが登場するのかはさておき(笑)、楽しみにしておきたいと思います。

 
 ……ところで、先週少しお話した「島袋光年氏、復帰か?」の件ですが、既に誌面・ネット上でも発表になったように、「スーパージャンプ」誌で復帰が決定しましたね。しかもいきなりの連載復帰です。
 ただし、作品は全くの新作だという事で、予告のイラスト等から判断するに、シリアス系のベースにギャグを挟んでいくタイプの作品になりそうですね。
 「週刊少年ジャンプ」時代の島袋さんと言えば、「描きたいのはシリアス系、しかしアンケートが取れるのはギャグ系。そしてそのギャグは深刻なネタ枯れ状態」…という深刻なパラドックスにハマっていましたので、今回の新作はその折衷案といったところなのでしょうか。
 この新作、当ゼミではレビュー対象外ですが、場合によっては“読書メモ”枠で紹介する事になるかも知れません。受講生の皆さんも、頭の隅に記憶しておいてもらえると有り難いです。

 ……それでは、今週分のレビューとチェックポイントです。レビュー対象作は、「ジャンプ」の新連載1本、「サンデー」は新連載第3回と読み切りが各1本で計3本。また、チェックポイントも今週は増量でお送りします。

 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年15号☆

 ◎新連載『未確認少年ゲドー』作画:岡野剛

 今週から始まりました、春の新連載シリーズ。トップバッターは、2連続の短期打ち切りを克服しての再登場、ベテラン・岡野剛さんです。

 岡野さん──かつてはのむら剛のペンネームでも活動──88年上期の「赤塚賞」で『AT(オートマチック)Lady』が入選を受賞し、88年33号に受賞作掲載の形でデビュー。この作品は89年に連載化され、岡野さんは現役の学生との兼業というハンデを抱えつつ初の週刊連載に挑みますが、これは残念ながら1クール・10回打ち切りに終わります。
 しかしその後、真倉翔さんを原作者に迎え、岡野さんが作画を担当した『地獄先生ぬ〜べ〜』が、93年から99年まで5年半に渡る長期連載でスマッシュヒットを達成。この作品はテレビ朝日系でアニメ化もされ、一躍、岡野さんは有名作家の仲間入りを果たしました。
 しかし、その後は一転して伸び悩みの状況に陥ります。再び真倉翔さんとのコンビで臨んだ『ツリッキーズ・ピン太郎』2クール・19回で、真倉さんとのコンビを解消し、久々に単独で執筆した作品・『魔術師^2(マジシャン・スクウェア)2クール・16回でそれぞれ打ち切りとなり、『ぬ〜べ〜』で築き上げた「ジャンプ」でのポジションを実質上失ってしまいます。
 その後、しばらくの休養を挟んで岡野さんは、“10年選手”としては異例の『赤マルジャンプ』登場から再出発。その後、週刊本誌03年27号に今回の作品と同名の読み切りを発表し、その実績で2年半ぶりの週刊連載枠獲得を果たしました。デビュー16年目の正念場、果たしてどのような結果になるか、目が離せない所ですね。

 ……では、作者紹介が長くなりましたが、作品の内容へ参りましょう。

 まずはについてから。もうこれは岡野さんの作品をレビューする度に申し上げている事ですのですが、非常に完成度の高い“マンガ用の絵”だと思います。
 無駄な線が無く、ディフォルメ表現も文句無し。『ぬ〜べ〜』時代にさんざん妖怪を描いていたためでしょう、今回の“未確認生物”の造型も異形な中に愛嬌が感じられ、非常に好感度の高い絵柄だと思います。
 ただ、これも以前から申し上げている事ですが、全体的なセンスが若干古臭くなっているのかな、という気もします。何しろこのスーパー銭湯全盛の21世紀に旧態依然とした銭湯の煙突ですからね(笑)。今回は出て来ませんでしたが、岡野さんの描く不良キャラは“梅澤春人以上、車田正美未満”くらい時代錯誤だったりしますし……。この、どことなく“80年代”の残り香が感じられる作風が、ネガティブな受け取られ方をしなければいいが…と思ってしまいました。

 一方、ストーリー・設定なんですが、この第1回は、昨年発表のプロトタイプ版をベースに微調整を加えて仕上げた、一話完結型のエピソードでした。主要キャラクターや世界観の提示をする一方で、物語全体のプロローグ的なシナリオを上手く展開させており、こちらも好感度の高い仕上がりではないかと思えます。
 問題点としては、キャラクターの行動に極端かつ強硬手段的なモノが多く、ストーリーの流れがやや強引に感じられた事が挙げられるでしょうか。また、主人公側に確固たる大目標が存在しないという点は、今後の展開を考えると弱含みの材料になるでしょう。このままだとバトルの無い『地獄先生ぬ〜べ〜』のような作品になってしまいそうですが、それだと“縮小再生産”ですし。
 あと、“未確認生物”関連の設定は、そのまま作品の魅力に直結する重要な部分だけに、もう少し現実味を持たせる(もっともらしい嘘をつく)配慮が欲しいところです。作中のキャラクターに「え〜?」と突っ込まれるような設定は、やっぱり読み手にとっても「え〜?」になると思いますので……。
 あ、蛇足ですが、実際の人類の進化についてお知りになりたい方は、当講座の歴史学講義・「学校で教えたい世界史」の第1回から第3回までのレジュメをご覧下さいませ(笑)。

 さて評価なのですが、先述した通り、まだ読み切り版のエピソードを再構成したプロローグが終わったばかりなので、今回は保留としておきます。ただ、ここから目新しい展開がない限りは、読み切り版の評価(B寄りB+)を超える事は無いとお考え下さい。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 「バレンタインチョコ届きました」という、駒木にとっては心底どうでもいいコメントが複数見受けられる中、チョコはチョコでも、小説・『グミ・チョコレート・パイン』(作:大槻ケンヂ)について述べていたのが和月伸宏さん。そう言えば、パイン編出たんですよね。駒木は相当後からの読者ですから知らなかったんですが、8年待ちとは(笑)。
 えーと、『グミ・チョコレート・パイン』がどういう小説かを簡単に説明すると、芥川賞受賞作・『蹴りたい背中』(作:綿矢りさ)を男子サイドからの話にして、もっと笑えてもっと共感出来るようにした話です。……なんだ、だったらオーケンに芥川賞やっとけよ、などと『蹴りたい背中』を読了した直後に駒木が思ったのは秘密(笑)。

 ◎『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 デービーバックファイト2回戦はゾロ&サンジ組の勝利で終了。駒木の勝敗予想は外れてしまいました(笑)。それにしても、往年のクラッシュギャルズVS極悪同盟を思わせるあのレフェリングには笑わせてもらいました。
 しかし、となると、1名離脱というシナリオのためにはルフィが負けなくちゃならないわけですか。しかし、それだと離脱するメンバーもチョッパーだとは言い切れなくなりますね。
 まぁここは無理な深読みは止めて、素直に展開を追いかけるべきなんでしょうね(笑)。

 ◎『遊☆戯☆王』作画:高橋和希【開講前に連載開始のため評価未了/連載総括】

 96年から中断を挟んで足掛け8年。『こち亀』を除けば最古参の連載作品だった『遊☆戯☆王』もついに完結となりました。最近は掲載順も低迷していましたが、センターカラー&大増ページでの“円満完結”タイプの最終回となりました。
 何を置いてもまずは、「長い間、お疲れ様です」と申し上げたいと思います。淘汰の激しい「ジャンプ」で週刊連載をこれだけ長い間続けて来たというだけでも、凄い事だと思います。

 ……これほどまでに商業的な成功を収めた作品について、駒木なんぞがあれこれ言うのは僭越だと言わざるを得ません。が、それでも敢えて、このゼミとしての連載総括をさせて頂きます。ファンの方には少々耳の痛い事もお話しなければならないかと思いますが、ちょっとの間だけ、スルーをお願いします(笑)。

 さて、この作品を語るには、やはり一連の“カードバトル”をどう評価するか…という事に尽きると思います。
 “設定の整合性”という観点から見れば明らかに反則行為である後付けルールの連発、トンデモ系麻雀マンガ真っ青な豪運による大逆転、そしてそれらの御都合主義的演出に伴う戦略性描写の軽視……。少年マンガらしい、分かり易くて爽快なバトルシーンをカードゲームを使って演出するために、この作品は相当な“犠牲”を払って来たように思えます。
 これをどう評価するかというのは、大きな個人差が出て来ると思いますが、駒木ハヤト個人のジャッジとしては“ナシ”です。話の辻褄が合わないという事もありますが、本来なら作家が頭をヒネって工夫すべき部分を反則と御都合主義に頼って放棄してしまった…という、作品作りに対する根本的な姿勢に大きな疑問を抱いてしまうのです。

 あと、ストーリー全般については、各方面からの不可抗力が強かったにせよ、連載期間、特にカードバトル路線で引っ張った期間が長過ぎ、ストーリー全体が冗長に陥ってしまったような気がします。連載終盤の掲載順と単行本売上げの低迷は、その辺りを客観的な部分で示していたのかも知れません。
 元々、高橋さんの作風は複雑な心理描写などを挟まない“直球一本槍”のタイプですし、7年以上引っ張るには色々な部分で無理があったという事でしょうか。

 当ゼミとしての最終確定評価は、“功労賞”的なボーナス点も加味してBとしておきます。「大人の事情で名作になる事を許されなかった悲運の人気作」といったところです。

 
 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】

 今週もまた演出の素晴らしい事! それがまた理詰めの計算で出来ているから恐れ入ったというところですね。
 どぶろく先生に、ヒル魔&栗田&ムサシをハァハァ3兄弟をダブらせて語らせた部分も凄いんですが、ヒル魔とまもり姉ちゃんにスポットを当てた描写も光ってますね。各キャラクターに見せ場を作ってあげている配慮、それとコメディとシリアスの使い分けが非常に達者です。
 まぁ肝心のメインシナリオについては、トンデモな筋書きをムリヤリ理論武装してもっともらしく見せる…という危ない橋を渡っているので、ちょっと心配だったりもするのですが。

 
 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 いやはや、キてますなあ。強烈なハードコア&スピーディ展開。普通の少年マンガのバトルシーンが展開されていたはずなのに、いつの間にか凄い状態になってますね。
 とはいえ、連載開始当初から、この作品の設定はTYPE-MOONのビジュアルノベル風の殺伐としたストーリーを採用してこそ生きてくるんだ…などと思っていた駒木にとってみれば、この展開は不謹慎ながら小さくガッツポーズなわけですが(笑)。
 とりあえず、ここはキャプテンブラボーが現れて妥協策を提示、カズキと斗貴子さんも一時休戦…といった展開になるんでしょうね。しかし、カズキと斗貴子さんを躊躇せずに対立させた和月さんの決断力も凄いですね。確かに2人のキャラクターからすれば、ここはこういう展開しか有り得ないわけですが、全く躊躇しないですからねぇ。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B/久米田康治先生をリスペクトした雑感】

 ※今週月曜日、駒木と順子ちゃんの電話による会話の一部を再現。

順子:「……あ、そう言えば博士、今週の『ジャンプ』読みました?」
駒木:「いや、まだだけど。どうかしたの?」
順子:「『いちご100%』、また新しい女の子出て来ましたよ(笑)」
駒木:「また? テコ入れとキャラ増員は同義語じゃないんだっての。出せば良いってもんじゃないんだから……」
順子:「東城を予備校までストーキングしてて、そこの階段ですれ違いざまに女の子をぶつかって、もみ合いになりながら転落。気がついたら真中の顔面にその女の子の股間がめり込んでました。当然いちごパンツ」
駒木:「…………」
順子:「あ、あと観覧車! 観覧車が故障した上にドアのカギが閉まってなくて、落ちそうになった西野が下着丸出しになりながら真中に抱きつくってオチでした」
駒木:「…………(白い小旗を振りながら無言)」

 そこまでやられたら、もう何も言えません。


☆「週刊少年サンデー」2004年15号☆

 ◎新連載第3回『思春期刑事ミノル小林』作画:水口尚樹【第1回掲載時の評価:B+

 2週間前の13号から連載が始まったこの作品も、今回で第3回。後追いレビューを実施させてもらいます。

 まず、ギャグを効果的に見せるテクニックに関しては、前回のレビューで申し上げた通り申し分無いと思います。今回では反則スレスレのパロディも挟みつつ、ギャグの密度を濃くしようという意欲が窺えますね。
 ただ、ここに来て顕著な問題となって来ているのが、メインキャラ不足です。実質上ボケ1・ツッコミ1の布陣では、どうしてもギャグを畳み掛けるのが難しくなってしまい、結果としてネタの展開に無理が生じているような気がするのです。前作・『フェニックス学園』まではちゃんと出来ていた事ですので、本来の姿に戻ってもらえれば…といったところです。
 あと、主人公・ミノルが孤軍奮闘のボケで暴走したためか、このキャラのネット界隈における好感度は相当低くなっているようです。駒木はそのへん鈍感(笑えりゃ良いと思ってるタイプ)なので気にしないのですが、主人公が多くの人に嫌われているマンガで長続きした物は少ないですから、早めの善処を期待したいところですね。

 評価はランクを下げてB+寄りBと一旦後退させておきます。地力はある作家さんですから、持ち直せば改めて高い評価をつけられると思うのですが……。


 ◎読み切り『HOOK!』作画:鹿養信太郎

 さて、先週のこの時間でも紹介しましたように、今週は読み切り作品が掲載されています。
 今回登場の作者・鹿養信太郎さんは、これが週刊本誌初登場。これまでは増刊で数回作品を発表しているようで、最近では昨秋のルーキー増刊で『茜丸がゆく』を発表しています。
 また鹿養さんは、かつて夏目義徳さんが『トガリ』連載中にアシスタントを務めていました(単行本巻末のスタッフ紹介にクレジットがありました)ので、少なくとも00年からこの業界で活動をしているという事になりますね。

 では、レビューへ。
 まずはについてですが、背景処理等の“アシスタントの仕事”に比べて人物作画のような“マンガ家の仕事”が不出来という、典型的なアシスタント出身の若手作家タイプの絵柄ですね。ルアーや魚の描写が妙にリアルなのは、恐らく資料写真か何かを参考に描いたからでしょうが、人物作画と比べると明らかに浮いて見えてしまうのが何とも……。
 人物作画では、色々なアングル、ポーズ、ディフォルメに挑戦しており、高いモチベーションは窺えるのですが、悲しいかな技術と経験が伴っていないといった感じですね。今後の最優先課題でしょう。
 ただ、長所も無いわけではなく、大ゴマの使い方や笑顔がよく似合うキャラを描くのは上手だと思います。この辺は作品全体の好感度を上げる方向へ働きますので、目一杯伸ばしてもらいたい部分です。

 次にストーリーと設定について。
 まず、詐欺とフィッシングを絡めるというアイディアそのものは新鮮で良かったと思います。ただ、それがシナリオに上手く活かされているかと言えば、「残念ながら……」といったところですね。むしろ、このアイディアを活かすためにリアリティの無い設定強引で安直なストーリー展開を招いており、せっかくのアイディアもむしろ逆効果とさえ言えるかも判りません。
 鹿養さんは、前作『茜丸がゆく』でも、“室町時代の羽根突きとバドミントンの融合”と言う奇抜なアイディアで勝負しています。どうやら、関連性の低そうで高い2つの事柄を結び付けてメインアイディアを練り、そこからストーリーとキャラクター等の設定を創り上げていく…という創作方法を採っているようですね。確かにこれは目新しさを出すには最適の方法でありますが、逆に言えば目新しさだけを重視した方法でもあります。アイディアが素晴らしくても、肝心のシナリオの完成度が低ければそれは単なる“アイディア倒れ”。今後はもっと腰を据え、ストーリーテリングの基本を意識した作品作りを心掛けて頂きたいものですね。(何かいつにも増して偉そうな言い方になってしまいましたが……)

 評価はB−とします。とりあえず力を注ぐベクトルを変えた新作をもう1回拝見してみたいところです。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「今までで一番の親孝行は何ですか?」。
 
こりゃまた小ッ恥ずかしい質問を(笑)。回答も何だかしみじみしたモノが多くて突っ込み難いったら(苦笑)。
まぁでも、青山剛昌さんの「サイン書きまくり」ってのは判りやすくて良いですね。サインといえば、高橋留美子さんはほとんどサインを描かない事で有名なんでしたっけ? まぁ、希少価値の高いサインを「ここぞ」という時に書くというスタンスも書きまくるのと同じくらいアリだと思いますけどね。

 ちなみに駒木の親孝行は……困ったな、無いぞ(苦笑)。それこそ健康で死ななかった事だけで、親不孝だけは数え切れないほどしてますからねえ。この年になって、未だに毎年就職で苦労してるんですから……。まぁ出世払いする心の準備はあるんで、長生きしてもらいたいものです。

 ところで、今週の「サンデー」で駒木が一番笑わせてもらった箇所は、『美鳥の日々』の最終ページ柱の煽り文、
 「恋する乙女心は、いつだって怪奇千万だね」
 ……でした。このタイミングで怪奇千万って(笑)。でも多分、これで一番笑ったのは「サンデー」関係者の皆さんじゃないでしょうか(笑)。
 先週号の『改蔵』で地丹がやってた“松嶋歩き”に続いて、他作品のネタにされまくりですなあ、『十五郎』。掲載順も実質最下位に転落し、いよいよXデーも近いかな、といったところで弄られまくりとは皮肉なもんです。

 ◎『うえきの法則』作画:福地翼【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 引っ張りに引っ張り続けてきた、森あいの能力がついに発動。なんと「相手をメガネ好きにする能力」という洗脳系能力でした。
 いやはや、これにはさすがの駒木もヤラれてしまいました。「メガネっ子好き」じゃなくて、「メガネ好き」にしてしまうという、福地さんの感覚のピンボケな所がかえって良い方向に働いてますね。レビューじゃないんで言わせて頂きますが、コレ、面白ぇです(笑)

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今週、当講座の談話室(BBS)で盛り上がってるのが、今週の『改蔵』に出て来た、マンガ錬金術について。大体答えも出揃って来たようですが、「サンデー」作品をネタにしていないのは、没になったのか、それとも武士の情けでしょうか。

 ◎『ハイスクール奇面組』+『ボンボン坂高校演劇部』+柔道=?

 ◎『ミスター味っ子』アニメ版−パン以外の料理=?

 ◎『寄生獣』+『南くんの恋人』=?

 ◎『プロゴルファー猿』+『あした天気になあれ』−キャラクターの平均年齢+万乗パンツ=?

 ……とか、ミもフタもないネタはいくらでも作れるわけですが(笑)。まぁ、ミもフタも無さ過ぎてネタになりませんか。
 しかし久米田さん、実名出さなきゃ良いだろうって感じで本当にギリギリなネタを出して来ますよね。担当さん大変だ(笑)。

 ところでお忘れかも知れませんが、当社会学講座ウェブサイトは、

 『ちゆ12歳』+タモリの密室芸『教養講座』+浅田次郎さんのエッセイ集『初等ヤクザの犯罪学教室』

 ……の練成によって誕生したものであります(笑)。

 
 ──といったところで、今週はこれまで。来週もレビュー対象作が3本という事で、もし時間が許せば分割版でお届けしたいと思います。では。

 


 

番外
3月9日(火) 人文地理
「続々・駒木博士の東京旅行記」(7・最終回)

◎前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回

 長らく無意味に引っ張って来てしまいました年末の旅行レポも、これにて最終回。見切り発車もいい加減にしろという教訓になりました。何度目の同じ教訓か、もう覚えきれないくらいに回を数えてますが。

 さて、それでは今回は旅行3日目(12/30)の午後、コミケ会場である東京ビッグサイト東1・2・3ホールから再開となります。
 なお、レポート文中、文体を常体に変えております。


 さて、2日間に渡るコミケ潜入もいよいよ大詰め。駒木がコミケにサークル参加する場合、恐らく選択する事になるであろう評論カテゴリの実地調査である。
 今回のコミケでは、評論カテゴリのサークル配置は「男性向け創作」と「Leaf・Key系18禁ゲーム同人誌」の間に挟まれた場所。こう言うと、何だかとんでもない場所に挟まれたようにも感じてしまうが、実はコミケでも指折りの、集客力に恵まれた環境だったりする。言ってみれば、秋葉原の大通りに専門書の本屋が軒を連ねて建っているようなものだ。

 ……さて、あまりダラダラと見聞録を書き連ねても芸が無いので、ここは実地調査で得た印象をトピック形式でお届けする。

 ●少数精鋭・完全実力主義。無名の伏兵も多し。

 サークル数はマンガ等に比べるべくもないが、遊び半分ではなかなか参加出来ないカテゴリだけに、少数精鋭の趣。中には著名人やプロ作家が運営しているサークルもチラホラ見かけるが、そういった所もマンガとは違い、結構平気で苦戦していたりする。
 その一方で、ごく普通の人(大手ウェブサイト運営者含)たちの同人誌が飛ぶように売れていたりするから面白い。知名度よりも本の内容第一の完全実力主義とにかく良い本(or良い本に見える本)を出しているサークルが強い。その逆のサークルは本当に閑古鳥が鳴いている。

 ●重要なのは、評論のテーマと飛ばし読みした時の印象度

 文字本の難点は、パッと見で本の内容を伝える事が難しい事。マンガなら表紙絵さえ達者なら手に取ってもらえるが、評論カテゴリではそれが原則不可能。(ただし、逆に言えば綺麗な表紙絵で勝負できればかなり有利とも言える。要熟考。)
 よって、重要になるのは本のテーマ。何についての評論本なのかという所で興味を持ってもらえないと、いくら中身に自信があってもブースの前を人が素通りしていくだけで終わる。平凡過ぎず、さりとて奇抜過ぎない題材が求められるだろう。平均的なコミケ参加者層が興味を持っていそうなジャンルである事も大事。あと当然ながら、卓上POPなど、移動中の人にも一目でテーマが判るようなアイテムも用意しておくべきだろう。
 ただ、テーマはあくまでも“手に取ってもらうまで”の武器。“テーマ買い”をしてくれる人もいるが、眼がシビアな人も多い。パラパラとページをめくりながらの飛ばし読みでインパクトを与えないと買ってくれない。2〜3ページ見ただけで「これは買いだ!」と思わせるような構成になっていないと、見本誌がヨレヨレになるだけで終わり。いかに文字の羅列を面白そうなビジュアルに感じさせるかがカギ

 
 ●1冊あたりの頒価は500円まで。但し、無料配布は逆効果。

 大半の実力派サークルは、見栄えのする表紙で中身の濃いオフセット本を500円以下で売っている。これ以上の値をつけていては太刀打ち出来ない。薄いコピー本なら100円、200円くらいまでか。また、分厚い本なら値段が高くても大丈夫に思えるが、それでは一見さんは二の足を踏む。1冊1500円の分厚い本よりも、それを上・中・下巻に分けて各500円で売る方が無難。本の種類が多い方がブースも華やかになって、何だか活気付いて見える。
 たまに無料配布本のみで参加しているサークルも見受けられるが、かえって敬遠されがち。「タダなのでとりあえず貰ってください」とモデムを配っていたヤフーBBの路上キャンペーンがどれだけ胡散臭く思われていたか思い出せ。極端な話、なかなか手に取ってもらえない無料配布本でも、1冊10円で頒布したらバカ売れしてしまう可能性すらある。人は金を払う事で物を得る事に安心感を持つ。


 ……と、こんなところだろうか。短時間の調査ゆえ、これが本当に現状を把握したものになっているかは、やや疑問の余地も残っているだろうが……。

 さて、実地調査の結果から考えるに、もしもコミケに駒木研究室としてサークル参加するならば、やはり「現代マンガ時評」関連の本がベストだろうと思う
 まず、“01年末からの「ジャンプ」、「サンデー」に掲載された新連載&読み切り全作品のレビューが掲載された本”というテーマはインパクトがある(はずだ)。コンテンツのボリュームも呆れるくらいにあるので、中身も濃くなるはずだ。どうせ値段をつけて頒布するのなら、“同人誌限定”の加筆修正を施して、さらにボリュームを増してみるのも面白い。あと、ターゲットは絞られるので少部数のコピー本になるだろうが、「フードファイター・フリーハンデ」も面白い題材かも知れない。
 それと、表紙は当講座の3人娘に登場してもらうのもアリだろう。華やかなカラー表紙は否応無しに目立つ。もっとも、表紙と中身に全く因果関係を見出せないのが問題と言えば問題だが(笑)。
 しかし、プランは決まったものの、いざ本を作るとなると、やるべき事が多くて大変だ。第一、どれくらいの部数を刷れば良いのか全く読めないのが辛い。社会学講座ウェブサイトで先行予約でもしておいて、部数に目処を立てるのも一考しておこう。
 ……何はともあれ、コミケでやるべき事はこれにて滞りなく終了。今やすっかり慣れてしまった国際展示場駅までの道のりを、重たい荷物に悩まされながら歩く。今日も鳥肌実ライブのビラ配りをやっていた。

 埼京線直通のりんかい線に乗って、まずは池袋。それから山手線に乗り換えて1駅、次なる目的地の最寄駅・JR大塚駅に到着した。ここから歩いて数分の所にある「萬スタジオ」という小劇場でこの日行われる、「通好みのオトナのためのプロレス・トークライブ10〜新装開店! 通好み汁続出!!! お前、通の中の通だよ2003」という、タイトル聞いただけでいかにもアレなイベントを鑑賞するのが、この旅行の最終行程となる。“通”じゃない皆さんは「どんなイベントなんだよ?」…と、お思いだろうが、それについてはまた後ほど。
 さて、この時点で時刻は午後3時前。イベントの開場時刻が3時半なので時間には余り余裕は無いが、今日は起きてからここまで何も食べていないので、駅前のマクドナルドで簡単に食事。これから観に行くトークライブは、夕方の開演にも関わらず終演が毎回午後10時を回る…というとんでもないイベントと聞いているので、ここで何か腹に入れておかないと体が保たない。

 てりやきマックバーガーのMセットを5分で胃袋に押し込み、隣の本屋の地図コーナーで「萬スタジオ」の位置を確認してから小走りで会場へ向かう。それにしても余裕の無い旅行だ。傍らの道路をのんびりと走っている路面電車が羨ましく感じる。
 駅からスタジオまでの道のりはほぼ一本道で、方向音痴の駒木でもさすがに迷わなかった。しかも会場近くになると開場を待つ人たちが行列を形成していたので、素通りする事も避けられた。しかし、ここに来てまた行列か。何だかこの2日間だけで、一般人なら数年がかりで体験するはずの行列を“並び尽くし”てしまったような気がする。
 列に並んでいるのは、勿論の事ながら上に“超ド”の付くプロレスマニアの皆さんであるが、結構な割合で女性もいるので驚いた。中にはカップルで来ている人たちまでいる。それにしても、プロレスマニア・カップルの日常会話ってどんなもんだろう。やっぱり同性のプロレスファン仲間とのそれと同じように、「大森隆男はWJに移籍して良かったか悪かったか」とか、「稲妻レッグラリアートって、本当に効く技だったのだろうか」とか、「猪木は何をしても許されるのか」とか、そういった話題で盛り上がったりするのだろうか。駒木の知り合いの女性はバックドロップとジャーマンスープレックスの区別もつかないような人ばかりなので、その辺は全く想像がつかない。

 ……などと考え事をしている内に、気が付いたら午後3時45分。時間にルーズなプロレス業界らしく、開場時刻が遅れている。その間も行列は伸び続け、いつの間にか最後尾はスタジオのあるビルを回り込むように近くの住宅街にまで至っていた。
 堪らないのは、自分の家の軒先を得体の知れない行列に侵略された住人たちである。彼らは窓から怪訝そうな顔でそれを眺めていたかと思うと、まだ日も落ちていないと言うのに雨戸をピシャッと閉めてしまった。まぁ気持ちは判らんでもない。

 「今日のトークライブ、有名な人って誰が来るの?」
 「ん〜、原則的に全員が飛び入りゲストだから判らないんだけど、多分来るのはミスター大日本とか」

 ……なんていうイベントに長蛇の列を作る人たちの事を広く理解してくれ、という方が間違っている。プロレスマニアと一般人の間には、バカの壁というかドアホウの壁みたいなものが横たわっているのだ。

 結局、数十分遅れで開場。細い通路と階段を通り抜けて、地下にあるキャパ100人強のホールへ、客席は瞬く間に埋まり、いわゆる“超満員”の状態に。「ここで火事が起きたら全滅だな」と嫌な発想が脳裏をよぎる。
 そんな中、椅子を確保出来なかった駒木は半ば押し出される形で、ステージ前の床に小さな座布団が並べられた場所に腰を下ろした。しかしこの席、座り心地は今一つだが、当然の事ながらステージが眼前に迫っており、なかなか見応えがありそうなポジションだ。ただしこれは、かつて「映画館は最前列が一番だ!」…などといったマンガ雑誌の頭の悪いライターが書いた記事の忠告を真に受け、10代後半になって当時付き合っていた子から心底呆れた顔で指摘されるまで、本当にずっと最前列で映画鑑賞をしていた駒木だからこその独特な感覚なのかも知れないが。
 開演まで、先刻コミケの評論カテゴリで購入した落語立川流の同人誌(とは言っても寄稿・編集しているのは本物の落語家の皆さん)を読みふけって時間を潰す。しかしこの本、プロの落語家のネタと対談が載ってて500円。プロにここまでコストパフォーマンスを追求されてしまうんだから、やっぱり評論カテゴリもやり難いだろうなぁ。

 ……と、ここまで開演前の様子で引っ張って来て恐縮だが、ライブの内容について具体的な話は殆ど出来ない。というのも、このトークライブはいわゆるオフレコのイベントであり、公の場でトークの内容を紹介する事は固く禁じられてしまっているのだ。何しろ、かの2ch掲示板でも緘口令が守られていたというのだから、従うしかあるまい。
 まぁでも、せめて当り障りの無い範囲でライブの内容を紹介しておこう。このライブは、産婦人科医との兼業プロレスライターという、恐らく世界で唯一の肩書きを持つドクター水上氏が、1年かけてプロレス雑誌やスポーツ新聞等で見つけた“ツッコミ所”をスライドにし、時系列に沿って1枚1枚紹介しながら茶々を入れて笑いを取る…というイベントだ。言ってみれば、“プロレス界・年間100大ニュース”みたいなものである。
 で、1人で喋っているだけでは能が無い……というより体とノドが保たないので(何しろイベントは6時間以上続く)水上氏が自分のツテを頼って呼んだプロレスラーや業界関係者がゲストとしてステージ上に陣取り、オフレコでしか出来ない裏話を披露したりする。勿論、裏話なので内容は公開不可だが、ここで紹介しても大半の受講生さんが理解出来ないコア過ぎる内容なので、まぁ書かなくても一緒である。

 ……と、そんなイベントが午後4時過ぎの開演から、途中40分の夕食休憩(!)を挟んで、なんと午後11時10分まで。イベントそのものは爆笑の連続で大変面白かったのだが、帰りの夜行の発車時刻の事を考えると、最後は気が気じゃなかった。この夜、駒木が乗車予定の臨時便・「ムーンライトながら」は品川駅発。そう、山手線で言うと大塚駅の真裏に当たる駅なのである。
 スタジオからJR大塚駅まで駆け足で5分、そこから品川駅まで30分(電車待ちの時間含めず)、そこから広い駅構内を全力ダッシュで移動して数分。現在の時刻と所要時間を足し算すると、その答えがどうも「ムーンライトながら」の指定席券に印字されている発車時刻とほぼ一致しているように思えてならない修羅場突入である。

 状況を把握した駒木は、イベントの余韻がまだ色濃く残るスタジオを速やかに退出し、駆け足で駅までの道のりを逆走する。実は、休憩の際には「まだ食ったばかりだし、どうせ10時過ぎにイベント終わってから時間が余るんだから、後でゆっくり食えばいいや」…などと思って夕食タイムをスルーしてしまっていたのだが、当然の事ながら、そんな悠長な事を抜かしているヒマも無くなった。とりあえずスタジオ近くの「SHOP99」に飛び込んで、所要時間2分で弁当と朝食用のパン、それと車内で飲む飲み物をチョイスしてレジに持ち込む。しかし、まさか東京で食べる最後の食事が299円のチーズハンバーグ弁当とは……。それも電子レンジで温めるヒマも無いので、チーズもハンバーグもカチカチに冷やされたまま。さすがにこの時ばかりは「どうして東京まで来て、こんな目に遭わなければならないのか」と、理不尽と不条理が入り混じった暗黒な気持ちに陥った。
 それでも走らねばならぬ。猛ダッシュで大塚駅のホームに辿り着くと、程なくして電車がやって来た。時間的に“最終便”だろう。チーズハンバーグをレンジでチンしていたらアウトだった。結果的に運命の分かれ目になったわけだが、よくぞこんな物凄くスケールの小さい人生の分岐点もあったもんだと思う。
 品川駅着の時点で「ながら」発車数分前。重装備の荷物を抱え、必死になって山手線のホームから階段を駆け上がる。構内を駆け巡って「ながら」が停車している臨時ホームを目指すが、地理に不案内なためになかなか辿り着けず焦る。恐らく、ここ数年で最悪の(そしてスケール最小の)パニック状態。叫び出しそうになるのを何とか堪える。発車1分前になって、やっと目当てのホームを発見。階段を駆け下り、列車に飛び込む。ギリギリセーフ!

 息をゼェゼェ切らしながら、これまたスケールのみみっちい達成感に浸っていると、車内アナウンスが聞こえて来た。

 「えー、京葉線で人身事故発生でダイヤが乱れております関係上、当列車も5分ほど発車を遅らせます。今しばらくお待ち下さい」

 思わず、吉本新喜劇でチャーリー浜が「ごめんくさい」とやった時に取るリアクションを実演しかけた誰がオチをつけろと言ったのか。しかもコミケ客御用達の京葉線が原因って、話が出来すぎだ。

 そんなわけで、定刻より5分遅れの23時59分に臨時便の「ムーンライトながら」は品川を発車。日付が変わってからの発車だと、青春18きっぷを使った際の運賃が変わる(品川−横浜間の運賃を取りそびれる)からだろうが、それにしても見事な時間調整だ。

 ◎4日目(12月31日)

 車内では、いつものように、読書をしながら眠くなった時にその都度うたた寝する…の繰り返し。例の弁当の味が極度に侘しかった事も付け加えておく
 小田原から一部自由席になる通常便の「ながら」とは違い、全線全席指定の臨時便は、ところどころに空席も見られる。510円の指定席券は、キャンセルしたところで、300円以上払い戻し手数料に取られてしまうので、このように指定席が飼い殺しされるケースも少なくない。ギリギリまでキャンセル待ちに望みをかける人も大勢いるので、出来ればそういう真似は止めてもらいたいのだが……って、何だか鉄道マニアみたいな事言ってるな(笑)。
 で、この時も駒木の座っていた席のすぐ後ろが、並び2席ともそんな“飼い殺し席”。静岡まで待っても誰も乗ってこないので、これはもうどう考えても空席のままだろうと思い、席を移動してその2席で横になろうとするが、検札に来た車掌にしつこく止められる。微妙にストレスを蓄積させていた駒木、交渉という名の恫喝に持ち込むことも検討するが、それ以上に疲れの方が蓄積していたので止む無く引き下がる。JRの車掌は、ヤクザとかには無抵抗なクセに、組し易いと思った相手にはとことん強気に出るから始末が悪い。

 そうやって駒木が狭っ苦しい簡易リクライニングシートに押し込められたまま、列車は静岡県を横断し、名古屋、そして大垣へ。朝6時前の到着までほとんど眠らずじまいだった。これだけ疲れているのに眠れないという自分の体が何だか神秘的なモノに思えて来る
 大垣からは、同じ「ながら」から乗り継ぎの乗客で一杯の各駅停車に乗ってまず米原、そこで更に乗り換えて、これが神戸まで直通の新快速。ようやく長く過酷な旅も終わりである。今回ばかりは旅行の名残惜しさよりも「やっと終わった」という気持ちの方が強い。一言で言えば、真っ白な灰になるまで燃え尽きたのである。

 神戸方面へ向かう新快速の車窓から見える風景に、見慣れたものが目立って来た。それはそのまま、非日常から日常へと戻っていく過程を映像化しているものに他ならない。いつの間にか、車内のあちこちから漏れ聞こえる人の話し声も100%関西弁に染められている。
 あぁ、帰ってきたんだなあ、などと感慨にふけりつつ、ふと視線を上に逸らす。網棚の上には旅行帰りや帰省中の乗客の持ち物と思しきバッグがいくつも乗っかっていた。大晦日ならではの光景だろう。
 そんな中、ひときわ目立つ紙袋が1つ。遠目から見ても、どういうモノなのかが一発で判ってしまった。

 ……なぁキミさぁ、同じコミケ参加者として言わせてもらうけれども。
 お願いだから、エロゲメーカーの紙袋はビッグサイトから出たら別のところに仕舞おうよ。

 車内アナウンスから、三ノ宮駅到着を告げるアナウンスが流れて来た。最後の最後で最悪だ。誰がオチをつけろと言ったのか。(了)


 ……と、最後の最後で旅の余韻を台無しにしたところで、レポート無事完結となりました(笑)。
 社会学講座のコミケ進出についてですが、本気で考えていますのでお楽しみに。もっとも、抽選に受からないと本は出来てても出展できないんですがね。

 では、そんなところで番外編終了です。長い間有難うございました(この項終わり)

 


 

2003年度第113回講義
3月6日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第1週分・合同)

 「青マルジャンプ」のレビューとモデム配り仕事でゲンナリしている内に、いつの間にか土曜日に……。お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。

 では時間も押してますし、早速情報系の話題から。
 まずは先週にも未確認情報という形でお届けした、「週刊少年ジャンプ」の次期新連載シリーズのラインナップについて。正式アナウンスが出ましたので詳報をお届けします。

新連載シリーズ・今回のラインナップ

 ◎第1弾・15号(次週発売)より新連載
 …『未確認少年ゲドー』(作画:岡野剛)
 ◎第2弾・16号より新連載
 …『無敵鉄姫スピンちゃん』(作画:大亜門)
 ◎第3弾・新年3号より新連載
 …『少年守護神』(作画:東直輝)

 今回も前回の年末シリーズに続いて、“標準モード”の3作品となりました。いずれもプロトタイプ読み切りからの昇格組、また、かなりの準備期間を置いての連載始動という事になりますね。
 入れ替わりで終了する作品は、まず今週号限りで“突き抜け”た『LIVE』と、次号の『遊☆戯☆王』の円満終了で2枠が確定的。あとの1枠は掲載順等から『ごっちゃんです!!』『銀魂』でしょうが、ネット上では前者が最有力候補とされていますね。さて、どうなりますか……。

 ところで今回のラインナップですが、当講座的には、「コミックアワード」のグランプリ候補(=最優秀新人ギャグ作品部門受賞)『スピンちゃん』とラズベリー候補の『少年守護神』が同居するという、非常に趣深いモノとなりました(笑)。
 ちなみに、『スピンちゃん』大亜門さんは、「ジャンプ」に代原制度が確立されて以来、初めての代原作家出身の「ジャンプ」連載作家さんとなります。各種の新人賞でも「天下一漫画賞」の最終候補に残ったのが最高で、まさに裏街道まっしぐら。
 大亜門さんもそうですが、当ゼミでもデビュー以来追いかけて来た新人・若手作家さんが連載枠を掴んだりすると、駒木としても感慨深いものがあります。たまに感慨を味わいきる前に突き抜けていく人もいたりしてアレなんですが(苦笑)。

 ……さて、今日は情報をもう一件。「サンデー」から読み切りの情報を。
 次号(15号)に掲載されるのは『HOOK!』(作画:鹿養信太郎)。鹿養さんは、元・夏目義徳さんのスタジオでアシスタントを務めていた若手作家さんだそうで、過去に数度の増刊掲載歴があります。最近では昨秋のルーキー増刊の「ルーキートライアル」に『茜丸がゆく』という作品でエントリーしていましたので、作品をご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 そのルーキー増刊での作品を拝見した限りでは、正直言って週刊本誌掲載となると「?」がついてしまうのですが、ここはお手並み拝見といきたいところです。

 
 ──では、今週分のレビューとチェックポイントへ。レビュー対象作はちょっと控えめ、「ジャンプ」から読み切り1本のみとなります。その代わり来週は現時点で3本確定なんですが……(汗)。

 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年14号☆

 ◎読み切り『BULLET CATCHERS』作画:夏生尚

 今週は2作品取材休載ということで、読み切り作品の掲載となりました。今回は、「手塚賞」と「赤塚賞」の告知も兼ねて、前回の「赤塚賞」(03年下期)で準入選を受賞した夏生尚さんが、その受賞作で初の“正規読み切り枠”獲得です。
 ちなみに夏生さんは、02年上期の「赤塚賞」でも佳作を受賞しており、その受賞作も含めて2回代原枠で本誌掲載(02年31号、03年35号)を果たしていますが、今回は審査員の皆さんから「成長の跡が窺える」と評されての“正式デビュー”。期せずして否応無しに注目が集まるシチュエーションとなりましたが、さてどうでしょうか。

 それでは内容についてお話してゆきましょう。
 まずはから。前回、代原が掲載された時は作画に雑な部分が目立ったのですが、今回はそういった印象を抱く事はありませんね。それどころか、むしろアクが弱い絵柄になってしまった事を心配したくなるくらいです。
 特に今回のように下品なネタも多い作品では、こういうアカ抜けた絵柄はインパクトを削ぐ意味で逆にマイナスとなってしまいます。同じコントでも、男性アイドルグループがやるのと生粋のお笑い芸人がやるのとでは印象が違って来るようなもんですね。
 ですから今後は、もうちょっとエグいディフォルメ表現を覚えて表現に幅を持たせるか、それとも絵柄に合ったスマートなネタを中心に組み立てるかでしょう。もっとも、後者の場合は「ジャンプ」ではやり辛いと思いますが……。

 そして、これまで懸案だったギャグについてですが、確かに前回までに比べると、格段に見違えています。これは恐らく、1ページマンガをやめ、通常スタイルに転向した事が功を奏したのではないかと思います。夏生さんはいわゆる“起承転結”をハッキリさせる事を苦手としていましたから、オチをつけないまま小ネタを繋げていくスタンスは本質的に向いているはずですしね。
 ただ、それでも若干の問題点も残っていると思われます。特に「もしもマゾのSPがいたらどうなるか」というメインテーマ、これは規制基準の厳しい媒体でやるにはミスチョイスだったのではないでしょうか。“少年向け”を前提としてしまうとネタのバリエーションにも制限がかかって来ますし、そうなるとどうしてもギャグの破壊力にも影響が出て来ます。
 また、ネタが全体的に“無理矢理感”のあるモノが多かったような印象も受けました。何の変哲も無い普通の事柄を強引にギャグのネタにしようとしているような……。SMネタが制限されている中で間を繋ぐためには止むを得ない事だったのかも知れませんが、もうちょっと練り込みが欲しかったところです。

 評価は、「連載ギャグマンガでスランプ気味の回くらいの出来」ということでBとしましたが、どうでしょうか。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 以前、コメント欄で話題になり、以来密かにコアな読者の間で注目されているのが、空知英秋さんが『銀魂』の欄外の告知(「○○先生の作品が読めるのはジャンプだけ」/「○○先生にお便りを」)でどう紹介されているか…というもの。
 このフレーズは編集さんが考えているらしいんですが、確かに傑作も多いので、ここで紹介してみましょう。以下のフレーズの後に「空知英秋先生……」と続きます。

 「エアコン無くて凍えそう!」
 「地元にはいないゴキブリを恐れる」
 「好きなタイプは八木亜希子!」
 「あまり風呂に入らない不潔な」
 「萩原流行に何となく似ている」
 「友達にはデビューは内緒!! シャイボーイ」
 「今年は申年俺の年! ゴリラ顔の」
 「ここ3ヶ月毎食カップラーメンの」
 「ラーメンに卵で贅沢気分!」
 「近所の定職屋のおばちゃんも応援!」


 ……しかし、これを見ると、一番迷惑なのは空知さんじゃなくて萩原流行じゃないかと思ったり思わなかったり。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】

 アメリカ横断ウルトラトレーニング(笑)
 これ、20代後半〜30代前半の人にはビンゴのネタですよね。多分、各地でチェックポイントとか用意されてるんでしょうねぇ。

 そういや、単行本7巻ゲットしたんですが、今回のおまけページは主要キャラクターの中学時代の卒業アルバム(想い出の写真、本人のコメント&将来の夢、恩師や当時の友人の寄せ書き)。で、これまた芸が細かくて……。特にまもり姉ちゃんの寄せ書きに女子グループ独特の雰囲気が出てて、「さすが」と思ったりしました。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】
 
 やはり桜花&秋水姉弟は人間でした。一方、2人の望みは「ホムンクルスとなって2人で永遠に」。母親の影がチラついて、果たして? と思っていたのですが、少年誌で許される範囲内ギリギリでインセストタブーを表現するという和月さんのテクニックだったようです。さすがは元・看板作家。アイディアの練り方が一味違います。
 連載当初見られた戦闘の冗長さも、最近は完全に解消されていて、「ちゃんと考えながら描いてるなあ」と感心させられますね、ホントに。
 

 ◎『銀魂』作画:空知英秋【現時点での評価:B/雑感】 

 今回はデビュー作『だんでらいおん』を思い出させる、非常に良質な人情芝居だったと思います。「意外と可愛い女の子描かせると上手い」という空知さんの才能が、やっと作品の出来と結び付きましたね(笑)。
 しかし現在の情勢だと、今期は生き残っても来期の打ち切りレースでは大本命ですよねぇ。確かにアンケートで「面白かった作品3つ」には入り辛い作品だと思うんですが、今週みたいなクオリティが今後も続くなら、せめて1年くらいは続けさせてあげたい気もします。
 暴論と判ってて冗談半分で言いますが、いっそのこと『こち亀』半年くらい休ませて、枠をこの作品に譲ってあげるのはどうかと(笑)。


 ◎『LIVE』作画:梅澤春人【現時点での評価:B/連載総括】

 1クール・ジャスト10回にて無念の打ち切り終了。見事なまでの“純正突き抜け”(=語源の意味となった『ロケットでつきぬけろ!』の連載回数、また「ジャンプ」創刊時からの伝統的な1クール打ち切り回数が10回のため)となってしまいました。

 連載を振り返ってみると、「過去の梅澤作品から、テーマと主人公たちの夢を取っ払ったような作品」になってしまったような。まさに第1回レビューから申し上げて来た“縮小再生産”作品だったのではないでしょうか。
 これで梅澤さんは2連続の短期打ち切り。「週刊少年ジャンプ」とはサヨウナラになる可能性が大きいですね。作風から考えると青年誌でも違和感は無いでしょうが、そうなると今度は青年誌の読者層の眼に適うだけの濃密なシナリオが要求されて来るだけに、梅沢さんが成功するには今まで以上に大変なような気も。一般誌でリバイバルするような題材や読者も育てきれていないでしょうし、今後は梅澤さんにとって、作家人生を大きく左右する正念場になる事は間違い無さそうですね。 

 あ、忘れるところでしたが(正確に言えば8日の午後まで忘れていましたが^^;)、最終評価は問題点を解消しないまま、中身に乏しいシナリオをズルズル引きずってしまった…という事で、第3回時点から大幅に減点してB−とさせてもらいます。

☆「週刊少年サンデー」2004年14号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「苦しい時は、どんな事を思い出して頑張りますか」。
 
まぁ、ある程度答えが予測できる質問といった感じで、回答も「もっと苦しかった時思い出す」「読者や気にかけていてくれる人を」というものが多数を占めましたね。ボケに走った人は、さすがに無理過ぎて撃沈といったところでしょうか(笑)。
 まぁでも、杉本ペロさんの「基本的に苦しい時は頑張らざるを得ない状況です」と、久米田康治さんの「生きてる事、そのものが苦なんですよ」ってのは、ボケに走ってるようで深いような気も。こういう質問は、濃いギャグ作家さんの方が真実味があったりするから不思議ですね。
 駒木の場合「受講生の皆さんの激励(社会学講座時)または「授業を面白そうに聞いてくれてる生徒たちの顔(高校の仕事)になっちゃいますね。あ、「いつまでたっても苦しいまんまなので、もう麻痺しちゃいました」ってのもあるかも知れず。

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 インターミッション的な話だと思っていたら、しっかりと最後はビシっと決めてくれるから、藤田さんの作品は油断ならないんですよねぇ。
 やっぱり、こういう表現って“間”が大事なんですよね。特にマンガの場合は、“間”とキメ台詞のキマり具合で作品の印象が見違えるので、特に重要なファクターだったりするんですよね。

 ◎『きみのカケラ』作画:高橋しん)【現時点での評価:B−/連載総括】

 10週に渡る敗戦処理が終了。こういう形の完結のさせ方は、恐らくあらゆる読者が望んでいなかったと思うんですけどね……。続けるんなら、とことんまで面倒見るべきだと思いますし、打ち切るんだったら休載の段階で打ち切っておいた方が、まだ救いがあったんじゃないかと。
 この10回の構成も、シナリオの密度のバランスを思い切り欠いているような気もしますし、何だか最初から最後まで精彩を欠いた連載だった気がしますね。
 最終評価はB−としておきましょうか。高橋さんが、一体どんなお話を描きたいと思っていたのか、最後の最後まで具体的に見えて来なかったのが、何とも……。

 
 ◎『ファンタジスタ』作画:草葉道輝【開講前に連載開始のため評価未了/連載総括】

 こちらは大団円で連載完結。最後は典型的なエピローグ的最終回でしたが、まぁ王道と言えば王道ですよね。
 しかし、振り返ってみると不思議な作品でした。設定や構成要素からすると、轍平はあまり感情移入出来るタイプの主人公じゃないはずですし、コンビを組むプレイヤーも、ライバルも一癖以上ある連中ばかりでしたし。それでいて、全般的には不快感もなく、何故かスンナリと読めてしまう作品だったような気がします。
 同時期に『ORANGE』みたいなバケモノ作品があったので、どうしても影が薄くなる存在ではありますが、それでも安定したソツのないストーリーテリングは評価すべきではないかと思います。総合評価は、長期連載をそれほどダレさせる事無く全うさせた功績も考慮してA−ということで。


 ……というわけで、今週分はこれにて終了。来週からはいよいよ「ジャンプ」の新連載シリーズ。また神経を使う仕事が増えますね(苦笑)。では、また。

 


 

2003年度第112回講義
3月2日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・『青マルジャンプ』特集」

 お待たせしました。「週刊少年ジャンプ」の新増刊・「青マルジャンプ」の作品レビューをお送りします。

 ところで今回の「青マル」は、週刊本誌や「赤マル」に比べて質の良い紙が誌面に使われていましたね。メイン企画の主役・荒木飛呂彦さんに敬意を表したのか、それとも荒木さんのメイン読者層(高年齢層)を見込んで「50〜100円程度の価格差よりも紙質」と考えたのか、どちらにしろ読み易くて良かったです。
 またこの事は、原稿がどのように印刷されるか把握し辛い新人さんにとっては、幾分なりとも救いになったんじゃないでしょうか。レビューの中でも述べますが、通常の紙質なら印刷が酷い事になっていた作品もありましたしね。まぁもっとも、結局は質の悪い誌面を念頭に置いておかないと、週刊本誌に出た時に悲惨な目に遭うだけなのですが……。

 ……と、余談はさておき、早速レビューへと参りましょう。レビュー対象作は、少ページで“余興色”の強い『スティール・ボール・ラン』番外編を除く、新人・若手作家さんの11作品です。長丁場になりますが、最後までどうぞお付き合いを。

 当ゼミの7段階評価についてはこちらをご参照下さい。

◆「青マルジャンプ」新人・若手作品レビュー◆ 

 ◎読み切り『いのちやどりしは』作:高野勇馬/画:落合沙戸

 トップバッターは、「ジャンプ」の出世頭・「ストーリーキング」ネーム部門の準キング受賞作。この賞と言えばマイナージャンル作品ですが、今回はなんと日本の伝統芸能・文楽が題材。いやはや、「ジャンプ」は本当に懐の深い少年マンガ誌ですね。

 さて、作者のお2人ですが、まず原作者の高野勇馬さんは、今作で03年下期「ストーリーキング」ネーム部門準キングを受賞したばかりの新人原作者さん。よって、これがデビュー作という事になりますね。
 作画担当の落合沙戸さんは、02年後期「手塚賞」佳作を受賞し、翌03年「赤マル」春号にて『あかねの纏』でデビューを果たした新人作家さん。今回がデビュー2作目ですが、ルーキーらしからぬ安定した画力が評価されて、今回の抜擢となりました。

 では、作品の内容について。
 に関しては全く問題ないですね。このまま週刊本誌へ持っていっても、他の連載作家さんに決してヒケを取らない力量だと思います。老若男女の描き分けも難なく出来ていますし、ディフォルメ表現も合格点。また、文楽人形の描写についても、確実な勉強の跡が窺えます。
 有り体に言ってデビュー2作目とは思えない実力で、これだけのプロ意識を持ち続ければ、いずれ大きな仕事を成し遂げる事も出来るのでは……と期待させられます。

 ただ、残念ながら、その絵の完成度の前に肝心の原作ネームのクオリティが負けてしまったように思えます
 マイナージャンルを題材にしている以上、そのジャンルの魅力を読者に伝える事に労力とページ数を費やすのは仕方ない事ではありますが、だからと言って読み物としての魅力まで犠牲にしてしまっては本末転倒というものでしょう。キャラクターの性格設定やストーリー途上での心境変化を極端にし過ぎたために主人公への感情移入がし辛くなっているように思えますし、また、シナリオそのものも中途半端な所で投げ出された感が強く残りました。コマ割りなどの構成はちゃんと出来ていただけに、惜しかったですね。
 全体的に観れば、少年マンガ誌に載っているエンタテインメント系作品というよりも、学研などの学習マンガに近いテイストになってしまったのではないでしょうか。そもそも文楽という題材でエンタテインメントを展開する場合、文楽そのものよりも、文楽に関わる人たちの人間ドラマを主に置くほかないように思われますし、どうも目指すべきベクトルを間違えてしまったのかな…という気がします。難しいサジ加減ではあるのですが、それも難しい題材をチョイスした事によるリスクの1つでしょう。

 評価は絵の分を0.5ランク加点してB+寄りBとします。
 この作品をこのまま連載化しても、2クールを突破出来るかは極めて微妙でしょう。文楽という題材は、深い人間ドラマを描くという観点からすれば、むしろ「モーニング」のような一般向けマンガ誌でやるべきなのかも分かりません。「ストキン」ネーム部門ならマイナージャンルで…という狙いは外れていないんですけどね。

 ◎読み切り『歌歌』作画:角石俊輔

 2番手は今回デビューの新人・角石俊輔さんが登場です。角石さんは03年4月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りを果たしていましたが受賞歴は無し。今回は恐らく掲載作品決定のプレゼンを一次段階から潜り抜けての掲載枠獲得かと思われます。

 それでは作品についてですが、まずは、一言で言って「紙質が良くて助かりましたね」といったところでしょうか。通常の紙質なら細かい線やスクリーントーンの目が潰れたりしてヤバかったでしょう。全体的に黒っぽい絵柄だけに、下手をすると“パッと見で読んでもらえない級”の悲惨な事になっていたかも知れません。
 また、画力そのものも現時点では課題山積です。要所要所で歪みが目立つ人物作画もそうですが、集中線などの背景処理がとにかく未熟。スクリーントーンを極力使わないという方針も、「『使わない』のではなくて『使えない』のではないか」…と思ってしまいます。
 ただし、妖怪の描写は評価出来るポイントで、「絵柄が全体的に洗練されれば」という条件付ですが、これが角石さんの“ウリ”になる所になって来るでしょう。

 次にストーリー・設定について。こちらも残念ながら短所の方が目立ちます。
 まず、「人間社会における人間と妖怪との摩擦→妖怪は絶対悪ではない。出来る限り共存していこう」…というプロットは、手垢がついていながらもエンターテインメントの基本を押さえたモノで、良い所に目をつけたと言えるでしょう。ただし、そのプロットを上手く活かし切れていたかというと、「?」がいくつも並んでしまうのですが……。
 この手のプロットを用いる場合、まず冒頭が重要です。作中の世界観における人間と妖怪の位置関係──「人間社会の中で妖怪がどれくらい悪者とされているのか──と、その位置関係と現実のギャップ──妖怪社会の現実と人間社会の認識との間における格差──を提示し、読み手を妖怪側に感情移入するように誘導しなければなりません。そうでないと、ストーリー全体のテーマである「人間と妖怪は共存すべきだ」という部分に説得力を持たせる事が出来ないからです。
 しかし、この作品ではこの部分が完全に欠落しています。そのために「妖怪は全て抹殺する」という父親と「妖怪だからといって全て殺すのは間違っている」という娘の争いで、娘側に感情移入し辛くなっているんですね。その結果、主人公への感情移入も難しく、爽やかなはずのラストシーンも、妙な違和感が残っていまったのではないかと思います。
 まぁ簡単に言えばネームの練りこみ不足という事です。「こういう作品を描きたい」という初期衝動を大事にする事も結構なのですが、それだけではプロの作家としてやっていくには不十分でしょう。次回作では「では、この描きたい作品は、どのようにすれば良い作品になるだろう?」…と考えて考えて考え抜いて欲しいものです。

 評価は絵の分の減点もありますので、厳しめにいってB−。センス皆無というわけではありませんが、「ジャンプ」で成功するためにはかなりの精進が必要だと思います。

 ◎読み切り『ピアニカぼうや』作画:真波プー

 さて、3番手は「クセのある新人作家を集めた増刊」(荒木飛呂彦ロングインタビューより)というコンセプトが最も似合う、真波プーさんの登場です。
 真波さんは01年前期「手塚賞」準入選受賞を果たし、同年の「赤マル」夏号にて受賞作『余韻嫋嫋』でデビュー。商業媒体での活動はこの1作のみながら、一部のコアなファンの間では“伝説の新人作家”とされている、異色の作家さん。今回が実に2年半ぶりの「ジャンプ」登場となります。

 で、作品の方ですが……。

 ──どうレビューせえと(汗)。

 ……と、いうのが第一印象でした(苦笑)。作品紹介に「異才」とか「超新感覚」とかいった、“「普通じゃない」という事を表現するフレーズ”がバンバン飛び出すのも肯けます。普通のマンガのフォーマットで作られてないですね。どちらかと言うと、子供向けの絵本に近いスタイルでしょう。

 は主流から完全に外れている画風であるものの、洗練されたタッチで好感が持てます。表情を「ワー」という擬音で表現するあたりなどにマンガ黎明期の実験的作品を思わせる妙なレトロさが感じられ、味わい深い仕上がりになっています。良いんじゃないでしょうか。

 しかし、本当に対処に困るのがストーリーについてです。
 というのも、普通のマンガ作品というのは、読み手の喜怒哀楽のうち、特に“喜”と“哀”へ強く訴えかけ(“怒”にもコントロールしながら訴えかけますが)、感情を揺さぶるように創り上げるモノ(……と駒木は理解しています)。ですが、この作品は“喜”、“怒”、“哀”へは訴えかけず、“楽”だけに訴えかける作品なんですよね。ですから、普段このゼミで使っている評価基準が全く役に立たないんですよ(苦笑)。

 まぁ、それでもとりあえず、シナリオの流れや技巧の凝らされ具合に着目して話を進めてみます。
 まず、起承転結の構成は見事です。ストーリー展開に違和感は全く無く、オチへの持っていき方も秀逸ですね。
 ただ、さすがにシナリオのボリュームや複雑さという観点からすれば、(作品の構成上止むを得ないにしても)物足りなさは否めません。この作品と、伏線やトリックを張り巡らせて、最後に大きなカタルシスを持って来るような娯楽大作を比べた場合、どちらを評価すべきかと言えば、やはり後者でしょう。いくら完成度が高くとも、この作品は“1つのアイディアを活かした佳作の小品”という評価に留めなければならないでしょうね。

 というわけで評価です。昔懐かし「ボキャブラ天国」で、“シブ知”と“バカパク”の作品を比べるような難しさはあるのですが、減点材料のほとんど無い作品をBクラスにするわけにも行きませんので、ここは謹んでA−を進呈したいと思います。


 ◎読み切り『デス学!!!』作画:坂本裕次郎

 超異色作に続いては、これがデビュー2作目となる坂本裕次郎さんの登場です。
 坂本さんは01年5月期「天下一漫画賞」最終候補を経て、03年前期「手塚賞」で準入選を受賞。その後、週刊本誌03年29号にて受賞作『KING OR CURSE』でデビューを果たしています。今回はそれ以来の新作発表となりますね。

 それでは今作の内容について。それにしても、こちらレビューし辛い作品でした(笑)。

 まずは比較的論評し易いの方から。未熟な画力を迫力で誤魔化している印象の強かったデビュー作から一転、随分とアカ抜けて来たように思えます。持ち味を残しつつ、画面構成がスッキリして見易くなりましたね
 勿論まだ多分に荒削りな部分も残されており、手放しで褒めるわけにはいきませんが、どことなく初期の藤島康介作品を思わせる独特の絵柄は不思議と嫌味が感じられません。今後も長所を活かしつつ、より一層の技術向上を望みます。

 さて、問題はストーリー・設定恐らくこちらは読み手によって、評価が大きく真っ二つに分かれるのではないかと思います。
 その原因となるのは世界観の設定ですね。徹頭徹尾有り得ない“デス学”の世界観を受け入れられなかった場合、その読み手には作品そのものへの拒否反応が強く出て、ストーリーの内容以前に“単なる非現実的な駄作”と扱われてそこで終わってしまうでしょう。
 しかし、無理矢理にでも一度この世界観を呑みこんでしまうと、作品への印象が一変してしまうから不思議です。恐らくは作者・坂本さんの、

 「確かにこの世界観はどう考えても有り得ない。ああ有り得ないさ! だが、今ここに“デス学”はちゃんとあるんだから仕方が無いじゃないか! 文句あるか!」

 …という島本和彦イズム漲るというか、丹波哲郎・『大霊界』イズム溢れるというか、そのような堂々たる開き直りが読み手に伝播して、妙な爽快感を喚起するのでしょう。よく見れば登場人物も、そんな非現実的な世界観に対応するように、気持ち良いほど現実社会に適応出来ない連中ばかりが揃えられており、意外な所でキチンと計算された設定構築が為されている事実が窺い知れます。

 また、そんな突飛な設定に隠れがちですが、シナリオ構成も興味深いモノになっています。
 この作品を読まれた方の中には、余りにも高速で進行してゆくストーリーに戸惑われた方もいらっしゃるでしょう。しかし、それもそのはず。実はこの作品のストーリー展開のスピードは、本来ならダイジェスト、つまり回想シーンなどを描く時に用いられるものです。要は全編が粗筋を描くようにしてまとめられているというわけですね。この作品のシナリオは、本来なら1〜2クールの連載でないと描ききれないボリュームのはずです。それをギリギリにまで圧縮して45ページにまとめているのですから、違和感を感じて当然です。
 それでもこの作品の凄いのは、そこまで内容を圧縮しても、シナリオそのものの完成度はさほど劣化していないという所です。言い換えれば、これは坂本さんに長編作品を粗筋にまとめる能力が備わっているという事になりますね。創作業界には「良い粗筋が作れない人間は良い作家になり得ない」という定説がありますが、そういう意味で言えば、坂本さんは少なくとも良い作家になるための十分条件の1つを持っているという事になるでしょう。

 さて、評価です。どのファクターを加点・減点の対象にすれば良いのか非常に迷うところではありますが、それでもやはり、「世界観が突飛過ぎて読み手を選んでしまう」という点は大きな減点対象になってしまうと思います。シナリオの全編ダイジェスト化も反則と言えば反則ですし、よって今回はB+が妥当と判断させてもらいました。

 ◎読み切り『生涯おやじ道』作画:楠優一郎

 さて、次に登場するのは、今回唯一のギャグ作品。今回がデビューとなる楠優一郎さんの登場です。
 楠さんはこれまで月例賞の最終候補等を含めた受賞歴は無く、原稿持ち込みからそのまま掲載枠を獲得したようです。絵の感じを見るとアシスタント経験も無さそうですし、かなりレアなパターンですね。

 それでは作品の内容、まずはについてから。
 今回、賞レースを経ずにいきなりデビューしたわけですから致し方ないですが、残念ながら悪い意味でデビュー作らしい…というレヴェルに留まっていますね。ギャグの持ち味を殺ぐような絵の乱れが無かったのは救いでしたが、さすがにもう少し画力を磨かないと、ちょっと厳しいでしょうね。

 しかし、ギャグに関しては優れたセンスの片鱗を感じさせる、なかなかの出来だったと思います。前フリの段階の踏み方、小ネタで間を繋ぐ技術などには非凡なモノが窺え、確かな才能を感じさせます。タイプで言うと、「サンデー」の水口尚樹さんに似たような作風でしょうか。
 ただ、いくつか課題も残されています。その水口さん同様にネタ振りの上手さにネタが追いついていない…というのもありますし、今回の作品ではツッコミが単調で笑いの芽を目一杯膨らませる事が出来ていなかったようにも思えました。
 また、どちらかと言えば言葉遣いの妙で笑わせるタイプのギャグが上手であるようですので、下手に大きなネタ振りでホームラン狙いをするよりも、小ネタを重ねて連続タイムリーヒットを狙うような構成にした方が、もっと持ち味が生きて来るかも知れませんね。

 評価は画力の減点も加味してB+寄りBとしておきます。

 
 ◎読み切り『ホライズン・エキスプレス』作画:中島諭宇樹

 さて、やっと折り返し地点です(笑)。ここで文字通りセンターカラーで登場は中島諭宇樹さん。目次の扱いから見て、今回の若手・新人枠では“大将格”という事になりますか。
 中島さんは、01年11月期「天下一漫画賞」最終候補を経て02年期の「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞翌03年春号の「赤マル」で受賞作・『天上都市』でデビュー。ちなみにこの作品は、当ゼミで評価Aを獲得し、「第2回コミックアワード」では最優秀新人作品賞と最優秀短編作品賞にノミネートを果たしています。
 その後も村田雄介さんのスタジオでアシスタントを務めながら執筆活動を続け、週刊本誌03年46号には読み切り『人造人間ガロン』を発表。今回がプロデビュー3作目という事になりますね。「ジャンプ」のストーリー系若手作家さんとしては、かなりのハイペースでキャリアを積み重ねていると言っていいでしょう。

 ……それでは、今回の作品について述べてゆきましょう。

 については、基本的な部分では全く問題ないですね。村田雄介さんのスタジオで鍛えられた成果か、かなり手間隙のかかる俯瞰シーンなども恐れず挑戦しており、モチベーションの高さも窺えます。「ジャンプ」系の若手作家さんの中ではトップクラスの水準に達しているのではないでしょうか。
 細かい課題としては、メインキャラクターの容姿がどの作品でも似てしまうという点、そして見開き2ページを基準にしたコマ割りが少々勇み足だった点でしょうか。後者に関しては果敢なチャレンジと言えなくもないのですが、トキワ荘時代からのスタンダードな“マンガ文法”を覆す試みだけに、一若手作家の手には少々余ったような印象がありました。
 しかし、キャリアを重ねる毎に村田雄介さんの影響が強く出て来るのが興味深いですね。先に挙げた大胆なコマ割りもそうですが、今回の敵役のデザインなんか、まるで“中島諭宇樹流・ヒル魔”といった感じでしたし。

 ストーリー・設定は、今作もデビュー以来の好感度の高い“中島ワールド”が展開されていますね。スケールの大きな世界観は健在ですし、ストーリーテリング力にも確かなモノを感じます。
 ただ、今回は世界観設定の細かい部分での甘さが特に目立ちました。裏設定の語りが足りないというか、ホライズンエキスプレスのメカニズムや主要キャラがどうして“列車乗り”になったのか…といったディティール部分がほとんど語られておらず、全体として重厚さに欠けた嫌いが有ったように思えました。主人公の性格描写も取ってつけた感が否めません。
 しかし、それらの欠点を全て帳消しにしてお釣りまで残してしまったのが、ラストシーンでした。読み手の認識を最後の最後で根底から覆す演出は素晴らしいの一言。そのラストシーンから逆算して設定やトリックめいた伏線を構成した技術の豊かさにも唸らされる思いです。しかし、『コナン』か『ラピュタ』かと思っていたら、まさか『銀河鉄道999』だったとはねえ(笑)。

 評価はラストシーンの素晴らしさを最大限評価しつつ、諸々の減点部分を相殺してA−としておきます。ちょっと甘めでしょうか?
 ここまで安定して水準以上の作品を立て続けに描けるとなれば、あとは週刊連載…という話になって来るのでしょうが、その際には適切な準備期間を置いて頂きたいと切に願います。


 ◎読み切り『DEAD/UNDEAD』作画:田中靖規

 さて、ようやく峠を超えた7番手は、これがデビュー2作目となる田中靖規さんの登場です。
 田中さんは02年9月期「天下一漫画賞」で佳作を受賞し、その“デビュー確約”特典として、「赤マル」03年冬(新年)号にて受賞作・『獏』でデビューを果たしました
 今回は1年ぶりの復帰作。「十二傑賞」が始まってから増刊掲載枠が実質削減された煽りを食った形になっていましたが、新増刊で漸く復帰となりましたね。

 では、作品について。

 デビュー時から定評のあったに関しては、今回も特に大きな欠点は見当たりませんでした。表情やアングルぼバリエーションがが単調なのが少々気になりましたが、作品の完成度を落とすまでには至っていません。ディフォルメ表現も出来るみたいですし、絵柄にメリハリをつければもっと良くなるでしょう。

 ただ、一方のストーリー・設定は、肝心なところで詰めを誤ってしまった感が拭えません
 先にレビューした『歌歌』と同様、プロットは申し分ありません。キャラクターの配置やクライマックスへ至る流れも理想的で、本来なら成功作になる要素は十分揃っている題材であると言えます。
 が、この作品もシナリオに説得力を持たせる作業を怠ってしまっており、そのために作品の完成度を大きく損ねる結果に繋がってしまいました。具体的に言えば、

 「不死であるという事がメリットよりもデメリットの方が勝るという実感を読み手に与える作業」

 「バトル等において主人公の肉体的な痛みを強調して、読み手に“ハラハラドキドキ感”を与え、主人公への感情移入を促進する作業」

 「神が主人公に与えた試練やそのルールに理論武装を加え、話全体にもっともらしさを出す作業」

 ……以上3つの作業が欠如しており、結果として読み手が作品世界に没入する事を阻害する原因を多く作ってしまったのです。もう少しネームを練っていれば、随分と印象が違っていただろうと思えるだけに、本当に勿体無い気がしてなりません。

 評価はBとしておきましょう。ただし、将来的には大化けする可能性も残されている作家さんだと思いますので、今後に期待したいところです。

 
 ◎読み切り『THE DREAM』作画:荻野英貴

 続いてもデビュー2作目の作家さんが登場。これが2年半振りの復帰作となる萩野英貴さんです。
 萩野さんは00年3月期「天下一漫画賞」最終候補00年5月期「天下一漫画賞」審査員(ほったゆみ)特別賞受賞と、短いスパンで意欲的に投稿活動を展開し、その翌年、「赤マル」01年夏号にて『MAN IN THE PICTURE』で晴れてデビューを果たしました。が、それからは先述の通り、プロの洗礼を浴びる形か2年半にも渡って新作発表を果たせず、現在に至っています。

 というわけで、作品の内容について。
 まずはから。背景処理などでは結構手が込んだ作業が為されており、その辺は良いのですが、いかんせん人物作画の完成度が甘く、実力以上に印象の悪い絵柄になってしまっているようです。特にヒロインの表情や顔のアングルのバリエーションが極めて乏しく、そこで大きく損をしているように感じます。

 そしてストーリーと設定は、根本的な部分も含めて問題点が山積です。
 まずシナリオ。一見ミステリ風でありながら、特に大きなドンデン返しも無く、平板この上ないモノになってしまっています。最初から怪しい人間が本当に怪しかった…という結末では、読み手に感銘を与える事は出来ないでしょう。一応、“夢探偵”の正体について仕掛けが為されていますが、その謎解きがシナリオ上で必然性があるとは思えず、折角の見せ場が逆に蛇足に陥ってしまっているように思えます。
 しかし、それ以上に頂けないのが設定の提示に関する部分でした。徹頭徹尾、キャラクターの設定に至るまでセリフ等による文字解説のオンパレード。設定を描写ではなくて説明するだけになってしまった典型例で、これでは……。文字による解説は一概に悪いとは言えませんが、何の工夫もなく延々と…というのはさすがにダメでしょう。

 評価はC寄りB−。何とか凝ったお話にしようという意気込みは買えるのですが、それでもここが精一杯といったところ。妥協の無いシナリオ作りが今後の課題となるでしょうね。


 ◎読み切り『みえるひと』作画:岩代俊明

 ここからは全てデビュー作の新人作家さんで固められています。まずは03年下期「ストーリーキング」マンガ部門準キング受賞者・岩代俊明さん。デビュー前から積極的な同人活動を展開していたようで、念願かなってのプロデビューといったところでしょうか。

 ……では作品について。ストーリーキング受賞作という事で、シナリオ・設定に目が行きがちになりますが、ここは絵もキチンと見させて頂きます。

 ということで、まずはから。投稿作品が即受賞というキャリアを考えると致し方ないのですが、デッサンの荒さや背景の寂しさが目立ちますね。“マンガの文法”的な表現技術は出来ていると思いますので、あとは手にプロとしての技術を染み込ませるだけでしょう。
 ただ、長所が無いというわけでもなく、飼い犬が妖怪化した時のデザインの奇抜さなど、個性的な高いセンスの良さも窺えます。まぁ“化け犬”は多分に『寄生獣』の影響を感じるのですが、それでもあのセンスは真似ようと思っても真似られるモノではありませんからね。

 さて、注目のストーリー・設定ですが、こちらは高いセンスと才能の萌芽は窺えるものの、作品全体のクオリティとしてはまだまだ未完成…といったところでしょうか。
 まず具体的な長所としては、小エピソードを利用したキャラクターや設定の描写・解説の巧みさ、作中作品(童話)を挟んでストーリーの重厚さを演出した高いセンス、キャラクターの何気ない行動からムードの盛り上げる技術、ギャグを挿入するタイミング…といったところ。大まかに言えば、ストーリーの展開させ方や演出に関する部分ですね。
 ただ、これらの演出に肝心のシナリオが付いて来ていないのが泣き所です。妖怪化した飼い犬が飼い主であるヒロインのおじを襲った理由、そしてヒロインをも襲った理由が不鮮明で、最後まで事件が完全に解決しないままで終わってしまっています。作中作品の童話についても謎を残したままで、何と言うか、奥歯の歯茎に魚の小骨が刺さったような印象が残ってしまいました。

 以下、多分に推測が混じりますが、現在の岩代さんはストーリーテリングに必要な技術を理詰めではなく感覚で身に付けている状態なのでしょう。言い換えると、「これをすると良い結果に繋がる」という事は分かっていても、「何故、これをすると良い結果に繋がるのだろう」という部分は理解出来ていないんではないかと思うのです。それ故に、肝心な部分で歯抜けがあっても気がつき難いという次第。
 今後はその辺り、お話作りの理屈の部分を勉強して再チャレンジしてもらえれば…と思います。

 これも評価が難しい作品ですが、短所も目立つがセールスポイントも確かにある…という事でB+にしておきましょう。次回作に期待です。

 
 ◎読み切り『遊蕩☆法師』作画:里谷竜希

 ラスト2作は昨年秋の「十二傑賞」受賞デビュー組から。月次順ということでしょうか、03年10月期佳作&十二傑賞受賞の里谷竜希さんが“先攻”となりました。

 に関しては、背景処理や動的表現などは受賞作デビューとは思えないほど手馴れていますね。詳しくは判りませんが、かなりのアシスタント経験があったと考えるのが自然でしょう。
 ただ、人物作画にはデッサンの歪みが目立ちますし、表情のディフォルメ表現が全体的に品が無いのも頂けない部分です。今後はアシスタントとしての技術よりもプロ作家としての技術を高める事を意識してもらいたいと思いますね。

 一方、ストーリー・設定は、ただ一言「見るも無残」といった感じです。
 悪い意味でいかにも“「ジャンプ」的”なメインストーリーの浅薄さもありますが、何よりも最悪なのがヒーローのキャラクター設定です。『BASTARD!!』のダーク=シュナイダーのようなアンチヒーローを目指していたのでしょうが、作者の未熟さ故か、出来上がったのは、ただのタチの悪いチンピラ紛いの男。これではどうしようもありません。
 で、そんな出来損ないのヒーローを好き勝手に暴れさせた結果はただただ悲惨。「どう考えても作中の登場人物で一番のワルが、偉そうにヒーロー面して善良な少年に説教をブチかます」…という、心底救いようの無い展開になってしまいました。
 他にも、泣く子も黙る山賊が女を「抵抗したから殴った」だけとか、必殺技一発だけで終わってしまう内容の無い戦闘シーンなど、既存の「ジャンプ」新人作品の悪い所だけを抜き出したような作品になってしまいました。
 ただ、そんな作品でも十二傑賞どころか佳作まで受賞してしまうのが色々な意味で興味深いところで、ひょっとするとこの作品は、徹底的に「ジャンプ」系新人賞の傾向と対策を分析した結晶なのかも知れません。まぁ、もしそれが本当だとしても、作品のクオリティを犠牲にしてまで受賞&デビューを目指すという姿勢は問題アリとしか言いようが無いですけどね(笑)。

 評価はギリギリでC寄りのB−。あとほんの少しで“死刑宣告”になるところでした。


 ◎読み切り『福輪術─ふくわじゅつ─』作画:村瀬克俊

 いよいよラスト。皆さんここまでお疲れ様です。でも駒木の方がずっと疲れてるんですよ……などと、独演会で3席目の高座に上がる落語家のようなネタをかましつつ、まずは作家さんの紹介から。

 ここでデビューを果たす村瀬克俊さんは、03年11月期『十二傑新人漫画賞』で佳作&十二傑賞を受賞し、デビュー権利を掴みました。他に受賞歴等は無いのですが、後述するように洗練された絵柄からすると、この人もアシスタント経験があるのかも知れません

 ……では、作品についてお話してゆきましょう。

 まずは先ほども話題に挙げましたから。
 「十二傑賞」の審査結果発表の時に画力で「優れている」の評価を受けただけあって、十分合格点を出せる出来に仕上がっています。これでキャラクター描き分けのバリエーションがもっとつけられるようになれば、なお良いでしょう。

 ストーリー・設定は、小説のショートショートを思わせるような渋いシステムを採用していますね。
 このシステムを具体的に説明しますと、まず「もしも〜があったら」的な特殊設定を“触媒”として用意し、そこへ1つの出来事を放り込んで“化学反応”を起こして、ちょっと不思議なストーリーを紡ぎあげていく…という手法という事になりますね。
 この方法は、いかにも短編らしいエピソードが作れるシステムであり、使い方によっては極めて有効に働きます。藤子・F・不二雄先生のSF短編でも、このシステムを利用した作品がいくつかあるはずです。

 さて、ではこの『福輪術』がどれくらいこのシステムを上手く活用出来ているのでしょうか?

 まず、大筋のストーリー展開は上手く構成出来ていると思います。回想シーンを挿入して主人公のキャラクター付けに深みを出す一方で、その過去を現在にフィードバックさせ、シナリオの完成度を高める事に成功しています。
 が、しかし一点だけ珠にキズ特殊設定である“禍福制御”のルールが今一つ不鮮明で、そのために微妙にご都合主義感が滲み出たり、ストーリーが若干難解になってしまったように思えます。言ってみれば“触媒”に不純物が混じっていたために、“化学反応”が今一つ本調子とは行かなかった…といったところでしょうか。

 評価はA−寄りB+という事にします。あと一押しなんですけどね。あ、あとこの作品は「ジャンプ」の主流からはかなり外れていると思われますので、コンスタントに人気投票で上位に食い込むためには、作風の大幅変更も厭わない覚悟が必要だと思います。


 ※総評…評価は11作品中でA−が2つ、B+が3つ。即連載級の傑作は出なかったものの、全体的な水準はかなり高かったと言えるでしょう。また、「他の誰にも描けないような面白いマンガを描くぞ!」という意欲が強く感じられる作品が大変多くあり、そういう意味ではレビューのし甲斐がある実り多き増刊号となりました。この講義のボリュームが信じられないくらい膨れ上がったのは、作家さんのやる気に影響された結果です(笑)。
 ただ、そんな中で気になったのは、せっかく良い題材やプロットを準備しておきながら、ネームの練りこみ不足で惜しい出来に終わってしまった作品が複数見受けられた事。設定やストーリーに説得力を持たせるためにはどうすれば良いのか、読み手の感情を揺さぶるにはどのような要素を織り込めば良いのか。そんな部分を、もっともっと練りこんで貰いたいと思います。


 ──といったところで、長丁場の講義もこれにて終了です。とりあえず疲れ果ててますので、明日は休ませてもらいます。どうか何卒(笑)。


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