「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

7/31(第36回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週分・後半)
7/29(第35回) 競馬学特殊講義「駒木博士の高知競馬観戦旅行記」(5)
7/28(第34回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週分・前半)
7/22(第33回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第4週分・後半)
7/20(第32回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第4週分・前半)
7/17(第31回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第3週分・合同)
7/9(第30回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(7月第2週分・合同)
7/4(第29回) 
文化人類学「頂上決戦再び! 04年ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権・直前展望(2)」
7/2(第28回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(6月第5週〜7月第1週分・合同)

 

2004年度第36回講義
7月31日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週・後半)

 ゼミの内容とは直接関係ないのでこちらで喋りますが、『焼きたて!! ジャぱん』のアニメ化が決定しましたね。
 連載当初から『ジャぱん』が『ミスター味っ子』のアニメ版と似ていると指摘していた駒木にとっては、放送枠がテレビ東京系のゴールデンと聞いて「そこまで同じかよ」と(苦笑)。今度も大袈裟な映像効果で全国の少年たちの爆笑を誘う事になるんでしょうなあ。
 しかし『味っ子』のアニメ化はもう17年前なんですよね。完全に視聴者世代が入れ替わってますし、そういう意味では、二匹目のドジョウを狙ってみる価値もあるのかも知れませんね。全25回の予定が全100回にまで延長された“偉大なる先達”の後をどこまで追えるか、とりえあず注目ということで。

 ……といったところで、やや遅くなりましたが今週分のゼミ後半をお送りします。やっぱりここに来てプレッシャーかかってます(苦笑)。


 「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年サンデー」の次号(36号)には、『福原愛物語』(作画:あおやぎ孝夫)が掲載されます。最近「サンデー」ではご無沙汰になっていた、有名人実録モノの読み切りですね。
 今回マンガ化を担当するのは、『ふぁいとの暁』あおやぎ孝夫さん。この手の企画モノは作家側のメリットが小さいので新人作家さんがやるのが普通なんですが、確かに絵柄とモデルの釣り合いを考えると、ベストに近い人選のような気もしますね。
 一応、これも当ゼミのレビュー対象作にはなるんですが、この手の作品は作家性が極めて希薄なモノになりがちなんですよねぇ。別の意味でプロのお仕事をキチンとこなした作品に「この作品は物語性が足りない!」とか偉そうに指摘するのもバカ丸出しですし、内容的によほど目新しいモノが見られない限りは簡単に触れるだけに留めたいと考えています。

 ※今週後半のレビュー&チェックポイント
 ●今週後半のレビュー対象作…1本
 
「サンデー」:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

 「週刊少年サンデー」2004年35号☆

 ◎新連載『クロザクロ』作画:夏目義徳

 ●作者略歴
 
75年8月23日生まれの現在28歳
 「まんがカレッジ」94年10月期で佳作を受賞し“新人予備軍”入り後、95年上期「小学館新人コミック大賞少年部門」で入選。受賞作『雨天笑遊記』月刊増刊95年9月号に掲載されデビュー
 翌96年には『雨天笑遊記 稲穂の章』で週刊本誌デビュー。更に97年までに増刊号で2度の作品発表を果たすが、その後、学業・アシスタント業(メインは皆川亮二さんのスタジオ)・一般企業への就職(コナミ関連企業でTVゲームのデバッグやデザインなど担当)等で3年弱活動を休止。
 月刊増刊00年1月号で復帰を果たした後、勤務先を退社してマンガ家に専念。00年より02年11号まで「サンデー」週刊本誌にて『トガリ』の短期連載及び長期連載
 『トガリ』終了後は、「サンデー」週刊本誌02年17号、03年45号に読み切りを発表する一方で他誌での活動を模索。04年6月発売の「別冊モーニング」2号掲載の読み切り『P専嬢のダリア』(作:草薙だらい)では作画担当を務めている。

 についての所見
 作画技術についてのバックボーンはしっかりしている作家さんですから、絵の基本的な所についてどうこうというのは無いですね。特にリアルタッチで描かれている部分は見どころ十分ではないかと。
 ただ、ちょっと気になったのが人物作画の顔の部分。パーツのバランスが微妙に狂っているように見える箇所が複数ありました。ひょっとしたら他のパーツがリアルなところにマンガっぽいパーツが入ったせいなのかも知れませんが、微妙な違和感が否めなかったです。

 
 ストーリー&設定についての所見
 まず特筆すべきは主人公の設定ですね。ちょっと(かなり?)ひ弱な10代少年の主役というのは、読み手(特に「サンデー」のメイン読者層)が自分とシンクロしやすいキャラであり、感情移入を喚起する上で大きくプラスに働いたのではないかと思います。
 今回の後半部分では幹人が不良どもを暴力で蹂躙するシーンがありましたが、この辺もあらかじめ主人公側への感情移入が図られているので、“エグい暴力シーン”から“『必殺仕事人』ばりのカタルシス満点な復讐シーン”に転化出来ていると思われます。
 しかしこの作品、逆にもし主人公の設定を誤っていたら、嫌なヤツが同じ穴のムジナな連中をボコボコにしているだけ…という、読み手の受ける印象が真逆の無残なお話になっていたでしょうね。そういう意味では、今作の主人公・幹人というキャラは、『クロザクロ』という作品全体の命綱であるとさえ言えそうです。
 ──ところで、第1回では主人公たちの校種・学年が明かされませんでしたね。こういうのは先に提示しておかないと、後で読み手にイメージとのギャップを与えてしまうので良くないと思うんですが……。
(追記:作中に、主人公とヒロインが高校1年生である事を示す描写がありました。駒木の読み込み不足でした。謹んでお詫び申し上げます)

 一方、シナリオの方ですが、どうやら現時点はプロローグのプロローグといったところで、ストーリーの方は全貌どころか取っ掛かりすら見えて来ません。よって、シナリオに関しての評価は保留せざるを得ないでしょう。
 ただ今回を見た限りでは、既製の作品で使い古された、お約束的・記号的な場面演出に頼り過ぎな面があったような気がします。ネット界隈で『スパイダーマン』との類似点を指摘する声が多数上がったのも、その表れぼ1つでしょう。“定番”ならではの手堅さを感じさせる一方で、目新しさに欠けた嫌いもあったのではないでしょうか。しかも、“変身”モードに入っている幹人がヒロインのビンタを易々と浴びる…というシーンなどは話の整合性からしてギリギリで、“お約束”を守ろうとする余りにもっと大事な約束事を破ってしまうところでした。
 逆に、先に述べた復讐シーンは明らかに“お約束・定番”の域を逸脱しており、それ故にインパクト抜群のシーンになっているんですよね。ぶっちゃけ、今回はこの復讐シーンが全てと言っておかしくないくらいのインパクトで、このシーンまでが“お約束”止まりだったなら、所謂“空気マンガ”になっていたかも知れません。(まぁ実際には“空気マンガ”にはなってないわけで、今のタイミングで敢えてこんな事を言うのはアレなんですが)
 全部のシーンで目新しさを追求されると、それはそれでグチャグチャになってしまうんですが、それでももう少しこの作品ならではの独自色を前面に押し出して来てもバチは当たらないと思います
 
 現時点の評価
 ストーリーがまだ漠然としているので、とりあえず評価は保留ということにしておきます。ただ、敢えて現時点でジャッジを下すとすれば、B+とA−の境界線上を行ったり来たり……といったところになりますね。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「口癖はなんですか?」。
 
連載開始早々、夏目義徳さんのネガティブ剛掌波が炸裂してますなあ(笑)。久米田さんが去りし今、ネガティブ系回答担当は夏目さんが就任でしょうか。でも本当、人気ってどうやったら出るんでしょうね。
 駒木は……今の講師先に着任してからは「キツい」「辛い」「誰か助けて」が口癖になった気がします。……あー、ネガティブなのは駒木の方か。

 さて、連載作品の方は『結界師』から。
 前々回で大ネタが一段落ついて、余韻を引きずりながら前回からマッタリと新編突入…という感じですが、1つのエピソードが終わると、まるで何事も無かったようになるのがこの作品の特徴ですね。日常と非日常の物理的距離が近い世界観というのは、状況のリセットがし易くて新展開の時には得というわけですか。まぁデメリットも大きいので使い勝手の良い設定とは思えませんが……。
 ……しかし、時音曰く、良守は「弟みたいなもん」ですか、先は遠いぞ少年(笑)。あと、ウロ様の頭に乗っかってたドーナツは、多分ミスドのドーナツのスケッチですね。上からホームカット(シュガーレイズド?)、フレンチクルーラー、ハニーディップ、チョコリング、ココナツ…といったところでしょうか(笑)。渋いチョイスですなあウロ様。

 話変わって今週の『いでじゅう!』、貴方は林田君の事を素直に笑えましたか? 駒木は結構身につまされて気まずく半笑いでした。

 で、気まずいと言えば『モンキーターン』。どうしてここまで地味に嫌な緊迫感を持たせようとするんでしょうか、しかも競艇に関係ないところで(笑)。
 確か、澄&ありさと洞口は面識があったはずなので、最終日後には憶測と嫉妬の愛憎劇がスタートすることになりますなぁ。何だか『からくりサーカス』よりも心の準備が必要だよ!(苦笑)

 ……とっいったところで今週のゼミはここまで。しかし、『かってに改蔵』が無いと、読む取っ掛かりが無くて困ってしまいますね。何やかんやで「サンデー」にとって重要な存在だったのかも知れません。

 


 

2004年第35回講義
7月29日(木) 
競馬学特殊講義
「駒木博士の高知競馬観戦旅行記」(5)

 ◎前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回

 実に2ヶ月半ぶりのシリーズ再開となりました。春の旅行記なのに、季節が巡ってもうです(苦笑)。確かこの講義は「総受講者数200万人突破記念」だったはずなんですが、もうアクセスカウンタは250万を突破していると言う始末で、全く情けない限りです。
 正直、ボチボチ全ての記憶が曖昧になって来ているのですが(例えば、前回のラストにある「得も言われぬ微妙な雰囲気」がどんな雰囲気だったのかなんて、もう判りません^^;)、ここまで待って頂いた以上は、何とか頑張って形にしたいと思っております。至らない所もあるでしょうが、どうか最後まで何卒。

 ──それでは、今日は旅行初日(3月22日)の午後、高知競馬場内からです。なお、レポート中は文体を常体に変えておりますので宜しく。


 昼下がりの高知競馬場。朝からの雨は降ったり止んだりといった感じになっており、幾分過ごし易くはなって来ていた。
 さて、ハルウララ単勝馬券購入という“難事業”を終え、ようやく競馬観戦と馬券の検討に専念出来るようになった駒木であったが、ここに来てまたも大きな難題にブチ当たっていた。

 馬券が、ちっとも当たらない。

 何だいつもの事じゃねえか、というツッコミは甘んじて受け入れよう。ただ何と言うか、この日の場合は底なし沼にズブズブ埋まっていくような気持ちの悪い外れ方をするので気が滅入って仕方が無い。
 この日は折からの雨で馬場状態は朝から不良。ダート馬場、特に田舎の公営競馬場のような砂場のようなコースでは、ドロドロの不良馬場になれば逃げ・先行馬が絶対有利というのがセオリー。よって、馬券検討でも逃げ・先行馬を中心に攻めていったのだが、これが思うようにいかないのだ。
 あるレースでは狙った先行馬が前に行けず沈没。またあるレースでは、狙った馬が先行したものの今度は理屈を無視した後方追い込みが決まってまた沈没と、レース展開に関わらず馬券が外れてゆくのである。
 で、気休めにパドックへ行ってみると1番人気の馬がイレ込んで暴れているのが目に飛び込んでくる。で、「よし、1番人気を外して穴馬券だ!」と意気込んでみたら、いともアッサリと1番人気の馬が後続を突き放して先頭でゴールしてゆく。お約束と言えばお約束だが、これには正直参った。
 こういうのは“裏目に出た”とは言わない。“当たり目が勝手に避けてゆく”という非常に精神衛生上よろしくない現象なのである。麻雀好きの方なら必ず経験があるだろう、愚形をリャンメン以上の好形に変えてリーチをかけた途端に、待ちを変える前の当たり牌をツモりまくる…というアレ。そう、その挙句に「ロン」とか言われて「18000のチップ3枚です」と追い討ちをかけられるアレとよく似たパターンなのだ。そういえば昨日の出発前も……って、ネガティブな雑念ばかりが入って来るじゃあないか。こりゃいかん。

 こういう時は気分転換に限る。ギャンブル場巡りの醍醐味の1つ・場内B級グルメ探訪と洒落こむ事にした。ギャンブル場に行くと何故か旨いものが食いたくなる。
 まず真っ先に狙ったのは、一部で高知競馬場名物と言われている鯨カツ。かつてのB級食材の王様だった鯨肉も、狂信的な動物愛護運動のために今では滅多に見かけなくなってしまった。全国で70以上ある公営ギャンブル場でも、鯨肉が食べられるのは業界イチのグルメ度を誇る川崎競輪場と、ここ高知競馬場くらいなものだろう。
 で、1本100円の舌代を払って出て来たのは、名刺を一回り小さくしたような薄っぺらいカツ。まぁモノがモノだし仕方ないか、と思いガブリとやると冷えたカツ独特のエグい食感が(汗)。作り置きかよ! しかも肉の味がしねえよ!
 ……ネットでいくつかの高知競馬場レポを当たってみると、実は結構好評なこの鯨カツ。どうやら駒木は一番間の悪い時に買ってしまったらしい。こういう所でもツイてないのか今日は。

 気を取り直して場内奥のミニ食堂街へ。プレハブに毛の生えたような建物がズラリと並んでおり、この微妙に寂れた風情がいかにもローカルギャンブル場っぽくて良い。
 予算と腹具合に限りがある中で狙いを定めたのは、駒木の大好物・ホルモン焼き。本当は1本100円くらいで串焼きにしたヤツがあれば良かったのだが、残念ながら見当たらず。仕方ないので500円だか600円くらいした、皿のホルモン焼きを“奮発”して買ってみたのだけれど、これが意外にも大当たり!
 肉は所謂“放るもん”のクズ肉ではなく、焼肉屋で出るホルモン系の肉をミックスしたもの。テッチャンやミノだけでなく、レバーやセンマイなんかもちゃんと入ってるのが律儀で良い。タレは辛めで、恐らく客にビールを注文させるための手段とみた(笑)。駒木はギャンブル中にアルコールは御法度という事にしているので黙って辛さに耐えたが、数年ぶりに禁を破ってみたくなるくらいの美味。ここのホルモンをもう1度食べるためにまた高知競馬に行きたいくらいだ。

 ……そう言えば、の話になるが、また高知競馬に行くなら一度やってみたいのが、協賛レースのスポンサーだ。御宅族の皆さんには「まじかる☆さゆりん杯」で御馴染の、いわゆるレース名の買い取りシステムである。
 確か今はもう廃止になった上山競馬が最初に実施して、そこから全国各地に波及していったものだと記憶しているが、この協賛レース、1万円程度納めれば(普段は名前がつかないような下級条件の)レースに自分で好きな名前をつけられて、しかも同伴者共々貴賓室でのレース観戦と表彰式のプレゼンテーターまでやらせてもらえる…という破格のサービスになっている。
 この日のハルウララwith武豊のように、手段を選ばない集客活動に余念が無い高知競馬場でも協賛レースは行われていて、個人申し込みなら1万円で先述したサービスが受けられる。例えば今日の第1レースは「凱君祝1歳!バブもワンワン特別」で、第3レースは第2回 吉田一昭盃特別」である。短いセンテンスでここまでツッコミ処満載な文面も珍しいが、ここでは敢えて言及を避ける。
 実は、この夏休みにでも駒木研究室主催の協賛レースでも実施して、受講生の皆さんと貴賓室で大騒ぎする構想もあったのである。ただ、よくよく考えたら高知でオフ会やって何人集まるんだ? …という素朴かつ重大な疑問にブチ当たり、敢え無く頓挫となった次第。単独旅行が好きな駒木でも、1人で貴賓室&プレゼンテーターというのは余りにも寒い。寒さ加減では、鈴木みそのマンガであった、「男独りで誕生日にアンナミラーズに行って、ウェイトレスさんに囲まれて歌って祝ってもらう」という罰ゲームとほぼ互角だろう。

 それにしても高知競馬場は不思議と居心地が良い。何故かと思ったら、駒木のホームグラウンド・園田競馬場、しかも10年前の今よりローカル色の強かった頃の雰囲気と似ているのだ。スタンドや場内の構造に類似点が多いのも理由だろうか。
 旅行先で居心地の良い場所に巡り合うたびに、「ここだけ神戸に移転しないかな」…などと都合の良い事を考えてしまう。ただ、移転して来たら来たで案外行かないんだろうな(笑)。「いつでも観れるから」と保存しておいたビデオをほとんど観ないようなもので。
 ともあれ、高知競馬場は昼下がり。レースもいつの間にか後半戦へと突入していた。


 ……以上、再開1回目でした。結構苦しみながら原稿を準備したのですが、こうしてみると文量も中身も全然ですね(^^;;)。まぁ、今回はリハビリだとご容赦頂いて、週末から集中実施予定の続きにささやかなご期待をば。(次回へ続く

 


 

2004年度第34回講義
7月28日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第5週・前半)

 どうも、積み残しの講義だらけで、何から手をつけたら良いのか自分でも分かってない駒木です(笑)。せめて春の高知旅行記は盆休み前に完結させたいですね。
 ……でもまぁとりあえずは出来る所からやっていくという事で、今日はゼミの前半分です。


 「週刊少年ジャンプ」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(36号)では、「金未来杯」第3弾となる読み切り『BULLET TIME!! −ブレットタイムー』(作画:田坂亮)が掲載されます。
 田坂さんは、新人賞を経ないまま、「赤マルジャンプ」01年冬号にて『TRIGGER!』(作:高田義孝)のマンガ作画担当者としてデビュー。単独名義での作品は「赤マル」02年春号に掲載された『CRIME BREAKER』だけで、その後はアシスタントに専念されていたようです。
 ※ちなみに『CRIME BREAKER』は、「第1回仁川経済大学コミックアワード」にて、『だんでらいおん』(作画:空知英秋)と共にジャンプ&サンデー最優秀短編作品賞を、受賞しています。
 田坂さんは「金未来杯」の中では最も実績の少ない作家さんという事になるのでしょうが、それでも『CRIME BREAKER』で見せた久保帯人ばりの高度な演出力などを考慮すると、実力的には他の作家さんに比べると全く遜色無いと思います。今回もどのように読み手を“魅せて”くれるのか、駒木個人としても今から大変楽しみです。期待して待ちたいと思います。

 ※今週前半のレビュー&チェックポイント
 ●今週前半のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り(金未来杯エントリー作品)1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年35号☆

 ◎読み切り(「第1回ジャンプ金未来杯」エントリー作品)『タカヤ −おとなりさんパニック!!−』作画:坂本裕次郎

 作者略歴
 1980年4月18日生まれの現在24歳
 01年5月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り、“新人予備軍”入り。その後、03年上期「手塚賞」で準入選を受賞し、週刊本誌03年29号に受賞作『KING OR CURSE』が掲載されてデビュー
 その後、04年2月の「青マルジャンプ」で『デス学!!!』、「赤マル」04年春号に『吉野くんの告白』を発表するなど、意欲的な活動を続ける。
 今回はデビュー1周年にして約1年ぶりの週刊本誌登場。
 
 についての所見
 
普段「赤マル」などの増刊号を読んでいない方は、
1年前の『KING OR CURSE』とのギャップに驚かれたのではないでしょうか。線の粗さが完全に取れ、随分とアカ抜けた画風になりましたよね。
 以前はコマ内の余白が必要以上に大き過ぎたり、作画の線が細過ぎる印象がありましたが、今作を見る限りでは許容範囲内に収まるところまで来たような感じです。
 ただ、週刊本誌対応で敢えて細かい指摘をすると、顔のディフォルメが“顔面内ディフォルメ”に留まっていたり、動的表現にやや止め絵臭い所があったりしたのが少し気になりました。せっかくダイナミックな作風なんですから、もっと絵で迫力が表現できるようになると更に良くなると思います。あと、せっかく前作のように美醜の描き分けが出来る技術があるのですから、もうちょっとアクの強いビジュアルの登場人物を出して来ても良かったんじゃないでしょうか。
 ……とまぁ細かい問題点もありますが、全体的に見れば及第点には十分あると思います。


 ストーリー・設定についての所見
 前々作『デス学!!!』の世界観に、前作『吉野くんの告白』で開眼したスラップスティックの要素をミックスさせたら、何だかノリの軽いラブコメになっちゃった…という感じでしょうか。同じアイディアの作品も“料理”の仕方を変えると全く別物になるとは言いますが、まさか同一作者の作品で実証が出来るとは(笑)。

 それはさておき、ストーリーを全体的に概括すると、とりあえずは起承転結のメリハリの効いたお話に仕上がっていたとは思います。演出を効かせたカタルシス十分の仕上がりにもなっていますし、読み手に良い読後感を与える、エンターテインメント性の高い作品ではないでしょうか。
 ただ、伏線を殆ど使用しないままで次から次へと新しい事実や過去が提示されたり、ケンカが弱いはずの主人公がマジギレしたという理由だけで敵役と互角以上に戦えてしまったりと、薄っぺらさや悪性の御都合主義が全編に渡って見られたのは大きな不満でした。前々作『デス学!!!』では、ストーリーを超高速展開にする事によって、それらの欠点を逆に長所に変える事が出来たのですが、今回は比較的オーソドックスな筋立てだっただけに、欠点が欠点のまま表に出てしまったかな…という印象がありますね。
 あとギャグについては、前作同様、強力なボケの前にツッコミがやや弱くなってしまったように思えました。言葉のセンスはある作家さんだと思いますので、次回作ではもっとセリフの練り込みにも労力を割いて欲しいところです。ただ、それをやると空知英秋さんと作風が被って来るんですよね(^^;;)

 今回の評価
 読み手にカタルシスを与える力は十分あるものの、シナリオが御都合主義的で大きな問題がある…という、典型的な「名作崩れの人気作」的作品です。「面白い作品に高い点を与えて何が悪い」というお声も頂戴しそうですが、技術点重視の当ゼミの基準に照らしあわすと、やはりB+が妥当なラインかな…という感じですね。
 それでも将来に期待が持てる有望な若手作家さんだと思います。ただ、この作品が連載化されるとなると、正直「う〜ん……」といった感じですが……。


 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週はいきなり連載作品について。
 しかし、『DEATH NOTE』は話がどんどん凄い方向へ向かってゆくというか逸れて行くというか……。緻密な計算に基づいているようで、実はいかにも「ジャンプ」らしい、全くの行き当たりばったりなインフレバトルマンガなんだなぁと、しみじみ思います。これで竜崎Lが死んだ後から本当に“真のL”が出て来たら、『ドラえもん』の中に出て来る、フニャコフニャオの『ライオン仮面』のノリですよね(笑)。
 ただ、それでも設定や前提条件に矛盾を起こさずやって来れているのは素直に凄いなと。この辺が多くの支持を集めている要因なんでしょう。

 そして、巻頭付近でデスノートを巡る静かな戦いが続く中、真ん中あたりで少年マンガらしからぬデスエロス(byOHPさん)を炸裂させているのが『ぷーやん』。こっちはノリが「スーパージャンプ」の『DESIRE』みたいになって来ました(笑)。
 もうこの際、数秘術なんて面倒臭い事言わずに「勃起力」とかにしたら良いんですよ(笑)。某名作カンフー映画みたいに「勃てば勃つほど強くなる」とか言って(下衆!)。もう中途半端に卓球するより、開き直ってそっち方面に流されて行った方が面白いんじゃないかと思ったりするわけですが、如何なもんでしょうか(笑)。

 最後は今週も『武装錬金』。本当は毎週同一作品を採り上げるのは控えたいんですが、こんなもん見せられたらどうしょうもないですわ(笑)。
 前半の続・海水浴編に関しては、もうネット界隈でさんざん採り上げられてますから、ここは敢えてスルー。とりあえず『ONE PIECE』の空島編よろしく
「へそ!」と叫ぶだけに留めておいて、緊迫の後半部分に注目しましょう。
 まずエンタメの基本である、平穏から非常事態への急角度バックドロップが完璧に決まっているのがお見事。全く想定出来ない展開ではなかったんですけれども、いざ本当にこうなると「そう来たか!」ですよね。
 セオリー通りの展開になれば、ここからカズキ&斗貴子さん組VSブラボー&中村組のイリミネーション・タッグマッチになってゆくんでしょうが(もっと言えば、無効試合になって、ブラボーがカズキ側に寝返った上で錬金戦団と戦う事になるんでしょうが)、さてどうなりますか。まぁ本当ならカズキVS斗貴子さんという展開が一番“オイシイ”ものの、今の状況では無茶が過ぎる感じですから、これは仕方ありませんね。
 あと、掲載順が巻末ですけど、それに関してはもう慣れました(笑)。人気が掲載順に反映されるまでにはタイムラグがあるらしいですから、多分ここ最近の“確変”モードに入るまでのバトルシーンが影響してるんだと勝手に解釈しています。
 

 ……といったところで今週前半分はこれまで。後半は金曜日あたりになると思いますが、出来ればそれまでに積み残しの講義シリーズを1回挟めれば…と思っています。では。

 


 

2004年度第33回講義
7月22日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第4週・後半)

 さて、今週分の後半、「週刊少年サンデー」35号の内容についてのゼミを始めます。
 ……いやー、それにしても強烈な置き土産を残していってくれましたなー、久米田康治センセイは(笑)。今回はレビュー対象作が無いから随分楽ができるぞ…などと思っていたら、とんでもない最終回になったもんですね。

 まぁそんなわけで、今回は内容が薄いんだか濃いんだか判らない内容になると思います。先々週のように、ノリが良すぎて変な事を口走っても気にしないでおくように(笑)。


 「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年サンデー」では次号(35号)より、『クロザクロ』(作画:夏目義徳)が新連載となります。
 ……というわけで、夏目義徳さんが「サンデー」で週刊連載獲得です。夏目さんは最近「別冊モーニング」にも作品を発表するなど、その活動の幅を広げていましたが、紆余曲折を経ながらも堂々の“古巣”復帰ということになりますね。
 いやしかし、次号予告を見ただけで「うわッ、これは最近の新連載とはワケが違うぞ!」…というオーラが伝わって来るあたり、色々な意味で「さすが」といったところですね(笑)。どこをどう考えても所謂“少年マンガの王道”とは違う路線になると思われますが、それならそれで異質な存在感を発揮する作品になってもらいたいと思います。

 ──さて、夏目さんには以前、読み切り作品『オロチ』が掲載された時にも、当講座の受講生さんへのコメントを頂いた事がありましたね。で、今回も忙しい執筆の合間を縫ってコメントを頂きましたので、紹介させて頂きます。

 自分もこのHPの博士や受講生と同じく、漫画家である以前に漫画を読むのが好きなんで、ある程度どういう漫画が読者や世間に受け入れられやすいかのデータがないわけじゃないんだけど、自分はせっかく漫画家なんだから自分なりに面白いものを探そうと思います。読者の皆様も一緒に探してください。」

 ……あと、この後に受賞者を紹介する「まんがカレッジ」の編集部講評──「たとえ読者の8割に嫌われても2割の熱狂的なファンがつくような強い個性・主張のある作品が今後の漫画界の新しい力になると思います」──になぞらえたんでしょうか、

「誰にも嫌われない漫画ではなく、八割の読者に嫌われる漫画です。」

 …というコメントも頂いています(^^;)。でもまぁこれも、いつもの夏目義徳作品だというアピールだと解釈するべきだと勝手に思ったりなんかしていますが。

 「サンデー」の週刊本誌で新連載という事は、当然レビュー対象作になるわけですが、それにあたっては夏目さんから「くれぐれも手加減無用で」という注文を受けています(笑)。
 なんでも、以前『オロチ』のレビューをした時も「このレビューはヌルい」と感じられたそうで、今回は「思う存分酷評してくれ」とさえ言われております(苦笑)。もうなんか、『吼えろペン』9巻あとがきマンガで言うところの「それは攻撃をしろということか富士鷹!」…みたいな感じなんですが、こちらもそこまで言われれば謹んで覚悟完了と言う事で。
 ……でも、本当はそういう厳しい見方をした上で絶賛出来れば最高なんですけどね。誤解してらっしゃる方も多いでしょうけど、このゼミのレビューは褒めるためにやってるんですから……。

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(04年5月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=2編
  ・『満月と狼』
   斉藤尚武(25歳・茨城) 
  ・『マジカルゲバッグ』
   指音ゆう(25歳・京都) 
 努力賞=2編
  ・『マダングリル』
   虹色パンダ(24歳・香川) 
  ・『ALL THE WAY TO EDGE OF THIS WORLD 〜この世の果てまで〜』
   西村学(24歳・千葉)
 あと一歩で賞(選外)=3編
  ・『鯨と祈祷師』
   川縁芳乃(14歳・三重)
  ・『コピーマン』
   西本美登樹(22歳・和歌山)
  ・『カミカクシ』
   小嶋武史(26歳・山梨)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎佳作の指音ゆうさん…03年12月&04年1月期「まんがカレッジ」であと一歩で賞。
 ◎あと一歩で賞の小嶋武史さん…02年に「週刊少年マガジン」の新人賞で入賞?

 

 ※今週後半のレビュー&チェックポイント
 ●今週後半のレビュー対象作…なし

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。


「週刊少年サンデー」2004年34号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「どんな役で映画に出演したいですか?」。
 連載陣の皆さんは当然と言いますか、答えがバラバラに。ただ、主役よりも脇役、いや端役を好む傾向があるみたいですね。これは「自分に大きな役は似合わない」と思ったためか、それともただ楽をしたいだけなのか(笑)。
 ちなみに駒木がやりたいのは悪役。それもどうしようもないマンガに出て来るチンケなのじゃなくて、映画『レオン』のゲーリー・オールドマンみたいに、どこか突き抜けてしまったような凶悪な人間を演じてみたいというか。……すいません、自分の演技力を棚上げして無茶言いました(笑)。

 ──さて。それではそろそろ本日のメインイベントへ参りましょうか(笑)。
 今週号は、やっぱりこの作品が全てと言って過言ではないでしょう。インパクトが他の作品とは違い過ぎた『かってに改蔵』最終回について、詳しくお話したいと思います。

 この最終回の解釈については、ネット界隈では文字通り諸説紛紛といった趣になっていたようですが、確かにそれも仕方が無いというくらい“深い”作品だったと思います。恐るべし、久米田康治ですよ!
 駒木も一読した瞬間は、恥ずかしながら「ええ話やー……」などと感動しかけてしまったのですが、ギリギリの所で「うわ、これネタだ」と気付き、正気に返りました。いやー、危ない所でしたが、駒木もまだ何とか大丈夫そうです(笑)。
 
 今回の最終回は、最後だけ異様なほどのシリアスモードで綺麗にまとめる事により、全てを綺麗にまとめたフリをする…というモノでしたね。実は設定も伏線もほぼ全部ブン投げて最悪の形で終わってるんですが、最後の最後で別の世界観(非常によく出来たハリボテの世界観ですが)を築き上げるという、もの凄い力技で強引にまとめ(たフリをし)てしまいました。いやはや、本当に恐ろしい。
 これ、下手すれば単に作品を“投げて”しまった…と受け取られかねない危険も孕んでるんですが、それもキチンと対策立ててますからねぇ。この最終回の冒頭で『新世紀エヴァンゲリオン』TV版最終回のパロディを持って来たのは、ただそうしているわけじゃなくて、「ちゃんと分かって下さいね。これはネタなんですからね」というアピールの役割も果たしているわけですよ。新連載の時に巻頭カラーを貰えなかったのに、最終回のラストがカラーページだった事も含め、全部が計算ずくなんです。凄いでしょう?
 中には余りにもマジメに描き過ぎなので、“お笑いネタ認定”をし辛いという方もいらっしゃるかも分かりませんが、そこはそれ、あなたが今受講しているこの社会学講座の性格をよーく考えてみましょう。諸般の事情でこれ以上は何も言えませんが(笑)、賢明な受講生の皆さんなら、駒木が申し上げたい事も判って頂けるはずです。「壮大なネタ」という概念がこの世にはあるのです。

 ……あ、先ほどの「計算ずく」で思い出したんでちょっとここで大声で言えない小耳に挟んだ話を。
 この度の最終回の舞台となった場所、これはどう見ても精神科の病院であり、改蔵・羽美・地丹は患者さんで、他の登場人物は病院関係者だったように描かれていますが、実際にはどこを見ても「病院」、「病気」、「医者」、「看護士」、「治療」、「治癒」といった、“そのものズバリ”な単語は一言も出て来てないんですよね。「〜院」、「先生」、「研修生」、「看護学生」、「婦長」、「(状態が)良くなる、良い方向へ向かう」といったキワどい言葉は使われるのですが、ギリギリの所で「ここは病院じゃありません。彼らは精神病患者ではありません」というエクスキューズが利くようになっているんだそうです。例えば「婦長」は、「看護士のコスプレが好きな婦人会長(=略して婦長)」だと言い逃れが出来るわけですね(笑)。
 最後の最後まで編集部に迷惑をかけつつも、深刻な被害は与えないようにする…という、久米田さんの矜持みたいなモノが窺えるエピソードですよね。

 閑話休題。
 ──しかし、改めて感心させられたのが、久米田さんの卓抜した演出力です。
 一言で「綺麗にまとめる」と言うのは簡単ですが、今回の場合は全然綺麗にまとまっていないモノを綺麗にまとまったように見せかけているのですから、結構な無茶をやっているわけです。普通にやってても読者は騙せないんですね。
 ところが今回、久米田さんは見事に読み手の目を眩ます事に成功したわけです。これは、脚本となるネームは勿論、コマ割りや絵の見せ方といった諸々の演出技法を駆使したからこそ出来る芸当で、言ってみれば演出技術の確信犯的な悪用ですね。
 だってねぇ、あんな場面で彩園すずに天使のような笑みを浮かばせて「2人に幸あれ」ですよ!(笑) これはもう、悪魔的な所業と言っても過言ではないですよ、ええ。……あ、念のため言っておきますが、これは最大限の褒め言葉ですので何卒。

 ……まぁそんなわけで、この最終回は久米田康治という作家のポテンシャルを遺憾なく発揮した大傑作だと思います。作品全体としては、設定の場当たり的な変更やストーリー性に欠けるワンパターンな構成など、若干の減点材料も見受けられますが、それでもこの最終回の出来振りを加点するなどすれば、総合評価A−は十分にあるかと。いまはただ、本当にお疲れ様でしたと申し上げたいところです。
 駒木が聞き集めた情報を総合すると、今の編集長がいる限り、久米田さんが次回作を「サンデー」でやるのは難しそうですが、まぁとにかくしばらく休んで英気を養って頂きたいと思います。1〜2年も待てば…ね(笑)。

 ……さてさて、『改蔵』に完全に食われてしまった形になりましたが、井上和郎さんの『美鳥の日々』も今週号で最終回となりました。
 こちらは『改蔵』とは対照的に、本当の本当に綺麗にまとめた終わり方でしたね。何と言いますか、作品の中で「これをやっておかなければならない」という部分を完遂した、非常に完成度の高い作品であったと思います。コンセプトこそ「寄生獣+南くんの恋人」とキテレツでしたが、だからこそメインストーリーはオーソドックスに締める…という得も言われぬバランス感覚も見事でした。
 ただ惜しむらくは、先述の通り「これは押さえておかなければ」…というファクターは全てクリアした作品ではあったのですが、その上にある「ここも上手くやれば更に良くなる」…という“高等技術”の部分にまでは手が回らなかったような印象もありました。語弊を恐れず言えば、心的描写の踏み込みが足りない、超二流のエンターテインメント…といったところでしょうか。
 最終評価はB+。名作ではないものの、連載作品としては十分及第点にあった作品だとは思います。

 ……ああ、今週は他の作品にも色々言いたい事有ったんですが、もう時間がありません。体ボロボロです(苦笑)。とりあえず今週はこれでお許し下さい。では、また。

 


 

2004年度第32回講義
7月20日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第4週・前半)

 採用試験中だというのに、今週は前・後半分けての講義実施であります(笑)。ただ、これは切羽詰り具合がまだ軽い週の前半に重たい仕事をやっておこうという、そういう目論見だったりするわけで。

 ……あ、あと、もうあちこちで(というかご本人発信でも)漏れ始めていますが、今週の後半分では皆さんに嬉しいニュースをお伝え出来そうです。そちらの方もどうぞお楽しみに。


 「週刊少年ジャンプ」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報

 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(35号)では、「金未来杯」第2弾となる読み切り『タカヤ ─おとなりさんパニック!!─』(作画:坂本裕次郎)が掲載されます。
 坂本さんは、03年上期の「手塚賞」で準入選を受賞して同年6月に週刊本誌でデビュー。04年になってからも「青マル」、「赤マル」に作品を発表するなど、精力的な活動を続けています。
 坂本さんは約1年ぶりの週刊本誌登場となりますね。増刊号をお読みにならない受講生さんは、是非とも坂本さんのこの1年の充実振りを確かめて頂きたいと思います。次回予告カットでもお分かりになると思いますが、特に絵の垢抜け振りは注目です。

 ◎詳報はありませんでしたが、「週刊少年ジャンプ」次号(35号)では、以前話題を呼んだ『DEATH NOTE』『ボボボーボ・ボーボボ』のコラボ企画が再び実施される模様です。(どうやら扉ページだけのコラボ企画ではないか…という情報も出ていますが……)

 

 ※今週前半のレビュー&チェックポイント
 ●今週前半のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り(金未来杯エントリー作品)1本&代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年34号☆

 ◎読み切り(「第1回ジャンプ金未来杯」エントリー作品)『プルソウル』作画:福島鉄平

 作者略歴
 79年4月23日生まれの現在25歳
 マンガ家としてのデビューは00年に「コミックフラッパー」誌にて。翌年まで同誌などで活動していたが、その後はキャリアを捨てて「ジャンプ」への投稿を開始し、03年1月期「天下一漫画賞」最終候補で“新人予備軍”入り。加地君也さんのスタジオでアシスタントを務めつつ、デビューのタイミングを窺う。
 「ジャンプ」デビュー作品は、「赤マル」03年夏号に掲載された『red』。なお、「赤マル」には04年冬(新年)号にも『ナイン』を発表している。
 なお、今回の作品が週刊本誌初登場となる。
 
 についての所見
 
前作『ナイン』の頃から少年誌向けの絵柄にモデルチェンジを図っている福島さんですが、今作ではそれも完成の域に達しつつありますね。以前見られたアクの強い極度に個性的なタッチの名残を残しつつも、スッキリとした見易い絵柄になっていると思います。ただ、好き嫌いの分かれそうな絵柄ではありますので、読み手を選ぶ嫌いは有りそうですが……。
 背景処理、動的表現、ディフォルメといったマンガの記号的な部分にしても問題は無く、技術的な面での減点材料はほとんど見当たらないと言って良いでしょう。 


 ストーリー・設定についての所見
 今回の作品は、「ジャンプ」デビュー作・『red』から主要な設定を踏襲したまま大幅にストーリーを変更させたモノですね。『red』は少年誌向けには程遠い“黒い”ストーリーでしたので、少なくとも商業的には妥当な選択だと思います。
 内容についても、『red』で見られた欠点の多くが解消されていて、こちらの技術向上振りも目を見張るものがありますね。伏線の張り方やストーリー展開にも無駄が無くなって来ていますし、設定の提示にも工夫が見られます。確かにまだ消化不良気味な所も見受けられますが、総合的に見れば相当高いストーリーテリング力を身につけているんじゃないでしょうか。

 ただ、惜しむらくは、その高い技術が作品の完成度に繋がりきっていない所ですね。格闘技で“上手いけど強くない選手”なんてのがいますが、福島さんの場合も残念ながらそういう傾向が見られます。
 これは具体的に言えば、演出力不足という事になるのでしょう。読者にビジュアルでインパクトを与えなければならないシーンで文字に頼り過ぎるため、本来読み手にカタルシスを与えるはずの場面で段取り臭さを感じさせてしまうんですね。伏線は処理出来ているんですが、ただ処理しただけで終わってしまっているわけです。例えば主人公の身体能力の高さなど、先生のセリフだけでなく絵でも説得力を持たせておくべきだったでしょう。

 今回の評価
 技術点だけなら十分にAクラス評価に値するモノが感じられます。「ジャンプ」デビュー以来の成長振りからすると、今後が非常に楽しみな作家さんの1人ですね。
 ただし先述の通り、今回は技術の高さが作品のクオリティ、特にエンタテインメント性に繋がっていない印象があり、技術点だけを見て評価を下すのにはやや躊躇を覚えます。
 ……というわけで、今回はA−寄りB+という事にしておきます。これでも「赤マル」のレヴェルなら十分上位クラスの出来なんですが、この果てしなくハイレヴェルな「金未来杯」では苦戦を強いられるのではないでしょうか。

 ◎代原読み切り『教授百々目木』作画:夏生尚

 作者略歴
 生年月日は不詳だが、「赤塚賞」受賞時の年齢から換算すると、現在23〜24歳
 02年上期「赤塚賞」で佳作を受賞し、その受賞作が週刊本誌02年31号に代原として掲載され、暫定デビュー。
 それから更に1度の代原掲載を挟んだ後、03年下期「赤塚賞」にて『BULLET CATCHERS』で準入選を受賞し、これが04年14号に掲載されて正式デビュー
 なおこの後、04年19号に過去の習作原稿が代原掲載されており、今回は代原・正規含めて5回目の週刊本誌登場となる。

 についての所見
 
デビュー以来、色々な絵柄に挑戦している夏生さんですが、今回は比較的オーソドックスなスタイルでまとめて来た感じですね。そのためか、印象も「普通のマンガだな」といったところ。
 ギャグマンガという事も考慮に入れると十分及第点にはあると思うのですが、線が細くて不安定であるのと、集中線の処理を凝り過ぎて変になってしまった…という2点がやや気になりました。変な所で奇をてらわずに、もっと大事な部分を気にしたらいいのに…と思ってしまいます。


 ギャグについての所見
 以前の作品に比べると多少マシになったようですが、それでも相変わらずの“無理矢理感”を感じてしまいますね。「とにかく変な事をさせなければ」という気持ちばかりが先立って、ネタが上滑りしているように思えます。まず登場人物のキャラクターを立てておいて、そこから自然に出て来る言動で笑いを獲るようにしなければ、いつまで経ってもこの違和感は無くならないでしょう。
 あと、今回の作品では“間”の悪さとツッコミの掘り下げ不足も気になりました。たくさんネタを詰め込むのは良い事なのですが、ちゃんと1つ1つのネタを大事にして笑いに繋げないと、「沢山のネタが滑りまくってる」という事で、むしろ逆効果に働いてしまいます。

 今回の評価
 率直に言って、伸び悩んでるなぁ…といった感じでしょうか。「こうしたら笑いが獲れる」という自分なりのセオリーが出来ていないんでしょうね、どの作品を読んでも暗中模索しているような気がします。
 作品を精力的に描き上げるのも確かに立派なんですが、現状を鑑みると、今大事なのは完成原稿を仕上げる事よりも、笑いを獲るための方法論を確立する事なのではないでしょうか。
 評価はB−としておきます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 先週あたりから巻末コメントには担当編集者交代についてのものが目立つようになりました。同じ一ツ橋系の「サンデー」もそうらしいんですが、7月は人事異動のシーズンなんですね。今期は『テニスの王子様』、『未確認少年ゲドー』担当の島田氏がライトノベル部門へ異動、その影響でしょうか、『武装錬金』も担当さんが代わるみたいですね。
 しかし『錬金』は、次でもう3代目の編集さんになるんですよね。まだ連載1年しか経ってないのに……。まぁ、担当さんが変わって作風に影響を及ぼすような作家さんじゃないので、心配する事は無いでしょうが。

 作品については、時間も無いのでその『武装錬金』だけ。やっぱり今週はこの作品でしょう。バトルより日常シーンの方が高評価というのは、「ジャンプ」作家の立場からしたら微妙なんでしょうが、良いもんは良いで仕方が無いですよね。
 で、まずは改めて「和月、よくやった!」と(笑)。
 
だってねえ、パピヨン編で斗貴子さんの“ヘソチラ”を描いた時でさえ、あまりに恥ずかしくてアシスタントが寝静まった深夜にコッソリペンを入れたというあの和月伸宏が、デデーンと大ゴマで女の子の水着シーンですよ! きっと「初々しい」「中学生日記か」というツッコミは、作者自身へのセルフツッコミと見ましたがどうか。
 ……ただし、駒木はそっちよりも、カズキから「斗貴子さん、オレは貴方とずっと一緒にいたいんだ(意訳)(意訳)と言われて顔を赤らめる斗貴子さんの方が数段お気に入りだったりします(笑)。もうなんかすっかり恋する乙女モードで、可愛くって仕方が無いというか。
 それにしても、駒木としては連載開始当初から期待していた方向へ漸く設定とシナリオが転がり出して、やっとこさホッと一安心といったところです。あとはバトルシーンだけどうにかなれば心配の種も無くなるのですが……。


 ……と、以上が前半分です。後半分は金曜あたりには実施したいと思ってますが、とりあえず今週は採用試験優先なのでご迷惑をおかけするかも知れません。その辺も含めてどうか何卒。

 


 

2004年度第31回講義
7月17日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第3週・合同)

 今週も講義が滞って面目ありません。
 先週の末辺りから、採用試験の勉強等、優先順位的に講義よりも上位にある色んな事を済ませていたら、こうなってしまいました。トドメに金曜夜は高校の職場の親睦会に3次会まで連れ回されまして……。
 「駒木のヤツ、サボってやがるな」とお思いでしょうが、実はこちらの業務が滞っている時の方が切羽詰っている場合が多かったりするのです^^;;。どうかその辺、お察し下さいませ。

 ……というわけで、今週の「現代マンガ時評」です。今週は「サンデー」がお盆先取りの合併号休みなんですが、「ジャンプ」関連でかなり興味深い話題が多いですから、そちらを重点的に扱いたいと思っています。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(34号)から若手作家による読み切り競作企画・「週刊少年ジャンプ金未来杯(ゴールドフューチャーカップ)(ゴールドフューチャーカップ)が開催されます。
 現在判っているのはエントリーした5人の有力若手作家さんが、それぞれ週替りで1作品ずつ読み切りを発表する…という事だけですが、恐らくは読者投票でランキングを決定し、上位入賞者が優先的に週刊連載を獲得してゆく事になるのではないかと思います。

 では、ここでエントリー作家・作品と、掲載スケジュールを紹介しておきましょう。

「金未来杯」掲載ラインナップ

 ◎第1弾・34号(次号)に掲載
 …『プルソウル』(作画:福島鉄平)
 ◎第2弾・35号に掲載
 …『タカヤ ─おとなりさんパニック!!─』(作画:坂本裕次郎)
 ◎第3弾・36号に掲載
 …『BULLET TIME』(作画:田坂亮)
 ◎第4弾・37
38合併号に掲載
 …『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(作画:西義之)
 ◎第5弾・39号に掲載
 …『切法師』(作画:中島諭宇樹)

 ……さて、この「金未来杯」、ベテラン受講生さんならすぐにピンと来たと思います。そうです、この企画は、かつて「ジャンプ」で実施され、山のように短期打ち切り作品を輩出するわ、有望作家の出世を遅らせるわで惨憺たる結果に終わった、あの「ジャンプ新人海賊杯」のリメイク版です。
 「新人海賊杯」失敗の概要及び問題点については、当講座02年5月21日付講義のレジュメをご覧頂ければ…と思いますが、まさか今回の参院選における左翼政党のような惨敗っぷりを見せたダメ企画を復活させるとは正直ビックリです。この報を目にした時、駒木は大丈夫なのか「ジャンプ」は、と思わず天を仰ぎました(笑)。

 ただ、唯一救われるのは、今回エントリーした若手作家さんたちがハンパじゃない逸材揃いだという事ですね。これは個人的な目利きなんで他の方が見た場合どうかは判りませんが、駒木が見る限りでは、これなら「金未来杯」がどんな結果になってもまぁ大丈夫だろうな、と思ったりなんかしています。何しろ当講座でAクラス評価を獲得した人ばっかりですからね。個人的には今年度「コミックアワード」の短編作品賞と新人賞の決定戦みたいな感じに理解しています。
 そういう意味では心配でありながら、それ以上に期待十分…といったところでしょうか。
 
 ★新人賞の結果に関する情報

第14回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年5月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(本誌か増刊に掲載決定)
  ・『カミさまの手』
   高橋英里(20歳・埼玉)
 《荒木飛呂彦氏講評:魅力ある語り口で読者を引っ張っていく事が出来ている。主人公が何をしたいのか、具体的描写があればなお良かった》
 《編集部講評:キャラクターがしっかり描けていた。読者をひきつける見せ方も上手い。だが、主人公の動機付けをもっとしっかり描き込んで欲しかった)
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『兄貴同心捕物帖』
   鈴木祥高(22歳・神奈川)
  ・『IQ〜愛球〜』
   近喰康史(27歳・東京)
  ・『配達人Σ』
   小林マコト(21歳・山梨)
  ・『掌』
   北尾光(23歳・兵庫)
  ・『ツナギ尊』
   永井裕二(23歳・埼玉)
  ・『マグロフィッシュ』
   辻風林太郎(21歳・埼玉)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎十二傑賞の高橋英里さん…03年4月期「十二傑」で最終候補
 ◎最終候補の鈴木祥高さん…03年7月期「十二傑」でも最終候補

 ……今月も佳作以上の受賞者は無しという結果に。まぁ「ジャンプ」には色々な新人賞がありますから、こういう谷間みたいな時期があっても仕方ないですかね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:読み切り前・後編総括1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年33号☆

 ◎読み切り(前・後編総括)『機動球児山田 〜めぐりあい稲木〜』作画:ポンセ前田

 作者略歴
 本誌32号の新人紹介ページによると、「赤塚賞」03年下期佳作受賞者の水溜三太夫さんがペンネームを変えたものと判明(先々週のゼミで的外れな推測をしていましたが、大ハズレでした^^;)。生年月日は非公開だが、昨年秋の受賞時に24歳なので、現在は24〜25歳。
 今回がデビュー作だが、「赤塚賞」佳作受賞者がいきなりまとまったページで週刊本誌での正規デビューを果たすのは異例。
 

 についての所見
 
「ジャンプ」系のギャグ作家さんには珍しい、シリアスタッチの絵柄ですね。ちゃんと人間が人間らしく描かれており、基本的な画力は軽く及第点以上だと思われます。背景も、多少遠近感がズレているような気もしますが一応キチンと描けているようですし。
 ただ、人物の表情のパターンが少な過ぎるのと、動的表現に違和感を感じさせる稚拙さが残っているのが気になりました。まぁこれも“味”と言えば“味”なんですが、この辺は上手くなってもバチが当たらない部分だと思います。


 ギャグについての所見
 まだ色々と課題も残されていますが、基礎的な技術は身についていますし、良いセンスを感じさせてくれる部分もある作品だったように思えます
 特に良かったと思えるのが、各所に散りばめられている、やたらとマニアックな小ネタですね。「ベースボーラーは本当は強いんです」とか、異種格闘技戦シーンの「PRIDE」パロディとか、“スーパーカートリオ”とか、まぁ“その道”の人の絶妙のツボを突くネタの連発には、顔の筋肉を緩ませながら唸らせられました。ただ、ちょっとターゲット読者の間口が狭すぎるような気もしますので、全世代的にウケる作品を描きたいのであるならば、今後はネタ選びに熟慮が必要になるでしょう。
 あと、前編の前半では主人公のモノローグでネタを引っ張る『クロマティ高校』的な手法が見られましたね。雰囲気に合っていて良かったと思います。ちょっとまだ稚拙な印象は拭えませんでしたが、これから研究をして、自分のモノにしてもらいたいところです。

 一方の課題となるのが、大ゴマを乱発し過ぎな上に、ページが進むにつれて展開が単調&ワンパターンになってしまった事ですね。正直な話、後編は前編のネタ焼き直しだけでしたし、蛇足だったように思えます。せっかくの大チャンスなんですから、もっとネタを練りこんで欲しかったですね。

 今回の評価
 これがデビュー作の新人さんにしては上々のデキなのではないでしょうか。今回は後編の失速を減点してB+寄りBとしておきますが、今後の成長が楽しみな作家さんではありますね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 先週号の武井宏之さん、そして今週号の和月伸宏さんの巻末コメントに登場する「山形から送られて来たさくらんぼ」。これ、どうやら故・しんがぎんさんのご実家から“和月組”の作家さんに毎年贈られて来ている品物みたいですね。良い話だー……。
 和月さんをはじめ、元同僚の作家さんたちは実際に山形へ赴いていてお墓参りもしているようですし、本当に“和月組”の絆って強いんですねえ。

 さて、作品の方ですが、今週大きな動きがあったのは『D.Gray-man』ですね。とはいえ、1回分のページを全部費やして主な設定を吐き出しただけですが(笑)。それにしてもこの設定、『BASTARD!!』『新世紀エヴァンゲリオン』を足して2で割って何か大切な物を差し引いたような感じがするのは駒木だけなんでしょうか……。
 ただ、もう『BASTARD!!』から15年、『エヴァ』から10年経ってるわけで、低年齢層の読者とっては逆に新鮮に映るのかも知れませんね。そうなったら大殊勲ではありますが、さてどうなりますか。
 ……しかしもっと根本的な問題は、この設定の良し悪しよりも、果たしてこの第7回までにどれくらいの読者が興味を持続しているかでしょう。読者アンケートで打ち切りゾーンにある作品というのは、作品そのものがダメなわけじゃなくて、もう既に読者の興味が離れて読み飛ばされている作品ですからね。(だから「商業的成功の見込み無し」という事で打ち切りになるわけです)
 まだ今週号の時点ではアンケート順位が掲載順に反映されていないですが、これが次々号あたりでどんな感じになっているか、注目しておきたいと思います。
 
 ……と、今週も時間が押しているのでここまで。今から土曜発売の来週号を買いに行って参ります(爆)。

 


 

2004年度第30回講義
7月9日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(7月第2週・合同)

 何やかんやとズルズル遅れてしまいましたが、今週分のゼミをお送りします。レビュー対象作ゼロ、しかも情報系の話題も殆ど無し…という、1年でも1回あるかどうかの内容の薄いゼミとなりますが、肩の力を抜いて受講して下さいまし。

 ……ところで先日、ゼミで作品をレビューした某マンガ家さんからメールを頂きました
 その作家さんの作品については、駒木はかなり厳しい評価を下していたんですが、それでもメールの内容は「細かく分析してもらって有り難い」というもので、こちらはモニタの前で、もうただただ恐縮でした(笑)。
 しかし、こういう事があると本当にレビュー活動をやってて良かったと思えます。これからも作家さんが目を通した時でも納得してもらえるようなレビューが出来るよう、精進を重ねていきたいですね。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 
 ★連載終了に関する情報

 「週刊少年サンデー」次号(34号)で、『美鳥の日々』作画:井上和郎)、『かってに改蔵』作画:久米田康治)の2作品が最終回となります。2作品の長編連載作品が同時に最終回というのも異例ですね。

 ……駒木が各方面、ソースの明かせないような所も含めて聞いた話を総合すると(だから以下は話半分で聞いて下さい)『美鳥の日々』はアニメ終了まで完結のタイミングを引き伸ばした上での円満終了だとか。それが本当だとすると以前の『ARMS』等と同じパターンですね。
 一方、『かってに改蔵』は作家さんの望まない形での終了だ…なんて聞いてます。まぁ、この作品はそうでもなきゃ延々と続くような作品ですから円満終了なんて有り得ないんですが、最近でも安定したクオリティを維持していただけに残念と言うしか。
 まぁ今の編集長さんは、編集長に就任するや否や『旋風の橘』を立ち上げて猛プッシュして引っ込みがつかなくなり『きみのカケラ』を作家招聘から自ら担当してまた引っ込みがつかなくなり『怪奇千万! 十五郎』にゴーサインを出したけどさすがに今度はすぐに引っ込めて(笑)で、今は「こういうのがギャグマンガってもんなんだよ」と『ミノル小林』をプロデュースしてるような人…と聞いてますから、こういう編集方針になっちゃうのも致し方無いでしょう(苦笑)。というか、それが本当だとしたら、よくまだ編集長やれてるなぁって話ですが。
 で、この2作品と入れ替わりになる新連載についても本当なんだか嘘なんだか判らない話は聞いてますが、この辺はデリケートな話題なので今週は触れないでおきます。巻末の次号予告に告知が載ってからということで。

 
 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…なし
 ※『機動球児前田 〜めぐり会い稲木〜』は後編掲載の次号にまとめてレビューします。

「週刊少年ジャンプ」2004年32号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 まず、「テニプリマンガテクニックスクール」は……えーと、物凄く毒吐きそうなのでノーコメントという事で(笑)。
 ちなみに、主人公の凄さを表現する方法を学びたかったら、『ブル田さん』(作:高橋三千綱/画:きくち正太)の1巻を古本屋で探して読むとか、山田芳裕さんの作品を読み漁るとかするのが一番手っ取り早いと思います。小細工ナシで主人公の凄さを表現するバイブルです。
 ……もっとも、そこから影響受けまくると異様に濃いぃ作風になっちまうと思いますが(笑)。

 さて、連載作品に関してのお話をいくつか。
 まずは久々に『DEATH NOTE』。先週発売の単行本2巻は、何と『テニスの王子様』最新刊を上回るセールスだったようで。もう雑誌内番付は“大関”格と見て良いんでしょうね。いやー、凄い所に金の卵が埋まってたもんです。
 で、内容はまたしても今週で急展開。最後のコマのライトの凶悪フェイスなんかは「さすが」だと思うんですが、ただ、やっぱりミサとの“危険な遣り取り”でもうちょっと引っ張って欲しかったなぁ…という印象の方が強いですね。終わり方が凄い唐突に感じました。
 前々から気になってたんですが、どうもこの作品、1つ1つのエピソードを贅沢に消化し過ぎのような気がするんですよね。今まさに最高潮まで盛り上がろうとしている時に、話を急展開させて次のエピソードへ移行させてしまっているように思えて仕方ないです。
 現時点でも水準以上の出来にある事は確かなんですが、更に良くなる余地が膨大に残されているだけに、今は「勿体無いなぁ」という印象の方が強いです。これで読み手の心の方がヒリヒリするような心理的駆け引き作品の前面に出て来れば、恐ろしいまでの名作になると思うんですが……。

 作品変わって今週の『銀魂』、こんな下品な題材で平然と人情噺が描ける空知さんのすっかりベクトルを間違えた才能の発露に感激しました(笑)。ギャグも冴えまくってますし、もうすっかり「ジャンプ」の中堅に定着した感じですね。
 そう言えばこの作品も単行本の売上げが話題を呼びましたね。1巻の初版が打ち切り作品並だったために超品薄になり、重版に重版が重ねられて最終的には39万部まで行ったとか。2巻は普通の本屋でも平積みになってましたし、そりゃ空知さんも担当さんと金の話ばかりして薄汚くなるって話ですよ(笑)。印税だけで数千万円となると、そろそろ来年の税金の対策も考えておかないと大変ですしねぇ。住民税とかどのくらいになるんだろ。考えるだけで恐ろしいですな。

 最後に『武装錬金』今週もストロベリー全開で心響きまくりの展開でした。ただ、せっかくの見せ場なんだから、もう少しあざとい位の演出で魅せてもバチ当たらないんじゃないかと思うんですけどね。嗚呼、これで演出だけ『BLEACH』並だったら…なんて、気ィ悪い事を考えてしまう今日この頃です(^^;;)。

「週刊少年サンデー」2004年32・33合併号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「子供時代に流行ったギャグは?」。
 ……これに似た質問が以前あったような記憶があるんですが、気のせいだったかな?
 しかし回答見てますと、ドリフ関連のギャグが多いですね。しかも世代を幅広く網羅しているのがナニゲに凄いですよね。ドリフが長年第一線で活躍していた事の証でしょう。
 そういう駒木も、子供時代のギャグで思い出すのはドリフとひょうきん族関連ばっかりなんですよね。

 ……あーそうだ、ギャグじゃないけど「アミダババァ」の最終回は子供心でも非常に感銘を受けたのを覚えてます。
 確かアミダババァが重い病気で入院中の男の子から「大好きなアミダババァがタケチャンマンに勝つ所を見たい」…という手紙を受け取るという話でした。アミダババァはその気持ちに応えたいんだけど、劇中の世界では悪役がタケチャンマンに勝ってしまうと、その悪役は存在意義を無くし、二度と表舞台には登場出来なくなる。つまりこの世から消えてしまうわけです。当然の事ながらアミダババァは悩みに悩みますが、それでも最後には自分の身を犠牲にする事を決意してタケチャンマンに勝ち、最後は独り寂しく消えてゆく……という内容だったはずです。
 今から考えると、どうして「ひょうきん族」でそんなシリアスなシナリオを立てたのか不思議でならないんですが、それをさて置いても、悪役の存在意義がテーマってのは非常に“深い”ですよね。あと、駒木は普段は「全員集合」派だったのに、何故かこの回だけ「ひょうきん族」観てたんですよ。だから余計に強く印象付けられてるんですよね。

 ──とまぁ、それはさておき連載作品について。

 最近すっかり正統派柔道マンガになりつつある『いでじゅう!』ですが、実際問題この路線って皆さん的にはO.K.なんでしょうか? 
 確かに力量のある作家さんですから、ギャグ抜きでもキチンと形にはなっているわけなんですが、でも果たしてそれがモリさんの持ち味をフルに活かしている事になるのかなぁ…などと素朴な疑問を抱いてしまうのですが。
 この辺は、個人個人の嗜好と価値観によって大きく見解が異なるはずなので結論付けは出来ないんですが、う〜ん……。

 しかしそれにしても、ここ最近の『こわしや我聞』は、すっかり國生さんのマンガになっちゃいましたなぁ(笑)。もう解体とか本業とかはどうでも良くて、とにかく國生さんが動いてたらそれでヨシ、という開き直りもいいとこな流れになりつつ。
 ……まぁ、「サンデー」のメイン読者層を考えると、それが確かに正解なんでしょう。國生さんがストライクゾーン真ん中高目な「サンデー」男子読者っていかにも多そうですし(偏見?)。 
 ちなみに駒木の場合、國生さんは“絶好球”過ぎて思わず見送ってしまう感じです(笑)。

 最後に一部で青島優子サゲマン説が噴出しつつある『モンキーターン』ですが、やっぱり生々しい恋愛してますキノコ頭カップル! つーか、あの感じから行くと、発覚してない“前科”が絶対あるぞあの2人は。「ペラ小屋で何やってるんだ!」「ナニやってました」的な経験があるんじゃないだろうか……と思わず邪推全開ですよ。
 邪推と言えば、波多野×澄とか洞口×青島とかは、どこまで進んでたんでしょうねぇ。……あーいや、何か中学生みたいな発想で、我ながら言った側から非常に恥ずかしいんですが(笑)。

 ──というわけで、今週はここまで。なんか物凄く恥ずかしい締めですが、全く気にしない方針で来週以降も邁進していきますので、どうか何卒。

 


 

2004年第29回講義
7月4日(日) 
文化人類学
「頂上決戦再び! 04年ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権・直前展望(2)」

 ※第1回の講義レジュメはこちらから

 他の講義の準備に手間取っている間に、いよいよ大会本番まで数時間となってしまいました。急いでお話を進めなければいけませんね。
 前回はネイサンズ国際の概要と成り立ちについて、簡単なところをお話しました。フードファイトについて余り知識の無い方でも、この競技会が必要以上に歴史と伝統と格式を持った大イベントである事がお分かり頂けたかと思います。
 そして今日は、今回の大会で激突する2人の日本人フードファイター・小林尊選手と白田信幸選手についての理解を深めてもらって、今回の大会の重要性を把握して頂くと共に、有力アメリカ代表選手の動向なども含めた、今大会の展望などをお送りしたいと思います。駆け足気味の講義内容になると思いますが、最後までどうかご静聴の程を。

 さて、2人のうちフードファイト・シーンに登場したのは小林選手の方が一足先でした。今から約4年前、00年秋に開催された「TVチャンピオン・大食い選手権」のオールスター戦(=過去のチャンピオンも含めた国内最高レヴェルの競技会)から、彼の華々しいキャリアがスタートします。

 ちなみに、この00年の秋大会には、当時の日本フードファイト界を代表する名選手がズラリと顔を揃えていました。

 前年(99年)度の「大食い選手権」で、春の新人戦と秋のオールスター戦で優勝し、フードファイト界No.1大食い選手となった、“皇帝”岸義行選手。

 94年のデビュー以来、「大食い選手権」で優勝2回・準優勝2回、「甘味大食い選手権」で優勝1回(いずれも当時)にしてディフェンディングチャンピオン、更には00年ネイサンズ国際で3位と、6年にも及ぶ競技歴の中で常にフードファイト界の中枢に君臨し続けた、“女王”赤阪尊子選手。

 そして、この年(00年)のネイサンズ国際チャンピオンで、99年「TVチャンピオン・早食い日本一決定戦」優勝、「大食い選手権」3位2回という、“超特急”新井和響選手。

 ……戦績を見ても分かるように、彼らはただ卓越した実力を持っているだけでなく、非常に安定感のある競技姿勢にも定評がありました。1日に何度も30〜60分の大食い系競技を繰り返す「大食い選手権」では、そうでもなければ好成績を残す事が出来なかったわけですが、これは別の見方をすれば、競技経験の無い新人選手がオールスター戦で活躍するためには大きなハンデを背負っているという事を意味します。事実、大会前の下馬評では、「予選から立ち上がって来た新人選手は、1人残らずベテラン勢の前に屈服させられるだろう」…という声が有力でありました。

 しかしそんな逆境の中で、新人・小林尊は経験不足を補って余りある実力の高さで、この難関を1つ1つクリアしてゆきます。ただし、1、2回戦の成績はあくまで“並の新人クラス”に甘んじていました。
 ところが、大会初日3つ目のラウンドとなる準決勝・ジンギスカン45分大食い勝負で、突然小林選手の才能が開花します。この日これまでジャガイモ2.7kgとウニイクラ丼3.8kgを胃に収めていた小林選手は、並の新人選手なら胃がキツくなるはずのこの準決勝で、岸・赤阪・新井の“3強”を相手にして堂々たるトップ通過して見せたのです。
 これは並の新人どころか、明らかなチャンピオンクラスの実力。現場でこの出来事に立ち会った選手・関係者の驚きは相当なものだったでしょう。
 そして、この準決勝で勢いに乗った小林選手は、翌日の決勝でも赤坂・岸という2人の元チャンピオンを抑え、デビュー戦でオールスター戦優勝という偉業を達成します。端正なマスクから“プリンス”の異名を与えられた小林選手は、こうしてフードファイト界の寵児として幅広い活動を展開してゆく事になります。

 そんな小林選手が次に選んだ活躍の場は、TBS系の「フードバトルクラブ」。1000万円という破格の優勝賞金もあって「大食い選手権」出身のタイトルホルダーをはじめとする豪華メンバーが揃ったこの大会で、完全に開花した小林選手の才能が、眩いばかりに輝き始めます。
 1回戦の寿司早食いマッチレースで「3人連続勝ち抜き」という過酷な条件を難なくクリアすると、2回戦の45分間の体重増量競技「ウェイトクラッシュ」では流動食中心ながら8.9kgの記録をマークしてトップ通過。そして準決勝の早食い一騎討ち3本勝負「シュートアウト」では当時の早食い系競技第一人者・新井和響をセットカウント2-0で完封し、やや格下相手となった決勝の60分ラーメン大食い勝負では、他の2選手に5杯差という問答無用の大差をつけて優勝。文句無しの“二冠達成”を果たします。
 またこの頃は、小林尊選手のビジュアルやパフォーマンスに惹かれた女性ファンが急増し、フードファイト業界が大いに賑わいを見せ始めた頃でもありました。この時の隆盛を単なるバブルにしてしまった業界の無策さには未だに失望の念を禁じ得ませんが、それは今ここで述べる事ではないでしょう。

 こうして国内制覇を達成した小林尊選手の次なる目標は勿論、世界。ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権へのチャレンジです。
 先述の通り、当時のネイサンズ国際チャンピオンは新井和響選手。既に新井選手を2度倒した国内二冠王とはいえ、世界レヴェルにおける実績の無い小林選手は「TVチャンピオン」が開催する予選会からのスタートとなりました。
 が、その結果は当然の如く予備予選ラウンドからオールトップ通過。準決勝ラウンドの寿司早食い競技では「寿司を呑んでいる」と形容される常人離れした早食いパフォーマンスを披露し、本大会前にして優勝候補の交代を印象付ける事となりました。
 そして01年7月4日に開催された第84回ネイサンズ国際。情報不足ゆえに現地では全くノーマークであった小林尊選手ですが、新井選手の持っていた大会記録(25本1/8)をほぼ倍増(!)させる50本(/12分)のレコードをマーク。同じく自らの持つ大会記録を更新して食い下がる前王者・新井和響選手に20本弱の大差で圧勝して、僅かデビュー9ヶ月にして早食い世界王者のタイトルを手中に収めたのです。
 これで小林選手の保持するタイトルは「大食い選手権」、「フードバトルクラブ」、「ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権」の“メジャー三冠”。頂点を極めるとはまさにこの事でありました。小林尊時代の到来です。

 ──しかし、フードファイト界が小林尊一色に染まろうとしていたこの時、既に彼の終生のライバルとなる一人の選手がに既にデビューを果たしていました。そう、そのライバルこそが、身長193cmという巨体から後に“ジャイアント”の異名を取る事になる、白田信幸その人でした。

 白田信幸選手のデビューは、小林選手から遅れること半年。01年春に開催された、「大食い選手権」の新人戦でした。
 「大食い選手権」では、参加選手のマンネリ化を避けるために、春には同大会未出場の選手ばかりを集めたルーキーのみによる大会を実施しているのですが、白田選手もこの時、初めてのフードファイト競技会参加を果たしたのです。
 この01年春の新人王戦はかつてないハイレヴェルな戦いとなりました。例えば、高円寺の「桃太郎すし」を会場に行われた予選の30分寿司大食いでは、上位4人が過去の予選最高記録である67皿(134カン)を更新するという“異常事態”に。しかも、そんなかつてない水準の予選会をトップ通過したのが、この白田信幸選手で、この時マークした記録は何と85皿(170カン)。まさにその場にいる誰もが我が目を疑う光景が展開されたのでありました。いや、その記録を出した白田選手だけは疑う余地も無かったでしょうが……。
 ※ちなみに、この時叩き出した記録は、後に新井和響選手が86皿をマークして更新されている模様です(03年8月現在)。
 ……こうして豪快なデビューを飾った白田選手ですが、この「大食い選手権」新人戦は決勝で射手矢侑大選手に小差届かず、準優勝に終わります。しかしその敗因が、「経験不足のために早く食べる技術が未開発で、60分間で満腹になるまで食べられなかった」という恐ろしいもので、それでも記録がラーメン(スープ抜きで)20杯1/5というものなのですから、まったくもって空恐ろしい話です。

 そういうわけで、01年春シーズンは有り余るポテンシャルを開花させ切れずに終わってしまった白田選手でしたが、十分な調整期間を置いた秋シーズンになって、彼の才能がバックドラフト的な大爆発を果たす事になります。

 その“バックドラフト”最初のターゲットとなったのが、「フードバトルクラブ2nd」。春に小林尊選手が第1回大会を圧勝した競技会の第2回大会でした。
 当然の事ながら下馬評は圧倒的に“小林尊有利”。デビュー以来無敗のプリンスが、どれくらいの大差をつけて2連覇を果たすかが興味の中心だったと言っても過言ではなかったでしょう。
 事実、小林選手はこの大会でも圧倒的なパフォーマンスを見せ付けます。1回戦の寿司60カン早食いのタイムレースでは1分25秒81という当時としては常識外の杯レコードでトップ通過。2回戦ではカレー6.37kgを6分6秒で完食、3回戦の「ウェイトクラッシュ」では45分で体重増11.8kgの新記録でこれもトップ通過。準決勝でも01年春新人王の射手矢侑大選手に競り勝って、文句無しの決勝進出を果たします。
 一方の白田選手は1回戦で小林選手から30秒以上遅れの5位。2回戦ではケーキ68個(4.76kg)を16分52秒で完食し、3回戦も体重増11.08kgの記録で2位通過を果たすものの小林尊越えはならず。準決勝は加藤昌浩選手に完勝して決勝進出を果たしましたが、小林選手に比べるとインパクト不足は明らかでした。
 そうして迎えた決勝戦。これが小林・白田両選手による初の直接対決の場でした。戦前の周囲の興味は勿論、「王者・小林尊がどれくらいの差をつけて勝ち、挑戦者・白田信幸はどこまで善戦するか」。しかし、現実は我々に全く想像もしなかった光景を見せ付けてくれました。
 決勝の食材は吉野家の牛丼並盛。悠々と牛丼を口に運び、次々と空の丼を重ねてゆくのは挑戦者。一方のチャンピオンは、白田選手が作り上げるハイペースの前についていくのが精一杯の様子。口一杯に丼の中身を頬張りながら苦悶の表情を浮かべていました。
 初めて公の場に晒される小林尊の大ピンチ。誰もが目を疑う光景の中、時間ばかりが過ぎていき、序盤に作り上げた白田選手のリードは最後まで縮まる事はなく、遂に60分の試合終了を告げるブザーが会場に鳴り響きました。
 王座移動。
 無敵の“プリンス”の敗北。
 ──一夜にして、全ての状況が一変したのです。

 この後、間を置かずに「大食い選手権」のオールスター戦が開催されました(テレビ放映は「フードバトルクラブ」より先でしたが、収録は後だったようです→後から調べましたところ、収録も「大食い選手権」の方が先だったそうです。前後の文章は現実とそぐわない文面になりますがご了承下さい。また、小林選手は体調不良ではなくテレビ東京とのトラブルで欠場したというのが業界内の話としてあるそうです。謹んで訂正させて頂きます)。
 白田選手をはじめ、新人王の射手矢選手、更には赤阪・岸の前年度ファイナリストを交えた超豪華メンバーによるハイレヴェルなメンバー構成になりましたが、敗戦のダメージで体調不良に悩まされたディフェンディング・チャンピオン・小林尊選手は苦渋の選択の末に欠場。これまで小林尊選手のために回っていた歯車は、この僅かな間で明らかに空回りをするようになっていました。
 そして、不戦敗を喫した小林選手とは全く対照的に、この大会で白田選手は1回戦から好パフォーマンスを連発。制限時間の比較的短い準決勝ラウンドまでは射手矢選手に遅れをとったものの、決勝ラウンドの60分ラーメン大食い勝負ではスープ抜きながら30杯1/5という空前絶後の大記録をマークして優勝。白田選手はこれで二冠達成。名実共に日本フードファイト界の盟主交代が果たされた瞬間でありました。

 王者・挑戦者の立場を入れ替えて両雄の再戦が実現したのは、01年末に収録された「フードバトルクラブ」の年間王者決定戦「キング・オブ・マスターズ」。過去2回の大会で優秀な成績を挙げた招待選手を中心に争われた“グランドチャンピオン戦”でした。
 この大会では、懸命な再調整をこなしてリベンジに挑んだ小林尊選手の好調ぶりが目立ちました。3回戦の4種食材個人メドレータイムトライアル・「バースト・アタック」では、白田選手をはじめとするトップクラスの選手を相手に大差圧勝。早食い系競技での強さを見せつけると共に、王座奪還への力強いアピールを果たしたのです。

 ──が、小林選手の白田選手との直接対決の場となった決勝で、我々は再び“あの光景”を見せ付けられることになったのでした。

 決勝は1皿500gのカレーライス20皿完食タイムレース。ノルマ10kgという超ド級の早食い競争でした。
 競技前半から力強く抜け出した白田選手は、平然とした顔でカレーを次々と胃袋に収めてゆきます。そのスピード、1皿あたり50秒。一方の小林選手は4皿目から70秒/皿のペースにダウンし、その気迫のこもった顔とは対照的に、トップとの差は広がる一方に。
 競技開始から僅か8分にして両者の差は3皿、実に1.5kg。もはや態勢は決しました。その後10分もの間、我々は、いつの間にか我々の想像を絶する実力を誇るようになっていた偉大なる王者のパフォーマンスを、ただただ見つめる他無かったのです。
 最終結果は白田選手が5皿以上、量にして2.5kg以上の差をつけての優勝。3つ目のメジャータイトル獲得となりました。短すぎる小林尊時代の終焉、そして白田信幸時代の到来でした。

 ……こうして言い訳できない完敗を2つ並べた小林選手でしたが、まだ白田選手にアドバンテージを持っているポイントが残っていました。
 それは早食い系競技における強さ。胃袋の大きさを競う「大食い」とは違い、短時間で多くの食材を胃袋に流し込むスピードを競う「早食い」に関しては、小林選手は白田選手に敗れた事は無かったのです。
 そして02年春、そんな小林選手に打ってつけの競技会が開催されました。その名も「フードバトルクラブ3rd 〜The speed」。全競技が早食い系または早飲み系で構成された、フードファイター・スピードNo.1決定戦でした。
 この特殊な構成の競技会の性質上、下馬評はやはり「小林尊有利」。しかし、またしてもその下馬評は大会が始まると覆される事になりました。何と、白田選手がこの大会に時を合わせるように、眠っていた早食い能力までも開花させていたのです。
 その成果は本戦1回戦の寿司20皿(40カン)タイムアタックで早速発揮されます。ここ数ヶ月で更に磨きをかけた早食いスキルと持ち前の巨体ならではの口の大きさを利して、白田選手は36秒14をマーク。36秒60の小林尊選手を抑え、見事、早食い系競技で初の“小林越え”を果たします。
 決勝で白田選手は小林選手と三度相見えますが、ここでも結果は意外過ぎるほどのワンサイド・ゲーム。白田選手の猛烈な“早食い瞬発力”に小林選手は対応できず、持ち味を発揮したのかどうか分からない内に勝負は決してしまっていました。
 小林尊、三度目の完敗。それはこれまで積み上げた全てを失ったとも言える、痛恨の三敗目でした。

 そうして、このまま“白田時代”は長期安定に入り、7月にはネイサンズ国際でも王座交代が観られるのか…と思われた所で、あの忌まわしい事件が起き、日本のフードファイト界はあっという間に空中分解してしまいます。
 白田選手は4つのタイトルを持ったままセミリタイヤ状態に隠退し、02年末に富士急アイランドで開催された競技会に参加したものの調整不足か3位に敗退。03年にはファン向けのメッセージで「最近大食いをしていないので胃袋が縮んでしまいました」という内容のコメントを述べ、往時とは程遠い状態にある事を告白してしまいます。
 一方の小林選手は、フードファイト番組の休止に伴う試合枯れに苦しみながらも現役生活を続行。虎の子となったネイサンズ国際のタイトルを02年、03年と2度防衛し、“最強の暫定王者”の地位を守り続けました。実利の小さい、しかし確かな価値を持つ偉業でありましょう。

 そして04年。前回お話したように、ネイサンズの日本進出に伴ってネイサンズ国際の日本予選再開がアナウンスされると、遂に白田選手が復帰を決意。3年遅れでネイサンズ国際へのチャレンジが実現しました。
 この予選会には、同じく現役復帰を果たした元ネイサンズ国際王者・新井和響選手ら、「TVチャンピオン」のタイトルホルダー3人が名を連ねていましたが、白田選手も調整途上とは言え小林尊選手以外には負けられないところ。12分でホットドッグ31本という好記録で優勝し、本大会出場権を獲得したのです。
 この31本という記録は、今年全米各地で行われた予選会の記録と比較しても堂々のトップスコア。しかも日本支店のホットドッグは、パン部分の材質がアメリカ製の物に比べると随分と食べ難いらしく、実質上はもっと価値のある記録であるとのこと。
 しかし、受けて立つ立場の王者・小林選手は01年に50本、02年には51本1/2、試合枯れの影響を受けた03年でも44本1/2の記録を残しており、これはさすがにパンの材質差だけでは埋められない差でしょう。白田選手が本大会で優勝するにはかなりの上積みが必要になりそうです。

 また、ここ2年はアメリカでもフードファイト選手のレヴェルアップが著しく、決して油断ならない所まで実力差が迫って来ています。ここで主なアメリカ代表選手を紹介しておきましょう。

 ◎エドワード=ジャービス
 昨年のネイサンズ国際で30本1/2のアメリカ国内新記録で準優勝。本来の得意食材は甘味系で、アイスクリームを12分で1ガロン9オンス(約4リットル)完食の記録を保持している。
 今期はボストン予選を25本の記録で優勝。

 ◎エリック=ブッカー
 ネイサンズ国際では02年準優勝・03年3位と、安定した実力を発揮しているアメリカフードファイト界の第一人者。今期もニューヨーク・ベルモント競馬場予選で27本のアメリカ今期最高記録をマークし、堂々たる本戦進出。狙うは小林&白田の一角崩しか。

 ◎ソーニャ=トーマス
 03年のネイサンズ国際で5位に入賞し、赤阪尊子が保持していた女性記録を更新した“女傑”。
 ネイサンズ国際優勝を最大の目標に、今期もフィラデルフィア予選を26本1/2の自己最高・女性歴代最高記録で優勝し、初の女性王者へと挑む。

 ◎リチャード=レフィーバー
 御年59歳にして昨年のネイサンズ国際で4位入賞を果たした、アメリカ、いや世界フードファイト界の大御所。60歳となった今期もハリウッド予選で25本の記録を残し、衰えは全く見せない。
 また、「フードバトルクラブ」出場経験のある妻・カーリーン=レフィーバーもアリゾナ予選で優勝(記録16本)して、夫婦出場が実現している。

 ◎チャールズ=ハーディ
 01年のネイサンズ国際3位。ニューヨークはサウスストリート・シーポート予選を勝ち抜いて来たが、最近の記録インフレに対応しきれていない印象。苦戦か?

 ◎オレッグ=ツォルニツキー
 02年のネイサンズ国際3位で25本1/2の自己記録を持つ。今期はニューヨーク・ロングアイランドダックススタジアム予選で優勝したが、記録は19本と伸び悩み。スランプか?

 ……さて、いつの間にか時間が迫ってきました。そろそろ講義を引っ張るのも限界ですね。最後に簡単な大会展望をして締め括りたいと思います。

 地の利もある(この時期のニューヨークは猛暑)アメリカ勢の躍進も目が離せませんが、個々の記録や過去の実績を考えると、日本勢の優位は揺るがないでしょう。特殊な事情でリタイアや記録が30本台前半以下に低迷しない限りは、小林・白田のワン・ツーフィニッシュが濃厚と思われます。
 となるの問題は日本人両者の“アトサキ”になるわけですが、これがまた難解です。ネイサンズ国際日本予選の模様は、駒木の住む関西エリアでは未放映で、白田選手の仕上がり具合も未確認ですし……。
 ただ、12分という競技時間はどちらかと言えば胃袋勝負になるため、白田選手が若干有利です。もっとも小林選手にも完成されたテクニックがあり、決定的な差にはならないでしょうが、やはりフィジカルで上回る白田選手の方がポジティブな材料で勝ります。当日のコンディション次第ではありますが、白田選手が大一番に強いという要素も加味して6:4から7:3で白田有利としておきましょう。

 競技開始時間が迫ってまいりました。この後は駒木も一フードファイト・ファンに戻って、2人の戦いを心待ちにしたいと思います。それでは、大会後にお会いしましょう。ではでは。(この項終わり/大会回顧に続く)

 


 

2004年度第28回講義
7月2日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(6月第5週〜7月第1週・合同)

 最近、勤務先の試験問題作成の締め切りに追われて、微妙にマンガ家気分の駒木ハヤトです。
 この試験の問題というヤツ、アイディアまとめて、ラフ原稿書いて、清書して、微調整して…と、制作行程がマンガと似てて面倒な事この上無いんですよねぇ。しかもその後の採点がまた……。
 そんな試験問題作成以上に煩雑でプレッシャーのかかる作業を毎週休まず続けている(あ、例外もいるか)週刊連載マンガ家の皆さんってのは、やっぱり凄いですなぁ。いつもレビューでは偉そうな事言ってますが、そういう部分でのリスペクトは失っちゃいかんなぁと常々思っております。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報
 

 ★新連載&読み切りに関する情報
 ◎「週刊少年ジャンプ」次号(32号)から、『機動球児山田 〜めぐりあい稲木〜』作画:ポンセ前田)が(恐らくは)前・後編形式の読み切りとして掲載されます。
 作者のポンセ前田さんは、これが「週刊少年ジャンプ」系雑誌初登場で、Googleで検索しても全く情報が拾えなかった謎の人物。次号予告に掲載されたカットはデビューのド新人には思えませんし、ペンネームや作品タイトルから微妙な“年食ってます感”を窺わせてくれます。
 これらの事を考えると、どうやら既にデビュー済みの作家さんがペンネームを変えて登場したのではないかと思えるのですが、果たして真相はどうなのでしょうか? 
 ※受講生の皆さんからの情報をお待ちしております。

 
 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:代原読み切り1本
 「サンデー」:読み切り1本&代原読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。

「週刊少年ジャンプ」2004年31号☆

 ◎代原読み切り『星十二学暴』作画:大石浩二

 作者略歴
 新人賞受賞等のキャリアが無いまま、週刊本誌04年24号に代原で暫定デビュー。その後、26号にも代原掲載を果たしている。
 今回は巻末の作者コメントによると「昔描いた作品」との事で、暫定デビュー以前に描かれた習作原稿だと思われる。

 についての所見
 
デビュー以前の作品という事で仕方ないのですが、前作までと同様に、ギャグマンガとしてなら人物作画はギリギリ許容範囲なものの、背景処理・特殊効果は明らかに落第点クラスになっています。特に集中線の引き方が粗く、まさに習作原稿ならでは…といった感じになっていますね。

 ギャグについての所見
 まず、“間”で笑わせるギャグのセンスは良いですね。これはデビュー作の時にも光っていたポイントですので、このまま伸ばしていって欲しいポイントです。
 ただし後は厳しい評価をしなければならない面も目立ちます。ギャグの密度を上げようというアグレッシブな気持ちは窺えるのですが、ギャグとギャグの繋ぎが強引過ぎて素直に読み進め難くなっていますし、ボケそのものも同じ1つのネタで長く引っ張り過ぎてやや冗長かな、という感もあります。ツッコミも所々では上手に出来ている部分があるのですが、残念ながら、安定感という意味で言えば今一つですね。
 良い所は確かにあるのですから、その良い所だけで全ページを構成出来るように精進して欲しいと思います。ちょっとの良い所すらまるで無い凡百の代原作家さんたちよりは随分と先に行っているのは間違いないのですから。 

 今回の評価
 前作(正確にいえば次々回作?)同様B寄りB−ぐらいが妥当かなと思います。短い間隔で代原がこれで都合3作掲載され、評価はいずれもB−程度。現状の実力はこのあたりと判断して良いのでしょうね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週は、日頃から駒木が好意的に見ている作品が、それぞれ本来の持ち味を出し切った絶好調の回で、個人的に非常にご満悦といったところでした(笑)。

 まずは『アイシールド21』今回のような前フリ的エピソードが非常に印象的な仕上がりになっている辺り、作品的に“旬”なんだろうなぁと思ったり思わなかったり
 ……それにしても各校のマネージャー可愛いですねぇ(そっちから攻めるか)。何か、どの学校の娘に萌えるかで人生の勝ち負けまで決められそうで怖いんですが(笑)、駒木はやっぱり柱谷ディアーズの娘さんがイチオシということで。ええ、堂々と負け組人生選びますよワタクシは
 と、それはそれで置いといて、作品の内容的なポイントと言えばやはり、桜庭の変身、セリフのセンスが異様にカッコ良過ぎる大会委員長、そして最後の見開きページで否応なしに見せ付けられる泥門デビルバッツの戦力不足…といったところでしょう。こういう演出力が一般的な人気に繋がれば良いんですけどね。

 で、次に先週“セキュリティホール”をいくつも指摘した『武装錬金』ですが、今週の1回だけでその“セキュリティホール”のほとんどが解消される、「恐るべし和月」的展開に驚愕やっぱりカズキと斗貴子さんはストロベリってナンボですよ。主人公とメインヒロインはこうでないと、話が上手く回ってゆきません。
 ただ、お願いなので今後は心配させる間もなく「さすが和月」と思わせる展開にしてもらいたいところ。作家の試行錯誤にファンと掲載順を巻き込むのは精神的に堪えるので勘弁してもらいたいです(笑)。
 あ、ちなみに単行本3巻買いました。ライナーノーツに以前ここで話題になったグロシーンのモザイク処理についてのコメントがあり、あれは「ジャンプ」の表現規制を意識して半ば自主的に為されたモノであると判明。ただ、このモザイク処理に関しては、2代目担当氏に「逆に生々しくないか?」と疑問を呈されたとか。思わず「じゃあどないせえっちゅうねん」と、作家に成り代わってツッコミを入れたくなりました(苦笑)。この辺が作家とサラリーマンの違いなんでしょうなぁ。

 『いちご100%』は、さつきの最終ターン&戦線離脱の回。いよいよ最終回を念頭に入れてるのかなぁ…と思ったりもするんですが、今期新連載や掲載順の低迷している『ゲドー』を残してまでしてこの作品を切るのか? と考えると、それはかなり微妙な気が。
 それにしても思うのは、前期打ち切りサバイバルレースのレヴェルの高さといったら『スピンちゃん』なんか、今期新連載だったら悠々セーフだったんでしょうね。

 ……う〜ん、何だか最近採り上げる作品が固定化されてるなぁ。でも、新連載が個人的に不振気味で、看板作品がヤマ場手前で、それでもってダメな作品が相変わらずダメだと、どうしてもこうなっちゃうんですよね。今更『MAJOR』の夢島編やられても…みたいなね(笑)

 「週刊少年サンデー」2004年31号☆

 ◎読み切り『ミッションX』作画:我妻利光

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 
77年10月17日生まれの現在26歳
 これまでは増刊を活動の場にしており、今回が週刊本誌初登場。確認出来る限りでは「月刊サンデー超増刊」02年1月号、02年1月号、03年6月号、そして昨年秋のルーキー増刊に作品を発表している。

 についての所見
 やはりまず気になるのが、人物作画が余りにも稚拙な点。何と言うか、絵が人間の顔や体の形になってないんですよね。こういう絵柄は実際の実力以上に「この人、絵が下手だ」という印象を与えてしまって良くないです。個人的には尾田栄一郎さんや鳥山明さんの影響を受けたは良いが、基礎画力が無いまま失敗した…という印象があります。
 その他表現や特殊効果的な面については及第点でしょうか。動的表現なんかは上手い方だと思いますしね。ただ、微妙に遠近感がズレているように見えて違和感を感じる場面もあったような気もしますが……。

 
 ストーリー&設定についての所見
 ミもフタも無い表現ですが、「少年マンガの美味しい所の寄せ集め的作品」といったところですね。ただし、寄せ集めたそれぞれの設定やストーリーに説得力や必然性を持たせる努力を完全に怠っているために、全体的な完成度は非常に低い水準に留まってしまっています。
 キャラクター描写も同様で、「ああ、どっかの少年マンガで見た事あるな」という登場人物は沢山いるのですが、それぞれの人間描写が完全に不足しています。そうなると当然キャラクターに対する感情移入が出来ず、ヤマ場で彼らが魂の叫びをしようが体を張ろうが、全然心に響いて来ないのです。

 こうなった原因は、厳しい言い方をすると、我妻さんがマンガというモノの本質を見ず、上辺だけを見て創作活動をしているからではないでしょうか。
 「こういう作品が(読者受けしそうだから)描きたい」という気持ちもあって良いと思いますが、ならばそういった作品が何故読者の心を打つのかを徹底的に分析した上で創作活動に移らないと、いつまで経っても中身の無い上っ面だけの作品しか描けないと思います。
 
 今回の評価
 絵、ストーリー共に問題山積で、C寄りB−が精一杯のところ。週刊本誌登場は時期尚早だったとしか言いようが無いです。

  ◎代原(あだち充氏休載による)読み切り『ハルマキ』作画:瀬尾結貴

 作者略歴
 03年11月期「サンデーまんがカレッジ」で佳作受賞したばかりのルーキー受賞時23歳
 「まんカレ」受賞作がネット公開された実績はあるものの、今回が実質的な(暫定)デビュー作。

 についての所見
 
新人作家さんのギャグ作品という事を考えると、悪くは無いレヴェルにあるとは思います。可愛い女の子の絵が描けるので、ディフォルメした時の落差も映えていますしね。
 ただ、画材の選択が良くないのか、ロングレンジ視点からの絵になった場合、線が不自然に太くて不安定な絵に見えてしまうのが勿体無いところですね。ディティールの描きこみも甘いように思えますし、このあたりが次回作以降の課題でしょう。

 ギャグについての所見
 全体的なギャグのノリは『ボボボーボ・ボーボボ』に似てますね。ビジュアルのインパクトで勝負するネタを次々に繰り出して、それに逐一ツッコミを入れていく…というスタイル。これは瀬尾さんが意識してるか、無意識のままなのかは判りませんが、『ボーボボ』から受けた影響は強そうですね。
 ただ、本家『ボーボボ』に比べると、ボケ(というかハジケ?)のインパクト・違和感が弱く、そのためにツッコミが勝ち過ぎてしまっているように思えます。また、そのツッコミもボケを活かすというより一刀両断してギャグの流れを堰き止めてしまうようなツッコミですので(『ボーボボ』の場合は、そうしないと収拾がつかないくらいにボケが強いわけですが)「今一つのボケと、頑張りすぎのツッコミ」という、売れない若手芸人のコントみたいな図式に陥ってしまっています。
 この路線で活路を見出すとすれば、とにかくビジュアルのインパクトで笑いを奪えるセンスを磨くしかないですね。あとはセリフ回しで獲る笑いや、“間”で獲る笑いを研究して、展開に緩急を持たせる事が大事なんじゃないでしょうか。

 今回の評価
 現状はC寄りB−が精一杯かな、というところです。一生懸命さは伝わって来るだけに、何とかしてあげたいとの思いもあるのですが、一読者に「何とかしてあげたい」と思わせてしまうような状態は、やはり良くないですよね。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「好きだった給食のメニューは?」。
 ……ジェネレーションギャップと地域性が見てとれる面白い質問だと思います。で、コメントを集計してみると、揚げパンが5票でトップ。駒木が小学生時代の神戸市では、揚げパンが出た事はほとんど無いと記憶してるのですが、確かにあれはテレビや写真越しに見ても美味そうでした。
 次点は定番のカレーで4票。駒木の時はカレーシチューとご飯が別々に出て来るタイプのメニューだったのですが、これがカレーの容器にご飯をぶち込むか、ご飯の皿にカレーをぶっ掛けるかでクラスメートとマジメに論議していた覚えがあります。男子小学生ってヒマですなあ(笑)。
 そんな駒木のマイフェイバリット給食献立は、「鯨肉のノルウェー風」。鯨肉の唐揚げをジャガイモ、人参と一緒にトマトソースで煮込んだ料理で、これが子供の舌には大層美味かった。今では絶対に食べられない食材だけに、余計に懐かしいですね。

  さて、本誌の内容ですが、今週はやはり『MAJOR』アニメ化決定記念・満田拓也×伊集院光対談が見ものでしたね。……あ、念のため言っておきますが、“×”印は攻・受の記号じゃありませんよ。想像すると物凄い構図になっちゃいますんで、それは禁止と(笑)。
 しかし、心底凄ぇと思ったのが、10年もの連載期間で、ほとんどのアイディア・ストーリーが取って出し状態の自転車操業だったという事ですね。「あんまり計算したものはバレちゃうんですよ」とのことですが、普通は「良い話だったらバレてもいいや」とか思いますよねぇ。
 そういうわけで、今週いきなりサンダースが引退宣言しちゃったのも、ここ1〜2週間で考えたものみたいです(笑)。そりゃ先が読めないって言うか、先が読めなきゃ何しても良いのかよって言うか(笑)。……まぁとにかく頑張って頂きたいと思います。

 『結界師』は色々な伏線を張りつつ、主人公に大目標が出来て…という回。読み切り・短編用の設定から連載用の設定に上手にシフトチェンジ出来て来てますね。
 読み切りからの昇格作品は、こういう感じで軌道に乗るまでが大変なんですが、これでひとまずは安定路線という事でしょう。『こわしや我聞』もまだ不安定ですが、シフトチェンジしつつあるかな…といったところでしょうか。『暗号名はBF』は……ちょっと見解が分かれそうですね(^^;;)。
 しかし、これが「ジャンプ」のマンガなら何作品が生き残ってたのかと考えると、作家さんとファンは冷や汗モノでしょうね。

 で、センターカラーで競艇シーン殆ど無しという思い切った構成『モンキーターン』は、お約束の御邪魔虫が入るというベタな展開に(笑)。しかし、この二重恋愛は結構心身ともに堪えそうですなあ。やっぱり少し羨ましいけど(笑)。

 ……というわけで、今週はこれまで。来週はまだ大丈夫ですが、ボチボチ採用試験の方もあるので、どうか何卒。


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