「社会学講座」アーカイブ

 ※検索エンジンから来られた方は、トップページへどうぞ。


講義一覧

7/30(第23回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(7月第5週分)
7/27(第22回) 
人文地理「駒木博士の東京旅行記04’冬 コミケ67サークル参加挑戦の旅」(9)
7/23(第21回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(7月第4週分)
7/14(第20回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(7月第3週分)
7/8(第19回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(7月第2週分)
7/2(第18回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(6月第5週/7月第1週分)

 

2005年度第23回講義
7月30日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第5週分)

 大亜門さん、『いちご100%』真中ネタがギリギリで間に合って良かったですね、と言いたくなる7月末の「現代マンガ時評」をお送りします。
 今週はレビュー対象作も多いですので、取り急ぎ本題へ参りましょう。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(05年5月期)

 入選=該当作なし
 佳作=1編
  ・『鈴さんのフェアリーキッス♥』
   干場章広(22歳・大阪)
 努力賞=1編
  ・『幽便屋』
   長島幸(23歳・大阪)
 あと一歩で賞(選外)=2編
  ・『ヒーロー列伝』
   友栄チエ(19歳・神奈川)
  ・『カンナギ』
   塩野貴子(21歳・東京)

 今回の受賞者の過去のキャリアについては、ネット検索で調査した限りでは目ぼしいものは見つかりませんでした。

 ……普段から2ヶ月単位か1ヶ月単位かで大きく収穫の質と量が異なる「まんカレ」ですが、この5月期は特に大不作といったところでしょうか。ここまで入賞作品が少ないのは、かなり珍しい現象ですね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…4本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:新連載第3回1本&読み切り2本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年34号☆ 

 ◎新連載『太臓もて王サーガ』作画:大亜門

 ●作者略歴
 1977年5月29日生まれの現在28歳
 02年4月期「天下一漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りした後、週刊本誌02年34号にて代原で暫定デビュー。同年44号に2度目の代原掲載を果たした後、「赤マル」03年春号にて『スピンちゃん試作型』で正式デビュー。この『スピンちゃん』シリーズは、週刊本誌でも03年40号48号の2回、それぞれ題名を微妙に変えつつ読み切りが掲載され、04年16号から『無敵鉄姫スピンちゃん』のタイトルで週刊連載化(1クール11回で打ち切り終了)。
 連載終了後の復帰は、04年44号の『伝説のヒロイヤルシティー』。今作は、この作品の設定をベースに大幅マイナーチェンジを施したもの。

 についての所見
 相変わらずペンタッチが単調でメリハリに欠ける面が直っていませんが、安定した水準をキープ出来ていますね。少なくとも絵から減点材料を探す必要は無いでしょう。

 ただ欲を言えば、全体的にもう少し絵に動きがあれば、もっとハツラツとした雰囲気が出て良いんじゃないかと思います。動的表現自体は問題ないのですが、人物の動きがどれも小さいコマの中だけで完結してしまっているので、動感を実感し難くなっているんです。
 根本的にギャグのパターンが“しゃべくり漫才”形式ですから仕方ない部分でもあるんですが、ビジュアル的にインパクト不足というのは、ちょっと気になる所ですね。

 ギャグについての所見
 こちらはもう、完全に“自分の型”を作り上げている大亜門さんだけあって、高い安定性と完成度が全てのページから感じられます。まさに熟練の技巧といったところでしょうか。
 様々な角度からの笑いを狙う台詞回しの上手さは勿論の事、1つのコマも無駄にしないネタの密度、ページ跨ぎのオチを多用する構成力も見事です。『スピンちゃん』時代はやや過剰とも思われたパロディネタも、今回は多少抑え気味になっており、万人向けを意識するという意味では、これも良い選択ではないでしょうか。
 ※まぁ『出っ歯=ゲームセンターあらし=色々なところあらしまくり』という恐ろしく判り辛いネタもありましたけどね(笑)。80年代前半の「コロコロコミック」読者じゃないと判らんネタです。

 意地の悪い注文を出すならば、ややギャグの展開が一本調子・ワンパターン気味な感があるので、もう少しメリハリとトリッキーさを入れてもらいたい…といったところ。1回につき1箇所ぐらい“間”の取り方を極端にするとか、言葉に頼らないギャグも入れてみるとか、安定感だけでなく良い意味で読者の予想を裏切るような意外性があれば、随分と印象も変わって来ると思うのです。

 今回の評価
 評価はA−としておきます。ただ、良く出来た作品ではあるのですが、ギャグのパターンが昨年打ち切られた『スピンちゃん』と大差ないので、アンケート的には不安だったりします。この人も系列青年誌送りになっちゃうんでしょうか……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週の「チェックポイント」は『タカヤ』の連載10回評価見直しです。

 ◎『タカヤ -閃武学園激闘伝-』作画:坂本裕次郎
 旧評価:B−
新評価:B−(据置)

 掲載順的には“同期”3作品の中では最も好調ではありますが、内容的には低迷から抜け出せずにいるようです。
 どんでん返しや意外性の無い一本調子なシナリオ、攻防の質・量共に物足りなさの否めない戦闘シーン、そして最近は“脚本力が無いのに説教臭い”という新たなネガティブ要素まで表面化してしまいました。ウリであったはずのツンデレヒロインとのラブコメ要素も上手く展開出来ているとは思えません。
 現状では場当たり的に設定を“増築”して、何とかその場その場を凌いでいるようですが、元々土台が弱い所に無計画な建て増しを繰り返しているわけですから、早晩全体にガタが来るのは必至。現状のままでは厳しいのではないでしょうか。

 ……ただ、最近の「ジャンプ」は連載10〜20回前後からのテコ入れが実に上手いですから、とりあえず評価を据え置いて、あと10回は経過観察を続けたいと思います。

☆「週刊少年サンデー」2005年35号☆

 ◎新連載第3回『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志

 についての所見(第1回時点からの推移)
 
特筆すべき事項はありません。キャリア17年の作家さんの2年描き続けて来た作品の絵柄が2週間でガラっと変わるはずもありませんしね(笑)。 

 ストーリー&設定についての所見
 第2話、第3話は2話完結形式で、「チルドレンたちの社会との適応」をテーマに、ややコメディ要素の強いエピソードとなりました。予定調和で陳腐に陥りがちなシナリオでしたが、ちょっとした犯人当てをスパイス代わりに取り入れて、文字通り一味違うお話になっていたと思います。(ただ、皆本の『許せ!! 薫ッ!!』という台詞は、強引で解釈の難しいモノでしたが……)
 世界観設定の提示の仕方も自然ですし、既に完成の域に達しているチルドレン3人のキャラクターも、上手くシナリオと噛み合っていたと思います。

 ただ、これは物凄く贅沢な悩みなんですが、これまでの読み切り、短期集中連載、そして今シリーズの第1話が余りにも良く出来ていたため、少し内容のテンションを落とすと途端に薄味に感じてしまう自分がいます(笑)。また、第1話で、作品のテーマについて言いたい事を全部言っちゃったところもありますので、今後の盛り上げもかなり辛いだろうな……と心配してしまう面も。
 連載開始前に、物凄い3段ロケットスタートを切ってしまった反動が来なければ良いのですが……。

 現時点の評価
 評価はとりあえずAで据え置きます。しかし駒木は、どうしてこんな良い作品に不安を感じなくちゃならんのでしょうね(苦笑)。

 ◎(代原)読み切り『名犬ジョン』作画:橋本時計店

 ●作者略歴
 データ不足により、生年月日は不明だが、「爆笑王決定戦」の受賞年齢から推定すると、現在24〜25歳
 04年に新設された「週刊少年サンデー」ギャグ系新人賞「爆笑王決定戦」で佳作を受賞。同年末発売の隔月増刊05年新年号にて『ゴースト 〜入浴中の幻〜』でデビュー。増刊には05年3月号にも読み切りを発表している。
 今回は代原とはいえ、初の週刊本誌登場となる。 

 絵についての所見
 デビュー1年弱とは思えないほど線がスッキリしていますね。「サンデー」の誌面にも上手く溶け込んでいるようですし、「サンデー」のギャグ作品としてなら十分に及第点の出せる水準でしょう。
 細かい事を言えば、潰れ気味なベタや、ロングショットを多用し過ぎる構図に注文をつけたくなるのですが、減点材料にするほどのミスではないでしょう。

 ただ、ちょっと絵がマジメ過ぎるというか、ディフォルメやキャラ造詣のハジケっぷりが足りない気もします。今後、作風に応じてどれくらい“バカ”になれるかがカギに来るんじゃないでしょうか。

 ギャグについての所見
 基本的なテクニック面についてはキッチリしてますね。ネタフリ→小ネタ→ページ跨ぎオチ…といった展開のさせ方や、1コマ内でのハイテンポな会話の遣り取りなど、ギャグを見せる手法には全く問題はありません。
 また、台詞回しにも巧さを感じさせます。豊富なボキャブラリーを駆使して、必要以上に回りくどい表現や、気の利いた比喩表現で読み手の笑いを誘っています。

 しかしながら、まだ全体的に省ける無駄な部分が多過ぎるような気もします。1コマで収まりそうな所に2〜3コマ使ってみたり、ネタフリを長く引き伸ばし気味だったりと、いわゆる“ネタ繰り”が不徹底だったのではないでしょうか。
 あと、これは個人の主観が入っていそうですが、ネタにもう少し意外性が欲しかったです。例えば、“デューク東郷顔の犬”が出た時点で、誰もがライフル銃を持ち出すのは想像つくわけですから、そこを更に裏切るような大ネタを持って来るというのが理想的ではなかったでしょうか。 

 今回の評価
 長所もあるが短所も多いという作品ですので、評価はB+とします。「サンデー」系新人ギャグ作家さんの中では上位5人以内には入る素質を持っていると思いますので、このまま良い所を伸ばしていってもらいたいですね。

 ◎読み切り『カミロボ誕生物語』作画:あおやぎ孝夫

 ●作者略歴(資料不足のため不完全な内容になってしまっています。ご了承下さい)
 生年月日は非公開。「週刊少年サンデー」ウェブサイトの公式プロフィールによると、1970年代生まれとのこと。
 第43回(98年後期)「小学館新人コミック大賞」で入選を受賞。その後しばらくのキャリアは不明だが、01年からは小学館発行の月刊誌「コミックGATTA」で『ジョカトーレ』の連載を開始。だが、同年「GATTA」誌が休刊となり連載は最終号で終了となる。
 翌年には「週刊少年サンデー」に移籍。週刊本誌02年15号で読み切り『背番号は○(マル)』を発表した後、同年35号から04年1号まで『ふぁいとの暁』を連載。
 実録モノ読み切りは04年36号の『福原愛物語』に続いて2作目。可愛らしい子供の絵に定評があり、幼少期の回想シーンが中心となる実録モノにはうってつけの作風か。

 についての所見
 独特の柔らかいペンタッチと好感度の高い絵柄は今回も健在。むしろ以前より線が洗練され、マンガ的な絵の中に緻密さが加わって来ているような感もあります。
 人物造型における、少年から大人への外見上の変化や、その他取材しないと描けないディティールの確かさなど、随所にプロの仕事が施された、まさに力作ですね。

 ストーリー&設定についての所見
 ストーリーに関しては、取材した内容を無難にまとめるだけの“作業”の産物ですから、評価のしようがありません。が、傍から見たらかなり珍奇な場面──エエ年した大人が自作の人形でプロレスごっこ──も強引に爽やか・感動系の話に転換させていった力技に、視点アングルの違った所でプロの実力を見た感じです(笑)。

 ……まぁでも、一人っ子・一人遊び好きのプロレスファンとしては、このカミロボ・安居さんの気持ちはよく判るんですけどね(笑)。こういう内向的で緻密な趣味というのは、個人的には大好きです。
 駒木じゃなくても、仮想プロレス話やるのはプロレスファンの楽しみの一つですし、『最凶超プロレスファン列伝』にもあるように、丸めたマットや細長いクッションを相手にスパーリングしたりするわけですよ。ジャーマン仕掛けて頭打ったりとか(笑)。“実践派”の連中なんかだと、実際に人間相手にパワーボム仕掛けて、同級生を病院送りにしたヤツなんかもいました。パワーボムって、仕掛け方と受身間違うと肩の骨折れるんですよね。

 ──話がエラい逸れ方しましたが、まぁよく出来た作品です、とまとめておきましょう(笑)。
 ああ、そうだ。実は日本には、カミロボ以上の歴史を誇る凄まじいヴァーチャル格闘技ワールドが存在します。その名も「日本紙相撲協会」。なんと昭和28年創設の伝統ある“冗談法人”です。今度はこれも実録マンガにしてもらいたいですね。 
 
 今回の評価
 実録モノ作品ということで、今回も評価無しにします。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は『ブリザードアクセル』が20回のキリ番となりましたので、評価見直し簡易レビューです。

 ◎『ブリザードアクセル』作画:鈴木央
 旧評価:A−新評価:A−(据置)

 数話前から主人公が全寮制の合宿に入り、一気に本格的なフィギュアスケート競技マンガへ発展しつつありますね。主人公の少年マンガ的熱血キャラを上手くシナリオと絡み合わせることで、自然に特訓エピソードへ誘導したのには唸らされました。
 やや御都合主義な面や、深いキャラ描写が欠けている面も否めませんが、全体的に見て高い水準で安定していると思います。評価を据え置いて、このままチェックを続けます。
 

 ……レビュー4本のゼミで、準備に時間を食ってしまいました。
 来週は『いちご100%』の最終回総括なんですが、とりあえず真中はデスノートに「怪盗サイに箱詰めにされて死亡」と書かれるべきだと思います。ではまた(笑)。

 


 

2005年度第22回講義
7月27日(水) 人文地理
「駒木博士の東京旅行記04’冬 コミケ67サークル参加挑戦の旅」(9)

◎前回までのレジュメはこちらから→ 第1回第2回第3回第4回第5回特別番外編第6回第7回第8回

 何とか夏コミの原稿も脱稿・入稿して、修羅場から生還して参りました。長時間椅子に座ったもんで、脱稿するまえに脱肛しそうになりました……などと、疲れのせいか、ギャグもいつにも増して冴えません
 そういや素朴な疑問ですが、脱肛した痔を所定の位置に直す時は「入肛」と言うのでしょうか。

 ……とまぁこのように、名古屋場所の千代大海くらいの仕上がり具合ではありますが、本日から“夏旅行前巻き直しシリーズ”と銘打ちまして、半年以上積み残しになっておりました冬の旅行記を再開したいと思います。前回から2ヶ月ぶりとなりますね。
 いやはや、まるで「週刊少年ジャンプ」で作者不祥事のため中断していたマンガが、「スーパージャンプ」誌で本当に中断後すぐの所から復活するような真似をしてしまい、恐縮しております。しかしここはひとつ、一旦バックナンバーから振り返って頂きまして、そうして再びこちらに戻って来てからご覧下さるようお願い申し上げます。

 ……バックナンバーの閲覧は終わりましたでしょうか? では、今回のレポートへ参りましょう。文中においては文体は常体、人物名は現地で実際にお会いした方以外は原則敬称略とします。


 「レビューを全部載せてたら、札束でも無いのに縦に直立する分厚さになってしまいます」
 「そんな本出したら、刷った時点で17万円以上かかります
 「そもそも、誰が買うんだそんな本」

 ……という至極真っ当な理由が出揃い、同人誌版「現代マンガ時評」は、当初の計画を改め、高評価をつけた作品のレビューを中心に、内容を厳選して収録する事に決定した。しかし、まだまだ問題は山積みである。まずどの程度まで内容を“厳選”するのか、という問題である。
 当講座の「現代マンガ時評」では、原則として評価A−以上のタイトルを“良い作品”という扱いにしている。なので、本当に厳選するなら、A−以上を獲った作品のレビューだけを抜粋すれば良いのだが、そうすると今度は極薄の本になってしまう。
 例えば、04年度の週刊本誌連載作品でこの基準を適用すると、当時A−寄りB+評価の『DEATH NOTE』をオマケするとしても、あとは『スティール・ボール・ラン』しか残らない。「サンデー」勢は全滅である。あとは読み切りか短期集中連載で、しかも読み切りの半分以上は増刊掲載の作品だ。
 ……これでは、殆ど誰も読んだ事の無いマンガのレビューばかり収録した本になってしまうではないか。“厳選”どころか“絞りカス”。発行部数がコミケ参加者の1日分にも満たない雑誌の隅っこに掲載されてるマンガの評論ばかり集めた本を誰が欲しがるというのだ。

 全部載せてもダメ。厳選してもダメ。押してもダメ、引いてもダメ。ハメ殺しのドアと格闘している気分になって来た駒木であった。
 数日悩んだ挙句、結局はA−以上の評価をつけた作品のレビューと、04年12月末現在で連載中(であるはず)の連載作品のレビューを全部収録する……という折衷案で調整した。押しても引いてもダメなら蹴り倒してみた……といったところ。
 
 これで漸く構成が固まり、途中でストップしていた追記の加筆も再開する。ところがここでまた問題が。いざ書き始めてみると、それほど思い入れが無かったはずの作品の追記までもやたらと筆が進んでしまい、限定されたスペースが圧迫されていってしまったのだ。
 実はA5版のオフセット本の場合、ページ数は8ページ刻みでしか指定が出来ない。つまり、3ページ分オーバーしてしまったら、その3ページを削るか、若しくは5ページ追加するしかない。まぁ追加するだけならまだ何とかなるが、その場合、当然印刷費がグンと跳ね上がる。
 実は、既にこの時点で200部刷って100部売っても経費がペイ出来ない(100部以下の印刷なら全部売れても大赤字確定)という身の程知らずな状況に陥っていた。100部どころか、その半分も売れるかどうか怪しいというのに、さすがにこれ以上の増ページは無理だ。星井七瀬移籍でエイベックスが背負うリスク以上の危険性を抱えてどうするんだという話である。
 となると、原稿を削るしかない。ただ、読み切り作品は先述のように全て評価A−以上の作品で揃えているので、これは削れない。となると残るは連載作品。そう、原稿執筆時点では連載中だが、コミケ当日には連載が終わってそうな作品のレビューを1本削るのだ。かなりの賭けだが、もはや手段はこれしか残されていなかった。

 ──どの作品を削ったか、ここでは敢えて名前を秘す。しかし、その作品がコミケ当日を過ぎた後、5ヶ月間も連載が続いてしまい、人知れず非常に気まずい思いをしていた事を告白しておく。
 ただし、もっと気まずかったのは、その作品のレビューを掲載しなかった事について、ただの1件も問い合わせが無かった事である。こういうのを黒歴史と言うのだろうか。

 ……とまぁ、こうして紆余曲折ありながらも、原稿は何とかゴールへ向く順風を受けて進み始めた。
 駒木の原稿に先立って、3人娘のトータルコーディネートをお願いしている藤井ちふみさんに描いて頂いた表紙も完成(カラー表紙原稿は入稿締め切りがやたら早い)駒木の要領を得ない注文にも関わらず、素晴らしいイラストを頂戴出来た。絵の描けない文字書きの方ならお分かりになるだろう、自分の文章を素晴らしい絵で飾ってもらえる事がどれだけ心強いか。
 その表紙絵はこちらをクリックしてご覧あれ(注:ダウンロードはあくまでも著作権法の範囲で)。全ての読者さんに微笑みかける珠美ちゃんの癒し系の笑顔が映えていて、それでいて教鞭を指一本でしならせ怪力ぶりを誇示するポーズが実にたくましい(笑)。どこまで藤井さんが意識して描かれたのかはアレだけれども、珠美ちゃんの二面性を表現した見事な一枚絵である。
 そして、この絵がコミケ当日も凄まじいまでの威力を発揮する。これはまた追々語ることにしよう。

 さて、どうにか原稿のメドが立ち始めた駒木にとって最後の関門が、印刷所の手配であった。何しろこっちは、本当に右も左も、無線綴じも中綴じも判らないズブの素人。野球で言えば「どうしてボールを打った後、左に走っちゃいけないのかしら」と全国ネットで疑問を吐露する黒柳徹子並の知識しか持っていなかったのだ。
 今から考えると、そんな状態でよくオフセット本を作ろうと思ったな、と本当に恥ずかしい限りだ。普段は見切り発車は極力しないタイプの性格なのだが、この時は物凄い勢いでダイブしてしまったものだと今更ながらに反省する。
 こうなっては、最早頼るべきは知人・恩人しかない。表紙を描いて下さった藤井さんに、Wordファイルでデータ入稿できる印刷所を紹介してもらい、その後も細々とアドバイスをして頂いた。印刷所の電話での対応が、ウェブサイトで書かれている事と違う事を言ったり、要領を得なかったり、印刷代金の見積もりまで間違えたり(安く間違えられたのが救い)する中で、本当にお世話になった。あれから8ヶ月も経ってしまったが、藤井さん他、助言頂いた方には改めて御礼とご迷惑をかけたお詫びを申し上げたい。
 ちなみに、印刷所への質問は電話と違って落ち着いた対応が期待できるメールの方が確実で、しかも返答もかなり迅速だという事に気付いたのは、それから半年後、今度の夏コミの本を発注した時であった。15時前に送った質問メールの返答が、日付が変わった24時過ぎになって届いた時には正直ビビってたじろいだ。冬の時の悶着は水に流して、修羅場の残業ご苦労様と申し上げたい。

 こうして漸く、「同人誌発刊」という前に立ちはだかっていた障壁が全て消滅。入稿日直前には、コピーセンターと郵便局と自宅を右往左往するという初心者丸出しのてんてこ舞いも体験したが、それもご愛嬌。やたらとコミケ慣れしている郵便局員に、封筒の宛先を見るなり「『壊れ物注意』のシール張っておきますね」と言われて少々赤面させられながら、駒木の初陣はとりあえず幕を閉じたのである。

 ──まるで『ONE PIECE』のような、やたらに長い回想シーンになってしまったが、こうして何とか発刊に漕ぎ着けた本の待つ、冬の東京ビッグサイトへ駒木は向かったのである。さて、次回からはいよいよ当日の模様をお伝えしよう。(次回へ続く

 


 

2005年度第21回講義
7月23日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第4週分)

 珠美ちゃんのレポートにもありましたが、今週は同人誌版「現代マンガ時評」の書き下ろし分を執筆しておりました。ウェブ上でならタダで閲覧出来るコンテンツだけで対価を頂くわけにはいきませんので、ささやかなプレミアというヤツですね。
 しかしながら、ウチのようにウェブ上での活動をメインとしている所が、わざわざ間口の狭くした場(=コミケ)でしか閲覧出来ないコンテンツ──しかも、事情アリとは言えわざわざ有料で──を提供するというのも、ある意味おかしな話ではあります。その辺、ご不満をお持ちの方もいらっしゃるかも知れません。
 かつては貴重な表現発表の場であった同人誌即売会は、今やインターネットが兼ね備えた表現発表機能に比べるとひどく限定された場になっており、数十万人が参加するコミケにしても、地理的・経済的・精神的な敷居の高さはかなりなものがあります。言ってみれば、わざわざ全ての人が参加できない環境で限定的にコンテンツを公開するという行為ですから、実は非効率な事この上ないわけです。アマチュア同人が多くの人にコンテンツを読んでもらいたければネットで無料公開すればそれで良く、本来ならコミケなどは時代の仇花的存在となっていても不思議ではないはずです。
 それでもコミケ等の同人誌即売イベントの数や規模が巨大化こそすれ縮小する様子が全く見えないのは、「イベントに参加する」「イベントで同人誌を売る」という事自体が、参加者にとってかけがえのない目的になっているんでしょうね。テレビでならタダでスポーツ中継観られるのに、わざわざ見え難い席から生観戦したりするのと一緒のようなもので。あとは「同好の士との出会いの場が持てる」とか「自分の実力を商業に近い環境で試せる」とかもあるでしょう。つまり、インターネットのモニター画面越しでは出来ない事をやってみたい……という事なのではと思うわけです。
 で、そんなことを言っている駒木がコミケに参加する理由は、「受講生さんと面と向かって直接お目にかかりたい」、または「これまで縁の無かった方にも『社会学講座』を知ってもらいたい」……といったところでしょうか。ネットでしか出来ない事があるように、コミケでしか出来ない事をしたいと考えています。
 まぁそういうわけで、こちらの趣旨について、どうかご理解下さいませ。昼からの入場だと人の流れもスムーズですし、東京近郊にお住まいの方、実家が首都圏にあって帰省中だという方は是非、見物がてらにでもフラリとご来場頂き、1部手に取ってもらえると幸いです。

 ……なんかいきなり変な独り言ですいません(笑)。まぁたかが駒木の戯言ですんで、竹輪のように右から左へ抜かして下さい。
 
 それでは、今週のゼミを始めます。今週からキリ番回数の評価見直し作品が結構多くあって、ちょっと大変ですが……。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 まずお詫びから。先週の「サンデー」で掲載告知されていた『マリンハンター』作画:大塚志郎=今週号掲載)を紹介するのを失念しておりました。申し訳ないです。

 ◎先週、既に告知済みですが「週刊少年ジャンプ」では、次号(34号)より、『太臓もて王サーガ』作画:大亜門)が新連載となります。大亜門さんはこれが『無敵鉄姫スピンちゃん』に続き2度目の連載。今回も短期打ち切りになると、今後の展望がかなり厳しいものになるはずですので、是非とも頑張ってもらいたいところです。

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(35号)『カミロボ誕生物語』作画:あおやぎ孝夫)が掲載されます。
 この作品は、先日掲載された『ザスパ草津物語』に続く、「サンデーMIP読み切りシリーズ」第2弾とのこと。作者のあおやぎさんは、『福原愛物語』に続く、実録マンガのお仕事になりますね。
 当ゼミでは実録モノは原則的に評価対象外としていますが、形式的にレビューを実施します。
 

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…3本
 「ジャンプ」:新連載1本
 「サンデー」
:新連載第3回1本&読み切り1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年33号☆ 

 ◎新連載『みえるひと』作画:岩代俊明

 ●作者略歴
 1977年12月11日生まれの現在27歳
 同人での創作活動を経て、03年下期「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞今作と同タイトルの受賞作『みえるひと』が04年2月発売の「青マルジャンプ」に掲載され、デビュー。
 
その後は「赤マル」04年夏号に読み切り『狗童』を、週刊本誌04年45号にデビュー作『みえるひと』のマイナーチェンジ版をそれぞれ発表。今作は、その昨秋発表のマイナーチェンジ版の基本設定を引き継いだ長編連載作品。

 についての所見
 
昨秋の読み切りの時点でも粗が目立った作画ですが、残念ながら連載版の開始を迎えても、完成の域には遠く及ばなかったようです。細・太のメリハリの足りない線とやや崩れ気味のデッサンで描かれた人物作画は見るからに不安定。そこへ空白の多い背景の描き込みとトーン処理の甘さが加わって、かなり貧弱な印象を与える絵になってしまいました。
 それでもディフォルメ表現を多用した人物の表情のバリエーションや動的表現などに若干の改善が見られており、今後に向けて望みの持てる要素もありました。現時点では赤点スレスレの水準ですが、この連載を続ける内に更なる進歩がある事を期待しましょう。

 ストーリー&設定についての所見
 過去2回掲載されたプロトタイプ版では、叙述&ビジュアルトリックをメインに据えた“怪奇ミステリ”だったこの作品ですが、今回を見る限りでは、『銀魂』などのようにキャラクターを前面に押し出した、ライトでコメディチックな作風の作品にモデルチェンジが図られたようです。
 過去2作のプロトタイプ版では、ミステリ要素とストーリーのクオリティの両立に苦しんでいた面もありましたので、これは無難な選択かも知れません。また、現在の「ジャンプ」には、『ネウロ』『ムヒョ』のようなミステリ要素を含んだサスペンス・ホラー作品が連載中ですし、敢えて限られたパイを奪い合う必要は無い…という判断が働いたという推測も成り立ちます。

 ただ、そうやってミステリ要素を取っ払ってしまったため、ストーリーがやや単純で意外性の無いモノになってしまった事も否定出来ません。幸い、レヴェルの高い脚本・演出がこの弱点をフォローして、予定調和ながら鑑賞に耐え得るクオリティは維持出来ていると思うのですが、読み手の感情を揺さぶる場面や、意表を突くようなサプライズが見られなかったのは少々残念でした。これも今後へ向けての課題ですね。

 今回の評価
 評価は“伸びしろ”を残すという意味も込めて、B寄りB+としておきます。昨秋のプロトタイプ版と同評価になりましたが、加点材料と減点材料が共に少なくなって都合プラマイゼロ…という感じに解釈して貰えればと思います。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週は『カイン』が10回の区切りを迎えましたので、定例の評価見直しを実施します。

 ◎『カイン』作画:内水融
 旧評価:B
新評価:B−

 第3回時点から更に下方修正。メジャー誌の連載作品としては落第点のレヴェルに転落です。
 この作品の問題点については、以前のレビューでも色々と挙げて来ましたが、ここ数回で特に気にかかるのがキャラクターメイキングの下手さ。登場人物のキャラクター描写が終わらない内に込み入ったエピソードを始めてしまったり、人物の実像よりも名前だけが先に提示されてしまったりで、読み手が登場人物に感情移入する間を与えてくれないのです。
 こうなってしまうと、作中の全ての出来事が読み手の興味の外で起こるような事態になってしまいます。せっかくの回想シーンにしても、その回想の主体となる人物のキャラが固まっていないまま始まってしまうため、いくら不幸話を聞かされても現在とのギャップを感じなければ感動も出来ない…ということに。これではいくらシナリオを練っても効果激減です。キャラ立ち不足のために、完全にストーリーが死んでいる状態ですね。

 今週号から始まった新連載シリーズのタイミングが中途半端で、この作品も当面は打ち切りを逃れたようですが、今のままでは2クール目をクリアするのは難しいと言わざるを得ません。

☆「週刊少年サンデー」2005年34号☆

 ◎新連載第3回『あいこら』作画:井上和郎《第1回掲載時点での評価:B+

 ●についての所見
 長期連載を1度経験している作家さんらしく、絵柄の安定感は全く揺るぎません。高い水準の好感度と見栄えを維持したまま、良い意味で平行線を保っています。
 
 ストーリー・設定についての所見
 第2話、第3話と、キャラクター重視&一話完結型のコメディが展開されています。恐らく今後もこの大枠を据え置いたまま、徐々に主人公とヒロインたちの恋の進展が描かれていく事になるのでしょう。
 シナリオについては、良く言えば、登場人物のキャラと魅力を引き出し、読者を決して不快にさせないよう計算されたノリの軽いコメディ。悪く言えば予定調和でドラマ性の希薄な、典型的なB級シナリオといったところでしょうか。
 これだけ“商品”として計算されていると、商業的な面では一定以上の数字を残すのは間違いないでしょう。ただ、だからといってこのマンガが「名作」と呼ぶに相応しい“作品”かというと、やはり首をボキボキと関節が鳴るまで捻ってしまうのです。

 現時点での評価
 評価はB+で据え置きです。当ゼミの基準では、今の路線を踏襲する限り、これ以上はどうにもなりませんね。


 ◎読み切り『マリンハンター』作画:大塚志郎

 (受講生の皆さんへ:この作品は評価Cとなりました。結果的に読み手の感情を損ねる論調のレビューになっている恐れがあります。この作品のレビューをご覧になるかどうかは皆さんでご判断下さい。

 作者略歴
 生年月日は非公開だが、03年3月期「まんカレ」入賞時は20歳で、そこから計算すると現在22〜23歳か。
 02年6月発売の「ビッグコミックスピリッツ・増刊新憎」の作者ラインナップに“大塚志郎”の名前があり、これがデビュー作か。同年にはNHK教育の「10代真剣しゃべり場」に出演するという経歴も。
 「サンデー」系誌での活動は、03年3月期「サンデーまんがカレッジ」で佳作入賞してから。翌年、「サンデー」増刊04年2月号で再デビューを飾り、同年増刊夏号には今作と同タイトルのプロトタイプ版を発表。
 今回が週刊本誌デビューとなる。

 についての所見
 まず気になるのが線や塗りの潰れですね。週刊本誌の紙質の悪さのせいでしょうが、率直に言って見辛い作画になってしまいました。これは新人さんの多くがハマるワナなのですが、アシスタント経験はこういう所で活かして欲しかったですね。

 ただ、今作は紙質の問題以前に作画のレヴェルも低調でした。
 マンガの絵というよりもイラストの延長上のような絵といった印象で、特に構図の取り方が極めて単調でした。コマの多くが理由も無く顔面かバストアップのアングルで描かれており、悪い手癖がついているなぁ…といった印象です。
 また、動的表現が拙いのも問題ですね。格闘シーン等の動きを、静止しているシーンとインパクトの瞬間だけで描写しようとしているため、全く迫力も躍動も感じられません。

 更には、本来なら世界観や設定を象徴するように配慮しなければならない人物造型や衣装のデザイン、これについても全く無頓着なのも大きな減点材料です。「この世界観で、こういう理由があって、この世界の人間はこういう姿形をしている」とか、「この世界の環境がこうだから、機能的にこういう服装をしている」とかいったモノが全く感じられません。
 この後、設定面全般についても苦言を呈しますが、このデザイン全般の配慮の無さが、ストーリーや作品全体のクオリティの足を引っ張っているように思われます。とにかくマンガを描く上で必要な“こだわり”が全く伝わって来ず、技術云々以前の作家としての意識のレヴェルで大きな課題を抱えているのではないでしょうか。
 
 ストーリー・設定についての所見
 正直言って、久々に読むのがキツい週刊本誌の読み切りだった気がします。どこから問題点を指摘すれば良いのか……。 

 それでも、まず指摘しないといけないのは脚本・演出でしょうね。とにかく徹頭徹尾説明的なセリフ・モノローグのオンパレード。登場人物のことごとくがご丁寧に細かい知識を持っていて、TPOに応じて台本でも読んだかのようにウンチクを披露。敵キャラは敵キャラで、戦闘中だというのに詳細な自戦解説を繰り広げる始末。また、先に指摘した単調な構図と動的表現の甘さが演出の足を引っ張って、映える場面も映えなくなってしまっています。

 次に設定とストーリー。作品世界の背景から主人公の目的から、主人公が特殊能力を持った理由まで色々と並べてはみたものの、これらがストーリーの内容を全く無視して提示されているため、全くの蛇足になっています。
 それだけでなく、本来なら描写されなければならなかった、主人公の行動の動機付けや現在の人格形成に至るまでのエピソードが皆無に近く、結果として「設定過剰なのに設定不足」という随分な惨状に至っています。知らない人には判らない喩えで恐縮ですが、『なぁゲームをやろうじゃないか』(作画:桜玉吉)に出て来る、確信的ダメダメ作中ファンタジー作品『アコンカグア』を思い出してしまいました。

 そして、アクション系作品の命綱と言うべき戦闘シーンもお粗末な限り。確かに個人の特性や必殺技を用意されてはいるのですが、根本的な部分では、駆け引きの全く無い、しかも秒殺決着のパワーゲームでは如何とも・・・・・・。
 「サメだから血に反応してバーサークする」という設定も、先程から指摘している描写力不足のために、活かし切れたとは言えません。むしろ“擬似超サイヤ人化”の理由を、感情の発露ではなく先天的な特異体質に依存してしまったのは、ドラマを盛り上げる上ではマイナスだったでしょう。

 2年前、大塚さんが佳作入賞を果たした「まんカレ」の講評には「まんがのドラマはキャラクターが全て。設定や事件の目新しさに読者は感情移入してくれません」という旨の苦言がありました。この言葉を大塚さんが少しでも胸に刻み付けていれば、こんな酷い作品を発表する事も無かったでしょうに、本当に残念です。

 現時点での評価
 評価はです。形式的には起承転結がキチンと成立している作品ですから、本来なら、B−ぐらいに留め置くのが妥当な線なんですけどね。ただ、今回は余りにも減点材料が多く、レビューの内容もご覧の通りになってしまいましたので……。
 しかし、「サンデー」の読み切りで評価Cを付けるのは、今年度でもう3回目ですね。ここまで来ると、「何故こんな作品描いたの?」と作家を責めるより、「何故こんな作品を載せていいと思ったの?」と編集者を責めたい気分になります。編集長交代で少しは風通しが良くなるかと思われた「サンデー」ですが、少なくとも新人・若手の発掘に関しては、改善の跡が見えて来ませんね……。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 さて、今週にキリ番回数を迎えた連載作品は無いのですが、実は『兄踏んじゃった』の評価見直しを5週間ほど忘れておりました(汗)。
 忘れていたというか、評価の低い作品でしたから、10回の時点で評価確定させたつもりでいたんです。ところが、同人誌版の編集をしていて、「あと10週経過観察します」と言っていたのに気付いたという次第。大変失礼致しました。

 ……というわけで、連載25回時点の評価見直しです。

 ◎『兄踏んじゃった』作画:小笠原真
 旧評価:B−新評価:寄りB−

 実質0.5ランクの上方修正としました。個人的に笑えるかどうかと問われればキツいのですが、それでもツッコミの台詞回しなどに随分と工夫・改善の跡が見られるようになりました。
 ただ、ギャグの組み立てが完全にワンパターン化されており、展開の意外性が全く期待出来ないというのは無視できないマイナス要素ですね。吉本新喜劇のようにネタフリからオチまで知っていても笑えるギャグなんて、一生で1つ、2つのものですからね。やっぱり読み手の予想を良い意味で裏切るような展開で見せるネタを増やしていってもらいたいです。

 この作品については、今度こそこれで評価確定としておきます。今後はクオリティに大きな変化があった時のみ、この欄で採り上げることになるでしょう。

 

 ──というわけで、今週はこれまで。同人誌の入稿締め切りが27日必着なんで、それまではどうか何卒。

 


 

2005年度第20回講義
7月14日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第3週分)

 たとえ日常で少々キツい事があっても、今週の『ジャガー』の、「借りてない借金」というフレーズに爆笑出来る内は多分大丈夫…と、自分を励ました駒木ハヤトです。鬱陶しい梅雨真っ只中、いかがお過ごしでしょうか。

 さて今週は、レビューする方が手薬煉(てぐすね)引いて待ち構えていた『絶対可憐チルドレン』が登場です。駒木の中では連載前から今年度「コミックアワード」有力候補でしたが、長期連載版第1回もやはり素晴らしい出来でした。詳しくは後ほど。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(33号)より、夏の新連載シリーズが開幕します。前期の新連載がまだ連載10回に到達するかどうかという早いタイミングですが、昨年来、作品の新陳代謝が鈍っていた分を取り戻そうという方針なのでしょうか。

 それはさておき、今回のシリーズで立ち上がる新連載は以下の2作品です。
 ●33号より開始:『みえるひと』作画:岩代俊明
 ●34号より開始:『太臓もて王サーガ』作画:大亜門
 ……前者は、一昨年の「ストーリーキング」準キング受賞作を、一度週刊本誌掲載の読み切りとしてリメイクしたモノを連載化した作品(ややこしいですね^^;;)。後者は、恐らく昨年に週刊本誌で発表された、『伝説のヒロイヤルシティー』をリメイクした作品と思われます。
 前のシリーズと同様、連載1〜2回目のフレッシュな顔触れ。これだけ雑誌全体が好調であるにも関わらず、新人・若手を続々投入するあたりが、さすが「ジャンプ」といったところですね。

 ★新人賞の結果に関する情報

第26回ジャンプ十二傑新人漫画賞(05年5月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
(週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『レマ宇宙探検隊』
   LUHEN(23歳・北海道)
 《許斐剛氏講評:スケールの大きな世界観で、ロマン溢れる作品。キャラクターそれぞれの等身大な発言や、大胆な行動も好印象で魅力的》
 《編集部講評:スケールの大きさ、展開のスピーディーさで、読者をワクワクさせる力を持っている作品。ただ、キャラクター一人ごとの作りこみが物足りず、感情移入し辛いのが難点》
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『ドラッグン -モコメッツとボク-』
   泉昭典(25歳・東京)
  ・『商人とバザー』
   山田圭介(19歳・宮城)
  ・『3D』
   三浦圭介(24歳・兵庫)
  ・『D 〔ディー:〕』
   高田さほ子(21歳・長崎)
  ・『INSTANT AVENGERS』
   松丸里子(22歳・東京)
  ・『炎獣消獣士 サラマ』
   松本由紀(20歳・福岡)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎最終候補の泉昭典さん…04年12月期「十二傑」にも投稿歴あり。

 今月の十二傑賞は、「ジャンプ」では珍しい宇宙冒険モノ。しかし、だからこそフレッシュな印象を審査した人たちに与えたのでしょうか。
 受賞発表ページを見たところ、まだ絵の方は発展途上のような感がありますが、「スケールの大きな世界観」という講評には食指をそそられます。時期的に「赤マル」夏号掲載か、週刊本誌掲載か微妙ではありますが、この作品の事は忘れず覚えておこうと思います。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:なし
 「サンデー」
:新連載1本&新連載第3回1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年32号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週号の「ジャンプ」は、レビュー対象作がありません。ただし、『ムヒョ』が連載30回『ネウロ』が連載20回の節目を迎えましたので評価見直しと簡易レビューを、そして、今週号で慌しく打ち切り最終回を迎えた『ユート』の連載総括を実施します。

 ◎『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』作画:西義之
 旧評価:A寄りA新評価:A−寄りA

 形としては第10回でつけた評価に復帰ということにさせてもらいました。
 再度の上方修正に至った理由は、現在進行中の「ソフィー編・裏切りのリオ編」におけるシナリオ完成度の高さ。エンターテインメントと、読み手の意表を突くミステリ要素をかなり高いレヴェルで融合させており、これは驚嘆に値します。
 ただこの作品、エンタメとはいえ、娯楽作品というよりも悲劇にカテゴリされる作品ですので、幅広い読者層からの支持を集めるかと言えば疑問です。が、それでも作品の出来の「良い・悪い」のみを判断基準とする当ゼミとしては、こういったストーリーテリング能力豊かな作品を見逃すわけにはいきません。
 欠点と言うか、今後に向けての課題とすれば、週刊連載1回分の中で、1つ何か“ヤマ”となる場面を作るべきだ…という事でしょうか。その場を盛り上げるために作品全体のクオリティを押し下げては本末転倒ですが(またそういう作品が多いですよね)、1回分10数ページの間に、何か1つキャッチーな場面や台詞を挿入出来るようになれば、いよいよ名作の域に手の届く作品に化けてくるのではないかと思います。

 ◎『魔人探偵脳噛ネウロ』作画:松井優征
 旧評価:B新評価:B寄りB+

 (果たして初めからそう考えていたのかどうかは別にして、)単行本1巻で作者から(この作品は)推理物の皮を被った単純娯楽漫画」という公式コメントがあったそうです。そういうわけで、こちらもその前提条件に立って、根本的な所から評価の見直しを行いました。

 評価すべき点・加点材料としては、まず何と言っても主役と主要脇役のキャラクターが、実に個性的でインパクトが強い…という事が挙げられます。ホラー・サスペンス的な要素を多く含みつつも、この作品が多くの人が親しみ易いユーモアに溢れたコメディとして成立しているのも、このキャラクターメイキングの妙が大きな要因として働いている事でしょう。
 次に挙げられる強調材料としては、以前からも指摘しているように脚本・演出の上手さ。脚本は、多少台詞過多な感もありますが、ちゃんと喋り言葉独特の砕けた表現が出来ているので苦になりません。

 反対に減点材料としては、全般的なシナリオの弱さを指摘させてもらいます。「娯楽漫画」と銘打った割にこの作品のストーリーは、どうも読み手にカタルシスを与えたり、感情を揺さぶったりするようなエンターテインメント性に乏しいように思えるのです。端的に言えば「皮を被っ」ているだけの「推理物」の部分だけが強調され過ぎているというか……。
 そもそも犯人探しやトリックに主眼を置いたドラマは、読み手に提示できる情報が制限されるため、どうしてもストーリーそのものが淡白になってしまいます。また、犯人探しやトリックが最大のエンタメ要素である以上、ストーリーに凝らなくても大丈夫…と言う事も出来るでしょう。
 となると、この作品が形式的とは言え未だ本格ミステリのフォーマットを守っている限り、シナリオの出来が物足りない娯楽作品──もしくは、犯人探しやトリックがエンタメ要素足りえない本格ミステリ風ドラマ──に留まってしまう宿命を抱えているのかも知れません。

 ……そういうわけで、今回の評価は弱含みのB+とさせてもらいました。かなり乱暴な意見ですが、「娯楽漫画」を追及するのならば、もういっそのことネウロ&弥子が凶悪な変態怪人と戦うバトル物にテコ入れした方が良いと思ったりもしています。 

 ◎『ユート』作:ほったゆみ/画:河野慶
 旧評価:A−寄りB+最終確定評価:B+

 そしてこちらは残念ながら、最終回に伴う連載総括です。連載期間は2クール21回。原作者の過去の実績や、いわゆる“突き抜け”が見られなくなって久しい現在の「ジャンプ」としては、ほぼ最短コースの打ち切りと考えて良いでしょう。『ヒカルの碁』で、その実力を国内外に示し、輝かしい名声を勝ち取ったはずのほったゆみさんでしたが、思わぬ所で足元を掬われてしまった形となりました。
 ただ、連載開始当初から10回前後までの内容の煮え切らなさぶりから考えると、打ち切りも止む無し…とも思います。イマイチ読み手が共感しにくいキャラの主人公や脇役に加え、カタルシスに欠けるやや冗長なシナリオ。それに加えて、マイナースポーツである少年アイススケート競技の魅力を伝える努力を怠っていては、商業的に厳しい結果になるのも致し方無しかな…といったところです。
 それでも、掲載順が巻末に落っこちて来た辺りから登場人物が活き活きと動き出しましたし、シナリオでも序盤で張っていた伏線が上手く働き始め、歯車が噛み合い始めていました。打ち切り直前時点でのクオリティは、当ゼミの基準でもAクラスをつけて良い水準だったでしょう。ネット界隈で話題になっていた映画予告編風のラストシーンも、本当にアレが予告編だったならば、賞賛されて然るべきクオリティでした。そういう意味では、打ち切りは仕方ないとはいえ、大変残念でもありますね。

 評価はB+としましたが、これは事実上の未完に終わった作品に、高い評価を与えるわけにはいかない…という配慮だと解釈して頂ければ。こんなブン投げ方をした作品としては破格の評価です。
 

☆「週刊少年サンデー」2005年33号☆

 ◎新連載『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志

 ●作者略歴
 1965年6月24日生まれの現在40歳
 月例賞「サンデーまんがカレッジ」で入賞して“新人予備軍”入りした後、週刊本誌89年14号掲載の4コマギャグ作品『Dr.椎名の教育的指導!!』でデビュー。このシリーズを90年にかけて不定期連載(全14回)するのと平行して、野辺利雄さんのスタジオでアシスタント修行。
 90年からは、月刊増刊にて読み切り連作形式の『(有)椎名百貨店』を連載開始。この連載は90年4月号より91年5月号までの全14回で終了したが、これ以降も事実上の不定期連載状態で連作短編を増刊等に発表し、『(有)椎名百貨店』のタイトルは椎名さんの短編集の書名として引き継がれている。
 週刊本誌では91年30号より、『(有)椎名百貨店』内の1作品として描かれた『極楽亡者』を連載用にリメイク・改題した『GS(ゴーストスイーパー)美神 極楽大作戦!!』を連載開始。これが当時の「サンデー」では史上最長連載期間となる、約8年にも及ぶ大長編&一説に単行本発行部数の累計5000万部を突破したと言われるほどの大ヒット作となる。なお、この作品はTV・映画アニメ化され、連載中の93年には「小学館漫画賞」少年部門を受賞している。
 99年41号に『GS美神──』の連載を終了した後も精力的な執筆活動を続け、「サンデー」週刊本誌での連載だけでも『MISTERジパング』(00年14号〜01年46号)『一番湯のカナタ』(2002年21・22号〜2003年2号)の2作品を手がけており、また連載期間の合間には、「サンデー」の月刊増刊、「サンデーGX」誌、「マガジンアッパーズ」誌等で読み切り・短期集中連載作品を多数執筆している。
 今作は、「サンデー」月刊増刊03年7月号掲載の読み切り版を短期集中連載用中編としてリメイクした作品(04年8〜9月まで連載・全4回)の事実上の続編で、椎名さんにとっては約3年ぶりの週刊長編連載となる。 

 についての所見
 キャリア17年目に突入というベテラン作家さんだけあって、絵のクオリティと安定感は「さすが」といったところ。短期集中連載版に比べると、人物造型に若干の変化が見られますが、確信的に行われたモノを除けば誤差の範疇でしょう。
 当たり前の話ですが、背景処理や特殊表現なども全く問題なし。それどころか、ディティールの小技の利かせ方などに、長年のキャリアで培った確かな技術が感じられました。

 ただ、クオリティ云々とは別の所で、絵柄・画面の雰囲気全体に何とも言えない古臭さが感じられたのが気になりました。これは恐らく、作中で使用されている“マンガ的表現のための記号”が、『GS美神』時代のまま固まっているからなんでしょうね。
 この古臭さというのは難しいモノで、中途半端に古いとダサく見えてしまうのですが、とことん古くなると逆に新鮮に映ったりするんですよね。果たして、「サンデー」読者、特に若年層はこの絵柄に対してどのような印象を持つのか、ちょっと興味が湧きますね。
 

 ストーリー&設定についての所見
 事実上、同一作品で3度目の第1話という今回、やはりというか良い意味で手垢の付いた全く無駄の無い、軍隊の保存食の味のように濃い内容の設定・シナリオだったと思います。何しろ2年前の読み切り版の時点でも既に大分こなれた雰囲気のあった作品を、実力に定評のある作家さんが必要以上にじっくり推敲したわけですから、逆に言えばここまで煮詰まらない方が不思議といったものでしょう。
 短期集中連載版の時にも採り上げた、起承転結の構成や緊張(シリアス要素)と緩和(コメディ要素)の転換の上手さも相変わらず。そして今回は「能力に恵まれ過ぎた者の悲劇と希望」という、作品の根底を流れるテーマも明確に。これにより、単なる娯楽作品に留まらず、バックボーンのしっかりした本格的なドラマとしても通用する内容となりました。

 ハッキリ言って、これほど隙の無い、完成度の高いマンガは、日本中のどの雑誌を探してみてもそうそうお目にかかれるモノではないでしょう。「少年サンデー」読者からの人気を集められるかどうか……という、“商品”としての課題は残されていますが、少なくとも“作品”としては文句の付け所がありません。素晴らしいマンガです。

 現時点の評価
 評価は自信を持ってAとします。これでたとえ仮にこの作品の人気が伸び悩んだとしても、それはもう、桂米朝師匠の落語よりも若手芸人の勢いに任せたコントが好きな人がいたりするようなもので、単純に趣味嗜好の問題という事になると思います。

 ◎新連載第3回『ネコなび』作画:杉本ぺロ
 
※連載2週目が2本立てで、正確に言えば新連載第4回にあたりますが、便宜上この表記を使います。

 についての所見
 良い意味でも悪い意味でも変化無しですね。「ギャグ作品としては軽く合格点以上」という、第1回時点の評価は変わりません。しかし、「ギャグ作品としては」という括りを取っ払った場合、少々ネコを愛らしく描く技術に欠けているとも思いますが……。
 
 ギャグについての所見
 こちらは主に悪い意味で変化なしです。4コママンガでは、無理矢理にネコを擬人化させただけでオチてもいない強引なネタばかりが目立ちますし、本来ネコを題材にしたマンガではつきものの、ネコの習性をネタにした作品も回を追うごとに減る一方です。
 この辺り、生来のネコ好きでも、長年ネコを飼ってきたわけでもない人の限界というものが如実に現れて来ていますね。ネタ切れ以前の問題と言いますか、そもそもネタが無いわけですから、そんな中で毎週連載を続けるのは地獄の苦しみだろうなと思います。

 せめてこれでラスト1ページの実録マンガがしっかりしたギャグになっていれば良いのですが、これも現状は巻末コメントのマンガ化&企画の告知ページと化していて、宝ならぬページの持ち腐れ状態。残念ながら、この作品は早くも「1粒で2度不味い」という、末期的な状況に陥っていますね。

 現時点での評価
 評価は0.5ランク下げてB−とします。早くも八方塞がりのような情勢ですが、ここから起死回生があるのかどうか、とりあえず連載10週目まで様子を見てみる事にします。


 ……というわけで、今週のゼミはここまで。
 本当なら講義回数を一気に増やしたいところなんですが、同人誌版の印刷所締め切りまで2週間を切ってしまってますので、そちらの目処が立つまでご辛抱下さい。それでは、また。

 


 

2005年度第19回講義
7月8日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(7月第2週分)

 当講座としては、ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権関連の講義もしなければならない所ですが、とりあえずは優先順位順に仕事を済ませてゆく事にします。
 それにしても、最近「やりたい事」と「やれる事」のギャップが大きくなり過ぎて困っています。やりたい事はどんどん増えるのに、使える時間はどんどん減っていく……


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎既報通り、「週刊少年サンデー」では、次号(33号)より、『絶対可憐チルドレン』作画:椎名高志)が新連載となります。言うべき事は既に全て言ってしまいましたが、ともかくも2年がかりで連載まで漕ぎ着けたのですから、良い作品になる事を、そして商業的にも良い結果がもたらされる事を切に望みます。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…2本
 「ジャンプ」:読み切り1本
 「サンデー」
:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年31号☆

 ◎読み切り『未熟仙』作画:栗山武史

 作者略歴
 生年月日は非公開。昨年冬の「ストーリーキング」応募時、また今春の「手塚賞」応募時は24歳
 
04年末(12月)期「ストーリーキング」ネーム部門で準キングを受賞し“新人予備軍”入り。その後、05年上期「手塚賞」で入選を受賞し、今回はその受賞作でデビューを飾る。 

 絵についての所見
 掲載誌のインタビュー記事によると、本格的に仕上げた完成原稿としては、これが生まれて2作目とのこと。なるほど、お世辞にも洗練されたとは言い難い線で描かれた粗い絵…というのが第一印象ですね。
 奥行きがあってスケールの大きな背景描写や、愛嬌のあるキャラクターデザインにセンスの片鱗を窺い知る事は出来ますが、画力そのものは“プロ基準”で見た場合は極めて稚拙と言わざるを得ません。年齢的にもエクスキューズの利く条件ではありませんし、こと絵に関しては、作家活動を続けていく上での大きなハンデを背負っている現状です。

 ストーリー・設定についての所見
 「手塚賞」の講評を見ると、高い評価が集中していたのが、キャラクターメイキングと世界観の描写でしたが、確かにこの作品の魅力はその2点に集約されているように思えます。小手先のフォーマットや既視感のあるストーリーに頼らず、「魅力あるキャラクターの主人公」という「ジャンプ」マンガを構成する必須条件を前面に押し出した…という点が、今回の高い評価に繋がったのでしょうね。
 演出面では、文字情報による説明を極力排除し、なるべく絵を使って設定を描写出来ている点、そして場面転換による“シーン省略”のテクニックが非常に秀逸な点が光っていました。このような、限られたページ数で最大限のエピソードを盛り込むための技術とセンスは、マンガ家を続けていく上で非常に役に立つことでしょう。

 ただ、今回に限って言えば、そうやって折角多くのエピソードを盛り込むだけの余地を作っておきながら、肝心のストーリーが随分と内容希薄に陥ってしまったのは大変残念でした。いわゆる起承転結で言えば“承”の部分が他愛も無い会話劇だけで終わってしまったため、何とも言えない間延び感漂う話になってしまった感がありましたね。
 それでも、クライマックスから終盤にかけての見せ場の作り方、脚本力には新人離れした才能が見え隠れしています。今回に関しては残念でしたが、これで良いプロットに恵まれれば、もっとクオリティの高い作品が作れるのではないでしょうか。

 今回の評価
 諸々の才能・センスを高く評価する一方で、絵の稚拙さとシナリオの貧弱さを大きく減点して、今回はB+寄りBとします。過去の「手塚賞」入選作と比べると、やや見劣りしないでもないかな…とは思うのですが、「ジャンプ」の求めるベクトルと、この作品の向かっているベクトルが綺麗に一致しているという事なんでしょうね。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週は『ユート』が連載20回の区切りを迎えたのですが、「次号で連載終了」との未確認情報が流れていますので、とりあえず今週の評価見直しは中止し、次週のゼミで適切な処置を執りたいと考えています。

 新連載の噂も流れてはいるんですが、どうやら先般の新連載シリーズと同様、「コミックアワード」受賞作家が登場して、間もなく伸び悩む…というジンクスが発動しそうな予感溢れるラインナップのようです。これも詳しくは次号辺りで公式発表があると思うので、注目して下さい。

☆「週刊少年サンデー」2005年32号☆

 ◎新連載『あいこら』作画:井上和郎

 ●作者略歴
 公式プロフィールによると、1970年代の5月1日生まれとのこと。これを踏まえると、26〜35歳の間ということになる。(ただし、デビュー時期を考えると70年代末という可能性は低そう)
 4コママンガ作家としてデビューした後、97年度上期「小学館新人コミック大賞」少年部門で入選、本格的なマンガ家への道を歩む。「サンデー」系作家の“名門”である藤田和日郎さんのスタジオでアシスタントを勤め、01年には月刊増刊(当時)で『HEAT WAVE』を短期連載。
 週刊本誌では、02年17号に一部で論議をかもした“怪作”『葵DESTRUCTION!』で初登場し、同年42号からは『美鳥の日々』で初の連載を開始。これが深夜アニメ化もされるスマッシュヒットとなり、04年34号に円満完結を果たすまで2年弱の長期連載となった。
 その後は増刊で原作付読み切りを発表するなどしていたが、今作をもって本格的な活動再開となった。

 についての所見
 既に画力に関しては定評のある作家さんですが、改めてじっくり拝見すると、やはり達者な方ですね。
 とにかく非常に洗練された線によって描かれた、実に見栄えのする絵です。リアルタッチの絵を極力好感度が高くなるようにディフォルメさせたという感じの絵柄で、「ジャンプ」系の名手・叶恭弘さんを彷彿とさせるタッチです。(ただし叶さんのタッチは、井上さんのそれよりも随分と緻密さを残していますが)

 また、動的表現や背景処理、更に進行させたディフォルメ表現なども巧みで、一枚絵としての見栄えだけに留まらず、マンガの記号としての役割も十分に果たせています。欲を言えば老若・美醜の“老”と“醜”のコントラストを付けてもらいたいところですが、この作品にその要素は必要無いかも知れませんね。

 ともかくも、およそ絵に限定して評価を下せば、現在の「サンデー」連載陣の中でも間違いなくトップクラスにランクされるハイクオリティと言えるでしょう。
 
 ストーリー・設定についての所見
 とにかく(事の是非は別にして)唸らされるのは、よく言えば緻密、悪く言えばあざとく計算され尽くしたヒロイン格4人の女性キャラ造型ですね。赤松健さんに並んだとまでは言いませんが、肉薄はしている完成度の高さでしょう。
 まず、第1回の中でほぼ同時に全員出現させても容易に区別がつくほどに、外見・喋り方・性格に大きなコントラストをつけられています。ヒロイン40人制が罷り通る現代では、「たかが4人程度で……」とは思われるかも知れませんが、それでもここまで明確に別物のキャラクター4人を同時に提示するというのは只事ではありません。
 そして更には、主人公の極私的萌えポイント(碧眼、巨乳、サリーちゃん足、甘ったるいハスキーボイス)の他に、読者対策“隠れ萌えポイント”(ツンデレ系ツインテール、メガネっ子優等生、お姉さん系女教師、ホシノルリ系朴念仁ロリキャラ)も各ヒロインに標準配備されているという手の込みよう。2次元世界に理解のある男子「サンデー」読者ならば、どれかのキャラのどれかのポイントに惹かれるように、全ての要素が細部に至るまで計算されています。
 そして、ここまで緻密な設定構築が出来ていれば、いずれこの設定とギャップのある裏設定を後付けして、ストーリーや設定の幅を広げる事も可能。いやはや、よくぞここまで練りこんだ…といったところです。

 次にストーリーに関して。主人公とヒロインを無理矢理同居させてしまう手法は、『りびんぐゲーム』以降の星里もちるさんのそれを想起させる、気持ちの良い強引さが感じられるものでした。ここでツッコミを入れると「何をマンガ相手に……」と言われてしまいそうな、思いっきりの良い非現実かつ理想的な設定が心地良いです。
 ただ、シナリオそのものは、現時点においては予定調和的と言うか、キャラクターの魅力を引き出すための手段としての役割しか果たしていない感じです。商業的には全く間違っていないチョイスでしょうが、これは当ゼミの評価基準においては、やはり大きな減点材料になってしまいます。この設定・世界観でキャッチーな萌え要素を維持しつつ、本格的な人間ドラマが描けたらバケモノ級の超名作になるんでしょうけどね。

 ところで、この作品を否定する側からは「所詮は『ラブひな』のパクり」と一刀両断されているようですが、個人的には、そこまで単純に底の浅い作品ではないように思います。そもそも『ラブひな』が「サンデー」系ラブコメの「マガジン」移植なのですから、「逆輸入」と言うならまだしも、「パクり」というのは少々乱暴ではないでしょうか。
 個人的には、『ラブひな』『プリティフェイス』“後期星里もちる作品の平均像”)÷3……くらいの、ある程度複雑な計算式で成り立っている作品だと思います。

 現時点での評価
 ……というわけで、現時点では極めて完成度の高い「名作崩れの人気作」。当ゼミの評価基準に則るとB+ということになります。勿論、ここにシナリオの重厚さが加わって来た場合には、間違いなくAクラス評価になるだけの可能性を秘めています。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週で『クロスゲーム』が第10回を迎え……と言おうとしたら、何と第1部完。ここまでが単行本1巻分を費やした壮大なプロローグだった…ということのようです。
 いやはや、さすが「サンデー」、さすが大御所。「ジャンプ」系新人なら、数年かけて掴んだ連載が終わるかも知れないページ数でプロローグが出来るんですから凄いですね。逆を言えば、マンガ家がメジャー誌で好きなように作品を描けるようになるには、あだち充くらい頑張らないと難しいという事なんでしょうが……。

 ──というわけで、第1部終了時点での評価見直しです。

 ◎『クロスゲーム』作画:あだち充
 旧評価:保留新評価:A−寄りB+

 「少々キズの多過ぎる佳作」ということで、こういう暫定評価をつけました。
 まずプラス材料としては、台詞や直接的な叙述・描写を徹底的に排除し、切り替わりの早いカメラワークや一見無意味な風景の挿入などで独特な雰囲気を醸し出す、いわゆる“あだち充式演出”が、読み手の感情を揺さぶる手段として冴えに冴えている点が挙げられます。婉曲的な表現が許される「サンデー」でも、ここまで遠まわしな演出をして、しかもそれが効果を上げている辺りに、この作家さんの実力を感じさせてくれます。
 一方、マイナス材料としては、直接的な叙述を排除した副作用で、キャラクターの描写やシナリオの充実度が損なわれてしまった…という点でしょうか。まだキャラクターやストーリーが固まり切っていないうちにメインヒロインが死んじゃって第1部完…というのは、いくらなんでも乱暴だったように思えました。

 ……そういうわけで、第2部開始以降のメインシナリオで挽回してくれる事を期待しつつ、現時点ではやや控えめの評価をつけさせてもらいました。

 ──ということで、今週のゼミはここまで。来週は講義や執筆活動に専念出来ますので、何かしら成果を皆さんに披露したいと思います。今度こそ空振りには終わらせませんので、ご期待を。ではまた。

 


 

2005年度第18回講義
7月2日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(6月第5週/7月第1週分)

 今更ながら、5月と6月の講義回数の少なさに愕然としている駒木です。本当に、ここまで見限る事無く受講して下さっている皆さんに感謝&陳謝。
 この4月から昼の仕事の出勤時刻が2時間ほど早くなっているのが、幕之内一歩のボディブロー並に効いている感じです。個人的に一番集中出来る時間帯(未明から明け方、もしくは昼の早い時間帯)に動けるのが週に1〜2日しか無いのが痛いですね。
 ……というか、いかにこの社会学講座が、社会人として非常識な生活の上に成り立っていたかがよく判りますな(笑)。


 「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」関連の公式アナウンス情報

 ★新連載&読み切りに関する情報 

 ◎「週刊少年ジャンプ」では、次号(31号)に、読み切り『未熟仙』作画:栗山武史)が掲載されます。
 この作品は、先日発表になった05年上期「手塚賞」入選作。予告のカットを見る限りでは、絵柄は未だ発展途上という感もありますが、それを補って余りある魅力がある作品なのかも知れません。ともかくも、9年ぶりの「手塚賞」入選作ということで、注目の一作である事は確かですね。

 ◎「週刊少年サンデー」では、次号(32号)より、『あいこら』作画:井上和郎)が新連載となります。
 前作『美鳥の日々』で、トリッキーな設定のラブコメを見事に完結させた井上和郎さんですが、今度の設定は“ボーイ・ミーツ・4ガールズ”。正統派と言えば正統派、変化球と言えば変化球ですが……。
 しかしこの設定だけだと、「それって「ジャンプ」の『いちご(以下略)」とか、「これも10週以内にヒロインが1人死ぬんですか?」とか斜に構えた妄言を吐きたくなりますね(笑)。……ともかく、最近閉塞気味の「サンデー」に華やかさをもたらしてくれそうな作品ではありますね。

 ★新人賞の結果に関する情報

少年サンデーまんがカレッジ
(05年3・4月期)

 入選=1編 (週刊本誌or増刊に掲載決定)
 
 ・『侍じゃ剣!!』
   一氏剛(29歳・東京)
 《編集部講評:「真剣勝負」にかける主人公の思いがよく描けており、画力もそれを伝え切るだけの高さにある》
 佳作=2編
  ・『禁断少女』
   佐藤充(23歳・山口)
  ・『僕の彼女は…』
   菊地裕也(25歳・埼玉)
 努力賞=6編
  ・『スピードスター』
   高橋拓也(25歳・神奈川)
  ・『ナスの言霊師』
   久保知絵子(20歳・北海道)
  ・『TRUE KING』
   春日架乃(25歳・茨城)
  ・『人足配達人ハヤラ』
   前橋陽(20歳・神奈川)
  ・『ファイヤーサーファー』
   溝江俊輔(21歳・東京)
  ・『魔法使いは漢前!』
   内藤ミエ(17歳・愛知)
 あと一歩で賞(選外)=該当作なし

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ◎努力賞の高橋拓也さん…03年12月・04年1月期「まんカレ」であと一歩で賞。

 ……今期の「まんカレ」は2ヶ月合同とあって、なかなかの豊作。当たり前ではありますが、1ヶ月単位の時と2ヶ月単位の時では明らかに投稿作の層が違いますね。

 ※今週のレビュー&チェックポイント
 ●今週のレビュー対象作…1本
 「ジャンプ」:レビュー対象作なし
 「サンデー」
:新連載1本

 ※7段階評価の一覧表はこちらから。よくあるご質問とレビューにあたってのスタンスは04年1月14日付講義冒頭をご覧下さい。

☆「週刊少年ジャンプ」2005年30号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今週は最終回もキリ番回数も無いので、チェックポイントは実質お休み。来週辺りからは色々と忙しくなりそうですが……。
 ところで『ネウロ』の弥子が熱く語った学食トーク。今もって講師先の学食で昼メシを食う機会の多い身としては親近感のある話題でした(高校の学食は、いわゆる“社員食堂”も兼ねています)。何校も渡り歩いているから判るんですが、高校の学食は原則として学校ごとに外部の業者と契約して運営されているので、美味い所と不味い所の格差が大きいんですよ。
 酷い所になると、フライヤーの油がギトギトになっても交換せずに1日(数日?)乗り切ろうとするので、油モノを一口食べた瞬間にグエッとなります。もっと酷い所になると、教員・生徒に見捨てられてて異様に閑散としています(笑)。学食あるのに、教員ほぼ全員がホカ弁の宅配を利用してますからね。
 ちなみに現在の駒木の勤務先の学食は、母校や今までの勤務先と比較してもかなりの上ランク。450円の定食なら、ライス味噌汁付の主菜に加えて小鉢2つまで付いて来たりするので、いちいち満腹食ってしまいダイエットがなかなか進みません。 

☆「週刊少年サンデー」2005年31号☆

 ◎新連載『ネコなび』作画:杉本ぺロ

 ●作者略歴
 生年月日は非公開。
 96年上期「小学館新人コミック大賞」少年部門で佳作を受賞。同年8月、『名物!!うつけモノ本舗』でデビュー。
 その後、週刊本誌99年17号から『ダイナマ伊藤!』を連載開始、02年47号までの長期連載となる。2度目の連載は03年7号から05年8号まで連載された『俺様は?』(最後の数回のタイトルは『俺様はZ』)
 今回は半年のブランクを経た後、3度目の連載となる。

 についての所見
 「緻密」や「リアリティ」という概念とは対極的な位置にある淡白な絵柄のため、どうしても見た目で損をしてしまいますね。それでも、技術的には立派なプロの水準に達していると思います。
 ヘタウマ系の割には線も安定していますし、ディフォルメや擬人化といった表現もソツなくこなせています。このタッチにして動物がキチンと描け、老若男女の描き分けも出来ているのですから、やはりその辺は伊達に9年弱のキャリアを積み重ねていないという事なのでしょう。

 そういうわけで、総合的な評価としては「ギャグ作品としては軽く合格点以上」といったところ。これでもう少し華があるか、アクが強ければ申し分無いのですが……。
 
 ギャグについての所見
 今回は連載1回目の特別編成ということで、実録マンガ風のページ物と、本編であるネコを題材にした4コマの二部構成。しかし残念ながら、どちらも「どうにも中途半端」といった出来に留まってしまったような……。

 まず、実録風の方は、ネタの掘り下げ不足が否めませんでした。もっと現実を脚色出来る余地があったはずなのに、実在の人物に遠慮したのか照れなのか、せっかくの“美味しい”出来事をサラリと描き過ぎてしまったような気がします。桜玉吉さんの『漫玉日記』シリーズまで行ってしまうと、さすがに少年誌では過激でしょうが、それでももう少し人物の弄りようがあったのではないでしょうか。
 あとはオチが「どうする? アイフル」という今更感溢れるネタでは、インパクト的に相当苦しいかな…と。時期を外した旬のネタで笑える人の割合が高いとは思えませんしね。

 次に4コマの方。こちらは先程以上に重症です
 確かに起承転結のテンポや展開のさせ方などには、キャリア相応の手馴れた技術を感じさせてくれます。ただし、オチが綺麗にオチ切っているのかと言うと、かなり微妙ではないでしょうか。
 また、ネタの多くが、本来ならネコを出したりネコを擬人化させる必要の無いものばかり。「タイトル上“ネコ縛り”だからネコにしました」と言わんばかりの必然性の無さに、笑うよりも首を傾げざるを得ませんでした。
 一瞬、「これは『寸止めで笑えない4コマを並べてみる』という壮大なネタなのだろうか?」と考えたのですが、どうやらそうでもないようで……。駒木は大のネコ派なので、このようなマンガは笑えるものなら笑いたいというのが本音なのですが、残念ながら脳がそれを許してくれませんでした。

 今後、杉本さんがネコを飼う中で、飼い主ならではのネタを発掘出来れば、あるいは大化けも…とは思いますが、少なくとも現時点では「準備不足の見切り発車による交通事故」と結論付ける他ないようです。

 現時点での評価
 評価はB寄りB−とします。いくら誌面の中でも重視していないギャグ枠とはいえ、もうちょっと準備期間を経てから連載に望んで欲しかったです。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週で『思春期刑事ミノル小林』が最終回。編集長の交代以来、微妙に扱いが悪くなって来ているな…と思ったら、今週の『ネコなび』と入れ替えという事になったようです。
 さて、この作品の作者・水口尚樹さんに関しては、当講座の開講間もない頃から、そのポテンシャルの高さについて高い評価を惜しみませんでした。第2回の「コミックアワード」では、今作の連載獲得の決め手となった短期集中連載作品で、新人ギャグ作品部門の最終ノミネート作品に推していたほどです。
 ただ、今作『ミノル小林』については、ギャグを見せる技術に関しては、やはり光るモノが感じられたものの、コアとなるキャラクターが最後まで作りきれず、伸び悩んでしまったかな…という印象はありました。絵柄の幅が狭い故に、外見上のコントラストが作り難いという側面もあったかも知れません。
 最終評価はテクニック面を最大限評価してB+寄りとしておきます。

 ──今週は地味な内容に終始しましたが、とりあえずこんなところで。
 あ、先週冒頭で採り上げた『げんしけん』特装版ですが、その後間もなく秋葉原でも完売状態になったらしいですね。駒木の体験談を参考にして、無事単行本をゲットされた受講生さんもいらっしゃったようで、お役に立てて何よりです。
 しかしあの同人誌、コミケで売られたとしたら1部1000〜2000円の価格設定で、それでもシャッター前に長蛇の列が並んで1万部単位で午前中速攻完売とかになるんでしょうね。そこまでの無茶をしなかった講談社に乾杯ということで(笑)。


トップページへ