「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・8)
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講義一覧
3/26(第117回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」
(3月第4週分・合同) |
2003年度第117回講義 |
旅行等の取材活動で講義の間隔が開きましたが、今日から高校の仕事が始まる4月上旬まで、目一杯カリキュラムを組んで頑張る所存です。どうか何卒。 さて、今日は今週発売の「週刊少年ジャンプ」17号、および「週刊少年サンデー」17号の内容についてゼミを行います。 ……それでは、今週分のレビューとチェックポイントへ。レビュー対象作は、「ジャンプ」から新連載と新連載第3回の後追いが各1本、そして「サンデー」から新連載が1本、都合3本ということになります。 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。 ☆「週刊少年ジャンプ」2004年17号☆ ◎新連載『少年守護神』(作画:東直輝) 「ジャンプ」の新連載シリーズも今週でラスト。東直輝さんの連載再復帰作・『少年守護神』のレビューです。 東さんは1978年3月生まれということですから、26歳になったばかり。駒木より3つ(2学年)年下と知って、ちょっと驚きました。 ──とはいえ、やはり作品の内容は別の話。今回も読み切り版同様、残念ながら厳しい事も述べなくてはならなくなりそうです。 まず絵からですが、基本的には描き込まれた見応えのある絵柄だと思います。若干、シリアスタッチとマンガタッチの区別が曖昧で妙になった部分(やたら目の大きなシリアス女の子キャラ)も見受けられますが、「ジャンプ」連載陣に混じっても標準的なレヴェルには達しているのではないでしょうか。前回、大顰蹙を買った現代風のコスチュームデザインも一応修正されており、減点箇所は多くないと思います。 次にストーリー・設定ですが、こちらはシナリオの破綻していた読み切り版のプロットを踏襲してしまったため、端的に言って、かなり無茶苦茶な内容になってしまっています。 というわけで評価はC寄りB−。読み切り版に比べて改良の跡も窺えますので“死刑宣告”は控えましたが、前途は多難だという印象は変わりません。 ◎新連載第3回『未確認少年ゲドー』(作画:岡野剛)【第1回掲載時の評価:保留】 そしてこちらは新連載シリーズのトップバッター・『未確認少年ゲドー』。今後の運命を分けると言われる第3回時点での後追いレビューです。 さて、ここまで3回の内容は、『地獄先生ぬ〜べ〜』スタイルの、少人数のレギュラーキャラにゲストキャラ(未確認生物)を絡めていく…といった、一話完結型のコメディで進行していますね。大方の予想通りといったところでしょう。 評価は、読み切り版や第1回時より若干の上積みがあったという事でB+にしておきます。 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 巻末コメントで、大亜門さんが「“先生”と呼ばれるのに抵抗があったが……」という若手作家さんらしいモノが。でも確かに、マンガ業界内では“先生”というのは役職名みたいなところがありますよね。祝うつもりも無いのに出す祝儀みたいなもので、敬うつもりも無いのに呼ぶ「先生」みたいな感じでしょうか。 ……でもよく考えたら、本当に「先生」って大した敬称じゃないんですよね。だって駒木も行く所行けば「先生」って呼ばれるくらいですから、価値無ぇったらありゃしない(笑)。生徒にとっては、ひょっとすると部活の「先輩」よりも格下だったりするかもですね。 ◎『スティール・ボール・ラン』(作画:荒木飛呂彦)【現時点での評価:A/第1期総括】 最後は『みどりのマキバオー』の有馬記念を思わせるような展開で、主人公・ジャイロ=ツェペリが1stステージ優勝となりました。この辺の澱みの無い演出はさすがといった所ですね。 と言う事で、評価はA−寄りAで据え置き。現時点では当ゼミの今年度No.1長編作品という事になりますね。
遂に“王”が誕生したわけですが、生まれながらにしての容赦無さ過ぎな暴虐さが、往年の鳥山明チックでシビれますねぇ。やっぱり本当の敵役はベラベラ喋っちゃいけないんですよね。喋らせなきゃ悪役だと判らないようなキャラばっかり出すマンガもありますが、まぁ…うん。(長井秀和風に) ☆「週刊少年サンデー」2004年17号☆ ◎新連載(シリーズ再開)『DAN DOH!!〜ネクストジェネレーション〜』(作:坂田信弘/画:万乗大智)【前シリーズ終了時の評価:B+】 再三お知らせしていたように、今週から“アニメ化に伴う復活”という特殊なケースで、『DAN DOH!!』の新シリーズが連載開始となりました。足掛け8年でやっと終わらせた作品を、商業的な理由とは言えもう一度蘇らせるとは、恐るべしマンガ業界ですよね(笑)。 さて、今回は特殊なケースですので(何しろ一度連載総括までしちゃった作品です)、作者紹介は省略し、レビューに関しても、前シリーズまでの内容を念頭において、後追いレビューというか、チェックポイントのようにサラリといきたいと思います。第3回のレビューも一応はやりますが、こちらも同じくと言う事で何卒。 ……というわけで、新シリーズの内容についてですが、今シリーズは「ネクストジェネレーション」というタイトルとは裏腹(?)に、前シリーズ終了からほぼ間もない時点から、キャラクターもそっくりそのまま引き継いでのリスタートとなりました。新庄樹靖の“ネクストジェネレーション”たるダンドー、という事なんでしょうかね。 ただ、今回のエピソード──ダンドーがチンケなヤクザと賭けゴルフして圧勝──はちょっと頂けないかなぁ…とも思います。主要キャラ紹介を最優先させるため、敢えて中身の薄いシナリオでお茶を濁したとも言えるのですが、8年以上引っ張った作品の再出発となるべき回を、そんな悪い意味で陳腐なシナリオにしてしまうのは如何なものでしょうか。全英オープン準優勝の天才少年に相応しい華々しい再登場シーンが欲しいと個人的には思いました。 評価は、とりあえず今回だけで8年分の評価を揺るがせるのもどうかと思いますので、保留の意味も込めてB+で据え置き。まぁ、真価が問われるのは“オールスター戦”か、その前の新庄VSダンドーに突入してからでしょうね。 巻末コメントのテーマは、「すぐに挫折してしまった挑戦って、ありますか」。 ちなみに駒木の挫折はアコースティックギター。定番ですね(笑)。Fコードとかは何とかクリア出来たんですが、アルペジオとかスリーフィンガーが全く……(苦笑)。時間が出来たらもう一度基礎から練習し直したいんですが、時間が出来るなんて有り得ないですからねぇ。 連載作品については、特に語りたいモノが無かったので今回はパスさせてもらいます。いや、低調だったというわけじゃなくて、ただ単にネタ不足だっただけの話です(笑)。 次週のゼミについては、他の講義も増える関係上、週後半に合同版で実施する事になると思います。では。 |
2003年度第116回講義 |
モデム配り関連講義の続編でもそろそろ始めようかと思っていたんですが、とりあえずレギュラー講義を済ませておかないと……と言う事で、今日はこちらを。週明けから色々バタバタしちゃいますので、やるべき事だけ今の内…てな感じです。 というわけで、今日は今週発売の「週刊少年サンデー」16号を教材にゼミを実施します。 まずは新連載についての情報から。 ☆「週刊少年サンデー」2004年16号☆ ◎読み切り『ダグラーバスタークウ!』(作画:松浦聡彦) 今週から「週刊少年サンデー」は創刊45周年特別企画月間。巻頭から大小様々な特別企画が誌面を飾っていますが、その1つがこの読み切り。久々に松浦聡彦さんが週刊本誌に登場という事となりました。 では、例によって作者紹介です。今週分前半の大亜門さんに続き、この松浦さんも幸か不幸かネタに事欠かないキャリアを積んでおられるので、じっくりとお話させて頂きます。 まず、松浦さんのデビューは「少年サンデー」月刊増刊の94年2月号という事ですから、キャリア丸10年ということになりますね。ベテラン揃いの「サンデー」の中でも、もう中堅という扱いで差し支えないと思います。 ──しかし、これからの松浦さんの歩みは苦闘の歴史そのものでした。 まずは連載終了の余韻も未だ鮮やかな00年17号より、サバイバル冒険モノ作品・『ブレイブ猿S(モンキーズ)』を連載開始しますが、これはわずか19回で終了の憂き目に。連載作品の新陳代謝の鈍い「サンデー」では異例の短期打ち切り。「ジャンプ」で言えば1クール・9回光速突き抜けに匹敵する“惨敗”でした。 ……というわけで、作品の内容についてお話してゆきましょう。 まず絵ですが、技術的な面で駒木が口を挟む余地は全くありませんね。さすがは濃密なキャリアを経て来た作家さん、これは恐れ入りましたといった所です。 ストーリー・設定の方も、キャリアに裏付けられたテクニックが各所で見受けられ、好感度の高い作品に仕上がっていると言えます。特にページ数に合わせたキャラクターの人数やシナリオのボリュームの絞り込み方が秀逸で、読み手に作品内容の理解について負担をかけないでよう見事に配慮されています。この辺のバランス感覚はさすがですよね。 さて、評価です。作品の完成度を大きく損ねるような欠点は見当たらないものの、安全策を採り過ぎてこじんまりとした作品になってしまった……と言う事で、B+としておきます。いわゆる「名作崩れの人気作」っぽい所もありますし、これくらいが妥当ではないかと。
◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 巻末コメントのテーマは、「忍者になれるとしたら、どんな忍法を使いたいですか」。 必殺技が無い主人公の格闘マンガって、実は相当描くのって難しいはずなんですよね。どうしても地味になりがちだし、技の名前叫んで見開きページでドカーン! ……みたいな楽も出来ませんし。
しかし、この期に及んでミスターベーターもどきが悪役って……(汗)。 次週のゼミは、旅行やらモデム配りやらで忙殺されるので、多少遅れるかもしれません。どうか何卒。 |
2003年度第115回講義 |
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……いきなりですが、
……などと言ってみたくなる、3月第3週前半のゼミをお送りします、駒木ハヤトです(笑)。 ……さて、今週は公式アナウンスによる情報系の話題はありませんが、ネット上の信憑性の高い未確認情報によると、『スティール・ボール・ラン』(作画:荒木飛呂彦)が来週号で1stステージ終了&一時休載となるとのこと。連載再開は6月頃とのことで、どうやら10週程度の31ページ連載と“充電休載”を繰り返すスタイルを採る事になるようです。 ……それでは、今週の「ジャンプ」掲載分のレビューとチェックポイントをお送りしましょう。レビュー対象作は、新連載1本と読み切り1本の計2本となります。 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。 ☆「週刊少年ジャンプ」2004年16号☆ ◎新連載『無敵鉄姫スピンちゃん』(作画:大亜門) 「ジャンプ」春の新連載シリーズ第2弾は、当講座も期待の新鋭ギャグ作家・大亜門さんの『無敵鉄姫スピンちゃん』です。 大亜門さんは77年5月29日生まれという事ですから、現在26歳。「ジャンプ」の若手作家さんとしては、キャリアの割に年長者という事になりますか。 ──さて、それで闘志に火が点いたのかどうかは判りませんが、この直後から大亜門さんはハイペースで習作原稿を「ジャンプ」編集部に持ち込み、代原の形ではありますが02年34号にて「ジャンプ」デビューを果たします。主人公は先述の投稿作品に続いて偽・江田島平八、しかも冒頭に『あずまんが大王』のキャラと思しき女の子たちが裸に剥かれて登場…という、「天下一」の時の出来事を知る者からすると開き直りもいいとこな作品でしたが、何はともあれ、これで仮デビューとなりました。また、その後同年44号でも、代原(「天下一」の最終候補作)掲載を果たしています。 ……というわけで、長くなりましたが以上がプロフィール紹介。それでは今回の新連載作品について述べさせて頂きます。 まずは絵からですが、昨年に読み切りを発表してからの短期間に随分と上達しているのが窺え、正直言って驚かされました。シリアス、通常のマンガ用、そしてディフォルメと3種類の絵柄が使い分けられており、それがギャグにも活かされて良い結果に繋がっています。前作で指摘した動的表現やセリフを喋っている時の表情の不自然さもほとんど解消されており、気がついたら歴代の「ジャンプ」系ギャグ作家さんの中でも中〜上位クラスの画力にまでなっているように思えます。 そしてギャグについてですが、例によって個人的な“笑った/笑えなかった”は別にしても、確かな技術に支えられたハイレヴェルな作品だと思われます。特にツッコミが上手いのがポイントで、これが展開の単調さを避けたり、一つのネタから多くの“笑い所”を作り出したり…という結果に繋がっているのではないかと。 評価はA−をつけた読み切り版よりも進歩が窺えるという事で、A−寄りAとします。低年齢層にある程度受け入れられれば、長期連載も狙える逸材だと思うのですが、さてどうなるでしょうか。 ……それにしても今回のこの作品、絵柄といいシナリオといい何故か既視感が強いと思ったら、高校時代に読んだSF研究部(という名の漫研&ライトノベル研&TRPG研)の会報に載ってたマンガと小説と感じがソックリだったからでした(笑)。 さて雑感はさておき、例によって作品の内容を細かく分析してゆきましょう。 まず絵ですが、全体的に画力が未完成なのは仕方ないにしても、ディフォルメの使い方が全くなってないのが気になります。シリアスな場面(特に戦闘シーン)で不用意にディフォルメキャラが描かれているケースが非常に多く、強い違和感を感じてしまうんですね。 次にストーリー・設定についてですが、まずメインアイディアである「ヘンテコ」の設定全般は、そのネーミングも含めて良かったのではないかと思います。というか、このアイディアだけで「手塚賞」佳作まで行ってしまったような気がしないでもありません。 ……そういうわけで、良く言えば「荒削り」、悪く言えば「実力不足」というのが、現状の千坂さんが立っているポジションではないかと思います。まずはマンガを描くにあたっての意識をプロ仕様に変えないと、「ジャンプ」での飛躍は難しいでしょう。 評価はB−。もうちょっと高くても良いような気もしますが、技術面を重視して採点するとこの辺に落ち着いてしまうんですよね。 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 今週も空知英秋さんと編集さんのバトルは続行中。打ち切り回避したとなったら、筆も滑らかですなあ(笑)。 「僕の担当は家に来ると冷蔵庫を勝手に物色するチンピラ編集者です。全ての指を突き指しろお前は」 ……とやったと思えば、担当さんも例の柱スペースで、 「なぜか電話が繋がらず連絡が取れない空知英秋先生の作品が読めるのは週刊少年ジャンプだけ!!」 ……などと、オチまでつけて逆襲。絶対仲良いだろお前ら、と言いたくなるような連携プレーが見事ですね(笑)。今週の『銀魂』は笑い所が少なかったので、こういう所で小ネタを利かせたんでしょうか。 あーあと、今週の巻末コメントでは、 ◎『武装錬金』(作画:和月伸宏)【現時点での評価:A−/雑感】 ところで、斗貴子さんの「スパルタンだけど、完全な冷血漢になり切れない部分」の描写は秀逸でしたよね。特にカズキの腕を切り裂いておいて、自分も痛そうにしている表情を挟むのが絶妙です。しかし、それでもいくら本気度を示すためだとはいえ、身内に目潰しはやり過ぎだろうと(苦笑)。
数少ない03年度生き残り組の一角も、低迷する人気には勝てず、3クールで打ち切りとなってしまいました。巻末コメントによると、『サバイビー』の時のように単行本最終巻での加筆修正があるみたいですね。 最終確定評価は、打ち切りが濃厚になった終盤でやや展開が拙速になった分を差し引いてB寄りB+としておきます。
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2003年度第114回講義 |
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「ギラン・バレー症候群に酷似した免疫系の原因不明の病気」みたいな厄介な病気の手術(と言うか、免疫系の病気で外科手術?)を、民間の普通の総合病院でやっちゃう影にはどのような深遠な裏設定が? ……などと、とりあえず思ってみた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか駒木ハヤトです。 さて、今週は情報系の話題が多いので、取り急ぎ本題へと移りましょう。 まずは新人賞の話題から。今週は「ジャンプ」、「サンデー」共に、月例新人賞の審査結果発表がありましたので、こちらでも受賞者・受賞作を紹介させて頂きます。
受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります。(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい) ※「ジャンプ十二傑新人漫画賞」 ※「サンデーまんがカレッジ」 ……今回は、飛び抜けた逸材には恵まれなかったものの、“新人予備軍”発掘という観点から見ればなかなかの豊作…といったところでしょうか。 まず、「ジャンプ」16号には03年下期「手塚賞」佳作受賞作・『ヘンテコな』(作画:千坂圭太郎)が掲載されます。 一方、「サンデー」の16号に掲載されるのは、『ダグラーバスター クウ!』(作画:松浦聡彦)。かつて『タキシード銀』をスマッシュさせ、最近では系列誌の『サンデーGX』でも連載されていた松浦聡彦さんが、“創刊45周年記念特別読み切り”という名目で久々の週刊本誌復帰となりました。 ……それでは、今週分のレビューとチェックポイントです。レビュー対象作は、「ジャンプ」の新連載1本、「サンデー」は新連載第3回と読み切りが各1本で計3本。また、チェックポイントも今週は増量でお送りします。 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。 ☆「週刊少年ジャンプ」2004年15号☆ ◎新連載『未確認少年ゲドー』(作画:岡野剛) 今週から始まりました、春の新連載シリーズ。トップバッターは、2連続の短期打ち切りを克服しての再登場、ベテラン・岡野剛さんです。 岡野さん──かつてはのむら剛のペンネームでも活動──は88年上期の「赤塚賞」で『AT(オートマチック)Lady』が入選を受賞し、88年33号に受賞作掲載の形でデビュー。この作品は89年に連載化され、岡野さんは現役の学生との兼業というハンデを抱えつつ初の週刊連載に挑みますが、これは残念ながら1クール・10回打ち切りに終わります。 ……では、作者紹介が長くなりましたが、作品の内容へ参りましょう。 まずは絵についてから。もうこれは岡野さんの作品をレビューする度に申し上げている事ですのですが、非常に完成度の高い“マンガ用の絵”だと思います。 一方、ストーリー・設定なんですが、この第1回は、昨年発表のプロトタイプ版をベースに微調整を加えて仕上げた、一話完結型のエピソードでした。主要キャラクターや世界観の提示をする一方で、物語全体のプロローグ的なシナリオを上手く展開させており、こちらも好感度の高い仕上がりではないかと思えます。 さて評価なのですが、先述した通り、まだ読み切り版のエピソードを再構成したプロローグが終わったばかりなので、今回は保留としておきます。ただ、ここから目新しい展開がない限りは、読み切り版の評価(B寄りB+)を超える事は無いとお考え下さい。 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 「バレンタインチョコ届きました」という、駒木にとっては心底どうでもいいコメントが複数見受けられる中、チョコはチョコでも、小説・『グミ・チョコレート・パイン』(作:大槻ケンヂ)について述べていたのが和月伸宏さん。そう言えば、パイン編出たんですよね。駒木は相当後からの読者ですから知らなかったんですが、8年待ちとは(笑)。 ◎『ONE PIECE』(作画:尾田栄一郎)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 デービーバックファイト2回戦はゾロ&サンジ組の勝利で終了。駒木の勝敗予想は外れてしまいました(笑)。それにしても、往年のクラッシュギャルズVS極悪同盟を思わせるあのレフェリングには笑わせてもらいました。 ◎『遊☆戯☆王』(作画:高橋和希)【開講前に連載開始のため評価未了/連載総括】 96年から中断を挟んで足掛け8年。『こち亀』を除けば最古参の連載作品だった『遊☆戯☆王』もついに完結となりました。最近は掲載順も低迷していましたが、センターカラー&大増ページでの“円満完結”タイプの最終回となりました。 ……これほどまでに商業的な成功を収めた作品について、駒木なんぞがあれこれ言うのは僭越だと言わざるを得ません。が、それでも敢えて、このゼミとしての連載総括をさせて頂きます。ファンの方には少々耳の痛い事もお話しなければならないかと思いますが、ちょっとの間だけ、スルーをお願いします(笑)。 さて、この作品を語るには、やはり一連の“カードバトル”をどう評価するか…という事に尽きると思います。 あと、ストーリー全般については、各方面からの不可抗力が強かったにせよ、連載期間、特にカードバトル路線で引っ張った期間が長過ぎ、ストーリー全体が冗長に陥ってしまったような気がします。連載終盤の掲載順と単行本売上げの低迷は、その辺りを客観的な部分で示していたのかも知れません。 当ゼミとしての最終確定評価は、“功労賞”的なボーナス点も加味してBとしておきます。「大人の事情で名作になる事を許されなかった悲運の人気作」といったところです。 今週もまた演出の素晴らしい事! それがまた理詰めの計算で出来ているから恐れ入ったというところですね。 いやはや、キてますなあ。強烈なハードコア&スピーディ展開。普通の少年マンガのバトルシーンが展開されていたはずなのに、いつの間にか凄い状態になってますね。 ◎『いちご100%』(作画:河下水希)【現時点での評価:B/久米田康治先生をリスペクトした雑感】 ※今週月曜日、駒木と順子ちゃんの電話による会話の一部を再現。 順子:「……あ、そう言えば博士、今週の『ジャンプ』読みました?」 そこまでやられたら、もう何も言えません。
◎新連載第3回『思春期刑事ミノル小林』(作画:水口尚樹)【第1回掲載時の評価:B+】 2週間前の13号から連載が始まったこの作品も、今回で第3回。後追いレビューを実施させてもらいます。 まず、ギャグを効果的に見せるテクニックに関しては、前回のレビューで申し上げた通り申し分無いと思います。今回では反則スレスレのパロディも挟みつつ、ギャグの密度を濃くしようという意欲が窺えますね。 評価はランクを下げてB+寄りBと一旦後退させておきます。地力はある作家さんですから、持ち直せば改めて高い評価をつけられると思うのですが……。
さて、先週のこの時間でも紹介しましたように、今週は読み切り作品が掲載されています。 では、レビューへ。 次にストーリーと設定について。 評価はB−とします。とりあえず力を注ぐベクトルを変えた新作をもう1回拝見してみたいところです。 ◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 巻末コメントのテーマは、「今までで一番の親孝行は何ですか?」。 ちなみに駒木の親孝行は……困ったな、無いぞ(苦笑)。それこそ健康で死ななかった事だけで、親不孝だけは数え切れないほどしてますからねえ。この年になって、未だに毎年就職で苦労してるんですから……。まぁ出世払いする心の準備はあるんで、長生きしてもらいたいものです。 ところで、今週の「サンデー」で駒木が一番笑わせてもらった箇所は、『美鳥の日々』の最終ページ柱の煽り文、 ◎『うえきの法則』(作画:福地翼)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 引っ張りに引っ張り続けてきた、森あいの能力がついに発動。なんと「相手をメガネ好きにする能力」という洗脳系能力でした。 ◎『かってに改蔵』(作画:久米田康治)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 今週、当講座の談話室(BBS)で盛り上がってるのが、今週の『改蔵』に出て来た、マンガ錬金術について。大体答えも出揃って来たようですが、「サンデー」作品をネタにしていないのは、没になったのか、それとも武士の情けでしょうか。 ◎『ハイスクール奇面組』+『ボンボン坂高校演劇部』+柔道=? ……とか、ミもフタもないネタはいくらでも作れるわけですが(笑)。まぁ、ミもフタも無さ過ぎてネタになりませんか。 ところでお忘れかも知れませんが、当社会学講座ウェブサイトは、 『ちゆ12歳』+タモリの密室芸『教養講座』+浅田次郎さんのエッセイ集『初等ヤクザの犯罪学教室』 ……の練成によって誕生したものであります(笑)。 |
2003年度第113回講義 |
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「青マルジャンプ」のレビューとモデム配り仕事でゲンナリしている内に、いつの間にか土曜日に……。お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。 では時間も押してますし、早速情報系の話題から。
今回も前回の年末シリーズに続いて、“標準モード”の3作品となりました。いずれもプロトタイプ読み切りからの昇格組、また、かなりの準備期間を置いての連載始動という事になりますね。 ところで今回のラインナップですが、当講座的には、「コミックアワード」のグランプリ候補(=最優秀新人ギャグ作品部門受賞)の『スピンちゃん』とラズベリー候補の『少年守護神』が同居するという、非常に趣深いモノとなりました(笑)。 ……さて、今日は情報をもう一件。「サンデー」から読み切りの情報を。 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。 ☆「週刊少年ジャンプ」2004年14号☆ ◎読み切り『BULLET CATCHERS』(作画:夏生尚) 今週は2作品取材休載ということで、読み切り作品の掲載となりました。今回は、「手塚賞」と「赤塚賞」の告知も兼ねて、前回の「赤塚賞」(03年下期)で準入選を受賞した夏生尚さんが、その受賞作で初の“正規読み切り枠”獲得です。 それでは内容についてお話してゆきましょう。 そして、これまで懸案だったギャグについてですが、確かに前回までに比べると、格段に見違えています。これは恐らく、1ページマンガをやめ、通常スタイルに転向した事が功を奏したのではないかと思います。夏生さんはいわゆる“起承転結”をハッキリさせる事を苦手としていましたから、オチをつけないまま小ネタを繋げていくスタンスは本質的に向いているはずですしね。 評価は、「連載ギャグマンガでスランプ気味の回くらいの出来」ということでBとしましたが、どうでしょうか。
◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 以前、コメント欄で話題になり、以来密かにコアな読者の間で注目されているのが、空知英秋さんが『銀魂』の欄外の告知(「○○先生の作品が読めるのはジャンプだけ」/「○○先生にお便りを」)でどう紹介されているか…というもの。 「エアコン無くて凍えそう!」 ◎『アイシールド21』(作:稲垣理一郎/画:村田雄介)【現時点での評価:A/雑感】 アメリカ横断ウルトラトレーニング(笑)。 そういや、単行本7巻ゲットしたんですが、今回のおまけページは主要キャラクターの中学時代の卒業アルバム(想い出の写真、本人のコメント&将来の夢、恩師や当時の友人の寄せ書き)。で、これまた芸が細かくて……。特にまもり姉ちゃんの寄せ書きに女子グループ独特の雰囲気が出てて、「さすが」と思ったりしました。 ◎『武装錬金』(作画:和月伸宏)【現時点での評価:A−/雑感】 ◎『銀魂』(作画:空知英秋)【現時点での評価:B/雑感】 今回はデビュー作『だんでらいおん』を思い出させる、非常に良質な人情芝居だったと思います。「意外と可愛い女の子描かせると上手い」という空知さんの才能が、やっと作品の出来と結び付きましたね(笑)。
1クール・ジャスト10回にて無念の打ち切り終了。見事なまでの“純正突き抜け”(=語源の意味となった『ロケットでつきぬけろ!』の連載回数、また「ジャンプ」創刊時からの伝統的な1クール打ち切り回数が10回のため)となってしまいました。 連載を振り返ってみると、「過去の梅澤作品から、テーマと主人公たちの夢を取っ払ったような作品」になってしまったような。まさに第1回レビューから申し上げて来た“縮小再生産”作品だったのではないでしょうか。 あ、忘れるところでしたが(正確に言えば8日の午後まで忘れていましたが^^;)、最終評価は問題点を解消しないまま、中身に乏しいシナリオをズルズル引きずってしまった…という事で、第3回時点から大幅に減点してB−とさせてもらいます。 ☆「週刊少年サンデー」2004年14号☆ ◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 巻末コメントのテーマは、「苦しい時は、どんな事を思い出して頑張りますか」。 ◎『からくりサーカス』(作画:藤田和日郎)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 ◎『きみのカケラ』(作画:高橋しん)【現時点での評価:B−/連載総括】 10週に渡る敗戦処理が終了。こういう形の完結のさせ方は、恐らくあらゆる読者が望んでいなかったと思うんですけどね……。続けるんなら、とことんまで面倒見るべきだと思いますし、打ち切るんだったら休載の段階で打ち切っておいた方が、まだ救いがあったんじゃないかと。 こちらは大団円で連載完結。最後は典型的なエピローグ的最終回でしたが、まぁ王道と言えば王道ですよね。
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2003年度第112回講義 |
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お待たせしました。「週刊少年ジャンプ」の新増刊・「青マルジャンプ」の作品レビューをお送りします。 ところで今回の「青マル」は、週刊本誌や「赤マル」に比べて質の良い紙が誌面に使われていましたね。メイン企画の主役・荒木飛呂彦さんに敬意を表したのか、それとも荒木さんのメイン読者層(高年齢層)を見込んで「50〜100円程度の価格差よりも紙質」と考えたのか、どちらにしろ読み易くて良かったです。 ……と、余談はさておき、早速レビューへと参りましょう。レビュー対象作は、少ページで“余興色”の強い『スティール・ボール・ラン』番外編を除く、新人・若手作家さんの11作品です。長丁場になりますが、最後までどうぞお付き合いを。 当ゼミの7段階評価についてはこちらをご参照下さい。 ◆「青マルジャンプ」新人・若手作品レビュー◆ ◎読み切り『いのちやどりしは』(作:高野勇馬/画:落合沙戸) トップバッターは、「ジャンプ」の出世頭・「ストーリーキング」ネーム部門の準キング受賞作。この賞と言えばマイナージャンル作品ですが、今回はなんと日本の伝統芸能・文楽が題材。いやはや、「ジャンプ」は本当に懐の深い少年マンガ誌ですね。 さて、作者のお2人ですが、まず原作者の高野勇馬さんは、今作で03年下期「ストーリーキング」ネーム部門準キングを受賞したばかりの新人原作者さん。よって、これがデビュー作という事になりますね。 では、作品の内容について。 ただ、残念ながら、その絵の完成度の前に肝心の原作ネームのクオリティが負けてしまったように思えます。 評価は絵の分を0.5ランク加点してB+寄りBとします。 ◎読み切り『歌歌』(作画:角石俊輔) 2番手は今回デビューの新人・角石俊輔さんが登場です。角石さんは03年4月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りを果たしていましたが受賞歴は無し。今回は恐らく掲載作品決定のプレゼンを一次段階から潜り抜けての掲載枠獲得かと思われます。 それでは作品についてですが、まず絵は、一言で言って「紙質が良くて助かりましたね」といったところでしょうか。通常の紙質なら細かい線やスクリーントーンの目が潰れたりしてヤバかったでしょう。全体的に黒っぽい絵柄だけに、下手をすると“パッと見で読んでもらえない級”の悲惨な事になっていたかも知れません。 次にストーリー・設定について。こちらも残念ながら短所の方が目立ちます。 評価は絵の分の減点もありますので、厳しめにいってB−。センス皆無というわけではありませんが、「ジャンプ」で成功するためにはかなりの精進が必要だと思います。 ◎読み切り『ピアニカぼうや』(作画:真波プー) さて、3番手は「クセのある新人作家を集めた増刊」(荒木飛呂彦ロングインタビューより)というコンセプトが最も似合う、真波プーさんの登場です。 で、作品の方ですが……。 ──どうレビューせえと(汗)。 ……と、いうのが第一印象でした(苦笑)。作品紹介に「異才」とか「超新感覚」とかいった、“「普通じゃない」という事を表現するフレーズ”がバンバン飛び出すのも肯けます。普通のマンガのフォーマットで作られてないですね。どちらかと言うと、子供向けの絵本に近いスタイルでしょう。 絵は主流から完全に外れている画風であるものの、洗練されたタッチで好感が持てます。表情を「ワー」という擬音で表現するあたりなどにマンガ黎明期の実験的作品を思わせる妙なレトロさが感じられ、味わい深い仕上がりになっています。良いんじゃないでしょうか。 しかし、本当に対処に困るのがストーリーについてです。 まぁ、それでもとりあえず、シナリオの流れや技巧の凝らされ具合に着目して話を進めてみます。 というわけで評価です。昔懐かし「ボキャブラ天国」で、“シブ知”と“バカパク”の作品を比べるような難しさはあるのですが、減点材料のほとんど無い作品をBクラスにするわけにも行きませんので、ここは謹んでA−を進呈したいと思います。
超異色作に続いては、これがデビュー2作目となる坂本裕次郎さんの登場です。 それでは今作の内容について。それにしても、こちらレビューし辛い作品でした(笑)。 まずは比較的論評し易い絵の方から。未熟な画力を迫力で誤魔化している印象の強かったデビュー作から一転、随分とアカ抜けて来たように思えます。持ち味を残しつつ、画面構成がスッキリして見易くなりましたね。 さて、問題はストーリー・設定。恐らくこちらは読み手によって、評価が大きく真っ二つに分かれるのではないかと思います。
…という島本和彦イズム漲るというか、丹波哲郎・『大霊界』イズム溢れるというか、そのような堂々たる開き直りが読み手に伝播して、妙な爽快感を喚起するのでしょう。よく見れば登場人物も、そんな非現実的な世界観に対応するように、気持ち良いほど現実社会に適応出来ない連中ばかりが揃えられており、意外な所でキチンと計算された設定構築が為されている事実が窺い知れます。 また、そんな突飛な設定に隠れがちですが、シナリオ構成も興味深いモノになっています。 さて、評価です。どのファクターを加点・減点の対象にすれば良いのか非常に迷うところではありますが、それでもやはり、「世界観が突飛過ぎて読み手を選んでしまう」という点は大きな減点対象になってしまうと思います。シナリオの全編ダイジェスト化も反則と言えば反則ですし、よって今回はB+が妥当と判断させてもらいました。 ◎読み切り『生涯おやじ道』(作画:楠優一郎) さて、次に登場するのは、今回唯一のギャグ作品。今回がデビューとなる楠優一郎さんの登場です。 それでは作品の内容、まずは絵についてから。 しかし、ギャグに関しては優れたセンスの片鱗を感じさせる、なかなかの出来だったと思います。前フリの段階の踏み方、小ネタで間を繋ぐ技術などには非凡なモノが窺え、確かな才能を感じさせます。タイプで言うと、「サンデー」の水口尚樹さんに似たような作風でしょうか。 評価は画力の減点も加味してB+寄りBとしておきます。 さて、やっと折り返し地点です(笑)。ここで文字通りセンターカラーで登場は中島諭宇樹さん。目次の扱いから見て、今回の若手・新人枠では“大将格”という事になりますか。 ……それでは、今回の作品について述べてゆきましょう。 絵については、基本的な部分では全く問題ないですね。村田雄介さんのスタジオで鍛えられた成果か、かなり手間隙のかかる俯瞰シーンなども恐れず挑戦しており、モチベーションの高さも窺えます。「ジャンプ」系の若手作家さんの中ではトップクラスの水準に達しているのではないでしょうか。 ストーリー・設定は、今作もデビュー以来の好感度の高い“中島ワールド”が展開されていますね。スケールの大きな世界観は健在ですし、ストーリーテリング力にも確かなモノを感じます。 評価はラストシーンの素晴らしさを最大限評価しつつ、諸々の減点部分を相殺してA−としておきます。ちょっと甘めでしょうか?
さて、ようやく峠を超えた7番手は、これがデビュー2作目となる田中靖規さんの登場です。 では、作品について。 デビュー時から定評のあった絵に関しては、今回も特に大きな欠点は見当たりませんでした。表情やアングルぼバリエーションがが単調なのが少々気になりましたが、作品の完成度を落とすまでには至っていません。ディフォルメ表現も出来るみたいですし、絵柄にメリハリをつければもっと良くなるでしょう。 ただ、一方のストーリー・設定は、肝心なところで詰めを誤ってしまった感が拭えません。 「不死であるという事がメリットよりもデメリットの方が勝るという実感を読み手に与える作業」 「バトル等において主人公の肉体的な痛みを強調して、読み手に“ハラハラドキドキ感”を与え、主人公への感情移入を促進する作業」 「神が主人公に与えた試練やそのルールに理論武装を加え、話全体にもっともらしさを出す作業」 ……以上3つの作業が欠如しており、結果として読み手が作品世界に没入する事を阻害する原因を多く作ってしまったのです。もう少しネームを練っていれば、随分と印象が違っていただろうと思えるだけに、本当に勿体無い気がしてなりません。 評価はBとしておきましょう。ただし、将来的には大化けする可能性も残されている作家さんだと思いますので、今後に期待したいところです。 続いてもデビュー2作目の作家さんが登場。これが2年半振りの復帰作となる萩野英貴さんです。 というわけで、作品の内容について。 そしてストーリーと設定は、根本的な部分も含めて問題点が山積です。 評価はC寄りB−。何とか凝ったお話にしようという意気込みは買えるのですが、それでもここが精一杯といったところ。妥協の無いシナリオ作りが今後の課題となるでしょうね。
ここからは全てデビュー作の新人作家さんで固められています。まずは03年下期「ストーリーキング」マンガ部門準キング受賞者・岩代俊明さん。デビュー前から積極的な同人活動を展開していたようで、念願かなってのプロデビューといったところでしょうか。 ……では作品について。ストーリーキング受賞作という事で、シナリオ・設定に目が行きがちになりますが、ここは絵もキチンと見させて頂きます。 ということで、まずは絵から。投稿作品が即受賞というキャリアを考えると致し方ないのですが、デッサンの荒さや背景の寂しさが目立ちますね。“マンガの文法”的な表現技術は出来ていると思いますので、あとは手にプロとしての技術を染み込ませるだけでしょう。 さて、注目のストーリー・設定ですが、こちらは高いセンスと才能の萌芽は窺えるものの、作品全体のクオリティとしてはまだまだ未完成…といったところでしょうか。 以下、多分に推測が混じりますが、現在の岩代さんはストーリーテリングに必要な技術を理詰めではなく感覚で身に付けている状態なのでしょう。言い換えると、「これをすると良い結果に繋がる」という事は分かっていても、「何故、これをすると良い結果に繋がるのだろう」という部分は理解出来ていないんではないかと思うのです。それ故に、肝心な部分で歯抜けがあっても気がつき難いという次第。 これも評価が難しい作品ですが、短所も目立つがセールスポイントも確かにある…という事でB+にしておきましょう。次回作に期待です。 ラスト2作は昨年秋の「十二傑賞」受賞デビュー組から。月次順ということでしょうか、03年10月期佳作&十二傑賞受賞の里谷竜希さんが“先攻”となりました。 絵に関しては、背景処理や動的表現などは受賞作デビューとは思えないほど手馴れていますね。詳しくは判りませんが、かなりのアシスタント経験があったと考えるのが自然でしょう。 一方、ストーリー・設定は、ただ一言「見るも無残」といった感じです。 評価はギリギリでC寄りのB−。あとほんの少しで“死刑宣告”になるところでした。
いよいよラスト。皆さんここまでお疲れ様です。でも駒木の方がずっと疲れてるんですよ……などと、独演会で3席目の高座に上がる落語家のようなネタをかましつつ、まずは作家さんの紹介から。 ここでデビューを果たす村瀬克俊さんは、03年11月期『十二傑新人漫画賞』で佳作&十二傑賞を受賞し、デビュー権利を掴みました。他に受賞歴等は無いのですが、後述するように洗練された絵柄からすると、この人もアシスタント経験があるのかも知れません。 ……では、作品についてお話してゆきましょう。 まずは先ほども話題に挙げました絵から。 ストーリー・設定は、小説のショートショートを思わせるような渋いシステムを採用していますね。 さて、ではこの『福輪術』がどれくらいこのシステムを上手く活用出来ているのでしょうか? まず、大筋のストーリー展開は上手く構成出来ていると思います。回想シーンを挿入して主人公のキャラクター付けに深みを出す一方で、その過去を現在にフィードバックさせ、シナリオの完成度を高める事に成功しています。 評価はA−寄りB+という事にします。あと一押しなんですけどね。あ、あとこの作品は「ジャンプ」の主流からはかなり外れていると思われますので、コンスタントに人気投票で上位に食い込むためには、作風の大幅変更も厭わない覚悟が必要だと思います。
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2003年度第111回講義 |
少々講義実施が遅れましたが、今週分のゼミを始めます。 しかし、今週は各方面から色々なニュースが入って来ましたね。確定情報じゃないモノもありますので、先にちょっとまとめてしまいましょうか。 1.島袋光年氏、復帰? 02年に児童買春(高校生相手の援助交際)で逮捕、起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けた島袋光年氏が、「スーパージャンプ」で復帰する事が確実視されています。「スーパージャンプ」次号予告に掲載のシルエットで隠されたキャラクターは、どう考えても『世紀末リーダー伝たけし』の主人公であり、確定ではないもののほぼ間違いないかと。 2.「週刊少年サンデー」にコナミへの謝罪広告掲載 ネット上でも話題になりましたが、「サンデー」の今週号(13号)に、誰にも発見されないような小さい謝罪広告が載り、その事を謝罪を要求したコナミが仰々しく発表しました(笑)。 3.「ジャンプ」次期新連載作品内定 2ch掲示板のジャンプ関連スレッドをよくご覧の受講生さんはご存知でしょうが、次々号からの「ジャンプ」で始まる、春の新連載シリーズのラインナップが決まったようです。もう既に来週号(14号)の次号予告と思しき誌面がネット上にアップされていますので、99%以上確定と見て良いでしょう。 まずは読み切り情報から。来週(14号)の「週刊少年ジャンプ」に『BULLET CATCHERS』(作画:夏生尚)が掲載されます。この作品は03年下期「赤塚賞」の準入選作品で、夏生さんは過去に「赤塚賞」佳作受賞と、その受賞作掲載を含む2度の代原掲載の経験があります。 次に連載終了の情報を。「週刊少年サンデー」の連載作品の内、『ファンタジスタ』(作画:草葉道輝)と『きみのカケラ』(作画:高橋しん)が次週で最終回となります。 最後に「サンデー」にギャグ系新人賞新設という話題を。 ……それでは、今週のレビューとチェックポイントへ参りましょう。レビュー対象作は、「ジャンプ」から読み切り1本、「サンデー」から新連載と新連載第3回の後追いレビューが各1本で、都合3本となります。 いつも忘れがちになるんですが、7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。 ☆「週刊少年ジャンプ」2004年13号☆ ◎読み切り『ハッピー神社 コマ太!』(作画:後藤竜児) 新連載シリーズを前に、若手作家さんの読み切りプチシリーズがスタート。今週は、現在高橋和希さんのスタジオでアシスタントを務めている後藤竜児さんが登場です。 では、作品についてお話してゆきましょう。 次にギャグなどについて。こちらは問題大と言わざるを得ないでしょう。 評価ですが、酷い出来ではあるものの、何とかマンガとして成立しているように思えますので、C寄りB−としておきます。ただ有り体に言って、今後の後藤さんの前途は多難と申し上げる他無いでしょう。 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 今週の巻末コメントには特記すべきモノは無かったですかね。「冨樫さん、本当にコメントに力入れてないな」と思ったくらいでしょうか。 ◎『アイシールド21』(作:稲垣理一郎/画:村田雄介)【現時点での評価:A/雑感】 稲垣&村田さんの演出力が遺憾なく発揮された回ですね。「小早川セナ 21番! ポジションはランニングバックです!」というカミングアウトを、丸々1回使って極限まで効果的に見せた技術には感服の一言です。 ◎『いちご100%』(作画:河下水希)【現時点での評価:B/雑感】 あんまりいると思えないけど、高校生以下の男子受講生諸君に言っておく。 ──こんな合コンは、高校ではまず有り得ないからな! ファンタジーだ!(笑) これはどう考えても合コンではなくてキャバクラですね……とか言って、駒木はキャバクラ行った事ありませんが(金払ってまで、他人を笑わせるために気を遣いたくないので)。 しかし、高校教員に復帰するとなると、この手のマンガ読んでも軽はずみに「駒木も高木君と同じく唯派です。趣味合いますなー」とか言えなくなりますなー(苦笑)。なんだか、異様に生々しい発言になってしまうのが自分でも解ります。シャレがシャレで通じなくなると言うか。これは受講生の皆さんのご理解を賜らなければ……。 ☆「週刊少年サンデー」2004年13号☆ ◎新連載『思春期刑事ミノル小林』(作画:水口尚樹) 昨年末からスタートした飛び石新連載シリーズもいよいよラスト。「サンデー」ギャグ系新人の出世頭・水口尚樹さんの登場です。 さて、それでは今回の内容についてお話してゆきます。 絵に関しては、純粋な画力で見た場合、やはりギャグ作品という事を差し引いてもギリギリで及第点レヴェルといったところでしょうか。ただ、いわゆる“マンガの文法”──絵を効果的に見せるテクニックは十分備わっていると思われ、総合すれば決して印象は悪くありません。 次にギャグに関して。まず純粋な「笑える、笑えない」は別にして、テクニックは一流の域に達していると思います。ページをめくった直後にオチを持って来る高等技術は相変わらず健在ですし、小ネタの挟み方や前フリの盛り上げ方も見事です。 ……それでは評価です。今回は結果として読み手の爆笑を引き出すには力至らず…という事になったようですが、その結果の奥に潜んでいる非凡な能力も決して見逃す事は出来ません。 ◎新連載第3回『こわしや我聞』(作画:藤木俊)【現時点での評価:保留】 続いて、同じ新連載シリーズの『こわしや我聞』について、第3回時点での再レビューをお届けします。 絵については、早くも週刊ペースに手が順応して来たのでしょうか、第1回に比べてソツが無くなって来ました。もっとも、絵柄が師匠の草葉道輝さんの劣化コピー状態に留まっているのも事実ですので、更なる精進を求めたいところですが。 ただ、ストーリー・設定に関しては、第1回時点で指摘させてもらった問題点は未解決のまま、更に減点材料が積み重なっていっている現状です。 評価はギリギリでBといったところでしょうか。上位〜中堅どころが高値安定し、その一方で昨秋以来の“不良債権”的作品が相次いで打ち切られている現状、安定長期連載を勝ち取るためには、あと一押し二押しが必要になって来ると思われます。 ◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 巻末コメントのテーマは、「他人に一番言われたくない言葉」。 ……さて、今週のチェックポイント、本当なら『怪奇千万! 十五郎』を大々的に採り上げたい所なんですが、また顰蹙買いそうなので自粛しときます(笑)。まぁ、簡単に言うと、心底オチの無い平坦な話を、3週にわたって、話が進めば進むほど尻すぼみになるよう展開していったんですけどね。 ◎『MÄR(メル)』(作画:安西信行)【現時点での評価:B】 この作品をここで採り上げるのは随分久し振りのはずなんですが、今回は残念ながら賛辞ではなくて苦言です。 今週、今回のバトルゲーム初の死者という事で、最終ページに「遊びなんかじゃない……これは戦争なんだ…!!」という煽りが付けられたんですが、これで「ああ、そうか」と納得した事がありました。 この作品も連載丸1年を過ぎ、中堅で安定しているような感がありますが、そこに甘んじず、今一歩のクオリティアップを目指してもらいたいところですね。 ◎『美鳥の日々』(作画:井上和郎)【現時点での評価:B+/雑感】 ちなみに「女の子キャラに男物Yシャツ」というシチュエーションについて真面目に考察してみますと、こういうのは“華奢”、“無邪気さ”、“恥じらい”という3つの要素を組み合わせないと、“萌え”の記号に成り得ず単なるギャグになっちゃうわけですね。その辺までちゃんと分かって、ギャグにしているこのマンガは凄いという事なんですが。
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2003年度第109回講義 |
もの凄い勢いで『怪奇千万! 十五郎』の掲載順が下降している今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。今週も「現代マンガ時評」のお時間がやってまいりました。 ……それでは、今週も情報系の話題から始めましょう。今日は新作の話題が3件入って来ています。 1件目。「週刊少年サンデー」の次号(13号)から、『思春期刑事ミノル小林』(作画:水口尚樹)が連載開始となります。予定から1週遅れになりましたが、無事に連載開始に漕ぎ付けたみたいですね。 続いて2件目。次号(13号)の「週刊少年ジャンプ」では、読み切り・『ハッピー神社・コマ太!』(作画:後藤竜児)が掲載されます。 そして3件目。こちらは直近の話題というわけではありませんが、公式アナウンスがありましたので紹介しておきましょう。 ☆「週刊少年ジャンプ」2004年12号☆ ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 今週の巻末コメントは無難なモノが多くてちょっと残念。強いて挙げるなら、「この号の仕事中に24歳の誕生日を迎えました」という矢吹健太朗さんでしょうか。 ◎『スティール・ボール・ラン』(作画:荒木飛呂彦)【現時点での評価:A/雑感】 『SBR』版ディオ騎手の馬を追い抜かす理論、よくよく考えたら全然理屈合ってないんですが(苦笑)。一気に差を詰める方法って事なんでしょうが、2頭の素のスピードが計算に入ってないんでねぇ……。 ただ、キャラクターの使い方は抜群に上手いですよね。何て言うか、囲碁でいう所の捨てる石と生かす石の判断が絶妙と言いますか。 “エンゼル御前”、いいキャラクターだなあ(笑)。 で、お話の方ですが、早坂姉弟の望みは「母親の蘇生」という事になっちゃうんでしょうか。まぁ、少年マンガだし、インセストタブー方面は難しいでしょうからね。 ☆「週刊少年サンデー」2004年12号☆ ◎読み切り『教育チャンネル みんなのチャンポッピ』(作画:ピョンタコ) 水口尚樹さんの新連載が1週遅れになったからでしょうか、『D-LIVE』の取材休載で1つ空いた掲載枠に読み切りが掲載されました。 今回「サンデー」本誌初登場を飾った作者のピョンタコさんは、現在26歳。96年7月、18歳の時にゲーム物4コママンガでデビューし、それ以来ゲーム誌や「コロコロコミック」、「コミックGATTA」等で読み切りや連載作品を多数発表。「サンデー」系雑誌にも増刊で4作の読み切り掲載と約1年にも及ぶ連載を経験するなど、随分と豊富なキャリアを持つ作家さんです。 まず絵ですが、メジャー誌では余りお目にかかれない独特の絵柄ながら、見辛さは感じられません。個性がキツいだけに描けるジャンルが限られてきそうな嫌いはありますが、ギャグマンガの絵としてなら、なかなかの完成度だと思います。 しかしギャグの方は、少なくとも今回は難アリとせざるを得ません。 評価としては、とりあえず今回はB−くらいが適当かな、と思います。もう1回くらい別の作品を読んでみたいところではありますが……。 ◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 巻末コメントのテーマは、「二度としたくない! と思った苦労話をひとつ」。 ……ところで、今週も小学館漫画賞関連の企画ページが。まぁ『ジャぱん』が賞獲った事は、中邑真輔がIWGPヘビーのベルトを獲ったようなもんだと思ってもう諦めますが、『鋼の錬金術師』の荒川弘さんの名前のルビを間違えたらイカンでしょう。「あらかわ・ひろし」じゃなくて「あらかわ・ひろむ」ですからね。“他社枠なんか、どーでもええわ感”が滲み出過ぎです。 ◎『ワイルドライフ』(作画:藤崎聖人)【現時点での評価:B/雑感】 しかし、回を追うごとに“協力”の欄がバラエティ豊かになっていきますなあ(笑)。特別協力に取材協力に協力って、Vシネマの特別出演、友情出演じゃないんだから。 ◎『美鳥の日々』(作画:井上和郎)【現時点での評価:B+/雑感】 アニメ化を前にして、唐突な沢村の本音告白!
最終ページの柱に載っている担当さんの煽り文・「今後の憲二・青島・澄の三角関係はどうなるの? 乞うご期待」が、余りにも他人事感丸出しで爆笑。 |
2003年度第107回講義 |
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藤田和日郎さんの短編集第2弾『暁の歌』が発売になると言う事で、今週号の「サンデー」に広告が掲載されていました。それはそれで結構なお話なのですが、そこの宣伝コピーに いや多分(というか間違いなく)、広告担当者が“吹いた”のが偶然当ゼミの論評と一致しただけだと思うんですが(笑)、あの作品に敢えてそういう評価をした人って他に知らないので、一瞬狼狽してしまいましたよ。 ──さて、それではゼミを始めましょう。
受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります。(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい) ……初受賞組ばかりだった前回とは対照的に、今回は2年越し、3年越しの“新人予備軍”の方々の活躍が目立ちました。 その名もズバリ「青マルジャンプ」。 コメント不可というか、コメントしたらキリがないような誌名ですが(笑)、創刊号では荒木飛呂彦ロングインタビューという目玉企画を筆頭に、実力派の新人・若手作家さんの作品も複数掲載される模様です。 さて、賞レースと言えば、今週号の「サンデー」で小学館漫画賞の正式な受賞者発表があったのですが、『鋼の錬金術師』と『焼きたて!! ジャぱん』が受賞した少年部門では、他に『アイシールド21』と『うえきの法則』がノミネートされていた事が判明しました。 ……ちょっと脱線しましたが、最後に読み切り情報を。「週刊少年サンデー」の次号(12号)に、ギャグ読み切り・『教育チャンネル みんなのチャンポッピ』(作画:ピョンタコ)が掲載されます。 ……それではレビューとチェックポイントへ。今週のレビュー対象作は「サンデー」の新連載1本のみということになります。 ☆「週刊少年ジャンプ」2004年11号☆ ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 今週は「ジャンプ」ヒロイン総出演でバレンタインデー大特集の趣。「表紙が恥ずかしくて買えない」という人が各方面にチラホラといらっしゃったようですね(笑)。 ところで、巻末コメント欄で最近やたらと威勢が良いのが空知英秋さん。毎週のように編集さんたちに新人らしからぬ文句をカマしていますが、これは逆に編集さんと上手く行っているからこその“内輪ネタ”なんでしょうね。ストレスをシャレに昇華できる作家さんと、その悪意の篭ったシャレを笑って受け止められるだけの度量のある編集さん。良いコンビじゃないですか。本当に仲の悪いコンビだとこうは行きませんからね。とてもじゃないですが公に出来ませんもの(笑)。 ◎『ONE PIECE』(作画:尾田栄一郎)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 デービーバックファイト1回戦終了。「メンバー1人離脱」というシナリオが公然の秘密になっている状態ゆえ、この勝ち負けも初めから読めてたんですが、それでもなかなか楽しめるエンターテインメントでした。 しかしこのまま行くと、2回戦もルフィチームの負けで、3回戦にルフィが勝った時に2人のうち誰を奪還するか迷う……という展開になりそうですね。ひょっとしたら、連載開始以来最大の修羅場になるかも知れません(笑)。
連載9回目で掲載順6位、そして次週にセンターカラー&増ページということは、ほぼ今期残留確定と考えて良いでしょうね。 ◎『武装錬金』(作画:和月伸宏)【現時点での評価:A−/雑感】 今回から始まった戦闘シーン、至る所で強い既視感があるなぁと思ったら、例の『Fate/staynight』でした(笑)。ネタバレになるので詳しくは言いませんが、「おお、このシーンは○○の××そっくりじゃないか!」…などといった場面も。
連載当初から色々な意味で迷走気味だったこの作品ですが、どうやら作品の方向性は固まって来たみたいですね。シナリオの重厚さを敢えて犠牲にし、ギャグマンガに近い作風に持っていっています。 ☆「週刊少年サンデー」2004年11号☆ ◎新連載『こわしや我聞』(作画:藤木俊) 「週刊少年サンデー」の新春飛び石新連載シリーズ第3弾は、増刊連載から昇格となった、藤木俊さんの『こわしや我聞』です。 藤木さんは元小学校教員という経歴を持つ(受講生さんから情報を頂きました。感謝!)方で、先月30歳になったばかり。 ──それでは、作品の内容について述べてゆきましょう。 絵については、まだ若干キャリア不足ゆえのアラが目立つものの、基本的なマンガ的表現については及第点を出せるのではと思います。アシスタント経験が活きているのか、背景等の画面処理も上手いですね。アシスタントの使い方も作家の技量の内ですから、これは評価しないといけないでしょう。 ストーリー・設定については、一言で表現すれば「一長一短」といったところでしょうか。 さて、評価ですが、今回はとりあえず保留とさせてもらいます。あと2回ほど拝見して、藤木さんがどこまで設定を練りこんでいたのかを見極めたいと思います。
巻末コメントのテーマは、「いま、一番欲しいプレゼント」。まぁ当たり前かも知れませんが、皆さんバラバラですね。 ◎『美鳥の日々』(作画:井上和郎)【現時点での評価:B+/雑感】 バレンタインウィークだというのに、堂々とオタクネタを展開して来るとは、さすが井上和郎!(笑)。しかしまぁ、初恋の相手が香ばしい感じに成長してますなー。 ◎『かってに改蔵』(作画:久米田康治)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 確かにバレンタインチョコを売る側は13日がピークなわけで、まさにフライングフィーバーなんですけどね。1年程前に講義でやりましたんで詳しくは喋りませんが、まぁ凄い修羅場ですよ、13日午後のデパ地下洋菓子コーナーは……。
◇駒木博士の読書メモ(2月第2週)◇ ◎『鋼の錬金術師』(作画:荒川弘/「月刊少年ガンガン」連載中) ……というわけで、今年の小学館漫画賞・少年部門の“他社枠”受賞作・『鋼の錬金術師』が当ゼミに登場です。 しかしこの作品、凄いです。単行本6巻収録分まで読んだのですが、全編褒める所しか見付かりません。 まず、扱っているテーマの重厚さ、スケールの大きさですね。死生観、政治、宗教などといったシビアなテーマを扱いながら、それらを見事に描き切っています。それも、無難に攻めるのではなく、本質に突っ込みながらもやり過ぎないという絶妙のバランス感覚で。 また、少し細かい所に目を向けても、荒川さんのテクニックの巧みさが光っています。 設定の完成度の高さ、そしてそれを読者に提示するタイミングの巧さも極めて秀逸です。シナリオの進展を優先すべき場面では設定の提示を必要最小限にとどめ、逆に設定をバラす事で大きな効果が得られる時には回顧シーンを交えて一気にバラす。あまりに効果的な演出のために、「設定を説明されている」という自覚すら消えてしまいそうです。 ……というわけで、全ファクターほぼパーフェクトの大傑作です。評価は完結を見てから確定させたいですが、現時点では少なくともA以上と言っておきます。クライマックスで更にもう一盛り上がりあれば、A+まで考えなくちゃならんと思っています。
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2003年度第106回講義 |
『Fate/staynight』も一息つき、9日ぶりの講義再開です。休講中は受講生の皆さんに多大なご迷惑をおかけしましたが、駒木にとっては非常に有意義な“研修”になりました。自分の価値観を再確認し、更に「良い作品とはどういうモノか?」、「良い作品を構成する要素とはどのようなモノか?」…などといった部分の認識も深められたような気がします。 ……さて、この話はまた別の機会を見つけて詳しくさせて頂くとしまして、マンガのお話を始めましょう。今日は今週発売の雑誌──「ジャンプ」、「サンデー」の04年10号についてのゼミとなります。 次号(11号)から新連載となるのは『こわしや我聞』(作画:藤木俊)。増刊号での短期連載作品の“昇格人事”ですね。藤木さんは(正確なデータが無いので詳細不明なのですが)01年頃から増刊で散発的に読み切りを発表し、03年には今作のプロトタイプとなる作品を4ヶ月連載。そして、今回が初の週刊長期連載というわけですね。層の分厚い中堅・ベテラン陣の中に食い込んで、どこまで存在感をアピール出来るのか注目ですね。 ……それでは、レビューとチェックポイントへ。今週は「ジャンプ」から新連載第3回の後追いレビューと、代原読み切りのレビューが各1本、そして「サンデー」から読み切りレビュー1本で、都合3本となります。 あ、以前リクエストされてそのままになっていました当ゼミの評価一覧表ですが、こちらからどうぞ。昨年に改定した基準に対応しています。(クリックで新しいウィンドウが開きます。評価一覧表を見ながら受講して頂こうという趣旨ですのでご理解を) ☆「週刊少年ジャンプ」2004年10号☆ ◎新連載第3回『スティール・ボール・ラン』(作画:荒木飛呂彦)【第1回掲載時点での評価:A】 今週のレビュー一発目は、早くも話題沸騰といった感のある『スティール・ボール・ラン』の後追いレビューです。 ……とはいえ、第3回となる今回でも未だプロローグの真っ只中という事で、まだシナリオの中身についてのレビューはやりようがないんですよね(苦笑)。短期打ち切りの心配が無いためか、かなり長いスパンでのシナリオ展開が構想されているようです。 そういうわけで、今回の評価も第1回時点から据え置きでA−寄りAとします。とりあえず本編突入後からしばらく様子を見て、その時にまた評価の変更を検討したいと思います。
今週は『ピューと吹く! ジャガー』が休載のため、代原掲載となりました。目次に断りも無いあたり、編集部も連載を飛ばす事に慣れが出て来たようです(出すなよ)。 今回登場したのは原淳さん。99年11号の初登場以来、今回が1年半ぶり8回目の代原掲載となりました。……というか、5年も代原作家やってどうするんだという声が聞こえて来そうですが(笑)。 さて、今回の内容について。 評価はB寄りB−としておきましょう。1年半前の前作から一歩二歩後退といったところでしょうか。前途は決して楽じゃないですが、頑張って欲しいものです。 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 今週の巻末コメントは、「ジャンプ」の新年会に関するコメントが中心。普通は年末に忘年会なんですが、「ジャンプ」は年明けてからやっちゃうんですね。年明け間もなくて作家さんのスケジュールが詰まらない内に(笑)。 ◎『BLEACH』(作画:久保帯人)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 今回の内容からして、改めて「あぁ、やっぱり久保さんは井上織姫が大のお気に入りなんだな」と実感してしまいました(笑)。しかし、思う存分翻弄される石田も良い感じですなあ。 ストーリーに関しては、なんか最近「一護負ける→試練を経てパワーアップ→一護リベンジ→次の敵に一護負ける→試練を経て(以下略)」の無限ループ状態が目立って来て、少々残念かなーといったところ。せっかくの高い演出力を、シナリオの単調さを誤魔化すだけに使ってしまっては勿体無いと思うんですけどね。
☆「週刊少年サンデー」2004年10号☆ ◎読み切り『ハヤテの如く』(作画:畑健二郎) 今週のサンデーでは若手作家さんの読み切りが掲載されました。久米田康治さんのアシスタント出身と言う畑健二郎さんが本誌初登場です。 まずは絵ですが、酷評するまでには至らないものの、他の「サンデー」連載作品などと比べると、見劣りしてしまうのは否めないところでしょう。特に今回は、女の子キャラが可愛くないと話にならない作品なのですから、これはかなり大きな減点材料となります。 ストーリー・設定に関しても、問題アリですね。 ……そういうわけで、残念ながら今回は問題点だらけの作品ということになってしまいましたね。評価はC寄りB−。一応ギリギリでマンガの体は成しているので“死刑宣告”には至りませんでしたが、本誌連載レヴェルには到底足りないと断ぜざるを得ません。画力、ストーリーテリング力に磨きをかけて、もう一度増刊から出直して貰いたいと思います。 ◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 巻末コメントのテーマは、「続編が見てみたい映画」。 いきなりの新展開はテコ入れではなく、“投了”の形作りだった……というわけで、今回をもって打ち切り最終回になってしまいました。 |
2003年度第105回講義 |
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すっかり「分割版」の体を成さなくなりつつある当ゼミのお時間です(笑)。とりあえず、年度末まではこの名称を続けて、それからまた考えるという感じで行きたいと思います。4月から駒木の身分がどうなるか、本当に判りませんからねえ。 ……さて、それでは今日も情報系の話題から。まずは「サンデー」系の月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」03年11月期の結果発表がありましたので、例によって受賞者等を紹介しておきましょう。
受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります。(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい) 佳作受賞作は、この賞では珍しいギャグ作品。まだ未読なので内容については何とも申し上げられませんが、編集部の評価はかなり高いようで、今後の動向に注目と言えそうですね。 さて、情報系の話題をもう1つ。「サンデー」では来週号(10号)に読み切り・『ハヤテの如く』(作画:畑健二郎)が掲載されます。畑さんは、つい最近まで増刊の方に『海の勇者ライフセイバーズ』という作品を短期連載していました。これまでのパターンで行くと、本誌連載獲得へ向けてのトライアルという事になるのでしょうか。 ……それでは、レビューとチェックポイントへと参りましょうか。今週のレビュー対象作は、「サンデー」の新連載第3回後追いレビュー1本のみということになります。 ☆「週刊少年ジャンプ」2004年9号☆ ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 今週の巻末コメントで光ったのは、やはり「今回の見開きを描いたお蔭でどんな絵を描いても面倒臭く感じなくなりました」と開き直った村田雄介さん。この上無く「今更」な『ウォーリーを探せ』のパロディを、週刊連載の、しかも巻頭カラーでやらされたご苦労、心からお察し申し上げます。 ◎『武装錬金』(作画:和月伸宏)【現時点での評価:A−/雑感】 えーと、大浜>カズキ>六舛>岡倉ですか(笑)。しかし、究極の美形ってどんな形なんでしょうか。 それはそうと、最後のページでその場にいる5人の眼がアップになってるんですが、ホムンクルス特有の眼をしているのは変態バカ2人組だけですね。ということは、早坂姉弟は2人ともまだ人間という事なんでしょうか。
◎『いちご100%』(作画:河下水希)【現時点での評価:B/雑感】 ……などと言っていたら、こっちもベタだ〜(苦笑)。仲間が転校することになって、散々名残を惜しんだ挙句にドタキャンって、一体何年前のパターンなんだ(笑)。まぁ、ツカミとオチを「牛肉と豚肉で夫婦大喧嘩」という部分で揃えて来たのはなかなか見事でしたが。 ☆「週刊少年サンデー」2004年9号☆ ◎新連載第3回『暗号名はBF』(作画:田中保佐奈)【第1回掲載時の評価:A−】 さて、本日唯一のレビュー、『暗号名はBF』の第3回後追いレビューです。 ただ、非常に残念なポイントが1つだけありました。それは先週号(8号)の第2回で、主人公の特殊能力・“誘う目”で幻惑された女情報員が、後から「実は騙されたフリをしていました」と告白するシーンです。これは読み切り版でも似たような問題点があったのですが、素で騙されておいて、その後で「実は騙されたフリをしていたのよ」と告白するのは、かなり無理がある展開ですよね。 ……と、そういうわけで、大きな問題点が浮き彫りになって来たということで、評価はA−寄りB+と半歩後退させておきたいと思います。ただし、勿論のこと、今後の展開によっては評価の変更もあり得ます。
◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 巻末コメントのテーマは、「生まれてからの一番古い記憶」。 ◎『金色のガッシュ!!』(作画:雷句誠)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 こんな緊迫した場面になっても、5ページ半にわたってドタバタギャグを入れる雷句さんの思い切りは相変わらず素敵です(笑)。しかも、メンバー中最も笑いに縁遠そうなレイラをクローズアップするとは、さすがやりますね。 ◎特別企画「哀川翔×井上和郎 スペシャル対談」 まず、内容以前に何ですかこのミスマッチは!(笑)。『ゼブラーマン』公開記念と『美鳥の日々』アニメ化記念を一緒にしてしまうのは強引通り越して反則に近いと思います。憶測で物言ったらまた叱られますが、何だか井上さんが猛烈にセッティングをお願いして実現したような雰囲気満々なのですが(苦笑)。 ◎『結界師』(作画:田辺イエロウ)【現時点での評価:A/雑感】 今回で1つのエピソードが終了。それにしても見事な締め方でした。やっぱりこの作品は読み手を笑わせるよりも泣かせる方がシックリ来ますね。1回ごとの盛り上がりを気にする余り、エピソード通じてのテーマがあやふやになる面があったような気もしますが、田辺さんのキャリアでそこまでを求めるのは酷というものでしょう。 ◎『モンキーターン』(作画:河合克敏)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 今回のレースシーン、本当に秀逸ですねー。その内容が“実際の競艇では滅多に起こらないが、起こった時は最高に盛り上がるような展開”だけに、競艇観戦経験者の駒木としてはエキサイトしまくりました。ちなみに、一番盛り上がる読み方は、2連単1−3の舟券を1点買いしているつもりで読む事ですね(笑)。波多野、行けーッ! とか叫びそうになりますよ。 |
2003年度第104回講義 |
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今週あたりはスケジュール的にも余裕があるし、久し振りに前・後半分割でお届けしようかな……と考えたんですが、ちょっと「サンデー」だけでは講義が成立しそうになかったので、合同版とさせて頂きます。早いところ、旅行記とか別企画とかも進行させなくちゃいけませんしね。 ところで、先の旅行の移動中には宮部みゆきさんの『クロスファイア』を読んでたりしてたのですが、基本的な設定が『デスノート』と『十五郎』の1話目をミックスしたようなミもフタも無いモノながら、強引に力技で読ませる辺りはさすがだなぁ…と思ったりしました。 ──さて、無駄話はこれくらいにして、ゼミを始めましょう。まずは情報系の話題から。
一般社会的にはどうか知りませんが、マンガ業界的には『Dr.コトー診療所』より、少年向け部門の『鋼の錬金術師』でしょうね。他出版社からの作品の受賞自体は、よく「ジャンプ」系作品が受賞しているように、それほど珍しい事ではないのですが、いわゆる四大メジャー誌(というか、実質「サンデー」と「ジャンプ」)以外からの受賞となると、極めて異例ということになります。 しかしこういう場合、これまでなら集英社(=小学館の旧子会社)の大ヒット作を引っ張り出して来て賞のグレードを維持してきたのですが、この度は肝心の「ジャンプ」も“受賞適齢期(連載2年程度)”の作品が極めて手薄で、それも果たせなかったようです。まぁ『ジャぱん』で受賞出来るなら『BLEACH』にも受賞資格はあるとも思えるんですが、過去の受賞作を見ると、「ジャンプ」作品は相当の大ヒット作でないと(少なくとも少年向け部門は)受賞出来ないという暗黙の了解があるみたいですから、今回は見送りとなったようですね。 ……次に、今週は「ジャンプ」系の月例新人賞・「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の11月期分審査結果発表がありましたので、こちらでも受賞者等を紹介しておきましょう。
今回の受賞者&最終候補者の皆さんは、全員が過去の実績ナシという珍しいケースでした。その割には全員が20代の応募者で、フレッシュさを求めているのか即戦力を求めているのか、イマイチよく判らない話になってしまったんですけどね(笑)。 ☆「週刊少年ジャンプ」2004年8号☆ ◎新連載『スティール・ボール・ラン』(作画:荒木飛呂彦) 皆さんもご承知の通り、深刻な新人・新作不況が続く「週刊少年ジャンプ」。遂にここへ来て一度は封印されたはずの“最終兵器”が投入されました。業界内外に熱狂的なファンが数多く存在する事で知られる、ベテラン・荒木飛呂彦さんが満を持しての週刊本誌復帰です。 荒木さんのデビューは1980年で20歳の時でした。第20回(80年下期)「手塚賞」において『武装ポーカー』で準入選を受賞しデビュー。その後、2度の増刊掲載や本誌での読み切り発表などを経て、83年に『魔少年ビーティー』で週刊連載デビューを果たします。この作品と、84〜85年にかけて連載された『バオー来訪者』は、それぞれ単行本1〜2冊分の短期連載に留まったものの、連載終了から20年経った今でも未だに根強いフリークが存在するカルトな作品として有名ですね。 また、この連載は毎週31ページという、週刊連載としては異例の大ボリューム(通常は20ページ未満)とのことですが、ネット上の噂によると、定期的(月イチ?)に休載を挟んでスケジュール調整をするとも言われています。 ──さて、それでは内容についての話をしてゆきますが、この作品は注目度の極めて高い作品でもありますので、無用の誤解を避けるためにも少々前置きをしておきます。 では、まずは絵についての話から。……とはいえ、今年の末にはデビュー25年目を迎えようかというベテラン作家さんですから、基本的には何も口を挟めるわけもないんですが(笑)。冒頭から当たり前のように馬がバンバン描かれていますが、実は動いている馬の絵ってメチャクチャ難しいんですよね。さすがです。 次にストーリーと設定です。 ところで、荒木さんの根本的なストーリーテリング技術は、実は本来あまりスマートなものではありません。相当な設定過多で、そのため必要以上にネームを多用してしまう傾向があります。時には過剰に説明的なセリフが延々と続くシーンもあったりもし、ある意味、橋田壽賀子ドラマのような不自然さが絶えずつきまとう作風でもあると思います。 で、今回の『スティール・ボール・ラン』の第1回を駒木がどう判断したか…という話になるわけですが、結論だけ先に言うと、「かなりよく出来ている」になります。 暫定評価はA−寄りAとします。この調子で行けば、今年の「ジャンプ」を代表する作品の1つになりそうですね。ただ、それがこの雑誌にとって本当に幸せな事かどうかは分かりませんが……。 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 今週の巻末コメントでは、空知英秋さんが、デビュー作『だんでらいおん』を中学生に演劇化してもらったという事で喜びの声。確かに『だんでらいおん』はセリフが多い人情モノのドラマですから、演劇化するには絶好の作品かも知れませんね。しかし、デビュー1年にして、作家冥利に尽きるような体験ですよね。 ◎『ONE PIECE』(作画:尾田栄一郎)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 突如始まったデービーバッグファイト編。尾田さんが昨年から事あるごとに予告していたメンバーの1名離脱は、どうやらこのエピソードで起こりそうですね。ノリそのものは何だか番外編っぽい感じですので、そんな予告でも無ければ、さして注目もされない“暇ネタ”扱いでスルーされてたでしょう。でもまぁ、そうなってたら、実際にメンバーが1人抜けた時のインパクトは、良い意味でも悪い意味でも絶大だったでしょうが……。 ◎『DEATH NOTE』(作:大場つぐみ/画:小畑健)【現時点での評価:B+/雑感】 しかし、次々と心臓麻痺とかで死んでゆく凶悪犯の名前、どう考えてもあり得ない名前ばかりでチョイと興醒め。恐らくは、よくある名前を使うと、同姓同名の読者に悪いから…という事なんでしょうが、これならまだ伏字の方が現実味あるように思えません? ◎『武装錬金』(作画:和月伸宏)【現時点での評価:A−/雑感】 今回は斗貴子さんの登場がわずか3コマなのですが、それでもテンションと話の密度を落とさずに乗り切ってしまうあたり、随分と世界観や設定が成熟して来たものだと思います。ただ、和月さんは『るろうに剣心』時代から、敵キャラの個性付けを異様な外見にする事だけに頼りすぎる悪癖があり、あんまり多用されると現代劇としては少し辛いかな、という気もします。
☆「週刊少年サンデー」2004年8号☆ 巻末コメントのテーマは、「今までで一番ハマったTVゲーム」。 ◎『かってに改蔵』(作画:久米田康治)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 今週はダメコモンセンスですか。何だか先週のネタとかなりニュアンスが似ているような気がするんですが(笑)。 ※プロレスファンの“常識” ※麻雀好きの“常識” ※競馬ファンの“常識” ──まぁこんなところでしょうか(笑)。まぁ“その道”じゃない人で、各分野3つ以上理解出来たら大したもんだと思いますが……。 ◎『売ったれ ダイキチ!』(作:若桑一人/画:武村勇治)【現時点での評価:B/連載総括】 ……と、いったところで今週のゼミはここまで。来週もレビュー対象作が少ないですし、合同版になるかな…といったところです。 |
2003年度第103回講義 |
今週は「週刊少年ジャンプ」が合併号休みのため、前・後半合同版ながら「週刊少年サンデー」関連の内容のみのゼミとなります。明日の早朝からまた1泊3日(また車中泊です^^;;)で東京旅行へ出ますので、こちらとしては都合が良いスケジュールになったんですけどね(笑)。 ところで、最近よく当ゼミのレビューに対するご批判を頂きます。ご批判そのものは以前からも度々頂いていたのですが、ここ10日余り、ご批判が新たなご批判を生む形で、“続々と”という感じで厳しいお声が寄せられる事になりました。 そして、そんなご批判の中では、 1.客観的がウリと公言しているクセに随分と主観的なレビューではないか。 ……といったご意見が大多数を占めます。 まず、1のご意見に関してですが、「客観的がウリ」も何も、駒木はこれまで自分のレビューを「客観的」だと公言した事はございません。全読者の最大公約数的意見から逸脱しないように、という自分への戒めの意味も込めて「少しでも客観的な内容に近づけるよう努力する」という趣旨の事を申し上げた時があったかと思いますが、それはあくまで理想であり、当ゼミのレビューには駒木ハヤト独特の価値観が色濃く現れているはずです。ましてや「俺の評論は客観的だ」などといった傲慢極まりない感情など心の片隅に抱いた事すらありません。 次に2についてですが、自分の思っている事と相反する内容を他人に断定口調で決め打ちされた時というのは、確かに人間、気分を害するものだと思います。ですから「表現にもっと留意せよ」というご要望には極力お応えしたいという思いもあります。 最後に3ですが、これは100%誤解でありまして、こちらとしても「ご理解下さい」としか言いようがありません。 ──以上、ご理解頂けましたでしょうか? 勿論、受講生の皆さんのお声はこれからも謹んで拝聴したいと考えておりますので、談話室(BBS)並びにメールにて忌憚の無いご意見をお寄せ下さいますよう、お願い申し上げます。 では、気を取り直して講義の本編へ参りましょう。 ☆「週刊少年サンデー」2004年7号☆ ◎新連載『暗号名はBF』(作画:田中保佐奈) 飛び石連休ならぬ、飛び石新連載シリーズが進行中の「週刊少年サンデー」、今週が4作品中の第2弾ということになりますね。 まず絵ですが、これは以前読み切りのレビューでもお話したように、基本的には見栄えのする綺麗な絵柄であると思います。ディフォルメなどの表現についても問題ないですし、十分に水準はクリアしているのではないでしょうか。 次にシナリオと設定について。読み切り版の時にはシナリオの整合性で大きな欠陥があったため、「このままで連載にゴーサインを出すのはどうか」と思ったのですが、少なくとも今回の内容に関しては、明らかな矛盾点はありませんでした。必要最小限の設定説明をこなしつつ、“主人公のデモンストレーション用”としてはかなりボリュームのあるシナリオをまとめ上げたわけですから、むしろここは「良く出来ている」と評価するべきかも知れません。複雑な心理描写もかなりリアリティがありましたしね。 むしろ、心配なのは今後です。主人公を「変身前は片想いに悩むタダの中学生、変身後はオトナの話術(笑)を最大の武器にした万能型ヒーロー」という、かなり裏技的な──本来は読み手の感情移入が難しい万能型主人公なのに、「重要じゃない場面ではタダの中学生」という二面性を持たせて読者の感情移入が促進可能にした──キャラに仕立て上げたのはグッジョブなのですが、この主人公にリアリティを持たせるのはかなり大変だと思います。何しろ、「どうして素(中学生)の時は、変身している時みたいにカッコ良く出来ないの? 同一人物でしょ?」…というツッコミが常時背中に突きつけられるわけですからね。 さて、第1回時点での暫定評価ですが、いくつかの減点材料を抱えつつも、全体的な完成度はかなり高いと言う事で、A−を進呈したいと思います。ただし、先述の通り、今後の展開にはかなり弱含みな要素も抱えているため、後追いレビューやそれ以降でも減点せざるを得ない場面が出て来るかも知れません。 ◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 巻末コメントのテーマは、「闘ってみたい有名人」。 今回も物騒なカップルによる物騒なラブコメ模様が個人的にバカ受けなんですが(笑)。青年誌でいいから、もっと描いてくれればいいのに。 ◎『かってに改蔵』(作画:久米田康治)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 確かに「自分は普通だ」と思ってる事に限って、周りから見たら異常だったりしますからね。例えば、大分昔に鈴木みそさんが調査してたんですが、便所で大の方をした後の拭き方とか。アンケート取ったらかなりの種類に分かれるんですが、回答者は口を揃えて「でも、これって普通でしょ?」と言うんだとか(笑)。
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2003年度第102回講義 |
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中1日開けて、今度は今週発売の「ジャンプ」、「サンデー」についてのゼミを行います。 ……とはいえ、3000人以上の受講生さんを前に逃げるわけにも行きませんので、頑張らせて頂きます。 まずは「ジャンプ」ではビッグネームの再登板。『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズでお馴染みの、荒木飛呂彦さんが遂に復帰です。そのタイトルは『ストーンオーシャン』最終回掲載号の巻末コメントで予告されていた通り、『スティール・ボール・ラン』。 次に「サンデー」から。これは一度“今期の新連載一覧”のような形で紹介したはずなのですが、改めてという事で。 ……それでは今週分のレビューをお送りしましょう。今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」から第3回後追いレビュー1本と読み切り1本、そして「サンデー」からは第3回後追いレビュー1本の計3本です。 ☆「週刊少年ジャンプ」2004年6・7合併号☆ ◎新連載第3回『LIVE』(作画:梅澤春人)【現時点での評価:B+】 昨年末の新連載シリーズについてのレビューもこれにてラスト。シリーズ第3弾・『LIVE』の第3回後追いレビューです。 で、内容についてですが、レビューすべきポイントについての印象は、第1回の時とほとんど変わっていませんね。話が急展開してゆくようなタイプの作品ではありませんし、ベテラン作家さんですから絵柄も2週間で変わりようがありませんから、当たり前と言えば当たり前なんですが。 この辺りは、第1回のレビューで申し上げた“縮小再生産”の反作用が早くも出ているのではないかと思います。この作品は既に第1話、いやそれ以前の段階で梅澤さんの頭の中で完成されてしまっていて、第1話時点ではもうピークを過ぎつつあるんですね。なので、2話以降で大幅な進展をしようと思っても構造上不可能なわけです。 ただ、総合的な評価は作品そのものをデジタルに評価しなくちゃいけませんので、大幅な減点も出来ません。マンガとして求められる最低水準は軽くクリアしているわけですからね。 今週の読み切り枠には、これが週刊本誌2度目の登場となる江尻立真さんが登場です。 まず絵については、前回の時と同様、新人・若手の域を越えた素晴らしいデキになっていると思います。もう完全に絵柄が固定されているみたいですが、まぁこれだけ描ければ固まっても問題ないでしょう。 ただし、高評価が出来る絵と違い、今回のストーリーは、プロット段階、つまり「どのような話にするか」という地点から、ベクトルを間違えてしまったような感が否めません。 また、「怖い話」の要素の組み立て方にも若干の疑問が残ります。この手のホラーというのは、“因果応報で訪れる恐怖”または“全く無関係な所から理不尽に訪れる恐怖”というのが基本です。前者の代表例が幽霊話の復讐モノで、後者のそれが血飛沫バリバリのスプラッターですね。 あと、これも前回にも指摘したんですが、答えの分かり難い考えオチは止めた方が良いですね。上手くまとめたように見えて、話の余韻が台無しになってしまいます。 ……そういうわけで評価なのですが、今回は話の組み立て方を間違ってしまっていますから、前回から評価を落とします。絵の良さの分だけ少々加点してBということにしておきましょう。 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 今週の巻末コメントは、ほとんど皆さん揃って新年のご挨拶。多分コメントを書いているのは年末進行最終段階(12/24前後)のはずなんですが、まるで年賀状みたいですね(笑)。 しかし、今週号の表紙は各作品ごとの合作なんですが、そのカットの大きさが、なんかそのまま雑誌内の番付を現しているようで興味深いですね。 ◎『武装錬金』(作画:和月伸宏)【現時点での評価:A−/単行本1巻の話題&表現規制について】 先日のゼミで、「『武装錬金』は編集サイドからの支持で残虐シーンの描写に表現規制を受けている。致し方ない部分もあるが、それでも如何な物か」…という旨の発言をしたところ、複数の受講生さんから談話室(BBS)で、「描いた後に修正されているわけではないので、作者本人の意思で表現を和らげたのではないか」というご指摘を頂きました。 その、和月さんが表現規制について述べられていたのは、余りページを利用したオマケコーナー・「ライナーノート」。簡単に言うと、1話毎の制作舞台裏が箇条書きスタイルで述べられたコーナーなのですが、その第7話部分に、この件に関する興味深い内容が記されておりました。 では、ここでゼミ用の教材としまして、その第7話部分を全文引用させて頂きます。著作権との兼ね合いが微妙かも知れませんが、引用の必要性や、本文と引用文の主・従の関係性から考えるとセーフだと判断しました。勿論、然るべき所から抗議を受けた場合は速やかに削除しますので、ご了承下さい。
……この記述から分かる事は、 ……の2点ですね。 しかし、このモラル基準は正直厳しすぎる印象がありますねぇ……。メジャー少年誌という事で仕方ないんでしょうが、とんでもない厳しさですよ、コレ。「ジャンプ」は乳首NGとか、そんな事言ってる場合じゃないですな。 ☆「週刊少年サンデー」2004年6号☆ ◎新連載第3回『怪奇千万! 十五郎』(作画:川久保栄二)【第1回掲載時の評価:C】 さて、連載開始以来、ネット界隈の至る所で凄い事になっている(笑)、この『十五郎』の後追いレビューです。 ──では、本題に移りましょうか。 閑話休題。 まず1点目は、主人公・十五郎のキャラクター設定です。 次に2点目。それは、提示した設定に説得力を持たせる努力を放棄している事です。 そして最後の3点目はちょっと難しいんですが、頑張ってついて来て下さいね。3点目は、物語の中で起こった1つの出来事について、そこから派生して起こる出来事を全く想定できていない、という部分です。 ──さて、いかがでしたでしょうか? これでまた頭の中でモヤモヤしていた疑問を解消していただければ幸いです。
◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 巻末コメントのテーマは、「お正月の思い出」。 ◎『犬夜叉』(作画:高橋留美子)【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】 今回の間の良いラブコメシーンを読んでると、普遍的だけど上手いよなぁ……とか思ったりしたんですが、よく考えたらその“普遍”のかなりの部分を作ったのは高橋さんご本人だったりするんですよね(笑)。いや、失礼しました。 ◎『結界師』(作画:田辺イエロウ)【現時点での評価:A/雑感】
……というわけで、今週はこれまで。長かったですね、ごめんなさい。 |
2003年度第101回講義 |
今年最初の「現代マンガ時評」は、恒例の「赤マルジャンプ」全作品レビューをお送りします。既に「ジャンプ」、「サンデー」のいずれも今年最初の週刊本誌が発売になっていますが、とりあえずはこちらからという事で。 ……それでは、長丁場必至の内容になる事ですし、早速レビューを始めたいと思います。ただ、例によって、普段のレビューよりもやや駆け足気味のものになりますので、ご承知おき下さい。あと、これもいつも通りですが、連載作品の番外編はレビュー対象から外してあります。 ◆「赤マルジャンプ」04年冬号レビュー◆ ◎読み切り『NOIZ ─ノイズ─』(作画:樋口大輔) 連載経験者が担当する巻頭枠、今回は『ホイッスル』でお馴染みの樋口大輔さんの登場です。連載終了後も精力的な活動を続ける樋口さん、03年は本誌でも読み切りを発表していますが、滑り込みで年内2作品目の読み切り作品発表となりました。 絵に関しては「良い意味で特筆すべき事は無し」という扱いで良いでしょう。ただ、余りにもクセが無い画風というのも、インパクトが弱くなって逆に困りモノだな…という気もしました。 ストーリーは、ごく普通の日常風景の中に場違いな超能力を1つ放り込んだらどうなるか…という典型的な「もしも」型のお話ですね。 評価は典型的な“佳作の小品”という事でA−に。確かに問題点もありますが、高い完成度でその弱点をほぼフォローし切ったと思います。
さて、ここからは新人・若手枠。そのトップバッターは、前号の「赤マルジャンプ」・03年夏号でデビューを飾ったばかりの村中孝さんです。 絵に関しては、“画力自慢新人大会”だった03年夏号組だけあって、かなりのハイレヴェルです。デフォルメ表現なども新人離れしていますね。 次にストーリーと設定について。 あと、ストーリーは随分と苦しくなっちゃいましたね。全般的に見られる展開の強引さも然る事ながら、ミエミエのオチを引っ張り過ぎてしまいました。更に、主人公とヒロインが、「好きだ、好きだ」と言ってる割に、その好きな人の事を根底から忘れているというのもマヌケ過ぎたような気がします。 また、他に気になった部分としては、この作品の中は既製作品から多くのキャラ(ジャイアンとスネオ等)や名前(「青島刑事」等)が数多く流用されている事ですね。新人作家さんがこういう“遊び心”を多用するのは余り感心出来ません。こういう試みは、既に100%自力で完成度の高い作品を作れる人がやるからこそ“遊び”になるんであって、そこまで至っていない人がそれをやってしまうと、未熟さを誤魔化すために、昔の名作からキャラを拝借したように見えてしまうんですよね。 評価は少々辛目かも知れませんが、メジャー雑誌掲載作品でギリギリ及第点のBということで。 続いては、今回がデビュー作となるサトウ純一さん。02年下期『手塚賞』の佳作受賞者ですね。来月には26歳の誕生日を迎えるという事で、「ジャンプ」の新人さんとしては遅咲きの部類に入るでしょうね。 絵は、典型的な「パッと見は上手そうだけど、よく見ると変」なタイプですね。意識的に得意なアングルや表情を多用しようとしていて、妙に不自然な所が色々な所に見受けられます。 ストーリーと設定は、主人公の投げる球同様、シンプルな直球勝負といった感じですね。45ページにしては、少々中身が薄い気もしますが、まぁそれ自体は許容範囲でしょう。 評価はB−ですね。02年下期「手塚賞」組は、高橋一郎さん、梅尾光加さん、落合沙戸さんと、新人不況の昨今においても比較的豊作の部類だっただけに、次回作ではサトウさんにも奮起を促したいところです。
次は、「赤マル」02年冬号(=2冊目の01年冬号)以来、2年ぶりの登場となる藤山海里さんです。出身地や年齢からは00年上期に「赤塚賞」佳作を受賞している青山海里さんと同一人物だと思われますが、確定情報をお持ちの方がいらっしゃったら、是非BBSかメールでお知らせ下さい。 さて、作品についでですが、まずは絵から。 次にストーリー&設定ですが、まずは難しい近未来SFモノにチャレンジして、曲がりなりにもストーリーをまとめ切った事は素直に評価すべきだと思います。実は、ファンタジーと同じくらい、マンガの世界では鬼門だったりするんですよね、SFって。 それでも全体的な実力は新人・若手の中に混じれば上位クラスでしょう。次回作ではもうちょっと描き易い題材を選んで、連載獲得にチャレンジしてもらいたいと思います。評価はB+。 ◎読み切り『ナイン』(作画:福島鉄平) さぁ、どんどん行きましょう。続いては福島鉄平さん。「コミックフラッパー」からの転身という極めて異色のキャリアを持つ若手作家さんですが、03年夏号に続いての「赤マルジャンプ」連続掲載となりました。 ……では、まず絵から。 ストーリー&設定も、夏号から進歩の跡が見られますね。独特の殺伐さを少年マンガのエッセンスで薄める事に成功し、多少危ういながらもバランスを保ったまま49ページを乗り切ったと言えるでしょう。 評価はB+寄りBという事にしておきましょう。つくづくも惜しい作品だと思います。
ここからは5連発でジャンプデビュー組の人たちが続きますが、他の4人と経歴が一味違うのがこの田中顕さんです。 まず絵ですが、有り体に言ってかなり荒い印象がありますね。タッチを洗練しないままで固まってしまったというか、下積みが長過ぎてデビューした時には既に時代遅れの絵柄になってしまったというか……。ちょっとこのままで「ジャンプ」本誌に持って行くのは躊躇われるレヴェルではないかと思います。アシスタント経験が長いので、背景処理だけはやたらに上手いんですけどね(笑)。 ストーリー&設定は、大雑把にまとめれば長所と短所が入り混じっている…といったところでしょうか。 評価は、「見所のある部分もあれど、欠点が圧倒的に多い」という事でB寄りB−にしておきましょうか。
続いては、01年後期「手塚賞」佳作受賞者・守屋一宏さんの登場です。守屋さんはこれがデビュー作で、受賞以来2年間の苦労がようやく実った…という事になりますね。「手塚賞」や「赤塚賞」の佳作にはデビュー確約特典が付かないので、守屋さんのようにデビューが遅れたり、デビューも果たせぬまま消えていく人もいたりします。(まぁ両賞の佳作受賞作が、“その程度の水準”であるという事も否定できないのですが) さて、まずは絵ですが、基本的な表現に関しては十分合格点じゃないかと思います。ただ、良い意味でも悪い意味でもマンガっぽい絵柄なので、シリアスなシーンを描いても深刻さが伝わって来ない…という弱点も見え隠れしています。 ストーリーと設定は、こちらも基本的なストーリーテリング能力は問題ないのですが、今回に限ってはページ数の割に内容のボリュームを欲張り過ぎた印象が強く残りました。設定過多で消化不良に陥っていますし、シナリオもメインストーリーを押さえるだけで精一杯で、説明不足で不可解な展開が各所で見られたりしました。 評価は商業誌で活動するのに基本的なラインはクリア出来ているということでBが妥当かと思います。 ◎読み切り『サクラ戦線北上中!!』(作画:森田一博) 続いては03年8月期の「十二傑賞」受賞作が登場です。森田さんは当然の事ながらこれがデビュー作となります。 絵は現在の「ジャンプ」では少なくなった劇画調タッチで、非常に個性的です。それはそれで結構な事なんですが、全体的にデッサンが狂い気味で余分な線が多いため、上手い下手以前に見辛い絵になってしまっているのは問題でしょうね。 そしてストーリー&設定にも、若干の問題点の存在を否定出来ません。特に設定の積み上げ方に課題が残されていますね。 評価はB−ということで。大化けする可能性も感じさせる人ではあるのですが、今の「ジャンプ」がそこまで悠長に事を構えていられるかは微妙でしょうね。
まだまだ続くルーキー攻勢、次に登場したのは03年上期「手塚賞」佳作受賞者・大竹利明さんの受賞後第一作&デビュー作です。 まず絵にはかなり難が有りますね。まだマンガではない“止め絵の羅列”の段階に留まっている感じです。このままで週刊本誌に持って行ったら、読まれる以前の段階で拒否反応を浴びてしまうでしょうから、今後は画力の向上が急務になって来るでしょう。 ストーリー&設定については、オーソドックスと言えばオーソドックスなお話なのですが、先程述べた高い演出力に支えられて、非常に良い読後感を読み手にもたらす構成になっています。どうしてもバトル物に走りがちな「ジャンプ」系新人さんたちの中で、こういう“一服の清涼剤”的な日常劇を持って来たセンスも評価出来ますね。 まぁそれでも、デビュー作にしては上々の出来と言えるでしょう。演出力は新人の域を超えていますから、ひょっとすればひょっとする逸材です。今回の評価は画力による原点分を半ランク分差し引いてB寄りB+。
ストーリー系作品の新人・若手枠ラストに登場は、03年7月期の「十二傑賞」受賞作・臼田幸太さんの『一夜物語』です。 ……で、これから詳しくレビューしてゆくわけですが、先に言葉を選ばず総評を述べておきますと、「うわ。こりゃ酷ぇ」でした(苦笑)。何と言いますか、『ツバサ』みたいなお話を実力の無いド新人に描かせるとこんな惨憺たる結果になるんだな…などと、反面教師的に学ぶ所の多い作品だったと思います。 まず絵は完全にグダグダ。画力そのものも発展途上なのですが、構図の取り方や背景と人物との描き分けが全く出来ていない上に、これまた使い慣れていないスクリーントーンを間違ったやり方で貼り付けてしまったために、心底読み辛い絵柄になってしまっています。 そしてストーリーと設定も、自己満足・独り善がりの極致と言うべき悲惨なモノで、こういう立場(レビュアー)でなかったら、「いい加減にしろ、このクズ!」と罵った上に雑誌を投げ捨てていたと思います。それくらい酷いです。 相当な不作であっても月に1作品デビューさせなくてはいけない「十二傑賞」ではあるのですが、この作品が最終審査以前に予備審査を通ってしまった事が大変に不思議です。まぁ時々こういう選考では、終わってみれば全員が「誰だ、こんなの残したの?」という結果になる事もあるそうですけれども(笑)。 新人・若手枠ラストはギャグ枠。「赤マル」03年春号でデビューを果たした風間克弥さんが半年振りの再登場となりました。徐々に「ジャンプ」系の新人・若手ギャグ作家さんの頭数が揃いつつある今、何とか“連載候補生”入りを果たしたいところでしょうが……。 絵は、「ギャグマンガにしては」という条件付きながらも及第点でしょう。既製作品の影響が随所に見られるのは多少気になりますが、様々なタイプのキャラが描けるようで、画力の拙さでギャグの足を引っ張る…という事態は避けられそうです。 ただ、ギャグの方はイマイチ突き抜けたモノが感じられません。「服の袖から何かが出て来る」という所から派生したギャグを多用していますが、それは作品の世界観と関係の無いものだけに、話の中でギャグだけ浮いているように感じられてしまいます。『ボーボボ』みたいにギャグ1つ1つのインパクトが恐ろしいほどデカければ話は別なのですが……。 全くセンスが無い…というわけではないのですが、このまま週刊本誌で通用するかと言えば、否でしょう。他の作品から影響を受けるにしても、表面的な部分だけではなく、笑いを獲るメカニズム的な部分にもっと目を向けてもらいたいものですね。 いよいよ大トリです。皆さん、お疲れ様でした(笑)。駒木も当然ながらヘトヘトに疲れています(笑)。 さて、最後を飾るのは、『プリティフェイス』終了以来の復帰第1作となる叶恭弘さん。元々は短編を中心に活動していただけに、今回はまさに初心に立ち返っての再出発ですね。 まずは絵。改めて言うのも憚られますが、やっぱりメチャクチャ上手いです、叶さん。特にカラーページの彩色が素晴らしい出来で、このまま画集に載せてお金を取っても良いくらいです。 そしてストーリーと設定。叶さんの作品と言えば、アラの多い設定を無理矢理まとめる“パワープレイ”が定番だったのですが、今回ばかりは一味違います。というか、長期連載を経験して一皮剥けたと言うべきなのでしょうか。 蛇足ながら歴史考証についてですが、ヨーロッパの辺境にある小国を舞台にするならば、中世ドイツは最適のシチュエーションであり、これは問題ありません。 評価は十分A−はあるでしょう。本気で叶さんの次回作が楽しみになって来ましたよ。
……というわけで、「赤マルジャンプ」完全レビューでした。講義実施が遅れて申し訳ありませんでした。では、早ければ今週中にもう1度ゼミでお会いしましょう。 |