「社会学講座」アーカイブ(演習《現代マンガ時評》・8)

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講義一覧

3/26(第117回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (3月第4週分・合同)
3/19(第116回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (3月第3週分・後半)
3/16(第115回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (3月第3週分・前半)
3/12(第114回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (3月第2週分・合同) 
3/6(第113回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (3月第1週分・合同)
3/2(第112回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・『青マルジャンプ』特集」
2/27(第111回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (2月第4週分・合同)
2/19(第109回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (2月第3週分・合同)
2/12(第107回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (2月第2週分・合同)
2/7(第106回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (2月第1週分・合同)
1/29(第105回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (1月第5週分・合同)
1/22(第104回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(1月第4週分・合同)
1/14(第103回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (1月第3週分・合同)
1/9(第102回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (1月第2週分・合同)
1/7(第101回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」 (12月第5週〜1月第1週分・合同)

 

2003年度第117回講義
3月26日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第4週分・合同)

 旅行等の取材活動で講義の間隔が開きましたが、今日から高校の仕事が始まる4月上旬まで、目一杯カリキュラムを組んで頑張る所存です。どうか何卒。

 さて、今日は今週発売の「週刊少年ジャンプ」17号、および「週刊少年サンデー」17号の内容についてゼミを行います。
 まずは今週も情報系の話題から。「ジャンプ」の読み切り企画についての話題が入って来ています。
 前週のゼミで既報の通り、今週号までで『スティール・ボール・ラン』(作画:荒木飛呂彦)が連載中断になるのに伴い、次号から連載作家陣による4週連続の読み切りシリーズが始まります。とりあえず次号掲載の第1回は武井宏之さん『麻葉童子』。タイトルからもお判りになるように、『シャーマンキング』の外伝です。
 今回の読み切りは32ページの綴じ込み付録ということで、何だかマンガ黎明期の別冊付録を髣髴とさせる企画ですね。『まんが道』(作画:藤子不二雄A)では、突発的に発生した別冊の仕事に追われて憔悴しまくる後の大御所マンガ家の皆さんが登場するのですが、今回の企画における各作家さんのスタジオの様子はどうだったのか、遠巻きにでも拝見してみたいところです(笑)。1週取材休みを貰ったとは言っても、通常時の2倍近いページ数ですからねぇ……。

 ……それでは、今週分のレビューとチェックポイントへ。レビュー対象作は、「ジャンプ」から新連載と新連載第3回の後追いが各1本、そして「サンデー」から新連載が1本、都合3本ということになります。

 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年17号☆

 ◎新連載『少年守護神』作画:東直輝

 「ジャンプ」の新連載シリーズも今週でラスト。東直輝さんの連載再復帰作・『少年守護神』のレビューです。

 東さんは1978年3月生まれということですから、26歳になったばかり。駒木より3つ(2学年)年下と知って、ちょっと驚きました。
 東さんのマンガ家としてのキャリアは、「これでもか、これでもか」という投稿活動から始まります。1997年6月期、1998年1月期、2月期の「天下一漫画賞」で相次いで最終候補まで残り、第2回「ストーリーキング」準キング、98年上期「手塚賞」で佳作をそれぞれ受賞と、1年弱の間に「ジャンプ」系新人賞の全てで一定の結果を出すという離れ業を見せます。
 その意欲は当然の事ながら編集サイドにも通じ、週刊本誌98年47号で遂に読み切りデビュー。約3ヶ月後には「赤マル」に「ストーリーキング」の受賞作掲載、翌99年春には連載枠獲得と、まさにトントン拍子の出世を果たしてゆきます。
 しかし、その意欲は読者の心にまでは響かなかったのか、この時の連載作『CHILDRAGON』は1クール12回で打ち切り。同じ回の「ストーリーキング」でネーム部門準キングとなった『ヒカルの碁』とは余りにも対照的な結果に終わり、一敗地にまみれた格好になります。
 それでも東さんの創作意欲は衰えず、「赤マル」00年春号、週刊本誌00年49号、「赤マル」01年春号と、相次いで読み切りを発表し、01年年末からは『ソワカ』の連載を開始。が、これも2クール22回での短期打ち切りに終わり、意欲が客観評価に繋がらないという、実力社会の恐ろしさをまたしても痛感する結果になってしまいます。
 しかし東さんはそれでも活動のペースを緩ませず、03年12号に今回の連載のプロトタイプとなった読み切り版・『少年守護神』を発表。当講座での評価は相当に低かった(C評価&ラズベリーコミック賞ノミネート)のですが、アンケート又は編集サイドの評価が良好だったのでしょう、この度の連載獲得となりました。
 ……しかし、こうしてキャリアをまとめてみますと、何と言うか、周囲に「彼は頑張ってるし、何とかしてあげたい」と思わせてしまうような仕事っぷりですよね(笑)。穿った見方でも何でもなく、編集部受けの良い作家さんなんだろうなぁ…と思います。

 ──とはいえ、やはり作品の内容は別の話。今回も読み切り版同様、残念ながら厳しい事も述べなくてはならなくなりそうです。

 まずからですが、基本的には描き込まれた見応えのある絵柄だと思います。若干、シリアスタッチとマンガタッチの区別が曖昧で妙になった部分(やたら目の大きなシリアス女の子キャラ)も見受けられますが、「ジャンプ」連載陣に混じっても標準的なレヴェルには達しているのではないでしょうか。前回、大顰蹙を買った現代風のコスチュームデザインも一応修正されており、減点箇所は多くないと思います。
 ただ、コンピューターを使って彩色されたと思しきカラーページは、ちょっとどうなのでしょう? 多分、背景が人物作画と合っていないんだと思うんですが、「ジャンプ」でやるなら、もうちょっと試行錯誤してからにして欲しかったような気もしますね。

 次にストーリー・設定ですが、こちらはシナリオの破綻していた読み切り版のプロットを踏襲してしまったため、端的に言って、かなり無茶苦茶な内容になってしまっています。
 微に入り細に入った指摘をしてしまうと、またお叱りを受けるでしょうから控えますが、シナリオ全体において、出来事の起こり方やキャラクターの行動が不自然で、末期的な御都合主義に陥ってしまっています。一応はシナリオの“ツッコミ所”を無くす配慮が為されているのですが、大元のストーリーが破綻していては折角の努力も……。
 また、読み切り版からそのまま引き継いだ設定も、上手く活かされているとは思えません。特にヒロインの特殊技能である「心を揺さぶる歌」の使い方が非常に勿体無く思えました。せっかく最初に合戦シーンがあるのですから、そこで伏線っぽくヒロインに唄わせてみれば面白かったんですが。まぁそれをやると「何だか和製『マクロス』ですね」という声も聞こえて来そうですけどね(笑)。
 あと、ひょっとするとこれら以上に問題なのかも知れないのがギャグの挟み方ですね。『銀魂』のように確信犯的な試みでも無い限りは、重厚なシナリオの中で雰囲気や世界観をブチ壊すようなギャグをおみまいするのは読み手を困惑させるだけのような感じがします。ギャグをカマす時に場の空気を読まなくちゃいけないのは、日常生活だけでなく、こういう時も一緒なのでは…と思ったり思わなかったり。

 というわけで評価はC寄りB−。読み切り版に比べて改良の跡も窺えますので“死刑宣告”は控えましたが、前途は多難だという印象は変わりません。
 どうも次号で『武装錬金』が掲載順実質最下位になっちゃうようなんですが、次の入れ替えでこっちが生き残って『武装錬金』が切られたら立ち直れなくなりそうな気がします(苦笑)。

 ◎新連載第3回『未確認少年ゲドー』作画:岡野剛【第1回掲載時の評価:保留

 そしてこちらは新連載シリーズのトップバッター・『未確認少年ゲドー』。今後の運命を分けると言われる第3回時点での後追いレビューです。

 さて、ここまで3回の内容は、『地獄先生ぬ〜べ〜』スタイルの、少人数のレギュラーキャラにゲストキャラ(未確認生物)を絡めていく…といった、一話完結型のコメディで進行していますね。大方の予想通りといったところでしょう。
 それにしても、このようなタイプの設定では、閉塞感と言うか悪性のマンネリ感が出て来ないかと懸念していたのですが、現在のところはマンネリを“手堅さ”に転化し、何とか上手く乗り切っているように思えます特に良いのがキャラクターと世界観が確立されている点で、この辺は『ぬ〜べ〜』時代に身に付けたメカニズムを上手く応用出来ているのでしょう。設定を流用した“劣化コピー”状態ではなく、アイディアの良い所だけを拝借し、独自のモノに出来ていると思います。
 ただし、作品の構造上仕方ない部分もあるのですが、シナリオの起伏のつけ方が余りにも大人しいような気がします。簡単に言うと、話の内容が淡白過ぎるんですね。もうちょっと緊迫感のようなモノを持たせても良いんじゃないかと思うんですが……。
 バトル物のようなハラハラドキドキ感を出すのが難しいならば、本気で読み手を感動させるような“泣かせ系”のストーリーをぶつけてみるのはどうでしょう。とにかく、読み手の感情に訴えかけるようなストーリーでインパクトを与えない事には、打ち切りサバイバルレースを切り抜けるのは簡単ではないと思います。

 評価は、読み切り版や第1回時より若干の上積みがあったという事でB+にしておきます。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントで、大亜門さん「“先生”と呼ばれるのに抵抗があったが……」という若手作家さんらしいモノが。でも確かに、マンガ業界内では“先生”というのは役職名みたいなところがありますよね。祝うつもりも無いのに出す祝儀みたいなもので、敬うつもりも無いのに呼ぶ「先生」みたいな感じでしょうか。
 ちなみに、駒木は“業界外”の人間なんで、敢えて原則“さん”付けにし、本当に尊敬している作家さんにだけ“先生”と付けるようにしています。

 ……でもよく考えたら、本当に「先生」って大した敬称じゃないんですよね。だって駒木も行く所行けば「先生」って呼ばれるくらいですから、価値無ぇったらありゃしない(笑)。生徒にとっては、ひょっとすると部活の「先輩」よりも格下だったりするかもですね。 

 ◎『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦【現時点での評価:A/第1期総括】

 最後は『みどりのマキバオー』の有馬記念を思わせるような展開で、主人公・ジャイロ=ツェペリが1stステージ優勝となりました。この辺の澱みの無い演出はさすがといった所ですね。
 ここまでの印象としては、31ページ連載の利点を活かし切ったページ配分や、レース物のスピード感と爽快感を重視したストーリーテリングが非常に光っていたと思います。相変わらずの“荒木理論”には多少閉口する場面もありましたが(そもそも足が萎えている人が馬を御そうと思っても、「進め」の合図も出せないでしょう、ジョジョ君?)、それも世界観の一要素と見なさなければならないでしょう。まさか、「人間があんな速度で走れるわけが無い」とか言って、この作品を全否定するわけにもいかないでしょうし。

 と言う事で、評価はA−寄りAで据え置き。現時点では当ゼミの今年度No.1長編作品という事になりますね。


 ◎『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 遂に“王”が誕生したわけですが、生まれながらにしての容赦無さ過ぎな暴虐さが、往年の鳥山明チックでシビれますねぇ。やっぱり本当の敵役はベラベラ喋っちゃいけないんですよね。喋らせなきゃ悪役だと判らないようなキャラばっかり出すマンガもありますが、まぁ…うん。(長井秀和風に)
 ここ最近はゴンVSナックルで結構冗長な感じがしたんですが、ひょっとしたらこの辺のアイディアを練る為の時間繋ぎだったんでしょうかね。これまではストーリーの要所になると休載が増える一方だったんですが、妥協策と言うか急場の凌ぎ方を編み出したようですね(それもどうかという話ですが)。

☆「週刊少年サンデー」2004年17号☆

 ◎新連載(シリーズ再開)『DAN DOH!!〜ネクストジェネレーション〜』作:坂田信弘/画:万乗大智【前シリーズ終了時の評価:B+

 再三お知らせしていたように、今週から“アニメ化に伴う復活”という特殊なケースで、『DAN DOH!!』の新シリーズが連載開始となりました。足掛け8年でやっと終わらせた作品を、商業的な理由とは言えもう一度蘇らせるとは、恐るべしマンガ業界ですよね(笑)。

 さて、今回は特殊なケースですので(何しろ一度連載総括までしちゃった作品です)、作者紹介は省略し、レビューに関しても、前シリーズまでの内容を念頭において、後追いレビューというか、チェックポイントのようにサラリといきたいと思います。第3回のレビューも一応はやりますが、こちらも同じくと言う事で何卒。

 ……というわけで、新シリーズの内容についてですが、今シリーズは「ネクストジェネレーション」というタイトルとは裏腹(?)に、前シリーズ終了からほぼ間もない時点から、キャラクターもそっくりそのまま引き継いでのリスタートとなりました。新庄樹靖の“ネクストジェネレーション”たるダンドー、という事なんでしょうかね。
 ストーリーについては、未確定部分が多いものの、シリーズ通じての主要キャラ&ライバルキャラ総出演による“オールスター戦”という流れになりそうですね。これは典型的な大長編作品の総決算企画と言うべきもので、以前からのファン層を満足させると共に、実は作者が一番楽しんでいる…という色々な意味で贅沢な企画だったりします。『大甲子園』(作画:水島新司)を見れば判りますよね?(笑)
 まぁ、この作品でそれをやったところで、果たしてどれ位の「サンデー」読者がついて来れるのかは微妙ではありますが、それでも“打率”の高い企画ではあると思います。歴代のキャラクターを出すだけでシナリオが薄っぺらくなるとアレですが、普通にやっていれば少なくとも大ハズレは無いでしょう。

 ただ、今回のエピソード──ダンドーがチンケなヤクザと賭けゴルフして圧勝──はちょっと頂けないかなぁ…とも思います。主要キャラ紹介を最優先させるため、敢えて中身の薄いシナリオでお茶を濁したとも言えるのですが、8年以上引っ張った作品の再出発となるべき回を、そんな悪い意味で陳腐なシナリオにしてしまうのは如何なものでしょうか。全英オープン準優勝の天才少年に相応しい華々しい再登場シーンが欲しいと個人的には思いました。

 評価は、とりあえず今回だけで8年分の評価を揺るがせるのもどうかと思いますので、保留の意味も込めてB+で据え置き。まぁ、真価が問われるのは“オールスター戦”か、その前の新庄VSダンドーに突入してからでしょうね。

 
◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「すぐに挫折してしまった挑戦って、ありますか」。
 
やはり習い事系、ダイエット・運動系が多いみたいですね。中には「会社勤め」、「社会人」というのもあって、さすがはマンガ家さんだ…と思わせてもくれます。そう言えば、かの藤子・F・不二雄先生も会社勤めを超短期で挫折したんでしたよね。
 しかし、藤田和日郎さんが、下描きナシでいきなりペン入れから始めてるってのは本当だったんですね。とやかく言う前に凄ぇと思います(笑)。

 ちなみに駒木の挫折はアコースティックギター。定番ですね(笑)。Fコードとかは何とかクリア出来たんですが、アルペジオとかスリーフィンガーが全く……(苦笑)。時間が出来たらもう一度基礎から練習し直したいんですが、時間が出来るなんて有り得ないですからねぇ。

 連載作品については、特に語りたいモノが無かったので今回はパスさせてもらいます。いや、低調だったというわけじゃなくて、ただ単にネタ不足だっただけの話です(笑)。

 次週のゼミについては、他の講義も増える関係上、週後半に合同版で実施する事になると思います。では。

 


 

2003年度第116回講義
3月19日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第3週分・後半)

 モデム配り関連講義の続編でもそろそろ始めようかと思っていたんですが、とりあえずレギュラー講義を済ませておかないと……と言う事で、今日はこちらを。週明けから色々バタバタしちゃいますので、やるべき事だけ今の内…てな感じです。

 というわけで、今日は今週発売の「週刊少年サンデー」16号を教材にゼミを実施します

 まずは新連載についての情報から。
 既に連載開始だけは決まっていた『DAN DOH!!』シリーズの続編ですが、いよいよ次週発売の17号からスタートです。
 タイトルは『DAN DOH!! 〜ネクストジェネレーション〜』。勿論、作者は前シリーズまでと同じく、原作が坂田信弘さん、マンガ担当が万乗大智さんです。……もっとも、回を追うごとにゴルフ描写がトンデモ化していっているこの作品、果たして本当に坂田さんが原作書いているのかどうか、色眼鏡で見たくなってしまうのですけれどもね(笑)。
 なお、アニメの方はテレビ東京系で土曜日の朝9時半からの30分枠で放映とのこと。パンチラ御法度のテレ東でこの作品(というより万乗パンツ)がどう扱われるのか、久米田康治さんも興味津々のアニメ版『DAN DOH!!』は4月3日スタートです。

☆「週刊少年サンデー」2004年16号☆

 ◎読み切り『ダグラーバスタークウ!』作画:松浦聡彦

 今週から「週刊少年サンデー」は創刊45周年特別企画月間。巻頭から大小様々な特別企画が誌面を飾っていますが、その1つがこの読み切り。久々に松浦聡彦さんが週刊本誌に登場という事となりました。

 では、例によって作者紹介です。今週分前半の大亜門さんに続き、この松浦さんも幸か不幸かネタに事欠かないキャリアを積んでおられるので、じっくりとお話させて頂きます。

 まず、松浦さんのデビューは「少年サンデー」月刊増刊の94年2月号という事ですから、キャリア丸10年ということになりますね。ベテラン揃いの「サンデー」の中でも、もう中堅という扱いで差し支えないと思います。
 デビュー後しばらくは(「サンデー」系のデータベースが今一つ充実していないため)松浦さんのイマイチ正確な動向が掴めないのですが、96年には『ワープボーイ』(原作:荒尾和彦)で週刊本誌連載デビューを果たしていますので、「サンデー」系の若手作家さんとしては比較的順調な“出世コース”を辿っていたのでしょう。ただし、この原作付き連載デビュー作は残念ながら短期で終了。松浦さんの本格的な活躍は翌年、『タキシード銀』の連載開始を待たなくてはなりません。
 その『タキシード銀』は97年15号から00年7号に渡る約3年間の長期連載になり、松浦さんの「サンデー」読者における知名度はこれで一気にアップします。この作品に“ヒット作”というフレーズを用いて良いかどうかは微妙でしょうが、安定したクオリティで連載陣の脇を固めていた印象が強く残っています。

 ──しかし、これからの松浦さんの歩みは苦闘の歴史そのものでした。

 まずは連載終了の余韻も未だ鮮やかな00年17号より、サバイバル冒険モノ作品・『ブレイブ猿S(モンキーズ)』を連載開始しますが、これはわずか19回で終了の憂き目に。連載作品の新陳代謝の鈍い「サンデー」では異例の短期打ち切り。「ジャンプ」で言えば1クール・9回光速突き抜けに匹敵する“惨敗”でした。
 しかし、これくらいではまだ松浦さんの“実績点”は消えておらず、翌01年、松浦さんはなんと『北斗の拳』で有名な大御所・武論尊さん原作作品のマンガ担当に起用されます。しかし、「ジャンプ」では原哲夫のポジションに松浦聡彦とは、さすがは「サンデー」と言うか血迷ったか「サンデー」というか……。まぁぶっちゃけ、コメントに困るお話ですよね(笑)。
 で、その名も『ライジング・サン』なる、題名からして元自衛隊員の原作者の思想信条が現れまくった作品は、前・後編形式の読み切りで“試運転”された後に連載となりますが、武論尊のネームバリューも人気に繋がらず、掲載順は低迷。しかも読み切り版のラストシーン(主人公がゼロ戦に乗ってホワイトハウスにカミカゼアタック)が、この年起こった全米同時多発テロの内容と図らずもシンクロしてしまい、単行本の発売が自粛延期されてしまうという嫌なオマケまでついてしまいました。結局、この作品も24回で打ち切りとなり、果てには、当時まだ青臭い文章でアクセス数1日10〜20の弱小テキストサイトを運営していた駒木ハヤトなんぞにネタにされてしまう羽目になってしまいます(笑)。
 これと前後して、松浦さんは創刊間もない系列誌・『サンデーGX』『ビッグコミックスペリオール』誌で活動していましたが、「サンデー」週刊本誌からは今回の再登場まで2年半もの間、遠ざかっていたことになります。これをきっかけに再び「サンデー」に足場を築く事が出来るのか、この読み切りは重要な試金石と言えそうです。

 ……というわけで、作品の内容についてお話してゆきましょう。

 まずですが、技術的な面で駒木が口を挟む余地は全くありませんね。さすがは濃密なキャリアを経て来た作家さん、これは恐れ入りましたといった所です。
 ただし一点だけ。細かい目のトーンが週刊本誌特有の紙質の悪さの前に潰れてしまい、いくつかの場面が少々見苦しくなってしまったように思えます。久々の事でウッカリしていたのかも知れませんが、その辺のきめ細かい配慮があれば完璧だったのに……と、少々残念に思いました。

 ストーリー・設定の方も、キャリアに裏付けられたテクニックが各所で見受けられ、好感度の高い作品に仕上がっていると言えます。特にページ数に合わせたキャラクターの人数やシナリオのボリュームの絞り込み方が秀逸で、読み手に作品内容の理解について負担をかけないでよう見事に配慮されています。この辺のバランス感覚はさすがですよね。
 ただ、プロットや各種設定などは、これまでにも数多の作品で散々使い古されて来たものが大半を占め、目新しさ(読み手に与えるインパクト・感銘の度合い)は相当低かったように思えます。主人公・クウの持つ“犬並みの嗅覚”という能力でどれくらいインパクトを与えられたかがカギになるのでしょうが、それにしても非常に斬新とは言い難いモノでしょうし……。
 また、シナリオのボリュームを必要最低限に絞り込んだのは良いにしても、少々展開がスムーズ過ぎたような気もします。あまりにも主人公にとって都合の良い展開が続いたのではないか…と思うんですよね。もう少しピンチらしいピンチに遭っていれば、悪人をやっつけた時のカタルシスも大きかったような気がするんですが。

 さて、評価です。作品の完成度を大きく損ねるような欠点は見当たらないものの、安全策を採り過ぎてこじんまりとした作品になってしまった……と言う事で、B+としておきます。いわゆる「名作崩れの人気作」っぽい所もありますし、これくらいが妥当ではないかと。
 蛇足ですが、この作品を連載化しようとした場合は、余程多くの「この設定でこういう話が描きたい!」…というようなアイディアを用意しておかないと、たちまちネタ切れ、失速してしまうような気がします。特に主人公が生死を彷徨うようなシビアなシナリオがどれくらい作れるかがポイントになるのでは…と思います。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「忍者になれるとしたら、どんな忍法を使いたいですか」。
 
この形式が始まってから、指折りの奇問ですね。しかし、切実な願いを日頃から抱いている連載作家の皆さん、堂々と「雲隠れの術」がトップとなりました。やっぱり編集さんから身を隠したいっていうのは、手塚治虫時代からの伝統なんですね(笑)。
 駒木は──困ったな、あんまり忍法そのものを知らないんですよねぇ。でもまぁ、とにかく不眠不休で動けるような忍法があったら是非会得したいと。……ただ、そういうのって、いかにもドーピング系の忍法になりそうで怖いですね(笑)。白い粉を溶かした液体を注射で……とか。

 
 ◎『史上最強の弟子 ケンイチ』作画:松江名俊【現時点での評価:B+/雑感】

 必殺技が無い主人公の格闘マンガって、実は相当描くのって難しいはずなんですよね。どうしても地味になりがちだし、技の名前叫んで見開きページでドカーン! ……みたいな楽も出来ませんし。
 それを考えたら、今回のエピソードっていうのは、何の変哲も無い“箸休め”的な話に見えて、実は結構凄い事をやっているような気もします(笑)。


 ◎『こわしや我聞』作画:藤木俊【現時点での評価:B/雑感】

 しかし、この期に及んでミスターベーターもどきが悪役って……(汗)
 しかもこれって、「ジャンプ」でもつい最近『銀魂』でやったネタ(しかも外し気味)だったわけなんですが、どうしてまたわざわざ被せますか?
 シナリオも、何だか大雑把な『D−LIVE!!』みたいになっちゃいましたし、どんどん迷走が進んでいるような気もします。このまま行くようだと、早い段階での評価下方修正も検討しなくてはならなくなりそうです。

 
 ……というわけで、ちょっと短いですが、今日はこれまで。
 しかし、敢えて大きく採り上げませんでしたが、『十五郎』の露骨かつ微妙なサービスカットは失笑モノでしたよねえ(^^;;)。……しかしこの作家さん、喋り言葉の語尾か小道具でしかキャラ付けが出来ないんでしょうか。駒木にとってはそっちの方が気になってしょうがなかったですね。まぁ、もうすぐ打ち切りでしょうから、気にするだけ無駄なんですが。

 次週のゼミは、旅行やらモデム配りやらで忙殺されるので、多少遅れるかもしれません。どうか何卒。

 


 

2003年度第115回講義
3月16日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第3週分・前半)

 ……いきなりですが、

会社で当社会学講座を受講する時は、部屋を明るくして上司から離れて受講して下さい。

 ……などと言ってみたくなる、3月第3週前半のゼミをお送りします、駒木ハヤトです(笑)。
 詳しくは後ほどのレビューでお送りしますが、それにしても見事なカラーページの無駄遣いもあったもんですね。1ページに人物作画3カットで笑いも取って原稿料倍! 集英社の経理さんも眉をひそめる新連載がスタートした今週の「週刊少年ジャンプ」を対象に、本日のゼミを行いたいと思います。「サンデー」関連の内容については、また週の後半という事で。

 ……さて、今週は公式アナウンスによる情報系の話題はありませんが、ネット上の信憑性の高い未確認情報によると、『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦)が来週号で1stステージ終了&一時休載となるとのこと。連載再開は6月頃とのことで、どうやら10週程度の31ページ連載と“充電休載”を繰り返すスタイルを採る事になるようです。
 「ジャンプ」では以前、『BASTARD!!』(作画:萩原一至)と『レベルE』(作画:冨樫義博)を月イチ連載にしていた事がありましたが、この情報が間違いでなければ、それ以来の変則連載スタイル採用となりますね。また、ここ2週ほどクライマックスっぽい流れになっている『銀魂』(作画:空知英秋)も、これで『SBR』の31ページが空くとなると、さすがに次期入れ替えまでは安泰っぽい感じがします。
 まぁ本来、この手の情報は大事を取って公式アナウンスまで紹介しないで待つんですが、注目度の高い作品の動向でもありますので、紹介させて頂きました。あくまでも駒木本人が公式情報を見聞したわけじゃありませんので、その辺りはご承知置き下さい。

 ……それでは、今週の「ジャンプ」掲載分のレビューとチェックポイントをお送りしましょう。レビュー対象作は、新連載1本と読み切り1本の計2本となります。

 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年16号☆

 ◎新連載『無敵鉄姫スピンちゃん』作画:大亜門

 「ジャンプ」春の新連載シリーズ第2弾は、当講座も期待の新鋭ギャグ作家・大亜門さん『無敵鉄姫スピンちゃん』です。
 大亜門(苗字が“大”のようですが、語呂が悪いので原則フルネームでいかせてもらいます)さんの当ゼミにおける作品レビューは、何とこれで6回目。受講生の皆さんにとってもすっかりお馴染みかと思いますが、今回は新連載1回目という事もありますし、語るネタにも事欠かない人でもありますので、改めてじっくりとプロフィールを紹介させて頂きます。

 大亜門さん77年5月29日生まれという事ですから、現在26歳。「ジャンプ」の若手作家さんとしては、キャリアの割に年長者という事になりますか。
 大亜門さんのキャリアのスタートは02年4月期の「天下一漫画賞」。本名(?)の西村大介名義で最終候補に残ったところから始まります。ちなみにこの際には、月替り審査員の矢吹健太朗さんから「既存の作品の影響が強い」という痛恨のコメントを頂戴しています。
 確かにこの時の作品、主人公がどう見ても『男塾』の江田島平八のパロディ…というミもフタもない作品だったわけですが、よりにもよって(以下略)

 ──さて、それで闘志に火が点いたのかどうかは判りませんが、この直後から大亜門さんはハイペースで習作原稿を「ジャンプ」編集部に持ち込み、代原の形ではありますが02年34号にて「ジャンプ」デビューを果たします。主人公は先述の投稿作品に続いて偽・江田島平八、しかも冒頭に『あずまんが大王』のキャラと思しき女の子たちが裸に剥かれて登場…という、「天下一」の時の出来事を知る者からすると開き直りもいいとこな作品でしたが、何はともあれ、これで仮デビューとなりました。また、その後同年44号でも、代原(「天下一」の最終候補作)掲載を果たしています。
 それからも大亜門さんは精力的な執筆活動を続け、翌年には「赤マルジャンプ」03年春号にて正式デビュー。この時の作品は、今回の新連載のプロトタイプとなる『スピンちゃん試作型』どうでもいい事ですが、この作品は当講座の第2回「コミックアワード」にて、「ジャンプ・サンデー最優秀新人ギャグ作品賞」を受賞しています。
 これで好評を得たのか、週刊本誌03年40号と48号で、正規読み切りとして『スピンちゃん』シリーズの続編を相次いで発表。このような、どう見ても「『スピンちゃん』で連載狙ってます」と言いたげなアピール活動が実を結び、遂に今回の連載獲得となりました。
 また、いわゆる代原作家から週刊本誌連載を獲得したのは今回が初のケース。これに準じるケースとしては、「ジャンプ」を離れ、「週刊少年サンデー」と「週刊コミックバンチ」で週刊連載を果たした南寛樹(南ひろたつ)さんがいますが、南さんについては何を言ってもカドが立ちそうですので、ここはノーコメントとさせて頂きます(笑)。

 ……というわけで、長くなりましたが以上がプロフィール紹介。それでは今回の新連載作品について述べさせて頂きます。

 まずはからですが、昨年に読み切りを発表してからの短期間に随分と上達しているのが窺え、正直言って驚かされました。シリアス、通常のマンガ用、そしてディフォルメと3種類の絵柄が使い分けられており、それがギャグにも活かされて良い結果に繋がっています。前作で指摘した動的表現やセリフを喋っている時の表情の不自然さもほとんど解消されており、気がついたら歴代の「ジャンプ」系ギャグ作家さんの中でも中〜上位クラスの画力にまでなっているように思えます。
 課題を挙げるならば、肝心のスピンちゃんの作画が若干ぎこちない所でしょうか。普通の人間とは容姿の造りが根本的に違うために、大亜門さんもまだ戸惑っている部分もあるのでしょう。この辺は連載を続けながら手に馴染ませていくしかないですね。

 そしてギャグについてですが、例によって個人的な“笑った/笑えなかった”は別にしても、確かな技術に支えられたハイレヴェルな作品だと思われます。特にツッコミが上手いのがポイントで、これが展開の単調さを避けたり、一つのネタから多くの“笑い所”を作り出したり…という結果に繋がっているのではないかと。
 また、入念な“試運転”を経てからの連載化だけに、完全にキャラクターが出来上がっているのもセールスポイントでしょう。読み切り版から若干のマイナーチェンジがあったようですが、これは連載にあたっての“初期化”と言うべきものと捉えた方が良い感じですね。あと、透瑠が読み切りと違って“ビュティ化”してしまっているのは、読み切り版でその役目を担当していたゲストキャラが今回不在だったというのが影響しているのだと思います。
 問題点としては、やはりマニアックに過ぎるネタがどこまで幅広い層に受け入れられるか…といった所でしょうね。一応はネタ元が判らなくても違和感だけで笑わせる事が出来るように配慮出来ていますが、これは間違いなく不安材料ではあります。このへん、駒木個人は全てのネタが完璧にストライクだったので、余計に一般層の反応が読めないんですよね(笑)。

 評価はA−をつけた読み切り版よりも進歩が窺えるという事で、A−寄りとします。低年齢層にある程度受け入れられれば、長期連載も狙える逸材だと思うのですが、さてどうなるでしょうか。

 
 ◎読み切り『ヘンテコな』作画:千坂圭太郎
 
 続いては新人作家さんの読み切り作品、03年下期「手塚賞」佳作受賞作・『ヘンテコな』が登場です。先週のゼミでも申し上げた通り、「手塚賞」佳作受賞作の本誌掲載は珍しいケースです。
 なお、この「手塚賞」受賞で新人作家の仲間入りを果たした千坂さんは受賞時18歳。今春高校卒業かそれより1学年上という事になりますね。

 ……それにしても今回のこの作品、絵柄といいシナリオといい何故か既視感が強いと思ったら、高校時代に読んだSF研究部(という名の漫研&ライトノベル研&TRPG研)の会報に載ってたマンガと小説と感じがソックリだったからでした(笑)。
 同様のクラブに在籍経験のあった方なら理解して頂けると思うんですが、RPG系ファンタジー世界観が問答無用の“お約束”になっている所と言い、会話全般や出来事の起こり方が異様に段取り臭い所と言い、ザコ悪党のセリフが一様に“ゴルァ系”だったりする所と言い、戦闘が“一発ズドン”で片付いてしまう所と言い、至る所から漫研の甘ったるい匂いみたいなものが溢れ出てるんですよね(笑)。
 しかし、そんなアマチュア臭い作品でも、やり方次第で「ジャンプ」にも載ってしまう…というのは、ある意味で非常に興味深いですね。本当に「ジャンプ」ってのは懐深いですねぇ。……まぁ、そのままで連載まで行けるかどうかは極めて微妙でしょうが。

 さて雑感はさておき、例によって作品の内容を細かく分析してゆきましょう。

 まずですが、全体的に画力が未完成なのは仕方ないにしても、ディフォルメの使い方が全くなってないのが気になります。シリアスな場面(特に戦闘シーン)で不用意にディフォルメキャラが描かれているケースが非常に多く、強い違和感を感じてしまうんですね。
 実はこの辺もいわゆる“漫研の甘ったるさ”の1つでして、普段は勝手に自分の意図を理解してくれる身内にばかり作品を読んでもらっているためか、「マンガの絵は読み手に話を理解させるための記号」と言う根本的なルールが徹底出来ていないんですね。まぁ千坂さんがそういうクラブに所属していたかどうかは判りませんが、読者の好意を期待し過ぎているという点では同じ事だと思います。
 あと、コマ割りもちょっと酷いですね。見せ場での大ゴマの使い方は上手く出来ている部分もありますが、その他の場面では、どう考えても「ページ数が詰まってますので、とりあえず沢山のコマを押し込めてみました」というようなページが見受けられます。もっとネームを練りこんで欲しかったです。

 次にストーリー・設定についてですが、まずメインアイディアである「ヘンテコ」の設定全般は、そのネーミングも含めて良かったのではないかと思います。というか、このアイディアだけで「手塚賞」佳作まで行ってしまったような気がしないでもありません。
 ただ、他の部分はやはり未熟さが目立つ形になってしまいました。冒頭の雑感で述べた部分に加え、ストーリーの展開や設定の説明をセリフのみに頼り過ぎている点や、「家族」というテーマを活かしきれなかった点(「家族のために盗みを働いて当然」という主張を無条件で是とするのは如何なものか?)、そして主人公の父親が死ぬシーン等の“見せ場”を効果的に見せる演出力の不足など、問題点は山積です。

 ……そういうわけで、良く言えば「荒削り」、悪く言えば「実力不足」というのが、現状の千坂さんが立っているポジションではないかと思います。まずはマンガを描くにあたっての意識をプロ仕様に変えないと、「ジャンプ」での飛躍は難しいでしょう。
 さしあたっては、技術の確かな連載作家さんのアシスタントに潜り込むなどして、基本的な所からマンガ描きの技術を徹底的に仕込んでもらうと良いのではないでしょうか。好感度の高い主人公・ヒロインを描くセンスはある人だとは思いますので、技術さえ身に付ければ大化けも有り得ると思います。

 評価はB−。もうちょっと高くても良いような気もしますが、技術面を重視して採点するとこの辺に落ち着いてしまうんですよね。
 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週も空知英秋さんと編集さんのバトルは続行中。打ち切り回避したとなったら、筆も滑らかですなあ(笑)。
 空知さんがコメントで、

 「僕の担当は家に来ると冷蔵庫を勝手に物色するチンピラ編集者です。全ての指を突き指しろお前は」

 ……とやったと思えば、担当さんも例の柱スペースで、

 「なぜか電話が繋がらず連絡が取れない空知英秋先生の作品が読めるのは週刊少年ジャンプだけ!!」
    ↓(8ページ後に)
 「電話料金きちんと払えよ!! 空知英秋先生に応援のファンレターを!!」

 ……などと、オチまでつけて逆襲。絶対仲良いだろお前ら、と言いたくなるような連携プレーが見事ですね(笑)。今週の『銀魂』は笑い所が少なかったので、こういう所で小ネタを利かせたんでしょうか。

 あーあと、今週の巻末コメントでは、
 「最近仕事場でクイズが大流行。で、雑学王の私が圧勝中。アシスタント諸君、更なる難問でかかってこい!」(許斐剛さん)
 「ペットのハムスターがご臨終に。一番辛かった2年間を一緒に過ごしてくれた仔でした。サンキュ」(和月伸宏さん)
 ……の2つを見て、「うわー、こんな短い文章にでも人格って滲み出るものなんだな」と思ったりしました(笑)。
 まぁ、そう言う駒木はこれから気をつけても手遅れなぐらい人格疑われてると思うんですが。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】
 
 大方の予想を覆す自力決着でこのエピソード完結となりました。いやー、やっぱ実力派の作家さんが描くエピソードの展開予想は至難の業ですね。駒木も精進せねば……。
 ただ、エピソードそのものは、やや駆け足に過ぎたかなという感じもします。先週と今週の2回分のシナリオは、3〜4回にジックリ分けた方が話に深みが増してもっと良くなったような気もします。連載序盤で戦闘を間延びさせて失敗した教訓なんでしょうけど、過去の回想や心的描写はもう少しジックリ読ませて欲しいです。

 ところで、斗貴子さんの「スパルタンだけど、完全な冷血漢になり切れない部分」の描写は秀逸でしたよね。特にカズキの腕を切り裂いておいて、自分も痛そうにしている表情を挟むのが絶妙です。しかし、それでもいくら本気度を示すためだとはいえ、身内に目潰しはやり過ぎだろうと(苦笑)。


 ◎『ごっちゃんです!』作画:つの丸【現時点での評価:B+/連載総括】 

 数少ない03年度生き残り組の一角も、低迷する人気には勝てず、3クールで打ち切りとなってしまいました。巻末コメントによると、『サバイビー』の時のように単行本最終巻での加筆修正があるみたいですね。
 やはりこの作品最大の“敗因”は、主人公のキャラクターが作品の世界観から浮いてしまったという点でしょうね。主人公を除いては地味ながら良質な相撲マンガになっていただけに、非常に惜しい所でした。

 最終確定評価は、打ち切りが濃厚になった終盤でやや展開が拙速になった分を差し引いてB寄りB+としておきます。


 ……というわけで前半分でした。後半分は週末になると思いますが、どうぞ宜しく。

 


 

2003年度第114回講義
3月12日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第2週分・合同)

 「ギラン・バレー症候群に酷似した免疫系の原因不明の病気」みたいな厄介な病気の手術(と言うか、免疫系の病気で外科手術?)を、民間の普通の総合病院でやっちゃう影にはどのような深遠な裏設定が? ……などと、とりあえず思ってみた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか駒木ハヤトです。

 さて、今週は情報系の話題が多いので、取り急ぎ本題へと移りましょう。

 まずは新人賞の話題から。今週は「ジャンプ」、「サンデー」共に、月例新人賞の審査結果発表がありましたので、こちらでも受賞者・受賞作を紹介させて頂きます。

第10回ジャンプ十二傑新人漫画賞(04年1月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作なし
 十二傑賞=1編
 ・『REACTION』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  岩田崇(21歳・京都)
 
《岸本斉史氏講評:キャラを少なく絞って分かりやすく見せている。キャラの性格と合気道というスポーツの特徴を上手く噛み合せているのが面白い》
 
《編集部講評:ストーリー作りが上手い。それぞれのキャラがドラマに巧みに絡み合っていて読ませる力がある。弱点は画力。絵柄は個性的だが魅力的ではない。読者に好かれる絵柄を目指して欲しい)
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『CLEANER─クリーナー─』
   泉朝樹(18歳・沖縄)
  ・『卓球王』
   路地方瑕王(21歳・新潟)
  ・『NEW FUTURE』
   久米利昌(22歳・栃木)
  ・『合戦場の絵師』
   江藤俊司(21歳・福岡)
  ・『ジャンキーヒーロー』
   小林真依(21歳・大阪)
  ・『星の花』
   土田健太(22歳・千葉)

少年サンデーまんがカレッジ
(03年12月・04年1月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=4編
  ・『VAN !!』
   佐多啓文(25歳・埼玉)
  ・『バウンサー』
   ガネコマサル(20歳・福岡)
  ・『雨男─Dancin' Chaser─』
   早川直希(24歳・愛知)
  ・『GREAT THIEF』
   ひらかわあや(18歳・島根)
 努力賞=1編
  ・『機鳥 The Machine Bird -KITORI-』
   桜樹英樹(19歳・奈良)
 あと一歩で賞(選外)=4編
  ・『黄金のクロス』
   高橋拓也(24歳・神奈川)
  ・『SHINOBI』
   佐伯玄太(22歳・愛知)
  ・『ホーンアイデンティティ』
   指音ゆう(24歳・京都)
  ・『スカイブルー』
   峯松隆人(18歳・兵庫)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ※「ジャンプ十二傑新人漫画賞」
 ◎最終候補の江藤俊司さん…03年06月期「十二傑新人漫画賞」で投稿歴アリ。
 ◎最終候補の小林真依さん…01年11月期、02年10月期「天下一漫画賞」、03年4月期「十二傑」でも最終候補
 ◎最終候補の土田健太さん…01年度「ストーリーキング」マンガ部門で奨励賞を受賞。

 ※「サンデーまんがカレッジ」
 ◎佳作の佐多啓文さん…02〜03年にかけて、「週刊少年ジャンプ」のカット描き経験アリ(?)
 ◎あと一歩で賞の佐伯玄太さん…02年12月・03年1月期「まんがカレッジ」でも“あと一歩で賞”

 ……今回は、飛び抜けた逸材には恵まれなかったものの、“新人予備軍”発掘という観点から見ればなかなかの豊作…といったところでしょうか。

 
 続いては、読み切りの話題。次週発売の「ジャンプ」、「サンデー」では、各誌1本ずつ読み切りが掲載されます。

 まず、「ジャンプ」16号には03年下期「手塚賞」佳作受賞作・『ヘンテコな』(作画:千坂圭太郎)が掲載されます。
 「手塚賞」関連では通常、受賞作がそのまま掲載されるのは準入選以上のみのケースが多いのですが、今回は佳作受賞作の本誌掲載という異例の抜擢となりましたね。

 一方、「サンデー」の16号に掲載されるのは、『ダグラーバスター クウ!』(作画:松浦聡彦)。かつて『タキシード銀』をスマッシュさせ、最近では系列誌の『サンデーGX』でも連載されていた松浦聡彦さんが、“創刊45周年記念特別読み切り”という名目で久々の週刊本誌復帰となりました。
 「創刊45周年記念」で何故松浦さんが登場するのかはさておき(笑)、楽しみにしておきたいと思います。

 
 ……ところで、先週少しお話した「島袋光年氏、復帰か?」の件ですが、既に誌面・ネット上でも発表になったように、「スーパージャンプ」誌で復帰が決定しましたね。しかもいきなりの連載復帰です。
 ただし、作品は全くの新作だという事で、予告のイラスト等から判断するに、シリアス系のベースにギャグを挟んでいくタイプの作品になりそうですね。
 「週刊少年ジャンプ」時代の島袋さんと言えば、「描きたいのはシリアス系、しかしアンケートが取れるのはギャグ系。そしてそのギャグは深刻なネタ枯れ状態」…という深刻なパラドックスにハマっていましたので、今回の新作はその折衷案といったところなのでしょうか。
 この新作、当ゼミではレビュー対象外ですが、場合によっては“読書メモ”枠で紹介する事になるかも知れません。受講生の皆さんも、頭の隅に記憶しておいてもらえると有り難いです。

 ……それでは、今週分のレビューとチェックポイントです。レビュー対象作は、「ジャンプ」の新連載1本、「サンデー」は新連載第3回と読み切りが各1本で計3本。また、チェックポイントも今週は増量でお送りします。

 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年15号☆

 ◎新連載『未確認少年ゲドー』作画:岡野剛

 今週から始まりました、春の新連載シリーズ。トップバッターは、2連続の短期打ち切りを克服しての再登場、ベテラン・岡野剛さんです。

 岡野さん──かつてはのむら剛のペンネームでも活動──88年上期の「赤塚賞」で『AT(オートマチック)Lady』が入選を受賞し、88年33号に受賞作掲載の形でデビュー。この作品は89年に連載化され、岡野さんは現役の学生との兼業というハンデを抱えつつ初の週刊連載に挑みますが、これは残念ながら1クール・10回打ち切りに終わります。
 しかしその後、真倉翔さんを原作者に迎え、岡野さんが作画を担当した『地獄先生ぬ〜べ〜』が、93年から99年まで5年半に渡る長期連載でスマッシュヒットを達成。この作品はテレビ朝日系でアニメ化もされ、一躍、岡野さんは有名作家の仲間入りを果たしました。
 しかし、その後は一転して伸び悩みの状況に陥ります。再び真倉翔さんとのコンビで臨んだ『ツリッキーズ・ピン太郎』2クール・19回で、真倉さんとのコンビを解消し、久々に単独で執筆した作品・『魔術師^2(マジシャン・スクウェア)2クール・16回でそれぞれ打ち切りとなり、『ぬ〜べ〜』で築き上げた「ジャンプ」でのポジションを実質上失ってしまいます。
 その後、しばらくの休養を挟んで岡野さんは、“10年選手”としては異例の『赤マルジャンプ』登場から再出発。その後、週刊本誌03年27号に今回の作品と同名の読み切りを発表し、その実績で2年半ぶりの週刊連載枠獲得を果たしました。デビュー16年目の正念場、果たしてどのような結果になるか、目が離せない所ですね。

 ……では、作者紹介が長くなりましたが、作品の内容へ参りましょう。

 まずはについてから。もうこれは岡野さんの作品をレビューする度に申し上げている事ですのですが、非常に完成度の高い“マンガ用の絵”だと思います。
 無駄な線が無く、ディフォルメ表現も文句無し。『ぬ〜べ〜』時代にさんざん妖怪を描いていたためでしょう、今回の“未確認生物”の造型も異形な中に愛嬌が感じられ、非常に好感度の高い絵柄だと思います。
 ただ、これも以前から申し上げている事ですが、全体的なセンスが若干古臭くなっているのかな、という気もします。何しろこのスーパー銭湯全盛の21世紀に旧態依然とした銭湯の煙突ですからね(笑)。今回は出て来ませんでしたが、岡野さんの描く不良キャラは“梅澤春人以上、車田正美未満”くらい時代錯誤だったりしますし……。この、どことなく“80年代”の残り香が感じられる作風が、ネガティブな受け取られ方をしなければいいが…と思ってしまいました。

 一方、ストーリー・設定なんですが、この第1回は、昨年発表のプロトタイプ版をベースに微調整を加えて仕上げた、一話完結型のエピソードでした。主要キャラクターや世界観の提示をする一方で、物語全体のプロローグ的なシナリオを上手く展開させており、こちらも好感度の高い仕上がりではないかと思えます。
 問題点としては、キャラクターの行動に極端かつ強硬手段的なモノが多く、ストーリーの流れがやや強引に感じられた事が挙げられるでしょうか。また、主人公側に確固たる大目標が存在しないという点は、今後の展開を考えると弱含みの材料になるでしょう。このままだとバトルの無い『地獄先生ぬ〜べ〜』のような作品になってしまいそうですが、それだと“縮小再生産”ですし。
 あと、“未確認生物”関連の設定は、そのまま作品の魅力に直結する重要な部分だけに、もう少し現実味を持たせる(もっともらしい嘘をつく)配慮が欲しいところです。作中のキャラクターに「え〜?」と突っ込まれるような設定は、やっぱり読み手にとっても「え〜?」になると思いますので……。
 あ、蛇足ですが、実際の人類の進化についてお知りになりたい方は、当講座の歴史学講義・「学校で教えたい世界史」の第1回から第3回までのレジュメをご覧下さいませ(笑)。

 さて評価なのですが、先述した通り、まだ読み切り版のエピソードを再構成したプロローグが終わったばかりなので、今回は保留としておきます。ただ、ここから目新しい展開がない限りは、読み切り版の評価(B寄りB+)を超える事は無いとお考え下さい。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 「バレンタインチョコ届きました」という、駒木にとっては心底どうでもいいコメントが複数見受けられる中、チョコはチョコでも、小説・『グミ・チョコレート・パイン』(作:大槻ケンヂ)について述べていたのが和月伸宏さん。そう言えば、パイン編出たんですよね。駒木は相当後からの読者ですから知らなかったんですが、8年待ちとは(笑)。
 えーと、『グミ・チョコレート・パイン』がどういう小説かを簡単に説明すると、芥川賞受賞作・『蹴りたい背中』(作:綿矢りさ)を男子サイドからの話にして、もっと笑えてもっと共感出来るようにした話です。……なんだ、だったらオーケンに芥川賞やっとけよ、などと『蹴りたい背中』を読了した直後に駒木が思ったのは秘密(笑)。

 ◎『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 デービーバックファイト2回戦はゾロ&サンジ組の勝利で終了。駒木の勝敗予想は外れてしまいました(笑)。それにしても、往年のクラッシュギャルズVS極悪同盟を思わせるあのレフェリングには笑わせてもらいました。
 しかし、となると、1名離脱というシナリオのためにはルフィが負けなくちゃならないわけですか。しかし、それだと離脱するメンバーもチョッパーだとは言い切れなくなりますね。
 まぁここは無理な深読みは止めて、素直に展開を追いかけるべきなんでしょうね(笑)。

 ◎『遊☆戯☆王』作画:高橋和希【開講前に連載開始のため評価未了/連載総括】

 96年から中断を挟んで足掛け8年。『こち亀』を除けば最古参の連載作品だった『遊☆戯☆王』もついに完結となりました。最近は掲載順も低迷していましたが、センターカラー&大増ページでの“円満完結”タイプの最終回となりました。
 何を置いてもまずは、「長い間、お疲れ様です」と申し上げたいと思います。淘汰の激しい「ジャンプ」で週刊連載をこれだけ長い間続けて来たというだけでも、凄い事だと思います。

 ……これほどまでに商業的な成功を収めた作品について、駒木なんぞがあれこれ言うのは僭越だと言わざるを得ません。が、それでも敢えて、このゼミとしての連載総括をさせて頂きます。ファンの方には少々耳の痛い事もお話しなければならないかと思いますが、ちょっとの間だけ、スルーをお願いします(笑)。

 さて、この作品を語るには、やはり一連の“カードバトル”をどう評価するか…という事に尽きると思います。
 “設定の整合性”という観点から見れば明らかに反則行為である後付けルールの連発、トンデモ系麻雀マンガ真っ青な豪運による大逆転、そしてそれらの御都合主義的演出に伴う戦略性描写の軽視……。少年マンガらしい、分かり易くて爽快なバトルシーンをカードゲームを使って演出するために、この作品は相当な“犠牲”を払って来たように思えます。
 これをどう評価するかというのは、大きな個人差が出て来ると思いますが、駒木ハヤト個人のジャッジとしては“ナシ”です。話の辻褄が合わないという事もありますが、本来なら作家が頭をヒネって工夫すべき部分を反則と御都合主義に頼って放棄してしまった…という、作品作りに対する根本的な姿勢に大きな疑問を抱いてしまうのです。

 あと、ストーリー全般については、各方面からの不可抗力が強かったにせよ、連載期間、特にカードバトル路線で引っ張った期間が長過ぎ、ストーリー全体が冗長に陥ってしまったような気がします。連載終盤の掲載順と単行本売上げの低迷は、その辺りを客観的な部分で示していたのかも知れません。
 元々、高橋さんの作風は複雑な心理描写などを挟まない“直球一本槍”のタイプですし、7年以上引っ張るには色々な部分で無理があったという事でしょうか。

 当ゼミとしての最終確定評価は、“功労賞”的なボーナス点も加味してBとしておきます。「大人の事情で名作になる事を許されなかった悲運の人気作」といったところです。

 
 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】

 今週もまた演出の素晴らしい事! それがまた理詰めの計算で出来ているから恐れ入ったというところですね。
 どぶろく先生に、ヒル魔&栗田&ムサシをハァハァ3兄弟をダブらせて語らせた部分も凄いんですが、ヒル魔とまもり姉ちゃんにスポットを当てた描写も光ってますね。各キャラクターに見せ場を作ってあげている配慮、それとコメディとシリアスの使い分けが非常に達者です。
 まぁ肝心のメインシナリオについては、トンデモな筋書きをムリヤリ理論武装してもっともらしく見せる…という危ない橋を渡っているので、ちょっと心配だったりもするのですが。

 
 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 いやはや、キてますなあ。強烈なハードコア&スピーディ展開。普通の少年マンガのバトルシーンが展開されていたはずなのに、いつの間にか凄い状態になってますね。
 とはいえ、連載開始当初から、この作品の設定はTYPE-MOONのビジュアルノベル風の殺伐としたストーリーを採用してこそ生きてくるんだ…などと思っていた駒木にとってみれば、この展開は不謹慎ながら小さくガッツポーズなわけですが(笑)。
 とりあえず、ここはキャプテンブラボーが現れて妥協策を提示、カズキと斗貴子さんも一時休戦…といった展開になるんでしょうね。しかし、カズキと斗貴子さんを躊躇せずに対立させた和月さんの決断力も凄いですね。確かに2人のキャラクターからすれば、ここはこういう展開しか有り得ないわけですが、全く躊躇しないですからねぇ。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B/久米田康治先生をリスペクトした雑感】

 ※今週月曜日、駒木と順子ちゃんの電話による会話の一部を再現。

順子:「……あ、そう言えば博士、今週の『ジャンプ』読みました?」
駒木:「いや、まだだけど。どうかしたの?」
順子:「『いちご100%』、また新しい女の子出て来ましたよ(笑)」
駒木:「また? テコ入れとキャラ増員は同義語じゃないんだっての。出せば良いってもんじゃないんだから……」
順子:「東城を予備校までストーキングしてて、そこの階段ですれ違いざまに女の子をぶつかって、もみ合いになりながら転落。気がついたら真中の顔面にその女の子の股間がめり込んでました。当然いちごパンツ」
駒木:「…………」
順子:「あ、あと観覧車! 観覧車が故障した上にドアのカギが閉まってなくて、落ちそうになった西野が下着丸出しになりながら真中に抱きつくってオチでした」
駒木:「…………(白い小旗を振りながら無言)」

 そこまでやられたら、もう何も言えません。


☆「週刊少年サンデー」2004年15号☆

 ◎新連載第3回『思春期刑事ミノル小林』作画:水口尚樹【第1回掲載時の評価:B+

 2週間前の13号から連載が始まったこの作品も、今回で第3回。後追いレビューを実施させてもらいます。

 まず、ギャグを効果的に見せるテクニックに関しては、前回のレビューで申し上げた通り申し分無いと思います。今回では反則スレスレのパロディも挟みつつ、ギャグの密度を濃くしようという意欲が窺えますね。
 ただ、ここに来て顕著な問題となって来ているのが、メインキャラ不足です。実質上ボケ1・ツッコミ1の布陣では、どうしてもギャグを畳み掛けるのが難しくなってしまい、結果としてネタの展開に無理が生じているような気がするのです。前作・『フェニックス学園』まではちゃんと出来ていた事ですので、本来の姿に戻ってもらえれば…といったところです。
 あと、主人公・ミノルが孤軍奮闘のボケで暴走したためか、このキャラのネット界隈における好感度は相当低くなっているようです。駒木はそのへん鈍感(笑えりゃ良いと思ってるタイプ)なので気にしないのですが、主人公が多くの人に嫌われているマンガで長続きした物は少ないですから、早めの善処を期待したいところですね。

 評価はランクを下げてB+寄りBと一旦後退させておきます。地力はある作家さんですから、持ち直せば改めて高い評価をつけられると思うのですが……。


 ◎読み切り『HOOK!』作画:鹿養信太郎

 さて、先週のこの時間でも紹介しましたように、今週は読み切り作品が掲載されています。
 今回登場の作者・鹿養信太郎さんは、これが週刊本誌初登場。これまでは増刊で数回作品を発表しているようで、最近では昨秋のルーキー増刊で『茜丸がゆく』を発表しています。
 また鹿養さんは、かつて夏目義徳さんが『トガリ』連載中にアシスタントを務めていました(単行本巻末のスタッフ紹介にクレジットがありました)ので、少なくとも00年からこの業界で活動をしているという事になりますね。

 では、レビューへ。
 まずはについてですが、背景処理等の“アシスタントの仕事”に比べて人物作画のような“マンガ家の仕事”が不出来という、典型的なアシスタント出身の若手作家タイプの絵柄ですね。ルアーや魚の描写が妙にリアルなのは、恐らく資料写真か何かを参考に描いたからでしょうが、人物作画と比べると明らかに浮いて見えてしまうのが何とも……。
 人物作画では、色々なアングル、ポーズ、ディフォルメに挑戦しており、高いモチベーションは窺えるのですが、悲しいかな技術と経験が伴っていないといった感じですね。今後の最優先課題でしょう。
 ただ、長所も無いわけではなく、大ゴマの使い方や笑顔がよく似合うキャラを描くのは上手だと思います。この辺は作品全体の好感度を上げる方向へ働きますので、目一杯伸ばしてもらいたい部分です。

 次にストーリーと設定について。
 まず、詐欺とフィッシングを絡めるというアイディアそのものは新鮮で良かったと思います。ただ、それがシナリオに上手く活かされているかと言えば、「残念ながら……」といったところですね。むしろ、このアイディアを活かすためにリアリティの無い設定強引で安直なストーリー展開を招いており、せっかくのアイディアもむしろ逆効果とさえ言えるかも判りません。
 鹿養さんは、前作『茜丸がゆく』でも、“室町時代の羽根突きとバドミントンの融合”と言う奇抜なアイディアで勝負しています。どうやら、関連性の低そうで高い2つの事柄を結び付けてメインアイディアを練り、そこからストーリーとキャラクター等の設定を創り上げていく…という創作方法を採っているようですね。確かにこれは目新しさを出すには最適の方法でありますが、逆に言えば目新しさだけを重視した方法でもあります。アイディアが素晴らしくても、肝心のシナリオの完成度が低ければそれは単なる“アイディア倒れ”。今後はもっと腰を据え、ストーリーテリングの基本を意識した作品作りを心掛けて頂きたいものですね。(何かいつにも増して偉そうな言い方になってしまいましたが……)

 評価はB−とします。とりあえず力を注ぐベクトルを変えた新作をもう1回拝見してみたいところです。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「今までで一番の親孝行は何ですか?」。
 
こりゃまた小ッ恥ずかしい質問を(笑)。回答も何だかしみじみしたモノが多くて突っ込み難いったら(苦笑)。
まぁでも、青山剛昌さんの「サイン書きまくり」ってのは判りやすくて良いですね。サインといえば、高橋留美子さんはほとんどサインを描かない事で有名なんでしたっけ? まぁ、希少価値の高いサインを「ここぞ」という時に書くというスタンスも書きまくるのと同じくらいアリだと思いますけどね。

 ちなみに駒木の親孝行は……困ったな、無いぞ(苦笑)。それこそ健康で死ななかった事だけで、親不孝だけは数え切れないほどしてますからねえ。この年になって、未だに毎年就職で苦労してるんですから……。まぁ出世払いする心の準備はあるんで、長生きしてもらいたいものです。

 ところで、今週の「サンデー」で駒木が一番笑わせてもらった箇所は、『美鳥の日々』の最終ページ柱の煽り文、
 「恋する乙女心は、いつだって怪奇千万だね」
 ……でした。このタイミングで怪奇千万って(笑)。でも多分、これで一番笑ったのは「サンデー」関係者の皆さんじゃないでしょうか(笑)。
 先週号の『改蔵』で地丹がやってた“松嶋歩き”に続いて、他作品のネタにされまくりですなあ、『十五郎』。掲載順も実質最下位に転落し、いよいよXデーも近いかな、といったところで弄られまくりとは皮肉なもんです。

 ◎『うえきの法則』作画:福地翼【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 引っ張りに引っ張り続けてきた、森あいの能力がついに発動。なんと「相手をメガネ好きにする能力」という洗脳系能力でした。
 いやはや、これにはさすがの駒木もヤラれてしまいました。「メガネっ子好き」じゃなくて、「メガネ好き」にしてしまうという、福地さんの感覚のピンボケな所がかえって良い方向に働いてますね。レビューじゃないんで言わせて頂きますが、コレ、面白ぇです(笑)

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今週、当講座の談話室(BBS)で盛り上がってるのが、今週の『改蔵』に出て来た、マンガ錬金術について。大体答えも出揃って来たようですが、「サンデー」作品をネタにしていないのは、没になったのか、それとも武士の情けでしょうか。

 ◎『ハイスクール奇面組』+『ボンボン坂高校演劇部』+柔道=?

 ◎『ミスター味っ子』アニメ版−パン以外の料理=?

 ◎『寄生獣』+『南くんの恋人』=?

 ◎『プロゴルファー猿』+『あした天気になあれ』−キャラクターの平均年齢+万乗パンツ=?

 ……とか、ミもフタもないネタはいくらでも作れるわけですが(笑)。まぁ、ミもフタも無さ過ぎてネタになりませんか。
 しかし久米田さん、実名出さなきゃ良いだろうって感じで本当にギリギリなネタを出して来ますよね。担当さん大変だ(笑)。

 ところでお忘れかも知れませんが、当社会学講座ウェブサイトは、

 『ちゆ12歳』+タモリの密室芸『教養講座』+浅田次郎さんのエッセイ集『初等ヤクザの犯罪学教室』

 ……の練成によって誕生したものであります(笑)。

 
 ──といったところで、今週はこれまで。来週もレビュー対象作が3本という事で、もし時間が許せば分割版でお届けしたいと思います。では。

 


 

2003年度第113回講義
3月6日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(3月第1週分・合同)

 「青マルジャンプ」のレビューとモデム配り仕事でゲンナリしている内に、いつの間にか土曜日に……。お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。

 では時間も押してますし、早速情報系の話題から。
 まずは先週にも未確認情報という形でお届けした、「週刊少年ジャンプ」の次期新連載シリーズのラインナップについて。正式アナウンスが出ましたので詳報をお届けします。

新連載シリーズ・今回のラインナップ

 ◎第1弾・15号(次週発売)より新連載
 …『未確認少年ゲドー』(作画:岡野剛)
 ◎第2弾・16号より新連載
 …『無敵鉄姫スピンちゃん』(作画:大亜門)
 ◎第3弾・新年3号より新連載
 …『少年守護神』(作画:東直輝)

 今回も前回の年末シリーズに続いて、“標準モード”の3作品となりました。いずれもプロトタイプ読み切りからの昇格組、また、かなりの準備期間を置いての連載始動という事になりますね。
 入れ替わりで終了する作品は、まず今週号限りで“突き抜け”た『LIVE』と、次号の『遊☆戯☆王』の円満終了で2枠が確定的。あとの1枠は掲載順等から『ごっちゃんです!!』『銀魂』でしょうが、ネット上では前者が最有力候補とされていますね。さて、どうなりますか……。

 ところで今回のラインナップですが、当講座的には、「コミックアワード」のグランプリ候補(=最優秀新人ギャグ作品部門受賞)『スピンちゃん』とラズベリー候補の『少年守護神』が同居するという、非常に趣深いモノとなりました(笑)。
 ちなみに、『スピンちゃん』大亜門さんは、「ジャンプ」に代原制度が確立されて以来、初めての代原作家出身の「ジャンプ」連載作家さんとなります。各種の新人賞でも「天下一漫画賞」の最終候補に残ったのが最高で、まさに裏街道まっしぐら。
 大亜門さんもそうですが、当ゼミでもデビュー以来追いかけて来た新人・若手作家さんが連載枠を掴んだりすると、駒木としても感慨深いものがあります。たまに感慨を味わいきる前に突き抜けていく人もいたりしてアレなんですが(苦笑)。

 ……さて、今日は情報をもう一件。「サンデー」から読み切りの情報を。
 次号(15号)に掲載されるのは『HOOK!』(作画:鹿養信太郎)。鹿養さんは、元・夏目義徳さんのスタジオでアシスタントを務めていた若手作家さんだそうで、過去に数度の増刊掲載歴があります。最近では昨秋のルーキー増刊の「ルーキートライアル」に『茜丸がゆく』という作品でエントリーしていましたので、作品をご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 そのルーキー増刊での作品を拝見した限りでは、正直言って週刊本誌掲載となると「?」がついてしまうのですが、ここはお手並み拝見といきたいところです。

 
 ──では、今週分のレビューとチェックポイントへ。レビュー対象作はちょっと控えめ、「ジャンプ」から読み切り1本のみとなります。その代わり来週は現時点で3本確定なんですが……(汗)。

 ※7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年14号☆

 ◎読み切り『BULLET CATCHERS』作画:夏生尚

 今週は2作品取材休載ということで、読み切り作品の掲載となりました。今回は、「手塚賞」と「赤塚賞」の告知も兼ねて、前回の「赤塚賞」(03年下期)で準入選を受賞した夏生尚さんが、その受賞作で初の“正規読み切り枠”獲得です。
 ちなみに夏生さんは、02年上期の「赤塚賞」でも佳作を受賞しており、その受賞作も含めて2回代原枠で本誌掲載(02年31号、03年35号)を果たしていますが、今回は審査員の皆さんから「成長の跡が窺える」と評されての“正式デビュー”。期せずして否応無しに注目が集まるシチュエーションとなりましたが、さてどうでしょうか。

 それでは内容についてお話してゆきましょう。
 まずはから。前回、代原が掲載された時は作画に雑な部分が目立ったのですが、今回はそういった印象を抱く事はありませんね。それどころか、むしろアクが弱い絵柄になってしまった事を心配したくなるくらいです。
 特に今回のように下品なネタも多い作品では、こういうアカ抜けた絵柄はインパクトを削ぐ意味で逆にマイナスとなってしまいます。同じコントでも、男性アイドルグループがやるのと生粋のお笑い芸人がやるのとでは印象が違って来るようなもんですね。
 ですから今後は、もうちょっとエグいディフォルメ表現を覚えて表現に幅を持たせるか、それとも絵柄に合ったスマートなネタを中心に組み立てるかでしょう。もっとも、後者の場合は「ジャンプ」ではやり辛いと思いますが……。

 そして、これまで懸案だったギャグについてですが、確かに前回までに比べると、格段に見違えています。これは恐らく、1ページマンガをやめ、通常スタイルに転向した事が功を奏したのではないかと思います。夏生さんはいわゆる“起承転結”をハッキリさせる事を苦手としていましたから、オチをつけないまま小ネタを繋げていくスタンスは本質的に向いているはずですしね。
 ただ、それでも若干の問題点も残っていると思われます。特に「もしもマゾのSPがいたらどうなるか」というメインテーマ、これは規制基準の厳しい媒体でやるにはミスチョイスだったのではないでしょうか。“少年向け”を前提としてしまうとネタのバリエーションにも制限がかかって来ますし、そうなるとどうしてもギャグの破壊力にも影響が出て来ます。
 また、ネタが全体的に“無理矢理感”のあるモノが多かったような印象も受けました。何の変哲も無い普通の事柄を強引にギャグのネタにしようとしているような……。SMネタが制限されている中で間を繋ぐためには止むを得ない事だったのかも知れませんが、もうちょっと練り込みが欲しかったところです。

 評価は、「連載ギャグマンガでスランプ気味の回くらいの出来」ということでBとしましたが、どうでしょうか。

 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 以前、コメント欄で話題になり、以来密かにコアな読者の間で注目されているのが、空知英秋さんが『銀魂』の欄外の告知(「○○先生の作品が読めるのはジャンプだけ」/「○○先生にお便りを」)でどう紹介されているか…というもの。
 このフレーズは編集さんが考えているらしいんですが、確かに傑作も多いので、ここで紹介してみましょう。以下のフレーズの後に「空知英秋先生……」と続きます。

 「エアコン無くて凍えそう!」
 「地元にはいないゴキブリを恐れる」
 「好きなタイプは八木亜希子!」
 「あまり風呂に入らない不潔な」
 「萩原流行に何となく似ている」
 「友達にはデビューは内緒!! シャイボーイ」
 「今年は申年俺の年! ゴリラ顔の」
 「ここ3ヶ月毎食カップラーメンの」
 「ラーメンに卵で贅沢気分!」
 「近所の定職屋のおばちゃんも応援!」


 ……しかし、これを見ると、一番迷惑なのは空知さんじゃなくて萩原流行じゃないかと思ったり思わなかったり。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】

 アメリカ横断ウルトラトレーニング(笑)
 これ、20代後半〜30代前半の人にはビンゴのネタですよね。多分、各地でチェックポイントとか用意されてるんでしょうねぇ。

 そういや、単行本7巻ゲットしたんですが、今回のおまけページは主要キャラクターの中学時代の卒業アルバム(想い出の写真、本人のコメント&将来の夢、恩師や当時の友人の寄せ書き)。で、これまた芸が細かくて……。特にまもり姉ちゃんの寄せ書きに女子グループ独特の雰囲気が出てて、「さすが」と思ったりしました。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】
 
 やはり桜花&秋水姉弟は人間でした。一方、2人の望みは「ホムンクルスとなって2人で永遠に」。母親の影がチラついて、果たして? と思っていたのですが、少年誌で許される範囲内ギリギリでインセストタブーを表現するという和月さんのテクニックだったようです。さすがは元・看板作家。アイディアの練り方が一味違います。
 連載当初見られた戦闘の冗長さも、最近は完全に解消されていて、「ちゃんと考えながら描いてるなあ」と感心させられますね、ホントに。
 

 ◎『銀魂』作画:空知英秋【現時点での評価:B/雑感】 

 今回はデビュー作『だんでらいおん』を思い出させる、非常に良質な人情芝居だったと思います。「意外と可愛い女の子描かせると上手い」という空知さんの才能が、やっと作品の出来と結び付きましたね(笑)。
 しかし現在の情勢だと、今期は生き残っても来期の打ち切りレースでは大本命ですよねぇ。確かにアンケートで「面白かった作品3つ」には入り辛い作品だと思うんですが、今週みたいなクオリティが今後も続くなら、せめて1年くらいは続けさせてあげたい気もします。
 暴論と判ってて冗談半分で言いますが、いっそのこと『こち亀』半年くらい休ませて、枠をこの作品に譲ってあげるのはどうかと(笑)。


 ◎『LIVE』作画:梅澤春人【現時点での評価:B/連載総括】

 1クール・ジャスト10回にて無念の打ち切り終了。見事なまでの“純正突き抜け”(=語源の意味となった『ロケットでつきぬけろ!』の連載回数、また「ジャンプ」創刊時からの伝統的な1クール打ち切り回数が10回のため)となってしまいました。

 連載を振り返ってみると、「過去の梅澤作品から、テーマと主人公たちの夢を取っ払ったような作品」になってしまったような。まさに第1回レビューから申し上げて来た“縮小再生産”作品だったのではないでしょうか。
 これで梅澤さんは2連続の短期打ち切り。「週刊少年ジャンプ」とはサヨウナラになる可能性が大きいですね。作風から考えると青年誌でも違和感は無いでしょうが、そうなると今度は青年誌の読者層の眼に適うだけの濃密なシナリオが要求されて来るだけに、梅沢さんが成功するには今まで以上に大変なような気も。一般誌でリバイバルするような題材や読者も育てきれていないでしょうし、今後は梅澤さんにとって、作家人生を大きく左右する正念場になる事は間違い無さそうですね。 

 あ、忘れるところでしたが(正確に言えば8日の午後まで忘れていましたが^^;)、最終評価は問題点を解消しないまま、中身に乏しいシナリオをズルズル引きずってしまった…という事で、第3回時点から大幅に減点してB−とさせてもらいます。

☆「週刊少年サンデー」2004年14号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「苦しい時は、どんな事を思い出して頑張りますか」。
 
まぁ、ある程度答えが予測できる質問といった感じで、回答も「もっと苦しかった時思い出す」「読者や気にかけていてくれる人を」というものが多数を占めましたね。ボケに走った人は、さすがに無理過ぎて撃沈といったところでしょうか(笑)。
 まぁでも、杉本ペロさんの「基本的に苦しい時は頑張らざるを得ない状況です」と、久米田康治さんの「生きてる事、そのものが苦なんですよ」ってのは、ボケに走ってるようで深いような気も。こういう質問は、濃いギャグ作家さんの方が真実味があったりするから不思議ですね。
 駒木の場合「受講生の皆さんの激励(社会学講座時)または「授業を面白そうに聞いてくれてる生徒たちの顔(高校の仕事)になっちゃいますね。あ、「いつまでたっても苦しいまんまなので、もう麻痺しちゃいました」ってのもあるかも知れず。

 ◎『からくりサーカス』作画:藤田和日郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 インターミッション的な話だと思っていたら、しっかりと最後はビシっと決めてくれるから、藤田さんの作品は油断ならないんですよねぇ。
 やっぱり、こういう表現って“間”が大事なんですよね。特にマンガの場合は、“間”とキメ台詞のキマり具合で作品の印象が見違えるので、特に重要なファクターだったりするんですよね。

 ◎『きみのカケラ』作画:高橋しん)【現時点での評価:B−/連載総括】

 10週に渡る敗戦処理が終了。こういう形の完結のさせ方は、恐らくあらゆる読者が望んでいなかったと思うんですけどね……。続けるんなら、とことんまで面倒見るべきだと思いますし、打ち切るんだったら休載の段階で打ち切っておいた方が、まだ救いがあったんじゃないかと。
 この10回の構成も、シナリオの密度のバランスを思い切り欠いているような気もしますし、何だか最初から最後まで精彩を欠いた連載だった気がしますね。
 最終評価はB−としておきましょうか。高橋さんが、一体どんなお話を描きたいと思っていたのか、最後の最後まで具体的に見えて来なかったのが、何とも……。

 
 ◎『ファンタジスタ』作画:草葉道輝【開講前に連載開始のため評価未了/連載総括】

 こちらは大団円で連載完結。最後は典型的なエピローグ的最終回でしたが、まぁ王道と言えば王道ですよね。
 しかし、振り返ってみると不思議な作品でした。設定や構成要素からすると、轍平はあまり感情移入出来るタイプの主人公じゃないはずですし、コンビを組むプレイヤーも、ライバルも一癖以上ある連中ばかりでしたし。それでいて、全般的には不快感もなく、何故かスンナリと読めてしまう作品だったような気がします。
 同時期に『ORANGE』みたいなバケモノ作品があったので、どうしても影が薄くなる存在ではありますが、それでも安定したソツのないストーリーテリングは評価すべきではないかと思います。総合評価は、長期連載をそれほどダレさせる事無く全うさせた功績も考慮してA−ということで。


 ……というわけで、今週分はこれにて終了。来週からはいよいよ「ジャンプ」の新連載シリーズ。また神経を使う仕事が増えますね(苦笑)。では、また。

 


 

2003年度第112回講義
3月2日(火) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・『青マルジャンプ』特集」

 お待たせしました。「週刊少年ジャンプ」の新増刊・「青マルジャンプ」の作品レビューをお送りします。

 ところで今回の「青マル」は、週刊本誌や「赤マル」に比べて質の良い紙が誌面に使われていましたね。メイン企画の主役・荒木飛呂彦さんに敬意を表したのか、それとも荒木さんのメイン読者層(高年齢層)を見込んで「50〜100円程度の価格差よりも紙質」と考えたのか、どちらにしろ読み易くて良かったです。
 またこの事は、原稿がどのように印刷されるか把握し辛い新人さんにとっては、幾分なりとも救いになったんじゃないでしょうか。レビューの中でも述べますが、通常の紙質なら印刷が酷い事になっていた作品もありましたしね。まぁもっとも、結局は質の悪い誌面を念頭に置いておかないと、週刊本誌に出た時に悲惨な目に遭うだけなのですが……。

 ……と、余談はさておき、早速レビューへと参りましょう。レビュー対象作は、少ページで“余興色”の強い『スティール・ボール・ラン』番外編を除く、新人・若手作家さんの11作品です。長丁場になりますが、最後までどうぞお付き合いを。

 当ゼミの7段階評価についてはこちらをご参照下さい。

◆「青マルジャンプ」新人・若手作品レビュー◆ 

 ◎読み切り『いのちやどりしは』作:高野勇馬/画:落合沙戸

 トップバッターは、「ジャンプ」の出世頭・「ストーリーキング」ネーム部門の準キング受賞作。この賞と言えばマイナージャンル作品ですが、今回はなんと日本の伝統芸能・文楽が題材。いやはや、「ジャンプ」は本当に懐の深い少年マンガ誌ですね。

 さて、作者のお2人ですが、まず原作者の高野勇馬さんは、今作で03年下期「ストーリーキング」ネーム部門準キングを受賞したばかりの新人原作者さん。よって、これがデビュー作という事になりますね。
 作画担当の落合沙戸さんは、02年後期「手塚賞」佳作を受賞し、翌03年「赤マル」春号にて『あかねの纏』でデビューを果たした新人作家さん。今回がデビュー2作目ですが、ルーキーらしからぬ安定した画力が評価されて、今回の抜擢となりました。

 では、作品の内容について。
 に関しては全く問題ないですね。このまま週刊本誌へ持っていっても、他の連載作家さんに決してヒケを取らない力量だと思います。老若男女の描き分けも難なく出来ていますし、ディフォルメ表現も合格点。また、文楽人形の描写についても、確実な勉強の跡が窺えます。
 有り体に言ってデビュー2作目とは思えない実力で、これだけのプロ意識を持ち続ければ、いずれ大きな仕事を成し遂げる事も出来るのでは……と期待させられます。

 ただ、残念ながら、その絵の完成度の前に肝心の原作ネームのクオリティが負けてしまったように思えます
 マイナージャンルを題材にしている以上、そのジャンルの魅力を読者に伝える事に労力とページ数を費やすのは仕方ない事ではありますが、だからと言って読み物としての魅力まで犠牲にしてしまっては本末転倒というものでしょう。キャラクターの性格設定やストーリー途上での心境変化を極端にし過ぎたために主人公への感情移入がし辛くなっているように思えますし、また、シナリオそのものも中途半端な所で投げ出された感が強く残りました。コマ割りなどの構成はちゃんと出来ていただけに、惜しかったですね。
 全体的に観れば、少年マンガ誌に載っているエンタテインメント系作品というよりも、学研などの学習マンガに近いテイストになってしまったのではないでしょうか。そもそも文楽という題材でエンタテインメントを展開する場合、文楽そのものよりも、文楽に関わる人たちの人間ドラマを主に置くほかないように思われますし、どうも目指すべきベクトルを間違えてしまったのかな…という気がします。難しいサジ加減ではあるのですが、それも難しい題材をチョイスした事によるリスクの1つでしょう。

 評価は絵の分を0.5ランク加点してB+寄りBとします。
 この作品をこのまま連載化しても、2クールを突破出来るかは極めて微妙でしょう。文楽という題材は、深い人間ドラマを描くという観点からすれば、むしろ「モーニング」のような一般向けマンガ誌でやるべきなのかも分かりません。「ストキン」ネーム部門ならマイナージャンルで…という狙いは外れていないんですけどね。

 ◎読み切り『歌歌』作画:角石俊輔

 2番手は今回デビューの新人・角石俊輔さんが登場です。角石さんは03年4月期「十二傑新人漫画賞」で最終候補に残り“新人予備軍”入りを果たしていましたが受賞歴は無し。今回は恐らく掲載作品決定のプレゼンを一次段階から潜り抜けての掲載枠獲得かと思われます。

 それでは作品についてですが、まずは、一言で言って「紙質が良くて助かりましたね」といったところでしょうか。通常の紙質なら細かい線やスクリーントーンの目が潰れたりしてヤバかったでしょう。全体的に黒っぽい絵柄だけに、下手をすると“パッと見で読んでもらえない級”の悲惨な事になっていたかも知れません。
 また、画力そのものも現時点では課題山積です。要所要所で歪みが目立つ人物作画もそうですが、集中線などの背景処理がとにかく未熟。スクリーントーンを極力使わないという方針も、「『使わない』のではなくて『使えない』のではないか」…と思ってしまいます。
 ただし、妖怪の描写は評価出来るポイントで、「絵柄が全体的に洗練されれば」という条件付ですが、これが角石さんの“ウリ”になる所になって来るでしょう。

 次にストーリー・設定について。こちらも残念ながら短所の方が目立ちます。
 まず、「人間社会における人間と妖怪との摩擦→妖怪は絶対悪ではない。出来る限り共存していこう」…というプロットは、手垢がついていながらもエンターテインメントの基本を押さえたモノで、良い所に目をつけたと言えるでしょう。ただし、そのプロットを上手く活かし切れていたかというと、「?」がいくつも並んでしまうのですが……。
 この手のプロットを用いる場合、まず冒頭が重要です。作中の世界観における人間と妖怪の位置関係──「人間社会の中で妖怪がどれくらい悪者とされているのか──と、その位置関係と現実のギャップ──妖怪社会の現実と人間社会の認識との間における格差──を提示し、読み手を妖怪側に感情移入するように誘導しなければなりません。そうでないと、ストーリー全体のテーマである「人間と妖怪は共存すべきだ」という部分に説得力を持たせる事が出来ないからです。
 しかし、この作品ではこの部分が完全に欠落しています。そのために「妖怪は全て抹殺する」という父親と「妖怪だからといって全て殺すのは間違っている」という娘の争いで、娘側に感情移入し辛くなっているんですね。その結果、主人公への感情移入も難しく、爽やかなはずのラストシーンも、妙な違和感が残っていまったのではないかと思います。
 まぁ簡単に言えばネームの練りこみ不足という事です。「こういう作品を描きたい」という初期衝動を大事にする事も結構なのですが、それだけではプロの作家としてやっていくには不十分でしょう。次回作では「では、この描きたい作品は、どのようにすれば良い作品になるだろう?」…と考えて考えて考え抜いて欲しいものです。

 評価は絵の分の減点もありますので、厳しめにいってB−。センス皆無というわけではありませんが、「ジャンプ」で成功するためにはかなりの精進が必要だと思います。

 ◎読み切り『ピアニカぼうや』作画:真波プー

 さて、3番手は「クセのある新人作家を集めた増刊」(荒木飛呂彦ロングインタビューより)というコンセプトが最も似合う、真波プーさんの登場です。
 真波さんは01年前期「手塚賞」準入選受賞を果たし、同年の「赤マル」夏号にて受賞作『余韻嫋嫋』でデビュー。商業媒体での活動はこの1作のみながら、一部のコアなファンの間では“伝説の新人作家”とされている、異色の作家さん。今回が実に2年半ぶりの「ジャンプ」登場となります。

 で、作品の方ですが……。

 ──どうレビューせえと(汗)。

 ……と、いうのが第一印象でした(苦笑)。作品紹介に「異才」とか「超新感覚」とかいった、“「普通じゃない」という事を表現するフレーズ”がバンバン飛び出すのも肯けます。普通のマンガのフォーマットで作られてないですね。どちらかと言うと、子供向けの絵本に近いスタイルでしょう。

 は主流から完全に外れている画風であるものの、洗練されたタッチで好感が持てます。表情を「ワー」という擬音で表現するあたりなどにマンガ黎明期の実験的作品を思わせる妙なレトロさが感じられ、味わい深い仕上がりになっています。良いんじゃないでしょうか。

 しかし、本当に対処に困るのがストーリーについてです。
 というのも、普通のマンガ作品というのは、読み手の喜怒哀楽のうち、特に“喜”と“哀”へ強く訴えかけ(“怒”にもコントロールしながら訴えかけますが)、感情を揺さぶるように創り上げるモノ(……と駒木は理解しています)。ですが、この作品は“喜”、“怒”、“哀”へは訴えかけず、“楽”だけに訴えかける作品なんですよね。ですから、普段このゼミで使っている評価基準が全く役に立たないんですよ(苦笑)。

 まぁ、それでもとりあえず、シナリオの流れや技巧の凝らされ具合に着目して話を進めてみます。
 まず、起承転結の構成は見事です。ストーリー展開に違和感は全く無く、オチへの持っていき方も秀逸ですね。
 ただ、さすがにシナリオのボリュームや複雑さという観点からすれば、(作品の構成上止むを得ないにしても)物足りなさは否めません。この作品と、伏線やトリックを張り巡らせて、最後に大きなカタルシスを持って来るような娯楽大作を比べた場合、どちらを評価すべきかと言えば、やはり後者でしょう。いくら完成度が高くとも、この作品は“1つのアイディアを活かした佳作の小品”という評価に留めなければならないでしょうね。

 というわけで評価です。昔懐かし「ボキャブラ天国」で、“シブ知”と“バカパク”の作品を比べるような難しさはあるのですが、減点材料のほとんど無い作品をBクラスにするわけにも行きませんので、ここは謹んでA−を進呈したいと思います。


 ◎読み切り『デス学!!!』作画:坂本裕次郎

 超異色作に続いては、これがデビュー2作目となる坂本裕次郎さんの登場です。
 坂本さんは01年5月期「天下一漫画賞」最終候補を経て、03年前期「手塚賞」で準入選を受賞。その後、週刊本誌03年29号にて受賞作『KING OR CURSE』でデビューを果たしています。今回はそれ以来の新作発表となりますね。

 それでは今作の内容について。それにしても、こちらレビューし辛い作品でした(笑)。

 まずは比較的論評し易いの方から。未熟な画力を迫力で誤魔化している印象の強かったデビュー作から一転、随分とアカ抜けて来たように思えます。持ち味を残しつつ、画面構成がスッキリして見易くなりましたね
 勿論まだ多分に荒削りな部分も残されており、手放しで褒めるわけにはいきませんが、どことなく初期の藤島康介作品を思わせる独特の絵柄は不思議と嫌味が感じられません。今後も長所を活かしつつ、より一層の技術向上を望みます。

 さて、問題はストーリー・設定恐らくこちらは読み手によって、評価が大きく真っ二つに分かれるのではないかと思います。
 その原因となるのは世界観の設定ですね。徹頭徹尾有り得ない“デス学”の世界観を受け入れられなかった場合、その読み手には作品そのものへの拒否反応が強く出て、ストーリーの内容以前に“単なる非現実的な駄作”と扱われてそこで終わってしまうでしょう。
 しかし、無理矢理にでも一度この世界観を呑みこんでしまうと、作品への印象が一変してしまうから不思議です。恐らくは作者・坂本さんの、

 「確かにこの世界観はどう考えても有り得ない。ああ有り得ないさ! だが、今ここに“デス学”はちゃんとあるんだから仕方が無いじゃないか! 文句あるか!」

 …という島本和彦イズム漲るというか、丹波哲郎・『大霊界』イズム溢れるというか、そのような堂々たる開き直りが読み手に伝播して、妙な爽快感を喚起するのでしょう。よく見れば登場人物も、そんな非現実的な世界観に対応するように、気持ち良いほど現実社会に適応出来ない連中ばかりが揃えられており、意外な所でキチンと計算された設定構築が為されている事実が窺い知れます。

 また、そんな突飛な設定に隠れがちですが、シナリオ構成も興味深いモノになっています。
 この作品を読まれた方の中には、余りにも高速で進行してゆくストーリーに戸惑われた方もいらっしゃるでしょう。しかし、それもそのはず。実はこの作品のストーリー展開のスピードは、本来ならダイジェスト、つまり回想シーンなどを描く時に用いられるものです。要は全編が粗筋を描くようにしてまとめられているというわけですね。この作品のシナリオは、本来なら1〜2クールの連載でないと描ききれないボリュームのはずです。それをギリギリにまで圧縮して45ページにまとめているのですから、違和感を感じて当然です。
 それでもこの作品の凄いのは、そこまで内容を圧縮しても、シナリオそのものの完成度はさほど劣化していないという所です。言い換えれば、これは坂本さんに長編作品を粗筋にまとめる能力が備わっているという事になりますね。創作業界には「良い粗筋が作れない人間は良い作家になり得ない」という定説がありますが、そういう意味で言えば、坂本さんは少なくとも良い作家になるための十分条件の1つを持っているという事になるでしょう。

 さて、評価です。どのファクターを加点・減点の対象にすれば良いのか非常に迷うところではありますが、それでもやはり、「世界観が突飛過ぎて読み手を選んでしまう」という点は大きな減点対象になってしまうと思います。シナリオの全編ダイジェスト化も反則と言えば反則ですし、よって今回はB+が妥当と判断させてもらいました。

 ◎読み切り『生涯おやじ道』作画:楠優一郎

 さて、次に登場するのは、今回唯一のギャグ作品。今回がデビューとなる楠優一郎さんの登場です。
 楠さんはこれまで月例賞の最終候補等を含めた受賞歴は無く、原稿持ち込みからそのまま掲載枠を獲得したようです。絵の感じを見るとアシスタント経験も無さそうですし、かなりレアなパターンですね。

 それでは作品の内容、まずはについてから。
 今回、賞レースを経ずにいきなりデビューしたわけですから致し方ないですが、残念ながら悪い意味でデビュー作らしい…というレヴェルに留まっていますね。ギャグの持ち味を殺ぐような絵の乱れが無かったのは救いでしたが、さすがにもう少し画力を磨かないと、ちょっと厳しいでしょうね。

 しかし、ギャグに関しては優れたセンスの片鱗を感じさせる、なかなかの出来だったと思います。前フリの段階の踏み方、小ネタで間を繋ぐ技術などには非凡なモノが窺え、確かな才能を感じさせます。タイプで言うと、「サンデー」の水口尚樹さんに似たような作風でしょうか。
 ただ、いくつか課題も残されています。その水口さん同様にネタ振りの上手さにネタが追いついていない…というのもありますし、今回の作品ではツッコミが単調で笑いの芽を目一杯膨らませる事が出来ていなかったようにも思えました。
 また、どちらかと言えば言葉遣いの妙で笑わせるタイプのギャグが上手であるようですので、下手に大きなネタ振りでホームラン狙いをするよりも、小ネタを重ねて連続タイムリーヒットを狙うような構成にした方が、もっと持ち味が生きて来るかも知れませんね。

 評価は画力の減点も加味してB+寄りBとしておきます。

 
 ◎読み切り『ホライズン・エキスプレス』作画:中島諭宇樹

 さて、やっと折り返し地点です(笑)。ここで文字通りセンターカラーで登場は中島諭宇樹さん。目次の扱いから見て、今回の若手・新人枠では“大将格”という事になりますか。
 中島さんは、01年11月期「天下一漫画賞」最終候補を経て02年期の「ストーリーキング」マンガ部門で準キングを受賞翌03年春号の「赤マル」で受賞作・『天上都市』でデビュー。ちなみにこの作品は、当ゼミで評価Aを獲得し、「第2回コミックアワード」では最優秀新人作品賞と最優秀短編作品賞にノミネートを果たしています。
 その後も村田雄介さんのスタジオでアシスタントを務めながら執筆活動を続け、週刊本誌03年46号には読み切り『人造人間ガロン』を発表。今回がプロデビュー3作目という事になりますね。「ジャンプ」のストーリー系若手作家さんとしては、かなりのハイペースでキャリアを積み重ねていると言っていいでしょう。

 ……それでは、今回の作品について述べてゆきましょう。

 については、基本的な部分では全く問題ないですね。村田雄介さんのスタジオで鍛えられた成果か、かなり手間隙のかかる俯瞰シーンなども恐れず挑戦しており、モチベーションの高さも窺えます。「ジャンプ」系の若手作家さんの中ではトップクラスの水準に達しているのではないでしょうか。
 細かい課題としては、メインキャラクターの容姿がどの作品でも似てしまうという点、そして見開き2ページを基準にしたコマ割りが少々勇み足だった点でしょうか。後者に関しては果敢なチャレンジと言えなくもないのですが、トキワ荘時代からのスタンダードな“マンガ文法”を覆す試みだけに、一若手作家の手には少々余ったような印象がありました。
 しかし、キャリアを重ねる毎に村田雄介さんの影響が強く出て来るのが興味深いですね。先に挙げた大胆なコマ割りもそうですが、今回の敵役のデザインなんか、まるで“中島諭宇樹流・ヒル魔”といった感じでしたし。

 ストーリー・設定は、今作もデビュー以来の好感度の高い“中島ワールド”が展開されていますね。スケールの大きな世界観は健在ですし、ストーリーテリング力にも確かなモノを感じます。
 ただ、今回は世界観設定の細かい部分での甘さが特に目立ちました。裏設定の語りが足りないというか、ホライズンエキスプレスのメカニズムや主要キャラがどうして“列車乗り”になったのか…といったディティール部分がほとんど語られておらず、全体として重厚さに欠けた嫌いが有ったように思えました。主人公の性格描写も取ってつけた感が否めません。
 しかし、それらの欠点を全て帳消しにしてお釣りまで残してしまったのが、ラストシーンでした。読み手の認識を最後の最後で根底から覆す演出は素晴らしいの一言。そのラストシーンから逆算して設定やトリックめいた伏線を構成した技術の豊かさにも唸らされる思いです。しかし、『コナン』か『ラピュタ』かと思っていたら、まさか『銀河鉄道999』だったとはねえ(笑)。

 評価はラストシーンの素晴らしさを最大限評価しつつ、諸々の減点部分を相殺してA−としておきます。ちょっと甘めでしょうか?
 ここまで安定して水準以上の作品を立て続けに描けるとなれば、あとは週刊連載…という話になって来るのでしょうが、その際には適切な準備期間を置いて頂きたいと切に願います。


 ◎読み切り『DEAD/UNDEAD』作画:田中靖規

 さて、ようやく峠を超えた7番手は、これがデビュー2作目となる田中靖規さんの登場です。
 田中さんは02年9月期「天下一漫画賞」で佳作を受賞し、その“デビュー確約”特典として、「赤マル」03年冬(新年)号にて受賞作・『獏』でデビューを果たしました
 今回は1年ぶりの復帰作。「十二傑賞」が始まってから増刊掲載枠が実質削減された煽りを食った形になっていましたが、新増刊で漸く復帰となりましたね。

 では、作品について。

 デビュー時から定評のあったに関しては、今回も特に大きな欠点は見当たりませんでした。表情やアングルぼバリエーションがが単調なのが少々気になりましたが、作品の完成度を落とすまでには至っていません。ディフォルメ表現も出来るみたいですし、絵柄にメリハリをつければもっと良くなるでしょう。

 ただ、一方のストーリー・設定は、肝心なところで詰めを誤ってしまった感が拭えません
 先にレビューした『歌歌』と同様、プロットは申し分ありません。キャラクターの配置やクライマックスへ至る流れも理想的で、本来なら成功作になる要素は十分揃っている題材であると言えます。
 が、この作品もシナリオに説得力を持たせる作業を怠ってしまっており、そのために作品の完成度を大きく損ねる結果に繋がってしまいました。具体的に言えば、

 「不死であるという事がメリットよりもデメリットの方が勝るという実感を読み手に与える作業」

 「バトル等において主人公の肉体的な痛みを強調して、読み手に“ハラハラドキドキ感”を与え、主人公への感情移入を促進する作業」

 「神が主人公に与えた試練やそのルールに理論武装を加え、話全体にもっともらしさを出す作業」

 ……以上3つの作業が欠如しており、結果として読み手が作品世界に没入する事を阻害する原因を多く作ってしまったのです。もう少しネームを練っていれば、随分と印象が違っていただろうと思えるだけに、本当に勿体無い気がしてなりません。

 評価はBとしておきましょう。ただし、将来的には大化けする可能性も残されている作家さんだと思いますので、今後に期待したいところです。

 
 ◎読み切り『THE DREAM』作画:荻野英貴

 続いてもデビュー2作目の作家さんが登場。これが2年半振りの復帰作となる萩野英貴さんです。
 萩野さんは00年3月期「天下一漫画賞」最終候補00年5月期「天下一漫画賞」審査員(ほったゆみ)特別賞受賞と、短いスパンで意欲的に投稿活動を展開し、その翌年、「赤マル」01年夏号にて『MAN IN THE PICTURE』で晴れてデビューを果たしました。が、それからは先述の通り、プロの洗礼を浴びる形か2年半にも渡って新作発表を果たせず、現在に至っています。

 というわけで、作品の内容について。
 まずはから。背景処理などでは結構手が込んだ作業が為されており、その辺は良いのですが、いかんせん人物作画の完成度が甘く、実力以上に印象の悪い絵柄になってしまっているようです。特にヒロインの表情や顔のアングルのバリエーションが極めて乏しく、そこで大きく損をしているように感じます。

 そしてストーリーと設定は、根本的な部分も含めて問題点が山積です。
 まずシナリオ。一見ミステリ風でありながら、特に大きなドンデン返しも無く、平板この上ないモノになってしまっています。最初から怪しい人間が本当に怪しかった…という結末では、読み手に感銘を与える事は出来ないでしょう。一応、“夢探偵”の正体について仕掛けが為されていますが、その謎解きがシナリオ上で必然性があるとは思えず、折角の見せ場が逆に蛇足に陥ってしまっているように思えます。
 しかし、それ以上に頂けないのが設定の提示に関する部分でした。徹頭徹尾、キャラクターの設定に至るまでセリフ等による文字解説のオンパレード。設定を描写ではなくて説明するだけになってしまった典型例で、これでは……。文字による解説は一概に悪いとは言えませんが、何の工夫もなく延々と…というのはさすがにダメでしょう。

 評価はC寄りB−。何とか凝ったお話にしようという意気込みは買えるのですが、それでもここが精一杯といったところ。妥協の無いシナリオ作りが今後の課題となるでしょうね。


 ◎読み切り『みえるひと』作画:岩代俊明

 ここからは全てデビュー作の新人作家さんで固められています。まずは03年下期「ストーリーキング」マンガ部門準キング受賞者・岩代俊明さん。デビュー前から積極的な同人活動を展開していたようで、念願かなってのプロデビューといったところでしょうか。

 ……では作品について。ストーリーキング受賞作という事で、シナリオ・設定に目が行きがちになりますが、ここは絵もキチンと見させて頂きます。

 ということで、まずはから。投稿作品が即受賞というキャリアを考えると致し方ないのですが、デッサンの荒さや背景の寂しさが目立ちますね。“マンガの文法”的な表現技術は出来ていると思いますので、あとは手にプロとしての技術を染み込ませるだけでしょう。
 ただ、長所が無いというわけでもなく、飼い犬が妖怪化した時のデザインの奇抜さなど、個性的な高いセンスの良さも窺えます。まぁ“化け犬”は多分に『寄生獣』の影響を感じるのですが、それでもあのセンスは真似ようと思っても真似られるモノではありませんからね。

 さて、注目のストーリー・設定ですが、こちらは高いセンスと才能の萌芽は窺えるものの、作品全体のクオリティとしてはまだまだ未完成…といったところでしょうか。
 まず具体的な長所としては、小エピソードを利用したキャラクターや設定の描写・解説の巧みさ、作中作品(童話)を挟んでストーリーの重厚さを演出した高いセンス、キャラクターの何気ない行動からムードの盛り上げる技術、ギャグを挿入するタイミング…といったところ。大まかに言えば、ストーリーの展開させ方や演出に関する部分ですね。
 ただ、これらの演出に肝心のシナリオが付いて来ていないのが泣き所です。妖怪化した飼い犬が飼い主であるヒロインのおじを襲った理由、そしてヒロインをも襲った理由が不鮮明で、最後まで事件が完全に解決しないままで終わってしまっています。作中作品の童話についても謎を残したままで、何と言うか、奥歯の歯茎に魚の小骨が刺さったような印象が残ってしまいました。

 以下、多分に推測が混じりますが、現在の岩代さんはストーリーテリングに必要な技術を理詰めではなく感覚で身に付けている状態なのでしょう。言い換えると、「これをすると良い結果に繋がる」という事は分かっていても、「何故、これをすると良い結果に繋がるのだろう」という部分は理解出来ていないんではないかと思うのです。それ故に、肝心な部分で歯抜けがあっても気がつき難いという次第。
 今後はその辺り、お話作りの理屈の部分を勉強して再チャレンジしてもらえれば…と思います。

 これも評価が難しい作品ですが、短所も目立つがセールスポイントも確かにある…という事でB+にしておきましょう。次回作に期待です。

 
 ◎読み切り『遊蕩☆法師』作画:里谷竜希

 ラスト2作は昨年秋の「十二傑賞」受賞デビュー組から。月次順ということでしょうか、03年10月期佳作&十二傑賞受賞の里谷竜希さんが“先攻”となりました。

 に関しては、背景処理や動的表現などは受賞作デビューとは思えないほど手馴れていますね。詳しくは判りませんが、かなりのアシスタント経験があったと考えるのが自然でしょう。
 ただ、人物作画にはデッサンの歪みが目立ちますし、表情のディフォルメ表現が全体的に品が無いのも頂けない部分です。今後はアシスタントとしての技術よりもプロ作家としての技術を高める事を意識してもらいたいと思いますね。

 一方、ストーリー・設定は、ただ一言「見るも無残」といった感じです。
 悪い意味でいかにも“「ジャンプ」的”なメインストーリーの浅薄さもありますが、何よりも最悪なのがヒーローのキャラクター設定です。『BASTARD!!』のダーク=シュナイダーのようなアンチヒーローを目指していたのでしょうが、作者の未熟さ故か、出来上がったのは、ただのタチの悪いチンピラ紛いの男。これではどうしようもありません。
 で、そんな出来損ないのヒーローを好き勝手に暴れさせた結果はただただ悲惨。「どう考えても作中の登場人物で一番のワルが、偉そうにヒーロー面して善良な少年に説教をブチかます」…という、心底救いようの無い展開になってしまいました。
 他にも、泣く子も黙る山賊が女を「抵抗したから殴った」だけとか、必殺技一発だけで終わってしまう内容の無い戦闘シーンなど、既存の「ジャンプ」新人作品の悪い所だけを抜き出したような作品になってしまいました。
 ただ、そんな作品でも十二傑賞どころか佳作まで受賞してしまうのが色々な意味で興味深いところで、ひょっとするとこの作品は、徹底的に「ジャンプ」系新人賞の傾向と対策を分析した結晶なのかも知れません。まぁ、もしそれが本当だとしても、作品のクオリティを犠牲にしてまで受賞&デビューを目指すという姿勢は問題アリとしか言いようが無いですけどね(笑)。

 評価はギリギリでC寄りのB−。あとほんの少しで“死刑宣告”になるところでした。


 ◎読み切り『福輪術─ふくわじゅつ─』作画:村瀬克俊

 いよいよラスト。皆さんここまでお疲れ様です。でも駒木の方がずっと疲れてるんですよ……などと、独演会で3席目の高座に上がる落語家のようなネタをかましつつ、まずは作家さんの紹介から。

 ここでデビューを果たす村瀬克俊さんは、03年11月期『十二傑新人漫画賞』で佳作&十二傑賞を受賞し、デビュー権利を掴みました。他に受賞歴等は無いのですが、後述するように洗練された絵柄からすると、この人もアシスタント経験があるのかも知れません

 ……では、作品についてお話してゆきましょう。

 まずは先ほども話題に挙げましたから。
 「十二傑賞」の審査結果発表の時に画力で「優れている」の評価を受けただけあって、十分合格点を出せる出来に仕上がっています。これでキャラクター描き分けのバリエーションがもっとつけられるようになれば、なお良いでしょう。

 ストーリー・設定は、小説のショートショートを思わせるような渋いシステムを採用していますね。
 このシステムを具体的に説明しますと、まず「もしも〜があったら」的な特殊設定を“触媒”として用意し、そこへ1つの出来事を放り込んで“化学反応”を起こして、ちょっと不思議なストーリーを紡ぎあげていく…という手法という事になりますね。
 この方法は、いかにも短編らしいエピソードが作れるシステムであり、使い方によっては極めて有効に働きます。藤子・F・不二雄先生のSF短編でも、このシステムを利用した作品がいくつかあるはずです。

 さて、ではこの『福輪術』がどれくらいこのシステムを上手く活用出来ているのでしょうか?

 まず、大筋のストーリー展開は上手く構成出来ていると思います。回想シーンを挿入して主人公のキャラクター付けに深みを出す一方で、その過去を現在にフィードバックさせ、シナリオの完成度を高める事に成功しています。
 が、しかし一点だけ珠にキズ特殊設定である“禍福制御”のルールが今一つ不鮮明で、そのために微妙にご都合主義感が滲み出たり、ストーリーが若干難解になってしまったように思えます。言ってみれば“触媒”に不純物が混じっていたために、“化学反応”が今一つ本調子とは行かなかった…といったところでしょうか。

 評価はA−寄りB+という事にします。あと一押しなんですけどね。あ、あとこの作品は「ジャンプ」の主流からはかなり外れていると思われますので、コンスタントに人気投票で上位に食い込むためには、作風の大幅変更も厭わない覚悟が必要だと思います。


 ※総評…評価は11作品中でA−が2つ、B+が3つ。即連載級の傑作は出なかったものの、全体的な水準はかなり高かったと言えるでしょう。また、「他の誰にも描けないような面白いマンガを描くぞ!」という意欲が強く感じられる作品が大変多くあり、そういう意味ではレビューのし甲斐がある実り多き増刊号となりました。この講義のボリュームが信じられないくらい膨れ上がったのは、作家さんのやる気に影響された結果です(笑)。
 ただ、そんな中で気になったのは、せっかく良い題材やプロットを準備しておきながら、ネームの練りこみ不足で惜しい出来に終わってしまった作品が複数見受けられた事。設定やストーリーに説得力を持たせるためにはどうすれば良いのか、読み手の感情を揺さぶるにはどのような要素を織り込めば良いのか。そんな部分を、もっともっと練りこんで貰いたいと思います。


 ──といったところで、長丁場の講義もこれにて終了です。とりあえず疲れ果ててますので、明日は休ませてもらいます。どうか何卒(笑)。

 


 

2003年度第111回講義
2月27日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第4週分・合同)

 少々講義実施が遅れましたが、今週分のゼミを始めます。

 しかし、今週は各方面から色々なニュースが入って来ましたね。確定情報じゃないモノもありますので、先にちょっとまとめてしまいましょうか。

 1.島袋光年氏、復帰?

 02年に児童買春(高校生相手の援助交際)で逮捕、起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けた島袋光年氏が、「スーパージャンプ」で復帰する事が確実視されています。「スーパージャンプ」次号予告に掲載のシルエットで隠されたキャラクターは、どう考えても『世紀末リーダー伝たけし』の主人公であり、確定ではないもののほぼ間違いないかと。
 集英社が元「週刊少年ジャンプ」連載作家を系列誌に“再雇用”する事は頻繁にありますが、正直、「しまぶーまで救うのか、しかも一般誌で」と驚きました。
 ただ、どうなんでしょう。凶悪事案でないにせよ懲役2年執行猶予4年という判決を受けた人を、事件後約1年半のタイミングで復帰させてしまうのは、ちと時期尚早ではないかと思ってしまいます。
 こういうのは「まだ復帰できないのか、ちょっと可哀想だな」という同情論がサイレントマジョリティを占めてからの方が、結局は島袋氏にとっても良い結果に繋がると思うんですが……。受講生の皆さんのご意見も窺ってみたいですね。

 2.「週刊少年サンデー」にコナミへの謝罪広告掲載

 ネット上でも話題になりましたが、「サンデー」の今週号(13号)に、誰にも発見されないような小さい謝罪広告が載りその事を謝罪を要求したコナミが仰々しく発表しました(笑)。
 原因になったのは、10号に掲載された読み切り・『ハヤテの如く』で、作中の「ときメモファンドで借金苦」というネタ。これがコナミの琴線に触れてしまったようです。
 駒木にも、元職・現職問わずゲーム業界住人の知り合いが複数いるんですが、まぁコナミの評判と言ったら(以下自粛)。で、今回はとりあえず謝罪してくれたらいい、と言うので、小学館が最小限の誠意(笑)で応えた……という話だそうです。「ソースは?」と聞かれても困るような情報元なのでアレですが。
 しかし、このニュースが流れた時に、誰もが一斉に「師匠の久米田康治は何故無事なのか」と思いましたよね(笑)。まぁ久米田さんの場合は担当さんの細心の注意の賜物でしょうが。

 3.「ジャンプ」次期新連載作品内定

 2ch掲示板のジャンプ関連スレッドをよくご覧の受講生さんはご存知でしょうが、次々号からの「ジャンプ」で始まる、春の新連載シリーズのラインナップが決まったようです。もう既に来週号(14号)の次号予告と思しき誌面がネット上にアップされていますので、99%以上確定と見て良いでしょう。
 ネタバレ情報になってしまいますし、どうせ月曜日には判ってしまいますので詳細は控えますが、今回のシリーズは3作品。茨木体制になってからの連載作品入れ替えは本当に激しいですね。
 新連載作品のヒントだけお教えしますと、作品は全て本誌掲載読み切りからの昇格。作家さんは、これまで4連載3打ち切りの作家さん2連載2打ち切りの作家さん初の連載となる若手作家さん。ちなみに読み切りの時の当ゼミにおける評価A−、B寄りB+、Cと幅広いです。(評価と作家さんの紹介順は一致してません) 
 やる気と暇のある方は、この週末に“犯人探し”をしてみて下さい(笑)。一応は完全に絞り込めるようなヒントにしていますので、2003年分の講義レジュメKTRさんのデータベース等を参照の事。

 
 ……ということで、雑多なニュースを3つお送りしました。何だか既に普通のウェブサイトなら1日分のボリュームくらいありますが、これは前置き(笑)。続きまして、公式アナウンスを情報元にした話題をお送りします。

 まずは読み切り情報から。来週(14号)の「週刊少年ジャンプ」に『BULLET CATCHERS』作画:夏生尚)が掲載されます。この作品は03年下期「赤塚賞」の準入選作品で、夏生さんは過去に「赤塚賞」佳作受賞と、その受賞作掲載を含む2度の代原掲載の経験があります。
 代原掲載当時における当ゼミの評価はいずれも芳しくなかったのですが、今作は「赤塚賞」の審査員一同が夏生さんの成長を認めたという事で、駒木もその成長振りを確かめてみたいと思います。

 次に連載終了の情報を。「週刊少年サンデー」の連載作品の内、『ファンタジスタ』(作画:草葉道輝)『きみのカケラ』(作画:高橋しん)が次週で最終回となります。
 最終回の告知のされ方に、この2作品が「サンデー」に果たした貢献度の差が如実に現れていますが(笑)、どちらも読後感の良い最終回を…と思います。まぁ『カケラ』の方はどう考えても厳しそうですが。

 最後に「サンデー」にギャグ系新人賞新設という話題を。
 今回新設されるのは「爆笑王決定戦」なるもの。ページ数8ページ以上or4コマ10本以上のギャグ作品である事、という他は特に規定なしで、以前「ジャンプ」で行われていた「ギャグキング」を髣髴とさせな新人賞ですね。
 「サンデー」では、昨年までギャグ系若手作家さんの読み切りシリーズや短期集中連載シリーズを組んでいたりしたのですが、ここに来て若手作家陣の一新を図っていたりするのでしょうか。
 しかし、現時点で確定している審査員が「サンデー」の三上編集長だけというのは凄い見切り発車ですね(笑)。編集長就任以来、『旋風の橘』、『きみのカケラ』、『怪奇千万! 十五郎』といった作品の連載立ち上げに深く関わったとされている人が、果たしてどのような才能を発掘して来るんでしょうか、はてさて。

 ……それでは、今週のレビューとチェックポイントへ参りましょう。レビュー対象作は、「ジャンプ」から読み切り1本、「サンデー」から新連載と新連載第3回の後追いレビューが各1本で、都合3本となります。

 いつも忘れがちになるんですが、7段階評価の一覧表はこちらからどうぞ。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年13号☆

 ◎読み切り『ハッピー神社 コマ太!』作画:後藤竜児

 新連載シリーズを前に、若手作家さんの読み切りプチシリーズがスタート。今週は、現在高橋和希さんのスタジオでアシスタントを務めている後藤竜児さんが登場です。
 後藤さんは99年6号でデビューということですから、キャリアは丸5年。01年に代原掲載と増刊掲載を1度ずつ果たした後は今回まで空白期間がありましたので、ネット界隈でも誤解されていたようですが、全くの新人さんではありません。

 では、作品についてお話してゆきましょう。
 まずですが、全体的にぎこちなさが目立ちます。これは、顔のパーツやアングル、体のポーズ等のバリエーションが非常に乏しく、そのためにセリフや動きと絵が一致していないからでしょう。特に気になったのが口の開け方ですね。口を大きく広げる絵というのは下品さを表現する効果もありますので、多用すると作品全体が下品に感じられてしまうんですよね。

 次にギャグなどについて。こちらは問題大と言わざるを得ないでしょう。
 まず、ギャグ以前の話の展開が間違ってます。主人公たちの目的は「困っている人を助けて、そのエネルギーを集めて神様を復活させる」なんですが、この作品を読む限りでは、どう考えても
 「まず迷惑行為を働いて困っている人を無理矢理作り、そこへ更に迷惑を畳み掛けている内に、ケガの功名で“人助け”をした事になった」
 ……というお話になってしまっています。
 マッチポンプ(=自分で放火した火を消して、功績をアピールする事)という言葉があるんですが、まさにその言葉がピッタリ合う作品と言えるでしょう。
 肝心のギャグの方は、基本的な技術(ギャグを効果的に見せるための演出等)はある程度備わっているように思えるのですが、ネタの展開が唐突でツッコミも単調なので、結果として“多くの人が笑える要素”に繋がってないように思えます。
 あと、評価には関係ないですが、「溺れる者は藁をも掴む」が先週の「サンデー」に載った『教育チャンネルみんなのチャンポッピ!』とモロ被りだったのが非常にサブかったです(笑)。スベリ所が被るというのは物凄い“やっちゃった感”がありますね(苦笑)。

 評価ですが、酷い出来ではあるものの、何とかマンガとして成立しているように思えますので、C寄りB−としておきます。ただ有り体に言って、今後の後藤さんの前途は多難と申し上げる他無いでしょう。 

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週の巻末コメントには特記すべきモノは無かったですかね。「冨樫さん、本当にコメントに力入れてないな」と思ったくらいでしょうか。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】

 稲垣&村田さんの演出力が遺憾なく発揮された回ですね。「小早川セナ 21番! ポジションはランニングバックです!」というカミングアウトを、丸々1回使って極限まで効果的に見せた技術には感服の一言です。
 最近は少々キャラクターに頼り過ぎて無理の生じたストーリー展開が目立ち、「ボチボチ評価の下方修正かな」…と思う事もしばしばだったのですが、こういうのを見ると、また減点がリセットされちゃうんですよね。
 さて、次回から恐らく試合前最後の特訓編に突入ですが、駒木はセナよりも雪光の成長振りに注目したいですね。こういう脇役が光ってこそ名作だと思うんですよ。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B/雑感】

 あんまりいると思えないけど、高校生以下の男子受講生諸君に言っておく。

 ──こんな合コンは、高校ではまず有り得ないからな! ファンタジーだ!(笑)

 これはどう考えても合コンではなくてキャバクラですね……とか言って、駒木はキャバクラ行った事ありませんが(金払ってまで、他人を笑わせるために気を遣いたくないので)

 しかし、高校教員に復帰するとなると、この手のマンガ読んでも軽はずみに「駒木も高木君と同じく唯派です。趣味合いますなー」とか言えなくなりますなー(苦笑)。なんだか、異様に生々しい発言になってしまうのが自分でも解りますシャレがシャレで通じなくなると言うか。これは受講生の皆さんのご理解を賜らなければ……。

☆「週刊少年サンデー」2004年13号☆

 ◎新連載『思春期刑事ミノル小林』作画:水口尚樹

 昨年末からスタートした飛び石新連載シリーズもいよいよラスト。「サンデー」ギャグ系新人の出世頭・水口尚樹さんの登場です。
 水口さんはアマチュアで若干の活動をした後、02年15号の「サンデー」週刊本誌でデビュー。これは「サンデー特選GAG7連弾」という新人ギャグ読み切り競作シリーズに乗っかる形での抜擢でした。ちなみに、このシリーズからはモリタイシさんが連載獲得(『いでじゅう!』)に至っています。
 その後、水口さんは02年秋に増刊で連載枠を獲得し、翌03年には週刊本誌でギャグ作品の短期集中連載シリーズに参加を果たします。そして、これら2つの連載での人気・実績が認められた形で、今回の正規連載枠獲得となりました。デビューから2年での連載獲得は別段早いというわけではないでしょうが、その下積み期間の充実振りは特筆モノだと思われます。

 さて、それでは今回の内容についてお話してゆきます。

 に関しては、純粋な画力で見た場合、やはりギャグ作品という事を差し引いてもギリギリで及第点レヴェルといったところでしょうか。ただ、いわゆる“マンガの文法”──絵を効果的に見せるテクニックは十分備わっていると思われ、総合すれば決して印象は悪くありません。
 これで以前からの課題・可愛い女の子の絵がもう少し達者になれば、作品の内容にも幅が出て来るはずですので、そこをどうにかして欲しいですね。

 次にギャグに関して。まず純粋な「笑える、笑えない」は別にして、テクニックは一流の域に達していると思います。ページをめくった直後にオチを持って来る高等技術は相変わらず健在ですし、小ネタの挟み方や前フリの盛り上げ方も見事です。
 ただ、惜しむらくは前フリが余りにも上手過ぎて、それにネタが負けてしまったかな…というような印象があります。つまり、読み手にオチを期待させ過ぎなんですね。本来ならそれなりに威力のあるネタでも、凄すぎる前フリの前にインパクトが殺がれてしまうという……。
 その他には、ギャグとは直接関係無い部分に少々不器用さを感じてしまいました。若手芸人の漫才やコントで、ネタ部分に入るまでの段取りがやたら強引だったりしますが、この作品もちょうどそんな印象を受けました。

 ……それでは評価です。今回は結果として読み手の爆笑を引き出すには力至らず…という事になったようですが、その結果の奥に潜んでいる非凡な能力も決して見逃す事は出来ません。
 これはちょうど7段階評価表の中の「欠点が目立ち、全体的な完成度に不満は残るものの、複数の箇所でそれなりのセールスポイントを見出せる作品」に該当するのでは…ということで、今回はB+が妥当かと思われます。

 ◎新連載第3回『こわしや我聞』作画:藤木俊【現時点での評価:保留

 続いて、同じ新連載シリーズの『こわしや我聞』について、第3回時点での再レビューをお届けします。

 については、早くも週刊ペースに手が順応して来たのでしょうか、第1回に比べてソツが無くなって来ました。もっとも、絵柄が師匠の草葉道輝さんの劣化コピー状態に留まっているのも事実ですので、更なる精進を求めたいところですが。
 あ、でも女性キャラを魅力的に描く事に関しては、それが苦手であろう草場さんに似ず達者ですよね。このマンガの好評が女性社員2名に集中しているのも肯けます。

 ただ、ストーリー・設定に関しては、第1回時点で指摘させてもらった問題点は未解決のまま、更に減点材料が積み重なっていっている現状です。
 特に第2回、第3回のエピソードは、「人の命が懸かっているにも関わらず、アホみたいに無邪気な金庫フェチの銀行支店長」という、無理がある上に安っぽい事この上ないキャラクターを悪役に配置し、何のヒネリも無いパワーゲームを展開させただけ。残念ながらストーリーテリング上の技巧はほとんど感じられませんでした。キャラクターの魅力で何とかその場凌ぎには成功していますが、ディティールの非現実ぶりも加速度がついて悪化しており、この調子がいつまでも続くと苦戦は必至でしょうね。

 評価はギリギリでBといったところでしょうか。上位〜中堅どころが高値安定し、その一方で昨秋以来の“不良債権”的作品が相次いで打ち切られている現状、安定長期連載を勝ち取るためには、あと一押し二押しが必要になって来ると思われます。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「他人に一番言われたくない言葉」。
 
いい質問だとは思うんですが、訊かれた方にとっては辛い質問でもありますね(笑)。意外とマンガについてのコメントが多くなかったのは、敢えて直視するのを避けたかったからでしょうか。
 しかしこういう時に光るのは、やはり久米田康治さん「あ、ゴメン。マガジンしか読んでねえんだ」ってのは、多分、夜中に出歩いている時に職務質問を受けた時の話ですね。
 「仕事は?」
 「マンガ家です」
 「ホントか? どんなの描いてんだ」
 「『サンデー』で『かってに改蔵』っていうマンガを連載してます」

 ……と来て、「あ、ゴメン──」となるわけですな。 
 駒木の場合は、学校の仕事が無い時の「今、どんな仕事してるんですか?」。結局、根掘り葉掘り訊かれて、したくない話もしなくちゃいけなくなるんですよね。あと、「学校の先生ってのは大体……」みたいに、十把一絡げにして批判されると猛烈にムカつきますね。いや、駒木は別に良いんですが、駒木が尊敬する素晴らしい先生方まで一緒くたにされるのが許せないんですよ。
 まぁ、外野にどれだけ言われようが、現場の生徒が楽しそうに授業を聞いてくれる顔を見れば、それだけで癒されるんですけどね。

 ……さて、今週のチェックポイント、本当なら『怪奇千万! 十五郎』を大々的に採り上げたい所なんですが、また顰蹙買いそうなので自粛しときます(笑)。まぁ、簡単に言うと、心底オチの無い平坦な話を、3週にわたって、話が進めば進むほど尻すぼみになるよう展開していったんですけどね。

 ◎『MÄR(メル)作画:安西信行【現時点での評価:B

 この作品をここで採り上げるのは随分久し振りのはずなんですが、今回は残念ながら賛辞ではなくて苦言です。

 今週、今回のバトルゲーム初の死者という事で、最終ページに「遊びなんかじゃない……これは戦争なんだ…!!」という煽りが付けられたんですが、これで「ああ、そうか」と納得した事がありました。
 この作品、結局は“ごっこ遊び”なんですよね。ファンタジーごっこ、バトルごっこ、戦争ごっこ、殺し合いごっこ。やっている事は殺伐とした内容のはずなのに、作品全体から命を遣り取りしている悲壮感とか緊迫感が感じられないんです。
 今回のバトルにしても、キャラクターたちは、まるで柔道かなんかの勝ち抜き戦で出番が来たかのような軽いノリで“戦場”へ出て行きます。「少年マンガなんだから、明るいノリで」というのは分かるんですが、場をわきまえない無闇な明るさというのは、逆に害悪ではないかと思ったりもします。

 この作品も連載丸1年を過ぎ、中堅で安定しているような感がありますが、そこに甘んじず、今一歩のクオリティアップを目指してもらいたいところですね。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】
 
 前回、沢村の衝撃告白シーンがあり、果たして今回どうなるか……と思ったら、なんとスルーして綾瀬の空回りにクローズアップですか。ここでまた普通のノリに戻してしまえる神経の太さには驚く他ありません(笑)。新手もいい所だなあ。

 ちなみに「女の子キャラに男物Yシャツ」というシチュエーションについて真面目に考察してみますと、こういうのは“華奢”、“無邪気さ”、“恥じらい”という3つの要素を組み合わせないと、“萌え”の記号に成り得ず単なるギャグになっちゃうわけですね。その辺までちゃんと分かって、ギャグにしているこのマンガは凄いという事なんですが。


 ……というわけで、今週はここまで。
 さて、今週発売になった「青マルジャンプ」ですが、思ったよりも全体的なレヴェルが高いので、いっその事、この週末から週明けにでも全作品レビューをやってしまおうかと思っています。どうか気長にお待ちを。

 


 

2003年度第109回講義
2月19日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第3週分・合同)

 もの凄い勢いで『怪奇千万! 十五郎』の掲載順が下降している今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。今週も「現代マンガ時評」のお時間がやってまいりました。
 ……それにしても、頭悪そうな恋人といるところをフライデーされた宮地真緒の好感度並の急降下ぶりですよね、掲載順。事の真相はどうなのか、否が応でも気になるところであります。

 ……それでは、今週も情報系の話題から始めましょう。今日は新作の話題が3件入って来ています。

 1件目。「週刊少年サンデー」の次号(13号)から、『思春期刑事ミノル小林』(作画:水口尚樹)が連載開始となります。予定から1週遅れになりましたが、無事に連載開始に漕ぎ付けたみたいですね。
 水口さんは、02年の「サンデー」デビュー以来、本誌や増刊で数度の読み切り発表や短期連載を経験して来た、“ギャグ枠”の有望株。昨年末の「第2回仁川経済大学コミックアワード」で最優秀ギャグ作品部門でノミネートされているように、当ゼミ的にも期待の若手作家さんです。果たして初の本格連載でどこまでクオリティを上げて来たのか、楽しみに待ちたいと思います。

 続いて2件目。次号(13号)の「週刊少年ジャンプ」では、読み切り・『ハッピー神社・コマ太!』(作画:後藤竜児)が掲載されます。
 後藤さんは、現在『遊☆戯☆王』の高橋和希さんのスタジオのアシスタントとのことですが(高橋さんの12号巻末コメントによる)、過去2度の本誌読み切り掲載と1度の増刊掲載を経験している若手作家さんでもあります。
 ちなみに後藤さん、デビューは99年06号、前回の作品発表が01年の「赤マル」夏号ということですから、キャリア丸5年で約2年半ぶりの新作発表という事になりますか。停滞している間に追い越していった後輩作家さんたちをどれだけ抜き返せるか、正念場と言えそうです。勿論、この作品は次週のゼミでレビューをお送りします。

 そして3件目。こちらは直近の話題というわけではありませんが、公式アナウンスがありましたので紹介しておきましょう。
 昨年に通算約8年にも及ぶ長期連載を全うした『DAN DOH!!』(作:坂田信弘/画:万乗大智)が、今春にテレビ東京系でアニメ化されるのに伴って第3部が連載開始となります。アニメ化で連載作品が無理矢理に延命というのは結構聴く話ですが、わざわざ円満終了した作品を再開させるというのは珍しいケースですね。
 実はこの件、駒木は「絶対オフレコ情報」としてある程度前から聞かされていたんですが、公式アナウンスがあったこの期に及んでもまだ半信半疑です(笑)。ただ、『プロゴルファー猿』『あした天気になあれ』も知らない今の小学生からすると、このアニメは結構新鮮で面白く感じるかも知れませんね。
 それにしても……マンガの方はどうやって新しいエピソードを作るんでしょうね。主人公が事実上全英オープンを勝って、既に“完成形”になってますし、大変ですよこれは。余程ヒネった展開にしないと大惨事になりそうな気がするんですが……(汗)。

 
 ──と、根拠の乏しい不安はさておき、今週分のレビューとチェックポイントへ。レビュー対象作は「サンデー」の読み切り1本のみとなります。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年12号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週の巻末コメントは無難なモノが多くてちょっと残念。強いて挙げるなら、「この号の仕事中に24歳の誕生日を迎えました」という矢吹健太朗さんでしょうか。
 いや、「若いな」とかそういうのじゃなくて、失礼ながら、この人は今の連載終わって三十路過ぎてからの長い人生、どうやって生きていくんだろうと素朴な疑問が(笑)。

 ◎『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦【現時点での評価:A/雑感】

 『SBR』版ディオ騎手の馬を追い抜かす理論、よくよく考えたら全然理屈合ってないんですが(苦笑)。一気に差を詰める方法って事なんでしょうが、2頭の素のスピードが計算に入ってないんでねぇ……。
 まぁ、これぞ昭和の「ジャンプ」って感じがして、懐かしい気もするんですが、当ゼミ的にはA評価付けてる作品のコレをどう受け止めるべきか、非常に悩ましいポイントではあります(笑)。

 ただ、キャラクターの使い方は抜群に上手いですよね。何て言うか、囲碁でいう所の捨てる石と生かす石の判断が絶妙と言いますか。

 
 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】 

 “エンゼル御前”、いいキャラクターだなあ(笑)。
 「エンゼル様、行って!」の時の「え? 俺?」みたいな顔が最高です。また、連射している時は汗かいて必死に射ってるし。で、桜花も「様」付けの割にはとんでもなく人(?)使いが荒くて笑えます。

 で、お話の方ですが、早坂姉弟の望みは「母親の蘇生」という事になっちゃうんでしょうか。まぁ、少年マンガだし、インセストタブー方面は難しいでしょうからね。
 ただ、アレなんですよね。2人掛かりで母親の蘇生を目指すって、小学館漫画賞獲ったの方の『錬金』とネタ被っちゃってるんですけど……。
 

 ☆「週刊少年サンデー」2004年12号☆

 ◎読み切り『教育チャンネル みんなのチャンポッピ』作画:ピョンタコ

 水口尚樹さんの新連載が1週遅れになったからでしょうか、『D-LIVE』の取材休載で1つ空いた掲載枠に読み切りが掲載されました。

 今回「サンデー」本誌初登場を飾った作者のピョンタコさんは、現在26歳。96年7月、18歳の時にゲーム物4コママンガでデビューし、それ以来ゲーム誌や「コロコロコミック」、「コミックGATTA」等で読み切りや連載作品を多数発表。「サンデー」系雑誌にも増刊で4作の読み切り掲載と約1年にも及ぶ連載を経験するなど、随分と豊富なキャリアを持つ作家さんです。
 最近は「サンデー」本誌掲載を目標にやって来たというピョンタコさんですが、その本誌デビュー第1作はどうだったでしょうか。

 まずですが、メジャー誌では余りお目にかかれない独特の絵柄ながら、見辛さは感じられません。個性がキツいだけに描けるジャンルが限られてきそうな嫌いはありますが、ギャグマンガの絵としてなら、なかなかの完成度だと思います。

 しかしギャグの方は、少なくとも今回は難アリとせざるを得ません。
 いわゆる起・承・転・結の持っていき方は手馴れた技術を感じるのですが、いかんせん1本目を観たら、2本目以降のネタについてもオチが完全に読めてしまうのが……。笑いを取るのに一番重要な“意外性”が無くなってしまい、尻すぼみの傾向が否めませんでした。特に、1本目よりも2本目、3本目の方がネタとして単純という辺りに構成力の甘さを感じてしまいましたね。
 そして、最後の4本目のオチについても「?」マークです。伝言ゲームの形で褒め言葉がいつの間にか悪口に……という狙いは(ベタながら)良いのですが、そのセリフの変え方が極端過ぎではないかと思うのです。違和感で笑う以前に戸惑ってしまった人も多かったのではないかと推測するのですが、いかがでしょうか? ……まぁ笑いに対するアンテナは十人十色ですから、駒木の感性がどこまで多数派を占めるのかは微妙ではあるのですが。

 評価としては、とりあえず今回はB−くらいが適当かな、と思います。もう1回くらい別の作品を読んでみたいところではありますが……。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「二度としたくない! と思った苦労話をひとつ」。
 
いい質問ですね。マジ系、ネタ系どの回答を見ても心に染みてくるものばかりです。そんな中、特に気になったのは高橋留美子さん「ネームが出来なくて2日間寝なかった」これ、凄いですよね逆の意味で。特に同業者の方は「うわ、さすが高橋留美子先生!」…と仰天したんじゃないでしょうか。「一番キツくて、たった2日かよ!」みたいな感じで。
 駒木の場合は、「まさに今、数年規模の苦労中」といったところかも知れないんですが(笑)、まぁネタは一杯ありますよ。「最大の娯楽が1日3回の株式ニュースでネットバブル崩壊をウォッチングする事だった半年間」とか、「社会生活の全てを犠牲にして、来る日も来る日もウェブサイトの更新を続けてもアクセス数が20前後/日だった数ヶ月間」とか。

 ……ところで、今週も小学館漫画賞関連の企画ページが。まぁ『ジャぱん』が賞獲った事は、中邑真輔がIWGPヘビーのベルトを獲ったようなもんだと思ってもう諦めますが、『鋼の錬金術師』の荒川弘さんの名前のルビを間違えたらイカンでしょう。「あらかわ・ひろし」じゃなくて「あらかわ・ひろむ」ですからね。“他社枠なんか、どーでもええわ感”が滲み出過ぎです。
 しかし、この手の賞では毎度の事ですが、審査員各氏のコメントもアレですよねぇ。「今回の候補作の中で、総合力では『ジャぱん』がピカ一」とか大御所作家さんに言われても対処に困るんですがワタクシは(笑)。貴方、講談社漫画賞で『ラブひな』よりも『かってに改蔵』を推したほどのアウトローじゃなかったのかと、問い詰めたくなってしまいましたよ。

 ◎『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【現時点での評価:B/雑感】

 しかし、回を追うごとに“協力”の欄がバラエティ豊かになっていきますなあ(笑)。特別協力に取材協力に協力って、Vシネマの特別出演、友情出演じゃないんだから。
 ……ただ、取材熱心なのは結構なんですが、取材の成果を出そう出そうと力んでしまって、ドラマ性が薄れる一方になっちゃってるんですよね。取材ノート丸写しだったダチョウの卵の回も酷かったですが、ここ2回もちょっと……。あんな底の浅い悪役なんて、新人のデビュー作でもそうお目にかかれませんよ。
 単行本に増刷がかかる位に商業的に好調な今だからこそ、とことん猛省して頂きたい所です。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】

 アニメ化を前にして、唐突な沢村の本音告白!
 この手の作品で、男が本音を吐露するのは最終回寸前以降なのですが、このタイミングでいきますか。
 将棋で言えば、中盤まで定跡通り進行していた局面でいきなり全くの新手が出たようなもので、検討室では上へ下への大騒ぎになっちゃうような展開なんですが、さぁどうやって収拾つけますか。井上さんの手腕に注目したいところです。


 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 最終ページの柱に載っている担当さんの煽り文・「今後の憲二・青島・澄の三角関係はどうなるの? 乞うご期待」が、余りにも他人事感丸出しで爆笑。
 いや、そんな修羅場ご期待したくないですって。アンタは「渡る世間に鬼ばかり」の次回予告の石坂浩二か!(笑)

 
 ……といったところで、本業そっちのけで『Fate/staynight』にうつつを抜かすのが玉に致命傷な駒木ハヤトの「現代マンガ時評」でした。
 どうやら『ファンタジスタ』が円満終了に向かって動き出しているようですが、まさかオリンピック以前に連載終わってしまうとは思いませんでしたね。ではでは。

 


 

2003年度第107回講義
2月12日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第2週分・合同)

 藤田和日郎さんの短編集第2弾『暁の歌』が発売になると言う事で、今週号の「サンデー」に広告が掲載されていました。それはそれで結構なお話なのですが、そこの宣伝コピー
 「これぞエンターテインメント!! 2003年最高傑作読切と評された『美食王の到着』」
 ……とあるのが非常に気になる、まさにその通りにこの作品を評した駒木ハヤトです(挨拶)。

 いや多分(というか間違いなく)、広告担当者が“吹いた”のが偶然当ゼミの論評と一致しただけだと思うんですが(笑)、あの作品に敢えてそういう評価をした人って他に知らないので、一瞬狼狽してしまいましたよ。
 まぁ駒木の自意識過剰反応の真相はどうあれ、第2回仁川経済大学コミックアワード・グランプリ受賞作『美食王の到着』が収録された短編集が発売されますので、まだ未読の方は要チェックです。R-18指定のパソコンゲームと違って、こちらはお買い求め易いので是非(笑)。
 ちなみに発売日は2月18日。短編集ゆえ、小さな書店では入荷しない恐れもあると思います。お近くにマンガ専門書店や大型書店が無いという方は、Amazonで通販するなり、お近くの書店に注文するなりした方が良いかも知れません。

 ──さて、それではゼミを始めましょう。
 今週も情報系の話題から。まずは「週刊少年ジャンプ」系月例新人賞・「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の、03年12月期分の結果発表がありましたので、例によって受賞者等を紹介しておきます。

第9回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年12月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作無し
 十二傑賞=1編
 ・『HURL KING』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  新井友規(20歳・東京)
 
《秋元治氏講評:完成度の高い仕上がり。キャラクターも面白い。ただ、主人公のキャラに読者の好感を得る部分が足りなかったのが残念》
 
《編集部講評:既存の作品の影響を感じるが、自分の好きなキャラを活き活きと描いている点は評価できる。細部まで丁寧に作画するように心掛けて欲しい)
 審査員(秋元治)特別賞=1編
  ・『カエル・リミット』
   一之瀬珠緒(22歳・東京)
 最終候補(選外佳作)=7編

  ・『龍送球道』
   板倉雄一(21歳・神奈川)
  ・『不死身のエレキマン』
   角鋼侍(24歳・福岡)
  ・『デマやん!!』
   永田光起(19歳・愛知)
  ・『SWEET NOVEMBER』
   黒沢潜(20歳・東京)
  ・『VOICE OF THE NOISE』
   佐藤真由(20歳・埼玉)
  ・『FIST WARS』
   小野ひとみ(19歳・大分)
  ・『リクト』
   岡春樹(23歳・埼玉)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります。(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 
 ◎十二傑賞の新井友規さん02年11月期「天下一漫画賞」で審査員(鈴木信也)特別賞を受賞。
 ◎最終候補の板倉雄一さん01年10月期「天下一漫画賞」で審査員(小畑健)特別賞を受賞02年7月期にも投稿歴あり
 ◎最終候補の永田光起さん03年7月期「十二傑漫画賞」にも投稿歴あり
 ◎最終候補の岡春樹さん…03年7月期「十二傑漫画賞」、03年上期「ストーリーキング」で最終候補。02年前期「小学館新人コミック大賞・少年部門」でも最終候補?

 ……初受賞組ばかりだった前回とは対照的に、今回は2年越し、3年越しの“新人予備軍”の方々の活躍が目立ちました。
 ところで、この「十二傑新人漫画賞」が開始されて以来、既にデビューを果たした新人・若手作家さんの活躍の場が限定されていたのですが、この2月に、「ジャンプ」の新しい増刊が創刊される事になりましたね。

 その名もズバリ「青マルジャンプ」

 コメント不可というか、コメントしたらキリがないような誌名ですが(笑)、創刊号では荒木飛呂彦ロングインタビューという目玉企画を筆頭に、実力派の新人・若手作家さんの作品も複数掲載される模様です。
 ただ、5月、8月、12月の合併号休みを利用して発売される「赤マル」とは違い、この「青マル」は週刊本誌と並行して発売されるんですよね。開講以来、「ジャンプ」増刊号の発売の折には全作品レビューを実施してきた当ゼミですが、ちょっと今回は正直言って苦しいです。
 何回かに分割して実施するとか色々と考えるつもりですが、ひょっとしたら“評価B以上の作品のみレビュー”みたいな形式になるかも知れません。

 さて、賞レースと言えば、今週号の「サンデー」で小学館漫画賞の正式な受賞者発表があったのですが、『鋼の錬金術師』『焼きたて!! ジャぱん』が受賞した少年部門では、他に『アイシールド21』『うえきの法則』がノミネートされていた事が判明しました。
 連載開始から2年ほど経ってからノミネートされる作品が多いので、連載1年余りの『アイシル』がエントリーされていたのは正直驚きだったのですが、それにしても“他社枠”の競争相手が……。いくらこの作品を大いに買っている駒木でも、『鋼の錬金術師』と比較すると、“格の差”が否めないように思えます。
 ただもし『アイシールド21』が「サンデー」連載の作品だったら、多分『ジャぱん』じゃなくてこっちだったろうなぁ…とか思ったりもするんですが、現体制の「サンデー」で『アイシル』が連載された場合、どんなマンガになったか判ったもんじゃないですからね(笑)。『旋風の橘』とか『ふぁいとの暁』みたいな『アイシールド21』なんて、考えるだけで溜息がこぼれます。

 ……ちょっと脱線しましたが、最後に読み切り情報を。「週刊少年サンデー」の次号(12号)に、ギャグ読み切り・『教育チャンネル みんなのチャンポッピ』(作画:ピョンタコ)が掲載されます
 作者のピョンタコさんは、他誌ではピョコタンのペンネームで幅広く活躍されているイラストレーター兼業のギャグ作家さんです(キャリアについてはご自身が運営されているウェブサイトの作品リストを参照下さい)
 以前発表されていた予定では、この12号から水口尚樹さんの新連載が始まるはずだったんですが、一体どうなったんでしょうか。こちらでも色々調べますが、とりあえずは続報を待ちたいと思います。

 ……それではレビューとチェックポイントへ。今週のレビュー対象作は「サンデー」の新連載1本のみということになります。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年11号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週は「ジャンプ」ヒロイン総出演でバレンタインデー大特集の趣。「表紙が恥ずかしくて買えない」という人が各方面にチラホラといらっしゃったようですね(笑)。
 こういう企画になれば強いのは『いちご100%』『BLACK CAT』ですが、なんかこの2作品、相撲界で言えば何だか高見盛みたいなポジションですよね。もっぱら力士の本分以外の方で活躍してるあたり特に。
 しかし、ただ1人、殺意を込めた目線で「義理」とデカデカと書かれたチョコを持った津村斗貴子さんは爆笑モノでした。さすがの駒木も、これには「空気読め」と(笑)。こういう時にこういう人が天使のような笑顔で(若しくは顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに)チョコを差し出すからバレンタインデーなわけで……。

 ところで、巻末コメント欄で最近やたらと威勢が良いのが空知英秋さん。毎週のように編集さんたちに新人らしからぬ文句をカマしていますが、これは逆に編集さんと上手く行っているからこその“内輪ネタ”なんでしょうね。ストレスをシャレに昇華できる作家さんと、その悪意の篭ったシャレを笑って受け止められるだけの度量のある編集さん。良いコンビじゃないですか。本当に仲の悪いコンビだとこうは行きませんからね。とてもじゃないですが公に出来ませんもの(笑)。
 こういう“確執”と言えば、鳥山明さん鳥嶋“マシリト”和彦・元編集長の関係が有名でしたよね。編集者を主人公のメインライバルにして成功させてしまった作家さんというのも珍しいですが、どうせならそこまで追求してやってもらいたいもんです。

 ◎『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 デービーバックファイト1回戦終了。「メンバー1人離脱」というシナリオが公然の秘密になっている状態ゆえ、この勝ち負けも初めから読めてたんですが、それでもなかなか楽しめるエンターテインメントでした。
 間延びしまくるメインストーリーの時には忘れがちになるんですが、尾田さんの演出や画面構成は非常に優秀ですよね。さすがは看板作家です。

 しかしこのまま行くと、2回戦もルフィチームの負けで、3回戦にルフィが勝った時に2人のうち誰を奪還するか迷う……という展開になりそうですね。ひょっとしたら、連載開始以来最大の修羅場になるかも知れません(笑)。


 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】
 
 おお、バーベキューしてるシーンに、桜玉吉、O村(奥村「コミックビーム」編集長)、ヒロポン(広瀬「コミックビーム」元編集部員)、みげー君(桜さんのアシスタントでマンガ家・肉柱ミゲルさん)『漫玉日記』キャラクターたちが! 誰だ、村田さんをそそのかしたのは(笑)。


 ◎『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健【現時点での評価:B+/雑感】

 連載9回目で掲載順6位、そして次週にセンターカラー&増ページということは、ほぼ今期残留確定と考えて良いでしょうね。
 さて、ストーリーの方は、いよいよキラが静かに狂い始めて無差別殺人モードに入りました。芸の細かい作戦など、確かに見所も多いんですが、そろそろLからの逆襲も見たいところです。何だか、延々と1回の表が続く野球の試合みたいな感じで、そろそろ新しい流れが欲しいと思ってしまいますね。
 また、キラが単なる人殺しになってしまった以上、ボチボチ読み手が感情移入出来るようなメインキャラを全面に押し出す必要もあるのではないかと思います。FBI捜査官・レイの婚約者が重要キャラになりつつありますが、これを上手く活かす方法も模索してもらいたく思いますね。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】 

 今回から始まった戦闘シーン、至る所で強い既視感があるなぁと思ったら、例の『Fate/staynight』でした(笑)。ネタバレになるので詳しくは言いませんが、「おお、このシーンは○○の××そっくりじゃないか!」…などといった場面も。
 武装錬金を使った戦闘と、あの作品のサーヴァントの戦闘システムって共通点多いんですよね。両作品の制作時期は完全にズレているので偶然の一致以外に有り得ないんですが、『吼えろペン』で語られていた「似たようなアイデアが別々の人に“降って来る”」…ってのは本当にあるんですなぁ。


 ◎『銀魂』作画:空知英秋【現時点での評価:B/雑感】 

 連載当初から色々な意味で迷走気味だったこの作品ですが、どうやら作品の方向性は固まって来たみたいですね。シナリオの重厚さを敢えて犠牲にし、ギャグマンガに近い作風に持っていっています。
 現状、とりあえずは1回、1回それなりに楽しめ、要所要所ではブッと吹き出し笑い出来るような構成になっているんじゃないでしょうか。感覚としては尾玉なみえ作品と『こち亀』を足して2で割ったような感じかと。
 ただ、これで天下が取れるかと言うと、取れないでしょうね(苦笑)。バイプレイヤーの位置を固めるまでに打ち切りに遭わないか、それだけが心配です。

☆「週刊少年サンデー」2004年11号☆

 ◎新連載『こわしや我聞』作画:藤木俊

 「週刊少年サンデー」の新春飛び石新連載シリーズ第3弾は、増刊連載から昇格となった、藤木俊さん『こわしや我聞』です。

 藤木さんは元小学校教員という経歴を持つ(受講生さんから情報を頂きました。感謝!)方で、先月30歳になったばかり。
 公式プロフィールによると、99年に「サンデーまんがカレッジ」で努力賞を受賞した後、01年に増刊にてデビュー。03年に今作のプロトタイプ版を増刊号に短期連載し、現在に至ります。
 この下積み期間には『ファンタジスタ』の草葉道輝さんのアシスタントを務めていたそうで、メジャー誌の若手作家さんとしては標準的なキャリアを積んで来たと言えるでしょうね。

 ──それでは、作品の内容について述べてゆきましょう。

 については、まだ若干キャリア不足ゆえのアラが目立つものの、基本的なマンガ的表現については及第点を出せるのではと思います。アシスタント経験が活きているのか、背景等の画面処理も上手いですね。アシスタントの使い方も作家の技量の内ですから、これは評価しないといけないでしょう。
 これで連載を続ける内に線がこなれてくれば、「サンデー」連載陣の中でも平均的な水準までには上がっていけるでしょう。不慣れなアングルやポーズの描写を、いかに上達させるかがカギだと思います。

 ストーリー・設定については、一言で表現すれば「一長一短」といったところでしょうか。
 まず、シナリオの展開そのものは、ソツなく出来ていて問題ありません。ちょっとステロタイプ過ぎる話の流れかな、という感じもしますが、第1回ならこんなものなのかも知れません。
 ただ、諸々の設定については注文をつけたくなってしまいます。アイディア自体は、高校生秘書、超高学歴エンジニア、謎の敏腕営業マンといったキャラ付け、微妙な関係性の表稼業と裏稼業、政府関係者からの依頼による窃盗団壊滅ミッション、働いても楽にならない会社の経営……確かに面白いモノがたくさんあるのですが、これらに現実感を持たせる努力を怠ってしまっているんですよね。簡単に言えば“全編通じて、どことなく嘘っぽい”んです
 この辺のリアリティ不足は、読み手を更に細かい部分への追及に誘導してしまうようで、既にネット界隈では、
 「ビルの爆破解体は、日本では原則NGではないか?」 ……とか、
 「あの車のボンネットなら修理代20万円もかかりそうにないが」
 ……とか、
 「1発10万の手榴弾くらい、経費で政府に請求しろ」
 ……とか、それはもう細かいツッコミが浴びせられていたりします(笑)。
 まぁそんな細かい部分まで減点材料にするのはどうかとも思いますが、それでももう少し“もっともらしく嘘をつく”技術を身に付けた方が良いのではないかと思います。また、ちゃんと細かい設定を考えているのであれば、早い内に必要な分だけ公開するべきでしょう。

 さて、評価ですが、今回はとりあえず保留とさせてもらいます。あと2回ほど拝見して、藤木さんがどこまで設定を練りこんでいたのかを見極めたいと思います。


◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「いま、一番欲しいプレゼント」。まぁ当たり前かも知れませんが、皆さんバラバラですね。
 あまりネタになりそうなコメント少ないんですが……あ、「食うなとか運動しろとか言わない効果てきめんのダイエット法」という藤田和日郎さん寄生虫を体内に飼うってのはどうでしょうか(笑)。
 駒木は欲しいものだらけではあるんですが、他人から貰うよりも自分で勝ち取りたいモノばかりですのでねぇ……。あ、でも公立高校教員の正規採用通知は、この際プレゼントでも良いから欲しいです。

 ◎『美鳥の日々』作画:井上和郎【現時点での評価:B+/雑感】

 バレンタインウィークだというのに、堂々とオタクネタを展開して来るとは、さすが井上和郎!(笑)。しかしまぁ、初恋の相手が香ばしい感じに成長してますなー。
 駒木も高校時代はSF研究部という名の、漫研&ライトノベル研究会&TRPG研究会みたいな部活に所属してましたんで、それほど“やおい系”に抵抗はありませんが、さすがにここまで仕上がるとねぇ(笑)。
 でもまぁ、初恋の相手を気持ち良く吹っ切れるってのは良い事です(なんちゅうフォローだ)

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 確かにバレンタインチョコを売る側は13日がピークなわけで、まさにフライングフィーバーなんですけどね。1年程前に講義でやりましたんで詳しくは喋りませんが、まぁ凄い修羅場ですよ、13日午後のデパ地下洋菓子コーナーは……。
 あと身近なフライングフィーバーとしては、競馬ですかね。予想をして買い目を決定し、売り場にマークシートを突っ込んだ辺りがピーク。この瞬間は、どんな大穴予想でも、どう考えても当たるような気がしてなりません。
 レース中もそうですね。大体、4コーナー手前とか直線半ばでピークが来て、ゴール前では……。まぁ稀にゴールの瞬間にピークが来る事があって、それがあるから止められないんですが。


 ……というわけで、「ジャンプ」と「サンデー」のレビュー&チェックポイントをお送りしました。いつもならここでゼミは終了ですが、今日は久々に「読書メモ」をやりたいと思います。採り上げる作品は、先日予告していたあの作品です。

◇駒木博士の読書メモ(2月第2週)◇

 ◎『鋼の錬金術師』作画:荒川弘/「月刊少年ガンガン」連載中

 ……というわけで、今年の小学館漫画賞・少年部門の“他社枠”受賞作・『鋼の錬金術師』が当ゼミに登場です。
 相変わらずの不勉強で今更な話なんですが、この作品の作者・荒川弘さんって、この作品が初の本格連載みたいですね(違う名義で活動していたかも知れませんが)
 過去の仕事の中には、日本競馬史上空前絶後の最短廃刊記録(5号)を持つ競馬新聞・「ぐりぐり◎」の4コママンガなんてのもあり、競馬学を専門とする当講座としては異様な親近感を覚えてしまうのですが(笑)。
 (注:「ぐりぐり◎=『ぐりぐりにじゅうまる』」は98年創刊。当時としては画期的な“東・西・裏開催全36レース馬柱掲載”をウリにした競馬新聞。しかし違う2つのレースに同じ馬柱を載せてしまうという致命的ミスを犯し、創刊3週目にして廃刊の伝説を作った)
 
 ──と、閑話休題。講義も長引いてますし、マンガの話に移りましょう。

 しかしこの作品、凄いです。単行本6巻収録分まで読んだのですが、全編褒める所しか見付かりません

 まず、扱っているテーマの重厚さ、スケールの大きさですね。死生観、政治、宗教などといったシビアなテーマを扱いながら、それらを見事に描き切っています。それも、無難に攻めるのではなく、本質に突っ込みながらもやり過ぎないという絶妙のバランス感覚で。
 駒木のこの作品に対する第一印象「危ない橋を全力疾走で渡り切った恐ろしい作品」だったんですが、そのファーストインプレッションは間違っていないと思っています。

 また、少し細かい所に目を向けても、荒川さんのテクニックの巧みさが光っています
 中でも凄味すら感じさせるのが、“キャラクターを死なせるか、死なせないか”、または“キャラクターをどのタイミングで、どのように死なせるか”の選択。こちらも多数のシビアな場面がありながら、読み手に必要以上の不快感を与えないような配慮が施されています。特にヒューズ中佐の殉職シーンなどは、この作品きっての名場面と言えるでしょう。

 設定の完成度の高さ、そしてそれを読者に提示するタイミングの巧さも極めて秀逸です。シナリオの進展を優先すべき場面では設定の提示を必要最小限にとどめ、逆に設定をバラす事で大きな効果が得られる時には回顧シーンを交えて一気にバラす。あまりに効果的な演出のために、「設定を説明されている」という自覚すら消えてしまいそうです。

 ……というわけで、全ファクターほぼパーフェクトの大傑作です。評価は完結を見てから確定させたいですが、現時点では少なくともA以上と言っておきます。クライマックスで更にもう一盛り上がりあれば、A+まで考えなくちゃならんと思っています。


 ──というわけで、今週のゼミは終了です。では、また来週をお楽しみに。

 


 

2003年度第106回講義
2月7日(土) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(2月第1週分・合同)

 『Fate/staynight』も一息つき、9日ぶりの講義再開です。休講中は受講生の皆さんに多大なご迷惑をおかけしましたが、駒木にとっては非常に有意義な“研修”になりました。自分の価値観を再確認し、更に「良い作品とはどういうモノか?」、「良い作品を構成する要素とはどのようなモノか?」…などといった部分の認識も深められたような気がします。
 受講生さんの中には「18禁指定のビジュアルノベルゲーム」というだけで拒絶反応を示される方もいらっしゃるかも知れませんが、先入観と偏見だけでジャンル全体を否定するのは勿体無いですよ、とだけは申し上げておきます。まぁマンガにしてもそうですが、何でもピンからキリまでです(笑)。

 ……さて、この話はまた別の機会を見つけて詳しくさせて頂くとしまして、マンガのお話を始めましょう。今日は今週発売の雑誌──「ジャンプ」、「サンデー」の04年10号についてのゼミとなります。
 まずは情報系の話題から。今週は「サンデー」の新連載についての情報を1つお送りしましょう。

 次号(11号)から新連載となるのは『こわしや我聞』作画:藤木俊)。増刊号での短期連載作品の“昇格人事”ですね。藤木さんは(正確なデータが無いので詳細不明なのですが)01年頃から増刊で散発的に読み切りを発表し、03年には今作のプロトタイプとなる作品を4ヶ月連載。そして、今回が初の週刊長期連載というわけですね。層の分厚い中堅・ベテラン陣の中に食い込んで、どこまで存在感をアピール出来るのか注目ですね。
 成功のカギは、やはり増刊連載時のクオリティからどれくらいの上積みを果たせるか、そしてどこまで独自色を出せるか…といった部分だと思いますが、さて。

 ……それでは、レビューとチェックポイントへ。今週は「ジャンプ」から新連載第3回の後追いレビューと、代原読み切りのレビューが各1本、そして「サンデー」から読み切りレビュー1本で、都合3本となります。
 レビュー本数が多いため、今週のチェックポイントは少なめになりますが、ご了承を。

 あ、以前リクエストされてそのままになっていました当ゼミの評価一覧表ですが、こちらからどうぞ。昨年に改定した基準に対応しています。(クリックで新しいウィンドウが開きます。評価一覧表を見ながら受講して頂こうという趣旨ですのでご理解を)

☆「週刊少年ジャンプ」2004年10号☆

 ◎新連載第3回『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦【第1回掲載時点での評価:A

 今週のレビュー一発目は、早くも話題沸騰といった感のある『スティール・ボール・ラン』の後追いレビューです。

 ……とはいえ、第3回となる今回でも未だプロローグの真っ只中という事で、まだシナリオの中身についてのレビューはやりようがないんですよね(苦笑)。短期打ち切りの心配が無いためか、かなり長いスパンでのシナリオ展開が構想されているようです。
 よって、シナリオの全体的な完成度については今後のチェックポイントに場を譲る事にしますが、少なくとも現時点で揃った材料で判断する限りでは、荒木さんの高い技巧が随所に光る良作だと言っていいと思います。
 例えば、“パラレルワールド版・ジョジョ”ことジョニー=ジョースターの紹介に大部分のページが費やされた今回。まず「キャラを立たせるのに一番手っ取り早いのは過去を語らせる事」…というストーリーテリングの重要事項を踏まえた上で、無駄なく中身の濃いエピソードを展開しています。しかも性格に問題がありそうなジョニーについては、読者への感情移入を敢えて強いないという、“適度な距離感”が保たれている点で更に好感が持てますね。この辺が自然に演出出来るあたりが実力派ベテランの頼もしい所でしょう。
 また、31ページ連載という形式を最大限活用出来ているのもさすがでしょう。1回で語り尽くすべき部分は31ページの中で語り尽くすという工夫が凝らされているため、本来ならかなり間延びしているはずの展開も(普通の「ジャンプ」マンガで、これだけのページ数を費やしてプロローグが終わってないなんて有り得ません)、体感としてはそれほど冗長な感じがしないのも評価できる点です。
 本質的には欠点とも言える、荒木作品特有の“回りくどさ”も、演出によってむしろ長所に転じている感もありますし、現時点では大きな減点材料は皆無です。

 そういうわけで、今回の評価も第1回時点から据え置きでA−寄りAとします。とりあえず本編突入後からしばらく様子を見て、その時にまた評価の変更を検討したいと思います。


 ◎読み切り(代原)『グレ桃太郎』作画:原淳

 今週は『ピューと吹く! ジャガー』が休載のため、代原掲載となりました。目次に断りも無いあたり、編集部も連載を飛ばす事に慣れが出て来たようです(出すなよ)。

 今回登場したのは原淳さん。99年11号の初登場以来、今回が1年半ぶり8回目の代原掲載となりました。……というか、5年も代原作家やってどうするんだという声が聞こえて来そうですが(笑)。
 もともと原さんは、「少年ガンガン」系の作家さんで単行本まで出している人なんですが、いやー、この業界って厳しいですよね、やっぱり。

 さて、今回の内容について。
 まずですが、画力以前にスクリーントーンの選択をミスってるかな…という印象がありますね。紙質の悪い「ジャンプ」のせいもあるんですが、トーンの目が潰れて真っ黒になりかけたコマも多々見られます。これが赤塚賞の受賞作原稿ならともかく、キャリアだけなら中堅に突入しようかという人の作品ですから、減点は避けられないところでしょう。
 ギャグに関しては、1人のキャラを立て、それを連作形式で繋げていく…という試みは良かったのですが、結果的に「キャラを立てた」のではなく「オチの傾向が被った」だけになってしまったのは非常に残念でしたね。あともう1人くらい、“ばあさんオチ”に畳み掛ける形でギャグを積み重ねられるようなキャラが出て来ればメリハリもついて良かったのだと思うのですが。

 評価はB寄りB−としておきましょう。1年半前の前作から一歩二歩後退といったところでしょうか。前途は決して楽じゃないですが、頑張って欲しいものです。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

  今週の巻末コメントは、「ジャンプ」の新年会に関するコメントが中心。普通は年末に忘年会なんですが、「ジャンプ」は年明けてからやっちゃうんですね。年明け間もなくて作家さんのスケジュールが詰まらない内に(笑)。
 ところで、大場つぐみさんのコメントが要注目「椅子だと腰に来るので、ネームを描く時はうつ伏せに寝てやってます」とのこと。腰痛持ちでネームを描く、ということは、大場さんはある程度キャリアのあるマンガ家(出身)という事ですね。原作者がネームまで担当ということは、『ヒカ碁』と同じパターンですか……。

 ◎『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回の内容からして、改めて「あぁ、やっぱり久保さんは井上織姫が大のお気に入りなんだな」と実感してしまいました(笑)。しかし、思う存分翻弄される石田も良い感じですなあ。

 ストーリーに関しては、なんか最近「一護負ける→試練を経てパワーアップ→一護リベンジ→次の敵に一護負ける→試練を経て(以下略)」の無限ループ状態が目立って来て、少々残念かなーといったところ。せっかくの高い演出力を、シナリオの単調さを誤魔化すだけに使ってしまっては勿体無いと思うんですけどね。

 

☆「週刊少年サンデー」2004年10号☆

 ◎読み切り『ハヤテの如く』作画:畑健二郎

 今週のサンデーでは若手作家さんの読み切りが掲載されました。久米田康治さんのアシスタント出身と言う畑健二郎さんが本誌初登場です。
 データベースの貧弱な「サンデー」系作家さんという事で、正確なキャリアは掴めなかったんですが、どうやら増刊デビューは02年頃のようです。それから数作読み切りを発表した後、昨年夏から増刊で『海の勇者ライフセイバーズ』を短期連載。その連載が好評だったのか、今回晴れて本誌登場のチャンスを獲得しました。
 本誌への読み切り掲載は、(その後の行く末は別にして)長期連載の枠を掴む絶好の機会。さて、作品の出来はどうでしょうか──?

 まずはですが、酷評するまでには至らないものの、他の「サンデー」連載作品などと比べると、見劣りしてしまうのは否めないところでしょう。特に今回は、女の子キャラが可愛くないと話にならない作品なのですから、これはかなり大きな減点材料となります。
 あと、駒木はマンガ描きじゃないので偉そうな事を言えませんが、スクリーントーンの使い方にも違和感を感じました。トーンを必要以上に多用している上に、貼ったトーンに施すべき作業も不足しているように思えたのですが……。

 ストーリー・設定に関しても、問題アリですね。
 新人・若手作家さんが陥りがちな“罠”として、当ゼミでも何度か採り上げている事なのですが、どうもこの作品も「コメディ」という事に甘えて、お話のリアリティを軽視し過ぎているのではないかと思います。コメディはあくまでもストーリー作品の一種なのですから、笑いを取る事とは別に、現実感のあるキチンとしたシナリオを用意しておかないといけないはずなのですが、どうやらその辺の意識が欠落したまま出来上がった作品になってしまっているようです。
 また、ページ数とシナリオのボリュームのバランスが取れていない事で、余計に事態が悪化してしまいましたね。キャラクターごとの見せ場もヤマ場もロクに用意できないまま、駆け足でストーリーラインを追いかけただけに終わってしまっています。特に、キャラクターが簡単に恋心を抱き過ぎるという点は致命傷でした。出会った次の瞬間に恋心を抱かれてしまっては、読み手が感情移入する余地が無くなってしまいます。

 ……そういうわけで、残念ながら今回は問題点だらけの作品ということになってしまいましたね。評価はC寄りB−。一応ギリギリでマンガの体は成しているので“死刑宣告”には至りませんでしたが、本誌連載レヴェルには到底足りないと断ぜざるを得ません。画力、ストーリーテリング力に磨きをかけて、もう一度増刊から出直して貰いたいと思います。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「続編が見てみたい映画」。
 たくさん映画を鑑賞する事はマンガ家さんの“必須科目”とあって、答えもバラバラになりましたね。ただ、「映画の続編は面白くない作品が多いからパス」という回答が多く、これには納得させられました。確かに、一度完結した作品の続編を無理矢理作った場合は「やんなきゃよかった」というパターンに陥りがちですからね。
 ただ、続編が成功した作品というのも少なからずあるわけで、駒木は『インディ・ジョーンズ』の新作を熱望している次第です(笑)。

 
 ◎『ロボットボーイズ』作:七月鏡一/画:上川敦志【現時点での評価:B−/連載総括】

 いきなりの新展開はテコ入れではなく、“投了”の形作りだった……というわけで、今回をもって打ち切り最終回になってしまいました。
 いや、しかし惜しい作品だったと思います。ロボットコンテストを題材にした目の付け所は悪くなかったんですが、連載当初からかなりの間、“反・勝利至上主義”のコンセプトを採用してしまったのが大失策になりましたね。
 レビューやチェックポイントで何度も申し上げましたが、変に気取らず高専ロボコンの話にしていれば良かったのに……と悔やまれてなりません。
 最終評価ですが、後半に心持ち盛り返したと判断して、B−寄りBということにしておきます。

 
 ……もうちょっと語りたい部分もあるのですが、今週はこれまで。
 実は最近、『鋼の錬金術師』を読みまして、このゼミで是非とも絶賛したいと思っております。来週はレビュー対象作も少ないですし、もし余裕があれば「読書メモ」としてお話させてもらいますね。こちらもどうぞお楽しみに。 

 


 

2003年度第105回講義
1月29日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第5週分・合同)

 すっかり「分割版」の体を成さなくなりつつある当ゼミのお時間です(笑)。とりあえず、年度末まではこの名称を続けて、それからまた考えるという感じで行きたいと思います。4月から駒木の身分がどうなるか、本当に判りませんからねえ。

 ……さて、それでは今日も情報系の話題から。まずは「サンデー」系の月例新人賞・「サンデーまんがカレッジ」03年11月期の結果発表がありましたので、例によって受賞者等を紹介しておきましょう。

少年サンデーまんがカレッジ
(03年11月期)

 入選=該当作なし  
 佳作=1編
  ・『笑ってよ! ヒデロウ』
   瀬尾結貴(23歳/奈良)
 努力賞=3編
  ・『カジバのシン』
   平田陽臣(19歳・福岡)
  ・『TIME・LIMIT』
   麻倉愛菜(17歳・神奈川)
  ・『JUSTICE』
   斎貴明(16歳・愛知)
 あと一歩で賞(選外)=1編
  ・『天までとどけ!!』
   スタ缶(19歳&24歳・千葉)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)
 ◎努力賞の麻倉愛菜さん…03年4月期「まんカレ」であと一歩で賞。

 佳作受賞作は、この賞では珍しいギャグ作品。まだ未読なので内容については何とも申し上げられませんが、編集部の評価はかなり高いようで、今後の動向に注目と言えそうですね。
 ただ、「サンデー」のみならず少年マンガ誌というのは“ギャグ枠”がかなり限定されていますからねぇ。現在の「サンデー」では、間もなく水口尚樹さんの連載が開始しますし、『いでじゅう!』『美鳥の日々』といったコメディ系作品も好調で、なかなか枠も空きそうにないですし……。新人さんの活動の場である増刊も春までお休みで、その後は隔月刊になりそうな様子で、ちょっとタイミングが悪くて気の毒ではあります。

 さて、情報系の話題をもう1つ。「サンデー」では来週号(10号)に読み切り・『ハヤテの如く』(作画:畑健二郎)が掲載されます。畑さんは、つい最近まで増刊の方に『海の勇者ライフセイバーズ』という作品を短期連載していました。これまでのパターンで行くと、本誌連載獲得へ向けてのトライアルという事になるのでしょうか。
 なお、畑さんは久米田康治さんのアシスタント出身。『ライフセイバーズ』第1回の柱(「ジャンプ」で言えば、「○○先生の作品が読めるのはジャンプだけ!」が書かれているような部分)には、「ライフセイバーの知識なんてないですよ」と言う畑さんを「お前の師匠はアイスホッケー知らずにアイスホッケー漫画描いてた」と説得する担当さん…という遣り取りが掲載されていたそうです(笑)。

 ……それでは、レビューとチェックポイントへと参りましょうか。今週のレビュー対象作は、「サンデー」の新連載第3回後追いレビュー1本のみということになります。
 お送りする順序としましては、「ジャンプ」のチェックポイント→「サンデー」のレビュー→チェックポイントという事になります。どうぞ宜しく。
 

☆「週刊少年ジャンプ」2004年9号☆

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

  今週の巻末コメントで光ったのは、やはり「今回の見開きを描いたお蔭でどんな絵を描いても面倒臭く感じなくなりました」と開き直った村田雄介さんこの上無く「今更」な『ウォーリーを探せ』のパロディを、週刊連載の、しかも巻頭カラーでやらされたご苦労、心からお察し申し上げます。
 しかし、本当に何故今頃になって『ウォーリーを探せ』……。あれって平成3年のブームですからねぇ。平成3年って言えば、駒木がまだ15〜16歳の頃ですよ。ていうか、今の小学生生まれてないじゃないですか(爆)
 ちなみに平成3年の主な出来事や流行を思うままに列記してみますと、湾岸戦争雲仙普賢岳噴火若・貴ブーム宮沢内閣成立ドラマ『東京ラブストーリー』&『101回目のプロポーズ』大ブレイクKANの『愛は勝つ』大ヒットWindows3.0発売カルピスウォーター大ヒット宮沢りえヌード写真集発売ジュリアナ東京が大人気……といった感じになります。まさに隔世の感(笑)。今はもう貴乃花部屋がもうすぐ誕生しようって頃ですからねぇ。しかし、「僕は死にましぇ〜ん!」からもうそんなに経ちますか。しかし、今あのドラマやってたらアレほどウケたんでしょうかねー。
 あと、どうでもいい話ですが、カルピスウォーターを初めて飲んだ時、「うわ、本物のカルピスってこんなに濃かったんだ!」と思われた方、どれくらいいらっしゃいます?(笑)。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 えーと、大浜>カズキ>六舛>岡倉ですか(笑)。しかし、究極の美形ってどんな形なんでしょうか。
 しかし、そんな盛り上がった部分も含めて、全部一人でオイシイ所を掻っ攫っていくのがパピヨン。両手を離しても洗面器が落ちないのは引力の不思議か、はたまたホムンクルスの超能力か(笑)。まぁ「ジャンプ」では、かつて『キン肉マン』で、アノ部分の力だけで1トンを持ち上げる超人がいましたけれども。

 それはそうと、最後のページでその場にいる5人の眼がアップになってるんですが、ホムンクルス特有の眼をしているのは変態バカ2人組だけですね。ということは、早坂姉弟は2人ともまだ人間という事なんでしょうか。


 ◎『Mr.FULLSWING』作画:鈴木信也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】
 
 いよいよ今の試合も決着しそうですね。しかし、主人公が1年生の夏の県予選1回戦が終わるまで連載2年半というのは色々な意味で凄いですね。まさに平成の『アストロ球団』といったところでしょうか。
 それにしても、このマンガのいさぎ良い所というか、開き直りも良い所なのは、これまでの野球マンガが散々やり尽くして来たパターンを、何の躊躇いも無く、さも自分が思いつきましたとでも言わんばかりに堂々とやってしまう所だと思った駒木でありました。
 でも、過去の名作に触れる機会の少ない小学生とかは、ここまで自信満々にやられると、この作品オリジナルのシーンだ…とか思ってしまうんでしょうね。そういう意味においては、鈴木さんは巧くてしたたかです。

 ◎『いちご100%』作画:河下水希【現時点での評価:B/雑感】

 ……などと言っていたら、こっちもベタだ〜(苦笑)。仲間が転校することになって、散々名残を惜しんだ挙句にドタキャンって、一体何年前のパターンなんだ(笑)。まぁ、ツカミとオチを「牛肉と豚肉で夫婦大喧嘩」という部分で揃えて来たのはなかなか見事でしたが。
 しかしまぁこうして見ると、やっぱり黄金パターンは偉大だって事になっちゃうんですかねぇ……。

☆「週刊少年サンデー」2004年9号☆

 ◎新連載第3回『暗号名はBF』作画:田中保佐奈【第1回掲載時の評価:A−

 さて、本日唯一のレビュー、『暗号名はBF』の第3回後追いレビューです。
 
 なかなかの好発進を見せた第1回から2週間、第3回を迎えた今週の時点でも、大筋では当初のクオリティをキープ出来ていると思います。主人公の“素の姿”を強調して読み手の感情移入を促す試みも積極的に成されていますし、色々と考えてシナリオを立てている熱意が伝わって来て好感が持てますね。シナリオの内容にやや新鮮味を欠く(=どこかで見た事あるようなお話である)など、若干物足りない部分もありますが、駒木には許容範囲と映ります。

 ただ、非常に残念なポイントが1つだけありました。それは先週号(8号)の第2回で、主人公の特殊能力・“誘う目”で幻惑された女情報員が、後から「実は騙されたフリをしていました」と告白するシーンです。これは読み切り版でも似たような問題点があったのですが、素で騙されておいて、その後で「実は騙されたフリをしていたのよ」と告白するのは、かなり無理がある展開ですよね。
 まぁ、“誘う目”の効力は「頼みを一瞬断れなくなるらしい」という、かなり曖昧な表現で説明されていますので、無理な解釈を重ねれば矛盾にはならないで済むには済むんです。が、それでもこの“誘う目”という能力は、シナリオ作りの中ではかなり厄介な手枷・足枷になって来そうですね。

 ……と、そういうわけで、大きな問題点が浮き彫りになって来たということで、評価はA−寄りB+と半歩後退させておきたいと思います。ただし、勿論のこと、今後の展開によっては評価の変更もあり得ます。

 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「生まれてからの一番古い記憶」。
 こういう話題の時には必ず「お母さんのお腹の中で……」と言う人が出て来るものだったりしますが、今回そういう人はゼロ。「誰かに向かって何か話しているか、発音出来なくて通じない」という雷句誠さんなどは相当古い記憶のような気がしますが、これも1〜2歳というところでしょうかね。追記:杉本ペロさんが、『生まれたと思ったら生まれてなかった』とコメントなさってました。ギャグ作家さんのコメントは冗談である事が多いので、無意識のうちにスルーしてたようです。受講生さん、ご指摘有難うございます)
 年齢を具体的に挙げている人では3歳が最も多いようですが、実は駒木も3歳前後の思い出が最古です。父親に公園で遊ばせてもらっていて豪快に膝を擦りむいたとか、テープレコーダーに何やら録音していたとか、朝10時頃に教育テレビを観ながら優雅にジャムトーストの朝食を摂っていたとか、なんか断片的に色々出て来ます。
 あーあと、ベタですが貰ったお年玉を右から左へ強奪された事も鮮明に覚えております。母親曰く、駒木の学資保険に消えたそうですが、真相はどうだか(笑)。

 ◎『金色のガッシュ!!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 こんな緊迫した場面になっても、5ページ半にわたってドタバタギャグを入れる雷句さんの思い切りは相変わらず素敵です(笑)。しかも、メンバー中最も笑いに縁遠そうなレイラをクローズアップするとは、さすがやりますね。
 しかもまた、そこから戦闘シーンへの持っていき方が強烈に上手くてシビれます。ギャグで笑わせた数ページ後にはもうシリアスな修羅場ですものねぇ。

 ◎特別企画「哀川翔×井上和郎 スペシャル対談」

 まず、内容以前に何ですかこのミスマッチは!(笑)。『ゼブラーマン』公開記念と『美鳥の日々』アニメ化記念を一緒にしてしまうのは強引通り越して反則に近いと思います。憶測で物言ったらまた叱られますが、何だか井上さんが猛烈にセッティングをお願いして実現したような雰囲気満々なのですが(苦笑)。
 しかもインタビューの冒頭でまた驚きですよ。哀川翔、『美鳥の日々』読んでるし! これが普段から「サンデー」読んでいるのか、それともインタビューがあるからと予備知識として読んだのか判りませんが、どちらにしろ「アンタは偉い!」と言いたいです。

 ◎『結界師』作画:田辺イエロウ【現時点での評価:A/雑感】

 今回で1つのエピソードが終了。それにしても見事な締め方でした。やっぱりこの作品は読み手を笑わせるよりも泣かせる方がシックリ来ますね。1回ごとの盛り上がりを気にする余り、エピソード通じてのテーマがあやふやになる面があったような気もしますが、田辺さんのキャリアでそこまでを求めるのは酷というものでしょう。
 今後の展開にも広がりが期待出来そうな感じになって来ましたし、ますます楽しみですね。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のレースシーン、本当に秀逸ですねー。その内容が“実際の競艇では滅多に起こらないが、起こった時は最高に盛り上がるような展開”だけに、競艇観戦経験者の駒木としてはエキサイトしまくりました。ちなみに、一番盛り上がる読み方は、2連単1−3の舟券を1点買いしているつもりで読む事ですね(笑)。波多野、行けーッ! とか叫びそうになりますよ。

 
 ……というわけで、今週は以上。来週はレビュー対象作が増えそう(ひょっとしたら3作品)なので、久々に分割版でお送りする事になるかも知れません。
 では、とりあえずまた来週という事で──

 


 

2003年度第104回講義
1月22日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第4週分・合同)

 今週あたりはスケジュール的にも余裕があるし、久し振りに前・後半分割でお届けしようかな……と考えたんですが、ちょっと「サンデー」だけでは講義が成立しそうになかったので、合同版とさせて頂きます。早いところ、旅行記とか別企画とかも進行させなくちゃいけませんしね。

 ところで、先の旅行の移動中には宮部みゆきさん『クロスファイア』を読んでたりしてたのですが、基本的な設定『デスノート』『十五郎』の1話目をミックスしたようなミもフタも無いモノながら、強引に力技で読ませる辺りはさすがだなぁ…と思ったりしました。
 ただ、そんな宮部みゆきのテクニックをもってしても、秘密結社的な組織や念力発火能力などといった奇抜な設定を日常の中に埋め込んだ際には“取って付けた感”が拭い切れなかった感が否めないんですよね。現代の必殺仕事人モノとか非SFの超能力モノってのは根本的に難しい題材なんだなぁと改めて実感してしまったり。

 ──さて、無駄話はこれくらいにして、ゼミを始めましょう。まずは情報系の話題から。
 最初の情報は今年度の「小学館漫画賞」について。まだ関連各誌では発表になっていないのですが、今年はドラマでも話題になった『Dr.コトー診療所』が一般部門の受賞作になった事もあり、マンガ業界の枠を越えて一般のエンターテインメント系ニュースとして、各媒体で報道されています。
 少年部門以外は当ゼミとの関連性が薄いですが、一応全部門の受賞作を発表しておきましょう。

第49回小学館漫画賞・受賞作

 ◎児童向け部門
 『ミルモでポン!』(作画:篠塚ひろむ/月刊ちゃお連載)
 ◎少年向け部門
 『鋼の錬金術師』(作画:荒川弘/月刊少年ガンガン連載)
 『焼きたて!! ジャぱん』(作画:橋口たかし/週刊少年サンデー連載)
 ◎少女向け部門
 『ラブ★コン』(作画:中原アヤ/別冊マーガレット連載)
 ◎一般向け部門
 『Dr.コトー診療所』(作画:山田貴敏/週刊ヤングサンデー連載)

 一般社会的にはどうか知りませんが、マンガ業界的には『Dr.コトー診療所』より、少年向け部門の『鋼の錬金術師』でしょうね。他出版社からの作品の受賞自体は、よく「ジャンプ」系作品が受賞しているように、それほど珍しい事ではないのですが、いわゆる四大メジャー誌(というか、実質「サンデー」と「ジャンプ」)以外からの受賞となると、極めて異例ということになります。
 一応、自社作品のメンツを保つ形で『ジャぱん』も選ばれていますが、過去の受賞作と比較すると、(読み手によって評価が異なる)クオリティはともかくとしても、知名度・商業的実績などの客観的要素においては最低ラインギリギリといったところでしょう。同時期に「サンデー」で連載が始まった作品群『ケンイチ』、『KATSU!』、『うえき』と比較すれば止むを得ず、という感じでもありますが、正直なところ『かってに改蔵』用のネタを提供しただけに終わったような……(笑)。

 しかしこういう場合、これまでなら集英社(=小学館の旧子会社)の大ヒット作を引っ張り出して来て賞のグレードを維持してきたのですが、この度は肝心の「ジャンプ」も“受賞適齢期(連載2年程度)”の作品が極めて手薄で、それも果たせなかったようです。まぁ『ジャぱん』で受賞出来るなら『BLEACH』にも受賞資格はあるとも思えるんですが、過去の受賞作を見ると、「ジャンプ」作品は相当の大ヒット作でないと(少なくとも少年向け部門は)受賞出来ないという暗黙の了解があるみたいですから、今回は見送りとなったようですね。
 それにしても「ジャンプ」や「サンデー」の深刻な新作不況がこんな所にも影響するとは。でもまぁ、これで受賞作が幅広い範囲から選ばれるようになるのなら、良い前例が出来たとも言えると思いますけどね。全盛期の『ONE PIECE』をわざわざ候補に挙げておいて落選させたり、大半の審査員の反対を押し切ってまで自社作品受賞に固執するどっかの出版社の漫画賞よりは、随分と健全な姿である事は間違いないですし。

 ……次に、今週は「ジャンプ」系の月例新人賞・「ジャンプ十二傑新人漫画賞」の11月期分審査結果発表がありましたので、こちらでも受賞者等を紹介しておきましょう。

第8回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年11月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作&十二傑賞=1編
 ・『福輪術』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  村瀬克俊(24歳・神奈川)
 
《鈴木信也氏講評:キャラクターの描き分けがよく出来ていて、作者のメッセージがはっきり伝わって来る。解説をなるべく抑え、絵やストーリーで分からせる工夫が加われば更に良くなる。》
 
《編集部講評:話が綺麗にまとまっている上、キャラクターの感情が丁寧に描けている。少年がワクワクするような“華”をどれだけ持たせられるかが今後の課題。)
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『ブレイバー』
   松永俊輔(23歳・福岡)
  ・『シューシップ』
   木村泰幸(25歳・神奈川)
  ・『奇剣トン太』
   小林慎和(27歳・東京)
  ・『@infinity.com』
   波多野佑輔(23歳・東京)
  ・『グーとおれ』
   小幡勇一(20歳・兵庫)
  ・『ジーン』
   堀井美奈子(21歳・東京)

 今回の受賞者&最終候補者の皆さんは、全員が過去の実績ナシという珍しいケースでした。その割には全員が20代の応募者で、フレッシュさを求めているのか即戦力を求めているのか、イマイチよく判らない話になってしまったんですけどね(笑)。

 
 ──では、今週のレビューとチェックポイントへと参りましょう。今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」の新連載1本のみです。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年8号☆

 ◎新連載『スティール・ボール・ラン』作画:荒木飛呂彦

 皆さんもご承知の通り、深刻な新人・新作不況が続く「週刊少年ジャンプ」。遂にここへ来て一度は封印されたはずの“最終兵器”が投入されました。業界内外に熱狂的なファンが数多く存在する事で知られる、ベテラン・荒木飛呂彦さんが満を持しての週刊本誌復帰です。

 荒木さんのデビューは1980年で20歳の時でした。第20回(80年下期)「手塚賞」において『武装ポーカー』で準入選を受賞しデビュー。その後、2度の増刊掲載や本誌での読み切り発表などを経て、83年に『魔少年ビーティー』で週刊連載デビューを果たします。この作品と、84〜85年にかけて連載された『バオー来訪者』は、それぞれ単行本1〜2冊分の短期連載に留まったものの、連載終了から20年経った今でも未だに根強いフリークが存在するカルトな作品として有名ですね。
 しかし、荒木飛呂彦の名が幅広く知られるところになったのは、やはり87年から連載が開始された『ジョジョの奇妙な冒険』によってでしょう。途中中断を挟んで描かれた第6部・『ストーンオーシャン』を含めると、この作品は連載期間16年・全750回余という、「週刊少年ジャンプ」でも『こち亀』に次ぐ歴代2位の長期連載作品としてその歴史に名を残しています。
 今回の新作・『スティール・ボール・ラン』は、荒木さん曰く「パラレルワールドの話で『ジョジョ』とは違う」とのこと。しかし、『ジョジョ』の中でもパラレルワールドに突入した…というストーリーになっているため、これは実質上の続編ではないか…という説も出ており、早くも話題沸騰といったところでしょうか。

 また、この連載は毎週31ページという、週刊連載としては異例の大ボリューム(通常は20ページ未満)とのことですが、ネット上の噂によると、定期的(月イチ?)に休載を挟んでスケジュール調整をするとも言われています。
 未確定情報をベースに推測をするのは危険ではありますが、このページ数はストーリー系読み切り作品の標準的な数字でありますし、今後の「ジャンプ」では、『スティール・ボール・ラン』休載時に新人・若手の読み切りを載せる…という編集方針になったのかも知れませんね。

 ──さて、それでは内容についての話をしてゆきますが、この作品は注目度の極めて高い作品でもありますので、無用の誤解を避けるためにも少々前置きをしておきます。
 駒木は約15年前からの「ジャンプ」読者でありますが、特別に『ジョジョ』や荒木作品のファンというわけではありません極めてニュートラルな立場で作品に接していましたし、今後も恐らくはそうなるでしょうですので、受講生さんの中にも数多くいらっしゃるであろう、『ジョジョ』や作家・荒木飛呂彦の熱心なファンの方々とは、作品に相対するスタンスが根本的に違うと思います。
 勿論、当ゼミでは、どんなに個人的に思い入れのある作家・作品を対象にしたレビューであっても、極力ニュートラルな立場から論評する方針を堅く守っております。駒木が再三再四、「作品の評価は好き嫌いで決めません」と申し上げている通りです。ですが、やはりその辺は未熟な駒木ですから、“敢えて立ったニュートラルなスタンス”“ごく自然に立ったニュートラルなスタンス”では、論じ方のニュアンスに微妙な差が現れて来る場合もあるかも知れません。(当然、そんな差など出さないように極力配慮はしているのですが……)
 ですから、熱心な『ジョジョ』ファン、荒木飛呂彦ファンの方から見れば、これから始まる駒木のレビューは大きく意に沿わないモノになっているかも知れません。「ファンの見方はそうじゃないんだよ」、または「作品に対する愛情が足りない」…などといった思いを抱かれる方もいらっしゃるでしょう。が、その際は込み上げて来る熱い思いを喉元でグッと堪えて頂いて、「そうか、ファンでもない人間から見ると、こういう風に見えるのだな」…などと、動物園で柵の中に居る動物を物珍しく眺めるように接して頂ければ幸いです。
 ……本来はこんなエクスキューズを入れる事自体が“逃げ”であり、やってはいけない事なのかも知れないですが、ファンの極めて多い作家さんの作品をレビューするに際して、無用な摩擦を避けるための配慮と言う事でご理解を賜りたく存じます。どうか何卒。

 では、まずはについての話から。……とはいえ、今年の末にはデビュー25年目を迎えようかというベテラン作家さんですから、基本的には何も口を挟めるわけもないんですが(笑)。冒頭から当たり前のように馬がバンバン描かれていますが、実は動いている馬の絵ってメチャクチャ難しいんですよね。さすがです。
 ただ、アクションシーンで過度にアップの構図が多用されていて、迫力は伝わるが何が起こっているのか読み取り辛い場面もいくつか見られたのは残念でした。この辺も「これが荒木流だ」と言われてしまえばそれまでなんですが、ここはデジタル的に若干の減点材料としたいと思います。

 次にストーリーと設定です。
 まず、過去作のパラレルワールドでのストーリーという事について。これは『ツバサ』作画:CLAMP)の例を見るまでも無く、下手をすると単なる自己満足に陥り失敗作になってしまうという危険な試みなのですが、少なくとも第1回を見た限りでは上手にバランスが取れていると思います。
 過去作の設定の流用を必要最小限──この作品世界が『ジョジョ』の世界のパラレルワールドであると読者に判らせる範囲──に留め、ストーリーの主な部分はパラレルワールド内のオリジナル設定を中心にして描かれています。第1回で登場したキャラクターの数もそれほど多くなく、これなら“一見さん”でも話についていけるのではないでしょうか。

 ところで、荒木さんの根本的なストーリーテリング技術は、実は本来あまりスマートなものではありません。相当な設定過多で、そのため必要以上にネームを多用してしまう傾向があります。時には過剰に説明的なセリフが延々と続くシーンもあったりもし、ある意味、橋田壽賀子ドラマのような不自然さが絶えずつきまとう作風でもあると思います。
 ただ、荒木作品の場合、まず設定そのものが非常に練られているという強みがあり、なおかつ天賦の才とも言える個性的かつ高度な演出力もあって、そんな雰囲気の不自然さも、読む人によっては“個性的で魅力的な作風”に変わってしまうんですね。つまり、荒木作品というのは読む人によって評価が大きく異なるモノなわけです。まさに評論家泣かせですね(苦笑)。

 で、今回の『スティール・ボール・ラン』の第1回を駒木がどう判断したか…という話になるわけですが、結論だけ先に言うと、「かなりよく出来ている」になります。
 やはり多少説明的なセリフの多さが気になるものの、膨大な設定を説明するのに“記者会見におけるキャラクター同士の質疑応答”という形式を採用する事で上手くまとめていますし、53ページの中に3つの小エピソードを盛り込むという密度の濃さも素晴らしいと思います。今後はどうか判りませんが、とりあえずは絶好のスタートを切ったと判断して良いのではないでしょうか。

 暫定評価はA−寄りAとします。この調子で行けば、今年の「ジャンプ」を代表する作品の1つになりそうですね。ただ、それがこの雑誌にとって本当に幸せな事かどうかは分かりませんが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週の巻末コメントでは、空知英秋さんが、デビュー作『だんでらいおん』を中学生に演劇化してもらったという事で喜びの声。確かに『だんでらいおん』はセリフが多い人情モノのドラマですから、演劇化するには絶好の作品かも知れませんね。しかし、デビュー1年にして、作家冥利に尽きるような体験ですよね。
 あと、和月伸宏さん「手の平からモッサリと毛の生えた夢」の分析を希望。でもまぁ夢判断って、その道のオーソリティであるフロイトにかかると、どんな夢でも大抵は「性的欲求不満」っていう結果になったりするんですけどね(笑)。

 ◎『ONE PIECE』作画:尾田栄一郎【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 突如始まったデービーバッグファイト編。尾田さんが昨年から事あるごとに予告していたメンバーの1名離脱は、どうやらこのエピソードで起こりそうですね。ノリそのものは何だか番外編っぽい感じですので、そんな予告でも無ければ、さして注目もされない“暇ネタ”扱いでスルーされてたでしょう。でもまぁ、そうなってたら、実際にメンバーが1人抜けた時のインパクトは、良い意味でも悪い意味でも絶大だったでしょうが……。
 ところで、実況役が上空からレースの模様を実況するというパターン、どこかで見た覚えがあるなぁと思っていたら、『Dr.スランプ』(作画:鳥山明)のペンギングランプリ編でした。あの時は、作者の鳥山明さん自身がスズメ型の小型飛行機に乗って実況(ついでに参加&優勝まで)していましたが、そう言えば今回の実況役もスズメに乗ってますよねぇ。

 ◎『DEATH NOTE』作:大場つぐみ/画:小畑健【現時点での評価:B+/雑感】

 しかし、次々と心臓麻痺とかで死んでゆく凶悪犯の名前、どう考えてもあり得ない名前ばかりでチョイと興醒め。恐らくは、よくある名前を使うと、同姓同名の読者に悪いから…という事なんでしょうが、これならまだ伏字の方が現実味あるように思えません?
 あと、本筋の方も徐々におかしくなって来ているような気がするんですが……。今はまだ違和感程度なんですが、既定されたシナリオを進行させようとする余り、キャラクターたちの行動に不自然さが見え隠れするように思えるんですよね。こういうお話は、キャラクターたちが予定外の暴走をするのを敢えて許し、作家が泣きそうになりながらシナリオを急遽変更して辻褄を合わせてこそ盛り上がるはずなんですけれども……。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 今回は斗貴子さんの登場がわずか3コマなのですが、それでもテンションと話の密度を落とさずに乗り切ってしまうあたり、随分と世界観や設定が成熟して来たものだと思います。ただ、和月さんは『るろうに剣心』時代から、敵キャラの個性付けを異様な外見にする事だけに頼りすぎる悪癖があり、あんまり多用されると現代劇としては少し辛いかな、という気もします。
 あと、桜花&秋水姉弟の「望み」桜花のホムンクルス化あたりが有力でしょうか。ただ、この姉弟、ものすげえインモラルな薫りがするんですが、皆さんどうお感じになってます?

☆「週刊少年サンデー」2004年8号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「今までで一番ハマったTVゲーム」。
 やっぱり皆さん、ゲーム好きですなあ。もう少し「ゲームはあまりやりませんでした」みたいな回答があると思ったんですけどね。ただ、ムッツリスケベの河合克敏さん、スーパーリアル麻雀2はTVゲームじゃないでしょう(笑)。まぁ一応、TVゲーム化されてますが、脱衣麻雀はやはり、100円玉積み上げてヒリヒリした緊張感の中でやってこそ思い入れが生まれるものだと思いますし。ちなみに駒木はシリーズの中では3と5が特にお気に……いやいやいやいや(笑)。
 駒木は「ダービースタリオン」シリーズになりますかね。結構1つのゲームをとことんやりこむタイプなのですが、ダビスタはその桁が1つ違ったような気がします。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今週はダメコモンセンスですか。何だか先週のネタとかなりニュアンスが似ているような気がするんですが(笑)。
 しかし、確かに「自分の常識は他人の非常識」というのはありますよね。特に駒木みたいに、世の中のヘンな所、ヘンな所に首を突っ込んで、このように講座まで持っている人間にとっては切実な話ではあります。気をつけてはいるんですが、それでも知識のギャップというものは避けられないモノですからねえ。
 例えば、以下に挙げる各分野の“常識”はどうでしょう? これらは全て、“その道”の人たちにとっては、「人間は呼吸しないと窒息して死ぬ」くらいの常識なんですが、皆さんはついて来れますか?

 ※プロレスファンの“常識”
 ◎故・ジャイアント馬場が創立した全日本プロレス、現在の社長は武藤敬司。アントニオ猪木が創立した新日本プロレスの社長は藤波辰彌。
 ◎三冠ヘビー級選手権とは、インターナショナルヘビー級、PWF認定ヘビー級、UNヘビー級の各選手権ベルトを統一したものである。
 ◎現在、日本のプロレス団体の数は軽く40を超えており、正確な数はプロレス関係者でも把握できていない。
 ◎「パワーボム狙いをウラカン=ラナで切りかえし、そのまま丸め込んで3カウント」と聞けば、頭の中でその光景を容易に想像出来る。
 ◎2003年のプロレス界の最大の話題と言えば、やはりWJだ。

 ※麻雀好きの“常識”
 ◎メンタンピンをアガった時の点数は、子3900点、親5800点。
 ◎アリアリルールと聞いて、何がアリなのか判る。
 ◎方角は東西南北(とうざいなんぼく)よりも東南西北(トンナンシャーペー)と呼ぶ方がしっくり来る。
 ◎桜井章一はマギー司郎に似ている。しかし、実は似てない。

 ※競馬ファンの“常識”
 ◎上がり3ハロンとは、レースでの最後の600mの事である。
 ◎調教で15-15とは、200mを15秒のペースで走る軽めの調教の事を言う。
 ◎キーストンとかテンポイントとか聞くと、自然と目頭が熱くなる。
 ◎杉本清アナウンサーの実況名文句を3つは言える。
 ◎武幸四郎騎手の敗因は全て「合コンの行き過ぎ」に集約される。

 ──まぁこんなところでしょうか(笑)。まぁ“その道”じゃない人で、各分野3つ以上理解出来たら大したもんだと思いますが……。

 ◎『売ったれ ダイキチ!』作:若桑一人/画:武村勇治【現時点での評価:B/連載総括】
 
 テコ入れを施すたびに迷走の度合いが深まる…という、悲惨な道筋を通ってしまったこの作品ですが、とうとう連載終了となってしまいました。最後は完膚なきまでの打ち切り最終回で、ハッピーエンドのシナリオにも関わらず、端々から悲壮感の漂う幕切れでしたね。
 この作品、連載当初は非常に順調だっただけに、本当に勿体無いという印象が強いです。今から考えれば、温泉旅館立て直し編から足場を踏み外していたんでしょうね。商売に関わるウンチクをストーリーに上手く絡めて行ってこその作品なんですが、回が進むに従ってウンチクの説得力が消え失せていくのが悲しかったですね。
 最終評価はB寄りB−としましょう。連載当初はA−つけてたんですが、ここまで評価を下げなきゃならない作品というのも珍しいですね。

 ……と、いったところで今週のゼミはここまで。来週もレビュー対象作が少ないですし、合同版になるかな…といったところです。

 


 

2003年度第103回講義
1月14日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第3週分・合同)

 今週は「週刊少年ジャンプ」が合併号休みのため、前・後半合同版ながら「週刊少年サンデー」関連の内容のみのゼミとなります。明日の早朝からまた1泊3日(また車中泊です^^;;)で東京旅行へ出ますので、こちらとしては都合が良いスケジュールになったんですけどね(笑)。

 ところで、最近よく当ゼミのレビューに対するご批判を頂きます。ご批判そのものは以前からも度々頂いていたのですが、ここ10日余り、ご批判が新たなご批判を生む形で、“続々と”という感じで厳しいお声が寄せられる事になりました。
 勿論、こちらが至らない点があれば早急に反省、改善しなければならないと思っております。が、中には誤解や感情の行き違いから生じたご批判も多く、そういったものに関しては、こちらとしても根本的に解決しようにも出来ないわけで、困惑する事しきりであります。

 そして、そんなご批判の中では、

 1.客観的がウリと公言しているクセに随分と主観的なレビューではないか。
 2.自分の意見を断定口調で決め付けてばかりではないか。
 3.評価Cをつけた作品のレビューが感情的になり過ぎ、必要以上に貶すような論調になってはいないか。

 ……といったご意見が大多数を占めます。
 ただ、これら1〜3(特に1と3)のご意見につきましては、明らかに誤解に基づくものであり、こちらとしてもどうすれば皆様にご理解頂けるのか、途方に暮れているのが現状であります。

 まず、のご意見に関してですが、「客観的がウリ」も何も、駒木はこれまで自分のレビューを「客観的」だと公言した事はございません。全読者の最大公約数的意見から逸脱しないように、という自分への戒めの意味も込めて「少しでも客観的な内容に近づけるよう努力する」という趣旨の事を申し上げた時があったかと思いますが、それはあくまで理想であり、当ゼミのレビューには駒木ハヤト独特の価値観が色濃く現れているはずです。ましてや「俺の評論は客観的だ」などといった傲慢極まりない感情など心の片隅に抱いた事すらありません。
 そもそもマンガを評論する上での客観的基準など存在するはずもなく、そんな中で「自分の価値観が客観的だ」などと口走る事は愚の骨頂です。それくらいの分別は駒木にもあるつもりです。ですから今後は、「当講座のレビューは、専任講師・駒木ハヤトの価値観に基づく主観的なレビューである」と考えて頂いて結構です。
 ただ、かといって公の場で評論活動をする限り、主観的な独自の価値観のみを拠り所にするというのも問題であると駒木は考えます。そのため、駒木は評論の際、また7段階の評価を付ける際には主観的な価値観の中で最も独善的なもの、即ち「好き嫌い」や「面白い、面白くない」といった感情的な価値観を極力排するように心掛けています。そしてその事だけは、開講以来現在に至るまで徹底出来ていると自負しております。
 事実、これまでレビューした作品の評価と個人的な「面白い、面白くない」の順位はかなりの部分で異なっていますし、ましてや「好き、嫌い」の順位とは大幅に食い違っています。あくまでレビューにおける評価は、絵の表現力、シナリオ構成や設定の完成度・整合性、表現技巧の巧拙など、作品の「良い、悪い」を判断するファクターを基準に下していますので、くれぐれも誤解なさらぬようにお願いしたいと思います。

 次にについてですが、自分の思っている事と相反する内容を他人に断定口調で決め打ちされた時というのは、確かに人間、気分を害するものだと思います。ですから「表現にもっと留意せよ」というご要望には極力お応えしたいという思いもあります
 ただし、評論という媒体は、その論者の意見をある程度断定的に主張してこそ初めて成り立つようなものでもあると、駒木は考えています。ですから、「これが駒木ハヤトの考えです!」…と自信を持ってお話できる内容については、今後も断定口調で述べさせて頂く事になると思います。
 また、当ゼミのレビューは、先に述べたように駒木ハヤト個人の価値観に基づく主観的な評論であって、それ以上のものではありません。あくまで世の中にある多数の評論のワン・オブ・ゼムであって、たとえ断定口調だからと言って、駒木の意見を受講生の皆さんに押し付けるようなものではないのです。(勿論、『もっともだ』と言って頂けるのが一番ではありますが……)
 ですから、駒木の断定口調の意見と皆様のご意見が食い違ったとしても、「駒木はそう思ったらしいが、自分は違う」と思って頂ければそれで良いのです。そして、「自分の意見の方が妥当である」とお考えになれば、駒木と同様にご自分のウェブサイトを立ち上げて意見を公にし、巷間の声を問えば良いだけの話なのです。

 最後にですが、これは100%誤解でありまして、こちらとしても「ご理解下さい」としか言いようがありません。
 恐らく、この種のご意見を寄せられた方は、
 「この作品を読んで嫌いになったから、これだけクソミソに言うんだろう」
 ……と思われているのでしょう。しかし、違うんです評価Cを付けざるを得ない作品と言うのは、それこそ(駒木の価値観で言えば)褒めることの出来る要素が皆無に近く、逆に酷評しなければならない要素は枚挙に暇が無い……というような作品です。つまり、駒木の感情とは全く関係なく、「生まれながらにして駒木にクソミソに貶される運命にある作品」なのです。
 また、皆さんは講義の模様を文字に起こした形で受講されているわけですが、喋り言葉を文字に起こした場合、本来の微妙なニュアンスが伝わらないケースがまま見受けられます。そして当ゼミの場合は、評価C作品のレビューの際に、そういう誤解を招くケースが多くなってしまうようです。ただ、奇妙な話で、そういった時はお叱りが増える反面、褒めて頂けるケースも多いのですが……。
 ですので、今後は評価C作品のレビューにつきましては、正規のレビューとは別枠扱いにしたいと思っています。具体的には、評価C作品については最初に「評価Cである」とお伝えした上で、レビューそのものはハイパーリンクを張った別ページで行う…という手段を現在検討中です。

 ──以上、ご理解頂けましたでしょうか? 勿論、受講生の皆さんのお声はこれからも謹んで拝聴したいと考えておりますので、談話室(BBS)並びにメールにて忌憚の無いご意見をお寄せ下さいますよう、お願い申し上げます。
 最後にダメ押しで言っておきますが、当講座のレビューは、あくまで主観的なレビューで。どうぞ宜しく。

 では、気を取り直して講義の本編へ参りましょう。
 ただ、今週は情報系の話題がありませんので、早速レビューとチェックポイントへ。レビュー対象作は新連載1本のみということになります。

☆「週刊少年サンデー」2004年7号☆

 ◎新連載『暗号名はBF』作画:田中保佐奈

 飛び石連休ならぬ、飛び石新連載シリーズが進行中の「週刊少年サンデー」、今週が4作品中の第2弾ということになりますね。
 今週登場の田中保佐奈さんは、これが初の週刊長期連載となりますが、実はキャリア10年目という、生え抜きの「サンデー」系若手では恐らく最古参にあたる方です。
 田中さんは「サンデーまんがカレッジ」で佳作を受賞後、94年下期の「小学館コミック大賞・少年部門」で入選し、それが契機でデビューを果たします
 その後は98〜99年と02年の2回、増刊号での短期連載を経験し、たびたび週刊本誌でも読み切りを発表しています。また、椎名高志さんのスタジオでチーフ格のアシスタントを務めていた事でも知られていますね。
 今回は03年30号に発表した同タイトルの作品が“昇格”した形での連載獲得。10年目で掴んだ大チャンスを果たして活かせるかどうか、注目の新連載となりました。

 まずですが、これは以前読み切りのレビューでもお話したように、基本的には見栄えのする綺麗な絵柄であると思います。ディフォルメなどの表現についても問題ないですし、十分に水準はクリアしているのではないでしょうか。
 ただ、今回登場したキャラクターの内、同じ系統の輪郭で同じようなパーツ配置の顔が多すぎて、多少メリハリに欠ける印象がありました。似ているようで似ていないようで、でも良く見たらやっぱり似ている顔ばかり…というのは、少々違和感を感じますね。
 まぁこれを評価の減点対象にするのはどうかとも思えますし、根本的に描き分けする実力が無いわけでも無さそうですので、今回に限っては、あくまでも“問題点の指摘”という事にしておきましょう。

 次にシナリオと設定について。読み切り版の時にはシナリオの整合性で大きな欠陥があったため、「このままで連載にゴーサインを出すのはどうか」と思ったのですが、少なくとも今回の内容に関しては、明らかな矛盾点はありませんでした。必要最小限の設定説明をこなしつつ、“主人公のデモンストレーション用”としてはかなりボリュームのあるシナリオをまとめ上げたわけですから、むしろここは「良く出来ている」と評価するべきかも知れません。複雑な心理描写もかなりリアリティがありましたしね。
 問題点を挙げるとすれば、ページ数の関係上止むを得ないとは言え、若干ご都合主義(都合良く問題が解決し過ぎる)の傾向が見られたあたりでしょうか。ただ、これも全体の完成度からすれば許容範囲の小さな減点に留まるでしょう。

 むしろ、心配なのは今後です。主人公を「変身前は片想いに悩むタダの中学生、変身後はオトナの話術(笑)を最大の武器にした万能型ヒーロー」という、かなり裏技的──本来は読み手の感情移入が難しい万能型主人公なのに、「重要じゃない場面ではタダの中学生」という二面性を持たせて読者の感情移入が促進可能にした──キャラに仕立て上げたのはグッジョブなのですが、この主人公にリアリティを持たせるのはかなり大変だと思います。何しろ、「どうして素(中学生)の時は、変身している時みたいにカッコ良く出来ないの? 同一人物でしょ?」…というツッコミが常時背中に突きつけられるわけですからね。
 ですから、変身中の時の言動には“お仕事感”、“やらされている感”を滲ませて、素の時こそが本当の主人公の姿だ…と読み手を印象付ける試みが絶えず必要になって来るでしょう。ただ、話が盛り上がれば盛り上がるほど主人公は常時変身しっ放しになる可能性が高いわけで、そうなると延々“お仕事をやらされてます”的な主人公が大暴れする…という、何とも微妙なお話になってしまいます。そういう事態も避けなければならないでしょう。
 よって、この辺の構造的な弱点を如何に克服するかが、イコールこの作品が成功するかどうかの重要なカギになって来るのではないかと思います。『名探偵コナン』のように、いつまでも辿り着かないゴールを目指して一話完結型の小エピソードを延々と積み上げていくのも一つの手でしょうが、『コナン』もかなり危ない綱渡りをやりつつ延命している作品だけに、安易に真似しようとすると奈落の底へフリーフォールしてしまいそうで怖いですね。

 さて、第1回時点での暫定評価ですが、いくつかの減点材料を抱えつつも、全体的な完成度はかなり高いと言う事で、A−を進呈したいと思います。ただし、先述の通り、今後の展開にはかなり弱含みな要素も抱えているため、後追いレビューやそれ以降でも減点せざるを得ない場面が出て来るかも知れません。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「闘ってみたい有名人」。
 なんちゅう質問じゃ、と思ったんですが、それは作家の皆さんも同様らしく、微妙な回答の連続で……。それにしても藤田和日郎さんと安西信行さんの回答一致、しかも「女子十二楽坊」は奇跡的な邂逅だと(笑)。
 駒木は……。闘おうにも自分がフィジカル面で弱すぎるんで……(苦笑)。ミルコ=クロコップあたりと闘わせたい人なら結構いるんですが。金正日とか、モデム配り先の電器量販店の店長とか(同列かよ)。

 
 ◎『犬夜叉』作画:高橋留美子【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回も物騒なカップルによる物騒なラブコメ模様個人的にバカ受けなんですが(笑)。青年誌でいいから、もっと描いてくれればいいのに。
 しかし、この辺の遣り取り、肝心のお子様はどれくらい理解できるのか、そっちの方もちょっと心配ですが。「結ばれました」って言っても、特にウブな男子小学生なんかは意味判らんでしょうし……。まぁでも、何となくヤバいんだ、くらいは判るように描いている辺りが大御所の表現力ですけれどもね。

 ◎『かってに改蔵』作画:久米田康治【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 確かに「自分は普通だ」と思ってる事に限って、周りから見たら異常だったりしますからね。例えば、大分昔に鈴木みそさんが調査してたんですが、便所で大の方をした後の拭き方とか。アンケート取ったらかなりの種類に分かれるんですが、回答者は口を揃えて「でも、これって普通でしょ?」と言うんだとか(笑)。
 で、不思議王カードなんですが、「毎年1000億単位の赤字を垂れ流しながら、業績絶好調みたいに振舞える某企業の不思議」を追加して頂きたいと……。


 ◎『きみのカケラ』作画:高橋しん現時点での評価:B−/雑感】
 
 今週もやってくれますなあ……。何と言いますか、もうこれはある種の悪意をもってやっているとしか思えない、ロリエロのメタファー連発。擬似フェ○まで繰り出した手段の選ばなさぶりには、口アングリでございますよ。
 また、それらのシーンの大半は、ストーリー展開における必然性が全く有りませんからねぇ。イコロなんか普通に服着せりゃ良いのに。
 日本の少年マンガは外国でも単行本化されて広く発売されてたりするんですが(作者にも海外分の印税が発生したりします)この作品だけは無理でしょうねえ、きっと。規制の厳しい国とかなら持ってるだけで捕まりそうです。


 ……というわけで、今週はこれまで。しかし、たかが一個人のマンガ評論のスタンスでこれほど揉めるのはウチくらいでしょうね(笑)。そういう意味においてはむしろ名誉かな……なんて思ったりしながら、また来週。

 


 

2003年度第102回講義
1月9日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(1月第2週分・合同)

 中1日開けて、今度は今週発売の「ジャンプ」、「サンデー」についてのゼミを行います。
 一昨日付の講義で10数本のレビューをやった直後でまだ頭の疲れが溜まってるんですが、今日もレビュー対象作が3本。しかも『十五郎』の後追いレビューという“難関”まで控えていて、ちょっとビビり気味です。読むだけでも疲れるのに、内容について細かく分析するのにどれだけ骨が折れるやら……。

 ……とはいえ、3000人以上の受講生さんを前に逃げるわけにも行きませんので、頑張らせて頂きます。
 そういうわけで、まずは今週も情報系の話題から。今週は「ジャンプ」、「サンデー」両誌から新連載の話題が入って来ています。

 まずは「ジャンプ」ではビッグネームの再登板。『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズでお馴染みの、荒木飛呂彦さんが遂に復帰です。そのタイトルは『ストーンオーシャン』最終回掲載号の巻末コメントで予告されていた通り、『スティール・ボール・ラン』
 巷ではこれが『ジョジョ』シリーズなのか、それとも全く別物なのかで意見が分かれているようですが、まぁ結論は急がないでおきましょう。最終回間際になって「実は世界がリンクしてました」という、永井豪・『デビルマン』方式という可能性もあるわけですしね。

 次に「サンデー」から。これは一度“今期の新連載一覧”のような形で紹介したはずなのですが、改めてという事で。
 次号から開始されるのは、『暗号名はBF』(作画:田中保左奈)。昨年掲載された読み切りからの“昇格”です。田中さんは「サンデー」系の若手作家さんの中では古株で、なんと今年でキャリア10年目。「ようやく」の連載獲得となりました。
 ただ、昨年の30号に掲載された読み切り版では、長期連載に踏み切るには躊躇われる“キズ”が目立ったように思えただけに、どこまで軌道修正が出来ているかがポイントとなりそうです。

 ……それでは今週分のレビューをお送りしましょう。今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」から第3回後追いレビュー1本と読み切り1本、そして「サンデー」からは第3回後追いレビュー1本計3本です。

☆「週刊少年ジャンプ」2004年6・7合併号☆

 ◎新連載第3回『LIVE』作画:梅澤春人【現時点での評価:B+

 昨年末の新連載シリーズについてのレビューもこれにてラスト。シリーズ第3弾・『LIVE』の第3回後追いレビューです。
 しかし、今回は新連載第3回ということで、定番のセンターカラーなんですが、今号は『BLEACH』の巻頭カラー+51ページがあったり、他に2つもセンターカラーがあったりで、せっかくのカラーページが目立たないんですよね。打ち切りの是非を検討する回でのコレは、ちょっと可哀想な気が。いや、ベテラン作家さんを捕まえて外野が「可哀想」もクソもないんですが。

 で、内容についてですが、レビューすべきポイントについての印象は、第1回の時とほとんど変わっていませんね。話が急展開してゆくようなタイプの作品ではありませんし、ベテラン作家さんですから絵柄も2週間で変わりようがありませんから、当たり前と言えば当たり前なんですが。
 ただ、作品全体を通じてのテーマがまだ未確定(というか、敢えて設定していない?)のままで第1回から第3回まで同じようなエピソードを続いているために、早くも悪性のマンネリ感が漂い始めています。作者の梅澤さんにしてみれば毎回頭をヒネって新しいエピソードを考えているわけで、「マンネリとか言われても困る」といったところでしょうが、いかんせん、どの話も概括すれば「いつもの梅澤春人の話」というところに留まっているんですよね。
 また、これはたとえ、今回が梅澤作品を読むのは初めてという人を対象にしても、与える印象は大差無いのではないでしょうか。梅澤春人作品のパターンは知らなくとも、「何となく同じような話が3連発で続いてるなぁ」という部分は何となくでも感じ取れるはずですので……。

 この辺りは、第1回のレビューで申し上げた“縮小再生産”の反作用が早くも出ているのではないかと思います。この作品は既に第1話、いやそれ以前の段階で梅澤さんの頭の中で完成されてしまっていて、第1話時点ではもうピークを過ぎつつあるんですね。なので、2話以降で大幅な進展をしようと思っても構造上不可能なわけです。
 これからカンフル剤のように新キャラや新事件を起こして、そのピークをなるべく長く持続させる事は可能でしょうが、今の“縮小再生産”方式を改めない限り──つまり、これまでとは全く違う梅澤春人作品にしない限り、この作品の今後はそう長くないのかな、という気がしています。

 ただ、総合的な評価は作品そのものをデジタルに評価しなくちゃいけませんので、大幅な減点も出来ません。マンガとして求められる最低水準は軽くクリアしているわけですからね。
 ですので、第1回から若干評価を落としてB+寄りB。これくらいが妥当なラインではないかと思います。

 
 ◎読み切り『World 4u_』作画:江尻立真

 今週の読み切り枠には、これが週刊本誌2度目の登場となる江尻立真さが登場です。
 江尻さんは金沢大学の漫研出身で、在学中にはマンガだけでなくアニメ制作にも関わったという本格派。その最中、99年冬号、夏号では「赤マルジャンプ」に作品を発表し、プロマンガ家デビューを果たしています。
 週刊本誌には03年25号に今回の同題名の作品を発表済み。アンケートが好評だったのか、それとも微妙な数字だったのかは判りませんが、この度、改めての読み切り掲載という事になりました。

 まずについては、前回の時と同様、新人・若手の域を越えた素晴らしいデキになっていると思います。もう完全に絵柄が固定されているみたいですが、まぁこれだけ描ければ固まっても問題ないでしょう。
 ただ、これも前回掲載時に述べた事ですが、やはり線が細くてインパクトという上では物足りなさを感じてしまうような絵柄ではあると思います。一線級のプロとしてやっていくならば、絵柄に応じたジャンルのチョイスという作業も必要になってくるのではないでしょうか。

 ただし、高評価が出来る絵と違い、今回のストーリーは、プロット段階、つまり「どのような話にするか」という地点から、ベクトルを間違えてしまったような感が否めません
 今回のこの作品は、1つのエピソードの中で「怖い話」と「心温まる話」という相反する2種類の要素を合体し、「ちょっと不思議な話」として完成させようとした作者側の意図が見てとれます。救いようの無い話だと読者の支持が得られないという配慮が働いたのでしょうか。
 ただ、これはプラスの数とマイナスの数を足し算するようなもので、結局はどっちつかずに終わってしまうんですよね。怖い話を期待している人は拍子抜けで終わってしまうし、心温まる話を期待していた人は素直に心を温められないんです。ちょっと寂れた遊園地なんかに色々な意味で中途半端なアトラクションがありますが、ちょうどそのような話になってしまったんじゃないでしょうか。

 また、「怖い話」の要素の組み立て方にも若干の疑問が残ります。この手のホラーというのは、“因果応報で訪れる恐怖”または“全く無関係な所から理不尽に訪れる恐怖”というのが基本です。前者の代表例が幽霊話の復讐モノで、後者のそれが血飛沫バリバリのスプラッターですね。
 ですが、今回の2エピソードはこれも中途半端なんですよね。基本的なスタンスは因果応報モノなんですが、被害を受ける(霊に危害を加えられる)側が化けて出られて仕返しされる程の罪を背負っているわけではないので、どうもシックリ来ないのです。かと言って、「全く無関係で理不尽な恐怖」とするには因縁が付き過ぎていますし……。

 あと、これも前回にも指摘したんですが、答えの分かり難い考えオチは止めた方が良いですね。上手くまとめたように見えて、話の余韻が台無しになってしまいます。

 ……そういうわけで評価なのですが、今回は話の組み立て方を間違ってしまっていますから、前回から評価を落とします。絵の良さの分だけ少々加点してBということにしておきましょう。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆ 

 今週の巻末コメントは、ほとんど皆さん揃って新年のご挨拶。多分コメントを書いているのは年末進行最終段階(12/24前後)のはずなんですが、まるで年賀状みたいですね(笑)。
 ただ、冨樫義博さん、あなた「コレで1回分はネタ考えないで済む」という気持ちが表われ過ぎてます(笑)。

 しかし、今週号の表紙は各作品ごとの合作なんですが、そのカットの大きさが、なんかそのまま雑誌内の番付を現しているようで興味深いですね。
 『ONE PIECE』『テニスの王子様』『NARUTO』“3強”で、それに『BLEACH』が肉薄。その後を掲載順の割に単行本が売れず出世し損ねている『アイシールド21』と、“客員待遇”の『H×H』『こち亀』が続く…と。欄外ながらちょっと大きめに載っている『ボーボボ』もほぼ同ランクでしょうか。
 それにしても、あれほど商業的な貢献をした『遊☆戯☆王』がその他大勢扱いとは、やっぱり「ジャンプ」ってシビアですね。

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/単行本1巻の話題&表現規制について】

 先日のゼミで、「『武装錬金』は編集サイドからの支持で残虐シーンの描写に表現規制を受けている。致し方ない部分もあるが、それでも如何な物か」…という旨の発言をしたところ、複数の受講生さんから談話室(BBS)で、「描いた後に修正されているわけではないので、作者本人の意思で表現を和らげたのではないか」というご指摘を頂きました。
 で、その時は、駒木の意見とご指摘のどちらが事実に近いのかを判断する材料がありませんでしたので、こちら側の軽率な発言を謝罪しつつ、結論は先送りにさせて頂きました。ところが、その直後に発売された単行本1巻の中で、作者の和月さんご本人がこの作品における表現規制についても述べておられました。いやー、グッドタイミングですね(笑)。

 その、和月さんが表現規制について述べられていたのは、余りページを利用したオマケコーナー・「ライナーノート」。簡単に言うと、1話毎の制作舞台裏が箇条書きスタイルで述べられたコーナーなのですが、その第7話部分に、この件に関する興味深い内容が記されておりました。
 この第7話・「キミは少し 強くなった」は、斗貴子さんが薔薇型ホムンクルスを相手に激痛に耐えながらバルキリー・スカートを発動し、「脳漿をブチ撒けろ!!」と、少年マンガのヒロイン史上指折りの物騒なセリフを言い放って秒殺圧勝を果たしたエピソードでした。そして、この戦闘シーンの際の描写が色々と問題になったとのことで、「ライナーノート」にその時の複雑な心境を吐露されています。

 では、ここでゼミ用の教材としまして、その第7話部分を全文引用させて頂きます。著作権との兼ね合いが微妙かも知れませんが、引用の必要性や、本文と引用文の主・従の関係性から考えるとセーフだと判断しました。勿論、然るべき所から抗議を受けた場合は速やかに削除しますので、ご了承下さい。

・規制の嵐に泣いたり笑ったりの回。
・蛙井(引用者注:カズキと戦った蛙型ホムンクルス)小ガエルバージョンは当初考えてなく頭部+脊髄を模したパーツというデザインでしたが、「生首を連想させる表現は、かなり黒に近いグレー」というコトで没。じゃあ、もうテキトーに小ガエルの体でもくっつけてやれと、いい加減に描いたら、むしろ奇妙な味わいが出て大満足。まさにケガの功名。
・花房(引用者注:斗貴子さんに脳漿をブチ撒かされた薔薇型ホムンクルス)は当初「美」にこだわるキャラとして設定。斗貴子の傷を醜いとののしる→それに対する斗貴子の返答という流れで、傷に少々触れる会話を描こうとしたところ、「顔の傷を醜いというのは、実際に事故や病気で顔を傷に負った人への配慮で黒」というコトで没。少々残念だけど、これは納得。
・斗貴子の目潰しの直接描写は「実際に子供が真似するかもしれない、これも黒に近いグレー」で没。ポイントはフキダシで隠すコト。目潰しは斗貴子のスパルタン振りを一発で描写出来る素晴らしい技で、連載開始前から考えていただけにかなりショボン。
・少年誌は規制が多くて大変。が、しかし、その中で切磋琢磨するコトで、より多種多様な演出を編み出せると考えれば、これもまあ良し。己の実力を高められれば、問題なし。

※引用元:集英社刊・ジャンプコミックス『武装錬金』第1巻188ページ「ライナーノート」15行目〜31行目。

 ……この記述から分かる事は、
 ・「ジャンプ」には表現についてモラル基準がかなり厳しく設定されている。
 ・『武装錬金』の場合、実際に制作へ入る前の段階(プロット〜ネーム)の打ち合わせで、担当編集者から和月さんに通達する形で表現規制に関するダメ出しが行われている。

 ……の2点ですね。
 先日に駒木が指摘した部分は単行本で言えば2巻以降に収録される部分も混じっていますので、最終的な結論は単行本化された時の「ライナーノート」に委ねなければなりませんが、『武装錬金』における残虐描写の表現規制については、編集部主導で行われていると考えて良さそうな感じですね。
 大体、作り手側の立場で考えると、残虐描写をやるからにはそれによって読者に与える効果を計算してやっているわけで、それを当り障りない形に修正してしまっては、何のためにそういうシーンを挟んでいるか判らなくなっちゃうんですよね。

 しかし、このモラル基準は正直厳しすぎる印象がありますねぇ……。メジャー少年誌という事で仕方ないんでしょうが、とんでもない厳しさですよ、コレ。「ジャンプ」は乳首NGとか、そんな事言ってる場合じゃないですな。
 ただ、生首NGって、『H×H』では完璧にカイトの生首出てましたよね……って、締め切りギリギリで仕上がった原稿だと修正のしようが無いか。もし確信犯だとすると、したたかだなー、冨樫さん(笑)。 

☆「週刊少年サンデー」2004年6号☆

 ◎新連載第3回『怪奇千万! 十五郎』作画:川久保栄二【第1回掲載時の評価:C

 さて、連載開始以来、ネット界隈の至る所で凄い事になっている(笑)、この『十五郎』の後追いレビューです。
 あ、それはそうと、どうやら第1回のレビューが一部でエラい好評を頂いたようで、有難うございます。
 「この作品が酷い(もしくは凄い)事は判るんだけど、そのメカニズムが判らない」という方に道しるべを提示する…というのは、実はこのレビューを始めるに至った目的の一つだったりします。ですので、そういう形で当ゼミを利用してもらえるのは本当に嬉しい事ですね。まぁ出来れば、駄作じゃなくて傑作のレビューで利用して頂きたいという思いはあるんですが……(笑)。

 ──では、本題に移りましょうか。
 ただ、今回は普通に第2話、第3話の内容について述べるのではなく、この作品の根底に流れる“ダメ要素”について概括してみたいと思います。
 この度の「ジュピターの憂鬱」編も、至る所にツッコミ所満載の凄いエピソードでしたが(例えば、音の波形を反転させて…という部分の理論が完全に間違ってたらしい、とか)、ネット界隈の反応を見ていると、もう「この作品は駄作である」という結論を強調するためにあれこれ述べなくてはならない段階は過ぎたかな…と思うんですよね。ただでさえ、そうやって評価Cの作品にダメポイントを指摘しまくった時のレビューが「感情的になり過ぎ」と批判を受ける事も多いですし(本人はかなり冷静なつもりなんですけど、文字の形だとそうは思ってもらえないみたいですね^^;;)、今回はちょっと地味にやらせて頂こうかなと。
 ……ただ、地味にやったらやったで、今度は「生温い。こんなクソを擁護しやがって、駒木もヤキが回った」とか言われるんですよねぇ。本当、サジ加減が難しいです(笑)。

 閑話休題。
 それでは、この『十五郎』という作品を根本的な所で駄作たらしめている3つのポイントについて述べてゆきましょう。

 まず1点目は、主人公・十五郎のキャラクター設定です。
 この作品において、十五郎というキャラは「やろうと思った事は、どんな困難な事も楽々出来てしまう万能人間」という設定になっています。まぁその割には「ジュピターの憂鬱」と「ジュピターの快楽」を演奏した時に建物が崩壊する事を予測出来ていない辺りがアレなんですが、それはとりあえず置いといて。
 で、この“万能人間”というのを主人公にしてしまうと、ストーリーの盛り上がりが全く期待出来なくなるんですよね。読み手にカタルシスが全然来ないんです。
 あらゆるエンターテインメント系ストーリーの基本というのは、主人公が困難にブチ当たって、それを試行錯誤しながら克服・解決してゆく事です。そして、その困難を克服・解決する過程に作品の魅力がギッシリ詰まっているのは言うまでもありません。
 ところが、この作品のように主人公が“万能人間”だと、その困難を克服・解決する過程が全く無くなってしまうんですよね。例えばですね、20代後半以降の受講生さんならよくお判りになると思うんですが、ファミコン等のアクションゲームで裏技を使って無敵モードにした時、最初は凄い爽快なんですが、すぐに飽きが来ましたよね。無敵モードで完全クリアしても全然嬉しくなかったり。
 で、この作品の主人公・十五郎は、まさにその無敵モードに入ってるんですよね。だから、問題を完全クリアしても全然嬉しく思えないんです。
 皆さんも良かったら、古今東西の名作少年マンガの主人公を出来る限り思い出してみて下さい。評判の高い作品の主人公ほど、どこかに重大な弱点や欠陥を抱えていたはずです。

 次に2点目。それは、提示した設定に説得力を持たせる努力を放棄している事です。
 普通、マトモな作品ならば、シナリオの中で新しい設定を提示する場合、ある種“デモンストレーション”的な出来事を起こして、その設定に説得力を持たせるように努めるものです。
 例えば、西部劇かなんかで、「コイツは東の方じゃ並ぶ者無しと言われたガンマンなんだ」という触れ込みで新キャラが登場した場合、必ずその新キャラに実力を発揮させる機会が与えられますよね。その界隈でNo.2くらいの“村一番レヴェル”のガンマンが出て来て新キャラに決闘を挑み、自分が1発発射する前に拳銃とカウボーイハットを吹っ飛ばされて腰を抜かしたりするわけです。そういう手続きを踏んで、「東では無敵のガンマン」という設定に説得力を持たせるわけです。
 ところがこの作品では、設定は読み手に提示さえすれば自動的に承認されるというシステムになっちゃってるんですよね。しかもそれを主人公の十五郎が“万能人間”であるという部分にまでやってしまっているので業が深いのです。
 このシステムを是としてしまったら、別のマンガの中で「こちらが今、人気絶頂の名作・『怪奇千万! 十五郎』を描いている売れっ子作家・川久保栄二さんだ」という記述をしたが最後、この『十五郎』が人気絶頂の名作になり、川久保栄二さんは売れっ子作家になってしまうわけですね(笑)。で、そうなると、作中にこの作品が引用された時、作中の登場人物は「おお、凄い! この作品はなんて面白いんだ!」…と言わなくちゃいけなくなるんです。それを見せられた読み手は果たしてどう思うでしょうか?
 ……あ、この『十五郎』を面白いと思っている方には失礼しました。該当部分を『旋風の橘』『エンカウンター』かなんかに替えてもう一度是非。

 そして最後の3点目はちょっと難しいんですが、頑張ってついて来て下さいね。3点目は、物語の中で起こった1つの出来事について、そこから派生して起こる出来事を全く想定できていない、という部分です。
 先程、“万能人間”の愚について解説した際に、「十五郎は“万能人間”の割に、ホールが崩壊する事について判ってなかった」という事について茶化してしまったんですが、それもこの「1つの出来事から派生する出来事を想定できていない」一例の1つですね。何でも出来る人間なのだったら、起こり得る出来事は全て想定出来ていないといけないはずなのに、実際にはそうなってない。それはおかしいわけです。
 第3回では、バイオリン奏者・澄香が、観客どころかあらゆる人間が自分のいるホールの1km四方から退避している事に気付いていなかった…という場面がありましたが、これなんか、その最たる例ですよね。普通、気付くだろうと(笑)。お前はよゐこの濱口か、どこまで簡単に騙されとるねんと。そういう事になっちゃうわけですね。こういうシーンがあると、そのせいで現実感が台無しになってしまいます
 一流の作家さんになると、この辺のディティールを作り上げるテクニックが大変達者だったりするわけですが、どうも川久保さんは、その辺を考える事すらしてないような気がしてならないんですよね。そうでなければ、このような現実感のぶっ飛んだ作品を描けるわけがないはずなんですが……。

 ──さて、いかがでしたでしょうか? これでまた頭の中でモヤモヤしていた疑問を解消していただければ幸いです。
 ……あ、忘れない内に評価をつけておきましょう。当然の事ながらCで据え置きです。恐らく、もう最終回の総括までこの作品をゼミで採り上げる事はないんじゃないかと思います。こういう作品にグダグダ何かを言う暇があったら、もっと優れた作品を採り上げたいと思いますので。


 

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 巻末コメントのテーマは、「お正月の思い出」。
 結構皆さん色々な思い出を語っておられて興味深いんですが、やっぱり目立ってるのは高橋しんさん「箱根駅伝走ってました」ですよね(笑)。『いいひと。』で箱根駅伝編が描かれた時から有名なエピソードですけど、やっぱりインパクト抜群です。
 駒木の場合は、今年の2日、3日、4日モデム配りをやらされた事が一生の屈辱的な思い出になりそうです。良い思い出なら、2日に西宮競輪、3日に園田競馬、4日にフリー雀荘行った、数年前の正月になるでしょうけど。ちなみに、今では西宮競輪場と、その時に行ったフリー雀荘は潰れてしまいました。

 ◎『犬夜叉』作画:高橋留美子【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回の間の良いラブコメシーンを読んでると、普遍的だけど上手いよなぁ……とか思ったりしたんですが、よく考えたらその“普遍”のかなりの部分を作ったのは高橋さんご本人だったりするんですよね(笑)。いや、失礼しました。

 ◎『結界師』作画:田辺イエロウ【現時点での評価:A/雑感】

 ここ数回、シリアスモードの展開になってから、作品の雰囲気が締まって良い感じになりましたね。やっぱりこの作品は単なるコメディにしてしまうのは勿体無い題材ですよ。
 今回は特に最後のセリフが決まってましたね。一流の作家さんになるためには、こういう決めゼリフを作るコピーライター的な才能も必要ですから、そういう意味でも田辺さんの今後は期待出来ると思います。

 

 ……というわけで、今週はこれまで。長かったですね、ごめんなさい。
 次週は「ジャンプ」が休刊なので、15日から東京旅行に行く前に何とか「サンデー」だけの内容のゼミを実施できればなぁ…と思っています。どうも無理臭いですが(笑)。

 


 

2003年度第101回講義
(前回まで延々と間違ってましたが、2003年の講義回数ということで、3月一杯までカウント続行です)
1月7日(水) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(12月第5週〜1月第1週分)

 今年最初の「現代マンガ時評」は、恒例の「赤マルジャンプ」全作品レビューをお送りします。既に「ジャンプ」、「サンデー」のいずれも今年最初の週刊本誌が発売になっていますが、とりあえずはこちらからという事で。
 なお、談話室(BBS)でお約束していた『武装錬金』の表現問題については、今回は週刊本誌に関連しない内容という事もありますし、次回ゼミに順延という事にさせて頂きたいと思います。ご了承下さい。

 ……それでは、長丁場必至の内容になる事ですし、早速レビューを始めたいと思います。ただ、例によって、普段のレビューよりもやや駆け足気味のものになりますので、ご承知おき下さい。あと、これもいつも通りですが、連載作品の番外編はレビュー対象から外してあります。

◆「赤マルジャンプ」04年冬号レビュー◆

 ◎読み切り『NOIZ ─ノイズ─』作画:樋口大輔

 連載経験者が担当する巻頭枠、今回は『ホイッスル』でお馴染みの樋口大輔さんの登場です。連載終了後も精力的な活動を続ける樋口さん、03年は本誌でも読み切りを発表していますが、滑り込みで年内2作品目の読み切り作品発表となりました。
 樋口さんの経歴に関しましては、昨年5月1日付講義で前作・『dZi:s』のレビューをした際に詳しくお話しておりますので、そちらを参照して下さい。

 に関しては「良い意味で特筆すべき事は無し」という扱いで良いでしょう。ただ、余りにもクセが無い画風というのも、インパクトが弱くなって逆に困りモノだな…という気もしました。
 樋口さんの絵は、学校の通知表で言えば全教科オール4のような水準なんですが、マンガの絵って、少しくらい3が混じっていても、1〜2教科くらいダントツの5を獲れるような絵の方が逆に良かったりするんですよね。難しい話ですが。

 ストーリーは、ごく普通の日常風景の中に場違いな超能力を1つ放り込んだらどうなるか…という典型的な「もしも」型のお話ですね。
 こういう系統の話は、論理的整合と言いますか、ストーリーの中で起こる色々な出来事の流れが自然でないと一気に興醒めしてしまうものなのですが、この作品ではそれが見事にクリアされています。特に、本来なら主人公サイドと関係ないはずの警察を事件に巻き込むやり方がかなり練られていて、この辺りはさすがにキャリア13年目のいぶし銀というところでしょうか。
 問題点を挙げるとすれば、超能力モノにしては話のスケールが小さくなり過ぎてしまった事でしょうか。最後に妹が快復しないといった辺りに物足りなさを感じた読み手の方もいらっしゃるでしょう。まぁこれは日常劇の延長なので、仕方が無い事でもあるのですが……。あ、あと、「5時間58分後」みたいに、どうでも良い部分のディティールまで凝る必要は無いと思います。むしろ「約6時間」と大雑把な設定にした方がオカルトっぽくて良かったような。

 評価は典型的な“佳作の小品”という事でA−に。確かに問題点もありますが、高い完成度でその弱点をほぼフォローし切ったと思います。
 最後に蛇足ながら個人的な意見を述べさせて頂きますと、樋口大輔という作家さんは、看板作家を目指すよりもこういう手堅い作品を描いてこその人のような気もします。野球で言えば“バント・守備の名手の2番・ショート”みたいなポジションと言いますか。なので、今後もこういった活動を続けていただいて、また「ジャンプ」本誌で主要作品の脇を固めるという、地味ながら重要な役割を果たしてもらいたいと思っているのですが、どんなものでしょうか。


 ◎読み切り『Lock you!!』作画:村中孝

 さて、ここからは新人・若手枠。そのトップバッターは、前号の「赤マルジャンプ」・03年夏号でデビューを飾ったばかりの村中孝さんです。

 に関しては、“画力自慢新人大会”だった03年夏号組だけあって、かなりのハイレヴェルです。デフォルメ表現なども新人離れしていますね。
 ただ、気のせいでしょうか、やや表情のバリエーションが乏しくてメリハリに欠ける感を少々抱いてしまいました。マンガにおけるキャラの表情というのは一種の記号なんですが、その記号の種類が少ないような気がしたんですよね。まぁ、基本的な画力が高いので、これはかなり些末な指摘の範疇にはなるんですが。

 次にストーリーと設定について。
 
まず、設定に関しては、読み手によって賛否両論出て来るんじゃないでしょうか。というのも、「コメディだから、多少は非現実的な事をしても大丈夫」というマンガを描く上でのエクスキューズをかなり拡大解釈し、極端な設定でもって描かれているんですよね、この作品は。例えば主人公の貧乏度合いや、アンナ姫のぶっ飛んだ設定などがそうですね。現実的要素に対する非現実的要素の割合が、同種のラブコメ作品のそれより勝ち過ぎているんです。
 この非現実の度合いを許せる人にとっては、この作品の世界観は居心地の良いモノになるでしょうし、許せない人には逆になって来るでしょう。まぁそれはどんなマンガでも共通の課題ではあるんですが、ちょっとこの作品の場合は読者を分不相応に選び過ぎているのではないかと思われます。

 あと、ストーリーは随分と苦しくなっちゃいましたね。全般的に見られる展開の強引さも然る事ながら、ミエミエのオチを引っ張り過ぎてしまいました。更に、主人公とヒロインが、「好きだ、好きだ」と言ってる割に、その好きな人の事を根底から忘れているというのもマヌケ過ぎたような気がします。

 また、他に気になった部分としては、この作品の中は既製作品から多くのキャラ(ジャイアンとスネオ等)や名前(「青島刑事」等)が数多く流用されている事ですね。新人作家さんがこういう“遊び心”を多用するのは余り感心出来ません。こういう試みは、既に100%自力で完成度の高い作品を作れる人がやるからこそ“遊び”になるんであって、そこまで至っていない人がそれをやってしまうと、未熟さを誤魔化すために、昔の名作からキャラを拝借したように見えてしまうんですよね。

 評価は少々辛目かも知れませんが、メジャー雑誌掲載作品でギリギリ及第点のBということで。
 
 
 ◎読み切り『弾丸ピッチャーうづき』作画:サトウ純一

 続いては、今回がデビュー作となるサトウ純一さん。02年下期『手塚賞』の佳作受賞者ですね。来月には26歳の誕生日を迎えるという事で、「ジャンプ」の新人さんとしては遅咲きの部類に入るでしょうね。

 は、典型的な「パッと見は上手そうだけど、よく見ると変」なタイプですね。意識的に得意なアングルや表情を多用しようとしていて、妙に不自然な所が色々な所に見受けられます。
 また、「マンガなので仕方ない」と言われればそれまでですが、顔のパーツ毎の比率がいやに不自然なのも目に付くところです。

 ストーリーと設定は、主人公の投げる球同様、シンプルな直球勝負といった感じですね。45ページにしては、少々中身が薄い気もしますが、まぁそれ自体は許容範囲でしょう。
 ただ、そのシンプルなシナリオですら上手に演出し切れないほどストーリーテリング力が低いのは致命的でした。ストーリー展開を全て説明的過ぎるセリフの羅列に頼っていては、せっかくの活きの良い素材も台無しになってしまいます。
 あと、野球対決シーンにも、もう少し工夫が欲しかったですね。結末が読める勝負なのですから、もっと演出で盛り上げないと……。空振り三振というのは見栄えが良いようで、実は結構マヌケなんですよね。(こちらもありがちですが)バットを折ってミットにめり込むとか、余りの球威の前に見逃し三振とか、まだそっちの方が盛り上がるってもんです。

 評価はB−ですね。02年下期「手塚賞」組は、高橋一郎さん、梅尾光加さん、落合沙戸さんと、新人不況の昨今においても比較的豊作の部類だっただけに、次回作ではサトウさんにも奮起を促したいところです。


 ◎読み切り『グラス・アイランド』作画:藤山海里

 次は、「赤マル」02年冬号(=2冊目の01年冬号)以来、2年ぶりの登場となる藤山海里さんです。出身地や年齢からは00年上期に「赤塚賞」佳作を受賞している青山海里さんと同一人物だと思われますが、確定情報をお持ちの方がいらっしゃったら、是非BBSかメールでお知らせ下さい。

 さて、作品についでですが、まずはから。
 マンガに必要とされる技術そのものは、新人・若手としては水準以上でしょう。このまま本誌に放り込んでも、連載作家さんたちと十分互角に張り合えそうです。
 ただ、中途半端にリアルなタッチをどう“武器”として有効利用するか…というのは、今後の活動においてのキーポイントになりそうですね。下手をすれば「少年マンガらしくない」と言われてしまいそうな画風でもありますので、必要に応じてマイナーチェンジも考えるべきでしょう。

 次にストーリー&設定ですが、まずは難しい近未来SFモノにチャレンジして、曲がりなりにもストーリーをまとめ切った事は素直に評価すべきだと思います。実は、ファンタジーと同じくらい、マンガの世界では鬼門だったりするんですよね、SFって。
 ただ、「科学者とは何ぞや?」や、「ロボット万能社会の落とし穴」など、作品の根底に流れるテーマのレヴェルが余りにも高すぎ、やや矛盾を孕んだまま消化不良で終わらせてしまったような感が否めません。
 まぁこのような難しいテーマは巨匠クラスでないと完璧に描くのは無理なので、デビュー2作目の作家さんが描き切れないのは当たり前ではあります。が、それでも新人の身で無理難題に挑んでしまった愚は評価から差し引かなければならないとも思います。

 それでも全体的な実力は新人・若手の中に混じれば上位クラスでしょう。次回作ではもうちょっと描き易い題材を選んで、連載獲得にチャレンジしてもらいたいと思います。評価はB+

 ◎読み切り『ナイン』作画:福島鉄平

 さぁ、どんどん行きましょう。続いては福島鉄平さん「コミックフラッパー」からの転身という極めて異色のキャリアを持つ若手作家さんですが、03年夏号に続いての「赤マルジャンプ」連続掲載となりました。
 それにしても、先程の村中さんもそうですが、厳しい倍率のプレゼンを連続で潜り抜けるというのは凄いですよね。ただ、それが「ジャンプ」新人の層の薄さを象徴しているのだとするならば、素直に喜べなくなっちゃうんですが、まぁ推測から結論を導き出すのは反則なので、これ以上は控えておきます(笑)。

 ……では、まずから。
 03年夏号の「赤マル」を読まれた方は同じ感想を抱かれたと思いますが、この短期間で絵柄がガラっと変わっていて驚かされました。どちらかと言うと少年誌というよりも児童誌(「コロコロ」等)寄りのタッチになってしまったのが気になりますが、福島さんの作品は殺伐としたストーリーが持ち味ですので、これくらい極端にやってしまう方が良いのかも知れません。

 ストーリー&設定も、夏号から進歩の跡が見られますね。独特の殺伐さを少年マンガのエッセンスで薄める事に成功し、多少危ういながらもバランスを保ったまま49ページを乗り切ったと言えるでしょう。
 命の価値を不用意に軽んじてしまう可能性のある「命○個」という表現にしても、悪の親玉が溜め込んだ命の数だけ酷い死に方をするというシーンで上手い演出が施されていますね。
 ただ、惜しいと言うか、画竜点睛を欠くと言うか、臆病な主人公が強大な悪に挑むに至る動機付けが余りにも短絡的で説得力が無かったのは非常に残念でした。作品中で大きなミスはこれだけなのですが、この1つのミスが明らかに致命傷になってしまっています。ページ数も余裕があるのですから、もうちょっとページ配分を考えればどうにかなったはずなんですが……。

 評価はB+寄りBという事にしておきましょう。つくづくも惜しい作品だと思います。


 ◎読み切り『ストリンガー』作画:田中顕

 ここからは5連発でジャンプデビュー組の人たちが続きますが、他の4人と経歴が一味違うのがこの田中顕さんです。
 田中さんは、『ろくでなしBLUES』時代の森田まさのりさんのスタジオでアシスタントを務めて業界入りしたのですが、その後は一時「サンデー」に移籍。皆川亮二さんのスタジオでアシスタントに従事するかたわら、01年秋からは「サンデー超増刊」で短期連載を経験しています。
 しかし、その後はまた「ジャンプ」に出戻る形で再移籍村田雄介さんのスタジオで『アイシールド21』の連載当初からチーフ格でアシスタントを務めています。通常“チーフアシスタント”という肩書きは、キャリアの長い作家さんが一番弟子格のアシスタントに与えるモノと聞きますので、このような“若手作家さんのチーフアシスタント”というのは極めて異例です。ただ、これだけのキャリアがある人ですから、編集サイド主導で「連載ペースに慣れない若手のアドバイザー役も兼ねて」という意味で“チーフ”という肩書きを与えた可能性もありますね。

 まずですが、有り体に言ってかなり荒い印象がありますね。タッチを洗練しないままで固まってしまったというか、下積みが長過ぎてデビューした時には既に時代遅れの絵柄になってしまったというか……。ちょっとこのままで「ジャンプ」本誌に持って行くのは躊躇われるレヴェルではないかと思います。アシスタント経験が長いので、背景処理だけはやたらに上手いんですけどね(笑)。
 しかし、元「サンデー」新人作家という知識を持って見ると、確かにどことなく「サンデー超増刊」に載ってそうな作品に見えて来るから不思議です。

 ストーリー&設定は、大雑把にまとめれば長所と短所が入り混じっている…といったところでしょうか。
 全体的な構成は重厚で、特に主人公が幼少の頃に戦場で体験したエピソードなどは秀逸です。“巨悪を討つためには犠牲も厭わない”という主義主張を主人公に持たせるというのは考えモノですが、敢えて“危険水域”に踏み込んで話作りをしようとしたアグレッシブさは評価してあげたいと思います。
 ただ、そんな長所を全く台無しにしているのが、メインストーリーが悪い意味で陳腐な事ですね。特に悪役のキャラクター付けを、“中途半端に狡猾な小悪党”という、話作りが簡単な代わりに読み手に与えるカタルシスが小さくなってしまう安易な方向へ持っていってしまったのは残念極まりない部分でした。

 評価は、「見所のある部分もあれど、欠点が圧倒的に多い」という事でB寄りB−にしておきましょうか。


 ◎読み切り『剣客PLANETヒヅカ』作画:守屋一宏

 続いては、01年後期「手塚賞」佳作受賞者・守屋一宏さんの登場です。守屋さんはこれがデビュー作で、受賞以来2年間の苦労がようやく実った…という事になりますね。「手塚賞」や「赤塚賞」の佳作にはデビュー確約特典が付かないので、守屋さんのようにデビューが遅れたり、デビューも果たせぬまま消えていく人もいたりします。(まぁ両賞の佳作受賞作が、“その程度の水準”であるという事も否定できないのですが)

 さて、まずはですが、基本的な表現に関しては十分合格点じゃないかと思います。ただ、良い意味でも悪い意味でもマンガっぽい絵柄なので、シリアスなシーンを描いても深刻さが伝わって来ない…という弱点も見え隠れしています。
 小栗かずまたさんの『花さか天使テンテンくん』のように、子供社会の日常を描いたコメディなんかには非常に向いている画風だと思いますので、今後はそっち方面を目指すか、もしくは絵柄をもうちょっとシリアスタッチに改造する必要が出て来るでしょうね。

 ストーリーと設定は、こちらも基本的なストーリーテリング能力は問題ないのですが、今回に限ってはページ数の割に内容のボリュームを欲張り過ぎた印象が強く残りました。設定過多で消化不良に陥っていますし、シナリオもメインストーリーを押さえるだけで精一杯で、説明不足で不可解な展開が各所で見られたりしました。
 あと、これは絵柄にも関連して来るのですが、読み手に登場キャラの痛みが余り伝わって来ない表現が目立ったのも、やや残念でしたね。こういう物言いをすると良識ある受講生さんに叱られそうですが、「色々な意味で、ちょっと『ONE PIECE』の読み過ぎ」…と言いたくなってしまいました。

 評価は商業誌で活動するのに基本的なラインはクリア出来ているということでBが妥当かと思います。
 

 ◎読み切り『サクラ戦線北上中!!』作画:森田一博

 続いては03年8月期の「十二傑賞」受賞作が登場です。森田さんは当然の事ながらこれがデビュー作となります。
 しかしこの作品、“ラズベリーコミック賞作家・許斐剛氏が賞賛して受賞”という部分が当ゼミ的にはアレなんですが、さぁどうでしょうか(笑)。

 現在の「ジャンプ」では少なくなった劇画調タッチで、非常に個性的です。それはそれで結構な事なんですが、全体的にデッサンが狂い気味で余分な線が多いため、上手い下手以前に見辛い絵になってしまっているのは問題でしょうね。
 まぁこれは本人のモチベーション次第でいくらでも改善出来るでしょうから、次回作への宿題という事にしておきましょう。

 そしてストーリー&設定にも、若干の問題点の存在を否定出来ません。特に設定の積み上げ方に課題が残されていますね。
 普通、いくらフィクションとは言えども、話作りの過程においては、ベースは現実的な部分に置いて、その上で非現実的な要素を積み重ねて行くものです。そうして世界観の完成度を高めていこうとするのですが、この作品はちょっと非現実的な要素が多過ぎる気がするのです。で、その結果、世界観の完成度が非常に低いレヴェルで留まってしまっているというわけですね。砕けた言い方をすると、「ツッコミ所満載の設定で、全体的にどことなく嘘臭い」といったところでしょうか。
 これが、この作品を読んだ後に、「あぁ、この作品で描かれている社会は、きっとこういう社会なんだな」と想像出来るような所まで行っていれば、多少印象も違って来たでしょう。が、残念ながらこの作品では、学校から一歩外に出た後の情景が全く見えて来ないのです。

 評価はB−ということで。大化けする可能性も感じさせる人ではあるのですが、今の「ジャンプ」がそこまで悠長に事を構えていられるかは微妙でしょうね。


 ◎読み切り『勇とピアノ空』作画:大竹利明

 まだまだ続くルーキー攻勢、次に登場したのは03年上期「手塚賞」佳作受賞者・大竹利明さんの受賞後第一作&デビュー作です。

 まずにはかなり難が有りますね。まだマンガではない“止め絵の羅列”の段階に留まっている感じです。このままで週刊本誌に持って行ったら、読まれる以前の段階で拒否反応を浴びてしまうでしょうから、今後は画力の向上が急務になって来るでしょう。
 ただ、演出といった面では相当なポテンシャルを秘めていると思われ、下手ではあるのですが不思議と読んでいて不快感は感じられないのは良い所だと思います。この才能は最大限活かしてゆくべきでしょう。

 ストーリー&設定については、オーソドックスと言えばオーソドックスなお話なのですが、先程述べた高い演出力に支えられて、非常に良い読後感を読み手にもたらす構成になっています。どうしてもバトル物に走りがちな「ジャンプ」系新人さんたちの中で、こういう“一服の清涼剤”的な日常劇を持って来たセンスも評価出来ますね。
 ただ、ケチをつけるわけではありませんが、どうも“よく出来すぎた話”であるのが気になるところです。デビューしたばかりの作家さんにそこまで注文をつけるのはどうかとも思うのですが、全般的に話が都合良く流れ過ぎではないかと感じたんですよね。普通の人が要所要所で超人的な才能を発揮し過ぎと言いますか。
 あと、何故そこまでベートーベンにこだわったのかというのも、ちょっと不可解かなと。クライマックスシーンの主人公のビジュアルから逆算しての設定なのかも知れないのですが、モフィーのキャラとベートーベンのイメージがどうにも結び付き辛くて……。

 まぁそれでも、デビュー作にしては上々の出来と言えるでしょう。演出力は新人の域を超えていますから、ひょっとすればひょっとする逸材です。今回の評価は画力による原点分を半ランク分差し引いてB寄りB+


 ◎読み切り『一夜物語』作画:臼田幸太

 ストーリー系作品の新人・若手枠ラストに登場は、03年7月期の「十二傑賞」受賞作・臼田幸太さんの『一夜物語』です。

 ……で、これから詳しくレビューしてゆくわけですが、先に言葉を選ばず総評を述べておきますと、「うわ。こりゃ酷ぇ」でした(苦笑)。何と言いますか、『ツバサ』みたいなお話を実力の無いド新人に描かせるとこんな惨憺たる結果になるんだな…などと、反面教師的に学ぶ所の多い作品だったと思います。

 まずは完全にグダグダ。画力そのものも発展途上なのですが、構図の取り方や背景と人物との描き分けが全く出来ていない上に、これまた使い慣れていないスクリーントーンを間違ったやり方で貼り付けてしまったために、心底読み辛い絵柄になってしまっています。
 駒木はこの作品を読み切るまでに3回くらい小休止を頂きましたが、ギブアップされた人も多くいらっしゃったのではないでしょうか。

 そしてストーリーと設定も、自己満足・独り善がりの極致と言うべき悲惨なモノで、こういう立場(レビュアー)でなかったら、「いい加減にしろ、このクズ!」と罵った上に雑誌を投げ捨てていたと思います。それくらい酷いです。
 冒頭のモノローグで2つの国が出て来たと思ったら、舞台になったのは全く別の国で、しかも主人公が登場したと思ったら、いきなり全く別の場面へ転換してしまいます。読み手の状況認識という重要な要素を全く無視して作者のエゴが大暴走。もう「何が何だか」です。
 で、ようやく状況が飲み込めて来たと思ったら、今度はワケの判らない固有名詞が次から次へ。作者の「こんな設定考えたんです、カッコいいでしょ? 凄いでしょ?」という気持ちばかりが読み手に伝わり、肝心のお話の方はちっとも脳ミソに入ってゆきません。
 それでもシナリオはいつの間にか淡々と展開してゆき、クライマックスもクライマックスらしい盛り上がりが無いまま、主人公が勝手に自己啓発して擬似超サイヤ人化して一撃で終了。最後は笑えないギャグと説明的過ぎるセリフで後日談を(描写でなく)説明して、体裁だけ一応整えただけ。もうフォローする余地全く無しですね。

 相当な不作であっても月に1作品デビューさせなくてはいけない「十二傑賞」ではあるのですが、この作品が最終審査以前に予備審査を通ってしまった事が大変に不思議です。まぁ時々こういう選考では、終わってみれば全員が「誰だ、こんなの残したの?」という結果になる事もあるそうですけれども(笑)。
 評価はもう文句ナシでCということで。当ゼミのC評価は、作品に対する死刑判決みたいなものなのですが、今回ばかりは全く躊躇しませんでした。

 
 ◎読み切り『部活王ぱなた』作画:風間克弥

 新人・若手枠ラストはギャグ枠「赤マル」03年春号でデビューを果たした風間克弥さんが半年振りの再登場となりました。徐々に「ジャンプ」系の新人・若手ギャグ作家さんの頭数が揃いつつある今、何とか“連載候補生”入りを果たしたいところでしょうが……。

 は、「ギャグマンガにしては」という条件付きながらも及第点でしょう。既製作品の影響が随所に見られるのは多少気になりますが、様々なタイプのキャラが描けるようで、画力の拙さでギャグの足を引っ張る…という事態は避けられそうです。
 注文をつけるとすれば、もうちょっと動的表現を勉強した方が良いという事と、デフォルメのパターンをもう少し増やした方がもっとギャグマンガらしくなる…といった2点でしょうかね。

 ただ、ギャグの方はイマイチ突き抜けたモノが感じられません。「服の袖から何かが出て来る」という所から派生したギャグを多用していますが、それは作品の世界観と関係の無いものだけに、話の中でギャグだけ浮いているように感じられてしまいます。『ボーボボ』みたいにギャグ1つ1つのインパクトが恐ろしいほどデカければ話は別なのですが……。
 また、ツッコミが弱いのも難点の1つで、せっかくのボケが上滑りしたままスルーされてしまっています。“ボケ→ツッコミ→それを無視してボケ”というようなパターンも見られず、全体的に一本調子で終わってしまったかな…という感じです。

 全くセンスが無い…というわけではないのですが、このまま週刊本誌で通用するかと言えば、否でしょう。他の作品から影響を受けるにしても、表面的な部分だけではなく、笑いを獲るメカニズム的な部分にもっと目を向けてもらいたいものですね。
 評価はB寄りB−ということで。

 
 ◎読み切り『Snow in the Dark』作画:叶恭弘

 いよいよ大トリです。皆さん、お疲れ様でした(笑)。駒木も当然ながらヘトヘトに疲れています(笑)。

 さて、最後を飾るのは、『プリティフェイス』終了以来の復帰第1作となる叶恭弘さん。元々は短編を中心に活動していただけに、今回はまさに初心に立ち返っての再出発ですね。
 しかも今回、ジャンルをラブコメから一転、中世ヨーロッパを舞台にしたファンタジー系作品に変えて来ました。文字通りの心機一転と言いますか、叶さんの並々ならぬ創作意欲を感じさせる新作となりました。

 まずは。改めて言うのも憚られますが、やっぱりメチャクチャ上手いです、叶さん。特にカラーページの彩色が素晴らしい出来で、このまま画集に載せてお金を取っても良いくらいです。
 絵の綺麗さだけで言えば、「ジャンプ」でも小畑健さんに匹敵するツートップの一角でしょうね。ただ、さすがに今回のデキを週刊連載レヴェルで求めるのは、遅筆の叶さんには酷かも知れませんが……。

 そしてストーリーと設定。叶さんの作品と言えば、アラの多い設定を無理矢理まとめる“パワープレイ”が定番だったのですが、今回ばかりは一味違います。というか、長期連載を経験して一皮剥けたと言うべきなのでしょうか。
 起・承・転・結が出来ているのは勿論、ヤマ場の畳み掛けるような盛り上げ方や余韻の残るエンディングは大変素晴らしいモノでした。特にシナリオ上のツッコミ所をシラミ潰しにしてゆこうという姿勢に、叶さんがストーリーテラーとして一段階レヴェルアップした事を伺わせてくれましたね。
 ただ、珠にキズなのが、王妃(ヒロインの義母)の本音が解釈し辛く、読み手を混乱させてしまった点ですね。話に整合性を持たせるためには致し方ない配慮ではあったのですが、これは減点材料にせざるを得ません。

 蛇足ながら歴史考証についてですが、ヨーロッパの辺境にある小国を舞台にするならば、中世ドイツは最適のシチュエーションであり、これは問題ありません。
 城やキャラの名前が英語表記だったのは確かにツッコミ所ではあるのですが、作品のタイトルから一貫して英語表記なのでギリギリ許容範囲とすべきかも知れませんね。また、神聖ローマ時代のドイツなら、辺境の小国の君主を“王”と読んでいいかは疑問ではあります。ただこれも「若年層の読者に判りやすくするためなんだ」と言われれば矛先が鈍ってしまうのですが……。
 ……まぁいずれにしろ、「俺はドイツの歴史に詳しいんだぜ!」という態度なのに知識が教科書レヴェル以下のイワタヒロノブ氏よりはずっとマシではありますが。

 評価は十分A−はあるでしょう。本気で叶さんの次回作が楽しみになって来ましたよ。

 
 ※総評…揃って評価A−で貫禄を見せたベテラン勢2人は良かったのですが、肝心の新人・若手の作品からこれといったモノが見出せなかったのは残念でした。
 ただ、難しいテーマに挑んだものの、実力不足で自滅してしまった作品が多くあったのは注目に値します。勿論、結果として駄作に終わってしまえばそれ相応の評価しか出来ませんが、その結果に至るまでの過程は認めなければならないと思います。少なくとも、夏号のように絵だけ達者で中身がチンマリとまとまってしまっている作品をダラダラと見せられるよりは、ずっとマシだったと言えるでしょう。
 しかし、「十二傑新人漫画賞」組の不振は深刻ですね。編集サイドにしてみれば、先の見えたデビュー済み若手作家よりも、未知の魅力があるルーキーを使ってみたいというところなのでしょうが、明らかにクオリティ不足な作品まで掲載してしまうのは問題アリだと思います。当初の公約からは後退しますが、「該当作なし」の導入も本気で考えた方が良いのではないかと思います。

 

 ……というわけで、「赤マルジャンプ」完全レビューでした。講義実施が遅れて申し訳ありませんでした。では、早ければ今週中にもう1度ゼミでお会いしましょう。


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