「社会学講座」アーカイブ(競馬学関連・7)

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講義一覧

3/29 競馬学特論 「G1予想・高松宮記念編」
3/22 競馬学概論 「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(10)
3/15 競馬学概論「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(9)
3/8  競馬学概論 「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(8)
3/1  競馬学概論 「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(7)
2/22 競馬学特論 「G1予想・フェブラリーS編」
2/15 競馬学概論 「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(6)
2/8  競馬学概論 「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(5)
2/1  競馬学概論 「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(4)
1/25 競馬学概論 「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(3)
1/18 競馬学概論 「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(2)
1/11 競馬学概論「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(1)

 

3月29日(土) 競馬学特論
「G1予想・高松宮記念編」

駒木:「いよいよ春のG1シーズン開幕だね」
珠美:「『ついこの前有馬記念だったのに』っておっしゃる方も多いんでしょうね(笑)」
駒木:「僕なんか、『ついこの前までテイエムオペラオーとか走ってたのに』って感覚だよ(笑)。
 今年はどのカテゴリもイマイチ盛り上がりに欠ける印象があるのは残念だけど、このG1シリーズからニュー・ヒーローが出てくれれば良いね。もっとも、極端な人気薄の馬に突っ込んで来られるのは勘弁願いたいけれど(苦笑)」
珠美:「そうですね、穴馬として狙っている時だけ、来てもらいたいですよね(苦笑)。
 ……さて、それでは皆さんには、まず出馬表と私たちの予想印をご覧いただきましょう」
 

高松宮記念 中京・1200・芝

馬  名 騎 手
ビリーヴ 安藤勝
ショウナンカンプ 藤田
    マンデームスメ 中館
  テイエムサンデー 秋山
    エアトゥーレ 四位
    テイエムサウスポー 安藤光
    ゴールデンロドリゴ 佐藤哲
    ジェミードレス 菊沢徳
× ディスターピングザピース 武豊
    10 キーゴールド 内田浩
  11 エコーエディ ヴァルディビアJr.
    12 カフェボストニアン 松永
    13 ネイティブハート 石崎隆
    14 ナムラマイカ 村本
  × 15 リキアイタイカン 武幸
    16 シベリアンメドウ 川島
×   17 アグネスソニック デムーロ
× 18 サニングデール 福永

駒木:「開幕早々18頭立てかぁ。これもちょっと勘弁して欲しいね(苦笑)。1頭、1頭コメントをつける身にもなって欲しいよ」
珠美:「大変ですが、頑張って下さいね(笑)。……ではまず、ざっとメンバーを見ての感想と言うか概況を一言お願いします」
駒木:「はいはい。そうだねぇ……、正直言ってちょっと寂しいメンバーかな。日本勢で素直にG1級と呼べるのは1枠の2頭くらいなものだし、その内1頭はスランプ中だ。他の14頭の中に2着候補、3着候補はたくさんいるけど、かなり小粒なのは否めないね。
 じゃあ外国勢はどうかと言うと、日本のスプリントレースにおける外国勢の実績から考えると、こっちも不安要素の方が大きい感じがするよね。まぁ、外国馬を一蹴したサクラバクシンオーやタイキシャトルたちに比べると、さすがに今年のメンバーはいくらか落ちるはずだから、今回に限っては外国馬もいくらか通用する余地は残されているはずだと思ってるんだけど」 
珠美:「余り景気の良いお声は出て来ませんね(苦笑)。……では、レース展開はどうなるでしょう? やっぱりハイペースですか?」
駒木:「少なくとも想定の範囲ではペースが落ち着く要素は全く無いね。逃げ馬が3頭、出来るだけ前に行きたいタイプが5頭もいる。ショウナンカンプが単騎でマイペースになった場合でも、前半3ハロン33秒台半ばの速い平均ペースだろう。
 で、今回は差し馬も多いし、馬によってスピード能力の差も大きそうだから隊列は縦長になるんじゃないのかな。中京の1200は言うほど内・外の有利・不利が大きくないから、意外と紛れが少ないレースになると思う。問題はそういう展開になって、差し馬が届くかどうか──というか、前の馬が止まるかどうかだろうね。止まらなきゃ、差し馬はお手上げ。でももし止まったらゴール前の馬群大移動もアリ。この辺りは個人の判断だろうね。僕は『8頭もいりゃあ、どれか2頭くらい止まるだろう』とエエ加減に考えてるけど(笑)」
珠美:「私は『1頭くらい伸びて来る差し馬がいるわよね』って考えました(笑)。どうなるか不安です(苦笑)。
 ──それでは博士には、今日も枠順に従って1頭ずつコメントをつけていただきます。ではまずは1枠の2頭から。いきなりG1馬2頭が登場しますが、いかがでしょうか?」

駒木:「いきなり真打ち登場だね。ちょっと心の準備が欲しいところなんだけど……(苦笑)。
 まずは最内枠のビリーヴ。この馬ねぇ、ピーク時の実力なら間違いなく一番上だと思うんだよ。ところが香港遠征から調子を崩してしまって、この中間で必死の立て直しをする羽目になってしまった。結局はギリギリ間に合ったような間に合わなかったような、メチャクチャ微妙な感じ(苦笑)。少なくとも阪急杯の前とは全然違うみたいだけど、果たしてどうなるか。まぁ軸馬にするのは危険だけど、馬券の対象にはしなければならない馬だと思うよ。
 で、隣の枠にショウナンカンプ。単勝1倍台は行き過ぎにしても、まぁ1番人気は妥当なところだろうね。ただ、ハイペースでガンガン飛ばしてどこまで粘れるかって馬だから、馬連の連軸にはあまり向かない馬かもしれない。それほど実力が図抜けているってわけじゃないしね」
珠美:「博士はショウナンカンプに本命を打ってらっしゃいますが、意外と厳しめのコメントですね」
駒木:「調子が万全ならビリーヴに本命打ったんだけどねぇ。だけど、現時点で各ファクターを総合するとショウナンカンプ以外に本命は有り得ないんだよ。まぁ結局は『他に適役がいない』っていう、日本の総理大臣を支持する時と同じ理由だね(苦笑)」
珠美:「なるほど、分かりました(笑)。では、次に2枠の2頭をお願いします。私は個人的にテイエムサンデーの評価が気にかかるところなんですが……(苦笑)」
駒木:「まずはマンデームスメからね。去年の秋にオープン入りした時は相当期待されたみたいだけど、今となっては……だね。調子そのものは文句が無いんだけど、地力で通用する事を証明する強調材料がまるで見つからない。苦戦だね。
 珠美ちゃん期待のテイエムサンデー、確かに良い末脚持ってるし、調子も抜群に良い。一発穴を開けるのはこういう馬なんじゃないかな。ただし、競馬新聞の馬柱を見るからに、これまで随分とヌルいレースしかしていないのが大いに気になる。前半33秒台のペースに乗っかって、果たしてなし崩しに脚を浪費されやしないか非常に心配だね」
珠美:「なるほど……。トップクラスの超ハイペースは未体験なんですね。何だか嫌なことを聴いてしまった感じです(苦笑)。
 でも、気を取り直して3枠の2頭。こちらは人気薄の枠になりましたが……」

駒木:「フランスでG1を2着したエアトゥーレ。このモーリスドギース賞は、昔シーキングザパールが勝ったレースでもあるんだけど、シーキングザパールとこの馬の違う所は日本での実績が乏しい事だろうね。どうも日本でやるスプリントではスピード不足が否めないみたい。これが引退レースだし、悔いの無いレースだけはやってもらいたいね。
 テイエムサウスポーはこのメンバーに入ったらやっぱり力不足だろうねぇ。買える要素が全く無いんだよ」
珠美:「……次は折り返し地点の4枠です。こちらも人気薄の2頭が同居していますが……」
駒木:「ゴールデンロドリゴ典型的な入着級の馬だね。でも
ある程度メンバーが揃うと掲示板から外れてしまうところを考えると、微妙に力が足りないのかな。
 ジェミードレス距離が短すぎる印象だね。ベストのマイルでも牝馬G3級なのに、スプリントG1はちょっと難しいね」
珠美
:「……さて、次は5枠ですね。いよいよ外国馬が登場します。舌を噛みそうな名前ですけど(笑)、博士、よろしくお願いします」
駒木:「えーと、ディスタービングザピース…か(笑)。まぁ外国馬に関しては正直よく分からないんだけど、2頭いる外国馬のうち、芝実績の乏しいこっちの方が人気してるのはちょっと驚いた。まぁ確かにG2を3連勝というインパクトの高い事をやってのけてるんだけどね。
 これは6枠のエコーエディもそうだけど、この馬が日本勢の3番手・サニングデールより強いかどうかが最大のポイントだと思う。サニングデールを将来のG1馬だと思っているような人なら外国勢は思い切って無視していいと思うし、逆ならば外国勢はショウナンカンプに次ぐ存在にならなきゃおかしいと思う。僕がどう思ってるかは、印を見れば一目瞭然だね(笑)」
珠美:「私はユタカマジックを期待して×印をつけましたけど、他は印の通りですね(笑)」
駒木:「……で、もう1頭のキーゴールドは、どう考えてもオープン特別級だね。ちょっとどころか大いに力が足りなさそうだ」
珠美:「6枠新聞の印やオッズを見る限り、何だか微妙な感じがしますけれども、いかがでしょうか?」
駒木:「確かにね(笑)。エコーエディはさっき言った通りだね。ただ、去年のドバイでG1を2着してるのはプラス材料だろうね。ここ最近は成績が今一つなんだけど、ハイペースに耐えられるならば十分にチャンスはあると思うよ。
 カフェボストニアンは秋に復帰してから結構着順をまとめてるんだけど、これはどうなんだろう? どうも戦って来たメンバーが軽いような気がするんだけどね。あと、この中間がかなり急仕上げ気味なのが気になる。前走で負った外傷が響いてしまった形だね」
珠美:「7枠からは3頭になります。大変でしょうけど、頑張ってください。でもこの枠は人気薄ばかりになっちゃいましたね」
駒木:「地方代表……とは言っても、単に地方在厩なだけだけど、ネイティブハート。ステップ競走のオーシャンSを勝っての権利獲得だね。まぁこの馬、オープン特別なら上位だし、重賞でもいつもソコソコには来るんだ。だから一世一代の大駆けをするくらいの可能性は残ってると思うよ。ただし、その確率は相当低い事は間違いない。
 ナムラマイカはコメント不要だね。力が足りない。
 リキアイタイカンについては、ちょっと予測不可能だからなぁ。来る時はどうやっても来るし、来ない時はまるで来ない(苦笑)。ただし、G1だと頑張っても3着が精一杯みたいな感じがするけどね。今回のメンツならギリギリ2着までかな」
珠美:「さぁ、やっと最後の8枠に辿り着きました(笑)。大外には2番人気のサニングデールがいますが、どうでしょうか?」
駒木:「まずはシベリアンメドウ。しばらく見ない内に随分と落ちぶれちゃったなぁ、この馬。芝にダートに、スプリントにマイルに節操無く使われちゃって……。陣営も『土砂降りになってくれたら有り難い』って、物凄い注文つけちゃってるしねぇ(笑)。まぁ大苦戦だね、今回は。
 困ったのがアグネスソニックの取捨。3歳春までの実績も、今年に入ってからのレース振りも、とにかく微妙なんだよなぁ。何やかんや考えて、一応日本勢の4番手って扱いにしてみたんだけど、う〜ん、どうだろうね。大物感が全く無いものなぁ……。
 で、大外のサニングデール。秋のスプリンターズSはチグハグなレースだったから度外視するとしても、しょうもない取りこぼしが多かったり、ショウナンカンプにまるで歯が立たないのが気になって仕方が無い。典型的な穴人気タイプだね。ただ、以前に比べると着順もまとまって来たし、成長しているのは間違いないと思う。まぁどっちにしろこの馬にとっては最大の正念場だろうね」
珠美:「お疲れ様でした。では最後に、まとめとフォーカス(馬券の買い目)をお願いします」
駒木:「とりあえずショウナンカンプの逃げに期待。ただし今回は逃げに厳しい展開だし、期待半分不安半分。
 ショウナンに続くのが外国勢2頭。ハイペースに戸惑って後方ズルズルの大惨敗が怖いんだけど、今回の日本勢も結構弱点があるからチャンスも十分有ると思う。
 で、もしも外国勢がダメなら、やっぱりビリーヴとサニングデールの2頭が台頭して来るだろうね。地力ならビリーヴ、調子と上がり目ならサニングデール。
 フォーカスは、馬連2-11、2-9、9-11、1-2の4点。他に枠連の1-8も気になるんだけど、ちょっと倍率が低すぎるね。馬連4点で妥協させてもらおうかな。2-18で決まっちゃったら、もう諦めるしかないね(苦笑)」
珠美:「私もショウナンカンプの逃げに期待したんですが、2着争いは展開的に差し馬が来るんじゃないかと期待しています。一応、対抗にサニングデールですが、テイエムサンデーとかリキアイタイカンの追い込みが楽しみです。逆に先行馬のレースならビリーヴとかディスターピングザピースが面白いと思います。馬券は
馬連2-18、2-4、4-18、1-2、2-9、2-15の6点で勝負です」
駒木:「……よし、これで終了だね。長い講義、ご苦労さん」
珠美:「博士こそ、お疲れ様でした。それでは皆さんも頑張ってくださいね♪」


高松宮記念 結果(5着まで)
1着 1  ビリーヴ
2着 18 サニングデール
3着 15 リキアイタイカン
4着 テイエムサンデー
5着 ゴールデンロドリゴ

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 実は、講義の最中から「外国馬、やっぱりコケるんじゃないの?」…という疑念が頭を離れていませんでした。結果、嫌な予感大的中。素直に日本馬だけ買ってたら3点でゲット出来てたんだよなぁ。外国馬の取捨選択以外はほとんど間違えてないのに、それが致命傷だったとは、いやぁ参った。
 で、レースそのものは、なかなかの中身だったんではないかと。ただ、G1で1分8秒を切れなかったのはちょっと不満かなぁ。まぁ、タイムなんて新潟競馬場でレースすればいくらでも詰められるんだけど。 

 ※栗藤珠美の“反省文”
 馬券の軸にしていた馬がバテてしまうのと同時に、2着候補にしていた馬が殺到してしまうって、なんて皮肉なんでしょうね(苦笑)。
 結果的にはショウナンカンプの本命が安易過ぎたと思います。気合を入れなおして、桜花賞頑張ります。

 


 

3月22日(土) 競馬学概論
「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(10)
最終章・ミホノブルボン(前編)

※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)ライブリマウント編(第4回〜第6回)フラワーパーク編(第7回〜第8回)ムーンリットガール編(第9回) 

駒木:「阪神大賞典の勝ち馬はダイタクバートラムです(挨拶)」
珠美:「受講生の皆さん、講義が遅れてしまい、申し訳ありません。……って、博士、いきなり初めから自虐的なギャグはちょっと……(苦笑)。やっぱりまだ熱がおありになるんじゃないですか?(汗)」
駒木:「37.8℃だろ。微熱だ、そんなもん。まぁ熱のせいでテンションが高いのは否定しないけどね(笑)」
珠美:「そんなことで大丈夫なんですか……?」
駒木:「今日のテーマの事を考えたら、大丈夫じゃなくても大丈夫になるよ。ミホノブルボンは何しろ僕のフェイバリットホースだからね。とりあえずの最終章ってことで僕のワガママを通させてもらったわけ」
珠美:「これが最終章なんですよねー。受講生さんからは『まだこの馬が出ていない』…のようなリクエストが来ると思うのですが……(苦笑)」
駒木:「その時は『続・“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝』をやるさ(笑)。まぁ業務縮小後も競馬学講義は準レギュラーの位置付けで続行する予定だしね」
珠美:「なるほど(笑)、分かりました。……では、そろそろ講義の本題の方へ移ってゆきましょう。まずは今日のテーマとなります、ミホノブルボン号の成績表をご覧いただきましょう

ミホノブルボン号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

91.09.07

新馬戦

/13

小島貞

(ホウエイセイコー)

91.11.23 500万下 /10 小島貞

(クリトライ)

91.12.08 朝日杯3歳S(G1) /8 小島貞 (ヤマニンミラクル)
92.03.29 スプリングS(G2) /14 小島貞 (マーメンドタバン)
92.04.19 皐月賞(G1) /18 小島貞 (ナリタタイセイ)
92.05.31 日本ダービー(G1) /18 小島貞 (ライスシャワー)
92.10.18 京都新聞杯(G2) /10 小島貞 (ライスシャワー)
92.11.08 菊花賞(G1) /18 小島貞 ライスシャワー

駒木:「いつ見ても悔しいんだけど、『画竜点睛を欠く』とは正にこの事だね。最後の菊花賞に勝っていれば、恐らく『無敗伝説の三冠馬』とか言われて殿堂入りも間違いなかったのに、最後の最後で力尽きてしまった。そのせいで、今ではイマイチ知名度も人気も伸び悩みで、この企画に名を連ねる羽目になってしまった(苦笑)」
 つい先日亡くなったエアシャカール『三冠に一番近かった馬』と言う人もいるけど、僕はやっぱり手前味噌もあるけどミホノブルボンをそれに推したい。エアシャカールはダービーの時点で三冠の夢は断たれたけれども、ミホノブルボンは菊花賞の最後の直線半ばまでは三冠の夢を繋いでいたわけだからね」
珠美:「……と、早くも駒木博士のミホノブルボンに対する溺愛ぶりが表面化したところで(笑)、ミホノブルボンの歩んで来た道のりについてお話していただきましょう」
駒木:「じゃあまず、デビューに至るまでの話ね」
珠美:「あら、いつもはデビュー戦からお話を始めるんですけど、やっぱり意気込みが違いますね(笑)」
駒木:「もう茶化すのは勘弁してくれ(苦笑)。……ミホノブルボンは、北海道門別の原口圭二牧場に生まれた。牧場はその名の通り、個人経営で中小規模の牧場だった。
 失礼ながら、原口圭二牧場の経済状況はそれほど良くなかったらしい。というのも、この馬の血統は父・マグニテュード、母は元・南関東公営の下級条件馬・カツミエコー、母の父はシャレー。母系の血統の貧弱さもさる事ながら、その母馬にマグニテュードを種付けした理由が、『(当時人気種牡馬の)ミルジョージの種付け料が高すぎるので、同じミルリーフ系の血統で、種付け料が一番安いマグニテュードを』…という話だったんだから恐れ入る(苦笑)。まぁ原口場長は『確信犯で“安馬カップル”を作って一発を狙った』って言ってたらしいけど、資金が潤沢にあったらそういう発想すら沸かないと思うから、まぁ似たようなもんじゃないかな思う」
珠美:「こんな事を言ってしまってはなんですけど、『ヒョウタンから駒』だったんですね(笑)。でも、そういう話ってあるんですねー」
駒木:「今でも……というか、馬産地の経済が低迷している今だからこそ、同じような試みが増えているかもしれない。例えば、フジキセキは高くてアレだからエイシンサンディつけとけ…とかね(笑)」
珠美:「妙にリアルなのが怖いです(苦笑)」
駒木:「また、それがたまにハマるから競馬は怖いんだよね。ミホノブルボンと同じく皐月賞とダービーの二冠馬だったヒカルイマイなんか、繁殖牝馬1頭きりしかいない兼業牧場で『じゃあ適当に種付け料の安いシプリアニ(種牡馬名)でもつけとけや』ってところから産まれたんだもの。あと、オグリキャップも似たようなもんだね。ダンシングキャップなんて、オグリがいなかったら、『お前、誰?』の世界だよ」
珠美:「それが競馬の面白さでしょうけどね。サンデーサイレンスやブライアンズタイムの仔ばかりが活躍していても、あまり嬉しくありませんものね」
駒木:「まったく」
珠美:「……では博士、それからミホノブルボンはどのようにしてデビューまで至ったのですか?
駒木:「生まれたミホノブルボン──当然、当時はまだミホノブルボンじゃないんだけど、面倒臭いからこのまま続行ね。ミホノブルボンは、普通の仔馬と同じようにやんちゃで放牧地を走り回る生活を続けていたんだけれども、ある時栗東トレセンから訪ねて来た1人の調教師がミホノブルボンを見初める。スパルタ調教で鳴らした故・戸山為夫調教師だ」
珠美:「そこで『この馬は走るよ!』…ですか。まるで少年マンガみたいですね(笑)」
駒木:「いや、『2つくらいは勝ってくれるんじゃないのかな』って(笑)。だから戸山師が馬主さんに仲介して売った馬代金は700万円。まだバブリーだった時代としては、しかも中央競馬に入厩させようとする馬につける値段としては、決して高くはない金額だったんだ。
 まぁ考えたら当たり前だよね。こんな三流血統の馬を『G1級だ!』って言っちゃったら、たとえそれが本当でも『戸山先生もヤキが回った』とか言われるに違いないし(苦笑)」
珠美:「(笑)。……そう言えば、ホクトベガも似たような話があるって聞いたことありますね。今の1000万条件まで行ってくれるだろう…とか」
駒木:「これだから競馬は奥が深いんだよ。どれだけキャリアのある調教師でも仔馬がどこまで出世してくれるかは判らないってね。そう言えば、あのシンザンもクラシックシーズンに入るまでは大きい所を狙える馬とは思われてなかったみたいだからね。まぁだからこそ、競馬は波乱が起こって、ギャンブルとして成立するんだろうけど」
珠美:「──さて、そうしてミホノブルボンは栗東の戸山為夫厩舎の所属になったわけですよね。
 ところで博士、最近から競馬の勉強を始められた受講生さんには戸山厩舎の独特さというものが今一つピンと来ないと思うんですが、解説していただけますか?」

駒木:「あ、そうか。戸山先生が亡くなってもう10年だものねぇ。よし、それじゃあ『戸山厩舎ミニ講座』だね。
 さっき言ったけれども、戸山調教師はとにかくスパルタ調教の人だった。一言で言えば、『馬の強さは調教量に比例して増してゆく』という考えを頑なに守り続けた人だったね。
 だから、とにかく管理馬には調教、調教、また調教ハードトレーニングに耐え切れなくなって壊れてゆく馬は数知れずで、そのために素質馬を集める過程で随分と損をして来た節がある。そりゃあ、いくら『鍛えたら強くなるんだ』って言われても、故障されたら元も子も無いわけだからね。スパルタ調教をしなくても、故障無しで素質の8割が開花するならそっちを選びたくなるのが馬主人情ってもんさ。
 僭越ながら、1/500口の馬主である僕もやっぱり『とにかくレースにたくさん出てくれ』って思うよ。全く話にならない成績の馬だったらまだしも、無事ならオープン入りしそうな馬なら別の先生にお願いしたいところでもある。
 ……まぁでも、僕なら戸山先生に預かってもらえるって事になったら舞い上がって『よろしくお願いします』って言っちゃうかな(苦笑)」
珠美:「(笑)」
駒木:「話を戻そう。そういうわけで、戸山調教師って人は本当にスパルタ調教一筋だったんだけれども、かといって何も考えずにビシバシ馬をムチで叩いてたわけじゃなかった。どうしたら脚元に負担を与えずに激しい調教が可能になるのだろう…という事を絶えず研究して来た人でもあったんだ。
 で、その“スパルタ+脚元に優しい”調教を目指して、色々とJRAに働きかけた結果出来たのが、今ではごく当たり前になったウッドチップコースや坂路コース。その効果たるや絶大で、未だに残っている“関西馬優位”の流れが出来たのは、10数年前に出来たこれらのコースが大きな原因だったと言われているよ。
 特に戸山調教師は坂路コースがお気に入りで、坂路が出来てからは管理馬の大半を坂路で調教するようになった。ミホノブルボンも勿論その中の1頭だね。あ、ちなみにブルボンの前の年に二冠馬になったトウカイテイオーも坂路調教で強くなった馬の1頭だね」
珠美:「今では坂路調教で強くなる馬は普通に多くいるんですけどね。美浦にもウッドチップコースと坂路コースがありますし」
駒木:「ウッドと坂路で関西馬が強くなり過ぎたんで、あわてて関東でも設置されたんだよ。素質馬がこぞって栗東へ入厩する流れを止めるためには設備で追いつくしかなかったわけ。その甲斐あってか、今では少しずつだけど東西の差は詰まってるみたいだけどね。一時期は関東の競馬ファンの間では『とりあえず関西馬から狙っとけ』っていう格言めいたものがあったけど、今ではそんなに言われないしね」
珠美:「……さて、戸山厩舎と言えばスパルタ調教…というお話でしたが、その他にも所属の騎手やスタッフについて色々なエピソードがあると聞いたことがありますけど……」
駒木:「そうそう。まず騎手起用方法ね。戸山厩舎ではとにかく、戸山調教師の弟子2人、小島貞博騎手(現:調教師)と小谷内秀夫騎手(現:調教助手)しか使わない…という“鉄の掟”みたいなものが決められていた
 これは、戸山調教師が騎手時代に頻繁に乗り替わりにあった辛い経験から来ているものなんだけど、他の厩舎が武だ、岡部だって言ってる頃でも全く動じなかったのは立派だったと思う。ただそうやってチャンスをあげるだけじゃなくて、普段は厳しすぎるほど厳しい師匠だったって言うから、本当の意味で弟子思いの人だったんだろうね。
 あと、ミホノブルボンの頃の“番頭役”にあたる調教助手筆頭は、今や世界に名だたる森秀行調教師。森調教師の合理主義的なやり方は元・戸山厩舎とは思えないかも知れないけど、その根底には戸山イズムみたいなものが流れているはずだよ」
珠美:「森厩舎も坂路調教メインでスパルタ主義って言われてますものね。騎手の起用方法は違いますけど……」
駒木:「そうだね。戸山調教師が亡くなって、レガシーワールドが森厩舎の所属になった後、騎手がそれまでの小谷内騎手から河内騎手(現:調教師)に乗り替わった時は随分とやるせない思いをしたもんさ。いくらそれが競馬界ではごく当たり前の事としてもね」
珠美:「そうですね……」
駒木:「……というわけで、いよいよデビューを間近に控えたミホノブルボンの話に突入してゆくんだけど、残念ながらそろそろ時間だ」
珠美:「あら、本当ですね……」
駒木:「結局、1回で終わらせるどころかデビューまで行かなかったなぁ(苦笑)。まぁいいや、続きは業務縮小後、不定期にやるってことで」
珠美:「…分かりました。来週は高松宮記念予想ですね」
駒木:「外国馬が急遽参戦してきて難しくなりそうだけど、何とか頑張ってみようと思う。
 ……それじゃ、今日はここまで。ご苦労様」
珠美:「お疲れ様でしたー」 (次回へ続く

 


 

3月15日(土) 競馬学概論
「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(8)
第4章:ムーンリットガール

※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)ライブリマウント編(第4回〜第6回)フラワーパーク編(第7回〜第8回)

珠美:「今週はムーンリットガールですか。まさにこの講義に相応しい馬ですねー」
駒木
:「お約束した通り、今日はアングロアラブの馬を採り上げる事にしたよ。兵庫の英雄・ケイエスヨシゼンとどっちにするか迷ったんだけど、全国的な知名度を優先させてこっちにしたよ」
珠美:「兵庫の競馬ファンにしてみれば、ケイエスヨシゼンの方が親しみが持てるんですけどね(苦笑)」
駒木:「そうなんだけど、それを押し付けちゃ独り善がりってもんだ。ケイエスヨシゼンには、また別の相応しい機会にご登場願おうと思ってるよ」
珠美:「分かりました。……ところで博士、受講生さんの中には、ひょっとしたら『アングロアラブって何?』な方もいらっしゃるかも知れませんから、簡単に解説していただけますか?」
駒木:「前にも別の講義で説明したはずなんだけど……でもまぁ、その頃と今では受講生さんも大分増えたり入れ替わったりしてるか。
 ……ごく簡単に言えば、アングロアラブっていうのはサラブレッド種とアラブ種の雑種ってことになるね。スピードはあるけど疲れやすくて脆いサラブレッドに、スピードはやや劣るもののタフネスで故障も比較的少ないアラブ種を掛け合わせて、より実用向けにした馬だと考えたらいい。
 ただし、アラブ種の“血”が25%未満の場合はサラブレッド系扱いになってアングロアラブとは言わない。逆に言えばそれだけアングロアラブとサラブレッドは似ているって事になるね。
 日本では軍馬育成の名目で競馬が振興された関係上、アングロアラブの生産が戦前からとても盛んだった。で、終戦直後になって、今度は戦災復興資金稼ぎの名目で全国的に競馬が振興された時に、頭数の揃わないサラブレッドの競馬を補完する役割でアングロアラブ競馬が実施されたってわけ。
 アングロアラブは遺伝上サラブレッドよりも速く走れるわけがないんだけれども、サラブレッドのレヴェルが今ほど高くなかった頃はサラブレッドに勝つほど強いアラブがいたりもした。セントライト記念に勝ったセイユウとか、繁殖牝馬としても有名なイナリトウザイなんかがそうだね。知らない人は一度、Googleあたりで検索してみよう(笑)」
珠美:「博士、講義の意義が無くなるようなことを言わないで下さい(苦笑)」
駒木:「まぁ自由研究のススメって事でね(笑)。……で、そうやって日本の競馬界では長年アングロアラブが業界を支えていたわけなんだけれども、サラブレッドの生産頭数が増していくに連れて徐々にアラブ競馬は衰退の道を辿ることになった。アングロアラブ競馬はグローバル・スタンダードじゃないから仕方ないと言えば仕方ないんだけど、いつの間にかJRAではアラブ競馬は1日1レース行われるのがやっとって感じにまで衰えていって、やがて廃止が決定されてしまった。今回のムーンリットガールは、そのJRA所属アングロアラブ馬の最終世代を代表する名馬ということになるね」
珠美:「JRAアラブ系競馬・最後の名牝…といったところなんでしょうか?」
駒木:「まさにその通りだね。個人的には文学的に“ただ滅び行く世界の中で、力強くも可憐に咲き誇った一輪の仇花”と表現したいところだけど」
珠美:「あ、あの、お言葉ですが、博士の口から『可憐』という単語は……(苦笑)」
駒木:「似合わないって言うのか、酷いなぁ(苦笑)。いいよ、この喩えは珠美ちゃんに譲るから(笑)」
珠美:「あ、いや、別にそういうわけでは……あ、と、とりあえず成績表をご覧いただきましょう(苦笑)」
駒木:「(苦笑)」

ムーンリットガール号・主要成績(略式)
<全成績はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名
(注釈が無い場合はアラブ系競走)
着順 騎手 1着馬(2着馬)

94.06.19

未勝利戦

1/11 河内

(ブイリボン)

95.07.31 札幌3歳S(サラ系重賞・G3) 12/13 的場

プライムステージ

94.10.15 福島アラブ3歳S(オープン) 1/8 菊沢徳 (ヤマショウチドリ)
94.11.20 府中3歳S(サラ系オープン) 5/12 橋本 ホッカイルソー
94.12.03 アラブ3歳S(オープン) 1/10 坂本 (スマノエミュー)
95.02.04 シュンエイ記念(オープン) /13 坂本 (イガノラヴィー)
95.03.25 アラブスプリントS(オープン) 1/16 角田 (ハクサンジャンボ)
95.04.23 スイートピーS(サラ系オープン) 8/18 伊藤直 イブキニュースター
95.06.07 全日本アラブ優駿(園田競馬・全国交流重賞) 7/12 武豊 キタサンオーカン
95.07.22 セイユウ記念(重賞) 11/12 横山典 シゲルホームラン
95.11.11 アラブ王冠(オープン) 1/10 坂本 (リマーカブル)
95.12.09 アラブ大賞典(オープン) 1/7 坂本 (エスエムファイヤー)
95.12.17 スプリンターズS(サラ系重賞・G1) 14/16 蛯名 ヒシアケボノ
96.01.14 ニューイヤーS(サラ系オープン) 14/14 後藤 メイショウユウシ
96.02.18 淀短距離S(サラ系オープン) 10/11 菊沢徳 フィールドボンバー
 ※淀短距離Sを最後に公営へ移籍。その後の成績については上記リンク先の詳細な成績表を参照のこと。

珠美:「……この一覧表からは極端な成績だと映るかも知れませんね(苦笑)」
駒木:「あぁそうだね。後でも話すけど、この馬は芝なら敵なし状態だったんだけど、ダートが大の苦手だったんだよね。だから1着になっているのは全て芝のレースで、負けているのはサラブレッド系のレースを除けば全部ダートのレース。ここまで極端なダート嫌いの一流馬は、サラブレッドを含めても珍しいんじゃないかな」
珠美:「確かにここまで芝とダートで成績の差がある馬は珍しいかも知れませんね。
 ……それでは、この馬についてもデビュー戦から順に現役生活を追いかけてゆきましょう。まずはデビュー戦は夏の中京開催でした。芝1000mのスプリント戦でしたが、ムーンリットガールはスピードの違いで完勝しています

駒木:「この中京開催で一斉に(旧)3歳のアラブがデビューしたわけなんだけど、頭数自体が50頭に満たない少なさだったんで、随分と寂しかったのを覚えているなぁ。SFで“地球最後の人類”みたいなテーマの作品があるじゃない。雰囲気はそれに似ていたね」
珠美:「スケールの大きい喩えですね(笑)。そしてその後なんですが、アラブ系のレースを無視していきなりサラブレッド系重賞競走の札幌3歳Sに挑戦します。アラブのサラブレッド系重賞への挑戦というのは頻繁にあったわけですか?」
駒木:「いやいや、滅多に無かったよ。だって勝ち目が全く無いもの、普通は(苦笑)。大体、その世代で飛び抜けて強い馬が“モノは試し”でローカル開催のハンデG3に出走するのがせいぜいだったね。ハンデ48kgでどこまで健闘できるかってところ。
 先に挙げたセイユウとかイナリトウザイは、今よりもサラブレッドが随分弱くてアラブが随分強かった頃のお話。ムーンリットガールの頃になるとアングロアラブは生産頭数も減ってたし、もともと強いアングロアラブは中央じゃなくて公営競馬に流れるのが普通だったからね」
珠美:「そう言えば以前、そんなお話を伺った覚えがありますね。アングロアラブに関しては中央と地方で実力の逆転現象があった…という感じで」
駒木:「そういうわけ。じゃあどうしてムーンリットガールはそんな挑戦をしたかと言うと、これは実力もさる事ながら、多分調教師が森秀行さんだったからだろうね。積極的な海外遠征とか地方交流競走重視のローテーションとか、とにかく常識破りをするのが好きなセンセイだから。アラブの競走馬を預かる事になった時点で、色々と考えていたんだと思うよ」
珠美:「なるほど……。この札幌3歳Sではブービーの12着に終わりますが、陣営はその後も挫けずに果敢な挑戦を続けてゆきます。福島アラブ3歳Sで力の差を見せつけた後にまたもサラブレッドへ挑戦。オープン特別の府中3歳Sに出走し、なんと5着に健闘して入着賞金を獲得します」
駒木:「ホッカイルソー相手に0.4秒差の5着というのも凄いんだけど、単勝6番人気に推されているのもナニゲに凄いよね(笑)。
 まぁこの善戦でムーンリットガールは競馬ファンから一目置かれる存在になったのは言うまでも無い。『ひょっとしたらサラブレッド相手に1勝も?』…なんて思ってた人も多かったんじゃないかな」
珠美:「…ムーンリットガールはこの後、“適鞍”が無かったのか、しばらくアラブ系の競走に専念することになります。距離の全く違うレースを3つ、それぞれ圧倒的な人気に応えて連勝してゆきます」
駒木:「今となっては役に立たない豆知識だけど、3連勝の2つ目のシュンエイ記念っていうのは、事実上の世代ナンバー1決定戦だったんだよね。時期は早いけど、JRA版アラブダービーみたいなもん。更に役に立たない豆知識だけど、昔は1月5日からの正月開催でアラブ限定の銀杯ってレースがあった。今でも残ってる金杯は、元々この銀杯と対になっていたわけだね」
珠美:「あー、なるほど。金と銀でセットになっていたんですね。言われてみれば…って感じですねー。
 ……さて、そうしてJRAのアラブ系競馬では無敵の存在になったムーンリットガールは、再び果敢な挑戦を繰り広げて行きます。まずオークス指定オープンのスイートピーSに挑戦して8着。さらに返す刀で園田競馬の全国交流競走・楠賞全日本アラブ優駿に参戦します。JRA代表として、公営競馬の強豪たちに胸を借りる戦いですね」
駒木:「アラブ優駿に関しては、去年の5月に講義で詳しく振り返ってるので、そちらのレジュメを参照してもらおう。武豊騎手を鞍上に迎えたムーンリットガールが、着順はともかく物凄いレースをしてファンの度肝を抜いた。僕はどれだけ忙しくても、毎年このアラブ優駿だけは出来るだけ生観戦する事に決めているんだけど、まだこのレースを上回るインパクトのレースって無いなぁ」
珠美:「私もレース映像を見せていただきましたが、確かに見応えのあるレースでした。これが全国の皆さんにご覧いただけないのが残念ですね」
駒木:「こういうグローバルな時代なんだから、公営競馬で残っている映像資料を掻き集めてDVD作るとか出来ないものなのかなぁ。まぁ採算考えるとどうにもならないのかも知れないけどね」
珠美:「……では話を戻しますね。それからムーンリットガールはJRAでもダートのアラブ系重賞・セイユウ記念に出走するんですが、やはりダート適性の問題でしょうか、1番人気に応えられず11着に敗れて、休養に入ります。
 復帰は4ヵ月後。JRA所属のアラブ競走馬が続々と引退するか公営へ移籍するかしてゆく中で、芝のレースに活路を見出すムーンリットガールは最後までJRAに残りました。11月のアラブ王冠、そしてJRAのアラブ系競馬最後のレースとなった12月のアラブ大賞典を実力通り完勝して、有終の美を飾ります

駒木:「最後のレースなんか7頭立て。つまりこの時点でJRAのアラブ馬は7頭しかいなかったってわけだ。僕は『週刊競馬ブック』の成績欄でしか様子を確認出来なかったんだけど、でも寂しかったなぁ」
珠美:「でもここでムーンリットガールのキャリアが終わったわけではありませんでした。アラブ系競馬が廃止された後も、ただ1頭JRAに残ってサラブレッド系のレースに挑戦する道を選びます
駒木:「公営はダート競馬しかないわけだし、サラブレッド相手に好走した実績もあるわけだから、理解できる試みではあるよね。でもまさかG1に出て来るとは思わなかったけれども(苦笑)」
珠美:「そうなんですよねー。なんとスプリンターズSに挑戦したんです。グレード制が始まってからアラブ競走馬がG1に挑戦した事は無いんじゃないですか?」
駒木:「詳しい資料が無いんだけど、多分そう思う。無茶な事をしたとは感じるけど、『どこまでやってくれるんだろう』っていう気持ちにはなったね。結局、2頭に先着して14着になったわけだけど、これを健闘と見るかどうかは意見が分かれるところかな」
珠美:「年が明けてからもムーンリットガールのサラブレッド系競走への挑戦は続きましたが、残念ながらこの時期は48kgの軽ハンデにも関わらず勝負にならない惨敗を喫してしまい、そして公営への転出を余儀なくされます
駒木:「見事なまでに見切られちゃったね(苦笑)。この思い切りの良さも森センセイらしいというか。まぁ、アラブ系競走で賞金を稼いじゃっただけにレースの選択が難しかったのはあるんだよね。別定重量だと話にならんし、ハンデ戦のオープン特別とかG3だとレース数が激しく限られてくるし。
 この後は公営でかなり長い間競走生活を続ける事になるんだけど、これは文字通りの蛇足。やっぱり芝で走ってこその馬だったからね。一度で良いから、公営の強豪とJRA競馬場の芝コースで戦うところを見てみたかった」
珠美:「……というところで、駆け足でしたがムーンリットガールの軌跡を振り返ってみました。さて、次回ですが……」
駒木:「再来週の月末が高松宮記念予想になるから、次回がこの企画の“第一部・完”になるわけだ。だったら…ということで、僕の思い出の馬・ミホノブルボンについて採り上げさせてもらおう。1回で語り尽くせなかった場合は4月にズレこむけど、それはそれでまぁいいや」
珠美:「…分かりました。では、お疲れ様でした」
駒木:「はい、ご苦労様」 (この項終わり/次回へ続く

 


 

3月8日(土) 競馬学概論
「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(8)
第3章:フラワーパーク(後編)

※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)ライブリマウント編(第4回〜第6回)/フラワーパーク編(第7回  

駒木:「こんばんは。何だか最近、ずっと体がキツいとか、講義遅れて申し訳ないとかばかり言ってる気がするけど、今日もその通り(苦笑)」
珠美:「フルタイムのお仕事を2つ同時進行って感じですものね(苦笑)。でも、私は静かに気合が入ってるんですよ。ほら、ここ何週かは順子ちゃんも講義に出るじゃないですか。そうするとやっぱり、私も元気付けられるっていうか……」
駒木:「なるほどね。それじゃあ、気合の入ったついでに、僕の代わりに講義してくれないか(苦笑)。」
珠美:「そうさせて頂きたいのはやまやまなんですけれどもね(笑)。でも、私はあくまでもアシスタントなので」
駒木:「遠慮する事なんか無いんだけどなぁ(苦笑)。
 ……じゃあせめて、講義を早く進行させてもらうよ(笑)。早速、今日のテーマであるフラワーパークの成績表を改めてご覧頂こう」

フラワーパーク号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

95.10.29

未勝利戦

10/17 村山

キョウワグレイス

95.11.11 未勝利戦 1/18 村山

(サクラミヨシノ)

95.12.03 恵那特別(500万下) 1/16 村山 (ヤクモエンジェル)
95.12.24 千種川特別(900万下) /13 村山 (ハギノエンデバー)
96.01.20 石清水S(1500万下) 3/16 村山 ムツノアイドル
96.02.24 うずしおS(1500万下) /12 村山 (ハセノライジン)
96.03.23 陽春S(オープン) /13 村山 エイシンワシントン
96.04.28 シルクロードS(G3) 1/13 田原 (ドージマムテキ)
96.05.19 高松宮杯(G1) /13 田原 (ビコーペガサス)
96.06.09 安田記念(G1) 9/17 田原 トロットサンダー
96.11.23 CBC賞(G2) /14 田原 エイシンワシントン
96.12.15 スプリンターズS(G1) 1/11 田原 (エイシンワシントン)
97.03.02 マイラーズC(G2) 4/14 田原 オースミタイクーン
97.04.20 シルクロードS(G3) 4/16 田原 エイシンバーリン
97.05.18 高松宮杯(G1) 8/18 田原 シンコウキング
97.10.25 スワンS(G2) 6/16 田原 タイキシャトル
97.11.22 CBC賞(G2) 4/15 田原 スギノハヤカゼ
97.12.14 スプリンターズS(G1) 4/16 田原 タイキシャトル

珠美:「博士には先週の講義の中でお話して頂きましたが、このフラワーパークは全盛期の短い馬ですよね」
駒木:「ピーク期間を最大限長めに解釈しても、95年の晩秋から96年の末までの1年強だものね。しかも重賞戦線で活躍していた時期となると半年と少ししかないんだよなぁ。まぁ、97年シーズンだって着順だけなら酷い成績では無いんだけどね」
珠美:「それでは、いつも通りデビュー戦から振り返っていくわけですが、いきなり驚かされるのがデビュー緒戦の大敗ですよね。1着馬と0.7秒差ながら、17頭中10着という成績になっています。これはどうしたんでしょう?」
駒木:「その週のレース結果が載ってる『週刊競馬ブック』を探そうとしたんだけど、実は今、資料をしまってる僕の部屋がエラいことになっててね(苦笑)。15年分のプロレス資料と10年分の競馬資料が積みあがってて、部屋の奥深くに眠っている雑誌は引っ張り出せないんだよね(笑)。他のレースのは大体見つけ出せたんだけど、この週の分に関してはお手上げだった。
 だから、ここはとりあえず推測で喋るしかないんだけれども、デビュー当初のこの馬は、馬体は重め残りだわ、気性は荒いわ、脚質的にも融通が利かないわでね。いつ大敗を喫してもおかしくなかった。だって、ベスト体重が470kgなのに490kgもあるんだよ(笑)。しかもこの時はデビュー戦だし。」
珠美:「……ということは、色々な敗因が複合したものだということでしょうか?」
駒木:「無難に言えばそうなるね。でもまぁ、後のG1馬が秋の3歳(当時は4歳)未勝利戦で2ケタ着順っていうのは確かに珍しいね。相撲で言えば、序ノ口で負け越した力士が後に大関・横綱までのし上がるようなもんだ」
珠美:「それでも2戦め以降はさすがといったところでしょうか。11月から翌年2月までの3ヶ月間で次々と条件戦をクリアして、一躍オープン入りを果たすことになります。この時期は逃げ切り勝ちが多いですね」
駒木:「スピードの違いだね。マトモに走ったら、条件馬クラスなんて話にならないよ。条件馬時代に1回だけ3着に負けてるけど、これはまた距離が合わなくて、レース前からイレこんだ上に後手を踏んだものだから仕方ない。競馬に絶対は無いっていうのを証明するようなアンラッキーなレースだったね」
珠美:「私はこの頃はまだ馬券を買ってませんでしたけど、今だったら間違いなく損しているレースだと思います(苦笑)。
 ……というわけでオープン入りを果たしたフラワーパークですが、そのオープン入り第一戦で、後に因縁の相手となる馬と出会うことになりました

駒木:「エイシンワシントンだね。何だか少年マンガみたいな出会いだけどこういうのがあると、やっぱりドラマ的には面白いね」
珠美:「私は少女マンガみたいな出逢いだと思ったりするんですけれども(笑)」
駒木:「わはは(笑)。それもアリかもしれないね。でも、エイシンワシントンの成績を見てみると、どうも水島新司作品の脇役チックなデタラメな成績なんだよな。だから間を取って、『野球狂の詩』みたいな…とするのはどうか」
珠美:「いや、全然間を取ってないんですけど(苦笑)」
駒木:「まぁ、冗談はそれくらいにしておいて。この陽春Sのエイシンワシントンは、大スランプ期の合間に少しだけ調子が戻ってた時期だったんだ。それを考えると、フラワーパークは運が無かったね。条件戦からいきなりG1・G2クラスの馬が相手になったんだから」
珠美:「ハイ。フラワーパークはこのレースでは2着に敗れていますね。そして、このレースを最後に騎手が村山騎手から田原成貴騎手(当時)に乗り替わりになっています
駒木:「いつも思うんだけど、本当に乗り替わりってヤツはタイミングだよね。乗り替わりがこのタイミングじゃなかったら、一体どうなってたか。まぁそれで村山騎手がG1レース2つ勝てたかどうかは判らないけどね」
珠美「……2着に敗れるも、オープンでも充分通用する実力がある事が実感できたのでしょう、フラワーパークはいよいよ重賞戦線に参戦して行きます。その第1戦はG3のシルクロードSでした」
駒木:「この頃のローテーションでは、このレースが高松宮杯(当時)に直結するレースだったんで、とてもレヴェルが高かった。今で言えば阪急杯のようなレースだね」
珠美:「事実、このレースは昨年のスプリント王者・ヒシアケボノなどの錚々たるメンバーが揃っていて、オープン入りして間もないフラワーパークは4番人気でした。しかし、いざフタを開けてみれば、ゴールを先頭で駆け抜けたのはフラワーパークでした
駒木:「フラワーパークより人気だった馬の状況に触れてみると、ヒシアケボノは休養明けでリズムが狂いまくり、ヤマニンパラダイスは復調途上、エイシンワシントンは再びスランプ突入…って感じで、多少恵まれはあったかな。ただ、タイム(1分7秒6)は胸を張れるね
珠美:「そして、この実績を手土産に、フラワーパークはスプリント戦にリニューアルされたばかりの高松宮杯に出走します」
駒木:「ナリタブライアンが出走して論議を醸したレースだね。で、これに関しては去年の3月17日付講義で詳しく採り上げてるから、皆さんにはそっちのレジュメを読んでもらう事にしよう。結果だけを言うと、フラワーパークがビコーペガサス以下をスピードの絶対値で完封してG1初勝利を達成した。特攻タイプ逃げ馬のスリーコースについていって、そのまま2着以下に2馬身半の差をつけるんだから、これは本当に強かった。まだスプリント界が黎明期でメンバーが揃いきらなかったって事もあったんだけど、それでも大したもんだ」
珠美:「この後は余勢を駆って安田記念に挑戦したのですが、こちらはトロットサンダーの9着に敗れてしまいました」
駒木:「これは距離。国際G2クラスのG1じゃあ、さすがに誤魔化しが利かないね。残り200m──つまり1400m地点までは踏ん張ってたんだけど、そこからはスプリンターの距離じゃないからね。このレースはヒシアケボノが3着に粘ってるんだけど、これは奇跡に近い大健闘だよ」
珠美:「そして安田記念の後は、11月まで5ヵ月半の休養に入ります」
駒木:「当時はスプリンターズSが暮れの中山開催だったからね。安田記念で距離適性も割れた事だし、無理してマイルチャンピオンシップに出す事は控えたんだろうね」
珠美:「休養明け緒戦は中京の名物レースCBC賞。開幕集のパンパン馬場で行われるスプリント戦として定評のあるレースですよね」
駒木:「ただねぇ、この時のフラワーパークは+24kgだからねぇ。高松宮杯の時と同タイムでエイシンワシントンの2着だったんだけど、これでもよく走ってる方かもね。
 ちなみにエイシンワシントンはこの頃が競走馬生活最後の絶好調期だった。正直、今現在の短距離戦線で走っていたらG1の2つや3つでも獲れる位の勢いが有ったんだけどね」
珠美:「CBC賞はあくまで叩き台…というわけで、いよいよ本番・スプリンターズSです。16kg馬体を絞って万全を期したフラワーパークは1番人気に支持されました。レースの方は、またしてもエイシンワシントンとのマッチレースとなりましたね」
駒木:「文字通りのデッド・ヒートだったね。その差数cmの際どい写真判定を制してG1レース2勝目。乗ってた田原成貴もゴール前の手綱捌きが会心の出来だったんだろう。自分の書いたエッセーで自慢したり、原作担当してたマンガで主人公にその技をやらせたり好き放題だった(笑)。まず馬を褒めてやれよって、今になったら思うんだけれども(苦笑)」
珠美:「こうしてスプリント界の女王として君臨したフラワーパーク。この馬の時代がしばらく続くかと思われたのですが、現実は厳しいものでした……」
駒木:「翌春に休養からカムバックしてみると、心身とも完全に燃え尽きてしまってた。全く別の馬だね。だから、ここではもう扱わない。
 引退レースになったのは翌年のスプリンターズSで、何とか4着には入ってるんだけど、レース振りを観てると単なる流れ込み。タイキシャトル時代の幕開けと共に静かにターフを去ってゆく。典型的な埋もれた名馬の消え方だね」
珠美:「……この企画、いつも最後が切ないですよね(苦笑)」
駒木:「それは仕方ないよ。最後まで幸せだったら埋もれてないはずだから(苦笑)」
珠美:「──というわけで、フラワーパーク編も終わりですね。次回はどうされますか?」
駒木:「今度はアングロアラブでも採り上げようかと思ってるんだよ。元祖・アラブのメッカ・兵庫県の住人としてね(笑)」
珠美:「分かりました。でも、受講生さんにはちょっと馴染みが薄すぎるかも知れませんね(苦笑)」
駒木:「それがこの社会学講座ってもんだよ(笑)。まぁそういうわけで、今日の講義は終了だ。ご苦労様」
珠美:「ハイ、お疲れ様でした」 (この項終わり/次回へ続く

 


 

3月1日(土) 競馬学概論
「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(7)
第3章:フラワーパーク(前編)

※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)ライブリマウント編(第4回〜第6回)  

駒木:「受講生の皆さん、講義開始が遅れてすみません。今から講義を開始します」
珠美:「今、実時間では3月3日未明です(苦笑)」
駒木:「いやー、いくら取材活動と研究費稼ぎのためとは言え、やっぱりフルタイムの仕事と掛け持ちってのは辛い(苦笑)。二足のわらじは履けても二足の靴はなかなか履けないねぇ」
珠美:「靴ですか(笑)」
駒木:「……さて、今回からはフラワーパーク特集だ。スプリンターのG1馬って、意外と“埋もれた(かも知れない)率”が高いんだよね」
珠美:「それはやはり、日本の競馬界で芝の中長距離戦線が重視されているからでしょうか?」
駒木:「それも少しはあるかな。まず大レースの数が絶対的に少ないわけだからね。でもそれ以上に、スプリンターのG1馬の多くは、そのキャリアの中に埋もれる要素を多く含んでる事が多いんだよ」
珠美:「埋もれる要素……ですか?」
駒木:「そう。……じゃあ。それを説明するためにまず、フラワーパークの成績表を見てもらうことにするかな。珠美ちゃん、お願いするよ」
珠美:「ハイ。それではいつも通り、簡易版ですがデビュー以来の全成績表をご覧頂きましょう」

フラワーパーク号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

95.10.29

未勝利戦

10/17 村山

キョウワグレイス

95.11.11 未勝利戦 1/18 村山

(サクラミヨシノ)

95.12.03 恵那特別(500万下) 1/16 村山 (ヤクモエンジェル)
95.12.24 千種川特別(900万下) /13 村山 (ハギノエンデバー)
96.01.20 石清水S(1500万下) 3/16 村山 ムツノアイドル
96.02.24 うずしおS(1500万下) /12 村山 (ハセノライジン)
96.03.23 陽春S(オープン) /13 村山 エイシンワシントン
96.04.28 シルクロードS(G3) 1/13 田原 (ドージマムテキ)
96.05.19 高松宮杯(G1) /13 田原 (ビコーペガサス)
96.06.09 安田記念(G1) 9/17 田原 トロットサンダー
96.11.23 CBC賞(G2) /14 田原 エイシンワシントン
96.12.15 スプリンターズS(G1) 1/11 田原 (エイシンワシントン)
97.03.02 マイラーズC(G2) 4/14 田原 オースミタイクーン
97.04.20 シルクロードS(G3) 4/16 田原 エイシンバーリン
97.05.18 高松宮杯(G1) 8/18 田原 シンコウキング
97.10.25 スワンS(G2) 6/16 田原 タイキシャトル
97.11.22 CBC賞(G2) 4/15 田原 スギノハヤカゼ
97.12.14 スプリンターズS(G1) 4/16 田原 タイキシャトル

駒木:「……それじゃ、説明するね。本来目立たなくちゃおかしいはずのG1馬が埋もれるパターンとしては、大体5つある。
 1つ目はトップに立つまでの過程。デビューが極端に遅いか、一旦フェードアウトするかして、条件戦や二線級のオープン特別を経てトップグループ入りしている事。いわゆる“裏街道”出身だね。これは一番華やかな3歳G1戦線から外れてしまっているという事だから、台頭するまでの注目度やドラマ性がどうしても削がれてしまうんだよね。
 2つ目は全盛期が短い事。大体埋もれる馬っていうのは、総じて全盛期が半年から1年くらいだね。つまり、活躍していた事自体がファンの記憶に残り辛い。
 3つ目は活躍できる条件──距離・馬場・展開が限られている事。いわゆるスペシャリストだね。こういう馬は自分の苦手なパターンにハマると大敗する可能性が高くて、その結果、成績表にキズがつき易い。また、必然的に出走数や勝ち鞍が少なくなる。
 4つ目。引退する時期を間違えた馬。簡単に言えば晩節を汚してしまった馬だ。これも成績表にキズがつくし、最後の弱かった時期の印象が強く残ってしまって、全盛期のインパクトが薄れてしまう。
 そして最後は同時代の同カテゴリにもっと偉大で人気のある馬がいた場合。要は相対的に目立たなくなってしまうってわけだね。あと、ビワハヤヒデみたいに絶対的に人気の無い馬も結局はここに入る事になるのかな。ビワハヤヒデは1つめから4つめまでの条件はあまり満たしてないんだけど、最後の条件だけで埋もれてしまったわけで、そういう意味では凄い馬だよな(苦笑)」
珠美:「……でも、『そう言えば…』という条件ばかりですねー。前回採り上げたライブリマウントにしてもほとんど条件を満たしてますし……」
駒木:「埋もれる条件は他にもあると思うけどね。でもまぁ、それは受講生の皆さんに考えて頂く事にしよう。
 で、フラワーパーク。この馬も色々と条件を満たしている事が成績表からも一目瞭然だ。何しろ“フルマーク”なんだよ、この馬。まずデビュー時期が凄い。」
珠美:「あ、そうですね。この開催が終わると未勝利戦が無くなるという3歳10月のデビューですね。そこから条件戦を潜り抜けてオープン入りしていますから、1つ目の条件は完全にクリアしています」
駒木:「で、全盛期は正味1年弱。2つ目の条件もクリアだね。そしてこの馬は守備範囲が狭くてマイル戦ではあまり活躍できなかった。というわけで3つ目の条件もクリア」
珠美:「全盛期を過ぎてから丸1年現役を続けていますし──」
駒木:「この馬の活躍したすぐ後にタイキシャトルとかシーキングザパールが海外G1を獲ってしまって、実績や人気の面でも遅れをとった。オマケに主戦騎手があの田原成貴だから、今となってはどうしても話題に出し辛い(苦笑)」
珠美:「(苦笑)」
駒木:「似たようなパターンで、オサイチジョージも話題になり難いんだよねぇ(苦笑)。全盛期のオグリキャップに勝った数少ない馬の1頭なのに、主戦騎手がアレだったせいで、どうしてもね。まぁ、あの時代の名馬は種牡馬成績がイマイチだから、最近話題にならないって事もあるか。
 ……と、6つ目の埋もれる条件が見つかった(笑)。牡馬の場合、種牡馬入りしてからの成績がイマイチだという事。いつの間にか話題に上らなくなって“あの馬は今?”ってパターンに陥ってしまう。そういう意味では牝馬は余計に埋もれやすいよね。産駒が年1頭しか出せないわけだし」
珠美:「これでこの企画の候補馬探しも大丈夫ですね(笑)」
駒木:「業務縮小まで1ヶ月切っちゃったんだけどね(笑)。
 ……というわけで、フラワーパークは埋もれる要素満点の可哀想な名馬なんだけど、さっきも言ったようにスプリンターには埋もれる要素を多く含んだ馬が他のカテゴリよりも多いんだよ」
珠美:「え、それはどうしてなんですか?」
駒木:「まず、スプリンターは生まれつきに3つ目の条件(スペシャリストである事)を満たしている上に、3歳のG1戦線に全く向かない。敢えて言えばNHKマイルC路線だけど、それもベストの距離じゃないし、フラワーパークの世代まではNHKマイルそのものが無かった。だから3歳戦線で活躍出来ないし、馬によってはデビュー時期を遅らせて3歳夏頃から始動するケースも多い。するとどうしても条件戦経由の出世街道になるよね。
 で、スプリント系の馬でG1を勝つような逸材は、2年続けて活躍できないものが多い。大抵1年で壊れてしまうんだ。これは多分、道中で息の入らない激しいレースばかりやってるから馬の心身の消耗が大きいんだと思う。一方で、2着・3着ばかりのスプリンターは息が長いんだよね。ギリギリのところで走るのを止めちゃう馬は消耗しないのかも知れないね。
 また、更に全盛期の短い馬はどうしても引退の時期が“手遅れ”になってしまうから、晩節を汚しやすい
珠美:「……これで4つの条件が一気に埋まってしまいましたね(苦笑)」
駒木:「そうなるね。1200mをメインに戦う馬は最低でも2つほどの埋もれる条件を満たしてしまうわけだから、そりゃあ埋もれやすいはずだよ」
珠美:「そういう秘密があったんですねー」
駒木:「逆にマイルもこなせるスプリンターや、スプリントにも対応できるマイラーは埋もれ難い。タイキシャトル、サクラバクシンオー、ヤマニンゼファー……こういう馬は不思議と全盛期も長いんだよね」
珠美:「なるほど……」
駒木:「今回はフラワーパークを扱うけれども、スプリント界にはヒシアケボノ、エイシンバーリン、エイシンワシントン、マサラッキ…とか埋もれた名馬候補はたくさんいるね」
珠美:「分かりました。それではフラワーパークの現役時代について追いかけていくわけですが……」
駒木:「悪いんだけど、今週はココまで。本当に申し訳ないんだけど、時間が無くてどうしようもない」
珠美:「仕方ないですね、2日遅れで振替講義するわけにもいきませんものね(苦笑)」
駒木:「とりあえず、次回で一気にフラワーパークの競走馬生活を全部追いかけていくつもりでいるから、どうか楽しみにしてて欲しいね」
珠美:「それでは、お疲れ様でした」
駒木:「ご苦労様」 (次回へ続く

 


 

2月22日(土) 競馬学特論
「G1予想・フェブラリーS編」

駒木:「さぁ、今年もJRAのG1シリーズがいよいよ開幕だね」
珠美:「今週はダートのG1・フェブラリーステークスですね。他のG1レースとは、ちょっと時期がズレてますけれども……」
駒木:「でも不思議なもんだね。G1昇格したばかりの頃は違和感だらけだったのに、もうここ2〜3年はすっかり慣れちゃった気がする」
珠美:「競馬の世界って、そういうパターンが多いような気がするのは私だけでしょうか?」
駒木:「いや、多分他の人も一緒だと思うよ(笑)。
 ……さて、相も変わらず時間が詰まってるし、早速本題に移っていこうか。珠美ちゃん、よろしく」
珠美:「ハイ。それでは、まずはいつも通り、出走表と私たちの予想印を皆さんにご覧頂きましょう」

フェブラリーS 中山・1800・ダ

馬  名 騎 手
    エイキューガッツ 田中勝
    カネツフルーヴ 中館
  プリエミネンス 柴田善
    アッパレアッパレ 後藤
ゴールドアリュール 武豊
    マイネルブライアン 北村
イーグルカフェ デムーロ
  × ビワシンセイキ 横山典
    スマートボーイ 伊藤直
× × 10 ノボトゥルー ペリエ
    11 レギュラーメンバー 松永
    12 ハギノハイグレイド 池添
    13 ディーエスサンダー 勝浦
×   14 エイシンプレストン 福永
  15 リージェントブラフ 吉田
16 アドマイヤドン 藤田

駒木:「メンバー見てても、芝の馬が『ちょっくらついでに』ってパターンが随分減ったよねぇ。今年で言えばエイシンプレストンぐらいかな。改めてダート競馬の普及が進んだのを実感するね」
珠美:「それではまず、博士にはこのレースについての全体的な印象をお話して頂きます。いかがでしょうか?」
駒木:「東京競馬場の改修工事が続いていて、結果的に去年の秋のジャパンカップダートと全く同じ条件になっちゃったね。まぁ、無理して1700mのレースにするよりはマシだと思うんだけど……。
 メンバーの方も、ジャパンカップダート組が上位5頭を含む8頭がエントリーしていて、こちらも何だか再戦ムードだね。トーホウエンペラーが抜けて、ちょっと小粒な新顔がいくらか増えた感覚。去年よりは見劣りするけど、このレースとしては中くらいのレヴェルにはなると思うね」
珠美:「東京の1600mの場合と比べた場合、距離以外にどこか違う条件はありますか?
駒木:「そりゃあ東京と中山だとコースの広さも直線の長さも全然違うんだから、たくさんあるよ(笑)。
 まぁ一番大きな違いは、東京のダート1600mコースが向正面の芝コースからスタートする特殊なコースだってことかな。スタート直後の先行争いに少し影響があるかも知れないし、スタートから最初のコーナーまでの距離が随分と違うのも注目だね。
 あと、コーナーの数が4つあるわけだから、原則としては先行有利なはず。ただし、去年のジャパンカップダートはご存知のようにリージェントブラフの追い込みが届いたから、展開次第ではどうにでもなりそうだね」
珠美:「その展開はどうなると思われますか? 下馬評では激しい先行争いになると言われていますけれども……」
駒木:「純粋な逃げ馬だけでも3頭もいるもんねぇ。そこへゴールドアリュールが競りかけたりするわけだから、前へ行く馬には酷な展開になりそうだね。好位組と後方待機組が力比べをするような感じになるのかな。まぁ、常識的に考えてペースは速くなるだろうね」
珠美:「……ありがとうございました。それでは今日も博士に、出走馬を枠順に従って1頭ずつコメントを頂きます。まずは1枠からお願いします。2頭とも随分と人気薄ですけれども……?」
駒木:「まずはエイキューガッツ。でも、どうしてこの馬が出て来たのか、サッパリ判らない(苦笑)。『週刊競馬ブック』の特集記事にも名前すら出て来ないもんなぁ。能力的にも物足りないし、ここは見送りだね。
 同じ人気薄でも、カネツフルーヴは相当な実力馬。一時期調子を崩していたみたいだけど、前走の川崎記念優勝を見ても分かるように、随分と持ち直して来た印象かな。感じとしては去年の帝王賞(1着)くらいのデキにあるんじゃないかと思う。ただ、今回は先に言ったように逃げ馬受難のレースだからね。余程恵まれが無いと最後の直線を乗り切るのは難しいんじゃないかな」
珠美:「……続いて2枠ですね。こちらも人気薄の2頭なんですが、博士は印も打っておられますね」
駒木:「あぁ、プリエミネンスの事だね。でもこの馬が12番人気ってのはおかしくないかい? G1レースでは上位の常連だし、今回は内枠の好位で脚を貯められる有利さもある。そりゃあ、ゴールドアリュールとアドマイヤドンには地力で見劣るけど、でも何かあった時には連対圏内に食い込むだけの余地は残ってるはずなんだけどなぁ」
珠美:「6着に終わった前走の川崎記念が嫌気されたんでしょうか?」
駒木:「あぁ、そうかもね。でも、中間の調整過程を見る限り、今回は相当馬が変わっているような印象を受けるんだけどね。ちょっと湿気を含んだダートも有利に働くだろうし、少なくとも個人的には注目したい1頭なんだよね。
 ……で、この枠もう1頭のアッパレアッパレなんだけど、こちらは前走でちょっと馬脚が出ちゃった感じかな。一流どころと真っ向勝負で勝った経験が無いのが頼りない印象があるし、追い切りもピリッとしない。こちらは見送りかな」
珠美:「それでは次に3枠です。この枠には1番人気のゴールドアリュールがいますね。ついでに申し上げますと、私の本命馬です(笑)」
駒木:「ゴールドアリュールね。ジャパンカップダートで負けた時はどうなるかと思ったけど、東京大賞典ではキッチリと決めてくれたね。この馬の場合、折り合いをつけてジックリ行くよりもスピードに任せて逃げちゃう方がやっぱり良いみたいだ。
 でも、それから考えると今回は大変なんだよなぁ。逃げ馬3頭を叩いて先行したところで最後まで保つとは思えないし、かといって中途半端に抑えると能力の発揮まで中途半端になっちゃいそうだし。オマケに抜け出したらソラまで使うんだよね、この馬。格下相手には問題ないけど、JRAのG1だとメンバーも揃うからねぇ。果たしてこれがどう出るか」
珠美:「それではかなり危ないと……?(汗)」
駒木:「いや、力の発揮の仕方が難しいって事。この馬、『ダビスタ』の勝負根性が無い馬みたいな走りするから、タイミングが難しいんだよ。直線先頭で一気に抜け出して、他の馬を戦意喪失に追い込めばしめたものなんだけどねぇ。……まぁでも、地力だけなら1、2を争うのは文句の無いところだし、ここは武豊騎手が新味を出す名騎乗を見せてくれる事を期待しようじゃないか」
珠美:「わかりました(苦笑)」
駒木:「3枠もう1頭はマイネルブライアンだね。何だか微妙に穴人気してるみたいだけど、地力的には下位グループだと思うよ。1800mの実績と言っても二線級相手の成績が主だし、先行馬だから展開も決して楽じゃないし。僕はあまり高く評価は出来ないなぁ」
珠美:「……続く4枠も注目馬がいますね。博士のジャッジはいかがでしょうか?」
駒木:「イーグルカフェかぁ(苦笑)。困った事に今回はデキが絶好なんだよね。しかも騎手がデムーロと来た。この馬をどう扱うかで馬券戦略が大きく変わって来るだろうから、そういう意味ではキーポイントになる馬だね」
珠美:「博士は4番手評価の△印を打ってらっしゃいますねー。やっぱりジャパンカップダートは“デットーリ・マジック”によるフロックという判断なんでしょうか?」
駒木:「半分はそう(笑)。騎手の力もあるけど、やっぱり展開が向いたのが大きかったように思えるからね。人気馬2頭がお互いを意識しすぎて共倒れになって、そこを絶妙のタイミングでイン突き。典型的な奇襲勝ちだよ。
 だから、いくら秋のチャンピオンだからといっても、地力的には3番手グループの一角という評価は以前と同じのまま。まぁ、また展開恵まれて2着争いに参加できるかどうかってところだと考えてるんだよ」
珠美:「予想紙の印を見ても、皆さんそのような認識みたいですね」
駒木:「だろうね。あの1勝だけを根拠に◎を打つのはとても勇気が要ると思うよ。
 ……で、この枠もう1頭のビワシンセイキ。前走の平安ステークス4着で随分とミソをつけちゃったような気がするね。いくら展開だの折り合いだのと言っても、あのメンバー相手に2着にも届かないんじゃあ、ちょっと物足りなさは否めない。それに、どうやら調子のピークも過ぎかけてるみたいだしね。今回人気順(4番人気)以上の着順を取れるかどうかは、かなり微妙じゃないのかな…と思うんだけど」
珠美:「さて、これでようやく折り返し地点ですね(笑)。次は5枠の2頭ですね。こちらはノボトゥルーの取捨選択がカギになると思うんですが……?」
駒木:「その通りなんだけど、まずはスマートボーイからね。前走の平安ステークスは久しぶりにこの馬らしい逃げ切りだったね。8歳とはいえ、まだまだ地力は健在みたいだ。ただ、再三言ってるように今回は逃げ馬にはとても不利なレースだからね。ちょっと辛い。
 で、次にノボトゥルーだね。このレースは2年前に勝ってて、去年は3着。これまで戦って来た相手関係を考えると、地力の上で2強に肉薄できる数少ない馬と言っていいんじゃないかな。
 でも、この馬にとってツイていないのは、今年は1600mじゃなくて1800mだってこと。1600mを超えると途端に成績が振るわなくなる馬だけに、今回も苦戦を強いられる事は間違い無さそうだね。ある程度までは健闘するだろうけど、果たして先頭まで突き抜けるだけの切れ味を繰り出せるかどうか。あとは皆さんのジャッジに任せよう。僕は掲示板以上馬券範囲以下だと考えてるけどね」
珠美:「このレースって、微妙な位置付けの馬が多いですね(苦笑)」
駒木:「まったくだ(苦笑)。困ったもんだよ、全くね」
珠美:「……それでは次、6枠の2頭についてお願いします」
駒木:「レギュラーメンバー、攻め馬走ったねぇ。栗東の坂路で49秒台とは大したもんだ。まだ馬体が戻りきってないとか話を聞くけど、少なくとも前走よりは随分と復調して来てるのは間違いないみたいだね。でも、この馬も逃げ馬。やっぱり展開の事を考えると強くは推せない。
 ハギノハイグレイドは随分と人気を落としたねぇ。まぁ確かにここ最近のスランプは酷いし、調教の動きもノって来ない。ちょっとレース使うのを止めてリフレッシュしてもらいたいところだね。一応、地力は3番手グループの一角なんだけど、今回は度外視しておきたい」
珠美:「次は7枠。ダート適性未知数なエイシンプレストンの取捨選択がポイントになりますね」
駒木:「ここも枠順に従ってディーエスサンダーから。オープンクラス復帰緒戦でG1とは思い切ったローテーションを組んだものだと思うけど、やっぱりここでは荷が重いかな。まずはクラス慣れからだね。
 で、エイシンプレストン。ダート経験は1回だけ、しかも芝ですら勝てなかったスランプ中の時の話だから全く参考にならない。デキは可もなく不可もなくだけど、芝を含めた実績ならメンバー中最右翼。本当に微妙だよなぁ(苦笑)」
珠美:「そうですよねー。で、どうしましょう?(笑)」
駒木:「ホント、どうしよう?(苦笑) まぁ、『走ってみなくちゃ分からない』って感じだから、押さえ馬券に買っておくくらいは良いんじゃないのかな。配当的にも結構魅力だし、イチかバチかの賭けなら向いているとは思うよ」
珠美:「わかりました(笑)。ま、本当に走ってみないと分からないことでしょうからね
 ……それでは最後に8枠の2頭をお願いします。共に実績のある馬ですね」

駒木:「ジャパンカップダート2着のリージェントブラフ。でも本質的には公営競馬場の力の要るダートが得意なんだよね。それに、そうそう何度も追い込みが決まるとは思えないんだけど…珠美ちゃんは△印打ってるのか(苦笑)」
珠美:「ハイペースですし、ここ最近の成績も振るってますからね。ちょっと期待してるんです」
駒木:「まぁそれも一つの考え方だね。僕は雨で湿って軽くなったダートでは、スピード不足に泣かされそうだと思って評価を下げたんだけど。
 で、最後は大外のアドマイヤドン。休み明けになるんだけど、調整は入念だし、デキ不足で息切れの心配は全く無いだろうね。実力も文句ナシ、しかも展開も絶好。ただし、2週前追い切りで引っ掛かってバテバテになったのが少し心配。大外枠だし、何とか折り合いをつけてくれれば良いんだけどね」
珠美:「……というわけで、以上で16頭の紹介も終わりましたし、最後に結論と買い目の方をお願いします」
駒木:「直線入口で抜け出すゴールドアリュールを、タイミングよく仕掛けたアドマイヤドンが急襲、そこへインをすくうプリエミネンスとイーグルカフェの差しが届くかどうか……といったところかな。怖いのはエイシンプレストンの大駆けなんだけど、馬券の対象からは泣く泣く外した。馬連で5-16、3-16、3-5、7-16の4点。3連複は止めておこう」
珠美:「私は、ゴールドアリュールが一気に抜け出した後、大外から差し馬が一斉に伸びて来る…という風に考えています。買い目は馬連で5-16、5-7、7-16、5-15、5-10、5-8の6点ですね
駒木:「じゃあ、長い講義になっちゃったし、そろそろ終わろうか」
珠美:「そうですね。ご苦労様でした」
駒木:「レース後の感想もお楽しみに(笑)」


フェブラリーS 結果(5着まで)
1着 ゴールドアリュール
2着 ビワシンセイキ
3着 イーグルカフェ
4着 カネツフルーヴ
5着 10 ハギノハイグレイド

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 愚痴を言う前に反省から。ビワシンセイキ様、お見それいたしました。貴方はG1戦線で戦うに充分な力を持っていると認めます。
 ……というわけで、次に愚痴(笑)。
 何だよ、アドマイヤドンのあのスタートは。落馬してないだけでレース終わってるじゃないかー。しかも2コーナーで被害馬として審議の対象になって……。予想してた展開利もクソもあったもんじゃないね。全く競馬になってないんだから、もうどうしようもない。
 そしてプリエミネンスだなぁ。見込み違いと言われたらそれまでだけど、4コーナーで一気に置かれちゃったのが納得いかない。流れに注文のある馬なのかな。
 まぁ、半分ミス、半分災難の敗戦だね。完敗だ。

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 随分と予想していた展開と違ってしまったんですけど、的中したので今日のところは喜びたいと思います(笑)。
 でも、私がG1で当てる馬券って、ちっとも配当が良くないんですよね(苦笑)。今日も6点目の押さえ馬券ですし……。幸運を頂けるなら、もう少しまとめてお願いしたいものです(笑)。

 


 

2月15日(土) 競馬学概論
「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(6)
第2章:ライブリマウント(後編)

※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)/ライブリマウント編(第4回第5回 

駒木:「いよいよライブリマウント編も今日で最終回だね」
珠美:「来週の講義はフェブラリーSの予想ですから、タイミングバッチリですね(笑)」
駒木:「企画段階では全くそんなつもりは無かったんだけどね(苦笑)。埋もれた馬を探してたら偶然こうなったって感じ。まぁ結果オーライって事でね。先週の僕の競馬の成績と同じだ(笑)」
珠美:「『当てた』じゃなくて『当たった』ってところですか(笑)」
駒木:「まぁそんな感じだね。……と、無駄口叩いてないで本題へ移ろうか。とりあえず今週も成績表をドン! ……と、出してくれるかな」
珠美:「ハイ。じゃあ、ドン!(笑)」

ライブリマウント号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

93.11.14

新馬戦

/14 石橋

(マヤノファンシー)

93.12.26 さざんか賞(500万下) /16 石橋

ビコーペガサス

94.01.15 寒梅賞(500万下) 3/12 石橋 エイシンオクラホマ
94.02.13 飛梅賞(500万下) /12 石橋 (ゴールデンジャック)
94.03.13 すみれS(オープン) 11/13 石橋 イブキテヂカラオー
94.04.24 葵S(オープン) 6/14 石橋 マルカオーカン
94.05.08 京都4歳特別(G3) 8/14 石橋 イイデライナー
94.06.11 北斗賞(900万下) /7 石橋 パリスケイワン
94.07.03 羊蹄山特別(900万下) /10 藤田 (フォスターホープ)
94.07.24 タイムズ杯(オープン) 4/10 藤田 マキノトウショウ
94.08.14 巴賞(オープン) /12 石橋 フォスターホープ
94.09.04 シーサイドオープン(オープン) /12 藤田 マキノトウショウ
94.11.26 花園S(1500万下) /16 石橋 (リドガイ)
94.12.17 ウインターS(G3) /16 石橋 (バンブーゲネシス)
95.01.16 平安S(G3) /8 石橋 (ヤグライーガー)
95.02.18 フェブラリーS(G2) /16 石橋 (トーヨーリファール)
95.04.13 帝王賞(重賞) /15 石橋 (アマゾンオペラ)
95.08.16 ブリーダーズGC(重賞) /9 石橋 (キソジゴールド)
95.10.10 南部杯(重賞) /10 石橋 (ヨシノキング)
95.12.21 東京大賞典(重賞) 4/16 石橋 アドマイヤボサツ
96.01.24 川崎記念(重賞) 3/10 石橋 ホクトベガ
96.03.27 ドバイワールドC 6/11 石橋 シガー
96.06.30 札幌記念(G3) 13/14 石橋 マーベラスサンデー
96.08.15 ブリーダーズGC(重賞) 8/10 石橋 メイショウアムール
96.09.07 シーサイドS 9/12 石橋 キョウトシチー
97.02.16 フェブラリーS(G1) 10/16 石橋 シンコウウィンディ
97.03.20 名古屋大賞典(重賞) 5/12 石橋 メイショウアムール
97.04.12 プロキオンS(G3) 15/16 石橋 バトルライン
97.05.03 アンタレスS(G3) 10/16 石橋 エムアイブラン
97.05.28 かしわ記念(G3) 9/11 石橋 バトルライン
97.06.24 帝王賞(G1) 11/12 南井 コンサートボーイ

珠美:「……前回は、ライブリマウント号の全盛期ということで、95年末の東京大賞典までをお話して頂きました。今日はその続きですね」
駒木:「そうだね。96年の川崎記念から引退レースになった97年の帝王賞までを追いかける事になるんだけど、ただ見ての通り、晩年のこの馬は余りにも寂しい成績でね。こういう場で話すべき内容がそれほど多いとは思えないんだ。だから、今日は96年3月の第1回ドバイワールドカップを中心にした話にしようと思ってるんだ」
珠美:「なるほど、分かりました」
駒木:「でもまぁ、一応は時系列に沿ってレースを追いかけていこう。珠美ちゃん、川崎記念から紹介よろしく」
珠美:「ハイ。南関東公営の川崎競馬場2000mコースで行われたこのレースに、既にドバイワールドカップの出走が内定していたライブリマウントが“本番前の一叩き”の意味でエントリー。単勝1.7倍の抜けた1番人気に支持されました」
駒木:「前走の東京大賞典で負けたとは言っても、適距離に戻ったら大丈夫だろうって認識だったんだね。ちょうど1年前、ライブリマウントがいくら勝ってもなかなか1番人気になれなかったのと丁度逆のパターンだ」
珠美:「しかし、このレースでライブリマウントはまたもや敗北を喫します。勝ったのはあのホクトベガで、2着のライフアサヒに5馬身差をつける圧勝。ライブリマウントはそのライフアサヒから更に1馬身遅れた3着でした」
駒木:「いよいよピークが過ぎちゃったか? …って感じになったかな、さすがにね。『こんなんで、ワールドカップは大丈夫かいな』ってところ。
 ちなみに、ホクトベガはこの時明け5歳。前の年には伝説になった18馬身差の圧勝のエンプレス杯があったんだけど、本格的なダート路線転向はこのレースから。そしてこの後は、悲劇的な最期を遂げる翌年のドバイワールドカップの直前までダート重賞10連勝という大記録を伸ばし続ける事になるんだよね。
 ……まぁ、今から考えると、このレースで日本ダート最強馬のバトンタッチをしていたって事になるんだろうね。当時はまだホクトベガがどこまで強いのか判っていなかったけれども」
珠美:「そして、いよいよドバイワールドカップですね。今では年に一度の大イベントとして定着した感がありますけど、ライブリマウントが出走した時はまだ第1回ですよね。このレースが計画されてから実際にレースとして開催されるまで、色々とあったと思うんですが……」
駒木:「そうだね。じゃあ、その辺りの出来事も含めて話していこうかな。ではまず、レースの成り立ちについてから話してみよう。
 このレースは文字通り、ドバイ──西アジア・アラブ首長国連邦(UAE)のレースだね。──何だか、『学校で教えたい世界史』やってるみたいだな(笑)」
珠美:「(笑)」
駒木:「……で、この国はそれまで国際的な競馬が行われていない砂漠の国だったんだけど、その代わり、世界一の馬主がいて、その所有馬たちの“基地”があったんだ。
 その馬主っていうのは、UAEの王族・シェイク=モハメド殿下。あの青一色の勝負服でおなじみのゴドルフィンの実質的オーナーでもある人でね。1980年代からかな、国家事業の石油採掘で得た収益金を使って、とにかく世界中から凄い馬を買い漁ったり自分でも生産したりして、そして生産馬をまた世界中に派遣して、大レースという大レースを根こそぎ勝っていった…というとにかく凄い人。使い切れない程の金がある人の道楽って凄まじいよね(笑)。
 ……で、そのモハメド殿下が、今度は『自分の国でも凱旋門賞やブリーダーズCのような世界を代表するレースを開催したい』と考えた。これまた凄い話だよね(笑)。で、その結果創設されたのがこのドバイワールドカップってわけ」
珠美:「個人で世界一の大レースを作ってしまったわけですか(笑)」
駒木:「呆れるしかないよね(苦笑)。……まぁそういうわけで、モハメド殿下はあらかじめ砂漠のど真ん中にナドアルシバ競馬場を建設しておいて、『ここでワールドカップ開きますから、世界中のホースマンの皆さん、馬連れて来てくださ〜い』…って告知を出した」
珠美:「でも、そんなに簡単に世界中から馬が集まるものなんですか?」
駒木:「さぁそこだ。現在の国際レースのルールとして、最低2年間はどんなレースも国際的にはノーグレード、つまり正式な国際重賞競走とは認めてもらえない…というものがる。これはレースの国際グレードが、そのレースの過去2年で上位4頭に入った馬の国際フリーハンデの平均値を元にして決定されるからなんだけどね。
 だからこのドバイワールドカップも、第1回から最低2回は“国際オープン特別”として行わなければならない。つまり、レースの格で世界中の名馬を引き寄せる事は不可能だったんだ」
珠美:「はぁー、そうだったんですねー」
駒木:「だから、馬集めには名誉じゃなくて実用的なモノで釣らなければならなかった。要はだね(笑)。招待した馬と人はアゴアシ付きで、しかも1着から6着までに出す賞金の総額は世界一にしちゃった。具体的な金額を出せば1着賞金240万米ドル、総額400万米ドル。今はもっと上がってるけどね。他の大レースの賞金額に抜かされそうになる度に賞金を釣り上げてるから(笑)。
 で、後は世界中に張り巡らされたモハメド殿下のコネというコネを使いまくって、“営業活動”を続けて行った。その結果、他の世界的大レースと日程を出来るだけズラしたというのも良かったのか驚くほど凄いメンバーが集まったんだよ」
珠美:「こちらに出走馬の資料がありますので紹介しますね。
 ……まずダート競馬の本場・アメリカ合衆国からは3頭。これは南北アメリカ大陸代表という扱いでした。
 中でも注目を集めたのは、前年のブリーダーズカップ・クラシック勝ち馬で、G1レース10勝、しかも当時13連勝中と、「世界一のダートホース」の名を欲しいままにしていたシガー。中間に挫石するトラブルがあったのですが、なんとか出走に漕ぎ着けました」

駒木:「まさに目玉中の目玉だったね。この馬を呼んで来た時点で、このレースの成功と将来は約束されたようなものだった。主催者サイドも相当な働きかけをしたようだけどね」
珠美:「この他のアメリカ代表馬はルキャリエール、ソウルオブザマター。共にアメリカ競馬の第一線で活躍している超一流馬でした。
 ヨーロッパ地区代表はイギリスから2頭。そのうち有力と言われていたのが、現在日本で種牡馬としてお馴染みのペンタイア。この頃の芝世界最強馬と言われたラムタラのライバルとして活躍し、自身もアイルランドのチャンピオンSなどのG1タイトルがあります。
 オセアニア地区代表は1頭で、オーストラリアのデーンウイン。G1レースを5勝した他、ジャパンCへの出走経験もありましたから、名前をご記憶の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 そしてアジア地区代表がライブリマウント。経歴はこれまで博士にお話して頂いた通りなんですが、このレースでの前評判はどうだったんでしょうか?」

駒木:「ぶっちゃけた話、単勝オッズは最低人気だった(苦笑)。UAEはイスラム教国だから馬券は売らないんだけど、イギリスのブックメーカーが馬券を売っててね。資料によると、81倍から101倍ってところだったらしい。向こうの感覚で言うと、『こんな馬来るかよ、バカ』ってところだろうね(苦笑)」
珠美:「あらら、それは……」
駒木:「まぁ、これが日本馬のダート競馬・国際デビュー戦だったからね。当時は芝のレースですら、『日本馬は地元では互角だが、アウェイでは不利』っていうのが一般的認識だったし、これはまぁ仕方ない。
 ほら、第1回のジャパンカップにインド代表がいたじゃない。“インドのシンザン”オウンオピニオン。海外の関係者にしてみれば、ライブリマウントもオウンオピニオンと大差無かったのかも知れないね。“日本のシガー”ってところか(笑)」
珠美:「……そして、迎え撃つUAE代表が4頭。有力と言われていたのはアメリカ産のホーリングで、イギリスのG1を2勝していました。ダート競馬での能力には疑問が残っていたものの、鞍上にデットーリ騎手を迎えて万全の体制でレースに臨んでいました。この他、“アラブの秘密兵器”と噂されていたタマヤズなどを含めて、以上11頭でレースが行われました」
駒木:「この他、ギリギリで出走を回避した馬の中にも、アメリカのデアアンドゴーとかフランスのペニカンプみたいな超一流馬がいて、文字通りワールドカップと言うに相応しいレースになった。凄いよね。使える資金が潤沢だったからこそなんだろうけど、この営業力の少しでもJRA関係者にあれば、ジャパンカップももう少し良いメンバーが揃うと思うんだけどなぁ(苦笑)」
珠美:「……それでは、いよいよレースの内容ですね。レースはアメリカのルキャリエールがハナを切ったんですが、そのすぐ後ろにライブリマウントがマークする形になりました。積極的なレース振りですね」
駒木:「こういう場合、作戦は2つ。とにかく積極的に行って、イチかバチかの大番狂わせを狙うか、シンガリで脚を貯めて上位入着を目指すか。この時は前者だね。良い度胸してるよなぁ(笑)」
珠美:「その後ろにデーンウインとホーリングがいて、シガーはその2頭を前に置いた5番手。他の有力馬は中位からやや後方に待機というレースでした。
 しかし勝負所からはシガー、そしてソウルオブザマターが進出して来て、直線半ばからはマッチレースの様相。そんな中、ライブリマウントはバテながらも必死に入着圏内をキープしようとします

駒木:「結局、勝ったのはシガー。ソウルオブザマターに一度並ばれたところをゴール前に差し返して、逆に半馬身差をつけた。これで14連勝達成なんだけど、恐ろしいレース振りだよ、まったく。
 実はこの馬、引退後に種牡馬入りしてみたら生殖能力が無いことが判って、結局1頭も産駒を残せないまま隠居してしまったんだけど、今考えても実に惜しいよねぇ」
珠美:「ライブリマウントはギリギリ賞金圏内の6着でした」
駒木:「ついた着差が18馬身3/4。でも一応は勝ちに行ったレースなんだから、よく粘ったとも言えるんじゃないかな。
 さっき、オウンオピニオンの話を出したけど、ライブリマウントがオウンオピニオンと違う所は、ちゃんと最低限の結果を出して後輩たちに道を開いてあげたところ。もし、ライブリマウントが大差でブービーやシンガリに負けていたら、ひょっとしたら次の年から何年も日本の馬は出走出来なくなっていたかもしれない。そういう意味では値千金の6着入着と言ってあげたいね、僕は
珠美:「こうして、ライブリマウントの最初で最後の海外遠征は終わりました。この後、ライブリマウントは休養を挟んで国内戦線に復帰するのですが、今度は考えられないくらいの大スランプに陥ってしまいます……
駒木:「成績は一覧表をご覧の通りだね。ホクトベガがかつてのこの馬のように大活躍をしている中、そしてホクトベガが非業の死を遂げた後も我慢強く現役生活を続行したんだけれども、遂にかつての輝きを取り戻す事は出来なかった。最終的には辞め時を逸してしまった…という事になるんだろうねぇ。こういうフェードアウトの仕方って、辛いよねぇ。それまでどれだけ頑張っていても、物凄く印象悪くなっちゃうしね」
珠美:「……引退した後は種牡馬入りを果たしましたが、産駒にもそれほど恵まれていない感じですか?」
駒木:「そうだねぇ。今だと芝もG1クラスでこなすクロフネとかアグネスデジタルみたいな馬がいるからねぇ。まぁせめて静かで幸せな余生を、そしてこの馬の栄光が後々まで語り継がれる事を祈りたいね
珠美:「この講義がそのきっかけになれば嬉しいですね」
駒木:「そうだねぇ。大それた希望だとは思うけどね(笑)」
珠美:「……それでは、今日の講義は終了ですね。来週はフェブラリーステークスの予想ですか?」
駒木:「役に立たない予想するくらいなら、埋もれた名馬を掘り返した方が良いような気がして来たなぁ(笑)。でもまぁ努力は惜しまず、予想の方を頑張ってみるよ」
珠美:「私も頑張ります。それでは、お疲れ様でした」
駒木:「ご苦労様」 (この項終わり/次回へ続く

 


 

2月8日(土) 競馬学概論
「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(5)
第2章:ライブリマウント(中編)

※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)/ライブリマウント編(第4回

駒木:「はい、今年に入ってから全く馬券が当たらず、『こんな講義してるヒマあったら、キッチリ予想しろ』と言われそうな駒木です」
珠美:「博士、また自虐的な事を……(苦笑)」
駒木:「最近、言われそうな文句を先に言うクセがついちゃってね(笑)。……まぁいいや、時間も無いし、さっさと本題に移ろう」
珠美:「…ハイ。今日も交流競走時代初期の名ダート馬・ライブリマウント号の現役時代を追いかけてゆきます。まずは改めて同馬の成績表をご覧下さい」

ライブリマウント号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

93.11.14

新馬戦

/14 石橋

(マヤノファンシー)

93.12.26 さざんか賞(500万下) /16 石橋

ビコーペガサス

94.01.15 寒梅賞(500万下) 3/12 石橋 エイシンオクラホマ
94.02.13 飛梅賞(500万下) /12 石橋 (ゴールデンジャック)
94.03.13 すみれS(オープン) 11/13 石橋 イブキテヂカラオー
94.04.24 葵S(オープン) 6/14 石橋 マルカオーカン
94.05.08 京都4歳特別(G3) 8/14 石橋 イイデライナー
94.06.11 北斗賞(900万下) /7 石橋 パリスケイワン
94.07.03 羊蹄山特別(900万下) /10 藤田 (フォスターホープ)
94.07.24 タイムズ杯(オープン) 4/10 藤田 マキノトウショウ
94.08.14 巴賞(オープン) /12 石橋 フォスターホープ
94.09.04 シーサイドオープン(オープン) /12 藤田 マキノトウショウ
94.11.26 花園S(1500万下) /16 石橋 (リドガイ)
94.12.17 ウインターS(G3) /16 石橋 (バンブーゲネシス)
95.01.16 平安S(G3) /8 石橋 (ヤグライーガー)
95.02.18 フェブラリーS(G2) /16 石橋 (トーヨーリファール)
95.04.13 帝王賞(重賞) /15 石橋 (アマゾンオペラ)
95.08.16 ブリーダーズGC(重賞) /9 石橋 (キソジゴールド)
95.10.10 南部杯(重賞) /10 石橋 (ヨシノキング)
95.12.21 東京大賞典(重賞) 4/16 石橋 アドマイヤボサツ
96.01.24 川崎記念(重賞) 3/10 石橋 ホクトベガ
96.03.27 ドバイワールドC 6/11 石橋 シガー
96.06.30 札幌記念(G3) 13/14 石橋 マーベラスサンデー
96.08.15 ブリーダーズGC(重賞) 8/10 石橋 メイショウアムール
96.09.07 シーサイドS 9/12 石橋 キョウトシチー
97.02.16 フェブラリーS(G1) 10/16 石橋 シンコウウィンディ
97.03.20 名古屋大賞典(重賞) 5/12 石橋 メイショウアムール
97.04.12 プロキオンS(G3) 15/16 石橋 バトルライン
97.05.03 アンタレスS(G3) 10/16 石橋 エムアイブラン
97.05.28 かしわ記念(G3) 9/11 石橋 バトルライン
97.06.24 帝王賞(G1) 11/12 南井 コンサートボーイ

駒木:「先週はデビューから3歳9月のシーサイドオープンまで話をしたんだよね」
珠美:「そうですね。デビュー戦の圧勝から芝戦線での停滞、そして本格化する直前までを振り返っていただきました」
駒木:「今日採り上げる範囲は、全盛期のライブリマウントってことになるね。3歳11月からの7連勝と、その直後、まさかの惨敗を喫した東京大賞典までの話をする事になるね。
 中でも詳しく採り上げたいのが、7連勝中のラストにあたる南部杯。恐らく日本競馬最後のローカル・チャンピオンになるだろう、トウケイニセイという馬のエピソードも絡めながら講義を進めていこうと思う」
珠美:「……
分かりました。それではよろしくお願いします。
 ──ではまず、休養明け緒戦の準オープン戦・花園ステークスから。この1800mのレースを、中位待機から4コーナーで進出してゆくという余裕たっぷりのレースで差し切り勝ち。ここから華々しい7連勝がスタートすることになります」
駒木:「ポイントは、ここからライブリマウントの戦法がマイナーチェンジされているところだよ。以前のライブリマウントは、どちらかと言うと先行ジリ脚タイプだったんだけど、このレースを境に中位から後方に待機して、3コーナーからロングスパートするようになった」
珠美:「(詳細な成績表を見ながら)……あ、本当ですね。連勝が始まる前と後では道中の位置取りが少し違いますものね。
駒木:「まぁ、後に公営競馬に出走するようになってからは先行のレースに戻るんだけどね。でもこれは脚質転換というより、出走馬の実力差が大きすぎて、自然と先行する形になってたんだけど」
珠美:「……でも博士、これだけで随分と走り振りが違って来るものなんですねー」
駒木:「まぁ、理由はそれだけじゃないだろうけどね。でも、ちょっとした走り方や騎手の御し方の違いで成績が随分と違って来る事はよくあるんじゃないのかな。ほら、例えば珠美ちゃんが大好きだったステイゴールド。武豊騎手が乗った時の末脚は、他の騎手が乗った時とは雲泥の差があっただろう?」
珠美:「あ、なるほどー……」
駒木:「だから、ライブリマウントはこの頃に自分の脚の使い方っていうか、能力の発揮の仕方を覚えたんだろうね。主戦の石橋騎手も完全にこの馬を手の内に入れたのか、勝ち方に無駄が無くなってる。どのレースも0.3秒以内の着差で、キッチリ差し切っているか、抜け出してから余裕を持って粘り込ませているか。……こう言っちゃアレだけど、普段の石橋騎手からは想像も出来ない緻密さだよね(苦笑)」
珠美:「えー、その件に関しましては、私からはコメントを控えさせて頂きます(苦笑)。……そして、オープン入りを果たしたライブリマウントは、当時数少なかったJRAのダート重賞競走を1つ1つ狙い撃ちしてゆきます
 まず12月に冬の中京開催のウインターステークス(G3)、次に年が変わって1月京都の平安ステークス(G3)、そして2月には当時G2競走ながら、ダートレース最高グレードの競走だったフェブラリーステークス。コースも距離もバラバラなんですが、全部同じような勝ち方で3連勝を飾ってしまいました。凄いですねー」

駒木:「コースが違うって事はダートの質も違うわけだからねぇ。例えば京都のダートは軽いんだけど、冬の東京は湿気を含んで砂が重くなる。で、距離が1600mから2300mだもんなぁ。どうもこの馬は本質的にはマイラーだったみたいなんだけど、それで2300mもこなすわけだから感服するね。今ほどダート戦線の層が厚くなかったといっても大したもんだと思うよ」
珠美:「あら? でも博士、この3レースともライブリマウントは2番人気なんですね」
駒木:「そう。ウインターと平安はバンブーゲネシスが、フェブラリーはフジノマッケンオーが1番人気だったんだよ。どっちも前からダート重賞で実績があった馬だったから仕方ないとは言えるけどね。でも、フェブラリーステークスで完勝してから周囲もようやくこの馬がNo.1ダートホースだという事を認めるようになった
 だから、本当の意味で“王者・ライブリマウント”としてのビクトリー・ロードが始まったのはここからってわけだね」
珠美:「こうしてJRAのダート・チャンピオンとなったライブリマウントは、今度はこの年から本格的に開始した中央・地方交流競走へと矛先を向けるようになります」
駒木:「全国各地の公営競馬場に道場破りしに行く感覚だね(笑)。
 ……というのも、当時は公営競馬同士の交流競走もあまり無かったから、全国各地に競馬場ごとのチャンピオン・ホースがいるって感覚だったんだよね。で、ライブリマウントは中央競馬のローカル・チャンピオンとして、全国各地のチャンピオンたちに戦いを挑みに行ったってわけだ」
珠美:「そんなライブリマウントの“道場破り”の1箇所目は、いきなり公営競馬の最高峰・大井競馬場でした。以前から中央競馬との交流競走として伝統を築いていた大レース・帝王賞にエントリーしました」
駒木:「今でも春の大一番だよね、帝王賞は。で、この時の相手は南関東のチャンピオン・アマゾンオペラ。その後にアブクマポーロとかトーシンブリザードとかが出て来ちゃったんで、今では影が薄いんだけど、それでも立派なチャンピオン・ホースだよ」
珠美:「そのアマゾンオペラも、全盛期のライブリマウントには敵いませんでした。ライブリマウントは『大井は先行有利』のセオリー通りに3コーナーで先頭に立つと、アマゾンオペラの追撃を悠々と完封して5連勝を達成します」
駒木:「密度の濃い5連勝だよねぇ(笑)。今だったらどれだけ話題になるか分からない。……ていうか、この時も話題にはなったんだけど、別の地方にもう1頭強い馬がいたからね。『日本一を名乗るなら、この馬を倒してから名乗れ!』……って感じだったかな」
珠美:「それがこの後に登場する、岩手のローカル・チャンピオン・トウケイニセイというわけですね」
駒木:「そういう事だね」
珠美:「では、そこまで話を進めてゆきましょう。…この後ライブリマウントは再び4ヶ月の馬体調整休養を摂り、今度は8月のブリーダーズゴールドカップに出走します」
駒木:「これはホッカイドウ競馬の大一番だね。今あるジャパン・ブリーダーズカップの原型のようなレースで、アメリカのブリーダーズカップみたいなのを日本でもやろうっていう試みのレースだった。体制が整う前に馬産地に大不況がやって来て計画倒れになっちゃったんだけどね(苦笑)」
珠美:「このレースでは残念ながら道営や他地区の主力クラスが欠場してしまったため、JRA所属馬の争いになってしまいました。そして、この時のライバルはキソジゴールド。大変遅い出世の後にダートの強豪に昇り詰めた馬だったんですが、この時はライブリマウントが終始先行して完勝しています」
駒木:「キソジゴールドは、この後旧表記9歳……だから8歳になってG2のオグリキャップ記念を勝ったりするほどの強い馬だったんだけど、この時は相手が悪かったねぇ」
珠美:「これでライブリマウントは6連勝。そしていよいよ、この馬の道場破りも最終関門となりました。岩手は水沢競馬場の南部杯。迎え撃つは先ほどから何度も登場しています、トウケイニセイです」
駒木:「ここで簡単にトウケイニセイの経歴を紹介しておこうか。
 トウケイニセイは父トウケイフリートという、生粋の“岩手血統”で、当然デビューも岩手県競馬だった。ただ、2歳9月にデビュー勝ちを収めた直後に重度の屈腱炎にかかってしまって、それから1年半を棒に振る。よくぞ1年半も引退させずに待ち続けたもんだと思うけど、それだけ期待されていたんだろうね。
 復帰は4歳の4月。で、ここからトウケイニセイは18連勝というとんでもない記録を樹立する」
珠美:「18連勝ですか。凄い話ですねー」
駒木:「まぁ、これには少しカラクリがあるんだけどね(苦笑)。復帰直後のトウケイニセイはそれまでの経歴が1戦1勝だから、当然最下級条件からの出発になるよね。で、公営競馬はクラス分けが細かいから下級条件の馬は本当に弱いんだけど、その代わりに賞金も低いから出世に時間がかかるってわけ。
 だから、こういう高い素質を持った馬が最下級条件から出発した場合、自然と連勝記録が伸びる事になる。中央競馬なら、未勝利戦から始まる各条件をそれぞれ4〜5回走る感覚かな」
珠美:「それでも凄いと思うんですけど、私は(笑)」
駒木:「まぁね。勝ち続けるってのはそれだけで凄い事だし、トウケイニセイは屈腱炎が燻った状態のまま戦っているわけだから、調教もロクに出来ない状況だったんじゃないのかな。結局、トウケイニセイは岩手から一歩も出ないままで競走生活を終えるんだけど、その理由に『中央の芝や他の競馬場では脚元に負担がかかるから、怖くて出せない』というのがあったと思うよ」
珠美:「それは本当に凄い話ですね」
駒木:「だからライブリマウントが重賞5連勝しても『まだまだ』なんだよ(笑)。 
 ……で、トウケイニセイはその後1回だけ不覚を取って2着に負けた他はトントン拍子で出世してオープン入りを果たす。それからはモリユウプリンスっていうライバル馬にも恵まれて、実績を積む一方で人気も急上昇。たちまち岩手のアイドル・ホースになっていったんだよ。
 で、この南部杯を迎えた時点でのトウケイニセイの戦績は41戦38勝。しかも2着3回でオール連対だ。岩手ローカルとは言え、重賞勝ち鞍も11を数える。まさに最強のローカル・チャンピオンと言っていいだろうね。
 ただ、惜しむらくは交流競走の開始がこの馬にとっては遅すぎた。何しろ、この時──ライブリマウントの挑戦を受けた時には8歳(旧表記9歳)だったわけだからね。まだこの時もバリバリの現役だったとは言っても、やっぱりギリギリのレヴェルでは衰えが始まっていただろうからね」
珠美:「その博士がおっしゃる『ギリギリレベルの衰え』が出てしまったのでしょうか。この南部杯はライブリマウントが1着、トウケイニセイは精彩を欠いて3着に終わります。トウケイニセイにとっては42戦目での連続連対記録ストップでした」
駒木:「この時の公営競馬ファンの失望ぶりったら無かった。精神的支柱が崩れちゃったわけだからね。まぁ確かに、1つの時代が終わりを告げた象徴的なレースだったね。
 ちなみに、トウケイニセイはこの後、岩手ローカル重賞の桐花賞を引退レースに選んで、見事有終の美を飾っているよ。最終成績は43戦39勝、2着3回3着1回、そして重賞12勝。本当に偉大な馬だった」
珠美:「こうして、誰もが認めるダートの王者となったライブリマウントですが、残念ながらと言うか、これが現役生活の中におけるピークだったようです。
 この後に出走した年末の大一番・東京大賞典で、ライブリマウントは1年3ヶ月ぶりの敗北を喫します。3着でした」

駒木:「苦労してチャンピオンになって、せっかくこれから防衛を重ねようって時にねぇ。今から考えたら距離がいかにも長すぎるんだけど(当時の東京大賞典は2800m)、それまで全く弱みを見せなかった馬がコロリと負けたもんだから、動揺は隠せなかったね。ここと、次の川崎記念を勝っておけば、これほど『埋もれた名馬』になる事は無かったと思うんだけど」
珠美:「……というところで、続きは次回と言うことですね?」
駒木:「そうだね。来週は第1回のドバイワールドカップの話を中心に講義を進める事にしようかな。じゃあ講義を終わります。珠美ちゃん、ご苦労様」
珠美:「ハイ、お疲れ様でした」 (次回へ続く

 


 

2月1日(土) 競馬学概論
「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(4)
第2章:ライブリマウント(前編)

 ※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)

駒木:「さて、今週から新章に突入だ」
珠美:「採り上げる馬はライブリマウントですね。こんな事を言ったら叱られるかも知れませんが、確かにこの講義にピッタリの競走馬という気がします(笑)」
駒木:「この馬と入れ替わるように天下を獲ったホクトベガの方が何かと有名になっちゃったからね。でも、誰が何と言おうと、この馬が交流競走時代の“初代ダート無差別級王者”である事は間違いないところだよ。『この馬を語らずしてダート競馬を語る事無かれ』…ってところかな。まぁそんな事を言い出したら、オールドファンの皆さんに『アンドレアモンは?』とか、『おいおいフェートノーザンを忘れとるぞ』とか言われてしまいそうだけどね(苦笑)」
珠美:「マイナーだった時代のダート競馬に思い入れのある方って、結構いらっしゃいますものね」
駒木:「そうだね。僕もそうだけど、マイナーなものに思い入れが出来てしまうって人、割と多いんだよね。
 で、このライブリマウントって馬は、ちょうど競馬界が業界ぐるみでダート競馬をメジャーなものにしようと働きかけ始めた頃にピークを迎えた馬ってことになるのかな。ダートがマイナーだった時代の最後のチャンピオンであり、メジャーになった時代の最初のチャンピオンであり…ってところかな」
珠美:「……ではここで、ライブリマウント号の全成績を、例によって一覧表で振り返っておきましょう」

ライブリマウント号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

93.11.14

新馬戦

/14 石橋

(マヤノファンシー)

93.12.26 さざんか賞(500万下) /16 石橋

ビコーペガサス

94.01.15 寒梅賞(500万下) 3/12 石橋 エイシンオクラホマ
94.02.13 飛梅賞(500万下) /12 石橋 (ゴールデンジャック)
94.03.13 すみれS(オープン) 11/13 石橋 イブキテヂカラオー
94.04.24 葵S(オープン) 6/14 石橋 マルカオーカン
94.05.08 京都4歳特別(G3) 8/14 石橋 イイデライナー
94.06.11 北斗賞(900万下) /7 石橋 パリスケイワン
94.07.03 羊蹄山特別(900万下) /10 藤田 (フォスターホープ)
94.07.24 タイムズ杯(オープン) 4/10 藤田 マキノトウショウ
94.08.14 巴賞(オープン) /12 石橋 フォスターホープ
94.09.04 シーサイドオープン(オープン) /12 藤田 マキノトウショウ
94.11.26 花園S(1500万下) /16 石橋 (リドガイ)
94.12.17 ウインターS(G3) /16 石橋 (バンブーゲネシス)
95.01.16 平安S(G3) /8 石橋 (ヤグライーガー)
95.02.18 フェブラリーS(G2) /16 石橋 (トーヨーリファール)
95.04.13 帝王賞(重賞) /15 石橋 (アマゾンオペラ)
95.08.16 ブリーダーズGC(重賞) /9 石橋 (キソジゴールド)
95.10.10 南部杯(重賞) /10 石橋 (ヨシノキング)
95.12.21 東京大賞典(重賞) 4/16 石橋 アドマイヤボサツ
96.01.24 川崎記念(重賞) 3/10 石橋 ホクトベガ
96.03.27 ドバイワールドC 6/11 石橋 シガー
96.06.30 札幌記念(G3) 13/14 石橋 マーベラスサンデー
96.08.15 ブリーダーズGC(重賞) 8/10 石橋 メイショウアムール
96.09.07 シーサイドS 9/12 石橋 キョウトシチー
97.02.16 フェブラリーS(G1) 10/16 石橋 シンコウウィンディ
97.03.20 名古屋大賞典(重賞) 5/12 石橋 メイショウアムール
97.04.12 プロキオンS(G3) 15/16 石橋 バトルライン
97.05.03 アンタレスS(G3) 10/16 石橋 エムアイブラン
97.05.28 かしわ記念(G3) 9/11 石橋 バトルライン
97.06.24 帝王賞(G1) 11/12 南井 コンサートボーイ

珠美:「ライブリマウントは、結局G1タイトルは獲得できなかったんですよね……」
駒木:「そうだね。今のグレードを当てはめたらG1レース3勝ってことになるんだけどね。巡り合わせが悪いと言うか、何と言うか……。
 中央・地方間の交流レースが本格的に始まったのが95年からなんだけど、ダートグレード競走の制度が完成したのは97年4月。しかもライブリマウントの全盛期には、中央のダート重賞ではフェブラリーSのG2が最高で、まだG1レースは無かったんだよね。
 まぁ、それよりもう少し昔になると、中央のダート重賞はG3レース3つだけで、地方競馬の交流レースも大井の帝王賞と道営競馬のブリーダーズゴールドCくらいしか無かったから、それを考えると多少はマシだと言えなくも無い。
 ……だから、ライブリマウントの走った時代は本当に過渡期なんだよ。ダート競馬の全てが変わろうとしていた時代ってところかな」
珠美:「この馬が出走した96年のドバイワールドCも、その年が第1回でしたものね」
駒木:「そうそう。今じゃ当たり前のように年中行事化してるけど、その頃は開催する事自体が驚きだったんだよね。第1回って事で国際格付けもついてなかったし。
 ……まぁその辺の話はおいおいする事にして、とりあえず今日は、ライブリマウントがデビューしてから本格化する直前までを振り返ることにしよう。ただし、ビワハヤヒデの時と違ってレース数が多いから、端折るところは端折らせてもらうけどね」
珠美:「ハイ。それではデビュー戦となった新馬戦から振り返っていきましょう。ライブリマウントのデビュー戦は2歳11月の京都開催。血統がダート向きということで、ダート1400mでのデビューとなりました」
駒木:「父親がグリーンマウント、母親が公営下級条件のシナノカチドキだからね。この時点での種牡馬成績を見ると、ダート向きというより『芝がダメ』と言った方が正しかったかも知れない。まぁ妥当な選択だと思うよ。兄弟の多くが中央勝ち馬だったから中央デビューだったんだろうけど、地方競馬スタートになってもおかしくない血統だよね」
珠美:「…で、そのデビュー戦ですが、泥が飛び交う不良馬場をものともせずに、2着に10馬身の大差をつけて1番人気に応えます
駒木:「勝ち時計(1分24秒7)も、新馬戦の標準より随分と早いね。本格化するのは随分後だったんだけど、やっぱり素質の片鱗はこの頃から窺えたってわけだ。
 でも当時は『でもダートだからなぁ』…っていうのが、どうしても先に来るって言うかね。だから当時はそれほど注目された馬というわけではなかった」
珠美:「デビュー2戦目は年末の500万条件特別・さざんか賞でした。しかし、今度はライブリマウントが0.9秒差で2着に完敗します。勝ったのは、後に短距離のG1戦線で活躍することになるビコーペガサスでした」
駒木:「後にビコーペガサスはG1になったばかりのフェブラリーSに出走するんだけど、その時の最大のウリが、『デビュー2戦目でライブリマウントに圧勝!』って内容だったんだよ。まぁ、まだお互いに完成前の段階で争ったレースだけを評価するなんて、かなり乱暴な論法なんだけどね。それでもいくらか説得力が有ったんだから、ある意味立派な敗戦だったと言えるかも知れないね(笑)」
珠美:「この後のライブリマウントは、軽くソエ(成長途上で見られる軽い骨膜炎)が出て順調さを欠いたそうです。年明けの寒梅賞で3着に敗れます。でも、そのソエが治まった翌月の飛梅賞では後のオークス2着馬・ゴールデンジャックを完封して、3戦でこの条件を卒業してオープン入りしました。ちょっと足踏みしましたが順調な出世と言えるのではないですか?」
駒木:「そうだね。ただ、この時代のダート馬はここからが大変なんだよ。オープンに入ったらダート馬としての目標が無くなっちゃうんだな。今だったらジャパンダートダービーとか、いくらでもビッグ・レースがあるんだけど、当時は申し訳程度にオープン特別がチョボチョボあるくらいで、オープン入りした馬はとりあえずクラシックを目指さなくちゃならなかった」
珠美:「そうですね。実際のライブリマウントもここから芝戦線へと転じてクラシックを目指すことになります。でも、出走したレースがなんだか遠慮がちだと思えるのは私だけですか?(苦笑)」
駒木:「いや、珠美ちゃんの言う通りだと思うよ。こう言っちゃなんだけど、凄く遠慮してる(笑)。普通、ダートでもここまでまとまった成績でオープンに上がって来たんだから、ダメモトで重賞レースに挑戦してもいいと思うんだけどね。まぁ、芝の適性が無いのは文字通り折紙付きだから、この辺りは『使えるダートのレースが無いんで渋々』っていうところだったんだろう。8着以内に入ってカイバ代だけでも稼いでくれればって感覚だったんじゃないのかな」
珠美:「ライブリマウントは結局芝のレースを3回使うんですが、それぞれ11着、6着、8着と全て1秒以上の大差で完敗しています。でも博士のおっしゃる通り、賞金は少しずつ獲得しているんですね(笑)」
駒木:「オープン特別6着と重賞8着だから、両方で300万強かな。出走手当足したら400万円以上。馬主孝行な馬だなぁ(笑)」
珠美:「……そういうわけで、クラシック戦線でのライブリマウントは少し残念な結果に終わりました。それからは古馬との混合戦がある北海道開催へ転じて、中級条件戦からダート戦線へ復帰する事になります
駒木:「まだ中央開催が残ってるってのに、1回札幌開催の初日から参戦してるものね。もうなりふり構わずっていうか、妥協の余地なしっていうか(苦笑)。よほどダートに使いたかったんだろうね。まぁ、それは極めて正しい決断だったんだけれども」
珠美:「北海道開催は、この時期では厳しい古馬相手のレースになるのですが、ライブリマウントは互角以上に奮戦します。転戦緒戦の900万下(現:1000万下)特別の北斗賞2着の後、中2週で臨んだ羊蹄山特別では3歳馬としては高めの55kgのハンデを背負って1番人気で快勝。それからはレース数の少ない準オープンには目もくれず、果敢にオープン特別へ挑戦してゆきます」
駒木:「当時は交流競走も無かったし、重賞も少なかったから、オープン特別と言っても今とは値打ちが若干違ったはず。まぁ、ダート馬全体の層もそれほど分厚くなかったんで多少相殺しなくちゃならないけど、今の統一G3以上レヴェルはあったんじゃないかなと思うよ。文字通りの格上挑戦だね」
珠美:「ライブリマウントの古馬オープン挑戦は中2週、中1週、中3週というハードスケジュールだったんですが、斤量面に恵まれた事もあってか、それぞれ4着、2着、2着と健闘します」
駒木:「一言で言って上出来。それに尽きるね。でもまだこの時は全盛期とは比べるべくもない程度の完成度だった。それがこの後の数ヶ月でガラっと変わっちゃうんだから、馬って面白いよね」
珠美:「ハイ。先ほど博士がおっしゃったように、ライブリマウントはシーサイドオープン2着を最後に3ヶ月の馬体調整休養に入ります。デビュー以来10ヶ月間で12戦使い詰ということで、厩舎に置いたまま一度リフレッシュされたみたいですね」
駒木:「若い競走馬が少し休んでいる間に突然大きく成長する事がたまにあるんだけど、この時のライブリマウントもちょうどそんな感じ。この休養が明けた直後からライブリマウントの短くも栄光に満ち溢れた全盛期が幕を開ける事になるんだけど……」
珠美:「続きはまた来週、ですね(笑)」
駒木:「そういう事。今日はちょっと内容的に薄くてアレだったかも知れないけど、次回からは中身も濃くなるよ。とりあえず来週は7連勝中のライブリマウントを追いかける事になるのかな。ワールドカップは再来週だ」
珠美:「……ハイ、それではお疲れ様でした」
駒木:「うん、ご苦労様。今日の講義を終わります」
 (次回へ続く 

 


 

1月25日(土) 競馬学概論
「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(3)
第1章:ビワハヤヒデ(後編)

※前編(新馬戦〜共同通信杯まで)のレジュメはこちら中編(若葉S〜有馬記念)はこちらからどうぞ。

珠美:「十分な実績をあげながら、それに見合った人気を得ることが出来なかった名馬たちにスポットを当てるこの企画、今日もビワハヤヒデ号の現役生活を振り返ります
駒木
:「今日は古馬になってからのビワハヤヒデ。念願のチャンピオン・ホースになったはいいけれど、ライバル不在ということもあって砂を噛むような思いを強いられてしまう……そういう時期の話をしてゆく事になるね。正直、話すのが辛い出来事もあるんだけど、そういうのも含めて紹介するために始めた企画だから仕方ないね」
珠美:「では、改めてビワハヤヒデ号の成績一覧表をご覧下さい。詳しい成績はリンク先(Ya!horse Japanさん)からどうぞ」

ビワハヤヒデ号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

92.09.13

新馬戦

/14

(テイエムシンザン)

92.10.10 もみじS /10

(シルクムーンライト)

92.11.07 デイリー杯3歳S(G2) /8 (テイエムハリケーン)
92.12.13 朝日杯3歳S(G1) /12 エルウェーウィン
93.02.14 共同通信杯4歳S(G3) /9 マイネルリマーク
93.03.20 若葉S(オープン) /8 岡部 (ケントニーオー)
93.04.18 皐月賞(G1) /18 岡部 ナリタタイシン
93.05.30 日本ダービー(G1) /18 岡部 ウイニングチケット
93.09.26 神戸新聞杯(G2) /9 岡部 (ネーハイシーザー)
93.11.07 菊花賞(G1) /18 岡部 (ステージチャンプ)
93.12.26 有馬記念(G1) /14 岡部 トウカイテイオー
94.02.13 京都記念(G2) /10 岡部 (ルーブルアクト)
94.04.24 天皇賞・春(G1) /11 岡部 (ナリタタイシン)
94.06.12 宝塚記念(G1) /14 岡部 (アイルトンシンボリ)
94.09.18 オールカマー(G2) /8 岡部 (ウイニングチケット)
94.10.30 天皇賞・秋(G1) 5/13 岡部 ネーハイシーザー

駒木:「今回は京都記念から、結果的に引退レースになった秋の天皇賞までってことになるね。珠美ちゃん、進行よろしく」
珠美:「……ハイ。ではまず京都記念ですね。天皇賞のステップレースとしてビワハヤヒデの陣営が選んだのがこのレースでした」
駒木:「普通なら、ステップレースと言えば阪神大賞典か日経賞なんだけどね。前の年の神戸新聞杯もそうだけど、ビワハヤヒデ陣営は2ヶ月間隔のローテーションがベストだと考えてたみたいだ。
 あ、あとこの年は京都競馬場が全面改装中で、この京都記念は阪神競馬のレースとして行われたって事を付け加えておくね。これは後で話す春の天皇賞も同じだよ」
珠美:「その京都記念ですが、ビワハヤヒデは単勝1.2倍の1番人気に応えて、菊花賞を思わせるような圧勝。終始2番手から直線抜け出して7馬身差をつけました」
駒木:「この時は阪神競馬場で生観戦してたんだけどね。大雪が降った週で、除雪作業をしてレースをやったんだけど、寒かったなぁ。レースには関係無いけど(笑)。
 で、レースは珠美ちゃんの説明してくれたそのまんま。単勝オッズが示す通り、余りにも相手が楽すぎた印象があったね。2番人気がスランプ中のライスシャワーだったって言えば、どれだけ寂しいメンバーだったか分かってくれるだろうか?」
珠美:「前回の講義で博士がおっしゃっていた、ライバル不在の構造が始まってしまっているわけですね?」
駒木:「そう。今の大相撲で言う朝青龍的ポジションだね、当時のビワハヤヒデは。仕方ないのかも知れないけど、本人に責任が無いだけ可哀想だったなぁ」
珠美:「そしてビワハヤヒデは、予定通り中2ヶ月で春の天皇賞に出走します。このレースには、前走の目黒記念で復調なった3歳時のライバル・ナリタタイシンなど、その時点では目一杯のメンバーが揃ったのですが、ここでもビワハヤヒデは単勝1.3倍の1番人気に推されました」
駒木:「日頃は人気が無いのに、レースでは支持されるんだよな(苦笑)。まぁ、好き嫌いを抜きにして馬券を買わせるくらいの強さがあったって事なんだけどね。
 ……で、この時のレースも展開的には京都記念とおんなじ。逃げるルーブルアクトを直線入口で交わして、一気に抜け出す優等生的なケイバをここでも見せた。確かにワンパターンではあるんだけど、気性が余程良くないと出来ない芸当だから、本来なら“地味だけど凄い”って言われなきゃおかしいんだけどね。
 というわけで、このレースも1着。この時はナリタタイシンやらムッシュシェクルやらがいて、さすがにそれほど差は開かなかったけど、まぁ着差以上の完勝と言って良いんじゃないかな」
珠美:「着差は1馬身1/4でした。確かにレースを観ると、永久に詰まりそうにない差という感じがしますねー。
 ……そしてビワハヤヒデはまたも中2ヶ月のローテーションをとって、春の総決算・宝塚記念に出走しました」

駒木:「またメンバーが、いかにも宝塚記念って感じでねぇ(苦笑)。せっかく揃い始めたライバル馬がまとめて回避しちゃったんだよ。出走馬中、この時点でG1を勝ってた馬がビワハヤヒデ以外には牝馬2冠のベガしかいなくて、しかもベガが体調万全って感じじゃなかったもんだから本当に寂しいメンバーになっちゃった。
 だから、レース前から若干シラケていた感は否めなかったね。この宝塚記念よりも、半年後に実現するはずだったナリタブライアンとの兄弟対決が楽しみだ…とか言われちゃってた(苦笑)」
珠美:「ネーハイシーザーとかサクラチトセオーとか、後になってG1を勝つ馬なら結構いるんですけど、当時は知りようがありませんものね(苦笑)。
 で、このレースも単勝オッズは1.2倍とダントツ。私の感覚で言えば、こんな高い支持にアッサリと応えてしまうなんて、本当に凄いと思うんですけど……」

駒木:「それはリアルタイムで馬券を買う立場に居なかったから言えるんだよ(苦笑)。このレースだって、8番人気馬との組み合わせで馬連たったの12倍だからねぇ。確かに逆恨みのような悪感情を買ってもおかしくない位の存在ではあったのは確かなんだよね。でも、それで本当に存在そのものを嫌悪していいのかどうかってのは別問題だけどね」
珠美:「レースの方は、もはや“定番”と化した先行抜け出しになりました。レコードタイムで着差5馬身。もう本当に手がつけられない感じですね」
駒木:「道中、淀みの無い平均ペースで流れているのに、上がりの3ハロンで各1ハロン11秒台のロングスパート決められたら、もう並の馬じゃ対応できないよね。2〜3番手で控える先行馬だったんだけど、レース振りそのものは逃げ馬に近いんだな。それもミホノブルボンみたいな強烈なタイプのね」
珠美:「……これでビワハヤヒデはG1レース3勝目。他のライバルたちに完全な勝負付けを決めた形になりまして、いよいよ兄弟対決の期待される秋シーズンに突入してゆきます」
駒木:「まさかこの時は、あんな事になるとは思っていなかったんだけどねぇ……」
珠美:「……とりあえず話を進めますね。堂々たる成績で名実共に現役最強古馬となったビワハヤヒデは、3ヶ月の休養の後、オールカマーで秋緒戦を迎えます。秋の天皇賞の前哨戦としては京都大賞典か毎日王冠が“正規ルート”なんですけど、またまた間を開けたローテーションとなりました」
駒木:「まぁ、これまでも独特のステップレース選びをして来たわけだし、今更驚くことじゃあないよね。それに、当時のオールカマーはG3だったんだけど、公営所属馬のジャパンカップ・トライアルも兼ねていたから馬齢重量戦でね。ビワハヤヒデみたいな超実績馬にとっては斤量面でもメチャクチャ有利なレースだったんだよ。
 それにこの時は、やや衰えたりとは言えウイニングチケットが参戦していたし、それなりには盛り上がったレースだったんじゃないのかな」
珠美:「レースの方は、やはり前年のダービー1・2着馬による一騎討ちムード。ビワハヤヒデが逃げるロイスアンドロイスの2番手から抜け出すと、ウイニングチケットが早めのケイバでそれに迫るというレース展開になりました。結果はビワハヤヒデが余裕を持って1馬身3/4の差をつけて1着。単勝1.2倍という相変わらずの圧倒的支持に応えました」
駒木:「枠連で1.3倍だったんだよなぁ。2点買いで当てて損したレースは余り記憶にない(笑)。レースの方はまぁ、順当だろうね。スローペース&ロングスパートの展開になったのに、ウイニングチケットもよく走ってるよ。このあたり、さすがG1馬の実力の片鱗ってところかな。」
珠美:「ビワハヤヒデはこれで年明けから4連勝。新たなライバル候補が現れることもなく、圧倒的優勢との下馬評を維持したままで、運命の天皇賞・秋を迎えます」
駒木:「ちょっと待った。その前に言っておかなくちゃいけないエピソードがある。
 このオールカマーから天皇賞までの間に、ビワハヤヒデを管理した浜田調教師から、『年内はあと2戦。天皇賞と有馬記念。ジャパンカップは来年出ます』って発表があって、これがファンやマスコミ連中の轟々たる非難を買ってしまったんだ」
珠美:「この年のジャパンカップを自重するという話だったんですね」
駒木:「そう。ビワハヤヒデが開いたローテーションで走るって事は規定路線だったし、この頃は“天皇賞→ジャパンカップ→有馬記念”のローテーションは鬼門のようなものだったからジャパンカップを回避する天皇賞馬も多かった。だからこれはむしろ常識的な判断とも言えたんだけど、浜田調教師が外野に気を配りすぎて天皇賞の前に発表しちゃったのがマズかったんだな。『逃げるのか』とか酷い事を言われるようになっちゃった。テイエムオペラオーが“海外遠征しない宣言”した時と状況が似てるかな」
珠美:「『逃げるのか』って、そんな酷い……」
駒木:「まぁ、ファン……というかファンの名を借りた野次馬がブーブー言うのは、まぁ仕方ない。ビワハヤヒデは前から人気があるわけじゃなかったしね。
 でも僕が酷いと思うのはマスコミの方。この時はちょうど“競馬マスコミバブル”の頃だから悪質な競馬ライターが多かった事もあったんだけど、とにかくまぁ誹謗中傷に似た非難を書きまくられた。中には当時続行中だったデビュー以来連続連対記録を持ち出して、『連続2着が途切れるのが怖くてジャパンカップを逃げるとは、ファン無視も甚だしい』とか書くアホウまでいた。誰が2着目指してG1回避するんだよ(失笑)。
 ……それにね、このマスコミのビワハヤヒデ・バッシング、浜田調教師が明らかに叩いても大丈夫そうな人だと分かってて非難してるからムカつくんだよ。これがもし、野平祐二厩舎とか境勝太郎厩舎とかの馬だったら絶対そこまで言ってるかな?」
珠美:「……何だか嫌な話ですね」
駒木:「ヤな話だね。大体、この業界は良識派のライターさんが活躍する余地が狭すぎるんだよ」
珠美:「では、時間も有りませんし、天皇賞のお話をしますね。……そうやって色々と騒がれたビワハヤヒデですが、このレースでも単勝1.5倍の圧倒的1番人気。体調も万全と、必勝ムードでレースに向かいました。
 しかし、現実は厳しいものでした。ビワハヤヒデはレース途中に脚を痛め、直線で失速。生涯最初で最後の着外・5着に敗れました」

駒木:「レース直後に岡部騎手が下馬してね。あの時は頭が真っ白になった。結局は屈腱炎ということで命には別状がなかったんだけれども。
 レースの内容は分析が難しいね。勝ちパターンの直線抜け出しが出来なかったのは確かなんだけど、直線の時点では痛みに耐えながらのレースだろうからね。何が敗因なのかは永遠の謎だろう。幻に終わっちゃった弟のナリタブライアンとの直接対決の行方も含めてね」
珠美:「この直後にビワハヤヒデは引退。翌春より種牡馬として活動中です。ただ種牡馬としての成績は、現役時ほどには恵まれていないみたいですね」
駒木:「重賞入着馬は出てるんだけどね。現時点の代表産駒は、日経新春杯2着のサンエムエックスということになるのかな。まぁ、父親のシャルードが“一撃必殺”型だったし、いつか超一流の産駒が出てくることを期待しよう」
珠美:「……というわけで、3回にわたって紹介してきましたビワハヤヒデについての講義はこれで終了です。次回はどの馬を採り上げられるんですか?」
駒木:「今のところ、次回はライブリマウントを…と考えているよ。ダート競馬が黎明期から発展期へ向かう端境の英雄。まさに『埋もれた名馬』の決定版だね」
珠美:「ハイ。それではまた来週ですね。皆さん、お疲れ様でした♪」
駒木:「ご苦労様」 (この項終わり/次回へ続く

 


 

1月18日(土) 競馬学概論
「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(2)
第1章:ビワハヤヒデ(中編)

 ※前編(新馬戦〜共同通信杯まで)はのレジュメはこちらからどうぞ。

珠美:「先週から始まりました新シリーズ・『“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝』、今回もビワハヤヒデ号の現役生活を振り返ります。
 ……博士、今日はクラシック3冠レースが中心でしょうか?」

駒木:「そうだね。若葉Sから3歳末の有馬記念までってことになるかな」
珠美:「ハイ。では、ここで改めてビワハヤヒデ号の成績一覧表をご覧頂きましょう。詳しい成績はリンク先(Ya!horse Japanさん)からご覧下さいませ」

ビワハヤヒデ号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

92.09.13

新馬戦

/14

(テイエムシンザン)

92.10.10 もみじS /10

(シルクムーンライト)

92.11.07 デイリー杯3歳S(G2) /8 (テイエムハリケーン)
92.12.13 朝日杯3歳S(G1) /12 エルウェーウィン
93.02.14 共同通信杯4歳S(G3) /9 マイネルリマーク
93.03.20 若葉S(オープン) /8 岡部 (ケントニーオー)
93.04.18 皐月賞(G1) /18 岡部 ナリタタイシン
93.05.30 日本ダービー(G1) /18 岡部 ウイニングチケット
93.09.26 神戸新聞杯(G2) /9 岡部 (ネーハイシーザー)
93.11.07 菊花賞(G1) /18 岡部 (ステージチャンプ)
93.12.26 有馬記念(G1) /14 岡部 トウカイテイオー
94.02.13 京都記念(G2) /10 岡部 (ルーブルアクト)
94.04.24 天皇賞・春(G1) /11 岡部 (ナリタタイシン)
94.06.12 宝塚記念(G1) /14 岡部 (アイルトンシンボリ)
94.09.18 オールカマー(G2) /8 岡部 (ウイニングチケット)
94.10.30 天皇賞・秋(G1) 5/13 岡部 ネーハイシーザー

駒木:「しかし、何度見ても壮観な成績表だね」
珠美:「馬券を買う時は軸が定まって簡単そうです(笑)」
駒木
:「確かにね。でも配当がつかないんで嫌がられるんだよね、こういう馬は。大体ね、人気の無い実力馬は人気を背負ってそれに何とかして応えちゃう馬に多いんだよ。『レースが詰まらない』とか言われちゃうんだな。人気背負って良い成績残すほど大変な事って無いのに、おかしいよね。
 でも、今は3連複があるから、逆に強い軸馬が1頭くらいいた方が有り難がられるかも知れないね(笑)」
珠美:「さて、それでは今回もレース回顧の方へ移りましょうか。
 ……共同通信杯でまさかの2着惜敗となったビワハヤヒデ。ここで非情とも言える岸騎手から岡部騎手への乗り替わりがあり、心機一転でクラシック戦線に突入します。まずは皐月賞のトライアル──この頃は指定オープンって言ったんですね。中山・芝2000mの若葉Sに出走します。当時は皐月賞と同条件だったんですよね」

駒木:「まぁ、弥生賞も同じ条件だったんで、有力馬は大体そっちに行っちゃったんだよね。ナリタタイシンも、ウイニングチケットもそう。だから若葉Sはメンバーが随分と楽だったね。結局は持ったままで先行抜け出し、2馬身差。前走があんな感じだったんで一抹の不安も有ったんだけど、やっぱり直線の入口で勝負を決めちゃうと強いよね」
珠美:「……というわけで、ようやく体勢を立て直したビワハヤヒデ陣営は、いよいよクラシック第1弾の皐月賞にコマを進めます。朝日杯勝ち馬のエルウェーウィンは外国産馬のため、ビワハヤヒデが実質上の世代暫定王者といったところだったんですが、このレースは単勝3.5倍の2番人気1番人気は弥生賞勝ち馬のウイニングチケットでした」
駒木:「ウイニングチケットね。この時まで、デビュー戦をしくじったきりの5戦4勝。しかも中山2000mを重賞含めて3連勝中って言うんだから、そりゃあ人気になるよね。
 あぁ、そうだ。この年は“トニービン旋風”が吹き荒れていたんだよね。だから余計に人気になったんだね」
珠美:「“トニービン旋風”……ですか?」
駒木:「トニービンの種牡馬入りは、ブライアンズタイムの1年、サンデーサイレンスの2年先でね。この年の3歳馬にはまだブライアンズタイム産駒もサンデーサイレンス産駒もいなかったわけ。なもんで、この世代はトニービンの仔が片っ端から大レースをさらって行ったんだよね。今から考えたら、日本産の競走馬のレヴェルが飛躍的に向上しつつある時期だったんだろうね」
珠美:「しかし、このレースで勝ったのはリヴリア産駒のナリタタイシンでした。ビワハヤヒデは惜しくも2着に終わります」
駒木:「このレースは、本当ならビワハヤヒデの勝ちパターンだったんだ。4コーナーで先頭に並んで、直線で抜け出しを図る絶好の展開。ウイニングチケットも直線で脚が止まってしまうし、後は並んでいた先行馬を振り切るだけだと誰もが思っていたんだけどねぇ。
 そういう所へ、後方で脚を貯めていたナリタタイシンが進路が開いた一瞬を突いて一気に追い込んで来た。先行馬を競り落としたばかりのビワハヤヒデは奇襲を受けた形だね。ただでさえ鋭い脚が使える馬じゃないのに、出し抜けまで喰らわされたらお手上げだ」
珠美:「この時のファンの反応はどうだったんでしょう?」
駒木:「ビワハヤヒデに対してのかい? ……まぁ、『なんだまた2着かよ。面白ぇなあ』…って感じだったんじゃないのかな(笑)。この頃はまだ人気が有るわけでも無いわけでもなかったからね。ただ、ウイニングチケットの人気は凄かったね。強さと脆さが同居する儚げな雰囲気が受けたのかなぁ。僕はこの馬のファンじゃなかったからよく分からないけれども(苦笑)」
珠美:「──そして、舞台は東京競馬場の日本ダービーへ。ビワハヤヒデは、ウイニングチケットやナリタタイシンと共に皐月賞から直行でダービーへ向かいました。
 先ほど博士からウイニングチケットの人気についてお話がありましたが、確かにこのレースもウイニングチケットが1番人気になってますね」

駒木:「だね。ただ、この時はウイニングチケット人気と言うより、鞍上の柴田政人騎手(現:調教師)に『ダービーを獲って欲しい』という願いを込めた心情馬券の意味合いが強かったかな。
 ここ最近は武豊騎手がアッサリ勝ってばかりのダービーだけど、90年代の前半のダービーは、それまでダービーとは縁の無かった40代ジョッキーが、事実上のラストチャンスをモノにして勝つケースが多かったんだよね。一番有名なのがアイネスフウジンの中野栄治騎手(現:調教師)の時。レースが終わった後に、スタンドのファンが勝利ジョッキーの名前をコールしたのはこの時が最初だったはずだよ」
珠美:「そしてこの年のダービーは、その柴田政人騎手のウイニングチケットが見事な勝利を飾りますビワハヤヒデはまたしても惜しい2着でした」
駒木:「このレースは、もうウイニングチケットのレースだよね(苦笑)。
 まぁビワハヤヒデについて話をするならば、このレースに関しては直線入口で5番手グループだったから、本来のレースじゃなかったよね。引退レースになる秋の天皇賞でも似たような展開だったから、ひょっとするとコース適性か左回りに弱点があったのかも知れない。
 先に抜け出したウイニングチケット……この馬も大概末が甘いんだけどね。だけど、このダービーだけはよく粘った。一度バテかけたラスト400mからの200mでまたペースアップしてるんだよ。これでビワハヤヒデも、最後方から追い込んだナリタタイシンも脚が止まってしまった感じかな。まぁこのレースは柴田政人さんとウイニングチケットが天晴れだったって事さ」
珠美:「結局、春シーズンのビワハヤヒデは無冠に終わってしまいましたね……」
駒木:「皐月賞とダービーに関しては、勝った馬が相応のレースをしているわけだから仕方ない話ではあるんだけど、でも勿体無いよねぇ。三冠レースを2つ獲ったのか1つだけなのかでは、印象が随分と違ってしまうものだし」
珠美:「オリンピックなんかでも、銀メダルをたくさん獲っても金メダル1個と比べると金メダル1個の方が価値がある感じですものね」
駒木:「そういうことだね。で、この時の惜敗続きが、後に現役最強馬になってから人気にイマイチ火がつかなかった原因の1つじゃないかと思ってるんだけどね。イメージ的にアレだろ?(苦笑)」
珠美:「……と、こういう煮え切らない成績で春シーズンを終えたビワハヤヒデは、夏を北海道ではなく栗東トレセンで過ごして秋に備えました」
駒木:「この頃から夏の過ごし方に色々なパターンが使われるようになったのかな? ただ、今では育成牧場や外厩トレセンの設備が整って来たんで、栗東にずっと居残りっていう一流馬は減ったような気がするけど」
珠美:「そして、ビワハヤヒデの秋緒戦は神戸新聞杯。当時は菊花賞の開催時期が今よりも遅かったので、今の位置付けとは少し違いますよね?」
駒木:「そうだね。今の神戸新聞杯は当時で言えば京都新聞杯で、これは最格上のトライアルレース。でも当時の神戸新聞杯は、中山のセントライト記念と同日開催でイマイチ存在感の薄いレースだったね。夏競馬のチャンピオン決定戦みたいな感じで、超一流馬が出て来るようなレースではなかったはずだよ」
珠美:「博士のおっしゃる通り、相手に恵まれた格好のビワハヤヒデは単勝1.6倍の1番人気。そしてレースの方も、後に因縁の相手となる2番人気ネーハイシーザーの逃げを2番手から問題にせず差し切り勝ち。3着以下には大きく差をつけるレースで、まさに格の差を見せ付けるレースになりました」
駒木:「古馬時代のビワハヤヒデの得意戦法になる、2番手マークからの先行抜け出しだね。近代競馬のお手本と言うべきレース振りなんだけど、これについても『面白みが無い』って人気が無かった。もう、やる事為す事全部気に入られなかったんだね。2ch掲示板・コミックバンチスレ内の僕みたいな存在だなぁ。何だか親近感が沸くよ(笑)」
珠美:「(苦笑)」
駒木:「あと、このレースからは、それまで着けてたメンコ(音遮断用の耳覆いを兼ねた覆面)を外してる。精神的な成長があったって話だけど、恐らくはこの時期に肉体面も含めて大きく成長してたみたい。確かに3歳の夏って、競走馬にとって一番の成長期だしね」
珠美:「そんな“新生”ビワハヤヒデがついに栄冠を手にする時がやって来ます。クラシック三冠最終戦の菊花賞がその舞台でした」
駒木:「さっき言ったように、ビワハヤヒデが夏に成長を見せた反面、春のライバルたちはどうも成長度合いが今一つでね。ウイニングチケットは京都新聞杯で格下相手に大苦戦の辛勝、ナリタタイシンに至っては肺出血っていう難儀な病気に罹っちゃって、出走するだけで精一杯って感じになっちゃったんだよ。新勢力はネーハイシーザーに加えて、ラガーチャンピオン、ロイスアンドロイスといったところでいかにも小粒。まぁ、勝てる時はすべてが良い方向へ流れていくもんだよねぇ」
珠美:「人気は1番人気ながらウイニングチケットと二分する形ではあったんですが、レースは一方的でした」
駒木:「勝ちパターンの4コーナー先頭からの抜け出し。ウイニングチケットはスパートが遅れる悪癖が出て、他の馬は実力的に勝負にならなかった。結局5馬身差の圧勝、しかもレコード勝ち。多分、これがビワハヤヒデのベストパフォーマンスになるんじゃないのかな」
珠美:「これでビワハヤヒデは名実共に世代ナンバーワンになったわけですね?」
駒木:「そうだね。あんな圧勝劇を見せられたらどうしようもない。ただ、残念な事にそれが即、現役最強馬に繋がっていかなかったのが幸い中の不幸ってところでね」
珠美:「有馬記念……ですか?」
駒木:「そう(苦笑)。トウカイテイオー奇跡の復活にぶつかっちゃった。さっきのダービーもそうだけど、この馬って、アイドルホースの一世一代の大舞台によく遭遇するよね。それで綺麗に負かされちゃうんだ、これが(苦笑)」
珠美:「有馬記念は単勝3.0倍の1番人気に推されていたんですが、これは皆さんがご存知の通り、1年ぶりの復帰レースとなるトウカイテイオーが劇的な勝利を飾りましたビワハヤヒデは競り負けて2着です」
駒木:「これで勝ってれば、“劇的な世代交代”だったんだよねぇ。まぁ、逆にライスシャワー的な悪役になってたかも知れないけど(苦笑)。でも、人気の無い善玉よりは目立つ悪役の方がまだマシじゃないかい?(苦笑)」
珠美:「まぁそれは分かりませんけど……(苦笑)。でも、トウカイテイオーはこのレースを最後に引退したわけですから、結果的には世代交代になったわけですよね?」
駒木:「ところが、この時を境に、レガシーワールドとか他のトップクラスまで様子がおかしくなっちゃって、世代交代したはいいけど今度はライバルがいなくなっちゃったんだよ(苦笑)。勝負事で何がマズいかって、ライバル不在の王者が存在する構図が一番マズい。場は盛り上がらないし、チャンピオンの人気は今一つ。
 ……何だか、ビワハヤヒデの人気が無い理由が分かってきた気がするね?
珠美:「ですね(苦笑)。……というわけで、いよいよ次回が後編。ライバル不在の中を無敵の王者として君臨しつづけるビワハヤヒデの古馬時代についてお話をして頂きます」
駒木:「じゃあ、また来週だね。ご苦労様」
珠美:「お疲れ様でした♪」 次回へ続く

 


 

1月11日(土) 競馬学概論
「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(1)
第1章:ビワハヤヒデ(前編)

駒木:「さて、今日から競馬学概論は新シリーズだ。さすがに『90年代名勝負プレイバック』は題材が尽きて来た(苦笑)」
珠美:「(笑)。で、今度はレースじゃなくて馬にスポットを当てる…というわけですね?」
駒木:「そういうこと。ただ、頻繁に名前が出てくるような超有名馬にスポットライトを当てても講義にならないんで、十分に実力も実績も兼ね備えているのにイマイチ人気や知名度が低い(と思われている)を採り上げて、経歴やレース振りを紹介しようと思ってるんだよ」
珠美:「それでこのタイトルというわけですね。カッコ付きで『かも知れない』となっているところが微妙ですけど(笑)」
駒木:「1頭の競走馬をどう位置付けするかっていうのは、人によってハッキリと解釈が分かれるからね。あくまで駒木個人の解釈した“埋もれた名馬”って事ですよっていうエクスキューズだね」
珠美:「なるほど、わかりました(笑)。……で、その“埋もれた名馬”第1号はビワハヤヒデですか。私にとってはリアルタイムの馬じゃないので“ナリタブライアンのお兄さん”という認識が真っ先に来るんですけど、改めて振り返ってみますと、成績も弟に負けず劣らず凄いですね」
駒木:「うん。何しろG1レース3勝に加えてデビュー以来15連続連対だからね。現役時代はシンザンのデビュー以来19連続連対の記録を抜くかどうかで随分と盛り上がったものだったよ」
珠美:「でも確かに成績の割には影が薄いような気がしますねー。『20世紀の名馬100』ファン投票では20位ですか。また微妙な順位ですね(苦笑)」
駒木:「これはおいおい話の中で紹介してゆくけれども、とにかくこの馬は世間的な人気が無い馬だったからねぇ。こうやって採り上げている事からも分かるように、僕自身はこの馬を認めていたんだよ。けれども、あまり同調してくれる人はいなかったねぇ(苦笑)」
珠美:「ではそういう点も含めて、博士にビワハヤヒデのレース振りについてデビュー戦から順に振り返って頂きましょう。
 ……それではまず、ビワハヤヒデの生涯成績を簡単にまとめた表を用意しましたので、そちらをご覧下さい」

ビワハヤヒデ号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

92.09.13

新馬戦

/14

(テイエムシンザン)

92.10.10 もみじS /10

(シルクムーンライト)

92.11.07 デイリー杯3歳S(G2) /8 (テイエムハリケーン)
92.12.13 朝日杯3歳S(G1) /12 エルウェーウィン
93.02.14 共同通信杯4歳S(G3) /9 マイネルリマーク
93.03.20 若葉S(オープン) /8 岡部 (ケントニーオー)
93.04.18 皐月賞(G1) /18 岡部 ナリタタイシン
93.05.30 日本ダービー(G1) /18 岡部 ウイニングチケット
93.09.26 神戸新聞杯(G2) /9 岡部 (ネーハイシーザー)
93.11.07 菊花賞(G1) /18 岡部 (ステージチャンプ)
93.12.26 有馬記念(G1) /14 岡部 トウカイテイオー
94.02.13 京都記念(G2) /10 岡部 (ルーブルアクト)
94.04.24 天皇賞・春(G1) /11 岡部 (ナリタタイシン)
94.06.12 宝塚記念(G1) /14 岡部 (アイルトンシンボリ)
94.09.18 オールカマー(G2) /8 岡部 (ウイニングチケット)
94.10.30 天皇賞・秋(G1) 5/13 岡部 ネーハイシーザー

駒木:「92年デビューかぁ。…てことは、この馬がデビューしてからもう10年以上経つんだね。そういや、当時は高校生だったなぁ(苦笑)」
珠美:「私は小学6年生で、競馬のケの字も知りませんでした(笑)。
 ……さて、ではデビュー戦から振り返ってもらいましょう。阪神の芝1600m戦なんですが、記録を見ると、2着馬と1.7秒差の大差勝ちなんですね」

駒木:「この馬は16回走って、その内で1番人気が13回もあるんだけど、この新馬戦は2番人気だったんだよね。ビワハヤヒデ自身の血統がパッとしない上に、同じレースに話題になってた良血のニホンピロスコアーって馬が出ていて、1番人気を譲り渡したってわけ。ニホンピロスコアーって馬は、後に朝日杯に出た時に未勝利戦を勝っただけで2番人気に推されてるぐらいだから、典型的な人気先行型良血馬だったわけだね。今で言ったらサイレントディールみたいなものかな。
 でもいざフタを開けてみたら、ビワハヤヒデは中団待機から直線持ったままでブッチギリの圧勝。ダートなら実力以上に大差が広がる事も多いんだけど、これは芝だったからねぇ。しかもこの時のメンバーの中には後の重賞ウイナー・ダンシングサーパスもいたりするから価値が有るよね。決してメンバーに恵まれての大差勝ちじゃないよ。
 そして勿論、このレースをきっかけにしてビワハヤヒデは一躍注目馬の1頭にのし上がるわけだ」
珠美:「こうしてデビュー戦を圧勝したビワハヤヒデは、中3週のローテーションでオープン特別のもみじSに臨みます。今度は堂々の1番人気でしたが、結果はまたしても完勝でした」
駒木:「実はこのレース、僕は2着になったシルクムーンライトを応援しててねぇ。だからその時は『なんだ、この野暮ったい
顔のデカい馬は!』顔のデカい馬は!』って感じだったよ(笑)。
 でもまぁ、悔しかったけど強かった。このレースも重賞ウイナーとか、後のジャパンカップ馬・マーベラスクラウンがいた中を余裕残しで、しかもレコード勝ちだからね。実況のアナウンサーとか解説のトラックマンが興奮気味にこの馬の強さを語っていたのを覚えているよ。この時にはもう“大物ルーキー現る!”って感じで、関西の競馬界がにわかに騒がしくなって来たのが、ただの1ファンだった僕にもヒシヒシと伝わって来たよ」
珠美:「そんなビワハヤヒデの快進撃はさらに続きます。重賞初挑戦となったデイリー杯3歳Sでは、単勝1.7倍の抜けた1番人気に応えて快勝します」
駒木:「この時は、“優等生”タイプのビワハヤヒデにしては珍しく追走にモタついてね。しかも直線では少し前が詰まる不利があったんだけど、気がつけば1馬身3/4の差をつけて2レース連続のレコード勝ち。後に3000mを超えるレースで活躍したわけだから、決して恵まれた条件じゃなかったはずなんだけどね。
 ……当時の状況では、もうこの辺で『来年のクラシックが楽しみです』状態だったね。オグリキャップ以来人気のあった芦毛馬だったし、この頃はもうアイドルホース路線まっしぐらって感じだったんだよ。ところが、ここから足を中途半端に踏み外しちゃうんだな(苦笑)。個人的には、ここから微妙な足踏み状態が続いたのが、後の不人気の遠因になっているような気がするんだよ」
珠美:「……そんな“足踏み”の始まりとなったのが、単勝1.3倍という、いわゆる“一本被り”状態で参戦した朝日杯3歳Sでした。このレースでビワハヤヒデは、3番人気の外国産馬・エルウェーウィンとの叩き合いにハナ差惜敗して初黒星を喫します」
駒木:「ビワハヤヒデは、気性的にも能力的にもほとんど欠点の無い、しかも安定度抜群の理想的な競走馬だったんだけど、この馬の唯一と言っていい弱点が、叩き合いと瞬発力勝負が不得手だった事。一瞬のキレってヤツが無かったんだね。直線の前半で勝負を決めてしまうようなレースだと滅法強かったんだけど、ゴール前までもつれるようなレースはどうも苦手だったみたいだ。だからこの馬をシンザンみたいに刃物で喩えるならば、切れ味よりもパワーで敵を捻じ伏せるタイプの、ファンタジー系RPGに出て来るグレートソードのような感じになるのかな。
 ……でも、今のセオリーだったらこの馬、こっちじゃなくて年末のラジオたんぱ杯に回ってるだろうにね。それならそこで現実より一足早く、ナリタタイシンと名勝負数え歌の第1戦が実現していた事になるんだよ。それを考えたら色々な意味で惜しい事したね
珠美:「──こうして、ビワハヤヒデは今で言うところの2歳シーズン4戦3勝2着1回という形で終えます。
 この後ビワハヤヒデは、2ヶ月の調整期間を挟んで、後に弟・ナリタブライアンも出走する事となる共同通信杯4歳Sに駒を進めます。前走敗れたとは言え、ここは格下相手のG3戦。ビワハヤヒデはここでも単勝1.3倍の1番人気に推されました……が、ここでも直線で先に抜け出したマイネルリマークを頭差交わしきれずに2着に敗れます。連対は確保して馬券上の責任は果たしたものの、まさかの2連敗…といったところでしょうか?」

駒木:「そうだね。後に2ヶ月間隔のローテーションでビシバシ走った馬だから、休み明けってのは言い訳にならない。やっぱりここもキメ脚の不足が祟ってる感じだよね。
 でも、さすがにこの取りこぼしはマズかった。10回走ったら9回以上勝てるはずのメンバーだったからね。ビワハヤヒデの競走生活の中でも唯一・最大の汚点と言っていいんじゃないかな。
 それを証明するように、このレース限りでそれまでの主戦ジョッキーだった岸騎手が降板させられて二度と復帰する事は無かった。入れ替わりで主戦になったのは、それまであのニホンピロスコアーの主戦だった岡部騎手。こうして見るとシビアな世界だよね」
珠美:「キングヘイローの福永騎手とか、ナリタトップロードの渡辺騎手は復帰できたんですけどね」
駒木:「ビワハヤヒデの場合は、その後少なくとも格下の馬には負けなかったからね。岡部騎手も他の馬を捨ててでもハヤヒデを選んだし、もう1度乗り替わりをする理由が無かったんだよね。岸騎手にしてみれば、まさに大魚を逃したって感じだったと思うよ。ここ数年の岸騎手がパッとしないだけに余計そう感じてしまうね。
 ……とまぁ、そういう事があって、このレースはビワハヤヒデにとって色々な意味で転機になったレースだった。これを機に、陣営も気が引き締まったんじゃないかな。その後はさっきも言ったように格下相手の取りこぼしが無くなって……まぁ、春のクラシックは惜敗続きなんだけれども、まぁ堂々たる一流馬に成長してゆく事になる
珠美:「では、いよいよクラシック戦線なんですが──」
駒木:「あぁ、それをやってしまうと無茶苦茶長い講義になってしまうから、今日はここで置こう。クラシック戦線については来週のこの時間にね」
珠美:「分かりました。ちょっと短めの講義ですけど、長過ぎるよりは良いですよね(笑)」
駒木:「長々と喋るとミスが増えそうだしね(笑)。まぁそういうわけで、ビワハヤヒデについては“次回へ続く”ということで、よろしく。では、今日の講義を終わります」
珠美:「受講生の皆さんも博士もお疲れ様でした♪」次回へ続く


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