「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

1/15 労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」(4)
1/13 歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(25)
1/12 特別演習「『週刊少年サンデー』この1年」(2)
1/11 競馬学概論 「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(1)
1/9  演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(1月第1、2週分)
1/8  特別演習「『週刊少年サンデー』この1年」(1)
1/6  労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」(3)
1/5  歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(24)
1/4  競馬学特論「駒木研究室・2002年G1予想大反省会」(2)

 

1月15日(水) 労働経済論
「役に立たない? アルバイト時給案内」(4)

 ※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回

 私こと駒木ハヤトのアルバイト体験を時給と仕事内容の観点から語ろうというこのシリーズ、今回が第4回目ですが、今日は前回お約束した通り“店員から見たバレンタイン商戦の姿”をお話しましょう。
 駒木が勤めたのは、普段はチョコレート以外の商品がメインである洋菓子店でしたので、他の専門店とは多少事情が異なったりするかも知れませんが、まぁ気楽に受講してもらえれば良いのではないかと思います。 

 ……さて、駒木が勤務した時にバレンタイン商戦へ本格的に突入したのは2月の3日頃でした。まぁ2月最初の週末から商戦が始まると考えれば良いでしょう。
 もっとも、実際にはその随分前からバレンタイン用の商品は店舗内外の倉庫にブチ込まれており、リボンかけやシール貼りなどのラッピング作業もその頃から始まっています。
 駒木はあくまで短期バイトだったために実態は掴み切れませんが、恐らくは年末年始頃から徐々にバレンタインに向けての準備が始まっているのではないかと思われます大晦日に発表されるレコード大賞の受賞者が、業界内部の談合によって上半期の時点で内定していたりするのと同様、大規模なイベントの準備は季節外れな頃から始まっているものなのです。
 バレンタイン商戦開始を翌日に控えた閉店後の夜、百貨店では地下の食品売り場総出で特設チョコレート売り場の設営が実施されます。この時、デフォルトで眼が死んでいる男子アルバイトは、当然ながらショーケースなどの重たい機材を運んだり、倉庫から大量のチョコレートを輸送して来ることになります。数十人の精気の抜けかけた男たちが所狭しと重労働に勤しむ姿は『カイジ』に出て来る労役場や「ドラゴンクエスト5」の青年編冒頭シーンを彷彿とさせます。給料がペリカではなくて円単位なのが何よりの救いです。

 ──と、こうしてセッティングされた特設売り場、及び通常の売り場の2店舗体制で、洋菓子店、特にチョコレートメインの店にとっては年間の売り上げ総額を左右するよ10日余りのバレンタイン商戦がいよいよ開幕します。
 しかし、開幕当初の出足はそれほど派手なものではありません。“本番”まで10日ほど間があるわけですから当然と言えば当然なのですが、まだ混雑もそうは見られず、お客さんも時間をかけて商品を吟味している姿が目立ちます。
 駒木が勤務した店で売られていたバレンタイン用のチョコレートは300円〜3000円以上という幅広い値段がされていましたが、この時期は大体1000円〜2000円前後の商品が目立って売れます。中でもラッピングが凝っていたり、生チョコのように普通とは少し違ったチョコレートが中心で、要は“本命チョコ”かお世話になった人に贈る心尽くしのチョコレートが中心である事を窺わせます。
 義理チョコを買いに来られるお客さんもいるのですが、面白い事に、一番安いチョコレートではなくて2番目に安いチョコレートがよく出ます。この時期に義理チョコを買いに来ると言う事は、色々な意味で義理堅い人である…という事でしょうか。義理とは言え、できる限りの誠意を込めようという考えの現われではないかと思います。
 配送サービスを使って遠隔地へチョコを送り届けようとする人もいます。勿論、2月14日以降の期日指定。確かに便利な世の中になったものですが、貰う男の立場からすれば、嬉しい反面「来るんはチョコだけかい」と思ってしまう人も多いだろうと思われ、かなり微妙なものではあります。ただそこで、「誠意を見せろ」などと「セイの字は本当に『誠』なの?」的なセリフを言ってしまえば全てがご破算になってしまいますので、このあたりは難しいものですよね。

 
 ……と、こんな状況が大体2月10日過ぎまで続きます。徐々に販売個数における義理チョコの割合が増え、平均単価が下がってきたりもしますが、まぁ大方の状況は変わりません。
 しかし、2月10日を過ぎ、11日・12日くらいになると状況は一変します。
 それまでの本命チョコをジックリ吟味する女性の姿は消え、「とにかく個数揃えなアカンのよ」と眼を血走らせたOLの方々が急速に増えます。また、自分と子供用のデザートを買った釣銭でついでに安めのチョコを買っていく、倦怠期に突入したと思しき奥様方の数もにわかに増加して行きます。
 そしてバレンタイン商戦全体のピークは2月13日。この期に及んで大量の義理チョコを買い集めようとする人たちが店に殺到して、店内はまさに修羅場と化します。
 「何でもエエから、一番安いの30個ほど頂戴!」
 ……などという、その職場内における男性諸氏の立場を容易に推測させるようなミもフタも無い注文が頻繁に繰り返されるのもこの頃です。
 2月13日の午後などはもう大変なもの。倉庫にチョコをダンボールごと取って来て地下の店舗に運んでも10分ほどでそのダンボールが空となるため、数時間ずっとノンストップで倉庫と店舗を往復している有様。お蔭で駒木も台車捌きが非常に上手くなりました。堺正章のテーブルクロス捌きか駒木ハヤトの台車捌きか…といったところでしょうか。
 このピークは2月14日当日の昼休みまで続きます。この頃になると売り切れ商品も相次ぎ、最安値の300円商品は、ただ1種ウイスキーボンボン(小)を残すのみ。月曜朝のキヨスクの「週刊少年ジャンプ」の如く山積みになったウイスキーボンボンを、下戸の人の基本的人権を無視してまで買い漁ってゆく女性たちの姿、これは正直言って物凄く萎えました(笑)。倉庫と店舗を往復しつつ、「『義理チョコ』とか言っても、本当は義理もクソも無いよな」…などと独り思ったものでありました。

 まぁ、こうしてバレンタイン商戦は終わります。レジに収まりきらないくらいの札束が、バレンタインとは何であるかを物語っているような気がしました。

 そして次の日。
 昼のワイドショーを見ていると、14日夜の新橋駅前で収録された、ホロ酔い姿のお父さんたちが、職場で貰ったチョコレートを誇らしげに見せつつ、
 「俺だって、捨てたもんじゃないんだぜ〜!」
 …などと吼えている映像がブラウン管に映し出されていました。その表情は本当に嬉しそうでした。
 が、駒木は見てしまったのです。
 そのお父さんたちが掲げていたチョコレートが、あの「何でもエエから、一番安いの30個ほど頂戴!」の300円チョコレートであったのを……。

 今日は呑もう。駒木はそう思いました。

 

 ……と、これが店員から見たバレンタインの姿であります。ユメもチボーも有りませんね(苦笑)。
 では次回は、時給750円のお仕事の話に移ります。どうぞよろしく。 (次回へ続く

 


 

1月13日(月・祝) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(25)
第3章:地中海世界(6)〜軍事都市国家・スパルタの成立

※過去の講義レジュメ→第1回〜第19回第20回第21回第22回第23回第24回 

 前回は古代ギリシア時代の都市国家・ポリスについて概略を述べてゆきましたが、いよいよ今回からは視点をややミクロなものに切り替え、1つのポリスに的を絞った話をしてゆきます。
 しかし、ポリスは膨大な数に及びます。全てのポリスについて語る事は勿論、ソコソコ有名なものについて話すだけでもどれくらいの時間を要するか分からないくらいです。
 そこで、この「学校で教えたい世界史」では高校世界史Bや各種通史の例に従って、ギリシアのポリスの中でも一際規模が大きく(現在の日本の県1つ程度)、また古代ギリシア史の中でも主導的な存在であった2つのポリス──スパルタとアテネの成立過程や、それぞれのポリスの姿に絞ってお話する事とします
 そして、まず今回からお話するのはスパルタの歴史成立過程や行政システムの変遷、そして人々の生活などを可能な範囲で追いかけてみましょう。

 
 ──都市国家・スパルタがあったのは、ギリシア南部のペロポネソス半島という巨大な半島の更に中南部、周囲を山で囲まれたラコニアと呼ばれる平原地帯でした。この閉鎖的な地理条件が、後に他のポリスに無い独特の文化を形成する1つの要因になったのは言うまでもありません。
 この地方において、「スパルタ」という国が初めて登場するのは半ば伝説上の出来事である例のトロヤ戦争でのこと。実はかの戦争は、スパルタ国の王妃がトロヤに誘拐されたところから始まったのであります。
 しかし、このスパルタはミケーネ文明時代の王国で、これからお話するスパルタとは地理的条件以外は全くの別物。言わば“旧スパルタ”であります。ここで言うスパルタとは、この“旧スパルタ”がミケーネ文明と運命を共にした後に、北方から移住して来たドーリア人がラコニア地方を征服して建設した、正式名称をラケダイモンというポリスなのです。実は「スパルタ」というのは都市名であって国名では無いらしいのです。ただし、それでは余りにも紛らわしいので、この講義の中では原則的に国名も「スパルタ」で統一する事にします。
 また、建国の年代ですが、これは性格には把握できていないものの、恐らく紀元前800年前後である事は間違い無いようです。

 さて、スパルタと聞いてまず真っ先に連想されるのは、「スパルタ教育」に象徴される厳格かつ鎖国的な軍国主義システムでありましょう。しかし意外な事に、少なくとも建国当初から紀元前7世紀末までの間は、後に比べてもっと開放的で規律も緩やかなポリスであったようです。このスパルタが文字通りの“スパルタ式”に変わっていった理由については後に追って説明しましょう。
 このスパルタの政治システムは、まず建国以前・集落時代から引き継がれた2人の王による君主制から出発し、やがて“長老制”と呼ばれる一種の貴族制・寡頭制へと変化しました。古代ギリシアでは少数の人間が土地や権力を独占する事が出来なかったので、君主は存在し得ない社会でありました。恐らくスパルタもその例外ではなかったのでありましょう。
 で、その長老制ですが、これは従来の王2人と60歳以上で終身任期の“長老”が所属する元老院(定員30人)によって事実上政治全般を執り行うシステム。一応は全男子市民による民会がありましたが、民会の持つ権限は極めて限定されており、元老院から提示された法案等に賛否の意見を表明するだけだったようです。

 ところで今の説明の中で「市民」という言葉が出てきましたが、都市国家・スパルタに住む人間全てが「市民」とされたわけではありません。スパルタは明確な3身分制を採用しており、3つの身分の中で最上位に属する者しか「市民」である事を許されなかったのであります。
 先に述べたように、スパルタはドーリア人がラコニア地方を征服して建設した国家だったわけですが、当然の事ながらそこには先住民が暮らしていました。彼らはスパルタの建国と同時に先住民から被征服民になり、また同時に征服民から差別の対象となりました。ここが身分制度の原点であります。
 まず征服民であるスパルタ人は当然身分制度の最上位となり、「スパルタ市民」となります。「市民」の内、男子には兵役の義務と民会での参政権が与えられ、功績を残して長生きすれば長老への道も開けるかも知れません。女子「市民」は兵役義務や参政権とは無縁でしたが、親や夫の保護下に置かれ、丈夫な子供を産む事で国家に貢献する義務を負います。彼らの生活については、また次回の講義で詳しく述べる事にしましょう。
 この「市民」の下にあたる第2身分は“ペリオイコイ”──周辺の民という意味──と呼ばれる人々です。ここにはドーリア人の中で部族時代に地位の低かった人たちや、逆に被征服民族の中でも比較的地位の高かったグループが属したとされていますが、未だ詳細は不明です。
 ペリオイコイは「スパルタ市民」ではないので参政権はありませんが、“ラケダイモンの国民”ではあるとされていたので、国家のために兵役に参加する義務は負いました。また、一応は財産を持つ事を許されましたが、様々な面でハンデを負わされた事は言うまでも有りません。ペリオイコイを現代の日本でムリヤリ喩えるならば、参政権は無いが国民の義務は負う在日外国人の立場に近いでしょうか。ただし、現代日本では全ての人に基本的人権が与えられていますので身分差は存在しません。念のため。
 そして、スパルタの身分制で最下位に置かれたのが“へロット”と呼ばれる奴隷身分でした。この身分に貶められたのは元・先住民かスパルタが建国された後に征服された土地の被征服民で、彼らには参政権どころか人権のカケラすら有りませんでした。へロットたちは「市民」の財産として私有され、農作業や家事労働に従事する毎日を過ごしましたが、ちょっとした事で死に至るような体罰を受けるような酷い立場に置かれていました。完全な奴隷制社会であった古代ギリシアでも、ここまで奴隷の立場が弱いポリスは珍しいはずです。

 ……と、こうして都市国家・スパルタは、説明したような政治システムと身分制度の下で繁栄を勝ち取り、着々と領土を増やしてゆきました
 しかし、スパルタがそうやって領土を広げ、被征服民を次々とへロットに合流させている内に、いつの間にかスパルタの社会は大きく身分別の人口バランスを失うようになってしまいました。唯一の支配階級である「市民」と、彼らに生殺与奪を握られ絶対の服従を強いられるへロットとの人口比が1:10以上にまで歪んでしまったのです。
 こうなると、当然のように反乱が発生します。特に紀元前7世紀後半に起こったメッセニア(スパルタの西隣にある一地方)での反乱は強烈で、スパルタそのものを揺るがす大規模なものとなりました。
 結局はこの反乱も鎮圧され、スパルタは生き延びる事になるのですが、この出来事は「市民」たちの意識を大きく変えさせる要因にもなりました。これ以後のスパルタ人たちは、いかに膨大な数の奴隷たちを支配するかという事を第一に考えるようになり、社会システムもそれに従って大きく転換してゆきます。そして、その一端こそが、あの「スパルタ教育」というわけなのです。

 では次回は、メッセニア大反乱を受けて、いよいよ厳格な軍国主義国に生まれ変わったスパルタの姿についてお話したいと思います。どうぞよろしく。(次回へ続く) 

 


 

1月12日(日) 特別演習
「『週刊少年サンデー』この1年」(2)

 ※前回までのレジュメはこちらから→第1回

 「現代マンガ時評」レビュー対象雑誌年間総括シリーズの第2弾・「週刊少年サンデー」編、今日が第2回目となります。

 そんな今回は読み切り作品を中心に総括を行うわけですが、2002年の「サンデー」は読み切り──特に新人・若手の作品が掲載される頻度が非常に高く、時には1週間に2本掲載という事もありました。その結果、掲載された作品の数は、読み切り(前後編形式含む)24作品、短期集中連載1作品という異例の多数となりました。
 受講生の皆さんにもご存知の方が多いと思いますが、「週刊少年サンデー」には姉妹誌──若手作家中心の月刊増刊誌年に数回発売されるルーキー増刊が編集・発売されています。そのため、以前(少なくともここ数年)は本誌連載が未経験の新人・若手が描いた作品の大半は増刊各誌へ回されて、本誌には既に増刊等で実績を積み上げたなどして連載に“リーチ”がかかった有望株の作家さんしか掲載されませんでした。
 ところがこの02年の場合には、月刊増刊にすら作品の掲載経験が無い新人作家さんが本誌に発表の舞台を与えられるケースすらあり、これまでとは明らかに様相が違って来ています
 この編集方針の転換がどのような理由で図られたかに関しては、憶測・邪推にも似た推測をするしか持ちうる術がありません。が、まず単純に考えられる事としては、
 「新人作家育成部門(?)の強化」
 そして、
 「価値観の違う多くの作品に読者の判断を仰ぎ、プロ編集者の目からは漏れてしまう“ダイヤの原石”を探す試み」
 ……の2点が挙げられるでしょう。また、ひょっとしたら『世界漫画愛読者大賞』や『ジャンプ新人海賊杯』のような、アンケート順位を比較して成績優秀者には連載を与えるコンペテイションイベントだった可能性も有り得ると思います。敢えてイベント告知をしなかったのは「失敗だった時は無かった事に出来るように、そういうイベントである事は伏せておこう」…とかいう話だったんではないかと(笑)。……まぁ、これは本当に邪推になってしまいまうんですけどね。

 ──というわけで、少なくとも数の上では“大豊作”となった今年の読み切り作品について振り返ってゆくわけですが、ここで「ジャンプ」の時と同様に、作品の発表された目的によってカテゴリ分けをしておきましょう。
 ただし「ジャンプ」の場合(「プロトタイプ」・「代原」・「受賞作掲載」・「企画物」の4カテゴリ)と異なり、02年の「サンデー」では代原の掲載が無いため「代原」カテゴリは除外、また1作品あった「受賞作掲載」も、既に他誌で実績のあった作家さんの、しかも他の新人・若手と一緒に読み切りシリーズで掲載された作品であったということで独立のカテゴリは設けませんでした。
 よって今回は、

 1.連載資格審査系読み切り
 「ジャンプ」での「プロトタイプ系読み切り」に相当。
 連載未経験の新人・若手、または以前連載を経験した事があるものの無条件で新連載枠をもらえなかった作家が、新たな本誌連載枠を賭けて発表する読み切りまたは短期集中連載作品。
 読者アンケートで上位作品を勝ち取れば、数ヶ月〜半年後くらいの新連載シリーズで本誌連載となる。ただし、新連載作品は読み切り作品とは別の内容になる場合が多いので「プロトタイプ」とは言い難い。(注:短期集中連載作品は同一内容で本格連載開始となる)。

 2:その他企画モノ等
 連載枠争いとは全く関係の無いその場限りの短編作品。連載中(または終了直後)の作品の番外編や外伝、連載中の作家が連載の合間に描いた短編、更には伝記モノなどがこれに該当する。
 伝記モノは稀に新人や若手が描く事もあるが、このカテゴリの作品はほとんど実績にならないようである。

 ……の、以上2カテゴリに分けて総括してみたいと思います。(もっとも、後者のカテゴリではコメントする材料はそれほどありませんが) 

2002年連載資格審査系読み切り一覧

 ※ 短期集中連載
 『ダイキチの天下一商店』作:若桑一人、画:武村勇治

 ※ 「サンデー特選GAGバトル7連弾」の関係分
 『笑福祈願ダルマイト・ガイ』作画:モリタイシ
 『ピー坊21』作画:佐藤周一郎
 『新型機動携帯シモべえ』作画:木村聡
 『煩悩寺のヘン!』作画:黒葉潤一
 『なにがなんだかモリマッチョ』作画:カルーメン野口
 『4649! どヤンキーラーメン』(作画:水口尚樹

 ※ 「荒ぶれ昇竜!」シリーズ掲載作品
 『怪盗NAO!』作画:杉信洋平
 『プレイヤー〜禁断のゲーム〜』作:若桑一人/画:田中保左奈
 『ニポリの空』作画:小山愛子
 『カラス〜the master of GAMES〜』作画:佐藤周一郎
 『ミリ吉四六』作画:ささけん

 ※ その他、カテゴリ内(と推定される)読み切り作品
 『II(ツヴァイ)』作画・石渡治
 『背番号は○[マル]』作画:あおやぎ孝夫
 『葵DESTRUCTION!』作画:井上和郎
 『爆裂アナ 黒木一鉄』作画:藤井敦
 『ブカツ』作画:夏目義徳
 『ガクの詩』作画:藤崎聖人、詩:三代目魚武濱田成夫

 ──以上のように、この「連載資格審査系読み切り」カテゴリは、短期集中連載1作品と読み切り17作品(一部作者重複有り)を該当としました。それにしても凄い数ですね。
 しかし数だけなら立派ではあるのですが、この中で現時点までで晴れて連載枠を獲得できた作家さんは、モリタイシさん・あおやぎ孝夫さん・井上和郎さん・藤崎聖人さん4人だけ。あと、読み切り掲載後に不自然なタイミングで増刊での連載が終了した『プレイヤー〜禁断のゲーム〜』若桑一人&田中保左奈さんが本誌連載準備中ではないか…という説がありますが、真偽の程は全く分かりません。ただ、「荒ぶれ昇竜!」から連載枠を獲得した作家さんが未だ出ていない事を考えると、“『プレイヤー ──』本誌連載昇格説”もあながち全くのホラ話とは言い切れないものがあります。

 しかしそれにしても、この“18分の4または5”という成功確率は、お世辞にも高い確率とは言えないでしょう。また、晴れて連載を獲得した作家さんの作品の中で、ヒット作かヒット作予備軍であると言えそうなのが井上和郎さんの『美鳥の日々』だけ…というのも寂しいところです。
 特に酷いのは、これまでなら作品が掲載される事の無かったような新人(=増刊で連載実績が無い)作家さんの作品で、これらはほぼ全滅状態。これらの作品については、当講座の「現代マンガ時評」で実施したレビューでも低い評価を付けざるを得ないケースがほとんどで、02年に試みられた新編集方針は完全に裏目に出た形になってしまいました。

 ……以上の事から、02年の「サンデー」読み切り作品は“全体的にやや不作”と結論付けてしまって良いと思います。
 編集サイドもこの年の方針は失策だったと自覚したのか、02年の秋になると新人作家さんの抜擢は全く見られなくなってしまいました01年以前への回帰を決定したと判断して良いでしょう。
 恐らく03年の読み切り掲載本数は前年に比べてかなり減るのではないかと思われます。もっとも、その方が「サンデー」のためにも良いような気がしますが……。

 
 それでは、次に「その他企画モノ等」のカテゴリについても一応振り返っておきましょう。こちらは7作品です。 

2002年その他企画モノ等読み切り一覧

『川口能活物語』作画・草葉道輝
『呪いのウサギ』作画:杉本ペロ
『入来兄弟物語〜俺たちは燃え尽きない!〜』
作画:荻晴彦
『キャットルーキーぶっとび番外編 しっぽの怪』作画:丹羽啓介
『育ってダーリン!!(完結編)』作画:久米田康治
『まじっく快斗』作画:青山剛昌
『白い夏』作:武論尊/画:あだち充

 定番の伝記モノ有り、勝手に打ち切っておいた作品を単行本化のためにムリヤリ復活させる惨い所業(笑)有り…と、作品数が少ない割にはバリエーションに富んだ作品群であったと思われます。

 ちなみに、この中で本誌掲載実績の無かったのは荻晴彦さん。荻さんはこの後に増刊号で連載を獲得しており、これで一応“本誌連載有資格者”となりました。ただ、荻さんの個人サイトでの情報によると、その作品は1月発売号で終了&単行本化されず&次回作未定…ということらしく、本誌連載までの道筋は未だ遠そうです。
 荻さんは下積み時代も含めると7年ほどのキャリアがあるらしく(しかもアシスタント先で悲惨な目に遭ったとか)、根っからの苦労人タイプ。こういう方が成功したならば全国の新人マンガ家さんたちの励みになるはずですので、そういう意味でも頑張って欲しいものです。

 ……と、最後は年間総括なのか、新人マンガ家残酷物語なのか分からなくなってしまいましたが、今回はこれで締めとさせてもらいます。次回は01年以前からの連載作品について総括します。では、また。(次回へ続く

 


 

1月11日(土) 競馬学概論
「駒木博士の“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(1)
第1章:ビワハヤヒデ(前編)

駒木:「さて、今日から競馬学概論は新シリーズだ。さすがに『90年代名勝負プレイバック』は題材が尽きて来た(苦笑)」
珠美:「(笑)。で、今度はレースじゃなくて馬にスポットを当てる…というわけですね?」
駒木:「そういうこと。ただ、頻繁に名前が出てくるような超有名馬にスポットライトを当てても講義にならないんで、十分に実力も実績も兼ね備えているのにイマイチ人気や知名度が低い(と思われている)を採り上げて、経歴やレース振りを紹介しようと思ってるんだよ」
珠美:「それでこのタイトルというわけですね。カッコ付きで『かも知れない』となっているところが微妙ですけど(笑)」
駒木:「1頭の競走馬をどう位置付けするかっていうのは、人によってハッキリと解釈が分かれるからね。あくまで駒木個人の解釈した“埋もれた名馬”って事ですよっていうエクスキューズだね」
珠美:「なるほど、わかりました(笑)。……で、その“埋もれた名馬”第1号はビワハヤヒデですか。私にとってはリアルタイムの馬じゃないので“ナリタブライアンのお兄さん”という認識が真っ先に来るんですけど、改めて振り返ってみますと、成績も弟に負けず劣らず凄いですね」
駒木:「うん。何しろG1レース3勝に加えてデビュー以来15連続連対だからね。現役時代はシンザンのデビュー以来19連続連対の記録を抜くかどうかで随分と盛り上がったものだったよ」
珠美:「でも確かに成績の割には影が薄いような気がしますねー。『20世紀の名馬100』ファン投票では20位ですか。また微妙な順位ですね(苦笑)」
駒木:「これはおいおい話の中で紹介してゆくけれども、とにかくこの馬は世間的な人気が無い馬だったからねぇ。こうやって採り上げている事からも分かるように、僕自身はこの馬を認めていたんだよ。けれども、あまり同調してくれる人はいなかったねぇ(苦笑)」
珠美:「ではそういう点も含めて、博士にビワハヤヒデのレース振りについてデビュー戦から順に振り返って頂きましょう。
 ……それではまず、ビワハヤヒデの生涯成績を簡単にまとめた表を用意しましたので、そちらをご覧下さい」

ビワハヤヒデ号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

92.09.13

新馬戦

/14

(テイエムシンザン)

92.10.10 もみじS /10

(シルクムーンライト)

92.11.07 デイリー杯3歳S(G2) /8 (テイエムハリケーン)
92.12.13 朝日杯3歳S(G1) /12 エルウェーウィン
93.02.14 共同通信杯4歳S(G3) /9 マイネルリマーク
93.03.20 若葉S(オープン) /8 岡部 (ケントニーオー)
93.04.18 皐月賞(G1) /18 岡部 ナリタタイシン
93.05.30 日本ダービー(G1) /18 岡部 ウイニングチケット
93.09.26 神戸新聞杯(G2) /9 岡部 (ネーハイシーザー)
93.11.07 菊花賞(G1) /18 岡部 (ステージチャンプ)
93.12.26 有馬記念(G1) /14 岡部 トウカイテイオー
94.02.13 京都記念(G2) /10 岡部 (ルーブルアクト)
94.04.24 天皇賞・春(G1) /11 岡部 (ナリタタイシン)
94.06.12 宝塚記念(G1) /14 岡部 (アイルトンシンボリ)
94.09.18 オールカマー(G2) /8 岡部 (ウイニングチケット)
94.10.30 天皇賞・秋(G1) 5/13 岡部 ネーハイシーザー

駒木:「92年デビューかぁ。…てことは、この馬がデビューしてからもう10年以上経つんだね。そういや、当時は高校生だったなぁ(苦笑)」
珠美:「私は小学6年生で、競馬のケの字も知りませんでした(笑)。
 ……さて、ではデビュー戦から振り返ってもらいましょう。阪神の芝1600m戦なんですが、記録を見ると、2着馬と1.7秒差の大差勝ちなんですね」

駒木:「この馬は16回走って、その内で1番人気が13回もあるんだけど、この新馬戦は2番人気だったんだよね。ビワハヤヒデ自身の血統がパッとしない上に、同じレースに話題になってた良血のニホンピロスコアーって馬が出ていて、1番人気を譲り渡したってわけ。ニホンピロスコアーって馬は、後に朝日杯に出た時に未勝利戦を勝っただけで2番人気に推されてるぐらいだから、典型的な人気先行型良血馬だったわけだね。今で言ったらサイレントディールみたいなものかな。
 でもいざフタを開けてみたら、ビワハヤヒデは中団待機から直線持ったままでブッチギリの圧勝。ダートなら実力以上に大差が広がる事も多いんだけど、これは芝だったからねぇ。しかもこの時のメンバーの中には後の重賞ウイナー・ダンシングサーパスもいたりするから価値が有るよね。決してメンバーに恵まれての大差勝ちじゃないよ。
 そして勿論、このレースをきっかけにしてビワハヤヒデは一躍注目馬の1頭にのし上がるわけだ」
珠美:「こうしてデビュー戦を圧勝したビワハヤヒデは、中3週のローテーションでオープン特別のもみじSに臨みます。今度は堂々の1番人気でしたが、結果はまたしても完勝でした」
駒木:「実はこのレース、僕は2着になったシルクムーンライトを応援しててねぇ。だからその時は『なんだ、この野暮ったい
顔のデカい馬は!』って感じだったよ(笑)。
 でもまぁ、悔しかったけど強かった。このレースも重賞ウイナーとか、後のジャパンカップ馬・マーベラスクラウンがいた中を余裕残しで、しかもレコード勝ちだからね。実況のアナウンサーとか解説のトラックマンが興奮気味にこの馬の強さを語っていたのを覚えているよ。この時にはもう“大物ルーキー現る!”って感じで、関西の競馬界がにわかに騒がしくなって来たのが、ただの1ファンだった僕にもヒシヒシと伝わって来たよ」
珠美:「そんなビワハヤヒデの快進撃はさらに続きます。重賞初挑戦となったデイリー杯3歳Sでは、単勝1.7倍の抜けた1番人気に応えて快勝します」
駒木:「この時は、“優等生”タイプのビワハヤヒデにしては珍しく追走にモタついてね。しかも直線では少し前が詰まる不利があったんだけど、気がつけば1馬身3/4の差をつけて2レース連続のレコード勝ち。後に3000mを超えるレースで活躍したわけだから、決して恵まれた条件じゃなかったはずなんだけどね。
 ……当時の状況では、もうこの辺で『来年のクラシックが楽しみです』状態だったね。オグリキャップ以来人気のあった芦毛馬だったし、この頃はもうアイドルホース路線まっしぐらって感じだったんだよ。ところが、ここから足を中途半端に踏み外しちゃうんだな(苦笑)。個人的には、ここから微妙な足踏み状態が続いたのが、後の不人気の遠因になっているような気がするんだよ」
珠美:「……そんな“足踏み”の始まりとなったのが、単勝1.3倍という、いわゆる“一本被り”状態で参戦した朝日杯3歳Sでした。このレースでビワハヤヒデは、3番人気の外国産馬・エルウェーウィンとの叩き合いにハナ差惜敗して初黒星を喫します」
駒木:「ビワハヤヒデは、気性的にも能力的にもほとんど欠点の無い、しかも安定度抜群の理想的な競走馬だったんだけど、この馬の唯一と言っていい弱点が、叩き合いと瞬発力勝負が不得手だった事。一瞬のキレってヤツが無かったんだね。直線の前半で勝負を決めてしまうようなレースだと滅法強かったんだけど、ゴール前までもつれるようなレースはどうも苦手だったみたいだ。だからこの馬をシンザンみたいに刃物で喩えるならば、切れ味よりもパワーで敵を捻じ伏せるタイプの、ファンタジー系RPGに出て来るグレートソードのような感じになるのかな。
 ……でも、今のセオリーだったらこの馬、こっちじゃなくて年末のラジオたんぱ杯に回ってるだろうにね。それならそこで現実より一足早く、ナリタタイシンと名勝負数え歌の第1戦が実現していた事になるんだよ。それを考えたら色々な意味で惜しい事したね
珠美:「──こうして、ビワハヤヒデは今で言うところの2歳シーズン4戦3勝2着1回という形で終えます。
 この後ビワハヤヒデは、2ヶ月の調整期間を挟んで、後に弟・ナリタブライアンも出走する事となる共同通信杯4歳Sに駒を進めます。前走敗れたとは言え、ここは格下相手のG3戦。ビワハヤヒデはここでも単勝1.3倍の1番人気に推されました……が、ここでも直線で先に抜け出したマイネルリマークを頭差交わしきれずに2着に敗れます。連対は確保して馬券上の責任は果たしたものの、まさかの2連敗…といったところでしょうか?」

駒木:「そうだね。後に2ヶ月間隔のローテーションでビシバシ走った馬だから、休み明けってのは言い訳にならない。やっぱりここもキメ脚の不足が祟ってる感じだよね。
 でも、さすがにこの取りこぼしはマズかった。10回走ったら9回以上勝てるはずのメンバーだったからね。ビワハヤヒデの競走生活の中でも唯一・最大の汚点と言っていいんじゃないかな。
 それを証明するように、このレース限りでそれまでの主戦ジョッキーだった岸騎手が降板させられて二度と復帰する事は無かった。入れ替わりで主戦になったのは、それまであのニホンピロスコアーの主戦だった岡部騎手。こうして見るとシビアな世界だよね」
珠美:「キングヘイローの福永騎手とか、ナリタトップロードの渡辺騎手は復帰できたんですけどね」
駒木:「ビワハヤヒデの場合は、その後少なくとも格下の馬には負けなかったからね。岡部騎手も他の馬を捨ててでもハヤヒデを選んだし、もう1度乗り替わりをする理由が無かったんだよね。岸騎手にしてみれば、まさに大魚を逃したって感じだったと思うよ。ここ数年の岸騎手がパッとしないだけに余計そう感じてしまうね。
 ……とまぁ、そういう事があって、このレースはビワハヤヒデにとって色々な意味で転機になったレースだった。これを機に、陣営も気が引き締まったんじゃないかな。その後はさっきも言ったように格下相手の取りこぼしが無くなって……まぁ、春のクラシックは惜敗続きなんだけれども、まぁ堂々たる一流馬に成長してゆく事になる
珠美:「では、いよいよクラシック戦線なんですが──」
駒木:「あぁ、それをやってしまうと無茶苦茶長い講義になってしまうから、今日はここで置こう。クラシック戦線については来週のこの時間にね」
珠美:「分かりました。ちょっと短めの講義ですけど、長過ぎるよりは良いですよね(笑)」
駒木:「長々と喋るとミスが増えそうだしね(笑)。まぁそういうわけで、ビワハヤヒデについては“次回へ続く”ということで、よろしく。では、今日の講義を終わります」
珠美:「受講生の皆さんも博士もお疲れ様でした♪」次回へ続く

 


 

1月9日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(1月第1、2週分)」

 今年最初のゼミの時間となりました。今年も「週刊少年ジャンプ」、「週刊少年サンデー」を中心に新連載作品や読み切りの詳細なレビューを実施してゆく方針です。どうかよろしくお願い致します。
 さて、今回のゼミは先週の休講を受けて、「ジャンプ」の5号と6・7合併号、そして「サンデー」の6号を対象にレビューと“チェックポイント”を実施します。そのため、今週はレビュー3本ということになりますね。

 では、まず軽く「ジャンプ」「サンデー」関連の情報を採り上げておきましょう。今週の話題は1つだけです。

 現在冬の新連載シリーズが始まっている「週刊少年サンデー」では、来週の7号より、杉本ペロさんのギャグ作品・『俺様は?(なぞ)』が新連載となります。つい最近まで『ダイナマ伊藤!』を連載していた杉本さんですが、2ヶ月ほどのインターバルでの復帰となりますね。
 「サンデー」では、『神聖モテモテ王国』作画:ながいけん)以降、ショートギャグ作品ではこれといったインパクトが残せないでいるのですが、果たしてどうなるでしょうか?

 ……それでは、今週はレビュー対象作が多いですし、無駄話も挟まずにそちらへ移りましょう。今週は「ジャンプ」から新連載3回目の後追いレビュー1本読み切りレビュー1本を、そして「サンデー」からは新連載レビュー1本計3本のレビューをお送りします。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年5号〜6・7合併号☆

 ◎新連載第3回『TATTOO HEARTS』作画:加治佐修/5号掲載分

 新人・加治佐さんの週刊初連載作品・『TATTOO HEARTS』の後追いレビューです。
 前回の第1回時点でのレビューでは、主人公たちのキャラ紹介や世界観の説明をソツなくこなした部分を評価して比較的高目の評価(A−寄りB+)をしたのですが、どうもその後の展開は、残念ながらやや伸び悩んでいるような印象があります
 その原因は、話全体のテーマが未だに見えてこない点にあると思われます。ここまでの展開は、タトゥハーツの超能力を身に付けた主人公が一方的に刺客に命を狙われているだけで、極めて行動が受動的なのです。一応は“粋に生きる”という漠然とした目標はあるのですが、それが話を大きく盛り上げる方向へ向いておらず、読者の興味をそそるパワーに欠けてしまうのですね。
 喩えて言うなら、この作品は第1回で離陸した後にエンジンを止めてしまい、高度安定飛行に入る前の段階で既に惰性で滑空している状態なのです。前回指摘したように、この作品は「ジャンプ」の他作品と絵柄や設定の点で類似点が多く、ただでさえ不利な状況に置かれています。そういう中でダラダラと滑空を続けていては、“打ち切り”の4文字が近付いてしまう事でしょう
 加治佐さんは、画力や構成力などの基礎能力にはほぼ問題が無いだけに、今の状況は非常に勿体無い気がしてなりません。もし、首尾良くこのクールの生き残りが果たせた場合は、ハイテンポでインパクトのあるストーリー展開で事態打開を図ってもらいたいと思います。

 評価は少し下げてB寄りB+とします。


 ◎読み切り(前後編)『はじめ』作:乙一/画:小畑健

 年末年始の変則スケジュールの目玉という事なのでしょうか、5号と6・7合併号の2号に渡って、ジャンプノベル出身の新進小説家・乙一さん『ヒカルの碁』の作画担当・小畑健さんの豪華タッグによる特別読み切りが掲載されました。

 まずからですが、これはもう言う事は何も有りませんよね(苦笑)。小畑さんは『ヒカ碁』の取材休みを利用してこの作品を執筆したわけですが、年末進行前後の超絶スケジュールの中で実質的なページ増とは全く恐れ入ります
 それにしても、小畑さんに絵を描いてもらえるという事は原作者にとって幸せこの上無い話なんでしょうが、逆に言えばそれは“作品がダメ=原作がダメ”という公式が成り立ってしまうことになりますよね。う〜ん、プレッシャー大きそうですねぇ(笑)。

 さて次に、ストーリー面についてですが……。
 話の根幹になっているのは、“空想の実体化”。ぶっちゃけた話、小説やマンガの世界ではよくあるパターンではあります。ストーリーテラーを志す人間なら1度は考えつく設定でしょう。
 ただ、だからといって「ありきたりだからダメ」というものでありません。肝心なのは“料理”の方法です。何の変哲も無い炒飯でも美味いものは美味い…みたいなもので、使い古された設定でも面白いものは面白いですからね。
 そういう観点に立つと、この作品は話のメインを空想が具現化されてから3年経過した地点に置いているというあたりにオリジナリティが窺え、高く評価できるものだと思います。この辺はさすがに売れっ子小説家さんの底力というヤツですよね。
 ただ、個人的に惜しかった点は、話の“着陸地点”です。「はじめは本当にいた」という部分を強調して話が終わっているのですが、本来ならば「はじめがいなくなって悲しい」という部分が先に来ないと不自然ではないかと思うのです。いくら空想の産物とは言え、3年間毎日付き合っていたら情も沸きますし、空想だろうと現実だろうと関係なくなるのが普通だと思うんですよね。ですので、最後は喪失感に苛まれる主人公を描いて悲しいエンディング……というのが理想的な幕引きだったのではないかと思ったりします。まぁ、これは人によって評価が大きく分かれると思われますが……。

 そういう点を加味しまして、評価はA−に限りなく近いB+という結論にしたいと思います。

◆「ジャンプ」ここ2週のチェックポイント◆ 

『遊☆戯☆王』作画:高橋和希【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 えーと、高橋さんのやりたい事は、“スタンドを使った『リングにかけろ』”と解釈してよろしいんでしょうか?(苦笑)

『BLEACH』作画:久保帯人【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 やっぱり日常を舞台にしたコメディ描かせると、内容が見違えますねぇ。ただ、それで少年誌以外で活躍できるような作風とは言えないのが辛いところですが。“お色気力”に欠けているのも問題ですね。う〜ん、中途半端な形で才能が埋もれて……(苦笑)。

『HUNTER×HUNTER』作画:冨樫義博【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 相変わらず人が呆気なく死んでいきますが、冨樫さんの上手い所は“読者に認知はされているが、深い感情移入はされていない”キャラクターだけ死なせるところですね。この微妙なサジ加減にセンスが窺えるところであります。

☆「週刊少年サンデー」2003年6号☆

◎新連載『MÄR(メル)作画:安西信行

 『烈火の炎』でヒットを飛ばした“実績組”の中堅作家・安西信行さんの「サンデー」連載復帰作が遂に登場です。
 安西さんは、昨年の『烈火』終了後に青年誌で読み切りを発表するなど、活動の幅を広げようとする意図が窺えたりもしたのですが、結局は元の鞘に収まった格好ですね。
 さて、今回の作品は“少年マンガの鬼門”・正統派ファンタジー物。「ジャンプ」で『SWORD BREAKER』が撃沈した後を受けて始まったこの作品ですが、内容はどうでしょうか……。

 まず絵柄ですが、これは良い意味でも悪い意味でも以前と変わっていませんね。顔の描き分けのパターンが少ない…という問題もありますが、まぁ指摘しなければならない点はほとんど無いと思います。パッと見で世界観ともマッチした絵柄とも思えますし、まぁ良いんじゃないでしょうか

 そしてストーリー今回は完全にプロローグ的なエピソードで、主人公が日常からファンタジー世界へ導かれていく“巻き込まれ型”の話が展開されました。
 話の内容そのものはステロタイプで、それこそ同系統の作品で何度と無くあったパターンです。が、これはいわゆる“お約束”みたいなものですし、プロローグだけで作品全体の評価を下すのは愚の骨頂ですので、現時点でのストーリー面の評価は保留したいと思います。
 ただ、1点だけ気になるのが主人公のキャラ造型です。運動神経ゼロ・成績中の下という少年をどのようにヒーローにしてゆくのか、その見通しにはなかなか厳しいものがあると思います。また、運動神経ゼロと謳っておきながら、いきなり見せ場で“お姫様抱っこ”を敢行させてしまう…という設定に対する杜撰さも気になるところであります。

 まぁ、今回だけでは評価の下しようがありませんので、7段階評価は保留に。しかし、期待よりも不安の方が先行した第1回とだけは言っておきます。


◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫【第3回掲載時の評価:B/雑感】 

 これが他の作品なら、「女子中学生のヌードキター!」なんでしょうけど、このマンガ色気無ぇ(笑)。爽やかなのもここまで来ると凄いですね(笑)。

『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため、評価未了/雑感】

 コース取りでイン奪い合って深い進入…って、これはこの年末の賞金王決定戦そのまんまではないですか(笑)。勿論、こっちの執筆時期の方が断然早いんですけど、本当によく出来た偶然の一致ですねぇ。まぁ、実在の世界ではインコース組は全滅状態になっちゃったんですが。

 

 ……さて、今回は以上です。講義の実施が遅れに遅れて申し訳有りませんでした。
 次回は「ジャンプ」が合併号休みなんですが、ようやく年末発売の「赤マルジャンプ」を入手できたんで、また簡易版のレビューでもやろうかと考えています。またどうぞよろしく。それでは講義を終わります。 

 


 

1月8日(水) 特別演習
「『週刊少年サンデー』この1年」(1)

 今回から、年末の「『週刊少年ジャンプ』この1年」に続きまして、「週刊少年サンデー」の2002年総括を実施します。
 実は「週刊少年サンデー」に関しましては、「ジャンプ」と違って詳細なデータベースや資料集がネット上にあまり存在しないという事情があり、なかなかデータ分析や過去との比較検討が難しかったりします。が、それでも出来る限り詳しい分析をするつもりでいますので、どうぞよろしく。

 ──さて、この「サンデー」年間総括も「ジャンプ」の時と同様に全部で3回に分けて実施します。そして今日・第1回の講義は新連載作品についての総括を行います。
 ではまず、今年「週刊少年サンデー」で新たに連載が開始された作品を振り返っておきましょう。作品は、主に2002年に掲載されていた…という意味で、対象期間は01年末発売分の2002年1号から02年末発売の52号までとし、短期集中連載は読み切り作品に分類するためここからは省きます。

『旋風(かぜ)の橘』作画・猪熊しのぶ
『焼きたて!! ジャぱん』作画・橋口たかし
『365歩のユウキ!』作画:西条真二
『史上最強の弟子ケンイチ』作画:松江名俊
『一番湯のカナタ』作画:椎名高志
『鳳ボンバー』作画:田中モトユキ
『いでじゅう!』作画:モリタイシ
『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫
『きみのカケラ』作画:高橋しん
『美鳥の日々』作画:井上和郎
『D−LIVE』作画:皆川亮二

 ……02年の新連載作品は以上の11作品でした。この内、03年への越年を果たした作品は8作品。このあたりは「ジャンプ」とは一味違いますね。
 ただし、新連載のタイトル数を見ると、「ジャンプ」のそれ(12作品)と遜色がありません。この事実には皆さん驚かれるかも知れませんが、実は「サンデー」は10週打ち切りが無いだけで、連載の入れ替えは結構派手に行われているのです。
 ただし、「ジャンプ」では2クールの壁を突破した作品は大体2、3年以上の長期連載となるのに対し、「サンデー」では、短期打ち切りが無い替わりに2回年越しが出来ない作品が多い(=半年〜2年以内での打ち切りが多い)…という部分で差があるというわけなのですね。
 つまり、「サンデー」の基本的な編集方針とは、

 ●年間10タイトル強の新連載を立ち上げる。
     ↓
 ●ブレイクしそうにない不人気作品などを、最短で20週弱、最長2年ほどで徐々に打ち切ってゆき、最終的には1つか2つまで絞る。
     ↓
 ●勝ち残った作品は、基本的に作者が納得するまで連載続行。

  ……こんな感じになるわけです。
 このパターンでは、打ち切りの場合でも10数回かけて相当にストーリーが進行しますので、いわゆる“打ち切り臭”があまり漂って来ないというメリットが出てきます。
 ただしその反面、ヒットの見込みが全く無い作品が半年前後放置されるという痛々しい光景や、ストーリーがようやく盛り上がって来たところで打ち切りが確定するというケースが多くなります。また、最近の「サンデー」では不人気作品に対する露骨なテコ入れが目立つようになったため、そのデメリットが強調される風潮があるのも気になるところです。
 この「サンデー」方式の編集方針といわゆる「ジャンプ」システムのどちらが優れているかに関しては、恐らく意見が分かれるところでしょう。が、どちらにもデメリットがあり、またそれを減らすだけの余地が残されている事は確かであると思われます。月並みな言葉になりますが、両誌の編集部の皆さんには、よりベターな編集方針を追求していってもらいたいと思います。 


 ──さてさて、とりあえずの解説はこれくらいにしまして、ここからはそれぞれの作品について振り返り、それを受けて最後にもう1度、02年の新連載作品全体としてのまとめを行うとしましょう
 ではまず、01年末から02年初にかけての“冬シリーズ”の3作品から。

『旋風(かぜ)の橘』作画・猪熊しのぶ
『焼きたて!! ジャぱん』作画・橋口たかし
『365歩のユウキ!』作画:西条真二

 まず02年度のトップバッターとして連載が開始されたのは、2・3合併号開始の『旋風の橘』でした。
 この作品の作者・猪熊しのぶさんは、98年41号から01年41号までの丸3年間『SALAD DAYS』を連載した実績のある作家さん。『SALAD…』は、「週刊少年マガジン」のヒット作・『BOYS BE…』を思わせるオムニバス・ラブコメ作品で、時に失恋話や続き物のストーリーを織り交ぜたのが良いアクセントとなったのか、ソコソコの人気を確保して長期連載となりました。
 そんな猪熊さんの新作となった『旋風の橘』は、前作から一変して剣道を題材としたスポーツ物。ところが猪熊さんがテーマの剣道について詳しくないなどの致命的な欠点のために現実味の無いストーリー展開となってしまい、間もなくして作品は“迷走”。数度の“擬似打ち切り”的なテコ入れが繰り返された挙句に03年1号までのジャスト1年で打ち切り終了という悲惨な結末を迎えてしまいました。
 特に、幾度となくテコ入れが繰り返された連載後半は、まるで完治の見込みの無い重病人が全身に管を通されて延命措置を受けているような有様。「サンデー」方式の悪い面だけが強調される最悪のパターンにハマりこんでしまった感が拭えませんでした。

 そんな『旋風の橘』に続いて、4・5合併号から連載が開始されたのが『焼きたて !! ジャぱん』。過去に「サンデー」本誌や系列誌、後には「コミックGOTTA」(廃刊)に短期の連載を繰り返していた橋口たかしさんの「サンデー」復帰作となりました。
 この作品、実は01年に同名のプロトタイプ作が短期集中連載されており、そこで人気を得ての本格連載でした。 そしてこの『焼きたて……』は、連載開始当初から美麗な絵柄とアニメ版『ミスター味っ子』を髣髴とさせるオーバーな演出がウケて、本格連載後も高い人気を獲得。「サンデー」の新しい看板作品候補として見事に03年への越年を果たしました。恐らくは極端な人気低下が無い限り、3年を超す長期連載になることでしょう。

 この冬シリーズ最後の作品は『365歩のユウキ!!!』。作者の西条真二さんは、成人向マンガ家から出発して後に「週刊少年チャンピオン」に移籍し、そこで『鉄鍋のジャン!』をスマッシュさせた後に今度は「サンデー」に移籍した…という数奇な経歴の持ち主。「サンデー」での連作作品としては、前作の『大棟梁』半年打ち切り→増刊へ左遷の憂き目に遭っています。
 今回の『365歩の……』は将棋を題材にしたマンガで、これは以前同じ将棋モノの『歩武の駒』をコケさせた「サンデー」編集部にとってもリベンジを賭けたものでありました。
 ところが、この作品も先述の『旋風の橘』同様、作者のテーマに対する知識が全く不足しており、ただ中身の薄いハッタリに頼り続ける苦しいストーリー展開になってしまいました。そして、それが嫌気されたのか人気は当初から今一つ。結局は43号までの37回で打ち切り終了となってしまいました。

 この冬シリーズは、連載作品の運命が両極端な道を辿ったという点で、非常に読者にとって印象深いものとなりました。また、この実績組作家さんの“頓死”現象は、この年何度も繰り返され、そういう意味では1年間を象徴するシリーズであったと言えるかも知れません。


 それでは次に“春シリーズ”です。

『史上最強の弟子ケンイチ』作画:松江名俊
『一番湯のカナタ』作画:椎名高志
『鳳ボンバー』作画:田中モトユキ

 「サンデー」では、連載実績の無い新人・若手作家さんが本誌連載を勝ち取るまでには高いハードルが存在しますほとんどの場合、増刊での連載で実績を作り、その上で本誌に読み切りを発表してそこで高い人気を獲得しない限りは本誌連載への途は開けて来ないのです。一度実績を作ってしまえば比較的簡単に次の連載が回ってくるのですが、実績組に優しい分だけ新人・若手がワリを食うというのが「サンデー」の特徴です。(青字の部分は後日訂正した箇所です)
 そんな激しい新人・若手の出世レースを潜り抜けて来たのが、格闘技をテーマにコメディの要素を織り交ぜたエンターテインメント作品『史上最強の弟子ケンイチ』松江名俊さんでした。松江名さんは、この作品のプロトタイプである『戦え! 梁山泊 史上最強の弟子』を増刊に連載、更には本誌読み切り掲載していたのですが、そこでの人気が認められて遂に“本誌連載栄転”を果たす格好となりました。増刊で連載された新人の作品のほとんどが単行本化されない「サンデー」で全5巻の単行本が刊行されている事からも当時の人気の程が窺えます。
 満を持して開始された本誌連載では、当初こそストーリー展開のモタつきで以前からのファンをヤキモキさせた時期もあったそうですが、短期打ち切りの無い「サンデー」方式の利点を活かしきって徐々に作品の魅力をフルに発揮。ともすれば多過ぎる程の主要登場キャラを全て“立たせる”事に成功して、今では相当上位の人気を獲得しているとされています

 そんな『史上最強の──』色々な意味で対照的だったのが、このシリーズの2作品目・『一番湯のカナタ』でした。
 この作品の作者は“実績組”の代表格・椎名高志さん。実質的な連載デビュー作である『GS美神極楽大作戦』で大ヒットを達成し、アニメ化もされました。その次の『MISTERジパング』は打ち切りとなってしまったものの、根強い固定ファンを多数抱えている強みでしょうか、かなり早い段階での連載復帰となりました。
 しかしこの『一番湯のカナタ』は、随所に椎名さんの技量の豊かさが窺える佳作でありながら、それが純粋な面白さに繋がらずに人気が低迷。途中でエゲつないまでのテコ入れが為され、それからしばらくしてネット界隈での評判も急上昇したのですが、時既に遅く、半年強(21・22合併号〜03年2号)でのスピード打ち切りとなってしまいました。

 このシリーズ最後の『鳳ボンバー』は、前作『リベロ革命!』で連載デビューを果たしたばかりの若手・田中モトユキさんの連載2作目でした。
 今作は、『リベロ革命 !!』連載中に本誌掲載された読み切り作品を長編化したもので、『リベロ革命 !!』終了から間髪置かずに連載開始されたところからすると、どうやら読み切りが好評だった等の理由をもって連載作品の“鞍替え”が行われたものと思われます。
 ソコソコ人気のあった連載作品を切ってまで立ち上げた新連載。まさにハイリスク・ハイリターンのチャレンジだったわけですが、この連載版『鳳ボンバー』は序盤からの間延びした展開が嫌気されてか人気が伸び悩み、既に打ち切り黄色信号の巻末掲載も経験しています。何とか越年は果たしたものの、予断の許さない情勢が続いています。

 この春シリーズも実績組の苦戦が目立ちます。新人の作品が生き残るという点は評価できるものの、寂しさも否めません。


 続いて“夏シリーズ”の3作品に行きましょう。

『いでじゅう!』作画:モリタイシ
『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫
『きみのカケラ』作画:高橋しん

 学園スポーツ物ギャグ作品・『いでじゅう!』モリタイシさんは、新人・若手ギャグ作家による激しい連載枠争いを潜り抜けてきた新鋭で、増刊連載、本誌の読み切り掲載を経て本誌連載獲得となりました。
 「サンデー」に限らず、少年誌におけるギャグ作品枠は非常に限定的かつ閉鎖的であり、新旧交代の流れが極めて緩やかなのが特徴です。この連載枠も相当な人数による争奪戦を経てモリさんに与えられたもので、それを考えれば、まずは連載を獲得した事だけでも賞賛に値する出来事と言えるでしょう。
 ただ、肝心の連載作品『いでじゅう!』は、なかなかインパクトの強いギャグを畳み掛ける事が出来ずに、掲載順も徐々に後方へ転落。越年は果たしたものの、03年度の生き残りは今のところ微妙な状況です。

 さて、その3週後から、同じ学園スポーツ物でもストーリー作品として新連載されたのが『ふぁいとの暁』でした。
 作者のあおやぎ孝夫さん「コミックGOTTA」休刊後のサンデー移籍組。先に本誌で発表された野球マンガ・『背番号は○』が評価されての連載枠獲得となりました。
 『ふぁいとの暁』は、その毒気の無い爽やかな絵柄・作風が好感されたのか、連載当初からソコソコの人気を獲得し、無事越年。ただし、ここ数週間は掲載順が下位に転落し、若干の伸び悩み傾向が見られます。スポーツ物過多の「サンデー」の現状を考えると、03年は正念場の1年という事になりそうです。

 そして秋シリーズの“目玉”として鳴り物入りでスタートしたのが、大ヒット作家・高橋しんさんの描くファンタジー作品・『きみのカケラ』でした。
 高橋さんは、これまで「ビッグコミックスピリッツ」などの青年誌を中心に、『いいひと。』『最終兵器彼女』といったヒット作を連発して来た中堅作家さんで、少年誌での連載はこれが初めて。当然、大ヒット作を期待されての「サンデー」移籍となりました。
 ところが、この『きみのカケラ』は大誤算でした。連載開始間もなくから、ネット界隈では内容に対する不満の声が続出。連載10回を超えた頃からは掲載順も急降下して、現在では「間もなくテコ入れか打ち切りか…」といった情勢になりつつあります。この作品についても、03年は正念場という事になりそうです。

 この夏シリーズは、新連載になった3作品の情勢が全て軟調に推移すると言う、若干物足りないものになってしまいました。特に、高橋しんさんの“大ブレーキ”が痛かったシリーズでした。


 さて、最後は秋シリーズ。このシリーズは2作品の新連載でした。

『美鳥の日々』作画:井上和郎
『D−LIVE』作画:皆川亮二

 一言で言い表すと“変形正統派ラブコメ”というワケの分からないカテゴリに分類される『美鳥の日々』は、新人・井上和郎さんの作品。井上さんは藤田和日郎さんのアシスタントを経て、本誌に読み切りを掲載。これがネット界隈を中心に大好評を博し、「サンデー」系の新人さんとしては珍しく、増刊連載を経ないままでの本誌連載獲得となりました。(追記:井上さんは2001年に増刊号で短期間連載を経験していました。訂正してお詫びいたします)
 右手に主人公へ片想い中の女の子が宿る……という奇抜な設定のこの作品も、ネット界隈を中心に人気は上々。まだ人気が掲載順へ正確に反映される時期ではないのですが、巷の評判の限りではソコソコ以上の人気は得ているようです。今後、これが2年以上の長期連載となるかどうかまでは全く不明ですが、現在のところは安定株と言って良いようです。

 02年度事実上最後の新連載作品・『D−LIVE』は、過去に『スプリガン』『ARMS』といった骨太の長編アクション作品でスマッシュヒットを連発して来た皆川亮二さんの新作。今回は1つのエピソードを数話で完結させる連作短編形式の作品で、途中から読み始めた読者にもスンナリ入っていけるような配慮をしているようです。
 この作品もまだ人気情勢を把握するにはデータ不足なのですが、あまり評判らしい評判も、不評らしい不評も聞こえてこない…というのが現状のようです。つまりは作品全体の持つインパクトが今一つという事で、この辺りが03年を乗り越える事が出来るかどうかの課題となりそうです。

 
 ──と、以上が2002年の新連載作品に対する回顧と雑感でした。そしてここからは、それらを踏まえた全体の振り返りです。

 ……今年の「サンデー」新連載作品の特徴としては、まず第一にベテラン作家・人気作家作品の低迷が挙げられます。
 実は、この傾向は01年から見られたもので、ゆうきまさみさん菊田洋之さんといった“実績組”作家さんたちの作品が、長期人気低迷による打ち切りで次々と姿を消しています。今年の度重なる“実績組”作家さんの低迷は、その傾向を加速させたものといえるでしょう。
 このような低迷の原因は色々なものが考えられますが、その中でも特にここ最近で深刻なのが、連載開始までの準備不足ストーリー展開の極端な間延び現象です。
 前者に関しては、『旋風の橘』『365歩のユウキ!!!』で見られたような作家の題材に関する勉強と取材の不足がその典型例で、プロのクリエイターとしてはハッキリ言ってお粗末な失策としか言いようがありません。編集部主導で作品のテーマが決まってしまうと作家さんのモチベーションも上がり辛いのかもしれませんが、連載開始にあたっては、せめてそのテーマにおける基礎知識を完全にマスターするくらいの気概が欲しいと思います。作品の命であるテーマに愛情を持てない作家が描いた作品など、読者の心を打つはずなど無いのですから……。
 後者の間延び現象は、恐らくは作家サイドの見通しの甘さ、そして編集サイドが作家へ作品制作を丸投げしている所に起因するものだと推測しています。
 人気作家さんの多くは“こんな作品を描きたかった”的願望を持っているもので、それは得てして壮大なスケールで描かれる大長編、しかも独り善がりな複雑な設定のものになりがちです。で、こういう作品が連載になると、読者に負担を強いるだけで山場の無いプロローグ的な展開が最長半年程度延々と続いてしまい見せ場に辿り着く前に読者の大半がサジを投げてしまったりします。
 これが新人・若手作家さんの作品なら、編集サイドがダメ出しをして事無きを得るのですが(そのせいで作家さんの“こんな作品を描きたかった”的願望が高まってしまうのですけれども^^;;)、人気作家さんの場合はそういかないケースが多く、気がついたら手遅れになってしまうわけなのですね。
 前者の問題はともかく、後者の問題を解決するためには色々な摩擦が発生する事は必至で、なかなか難しい懸念材料と言えるでしょう。しかし、“実績組”作家さんの低迷は作家さん個人だけでなく雑誌が受けるダメージも大きいだけに、この問題については本腰を入れて改善に動いてもらいたいものです。

 ……と、そんな“実績組”の低迷と対照的に、02年の「サンデー」は新人・若手作家さんの当たり年でもありました。キャリアの長い橋口たかしさんを若手作家とするのは意見が分かれるところでしょうが、その他にも松江名俊さん井上和郎さんなどのサンデー生え抜きの新戦力の才能が開花しつつあるのはプラス材料と言えるでしょう。
 ただし、02年の新連載作品は大ヒット作が不在で、『犬夜叉』『名探偵コナン』などの看板作品の牙城を揺るがすにはパワー不足が否めませんでした。丸3年以上大ヒット作品の無い「ジャンプ」ほどではありませんが、そろそろ「サンデー」も過渡期に突入しつつあるのかな…という印象があります。これについては、また次々回の長期連載作品総括で採り上げたいと思います。

 では、今回はこのあたりで。次回は読み切り作品について振り返ります。 (次回へ続く

 


 

1月6日(月) 労働経済論
「役に立たない? アルバイト時給案内」(3)

 ※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回

 もったいぶるような内容でもないのですが、このチャランポランな講義も何の因果か越年しての再開となりました。

 前回までで時給1000円オーバーの仕事は語り尽くしましたので、いよいよ今日からは3ケタ時給のアルバイトについての話となります。
 で、まず今日は、時給800円「洋菓子店バレンタインデー臨時要員」についてお話する事としましょう。郵便局では既に「バレンタインデーゆうパック」の取り扱いも始まったみたいですし、これから始まるバレンタイン商戦に先立っての“予習”であると思って耳を傾けて頂けると幸いです。

 さて、駒木がこの仕事をやったのは、今から2年前の2月のことでした。これは毎年の事なんですが、高校講師の仕事が中途半端なタイミングで切れ、その間繋ぎのような形で入れた短期アルバイトでした。
 この仕事を選んだ理由は諸々あるのですが、最も大きな理由は、
 「貰う(のを待つ)方でなくて売る方に回る事で、バレンタインデーの空しさを回避する」
 …というものでした。

 昔からの受講生の方はご存知でしょうが、駒木のバレンタイン経験は悲惨そのものだったりします。
 このバイトをした前の年(2000年)に唯一貰ったチョコレートが、行きつけの雀荘で配っていた──しかも元は自分の懐に入っていた金で買われたチョコ。しかもそれを駒木に手渡したのは、東名高速が出来た頃に20代を法定速度オーバーで駆け抜けていったようなオバァでした。
 更にその3年前には当時付き合っていた女性に引導を渡されるというショック死寸前の体験までしておりまして、駒木にとってのバレンタインデーとは、陰の風が吹き滅の雨が降る忌み日であったりするわけです。

 では、この悪の連鎖を断ち切るにはどうすれば良いのだろうか? ……そんな事を考えた挙句、その最後には「バレンタインデー当日まで忙しく走り回っていれば、空しさを感じるヒマもないだろう」…という結論に至ったというわけです。ええ、根本的な解決に至っていない事は重々承知しておりますとも

 ──さて、そんなしみったれた話なんぞはこれ位にしまして、仕事の中身に話題を転換しましょう。

 駒木が勤務した洋菓子店は、某百貨店の食料品売り場のテナントでした。つまり、職場は洋菓子店であると同時に百貨店でもあるという事です。
 で、そんな職場に潜入しての第一印象は、
 「男性従業員の目が死んでいる」
 …でした。元々が女性上位の職場である百貨店ではあるのですが、まるで寂れた商店街の魚屋に陳列されているサンマのような曇った目がズラリズラリ。何だか『北の国から』で田中邦衛が調子外れの「西新宿の親父の歌」を絶唱している様子を眺めている時の如く、胸の奥底から得体の知れない感情の塊がグッと沸いて来るようでありました。
 何しろ、10数名の正社員・契約社員を束ねる店長ですら、一日中セリフの飛んだ新人役者のように目を泳がせているのですから、他のアルバイト店員の様子などは言わずもがなです。駒木の“教育係”を務めてくれたアルバイターは、その容貌が雨上がり決死隊の蛍原ソックリだったのですが、果たして似ていたのは容貌だけだったでしょうか。
 その思いを更に強くしたのは、その百貨店内の社員食堂の様子でした。華やかな制服に身を包んだ女性従業員たちが賑やかに談笑する中、スーツ姿のお父さんたちが肩をすくめて月見そばをすする光景は、「機動戦士ガンダム」でアムロが無表情で固いパンを齧っているあの場面とダブるものがありました。
 社会における男女同権やジェンダーフリーを求める運動が盛んになって久しいですが、殊にこの職場ではまるで別世界と言っていい状況であったと記憶しています。もっともこれは、勤務先がその時点で既に倒産していた某百貨店だった事も影響しているかも知れませんが……

 まぁそんなわけでして、この職場で駒木に与えられた業務の内容とは、職場で遺憾なく存在感を発揮なさっている女性陣、特に5年以上のキャリアを重ねているベテラン契約社員のお姉様方たちの命令……じゃなかった指示を受け、それをとにかく忠実にこなし続ける事でありました。なお、その際の駒木の使われっぷりに関しましては、『アイシールド21』におけるヒル魔とセナの日常風景を思い浮かべて頂くのが最も手っ取り早いと思われます。

 話ついでに具体的な業務内容を説明しておきましょう。
 仕事の中心になったのは店頭での接客やラベル貼りのような軽い作業などで、これは比較的楽な仕事だったのですが、時折突発的に発生する商品運搬の肉体労働がハンパではありませんでした。
 例えば、皆さんが普段客の立場で手にするチョコレートは、綺麗に包装された小さな箱が1つの単位ですね。しかし、店員の立場で扱うチョコレートはそうではありません。数十個詰のダンボール箱が最小単位です。それを浴槽のような巨大な台車に詰めてバックヤードを所狭しと駆け巡るのです。これは一度体験すると分かりますが、かなりキツいです。
 特にバレンタイン商戦のクライマックスとなる2月第2週には、洋菓子店の本部倉庫からトン単位のチョコレートが搬入されます。これを男子アルバイト総出で店内の倉庫に詰め込む作業が一番大変でした。店内の倉庫と言っても地下や高層階の数箇所に分かれていて、しかも既にどこも満杯寸前の有様。肉体労働してるんだか、底抜け脱線ゲームをやってるんだか分からない状況になってしまいました。
 しかし、アルバイトの1人が駒木に話してくれた内容によると、本当にキツい時はこんなものではないとの事。
 「──俺もなぁ、このバイト始めた頃に1人で大量の納品やらされたんやけど、その時は4時間荷物と格闘しとったわ。1人で
 ……一応は「大変でしたね」と言いましたが、本当は「ここの職場は薄情な人ばかりなんですか?」と訊きたかった事を白状します。

 ──とまぁ、この職場の仕事はこのような内容でした。業務内容の苦楽を総合すれば時給800円という設定は妥当と言えるのではないでしょうか。

 さて、本来ならここで話題を締めるところなのですが、せっかくの機会ですし、“店員の立場から見たバレンタイン商戦の姿”も少しばかり語ってみようと思います。極めて客観的な立場から俯瞰したバレンタインデーとは果たしてどのようなモノなのかを是非知って頂きましょう。とりあえず時間の関係上、これで一旦話を切りますが、次回の講義にどうぞご期待くださいませ。(次回へ続く

 


 

1月5日(日) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(24)
第3章:地中海世界(5)〜ポリスの形成と発展

※過去の講義レジュメ→第1回〜第19回第20回第21回第22回第23回 

 前回の講義から約3週間の間隔が開いてしまいました。
 この歴史学講義、ゼミ(「現代マンガ時評」)と並んで、受講生の皆さんから最も反響の大きい講義の1つではあるのですが、他の講義に比べてのエネルギー消費量がハンパでなく(苦笑)、どうしてもブランクが開き気味になってしまいます。
 とりあえず何とかモチベーションが持ち直せたので、今回からしばらく週1〜2ペースで続けてみたいと思います。いつまた音を上げるか分かりませんが、どうかしばしの間お付き合い下さいませ。

 ──さて、前回までの3回は半ば番外編のようなサイドストーリーをお送りしていましたので、今回お話する内容は第20回の続きという事になります。1ヶ月以上も前の講義ですので、どうぞ面倒臭がらずに復習して頂きたいと思います。
 で、その第20回はエーゲ文明時代を中心に、紀元前1200年頃から始まる文字や文化が酷く衰えた“暗黒時代”と呼ばれる謎の時代までのエピソードを紹介しました。よって、今回はその“暗黒時代”が終わりかける辺りのお話から始めることとします。

 この“暗黒時代”、先に述べたような事情で詳しい事は全く分かっていません。が、どうやらこの間、ギリシアの内外では複数の民族が激しく衝突・移動し、結果として民族が麻雀で牌を混ぜた後のようにシャッフルされてしまったのは間違いないようであります。
 ただ、そのシャッフルの度合いは地域によって大きく異なっていたようです。例えば、争奪戦が極めて激しかったのは土地が豊かで農作物の収穫が望める場所。限られたキャパシティを求めて数多くの人たちが戦いに明け暮れたと推測されています。
 この現象は逆もまた然りで、作物の収穫が望めない地域では激しいシャッフルは行われず、そこでは古くからの民族が土着化していったとのこと。更にそこには他の地域の領地争奪戦に敗れた人々が流れ着いたために、そのような地域では、やがて土地資源の貧しさに似合わない繁栄を謳歌する事になったのであります。実は、後に古代ギリシアを代表する都市国家となるアテネも、そのような理由で強大化していったという裏事情が有ったりするのです。

 結局この“暗黒時代”は約400年ほど続きました。ごく一部ではかつての文明時代を思わせる規模の遺跡が見つかっていますが、ほとんどの地域では村落程度の小規模な集団が無数にひしめき合っていたのではないかと言われています。
 そこでは、エーゲ文明時代の王や貴族の一族は完全に没落し、替わって権力と経済力を手にした新興のエリート層が台頭。政治や軍事の面でリーダーシップを発揮して集団(村落)を率いるようになったとの説が有力です。
 ただそのエリート層にしても、総量の限られた資源や土地を反映してか、それ程飛び抜けた力をもっていたわけではなかったようです。まぁ今の感覚で言うならば、土建屋から市会議長に昇りつめ、数キロ一円でブイブイ言わせてる小金持ちみたいなものでしょうか。
 そして、そのようなエリート層に率いられた村落がまた離合集散を繰り返し、それらの多くが紀元前8世紀前半頃から次々と都市国家化してゆきます。この離合集散現象を“集住(シノイキスモス)”と呼び、出来上がった都市国家の事をポリスと呼びます。このポリスが、異民族に侵略されるまで領域国家が存在しなかった古代ギリシアにおける行政組織の基本単位となります。なお、ポリスの中には“集住”を経ずに成立したものもありますが、そのようなポリスについてはまた追って説明する事としましょう。
 古代ギリシアに領域国家が存在しなかった理由は、これもまだ現在のところ定かではありません。一応の有力な説としましては、ギリシアでは灌漑農業による大規模穀物農業──領域国家の形成に大きく影響する──の実施が不可能であったからではないかとするものがありますが、これもいわゆる“ワン・オブ・ゼム”の域を出ないものでありましょう。この点に関しては、今後の研究の成果を待ちたいところであります。

 ──それでは今から、そんな都市国家・ポリスの特徴を皆さんに紹介する事にしましょう。勿論、ポリスの姿はそれぞれに異なりますが、ここでは数多くの特徴の中でも最大公約数的なものを採り上げたいと思います。

 まずポリスの中で最も重要かつ象徴的なものとして挙げられるのが、アクロポリス神殿です。
 アクロポリスとは“高い所にある町”という意味の語源を持ち、その名の通り丘や山を切り崩した高所に建築された施設で、神殿やその他建築物がありました。地理的条件を考えると、有事には防衛基地として機能していたと思われます。
 神殿は、あの有名なアテネ・パルテノン神殿に代表されるような豪華な造りをしていて、ほとんどの場合はそのポリスの“市神”を祀っていました。時代によって建築様式は微妙に異なりますが、元々の形はエジプトなどのオリエント文化の影響を色濃く受けています
 ところで、ギリシアの宗教は“市神”という言葉からも分かりますように、数多くの神が存在したとされる多神教です。神々の世界については、今なお数多く存在する神話からも窺い知る事が出来ます。
 ただし、例外的にギリシア全域で信仰された神もいくつか存在しました。ギリシア中のポリスから選手を集めて開催されたオリンピアの競技会(古代オリンピック)は、ゼウス神を祀る宗教的なイベントの性格が色濃いですし、後の古代ギリシア史に度々登場する事になるデルフォイの信託所は、近隣のポリスが隣保同盟と呼ばれる共同管理体制で維持されたものでありました。

 ややズレた話を戻しましょう。そんなアクロポリスの麓には市民の家屋やアゴラと呼ばれる公共広場が広がっていました。
 このアゴラ、通常は市場が開かれたり有閑市民が集って時事談義などをする社交場であったのですが、時には市民議会の議場や裁判所に趣を変える事もありました。まぁ要は市民生活には欠かせない多目的スペースであったということでしょう。

 ──このような各種の施設や建造物を取り囲むようにして城壁が築かれ、その枠内がポリスという事になります。
 ……ということは当然、ポリスには収容人員の限界が存在する事になります。自然の摂理に任せて人口が増えつづけると、人口密度が増し、やがて“定員オーバー”ということになるわけです。
 そんな場合はどうなるかと言いますと、ポリス内から独身の若者を選抜、または無作為に抽出して移民団を組織させます。間引きを兼ねた海外植民です。その移民団は船に分乗して小アジアや北アフリカなどへ行き、そこで植民市を建設します。当然、出先には先住民がいますが、友好関係を築いたり武力で服従させたりして、その地をギリシア人の土地にしてしまうわけです。
 もし植民市の建設に失敗しても、なかなか本国には帰してもらえません。大抵の場合、出航から5年を経ずに帰国した場合は問答無用で死刑に処せられたそうです。命からがら逃げ帰って来たかつての親族や仲間の命を容赦なく奪う姿には寒気すら感じますが、これも人口問題という切迫した事情があったが故の話であります。
 それでも中には本国を凌ぐほど栄え、後の時代にも要地として生き残った都市もありました。代表的なものとしてはビザンティオン(現在のイスタンブール)、マッサリア(現在のマルセイユ)、ネアポリス(現在のナポリ)、シラクサ(シチリア島の主要都市)などがあります。これらの都市は、厳密にはギリシア都市とは言えませんが、ギリシア人の都市であった事は確かなのであります。

 さて、今“ギリシア人”という言葉が出ましたが、ここでギリシア人について簡単に説明して、今日の講義を締め括りたいと思います。
 ギリシア人は大まかに分けて3つの民族から成っています。
 1つ目がアイオリス人。ミケーネ文明時代の主要民族であるアカイア人とも、それを滅ぼした“海の民”の末裔とも言われている民族で、主にギリシア北部を本拠地とし、小アジアの北端へ植民をしていました。ただ、ギリシアを代表するようなポリスを築き得なかったために、この古代ギリシア史の中では脇役に甘んじています。
 2番目に紹介するのがイオニア人ギリシアの東部、中部に本拠地を築き、小アジア西岸や他の地域に幅広く植民活動を行っていました。彼らは“暗黒時代”の激動の中でも土着化して力を蓄えていた民族であり、アテネテーベなどギリシアの盟主となるポリスを築き上げた、古代ギリシアの主役と言うべき存在です。
 そして最後にドーリア人。つい最近までミケーネ文明を滅ぼした“主犯”と言われていた民族ですが、今では“暗黒時代”にギリシア南部に住み着いた民族であるという事になっています。彼らの植民活動の舞台はエーゲ海の諸島が中心だったとされています。次回の講義で説明する事になるスパルタは、このドーリア人のポリスであります。
 彼ら3民族からなるギリシア人は、自らを“ヘレネス”と認識し、その住地を“ヘラス”と呼んで他の民族や地域と区別していました。特に異民族の事は“バルバロイ”と呼び、後には差別の対象にまでなってゆきます。
 ちなみに、この“バルバロイ”の語源は、「『バル、バル』という言葉を発する者」という意味で、ギリシア語を使えない、マケドニア人のような近隣の民族を指したものであるようです。後にギリシアがこの“バルバロイ”たちに征服される運命にあると考えると、世の無常さを嫌でも痛感させられる話であります。

 ……というわけで今回はポリスの成立過程やその姿についてお話をしました。次回からは、そのポリスの中でも代表的な存在であるスパルタやアテネの歴史について、やや詳しくお話をしてゆくことになります。では、また次回に。(次回へ続く

 


 

1月4日(土) 競馬学特論
「駒木研究室・2002年G1予想大反省会」(2)

 ※第1回(上半期編)のレジュメはこちらから

駒木:「受講生の皆さん、改めまして明けましておめでとうございます。駒木ハヤトです」
珠美:「私も改めまして、明けましておめでとうございます♪ あ、でも私は日誌の方で前にご挨拶しましたね(笑)」
駒木:「……でだ。今年の“仕事始め”は曜日の関係上、競馬学からという事になったね。講座全体の中では今一つ人気の無い科目なんだけれども(苦笑)」
珠美:「でも、競馬学は仁川経済大学の必須科目ですから、そういう意味ではちょうど良いかもしれませんね(笑)。
 そして、内容は昨年末からの続き。2002年の競馬学特論で実施したG1レース予想を振り返って反省しようという、私たちには辛ーい講義です(苦笑)」

駒木:「特に今日は下半期の回顧だからねぇ。荒れ気味のレースが多かった事もあったんだけど、とにかく成績が酷い(苦笑)。新年早々、苦行のような講義になりそうだね」
珠美:「先ほど駒木博士から説明がありましたように、今回の講義では前回に引き続いて下半期──スプリンターズステークスから有馬記念までの結果と予想を回顧してまいります。皆さんも一緒にレースやご自分の予想を振り返ってみて下さいね」
駒木:「それじゃ、早速本題に移ろうか。何しろ11レースも有るからね。まずは秋のスプリンターズステークスから」

スプリンターズS 中山・1200・芝

着順 馬  名 着差
1着 ビリーヴ

──

2着 アドマイヤコジーン 1/2
3着 ショウナンカンプ クビ
    4着 ディヴァインライト
    5着 ゴールデンロドリゴ 1 1/2
6着以下の“反省材料”
×   8着 サニングデール  
9着 トロットスター  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“敗戦の弁”
 結果的には惜しい1着−3着なんだけれど、反省点だらけの予想になってしまったなぁ…。もしも駒木の予想を参考にしていらっしゃった方がいたなら、心からお詫びを申し上げます。
 まず、馬場状態の読み違え。新潟競馬場って、乾きと水はけが良いんだなあ…。まるで甲子園球場みたいだ(苦笑)。
 次にアドマイヤコジーンの取捨選択と展開の読み違え。まさかあそこまで積極的に行った上で2着に粘りきるとは思ってなかった。それにアドマイヤを差す予定だったトロットスターが凡走したのも痛かった。まぁ、何にしろチグハグな予想をやっちゃいました。せっかく良いレースだったのに勿体無い事しました。本当に反省です。出直してきます。

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 本命サイドの決着でしたけど、3連単でも的中していたかと思うと、本当に嬉しいです! やっぱり駒木博士より武豊騎手を信じてて良かったと思います(笑)。
 ……あ、でも「ビリーヴが3着の方が配当金が高いから、それでお願い!」って一瞬考えちゃったのは内緒ですよ(笑)

珠美:「夏の小倉シリーズから3連勝で勢いに乗る1番人気・ビリーヴが3番手から差し切ってG1初制覇。この世を去ったばかりの父・サンデーサイレンスに大きなプレゼントとなりました。高松宮記念2着馬のアドマイヤコジーンは、またしても2着。春の王者・ショウナンカンプは最後で失速して3着でした。馬券の方は馬連5.9倍、3連複も3ケタ配当と、金額的には堅く収まりました。
 私たちの予想は、博士が惜しい1着3着、私は◎○▲のワン・ツー・スリーフィニッシュと、明暗分かれる形となりました(笑)」

駒木:「コメントの時点から反省してるけど、もう馬場状態からして読み違え(苦笑)。有馬記念の稍重もそうだったけど、当日土砂降りになっていない限りは重前提の予想なんかしちゃいけないね。
 あと、予想も何気なく酷いなぁ。いくら穴狙いしたいからって、▲と△の順序はやっぱり逆だよね。こんなケレンを予想に持ち込んじゃいけない。どうしてもトロットスターを狙うなら4点買いにすべきだった」
珠美:「私は3連複買いそびれてしまっているんですけどね(苦笑)」
駒木:「でもまぁ、オッズが10倍切った3連複は狙い辛いよね。1点買いで当てても損した気分になりそうだ(笑)」

秋華賞 京都・2000・芝

着順 馬  名 着差
1着 ファインモーション

──

× 2着 サクラヴィクトリア 3 1/2
  3着 シアリアスバイオ クビ
    4着 カネトシディザイア
  5着 トシザダンサー 1/2
6着以下の“反省材料”
6着 ユウキャラット  
×   7着 オースミコスモ  
8着 チャペルコンサート  
  × 17着 ヘルスウォール  
× 18着 シャイニンルビー  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“敗戦の弁”
 うーん、印を“注”に落とした馬が差してくる事、差してくる事(苦笑)。春までならサクラヴィクトリアも5点目の×印くらいにしてたはずではあるんだけど、配当考えたら仕方ないよねぇ。
 でも、それも全て展開とユウキャラット&オースミコスモの能力読み違えから来てるんだよね。う〜ん、深刻なスランプだなぁ……。

 ※栗藤珠美の“喜びの声?”
 秋シーズン連続的中!……なんですけど、払戻金聴いたら、「あれ? 獲って損ですか?」って感じです(苦笑)。お金が減らなくて良かったですけど全然嬉しくありません(苦笑)。来週はもっとスカッとするような的中をしてみたいものですね。頑張ります!

珠美:「今や世代を代表する女傑となったファインモーションのG1デビュー戦は、単勝1.1倍の圧倒的1番人気に応える完勝でした。余裕残しの3馬身半差は圧巻でした。一転して混戦となった2着争いは、サクラヴィクトリアシアリアスバイオを際どく差し込みました。馬連4.7倍、3連複22.6倍と比較的順当な結果となりました。
 予想の方は、博士は2着と3着の馬に「注」の印を打ってはいるんですが、残念ながら不的中私は連続的中となったんですが、馬券的には獲って損でした(苦笑)」

駒木:「ユウキャラット、シャイニンルビー、オースミコスモ……。春に狙って失敗した馬たちを諦めきれずにもう1度狙った挙句に惨敗。未練がましいったらありゃしない(苦笑)。スプリンターズSもそうだったけど、1度狙った馬を追い掛け回すクセがいけないのかもね。1回失敗したら、とりあえず全ての条件をリセットする勇気を持つ必要がありそうだ。
 こんな堅いレースを完膚なきまでに外しているんだから、本当に今年の秋は調子が悪かったんだね」

菊花賞 京都・3000・芝

着順 馬  名 着差
    1着 ヒシミラクル

──

    2着 ファストタテヤマ ハナ
    3着 メガスターダム 1/2
    4着 アドマイヤドン 2 1/2
5着 バランスオブゲーム クビ
6着以下の“反省材料”
  6着 レニングラード  
×   8着 ダンツシェイク  
  × 9着 ヤマノブリザード  
11着 アドマイヤマックス  
  13着 タイガーカフェ  
× × 16着 ローエングリン  
中止 ノーリーズン  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“敗戦の弁”
 15時前から雨が土砂降りになって、装鞍所で出走馬が少し暴れてるのを見た時からイヤ〜な予感がしてたんだよねぇ。でも、まさかねぇ…。
 それにしても長い間競馬観てると色々な事がありますなぁ(苦笑)。“猿も木から落ちる”ならぬ“武豊もノーリーズンから落ちる”。馬から落ちても手綱を放さずに、最後まで落馬再騎乗を狙ってたあたり、さすがに武豊…といったところなんだけど、人力じゃ1馬力には勝てんよなぁ。
 で、それに他の騎手が動揺したわけじゃないけれど、レースそのものも、ここ最近のG1レースでは記憶に無いくらい締まりの無い散々なレースになっちゃったしね。逃げ馬は暴走するわ、人気の差し馬は仕掛け遅れちゃうわで無茶苦茶。
 その挙句、ダメモトで早仕掛けしたヒシミラクルが、乗った角田騎手が「奇跡ですね」って言うくらいの恵まれで押し切り。その上、京都巧者なんだか道悪巧者(良馬場発表だったけど、どう考えてもレース直前には稍重〜重まで悪化してた)なんだか知らないけど、他の馬が止まったところへサイボーグ009から加速装置を貸してもらったかのようなファストタテヤマの鬼脚。勘弁して下さい、いやホントに。
 …この馬券を当てた方、もしいらっしゃったら、どういう予想でこの結論に至ったかお教え願えますか? 素直な気持ちで勉強させて頂きたい。
 あ、でも「これはレーシングプログラムの文面から…」とか言われても困りますが(笑)

 ※栗藤珠美の“反省文”

 (余りのショックのため、ノーコメント)

珠美:「……このレースはあんまり振り返りたくないんですけどね(苦笑)。えーと、勝ったのは10番人気のヒシミラクル。3コーナーからのロングスパートが見事にハマった感じになりましたね。2着も人気薄の京都巧者・ファストタテヤマが突っ込んで、馬連で9万馬券、3連複で30万馬券という超大荒れになりました。
 その結果を反映してか、予想は2人とも上位4頭に印が無いという散々なものに(苦笑)。特に私はゲートが開いてすぐにお財布の中身の大部分が溶けて無くなりました(涙)

駒木:「中穴党のスタンスから見ると、この結果ではもうお手上げだね(苦笑)。馬連3点と3連複1点に絞って傷が最小限で済んだだけでも良かったくらい。
 ただ、アドマイヤマックスバランスオブゲームに重たい印打ってるあたり、まだケレンが抜け切ってない。まぁ、あんなタイプの馬を押さえに回して外し続けてきた過去も有るから、仕方ないと言えば仕方ないんだけどねぇ」

天皇賞・秋 中山・2000・芝

着順 馬  名 着差
× × 1着 シンボリクリスエス

──

2着 ナリタトップロード 3/4
×   3着 サンライズペガサス クビ
  4着 エアシャカール 1 1/4
    5着 トーホウシデン クビ
6着以下の“反省材料”
8着 エイシンプレストン  
  11着 ツルマルボーイ  
  × 13着 テイエムオーシャン  
14着 ダンツフレーム  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“戦い済んで……”
 印だけなら×−◎的中だけど、まぁ仕方ない。これまでのG1レース3つで買い目抑えた分だけ負け額も減ってるし、これで“行って来い”と思わなくちゃね。
 今回は、ある程度実力の拮抗した有力馬が揃った時は、細かい能力差とか全体の展開よりも、自分のケイバが出来るかどうかに懸かって来るもんだと痛感。ダンツフレームもエイシンプレストンも道中で後手踏んだら、あっけなくノーチャンスになってしまったし……。
 そういう意味では、結構苦しいレース運びだったナリタトップロードが2着に喰い込んでるって事は、やっぱりこの馬、ここに入ると一枚上なんだろうね。
 勝ったシンボリクリスエスに関しては、“エアダブリン2世”という失礼な表現を撤回しないといけないかな。ただ、今回は先に抜け出せたというポイントがあったので、真の評価は次走だね。

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 6点目ですけど、的中は的中です。素直に嬉しいですねー♪ でもまだ、先週の損害補填にはまだまだなんですけどね(苦笑)。
 あーでも、心臓に悪いレースでしたー(笑)。

珠美:「この年のダービー2着馬で3番人気のシンボリクリスエスが、古馬の強豪相手に一歩も引かないレースでG1初勝利を天皇賞で飾りました。2着には“悲運の名馬”ナリタトップロードで馬連17.2倍、3連複56.4倍という中穴配当になりました。
 予想は2人とも×◎で的中。ただし、博士は買い目を絞っていたために馬券は外れでしたけど(苦笑)」

駒木:「レース直後は強がり言ってるけど、本当は痛かった(苦笑)。2番人気と3番人気の組み合わせで17.2倍は美味しい配当だよなぁ。
 ただ、このレースは調子が悪いなりにベストに近い予想が出来てるんじゃないかな。この頃のシンボリクリスエスに関しては、まだダービーのジリっぽさが気になってたしね。1番人気のテイエムオーシャンを自信持って叩き切ったってのも『よくやってるな』って感じかな。まぁ、例によって金銭的には全く役立ってないんだけれども」
珠美:「(苦笑)」

エリザベス女王杯 京都・2200・芝

着順 馬  名 着差
1着 ファインモーション

──

2着 ダイヤモンドビコー 2 3/4
× 3着 レディパステル 1 1/2
    4着 トーワトレジャー 3/4
    5着 ユウキャラット 1 1/2
6着以下の“反省材料”
8着 ローズバド  
×   10着 ジェミードレス  
  12着 タムロチェリー  
★レース直後のコメント★

 ※駒木博士の“勝利宣言?”
 やっと正真正銘の的中なんだけど……この配当じゃねぇ(苦笑)。
 まさかあそこまでスローペースになるとは思わなかった。レース自体の上がり3ハロンが33秒台じゃ、追い込み馬は用無しだものねぇ。
 それにしてもファインモーション。今日のレースを観てると、“女ナリタブライアン”って感じがする凄い馬。有馬記念の悩みが1つ増えてしまったかな?

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 秋に入ってから4戦3勝です! これで菊花賞の……ああ、もう止めましょう、その事は。実はまだ金額は赤字だって事も含めて(笑)。
 これだけ好調なのに、マイルCSがお休みなのは惜しいです(苦笑)。博士にお願いして、短縮講義でもしてもらいましょうか……。

珠美:「秋華賞馬・ファインモーションがまたしても圧倒的な1番人気に応えて圧勝でG1レース2勝目。2着に2番人気のダイヤモンドビコーが粘りこんで、馬連3.6倍、3連複6.5倍とガチガチの配当になりました。
 それを反映して、予想はまたしても2人とも的中。金銭的には『それほど……』という感じですけど(苦笑)」

駒木:「まぁ、このレースは問題無いよね。敢えて言うなら、馬券の対象から外したレディパステルが3着っていうのが少し冷汗モノだったくらいかな」
珠美:「私もこの頃は気楽な感じなんですけど、次の週から一転して酷いコトになっていくんですよね(苦笑)。調子に乗ったらダメですね、人間って……」

マイルCS 京都・1600・芝

着順 馬  名 着差
    1着 トウカイポイント

──

× 2着 エイシンプレストン クビ
    3着 リキアイタイカン ハナ
    4着 テレグノシス クビ
    5着 メイショウラムセス
6着以下の“反省材料”
7着 アドマイヤコジーン  
  × 8着 モノポライザー  
11着 ブレイクタイム  
× 12着 グラスワールド  
×   15着 ディヴァインライト  
16着 ダンツフレーム  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“敗戦の弁”
 本当に笑い者になっただけだったなぁ(苦笑)。やるんじゃなかった、こんな無茶な講義。お蔭で風邪気味になっちゃったし……。
 しかし、有力馬まとめて凡走ってパターン、もう勘弁して頂きたいです。それが競馬って言われればそれまでだけど、絶好の手応えで上がって来た人気馬・実力馬が直線でバッタリ止まってしまうと全身から力が……。
 中穴党の僕にとっては、こういうレースはもうお手上げ。お力になれずに申し訳有りませんでした。ところで3連複当てた穴党の方、ご祝儀下さい(笑)。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 やっぱり調子に乗るといけませんね。完敗でした(苦笑)。博士と本命・対抗がダブった時点で覚悟はしてたんですけどね(笑)。
 来週はG1レースが2つあることですし、頑張って挽回したいです。

珠美:「マイルチャンピオンシップは大荒れ。11番人気のトウカイポイントが有力馬たちの間隙を突いて差し切り勝ち。2着にはエイシンプレストンで、馬連が150倍台の万馬券、3着馬に人気薄のリキアイタイカンが飛び込んだために、3連複はまたしても30万馬券という事になりました。
 この時は休講予定だったのに、急遽短縮講義として予想を発表したんですが、散々な結果になってしまいましたね(苦笑)」
駒木:「トウカイポイントは、この後香港でも好走しているところから考えると、素質そのものは有ったんだろうね。相当成績にバラつきがあるのも確かだろうけど。
 でもねぇ、菊花賞もそうだったけど、有力馬に次々と原因不明の凡走をされるとどうしようもないよ。悔しいけれど、本当にもうお手上げだね」
珠美:「──さて、次はジャパンカップ・ウィークなんですが、これは2レースまとめて振り返ります」

ジャパンカップ・ダート 中山・1800・ダ

着順 馬  名 着差
× 1着 イーグルカフェ

──

× × 2着 リージェントブラフ
3着 アドマイヤドン クビ
  4着 プリエミネンス 1 1/4
5着 ゴールドアリュール クビ
6着以下の“反省材料”
×   6着 トーホウエンペラー  
8着 ハギノハイグレイド  
  × 13着 ダブルハピネス  
※レース直後のコメントはありません

ジャパンカップ 中山・2200・芝

着順 馬  名 着差
× 1着 ファルブラヴ

──

    2着 サラファン ハナ
3着 シンボリクリスエス クビ
  4着 マグナーテン 1 1/2
5着 ジャングルポケット ハナ
6着以下の“反省材料”
  7着 ゴーラン  
× 9着 ノーリーズン  
10着 ナリタトップロード  
× × 13着 ブライトスカイ  
★レース直後のコメント★

※駒木博士の“敗戦の弁”
 うー、凄すぎるぞデットーリ!
 今日も馬じゃなくて人が走ってるレースでした。ゾッとさせられました。武豊とかペリエとかデムーロよりも格段に上手い騎手がいるという、信じ難い事実を突きつけられてしまいましたなぁ。
 しかし、惜しかったのはシンボリクリスエス。出遅れるか〜、こんな時に限って……。せめて2着には突っ込んで欲しかったなぁ。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 えーと、ナリタトップロードはどこにいましたか?(苦笑)
 先週から全く冴えなくなっちゃいました。やっぱりまだまだ勉強不足ですね。来週から気を引き締めて頑張ります!

珠美:「今年のジャパンカップ・ウィークは、ランフランコ=デットーリ騎手の独壇場でした。まず初日のダートでは、イーグルカフェが驚きの中団差しでNHKマイルC以来のG1レース2勝目をゲット。2着に人気薄・リージェントブラフが直線強襲で滑り込んで、馬連6万円台、3連複5万円台の大荒れに。私たちの予想は惜しいような惜しく無いような外れでした(苦笑)。
 そして2日目のターフでは10数年ぶりになる外国調教馬のワン・ツー。勝ったのは9番人気・イタリアのファルブラヴでした。デットーリ騎手は2日連続のJRAG1レース制覇です。2着は下馬評で劣勢が伝えられていたアメリカ馬のサラファン。このレースも馬連2万円台、3連複3万円台の高配当でした。予想結果は言うまでもありませんね(苦笑)」

駒木:「もうデットーリ1人のためだけにあったようなジャパンカップ・ウィークだったね。まずダートだけど、アドマイヤドンゴールドアリュールに関しては乗り役が能力を掴みきれてなかったのが敗因かな。多分に『とりあえずやってみよう』的な雰囲気だったものね。予想に関しては、まぁこんなもんでしょう。
 で、ターフ。これはもうデットーリの腕とシンボリクリスエスの出遅れだけで決まっちゃった。どうせなら東京の2400mでこのレースを見てみたかったって気もするね。予想的にはゴーランの不甲斐なさが誤算だったなぁ。体調最悪で強力メンバーの去年より、絶好調で臨んだ今年の方が着順が下ってのはどうよ(苦笑)」

阪神ジュベナイルフィリーズ 阪神・1600・芝

着順 馬  名 着差
1着 ピースオブワールド

──

    2着 ヤマカツリリー 1 1/2
  3着 ブランピュール クビ
4着 シーイズトウショウ
    5着 プラントパラダイス クビ
6着以下の“反省材料”
× 7着 オースミハルカ  
× 10着 ワナ  
× × 11着 アドマイヤテレサ  
16着 トーホウアスカ  
※ レース直後のコメントはありません

珠美:「2歳女王決定戦は、ここまで3戦3勝のピースオブワールドが単勝1.5倍の1番人気のプレッシャーを跳ね返して完勝しました。しかし2着争いは人気薄の馬たちによる大混戦で、結局は安藤勝己騎手のヤマカツリリーが際どく粘りこみました。馬連48.8倍、3連複は200倍弱というやや荒れ模様の配当でした。
 予想の方は2人とも不的中。ただし、博士は3着で6番人気のブランピュールに○印を打ってらっしゃいましたから、かなり惜しい外れですよね」

駒木:「本当に勝負弱いよなぁ(苦笑)。秋シーズン、散々狙って来た穴馬のなかで、珍しくマトモに走ってくれたと思ったら、もっと人気薄の馬にやられちゃうなんてね。でも、ヤマカツリリーの前走って抽選馬限定の平場500万条件3着だろ? いくらなんでも3点買いでそこまで狙えっていうのは無理だよね。これは運が悪かった」

朝日杯フューチュリティS 中山・1600・芝

着順 馬  名 着差
    1着 エイシンチャンプ

──

2着 サクラプレジデント クビ
  3着 テイエムリキサン クビ
× 4着 タイガーモーション 1 1/2
× 5着 ワンダフルデイズ 1/2
6着以下の“反省材料”
7着 マイネルモルゲン  
× 8着 サイレントディール  
×   9着 コスモインペリアル  
  × 10着 ヨシサイバーダイン  
★レース直後のコメント★

※駒木ハヤトの“敗戦の弁”
 よりによって、オッズの美味しさを詳しく説明した挙句に「買わない」と宣言した馬にヤラれるとは……。まぁ、今回のレヴェルなら何でもありなんだけどね。
 今回は勘弁してくれって感じの2着、3着、4着。これ、ワイド3連複とか無いのかな(笑)。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 私の本線馬券は4コーナー回る前に終わってましたね……。しかも挙句の果てにエイシンチャンプ……。
 何とか有馬記念までには調子を取り戻しておきたいと思います。このままじゃ年越せません!

珠美:「朝日杯フューチュリティSは、8番人気の伏兵・エイシンチャンプが、サクラプレジデントテイエムリキサンの猛襲を凌いで優勝。福永騎手は2週連続の2歳G1制覇となりました。2着のサクラプレジデントはスタートの出遅れが大きく響いた悔いの残るレースでしたね。馬連48倍、3連複96倍と、1番人気が絡んだ組み合わせにしてはかなりの高配当となりました。
 予想の方は、特に博士の場合は上位どころにズラリと重めの印が並んでいるんですが1着のエイシンチャンプが“抜け目”。講義で2人して、『エイシンチャンプ、配当的には美味しいよね。買わないけど』なんて言ってたんですよね(苦笑)。……でもこうして見てみますと、私の予想って酷いですね(苦笑)」

駒木:「いやぁ、痛恨のレースだよね。2着3着4着だし。でも、あそこまで勝負付けが済んでいた馬が突然激走するってのは反則に近いよね(苦笑)。まぁしてやられたと。そういう感じかな。
 ところで出遅れをカマしたサクラプレジデントの田中勝春騎手は乗り替わりが濃厚らしい。まぁ、この馬がクラシック戦線でも頭を張れるとは思わないけど、一瞬のミスで惜しい事したね」

有馬記念 中山・2500・芝

着順 馬  名 着差
1着 シンボリクリスエス

──

    2着 タップダンスシチー 1/2
    3着 コイントス
  4着 ナリタトップロード 2 1/2
5着 ファインモーション クビ
6着以下の“反省材料”
× 6着 ノーリーズン  
7着 ジャングルポケット  
  × 13着 アメリカンボス  
★レース直後のコメント★

※駒木ハヤトの“敗戦の弁”
 仕事があるので酒は呑めないけれども、今日のコーヒーは不味い(苦笑)。
 ファインモーションは、あそこまで力んだレースをしてしまうと、ロスしたスタミナの分だけ不利だよねぇ。あれで5着に粘ってるんだから全く通用しないわけじゃないんだけど、今日は全てが裏目に出た感じだね。武豊騎手も馬の実力を少し過信していたのかも。
 タップダンスシチーは、佐藤哲三騎手のギャンブル成功ってところだろうね。だけど、「有馬記念においては奇襲戦法を禁ずる」みたいな内規作ってくれないだろうか。あんなの予想しろってったって無理だよ(涙)。

 ※栗藤珠美の“反省文”
 シンボリクリスエスが伸びて来た時は「やった!」と思ったんですけど、後ろから何も来ませんでした……(苦笑)。
 この秋は博士も私もボロボロでしたね……。また来年、チャンスがあればリベンジしたいと思います。申し訳有りませんでした。

珠美:「中央競馬の1年を締め括るグランプリ・有馬記念は、2番人気・シンボリクリスエスが天皇賞に続くG1レース2勝目。この数ヶ月ですっかり日本を代表する馬にまで成長した印象ですね。2着には奇襲戦法で他馬を翻弄したタップダンスシチーが粘りこんで大波乱。馬連140倍台、3連複400倍台の大荒れ配当となりました。
 予想の方はやっぱり外れでした(苦笑)。そしてこの下半期全体の成績は、博士が11レース中2的中、私が4的中ということになりました。お世辞にも良い成績とは言えませんね(溜息)」

駒木:「有馬記念はねぇ、良馬場だったらタップダンスシチーに▲打つつもりだったんだよね。それが前日の雨で当日も稍重発表。不ヅキもここまで来ると笑えて来ちゃうね。あと、他の講義が忙しくて情報収集がままならなかったのも痛かった。タップダンスシチー陣営が逃げ宣言してたんだよね。情けない話、全く知らなかったんだよ。
 で、年間総括だけど、今年はなんだかフラフラ、フワフワしていて足元が定まってなかったって感じかな。好不調の波が恐ろしく激しかったし、予想に対する集中力も途切れがちだったような気がする。もう1度改めて予想のスタンスを再構築する必要があるかもね。本当、反省ばかりの1年だった気がするね」
珠美:「私も人前でお見せするには恥ずかしい予想ばかりでしたね(苦笑)。大荒れのレースにしても、博士みたいに一矢報いることくらいは出来るようにならないといけないって痛感させられました」
駒木:「今年は4月からカリキュラムが大幅削減になる予定なんだけれども、G1予想は何らかの形で残すつもりでいるんで、どうぞよろしく。せめて少しくらい参考になれる予想を展開するつもりでいるんで、懲りずに期待していて下さい」
珠美:「それでは、これでお時間という事で。皆さん、お疲れ様でした」
駒木:「珠美ちゃんもご苦労様。来週はまだ未定だけど、名勝負プレイバックか、また別の新企画だね。そちらもどうか何卒」


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