「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

2/28 労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」(13)
2/27 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(2月第4週分)
2/26 ギャンブル社会学特論「麻雀・競技プロの世界」(1)
2/24 歴史学(一般教養)「学校で教えたい世界史」(30)
2/23 労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」(12)
2/22 競馬学特論「G1予想・フェブラリーS編」
2/21 労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」(11)
2/20 演習(ゼミ)「現代マンガ時評」(2月第3週分)
2/19 比較文化史概論「23年ぶり『がきデカ』復活に思う」
2/17 労働経済論「役に立たない? アルバイト時給案内」(10)
2/16 
スポーツ社会学「サッカーW杯最下位決定戦・映画化」

 

2月28日(金) 労働経済論
「役に立たない? アルバイト時給案内」(13)

 ※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回第11回第12回

 今日もクソゲーム屋編の続きです。
 前回は、クソゲーム屋の1日の流れをざっと振り返ってみたわけですが、原則的にはあのような日々が延々と何週間も続いていったわけでした。
 と、そんな事を言っていますと、受講生の皆さんから、
 「それって、凄く息が詰まりませんか?」
 …とか、
 「そんな状態で、店の雰囲気悪くなりませんか?」
 …などといった声が聞こえて来そうですのでお答えしておきます。仕事中は安岡力也が若手芸人にブチギレ中のスタジオ並に息が詰まってましたし、店内の雰囲気は甲子園球場のライトスタンドに紛れ込んだ巨人ファンが江川卓の昔話を始めた時のように凶悪そのものでした。当たり前じゃないですか、そんなもん。
 それでも朝10時になったら店は開かれますし、ここの仕事を辞めた後にバイト探しをする間の生活費が欲しいバイトたちも渋々出勤して来ます。倦怠期に突入しても妻は夫の朝食と弁当を作り、夫は給料を律儀に家庭に入れる…みたいなもんでしょうか。

 しかし、そういう悪いムードが店の外にダダ漏れていたのでしょう、日を追うごとにお客さんの動きが目に見えて鈍くなってきました
 ある日など、10時に開店してから最初のお客さんが店内に入ったのが12時40分…という事がありました。開店して1人目のお客さんが入店するまでに、高橋尚子選手が42.195km走り抜いて、その後にどこからともなく小出監督がしゃしゃり出て来て思う存分高橋選手に抱きついた挙句、「ホラQちゃん、胸張ってお客さんに応えて! ガッツポーズ!」…とやる事が出来るのです。
 またある日には、営業時間中に店内でちょっとした工事をする事になり、真っ昼間からおもくそドリルとハンマーの音を響かせたのですが、工事中の1時間半の間、お客さんが2人しか入って来なかったため、幸いにも苦情も出なかった…という半笑いを禁じえない出来事も起こったりしました。

 そうなると当然のごとく、商品の売り上げも鈍ります。いや、初めから鈍かったんですが、もっと鈍くなりました。ニューヨーク・メッツの新庄が更にアホになるみたいなもんです。
 …まず、オーナーが「これがウチの稼ぎ頭になるから」と意気込んで大量に仕入れた映画DVDは、1ヶ月で『戦国自衛隊』が1枚売れただけという、色んな意味で惨憺たる有様。中古DVDコーナーには旬を過ぎて次々と下取りに出された『マトリックス』が平積み状態となっていました。
 そしてもっと酷いのがパソコンゲーム商戦でした。駒木が働いていた当時は、エロゲーのビッグタイトル・『AIR』が「バカ売れ必至」だと話題になっていた時期だったのですが、このクソゲーム屋では仕入れ予定数20に対してなんと予約数わずかに。定価から15%引の上に販促用グッズまでオマケしたのに発売日に18本売れ残るという異常事態となりました。この当講座で御馴染み・アルバトロス配給の『深海からの物体X』を思わせる大コケにバイト一同の心が大いに和まされた事を、未だに忘れる事が出来ません。

 ……とまぁ、こういうわけですから売り上げは悲惨なものです。オープン1ヶ月目の売り上げ総額を本部に送信した翌日、岡山から「ドロンズ兄さん」が血相を変えて素っ飛んで来た…と言えばどれくらいヤバかったかお分かりになると思います。
 では、その際の「ドロンズ兄さん」と「店長」の会話を紹介しておきます。

 ドロンズ兄さん:「いやー、月間の売り上げねぇ、他の同規模店と比べて桁が1つ違うんですわ……」
 店長:「へぇ〜」
 ドロンズ兄さん:
「もうちょっと何とか考えないといけないんじゃないでしょうか?」
 店長:「はぁ」

 …この会話がなされた日、仕事終わりのバイト集会では「次の給料もらえるまで店が保つのかどうか」…という話題で持ち切りでありました。

 ──こうして、絶望的な日々がチンタラチンタラと続いていたクソゲーム屋。ところが開店から1ヶ月余り経ったある日、突然駒木たちバイトの身に激震が走りました

 その日も朝から店内は弛緩した空気お父さんがクソした後の便所の臭いくらい充満していました。
 オーナーは公休日のために不在。お客さんも当然不在。「店長」と「ポンカス息子」は『カプコン VS SNK』にご執心。そして駒木たちも駒木たちで、POPを描く手を休め休め、店頭デモに使われていた『甲子園 栄冠は君に』で駒木の母校である弱小公立校を近畿大会進出にこぎつけてハイタッチを連発していたりしました。
 開店からレジが開いたのは2回だけ。1回目は10時半頃に『ドラクエ7』が売れた時で、2回目は正午前、毎日どこからか新品同然のソフトを買い取り依頼に来るホモカップルが今日も『筋肉番付』を持って来た時でした。『超兄貴』だったらどうしようかと思いました。

 と、そこへ──
 今日は休みで在宅のはずだったオーナーが葬式帰りのような黒ずくめの格好で、店内に駆け込んで来ました。バイト連中はまた何ぞイヤミの一つでも垂れられるのか…などと身構えていたのですが、挨拶もソコソコに深刻な表情をしてロッカールームに直行して行きました。

 どうも様子がヘンです。

 「ダビスタ」で馬の骨が折れた…みたいなフレーズになってしまいましたが、本当にそうなのですから仕方ありません。
 ……ここで駒木の脳裏の脳裏に浮かび上がったのは、不朽の名作『りびんぐゲーム』(作画:星里もちる)のワン・シーンでした。主人公たちが勤めていた会社「ナミフクダイレクトメールサービス」が潰れた時に、その女社長が同じように喪服のような黒ずくめの格好をしていたのです。
 そうやって記憶を辿っている側から内線電話が鳴り、受話器を取った「店長」がロッカールームに続きました。どう考えても異常事態、馳星周氏の小説なら5人くらい立て続けに人が死にそうな雰囲気です。

 ──え、ひょっとして、経営不振のため閉店?

 突如として店内は、もし2ch掲示板に「クソゲーム屋実況スレ」があったら、たちまち「クソゲーム屋あぼ〜ん祭り」が始まりそうな緊迫した状況にさらされました。ただ1人、「ポンカス息子」だけが平然とエロゲー雑誌を読んでいました。あぁ、蜀が滅びた時の劉禅はこんなだったのだな…などと思いました。

 しかしやがて「店長」がロッカールームから現れると、いきなり駒木ともう1人のバイト店員を呼んでロッカールームへ行くように促されました。
 この瞬間、また店内の雲行きがおかしくなりましたおいおいこれって……

 「見ての通りお店の状態が良くないんで、駒木君と○○君(もう1人のアルバイト)は、今月の給料締めの日で辞めて頂戴」

 

 電撃解雇キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!

 
 ハイ。要は間引かれたわけですね、駒木は。

 で、何故駒木が解雇されたのかというと、どうやら以前から「高校の臨時採用があったら辞めます」と言っていたので、「ここを辞めてもすぐにどうにかなる」と誤解されたからだったみたいです。オーナーが人の話を全く聞かないというのは既に証明済みですから仕方有りませんが、それにしたってあんまりです。まぁ、本当のところは2ヶ月以内に辞めるつもりだったんですけど。
 ちなみに解雇されたもう1人も公務員試験浪人だったため、「将来有望な人から辞めてもらおう」という結論に至ったようです。オーナーにとっては“なりたい職業”が確定された将来であったみたいです。その方式を全日本的に採用すると、モーニング娘。は数万人に増殖してしまう結果になり、年に1度のシャッフルユニットが「あか色3568」とかいった、体に悪そうな合成着色料みたいな名前になってしまうのですが、これはいかがなものでしょうか。 

 そして、どうして2人の解雇が執行されたかという理由も後日判明しました。
 クソゲーム屋では開店以来、ゲームソフトが大量に売れ残り、換金不能な不良在庫化して経営を圧迫していたのですが、オーナーはこれらを本部に返品し、仕入れ金を返還してもらおうとしていたそうです。
 本来、ゲームソフトは店舗ごとの買い切りですから、そんな虫の良すぎる提案は通りません。しかし、本部にしてみても開店1〜2ヶ月でフランチャイズを潰すわけにいきませんし、ここはとりあえず特例措置(不良在庫の本部買い取り)を採るようにしたとのこと。ただしその条件として、人件費を圧縮し、とりあえずバイトを2名整理するよう指示されたわけなのです。
 まるで倒産間際の会社に出回る怪文書みたいな内容ですが、これは真実です。なにしろオーナーが直接駒木に言ったんですから。
 あと、こんな事も言ってました。
 「最初に本部から『バイトの人数が多すぎる』とは言われたんやけど、そのうちにお客さん増えて丁度良いくらいになるやろうと思って」
 …常時7〜8人いないと立ち行かないゲーム屋ってどんな店なんだろうと、返す返す考えさせられる重い一言でした。


 ──まぁそういうわけで、いきなり駒木のクソゲーム屋見聞録はいきなりクライマックスに突入しました。
 そして次回からは“敗戦処理”編店の経営と同じように頭の機能が低下していったオーナー一家の奇行と、それに伴う駒木らバイト軍団との確執を中心にお話してゆこうと思っています。あと数回、どうかお付き合いの程を。(次回へ続く

 


 

2月27日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(2月第4週分)

 さて、月刊作家さんには地獄の2月も最終週となりました。ちなみに週刊作家さんは毎日が地獄で、連載を持たない駆け出しの作家さんは、ボンヤリと自分の将来を考えた時が地獄だったりするわけですが。
 …マンガ家っていうのは、歌手とよく似ていて、当たり外れの差が激しい印税稼業ですからねぇ。当たれば億なんですが、それまでは安アパートで餓死寸前とかだったりしますし。
 ちなみに小説家の売れる・売れないはお笑い芸人に似てますね。ブレイクするのが大抵30歳前後以降だったり、トップクラスでも収入が億まで届くのはほんの一握りだったりしますし。明石家さんまでも年収の上では浜崎あゆみとか宇多田ヒカルには及ばないでしょうから。

 とまぁ雑談はさておき、ゼミです。今週はお伝えする情報も無くて、レビューも1本だけと寂しい中身になってしまいました。ただ、駒木の体調もイマイチですから、正直助けられた…という気もしますが。
 ところで、今週の話題作と言えば何といっても「週刊少年マガジン」で新連載になった『魔法先生ネギま!』作画:赤松健)ですよね。「マガジン」とは縁遠いこのゼミですが、さすがにこの作品を無視するわけにはいかないとは思っています。ただ、どうせレビューするならジックリと中身を見定めてからやりたいので、どうか2〜3週間お待ち下さい。然るべき時にキチンとレビューをしたいと思ってます。

 というわけで、今週のレビューとチェックポイントへ
 今週のレビューは「世界漫画愛読者大賞」の1本のみで、その前に「ジャンプ」と「サンデー」のチェックポイントをお送りします。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年13号☆

 ◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】 
 
 今週の話の持って行き方は、よく出来てますね。やっぱり試合やってる方が面白いわ、この作品。
 まさか第1回で死にかけてた伏線(“ハァハァ3兄弟”)をこんな所で活かしてくるとは思いませんでした。後付けも上手くなってますね、稲垣さん。
 それにしてもヒル魔ってキャラは奥が深いですなぁ。主人公のセナを思い切り目立たせておいて、実はデビルバッツ一の天才プレーヤーにして努力家。性格も乱暴ではあるけれども決して悪者ではない(むしろ不器用でシャイなカワイイ所のある奴)…という絶妙のバランス感覚。こんな難しいキャラをよく破綻無く使いこなせるものです。感服します。

 ◎『Ultra Red』作画:鈴木央【第3回掲載時の評価:/雑感】

 新連載2作品が不調という事もあり、どうやら打ち切り圏内から脱出しちゃったみたいですね。理不尽な打ち切りに泣かされてきた鈴木さんですが、凄いところで反動が(笑)。ノルマン現象改めウルトラノルマン現象ですか。なんか、変身ヒーローのバッタモンみたいな現象だな。
 しかし、話の展開そのものは、これまでの格闘系少年マンガの“カバー・ナンバー”にしか思えないのが辛いところ。もうちょっとオリジナリティが欲しいところなんですけれども……。

 ◎『BLACK CAT』作画:矢吹健太朗【開講前に連載開始のため評価未了/雑感?】
 
 うわー、今度は『うえきの法則』だよー(苦笑)。しかし、なんてスケールの小さいコピー……いやいや。
 しかしこれって、言ってみれば『HUNTER×HUNTER』の孫コピーって事ですか(笑)。確かに、見事なまでに劣化してますな。

☆「週刊少年サンデー」2003年13号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆

 今週は『金色のガッシュ !!』『モンキーターン』が取材休み。駒木は『モンキーターン』→『ガッシュ』の順で読み始めるので、物凄く戸惑いました(笑)。
 ちなみに最後は『かってに改蔵』でシメます。いや、別に面白くないわけじゃないですよ。逆です。ドラマの配役のトリみたいなもんですよ。

 ◎『ワイルドライフ』作画:藤崎聖人【現時点での評価:/作品の再評価】

 連載開始以来、この作品に関しては酷評を続けて来ましたが、今回分を読む限り良化の兆しが見えてきたような気がします。キャラが増え、話を展開させる上での役割分担が上手くいくようになり、ストーリーの説得力が増して来ました。
 まだ楽観は許しませんが、ソコソコの質を保てる作品にはなって来たのではないかと思います。

 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】 

 どうも今回についてはネット界隈で不評みたいですが、個人的には先週と併せて高い評価をしても良いんじゃないかと思っています。小ギャグ、小ギャグで積み重ねていって、最後の最後でドカーンと大ネタ…というメリハリの効いた展開にモリさんの技術的向上を見たような気がするんですよね。
 最近気付いたんですが、この作品、ずっと『ボンボン坂高校演劇部』っぽいと思ってたんですが、『奇面組』のエッセンスも相当含まれてますよね。主人公が原則的に常人なんでパッと見では分からないんですが……。

 

☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.4 『華陀医仙 Dr.KADA』作画:曾健游

 「愛読者大賞」シリーズもあっという間に折り返し地点。ここまでは第1週をピークにどうも尻すぼみの印象が否めないのですが、何とか巻き返してもらいたいものですが……。

 さて、今回は香港在住の曾健游さんが登場です。
 インタビュー記事などによると、曾さんはかつて日本で数年アシスタントを務めてマンガ家修行を経験していたとのこと。そして帰国後に投稿した作品・『福亨千萬年』第51回「手塚賞」(96年上期)準入選を受賞&増刊デビュー。また、99年には『至福千萬年』というよく似た題名の作品で第63回「週刊少年マガジン新人漫画賞」選外佳作になっています。(情報提供:シェルターさん。感謝!)
 現在は香港で幼児向けの雑誌でマンガを連載しているとのことで、現役作家の立場でこの賞にエントリーしたわけですね。
 ところで曾さん、インタビューでは随分とアメリカンコミック形式の分業制を熱く批判していましたが、それは日本の某大御所某大御所某大御所を批判してるのと一緒なんですけど、良いんですかね?(笑)

 ……さて、本題に映りましょう。

 まずですが、既に多くの人から指摘をされているように雰囲気は鳥山明さんによく似ていますね。ただ、細かい部分と見ると相当違った印象もありますので、これは日本での修行時代に徐々に形成されていったオリジナルの絵柄なのでしょう。
 で、技量的なものですが、これは既に香港で連載を持っているというだけあって、プロとして合格点を出せる位の出来はあると思います。充分に即戦力でしょう。

 で、ストーリーですが、こちらも一定の水準には届いていると思います。全体的な話の流れには大きな矛盾点はありませんし、多少手垢は付いていますがキッチリと起承転結も成立しています。設定的にも連載に向いていますし、話の広がりも望めますので、将来性もあるでしょう。そういう意味では、これまでの4作品の中では最も今後に期待できそうな作品と言えそうです。

 しかし、残念ながらこの作品は、手放しで賞賛できるモノである…とも言えないのです。

 まず、作品の対象年齢が「バンチ」読者層とはギャップがあり過ぎます。少年向けならまだしも、この作品はどう考えても児童向けです。小学生向けの作風では、いくら(コアな読者にはあまり好まれないとしても)ノスタルジーで勝負できる余地のある「バンチ」でも苦戦は必至と言うものです。
 曾さんはバイオレンス的な要素を追加して大人の鑑賞に堪えうる作品にしようと考えた節がありますが、そのせいで逆に作品の世界観にバランスを欠いてしまったような気もしますね。命の価値が場面場面で乱高下してしまい、読者に困惑する要因を与えてしまいました。

 更に、「主人公・華陀のキャラが定まっていない」という部分にも問題があります。
 今回の作品中では、その華陀が基本的に薄情なのか情に厚いのか、また、報酬的には“赤ひげ”タイプなのかブラックジャックタイプなのか…といったあたりが非常に曖昧で場当たり的だったような気がするのです。
 曾さんは「愚かな人間には薄情で、良い妖怪には情が厚い」…という風にしたかったのかも知れませんが、それでは単なる俗物であって主人公向けのキャラではありません。医者を主人公にするマンガでは、その主役は特別・特異な行動パターンをとる人間でないとインパクトは残せないのです。ですから、その辺が非常に残念でありました。

 ……さて、最後に総括と行きましょう。
 先に述べましたように、この作品には将来性があります。世界観のブレを修正し、主人公の性格付けにテコ入れを施せば大ヒット作になる可能性すらあるでしょう。ただし、発表すべき媒体は「バンチ」ではなく、小学生をメインターゲットにした少年誌もしくは児童誌です。残念ながらこの賞に向いた作品ではない…と言わざるを得ません。

 評価は児童向けマンガとして扱った上で、加点・減点要素を相殺してB+とします。どこか良い雑誌が拾ってくれればいいんですが……。

 なお、投票行動は以下の通りです。

 ・「個別人気投票」支持しないに投票。(作品は良いと思っていても、だからといって「バンチ」で連載されるわけにはいかないので、敢えて不支持に。ハッキリ言ってジレンマ感じてます)

 ・「総合人気投票」「グランプリ信任投票」でこの作品を支持する予定はありません。


 ここまで4週連続で「不支持」なんですが、やっぱり看板作品候補になると考えたら、思い切りが鈍くなりますよね。「グランプリには推薦しないが、何らかの形で続きが読んでみたい」…みたいな選択肢は無いもんでしょうか。

 ……では、今週のゼミはこれまで。来週も短めになると思いますが、副業多忙のため、どうかご容赦を。では。

 


 

2月26日(水) ギャンブル社会学特論
「麻雀・競技プロの世界」(1)

駒木:「麻雀関連講義ということで、今日は久しぶりに順子ちゃんとの対談形式で講義をします。こんばんは、駒木ハヤトです」
順子:「こんばんは〜。元祖テキッ娘。の一色順子です。テヘッ(笑)」
駒木:「こら! 『テヘッ(笑)』じゃないよ。何言い出すんだいきなり(汗)」
順子:「いや〜、あのグループ、曜日ごとに入れ替わるなんて、わたしと珠美先輩みたいだなって思って(笑)」
駒木:「全然違う! あっちはアイドル、こっちは大学助手とタダの女子大生。第一、キミらは1回ディスクジョッキーやって大失敗してるじゃないか。開講以来の大不評で1回突き抜けになった事を、他の人は忘れても僕は忘れないからな(苦笑)。ほら、もう1度自己紹介やり直し」
順子:「は〜い(苦笑)。こんばんは、今日のアシスタントで社会学部1回生の一色順子です。
 ……いや〜久しぶりに講義に出させてもらったんで、テンション高いんですよ〜(笑)。12月の1周年記念式典をのけたら8月の末以来ですからね〜」

駒木:「うわ、そんなになるのか。でも仕方ないんだよ、受講生さんから『麻雀の事知らないんです』とか言われるし、カリキュラムも変わっちゃったし……」
順子:「あとはネタ切れですか?(笑)」
駒木:「それもある(苦笑)。でもまぁ、こうして復活したんだから勘弁してくれよ」
順子:「分かりました(笑)。で、今日のテーマは麻雀プロの世界ですか?」
駒木:「そう。プロと言っても、代打ちとかの裏プロじゃなくて、いわゆる競技プロの世界だね。順子ちゃんも雀荘でバイトしてたら、プロの人とかプロになりたい人に会った事があるんじゃないのかな?」
順子:「あー、プロには会った事ないですけど、プロになりたいって言ってる人は店にいますし、お客さんでもいましたね〜」
駒木:「僕もプロになるかどうかで親子喧嘩して、勘当同然に家出したヤツを知ってる(笑)。荷物まとめてそいつがバイトしてた雀荘に転がり込んで来たのをリアルタイムで眺めてた」
順子:「それは……貴重な体験してますね(笑)」
駒木:「まぁそういうわけで、麻雀をやり込んだ事のある人なら耳馴染みのある競技プロの世界だけど、意外とその内情は知られてないと思うんだ。収入はどうとか、生活ぶりはどうとか」
順子:「そう言えばそうですね〜。プロ雀士賞金ランキングなんて聞いたこともないですし」
駒木:「だからこのシリーズでは、そういう麻雀競技プロの世界に少しばかりスポットを当ててみようと思うんだよ」
順子:「なるほど、わかりました〜」
駒木:「で、いきなりだけど順子ちゃん、日本にはどれくらいのプロ団体があるか知ってるかい?」
順子:「え〜と……アレと、アレと──(指を折って数え中)──…4つくらいでしたっけ?」
駒木:「惜しい。答えは6つ。ここしばらく業界内で色々ゴタゴタしてる内に、団体数がまた増えたらしいんだ」
順子:「へ〜、今は6つもあるんですか〜。そんな調子じゃあ、そのうちプロレス団体みたいに40くらいになっちゃうんじゃないですか(笑)」
駒木:「確かにありえない話じゃないけどね(苦笑)。アメーバみたいに分裂するのがプロ麻雀業界の特徴だから。
 ……とりあえず、一覧表でプロ団体6つを紹介しよう」

☆競技プロ麻雀団体・一覧(順不同)

 ◎日本プロ麻雀連盟(会長:灘麻太郎)
 ◎最高位戦日本プロ麻雀協会(代表:新津潔)
 ◎麻将(マージャン)連合・ミュー(代表:井出洋介)
 ◎日本プロ麻雀協会(代表:土井泰昭)
 ◎一〇一競技連盟(代表:青野滋)
 ◎日本プロ麻雀棋士会(会長:高橋純子)

順子:「あ、代表の名前、麻雀ゲームに出て来る人がいっぱい(笑)」
駒木:「確かにね(笑)。有名どころで言えば、小島武夫さんはプロ連盟、古川凱章さんは一〇一の創設者。西原理恵子さんのマンガによく出て来るイガリンこと五十嵐さんは一〇一所属だけど、昔は最高位戦とも掛け持ちしていて、そこでチャンピオンになった事もある」
順子:「有名な人の所属は大体知ってましたけど、掛け持ちまであったんですね(苦笑)」
駒木:「人間関係入り組んでるからねぇ(笑)。大体の団体が最高位戦から分裂して出来てたりするし。
 ……あと、知られざる事実だけど、ムツゴロウこと畑正憲さんプロ連盟の相談役にして、元タイトルホルダーだ。立派なプロ雀士なんだよ、あの人」
順子:「そうなんですよねー。わたしも初めて聞いた時にはビックリしました」
駒木:「……で、これらの団体に少なくて10数人、多いところでは100人以上のプロ選手が所属して、各団体の順位戦とかタイトル戦、あとは団体の枠を超えたオープンタイトルを争っているわけだ」
順子:「『近代麻雀』の最強戦もオープンタイトルの1つになるんですよね?」
駒木:「そうそう。最強戦みたいな雑誌主催のプロ・アマオープンも立派なタイトル戦だね。まぁ、運が勝ち負けを動かす麻雀の場合、そういうタイトルをアマチュアが獲っちゃう事も珍しくないんだけどね」
順子:「うわ〜、プロの面目丸つぶれですね(苦笑)」
駒木:「プロ・アマ混合戦は短期決戦だから、仕方ないと言えば仕方ないんだけどね。まぁでも、そういう風にアマチュア相手にプロが負けたりするから、有り難味が減るんだよな(苦笑)」
順子:「確かにそうですね(笑)。……でも、そういったプロになるためにはどうしたらいいんですか?
駒木:「あぁ、それは各団体ごとにプロ試験があるんだよ」
順子:「プロ試験ですか。なんだか『月下の棋士』とか『ヒカルの碁』みたいですね。何カ月がかりかでリーグ戦とかするんですか?」
駒木:「いや、そんな大層なものじゃない(笑)。これから説明するけど、いやぁ結構いい加減なもんだよ」
順子:「そうなんですか?」
駒木:「有り体に言ってしまうと、雀荘で真面目に1〜2年メンバー経験を積んだ人だったら大抵は通っちゃうんじゃないかな。だから、トップクラスの人はともかくとして、下位クラスのプロだったら、点5、点ピンのフリー常連客と大してレヴェルは変わらないよ。僕ぐらいでも運が良ければ通るかも知れないぐらい(笑)」
順子:「それじゃ余計に有り難味が少ないじゃないですか(苦笑)」
駒木:「何気なく馬鹿にされたみたいだけど、まぁいいや(笑)。じゃあ、今日はプロ試験について少し話をしてみる事にしよう。
 ……で、プロ試験の形式だけれども、大体どの団体も筆記、面接、実戦の3つで行われる事が多いみたい。団体によっては筆記や面接と一緒に論文試験をやったりするけれども」
順子:「面接と実戦は何となく分かるんですけど、筆記って何ですか?(笑)」
駒木:「大抵の場合、一般教養と麻雀専門問題に分けられる。
 一般教養は、まぁ企業の入社試験みたいな普通の常識を問う問題だね。四字熟語の穴埋めとか、時事問題とか。要するに『麻雀プロって馬鹿なんでしょ?』と思われない程度の知識があるかどうかを問う(笑)」
順子:「分かりますけど、ミもフタもないですね(笑)」
駒木:「で、専門問題はヤヤコシイ形の点数計算とか、アガリ牌やテンパイチャンスを正しく指摘する問題。これが出来るかどうかが実質上の運命の分かれ道かな。でもまぁ、他の試験の成績が良ければこれが素人同然でも受かる時もある。困った事にね」
順子:「すいません、プロって何ですか?(苦笑)」
駒木:「プロじゃないから知らない(笑)。で、次が面接ね。論文もそうだけど、これはプロとしてどうやって活動していくか…とか、どのように麻雀を普及させていきたいかを問うテーマが与えられるケースが多いみたい。で、ここで良い答えを出したり他の業界の有名人だったり、美人の女性だったりすると、高得点が与えられる」
順子:「あ、あの、基準の2つ目と3つ目が……」
駒木:「だね(笑)。さっき言った、筆記がダメでもってのは、そういう事だ(笑)。話題性を持たせるためとは言え、酷いもんだよな」
順子:「ホントですね(苦笑)」
駒木:「で、そこである程度の点を取った人は実戦試験に進める。実戦については各団体でポイントが違うんだけど、大抵の場合は半荘4回くらいの成績がそのまま点数になるらしい」
順子:「じゃあ、点数の高い人から合格ですか?」
駒木:「これがそうとも限らないんだな(笑)。真面目な団体は別にして、いい加減な団体になると、実戦の点数よりも別の要素が優先するようになる」
順子:「出た! 別の要素キター!(笑)
駒木:「前の年のプロリーグ成績不良で再試験を受けた人とか、あとはまた有名人とか美人だったりとかだね(笑)。特にとある団体では、女の人はほとんどフリーパスだったりする
順子:「フリーパス!」
駒木:「だから、順子ちゃんでもプロになれるよ、多分(笑)。そういう団体に試験受けに行ったら、最低でも補欠合格は間違いないね」
順子:「そんなので良いんですか?(苦笑)」
駒木:「いや、良くはない。良くはないんだけど、そうでもしないとプロ団体ってやっていけないんだよ。それに団体にしてみれば、所属プロ選手の人数は多ければ多いほど都合がいいって事情もあるんだよ」
順子:「事情?」
駒木:「そう、プロと選手の事情(笑)。まぁそれについては時間が足りないし、また次回だね。来週はプロ団体と選手の経済事情についてお話する事にしよう
順子:「ドロドロしてそうで楽しみです(笑)」
駒木:「まぁ、そういう事で、また来週」
順子:「お疲れ様でした〜」 (次回へ続く

 


 

2月24日(月) 歴史学(一般教養)
「学校で教えたい世界史」(30)
第3章:地中海世界(11)〜ペルシア戦争《1》 

※過去の講義レジュメ→第1回〜第19回第20回第21回第22回第23回第24回第25回第26回第27回第28回第29回 

 進行度合が遅れ気味の上、講義の間隔が開いて申し訳有りません。どう考えても3月一杯で区切りがつけられるとは思えませんが、前々から言っておりますように、この「学校で教えたい世界史」はライフワーク的に今後もジワジワと進めていくつもりですので、業務縮小後もどうぞよろしく。
 さて、今回からは、古代ギリシアで起こった最初の大戦争・ペルシア戦争のお話をしてゆきます。
 局地的な武装蜂起をきっかけにギリシア世界全体が存亡の危機に陥り、またそれを奇跡的に乗り越えてゆく様子をつぶさにご覧頂きたいと思っております。

 
 このペルシア戦争は、その名の通りギリシアとペルシアの戦争であります。ペルシアというのは勿論、この講義の第19回でお話しましたアケメネス朝ペルシアの事。あの古代オリエント史の最後を飾る大帝国に他なりません。
 当時(紀元前5世紀初頭)は東方世界の雄・中国が群雄割拠の春秋時代でありますし、後に世界の西半分を平らげるローマも未だイタリア半島統一すら覚束ない小国。ペルシアはまさに世界一の超大国だったのです。
 そんな天下のペルシア帝国と、都市国家の寄せ集めであるギリシアが20年弱にも及ぶ全面抗争を繰り広げてしまったのが、これからお話するペルシア戦争であります。しかもこの戦争を先に仕掛けたのは、すぐ後からお話しますようにギリシアの方からでありました。ハッキリ言って正気の沙汰ではありません。今で言うならば、アメリカ相手にイラクや北朝鮮の方から戦争を仕掛けるようなものです。
 しかし、史実はそのような非常識なルートを辿りました。
 ならば、一体どうしてこんな風に歴史は動いてしまったのでありましょうか? 
 その問いに答えを出す意味でも、まずは戦争に至るまでのエピソードを紹介してゆきましょう。 

 ──時に紀元前522年、物凄い勢いでオリエント世界を征服していったアケメネス朝ペルシアに新しい王が誕生しました。その名はダレイオス1世。エジプトに没した先王・カンビュセス2世の跡目を巡る戦いを制して、王座に君臨した人物だという事は、既にお話した通りであります。
 また、これも既にお話したと思いますが、ダレイオス1世は、国内の諸制度を整備すると共に大規模な遠征活動に乗り出し、エーゲ海沿岸からインドの西端までの広大な領土をその手中に収めました。そしてその中にはギリシア人が建設した植民市も含まれていたのであります。
 つまり、エーゲ海沿いのギリシア人は、本国のポリスと深い関わりを持ったままでアケメネス朝ペルシアの支配も受けていたのです。分かり易く言えば、植民市にとってギリシアのポリスは家族であり、ペルシアは軍隊内における上官のような立場にあった…といったところでありましょうか。実際、ペルシア領のギリシア植民地はダレイオス1世の遠征に兵を派遣し、偉大なる王の手足として働いておりました。

 ところが、ダレイオスの治世も半ばを過ぎた紀元前500年その“ダレイオスの手足”が突如、暴走を始めます。

 アナトリア半島の南部沿岸にミレトスというギリシア植民市がありました。そこは僭主政が採用されており、当時はアリスタゴラスという人物がペルシアの権力を背景にその座を占めておりました。
 このアリスタゴラス、ある時、エーゲ海諸島の中心部であるナクソス島を我が物にしようと企み、ペルシアの軍事援助を得て遠征に出かけたのですが、これが大失敗。ほうほうの体で逃げ帰る事になってしまったのです。
 命は助かったとは言え、アリスタゴラスが大いに焦ったのは言うまでもありません。何しろ、天下のペルシアから兵を借りてまで遠征したにも関わらず、とんでもない下手を打ってしまったのですから……。
 このままでは自分の立場が危ない。下手をするとペルシアから見放されてしまうかも知れない。アリスタゴラス、一世一代の大ピンチであります。
 こういう時、人間は2つのタイプに分かれます。非常に冷静な判断をもって窮状を打開しようとする人間と、ヤケのヤンパチになって“突撃”してしまう人間。アリスタゴラスは同時代のギリシア人たちにとって不幸な事に後者でありました。

 紀元前500年、進退極まったアリスタゴラスは突如ペルシアに反旗を翻します。アリスタゴラス本人が、果たしてどこまで事の成り行きを考えていたのかは分かりませんが、これが長い長いペルシア戦争の直接のきっかけになったのでありました。
 ……こう聞くと、アリスタゴラスはただの馬鹿だったように思われるかも知れませんが、しかし彼はなかなかしたたかな男だったようです。なんと彼は、最大の目的が自己保身と悟られないように真っ先に僭主の座を自ら退きました。そして巧みに“市民の代表”として反乱軍の領袖となり、これを指揮していったのであります。“肉を斬らせて骨を絶つ”を地で行く奇策でありました。
 これで彼は身の危険から脱する事ができましたし、その“潔さ”がギリシアの人々の心を打ち、起こした反乱を非常に幅広く展開してゆく事に成功したのであります。当時ギリシア人たちは貿易面でペルシアに冷遇されていた…というポイントがあったにせよ、ミレトス周辺の植民市は当然の事、数多くのギリシア植民市、更にはギリシア本土からさえも、アテネとエレトリア(アテネのすぐ東にある縦長の島・エウボイア島の主要ポリス)からの応援を得る事に成功したのです。

 が、奇策が通じるのはあくまでも短期決戦の時だけ。一時、ギリシア反乱軍はアナトリア半島のペルシア都市へ次々と攻め込んでいったのですが、第一波が跳ね返されると、たちまち情勢は逆転してしまいました
 完全な力勝負になってペルシア軍は息を吹き返し、またその一方で、反乱軍のリーダー・アリスタゴラスはナクソス島遠征の際に露呈した将たる素質の無さを再び発揮し、結局は戦死してしまいます。どうせ死ぬなら1人でひっそりと死んでくれれば良かったのに…と言っても、もはや後の祭りであります。また、このギリシア反乱軍に軍事大国スパルタが(恐らくは国内情勢不安のために)不参加だったのも少なからず影響していたかも分かりません。

 結局、この大反乱は5年で完全に鎮圧されてしまいます。ミレトスなど反乱を起こした植民市は再びペルシアの支配下に置かれる事になりました。ダレイオス1世は暴君ではなかったので、ギリシア人たちが表向きに懲罰的な仕打ちを受ける事は無かったようですが、かと言ってタダで済むわけでは有りません。溜めたツケは、いつかムリヤリにでも返さねばならない羽目になるのです。
 ギリシア人が反乱を起こし、少なからずペルシアとその王の機嫌を損ねたその“ツケ”は、やがて深刻な形に姿を変えて、植民市ではなくギリシア本国に降りかかる事になりました。ダレイオス1世は軍隊を一部ギリシアに派遣し、反乱に協力したポリスたちに攻撃を仕掛けていったのです。そうです。実はその単なる“ペルシア軍の一部によるギリシア遠征”がペルシア戦争というものなのです
 何だ、大戦争と言ってもそんなものなのか…と思われるかも知れません。しかし、ペルシアにとっては“軍の一部によるギリシア遠征”であっても、都市国家の集合体にすぎないギリシアにしてみれば、これは国家存亡の一大事でありました。

 このように、ペルシア戦争とは視点によって、その価値が大きく変わって来る戦争です。アケメネス朝ペルシアの歴史からすれば、たくさんあった戦史の1つに過ぎないかも知れません。しかし、少なくともこのエピソードの主役であるギリシア人たちにとって、これは“天下分け目の大戦争”であった事は間違いありません。彼らは必死に戦い、時には大勢の同朋を失いながら、それでも決して屈服する事は有りませんでした。その時のギリシア人の姿は、勇ましく、美しく、それとおなじくらい痛ましいものでした。

 ……さぁ、冗長なプロローグはここらで終わりにしましょう。いよいよ次回からは本格的に古代ギリシア史上に残る“天下分け目の大戦争”についてのお話を始める事にしましょう。 (次回へ続く)

 


 

2月23日(日) 労働経済論
「役に立たない? アルバイト時給案内」(12)

※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回第11回 

 前回まで2回にわたって、クソゲーム屋の開店当初におけるトホホ話を聴いて頂きました。原則的にはこのペースでしばらく店は運営されていったわけですが、似たような話をパターンで続けていくのもアレですので、今日は駒木の視点から見た「クソゲーム屋の1日」といった体でお送りしたいと思います。



 ──アルバイト店員・駒木ハヤトの朝は腹痛から始まります。

 いきなり汚い話で申し訳有りませんが、駒木は夜型の消化器官を持っており、いわゆる“朝の快便”というのとは縁遠い人間なのですが、クソゲーム屋の仕事をしていた2ヶ月間だけは例外でした。朝、出勤しようと思い立った瞬間に腹痛に襲われ、急激に催すのです。まるで自分の体が全力を挙げて脳に出勤拒否を訴えているかのようでした。
 それでも休めないのが社会人崩れの辛いところ。素早く5分で己のケツにケリをつけて軽四に乗り込みます。店はバス・電車の便が悪い所にあるので、自動車通勤です。所要時間は片道20分前後。朝のFM番組特有のマッタリした雰囲気のMCとリクエスト曲を聞き流しながら、これから12時間の“苦行”に思いを馳せて鬱な気持ちを熟成させて行きます。

 やがて、店に到着。近くの月極駐車場(店が代金負担)にクルマをぶち込み、裏口からロッカールームへ。すかさずタイムカードをレコーダーに差し込みます。
 ジー、ガガガッという印字音が響いて弾き出されたカードには「出勤時刻:9:59」開店時刻1分前、セーフ! 
 ……社会人の方ならお分かりのように、10時開店の店で1分前出勤は、普通なら完全にアウトのタイミングなのですが、なんとこの店は開店と同時に飛び込んでもセーフだったのです。この辺にも放漫経営の臭いがプンプン漂ってくるところですね。
 というわけで、1分でも余計にその場に居たくないアルバイト店員は、全員が毎朝チキンレースを繰り広げておりました。大抵9時58分にバイトがタイムカード・レコーダーの前に行列を作ります

 チキンレースが終わると、ロッカーから制服代わりの安っぽいエプロンを着用し、いよいよ仕事開始です。
 仕事はまず、窓ガラスや店頭の簡単な掃除から。無駄に広い店なので、バイト3〜5人がかりでも結構骨が折れます。ただし、この仕事は「店長」や「ポンカス息子」と一切関わらずにマイペースで出来る仕事なので大変モチベーションが高いです。ガラス用洗剤を使って拭き掃除をした上に更に乾拭きをするなど、極力時間をかけて念入りに掃除をします。どうせ開店から1時間くらいしないとお客さんはいらっしゃいませんので、迷惑になる事もありません。
 この掃除に限らず、「1つの仕事には念入りに時間をかけて」…というのは、この店におけるアルバイト心得の第一条です。何しろ、指示される大半の仕事が無意味・無益なものなのです。どうせ意味の無いことをするのなら、仕事量は少ない方が良いに決まっています。駒木はこのアルバイトを経て、人民公社時代の中国人民の気持ちが痛いほど理解出来るようになりました。

 掃除が終わると、アルバイトはオーナーか「店長」から指示された仕事を手分けしてやり始めます。基本的にはこれが閉店まで続く事になります。
 「あれ? ゲーム屋って、そんなに仕事あったっけ?」
 …と思われる方もいらっしゃると思います。ハイ、そうです。普通、ゲーム屋はそれほど雑用があるわけではありません。少なくとも、3人から5人のアルバイトが12時間がかりでやらないと終わらない仕事なんて有り得ないでしょう。
 しかし、常識が通用しないのがポンカスゲーム屋の世界。オーナーが「せっかく給料払ってるんやから、何かやってもらわんと損や!」…という、遊園地の1日無料パスの元を取るためゲロ吐きながら絶叫マシーンをハシゴするヤツのような経営方針を持っていたために、アルバイトは延々と別にしなくても良い仕事をやらされる羽目になっていたのです。
 仕事の大半を占めるのはPOP描き。明らかにスペースを持て余している殺風景な店内風景を誤魔化すために、画用紙に新作ゲームの案内を描いてそれで埋めてゆくのです。普通の店なら、それはメーカーから送られて来るポスターを貼り付けてオシマイなのですが、それをバイトの手作業に委ねるわけです。オーナーは「アルバイトを遊ばせておかなくて済んだ」とご満悦でしたが、結局のところ画用紙と文房具代だけ無駄だった…という事には最後の最後まで気付いていませんでした。
 ちなみに、こういう無駄仕事は立ったままでやる事を義務付けられていました。「店員が座っていたら見栄えが悪いから」…という理由で、まぁそれはそれで理解できなくは無いのですが、オーナー一家だけ椅子に座って仕事が出来る“特権”を有していた事に何ら説明はありませんでした。恐らく「使用人に座り仕事など勿体無い」という感覚だったのでしょう。

 12時過ぎから交代で45分の昼食休憩。中途半端な時間なので外食もままならず、大抵の場合は近くのコンビニで弁当などを買って来て済ませます。ロッカールームの側に3畳ばかりの小さな和室がありましたので、めいめいそこへ食料を持ち込んで食べる事になります。
 和室には同時に休憩に入ったアルバイト及びオーナー一家の誰かが顔を合わせることになりますが、室内がアルバイトだけになった時を除いて誰も口をききません休憩時間くらいはオーナー一家と関わり無く過ごしたい…というのがアルバイト一同の総意でした。その代わり、オーナー一家が席を外した時はここぞとばかりに罵詈雑言をぶつけ合うのは言うまでもありません。

 昼の休憩が明けると、少しだけ客入りが増えます。しかし、店内のお客さんの数が店員の数を超える事はまずありません。人口密度はオーストラリア並です。たまに商品が売れても、レジは「アルバイトがレジを触ると釣銭にミスが出る」とのことでオーナー一家が占領しているのでアルバイトたちには関係有りません。「じゃあ、何のためにキミたちいるの?」…という方もいらっしゃるでしょうが、こちらも「分かりません!」…と、明朗活発にお答えするしか術は無いのです。
 そんな中、アルバイトたちは延々とPOPを描き続けます。極力時間をかける丁寧なやっつけ仕事です。入荷する予定すらないタイトルのゲームのPOPを2時間以上かけて描いて、最後に「予約受付中!」というフレーズで締め括ります。もちろん字体はレタリングと塗り潰しに時間のかかる極太明朝体が基本です。

 19時頃に2度目の45分休憩。今度はメシを食うことも無く、寝るか、もしくは「ポンカス息子」の悪口を言うかでダラダラと過ごします。
 夜になるとますます来客は途絶え、店内客数ゼロという時間帯も珍しくなくなります。やってる事はこれまでと同じです。

 営業時間残り1時間を切った21時過ぎ、来客は完全に途絶えるため、早くも店じまいの準備が始まります。店内のモップ掛けや棚の整理などをやりながら時間を潰します。その間、「店長」と「ポンカス息子」は格闘ゲームの対戦プレイ中であるのは言うまでもありません
 22時、シャッターを降ろして閉店。オーナーから「上がっていいよ」の声が出る間もなく、アルバイトは「お疲れっしたー」とロッカールームに引き上げて行きます。エプロンをロッカーにぶち込んでタイムカードをまたレコーダーに突っ込みます。「退勤22:02」。無駄の無い仕事です。

 店を出た後は、大抵の場合バイトだけで集まってジュースなど飲みつつ、オーナー一家の悪口大会が始まります。ジュースの自動販売機は店のすぐ前にありますが、その自販機はオーナー一家の所有(店の赤字補填用)なのでアルバイトは絶対にその自販機を使いません。「あいつらには一銭もくれてやらん」という鉄の意思表示です。
 この“集会”は早くて1時間、遅い場合は明け方まで続きました。それくらい発散するべきストレスが溜まっていたのです。勿論、みんな翌日も10時に出勤しなくてはなりません。正に明日無き暴走でした──。


 ……こんな感じで駒木たちアルバイト店員は週5日働いていました。みんな口々に「もうすぐ辞めてやる」と口走りながら。

 しかし、そうして開店から1ヶ月余経過したある日、アルバイト店員たちの想像の斜め上を行く大事件が発生します。次回はそれについてお話する事にしましょう。では、お楽しみに。 (次回へ続く

 


 

2月22日(土) 競馬学特論
「G1予想・フェブラリーS編」

駒木:「さぁ、今年もJRAのG1シリーズがいよいよ開幕だね」
珠美:「今週はダートのG1・フェブラリーステークスですね。他のG1レースとは、ちょっと時期がズレてますけれども……」
駒木:「でも不思議なもんだね。G1昇格したばかりの頃は違和感だらけだったのに、もうここ2〜3年はすっかり慣れちゃった気がする」
珠美:「競馬の世界って、そういうパターンが多いような気がするのは私だけでしょうか?」
駒木:「いや、多分他の人も一緒だと思うよ(笑)。
 ……さて、相も変わらず時間が詰まってるし、早速本題に移っていこうか。珠美ちゃん、よろしく」
珠美:「ハイ。それでは、まずはいつも通り、出走表と私たちの予想印を皆さんにご覧頂きましょう」

フェブラリーS 中山・1800・ダ

馬  名 騎 手
    エイキューガッツ 田中勝
    カネツフルーヴ 中館
  プリエミネンス 柴田善
    アッパレアッパレ 後藤
ゴールドアリュール 武豊
    マイネルブライアン 北村
イーグルカフェ デムーロ
  × ビワシンセイキ 横山典
    スマートボーイ 伊藤直
× × 10 ノボトゥルー ペリエ
    11 レギュラーメンバー 松永
    12 ハギノハイグレイド 池添
    13 ディーエスサンダー 勝浦
×   14 エイシンプレストン 福永
  15 リージェントブラフ 吉田
16 アドマイヤドン 藤田

駒木:「メンバー見てても、芝の馬が『ちょっくらついでに』ってパターンが随分減ったよねぇ。今年で言えばエイシンプレストンぐらいかな。改めてダート競馬の普及が進んだのを実感するね」
珠美:「それではまず、博士にはこのレースについての全体的な印象をお話して頂きます。いかがでしょうか?」
駒木:「東京競馬場の改修工事が続いていて、結果的に去年の秋のジャパンカップダートと全く同じ条件になっちゃったね。まぁ、無理して1700mのレースにするよりはマシだと思うんだけど……。
 メンバーの方も、ジャパンカップダート組が上位5頭を含む8頭がエントリーしていて、こちらも何だか再戦ムードだね。トーホウエンペラーが抜けて、ちょっと小粒な新顔がいくらか増えた感覚。去年よりは見劣りするけど、このレースとしては中くらいのレヴェルにはなると思うね」
珠美:「東京の1600mの場合と比べた場合、距離以外にどこか違う条件はありますか?
駒木:「そりゃあ東京と中山だとコースの広さも直線の長さも全然違うんだから、たくさんあるよ(笑)。
 まぁ一番大きな違いは、東京のダート1600mコースが向正面の芝コースからスタートする特殊なコースだってことかな。スタート直後の先行争いに少し影響があるかも知れないし、スタートから最初のコーナーまでの距離が随分と違うのも注目だね。
 あと、コーナーの数が4つあるわけだから、原則としては先行有利なはず。ただし、去年のジャパンカップダートはご存知のようにリージェントブラフの追い込みが届いたから、展開次第ではどうにでもなりそうだね」
珠美:「その展開はどうなると思われますか? 下馬評では激しい先行争いになると言われていますけれども……」
駒木:「純粋な逃げ馬だけでも3頭もいるもんねぇ。そこへゴールドアリュールが競りかけたりするわけだから、前へ行く馬には酷な展開になりそうだね。好位組と後方待機組が力比べをするような感じになるのかな。まぁ、常識的に考えてペースは速くなるだろうね」
珠美:「……ありがとうございました。それでは今日も博士に、出走馬を枠順に従って1頭ずつコメントを頂きます。まずは1枠からお願いします。2頭とも随分と人気薄ですけれども……?」
駒木:「まずはエイキューガッツ。でも、どうしてこの馬が出て来たのか、サッパリ判らない(苦笑)。『週刊競馬ブック』の特集記事にも名前すら出て来ないもんなぁ。能力的にも物足りないし、ここは見送りだね。
 同じ人気薄でも、カネツフルーヴは相当な実力馬。一時期調子を崩していたみたいだけど、前走の川崎記念優勝を見ても分かるように、随分と持ち直して来た印象かな。感じとしては去年の帝王賞(1着)くらいのデキにあるんじゃないかと思う。ただ、今回は先に言ったように逃げ馬受難のレースだからね。余程恵まれが無いと最後の直線を乗り切るのは難しいんじゃないかな」
珠美:「……続いて2枠ですね。こちらも人気薄の2頭なんですが、博士は印も打っておられますね」
駒木:「あぁ、プリエミネンスの事だね。でもこの馬が12番人気ってのはおかしくないかい? G1レースでは上位の常連だし、今回は内枠の好位で脚を貯められる有利さもある。そりゃあ、ゴールドアリュールとアドマイヤドンには地力で見劣るけど、でも何かあった時には連対圏内に食い込むだけの余地は残ってるはずなんだけどなぁ」
珠美:「6着に終わった前走の川崎記念が嫌気されたんでしょうか?」
駒木:「あぁ、そうかもね。でも、中間の調整過程を見る限り、今回は相当馬が変わっているような印象を受けるんだけどね。ちょっと湿気を含んだダートも有利に働くだろうし、少なくとも個人的には注目したい1頭なんだよね。
 ……で、この枠もう1頭のアッパレアッパレなんだけど、こちらは前走でちょっと馬脚が出ちゃった感じかな。一流どころと真っ向勝負で勝った経験が無いのが頼りない印象があるし、追い切りもピリッとしない。こちらは見送りかな」
珠美:「それでは次に3枠です。この枠には1番人気のゴールドアリュールがいますね。ついでに申し上げますと、私の本命馬です(笑)」
駒木:「ゴールドアリュールね。ジャパンカップダートで負けた時はどうなるかと思ったけど、東京大賞典ではキッチリと決めてくれたね。この馬の場合、折り合いをつけてジックリ行くよりもスピードに任せて逃げちゃう方がやっぱり良いみたいだ。
 でも、それから考えると今回は大変なんだよなぁ。逃げ馬3頭を叩いて先行したところで最後まで保つとは思えないし、かといって中途半端に抑えると能力の発揮まで中途半端になっちゃいそうだし。オマケに抜け出したらソラまで使うんだよね、この馬。格下相手には問題ないけど、JRAのG1だとメンバーも揃うからねぇ。果たしてこれがどう出るか」
珠美:「それではかなり危ないと……?(汗)」
駒木:「いや、力の発揮の仕方が難しいって事。この馬、『ダビスタ』の勝負根性が無い馬みたいな走りするから、タイミングが難しいんだよ。直線先頭で一気に抜け出して、他の馬を戦意喪失に追い込めばしめたものなんだけどねぇ。……まぁでも、地力だけなら1、2を争うのは文句の無いところだし、ここは武豊騎手が新味を出す名騎乗を見せてくれる事を期待しようじゃないか」
珠美:「わかりました(苦笑)」
駒木:「3枠もう1頭はマイネルブライアンだね。何だか微妙に穴人気してるみたいだけど、地力的には下位グループだと思うよ。1800mの実績と言っても二線級相手の成績が主だし、先行馬だから展開も決して楽じゃないし。僕はあまり高く評価は出来ないなぁ」
珠美:「……続く4枠も注目馬がいますね。博士のジャッジはいかがでしょうか?」
駒木:「イーグルカフェかぁ(苦笑)。困った事に今回はデキが絶好なんだよね。しかも騎手がデムーロと来た。この馬をどう扱うかで馬券戦略が大きく変わって来るだろうから、そういう意味ではキーポイントになる馬だね」
珠美:「博士は4番手評価の△印を打ってらっしゃいますねー。やっぱりジャパンカップダートは“デットーリ・マジック”によるフロックという判断なんでしょうか?」
駒木:「半分はそう(笑)。騎手の力もあるけど、やっぱり展開が向いたのが大きかったように思えるからね。人気馬2頭がお互いを意識しすぎて共倒れになって、そこを絶妙のタイミングでイン突き。典型的な奇襲勝ちだよ。
 だから、いくら秋のチャンピオンだからといっても、地力的には3番手グループの一角という評価は以前と同じのまま。まぁ、また展開恵まれて2着争いに参加できるかどうかってところだと考えてるんだよ」
珠美:「予想紙の印を見ても、皆さんそのような認識みたいですね」
駒木:「だろうね。あの1勝だけを根拠に◎を打つのはとても勇気が要ると思うよ。
 ……で、この枠もう1頭のビワシンセイキ。前走の平安ステークス4着で随分とミソをつけちゃったような気がするね。いくら展開だの折り合いだのと言っても、あのメンバー相手に2着にも届かないんじゃあ、ちょっと物足りなさは否めない。それに、どうやら調子のピークも過ぎかけてるみたいだしね。今回人気順(4番人気)以上の着順を取れるかどうかは、かなり微妙じゃないのかな…と思うんだけど」
珠美:「さて、これでようやく折り返し地点ですね(笑)。次は5枠の2頭ですね。こちらはノボトゥルーの取捨選択がカギになると思うんですが……?」
駒木:「その通りなんだけど、まずはスマートボーイからね。前走の平安ステークスは久しぶりにこの馬らしい逃げ切りだったね。8歳とはいえ、まだまだ地力は健在みたいだ。ただ、再三言ってるように今回は逃げ馬にはとても不利なレースだからね。ちょっと辛い。
 で、次にノボトゥルーだね。このレースは2年前に勝ってて、去年は3着。これまで戦って来た相手関係を考えると、地力の上で2強に肉薄できる数少ない馬と言っていいんじゃないかな。
 でも、この馬にとってツイていないのは、今年は1600mじゃなくて1800mだってこと。1600mを超えると途端に成績が振るわなくなる馬だけに、今回も苦戦を強いられる事は間違い無さそうだね。ある程度までは健闘するだろうけど、果たして先頭まで突き抜けるだけの切れ味を繰り出せるかどうか。あとは皆さんのジャッジに任せよう。僕は掲示板以上馬券範囲以下だと考えてるけどね」
珠美:「このレースって、微妙な位置付けの馬が多いですね(苦笑)」
駒木:「まったくだ(苦笑)。困ったもんだよ、全くね」
珠美:「……それでは次、6枠の2頭についてお願いします」
駒木:「レギュラーメンバー、攻め馬走ったねぇ。栗東の坂路で49秒台とは大したもんだ。まだ馬体が戻りきってないとか話を聞くけど、少なくとも前走よりは随分と復調して来てるのは間違いないみたいだね。でも、この馬も逃げ馬。やっぱり展開の事を考えると強くは推せない。
 ハギノハイグレイドは随分と人気を落としたねぇ。まぁ確かにここ最近のスランプは酷いし、調教の動きもノって来ない。ちょっとレース使うのを止めてリフレッシュしてもらいたいところだね。一応、地力は3番手グループの一角なんだけど、今回は度外視しておきたい」
珠美:「次は7枠。ダート適性未知数なエイシンプレストンの取捨選択がポイントになりますね」
駒木:「ここも枠順に従ってディーエスサンダーから。オープンクラス復帰緒戦でG1とは思い切ったローテーションを組んだものだと思うけど、やっぱりここでは荷が重いかな。まずはクラス慣れからだね。
 で、エイシンプレストン。ダート経験は1回だけ、しかも芝ですら勝てなかったスランプ中の時の話だから全く参考にならない。デキは可もなく不可もなくだけど、芝を含めた実績ならメンバー中最右翼。本当に微妙だよなぁ(苦笑)」
珠美:「そうですよねー。で、どうしましょう?(笑)」
駒木:「ホント、どうしよう?(苦笑) まぁ、『走ってみなくちゃ分からない』って感じだから、押さえ馬券に買っておくくらいは良いんじゃないのかな。配当的にも結構魅力だし、イチかバチかの賭けなら向いているとは思うよ」
珠美:「わかりました(笑)。ま、本当に走ってみないと分からないことでしょうからね
 ……それでは最後に8枠の2頭をお願いします。共に実績のある馬ですね」

駒木:「ジャパンカップダート2着のリージェントブラフ。でも本質的には公営競馬場の力の要るダートが得意なんだよね。それに、そうそう何度も追い込みが決まるとは思えないんだけど…珠美ちゃんは△印打ってるのか(苦笑)」
珠美:「ハイペースですし、ここ最近の成績も振るってますからね。ちょっと期待してるんです」
駒木:「まぁそれも一つの考え方だね。僕は雨で湿って軽くなったダートでは、スピード不足に泣かされそうだと思って評価を下げたんだけど。
 で、最後は大外のアドマイヤドン。休み明けになるんだけど、調整は入念だし、デキ不足で息切れの心配は全く無いだろうね。実力も文句ナシ、しかも展開も絶好。ただし、2週前追い切りで引っ掛かってバテバテになったのが少し心配。大外枠だし、何とか折り合いをつけてくれれば良いんだけどね」
珠美:「……というわけで、以上で16頭の紹介も終わりましたし、最後に結論と買い目の方をお願いします」
駒木:「直線入口で抜け出すゴールドアリュールを、タイミングよく仕掛けたアドマイヤドンが急襲、そこへインをすくうプリエミネンスとイーグルカフェの差しが届くかどうか……といったところかな。怖いのはエイシンプレストンの大駆けなんだけど、馬券の対象からは泣く泣く外した。馬連で5-16、3-16、3-5、7-16の4点。3連複は止めておこう」
珠美:「私は、ゴールドアリュールが一気に抜け出した後、大外から差し馬が一斉に伸びて来る…という風に考えています。買い目は馬連で5-16、5-7、7-16、5-15、5-10、5-8の6点ですね
駒木:「じゃあ、長い講義になっちゃったし、そろそろ終わろうか」
珠美:「そうですね。ご苦労様でした」
駒木:「レース後の感想もお楽しみに(笑)」


フェブラリーS 結果(5着まで)
1着 ゴールドアリュール
2着 ビワシンセイキ
3着 イーグルカフェ
4着 カネツフルーヴ
5着 10 ハギノハイグレイド

 ※駒木博士の“敗戦の弁”
 愚痴を言う前に反省から。ビワシンセイキ様、お見それいたしました。貴方はG1戦線で戦うに充分な力を持っていると認めます。
 ……というわけで、次に愚痴(笑)。
 何だよ、アドマイヤドンのあのスタートは。落馬してないだけでレース終わってるじゃないかー。しかも2コーナーで被害馬として審議の対象になって……。予想してた展開利もクソもあったもんじゃないね。全く競馬になってないんだから、もうどうしようもない。
 そしてプリエミネンスだなぁ。見込み違いと言われたらそれまでだけど、4コーナーで一気に置かれちゃったのが納得いかない。流れに注文のある馬なのかな。
 まぁ、半分ミス、半分災難の敗戦だね。完敗だ。

 ※栗藤珠美の“喜びの声”
 随分と予想していた展開と違ってしまったんですけど、的中したので今日のところは喜びたいと思います(笑)。
 でも、私がG1で当てる馬券って、ちっとも配当が良くないんですよね(苦笑)。今日も6点目の押さえ馬券ですし……。幸運を頂けるなら、もう少しまとめてお願いしたいものです(笑)。

 


 

2月21日(金) 労働経済論
「役に立たない? アルバイト時給案内」(11)

 ※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回 

 受講生の皆さんもご存知の通り、現在リアルタイムでは、この講義のきっかけとなった「Yahoo!! BB」キャンペーンのアルバイトについて駒木自ら“取材活動”中です。
 本来ならば、素材が新鮮な内にお話するのが筋でしょうが、いかんせん講義の題材に整理するまでにはまだ時間がかかります。ですので、とりあえずは例のクソゲーム屋の話を終わりまで続行することにします。

 
 ……さて、そのクソゲーム屋の話ですが、前回は開店直前の所までお話でした。
 となると、今回は開店当日の話が中心になるはずなのですが、タイミングが良いのか悪いのか、駒木は所用のために開店当日と翌日は欠勤しており(例の、申告済みにも関わらず「店長」が俺の一存では決められんと抜かした休みです)開店3日目まで時間が飛んでしまいます。

 で、その開店3日目、開店以来初めて出勤した駒木は、目に映った光景に己の網膜を疑いました

 だって、店内の様子がほとんど変わってないんです。開店前と。

 普通の商品を並べた陳列棚は勿論、開店セールのワゴンに乗っていた商品までほとんど変わりがないではありませんか。クソゲーばかりの特売品やCD-Rはともかくとして、原価スレスレまで割り引いた当時絶賛品薄中のプレステ2までが、時代劇の殿様よろしくデン! …と鎮座しています
 えっ? どうしてこんな光景が? ……などと思って周囲を見回してみますと、伝票を見詰める「ドロンズ兄さん」の顔色が、ヒッチハイク中にビザ申請が降りずに1週間飲まず食わずで足止めを喰らった本物のドロンズみたいになっているのに気がつきました。
 駒木はここでハッとある事に気付いて、近くのバイト仲間を捕まえて尋ねてみました。
 「開店当日、どうやった?」
 しかし、そのバイト仲間は、「いやぁ……」と言って、まるで大して親しくない友人から自作のアニメ系ガレージキットを見せられて感想を求められた時のように複雑な笑みを浮かべるばかり。

 これで確定です。そうです、この店、初日から大コケだったんです。
 さすがは呪われた物件と言うべきでしょうか、夏休み真っ只中・盆休み直前の週末だというのに、開店セールからして閑古鳥が鳴いてたわけです。
 呆然とする駒木に、もう1人のバイト仲間が声をかけてくれました。
 「駒木君、俺らも仕事全然慣れてないから、焦らんでも大丈夫やで」
 …まぁ、それだけお客さんが少なかったら慣れるはずの仕事も慣れんわなぁ…などとしみじみ思ったものでありました。

 とまぁそんな中で、開店3日目の営業が開始されました。
 10分……20分……30分……
 店内はまるでマンガ喫茶のような静けさを保ったまま、ただ有線放送から最新ヒット曲が垂れ流されるのみ。当時大ヒット中だった「慎吾ママのおはロック」が、ただッ広い店内に空しく響き渡ります
 この間、オーナー一家、「ドロンズ兄さん」、駒木以下バイト3名の計7人はただ持ち場で立ち尽くしたまま。舞台に立ったものの音声さんのミスで歌う事の出来ない売れない歌手よろしく、異様に気まずい雰囲気のまま、ただ時間は過ぎ去っていきました。
 小一時間経って、さすがにこれでは人件費が無駄になると思ったのか、オーナーからバイト3名にPOP(簡単に言うと手書きの店内広告)を描けとのお達し。店舗スペースがやたら広かった関係上、この店は無駄に開いているスペースが多かったので、それで“空白地”を埋めようというわけです。ズブの素人が描いたPOPなど見苦しいだけだと思ったりもしたのですが、何もしないでいるのも苦痛のため、駒木も納得して作業を開始しました。ただしその後、駒木たちはこのPOP書きに苦しめられる事になるのですが、それはまた追ってお話しましょう。

 そうこうしている内に、チラホラとですがお客さんがやって来るようになりました。しかし、今度は商品がなかなか売れません。皆さん広い店内をウロウロしては、手ぶらのままで去ってゆきます。たまにレジが動き出したかと思ったら、売れたのは小学生が買った遊戯王カード1パックとかだったりします。まるで菓子の無い駄菓子屋状態です。
 夕方からはボチボチと中古の18禁パソコンゲームが売れ始めますが、これも開店キャンペーンで原価スレスレまで割引しているもの。結局、利益が上がりそうな商品が全く売れないまま、日は暮れ、夜は更けてゆきました

 夜10時、営業終了。レジと直結しているパソコンに本日の売上額がはじき出されます。その額、8万円也。信じられないかも知れませんが、これが1日12時間の営業であがった売り上げです。しかもこの8万円の中にはプレステ2の売り上げが1台分混じっています。
 ゲームは意外と利益率の低い商品です新品ソフトの場合、仕入れは定価の75%で買い切りが原則(ドリキャスは65%)で、しかも駒木が勤めたゲーム屋は一律1割程度割り引いて販売していたために利益率は実質18%弱。6000円のソフトを売っても1000円チョイの儲けにしかなりません中古はまだ利益が上がりますが、せいぜい売値の3割か4割が利益の限界です。
 しかもこの日は、先に述べたように利益率の更に低いプレステ2本体や割引セールのパソコンソフトも混じっていましたので、売り上げ8万円の中で純利益は2万円を切っていたはずです。バイトの日給が750円×10.5時間で1人7850円でしたから、この日勤務した3人分の給料を払った時点でもう赤字。簡単に言えば、「店を開けない方がマシだった」というところです。

 仕事着のエプロンを脱ぎつつ、「これは辞める前に店潰れるかも知れんなぁ」…などと考えながらロッカールームへ引き上げようとする駒木の耳に、「店長」の甲高い声が届きました。

 「あれ〜? レジの金が合うてないがなー!」

 ……あの少ない客数の中で、どうやってレジの誤差を生じさせるのか。世の中って不思議なものであります。まぁ、こんな店が存在する事がもっと不思議なんですが

 この辛気臭い話、更に続きます。 (次回へ続く

 


 

2月20日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評」(2月第3週分)

 今週は久しぶりにレビュー対象作が3本もありますので、駆け足でお送りします。日常生活がバタバタし始めた途端にレビュー対象作が増えるなんて、人生ままならんもんです(笑)。

 さて、まずは情報系の話題から。今日は1点だけです。

 高橋昌俊氏の死去以来、バタバタとしている「週刊少年ジャンプ」の人事ですが、今週号(12号)の「編集人」(=編集長)は茨木政彦氏になっていました。鳥嶋氏は本当に名義だけのワンポイントだったんですね。
 茨木氏はいわゆる“鳥嶋体制”の頃から長年副編集長を務めてきた人だけに、もしこれが正式な編集長就任ならば順当な繰り上がり人事と言うことになるんでしょうね。
 この件に関しては、また動きがあり次第お伝えします。(なんか、本物のニュースみたいだな^^;;)


 では、今週のレビューの方へ。今週は「ジャンプ」から読み切り1本、「サンデー」から短期集中連載の第1回レビューを1本、そして「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作完全レビュー1本計3本となります。
 また、毎週お送りしている「ジャンプ」と「サンデー」の“チェックポイント”ですが、今回は諸事情で金曜に追加振替、もしくは休止とさせてもらいます。ご了承下さい。 

☆「週刊少年ジャンプ」2003年12号☆

 ◎読み切り『少年守護神』作画:東直輝

 昨年、『ソワカ』を連載するも2クールで打ち切りとなった東直輝さんが、今回読み切りで復帰となりました。
 東さんはデビュー以来2回連続で短期打ち切りになった作家さんなんですが、どうやら「ジャンプ」の“2連続打ち切り作家追放の掟”は“3連続”に緩和されたみたいですね。この辺り、即戦力不足に悩む「ジャンプ」の台所事情が反映されているようです。

 さて、この「ジャンプ」で読み切りと言えば、アンケート次第で連載化される“プロトタイプ”の性格が強い作品です。果たして今作が連載に足るレヴェルに達しているのかどうか、一応の判断を下してみたいと思います。

 まずですが、こちらは以前とほとんど変わった感じは見られませんね。しかし、東さんは元々がプロとしてはあまり絵が達者な方では無いだけに、これはやや残念な材料ではあります。

 しかし、ストーリー・設定面の方は、遺憾ながらもっと残念な材料となってしまいました。ぶっちゃけて言ってしまうと、とにかく全編マイナスポイントだらけという悲惨な内容です。その全てを採り上げると『碼衣の大冒険』作画:イワタヒロノブ)の時みたいに顰蹙を買うだけになりそうなので、ここでは特に大きな問題2点に絞ってお話をします。

 まず1点目。これはやはり世界観を無視した主人公たちの服装でしょう。戦国時代劇なのに服装だけが現代風という訳の分からない設定になっていました。これはもう内容以前の“最低限の約束事”が守られていません
 いや、別に現代風の服を着ていても良いんですが、それだったら何がしかの理由付けをして必然性を持たせないと、何の効果も得られずに誤解を生むだけです。おそらく序盤でタイムスリップ物と錯覚した読者の方も多かったのではないでしょうか。
 例えば学園ストーリー物で、主人公の男子高校生がセーラー服に女装しているとします。するとほとんどの読者は「主人公は“そういう”キャラだな」と認識するでしょう。しかしその後、主人公が全編普通の男子高校生として振舞って、他の登場人物も当たり前のように接して…となっていったらどう思うでしょうか? 多分絶句するか、「これは本当はシュールギャグマンガじゃないか?」…と疑うかのどちらかでしょう。
 物語というものは、作者から特別な指示が無い限り、その物語が描かれた時点の常識をベースにして話が展開されるものです。それを理解していない人がいくら頑張ってもどうしようもありません。

 2点目作品全体の“ノリ”がコメディを突き抜けてギャグの範疇まで飛び抜けてしまっています。しかもそのギャグもテンポが早いだけで何の工夫も無い稚拙なものでした。
 昔の東さんの作品はそこまで酷くなかったので、これは非常に残念でした。こんな事言ってはアレですが、休み中に『Mr.FULLSWING』でも読み過ぎて感覚が狂ってしまったんではないかと疑いたくなるくらいです。

 この他にも必然性が無かったり、無理のあるストーリーテリングの問題点が山積みです。一体、どうしちゃったんでしょうか。東さんの今後が心配になってしまいましたね。

 評価は厳しくとしておきます。別の分野のクリエーターの人から「あれ? マンガの世界ってのはこの程度で連載持てちゃったりするんですか?」…などと言われても言い訳の出来ない作品ですので。

☆「週刊少年サンデー」2003年12号☆

 ◎短期集中連載第1回『電人1号』作画:黒葉潤一) 
 今年の「サンデー」で2作品目となるギャグ作品の短期集中連載シリーズですが、今回から黒葉潤一さんが登場となりました。
 黒葉さんは学生時代の97年4号から99年8号までの2年間、「サンデー」本誌で『ファンシー雑技団』を連載した経験を持つ若手作家さん。その後も本誌や増刊などで散発的に活動をして来ましたが、短期集中とは言え久々の連載獲得となりました。
 なお、このゼミでは今回と最終回の2回、レビューを行います。

 それでは作品の内容に話題を移しましょう。

 “ギャグ作家さんにしてはマズマズ”…といった感じでしょうか。『ファンシー雑技団』時代よりは上手くなっているように思えますが、動的表現を苦手にしているように思えるのが気になるところで、これが作品全体の迫力を弱めてしまった感もあります。

 そして肝心のギャグですが、「第1回からアンケート人気を獲らなくちゃ!」…という意気込みが空回りしてしまったのか、とにかく間の悪さが気になります。これは前の短期集中連載作・『少年サンダー』作画:片山ユキオ)でも見られた面で、1コマ間を置いた方が良かったのに……というシーンが良く目立ちました。
 他に注文をつけるとすると、ギャグマンガの生命線である意外性がやや物足りなかった面と、ギャグの見せ方がワンパターン気味になってしまった点などが挙げられます。

 良かった頃の黒葉さんって、ちょっとシュール気味のギャグで勝負していたような気がするんですけど、気のせいでしたかねぇ。とりあえずドタバタギャグに向いている作風とは思えないので、もうちょっと工夫してみて欲しいと思っています。現時点の評価はB−

☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆

 ◎エントリーNo.3 『摩虎羅』作:茜色雲丸/画:KU・SA・KA・BE

 今週のエントリー作家さんは作画分業制の2人組。共に35歳という茜色雲丸さんKU・SA・KA・BEさんのコンビです。
 「バンチ」に掲載されたインタビューによると、原作担当の茜色さんはゲームのシナリオライターで、マンガ担当のKU・SA・KA・BEさんは現役のマンガ家兼アシスタントとのこと。そしてコンビ結成は10年前。とある雑誌の企画モノ作品を描いたのがきっかけであるそうですが、それ以後は作品を発表する機会に恵まれて来なかったようですね。
 何だか、前回の特徴(埋もれた新人マンガ家復活戦)と今回の特徴(別分野からの脱サラ挑戦)を微妙に合わせたようなお2人の経歴が興味深いですね(笑)。

 ──さて、では作品のレビューの方へ。

 この作品については、先週のゼミの終わりの方で「これは“『エンカウンター』的な作品”だ」…みたいな事を話したと思うんですが、ここでそれはどういう意味なのかを、もう一度お話しておきます。“サードインパクト”組の受講生さんたちには多分話していなかったと思いますので。

 この「世界漫画愛読者大賞」や、その前身である「ジャンプ新人海賊杯」では、ある特定のタイプの作品が、いつも上位に入賞して連載を獲得し、漏れなく短期で打ち切られる…という現象が起こっています。
 で、その特定のタイプとは、

 1.絵の見栄えが良い(パッと見の画力が高い)。
 2.サラリと読む感じでは読後感が良い。
 3.しかし、よく読みこめば話が破綻している。 

 ……というもの。つまりは読み切りの時は誤魔化せても、連載に突入すると構成力の不足がたちまち露呈して破局を迎えてしまう…ということですね。
 そして昨年の「世界漫画愛読者大賞」でも同様のケースがあり、それが先に名前の出た『エンカウンター 〜遭遇〜』だったわけです。
 ではここで、この『エンカウンター』が「愛読者大賞」当時どんな感じだったか、昨年のゼミのレビューからちょっと抜粋してみましょう。

 この作品、言い方は悪いですが、読者を雰囲気で誤魔化してしまえば、大賞まで手が届くかもしれません。ただし、今のままで連載に踏み込めば、早かれ遅かれ破綻してしまうでしょう。それが非常に惜しい。
 『エヴァ』は、話が破綻する寸前の状態で、まるで北緯38度線で綱渡りをやるようにして、ギリギリ成立した話でした。そんな話に影響を受けて新たなストーリーを作り上げるのは並大抵の覚悟では出来ません。作者の木之花さんには是非、意気込みだけではなく覚悟も持って話作りに挑んでもらいたいと思います。返す返すも惜しい作品でした。再挑戦を待っています。

 ……わはは。キッツイ事言ってますねぇ。全部当たってますけど(笑)。
 恥ずかしい話、昨年の「愛読者大賞」レビューはイマイチ冴えないモノが多かったと思うんですが、この『エンカウンター』だけはドンピシャだったような気がします。まぁこんなネガティブな予想が当たったところで何の得にもならないんですけどね(苦笑)。

 …とまぁ、こういうタイプの作品の事を『エンカウンター』的と読んでいるわけです。お分かりになったでしょうか?

 ──ではこの『摩虎羅』のどういったところに問題があったのか…といった話になるわけですが、ここでは2つ具体的な“ストーリーの破綻”ポイントを指摘しておきます。

 まず1つ目ゴブ族のブローカーが、何故弱いはずの人間を試合に出す事にそんなに固執するのか? …といった点です。
 このブローカーにとって、人間の摩虎羅を試合に出して負けるという事は、賭け金と摩虎羅の売却代金を二重に損することになるわけで、普通なら「あの女を使うしかないのか」とか思う前に諦めますよね(苦笑)。せめて摩虎羅を叩き売ってでももっと強そうな種族の戦士を雇うはずです。それに「あの女を使うしか──」って言うタイミングは、リザードマンが死んでからですよねぇ、どう考えても。

 2つ目摩虎羅はどうして第1戦の巨神族戦の時から奥の手・インドラの瞳を使わなかったのか? 「水戸黄門」の印籠じゃあるまいし…という話です。
 いや、「最初で使ったらお話にならん」という意見出るでしょうが、それは作者と読者の都合であって摩虎羅の都合じゃないわけですよ。いつも駒木がレビューで言っている“キャラの行動の必然性”というヤツです。

 ……この作品、喩えて言うなら「プロレスやってる」って感じなんですよね。話を盛り上げるためにキャラクターがわざわざ自分から窮地に陥って、そんでもって劇的な展開で逆転すると。
 でも、今この作品が発表されたストーリーマンガの世界は、そういうのが一切無い世界です。言うなれば「PRIDE」みたいな真剣勝負・バーリ・トゥードのリングなんですよ。そこでプロレスやられても興醒めなんですよね。プロレスはプロレスのリングでやるから面白いのであって、本当の真剣勝負の場でロープに飛んだり逆さおさえ込みで勝負決まっても「それってどうよ?」…なわけです。
 まだこの読み切りでは多少面白さが残っているかも知れませんが、これがこのまま連載になるとまず破綻するか、さもなくば飽きられるでしょう。

 以下、駒木のエエカゲンな推測なんですが、この失敗はどうも、原作の茜丸さんがゲームシナリオ畑の人であるところに原因がありそうな気がしています。
 といいますのも、ゲームシナリオの世界って、意外とプロレス風味の“暗黙のお約束”が通用する媒体でして、「面白い」と思ってもらえるなら多少シナリオが破綻してても許されるところがあるんですよね。
 ですからこの『摩虎羅』、茜丸さんがゲームシナリオを作る感覚でマンガ原作を作ってしまったためにストーリー破綻してしまったのではないかと思うのです。あくまで個人的に思ってるだけですけどね。

 さて、とりとめもない話はこれくらいにして評価です。
 散々な事を言ってきましたが、一応絵は標準以上ですし、破綻箇所があるとは言えマンガとしては成立していますから、ある程度の点はつけなければならないでしょう。もしも今後シナリオが破綻しないようになれば大化けの要素もあると思ってますしね。まぁ、やや甘めでB−寄りBといったところでしょうか。

 では、最後に投票行動の公開です。

 ・「個別人気投票」支持しないに投票。(ダメモトで賭けてみたい思いもあるが、少なくとも「愛読者大賞」の看板を背負っての連載はリスクが大きすぎるとの判断。通常のアンケートにも票は入れていません)

 ・「総合人気投票」「グランプリ信任投票」でこの作品を支持する事はありません。

 

 ……というわけで、以上で今週のゼミを終わります。

 


 

2月19日(水) 比較文化史概論
「23年ぶり『がきデカ』復活に思う」

 講義に先立って言っておきます。普段はフザけきった内容の講義しかやらない割に、マンガの話題になると妙に理屈っぽく真面目になる当講座ですが、今日のはそんな大層なモノじゃなく、単なるしょうもない雑談風になってますので、肩の力を抜いて受講してもらえれば幸いです。

 ──さて、講義テーマにありますように、この度、往年の名作・『がきデカ』作画:山上たつひこ)が1980年の連載終了後、23年のブランクを経て復活する…というお話です。
 この「がきデカ」、作者の山上さんが1990年に絶筆して小説家に転向してしまってからは文字通りの“幻の作品”と化していたのですが、名作リバイバルブームという時勢を反映してか、この度“期間限定復活”となったようです。

 ただし、普通のリバイバルと違う所は作品の内容が以前と大きく異なっている事。昔の雰囲気をそのまま現代に持ち込むからこそのリバイバルですが、ちょっと『がきデカ』は勝手が違う模様です。

 60、70年代の漫画がリバイバルする中、ギャグや独特のポーズが社会現象になった「がきデカ」も復活する。でも、設定は悲哀ただよう38歳の中年サラリーマンだ。世は不況の真っただ中だが、当時の小学生と同年代でよみがえる主人公「こまわり君」は今、何を思う──。 
 (神戸新聞2/19付夕刊より。数字を洋数字に変更)

 ……なんと主人公のこまわり君が38歳連載開始の1974年から律儀に28歳年齢を加算してしまったようです。しかもタイトルが『がきデカ』改メ『中春こまわり君』「中春」とは中年と青春を併せた造語との事です。

 山上氏は「復活させるつもりはなかったが、一回こっきりのお祭りに参加する感じで引き受けた。どうせやるなら28年後のこまわり君がどうなっているのかを描きたくなった」と話す。 (同上)

 そういう事情があるとは言え、6年間の連載中に1つも年を取らないで、ここへ来ていきなり28年素っ飛ばすと言うのも凄い話ですが、その内容もかなりのモノです。

 では28年後のこまわり君の生活は──。
 山上氏によると、中春こまわり君は営業係長。6、7歳の一人息子がいて、平均的な家庭生活を送っている。 (同上)

 ……何だか、15年前にウジャウジャいた“ファミコン名人”のその後みたいな話ですね。“40歳手前で係長”という、微妙に定年退職時の階級が窺い知れる身の上がリアルでたまりません。

 ──しかし、1980年代に活躍していたメーカー各社のファミコン名人たちは今頃何してるんでしょうか高橋名人=ハドソンの課長、毛利名人=「ファミ通」のスタッフ、橋本名人=スクウェアの重役……といった辺りは割と有名ですが、他の方たちは今頃何処へ──?
 ちなみに駒木が一番気になる人は、名番組「ファミっ子大集合」のレギュラーコーナー・素人小学生9人VS名人ゲーム対決で、合計27人のチビッ子相手に3勝24敗という大惨敗を喫して3回で降板したハル研究所の元・名人ですね。結果発表のたびに場内の誰もが「……オイオイ」と、無言のツッコミを入れていたのが今でも鮮明に思い出せます。

 ……と、閑話休題。こまわり君の話でした。

「こまわり君も年をとって、社会にもまれているうちに自然と身についた“生きていくことの憂鬱”を抱いている。でも飲み屋の宴会芸で昔のポーズもやらされる。昔自信満々でやっていたギャグを恥ずかしそうにしか披露できない、寂しい背中が読者の共感を呼ぶのでは(引用者注:山上氏の談話) (同上)

 …いや、共感と言われましても、良い共感とイヤゲな共感ってものがありますよね。
 この場合は何と言いますか、「森田童子の歌を聴いて共感」というのに似た陰々とした雰囲気が醸し出されてしまうのですが……

 実際、この作品を掲載する予定の「ビッグコミック」側は、以下のようなコメントを残しています。

 昔のがきデカには社会のひずみを反映した笑いがあったが、中春こまわり君は、笑いを持てない社会情勢を反映してギャグよりペーソスあふれる作品にしたいファンが期待する作風ではないが、面白いものになる。 (同上)

 「読者の共感を」…という作者の願望を、掲載前の時点で全否定ちょっとは気ィ使うたれよと言いたくなってしまいますね。

 ところで、今回の『中春こまわり君』と同様の作品としては、藤子・F・不二雄先生の短編・『劇画オバQ』があります。奇しくも掲載誌は同じ「ビッグコミック」誌でした。
 『劇画オバQ』の舞台は、本編から15年後依然として子どものままのオバQと、大人になってしまったかつての仲間たちとのギャップをテーマにした強烈な作品でした。

 話の内容をかいつまんで話すと、こんな感じです。
 ……昔を懐かしんで、かつて住んだ町にやって来たQちゃんですが、彼が生まれた雑木林はゴルフ練習場に、住んでいた家はマンションに。親友・正ちゃんの父親は定年退職で郷里に帰り、兄は転勤で北海道へ。15年と言う年月の長さを実感するQちゃん。そして、町に残っていた親友・正ちゃんまでが、子どもの頃には考えられなかった様子で苦々しく心情を吐露

 「サラリーマンは会社という機械に組み込まれた歯車なんだよ、勝手に抜けたりできるもんか!」


  ──うわ、重!

  ……と、思わず叫んでしまいそうになりますが、全編こんな調子です。

 で、Qちゃんの帰郷を懐かしみ、かつてのメンバーが集まって大騒ぎしたのも束の間、次の日に正ちゃんに子どもが出来た事を知ったQちゃんが、既にそこに自分の居場所が残っていない事を悟って静かに町を去っていく……という、カタルシス一切なしの虚無感溢れるエンディングに繋がっていきます。

 ──で、どうやら『中春こまわり君』もこんな作品になりそうですよね。まさに「ファンが期待する作風ではないが、面白いものになる」…といった感じ。確かにインパクトの強い作品になるとは思いますが、これが果たして読者にどう受け取られるかは未知数と言えます。どうなるんでしょうか。

 しかし、『中春こまわり君』や『劇画オバQ』で思う事ですが、何が題材であっても、リアルな視点で近未来を描くと物凄く辛い形になりますよね。
 例えば、当講座のメンバーの年齢をそれぞれ28年加算すると、駒木ハヤト55歳、栗藤珠美50歳、一色順子47歳。……もう年齢を聞いただけで泣きそうですね(苦笑)。小説『リング』での貞子の呪いは、自分の100年先の姿が目に映ってしまうというものでしたが、確かにこれは効くでしょう。

 他にも28年を追加して想像してみますと、もうイタい具体例が次から次へと出てきます
 例えばモーニング娘。に28年を追加すると、全員が40代です。あの辻・加護も40代。引退久しく生活臭にまみれているはずの保田圭はどうしてるでしょうか。しかもそういう時期に、50代も後半に突入した中澤姐さん込みで再結成とかされてそうですから怖いです。
 『サザエさん』の世界ではどうでしょうか。タラちゃんが三十路でカツオが不惑手前。平均寿命オーバーの波平さんを還暦間近のサザエさんとマスオさんが老老介護。裏のおじいちゃんは長寿ギネス更新中で、子どもたちが通っていた小学校は生徒減のために廃校です。
 叶姉妹の28年後……は精神上の安全のために止めておきましょう。

 ……ですが唯一、駒木が見てみたいと思う、本編から28年後を舞台にした企画モノがあります。それは──

 

『天までとどけ』28年後バージョン

脚本:橋田壽賀子

 

 ──10数組の嫁姑問題、そして10数家族の巻き起こす諸々の騒動を分かり易く同時進行的に描き切るという、これぞ橋田ドラマの総決算的作品です。
 総登場人物300人以上、台本は電話帳並の分厚さ。脚本を書き終えた橋田先生は真っ白な灰に燃え尽きてしまうことでしょう。そんな中、長女役の泉ピン子は相変わらず楽屋でブランド品を共演者に売りつけているのでしょうか。

 

 ……とまぁ、しょうもない話をしている内にお時間となりました。何と言いますか、年はとりたくないものですよね、皆さん(苦笑)。 (この項終わり)

 


 

2月17日(月) 労働経済論
「役に立たない? アルバイト時給案内」(10)

 ※前回までのレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回  

 苦し紛れの穴埋めのはずが、いつの間にかカリキュラムのメインに据えられてしまったこの講義、いよいよ大台突入の10回目です。
 ここまで来たら、3月の業務縮小直前まで続けちゃおうか…とも思ってますが、果たしてどうなることやら……。

 で、今回からは、いよいよクソゲーム屋話の本編に突入です。これまで紹介したキャラたちがどんどん他人を不快にさせてゆく様にも注目しつつ、駒木の苦労話に耳を傾けて頂けてもらいます。


 ……さて、「ドロンズ兄さん」から採用決定の電話があって、いよいよ駒木はクソゲーム屋のオープニングスタッフとして働く事になりました。
 その初仕事は、オープン2日前からの開店準備。オーナー一族は勿論、本部からの応援部隊もやって来て店舗に棚だの商品だのを搬入するので、アルバイトも手伝って欲しいという次第。また、その初仕事の日にバイト5人の顔合わせと基本シフトの決定もしてしまうとのことでした。「『席替えの日に休んでしまって、気がついたら教卓の目の前に座らされる事になった子供』みたいになりたくなかったら、とっとと来いや」…というわけです。

 というわけで初仕事当日、駒木は詳しい事は何も知らないまま出勤したのです。が、そこで内装が出来上がったばかりの店内を目の当たりにし、駒木は愕然としました
 「ひ、広い……」
 ……このクソゲーム屋、その前はコンビニだったという事を以前お話しましたが、これが“標準サイズ”のコンビニの約2倍以上のスペースがあり、とにかく広いのです。面積で言えば、学校の教室で2部屋分くらいあったでしょうか。しかもその店内は、まだ棚も無ければ商品も並んでいないガラガラ状態だったのです。
 「……これを2日で開店って、どうせえっちゅうねん」
 この時の駒木の気持ちは8月31日に「宿題全然出来てないんだ、なんとかしてぇ〜」と、のび太くんに泣きつかれたドラえもん。外は真夏だと言うのに、心の中には早くも秋風が吹き始めていました。

 そして、この秋風は間もなく冬の北風に変化しました。つい数十分前にはチューブが歌っているかと思っていたら、ダークダックスが小さい秋を見つける間もなく、あっという間に広瀬香美にバトンタッチです。
 元凶は勿論、オーナー一族。これから2ヶ月に渡って無数に繰り出される無理難題攻撃の第一弾・この店における勤務体系の発表でした。

●営業時間は朝10時から夜10時までの12時間。交代制はなく、合計90分の休憩を除いてぶっ通し労働
●アルバイトは週休2日。週休はバイト同士で相談の上、曜日固定。ただし、土・日・祝日は全員出勤

 …ご覧のように、明治の紡績工場じゃあるまいし…という勤務体系ですね。しかも面接の時に休みやら希望勤務時間を訊いていたのが完全に無視されている横暴振りです。
 当然のごとく、駒木は呆れ返りました。何しろ駒木は面接の時にキッチリと「土曜か日曜かのどちらかは、落ち着いて馬券の検討歴史の勉強をしたいので休ませて下さい」と言っていたのです。
 第一、いくら店が広いといっても、どうしてゲーム屋で7〜8人同時勤務しなくてはいけないのか…という話です。どうやらこの、一般的な感覚を逸しているオーナーの脳内では、

 週末&祝日仕事と学校が休み近所中から家族連れと子供が殺到広い店内に人が溢れかえるあちこちから『ちょっと店員さん!』の声嬉しい悲鳴、人手不足バイトは全員出勤してもらわなくては大変な事になる!

 ……という図式が出来上がっていたようです。
 喩えて言うならば、ただ合コンに行くだけなのに、何故か新品のトランクスを穿いてコンドームを財布に忍ばせていくアレな男子大学生並の妄想です。本当に傍迷惑なオバハンとしか言いようがありません。

 ちなみに後から聞いた話ですが、他のバイト4名も、コレを聞かされた瞬間、「よし、このバイトは適当なところで辞めるぞ!」…と、心に決めていたそうです。新婚カップルで言えばハネムーンの1泊目に成田離婚を決心した新婦の心境ですね。
 しかし、オープンを前にして既にアルバイト全員の心が離れているとは、まさに文字通りのクソゲーム屋です。

 こうして駒木たちアルバイト一同は始業1時間弱にして、店に対する忠誠度を『信長の野望』なら謀反寸前になるまで下げたわけですが、とりあえず時給は欲しいので仕事にとりかかりました。
 やる事はたくさんあります。店の要所要所に陳列棚を設置し、そこへ機種別・ジャンル別に商品を陳列していかなければなりません。特に当時はゲーム機の世代交代期だったので機種が多くありました。プレステ1&2、ドリキャス、ニンテンドー64、その他にもセガサターンやスーパーファミコン、更にはパソコンゲームプレステ2ユーザー向けの映画&アニメDVDまで。たちまち店舗内は、通販が趣味の小金持ちのマンションみたいになってしまいました。
 グチャグチャに散らかった店内を眺め、またしても途方に暮れる駒木ですが、泥舟とは言え乗ってしまったから仕方ありません。知らず知らずの内に途方だけじゃなく日まで暮れようとしていましたが、延々と陳列作業を続けます。1時間750円で時間の切り売りです。

 しかし、そうやって感情を押し殺して仕事をしているにも関わらず、商品を陳列する内に「これで大丈夫なのか?」…という事が頻発します。
 例えば開店記念の特売商品のラインナップ。当時、品薄中だったプレステ2はともかくとして、童話『3びきのこぶた』のレンガの家みたく堅固に積みあがった箱売り専用CD-Rとか、どう考えても倉庫のコヤシになっていたとしか思えない“980円均一”無名&クソゲーソフトなど。何しろ、980円ゲームのすぐ側では同じタイトルの中古が380円で並んでいるのですから、笑うに笑えません。
 この他にも、プレステ2用ソフトよりも入荷数の多い映画&アニメDVDや、子供とファミリーをメインターゲットにした店でありながら、やけにマイナーなタイトルを数多く取り入れた中古18禁パソコンゲームソフトなど、やしきたかじんなら指示棒片手に2時間は爆笑トークを繰り広げられそうなポイントが満載。駒木の脳裏には「自分が辞めるのが先か、それともこの店が……」というフレーズがチラつき始めました。「出来る事なら、給料貰った直後に潰れて欲しいなぁ」と思ったのは言うまでもありません。

 結局、予定の時間を2時間ほどオーバーしてその日の仕事は終わりました。翌日も同様に機材などの搬入と整理が行われ、結果、準備作業だけは無事に終了しました。
 さぁ、もう後には退けません。土塊で出来上がったタイタニックは出航してしまったのです。駒木は「とりあえず次の寄港地で降りよう」と考えつつ、“船員見習”としての生活を始めたのでありました── (次回へ続く

 


 

2月16日(日) スポーツ社会学
「サッカーW杯最下位決定戦・映画化」

 今からもう8ヶ月も前の話になりますが、受講生の皆さんは、サッカーのW杯に便乗してFIFA公認の“サッカー最弱国決定戦”が行われた事を記憶されていたでしょうか?
 なんと、その試合とその前後を描いたドキュメント映画が製作され、日本をはじめ全世界で公開される事になったそうです。詳しくはこちらのニュースをご覧下さい。

 昨年6月30日、サッカーW杯決勝「ブラジル対ドイツ」戦と同じ日に、ブータンで行われた世界最下位決定戦を追ったドキュメンタリー映画「アザー・ファイナル」が世界に先駆け、3月1日から東京・渋谷のシネクイントで緊急公開されることが決まった。
 (報知新聞より)

 “世界最弱”を争ったのは、203あったFIFA加盟国・地域の中で、当時ランキング202位だったブータン王国と、203位だったカリブの小島・イギリス領モントセラト。共に小国で、国土の多くが山地で占められている事に特徴がありました。

 しかし、この記事によると、これまで知られていなかった事実関係が報道されています。

 実は、この最下位決定戦はオランダの製作会社「ケッセルズクレイマー」が、ドキュメンタリー映画の製作をもくろんだイベントだった。同映画の監督のヨハン・クレイマー氏ら2人は自国が予選敗退したのを機に、負けるということに興味を持ったという。2人は2国の代表にファクスを送り打診し、FIFAにも了解を取った。W杯オフィシャルスポンサーに出資を断られ、以来、非営利を掲げて運営してきた。

 映画は試合までの約3か月間、両国の関係者、選手を取材した膨大なフィルムから構成。モントセラト代表が5日間かけてブータン入りする珍道中の模様なども盛り込まれている
 
(同上)

 ……なんと、どうやらこの試合そのものがドキュメント映画作成を前提としたものであったようですね。
 何だかそう聞くと複雑な思いを抱かれる方もいらっしゃるでしょう。が、当社会学講座的には「面白いからヨシ!」…としておきたいと思います。

 ──これは今から8〜9年前の話になりますか、駒木が某ラジオ番組のオフレコイベントに参加した時の事です。
 そのイベントはオフレコに相応しく、客席から芸能界に関しての質問するコーナーが設けられていたのですが、その中で出た質問の中に、
 「小室哲哉は、プロデュースした女の歌手全員とヤってるんですか?」
 …という、おもくそ剛速球のモノがありました。で、それに対して壇上のタレントさんが返した答えは、
 「そういう事にしとけ! その方が面白い!」
 …だったのです。
 その時は駒木も「随分と乱暴な答えだなぁ」…と思ったものですが、今となっては何と素晴らしい答えであったのか…と感服するばかりであります。
 「面白いからそうしとけ」。駒木はこの素晴らしい精神を講義にも活かして行きたいと思うのであります。 

 で、その“最弱国決定戦”は、ブータン王国のチャリミタン競技場において、王族の出席のもとで賑々しく行われました。結果はホームのブータンが4−0で完勝。
 その事実だけを見れば、「やっぱりランキング通りブータンの方が強かったんだな」で終わりになりそうですが、聞いた話によると実情は異なるそうです。なんと、この試合の勝敗を分けた最大の原因は、
 「モントセラトの選手の大半が高山病にかかってて、サッカーどころじゃなかった」
 ……というところにあったそうです。
 「オイオイ、そんなのありかよ?」とツッコミが入りそうな話ですが、勿論、当講座的にはこれも「面白いからヨシ!」であります。むしろ、そんなトホホな理由の方が最弱国決定戦っぽくって良いような気もして来るから不思議です。少なくとも駒木は、右手の親指を立てながら、伊集院光が浮かべるような腹黒い笑顔で「グッジョブ!」と、ドキュメント映画撮影スタッフを褒めてあげたい気分です。

 ──しかしまぁ、今回の件に限らず、こういうワースト1を決める作業というものは、ベスト1を決めるのと同じくらい面白いものだったりします。ベスト1を争う試合は名誉を賭けますが、ワースト1決定戦は、その当事者に残されたギリギリのプライドを賭けるもの人間味がより一層溢れてくるのです。また、なまじ、実際に行われる事が滅多に無いだけに、想像力が喚起されて面白さが増したりもします。
 では、ここで試しに、各スポーツの“最弱決定戦”をいくつかシミュレートしてみましょう。

 一番想像しやすいパターンとしては、プロ野球の両リーグ最下位チーム同士の7番勝負
 負けた方は以後1年間、毎日のようにマスコミに“昨年度日本最弱”と言われる運命が待っているわけですから、賭けるものは大きいです。
 しかし、「いや、まだそれでも不足だ。“日本最弱”という称号だったら、阪神タイガースなんか大阪以外の全国各地で毎年のように言われてる。もっとキッツイのを!」
 …と言うのであれば、監督以下全員に罰ゲームを課すのも良いでしょう。ちょっと前のTV番組みたいに「映す価値なし」とか言って、来シーズンまで負けチームのメンバー全員にモザイクかクロマキー処理を施すなんてのもオツかも知れません。どんなにルックスを決めて試合に臨んでも、テレビでは1年間全身がキン○マと同じ扱い。または実在するのに透明ランナーです。NYメッツの新庄選手風に言えば「意味ナシオちゃん」というわけです。

 個人競技で言えば、格闘技が面白いでしょう。格闘技の世界は選手個人のプライドが非常に高いですから、まさにうってつけです。
 駒木が個人的に観てみたいのは、「プロレスラー最弱決定戦・バーリトゥードバージョン」ですね。プロレスの世界でメチャクチャ弱いというキャラ設定の選手を集めて、何でもありの真剣勝負で戦わせる。これぞプライドとプライドのぶつかり合いでしょう。
 ここからはプロレスファンの受講生さんにしか分からない話で失礼しますが、闘龍門ジャパンのストーカー市川選手とKAIENTAI-DOJOのDJニラ選手の一騎討ちなんか、プロレスマニア垂涎のカードではないでしょうか。試合風景が殺伐としているくせに貧相になりそうなのが、まるで地下プロレスみたいでアレですが、鶴見青果市場みたいな緊張感の無い会場で刺々しさを薄めた上で、是非実現してもらいたいものです。

 当社会学講座と関わりの深い競馬でも、同様の企画が設定可能です。いわゆる“年度最弱馬決定戦”ですね。
 実はこの話は、既にかつて「別冊宝島」のコラムで採り上げられた事があり、その際は中央競馬の馬を対象に、福島最終開催最終週の未勝利戦(競馬を知らない方のために簡単に説明しますと、『ここで負けたらコンビーフほぼ確定』というレースです)でシンガリ負けになった馬を集めてレースを走らせる……という企画でした。その本が今手元に無いのが残念ですが、そのコラムで書かれていたレース想定実況の中の一節
 「さぁ第4コーナーを回って、どの馬も一斉に駆け上がって……来ない!
 …というミもフタも無いフレーズが大変印象的でした。

 駒木が同様の企画を立てるとすれば、その世代の未勝利戦全ての中からトップとの着差順に18頭をエントリーし、更にそれらの馬に跨るジョッキーとしてJRAで年間成績ワースト18の騎手たちを連れて来て、最弱騎手決定戦までやってしまう…というのも面白いかも知れません。いや、当事者にしてみれば面白くはないでしょうが。

 この他、競輪で成績不良でクビになる予定の選手9人を集めて来て、“勝者クビ免除サバイバルレース”なんかやるも良いですね。スタミナ不足の選手たちによるレースは誰もスパートを掛けようとしない見苦しいものになる事必定でしょうが、それもまた“味”です。

 ……そして、この“最弱決定戦”構想は、スポーツ以外の媒体にでも有効です。

 例えばマンガに関しては、既に当社会学講座では「ラズベリーコミック賞」と銘打って、レビュー対象作品中の年間最悪作品を選定するイベントを実施した事があります。これを他のやり方でしてみるのも面白い試みです。

 具体的に例を挙げるなら、「週刊少年ジャンプ・最低人気打ち切り作品決定戦」などはどうでしょうか。過去に1クールで打ち切りとなった作品たちを1冊の雑誌に集めてアンケート投票を集めるという恐ろしい試みです。勿論、ハガキの質問は「この中からあなたが面白くないと思うマンガを3つ答えて下さい」です。
 では、ここで具体例として、「ジャンプ」で11回以内で打ち切りとなった作品を、最新のものから20作品集めてみました。「赤マルジャンプ」ならぬ、「赤バツジャンプ」です。どうぞラインナップをご覧下さい。

「赤バツジャンプ1993〜2002」
ラインナップ

(※打ち切られ順・作者名は現在のもので統一)

『PSYCHO+』作画:藤崎竜
『ファイアスノーの風』作画:松根英明
『原色超人PAINT─MAN』作画:おおた文彦
『VICE』作画:柳川ヨシヒロ
『NEWRAL NETWORK ミリンダ▽ファイト』作画:佐藤正
『BOMBER GIRL』作画:にわのまこと
『不可思議堂奇譚』作画:えんどコイチ
『奴の名はMARIA』作画:道元宗紀
『東京犯罪物語−菩薩と不動−』作画:次原隆二
『惑星をつぐ者』作画:戸田尚伸
『かおす寒鰤屋』作画:大河原遁
『Merry Wind』作画:山本純二
『画・ROW』作画:水元昭嗣
『身海魚』作画:たなかかなこ
『ロケットでつきぬけろ!!』作画:キユ
『I’m A Faker!』作画:やまもとかずや
『グラン・バガン』作画:山田和重
『もののけ!にゃんタロー』作画:小栗かずまた
『NUMBER10』作画:キユ
『A・O・N』作画:道元宗紀

 …こうして、改めてラインナップを眺めてみますと、意外とネームバリューのある作家さんが名を連ねているのが判ってビックリしますね。また、大抵の作品は題名を見ただけでは何のマンガかサッパリ分からない…といった辺りに1クール打ち切り作品の特徴が見受けられるように思えます。一度、現在『Ultra Red』連載中の鈴木央さんにお話を聴いてみたいテーマですよね。
 ……が、やはり光るのは、“本家・突き抜け”キユさんと、“ジャンプの借金王”道元宗紀さんのWエントリーでしょう。いくら10週打ち切りの「ジャンプ」とは言え、少しでも見込みや運があれば2クール目に突入してしまうのが普通です。そんな中で数年間で2回の“突き抜け”とは、もはや悪魔の所業とすら言えるのではないでしょうか。

 ──この企画、さすがに当講座では持て余してしまいますが、他の方にどこかで実施してもらいたいものです。どなたか、本当にやってみませんか?(笑)

 さて、講義も長引いてきましたので最後にもう1つ企画案を紹介して、終わりにしたいと思います。

 で、その企画案とは『逆M−1グランプリ』。昨年に実施された第2回『M−1グランプリ』の第1次予選で敗退したプロの漫才コンビを集めて来て、更に予選を繰り返します。そうしてトコトン面白くない漫才コンビを10組選抜し、本当の『M−1』決勝大会と全く同じ舞台・キャストで最悪コンビを決定させるのです。
 勿論、審査員も『M−1』と全く同じ全国からより抜かれたクソ面白くない漫才師の漫才を、大勢の客が入れられた会場がシーンと水を打ったように静まり返る中、島田紳介や松本人志などが真剣な表情でジィーッと見詰めるわけです。もし実際にこの企画が実行された場合、場の居た堪れなさは強烈であることでしょう。
 特に、漫才を終えてシュンとしょげ返る出場コンビの脇で、空気を読まない西川きよし師匠更に空気を読まない立川談志師匠に漫才の感想を求めるシーンなど……嗚呼、想像するだに恐ろしい!

 ……さぁどうでしょうか、この企画? 
 「そんな企画にどんなメリットがあるの?」という問いには、「コミケとバッティングしても全然影響が出ないから安心」という答えを提示しつつ、講義を終わりたいと思います。  (この項終わり)


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