「社会学講座」アーカイブ

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講義一覧

9/28(番外) 人文地理「続・駒木博士の東京旅行記」(1)
9/26(第70回) 
演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(9月第4週分・後半)
9/25(第69回) スポーツ社会学「4・4ゼロワン・神戸サンボーホール大会観戦記」(3・最終回)

9/23(第68回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(9月第4週分・前半)
9/22(第67回) 競馬学概論
「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(12)最終章・ミホノブルボン(後編)
9/21(第66回) 競馬学概論
「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(11)最終章・ミホノブルボン(中編)
9/20(第65回) 競馬学特論「第1回・駒木研究室競馬予想No.1決定戦〜03年秋プレシーズンマッチ第2戦・ローズS」
9/18(第64回) 演習(ゼミ)「現代マンガ時評・分割版」(9月第3週分・合同)
9/17(第63回) 
社会調査「ヤフーBBモデム配りアルバイト現場報告」(6)

 

番外編
9月30日(火) 人文地理
「続・駒木博士の東京旅行記」(1)

 どうも、強行日程の影響が残っていて、未だに頭がガンガンする駒木です。やっぱり20代も後半に突入しますと、数日単位で無茶した反動がモロに跳ね返るようになっていけませんね(苦笑)。以前、「1日60時間くらい欲しい」と言った事がありましたが、1年分肉体が年を取るまで3000日くらい欲しくなる今日この頃です。

 ……さて、そうして体をぶっ壊してまでして、今年3回目の東京単独行を敢行して参りました。駒木の旅行といえば、脈絡の無いデタラメ&自分勝手なプランによる1泊3日の旅。本来なら皆さんに詳細なレポートをお送りするほどのものでもないんですが、今回の旅行では「椎名林檎実演ツアー武道館公演鑑賞」というメインイベントがあり、受講生の方からもその様子をレポートして欲しいとのリクエストもありましたので、それをメインにした旅行記をお届けする事にしました。今回は諸事情により華の無い駒木の独り語りでお送りしますが、最後までどうか何卒。

 なお、レポートの性質上、本文中は文体を常体に変えてお届けしますので、ご承知おき下さい。 


 ◎初日・1:神戸から東京まで。

 駒木が長距離旅行へ行く時に毎回悩まされるのが、目的地までの移動手段をどうするか…という問題である。他人から見たら心底どうでもいい話なのは判っているものの、こっちにしてみれば自分の“旅行観”にも関わる大問題なので、以下、しばらく時間を頂いて詳細に解説することにする。読み飛ばし可。

 駒木の旅の基本“交通費と宿泊費をいかに削るか”という部分に尽きる。この2つを極力節約して、浮いた資金でささやかな贅沢をする。要はコストパフォーマンス最重視主義である。貧乏臭い話で恐縮だが、本当に貧乏なんだから仕方が無い
 で、その方針から考えると、当然最善の策は“(青春18きっぷ等の)乗り放題切符による在来線乗り継ぎ”になるのだけれども、あいにく9月末はこの手の割引切符のシーズンから微妙に外れていて、それが出来ない。普通に切符を買ったら、上手くやっても乗車券だけで片道約8000円かかってしまうので、辛い思いをする割には交通費が削れない。
 最近は昼行高速バス(片道6000円)というプランもあるのだけれども、これだとバス酔いし易いタイプの駒木は移動中に本が読めない(逆に電車だと全く酔わないので、在来線の旅だと移動時間は“読書タイム”と割り切れる)。読書も出来ず真っ昼間に8時間1人でバスにカンヅメなんて、考えるだけでゾッとする。モデム配りしてるわけでもないのに、何の因果で8時間もヒマと戦わなきゃならんのだ。

 ……で、色々と考えた結果、今回は往路だけ特別に贅沢して新幹線を利用。JR東海系列の旅行会社が企画している「ぷらっとこだまプラン」を利用する事にした。
 このプラン、簡単に説明すれば、指定されたこだま号しか使えない代わりに料金が割引される新幹線の切符(のような旅行券)である。このプランを使うと新大阪から東京まで10000円で行ける上、売店・車内販売で使えるドリンククーポンが1枚ついてくる。移動時間は、ひかり号やのぞみ号を使うより1時間くらい余計にかかるが、在来線やバスに比べると4時間くらい早い。一般的な感覚ではなく駒木の感覚で考えると、これは“やや贅沢だがコストパフォーマンス的には優れたプラン”という事になる。
 これを一般的感覚をお持ちの受講生の皆さんに判るよう喩えるならば、主食がカップラーメンという人にとっての1皿100円回転寿司松屋では“牛めし並盛”限定の人にとってのカルビ焼肉定食、または全寮制男子校生にとっての保健室の先生(35歳・磯野貴理子似)のようなモノである。……今、書いてて自分でも微妙に悲しくなって来たのだが、とりあえず気にしない事にして話を進める。

 そういうわけで旅行初日、駒木は例によって朝6時まで講義の準備に追われて睡眠不足に襲われつつ出発。神戸のキーステーション・三ノ宮駅から在来線で新大阪まで行き、そこから12時ちょうど発の新幹線に乗り換えると、あとは東京まで乗り換え無しの直通だ。在来線だと最低でも4回は乗り換えがあるので、これだけでも随分と気分的に違う。道中も「おぉ、もうこんな所まで来たのか」と静かに驚きっ放し。青春18きっぷで大阪〜東京間を旅行した事のある人なら判ってもらえると思うが、浜松から熱海までの区間を苦痛無しで素通りできるのは、もはや感動に近い。
 貧乏旅行をしない内は実感が無かったけれども、新幹線って本当に快適だ。新幹線が好きになれないという人がいたら、是非一度在来線の貧乏旅行を経験してみると良い。一気に新幹線の有り難味が出て来る。どんな面食いの男でも、自衛隊員になって前期教育を終えた頃には「お前、あの女を可愛いって思えるようになったら人間終わりやぞ」と言われるほどになるのと同じ理屈ショック療法である。

 そんな事を色々考えながら、4時間の車中では主に読書をして過ごす。移動時間削減のため、今回は読書用の本を大量に持ち運ばなくて良いのが助かる。
 “新幹線の友”となったのは、ようやく読める時間が作れるようになった、宮部みゆきさんの『ブレイブ・ストーリー』(上巻)。普通の小説1冊分のボリュームをプロローグに費やすという、色々な意味で凄い作品。コテコテのファンタジー世界描写も、この人の高い文章力のおかげでライトノベル独特のチープさがほとんど感じられないし、さすがは日本一のベストセラー作家といったところ。『コミックバンチ』で連載中のマンガ版も割と健闘しているようだが、やっぱり中身の充実度が違うとしかコメントのしようが無い。

 16時06分、東京駅着。ここから帰途に着くまで、自分で計画したのでなければブチギレ必至の強行軍が延々と続く。まずは、いきなりのメインイベント・椎名林檎実演ツアー武道館公演。開演はもう2時間半後に迫っている。

 ◎初日・2:東京駅〜武道館〜開演まで

 JR東京駅の改札を出た後は、案内標識に頼りながら地下鉄の駅を目指す。ご存知の通り、首都圏在住以外の人間が初めて東京の地下鉄に乗ろうとするとパニックになるのは必至なのだけれども、幸い駒木は8月末の旅行で経験済みなので、この辺は気が楽だ。その時は通過するだけだった大手町〜九段下の区間を無難にクリアして、いざ武道館へ。
 まだ会場1時間前にも関わらず、九段下駅から既に“それ”らしき人々がたむろしている。キャパシティの大きな武道館公演という事で普通の格好した人も多いが、中にはやはり、看護婦や和服姿など歴代の“林檎ルック”でキメた女性もチラホラと。その脇ではオリジナルグッズの物品販売のために並ぶ列がドえらい勢いで伸びており、なんだかここが秋の武道館じゃなくて夏の東京ビッグサイトのように思えて来る

 会場までの道のりを確認したところで、駒木には開演までにやらなければならない仕事が1つ残されていた。この期に及んで余ってしまったチケット1枚の処分である。誘う人のアテも無いまま見栄を張ってペアでチケットを申し込んだ果ての自業自得なのだけれども、このまま放置すると大枚9675円のチケットが単なる紙クズになってしまうので、これをどうにかしないといけない。
 「どうにかしなければ」とは言っても、これまでの椎名林檎・実演ツアーでは、最寄駅から会場までの道で「チケット求ム」のプラカードを持った人たちがあちこちに立っているのが恒例だった。ダフ屋ですらチケットを確保出来ないといったケースすらあり、極端な話、定価の倍額ふっかけても逆に喜ばれたりした時期もあったのだ。
 ところが、今回はどこを見てもそんなプラカードを持っている人がいない。それどころかダフ屋が「チケット有るよ。アリーナも有るよ」と連呼している。駅前まで戻ってみると、「チケット1枚譲ります」と書いたプラカードを持った人たちがゾロゾロいるではないか。さすがは大会場・日本武道館公演、発行されたチケットが多い分だけ完璧な買い手市場になってしまっている。恐るべきは「神の見えざる手」。アダム=スミスも似たような経験をして需要と供給の仕組みを理解したのだろうか。

 状況を確認する前は、「どうせチケットを譲るなら可愛い女の子に…」などとやましい考えも多少は持っていたのだが、もはやそれどころではないので、自分も適当な紙にボールペンで「チケット1枚お分けします」旨記し、即席のプラカードを作って駅前に立つ。思わず通行人に「どうぞいかがですか〜」とモデムを配る勢いで声をかけそうになるが、これは慌てて自制する。職業病とは本当に恐ろしい。
 30分ほど立っていると、チラホラと様子を眺める人たちが出て来る。どの人も、チケットがどの席なのか気になっているようなので、即席プラカードに「1階東スタンドD列です」と書き込む。さすがにアリーナには負けるが、スタンド席の中では相当良い席なので、これは効き目があるはずだ。
 更に15分。案の上と言うべきか、北側2階スタンド(ステージの真裏)のチケットしか入手できなかったという男性が席の良さに惹かれてやって来た。速やかに商談成立し、ようやくその場を離脱。懐も一気に暖かくなったし、これで心置きなくコンサートが楽しめる。

 いつの間にか開場時刻は過ぎていて、ゾロゾロと客が入場を始めていた。それでもグッズを求める人の列はほとんど減っておらず、会場スタッフが「このままですと、開演時刻に間に合わない可能性もありますのでご了承下さい」恐ろしくミもフタも無いお断りを必死にメガホンでガナっている。それでもピクリとも動こうとしない人たちがほとんどで、「この人たち、一体何しにここまで来たんだろう」という素朴な疑問が頭を掠める。
 グッズ購入は初手から諦めている駒木は、そそくさと武道館内部へ。勿論これが始めての武道館なのだが、中に入ってみると、キャパシティの割には小さな会場といった印象。ただ、2階席まで行くとさすがに見辛そうで、これでアリーナと料金同じってのはどうかなー…などと思ってしまう。(2階最後方の立見席とステージ裏側の席は幾分安くなっていたのだが)
 開演予定時刻が迫ってくる中、意外と客足が鈍いのが気になる。もっとも、チケットは完売しているので単に観客の会場入りが遅いだけなのだが。どうやらグッズ販売の客捌きが予想以上に難航しているらしい。結局開演時刻は告知も無く20分ほど先延ばしされた。まさか天下の椎名林檎武道館公演で、弱小プロレス団体のようなダメ進行が体験できるとは思わなくて、逆に少し新鮮(笑)。
 その頃、駒木がチケットを買ってもらった人がようやく隣の席にやって来た。どうやら不要になった北スタンド2階席のチケットを駅前で売り捌いていたようだ。アリーナ席にポツポツある空席を指差しながら「もったいねー」とか2人して連呼しながら、開演をひたすら待つ。


 ◎初日・3:椎名林檎様、実演!
 
 やがて会場の照明が落とされ、ステージ袖から遂に椎名林檎さん率いる、今ツアー限定バンド“東京事変”登場! 林檎さんは浴衣のような薄手の振袖、他の男性メンバーは盆踊りの太鼓でも叩こうかと言うような浴衣姿。最近の実演ではよく見られたオーケストラ生バンドは無しで、どうやら今回のコンセプト“新旧の楽曲、みんなひっくるめて亀田誠治アレンジ・ロックバンド風ライブバージョン”という事らしい。
 1万人の期待感が、会場全体へ静かに行き渡ってゆく中、いよいよ実演開始。オープニングナンバーは「幸福論(悦楽編)」拡声器を持った林檎さんが、北スタンドの客にも見えるようにと、ステージの外周をグルッと回りながら熱唱している。しかし、冒頭にスピーカーを通さない歌を持って来るという発想がいかにも椎名林檎というか……。

 ──それでは、ここで、今回の武道館公演でのセットリスト(演目)を紹介しておく。

 1.幸福論(悦楽編)
 2.罪と罰
 3.真夜中は純潔

  (MC)
 4.ドッペルゲンガー
 5.おこのみで
 6.意識
 7.すべりだい
 8.黒いオルフェ(カヴァー)

  (“東京事変”メンバー紹介フィルム上映)
 9.依存症
 10.丸の内サディスティック
 11.警告
 12.とりこし苦労
 13.港町十三番地(カヴァー)
 14.おだいじに

  (MC)
 15.ギプス
 16.歌舞伎町の女王
 17.本能
 18.迷彩
 19.茎

 ☆アンコール
 20.白い花の咲く頃(アカペラでワンコーラス、カヴァー)
 21.mr.wonderful(カヴァー)
 22.正しい街
 23.ポルターガイスト

 ☆アンコール2回目
 24.りんごのうた

 2回のアンコール含めて全24曲。まさに圧巻としか言いようが無い2時間弱のステージだった。バックバンドが遠慮無しに怒涛のような演奏をブチかまし、それを林檎さんが恐ろしいまでに豊かな声量で乗り越えていくという最高の相乗効果で、CDで聴くよりも格段にクオリティの高い歌のオンパレード。もうね、「チケット代の元が取れた」とかそんな次元の話じゃない。とにかく「この場に居られて良かった」と思えるステージだった。こういう素晴らしい記憶ですら、徐々に薄らいでいくのが恨めしくて仕方が無い。

 印象的だったのは、バックバンドの目立ち方“キーボード&ピアノ>ドラム>ベース>ギター”という、普通じゃ有り得ない不等号の並び方をしていた事。駒木は音楽に関しては素人だから技術的な面はサッパリだが、フィーリングは明らかにこんな感じ。ドラムなんか、激しく叩き過ぎるもんだから「いつか倒れるんじゃないか?」と思ったほどだった。
 あとは、観客が“ノリが悪い”んじゃなくて“歌に聴き惚れててノッてる余裕が無い”という状況に陥ってるのも凄いと。アーティストの中には、「とりあえずノッておかなくちゃ、どうしようもない」ってのもいるもんなぁ。 

 さて、全部の曲の感想を述べているとキリが無いので、印象に残った曲についてのみ雑感を。どうせ音楽についてはサッパリな駒木に大した論評など出来るはずないのだから、皆さんには12月発売のコンサートの模様を収録したDVDで疑似体験してもらった方が話が早いだろうと思う。

 3曲目「真夜中は純潔」。オリジナルでは東京スカパラダイスオーケストラがバックを務めた所を、たった4人のバンドが代行する。どう考えても無茶な話なのだが、これが違和感無く出来ているのだから凄い。特に管楽器のパートを“代行”したピアノが強烈。
 MC明けからは3rdアルバムの歌が続いていたところを、不意打ちのように7曲目「すべりだい」。1stシングルのカップリング(林檎さん本人的にはこっちがA面だろうが)が全く色褪せないのも、よくよく考えたら凄い。
 9曲目「依存症」。♪黄色い車の名は〜の後、CDではカットされている「ヒトラー」の部分が聴けるのもライブならでは。その後続いた1stアルバムからの曲は、いかにもライブ向けの激しい曲調。ていうか、動と静のコントラスト激しすぎ(笑)。
 個人的に最高だったのが、13曲目「港町十三番地」。そう、美空ひばりの名曲を堂々とカヴァーしたのである。で、またこれが絶妙にハマってるから空恐ろしい。物真似じゃなく、素で美空ひばりの曲を歌いこなせるって、どういう歌唱力してるんだこの人は!
 2度目の簡単なMCを挟んだ後は、林檎さんの持ち歌の中でもスタンダード・ナンバーに数えられる名曲が立て続けに。「今回は残念ながらアンコール無しです」と言われても楽勝で許してしまえるほどの満腹感に。
 1回目のアンコールでは、林檎さんは白ワンピースに帽子という、草原の木の下で佇んでいる少女のような格好で登場。北スタンドの人たちに何やら投げ込んでいたが、そこでハリキリすぎて息を切らす林檎さん。コミックバンドじゃないんだから(苦笑)。ちなみにバンドの人たちはTシャツに長ズボンのラフな格好。服装に似合った大人しめの曲が多かったが、だからこそか、1stアルバムの1曲目・「正しい街」がかかると余計に心揺さぶられる思い。
 2回目のアンコールまでには、最近のコンサートでよくやっている、イメージ映像を挟んでの間繋ぎ。ずっと手拍子して待ってるこっちも大変だが、早着替え&化粧直ししなくちゃならない林檎さんも大変だ。
 今度はちょっと大人びた雰囲気のワンピースに着替えて、何故かマラカスを持参して登場の林檎さん。演奏されたのは「りんごのうた」。実は駒木、これまでこの歌を聴いた事がなくて、この時は「何の歌?」という感じ。後からこれが「りんごのうた」だと聞かされて、「うあー、もっと堪能しておけば良かった」と大いに後悔。
 1曲だけで“東京事変”の皆さんが引っ込んでしまった後もアンコールの手拍子が止まず、(エンディングの)VTRが流れた後、唐突に会場の照明が点いた時には「ありゃりゃー」と言った感じに。いや、コントじゃないんだから、普通に考えて3度目のアンコールは無いでしょうに(笑)。でもまぁ、それを期待させるくらい良かったという事で。

 退場はブロック別の時間差退場。余韻を感じつつ、順番を待つ。隣の男性2人連れが、これまでコンサートを観に行った色々なアーティストを例示しつつ、「CDで聴くより凄いってのは初めてだよなー」と感嘆している。隣で静かに同意する駒木。
 退場の際に、武道館公演限定の“お土産”を受け取る。白いビニール製の特製手提げ袋に入っていたのは、公演名・「雙六(すごろく)エクスタシー」にちなんで、特製の双六。なかなか洒落た計らいだなぁと思いつつも、新品のビニール製品特有の異臭が至る所から漂って来て、ちょっと不快な空気に。このまま大集団が九段下駅に飛び込んだら、ちょっとヤバいかなぁ…などと考えていたが、案外客が分散したようで大事には至らず。それでも、男女様々な格好をした人間が、何故か同じ白い手提げをぶら下げて地下鉄に乗り込む様はかなり異様だった。怪しい宗教の集会帰りのように思われるかも…などと考えたが、まぁ似たようなモノではあるので、余り深く考えない事にした。

 地下鉄を降りJRに乗り換え、ホテルのある大井町駅へ。しかし、この興奮を他の誰かに伝えたくてたまらない。友人連中に片っ端から「どうしてお前ら見に来てないんだよ」と理不尽な事を言いたくてたまらない。今から振り返ると、本当にそうしなくて良かったとつくづく思う(笑)。完全に躁状態だったもんなぁ。普段はあんまり興奮しないタチの駒木が、どこへ出しても恥ずかしい立派なアッパー兄貴になっていたんだから、つくづく椎名林檎恐るべしだ。


 ……というわけで、出発からメインイベント・椎名林檎武道館公演までのレポートをお届けしました。しかし、お楽しみは2日目にも! ……ということで、次回へ続きます。明日は「マンガ時評」をやりますので、明後日の講義をどうかお楽しみに。あれだけ凄かったコンサートの余韻を4割方は吹き飛ばす恐ろしい出来事が駒木を待っていたのです。では、次回までしばしお待ちを。(次回へ続く

 


 

2003年第70回講義
9月26日(金) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第4週分・後半)

 いつもの事ですが、東京行き出発直前ということで時間的に恐ろしく切迫しております。
 よりにもよって、今日は「辰吉丈一郎復帰第2戦」→「芸能人スポーツマンNo.1決定戦」という、駒木にとっては見落とせないTV特番コンボがありまして、その影響で余計に時間が切羽詰っています(苦笑)。

 ……というわけで、今日はこれ以上無駄話無し&チェックポイント圧縮版でキビキビとお送りします。

 まずは情報系の話題から。「週刊少年サンデー」の次号・44号に『PUMP IT UP』(作画:大和八重子)が掲載されます。大和さんといえば、00年39号から01年16号まで連載されていた柔道マンガ・『タケル道』が有名ですが、今回はバレーボール物での挑戦となります。最近、「サンデー」公式ウェブサイトの“まんが家バックステージ”から名前が消え、安否(?)が気遣われていましたが、堂々と本誌にて復帰となりました。

 また、雑誌からの公式アナウンスはまだですが、次々週(45号)には夏目義徳さんの新作読み切りが掲載される予定だそうです。夏目さんといえば、当ゼミで扱った情報についてご本人光臨5月5日付ゼミ参照)という出来事があったのを記憶してらっしゃる方も多いでしょうが、この度、紆余曲折の末に「サンデー」へ読み切りで復帰という事になったそうです。
 こちらの情報に関しては、次週のゼミで詳しくお伝え出来ると思いますので、どうかお楽しみに。


 ……それでは、レビューとチェックポイントへ。今日のレビュー対象作は、短期集中連載の最終回・連載総括レビュー1本のみです。

☆「週刊少年サンデー」2003年43号☆

 ◎短期集中連載総括『ふうたろう忍法帖』作画:万乗大智【第1回時点での評価:B

 作品以上に作者のテンションの方が高いと一部で話題になった(笑)この作品も、全5回でフィニッシュとなりました。

 で、総括なわけですが、端的に言って「風呂敷を広げ過ぎて、畳むのがやっとで終わってしまった作品」という事になるでしょうか。設定の描写・説明とシナリオを消化するだけでページの大半を費やしてしまい、各キャラクターの内面を深いところまで描き切る事が出来なかったように思えます。そのため、戦闘シーンの単調さも相まって、全体的に平板なお話に終始してしまった印象があります。
 具体的な問題点を1つ挙げるとすれば、水忍=巫女・しずくと風太郎の関係ですね。この2人の擬似恋愛関係が作品全体のテーマに結びつく重要な要素であるのは間違いないところですが、残念ながらページ不足か、しずくの風太郎を想う心の描写が不十分に終わってしまい、作品全体の説得力というか“深み”が無くなってしまいました。
 また、風太郎が助けたインド人少女・ヴェーダのエピソードは蛇足だったように思えます。この部分を削っていれば、本筋の方をもう少し丁寧に描く事が出来たのではないでしょうか。

 ただしそういう状況の中でも、一応はストーリーを破綻無くまとめ、伏線も処理し尽くしたという技量は「さすが」と言えるものだと思います。惜しむらくは、その技術が、この作品を駄作・凡作になるのを回避するためだけに使われてしまった…という事ですね。

 最終的な評価はギリギリでB+といったところでしょうか。失敗作ではありませんが、成功しているとも言い難い微妙な作品ですね。また次回作に期待です。

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「出身地自慢をして下さい」。当たり前と言えば当たり前なんですが、過半数が名所と名物(食べ物)という事になりました。しかし、モリタイシさんの「村なのにユニクロとかある」というのには少し笑えました。ちなみに駒木研究室のある兵庫県には村は1つもありません。全部市か町です。
 で、駒木の出身地…というか今も住んでる神戸ですが、ヤフーBBスタジアムという世にも恥ずかしい名前の球場があります(笑)。まぁでも、牛肉は美味いし(高いけど)、機能的な都市なんでメチャクチャ住み良いですけどね。あとは公共料金だけ安くなってくれれば。


 ◎『MAJOR』作画:満田拓也【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 しかし、今週の展開は、普通なら新連載第3回くらいのネタですよね(笑)。初心忘れるべからずとは言いますが、忘れなさ過ぎるのもどうかと思いました。

  
 ◎『KATSU!』作画:あだち充【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 連載2年にして今更、香月が駒木好みのタイプ(微乳&スレンダー美人)という事に気付きました(笑)。ハナっから「他人のモノ」という認識があったので、完全にノーマークだったんですよねぇ。
 まぁそれはさておき、この作品のボクシングシーンって、地味ですが結構見応えありますよね。特に対戦者が無駄口叩かないのが緊迫感出てて良いです。『あしたのジョー』からの伝統なので仕方ないですが、日本のボクシングマンガって、戦ってる途中から対戦者同士がベラベラ喋り過ぎなんですよねぇ。

 ◎『モンキーターン』作画:河合克敏【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 毎度の事ながら、13ページでこの密度は凄いですよねぇ。何気なく凄い量の情報がページの至る所に……。
 それにしても、河合さんの描く女性競艇選手って、妙にリアルなんですよね。キャリアウーマン的な女っぽさが全身から滲み出てるというか。まぁ実在の女性競艇選手の大半は、マンガのように美しいとは言えま(以下自粛)

 

 ……というわけで、今日は簡単ですがこれまで。次回講義は火曜日くらいになると思います。ではでは。

 


 

2003年度第69回講義
9月25日(木) スポーツ社会学
「4・4ゼロワン・神戸サンボーホール大会観戦記」(3・最終回)

 今日の講義は先に謝っておきます。申し訳ありません。
 「今頃何やっとんねん」というお声にも、先に釈明させて頂きます。自分でもそう思てんねん。

 ──当講座は今年の3月限り業務縮小ということで、講義回数を以前に比べて大幅に減らす事になったのはご存知の通りです。しかし、3月半ばに「モデム配りレポ」がブレイクしてしまった事もあって、4月も以前とそれほど変わらないペースで講義を実施し、新シリーズも立ち上げました。
 が、5月に入ってモデム配りの仕事や私事が多忙になってしまいまして、社会学講座の活動を本当に縮小させなければならない状況に陥ってしまったのです。その結果、色々な講義シリーズが中途半端なままで頓挫してしまい、こうして9月に“精算キャンペーン”をやる羽目になっている……という次第です。
 で、そんな4月に立ち上げたまま頓挫した講義の中でも最も厄介なのが、このプロレス観戦記でした。プロレスのお話はタイムリー性が命です。その時に流行のムーブメントも半年も経ってしまえば昔話。本当に「何を今更……」な話なんですよね。
 ですから、今回の講義も再開させるかどうか迷ったんですが、色々考えた結果、「今後、過去の講義レジュメを読む人に不便な思いをさせないため」という理由で、講義再開&ケリをつける事にしました。そういうわけで、どうか何卒。

 なお、記事中の文体は常体に変えています。


 ※過去のレジュメはこちらから…第1回第2回

 
 ◎第4試合◎
タッグマッチ(30分1本勝負)

テング・カイザー&スティーブ=コリノ 
VS 
トム=ハワード&キング・アダモ


 《選手紹介》
 テング・カイザーは、その名の通り天狗の面タイプのマスクを被った覆面レスラー。正体はインディー団体叩き上げでキャリア11年目突入の『神風』(←ドラッグすれば出ます)。
 スティーブ=コリノは、この団体の常連外国人の1人で、どんなファイトスタイルでも器用にこなすテクニシャン振りと、“変なガイジン”キャラで人気を博している。身長183cm体重105kg、30歳。
 トム=ハワードは、米軍グリーンベレー出身という異色の経歴を持つゼロワンの常連外国人レスラー。高い身体能力を基礎にしたスピード・パワー溢れるファイトには定評がある。関節技を掛けられた際に見せる、軍隊仕込み・超高速の“匍匐前進ロープエスケープ”は特筆モノ。身長189cm体重115kg、33歳。
 キング・アダモは、褐色の肌を持つ南洋系のレスラー。海外では別のリングネームを使用し、日本でも来日間もない内はそうしていたらしいが、現在は往年の島崎俊郎扮する“アダモちゃん”キャラのギミックを使い、プチブレイク。コミカルさを前面に押し出しつつも、お笑い一辺倒ではない一面も見せる。資料不足のため身長・体重不明。年齢は30歳らしい。

 《試合観戦記》
 この日の興行では最初となる、全員がヘビー級レスラーで占められた試合。やっぱりプロレスは、レスラーがデカいというだけで観ていて安心感が増す。故・G馬場さんがデカいレスラーにこだわった気持ちが判る一瞬だ。
 しかし、この4人が一同に会すると濃いなー(苦笑)。天狗に軍人にアダモって、もはやプロレスでもないぞこれは。変なガイジンで売ってるコリノが一番の常識人というのは凄いマッチメイクだよなぁ……ていうか、コリノが可哀想だ。

 試合開始。案の定、コリノが率先して他のレスラーの持ち味を引き出す役回りをさせられる羽目に。わざわざハワードに匍匐前進をしてもらうために慣れない関節技を仕掛けたり、痛い技を全部受けてやったり、本当にお疲れ様な展開。試合中盤には「やってられるか」とリング下にエスケープして休憩してたら、半可通のファンから英語で野次をカマされ、“shit!”と本気でキレそうになっていた。いや、気持ちは判るよ(苦笑)。
 しかも、試合のオイシイところは全部アダモが持って行ってしまうからタチが悪い。まぁ、ネタは面白かった(絞め技を掛けられているのに「アダモちゃーん!」と客から呼ばれると、律儀にも「ヴァ〜イ!」と苦しそうな声で返事/ニュートラルコーナーへもたれるように座り込んだテング・カイザーの顔面にヒップドロップを当てようとしたが、天狗マスクの鼻がケツに刺さって「ギャー」)から別に良いんだけど……。

 まぁ試合全体は、コリノの尽力もあって、4人の持ち味が出たソコソコの試合だったかと。
 ただしフィニッシュシーン、テング・カイザーがアダモ相手にボディスラム→トップロープからのテングトルネード(きりもみ式ダイビングボディープレス)を狙った時、ボディスラムで投げられて仰向けに寝かされたアダモが、テングトルネードを喰らう位置を自分で微調整するのはいかがなものかと(苦笑)。そりゃ、中途半端な当たり方したら痛いのは判るけれども、プロなんだから我慢しなさいよ。アンタは投げられたダメージが深くてボディプレスを避けられない事になってるんだから。

○テング(10分56秒 片エビ固め)アダモ●
※テングトルネード


 ここで休憩時間。普通、7試合構成なら3試合目の後に休憩があるだけに、ちょっと間延びした感じ。
 で、売店では富豪
夢路と葛西純夢路と葛西純の両選手がやってきて、グッズを買わない人にまで気軽にサインと写真撮影に応じている。こういうファンサービスをする辺り、非常に好感が持てる。そうなんだよ、ファンは何よりもレスラーとの直接的なコンタクトが一番嬉しいんだから、特に自分を安売りしても良い若手〜中堅どころは積極的にそういう事をやるべきだと思う。
 ちなみに、駒木も葛西選手にサインと握手をしてもらう(笑)。

◎第5試合◎
NWA&UPW&ZERO-ONE認定インターナショナルジュニアヘビー級選手権試合

シングルマッチ(30分1本勝負)

【王者】Lowki(ロウ・キー)
VS 
【挑戦者】キッド=ビシャス


 《選手紹介》
 Lowki(ロウ・キー)は、ゼロワンがアメリカから発掘した若手外国人レスラー。浅いキャリアを感じさせない高い技術に裏打ちされた気迫溢れるファイトが初来日時にプロレスマスコミからクローズアップされ、評判に。以後、この団体には欠かせないジュニアヘビー級主力レスラーとして、幾度となく来日している。
 リングネームの意味は日本語で「平常心」。静かに闘志を燃やす、ということか。身長173cm体重87kg、24歳。
 キッド=ビシャスは、この時が初来日の若手外国人レスラーだが、資料不足のため詳細不明。往年の名レスラー・ダイナマイト・キッドを心の師と仰いでいるらしく、入場テーマも彼のものを流用。アメリカのメジャーレスラーにシッド・ビシャスという人がいるが、勿論別人。

 《試合観戦記》
 試合前に、両選手出身のアメリカ国家が演奏される。あらかじめキチンと星条旗も掲揚してあって、まるで雰囲気はボクシングの世界タイトル戦。
 この小会場でコレをやるのは全くの場違いではあるんだけれども、タイトルマッチに箔を付けるという意味では全く間違っていないむしろやるべきだろう。以前、JWP女子プロレスを観に行った時なんて、試合直前になって山本代表が売店に置きっぱなしにしてたボストンバッグからベルトを取り出してたもんなぁ。あれは完全に興醒めした。「こんな事してると団体潰れるぞ」と思ってたら本当に潰れてしまった。むべなるかな、である。

 で、試合の方はもうキッド=ビシャスがショッパくてショッパくて仕方が無い。期待外れもいいところ。どうしてこんなヤツをタイトルマッチに組みこんでしまったのか不思議に思えて仕方が無いくらい。とにかく技の引出しが少なくて、必殺技のダイビングヘッドバッドの他は、ほぼ殴ったり蹴ったりしてるだけという酷さ。
 そしてロウ・キーもロウ・キーで、そんなヤツだと判ったら秒殺してしまえば良いものを、律儀にほぼ自分から攻守交替して技を受けに回るから悪循環。挙句の果てにキッドの苦し紛れな絞め技でノドを潰してしまいゲホゲホと咳き込む。それ以降、技の切れ味も急に落ちて試合は大凡戦モードへ。
 トドメには、レフェリーもロウ・キーが決め技を出すまで無理矢理カウントを遅らせて試合を引っ張るもんだから、ただでさえ一見さんが多くて反応の鈍い客席はお笑いで言う所の“ドン引き”状態に。最後は必殺技・キー・スプラッシュ(空中で前方2回転1回ひねりするダイビングボディプレス)を決めたものの、拍手もまばらという最悪のタイトルマッチになってしまった。

○Lowki(21分38秒 片エビ固め)ビシャス●
キー・スプラッシュ

 ロウ・キーは試合中に怪我までしてしまい、本当に散々。しかし、いくら「選手の持ち味を満遍なく引き出す」というのが団体の方針としても、それで客を引かせたらアカンでしょう。今後はこういうアドリブ力が問われる事になるのかな。
 ちなみに、ビシャスのヘタレ加減は関係者にもよく判ったらしく、このシリーズ残り2試合は前座に回された挙句、2試合とも負け役に回らされていた。日本では二度と姿を見ることは無いかな。


◎セミファイナル・第6試合◎
タッグマッチ(30分1本勝負)

ザ・プレデター&ホースシュー 
VS 
佐藤耕平&高橋冬樹

 《選手紹介》
 ザ・プレデターは、一言で表現すれば、今は亡き名レスラー・ブローザー・ブロディのカヴァー・ヴァージョン。スーパーヘビー級の体格は勿論、チリチリのパーマをかけた長髪、伸ばし放題のアゴ髭、チェーンを振り回すスタイルの入場シーンからファイトスタイルまでそのまんま。本家には及ばないものの、ゼロワンの中なら強さもアピールできる実力を持っており、外国人の中ではトム=ハワードやスティーブ=コリノに並ぶ主力として認められている。身長200cm体重145kg、32歳。
 ホースシューは、プレデターのタッグパートナーとして頻繁に来日中の外国人レスラー。丸刈り&典型的な外国人系の厳つい顔は、立っているだけで迫力がある。資料不足のために詳細不明だが、体格はプレデターに見劣りしない程のスーパーヘビー級のパワーファイター。
 佐藤耕平は総合格闘技出身で、プロレスラーとしてはゼロワン生え抜きの若手選手。ゼロワン主催の若手・中堅選手による団体オープン・トーナメント「火祭り」の第1回大会において、デビュー3ヶ月ながら決勝まで進出した事で注目を浴びる。現在はやや伸び悩み気味だが、キャリアや体格等を考えればまだまだ将来に期待できる選手。身長193cm体重105kg、26歳。
 高橋冬樹は、5年前に小規模インディーズ団体・IWAジャパンでデビュー。同団体に約3年所属した後退団し、その後、メジャー団体プロレスリングNOAHの練習生を経て昨年にゼロワンに入団・再デビューを果たした若手レスラー。ゼロワンでのキャリアはまだまだだが、この日の興行ではセミファイナルに抜擢された。身長184cm体重108kg、28歳(試合当時は27歳)。

 《試合観戦記》
 外国人コンビの入場が凄かった。ブローザー・ブロディの入場テーマ・「移民の歌」をバックに、客席を破壊しながら会場を縦横無尽に暴れ回る目が合った客には物を放り投げ、パイプ椅子を放り投げ、やりたい放題。リングアナは「お気をつけ下さい!」と連呼するが、勿論助けてはくれない。なぁ、客席破壊するなら本部席も破壊しろよ(笑)。
 ……まぁ、こういう準メジャー団体には必ずこの手のヤツがいるのだけれども、ここまで徹底的に客席を破壊するヤツらも珍しい。コレをやると客席が一気に沸くので、駒木も悪い事とは思わないんだけどね。FMW観に行った時には、レザーフェイスがチェーンソー(刃は抜いてる)の電源入れっ放しで客席に飛び込んでいって、これも大パニック&大フィーバーだったし。

 試合の方は……しまった、ほとんど覚えてないぞ(苦笑)。普通、生で観たプロレスの試合は10年経ってもソコソコ覚えているタイプなんだけど、どうやら入場の時にプレデターから逃げ回ったのにエネルギーを使い果たしてしまったようだ(笑)。
 まぁ、体格とパワーで勝る外国人コンビが全般的に優勢だったのは何となく記憶に残っている。プレデターが繰り出す、キングコング・ニードロップなんかのブロディのコピー技も綺麗に決まっていたはず。
 最後はプレデターの、マンガ『キン肉マン』の必殺技として名高いキン肉バスター(彼がやると“キングコングバスター”という技になるようだ)が高橋に炸裂して3カウント。プロレスファンじゃない人は驚くだろうが、キン肉バスターは、現実のプロレスでも結構メジャーな技である。

○プレデター(12分49秒 片エビ固め)高橋●
キングコングバスター

 で、試合後も、外国人コンビは暴れ足りないとばかりに客席破壊活動へ。駒木の所へもホースシューが猛スピードで急接近。しかも椅子を持って駒木を睨んでるという恐ろしいシチュエーションに! あわててスピーカーの方へ逃げると(高価な備品を盾にした)、ホースシューは構わず超低空で椅子をスロー。必死でドンキーコングのマリオみたいにジャンプして交わす駒木(苦笑)
 昔、ベイダーに蹴られそうになった事があったが、今回はそれ以上に怖かった。やめてくれよー。こっちはアンタらが本当は良い人だって事くらい知ってるんだからさ(笑)。

 

◎メインイベント・第7試合◎
6人タッグマッチ(30分1本勝負)

橋本真也&藤原喜明&小笠原和彦 
VS 
大谷晋二郎&田中将斗&黒毛和牛太


 《選手紹介》
 橋本真也は、元新日本プロレスのエースレスラーにしてこの団体の領袖。今年になって永田裕志に抜かれるまではIWGPヘビー級王座の最多防衛記録(9回)保持者としても知られていた。衝撃度は交通事故並と言われる豪快なキックと、代名詞的な必殺技・垂直落下式DDTは未だ健在。身長183cm体重135kg、38歳。
 藤原喜明は、“関節技の鬼”との異名を取るサブミッションの名手。現在は“組長”と呼ばれる事も多い。新日本プロレス時代には藤波×長州の“名勝負数え歌”をぶち壊した“テロリスト”としても有名。その後、格闘技系プロレス団体を渡り歩き、自身が代表を務めた団体・藤原組が活動休止状態になってからはフリーランスの立場で様々な団体を渡り歩く。彼の飲む「スポーツドリンク」は、世間一般ではウイスキーと呼ぶ事を知っておいて損は無い。身長186cm体重108kg、54歳(試合当時は53歳)。
 小笠原和彦は、かの極真空手の猛者として鳴らした空手家。20年前には全日本空手選手権を制し、百人組手も達成している。02年、極真から脱退してゼロワンに空手家として参戦し、橋本との抗争・敗戦の後は正規軍の一員としてリングに上がる。身長177cm体重88kg、43歳。
 大谷晋二郎は、橋本と共に古巣・新日本プロレスを脱退し、ゼロワン旗揚げ時から参加している中堅レスラーで団体内では橋本に次ぐナンバー2的存在。現在は田中将斗らと共に「炎武連夢」を結成し、打倒・橋本に燃える日々。正統派ファイトから有刺鉄線デスマッチまで、様々なスタイルの試合に順応できるゼネラリスト振りにも定評がある。身長181cm体重107kg、31歳(試合当時は30歳)
 田中将斗は、FMWでデビューした後、当時のアメリカ第三団体・ECWのエース級レスラーとなって台頭。その後、ゼロワンに参戦し、現在は大谷と共に精力的な活動を続けている。ヘビー級としては小柄な体格を感じさせない気迫溢れるファイトスタイルに惚れこむファンも少なくない。身長181cm体重108kg、30歳。
 黒毛和牛太は、
DDTや「レッスル夢ファクトリー」といったミニ団体を渡り歩いた後、富豪夢路と共に02年ゼロワンへ入団。しばらくは前座戦線を賑わしていたが、やがて上昇志向を隠さぬようになり、現在は「炎武連夢」の第3のメンバーとして活動中。身長180cm体重115kg、25歳。

 《試合観戦記》
 橋本の入場テーマが流れると、一気に会場がヒートアップ。やはり全国区で知名度の有るエースレスラーというのは、存在そのものが偉大であると思い知る。逆に言えば、そういうレスラーがいない団体というのは本当に辛い。

 試合は良くも悪くも6人タッグマッチらしい展開。色々な組み合わせで各自、自分の持ち味をチラリチラリと垣間見せてゆく。ここでも元・新日勢の動きがずば抜けて良い。逆に辛いのは小笠原。体重差と打撃系以外の持ち技の乏しさは如何ともし難く、終始劣勢の否めない試合振りだった。格闘家出身のプロレスラーは、登場当初のプッシュ期間が終わると埋没してゆく傾向にあるが、極真空手の元ヒーローでもそれは例外でないらしい。
 それを考えると、ブレイクまでに時間はかかったが、プロレスラーとして脱皮し、遂にメジャータイトルを獲るまでになった、NOAHの斎藤彰俊は本当に凄い人だと思う。

 各自満遍なく持ち場をこなして10分経過したところで、チームの分断活動が始まる。最後を決めるのは当然橋本で、黒毛和牛太にジャンピング式DDTを決めて3カウント。

○橋本(11分59秒 片エビ固め)和牛太●
※ジャンピングDDT


 試合後、唐突に大谷がマイクを取って藤原組長を挑発。「いつまでもお客さんのつもりでチンタラやってんじゃねえ」みたいな事を口走っていた。
 すると当然、組長も怒りの形相で大谷に突っ掛けてゆき、場外乱闘ぼっ発。一時は両者リングに上がって番外戦が始まりそうになるなど、乱闘はかなり長時間続いていた。その最後の方で、「いつまで何やってるんだろう?」と控え室のドアからコッソリ顔を出して様子を窺っていた坂田亘が微笑ましかった(笑)。
 で、この時に発生した因縁が、実は9月現在未だに継続している。プロレス雑誌ではほとんど無視されていた興行だったのに、因縁だけ生きているというのも面白い。

 興行全体としては、やはり「橋本あっての団体だな」という感じ。勿論、大谷や高岩などの中堅レスラーも良い動きをしているのだが、それも橋本がドンと控えているからこそ。主力外国人レスラーもタマが揃っているのだから、あとは日本人若手陣が早くセミ・メインで使い物になるまで成長する事だろう。全般的なレヴェルとしては、これまで観た団体の中で比べると、FMW以上、全日(武藤体制)以下といったところ。


 ……というわけで、以上です。どこまで当日の現場の雰囲気を伝えきれたかは疑問ですが……。
 これまでプロレスにあまり興味の無かった皆さんも、是非一度会場に足を運んで生観戦してみてはいかがでしょう。生のプロレスというのは、TVで観るよりもまるで迫力が違いますよ。では。(この項終わり)

 


 

2003年第68回講義
9月23日(火・祝) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第4週分・前半)

 講義、講義の連続でさすがにヘロヘロ状態の駒木です(苦笑)。どう話したらいいか判らないんじゃなくて、話さなくちゃいけない事が多すぎて、いくら時間があっても足りないって分だけ、まだ幸せなのかも知れませんが……。
 とにかく今月はミホノブルボンの調教のようにガンガン行きますよ。多分菊花賞が終わる頃には駒木もパンクしてるでしょうけど(苦笑)。

 さて、今週はレビュー対象作が増えそうなので、前・後半分割でお送りします。で、今日は前半という事で、今週月曜日発売の「週刊少年ジャンプ」の内容についてのゼミという事になりますね。
 まず、手短に情報系の話題から。新連載構成も一段落したという事で、来週から再び読み切り攻勢が始まるようです。
 で、その再開第一弾は、『AX 戦斧王伝説』作画:イワタヒロノブ)。そうです、あのイワタヒロノブさんが「ジャンプ」に戻って来やがりました。
 ……えー、最近来られるようになった受講生さんはご存知無いと思いますが、このイワタヒロノブさんは、当講座のこのゼミで2作品レビューして2回ともC評価という前途険しい若手作家さんでありまして、前作のレビューの際などは、勢い余ってミホノブルボン物語をお話するような激しい熱意で作品を酷評してしまい、「この作品がつまらないのは同意するが、このサイトの感想は叩き過ぎで不快」と2chに書き込まれた経緯があります(苦笑)。
 そういうわけでハッキリ言いまして、来週は自分で自分のことが不安であります。もし、今度もC評価を出さなければいけないくらいの駄作だった場合、どんな人間性を疑われる罵詈雑言を言い出すか判りませんので、受講生の皆さんはあらかじめご覚悟をお願いしたいと思います。(半分冗談、半分本気です^^;;)


 ──では、レビューとチェックポイントへ参りましょう。今日のレビュー対象作は、新連載1本と、新連載後追いレビュー1本の計2本です。時間の都合でチェックポイントはボリューム控えめになりますが、ご了承下さい。


☆「週刊少年ジャンプ」2003年43号☆

 ◎新連載『神撫手』作画:堀部健和

 秋の新連載シリーズ第3弾は、本誌掲載の読み切りが“昇格”し、初の週刊連載獲得となった、堀部健和さん『神撫手』です。
 堀部さんは、79年1月生まれの24歳。新人賞等の受賞歴が無いまま、ほりべたけお名義で「赤マル」00年冬(新年)号にてデビューし、翌01年春号でも作品を発表。その後、2年のブランクを経た今春、本誌15号で発表した今作と同タイトルの読み切りで復帰、連載獲得と相成りました。
 今年は、長期ブランク明けで初の連載を獲得した若手作家さんが何人もいらっしゃいましたが、この堀部さんのケースは、それに「ジャンプ」伝統の“読み切り掲載→アンケート成績良好で連載化”パターンを組み合わせたもの…ということになるのでしょうか。

 ……では、今回──連載第1回の内容についてレビューをしてゆきましょう。

 については、以前読み切り版が掲載された時にも「プロとしての最低ラインは軽く超えている」と評価したんですが、今回もそれは変わりありません。登場人物の美醜がハッキリ別れすぎている、または、全体的に線が細いために雑誌掲載時はインパクトが弱くなってしまう…などといった欠点も見受けられますが、及第点は出せるレヴェルにあるのではないでしょうか。
 ただ、ネット界隈の評判を見ていると、「絵柄が生理的に受け付けない」という声もいくつか挙がっています。恐らく、先ほど指摘した「美系キャラが美形過ぎる」点や、いかにも少年マンガらしくないペンタッチが、比較的高い年齢層の男性読者に嫌気されているのではないかと思います。この辺は“良し悪し”の問題ではなく“好き嫌い”の問題になって来るので難しいところですが、連載の続行・終了が読者人気で決まる以上は、何らかの対応策を考える必要もあるかも知れませんね。

 次に読み切り版では問題点が見受けられたストーリーと設定に関してですが、こちらも前回に比べると若干は改善されているようです。読み切り版で露呈した設定の矛盾を丁寧に練り直していった痕跡が窺え、これには好感が持てます。
 ただし、そういった努力を完全に帳消しにしてしまっているのが、この作品全体に漂う“現実感の無さ”です。勿論、これはエンターテインメントのフィクション作品ですから、ある程度は現実離れした部分もあって良いとは思います。しかし、そういう“フィクションならではの設定”というモノを描くならば、それ以外の部分はリアルに作っておかないと説得力が消え失せてしまうのです。

 例えば、水島新司作品に登場するキャラクター。これらの多くは荒唐無稽・常識範疇外だったりするのですが通天閣打法の坂田三吉なんて、今週の『ミスフル』でパクられたくらいです)、それでも野球の描写をリアルに描く事で妙な説得力が生まれ、作品も傑作と評価されるようになったわけですね。
 もっとも、最近の水島作品は一部で「老害マンガ」と揶揄されるようになっていますが、これは最近の作品では野球描写も含めて作品全体が荒唐無稽になってしまい、“妙な説得力”が無くなってしまったためだと、駒木は分析しています。(他の理由として、現実に即したプロ野球モノは、結末が先に見えてしまっているので興味が削がれる…というモノもありますが)

 ……で、この『神撫手』の場合、主人公を追う警察やいわゆる“悪の組織”といった、この作品において“リアル部分”を担当しないといけない連中の行動に全く現実感が無く、お約束的・ご都合主義に終始しているのです。特に主人公と悪の組織数十人との追いかけっこなんて、まるで昔のTV番組・「加トちゃんケンちゃん」でやってた探偵コントですよ(苦笑)。それにこの主人公、ピストルで撃たれた割にはエラい元気ですしねぇ。
 まぁ、そういう作品でもいわゆる“おバカ系”まで突き抜けられれば存在意義も出て来ようというものですが、残念ながらこの作品はそこまで行ってませんから……。あ、どっちにしろ、そういう作品はウチのゼミで高い評価は出せませんがね(笑)。

 というわけで、評価はB寄りB−ということにしておきましょうか。作品の質以上に人気の望めるタイプではないでしょうし(むしろ逆)、かねてから予想していた通り、打ち切りサバイバルレースでは苦戦必至という事になってしまうのではないでしょうか?


 ◎新連載第3回『戦国乱波伝 サソリ』作画:内水融【第1回掲載時の評価:保留

 3週連続新連載の最終週ということは、その第1弾の作品が連載3回目を迎える週でもある…というわけで、『サソリ』の第3回後追いレビューです。

 ここまで3回の構成を振り返ってみますと、第1話本編から独立した形のプロローグ第2話主人公・無太郎のキャラクターを強調するための一話完結型エピソード。そして今回の第3回キーパーソン・織田信長の紹介を兼ねたストーリー本編の冒頭部分という事になっていますね。
 一応は、1話ごとにミニ・テーマを設定し、メリハリの利いた構成になっているので違和感はありませんね。サブキャラの性格付けも(若干浅いですが)進んでおり、シナリオや設定の完成度の面では及第点を出せるものになってはいます。
 ただし、第3回時点でストーリーの本編がまだ始まっていないというのは冗長過ぎる感が有りますし、そのせいもあって、この作品独自のカラーというものを強く押し出せない状況にあると思います。つまり、この作品の持つ長所を思うようにアピール出来ていないんです。で、それはつまり「長所が目立たない」という短所があるのと同じなわけで、その結果、作品の評価自体も下がってしまうわけですね。

 内水さんは、本来ストーリーテリング力のある人だと思うんですが、今回はその実力が額面通りに作品へ反映されていない感じですね。何と言うか、非常に勿体無い感じがします。
 評価としては「問題点も多いが見所もある。ただし、その見所が埋もれてしまっている」ということで、B+寄りにしておきます。


◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 今月の「十二傑新人漫画賞」審査員は村田雄介さん。『アイシールド21』の作画担当者という事で、毎号、作画テクニックについて色々なアドバイスをしていましたが、誰かさんとかと違って含蓄が有りましたよね。
 今週のQ&Aであった、「資料はどのように集めたらいいでしょう?」という質問、その誰かさんにも訊いてみたかったですね。「マンガ喫茶」とか「衛星放送のアニメ」とかおっしゃられるんでしょうか。

 ◎『BLACK CAT』作画:誰かさん矢吹健太朗【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 普通の作品なら「ベタだけどグッジョブ!」と思えるネタが、この作品だとチョイ前の『かってに改蔵』のように

「あざとい!」

 ……と叫びたくなってしまうのは何故でしょうか(笑)。
 理由はさておき、日頃の行いは重要だと思いました。


 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 バトルも佳境に突入して白熱! ……と、言いたいところだったんですが。
 残念ながら、どうもここ数回で失速気味ですねー。技のバリエーションが少ないだけならまだしも、戦ってる当事者がちょっとお喋りし過ぎのような気がします。口で喋らせるよりも、戦闘しながらモノローグで自分の心境を吐露させた方が、お話的には緊迫感が出て来て良いんですが……。
 前にも言った通り、この作品は世界観と設定は完璧にちかい完成度なんで、絶対に成功させて欲しいんですけどね。

 ……というわけで、今日はこれまで。次回は金曜日に後半分をお届けする予定です。

 


 

2003年第67回講義
 9月22日(月) 競馬学概論
「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(12・最終回)
最終章・ミホノブルボン(後編)

※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)ライブリマウント編(第4回〜第6回)フラワーパーク編(第7回〜第8回)ムーンリットガール編(第9回)/ミホノブルボン編(第10回)(第11回) 

駒木:「さて、この企画もいよいよ最終回だね。積み残ししている時は『厄介だなぁ』と思ってたんだけど、やっぱりいざ終わるとなると寂しいもんだ」
珠美:「そうですね……。でも、とりあえず今は最後まで手綱を緩めずによろしくお願いしますね」
駒木:「そうだね」
珠美:「それでは、今回も前回までに引き続き、92年の準三冠馬・ミホノブルボン号について、駒木博士にお話して頂きます。今日はいよいよクラシック路線を歩むミホノブルボンの姿…ということになりますね」
駒木:「僕が競馬をリアルタイムで見始めたのは、ちょうどこの頃。で、前にも言ったようにミホノブルボンが初めて惚れこんだ馬だったわけ」
珠美:「今日は駒木博士の熱弁が期待できそうですね(笑)。……それでは、今日もミホノブルボン号の競走成績一覧表をご覧頂きましょう

ミホノブルボン号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

91.09.07

新馬戦

/13

小島貞

(ホウエイセイコー)

91.11.23 500万下 /10 小島貞

(クリトライ)

91.12.08 朝日杯3歳S(G1) /8 小島貞 (ヤマニンミラクル)
92.03.29 スプリングS(G2) /14 小島貞 (マーメンドタバン)
92.04.19 皐月賞(G1) /18 小島貞 (ナリタタイセイ)
92.05.31 日本ダービー(G1) /18 小島貞 (ライスシャワー)
92.10.18 京都新聞杯(G2) /10 小島貞 (ライスシャワー)
92.11.08 菊花賞(G1) /18 小島貞 ライスシャワー

駒木:「画竜点睛を欠く……って、それはもういいか(笑)」
珠美:「昨日に実施しました前回は、入厩から2歳(旧表記で3歳)戦の3レースについてお話して頂きました。今日はスプリングステークスからのエピソードになりますね。では、レースの概要について説明しましょうか?」
駒木:「あー、ちょっと待って。その前に、ミホノブルボンがクラシック戦線へ挑むにあたっての周囲の反応について話をしなくちゃいけない。
 ミホノブルボンという馬について語る時に、必ずついて回るのが“血統”“距離適性”というキーワードなんだ。つまり、代表産駒が短距離馬のエルプスという事で知られていた種牡馬・マグニテュードを父に持つミホノブルボンが、果たして2000m→2400m→3000mと距離が延長してゆくクラシック戦線を戦い抜けるのか。いや、“ハナ差辛勝”だった朝日杯から見ると、最初の皐月賞だってイケるかどうか判らないぞ……というわけ。
 今でこそNHKマイルCが出来たり、古馬の短距離G1にも3歳馬が参戦出来易くなって、短距離馬も自分に合った路線を迷う事無く選べるようになったけど、当時は1600mのG2だったニュージーランドトロフィーが3歳短距離王者決定戦で、それにしたって本当のマイラーよりも、クラシックに出られない外国産馬救済の意味合いが強かった。だから当時は、いくら距離適性に不安があったとしても、賞金が足りてるのなら、とりあえずクラシック戦線を目指してみるのが当たり前だった。まぁこれは今でも大きく変わらないかも知れないけどね。
 で、ミホノブルボンもご多分に漏れず、“とりあえず”クラシック戦線に名乗りを挙げる事にした。でも、当の戸山調教師が『この馬は本質的にはスプリンターだと思う』と言ったもんだから、ただでさえ燻っていた不安の声が一気に炎上しちゃう事になった。これ以降のミホノブルボンは、ラス前の京都新聞杯を除いて、レースの度に距離延長に挑む事になるんだけど、その都度しつこいくらいにマスコミ発の距離不安説が紙面(誌面)を賑わす事になる。ファンとしては正直、ウザったくて仕方なかったなぁ(苦笑)」
珠美:「でも、本当の所どうなんでしょう? こういう『代表産駒が短距離馬の種牡馬』から生まれた仔というのは、やはりマイラーかスプリンターになる可能性が高いんですか?」
駒木:「まぁ“代表産駒”という括りにするとミスリードしてしまいそうだから言い換えるけど、確かに同じ種牡馬を父に持つ競走馬たちの距離適性は似ている場合が多いんだ。これは競馬四季報の種牡馬別インデックスで調べてもらったら判るんだけど、同じ種牡馬から生まれた産駒の8〜9割方の距離適性は確かに一致しているよ。
 ただし、例外もある。身近な例で言えば、去年の菊花賞3着馬・メガスターダムだね。この馬の父親・ニホンピロウイナーは、自身が生粋のスプリンターだった事もあって、産駒も短距離馬である事がほとんど。『ニホンピロウイナー産駒が2000mを超えるレースに出る時は、まず無条件で消し』と言っても良いくらい。ところが、母系の影響が強いのか強烈な隔世遺伝なのか知らないけど、こういう変わったヤツも出て来るわけ。
 だからミホノブルボンに対して、距離不安説が出て来るのは仕方ないと言えば仕方ない。管理調教師が率先して不安説をばら撒いてる訳だからね(苦笑)。朝日杯のレース振りも、見た目では確かに大苦戦しているように映るわけだし。ただ、後にも採り上げるけど、マスコミ連中のこの馬に対する距離不安の声は、ちょっと度を越している気もしたね。『お前ら、そんなにブルボンに負けて欲しいのか』…とか思ってた。当時17歳の駒木ハヤト少年は(笑)」
珠美:「少年ですか、なるほど(笑)。……ということは、年明け緒戦・1800mのスプリングステークスの時点で、既に距離不安が囁かれていた…というわけですね」
駒木:「だから、このスプリングステークスだけ、ミホノブルボンは2番人気なんだよ。1番人気は、年末のラジオたんぱ杯を勝ったノーザンコンダクト。ミホノブルボンは1800mすら怪しいと思われていたわけだ。何しろ“朝日杯で大苦戦のミホノブルボン”だからね」
珠美:「しかし、いざフタを開けてみると、待っていたのはミホノブルボンのワンマンショーでした。戸山調教師の指示通り、スタートから抑えずにハイペースで逃げを打ったミホノブルボンは、直線に入っても差を広げる一方。追走でスタミナを使い果たした他馬を尻目に、8馬身差の圧勝で1800mの“課題”をクリアします
駒木:「スピードの違いでハナに立ってマイペースで逃げているだけなのに、いつの間にか他の馬が余力を無くしてフラフラになってるってパターン。能力の絶対値が違い過ぎるとこういう事になるね。
 最近の最強馬は逃げ・先行より差し・追い込みの方が多くなっちゃったんで、こういう光景もあまり見られなくなったんだけど、僕が生まれた前後の大昔には、マルゼンスキーとかカブラヤオーとかがいたね。テンポイントとトウショウボーイのマッチレースになった有馬記念なんて、2頭で競り合いながらそれをやっちゃったっていう、伝説クラスの一戦だったね」
珠美:「こんなに凄い勝ち方をしたならば、皐月賞で200mの距離延長になっても大丈夫…という話になったんじゃないですか?」
駒木:「少なくとも乗ってた小島貞博さんは確かな手応えを感じていたみたい。戸山調教師も『鍛え続ければ、クラシックで戦っても何とかなる』と考えてたみたいだね。ただ、『負けたら即、路線変更』という方針も変わらなかったみたいだけど。
 で、皐月賞直前になって、続々と他の有力馬が出走を回避してダービー狙いに切り替えたもんだから、皐月賞は一転してミホノブルボン安泰ムードになっていった」
珠美:「有力馬が続々と一生に一度のクラシックレースを回避するというのも珍しい話ですね」
駒木:「そうだよね。確か、当時のマスコミ報道では、『中山競馬場の荒れた馬場を避けてダービーに専念する事にした』ってことになってたらしいけどね。ただ、本音は『皐月賞まではミホノブルボン相手に勝ち目は薄いけれど、距離延長になるダービーなら勝負になる。ならば、皐月賞を捨ててダービーに専念した方が結局は得なんじゃないか?』……といったところじゃないだろうか。まぁこれは推測だけどね」
珠美:「博士のおっしゃる通り、クラシック第一弾の皐月賞で、ミホノブルボンは単勝1.4倍の圧倒的1番人気に支持されました2番人気は弥生賞勝ち馬のアサカリジェントでしたが、こちらは単勝オッズ6.2倍。戦前のムードは、まさにミホノブルボン一色といったところですね」
駒木:「そうだね。ただ、そんな中、安穏としてられなかった人が1人。騎手の小島貞博さんだ。腕はともかく、これまで20年大舞台に縁の薄かった人が、いきなり勝って当たり前の馬に乗って皐月賞だからねぇ。プレッシャーは並じゃなかったと思うよ。当たり前の事をすれば大丈夫なんだけど、そういう時に何が難しいって、当たり前の事をすることなんだよねぇ」
珠美:「それでも、小島貞博騎手はその“当たり前のこと”を見事、成し遂げます。スタートから勢い良く先頭にたったミホノブルボンは、このレースでもマイペースのまま後続の馬を競り落とし、悠々と2馬身1/2の差をつけて1着でゴールしました」
駒木:「今でも鮮明に覚えてるよ。テレビ中継の勝利騎手インタビューで、小島さん泣いてたもんなぁ。長年の苦労が実った嬉し涙だったんだろうけど、プレッシャーから解放されたっていう安堵の意味合いもあったのかも知れないね。
 ともかくこれで一冠。で、こうなった以上はダービーに挑戦しないといけない立場になっちゃったわけで、戸山調教師にとっては、喜ぶ間もなく新たな課題を突きつけられたって事になるね」
珠美:「こうして皐月賞馬となったミホノブルボンは、その後トライアルを使わずにダービーへ直行するローテーションを選択し、厩舎での馬体調整に入ります」
駒木:「馬体調整って言えば聞こえは良いけどねぇ。実態は、常軌を逸するほどの猛特訓がブルボンを待っていた。
 さっき言ったように、ミホノブルボン陣営は、調教師も主戦騎手も『ブルボンは本質的にスプリンター』と思っていた。絶対能力の差で2000mまでは無難にこなせたけれども、2000mと2400mは似ているようで全く違う条件だからね。ましてやダービーは誤魔化しの利かない東京競馬場で行われるわけだし。
 しかし、皐月賞に勝ってダービーに出る以上は恥ずかしいレースしちゃいけないのは当たり前だし、第一、ダービーを勝ちたくない競馬関係者なんているはずがない。だから、この時点で戸山調教師の胆は決まっていた。『ミホノブルボンに考え得る限りの猛特訓を課して極限まで鍛え上げ、中〜長距離でも通用するスタミナを、遺伝の力に拠らず後天的に植え付ける』…ってね。
 言ってみればこれは、“ブラッド(血統の)スポーツ”と呼ばれる競馬そのものに対する挑戦だ。二流・三流の血統から生まれたスプリンターを、トレーニングによって超一流のステイヤーにしようっていうんだからね。そんな事、いくら戸山調教師でも、これまでやろうと思っても出来なかった事だった。普通の馬でそれをやっても、あっという間に脚が壊れてアウトだったからね。
 でも、この時はミホノブルボンがいた。坂路コースがあった。不可能を可能に変える環境は整っていた。ならば、やろう。調教師生活の集大成としてチャレンジしてみよう。戸山調教師はそう考えたんだろうね。実はこの時、戸山調教師はガンの摘出手術を受けて復帰したばかりで、いつ再発してもおかしくない状況だった(事実、ミホノブルボンのリタイヤ後にガンが再発し、間もなく死去)から、やれる時にやれる事をしておきたかったんじゃないのかな」
珠美:「そういうエピソードがあったんですね。では、ダービー前の調教は、前にも増して激しいものになったというわけですか?
駒木:「うん、ダービー前になって調教量を更に増やしたらしい。それこそ、担当助手の安永さんや他のスタッフも『いつ潰れちゃうんだろう?』と思う位のね。一度、坂路調教を5本みっちりやった日は、さすがのブルボンもバテバテになって飼葉を食わなくなった程だったらしい。幸い、すぐに体調が戻ったから良かったようなものの、下手をすればダービーの出走を断念しなくちゃならないほどの状態だったらしいよ」
珠美:「それは……(絶句)。ファンの見えない所で、とんでもないことになっていたんですね……」
駒木:「戸山調教師に言わせたら、『これで壊れるくらいなら、出走しててもダービーなど勝てはしない』ってところだったんじゃないのかな。でもまぁ、冷静に見ると、本当によく馬が保ってくれたと思うよね」
珠美:「そうして6週間の時が流れ、いよいよ東京優駿・日本ダービーの日がやって来ます。前日の雨で稍重まで渋った馬場は、重馬場のスプリングステークスを圧勝したミホノブルボンに有利と思われていましたが、それでも単勝人気は2.3倍1番人気は譲らなかったものの、単勝支持率は皐月賞の約50%から20ポイントほど落ち込んだ事になります。
 ……これは、やはり2400mの距離を懸念したものですか?」

駒木:「そうとしか考えられないね。だって、他に理由ある?(苦笑)
 ……皐月賞が終わってから、ダービーまでの間、競馬ファンの関心は『ミホノブルボンは2400m保つのかどうか?』という一点に絞られていた感じだった。月刊『優駿』でも、大きくページを割いて『ミホノブルボンは2400mを克服できるかどうか?』というような特集を組んでいた記憶がある。言い換えれば、みんなミホノブルボンが1番強いのは判ってるわけ。で、この馬が普通のマグニテュード産駒と違うって事も、ガチガチの血統論者の皆さんだってお判りになってたわけだ(笑)。だからこそ起こった議論だとも言えるね。“原則と例外のせめぎ合い”って言うのかな。
 …でも、いざレースをやってみたら、机上の空論や推測、更には常識とか原則・セオリーといったモノなんかは、圧倒的な現実の前にはまるで役に立たないって事が明らかになっただけだった。ミホノブルボンという馬がいる。そして強い。僕たちがこの年のダービーを通じて知ったのは、多分それだけだったんじゃないのかな」
珠美:「えーと、私の喋る事がほとんど無くなってしまったんですけど……(苦笑)。あ、でもレースの展開もこれまでと同じですから、説明しなくても良いくらいなんですよね(苦笑)。
 ミホノブルボンは、このダービーでも全く気負うところなく、スピードの違いでハナに立つや、マイペースで離し気味の逃げを打ちます。普通なら逃げ馬のリードが狭まる4コーナー付近でも後続の17頭は全く追いつけず、逆に直線で差がみるみる内に開いてゆきます。
 後はもうミホノブルボンのワンマンショーですね。ライスシャワーとマヤノペトリュースの激しい2着争いを繰り広げている4馬身前方で、ミホノブルボンは二冠達成の瞬間を迎えていました

駒木:「この時の2着馬がライスシャワー。16番人気だったんだよね。この時は、まさかこの馬が“レコードブレイカー”と呼ばれるような強豪馬になるとは誰も思っちゃいなかっただろうね」
珠美:「前年のトウカイテイオーに続いて無敗での二冠達成を果たしたミホノブルボンは、夏を休養に充てるため、北海道へ放牧に出されます」
駒木:「で、この時も“戸山イズム”が炸裂している(笑)。普通、こういう凄い馬になると、夏場でも厩舎で調整したり、牧場へ放牧に出しても1頭だけ別の放牧地があてがわれるVIP待遇を受けるものなんだけど、戸山先生は『他の馬と相撲をとったりしながら、腹一杯青草を食う。これが馬を鍛えるのに丁度良いんだ』って(苦笑)。万が一、他の馬の回し蹴りがクリーンヒットしたら、それで三冠はアウトだからねぇ。厩舎のスタッフも、牧場関係者も毎日気が気じゃなかったと思うよ。
 まぁでも、菊花賞の3000mを克服するためには、出来る事は余す所なく何でもやっておかないといけないって思っていたんだろうね。確かに1800mの段階から距離不安が囁かれていた馬に3000mを走らそうって言うんだから、ある程度のリスクは背負うのも止む無しと思えなくもない。何しろ、3000m走らせる事自体が一番大きなリスクだったわけなんだからさ」
珠美:「そしてミホノブルボンは、無事夏を乗り越えたわけですね?」
駒木:「そう。しかも、相当青草を食ったらしくて、馬体の方も一回り大きく成長していた。戸山調教師は賭けに勝った訳だね。……で、帰厩したミホノブルボンに待っていたのは、またしてもハードなトレーニング。3000mでも持ち前のスピードが発揮できるだけのスタミナを備えさせるためのね」
珠美:「迎えた秋緒戦は、菊花賞トライアル・京都新聞杯でした。一足先にセントライト記念で復帰していたライスシャワーや、神戸新聞杯の覇者・キョウエイボーガン、更にはかつてのライバル・ヤマニンミラクルなどがいましたが、距離2200mの京都新聞杯では、彼らもミホノブルボンの敵ではありませんでした。ターフで繰り広げられた光景は、これまでとほぼ同じの一人舞台単勝1.2倍・支持率約65%の1番人気に推されたミホノブルボンが、2着ライスシャワーに1馬身1/2の差をつけて楽々逃げ切ります
駒木:「この辺まで来ると、ライスシャワーの成長にちょっと不気味なものを感じつつも、ミホノブルボンの圧倒的な地力の差の前に、『何となく菊花賞も大丈夫じゃないのかな』的ムードになりつつあった。まぁミホノブルボン陣営は、とてもそんな気分にはなれなかっただろうけどね」
珠美:「こうして、シンボリルドルフ以来の無敗での三冠達成まであとレース1つに迫ったミホノブルボンは、いよいよその“あとレース1つ”である菊花賞へ挑みますが……」
駒木:「盛り上がって来た所で悪いんだけど、ここから先は、去年の夏にやった『90年代名勝負プレイバック〜“あの日、あの時、あのレース”』の第16回で詳しく採り上げているから、そちらをジックリ参照してもらう事にしよう。今回の講義と重複している部分も多いけど、当時の雰囲気を実感しながらレジュメを読んでもらえると嬉しいね」
珠美:「結局、ミホノブルボンは最後の直線でライスシャワーに交わされて2着に終わってしまうんですよね」
駒木:「ライスシャワーは、絶対にバテないスタミナと一瞬の決め脚に持ち味のある馬だったからね。その馬を相手に控えるレースをして、しかも引っ掛かってしまっては勝ち目も薄かっただろうね。
 そりゃ、当時のセオリーから考えると、中間のペースを緩めずにハイペースの逃げを打つなんて、とても考えられる事じゃなかったけれどねぇ。でもライスシャワーに勝とうと考えるなら、やっぱり戸山調教師が言うように、3000mでもマイペースで行ける所まで行くべきだったよね。そうやって、直線までにライスシャワーが戦意喪失するくらいまで差を広げておくべきだった。スタミナ切れで2着が無かったかも知れないけど、逆に1着があったかも知れない。まぁ、これはもうどうにもならない話なんだけれども、1ファンとしては無念でならないね」
珠美:「……その後、ミホノブルボンはジャパンカップに出馬登録しますが、直前になって軽い故障を発症して回避。この時はすぐに復帰できると思われていたのですが、その後も度重なる脚の故障に苛まれ、結局は長期の休養生活に入る事になります
駒木:「最後の方になると、色々な故障が多重発生しているような状態だったからね。八方手を尽くして復帰への道を探る試みが為されたけれども、どうやら早い段階から競走能力が喪失していたみたいなんだ。
 それを象徴するエピソードを1つ紹介しておくね。ミホノブルボンがリタイヤした後、間もなくして戸山調教師が逝去、厩舎も解散する事になるんだけれども、ここで宙に浮いたのがミホノブルボンの移籍先だった。旧・戸山厩舎所属の有力馬たちは、後にジャパンカップを勝つレガシーワールドを始め、大体が元・戸山厩舎調教助手筆頭だった森秀行調教師の下へ預けられたんだけども、ミホノブルボンはその中に入っていなかったんだよ。新規開業する調教師が管理できる馬の数は限られていて、いくらビッグネームとは言え、復帰の目処が立たない馬を受け入れるわけにはいかなかった…というわけだね」
珠美:「………」
駒木:「で、ここでブルボンの担当持ち乗り助手だった安永さんが登場する。彼も勤務先だった戸山厩舎が解散した以上は、次の勤務先を見つけなくちゃいけない。と、そこへ、森調教師と同じく、旧・戸山厩舎所属馬を引き受ける形で新規開業する予定だった松元茂樹調教師が安永さんを松元厩舎所属の調教助手としてスカウトしにやって来た。『ウチの厩舎を助けてくれないか?』ってね。
 上下関係の厳しい競馬の世界だ。ましてやこういう場合、普通なら二つ返事で『よろしくお願いします』って言う所だよ。でも、安永さんはスカウトを承諾するのに条件をつけた。
 『僕と一緒に、ブルボンも引き取って下さい』
 ……ってね。松元調教師も、安永さんの気持ちを粋に感じたのか、限られた管理馬枠の1つをミホノブルボンに提供し、安永さんは松元厩舎所属の助手になった。結局、ミホノブルボンの復帰は叶わなかったけれども、僕は最後までブルボンのために力を尽くしてくれた安永さんに『ありがとう』と言いたくてたまらないね。
 ……あー、ダメだ。これ以上喋ってると涙が出そうになる(苦笑)。珠美ちゃん、後は任せた(笑)」
珠美:「ハイ、分かりました(笑)。ミホノブルボンはその後、種牡馬となって多くの産駒を競馬場に送り込みますが、残念ながら現在のところ目立った活躍馬を出す事が出来ていません。今年には故郷の原口圭二牧場へ身を寄せて、種牡馬としての活動を細々と続けながらも、今は半ば悠悠自適の生活を送っています」
駒木:「種牡馬として失敗した馬──いや、まだ決まったわけじゃないけどね(苦笑)、そういう馬の中では恵まれた“馬生”を過ごしているんじゃないのかな。内臓の強い馬なんだから、シンザンの持つ長寿記録を追い抜かす勢いで頑張って生きて欲しいね、これからも」
珠美:「……というところで、この講義も終了ですね。博士も受講生の皆さんもお疲れ様でした」
駒木:「ご苦労様。でも、またいつかやってみたいね、この企画。あくまでも時間に余裕が出来れば、の話でだけどね」
珠美:「──というわけで、このシリーズは一旦ここで長いお休みを頂きます。今後の競馬学の講義は週末のレース予想を中心にお送りする事になりますので、よろしくお願いしますね♪」
駒木:「では、講義を終わります。長時間ありがとうございました。ではでは。」(この項終わり)

 


 

2003年第66回講義
 9月21日(日) 競馬学概論
「“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝」(11)
最終章・ミホノブルボン(中編)

※過去のレジュメはこちらから→ビワハヤヒデ編(第1〜3回)ライブリマウント編(第4回〜第6回)フラワーパーク編(第7回〜第8回)ムーンリットガール編(第9回)/ミホノブルボン編(第10回) 

駒木:「三夜連続の競馬学講義、今日から2日間は半年振りの競馬学概論だ。今月の“積み残し精算シリーズ”の中でも一番の懸案だったこのシリーズが、やっと再開できて嬉しいよ。
 ……もっとも、嬉しいのは僕だけかも知れないけれどね(笑)」
珠美:「講義の冒頭で自虐的な事をおっしゃるところまで、半年前と変わらないんですね(苦笑)。
 ……あ、皆さんこんばんは。栗藤珠美です。実は私も久しぶりに助手らしいお仕事が出来るので、密かに楽しみにしていたんです(笑)」

駒木:「そうか(笑)。じゃあ早速、助手らしい仕事をしてもらおうかな。このシリーズがどういう趣旨の講義なのか、それを忘れてしまった受講生さんのために説明してもらおうか」
珠美:「ハイ、分かりました。……この『“埋もれた(かも知れない)名馬”列伝』は、実力も実績も兼ね備えている名馬クラスの競走馬であるにも関わらず、それに見合うだけの知名度や人気に乏しい…と駒木博士がお考えになった馬をピックアップし、その往時の姿を紹介する講義です。
 そして現在進行中なのが、1992年の二冠馬・ミホノブルボンのお話です。ちなみにこの馬は、駒木博士のフェイバリット・ホースとのことです」

駒木:「丁寧な説明有難う。その通り、ミホノブルボンは僕の一番好きな馬でね。大体、競馬ファンは自分が競馬を始めた頃の名馬がマイ・フェイバリットになるものだけど、ご多分に漏れず僕もそうなったわけだ(笑)。
 ……で、それで勢いがつき過ぎたというわけじゃないんだけど、3月に実施したこの章の第1回はミホノブルボンが入厩する前で終わっちゃった(苦笑)。だから、ある意味途中からの受講に向いていると言えるかも知れないね。とりあえず、今日と明日で最後まで一気にお届けする予定だよ」
珠美:「ハイ、よろしくお願いします。では、ここでミホノブルボン号の競走成績一覧表をご覧頂きましょう」

ミホノブルボン号・全成績(略式)
<詳細はこちらのリンク先を参照>
日付 レース名 着順 騎手 1着馬(2着馬)

91.09.07

新馬戦

/13

小島貞

(ホウエイセイコー)

91.11.23 500万下 /10 小島貞

(クリトライ)

91.12.08 朝日杯3歳S(G1) /8 小島貞 (ヤマニンミラクル)
92.03.29 スプリングS(G2) /14 小島貞 (マーメンドタバン)
92.04.19 皐月賞(G1) /18 小島貞 (ナリタタイセイ)
92.05.31 日本ダービー(G1) /18 小島貞 (ライスシャワー)
92.10.18 京都新聞杯(G2) /10 小島貞 (ライスシャワー)
92.11.08 菊花賞(G1) /18 小島貞 ライスシャワー

駒木:「半年前にも同じ事言ったけど、本当に『画竜点睛を欠く』って感じで惜しいよねぇ。贔屓目で見過ぎかも知れないけど、マルゼンスキーとかトキノミノルになり損ねたような残念さが残る成績表だね」
珠美:「う〜ん、受講生の皆さんは、博士の喩え話から少し割り引いて解釈するのが無難かも知れませんね(苦笑)。私もそうですけど、好きな馬についてお話をする時は目が眩んでいますから……」 
駒木:「まぁそうかもね(苦笑)」
珠美:「……それでは、駒木博士にミホノブルボンについてのお話をして頂きましょう。先ほど博士おっしゃっていましたが、前回は牧場時代のミホノブルボンや、所属厩舎になる戸山為夫厩舎についてのお話で終わってしまいました。ですので、今日はその続きからという事になりますね」
駒木:「そうだね。じゃ、キリのいいところで入厩してからの話、という事にしようか。
 牧場で生まれたサラブレッドは、生まれた後しばらくしてから競走馬としての専門的な調教や基礎トレーニングを施される。これが専門用語で『馴致』や『育成』と呼ばれるモノで、それが2歳の春頃まで続く。これはミホノブルボンも例外じゃないね。……で、育成が進んで体が出来た順番に、JRAや地方競馬の厩舎へと送り込まれてゆく。これがいわゆる『入厩』というヤツだね。
 ゲームなんかだと、いざ入厩という時になって厩舎選びが始まるのだけれども、実際にはずっと前に決まっているケースがほとんど。最近、あの関口房朗オーナーがセリ市で買った馬の管理調教師を公募したらしいけど、それは例外中の例外だよ。中央競馬でデビューする馬の場合、ミホノブルボンみたいに調教師が馬を見初めてオーナーに紹介する事が多いから、大抵は遅くとも当歳(0歳)と呼ばれる内に調教師が決まってるケースが多いんじゃないかな」
珠美:「そう言えば、一口馬主クラブの所属馬も、早い段階で所属厩舎が決まっているらしいですね」
駒木:「そう。僕が入ってるシルクホースクラブでも、出資会員募集の段階で“所属予定厩舎”が公開されるようになってる。調教師の当たり外れって意外と大きくてね、下手に成績下位の厩舎に放り込まれると、せっかくの馬があっという間に壊されかねないんだよ。で、シルクホースクラブって、それこそ成績トップの厩舎とも最下位の厩舎とも付き合いがあるんで、格差が大きすぎてねぇ。そういうわけで会員の要望からクラブも渋々予定厩舎を公開するようになったわけ。
 ……と、話が逸れた。ミホノブルボンも91年の夏、牧場でこの馬を見初めた戸山為夫調教師の下へ預けられた。そして本格的な調教を開始されて間もなく、『値段の割には走りそう』な存在に過ぎなかったこの馬が、厩舎内だけでなく栗東トレーニングセンター全体にも名を轟かせる存在になってゆく。あ、これは誇張じゃないよ(笑)」
珠美:「(笑)。でも、デビュー前の競走馬が話題になるという話も珍しいですね。どういう経緯があったんでしょうか?」
駒木:「戸山厩舎が坂路調教のパイオニア的存在だったのは、前回に話をしたよね。で、この91年には、その年の二冠馬・トウカイテイオーが坂路調教メインで鍛えられたって事もあって、栗東では空前の坂路調教ブームがやって来ようとしていた。極論すれば、坂路で調教を積まれている馬が1つ重賞を勝つだけでも『坂路効果キター!』…みたいな感じで注目されるような時期だったんだよ(笑)。
 そんな中、戸山厩舎所属のミホノブルボンも、当然のごとく坂路で本格的なトレーニングを開始する。まぁ、いくら坂路ブームとは言っても、普通なデビュー前の平凡な血統の馬に注目が集まる事は無いはずなんだけど、この馬の場合はちょっと話が違った
珠美:「普通、デビュー前の馬が話題になるとすれば、調教の時のタイムが思い浮かびますけれども……」
駒木:「ご名答。当時の栗東坂路コースは全長500m(現在は800m)で、走破タイムは調教駆けする古馬オープンクラスでも30秒ソコソコが標準だったのかな、確か。ところがミホノブルボンは、デビュー1ヶ月前の初期調整段階で29秒9のタイムを叩き出すそこに居合わせた一同が、まず始めに計時機械の故障を疑ったっていうんだから、その衝撃度たるや凄いモノがあるよね」
珠美:「少年マンガみたいな世界ですね(笑)」
駒木:「いや、まったく(笑)。……でも話はそれだけで終わらない。当時の坂路は全長500mのショートコースだったから、坂路だけで調教する場合は1日2本走らせて1日分って感じだったんだけど、ミホノブルボンは1日に4本走らせてた。それが余りにエゲツないハードトレーニングだっていうんで、そっちの方でも話題になったんだよ。こちらも少年マンガお得意の猛特訓ってヤツだね」
珠美:「でも、そんな無理をしていると本当に馬が壊れてしまいそうですね……」
駒木:「だろうね。並の馬ならぶっ壊れていただろうと思うよ。当時、担当の持ち乗り助手(調教助手兼厩務員)だった安永さんも、『ブルボンにしてみれば、レースで走っているよりも、毎日の調教の方がキツかったと思う』って当時を振り返って言ってたしね。
 ただ、坂路はウッドチップコースだから直接的な故障の確率は少ないし、加えてミホノブルボンは内臓がとても丈夫だったらしいんだ。とにかく消化器官が強くて食欲が旺盛。だからどれだけ調教を積んでも馬体が減らないで、逆に筋肉がつく。現役当時の姿を知ってる人は、お尻の辺りの筋肉が隆々と盛り上がって割れていたのを記憶してるんじゃないのかな」
珠美:「なるほど、消化器官の強さも競走馬としての才能の1つなんですね」
駒木:「日常的にも飼葉食いがどう、とかいう話が出てくるだろ? それは即ちそういう事なわけだね。
 ちなみに、大食漢で有名だったのはオグリキャップ。飼葉を軽く八升平らげたとか、あんまり食い過ぎて太ったんで、馬運車に乗せて輸送減りダイエットをさせた…とか、そういう逸話が残ってるね。
 ……あ、人間の場合は輸送減りダイエットは無理だから、珠美ちゃん真似しちゃだめだよ」
珠美:「やりません!……っていうか必要ありません!(怒)」
駒木:「まぁそういうわけで…だ(笑)。何だかとんでもない3歳──当時は旧表記だったからね──がいるぞ…とミホノブルボンはトレセン界隈で話題になった。その後も順調に調整を進めて、いよいよ9月の中京開催(阪神競馬場改装工事に伴う代替開催)で無事デビューの時を迎える
珠美:「そのミホノブルボン号がデビューした新馬戦は、中京芝コース1000m、13頭立ての一戦でした。
 破格の調教時計が評価され、単勝1.4倍の1番人気に支持されたミホノブルボンでしたが、スタートで両脇の馬に挟まれる形になり、完全に出遅れてしまいます

駒木:「小回り平坦コースの1000m戦で出遅れ。馬券を買ってる人じゃなくても悲鳴を上げたくなる光景だろうね(苦笑)。普通なら九分九厘アウトのアクシデントだよ」
珠美:「それでもミホノブルボンはそこから実力の違いを見せ付けます。3コーナー手前からグングン追い上げて4コーナーでは7番手。直線でも全くスピードを緩める事の無いまま、最後は2着馬に1馬身1/4差をつけてゴールします。タイムは当時の中京競馬場の2歳レコードになる58秒1、後半の3ハロンのラップも33秒1(33秒0の説も有)という好時計でした」
駒木:「ミホノブルボン・ファンの間では伝説になっているレースだね。小回り1000mのコースで悠々と追い込んだのも凄いし、デビュー戦の2歳馬が3ハロンを33秒1で上がってくるってのがまた凄い。このレースを生で観た人がどれくらいいるか判らないけど、今もって羨ましいよ(笑)」
珠美:「しかし、このレースの後、ミホノブルボンは軽いソエ(骨膜炎)が出て小休止。入念に調教を積まれて復帰したのは朝日杯3歳ステークス(当時)の2週間前、東京開催の平場条件戦でした」
駒木:「中途半端な状態で出走させないのが戸山厩舎の方針だから仕方ないけど、素人目には『もう少しゆったり構えられないのかね』ってところだなぁ(苦笑)」
珠美:「しかし、レース振りはゆったりと構えたままの楽勝でした(笑)。道中は2番手に控え、直線入口で抜け出して2着に6馬身差をつけ、単勝1.5倍の圧倒的1番人気に応えます」
駒木:「まぁ、本格化前っていうならともかく、デビュー前から素質を全開にしている馬なんだから、平場戦でこれくらいはやってもらわないとね」
珠美:「これで2勝目を挙げ、賞金面でオープン入りを果たしたミホノブルボンは、当初の予定通り、中1週のローテーションで、朝日杯3歳ステークスに挑みます」
駒木:「今は朝日杯フューチュリティSに名前を変えているこのレースだけど、現在の“2歳牡・せん馬No.1決定戦”という意味合いのレースに変わったのは、ミホノブルボンが出走した91年からだったんだよ。
 それまでは東で朝日杯3歳ステークス、西では阪神3歳ステークスという似た条件のG1レースが2つあって、東西それぞれの2歳チャンピオンを決定していたんだ。それがこの年から、東で牡馬の、西で牝馬の2歳チャンピオンを決めるようにレース体系が変わった。つまり、ミホノブルボンの出た朝日杯は、“初代・東西統一2歳牡馬チャンプ決定戦”という事になるね」
珠美:「この年の朝日杯は8頭立てで争われました。1番人気はミホノブルボンで、今度も単勝1.5倍の圧倒的支持。以下、京成杯3歳ステークス(現:京王杯2歳ステークス)勝ち馬のヤマニンミラクル府中3歳ステークス(東京スポーツ杯2歳ステークスの前身であるオープン特別レース)を3馬身差完勝して来たマチカネタンホイザがそれぞれ単勝4倍台で2番人気、3番人気を分け合っていました。
 ミホノブルボンは、平均ペースで逃げるマイネルアーサーと併走する形で直線まで行き、そこから前走と同じように抜け出しを図りますが、直後に控えていたヤマニンミラクルがそこへ馬体を併せて来て、ゴール前ではマッチレースの形に。最後は本当に際どい勝負になったのですが、何とかハナ差だけミホノブルボンが凌いで1着になりました」

駒木:「8頭立てかー。実はこの年、馬連の馬券が発売されるようになったばかりでね。このレースの頃は馬連の馬券が飛ぶように売れていた時期だったんで、関係者にしてみれば『せめて10頭、いや9頭でも…』って思ってたんじゃないのかな(笑)。
 それはさておき、最後の菊花賞を除いたら、ミホノブルボン最大のピンチだったのがこのレースだね。主戦騎手だった小島貞博:現調教師の談話によると、『道中控えた事が逆効果になって、危うく脚を余して負ける所だった』…という事だから、本当はもう少し楽に勝てるところだったんだろうけどね。それは戸山調教師も判ってたみたいで、レース後に小島さんをきつく叱って、『今後のレースでは、とにかく馬の行く気に任せてガンガン逃がせ』という指示を出したとのことだよ。“稀代の逃げ馬”としてのミホノブルボンが誕生したのは、どうやらこの時だったと考えて良さそうだね。
 あ、あと、この時の“ハナ差辛勝”って記録が、次の年になってからのミホノブルボン・ストーリーのちょっとした伏線になってゆくから覚えておいてね」
珠美:「……こうして3戦全勝で“初代・東西統一2歳チャンピオン”になったミホノブルボンは、クラシックシーズンに向けて、厩舎在厩のままでオーバーホールに入ります。年明け緒戦は皐月賞トライアル・スプリングステークスになるわけですが……」
駒木:「ちょっと時間が差し迫っているので、一旦ここで区切りを入れさせてもらおう。次回は後編。クラシックシーズンを駆け抜けたミホノブルボンを最後まで追いかけるよ」
珠美:「ハイ、それでは後編もよろしくお願いします」
駒木:「それでは、お疲れ様。後編もどうかよろしく」(次回へ続く

 


 

2003年第65回講義
9月20日(土) 競馬学特論
「第1回・駒木研究室競馬予想No.1決定戦〜03年秋プレシーズンマッチ第2戦・ローズS」

 こんばんは、駒木ハヤトです。
 さて、いきなりで恐縮ですが、今日から当講座では三夜連続で競馬学講義を行います。まぁ要は、競馬予想と積み残しの競馬学概論の講義シリーズを続けて消化するだけだったりするのですが(苦笑)。
 元々この仁川経済大学は、本学キャンパスの間近にある阪神競馬場の別名を冠に戴く、競馬学メインの大学。出席率がやや心配ではありますが、駒木研究室のメンバーはいつになく張り切っております(笑)。どうか3日間お付き合いの程を。

 ──というわけで今日は第一夜。先週から始まりました、駒木研究室メンバーによる競馬予想大会のプレシーズンマッチ第2戦・ローズS編をお送りします。
 なお、先週のこの時間で「プレシーズンマッチは3戦」と申し上げたのですが、それは来週の週末に駒木が神戸にいない(椎名林檎武道館公演鑑賞のため上京)を失念していた故の発言で、実は誤りでした。そういうわけで、プレシーズン戦は今回までの全2回に短縮させて頂く事にします。どうかご了承下さい。

 それでは、先週と同じく出馬表、展開予想、研究室メンバー4人の予想…という流れで進行してゆきます。先週の反省を踏まえて早速マイナーチェンジを施していますので、そちらにも注目しつつ、どうぞ最後まで宜しく。

プレシーズン第2戦・ローズS(阪神2000芝)
馬  名 騎 手

 下段には駒木ハヤトの短評が入ります。

× アドマイヤグルーヴ 武豊
出遅れに泣いた春クラシックの雪辱期し、万全の態勢で秋緒戦へ。

 

    ベストアルバム 渡辺

夏の小倉で急上昇。例年ならトライアルでも通用する水準も、今回は相手が揃った。

        テイエムオゴジョ 太宰

前走、14戦目で未勝利脱出。意欲は認めるが、さすがにここでは大苦戦。

    ×   シェリール 秋山

春はトライアル止まりも、リフレッシュ放牧で馬体大幅成長。実績は見劣るが、仕上がりは良く現在の実力は未知数。

        キャッスルブラウン 小牧太

新潟で鋭い決め手見せ連勝も、一気の相手強化と小柄な馬体に応える直線の坂が大いに心配。

        エルダンジュ 柴原

実績、ローテーション云々より、芝適性に難あって……

      × ミルフィオリ 武幸

調教本数少ないが、育成牧場で乗り込み十分。しかし、期待外れに終わった春シーズンの印象強くて。

× × ピースオブワールド 福永

オークスは条件厳しすぎたか。今回こそ仕上がり上々だが、2歳時からの成長が物足りなくて。

  ヤマカツリリー

安藤勝

前走は調整途上ゆえ度外視して良し。立て直せた気配ある今回は狙い目かも。

        10 ヘヴンリーロマンス 松永

夏の連戦応えたか、中間で軽い熱発。影響は少なそうだが更なる上がり目も期待出来なさそうで。

11 スティルインラブ

史上2頭目の牝馬三冠へ向けて視界良し。ただし今回はあくまでも試走の意味合いが強そうだ。

 

  12 シンコールビー 佐藤哲

フローラS、オークスで見せた鋭い決め脚は本物。一夏越しての成長度と良績の無い阪神コースがどうかだが……?

●展開予想(担当:駒木ハヤト)

 確固たる逃げ馬がおらず、先行争いは極めて流動的。エルダンジュ、またはヘヴンリーロマンスといったあたりが押し出されるようにしてハナに立つか。
 その後ろにはヤマカツリリーで、実は先行脚質のアドマイヤグルーヴも五分のスタートなら先団につきたいところ。ピースオブワールド、スティルインラブが中団グループで、ベストアルバムも早めのケイバをするかも知れない。最後方にはシンコールビーだが、超スローペースゆえ先頭からの間隔はさほど開かないのでは。
 よって、直線では内外大きく広がっての瞬発力勝負。位置取りの有利不利より、決め手の鋭さが明暗を分けそうだ。


●駒木ハヤトの「逆張り推奨フォーカス」●
《本命:アドマイヤグルーヴ》

 今年の秋シーズン前半のテーマは“三冠”。牝馬戦線は、スティルインラブがメジロラモーヌ以来17年ぶり2頭目、エリザベス女王杯が秋華賞に振り替わってからは初の牝馬三冠にチャレンジするという事で、このトライアルでも周囲の評価はスティルインラブ優勢のムード。まぁ確かにその力は認めるところであるけれども、今回はあくまでトライアル。仕上がりは八分〜九分に抑えなきゃいけないわ、身の安全第一に走らせなきゃいけないわ…と色々と制約が多そうな感じ。いや、むしろ負け時と言うべきか。
 そこで、スティルインラブに付ける◎印は4週間後まで温存しておいて、今回はアドマイヤグルーヴを本命に考えてみる。本番を見据えた調整はこちらも同じだが、春の成績不良を「何かの間違い」で済ませるためには、今回は是非とも好走しておきたいところ。陣営も未だ重賞タイトルが無い現状には決して満足していないはずだ。土曜に4勝2着1回と絶好調の武豊騎手も、(少なくとも今回は)強調材料になるはず。
 この2頭の相手には、やはり実績馬のヤマカツリリーとピースオブワールド。例年なら勝負駆けの昇り馬も1〜2頭ピックアップするところだが、ここまで状態の良い実績馬が揃ってしまうと出番は無さそう。

 馬連1-11、1-9、9-11、1-8 3連複1-9-11


●栗藤珠美の「レディース・パーセプション」●
《本命:スティルインラブ》

 駒木博士に今週から「予想コラムは本命馬中心でね」と言われたんですけれども、いきなり困ってしまいました。何を置いても強い、という馬を「強い」という以外にどうやって表現したらいいんでしょう?(苦笑)。あ、でもそのくらい強いんだ…という表現の仕方がありましたね。
 デビュー以来、オール連対の4勝2着1回。その2着も不利に泣いてのものですから、パーフェクトに近い戦績。その上、この夏で馬体に成長があって仕上がりも万全に近い…となれば、死角は無いと見て良いんじゃないでしょうか。少なくとも2着以内は…という意味で、▲無しで絶対視したいと思います。でもここだけの話、個人的願望としては、○→◎の的中が一番嬉しいんですけれど(笑)。

 馬連1-11、9-11、8-11


●一色順子の「ド高め狙います!」●
《本命:シンコールビー》

 先週も穴狙いしたつもりだったんですけど、確定オッズ見たらそれほどでもなかったですね(苦笑)。今週からは『じゃじゃグル』の梅ちゃんみたいに、「10倍以下の馬券は馬券じゃない」って感じで攻めていくつもりです!
 で、ローズSの本命はシンコールビー。注目は他の馬に行っちゃってますけど、オークスで上がり33秒5の脚を使って3着に入っている馬。6番人気・単勝26.7倍っていうのはちょっと軽く見過ぎじゃないですか? 超スローの展開だと逆に差し馬にもチャンスがあるって駒木博士から聞いた事ありますし(笑)、ここから大きく狙ってみたいと思います。

 単勝12 馬単12=2、12=11、2=11、12-1、12-8、12-4


●リサ=バンベリーの「ビギナーズ・ミラクル!」●
《本命:スティルインラブ》

 今週、本当にビックリしたのが阪神タイガースの優勝とそこから始まった大騒ぎ。ここまで阪神ファンがクレージーだとは……って感じです。ぶっちゃけ、日本人のイメージが変わっちゃいました。オーストラリアで読んだ日本の本ではそんなところまで教えてくれませんでしたし(笑)。
 で、競馬を見てると、阪神タイガース・カラーの勝負服を着たジョッキーの馬が走ってるじゃないですか! そうです、社台レースホースの服ですよ!
 それであんまり気になったので、今日は社台の馬から狙ってみようかなーって思ったんです……けど……う〜ん……(苦笑)。
 ──というわけで、やっぱり春から競馬を見てて一番強そうなスティルインラブを◎にしました(笑)。一応ミルフィオリの馬券も買いますけどね。

 馬連 8-11、9-11、8-9、11-12、1-11、7-11


 ……というわけで、今週からちょっとマイナーチェンジした4人の予想コラムでした。多少不真面目な予想もありましたが、まだ日本に来て半年の競馬初心者ということで勘弁してあげて下さい(笑)。では、レース回顧もお楽しみに。


ローズS 成績
× 1着 アドマイヤグルーヴ
  2着 ヤマカツリリー
      3着 ベストアルバム
× × 4着 ピースオブワールド
5着 11 スティルインラブ

単勝1 300円/枠連1-7 1380円/馬連1-9 1800円/馬単1-9 2730円/三連複1-2-9 4390円

 ※駒木ハヤトの“勝利宣言”(◎−▲馬連的中)
 いやー、展開は少し結果オーライだったけど、久し振りに気持ち良い的中だね。地力、実績重視の正攻法を捨てて、トライアル仕様・勝負気配中心のトリッキーな予想に徹したのが功を奏した感じ。
ただ、スティルインラブの負けっぷりが派手すぎて、三連複が外れになってしまったのは残念だったけどね(苦笑)。
 アドマイヤグルーヴは、本当に問題は気性だけって感じだねぇ。まぁ今日に限って言えばゲートはマシだったんだけど、道中も引っ掛かる一歩手前で、直線入口でもイヤイヤしてたし。でもそれで余裕残しの1馬身差勝ちなんだから、地力そのものはやっぱりG1級ってことなんだろうね。一度ブリンカー着けてみるのはどうなんだろうか。
 ヤマカツリリーは、あの展開(前半1000m1分01秒0のマイペース大逃げ)で粘れないんじゃあ、逆に本番はどうかな? 馬体に成長の無いピースオブワールドも上積みは厳しい感じだし、やっぱり本番の主役はアドマイヤと今日は見せ場作るだけで勝ちに行ってないスティルインラブってことになるんだろうね。馬券的にはスティルインラブと伏兵の組み合わせが面白いのかな。  

 ※栗藤珠美の“反省文”(○−△で不的中)
 昨日、予想コラムの原稿を駒木博士に手渡した時、「▲を削った時に限ってタテ目が来るもんだよ。本当にこれでいいの?」って言われたんですよね……。やっぱり、そういう時は素直に聞いておけば良かったんでしょうね……。
 それにしても、「競馬に絶対は無い」って本当ですね。今日はしみじみとそう思います(苦笑)。

 ※一色順子の“終了しました……”(△−無で不的中)
 ……すいません、今日は思いっきりブルー入ってます(苦笑)。
 いきなりから無印にしておいたヤマカツリリーが遅いペースで大逃げ。もうこの時点でわたしの握り締めていた馬券は紙くず同然だったんですけど、オマケに本命のシンコールビーはブービーから10馬身差のシンガリ負け。いくら穴狙いでも、こんな外れ方ってあります?(半泣)
 もう泣きそうなんですけど、これ以上の負けは無いって考えて、再来週からの本番は気合を入れ直してがんばりたいと思います。

 ※リサ=バンベリーの“イッツ・ア・ハードラック・デイ”(×−▲で不的中)
 今週はアッサリ外れちゃいました(苦笑)。ちょっとフザけた予想をしたらバチが当たっちゃったみたいですねー。次までにもう少し競馬の勉強をして、当たるような予想をガンバってみたいと思います!

 


 

2003年第64回講義
9月18日(木) 演習(ゼミ)
「現代マンガ時評・分割版」(9月第3週分・合同)

 先週に引き続き、今週のゼミも前・後半合同でお送りします。
 本当は月・火あたりに「ジャンプ」関連分だけの前半分をやろうかとも思ったんですが、他の講義との兼ね合いもあって、業務縮小前と同じスケジュールでやる事にしました。「サンデー」は今週もレビュー対象作がありませんし、バランス重視と言う事で何卒。

 さて、今週は「ジャンプ」、「サンデー」両誌ともに月例新人賞の結果発表がありましたので、そちらの方を紹介しておきましょう。

第4回ジャンプ十二傑新人漫画賞(03年7月期)

 入選=該当作無し
 準入選=該当作無し
 佳作=該当作なし
 十二傑賞=1編
 ・『一夜物語─ワ・ライラ・フラーファー─』
(=本誌か増刊に掲載決定)
  臼田幸太(20歳・埼玉)
 
《矢吹健太朗氏講評:ストーリーがきちんとまとまっていて好感が持てた。しかし絵は修行が必要。読者が見やすい絵を描くように心掛けて欲しい》
 
《編集部講評:魅力的なキャラクターが作り出せている。ストーリーの展開も上手い。が、絵については要努力。線が荒く、読み難いシーンが度々見られた。ドンドン描いて画力をアップして欲しい)
 審査員(矢吹健太朗賞)特別賞=1編
  ・『ピンポンデビル』
   佐藤大輔(23歳・北海道)
 最終候補(選外佳作)=6編

  ・『FOURSICK!』
   生武剛(24歳・福岡)
  ・『東京B−BOY』
   葛西仁(24歳・東京)
  ・『平妖箸マスター万福』
   楽永ユキ(25歳・東京)
  ・『魔女の特別課外授業』
   鈴木祥高(21歳・神奈川)
  ・『エッジブリンガー』
   内野正宏(27歳・神奈川)
  ・『WILD RING』
   岡春樹(23歳・埼玉)

少年サンデーまんがカレッジ
(03年7月期)

 入選=1編  
  ・『侍フィーバー』(=「サンデー超増刊」12月号に掲載)
   柏葉ヒロ(24歳・埼玉)
 《講評:画力、物語構成とも完成度が高く、将来性を強く期待させる作品)
 佳作=1編
  ・『運命の人?』
   突飛(21歳・長野)
 努力賞=2編
  ・『HERO !!』
   カズミツ(20歳・兵庫)
  ・『新感ボディ ヒーロー HARUHICO』
   下出真輔(22歳・埼玉)
 あと一歩で賞(選外)=2編
  ・『無刀竜』
   古田童子(29歳・東京)
  ・『用心棒』
   梶野剛毅(23歳・愛知)

 受賞者の過去のキャリアについては以下の通りになります。(もしチェック漏れがありましたら、BBSでご指摘下さい)

 ※「ジャンプ十二傑新人漫画賞」
 ◎審査員特別賞の佐藤大輔さん…02年10月期「天下一漫画賞」で最終候補
 ◎最終候補の葛西仁さん…03年2月期「天下一」で最終候補。
 ◎最終候補の内野正宏さん…01年5月期&02年12月期「天下一」で最終候補
 ◎最終候補の岡春樹さん…03年上期「ストーリーキング」で最終候補。02年前期「小学館新人コミック大賞・少年部門」でも最終候補?

 ※「サンデーまんがカレッジ」
 ◎入選の柏葉ヒロさん以前、少女マンガ家としてデビューした経歴有りとのこと
(メールマガジン「まんカレ通信」での本人コメントによる)
 ◎努力賞の下出真輔さん…「週刊少年チャンピオン」の読者コーナーでイラスト担当の経験有り?
 ◎あと一歩で賞の梶野剛毅さん…02年後期「新人コミック大賞・少年部門」で最終候補

 募集していた時にさんざんネタにさせてもらいましたが、この月の「十二傑」審査員は矢吹健太朗さん「やはり」と言いますか「貴様、どこの口から」と言いますか、作品ごとの講評は勿論、総評にまで「オリジナリティが足りない」とか「個性が足りない」とかいったコメントが……。
 最近、やたらとTVで常識人ぶっているダンカンに「何抜かす。所詮お前も前科1犯やないか」と言いたくて仕方ない駒木ですが、今回の講評で同じような心境に至った、残念ながら落選となった応募者の方も、さぞかし多い事でしょう(笑)。
 まぁ、「今月は知欠矢吹先生が審査員か。じゃあ、どこかで見た事あるようなパッと見の映えるマンガが良いのかな」…と考えるのは至極自然ではありますが、人間は原則的に自分の事は棚に上げる習性を身に付けている所まで考えを巡らせるべきでしたね。事実、賞を獲ったのは「ストーリーや演出は出来ているが、画力はイマイチ」とされた作品ばかりなんですから……(苦笑)。
 とはいえ、こんな「内閣総理大臣・森喜朗」名義の国民栄誉賞みたいな有り難迷惑な賞を貰ってしまったお二方の将来も大いに危惧されるところで、駒木も少々心配です。特に、「矢吹健太朗特別賞」なるいかがわしい賞をヤフーBBのモデムのように押し付けられた佐藤大輔さんには、早いところ赤塚賞の佳作を獲るなどして身の潔白を証明して頂きたい所ですね。

 ところで、「まんがカレッジ」の方は2ヶ月連続の入選作誕生となりました。ただ、「新人コミック大賞」もそうでしたが、長期間出ていなかった上位の賞を突然連続してポンポンと出してしまっては、逆に値打ちが下がっちゃうような気がするんですけどね。まぁ、作品のデキが抜群に良ければ万々歳なんですけれども。
 
 ──と、駒木も“自分の事を棚に上げ系”の偉そうな事を放言したところで(笑)、更なる放言タイム・レビューとチェックポイントへ参りましょう。
 今週のレビュー対象作は、「ジャンプ」の新連載1本のみ。先週と同じように、その後「ジャンプ」のチェックポイント→「サンデー」のチェックポイント…というように進行します。

☆「週刊少年ジャンプ」2003年42号☆

 ◎新連載『サラブレッドと呼ばないで』作:長谷川尚代/画:藤野耕平

 「ジャンプ」秋の新連載シリーズ第2弾は、『ヒカルの碁』、『アイシールド21』に続く、「ストーリーキング」ネーム部門受賞者による原作作品・『サラブレッドと呼ばないで』です。
 原作の長谷川尚代さんは、ついさっき紹介した通り、第6回(00年度)「ストーリーキング」ネーム部門で準キングを受賞。今回と同じく藤野耕平さんとのコンビで、この時の受賞作で今回の連載作品と同タイトルの「サラブレッドと呼ばないで」でデビューを果たしています。
 作画担当の藤野耕平さんは、コアな「ジャンプ」読者の皆さんには、『ピューと吹く! ジャガー』の実写版でピヨ彦役を演じていたアシスタントの人…と言った方が馴染みが深いでしょうか。藤野さんも読み切り版の『サラブレッドと呼ばないで』でデビューを果たし、これが本誌初登場にして初の週刊連載となります。
 なお藤野さんは、最近では村田雄介さんのアシスタントとしても活動していました。原作付作品をマンガ化する現場で働いたという経験が、今回の連載では大きな武器になるかも知れませんね。

 ……それでは作品の中身についての話を進めて行きましょう。

 まずですが、さすがは作画担当者として“ご指名”を受けただけあって、これがデビュー2作目とは思えない出来映えになっていますね。アクションシーンや特殊効果、更にはギャグモードに入った時のディフォルメされた絵柄(うすた京介直伝?)など、「ジャンプ」の連載作家としての最低ラインはクリアしていると思います。
 ただ、気になるのがキャラクターの表情の硬さ特に目と口のパーツの描き方がワンパターンなところが気に掛かります。そのために、髪型が違うだけで顔のよく似たキャラが、どこでも同じような表情をしているように感じてしまうんですね。この辺はキャリアを考えると致し方ない気もしますが、減点材料には違いありません。

 あと、作画上のポイントで、当講座のBBSをはじめ様々なところで指摘を受けていたのが、主人公・大成の入学式のシーンで母親に振袖を着せていた事ですね。
 振袖は専ら未婚の女性が着る服…というのはトリビアでも何でもなくて(それでもあの番組なら65へぇくらい獲ってしまいそうで怖いですが)一般的な常識の1つですよね。が、これを作画担当が何の疑問もなく描き、編集サイドも何の疑問もなく載せてしまうというのは、如何なもんでしょうか(苦笑)。これをギャグのネタとして描いたならば、必ずどこかにツッコミが入るはずですからねぇ。間違いなくボーンヘッドとみていいでしょうね。
 まぁ、このミスを作品全体の評価に響かせるのは行き過ぎでしょうが、プロなんですからもうちょっとしっかりして欲しいものです。

 次にストーリーと設定についてなんですが、先に結論から言ってしまいますと、「『これまでの柔道マンガには無いような話にしよう!』という意気込みは認めるが、全体的に練り込み不足」…といったところでしょうか。ストーリー展開がマンガの“お約束”に頼りすぎていたり、キャラクターの行動が(彼らの性格ではなく)シナリオの都合に合わせられているために、逆にシナリオから自然さが欠けてしまいました。特に悪役がストーリー上の役回りだけで設定されているのが問題で、担任&柔道部顧問の須藤など、実在してたら行政処分必至の性格破綻者になってしまってます。中1の生徒に背負い投げされても、「これは技ありだー」とか言って負けを認めず、あまつさえ絞め技に入って失神させてしまうような31歳って凄い話ですよ(苦笑)。

 ……それに、そもそも主人公が柔道を嫌いになった本当の理由──オリンピックで金メダル確実と言われた両親が、銀・銅止まりになったのをバッシングされているのを見てトラウマになった──いう部分からして、相当に無理があるんですよね。
 普通、決勝で負けて銀メダルになった選手は「悲劇のヒーロー」扱いになって同情されますし、銅メダルも田村亮子選手の「『銅』は3位決定戦を勝って獲得するんで、文字通り『金と同じ』なんですよ」という言葉の通り、それ相応の扱いをしてもらえるはずです。まぁ多少のバッシングはあるでしょうが、それ以上にフォローする声が沸き上がるはずなんですが……。少なくともそれで7年も引きずるほどのトラウマになる…というのは、ちょっと考えられないですね。
 で、その「ちょっと考えられない出来事」を大前提にしてシナリオを構築しているので、どう見せ方をいじっても、どこかでお話に“歪み”が出てしまうんです。まぁ、その見せ方もかなり稚拙な面が目立っているんですが…。

 あと、原作者の柔道に対する認識が甘過ぎるのも気になりました。親譲りの怪力とおぼろげな記憶だけで、受け身も取れないズブの素人が綺麗に技を決められる…というのは、いかにマンガでも都合が良すぎる気がします。才能だけで技がかかるなら、現実のオリンピック選手がゼーハー息を切らしながら反復練習してるのは一体なんなんでしょう? 
 いや、これがいわゆる“トンデモ系”のお話なら何も言わないんですがね。でも、リアル路線でそれをやってしまったら『キックスメガミックス』と同じじゃないですか(苦笑)。

 この作品、ネット界隈では比較的好評で驚いたんですが、当講座の評価としてはB−寄りBが精一杯ですね。まぁ確かに雰囲気は良い作品ではあるんですが……。

◆「ジャンプ」今週のチェックポイント◆

 ◎『武装錬金』作画:和月伸宏【現時点での評価:A−/雑感】

 鷲尾との戦闘シーンを見ていると、和月さんの「バトルとは、細かい駆け引きではなく気持ちで戦うものなのだ!」…という信念めいたモノが窺えて興味深いですね。あと、「男ってモンは、惚れた女のためなら何でも出来る!」もですか(笑)。

 最近の少年マンガでは、

「○○がこうなって、ああなるから、▲▲になって、そうなるんだ! いけーッ!」
「な、なにぃ、まさか○○を▲▲にアレンジして使うとは……なんて発想力なんだ、ぐはぁ!」

 ──みたいな底抜け脱線ゲーム的戦闘が流行みたいですが、こういうのは技の駆け引きが勝ちすぎてキャラクターの心理描写が希薄になるので、駒木はイマイチ賛同出来ないんですよね。格闘技でもそうですが、一番大事なのは技の駆け引きじゃなくて、戦ってる当人同士の気持ちがこちらに伝わって来るかどうかなんですよ。そういう意味では、和月さんの考え方は理にも適っていると言えそうです。
 ただ、それにしても『武装錬金』は戦闘のテンポが少し悪いように思えますので、これは今後の課題ですね。

 ◎『アイシールド21』作:稲垣理一郎/画:村田雄介【現時点での評価:A/雑感】

 結局、大工の兄ちゃんがムサシだったと。うーん、確かに肯ける答えではあるんですが、それだと工事の最中に会っているはずの栗田の反応が毎回過剰過ぎるんですよねぇ。まぁ、大工のムサシには興味無いって事なのかも知れませんが。
 しかしムサシ、高校をリタイヤ(休学?)したとはいえ、母校で堂々とタバコ吸ってて良いんですかね(苦笑)。まぁ教員経験者として言わせてもらいますと、中退した生徒が真面目に働いている場面を見たら、いくらタバコを吸ってても説教する先生はいないと思いますけどね。

 
 ◎『テニスの王子様』作画:許斐剛【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今回のラストシーン、真田が藤岡弘の生霊が憑依したかのように見事な薪藁斬りを見せていますが、このシーン、実は『バガボンド』のワンシーンをトレースしたものだそうです(失笑)。他のマンガからのトレースと言えば、つい最近も新人の読み切りで相次いで話題になりましたが、まさか準看板作品でも……! 
 まぁ他の作品や映画・写真集などを参考に作画するのは常套的手段ではあるんですが、いやしくも(本当にいやしいですが)「ジャンプ」の主力作家さんとあろうものが、他のマンガからバレバレのトレースをしなきゃ絵も描けないってのは心底情けない話だと思いますね。
 まぁ色々言いたい事はありますが、ここは一言に集約してコメントすべきでしょう。ハイ、皆さんも準備は良いですか? せーのッ!

まだまだだね。


 ◎『ごっちゃんです !!』作画:つの丸【現時点での評価:保留/雑感】

 最近、この作品読んでいると、「ごっちゃん、いなくてもエエやん」と思ってしまうんですが(苦笑)。ごっちゃんが絡んでいない相撲シーンにリアリティがあってよく出来ているので、逆にごっちゃんが絡んでくると白け気味になっちゃうんですよねぇ。元々ごっちゃんって、魅力的な主人公というわけでもないですし……。

☆「週刊少年サンデー」2003年42号☆

◆「サンデー」今週のチェックポイント◆ 

 巻末コメントのテーマは、「自分のチャームポイントは?」。大体がウケ狙いか、照れてノーコメントって感じですか。まぁ今時チャームポイントなんて、B級グラビアアイドルぐらいにしか縁が無いでしょうからねぇ。
 駒木は……。んー、ここ6〜7年彼女が出来ないって事を考えると、無いんじゃないですか(笑)。

 ところで巻末には、編集者・吉元篤司氏の訃報が。ニュース報道によると、海でシュノーケリング中に溺れて亡くなったそうなんですが、確か駒木と同年代くらいの若い方だったみたいです。
 ご冥福をお祈りさせて頂きます。

 ◎『金色のガッシュ!!』作画:雷句誠【開講前に連載開始のため評価未了/雑感】

 今週から、バトル3箇所同時進行となりました。普通、これをやると読者が非常に混乱してしまうんですが、ここまで場所別でカラーを変えたら問題ないですね。
 ていうか、無表情でウマゴンをワシャワシャとかナゾナゾ博士&フォルゴレ組とか、相変わらず緊迫感が必要な場面で遊び心が多すぎますがな!(笑&褒め言葉) 『武装錬金』なら「うなれ俺の武装錬金!」って場面で、「よーし、キャンチョメ『チチをもげ』だ!」ってのは、いくらそういうマンガだと判っていても凄すぎると思いました。ハイ。

 
 ◎『いでじゅう!』作画:モリタイシ【現時点での評価:A−/雑感】

 『南国アイスホッケー部』がアイスホッケーをしないのと同じくらい柔道をしなかった井手高柔道部ですが、珍しく柔道すると思ったら1級試験とは。まぁ、これが初段試験で、今後彼らが黒帯着ける事になっても違和感有りますから、これでちょうど良い感じなんですけどね。
 そういや駒木のツレに初段持ってるヤツがいるんですが、そいつも中学生とか高校生ばかりが受けに来る会場を狙い打ちにして黒帯ゲットしてましたね(苦笑)。デビュー戦で勝った決め手が裏投げから肩固めというデタラメなヤツでしたが。


 ◎『ふぁいとの暁』作画:あおやぎ孝夫【現時点での評価:B/雑感】 

 今週、掲載順が最後方からランクアップ。暁の新ライバル出現もありましたし、これはしばらく続行確定と見て良いんでしょうね。
 今後ある程度はカタルシスのある展開が続くでしょうし、これで持ち直せれば長期連載も射程に入ってくるんじゃないでしょうか。どうも新連載作品もコケ気味ですし、色々な要素に恵まれましたね。


 ……といったところで 今回はここまで。来週はレビュー対象作が増えそうなので、前後半分割でお送りする予定です。では。

 


 

2003年第63回講義
9月17日(水) 
社会調査
「ヤフーBBモデム配りアルバイト現場報告」(6)

◎前シリーズ(「潜入レポ」)のレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回第6回
◎今シリーズ(「現場報告」)のレジュメはこちらから→第1回第2回第3回第4回第5回

 今日も一昨日に続いて「現場報告」をお送りします。一応、今日で「週刊文春」検証は終わりにして、その後に5月から今月までのキャンペーン事情についてのお話を1〜2回して、それで一区切りにしたいと思います。

 それにしても、ここ数日肩が凝って凝って困っていたんですが、どうやら原因は洗濯で縮んだユニフォームの赤シャツが、体のサイズに合わなくなって来たためのようです。
 もう本当に呆れ返るのが、ヤフーBBのキャンペーンで支給または貸与される服や備品って、そのことごとくが粗悪品なんですよね。服は色落ちするわ縮むわ、パンフレットはしばらく持ってるだけで印刷がグダグダになるわ、ボールペンは「ここ無重力?」と言いたくなるくらい書けないわで……。で、モデムも(以下略)
 そう言えば、ソフトバンクは出版する雑誌の内容についても、ネット界隈で色々言われてますよね。まぁウチは、この「モデム配りレポ」シリーズを公にした時点で、ソフトバンク系の出版物で紹介される可能性は皆無になりましたが(笑)。

 ……まぁというわけで、今日も引き続き、「週刊文春」の記事検証です。テキストをお持ちの方は、39ページの最下段をご注目下さい。高齢者のトラブルについて書かれた部分からお話をしてゆきます。

 ケース4 「大阪府・知的障害者施設の職員からのコメント」

・73歳になるKさんの祖母(痴呆気味)が、ヤフーBBのキャンペーンに申し込んでいた事が、申込みから随分後になって発覚した。申込書に書かれていた住所や市外局番が不正確な記述だったのに、何故か契約が成立していた。

・(一般的な話として)高齢者に「これでお孫さんといつでもタダで電話出来るようになるんですよ」…などと呼びかけ、モデムをまるで便利な無料電話のように表現し、ロクな説明もしないまま申込みさせる。当然、数ヵ月後には料金が請求され、不安を煽る結果になる。

 このキャンペーンにおいて、スタッフの性根が見えて来るのが、高齢者に対する接し方ですね。
 「パソコンを持ってない可能性が高いし、インターネットに関する知識もあまり無いだろうから、あんまりプッシュしても効果は薄いな」
 …と思うか、
 「インターネットとかADSLの事なんか何も判ってないからウソついてもバレないし、年寄りは強く出たら断り切れないから、問答無用でモデム押し付けて契約1件獲得出来るチャンスだな」
 …と考えるかで、そのスタッフが“良性”なのか“悪性”なのか判断がつきます(笑)。以前、ベンチか何かに座って佇む(インターネットの事なんて何も判って無さそうな)老夫婦にモデムを持ち帰らせようとするキャンペーンスタッフの写真がネットで出回った事がありましたが、ああいうのが典型的な“悪性”のスタッフですね。

 今回の“Kさん(の祖母)”のケースも、まず事実と見てほぼ間違いないでしょう。「住所や市外局番が不正確だったのに……」という部分に疑問を持った方もいらっしゃるでしょうが、多少の誤記ならスタッフが勝手に修正してしまいます。痴呆気味の高齢者が申し込んだ…という事は、申込みがあったブースは恐らくKさん宅の近所でしょうから、住所や市外局番の訂正なんて簡単に行えます。
 よしんば、このケースが捏造であったとしても、同様のケースはどこかで起こっているはずです。高齢者を“カモ”としか思っていない連中はゴマンといる(いた)はずですのでね。


 ──さて、ページが変わってテキスト40ページ。ここからはパラソルキャンペーン以外の、代理店による迷惑行為がダイジェスト形式で紹介されています。
 ちなみに、これら代理店の活動は、余りにも評判が悪かったために今年春までにほぼ終息しています。

 ◎代理店による迷惑行為各種

勝手に商品(モデム)を送りつけて来て、その後に電話で「契約が完了しました」と言ってきた。パソコンが無いと言っても耳を貸さず、困り果てて警察へ相談に。すると、年金生活者数人が同じく相談に来ていた。

携帯サイトの懸賞に応募したら、自動的にヤフーBBに申し込まれていた。

資料請求しただけなのに、契約申込み完了になっていた。

「NTTのから来ました。付属品を着けると電話料金が安くなりますよ」とモデムを差し出し申込みを迫った。

10年前に他界した人間の名義で契約されていた。

 順番が前後しますが、まず3つ目のパターンは、駒木も被害者として体験した事もある、代理店・エムティーアイの“擬似送りつけ商法”ですね。ひょっとしたら違うかも知れませんが、1つ目のパターンも勝手に送りつけて来る前に何らかの電話が代理店からあり、その時の答えに関わらずモデムを送りつけて来たのかも知れません。
 2つ目のパターンは、数年前に携帯電話の新規開拓キャンペーンでよく使われた手口に似てますね。ただ、これは駒木にとっても初耳です。
 初耳なのは4つ目のパターンもそうですね。消火器押し売りの典型的なパターンをアレンジしたものですが、ちょっと聞いた事が無いです。こういう目立つ手口が実際に使われていたなら、絶えずアンテナを張り巡らしている駒木の耳に入りそうなものなので、これは怪しい気がします。
 最後のパターンは、実在した可能性は大いに有ります。「1日0件」を恐れたスタッフなどが、どこからか手に入れた名簿を使って勝手に申込書を作成したモノでしょう。ただしこの場合、電話番号や住所が合っていてもNTTの回線名義人が実際と一致しませんので、申込みは成立したものの、局内工事に移行する際にNGが出てしまいます。その旨を伝える通知が申込書に記載された住所に届くのですが、多分その時点で不正申込が発覚したんでしょうね。


 ……というわけで、以上長々と記事の内容について検証をしてみました。
 まとめてみますと、どうやら今回の記事は、一応事実を基にして構成されていると思われるものの、問題点や疑問を挟む余地も相当あると言わざるを得ません。それにこういう記事は、その性質上、どうしても極端に悪い部分だけを強調するような内容になるため、普通にコツコツやっているスタッフまで誤解を受ける恐れが出て来てしまうのも、遺憾ではありますね。

 ただ、こうやって一スタッフである駒木が真面目に検証しているというのに、この努力をたった一言で水泡に帰してしまったバカがいます。そうです、この特集記事の中でコメントしているソフトバンクの広報です。
 この広報、「文春」側の問い合わせに対し、初めこそ
 「何度もお客様に確認しながら契約を進めているので、ご指摘のようなトラブルは無い」
 ……と、いかにもマニュアル臭いコメントを出しておきながら、ちょっと追及されただけで、
 以前はあったかもしれませんが、今はありません」
 ……などと信じられない文句をのたわまわっています。この一言で、駒木が「この部分は本当かどうか怪しいですよ」といった事柄まで、ソフトバンク認定の「あったかも知れない事」になってしまいました。あーあ。

 ホント、駒木はこの部分を読んで呆れ果てました。
 広報というポストは、言わばその会社のイメージ戦略を担当するところです。それがそんな無責任なコメント吐いてどうすんですか。
 もし駒木がソフトバンクの偉いサンなら、即座にこのコメントを出した広報を呼び出して、「今すぐ机を整理して、こちらから知らせるまで自宅で待機してなさい」と言いますね。会社のイメージを悪くするために、広報担当を雇って給料払ってるわけじゃないんですから。

 ──まぁ何はともあれ、ヤフーBBがキャンペーンのために用意した粗悪品の最たるものは広報だった…というオチがついたところで、今日の講義を終わりたいと思います。
 なお、この「現場報告」、次回は9月下旬実施の予定です。お楽しみに。(次回へ続く


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